戦闘者は死の超越者と共に (プリン製造工場)
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1話

《ヘロヘロがログアウトしました》

 

手を振りながら消えていく古き漆黒の粘体のプレイヤー、ギルド…アインズ・ウール・ゴウンのメンバーの一人ヘロヘロを見送り溜息を吐くギルドマスターである、モモンガは次第に怒りが込み上げて来た。

 

「ふざけるな!」

 

そう怒鳴り振り上げた腕を円卓のテーブルに勢いよく振り下ろす…瞬間

 

「随分と憤ってるじゃないか我が同胞よ」

 

背後から馴染み深いノイズ掛かった声を掛けられモモンガは勢い良く振り返る、爬虫類の鱗の様な装飾が施された鎧を身に纏い槍を携えた高身長の人物が壁によしかかり立っていた、彼の横には付き添う様に似た鎧を着て大型の銃を持つ兵士が待機していた。

 

彼の名はレギオン、レアな種族『ナイアーラトテップ』とユグドラシル後期に出たコラボイベントで追加された種族の一つ『大逆者』を主軸にしているプレイヤーで、潜入や破壊工作、奇襲そして前線での味方支援を得意とし数々のギルドに多大なる被害を出してきて『最悪の潜伏者』『もっとも邪悪な肉塊』と呼ばれ数多のプレイヤーに親の仇の様に嫌われている。

 

「レギオンさん⁉︎何時から其処に…と言うかその武器防具はレギオンさんの」

 

「勿論全部聞いていたし私のガチ装備は宝物殿から持って来たさ、憤る理由も分かる……だがこの暗黒の世界では大事な事を手放さなければいけない事もある……だからこそモモンガさんに任せっぱなしにしてすまなかった」

 

「いっいえ!謝らないで下さい!皆さんだって仕事がありますし仕方ないですよ!だからそんな謝らないで下さい…!」

 

モモンガは鎧を着たレギオンに対しそう言い何とか納得させる、この過酷な世界では仕事を失えばそれ即ち死を意味している、だからこそ次々とこのMMORPGユグドラシルを引退したギルドメンバー達の事を一定の理解は示していた。

 

とは言え、サービス終了まで残りわずかな時にログアウトしたヘロヘロなどのメンバー以外に会えたのは素直に嬉しかった。

 

「レギオンさんもし最後までいるなら玉座の間で迎えませんか?」

 

「我が同胞の頼みだ快く受けよう、それとアインズ・ウール・ゴウンの最後だからな、どうせなら同胞もギルド長らしくすると良い」

 

「そうですね最後くらいはカッコつけちゃいますか」

 

そう言い壁に掛けられていたギルド武器『スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』を手に持つ。

 

「それじゃレギオンさんいきましょうか」

 

二人は他愛もない会話をしながら歩いていれば、6人の外見がそれぞれ異なる美女と壮年な老執事が頭を下げ待機していた。

 

「確か戦闘メイドのプレアデスとセバス・チャンでしたよね?」

 

「あぁ、しかし役目を果たせず仕舞いになるとはな」

 

「それなら最後の仕事をさせましょう…『付き従え』」

 

暫くし二人とNPCの前に玉座の間の扉が現れる、煌びやかな装飾が施された扉がギィィと重々しい音を立ててゆっくりと開いていく。

 

「「おぉ…」」

 

二人はその余りにも美しく素晴らしい光景につい感動と共に言葉が漏れた。

何度も目にしている光景だがそれでも、かけがえの無い仲間達と共に作り上げた作品を見れば感動するのも仕方ない事である。

 

最奥には一人のNPCが立っていた、タブラ・スマラグディナが作り上げたサキュバス、アルベトだ。

 

「我が同胞よアルベトの設定欄を開いてくれないか」

 

「…?レギオンさんってタブラさんとは同じ設定厨同士で良く見せて貰ってた筈なんじゃ」

 

