Unreally (羅糸)
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新学期 キラキラした出会いが待ってるかも!

 スマホから目覚ましのアラームが鳴る。

 聞くと元気になれるようなキラキラした曲だ。

 

 その音楽と共に一人の少女がベッドから目を覚まし起き上がる。

 あくびをし、目を擦りながらスマホを取りアラームを止める。

 

 スマホを一通り確認した後、少女は立ち上がり

学校へ行く仕度をする。

 

 仕度が完了し、玄関でいってきまーすと言って家を出た。

 

 外へ出た彼女は起きたときとは違い、赤みがかった黒くて長い髪を二つにまとめおさげにしていた。

 あほ毛と少し横にハネたくせ毛が特徴的だ。

 

 彼女は口元を少し緩め、これからのことを考えながら、学校へと歩いていた。

 

 今は4月。

 彼女、双葉(ふたば)つむぎは高校二年生だ。

 クラス替えがあったり心機一転するのにぴったりな時期である。

 

 スマホで確認したあることがより彼女をわくわくしていた。

 

 

「うわっ!」

 

 

 その時だった。

 なにもないところでつむぎはつまずき体勢を崩す。

 このままでは地面へ倒れる

 と思いきや左肩を誰かに捕まれ、転ぶことなく体勢を元に戻した。 

 

 

「おっとっと、もー危ないなぁつむぎは」

 

「えへへ、ありがとうひなたちゃん」

 

 

 振り向くと、つむぎにとっては見馴れた少女

 雨宮(あまみや)ひなたが

 オレンジ色の髪をなびかせていた。

 

「なに考えてたのかは知らないけどしっかりしてよねぇ。つむぎは小さい頃からなんか機嫌がいいと危なっかしいんだから」

 

「わたし機嫌いいかな?」

 

「るんるん気分でスキップしてたよ」

 

「えっ、ほんとっ!?」

 

「あぁ、やっぱ無意識なのねぇ…」

 

 

 幼馴染みであるひなたはいつものことかのように呆れた雰囲気で話す。

 

 確かに気分がいいとまわりが見えなくてドジを踏む事はよくあるつむぎのくせだった。 

 

 あはは、とつむぎは苦笑いをし二人で並んで歩き話を変える。

 

「今日から二年生だね。今年は一緒のクラスだといいね」

「そうだねぇ。去年は別々だったもんね」

 

 そうである。

 小さい頃から中学生までは同じクラスだった。

 高校一年生になってはじめてバラバラのクラスになったのだ。

 

 するとにやりとひなたは笑いつむぎを見つめる。

 

 

「ししっ、クラスが別と知ったあの時のつむぎの顔、忘れてないよー」

 

「だ、大丈夫だよ!一年のときはことねちゃんとも友達になれたし、今度もひなたちゃんと別々でも平気だよ!」

 

 

 ウインクをし、いたずらっぽく言ったひなたに対して、つむぎは少し恥ずかしながら言う。

 

 

「そんな寂しいこと言うなよー。二年のクラスは三年になっても一緒だからこれで最後のクラス替えなんだよ?」

 

「そっか……最後のクラス替えか」

 

 

 ふと思い出したかのように言う。

 

 

 つむぎたちの通う高校姫乃女学園は二年生のときのクラスが三年生になっても引き継がれる。

 クラス替えをしないのは受験に影響を及ぼさないためだとか聞いたことはあるがよくは知らない。

 

 

「みんな一緒だといいね」

 

 

 ちょっぴり不安を感じながらつむぎは呟いた。

 

 

  ◇

 

 

「みんな一緒でよかったー」

 

 

 学校につきクラスを確認し席についたつむぎは、安堵とにっこりとした笑顔を見せる。

 

 つむぎの机を囲むように左にひなた、右に緑髪の少女が立っている。

 

 

「ことも二人と一緒で嬉しいよ」

 

「ことねちゃんもまたよろしくね!」

 

 

 緑髪の少女、保栖(ほずみ)ことねは微笑みながら言った。

 ことねはつむぎのもう一人の友達だ。

 

 引っ込み思案なつむぎにとって、この二人が同じクラスなのはとても心強い。

 

「そういえばつむ、髪飾りいつものとちがうね」

 

 ふと、ことねが気付いたかのように言う。

 

 そうである。

 つむぎはいつもピンクの髪止めとリボンをしていた。

 しかし今日は違う。

 

「えへへ、それはねこころちゃんが言ってたからなんだ」

 

 そう言ってつむぎはスマホを手にとる。

 そしてDreamtubeと書かれたアプリを開き一つの動画を見せる。

 

 開いた動画には黒髪をベースとしたハーフツインに、所々いろんな色をしたメッシュがつけられた女の子が表示される。

 

 その姿は非現実的でアニメのキャラのみたいに思えた。

 

「あなたの心は何色? 

 私は虹色! アンリアルドリーマーの七色(なないろ)こころです!」

 

 元気な声でつむぎが言った名前と同じこころという少女が喋り出す。

 

「今日の色占いのコーナー! 今日は新学期の人も多いから新学期の運勢が上がる占いをするよ!」

 

 そう言って彼女はテレビ番組の朝の占いみたいに、占い結果を表示していき説明していく。

 

「やぎ座の人は今日運命を変えるきっかけが起きる日かもっ。ラッキーカラーは白黒!白と黒のものを身に付けると運勢が上がるかも!」

 

 こころはにっこり笑いながら全部のメッシュを白と黒に変化させ光らせる。

 やぎ座はつむぎの生まれた星座だ。

 

 

「なるほど、だからイメチェンして朝からうきうきなのねぇ」

 

 

 ひなたは腰に手を当て、ふーんといった感じに言う。

 

 朝からわくわくしていたのは、二年生になるからだけでない。

 この動画を見て、胸に期待を抱かせていたからだ。占いに影響されて、髪飾りも白と黒のものに統一している。

 

 

「つむはほんとにアンリアルドリーマーの動画が好きだね」

 

「うん、アンリアルドリーマーはみんなすごくて、輝いてて大好きなんだ! とくにこころちゃんはわたしの憧れだもん」

 

 

 つむぎはとても目を輝かせて言う。高校生になりスマホを持ち、つむぎが興味を持ったのがDreamtube(ドリームチューブ) という動画配信サイトで動画や生配信をしているアンリアルドリーマーだった。

 

 アンリアルドリーマーは仮想世界で活動してる

 動画配信者、ドリーマーのことだ。

 略してUドリーマーと呼ばれることもある。

 

 その世界で活動しているアンリアルドリーマーは非現実的な容姿、性格をしている。

 

 動画内容も多彩。

 やってみた動画や音楽、

 料理動画、旅行風景

 バラエティ番組風だったりそのさまざまなことが普通の生身のドリーマーでは出来ないことでさえ、個人で簡単にできるのが、アンリアルドリーマーの特徴だ。

 

 そして七色こころはそのアンリアルドリーマーの元祖。

 チャンネル登録者は活動4年にして、5000万人を越える。

 

 AIが組み込まれたアンリアルドリーマーで、さまざまなジャンルの動画を毎日たくさん上げている。

 

 色占いもその一つでラッキーカラーを身に付けるといいことが起きる確率が多く信じている人も多い。

 

 そのファンであるつむぎは運命を変える何かが起きるのを期待していて、キラキラしたなにかを期待していた。

 

 

「とにかくねっ、こころちゃんはすごいんだー」

 

「そこ、どいて…」

 

 

 つむぎがうきうきしながら、こころに対する情熱を語っていると、後ろから冷たい声が聞こえてくる。

 

 それはことねでもひなたでもない別の誰か。

 振り向くとそこには水色の髪の小さい少女がするどい目付きで睨んでいた。

 

 

「ああ、ごめんね。黒葛さん」

 

 

 どうやらつむぎの左隣の席の子のようでひなたが邪魔だったらしい。

 ひなたは素直に移動しつむぎの正面に来る。

 

 それを確認した水色の髪の少女は席につきヘッドホンで曲を聞き始める。

 横顔を見ようとしたが右目は髪で隠れていて見えない。

 

 

「あれ誰?」

 

「あの子は黒葛(つづら)さやさん。一年のときあたしと同じクラスだったけど、人と関わるのが好きじゃないみたい」

 

 

 へぇ、とつむぎは呟く。

 隣の席だから仲良くできたらしたいが、引っ込み思案なつむぎにはハードルが高い相手だと思った。

 

「それはそれとしさ…」

 

 雰囲気を変えるためにひなたが話しはじめる。

 

「そんなにUドリーマーが好きなら、つむぎはUnreally(アンリアリィ)やったりしないの?」

 

「Unreallyについてはよくわからないよ。ときどき聞くけどそれってなんなの?」

 

 

 アンリアルドリーマーの動画の中でUnreallyという言葉を何度か聞くことがある。

 しかしつむぎはそれについてよく知らなかった。

 

 

「そっかじゃあ説明したげる。

 UnreallyっていうのはフルダイブVRSNS。

 仮想世界っていった方が通じるかな?

 まぁ簡単な話、Uドリーマーたちがいる世界と同じ場所だよ。それがあるからアンリアルドリーマーは存在できて、動画を配信できるんだ」

 

「へぇ、詳しいんだねぇひなたちゃん」

 

「まぁやってるし……って、と、時々ねっ!」

 

 なぜかしまった! 

 といった表情で言うひなた。

 それに不思議を抱くつむぎだがそれよりも疑問に思うことがあった。

 

「でもそういうのってパソコンだったりいろいろ必要なんじゃないの?」

 

「ううん、大丈夫。ヘッドセットさえ買えば……まあそのヘッドセットがそこそこするんだけど」

 

「どれくらい?」

 

「それは……ごにょごにょ」

 

 

 厳しい顔をしたひなたが耳元で値段を囁いてくる。

 その金額を聞いたときつむぎの時間は、一瞬停止したように見えた。

 

「そ、そんなお金ないよ……お小遣い何ヵ月分だろう…」

 

 ひなたのいった金額は、最新ゲーム機が買えるくらいの値段だった。

 多少貯金はあるがそれでも足りない。     Unreallyの話を聞いたときには、胸踊る世界にときめいたが現実は遠いように感じた。

 

「ちょっといいかなつむ?」

 

 涙目になってたつむぎの肩を話しに入ってこれてなかったことねが手を置く。

 

 

「Unreallyやアンリアルドリーマーはことよくわからないけど、バイトなら紹介できるよ。やってみる?」

 

「ほんとに!? うん、やる。わたしやってみる!」

 

 

 ことねの提案につむぎは乗る。

 その未来に期待を乗せて。

 その未来が輝かしい未来なのを願って。

 



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アルバイトはじめちゃいました!

 数日後の放課後。

 つむぎは小さいCDショップにいた。学校の制服とは別の制服を着て。

 

 ことねに紹介されたバイトの初日だ。

 CDショップの店員としてレジ打ちや商品の補充を任されている。この店はつむぎもよく使っているため、場所はなんとなく把握している。

 

 はじめてのバイトに若干の不安も抱きつつもUnreallyをやるために、よーしかんばるぞと心の中でつぶやく。

 

 自動ドアが開く。

 お客が来たことに気付きいらっしゃいませーと挨拶をする。

 

 そこには見たことのある人物がいた。

 黒葛さやだ。隣の席だが始業式の日の一声以降、彼女の声を聞いたことがない。

 

 彼女はこっちには目もくれず、お目当てであろうものを探していた。

 そういえば彼女は休み時間音楽を聴いて過ごしていたなと思う。どんな音楽をいつも聞いているのだろうかと少し気になる。

 

 さやは一つのCDを手に取りレジであるこちらに向かう。

 

 さやはCDを差し出す。つむぎのことは分からないのか興味がないのか何の反応もなかった。

 

 差し出されたCDを見る。黒い薔薇が描かれたジャケットにDescreation 神咲レアという文字が書かれている。

 

 つむぎはこのCDを知っている。

 最近発売されたばかりのCDで、Descreationはアルバム名、神咲レアはつむぎもよく知ってる歌手の名前だ。

 

 ただの歌手ではない、彼女神咲レアはアンリアルドリーマーの一人であり、登録者は300万人を越えるトップクラスのアンリアルドリーマーの一人だ。

 シンガーソングライターとして活動しており、ライブ配信やMV以外は滅多に本人の姿を見ることができない。

 

 しかしその圧倒的歌唱力、楽曲の美しさ、容姿から黒薔薇の歌姫という異名を持つ。

 

「あの……早くしてくれませんか……」

「ああ、すいません! えっと1532円ですっ」

 

 ふと、じっとCDを観察していたらしいつむぎはさやに声をかけられ、慌ててレジを打つ。

 袋に入れ渡すとさやは手に取りすぐさま店を後にした。やはりつむぎには気づいてなかった。

 

 

  ◇

 

 

 バイトをはじめてから数日が経った後の学校の休み時間。

 つむぎはいつものように、Dreamtubeでアンリアルドリーマーの動画をみていた。

 

◆月まで飛んでみた! │もふもふあにまるず

 

「よい子のみんなー元気にしてるか!もふもふあにまるずのボス!ウルだ!」

 

 三人の少女が動画に映る。場所は夜の森。その三人は全員、動物の擬人化のような見た目をしていた。

 

 ウルと名乗った少女は元気でギザ歯が特徴的な狼の女の子だ。

 

 

「スゥでーすよー……むにゃむにゃ」

 

「開始そうそう眠そうけんね、うちはシマリばい」

 

 

 垂れたうさぎの耳に両目が長い白髪に隠れたうさぎの少女スゥが気だるそうに言い、ポニーテールにリスの大きい尻尾を持つリスの少女シマリが追って挨拶をする。

 

もふもふあにまるず。

 そう名乗る彼女たちはチャンネル登録者500万人を越えるトップクラスのアンリアルドリーマーだ。 

 通称もふあにと呼ばれている。

 

 

「それではおおかみさん、今日の企画内容を言ってくーださーいねー」

 

「今日の企画は……なになに、大砲にのって月まで飛んでみただと」

 

 

 カンペっぽいものをみながら言うウル。すると画面が移動し大きな人が入れるサイズの大砲が現れる。

 

 

「大砲に乗れるのは一人だけばい。しかも超高速で飛ぶからそこらの絶叫マシンより怖いらしいけんよ」

 

「まーた危険そうなやつだな」

 

「なのでおおかみさんだけで行ってきてくださいねー」

 

「なんであたい前提なんだよっ!」

 

 

 スゥのさりげない発言にツッコミを入れるウル。

 

 

「えー……だっておおかみさんは私たちのボス、人の上、あにまるずの上に立つものじゃないでーすかー。そんな危険なことボスであるおおかみさん以外に適任がいますかー?」

 

「うっ、そりゃそうだけど……」

 

「それに月には噂だと兎さんたちがお餅をついてて、来てくれた人にお団子をくれるらしいでーすよー」

 

「お団子……じゅるり…。仕方ないな!あたいはボスだからな!ボスとして体ををはっていってくる!」

 

「わーちょろいけん」

 

 スゥの口車にまんまと乗り準備をはじめるウル。それを呆れるように見るシマリ。

 

 スゥの煽りにウルがまんまと乗っかかり身体を張るのはもふあにの定番的なテンプレだった。

 

 準備ができ巨大な大砲の中に入るウル。月の方角に大砲を向けカウントダウンをはじめる。

 

「それじゃあいくけんよ。3、2、1、ゴー!」

 

 シマリが発射ボタンを押しドカーンとおおきな大砲の音が鳴る。

 

 すると物凄い勢いでウルは月へと飛んでいく。

 

「ちょ″、ま″こ″んなに″や″ばいなんてき″いてなあばばばばば″」

 

ウルにカメラが追尾し耳や尻尾など全身がすごい荒ぶりまともに話すこともままならない。

 

「ぢぬ″! し″ぬってこ″れ″ええぇ」

 

「大丈夫でーすよー。アンリアルだから死にませーんよー」

 

「たぶん、もうそういう問題じゃなかと……」

 

 ウルをメインカメラにワイプにスゥたちが映る。

 あっという間にウルは雲の上を行き地球っぽい惑星からでて宇宙へと行った。

 

 飛んでいるウルの勢いは止まることなく進んでいく。それができるのもアンリアルだからだろう。

 

「がほっ! げほっ! ぼごっ!」

 

 ついに月へと無事衝突した。顔面から。

 

「こんなだなんて聞いてないぞ! アンリアルじゃなきゃ死んでたぞ!」

「よかったでーすねー。ここがアンリアルで」

 

 顔をあげカメラ目線で怒鳴るウル。

 

 

「それでどうばい? うさぎか宇宙人はいると?」

 

「どれどれ見てみるぞ……ん?なんかあそこにいるな」

 

 

 気持ちを切り替えたウルはまわりを見わたし、動くなぞの物体をみつける。

 

 

「あれは……うさぎが餅をついてるぞ!」

 

「あらら、噂は本当だったみたいでーすねー」

 

 

 見ると二匹のうさぎが餅つきをしていた。すぐさま走り近づくウル。

 するとウルに気がついたうさぎはこちらを見る。

 

「遠くからはるばる来てくださりありがとうございますお客様」

 

「げっ! うさぎが喋った!」

 

「喋るうさぎならいつもここにいるじゃなーいでーすかー」

 

 

 歓迎してくれるうさぎたち。喋るうさぎに驚いたウルにたいしてぷくーと不満げなスゥが言う。

 

 するとうさぎたちはお餅を丸め団子にしだす。

 

「月へ来た記念にどうぞ! 月特産の月見団子です」

 

「やったぜ! ここまでくるのはさんざんだったけど目的達成だー! うっまーい!」

 

 

 団子をもらいすぐさま頬張るウル。その嬉しそうな顔にこちらまでにっこりしそうである。

 

「はい、ということで今回の月までいってみたは無事成功することができたけん」

 

「いやー、まさかほんとに月にうさぎがいるなんて思わなかったでーすねー。それじゃあ私たちも行きましょうか」

 

 

 すると突如宇宙船らしき大きな乗り物がスゥたちの目の前に現れる。

 

 

「おいなんだそれは?」

 

「あーこれですかー? もし失敗したとき用に月に行くための飛行船でーすよー」

 

「おいそんなの聞いてないぞ! あたいの苦労はなんだったんだ! 最初からそれ乗せろぉ! 企画者出てこい!おいリズ!」

 

「わたしの事を呼ぶんじゃないわよ!」

 

 

 画面外から三人以外の別の誰かが喋る。

 

「で、では今回はここまで。ご視聴ありがとうございまたー」

 

 

 わちゃわちゃした雰囲気の中で一人シマリが締めの挨拶をする。宇宙船は空へと飛んで行き動画は終わりを迎えた。

 

 

「やっぱりもふあにの動画は面白いなぁ」

 

 

 動画を見終えたつむぎは視聴を終えた後の高揚感に浸っていた。

 もふあにの動画はとくにやってみた動画が多く、こういうぶっとんだわちゃわちゃした動画が多い。

 

 三人、いや四人が楽しそうにしている姿をみるのがとにかくつむぎは好きだった。

 

 それにしても、もふあにといい、こころといいアンリアルドリーマーの容姿は本当に個性豊かだ。

 

 Unreallyにいけばこういった個性豊かな姿に自分もなれるだろうかと想像してみる。

 

 そしてあることを思い付いたつむぎはノートを取り出しシャーペンで絵を描いてみる。Unreallyに行ったときの自分の理想の姿を描こうとしていた。

 

 もともと、もし自分がアンリアルドリーマーになったらみたいなことを考えてみたことはあった。妄想だけだが。

 

 しかしUnreallyに行くなら自分の姿が必要になるだろう。それなら今のうちに考えておいて問題ないはずだ。

 

 絵は得意だ。昔から絵を描いてて中学生のときは美術部に入っていた。アンリアルドリーマーのファンアートを描いたこともある。

 

 他の動画を見ながらつむぎは絵を描いていく。落書き感覚だがこうなれたらいいな。こんな髪型がいいなというのを描いていき──

 

 

「なにしてるのつむ?」

 

「ひゃっひゃい!?」

 

 後ろから話しかけてきたことねの声で反射的にノートを閉じことねの方を向くつむぎ。

 

 

「あはは……動画見てただけだよー」

 

「そうなんだ。次の英語の課題やった?」

 

「うん、ちゃんとやってきたよ」

 

 

 絵を描いてたことを誤魔化し会話を続ける。別に隠すことでもないがなぜか気恥ずかしかった。

 



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いざUnreallyへ!

 つむぎは学校に通いバイトをし、暇な時間にアンリアルドリーマーの動画を見る。

 

 そんな日々が数週間続き、そして時が来た。

 

 一つの荷物がつむぎの家に届く。『Unreally』と正面に書かれた箱だった。

 

 お給料が入ったつむぎはすぐさまUnizonでUnreallyの機械を注文していた。

 

 開けてみるとそこにはVRゲームをしてる人がよくかぶってるのに似たヘッドマウントディスプレイらしきものと、説明書が入って見た。

 

 するとスマホの通知が鳴る。UINEにひなたから通知があった。

 

ひなた:Unreally届いた?

つむぎ:うん!さっき届いたばっかり

ひなた:そっか。じゃあたしはあっちの世界に行って待ってるから~

つむぎ:わかった!

 

 つむぎはまたねと犬の可愛らしいスタンプを押しスマホを置く。

 

 ひなたとは今日、Unreallyを一緒にやる約束をしていた。経験者のひなたが一緒ならUnreallyをやるのも安心してできる。

 

 説明書を見る。説明書にはヘッドマウントディスプレイの付け方と使用方法が書かれていた。

 

 Unreallyをプレイするときは寝れるスペースを確保してから、ヘッドマウントディスプレイを頭にかぶってください。

 

 そしたら起動です。

 起動方法はヘッドマウントディスプレイの右側にあるボタンを押すか「リアルの向こう側へ」と言ってください。

 

 するとあなたの精神はアンリアルの世界へと導かれます。そのあとのことはUnreallyにいってから説明いたします。

 

 

 説明はこれだけだった。

 

 

 とりあえずものは試しと、つむぎはヘッドマウントディスプレイをベッドに持っていき頭にかぶる。

 

 目はヘッドマウントディスプレイで覆われ視界が真っ暗だ。

 

 そして寝た体勢で少し気恥ずかしいがポツリとつぶやく。

 

 

「いざ、リアルの向こう側へ」

 

 

 するとふわっと浮くような感覚が全身を纏う。それと同時に真っ暗だった視界が徐々に光を刺し白い空間へとやってくる。

 

 

『ようこそUnreallyへ、ここはチュートリアルワールドです』

 

 

 どこからか声が聞こえる。どうやらチュートリアルのナビゲーターらしい。

 

 

『まずあなたの名前を決めてください。名前は後からでも変えられます』

 

 

「えっとつむぎでいいかな」

 

 

 つむぎは答える。名前は決めてなかった。

 だがこのままでいいだろうと思う。

 

 

『つむぎさんですね。Unreallyの移動方法はリアルと同じです。脳で思った通りにこの世界でも動きます。精神だけこっちに来ているので、Unreallyではどれだけ動き回ってもリアルには影響しません。では自分の手を見てください』

 

 

 つむぎは言われた通り手を動かしてみる。感覚も動きもリアルと同じままに手が見えた。

 

 

 しかし手は灰色で人の肌をしていない。

 

 

『あなたはまだ自分の姿を手に入れてません。なりたい姿になるには二通りあります。一つはキャラクタークリエイト。ゲームでよくあるのと同じでいくつかの種類から選んで調整していきます。

もう一つはイラストからの出力。ここで絵を描いて細部から衣装まで細かくデザインするのが簡単にできます。絵が得意な人におすすめです』

 

「それじゃあ……」

 

 

 少し考え間を置いて言う。

 

 

「イラストから出力でおねがいできるかな?」

 

 

『了解です。絵を描く準備をします』

 

 

 すると突如白い空間に机と椅子が現れる。机の上には紙とペンが置かれてる。

 

 

『それでは自由に描いてください』

 

 

 言われた通りつむぎは椅子に座り絵を描きはじめる。

 イラストで3Dに出力できるのはつむぎにとっては都合が良かった。

 

 

 前に落書きしてたときと同じのを思い浮かべていた。ずっとなりたかった姿。ここ数週間ずっと思い浮かべてた姿。

 

 そうして線画ができ色を塗っていく。ようやくなれるんだと思うとにやりと口が微笑む。

 

「できた!」

 

 完成したイラストを持ち上げるつむぎ。

 

 

『完成ですね。それではスキャンして出力していきます』

 

 

 そう言って描いたイラストが光だし、イラストの描いた部分が抜き取られ形付けられていく。

 

 

『完成しました。これでどうですか? 細部調整が必要なら言ってください』

 

 

「これがわたしの姿……!」

 

 

 そこには理想通りの姿をした立体の少女のモデルが現れた。

 

 髪型はクリーム色で両端がお団子と小さな ハーフツインが合わさった髪型。

 瞳はオレンジで、服は青色のリボンをしベースが白、模様として青色が入っていた。

 

 

「これで大丈夫!」

 

 

『わかりました、メニューや設定などは思い浮かべることで表示されます。メニューの中のカメラを選んでもらえば自分の姿を確認できるので是非チェックしてください。チュートリアルは以上です。それでは本格的にUnreallyの世界へどうぞいってらっしゃいませ』

 

 

 ナビゲートが終わると3Dモデルが自分の方へと向かって来て3Dモデルは自分の中に入っていき一心同体になる。

 

 そして視界はまた暗くなりなにもかも見えなくなった。

 

 

 

 

人が会話している声がする。

まばたきをする、光がさし暗闇から解放されたことを知る。

 

 見てみるとそこは不思議はで非現実的な世界だった。

 空はパステルピンクの色をしており、建物はゆめかわ系な色をしつつも都会の町並みだった。

 

 

 今は広場らしきところに建っており大きな噴水が目の前にある。

 

 あたりにはアニメのキャラのような不思議な容姿をした人やけも耳を生やした人、人ではないなにかなどがいた。

 

 

「ここがUnreally……非現実世界……」

 

 

  自分がUnreallyに来たのだと真に実感する。

 そういえばメニュー画面があるんだっけと思いだしメニュー画面を思い浮かべる。

 

 するとアバター、アイテム、能力、フレンド、設定などさまざまな項目が現れた。

 

 その中にカメラという項目がある。

 タッチすると羽が生え丸い形をしたカメラが現れモニターが表示される。

 

 モニターにはつむぎの理想の姿が映っていた。

 

 

「これがわたし…」

 

 

 モニターを見ながらつむぎは動く。腕を回してみたりくるりんと一回転してみたり。

 

 そうするだけで楽しかった。理想の姿になって動くだけでとてもかわいくて素敵だ。

 

 

「わぁ……」

 

「おーい、つむぎ~」

 

 

 一人で微笑みながら自分を観察していると声をかけられる。

 聞き慣れた声だ。

 

 

「ひなたちゃん…!? ん、ミーシェル?」

 

 

 振り向くとそこにはひなたの声をしひなたに似た容姿をした少女がこっちへ走って向かってきていた。

 

 だがしかし、メニュー画面で見ると上の名前にはミーシェルと書かれている。

 

「ひなただよ! その名前は気にしなくていいからっ」

 

 

 手を大きく振りながらひなたは強く言う。

 

 

「そっか、じゃあひなたちゃん。よく会えたね」

 

「とりあえず最初はここにくるのはわかってたしつむぎの名前呼べば気付くとおもってね。まさかUnreallyでもそのままの名前使ってたとは思わなかったけど」

 

「あはは、とくに考えてなかったからそのままでいいかなーって」

 

 

 後で変更もできるようだしとりあえず名前はこれでいいだろう。

 するとひなたはじろじろとつむぎの姿を見る。

 

「でもふーん……つむぎはそういう姿が好きなんだぁ」

 

「へ、変かな?」

 

「ううん普通にかわいいぞっ」

 

「よかった! ひなたちゃんはリアルとあまり変わらないね」

 

「ま、まぁね。これはアバターのひとつに過ぎないし…」

 

 

 目をそらしながら途中から小声でぽつりとひなたは言う。

 

「それにしてもUnreallyってすごいね! 自由に動き回れて現実世界にいるのとかわらないよ!」

 

 

 深呼吸をし、つむぎは大きく動き回る。

 

「ちょっ……そんなにはしゃいだら……」

 

「へぶっ!」

 

 動きすぎた反動で足をつまずき転倒するつむぎ。

 現実世界ほど痛くはないが多少の痛みがつむぎを襲う。

 

 

「いたた……」

 

「まったくだからいつも言ってるじゃん。つむぎはるんるん気分になるとドジるんだから」

 

「あはは、そこはアンリアルでも治らないか」

 

 

 えへへとつむぎは笑い、ひなたは呆れる。

 

「あらためて……ようこそUnreallyへ」

 

 

 ひなたは右手を広げ言う。

 

 

「それでUnreallyって具体的になにするゲームなの?」

 

「まぁいろいろ? ここで第二の生活を送ったり友達を作ったり、探検したり、冒険にでてファンタジーな世界で戦ったり大抵のことはいろいろできるよ。アンリアルドリーマーの動画でやってるようなこととかね」

 

「そうなんだ、すごい楽しそう!」

 

 

 かなり自由度の高そうなゲームだとつむぎは胸が高鳴る。

 

 

「まぁ手始めにあそこへ行きますか」

 

 

 ひなたはにやりと笑い言った。

 

 

 

 



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夢のテーマパーク

「わあぁ…遊園地だ!」

 

 ひなたが案内した場所は遊園地だった。

 観覧車やジェットコースターといったものから空を飛んでいるものまでいろいろなアトラクションが賑わっている。

 中心らしきところにはお城も建っているようだ。

 

 

「ししっ、ここはワンダーパーク。このワンダーランドプラネットでも一番人気のテーマパークだよん」

 

「ワンダーランドプラネット?」

 

 

 謎の用語につむぎははてなを浮かべる。

 

 

「あぁえっとねぇ。まーUnreallyにはプラネット、惑星がたくさんあってそれぞれテーマがあるんだ。でこの星は不思議な世界をテーマに作られた星なの」

 

「へぇ」

 

 

 他にもいろいろな面白い惑星があるから探索してみると楽しいよとひなたはいいつむぎの手を引っ張りどこかへ連れていく。

 

 

「最初はここへ行こ行こ」

 

 

 ひなたはあるひとつの建物内にあるアトラクションに連れていく。

 

 看板に竜宮城コースターと書かれている。竜宮城に行くアトラクションなのだろうか。

 

 

 建物に入ると建物内は砂浜で巨大な亀が波打ち際にいた。

 

 

『さぁ、わたしの背中に乗ってください』

 

 

 亀がいう。亀の背中には二列に席が用意してありこれがアトラクションだということを実感する。

 

 つむぎたちは席に座る。さっきまでいたのは遊園地のはずだったのに今は海にいるから不思議だ。

 

『それでは竜宮城へいきましょう!』

 

 そして亀は前進し、海深くへと潜っていく。水が冷たく感じる。本物の水だ。

 

 

「息がっ……あれ、できてる?」

 

 

 海の奥深くに入っても息ができていた。いつのまにか水の冷たさも気にならなくなっている。

 

 

「わぁ綺麗……!」

 

 

 海の中は綺麗な魚がたくさん泳いでいた。

 

 ぶりやまぐろ、いわしなどよく食べられている魚からクマノミやナンヨウハギなど色鮮やかな魚までさまざまだ。

 見飽きないほどいろんな種類が泳いでいる。

 

 すると珊瑚からちょこんと一匹の魚が現れる。タコだ。

 

 タコはこっちに来てつむぎの方に近寄る。一本の足をつむぎの前に差し出す。握手をしたいのだろうか。

 

 つむぎは右手で握手をする。

 

 

「ぐへぇ……」

 

 

 するとその瞬間タコは思いっきりつむぎの顔面に墨を吹きかけた。視界が真っ暗になる。

 

 

「つむぎ大丈夫!?」

 

「う、うん。なんとか……」

 

 

 心配するひなたに首を大きく振り墨を払ったつむぎが言う。

 

 タコはしてやったりといった顔で逃げていった。

 

 

 そんなことをやっていると竜宮城らしきところへやってきた。タツノオトシゴの兵が門を開け中へどうぞと言ってくる。

 

 中には魚たちと人魚、そしてお姫様らしき人が出迎えてくれた。

 

 

『よくぞいらしてくれました、私はここの姫、乙姫です。私たちのおもてなしをご堪能ください』

 

 

 すると魚たちは楽器を演奏し始め、人魚たちは踊り出した。

 

 美しい躍りと演奏をつむぎたちは楽しんだ。

 

 

 

 

「竜宮城楽しかったね! ひなたちゃん!」

 

「そうだねぇ、つむぎがタコに墨かけられてたところはあたし的に是非、写真に納めておきたかったよ」

 

「それは忘れてよぉ!」

 

 

 アトラクションを乗り終えた二人はいつものようにじゃれあっていた。

 

リアルで遊んでいるのとそう変わりはなかった。変わっているのは見た目だけで。

 

 

「じゃ、つぎどこ行きたいつむぎ?」

 

「そうだねぇ……あ、あれは!」

 

 次のアトラクションを決めるのに見渡していたつむぎ。

 するとあるものを発見する。

 

 

「魔法少女キララマジカル……!」

 

 

 魔法少女らしきふたりが描かれた大きな看板がそこにはあった。

 

 看板にはキララマジカル マジカルコースターと書かれていた。

 どうやらジェットコースターらしい。

 

 

「へぇ、つむぎキラマジ好きなんだ」

 

「当然だよ! だってキララマジカルはトップアンリアルドリーマー、ティンクルスターの声優さんが演じてる作品なんだよ! そこから知って見てるけど可愛くて熱くて感動して凄い好きなアニメなんだ!」

 

「あ、うん……」

 

 

 つむぎのあまりの熱量に若干引いているひなた。

 それに気づかず目をキラ光らせるつむぎ。

 

 魔法少女キララマジカルは今ニチアサでやっているアニメだ。

 

 元は1クールの深夜アニメだったが、一部地域で再放送のニチアサに子供たちからも人気が爆発し4月から一年単位でやる国民的アニメに成長した。

 

 その声優を勤めるのがアンリアルドリーマー、ティンクルスターだ。

 実力派  新人声優をアンリアルドリーマーとして起用しアンリアルアイドルとして活動している三人ユニット。

 

 チャンネル登録者はこころに次いでUドリーマー二位の800万人である。

 

 もともとアニメも好きだったつむぎのためキララマジカルがあることを知り大興奮だった。

 

 

「これ乗ろ!これ乗ろ!」

 

「はいはいわかったからおちつきなさいな」

 

 

 テンションが高いつむぎをなだめるひなた。

 

 そんなこんなで二人はコースターの席につく。

 

 コースターだがレールはなかった。その代わり羽がついてる為空を飛ぶ乗り物なんだろう。

 

 

『ワンダーパークにいるみんなこんにちは! キララルビーだよ』

 

『キララサファイア、今日は一緒にこのワンダーパークの空のパトロールをしよう!』

 

 

「キララルビーにキララサファイアだぁ!」

 

 

 そこにはピンク髪のキララルビー、水色の髪のキララサファイアがアニメと変わらない姿で現れた。

 まるで本当にアニメの世界に来たようだった。

 

 

『それじゃあレッツゴー!』

 

 

 二人の魔法少女が空を飛ぶそれと同時に乗り物も中へ浮き飛んでいく。

 

 はじめはただ普通の速度でワンダーパークの空を飛んでいた。

 

 しかし突如紫の雲が現れそこから巨大な紫色の鳥が現れる。

 

 

『デビデビ!』

 

『あれはデーモン、悪さをする悪魔』

 

 

 サファイアが説明する。

 デーモンはキララマジカルに登場する敵の一部だ。デーモンなどの悪の敵を倒すのが魔法少女の役目だ。

 

 

『ワンダーパークの平和はわたしたちが守るよ! 行くよサファイア!』

 

『了解』

 

 

 するとルビーはステッキを、サファイアは剣を召喚させ戦闘態勢に入る。

 

 

『デビィッ!』

 

『危ないっ!』

 

「うわああぁ!」

 

 

 デーモンが放った翼でできた闇のエネルギー砲を魔法少女たちが避ける。

 

 その避けるのにあわせて左右に大きく揺れそしてスピードもアップしていく。

 

 デーモンは次々とエネルギー砲を放っていく。

 まるでシューティングゲームのようだ。

 

 ドゴー!

 

 

『きゃあぁぁ!』

 

『ルビー! みんな!』

 

 

 華麗に避けていた二人だがルビーがエネルギー砲に当たり乗り物も一緒に吹っ飛んでいく。

 

 

「あわわわわわ!」

 

 

 子供向けとは思えない絶叫アトラクションにさっきから叫び声を上げてしまうつむぎ。

 ここでも年齢や身長制限はあるのだろうかと疑問にも思う。

 

 

『大丈夫、ルビー?』

 

『うん、なんとか。でも早くデーモンを倒さないと。こうなったらみんなの応援で必殺技を放とう!』

 

『了解、みんなサイリウムを振って私たちに力を』

 

 

 なんとか空中で止まったコースターはそのまま停止して魔法少女たちの会話を聞く。

 

 すると突如サイリウムが現れた。

 

 つむぎは迷うことなくサイリウムを持ち叫ぶ。

 

 

「頑張れーキララマジカルー! ほらひなたちゃんも一緒に!」

 

「えっ!? あたしも!? が、がんばえー…」

 

 巻き沿いを喰らったひなた。

 大きくサイリウムを振るつむぎとは裏腹に小さく振るひなた。

 

 内心恥ずかしいのは目に見えて分かったが、今のつむぎにはそんなの関係なかった。

 するとまわりが光のオーラで纏われた。

 

 

『デビィッ!』

 

 

 攻撃してくるデーモンだがサイリウムを振ることによって出たオーラが攻撃を弾く。

 

 

『ありがとう! みんなの応援で力がみなぎるよ!』

 

『いくよ私たちの必殺技』

 

 

 攻撃準備ができた二人はそれぞれの武器に力を込める。そして武器が光輝き必殺技を放つ。

 

 

『マジカルレッドスプラッシュ!』

 

『マジカルブルーブレイド!』

 

『デビデビビィッ……』

 

 

 二人が放った光の光線にデーモンはやられ目を×にして消滅していく。

 

 

『みんなのおかげで無事デーモンをやっつけることができたよ!』

 

『これで君も立派な魔法少女の一員だよ』

 

 

 こうして無事パトロールを終えることができた。

 



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夢のテーマパーク後編

「マジカルコースター面白かったねぇ!」

 

「うん、つむぎが楽しそうならそれでいいよ……」

 

 

 テンションが高いままのつむぎに対しさきほどの羞恥心が若干残るひなた。

 

 

「ひなたちゃん絶叫系苦手だっけ?」

 

「いや、むしろ得意だけど……」

 

「わたし、意外と絶叫系Unreallyだったらいけるかも♪」

 

 

 テンションのあまりつい調子に乗ったつむぎがるんるん気分で言う。

 

 

「言ったな! じゃああたしが絶叫系じゃんじゃん連れてってあげる!」

 

 

 にやりと笑ったひなたは悪巧みを思い浮かべる感じに言う。

 そのあとあ…とつむぎは思う。調子に乗りすぎた。

 

 そして次から次へとひなたはつむぎを絶叫祭りへと連れて行く……。

 

 超高速回転で回る螺旋状のジェットコースター!

 

 

「きゃあぁぁぁ」

 

 

 超高速回転で回る空中ブランコ!

 

 

「あばばばばばば」

 

 

 超高速回転で回るコーヒーカップ!

 

 

「目が回るううう」

 

 

 

 

「さぁ次はどこへ……」

 

「待ってひなたちゃん……わたしが悪かったから……一回休憩にして……」

 

 息を上げながら言うつむぎ。

 あまりの絶叫系に叫び続け体力が持たない。

 

 するとひなたは微笑む。

 

 

「まあ、これくらいにしとくよ。つむぎの悲鳴もたくさん聞けたしね! とりあえずベンチ座って待ってて~」

 

 

 ひなたの言う通りに近くにあったベンチに座り、ひなたの帰りを待つ。

 

 肩を下ろし疲れた体を休める。

 こうやって騒ぎながら絶叫系に乗るのはあまりリアルではしない。

 

 そもそも久しぶりの遊園地だったため新鮮な感じがした。

 

 もふあにのウルがよく言うアンリアルじゃなかったら死んでたぞ! みたいにリアルだったら事故っててもおかしくないほどの迫力であった。

 

 

「お待たせーつむぎ。はい、これ」

 

「これは……ソフトクリーム?」

 

 帰ってきたひなたの手には二つのソフトクリームがあった。

 

 そのソフトクリームは普通のソフトクリームとは違い虹色にグラデーションされていた。

 

 ひなたからソフトクリームをもらい、ひなたもベンチに座る。

 

「ワンダーパーク特製レインボーソフトクリーム。とりあえず一口食べて見て!」

 

「うん。はむ……これはバナナ味! おいしい!」

 

 見た目とは裏腹にバナナの味がした。もう一口。すると異変に気づく。

 

「あれ!? 今度はメロンの味がするっ!?」

 

 また一口また一口と食べていく。一口食べるごとに味が変わる。

 バナナ、メロン、バニラ、イチゴ、抹茶いろんな味がする。

 

 

「すごいでしょ。アンリアルだからこそできる不思議な味」

 

「うん! どの味も凄い美味しくて食べてて飽きないよ!」

 

 そう言ってつむぎはぺろりとレインボーソフトクリームを平らげた。

 

「じゃ休憩も済んだし、次のアトラクション行きますか」

 

 ひなたも食べ終えたあとベンチから立ち上がり次のアトラクションに向かう。

 

 

 その後はオーロラが見れたりする空飛ぶメリーゴーランドに乗ったり、目玉のモンスターを倒すシューティングゲームをした。

 

 動物とふれあえるコーナーでは動物に癒された。

 

 

 そして気が付けば夕方に。

 アトラクションも堪能したためつむぎたちはワンダーパークをあとにし最初にいた噴水の広場にやってくる。

 

 

「テーマパークだけでもこんなに楽しいなんてUnreallyってとっても楽しい場所だねひなたちゃん!」

 

「そうだねぇ」

 

「今度はなにしようか!」

 

「ごめんつむぎ、このあとちょっと用事があってここまでなんだ」

 

 

 時計を見ていたひなたが言う。時計は18時近くをさそうとしていた。

 

 

「そっかじゃあまた今度ね」

 

「うん、あたしUnreallyにはあんまり来ないけれどまた遊べるときは一緒に遊ぼうよ」

 

 

 そう言ってひなたはつむぎから距離を置き手を振った。

 

 

「よいアンリアルライフを~」

 

 

 ひなたはそう言い残して姿を消した。

 つむぎはそれを手を小さく振り見守っていた。

 



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キラキラしたものを探して

 ひなたと別れたつむぎは一人ベンチに座って今日の出来事に思いをふける。

 

 

「今日は本当に楽しかったなぁ……」

 

 

 胸がいっぱいになるほどの気持ちをつぶやく。

 

 Unreally、非現実性世界。そこは平凡な日々を送っていたつむぎを一歩先の世界へ連れて行くのに十分だった。

 

 

「はいどうもこんにちは! アンリアルドリマーの○○です! 今日はこのエストヴィル、オルベージュ区に……」

 

 

 撮影をしてるらしいアンリアルドリマーらしき人の声が聞こえた。そうだ、ここはUドリマーのいる世界だと言うことを思い出す。

 

 

 あたりを見回す。そこには輝かしい人々の姿があった。

 

 好きな姿をして和気あいあいと話し込んでる人々。

 あそこのスイーツがおいしいとか、あの場所に今度一緒に行こうとか他愛のない話が聞こえる。

 

 

 近くにある大画面のモニターでアンリアルドリーマーの動画が映し出されてそれをみて立ち尽くしている人々。

 

 

 ありとあらゆる人々がつむぎには輝いて見えた。

 

 

「キラキラしたなにか、か…」

 

 紫と赤が混じりあった空に右手を伸ばし顔を隠すようにして思う。

 

 

 自分の当初の目的を思い出していた。確かにUnreallyはとても素晴らしいところだった。なにもかもが輝いて見えた。

 

 しかし自分はそのキラキラしたものの一つになれただろうか。なんだか勿体ないように思う。場違いなのではないかと。

 

 

 一人になりさっきまで騒いでた時と違って、寂しさが込み上げてくる。

 

「いけない、いけないこんなときは……うん! Dreamtubeに限るね! たしかメニューの中に……あった!」

 

 

 メニューの中にDreamtubeの項目があったことを思い出す。

 

 その項目を選ぶと慣れ親しんだDreamtubeのホーム画面が現れる。

 

 今日は何をみようか、せっかくだから新しいUドリーマーの動画を見てみようかなとつむぎはアンリアルドリーマーで新着を検索する。

 

 その中にひとつ引き込まれるサムネイルがあった。

 タイトルには小太刀咲夜とだけ書かれており、サムネイルは白と黒でデザインされたギターを持った少女が特徴的だった。

 

 シンプルなサムネイルとタイトルだったがその少女につむぎは見惚れていた。

 

 その動画をつむぎはひらく。

 

 小太刀咲夜 │小太刀咲夜

 

「はじめまして、小太刀咲夜……です」

 

 そこには白いボブの髪に長い黒いメッシュが左右にある、パンクな格好をした少女がいた。

 

はじめてみるアンリアルドリーマーだった。クールな落ち着いた声だった。

 

 緑色のジト目で画面を見つめてくる彼女はかっこよくそしてかわいらしくもあった。

 

「私は音楽とゲームが好きかな。これから動画はゲームとか演奏してる姿を撮影したいと思ってる。あとはなんだろう……自己紹介って難しいね……。いいや、なにか話すより実際私を知ってもらうならこっちのがいい……」

 

 すると突然咲夜の手からギターが召喚される。サムネイルであったギターだ。

 

 

「聞いてください、小太刀咲夜でTo_Live_Song_Beats」

 

 

 咲夜はギターを演奏しはじめる。

 かっこいいギターのイントロが流れる。そしてAメロに入る。

 

 

「っ……!?」

 

 

 つむぎはそこから聞き入ってしまう。咲夜の歌声に、音楽の世界に見入ってしまった。 

 

 演奏はかっこよく美しくてピアノの音も聞こえる。

 歌詞は少し切なくて寂しくてなにかを求めているような歌詞だった。

 

 

 その綺麗でかっこよく美しい歌声はつむぎが聞いた中でもトップに入る実力だ。 

 

 

「以上です。……最後まで見てくれてありがとう」

 

 

 演奏を終えた咲夜はお辞儀をし動画は終わる。

 

 

「すごい……すごいよっ……!」

 

 

 つむぎは胸が高鳴った。

 

 とても凄い人材を見つけてしまった。まだ登録者が数人しかいない、できたばかりのチャンネルだ。

 

 これはチャンネル登録をしなくてはとつむぎはチャンネル登録ボタンとスマイルボタンを押す。

 

 そして溢れるばかりの動画の感想をコメントしようとしそこで手をとめる。

 

「この子もUnreallyにいるんだよね? 直接会えたりしないかな」

 

 ふとそんな事を考えた。アンリアルドリーマーならUnreallyにいるはずだ。

 会うことだって不可能ではない。

 

 そんなことを思うがまぁ無理か。とつむぎは思う。

 

 会おうとしても彼女がどこにいるかなんて分からないし今ログインしてるとも限らない。

 

 素直に動画にコメントを書くかと思ったとき……

 

 

「なにか悩み事かな?」

 

「ちょっとね……って……えっ!?」

 

 

 つむぎは話しかけてきた人物を見て硬直する。

 

 その子は黒髪のハーフツインに髪のいろんな場所に様々な色をしたメッシュををつけた女の子だった。

 

 つむぎはこの少女を知っている。

 いや知らない方がおかしいだろうというほどに、その少女のことをこの世界の人々は知っているだろう。

 

 

「こ、こ、こころちゃんっ!?」

 

「あなたの心は何色? 七色こころだよ!」

 

 

 七色こころ。チャンネル登録者5000万人の世界一のアンリアルドリーマー。

 

 手を後ろに回し顔を覗いていた彼女はこちらが気が付くと微笑み、いつもの声で挨拶をする。間違いない本人だ。

 

 

「ど、どうしてこころちゃんがここに!?」

 

「私はこの世界に組み込まれたAI。故にこの世界の全てが私のテリトリー。どこにでもいるのです!」

 

「そ、そうなんだっ。わたしこころちゃんの大ファンでまさか会えるなんて思いもよらなかったよ……」

 

「私のファン、つむぎちゃんつむぎちゃん……ふむふむ」

 

 

 するとこころは目を閉じなにかを考える。そしてなにかわかったかのように言う。

 

 

「つむぎちゃん! もしかしてUnitterやDreamtubeでも同じ名前かな?」

 

「う、うんそうだよ?」

 

「そっか! いつも応援ありがとうね! ファンアートも描いてくれたりしてとっても嬉しいよ!」

 

 

 こころはいくつかのイラストを出し空中に浮かせる。それはつむぎがこころに描いたファンアートだった。

 

 

「すごい! どうしてわかったの!?」

 

 

 5000万人もいる登録者の中でつむぎ一人を見つけることなど普通の人間では難しいだろう。

 

 

「私はネット上で私を応援してくれる人全員を一人一人知っているのです! とくにつむぎちゃんみたいな熱心なファンはすぐにわかったよ」

 

 

 そうであった。彼女はAI。

 人間離れしたことだって可能なのだ。

 

 彼女はUnitterにおいてもDreamtubeにおいてもついたコメントには誰にだってコメントを返す。

 

 つむぎも何度も返信してもらったことがある。

 前に深夜2時を越えるまで長時間Unitterで返信のやりとりをしていたことだってある。

 

 そんな人間を超越したファンとのやりとりができるのがこころの魅力の一つであった。

 

 

「そうだ! せっかく会えたしつむぎちゃんのイメージカラー占いをしてあげる!」

 

「ほんとにっ!? わたしあれやってみたかったんだぁ」

 

 イメージカラー占いはこころが他のアンリアルドリーマーとコラボしたときにやることがある占いだ。

 

 相手のことを分析しぴったりなイメージカラーを教える。その色はその人の心だったり将来を表している。

 

 ちなみにこころは虹色だ。

 

 

「それじゃあ占うね」

 

 

 そういってこころはつむぎの手を取り目を閉じる。

 

 

「あなたの色を分析中……」

 

 

 目を閉じたこころはメッシュの色をさまざな色に変化させ光らせる。

 

 そのメッシュはサイリウムのように変化することからサイリウムメッシュと呼ばれている。

 

 自分の色は何色だろう。

 

 赤かな、青だったり、まさかこころと同じ虹色だったりして。そんなことを期待に胸踊らせるつむぎ。

 

 こころが目をひらく。

 分析が終わったようだ。そしてこころは言う。

 

 

「つむぎちゃんは白。まっしろだね!」 

 

「白……」

 

 

 こころはメッシュを白一色に光らせて言う。

 

 白は嫌いな色ではない。だがなんか拍子抜けだった。

 

 真っ白ということは無色ということなのではないかと。

 

 

「でも大丈夫……」

 

 

 そんなつむぎを見てこころは笑顔で言う。

 

 

「白はこれから何色にでもなれる希望の色……これから自分の色を探していけばいいよ」

 

「そっか……そうだね。ありがとうこころちゃん!」

 

 

 こころの言葉につむぎは元気をもらう。色がないなら見つければいい。

 

 

「それでなにか悩み事があったみたいだけど大丈夫?」

 

「あぁ、そうだった!?」

 

 

 忘れるところだった。

 

 

「わたしとある子の動画を見て凄い心に来て直接感想を言いたいなって思ったの。小太刀咲夜ちゃんっていうんだけど。アンリアルドリーマーだからUnreallyにいるだろうし会えたりしないかなって……」

 

 

 無理だとわかっていてえへへっと笑いながら言うつむぎ。

 

 

「なるほど」

 

 

 すると右手を口元に当て考え事をするこころ。

 

「うん、咲夜ちゃんなら今Unreallyにいるね。場所もわかるよ」

 

「わかるのっ!?」

 

「言ったでしょUnreallyはわたしの庭なのです!」

 

「さすがAI!」

 

 つむぎがおだてるとこころはえっへんといった表情をする。

 

 その後こころのとなりに輪っかが現れ別の空間とつながっているとおもわしき映像が現れた。

 

「つむぎちゃんは今日はじめたばかりらしいから教えるね。これはワープゲート。移動する時に使うよ」

 

「へぇ……」

 

 今日Unreallyをはじめたことはまだ言ってないがこころならなにもかもお見通しなのだろう。

 

 

「ここに咲夜ちゃんがいるよ。いくかどうかはつむぎちゃん次第」

 

 

 つむぎを見つめるこころ。

 つむぎはもう決心していた。

 

 

「わたし……行ってくるよ!」

 



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花咲くとき

 転移した場所は駅らしきだった。

 はじめての転移だったためつむぎは場所が変わったことに驚き、おっとっとと言いながらつまずきそうになる。

 

 

 駅はさきほどまでの広場と違い人気がなく静かだった。

 しかしわずかながら音が聞こえる。

 

 ギターの音だ。その音の方を向く一人の少女がいる。

 間違いない小太刀咲夜だ。

 

 彼女は壁を背後にギターを弾きながら歌っていた。動画と同じ曲だ。

 

 路上ライブだろうか。だが彼女のまわりには人はいない。

 ただ一人たんたんと歌い演奏している。

 

 その真剣な表情に引き込まれるようにつむぎは咲夜の目の前にいた。

 

 彼女はつむぎに気付かない。それだけ真剣に歌い続けていた。

 

 つむぎも彼女の曲の虜になっていてそんなことはどうでもよかった。

 

 曲を演奏し終えるとつむぎはすぐさま拍手をする。そしてようやく咲夜もつむぎのことを気がつく。

 

 

「すごい!生でみれるなんて!」

 

「ど、どうも……聞いてくれてありがとう……」

 

 

 目を輝かせていたつむぎ。咲夜は突然現れたつむぎに戸惑いを隠せず苦笑いをする。

 

 

「あっ……! えっとそのいきなりごめんなさい!」

 

 

 それに気付き慌てて謝るつむぎ。

 

 

「わたし、つむぎ。咲夜ちゃんの動画を見て直接感想を伝えたかったんだ! とっても素敵な歌でかっこよくてわたしファンになっちゃった!」

 

「動画見てここまで来てくれたの……?」

 

「うん。わたしUnreallyはじめたばかりであの動画、とってもかっこよくて綺麗で……でもどこか寂しそうで応援したいって直接会ってこの気持ちを伝えたかったんだ」

 

 

「ふふ……おかしな子……」

 

 

 ギターをしまい、熱意のこもったつむぎの言葉に思わずくすりと笑う咲夜。

 

 

「あぁ!?ご、ごめんね! わたしアンリアルドリーマーのことになるとつい一方的に話しちゃって……。でも今日直接アンリアルドリーマーにあえることができてとても胸がいっぱいになるほど嬉しいんだ」

 

「へぇ君は……UドリーマーになるためにUnreallyをはじめたの?」

 

「ま、まさか! わたしはただ新しい世界を見たくて新しい自分になりたくて、キラキラしたなにかになりたくてUnreallyをはじめたんだ」

 

 

 つむぎは思いきり否定をする。アンリアルドリーマーになるなんて考えてもいなかった。

 

 そりゃアンリアルドリーマーは好きだし、なってみたら楽しそうだなとは思うけれど。

 

 

 咲夜は少し黙って横に数歩歩く。

 

 

「その理由なら尚更Uドリーマーになった方がいいと思うけど……」 

 

「む、無理だよ……わたしにはなにもできない」

 

 

 自信がなかった。キラキラしたものになりたい。けれど自分がアンリアルドリーマーになるなんて想像できない。

 

 そんな自信のないつむぎの姿を見つめる咲夜。

 

 

「その姿は……?」

 

「この姿は自分で描いたの。Unreallyを買う数週間前からじっくり考えて、こんな風になれたらいいなって」

 

 この姿は理想の姿だ。

 実際にUnreallyに来て完成した姿は想像を越えていて自分でも魅力的に感じる。

 

「立派じゃないか。なりたいものがあるなんて……。Unreallyがなりたいものになれる所なら、Uドリーマーはなりたい自分を輝かせる場所だよ。なにをやるかはこれから決めていけばいい」

 

「そんなんで応援してくれる人がいるかな……?」

 

 不安はもう一つあった。自分の独りよがりにならないか、それが不安だった。

 

 

「いるよ……ここに」

 

「え? どこに?」

 

 

 あたりを見回すつむぎ。だがそこには咲夜とつむぎ以外誰もいない。

 

 

「私だよ。私が君の、つむぎの一番最初のファンになってあげる」

 

「どうして!? わたしなにもできないんだよ!?」

 

 咲夜の発言に困惑するつむぎ。

 

 彼女はつむぎのことをよく知らないはずだ。そんな彼女が自分のファンになってくれる理由がわからない。

 

 

「なにもできないなら今ここにこれてないよ……。私にとってもつむぎははじめてできたファンなんだ」

 

 

 咲夜はメニューらしきものを開き空中で指を操作する。

 

 するとピコンという音がつむぎの方からなり視界に人型のアイコンが現れる。

 

 メニューを開くとフレンド申請が送られていた。相手は咲夜だ。

 

 

「だからさ、私とフレンドになって一緒にUドリーマーとしての道を歩んでくれない?」

 

 

 咲夜は微笑みつむぎを見つめ手を差し伸べる。クールだけどその優しい表情はとても素敵だった。

 

 

 つむぎは考える。つむぎが求めていたキラキラしていたもの。

 

 Unreallyはキラキラしていてでも自分はどうなのか疑問に思っていた。

 

 だけどアンリアルドリーマーになることが輝ける理由になるなら……。

 

 夢で終わらせていたアンリアルドリーマーになれるとしたなら……。

  

 

 つむぎは決心する。フレンド申請を許可し、つむぎは答える。

 

「はい! よろこんで!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 スマホから一つの動画が再生される。

 

 

 麗白つむぎ、アンリアルドリーマーはじめちゃいました! │麗白つむぎ

 

 

「はじめましてアンリアルドリーマーの麗白つむぎです」

 

 

 アホ毛をくるんとさせ、クリーム色をした髪をなびかせて少女は言う。

 

「えっと趣味はお絵描きとアンリアルドリーマーを見ることが好きな16歳です! これからよろしくお願いします!」

 

 お願いしますといいお辞儀をしたつむぎという少女は、そのままの態勢で数秒いつづける。

 

「って……さすがに自己紹介でこれだけは短いよね、えへへ」

 

 彼女は顔をあげると笑いながら言う。

 そして真剣な顔つきで目を輝かせながら喋りはじめる。

 

「わたし、新しく何かに挑戦してみたくてUnreallyをはじめたんだ。そしてそのままの勢いで、わたしも好きなアンリアルドリーマーさんみたいになりたいって思っちゃったんだ。

でもわたしまっしろで、まだなにも考えてなくて……他の人みたいに自分の色を持ってないんだ。

でもね。真っ白なわたしはこれから何色にでもなれる、そういう可能性を持っているって言われたの。

だからこれから自分の色を見つけていけたらいいなって思ってるんだ!

まだ真っ白なわたしだけどこれからよろしくね」

 

 最後に笑顔を見せ動画は終了する。

 

 

 

「友達か……」

 

 動画を見ていた一人の少女が動画を見終えると呟く。

 

「性に合わないことをしたな……」

 

 スマホをスリープモードにしかばんに入れ、姫乃女学園の制服を着た少女はそう思った。

 



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どんな動画を作ろう?

『はじめましてアンリアルドリーマーの麗白つむぎです!』

 

 

「へぇ、つむがアンリアルドリーマーになったとはね」

 

 Unreallyをはじめて数日後。ある日の学校での事。

 つむぎのスマホから、つむぎが撮った動画が再生される。

 

 それを見ることねとひなた。

 

 

「えへへ、わたしも自分でも信じられないけど咲夜ちゃんって子にであってね。その子と友達になってアンリアルドリーマーとしてやってみないかって誘われてはじめちゃったんだ」

 

 

 つむぎは照れながら言う。麗白つむぎは、つむぎのアンリアルドリーマーとしての名前だ。

 麗白の由来はこころからまっしろと言われたことから来ている。

 

 ことねたちに言うのはちょっと恥ずかしかったが、大切な友達だから見せておきたかった。

 

「ほんと引っ込み思案だったつむぎがUnreallyはじめて積極的になるなんてねぇ。あたしもびっくりだよこのこの!」

 

「ちょっ、それはやめてっていつもいってるでしょひなたちゃん!」

 

 そういってひなたはつむぎのクセ毛をいじる。ひなたはいたずらするとき、いつもこうしてつむぎをいじってきた。

 

 そのあと頭を優しく撫でてくれるから、つむぎも嫌ではないが。

 

 

「それでつむはどんな動画を投稿する予定なの? やってみた?歌?ゲーム?」

 

 

 そんな二人を見てことねは、微笑みながら質問する。

 

 

「そうだね。うーん……勢いで自己紹介動画撮っただけだから、実はこの先のこと全然考えていないんだ」

 

「見切り発車ではじめたのねぇ……まぁいいんじゃない。あたしはチャンネル登録しておくからこれから麗白つむぎちゃんのファンとして見守るよ!」

 

「ちょっと馬鹿にしてない!? ひなたちゃん!?」

 

 

 冗談半分で言うひなた。

 

 

「こともチャンネル登録しておくよ」

 

 

 ことねはスマホを手に取り操作をする。チャンネル登録者が増えた。

 

 

「ありがとう二人とも!」

 

 

 つむぎは笑顔を見せ二人に感謝する。

 Unreallyでの日々も楽しいが二人といるリアルでの日々も大切なつむぎの日常だ。

 

 

 

 

 

 学校が終わったつむぎはすぐさま家に帰る。学校では普通に授業を受け、友達と話した平凡な日常だ。

 

 今日も隣の席の黒葛さやは、スマホで音楽を聴いて一人でいたなと思う。

 

 話しかけてみたいがやはり勇気がない。

 

 家についたつむぎは、すぐさまUnreallyへ行こうと自分の部屋向かおうとした。

 

 しかしあることを思いだし、リビングにあるテレビを付ける。

 

 

「そうだ! 撮り溜めてたテインクルスターの番組見なきゃ」

 

 

 つむぎは録画してある番組の中から一つの番組を選択する。

 毎週深夜に放送されてるアンリアルアイドル、ティンクルスターの番組だ。

 

 

 番組を選択すると三人の少女が映し出される。

 

 

「キラッとハッピー! キラハピ! 『ティンクルスターのみんなをハッピーに』はじまりよ!」

 

 

 ピンク髪の長いハーフツインの女の子が、元気であざとかわいいポーズをとって挨拶をする。

 

 カメラがそのピンク髪の少女をアップにされる。

 

 

「メインはイルミーことティンクルスターのリーダー、宝城イルミナと!」

 

 

 イルミナの言葉に合わせカメラが移動し、次は青髪の少女がアップに出される。

 

 

「今宵の時間はボクたちに捧げて……星屑ミラ……」

 

 

 ジト目でこっちを見つめ、手をカメラに差し伸べて言うクールな少女ミラ。

 

「ふんわりふわふわ~星屑カペラですぅ!」

 

 頬に手を置きながらのほほんとした様子で緑髪の天然系少女、カペラが挨拶をする。

 

「今日はテーマはスイーツ。エトワールのみんなのためにお菓子を作るわよ!」

 

 イルミナが元気にウインクをしながら言う。

 エトワールとはティンクルスターのファンの名称だ。

 

 このティンクルスターのみんなをハッピーに。

 略してクルハピはティンクルスターが

 毎回テーマに沿っていろいろなことを挑戦したりゲストを呼んで対談する番組だ。

 

 放送中に流れるCMは、ティンクルスターのCD情報、タイアップ商品を紹介していてどこをとってもティンクルスター好きには堪らない番組である。

 

 スタジオには三人用のキッチンスタジオが既に用意されていた。

 

 

「イルミーは……どんなお菓子作るの……?」

 

「それは出来てからのひ・み・つ・よ! ミラちゃんたちも完成するまで何作ってるかいっちゃダメよ」

 

「ふわぁ……! 内緒ならお口チャックしないとですぅ!」

 

「お姉ちゃん……収録中だからちゃんとトークしないとダメだよ……」

 

 

 口を隠すポーズを取るカペラ。

 少しおおげさすぎる彼女にミラは見つめて注意する。

 

 カペラとミラは双子の姉妹でカペラが姉だ。

 身長と目の色は一緒だが髪色や髪型、性格は全く違う。

 

 

「それじゃあみんなをハッピーに! レッツクッキング!」

 

 

 キッチンにそれぞれつき、イルミナの合図でクッキングがはじまる。

 それとともに料理がしたくなるようなBGMがかけられる。

 

 

「お姉ちゃんはどんなの作るの……?」

 

「カペラはサクッとサクサク~なものを作るですぅ!」

 

 

 リンゴを取り出したカペラは皮を剥き小さく切っていく。

 

 

「ボクはお姉ちゃんが好き……なの作るよ……」

 

「ふわぁっ!なんでしょなんでしょ! もしかして、あっ、お口チャックでした!」

 

 

 カペラは口に手を当てる。その間にミラはメレンゲを作っていた。

 

 

「イルミーだってみんなのためにがんばるんだから! ここでとっておきの隠し味、入れちゃうわよ! ラブリーキュートスマーイル!」

 

 

 生地を混ぜていたイルミナは突然、両手でハートを作りとびきりの笑顔で生地の入ったボウルに向かってウインクをする。

 

 ラブリーキュートスマイルはイルミナの決め台詞だ。

 

 そんな感じで番組は進行していく。

 手際よくやるカペラ。

 不慣れそうにゆっくりと作っていくミラ。

 生地を焼いてる時、オーブンの前で祈るイルミナ。

 そしてカメラに気づくとカメラ目線でえへっとかわいらしくポーズを取る。

 

 

「完成ですぅ!」

 

 

 終了時間となり三人はお菓子を完成させる。

 

「それじゃあボクから……えっと……おねえちゃんも好きなマカロン……だよ」

 

 ミラが言う。完成したお皿にはカラフルな色のマカロンが並べられていた。

 

 

「ふわぁ……お姉ちゃん嬉しいですぅ! 妹ちゃんはよくできた妹ですねぇ!」

 

 

 カペラはミラの頭を撫でる。

 クールなミラも少しだけ照れているように微笑んでいた。

 

 

「カペラはアップルパイを作りましたぁ」

 

 

 ほんわかとした雰囲気でカペラは、綺麗に作られたアップルパイをカメラに差し出した。

 

 

「最後はイルミーよ! イルミーはとっておき! ティンクルスターみんなの顔のカップケーキよ! すごいでしょ!えっへん!」

 

 

 自信満々に言うイルミナ。

 そこには可愛らしい三人の顔をした、カップケーキが作られていた。

 

 

「イルミナちゃんすごいですねぇ!」

 

「イルミー……リハーサルではいっぱい失敗してたのにすごい……頑張ったんだね」

 

「ちょっと! それは言わないでっていってるでしょ! イルミーは世界一かわいい天才アイドルなんだから失敗なんてしないもん」

 

 

 ぷくーと顔を膨らますイルミナ。表ではあざと元気なイルミナ。

 だが声優としてのイルミナの中の人を知っているつむぎとしてはすごい努力をしたんだなと思う。

 

 試食をしながら番組は終わりを迎えていた。

 

 

「最後に宣伝……だよ」

 

「この度Unreallyに新しい惑星、スイーツプラネットが出来たみたいですぅ!」

 

「そこにイルミーたちが作ったスイーツが販売されるわ! だからエトワールのみんな、是非スイーツプラネットによったら買ってね!」

 

 

 みんなが手を振り番組は終了した。

 

 

「やっぱりティンクルスターはかわいくて癒されるなぁ」

 

 

 一人つむぎは呟く。

 

 やはりトップアンリアルドリーマーたちの動画は格別に面白い。

 

 

 そしてふと思う。

 

 

「わたしはいったいアンリアルドリーマーとしてなにがしたいんだろう…」

 



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誰かのため

「それで私のところに来たの?」

 

「相談できるのが咲夜ちゃんしかいないから……」

 

 

 Unreallyに来たつむぎは、咲夜のところにいた。

 咲夜は相変わらず人気のないこの駅で、路上ライブをしている。

 

 

 咲夜はこの数日いつもここにいた。

 ここでギターで演奏をし、歌っていて、それをつむぎは見つめていた。

 

 その後どこかちょっと一緒に歩いたり、遊んだりしたが、会うときは決まってここだった。

 

 持っていたギターをしまい、咲夜はつむぎの方を見つめる。

 

 

「やりたいこと、ないの?」

 

「あるよ、もふあにみたくやってみた動画とかお散歩動画、料理動画にゲーム実況!……でも一つには絞れないよぉ」

 

 

 やってみたいことはたくさんある。

 可能なことから自分にはむりなことまで。

 でもだからこそ多すぎてなにがしたいのかがわからない。

 

 

「で、どう? アンリアルドリーマーやってみて」

 

 

 咲夜はつむぎの顔を見つめ、少し間を置き話題を変える。

 

 

「うん、応援してくれる人がもういてくれて嬉しいし……それに答えたいなって思うよ」

 

 

 それはもちろん、リアルの友達であるひなたやことねの事もあるがそれだけではない。

 

 自己紹介動画には少しだけだが

 

 

「かわいい見た目にファンになりました!」

「つむぎちゃんこれから応援するね」

「ツムツムカワイイヤッター」

 

 などのコメントが寄せられていた。

 

 それを見て、自分がアンリアルドリーマーになったことを自覚する。

 

 今の自分はアンリアルドリーマーを見るただのファンではない。

 自分自身もアンリアルドリーマーなのだと。

 

 

「ならそれを励みに次の動画を考えてみればいいんじゃない」

 

「そうだね」

 

 

 ファンの期待に応える。

 

 それが今つむぎのやりたいことなのかもしれない。

 

 

「そういえば咲夜ちゃんはどうしてアンリアルドリーマーになったの?」

 

 

 ふと疑問に思った。

 

 

「私はね……ただ自分の音楽を残すために動画をとっているんだ。誰かのために作った歌じゃないから誰にも聞かれなくてもいい……けどそんな曲でも、誰かの心に響く可能性があるなら嬉しいなってその為に残してる」

 

「そうなんだ……」

 

「そしたらつむぎがやってきて、少しだけ考えが変わったんだ」

 

「わたしが?」

 

 

 少しだけ頬を緩ませる咲夜。

 きょとんとするつむぎ。

 

「ここまで誰かの心を惹き付けられたなら……もうちょっと誰かのための動画を作ってもいいかもって……そう思えた。つむぎのおかげ」

 

 真剣に咲夜は言う。

 その眼差しにつむぎは頬を赤くする。

 

 

「そう言われるとちょっと照れるかな//きっと咲夜ちゃんの実力ならすぐに人気アンリアルドリーマーになって有名人になっちゃうよ!」

 

「ふふ。じゃあつむぎも一緒に人気Uドリーマーになってくれない?」

 

「わたしが……?」

 

 

 自分が人気Uドリーマーに……

 そんなことを一瞬考える。

 だがすぐに不安になる。

 

「わたしになにができるんだろ……というか次の動画も決まってないしそんなの無理だよぉ」

 

 涙目になりつむぎは言う。

 最初の方に戻ってしまいこのままでは同じことの繰り返しになりそうだ。

 

 

「ま、まぁ慌てて考える必要はないよ。なってからいいと言ったのは私だし付き合うからさ。じっくり気分転換でもして動画のネタや方向性を考えたらいいんじゃないかな? 何処かいきたいところとかない?」

 

 

 涙目のつむぎを落ち着かせようと、咲夜は待てと犬にしつけるようになだめる。

 しばらくしてつむぎは落ち着き考える。

 

 

「そうだね……あっ、そういえばティンクルスターが宣伝してて行きたいところがあるんだ!」

 

 

 今日みた番組を思いだしつむぎは言ってみた。

 



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お菓子の国





「すっごーい、お菓子の国だ! あそこからあこそまで! あっちもお菓子!」

 

 つむぎは目を輝かせまわりを見渡す。

 遠くには巨大なホットケーキのタワーやプリンの山が見える。

 この距離でも見えるということはとても大きいのだろう。

 転移した地面は大きなビスケットとなっていた。

 

 とにかく規格外の大きさをした、お菓子たちがたくさんある。

 

 

「やぁお客さま、スイーツプラネットへようこそ」

 

 

 30センチくらいの身長のクッキーでできた人形が話しかけてくる。

 

 背がちっちゃいからか、自分がここにいることをアピールしてピョンピョン跳ねている。

 

 

「わぁ!かわいい!」

 

 

 かわいらしいクッキー人形に思わず微笑むつむぎ。

 

 アバターで人以外になっている人物も、もちろんいるがこの住人にはネームプレートがない。

 どうやらNPCのようだ。

 

 

「わたしたちはここに住むお菓子の妖精です! ここスイーツプラネットはすべてがお菓子でできてます! お客さまたちは自由にお菓子を食べていいですよ」

 

 

 そう言って妖精さんはお皿とフォークを差し出す。

 それを手に取るつむぎと咲夜。

 咲夜はさっきから妖精の方を見ていた。

 

 

「あっ! わたしたちは食べないでくださいね!? おいしいですけど痛いですから!」

 

「あ…別にそんなつもりはないよ。ただ私もかわいいなって思ってただけ」 

 

 頬をかき怖がらせてごめんね

 という咲夜。

 

 

「ではスイーツプラネットをとくとご堪能ください!」

 

 

 ◇

 

 

しばらく道を歩いているつむぎたち。

 

 歩道はクッキーが縦長に出来てて、草原はホワイトチョコレートで一部はクーリームでできたカラフルな花が生えている。

 

 いろんなものを見ていたつむぎ。

 するとあるものを見つける。

 

 

「見て咲夜ちゃん!大きなショートケーキだよ」

 

「ほんと……大きいね」

 

 

 そこには家くらいの大きさのショートケーキがそびえたっていた。

 

 つむぎは手に持ってるお皿とフォークを見つめる。

 

 そういえば自由に食べていいんだっけと思いだし、ケーキの一部をフォークで取る。

 

 大きいのでスポンジの部分とクリームの部分を均等に取りをすくうようにつむぎは頬張る。

 

 

「おいしい~」

 

 

 つむぎは笑顔で言う。

 頬がとろけそうなくらいおいしい。

 

 

「うん、おいしいね」

 

 

 咲夜も食べ方を真似ケーキを食べていた。

 

 

「……」

 

 

 つむぎはとったぶんのケーキを食べ終わると、お皿を地面におく。

 すると黙り混みそのまま引き込まれるように、ケーキのクリーム部分に顔をうずめるつむぎ。

 当然だが顔面クリームまみれになる。

 

 

「なにしてるの!?」

 

 

 その急な行動に驚く咲夜。振り向くつむぎ。

 その顔はすごいありさまであった。

 

 

「大きなショートケーキを食べてみるの夢だったんだ……えへへ……大きすぎて全部は食べきれないね」

 

 

 てへへと笑うつむぎ。

 

 つむぎはショートケーキや生クリームが大好きだった。

 

 そのためかこんな巨大なショートケーキを見て

 いてもたってもいれなくなった。

 

 なによりアンリアルだからどれだけ食べても太らないし虫歯にならない。

 

 

「ふふ……ほんとうにつむぎっておかしな子だね」

 

 そんなつむぎに咲夜は、最初にあったときのようにくすりと笑う。

 

 

「そ、そんなことないって!」

 

「その顔だと説得力ないよ」

 

「あっ……//」

 

 

 否定するつむぎだが今の自分の姿にようやく気付く。

 

 クリームを顔から取ろうと川らしきところを見つけて顔を洗うつむぎ。

 

 

「これでよし」

 

「いやつむぎ……カメラで自分の姿見て」

 

「どうして?…えっ!?顔が今度は緑に!?」

 

 

 水だと思った川は緑色のチョコレートだったらしい。

 

 ここが全てお菓子でできていたのを忘れていた。

 

 

「どうやって落とそう…」

 

「メニューのアバターからアバター情報リセットを押すと汚れた服とか元にもどるよ」

 

 

 咲夜の言う通りに実行してみる。

 

 それからカメラで確認すると元に戻っていた。よかった。

 

 ピンポンパンポーン

 

 突如、どこからかアナウンスらしきものがながれる。

 

 見るとそこにはロールケーキや板チョコで

 コーティングされた機関車らしきものがあった。

 

「もうすぐ中心都市にむけてスイーツトレインが出発します。お乗りになる方はいらしてください」

 

「あれ乗ろうよ咲夜ちゃん!」

 

 つむぎは咲夜の腕を握り、乗るのを催促する。

 咲夜は仕方ないなといった感じで頬を緩めた。

 

 チョコで出来た車両に乗る。中には他にも人がいた。

 この世界にすんでいるお菓子の妖精もいる。

 咲夜とつむぎはつむぎが外側に、咲夜がその隣にすわった。

 

 しばらくしてから発車しまーすという言葉とともに機関車は出発した。

 

 ガタンゴトンとビスケットで出来たタイヤが動く。お菓子でできていてもそれはちゃんとした電車だった。

 

 ◇

 

 しばらくして中心都市についた。

 都市というだけあってそこにはお菓子で出来た家があちらこちらとそびえ立つ。

 

 広場があり中心にはチョコレートの噴水が

 チョコレートフォンデュのように流れていた。

 実際、その噴水にお菓子を入れチョコフォンデュにしてる人がいる。

 

 

「あっ! ティンクルスターのポスターだ!」

 

 

 広場にあった移動店舗車のひとつに、ティンクルスターの三人が映っているポスターがあった。

 

 ティンクルスターコラボ中!

 イルミナのカップケーキ

 ミラのマカロン 

 カペラのアップルパイ

 

 と書いてある。

 

 ちょっと言ってくるねと咲夜に言い、その車の方へ向かう。

 

 

「すみません。ティンクルスターのお菓子全員のください」

 

 

 つむぎはチョコレートの妖精店員に注文をする。

 

 店員はすぐさま商品を用意してくれる。

 お菓子は箱に入れてくれた。

 箱はホワイトチョコで出来ていて環境に優しい。

 

 つむぎは咲夜の方にむかうと、どこかに座ろうかと提案され近くにあった、クッキーの椅子に座ることにした。

 

 つむぎは箱を開ける。

 

 チョコで出来ているのに普通の箱と同じ耐久性を持っていて壊れたりしない。

 アンリアルだからだ。

 

「そんなに食える?」

 

 咲夜が心配そうに問う。

 箱のなかには一人で食べるには少し多すぎる量のお菓子が入っていた。

 

 

「大丈夫アンリアルだから太らないし!」

 

 

 そう、この世界はいくら食べても太らない。

 アンリアルだからだ。

 

 

「でもちょっと不安かも……だけどティンクルスターのファンとして食べ残しなんてしたくないし」

 

 

 勢いで全部買ってしまったが食べられるかどうか不安だ。

 

 そんなつむぎを見てはぁとため息をつく咲夜。 だが少し微笑みを見せて言った。 

 

 

「……私も食べるよ。それなら勿体なくないよね?」

 

「ありがとう咲夜ちゃん!」

 

 

 ◇

 

 

「ふぅ……お腹いっぱい」

 

「当分スイーツはいいかな……」

 

 

 食べ終わりしばらくしたあと二人は歩いていた。

 

 口の中に甘さがまだ残っている。アンリアルだからといえいろいろ食べすぎた。

 もし現実世界だったらと思いカロリーを想像するとぞっとする。

 

 食後の運動がてら散歩する二人。

 つむぎが前を行き、少し後ろに咲夜がついてくる。

 

 咲夜は優しい。出会ったばかりの自分に嫌な顔せず微笑んで付き合ってくれる。

 

 そんな咲夜だからこそ、つむぎは惹かれたのかもしれない。

 

 

「うわーん。ボクのお家がぁ~」

 

 

 突然、泣いている声が聞こえた。

 



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お菓子のお家を作ろう

 泣いている方にいくと、そこにはクッキーの破片らしいものが散らばっていた。

 そこにぽつりと小さなキャンディと、クッキーで出来たクマの妖精が二人いる。

 

 キャンディの妖精は泣いていた。

 それをどうしたらいいかわからず、困惑してみているクマの妖精。

 

 

「どうしたの?」

 

「ぼくのお家をクマくんが全部たべちゃったんだよぉ」

 

 

 泣いているキャンディが事情を話す。

 詳しいことを聞くと二人は友達で、留守だったキャンディを待っていたクマがキャンディの家を食べてしまったらしい。

 

 

「ごめんクマー。おいらおなかペコペコだったんだクマ。一口だけと思って食べたら美味しくてつい、やめどきがわからなかったんだクマ……」 

 

「ボクお家作るの得意じゃないからこれからどうしよう……」

 

 

 クマの方も悪気があったわけではないらしい。

 

 しかしいくらお菓子の家とはいえ、キャンディの家が無くなってしまったのはかわいそうだ。

 

 

「なんかかわいそうだね」

 

 

 小さく呟く咲夜。

 どうにかできないものか。

 つむぎは考える。

 

 

「ねぇ咲夜ちゃん」

 

 

 そして咲夜の耳元でひそひそと話す。

 するとなるほどと咲夜は頷く。

 

 

「そうだね。つむぎがそうしたいなら私も協力するよ」

 

 

 二人はお菓子の妖精に近づき屈む。

 

 

「ねえお菓子の妖精さん。あなたのお家を作るの、わたしたちに手伝わせてくれない?」

 

 

 つむぎは考えた提案を言う。

 建築なんてしたことはないが

 ここはすべてお菓子でできている。

 建築に必要な材料ならたくさんある。

 なら自分達でも家を作ることなら可能だと思った。

 

 

「ほんとにっ!? お客さんたちの力があればきっとすばらしいものがつくれるよ」

 

 

 泣いてたキャンディは泣くのをやめ、喜ぶように目を輝かせる。

 

 

「おいらが食べちゃったせいだからその分手伝うクマ! 力仕事ならまかせてクマ!」

 

 

 お腹をポンとならし頼もしそうにいうクマ。

 

 

「建築をするなら材料を取る道具が必要です。これを使ってください」

 

 

 キャンディは手からアイテムを召喚する。アメで出来た斧にスコップ、ノコギリなどのアイテムが現れた。

 

 つむぎはそれをもらいパンと手を叩く。

 

「そうと決まれば建築開始! みんな好きなお菓子を集めて建物の資材にしよう!」

 

 その合図で四人は建築作業に取りかかった。

 

 

 ◇

 

 

「この木が良さそうかな」

 

 

 咲夜はチョコレートの森に来て木を斧で切り倒していく。

木はチョコレートのため少し固さもあるが、すんなり切り込みが入りそのまま倒れる。

 太さもそれなりにあるため、柱として使うには十分だ。

 

「おいらが木を運ぶクマ!」

 

 クマは自信満々に、咲夜の斬り倒した倒木を持ち上げる。

 

 小さい姿とは裏腹に力持ちだ。

 

 

 

「クッキーを壁に使いたいんだけどこの床のクッキーって使っても大丈夫かな?」

 

 一方つむぎはクッキーで出来た道に来ていた。

 地面のクッキーは一定の大きさで敷き詰められており、壁にするのに最適だった。

 しかしここは道、みんなが使う場所。いくら自由に使っていいとはいえ大丈夫だろうか。

 

 

「はい! 床とかの固定オブジェクトは次の日には新しいのに変わってるから大丈夫ですよ!」

 

 そんな疑問とは裏腹にキャンディは笑顔で言った。

 

 その答えを聞いてつむぎも安心し

 ノコギリを使い道を斬り取っていく。

 

 

 素材をかき集め建物はつむぎの指示の元、形付けられていく。

 一応家っぽい形の物はある程度できてきた。

 

 しかし、芸術家つむぎの作品は、まだ完成しない。

 まだやるべきことがあった。

 

 

 

「仕上げはクリームとデコレーションのお菓子だよ! これで立派なお家にしようね!」 

 

 

 つむぎの手には生クリームと、普通のサイズのお菓子があった。

 

 これをデコレーションすることで、家が完成するのだ。

 

 妖精たちはウキウキとお菓子を手に取り、クリームで接着剤のようにお菓子をくっつけていく。

 

 

 

 

「完成!」

 

 

そしてお菓子の家は完成する。

 

 

「わぁすごい……」

 

「これは美味しそう……でもこんな綺麗なの食べてなくなっちゃうの勿体無いから、おいら食べられないクマ」

 

 

 妖精たちは惚れ惚れするように、完成した家を見つめる。

 

 資材はクッキーを壁にチョコレートの屋根とドア。ホワイトチョコの煙突。咲夜が切ったチョコの木を柱に使っていた。

 

 そこに生クリームを使い、デコレーションのお菓子をくっつけてお菓子の家の完成だ。

 

 

「ありがとうつむぎさん!ボクこの家大切にします!」

 

「おいらも、おいら一人じゃ解決できなかったからほんと感謝するクマ!」

 

「そうしてくれると、わたしも嬉しいよ」

 

 

 つむぎは微笑む。

 

 こうやって他の人に感謝されるのはやはり嬉しい。

 Uドリーマーをやって思ったが誰かを喜ばせるのが、こんなに素晴らしいことだと今まで気づいてなかった。

 

 

「これお礼にどうぞ」

 

 

 するとキャンディは手から光るものを取り出す。

 そのアイテムは輝いていてちゃんとみるのが難しかった。

 

 

 しかし次第に輝きが落ち着き、それがなになのか気がつく。

 

 それはペンの上に羽が生えていてたペンだった。

 シャーペンのようででもすこしちがうような謎のペンだ。

 

 

「このペンなに?」

 

「これはマテリアライズペンと呼ばれるものです」

 

 

 聞いたことのないアイテムだ。

 そこでアイテム詳細からマテリアライズペンを鑑定する。

 

 【マテリアライズペン】

 描いたものをオブジェクト化し

 一時的にアイテムにできる。

 一定時間がたつと描いたアイテムは消滅する。

 

 つむぎは理解するのに少し時間をかける。

 そして一つの結論にいたる。

 

 

「つまり描いたものが立体的になるってことかな? チュートリアルのアバター作成みたいに」

 

「多分そういうことだと思う。つむぎにはぴったりかもしれないね」

 

 

 

 

「ありがとう! 妖精さんたち! またね!」

 

「こちらこそ、お世話になりました~」

 

 

 お菓子の妖精たちに手を振り、別れを告げるつむぎ。

 この世界の感情豊かな妖精たちは、NPCなのに実際に生きているようにも思えた。

 

 もう景色は夜、月と綺麗な星々がかがやいていた。

 光輝くそれらもまた、お菓子なのだろうか。

 

「楽しかったね!」

「うん……家作り、楽しいね」

 

 笑顔を向けるつむぎにそっと微笑む咲夜。

 咲夜にもまた手伝ってもらう形になった。

 しかし彼女は嫌な顔せず、むしろ楽しそうに作業を協力してくれた。

 

「この楽しい風景をみんなにも見せれたらなぁ……」

 

 Unreallyでの日々は毎日が予想外の連続で、非現実の連続だ。

 現実ではありえないこともここでは起きて、妖精とだって話せてしまう。

 それは普通のゲームともまた違った体験だった。

 

 こんな体験をいろいろな人に知って欲しいと思ってしまう。

 

「あ!?」

「どうしたの……?」

 

 つむぎが突然足を止める。

 横並びに歩いていた咲夜は、つむぎが止まって少しした後、つむぎの方へ振り向いた。

 

「わたしの作りたい動画の方向性見つかったかも!」 

 



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真っ白からの一歩

 一つの動画が投稿される。

 

◆【真っ白からの一歩】これからはじまるわたしのチャンネル! |麗白つむぎ

 

「はい、こんにちは! アンリアルドリーマーの麗白つむぎです」 

 

 白いクリーム色の少女麗白つむぎの動画だ。

 これが二本目の彼女の動画である。

 背景にはお菓子の家や山が立っている。

 

「えっとね、わたし思ったんだ。これからわたしのチャンネルをどうしようかってさ」

 

 すこし義故知ながらもつむぎは会話を進める。 まだトークをするのに慣れてないのがうかがえる。

 

「でね、結局決まらなかったんだ」

 

 ポヨーンとした効果音とともに、あははと笑みを見せるつむぎ。

 それは後ろ向きでなく前向きに笑っているように見える。

 

 

「わたしは真っ白でなににでもなれる。

 だからこれからいろんなことに挑戦したいんだ。

 憧れのUドリーマーさんみたいに歌やダンス

 やってみた、ゲーム実況いろんなことをやってみたい!

 そしてUnreallyの楽しいところを広めたいんだ!」

 

 

 今度はぱぁと明るく答えた。

 

 

「みんなUnreallyってなんなのか知ってる? 

 わたしがいるこの空間がUnreallyって世界なんだ! ここにいればなりたい姿になれて憧れのUドリーマーさんにも会える夢の世界……

 

 今日はね友達の咲夜ちゃんとスイーツプラネットに遊びに来たんだよ。

 咲夜ちゃんこっちきて!」

 

 

 つむぎは画面外を見て手招きをする。

 すると白髪のボブの少女がゆっくりと歩いてきた。

 

 

「どうも、はじめまして一応音楽活動をメインにしてるアンリアルドリーマー、小太刀咲夜だよ……」

 

 ちょっと気恥ずかしそうに少し小さな声で挨拶する咲夜。

 つむぎは隣に来た咲夜の瞳を見た後、カメラに視線を戻す。

 

 

「咲夜ちゃんはUnreallyに来てはじめて友達になった子なんだ! アンリアルドリーマーになるきっかけをくれてわたしの大切な友達なの!それと歌がすっごく上手くてかっこよくてかわいくて「つむぎわたしのことはいいから」ご、ごめんごめん」

 

 

 目を光らせて言ってたつむぎだが、そんなつむぎを前に顔を少し赤くさせた咲夜が会話を遮る。

 

 

「それでね、Unreallyはリアルじゃありえないことが沢山あって凄いんだ! 

 美味しいものを沢山食べても太らないし

 空高くだってとべちゃうアトラクションだってあるんだ。

 

 そういったたのしいって思うときが

 最高に輝いてるって思えて

 わたしはそんな瞬間を届けたい。

 わたしがたのしいって瞬間をみんなにわけたい。

 

 そんな動画や配信を作りたいなぁって

 なんて思ってるけど

 正直よくできるかわかりません。

 

 ただ、とりあえず今日は咲夜ちゃんと一緒に過ごした時間を撮影した動画があるから

 それを見て欲しいな」

 

 

 一通り話した後スクリーンが現れ映像が流れる。

 

 その映像はスイーツプラネットでの、つむぎと咲夜の過ごした一日をまとめた動画だった。

 

 

 つむぎがショートケーキに顔を埋め面白おかしくなってるところや、お菓子の家を作る光景を流していった。

 

「どうだったかな?こんな事が今日あったんだ。

動画は咲夜ちゃんがこっそり撮ってたやつで、わたしは気づいてなかったんだけど」

 

 この動画は咲夜が撮っていた動画だ。

 

 ※

 

 時は遡る。

 キャンディとクマと別れた後の時間だ。

 

「作りたい方向性決まったの?」

 

「うん、いろんな動画を作りたいけどとりあえず

 Unreallyでの日々を動画として撮りたいんだ。

 出来れば今日のも動画にしたかったなぁ」

 

 こんなに楽しいことがあったんだ。

 どうせなら配信しておけばよかったと

 後悔するつむぎ。

 

「あるよ。動画」

「へ?」

 

 そんなつむぎを見てぽつりと呟く咲夜。

 一つの小さいスクリーンが出され今日あった出来事が映し出される。

 

「録画していたんだ。なにかのネタになると思って。良かったら使ってよ」

 

「ほんとに!? 咲夜ちゃんも出てるけどいいの?」

 

「私は別に……特に何も気にしないから大丈夫だよ」

「ありがとう咲夜ちゃん!」

 

 つむぎは満面の笑みで咲夜の手を握り感謝する。

 

 ※

 

 そして今に戻る。

 

 

「私はつむぎと一緒に遊べて楽しかったよ。誰かとコラボ動画とかはじめてだったけど。こんな動画も悪くないんじゃないかな」

 

「そっか、よかったぁ」

 

 

 二人で映像を見終わった後つむぎは安堵する。

 

「こういう風にいろんなところを、紹介していったりしたいな。良かったら咲夜ちゃんも付き合ってくれる?」

 

「まぁ都合が合うときは付き合ってあげるよ」

 

「ありがとう! それじゃあこれからわたしや咲夜ちゃんをよろしくね! ご視聴ありがとうございました!」

 

 そして動画は再生を終了した。

 

 

 ◇ 次の日

 

 

「おっはよーつーむぎー」

 

「わぁ!? ひなたちゃん!?」

 

 

 学校の朝のHR前。

 席についてたつむぎの背中をひなたがポンと叩いた。

 思わずビックリするつむぎ。

 

「新しい動画見たぞー。あれが噂の咲夜ちゃんか~あんな子とデートだなんてつむぎさんも悪よのぉ」

 

「デ、デートとかそういうのじゃないよ!? 咲夜ちゃんは普通に大事な友達なだけだよ!」

 

 ほんとに~とニヤニヤと笑いいじるひなた。

 それに対しそういうのじゃないのにといいつつ顔を少し赤くするつむぎ。

 

「それにしてもみんなと楽しいをわかちあいたいねぇ。結構いいんじゃない?あたしもUnreallyで……見れてない場所とか多いし……あぁ、ねむ…」 

 

 元気だったひなただが途中からあくびをし、眠そうだった。

 

「昨日眠れなかったの?」

「まぁギルド管理とダンジョン攻略で……ってなんでもない!」

 

 眠たそうにしていたのがハッとし

 理性を取り戻し言葉を取り止める。

 

「まぁ頑張りなよー。これからも見るからさ。あたしはホームルームまで寝てるからじゃねー」

 

 そういってひなたは自分の席へと戻っていった。

 

 暇になったのでつむぎは授業に使ってないノートを広げ、シャーペンを持ち考え事をしていた。

 

 

 次はどんな動画を撮ろう?

 



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憧れのゲーム実況

◆【罰ゲームあり】スマッシュパーティー四人で遊んでみた! |もふもふあにまるず

 

 

「良い子のみんな元気にしてるか! もふもふあにまるずのボス、ウルだぞ!」

 

 

 動画が再生され、狼の少女ウルが挨拶をする。

 

 

「おなじくスゥでーすよー」

 

「シマリけん。よろしゅうね」

 

 

 同じくうさぎのスゥ、リスのシマリが挨拶をする。

 

 

「今日はみんなでunitchのゲーム、スマッシュパーティーをプレイするぞ!」

 

 

 後ろに大きなテレビ画面が現れ、スマッシュパーティーと書かれたタイトルのゲームが表示される。

 

 スマッシュパーティーはいろんなゲームやアニメの作品がクロスオーバーされている対戦ゲームだ。

 普通の対戦ゲームと違いHPのようなものはない。

 

 ステージから落下したり吹き飛ばされたりする

とポイントが減り、相手を吹き飛ばすとポイントが増え、そのポイントで勝敗が決まるゲームだ。

 

 

「このゲームはパーティーゲームなので全員でやりまーすよー」

 

「ということでリズもこっち来てと~」

 

「ちょっと!? そんなの台本にないわよっ」

 

 

 シマリが画面外から誰かを呼ぶ仕草をし、その声に前にも聞いたことのある声が反応する。

 

「いいから来い! 3人でやると半端だろ。お前も立派なもふあにのメンバーなんだから参加しろ」

 

 ウルの言葉で誰かがこっちへとくる。

 金髪のクマの耳をした

 メイド姿の少女がそこにはいた。

 

「……仕方ないわね。それじゃあ改めて、もふあにの企画、アシスタント担当リズよ」

 

 少女はリズと名乗った。

 画面にはリズちゃんキター!

 などのコメントがリズが現れたと

 同時に多数のコメントが流れる。

 

 Dreamtubeは動画の感想欄に

 コメントする方法と

 時間を決めて画面にコメントが流れる

 二種類のコメント方法がある。

 前者は全体の感想

 後者はリアルタイムで誰かと

 共感したいのに向いている。

 

 リズはもふあにを基本裏方でサポートしている。

 だが時々動画内で登場することがあり、地味に人気がある。

 本人はUドリーマーでないと言っているが、大事なもふあにのメンバーだ。

 

 

「よし、これで丁度四人だしはじめるぞ!」

 

 

 そういって画面が切り替わり、動画が全体がゲーム画面になりキャラ選択画面に入る。

 

 下にはもふあにメンバーの顔がリアルタイムで表示されていた。

 

 

「あたいはライルーを使うぜ!」

 

「私はワルキューレを使いますよー」

 

「わたしはミリオよ」

 

「うちはキララルビーけん」

 

 

 それぞれがキャラクターを選択した。

 

 ウルは黄色い狼のライルーというモンスター。

 

 スゥは白髪に黒いセーラー服の日本刀を持った少女ワルキューレ。

 

 リズは黄色い帽子にMと書かれた少年ミリオ。

 

 そしてシマリはアニメ、魔法少女キララマジカルのキララルビーだ。

 

 

「ルールは4人バトルでストック無制限。時間内にどれだけポイントを稼げるかで勝敗が決まりまーすよー。ちなみにですけど最下位だった人には罰ゲームがあるとかないとか」

 

「よっしゃ、じゃあゲームスタート!」

 

 

 キャラ選択が終わりウルの掛け声で、バトルが開始される。

  

 

 ステージは草原で画面端は床がなく、おちると落下するステージだ。

 

 

「いっけー」

 

 

 はじめにシマリが仕掛ける。

 キララルビーのステッキからの近接攻撃が

 リズのミリオに与えられる。

 アニメでは遠距離でビームを放つルビーが近接攻撃をしているのは、ゲームだから見られる光景だ。

 

 

「やられないわよ。最下位は嫌だから本気で行かせてもらうわ」

 

「ぐぬぬぅ!」

 

 リズはプレイ慣れしてるのか、シマリのルビーの攻撃をガードし続けスマッシュ値が全然増えなかった。

 

 

「あたいも加勢するぞ! ライジングスマッシュ!」

 

「ちょっ! 2体1は卑怯でしょ!?」

 

「暇でーすねー」

 

 

 ウルがライルーの雷をまとった体当たりをリズに当てスマッシュ値を与える。

 そんな三人を横目に操作しないで寝むそうにしてるスゥ。

 

「これでもくらいなさい!」

 

 

 するとここでリズの怒濤のコンボがウルに与えられる。

 

 

「ぐおーー」

 

 

 そしてあっさりと場外に吹き飛ばされるウルのライルー。

 

 

「これは強敵けん……」

 

 

 

 そんなこんなでバトルは進んでいき残り30秒。

 

 現在ポイントは

 

 ウル マイナス2

 スゥ マイナス2

 リズ    3 

 シマリ   0

 

 プラスマイナスが加算された結果、こうなっていた。

 

 リズは強くて吹き飛ばされたのは1回だけで、何回かスマッシュを成功している。

 シマリはどうにか最下位は免れている状態だ。 

 

「くっこのままじゃ最下位だっ!」

 

「でーすねー」

 

「だからお前には負けてもらう! ライジングスマッシュ!」

 

 

 これを食らえばスゥはスマッシュされる。

 

 これで勝てると自信満々のウル、本来ならトップを取ろうとしていたのが最下位を免れるのが目的になっていた。

 

 それだけリズが強かった。

 

 そしてとどめの一撃が

 スゥの使うワルキューレに───

 

 

「あ、なんかアイテム拾いまーしたよー」

 

「あっ」

 

 

 食らう瞬間スゥはアイテムを使用した。

 

 ステルスドロップというアイテムで

 一定時間透明になり攻撃が当たらないものだった。

 

 

 ライジングスマッシュが当たらなかった

 ライルーはそのまま空中に落下し──

 

 

「ああああぁ」

 

 

 ウルは自滅しマイナス3ポイントになった。

 

 

「ちくしょう! こうなったら最終手段だ! ライジングスマッシュ! ライジングスマッシュ! ライジングスマッシュ!」

 

 

 復活したウルはとにかく、雷の体当たりを食らわせようとする。

 無我夢中で連打し、当たる当たらない関係なしに、ライジングスマッシュを連発する。

 

 

「ライジングスマッシュ!ライジングスマッシュ!ライジングスマ「うるさいわよ!」」

 

 

 あまりのうるささにリズに怒られるウル。

 そのついでにコンボを食らわされ、吹き飛ばされる。

 

 そしてゲームセット

 

 順位

 

 1位 リズ  

 2位 シマリ

 3位 スゥ

 4位 ウル

 

 という結果になった。

 

 

「ということで勝者はクマさんでーすよー。最下位はおおかみさんでーすー」

 

「思わずわたしが勝っちゃったけどいいのかしら…」

 

「いいとおもうとー、リズたのしそうにプレイしてたとよー」

 

「くっ、これで勝ったと思うなよ!」

 

 

 祝福されるリズ、悔しそうに歯を食い縛るウル。

 

 

「はい、ということで最下位のおおかみさんには罰ゲームの時間でーすよー」

 

「は? 罰ゲーム? そんなの聞いてないぞ」

 

「いや最初の方に言ってたとよ……」

 

 

「それじゃほら罰ゲームの青汁」

 

「青汁かまぁ……青汁なら……青…汁……?」

 

 

 リズが罰ゲームの青汁を取り出すと、そこにいた全員が目を見開いた。

 それはまがまがしく黒い液体だった!

 

「いやこれ青汁じゃないだろ! 黒汁の間違いだろ! 毒か!毒なのかそれは!?」

「あのね……これあんたが作った青汁よ…」

「へ……?」

 

「昨日事前に作らせたじゃない。最強の青汁を作ってって」

「あーあれか……ってこのためのやつかよ!?」

 

 昨日の動画にあった最強の青汁を作ってみた! という動画のことだろう。

 ウルがいろんな具材を入れて青汁を作るという企画だったが完成したところで終わり、飲むことはしないで動画は終わった。

 

 飲むのはしなかったのは、危険だからではなく今日のためだったらしい。

 

 

「あんたの破滅的な料理センスで罰ゲームにしようとしたけどまさか自滅になるとはねぇ」

 

「ぐぬぬ……でも最強の青汁だろ……! あたいが作ったものだ! きっとこれを飲んであたいはもっと強くなれるはずだ!」

 

「それじゃあ一気にいーきましょー」

 

 

 スゥがパチパチと手を叩く。

 大丈夫かとと呟き心配するシマリ。

 ウルは禍々しい青汁を目をつぶり一気に飲み干す。

 

 飲み干したあとコップを落としたウルは、そのまま硬直している。

 

 

「どうでーすかーおおかみさーん。……おおかみさーん?」

 

「し、死んどると……!?」

 

「いや死んではないわ、白目向いて気絶してるだけだわこれ」

 

 

 どうにか立っているのが奇跡のように、ウルは気絶していた。

 

 

「え、えーと、今回はこれで終わりと! ご視聴ありがとーとー!」

 

「おおかみさんがこの後どうなるかは今後の動画に期待してくーださーいねー」

 

 

 若干放送事故っぽいがこれが、よくある光景なのがもふあにだった。

 そして動画が終了する。

 

 ◇

 

「ゲーム実況楽しそうだなぁ」

 

 動画を見ていたのはつむぎだった。

 今いる空間はUnreally

 喫茶店にいる。

 

「つむぎもやってみたいの?」

「うん。やりたいなぁ。 ゲーム実況楽しそうだし」

 

 ゲーム実況は動画でよくあるコンテンツだ。

 多くのUドリーマーがやっており見てくれる人も多い。

 

「でもゲーム機とかってどうするのかな? みんなUnitchのゲームとかやってるけどUnreallyに持っていけないよね?」

 

「ゲーム機やソフトはダウンロードでネットで買えるよ。それでこっちの世界で遊べるんだ」 

 

「へぇ、そういう仕組みなんだ」

 

「ただこっちの通貨は使えないリアルマネーが必要だから注意してね」

 

「あはは、やっぱりそうだよねー」

 

 

 Unreallyの通貨、ユノはUnreallyだけで、使えるお金だ。

 それによってみんな買い物をしたりしている。

 

 さすがにゲーム通貨では買えないらしく、現金が必要だ。

 しかしつむぎは学生。

 Unreallyにお金を注いだため、ゲーム機を買うお金はもうない。

 

 ゲーム実況はお預けかなぁと、しょんぼりしながらもつむぎは持っていたミルクティーを飲む。

 

 そんなつむぎをじっと咲夜は見つめていた。

 

 

「ゲーム機がないなら私の家に来なよ」

 

 

 咲夜はそう言った。

 



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突撃!咲夜ちゃんの家

 その建物を見たとき、つむぎは惚れ惚れしていた。

 

「これが咲夜ちゃんの家…」 

 

 黒い外壁のおしゃれな大きな一軒家がそこには建っていた。

 周りは住宅街だが隣は空き地になっており、他の建物と比べても咲夜の家は目立っていた。

 

 

「とっても素敵なお家だね!」

「まぁゲームだからね。Unreallyで自分の家を建てるのはそこまで難しくないよ」

 

 

 そういいながら咲夜は先に玄関へと向かい、ドアを開けてくれた。

 

 おじゃましまーすと、つむぎは家の中へと入っていき、咲夜についていきながらそのまま階段へと上る。

 そして二階に上がると一つのドアのを開けた。

 

 

「ここ、咲夜ちゃんが普段つかってる部屋?」

 

「まぁね」

 

 

 そこには寝るためのベッドや、高そうなコンポなどのオーディオ機材。

 机にはパソコンと、おしゃれなヘッドホンが置いてあった。

 

 それとは別に、大画面のテレビと、まわりにはUnitchなどのゲーム機が置いてある。

 

 

「すごい色々あるんだね」

 

「うん、はいこれ」

 

「へ?」

 

 

 すると咲夜はあるものを取ってつむぎに渡した。

 

 目の前にだされたのはUnitch。

 

 

「これ貸すよ」

 

「ええ!? そんな事できるの!? 咲夜ちゃんの物だよね」

 

「それは普通に現実で貸し借りするのと一緒だよ。アイテム所有者は私だけど貸すことなら出来るんだ」 

 

「でも、咲夜ちゃんに悪いよ……」

 

「私は最近Unitchのゲームはあまりやってないから大丈夫だよ。それにつむぎが動画を作ってくれるなら嬉しいし……」

 

 

 そのまま言われるがままつむぎはUnitchを受けとる。

 

 そのあと咲夜はメニュー画面を見てるのか、空中で右手の人差し指を動かしている。

 

 

「何本かゲームソフトもあるけどなにがいい?」

 

「流石にソフトは自分で買うよ! 自分の目で決めたいし、それくらいの余裕はあるから!」

 

「そっか。たしかに自分がやりたいゲームをしたいよね」

 

 

 咲夜は手の操作を止め頬を緩ませながら言う。

 

 それにほっとするつむぎ。

 

 流石にこれ以上色々してくれるのは嬉しいが引け目を感じるし、言ったことは事実だ。

 

 バイトで多少お小遣いは残ってるし、ゲーム一本買う余裕はある。

 なにより自分でゲームを選びたい。

 

 その後は咲夜にソフトを買う方法を教えてもらい今日のUnreallyは終了した。

 

 ◇

 

「ふぅ……」

 

 Unreallyを終えてリアルでお風呂に入った後、つむぎはさっぱりした顔で自室に戻ってきた。

 

 パジャマ姿のつむぎは机からスマホを取り、そのままベッドに向かう。

 

 寝たりはせず、座ったままの体勢でスマホの画面を見ている。

 

 つむぎはUnreallyダウンロードショップというサイトを見ていた。

 咲夜に教えてもらったダウンロード購入の方法だ。

 

 Unreallyで現実のお金を

 必要とするアイテムを買う場合。

 クレジットカード決済

 ケータイ決済

 コンビニ決済 

 の三つの中から選んで購入する必要があった。

 

 つむぎはクレジットカードを持っておらず手軽なケータイ決済で購入することにした。

 

 画面にはゲームソフトが並んでいた。

 Unitchのゲームソフトたちだ。

 

 いろんなゲームが揃っている。

 もふあにがプレイしていた

 スマッシュパーティーや 

 ミリオカート

 スプラッシューン

 など有名作品がならんでいる。

 

 あれもいいなこれもいいなとつむぎは指を動かして見ている。

 

 するとその中から1つ、目に止まったものがあった。

 

「このゲーム……!」

 

 つむぎはそのタイトルを見て、あることを思い出す。

 思い出した映像を浮かべ、ふふっと笑みを見せる。

 

 そしてそのあとすぐに購入ボタンを押していた。

 



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目指せ!ぷちモンマスター!

 後日。

 

「どうもこんにちは! アンリアルドリーマーの麗白つむぎです」

 

 つむぎはある場所で、ゲーム実況のために撮影をしていた。

 

 そこはUDreamスタジオ。

 Uドリーマーが撮影や配信をやるのによく使用されるスタジオだ。

 Uドリーマーは誰でも使用することができる。

 つむぎは自己紹介のときもこのスタジオを使用していた。

 

 スタジオ内では動画でみたことのあるUドリーマーもいたりして胸が高鳴った。

 

 

「今日はわたし、ゲーム実況をしようと思うんだ。 今回プレイするゲームはこれだよ!」

 

 

 そう言ってつむぎの後ろの背景がゲーム画面に切り替わり、つむぎは右下にちょこんと移動した。

 

 つむぎの視点からはつむぎだけに見えるモニターがあり、そこで撮影した映像がどうなっているかの確認をしている。

 

 

 つむぎの目の前には、大画面のテレビとカメラがあった。

 

 カメラはつむぎを映すように追従している。

 

 Unreallyの動画編集や撮影はAIにより最適化されており、より見ごたえのある理想的な編集や撮影が出来る。

 

 つまり撮影ボタンさえ押せば後は自動でAIで撮影、編集をしてくれて、誰でも動画が投稿できるのだ。

 

 そう言ったことも合間って、Uドリーマーになる人は多いのかもしれない。

 

 そしてゲーム画面は一つのタイトルを表示する。

 

「Unitchのぷちっとモンスターバニラ/ショコラをプレイしていくよ。 わたしが買ったのはバニラ。えへへ、白いわたしには似合うかな?」

 

 微笑むつむぎ。

 

 今は孤独な時間だが、この後動画を見てくれている人がなにかしら反応してくれるといいなと思う。

 

 ぷちっとモンスター 

 略してぷちモンシリーズは

 世界的にも人気の国民的ゲームだ。

 

 いろんなかっこかわいいぷちっとしたモンスターたちを、カプセルに入れて一緒に冒険する育成RPGで女子からも人気がある。

 

 そうしてつむぎはゲームスタートを押し

 チュートリアルのキャラクリエイトを始める。

 

「えっと、名前はつむぎで白髪の女の子にしよう!」

 

 キャラクリエイトの部分は恐らく、ほとんどカットか倍速されるがとことん拘ろうとしかれこれ30分近く掛かった。

 

 キャラクリエイトが終わり、本格的にゲームが始まる。

 

 まず田舎っぽい小さな町の映像が出される。

 そして等身大の人間やぷちモンたちが生き生きと動いている。

 

「へぇ、最新作のぷちモンってこんなにグラフィック進化してるんだねぇ。わたし3US版で止まってるから凄く感じるよ!」

 

 3US版はUnitch版の前作にあたるぷちモンシリーズだ。

 

 そこからの進化は実況などで知ってはいたが実際にやると迫力が違う。

 

 そこからは恒例の研究所に行ってぷちモンを貰うイベントが進行される。

 

 研究所に行ったつむぎは博士に会い、三つのカプセルボールからぷちモンを一つ選ぶように言われる。

 

 水属性のねこぷちモン  シーニャ

 草属性のうしぷちモン  リーモゥ

 火属性のパンダぷちモン パンメラ

 

 この三つから選ぶことになった。

 

「あー、どれもかわいいなぁどれにしよう」

 

 つむぎはぷちモンたちの鳴き声を聞きつつ

 どれを選ぼうか迷っている。

 

「よーし、じゃあシーニャちゃん! 一緒に冒険しよう!」

 

 決心したつむぎはシーニャを選ぶことにした。

 

 シーニャとぷちモン図鑑を貰い冒険が始まった。

 

「とりあえず町の人たちに話聞いてから先にすすもー」

 

 そう言ってつむぎは手当たり次第町の人たちに話しかける。

 

「科学の力はそそるぜェ」

「あ、科学の力さんだ」

 

 最初の町のシリーズ恒例の台詞を喋る人に出会った。

 科学の力のすごさを毎回教えてくれる人だ。

 

「近い未来、VRで見たことないぷちモンに会えて触れあえる日が来るかもしれない。それくらい今の科学は進歩しているんだ」

「へぇ、確かにUnreallyがあるからそう遠くはないのかな?」

 

 不可能な話ではないだろう。

 現にUnreallyはVRの一種だ。

 いつかぷちモンのVRが出たりしてもおかしくはないだろう。

 

 一通り町の人と話した後、町の外へと出た。

 

 町の外へ出た後つむぎはその光景に、目を輝かせた。

 

「わぁ! 今作はぷちモンが草むらからじゃなくて実際に現れるんだね!」

 

 まわりにはいろんなぷちモンがたくさん表示されていた。

 

 触れると戦闘になる。

 戦闘画面になったつむぎはシーニャのアクアパンチを出して倒していく。

 

「よし、順調にレベルアップ! ん? あれはっ!?」

 

 戦闘を繰り返しレベル上げをしていると、とあるぷちモンを見つけた。

 

 それは黄色い狼のぷちモン

 

 

「ライルーだ!」

 

 

 それはスマッシュパーティーにもいた

 雷の狼ぷちモン ライルー

 シリーズを代表するぷちモンだ。

 

 

「ライルー、やっぱりかわいいよね! よーし……」

 

 

 つむぎはライルーの方へ向かい、戦闘画面に切り替わる。

 画面が切り替わった後、つむぎはコントローラーを置く。

 

「実はね……ぷちモンをやろうと思ったのは友達との大切な思い出があるからなんだ」

 



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ことねとの出会い

 それは約一年前。

 つむぎが高校一年生になった入学式の日の出来事。

 

「うぅ……どうしよう」

 

 自分のクラスの席についてたつむぎは不安だった。

 幼なじみのひなたと一緒に姫乃女学園に入学したつむぎ。

 

 しかしひなたとはクラスが違い離ればなれになってしまう。

 

 つむぎは引っ込み思案な性格だ。

 いつもひなたに引っ付いて動いていたため、はじめてクラスがバラバラになり、不安で仕方ない。

 

 友達は出来るのだろうか?

 浮いたりしないだろうか?

 

 考えるだけで怖くなる。

 

 

「おはよう」

 

「あぅ~……これからどうしよう」

 

「おはよう」

 

「へっ?」

 

 

 誰かがつむぎに対して挨拶をしてきた。

 緑色の髪の少女が隣にいた。

 

 

「お、おはようございます……」

 

「おはよう。ことは保栖ことね。後ろの席だからよろしくね」

 

「は……はい」

 

 

 せっかく話しかけてくれた

 ことねという少女に 

 つむぎはだんまりを決めてしまった。

 

 そんなつむぎの不安そうな顔を見て、ことねは優しそうな表情をして待ってくれてる。

 とてもいい子そうだ。

 

 後ろの席だし是非仲良くなって友達になりたい。

 

(ほんとはちゃんと話したいのに……うぅ……何か話題があれば)

 

 話題を探そうとつむぎはまわりを見渡す。

 するとことねのかばんについてるあるものに目が止まる。

 

 

「あっ! それライルー!」

 

 

 ことねのかばんにはライルーのキーホルダーがついていた。

 

 

「ぷちモン知ってるの?」

 

 

 少し驚いたことねはつむぎに尋ねる。

 

 

「うん、最新作はUnitchないから持ってないけど前作はやったしアニメも見てるよ!」

 

「そっか! 君は……えっとそう言えば名前はなんていうのかな?」

 

「あっ//」

 

 

 自分が名乗ってないことを思い出したつむぎは

、さっきノリノリで話してたのに急に恥ずかしくなり、かぁ と顔が赤くなる。

 

 

「わたしは……双葉つむぎだよ。保栖さんよろしくね」

 

「ことの事はことねでいいよ。ことはつむぎのことつむって呼ぶから」

 

「そっか、じゃあことねちゃん、よろしくね!」

 

 

 それが高校生になってはじめてできた友達。

 ことねとの出会いだった。

 

 

 ◇

 

 

「高校生になってクラスに友達がいなくて不安だったとき、ぷちモンのライルーがきっかけで友達ができたんだ。今でもその子とは仲良しでよくぷちモンのアニメの話とかしたりしてるよ。だからわたしには思い出深い作品なんだぁ、ぷちモンは」

 

 

 思い出に浸りながらつむぎは、戦闘画面のライルーを眺める。

 

 

「よーし、せっかくだからライルーではじめてのぷちモンゲットしちゃうぞー」

 

 

 意志を固めたつむぎは、ライルーをゲットすることに決めた。

 

 まずゲットするために、体力を減らす必要がある。 

 

「いっけー、シーニャでアクアパンチ~」

 

 シーニャが攻撃すると同時に右手拳を前に向けポーズを取り、アニメのように技名を呼ぶつむぎ。

 実際に言うと恥ずかしさがあるが、本物のぷちモントレーナーになった気分が味わえた。

 

 属性相性は良くないがレベル差でそれなりにダメージが通る。

 次のターンでゲットしても大丈夫かもしれない。

 

 すると次にライルーの攻撃ターンに入る。

 

 ライルーのライジングスマッシュ! 

 

「あわわわ!」

 

 あたふたするつむぎ。

 水属性には弱点の雷属性の技ライジングスマッシュがシーニャにあたる。

 

 効果は抜群でシーニャの体力を半分以上奪った。

 

「危ない……このままじゃ負けちゃう! 回復したいけど繰り返しやられたらアイテムが尽きちゃうし……ここは一か八かカプセルボール!」

 

 意を決したつむぎはアイテムからカプセルボールを選びライルー目掛けて投げる。

 

 カプセルの中が開きライルーはその中へと引き込まれライルーを閉じ込める。

 

「お願い……捕まって!」

 

 手を合わせ祈るつむぎ。

 

 地面に落ちたカプセルボールは、ピコピコ真ん中が光りながら揺れる。

 

 しばらくして揺れていたボールは動くのをやめ、ピコンという音がした。

 

「やったぁ! ライルーゲットできたぁ!」

 

 捕まえた事を確認することができた。

 無事、つむぎははじめて野生のぷちモンを捕まえられた。   

 



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ことねとの出会い

 それは約一年前。

 つむぎが高校一年生になった入学式の日の出来事。

 

「うぅ……どうしよう」

 

 自分のクラスの席についてたつむぎは不安だった。

 幼なじみのひなたと一緒に姫乃女学園に入学したつむぎ。

 

 しかしひなたとはクラスが違い離ればなれになってしまう。

 

 つむぎは引っ込み思案な性格だ。

 いつもひなたに引っ付いて動いていたため、はじめてクラスがバラバラになり、不安で仕方ない。

 

 友達は出来るのだろうか?

 浮いたりしないだろうか?

 

 考えるだけで怖くなる。

 

 

「おはよう」

 

「あぅ~……これからどうしよう」

 

「おはよう」

 

「へっ?」

 

 

 誰かがつむぎに対して挨拶をしてきた。

 緑色の髪の少女が隣にいた。

 

 

「お、おはようございます……」

 

「おはよう。ことは保栖ことね。後ろの席だからよろしくね」

 

「は……はい」

 

 

 せっかく話しかけてくれた

 ことねという少女に 

 つむぎはだんまりを決めてしまった。

 

 そんなつむぎの不安そうな顔を見て、ことねは優しそうな表情をして待ってくれてる。

 とてもいい子そうだ。

 

 後ろの席だし是非仲良くなって友達になりたい。

 

(ほんとはちゃんと話したいのに……うぅ……何か話題があれば)

 

 話題を探そうとつむぎはまわりを見渡す。

 するとことねのかばんについてるあるものに目が止まる。

 

 

「あっ! それライルー!」

 

 

 ことねのかばんにはライルーのキーホルダーがついていた。

 

 

「ぷちモン知ってるの?」

 

 

 少し驚いたことねはつむぎに尋ねる。

 

 

「うん、最新作はUnitchないから持ってないけど前作はやったしアニメも見てるよ!」

 

「そっか! 君は……えっとそう言えば名前はなんていうのかな?」

 

「あっ//」

 

 

 自分が名乗ってないことを思い出したつむぎは

、さっきノリノリで話してたのに急に恥ずかしくなり、かぁ と顔が赤くなる。

 

 

「わたしは……双葉つむぎだよ。保栖さんよろしくね」

 

「ことの事はことねでいいよ。ことはつむぎのことつむって呼ぶから」

 

「そっか、じゃあことねちゃん、よろしくね!」

 

 

 それが高校生になってはじめてできた友達。

 ことねとの出会いだった。

 

 

 ◇

 

 

「高校生になってクラスに友達がいなくて不安だったとき、ぷちモンのライルーがきっかけで友達ができたんだ。今でもその子とは仲良しでよくぷちモンのアニメの話とかしたりしてるよ。だからわたしには思い出深い作品なんだぁ、ぷちモンは」

 

 

 思い出に浸りながらつむぎは、戦闘画面のライルーを眺める。

 

 

「よーし、せっかくだからライルーではじめてのぷちモンゲットしちゃうぞー」

 

 

 意志を固めたつむぎは、ライルーをゲットすることに決めた。

 

 まずゲットするために、体力を減らす必要がある。 

 

「いっけー、シーニャでアクアパンチ~」

 

 シーニャが攻撃すると同時に右手拳を前に向けポーズを取り、アニメのように技名を呼ぶつむぎ。

 実際に言うと恥ずかしさがあるが、本物のぷちモントレーナーになった気分が味わえた。

 

 属性相性は良くないがレベル差でそれなりにダメージが通る。

 次のターンでゲットしても大丈夫かもしれない。

 

 すると次にライルーの攻撃ターンに入る。

 

 ライルーのライジングスマッシュ! 

 

「あわわわ!」

 

 あたふたするつむぎ。

 水属性には弱点の雷属性の技ライジングスマッシュがシーニャにあたる。

 

 効果は抜群でシーニャの体力を半分以上奪った。

 

「危ない……このままじゃ負けちゃう! 回復したいけど繰り返しやられたらアイテムが尽きちゃうし……ここは一か八かカプセルボール!」

 

 意を決したつむぎはアイテムからカプセルボールを選びライルー目掛けて投げる。

 

 カプセルの中が開きライルーはその中へと引き込まれライルーを閉じ込める。

 

「お願い……捕まって!」

 

 手を合わせ祈るつむぎ。

 

 地面に落ちたカプセルボールは、ピコピコ真ん中が光りながら揺れる。

 

 しばらくして揺れていたボールは動くのをやめ、ピコンという音がした。

 

「やったぁ! ライルーゲットできたぁ!」

 

 捕まえた事を確認することができた。

 無事、つむぎははじめて野生のぷちモンを捕まえられた。   

 



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白熱のジムリーダー戦

「あー、新しい街だぁ」

 

 しばらく探索した後つむぎは新しい街を見つけた。すぐさま中へと入る。

 

 その街は主人公がいた町とはちがい、設備が豊かで都会らしい雰囲気が漂っていた。

 

 

「この街にはジムがあるのかな? とりあえずぷちモンセンターに行って回復しなくちゃ」

 

 

 まず街に来たつむぎは、傷ついたぷちモンたちを治療するぷちモンセンターに行くことにした。

 

 探すのはそこまで難しくなく、しばらく歩いた後見つけることができた。

 

 ぷちモンセンターで治療を行った後、つむぎは街を探索することにした。

 

 街には大きなデパートのようなものがあった中にはいろいろなアイテムが売っており、ぷちモンのためのアイテムだけでなく、主人公が身に付ける衣類なども販売されていた。

 

 いろいろなアイテムや衣装を見て楽しむつむぎ。

 

 

「ふふふ、新しい要素が多くて楽しいなぁ」

 

 

 つむぎはにこにこと笑う。

 やっぱりぷちモンを買ってよかった。

 

 

 ◇

 

 

 しばらくして

 

 

「ついに来たよジムリーダー戦……!」

 

 

 ジムリーダーがいるぷちモンジムにやってきたつむぎは、様々なトレーナーと戦いながら一番奥まで進んでいた。

 

 このジムは岩属性のジムでシーニャをメインに育成していたつむぎには有利で、すいすいとトレーナーたちを倒していくことが出来た。

 

 一番奥のところにいたジムリーダーは女性だった。

 

 そしてジムリーダー戦がはじまる。

 ジムリーダーは一体のぷちモンだけ所有していた。

 

「いっけ~シーニャ!」

 

 つむぎはシーニャを出した。

 属性は抜群のはずだからきっと大丈夫だろう。

 

 ジムリーダーがぷちモンを出す。

 名前はロッキーという猿っぽい感じのぷちモンだった。

 

「レベル…15!? 大丈夫かな……」

 

 一体だけの代わりにレベルは他のジムトレーナーのぷちモンより遥かに上だった。

 

 シーニャが今レベル10だ。

 

「ええいシーニャ! アクアパンチを食らわせてあげて!」

 

 レベル差が何事か属性相性でなんとかなるとアクアパンチをロッキーに与える。

 

 しかしロッキーには思ったよりダメージが入らなかった。

 

 効果は抜群であるがやはりレベル差が大きい。

 

 そしてロッキーの攻撃が開始される。

 ロッキーは石を投げるストーンスローという技を出してきた。

 

 そのダメージは結構強く、シーニャが与えたダメージと同じくらいの体力が削られる。

 

 これは互角の勝負が繰り広げられそうだ。

 

 

 

 その後シーニャはアクアパンチを連発しロッキーもストーンスローを中心に攻撃をしてきた。

 

 そして互いのHPが一割を切る。

 

「ぐぬぬ……接戦だね」

 

 正直勝つなら回復アイテムを使ってもいいのだが、相手はアイテムを使ってきていない。

 ならこっちも使わないのが礼儀だろうと使わずにいた。 

 

 次のターン最初に攻撃した方が勝つ素早さではシーニャのが上だった。

 

 いけるか……つむぎはアクアパンチを選択する。

 

 しかし攻撃を先に与えたのはシーニャではなかった。

 

 ロッキーのストーンスロー!

 シーニャは倒れた。

 

「シーニャぁ!」

 

 鳴き声と共に倒れカプセルボールの中に戻るシーニャ。

 いい勝負だった、1対1の戦いなら負けていただろう。

 

 しかしこれはそういう勝負ではない。

 

 

「わたしにはもう一匹、とっておきのぷちモンがいるよ! いっけーライルー!」

 

 

 つむぎはカプセルボールの中からライルーを出した。

 

 

「ライルーやっちゃって! ライジングスマッシュ~」

 

 

 

 ◇

 

 ゲーム実況を投稿して、数日経った後の学校での朝での出来事。

 

 今日は帰ったらUnreallyでぷちモン実況の続きをしようと考えてた矢先。

 

 

「おはようつむ」

 

「あ、おはようことねちゃん!」

 

 

 背中にギターを背負ったことねが挨拶をしてくる。

 

 ことねは軽音部に所属している。

 朝、練習でもしていたのだろうか。

 

 

「つむ、新しい動画見たよ。ぷちモン最新作やったんだね」

 

「うん! ゲーム機は借りものなんだけど、ソフトは自分で買ったんだ! いろいろ進化しててすごい楽しいよ!」

 

「それは動画見ててよくわかるよ。つむの楽しそうにしてる表情、こっちも見てて楽しくなったし。なにより……」

 

 

 ことねは優しそうに微笑む。

 

 

「こととの出会いを忘れないでいてくれて嬉しかったな」

 

「あはは、あれことねちゃんのことってバレてたか」

 

「うん、ことにとってもつむは大事な親友だから覚えているよ」

 

「そっかぁ」

 

 

 嬉しいなと思う。自分は恵まれている。

 引っ込み思案な性格でもこうやって接してくれる大切な親友がいる。

 

 これからは自分の力で誰かを笑顔にしたい。

 そんなアンリアルドリーマーになりたいなと、つむぎは心の中で思う。

 

 

「今度、一緒に通信プレイしようね!」

 

「ふふっ、そだね」

 

 

 二人は笑いながら言った。

 



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破壊と創造と孤独な少女

 授業の間にある休み時間。

 その時間を利用してつむぎは一つの動画を見ていた。

 それはMVで正確には曲を聴いていたと言った方がいいかもしれない。

 

 動画のタイトルは 

 Descreation【MV】│ 神咲レア

 

 トップアンリアルドリーマーの一人

 神咲レアの曲だ。

 先月CDが発売されたばかりの曲で、その楽器による演奏の綺麗さ、力強い歌唱力は圧巻のもの。

 すべてを破壊しそして最後に創り直す

 そう詠ったこの曲はダークながらもかっこよくて高い評価を得られていた。

 

 再生数も既に数千万再生されている。

 

 映像も綺麗でそこにはゴシックなドレスを着た、黒みがかった濃い紫の長い髪をたなびかせた少女神咲レアが歌う姿が映っている。

 

 

 その映像に

 レア様最高! 

 レア様美しい! かっこいい!

 これは神曲! 

 さすがレア様の作る曲は安定して素敵! 

 というコメントがたくさん載せられている。

 

 この曲はレアが歌っているだけではなく、作詞作曲も彼女がしている。

 

 彼女はアンリアルドリーマー初のシンガーソングライターでもあった。

 

 動画が再生を終える。充実した時間だった。

 何度聴いても素敵な音楽は聴いてて飽きない。

 

 動画を見終わったつむぎはスマホをしまいまわりを見渡した。

 ひなたとことねは別の友達と会話をしているようだ。

 

 喋る相手がいない。隣の席を見てみる。

 隣の席の黒葛さやはいつものようにぽつんとひとり、ヘッドホンをしていた。 

 

 だがスマホの画面を見ている。動画を見ているのだろうか。

 

 どんなのを見ているのか気になりちょっと覗き見をした。

 

 そこにはなんと先ほどまでつむぎが見てたのと同じ神咲レアのMVが映っていた。

 

 そう言えば彼女はつむぎの初バイトの初日に神咲レアのCDを買っていた。

 

 神咲レアのファンなのだろう。

 

 そこであることを考える。

 そして心の中でよーしと呟く。

 

 ちょうどさやはヘッドホンを取り、次の授業の準備をしていた。

 

 

「あの、黒葛さん……!」

 

「なに……?」

 

 

 意を決してつむぎはさやに声をかける。無表情だが彼女は反応してくれた。

 

 バイトでのやりとりを除けば、これがつむぎとさやのはじめての会話だった。

 

 せっかく隣の席になったんだ。彼女と仲良くしてみたい。

 

 すぐ友達になるのは難しいかもしれないけど、少しは話せたらいいなと思って。

 

 

「黒葛さんも神咲レアちゃん好きなんだね!」

 

「ああ…………まぁ……」

 

 

 どうしてそんな事知ってるんだという風に睨んでるように見えたが、スマホの画面を見て、つむぎがさやのスマホ画面を見たことが分かった。

 

 動画は終了しているがスマホの画面には神咲レアの動画の画面が映っていた。

 

 

「わたしもレアちゃんの曲かっこよくて好きなんだ! 先月CD買ってたよね? わたしレジの店員だったんだよ、気づいてた?」

 

「そんなの、覚えてない……」

 

「だ、だよねー……」

 

 

 共通の好きなものを話題にすれば仲良くなれるかもしれない。

 そんな期待をしたがさやは甘くなく、つむぎの会話に興味無さげに冷たく回答する。

 

 

 …………

 

 

 

「……もうすぐ授業……席ついたら?」

 

「そ、そうだよねー」

 

 

 沈黙を先に破ったのはさやだった。時計をみると確かに残り1分で、授業がはじまる時間だ。

 つむぎは言われるがまま席についた。

 

 呆気なく撃沈した。

 流石コミュニケーションに長けたひなたでさえ仲良くなることが出来なかった相手だ。

 

 自分では相手にならなかった。

 

 せっかく勇気を振り絞っても駄目だった。

 彼女と仲良くすることは出来ないのだろうか。

 



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お金の稼ぎ方

「はぁ……」

 

 放課後Unreallyにいたつむぎは溜め息を漏らす。

 隣には咲夜がいて、いつもの駅前で咲夜の演奏を聴いていた。

 

「どうしたの?」

「ちょっとリアルでいろいろあってね」

「そっか」

 

 つむぎは今日のさやとの会話を思い出していた。

 もう少し自分にコミュニケーションがあればとつくづく思う。

 彼女はいつも一人で寂しくないのかそういう思いがつむぎにはあった。

 

 咲夜は持っていたギターを優しく、撫でたあと片付ける。

 白と黒でデザインされた特徴的なそのギターは、咲夜がいつも愛用しているものでかっこいいなとつむぎは思う。

 

 

「ここはアンリアル……リアルで嫌なことがあっても上書きすればいいよ」

 

「そうだね」

 

「とりあえずわたしの家にでも来なよ。お菓子とかあるしゲームとか一緒にやろう」

 

「うん、ありがと」

 

 

 咲夜の言葉に従うように、この事は一旦保留にして今を楽しもう、そう考える。

 咲夜は歩き出し、そのあとについていきながらつむぎは歩く。

 

 ここから咲夜の家は遠くないため、ワープを使わず歩いて移動することが多い。

 

 なによりこの非現実的な現実の日常を少しでも味わいたいのだ。

 

 

 風景をみながら歩くつむぎは、そういえばと、あることを思い出す。

 

 

「咲夜ちゃんの家はおしゃれで素敵だよね」

 

「そうだね。私も気に入ってるよ」

 

「いいなぁ。わたしもあんな風な家に住みたいな」

 

 

 もちろんリアルの自分の家も嫌いではないが、理想のおしゃれな家に住んでみたいという願望はある。

 

 

「家、欲しいの?」

 

「まぁ買えたらね。でも今のユノの残りからして無理だよ」

 

 

 ユノはこの世界のお金に変わるものだ。初回に3万ユノもらっている。

 わずかだがログインプレゼントで貰える事もある。

 

 

「今いくらあるの?」

 

「2000ユノ」

 

「あー確かに……それは無理だね」

 

 

 喫茶店で食べたり、アクセサリーや服を買ってたら次第とお金が無くなっていた。

 減りはしても増えはしなかった。

 

 

「どうすればユノが増えるのかな?」

 

「ユノの稼ぎ方はいろいろあるよ」

 

 

 咲夜はそう言って、ユノの稼ぎ方について説明する。

 

 

 一つ目はアイテムの売買だ。

 ゴミ拾いをしたり、珍しいアイテムやいらないアイテムを売る事でお金になるゲームらしいやり方だ。

 

 

 二つ目はUnreallyで仕事をする、喫茶店や本屋での仕事など、現実で働くようなやり方で稼ぐ方法。

 

 

 三つ目が課金。

 それは言わずもがな現実のお金をチャージして

 ユノと交換する。しかしこのやり方を使う人はあまりいない。他の方法でも稼げるからだ。

 

 

「で、最後に教えるやり方はたぶん、つむぎに一番向いてると思うよ」

 

「わたしに?」

 

 

 きょとんとした顔をするつむぎ。

 

 

「最後に教えるやり方はアンリアルドリーマーとしてDreamtube経由でポイントを受けとること」

 

「アンリアルドリーマーとして?」

 

「うん、ドリーマーとして生計を立ててる人もいるでしょ? それと同じでアンリアルドリーマーはDreamtube経由でユノと交換することが出来るんだ。Dreamtubeのアカウント画面にユノと交換する項目があるよ」

 

 

 言われるがままつむぎはDreamtubeを開きUドリーマーのアカウント画面を見る。

 よく見てみるとポイントをユノと交換という項目があった。

 

 その項目を押すとアンリアルドリーマーとして活動したポイントをユノと交換しますか?

 

 という項目が出る。

 はいとつむぎはボタンを押した。

 

 ユノが加算されました!

 

 +132000ユノ

 

 

「あっ!? 一気に10万以上増えたよ!? こんな簡単に増えるのものなの?」

 

「リアルのドリーマーじゃ全然お金にはまだならないけどUnreallyは現実じゃなくてゲームだからね。少しの再生数とスマイルでもかなりユノが貯まるんだ。だからUnreallyにはアンリアルドリーマーがたくさんいたりもするね」

 

「へぇ」

 

 

 頑張ってきて良かったとつむぎは思う。趣味程度に始めたUドリーマーだが、ファンができて頑張って最近いろんな動画を撮りはじめてその成果としてユノを貰えたとなると、とてもやりがいがある。

 

 

「でも10万ユノで足りるかな?」

 

「私の家の隣の空き地なら10万ユノで家が建てられるよ。人が少ないからね」

 

「じゃあそこにするよ! さっそく咲夜ちゃんの家の隣にいこ!」

 

「あっ、ちょっと」

 

 

 つむぎは咲夜の前に行き、今すぐ建てたいと咲夜の家の方角へ向かって走っていった。

 

 気持ちが高ぶっていた。

 

 

 どんな家を立てようかそういった妄想で───

 

 

「へぶっ!?」

 

「つむぎ!?」

 

 

 電柱にぶつかるつむぎ。

 

 

「あはは……ついうっかりしてたよ」

 

 

 調子に乗って正面を見ないつむぎの悪い癖だった。

 

 これからどんな家ができるのか期待が高まる?

 



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つむぎ、家を建てる

 ◆Unreallyで自分の家を持ちました! │麗白つむぎ

 

 

「こんにちは! アンリアルドリーマーの麗白つむぎです!」

 

「同じく咲夜だよ」

 

 

 咲夜の家の隣の空き地にいたつむぎと咲夜は突如動画を撮影していた。

 

 来る道中、つむぎがどうせなら家を買うところを動画にしようと思い付いたのがはじまりだ。

 

 咲夜はそれに快く付き合ってくれた。

 

 

「今日はね、動画タイトルにもあるように家を買うことにしたんだ! しかも咲夜ちゃんの家お隣の場所なの!」

 

 

 目をきらびやかにしたつむぎは、咲夜の方をちらりとみながら言う。

 

 

「私がつむぎにこの場所を提案したんだ。ちなみに私の家はこんな感じだよ」

 

 

 カメラが右方向に向けられる。

 

 そこには咲夜の黒い外壁のおしゃれな家がそびえ立っている。

 

 

「すごい素敵なお家だよね! わたしもこんなお家が欲しくて買おうと思ったの。それで咲夜ちゃん、家ってどうやって買えばいいの?」

 

「空き地の看板があるよね。 そこを指でつついてみて」

 

 

 画面は咲夜とつむぎの二人が居る場所に戻り、二人の後ろにある空き地と書いてある看板をアップにする。

 

 

「うん、とりあえずやってみるよ」

 

 

 つむぎは言われた通り看板に触れる。

 

 すると項目が出てきた。

 

 土地を購入して家を建てますか?

 住居を建てる 100000ユノ

 店を建てる  300000ユノ

 

「二つ項目が出てきたよ? 住居の方でいいのかな?」

「うん、そのままはいを押して」

 

 言われるがままつむぎははいを押した。

 

 ご購入ありがとうございました!

 この後は建築アドバイザーの指示に従って

 自分だけの素敵な家を建ててください!

 

 そんな文字が現れ

 少しした後、システム画面が消えた。

 

 それと同時に空き地と書いてあった看板も消え、そこから光がきらきらと光りだした。

 次第にそれは人の形へとなっていき、光が消えて、その正体があらわになる。

 

 

「あなたの心は何色? 今日は建築アドバイザーの七色こころです!」

 

「こころちゃん!?」

 

 

 そこに現れたのは世界一のアンリアルドリーマー、七色こころだった。

 なぜかピンクのメガネをかけていてくいっとさせるポーズをしている。

 

 思いがけない展開につむぎは唖然とした。

 

 

「どうしてこころちゃんがここに?」

 

「わたしはUnreallyでの困ったときのアドバイザーも担当しているのです! つむぎちゃん久しぶり! 咲夜ちゃんも」

 

 

 えっへんと言うこころは笑顔で久しぶりと言った後、咲夜の方をみて手を振る。

 

 咲夜はこくりとだけ頷く。

 

 

「久しぶり~って咲夜ちゃんもこころちゃんに会ったことあるの?」

 

「うん、何度かね。むしろUnreallyをやってたら会ったことない事の方が珍しいんじゃないかな。結構いろんなところにいるよ」

 

 

 特になんともないような表情で咲夜は言う。

 初日にこころに出会えた自分は奇跡だと思っていたつむぎだが、そこまで珍しくないという事実を知る。

 

 

「わたしはUnreallyのネット上の至るところにいるのです。そういえばつむぎちゃんもアンリアルドリーマーになったんだね。動画見たよ」

 

「えっ!? こころちゃんがわたしの動画を!?」

 

「わたしの後輩にあたるすべてのアンリアルドリーマーの動画は全部チェックしてるよ」

 

「へぇ、さすがスーパーAI!」

 

 

 Unreallyではじめて出会ったときも驚いたがやはりこころのすごさは異常なまでだった。

 後輩にあたるアンリアルドリーマーもなにもこころこそがアンリアルドリーマーの元祖だ。

 

 つまりこころは世界中、すべてのアンリアルドリーマーの動画をチェックしていることになる。

 

 その視聴時間は人間で加算すれば、人生の何回分にあたるのか想像もつかない。

 

「とくにわたしが好きな動画はマテリアライズペンを使った動画かな! うまくいかなくてあたふたしてたつむぎちゃん可愛かったよ!」

 

「あぅ、あれは恥ずかしいよ……」

 

 マテリアライズペンはお菓子の妖精にもらった特別なアイテムだ。

 描いたものを一定時間オブジェクト化しアイテムにすることができる使い方によっては便利なアイテム。

  

 ……のはずだったがドーナツを描いてみたら

 タイヤや浮き輪、フラフープが出来てなかなか上手くいかなかった。

 

 何度か挑戦し繊細にドーナツらしく描くことでようやく、ドーナツが出来て食べられた。

 

 具体的さがないと欲しいアイテムにならないことを知り、都合のいいアイテムでないことを知った。

 

 

「それじゃあ本題の建築についてだね。建築はあらかじめこちらが用意した建物からすきなのを選べるよ。お金はさっき払ったので充分だから自由に選んでね」

 

 

 そう言ってこころは液晶パネルを取りだし、つむぎに渡す。

 液晶パネルには様々な家の建造物の画像がある。

 

 

「つむぎちゃん試しに一つ、画像選択してみてよ」

 

「うん?」

 

 

 よくわからないまま、つむぎは一つの家の画像を選択する。

 

 

 すると画像はシュン! と前方に飛んでいく。

 

 それだけで空き地だった土地に選択した画像の家が建った。

 

 

「一瞬で家が!?」

 

「これはまだホログラム。建築された時の想定される外見や大きさを見るのに使うんだよ」

 

 よくみると建物は立体的だがほんのり透明感がある。

 

 

「こうやって試しにホログラムを建ててみていい感じのを選ぶといいよ」

 

 

 ◇

 

 

「う~ん……」

 

「つむぎちゃんどう? いいのは見つかった?」

 

 

 かれこれ20分つむぎはいろんな建物を見てきた。

 試しにホログラムを出したりもしてみた。

 

 

 ホログラムにした家は素敵な家ばかりだった。

 これでもいいそう思うものは何個もあった。

 だが……

 

「なにか惜しいんだよねぇ……あっちにはあっちの、こっちにはこっちのよさがあって。素敵だけど、でも理想の家とはなんか違うなぁって」

 

 つむぎはそれで悩んでいた。

 理想の家を建てる。それが願いだった。

 だからこそ理想を追い求めてどれも完全には満足できなかった。

 

「そういえば……」

 

 するとずっとつむぎが建造物を選ぶのを待っていた咲夜が話に入ってきた。

 

 

「カスタムデザイン建築ってできるんじゃないっけ?」

 

「うん、もちろんできるよ!」

 

 

 咲夜の問いに答えるこころ。

 

 

「カスタムデザイン建築って何?」

 

 

 きょとんと首をかしげるつむぎ。

 

 

「説明しよう! カスタムデザイン建築とは好きな材質、形、色を選んで、建物の外装を自由に組み合わせて作ることができる建築だよ! 敷地内ならイラストで細部も自由に作ることもできるんだ。でも一から作ることになるからちょっとすすめるのはためらってたけどつむぎちゃんなら大丈夫かな?」

 

 

 苦笑いをするこころ。

 

 はじめからいろいろ用意されてる建造物を選ぶか一から自分でつくって見るか、つむぎは案外早くその答えが出た。

 

「わたしカスタムデザイン建築やってみたい!」

 

 理想の家を建てるなら自分で一から作るのが一番理想的だ。

 その答えにつむぎは至った。

 家の建築なら一度、お菓子の国でやっている。

 

 

「よし、それじゃあカスタムデザイン建築やって見よー」

 

 そう言って机と椅子、タッチペンが用意されつむぎはそこへ座る。

 

「液晶パネルでデザインとカスタマイズをするからこれを使ってね」

 

 さっきまで使ってた液晶パネルはカスタマイズモードに変わっており

 いろいろな建物の骨格や扉の種類などが選べるようになっていた。

 

 デザインモードでは細部のオブジェクトの作成や、部分ごとの建物の色のや模様の変更が出来たりした。

 

 どんな建物にしようかは、さっきまで見ていた建物を参考にいいところを集めて理想的なのが出来ている。

 

 

 つむぎは黙々とデザインをしていった。

 

 

 ◇

 

 

「それでは完成しました! ごめんね咲夜ちゃん長い間待たせちゃって」

 

「私は別にいいよ、つむぎの頑張ってる姿嫌いじゃないし」

 

 

 咲夜に謝るつむぎ。

 かれこれ完成までに一時間も掛かっていた。

 しかしとてもいいものができたとつむぎは自信があった。

 

 

「それじゃあこころちゃん、完成したデザインをさっそく建築して!」

 

「はーい! それじゃあレッツ建築建築!」

 

 

 その言葉と同時にパチンと指を鳴らすこころ。

 すると空き地は下の方から次第に光輝き建物を形成していく。

 

 その時間はホログラムよりは長くしかしたったの10秒くらいで、建造物が出来上がった。

 

 

「これがつむぎの家……」

 

 

 咲夜はぽつりと呟いた。

 

 

 その家は咲夜とは対照的な白い二階建て建築の家だった。

 

 

「咲夜ちゃんどうかなわたしの家?」

 

「凄くいいと思うよ……なんていうかつむぎらしい」

 

「えへへ、そうかな?」

 

「わたしもつむぎちゃんらしい真っ白で綺麗な建物だと思うよ!」

 

 

 二人が誉めてくれてなんか嬉しい。

 

 

「咲夜ちゃん!」

 

 

 つむぎは咲夜をまじまじと見る。

 

 

「これからお隣さんとしてよろしくね」

 

 

 手を差しのべるつむぎ。

 それに咲夜は見開いてつむぎを見た。

 だがそのあと優しく微笑み手を握る。

 

「うん、これからよろしく」

 

「それじゃあ家も完成したわけだし、わたしの家でパーティーしようよ! こころちゃんも一緒にどう?」

 

「わたしもいいの? それじゃあ遠慮なくお邪魔させてもらうねー」

 

 そうやってつむぎたちの今回の撮影は終了した。

 

 ◇

 

『これからお隣さんとしてよろしくね』

『うん、よろしく』

 

 再生されていた動画がそこで止まる。

 つむぎと咲夜が握手をしているシーンで画面は止まっていた。

 

「麗白つむぎ……小太刀咲夜……これはなかなか侮れないわね」

 

 その動画を見ていた一人の少女が、長い尻尾を振りながら呟いた。

 



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ライバル登場!?

 家を建ててから数日後土曜日の午後三時頃。

 つむぎはいつものように咲夜とUnreallyにいた。

 もうUnreallyをはじめて一ヶ月が経ち、6月になっていた。

 

 何度か通っている喫茶店でお茶をしていた。

 スイーツを食べ終えたばかりで、テーブルには食べ終えた皿が二つおいてあり、それぞれ飲み物だけが残っている。

 

 食べ終えた後、つむぎはDreamtubeを立ち上げUドリーマーの動画を漁っていた。

 

 一方咲夜はコーヒーを飲みながら、空を眺めてゆったりとした時間を過ごしている。

 

 

「麗白つむぎさん、小太刀咲夜さん。ちょっといいかしら?」

 

「ほえ?」

 

 

 すると突然一人の少女が二人の前に現れた。

 

 いきなり名前を呼ばれてきょとんとするつむぎ。

 

 少女は綺麗な青い髪に、黄色と青の瞳をしたオッドアイ。

 

 猫耳のようなカチューシャに本物の猫のように動く長い尻尾が特徴の、可愛らしく特徴的な少女だった。

 

 彼女はつむぎたちを見つめた後、右手の人差し指を突き立てて一言言った。

 

 

「あなたたちあたしとと……勝負しなさい!!」 

 

「え……? いきなり何?」

 

 

 状況が追い付いてない咲夜。

 

 

「あたしは水無月ねねこよ! あなたたちは最近人気の新人Uドリーマー。いずれあたしのライバルn「本物のねねこちゃんだぁ!」にゃっ!? にゃに!?」

 

 

 いきなり出てきた少女、水無月ねねこが話をしている途中につむぎが言葉を遮ってぐいぐい寄ってきた。

 

 いつのまにか手には色紙とペンを持っている。

 

 

「わたしねねこちゃんの動画のファンなんだ! よかったらサインくれないかな?」

 

「えっ、ありがと/// 仕方ないわね、貸しなさい」

 

 

 突然のつむぎの行動に驚くねねこだが、意外にも顔を少し赤くしながら対応に答えてくれてサインを書き始める。

 

 つむぎはこの少女ねねこを知っていた。

 

 いろんなUドリーマーを見るのが趣味のつむぎはねねこの動画も見ていて、ファンになっていた。

 

「はい、どうぞ」

「ありがとー!」

 

 サインを書いたねねこはそれをつむぎに渡し、つむぎはそれを大事に抱き抱えるようにした後しまう。

 

 

「ってそうじゃなくて勝負よ勝負! あなたたち明日、あたしの配信の撮影に来なさい。場所はUDreamスタジオ。そこで対決よ!」

 

「なんで急に」

 

「そ、それは……ゆ、Uドリーマーとしてどちらが優れてるかの対決よ! い、いい? 来てちょうだいよね! 絶対よ?」

 

 

 ねねこはそう告げた後、顔を赤くさせたまま走ってその場を去っていった。

 

 

「なんだったのあの子……」

 

「対決ってつまりコラボってことかなぁ?」

 

 

 最初から最後まで困惑する咲夜。

 それとは反対にねねこに会えたことを喜びわくわくしているつむぎ。

 

 

「つむぎはあの子のこと知ってるんだよね? どういう子なの」

 

「ねねこちゃんはね、アイドル志望のツンテレ猫耳娘Uドリーマーとして最近伸びてきてるUドリーマーだよ」

 

「ツンテレ? ツンデレじゃなくて?」

 

 

 首を傾げる咲夜。 

 

 

「まぁこの動画を見てみてよ」

 

 

 つむぎは一つの動画を咲夜に送る。

 そうして咲夜の方に動画の画面が現れ再生され始めた。

 

 

◆幼馴染みなあたしとあなた【シチュエーション劇場】 │水無月ねねこ

 

 

「起きなさい。起きなさいってば! もう学校行く時間よ!」

 

 

 真っ暗な画面にねねこと思わしき声が聞こえる。

 

 次第に画面はパチパチと動き、映像が見えるようになった。

 

 誰かの部屋と思われる場所とねねこが映っている。

 

「おはよう。もう、いつもお寝坊さんなんだからあなたは。毎回起こしにくる幼馴染みの気持ちも考えなさいよね……まぁ嫌ではないけどっ//」

 

 はじめは睨むように見てきたねねこだが、後半は自分の髪を撫でながら顔を赤めらせていた。

 

 これは一人称視点で視聴者がねねこと幼馴染みのシチュエーションのようだ。

 

「へ? 今日は祝日……!? そんな……そういえばそうだったわ! 別に起こしに来なくても? いいじゃない別にっ!」

 

 どうやら祝日なのに学校だと勘違いしていたらしい。

 

 それを反論されると顔を真っ赤にして怒るねねこ。 

 

 

「いいからほら、朝ごはんもできてるから早く食べにいきましょ!」

 

 

 そう言って画面は切り替わる。

 

 

「どう? あたしが作った朝御飯は。あなたに喜んでもらえるように頑張ったり……してないわけじゃないのよ」

 

 

 ねねこが朝食を食べている風景が映し出される。

 素直じゃなさそうで遠回りに素直な言い方がどことなく可愛らしい。

 

 

「ねぇ、休みならどこか外へ出掛けない? その……そうあなたには今日一日荷物持ちをしてもらうわよ! これはあたしに恥をかかせた罰よ! 嫌なら無理にとは言わないけどっ……」

 

 

 ちょっと不安そうに言うねねこ。

 するとこくりと画面が頷くような仕草をした。

 

 

「そ、そう。付き合ってくれるのね。ありがとっ」

 

 

 その後買い物という名の、ほぼデートのような展開が繰り広げられた。

 

 時には怒ったり、照れたり顔を赤くしている状況がたくさんのねねこが映像には映し出された。

 

 帰り道。夕暮れ時に空はなっていた。

 

「今日はありがとね。付き合ってくれて」

 

 隣を歩くように画面はねねこを映す。

 

「あのね、あたし勘違いさせないように言うけどあなたのこと嫌いじゃないからね……時々きつく当たることもあるけど。むしろその……好きというか」

 

 顔を真っ赤に後半はほぼ聞こえないような

 声で言うねねこ。

 字幕がなければ聞き取れなかったかもしれない。

 

「だからその……これからもあなたの大切な幼馴染みとして一緒にいてちょうだいよね!」

 

 その台詞と共に動画は終了した。

 

 ◇

 

「これは確かに……ツンデレというかほぼデレデレだね」

「そうでしょそうでしょ。ツンデレっぽいのに言ってることはほとんどデレデレ。そんなところがねねこちゃんは可愛いんだぁ」

 

 咲夜の反応につむぎはうんうんと頷く。

 ねねこはツンデレと言うにはツンツンしてなくデレデレだったでもそのデレの部分が照れながら言うことが多く、付けられた異名が『ツンテレ姫』だった。

 

「でもどうしてそんな子が私たちに勝負を挑んできたって言うの?」

 

「それはわたしにもわからないけど、ねねこちゃんがデビューしたのはわたしたちとそう変わらない時期みたいだよ」

 

 

 つむぎたちがデビューしたのが5月

 

 同じ時期にデビューしたのがねねこだった。

 

 その月の中でもねねこは特に人気が高いUドリーマーであった。

 

 

「とりあえず明日ねねこちゃんところに行ってみようよ」

 

「まぁ、つむぎがそう言うなら……」

 

 

 咲夜は仕方ないと言った感じで同意した。

 対してつむぎはわくわくしていた。

 ファンだったねねことコラボができるのだ。

 勝負についてはよく分かってなかったが明日へ期待に胸を踊らしていた。 

 



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VSねねこ

 翌日つむぎと咲夜はねねこに言われた通り、UDreamスタジオに来ていた。

 UDreamスタジオのロビーの受付の人に、ねねこのいる場所を教えてもらいねねこがいる方のスタジオへと移動した。

 

 

「ふん、怖じけずに来たようね。 来てくれるか不安だったけどよかっ……た、とか言わせるんじゃないわよ!」

 

「いきなり一人ギレ!?」

 

 

 ねねこは情緒不安定な言い方で謎の怒りを見せていた。

 

「えっと今日はよろしくね、ねねこちゃん」

「よ、よろしく……」

 

 手を差しのべたつむぎだったがねねこは頬を赤くしながら顔をそらした。

 

 

「まぁいいわ……。それじゃあ配信をはじめましょう」

 

 

 そして配信が開始される。

 

 

◆今人気の新人Uドリーマー対決よ! │水無月ねねこ

 

 

「ねねこよ。あなたたちご機嫌いかが? 今日はタイトルにある通り対決をするわ」

 

 

 髪をさっとなびかせてねねこは言った。

 

 

コメント:ごきげんよう

コメント:ねねこちゃん今日もかわいい!

コメント:対決って誰とするんだろう

 

 

 コメントが流れてくる。

 ねねこのUnitterでは昨日あるUドリーマー二人と対決する配信をするわとユニートがされていた。

 

 サムネにはつむぎと咲夜のシルエットが貼られており誰とまでは言ってなかった。

 

「対決するのはこの二人とよ!」

 

 そしてカメラにはつむぎと咲夜がアップして映し出される。

 

 

「えっと、麗白つむぎです。アンリアルドリーマーやってます! 知ってる人いたら嬉しいな」 

「同じくUドリーマーの小太刀咲夜。主に楽曲製作メインに活動中」

 

 

 二人は急な振りにも柔軟に対応した。

 配信は慣れてないが、動画撮影は何度もやってきた為多少対応には困らなかった。

 

 

コメント:つむぎちゃんキター!

コメント:咲夜様もいるなんて!

コメント:さくつむはいいぞ

 

 

 意外にもコメントには知っている人がいくつかあった。

 

 知らない人もかわいいやかっこいいと言ったコメントをしてくれる人がいる。

 

 

「それで対決って具体的にどんなことをするの?」

 

 

 質問をするつむぎ。

 今までずっと疑問に思ってたが対決とはいったい何をするのだろうか。

 

 

「対決は三本勝負よ。あたしと一対一で対決してもらうわ。一回戦目はつむぎさん、二回戦目は咲夜さん、三回目はそのどちらでもいいわ」

 

 

 そう言ってねねこは一つの箱を取り出す。

 

 

「対決の内容はお題ボックスに書いてある内容で勝負よ! ルールはわかった?」

 

「うん、なんとなくわかったよ!」

 

 

 つむぎは返事をし、咲夜はこくりとだけ頷く。

 

 

 お題ボックスでの対決は他のUドリーマーもコラボで使うためつむぎはなんとなく知っていた。

 

 お題ボックスの中に書いてある玉の内容で対決するもので、その内容はあらかじめ用意されているものや、各個人がいれたものをランダムに混ぜてその中からお題を決めるのだ。

 

 お題の内容には視聴者投票もある。

 

 

「それじゃあ一回戦目はつむぎさんが引いて」

 

「うん」

 

 

 つむぎは箱から一枚の玉を引く。

 

 

「えっと、早口言葉対決。次の中から順に言って多く言えた方が勝ち。だって」

 

 

 すると玉は消え、つむぎたちの正面に早口言葉が書かれた画面が現れた。

 

 画面にはいろいろな早口言葉が書いてあり下をいくごとに長くなり難しそうだった。

 

 

「それじゃあまず、あたしが先行でやるわ」 

 

 

 ねねこは一歩前に出て言った。

 カメラもねねこをアップにする。

 

 

「生麦生米生卵! 生麦生米生卵!生麦生米生卵!」

 

 

 ピンポンピンポーン!

 一つ目の早口言葉をねねこが言うとどこからか

 正解の効果音が流れる。

 AIによる判定だろうか?

 

 

「赤巻き紙青巻き紙黄巻き紙! 赤巻き紙青巻き紙黄巻き紙! 赤巻き紙青巻き紙黄巻き紙!」

 

 

 ピンポンピンポーン!

 

 

「東京特許許可局! 東京特許許可局! 東京特許許可局」

 

 

 ピンポンピンポーン!

 

 

「この竹垣に竹立てかけたのは竹立ててたててて…ああもう無理」

 

 

 ブッブー!

 

 次々と正解していくねねこだったが四個目にして失敗してしまった。

 

 

「それじゃつぎはわたしの番だね。よーしがんばるぞー」

 

 

 気合いを入れるつむぎ。

 そして息を吸った後勢いよく言いはじめた。

 

 

「にゃまむぎにゃまごめにゃまにゃまご! ……あれぇ!?」

 

 

 ブッブー!

 

 なんとつむぎは一個目にして言えず失敗に終わった。

 

 

「あははダメだったよ咲夜ちゃん」

 

「まぁつむぎ、早口苦手なのはわかってたから……」

 

 

 苦笑いするつむぎに微笑み返す咲夜。

 実は以前、早口言葉言ってみた! 

 という動画を投稿したことがつむぎはあって

 それは全然言えなくてボツにしようか迷ったことがあった。

 咲夜にある意味いいんじゃないと言われ投稿し、地味に再生数が良かった。

 

 するとドサッとなにかが落ちるような音がする。

 ねねこが膝を落としたポーズをしてガックリとしていた。

 

「負けたわ……」

 

「ねねこちゃん……?」

 

「それは本来猫キャラのあたしがやるべきネタなのに……先にやられたッ!」

 

「論点そこ!?」

 

 試合に勝って勝負に負けたようなねねこ。

 

 だが一応勝敗はねねこの勝ちなのでねねこに一点入る。

 

 

「二回戦目引くよ」

 

 

 そんなねねこを置いて咲夜は箱の中の玉をとる。

 

 

「二回戦目は……Unreallyのフレンドの多い方の勝ち……」

 

 

 咲夜は言ったあと凍りつくように固まった。

 ねねこもどうやら目が死んでいるような表情をしている。

 

 どうしたのだろうか?

 

 

「さ、咲夜ちゃんフレンド数は?」

 

 

 放送事故にならないようにつむぎは話を進めようとする。

 

 

「一人……つむぎだけだよ」

 

「えっ」

 

 

 予想を遥かに越える咲夜の回答に、つむぎは言葉を失う。

 つむぎがはじめてフレンドになった咲夜。

 

 その咲夜もまたつむぎがはじめてのフレンドだったという事実が発覚する。

 

 確かに咲夜のいる所にフレンドが来たということはつむぎ以外いなかったから、言われてみればそういうことだったのかもしれない。

 

 咲夜は一人でいるのが好きだ

 ということもあるのだろう。

 

「そ、それじゃあ次、ねねこちゃんは?」

 

 雰囲気を変えようとねねこへ会話のバトンを流す。

 

 コメントにはこれはもうねねこちゃんの勝ちではといったコメントが多数送られてきた。

 

 

「……人よ」

 

「え?」

 

 

 ねねこは後ろを向いて正面を見せないように小声で言った。

 

 だがその声は小さすぎて聞こえない。

 もう一度尋ねる。

 

「えっと、なんて言ったの?」

 

「だから0人よっ! フレンドなんていないわ!」

 

 

 怒ったようにねねこはつむぎの方を向いて怒鳴った。

 

 ねねこの衝撃的な発言はこの場だけならず配信のコメントすらも沈黙していた。

 

 

 ねねこは顔を真っ赤にして半分涙目になっているのではないかという状態だ。

 どうにかしなければ……

 

 

「えっと……ねねこちゃん、よかったらわたしがフレンドに「この状況での同情なんて辛いだけよ!」ですよねー……」

 

 

 焼け石に水だった。 

 

 

「いいわよ。あたしのことはもう。これで1対1の同点。最後はあたしが引くわ」 

 

 

 ねねこは顔をそらしながらお題ボックスから玉を取る。

 

 

「なになに、お互いのいいところを誉める。どちらがよりよかったか視聴者アンケートで決定、ね。まあいいわ。それじゃあ二人のどちらか相手になって頂戴」

 

 

 ねねこは髪をなびかせて言った。 

 つむぎと咲夜はお互いにお互いを見る。

 

 

「私はねねこのことあまり知らないからつむぎにお願いするよ」

「うん、わかったよ!」

 

 

 つむぎは前に出てねねこの方を向いた。

 ねねこのことは前から知っている。

 動画と配信だけだがファンだった。

 

 

「それじゃあねねこちゃんのいいところを言うね」

「ど、どうぞ……」

 

 

 ねねこはちょっと声を震えさせていた。

 そんな彼女を知ってか知らずか、つむぎは元気よく話始める。

 

「ねねこちゃんはね、素直じゃなさそうでとても素直な女の子で、優しくてファンの子のことをとても大事に考えてて、そういう優しい部分がわたしは凄い見習いたいなって思ってるよ!」

 

 ねねこのいいところは、言おうと思えばいくらでも言えた。

 

 ねねこは動画のときいつもファンのことを気遣ってくれる。

 言葉では少し素直じゃなさそうに見えて心配したり応援してくれたり、そう言ったやさしさがつむぎは好きだった。

 

 

「あ、ありがと//」

 

 

 ねねこは顔を下に向けて照れていた。

 照れ屋なところもかわいいなとつむぎは思う。

 

 しばらくしたあとねねこは首を振り、真剣な目でこちらを見つめてきた。

 そして人指し指をビシィッと向けてくる。

 

「次はこっちのばんよ!」

 

 

 彼女は呼吸を整えて言った。

 

 

「あなたのいいところはなんでもやってみようと頑張る精神力いつも前向きに取り組んでて、でもちょっとドジ踏むこともあって……でもそれが可愛くて……それであはは、とかえへへとかいうのがあざとくて可愛くて……// あたしのファンだって言ってくれたとき嬉しすぎて正直気が動転しそうで……//」

 

 

 最初は自信満々に言ってたねねこだがだんだん気弱になっていき、後半はボソボソ声で話してて何を言っているのかほとんど聞こえなかった。

 

 だが自分のことをすごく誉めてくれてる事は伝わる。

 

 

「あはは、いざ誉められると照れるね//」

 

「そういうところが卑怯なのよっ……」

 

 

 互いに顔を赤くしていた。

 

 

「アンケート開始します。制限時間は五分、はいスタート」

 

 

 それを見ていた咲夜は冷静に進行を進めていた。

 

 そして五分後

 

 

「アンケート結果が出たみたいよ。結果はどうかしら」

 

 

 アンケート結果が発表される。

 

 横棒のグラフで右の赤色がつむぎ、左の青色がねねこだ。

 

 結果

 つむぎ50%ねねこ50%

 

 

「って同点!? こんなことってあるの!?」

 

 

 つむぎは思わず叫ぶ。

 まさか綺麗に別れるとは思いもよらなかった。

 これで決着がつくと思いきや引き分けだったのだ。

 

 

「ま、まぁいいわ。今回は引き分けってことで多目に見てあげる。でも忘れないでよね! あなたたちはあたしのあこ……ラ、ライバルなんだから!」

 

 

 ねねこはそういうとその場を逃げるように去って行った。

 そしてそのまま配信は終了を遂げた。

 

 

「終わったね」

 

「そうだね」

 

「結局ねねこちゃんの目的ってなんだったんだろう?」

 

 

 彼女が対決を言い出した理由を知らないまま今回は終わりを迎えた。

 

 ◇

 

 一人の少女が逃げるように走っている。

 スタジオ内の自販機がある休憩スペースをみつけ、誰もいないことを確認するとそこで立ち尽くした。

 

 

「もう……! なんでこういうときだけすんなり素直になれないのよっ!」

 

 

 少女の叫びが響き渡る。

 彼女は水無月ねねこだった。

 

 つむぎたちとの配信を終え彼女は逃げるように

 その場を去って行った。

 

「ほんとうは友達になりたいだけなのに……仲良くなりたかっただけなのに……あたしのバカバカバカ!」

 

 そうだ。

 まず最初の段階で間違っていた。

 

 ねねこは最初あったとき、本当は友達になろうとしていたのだ。

 しかし素直になれない性格が仇となり対決することになる。

 

 けれど対決のあと仲良くなれればとそう思っていた。

 

 だが、勇気がなかった。

 もっと素直になれれば、勇気があればと水無月ねねこは思った。

 



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オフ会しちゃおっか

 ねねことの一件から数日後。

 チャンネル登録者がいつもより伸びている。

 

 これもきっとコラボしたおかげだろうか。

 コラボすることにより、新しい視聴者が来る機会が増え結果的に登録者数も伸びる。

 これはUドリーマーならよくあることだった。

 

 この調子でいけばいいなと、つむぎは微笑みながらアカウントをチェックした後、これからの事を考えていた。

 

 

「水曜日どうしようかなぁ」

 

「水曜日なにかあるの?」

 

 

 つむぎの言葉に一緒にいた咲夜が反応する。

 今はつむぎの家にふたりでいた。建てたばかりの家で見た目こそおしゃれだがまだ内装は最低限の家具しかない。

 

 これからユノを貯めて家具を揃えていけたらいいなと思う。

 

 

「今週の水曜日はわたしの住んでるところの祝日で、学校が休みなんだぁ。だから久しぶりにリアルでどこか出掛けようかなぁって思って」

 

 

 最近はUnreallyにこもってばかりで、現実で出掛ける機会が少なくなっていた。

 

 少しは現実の方でもお出掛けをしたい。 

 

 すると咲夜は目を見開いていた。

 

 

「私の場所も祝日なんだけど……もしかして卯京に住んでる?」

 

「そうだけど、咲夜ちゃんも卯京出身なの!?」

 

「まぁ……ね」

 

「そっかぁ、そんな偶然もあるんだねぇ」

 

 

 つむぎはそう言ってテーブルにあるオレンジジュースを飲む。

 

 

 卯京とは卯京都という都道府県のことだ。つむぎは卯京都の姫乃市に住んでいる。

 

 しかし、まさか咲夜が同じ卯京都出身だとは思いもよらなかった。卯京都は都会ということもあり、人口は多いが。

 

 同じ都内なら会おうと思えば会える距離だ。

 

 そこでつむぎはあることを思い付く。

 

 

「ねぇ咲夜ちゃん。よかったらさ今度の祝日、リアルの方で会ってみない?」

 

「リアルの方で?」

 

「うん。せっかく同じ都内なんだし一緒に遊んでみたいなぁって思って」

 

「…………」

 

 

 咲夜は黙り込む。

 なにかを考えてるようで難しそうな顔をしていた。

 

 

「別にリアルで会う必要なくない? Unreallyならほとんどリアルと変わらないし、オフ会みたいなことする必要ないと思うな」

 

 

 咲夜はあまり乗り気ではなかった。

 まぁ普通ネットであった人と会うのには抵抗があるだろう。ましてや会って数ヵ月の相手と。

 

 だけど…

 

 

「でも、わたしは咲夜ちゃんのこともっと知りたいな。リアルでの咲夜ちゃんとも仲良くしてみたい。そんな風に思っちゃだめかな?」

 

 

 これは本心だった。リアルでも咲夜と友達になれればとつむぎは思っていた。

 

 咲夜はまた難しそうな顔をし、考え込む。

 しばらくしたあとはぁっと諦めたような顔をして口を開けた。

 

 

「しょうがないな……。つむぎがそこまで言うなら……リアルで会おう」

 

「ほんと!? じゃあ待ち合わせの場所決めよう!」

 

 

 つむぎは目を輝かせて、リアルで会う予定を決めていくことにした。

 



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明かされる真実

 そして当日の水曜の祝日。卯京都民の日。

 

 つむぎは家で身支度をしていた。

 衣服の確認をしっかりし、髪止めの位置を鏡で見たあとによし、と呟く。

 服は数日前から考えていて、お気に入りの服を着ることにした。

 

 上が黄色で下が黒いワンピースだ。

 

 身支度が終わった後、つむぎは午前9時20分に家を出る。

 

 待ち合わせは午前10時だ。

 

 待ち合わせの場所は意外にも近く姫乃市にある一番大きな公園。姫乃公園だ。

 

 つむぎの学校から近い場所にあるため、今から歩いて行っても間に合う距離だった。

 

 家から出たつむぎは期待に胸を踊らせていた。

 現実の咲夜はどんな子だろう?

 一緒にどこへ行って遊ぼう?

 

 なんてことを思いながら歩道を歩いていった。

 

 

 

 そして歩いて30分後。

 

 午前9時50分。

 

 待ち合わせの10分前につむぎは姫乃公園へ着いた。

 

 少し歩き疲れた。

 やはりリアルで動いてる時間が減ってるのもあり、この距離を歩くのはちょっときつい。

 

 無限に近い体力のあるUnreallyとは全然違うことを体感し、ここが現実であることを再確認する。

 

 公園では元気に遊ぶ子供の声が聞こえる。

 待ち合わせの姫乃公園は市で一番大きいというだけあって広い。

 

 なので姫乃公園の中でも噴水の前で待ち合わせることになっていた。

 

 姫乃公園の噴水は待ち合わせとして使う人がときどきいたりする。

 

 その何割かは告白のために待ち合わせとして使っているなど人気だ。

 

 

「あっ……」

 

 

 つむぎは噴水の場所である人物に出会った。

 

 

「こ、こんにちは黒葛さん……」

 

「……」

 

 

 隣の席の黒葛さやだ。偶然にも彼女も公園に来ていた。

 

 さやは声を掛けられこっちを見るが挨拶もせず黙り、そのあとすぐに自分のスマホに顔をむける。

 

 やはり彼女は話しかけづらい。それとも自分の会話力がないのか。

 

 リアルではやはり引っ込み思案な性格は治っていないのかもしれない。

 気まずいのでつむぎはさやに背中を向ける。

 

 このままで咲夜に会って大丈夫だろうか。

 不安ながらもつむぎはスマホを取り出した。

 Ucordというアプリを立ち上げる。

 そこから咲夜の名前を選択する。

 Ucordはチャットと通話が無料できるアプリで、ネットの人とゲームをしたり会話をするのに重宝されているアプリだ。

 

 咲夜とはそのアプリでUnreallyをやってないときに通話するのに使っていた。

 

 咲夜の画面を開いたつむぎは通話を開始する。

 

「もしもし、咲夜ちゃん待ち合わせの場所ついたよ」

 

 通話はすぐに繋がった。

 

「そっか……私ももういるんだけどどこかな? 着てる服教えて?」

 

 咲夜の声を聞きつむぎは安心する。

 しかしおかしい、来ているならそれらしき人がいるはずだ。

 噴水の近くにはつむぎ以外にさやしかいない。

 大きい噴水のため反対側にいてみえないのだろうか?

 

「わたしは上が黄色くて下が黒いワンピースを着てるよ。咲夜ちゃんのも教えて?」

「私は紺のカーディガンに白いワンピースを着て…………っ!?」

 

 咲夜は言葉にならない驚きをしていた。

 

「どうしたの咲夜ちゃ……ん……!?」

 

 つむぎも言われた通りの姿の咲夜を探そうとまわりを見渡し、言葉を詰まらせる。 

 

 つむぎの目線は黒葛さやを見て止まっていた。

 彼女は紺のカーディガンに白いワンピースを着ていてスマホで電話をしていた。

 

『嘘……』

 

 その言葉がスマホとリアルで実際につむぎの声に聞こえる。

 

「黒葛さん……」

 

 声を震わせてつむぎはさやの方を見て言う。

 

 小太刀咲夜の正体は黒葛さやだったのだ。

 



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殻にこもった少女

「…………」

「…………」

 

 気まずい沈黙が続く。

 ここまで気まずい沈黙は今まで一度も体験したことがない。

 だがこのままずっとこうしているわけにもいかないのも事実。

 

 つむぎは意を決し口を開く。

 

「ま、まさか黒葛さんが咲夜ちゃんだったなんてね。思いもしなかったよー。あはは……」

「……」

 

 苦笑いするつむぎ。沈黙を続ける咲夜。

 いや、今はさやという方が正しいだろう。

 

 誰が信じるだろうか。

 ネットで知り合った友人が、同じ学校で同じクラスで隣の席の子だなんて。

 

 咲夜に抱いてた印象とさやに抱いてた印象は全く違くて、噛み合わない。

 

 でもこれはチャンスかもしれない……

 

 頑張れ自分、頑張れ自分と

 

 心の中で何度も呟き会話を続けた。

 

 

「こ、これもなんかの運命だね、黒葛さん。これを気にさ、わたしたちリアルでも″友達″になって仲良くし「それは無理っ!!」

 

 

 今まで聞いたことのない声の大きさでさやは叫んだ。

 

 友達と言った瞬間

 

 彼女はつむぎを左目の鋭い目付きで睨んだ。

 

 とても恐ろしい表情と声だった。

 

 これが咲夜と同一人物なんて信じられない。

 

 

 しばらくまた沈黙が続く……

 

 

「……帰る」

 

「待って!? 黒葛さん!?」

 

 

 さやはつむぎに背を向けて歩きだし、つむぎはさやを呼び止めようと追いかける。

 

 さやはその声で止まる。

 

 

「リアルの私とは……関わらないで……」

 

 

 最後の警告とでも告げるように、それだけを言いさやはまた歩き始めた。

 

 つむぎはそれを追いかけることが出来なかった。

 

 

 ◇

 

 

 次の朝のHR前。

 

 

「おはよーつむぎー」

「お、おはようひなたちゃん」

 

 

 ひなたが挨拶をしに来た。太陽のように明るく元気なひなた。

 

 それとは真逆に今のつむぎの表情には明るさがない。

 

 

「どうしたの……? なんか元気ないねぇ……」

 

「ちょ、ちょっとね……」

 

 

 ひなたも様子に気がついたようでつむぎの顔を覗き込む。

 

 昨日の件でつむぎは元気を無くしていた。まさかあんなことになるとは思いもよらなかったからだ。

 

 

「あ、黒葛さんおっはよー」

 

「……」

 

 

 さやがクラスへとやってきた。

 挨拶をするひなただが、さやの返事は当たり前のようにない。

 

 さやはすぐ席に座りヘッドホンをし、窓の方へ顔を向けた。

 

 

「相変わらずスルーされちゃった。悲しいのぅ」

 

「そ、そうだね」

 

 

 ひなたは持ち前の明るさで、誰にでも挨拶をすることができる。

 

 つむぎには勿論、さやと挨拶をする勇気も気力もない。

 

 もやもやした気持ちのまま授業を受けていった。

 

 

 

 放課後。

 

 いつものようにUnreallyに入るつむぎ。

 フレンド欄を確認するが、今日は咲夜がログインすることはなかった。

 いや今日もと言った方が正しい。

 

 昨日の件があっても夕方Unreallyに入ったが咲夜はログインして来なかった。

 フレンド状況を確認しても小太刀咲夜さんは1日以上ログインしていませんと表示されている。

 

 それからも数日咲夜がログインすることはなかった。

 

 

 いつもつむぎに優しく付き合ってくれる咲夜。

 しかし咲夜がさやとわかってから気まずくなってしまった。

 

 

 来なくなっても仕方ない。

 

 

 会ってしまったことがいけなかったのだろうか。

 

 もし、会わずに知らないままでいたら幸せなのだろうか。

 

 そう思ってしまう。

 

 

 だがつむぎは彼女を待ち続けた。

 

 

 彼女は言ったのだ。

 彼女の言葉を信じたいのだ。

 つむぎは一つの言葉を思い出す。

 

 

 

 ″リアルの私とは″……かかわらないで……

 

 

 

 彼女が関わりを拒んだのはリアルだ。

 さやとしての関わりは拒んでも

 咲夜としての関わりは拒んでいない。

 

 つまり可能性はまだある。

 

 そうつむぎは信じていた。

 

 

 

 

 日曜日。

 

 午後四時につむぎは自分の家でずっと考え事をしていた。

 

 アンリアルドリーマーとしての活動についてだ。

 

 ここ数日、一切Uドリーマーとしての活動が出来てない。

 咲夜のことで手がつかないからだ。

 

 このままではいけない。 

 

 咲夜も大事だが今の自分には応援してくれるファンがいる。

 

 

 ″私が君の、つむぎの一番最初のファンになってあげる″

 

 

 しかしそれでも……

 一番最初にファンになってくれた咲夜のことを

 考えられずにはいられない。

 

 

「はぁ……」

 

 

 つむぎはフレンド欄を見る。Unreallyで出会って仲良くなったフレンドが表示される。

 

 Unreallyでは引っ込み思案な性格があまり発動せず。自然と自分から会話が出来ていた。

 

 するとログインしているフレンドの一覧の中に、咲夜の名前があった。

 

「……っ!」

 

 つむぎはそれをみて、咲夜のいる場所にワープゲートを繋げた。

 

 そこは人気のない見知った駅前。ギターの音が響いている。

 

 咲夜のオリジナル曲だ。

 歌う声はせずギターの演奏だけが鳴り響く。

 

 だがそれでもいい。

 

 この曲を弾けるのはただ一人しかいないから。

 そしてその人物はつむぎを見ると演奏するのを止めた。

 

 

「咲夜ちゃん……」

 

「つむぎ……」

 

 

 咲夜は寂しげに返事をするように言う。

 

 

「こっちでは久しぶり……だね」

 

「そうだね……」

 

 

 会話はどうにかできる。

 だが思うように喋ることは出来ない。

 

 

「その……さ。あっちではごめんね……」

 

 

 辿々しく咲夜は謝ってきた。

 

 

「まさかつむぎが同じクラスの人だとは思わなくて。嫌な思い出がフラッシュバックして逃げる形になっちゃったんだ」

 

 

 思ったより自然に咲夜は事情を話してくれた。

 

 

「わたしの方こそごめんね。何か気に触ることに触れたみたいで」

 

 

 つむぎも謝る。

 自分の言葉選びが悪かったのだとあの時睨まれてわかっていた。

 

 だからこそ聞きたいことがあった。

 

 

「そのさ……聞いてもいい? どうして咲夜ちゃんはリアルだと誰とも関わろうとしないの? 過去に……いったいなにがあったの?」

 

 

 咲夜が、さやが関わらない理由にはきっと過去が関係しているはずだ。

 誰もが無条件に、あそこまで、人と関わるのを嫌うはずがない。

 

 

 咲夜は少しの間の後、深く呼吸をする。

 

 

「わかったよ。教えてあげる。どうして私がそこまでリアルで関わるのを嫌ってるのか」

 

 

 そうして咲夜は自分の過去を語り始めた。

 







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友達なんていらない

 黒葛さやは小さい頃から一人っきりだった。

 昔から目付きが悪く、また会話が苦手で、それがまわりを寄せ付けず小学校では孤立していた。

 

 

 そんな彼女に両親はせめてやりたいことを好きにやらせてあげようと思い、音楽が好きだったさやにピアノ教室を通わせる。

 

 

 音楽はさやにとって生きがいだった。

 さやの生活の励みとなって、演奏をしていると生きていると実感できる。

 

 音楽の才能があるさやはそれから次々に実力を発揮し、たくさんのピアノのコンクール賞を受賞した。

 

 だがそんなピアノ教室でもさやはその実力や雰囲気から周りから近寄りがたい存在となっていて、友達がほとんどできなかった。

 

 

 ただ一人を除いて。

 

 

「さやちゃんのピアノすごいね。私もさやちゃんみたいになりたいなぁ」

 

 

 それは霧谷かすみと言う少女だった。

 その少女は気さくでさやにも話しかけてくれた。

 

 

「さやちゃんはどうしてピアノをはじめたの?」

 

「音楽が、好きだから……」

 

「そうなんだぁ」

 

 

 目付きが悪く話が苦手なさやにも少女は嫌な顔せず話しかけてくれた。

 

 

 そんな少女にさやは心を開いていき、仲良くなっていった。

 

 

 

「この曲聞いて……」

 

 

 一つの曲をさやは演奏する。

 

 

「すごい! なにこの曲? 私教わったことも聞いたこともないよ!」

 

「これ私が作ったオリジナルだから……知らなくて当然だよ」

 

「さやちゃん作曲できるの!? すごい! すごいよ!」

 

「そうかな」

 

 

 少し照れながらさやは頬をかく。

 自分が作って演奏した曲を誰かに誉められるのは嬉しい。

 

 

 それから一緒に歌を歌って演奏したり、ピアノ教室の帰り道に一緒に遊んだりもした。

 

 そうしてさやはいつしか彼女のことを″友達″だと思うようになった。

 

 

 

 

 

 

 

 だがそんな日々は長くは続かなかった。

 

 

「もうさ、私に話しかけないで」

 

 ある日、突然のことだった。

 少女の態度は一変した。

 

 今まで優しく話しかけてくれた彼女がそう言ったのだ。

 

 さやは信じられなかった。

 

 

「どうしてっ!? 私達、友達じゃ……」

 

「友達……?」

 

 

 少女はさやを見て首を振る。

 

 

「私達は友達じゃないよ。私達はもう、馴れ合うべきじゃないんだよ」

 

 

 そう言って彼女は立ち去る。

 

 

 しばらくしてさやは今住んでいる場所に引っ越した。

 その都合でさやはピアノ教室をやめ音楽は独学でやるようになる。

 

 以降、少女とは会うことはなかった。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

「それから私は、なにもかもが嫌になって、人と関わるのを嫌ったんだ。たとえ相手が話しかけてくれても。誰とも関わらないのが一番幸せだと思ったんだ」

 

 咲夜は一通り話をした。

 

 つむぎはそれを聞いてて辛くなった。

 

 どれほど残酷な話だろうか。

 ずっと一人でいて、やっと出来た友達だと思ってた人間に裏切られる。

 

 それほどつらいものはない。そんな体験、耐えられない。

 

 彼女が孤立しようとする気持ちもわかる。

 

 だけど……

 

「でもUnreallyの咲夜ちゃんは私に付き合ってくれてるよね? どうしてなの?」

 

 それが疑問だった。

 一人と関わろうとしない人間が、ここまで自分と仲良くしてくれるだろうか。

 

 咲夜は自らつむぎにフレンド申請をしてくれたのだ。

 

 

「それはUnreallyに出会ってUnreallyの中では前向きにいられるって思ったからだよ」

 

「前向きに?」

 

「リアルの私は黒葛さや。鞘にこもった本来の自分を出せない状態。でもUnreallyでは小太刀咲夜。本来の自分を剥き出しにできる。

 一から生まれ変わった咲夜は、会話が苦手なさやとちがって、本当の気持ちが素直に言える。 

 だからUnreallyでつむぎとフレンドになろうと思えた。それにリアルで会っても、もしかしたら大丈夫かもしれないって思ってしまった」

 

 

 長い話を一旦区切るように咲夜は息を整える。

 

 

「でも実際に会ったらつむぎはわたしのリアルを知っている。心を剥き出しにしてる私だけじゃなくて、心を閉ざしてる私のことも。それで友達になろうって言われて……無理って思ったんだ。また裏切られる、そう脳内によぎってしまって……」

 

 

 咲夜はその後、苦笑いをした。

 

 

「これで私の話はおしまい。ごめんね、こんな長い話しちゃって。もうリアルのことは忘れてこれからはUnreallyだけでフレンドでいよう。そうすれば私はつむぎを……信じていることができる」

 

 

 咲夜は苦笑いを普通の微笑みに変えようとしてきた。

 

 だがその微笑みはひきつっていて、無理してるように見える。

 

 

 咲夜はどうしてもリアルで関わることを嫌っていた。

 Unreallyでは心を開いても、リアルでは心を開かない。

 

 

 彼女とはUnreallyだけの関係でいるのが、一番なのかもしれない。

 

「嫌だよ!」

 

 だが、つむぎは叫んだ。

 咲夜の会話を聞いていて、つむぎの中では込み上げてくるものがあった。

 

 手はぎゅっと強く握っていて感覚がおかしくなりそうだ。それは怒りに近い何かだった。

 

 

「なんで諦めちゃうの! 黒葛さんのことを知ってたらリアルじゃ友達になれないの!?」

 

「つむぎ……」

 

 

 はじめてみたつむぎのその表情に咲夜は驚いている。

 

 つむぎ自身もこんな怒りに、満ち溢れた気持ちになったことはない。

 

 でも許せなかった。このままの関係でいることに。

 

 あんなことを聞くと余計にそう思った。

 

「今は黒葛さんと話がしたい。だからリアルで会って! 姫乃公園であの時と同じ場所で待ってるから!」

 

 

 そう告げるとつむぎはUnreallyをログアウトする。

 

 ヘッドギアを取り外したつむぎは外出の準備をし、公園へと向かった。

 

 

 彼女が来てくれるのを信じて。

 



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親友

 時刻は午後五時。

 6月の空はまだ夕暮れになるにはまだ早い、すみきった晴れた空。

 

 

 つむぎは姫乃公園の噴水の場所でさやを待っていた。

 

 彼女が来てくれる。そんな保証はひとつもない。

 

 さやはリアルでは関わらないでと言ったのだ。Unreallyでは会ってくれても、現実であってくれるかはわからない。

 

 そうだとしてもつむぎは待つ。たとえ何十分でも何時間でも。

 

 

 そして三十分後、時間が経過した。

 

 

「来てくれたね……」

 

「……」

 

 

 さやが噴水の前にやってきた。無表情で悲しそうな、寂しそうにも思える目をして。

 

 

「どうして……リアルの私を呼んだの?」

 

 

 低く、冷たく震える声でさやは尋ねる。よく聞けばその声はやはり、咲夜と同じだった。

 

 

「黒葛さんと、仲良くなるためだよっ」

 

 

 つむぎは言う。それを聞いてさやはまた前のように、怖い目付きでつむぎを見る。

 