「まぁな…盟友の設定は素晴らしくそして奥深い!どの設定も私を興奮させ魅力させる!だが!だがなのだ!同胞よそんな盟友が丹精込め創り上げたNPCの一人に設定を知らない者がいるのだ!」

 

「…見ますかアルベトの設定?」

 

「滅茶苦茶見たいです」

 

モモンガの問いにRPを忘れノータイムで答えるレギオンに苦笑しながら、アルベトの設定欄を開く、其処には文字の洪水とでも言うべき夥しい程の長文が乱立していた。

 

「長…」

 

「ほう流石我が盟友素晴らしい作り込みだ、最後にこんな素晴らしい物を見れるとは」

 

唖然とするモモンガとは対照的にほぅと嬉しそうに文章に目を通していく、暫くして読んでいけば最後に『因みにビッチである』と言う爆弾じみた文章が目に飛び込んだ。

 

「くく……ギャップ萌えとは言えコレは…くくく……良い趣味じゃ無いか盟友よ」

 

「とはいえ守護者統括がこう…」

 

「確かに風紀が乱れると言う物だな、ギルド長権限で編集しても問題ないだろう」

 

「ですね…少しは胸は痛みますけど」

 

そう言いモモンガは問題の一行を消すが此処で多少の悪戯心が芽生え新たに『モモンガとレギオンを愛している』と付け加えた。

 

「くく…可愛いらしい事を」

 

「う…からかわないで下さいよ、それよりもう時間が無いんで早く玉座に行きましょう!」

 

時間を見れば強制ログアウトまで残りわずかだった、二人は急いで玉座まで行きモモンガは玉座に座り、レギオンは床に槍を突き立てモモンガの横に腕を組みながら立った。

 

魔王に使える騎士とも言える構図であり最後としては中々悪くないとモモンガ又はレギオンは思った。

 

「それではまたいつか」

 

「…えぇ!またいつか」

 

 

12:01

 

 

「あれ?」



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二話

「レギオン様‼︎レギオン様!お戻りになられたのですね!」

 

二人の声ではない感極まった女の声が玉座の間に響き渡った、モモンガは目を開けレギオンはその方向を見た。

 

アルベドが歓喜の表現でこちらを見ていた。

 

(NPCが喋る?それにこの表情…そのままユグドラシル2になったとでも?)

 

(ちょっと待ってくださいレギオンさん時間見て下さい!)

 

耳打ちする様に言うモモンガの言う通りに時間表示を確認すれば…12:05、12:06と本来なら既に強制ログアウトされている筈の時間帯である。

 

(バグ…?ログアウトボタンどころかメニューも消えてますね、モモンガさんGMコールはどうです?)

 

(駄目です…全然反応がないです)

 

困惑するレギオンとモモンガを他所にアルベトは言葉を続ける。

 

「後れ馳せながらレギオン様、かの偉大なる潜伏者がナザリック御帰還いただき誠に恐悦至極にございます」

 

「我等偉大なる父レギオン閣下率いる第20兵団(アルファ・レギオン)からも感謝申し上げます」

 

「私もそなたらに再び会えて嬉しいと共に、一度はこのナザリックから身を遠ざけた身でありながら、そなたらは私を暖かく迎えてくれた事に心より感謝する」

 

そう答えたらボロボロとアルベドを筆頭にセバスやメイド達も同様に涙を流す、レギオン兵団員達はヘルメットを被っていて分からないが歓喜なのか身体を震わせていた。

彼等にとってその言葉はどの様な物よりも価値がある物だった。

 

「感謝だなんて!我等にとって貴方達方至高の御方がご帰還されれば誠心誠意お迎えするのは当然の事です!……ですが勿体なき御言葉感謝致します…!」

 

嗚咽をなんとか堪えながらアルベドは何とか言葉を絞り出す。

 

「レギオンさんの帰還を喜んでくれて嬉しいぞ!だが今は緊急事態である…セバス」

 

モモンガは内心喜んでいた、現状は不明だが何故かNPCに命が宿ったが彼等にとっても自分の友人であるレギオンが戻って来てくれた事に歓喜してくれた対してのである。

 