 

「私はあなたとは仲良くなれない……」

 

「でもUnreallyではわたしたち友達だよ!」

 

「現実の私とUnreallyの私は別物……あなたの知ってる咲夜と私は違う」

 

 

 さやの意志は揺るがない。揺るぎようがない。

 だがそれでも、つむぎは諦めない。

 

 

「それは違うよ! リアルの黒葛さんもUnreallyの咲夜ちゃんも、どっちもが本当の黒葛さんで咲夜ちゃんなんだよ。だって心は一緒なんだから……!」

 

 

 さやの言葉をつむぎは強く否定する。

 

 咲夜と過ごしてきたここ数ヵ月の思い出。その楽しい思い出は心の中に残っている。

 

 それはUnreallyを外してリアルに戻っても、残り続けるのだ。

 

 それと同じように心が一緒なら、リアルでもアンリアルでも通じられるはずだ。

 

 

「どうしてそんなに私に拘るの?」

 

「だって咲夜ちゃんのことが大好きだから! それと黒葛さん……ううん、さやちゃんのこともちゃんと知って好きになりたい」

 

 

 はじめてつむぎはさやのことを下の名前で呼ぶ。今まで距離を感じて呼べてなかったが、そんなことはもういい。

 

 自分のありのままの気持ちをさやに打ち明ける。

 

 

 だがさやは背中を向けた。

 

 

「私のことは放っておいて……!」

 

 

 さや少し怒っているように言い、立ち去ろうと歩いていく。

 

 

「放っておけないよ!!」

 

 

 だがこのつむぎの叫びに、さやは反応して立ち止まる。

 

 

「本当は一人でいるのが寂しいんでしょ! 咲夜ちゃん作る曲は寂しくて切ない……誰かにそっと手を差しのべてもらいたい。そんな曲だって聞いててわかるもん! だからわたしは最初、咲夜ちゃんの元へ現れたんだよ!」

 

 

 それを聞いてさやはこちらを向いた。

 

 さやの作る曲はかっこいい。だが歌詞や曲のメロディーを聞くとそのかっこよさの中に、切なさと寂しさが入り交じっているのがわかる。

 

 本当は寂しがりやで、一人でいるのは強がりで輪の中に入りたい。そんな曲だ。

 

 なにより教室で一人でぽつんとしている彼女が放っておけなかった。

 

 

「確かに私の曲はその通り……。けれど無理……もう友達だと思ってた人間に裏切られるのは嫌だ……」

 

 

 その声はトラウマを思い出しているようなそんな怯えた声だった。

 

 

 

「だったらっ!!」

 

 

 

 つむぎは右足を一歩踏み込み叫ぶ。

 

 

「友達って言葉じゃ言い表せないくらいの″親友″になろうよ!!」

 

「親友……?」

 

 

 大きく叫ぶつむぎとは対照的に、さやは小さく呟く。

 

 

「わたしにはね、二人の親友がいるんだ」

 

 

 つむぎは語り始める。

 

 

「一人はひなたちゃんでわたしの幼馴染みなの。引っ込み事案なわたしをいつも引っ張ってくれて、太陽のように明るくてわたしの憧れなんだ」

 

 

 ひなたとの思い出を脳内で振り返りながらつむぎは言う。

 

 ひなたは近所の小さい頃からの幼馴染みでいつも一緒に遊んでくれた。

 

 ときどき意地悪な所があるが、根は人に優しくて困ってる人を放っておけない良い子だ。今のつむぎがあるのは彼女のおかげといってもいい。

 

 

「もう一人はことねちゃん。高校の入学式の日、一人で不安だったわたしに優しく声をかけてくれたのがことねちゃんで。それから友達になっていつも話しかけてくれるの」

 

 

 ことねがいなければクラスで孤立していたかもしれない。そんなことを考えたこともあった。

 

 二人がいなければきっと、つむぎもさやみたいな状況におかれてもおかしくなかったのだ。

 

 

「そんな二人をね。わたしは大切な友達だと思ってる。友達って言葉じゃ足りないくらいに……。だからわたしは二人のことを″親友″って心の中で呼んでるんだ。そしてさやちゃんとも親友になれると思ってる。ううん、もう咲夜ちゃんとは親友だよ。だからさやちゃんのことも、もっと知りたい……ダメかな?」

 

 

 精一杯の気持ちをつむぎは伝えた。

 この気持ちが伝わらずそれでも離れてしまうならもう諦めるしかない。

 

 伝わるかはわからない。

 これ以上の答えはわからない。

 だから信じる。信じてほしいと思った。

 

 

 さやはこちらに数歩進んでくる。

 

「アンリアルの仮面をつけてない私といたって……なにも楽しくない……」

 

「仮面をつけていなくてもさやちゃんの魅力は変わらないよ。たとえ見た目がアンリアルとちがくてもなりたい自分とは真逆でも、心の奥は変わらない」

 

 一歩さやは近づく。

 つむぎとの距離はもう一メートルしかなかった。

 

「本当に私なんかと親友になってくれるの?」

 

「うん。さやちゃんとならきっとかけがけのない親友になれるよ」

 

 

 つむぎは手をさやの方に向けた。

 

 まるではじめて咲夜がつむぎに手を差しのべてくれた時のように。

 

 

「だから今度はわたしが手を差し伸べる番だよ。さやちゃん……わたしと親友になってくれませんか?」

 

 

 じっとさやの瞳を見つめた。さやもつむぎの瞳を見つめる。

 

 

 そしてさやはつむぎの手を握った。

 

 

「これからよろしく……つむぎ」

 

 

 そう言ったさやは、頬を少しだけ緩ませていた。

 

 

「うん、これからわたしたち親友だよ!」

 

 

 笑顔でつむぎは両手でさやの手を握った。

 

 

「リアルの感触って……こんなにも温もりがあるんだね……」

 

 

 さやの目には一粒の涙がこぼれ落ちた。

 

 

 

 ◇

 

 次の日。

 

「おはようひなたちゃん! ことねちゃん!」

 

 朝のHR前。つむぎは二人で話してたことねとひなたに挨拶した。

 

 

「おはようつむ」

 

「おっはよー、なんか今日は元気いいねぇ。最近あんま元気なったのに」

 

 そう言って頭を撫でてくるひなた。

 

 

「えへへ、ちょっといいことがあってね」

 

 

 あの一件が終わりだいぶ心が落ち着き元気になった。

 

 

 するとさやが教室へ入ってくる。

 

 

「さやちゃんおはよう!」

 

「…………」

 

 だんまりしたさやがつむぎの方へ向かう。

 

「おはよう……」

 

 

 しかし小さい声でぽつんと、つむぎだけに聞こえる声でさやは言った。

 

 その声につむぎは嬉しくなる。

 

 

 

 そしてお昼の時間。

 

 

「つむぎーお昼食べよー」

「こともいいかな?」

 

 つむぎの席にひなたとことねがそれぞれお弁当を持って来ていた。

 

 そんなつむぎたちを横目に、隣の席のさやは弁当を片手に教室を出ようとしていた。

 さやはいつも教室以外の場所で食べていた。

 

 

「ごめんね二人とも今日は用事があるんだ」

 

 

 両手を振るようにつむぎは謝る。

 そしてつむぎは席を立ちさやを追いかけた。

 

「さやちゃん一緒に食べよ! どこで食べるの?」 

 

「……屋上」

 

 

 

「めずらしー組み合わせ。つむぎ、黒葛さんと仲良くなったのかな?」

 

「どうなんだろう? 二人で話してるのはじめてことは見たよ」

 

 

 教室から出るつむぎたちを見て疑問に思うことねとひなた。

 

 

「まぁいっか! しゃーないうちら二人で食べよこと「よっすっすーことっち! 一緒にお昼食べよー」

 

 

 二人で食べようとした矢先ひなたの声を遮る声がした。

 

 よく見ると教室の入り口に、別のクラスの女子二人がきていた。

 

 

「ごめんひな、お昼はバンドメンバーで食べることになったみたい。またね」

 

 

 そう言ってことねはひなたの元を去り、二人の少女のいる方に向かった。

 

 

「え? あたしだけぼっち!?」

 

 

 置き去りにされたひなたが一人叫ぶ。

 

 

 こうして変わっていくつむぎたちの現実世界の日常。それは今後、大きな変化をもたらすことになるとはまだ誰も知らない。

 

 



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新人Uドリーマー交流会

 6月の下旬。もうすぐ期末テストの時期。

 

 つむぎは勉強時間を増やしながらもUnreallyでの生活を楽しんでいた。

 

 その代わりアンリアルドリーマーとしての活動は少し控えている。

 

 

 2時間目の授業の終わり、つむぎはDreamtubeを立ち上げる。

 

 趣味の動画視聴の時間だ。登録しているチャンネルの中から新着の動画を漁る。

 

 一つの動画に目が止まる。

 

 

◆告知! 新人アンリアルドリーマー交流会開催します! │七色こころ

 

 

 こころの動画だ。再生時間は短い。

 休み時間にみるのにちょうどいいのでつむぎは、こころの動画を見る。

 

 

「あなたの心は何色? わたしは虹色! 七色こころです!」

 

 

 手を振りながら挨拶をするこころ。

 

 

「最近また新しいアンリアルドリーマーがたくさん増えたんだよ。みんなとても面白くて個性的で、見てて楽しいの~」

 

 

 こころは頬に手を添えて嬉しそうに言う。こころにとってはアンリアルドリーマーのすべてが後輩だ。

 

 だからこそ後輩を見るのが好きなのだろうか。

 

 こころはしばらくしてこほん、と咳をし右手の人差し指を立てる。

 

 

「それで新人アンリアルドリーマーのみなさんに提案です。本日、新人Uドリーマーのみなさんの交流会を開催します。新人Uドリーマー同士交流を持ってフレンドを増やしたい方。時間が空いてる人も、新人Uドリーマーの人は是非来てね!」

 

 それだけ言って動画は終了した。

 

 

「さやちゃん!」

 

 

 つむぎは席を立ち、隣の席のさやに話しかける。

 

 スマホをいじっていたさやはつむぎの方を向いた。

 

 

「あのね、今日新人アンリアルドリーマーの交流会あるんだって!」

 

 

 つむぎは目を輝かせて言った。

 楽しそうなイベントだと思い、同じ新人アンリアルドリーマーをやってるさや、Uドリーマー名小太刀咲夜に話した。

 

 さやはそれをみるとじーっとみつめた後スマホに顔を移しいじり始める。

 

 するとピコンとUINEの音がする。

 

 さや:学校ではUnreallyの話はやめて

 

 そうさやからチャットが来ていた。

 

 

「ご、ごめんねさやちゃん。いきなり話しかけて……」

 

 

 つむぎは謝る。

 確かにリアルでUnreallyの話をするのは野暮だったかもしれない。

 

 ましてやUドリーマーの話をしていたら誰かにさやの正体が咲夜だとばれる可能性もある。

 

 実際はどうなのかわからないが知られたくなければ嫌だろう。

 だがせっかく仲良くなれたと思ったのに直接言葉で言ってくれないのにちょっとしょんぼりとするつむぎ。

 

 

「それはあっちに……言ってから……それ以外の話なら、別に話しかけていい……」

 

「さやちゃん……!」

 

 

 つむぎはぱぁっと顔を明るくする。

 それから休み時間が終わるまで、さやと他愛のない話をした。

 



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出会えるファン

「それで交流会どうする咲夜ちゃん?」

 

 

 放課後、現実世界で夕御飯を食べた後Unreallyにいたつむぎは、咲夜の家に来ていた。

 

 

「私は別に……どっちでもいいよ。つむぎは行きたいの?」

 

 

 咲夜はベッドに座りながらつむぎに尋ねる。

 

 

「うん! だって同期のアンリアルドリーマーと交流できるんだよ! こんな機会をもらえたんだし行きたいよ!」

 

 

 つむぎの目は輝かせていた。

 同時期のアンリアルドリーマーだけでも数百人以上いるだろう。

 

 そのすべてをつむぎは追えているわけではない。むしろ最近は自身の活動であまり新しいUドリーマーを追えていなく、どんな人がいるのかわからなかった。

 

 

「まぁつむぎがそう言うなら私も行くよ」

 

 

 やれやれと呟きながら咲夜は言う。

 

 

 

 予定の時間が近づいてきてから、つむぎたちは交流会が開催される所に一番近い転移ポイントにワープした。

 

 

 転移した場所、ワンダーランドプラネットの空は紫色の夜空だった。ルビーに輝く月がキラキラ輝いている。

 

 開催される場所は野外の広場で行われるらしい。マップを見ながらつむぎたちは移動する。

 

 

「あのっ、つむぎちゃんと咲夜ちゃんですよね!?」

 

「うん? そうだけど」

 

 

 一人の少女がつむぎに声をかけてきた。

 少女はつむぎたちをみて顔を赤くしている。なにやら緊張している様子だ。

 

 

「つ、つむぎちゃんと咲夜ちゃんのファンです!! その、よかったら二人の写真とっていいですか!?」

 

「わたしのファン!?」

 

 

 突然の告白につむぎは驚いた。

 Uドリーマーであるが故にUnreallyで偶然ファンに会うなんてことはありえる話だ。

 

 だがつむぎに会いに来てくれるファンに出会ったことはなかった。

 

 

「はいっ! つむぎちゃんの頑張ってる姿、いつも見せてもらってます! こんなところで会えるなんて……かわいくて大好きです!」

 

「そ、そうかなっ?/// うん、もちろん撮ってくれてOKだよっ」

 

「私もいいよ」

 

「ありがとうございます!」

 

 

 少女は丸いレンズに翼の生えたカメラを出す。そしてつむぎと咲夜が隣合わせになりポーズを撮ると、カシャっと撮影する音がした。

 

 

「ほんと感謝です! 咲夜ちゃんと一緒のところにあたしは邪魔だと思うんでこれで失礼します! ではこれからも応援してますね!」

 

「あっ、ちょっと待って……!?」

 

 

 名前を聞こうと思ったが少女は早口で別れを告げ、姿を消してしまった。メニュー画面で確認しようにも、もう遅かった。

 

 

「ファンかぁ……」

 

「よかったね、応援してくれる子が会いに来てくれて」

 

 

 咲夜が言う。

 つむぎはえへへと照れる。

 

 はじめてファンの子に会って、応援の言葉をもらえた。コメントとはまた違った気持ちが込み上げてくる。

 

 ここでならファンの子の声援が直接聞けて、今までネット越しだったのがリアルのように感じてくる。ファンの子もこの世界でまた生きているのだ。

 

 

 

 ◇

 

 

 徒歩数分。会場へとやってきた。

 ゲートの看板に新人アンリアルドリーマー交流会と書いてある。

 問題なくここで合っているようだ。

 

 奥へと入っていくと人だかりができている。広場のステージだ。

 

 中央に大画面のディスプレイがあり、開始までお待ちくださいという文字が表示されている。

 

 ここにいる人たちがみなアンリアルドリーマーなのだろうか。可愛らしいアイドルのような女の子からマスコットのようなキャラクターまで多種多様で愛らしい子らがいた。

 

 そこに一人、見知った顔があった。

 

 

「あっ、ねねこちゃん!」

 

「にゃっ!? あ、あなたたちも来たのねっ!」

 

 

 少女は声をかけれると猫が驚いたかのように尻尾を立たせた。

 少女はつむぎたちと激闘の対決?をした水無月ねねこだ。

 

 

「ねねこちゃんも来てたんだねぇ」

 

 嬉しそうに言うつむぎ。

 ねねこに再び会え喜んでいる。

 

 

「べ、別にここに来たら友達ができるかも……とかそんなんじゃなくて……そう! 暇だったから! 暇だったからちょうど暇を潰せるイベントに参加しただけよ!」

 

 

 誤魔化すように、ふん! と言うねねこ。

 本心は友達が欲しいのだろう。それが彼女の素直じゃない性格の特徴だ。

 

 

「えへへまた会えて嬉しいよぉ」

 

 

 にこにこ笑うつむぎ。

 

 

「そ、そうね。これもなんかの縁だしと『ピンポンパンポーン』

 

 

 ねねこの言葉を遮るようにアナウンスが聞こえる。

 

 するとディスプレイの映像がかわる。

 新人アンリアルドリーマー交流会とかわいいロゴが表示された。

 

 ディスプレイにはぴょこんと少女が映る。

 

「あなたの心は何色? 七色こころだよ! わたしの大切な後輩ちゃんたちこんにちは!」

 

 七色こころが画面から、そこにいた新人Uドリーマーたちに挨拶をしてきた。

 

「今日は集まってくれてありがとね! みんなデビューして数ヵ月。色々大変だったり楽しかったりする時期だよね。だから今日はそんなみんなで意見交換や交流をして仲良くなっちゃおうと大先輩のこころちゃんは考えたのです!」

 

 

 えっへんといった風に人指し指を鼻元に当てるこころ。

 

 

「交流会、パーティーって事で今日はわたしがみんなにごちそうしちゃうよ! 今そっちに行くね!」

 

 

 そしてこころは画面から出てきた。

 言った通りに。

 こころの実体が画面から物理的に出てきたのだ。アンリアルだからできる芸当だ。

 

 

「ごちそーよ、出てこーい!」

 

 

 パチンとこころは指を鳴らす。 

 

 すると広場の床が開き、そこから食べ物が上へと上がってきた。

 

 

「アンリアルだから食べ放題飲み放題。体重を気にしなくてもよし。それではジュースを片手に~」

 

 

 こころはコップを取り出した。中にはオレンジジュースが入っている。

 

 それらはつむぎたち方へも現れ空中にオレンジジュースが入ったコップが浮いている。

 皆こころの合図に従い、コップを手に取る。

 

 

「では乾~杯!! 後ろのディスプレイではここにいる参加者の動画を流すよー」

 

 

 乾杯の合図でパーティーは開催された。

 同時にディスプレイでは動画が流れる。

 

 最初に流れてきたのは咲夜のMVだった。

 

 

「いきなり私の動画か……照れるな」

 

「ふん、いいじゃない。素敵な曲なんだから……まぁ客観的にみてだけどっ」

 

 

 相変わらず後付けで素直じゃないねねこ。

 本音は駄々漏れである。

 

 

「そうだよ! 咲夜ちゃんの曲はかっこよくて素敵なんだぁ! あっそうそう、ねねこちゃんのティンクルスターの曲歌ってみたも可愛くて好きだよ」

 

「えっ、見てくれたのっ?// 昨日出したばかりなのに……ありがとっ」

 

 

 顔を赤くしてお礼をするねねこ。そんな姿が愛らしい。

 ねねこはもじもじと尻尾をハートにしている。

 

 

「その……さっきいい逃したけど……と、友達になっ「すみませーーーーん! 遅刻しましたーーーー!」

 

 

 またねねこの言葉を遮るように大きな声がした。

 

 

「も、もうなんなのよさっきから!! って!? なにあれ!?」

 

 

 怒ったねねこが声の方を見て驚く。

 つむぎも声がする上の方を見る。

 

 

「そ、空に女の子が!?」

 

 

 なんと空中に、空高く飛行している一人の少女がいた。

 



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不幸なメンヘラアンドロイド

「いやー鳥にいじめられててここまでくるのにたいへんだったよー。ふんふん」

 

 

 空で飛行している少女は言いながら広場に降りてきた。

 

 手の平や足からはガスバナーのように青い火が噴出しており降りるにつれてその威力は弱まっていった。

 

 

「ウチは試作品ナンバー000、零式。みんな気軽にしきって呼んでー!」

 

 

 少女はみんなに大きく手を振ってそう叫んだ。金髪で金色の瞳をした少女だ。目元には金色に光る縦線が入っている。

 

 胸元の中心には青くて丸い、水晶のようなものが埋め込まれていた。

 

 

「あ、あれ……お、おかしいな。み、みんなー?」

 

 

 みんなぽかーんと口を開き沈黙していた。

 状況は入学式のクラスの自己紹介で広大に滑る人のようだった。実際は突然空から現れてきたしきと名乗る少女に皆驚きを隠せなかった。

 

 アンリアルだから不可能ではないが、あんまり見ない光景だ。

 

 

「な、なんか失敗しちゃった……? あぁ……やっぱりウチなんかと仲良くしてくれる人なんていないよね。遅刻してきたし根暗だし不幸だし……」

 

 

 しょんぼりと顔を下にするしきは、ぼそぼそとネガティブな呟きをしはじめた。

 

 ますます空気が重くなる。

 

 この気まずい状況、誰が変えてくれるか──

 

 

「しきちゃんっていうんだねっ! ねぇ、さっきの飛行ってどうやったの!?」

 

 

 つむぎが目を輝かせ、しきの前に来て言った。

 つむぎは気まずい雰囲気よりも好奇心が勝り、話しかけていた。

 

 するとしきはしょんぼりした顔から明るくなっていく。

 

 

「ウチのボディ気になるなる!? ふんふん! ウチは高性能なアンドロイド! その高性能なパワァァで、飛行できるの!」

 

「やっぱりアンドロイドなんだね! かっこいい!! わたしつむぎっていうの、よろしくね!」

「よろしくつむぎー!」

 

 二人はいつの間にか握手をして仲良くなっていた。

 

 

「うんうん、無事仲良くなれたみたいだね!」

 

 

 これまでの様子を見守り黙っていたこころが喋りだした。

 

 

「交流会は途中参加もOKだから遅刻しても大丈夫だよ! せっかくだし次はしきちゃんの動画を流すね」

 

 

 そうしてディスプレイはしきの動画を映し出す。

 

 

◆気ままにドライブ!!【安全運転】│零式.しきちゃんねる

 

 

「はいはーい! 試作品ナンバー000、零式。しきちゃんだぞ! 今日はウチの好きなドライブでみんなにサイバー素敵な風景を届けるんだぁ。ふんふん!」

 

 

 住宅街をバイクで走るしきが映っている。

 白と黄色でデザインされたバイクだった。

 

 

「バイクって気持ちいいんだよ。風が心地いいの。ウチ、前から車載動画とかキャンプ動画とか見てそういうの好きなんだー」

 

 

 走りながら楽しそうにしきは歌い始める。

 

 

「るるんららるん~るるんららるん~」

 

 

 女の子がバイクでドライブをしている光景。これはほのぼのとしてていいものだ。

 

 

 

 そう思っていたが……

 

 

『アホーアホー』

 

「げえぇ!? カラス!?」

 

 

 自体は一変した。10羽以上のカラスがしきのところに集まってきた。

 

 

「ちょっやめっ! いたっ! あばっ!」

 

 

 アホーアホーと言いながらしきをつつくカラスたち。

 それに涙目になりながら運転を維持しようとするしき。

 

 

「このままじゃぶつかるーーー!!」

 

 

 ハンドルを操作することもブレーキをかけることも、カラスたちの妨害でできずバイクはそのまま住宅街の壁に追突する。

 アンリアルの壁は壊れず、変わりにしきの顔が思いっきり壁に衝突した。

 

 追突するまえにカラスたちは図ったかのように去っていた。

 

 

「うぅ……今回もだめだったよぉ」

 

 

 ほぼ半泣きのしき。衝突した顔面は真っ赤になっていた。

 バイクは倒れ、黒い煙を上げている。

 

 するとしきは壁に寄り添い。体育座りをした。

 

 

「はぁ……やっぱウチは不幸なんだ……ガチャ課金したのに爆死したし、テストは赤点だし、せっかくのバイクがまた故障だし鳥には散々いじめられるし……だれもウチを愛さない」

 

 

 ボソボソと呪いでも唱えているかのように言うしきは目が死んでいた。

 演出なのかまわりが負のオーラで漂っている。

 

 

 そして彼女は言う。

 

 

「もういいや……自爆しよ」

 

 

 真ん中のコアのような水晶が光輝く。

 

 刹那───

 

 

 ドカーーーーーン!!

 

 

 しきは爆発し動画にはご視聴ありがとうございましたと書いてあり終了する。

 

 

 

「なんで爆発したの!?」

 

 

 つむぎはしきに問う。

 

 

「え、だってウチロボット、アンドロイドだし自爆くらい普通にできるし……」

 

「そうじゃなくてなんで自爆する意味があったの!?」

 

「いやだって爆発すると気持ちいいでしょ?」

 

「爆発経験前提で言われても……」

 

 

 言葉のキャッチコピーができてなかった。

 

 

「ウチ、一度気分が落ち込むと、とことんネガティブになって爆発するとその感情も爆発してすっきりすんだ」

 

「そ、そうなんだ。ロボットってことはビームとかも出せるの?」

 

「そんなことしないよ! ウチの博士が作るマシンは環境に優しい、攻撃目的のものは作らないんだぞっ」

 

「自爆はするのに!?」

 

 

 それはいいのかとツッコミたくなるつむぎ。

 

 

「つむぎ、よく初対面の人とあんなに話せるね……」

 

「ほんとよ……いきなりあのテンションで来られたときはびっくりしたわ」

 

 

 ねねこと咲夜はひそひそと会話をしていた。

 つむぎの興味あるものへの行動力は凄い。

 

 それは二人とも実感している。

 

 

「あっ咲夜ちゃん、ねねこちゃん、二人もこっちにおいでよ!」

 

「えっ……?」

「にゃっ!?」

 

 

 影で見ていた二人はつむぎの発言に戸惑う。

 

 

「紹介するね! 咲夜ちゃんとねねこちゃん、わたしの友達なんだぁ」

 

「と、友達になった覚えないわよっ!」

 

 

 しきに紹介するつむぎ。それを恥ずかしそうに否定するねねこ。やれやれといった表情で目をそらす咲夜。

 

 

「よろしくねねこー、咲夜ー!」

 

 

 笑顔で二人に声をかけるしき。

 

 

「よろしく……」

 

「ふ、ふんっ……よ、よろしく」

 

 

 テンションが高いしきとは気が合わなそうな二人だった。

 



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新しいフレンド

 その後交流会が続く。

 ごちそうを食べておしゃべりをする者。

 おすすめの動画を紹介しあう者。

 様々な者がいた。

 

「みんなはさー、どうしてUドリーマーになったの?」

 

 しきがチキンを片手につむぎたちに聞いた。

 

 

「あたしはティンクルスターのようなアイドルになりたくてなったのよ」

 

 

 髪を撫でて言うねねこ。

 ねねこは確かに自己紹介動画でそのようなことをいってたのをつむぎは知っている。

 

 最近は歌も練習しているらしい。

 昨日投稿された歌ってみた動画はその証だ。

 

 

「へぇー、ちなみにウチはウチの作ったマシンをたくさん見て貰いたいんだ! そんでもって人気者になっていっぱい再生数とスマイルをもらいたい!」

 

 

 後半はうへへといいながら欲望を駄々漏れにさせるしき。

 

 

「どんなマシンを作ってるの?」

 

 つむぎが問う。

 

「いろいろあるよー。バイクに掃除ロボ、他にどっきりマシンや今も絶賛いろいろ作ってる~。」

 

 今度見せるよーとしきは言った。実際彼女の作ったものは見てみたいと思う。

 

「次は私の番かな」

 

 咲夜はジュースを片手に言う。

 

「私は自分の音楽を残したいから、かな。ただそれだけの理由ではじめたよ」

 

「咲夜作曲できるのー!? すっごーい!」

 

「まぁそれメインで活動しているからね」

 

「そっかーじゃあ最後につむぎはー?」

 

 

 視線がつむぎに向けられる。

 それを見て最後と言うことにちょっと緊張するつむぎ。だがふと咲夜と目があった。

 

 それで少しだけ気が緩む。

 

 

「わたしはね……」

 

 

 ゆっくりと話はじめたつむぎ。

 

 

「わたしは……咲夜ちゃんがいたからはじめたんだ」

 

「咲夜がー?」

 

「うん、咲夜ちゃんに出会ってなければきっとわたしは……アンリアルドリーマーになってなかったから」

 

 

 事実だ。

 咲夜があのとき、手を差しのべてくれなければきっと自分はただの視聴者で終わっていたかもしれない。

 

 あのとき咲夜に会えてほんとうによかった。

 

 

「私も同じだよ……」

 

 

 咲夜が言った。

 

 

「つむぎに出会えてなければ今の私がいないのは事実だから……きっと殻にこもったままの自分で居続けた。だからありがとうつむぎ」

 

 

 真剣な目でつむぎを見て言った咲夜。

 それに少し照れそうになるつむぎ。

 

 

「へー二人とも仲良いねー」

 

「うん、だって……」

 

 つむぎは間を開けて言う。

 

 

「咲夜ちゃんは大切な″親友″だから!」

 

 

 親友。それはつむぎにとって友達と呼ぶには物足りない相手への愛称だった。

 

 

「ふーん、いいわね……やっぱさ……つ……さ……こ……」

 

 

 ねねこはなにかをボソボソと言っていた。

 

 

 ピンポーンパンポーン。

 

 

 アナウンスの音がする。

 

 

「はいみんな今日はどうだったかな? 楽しかったかな?」

 

 

 ステージの中心にこころがいた。

 

 

「今回は時間も時間なのでこれで交流会は終了です。これからもみんなアンリアルドリーマーとして頑張っていこうね!」

 

 そう言ってディスプレイはイベントは終了しましたと文字を流していた。気付けば食べ物と飲み物も無くなっている。

 

 約1時間から2時間に及ぶ交流会が終わりを告げようとしていた。

 

 

「もーおわりかぁ」

 

 つむぎは物寂しそうに言う。

 参加者は次々に外へと出ていく。

 

 楽しい交流会も時間がたつのが早かった。

 

 

「そ、それじゃあねあなたたち……こんどいつ会うかわからないけど……」

 

 

 ねねこは寂しそうに、震えた声で立ち去ろうとする。

 その背後はもう二度と会うことの無さそうな切なさを漂わせている。

 

 

 なにかを忘れているような……

 

 

「あ!? まってねねこちゃん!」

 

 つむぎはねねこを呼び止める。ねねこはふりむく。ねねこは不安そうな顔で尻尾をしならせていた。

 

 

「フレンド! フレンドになろうよ!」

 

「あ、あたしとフレンドに!?」

 

 

 ねねこは尻尾を立たせる。

 

 

「フレンドになればまたすぐ場所が分かって簡単に会えるし……なにより本当は、前の配信でなりたかったんだよね。もうすっかり友達になったと思ってて忘れちゃってた」

 

 

 これが忘れていたことだ。

 ねねこはずっと待ってたのかもしれない。こう言われることを。

 

 素直じゃないが今回。彼女の本当の目的は友達を作ることだ。だったら自分がなってあげたい。

 

 悲しそうにしてる彼女を友達になって支えてあげたい。

 

 

 ねねこは頬を赤くした。その自分の顔に気づいたのかねねこは顔をそらす。

 

 だがなにかを決めたのか、顔を赤くしたまま彼女はつむぎを見つめる。

 

 

「ふ、ふん……仕方ないからなってあげるわよ。……ありがと//」

 

 

 ねねこからフレンド申請がくる。

 もちろんつむぎはそれにはいと選択をする。

 

 

「私も送るよ。せっかくの機会だからね」

「ウチもウチもーー。ていうかみんなに申請送るーる!」

 

 

 それぞれが指でメニューボタンをいじりフレンド申請を送り合う。

 つむぎも申請されたしきのフレンドをはいと選択した。

 

 

「これでみんな友達だねっ!」

 

 

 にこりとつむぎは笑った。

 



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もっと非現実的な日常を

 7月。

 期末テストが終わり、もうすぐ夏休み。Unreallyで過ごす時間が増えたつむぎ。

 

 今は自分の家で咲夜とのんびり過ごしている。 部屋は最初の頃はだいぶ質素だったが、こっちの世界のお金を貯め、テレビや絨毯、ソファを購入しそれなりにいい感じの部屋ができつつある。

 

 二人はソファーに座りテレビで動画を見ていた。

 

 

◆スカイダイビングしてみた! │もふもふあにまるず

 

 

「良い子のみんなー元気にしてるか! もふもふあにまるずリーダーのウルだ!」

 

「スゥでーすよー」

 

「シマリけん」

 

 

 お馴染みの挨拶から開始されるもふあにの動画。三人はヘリの中に乗っていた。

 

 

「今回はスカイダイビングばするばい!」

 

「今度は落ちるのか……嫌な予感がするぞ」

 

 

 前の動画でウルは月まで大砲で飛ばされている。それを思い出したのか嫌そうな顔をしていた。

 

 

「大丈夫でーすよー。今回は私たちも一緒に落ちますのでー」

 

「ほんとうか? 本当だなっ!?」

 

「心配しなくても大丈夫ばい。一人にしないとよ」

 

「ならいいぜ! どんな条件でもばっちこーい」

 

 

 いつもの元気を取り戻すウル。左手で右手の拳を受け止め調子良さそうに言った。

 

 

「今回のスカイダイビングは高度10kmからのダイビングでーすよー」

 

 

 ヘリのドアが開く。下には雲が雪のように地を覆っていた。

 

 

「うぅ……ちょっと怖かと……」

 

「ふふん! こんくらいあたいにしてみればちょろいぜっ!」

 

 

 尻尾をしならせているシマリとは裏腹に元気に声を出すウル。

 

 

「準備はいいでーすかー? それではちゃんとパr───」

 

「それじゃあたいが先に突撃だぁーー!」

 

「あ、ちょっと!?」

 

 

 スゥの言うことを最後まで聞かず、一番乗りに空へと落下するウル。

 

 カメラはそのウルの落下していく姿を追っていく。

 

 

「うおおおおおおお!」

 

 

 顔や髪が荒ぶりすごいことになりながらもウルは前回ので慣れたのか、少し楽しそうにしているようにも感じる。

 

 

「意外といいもんだなこれ!」

 

「あのーおおかみさん……?」

 

 

 遅れてやってきて、画面に映るスゥとシマリ。

 二人はゴーグルをしていた。スゥはなぜから前髪越しからゴーグルをしていて相変わらず目が見えない。

 

 それでほんとうに見えているのだろうか。

 

 シマリはきゃあぁと叫んでいた。

 雲を突き進み、地上が見えてくる。

 

 

「なんだよスゥ! 今さら怖じ気づいたか!?」

 

「いやーそのでーすねー……大変申しにくいのですけど……パラシュート、つけてますか?」

 

「へっ?」

 

 

 その瞬間、ウルの表情は凍りつく。

 よく見るとシマリとスゥはパラシュートを背負っていた。

 

 だがしかしウルの背中には───

 

 

「それ先に言えよおおおおお!!!」

 

 

 パラシュートはついてなかった。

 

 スゥとシマリはしばらくしてパラシュートを開き、落ちる速度は遅くなっていた。

 

 ウルはそのまま変わらずの速度で落下していく。

 

 

「ぐおおおおおおお!」

 

 

 半泣きになりながら、ウルは叫ぶ。

 

 もの凄い勢いでウルは隕石が落下するかのように砂浜に追突した。ウルは顔を砂浜に埋める。

 

 

「おおかみさん大丈夫でーすかー?」

 

 

 しばらくした後、パラシュートで着地したスゥとシマリはウルの方へと駆けつけていった。

 

 ウルは顔を引っ張るように両手に力を入れていた。

 

 

「ぶはっ!! 大丈夫なわけあるか!! アンリアルじゃなきゃ死んでたぞ!!」

 

「ちゃんと最後まで聞かないでパラシュートを使わなかったウルが悪かばい……」

 

 

 砂だらけの顔を大きく振り払うウル。

 それを呆れたような顔でウルを見るシマリ。

 

 

「みなさんはスカイダイビングをするときはちゃんとパラシュートを使って安全にやりましょーねー」

 

「いやそれあたりまえやけん!」

 

 

 スゥが手を振って動画は終了した。

 

 

 ◇

 

 

「あはは、ウルちゃんほんと面白いよね!」

 

「うん、そうだね」

 

 

 つむぎは笑顔で隣に座る咲夜に言う。

 それに口を緩めて返す咲夜。

 

 

「わたしもああいう面白い企画したいなぁ」

 

「具体的にどんな感じのやつ?」

 

「うーんとねっ、もっと日常的じゃない非現実的な。ファンタジーっぽいかんじのなんか!」

 

 

 つむぎは言う。

 今までにないような動画が撮りたいとつむぎは思っていた。

 

 スイーツプラネットの時のような楽しいことをやってみたい。

 

 

「それなら実際に剣や魔法があるファンタジーの世界に行く?」

 

「出来るの!?」

 

 

 咲夜の提案に目を光らすつむぎ。

 

 

「うん、行けるよ。Unreally屈指の人気VRゲーム ″アンリミテッドファンタジア″ に」

 



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異世界転移しちゃいました!?





「んん、ここがアンリミテッドファンタジア……?」

 

 

 転移の光で眩しかった視界が見えるようになり、はじめて来た場所につむぎはまわりを見渡す。

 

 そこは祠なのか。祭壇のような場所であった。

 つむぎたちがいる地面には青く光る魔法陣が描かれている。

 

 目の前には魔法使いらしい老人が一人いた。

 

 

「おお、成功じゃ! ようこそいらっしゃいました異世界からの勇者様!」

 

 

「勇者!? わたしが!?」

 

 

 つむぎに向かって老人が言った、いきなりの発言につむぎは驚く。

 

 

「はい、あなたは異世界より私が召喚した勇者です。その力で世界を脅かす魔物たちを倒してください」

 

「わたしが異世界に召喚……もしかしてこれが噂の異世界転移!?」

 

「あってるけど半分違うよ。ここはUnreallyのVRゲーム、アンリミテッドファンタジア。異世界転移によって召喚されたのがわたしたちプレイヤーっていう設定なんだ」

 

 

 つむぎの誤解を解くために咲夜は説明をする。

 さすがにほんとうに異世界転移したわけではないらしい。ちょっとがっかりなような安心したような気持ちになる。

 

 

 すると画面に初期の時点での職業を選択しますと表示された。

 

 職業は戦士、魔法使い、僧侶、弓使いなど色々ある。職業によって使える魔法、ステータス、スキルが変わるようだ。

 

 つむぎはどうせならファンタジーらしく魔法が使いたいと思い魔法使いを選択した。

 

 職業を選択した後、ストーリーと思わしき老人との会話が進む。

 

「まずは北に向かって行ってくださいませ。そこに王都グランゼシアがあります。ではわたしはこれで失礼します。良い冒険を……!」

 

 そう言い残し老人はその場を立ち去った。

 

 

 ◇

 

 祠を出たつむぎたち。

 外は草原で目で見える遠い場所に街らしきものが見える。

 

 

「じゃあ北へ向かって進もうか。……っとその前につむぎ、メニューを開いてみて」

 

 

 つむぎは、咲夜の言われるがままにメニューを開く。

 するとステータスと所持金が表示される。 

 

 名前:麗白つむぎ

 職業:魔法使い レベル1

 取得魔法、スキル:メラメラファイアー

 所持金:1000G

 

 アイテム

 普通の杖

 ポーション×10

 

 以上の項目が追加されている。

 UnreallyだがUnreallyとは別のシステム、これがUnreally内にあるVRゲームのシステムなのか。

 

「Unreally内にあるVRゲームはプラネットとかとちがってそれぞれの世界観や設定があるから普通に過ごしてるプラネットとは別のシステムが使われてるんだ。だからUnreallyにはない制限があったりしてなんでもありってわけではなかったりするよ」

 

「そうなんだね」

 

 咲夜の説明につむぎはうなずく。

 

「まぁとりあえず、街につくまではここらへんの魔物と戦ったり素材を集めてゲームになれるといいよ」

 

 そう言って咲夜はハンドガンを取り出した。

 それはファンタジーというにはサイバーチックで世界観とは違った雰囲気がある。

 

 

「それもアンリミテッドファンタジアの武器なの?」

 

「ううん違うよ。これは別のゲームで手にいれた武器、本来存在しない武器だよ」

 

「そんなの使って大丈夫なの!?」

 

 

 つむぎは驚く。違反行為にならないのか。

 だが咲夜は安心してと言う。

 

 

「アンリミテッドファンタジアはVRゲームの中でもなんでもありな設定。異世界転移って設定を利用してプレイヤーは結構自由なプレイスタイルで戦うことができるよ。Unreally内のすべてのアイテムがこっちでも使えるんだ。逆にこっちで覚えた技をいつもいるワールドでも使えたりするよ」

 

「そっか、つまり異世界チート的な感じなんだ」

 

「まぁそんなところ。つむぎにもいいアイテムがあるでしょ? 特別なやつ」

 

「いいアイテム……あっ!?」

 

 つむぎはふと思い出す。

 そこでアイテム欄からUnreally共通のアイテムを使うを選択し。取り出す。

 

 

「いでよ! マテリアライズペン!!」

 

 

 つむぎは一つのペンを召喚する。

 

 描いたアイテムを具現化させアイテムにする万能なペン。マテリアライズペンだ。

 つむぎは天高くマテリアライズペンを掲げる。

 

 そしてつむぎはせっかくならと、あるアイテムをペンで描き始める。

 大好きなアニメを思い浮かべてもしかしたらと思い描いていく。

 

 

「できた!」

 

 

 つむぎは紙を見せた。

 それはオブジェクトとなりつむぎの手に渡る。

 

「マジカルルビーの武器、マジカルステッキ!」

 

 嬉しそうにつむぎは叫ぶ。

 

 魔法少女キララマジカルの主人公の使う武器。マジカルステッキだ。先端にはハートになっているかわいらしい魔法少女の杖。

          

 

「これで魔法少女になれるよ!」

 

 

 つむぎは嬉しそうに杖を抱き締めて言う。

 そして意を決して、杖を右手で持ち前に向ける。

 

 今ならいける。

 

   

「ふふっ、いっけー! マジカルレッドスプラッシュ!!」

 

 

 そして杖は光だし光のビームを発射──

 

 

「ゲコッ」

 

 

 せず、蛙のような鳴き声だけがした。

 

 

「あれぇ? おかしいなどうして?」

 

 

 きっとキララルビーのマジカルレッドスプラッシュが発動すると思ったのになにも起こらない。

 

 

「つむぎ、そのアイテム鑑定してみて」

 

「うん?」

 

 

 咲夜が言う通りアイテムの詳細を見てみる。

 

 

 マジカルステッキの表記は名前は普通の杖で性能も普通の杖と同じだった。

 

 

「なんで……? なんでもありなんじゃ?」

 

「オリジナルの技や武器って一から作る場合いろいろお金やアイテムが必要なんだよ。アイテムに能力を入れるならその情報を入れないとね。まぁ自由だけどそこまで簡単じゃないってこと」

 

「そっかぁ残念……でもいいや! せっかくだからわたしこの武器使うよ!」

 

 

 マジカルステッキを強く握ったつむぎは宣言する。マテリアライズペンの性質上この杖は一日も保たず消滅するだろう。

 

 それでもせっかく魔法使いでマジカルステッキを手に取ったのだ。思う存分使いたい。

 

 まだ見ぬ大地と冒険を胸に冒険者つむぎの旅が始まった……!

 



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つむぎ、チート能力得る

 草原の風が心地よく身体に当たる。

 

 目的地の街に向けてつむぎたちは歩き出していた。

 

 するとガサゴソと草むらから物音がする。

 何かが飛び出してきた。

 

 

「あれは……!? スライム!」

 

 

 それは青くて丸いかたまりの、柔らかそうなスライムだった。

 RPGでお決まりのモンスターだ。

 

 ぷよんぷよんと体を揺らしながらピギィと鳴き、スライムはつむぎたちの正面にくる。

 

 

「かわいい~」

 

 つむぎは向かってきたスライムを人差し指でつつく。

 

 ぷるんとスライムの体が振動する。

 見た目通り柔らかい性質だった。

 スライムは怖がりながらもこちらを見つめていた。

 

 

「こんなにかわいいなんて倒せないよー。ね、咲夜ちゃ──」

 

 

 バン! バン!

 

 つむぎが咲夜の方を向いたとき咲夜は銃弾を撃っていた。近くにいたスライム二体に。

 銃弾をくらったスライムは目を×にして消滅した。

 

 

「ピギィ!!」

 

 

 つむぎの手にいたスライムは恐れおののき、つむぎの手を離れ逃げていく。

 

 

「なにしてるの咲夜ちゃん!?」

 

「なにって敵だから倒したんだよ?」

 

「かわいそうだよ!?」

 

「いや……でも倒さないとレベル上がらないし」

 

「そりゃそうだけど……」

 

 

 するとつむぎのステータスに変化があった。

 レベル2になっていた。自分では倒してないが、咲夜と一緒にいたからだろうか。

 ちょっと複雑な気分だ。

 

 

 

「悪いモンスターばかりとは限らないでしょ? ちゃんと悪いモンスターか判断して倒そう」

 

「まぁつむぎが言うならそうするよ」

 

 

 咲夜は納得してくれる。

 この世界のモンスターだってこの世界で生きているんだ。だったらちゃんと命を大切にしたい。

 

 

 しばらく歩いているとまたモンスターが現れた。こん棒らしき武器を持った怖い顔のモンスターだ。

 

 おそらくゴブリンだ。

 

 

「ゴブゴブッ」

 

 

 ゴブリンはつむぎに向かって襲いかかってくる。

 

 つむぎはとっさにマジカルステッキを相手に向けた。

 脳内に一つの言葉が現れる。それをつむぎは唱えた。

 

 

「メラメラファイアー!」

 

 

 杖から魔法が放たれる。

 言葉を唱えることで魔法が使えるみたいだ。

 

 

「ゴブー!」

 

 

 ゴブリンの顔面が燃える。火傷を追いひどく怒っている。あばれてこん棒をあちらこちらに振り回してくる。

 

 

「メ、メラメラファイアー! メラメラファイアー!」

 

 

 そんなゴブリンにつむぎは容赦なく魔法を唱えた。

 炎の連撃がゴブリンを襲う。

 

 

「ゴブゴブゥ!」

 

 

 ゴブリンは炎に焼かれ消滅していった。

 

 

「躊躇なくぶっぱなしたね」

 

「だって襲いかかってきたし、可愛くないんだもん!」

 

「かわいくなければ倒していいんだ……」

 

 

 そんなこんなでつむぎたちは道中襲いかかってくるモンスターを倒していく。

 スライムはかわいそうなので倒さないという約束をして。その代わり多くのゴブリンが犠牲になっていった。

 

 

 

 

「やっとついた!」

 

 

 30分が経ち、ついに老人が行ってた王都グランゼシアについた。

 

 街は外壁に囲まれており、門番の兵士に入国許可をもらってから王都へと入っていく。

 入国するとき兵士は礼をして歓迎してくれた。

 

 

 街は中世で洋風な建物が建っている。

 木造から石材を使ったようなもの、レンガで建ててあるものさまざまな種類の建築物がある。

 

 奥には大きな城が見えた。

 

 外では食べ物を売るNPCらしき街の住人がいる。新鮮な果物や野菜。出来立ての串焼きなどそのすべてがリアルのようだ。

 

 

「ほんとに、異世界に転移してきたみたいだね!」

 

「そうだね」

 

 

 隣にいた咲夜が相槌をくれる。

 

 

「いろいろ見て回りたいけどお金はー……」

 

 

 つむぎはメニュー画面を見る。

 

 レベル7

 職業:魔法使い

 所持金:1200G

 

 と表示されていた。

 

 

「1200Gあんまり買い物はできないかなぁ……これからの冒険のためになに買えばいいかな咲夜ちゃん?」

 

「うーん……とりあえず防御面が不安だから防具屋にいくのがいいと思うよ」

 

「わかった! じゃあ防具屋だね!」

 

 

 防具屋に行くことを決め二人は歩みだす。

 防具屋は意外と早く見つけることができた。

 看板に盾のマークがついており、わかりやすかった。

 

 

「いらっしゃいませー」

 

 

 眼鏡をかけた女性の店員があいさつをしてきた。

 

 

「あのっすいません、魔法使いが装備するのにおすすめの防具ってありませんか? できれば1000G以内で!」

 

「予算1000Gで魔法使い用の防具ですね。それならこちらへ」

 

 

 店員は一つの防具の方へ案内する。

 それは黒いローブだった。

 

 

「魔女のローブです。防御力だけではなく魔力も上がるすぐれものですよ。試着してみますか?」

 

「はい!」

 

 つむぎは試着してみることにする。

 ローブに触る。するとその瞬間ふわっと体が浮く。

 

 見てみると一瞬でつむぎは魔女のローブを着ていた。

 

 

「わぁ……」

 

 

 つむぎはカメラで確認しながら衣装を見る。

 それは魔女らしく着ているだけで魔法使いと分かりやすかった。

 

 ステータスを確認する。

 

 防御力+15

 魔力 +5

 

 

「うん装備としてもいい感じ! これください!」

 

「ありがとうございます。850Gです」

 

 

 その会話でメニューの所持金が1200Gから350Gにへと減っていた。

 

 会話で購入が確定するらしい。いちいち現金を出す手間が省けて良かった。

 

 

「咲夜ちゃんはなにか買う? Unreallyにいるときの姿だと防御力ほとんど0だよね?」

 

 つむぎは咲夜に問う。

 ステータス画面をみて気づいたが、Unreallyにいるときのいつもの服装は防御力が0だった。

 

 だが咲夜は首を横に振る。

 

 

「私は重ね着してるからこれでもちゃんと防御力はあるんだ」

 

「重ね着?」

 

「こっちのゲームは見た目と防具の性能を分けることも可能なんだよ。ちょっとお金は掛かるけど、おしゃれがしたい人は強い防具に見た目重視の重ね着をしている人が多いね」

 

「へぇ」

 

 

 そういえばスマホのMMORPGで見た目装備ガチャみたいなのがあった。たぶんそういうのと同じ仕組みなのだろう。

 

 

「なんか他にもないかなぁ」

 

 

 つむぎは店のなかを見渡す。

 

 

「あれはっ!?」

 

 

 一際神々しく光る盾があった。

 真ん中に青い宝石が埋め込まれ、天使の翼が模様として描かれている盾だ。

 

 

「お客様お目が高いですね! これはラファエルの盾! 今日入荷したばかりの当店で一番の目玉商品です」

 

 

 店員は目を輝かせて言う。

 

 

「あのー……これってお値段は……?」

 

「こちら50000Gでございます!」

 

「ご、50000!?」

 

 

 その値段につむぎは頭がくらっとした。

 とてもじゃないが買うのは不可能だ。

 

 

「いいなー、欲しいなぁ……そうだ!」

 

 

 つむぎはなにかをひらめきマテリアライズペンと紙を取り出す。そして、ラファエルの盾を見ながら絵を描き始めた。

 

 数分後。

 

 

「できた! ラファエルの盾! 見た目だけでもこの盾を今日は使おう!」

 

 

 完成したイラストはラファエルの盾だった。

 それはラファエルの盾そっくりにオブジェクトとして現れる。

 

 

「お、お客様!?」

 

「つ、つむぎそれアイテムの詳細みて……」

 

「へっ……?」

 

 

 驚く二人。店員はいきなりのことにびっくりしたのだろう。

 だが咲夜は別の方向で焦っているように見えた。

 

 

 つむぎはきょとんとしながら手にしたラファエルの盾を見てみる。

 

 アイテム名:ラファエルの盾

 防御力:255

 スキル:属性ダメージ軽減

 

 それは紛れもないラファエルの盾そのものだった。

 

 つむぎはそっくりそのまま描いたためアイテムとして複製に成功したのだ!

 

 

「お、お客様それはい──」

 

「し、失礼しましたぁぁぁぁぁぁ」

 

 つむぎは複製したラファエルの盾を持ったまま咲夜と一緒に店から逃げるように出ていった。

 

 

「はぁはぁ……」

 

 

 息を上げ走り疲れるつむぎ。同じく咲夜。

 

 二人は防具屋から離れるのにそれなりの距離を走った。

 

 

「さ、さ、咲夜ちゃんど、どうしよう! 装備持ち逃げしちゃったよぉ~」

 

「お、落ち着いてつむぎ……」

 

 

 つむぎは涙目になりながら言った。それを静めようとする咲夜。

 

 

「それはつむぎの能力だから別に違反じゃないよ。どうせ明日には消えてるだろうし。まぁ店員の前でいきなり召喚させるのはいらいろまずかったけど……でも、そうだな……」

 

 

 すると咲夜はなにかを考え込む。

 

 

「高いアイテムを描きまくって複製して、それを売れば儲かるんじゃ「それは流石にやっちゃだめだよ咲夜ちゃん!!」

 

 

 恐ろしい事を考えていた咲夜だった。

 もちろんやろうと思えばできないことはないだろう。だがバレたら危ないし人としてやってはいけない領域に入ってる気がした。

 

 チートがあり、なんでもありとはいえそれをやるのは気が引けた。

 

 

「まぁそれは駄目だよね。でもつむぎの能力についてちゃんと解ったからいいんじゃないかな」

 

「そ、そうだね」

 

 

 つむぎは頷く。

 

 マテリアライズペンの能力。

 既にあるものならその通りに描けば同じアイテムができる。

 

 それはアンリミテッドファンタジアに来る前から同じではあったが、ゲームでこれが使えると装備の複製ができてかなり強力だということが分かった。

 

 

「使いどころを考えてちゃんと使おう!」

 

 

 つむぎはこのゲームを楽しむための意気込みを叫んだ。

 

 



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たとえゲームでも

「そう言えばさ、王都には来たけどこれからの目的って何? ストーリーはないの?」

 

 王都を散策していたつむぎは咲夜に言う。

 手には屋台で売ってたハンバーガーのようなものを持っていた。

 

 

「この世界のストーリーは自由だよ。一応人々を脅かす魔物を倒すのが勇者の使命だけどね」

 

 

 同じくハンバーガーを片手に一口食べ咲夜は言う。

 

「ここにいるNPCが自由に生きているようにプレイヤーも自由に生きていいんだ。だから自分だけのクエストが発生したり、逆にクエストを依頼することだってできる」

 

「へぇ、やっぱりUnreallyらしいねそこらへん」

 

「そうだね。他のVRゲームはもっと制限がかかっててゲームらしくなってるけど、このアンリミテッドファンタジアはUnreallyらしさをそのままゲームに反映させてあるからね」

 

 

 ぺろりと咲夜は先にハンバーガーを食べ終える。つむぎもそのあとしばらくして食べ終えた。

 

 

「それじゃあ外に出てまたフィールド探索しよ!」

 

 

 つむぎはローブを風に揺さぶらせながら咲夜に笑顔で言った。

 

 

 

 しばらく歩き王都へと出ようとしたとき。

 

 

「行かせてよ! このままじゃお母さんが死んじゃうの!」

 

「ダメだ! 小さい子に外は危険だ!」

 

 

 兵士が外に出ようとしていた小さい女の子を取り押さえていた。

 

 

「あの、どうしたんですか?」

 

 

 つむぎが尋ねる。

 

 

 

「あのね! お母さんが病気で大変なの! だから街の東、ファヴールの森の奥にある聖なる雫がほしいの! それがあればどんな万病も治るんだよ」

 

「だからあぶないと言ってるだろう! あそこは並の冒険者でも苦戦するんだ! お嬢ちゃんがいっていい場所じゃない!」

 

 少女が涙目になりながら言う。

 だが少女の身を心配して兵士はどなる。

 

 すると画面にある表記がされた。

 

 

 クエスト発生

 

 クエスト名:聖なる雫を求めて

 

 クエスト内容

 ファヴールの森の奥に行き、聖なる雫をくんでくる。

 

 クエスト推奨レベル:レベル20

 

 

 

 どうやらこれはクエストのようだ。

 

 

「あの──」

 

 

 つむぎが少女に話しかけようとしたとき、咲夜がつむぎの肩を取る。

 

 

「つむぎ、推奨レベル見たでしょ? つむぎにはまだ早いよ」

 

 

 咲夜はクエストを断ろうとしていた。

 確かにレベルは全然足りてない。

 

 しかし……

 

 

「でも、この世界の人たちも生きてるんだよね? データ上とはいえ。ならわたしたちが助けるべきだよ。困ってる人がいて自分には無理だから助けないなんてしたくないよ!」

 

 

 それは幼馴染みひなたの受け売りの言葉だった。

 

 彼女は太陽のようにまぶしくてみんなを助ける。そんな彼女は常に万能と言うわけじゃなくて、その分努力もしてきた。

 

 そんな彼女につむぎは憧れている。

 

 自分もそんな風になりたい。

 

 それが今だとつむぎは思った。

 

 

「まったく……仕方ないなつむぎは……。好きにしたらいいよ」

 

 

 つむぎの誠意をみて咲夜はやれやれと微笑む。

 

 

「ねぇお嬢ちゃん! わたしたちが代わりに取ってきてあげるよ!」

 

 

 つむぎは女の子の目線を合わせ言った。

 

 

 クエストが受理されました! 

 

 

 ◇

 

 

「やっと着いた!」

 

 

 外へ出て東へ、ファヴールの森へとやってきたつむぎたち。

 

 ここまで来るのにそれなりに時間が掛かった。

 その分レベルも上がり10レベルを越えている。

 

 まだまだ推奨レベルには遠いがそれでも着実に強くなっている。外に出る前ありったけのお金でポーションを買ったため回復も十分だ。

 

 

「ここからが本番だよ」

 

 

 咲夜は銃を構えて言う。

 その姿は映画で見るような構え方だ。

 

 

「よし、行こう!」

 

 

 つむぎたちは森の奥へと進んでいく。

 

 森の中は少しうす気味悪い。枝や葉が日差しを塞ぎ辺りを暗くさせている。

 

 森は木々ばかりで地図がなければ迷いそうだ。

 幸い聖なる雫がある最深部にはマップにチェックが入っており、そこに向けて探索する。

 

 魔物とは何度か会ったが今回の目的は戦闘ではない。聖なる雫の採取だ。

 

 なので戦闘は極力控えていく。

 

 

「あ、宝箱がある!」

 

 

 しばらくしてつむぎは宝箱を見つけた。

 大中小、大きさが別れてる三つの宝箱だ。

 つむぎはなんの戸惑いもなく宝箱のところへ行こうとして───

 

 

 バン! バン! バン! 

 

 

 突然、咲夜は銃声を鳴らした。

 銃弾は三つの宝箱に命中した。

 

 

「なにしてるの咲夜ちゃん!?」

 

「こんな怪しいのトラップかも知れないでしょ? 実際見てみてよほら」

 

「え? あ、ほんとだ!」

 

 

 宝箱の方を見てみると中くらいの大きさの宝箱は宝箱の姿をしたモンスターだった。RPGでよくみる明け口が牙で覆われた凶暴なモンスターだ。

 

 だが咲夜の銃弾がクリティカルヒットしたのか目を×にして倒れておりしばらくして消滅した。

 

 

 するとレベルアップの表記があらわれた。

 

 

 レベルアップしました!

 

 レベル13

 

 魔法獲得!

 

 クールブリザード

 

 

 レベルアップと共に新しい魔法を覚えたらしい。魔法名からするに氷属性の魔法のようだ。

 これからの冒険に使えそうである。

 

 

「それじゃ宝箱をあけよう!」

 

 

 つむぎは最初に大きい宝箱を開ける。

 

 しかし中身はからっぽだった。

 

 

「あはは、まぁこんなこともあるよね」

 

 

 見かけ倒しなだけだったようだ。つむぎは苦笑いをする。だがまだ希望がなくなったわけではない。

 

 最後に小さい宝箱がある。

 きっとこれが本命だ。

 つむぎは小さい宝箱を開けた。

 開けると宝箱から光が輝きだした。

 

 

「やった! 宝石だ!」

 

 

 つむぎは光の中にある宝石を手に取った。

 

 

 アイテム名:ダイヤモンド

 売買価格:50000G

 説明:貴重で売ると高く売れる。

 

 

 それはラファエルの盾と同じ価値をするダイヤモンドだった。これを売れば小金持ちに!

 

 

 そう思ったつむぎだが──

 

 パキッ……

 

 ダイヤモンドから嫌な音が聞こえる。

 よく見てみるとダイヤモンドには咲夜が撃った銃弾が入っており、ひびか入っていた。

 

 それがだんだんとまわりに広がっていき──

 

 

 パキーーーン!

 

 

「あぁぁ! ダイヤモンドが!」

 

 

 ダイヤモンドが粉々に砕け散った!

 ダイヤモンドはアイテムとして消滅し、ポトンと銃弾だけが落ちる。

 

 あまりにも儚い最後だった。

 

 

「あぁ……その、ごめん」

 

 

 悲しそうにするつむぎに、自分の行動による失敗に謝罪をした咲夜だった。

 



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ボス戦

「やっと最深部だ!」

 

 

 しばらく探索した後、つむぎたちはマップのチェックしてある場所についた。

 

 そこはエメラルド色に輝く聖なる泉になっており、神々しく光っている。

 RPGでよくみる回復ポイントのみたいだ。

 

 これで瓶に泉の水を組めばクエストはクリアだ。

 

 さっそく泉のところへ行こうとする。

 だが簡単には行かせてはもらえなかった。

 

 

 ウゴゴゴ!

 

 一つの大きな木が動き出す。それは他の木より特段と大きく、まがまがしくもあった。

 

 よく見ると目がある。凶暴な目付きをした木のモンスターだった。

 

 

「これって……!」

 

「まぁたぶん、ボス戦……だよね」

 

 

 モンスターのステータスの表示が出る。

 

 モンスター名:おばけ大樹

 レベル:20

 

 

 このミッションが推奨レベル20になっている理由だろうか、ボスだからだろうか。

 他のモンスターより明らかにレベルが高かった。

 

 

「準備はできてるつむぎ?」

 

 

 咲夜は銃を構える。

 

 

「もちろん、いくよ咲夜ちゃん!」

 

 

 つむぎもマジカルステッキを持って戦闘態勢に入った。

 

 

 二人は左右に分断する。

 できるだけ大樹とは離れ攻撃範囲ギリギリに。

 

 

 大樹は腕らしき枝を咲夜にむけて殴りかかってきた。咲夜はすばやくそれを回避する。

 

 それは咲夜の後ろにあった木を折り倒した。

 直撃を喰らったらひとたまりも無さそうだ。

 アンリアルとは言え痛覚はそれなりにあるし直撃だけは避けたい。

 

 

 咲夜は距離をできるだけおきつつ銃で着実にダメージを与えていく。

 

 何発でも連射できるわけでなく、リロードもしないといけない。その隙をつかれないように、走りながら咲夜は攻撃していく。

 

 

 つむぎも魔法使いで後方型だ。

 距離を取って攻撃をする。

 

 

「メラメラファイアー!」

 

 

 魔法を唱える。火炎放射のように出るその炎は、木との相性は抜群だ。

 

 レベルは低くとも深いダメージを与えることができた。

 

 

 ゴゴゴゴ!

 

 

 すると大樹は怒り狂い、枝を振り回してきた。

 

 あたりをなぎ倒すように振り回す。そしてその攻撃はつむぎへと向かってきた。

 

 

「きゃっ!」

 

「つむぎっ!?」

 

 

 その攻撃を喰らいつむぎは吹き飛ばされる。

 心配する咲夜。あの攻撃を喰らえばつむぎのレベルでは一撃で死亡だ。

 

 だが攻撃をくらったつむぎは消滅することなくその場にいた。

 

 

「いてて……持っててよかった! ラファエルの盾!」

 

 

 つむぎの手には複製したラファエルの盾があった。それでガードしたおかげで一撃で倒されることはなかった。

 

 つむぎはすぐさま回復ポーションを飲む。

 ポーションはエナジードリンクのような味がした。体力が回復をしていく。

 

 

「これでおわりっ!」

 

 

 つむぎが回復している内に咲夜は手榴弾を取りだし大樹になげた。

 

 そしてドカン!と小さな爆発が起こる。

 

 

 ゴゴゴッ……ゴッ!

 

 

 大樹はその攻撃がとどめとなったのか、断末魔をあげ消滅していった。

 

 大樹を倒し、つむぎのレベルは1つ上がり14レベルになる。

 

 

「やったぁ! ボス討伐!」

 

 

 つむぎは咲夜に笑顔を向けてハイタッチを要求した。

 

 

「うん、がんばったね」

 

  

 咲夜は微笑み、優しくハイタッチをする。

 

 

「それじゃあ泉の水をくもうか」

 

「うん!」

 

 

 つむぎは瓶をとりだし泉の水を汲む。

 水は冷たく、触れているだけで体力が回復しているようにも思えた。そう思えるくらい気持ちいい。

 

 瓶一杯に水を汲んだあと蓋をして咲夜のところに向かう。

 

 これでクエスト達成だ。

 

 

「よし、これで王都に帰れば────」

 

 

 そのときだった。

 空からなにかが現れ大きな影を作った。

 

 

「な、なに……これ!?」

 

 

 つむぎは目を丸くした。咲夜も言葉を放たずただ呆然とその影、モンスターをみて驚いていた。

 

 全長10メートル以上ある大きな翼、牙、爪をもつ紫のドラゴンだ。

 モンスターのステータスを見る。

 

 

 モンスター名:アルティメットドラゴン

 レベル:500

 

 

「レベル500!? これもイベントなの!?」

 

「いや、もしかしたら偶然ここに現れたのかもしれない……生息する地域を離れてレベルの高いモンスターが低レベルの場所に来ることはそう珍しい話じゃないんだ」

 

 

 咲夜は冷静に説明をする。

 この世界のモンスターもまた生きているのだ。

 システムに縛られた行動をするとは限らない。つまりこのイベントは偶然起きた不運。

 

 つまり……

 

 

「これって詰みじゃ……」

 

 

 つむぎは声を震えさせた。

 

 刹那、ドラゴンは咆哮を上げる。

 その咆哮は耳が痛くなりそうなくらい大きくて耳をふさいだ。

 

 未だに空を支配するアルティメットドラゴン。

 

 

 このまま逃げられるか? いや無理だろう。

 あまりにもステータスが違いすぎる。

 

 

 ここで負けてもアイテムは獲得したことになるだろうか。未獲得と判定されてまたここにくるのは大変だ。もし来てもまだこのドラゴンがいたら意味がない。

 

 

 これで終わりか……そう思ったとき。

 

 

「鳴れ……シュヴァルトブリッツ!」

 

 

 一つの声がした。

 その一瞬、ドラゴンに黒い大きな剣が複数突き刺さっていた。

 正確には剣ではない。剣の形をした稲妻のようなものだ。

 

 

 グオーーーーー

 

 

 ドラゴンは悲鳴をあげる、そしてそのままぐったりとして地面へと倒れようとした時消滅していった。

 

 

「いったい何が怒ったの……」

 

「わからない……」

 

 

 二人は唖然とした。なにが起こったのかまったくわかっていない。

 

 

「大丈夫か……のだ」

 

 

 一つの声が空からする。さきほど聞こえた声だ。よく聞くと女の子の声だった。

 

 その方には人影があった。

 人影というには独特なシルエット。ドラゴンのような尻尾、背中に悪魔の、腰に天使の翼が生えた、角をもつ謎の少女だ。

 

 

「あなたは……」

 

 

 つむぎは問う。するとその少女は赤いマントを広げた。

 

 

「シッシッシッ……我が名はミーシェル! 天魔竜族の末裔なり! ……ってつむぎ!?」

 

 

 ミーシェルと名乗った少女は自慢げに自己紹介をしたが、つむぎをみると驚いた表情をしていた。

 

 

「ミーシェル!? たしかアンリミテッドファンタジアでトップランカーとして噂されてたあの!?」

 

「有名人なの咲夜ちゃん?」

 

「Unreallyでは地味に有名だね。でも本人は撮影NGだからDreamtubeには出たことないし、Unreallyやってない人には知られてないよ」

 

「そういうこと……なのだ。貴様ら今日″は″配信や撮影してないだろうな?」

 

 

 空から地面へと降りてきたミーシェルが言った?

 まるでつむぎたちを知っているようなそぶりだ。

 

 

「うん、今日はただ遊びにきただけだから大丈夫だよ?」

 

「そっか、ならよかった……のだ。ここらへんにアルティメットドラゴンが現れたって聞いて来てみればまさかこんなことになるとはな。思いもよらない……のだ」

 

 

 ミーシェルは口元に指を当てながら考え事をしていた。

 

 

 つむぎはなにかが引っ掛かっていた。

 ミーシェルという名前に、何故か見覚えがあった。いつだか知らないがUnreallyでだ。

 

 そしてこの声、とても馴染み深い声のように思った。

 

 

 ミーシェルという名前。馴染み深い声。

 これまでの記憶。

 そしてつむぎを見たときに驚いてた表情。

 

 それらすべてを重ね合わせる。

 

 

「あっ!?」

 

 

 つむぎは何かがわかったかのように叫んだ。

 その声にミーシェルはびくっと驚いていた。

 

 

「も、もしかしてひなたちゃん?」

 



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ひなたの隠し事

「なっ、なっなっ……! なにを言ってる……のだ!」

 

 

 ミーシェルは動揺していた。

 あたふたして口の八重歯が見える。

 

 

「だってミーシェルってネームプレートはじめてわたしがUnreallyでひなたちゃんと会ったときと同じだしわたしのこと知ってる素振りだよね? それにその声何万回も聞いてるから声でわかるよ!」

 

 

 すべてが合致した。その結論が一番わかりやすくしっくりくる。

 

 

「そ、そんなのたまたまの偶然かもしれない……のだ! 貴様の友人がたまたまミーに似ていただけ……」

 

 

 ミーシェルは反論しようとしたが、途中で言葉を止める。

 

 

「いや……大事な友に隠し事は無用……なのだ。ミーの正体を貴様に教えよう……」

 

 

 ミーシェルは空中でメニュー画面を操作する仕草をする。

 するとミーシェルの体は光出す。

 アバターチェンジのエフェクトだった。

 

 光が消えるとそこには金髪の長い髪の少女がいた。

 

 

「ってことでミーシェルの正体はあたしだよつむぎ」

 

 そう、アンリミテッドファンタジアのトップランカー、ミーシェルの正体はつむぎの幼馴染み雨宮ひなただった。

 

 咲夜もそのリアルとの見た目がほとんど変わらないことで気付いたのか驚いている。

 

 

「やっぱりひなたちゃんだったんだね!」

 

 ぱあっと明るい笑顔をつむぎは見せる。

 

「バレちゃったなら仕方ない。あっちが本来のあたしのUnreallyの姿。つむぎに見せてたのは初期に使ってたアバターなんだ」

 

 ひなたは説明する。

 これまでの経緯を。

 

 

 ひなたは中学生三年生、バスケ部での部活動が終わった後Unreallyに出会った。

 

 そこでアンリミテッドファンタジアにハマり毎日ぶっ続けでやるようになる。そのため寝不足な日も多く、朝HR前に机で寝ていたりしたのはそのためだそうだ。

 

 

「で、今に至るわけ」

 

「でもどうして今まで隠してたの?」

 

「だってはずいじゃん! あの姿は気に入ってるけど、あの姿じゃないときに自分の痛々しい発言をみると死にそうになるから……」

 

 

 顔を赤くしてひなたは言う。

 

 

「でもひなたちゃんがそういうの好きなのは知ってるよ? 昔はよくひなたちゃんの勇者ごっこ付き合ってたし」

 

「その話はいいから!」

 

 

 ひなたは叫ぶ。ひなたにとっては思い出したくない黒歴史なのかもしれない。

 

 小さい頃はひなたはマントをつけて「あたしは勇者ひなた!」という風に言って勇者ごっこをしていた。つむぎがお供の僧侶役として付き合わされていたのを思い出す。

 

 

「まぁとりあえずこの話はまた今度ちゃんとね」

 

 

 するとひなたは咲夜の方を見る。

 

 

「咲夜ちゃんだっけ? ごめんねこっちだけリアルの話で盛り上がってて」

 

「いや別に……大丈夫だよ。雨宮さん……」

 

「へっ?」

 

 

 咲夜のその声はリアルのトーン近かった。

 咲夜の発言にひなたは変な声を上げる。

 一切ひなたの名字を言ってないのにひなたの名字を咲夜が知っているからだ。

 

 

「どゆこと……?」

 

「えっとね、咲夜ちゃんは同じクラスのさやちゃんなんだ」

 

「ああ、そっかー黒葛さんかー納得納得……」

 

 

 納得したひなたは頷き沈黙ができる。

 

 

 

 

 

「ってえええええええ! 黒葛さんが咲夜ちゃん!? どいうこと?」

 

「ええとね……」

 

 

 つむぎは経緯を話す。

 つむぎと咲夜がリアルで出会い同級生だと知りそこから親友になるまでを。

 

 

「そっかぁ……二人が親友ねぇ」

 

 

 ひなたはしみじみとつむぎの話を聞いた。

 

 

「つむぎも成長したなぁよしよし!」

 

「ちょっと!? ひなたちゃん!」

 

 

 ひなたはつむぎの頭を撫でる。

 いつも思うが、ひなたは自分のことを犬かなにかだと勘違いしてないだろうかとつむぎは思う。

 

 

「まぁいいや。この姿はあたしの仮の姿……故に長居はできない……」

 

 

 ひなたは距離を置き数歩歩く。

 そして光輝きミーシェルへとアバターをチェンジした。そしてこちらをみて紫の髪に赤いマントを広げる。

 

 

「改めて名乗ろう! 我が名はミーシェル! 天魔竜族の末裔なり! 天使の慈愛と魔族の闇の力そして竜の誇り高き偉大さを交えた最強の種族……なのだ!」

 

「あー確かに、これは見返したら恥ずかしくなるね」

 

「やかましいわ! ミーはこれでいい……のだ。これこそがミーがミーであるべき姿……なのだ」

 

 

 ミーシェルの発言を弄る咲夜。ひなたの姿のときと違っていつも通りの咲夜だった。

 するとメニューにフレンド申請が来る。

 

 

「と、いうことで貴様らにはミーとフレンドになることを認める……のだ」

 

 

 右目をウインクさせながらミーシェルは言う。

 つむぎは考える暇もなくフレンド申請を許可する。

 

 

「よろしくねミーシェルちゃん!」

 

 こうしてつむぎたちはひなたことミーシェルとフレンドになることになった。

 



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きっといつかは

 次の朝のHR。

 

 つむぎは席でことねと会話をしていた。

 さやとひなたはまだ教室に来ていない。

 

「おっはよー! つむぎーことねー」

 

「あっ、おはようひなたちゃん!」

 

「おはよ、ひな」

 

 するとひなたが教室に来た。

 相変わらず元気な声で叫ぶひなた。

 

 

「ひなたちゃん……」

 

 

 つむぎはちょっと気まずくなるのではないかと危惧していた。ひなたが隠していた秘密をしってしまったのだ。

 

 いつもの関係でいられるか心配したが──

 

 ひなたはつむぎの肩に手を回した。

 

 

「昨日はいろいろあったねぇ。ま、そんなの関係なくいつも通り行こうぜ! うちら幼馴染みなんだからさ!」

 

「……うん!」

 

 ひなたはにこにこと笑顔で言った。

 特になにも気にしてなかったようだ。

 いつも通りの日常がこれからも続く、それに安堵する。

 

 

「あ、さやちゃん! おはよう!」

 

「おはよ……」

 

 

 咲夜が教室に入ってくるのを見てつむぎは挨拶をする。もう挨拶をしてくれるのも自然になっていた。

 

 

「つ、黒葛さん……おは──」

 

 

 昨日の件で気まずくも持ち前の明るさでひなたがさやに挨拶をしようとしたとき、遮るようにさやはさっさと席についてしまった。

 

 避けているように見えた。

 

 

「あれれ、やっぱり避けられてるなぁ……」

 

「黒葛さん、つむには気を許してるみたいだけど他の子にはまだそっけないよね」

 

「ちょっとは仲良くなれると思ったんだけどなぁ…」

 

 しょんぼりとするひなた。

 つむぎもそれに関しては疑問があった。

 

 

 ◇

 

「どうしてひなたちゃんを避けたの? Unreallyでは弄ったりしてて仲良くなれそうだったのに」

 

 お昼。つむぎは屋上でシートを引いて咲夜とお弁当を食べていた。

 疑問なのは昨日の咲夜のミーシェルに対する言動だ。

 

 あのときの咲夜は面白そうにミーシェルをいじってた。

 しかしリアルのひなたにはそっけない。

 

 

「リアルの雨宮さんは苦手。単純にテンションが高くてうるさくて無理。ミーシェルは面白いから嫌いじゃないけど」

 

「あはは、確かにリアルのひなたちゃんはさやちゃんにはちょっと苦手かもね」

 

 

 大人しいさやとテンションの高いひなたは相性が悪いようだ。

 

 

「それじゃあ二人が仲良くなることは無理かな……?」

 

 せっかくさやにリアルの新しい友達ができるチャンスができると思った。

 

 でも本人は否定的に感じる。

 

 

「今は無理……だけど……」

 

 さやはゆっくりと言葉を話す。

 

 

「自分の気持ちに素直になれるUnreallyでなら……きっといつかは仲良くなれるかもしれない……たぶん」

 

 

 そう言ってさやは紙パックのジュースを飲む。

 

 きっといつかは……

 

 その日が来てくれたらいいなとつむぎは切に願った。

 



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恐怖の心霊スポット

 長い長い、夏休みがはじまった。

 これから自由な時間が満喫できる。出された課題には目を剃らしたいがそれでも楽しい毎日がはじまる。

 

 

 そう勢い込み今日もUnreallyに居るつむぎ。

 

 

 今日もお馴染みの近場の喫茶店でお茶をしていた。

 

 テーブルの席には咲夜だけでなく、ねねこも一緒だ。本当はしきも誘ったが返事が来ない。ただ見てないだけだろうか。

 

 咲夜はコーヒーを手に持ったまま飲まずになにかを考えており、ねねこは上品に紅茶を飲んでいた。

 

 

 つむぎはショートケーキを食べながらDreamtubeで動画を漁る。

 

 すると一つの動画につむぎは目をつける。

 

 

【本当に出る?】噂の心霊スポット │鹿羽ひそかの秘密の砦

 

 サムネには薄暗い色でフードを被った少女がいる。画像の右下に血痕があり見るからに怖そうな動画だ。

 

 つむぎは興味本意で動画を再生する。

 

 

「おやおや、この動画を見てしまうとは君はさぞかし好奇心に飢えているね」

 

 

 フードを被り背中を見せる人物が表示された。その声は女の子の声だ。

 

 あたりは真っ暗で彼女にスポットライトが当たっているだけである。

 

 

「やぁ、この動画の主、鹿羽ひそかさ」

 

 

 ひそかと名乗る少女は正面を向いた。三白眼の目に薄い紫色の髪をした姿をしている。それは動画のサムネの少女だ。

 

 

「実はある噂を入手したんだよ。この夏にぴったりのこわーい話さ」

 

 

 不気味な音声が流れ始める。

 それはこれからはじまる話への没入感を上げていく。

 

 

「これはUnreallyで起こった話。とある少女が夜エストヴィル、シャット区にある森に来ていたときの話だ。その森は人気がなくて誰もいなかった。まぁ夜中に森にいく人なんて滅多にいないだろうしね。そんな中彼女は森の中へと進んだ。目的は知らない。いいや、もう知らないと言った方がいいかもしれないね。それで森の奥へと進んでいったんだ」

 

 

 ひそかは饒舌にトークをしていく。

 

 

「すると助けて……助けて! と声がしたんだ。声の方へ進んだが誰かがいるようには見えない。でも声だけはする。その声は上だと気づき見上げると……なんと木に包帯でぐるぐる巻きに吊るされた人物が! 悲鳴をあげようの少女はしたがその時には意識がなかった。起きた時にはもう朝で……気づくと自分自身がてるてる坊主のように吊るされてたらしい。覚えている記憶はあやふやでなんで森に来たのかも覚えてないという」 

 

 

 そしてひそかは決めポーズをとりパチンと言った。

 

 

「これは噂の噂。嘘か本当か知りたいかい? なら自分の目で確かめてみたらいいじゃあないか! 度胸試しがしたい人、期待しているよ」

 

 

 そういって動画は終了した。

 

 

 ◇

 

 

「ねぇねぇ咲夜ちゃんねねこちゃん!」

 

 

 つむぎは二人を呼ぶ。

 ねねこは髪を撫でながら、咲夜はコーヒーをテーブルに置きつむぎの顔を見た。

 

 

「Unreallyで心霊スポットがあるんだって! 動画になりそうだし行ってみない!?」

 

「にゃ!? し、心霊スポットなんてそんなこわそうなのいかにゃいわよっ!」

 

 

 ねねこはほんとうに怖がってるようで尻尾を立たせて言った。

 

 

「ねぇ、咲夜ちゃんは!?」

 

 

 目を輝かせてつむぎは咲夜に問う。

 

 

「私は別に大丈夫だけど……つむぎは怖くないの? 心霊スポットとか怖いやつ」

 

「わたしも怖いの得意じゃないけど……けど行ってみたい! なんかすごい動画配信者って感じがして」

 

「つむぎもすっかりUドリーマーの鑑になったね……」

 

 

 そんなつむぎに若干あきれながらコーヒーを手に取り飲む咲夜。

 

 

 するとジェット音が上からしてくる。

 それはこっちへと降りてきた。

 

 

「いやーごっめーん。また遅刻しちゃった~」

 

 

 アンドロイドのしきだ。

 

 

「しきちゃん返事ないからどうしたのかと思ったよ」

 

「いやねーサイバー凄いマシンの開発のアイデアができて没頭してたんだよー。で、なにしてたのーなにしてたのー?」

 

「あのね、心霊スポットの動画撮影しようって話してたんだよ」

 

「なにそれめっちゃ楽しそう! ウチも参加するーる!」

 

「うんじゃあ三人で配信しよう!」

 

 

 なぜか意気投合してしまったつむぎとしき。

 そんな二人を横目に咲夜はねねこの方をみた。

 

 

「……」

 

「あっ、あたしは行かないって言ってるでしょ! 寂しくなんてないんだから!」

 

 

 少し涙目になり叫ぶねねこ。本当は行きたいのかもしれない。

 

 そんなこんなでつむぎたちは撮影の予定を考えることにした。

 



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ドキドキ!噂の心霊スポット行ってみました!

◆【ドキドキ!】噂の心霊スポット行ってみました! │麗白つむぎ

 

 

「はい、みなさんこんばんは! アンリアルドリーマーの麗白つむぎです!」

 

「同じく小太刀咲夜だよ」

 

 

 暗い森の中。

 撮影画面にはつむぎと咲夜がいる。咲夜はもうつむぎの動画ではレギュラー同然だ。

 

 つむぎの話の進め方も明るさも前よりも格段に上がっており、Uドリーマーとしての成長がうかがえる。

 

 

「そして今日はこのチャンネルに新しいゲストが来てます。それはー」

 

「しゅびっと参上! 試作品ナンバー000、零式! しきちゃんって呼んでねー!」

 

 

 ドーンと登場したしきは真ん中に出てきて決めポーズをした。

 

 

「ってことで同じUドリーマーのしきちゃんです!今日は三人で心霊スポットを探索しようと思ってます」

 

 

 そしてつむぎは説明する。

 この森で噂される、てるてる坊主にされ吊るされるという心霊現象について。

 

 

「心霊スポットだけど二人は大丈夫? 怖くない?」

 

「ウチはへーきへーき! 幽霊でもなんでもバッチこーい!」

 

 

 怖さとは無縁のように元気に返事をするしき。その持ち前の明るさが今は頼もしい。

 

 

「私も大丈夫、いざとなったらこれで倒す」

 

「幽霊に銃は効くのかな!?」

 

 

 アンリミテッドファンタジアでも使用した銃を咲夜は手に取り構える。相手はゾンビではない。

 

 

 

「わたしはね……やっぱり怖いよ……」

 

 

 体が震えるつむぎ。昼間はワクワクとどきどきだったがいざ夜となり森へくるともし幽霊にあったらどうしようという不安がよぎった。

 

 

「だからね事前にマテリアライズペンで作ったアイテムがあるんだ」

 

 

 そこで一つのアイテムを取り出す。

 それは白い紙がついた棒だ。

 

 

「お祓い棒! これで幽霊がでたらお祓いするんだ! そうすればきっと徐霊できるよっ」

 

「ボケてるの……本気なの……?」

 

 

 お祓い棒を振り回すつむぎに戸惑う咲夜。

 

 

「それじゃあ心霊スポットめぐりへ、しゅっぱ~つ」

 

「おー!」

 

「お、おー……」

 

 

 つむぎの掛け声と共に元気に言うしきと逆に静かに返事をする咲夜。

 

 こうして心霊スポット探索へと三人は向かった。

 

 

 探索はつむぎが先頭で懐中電灯を取り前を照らす。そのあとに続く咲夜としき。

 

 

「ま、まだなにも出てないよね!?」

 

「つむぎ、まだ出発して三分も経ってないよ。先頭変わる?」

 

「大丈夫。でも怖いから手繋いで欲しいな……」

 

「……わかったよ」

 

 

 つむぎは空いてる左手で咲夜の右手を握る。

 このとき咲夜の頬が赤くなってることを暗い森の中でつむぎは知るよしもない。

 

 

 そのときだった──。

 

 懐中電灯の光から突然ばさぁと黒い物体が現れてきた!

 

 キー、キー!

 

「きゃっ」

 

 

 つむぎはいきなりのことに驚き懐中電灯を落としそうになる。そんなつむぎを支えるように咲夜がつむぎの肩を持つ。

 

 

「大丈夫つむぎ!?」

 

「わたしは大丈夫だよ。幽霊かと思ったけどコウモリだったからほっとしたよー」

 

 

 ライトの方を見る。それは一匹のコウモリで光ってるあたりを飛び回っていた。

 しばらくするとコウモリは姿を消していく。

 

 

「あはは、ちょっとびっくりしたね。しきちゃんはだいじょ──」

 

「怖い怖い怖い怖い」

 

 

 しきの方を見ると彼女は頭を抱えて座り込んでいた。

 

 

「しきちゃんやっぱり怖いの苦手?」

 

「違うよ怖いのは鳥だよ! いつもウチのこといじめてきてトラウマなんだもん!」

 

「コウモリは正確には哺乳類で……」

 

「へーそうなんだ! ……じゃない! そんなの関係ないないなーい! 飛んで襲ってくるもの全部ウチの敵!」

 

 

 咲夜の指摘に納得しかけたしきだがそう怖いものは変わらないだろう。

 

 

 ◇

 

 

「ねーまだ幽霊かなんか出てこないのー?」

 

 しきが言う。

 探索してから数十分が経過していた。

 あたりは静かでライトを照らしても木だけがそこらじゅうにあるだけだ。

 

 吊るされた人間らしきものも一切でてこない。

 

 

「おかしいなー。確かに動画ではこの森に出るって言ってたのになぁ。噂は所詮噂だったのかな?」

 

 

 今回の動画は上手くいけばよい動画になると思っていた。逆によくなければボツになるだろう。

 

 

 そろそろ諦め時か、そう思っていたとき──

 

 

「けて……助けて……」

 

「え? なんか言った咲夜ちゃん?」

 

「なにも言ってないけど……まさか?」

 

 

 助けて……助けてと声がする。声はもっと奥の方だ。

 

 

「い、いってみよう……」

 

 

 つむぎはごくりと唾を飲み、三人は奥へと進む。怖さと好奇心、二つが入り交じっていた。

 

 

 奥には一人の少女がいた。

 黒い髪の後ろ姿が見える。

 

 

「助けて……」

 

「あの、どうしたの?」

 

 

 つむぎは少女の元にかけより質問する。

 念のため距離を置いていた。彼女が何者かはわからない。

 

 

「雨を止ませなきゃいけないの……」

 

「雨なんて降ってないよ?」

 

 

 つむぎは少女の言葉であたりを見渡すがなにも降ってなどいない。

 

 

「もうすぐ降るよ……」

 

 

 するとぽつり、と雨が降ってくる。

 豪雨ではない。少量の雨だ。

 少女は天気予報ができるのか、そう思ったがこの雨なにかがおかしい。

 

 

「これっ血じゃん……」

 

 

 しきが呟く。服についてた雨を振り払おうとしぬちゃ、という水にしてはおかしい違和感で手を見たのだ。

 手のひらは赤く染まっていた。

 

 こんなこと噂で聞いていない。

 

 

「血の雨……止ませ方は簡単だよ……」

 

「……どうすればいいの?」

 

 

 つむぎは恐る恐る聞く。

 すると少女はこちらへ振り向く。

 

 

「あなた達がてるてる坊主になればいいの……!」

 

 

 少女の顔は目が包帯で覆われ口が裂けそこから血がだらだらと流れていた!

 

 

『で、でたぁぁぁぁ!』

 

 

 つむぎとしきが叫びその場から走り出す。

 咲夜は言葉には発しなかったが驚いており二人の後を追った。

 



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てるてる坊主の生贄

「はぁ……はぁ……」

 

 

 幸い、あのお化けと思われる少女は走るのが遅かった。

 

 三人は思いっきり走り、距離を置いていた。たぶん逃げ切っただろう。

 

 

「まさか本当にいるとはね……」

 

 

 走ったことでぐしゃぐしゃになった髪を整える咲夜。

 

 

「で、でもよかったねーほらこれで動画になるし……」

 

 

 前向きに考えるつむぎ。Uドリーマーとしてはこの動画は成功だ。

 

 

 だが安心するのはまだ早い。

 まだ血の雨は降り続いている。

 

 

「どうして逃げるの……必要なのに……てるてる坊主……」

 

「……!」

 

 

 つむぎたちは凍りつく。あのお化けはつむぎたちの近くにいた。

 

 しかもつむぎたちが走ってきた方向に先回りしていたのだ!

 

 

「ど、どういうこと……」

 

「わっかんないよ……! ウチが聞きたいくらい!」

 

「一つだけ言えることはあるよ……。逃げても意味なんてない」

 

 

 焦る二人とは正反対に冷静に言葉を放つ咲夜。

 その手には銃が握られていた。

 

 

「逃げられないなら戦うのみ!」

 

 

 バン!

 

 そして銃弾がお化けに命中する。

 

 

「ぐぅぅ……」

 

 

 おばけは痛そうに銃弾が命中した胸の部分を触る。意外と物理攻撃が効くのかもしれない。

 

 

「ぐあぁぁぁぁぁ」

 

 

 お化けは叫んだ。その瞬間お化けは三人へと分裂した。三人になったお化けはそれぞれに近づいてくる。

 

 絶望でしかない。

 

「こうなったらわたしも!」

 

 

 つむぎはお化けへの対抗策がある。そのアイテムを手に取りあることばを唱えた。

 

 

「南無阿弥陀仏! 南無阿弥陀仏! 南無阿弥陀仏!」

 

 

 お祓い棒を振り回しつむぎは誠意を込めてお祓いの舞をした。しかし効果は微塵も出ない。

 

 

「つむぎ! 危ないっ!」

 

 

 すると咲夜はつむぎを突き飛ばした。

 見るとつむぎの方に一体近距離まで近づいていたのだ。

 

 

「くっ」

 

 

 咲夜は押し倒される。

 

 

「まずは一人……」

 

 

 お化けは笑い包帯を手に取っていた。

 そして一瞬にして咲夜は首から下を包帯で巻かれ木に吊るされた。

 

 

「咲夜ちゃん!」

 

 

 つむぎは叫ぶ。こうなったのも自分のせいだ。

 自分がちゃんとお祓いのやり方を学んでいればとつむぎはまだ徐霊できると考えていた。

 

 

『つーぎの生け贄だーれだ……?』

 

 

 三体のおばけが笑うように裂けた口で言う。

 

 

「こ、こうなったらあれをやるしかない!」

 

「しきちゃんなんか策があるの!?」

 

「うん! これは使いたくなかったけどこの状況で出し惜しみできないもんね!」

 

 

 策があるらしいしきは何かを決心した。

 そしてお化けたちの前に出た。

 

 

「これがウチの最終奥義!」

 

 

 そしてしきはジャンプする。

 そのまま空中で足をたたみ、手と頭を地面に付ける。

 

 

「お願いです吊るさないでください」

 

 

 それは見事にきれいな土下座だった。

 

 

 …………

 

 

「それつむぎとやってること変わらない!!」

 

 

 思わず咲夜がツッコミ叫んだ。

 吊るされても顔は自由で話すことはできるようだ。

 

 

「きゃっ!」

 

「つむぎ!?」

 

「これで二人目……」

 

 

 するといつの間にか一体がつむぎを捕らえていた。しきの土下座に夢中で気がついてなかった。

 

 

「ど、どうしよう! もうウチだけ!」

 

 

 お化けは三人ともしきの方へ向かってくる。

 しきは後退るが逃げようにも腰が抜けて動けないようだ。

 

 

「フフフフフ……フフフフフフ……」

 

 

 お化けは笑い声を上げる。

 一歩、また一歩と着実にしきに近づく。

 

 

「あぁもうダメだ……やっぱそうだよねウチなんかの土下座に意味ないよねせっかくプライド捨ててやったのになにしてんだろウチ……」

 

 

 ネガティブなワードをぽつりぽつりとしきは呟いていく。目は死んだようにハイライトがない。

 

 胸のコアがピコピコと光る。

 

 

「もういいや自爆しよ」

 

 

 その声後、まわりは光輝いた。

 

 

 ドカーーーーン!

 

 

 大きな爆発が起きた。その爆発と爆風は辺り一面を煙で蔓延させた。たくさんの木々が破壊されていく。

 

 

「げほっげほっ」

 

 痛みはしない。が視界が見えず煙い。

 

 

 しばらくして視界が見えるようになる。

 つむぎは地面へとついていた。

 

 

「あっ拘束が解けてる! 咲夜ちゃんそっちは!?」

 

「こっちもどうにか」

 

 

 つむぎは咲夜の方を確認する。

 咲夜の方もどうやら拘束が溶けたようだ。

 

 

「ふースッキリした……」

 

 

 自爆した本人、しきは気持ち良さそうな顔をしている。

 

 

「そういえばお化けは!?」

 

 

 つむぎはお化けがいないか周囲を確認する。

 すると一つの人影を確認した。

 

 

「げほっげほっ……痛いじゃあないかしき」

 

「あ! あなた動画の人!」

 

 

 それはこの森を紹介していた本人、鹿羽ひそかだった。

 

 

「どういうこと!?」

 

「バレちゃったものは仕方ないね。私は鹿羽ひそか。今回の噂の犯人さ」

 

「ホラースポットってもしやとおもったけどやっぱあんただったのねひそか!!」

 

「しきちゃんの友達?」

 

 

 なにかを知っているそぶりを見せるしき。

 

 

「まーウチの友達というか知り合い?」

 

「ひそかは普通に友人だと思ってたんだけどね。まぁいい、君たちはひそかたち組織の企みを阻止した功労者だ。君たちを秘密組織ブルローネへの招待状を送ろう。明日是非ここへ来てくれたまえ」

 

 ひそかは残念そうにしきをみるがそれは一瞬だけ。次には指をパチンとならしつむぎたちを見た。

 

 すると一通のメールとプレゼントが届く。

 

 

 宛先:秘密結社ブルローネ団長

 

 内容:指定した場所にフードを被って来てください。

 場所○○~

 

 プレゼント:秘密結社のフード

 

 

「ではまた会おう!」

 

 

 ひそかはそう言っては姿を消した。

 



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秘密結社ブルローネ

 翌日つむぎはある場所にいた。

 あのてるてる坊主にするお化けの犯人、鹿羽ひそかに招待された場所だ。

 

 そこには紫のドームがあるだけで他に建物はなかった。そのドームもどこにも入り口のような扉らしきものはない。

 

 

「あっ、咲夜ちゃん! しきちゃん!」

 

 

 つむぎは昨日一緒に撮影を行った二人を見つけた。

 二人はフードを被っており一瞬誰だかわからない。

 

 しかしフレンドのネームプレートの特別表記のお陰で判別することができた。

 つむぎも同じくフードをしている。

 

 

「よく来るぇ二人とも。ウチ来ようか迷ってたのに……」

 

 

 若干呆れたような顔をするしき。

 

 

「私はつむぎが来るだろうと思ったから安全を確認するために」

 

「あはは……わたしは面白そうだったから」

 

 

 つむぎは興味本意だ。

 せっかく招待状を貰ったんだし行って損はないと思っていた。

 

 

「やぁ三人とも、昨日ぶりだね」

 

「ひそかちゃんだ!」

 

 

 ひそかがやって来た。ひそかは変わらずの姿でいる。彼女自身元からフードのようなものを着ているため必要ないのかもしれない。

 

 

「しき。君もやっと来てくれる気になってくれたか」

 

「違うしー。ウチは二人があんたの変な宗教ごっこに影響されないように見守るためだしー」

 

「宗教ごっことはひどいなぁ……こっちは真剣なんだよ」

 

 

 話をするしきとひそか。二人は仲がいいのか悪いのか微妙な関係だ。

 

 

「それじゃあ中へ入ってくれたまえ」

 

 

 ドームの側に寄りしゃべるひそか。

 

 

「でも、扉なんてどこにもないよ?」

 

「あぁ失礼、そう言えば合言葉を教えてなかったね。秘密結社に入るには合言葉が必要なんだ」

 

 

 そう言ってはひそかは壁の前にたつ。

 

 

「合言葉はルグーエ・ピスエだ」

 

 

 するとどうだろう。なにもなかったドームの壁に人が入れる四角い穴が開いた。

 

 

「どうぞ中へ、ひそかは準備があるから先に自由な席についててくれたまえ」

 

 

 ひそかは言った後先に進んでいく。

 中は地下への階段へと続いていた。

 階段を下りるとそこはドームよりも何倍も大きい地下広場があった。

 

 奥にはスクリーンとたくさんの席があり手前は自由に動けるスペースがあり、自販機もおいてある。

 

 地下には何十人もの人がいた。その全員がつむぎたちと同じフードを被っている。

 これら全員が秘密結社のメンバーなのだろうか。

 

 

『ごほん、恐縮に、今から秘密結社ブルローネの定期集会を始めるよ。みんな席につきたまえ』

 

 

 ひそかの声がアナウンスのように聞こえてきた。

 それを聞くと自由に会話をしていた人たちも静かに席につこうとしていた。

 

 つむぎたちもそれを見習い三人でならんで座る。

 

 

『みんないいね? では始めよう。私は秘密結社ブルローネ団長、鹿羽ひそかさ』

 

 スクリーンのある場所の演説台にぴょこんとひそかが現れた。そしてひそかは話始める。

 

 

『諸君、今回秘密結社で考えた企画、てるてる坊主作戦は残念ながら我々秘密結社がやったことがバレた。月にうさぎ作戦ではもふもふあにまるずに上手く情報が伝達し騙せたがなかなか上手くいかないものだな』

 

 

「あれをやったのもひそかちゃんたちなの!?」

 

 

 つむぎは思わず声を上げる。

 もふもふあにまるずが月へと行きうさぎに月見団子をもらってた動画をつむぎは見たことがある。まさかあれはブルローネの仕業だったとは。

 

 そんなつむぎをひそかは一度見てまた話始める。

 

 

『新しいメンバーもいることだし説明しよう。我々秘密結社は常日頃Unreallyの都市伝説や噂を集めたり自ら噂をでっちあげるのが目的だ』

 

「つまりほとんどいたずらみたいなもんだよ。あいつの考えることは」

 

「なにそのはた迷惑な行為……」

 

 

 小声でひそかたちがやってることを説明するしき。

 

 

『では次に定期集会の決まり映画鑑賞会だ。今回はサメ人間を見よう』

 

 

「げっ、よりによってB級映画の日かー」

 

 

 しきはなにかを悟ったように言う。その顔は地獄がはじまるかのような表情をしていた。

 

 スクリーンには映像が映し出される。

 サメ人間と書かれたタイトルが表示され映画が始まったことが分かる。

 

 内容はとんでもなく謎だった。

 

 ある日突然マッドサイエンティストがサメと融合を果たした。

 サメの全身に人間の手足がついた不気味な姿だ。鳴き声はサメー!で統一されている。

 

 後にサメ人間と呼ばれるようになるそれは民家を襲い、口に赤い液体が!

 

 その液体は血ではなくケチャップだった!

 お腹が空いたサメ人間は民家に不法侵入し冷蔵庫を漁っていたのだ。それをみた一般人と格闘戦になりボコボコに。

 

 それからいろいろな場所で死闘を繰り広げボコボコにされていったサメ人間、最終的には警察に捕まって手錠をされてEND。

 ちなみに持ち前のサメの牙で人を食うシーンは一切出てこなかった。

 

 

『いやぁやはりサメ人間シリーズ最初の一作目は感動するものがあるね。この一作目で悪役のようにかかれてたサメ人間が後に世界を救うヒーローにまで成り上がるサクセスストーリーは最後まで見ると涙が止まらないよ』

 

 

 見終えた後ひそかが感想を言った。

 ひそかは涙をこぼしてるようにも見えた。見えただけで実際にどうかはわからない。

 

 

『以上で定期集会は終わりだ。また次回の開催を楽しみにしたまえ』

 

 その言葉で集会は幕を開けた。

 

 

 ◇

 

「どうだいつむぎ君たち秘密結社ブルローネの活動は」

 

「う、うん……な、なんか楽しそうだね……」

 

 

 さすがのつむぎもこれには苦笑いだった。

 サメ人間の内容が謎過ぎて頭に入ってこない。

 だが一つだけ疑問があった。

 

 

「そう言えばどうしてフード着用が義務付けられるの?」

 

「一応ここは秘密結社だからね。団長であるひそか以外はこの地下では顔はわからないようにしてあるんだ。それと合言葉もこの秘密結社に入れる条件だね。この合言葉は知ってる知り合いから直接聞かないと知ることはできないのさ」

 

「直接?」

 

 

 咲夜が問う。

 

 

「このルグーエ・ピスエという合言葉はネット上の電話、文字に書き起こして送信することができないようになってるのさ。それらの行為はノイズや文字化けが発生してわからなくなっている」

 

「そんなことできるんだ」

 

「ひそか自身にそんな事できる権力はないよ。この世界、Unreallyの支配者。七色こころ君に頼んでようやくそれが実現できた」

 

 

 こころによる仕組みなら妙に納得できた。

 自称ネット上ならできないことはないと言い張っている彼女だからだ。

 

 

「まぁこれもなんかの縁さ。よかったらフレンドになってくれるかい?」

 

 

 フレンド申請の通知が来る。

 

 

「別にこいつに付き合う必要ないよー。変人だし」

 

 しきはいつの間にかポップコーンを片手に話していた。

 確かに動画の噂はでっちあげだったし映画はなぞだったりした。行動も謎と言えば謎だ。

 

 でも……

 

 

「ひそかちゃんと一緒ならきっと楽しそうだね。よろしくねひそかちゃん!」

 

 

 つむぎはフレンド申請を許可した。

 



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二人でショッピング

 動画が撮影される。

 

◆【二人でショッピング】咲夜ちゃんと互いにコーディネートしてみた! │麗白つむぎ

 

 

「こんにちは! アンリアルドリーマーの麗白つむぎです」

 

「同じく小太刀咲夜だよ」

 

 

 いつもの挨拶で二人は撮影を開始する。

 

 

「今日はねUnreallyにあるショッピングモールに来てるんだ! そこで今回は二人で洋服屋でお互いの衣装をコーディネートしようって企画なの!」

 

 

 つむぎは説明し、奥の洋服が並んでいる店を映す。そこには様々な衣装がならんでいる。

 

 日常的に使える普段着やアイドルなどが来てそうなドレスなど種類は様々だ。

 

 

「咲夜ちゃんにぴったりの衣装をコーディネートするね!」

 

「私もつむぎに似合う衣装を考えてみるよ」

 

「それじゃあれっつごー!」

 

 

 二人はそれぞれ別れ洋服を選んで行くことにした。

 

 

「うーんどれにしようかなぁ」

 

 

 つむぎは洋服を眺めながら咲夜にどんな衣装が似合うのか考えていた。

 

 咲夜は普段パンクな衣装を着ている。

 なので今回はかわいい感じの衣装を着せてあげたい。かわいい咲夜が見てみたいと思っていた。

 

 

「これとかどうかな?」

 

 

 一つの衣装を手に取る。

 それは白と緑でデザインされたワンピースだ。

 

 それを着た咲夜を想像してみる。

 きっと可愛らしい姿だろう。だが少し違う気もした。

 

 可愛くても咲夜らしさとは掛け離れてる気がした。咲夜の良さを活かす衣装を着せてあげたい。

 

 ワンピースを元の場所に戻し他の場所を見ていくことにする。

 

 

 どういった衣装が咲夜には似合うだろうか?

 あまり派手な色は咲夜の好みにも合わないだろう。

 

 そんな事を思いながら服を眺める。

 

 するとあるものを見つける。

 もふもふあにまるずシマリプロデュースという看板があった。そこにさまざまな一際素敵な衣装が飾ってある。

 

 

「そういえばシマリちゃんってデザイナーやってるんだっけ」

 

 

 トップアンリアルドリーマーとしてのシマリはデザイナーとしても活動していた。

 

 Unreallyでの衣装販売だけでなくリアルの洋服店とコラボしてデザインした服を出している。

 

 

「凄いなぁ……」

 

 

 つむぎはその衣装たちに見とれていた。

 咲夜の衣装を買いに着たわけだが、個人的にも後で買ってもいいかもしれないと思っていた。

 

 

「あっ! これなんていいかも!」

 

 

 シマリがデザインした衣装から一つ良さそうなのを手に取る。そして全体を見てよし、と心の中で呟き購入を決めた。

 

 

 ◇

 

「はい、ということで購入が終了しました。咲夜ちゃんいいの選べた?」

 

「うん、つむぎの好みかはわからないけど似合いそうなのを選んだよ」

 

 

 服の購入が終わりそれぞれが試着する時間となった。

 

 つむぎたちはそれぞれ購入した衣装をメールで交換し合う。どんな服かは着てからのお楽しみだ。

 

 

「じゃあまずはわたしが咲夜ちゃんがコーディネートした衣装を着るね」

 

 

 そう言ってつむぎは送られてきた衣装を一括で試着する項目を押す。

 瞬間、つむぎの服は光だし別の衣装へと変化していった。

 

 

「わぁ……これが咲夜ちゃんが考えてくれた私の服装……!」

 

 

 つむぎは全身を見ながら衣装を見る。

 

 咲夜がコーディネートしてくれた衣装は水色のパーカーにうすいピンクのTシャツ。紺色の短パンというちょっとボーイッシュで、でもかわいい衣装だった。

 

 

「どうかな? 私なりに考えたつもりだけど」

 

「うん、すごくいいよ! 可愛くてわたしは好き!」

 

 

 嬉しそうに受け答えをするつむぎ。

 それに照れるようにありがとうと返事をする咲夜。

 

 

「次は私の番だね」

 

 

 咲夜もつむぎの選んだ衣装を選択し試着する。

 衣装が光る。そして別の衣装へと変化していった。

 

 

「これは……ドレス……!」

 

 

 それはシマリがデザインした黒いゴシック感のあるドレスだった。

 

 

「どうかな? わたしは咲夜ちゃんに似合うと思って選んで見たんだけど……」

 

「うん……ドレスとかはじめて着たからこの姿だとちょっと恥ずかしいかな……」

 

 

 咲夜の頬は少し赤くなっていた。

 咲夜としての彼女は短パンをよく着ていたためスカートやドレスなどひらひらしたものとは無縁だった。

 

 だがそんな彼女は可愛らしくとても素敵だった。

 

 

「でもつむぎが選んでくれたものだし可愛いのは事実だよ。ありがとうつむぎ」

 

「えへへ、どういたしまして」

 

 

 微笑むつむぎ。この服を選んでよかったとつむぎは思った。

 

 

「さて、コーディネートは終わりましたがここで重大発表があるよ!」

 

 

 画面には重大発表と大きく表示されていた。

 

 

「今日ショッピングモールに来た理由はもうひとつあるんだよね?」

 

「うん、わたしたち海に行くために水着を買いに来たんだ! 今度わたしたちの他にも友達を連れて海で撮影を行うよ! 丸一日撮影したものを動画にする予定だからよかったらみてね!」

 

 

 撮影が終了した。

 今度は自分達の水着を買う出番だ。

 

 楽しい夏がはじまろうとしている。 

 



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エメラルドの海で夏を満喫!

 エメラルドグリーンに透き通る海が辺り一面を美しく見せる。

 

 つむぎたちは海へと来ていた。

 

 

「咲夜ちゃん! みんなのところへいこっ!」

 

「まってつむぎ……」

 

 

 つむぎが咲夜の手を取り砂浜へと歩いていく。

 つむぎたちは水着を着ていた。それぞれショッピングモールで自分で選んだ水着だ。

 

 

「おーい! 二人ともはやくはやくー」

 

 

 三つの人影が見える。叫んで手を振っているのはしきだ。彼女たちもまた、水着を着ていた。

 

 

「ごめんごめんちょっと撮影の準備してたら遅れちゃって」

 

 

 三人のもとに来て謝るつむぎ。

 

 

「まったく、メールもらったから仕方なく来たんだから感謝してよね!! ……さ、誘ってくれてありがと……」

 

「先に感謝するのかい。面白いね君は」

 

 

 いつものツンテレを発動するねねこ。そしてねねこと初対面のひそかはねねこを興味深そうに見る。

 

 今日海に来たメンバー。咲夜、ねねこ、しき、ひそかの四人を見てからつむぎは浮いているカメラの方を見た。

 

 

「はい、ということで今日はワンダーランドプラネットにある海にやって来ました! この動画を見て海いいなって思ってくれたら嬉しいな」

 

 

 Unreallyの惑星の中でも特に地球と同じくらい大きく、非現実的な環境のワンダーランドプラネットは不思議な海だった。

 その分リゾート感が凄く美しい。

 

 だが何故かつむぎたち以外はまわりに人はいなかった。

 

 いくら広いUnreallyでもこの時期ならいくらか人がいてもいいと思うのだが。

 

 

「今日の予定はね昼間はとにかく海で自由に遊ぼう! それで夕方になったらバーベキューしたいな」

 

「いいねバーベキュー! ウチ結構やったことあるから任せて任せてー!」

 

 

 つむぎが今日の予定を言い、バーベキューと聞いてテンションが上がっているしき。

 バーベキューの食材や遊ぶための道具は事前に用意してある。

 

 これから自由に海を満喫する一日が始まった。

 

 

「海と言ったらサメ、もしここにサメが現れてパニック映画になったら興味深いのだが」

 

「ぶっそうなこと言わないでよ!」

 

 

 ひそかのなにかを企んでいるような表情にツッコミを入れるねねこ。

 

 

「サメが襲ってくるなんてそんなのフィクションだしそうないことだから大丈夫大丈夫ー。ていうことでウチはこの日のために作った水上バイクにのってくるーる!」

 

 

 お気楽なしきはアイテムを召喚した。白と黄色でデザインされた水上バイクだ。

 しきのマシンはいくつかみたが白と黄色で統一されているものが多い。

 

 そのまましきは水上バイクで水中をドライブする。

 

 

「にゃっ!? ちべたっ!」

 

 

 恐る恐る海の水に足を入れたねねこはびくっと驚いていた。

 

 

「うう……海に来たはいいけど泳ぐの苦手なのよね」

 

「もしかして海くるの嫌だったかな?」

 

 

 誘ったことをちょっと申し訳なさそうに言うつむぎ。

 

 

「別にそんなこと言ってないでしょ! 冷たい水が苦手なだけで一緒に遊ぶのは嫌いじゃないわよ……むしろ楽しみにしてたし……」

 

 

 ちょっぴり素直じゃない受け答えをするねねこはやはり可愛いつむぎは、そう思った。

 

 

「そっかよかった! じゃあビーチボール使って遊ぼ!」

 

「う、うん」 

 

 つむぎはビーチボールを取り出す。この日のために用意していたものの一つだ。

 浅瀬でビーチボールをすることを決める。

 

 ふとつむぎは咲夜のいる後ろの方を見た。

 

 

「咲夜ちゃんも一緒に遊ぶ?」

 

 

 咲夜はパラソルのしたでノートらしきものをとっていた。

 だが咲夜は首を横に振る。

 

 

「ごめんつむぎ。今は新しい曲作りに専念したいんだ。今ならいい感じの曲が作れそうなんだ。少ししたら私も参加するよ」

 

 

 そう言って咲夜はギターを手に取り作曲作りを開始した。

 新曲を作っているとは聞いていた。つむぎはひそかに咲夜の新曲を楽しみにしている。

 

 なので今はそっとしておこうとつむぎは思った。

 

 

 それとはべつにひそかは一人で浮き輪に寝そべって海に浮かんでいた。

 

 

「ここは見た目はいい場所だね。流石だ。しかしまぁそろそろ……なにかが起きるかもしれないね」

 

 

 望遠鏡で遠くを眺めながらひそかは呟いていた。

 

 

「るるるん~るるるん~るるるるる~ん」

 

 

 しきは水上バイクで華麗なドライブテクニックを披露していた。マシンの発明とその操縦。しにはその二つにたけていた。

 

 それだけならすごい人材なのだがだいたい不幸な目に会いがちでそっちばかりが注目されてばかりだ。正直他の面でもちゃんと評価されてもいいと思う。

 

 楽しくドライブを楽しんでたしき。

 

 しかしなにか異変に気づく。

 

 

「シャ……ク」

 

「うん? だれか呼ん……だ?」

 



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恐怖の巨大ザメ

 つむぎたちはビーチボールを使って遊んでいた。咲夜も作曲をいったんやめ参加している。

 

 楽しくやっていた頃、一つの事件が起こった。

 

 

「ぎゃあぁぁぁぉぁ!」

 

 

 しきの悲鳴が聞こえる。

 しきはこちらへ向かう途中、バイクを捨て自身の飛行モードでこちらへと飛んでくる。

 

 

「どうしたのしきちゃん!?」

 

 

 動揺するつむぎはしきにたずねる。

 しきはなにかおぞましいものでもみたかのように、体を震わせて言った。

 

 

「で、出たんだよおっきなサメが!!」

 

「サメ!?」

 

 

 つむぎたちは海の方を見る。 

 そこには衝撃的なものが映っている。

 

 

「シャァァァァク!!」

 

 

 そこには10メートル以上もある巨大なサメがこちらへと向かってきていた!

 

 

「にゃっ!? サメ!? にゃんでこんなところにサメが!?」

 

 

 尻尾を立たせ震えるように驚いているねねこ。

 

 

「ふむ。噂はほんとうだったようだね」

 

「ひそかちゃんなにか知ってるの!?」

 

 

 なにかを知っている素振りを見せるひそかにつむぎは尋ねた。

 

 

「このビーチには狂暴で巨大なサメが現れると噂があったんだ。いかしかし実に素晴らしいね。まるでサメ映画のようじゃあないか」

 

 

 マッドサイエンティストのように語るひそか。

 

 

「つむぎ、このビーチを勧めたのって……」

 

「ひそかちゃんだよ……。どうりで他に人がいないんだ」

 

 

 どこの海に行くか迷ったとき、ひそかが紹介してくれたのがこのビーチだ。海がきれいで人が少なく穴場だというのでここにしたのだ。

 

 それがひそかの手で踊らされてる事に気付くべきだったのかもしれない。

 

 

「シャァァァァク!」

 

「あぁ! ウチのバイクがぁぁぁ!」

 

 

 すると巨大サメは叫びながら、しきの水上バイクを噛み砕き破壊した。破壊されたバイクは消滅する。

 

 

「って言うかなんで鳴き声がシャークなのよ!?」

 

「そうだね。サメーと鳴くものだよ普通は」

 

「それもおかしいわよ!?」

 

 

 ひそかのB級映画好きによる知識も全然知らないねねこには謎だった。

 

 サメはこちらへと向かってくる。このままではビーチから這い上がって来そうだ。

 

 

「こうなったら……!」

 

 

 咲夜は銃を取り出した。もうお馴染みになりつつある咲夜の攻撃手段だ。

 

 銃声がなり銃弾がサメに命中する。

 だがそれが全然効いてないようにサメはこちらへくるのを止めない。

 

 

「だめだ全然効かない……なにか対抗策は……」

 

「対抗策ならあるよ。それにはあるアイテムが必要だ。つむぎ君、今からひそかが言うアイテムをマテリアライズペンで作ってくれないかい? しき、君にも手伝ってもらうよ」

 

 

 ひそかが対抗策をつむぎとしきに言う。

 

 

「なるほどなるほどー。まぁ仕方ないなぁ! ウチしかやれそうにないからやってあげるよ!」

 

 

 納得したように胸を張るしき。

 つむぎはなぜそのアイテムが必要なのかよくわかってなかった。だがそれが必要らしいことは分かりマテリアライズペンで必要なアイテムのイラストを急いで描いた。

 

 

「はいしきちゃん!」

 

「あいよーウチに任せて!」

 

 

 完成したアイテムをつむぎはしきへと渡した。

 しきはそのまま空中へと飛んでいく。

 

 

「対抗手段ってなにがあるのよ!?」

 

 

 ねねこが尋ねた。

 

 

「古来から人類がサメに対抗するのに最適な武器があるんだ。それは──」

 

 

 

「チェーンソーだぁぁぁぁぁ!」

 

 

 しきが真上から下へと突撃するかのようにつむぎが作った武器チェーンソーを振りかざした。

 

 チェーンソーの鋭い刃でサメは真っ二つ───

 

 

「ガブッ」

 

『食べられた!?』

 

 

 にされることなくしきごとパクリ、丸ごと食べてしまった。

 

 

「げふっ」

 

 

 するボコッとなにかが爆発する音がした。するとサメがゲップのように黒い煙を吐いていた。

 

 どうやらしきが自爆したらしい。

 しきは砂浜へと戻ってきた。

 自爆したことでリスポーンしたのだろう。

 

 

「なんか知らないけど気分が清々しいなぁ! ふんふん~さて海へ行こー……ってなにあのサメ!?」

 

「爆発と一緒にさっきの記憶まで吹っ飛んでる!?」

 

 

 思わずつっこむつむぎ。

 

 

「おかしいな……映画だとチェーンソーで一刀両断するのがサメ映画のお約束なのに」

 

「ここはアンリアルだから……」

 

 

 こんなはずでは、という表情で真面目に疑問に思うひそか。それを呆れるように見る咲夜。

 

 

「ど、どうするのよこれ……!」

 

 

 ねねこは焦っていた。

 もうサメとつむぎたちの距離は近くであった。

 

 

「誰か助けて……!」

 

 

 つむぎは神頼みのように叫ぶ。

 アンリアルなので食べられても死にはしない。

 だがこのままではせっかくの海が中止になる。

 水着まで買って楽しみにしていたのにそんなのは嫌だった。

 

 巨大ザメが大きな口を開けて襲いかかってくる。

 そんな時だった。

 

 

 ドカーン!

 

 

 黒い稲妻がサメのところへと落ちた。

 その稲妻はとてつもない大きな音を放っていた。耳がキーンとしそうだ。

 

 

「サメぇぇ……」

 

 

 稲妻が当たったサメは涙目になり泣きながら海の方へと帰っていった。

 

 

「なんか知らないけど勝った……?」

 

 

 咲夜が言う。

 

 

「やったぁぁ。ウチは記憶ないけど撃退できたんだねー。これでまた海で遊べるーる! ところでウチのバイクはどこー?」

 

 

 サメがいなくなったことで喜ぶしき。

 しかし彼女はそのあとバイクが破壊されたことを思いだし自爆しかけたのはまた別の話。

 

 

「あの雷って……」

 

 

 みんなが喜び海での遊びが再開した中つむぎだけが先程の黒い雷に疑問を抱いていた。

 



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見守る竜

 無事巨大ザメからの被害を免れたつむぎたち。

 

 それからつむぎたちは安全を確認しつつ、海を満喫することにした。

 

 定番のビーチフラッグで競走をして、スイカ割り、砂遊びをしたり充実した一日を送った。

 

 そして夕方にへとなっていき、バーベキューが始まる。

 

 ジュージューと肉や野菜、魚が焼ける音がする。美味しそうな臭いが漂っていた。

 

 

「いろいろあったけど今日一日たのしかったねー」

 

 

 つむぎは片手にコップを持ち咲夜に言った。

 

 

「ここがサメの出るやばいところじゃなければもっとよかったのにねー」

 

「ふふっ、まぁいいじゃあないか。今日一日を撮影しているのだろう? Uドリーマーとして最高の取れ高じゃあないか!」

 

 

 しきは焼いた肉を皿に取り、じーっとひそかの方へ目線をやる。だがそれに特に罪悪感もないように会話をするひそか。

 

 実際のところ今回の被害者は自家製バイクを破壊されたしきだけだ。

 

 

「ふー……ふー……」

 

 

 ねねこは猫舌なのか焼かれた海老をふーふーと冷ませながらちょっとずつ美味しそうに食べていく。

 

 

 紫に色に染まりつつある空を見上げつむぎは思う。

 

 

「ミーちゃんも来れば良かったのになぁ……こんなに楽しいのに」

 

「でも断ったんでしょ?」 

 

「うん、顔出しNGだからねぇ。撮影しなければ来てくれたかな?」

 

 

 そうである。ミーちゃんことミーシェルにも海へ行く誘いのメールを送っていた。

 

 だが返事は『ミーは一般の目に触れる場所には行けぬ……のだ。貴様らだけで楽しんでいくといい』と断られている。

 

 いたら絶対楽しいだろうと思っていた。

 リアルの彼女はお祭り事を盛り上げてくれる存在でそういったことに目がない。

 

 今回は撮影もかねての海へのお出掛けだったため仕方ない。つむぎはそう割りきることにした。

 

 そんなこんなで今日の動画撮影は幕を閉じた。

 

 

 ◇

 

 

 仮面をつけた一人の少女が空高く浮いている。

 その仮面は顔こそ隠せても全身までは隠せはしない。特徴的な彼女の姿はあまりにも隠しきれない。

 

 彼女はエメラルドグリーンの海を見渡し安堵した。

 

 

「ふぅ……どうにか今日一日終わった……のだ」

 

 

 仮面を付けていた少女、ミーシェルは仮面を外して独り言を呟いた。

 下にいる小さく見える人影を見ていた。つむぎたちだ。

 

 そう、ミーシェルはつむぎたちが来ていた海に遠くからずっと見ていたのだ。

 つむぎたちは撮影してるため顔出しNGのミーシェルはどうどうとあの場に行けず、行くのは断っていた。

 

 それでも気になっていて今日一日ずっと遠くから見守っていたということだ。

 

 

「しかし焦った……のだ。あのデカイサメが出てきたときは……思わず助けにシュヴァルトブリッツを放ってしまった。……まぁあれくらいいいが」

 

 

 巨大なサメを撃退したのはミーシェルの黒い稲妻だった。威力を弱めた一撃だったがそれでもすごい破壊力だった。

 本気で撃っていたらあのサメは倒していただろう。

 

 楽しそうにしているつむぎたちを見つめる。

 今日一日つむぎたちの様子を見ていたがほんとうに楽しそうであった。

 

 なによりあのつむぎが自分以外の誰かとあそこまで仲良くやっているのを実際に見てほほえましく思う。

 

 そして同時に羨ましくも思う。

 

 

「ミーもアンリアルドリーマーだったらな……なんてな……」

  

 

 ミーシェルは最後にぽつりと言い残し羽を広げてその場を去って行った。

 



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夏のアンリアルライブフェス!

 夏休み。ホラースポットに行き海へと行った7月が終わり8月を迎えようとしていた。

 

 そんなある日、つむぎはUnreallyの自分の家で一人くつろぎ、動画を見ていた。

 

 

◆【告知】夏のアンリアルライブフェス開催だよ! │七色こころ

 

 

「あなたの心は何色? わたしは虹色! 七色こころです」

 

 

 毎日のように更新されるこころの動画を見るつむぎ。画面には自分の色を書いている視聴者のコメントが流れてくる。

 

 

「はい、ということでこの季節がやってきたよ! 夏のアンリアルライブフェス! 今年で第三回目だね!」

 

 

 こころは嬉しそうに笑顔を見せ喋る。

 

 

「アンリアルライブフェスってなに? って人も多いと思うから改めて紹介するね。アンリアルライブフェス、略してUフェスはUnreallyで行われる大規模なマーケットかつ音楽の祭典なんだ! 三日間に渡ってUフェスは開催されてそれぞれの日で開催される内容が違うの。

 

一日目はグッズなどの物販、展示物の出展。

二日目はそれ込みで一部はアンリアルドリーマーとファンが交流できる交流会があるよ! 

そして三日目はライブ! わたしともふもふあにまるずの子達がそれぞれ複数ある会場から司会をして参加者の子達がライブを披露するの!

Unreallyに行ける人は是非会場へ!

この三日間の光景はわたしのチャンネルでそれぞれ複数生中継するからUnreallyにいけない人も是非みていってね!

それとまだまだUフェスへ出場したい人は募集してるからどしどしご応募ください!」

 

 

 そう言ってこころの動画は終了した。

 

 

「アンリアルライブフェスかぁ! 今回は画面で見るだけじゃなくて実際にライブとかも見に行けるなんて夢のようだよ!」

 

 

 つむぎは独り言のように言う。だがそれは独り言ではない。視界にはビデオチャットのモニターが四つ映っている。

 

 

「そうね、あたしも二日目は出るし、まぁ楽しみじゃないこともないわ」

 

「ねねこちゃん、Uフェス参加するの!?」

 

 

 髪をなびくねねこをみて驚くつむぎ、そういった話は聞いてないので驚く。

 

 

「ウチもウチもー」

 

「ひそかも同じく」

 

 

 元気に手をあげるしき、ワインのようにグラスにぶどうジュースを飲みながらしゃべるひそか。

 

 

「そんな……みんな参加するなんて……咲夜ちゃんは…!?」

 

「私も出るよ三日目のライブだけに」

 

「そ、そんな仲間はずれ……わたしだけ…」

 

 

 一人だけ取り残されたような気分になるつむぎはがっくりとショックを受ける。そういった話は全然聞いていなかったため余計だった。

 

 

「まぁそんな落ち込まないでよ! ウチやひそかは展示したいもの販売したいものが元々あったから参加する予定だったしねぇ」

 

「あたしはファンの子と交流する機会として配信もするつもりよ」

 

「そっかぁ……みんな目的があってすごいなぁ」

 

 

 Uドリーマーである彼女たちはいろんな考えがあって活動をしているのだと改めて実感する。

 

 

「まぁ無理にとは言わないけどUドリーマーなら参加してみるのもいいとひそかはいいと思うよ。受付け自体はまだしているしね」

 

 

 それじゃあね会話が終わるとビデオチャットは終了した。

 

 チャットが終わったつむぎは背伸びをするとベッドへと寝そべる。右手を頭に置き考えごとをする。

 

 

「わたしって本当はなにがしたいんだろ…」

 

 

 ぽつりとつむぎは呟く。

 思ってもいなかった。UドリーマーとしてUnreallyでの日々を動画にする。

 

 それがつむぎの動画の傾向だ。

 もちろんそれは楽しいがUフェスに参加するのなら別のなにかが必要だと思った。

 

 つむぎは歌は得意じゃないし大勢の前で歌うのは緊張するので無理だ。だからなにかしら販売するというのが一番現実的だろう。

 

 しかしなにかになにを販売すればいいのか…… 

 

 

 ピンポーン

 

 その時玄関からチャイムがなる。

 

 つむぎは頬を両手で叩き気分を切り替える。

 一階へと降りて玄関の扉を開けた。

 開けた先にいたのは咲夜だった。

 

 

「つむぎ、ちょっといい?」

 

「咲夜ちゃん、Uフェスでライブするんだってね」

 

「うん、新曲ももうすぐ完成するんだ」

 

「そっか、だから海に行ってた時も作曲作りしてたんだね」

 

 

 納得がいく。咲夜は海に行ってたとき作曲作りに専念したいとギターを持って海に来ていた。

 

 それだけ気合いを入れていたのはUフェスのためだったのだろう。

 

 

「それでさ……」

 

 

 すると咲夜はもじもじと体を動かし、なにかを言うのをためらっていた。だが一度呼吸を整え咲夜は言う。

 

 

「つむぎ……私のライブ見に来てくれるかな?」

 

 

 咲夜の顔は少し赤くなっているように見えた。

 つむぎは考える時間もなく答える。

 

 

「そんなの言われなくても絶対に行くよ! 咲夜ちゃんのライブすごい楽しみだよ」

 

「そっか……ありがと」

 

 

 咲夜は安堵のような息をする。

 

 

「そのさ……つむぎには一番見てもらいたいから……ちゃんと聞くまで疑心暗鬼になっちゃってさ……」

 

「それって……」

 

「あーこの話はおしまい……どっか遊びに行こう」

 

 

 つむぎの言葉を遮るように咲夜は背中を向け言う。つむぎはその言葉に流されるように咲夜の後をついて行った。

 



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小さいころの夢

 街道を歩きながらどこへ行くかを決めるつむぎと咲夜。目的の場所があるならワープゲートですぐ行った方が楽だが、こうやってのんびり街を歩きながらその時の気分で遊ぶのを決めるのも楽しくて好きだ。

 

 楽しいのだが、つむぎはため息をつく。

 

 

「ねー咲夜ちゃん、わたしUフェス出るならなにしたらいいと思うかな?」

 

 

 思わず咲夜の顔を覗き込むように尋ねた。だが咲夜は首をよこに振る。

 

 

「私にはわからないよ。それはつむぎが決めるべきことだから」

 

 

 そうだねとつむぎは頷く。

 当たり前ではある。これは咲夜の問題ではなくつむぎの問題だ。参加しようがしまいがなにをしようがしまいがつむぎの自由。

 

 

「つむぎはさ、なにか売ってみたい、作ってみたいとかはないの?」

 

「作ってみたいもの……」

 

 

 つむぎは考える。なにか作ってみたいことはないか。するとひとつだけある記憶を思い出す。

 

 

「えっと……例えばだけど服を作ってみたりとか?」

 

「へぇ服作りに興味があるんだ」

 

「ち、ちがうの// これは小さい頃の話でっ……」

 

 

 つむぎは恥ずかしがるように顔を赤くして誤魔化すように手を振る。

 

 

「昔ね幼稚園の頃デザイナーに憧れてたんだ。それがきっかけで絵を描くようになったなぁって思い出して」

 

 

 昔のことを思い出す。小さい頃はよくファッション雑誌を見てそれを見よう見まねでオリジナルの衣装を描いてたりしていた。

 

 ひなたにはそれを見せてわたし大きくなったらデザイナーになるの! と宣言していた記憶がある。思い出すだけで恥ずかしい。

 

 

「いいねデザイナー、なったらいいんじゃない?」

 

「そ、そんな小さい頃の夢だから今はそんなこと考えてないよ! 現実は甘くないし!」

 

 

 慌てて訂正する。別に今デザイナーに憧れている訳ではない。

 

 

「そうじゃなくてUnreallyでなればいいって話」

 

「Unreallyで?」

 

 

 きょとんとつむぎは首をかしげる。

 

 

「Unreallyはなりたいものになれる場所。昔の夢だって叶えることができるよ」

 

 

 

 ◇

 

 

 咲夜に連れて行かれた場所は都会の会社にありそうな大きな建物だった。

 

 

「ここは?」

 

「ここはクリエイトファクトリー、オリジナルのアイテム、アバターを作るのにここを使うんだ」

 

 説明をしてくれる咲夜は建物の中へと入っていく。へぇと頷きながらつむぎも中へと入る。

 

 

 建物の中は様々なアイテムがホログラムで現れていた。受け付けにNPCがおり、後ろには今人気のアイテムの紹介映像などが流れていた。

 

 

「ここで作ったアイテムは永久保存されて複製可能。しかもオリジナルのギミック効果を作ることも可能だから結構人気なんだよ。しきのマシンやアバターのギミックはここで作ってるんじゃないかな」

 

「へぇ、そうだったんだ」

 

 

 しきはいつも自家製マシンだと言っていた。自作だとは知っていたがここで作っていたとまでは知らなかった。

 

 

「いらっしゃいませ、クリエイトファクトリーへようこそ。こちらへははじめてですか? 」

 

「あっ、はい服が作りたいんですけど……」

 

 

 つむぎは受付の女性の前に来て事情を話す。

 

 

「わかりました衣装製作ですね。衣装製作はそちらの転移エレベーターから3階を選んでください」

 

 

 受付の女性が説明し終えるとつむぎたちは転移エレベーターと言われるUnreally独自のエレベーターの方へと行った。

 

 転移エレベーターはその名前の通り一瞬でその階に転移できるエレベーターだ。

 そのため箱のようなものはなく、下が丸い円で光っていて階層を選択するボタンだけが存在する。

 

 

 その転移エレベーターへと来てつむぎたちは三階を選択し転移する。

 

 そこには小さな個室がいくつか存在し何個かの部屋は製作中という文字が書かれていた。

 

 

 つむぎたちはその中から使われてない部屋を選択する。部屋の中は思ったよりも広く本棚が壁にびっしりとある。休憩用に冷蔵庫や仮眠用のベッドも備わっていた。

 

 テーブルには液晶タブレットとパソコンがおいてある。

 

 

「ここが製作する場所なんだ。なんか思ってたのと違うね」

 

 

 つむぎは製作するというので工場的なものだったり布やミシンなどがおいてあると思っていた。

 実際にはネットカフェのような内装だ。

 

 

「アンリアルだからね。現実のやり方とは違うんだ。服自体はつむぎもつくったことあるよね?」

 

「うん、この服ははじめにアバター作った時に一緒に作ったから。あっ、そうかイラスト書くのと同じ感じでデザインして作っていくんだね!」

 

「そうだね、別にイラストが書けなくても型とか布の生地とか選択してなんとなくで作成できるけど」

 

 

 大体Unreallyでものを作るときはデザイン力が必要なのだと実感する。デザイン力があるかはわからないがつむぎはそれなりにイラストは書ける。なので少しこう言った分野は創造力で有利なのかもしれない。

 

「ここの本には服のデザインの参考になる資料や種類の名称とかいろいろ初心者に向けてのサポートガイドがあるから読んでみるのもいいかもね」

 

 

 咲夜が一つの本を手にする。するといくつかの衣装がホログラムとして飛び出す絵本のように出てきた。

 

 

「うんわかった! よーし、がんばるぞ!」

 

 

 つむぎは衣装をデザインするモチベーションが上がっていき衣装作りが始まった。

 



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それぞれが思いを乗せて

 それからつむぎは連日、一人でクリエイトファクトリーへと通うようになった。

 

 いろいろな衣装の参考資料を集め、自分の作りたい衣装を分析しデザインを描いていく。

 試しに描いたデザインはホログラムで立体化してどんな感じか見るのに最適だった。そう言った試行錯誤で衣装を作る。

 

 

 これは自分だけではなく誰かに着てもらうもの。その人が喜んでくれるような素敵なデザインを作りたい。

 

 つむぎはそう願い一生懸命衣装を作っていった。

 

 

 その数日後。

 

 

◆【告知】Uフェスでデザインした衣装を販売するよ! │麗白つむぎ

 

 

「はい、こんにちは! アンリアルドリーマーの麗白つむぎです!」

 

 つむぎは自分の家で動画を撮影していた。

 

 

「実はね今度のアンリアルライブフェスわたしも出ることにしたんだ!」

 

 

 画面にはどどんと参加決定!という文字が出る。

 

 

「参加は一日目の出展、販売ブース。販売する商品はわたしがデザインした衣装だよ! 試しに一つ試着して紹介してみるね!」

 

 

 そしてつむぎは一瞬で衣装を着替える。

 それはピンクと紫で統一された衣装だった。

 

 

「どうかな? えへへ、実はわたし小さい頃デザイナーになるのが夢だったの。それでUnreallyだったら簡単に衣装のデザインができるからやってみようと思ったらついはまっちゃって。何着も作っちゃったんだ」

 

 

 つむぎはこの数日間の出来事を語る。

 もともとイラストを描くのは好きだった。

 そもそもデザイナーになりたくてイラストを描きはじめたのだ。その小さい頃のワクワクをUnreallyで取り戻し楽しかった。

 

 

「販売ブースの場所は○○地○○だよ。そこにいけばわたしが直接販売してるから是非みんな遊びに来てね!」

 

 

 つむぎは手を振り動画撮影は終了した。

 

 

「ふぅ……これでよし」

 

 

 つむぎは一息つく。

 告知動画を投稿した。これで宣伝はばっちり。製作した衣装の確認もしてすべての確認が終わる。

 

 

 あとは当日、ブースで直接、衣装を売るのみ。

 

 そういえば咲夜の方はどうなのだろう。

 最近はUフェスの準備が忙しくてみんなと連絡もまともにとっていなかった。

 

 つむぎはフレンドの画面からログインしていた咲夜を選びビデオ通話を開始する。

 

 

「もしもし、咲夜ちゃん?」

 

「どうしたのつむぎ?」

 

「Uフェスの準備が一通り終わってね。咲夜ちゃんの方はどうかなって思ってさ」

 

「こっちも私の方は作曲が終わってUDreamスタジオでライブの事前練習してるよ」

 

「そっかお疲れさま!」

 

 

 つむぎは笑顔で返す。

 

 

「いよいよUフェスなんだね。配信とはまた違ったドキドキと緊張があるね」

 

「そうだね……私は生ライブを大勢の前でやるからちゃんとやれるか不安だな」

 

 

 咲夜は基本動画のためのレコーディングと人気のない場所での路上ライブが主だった。

 

 

「がんばって咲夜ちゃん! わたしサイリウムいっぱい買って応援するから! でも咲夜ちゃんのイメージカラーは黒だからどうすればいいんだろう? 黒のサイリウムってあるのかな?」

 

「……ふふっ」

 

 

 咲夜はそんなつむぎをみてくすりと笑った。

 

 

「あっ! なんで笑うの!?」

 

 

 ぷくーと顔を膨らませるつむぎ。

 

 

「ごめんごめん、でもありがとうおかげで少し緊張が和らいだよ。つむぎのためにもライブ成功させるよ」

 

 

 咲夜は優しく微笑んでつむぎを見つめた。

 

 

「うん、お互い頑張ろうね!」

 

 

 二人は自身らのUフェスの成功を祈り通話を終了した。

 



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アンリアルライブフェス!1日目

 Unreally、アンリアルドリーマーにとって集大成を見せる祭典。それが夏のアンリアルライブフェス。

 

 あるものは好きなものを作って販売し、あるものはファンとの交流を大事にし、またあるものはライブで多くの人の感情を揺さぶる。

 

 そんな夢のようなお祭りの一日目が開催されようとしていた。

 

 

 

 

 一般入場が開始される十分前。午前8時50分。

 

 つむぎは自身の出展、販売ブースに咲夜と共にいた。Uフェスのエリア入場は制限が掛かっており、一般参加者は開始まで入場制限がかかっている。

 

 フェス参加者側は事前に展示物の確認や準備などがあるため前日から入ることが出来た。

 周りにはつむぎたち以外の参加者のブースがありそれぞれ気合いを入れた飾り付けがされている。

 

 つむぎのブースには様々な衣装が展示されていた。洋服だけでなく小物やアクセサリなども増えている。つい作るのが楽しくていつのまにかまた増えていたのだ。

 

 

「あわわ、き、緊張してきたよっ!」

 

「つむぎ落ち着いて」

 

 

 咲夜は緊張し震えているつむぎを落ち着かせようとしている。咲夜のフェスの参加は本来三日目。

 今日はつむぎのブースで売り子として参加することにしていた。

 

 

「ちゃんと売れるかなぁ」

 

 

 つむぎは今になって不安が大きくなっていた。

 果たして自分の作った衣装を買ってくれる人はいるのだろうかと。

 

 

「大丈夫だよつむぎ。つむぎはUドリーマーでしょ? つむぎのファンを信じて。つむぎには応援してくれる人がいるんだ」

 

 

 咲夜はつむぎに優しく語りかける。その声はつむぎの気持ちをだいぶ楽にさせてくれる。

 

 

「うん、そうだね。きっとなんとかなる! よーし目指せ完売! ……ってアンリアルだから複製で無限に販売できるし完売とかないんだよね」

 

 

 えへへと笑うつむぎ。

 実際のところ売り上げの目標は考えてない。

 目標があるというならば自分の衣装を手にとってくれた人が笑顔になってくれることだ。

 

 

『まもなくアンリアルライブフェス一日目が開始されます』

 

 

 アナウンスが聞こえる。こころの声だ。

 このイベントはこころが主催でやっているイベントだ。

 

 アナウンスのあとドン! ドン! と打ち上げ花火がパステルピンクの空に上がる。

 

 それが開始の合図だった。恐らくこころのチャンネルでは生配信が開始されこころが様々なブースを見て回る様子が配信されるだろう。

 

 つむぎは去年それを見ていたので知っている。

 

 今回は参加者側だ。配信をみる余裕はない。

 その分自分の目でこのUフェスを体験するのだ。

 

 

 一般参加者がぞろぞろと入ってきた。その数は流石イベントというだけありUnreally上では見たことのない人数があちらこちらへと移動し見ていく。

 

 ここのブースにも人は来てくれるだろうか。

 そんな不安を抱いているとすぐに人がやってきた。赤い髪をした少女だった。

 

 

「つむぎちゃん! 咲夜ちゃんもいる!? よかった一番乗り出来て!」

 

「あっ! あなたは前にあったファンの子!?」

 

 

 それは前に交流会に行く途中、自身の名前も名乗らずつむぎと咲夜のファンとだけ言って写真を撮り去って行った少女だった。

 

 

「告知動画のつむぎちゃんの作った衣装、凄い可愛かったので買いに来ちゃいました」

 

 

 少女はそう言ってつむぎのブースを見て回る。

 少女は楽しそうにつむぎの作った衣装を一つ一つ手触りを確認するように見ていった。

 

 

「こんなにたくさん素敵なものを作れるなんてつむぎちゃんいつか本物のデザイナーになれますよ! もし本当にデザイナーを目指してるなら自分応援します!」

 

「えへへ、そうかな……ありがと!」

 

「とりあえず全部一つずつ下さい!」

 

「えぇ全部!? いいのそんなに!?」

 

 

 少女の発言に思わず驚くつむぎ。販売している種類はそれなりの数がある。いくら支払いはUnreallyの通貨で一個700ユノ程度とはいえ、全種類となるとそこそこの額だ。

 

 ちょっと作り過ぎたことに罪悪感を覚える。

  

 

「推しの夢や目標を応援をするのがファンの自分の役目です! これくらい貢がせてください!」

 

 

 メニュー画面に通知がくる。

 すると所持金が8500ユノ増えていた。

 彼女が買ったのだろう。Unreallyでの買い物はレジを通したりかごに入れる必要もない。

 

 つむぎたちは商品を紹介したりファンと交流するためにいたのが主な理由だ。

 実際には持ち場を離れていても自動で売買がされる。

 

 

「そっか。それじゃあせめてあなたの名前を教えてほしいな?」

 

 

 少女の熱意に押され納得するつむぎ。だがせめて少女の名前が知りたい。ネームプレートを確認した方が早いがそれは味気ない気がした。

 

 

「自分は紅あかねです!」

 

「紅あかね、動画のコメントでみたことある名前だ……」

 

「わたしも……そっかあかねちゃんだったんだ! いつも応援ありがとね!」

 

 

 つむぎたちは彼女の名前を知っていた。

 初期の頃から動画に毎回のようにコメントをくれる子だった。その励まされるような応援コメントを見て動画投稿のモチベーションが上がることも何度もある。

 

 ずっとこうして応援してくれてた子が直接会いに来てくれてると思うと感傷深いものがあった。

 

 

「いやー自分はただ一般視聴者として見ているだけで充分幸せなんで名前なんて覚えてくれなくてもいいんですよっ//」

 

 

 あかねは照れ臭そうに言った。

 あかねを見ているとUnreallyに来る前の自分を思い出すつむぎ。

 

 

「それじゃあ引き続きがんばってください! 三日目の咲夜ちゃんのライブも見に行きますので!」

 

 

 あかねはそう言って手を振りその場を去って行った。

 

 

 ◇

 

「はぁ……やっと終わったねぇ咲夜ちゃん。お疲れぇ」

 

「つむぎもお疲れ」

 

 

 一日目の開催が終わり二人は缶ジュースを片手に体を休めていた。予想以上にくたくただ。

 

 

 ブースは思った以上に賑わった。

 

 つむぎのファンはもちろんのこと、ブース巡りをして通りかかった人もつむぎの衣装を見て気に入り買ってくれる人もおり大盛況。

 この衣装のいいところを紹介したり、こんな組み合わせがいいなどを教えたりしてつむぎは大忙しだった。

 

 買ってすぐその衣装に着替えてくれた人もいて嬉しい。

 

 

「咲夜ちゃん今日はほんとにありがとうね。本番明後日なのに」

 

「いいよ、私の方にもユノは何割か貰えるから小遣い稼ぎにちょうどよかった」

 

 

 咲夜も接客などで活躍してくれた。売り子として参加してくれた咲夜にも売ったお金の何割かが入るように事前に設定してあった。

 そのため金銭問題の件での相談は既に済んである。

 

 

「それでどうだったつむぎ? このUフェスをやり遂げてさ」

 

「うん、最初はちょっとした思い付きでやったことだけどやってよかったって思えるよ!」

 

 

 自分の作ったものを見て誰かが喜んでくれる。

 それを実際に目の辺りにしたつむぎはとても幸せだった。

 

 

「これからもUドリーマーやりつつたまに作っていきたいな!」

 

 

 にっこりと笑顔でつむぎは言う。

 

 デザイナー。それは小さい頃の夢。

 自分で服を作って誰かを喜ばせたい。

 その夢はアンリアルで叶えられた。     

 



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アンリアルライブフェス!2日目

 二日目の花火が打ち上げられる。

 

 つむぎと咲夜は二日目は一般参加。普通の一般参加者と同じようにブースを巡ることにした。

 

 フレンドでありUドリーマー仲間であるねねこ、しき、ひそかも三人とも今日がブース参加者なためそちらの様子も見ていこうと思う。

 

 

「とりあえずまずはひそかちゃんところに行ってみようか」

 

 

 つむぎはそう言ってひそかのいるブースの方へと向かった。

 

 

 

「やぁ、君たちよく来てくれたね」

 

「こんにちはひそかちゃん」

 

 

 つむぎとひそかが挨拶を交わす。

 ひそかのブースでは本が売り出されていた。

 いわゆる同人誌のようなものだ。

 

 

「是非ひそかの本を見てくれたまえ」

 

「それじゃ遠慮なく!」

 

 

 つむぎは何種類かある本の中から一つの本を手に取る。

 

 タイトルは『ひそか実体験!呪われたUnreallyの名所スポット観光案内』だ

 

 

 中身はタイトルの通りホラースポットらしきところや廃墟など説明書きとひそかの写真が載せられたページになっていた。

 怖さや噂、その後起きた現象などこと細やかに記されている。

 

 

「へぇすごいねひそかちゃん。自ら呪われた場所に行くなんてひそかちゃんはほんとホラーが好きなんだね」

 

「当然じゃあないか。ホラーや都市伝説を暴いていくのがひそかの役目さこれくらい自ら体を張って───」

 

「これブルローネがでっちあげてるのはいくつ?」

 

「それはしーらない」

 

 

 ひそかの言葉を遮ってつむぎの隣で本を覗き見ていた咲夜が尋ねるが、ひそかはしらんぷりを決めた。

 

 

 

 

 その後、しきのブースへ向かう途中つむぎたちはレインボーソフトクリームを買い、食べていた。

 

 レインボーソフトクリームはワンダーパークでしか販売されてないソフトクリームだ。しかしフェス限定で会場内で出店されていた。

 

 他にも食べ物の屋台がいろいろと出店されており、○○区○○に店舗があると店の宣伝をしているところも多かった。昨日はお小遣いも増えアンリアルでの体重増加を気にしなくていいのもありつい食べ過ぎてしまいそうだ。

 

 

 するとある声が聞こえる。

 

 

「七面鳥大食い対決勝敗はおおかみさん61皿挑戦者さん12皿。おおかみさんのかーちでーすよー」

 

「しゃぁ! これで11戦11勝だ! やはりあたいこそあにまるずの頂点だぜ!」

 

「いやーそんなに食べて大丈夫と……」

 

 

 聞き馴染みのある声。もふもふあにまるずだった。かなりの観客ができている。

 

 そういえばもふあにはUフェスでファン交流会をやるらしくウルと七面鳥の大食いバトルをするらしかった。それでこの人だかりのようだ。

 ウルはUnreallyではかなりの大食いで底知らず、それに挑戦者はむーりーと倒れていた。

 

 

「はじめてもふあにさん生で見た……」

 

 

 つむぎは目を奪われたかのようにもふあにの方を遠目で見ていた。Uドリーマーとしては先輩なのでいつもはしてないのになぜかさん付けしてしまっている。

 

 

「私もはじめて……さすがに人気やオーラが断然違うね」

 

 

 トップアンリアルドリーマーの一つであるもふあにはファンとの交流会でも人気が人一倍強いのが伺える。明らかに観客の人数が他の何倍もあった。

 

 世界一のUドリーマーこころが身近に会えることがあるため感覚がおかしくなっているが普通、トップアンリアルドリーマーのところには簡単に近づける雰囲気ではなかった。

 

 

 

 

 そんなこんなでもふあにの様子を覗き見した後つむぎたちはしきのいるブースへ向かった。

 

 

「あっ、つむぎー咲夜ーウチんところきてくれたんだね!」

 

「うん! しきちゃんどんなの出展してるのか気になってたんだ!」

 

 

 しきのブースはマシンが小型化されたくさん展示されてあった。

 

 

「ふんふん、じゃあ紹介するーる! まずは見てみてこのかっこいいバイク! 車もあるんだぞ! 他にお掃除ロボット、しゃべるメカワンちゃん! ほかにもほかにもいーっぱい一生懸命作ったんだ! あっ、博士がね!」

 

 

 いつも以上にテンションが高いしきが楽しそうに言う。その楽しそうな表情を見ているとこっちまで楽しくなりそうだ。

 最後のは言い忘れた設定のように思えたが。

 

 

「たぎってきたしこのままUnitterに自撮りあげよ! Uフェスなーう!」

 

 

 しきは笑顔で展示物を背景に自撮り写真を撮っていた。

 

 

 

 ◇

 

 

「しきちゃん楽しそうだったねー」

 

「そうだね。騒がしいけど悪いやつじゃないね」

 

 

 二人はしきのブースを一通り見た後ねねこのブースに向かった。

 

 

 

 ねねこのブースにはねねこのお茶会という看板が立てられていた。その看板にあるようにねねこを囲うように丸いテーブルに女の子たちが座ってお茶会をしていた。

 テーブルにはティーセットとスイーツが並んでいる。

 

 ねねこはファンとの交流会をしていた。

 

 

「ねねこちゃんいつも応援してます!」

 

「あ、ありがと……」

 

 

 隣に座っていたファンの女の子が言う。

 ねねこはぽつりと呟くと紅茶を飲む。

 

 

「ねねこちゃんのシチュエーション動画ほんと可愛かったー! また見たい!」

 

 

 別の女の子が陽気に言う。

 

 

「あれ見返すの恥ずかしかったのよ! で、でも仕方ないわね……参考のために考えなくもないわ//」

 

 

 ねねこは照れ隠しをするように髪を撫でる。

 

 

「ねねこは愛されてるね」

 

「ツンデレっぽいけどファンのことを一途に想ってるのがねねこちゃんだからね」

 

 

 つむぎたちは遠くから気付かれないように見守っていた。ここで入っていくのは邪魔になるだけだろう。

 

 

「わたしたちは他のところ見てまわろっか」

 

「そうだね」

 

 

 邪魔しないようにつむぎたちは他のブースを回ることにする。

 それぞれの方向性ややりたいことが目に見えた。そんな二日目だった。

 



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アンリアルライブフェス!3日目

 アンリアルライブフェス、最後の三日目はライブが開催された。

 

 何万人も入ることができるライブ会場は三ヶ所用意されており出演者はその三ヶ所の内のいずれかに出演する。

 

 ライブの生配信も決まってて会場にいなくても安心してアーカイブが見れるそうだ。

 

 つむぎとしき、ねねこの三人は咲夜が出演するA会場に観客としていた。

 

 ライブは既にはじまっており、様々なUドリーマーがライブをしていく。

 ライブではサイリウムを振り賑わいがあり盛り上がっていた。

 

 

「もうすぐ咲夜ちゃんの番だね」

 

「そうね、どんなライブをしてくれるのかしら」

 

 

 つむぎとねねこが話す。

 このライブに参加する出演者はほとんとが音楽、歌に自信のあるUドリーマーだ。

 そんな中で咲夜はライブをすることになる。

 

 咲夜の演奏や歌はここでライブしているUドリーマーに比毛をとらない。むしろ頭一つ抜けている。ずっと歌を聞いてきたつむぎは確信していた。

 

 

 ◇

 

 

 咲夜は自分の出番の10分前。ギターを持ち、眺めて様々なことを考えていた。

 

 この数ヵ月。咲夜の人生は大きく変わっていた。

 

 もともとUnreallyは一人で現実逃避をしにのんびりするのにやっていたもの。その延長線上でUドリーマーになり自分の曲を自分のために残そうとしていた。

 

 なのにつむぎがやってきてなにもかもが変わった。

 Unreallyでの日常が変わって、自分のための音楽が誰かに聞いて貰いたいと素直に思えるようになった。

 

 そして現実世界での自分を肯定してくれて親友 が出来た。

 

 

 だからこの新曲は咲夜にとって新しいはじまりの歌。聴いてくれるみんなと、つむぎに捧げる遠回しな歌。

 

 そう胸に刻み、咲夜は自分の出番を待つ。 

 

 

 ◇

 

 

『はいありがとうございまーしたー』

 

『では次の出演者の紹介です。次の出演者は小太刀咲夜ちゃんです!』

 

 

 もふあにのスゥとこころが司会をしていた。ちょうど咲夜の前の人のライブが終わりついに咲夜の出番がやってきたのだ。

 

 

「つ、ついにさ、咲夜ちゃんだよ!」

 

「なんでつむぎが緊張してるのー?」

 

  

 しきが苦笑いしながらつむぎに言った。

 つむぎは事前に用意した黒いサイリウムを二本持ち強く握りしめた。

 

 ちなみにしきとねねこ用に一本ずつ二人にも黒のサイリウムを持たせている。

 

 

 するとライブのステージに咲夜が登場した。

 

 

「こんにちは……小太刀咲夜です」

 

  

 咲夜は少し緊張しているような声で言った。

 やはりこの大舞台。咲夜にとってははじめてのことなので仕方ないだろう。

 

 

『咲夜ちゃんはロックな曲をメインに歌ってるUドリーマーだよね!』

 

 

 司会のこころが咲夜に話しかける。

 

 

「はい、自分のチャンネルでは歌をメインに。友達のチャンネルでコラボを時々。……今日は私の音楽をみんなに聞いてもらいたくて参加することにしました」

 

『なるほどなるほどー。では聴かせてくーださーい』

 

 

 スゥが言った後、咲夜の表情は変わり真剣な目付きになる。それで演奏をするモードに切り替わったのだとわかった。

 

 

「では聴いてください、小太刀咲夜で───」

 

 

 曲名を言い演奏がはじまる。

 つむぎはその演奏と歌にすぐに虜になってしまう。

 

 用意していたサイリウムを振ることを忘れるくらい夢中になって聴いていた。

 

 

 ◇

 

 

「お疲れ咲夜ちゃん!」

 

「つむぎ……」

 

 

 咲夜の出番が終わりしばらく経った後、つむぎは咲夜の楽屋へときていた。

 三日目の参加者にはそれぞれ楽屋が用意されていた。

 

 咲夜はそこでペットボトルの水を飲んでいた。

 

 

「新曲凄い良かったよ! わたし見入ってせっかく黒いサイリウム用意したのに振るの忘れてたよ」

 

 

 あはは、と笑うつむぎ。

 

 

「そっか、それくらい良かったなら嬉しいよ」

 

 

 咲夜はそんなつむぎを見て優しく微笑む。

 

 

「変わったね咲夜ちゃん」

 

「そうかな?」

 

「咲夜ちゃんの伝えたい想い、わたしには伝わったよ」

 

「そっか……」

 

 

 咲夜はゆっくりと腰を下ろし椅子に座った。

 

 つむぎは咲夜の新曲を脳内で再生し振り返る。

 

 歌詞の内容は居なくなってしまった大切な人を想う歌。一緒にいたときはそれが当たり前だと思っていたのに失ってからそれが愛だと気づく。 

 そんな後悔とそれから前向きに生きようとする切ない歌。

 

 でも心がこもっていて優しい歌だった。

 

 

 つむぎは予想外の曲だと思っていた。

 咲夜の曲は今まで誰かに対しての想いを寄せた歌などではなかった。孤独感や虚無感、寂しいけど強がっているようなそんな感じの歌詞ばかりだ。

 だけど今回の曲は切ないけど、ここまで前向きに誰かを想う歌ははじめてだ。

 

 

「もし変わったなら……それはつむぎのおかげだよ」

 

「わたしの?」

 

「つむぎが私に変わろうとするチャンスをくれたんだ。だから感謝してるよ……ありがとう」

 

「へっ? こ、こちらこそどういたしまして//」

 

 

 いきなり感謝され恥ずかしくなるつむぎ。

 思わず背を向ける。

 

 

「あっ! そういえばもうすぐUフォースのライブがはじまるんだってさ! わたし先に行ってるね」

 

 

 つむぎは逃げるように楽屋を去っていった。

 



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アンリアルライブフェス!フィナーレ

 つむぎと咲夜はねねことしきがいる観客席へと戻ってきた。

 

 観客の人数は今まで以上に増えている。

 

 アンリアルライブフェスのフィナーレを迎えようとしていたからだ。

 

 

『さてさて、アンリアルライブフェスももうすぐ終わりでーすよー』

 

『締めはUフォースのあの方たちに来てもらうよー!』

 

 

 スゥとこころが司会を進行する。

 

 

「Uフォース? なにそれぇ?」

 

「しきちゃん知らないの!?」

 

 

 きょとんとした顔をしているしきにつむぎは驚いた。それからしきにUフォースが何なのかを説明する。

 

 

 

 Uフォースとはアンリアルドリーマーでもトップの中のトップの四組。

 

 

 アンリアルシンガーソングライターとしてCDを出しアニメの主題歌も歌っている黒薔薇の歌姫。

 神咲レア 登録者300万人

 

 

 個人勢ながら初期からUnreallyで活動するバラエティ特化のけもみみ集団。

 もふもふあにまるず 登録者500万人

 

 

 アンリアルアイドルとして活動。リアルでは売れっ子新人声優として人気の声優アイドルグループ。

 ティンクル☆スター 登録者800万人

 

 

 そしてAIで作られたUnreally元祖のアンリアルドリーマー。

 七色こころ 登録者5000万人

 

 

「この四組がアンリアルドリーマーのトップとして君臨しているんだよ! 今日ライブするのはそのティンクルスターと神咲レアちゃんなんだ!」

 

「へぇ……そ、そうなんだ」

 

 

 つむぎの熱い解説に引き気味のしき。

 それをやれやれとみる咲夜。そんなことより次のライブが楽しみで尻尾を丸めてるねねこ。

 

 

『でーは行きましょうキラキラ輝く流れ星ティンクルスターのみなさーん』

 

 

 スゥが呼び掛ける。

 するとステージの方へと一直線に空から流れ星が振り注がれてきた。その流れ星は光が消え三人の少女が現れた。

 

 

「キラッとハッピー! キラハピ☆ 宝城イルミナよ!」

 

「今宵の時間はボクに捧げて……星屑ミラだよ」

 

「ふんわりふわふわ~。星屑カペラですぅ……」

 

 

 すると観客席は大いに盛り上がった。

 

 ティンクルスターだ! 

 イルミー! 

 ミラ様ー! 

 カペラちゃ~ん! 

 

 そう言った歓声が聞こえる。

 

 

「あっ……あっ……本物のティンクルスター……」

 

 

 ここにも一人、言葉を発するのも限界に達している人物がいた。尻尾をハートさせているねねこだ。

 

 ねねこはティンクルスターの大ファンだ。

 

 

「おねえちゃん眠いの?」

 

 

 ミラが双子の姉であるカペラに問う。

 

 

「そうなんですぅ。さっきも別の会場でライブしてきたばかりなのでおふとんですんやりすやすや~したいですぅ」

 

 

 眠そうに目を細めるカペラ。Uフォースは三ヶ所の会場全部でライブをすることが決まっておりハードだ。

 

 

「そんなのダメよ! せっかくイルミーたちを応援してくれるエトワールのみんなが見てくれてるんだからちゃんとやるわよ!」

 

 

 眠そうなカペラにビシッと決めるように渇をいれるイルミナ。

 

 

「ふわわっ! そうですぅ! 頑張りましょう妹ちゃん!」

 

「うん、がんばる……」

 

 

 ミラとカペラはやる気を出し持ち場についた。

 そしてイルミナがセンターに立つ。

 

 

「それじゃーみんな聞いてよね☆ ティンクル☆スターでキラキラ☆スマイル」

 

 

 そして曲が流れてきた。ティンクルスターの代表曲キラキラ☆スマイルだ。

 

 みんなをキラキラ輝かせるために来た彼女たちの応援ソングだ。

 

 それぞれダンスを躍りながら自分のパートで歌を歌う。それはまさしく正統派アイドルであり輝いて見えた。

 

 

 ◇

 

 

『はいーということでティンクルスターのみなさんでーしたー』

 

 

 ティンクルスターの出番が終わる。

 ティンクルスターは出番が終わるとまた流れ星になって遠くへ飛んでいった。

 

 観客の盛り上がりは最高潮に。

 ピンク、緑、青のサイウムが振られていた。

 

 Uフォースの勢いは凄い。今まで見たライブのどのライブよりも盛り上がっている。

 ねねこも幸せそうな顔をして余韻を感じていた。かくいうつむぎもとても胸が熱くなる感覚があった。

 

 

『さて、それじゃあ最後におおとりはこの子! 黒薔薇の歌姫、神咲レアちゃん!』

 

 

 するとステージ上のライトが全て消える。

 そして間が出来て沈黙が起きる。

 

 放送事故かと思ったそのとき。パッとステージの中心にスポットライトが当てられた。

 

 そこには黒い薔薇をドレスにつけた大人びた少女。神咲レアが現れた。

 

 

「こんばんは、神咲レアです。歌います、曲名はDescreation」

 

 

 特に変わった自己紹介もなく彼女はすぐにマイクを手に歌う準備をする。

 生配信やバラエティをほとんどしない彼女を見れるのが歌動画とライブだが、ライブでも彼女の口数はあまり多くない。

 

 そんな彼女の曲がはじまる。

 ゴシックでかっこいい彼女の音楽はとても美しい。そしてなによりマイクから流れ出てくる音量は大きなこの会場全てを響かせる声量だ。

 

 その圧巻の歌唱力で会場は再び盛り上がった。

 

 

「ご静聴ありがとうございました」

 

 

 レアのライブが終わる。

 

 

「凄いねレアちゃんの歌」

 

「うん、何度聴いても惚れ惚れする。……やっぱりまだまだ敵わないな……」

 

 

 咲夜は悔しそうな雰囲気で言う。

 咲夜はレアの曲が好きだ、だが同時に咲夜もシンガーソングライターとして活動している。

 

 故に比較してしまうのだろう彼女との圧倒的な差を。

 

 咲夜ちゃんの曲だってわたしは大好きだよとつむぎはいいたかったがレアの歌を実際に聞いてしまうとそれは今言うべきじゃないとつむぎは思い、胸の中にしまう。

 

 

 こうしてアンリアルライブフェスは三日間の全てが終了し無事大成功を遂げた。

 



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現実世界のお祭り





 フェスも終わり八月の中旬。

 つむぎは今日現実世界での出来事を楽しみにしていた。

 

 ピンクの浴衣を着ていつも出掛けるよりすこしだけおめかしをしている。

 

 今日は学校の近くで夏祭りがある。そこにひなたとことね、二人と一緒に行く予定だ。

 

 身支度を整えたつむぎは夕方、家を出ていった。

 

 目的地までの距離はだいたい徒歩30分。

 浴衣姿のためもう少し時間が掛かるかもしれない。なので早めに出ていた。

 

 

 

 数十分が経ち目的地についた。

 そこには見知った人影が二つある。

 

 

「おーい、つむぎー」

 

「二人とも!」

 

 

 ひなたとことねだった。

 

 

「つむ、夏休み元気にしてた?」

 

「うん、いろいろあって楽しかったよ!」

 

「そっか、久しぶりに顔を見れてことは嬉しいよ」

 

「こっちこそ今日は誘ってくれてありがと」

 

 

 ことねの問い掛けにつむぎは答える。

 今日夏祭りに行くことになったのはことねがきっかけだ。

 

 

 数日前ことねがひなたとつむぎにUINEで

 

ことね:せっかくの夏休みだしどっか遊びにいかないかな? 今度学校の近くでやるお祭りとかどうかな?

ひなた:いいねぇあたしは賛成

つむぎ:わたしも二人と行きたい!

 

 

 とやりとりをして今に至る。

 

 

「それにしてもみんな浴衣姿だね」

 

「まぁせっかくの行事だしねぇ。去年着てたのだけどこういうときしか着れんし」

 

 つむぎは二人の浴衣姿をみる。ひなたはオレンジと黄色が混じり合った浴衣でことねの浴衣は青に花柄がついている。

 

 

「それじゃあ行こうか」

 

 

 ことねの言葉で三人は階段を上がりお祭りの屋台がある場所へと向かった。

 

 お祭りはそれなりに賑わいがあった。

 様々な屋台の美味しそうな匂いに食欲がそそる。

 

 

 するとひなたはさっそく一人で屋台に向かった。

 

 

「夏祭りの定番といったらやっぱこれっしょ!」

 

 

 ひなたはリンゴ飴を購入していた。

 つむぎもなにか買おうと屋台をみる。

 

 

「じゃあわたしもかき氷食べようかな。いちご味」

 

「じゃあことはメロン味にするよ」

 

 

 つむぎとことねはそれぞれお金を出し合い一緒にかき氷を買った。

 氷の山にシロップが乗ったそれは夏にふさわしい食べ物だ。

 

 ストローでできたスプーンでつむぎはパクリと一口。

 かき氷は冷たくて甘く、でも普通のアイスクリームとは違った味わいで美味しい。夏の暑さにぴったりの食べ物だった。

 

 

 その後つむぎたちは屋台を見て回る。

 屋台には食べ物以外にも遊べるところもある。

 そこで一つつむぎはその中から射的を選んだ。

 お店の女性にお金を渡し銃を手に取る。

 

 つむぎは銃を構え、景品に狙いを定める。

 欲しい景品があるわけではなく目的は銃で景品を落とすと言う現実ではなかなかできない達成感。

 

 なので一発当てれば落とせそうなお菓子の箱を狙うことにする。

 

 何発か撃つ。しかし狙い通りにはいかず全弾外れてしまった。

 

 

「あはは、やっぱりなかなか当たらないね」

 

「普通そうなのよ。さっきの子はすごかったなぁ」

 

「さっきの子?」

 

 

 店の女性の言葉につむぎは首を傾げる。

 

 

「さっき中学生くらいの女の子がバンバン景品を撃って手に入れてたからね。いやー全部取られるかと思ってひやひやしたよ」

 

「そんな子がいるんだ」

 

 

 なにかそう言うことを日頃からやってる子なのかなとつむぎは思う。

 その後、ひなたも射的をしたが全然景品は落ちなかった。狙ってたのは最新ゲーム機だ。

 

 

 ◇

 

 その後つむぎたちはお祭りを一通り満喫した。

 輪投げや金魚すくいで遊び。焼きそばやベビーカステラを食べて思いのままに過ごす。

 

 そして20時が近づこうとしたとき。

 

 

「あ、わたしそろそろ帰るね」

 

 

 つむぎはスマホで時間を確認して二人に言った。

 

 

「どうしたのつむ? もうすぐ花火がはじまってこれからが本番なのに」

 

「あはは、ちょうど八時からは用事があるんだ。それじゃあまたね!」

 

 

 そう言ってつむぎは二人と別れた。

 八時には花火がはじまる。

 本来ならここからがお楽しみなわけで本当なら一緒にいたい。

 

 しかしつむぎにはどうしても外せない約束があった。

 

 その約束を果たすためつむぎは彼女のいる所へと足を進めたのだ。

 

 

 ◇

 

 

 つむぎは一人目的地へと歩いていく。

 彼女との約束は午後八時。

 

 賑わっている人だかりから徐々に人がいない場所にやってくる。

 

 目的の場所は祭りの場所から少し離れた河川敷だった。そこにはすでに約束していた彼女の背中姿があった。

 

 

「さやちゃん!」

 

 

 彼女は振り向く。約束していた少女。それはある意味最近ずっと一緒にいて、ある意味では全然会ってなかったさやだった。

 

 

 つむぎは夏祭りの約束をしたときさやと個別でUINEでやりとりをしていた。

 

つむぎ:今度学校の近くでやる夏祭りひなたちゃんたちと行くんだけどさやちゃんも来ない?

さや:大勢はいや

つむぎ:そっかごめんね

 

 

 親友にはなれたけどやっぱりまだリアルでの溝は大きい。そう思ったが数分後。

 

 

さや:でも夏祭りにはいく

さや:だから二人きりなら会ってもいい

つむぎ:なら一緒に花火見よう!

さや:うん

 

 

 というやりとりがありつむぎはさやと一緒に花火をみる約束をしていた。

 

 

「ごめん待ったかな?」

 

「別に……私もさっきまで楽しんでたから大丈夫」

 

 

 わたあめをもってさやは言う。

 彼女にしてはちょっと意外な格好をしていた。

 服装は水色の浴衣姿をしており左上の頭には白い狐のお面がつけられていた。

 お面は屋台にあったものと同じだ。

 

 それと巾着袋一杯にぬいぐるみやらお菓子が入っている。

 

 

「その荷物どうしたの?」

 

「これは射的で取った景品たち。Unreallyで培ったスキルがリアルでも反映されるかやったらいっぱい取れた……」

 

「あーあれってさやちゃんのことだったんだ」

 

 

 つむぎはさっきの出来事に納得した。

 

 

「あれって?」

 

「中学生くらいの女の子が景品バンバン取っていったってお店のお姉さんが言ってたんだよ~」

 

「私中学生じゃない……」

 

「ごめんごめん……」

 

 

 さやはふてくされるように背中を向けた。

 実際さやの身長は140㎝台で中学生に間違われても仕方ない。

 

 

「でもさやちゃんが楽しんでたならよかったよ」

 

「一人は一人でそれなりにたのしい……いつもそうしてきたから」

 

 

 その後「でも」と言いつむぎの方を振り返るさや。

 

 

「今日はちょっとだけ……寂しかった」

 

 

 彼女の寂しそうな気持ちは目で分かった。

 一人でいることが多かった彼女。でも最近は学校ではつむぎといることが多くなっていた。

 だから孤独への寂しさを彼女は知ったのかもしれない。

 

 そんな彼女の気持ちを読み取ってつむぎは笑顔を振り撒く。

 

 

「それじゃあ今からはわたしが一緒だよ! 一緒にお祭りを盛り上がろう!」

 

「……うん」

 

 

 さやはつむぎを見つめて口元を緩めた。

 

 

 するとドーン、ドーンと音が鳴る。

 

 夜空に花火が打ち上げられた。

 打ち上げ花火の始まりだった。

 

 

「花火、始まったね! 見ようさやちゃん!」

 

 

 二人は河川敷の草地にシートを敷き座った。

 

 

「綺麗だねぇ」

 

「ん」

 

 

 色とりどりの鮮やかな花火が夜空に絵を描く。

 二人はそれを眺めていた。

 

 

「リアルでこうするのもいいよね」

 

 

 つむぎはさやの方を向いて言った。

 さやは花火の方を向いたままぽつりと

 

 

「まぁ……きらいじゃない……かな」

 

 

 と言った。

 その綺麗な景色はUnreallyと変わらない。

 そして絆も思い出もちゃんと自分の心に残るものだった。

 

 



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夏の終わりはドライブで

 夏休みが終わろうとしていた8月中旬。

 つむぎと咲夜はしきに誘われてドライブをしていた。ドライブに来ていた場所はあまり人気がなく住宅街を通りすぎていく。

 しき以外に運転している車やバイクはなく、その街並みは活気がなくみえた。

 

 

「ひゃっほーーいきもちいいい!」

 

 

 しきは楽しそうにバイクを運転していた。

 つむぎと咲夜はバイクについた小さい車、サイドカーに乗っている。

 

 

「わぁ……! これがしきちゃんがいつも見てる光景なんだね!」

 

 

 風に当てられ髪がなびきつむぎは言う。

 バイクに乗るのははじめてだったつむぎは風を切る心地よさを実感した。

 

 車載動画は見たことあるがこうやって自分が実際にバイクに乗るのはまた違った感覚があった。

 

 

「しきの運転とか事故りそうで怖いんだけど」

 

 

 乗り気でない咲夜。咲夜は最初来るつもりはなかったがつむぎが行くといってから一緒についてきた。

 

 

「大丈夫大丈夫ーウチの博士の設計した設定によるとウチの年齢は19歳なんだぞ! だから車も運転できるしお姉さんに任せていいよーふんふん」

 

「免許は?」

 

「……ア、アンリアルだからオールオッケー?」

 

 

 沈黙の後疑問文でしきは返答した。

 正直不安しかない。

 

 

「ほんとうに事故らない?」

 

「だ、大丈夫だって飛行モードじゃなければ鳥に苛められることは10回に1回だけだしその時しか事故らないから」

 

「それって大丈夫っていうの……」

 

 

 呆れたように言う咲夜。実際しきの車載動画は半分以上途中でバイクが事故ったりすることが多い。事故って自爆するまでがノルマでもし自爆せず終わった場合むしろ視聴者に心配されることすらあった。

 

 空には鳥がいる気配はない。なのでとりあえず大丈夫だろう。

 

 

 そう思っていたが──

 

 

 ザーザーといきなり豪雨が降ってきた。

 

 

「雨っ!?」

 

「あぁぁ鳥がいないときは雨が降る確率高いんだったぁぁぁ」

 

 

 悲鳴のように叫ぶしき。

 

 しきは不運にめぐまれているのかとにかく運がない。しきはブレーキを踏み運転を止める。

 

 

「あぁどうせこの雨もウチのせいなんでしょ……いつもウチは不幸でどうせウチなんか……もう自爆し──」

 

「私たちも一緒なんだから落ち着いて!」

 

「そ、そうだよっ! どこかに雨宿りしよ!」

 

 

 つむぎと咲夜はしきが自爆しようとしたのを止める。しきはなきそうな顔になっている。ネガティブなしきはアンドロイドなのですぐに自爆しようとしがちだ。

 爆発されるのは困るし危ないのでとにかくなだめる。

 

 

「じゃあどっかいいとこない……?」

 

 

 ぐすん、とテンションが一気に下がったしきは尋ねる。しきを自爆させないためにどこか雨宿りできそうな場所を探す。

 

 

「えーっと……あっそこの喫茶店とかどうかな!」

 

 

 あたりを見渡したつむぎは一つの場所を見つける。

 20メートル先。

 それは低木に囲まれた喫茶店だった。

 看板に喫茶店の名前が書いてある。

 喫茶雪月花。筆で書かれたような達筆な文字だ。

 

 

「うん、じゃあ入る……」

 

 

 いつもより大人しいしきと一緒につむぎと咲夜は喫茶店への向かって行った。

 



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喫茶雪月花

 喫茶店の内へと入って行った。

 入ってすぐつむぎたちはアバター情報をリセットをして濡れた服をリセットする。汚れなどを落としたり乾かすならこうするのが一番手っ取り早い。

 

 

「Добро пожаловать いらっしゃいませでありんす」

 

 

 すると一人の女の子が挨拶をしてくる。

 目の前には長い白髪の少女がいた。瞳は青く綺麗でまつげが白く可愛らしい少女だ。太ももが見える丈の短いピンクの着物を着ておりロシア帽子を被っている。

 腰には刀を所持していた。

 

 彼女は優しそうな嬉しそうな笑みでこちらをみている。

 

 

「雨の中お疲れさまでありんす。わたくしは店主のエレオノーラ。どうぞ席についてくださいませ」

 

 

 エレオノーラと名乗った店主は席へと案内した。

 

 店内はおしゃれなBGMが流れており、落ち着く雰囲気が漂っている。だが落ち着きすぎている。

 客はつむぎたち以外一人もおらずさきほどまでエレオノーラ一人だった。

 

 

 つむぎたちはカウンターへと案内され席へと座る。

 

 メニュー表を渡されつむぎたちはメニューを注文することにする。メニューの中身はパンケーキやパフェなどのデザートからオムライスやサンドイッチ、ボルシチなどメニューのバリエーションが多い。

 

 

「それじゃあわたしはいちごパフェで」

 

「ウチはホットケーキ……」

 

「私はコーヒーをお願いするよ」

 

 

 つむぎ、しき、咲夜の順でメニューを注文した。店主エレオノーラはそれを聞くと「かしこまりましたでありんす」と言い料理を開始する。

 

 Unreallyでの食べ物は賞味期限などがないため作りおきしてアイテムとして複数作っておける。そのため大量に仕込みをして注文が入ったら即座に出すところが多い。

 

 エレオノーラは丁寧に一から注文を作っていた。

 

 

「お待ちどうさま、いちごパフェ、ホットケーキ、コーヒーでありんすよ」

 

 

 しばらくした後、エレオノーラがお盆にのせた注文品をそれぞれつむぎたちの前に差し出す。

 

 咲夜はシンプルなコーヒー一つ。

 

 しきは分厚いピラミッド上の三段のホットケーキに蜂蜜が滝のように流れている。

 

 つむぎのいちごパフェは上が半分に切ったいちごが囲んであり、中心にミルクアイスの上に丸ごといちごが乗せられた豪華なパフェだった。

 

 

「すごいとっても豪華!! これでこのお値段なんてすごいお得だよ」 

 

 

 この店の値段は他の店と値段は変わらない。

 だがボリュームや豪華さは他の店より段違いで見映えも良かった。

 

 

「приятного аппетита 召し上がれ」

 

 

 エレオノーラは口を隠すように丸いお盆を持ちにっこり微笑んで言った。

 

 

「いただきます……」

 

 

 大人しいしきはナイフとフォークで一口サイズに切りぱくりと食べる。

 

 するとガタッ! っとしきは立ち上がった。

 

 

「う……うっ……うまああぁぁぁい!」

 

 

 ぱぁ、としきの表情は変わっていった。

 元気のなかったしきの表情に明るさが戻ってくる。

 

 

「うまいよこれ! もちもちでふわふわで甘いぃ! 元気ふっかーつ!」

 

「静かだったのにうるさいのがまた戻ってきた……」

 

 

 騒がしいしきを横目にコーヒーを手に取り咲夜は呟く。だがしきが元気になったのはよかった。

 彼女が元気でない姿はあまりみたくない。うるさいくらいがちょうどいい。

 

 そんな気持ちをリセットするために毎回自爆しているのだろうとつむぎは思う。

 

 

「それじゃあわたしもいただきまーす!」

 

 

 つむぎもいちごとアイスを一緒にしスプーンでパフェを食べはじめる。

 

 

「おいしい! 見た目も味も最高だよ!」

 

「Спасибо お褒めの言葉ありがとうでありんすよ」

 

「あの……さっきから言ってる言葉ってなんですか?」

 

 

 つむぎは質問した。先ほどから海外の言葉のような単語が聞こえたのを疑問に思ってた。

 

 

「失礼、わたくしはロシアと日本のハーフでありんすよ。小さい頃はロシアに住んでたので時々口に出しちゃうでありんす」

 

「なるほどー」

 

 

 見た目からしてロシア人っぽい感じはしたがほんとうにロシアとのハーフだとは思ってなかった。

 

 

「咲夜どのはほんとうにコーヒーだけでいいんでありんすか? なんならサービスで傘回しを披露するでありんすよ」

 

「別にそういうのいいよ……私はお腹すいてないし」

 

 

 エレオノーラは傘と玉を取り出していた。だが咲夜は静かにコーヒーを飲んでいる。

 値段以上のボリュームといいとにかくサービス精神が凄いのは見ていてわかった。

 

 

「そうでありんすか……ここには滅多に人がこないのでわたくしがやれることはやるでありんすよ」

 

「ここってそんなに人来ないのー?」

 

 

 しきは質問する。確かに疑問だ。こんなにいい店なのに人が全然来ないのは不思議だ。

 

 するとエレオノーラはため息をする。

 

 

「そうでありんすよ……せっかく夢だったお店を出したのに中心地と離れてるせいでなかなかお客様がこないでありんす。中心地は人が多いけどその分店を建てる値段があまりにも高いんでありんす」

 

 

 悩むように右手に頬をのせるエレオノーラ。

 中心地はエストヴィルのオルベージュ区だ。

 そこが最も人が多いのは、そこがチュートリアルが終わった後プレイヤーが最初にくる区だからだろう。その辺を中心に周りの区は人気で建物も多くのプレイヤーがすんでたり店を経営している。

 

 だがここはエストヴィル外の別のエピンルシャルトという場所だ。エストヴィル、エピンルシャルトは現実世界で言うところの都道府県のことで○○区は市町村のことだ。

 

 物価は安いが人が少ない。

 わずかにNPCがいる街というのはUnreallyでは数多くある。

 

 なにしろUnreallyの大きさはワンダーランドプラネットで地球一個分の広さ。他の数多もの惑星がUnreallyにはあり行き来できる。

 

 だが総プレイ人数は1億人にも満たない。

 4周年に6000万人を越えたようだがそれでもこの大きな世界にはあまりにも広い。

 

 その中で人々は交流を取ることを目的にしているので一部の場所に密集しやすかった。

 

 だから人がこない土地には滅多に人がこないのである。

 

 

「なにかいい方法はないでありんすかねぇ……」

 

 

 悩むエレオノーラ。そんな彼女を見るのは少し悲しい。彼女はせっかく夢だった店を出したのだ。

 

 つむぎたちが来たときもすごい嬉しそうに迎えてくれてサービスもかかせない。

 この店はもっと評価されるべきだ。

 

 でもどうしたらいいか──

 

 

「そうだ!」

 

 

 つむぎはなにかをひらめき立ち上がる。

 

 

「なら、わたしたちの力で宣伝しよう!」

 



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宣伝しよう!