「はっ」

 

先程まで跪いていたセバスが顔を上げる、本来ならユグドラシルでは実装されてない表情をして。

 

「戦闘メイドを一体連れて大墳墓周辺地理を確認せよ、他の戦闘メイドは九階層に八階層からの侵入者が来ないか警戒に当たれ」

 

「我が同胞モモンガよ、私も息子達を率いて行こう…息子達、セバスとそうだなシズ共に来い」

 

「畏まりましたモモンガ様」

 

「我らが偉大なる父の為に!」

 

レギオンはそう言いセバスとシズそして二名の兵団員を率いり速やかに立ち去って行った。

 

「それでモモンガ様方、私はどうしたら宜しいでしょうか?」

 

「あぁそうだな……」

 

 

 

 

 

 

「これは……どう言う事だ草原だと?」

 

外に出たレギオンは唖然とした、其処にはかつてナザリックの前にあった筈の毒沼ではなく辺り一面の草原だった、それも草が鋭く尖っている防衛機能を果たせる様な事が一才ない普遍的な草だった。

 

「シズは周囲の索敵を頼む、残りは周辺を探索する息子達は前衛をセバスは私の後ろだ」

 

そう命令すれば彼等は素早く行動に移した、先程の事と言い忠誠心には問題ないらしい。

 

「それにしても空が夜空がこんなにも綺麗だとは…」

 

空気が汚染されて無い澄み切った夜空をヘルメット越しに興奮しながら見る、自然を愛するギルドメンバー…ブルー・プラネットにこの光景を見せれたらどれだけ良かっただろうか。

 

「いかがなさいましたか?」

 

「…すまないセバス、余りにも夜空が綺麗で少しばかり見惚れてしまった」

 

「謝る事ではありません、この素晴らしい景色なら見惚れるのも仕方ありません、満足頂けるまでご堪能ください」

 

穏やかな笑顔を此方に見せそう言うが、探索をすると言った手前それは申し訳ないと感じた、ゆっくり夜空を見上げるのはモモンガといる時にしようと心に決めたレギオンは槍『ペールスピア』を構え味方に行動開始のハンドサインを送った。



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三話

「シズ、周囲に何かあったか?」

 

「いえ周囲には敵対的な生物等脅威になる物はないです…」

 

「やはりか…いたとしても無害な小動物か」

 

周囲の探索が一通り終え、シズの元に帰りがてらユグドラシル時代と同じ様に動けるのか試しに何匹かの兎などを神器級の槍『ペールスピア』で仕留めたいたのだ、その亡骸はレギオン自らが調理…とは名ばかりの焼いただけの粗雑をセバスや兵団員に振る舞った…調理の際にセバスから悲鳴にも似た声で止められたが兵団員の説得で何とか納得した。

 

「はい……」

 

返事をしたシズの視線はガンナーの性か自然と腰に下げているプラズマピストルに向けられていた。

 

「これが気になるか?」

 

「はい……レギオン様と貴方様に付き従う『大逆兵団(トレイターレギオン)』しか持つ事が許されない武器…気になります」

 

その言葉にヘルメットの中で苦笑した、ボルトウェポンを筆頭にした銃火器はほぼ 恐怖を知らざる者(スペースマリーン)大逆者(ケイオススペースマリーン)の二種族専用装備と化している、と言うのも特定の武器以外は要求される筋力が余りにも高すぎて大体の種族は装備出来ないし、仮に装備が出来たとしても余りに極端なステータスになる為、ニ種族意外で使うプレイヤーは余り居なかった。

 

恐らく其れ等の所為でこの様な勘違いをしているのだろう。

 

「要求ステータスが高すぎる所為で大体のプレ…無象なる者達には装備出来なかっただけだ、私や大逆兵団専用などではない…気になるならグレードは落ているがコレをやろう」

 