 その日は快晴でパステルピンクの空。つむぎたちは喫茶雪月花の外で撮影をしていた。

 

 

◆Unreallyで穴場の喫茶店見つけちゃいました! │麗白つむぎ

 

 

「こんにちは、アンリアルドリーマーの麗白つむぎです!」

 

「咲夜だよ」

 

「はいはーいウチしきー! みんなウチのこと覚えてるー?」

 

 

 それぞれが挨拶をする。しきは自分にカメラが写るとピースをして存分に自分をアピールする。

 後についたコメントではいつも自爆する子だ、今日も自爆するのかなというコメントがついてたことはまだ知らない。

 

 

「今日はね、Unreallyであまり知られてない。でもすっごいおすすめの喫茶店があるんだ! それがこちら! 喫茶雪月花!」

 

 

 喫茶雪月花の外観をバーンと見せる。動画の右下には雪月花のある場所が印されている。

 

「それじゃあ中へ入ろう」

 

 

 咲夜は言がいい扉を開ける。

 

 

「Добро пожаловать いらっしゃいませでありんすよ」

 

 

 店へ入るとエレオノーラがロシア語を交えて笑顔で迎えてくれる。店内は案の定エレオノーラ以外誰もいない。

 

 

「はい、こちらが店主のエレオノーラちゃんです。なんとエレオノーラちゃんロシアと日本のハーフなんだって!」

 

「ノーラでいいでありんすよ。今日はお店の紹介をしてくれてありがとうでありんす」

 

 

 この企画を提案したつむぎにエレオノーラは感謝を述べる。

 

 つむぎの考えた案はこうだ。

 つむぎのチャンネルにお店の紹介動画を投稿しお店を宣伝する。

 そうすることでお店を認知してもらいそこから客が増えないかと考えたのだ。

 

 

「ここの喫茶店は落ち着いた雰囲気があって居心地がいいんだ。コーヒーを飲んでゆっくり時間を過ごすのもいいと思う…」

 

「それにそれにーメニューの品は全部ボリューミーでガッツリ食べるのにおすすめーおすすめ~!」

 

 

 落ち着いた咲夜とテンションの高いしき二人の落差は激しい。

 

 

「じゃあノーラちゃん!おすすめのメニューをお願い」

 

「承知しましたでありんす」

 

 

 そう言ってエレオノーラは調理をはじめる。

 調理しているシーンは動画ではダイジェストで送られることになる。それでも調理しているエレオノーラの姿は綺麗で美しく様になっていた。

 厨房ではいい香りが漂っていた。

 

 

「出来たでありんすよ」

 

 

 エレオノーラが調理が終わり料理をカウンター席へ差し出す。

 

 デミグラスソースがかかっているオムライス。

 山盛りのナポリタン。たくさんのフルーツにバニラアイスやクリームが乗ってあるプリンアラモードが出された。

 

 

 しきはオムライスを、咲夜はナポリタン、つむぎはプリンアラモードを手に取りそろっていただきますと言った。

 

 

「うんまぁぁぁい! この半熟でとろとろふわふわな卵にデミグラスソースのコクが合わさって奇跡のハーモニー!」

 

「うん、美味しい」

 

「ほんと飾り付けも綺麗で食べるのが勿体無いよ」

 

 

 しきは車載動画で食レポをする動画を出しているからかこういう時の反応に慣れていた。

 咲夜は静かに一口食べ、つむぎは形が崩れないよう綺麗に食べる。

 

 

「喜んでもらえてうれしいでありんす。でも、まだこれで終わりじゃないでありんすよ。今回は特別に当店の裏メニューを紹介するでありんす」

 

「裏メニュー……?」

 

 

 つむぎたちはその事は一切聞いてなかった。

 一体何を出してくるのだろうか。

 

 

「裏メニュー……それは寿司でありんす!」

 

 

 カウンター席の前に大きなまな板を置くエレオノーラ。すると大きな魚を取り出しまな板に乗せた。

 

 

「まずこのマグロを捌くでありんすよ」

 

「捌く!? いったいどうやって!?」

 

 

 突然のエレオノーラの発言につむぎは驚く。

 

 

「それはこれでありんすよ」

 

 

 腰に付けてた刀をエレオノーラは持つ。

 

 

 そして深呼吸をし姿勢を整えエレオノーラは刀を抜いた。

 

 

「はっ!!」

 

 

 そこからのシーンは動画で見直しても何をしているのかわからない速業だった。圧倒的な速度でエレオノーラは捌く。その一瞬でマグロは切り身になり一貫サイズのネタが大量にできた。

 

 

「す、すごい……いったいどうやったん?」

 

 

 思わず目を見開くしき。

 

 

「家柄上剣術を習ってきたので習得できたでありんすよ」

 

「いや人間業じゃないでしょあれ!」

 

「ここはアンリアルでありんすから」

 

「そう言われたら否定できないけどっ!?」

 

 

 ツッコミをいれるしき。アンリアルならなんでもあり、そう言われたら否定できないのがこの世界だ。

 

 会話をしながら慣れた手つきでエレオノーラは酢飯を取りだし寿司を握る。

 

 

「どうぞ、マグロのお寿司でありんす」

 

 

 二貫ずつ皿に置いてつむぎたちにそれぞれ差し出す。

 

 醤油を付けつむぎたちは一口食べる。

 

 

「おいしい! こんなにおいしいマグロはじめて食べたよ!」

 

「口の中がとろけるぅ! 普通に板前の寿司って言われても信じるレベルール!」

 

「うん、おいしい……」

 

 

 それぞれが感想を述べる。

 

 

「はい、ということで今日は喫茶雪月花に行ってきました! 個性的な店主さんとお得で独自のメニューでとっても素敵な場所なので是非来てね!」

 

 

 こうしてつむぎたちは動画撮影を終了させた。

 

 

 ◇

 

 

 翌日つむぎと咲夜は喫茶雪月花に向かっていた。

 

 

「お客さんいるかな」

 

「どうだろうね」

 

 

 行ってみないとわからない。再生数はまずまずの伸びだ。だがDreamtubeを見ているのはUnreallyにいる人間だけではない。そこからお店に来るまでの行動力にまで至るとは限らない。

 

 とにかく雪月花へとつき扉を開けた。

 

 すると予想以上の光景が目の前にはあった。 

 なんと店内のほとんどの席に人が座っていて満席に近かった。その店の中にいたお客の中にはUフェスでつむぎのブースに来た人の顔もあった。

 

 

「すごいこんなに人が…!」

 

「つむぎどの! 咲夜どの!」

 

 

 接客をしていたエレオノーラがこちらに気付くとつむぎたちの方へとやってきた。

 

 

「大変そうだねノーラちゃん」

 

「ええ、ありがたいことにつむぎどのの動画を見て来てくれた人がたくさん来てくれたでありんす。これもつむぎどのたちのおかげでありんすよ!」

 

 

 エレオノーラはニコニコと笑顔で応える。

 

 

「よかった! わたしたちの力でこのお店が人気になって」

 

「しかしDreamtubeに動画を投稿するとここまで変わるんでありんすねぇ」

 

「それはね、その人のチャンネルを気になった人がチャンネル登録をしてくれてその人を好きになってファンになる。そうして好きな人となにかを共有したいってなって行動に移してくれると思うの……。わたしも好きなアンリアルドリーマーの影響を受けて行動に移す時があるから分かるんだ」

 

 

 えへへ、と言いながらつむぎはファン側の視点Uドリーマーの視点両方での説明をする。

 こころの占いの影響でリアルでイメチェンしたりティンクルスターの作ったお菓子を買うのにスイーツプラネットに行ったり、そして咲夜に出会ってアンリアルドリーマーになったり。

 

 そういった好きな人の影響で行動に移す人はつむぎだけではないはずだ。だからきっとここへ来てくれるファンが少なからず居てくれるとつむぎは信じていた。

 

 

「アンリアルドリーマー……ふむ」

 

 

 口元に手を当ててエレオノーラは考える。

 

 

「もし……わたくしがアンリアルドリーマーになってこの店を宣伝していけばもっと人が来てくれるでありんすか?」

 

「来るよ!」

 

「その自信は?」

 

「だってノーラちゃんは魅力的だしもしUドリーマーになったらわたしファンになっちゃうよ! きっといいなと思った人が、好きな人がきてくれて通い続けてくれる。その時は今の何倍も人気なお店になっちゃうよ!」

 

 

 つむぎは笑顔で答えた。

 

 

「よし……決めたでありんす!」

 

 

 エレオノーラはなにかを決意したように言った。

 

 

「わたくし、これからアンリアルドリーマーとしてこの店を宣伝してくでありんす! 元々人を喜ばせるのは好きでありんしたからやってみたくはあったでありんすよ!」

 

「ほんと! それじゃあわたしたちこれからアンリアルドリーマー仲間だね」

 

 

 笑顔でつむぎはエレオノーラの手を握る。

 

 

「はいこれからよろしくでありんすよ!」

 

 

 笑顔でエレオノーラは返す。

 こうして夏の終わり。新しいフレンドとアンリアルドリーマーが誕生した。

 



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息の合わない二人

 夏休みが終わり二学期がはじまった。

 つむぎは学校では相変わらず親友のひなたとことねと仲良く会話をしたりさやと二人で一緒にいることが多かった。

 

 そんな日々を過ごす中で一つの行事にむけてある練習をしていた。この時期の恒例行事、体育祭だ。

 

 姫乃女学園の体育祭は数ある競技の中から何個か選び参加することになっていた。

 炎天下の中。体操着姿の少女たちが選ばれた種目からそれぞれが練習していた時、ある問題が発生する。

 

 

「1、2、1、に……うおっ!?」

 

 

 その声と共にドサッ! と転倒する音が聞こえる。転倒していたのは二人同時だった。

 

 

「あちゃーごめん黒葛さん。あたしちょい速く走りすぎたかな?」

 

 

 その二人はひなたとさや。二人は二人三脚で一緒のペアになり練習をしていたようだ。

 幸い怪我はなく先に立ち上がったひなたがさやに手を差しのべた。

 

 

「別に……」

 

 

 だがさやはその手を借りることはなく自分の力で立ち上がる。

 

 

「そっかぁ、なんかあたし図々しかったら言ってよ」

 

「……」

 

 

 二人は転倒こそしなかったがその後ぎこちなく気まずい雰囲気が続きながら練習をしていた。

 

 

「大丈夫かなぁ二人とも……」

 

 

 つむぎはそんな二人を遠くから見守っていた。

 

 

 

 放課後、つむぎはひなたと一緒に家へと帰っている途中だった。

 

 

「いやー、なかなか黒葛さんと二人三脚で息が合わなくてさ~困ってるんだよね。人に合わせるのは得意な方だと思ってたんだけどなぁ」

 

 

 ひなたが前を歩きながら愚痴をこぼすように言う。

 

 

「さやちゃんとは一年の時同じクラスだったんだよね?」

 

「まぁねぇ、話しかけようとか仲良くしようと思ったりしたけど上手くいかなくてねぇ」

 

 

「誰とでも仲良くなれるひなたちゃんでもさやちゃんは手強いんだね」

 

 

 ひなたは運動神経がよく、周りから頼られ好かれる存在だ。中学の頃はいろいろな部活の助っ人をしていたくらいである。

 

 だからひなたは人との付き合い方などつむぎなんかよりよっぽど上手い。

 

 

「そうだよ。そんな黒葛さんの心を開いたつむぎってすごいんだぞこのこの!」

 

「ちょっ、やめてよひなたちゃん!」

 

 

 いつものようにじゃれあうようにつむぎの頭を思いっきり撫でてくるひなた。

 

 

「なぁつむぎさんや、どうしたら黒葛さんとあたしは仲良く出来るかな?」

 

 

 ふざけているようで、でも言ってることや視線は真剣な顔でひなたは言う。

 

 

「そうだねぇ……」

 

 

 つむぎは考える。お互いが打ち解け合い二人が仲良くなる方法を。

 

 さやはつむぎに対しては心を開くようになっていた。しかしそれ以外の人間には全然といっていいほどに距離をおいたままで、二人でいる時以外話すのを極力嫌っていた。

 

 とくにひなたのような人物がさやは苦手と言っていた。ひなたは明るい性格だがクールで静かなさやとは正反対なのが原因だろうか。

 

 どうすればいいか考えていたときつむぎはあることを思い出す。

 

 

『今は無理だけど……自分の気持ちに素直になれるUnreallyでなら……きっといつかは仲良くなれるかもしれない……たぶん』

 

 

「そうだ! Unreallyで仲を深めようよ!」

 

 

 つむぎはさやが言っていたことを思いだし提案をした。

 



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ミーちゃんと二人三脚

 翌日つむぎはUnreallyでひなたと咲夜を運動場に呼んだ。

 

 

「なんなのだ。ミーを呼び出すとは……」

 

 

 ミーシェルとなったひなたは片目を閉じながら腕を組み言う。その態度はリアルのひなたとは別人のようだ。

 

 

「えっとね、二人には仲良くなってもらいたいからこっちの世界で二人三脚の練習をしてもらおうと思ったんだ。こっちの方がなにかとやりやすいでしょ二人とも?」

 

「ふむ、まぁ一理あるかもな……のだ」

 

「私も……構わないよ」

 

 

 二人は納得してくれる。ひなたには事前に言っていたため言い方こそあれだがスムーズにいってくれてよかった。

 

 さやは人付き合いが苦手だ。しかし咲夜としての彼女は一通り誰とでもコミュニケーションができる。

 二人の距離を縮めるならUnreallyで練習するのが一番だろう。

 

 

「じゃあ足を固定させるね」

 

 

 つむぎは二人の片足を機械で出来たもので固定させる。この日のために用意したものだ。

 その機械には歩数が計れる機能が用意されており、0000歩と表示されてある。

 右側がミーシェル、左側が咲夜だ。

 

 

「それじゃあ練習しようかミーちゃん」

 

「うむ、よろしく頼むぞ咲……ってミーちゃんってなんだミーちゃんとは!?」

 

 

 咲夜の発言にツッコミをいれるミーシェル。

 

 

「ミーちゃん……かわいいあだ名! わたしもミーちゃんって呼んでいい?」

 

 

 ミーちゃんという咲夜がつけたあだ名につむぎは胸をときめかせる。マスコットみたいな名前で可愛いとつむぎは思った。

 

 

「つむぎまで……まぁ仕方ない! 特別に許してやる……のだ」

 

「じゃあこれからよろしくミーちゃん」

 

「だから! 貴様には認めてないぞ咲夜!」

 

 

 茶番のようなやりとする二人。

 この二人は案外相性がいいのかもしれないUnreallyだけなら。

 

 

「だいたい貴様はいつもいつもつむぎと配信でいちゃいちゃしやがって! 本来その立ち位置はミーの場所だぞ!」

 

「だったらミーちゃんもUドリーマーになればいいよ。恥ずかしいからって逃げてばかりじゃなくてさ」

 

「逃げてなんかないぞ!?」

 

 

 相性がいい……のだろうか?

 

 

「ふん、もういいやめだ。今日は帰る……のだ」 

 

 

 ミーシェルは気に触ったのか固定された足を解除しようとする。

 

 

「これどうやって外す……のだ?」

 

 

 解除しようとした足はがっちりと固定されていて外れなかった。

 

 

「これはねしきちゃんに特注で作ってもらったやつで二人で息を合わせて100歩進まないと外せなくなってるよ」

 

「なんてもの作らした……のだ」

 

 

 呆れるように言うミーシェル。

 昨日しきに互いの距離が縮まる二人三脚の紐を作ってもらおうとしてこれができたのだ。しきはすぐ了承してくれて昨日のうちに完成した。

 

 

「どうやらちゃんとやらないといけないみたいだね」

 

「不本意だがそうだな……やってやる……のだ」

 

 

 二人は互いの肩と腰に手を当て二人三脚をし始めた。ぎこちなくたどたどしい足で二人は進む。

 

 

「じゃあわたしは動画を見て待ってるね」

 

 

 二人の様子を見つつつむぎは見るのをためてた動画を見ることにした。

 

 

 

 

「ぐぬぬ、もっと早く走れんのか貴様は」

 

「そっちほど運動は得意じゃないんだよ私は」

 

 

 つむぎが動画を見ている最中、二人はぎこちなく二人三脚をしていた。

 息が合えば数分もしないで100歩達成できるはずだがなかなか上手くカウントされず手間取っている。

 

 そして少し経ち──

 

 

「よしカウントが100になった……のだ! これで解除される!」

 

 

 固定していた装置はピコンと音がなり100歩を表示していた。

 これで外せる。そう思ったが──

 

 

『おめでとうございます。解除まであと900歩です。頑張っていきましょう!』

 

 

 機械からはそんなアナウンスが聞こえた。

 つむぎから聞いてた話だと100歩のはずだったのにおかしい。

 

 

「あと900歩だと……もーなんなのだまったく……」

 

 

 ガクリと落ち込むミーシェル。

 

 

「ログアウトすれば多分消えると思うけど」

 

「せっかくつむぎがここまでやってくれてるのだ。やはりそれを無下にはできん……」

 

 

 ミーシェルは咲夜の提案に反対した。

 つむぎが専用の機械を用意して二人の距離を縮めようとしているのだ。その思いを裏切ることはミーシェルにはできなかった。

 

 

「つむぎとは幼馴染みなんだよね? つむぎって私と会う前からあんなだったの?」

 

「いや、つむぎは変わったぞUnreallyで。でなければ貴様と友達になってないはず……なのだ」

 

 

 それからミーシェルは語り出す。

 

 

「あやつは引っ込み思案でなにをするにしてもミーの後ろをついてきてばかりだった。そのつむぎが積極的に自分を出してアンリアルドリーマーとして活躍している。友としてこれほど嬉しいことはない」

 

 

 ミーシェルはそして咲夜の顔を見つめた。

 

 

「そうさせたのも貴様のおかげかもな……」

 

「そっか……ならあと900歩頑張らなくちゃねミーちゃん」

 

「だからミーちゃん言うでない!」

 

 

 咲夜はいたずらっぽく微笑み言い、二人は二人三脚を再開した。

 

 



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友達

 体育祭当日になった。

 快晴の青空はこの日のために用意されたかのように綺麗だ。同時に日差しの暑さが一直線に来る。

 

 体育祭はクラス対抗だ。A組~E組までの5クラスでの競争となる。

 

 はじめの種目は100m走だった。

 

 

「ふぅ」

 

「ひなたちゃん一位おめでとう!」

 

 

 100m走を走り終えて水筒のスポーツドリンクを飲んでいるひなたにつむぎは祝福の言葉を掛ける。

 

 ひなたはぶっちぎりで100mを走りきった。

 

 

「シシッ、あたしにかかればこんなん余裕よ」

 

 

 自信満々に笑うひなた。

 

 A組のつむぎたちの中でも一番運動神経がいいのはひなただ。今でこそ部活は所属してないが中学はバスケ部エースで県大会まで行っていた。

 今も時々他の部活にも助っ人を頼まれたりすることがある。Unreallyでの活動が優先であまり受けることは少ないらしいが。

 

 

「わたしはビリだったよえへへ……」

 

 

 苦笑いをしながら同じく100mを走ったつむぎは言う。

 つむぎはもともと運動は得意じゃなくUnreallyにいてばかりでリアルで運動不足だったため余計だった。アンリアルで鍛えられるのは反射能力だけで体力面や筋力はリアルでは変わらない。

 

 

「まぁつむぎが運動音痴なのはしってるからいいよ。その分あたしが点を稼ぐからね!」

 

 

 ひなたは自信満々に言う。ひなたは一番競技に参加する数が多かった。

 そこがA組が一位をとれる期待でもあった。

 

 

「うん……それでさ。二人三脚の方はどうなのかな?」

 

 

 つむぎは不安だったさやとひなたの関係を問う。あの後1000歩走ることになったのはしきが100と1000を間違えて設定してたらしくそのせいで長時間二人は走っていた。

 1000歩は無事に達成したらしく終わった頃は二人は倒れていた。

 

 

「あぁ、それなら大丈夫だよ。こっちでは言えないこともあっちではいろいろ言えたからね。なんとかなる」

 

 

 微笑みながらひなたは言う。それは少しだけ自信があるように見えた。

 

 

 そうして種目が次々と行われる。

 障害物走。綱引き。玉入れ。そういったお馴染みの競技が行われる。

 

 

 そして問題の二人三脚。

 ひなたとさやは二人足に紐をつけていた。

 

 

「それじゃあ頑張ろっか! 黒葛 さん」

 

「うん……」

 

 

 さやは大人しく返事をする。だが前より変化がある。

  

 最初の頃はもう少しそっけない、気まずい雰囲気があったが今はひなたが明るく前向きに二人は話しているように見える。

 

 

「頑張ってね二人とも!」

 

 

 つむぎは二人が競技の出場前励ましの言葉をかけている。

 

 

「まっかせて、あたしたちの成果ばっちり見せるよ! 一位目指して頑張ろ、黒葛さん!」

 

 

 ウインクをしてさやに言うひなた。

 

 

「まぁそれなりに……頑張る」

 

 

 二人の距離は少なからず近づいたのかもしれない。さやの口数は最初のころよりすこしだけ増えていた。

 

 

 そして二人は二人三脚へと出場していく。

 他のクラスと現状五分五分の結果。

 できるだけ点を稼ぎたい。

 なので二人には是非上位に入って欲しいが簡単にはいかないだろう。どれだけ互いの歩幅に合わせてスムーズに走り続けられるか。それが問題だ。

 

 リアルでの練習では上手く成果が出せなかった。Unreallyの成果は無事でるのか。

 

 そんな不安と共に二人の番がきた。

 

 5クラス5組がそれぞれスタート位置につく。

 

 さやとひなたは二人はそれぞれ肩と腰に手を合わせ深呼吸をひなたはする。

 

 そしてスタートの合図をとるスターターピストルをレースの審判が構え片手で耳を押さえる。

 

 緊張の瞬間。スタートダッシュが要だ。

 

 

「位置について……よーいドン!」

 

 

 銃がそらへと響いた。

 

 瞬間それぞれが息を合わせて走り出す。

 

 

「1、2! 1、2!」

 

 

 ひなたとさやはそれぞれ掛け声を出す。

 大きい声のひなた、小さいながらも頑張ろうと声を出すさや。

 

 二人は最初スタートダッシュに遅れたが他の子に追い付くために走り出す。

 

 

「がんばれーひなたちゃんさやちゃん!」

 

「つむも二人もがんばってるね」

 

「ことねちゃん!」

 

 

 応援席でつむぎが二人を応援していた所にことねが声をかける。

 

 

「結構よくなったみたいだね二人とも」

 

「うん! 二人が仲良くなるようにいろいろ協力したんだ」

 

 

 Unreallyでのことは教えない方がいいだろうと思い曖昧に答える。

 

 

「二人はこのまま上手く最後までいけるかな」

 

「いけるよたぶん……トップだって狙える」

 

 

 つむぎはそう信じている。

 咲夜とミーシェルはあのことがきっかけで仲が深まったはずだ。いじられいじる関係だがその関係が二人にはいい。

 

 その二人がリアルでどういう関係になるかはわからないがきっと上手くいく。

 

 現実でもアンリアルでも心は一緒なんだ。

 

 レースは終盤へと向かっていた。

 

 他の子達は最初に転倒する子もおり先頭は二組。

 

 その一組にひなたたちがいた。

 息が合いたどたどしい動きもなく二人は走り続ける。

 

 

「頑張れ頑張れ!」

 

 

 つむぎは願う。せっかくここまできたのだ。一位を取ってほしい。

 

 それはさやとひなたも同じだった。

 

 

「黒葛さん……いやさや、まだ加速できるよね? 練習の成果みせてあげよ!」

 

「うん……」

 

 

 二人は思いきり足を踏み込み加速した。

 そして先頭から突き抜け。

 

 ゴール!

 

 

「やったぁぁ一位だぁぁ」

 

 

 つむぎは嬉しさのあまり叫んだ。

 

 

 ◇

 

 

 それから競技終盤。

 今の競技は借り物競争だった。

 借り物競争にはさやが参加していた。

 借り物競争は地面においてある紙からお題の内容のものをもってくる。それでOKがでたら先に進める。

 

 いたってシンプルだがお題によっては大変だ。

 あまり難しくないものであってほしいとさやは思う。

 

 ピストルの音がなりさやはスタートする。

 お題のある場所にやってくるとひとつの紙をめくった。

 

 

「……っ!?」

 

 

 途端にさやは硬直する。

 つむぎはどうしたのかと思う。

 さやはA組の応援席を見る。

 視線が定まらない。なにかを悩んでいるように思う。

 

 他の子達は既にお題のものをもちゴールへと進んでいく。このままでは最下位だ。

 

 それからさやは意を呼吸を整えこちらへと向かっていく。

 

 つむぎの方へくる。と、思いきやさやはひなたの方へと行っていた。

 

 

「これお題」

 

 

 さやはひなたにお題を見せる。

 そのお題には『友達』と書いてあった。

 ひなたは目を見開く。

 

 

「え、それあたしでいいの? それってつむぎのが適切なんじゃ……」

 

 

 ひなたは驚いていた。心を開いてなかったひなたを選ぶのはなぜなのか。

 

 

「つむぎは親友……友達以上の存在。だからこれには当てはまらない。だから仕方なくそれに近い雨宮さん……ひなたに代役を任せる……」

 

 

 それはある意味さやにとって認めた存在なのかもしれない。友達という存在を信じてなかったさやがそれでも友達を選ぶなら誰か、それの最適な人物がはじめて現れたのだ。

 

 ひなたはさやを見つめたあと、にやりと笑う。

 

 

「仕方ないなぁ! それじゃあいくよさや!」

 

 

 こうして二人はゴールへと向かっていく。

 結果は最下位だった。

 だがそれはさやにとってはとても大切なはじまりのひとつであった。

 



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ある日の日常前編

 これはある日のUnreallyでの日常。

 

 

「ただいまー」

 

 

 つむぎはいつものように学校で授業を受けた後。家へと帰宅をした。

 

 学校での生活はいつもと変わらない。普通に授業を受け、休み時間ひなたやことねと会話をしてさやとお昼休みにご飯を食べる。そんな生活が続いている。

 

 

「おかえりつむちゃん」

 

「ただいまお母さん」

 

 

 リビングには母親がいた。

 テレビを見てくつろいでいる。この時間にやっているドラマの再放送を見ていたらしい。

 

 

「お母さん今日の夕飯何時?」

 

「7時、今晩はカレーよ。あまりゲームに熱中しすぎてご飯食べるの忘れちゃだめよ?」

 

「はーい。ちゃんとアラームかけるから大丈夫だよー」

 

 

 つむぎはそう言ってから自室のある二階の方へ向かう。

 

 親にはUnreallyのことは最新のゲーム機と言っている。ゲームをプレイしてるというだけでDreamtubeで動画配信をしていることは伝えてない。親に教えるのはさすがに恥ずかしかった。

 

 自分の部屋へと来たつむぎは鞄からノートを出し今日の課題を終わらせることにする。

 早く終わらせてUnreallyがやりたい。そういう気持ちでいっぱいだった。

 

 ただ課題をやるだけでは暇だった。そう思ったつむぎはスマホを取りだしとある動画を流す。

 

 

◆もふあにレイディオ│もふもふあにまるず

 

「もふあにレイディオ。さて今回もはじまったばい。もふあにレイディオの時間とよ」

 

 

 もふもふあにまるずのスゥの声が聞こえる。動画は静止画だ。これはラジオ感覚に聞こえる動画だった。

 

 もふあにレイディオはもふあにが週一で配信してるラジオ動画だ。トークテーマやお便りでもふあにの三人がトークしていく。

 

「さて今日のトークテーマは芸術でーすよー。おおかみさん、芸術といったらなんでーすかー?」

 

「芸術ってあれだろなんかドカーンズッシャッーンするやつ」

 

「芸術は爆発だっていいたいけんね」

 

 

 スゥが進行を務めウルがボケるように回答をし、シマリがツッコミを入れる。

 つむぎはそれをくすりと心の中で笑い微笑み、作業BGMとして使うように課題を進めながら聞いていった。

 

 

 ◇

 

 動画が終わる頃にはつむぎは課題を終わらせていた。だいたい30分。ちょうどいい時間だった。

 

 課題を片付けるとよし、とつむぎは呟きUnreallyのヘッドセットを手に取る。

 

 ヘッドセットを頭に装着してベッドに寝たつむぎはUnreallyへの世界へと導かれた。

 

 

 起きた先はつむぎのマイホーム。ここがリスポーン地点だ。つむぎはまずはじめにアラームを7時に設定する。

 

 Unreallyで食事をしてもリアルでの空腹が解消されるわけではない。なので食事をするときはちゃんとリアルに戻ってくるようにつむぎはいつもアラームをかけていた。

 

 アラームをかけた後つむぎは次にUnitterを見ることにした。

 

 麗白つむぎのアカウント名でUドリーマーとしてのアカウントがある。その日の出来事や動画配信のお知らせを告知するのにユニートするアカウントだ。

 

 そのアカウントでつむぎはエゴサをする。麗白つむぎというハッシュタグがありそこから自分がどんなことを言われてるか見ていた。

 

 

『つむぎちゃんちょっとドジなところあるけどそこがかわいいなぁ』

『つむりんの描く衣装とても素敵! ときどきUnreallyで着てる!』

『ツムツムカワイイヤッター』

 

 

 さまざまなユニートが呟かれている。

 つむぎのファンの間ではいつの間にかつむりんやつむつむなどつむぎのことを愛称で呼ぶ人が現れてきた。

 

 これはUドリーマーならよくあることだ。

 そんなユニートたちをつむぎはいいねを押していく。

 

 そこであるユニートに目が止まる。

 

 

『つむぎちゃんを描いてみました!』

 

 ユニートには画像がついておりつむぎを描いたファンアートが載っていた。可愛らしくデフォルメ二頭身のイラスト。描いた人物はときどきUnreallyで会ったことのある紅あかねだった。

 

 つむぎはその画像を保存するといいねとリユニートした。つむぎはファンアートをそれなりにもらったことがある。

 そのすべてをつむぎは大切にしておりお気に入りの画像ファイルを作っているほどだ。

 

 自分のことを応援してくれるだけでなくなにかをしてくれるのは凄く嬉しい。その気持ちだけでつむぎの心は一杯になる。

 

 

 一通りUnitterを見ているとビデオ通話の通知が来た。相手はミーシェルだった。

 

 

「ミーちゃんどうしたの?」

 

「いや、今日はダンジョン攻略は休みでな。そっちの方はどうしたものかと思ったのだ」

 

 

 小さなモニターにミーシェルの顔が映し出される。

 

 

「わたしは今日Uドリーマーの活動はなしでUnreallyを満喫する予定だよ。そうだ! なら一緒に遊ばない? 友達が経営してる喫茶店があるからそこでお茶しようよ!」

 

 

 つむぎは提案をする。

 

 ミーシェルはUnreally内にあるゲーム、アンリミテッドファンタジアのトップランカーで常にダンジョン攻略などに励んでいる。

 

 なのでミーシェルとはあまりUnreallyで一緒に遊ぶ機会はそこまでない。

 

 

「ミ……動画で紹介していたところか。うむ、気になってたから悪くはない……のだ」

 

「動画見てくれたんだね!」

 

「ま、まぁな。友の動画に目を通すのも友人のつとめ……なのだ」

 

 

 右目を閉じながらミーシェルは言う。

 するとビデオ通話に一つモニターが追加された。それは咲夜だった。

 

 咲夜とは今日一緒にUnreallyで遊ぶ予定だった。

 

 

「おまたせつむぎ。あ、ミーちゃんもいたんだ」

 

「だからミーちゃん言うのは……! もう勝手に呼べ!」

 

 

 否定しようとしたミーシェルだがこれ以上やっても無意味と思って諦めたのか認めたようだ。

 

 

「あはは、それじゃ三人でノーラちゃんのお店に行こっか」

 

 

 つむぎは苦笑いをしながら三人でエレオノーラの店に行くことにした。

 



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ある日の日常後編

 つむぎたちは喫茶雪月花へとつき扉を開けた。

 

 

「いらっしゃいませでありんす。つむぎどの、咲夜どの。おや……? 見ない顔でありんすね」

 

 

 白髪のロシアハーフの店主エレオノーラは笑顔で挨拶をすると見慣れない顔のミーシェルを見てきた。

 

 

「ノーラちゃん、今日はわたしの友達のミーシェルちゃんを連れてきたんだ!」

 

 

 つむぎはそう言ってミーシェルを前に出す。

 

 

「シッシッシッ……聞け! 我が名はミーシェル! 天使のような慈愛と「略して痛い子ミーちゃん」誰が痛い子だ誰が!? 咲夜貴様は少し身をわきまえろ!」

 

 

 長いミーシェルの挨拶を阻止した咲夜。それに怒るように叫ぶミーシェル。

 

 

「面白い人と友達でありんすねぇ。さぁ席に座ってでありんす」

 

 

 つむぎたちは四人用の席に案内された。

 今日は席が空いている。一時期は人が増えたがまだまだ固定して通う客はそこまでいないのが難点だ。

 

 

「これはこれは……あのアンリミテッドファンタジアトップランカーのミーシェルくんじゃあないか!」

 

「ひそかちゃん!」

 

 

 つむぎたちがメニューをなににするか迷っていたとき、つむぎたちのUドリーマー仲間である鹿羽ひそかがやってきた。

 つむぎの隣の席に座ってる手前の席のミーシェルを見て言った。

 

 

「噂には聞いていたけど本物を見るのははじめてだね。記念に撮影してもいいかい?」

 

「断る……どこの馬の骨だか知らんがミーは誇り高き天魔竜族なのだ。撮影は控えろ」

 

 

 カメラを取り出したひそかだがその要望を拒否するミーシェル。

 

 

「ふむ、噂通りだめか。本人が嫌がるなら仕方ない。実際に会えただけでも感謝しよう」

 

 

 ひそかはすんなり諦めカメラをしまった。

 

 

「ひそかちゃんもここに通ってるんだね」

 

「ひそかは情報収集に落ち着ける場所を探しててね。エレオノーラくんが経営してるここはとても落ち着けて素晴らしいよ」

 

「気に入ってもらって嬉しいでありんすよ」

 

 

 笑顔で返すエレオノーラ。

 

 

「ところでエレオノーラくん。このドッキリ企画なんだけど目を通してくれないかい?」

 

 

 ひそかは一つの紙を取りだしエレオノーラに渡していた。おそらく企画書だろう。

 

 

「むむ……そこはもう少し派手にした方がいいでありんすよ」

 

「なるほどこれはいいものが出来上がりそうだ」

 

 

 二人はとても気が合うようだ。エレオノーラはサプライズやドッキリが好きなようなので相性がよさそうである。

 

 

「この二人は本当に手を組ませていいのだろうか……」

 

「あはは、どうだろうね」

 

 

 苦笑いをしながらつむぎは今後の二人の事を想像していた。

 

 

 ◇

 

 

「うむ、聞いてた通り美味だな。良い店ではないか」

 

 

 注文品したメニューを食べたミーシェルが言った。ミーシェルが注文したのはチョコレートパフェだ。

 

 

「でしょ! 気に入ってくれてよかった!」

 

 

 つむぎはミーシェルがこの店を気に入ってくれて嬉しい。

 

 

「他のみんなはどうしてるかな?」

 

 

 ふとつむぎはフレンド欄を覗く。

 他のフレンドはしきとねねこがログインしていた。

 

 とりあえずしきにビデオ通話してみることにする。通話はすぐに繋がった。

 

 

「しきちゃん、今なにしてるのー?」

 

「今ー? ドライブ中の動画撮影してるよー! 聞いてよウチ今日まだ一回も鳥につつかれたり雨が降ったりしてないんだよ! ほめてほめて! ふんふん!」

 

「いや本来それが普通のはずだよ……」

 

 

 しきはバイクに乗りながら路上を走ってるようだった。とても元気な声が聞こえる。

 

 

「今日のウチは絶好調! 好調好調最高潮! ってうげ!」

 

 

 その時、ドガッグギガガ!と謎の音が大きく響き画面が真っ暗になって通話が終了した。

 

 

「あはは……みなかったことにしよう……」

 

「いいのかそれで!? 大事な友じゃないのか!?」

 

 

 ミーシェルがツッコミをいれる。

 

 

「いつものことだから気にしてたらきりがないんだ」

 

 

 咲夜が冷静に言う。しきが事故ったり自爆するのはいつものことだ。もはや日常のノルマみたいになりつつある。

 

 

 ねねこは今、生配信をしているようだった。

 つむぎはねねこの配信を見ることにする。

 

 

◆お便りを読むわよ│水無月ねねこ

 

 

「それではつぎのお便りを読むわよ」

 

 

 映像はねねこの自分の家らしきところだった。

 この部屋はよくねねこが動画で使っている部屋なため覚えている。

 

 ねねこの手には何枚もの紙がある。ファンから応募したおたよりだろうか。

 

 

「ペンネームゆりかもめさん。最近ねねこちゃんのファンアートを描いてみたくてお絵描きをはじめました。ねねこちゃんは最近ハマってる趣味はありませんか、ね。そうね、あたしを描いてみたいと思ってくれてありがと……それだけでも嬉しいこともないわよ」

 

 

 ねねこは髪を撫でながら頬を少し赤くして言う。

 

 

「そうね、最近フェルト人形を作るのにハマってるわ。最初はうまくできなかったけどほら、こんな感じで作れるようになったのよ」

 

 

 ねねこはそう言ってねこのフェルト人形を手のひらに乗せた。

 

 

コメント:かわいい

コメント:フェルト人形もねねこちゃんもかわいい

コメント:ねねこちゃん自身のフェルト人形もみたい

 

 

「あ、あたし自身の!? できるかどうかわからないけど機会があったら動画にしてあげるわ! でも期待しないでよね! やれるかどうかわかんないんだからね!」

 

 顔を赤くして照れながら言うねねこ。

 

 

「ねねこちゃんはいつも通りかわいいなぁ」

 

 

 つむぎはほほえましく見て最後にスマイルボタンを押し配信を閉じた。また今度アーカイブを見ることにしよう。

 

 そしてつむぎはミルクレープを食べながらミーシェルたちとのお茶を楽しんだ。

 

 

 ◇

 

 

 一度リアル世界で夕食を食べに離脱したつむぎはその後、またUnreallyに行った。ミーシェルと咲夜と合流してそれから咲夜の家でゲームをしていた。いろいろなパーティーゲームをして遊んでいる。

 

 今やってるゲームタイトルはスマッシュパーティーだ。

 戦闘画面ではバチバチの戦闘が繰り広げられた。

 

 

 フィニッシュ!

 

 

 勝敗が決着する。

 

 

一位 咲夜

二位 ミーシェル

三位 つむぎ

 

 

「ぬっ! 貴様さっきのは卑怯だぞ!」

 

「あれはフェイントだから引っ掛かったミーちゃんが悪いよ」

 

 

 勝敗にいちゃもんをつけるミーシェル。つむぎは二人には敵わずすぐにやられてしまった。

 対して二人はかなり接戦のように見えたが咲夜のが一つ上手で終盤はミーシェルを一方的に攻撃していた。

 

 

「あはは、じゃあ夜も遅くなってきたしわたし落ちるね」

 

 

 つむぎは時間を確認して言う。

 もう寝る時間だった。熱中して三人で遊んでいたらしい。

 

 

「うん、おやすみつむぎ」

 

「おやすみ……なのだつむぎ。ミーも次勝ったら寝るぞ」

 

「それじゃあ朝まで掛かるかもね」

 

「ぬかせ! あと一戦で蹴りをつけるのだ!」

 

 

 二人はそう言いながらキャラ選択画面でキャラを選んでいた。つむぎはそんな二人を微笑ましく思いながらログアウトする。

 

 

 リアルに戻りヘッドセットを片付けたつむぎはベッドに入った。そして眠りにつく前に今日の出来事を振り返る。

 

 

 今日はミーシェルと遊べてよかった。そしてミーシェルと咲夜が仲良くなったのを実感してとても嬉しく思う。

 

 みんなが楽しそうでつむぎもとても充実した一日だ。

 

 

「こんな日常がずっと続くといいな……」

 

 

 つむぎはそう言って眠りについた。 

 

 これがつむぎたちの非現実的な日常だ。

 



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足りないもの

 放課後の学校で一つの教室から演奏が聞こえる。

 

 そこは授業で使われない空き教室。他の使われてる教室とは離れてて大きな音を出していても起こられない場所。

 

 今は軽音部がそこを練習場所としてつかっていた。

 

 

 しばらくして演奏が終わる。ギターボーカルを担当していた保栖ことねは一息つくと周りを見た。

 

 近くにはベース担当とドラム担当二人の少女がいる。

 

 

「ふーだいぶしあがって来たんじゃない? これなら文化祭もいけそうね」

 

 

 ドラム担当の紫髪の少女ひびきが言った。

 

 

「だねぇ、でもひびっちのドラムちょっと先走りすぎだよー。もうちょっとマイペースにいこうよー」

 

 

 ベース担当の黄髪の眼鏡をかけた少女、かなでがイチゴのスティック菓子を食べながらひびきに言う。

 

 

「あんたはのんびりしすぎよ! ねぇことねはどう思う?」

 

「ことも二人とおおむね同意かな。でも……」

 

 

 今の演奏に不満はない。自分達の演奏はこの二年間でずいぶん成長した。最高の仕上がりだと思う。

 それでもことねの目指す最高の演奏にはまだなにかが足りなかった。

 

 

 ◇

 

 

「では文化祭の出し物は喫茶店にします」

 

 

 クラスの学級委員が言う。

 10月。文化祭の時期が近づいてきた。

 文化祭の出し物を決めることとなり投票の結果つむぎたちのクラスは喫茶店をやることになった。

 

 それから休み時間となりつむぎはひなたとことねと共に話をしていた。

 

 

「喫茶店かぁ。ちゃんと接客できるかなぁ」

 

「そうだねぇ。つまずいてお皿割ったりしそうだもんねつむぎ」

 

「わたしはそんなにドジじゃないよひなたちゃん!」

 

 

 接客できるか不安なつむぎとは裏腹につむぎをいじるひなた。少しおっちょこちょいなところはあるがさすがにそこまで酷くはない。

 

 

「そういえばことねちゃんは今年も軽音部でライブあるんだよね?」

 

「うーん……」

 

「どったのなんか悩んでる顔して」

 

 

 ことねはなにかを考えているようで聞こえていなさそうだった。

 

 

「あぁごめん、ちょっと軽音部のことで考え事していたんだ。去年は経験もなかったからコピーバンドで文化祭のライブをやったけど今年はオリジナル曲でライブをしたいんだ。最高の演奏で。でもそのオリジナル曲には今の演奏だと何かが足りない気がして……」

 

「なにか?」

 

「こと的にはあとギターとボーカルが出来る人がいれば音に厚みができてちょうどいい感じになると思うんだけど三人だからパートを変える訳にもいかないし、ボーカルは二人とも無理って言うし……誰かギターができてある程度歌が歌える人がいたらいいんだけどな」

 

 

 ことねが悩んでいたのは軽音部のことらしい。

 ことねは軽音部の部長で去年部を立ち上げた。

 加入したメンバーは未経験者ばかりだったので最初はなかなか上手くいかなかったようだがそれでも去年の文化祭では盛り上がってた記憶がある。

 

 

「さすがにそんな人材見つかんないでしょ~。運動部の助っ人ならできるけど音楽はあたし無理だし」

 

「そだね。去年この学校でバンド知識のある人探してもいなかったから。でもちょっと悔しいな……」

 

 

 ことねは少し残念そうな表情で言う。ことねにとってバンドは学校生活において欠かせない存在なのだろう。

 

 それに文化祭は高校生の内三回のみ。だからこそ集大成で全力で最高の演奏を届けたい。そういった姿勢を感じる。

 

 

「ギターとボーカルが出来る人かぁ」

 

 

 つむぎは思う。さすがに急にそんな人材を見つけることは無理だろう。

 去年ことねの部員募集につむぎは付き合ったが経験者はいなかったのだ。

 

 ギターとボーカルができる人間なんてそうそう───

 

 

「あ!? あぁ!」

 

「どうしたのつむ!?」

 

「いるよ! 一人だけギターボーカルができる子がこの学校に!」

 

 

 つむぎはひらめいたかのように叫ぶ。

 受けて貰えるかはわからない、けれど一人だけつむぎはその項目をクリアできる人物を知っていた。

 

 



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変わりたい自分

「私がバンドの助っ人?」

 

「そう、ことねちゃんがさ最高のライブにしたいって言ってて助っ人でいいから出れたりしないかな?」

 

 

 つむぎはお昼休み、さやと屋上でお昼ご飯を食べながら話した。

 

 ことねの出した条件。ギターと歌ができる即戦力になる人材。

 

 それができるのはアンリアルドリーマーとしてオリジナル楽曲を出してる小太刀咲夜。つまりさやだけだった。

 

 

「ことねちゃんさ、一年の頃からバンドやりたいって自分で部を作ってメンバーを集めてたの。とっても音楽に対して真剣でわたしも部員募集手伝ったりしたんだ。だからさやちゃんがよかったら助っ人頼まれてくれないかな?」

 

 

 ことねのバンドに対する想いはつむぎは一番知っていた。一年の時、友達になったばかりからことねとは一緒にいることが多くて彼女は自分の高校生活の目標を語っていた。

 

 それはバンドを結成して青春を謳歌すること。そう熱く語っていた。彼女の熱い想いにつむぎは協力したいと思い部員募集のチラシやポスターを作るのを手伝ったりした。

 

 その結果、未経験者ではあるが二人バンドをやってみたいという子が現れて今の軽音部が成り立っている。

 

 だからこそさやのような人物は貴重だ。

 けれど正直人見知りのさやがすんなり参加してくれるとは思えない。リアルでの人との関わりを嫌う彼女がそう簡単にOKを出してくれるのだろうか。

 

 

 さやはお弁当をシートに置いたまましばらく悩んでいた。そうして少し経ち彼女は口を開く。

 

 

「……明日軽音部に行って考えて見る」

 

「そっか……やっぱりだめだよね……ってほんと!?」

 

 

 つむぎは思わず目を見開いた。思ってたより前向きで驚いていた。

 

 

「私が肯定的だと不安?」

 

 

 首を傾げジト目でみてくるさや。

 

 

「いやひなたちゃんとは距離をとってすんなりいかなかったし。他の人と関わるのは難しいかなと思って」

 

「あれはひなたがうざ……騒がしいから」

 

「それあまり意味変わってないよね……」

 

 

 苦笑いをするつむぎ。たしかに元気なひなたにはさやとは相性が悪かったのかもしれない。

 

 

「でもさやちゃんが前向きに考えてくれてよかった! これでことねちゃんたちも喜ぶよ!」

 

 

 ほんとうによかった。すんなりいかないと思ってたのでどうすればいいか迷っていた。

 

 

「まだ決定してないから……実際の曲を聴いて最終確認するってだけ。……でも」

 

 

 ペットボトルのジュースを一口のみさやは言った。

 

 

「少しは成長したい……リアルも案外捨てたもんじゃないって思ったから……つむぎのおかげで。誰かが寄り添ってくれないとなにもできない自分を変えたい……」

 

「さやちゃん……!」

 

 

 はじめて会話をした頃からは想像がつかないくらいさやの心は変わっていた。そんなさやを見てつむぎは嬉しく思う。

 

 

「でも軽音部に行くなら今日の放課後でもいいんじゃない? 今日も部活やるみたいだよ?」

 

 

 つむぎは食べ終わった弁当をしまい言う。

 軽音部は基本週三回以上部活動をしているらしいが文化祭が近い今は毎日のように練習をしている。

 

 

「それじゃダメ……こっちにも用意するものがある」

 

「用意するもの?」

 

 

 一体なにを用意するのだろうか。

 少し疑問に思いながらお昼休みが終了する鐘が鳴った。

 

 

 ◇

 

 

 その翌日の放課後。つむぎとさやは軽音部が練習場所として使ってる教室へと向かっていた。

 

 

「用意するものってこれだったんだね。しかもUnreallyのと一緒なんだ」

 

 

 つむぎはさやの手に持っているギターを見て言う。さやが昨日来れないと言ったのはギターを持ってくるためだったらしい。

 そしてそのギターはUnreallyで咲夜が使ってるのとほぼ同一のデザインだった。

 

 

「デザインは自分でしたやつだから気に入ってる……」

 

 

 通りで独特なデザインをしたギターだと思った。その白と黒でデザインされたギターはとてもおしゃれでかっこいい。

 

 軽音部の教室の扉の前に来る。

 もう先にことねたちはいるはずだ。

 つむぎはお邪魔しまーすと扉を開けた。

 

 中ではことねたちが楽器を持ちながら話し合っていた。

 

 つむぎたちが入ってくるのを見るとことねが近寄ってくる。

 

 

「やぁ、つむから聞いてたけどさやさんがギターをやってたんだね。助っ人をしてくれるって聞いて嬉しいよ」

 

 

 ことねは嬉しそうに優しい笑みを浮かべる。

 

 

「今日はどんなバンドだか見に来ただけ。まだやるとは言ってない……」

 

 

 さやは目をそらし少しだけ冷たく、でも彼女らしい言い方で言う。

 

 

「なら聴いてよ今度やる文化祭で演奏する曲。ことたちのバンド、ブルーシルの曲を。二人ともいい?」

 

「はいよー」

 

「やる気バリ増しでいくわよ!」

 

 

 ベースのかなではゆるい感じに、ドラムのひびきは元気に言った。

 

 そして演奏する準備を三人はした。

 そのあとひびきがドラムスティックで合図を取り演奏がはじまった。

 

 演奏がはじまるとイントロのあとことねがボーカルとして歌を歌いはじめる。

 つむぎもことねたちのバンド、ブルーシルのオリジナル曲を聞くのははじめてだった。

 

 とてもエモい、感情を揺さぶるような音楽が演奏された。

 

 

「どうかな?」

 

 

 演奏が終わりこちらを見つめてくることね。

 

 

「凄いよかったよ! エモくて青春!って感じの曲で!」

 

 

 つむぎは大きな拍手をした。ブルーシルのオリジナル曲はとても素晴らしかった。前より格段に演奏の腕前が上がってるしことねの歌も良い。

 それでいて彼女たちらしさがオリジナル曲でより強調されていた。

 普通にこのままでも申し分ない出来だと思うが。

 

 

 さやはというと顎に手を当て考え事をしていた。そしてしばらくして口を開く。

 

 

「曲は悪くない……でも確かにギター一本だと物足りない。私だったらサイドギターでこう入れる」

 

 

 そう言ってさやは自分のギターを手に持ち演奏をしはじめる。

 

 その演奏は一瞬で周りを圧巻させた。

 さっきことねたちが演奏した曲をほぼ完全にコピーしたかのようにアレンジを加えてさやは演奏して見せたのだ。

 

 一度聴いただけでここまでできるのはもはや才能以外のなにものでもない。

 

 そうして演奏が終了する。

 

 

「すごい! 一回聴いただけでここまでできるとかすごすぎるし! 天才ギタリストキタコレ!」

 

 

 かなではテンションが上がったようで目を輝かせて言った。

 

 

「これは思った以上の人材だよ……もし出来ることならずっとメンバーとしていてほしいくらいだ。それで、組んでくれるかな?」

 

 

 ことねは言う。ことねは演奏を聞いててずっと口を開けたまま黙っていた。ある意味聞き惚れていたのかもしれない。

 そしてさやは真剣な目付きでことねの方を向いた。

 

 

「今回だけ特別に……親友の頼みだから」

 

 

 口元を少しだけさやは緩ませた。

 

 

「やったー、これでライブ大成功まちがいないし! わたしベース担当のかなで! さやっちよろしくねー」 

 

 

 かなではことねの隣に並びぐいぐいと来た。

 

「かなで少し落ち着きなさいな! 私はドラム担当のひびきよ。よろしくさや」

 

 

 後ろからひびきが自己紹介をする。

 

 

「あらためてようこそブルーシルに。ことたちはさやを歓迎するよ」

 

 

 ことねはさやに手を差し出す。

 

 

「まぁ、よろしく……」

 

 

 さやはゆっくりとことねと握手をした。

 



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文化祭に向けて

 数日後。

 場所はUnreallyの喫茶雪月花。

 そこに一人のお客がやってきた。

 

 

「お茶しに来たよーノーラ~」

 

 

 やってきたのはしきだった。呑気な雰囲気で彼女は店の中に入る。

 すると目の前には意外な人物がいた。

 

 

「いらっしゃませ、しきちゃん」

 

「あれー? つむぎじゃん。どうしたのそんな格好して」

 

 

 そこにはつむぎがいた。つむぎはお盆を片手に着物を着て立っていた。

 

 

「えへへ、少しの間ここでバイトさせてもらってるんだ。接客のこと知りたくてね」

 

 

 つむぎは微笑みながら言う。

 文化祭で喫茶店をやることになったつむぎは今のうちに接客になれようと思った。そこでエレオノーラに頼み接客の練習としてバイトをさせてもらっていたのだ。

 

 

「まぁ別に着物を着る必要はないでありんすけどね。つむぎどのがいてくれて助かるでありんすよ」

 

 

 カウンターにいたエレオノーラが笑顔で言う。

 

 エレオノーラの店は特定の制服はないらしい。だが雰囲気だけでもお揃いにしたいとつむぎは言い、エレオノーラが予備に持っていた着物を借りることになった。

 

 

「ふーん、じゃー注文注文~。えっとこの名前長いやつちょうだい」

 

 

 カウンター席に座ったしきはメニューの中から一段と名前の長いやつを注文してきた。

 つむぎはそれをよく見てしっかり間違わないように言おうとする。

 

 

「えぇっと、チョコレートキャラメルアルティメットホイップミルキーウェイフラペチーノ

ひとつ入りました! あ、合ってるかな?」

 

 

 長いメニューに覚えるのが難しそうだ。こんな長いメニューなどすべてエレオノーラは覚えているのだろうか。

 

 

「わかったでありんす。略ペチーノでありんすね」

 

「略された!?」

 

「まぁそこまで長いメニューこれしかないでありんすから」

 

 

 名前を付けたエレオノーラ自身も正式名称を覚えているのか不明だった。

 幸い文化祭はそこまで複雑なメニューは出さないのでここらへんの不安はない。

 

 

「そういえば咲夜はどうしたのー? よくつむぎと一緒にいるけど最近Unreallyにあまりインもしてないじゃん」

 

 

 エレオノーラがメニューを作ってる間しきはつむぎに話しかける。 

 

 

「咲夜ちゃんはいろいろあって来れないみたい。リアルでは文化祭とかもあるからね」

 

「なるほどなるほどー。文化祭かぁ。うちは特にやることないや……」

 

 

 しきは明後日の方を向き寂しげに呟く。

 

 つむぎは思う。咲夜は、さやは今どうしているだろうか。ちゃんとことねたちと上手くやっているだろうか。

 そんなことを頭の隅で思い浮かべながら仕事をしていった。

 



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文化祭開始!

 そうして迎えた文化祭当日。

 学校はいつもの姿とは違いリアルなのに非現実的な雰囲気に漂っていた。

 

 さまざまな場所にかわいらしい飾り付けがなされている。

 

 それはつむぎたちのクラスも変わりはない。

 机を何個かくっつけて大きなテーブルクロスをかけ教室にあるものを次第に喫茶店のように形付けていた。まわりには風船などをつけ黒板にはかわいいイラストを付け二年A組にようこそと描いてある。

 

 

「えっとパンケーキひとつですねかしこまりました!」

 

 

 つむぎは制服にエプロンをつけ学校外の人相手に接客をしていた。注文品を確認しそれを調理担当の人間に伝える。

 

 

「さやちゃん、パンケーキ一つお願い」

 

「うん」

 

 

 調理担当のさやがホットプレートの前でつむぎの指示を聞いていた。

 

 

「つむ、接客上手くこなしてるね」

 

 

 同じく調理担当だったことねが言ってきた。

 

 

「えへへ、この日のために特訓してたからね」

 

 

 つむぎは照れるように言う。

 つむぎは噛まずに慌てずに落ち着いて上手く接客が出来ている。エレオノーラの店で練習してた成果は十分に発揮されているようだった。

 

 

「おーいつむぎたちそろそろ休憩時間だよ。他のところ行って楽しんできたら?」

 

 

 先ほどまで休憩時間だったひなたが声を掛けてきた。

 

 

「もうそんな時間? それじゃあ後はよろしくねひなたちゃん!」

 

 

 つむぎとさや、ことねはひなたと他の子達と交代の時間だった。後は他の子達にまかせつむぎたちは別のクラスの模擬店を楽しむことにした。

 

 

 ◇

 

 

 休憩時間となった三人は文化祭を三人で歩き楽しむことにする。休憩時間はことねたちがライブをやる時間までもらっておりつむぎもことねたちのライブを見る余裕があった。

 

 

「この三人の組み合わせってはじめてだよね」

 

 

 つむぎはそれぞれ模擬店で買ったクレープを片手に言う。

 

 

「そだね。さやとはつむ以外と話してる姿見てなかったし軽音部がきっかけでいろいろ距離が縮まって嬉しいよ」

 

 

 ことねは微笑みながら応える。

 

 

「さやちゃんはここ数週間軽音部での活動どうだった? 練習は楽しい?」

 

「まぁ私はそれなりに……他の人と音楽を一緒にやるのははじめてだから意外と楽しめてる」

 

 

 つむぎの質問にさやはクレープを頬張りながら応える。その仕草は小動物のようでかわいい。

 

 

「そういえばかな達C組はお化け屋敷をやってるみたいだよ。行ってみない?」

 

「お化け屋敷かぁ。いいね、行ってみよ!」

 

「うん……」

 

 

 つむぎたちはことねの提案に乗りC組にへと行くととなった。

 

 

 クレープを食べ終えお化け屋敷となったC組の中へと入ったつむぎたち。

 

 

「うぅ……ちょっと緊張してきた……あんまり怖くありませんように」

 

 

 教室に入ると中は薄暗く迷路のようになっていた。学校のお化け屋敷だからUnreallyの心霊スポットよりも怖くはないだろうが少し不安だ。

 

 するとぎゅっとつむぎの左手を握る感触がした。

 

 

「私がいるから大丈夫……」

 

「さやちゃん……」

 

 

 さやは無表情のままつむぎを見つめてきた。

 無表情だがその顔はつむぎを安心させてくれる優しい顔のように見えた。

 

 

「ほんと二人は仲が良いんだね」

 

 

 ことねは微笑ましそうにつむぎたちを見ていた。

 

 

 迷路のようになっているお化け屋敷は入り口から出口の扉に着けば終了である。

 教室内は不気味なBGMが鳴っており不穏な雰囲気を漂わせている。

 

 

 さやと手を繋ぎながら進んでいくつむぎ。その後ろを歩くことね。

 

 なにもなく半分くらいを行ったとき、最初のびっくりポイントがあった。

 

 

「うがぁー!」

 

「うわっ!」

 

 

 目の前にはいきなり白いシーツを被り、顔がついているお化けが驚かしてきた。

 急なことにびくっとなるつむぎ。

 

 

「あはは……びっくりしたねさやちゃ……さやちゃん!?」

 

 

 つむぎはさやの方を向くと驚く。

 さやはつむぎの左腕をぎゅっと抱き締めるようにしていた。思いがけない反応につむぎは戸惑う。

 

 

「リアルだと怖いの……無理そう……」

 

 

 さやにしては弱々しく呟いた。

 Unreallyだとお化け相手に銃を持って果敢に立ち向かっていくあの姿はどこに行ったのか。同一人物だとは思えなかった。

 

 

「あ、ことっちたちじゃん。よっすっすー」

 

 

 シーツのお化けはシーツを脱ぎ姿を現した。

 それは軽音部のメンバー、ベース担当のかなでだった。

 

 

「あぁかなだったんだね」

 

「うん、脅かし役を担当しててさー。でも意外だねぇさやっちが怖いの苦手だなんて」

 

 

 にやにやとかなでは笑う。

 

 

「別にそんなに怖がってない……」

 

 

 強がりを言うさや。しかしつむぎの腕を握ったままであまり説得力がなかった。

 

 

「ちょっとかなで今仕事してるんだから無駄話してんじゃないわよ!」

 

「わあぁ!?」

 

 

 すると血だらけの包丁を持ったナース姿の少女が現れそれと同時に悲鳴が聞こえた。

 

 

「あら?ことね達じゃない。っていうかさっきの悲鳴って……」

 

 

 ナース姿の殺人鬼っぽい少女は軽音部のドラム担当ひびきだった。

 ひびきはもちろんつむぎたちは悲鳴をあげた本人を見る。

 

 

「さやちゃ……」

 

「私はなにも言ってない……なにも言ってない」

 

「う、うん……なにも言ってないね」

 

 

 さやらしからぬその仕草や声はUnreallyや普段のさやを知ってるつむぎからするととてもギャップがあってハマりそうだった。録画できるならこの姿を映像として残しておきたいと心の中で思う。

 

 

 するとちょうどよくアナウンスが聞こえてきた。

 

 

『まもなく体育館でのステージイベントがはじまります。参加者は体育館に来てください』

 

 

「そろそろみたいね。私たちもすぐ交代してもらうから先に行っててよ」

 

 

 今回のメインでもあるライブがはじまろうとしていた。ことねたち軽音部は中盤からの出番のためまだ余裕がある。

 

 

「うん、じゃあここを出たらすぐ体育館に向かおうか」

 

 

 ことねが言いつむぎたちは先を進むことにする。

 

 その途中なんどかさやが悲鳴を言ったような気がするが多分気のせいだった。たぶん。

 



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羽ばたけブルーシル

 さやとことねは先に体育館に入って舞台裏で着々と準備をしていた。ギターの音の調整も完了しており後は出番を待つだけだ。

 さやたちはバンド名であるBluecielのロゴが入った特注のTシャツを着ていた。

 

 その後しばらくしてからかなでとひびきの二人も仕事を終えてこちらへきた。

 

 

「いよいよだねぇ。こんな大勢の前で演奏するのやっぱなれないよ~」

 

 

 気怠けな雰囲気で目を擦りながら言うかなで。

 

 

「こんなときくらいシャキッとしなさいよ! もっと元気に!」

 

 

 かなでの背中をバーンと叩くひびき。

 練習期間中に聞いた話だがかなでとひびきは中学からの付き合いらしく、生活態度がよろしくないかなでの世話をよくひびきが見てるらしい。

 

 

 次のステージイベントに移行するアナウンスが聞こえる。次の出し物が終わったらさや達の出番だ。

 

 

 するとその場の雰囲気を変えるように軽音部の部長であることねが指揮をとる。

 

 

「この時をずっと待ってたんだ。文化祭で自分たちのバンド、ブルーシルのオリジナル曲を演奏する。そのためにずっと練習してきた……だから最高のライブにしようね」

 

 

 真剣で、だけれども優しい声でことねは言う。

 

 

「準備はいいかな?」

 

「もちのロン!」

 

「やる気バリ増しよ!」

 

「うん……」

 

 

 円陣を囲みそれぞれ片手を重ね合わせる。

 

 

「空に羽ばたけ!」

 

『ブルーシル!!』

 

 

 この日のために考えていた掛け声を四人は言う。協調性を増すために考えられた掛け声だがさやは気恥ずかしくてあまり大きな声で言えなかった。

 

 

 ◇

 

 体育館のステージイベントにはたくさんの観客が押し寄せていた。

 

 学校外の人も学校の生徒も多くの人数がステージイベントを見に来ている。つむぎもその観客の一人だった。

 

 ステージではクラスでのダンスや演劇が披露される。どの出し物もこの日のために頑張った成果が出ていて輝いている。

 

 この雰囲気はアンリアルライブフェスを思い出すなとつむぎは思った。お祭りはリアルでもアンリアルでも楽しい。

 

 そんなことをつむぎは思いながらさや達の出番を待っていた。

 

 

『続いては軽音部のバンド演奏です』

 

 

 ついに軽音部の出番がやってきた。

 閉じていた袖幕が開いていきことねたちが姿を現す。

 

 ギター二人ベース、ドラム各一人ずつで構成されている。

 ボーカル担当のことねとさやの前にはマイクスタンドが置かれてあった。

 

 

「どうも、軽音部部長のことねです。バンド名はブルーシルっていいます」

 

 

 ことねによるバンド挨拶が始まる。

 

 

「今日は念願の文化祭でのライブ。この日のために私たちは頑張ってきました。その集大成を今日見せたいと思います。では聞いてください。ブルーシルで───」

 

 

 曲名を言った後それぞれが愛用している楽器を構えた。

 そうして全員が準備を終えた後、ひびきがドラムスティックでスタートの合図をする。

 

 1、2、 3とスティックを叩いた後、演奏が始まった。

 

 

 ギターが二つになったその曲は以前聞いた時より何倍も曲に厚みができ曲としての自由度が上がっていた。

 

 そしてAメロに入ってからさやとことねが交互にボーカルを担当していく。ことねのさわやかな歌声とさやのクールでかっこいい低音も高音も行ける歌声が交差しエモさをより増して行く。

 サビでは二人がハモり美しい歌声が響く。

 

 

 青春を謳ったその曲は今その瞬間を大切に生きようとする学生の気持ちを現していて共感性をより深めていった。

 

 観客ははじめて聞く曲であるのにも関わらずうちわやサイリウムを振り盛り上がっていた。

 それだけこの場の雰囲気をブルーシルが虜にさせていた。

 

 つむぎも例外でなくこの日のために用意していたサイリウムを振って一観客として演奏を楽しんでいた。

 

 こうしてブルーシルのライブは大成功を迎えた。 

 

 

 ◇

 

 

「みんなお疲れさま~」

 

 

 つむぎはライブが終わり舞台裏から出てきたさやたちを迎えにきていた。

 

 

「ありがとうつむ。ライブどうだった?」

 

「以前聞いたときの何倍も良かったよ! みんなの演奏とさやちゃんとことねちゃんのボーカルの良さがエモみを増してとっても素敵だった!」

 

 

 とてもキラキラしたハイテンションでつむぎは言う。先程のライブの盛り上がりはとてもすごくて余韻がまだ残っていた。

 

 

「ねぇすごいよねぇ。練習中もさやっちのボーカルほんと高校生だと思えないくらい上手いんだもん。このままyou軽音部入っちゃいなよ~」

 

 

 かなでが悪ふざけのように言う。

 するとことねは真剣な表情でさやの方を見る。

 

 

「その……さや。ほんとは今回限りの助っ人の予定だったけど出来れば今後も軽音部、ブルーシルに入ってくれないかな? さやとバンドするのことたち凄い楽しかったんだ。もっと君と音楽がしたい」

 

 

 ことねの顔は本気だった。

 練習をしているに連れて一緒に演奏することが楽しくてしょうがなかったのだろうか。そう思えるくらいステージ上の彼女達は輝いて楽しそうに見えた。

 

 さやはことねとかなで、ひびきの三人を見る。自らの表情は変えず三人の入ってほしいという表情をみた後さやはつむぎの方へと向かった。

 それでだめかと全員が思う。

 

 しかしさやは背を向けて話す。

 

 

「練習は他にやりたいことがあるからあまり参加できない……けれど、必要な時は呼んで。その時は参加する……」

 

 

 その言葉でぱぁっと周りが明るくなった。

 これが彼女なりの答えなのだろう。

 

 

「これからもよろしく~さやっち」

 

「私も嬉しいわ! もっと一緒にバンドしましょ!」

 

 

 さやの後ろにはかなでとひびきが嬉しそうに喋っていた。

 

 つむぎはそれを微笑ましそうにさやをみる。

 さやもつむぎを見て少しだけ微笑んでいた。

 

 こうしてさやの日常が少し充実した物へとかわりつつあった。

 

 

 ◇

 

 

「間違いない……間違いないわ……」

 

 

 その頃一人の少女がブルーシルの演奏を聴いた後ぶつぶつと小言を呟いていた。

 

 

「あの歌声……あのギター……どう考えても彼女しかいない……」

 

 

 体育館から出ていこうとする水色の髪の少女を見ながら彼女は思う。

 

 

「小太刀咲夜……」

 

 

 少女はぽつりと一人のアンリアルドリーマーの名前を言った。

 



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新たな日常

「さやちゃん一緒にご飯食べよ」

 

「ん……」

 

 

 ある日のお昼休み。つむぎはいつものようにさやとお昼ご飯を食べることにする。屋上で食べるのがもはや日課となっていた。

 お弁当を持って教室を出ようとする二人。

 すると声をかけられた。

 

 

「つむぎー、さやーあたしも連れてってよ!」

 

「こともいいかな?」

 

 

 ひなたとことねだった。

 ひなたはコンビニのサンドイッチを手に持ちことねは手作りのお弁当を手にしている。 

 

 

「せっかくあたしら四人とも友達同士なんだからさもう別々に食べなくても良いでしょ? ねっ」

 

 

 にやりと笑うように言うひなた。

 これまではお昼の時つむぎはさやと食べるときはひなたたちとは別々に食べていた。

 

 しかしさやは体育祭ではひなたと文化祭ではことねたちと友達になっている。

 

 それだけでなく文化祭以降さやは他のクラスメイトや別の生徒にまでブルーシルでの演奏で声を掛けられることが多くなっていた。

 それはまだ慣れていなくていつもつむぎの後ろに隠れているが。

 

 

 ぽつりと一人でいたはずのさやのまわりにはいつの間にか人が集まるようになっていた。

 

 

「そうだね。さやちゃんもそれでいい?」

 

 

 そんなことを思い返しながらつむぎはさやに言う。

 

 

「ひなたは一人で食べて……」

 

「あたしだけハブるの!?」

 

「冗談……」

 

 

 さやはいたずらっぽく言った。

 それを見てあははとつむぎは笑う。

 

 文化祭の後、さやたちの日常は色鮮やかとなり変わりつつあった。

 

 

 ◇

 

 

「ふー、こんなもんでいいかな?」

 

 

 放課後のUnreallyでの出来事。

 つむぎは自分の家で次にやる動画の企画を考えていた。

 

 企画内容は様々だ。

 絶景スポットを観光するものから最新ゲームのゲーム実況、新しい趣味を見つけようとする企画など出来ることから出来ないことまで思い付くものを紙に書いていった。

 

 その中からいいと思ったものを選別して動画として撮影するのがつむぎのやり方だった。

 

 アイデアを出すのは疲れる。休憩をしようとつむぎはDreamtubeを開いた。

 

 アプリを開くとつむぎはそこから今話題の動画を見てみようとする。すると思いがけない人物のサムネがあった。

 

 

「ノーラちゃん!?」

 

 

 話題の動画のなかにエレオノーラが表示されている動画がある。サムネを見る感じそれはエレオノーラのチャンネルの動画だった。

 

 再生数はまさかの100万回。一体なにがおきたのか。

 

 つむぎはすぐにその動画を見ることにした。

 

 

◆空中でキャベツを千切りにするでありんす│エレオノーラ

 

 

「Здравствуйте ごきげんようでありんす。喫茶雪月花の店主エレオノーラでありんすよ」

 

 

 動画には腰に刀を付けたエレオノーラが映し出されていた。目の前にはテーブルにお皿が置いてある。

 

 

「今日はキャベツの千切りをするでありんすよ。ただ千切りするだけではないでありんす。キャベツを投げて落下し終わる前にこの刀で全て斬るでありんす。一瞬なので目を離しちゃダメでありんすよ」

 

 

 そう言ってエレオノーラはキャベツをまるごと取り出す。そのキャベツを空へと投げた。

 キャベツが空中へと上がり重さにより落下し始めたときエレオノーラは行動に移した。

 

 

「はっ!」

 

 

 瞬間、エレオノーラは腰の刀を抜き目にも止まらない早さでキャベツを切り刻んでいく。

 皿に落ちる頃にはキャベツは全部千切りとなり綺麗な山盛りとなっていた。

 

 

「До свидания またのお越しを」

 

 

 エレオノーラは綺麗に刀を収め動画は終了した。

 

 その神業にネット上でバズったようであった。

 

 

『0.25倍速にしてもなにがなんだかわからなかったよ……』『人間の所業じゃない』『アンリアルだから』

 

 

 といったコメントで動画は埋め尽くされていた。

 

 

 

 

「凄いなぁノーラちゃん」

 

 

 ノーラの動画の凄さにつむぎは感心する。ノーラのほうがアンリアルドリーマーになったばかりなのにもう100万再生されるような凄い動画を上げている。

 

 自分も負けていられないなとつむぎは思った。

 

 

 そんなことを思っていると一件のビデオ通話の通知が来た。

 相手は咲夜だった。つむぎはなんだろうと思いながら通話を許可した。

 

 

「なに咲夜ちゃん?」

 

「大変だつむぎ……私身バレした」

 

 

 緊迫した表情で咲夜は言った。

 



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正体ばれちゃいました!?

「身バレしたってどういうこと!?」

 

 

 身バレ。つまり咲夜の正体がさやだとバレたということだろう。

 しかし一体どうしてだ?

 

 

「文化祭での演奏と歌が原因。現状まだ一人にしかバレてないから大丈夫」

 

「それでバレるものなの? でも一体誰に?」

 

 

 普通それだけでバレるハズがない。咲夜の歌声などをよく聞いている人物じゃなければわからないはずだ。

 すると咲夜は意外な人物の名前を上げる。

 

 

「相手はねねこだよ……」

 

「ねねこちゃん!?」

 

 

 まさかねねこにバレるなど思いもよらなかった。何故そうなったのか。

 

 そこから咲夜は先程あった出来事を話していく。

 

 

 

 ◇

 

 

 時刻は少し前。いつものように咲夜は人気のない駅前でギターを演奏していた。

 それは咲夜にとっては日課のようなもので相手がいるいないなど関係はなかった。

 

 そうしていた頃の出来事だ。

 

 

「咲夜ちゃんちょっといいかしら?」

 

 

 ギターを弾いてた時、ちょうどねねこが現れ咲夜はギターを弾くのを一旦やめる。

 

 

「なにねねこ?」

 

 

 ねねこがこうやって自発的にこちらに来るのは珍しいと咲夜は思っていた。

 

 

「あたしはあなたの正体を知ってしまったわ。姫乃女学園の文化祭でギターボーカルをやってた水色の髪の子。あれあなたよね?」

 

「っ!?」

 

 

 咲夜はいきなりのことに驚く。だがそれを表情に出してはいけない。それを表情として出すということはつまり認めると言うことになるから。

 

 なので冷静に咲夜は対処するようにした。

 

 

「そんな根拠あるの?」

 

「あの歌声は紛れもなくあなただったわ。何回聴いたと思ってるのよ!」

 

「ただの似た人かもしれない」

 

 

 素直ではないが何度も歌を聞いてくれてることは分かる。

 するとねねこは咲夜のギターを指差した。

 

 

「なによりそのギターがそうよ! その白黒のエレキギター全く一緒のもので他の人が似たのを使っているのを見たことがないわ! どう?認める?」

 

 

 ねねこは強気に言った。意地でも咲夜の正体を見抜こうとしていた。

 

 その意気込みに咲夜は半場諦めため息をする。

 

 

「はぁ……そうだよ。それがリアルの私。それでどうするの脅し?」

 

 

 咲夜は自分が文化祭でギターボーカルをやっていたことを素直に認めた。

 正体を握っていると言うことは今ねねこが有利な立場だ。なにかしら目的があるのだろう。

 

 ねねこは髪をなびかせて言った。

 

 

「そ、そうよ。正体をバラされたくなかったら……そんなことしないけど。あたしの言うことを聞きなさい!」

 

「それ脅しになってなくない?」

 

 

 話が矛盾している。バラさないためにねねこの言うことを聞くなら分かる。しかし正体をバラさないならこちらがねねこの言うことを聞く理由がない。

 

 

「とにかく言うことを聞きなさい!」

 

 

 顔を少し赤くしながらねねこはいう。

 尻尾は猫のように尻尾を震え立たせていた。

 

 そこで咲夜はある提案をする。

 

 

「じゃあこうしよう。実際にリアルで会って願い事を聞く」

 

「へっ!?」

 

 

 ねねこは変な声を出した。

 

 

「そっちだけ私のリアルを知ってるとかフェアじゃないよね?」

 

「それは……たしかに……」

 

 

 ねねこは咲夜が言うことに納得する。本来脅しならフェアもなにもないがねねこ相手なら丸め込めそうな感じがした。

 

 

「さすがに会うのは嫌だよね? ということでこの話はなかったことn「いいわよ! なら会いましょう! 今度の土曜のお昼、姫乃駅前で待ち合わせよ!」

 

 

 これで丸め込めてこの話自体を無かったことにしようと思った咲夜だがねねこは会うことを約束した。自分の顔もバレるというのに特に躊躇いはなかったようだ。

 

 

 ◇

 

 

「ということなんだよ」

 

「なんか大変なことになってるね……」

 

 

 つむぎは心配そうな顔で言う。

 自分から言わないと言ってるのでねねこの性格上、他人に言いふらすことはしないだろう。

 

 

「それでさ、つむぎに頼みがあって……つむぎも会うときついてきてくれないかな?」

 

「わたしが?」

 

「その……自分で言っておいてなんだけどいきなりリアルで会うのはちょっと怖い……」

 

 

 咲夜は申し訳なさそうに、なんでこんなこと言ったのだろうと頭を抱えて後悔する。

 

 

「あはは……たしかにわたしも心配だしついて行くよ」

 

 

 つむぎは苦笑いをしながら土曜日咲夜についていくことを約束した。

 



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あがり症なツンテレ姫

 そして迎えた土曜日の昼。

 

 つむぎとさやは姫乃駅でねねこを待っていた。

 私服を身に纏い二人はスマホを見る。

 時刻は12時を回ろうとしていた。

 

 お昼に待ち合わせと言ったが詳しい時間の指定はない。とりあえず待ってれば来るだろう。

 

 

「でもわたし、ねねこちゃんがどんな見た目してるかわからないけど大丈夫かな?」

 

「私もそれは知らない。けど私の容姿はあっちは知ってるからあっちから話しかけてくれば大丈夫だと思う」

 

 

 それもそうだった。ねねこがさやのリアルを知っているのは姫乃女学園の生徒で容姿が小さく水色の髪と瞳であるということ。

 それだけといえばそれだけだが、さやの容姿を判別するには十分であった。

 

 

「あ、あのっ……」

 

 

 数分後一人の女の子が小さな声で話しかけてきた。

 

 つむぎたちは少女の方を見る。

 年はつむぎたちと同じかそれより下くらいの少女。

 

 少女はたどたどしく、もじもじしながら言った。

 

 

「さっ、咲夜ちゃん……で、ですよねっ? あのっあたしそのっ」

 

 

 少女はさやの方を見ていた。黒髪の銀色の瞳をした少女は目線を合わせず顔を真っ赤にして

 

 

「あ、Unreallyでね、ねねこをやっているものですううぅ」

 

「大丈夫!?」

 

 

 つむぎは叫ぶ。ねねこと名乗った少女は頭をくらくらさせ膝をつき倒れそうになっていた。

 

 

 ◇

 

 

 ねねこを落ち着かせるのとまだお昼を済ませてないことを思いだしつむぎたちは喫茶店に入ることにした。

 

 ねねこは顔を赤くしたまま喫茶店に入るまで喋らず歩くのもままらなかった。

 

 ねねこと対面になるようにつむぎたちは座る。

 

 メニューを注文してから話をすることにした。

 

 

「あ、あの、ねねこです。こっちの姿では夕凪そまりって言います……」

 

 

 ねねこはそまりという本来のこちらでの名前を言った。彼女はさきほどよりも会話が成立しておりだいぶ落ち着いたようだ。

 

 しかし……

 

 

「どうして顔を下げたままなの?」

 

 

 つむぎは尋ねる。そまりはずっと顔を下に向けたままであった。

 

 

「だっ、だって顔を上げると話すのが難しいですぅ。あたしあがり症で……」

 

「Unreallyでは普通に出来てたよね?」

 

 

 あがり症ならばアンリアルドリーマーとして活動することはできないはずだ。

 

 

「そ、それはUnreallyではあがり症を直すためにはじめたので……別の姿になったことで自分自身が変われる気がして。結果あがり症はあっちでは抑えられるようになったんですけど……素直になれない性格になっちゃって」

 

「そういうことだったんだ……」

 

 

 Unreallyでなりたい自分に生まれ変わることができる。その結果そまりはねねことして新しい自分になれたのかもしれない。

 

 しかしあがり症であることが後を引いて今のねねこの性格が出来上がった。ということなのだろうか。

 

 

「そ、その……ごめんなさい!」

 

 

 そまりは立ち上がってさやに言う。

 するとそまりの顔から涙らしきものがぽつりと落ちてきた。

 

 

「脅すようなこと言ってしまって……本当はこんなつもりじゃなかったんです。本当は咲夜ちゃんにお願い事があってちょうどその時に来年受験する姫女の文化祭でのライブを見て……それでなんて言えばいいか分からなくなって……素直になれないあたしが悪いんです」

 

 

 恐る恐る顔をこちらへ向けるそまり。

 やはり彼女は泣いていて目から涙が溢れていた。やはりこの子はねねこだ。

 

 優しい想いが伝わってくる。

 

 

「いい……悪気がないのはわかったから。私のこっちでの名前はさや……そまり、よろしく……」

 

 

 さやは特に怒ってもなんとも思っておらず、表情はいつも通りだった。

 

 

「本当にごめんなさい……と、ところでそちらの方は?」

 

 

 そまりは席に座るとつむぎの方を目線を合わせずに見た。

 

 

「こっちはつむぎ……」

 

「麗白つむぎ、こっちだと双葉つむぎだよ。よろしくねそまりちゃん」

 

「えぇぇつむぎちゃん!? ふ、二人はリアルで知り合いだったんですか!?」

 

 

 つむぎが自己紹介をすると驚くように叫ぶそまり。

 

 

「咲夜ちゃんがさやちゃんだと知ったのはかなりあとだよ。さやちゃんは隣の席でUnreallyで仲良くなってからリアルのことを知ってこっちでも仲良くなったんだぁ」

 

 

 つむぎはこれまでのさやとの経緯を簡単に説明する。

 

 

「そんな……さくつむ、この場合つむさや? がそんな生い立ちで成り立っていたなんて……なにこれエモォい……」

 

 

 そまりはぶつぶつと聞こえない声でなにかを言っていた。

 

 

「それで私に頼みたいことってなに?」

 

 

 さやが本題を聞く。今回の目的、ねねこ、つまりそまりのお願い事を聞くことだ。

 ねねこは顔を下に向け話しやすい形で会話を始めた。

 

 

「実はあたしのオリジナルソングの作曲をしてほしいんです。日頃応援してくれるファンの子達に向けての曲をライブ配信したくて……。なので咲夜ちゃん……いえ、さや先輩の作る素敵な曲を是非あたしに作ってほしいんです」

 

 

 下をむけて話してた彼女だが、最後は顔をあげて話し出した。

 

 

「もちろんお金は払います。そこまで対した額は出せませんけど……」

 

 

 そまりの表情は本気だった。

 そこまでファンに対する気持ちがあったのだろう。ねねこはファン想いのとてもいい子だ。

 

 するとさやは首を振る。

 

 

「お金はいいよ……そもそも言うことを聞くって名目だし。ちゃんと作曲する。その代わり、後輩になるならUINEの連絡先交換しよう……条件はそれだけ」

 

「そ、それだけでいいんですか!?」

 

 

 そまりは条件の不等さに驚く。ほとんどさやの方へはメリットはない。作曲するのも簡単ではないはずだ。

 

 

「作曲をするにも作詞はそまりがやった方がいいから……Unreallyで素直になれなくてもこっちで字面ならなんとかなるでしょ?」

 

「は、はい。それならなんとか……」

 

 

 そうしてさやたちはスマホを取りだしUINEの連絡先を交換することに。

 

 

「あ、あのつむぎ先輩もよかったら……いいですか?」

 

「うん、いいよ!」

 

 

 つむぎは優しく微笑んでスマホを取りだしそまりと連絡先を交換する。

 

 

「はぅ~推しの連絡先交換ゲットできるなんて幸せ……」

 

 

 そまりは顔を剃らし小声でなにかを言った。

 



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紡がれた輪

 連絡を交換したあとつむぎたちは食事を取りいろいろ話をしたあと喫茶店を出てそまりと別れた。

 

 

「ねねこちゃんが来年わたしたちの後輩になるかもしれないって思いもよらなかったね」

 

「うん」

 

 

 帰路。つむぎは笑うように言い、前を歩くさやが頷く。

 

 ねねこ、リアル名そまりは姫乃市の隣にある三毛市に住んでいるらしい。今は中学三年生で来年姫乃女学園に受験予定だとか。

 

 もし入学できれば晴れてつむぎたちの後輩となる。はじめは先輩呼びはしなくていいと言ったがそこに関してはそまりは頑固で先輩呼びを徹底してきた。

 

 今となってはもう身バレがどうこういう話はとうに忘れていた。ただアンリアルで仲良くなった友達とリアルで会ったような感じだった。

 

 

 そまりとさやは作曲の方向性について話し合ったりもしていた。あまり自分から話さないさやも音楽のこととなると本気なのか結構話す頻度が多く、咲夜でいるときと同じような口数になっていた。

 

 そまりは話すにつれて段々噛んだり顔を赤くする回数が減っていた。相手に慣れればあがり症もそこまでひどくないのかもしれない。

 

 

「それにしても……」

 

 

 つむぎはつぶやきあることを思い返し立ち止まる。

 

 

「さやちゃん、成長したね……」

 

「……私が?」

 

 

 さやは歩くのをやめつむぎの方を振り向く。

 さやはなんの事だかわからない表情が表に出ている。

 

 

「はじめて咲夜ちゃんとしてリアルで会ったときは人と関わるのを嫌っていたのに、今じゃわたし以外にも友達が出来て自ら関わりにいくようになってさ……」

 

 

 ここ数ヵ月のことを振り返る。

 さやは少し前までずっと一人でいた。孤独でいるのが自然なように。

 

 でもそれは強がりでつむぎが手を差し伸べた。

 そこからさやはどんどんリアルでの関わりのある人物が増えて言った。

 

 それがつむぎにとっては……

 

 

「ちょっと遠くの存在になったようで寂しいな。あはは……」

 

 

 つむぎは苦笑いをする。

 それを見たさやはつむぎの方をずっと見つめていた。そのまま数十秒変わらないまま見つめてくる。

 

 そしてさやはなにか考えが纏まったのか言葉を放つ。

 

 

「この後まだ……時間ある?」

 

「へ? うん、大丈夫だけど……」

 

 

 つむぎはきょとんとした顔でさやの方を見ていた。

 

 

「家についてきて」

 

 

 さやはそう言ってつむぎの手を取り歩き出して行った。

 

 

 ◇

 

 

「こここ、これがさやちゃんの家!?」

 

 

 つむぎはその高らかな建物を見て騒然とする。

 その建物は地上何十階にも渡る高くそびえ立つマンションだった。

 

 

「こ、これってうちの市で一番高級なマンションだよね!?」

 

「そうなの……? 知らなかった」

 

 

 動揺を隠せないつむぎ。しかしさやはそれについて特に興味も無さそうな感じだ。

 

 このマンションは姫乃市随一の高級マンションで有名でここに住める人間はそうそういない。

 

 

 さやは自然にマンションの中へと入っていく。

 入るのにオートロックがされていたりしていちいちカードキーが必要なようで警備がしっかりされているのがわかる。

 

 そのままつむぎはさやにはぐれないようについていきエレベーターの中へと入っていった。

 

 さやは自分の住んでる階にボタンを押しエレベーターが上へと上がっていく。つむぎはただただ場違いなのではないのかと思いながら心の中で不安がっていた。

 

 

 目的の階につきつむぎたちはエレベーターから降りる。しばらく歩いたあと一つの扉にさやは足を止めカードキーで1202号室と書かれたドアを開けた。

 

 

「ここが私の住んでる所……とりあえず私の部屋に入って」

 

 

 つむぎは言われるがままにさやの住んでる1202号室の中へと入る。

 

 玄関は綺麗にされており余計なものが一切無かった。靴を脱ぎこの場所にふさわしいように綺麗に整える。

 

 

「そういえば家族は今日いないの?」

 

「母は今日仕事……父は海外にいる。いつも忙しいからなかなか顔を合わせる機会はない」

 

「そうだったんだ……」

 

 

 知らなかった。そう言えば家族のことなんて全然聞いたことがない。さやがどんな暮らしをしてるのかそこまで知っていなかった。

 

 

 さやは先行して廊下にある一つの部屋の扉を開く。

 

 

「す、凄い……!?」

 

 

 つむぎは目を疑った。

 さやの部屋だと思われる所はUnreallyでの咲夜の部屋と同じような豪華な部屋になっていた。

 

 オーディオコンポにゲーミングPCらしき大きなパソコン本体とディスプレイ。

 さやが愛用しているオリジナルデザインのギター。そしてアップライトピアノがあった。

 

 だいたいのものはUnreallyでも似たような家具が配置されていたがピアノだけはUnreallyではなかったものだ。

 

 そしてベッドにはUnreallyのヘッドマウントが置かれてあった。

 

 

「凄い高そうなのばかりあるね……」

 

 

 現実でここまでの機材を揃えるとなるとかなりの額になるだろう。とてもじゃないが普通の女子高生の部屋ではない。

 

 

「だいたいは両親が買ってくれた。仕事が忙がしくてあまり親らしいことができないからって欲しいものはだいたい買ってくれる」

 

「す、すごいね……」

 

 

 口をポカーンと開けたままつむぎは言う。

 つむぎの家は決して質素と言うわけではないが裕福というほどでもない。だが家庭環境の差を見せつけられ驚きを隠せない。

 

 するとさやはピアノの前に座った。

 

 

「今日は聴いて欲しいものがある……それで家まで連れてきた」

 

「聴いて欲しいもの?」

 

 

 つむぎは首を傾げる。聴いて欲しいものとはなんだろうか。いつもならギターを演奏するさやがギターではなくピアノを演奏しようとしている。

 

 そこになにかしらの意味があるのかもしれない。

 

 

 そしてさやはピアノの鍵盤に指先を添え弾き始めた。

 

 そこから奏でられるのは美しい音階だった。はじめて聞くメロディーだ。

 それには歌は添えずピアノだけで完結された音色は思わず口ずさみたくなるような心地のいい曲であった。

 

 この曲を堪能するのにつむぎは目を閉じ世界観に没頭することにする。その世界は真っ白でなにも見えない。だが徐々に黒い線が現れ物が形付けられていく。

 

 光と闇、陽と陰二つを交差するようなその世界観は不思議で切なくて、でも最後には優しいそう思わせてくれるような曲だ。

 

 

「どうだった……?」

 

 

 いつの間にか演奏は終わっていた。

 目を開くとさやがこちらを見て問いかけてきた。 

 

 

「寂しさがあるけど凄く優しくて最後は救われるようなそんな優しい曲だったよ! これって新曲?」

 

 

 はじめて聴いた曲なのでつむぎは質問する。しかしさやは首を横に振った。

 

 

「これは昔からある……私がはじめて作曲したときの曲」

 

「へぇ、何て言う曲名なの?」

 

「曲名はない……歌詞も。自分では完成させることができないで何年もずっとこのままなんだ」

 

 

 軽音部ですぐに耳コピアレンジできるようなさやでもできないことが存在するのか。それともそこまではじめて作曲したこの曲に思い入れがあるのか。

 

 

「それでつむぎにはこの曲の歌詞と曲名を考えるのを手伝って欲しい」

 

「わ、わたしが作詞を!? どうしてそんな思い入れの強い曲をわたしなんかに頼むの!?」

 

 

 つむぎは戸惑う。そんな大層なことを自分に任されるのはあまりにも理解が追い付かなかった。

 

 つむぎは音楽についてあまりよく理解してない。作曲はもちろんましてやこんなにいい曲に作詞をするなんて自分がしていいものなのかと思ってしまう。

 

 だがさやは真剣な目付きでつむぎを見つめて言う。

 

 

「つむぎにはもっと私のことを知って欲しいから……私が成長して変われてるならそれはつむぎのおかげ。つむぎが手を差し伸ばしてくれて紡がれた輪。そんなつむぎならこの曲の作詞を頼める。暗闇の中から一筋の光をくれたのはつむぎだよ……」

 

「さやちゃん……!」

 

 

 それははじめての出来事だった。さやははじめて笑顔を見せた。多少微笑むことはあってもここまでちゃんと笑った笑みを見せることはなかった。

 

 そんな彼女の笑みを見てつむぎは心を奪われる。いつも無表情な彼女の笑みは優しく思えてとても素敵だった。

 

 彼女にとってつむぎは本当に大切な親友なのだと実感する。

 

 愛しいとさえ感じるその笑みを見てつむぎを思わず微笑む。その笑みを今だけは自分が独占したい。

 

 

「わたし頑張るよ。時間は掛かるかもしれないけどさやちゃんのために作ってみせる!」

 



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感謝を込めて

 そまりとさやが連絡を交換し数日。

 二人はどんな曲を作るかの路線が決まりあらかたの方向性は決まったらしい。つむぎもUINEで三人のグループを作り会話に参加させてもらっている。

 

 チャットでのそまりは普通に話せておりスムーズに話が進んでいった。

 先輩呼びされるのにはまだ慣れないが素直でかわいい後輩が出来たと思うと嬉しくも思う。

 

 Unreallyでは相変わらず素直になれないみたいだが。

 

 

 そうして一週間後。

 

 

◆ファンのみんなに感謝を│水無月ねねこ

 

 

「あなたたち元気にしてるかしら? 水無月ねねこよっ」

 

 

 無事曲作りが終わってからねねこはライブ配信をした。

 そこはライブステージとなっており歌を歌うのに最適な場所となっていた。

 

 

「き、今日はあたしのことを応援してくれるあなたたちのために感謝を込めた歌をプレゼントするわ! 今日だけの特別よ!!」

 

 

 ねねこは少し顔を赤くさせながら照れるように画面に向かって言う。

 こっちではあがり症が少しは克服してても照れるのは仕方がないようだった。

 

 コメントでは『ねねこちゃんの生歌だー』『ねねこちゃんすきー』などで溢れ返っている。

 

 

「しかもただの曲じゃないわ。この日のために作ってもらったあたしが作詞したオリジナルソングがあるの。作曲をしてくれたのはこの子よ!」

 

 

 そう言ってスポットライトが当たる。

 ねねこの右後ろには咲夜がギターを持って立っていた。

 

 

「咲夜ちゃんよ。今日は生でギター演奏を担当してくれるわ」

 

 

 コメントでは『咲夜様あぁぁ』『咲夜ちゃんかっこいい!』など咲夜の登場に喜ぶ歓声が上がった。

 

 

「そして応援役としてこの子も来てくれたわ!」

 

 

 今度は左後ろにスポットライトが当たる。

 そこにはつむぎが水色のサイリウムを両手に持ち立っている姿があった。

 

 

 『つむぎちゃんだぁ!』『この三人の組み合わせって前にもあったよね』と言ったコメントが流れてくる。

 

 

「そ、そうね。はじめてコラボしたときの組み合わせね。まぁ偶然だけど運命みたいなものかもしれないわね……」

 

 

 ねねこはリアルでの出来事を振り返るかのように言った。それはファンの子達にはわかるはずもないが。

 

 

「と、とにかく歌うわよ! 咲夜ちゃん演奏の準備はいい? つむぎちゃんバッチリ応援しなさいよね!」

 

 

 二人は頷く。咲夜の方をねねこは見てアイコンタクトを取るとねねこは言う。

 

 

「それじゃあ聴いてよね水無月ねねこで───」

 

 

 

 こうしてイントロが流れ咲夜が演奏をし始めねねこが歌う。

 

 曲調はアイドルソングらしくもちょっと電波ソングにも聞こえる感じだ。だが歌詞には好きな子に素直になれない女の子の恋愛ソングといった感じでねねこらしい曲になっている。

 

 

『神曲』『私もねねこちゃん大好きだよー!』『ねねこちゃんあいしてるー』などコメントが大量に来ていた。

 

 

 一方つむぎはと言うと

 

(がんばれーねねこちゃん! ふれふれ! ねねこちゃん!)

 

 

 サイリウムでファンの一人として応援している姿が画面に映っている。

 

 

 その一風謎な姿に『咲夜ちゃんはともかくつむぎちゃんは何をしてるのww』というコメントが付いていた。

 

 

 そもそもなぜこうなったかというと、UINEでの会話でライブに今回のゲストとして二人を呼ぶということにしたいというねねこの願望により二人はライブ配信にお邪魔することになったのだ。

 

 咲夜は作曲を担当するし生で演奏もできるので配信に呼ぶのは自然な流れだ。しかしつむぎは……とくにやることもないのでとりあえず応援することになった。その結果がこれだ。

 

 でもつむぎはとくになんとも思ってなく一ファンとしてねねこを応援していた。ファンとしては光栄なことだった。

 

 

 そんな感じでサビの前後に大好きなんだからー!や勘違いしないでねなどのフレーズが入った歌詞をねねこは歌い続け曲が終わりを迎えた。

 

 

「ど、どうだったかしら? べ、別にそもそもはあなたたちのためじゃ、じゃ……なくてあたしがオリジナル曲が欲しいから作っただけなんだから勘違いしにゃいでよね」

 

 

 歌いきったねねこの表情は赤くなっていた。

 歌ってる最中は歌に集中してたのか緊張していなかったようだが終わった途端、噛み噛みになっていた。

 

 

「今度ちゃんと歌った曲だけの動画をあげるわ。ちゃ、ちゃんとみてちょうだいよね! それじゃまたね……」

 

 

 ねねこはバイバイと手を振ると配信を終了させた。

 

 

「あぁ……緊張したわ……」

 

 

 ねねこは膝をがっくりと落とす。

 彼女にとって配信をすることはあがり症を克服するのに大きな役割を果たしており、その分身体の消耗が激しいのだろう。

 

 そのため短時間のライブ配信もよくあることだった。

 

 

「お疲れ様ねねこちゃん。とってもかわいかったよ!」

 

 

 つむぎは笑顔でねねこに言う。

 

 

「あ、ありがと……今日までほんとうにあなたたちにはお世話になったわ。はじめはほんとうにごめんなさいね……」

 

 

 ねねこは思いの外素直に謝り始めた。 

 

 

「もうその事はいいよ。結果として誰かが傷付いたわけじゃないからさ」

 

 

 咲夜は優しい声で言う。そう誰も嫌な目に会った訳ではない。身バレしたのは思わぬ事件だが逆に言えばその相手がねねこでよかった。

 

 だからこそ今こうやって仲が深まろうとしている。

 

 するとねねこは話し始めた。

 

 

「本当はね……はじめて会ったときから友達になろうと思ってたの。ずっと二人の動画は見てて。同じUドリーマーとして御近づきになりたくて……でも実際は素直になれずに不器用で空回りばかりする。こんなあたしだけど……友達でいてくれる?」

 

 

 ねねこは涙目だった。

 それが彼女の本心なのだろう。

 

 つむぎと咲夜は互いに目を合わせる。

 

 

「素直じゃないのはもう慣れてるから大丈夫」

 

「うん、これからも友達だよ!」

 

 

 二人は互いに微笑むようにねねこに対する想いを伝えた。

 

 

「ありがとう……感謝しないこともないわよっ」

 

 

 彼女は素直に素直じゃない感謝を述べた。

 

 

 



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ハロウィンイベント開催!

 10月31日。リアルではハロウィンが行われる日。

 Unreallyでも一風変わったイベントが行われていた。

 

 そんなイベントを活用してつむぎと咲夜は配信を行うことにした。

 

 

◆トリックオアトリート! おばけを退治してお菓子を貰おう! │麗白つむぎ

 

 

「こんにちは、アンリアルドリーマーの麗白つむぎです!」

 

「小太刀咲夜だよ」

 

 

 二人は自己紹介をする。

 

 

「見てこの衣装。今日はハロウィンだからハロウィンらしいコスプレをしてみたんだ」

 

 

 つむぎは着ている衣装を見せる。つむぎは普段着ている衣装ではなく今日は赤ずきんの格好をしていた。

 

 咲夜も例外ではなく、ヴァンパイアを思わせるようなマントを羽織った衣装を着ている。

 

 

「Unreallyでも今日ハロウィンイベントが開催されてるよ。今日一日Unreallyではたくさんのいたずら好きのおばけがあたりをさまよってるんだ! おばけといっても怖い感じのじゃなくてかわいいから大丈夫だよ」

 

 

 つむぎは説明する。

 今日のUnreallyの空は紫一色で染まっていて、建物のまわりにはカボチャのランタンやオブジェクトが複数見られる。

 

 Unreally全体が今日一日ハロウィン一色になっているのだ。

 

 

「にゃあぁ! こないでぇー!」

 

「ねねこちゃん!?」

 

 

 すると前方から悲鳴が聞こえてくる。

 ねねこの声だ。ねねこはこちらに逃げてくるように向かってきた。

 

 

「トリーック! トリーーーック!」

 

 

 ねねこを追いかけてきたのはよくある白い可愛らしい小さなお化けだった。

 

 

「おばけに追いかけられてるの! た、助けて!」

 

 

 ねねこは咲夜の方へ隠れるように背後に立つ。がたがたと震える彼女はほんとうに怖がっている様子だった。

 

 

「ちょうどいい、今からおばけの退治方法を教えるよ。退治方法はこの掃除機を使うんだ」

 

 

 そう言って咲夜は掃除機を手に取る。

 携帯型の小型掃除機だ。

 

 向かってきたお化けに対して咲夜は掃除機のスイッチをオンにし掃除機の吸い込む音が鳴る。

 

 

「トリィーート!」

 

 

 吸引力から逃げようとするおばけだがその力には勝てない。掃除機に吸い込まれていったおばけはおかしな断末魔を叫び消えていった。

 

 すると空中にお菓子の入った包装された袋が現れた。咲夜はそのお菓子を手に取る。

 

 

「吸い込んで退治したおばけはお菓子に変わるんだよ。こうやっておばけをたくさん吸い込んでお菓子を集めるイベントなんだ!」

 

 

 つむぎは言う。イベント内容はこころが事前に動画でアップしていた。なのでその通りにつむぎはこのイベントがどういうものなのかを説明する。

 

 

「なんでおばけがこんなに発生しているの!? せっかく仮装してハロウィン配信しようとしたのにUnreallyどうなってんのよ!」

 

 

 ねねこはこのイベントのことを知っていなかったようだ。謎の事態にUnreallyの運営に対して叫ぶように言う。

 

 ねねこも魔女の仮装をしていた。魔女っ子らしい帽子には猫耳が出せるようにその部分だけ穴が空いてある。

 

 ねねこは未だ咲夜のマントを掴んだまま離れずにいた。

 

 

「ねねこもしかして怖がってる?」

 

「怖くなんてないわよ! そう、これは今日は二人と一緒にいたいだけよ!」

 

「相変わらずツンデレなのかデレてるのかわからない言い訳だね……」

 

 

 顔を赤くして言うねねこにつむぎはあははと笑った。

 

 

「せっかくだからねねこちゃんも配信に参加しない? ねねこちゃんもいればもっと楽しくなるよ」

 

 

 つむぎは提案する。ねねこも配信をしようとしているなら三人でやればもっと楽しくなるはずだ。

 

 するとねねこは自分の髪の毛を撫でながら照れるように言った。

 

 

「し、仕方ないわね。仕方なく参加してあげても「じゃあ帰っていいよ」参加するわよ! 一人にしないでよ!」

 

 

 咲夜が意地悪そうに言うとねねこは涙目で怒るように叫んだ。

 

 こうして三人でハロウィンイベント配信をすることとなった。

 



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いたずら大好きジャックオランタン

「えいっ!」

 

「トリーートォ!」

 

 

 つむぎたちは順調に掃除機でおばけを吸い込んでいった。

 

 

「よしこれで三体目、おかしは……チョコレートケーキ!」

 

 

 退治したことによって手に入るお菓子はおばけによって様々であった。皿に乗ったチョコレートケーキをつむぎはアイテム欄にへと保存する。

 

 イベントが終わった後集めたお菓子を食べる予定だ。

 

 つむぎなお菓子をしまった後咲夜たちと共に街の中を歩く。

 

 

「みんなやっぱりハロウィンの仮装してるね」

 

「Unreallyはいつも個性的な格好の人が多いから仮装してるのか判別しにくいけどね」

 

 

 つむぎと咲夜が会話をする。

 街の中はお化けの衣装やカボチャをアクセサリーに纏った人がたくさんいた。そういった人たちもまた小型掃除機を持っておばけを退治している。

 

 この掃除機は今日限定の配布アイテムだった。

 

 

「にゃーん」

 

 

 すると猫の鳴き声が聞こえた。

 それは白い猫だった。尻尾は炎のようにゆらゆらと揺らいでいる。

 

 画面の表示には猫のおばけと書いてあり吸引可能と表記されている。

 

 

「ねこのお化けもいるんだね」

 

 

 つむぎは言う。すると一人その猫に近寄っていく人物がいた。

 

 

「きゃーーかわいいぃ」

 

 

 ねねこだった。さっきまでおばけが怖いと一匹も退治してなかったのにこの猫には近づき抱き上げたのだ。

 

 

「近づくといたずらされるよっ!?」

 

「あははっ、もうこら……これくらいじゃいたずらにならないわよっ」

 

 

 ねねこは猫に髪を引っ張られたり指をがしがし噛まれても笑って受け止めた。その姿はペットの猫とじゃれてる女の子そのものだった。

 

 

「ねねこちゃんはやっぱり猫が好きなんだね」

 

「そうよ、あっちの世界では猫を何匹も飼っているもの」

 

 

 つむぎはしみじみ思う。ねねこが猫の姿をしているのは猫が好きだから。その現れなのだと。

 

 なりたい姿になれる。

 そんなUnreallyだからこそできることだ。

 

 

「そっかそれじゃあもういい?」

 

 

 咲夜は掃除機の構え猫のおばけを吸い込もうとしていた。

 

 

「なんでこの流れで吸い込もうとするのよ! 人の心がないの!?」

 

 

 ねねこは猫を抱き上げて咲夜から離れた。

 

 

「だってこの子も一応おばけだし22時になったらイベントも終わって消える運命だよ」

 

 

 そうであった。このイベントは22時に終わり残ったおばけはその場で消滅する運命だ。消える事実は変わらない。

 

 

「それでも一緒にいるの! 消えるその時までかたときも離さないの!」

 

「にゃ~ん」

 

 

 まるで野良猫を飼うのを親に説得しようとしてる子供だった。猫は楽しそうにねねこの髪をいじっている。

 

 

「そっかならいいけど」

 

 

 やれやれと言った表情で咲夜は猫を吸い込むのをやめることにした。

 

 

「うぐっ……うえーーん」

 

 

 すると何処からか聞き覚えのある声が聞こえてきた。つむぎたちはその方向へと向かう。

 

 

「せっかく集めたウチのおかしが鳥のおばけにぃ……」

 

「アホーアホーー」

 

 

 そこにいたのはしきだった。しきは普段通りの服を着て倒れ込み鳥の群れにいじめられていた。

 

 しきの髪をつついたり、しきがもっていたお菓子を横取りして床に落として食べていたり散々な目に合っている。しきは涙目になっている。

 

 だが一つ、つむぎは指摘することがあった。

 

 

「いやしきちゃん、それただの普通の鳥だよ」

 

「え?」

 

「カァー、カァー」

 

 

 しきはよく鳥の群れを見てみる。それは白くもないお化けでもなんでもないただの普通のカラスだった。画面上にもなんの表記もされていない。

 

 

「えっじゃあおばけにいたずらされてたんじゃなくていつも通りただ鳥に苛められてただけなの……」

 

 

 するとしきの目からはハイライトが消えていく。

 

 

「あぁまたか……鳥たちはいつもウチをバカにして……ウチはいつもそうだ……誰もウチを愛してくれない……もういいや自爆しよ……」

 

 

 ネガティブに一気になっていったしきは呪文を唱えるかのように自爆発言をし胸の真ん中にあるコアがピコピコと光出す。

 その気配を察知してか鳥たちはばさぁっと空へと飛び逃げていった。

 

 

「ちょっ街中で自爆とかやめ──」

 

 

 ドカーーン!

 

 つむぎの静止も聞かずしきは思いきり爆発した。爆風があたりを舞う。

 

 幸いしきの爆発では街のオブジェクトに被害がでることは無かった。

 

 

「げほっげほっごほっ」

 

 

 しかしつむぎたちは被害がゼロではない。まわりは黒いもやで覆われ煙を吸い息苦しい。

 

 

「はースッキリした!」

 

 

 少したち煙が消えたあとしきはポジティブな性格にへと戻っていた。

 

 

「せっかくの衣装がダメになったらどうするのよ!」

 

「大丈夫大丈夫アンリアルだから~ふんふん!」

 

「理由になってない!」

 

 

 ねねこは猫を大切そうに抱きながら怒っていた。

 

 

「あはは、まぁこんな日もあるよ……うん?」

 

 

 苦笑するつむぎ。すると前方から謎の物体がこちらに近づいてくるのが見えた。

 じーっと奥の方を見てみる。

 そこにいたのは──

 

 

「トリーーーック!」

 

「大きなカボチャのおばけ!?」

 

 

 それは巨大なジャックオランタンにシーツがくっついたおばけがこちらへと向かってきてきた。

 

 

「あんなでっかいの倒したらきっと絶対すごいの貰えるでしょ! ウチが一番!」

 

 

 しきは自信満々に前に出てきた。

 そして向かってきたおばけに掃除機のスイッチをオンにし吸引しようとする。が──

 

 

「効いてない!?」

 

 

 吸引しようとしても大きすぎるのか全然効いてなかった。

 

 

「わたしたちも……!」

 

 

 つむぎと咲夜も掃除機を持ち吸い上げようとする。だが一切効いてない。

 

 

「トリーーーック!」

 

「うわぁぁぁ!?」

 

 

 シーツの中につむぎたちは飲み込まれた。シーツの中は真っ暗でなにも見えない。

 

 シーツの中から出てこれたときには異変が起きていた。

 

 

「目が回るぅ」

 

「水浸し……」

 

「鳥が生まれたぁ!?」

 

 

 つむぎは目を回らせ、咲夜は水浸しに、しきの頭には鳥の巣と卵がありすぐに鳥が羽化した。

 

 

「いったいどうなってるの。ボスイベントかなにか?」

 

 

 つむぎは不思議に思う。掃除機で吸い込めばおばけは退治できるはずなのに全然効いてないのはおかしかった。

 

 

「このままじゃあたしも……」

 

 

 ねねこは後ずさる。

 被害を受けていなかったのは幸い距離をおいて離れていたねねこだけだった。

 

 にゃーんとねねこを心配するように鳴く猫。

 

 これで終わりか……

 

 

「ここはわたくしに任せるでありんす……」

 

 

 その時だった。着物を着て刀を持った白髪の少女がねねこの前に現れた。

 

 

「ノーラちゃん!?」

 

 

 それはエレオノーラだった。

 エレオノーラは刀を抜くと一気におばけの方へと突進しこう言った。

 

 

「До свидания……さよならでありんす」

 

 

 そう言い残した後エレオノーラは刀をしまう。

 

 

「トリーーーック!?」

 

 

 一瞬の出来事だった。斬擊がおばけを襲い。

 大きな断末魔をあげかぼちゃのおばけは消滅した。

 

 

「倒した!? 物理攻撃効くの!? ってあれ?」

 

 

 しきが言いかぼちゃのおばけがいた方をみると一つの人影が見えた。

 

 

「あらら、ばれてしまったかい」

 

 

 そこには紫のフードを被った少女がいた。つむぎたちはその少女を知っていた。

 

 

「ひそかまーたあんた夏の時と同じことやってるの」

 

 

 呆れたようにしきは言う。彼女は鹿羽ひそか。

 つむぎたちのフレンドでありいろいろいたずらをするのが大好きな少女だ。

 

 

「何を言うかい、今日はハロウィンだよ。ひそかはただハロウィンを楽しむのにいたずらしていただけさ。いたずらする側に回っちゃだめとは言われてないからね。今日はハロウィンだからね」

 

「それ理由にいたずらしたいだけじゃん」

 

 

 うんざりするようにしきは言う。

 もはや彼女がしょうもないことをやっていることはしきにとっては日常茶飯事であった。

 

 

「まぁひそかはそういうことだからまた変装してハロウィンを楽しんでくるよ。ではまた」

 

「何人が犠牲になるやら」

 

「み、みんなも他の人からのいたずらには気をつけようね!」

 

 

 ひそかはかぼちゃのおばけに変身してその場を去っていった。平常運転だが迷惑な話だ。

 つむぎはエレオノーラの方を見る。

 

 

「ノーラちゃんありがとう!」

 

 

 つむぎは助けてくれたエレオノーラに感謝を言う。

 

 

「いえいえ、たまたま通りかかっただけでありんすから」

 

 

 エレオノーラは笑顔でつむぎたちに微笑む。

 

 

「実は喫茶雪月花も今日はハロウィンの特別仕様でありんすよ。なのでよかったらわたくしの店に来てくんなまし」

 

「そうだねせっかくだしノーラちゃんのお店で休憩しようか!」

 

 

 つむぎはエレオノーラの提案に乗り喫茶雪月花に行くことにした。

 



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今この瞬間を

 つむぎたちは喫茶雪月花へと足を運んだ。

 内装はハロウィン仕様でカボチャの飾りなどで飾り付けられていた。客もそれなりに来ており店員もいる。

 

 店員はUnreallyのユーザーでなくNPCだ。

 店を持つと自分が働いてないときもレジやメニュー運びなど代わりにしてくれるNPCを雇う事ができるのだ。

 

 つむぎ達は四人用の席に座った。

 

 

「トリックオアトリート。まずはいたずらかおかしか選ぶでありんすよ」

 

 

 エレオノーラは微笑みお盆を持ちながら注文を取る。

 

 

「まぁお菓子をお願いするわ」

 

「わたしもっ」

 

 

 つむぎとねねこはお菓子を注文する。

 

 

「いたずらってなに?」

 

「はいはいウチいたずらやるー」

 

 

 咲夜はいたずらとはいったいなんのことなのか疑問に思い、しきはそんなこと関係なく問答無用でいたずらを注文した。

 

 

「いたずらでありんすね。ではしきどの、わたくしの帯をおもいっきり引っ張るでありんす。そしてよいではないかというでありんすよ」

 

「うん? ……あぁなるほど!」

 

 

 しきはなにかを思い浮かべ理解した。

 

 それからしきはエレオノーラの着物の帯を持ち、思いっきり引っ張る。

 

 

「よいではないか! よいではないか!」

 

「あ~れ~おやめくださいお客様~」

 

 

 帯を引っ張られたエレオノーラはコマのように回転していく。しきは楽しそうに引っ張っていく。

 

 この光景は時代劇でよくある悪代官がやっている行為だった。

 

 いたずらとはお客がエレオノーラに対していたずらすることだったらしい。

 

 

「こういう風に無限に帯回しをできるのがいたずらのサービスでありんすよ。咲夜どのもいかかでありんすか?」

 

「いや普通にお菓子で……」

 

 

 実際にどんなものか見た咲夜は呆れた顔で即答した。

 エレオノーラは残念でありんすねといい残し、キッチンの方へと注文品を作りに向かう。

 

 

 ◇

 

 

「ハロウィン限定デザート特別セットでありんす」

 

 

 テーブルに運ばれてきた注文品をつむぎは見た。

 

 ジャクオランタンの顔をしたプリンに、白いオバケのカップケーキ、カボチャの顔をした和菓子などさまざまなスイーツのセットが出された。

 

 

「カボチャモチーフのやつが多いんだね!」

 

「まぁハロウィンといえばカボチャでありんすからね。実際にプリンなどは材料にカボチャを使ってるでありんすよ」

 

 

 エレオノーラはつむぎへ笑顔で応える。

 

 つむぎは試しにカボチャのプリンを食べてみることに。スプーンで一口分すくい口に運ぶ。

 

 

「濃厚! カボチャらしい甘さが出ててそれでいて滑らかで美味しいよ! ハロウィン限定なのが勿体ないくらい!」

 

「ふふっ、よろこんでくれたみたいで大変ありがたいでありんすよ」

 

 

 エレオノーラはつむぎの感想を聞いて嬉しそうだった。

 

 咲夜も美味しそうにオバケのカップケーキを食べている。

 

 

「はいブランちゃんあーん」

 

「にゃーん」

 

 

 ねねこはいつの間にか猫にブランと言う名前をつけておりカボチャのプリンをブランに食べさせていた。とても微笑ましそうだ。

 

 

「消えるのに名前付けたら後々辛くなるんじゃ……」

 

「そういうこと言わないでよ! 今を楽しませて!」

 

 

 不器用な咲夜はねねこの気持ちを理解しておらず現実的な話をする。ねねこは涙目だった。

 

 この猫はこの日のために作られたおばけで22時を過ぎたら消滅する。

 設定があるとするならば霊のいる世界に帰るのだろう。

 

 そんな事を話したりしながらつむぎたちは限定スイーツを食べることにした。

 

 

 

 

 

「食った食った。じゃーウチは一人でおばけ退治して来ようかな」

 

 

 しばらくして一足先にスイーツを食べ終えたしきは席を立ち上がり言った。

 

 

「わたしたちももう少ししたら行こうか」

 

 

 つむぎたちはまだ食べかけのスイーツが残っている。それらを食べ終えたらいく予定だ。

 

 

「わたくしは店があるので残るでありんす。みなさんは是非イベントを楽しんでいくでありんすよ」

 

 

 エレオノーラはしきの食べた皿をお盆に乗せて片付け始める。

 

 ふとつむぎは思う。

 

 

「そういえばひそかちゃんは今どうしてるんだろ?」

 

「あいつ今ちょっとUnitterで話題になってるよ。カボチャのおばけがお菓子を横取りしたりいたずらしてくるってユニートがたくさんあるから」

 

「あはは、ひそかちゃんらしいね」

 

 

 つむぎの疑問にしきが答えた。

 案の定ひそかはUnreally内を暴れ回っているようだ。 

 

 

 ◇

 

 

 それからエレオノーラとしきと別れたつむぎたち三人と一匹はUnreally内のおばけ退治に専念する。

 

 おばけはいろんな種類のものがいた。

 がいこつのおばけや目玉のおばけなどいろんな種類のおばけがあたりをさまよっていた。

 

 おばけを見つけるのは半分鬼ごっこやかくれんぼのようで楽しくイベントとしてとても面白い。

 

 そしてあっという間に21時をすぎ、もう少しでイベントが終わろうとしていた。

 

 

「もうすぐ終わりかぁ……なんかあっという間だったなぁ」

 

「イベントはいつもより楽しい時間が多いから体感があっという間なのは仕方ないよ」

 

 

 河川敷で空を見上げるつむぎ。月が上っている。それはいつもの月とは違ってカボチャの形をしていた。

 

 

「ブランちゃんあなたのことは忘れないからね……」

 

「にゃーん…」

 

 

 ねねこはブランの頭を撫でながら言う。

 ブランもねねこの寂しそうな顔を理解したのか甘えるように鳴きねねこの指を舐める。

 

 

 そして時間は22時になり時計の鐘が鳴る音が響いた。

 

 すると近くにいたおばけたちは空へと上がり旅たっていく。こちらの世界へとお別れするのだろう。

 

 次第におばけたちは消えていく。

 

 ブランが消えるのは時間の問題だろう。

 そう思ったが。

 

 

「にゃーん」

 

 

 ブランは消えるどころかねねこに甘え肩によじ登りもたれ掛かっていた。

 

 

「ブランちゃん!? あなた消えないの!?」

 

「どうやら未練ができちゃったみたいだね」

 

「こころちゃん!?」

 

 

 するといきなりこころが現れてきた。

 

 

「ねねこちゃんのブランちゃんを大切にする思いと愛情が伝わって、ブランちゃんもねねこちゃんのことが大好きになっちゃってこっちの世界に残りたいって意思ができちゃったみたい。だから消えることはないよ」

 

 

 こころが説明する。

 それはこの世界を支配するこころが介入したのかそういうプログラムがされているのかはわからない。しかしブランは今、イベントのための猫のおばけから一匹のUnreallyに暮らす猫として認められたのだ。

 

 ねねこはそう聞かされ瞳には涙が出ていた。

 

「……ブランちゃん! あなたはこれからはあたしの大切なペット! いいえ、チャンネルのマスコットよ! あたしとこれから一緒にチャンネルを盛り上げるわよ!」

 

 

 ブランを抱き上げるねねこは嬉しそうに言う。つむぎはそれを見て微笑ましそうに見ていた。

 

 

「ふふ、これからもっとねねこちゃんのチャンネルは楽しくなりそうだね。それじゃあ今回の配信はこれまで。長い時間付き合ってくれたみんなありがとね。ご視聴ありがとうございました!」

 

 

 ハロウィンイベントが終わったつむぎは配信しているのを忘れずに画面の向こうの視聴者に言い配信を終了させた。

 

 実験的に普段は動画として撮影している内容を今日は配信という形でお送りした。10月31日のハロウィンという時間は今日限りだ。

 その日の出来事を生でお送りするのは今しかできない。そう思った。

 



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ティンクルスターに会ってみよう!

 11月になりつむぎはリアルで自分の部屋に居た。しかし様子がおかしい。

 

 さきほどからスマホを片手にちょろちょろと歩き回っている。

 

 それの原因はとある動画を見た方が早いだろう。

 

 

◆ティンクル☆スター定期ライブ サンキューエトワールフェス開催! │ティンクル☆スター

 

 

「キラッとハッピー!キラハピ☆ ティンクルスターよ! 今日は待っていた人もいる定期ライブ、サンキューエトワールフェスの告知があるわ!」

 

 

 アンリアルアイドル、ティンクル☆スターのピンク髪のセンターの少女宝城イルミナがバーンと画面に可愛らしいポーズを取り言う。

 

 

「えっと……ライブはDreamtubeで生配信……Unreallyではチケットを買えば生でボクたちの姿を見れるよ……」

 

 

 大人しい無口の青髪の少女星屑ミラはゆっくりとした口調で話した。

 

 

「ふわわっ! しかもチケットには500名限定でカペラ達と会ってお話しできる握手会もできる抽選付きらしいですぅ! これは会うのが楽しみですねぇ!」

 

 

 おっとりと、しかし天然な少女星屑カペラが驚いたようなポーズをして言った。

 

 

「さぁ、ボクたちの時間を独占したくない?」

 

 

 最後にミラがお決まりのポーズをして動画は終了する。

 

 

 

 この動画がつむぎがUnreallyにも行けずリアルでそわそわしていた理由だ。

 つむぎはティンクルスター、略してクルスタのライブにチケットを買い生で見ようと思っていた。その抽選結果が今日行われる。

 

 Unreallyでのライブはアンリアルなため会場が満席になってもサーバーが変わるように新しい席が生まれ見ることができるようになっている。

 

 つまり3万人しか入らない会場に11万人がチケットを買ったとしても4分割に会場のサーバーが変わり、ライブしてるクルスタメンバーの姿を同じ光景を生で見られるらしい。

 

 なのでライブを見ることに落選は存在せず参加できることに変わりはない。

 

 

 問題はその後開催される握手会だった。

 

 そこではクルスタメンバー三人の中から好きなメンバーと握手してお話しする時間がもうけられる。

 しかし彼女達の中身は人間だ。こころのように分身したりはできないので時間は有限。

 

 なので握手会は現実のチケット抽選と同じようにメールで抽選結果が送られてくる。

 

 

 つむぎははじめてチケットを買いライブを見に行く。クルスタのライブは動画で見てたりしたがUフェスで実際にライブを見たときのすごさを実感したので今回また見たいと思っていた。

 

 なので別に握手会は外れてもいい。なにせティンクルスターのチャンネル登録者は800万人でいくらUnreallyでのファンがそこまでいなくても、500名限定なら倍率は恐ろしいほど羽上がっている。

 

 

 でも万が一当たったらいいなという感情がつむぎの中にはあった。

 

 

「きた!」

 

 

 するとピコンとメールの通知音が鳴る。

 

 つむぎはメールの内容を見た。

 

 

 

ティンクル☆スター

─────────────

 

 つむぎ様

 この度は、サンキューエトワールフェスのチケットをご購入戴き誠にありがとうございます。

 

 チケットをご購入いただいた特典の握手会抽選結果をご報告いたします。

 

 抽選させていただいた結果、握手会にご当選されました。是非とも参加の際は握手会にもご運び願います。

 

 

 

「やったあぁぁ!」

 

 

 つむぎは大きな声で喜ぶ。抽選結果は当選だ。

 これで実際にUフォースであるティンクルスターとお話しすることができる。

 

 この喜びは大きい。

 

 つむぎはその気持ちをそまりとさやがいるUINEグループにチャットをすることにした。

 

 

つむぎ:そまりちゃんわたしティンクルスターの握手会当選したよ!

そまり:つむぎ先輩もですか!? 

    おめでとうございます!

    実はあたしもです! 

    5回目でようやくですよ!

    倍率100倍以上らしいので奇跡です!

 

 

 

 そまりからすぐに返信がきた。そまりはもう何度もエトワールフェスに参加してるらしいが今まで握手会は参加できなかったらしい。

 

 そんな中二人一緒に握手会に参加できるとは奇跡以外の何物でもない。

 

 

つむぎ:楽しみだね!

さや:ティンクルスターってそんなにいいの?

 

 

 さやが会話に入ってくる。

 さやはあまりティンクルスターのことはよく知らないようだった。

 

 

そまり:当たり前ですよ! クルスタはUドリーマー界を一変させたアンリアルアイドルなんですから!

 

 

 

 そこからそまりは自信満々に長文でクルスタの良さを語りだしてきた。

 

 ティンクル☆スター それは三年前に結成されたアンリアルアイドル。

 

 星空プロダクションという声優事務所の若手声優三人が抜擢され声優アイドルとアンリアルドリーマー二つを両立させたアイドルユニット。

 

 本来アンリアルドリーマーの現実の姿を知るものは少ない。

 しかしティンクル☆スターだけは正式に顔出しもする声優という職業を利用してリアルでの正体を明かしている。

 

 実際にはUnreallyではリアルの姿は親友といって話しているがCDや公式サイトを見るとCVが記載されている。またリアルでは本人が自分がティンクルスターの中の人であると言い場所によって切り分けているのだ。

 

 

 その三人の説明をしていこう。

 

 

 一人目は星屑カペラ 

 天然でおっとりとした性格の少女。

 CVは成美ゆり19歳。

 本人は設定同様天然でドジっ子な部分を持っているが演技している時はプロそのもの。

 ティンクルスターでは一番の最年長。

 

 二人目は星屑ミラ。

 カペラの双子の妹でボクっ娘。

 CVは天都しずく17歳。

 しずく本人もミラと変わらないくらい大人しい。デビュー作、終焉少女ワルキューレではヒロインのワルキューレに抜擢され当時から期待の新人として話題に。ゆりとは実際に親戚でゆりねぇとプライベートでは言ってるらしい。

 

 

そまり:そして最後に宝城イルミナちゃん!みんなをスマイルにするあざと元気なクルスタのリーダー! 愛称はイルミー! 

 声優は小春うららちゃん18歳!本人はイルミーと違って真面目で礼儀正しい子!

 元天才子役でファンになる前からテレビで見たことがあります!

 子役時代にはじめて人外マスコットの声優をやって、その時声優になれば何にでもなれる。どんなキャラクターだって演じることができるって知ってから声優になることを決意。仕事に対する熱意、プライドが高くてそれがかっこよくて憧れの人です!

 

さや:そう

つむぎ:そまりちゃんはイルミナちゃん推しなんだね(*´∀`)♪

 

そまり:はい! なによりうららちゃんは生きざまがかっこいいんですよ! 

 元天才子役であるという経歴をあえて偽装して一から……

 

 

 それからもそまりはイルミナの中の人、小春うららのことについて事細やかに説明していった。

 自分が長文を打っているのに気づくのはかなり後だった。

 

 

そまり:ってあたしなにやってるの!? ごめんなさいごめんなさい!(;>_<;)

 ティンクルスターのことになるとつい夢中になっちゃって……

 

さや:つむぎで慣れてるから平気

 

つむぎ:わたしっていつもあんな感じなの!?

 

 

 つむぎは自分が好きなアンリアルドリーマーのことになると今のそまりのようになっていることに自覚がなかった。

 

 

さや:つむぎは誰推しなの?

つむぎ:わたしはミラちゃん推しだよ

さや:……そう

そまり:なるほど……

つむぎ:二人ともどうしたの?

さや:なんでもない

そまり:なんでもないですよ♪

 

 

 二人はつむぎに対してなにかを察していた。しかしつむぎにはそれがわからない。

 

 

 こうしてUINEでのやりとりを終えつむぎはサンキューエトワールフェスが行われる日を楽しみに待つことにした。

 



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サンキューエトワールフェス

 ついにサンキューエトワールフェスが開催される当日となった。

 

 つむぎたちはライブ会場前に来ている。

 ここにはワープゲートが繋がっているはずだが大人数がここにいるせいでワープゲートが使えず、1キロほど離れた場所から歩いてきた。

 

 ライブ会場はUフェスで使った場所だった。約3万人が入れる施設となっており大勢のファンが押し寄せていた。

 

 その規模はUフェスと変わらずティンクルスターだけでも大人気だと言うことを知らしめされる。

 

 ねねこと合流しライブ会場の中へと入ったつむぎたちは観客席に座った。

 

 

「ティンクルスターの単独ライブ生で見るのはじめてだから楽しみだよ~」

 

「それならきっと楽しめるわよ。エトフェスはUフェスとは違った臨場感と一体感が集まってるから」

 

 

 ライブがはじまるまであと少し、ステージは暗くサイリムだけが光っていた。ねねこはブランを自分の家でお留守番させていた。

 

 大きな音を出すライブにはアンリアルの生物とはいえびっくりすると思ったねねこの配慮だ。

 

 

 つむぎたちはそれぞれ推しのカラーのサイリウムを持っている。

 

 つむぎは青色のサイリウムを両手に一本ずつ。

 ねねこはピンクのサイリウムを両手に二本ずつ手にしていた。

 

 もちろんカペラ推しの緑色のサイリウムを持ったファンも大勢いる。

 

 

 期待を胸にしたエトワールフェス。それはステージへのスポットライトの光によって幕が開けた。

 

 ティンクルスターの三人が現れた。

 三人は普段の衣装とは違いよりアイドルらしい特別な衣装を着ていた。

 

 

「キラッとハッピー! みんなー今日は来てくれてありがとー!」

 

 

 リーダーのイルミナがはじまりの挨拶を言う。

 そこから一気にイルミー! と呼ぶ歓声が上がる。

 

「ふわわっ、こんなにたくさんの人が見ていらっしゃるんですねぇ! お姉ちゃん頑張っちゃいますう」

 

「今宵の時間はボクたちのもの……みんな楽しんでいってね」

 

 

 頑張るぞーといったポーズをカペラは取りミラはお決まりのいつもの手を差し伸べるポーズを取る。

 

 

 それぞれ衣装こそ変われどデザインは三人共通のもので色はそれぞれのイメージカラーになっていた。

 

 

「今日はエトワールのみんなにありがとうを伝える大切なライブ! はりきっていくわ!」

 

 

 そう言ってそれぞれがステージ位置に付きライブが始まった。

 

 曲はキュートなアイドルソング。ティンクルスターらしい曲だ。

 可愛らしい振り付けと歌声にこちらも胸が踊る。

 

 ファンは全員サイリムを振りタイミングに合わせて掛け声を出す。

 

 

 するとサビに差し掛かるに連れてクルスタの三人には翼の形をした骨組みのサイリウムが現れた。そして彼女達は宙を羽ばたく。

 

 アンリアルだからこそでき、単独ライブだからこそできる仕込みだろう。

 

 そこから彼女達はそれぞれファンの目の前までやっていき流れ星を落としていく。流れ星はキラキラと残像を生み出しハートや☆の形を作っていく。

 

 ティンクルスター、輝きの星

 彼女達は誰よりも輝いていた。

 

 

 

 ◇

 

 

「いやーすごかったねぇライブ」

 

「でしょう? エトフェスの時はいつも演出が派手で見てて飽きないのよ」

 

「うん、やっぱり生で見ると別物なんだねっ」

 

 

 つむぎとねねこは握手会がはじまるまでライブの余韻に浸っていた。あれから何曲もライブを披露してそれぞれ違った演出が用意されており見てて満足した。

 

 なによりUnreallyでみるのは接近してくれることによるファンサービスが受けられて最高だった。

 

 

 

「はーいそれでは握手会のはじまりよっ! みんなキラッとハッピーな時間を過ごしてね!」

 

 

 握手会がはじまりつむぎたちはそれぞれの推しの列に並んだ。

 

 列にはどれも一列150人以上いる。おおまかに平均的に人数がバラけたようだ。

 

 ねねこは前の方、つむぎは中盤の方に並んでいた。

 

 握手会に参加し終わった女の子たちはイルミナたちとお話をしたあと、とても嬉しそうな顔をしていた。握手からお話まで、できる時間は45秒だ。

 

 

 ねねこが先にイルミナの方へ握手する出番に入った。

 

 

「あ、あのみ、みな、水無月ねねこですっ」

 

 

 ねねこは顔を赤くして緊張していた。今のねねこはねねこというよりもそまりの時に近くなっていた。

 

 

「ねねこちゃんって言うのね! 今日はイルミーに会いに来てくれてありがとー」

 

 

 イルミナはねねこの手を両手で持ち笑顔で迎える。

 

 

「はぅわぁ!? あの、いつもイルミーちゃんのことかわいくて憧れてますっ// だ、大好きですっ」

 

 

 ねねこは普段以上に素直にものを言えていた。

 好きを素直に伝えるねねこははじめてだ。

 好きとは分かるけどちょっとひねくれた素直じゃない言い方を普段するのにイルミナに対しては完全にそまりに染まりきっていた。

 

 

「緊張してるの? せっかく会いに来てくれたんだからもっとハッピーな時間にしましょ。ほら、ラブリーキュートスマーイル!!」

 

 

 イルミナはねねこに向けてウインクをした。

 ズキューンとねねこのハートを撃ち抜く音がする。

 

 

「ラブリーキュートスマーイルうぅ~」

 

 

 ねねこは目をハートにさせてイルミナにメロメロになっていた。これをねねこのファンが見たらどう思うだろうか。

 

 そんな感じでねねこは握手会を堪能した。

 

 

 しばらくて、つむぎがミラと握手する時間となった。

 

 つむぎは心の中で緊張していた。

 ティンクルスターは全員好きだがその中でもミラはつむぎの推しだ。ジト目でクールな物静かな感じがとても魅力的だった。

 

 

「こんにちは……」

 

「こ、こんにちはっつむぎっていいます」

 

 

 つむぎはミラと顔を合わせ硬直する。

 いざこういう場で面と話すとなると緊張して仕方がなかった。

 

 相手はトップアンリアルドリーマーだ。

 しかし、今日この日のために伝えたかった思いをつむぎは伝える。

 

 

「ミラちゃんのクールでミステリアスな雰囲気大好きです。ミラちゃんの貴重な時間を独占できて幸せっ」

 

 

 ジト目でつむぎを見るミラ。ミラはつむぎの言葉を聞いたあと小さく微笑んで手を握ってきた。

 そして顔を近づけつむぎの耳元で囁く。

 

 

「えっとつむぎ……今だけはボクの時間はキミのもの……だよ?」

 

「っ!?」

 

 

 つむぎはいきなりのことに顔を赤くして意識を失いそうになった。その魅力とその魅せ方があまりにも上手く、囁いてくるのは卑怯だ。

 

 

「おしまい……また今度のライブも……来てね」

 

「は、はい! いきまふっ!」

 

 

 顔を離したミラにつむぎは答えた。

 推しに言われたら行くしかない。

 つむぎは来てよかったと幸せな気分に浸っていた。

 

 

 ◇

 

 

 一方その頃咲夜は

 

 

「ミィ!? ミーがなにをしたというのだ!?」

 

「なにもしてないよミーちゃんは悪くない。でも今日はこうしてないといても立ってもいられないんだ」

 

 

 今ごろつむぎはクルスタライブでなにしてるのだろうと思いながら、ストレス発散に射撃の的としてミーシェルを相手に撃っていた。

 ミーシェルは咲夜が銃をしまうまで銃弾をかわしながらずっと逃げ続けていた。

 



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Uフォースとコラボ

 そこはUnreallyのもふもふあにまるずが所有する惑星アニマルプラネット。

 その中でもふあにが室内で収録に使用していたり、住居として住んであるもふもふあにまるずの家があった。

 

 今その家には二人の女の子がいる。

 

 一人の少女はパソコンに目を通しており、もう一人の少女はソファーに横になり居眠りをしていた。

 あらかたパソコン業務をこなした少女は居眠りをしている少女の方へ向かう。はぁ、と呆れたような表情をしてから両手を腰に当て彼女は言った。

 

 

「起きなさいウル!!」

 

「んがっ!? なんだよ人が寝てるの邪魔するなよリズ!」

 

 

 メイド服をきた熊の少女リズは狼の少女ウルを起こした。ウルは物凄く驚いたリアクションをして起き上がる。

 

 

「次のもふあにTVについての企画の相談よ。次のコラボ相手誰にするのよ?」

 

「そんなの適当にぽいぽいーっと決めればいいだろ」

 

 

 ウルはあぐらをかいてめんどくさそうな表情でいう。だがリズの方は真剣な目付きで話し始めた。

 

 

「決定権はボスであるあんたよ。わたしが選んでもいいけどあんたが選んだ人選は必ず輝くんだから。最近調子のいい新人Uドリーマー一覧表を作成したから選びなさい」

 

 

 そう言ってリズはウルに新人Uドリーマー一覧表の画面を送る。パソコンでやっていたのはこれだった。

 

 

「仕方ねぇな、まぁ選ぶか……」

 

 

 ウルはなんだかんだいいながらもチームのリーダーとしての責務を勤める。新人Uドリーマーの中でなにかいい動画をあげている者はいないかと一覧の中の動画をなんとなく見ていった。

 

 

「ん?」

 

 

 しばらくしてウルは一つの動画に目が止まる。『どきどき!ハロウィンイベント楽しんでみた!』というタイトルでチャンネル主の名前は麗白つむぎだった。

 

 

 それはつむぎがハロウィンに生配信していた動画を数十分に編集して投稿されていたものだった。

 

 楽しんでいるつむぎたちの光景が目に焼き付く。それを見たウルは口元を緩ませた。

 

 

「フフッ……こいつらにしよう」

 

 

 ◇

 

 

「ええぇ!? ノーラとつむぎがもふあにとコラボ!!?」

 

 

 喫茶雪月花に大きな声が響き渡った。

 声を上げたのはしきだ。

 対面に座っていた咲夜がそのうるささに耳を塞いでいる。

 

 咲夜の隣に座ってたつむぎは苦笑いをしながら言う。

 

 

「うん、今日ログインしたらメールが届いててね。もふあにTVの出演依頼が来てたんだ」

 

「わたくしもびっくりしたでありんすよ」

 

 

 食器を洗っていたエレオノーラが会話に入ってきた。

 

 

 なにがあったかと言うと先程つむぎが言ったとおりでもふもふあにまるずからメールが届きもふあにTVへの出演依頼のお知らせと言うタイトルのメールだった。

 つむぎは一瞬なにかの間違いかと思ったがどうやら本物らしくエレオノーラにもそのメールが届いていた。

 

 

 もふあにTVはトップアンリアルドリーマーであるもふもふあにまるずの三人が有名なUドリーマーから新人Uドリーマーまで様々なUドリーマーをゲストとして呼ぶコラボ動画のシリーズだ。

 

 

「それにしてもつむぎはすごいね、今月だけでUフォース2グループと直接会える機会があって」

 

「えへへ、わたしもほんと奇跡だと思うよ」

 

 

 咲夜に言われつむぎは照れる。

 ティンクル☆スター、もふもふあにまるず、この二組はトップアンリアルドリーマーの中でもUフォースと呼ばれる四天王的立ち位置の存在につむぎは11月のうちに会うこととなるのだ。

 

 チャンネル登録者一位であるこころはAIでありよくそこらへんにいるためそこまで会うことは珍しくないが。

 

 

「ほんと会うのが楽しみだなぁ」

 

 

 出演は一週間後、出演は承認しており場所も指定されていた。あとは待つだけだった。

 つむぎはどんな事が起きるのか期待に胸を膨らませわくわくどきどきだった。

 



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もふあにと対面

 一週間後、もふあにとのコラボ収録の日となった。

 

 場所はアニマルプラネットにあるもふもふあにまるずの住居らしき場所だった。

 そこはお金持ちが住むような豪邸だ。

 さすが人気アンリアルドリーマーが住む家だ。

 

 

「いいのかなこんな場所に入っても……」

 

「招待された場所はここでありんすからいいと思うでありんすよ」

 

 

 不安に思うつむぎとは裏腹に特に驚いても緊張もしていないエレオノーラ。

 つむぎは迷いながらも玄関のボタンを押した。

 そのあとボタンのところにあるカメラに向けてつむぎは言う。

 

 

「あ、あのっ、もふあにTVに呼ばれた麗白つむぎとエレオノーラです! 中に入っても大丈夫でしょうか?」

 

 

 緊張しながら言うつむぎ。

 するとドアがカチャッと開く。

 そこにいたのはメイド服を着た熊耳がついてる少女リズだった。

 

 別に彼女はもふあにに仕えるメイドではない。

 彼女は裏方としてもふあにをサポートするもふあにの裏の四人目のメンバーだ。

 この姿をしているのは趣味だと動画で聞いたことがある。

 

 

「あなたたちがウルが選んだ新人さんたちね。どうぞ中に入りなさい」

 

「は、はいっ」

 

 緊張した声で言うつむぎ。リズは優しそうに招き家の中へと入る。

 玄関を抜けたリビングの中は広く開放的な部屋となっていた。

 

 そこのソファーにはうさぎ耳の少女スゥとリスの耳と尻尾が付いた少女シマリが座っている。

 

 

「あんたたち、もふあにTVに出演するつむぎちゃんとエレオノーラちゃんが来たわよー」

 

 

 リズが二人に向かって言う。

 リズの声に反応し二人はこちらに振り向くと近づいてきた。

 

 

「二人が今回のゲストさんとね。うちはシマリばい。よろしゅーね」

 

 笑顔で言うシマリ。

 

「ほうほう、この二人が今回の新人さんでーすかー」

 

 スゥが二人の顔を覗き込むように見てくる。髪で隠れた視界でちゃんと見ることはできるのだろうか?

 

 だがスゥは先程の言葉を言ったあとから黙ったままだ。しばらくしてすぅーすぅーと寝言が聞こえてくる。

 

 

「ってなに立ったまま寝てると!?」

 

 

 寝ている事に気づいたシマリがスゥを起こす。

 

 

「あぁ、すみませーんねー。眠くて気づいたら意識を失ってまーしたー」

 

 

 スゥが目を擦る。白髪で隠れた赤い瞳が微かに見えた。スゥの瞳を見ることができるのはかなり珍しいことだ。

 

 スゥのチラ目集がファンの間でまとめ動画として上がっているくらい貴重な者だった。

 

 

「ふーんお前らがつむぎとエレオノーラか」

 

 

 後ろから声がする。振り返るともふもふあにまるずのリーダー兼ボス、おおかみの少女ウルが立っていた。

 

 

「あ、お邪魔しています! わたしがつむぎっていいます。本日はよろしくお願いします!!」

 

「エレオノーラでありんすよ」

 

 

 つむぎはまだ少し緊張しながらここにいる全員に向けて挨拶をした。エレオノーラは動じずいつも通りの雰囲気だ。

 

 

「あぁ、今日はよろしく頼むぜ」

 

 

 ウルは首に右手を当てながら言った。

 

 

「あの、聞きたいことがあるんですけどわたしたちを選んだのってウルさんなんですよね? どうしてわたしたちが選ばれたんですか?」

 

 

 つむぎは疑問に思っていたことを聞く、何故自分が選ばれたのかつむぎはよくわかっていなかった。

 

 

「あぁそれはなお前のハロウィン動画を見たんだ。なんだあの動画は……あの動画はただお前らが楽しんでいるだけの動画だった」

 

「そ、そうですよね……あれは企画とかなにも考えてませんしもふあにさんの動画と比べたら全然……」

 

 

 つむぎはダメ出しをされるのだろうと思っていた。つむぎの動画は基本、自分がやりたいと思ったことを動画や配信にして届けている。

 

 それはもふもふあにまるずの企画がちゃんとしててぶっ飛んだ内容で視聴者を楽しませるものとはかけ離れていた。

 

 

「でもあたいはそれが気に入った!」

 

 

 しかしウルはそれを否定しなかった。

 

 

「お前は楽しむことを全力でやっている。それってドリーマーにとって大事なことだ」

 

 

 ウルは真剣な表情だった。呑気で適当そうないつものウルとは違っていた。

 

 

「あたいたちはトップになることを目指しすぎて方向性を見失い掛けたこともある」

 

「まーあのときは大変だったでーすよねー」

 

「そんなことが……」

 

 

 ウルとウルの隣に来たスゥの言葉につむぎは驚く。

 

 つむぎがもふあにを知ったのは一年前だ。

 その頃には既にUフォースとしてトップアンリアルドリーマーとして君臨していた。

 その前のことをつむぎはあまり知らなかった。

 

 

「でも楽しいを全力で伝えればそれを応援してくれるやつがいてくれるんだ! だから楽しいを忘れずにやれよ!」

 

「おおかみさん珍しくボスっぽいこといってまーすねー」

 

「珍しくない! あたいはいつでも誇り高き群れのボスだ!」

 

 

 痴話喧嘩のような二人のやりとりを見てつむぎは気持ちが和らぐ。

 よかった。自分のやってることは間違いではないとウルに言われたことが認められている感じがしてほっとした。

 

 

「ってことで撮影始めるぞ!」

 

「えっもう!? 企画のことについてなにも聞いてないですよ!?」

 

 

 急なウルの発言につむぎは戸惑った。

 

 

「ああん企画? そこを考えるところから撮影すんだよ!」

 

「共演者さんの強みを教えてもらって一緒に企画を考えるのからはじめる。それがもふあにTVでーすよー」

 

 

 ウルとスゥが答える。そういえばもふあにTVはそういった内容だったことをつむぎは思い出す。

 

 

「それじゃあ撮影開始するわよ! 位置について!」

 

 

 リズが撮影用のカメラを取りだし指示した。

 それぞれが撮影のための位置へとつき撮影が開始される。

 



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もふあにTV

◆もふあにTV! │もふもふあにまるず

 

 

「よい子のみんなもふあにTVの時間だ! 今日のゲストは新人アンリアルドリーマーの二人だ!」

 

 

 まずはじめに撮影画面にはもふもふあにまるずの三人が映し出される。

 ウルの紹介とともにそこからカメラはつむぎたちの方へと画面が切り替わった。

 

 撮影画面がつむぎたちに切り替わり戸惑うつむぎ。だがアシスタントであるリズがカンペで自己紹介してという文字を出してきた。

 

 

「えっと、麗白つむぎです! 今回は大ファンのもふあにさんの番組に出れて嬉しいです! よ、よろしくお願いします!」

 

「エレオノーラでありんす。ロシアと日本のハーフで喫茶雪月花を経営してるでありんす。よければ是非来て欲しいでありんすよ」

 

 

 つむぎとエレオノーラはそれぞれ自己紹介をする。エレオノーラは相変わらず動じず自分の店の宣伝をした。

 

 

「この番組はゲストの人たちと一緒に企画を一から考えて一緒に挑戦する番組ばい」

 

「なのでお二人の特技や趣味を教えてくーださーいねー」

 

 

 シマリとスゥが番組内容を紹介する。

 

 

「特技でありんすか。わたしは料理と剣術が得意でありんすよ」

 

「ほう剣術か、どんなものなんだそれは?」

 

「まぁ簡単ではありますが」

 

 

 そう言ってエレオノーラはリンゴを取り出して上に投げた。リンゴが落下する瞬間、エレオノーラは刀を抜き目にも止まらぬ速さで斬りリンゴが何分割かになる。

 

 そしてエレオノーラはすぐさま皿を出してリンゴを受け止める。リンゴはきれいに六等分に切り分けれていた。一つはなんとうさぎの形になっている。

 

 

「なにこれ手品ばい!?」

 

「一瞬でしたねー。目にも止まらぬ早さです」

 

「うさぎあたい!あたいがもらう!」

 

 

 もふあにの三人がエレオノーラの剣術にそれぞれ反応する。シマリは目を見開き、スゥは小さくぱちぱちと拍手をしウルはうさぎ型のリンゴに目がくれた。

 

 ちょうどその場には六人いるため六人でリンゴを別けて食べた。うさぎはウルが食べる。

 

 やはりノーラは凄いとつむぎは心のなかで思う。 

 

 

「つむぎさんはーなにか特技ってあーりますかー?」

 

 

 リンゴを食べ終えた後、スゥがつむぎに聞いてきた。

 

 

「特技ってわけじゃないけどわたしはこのマテリアライズペンを使ってイラストを具現化できます」

 

 

 つむぎはそう言って紙に簡単なおおかみのイラストを描く。

 そのイラストは立体化しおおかみのぬいぐるみとなった。

 

 

「おー……すごいでーすねー。絵を描くの好きなんですねー」

 

 

 おおかみのぬいぐるみをスゥは持ち上げ興味深そうに見ていた。

 

 

「はい。小さい頃はデザイナーになるのが夢でそれからお絵描きをはじめて……絵を描くのはずっとしてます」

 

 

 えへへと照れるように言うつむぎ。

 憧れの相手に誉められるのは嬉しい。

 しかしつむぎの言う言葉に引っ掛かりがある人物がいた。

 

 

「デザイナーになるのはあきらめちゃったと?」

 

 

 それはシマリだった。

 

 

「諦めたというよりそんな夢もあったなぁって忘れてたんです。最近Uフェスで衣装をデザインして売ってちょっとだけなれたらいいなとか思っちゃいましたけど」

 

「へー、ねぇよかったらデザインした服見せてくれん? うち、デザイナーもやってるからつむぎちゃんに興味でてしもうたと」

 

 

 シマリはつむぎのデザインをした服に興味を持っているようだ。

 

 

「えっとはいこれとか」

 

 

 つむぎは衣装を取り出す。

 着替えたのは夏のUフェスの前に動画で出したデザインした衣装。

 

 

「なるほど……」

 

 

 シマリはしみじみと回るようにつむぎのデザインした衣装を見る。一周して一通り見た後シマリは笑顔を見せた。

 

 

「いいセンスしとるねー。このまま頑張って作るといいと思うとよー!」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 

 つむぎは緊張した声で言った。

 シマリは実際にデザイナーをやっている人物だ。Unreallyだけでなくリアルでもシマリデザインのブランドが出来てる。

 そんなプロのデザイナーの端くれであるシマリに言われるのはとても光栄なことだ。

 

 

「はーい二人の特技がわかりまーしたねー。それじゃあ企画を考えましょー。クマさーんよろしくおねがいしまーす」

 

 

 リズへと話しかけるスゥ。これからアシスタント、企画担当であるリズの出番だ。

 

 

「ふーん、コーデ、剣技、料理……それらを合わせた企画……これでどう?」

 

 

 リズは数分で企画を考えた。その企画内容をカンペとしてつむぎたちの方へと向ける。

 

 

「決まりましたよー。企画はー……」

 

「お菓子ででっかいドレス作ってみただ!」

 

 

 企画内容があげられた。

 

 

「企画的にデザイン担当がつむぎちゃん、飾り付け担当がエレオノーラちゃんけんね」

 

「お菓子のドレス……お菓子のお家なら作ったことあるけど大丈夫かな?」

 

「それを可能にするためにうちたちがいるけん! デザインならうちも手伝うから任せてばい!」

 

 

 不安そうなつむぎに優しく声を掛けるシマリ。

 

 

「素材はスイーツプラネットに行けばほとんどただ! さぁ行くぞ!」

 

 

 全員を誘導するようにいうもふあにのボスウル。もしそのセリフがリズの書いたカンペでなければ完璧なボスだった。

 

 

 ◇

 

 

 そうしてつむぎたちはスイーツプラネットへ行き、まずどんなお菓子があるかを見る。

 それからシマリとつむぎはデザインを一緒に考え描いていき必要な素材は順次エレオノーラとウル、リズが切って集め飾りつけをしていく。

 

 

「ふむふむ次はそうしますか。なるほどなるほどー……すぅ…すぅ……」

 

 

 スゥはそれを実況してたり眠っていたりした。

 デザインのイラストが完成した後はつむぎたちも飾り付けの作業を手伝った。

 

 それから数時間後。

 

 

『できたー!』

 

 

 全員で完成した作品を見て大喜びしていた。

 

 

「はいーみなさんがんばりまーしたねぇー。それじゃあ完成されたドレスをみていきましょー」

 

 

 まるでこのチームの一番のボスかのようになにもせずただ実況して寝てただけのスゥが言った。

 

 

 そしてカメラはドレスのある方へと向けられた。

 

 それはフリルのように白とピンクのホイップとイチゴが輪になるように付けられておりアクセサリーのようにアメがつけられ胸元の真ん中にはチョコクッキーがリボンのようにつけられていた。

 

 

 全長数メートルにも及ぶそれはとてつもないこととなっている。

 

 

「シマリちゃんにアドバイスもらいながらデザインしたけどやっぱりシマリちゃんのアドバイス的確でやりやすかったよ!」

 

「巨大なイチゴの連続斬りはわたくしでも少し疲れたでありんすよ。でも楽しかったでありんす」

 

 

 つむぎとエレオノーラはお互い感想を述べる。

 

 

「これあたいが着る!」

 

「ラスボスにでもなると……。そもそもお菓子で出来てるから着ようとした瞬間ぐちゃーやけん」

 

「ぬがーっ! あたいを土台にドレスを作ればよかったっ……!」

 

「いやウル絶対動くから無理とよ……」

 

 

 盲点といった感じにショックを受けるウル。

 それにツッコミを入れるツッコミ担当のシマリ。

 

 

「それじゃー最後に記念撮影しましょー。このまま置いておくのでスイーツプラネットへ来たときは是非このドレスを見てくーださーいねー」

 

 

 スゥの言葉により五人は集まり記念撮影をしようとリズがカメラを撮る。

 

 

「おいリズお前も来い!」

 

「わたしはいいっていつもいってるでしょ」

 

「お前も関係者だろ、裏方とかそんなの関係ない。立派なメンバーだ」

 

「はいはいわかりましたよ」

 

 

 リズは諦めたのか記念写真の画面に加わる。

 

 

「いーきまーすよー。はいチーズ」

 

 

 パシャ。とカメラの音がなった。

 六人を背景に後ろには大きなお菓子のドレスがそびえ立っていた。

 後の話だが動画投稿後にこの場所は一時期人気スポットになったらしい。

 

 つむぎたちはとても貴重な一日を過ごせた。

 



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たまにはリアルで

 季節は冬。空気が冷たく暖かい格好をしないと風邪を引いてしまう。

 

 つむぎはパジャマ姿のままベッドでスマホをいじってた。

 UINEを開きさやにメッセージを送る。

 

 

つむぎ:さやちゃん今日はリアルで遊ぼうよ。

さや:寒いしUnreallyで遊べばよくない?

つむぎ:それもいいけどたまには外にでて遊びなさいってお母さんが言っててさ

おこづかいもらったし遊びに行こうよ

 

 

 今日は土曜日の休日。いつも部屋に閉じこもったままのつむぎを心配して母はたまにはお友だちと外で遊びなさいと言ってきた。

 精神的にはいろんなところに行ってるが肉体的には寝たきりだ。Unreallyをよく知らない人からすればおかしいと思われるだろう。

 

 それでも母は寛大で心配こそすれど否定したりはしない。つむぎがなにをやってるのかを深く追求してはこなかった。

 それはつむぎがちゃんとリアルでの学校生活が普段と変わらず出来ており友達との話をよくしているからだろう。

 

 

さや:わかった。準備する

 

 

 しばらくしてからさやは考え込んだのか返信してきた。

 これでさやと遊ぶこととなった。

 

 ことねとひなたも誘ったがことねはバンドの練習、ひなたでありミーシェルはアンリミテッドファンタジアのイベントで忙しいため無理なようだ。

 

 なのでさやと二人で遊ぶこととなる。

 つむぎは遊ぶ予定が出来たため服を着替えさやと待ち合わせの場所へ向かう準備をした。

 

 

 ◇

 

 

 待ち合わせ場所は姫乃公園の噴水前。つむぎとさやにとってはいろいろな思い出がある場所だ。

 

 

 噴水前に来るとそこにはいちはやくさやが待っていた。

 コートとマフラー、ニット帽を被っていたさや。手は手袋をしておらず白い息を出しながらつむぎを待っていたようだ。

 よほど寒がりなのだろう。今日は一段と寒かった。するとふとさやと目が合う。

 

 

「お、お待たせーさやちゃん。待ったかな?」

 

 

 そんなさやに少し見とれていたつむぎだが目が合うとちょっとびっくりし、緊張した挨拶をする。

 

 

「別に……大丈夫」

 

「そっかじゃあいこっ……うん?」

 

 

 別の場所へ行こうと提案したときさやはつむぎの右手を握ってきた。冷たいけれど少しだけ温もりが感じる手だ。

 

 

「寒いから手握ってもいい……?」

 

 

 身長差により必然的に上目使いになるさやがつむぎの目を見つめてきた。そんなさやの目を見るとあまりにも可愛らしく感じる。

 

 

「うん、いいよっ」

 

 

 つむぎは断る理由もなく笑顔で言った。

 

 

「でもここではじめてあったときとは正反対だね。はじめは距離を置いてたのに今は手と手をつなげるなんて」

 

 

 これまでを振り返るようにつむぎは言った。

 はじめてここであったときのさやはつむぎを睨んだりしていたのだ。だが今は上目使いで甘えるようなそんな姿まで見せてくれる。

 

 

「わたしもつむぎもあのときから成長してるから」

 

「そうだね……これもUnreallyがわたしたちを繋げてくれた。Unreallyがなければわたしたちは席が隣同士でも会話もまともに交わさなかっただろうね」

 

「そうは思いたくない……でもきっとそう。Unreally越しじゃなきゃ本当のわたしは出せなかったから」

 

「そう思うとやっぱりわたしたちって運命的な出会いなのかな!? な、なんてねっえへへ」

 

 

 照れ臭そうにつむぎは言う。運命的な出会いなど自分で言っておいてとても恥ずかしいと思っていた。

 

 そんなもの本当にあるのだろうか?

 

 

「そう……かもしれないね」

 

 

 しかしさやはつむぎを見て微笑んだ。

 



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お揃い

 手を繋ぎまず最初に向かったのは喫茶店だった。もうお昼を過ぎている。

 

 なので昼食ではなく間食だ。

 

 

「なに食べようかなー」

 

 

 喫茶店の中へと入り二人は対面で席を座りメニューを見ていた。この喫茶店はそまりと会ったとき一回来ていた場所だ。

 

 

「私はパンケーキとコーヒー……」

 

 

 メニューを見ていたさやが言う。 

 

 

「そっか、じゃあわたしも決まったし注文するね」

 

 

 そう言ってつむぎは店員を呼んだ。

 

 メニューを注文ししばらくして持ってこられたのは、さやの方は言った通りコーヒーとパンケーキ。つむぎの方にはショートケーキとミルクティーが置かれた。

 

 

「美味しいね」

 

 

 それぞれ自分達が注文したデザートを食べる。

 ショートケーキはつむぎの好物。だがリアルで食べるのは久しぶりだ。

 

 Unreallyではよく食べている。理由はどんなに食べても大丈夫だから。ダイエットとしてはぴったりだ。

 

 

「うん……あったかくてふわふわ」

 

 

 さやはナイフとフォークを使い小さく一口サイズに切って食べる。さやが食べ物を食べている姿はやはり小動物のようでかわいい。

 

 

「そっちも美味しそうだね」

 

「つむぎも食べる?」

 

「いいの?」

 

 

 なんとなく言ったことから分けてもらえることに。するとさやはパンケーキをフォークで取りつむぎの方へ向けて意外な行動をとってきた。

 

 

「はい、あーん」

 

 

 まさかのあーんをしてくれることになったのだ。

 

 

「あーんって言われるのはちょっと恥ずかしいなっ//」

 

「親友ならこれくらいするんじゃないの?」

 

 

 きょとんとした顔で言うさや。

 それに反し顔を赤く染めるつむぎ。

 たしかにひなたたちとおかずを交換するのに食べあいっこすることはあった。

 

 しかしあーんと言うことは滅多にせず、してもおふざけでひなたが言ってるだけだった。

 だがさやは真面目にこれをやろうとしていて彼女の友人関係の疎さを実感する。

 

 真面目にやるさやにどうしてかつむぎは照れてしまう。

 

 

「そ、そうだね……あーん」

 

 

 つむぎは一口サイズのパンケーキを口に入れる。温かくふわふわなのは伝わる。だが羞恥が入ったせいで味はよくわからなかった。

 

 そこでつむぎはお返しをしようと考えた。

 ショートケーキをフォークで一口サイズにしてさやに向けた。

 

 

「わたしもしたんだし次はさやちゃんの番だよ。ほらあー……」

 

 

 ん。と言い終わる前にぱくっとさやは差し出したショートケーキを食べてしまった。

 

 

「うん、美味しい」

 

 

 さやはそう言って顔をつむぎに見られないようにそらす。

 

 

「どうしてそっぽむくの?」

 

「それは……暑い……から?」

 

「ならコートとマフラーを脱げばいいんじゃないかなっ!?」

 

 

 思わずつっこんでしまったつむぎ。

 さやは厚着したままだった。

 

 本当はさやも照れているのかもしれないがそれは気にしないであげることにする。

 

 

 ◇

 

 

 食事が終わり喫茶店を後にしつむぎたちは寒い街中を手を繋ぎ歩く。

 空は曇り空だ。雪が降ってもおかしくないと天気予報でいっていた。

 

 もしそうなら今年はまだ雪が降ってないので初雪だ。

 

 そんなことを思っているとひとつの場所に目が行った。

 

 

「あ、さやちゃんここ寄ってこ!」

 

 

 つむぎはさやの手を引っ張るように一つの店に入った。

 

 中に入りつむぎは見渡す。髪飾りや腕輪と行ったアクセサリからコップや砂時計などの小物をメインに売っている店だ。

 

 

「実はこのお店わたしのお気に入りなんだ。髪留めとかもここでよく買ってて」

 

「そう」

 

 

 えへへ、と紹介するつむぎ。この店はつむぎの行きつけだった。

 

 ここで売ってあるアクセや小物はとてもお気に入りで月一のように通うこともあり、数ヵ月に一回は自分へのご褒美になにかを買っていたりする。

 

 

 さやは店内のアクセサリをなんとなく見ていた。

 そこでつむぎは閃く。

 

 

「そうだ、なにかお揃いのもの買ってかない?」

 

「お揃いのもの?」

 

「うん、友情の印みたいなもの。さやちゃんが好きなの選んでよ」

 

 

 せっかくだからそう言ったものが欲しいなとつむぎは思った。

 ここの店のものは女子高生にも優しいお手頃価格なものが揃っているのでどれでも大丈夫なはずだ。

 

 さやはそう言われると真剣にアクセサリーを見ることにした。そして店の中を一周し一つのものをつむぎに見せた。

 

「これ」

 

 

 それは白と黒の紐で結ばれたミサンガだった。

 星のチャームがあり片方は黒、もう片方は白い色をした星だ。

 

 つむぎは白い星の方を貰う。

 

 

「ミサンガだね、身に付けると願い事が叶うって言うしいいかも」

 

「願い事……大事にする……」

 

「うん、わたしもそうするよ、いつか願い事が叶うといいね!」

 

 

 ミサンガをそっと握ったさやに対してつむぎは笑顔で言った。

 

 

 

 ミサンガを購入した後つむぎたちは店の外に出た。すると……

 

 

「ああ、今年はじめての初雪だよ! 綺麗」

 

 

 つむぎは嬉しそうに空を見る。

 雪の勢いはそこまで強くないがパラパラと降っていた。

 

 

「でも、寒い……」

 

 

 さやはコートを抱くように震えていた。

 やはりさやは寒がりなようだ。

 

 

「そうだね、わたしの家近いから家来る?」

 

「そうする……」

 

 

 さやはすぐに即答した。

 つむぎの家はここからそう遠くなかった。

 なので二人はつむぎの家に行くことにした。

 



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大切な思い出

「さやちゃんははじめてわたしの家来るよね?」

 

「うん」

 

 

 つむぎとさやはつむぎの家へと向かっていた。

 雪は時間が経つにつれ少しずつ勢いがつよくなり積もりかけている。

 

 

「さやちゃんのマンションに比べたら普通の家だから期待しないでね」

 

「大丈夫……」

 

 

 さやの家はこの市一の高級マンション。しかしつむぎの家は普通の一軒家。

 

 なので比べてはいけない。

 

 そうしているうちに二人はつむぎの家に着いた。

 

 

「ただいまーお母さん」

 

 

 自分で持っている鍵で玄関を開けるつむぎ。

 

 すると部屋にいたであろう一人の長い髪の女性が玄関へとやってきた。つむぎの母だ。

 

 

「おかえりなさいつむちゃん……あらその子は?」

 

 

 つむぎの母は不思議そうにさやを見る。

 

 

「ど、どうも黒葛さやです……つむぎさんとはいつも仲良くしてもらってます」

 

 

 緊張しているのか、年上に対する礼儀なのかさやは恐縮していた。

 

 

「あらーあなたがさやちゃんなのね! つむちゃんからあなたの事は聞いてるわ! せっかくだから夕飯食べていって」

 

「あ、ありがとうございます。お言葉に甘えて……」

 

 

 母は手を合わせ嬉しそうにさやを見ていた。

 さやのことは母に話していた。クールで演奏と歌が上手くてかっこよくてでもちょっとかわいいがある、そんな友達だと伝えている。

 

 

「じゃあさやちゃん、わたしの部屋にいこ」

 

 

 つむぎはさやを自分の部屋へ案内するように二階への階段へと行った。

 

 

 

 

「どうぞ入って。散らかってないかな……定期的に片付けているんだけど」

 

 

 つむぎは部屋を確認する。

 部屋はベッドに勉強机、本棚がある。

 本といっても漫画や雑誌ばかりである。最近の人気のアニメ化作品などが綺麗に順番に並べてあった。

 

 またフィギアやポスターが少しばかり飾ってある。こころにティンクルスターのフィギュアに、キララマジカルのポスターが貼ってあった。

 

 

「大丈夫……私よりは綺麗にしてある」

 

「散らかってるとお母さんに怒られるからね」

 

 

 あらかた確認したが散らかってる場所は無かった。いつも部屋は綺麗に使うようにと母親から言われているのを守ったのが今日に活きた。

 

 すると母が二階に上がってきてこちらに声をかけてきた。

 

 

「さやちゃん、生憎なんだけどこの雪の勢いじゃ今日は帰れそうにないわ。家で良かったら泊まっていって」

 

「で、でもそこまでされる義理は……」

 

 

 雪の勢いが更に強くなったらしい。天気予報だと降っても数ミリ程度しか積もらないと言っていたのに思った以上の積雪になりそうだ。

 

 

「いいのよ、つむちゃんのお友だちでしょ? 近所のひなたちゃんはよく遊びに来てたから慣れっこよ。ね、つむちゃん?」

 

「うん、だから遠慮しなくていいよ。着替えもわたしの貸すから」

 

 

 母に話を振られつむぎは頷いた。

 さやが今日泊まってくれるなら一晩中楽しいはずだ。

 

 

「それじゃあ……今晩はよろしくお願いします」

 

 

 さやは母にお辞儀をした。

 

 

 

 ◇

 

 

「ふぅ、あったかい……」

 

 

 その後風呂へと入り出てきたつむぎは髪の毛をタオルで乾かしながら部屋へと戻ってきた。乾かしている途中で今日はもう夕食を食べて寝るだけなのでリボンを結ばない。

 

 

「あれ?さやちゃんなに見てるの?」

 

「つむぎのアルバム。おばさんが持ってきてくれた」

 

 

 さやは床に座ってつむぎの思い出写真がつまってあるアルバムを見ていた。先に風呂に入っていたさやはつむぎの予備のパジャマを着ている。

 

 つむぎはさやの後ろに立ちアルバムの中を見る。そこにはつむぎの人生を物語る写真がざっと貼られていた。

 

「懐かしいー。ひなたちゃんが勇者ごっこしてた頃だ。わたしも僧侶役やらされてたなー。

小学校、これは絵で賞を貰ったときの写真だよ。

中学はあんまり今とかわってないかな……」

 

 

 思い出の数々をさやに説明していくつむぎ。

 その当時を思い出しながら懐かしさを覚えてきた。

 

 

「いっぱい写真あるんだ……」

 

 

 さやは呟くように言う。

 

 

「そうだね、大切な思い出だからね」

 

「私との思い出はある?」

 

「そういえばこっちでは一緒に写真撮ったことなかったね」

 

 

 さやの質問につむぎは答えた。クラスの集合写真ならあるかもしれないが個人的に取ったものは無かった。

 

 するとパン! とさやはアルバムを閉じた。

 

 

「つむぎとの思い出はさやでは残ってない……」

 

 

 シュンとした顔で寂しそうに犬のような表情をするさや。だいぶ落ち込んでるようだ。

 

 

「お、落ち込まないでっ! そうだ! 今撮ろうよ!」

 

 

 さやを元気付けようとしたつむぎは今写真を撮ることを思い付きスマホを取り出す。

 

 カメラを自撮り画面に設定してつむぎはさやに顔をくっつけた。

 

 

「ほら笑って!」

 

「……」

 

 

 さやは無言のままだった。でも少しだけ口元が緩んでいる。

 

 パシャりとカメラが撮られる音がした。

 

 

「はい、これで二人の思い出としてちゃんと残せたよ! あとでUINEで送るね」

 

「うん……」

 

 

 さやはそう言われると嬉しそうに微笑んだ。

 

 

 ◇

 

 

 夕食を食べ二人は部屋で動画をみたり話してたりした後就寝についた。

 

 客人用の布団は無かったためつむぎとさやは一緒のベッドで寝ることとなった。

 

 

「つむぎ……今日は誘ってくれてありがとう」

 

 

 横で寝ていたさやが向かい合って言ってきた。

 

 

「そんな、結局雪降っちゃって泊まらせることになっちゃったし」

 

「別にいい……むしろ楽しかったから。リアルで遊ぶのも悪くない……」

 

「そっかそれならよかった」

 

 

 少し心配していたが本人は楽しかったようで安心した。

 するとさやはつむぎの手を握ってきた。

 

 

「私たち……学校卒業しても親友でいられる……かな」

 

「さやちゃん?」

 

 

 さやはなにか別の不安があったようだ。

 

 

「不安……この楽しい日々がいつか消えてしまうんじゃないかと思うと……」

 

「大丈夫だよ……」

 

 

 悲しそうな顔でさやは言う。

 そんなさやを見てつむぎは手を強く握りしめた。

 

 

「もふあにTVのときもねもふあにさんたちが言ってたんだ。活動から四年経って成長してこっちの世界ではもう四人とも揃って会うことは少なくなって別々の夢に向かって頑張っているんだって」

 

 

 つむぎはもふあにと撮影外で話した事を言う。

 彼女たちはそれぞれ別の大学に行っていてリアルでは会える機会が減っていると言っていた。

 

 

「でも、それでもUnreallyでは一緒にいるから今までとそんなに体感変わんないんだって。だからリアルで離ればなれになったとしても……わたしたちもきっとずっと一緒にいられるよ」

 

 

 つむぎはそう強く願う。

 リアルは大事だ。二人にとってアンリアルだけが二人の関係ではなくリアルだけの関係でもない。

 

 二つとも構成されて今の関係がある。

 

 でも大人になれば今のようにはいかない。

 

 でもUnreallyはいつでも会いにいける。リアルの顔を知らない友達だってたくさんいる。

 

 だからこの絆はきっと切れない。

 

 

「そう……ならいいな……」

 

 

 さやは安心したかのようにいい目を閉じた。

 



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冬のアンリアルライブフェス

「てことで冬のアンリアルライブフェスの告知でした」

 

 

 一つの動画が終了する。場所は喫茶雪月花。つむぎはこころの動画冬のアンリアルライブフェスの告知動画を見ていた。

 

 アンリアライブフェスは年に二回あり冬と夏に開催される。それぞれの集大成のお祭りだ。

 

 

「冬のアンリアルライブフェスかぁ。今回も出てみようかなぁ」

 

 

 つむぎは動画を見て悩んでいた。前回夏のUフェスは参加したが今回はどうしよう。

 

 

「ホットココアでありんす」

 

「ありがとうノーラちゃん」

 

 

 そんなつむぎの気持ちを和らげるかのようにエレオノーラが優しい笑みを浮かべ注文品のココアを差し出してくる。

 

 

「わたくしはいつも出してるメニューを出品する予定でありんすよ」

 

「そっかノーラちゃんははじめてのフェス参加なんだね」

 

「ええ、おかげさまで最近は雪月花の知名度も上がって繁盛してるでありんすがもっとたくさんの人に知られるために頑張るでありんす」

 

 

 エレオノーラは言う。確かに客足は最近、よりいっそう増えた気がする。これももふあにTVに出たおかげだろう。

 もふあにTVに出てからつむぎとエレオノーラのチャンネル登録者数の上昇は異常であった。

 

 

「あたしも出るわ。せっかくオリジナルソングがあるからライブ参加でね」

 

「そっか、咲夜ちゃんもライブでるって言ってたし頑張ってね」

 

 

 一緒にお茶をしていたねねこがテーブルに寝ているブランを撫でて言った。

 ねねこは咲夜に作ってもらったオリジナル曲がある。披露するにはとてもいいステージだろう。 

 

 

「つむぎちゃんはまた服を作るの?」

 

「うーん、どうしようかな。作りたい気持ちはあるけど他の事もしてみたいな」

 

 

 つむぎはすぐに首を縦に振らなかった。

 服作りは楽しい。もっといろいろしてみたい。

 だがせっかくだから別のことをやってみたい気持ちもあった。

 

 

「あっ、咲夜ちゃんから電話だ」

 

 

 すると咲夜からビテオ通話の通知が届いた。

 つむぎはすぐさま通話を許可する。

 

 

「つむぎ、今どこにいるの?」

 

「ねねこちゃんと一緒に雪月花にいるよ」

 

「そう、時間が空いたらうちに来て、話したいことがあるんだ」

 

「うん、わかった」

 

 

 そう言うと咲夜は通話を終了させた。なにか用事があるらしい。とりあえず喫茶店を出たら咲夜のところへ向かうことにしよう。

 

 

 ◇

 

 

 ねねこと別れた後つむぎは咲夜の家へといき玄関のチャイムを鳴らした。

 

 

「つむぎ、入っていいよ」

 

「お邪魔するね」

 

 

 ガチャとドアが開きつむぎは咲夜の家の中へと入る。

 

 リビングに招かれたつむぎはソファーへと座った。

 

 

「それで話ってなに咲夜ちゃん?」

 

「今度のUフェスなんだけどつむぎライブ出てみない?」

 

「えぇぇ!? ライブ!?」

 

 

 つむぎはいきなりの提案に度肝を抜いた。

 

 

「むりむり! いきなりなんでそんなことに!?」

 

「あ、いやなんて言うかつむぎと一緒にあの曲を歌いたいなって思って」

 

「あの曲って?」

 

「モノクロームだよつむぎに曲の名前と歌詞考えてもらったやつ」

 

「あー、はじめてさやちゃんが作った曲かぁ」

 

 

 つむぎは納得する。その曲はもともとさやの家に行ったときはじめてきいたピアノの曲だった。

 その時は歌詞も曲名もなくそれをつむぎに考えて欲しいと言われずっと考えていた曲だ。

 

 なかなか作詞に行き詰まっていたが、さやが雪が降りつむぎの家にお泊まりになった日その曲の名前と歌詞のイメージがだいたいパッと浮かんでモノクロームという曲名と歌詞ができた。

 

 

「そ、そんな急に言われても無理だよ、わたし咲夜ちゃんみたいに歌上手くないし……わたし足を引っ張るだけだって」

 

 

 つむぎは咲夜との自分の歌唱力を比べて自信がなかった。

 

 

「上手さなんて関係ない、私はつむぎと歌いたい。ただそれだけなんだ」

 

「そ、それならわざわざライブで披露しなくて動画でもいいんじゃ……」

 

「かもね、でもせっかくだからライブで披露したい。つむぎにも舞台に立つ楽しさを知ってほしい」

 

「…………」

 

 

 つむぎは考え込み黙り込んでしまう。

 つむぎは決して咲夜と歌が歌いたくないわけじゃない。しかし自信がなく尚且つUフェスという大きな舞台で歌を披露しなくてはいけないというプレッシャーがつむぎの脳内をよぎった。

 

 そこでつむぎは一つの答えを出す。

 

 

「ちょっと考えさせてほしいかな? 今のわたしじゃ簡単に答えは出せないよ……」

 

「わかった……。じゃあ考えておいて」

 

 

 咲夜は納得してくれる。

 これはただの一時しのぎでしかない。時間内に答えを出さなくてはいけなかった。

 



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自信をもって歌うということ

「うーんどうしよ……」

 

 

 つむぎは咲夜の家を後にして街中を一人歩いていた。

 ずっとつむぎは考えている。咲夜とUフェスで一緒に歌を歌うかどうかを。

 

 つむぎは決して歌いたくないわけじゃない。むしろ咲夜と作ったあの曲を一緒に歌うことができればきっと楽しいだろうと思う。

 

 

 しかしつむぎは自分の歌に自信がなかった。

 咲夜はプロの歌手と比較しても劣らない歌唱力を持っている。対して自分は対して上手くもなく咲夜とは比べ物にならない。

 

 歌詞は一月以上考えた末、自分なりにいいのが出来たと思う。咲夜もそれを気に入ってくれてるし。

 

 しかし下手な自分の歌で曲をだめにならないかそればかりを気にしていた。

 

 

 せめてもう少し歌うことに自信を持てれば……

 

 

「なにか悩み事かな?」

 

 

 誰かが声をかけてきた。その少女は黒髪に様々な色のメッシュがついたハーフツインの少女。

 

 

「こころちゃん!?」

 

 

 つむぎはいきなり現れたトップアンリアルドリーマー七色こころに驚いた。

 

 

「あなたの心は……今は灰色……どうかしたのつむぎちゃん?」

 

 

 髪の毛のメッシュを全部グレーに変化させたこころは心配そうにつむぎの顔を見てきた。

 

 

「実はね……」

 

 

 つむぎは思わずこころに先程あった経緯を話す。こころは悩み事があったらそれを一緒に悩み解決してくれる。

 

 そういう対応を一人一人にすることができる。たった唯一のAIアンリアルドリーマー。その彼女になら事情を打ち明けていいと思った。

 

 

「なるほど……つまりつむぎちゃんは歌に自信が持てるようになりたいんだね!」

 

「うん……」

 

「じゃあ自信をつけるために一緒にカラオケに行こー!」

 

「えぇ!?」

 

 

 こころは元気に言う。つむぎはこころに手を掴まれ、こころの思うがままにその場から移動した。

 

 

 ◇

 

 

 カラオケにつき一つのルームに入ったつむぎとこころ。

 

 つむぎは大人しく椅子に座りカラオケルームに入る前に持ってきたメロンソーダを飲むことに。

 どうしてこうなったのだろう。

 そう思いながらつむぎはちょびちょびストローでメロンソーダを飲んでいた。

 

 こころはというとタッチパネルとマイクを持ち目をきらきらさせていた。

 

 

「それじゃあ歌おうつむぎちゃん!」

 

 

 元気にサイリウムメッシュを輝かせて言うこころ。

 

 

「上手く歌えるかわからないよ……」

 

 

 つむぎは弱々しく自信がない声で言う。

 

 

「大丈夫、わたしも一緒に歌うから!」

 

「こころちゃんも一緒に……」

 

 

 笑顔で言うこころ。

 つまりこころとデュエットができると言うことだ。

 

 ずっと応援してきたUドリーマーと一緒に歌うことができるなど考えてみれば本来ならばありえないことだ。この状況貴重すぎる経験だった。

 

 

 つむぎは意を決してマイクを手に取る。

 

 

「じゃあ好きな曲どんどん歌っていこー。まずなにが歌いたい?」

 

「それじゃキララマジカルの一番最初のOP曲で……」

 

 

 そこからは時間が溶けるかのようにあっというまだった。好きな曲を二人で歌う。

 

 最初は大人しく緊張していたつむぎだが歌うにつれてこの状況が楽しくなっていき緊張もほぐれスムーズに歌うことができるようになっていた。

 

 その時間はおよそ二時間以上続いた。

 

 

「どうつむぎちゃん楽しい?」

 

「うん、一緒に歌えてすごい楽しいよ!」

 

 

 つむぎはその頃にはいつもの元気を取り戻していた。

 

 

「そういえばなんでわたしたち一緒にカラオケに……あっ!? こころちゃんわたしの歌上手くなってる!?」

 

 

 つむぎはここに来た当初の目的を思い出した。

 カラオケで歌を上手くなり自信をつける。そのためにつむぎはここまで来たのだった。

 

 こころと歌えていると言う状況でつむぎはそれをずっと忘れていた。

 

 

「うーん数値的にみれば……」

 

「うんうんどうなの!?」

 

 

 つむぎはこころの答えに期待する。AIであるこころならきっと分析してどういったところを直せばよくなるか教えてくれるはずだ。

 

 

「わかんない!」

 

「えぇ!?」

 

 しかし期待とは裏腹の答えが出てきた。

 なんでも可能としてしまうこころにわからないという言葉が出るとは思ってもよらなかったのだ。

 

 だがこころはそれから語り始める。

 

 

「わたしはAI、数値的に分析したり歌唱力を上げるための効率を言うことは簡単だよ。でもそれだけが……すべてじゃないよ」

 

「じゃあ上手くなるって約束は……」

 

「わたしは自信をつけさせるしかいってないよ。つむぎちゃん歌ってて楽しかったって言ったよね? 咲夜ちゃんもねそれを共有したいんだと思うよ」

 

 

 こころは真剣な表情で言う。しかしそれは優しく人間のような温かみを感じた。

 

 

「わたしにできるかな……?」

 

 

 つむぎは不安だった。歌うのは楽しい。だが果たして大舞台に自信を持って歌うことはほんとうにできるだろうか?

 

 

「それはやってみないとわからない……けれどつむぎちゃんは一人じゃないから、支えてくれる人がいるから……勇気を持っていいんだよ」

 

「勇気……」

 

 

 つむぎは自分を支えてくれる人たちを思い浮かべる。ファンのみんな、リアルでのことねやひなた、Unreallyでの友達であるUドリーマーたち。

 そしてさやであり咲夜。

 

 

 彼女たちのことを考え胸がギュっと熱くなる。

 そしてつむぎは決意した。

 

 

「こころちゃん! わたし咲夜ちゃんのところへ行ってくる!」

 

 

 つむぎはそう言ってカラオケルームを出ていった。

 

 

「うん……行ってらっしゃい!」

 

 

 こころは笑顔でつむぎを送り出した。

 

 

 ◇

 

 もう空は紫色をした夜となっている時間。

 カラオケで長い間過ごしていたという事実を実感する。

 

 ワープゲートで自分の家に移動してきたつむぎはすぐさま隣の咲夜の家のチャイムをならす。

 

 ガチャりとドアが開き咲夜が顔を出す。

 

 

「つむぎどうしたの?」

 

「咲夜ちゃん! わたし咲夜ちゃんと歌いたい!一緒に歌ってみたい! 咲夜ちゃんが作曲してわたしが作詞した二人の曲を! そしてみんなに広めるんだわたしたち二人で作り上げた世界を! その舞台にはフェスが一番だよねやっぱり……」

 

 

 最後にえへへ、と笑うつむぎ。

 まだつむぎは自分の歌唱力に自信はない、でも二人で作ったこの曲を多くの人に知ってほしい。

 その強い意志だけは強くあった。

 

 そしてこの曲は二人で作り上げたから二人で歌いたい。その気持ちは本物だ。

 

 つむぎのその真剣な目付きをみて咲夜は驚いていた。しかしそれは次第に微笑みにへと変わる。

 

 

「……そうだね。それじゃあ練習しようか……つむぎ!」

 

 

 こうして二人はUフェスで二人で曲を歌うこととなり特訓がはじまった。

 



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モノクローム

 それからUフェスが開催されるまでつむぎは咲夜の指導の元歌の練習をはじめた。

 咲夜は優しく的確にアドバイスをしてくれて尚且つどう楽しく見せるかを重視して教えてくれた。

 

 上手く歌うのは難しいけれど教えてもらっているのは楽しくてこの歌をみんなに見せるのが楽しみだ。

 

 

 そうした日々が数週間続きUフェスが開催される。

 

 日数は夏と同じ三日間、最後の三日目がライブだ。

 

 つむぎたちは最初の二日間は前回と同じように二人で見て回った。エレオノーラが出店した出店ではクレープを売っていた。

 しきやひそかもそれぞれ前回とはまた違う新しい物を出しており楽しそうにしていた。

 

 

 

「いよいよ明日はUフェス三日目……よーし今日は早めに寝るぞー」

 

 

 Uフェス二日目の夜。つむぎは早めにUnreallyをログアウトし歌の練習をしたりしていた。

 歌詞の暗記もメロディーもバッチリ仕上がっている。このままやればきっと上手くいくだろう。

 

 明日がとても楽しみだ。つむぎはそう思いながら就寝についた。

 

 

 

 

「ふわぁ~よく寝たぁ」

 

 

 次の朝、つむぎはとてもぐっすりと眠ることができた。最近はUnreallyで夜更かしすることが多いため早めに寝たのはいつぶりだろうか。

 おかげかだいぶ長く眠れた気がする。

 

 さて、Uフェスに行く前に朝御飯をリアルで食べよう。そう思いつむぎはまずスマホを手にとった。

 

 

「ふぇっ……!?」

 

 

 つむぎは見たとき思わず変な声を出してしまった。

 

 今の時刻は午前9時40分。Uフェスの開催は午前9時からなのでもう開始していた。

 

 

「は、早くUフェスに行かないと!」

 

 

 朝御飯を食べている場合ではない。

 幸いにもつむぎたちの出番は午前10時の予定とされていた。まだ行けばどうにか出番には間に合う。

 

 つむぎは急いでUnreallyのヘッドセットを被り起動させた。

 

 

 ◇

 

 

 家の前にリスポーンするつむぎ。

 つむぎはすぐさまメニューを開きつむぎたちの参加する会場にワープゲートを接続しようとする。

 

 だが……

 

 

『ただいまアクセス集中で混雑のため使えません』

 

 

「そんな!?」

 

 

 つむぎは唖然とする。

 ワープゲートは人数が多い場所では設置する場所がなくなり使えなくなることがある。

 Uフェスのような人が大勢いる場所に途中から行こうとするのは無謀な話だった。

 

 

 諦めるしかないか……そう思ったとき

 

 

「つむぎ、こんなところでどうした……のだ。今日はフェスじゃなかったのか……」

 

 

 声を掛けてきた人物がいた。

 天使の輪に悪魔の角、ドラゴンの尻尾がついた少女ミーシェルだ。

 

 

「ミーちゃん!? ど、どうしようミーちゃんんん」

 

「ミッ!? な、なんなのだいきなり!?」

 

 

 泣きつくようにミーシェルに近寄るつむぎ。

 

 つむぎはミーシェルに事情を話した。

 

 

「ふむ、やっぱりこうなったのだな」

 

「やっぱりってなに!?」

 

 

 分かってたかのようなそぶりで腕を組み言うミーシェル。

 するとミーシェルはつむぎを指差した。

 

 

「貴様は昔から気分よくるんるん気分になるとドジを抜かす…のだ。思った通り……なのだ」

 

 

 さすがにあっちの世界では長年幼馴染みをやっているだけのことはある。だいたい目覚ましをかけていればこんなことにはならなかっただろう。

 

 しかし楽しみでそんなこと考えてなかったつむぎはそのまま寝てしまった。

 その気の緩みと日頃の疲れにより今日は長時間寝てしまい寝過ごしたのだ。

 

 

「会場からここまでワープゲートなしじゃ普通もう間に合わんだろう」

 

「そんな……せっかく咲夜ちゃんと歌うはずだったのに……咲夜ちゃんに一人で歌ってもらうように電話しなきゃ……」

 

 

 もう自分はライブには参加できない。だがせめて咲夜にだけは歌ってほしいとつむぎは咲夜に電話しようと──

 

 

「まだ諦めるな! ……のだ!」

 

 

 ミーシェルが叫んだ。

 

 

「で、でも……」

 

 

 諦めるなと言われてもどうすればいいのか。

 するとミーシェルが言う。

 

 

「まだ手段はある、ミーが本気をだせば会場などすぐなのだ……」

 

 

 ミーシェルの足元には紫に光る魔方陣が現れた。

 

 

「天魔竜族の本来の姿とくと見よ!」

 

 

 ミーシェルの体は次第に変化していく皮膚は黒くなり、鋭い爪が現れ、体は何倍にも大きくそしてその姿は竜の形にへと変化していった。

 

 

「ド、ドラゴン!?」

 

「これがミーの本来の姿だ、いつも人間の姿になって封印している。この姿で貴様を連れて行く」

 

「すごーいでっかーい! かっこいい!」

 

 

 つむぎはまじまじとそのかっこよく綺麗な竜の姿に惚れ惚れしていた。

 

 

「はよ背中に乗れい! 時間がないのだろう!」

 

「あっ! そうだった!」

 

 

 つむぎは言われた通り背中によじ登り乗った。

 

 

「いくぞ! 天魔竜族の力見せてやるのだ!」

 

 

 ◇

 

 

「あ、ありがとうございました!」

 

「はい、ということで水無月ねねこちゃんでしたばい」

 

「さて、次の人は……」

 

 

 今回屋外で行われてるアンリアルライブフェスの会場ではさきほどまでねねこのライブが披露されていた。

 ねねこは大人数観客の前で歌うことを考えると始まるまでテンパっていたがいざ自分の出番になるとUドリーマーとしての実力か、緊張せず全力で歌うことができた。

 

 

「ねねこおつかれ」

 

「ふぅ…ありがと。つむぎちゃんはまだ来てないの?」

 

 

 舞台裏で出番の近かった咲夜がねねこにお疲れを言った。

 

 

「うん音沙汰なし」

 

「まったくなにやってるのよ! あの子の性格上ほっぽかすとは思えないんだけど……」

 

 

 咲夜はUフェスが開始されても来ていないつむぎに心配しこっちの方でUINEでチャットや通話を試みたが反応がなかった。

 なにがあったのか心配になる。

 

 

「きっと来る……私は信じてる」

 

 

 咲夜は願いそう言う。だがもう時間が少ない。

 次の演者の後が咲夜たちだ。

 

 

「はいでは次の人は麗白つむぎちゃんと小太刀咲夜ちゃんです」

 

 

 そしてとうとう司会のシマリのアナウンスで咲夜は舞台に上がることになってしまった。

 

 一人でやるしかないか……。だがステージに上がろうとしたとき周りから大きな反応が上がった。

 

 

「な、なんやとあれ、ど、ドラゴン!?」

 

 

 シマリが叫んでいた。

 咲夜もステージに上がりみてみる。

 

 なんとそこには大きな黒い竜がこちらに飛んできていた。

 

 そしてその背中には見覚えのある姿が見える。

 

 

「つむぎ!?」

 

 

 思わず叫ぶ咲夜。ドラゴンよりもつむぎがそこにいることが驚きだった。

 竜はステージに近づくと翼を階段のようにしつむぎを下ろす。 

 下ろした後ドラゴンはどこかへと旅立ってしまった。

 

 

「咲夜ちゃんごめん遅れちゃって!」

 

「うん……いや……それ以上に突っ込みたいことは山ほどあるけど……」

 

 

 咲夜は困惑していた。

 

 

「なんかすごいことになってますね! これもまぁアンリアルなのでありです! それじゃあ気を取り直して麗白つむぎちゃんに小太刀咲夜ちゃんです!」

 

 

 もう一人の司会こころが面白そうに言って紹介した。

 

 

 それからつむぎと咲夜は目を合わせた。

 

 行こう

 これから

 わたしたちのライブを 

 

 そう心の中で二人は呟く。

 

 

 二人はステージの真ん中に立ち背中を合わせそして言った。

 

 

『それでは聞いてください、モノクローム』

 

 

 二人が作った曲が始まる。

 ピアノをメインとしたその曲はとても美しく綺麗だ。歌詞は正反対の二人が互いが互いの光となり影となる、そして出会ったことを運命だと思うそう言ったまるでつむぎと咲夜二人の関係性を描いた歌詞にへとなっていた。

 

 咲夜の圧倒的な歌唱力、つむぎの頑張って練習して成長した歌声。そのすべてに観客は魅了されていた。

 

 

『ありがとうございました!』

 

 

 そして二人は歌いきった。

 たくさんの拍手が沸き上がる。

 

 

「すごかったけんねー、では感想をどうぞ」

 

 

 シマリが司会を進行する。

 

 

「えーっと今日はほんとうにたくさんの人にこの歌を届けられてっ……届けられて……?」

 

 

 嬉しそうに言うつむぎ。しかし途中で言葉がつまる。

 会場を見渡すつむぎ。会場には大勢の観客がいる。つむぎは震え唾を飲み込む。

 

 

「えっと……今何人の人に見られてるの?」

 

「うーん会場には3万人、Dreamtubeはわたしのチャンネルで200万人が視聴してるよ!」

 

「ふぇ!???」

 

 

 つむぎはこころが発したその想像を絶する数に唖然とした。

 

 今まで気づいてなかった。今つむぎのことを数百万人みているのだ。しかも生で。

 そう思うとつむぎは意識がもうろうとなり頭が真っ白になった。

 

 

 

 ◇

 

 

「むにゃ……あれ、ここは?」

 

 

 いつの間にかつむぎはベッドにいた。

 知らない場所だ。

 

 

「ここはUフェスの救護室だよ。つむぎあの後気絶してここに運ばれたんだ」

 

「そうなんだ」

 

 

 つむぎは隣に座ってた咲夜を見た。咲夜は心配そうにつむぎを見て、元気なのをわかると優しく微笑みかける。

 

 

「まったくミーもハラハラしたのだ」

 

「ミーちゃん!」

 

 

 もう一人、救護室にいたミーシェルは腕を組目を閉じながら言った。

 

 

「ミーシェルから事情は聞いたよ。まさかあれがミーちゃんだとはね」

 

 

 咲夜はミーシェルから事情はおおよそ聞いていたようだ。

 

 

「うん。今日はほんとうにありがとうねミーちゃん」

 

「ふん、今日は友の晴れ舞台だからな……。ライブの歌……よかったぞ」

 

 

 少しだけ素直じゃないミーシェル。でも思いやりがあるひなたらしい一面があった。

 

 

「ありがと……ミーちゃんもいっそのことUドリーマーになったらもっと楽しいのになぁ」

 

「ミーがなったら貴様の登録者数をすぐに追い抜いてしまうぞ……なんてな……」

 

 

 ミーシェルは冗談混じりに言う。だがつむぎは本気だった。

 

 

「いいよそれでも。だってミーちゃんとアンリアルドリーマーとして過ごせればそれだけで嬉しいもん……」

 

「貴様は……そういうところだぞ!」

 

 

 ミーシェルはつむぎの頭を思いきり撫で回した。

 

 

「ちょっ! やめてってひなたちゃん!」

 

「ミーはミーシェルなのだ! 間違えるでない!」

 

 

 二人はリアルでのいつものようなやりとりをする。

 

 

「……くすっ」

 

 

 咲夜はそれを見て楽しそうに微笑んだ。

 



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年越しの予定

「もう年末かぁ」

 

 

 クリスマス期間に行われていた冬のアンリアルライブフェスが終わり、あと一週間足らずで年越しという時期にやってきた。

 

 年末はテレビが活発になる時期。だがそれはDreamtubeだって同じだ。

 

 喫茶雪月花でお茶をしていたつむぎ。     Unreally上でのスマホ端末を最近ユノで購入したつむぎはUnitterをみていた。機能はUnreallyのメニューに備わっているのと同じだ。

 Unreallyでのメニューでは文字を打つのに空中でのキーボード操作、音声認識、脳波から心を読み取って文字化など最新技術が備わっている。

 

 でもスマホで見るのがやはり一番扱いやすく慣れているのでちょうど良い。

 

 Unitter上では年越しに向けて多くの動画配信の告知ユニートがされていた。

 

 

──────────────────

 

 

@ウル◇もふもふあにまるず

 

よい子のみんな今年も年越しは笑ってはいけないUnreally24時が18時から投稿されるぞ!