プレイヤーと言いそうになり咄嗟に言い換え、気になるならとアイテムボックスにある物を渡そうと考えるが…果たしてこの未知の世界でも取り出せれるのだろうか考えながら、虚空に手を伸ばす… ズッとまるで手が湖面に沈むように空間の中に入りその中で腕を横にスライドさせる。

 

まるでドアを開ける様な仕草をすれば、窓の様な物が開き其処には無数の銃火器や剣などが並んでいた。

 

その中を次々とスクロールし、渡す予定の伝説級のプラズマピストルを取り出しシズに差し出す。

 

「そんな…!私の様な者には余りにも勿体無い物…!頂けません…!」

 

「そうか…今後の働きに期待しての物だったがそれでも貰ってくれないのか」

 

「…ッ‼︎申し訳ありません!自害を…」

 

「自害等下らない事はやめろ…我等戦闘者(アスタルテス)からすれば敵を一人も討ち滅ぼさずに死ぬのは余りにも不名誉だ、ガーネットさんが創り上げた創造物がその様な不名誉を負う事はない…申し訳ないと思うなら受け取って今後このナザリックに来るやもしれない未知の脅威に対して奮って欲しい」

 

失望されたのかと思ったシズは咄嗟に魔導銃を首に当て自害をしようとするのをすんでの所で止め、説得し漸く受け取ってくれてレギオンは内心苦笑しながら溜息を吐く、まさかプレゼント一つでこうなるとは予想していなかった。

 

『レギオンさん聞こえてます?』

 

脳内に直接声が響く、モモンガが『伝言』を使ったのだろう。

 

『勿論聞こえてますよ?どうしました?』

 

『さっきセバスにも伝言で話したんですけど、20分後に各階層の守護者が円形闘技場に来るのでその前に来て欲しくて…それより夜空が見えるって本当ですか⁉︎』

 

『分かりました、えぇそれはもう綺麗な夜空ですよ』

 

『いいなぁ!後で一緒に行きましょう!』

 

『良いですねぇ、此方は周辺調べ終えたんで今から戻りますね』

 

そう言うと伝言が切れる、それから兵団員とシズに戻る様に伝え兵団員には後から要塞院に向かう旨を伝え、この場にはレギオンとセバスの二人しか居なくなった。

 

「このまま戻っても良いが…少しばかり面白くするか」

 

そう呟けばレギオンの身体が変化していき身長が役2m程の体格が一瞬で白衣を着た小柄な人狼の少女になっていた。

 

「これは……」

 

「んふふ、驚いたセバス?これが私の種族『ナイアーラトテップ』のスキル、『数多なる化身』だよ」

 

レギオンの代わり様に目を見開き驚愕するセバスを当の本人はケラケラと笑っていた、数多なる化身と言う常時発動型のスキルは10人の全く別のキャラクターを作成出来き、一瞬でそのキャラクターに変化出来ると言うユグドラシル内でもトップクラスに壊れているスキルである。

 

とは言え作成したキャラクターは一からレベル上げをしなければいけず、獲得経験値も普通よりも低く特殊なクラス… ワールドチャンピオンやワールド・ディザスター等は習得出来ない、ナイアーラトテップは悪魔の様に三段階まで変身が出来、その最終形態時には変化完了まで一分程掛かり尚且つ移動が極端に遅い等制約はあるが其れを補って余る程にこの種族は強力なのだ。

 

先程迄のレギオンの姿も化身の一つである。

 

「それじゃセバス行こうか」

 

「……失礼ながらレギオン様、貴女様にはリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンをお持ちの筈では?」

 

セバスは不思議そうに薬指に装着している、至高の四十一人しか持つ事が出来ない指輪を見る。

 

「ん…あぁ、でもただ転移するだけじゃ面白くないだろ?」

 

「畏まりました…」

 

「んふふ…私は中々小さくて歩くのが大変なんだ、出来ればそうだねお姫様抱っこでもしてくれないかね」

 

「……畏まりました」

 