あたいたちの活躍絶対みてくれよなっ!

 

 3万5000RU 7万いいね

 

──────────────────

 

@宝城イルミナ♥ティンクル☆スター

 

【告知】

キラッとハッピー☆

年越しはティンクルスター単独のカウントダウンライブをやるわよ

見てくれなきゃぷんぷん☆なんだからね

URLは dreamtu.be/cRi10St よ!

 

 5万RU 15万いいね

 

──────────────────

 

@神咲レアOfficial

 

12月31日20時に今年最後の新曲投稿します。

 

 4万2000RU  10万いいね

 

──────────────────

 

 Uフォースの面々の告知ユニートに大量のRUといいねがついている。

 告知だけでこれだけ人気だとは流石だった。

 

 

「わたしもなんかユニートしよっ」

 

 

 つむぎもそんなTLを眺めながら自分もユニートすることにする。

 

 

───────────────

 

 

@麗白つむぎ

 

年越しはいろんな番組やチャンネルで面白そうな企画をやってるみたいで何見るか困っちゃうね。みんなはどう過ごす?

───────────────

 

 

 そうユニートするつむぎ。Uフォースに比べたら少ないRUといいねがつく。

 しかし比べるのが失礼だ。フォースにもファンにも。

 

 

─────────

 

@ブルーキャット

つむぎちゃんと過ごしたい!

 

─────────

 

@紅あかね

つむぎちゃんは年越し生配信しないんですか?

 

─────────

 

 

 ユニートにきたリプライの中からそう言ったものを見つける。

 

 

「みんなわたしの配信がみたいって言ってくれてる……」

 

「へぇ」

 

 対面にいた咲夜が呟く。

 つむぎは嬉しく思う。こんなに多くの人が自分と年末を過ごしたいと思ってくれる人がいるなんて、去年は思いもよらなかった。

 

 

「みんなになにかを配信したいな……ねぇ咲夜ちゃん?」

 

 

 つむぎは咲夜の方を向いた。

 すると咲夜は微笑む。

 

 

「そうだね、つむぎがしたいなら私も協力するよ」

 

「なにかするの!? ウチもウチも配信参加するーる!」

 

 

 カウンターにいたしきが耳を澄ませていたのかこちらに来てテーブルをバーンと叩いて言った。

 

 

「わたくしも参加したいでありんすが、家の事情で年越しはUnreallyにいないでありんすよ」

 

「そっかそれは仕方ないね」

 

 

 店主のエレオノーラはお盆に皿を乗せ片付け、残念そうに言いつむぎは納得する。

 年末は忙しい人も多いだろう。

 できれば多くの友達と一緒に配信したいが。

 つむぎは決意する。

 

 

「よーし他のみんなにも声を掛けて一緒に盛り上がる年越し配信するぞー」

 

 

 ねねこ達にも声を掛け年越し配信することをつむぎは決めた。

 



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年越し配信!

 そうして12月の31日、大晦日。

 

 

◆みんなと一緒に年を越そう!│麗白つむぎ

 

 

「みんなこんばは。アンリアルドリーマーの麗白つむぎです。今日は大晦日だね。今わたしは自分の家にいるよ」

 

 

 つむぎはUnreallyの自分の家のリビングに立っていた。

 

 

「今日は友達と、みんなと一緒に年越しまでのんびり過ごしたり遊んだりしたいと思ってるの! 今日来てくれたのはこの四人だよ」

 

 

 そう言って画面には今日ここにいるつむぎのUドリーマー仲間が映る。

 今日集まったのは咲夜、ねねこ、ひそか、しきの四人だ。

 

 エレオノーラは行ってた通り今日はログインしておらずミーシェルも一応誘ったがやはり断られた。

 

 

「咲夜だよ。まぁつむぎを見てる人なら知ってる人も多いよね」

 

「ど、どうもねねこよ。き、今日は誘われたから仕方なく来てあげたんだからね」

 

「しゅびっと参上! ウチは試作品ナンバー000零式、しきちゃんって気軽に呼んで呼んでー」

 

「ふふっ……鹿羽ひそかだよ。今年最後の宴をはじめようじゃあないか」

 

 

 それぞれがそれぞれらしい個性的な挨拶をした。

 

 ひそかは珍しくフードを脱いでいた。

 

 Unitterでゲストの告知はしていたため、それぞれのファンが集まっておりいろんなコメントが流れてくる。

 

 

 つむぎはその後これからのことについて説明をはじめた。

 

 

「今日は主にすごろくゲームをやっていくよ! この日のために作ったオリジナルのすごろくゲームでお題をクリアしないと次へはすすめないの。進めるための駒にはそれぞれ自分のロゴマークの駒を使っていくよ」

 

 

 つむぎはそう言いテーブルの方を見せた。テーブルにはすごろくゲームのマットが置かれている。

 

 そのあと駒を見せる。

 駒にはそれぞれ自分の象徴とも言えるキャラクターロゴが書かれてあった。

 つむぎなら赤い宝石が入った青いリボン。咲夜は白黒のギターの形をしたものといった感じだ。

 

 これらは全てクリエイトファクトリーで作ったものだ。

 

 

 

 

 

「ルーレットの結果まず最初はねねこちゃんが一番目だね」

 

 

 ルーレットで順番はねねこ、つむぎ、咲夜、しき、ひそかとなった。

 

 ねねこがサイコロを振る。出た目は6だ。

 

 

「内容は相手に対する印象を答えるね。相手はひそかちゃん……」

 

 

 ねねこは出た目の分だけ進み進むとお題がホログラムとなって出てきた。ホログラムは配信画面では右下に表示され内容が書かれる。

 配信画面と連携する仕組みになっていた。

 相手が必要な場合。指定の相手はランダムでロゴが現れその相手に対してなにかをやるといった感じだ。

 

 この手の作りは一から作ると設定が大変だがさまざまなギミックを作るしきがいたため作って貰った。

 

 

 ねねこはあごに指を当て考えていた。悩んでいるようだった。

 

 

「ひそかちゃん、あなたは結構なに考えてるかよくわからないわ……。すぐいたずらを考えるし不気味だし。でも映画を見ているときのひそかちゃんは画面を夢中でみてて楽しそうにしててかわいいと思ったわ」

 

 

 ねねこは思っていたことを言う。

 確かにひそかはいたずら好きで迷惑行為に及ぶことも多々ある。しかし映画に対する思いは本気であることは秘密結社での定期集会や一緒に映画を見に行ったとき伝わってくる。

 

 それを聞いたひそかは

 

 

「映画中は映像を見るのがマナーじゃあないか。ひそかの顔を覗くなんて変態だね君は」

 

「なんでそうなるのよ!?」

 

 

 ぷくーと顔を膨らませたひそか。フードを被っていないひそかはいつもより幼く見えかわいく感じた。

 

 

 次はつむぎの番だ。

 

 

「えっと五分で相手のファンアートを描く。相手は咲夜ちゃんかぁ」

 

 

 つむぎは駒を移動させお題を読み上げた。

 つむぎは紙を用意して咲夜を見ながらファンアートを描くことにした。

 

 

「ファンアートかぁ、そういえばUドリーマーになってから一度も描いてなかったなぁ」

 

「つむぎのファンアートをもらえるなんて嬉しいよ」

 

「でも五分でファンアートは難しいよ!?」

 

「それでも嬉しい」

 

 

 つむぎは咲夜の期待に応えるためせっせとファンアートを描くことにした。

 

 

「えっとああやってこうやって。あぁしっぱいしちゃった。でもやり直す時間もないよぉ」

 

「絵を描けるとそれはそれで大変なんだね」

 

 

 咲夜がつむぎの気持ちを察するように言う。

 咲夜の期待に応えようとし高クオリティなものを描こうとしたが線が変な方向へ行きちょっとだけおかしくなった。

 

 そこで時間は終了する。

 

 

「はい咲夜ちゃん、本当は数時間掛けてちゃんとしたイラスト描いてあげたいんだけどこんなのでごめんね」

 

 

 つむぎは咲夜に描いた紙を見せた。

 紙には咲夜のイラストが特徴を捉えて描いてあった。クオリティこそ荒さが目立ちラフだったが立派なファンアートだ。

 

 

「……ありがとうつむぎ。大切にするよ」

 

 

 咲夜はその紙を大事に抱き締めた。

 

 

「うぅ……さくつむエモぃ……」

 

 

 誰かが小声で何か言った。

 

 

 次は咲夜の番だった。出た目は4。

 

 

「年越しそばを作ってくる。それまで休みか。じゃあつむぎ、台所借りるね」

 

 

 出た内容は年越しそばが完成するまで咲夜は休みというものだった。

 

 年越しそばを食べたいと思っていたつむぎはお題の中に作るのを入れていた。材料も全員分用意してある。

 

 だがまさかこんな早く引く者がいるとは思ってもいなかった。

 しかし、遅いよりはましだろう。

 つむぎは咲夜の姿を見届けた。

 



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ハッピーニューイヤー!

 咲夜が一旦休みとなり年越しそばを作っている中ですごろくゲームは続いて行った。

 

 一周目が終わり二周目のしきの出番が回ってきた。

 

 

「なになに、この中で一番かっこいいと思うのは誰?」

 

 

 お題に出てきた文面をしきは読み上げた。

 

 

「この中でかっこいいって言うとやっぱり咲夜ちゃんとか?」

 

 

 つむぎは言う。咲夜は基本かっこいい。

 歌っている時の咲夜はなおさらそう思う。

 それは周知の事実だと思っていた。

 

 

「いやウチが一番かっこいいと思うのはウチ自身だよ!」

 

 しきは胸をはって言った。

 

 

「君のどこがかっこいいと言うんだい?」

 

 

 それを呆れるように言うひそか。

 

 

「だってあらゆるマシンを駆使して扱う最新型のアンドロイドのしきちゃんだぞ! マシンに乗ってるウチはかっこいいって言われるもん! ふんふん!」

 

「それはマシンがかっこいいのであって君ではないじゃあないか」

 

「マシンはウチが作っ……博士が作ったやつだし実質ウチがかっこいい!」

 

 

 いがみ合うように言い合うひそかとしき、彼女達は自分達が知り合うより前からの知り合いだったからか仲の良さが伺える。

 

 

 そして次はひそかのターン。

 置かれたマスのお題は……

 

 

「今年あった一番怖い話をする。だね」

 

「なんでよりにもよってひそかちゃんなのよ!? 絶対怖いやつじゃない! あんまり怖いのはやめてよね!」

 

「それは無理な話だね。一番怖い話と言ってるじゃあないか」

 

 

 ひそかが読み上げたお題にねねこは叫んだ。

 ねねこは怖いものが苦手だ。

 そしてひそかは怖いものが大好きだ。

 

 怖いものが苦手なねねこにしたら一番来てほしくないテーマであり相手だっただろう。

 

 こほんと咳払いをしたひそかは語りはじめた。

 

 

「これはね、とある廃墟で映画撮影していたときの話なんだ」

 

「すでに怖い臭いぷんぷんじゃん」

 

 

 思わず突っ込むしき。

 

 

「その日の収録は長引いてね、夜遅くまで撮影していたんだ。いやいやそれはそれは、いいものができたと収録を見ていたときはおもったよ。でも終わったあと確認したらね……あるべきものがそこにはなかったんだよ……」

 

「な、無かったってなにが……」

 

「それは……うう……思い出すだけで悪寒が……」

 

 

 ひそかはその時のことを思いだし体を震わせていた。

 

「ひそかちゃんが怖がってる!? なかったもの……それは……」

 

「それは……?」

 

 

 唾をごくりと飲むつむぎとねねこ。

 そしてひそかはいった。

 

 

「撮影のボタンを押すのを忘れていて今日撮影したデータが全て無かったんだ……」

 

 

 ズコー!

 

 思わず拍子抜けをする一同。しきにいたってはギャグ漫画のようにズッコケていた。

 

 

「なにが怖いって言うのさそれ! ただのミスじゃん!」

 

「データの消失ほどこわいものがあるというのかい。お陰で傑作を取り直ししなくちゃいけないんだ、気が気でないのさ」

 

「なんちゃってオカ研組織作ってる団長が怖いものがデータ消失なんてみんな拍子抜けだよ」

 

「君だってアンドロイドなんだデータが無くなったら死も同然だと思うけどね」

 

「う、ウチは高性能アンドロイドだし。そういう心配はないから平気だもん!」

 

 

 またいがみ合う二人。

 つむぎはそれをあははと苦笑いしてみていた。

 

 

「年越しそばできたよ」

 

 

 ちょうど咲夜が完成した年越しそばを持ってきた。

 咲夜はそれをテーブルに置く。

 

 

「すごい! 普通の食材しか用意してないのにとっても美味しそう!」

 

「そうかな、まぁ料理は家庭の事情で自炊することが多かったからね」

 

 

 つむぎの反応に咲夜は答える。

 咲夜は親が仕事で家にいる時間が少なくて自炊することも多かった。なので自然と自炊することになったのだろう。

 

 それにしても美味しそうだった。そばには海老天が衣をたっぷり付けてあって飾りつけがきれいにされてある。

 咲夜の女子力は意外と高いようだ。

 

 

 みんなはいただきますと言い年越しそばを食べはじめた。

 

 

「んまーい!」

 

「ふむ、味もいいじゃあないか。天ぷらもさくさくでひそかは好みだよ」

 

 

 感想をいうしきとひそか。

 味は文句のつけようがなく美味しかった。

 

 

「美味しいわね、あたしにも今度料理教えてよ」

 

「わたしも教わりたい! そうだ! 咲夜ちゃん料理配信してみたらどう?」

 

 

 ねねこの言葉で思い付きつむぎは咲夜に提案してみた。

 

 

「いや私は……そういうのはノーラがやってるし別に需要はないんじゃ」

 

 

 咲夜は頬をかいて戸惑っていた。

 

 

「じゃーノーラと二人でウチたちに料理教える配信してよっ」

 

「それやりたい! 咲夜ちゃんのギャップのある姿もっとみてみたいなぁ」

 

「まぁ……考えてみないこともない……かな」

 

 

 ちょっと照れるように咲夜は目をそらしていた。

 

 

 ◇

 

 

 その後咲夜を入れてすごろくゲーム再開した。

 そして……

 

 

「結果発表! 一位になったのはねねこちゃんです!」

 

 

 画面にはそれぞれの顔と順位が出された。

 

 

一位ねねこ

二位つむぎ

三位ひそか

四位咲夜

五位しき

 

 こういう結果となった。

 

 

「うう……ウチ途中までトップだったのに残り7マスで7回連続1が出るなんて……」

 

 

 しきは涙目になりながら言う。

 彼女の不運体質のせいだろうか。

 途中まで順調でもう少しでゴールというときにしきは7回連続サイコロの目が1だった。

 結果最下位だ。

 

 しかしコメント上ではむしろ同じ目が7回連続出るっていったいどんな奇跡が……?

 と、驚きのコメントが流れてきた。

 

 

「それじゃあ一位のねねこちゃんにはプレゼントがあります」

 

「プレゼント?」

 

 

 首をかしげたねねこにつむぎはプレゼントを取り出した。

 それは銀色に輝くティアラだ。

 

 

「えっとね一位の人はこのティアラを被ってお姫様として全員に命令できるよ」

 

「お、お姫様……」

 

「さぁお姫様……なんなりとご命令を……てねっ」

 

 

 姫に忠誠を誓う騎士のようにつむぎはポーズを取った。

 

 コメント欄ではねねこ姫ーねねこさまーというコメントがつき盛り上がっている。

 

 

「あーもう恥ずかしいじゃない! 一位なのにこの羞恥ってなんなのよ!」

 

 

 顔を赤くして恥ずかしそうにねねこは叫んだ。

 それから一息つきねねこは片目を閉じて髪をなびかせて言う。

 

 

「それじゃあ姫の命令よ。カウントダウンになったら花火が上がるから今から広場に行くわよ!」

 

 

 姫のような気品のある言い方でねねこは言い放った。それは本物の姫のようであった。

 

 

 ◇

 

 

 つむぎたちはさっそく広場へと向かった。

 

 広場には大勢の人が集まっていた。

 考えることは皆おなじなのだろうか。

 

 広場に設置してあるモニターにはこころのライブ配信が映っていた。

 

 

「あと3分で新年だよー! 今のうちに今年を振り返っておこうね!」

 

 

 こころは笑顔でモニター上で言っていた。

 

 

 つむぎは今年を振り返る。

 

 今年はとても変化のあった年だった。

 Unreallyに来てアンリアルドリーマーになるなど夢にも思ってなかった。

 引っ込み思案だった自分が変われたのもUnreallyのなりたい自分になれるという世界のおかげだ。

 

 来年ももっとたくさんの刺激的な毎日が遅れたらいいなとつむぎは思った。

 

 

「はいそれではカウントダウンです!」

 

 

 こころが言った。

 もう新年まで10秒を切っていた。

 

 

 そして残り3秒となる。

 

 

「3、2、1!」

 

 

 そのあとドーンと花火があがった。

 

 

『ハッピーニューイヤー!』

 

 

 つむぎたちはそれぞれ叫ぶ。

 

 

「あけましておめでとうみんな! 今年もよろしくね」

 

 

 つむぎは笑顔で配信画面に向けてみんなへと新年の挨拶を言った。

 



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バレンタインは女の子の特別な日

 つむぎはUnreallyのデパートにねねこと二人でおり、ショッピングを楽しんでいた。

 今日咲夜は軽音部の練習に付き合っておりいない。

 

 Unreally外のUINEなどでは先輩先輩と言ってくるねねこだが、Unreallyにいるときはリアルで会う前と変わらない関係であった。

 

 そんな中二人はショッピングモールを歩く。

 

「もうバレンタインかぁ」

 

 つむぎは歩きながら店内にあるチョコレートのお菓子の山をみて呟いた。

 

 

「そうね、チョコレートもこんなにたくさん置いてる訳だし」

 

 

 ねねこが頷く。

 新年から一ヶ月が経ちもう二月。バレンタインはもうすぐだ。

 

 店頭には普段の何倍もチョコレートの商品がたくさん置かれていた。

 

 

 バレンタインは友チョコをひなたたちと送り合うくらいだ。手作りでもなくお店で買ったお手軽でいい感じのやつだが。

 

 そんなことを思いながらデパートのなかを歩いているととある聞き覚えのある曲が聞こえてきた。ねねこのしっぽがセンサーのようにビーンと立つ。

 

 

「ねねこちゃん!?」

 

 

 ねねこは無言でその曲が聞こえる方へと向かっていった。

 

 そこにはディスプレイとチョコレート菓子が置かれていた。

 ディスプレイに映っていたのはティンクルスターだった。先程から聞こえるのも彼女たちの曲だ。

 

 ねねこはじっとそのディスプレイを見つめていた。つむぎも見ることにする。

 

 

◆ハピハピバレンタイン☆│ティンクル☆スター

 

 

「2月14日は~女の子たちの特別な日バレンタイン☆」

 

 

 クルスタのリーダー、イルミナが人指し指をシーっとするように口元に当て可愛らしく言った。

 

 

「感謝の気持ちを込めてエトワールの皆さんにティンクル☆スターからチョコレートをあげちゃいますぅ!」

 

 

 カペラが星形の箱に入ったチョコを両手のひらで乗せるように言った。

 

 

「2月14日Unreallyではお近くの店頭でボクたちの手作りのチョコが購入できるよ」

 

 

 両手で抱き締めるように四角いチョコの箱を支えるミラ。

 

 

「一生懸命作ったからみんな食べてよね☆」

 

 

 画面の視聴者に向けて渡すようにハートのチョコを渡すイルミナ。ウインクはかかさずにおこなった。

 

 

 

「クルスタのバレンタインチョコ……! 食べる用と観賞用と保管用買わなきゃ……」

 

「そんなグッズみたいに食べ物を買わなくても……いやアンリアルだから賞味期限とかないけども」

 

 

 まるで使命感とでも言うべき顔で右手をぎゅっと握りしめていたねねこにつむぎは思わず突っ込む。クルスタの事になるとねねこはつむぎ以上にオタク気質なところがある。

 

 

「でもこんなに店頭でチョコレート売ってるのってやっぱりバレンタインだからみんな送り合うのかな?」

 

 

 つむぎは疑問に思ってたことを言う。

 お祭りごとになると盛り上がるUnreallyだ。

 だからそのせいもあるのだろう。

 それに対してねねこが答えた。

 

 

「それもあるけどバレンタインはUドリーマーなら誰でも作ったチョコを販売できるのよ。これをやってるのはティンクルスターだけではないわ」

 

「へぇ、だからなんだね」

 

 

 つむぎは納得した。チョコレートはすでに加工済みの商品も多く売られているが原材料のチョコや生クリームなどお菓子に使う材料がたくさん売られてある。チョコだけでもビター、ミルク、ホワイトなどいろんな種類のものが売られてあった。

 

 

「ねねこちゃんもバレンタインチョコ販売するの?」

 

「まぁするけどあたしはバレンタイン用の動画も撮るわ。Unreallyにいる人だけがファンじゃないもの」

 

 

 やはりねねこのことだ。バレンタインチョコを販売するとは思ってた。

 なおかつ動画も投稿するのはさすがファン想いのUドリーマーであるねねこらしい。

 

 

「そっかぁ、ねねこちゃんはやっぱりファン想いなんだねぇ」

 

「そ、そんなことないし!//」

 

 

 顔を赤くして照れるねねこ。素直じゃないがそんなところがかわいい。投稿されるバレンタイン動画が楽しみだ。

 

 クルスタやねねこをみてると自分もなにかやりたいとつむぎは想いが強くなる。

 そしてつむぎは決意する。

 

 

「よーし、じゃあわたしもバレンタインの動画出すぞー」

 

 

 つむぎは右手を上にあげ意思表示をした。

 



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初めてのバレンタインチョコ作り

◆はじめての手作りバレンタインチョコ作るよ!│麗白つむぎ

 

 

「はい、こんにちは! アンリアルドリーマーの麗白つむぎです。今日ははじめてのバレンタインチョコを作ってみるよ!」

 

 

 つむぎはエプロン姿で自分の家のキッチンにいた。

 

 

「今日作るのは生チョコ。わたしあまり料理とかしないからレシピを見ながら挑戦するよ! がんばるぞぉ! おー!」

 

 

 気合いを入れてつむぎは言った。料理に関しては素人なつむぎ。

 今回は料理サイトを頼りに生チョコを作ることにした。

 

 

「材料は市販の板チョコ、生クリーム、ココアパウダーの三つだよ。アンリアルだけでなくリアルでもできるはずだから是非視聴者のみんなもやってみてね」

 

 

 つむぎはカメラを材料が映るように設定した。

 比較的簡単なレシピだ。これならつむぎでも作れるだろう。

 

 アンリアルとリアルでの料理がほぼ同じようにできるのは不思議だが実際できるのをエレオノーラの料理を見ていると分かる。

 その原理についてこころが解説動画を出していたが、リアルの食材のDNA情報をデジタル変換してアンリアルに味覚などの情報を取り込むという難しい技術が使われているらしくよくわからなかった。

 

 

「まずチョコレートを細かく千切るよ」

 

 

 板チョコをつむぎは一口サイズに折りボウルの中へと入れていく。

 

 

「次に生クリームを温めて……」

 

 

 生クリームを鍋にいれたつむぎは沸騰しない程度に温める。

 

 

「そして生クリームとチョコを混ぜていくよ!」

 

 

 生クリームをチョコが入ったボウルに入れるとヘラでかき混ぜ始めた。

 次第にチョコは溶けて生クリームに混ざってくる。

 

 

「ふふっこの行程、絵の具を混ぜるみたいで楽しいなぁ」

 

 

 つむぎは色が少し白くなるチョコレートを見て絵の具みたいに思い美術部だった中学時代を思い出していた。

 

 

「綺麗な色になったね。このままちょっと食べたいかも……でも、がまんがまん!」

 

 

 とろけて美味しそうなチョコレートを見て食欲が湧いてきたつむぎ。しかし今は撮影中だ。

 つむぎは首を振り欲を抑えた。

 

 それからつむぎは四角い入れ物にクッキングシートを敷きチョコレートを注ぎ込み冷蔵庫に入れた。

 

 そして一時間後。チョコレートは無事固まった。

 

 

「固まったから20等分に切っていくよ、それからココアパウダーをかけて完成!」

 

 

 つむぎはレシピ通りにやってのけ生チョコ作りを終了させた。

 

 

「あとは試食だね、ちゃんとできてるかな?」

 

 

 レシピ通りにやったが不安であった。

 おそるおそるつむぎは生チョコの一つをフォークで刺し口に運ぶ。

 

 

「おいしい! 滑らかでとろけててこれほんとにわたしが作ったの!?」

 

 

 つむぎは思った以上の出来に感動し、自分が作ったのかすら疑ってきた。

 

 

 そのあとシーンが代わる。

 つむぎは自分の部屋にいた。

 

 

「それじゃあファンのみんなにもあげるね。これ感謝の気持ちです。受け取ってね♪」

 

 

 つむぎはにっこりと笑顔で四角い箱包装された先程の生チョコを画面の向こうのファンへと届けるように映した。

 

 そうして動画は終了した。

 



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友チョコ以上の想い

 ついにバレンタイン当日がやってきた。

 

 当日にバレンタイン動画を投稿したつむぎはUnreallyに入りファンのみんなが動画にコメントしてくれてるのを眺めていた。

 

コメント:つむりんからのバレンタインチョコ嬉しい!

コメント:ツムツムカワイイヤッター

コメント:つむぎちゃんと同じやり方で私も作ってみます!

 

 

「みんな喜んでくれてるみたいだねぇ」

 

 

 そう言ったコメントが流れてきてとても嬉しかった。

 

 

「そう言えばねねこちゃんはどんな動画を出してるんだろ?」

 

 

 つむぎは動画を出すと言っていたねねこのチャンネルを見る。

 ねねこの動画欄には一件の新着動画があった。

 

 

◆今日だけの特別なんだからね【バレンタインシチュエーション】

 

 

 そこは夕焼けの学校の屋上だった。

 学校のチャイムが鳴る。ねねこは後ろ姿で正面になにかを持っているようなポーズをしていた。

 

 

「き、来たわね……遅刻しなかったから今日は許してあげる……」

 

 

 振り返り顔を赤くしているねねこ。手は後ろに隠しなにかを持っているのをバレないようにしていた。

 

 

「呼び出した理由? 今日はバレンタインでしょ……だ、だからその……これ……」

 

 

 ねねこは顔をそらしながら右手を差し出す。

 右手にはハートの包装されたバレンタインチョコらしきものがあった。

 

 

「あなたにはいつもお世話になってるから……ね。ぎ、義理よこれは!? 勘違いしちゃダメなんだからっ!」

 

 

 チョコを渡したねねこは顔を赤くして怒るように叫んだ。

 

 

「た、確かにこれは手作りだし、作るのに何度も失敗したりしたけど……でも……あぁもうそう思いたいなら勝手にそう思えば良いじゃないバカっ!」

 

 

 ねねこは人指し指同士を合わせもじもじしながら言い最後は叫んで本命であることを否定しなかった。

 

 

「ねねこちゃんはやっぱり可愛くて良いねぇ」

 

 

 つむぎは微笑ましそうにねねこの動画を見終えた。

 

 

「咲夜ちゃんは今どこにいるんだろ?」

 

 

 ふとつむぎは咲夜に用事があることを思い出し、フレンド欄から咲夜を探しだした。どうやら家にはおらず広場にいるらしい。

 

 つむぎはワープゲートを召喚して咲夜のところへと向かった。

 

 

 ◇

 

 

 広場には女の子たちが集まっており、お互いにチョコを交換しているのが見られた。

 いわゆる友チョコだろう。

 片方が渡され照れている姿が見え微笑ましいとつむぎは思う。

 

 つむぎは咲夜を探す。

 咲夜のネームプレートを見つけたが姿が見えない。

 

 咲夜のまわりには大勢の人が囲んでいた。

 それぞれチョコレートが入った小包や箱を持った女の子たちがいた。

 

 

「咲夜様! いつも応援してます! 私の気持ち受け取ってください!」

 

 

 ファンらしき女の子がチョコレートを咲夜に渡した。

 

 

「あ、ありがとう……大事に食べるよ」

 

 

 咲夜はファンの眼差しを受け微笑む。受け取ってもらった女の子はキャーと嬉しそうに叫ぶ。

 

 

「咲夜ちゃんはかっこいいから……やっぱり女の子に人気なんだねぇ……」

 

 

 咲夜は人気なことは友達として嬉しいことだ。

 しかし同時に胸の中がざわざわとする気持ちがある。

 

 すると咲夜の周りにいた一人の女の子がつむぎの方を見た。

 

 

「あ、つむぎちゃんがきた! きっとこれから二人でどこかに行くんだ! 私達は撤収! 撤収!」

 

 

 そう言って咲夜のファン達は咲夜に残りのチョコを渡すと撤収していった。指揮を取っていたのはつむぎのファンでもある紅あかねだった。

 

 あまりの統率力にあははと苦笑いをするつむぎ。

 

 それをみてつむぎに気づいた咲夜。

 

 

「つむぎ……なんか広場に来たらファンのみんなに囲まれてチョコをたくさん渡されたんだけど……」

 

「それだけ咲夜ちゃんが人気ってことだよ」

 

「そうなのかな?」

 

 

 咲夜は首をかしげる。

 咲夜はネット上ではかっこいいと女子人気が高いのだ。しかし咲夜自身はあまり分かってなかったらしい。

 

 

「そう言えばつむぎに用事があるんだ」

 

「咲夜ちゃんも?」

 

「うん、とりあえずつむぎの家に行ってもいいかな?」

 

 

 つむぎは頷きつむぎの家に行くことにした。

 

 

 

 

 つむぎの家につき二人はリビングのソファーに座った。

 

 

「はいこれ」

 

 

 咲夜はつむぎに一つの小包を渡した。

 中身はブラウニーだ。中にはナッツとチョコチップが入っている。

 

 

「これ友チョコ?」

 

 

 つむぎは小包を手に取り首をかしげる。

 

 

「友チョコというか……まぁそうだけど……この日のために作ったんだ」

 

 

 頬をかく咲夜。少し顔が赤く染まっているような気がした。

 

 

「そっかありがとう! 実はねわたしも咲夜ちゃんに友チョコ作ったんだ!」

 

「それって動画で作ってた生チョコ?」

 

 

 咲夜はつむぎの動画をみていたようだ。

 しかしつむぎは首を振る。

 

 

「ううん、それとは違うやつだよ」

 

 

 つむぎはそれとは別に咲夜に対してバレンタインチョコを作っていた。つむぎは丸い箱をを取り出して咲夜に渡す。

 

 

「開けてみて」

 

「うん……これはっ!?」

 

 

 箱の中身を開けた咲夜は目を見開く。

 なんとその中身は咲夜がデフォルメにチョコレートでイラストが描かれたチョコだった。

 

 

「えへへ……前にちゃんとファンアート描けなかったからせっかくだから作ろうと思ったんだ」

 

 

 つむぎは照れながら言う。

 年越しのときファンアートを描いたが五分クオリティなのでつむぎとしては満足がいかなかったのだ。それでチョコレートでキャラクターを描く方法を知りつむぎは咲夜のファンアートとしてチョコレートで描くことにした。

 

 

「嬉しい……けれど勿体無くてたべられないな」

 

「えーせっかく作ったんだから食べてよ」

 

「まぁ……その前に写真とっておくよ」

 

 

 咲夜は勿体無いと思い食べるのを拒んだがつむぎも写真を撮っておくのは同意だった。

 これを作るのに結構な時間が掛かったのですぐに食べてしまうのはもったいなかった。

 

 二人はそれぞれのチョコレートを写真に撮った。

 

 

「これで食べられるね」

 

「うん、いただきます…」

 

 

 二人はお互いのチョコを食べる。

 咲夜が作った濃厚なブラウニーはコクがあり美味しい。

 

 

「うん美味しい……つむぎ、ありがとう」

 

「わたしの方こそこんな美味しいチョコ食べられて嬉しいよ! 友チョコ……ううん親友チョコだね!」

 

「ふふっ……そうだね」

 

 

 二人は互いに微笑みあい言った。

 

 友チョコ以上の想いが込められたそのチョコは彼女たちの胸の中にそっと閉じ込められた。

 



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こころの正体を暴け!

 つむぎは紫のフードを被りとある建物に来ていた。建物には扉がなく入ることができない。

 

 しかしつむぎはここの入り方を知っている。

 

 

「ルグーエ・ピスエ」

 

 

 その合言葉で建物の一部が開き、入り口が現れた。

 

 中は地下へと繋がっており、つむぎは奥へ入っていく。

 

 その場所。秘密結社ブルローネの中には人が大勢いた。

 

 

 今日は臨時集会だ。

 今までは定期集会だけを行っておりこういった事例はなかった。そのせいか普段以上に人がいる。

 

 つむぎは周りを真似て席につく。

 

 その後しばらくして演説台のところに秘密結社ブルローネの団長である鹿羽ひそかが現れた。

 

 

『やぁ、ブルローネの団長鹿羽ひそかだよ。今日は臨時集会に集まってくれてありがとう』

 

 

 ひそかはマイクを持ち話しはじめる。この大きな部屋全体にスピーカーにより声が響き渡った。

 

 

『君たちを今日呼んだのはとある議題について討論をしたいと思ってね。それに合わせて今回はこの会議は生放送をしているよ。その議題がこちら』

 

 

 そう言ってひそかはスクリーンに画像を出す。

 

 

 議題名:七色こころの正体

 

 という文字が出された。

 

 

『この議題についてはこれまでブルローネで何度か持ち出したこともあるね。七色こころ君、Unreallyにとって欠かせない存在だ。ブルローネも合言葉を作るのにお世話になっている』

 

 

 そういって次のこころの写真と共に今までの記録についてまとめてある画像が出される。

 

 

 

 七色こころ。

 チャンネル登録者5000万人の世界一のアンリアルドリーマー。七色のメッシュが入った黒髪の少女。

 

 Unreallyの開発会社シンギュリアが開発した世界初のアンリアルドリーマーであり超高性能AI。

 Unreallyの宣伝担当として生まれた元祖Uドリーマーである彼女は数々の伝説を残している。

 

 恐ろしいほどの動画投稿数。

 彼女の動画は一日に何本も投稿されており、ゲーム実況、茶番、やってみた、歌ってみた様々な動画を投稿しなおかつ生配信も毎日している。

 

 ゲーム実況をすれば理論上最速のRTAをしたり数多くの誰も知らないバグを自分の手で見つけてデバッガーとして企業からオファーが来たりしたこともあるとか。

 

 Unitter、Dreamtubeについたコメントには全部反応しており大人気Uドリーマーであるにも関わらず一番身近な存在として思う人もいる。

 辛いときこころとの会話で乗り越えられたなどそういう人もいるくらいだ。

 

 

 それはUnreallyにいけばより深く感じることができる。

 Unreallyでは彼女が事実上の管理者的決定権を持っており急なプログラムの改竄などお手のものだ。

 

 

『それでブルローネははじめこういう議題を出したさ。七色こころは何者か? 当初はこんな高性能なAIがいるはずないと有能な人材を複数人集めて同時にこころ君を操作してる説が出たこともある。だが後にこんな高性能な人間がいるはずないという結論にいたったのさ。彼女はそれほどまでに人間のそれを凌駕している』

 

 彼女は常に高性能だった。

 すぐにファンの一人一人の名前を覚えることができそれを忘れず解答できる。

 

 つむぎがはじめてUnreallyにきたときもつむぎがファンなことを彼女は覚えていてくれた。

 

 そんな彼女の凄みと魅力に多くの人が虜になった。結果として話題性が広がりUnreallyの売り上げとアンリアルドリーマーの繁栄へと繋がった。

 

 

『彼女は実に興味深い観察対象相手でね、いろいろ彼女のことを知ろうとしたさ。その結果ブルローネでわかったことは彼女は怖いのが苦手ってことくらい』

 

 

 そして画像はこころが髪の長いお化けに追いかけられてるものへと切り替わった。こころは涙目になりながら逃げていた。恐らくひそかがドッキリを仕掛けたのだろう。

 

 確かにこころはホラーゲームをやるのは避けていたし怖いのが苦手なのかもしれない。

 

 逆に言うとそこ以外に弱点がなかった。

 

 

『それで直接本人に君は誰によってどういう意図で作られたのかを聞いたさ。そしたら彼女は「それはいつかの機会にちゃんと教えるね」と笑って誤魔化されたよ。彼女は手厳しいね』

 

 

 やれやれといったポーズを取りながら言うひそか。

 

 だが次に彼女は真剣な顔で言った。

 

 

『ここで本題だ。君たち、この放送を見ている人たちにも向けて聞きたい。こころ君の正体についてなにか知っていることや疑問はないかい?』

 

 ひそかは画面の向こうにもいる視聴者にも問いかけるように言った。

 

 すると一人のフードを被った団員が立ち上がる。

 

 

「たしかUnreallyのNPCとかのAIって声の元になった声優さんたちがいるはず。こころちゃんは誰だかわかってないの?」

 

『いい質問だね。声については声優や芸能人などの著名人、大御所から新人まで汲まなく検証したけど声の波長が完全に一致する人物はいなかったよ。あの声がいったい誰のものなのか確かに興味深いね』

 

 

 うんうん、と頷くひそか。

 

 UnreallyのNPCは自立した台詞をしゃべることができ全員声優が声の元となっていた。Unreallyの非公式wikiにいけばこのNPCは声優はこの人という表記がされている。

 

 こころも同じような仕組みでしゃべるAIのはずだ。それにしては性能が遥かに他とはくらべものにならないが。

 

 

 そうして討論はコメントでの参加もありながら続いていった。

 

 

 

 そんなひそかたちの配信を一人ノートパソコンで見ている人物がいた。

 その人物はため息を漏らす。

 

 

「そろそろ潮時かもしれませんわね……」

 



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お金持ちな少女

 3月の9日。つむぎは咲夜としきと共にUnreallyの街を散歩していた。

 街は活気があり都会の街並みだ。

 ここは中心都市オルベージュ区だ。

 Unreallyで最も人口密度が高く最初に訪れる区である。

 

 

「今日ってさーUnreallyサービス開始5周年記念らしいじゃん? なんかこころちゃんところで放送あるみたいだねー」

 

 

 両手を頭の後ろに組み能天気そうな表情でしきは言った。

 3月9日はUnreallyがサービス開始した日らしかった。こころのチャンネルでもそれを記念した告知が出されている。

 

 

「そういえばそうだね。そっかぁ、もうすぐわたしも一周年かぁ」

 

 

 つむぎは頷く。正確には5月にはじめたが4月のはじめにUnreallyへ行くことを決めたとするとだいたい一年近く経つことになっている。

 

 アンリアルドリーマーを見始めて二年。

 アンリアルドリーマーになって一年だ。

 

 

「そこの方たち、ちょっとよろしいです?」

 

 

 そんなことを考えているとつむぎたちは一人の少女に声を掛けられた。

 

 黒髪で紫の瞳をした少女だ。

 お嬢様風のワンピースを着ており、どこか気品を感じられる少女だった。

 

 

「なにか用かな?」

 

 

 つむぎは尋ねる。

 

 

「ええ、実はわたくしとある場所を知りたいんですの。ここらへんに60階建ての白いビルってありません? 建物は知っているんですけどなにせずいぶん久しぶりに行くもので……」

 

「うーんどこだろ?」

 

 

 首を傾げ考え込むつむぎ。すぐには思い付かなかった。咲夜の方に目を向けるが首を振り知らないようだった。

 

 UDreamスタジオもそれなりに大きな建物だがそこまで大きくはない。それにそこまで大きな建物がオルベージュ区にあるなら知られてるはずだ。

 

 

「あーそれってあそこかな?」

 

 

 考え込む二人とは裏腹にしきはどうやら思い付く場所があったようだ。

 

 

 ◇

 

 

「お、おおっきい……」

 

 

 つむぎはその全貌をみようとして言葉を詰まらせた。

 そこはオベルージュ区の隣にあるル・ポール区だった。

 白くて数百メートルを越えるビルはつむぎが今まで見てきたビルのなかで一番といっていいほど大きな場所だった。

 

 

「ここって?」

 

「Unreallyの開発会社シンギュリアの本社だねー」

 

「へぇ立派だねぇ」

 

 

 つむぎの疑問にしきが答える。

 

 

「でもここに来ても意味ないよー。関係者以外立ち入り禁止だし」

 

 

 つまらなそうに答えるしき。

 関係者以外立ち入り禁止ということは見てわかる。そのビルの周りは黒いフェンスで囲まれていた。

 

 正面には唯一入り口である門があり閉じてある。メニューでその場所を見てみると立ち入る権限のない領域ですと表示がされていた。

 

 

『承認ました。一式まな様どうぞお入りください』

 

 

「うそ、開いた!?」

 

 

 固く閉じてあった門はここに用事のあった少女、一式まなが近づくと容易く開いた。

 しきはそれを見て驚いていた。

 

 

「あぁやはりここであってましたわ」

 

 

 まなは驚きもせずただここが目的の場所だとあってることに胸を下ろし安堵していた。

 彼女はこの会社の関係者なのか?

 

 

「ここまで連れてきてもらったお礼をしないといけませんね」

 

 

 するとまなはしきに近づきあるアイテムを渡す。それは大きなダイヤモンドで出来た豪華な指輪だった。

 

 

「いいのこんなのもらってもー?」

 

「ええ、こっちの世界では無限に買える品物ですので心配いりませんわ」

 

 

 高そうな見た目をしたそのアクセサリーを見て驚くしきだがまなはたいしたものじゃないように言った。

 まなにとってはそれほど大切なものではないのだろう。

 

 

「ではわたくしはこちらで失礼いたします」

 

「うん、じゃあねまなちゃん」

 

 

 まなは門の中へ入るとスカートをつまみ上品に礼をした。

 やはり彼女は気品があり美しい。

 そして門は閉まった。

 

 

「いったいなんだったんだろ彼女……」

 

 

 彼女の正体を疑問に思う咲夜。

 それはつむぎも同じだった。

 立ち入り禁止のUnreally本社に一般人が立ち入りできるはずがない。

 

 しかし、しきはそんなことは気にせずもらった指輪を中指にはめて嬉しそうに見ていた。

 

 

「スッゴい豪華~なにこれなにこれ売ったらめっちゃお金になりそう! ……ってええええ!?」

 

 

 嬉しそうにしていたしきだが、いきなり驚いたように叫びだした。

 そしてガタガタと震え怖がっていた。

 

 

「どうしたの?」

 

 

 つむぎが尋ねる。

 

 

「に、に、に、におにおにお」

 

「なにが言いたいの?」

 

「こ、このアイテム鑑定してっ……」

 

 

 震えるしきに咲夜はなにが言いたいのか聞き出し二人はそのダイヤモンドの指輪を鑑定することにした。

 

 

 鑑定

 アイテム名:ダイヤの指輪

 売却価格:200000000ユノ

 

 

『二億ユノ!?』

 

 

 つむぎと咲夜は目が飛び出るかのように驚いた。あまりの数字のぶっ飛び具合にくらくらしそうだ。

 

 

「たしかUnreallyで惑星一個作るのって……」

 

「最低で一億ユノ」

 

「惑星二個分じゃん!? どうなってんのUnreallyのもんじゃないでしょこれ!? リアルで買えるもの課金してこっちに呼び起こさなきゃこんな金額にならないから普通!!」

 

 

 咲夜の回答に叫ぶしき。

 Unreallyは惑星を自ら購入し自分だけの惑星を作ることができる。その金額が一億ユノだ。

 それは基本人気Uドリーマーが稼いでやっと手に入るか、大勢が一緒にユノを出しあい協力して買える金額である。

 

 もしほかにあるとするならば現実世界のお金で買ったものをこっちの世界で売ることだ。

 

 UnizonなどのネットサイトとUnreallyは連携しており現実世界のものを買うとこっちに呼び出すことが出来た。その売値はリアル世界で買ったときの10倍の額のユノとして売ることができる。

 

 つまりこの指輪は実際には10分の1の価格だがそれでも2000万円。あまりにも大きすぎる金額だった。

 

 

「こ、これ売っても大丈夫なやつかな……ウチばれて逮捕されたりしないかな……」

 

「その時は……笑ってあげるよ」

 

「ひどい!!」

 

 

 震え怖じ気づくしきに雑な扱いをする咲夜。

 それを見てつむぎはあははと苦笑いをしていた。

 

 そして高いビルを見上げる。

 

 

 一式まな

 

 彼女は一体何者だろうか? 

 



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五周年

 つむぎたちは疑問がありつつも広場に来ていた。

 

 今日はこころのUnreally五周年の生放送がある。そこで広場にある大型のディスプレイでその生放送を見ようということになっていた。

 広場には大勢の人が集まっている。

 そこに一人見知った人物がいた。

 

 

「あ、ひそかちゃん!」

 

「やぁ君たちも来たのかい。今回の五周年記念放送には今で隠されてきたUnreallyの丸秘話が公開されるらしくてね。わざわざ大画面で見に来たのさ」

 

「へぇそんなことが」

 

 

 ひそかがわざわざ来るということはそれほどまで重大な情報が隠されているのかもしれない。

 丸秘情報とはなんだろうか?

 

 

 そう思いつつ、つむぎたちはディスプレイを見た。しばらくして時間となり放送がはじまった。

 

 

◆祝!Unreally五周年記念イベント│七色こころ

 

 

 

「あなたの心は何色? わたしは虹色! 七色こころです!」

 

 

 いつもの挨拶とともにこころは現れた。

 バックにはスクリーンがあるステージらしき場所だ。

 

 

「今日はUnreallyサービス開始五周年だよ! みんなほんとにありがとね! ここまで続けられているのもみんながUnreallyをたくさん遊んでくれるお陰だよ」

 

 

 笑顔で答えるこころ。

 

 

「今日はいろいろ話したいことがあるけどまずUnreallyのサービスを提供している会社、株式会社シンギュリアの代表の方に挨拶をしてもらうよ」

 

 

 するとこころはその場から離れ代わりに一人の少女が現れた。

 

 黒い長髪に紫の瞳をした少女だ。

 

 

「まなちゃん!?」

 

 

 さきほどまで道案内をしてあげた少女一式まながそこには映っていた。

 

 

「ご紹介にあずかりました株式会社シンギュリアの代表、次期社長の一式まなですわ」

 

「しゃ、社長!? う、ウチらシンギュリアのご令嬢と会ってたの!?」

 

 

 まなの紹介とともに大きく驚くしき。

 

 

「君たち彼女を知ってるのかい?」

 

「うん、さっき道案内をしててね……」

 

 

 ひそかの問いに答える咲夜。

 

 

 まながシンギュリアの社長の令嬢であることには驚いたがそれだと辻褄が合う。

 

 

「わたくしたちの会社、シンギュリアはAI、VR部門への発展に力を注ぎここ10年で世界でも有数の大企業まで発展しました」

 

 

 するとまなはスクリーンに画像を表示する。

 そこには全世界上位10位の企業をまとめた表でシンギュリアは全世界で3位と表記されていた。

 

 シンギュリアはその革命的な技術力の発展に貢献したおかげで誰もが知る大企業になっていた。

 今使われるAI技術のほとんどがシンギュリアが関わっていると言われているほどだ。

 

 だからそのご令嬢であるまななら2000万円の指輪を買うこともシンギュリア本社に入ることも容易いのだとつむぎは納得する。

 

 

「これはもちろん今まで頑張ってくださった我が社員の働きによるものです。しかしそれ以上に今は亡きわたくしの姉……一式こころがいたからこそ我が社は成長でき進化していきました」

 

 

 するとまわりはざわつく。

 今は亡き姉一式こころという名前にひっかかりがあったのだ。

 

 

「えっとここからはわたしが話すね。みんなは私の正体を不思議に思ったことはない? こんな高性能なAIが現れてびっくりしたと思わない? 実はね……それはわたしを作ってくれた一人の女の子、一式こころのおかげなの」

 

 

 そう言って七色こころは語りはじめた。

 







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七色日和





 今から22年前、一人の女の子が生まれた。

 その女の子の名前は一式こころ。

 

 AIとVRの発展に力を入れる企業シンギュリアの社長の娘だ。

 

 

 彼女は生まれ持っての天才とよばれるギフテッドの持ち主だった。

 理系に対する分野に深い興味を持ちプログラミングに関しては5歳でプロのプログラマーと同じレベルにまで成長し一から音声アシストAIを作り上げ、8歳にして世界で始めてのフルダイブVRを作ってしまうほどだ。

 

 その天才的な能力はシンギュリアの会社としての成長をもたらし一流企業にまで名を上げた。

 

 

 これから先順風満帆で幸せな人生がこころには道溢れているだろう。誰しもがそう思っていた。

 

 

 

 しかし悪夢は急に訪れた。

 

 

 10歳になったあるとき、足に違和感が起きた。

 足の筋肉に力が入らずまともに歩くことがままならなかったのだ。

 

 それから病院へ行き医者に見てもらった結果病名はALS、筋萎縮性側索硬化症と診断された。

 

 その病気は身体の筋肉に力が入らなくなる病気で最後には呼吸する力さえなくなり亡くなる病気だった。

 

 こころの余命は5~7年と診断された。

 

 両親はいろんな医者を頼りどうにかして彼女の病気を治そうとした。当時まだ幼かった妹のまなは車椅子で生活していたこころを不思議に思いながらも心配していた。

 

 

 そして自分の命が長くないこころはあることを決心しました。

 

 

「誰もが傷つかない平和な世界を作りたい……みんなが夢に描くような幸せな世界を……なりたい自分になれて、やりたいことがなに不自由なくできる世界。それを作り上げるの。それが……わたしが死ぬまでにやりたい夢……」

 

 

 寝たきりのまま手を高く理想を握ったこころはまなによくその話をしていた。

 

 

 それが非現実性世界の創造。

 project Unreallyの始まりだった。

 

 それはまだ未発達だったフルダイブVRをよりリアリティーを求め、なおかつ夢のような非現実性も求めた電脳世界のことだった。

 

 まず食べ物を食べる感覚や痛覚などを現実に近づけるために食べ物のDNAをコンピューターで取り入れ電脳世界にそっくりなものを召喚させる技術を生み出した。

 

 身体は脳波で動くようになっており、例えリアルで身体が不自由でも電脳世界では自由に動き回れるようになった。それからの作業は電脳世界で行われる。

 

 また非現実な世界での第二の人生が送れるよう生活感を重視してテレビや動画が気軽に、ショッピングも着たいものが自由に買いやすいようにした。

 

 それから高度なシステムAIの作成。普通の人間では手間がかかる作業を手短に、イラストをAIで思い通りの立体化ができるように発展させた。

 

 

 そして最後にこころが作ったもの。

 それが七色こころ。

 Unreallyを代表するシンボルとして生み出し、より多くの人に見てもらうことを意識して作られた。

 

 容姿と声は一式こころとほとんど同じだった。

 また人格もこころの脳を分析してより近いものを生み出した。

 結果あらゆるAIを超越した究極のAI七色こころが生まれたのだ。

 

 

 しかし七色こころが完成してすぐに一式こころはこの世を去った。

 

 

 ◇

 

 

「これが七色こころとUnreallyが生まれたきっかけ。わたしが今いるのは一式こころちゃんのおかげなの」

 

 

 こころは切なそうに言う。

 

 

「まさか……そんなことだったとはね……」

 

 

 ひそかは真剣にその様子を見て呟いた。

 

 つむぎも驚きだった。

 まさかこころを作ったのが一人の天才少女でその分身的存在としてこころがいるとは思いもよらなかった。

 

 そしてその少女がもうこの世にいないという事実を。

 

 

「だからね、こころちゃんの夢が叶ってこうしてUnreallyが存在してわたしがいることがとても嬉しいんだ! きっとこころちゃんも喜んでるよ!」

 

 

 こころは表情を切り替え笑顔を見せて言った。

 

 

「だからね、そんな感謝を込めて今日は記念にオリジナルソングを持ってきたの。みんなに聞いてほしいな」

 

 

 そうしてこころはステージの中心に来てマイクを持った。

 

 

「聞いてください七色こころで七色日和」

 

 

 ピアノのイントロが始まる。

 その曲調はどこか切なげででもたくさんの優しさにあふれていた。

 歌声は一切のミスのない完璧な歌い方でAIであるということがわかるそんな歌声だった。

 



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本当の目的と真実

「とまぁ平気で嘘をついて……」

 

 

 五周年記念放送が終わり、現実世界に戻った少女一式まなはあきれたようにスマホの画面をみた。

 スマホの画面には七色こころが動いている。

 メッシュの色は地毛と同じ色をしたまま。

 

 

「あねさま死んでないじゃないですか」

 

「てへっ、一応完全AIってことにしておけば下手に仕事増えないかなって♪」

 

 

 こころはあざとく舌を出し謝るポーズをした。

 

 

「確かにあねさまは現実世界ではもう肉体がありません……でも精神転送に成功したじゃありませんか」

 

 

 まなは淡々とこころと会話をしていた。

 

 

 あのイベントで言った話はの9割は本当で1割は嘘だ。

 実際の真実はこうだ。

 

 こころは確かにALSで余命宣告が下り余命通りの年齢で現実世界では死亡扱いになっている。

 だが実際には脳および精神をすべてUnreallyに転送してそれと同時に現実世界での肉体は捨てたのだ。

 

 それは世界初の精神転送の成功であった。

 そして一式こころは七色こころに生まれ変わった。

 

 七色こころは一式こころをベースとしたAIではなく一式こころ自身なのだ。

 

 

「今のこころちゃんは一式こころとしての天才的頭脳と七色こころとしての高性能なAIの演算能力二つを持ち合わせた超ハイスペックなAIなのです!」

 

「それ自分で言ってて恥ずかしくないですか?」

 

「だって事実だもん!」

 

「そうですけど……」

 

 

 そう言われて反論できなくなるまな。

 精神転送に成功したこころは脳に自身の最新技術AIを取り込みあらゆる演算から物事を見ることができる人間とAIのハイブリッドになったのだ。

 

 それにより同時にたくさんの分身を生み出し、大勢の人間と会話したりUnreallyで気軽に会うことができる。

 

 今のこころに肉体があるとするならばシンギュリア本社の地下にある巨大なスーパーコンピュータを指すと言えるだろう。そのスーパーコンピュータは両親とまな、精神転送に携わった一部のシンギュリア関係者しか知らない。

 

 

 そしてこころは言う。

 

 

「精神転送によって死の概念を無くして、いつか誰もが自分の意思以外で死なずに住む世界が来るよ。わたしがそうさせる……。そのためにはまずUnreallyをもっと多くの人に知ってもらわないとね」

 

 

 真剣な目付きをしながら最後は笑顔で答えるこころ。

 こころの真の目的。それは精神転送をして電脳世界で生き誰もが死なない未来を作り上げることだった。

 そしてUnreallyで永遠に夢のような生活をする。それがこころの夢だ。

 

 

「まぁこれは論理的問題が残ってますのでまだ公表するのに何年もかかりそうですが」

 

 

 まなはこころの言った目的に対して現実的なことを言った。

 

 

「わたしが一式こころその本人なのかって事実だね」

 

 

 精神転送した人間は本当に同一人物なのか?

 世間に精神転送の事実を公表したらそのスワンプマン的問題に対し議論がされるのは事実であろう。

 

 だがまなは同時に信じていた。

 

 

「しかしあねさまは不可能を可能にする存在。あなたがあねさまのコピーではなくあねさま自身だとわたくしは信じていますよ」

 

「えへへっ、さすがわたしの自慢の妹!」

 

 

 こころを信じていたからこそ、まなは現在次期社長としてシンギュリアの一部業務をこころに手伝ってもらいながら働いていた。

 

 

「でも半分以上の事実を公表した今、科学者やら研究者からの問い合わせが殺到することは間違いないですよ……」

 

 

 これからの後処理について考えるまな。

 

 

「そこは……任せるよ次期社長!」

 

 

 対してこころは笑顔を向けた。

 そんなお気楽なこころを見てため息をつくまな。

 

「まぁ……人間なりに頑張りますわ」

 

 

 先のことを考えながらも次期社長としてまなは自身の仕事を果たすことにした。

 



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第二部開始!三年生編突入!

「では、来週までに進路希望の紙を提出してください」

 

 と担任の先生が言う。

 

 四月、つむぎたちは高校三年生になり数日が経っていた。

 三年生はクラス替えはないためクラスメイトは見知った顔だ。

 

 クラスの全員の机には進路希望の紙が行き届いている。

 それからしばらくしてキーンコーンと四時間目が終わるチャイムがした。

 

 

 まわりはざわつきはじめお弁当の用意をしたり売店で食べ物買いに行こうとしている。

 

 つむぎは席を立ち左側の席にいる少女に話しかけた。

 

 

「さやちゃん!」

 

「ん……」

 

 

 さやはお弁当を机の上に出すとつむぎを見た。

 水色の髪で覆われ片目だけが見える目付きがきつい目。はじめの頃はそう思ってた。

  

 だが今となっては彼女の瞳はジト目で可愛らしくつむぎは思う。

 

 

「行こっ」

 

「うん……」

 

 

 彼女はゆっくりと頷く。

 

 行き先は決まっている。その前に声をかけられる。

 

 

「つむぎー今日も屋上で食べるんでしょ。はやく行こうぜー」

 

「ことも今日は一緒に行くよ」

 

 

 声を掛けてきたのはコンビニで買ったパンを片手に持った少女、ひなたと自前のお弁当を両手で持ったことねだった。

 

 つむぎは二人を見るとにっこりと笑いそして言う。

 

 

「うん四人で一緒に食べよっ」

 

 

 つむぎとさやはひなたたちの方へと向かい歩いていく。

 

 いつのまにかこの四人で、晴れた日は屋上で食べるのが当たり前になっていた。

 それは三年生になっても変わりはしない。

 

 

 ◇

 

 

 屋上へと続く廊下。

 その途中にはまだ入学してきたばかりの一年生たちのクラスがあった。

 

 

「あっ、つむぎ先輩! さや先輩!」

 

 

 すると一人の一年生が話しかけてきた。

 その声は最近も聞いた程慣れ親しみ、その容姿は久しぶりに見た一人の少女だ。彼女は制服は同じだが胸に今年の一年生の象徴である黄色いリボンを付けていた。

 

 

「そまりちゃん! そういえば入学してきたんだよね!」

 

 

 つむぎは少女の名前を言う。

 

 夕凪そまり。Unreallyでは水無月ねねことして振る舞うあがり症な女の子だ。

 

 

「はっ、はいどうにか……」

 

 

 そまりは顔を赤くしていた。

 そまりがつむぎたちの高校、姫乃女学園に受験をし無事合格したのをつむぎとさやはUINEでの報告を聞き知っていた。しかし彼女が制服を着てこうやって会うのは今日がはじめてだった。

 

 

「つむぎたちの知り合い?」

 

「うん、紹介するよ。夕凪そまりちゃん。Unreallyでわたしたちの友達なんだ!」

 

 

 ひなたの質問につむぎはそまりを紹介するように言う。

 

 

「ど、どうもはじめましてせ、せんぱい方……」

 

 

 もじもじと恥ずかしそうに言うそまり。

 いきなり顔を真っ赤にして倒れるよりはあがり症は克服されたのだろうか。

 

 

「よろしくーそまり。あたしは雨宮ひなた。つむぎの幼なじみ。まぁそんなかしこまらなくていいよ」

 

「ことは保栖ことね。よろしくねそまり」

 

「よ、よろしくお願いしますっ」

 

 

 二人の自己紹介にそまりは深くお辞儀をした。

 そまりは礼儀正しくていい子だ。

 

 そまりが一年生として入学してきたのを思い出すと自分達が三年生になったという自覚を再確認する。

 

 

「そうだ! 良かったらそまりちゃんも一緒に屋上でご飯食べる?」

 

「えっ!? い、いいんですか?」

 

 

 つむぎは提案をした。せっかくだしそまりと一緒にお昼休みを過ごしてみたいとつむぎは思ったのだ。

 

 突然のことに戸惑うそまり。

 

 つむぎは確認するかのようにひなたたちを見た。

 

 

「あたしは構わないよー。Unreallyでつむぎとなにしてるのか聞いてみたいし」

 

「こともいいよ。賑やかなのは好きだから」

 

 

 二人は承諾の返事をした。さやだけは言葉を放たず、しかしこくりと返事をするように頷いた。

 

 

「そ、それじゃあお言葉に甘えて……」

 

 

 そまりは邪魔にならないか不安そうな顔をしつつも優しく振る舞うひなたたちを見てつむぎたちに同行することを決める。

 これでメンバーは五人となり学校の屋上へと向かうことになった。

 



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夢を探して

 屋上に来たつむぎたちはシートを敷きまるでピクニックをするかのようにお弁当を食べ会話をしていた。ここが屋上でなければまだお花見ができたかもしれない。

 

 

「へぇ、じゃあそまりってねねこでUドリーマーやってるんだ。全然雰囲気違うねぇ」

 

 

 紙パックのバナナオレを飲みながらひなたはあぐらをかき言った。

 今はそまりがUnreallyではねねこであることをひなたたちに紹介していたところだ。

 

 

「は、はい……お恥ずかしながら」

 

 

 そまりは四角いサンドイッチを顔を隠すようにちょっとずつ食べ正座をしていた。まだ少し気を遣っているように思う。

 

 

「そまりちゃんはあがり症を直すためにねねこちゃんとして活動してるんだぁ。それでねねこちゃんになると素直になれない性格になっちゃうんだけど」

 

「へぇ面白い子だねぇ」

 

 

 つむぎの紹介に頷くひなた。そまりは恥ずかしそうにもじもじしていた。

 

 

「そういえば進路希望来週までに出さないといけないけどみんなどうするの?」

 

 

 すると話題を変えるようにことねがつむぎたちに向けて言ってきた。

 

 進路希望。さきほど四時間目の授業の時に出されたものだ。

 提出日は来週までと決まっている。この紙は絶対に提出しなくてはいけない。

 

 もう二年の時から進路を決めてる人も多いが今回で就職にするか進学にするか、どの分野に進路を定めるかはっきりと決める段階となっていた。

 

 

「私は音大に入る予定……もっと演奏の技量をあげてアーティストデビューしたい」

 

「さやちゃんアーティストデビュー目指してたの!?」

 

 

 意外なさやの回答につむぎは驚く。

 てっきりさやは個人で趣味で音楽をやっていくのだと思っていたからだ。

 

 

「二度のUフェスの出演でたくさんの人に見てもらって嬉しかった……から。私の音楽をもっといろんな人に届けたい」

 

 

 さやの目付きは本物だった。

 彼女は本気でプロのアーティストデビューを目指しているようだ。

 

 

「さやは本当に凄いね。ことは文系の大学に行って音楽は趣味でやる予定だよ。まだ将来何になるかは決まってないけど、もっといろんなことを学んでいきたいと思ってるよ」

 

 

 さやに続くようにことねが言った。

 本来学生時代にバンド活動をしている人でもことねのように趣味で終わりにする人のが多いだろう。プロになることは簡単ではない。

 

 

「じゃー次あたしねぇ。あたしは……ゲームクリエイターになる。いつか理想のゲームを企画して自分達の手で作るんだ……誰もが神ゲーって絶賛するゲームをねっ」

 

 

 ひなたは能天気な表情から一変。夢を語るとなると真面目な表情に切り替わり言った。

 

 ひなたはゲームが大好きだった。それは幼馴染みであるつむぎが一番よくわかっている。

 

 勇者ごっこをして遊んでいたのもRPGの影響だったし、アンリミテッドファンタジアでトップランカーと言われているのもそこまでゲームを愛し続けているからだろう。

 

 

「頑張ってミーちゃん……」

 

「誰がミーちゃんだ誰が!」

 

 

 ひなたのUnreallyでの名前ミーシェルの愛称を呼ぶさや。ミーちゃん?と言われて頭にはてなを浮かばせるそまりとことね。

 ひなたのUnreallyの正体を知ってるのはつむぎとさやの二人だけだ。

 

 

「で、最後はつむぎさんあんたよー? ちゃんと進路とか夢ってあるの?」

 

 

 紙パックのジュースを飲み終えたひなたはストローから口を話すとつむぎに言った。

 

 ひなたはつむぎがなにも将来の夢を考えていないと思っているのだろう。幼なじみで長い付き合いだ。そう思っていて少しふざけた感じで、でも本当は心配してるように言った。

 

 だがつむぎはひなたの期待には応えられない。

 

 

「じゃあ……笑わないって約束してね……」

 

 

 つむぎは少し恥ずかしそうにしている。本当なら言うのを躊躇いたい。しかしみんなが進路を言ってるなかで自分だけ言わないのは不平等だ。

 

 なので意を決して話すことに決めた。

 

 

「わたしね、ファッションデザイナーになりたいんだ。Unreallyでさ、何回か衣装を作って楽しいと思うようになって。もふあにのシマリちゃんにもこのまま続けていくといいって言われて……また小さい頃の夢追いかけたくなっちゃったんだ」

 

 

 小さいときに思ったはじめての夢。

 趣味でありずっと続けてきた絵を描くことのきっかけとなった夢。

 

 つむぎは真剣に……ありのままの夢を語った。

 

 そこにいた全員はただつむぎの発言を黙って聞いていた。

 

 

「なんていうか……」

 

 

 口を開いたのはひなただった。

 

 

「つむぎも変わったよねぇ。昔は優柔不断であたしの後をついていくような感じだったのに。今じゃ自分の意志をちゃんと持っててさ。これもUnreallyがきっかけなのかねぇ」

 

「えへへ……そうかもしれないね。Unreallyはなりたい自分になれて……叶えたい夢を後押ししてくれる素敵な場所だよ」

 

 

 つむぎは笑顔で答えた。

 なりたい姿になれて、アンリアルなら夢だって叶えられるのがUnreallyだ。

 でも現実での夢だってUnreallyのおかげで叶えられるかもしれない。つむぎはそうおもったのだ。

 

 

「先輩方すごいですね……ちゃんと立派な将来の夢があって。あたしはまだ……そういうのよくわからないです」

 

 

 ここで唯一の一年生のそまりにはつむぎたちが眩しく見えたかもしれない。それぞれがちゃんとした夢があることに。

 

 

「大丈夫だよきっと」

 

 

 だがつむぎは答える。

 

 

「そまりちゃんはまだ高校一年生。これからもっといろんな経験をして何がしたいか見つける時期だよ。だからそまりちゃんにも見つかるよ。自分がやりたいと……そう思えるなにかがさ!」

 

 

 つむぎは笑顔でそまりに対して言った。

 そまりはつむぎの目を驚くように見つめていた。

 

 

「そう……ですね。あたし頑張ってみます! この高校生活で自分のやりたい夢を探して!」

 

 

 つむぎの励ましの言葉にそまりは勇気をもらった。

 

 そうして彼女たちは自分の夢に向けての一歩を踏み出したのだ。

 



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魔法少女キララマジカル

 ある日の学校での出来事。

 

 休み時間、雨宮ひなたは自分の席でスマホで一人動画を見ていた。

 

 

「ひな、つむたちの動画見てるの?」

 

「うん? ああことねかぁ」

 

 

 ことねがひなたに声をかけた。

 ひなたが見ていたのはつむぎが年末に咲夜たちと過ごしていた動画だ。

 

 

「楽しそうだなぁって思ってねぇ」

 

「ひなは出ないの? せっかくUnreally持ってるのに」

 

「そうねぇ……」

 

 

 楽しそうなら自分もUドリーマーになって動画に出ればいい。それは前に咲夜にも言われたことだ。

 

 

「そろそろ覚悟……決めるか」

 

 

 ひなたはことねに聞こえないくらいの大きさでぽつりと呟いた。

 

 

 ◇

 

 

 場所は変わって放課後のUnreally。

 つむぎは自分の家にねねこを呼んでテレビを見ていた。

 とある番組をみるためだった。

 

 

「もうすぐね」

 

 

 ねねこがテレビを見て呟く。

 腕にはペットである猫のブランを抱いて撫でていた。ブランはにゃーんと可愛らしい声で鳴いている。

 

 ねねこが言ったあとしばらくしてCMが終わり番組が変わった。

 

 

『魔法少女キララマジカル特集! 今日はキララマジカルの一年をまとめた総集編をダイジェストでお送りするよ!』

 

 

 番組は魔法少女キララマジカルの特集だった。

 今声を当てているのは主人公のキララルビー役の声優、成美ゆり。ティンクルスターの星屑カペラだ。

 

 

 そしてキララマジカルのダイジェスト映像が始まる。

 

 

『私、くるみ中学二年生!どこにでもいる普通の女の子!』

 

 

 主人公が変身する前の姿でナレーションが始まった。今は学校が終わり下校途中のシーンだ。

 主人公のくるみは平凡な普通の女子中学生だ。

 だが彼女の人生を一変させる出来事が起きる。

 

 

「あれは猫?」

 

 

 目の前には不思議な雰囲気を醸し出す白い猫が現れた。身体は傷だらけで歩いているが今にも倒れそうであった。

 

 

「傷だらけ!? いそいで家に行って手当てしなきゃ!」

 

「いかなきゃ……」

 

「猫がしゃべった!?」

 

 

 その猫は人の言葉を話すことができた。

 

 

「そんな身体でどこへ行こうって言うの!?」

 

「デーモンと戦わなきゃ……この世界を守らなきゃいけない」

 

「デーモン?」

 

 

 くるみは頭にはてなを思い浮かべる。

 

 次にデーモンと呼ばれる悪役が登場するシーンへと変わった。

 

 

「デビデビッ!」

 

 

 街を破壊していくライオンの姿をしたデーモン。住民は悲鳴をあげ逃げていく。

 

 

「あれと戦うの? 危ないよ!」

 

 

 傷を手当てしてもらった猫エルはデーモンと戦おうとしていた。

 

 

「でも戦わなきゃ……せめて魔法少女がいれば」

 

「魔法少女? それって私でもなれる?」

 

「純粋な心を持った女の子ならなれるからくるみちゃんならなれるはず……けどこれから危ない戦いに巻き込まれるよ?」

 

「それでもいいよ! こんな光景を見て見過ごすなんて私にはできない!」

 

 

 そしてくるみははじめての変身をした。

 

 

『マジカルチェンジ!』

 

 

 その声と共にステッキにハートのジュエルを入れると髪の毛は長くなり、魔法少女らしい可愛い戦闘フォームになった。

 

 

「情熱の赤で勝利に導く! キララルビー!」

 

 

 ポーズを決めキララルビーに変身したくるみ。

 

 そして戦いはデーモンを追い詰めるところまできた。

 

 

「デビデビィ!」

 

「キララルビー! 最後に必殺技で浄化してあげて!」

 

 

 エルの言葉に従いステッキのジュエルを光らせキララルビーは必殺技を唱えた。

 

 

「マジカルレッドスプラッシュ!」

 

「デビデビィッ!」

 

 

 ハートの光線を出したその必殺技はデーモンにぶつかりデーモンを浄化させていき消滅させた。

 

 これがキララマジカル1話目の内容だ。

 

 

 

 

 その後シーンは変わりキララサファイア登場シーンへとなった。

 

 

「きゃあぁ!」

 

「ルビー!?」

 

 

 鳥のデーモンの攻撃に苦戦するキララルビー。

 

 そこに一人の少女が現れる。

 

 

「魔法少女って存在したんだ……」

 

「君は?」

 

 

 エルはこの場から逃げずにいた一人の少女に問いかけた。

 

 

「私はあおば。あなた魔法少女のマスコット?」

 

「そうだけど? ボクを見て驚かないの?」

 

「そう言うのアニメでよく見るから。魔法少女にしゃべるマスコットは必須でしょ?」

 

「そ、そっか現代の子ってすごいね……」

 

 

 あおばと名乗った青髪の少女は随分とその場の適応力がはやかった。このキャラを演じるのはティンクルスターでは星屑ミラをやっている声優天津しずくだ。  

 

 

「仲間がいないなら私を魔法少女にしてよ。私剣道やってるし普通の女の子より戦える」

 

「いいんだね? 魔法少女の変身アイテムはあと一つしかない……でも君ならたぶんいけるよ」

 

 

 エルは剣とひし形の青いジュエルをあおばに渡した。

 

 

『マジカルチェンジ!』

 

 

 あおばは剣にジュエルをはめ込むと魔法少女の姿へと変身した。

 

 

「慈愛の心でみんなを守る! キララサファイア!」

 

 

 剣を構えかっこよくポーズを決めたキララサファイア。彼女の適応力は凄くデーモン相手に圧倒した。

 

 

「マジカルブルーブレード!」

 

 

 そして必殺技を言ったサファイアは斬撃を光の刃に変えデーモンに放った。

 

 

「デビィッ!」

 

 

 デーモンは浄化され消滅していった。

 サファイアが仲間となるこれが二話だった。

 

 

 それからくるみとあおばの二人が魔法少女として互いに絆を深めながら成長し強くなっていくのがダイジェストとして流される。

 

 そして大きな変化がありその後の物語に重要なキャラが登場する回が流された。

 

 

「まったくどうしてこう人間はポイ捨てをするんだ! 自分が食べたものくらいちゃんと片付けろ!」

 

 

 金髪の女の子がポイ捨てされたごみを見て怒っていた。

 

 

「ああ!!むかつくなぁ! いでよデーモン! この辺のゴミを食べてしまえ!」

 

 

 少女はデーモンを生み出した。

 それは今までの動物の姿をしたデーモンとは違い四角い形をした物体のデーモンだった。

 

 

「さすがデビッ。レグナ様の力でこの世のゴミというゴミを食べるデビッ!」

 

 

 黒髪の少女レグナに従える黒い猫が言った。

 この少女、レグナを演じるのはティンクルスターのリーダー、宝城イルミナであり声優の小春うららだった。

 

 

「デーモン! 悪さはさせないよ!」

 

「私たちがみんなを守る」

 

 

 するとキララルビーとキララサファイアが現れた。

 

 

「なんだお前ら? あぁ噂されてる魔法少女ってやつか」

 

 

 レグナは二人に気が付くとそちらに振り向いた。 

 

 

「女の子? ここにいたら危ないよ!」

 

「違う、これはきっと敵勢力、幹部クラスだよ」

 

 

 レグナを普通の女の子だと思ってるルビーに対し、サファイアは剣を構え戦闘体勢に入っていた。

 

 

「あたしはレグナ。おろかな人間たちに制裁を下す者……魔法少女だかなんだかしらないけど邪魔する者は遠慮しないよ! デーモンやっちゃって」

 

「デビィッ!」

 

 

 レグナはデーモンに命令をし二人に攻撃をしかけた。

 

 

「くうっ……」

 

「このデーモン……今までのより遥かに強い……」

 

 

 魔法少女たちは防戦一方で全然攻撃を与えることができなかった。それだけレグナの生み出したデーモンは強かったのだ。

 

 

「もっと……力を!」

 

 

 すると二人のジュエルが光り始める。

 

 その力は二人に新たな力を与え二人の背中には天使の羽が生えた。

 

 

「これはエンジェルモード!? 古代の魔法少女が使ってた能力が今開花するなんて!」

 

 

 エルはその能力について知っていた。

 エンジェルモードになった二人は傷が治り必殺技を繰り出した。

 

 

「マジカルレッドスプラッシュ!」

 

「マジカルブルーブレード!」

 

「デビィッ!」

 

 

 二人の必殺技は今までのより遥かに強くなっておりデーモンを一撃で消滅させた。

 

 

「ふん、次があったら覚えてろよっ!」

 

 

 レグナは捨て台詞を吐きその場を去った。

 

 

 それからはレグナの生み出すデーモンと魔法少女の戦いがメインで行われた。

 

 レグナがデーモンを生み出す理由は食わず嫌いはいけない、嘘をついてはいけないなどなにかしらの人間の行動に対して怒りを表して生み出していた。

 

 そして怒ってないときはたとえ魔法少女たちとはち会わせても戦うようなことはせず、もし自分が生み出したデーモン以外の動物型デーモンに魔法少女たちが苦戦していたら、気に食わないからという理由で弓を使って手を貸すこともあった。

 

 レグナは本当は悪い子ではないのではないかと視聴者や魔法少女たちは思うようになっていた。

 

 

 そして最終回になりレグナの正体が明かされる。

 

 

「ぐあぁぁぁぁぁ!」

 

「レグナちゃん!」

 

 

 戦いが終わった後、いつものようにレグナが去ろうとした時レグナの体から邪悪なオーラが飛び出していった。

 

 

「ついにこの時が来てしまったデビッ!」

 

「あぁ……でも今の三人ならいけるよ!」

 

 

 魔法少女たちのマスコットである白い猫エルとレグナのマスコットである黒い猫ティマが口を揃えていう。

 

 

「ふたりともなんなのか知っているの?」

 

「レグナ身体には大昔に封印された最凶のデーモンがいたんだ。彼女は身体にデーモンを封印された天使なんだ」

 

「あたしが天使……!?」

 

 

 驚くレグナ。無理もない。

 天使は魔法少女に近い存在だ。

 その天使の一人が悪魔を生み出してきたレグナだったなんて信じられない。

 

 

「レグナ様思い出して欲しいデビッ! 今までレグナ様がデーモンを生み出した理由は人がよりよい未来にいくように願ってのこと……心はずっと天使のままだったんだデビッ!」

 

「じゃあなんで悪魔を生み出す能力が……」

 

「それはデーモンを生み出すことで最凶のデーモンの力を弱らせるためだよ。昔の魔法少女は願ったんだ。いつかこのデーモンを浄化させられる魔法少女が現れるようにって。そして魔法少女である二人が来るべきその日のため、強くなるための修行に君は必要だった」

 

 

 エルとティマは説明をする。二匹はお互いに天の使いで面識があったのだ。それを今までずっと隠していた。

 

 

「じゃあ私たちは……お互いに強くなるために戦っていたの?」

 

「それだけがすべてじゃない。動物型のデーモンの正体は未だに不明だからね。でも強くなるために三人が出会う必要はあった」

 

 

 話しているうちに邪悪なオーラはすべてレグナから抜き出され形作られていった。

 

 大きな巨大な邪悪なデーモンの姿が現れる。

 

 

「これが最凶のデーモン、アヴァドン。古代の魔法少女でも倒すことが不可能だった存在」

 

 

 エルがそのデーモンの説明をする。

 

 

「さぁレグナ様真の姿を取り戻すデビッ!」

 

 

 レグナの黒い弓は表面にひびが入り砕け光輝き真の姿を取り戻す。そしてレグナの手には黄色のダイヤモンド型のジュエルが握られていた。

 

 

「レグナちゃん……!」

 

 

 レグナを真剣な表情で見つめるルビー。

 

 

「あたしは……ほんとうはみんなを幸せにしたかった。みんなを笑顔にしたい。だからこいつはあたしが……あたしたちが浄化させる!」

 

 

 弓とジュエルを手にしたレグナは変身を行った。

 

 

『マジカルチェンジ!』

 

 

 するとその変身はふたりの変身とは大きく違った。髪色は黒から金髪に変わり、変身した段階ですでに天使の翼が生えていた。

 

 

「ダイヤの輝きは希望の光! キララダイヤモンド!」

 

 

 レグナはキララダイヤモンドと魔法少女としての名前を言い放った。

 

 

「行こう! みんな!」

 

 

 ルビーが先頭に立ち三人は戦闘体勢に入った。

 そしてお互いの武器を光らせ必殺技を放った。

 

 

「マジカルレッドスプラッシュ!」

 

「マジカルブルーブレード!」

 

「マジカルシャイニングアロー!」

 

 

「デビイイイィ!」

 

 

 それぞれがそれぞれの技を放ち最凶のデーモン、アヴァドンを打ち破った。

 

 こうして平和が訪れ、レグナはくるみたちと同じ学校に通う中学生となり深夜版の最終回、ニチアサ版の一年目の最終回にあたるシーンが終わりを遂げた。

 



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魔法少女キララマジカル キャストトーク編

「さていかがでしたか?」

 

 

 画面はアニメからリアルに切り替わり三人の少女が画面に写し出される。

 

 

「以上が魔法少女キララマジカルの第一シーズンの内容でした! どうも、キララルビー役成美ゆりです!」

 

 

 ベージュ色の髪をした女の子が言う。彼女がティンクルスターの星屑カペラのいわゆる中の人本人だ。

 

 

「えっと……キララサファイア役、天津しずく……」

 

 

 三人の中では一番幼い白髪の少女、彼女がつむぎの推しである星屑ミラをやっている子だ。

 

 

「キララダイヤモンド役、小春うららです」

 

 

 最後にティンクルスターのリーダー宝城イルミナであり5年以上前、天才子役として知られていた小春うららだ。

 

 

「これで深夜にやってた時と同じ所までストーリーが進んだね! 第二シーズンからは新たな勢力が登場して大変なことになるからお楽しみに!」

 

 

 ゆりが言う。第二シーズンはもう何話か放送されているが今までの正体不明の敵動物型デーモンの深掘りをしていく話となっていくようだった。

 それと三人の日常シーンがとても癒され面白いと評判である。

 

 

「さて、ではお便りが届いてるので読みます」

 

 

 するとうららがお便りを読み始めた。

 

 

「ゆりちゃんしずくちゃんうららちゃん、まずは第一シーズンお疲れさまです。ありがとうございます。三人はキララマジカルでは主要キャラの三人などの人気声優として、またUnreallyでティンクル☆スターとして活動しています。それについてそれぞれなにか思っていることはありますか?」

 

 

 お便りの内容はそう書いてあった。

 キララマジカルの声優三人がティンクルスターの三人であることは世間では結構知られている事実だ。それは公式が公表していることだからだ。

 

 

「このキララマジカル自体私たち三人を起用しようとしたのがティンクルスターがきっかけで、まさかここまで大きなアニメになるとは思ってもいませんでしたねぇ……」

 

「わたしもゆりねぇと仕事できるのが嬉しくてはじめて、今がとても幸せ……だよ」

 

 

 ゆりの後にしずくが言う。

 しずくはゆりの親戚だ。だからリアルでも姉のようにゆりねぇと呼ぶ。ゆりが声優になったのがきっかけでしずくも声優としてデビューしたのだ。

 

 

「とても大きなきっかけを作って頂きスタッフさんおよび関係者の皆さんには深く感謝しています」

 

 

 礼儀正しく感謝をするうらら。その真面目さはUnreallyであざとくキラッとハッピーと言っているイルミナとは大きく違っていた。

 

 

「でもUnreallyでキャラを演じ続けるのは大変だよね。私が演じるカペラは天然どじッ子お姉さんキャラ、しずくちゃんはクールなボクッ娘、うららちゃんはあざと元気な女の子でさ」

 

 

 ゆりは話題を振る。たしかにUnreallyでキャラを演じるのはプロの声優でも大変なことなのだろうか。

 

 

「アニメなら台本や設定がちゃんとしてるけどティンクルスターって数行しか公式設定なくて。しずくちゃんはもともとのキャラにあってるけど私やうららちゃんは結構違うからねぇ」

 

「いやゆりねぇもリアルとそこまで変わってないよ……」

 

 ゆりの言葉につっこみをいれるしずく。ゆりは自覚はないらしいが天然な性格だ。物事をすぐ忘れてしまう。しかし声優と言う職業だけはちゃんとしっかり全うできる演技力があるため天職なのかもしれない。

 

 

「むしろずっとイルミナのキャラをぶれずにできてるうららちゃんの演じ方が凄い……」

 

「そんなことありませんよ」

 

 

 微笑むように謙遜して言ううらら。

 

 

「私はただ自分自身とは距離を置いてUnreallyに入ったときからイルミナというキャラを演じているだけですよ。イルミナならこうするって思ったのとを行動にあわせて演じる。ただそれだけのことです。原作がないなら私自身が原作者になるだけです」

 

 

 さも当たり前のようにきりっと言ううらら。

 その表情はとても真剣な眼差しだった。

 

 

 ◇

 

 

「やっぱりうららちゃんかっこいい……しゅき……」

 

 

 テレビ越しに語彙力を低下させたねねこが言った。ねねこはティンクルスター関連になるとオタクとしての本性を現してしまう。

 

 これを知っているねねこのファンはUドリーマーのつむぎたちを除いていない。

 

 

 だがやはりメタ的な部分からの視点で発言することができるティンクルスターは凄い。

 声優アイドルと言う利点を上手く使っている。

 

 

 そんなことを思っていると一件のメッセージがつむぎに届いた。

 

 

 相手はミーシェルからだ。

 

 内容は『今からアンリミテッドファンジアまで咲夜とともに来るのだ。ここが指定の場所なのだ』

 

 

 と、メッセージとともに指定ワープゲートの場所が入ってあった。

 

 

「ごめん、ねねこちゃん、ちょっと用事ができちゃってテレビは見てていいからわたし出掛けて来てもいいかな?」

 

「まぁいいわよ。それじゃああたしは見終わってから帰るわ」

 

「うんありがとね」

 

 

 髪の毛をくるりと人差し指で巻いたねねこはつむぎに言った。

 

 家のドアはフレンドのみが自由に出入りすることが可能に設定してあるためつむぎが鍵を閉める必要がない。アンリアルだからできることだ。

 

 こうしてつむぎはその場を離脱し咲夜とともにミーシェルのいるアンリミテッドファンジアに行くことにした。

 



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変わる覚悟

 家を出た後つむぎは咲夜と合流しミーシェルの指定した場所へと二人で向かった。

 指定された場所に転移したときつむぎはその光景に驚いた。

 

 

「でっかいお城!? どこかの王国かな?」

 

 

 それは大きくそびえ立つ巨大な城だった。

 RPGによくあるお城だ。

 

 

「ここってたしか……」

 

 

 咲夜はなにかを知っているようなそぶりを見せる。ミーシェルがここに連れてきた理由はなんだろうか。

 

 

「よく来たな」

 

 

 すると空から悪魔の翼で飛んでいる天使の輪っかと竜の尻尾をもつミーシェルが現れた。

 その姿は輝いて見える気がした。

 

 

「ミーちゃん。凄いお城だけどここって?」

 

「ミーの家だ」

 

「家!?」

 

「正確にはミーのギルド、ドラゴメディウムの拠点なのだ」

 

 

 ミーシェルが驚くつむぎに対して訂正するように言う。しかしギルドの拠点とはいえ城を丸々一個持つとはとんでもない凄さだ。

 

 

「大規模ギルドって聞いてたけどまさか本当に城一個持ってるとはね……」

 

 

 咲夜もやはり噂で聞いていたのだろう。それを実際に見て驚いている。

 さすがトップランカーのギルドは伊達じゃない。

 

 

「まぁついてこい。案内する……のだ」

 

 

 ミーシェルが背を向け城の門の前へと歩いて行った。つむぎたちはその後をついていく。

 

 

「ミーシェル様! そちらの方たちは?」

 

「ミーの友だ、通せ」

 

「はっ! わかりました!」

 

 

 ギルドの警備をしているギルドメンバーらしき少女がミーシェルを見て敬礼している。

 その少女が許可を出すと城の扉が開いた。

 

 中で最初に見たのは広い玄関ホールで複数の扉と左右にある二階へと繋がる階段が目につく。

 

 装飾品も豪華でドラゴンらしき像が置かれてあった。

 

 

「ミーシェル様だ!」

 

「ミーシェル様、やはり今日もお美しい!」

 

 

 玄関ホールにいた何人かのギルドメンバーがミーシェルを見て歓声をあげている。ギルドメンバーはミーシェルにあやかってかドラゴン、天使、悪魔のいずれかの容姿に近い姿の者が多かった。

 

 

「ミーちゃんは慕われてるんだね!」

 

「まぁ一応、これでもギルドのボスなのだ」

 

 

 まるで一国のお姫様のようだ。このギルドのボスと言うことはあながち間違ってはいないが。

 

 ミーシェルの後をついていくと多くの人とすれ違いミーシェルを見て敬礼や歓声をあげていた。

 

 そうして行くうちに一つの場所に移った。

 

 それはお城で最も目を引き重要となる場所。

 

 玉座だ。

 

 たった一つだけ置かれているその一際目立つ玉座の椅子に来るとミーシェルはさも当然のようにその玉座の椅子に座った。

 

 その風格はまるで凛々しい王の者だった。

 その圧倒的風格につむぎもひざまづいてしまいそうだ。

 

 

「で、用件だが」

 

 

 左手で頬杖をつきミーシェルはつむぎたちに言った。その後ミーシェルは次第に少し照れ、一度深呼吸をして落ち着かせ会話を続ける。

 

 

「そのな……ミーもアンリアルドリーマーになってみたいのだ」

 

「ミーちゃんがアンリアルドリーマーに!? 今まで顔出しNGだったのに!?」

 

 

 ミーシェルの予想外な発言につむぎは驚いた。

 ミーシェルは今の今まで自分が動画に移ることを苦手としていた。そのためUnreallyではアンリミテッドファンタジアに凄い強い竜の女の子がトップランカーとしていると噂だけが広がっていたのだ。

 

 

 するとミーシェルは再び顔を赤く染め言った。

 

 

「ミーも貴様らの輪の中に入っていきたいのだ……貴様らを見ていると楽しそうで……でもミーが入るのは、ミーのキャラを全世界に届けなくてはいけない……恥ずかしいと思ってた」

 

 

 ミーシェルはずっとそれで動画に出るのを拒んでいた。しかしそんな彼女がアンリアルドリーマーになりたいと思った理由。それは

 

 

「でもそれ以上に貴様らと一緒にいたい。そう願いが強くなった。ミーと一緒にこれからたくさんの時間を過ごしてくれないか?」

 

 

 ただ友達と一緒の時間を過ごしたいという、ささやかな少女の願いだった。

 

 つむぎはそれに対し答えは決まっていた。

 

 

「もちろん。ミーちゃんがUドリーマー仲間になってくれたらとっても嬉しいよ!」

 

「ミーちゃんがそうしたいならそれでいいんじゃない」

 

 

 つむぎは笑顔で答える。咲夜も同様に少し微笑み言った。

 

 それを見てミーシェルは笑みを見せた。

 それから玉座から立ち上がりマントをバサァっと広げる。

 

 

「ふっ……ならば決まりだ! 我がギルドのメンバーよ! 配信の準備をしろ!」

 

「はっ!」

 

「今から!?」

 

 

 その部屋にいたミーシェルのギルドメンバーが配信の準備をしはじめた。

 

 

「一人だとはずいのだ……我が友よ、一緒にデビュー配信を飾ってくれ」

 

 

 片目を閉じて少し頬を赤くしたミーシェルが言った。彼女がそう言うことは心の中ではよほどデビューするのが不安なのだろう。

 

 

「うん、そばにいてあげるよ! ねっ咲夜ちゃん」

 

「まぁミーちゃんがどんな黒歴史を作りあげるか気になるしいいよ」

 

「誰が黒歴史だ誰が!」

 

 

 咲夜が冗談混じりに言いミーシェルが突っ込む。しかし小さく「ありがとう……なのだ」と彼女は呟いた。

 

 そして配信が始まろうとする。

 

 しかしつむぎたちは分かってなかった。ミーシェルほどの存在がアンリアルドリーマーとしてデビューすることがどれだけ凄いことになるのかを。

 



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ミーシェルUドリーマーデビュー

「ミーシェル様大変です! 配信枠に既に1000人以上の視聴者が待機しています!」

 

「な、なんだと!? どいうことだ!?」

 

 

 ギルドメンバーの一人、天使の姿をした少女が状況を説明した。

 いきなりアンリアルドリーマーとして生配信でデビューするなどあまりない事例だ。それなのに1000人も待機しているとはどういう状況なのだろうか。

 

 

「ドラゴメディウムのメンバー全員がミーシェル様のUnitterのアカウントの配信枠のユニートを拡散、紹介した結果そうなったのかと」

 

「それでそんなになってるのか……ハードル上がりすぎだ……のだ」

 

 

 ミーシェルはこっそりデビューするつもりだったのだろう。この状況は考えていないように見えた。

 

 つむぎはふとスマホでDreamtubeを開きミーシェルのチャンネルを確認する。すると配信枠には二千人の待機視聴者とコメントが

 

 

『あのアンリミテッドファンジアのトップランカーのミーシェルちゃんがUドリーマーになるんだって!』

『あのかっこいいって噂の!?』

『噂だけで本物を見れるなんて思いもしなかった!』

『とっても個性的って聞いたことあるよ!』

 

 たくさんのコメントが既に期待を寄せてミーシェルを待っていた。

 

 

「すごいねミーちゃん、みんなミーちゃんに期待してるみたいだよ!」

 

「ぐぬぬ……こんなはずじゃなかった……のだ。もっと静かに地味に活動したかったのだ……」

 

 

 思いがけない展開に平凡に暮らしたいアニメの主人公のような台詞を吐くミーシェル。デビューしていきなり数千人が見ているのはたしかにハードルが高いだろう。それは既にあるミーシェルの人望が人を寄り付けるのかもしれない。

 

 ミーシェルは難しそうな顔をしていた。そしてはぁっとため息をつく。

 

 その後、吹っ切ったのか凛々しく顔つきを変えた。

 

 

「まぁよい。腹をくくるのだ! 配信を始めるぞ!」

 

 

 そして配信が本格的に始まった。

 

 

◆ミーの姿をとくと見よ!【天魔竜ミーシェル】

 

 

 玉座の前に立つミーシェルが配信画面には映っていた。

 つむぎたちは配信画面の外でミーシェルの姿を見守っている。

 

 そしてミーシェルはマントを広げ第一声を上げた。

 

 

「シッシッシッ! こうやって貴様らに姿をちゃんと現すのははじめてだな……我が名はミーシェル! 天使のような慈愛と魔族の闇の力そして竜の誇り高き偉大さを交えた誇り高き天魔竜族の末裔なのだ!」

 

 

 恥ずかしがっていたミーシェルは消え、カリスマ性溢れるキャラでミーシェルは視聴者に向けていった。

 

 

 配信のコメントにはものすごい勢いで書き込みがされていく。『これが本物のミーシェルちゃん!』『ミーシェルちゃん! いやミーシェル様!』『ミーシェル様これからあなたに忠誠を捧げます!』

 そういったコメントがたくさん流れていった。

 

 

「これまではアンリミテッドファンタジアトップクラスのギルド、ドラゴメディウムの団長であり、これからはアンリアルドリーマーとしても活動する……のだ。ミーはこれからアンリミテッドファンタジアでの戦いを配信したり、我が友たちと一緒にこれから楽しい日々を過ごしていきたいと思っている。……紹介しよう!我が友つむぎと咲夜だ!」

 

 

 そして画面は切り替わりつむぎと咲夜へと配信画面が変わった。

 

 

「はっ、はじめましてっ。ミーシェルちゃんとはずっと友達で仲良くしています麗白つむぎです」

 

 

 つむぎは少し緊張していた。いきなりこんな大勢の人に見られるのは慣れてなかった。

 

 

 しかしコメントでは「つむぎちゃんだ」「つむぎちゃんと咲夜ちゃんってミーシェル様と友達だったの!?」

 と、意外にも知ってる人がいるらしい。

 

 活動して一年近くなる。Uフェスにも出てもふあにTVにも出て、登録者もそれなりに増えた。

 なので知っている人がいてもおかしくない。

 しかしここまでミーシェルがいきなり人気だと冬のUフェスで言っていたミーシェルがUドリーマーになったらすぐにチャンネル登録者を追い抜くというのはあながち冗談ではないかもしれない。

 

 そして次に咲夜が自己紹介をする。

 

 

「小太刀咲夜……ミーシェルは……まぁミーちゃん? マスコットみたいでかわいい存在だよ」

 

「誰がマスコットだマスコット!」

 

 

 いつもの咲夜のミーシェル弄りが炸裂した。

 それをみてミーシェルは咲夜に近づき文句を言う。

 

 

コメント:ミーちゃん

コメント:ミーちゃん呼びかわいい!