断れば恐らくゴネ、約束の時間迄に間に合わなくなるだろう…それはレギオンにとっても非常に不味いと考えたセバスはそのまま丁寧に抱き上げお姫様抱っこをし、細心の注意を払いかつ僅かな揺れすらも許さぬ様に上半身を一切動かさずに目的の円形闘技場まで疾走した。

 

「お待たせして申し訳ありませんモモンガ様」

 

「やぁやぁモモンガ君に守護者の皆んな」

 

既に他の守護者が集まる中、セバスにお姫様抱っこをされたままのレギオンはヒラヒラと手を振りながら現れた。

 

「え」

 

「くふー⁉︎」

 

「「わっわー⁉︎」」

 

「ありんす⁉︎」

 

モモンガはその登場に顎を外しながら光り、アルベトはレギオンの薬指に付けている指輪に驚きそのまま後ろにいるシャルティアとアウラ、マーレに倒れ掛かり、3人は必死に何とか押し戻そうとしている。

 

「遅くなってすまないね…随分と面白い事になってるじゃないか」

 

「……友よ悪戯も程々にして欲しいものだな」

 

光終えたモモンガは頭を抱えながら言った。



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四話

「あのモモンガ様…もしかして」

 

アルベトの羽で顔を叩かれながら何とか押し戻し、はふぅと息を吐いた後マーレがチラチラとレギオンの方を見ながらモモンガに問い掛ける。

 

「あぁそうか、お前達はあの姿のレギオンさんを知らないのか」

 

視線をセバスとレギオンに移す、ゆっくりと降ろされ此方にテテテと駆け寄る姿を見ながら言う。

 

「一応この身体には『ケモケモ』と言う名前があるのだがね、まぁ良いか…さて守護者諸君久しぶりと言うべきかな?いや…ただいまかな、それに長らくナザリックを留守にしてモモンガさんを一人にさせて皆に寂しい思いをさせてごめん…もし私や他の人達を恨んでいるなら気が済むまで私を好きに嬲ると良い」

 

『ちょっ…何言ってるんですか⁉︎もし本当に恨んでてたりしたら…!』

 

『その時はその時です』

 

さて…とケモケモが言えばこの場に集まった守護者全員が跪く、そして彼女はニコリと笑いながら両手を広げ無抵抗を示す、それに慌てながらすかさずモモンガが伝言を飛ばすが彼女は引かない。

 

ずっとモモンガを一人ぼっちにしてたのにノコノコと現れるのは、シモベであろうと許せないだろう…それなら償いとして犠牲になるのが良いだろう。

 

だがその言葉を聞いた守護者全員が涙を流す、至高の四十一人の一人である彼女がシモベである自分達に対して何たる寛大で慈悲のあるお言葉なのだろう!そしてそれ以上に彼女にその様な事を言わせた自分達が憎い!ましてや恨む等と!もしその様な恥晒しを見付ければすぐ様に斬り捨てると静かな怒気を放ちながら考えた。

 

「どうやら居ないらしいな我が友よ」

 

「如何やらまた皆と過ごす事が出来るようだね、じゃあ寛大なる君達に答え私は此処で宣言しよう!ナザリックこそ私の居場所であり我が家である…そして私は二度と君達を見捨てない事を誓おう!」

 

ケモケモは慈愛のある笑みを浮かべながら声高らかに宣言した、まるで此処こそが自分のいる場所だと言うように。

 

その問いにモモンガは歓喜した、彼女は現実世界ではぶくぶく茶釜さんと同じく有名な声優であり、自分とは違いリアルでも居場所がある人だ…きっと帰りたがる筈だと…だがそんな気持ちや考えは一瞬にして消え去った。

 

「……では忠誠の儀を始めようか」

 

 

 

 

 

 

 

第九階層の通路…其処では項垂れているモモンガを心底可笑しそうにケモケモが笑っていた。

 

「それにしても『賢明な判断力と、瞬時に実行される行動力も有された方。まさに端倪すべからざる』ね……んふふ、今のモモンガ君をデミウルゴスが見たらどう反応するか気になるね」

 

「うぐ……それだけはやめて下さいよ?ケモケモさんだって凄かったじゃないですか!」

 

「あぁ確か『人間の守護者から異業種(ゼノ)の守護者となり、あらゆる戦術を熟知しかの大戦でも最前線で戦った戦神』だったかな?んふふ…そんな大したものじゃないのにね」

 

「アイツら…ガチですよ」

 

モモンガの悲壮感のある嘆きにケモケモはポンポンと膝を叩く。

 

「頑張るしかないようだね…」

 

「ですねー……それとさっきみたいな危ない事しないで下さいよ?ケモケモさんは大切な人なんですから…」

 

「…ッ!んふふふ、そうかそうか!君にとって私は大切な人か!」

 

「……あっいえそれは…その」

 

「分かってるともモモンガ君、でもまぁ此処からは新たな人生みたいなものではないじゃないか?それなら少しは前に出来なかった事や楽しい事をした方が良いじゃないか」

 

恐らく何か勘違いしたのだろうと慌てて弁解しようとするが、そう言われ「そろそろ要塞院に行かなきゃ」と言いその場から去って行った。

 

その後ろ姿を見ながらモモンガは今日一番の溜息を吐き項垂れた。



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5話

「コレハレギオンサマ、第五階層ニ一体ドノ様ナ御用件デ?」

 

モモンガと別れた後、ケモケモはレギオンの姿に戻り要塞院がある第五階層に向かう、寒々としたその入り口ではコキュートスが跪きながら出迎える。

 

「あぁ要塞院の方に用事があってな息子達に会いにな」

 

「オォ…何ト素晴ラシイ……失礼ナガラ、カノ偉大ナル戦士タチガ住マウ要塞院マデ共ヲサセテ頂キタイデス」

 

「なるほど…気になるか?」

 

ハッとコキュートスは頷く、武人気質なコキュートスには戦う為に生まれた戦闘者(アスタルテス)らの要塞は矢張り気になる様だ。

 

「それなら共を許そう、中も見ると良い」

 

「ナント…ヨロシイノデスカ?カノ戦士達ハ御身ノ帰還ヲ聞キ式典ヲ行ウ筈…部外者タル私ガ行クノハ無礼カト…」

 

「ナザリックの階級守護者だ、邪険にはされないだろう、寧ろ喜ぶだろう」

 

「慈悲深キオ気遣イアリガトウゴザイマス……ムッ何カガキマス」

 

深く感謝した後、背後から聞こえた駆動音と重々しい巨大な足音にコキュートスは即座に立ち上がりレギオンの盾になる様に前に立ち、手に持つ様々な武器を構え立ち塞がる。

 

「武器を下ろせ迎えだ」

 

「ハッ」

 

武器を下ろすのを確認した後前方を見る。帝国騎士(インペリアル・ナイト)と呼ばれるロボットが二機、もっとも普及しユグドラシル内でもバランスの良い性能をしてるからか比較的目にするクエストリス級だ、二機の少し後ろにはマストドンと呼ばれる超位魔法すら耐えうる事が出来き、戦闘者(アスタルテス)を最大40人、人間種ならそれ以上乗る事が出来る超重量走行輸送車輌が追従する。

 

ウォーハンマーコラボでコラボしたウォーハンマー40000、別名40Kは暗黒の遠未来を題材にした作品であり、コラボした作品の中では珍しいSF物でもあった。

それ故にコラボアイテムは妙にゴシック感のあるSFアイテムや装備が殆どである。

 

「ライノにナイトか…随分と派手な迎えだな」

 

いや…彼等からしたら控えめな迎えだろうと、内心苦笑する…。

 

二人の前にナイトとマストドンが停車し後部ハッチから降り立つのは、絢爛な装飾が施された神器級の装備特別装甲服(アーティファイサー・アーマー)を装着したレギオン直属の配下である第20兵団(アルファ・レギオン)その最精鋭レベル100にもなる名誉の守り手(オナー・ガード)が五名、内一名はアルファ・レギオンのマークである多頭蛇が絡み合っている様子が描かれた、味方に恐怖に対する絶対耐性と凄まじい数のバフと相手にデバフを与える兵団の秘宝とも言えるギルド武器に匹敵するアイテム戦団旗(チャプター・バナー)を持ち高らかに掲げている。

 

更に後続に10名のアルファ・レギオンの戦闘者が降り、続く様に致命傷を負った戦闘者の身体を収める戦闘歩行機械、ドレッドノート…それの最上位クラスに位置する、コンテンプタードレッドノートが2機が降り、直ぐに右翼方向から迎える態勢になるように整列する。

 

「我等が父たる総主長(プライマーク)に敬礼!」

 

オナー・ガードの一人がそう言った瞬間、その場にいた戦闘者やドレッドノート全てが一糸乱れぬ敬礼をした。

 

「コキュートス行くぞ」

 

「ハッ…!」

 

レギオンは内心興奮を何とか抑え込めている事に自画自賛していた、自分の好きな作品の彼等からこの様な歓迎を受ければこうもなるだろう。

 

とは言え流石にそんな無様な姿を見せる訳にもいかず、何とか相応しい立ち振る舞いをしながら物珍しそうに周りを見るコキュートスを連れマストドン内に入っていく。



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第六話

今回は独自設定と40K用語が多めです。


「まさか異種族(ゼノ)風情が我等の車輌に乗るとはな」

 

「ナンダト?貴様ノ言葉、私ヲ創造シテ下サッタ武人建御雷様…ヒイテハナザリック全テヘノ侮辱ト知ルガイイ!」

 

移動中に聞こえた蔑む声にコキュートスの身体から凄まじい冷気と怒気を放ちながら声の主を見下ろす様に睨み付ける、対する戦闘者は喉を震わせながら笑う、兵団の主力となる戦闘者のレベルは60台でコキュートスとは40もの差があり普通はこうも笑う事は出来ないが、彼等は恐れを知らぬ者故だから出来るのだろう。

 

「レギオン様ノ配下デアリナガラ実力差ガ分カラヌトハナ」

 

「実力差があれば無様に頭を下げろと?弱者の考えだな」

 

「イウデハナイカ…!」

 

「貴様らの下らない言い争いで陛下の名誉を傷付けるつもりか?」

 

一触即発の二人を制したのはオナーガードを率いる隊長だった、止めなければあのまま決闘になっていたかも知れなかった、それはレギオンの名誉に関わるからだろうと考える。

 

オナーガードは洞察力や判断力そして指揮能力は各兵団の中隊長又は各階級守護者に匹敵する程でもあり、寡黙で厳粛な人物で構成されている…それ故に滅多に口を開かない、軽はずみに口を開く事は司令官の尊厳と権威を傷つける危険性があるからだ、その為彼等は尊厳の守り手(オナーガード)と呼ばれている。

 

「隊長の言う通りだ、戯れはやめろ…気分を害させてすまなかった」

 

「イエ、一度カノ大戦(ホルスの大逆)デカレラト共闘シタ事ガアリマス…彼等ハ皮肉屋ナノハ知ッテイマシタ」

 

ホルスの大逆とはウォーハンマー40Kの作品でも非常に重要な出来事で、人類の皇帝が銀河中に散在する百万もの人類惑星を帝国(インペリウム)の元に統合する、人類史で最も偉大な伝説的な征戦…大征戦(グレート・クルセイド)の最中に混沌の悪魔(ディーモン)の誘惑に負け堕落した18人の総主長(プライマーク)と兵団の内、9兵団がホルスと呼ばれるもっとも偉大な総主長に率いられ帝国を二分した反乱である、反乱の結末は首謀者であるホルスは皇帝により魂を消滅させられ死亡し残党は恐怖の目(アイ・オヴ・テラー)と呼ばれる領域に退却していった。だが皇帝も帝国も無事では済まず超古代機械〈黄金の玉座〉と言う生命維持装置に接続され植物状態となりその後の帝国は偉大な指導者を失いかつての栄光ある姿が見る影も無いほどに落ちぶれた。

 

そして、ユグドラシル内でホルスの大逆を再現しようと発案したプレイヤーにより同じ事が起こった…異業種プレイヤーを引き連れたホルス達と人間種を味方に付けた皇帝達でユグドラシル全てのワールドを巻き込んだ前代未聞の大戦争が起こったのだ。

 

この戦争に両陣営共に多数のプレイヤーやギルド…2ch連合の残党で結成された5ch連合、トリニティ、セラフィム、ヤルダバオート、メカニト、グァァァグ!連合そしてアインズ・ウール・ゴウン等の数多のギルド等が参加し凄まじい戦争があちこちで巻き起こりそれが実に一週間にも及び、結末は原作と同じく両陣営のギルド長の相討ちで幕を閉じた。

 

その戦いにコキュートス、アルベド、シャルティア、セバス等も参加していた事を思い出す…特にコキュートスとセバスは武人建御雷とたっち・みーが最前線で戦っていた為、護衛として連れていった事を思い出す。

 

「あの戦いに居たんだったな…とは言え私達の皮肉は少々きつかった様だな」

 

レギオンの言葉に車内の戦闘者達が笑う。

 

「だがその純粋さ、そして先程の怒りは素晴らしい… 第12兵団(ワールドイーター)とアングロさんを思い出す……その怒りを忘れるなコキュートス」

 

「ハッ!コノコキュートス、決シテ忘レマセン」

 

「閣下、コキュートス殿到着しました」

 

戦闘者の呼びかけと共にマストドンの後部ハッチが開かれ、騒々しい足音を立てながら続々と降り、整列して行く。

 

レギオンはオナーガードとコキュートスを引き連れ外に出る。

 

「オォ…!」

 

コキュートスが驚きの声を上げる、視線の先には凄まじい数の戦闘者達が整列していた彼等の中にはアルファ・レギオンだけではなく、第16、3、4、8、12、14、15、17兵団の姿と自分の所属兵団の旗を掲げ、彼等の先には一目見れば他プレイヤーが作った拠点と見間違える程の荘厳な佇まいかつ非常に強固な要塞…戦闘者の拠点として知られる要塞院が姿を見せる。

 

 

ーーー

 

 

「ニグン隊長…偽装部隊が行動を開始しました」

 

「そうか」

 

草原に統一された装備をした45名程の特殊部隊員が油断なく進軍している。部下の言葉に隊長は小さく頷いた、彼の装備している鎧は戦闘者が身に付けている機動装甲服(パワーアーマ)と非常に酷似している鎧を装着しているが、彼等とは違い常人にも使用できるタイプを使用している。

 

この装備はスレイン法国の前身の国…神たる六大神とは違う神々である、四人の戦神(カルテット・オブ・ウォーロード)達が作り上げた人間の為の国『第二帝国(セカンド・エンパイア)』が残した数多な遺産の一つでもある。

 

「しかし上手くいくのでしょうか?」

 

「ガゼフ・ストロノーフとランポッサⅢ世殿は優秀な人物だ……それに死骸に近い王国の現状だ、我等の言葉は聞くしかないだろう。」

 

そう言いながら王国の現状を思い出す、腐敗にカルト宗教が蔓延している…特にカルト関係は酷く、貴族にも蔓延している程だ。

 

その様な現状の為、法国は一度王国を滅ぼし真に人類の守護者を生み出す国にしようと計画している。

 

この計画も王国の英雄たるガゼフ・ストロノーフを誘き出し説得する為でもある。

 

「やーやー仕事熱心ですねー」

 

そう聞き覚えのある声が背後から聞こえる。

 

「連絡には風花聖典を寄越す手筈では?クレマンティーヌ殿」

 

奇妙な縁のせいか何かと関わりのある目の前でケラケラと笑っている、第二帝国の負の遺産とも言える帝国暗殺局(オフィシオ・アサシノルム)に在籍経験がある漆黒聖典第九席に対して呆れた目で見る。



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