 

 

 コメントではミーちゃんと言うフレーズに反応した。

 

 

「ミーちゃん呼びいいよね! 咲夜ちゃんが始めにつけてわたしもミーちゃんって呼んでるんだ!」

 

「おいつむぎまで! これではミーちゃん呼びが定着してしまうでないか!」

 

 

 ミーシェルはミーちゃん呼びを防ごうとしたがもう遅い。

 

 

コメント:ミーちゃん!

コメント:ミー様!

コメント:ミーちゃん様!

 

 

 コメントではミーミー言う文字列で埋まっていた。もはやミーちゃん呼びは防ごうがなかった。

 

 そのコメント欄を見たミーシェルは半分諦めた顔で言った。

 

 

「ええい仕方ない! ミーちゃんでもなんでも好きに呼ぶがよい!」

 

「認めたねミーちゃん」

 

「貴様にミーちゃん言われるのはなんか腹立つのだ!」

 

 

 元凶である咲夜のミーちゃん呼びは未だに許可していないようだった。

 

 

「まぁよい……これからミーと共にUドリーマー仲間として仲良くしてくれ……」

 

「うん、もちろんだよ! わたしたちとミーちゃんの仲だもん!」

 

 

 少し目をそらしながら言うミーシェルに対しつむぎは笑顔で言った。

 それを見たミーシェルは微笑む。

 

 

「ふっ……友と言うのはやはりいいものだな。それじゃあ次の動画配信を待つがよい……さらばだ!」

 

 

 そして配信は終了する。

 

 

 ◇

 

 

「くっ……疲れた……のだ!」

 

 

 ミーシェルは玉座に緊張が解けたかのように座り込んだ。

 

 

「お疲れミーちゃん」

 

「うむ、ありがとなのだつむぎ」

 

 

 つむぎはドラゴメディウムのメンバーの人が用意してくれた三人分のオレンジジュースをミーシェルに一つ渡した。

 ミーシェルはそれをストローで半分以上一気に飲み干す。

 

 

 つむぎが想像している以上にミーシェルは疲れたのかもしれない。あの大人数の視聴者相手ならしかたないだろう。

 

 つむぎがもしデビューした初配信であんなに見られたらまず緊張しすぎて冬のUフェスのときのように気を失いかねない。

 

 そう思うと自然といつも通りだったミーシェルは凄い。恥ずかしいと言っていたのは嘘だったかのようにミーシェルというキャラを演じ続けていた。ティンクルスターのイルミナの中の人である小春うららが言っていた原作がないなら自分が原作者になればいいを体現し続けていたのだ。

 

 

「ミーちゃんがUドリーマーになったからこれからは一緒にどこへでも遊びにいけるね」

 

「うむ、そうだな。ギルドの方もミーが毎日前線にいなくても安定して活動できる目処がたったからな」

 

 

 ミーシェルはアンリミテッドファンタジアに毎日のようにいた。しかし他のことをしたいと思うようになったのもあるのだろう。

 それで効率化とギルドの運営維持にいろいろ手を回していたみたいだ。

 

 

「これからはとことん貴様らについていくぞ……覚悟はいいな?」

 

「うん!」

 

 

 三人は約束をしこれから三人でいろんな所へ行くことを決めた。

 

 こうしてミーシェルはアンリアルドリーマーとなり新たな風が吹き上がろうとしていた。

 



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映画撮影をしよう

 つむぎと咲夜たちはひそかの秘密結社、ブルローネの拠点にいた。

 

 そこでは定期集会が行われている。定期集会のお知らせに今日はちょっとした大事な話があるからよかったら来てくれたまえと書いてあったため、あまり参加しない咲夜としきも連れて一緒に来ていた。

 

 今は映画を見ているところだ。

 

 タイトルはサメ人間シリーズ『チェーンソータイフーンVSサメ人間』だ。

 意味不明なサメ人間の映画。その続編だ。

 

 

 舞台は巨大な竜巻が猛威を振るっていた。

 

 

「あぁー! 世界遺産マリーアントワネットのフランスパン像が破壊された!」

 

 

 竜巻に複数のチェーンソーが合体したそれはフランスパンの石像を一瞬にして粉々にしてしまった。

 

 

「隊長あれはなんですか!」

 

「あれはチェーンソータイフーンだ!」

 

 

 自衛隊の隊長が部下に説明をする。

 巨大な竜巻にチェーンソー工場のチェーンソーが大量に混ざり融合したそれは大きな被害を出していた。

 

 自衛隊がそれに立ち向かうが太刀打ちできない。

 

 そこに太刀打ちできる唯一の存在がやってきた。

 

 

「あ、あれは!?」

 

 

 それは人間の手足を持ち胴体がサメでできた不思議な生物。数年前不法侵入、器物破損罪で捕まった世間では変質者扱いされた生物。

 

 

「あれは……サメ人間だ!!」

 

「サメー!」

 

 

 サメ人間は片腕を上に上げると巨大化した。

 サメ人間は体を自由自在の大きさに変えることができるのだ。

 

 そしてサメ人間はチェーンソータイフーンに向かってパンチを放った。

 

 

「サメ人間がチェーンソータイフーンと戦っている!?」

 

 

 サメ人間は世間では変質者だった。しかし彼の真の姿は人を守る正義の心を持った正義のヒーローだったのだ!

 

 

「サメェ!」

 

 

 しかしチェーンソータイフーンの猛威は凄まじい。チェーンソータイフーンの攻撃によりサメ人間は倒れてしまう。

 

 

「サメ人間頑張れ! 負けるなサメ人間!」

 

 

 いつしか自衛隊の皆がサメ人間を応援していた。この状況でチェーンソータイフーンに対抗できるのは彼しかいないと皆が悟ったのだ。

 

 

 そしてサメ人間は決意する。

 

 

「サメェ!!」

 

 

 サメ人間は体を極限まで小さくしてチェーンソータイフーンの中心に入った。

 そして巨大な大爆発が起きる。

 

 サメ人間は自らを犠牲にして自爆によりチェーンソータイフーンを打ち倒したのだ。

 チェーンソータイフーンはチェーンソーごと爆発により散り散りとなり消えていった。

 

 

「ありがとうサメ人間! 君はヒーローだ!」

 

 

 こうして平和が訪れサメ人間は自らの命を犠牲にして一躍ヒーローになったのだ。

 

 そしてエンドロールが流れる。

 

 

 ◇

 

 

「やはりサメ人間シリーズ屈指の名作だねVSチェーンソータイフーンは」

 

 

 秘密結社の団長であるひそかは感動して涙を流していた。

 そこまで感動する要素があったかはつむぎには分からなかった。

 

 

「さて、今日は知ってる人もいるかもだけどとある発表があるよ」

 

 

 気分を切り替えたひそかは演説台に立ち話始めた。

 

 

「実は今度映画を作ろうと思うんだ。脚本監督はひそか、映画の出演者、裏方を募集しているよ。もし興味がある人がいたらこの後残ってくれないかい?」

 

 

 それから秘密結社の活動は終わり解散の時間となった。

 つむぎは映画の出演に興味があったため残っていた。

 

 残っていたのは10人にも満たない。

 フードをつけているため誰が誰なのかは今の状況だと分からなかった。

 

 

「よし、じゃあフードを脱いでいいよ」

 

 

 つむぎはひそかの許可をもらうとフードを装備から外した。

 

 

「ふむ、君たちか」

 

 

 ひそかはステージから降りるとこちらをじろじろ見てきた。

 

 残っている人をつむぎは確認する。

 隣に咲夜少し後ろにしきがいた。

 

 

「シナリオはひそかが考えるとして誰か主演に立候補する人はいるかい? その人に合わせてシナリオを作る予定だよ」

 

「はいはーい! ウチが! ウチが主演やるーる!」

 

 

 案の定テンションの高いしきが立候補してきた。彼女は目立つのが好きだ。予想はできていた。

 すると思いがけない人物が声を上げた。

 

 

「ミーも立候補する……のだ」

 

「ミーちゃんいたの!? というかミーちゃんが主演をつとめようとするなんて意外!」

 

 

 立候補してきたのはミーシェルだった。

 どういう経由でブルローネの合言葉を知り仲間入りしたのだろうという疑問があるが、それよりもミーシェルは今まで動画出演すらNGだったのに映画に出演しようと思うとは予想外だった。

 

 

「ミーはやるからには上に立つ……のだ」

 

 

 いろいろ吹っ切れたミーシェルだった。

 しかしミーシェルの正体はひなただ。

 性格的にはしきと似ていて盛り上がることは好きな性格をしている。そのため不思議でもないことだ。

 

 

「ふむ、じゃあミーシェル君、君に主演を頼めるかい?」

 

「えーなんでウチじゃないのー!?」

 

「君を主演にするのはどうしても気が乗らない」

 

「なんで!?」

 

 

 ひそかはしきに対しての扱いが雑だ。それは裏返せばしきにだけは他の人よりも心を開いているからなのかもしれない。

 

 

「まぁ君にはふさわしい役を与えるよ」

 

 

 そう言ってひそかはしきの耳元でなにかを囁いた。するとしきはテンションが上がり元気になった。

 

 

「なにそれやるーる! かっこいいしーウチにピッタリー!」

 

 

 切り替えの速いしきはずいぶんとやる気に道溢れていた。

 しきに配役を伝えたあとひそかはつむぎの方へやって来る。

 

 

「衣装についてだがつむぎ君にデザインをお願いしたい。いいかな?」

 

「わたし!? う、うんわたしでよければいいよ」

 

 

 つむぎは急なことに少し驚いたが承認する。

 

 衣装をデザインするのは好きだし将来の夢のためにも今のうちにいろんな衣装をデザインしてみたいと思っていた。

 

 つむぎは心の中で映画の出演と衣装デザインをどちらも頑張ろうと決心した。

 



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撮影開始

 それから映画は数日後に脚本が完成した。

 撮影にはミーシェルたち演者と主に裏方をつとめる者に別れた。

 つむぎにも演じる役が用意されており台詞を覚える事にした。

 

 そして今は収録の最中だった。

 場所は住宅街。

 しきがメインで撮影の練習をしている所だ。

 しきは空中で浮遊しながら悪そうな笑みをうかべていた。

 

 

「ふはは! リア充は滅べ! ウチより人気なやつは全員滅んでしまえ!」

 

 

 ノリノリで悪役を演じながらしきは無数のドローンを住宅街に落下させて爆発を起こしていた。

 しきの役は人類を滅ぼすアンドロイドだった。

 これはCGではなく実際の住宅街を破壊して行われる。それができるのもここがアンリアルだからだ。

 

 

「カット」

 

 

 しかし残念ながらしきの演じているシーンは監督のひそかによって止められてしまった。

 

 

「えーなんで!? 脚本通り暴れ回ってるだけじゃん! その気持ちを叫んでいるだけじゃん!」

 

「脚本には冷血で残酷なアンドロイドなのだよ。今の君には冷も血も残もないじゃあないか」

 

「なにさーウチ攻撃用のマシィンとか基本作んないのに今回のためにせっかく作ったって言うのにさ!」

 

 

 いつものようにいがみ合いをするしきとひそか。普段攻撃用のマシンを作らないしきだが今回は特別に殺戮型のマシンをたくさん作ったようだ。

 なんだかんだいいつつひそかの期待に応えてあげようとしているのかもしれない。

 

 

「君が台本通りにやったらあまりにも棒読みすぎて自由にやらせたけどまだそっちの方がよかったよ……ちゃんと君の台詞は台本を用意して音声の方は加工しておくよ」

 

 

 頭を抱えるように言うひそか。

 この前に一回収録したがしきの演技は壊滅的だった。そのため自由にアドリブでやらせたようだ。

 しかし冷血で残酷なアンドロイドが人気者やリア充を妬んで人類を滅ぼすなどどう考えてもおかしな話になってしまうので取り止めることとなったようだ。

 

 音声変換などのツールはUnreallyの撮影編集機能を使えばまぁマシにはなるだろう。

 

 

 そんなひそかたちを見つつ、つむぎと咲夜は控えて出番を待っていた。

 つむぎはその合間に撮影で着る衣装のデザインをしていた。

 

 デザインする衣装はミーシェルの衣装に日常シーンで着る衣装などだった。

 

 

「やってるわね」

 

 

 すると一つの声が聞こえてきた。

 振り向くとそこには見慣れた姿があった。

 

 

「ねねこ、どうかしたの?」

 

「あ、あたしが来ちゃ悪いかしら! ちゃんと用があってきたのよ!」

 

 

 咲夜が現れたねねこに尋ねると、ねねこは髪を弄りながら少し怒るような雰囲気で言った。

 するとねねこは竹製のサンドイッチが入ったお弁当箱を取り出す。

 

 

「さ、差し入れよこれ! ノーラちゃんが持ってくようにいったから持ってきてあげたんだからっ!」

 

「ありがとうねねこちゃん!」

 

「ふ、ふん! 別にこれくらいなんてことないわよっ」

 

 

 受け取り感謝するつむぎに対しねねこは顔をそらし頬を赤くする。

 エレオノーラが撮影の差し入れに作ったのだろう。当の本人は店の仕事が忙しくて来れないらしかった。

 

 

 つむぎデザインをするのを一旦やめサンドイッチを手に取った。

 ねねこもつむぎたちのいる場所に座り撮影の見学をした。

 

 

「それにしてもミーシェルちゃんの演技力凄いわね。アンリアルドリーマーになってまだ一ヶ月も経ってないでしょ?」 

 

 

 今はミーシェルの撮影の最中だった。空に浮かびマントを広げ演技をするミーシェル。ミーシェルの演じるキャラは普段のミーシェルとそこまで大きく違ってはいない。

 

 しかし演技力や迫力は完璧なまでに上手く演劇初心者とは思えない演技だった。

 

 

「常にあの状態で映画の演技も上手いなんて素であれなのかしら」

 

「そんなことないよ。ミーちゃんはひなたちゃんだし」

 

「えっひなた先輩がっ!? あたし聞いてないんだけど!?」

 

「あっこれいっちゃダメだったやつかも……」

 

 

 思わず口を滑らしてしまったつむぎ。

 ここにいるのはつむぎと咲夜とねねこの三人だけリアルの面識がある人間だけだからまだ良かった。しかしねねこはミーシェルがひなたであることは知らなかった。

 

 ひなたとねねこであるそまりはリアルで何回か面識があった。そのためねねこもこの事実を知らされて驚いただろう。

 

 それからつむぎはリアルの人間にあまり知られたくなさそうなひなたに今回のことがバレたら怒られるだろうなと内心ひやひやしていた。

 



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天魔竜少女

 それから数週間におよび撮影が行われた。

 つむぎがデザインした衣装も使われておりその衣装が撮影に使われてると思うと嬉しかった。

 たまにねねこやエレオノーラが様子を見に来たりして

 

 そして……

 

 

「さぁ映画が完成したよ。みんなで一緒に見よう」

 

 

 つむぎたちはここ数日編集作業で大忙しだったひそかから連絡を受けブルローネの拠点に集まっていた。

 ひそかはこの日を待っていたかのように元気そうだ。

 

 

 つむぎたちは席に座り映画が始まるのを待っていた。

 

 そしてスクリーンに製作:秘密結社ブルローネという文字が出され映画が開始された。

 

 映画のタイトルは天魔竜少女。ミーシェルのことを主人公にしたタイトルらしいものだった。

 

 

◆劇場版天魔竜少女

 

 

 ある時二人の少女が星空を眺めていた。

 それはつむぎと咲夜だ。

 二人は親友で仲良しだ。

 

 

「あっ! 流れ星だ!」

 

 

 つむぎが流れ星を見つけては咲夜に言う。

 

 

「いや、これこっちに向かってない?」 

 

 

 咲夜はその流れ星にいち早く違和感を気付く。

 その流れ星は隕石のようにつむぎたちのいる場所からそう遠くない場所へと墜落していった。

 

 

「川の方だ行ってみようよ!」

 

 

 つむぎが咲夜の手を引き落ちた流れ星を見に行こうと誘う。いったいそれがなんなのかその真相を確かめるために。

 それが二人の人生を変えることになろうとは知らず。

 

 

「あれはっ……女の子!?」

 

 

 墜落した流れ星の正体。それは一人の女の子でした。すると少女は立ち上がりこちらを見る。

 

 

「君は……?」

 

 

 咲夜が問う。若干咲夜は恐れていた。

 この子が何者なのか。それは彼女の容姿と墜落しても丈夫な体に疑問を抱いていたからだ。

 彼女はギリシャ神話に出てきそうな神聖な衣装を身にまとっており所々人間離れした容姿をしていた。

 

 

「私はミーシェル……ほかは覚えてない」

 

 

 少女ミーシェルはそう言うとぐーっとお腹を鳴らした。

 

 

「お腹……空いた」

 

 

 つむぎたちはそんなミーシェルを自分達の家に連れていきご飯を食べさせてあげることにした。

 

 

「頭に輪っかがあるしもしかして天の使いなのかな?」

 

「いや角が生えてるし悪魔なんじゃ……でもこの尻尾はドラゴン?」

 

 

 美味しそうにシチューを食べてるミーシェルを見ながらつむぎたちは不思議そうに彼女が何者なのか観察した。

 しかしなんの生き物なのかよくわからない。

 

 

「帰る場所わからない……どうしよう」

 

 

 シチューを食べ終えたミーシェルは悲しそうに言った。

 するとつむぎはにっこりと笑顔で言う。

 

 

「ならうちに住みなよミーシェルちゃん!」

 

「いいの……?」

 

「うん、だってわたしたちはもう友達だから!」

 

 

 それからミーシェルはつむぎたちと楽しい日常を過ごすことにした。

 

 服はもう少し普通の衣装を着させ三人はいろんなところへ遊びに行った。

 街の人たちははじめミーシェルを警戒したが彼女の純粋な心に次第にそれも薄れていくのだった。

 

 しかしそんな幸せな日々は長くは続かなかった。

 

 

 突如街の中で爆発がたくさん起き建物が破壊され大勢の人間の命が奪われて行った。

 

 

「ターゲットを確認、補足」

 

 

 逃げる人間を見てそれは体の一部である銃で撃ち殺した。人だったものは悲鳴をあげるよりも前に人ではなくなりあたりは暴走した機械たちが人々を襲いかかっていた。

 

 

 つむぎたちもその被害に逃れることはできなかった。

 

 

「つむぎっ! ミーシェル危ない!」

 

 

 ドローンの銃撃を咲夜は自分の身体を犠牲につむぎたちから防いだ。その代償はもちろん咲夜自身が受け体からは血が出血していった。

 

 

「咲夜ちゃんっ!」

 

 

 つむぎが泣きそうな声で叫ぶ。

 

 

「つむぎ……逃げ……て……」

 

 

 咲夜は最後の力を振り絞り言った。手を伸ばし愛する者たちへ別れをつげるように。

 そして彼女の息は途絶えた。

 

 つむぎたちはそれから逃げるようにその場から離れた。

 

 

「咲夜……どうしたの……?」

 

「咲夜ちゃんは死んじゃったんだよっ……!」

 

「死……?」

 

 

 ミーシェルは首を傾げる。彼女はところどころ常識を理解していなかった。

 

 

「もう咲夜ちゃんとは……おはようって挨拶することも一緒に遊ぶこともこれから先一緒に過ごすことももうできないんだよ……!」

 

 

 つむぎは泣きながら言う。

 ミーシェルはそこで理解する。

 死とはなんなのか。

 

 

「そんなの嫌……咲夜と離ればなれになるなんて……!」

 

 

 そして彼女の体に変化が起きる。

 翼が生えたのだ。

 背中には大きな悪魔の翼が。

 腰には小さな天使の翼が。

 そして服装は軍服を纏い。彼女は本当の姿を取り戻した。

 

 するとつむぎたちを追っていたドローンの数が増え集まってきた。

 このままでは一貫のおわりだ。咲夜の作ってくれた時間さえ無駄になってしまう。

 

 しかしドローンはこちらに攻撃してこようとした瞬間、黒い稲妻に真っ二つにされ爆発した。

 

 

「思い出した……のだ。ミーの本来の使命を」

 

「ミーちゃん?」

 

 

 そしてミーシェルはつむぎを安全な場所に避難させ、自身は空を飛びある場所へと向かっていった。

 

 

 ミーシェルはこの機械の暴走の原因である一体のアンドロイドを見つけた。

 

 

「貴様がこの元凶だな……」

 

「そうです。私はNo.000。私は人類を滅ぼすためにこの暴走を起こしました。あなたこそなにものですか?」

 

 

 そのアンドロイドを演じているのはしきだった。しきは普段の姿に武装をし、翼が装着されていた。武装により目は隠れている。

 しきの声は音声を少し調整してロボットっぽく合成している。棒読みなのをあえてカバーするのにピッタリだった。

 

 

 するとミーシェルはマントを広げた。

 

 

「我が名はミーシェル! この世界の秩序を守る者!」

 

 

 堂々としたそれはUnreallyでのいつものミーシェルそのものだった。

 

 

「この暴走をやめるつもりはないのか」

 

「人類は失敗する。自然を破壊し生態系を破壊する。故に不要な存在と判断しました」

 

 

 冷酷に残酷にしきは言う。

 しかしミーシェルはそれに対抗するように強く言葉を言った。

 

 

「確かに人は失敗する。だがそれだけが全てじゃない。……ミーは人に助けられた。人でないミーを人は優しく迎え入れてくれた。善人もいれば悪人もいる。それは心を持つものの宿命だ」

 

「それが人類を守る理由になると?」

 

「ふん、ミーが戦う理由は人類のためじゃない! 大切な友に、笑顔で幸せに生きてほしいからだ!」

 

「理解不能です。あなたも攻撃対象と認識します」

 

 

 対話は無意味そう両者が判断し戦闘が行われた。

 

 しきはドローンをミーシェルに向かって放ち爆発させる。ミーシェルはそれを華麗に回避し、黒い稲妻を剣の形に変えしきに向かって攻撃していった。

 

 しきはビームサーベルを取り出すとミーシェルと斬り合いの戦いになった。両者空を飛び建物を破壊しながら銃を撃ち魔法を撃ち剣で戦う。

 

 

 そうしたシーンが続きついに決着がつく。

 

 

「終わりだ……シュヴァルトブリッツ!!」

 

 

 ミーシェルが稲妻の大きな槍を作るとそれをしきに向かって貫いた。

 

 

「機能停止……ミッション失敗……」

 

 

 最後に目の武装が壊れたしきは瞳が見えそして爆発した。

 

 

 そして司令塔だったしきが破壊されたことにより他の機械の暴走も収まった。

 

 

「ミーちゃん!」

 

 

 ミーシェルはつむぎのいる場所へと戻っていった。

 

 

「つむぎよ、ミーは役目を終えた。もう行かなくてはならない」

 

「役目って?」

 

「人類を生かすか殺すかの審判だ。ミーはそれで生かし守ることを選択した。貴様ら人間の優しさに触れてな……だがもうここにいる必要はなくなった。ミーは天魔竜界に帰らなくてはならない。またいつか会おう……友人としてな」

 

 

 ミーシェルは別れの言葉を告げると微笑み空へと飛んでいった。

 

 そしてエンドロールが流れる。

 

 

 ◇

 

 

 映画が終わると拍手が巻き起こった。

 

 

「良かった! ウチ目立っててサイコー! かっこよかった! ひそかにしてはやるじゃん!」

 

 

 一番最初に放送が終わりしゃべったのはしきだった。

 しきが思いの外かっこいいのはつむぎも思ったことだ。撮影時はあまりの棒読みさに大丈夫か不安になったが調整でここまで良くなるとは思いもよらなかった。

 

 

「まぁミーとしては及第点……なのだ」

 

 

 ミーシェルはクールに言う。しかし口元はニヤリと笑い満足げだった。

 

 

 つむぎと咲夜も完成された作品にはとても満足していた。多少設定の荒さはあれど友のために戦うミーシェルの姿がかっこよく見入ってしまっていた。

 

 

「よろこんでもらえてなによりだよ」

 

 

 ひそかは演説台に立ちフードを脱いで涙目になりながら嬉しそうに笑った。

 

 

「ひそかはね……ただ君たちと一緒に映画を作りたかったんだ。こんな大がかりなことリアルじゃできないしやってて楽しかった……」

 

「まー良かったじゃんやりたいことが叶ってさ」

 

 

 ひそかの言葉に相づちを打つようにしきが言う。

 ひそかが映画が大好きで自らも映画を作っているのは知っていた。それで実際Unreallyでこうやって映画を作るのはやはり楽しいのかもしれない。

 

 そして涙を拭いたひそかはきりっとした顔になり言う。

 

 

「ああ、いつか映画監督になってハリウッドに負けないものを作ろうじゃあないか」

 

 

 それはひそかの将来の夢の決意表明であった。

 



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ぷちモン新作発表

 学校が始まるより前の午前6時。

 その時間にとあるゲームの新作発表が行われる配信があった。

 

 それはぷちモンダイレクト。

 つむぎが前に実況動画を上げていたゲームぷちっとモンスターの最新作の発表だった。

 

 今作は恐らくUnitchで発売が予定されるだろう新作に期待を寄せてこうやって新作発表をスマホで生で見ようとしていた。

 

 そして今新作発表がされようとしている。

 

 

◆ぷちモンダイレクト│ぷちモン公式

 

 

「あなたの心は何色? アンリアルドリーマーの七色こころです!」

 

「こころちゃん!?」

 

 

 思いがけない人物の登場につむぎは思わず声をあげた。

 

 なぜ関係ないはずのこころがこの配信にいるのか疑問に思った。

 

 

「今回のぷちモンダイレクトはわたしがゲストとして呼ばれました! その理由は今回のぷちモン新作に大きく関わってくるからです! それでは発表しましょう、ぷちモン新作はこちら!」

 

 

 そしてパッケージが表示される。

 タイトルにはぷちっとモンスターUと書かれており。新しい伝説のぷちモンが表示されていた。

 

 

「新作はぷちっとモンスターUです! これまでのぷちモンから新ぷちモンが120種類以上! 過去シリーズのぷちモンからぷちモンバンクを通して持っていくことができます!」

 

 

 そうして三体のぷちモンが表示される。

 いわゆる三属性の御三家だろう。

 かわいらしい見た目をしていた。

 

 

「今作の開発にはわたしが所属している株式会社シンギュリアがシステムサポートをしています! それにより、よりリアルティのあるぷちモンの動きや生態系が生まれて自由度が増えました!」

 

 

 シンギュリアが関わっているということで、こころがここにいる理由が分かった。

 彼女は今のシンギュリアを作り上げた今は亡き少女一式こころの分身的存在のAI。

 彼女をベースにハーツヴィジョンという自律型AIシステムが作り上げられているということをつむぎは後に知った。

 

 そのシンギュリアの代表としてタレント活動もできるこころが登場したのは妥当だろう。

 

 

 しかし次の発言が本当にこころが現れな大きな理由だということに気づく。

 

 

「そしてなんとここからが重大発表です。今作はUnitchだけでなくUnreallyも対応ハードとして決定いたしました!」

 

 

 ババーンと大きく発表されるUnreally対応の文字。それは驚愕的なことだった。

 

 そしてPVがながれる。

 ぷちモンと触れあい冒険をしバトルをする姿がUnitchでは三人称視点、Unreallyでは一人称視点で描かれていた。

 

 

「Unreallyでは実際にぷちモンと触れあうことができてぷちモンの世界そのものに行くことができます。実際にぷちモンの世界に行ってみたいと思ったことはありませんか? Unreallyならそれができちゃうんです! 発売日は6月18日です!それでは是非こちらの世界にお越しください!」

 

 

 そして配信は終了した。

 

 

 ◇

 

 

 学校へいくと教室は一部でぷちモン新作についての話題で盛り上がっていた。それはつむぎも同じ気持ちだった。

 

 ぷちモンの新作がぷちモンと触れあい冒険することに力を入れているという面からして自由度が増すことが間違いない。なによりUnreallyでならそれの期待は上がっても余裕で越えてしまうくらいになんでもできるのだ。

 

 それについて一番話したい相手の方へつむぎは向かっていった。

 

 

「ことねちゃん! 今朝のぷちモンダイレクト見た?」

 

「つむ! もちろん見たよ! まさかVR、アンリアル対応でぷちモンと生で触れあえる日がくるなんて!」

 

「ほんと夢みたいだよね!」

 

 

 ことねはいつもよりテンションが上がっているように見えた。ことねはぷちモンが大好きだった。そしてことねとつむぎの話のきっかけはぷちモンだった。

 なので二人にとってぷちモンはとても大切な存在だ。

 

 

 そしてことねは決意する。

 

 

「うん、決めた! ことUnreally買うよ!」

 

「ほんと!? ならこれでわたしとひなたちゃんさやちゃんことねちゃんの四人で一緒にUnreallyで遊べるね!」

 

 

 つむぎはことねの決心に胸を踊らせた。

 親友がみなUnreallyで一緒にいることができる。

 それがつむぎにはとても嬉しいことだった。

 



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ことねUnreallyデビュー

 数日後、ことねは休みの日にUnreallyを買った。もともと貯金はあったそうですぐ買えたようだ。

 

 

「ことねちゃん今日Unreallyにはじめて来るらしいけど大丈夫かな?」

 

 

 そしてつむぎたちはことねがUnreallyに来る日にある場所で待機していた。

 

 

「ここが初期リスポーン地点だからここで待ってれば来ると思う……」

 

 

 咲夜が冷静に言う。

 そこはつむぎも最初に来た場所、ワンダーランドプラネットの中央区。

 そこはいつも人だかりが出来ており広いUnreallyの中でも人口密度が比較的高かった。

 

 

「つむ」

 

 

 すると聞き慣れた声がした。それはこの世界で聞くのははじめての声であった。

 つむぎは振り向く。

 

 

「ことねちゃん?」

 

 

 一人の女の子がいた緑色の髪に毛先が薄い黄色をした女の子だ。アホ毛が二本ピンと立っている。

 ネームプレートには蒼樹ことと書いてあった。

 

 

「そうだよ。こっちだと蒼樹こと。Unreallyでのことの姿だよ」

 

 

 ことね、もといことはくるりんと一回転してから自分の名前を名乗った。

 

 

「そっか、よろしくねことちゃん」

 

 

 つむぎが笑顔で挨拶をすることもそれににっこり笑う。

 その後ことは咲夜の方を見てそれから回りを見渡した。

 

 

「たしかさやが咲夜でひなは……」

 

「ミーだ」

 

 

 ひなたのUnreallyの姿を探していたことはミーシェルがひなたであることに気がつくと驚いていた。

 

 

「ミーシェル? あのひながあの?」

 

「そ、そうなのだ!」

 

「やっぱり意外すぎて最初は戸惑うよねあはは……」

 

 

 つむぎは案の定といった感じで苦笑いをする。ミーシェルとひなたはあまりにも違いすぎて性格だけみると同一人物だとは思えない。

 

 

「まぁそういうことだからミーちゃんのことはミーちゃんって呼ぶといいよ」

 

「なんで貴様が言うのだ! ミーのことは好きに呼ぶがよい!」

 

 

 咲夜がミーシェルのことを弄るように言う。

 ミーシェルは咲夜に突っ込みをいれてから目をそらしながらもことに対して言った。

 

 

「ふふっ……わかった、咲夜のことはさく、ミーシェルのことはミーって呼ぶよ」

 

 

 そんな二人のやりとりを見てくすりと笑ったことねはいつものようにあだ名をつけて呼ぶ。ことねは基本相手の名前の頭文字を二つとって呼ぶことが多い。

 それも合間ってことねの一人称はことなのかもしれない。

 

 

「ことはぷちモンをやるためにUnreallyを買ったんだよね?」

 

 

 咲夜がことに問う。

 

 

「うん、Unreallyにはもともとつむたちの動画見て興味もあったからね。でもなにをすればいいんだろう?」

 

 

 ことはUnreallyがなにをする場所なのかよくわかってないようだ。

 それは最初の頃のつむぎと一緒だった。

 

 つむぎも最初はなにをする場所か知らずにUnreallyを始めた。それをひなたや咲夜がサポートしてくれて楽しめるようになった。

 

 今度はつむぎがサポートする番だ。

 

 

「そうだねまずは……」

 

 

 と、そこでつむぎはことの服装を見てあることをひらめく。

 

 

「あそこへいってみよう!」

 

 

 ◇

 

 

 つむぎがまず案内したのは洋服屋だった。

 

 

「ことちゃんの衣装ってデフォルト衣装のままだよね今。どうせならおしゃれしようよ!」

 

 

 つむぎはことの衣装がデフォルトのままだったのが気がかりだった。

 

 最初のキャラクリでイラストから3Dを出力すれば自由に服装をはじめの段階で着ることができるが通常のキャラクリでやると衣装は限られ質素なものだった。

 

 そのためつむぎは衣装を買うことをまず提案した。

 

 

「うん、そだね。どうせならつむがコーディネートしてよ」

 

「えっ!? わたしが!?」

 

 

 つむぎはことが言った事に驚く。

 

 

「シッシッシッ……それはいいアイデアなのだ。未来のファッションデザイナーの実力がどんなものかミーも見てみたい」

 

「ちょっとハードルあげないでよミーちゃん!? でもわかったよ! わたしことちゃんの衣装コーディネートしてあげる!」

 

 

 ひなたらしさがあるミーシェルの発言につむぎはちょっと怒るがせっかくの機会だ。

 やってみようとつむぎは思った。

 

 

「えーと……ことちゃんに似合いそうな服は……うーん」

 

 

 つむぎは周りを見渡しなにが似合うか悩んでいた。そうして悩むこと十分ちょっと。

 

 

「これとかどうかな?」

 

 

 つむぎは一つよさげな服を手に取った。

 

 ことはそれを手に取ると一瞬で身に纏った。

 Unreallyはすぐに服の装着切り替えができるため試着室にいく必要がなかった。

 

 その衣装は抹茶をベースにクリーム色がついたワンピースだ。リボンはチョコレート色をしている。

 ことはそれを着ると服をヒラヒラ揺らし全体を確認してからつむぎに対し笑顔を向けた。

 

 

「うん、いい感じだね。こと、これを着ることにするよ」

 

「良かったぁ」

 

 

 つむぎは安堵する。自分の選んだ服が気に入ってもらえて満足だ。ことに似合う色合いの服を探した結果こうなった。

 

 

「それじゃあ次はどこへ行こう?」

 

「アミューズメント施設に行くのはどうなのだ? あそこはいろいろなゲームが揃ってる。現実では出来ないようなものがな」

 

 

 つむぎが次の場所で悩んでいるとミーシェルが笑うように提案をしてきた。

 



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離れ離れになっても

 ミーシェルの提案によりつむぎたちは様々なゲームやスポーツができる娯楽施設に来ていた。

 

 そして現在はその激闘の最中だ。

 場所は室内のテニスコート。二体二でつむぎと咲夜、ミーシェルとことでそれぞれペアになって対戦している。

 しかし普通のテニスとは少し違っていた。

 

 

「はっ!」

 

 

 咲夜が返ってきたテニスボールを跳ね返す。

 

 

「喰らえドラゴニックサーブ!」

 

 

 咲夜が打ってきたボールをミーシェルは必殺技を放つかのようにさけび跳ね返しサーブをしようとする。

 しかしそれは外しミーシェルは上下に一回転した。

 

 

「なぬ!?」

 

 

 勢いがあまっても上下にひっくり返ることは普通は起きない。しかしミーシェル達は無重力の中にいた。

 

 これは無重力テニス。

 無重力の中で壁を使いながら移動をし壁や床に当てたら得点が入る。

 普通のテニスとは違うのは一回バウンドしたら負けな所だ。

 

 そのためつむぎたちはずっと空中にいたまま浮いている。

 

 

「えいっ!」

 

 

 ミーシェルが外したボールはそのまま壁にぶつかる前にことが上手くサーブをし、跳ね返した。

 つむぎはそのボールの方向を見て体をその方向へ動かした。

 

 

「うわあああちょへぶっ!」

 

「つむぎ!?」

 

 

 しかし勢い余ってか動きが止まらずつむぎはボールが来るよりも先に自分が頭に壁をぶつけた。それを見て心配した咲夜はボールを見ておらずそのまま壁にボールはぶつかった。

 ポイントが入る音がした。

 

 30対40と得点は表示されている。

 つむぎたちよりことたちの方がこの点でリード。次ことたちに点が入ればことたちの勝ちだ。

 

 

「えへへ、無重力でやるのって難しいね……」

 

 

 つむぎは笑いながら言う。

 Unreallyでの痛覚はあまり痛くないように調整されているため傷は残らないしちょっと痛いくらいで済んだ。

 

 

「次でことたちが点を入れたら私たちの負け……絶対に同点にするよ」

 

 

 咲夜はやる気のようで真剣な目付きでボールとラケットを握っていた。

 

 

「はっ!」

 

 

 そして咲夜のサーブで試合が再開した。

 

 

「えいっ!」

 

 

 そのサーブをことが跳ね返す。

 

 

「やっ!」

 

 

 それを咲夜が

 

 

「えいっ!」

 

 

 ことが。

 

 

「やっ!」

 

「すごい二人ともずっとパスが続いてる!」

 

「ミー達は蚊帳の外だな」

 

 

 いつの間にか咲夜とことの二人が互いにパスを打ち続ける。そんな状況になっておりつむぎとミーシェルはそれを見守ってる状況となっていた。

 

 最初は慣れない無重力でまともにパスも全員できなかったが二人は慣れたようだ。

 

 

「これで……決めるよ!」

 

 

 ことはサーブを宣言するように言った。

 ことが放ったサーブはなんとボールが緑のエフェクトに包まれ雷のようになり、それは竜の形をしたものへとなった。

 

 そしてそのサーブは咲夜の頬を光の速さでかすめボールはドンと音を立て壁にめり込んだ。

 

 

「あれ……なんか出た」

 

  

 急なに謎の物が出て驚くこと。現実じゃあり得ないアニメのような技が放たれた瞬間だった。

 

 

「ミーより先にドラゴニックサーブを決めるとは……もう貴様に教えることはない」

 

「ミーちゃんはなに視点なの……」

 

 

 一人腕を組み感心しているミーシェルにつむぎは若干あきれるように言う。

 

 ゲームは終了し試合はことたちの勝利だ。無重力が解除され重力は次第にもとに戻った。

 

「こと、Unreallyに来たばかりで結構動けてすごいね」

 

「テニスは中学の頃やってたからね。それが活きたのかな」

 

「それでもそこまで動けるのは難しいよ……つむぎはまともに動けなかったし」

 

「あはは……ごめんね」

 

 

 つむぎは咲夜とことの二人の会話を聞いて苦笑いをしながら謝った。つむぎはなんども体をぶつけ無重力に慣れなかった。

 

 

「疲れたしなにかデザートを食べて一休みしたいな」

 

 

 ことは片腕を伸ばし疲れた体を休ませていた。

 

 

「あっ、それなら!」

 

 

 そこでつむぎはある場所へ行くことを提案した。

 

 

 ◇

 

 

「いらっしゃいませでありんす。おや?つむぎどのそちらの方は?」

 

 

 つむぎたちはつむぎは見慣れた行きつけの場所である喫茶店、雪月花にやってきた。

 店主であるエレオノーラがいつものように笑顔で挨拶をする。

 

 

「ノーラちゃん紹介するね。わたしたちの友達のことちゃんだよ! Unreallyを案内しててここで休憩しようと思ったの」

 

「どうもことだよ。いつもつむたちがお世話になってます」

 

 

 つむぎがことを紹介するように言うとことはペコリとエレオノーラにお辞儀した。

 

 

「なるほどお友だちでありんすか。それでここを訪ねて来てくれたなら嬉しいでありんすよ」

 

 

 そう言った後、エレオノーラはにっこりと笑い四人用の席へと案内してくれる。雪月花は繁盛していて常に一定の数の客が集まっていた。

 

 

「ここはわたしのUドリーマー仲間のエレオノーラちゃんがやってるお店でメニューが豊富なんだよ!」

 

 

 席につくとつむぎがことに紹介するようにことに言った。

 つむぎの隣には咲夜が座っており対面にはことがいた。

 

 

「へぇ……それじゃ抹茶パフェを頼むよ」

 

 

 ことはメニューをいろいろ見てから抹茶パフェを選んだ。ことが抹茶を好きなのはつむぎは知っていた。

 

 それぞれメニューをみて食べたいものを選び注文することにした。

 

 

 

「いろいろ見て回ったけどどうだった?」

 

 

 それから注文品が届きデザートを食べ始めしばらくたった後。つむぎはことに問うように言った。

 

 

「うん、現実と感覚はほとんど変わらない。食べ物も美味しいし、これはぷちもんUが出たら楽しみだよ」

 

 

 ことは笑顔で言う。ことは美味しそうに抹茶パフェを食べていた。それは心から思っていることだろう。

 

 

「こともUドリーマーになって動画配信してみたいとかは思わない? ことならそれなりにいい線いくと思う」

 

 

 咲夜がコーヒーを飲みながら言う。

 たしかに、ことならきっと上手い感じにアンリアルドリーマーとして活動できそうだ。

 

 

「うーん、ことはバンドの活動が忙しいしそこまではできないかな」

 

「それもそうか」

 

 

 ことの答えに咲夜は納得したようだ。助っ人で行く咲夜とは違いことはリアルではバンドのリーダーで部長、いろいろ忙しいはずだ。

 

 

「でもやっぱり、こともUnreallyを買ってよかったと思うよ」

 

 

 するとことは少し寂しげな表情で話始めた。

 

 

「もう来年にはことたちは離ればなれになっちゃうし、リアルで会える機会は減っちゃうでしょ」

 

「たしかに……」

 

 

 つむぎはその時自覚した。

 リアルでちゃんと定期的に会えるのはもう一年もないのだ。

 

 

「でもこの世界ならみんなと会える。それってすごい素敵だなって思ってね」

 

「うむ……」

 

 

 ことの言葉にミーシェルは腕を組みうなずく。

 

 

「そうだね。これからもここでみんなで会えれば寂しくない。えへへ……いつでも私たちは一緒だよ!」

 

 

 つむぎは笑顔で答えた。

 いつまで四人でいれるかは今はまだわからない。

 でもこの日々が長く続きますように。 

 



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ヌシ釣ってみた!

 つむぎはいつものように放課後喫茶雪月花でお茶をしていた、今日はしきとねねこ、ひそかと一緒だった。

 

 つむぎは動画をねねこたちと共有して見ていた。

 

 その動画はアンリアルドリーマーの中でもトップ、Uフォースの一組、もふもふあにまるずの動画だ。

 

 

◆【湖のヌシ!?】巨大魚釣ってみた! │もふもふあにまるず

 

 

「よい子のみんな元気かー! もふもふあにまるずボス、ウルだ!」

 

 

 元気な狼の少女ウルが鋭いギザ歯を見せながら画面に映った。

 

 

「スゥでーすよー……ふぁ……」

 

「シマリやけん。よろしゅうね」

 

 

 うさぎの少女スゥは眠たげにあくびをし、ツッコミ担当のリスの少女シマリが優しく挨拶をする。

 

 

「今日は湖で100キロ越えの大物の魚を釣りに狙いまーすよー」

 

 

 スゥが今回の企画を発表する。三人は小さな船に乗っており辺りはきれいな湖となっていた。

 

 

「なんでもこの湖のヌシらしいな! どんなだけでけぇ魚なのかあたいたのしみだぜっ……じゅるり」

 

「ウルは食べることしか考えとらんと……」

 

 

 呆れるようにウルをみるシマリ。ウルは食べるのが大好きだ。

 

 

「てことで釣り竿を使って魚を釣りまーすよ」

 

「えーめんどくせーよ。そんなん直にもぐってモリで獲ったどーすればいいじゃねぇか」

 

「無人島やないんやからそんな野蛮なことせーへんよ」

 

 

 ウルはぐちぐち言いながら釣竿を持ち、ライフベストを着て釣りを開始することにした。

 

 

「ていうかリズお前もちゃんと釣りしろよ」

 

「わかってるわよ。アシスタントのリズよ。わたしのことはよい子のみんなは知らなくてもいいわ」

 

 

 画面に写る熊のリズ。彼女は企画アシスタント担当で画面には写らないのだが今回は釣りをするに当たって彼女も参加するらしい。

 

 

 そして本格的に釣りが開始されるテロップが表示され開始された。

 

 

「うーん釣れねぇなぁ」

 

「釣りはまーたったりするもんですよぉ……あっ、また釣れた」

 

 

 せっかちなウルに対してのんびりと言うスゥ、しかし彼女は小魚であるがもう何度か釣れている。

 

 

「あっきたけん! これはなんやろ……?」

 

「それはアマゴね。昨日釣れる魚の種類を覚えてきたからだいたいは分かるわ」

 

 

 シマリが釣った魚をリズが解説する。

 企画のためにリズは欠かさず抜かりなくチェックをしている。

 それが裏方に徹する彼女のプライドだ。

 

 

 するといっこうにかからなかったウルの竿になにかがヒットした。

 

 

「おお釣れたぞ! ……ってこれ、ごみじゃねーか!」

 

 

 ウルが釣ったのは空き缶だった。

 するとスゥが拍手をする。

 

 

「すごいでーすねーおおかみさん。自然環境にも気を使ってゴミ釣りをするなんてー」

 

「まぁなあたいだったらこれくらい……ってなるか!! 誰だよ捨てたやつ!」

 

 

 ウルはスゥの言うことにノリツッコミをした。

 ゴミはちゃんと後でゴミ捨て場に捨てましたというテロップが出ていた。

 

 

 そんなこんなでダイジェストで釣りの映像が流れていく。

 小魚がたくさん釣れるスゥ、ゴミばかり釣れるウル。

 そこそこいい感じの魚を釣るシマリとリズの二人。しかし大物は全然釣れない。

 

 二時間経過というテロップが出てくる。

 

 そしてついに大きな動きが出た。

 

 

「これはっ!? すごい大きな獲物よ! わたし一人じゃ持ってかれる!? みんな手伝って!!」

 

 

 リズが驚いた表情で言う。竿は今にも折れそうなくらい曲がり食いついていた。

 

 

「あぁー、撮れ高を一番最初に釣ったのはくまさんでしたねー」

 

「なに上手いこといってんだ! あたいだって……ゴミしか釣ってねぇ!」

 

 

 シマリ、スゥ、ウルの順番で背中を掴んで魚を釣ろうとしていた。

 

 

「どうなってんのこれ……ヌシにしたって重すぎよ! 何キロあるって言うのよ!!」

 

 

 少しずつだがリールを巻いていく。しかし糸がちぎれるのが先かの競争になりそうだ。

 それくらいギリギリの戦いだ。

 

 

「こうなったらあたいの力をみせてやるぜ! うおおおおおおお」

 

 

 そこでウルが本気を出した。目は燃えるように輝かせ力が何倍にもなり一気に魚は姿を現した。

 その魚が中に浮く。

 

 

「なにこれ……!?」

 

 

 リズが目を小さくして恐れるように驚く。

 テロップが現れスローモーションになる。

 

 それは湖のヌシと言うには

 あまりにもバカでかすぎた

 

 その文字の通り、ヌシは船と同じくらいかそれ以上の何メートルもある。100キロじゃ収まりきれないほどの大きさで船は影に支配された。

 

 

 ドガーン!! 

 

 

 そのまま魚により船は真っ二つになり感動するようなBGMが流れる。

 

 テロップの右下には

 

              (終)

            ────

            もふあに

 

 

 というテレビのパロディが表示され終わった。

 

 

 ◇

 

 

「あはは、面白いなぁ。こんなの現実だったら放送事故だよ」

 

 

 つむぎは心の底から笑っていた。もふあにはほんとうに面白い動画をあげてくれる。

 このあとどうなったのか不安になることもあるがアンリアルなので平気で次の回にはけろっとしてる。そんな動画ももふあにには多かった。

 

 

「にゃーん」

 

「ブランちゃん魚見てお腹空いたの? ノーラちゃんにお魚もらおうかしら」

 

 

 ブランと一緒に来ていたねねこはブランの頭を撫でながら注文をしようと迷っていた。

 

 

「これはちょっとあれだけどなんかウチも幻の生物! とか伝説のお宝! とか探す探検やりたいやりたい!」

 

 

 しきはヌシを釣るというもふあにの企画を見てその部分に興味が出たようだ。

 

 

「なら探検してくるかい?」

 

「なにさなにさひそか、いいこと知ってんのー?」

 

「ふふっ実はね面白い噂があるんだよ。幸運を呼ぶ青い鳥といってね……」

 

「と、とりっ!?」

 

 

 興味津々だったしきだが鳥という言葉を聞くとびっくりしたようだ。

 

 しきは鳥が苦手だった。

 

 

「なにやらその鳥を見た者は幸せが訪れるらしい。できればその写真を撮ってきてくれないかい? 生息地はだいたい掴めてるから」

 

「ひそかちゃんは行けないの?」

 

「ひそかは次のいた……動画の取材にいかなくちゃいけなくて忙しいんだ」

 

 

 つむぎの問いに答えるひそか。いたずらといいかけたことについてはまぁスルーしておこう。

 

 

「幸運を呼ぶ青い鳥かぁ。どうせなら動画にしたいかも。いってみようよ二人とも!」

 

 

 つむぎは探索する気満々であった。

 楽しそうな動画の企画ができたとつむぎは思ったからだ。

 

 

「仕方ないわね」

「にゃーん」

 

 

 髪をなびかせてねねこはうなずく。

 

 

「えー鳥を探すのー……まぁ鳥は苦手だけど探検はしたいし、運もほしいしやるーる」

 

 

 迷ったしきだが結果的に行くことに決めた。しかしそれはいつもの高いテンションとは少し違っていた。

 



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探検! 不思議な森の青い鳥

 撮影が開始される。

 

 

◆幸運の青い鳥を探してみた!│麗白つむぎ

 

 

「こんにちはアンリアルドリーマーの麗白つむぎです」

 

「ご機嫌いかがかしら? 水無月ねねこよ」

 

「しゅびっと参上! しきだよー」

 

 

 それぞれが自己紹介をする。

 あまりノリ気でなかったしきだが撮影するとなるといつものテンションに戻り元気な姿で挨拶をしていた。ねねこはブランを肩に乗せている。

 

 

「今日はなんとUnreallyで見るだけで幸せを呼ぶという青い鳥を探しに森までやって来ました! 会えたら二人ともどうする?」

 

「あたしはこれを見たファンのみんなが幸せになってくれれば……とかそんなこと思ってないからっ!」

 

「ウチはどうせならガチャでSSRいっぱい当たる神引きして動画にするーる!」

 

「ふふっ、二人ともちゃんとしたお願い事があっていいね。わたしはとりあえず出会えただけで幸せかなぁ」

 

 

 ねねこたちの願い事はねねこたちらしい回答だった。そんな二人をみてつむぎは思わず微笑む。

 

 

「それじゃあ森の中へレッツゴー!」

 

 

 そしてつむぎたちは森の中へと入って行った。

 

 

「この森は不思議ね……。木も草もあっちの世界にない色をしてるわ。まるでファンタジーの世界みたい」

 

 

 ねねこが少し驚くように言う。ねねこの言う通り森の葉や草は薄い紫色をしており不思議な雰囲気を醸し出していた。

 ここはワンダーランドプラネットにある森なのでこういった不思議な色をしていてもそこまでおかしな話ではないが。

 

 

 今のところお目当ての鳥らしき生物はいない。だがそれなりに先に進むと進展があった。

 

 

「あっ大きなキノコがたくさんある!」

 

 

 そこはキノコがたくさん生えている場所で人よりも大きい巨大なキノコが生えてあった。

 

 

「毒とかないかしら……ブランちゃん間違って食べたりしないでね」

 

「にゃーん」

 

 

 キノコを見て不安に思うねねこ。それを聞いてブランはわかったかのように返事をする。

 

 キノコは食用で見られるキノコと言うよりはカラフルで様々な色をしていた。

 仮にUnreallyで毒があるものを食べても死ぬことはないが危険なことは避けるべきだ。

 

 

「わーいみてみて! これすごい跳ねる!」

 

 

 するとしきはキノコの上に登るとトランポリンのようにジャンプして遊んでいた。

 

 

「危ないわよ!」

 

 

 ねねこが心配するように言う。しかしつむぎもしきを見てて楽しそうだなと思っていた。

 

 ふんふんふん~と鼻歌を歌いながら楽しそうにキノコの上を飛び跳ねるしき。

 

 

「あっ……」

 

 

 しかし思いの外しきは高く飛びキノコから離れてしまった。そのままなにもできず落下していく。

 

 地面にぶつかるより先にドン! となにかにぶつかる音がした。

 

 

「いてて……なんかぶつかった……え?」

 

 

 ぶつかった衝撃で少し飛ばされるしき。

 ぶつかったものの正体を見るとしきは目を見開いた。

 

 

「……」

 

 

 それは人間と同じ大きさのキノコで手と足が生えた人間のような生き物だった。そのキノコは尻餅をつくと頭をさするようにさわっていた。

 その後しきと目が合い。

 

 

「……ッ!!」

 

 

 なにも言わずなぞのキノコ人間は一目散に遠くに逃げていった。

 

 

「なにあれ!?」

 

 

 しきは謎な状況に思わず叫んだ。

 

 

 ◇

 

 

 その後つむぎたちは森の奥へと進んで行った。

 よく見ると森には小動物が多く住んでいる。

 リスがピンク色のドングリを手にして食べていた。色こそ不思議だがここの植物は普通に食べられるらしい。

 

 するとつむぎたちの行く手を阻むようにエメラルド色の大きな川が現れた。

 

 

「ここから先はボートが必要だね」

 

 

 つむぎはそこであるアイテムを取り出す。

 アイテムを具現化させるペン、マテリアライズペンだ。

 つむぎは紙にあるものを描いていく。

 そしてそれは具現化し立体化していった。

 

 

「はいっ、ボートとカヌーを作ったよ! これで先に進めるね!」

 

 

 つむぎが描いたのは川を渡るのに必要なアイテムだった。こういうときマテリアライズペンは一時的に必要なものを呼び出してくれるから便利だ。それにはつむぎの画力もためされるが。

 

 三人はカヌーに乗り込みオールを漕いで川を渡り進んだ。

 

 

「えっさほっさ」

 

 

 オールは二人分しかなくつむぎとしきがオールを漕ぐ。

 

 

「こうやって川を渡ってるとワニが出てきたりしないよね?」

 

「あはは……さすがに森にワニは出てこないよ……たぶん」

 

 

 しきの発言につむぎは苦笑いで返す。

 正直もふあにの巨大魚を見て変なキノコ人間を見た後だとなにが出てきてもおかしくないので内心ちょっとひやひやしていた。

 

 

「よかったぁ。無事に到着できて」

 

 

 しかしそんな不安は大丈夫でつむぎたちは川を渡りきることができた。

 つむぎは安堵する。

 

 だが一人、がっくりとうなだれる姿があった。

 

 

「うぅ……フラグ的に言ったのになんで出てこないのぉワニ。ワニに追いかけられて漕いで逃げる光景を流すって言うウチの考えた理想の撮れ高がぁ」

 

「なに企んでるのよ……」

 

 

 ねねこがしきを見て呆れるような目で髪をいじりながら言う。

 

 

「にゃーん」

 

「あっ、ブランちゃんどうしたの!?」

 

 

 するとブランがねねこの肩から降りて奥へと進んでいった。

 

 つむぎたちはブランの後を追った。

 

 かわいらしいブランの後ろを追っていくつむぎたち。かわいらしいがこのままいなくなっては危ない。

 

 だがブランはしばらくして足を止めた。

 

 

「にゃーん」

 

 

 ブランは一本の木を見上げて鳴いた。

 そこにあったのは……

 

 

「発見したわ青い鳥! お手柄よブランちゃん!」

 

 

 それはお目当ての幸運を呼ぶ青い鳥だった。

 その鳥の種類は鷹らしい鋭い目付きとくちばしを持っていた。美しい青い羽毛が輝きそれは見えかたによっては一部が虹色に光っているように見えた。

 

 ねねこは大手柄のぶらんを抱き上げ撫でる。

 

 つむぎはその鳥の美しさに見とれていた。

 しかし、ここに来た理由を思いだしカメラを取り出す。

 パシャリっと写真を撮る。

 

 

「写真を撮ったよ! これを後でUnitterにあげるからみんなに幸せをおすそわけできるね!」

 

 

 ひそかに言われた願い事とファンのみんなの幸せを祈りつむぎは写真をおさめた。

 

 

 するとシャッターを押した音に反応したのか青い鳥はこちらに視線を向けてきた。

 

 

「えっ!? な、なんかウチのこと睨んでくる……!?」

 

 

 青い鳥が鋭い視線で睨み付けたのはしきに対してだった。しきはガタガタと震えていた。

 無理もない。しきは鳥が苦手なのだ。

 

 

「ホック!」

 

 

 そして青い鳥はなぞの声を発しこちらに向かって飛んできた。

 

 

「またいつものパターンだぁ!! 鳥につつかれてズタボロにウチの精神を病ませて自爆させるんだぁ」

 

 

 しきは手を前にして阻止しようとしていた。

 自爆するのは自分の意思であって鳥は関係ないように思えるが。

 

 鳥は思いきり飛んできてそうして……。

 

 

 パタッ。

 

 しきの腕に乗っかった。

 

 

「へっ?」

 

「ホック」

 

 

 思わぬ状況に戸惑うしき。鳥にいじめられる状況はあれどこうした場面にでくわした事はないようだ。

 

 

「なに……ウチの事いじめないの?」

 

「しきちゃんが鳥にいじめられないなんて!? もしかしてしきちゃんのこと気に入ったのかな?」

 

「よかったじゃないあなたもその鳥をマスコットとして迎えてあげたら?」

 

 

 その鳥はしきのことを気に入ってるように見えた。にゃーんとブランも鳴きながら賛成しているように見えた。

 

 

「……り……」

 

 

 しかししきはガタガタと震えていた。

 

 

「むり……むりいいいいい!」

 

 

 手を振り払い鳥を腕から離す。

 それに驚いた鳥は飛んでいき逃げてしまう。

 しきもそのまま手のひらのジェットを噴射して空に飛んでいく。

 

 

「……ええっと無事鳥を見つけることができました。これを見たあなたに幸せがやってくるといいな。じゃあまたね!」

 

 

 思わぬ事態に戸惑うつむぎだが、撮影していることを忘れずにつむぎは最後の挨拶をして撮影を終了した。

 



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トラウマを克服するために

 つむぎは後日咲夜としきといっしょにハンバーガーショップにいた。

 

 

「ねぇしきちゃんあの日いったいどうしたの? 鳥の事になるとすごい怖がってたけど」

 

 

 つむぎはポテトを手にしながらしきに言う。

 

 

「私もあの動画見たけど虐めてくるどころかはじめてなついてきた鳥なのに、拒絶するってそんなに鳥が怖いの?」

 

 

 咲夜はシェイクを口につけた後言った。

 

 

「うん……ウチが鳥が苦手なのはね昔のトラウマがあるからなんだ」

 

 

 しきはチキンナゲットを手にしながら昔の話を語り始めた。

 

 

「ウチ小さい頃インコを飼っていたんだ。はじめてのペットで可愛がってて。でもあるとき……カゴから出して遊んでいたとき、窓が空いてるのに気が付かなくてペットのインコが飛んでいっちゃったんだ。もちろんインコは見つからないまま。それからウチはウチの不注意のせいでこんなことになったんだと思うようになって……それから不運が続くようになって……Unreallyでは鳥にいじめられて……ウチは鳥に呪われているんだよ。だからウチに鳥をペットにする資格はないんだ」

 

 

 しきは悲しげに喋った。

 しきが鳥にトラウマを持っている理由。それが自分のせいで鳥が逃げ、鳥が自分を恨み呪っていると信じ込み苦手になったようだ。

 

 そんな過去があるならば確かに鳥をペットにするのは抵抗があるだろう。

 

 

 しかしチキンナゲットを食べながら言われると説得力がないように思う。それについては黙っておいた。

 

 

 ◇

 

 

「はぁ……」

 

 

 つむぎと咲夜と別れた後しきは一人で町中を歩いていた。

 

 どうして自分は不幸なんだろう。どうして自分は鳥に嫌われているんだろう。

 

 そう思っていた。

 いつもドライブをしていると鳥が現れてつついて事故に合う。それがなくても雨が降ってどしゃ降りになる。

 

 そんな日が多かった。

 運がいい日は少なくて事故に合わないと奇跡みたいなものでいた。

 

 それでもまわりからは明るく見えるように振る舞っていた。

 

 

 だから心が病むと自爆をして落ち着かせる。それができるUnreallyは良くも悪くもしきに向いていた。

 

 すると景色は曇っていき徐々に雨が降ってきた。

 

 

「雨か……」

 

 

 あぁ、今日も今日で不幸だと心の中で呟く。

 雨がしきの体を蝕むように濡らしていく。

 

 

「カァー! カァー!」

 

 

 まわりにはいつものように鳥たちがあらわられていた。

 

 

「いたっ! やめてよ!?」

 

 

 鳥たちは雨を気にせずしきをつついてきた。

 どうしてそこまで自分を恨んでいるのだろう。

 自分はいちゃだめな存在なのか。

 

 

「いつもこう……なんで……! なんでなの!」

 

 

 しきの心は限界が近づいていた。

 なにもかも無くなればいいのに。

 そう心の中で思っていた。

 

 

「やっぱりウチは呪われてるんだ! こんな世界……爆発してしまえばっ!!」

 

 

 しきの心は自爆態勢となっていた。

 あとはいつものように自爆するように念じるだけ。あと少しですべてリセットされる。

 

 そう思ったが今回はいつもと違った。

 

 

「ホーーーック!!」

 

 

 青い鷹、あの幸運を呼ぶ青い鳥がいきなり現れてしきを助けるように鳥たちに威嚇してきた。

 

 すると鳥たちはその鷹の目付きの怖さに怯えてかどこか遠くへと去ってしまった。

 そして青い鷹はしきを見つめた。

 

 

「ウチを助けたの? どうして!?」

 

 

 なぜこの鳥は自分を助けたのだろう。

 

 

「ホック」

 

 

 鳥はただそうとだけ返事をする。

 目付きは悪いがそんなことどうでもよくなっていた。

 

 

「あんた……ほんとにウチの事が気に入ったってこと?」

 

 

 しきは理解する。この鳥がほんとに自分を気に入ってたことに。

 

 

「ホック」

 

 

 鳥はまた同じように返事をする。

 するとしきは笑う。

 

 

「おかしな鳥……いいよ。ウチがあんたの飼い主になったげる!」

 

 

 しきはトラウマを克服する一歩を歩みだそうとしている。

 ザーザーと降っていた雨もいつの間にか病んでいる。

 

 しきにささやかな幸せが訪れたのだ。

 

 

 ◇

 

 

 つむぎは一つの動画をみた。それはしきの新着動画だ。

 

 

◆ウチのマスコット紹介!ガチャで神引き狙うよ! │零式.しきちゃんねる

 

 

「はーい! 零式ことしきちゃんだぞー! 今日はね今日はねウチのマスコットであるペットを紹介するよー! いでよホック!」

 

 

 しきが自己紹介のあとマスコットの名前を呼び腕を横に伸ばした。すると青い鷹が飛んでくる。

 

 

「ホック!」

 

 

 それはつむぎたちが見た幸運を呼ぶ青い鳥だ。

 青く輝くその鳥はしきの腕に乗っかった。

 

 

「こいつの名前はホック。ウチをいじめる鳥から救ってくれた大事な友達なんだ」

 

 

 しきは嬉しそうに言う。あれから聞いたがしきは青い鳥ことホックに助けられそれからマスコットとして迎い入れたらしい。

 

 そのはじめての動画だ。

 

 

「そんでもってねホックは幸せを呼ぶ鳥なの! だから今日はそれを証明するためにケモ娘でガチャを150連やるーる! きっとSSRいっぱいでるよ!ぐへへ!」

 

 

 そしてしきはスマホを取りだし動画の画面にはスマホの映像が現れた。

 ケモ娘はたくさんのケモノの女の子が出るゲームだ。SRまではケモノままだがSSRからは擬人化した女の子になる。

 

 

「ホック」

 

「あっちょっとどこいくのホック!?」

 

 

 するとホックはどこかへ飛んでいってしまった。ホックは気ままでどこかに行ってはまた知らないうちに返ってくる。

 

 

「まぁいいや。たぶん大丈夫大丈夫。さぁいくよガチャスタート!」

 

 

 しきは10連ガチャを引く。

 しかし結果はおまけのSR一枚だった。

 

 

「ま、まぁ一回目だし? 最初はこんなものだよねー」

 

 

 しきは嫌な予感がしたのかなにか焦っていた。

 しかしそれからもガチャは引いてもSR1枚が続く。

 そして最後の150連までSSRが出ることはなかった。

 

 

「そんな……150連やったのにSSR0枚……天上まで足りないし……お小遣いも全部使ったのに……」

 

 

 しきの目は死んでいた。

 なにもかも絶望している目だった。

 

 

「もういいや……今日は自爆しよう……最後までご視聴ありがとうございました」

 

 

 そのあと胸のコアが光り大爆発が起こる。

 コメントにはこれがほんとの大爆死と書かれてあった。

 そしてこの動画を見るとホックのご利益かガチャの運気が上がると噂になりこの動画はバズった。

 



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修学旅行!

 5月の下旬。つむぎたちはこれから数日間Unreallyにはいけない日々が続くこととなった。

 

 それはリアルの行事が関係してくる。

 

 

「沖縄楽しみだねさやちゃん!」

 

「うん」

 

 

 隣にいるさやに対して笑顔で言うつむぎ。

 つむぎはこの日を楽しみにしていた。

 今日は修学旅行。目的地は沖縄。

 今はバスで空港に向かっていた。

 

 

「ホテルの部屋ウチら四人っしょ。Unreallyはできないしあたしカードゲーム持ってきたよ」

 

「いいね、こともやりたいな」

 

 

 前の席にいるひなたが立ち上がり顔を見せた。

 その隣に座っていることねも返事をする。

 ホテルの部屋割りは好きに決められためつむぎとさや、ひなた、ことねの四人で一緒の部屋にすることとなった。

 

 

 沖縄はつむぎが今まで行ったことのある場所で一番すんでる場所から遠かった。なので飛行機に乗るのも今回がはじめてだ。

 

 

「さやちゃんはなにが楽しみ?」

 

「つむぎと一緒ならどこでも……」

 

 

 さやはつむぎの問いに素直に答えた。

 

 

「そういえばさやはつむと沖縄でずっと同じ班なんだよね」

 

「ベッタリでまるで犬だねぇ」

 

「犬じゃない……」

 

 

 ひなたが冗談で言った言葉にさやはジト目で否定する。二日目は班ごとに別れ別のところを観光するためひなたたちとは別行動だ。

 

 

「沖縄につくまで暇だし、わたしはなんか動画でも見てようかな」

 

 

 そう言ってつむぎはスマホを手に取りいつものようにDreamtubeのアプリを開く。

 すると新着動画に一際目を引かれるサムネがあった。

 

 

「あっ! さやちゃんティンクルスターの番組でレアちゃんがゲストだって!」

 

 

 さやの肩を叩くつむぎ。

 それに反応してさやがつむぎのスマホをみる。

 

 

「神咲レアがバラエティ番組出演? 珍しい……」

 

 

 さやもそれに興味を示したそうだ。

 神咲レアは歌がメインのUフォースの一人。むしろそれ以外の活動はしてないというほど彼女は歌の活動に特化していた。

 その彼女がティンクルスターのバラエティ番組に出演するということは大変貴重なことである。

 

 つむぎはもちろんその動画を再生する。

 

 

◆【ついに黒薔薇の歌姫にインタビュー!?】ティンクルスターのみんなをハッピーに 第○○回 │ティンクル☆スター

 

 

「ティンクルスターのみんなをハッピーに! クルハピ☆はじまりよ! MCはみんな大好きイルミーこと宝城イルミナと」

 

「今宵の時間もボクたちに捧げて星屑ミラ」

 

「ふんわりふわふわ~星屑カペラですぅ!」

 

 

 ティンクルスターの三人がいつものように自己紹介をする。

 

 

「えっと……今日はゲストがいるよ」

 

「誰だか気になりますかぁ? ワクワクですねぇ! では登場してもらいましょう。黒薔薇の歌姫、神咲レアちゃんですぅ!」

 

 

 カペラが紹介をすると画面には濃い紫色の髪をした少女、神咲レアが現れた。

 

 

「どうもこんにちは。神咲レアです。本日はよろしくお願いします」

 

 

 自己紹介をするとペコリとお辞儀をするレア。

 あまり彼女がしゃべる機会は少ないが彼女の口調は基本敬語だった。

 

 

「レアちゃんといえばミラちゃんのお友だちのしずくちゃんが参加してるアニメ、終焉少女ワルキューレの二期OPを歌ってるみたいね!」

 

「うん、ボクも主題歌の『ラグナロク』凄い作品にあってる曲だと思った……かっこよくて大好き」

 

「ありがとうございます。関係者の方にそう言われると嬉しいです」

 

 

 イルミナが話題を振りミラがそれに対して言った。終焉少女ワルキューレはミラの声優である天津しずくが主人公ワルキューレを演じる作品だ。

 最終戦争で多くの人間が犠牲になった後生き残ったワルキューレとエインヘリヤルたちが戦う中二心溢れるアニメだ。

 

 しずくのデビュー作であり大々的なヒットをおさめたアニメで2期も放送された。

 その主題歌を担当したのがレアだ。

 

 

「それではレアちゃんの経歴を見てみましょー」

 

 

 イルミナが言うと画面には神咲レアのこれまでが左に表示された。

 

 

「最初は歌声音声ソフトUTAOPとして最初は動画投稿をしてたんですねぇ」

 

「はい、でもUTAOPとしては全然伸びなかったですね」

 

 

 カペラが言った後レアが答える。

 

 

「それから……作曲した曲をアンリアルドリーマーとして自ら歌ったら一躍有名になったんだよね」

 

「まさか自分の歌がそこまで人気になるなんて思いもよりませんでした」

 

 

 次にミラが言いレアが答えた。

 

 

「それで世界初のアンリアルシンガーソングライターになって音楽レーベル、ノワールツでデビューしたんだから凄いわ!」

 

 

 イルミナがレアを讃えるように言う。

 レアが当初アンリアルドリーマーとして活動するつもりがなかったのは知っていた。

 本来は作曲家志望でUTAOPをやっていたのに自ら歌手になるとは本人は最初思ってなかっただろう。

 だが実際レアの才能は作曲だけでなく歌唱力も抜群で誰しもが惹かれる音楽センスを持っていた。

 

 

「それじゃあ次は質問コーナー! イルミーたちの質問に答えて貰うわよ! まずカペラちゃんから!」

 

 

 そして次のトークテーマに変わる。

 

 

「もぐもぐ、それではそれでは好きな食べ物ってなんですかぁ?」

 

「も……モンブランですかね……」

 

 

 あまりトーク慣れしてないせいか一瞬言葉がつっかえるレア。こうしてプライベートなことを聞くのははじめてだった。

 

 

「次はボク……レアちゃんは好きなアンリアルドリーマーっていたり……するの?」

 

「好き……とはまた違うんですけど気になってる……注目してる子はいますかね」

 

「ふわっ!? 誰ですか誰ですか!?」

 

 

 カペラが食い気味に聞いてきた。

 しかしレアは首を横に振る。

 

 

「それはまだ言えません。ただ……いるとだけ今はいっておきます」

 

 

 レアは正面を向いてカメラにまっすぐと答えた。

 

 それはまるで画面の視聴者に対して言っているようにつむぎは思えた。

 

 

 ◇

 

 

 その後、空港につき飛行機に乗ったつむぎたちは数時間喋ったり飛行機に乗る感覚を味わいながら過ごし沖縄へと到着した。

 その後首里城に行って沖縄の歴史について観光し勉強する体験を少しした後ホテルへとついた。

 

 

「ついたついたー!」

 

 

 どさーっとベッドに倒れ込むひなた。

 

 

「ひなたちゃん来て早々お行儀悪いよ」

 

 

 つむぎはひなたに言った。

 自分の家のようにくつろいでいるひなた。

 つむぎは他の場所に泊まるのは小さい頃ひなたの家以外そんなにないためちょっと遠慮していた。

 

 

「ししっ、いいのいいのこれくらいなんくるないさー」

 

「もう沖縄に染まってる……」

 

 

 もう沖縄に順応したひなたにつむぎは少しだけ感心した。

 

 明日から二日目。これから修学旅行の本番が始まる。

 



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修学旅行二日目

 そしてやってきた修学旅行二日目。

 本格的に沖縄を楽しむ日だ。

 二日目は全クラス合同で班に別れ班ごとに別のコースを体験するのがメインだった。

 

 

「つむっちさやっち! 今日はよろしくねー」

 

「うん、よろしくね! ひびきちゃんかなでちゃん!」

 

 

 班でバスで出発の朝、つむぎはバスに乗る前に一緒の班となったひびきとかなでに挨拶をした。

 ひひぎとかなではことねが作った軽音部ブルーシルのメンバーだ。

 

 つむぎもことね経由でそこそこ話す機会があった。

 

 そしてつむぎ、さや、ひびき、かなでの四人はバスに乗り体験スポットに向けてバスが出発した。

 

 

 ◇

 

 

 つむぎたちが向かった先は陶芸工房だった。

 これからシーサー作りを体験する事となる。

 

 工房には何体かすでにかわいらしいシーサーが置かれてあった。それをお手本にシーサーを作るそうだ。

 

 どうやって作るのかをそこで働いている担当の人に教えてもらい、作業用エプロンを着てシーサー作りがスタートした。

 

 

「んしょ……難しいね。アンリアルだったら絵を描けば簡単に作れるのに現実で立体物作るのは大変だよ」

 

 

 つむぎは粘土のうちの半分を体を支える胴体として形作っていたが。捏ねて思い通りにするのはなかなか難しいことだった。

 

 

「昔はすべて手作りで作ってきたから……昔の人は凄い……」

 

 

 隣にいたさやが先に顔作りに移行していた。

 さやのいう通りここにくるまでに見かけたシーサーなど全部が人間の手で力を込めて作られているのだ。今でもフィギュアなどは粘土を込めて細かく作られているものだってある。

 

 立体物を気軽に作れてしまうUnreallyが異常なのだ。

 

 

「シーサーってなんで沖縄の家とかによくあるのぉ」

 

 

 するとかなでの声が聞こえる。

 隣にいたひびきにシーサーのことについて質問していたようだ。

 

 

「魔除けとかが由来らしいわよ」

 

「へぇじゃあこれ作ればひびっちに効果あるのかな?」

 

「なんでそうなるのよ!?」

 

 

 ひびきがかなでの言ったことに突っ込む。

 するとかなでは作りかけのシーサーの台を持ちながらバリアを張るようにひびきに向けた

 

 

「だってひびっち怒ったとき怖いし、魔除けにならないかなって」

 

「私が鬼や悪魔とでも言いたいのかしら……?」

 

「シーサーはひびっちには効きそうにないや……先に壊されそう」

 

 

 ひびきの怖い目付きにがっくりとするかなで。

 今まさに鬼がいるといった感じだ。

 

 

「あはは……二人とも仲良しだね」

 

「バンド活動のときもあんな感じだから……」

 

 

 苦笑いして二人を見るつむぎ。彼女たちの普段のやり取りはあんな感じなのだろう。

 それはつむぎよりもさやの方が今では理解していた。

 

 

 その後、シーサー作りに集中しそれぞれが自分のシーサーを完成させた。

 

 つむぎは可愛らしいキュートな笑顔のシーサー。

 さやはジト目でどこかさや自身を連想させる顔のシーサー。

 かなではまったりした顔でひびきは強そうでいかつい顔のシーサーだった。

 

 

「ふふっみんなそれぞれ個性的だね。さやちゃんのはさやちゃんっぽいし」

 

「そうかな……?」

 

 

 つむぎの言ったことに首を傾げ不思議を抱くさや。

 本人は特に考えずに作ったようだった。

 

 

 ◇

 

 

 その後近くの場所を観光した後つむぎたちは昼食を取ることになった。

 昼食は沖縄名物ソーキそばだ。

 

 いただきますと言った後つむぎは肉とそばを一緒に少しずつ食べる。

 

 

「美味しいっ。お肉に味が染みててコクがあってわたし結構好きかもっ」

 

 

 つむぎ好み味だった。これが手軽に食べられる沖縄の人はちょっと羨ましいなとつむぎは思った。

 さやも隣でおいしいと呟きながら食べていた。

 

 そんなこんなで食べていると一緒にいたかなでが話しかけてきた。

 

 

「そーいやさ。さやっちってもともとつむっちの友達なんだよね」

 

「うん、いろいろあって友達になってね」

 

「友達じゃない親友……」

 

 

 つむぎがかなでの問いに答えるとさやがボソッと小声で言った。彼女は友達と親友という境界線を完全に分けて考えているらしくつむぎとさやは友達と言われると少し拗ねる傾向がある。

 

 

「さやってばライブハウスで人気なのよ。結構ファンがいるし」

 

 

 器に具をたくさん乗せたそばを食べているひびきが言った。

 

 

「さやっち背はちっちゃいけど歌声かっこよくてギャップあるんだよねー。女の子みんなメロメロだもん」

 

「そうだよね! クールでかっこよくて、でも可愛いところもあって音楽の才能があって素敵だもん! わかるよ!」

 

 

 つむぎはかなでの言ったことにテーブル越しで目を輝かせながら言う。

 

 

「ぐ、ぐいぐい来るわね……ライブハウスに来るさやのファン以上よ」

 

「そりゃわたしはさやちゃんのファン一号だから!」

 

 

 引き気味のひびきに対して胸を張って言うつむぎ。咲夜のファン一号ははじめのチャンネル登録者じゃないので言えないがさやに対しては自分が一番だと言える自信があった。

 

 

「じゃあ今度つむっちもライブハウス来る? そこまで頻繁にはやらないけど今度いくとき教えるよー」

 

「うん!」

 

 

 つむぎは喜んで返事をする。

 さやとしてのライブはもっと見てみたいとつむぎは思った。

 



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修学旅行二日目後編

 お昼ご飯を食べた後つむぎたちはまたバスへ乗り海へと行った。

 

 沖縄といったらやはり海だ。

 そしてつむぎたちの目的は海の中、シュノーケリングをやることが目的だ。

 

 シュノーケリングはダイビングほど深くは潜らないが最新の注意が必要だ。事故に合わないよう講習を受けボートに乗った。

 

 

 魚が見れるスポットに来るとボートは止まった。

 そしてウェットスーツとシュノーケルをつけたつむぎたちは海へと入っていく。

 

 

「つべちゃっ!」

 

 

 海の中に入った瞬間。プールに入るような冷たさが襲ってくる。

 まだ今年はプールの授業はない。その久しぶりの冷たさにつむぎは驚いた。

 続くようにさやが海に入ってくる。

 

 つむぎは次第に海水の冷たさにはなれ、海の中を潜った。

 

 するとそこには綺麗な景色が広がっていた。

 美しい色の珊瑚礁に色とりどりの魚が群がっている。その光景に一目惚れしそうだ。

 

 

 つむぎは一度息継ぎのため顔を海面から出す。

 さやも同じタイミングで顔を海から出していた。

 

 

「海の中、思った以上に綺麗だね!」

 

「うん」

 

「ウミガメとかに会えたらいいなぁ」

 

「私も……見たいかな」

 

 

 つむぎたちが楽しんでる中、ひびきとかなでは

 

 

「は、離さないでよひびっち」

 

 

 かなではひびきの手を必死でつかみ顔を海面に上げたまま浮いていた。

 

 

「あんた泳げないのになんでシュノーケリング選んだのよ」

 

「ごぼっぼごぼっぼごぼごぼごぼ!」

 

「海に出て言いなさい!」

 

 

 呆れるひびきに対し海中に潜ったひびきはそのまま会話をしようとしていた。

 

 

 それからつむぎとさやはまた一緒に海に潜る。

 見れる魚は色とりどりで同じ種類の魚が群れのようにしてやってくる。

 

 観光客になれているのかこちらが泳ぐとそっちについてきた。まるで自分が群れのリーダーだ。

 

 そんな感じで魚を見ていると……

 

 

 なんと奥にはウミガメがいた。

 つむぎはこのチャンスを逃すわけにはいかない。そう思い泳いでいく。

 

 

「ふにゃっ!?」

 

 

 だがしかしつむぎの視界は突然何者かによって暗くなり奪われていった。

 それは星形の生物。ヒトデだ。

 つむぎはいきなりのことに状況をよくわからず混乱した。

 

 

「つむぎ!?」

 

 

 さやがつむぎのことを呼ぶと急いでヒトデを引き剥がす。そしてつむぎはさやに肩を押されるように海面に上がっていく。

 

 

「ぶはっ!助かったよ……さやちゃん」

 

 

 つむぎは大きく呼吸をする。先ほどの混乱で呼吸が乱れ息継ぎができなくなりそうになっていた。さやが助けてくれなきゃどうなっていたかわからない。

 

 

「うん、つむぎが無事ならよかった。でも無理しないで……」

 

「あはは……ごめんね」

 

 

 結局ウミガメをちゃんと見ることはできなかったがそれよりも命の方が大事なためつむぎはさやに素直に感謝し謝る。

 

 リアルでの命は有限だ。ちゃんと体を大事にしなくてはいけない。

 

 

 ◇

 

 

 シュノーケリングを体験しホテルに戻ったつむぎたちは部屋でひなたたちにかなでとひびきも混ざりとカードゲームをしたりして遊んでいた。

 カードゲームはさやとひなたが毎回上位争いをしていた。

 つむぎは最下位になることが多かった。

 だが楽しかったので順位は気にしていない。

 

 

 そうしてホテルでも遊びつくし二日目の就寝へとつむぎたちはついた。

 

 

 つむぎはふと目が覚めた。スマホを手に取る。時間は午前3時だ。

 

 一度目が覚めたら少しだけ外の空気を吸いたくなりつむぎはベランダにへと来た。

 

 するとそこにはすでに先着がいた。

 

 

「さやちゃん眠れないの?」

 

「目が覚めた……」

 

「わたしも……えへへ」

 

 

 そこには椅子に座り寝巻きを着たさやがいた。

 つむぎはさやを見ると笑いかけ隣に座る。

 

 二人で外を見る。

 このホテルは海に近く綺麗な夜空と海が一緒に見れた。

 

 

「いいよね……ふとしたときに見る夜の景色って」

 

「うん……旅行先のホテルの外は特別に感じる……自然と落ち着く風景……」

 

 

 カシャ

 

 

 さやが微笑みながら海を見て言うと写真を撮られる音がした。

 

 

「なにしてるの?」

 

 

 つむぎを見て言うさや。つむぎはさやをスマホで撮ったのだ。

 

 

「さやちゃんの綺麗な顔を撮ろうと思ってね。せっかくの旅行だしいろいろ撮っているんだ」

 

 

 嬉しそうにつむぎは言う。

 つむぎは旅行に来ていろいろな風景をスマホに納めていた。

 

 

「この瞬間は一度きりしかない……けれど写真に残せばそのときの思い出が一生残る。だから素敵だよね写真って」

 

 

 つむぎはスマホを胸に抱き言う。

 つむぎはあまり旅行に行ったことがない。

 学校の行事くらいだ。

 だから余計に思い出をつくりたいと思ったのだ。それをずっと覚えていたい。

 

 

 それに対し、さやは微笑む。

 

 

「私はつむぎの思い出の一部になったんだね」

 

「そ、そうかもねっ」

 

 

 つむぎはすこし噛みそうになりながら言う。

 さやとの思い出。それはもちろん大事だ。

 しかし思い出で終わらせたくはない。

 ずっとこれからもほんとうは……

 

 



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かけがえのないもの

 そうして迎えた修学旅行三日目。

 今日で修学旅行も最終日だ。

 

 つむぎたちは最後に水族館に来ていた。

 

 

「水族館自由に行動していいしウチら四人で行きますか」

 

 

 つむぎ、さや、ことねを見てひなたが言う。

 

 水族館では時間内まで自由に行動していいそうだ。つむぎたちは四人で一緒に回ることにした。

 

 

 水槽には様々な魚が泳いでいる。

 シュノーケリングのときに見かけた魚や、綺麗で珍しい魚まで様々な種類がいる。

 

 野外ではペンギンがよちよちあるいてるかわいらしい姿が見られた。

 

 

「水族館なだけあっていろんな魚がいるね。みんな何の魚が好き?」

 

 

 ことねは水槽の魚を見た後につむぎたちの方へ向き質問するように言った。

 

 

「わたしは魚じゃないけどペンギンとイルカかな」

 

「エンゼルフィッシュ」

 

「あたしは大とろかな。サーモンもいいね」

 

「ひな、お寿司のネタは聞いてないよ」

 

 

 冗談を言うひなたを見てつむぎたちは笑う。

 あまり笑わないさやもくすりと笑っていた。

 

 

「水族館じゃないけど前にUnreallyで竜宮城のアトラクションいったっけ。あのときといろんな魚がいて楽しかったなぁ」

 

 

 つむぎはUnreallyに初日に来た時のことを思い出す。

 

 

「あったあった、あのときのつむぎほんと笑えるよねー」

 

「ちょっひなたちゃん!?」

 

 

 あのとき一緒にいたひなたがあの時のことを思い出して笑っていた。

 

 

「なにがあったの?」

 

「いやさつむぎがたむぐぐぐ」

 

 

 さやがひなたに詳細を聞こうとするとつむぎがひなたの口をふさいだ。竜宮城に行ったらタコにあって顔に墨をかけられたことをひなたは言おうとしたのだろう。

 

 それを言われるのは恥ずかしかったのでなんとか誤魔化した。

 

 

 その後お土産を買うとつむぎたちは空港へと向かった。

 

 

 ◇

 

 

 飛行機の中。時刻は午後3時。

 飛行機での旅も終わりを迎えようとしていた。

 

 ことねは読書をしており、ひなたは眠っている。

 

 

「楽しかったね修学旅行」

 

「うん」

 

 

 つむぎはスマホで今日までに撮った写真をアルバムにして別のフォルダにいれる整理をしていた。さやはそのつむぎの話に頷いた。

 

 

「楽しい時間はあっという間。これはリアルもアンリアルも同じだね」

 

「うん……帰ったらUnreallyやりたい」

 

「あはは……そうだよね。もう数日やってないもんね」

 

 

 Unreallyに行くのは毎日の日課だった。

 しかしこの数日それが出来ていないことがさやは不満だったのだろう。

 つむぎもその気持ちは分かった。

 DreamtubeやUnitterで周りが今どうしてるかを見てるのが今できることだ。

 

 UnitterはともかくUドリーマーとしての活動は制限されている。

 

 

「わたしもUnreallyでいっぱい遊びたいなぁ……」

 

 

 つむぎはしみじみ思う。

 Unreallyでの日常もリアルでの日常もかけがえのない大切な存在だと。

 



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いざぷちモンの世界へ! 相棒は君だ!

 時は6月の18日。

 

 それはつむぎやことね。全国の子供が待っていた国民的ゲームの発売日だ。

 

 

 

「ついにぷちもんの世界に入れるね!」

 

「うん、この時をことは待ってたんだ」

 

 

 つむぎはUnreallyでことと自分の家にいた。

 部屋には床に魔方陣が張られている。

 ワープゲートとは違いアンリミテッドファンタジアなどVRゲームの世界に行くときに使う転移陣だ。この転移陣は有料でぷちっとモンスターUのアクセスパスポートを買わないと中に入ることはできない。

 ゲームで言うソフトのことだ。

 

 

 つむぎたちはすでに買っておりあとは行くだけだった。

 

 

「よし、行こう!」

 

 

 ことがそう言うと二人は転移陣へと入りぷちモンの世界へと入って行った。

 

 

 ◇

 

 

 そして目が覚めるとつむぎたちはのどかな田舎の町らしきところにいた。

 

 

「ここがぷちモンの世界……」

 

 

 一見なんの変哲もない普通の田舎の町だ。しかしどこか過去シリーズのぷちモンの最初の町っぽさがうかがえるどこか懐かしい感じのBGMが聞こえてくる。

 

 

『ぷちっとモンスターの世界へようこそ! あなたは今日からぷちモントレーナーです。まず研究所へ行きましょう』

 

 

 アナウンスが聞こえてきた。Unreally用のチュートリアルだろうか。キャラクリなどはなしで今いるアバターで冒険ができるらしい。

 それがUnreallyだ。

 

 

 視界にはマップが表示される。マップにはこの町のについて小さく描かれており。現在地と目的地が表示された。

 つむぎたちはそれに従い研究所に行くことにする。普通のゲームであれば他の家に入ってNPCと会話をしたりするがUnreallyのNPCはシンギュリアのAI技術によって人間に近い会話能力を持っている。

 

 

 迂闊に人の家に入ったら怒られるのではないだろうかと思いつむぎたちは目的地の研究所にへと向かった。

 

 

 目的地の研究所はこの町の中では思いの外大きかった。

 

 すると扉が開く、そこにはぷちモンをもらったばかりのプレイヤーらしきトレーナーが猫のぷちモンと一緒に外へと出てきた。トレーナーは嬉しそうにぷちモンを見ておりぷちモンはトレーナーの後をついていった。

 

 それは子犬が飼い主の後をついてくるようなかわいさであり、現実にはいない容姿のぷちモンが歩いてくるのは実に楽しそうだ。

 

 

 つむぎもはやくぷちモンを手に入れたいと思った。

 

 

「お邪魔しまーす」

 

 

 つむぎたちはその後研究所に入り研究員にぷちモンをもらえないか聞いた。すると今ぷちモントレーナーになる人が多くて手が回らないらしい。

 しかし、研究所で一番偉い博士がどうやら手が空いてたらしく直々に見てくれるようだ。

 

 現在、その博士のいる部屋につむぎたちは来ていた。そこには白衣を来てぐでーとテーブルに寝ていた小学生くらいの女の子がいた。この子もぷちモントレーナーだろうか。

 

 

「ねえ君、博士ってどこにいるか知ってる? 人手が足りないから博士が直々にぷちモンをくれるって聞いたんだけど……」

 

 

 つむぎは女の子に話しかける。まわりを見渡すが小さな女の子以外人物は見当たらなかった。

 

 

「博士ならわたしリー」

 

 

 すると女の子が顔をあげ疲れた表情で言った。

 

 

「えっ!? あなたが博士?」

 

「そうだリー。わたしがここの博士リリィ。体は君たちより小さいけどこれでもちゃんと大人リーよ。研究で洞窟に行ったとき重症を負ったところを幻のぷちモンに命を救われて気づいたらこの姿になったんだリー」

 

 

 立ち上がり自己紹介をするリリィ。

 意外な博士の正体に驚くつむぎとこと。

 見た目だけとはいえまさか小さな女の子が博士だと思いもよらなかった。

 その見た目は白衣はダボダボで片目だけの黄色い眼鏡をしたピンク髪の三つ編みツインテールの少女だ。

 

 

「それにしても今日は大変リー。次から次へとトレーナー志願者が殺到して人手が足らないリー。休みがほしいリー」

 

 

 だるそうにしていた理由はそれが原因のようだ。次から次へと新規プレイヤーが押し寄せてくるのが原因なようだ。それが非現実的でありリアリティのあるアンリアルなのが原因だろう。

 

 実際にはぷちモンのサーバーだけでも複数あるようだ。なのでこの数十倍の数が押し寄せている。さすが人気コンテンツだ。

 

 

「でも仕事には違いないリー。これからぷちモントレーナーになる君たちにぷちモンをあげるリー」

 

「やったぁわたしもこれでぷちモントレーナーになれる!」

 

 

 つむぎは嬉しそうに言う。

 

 

「リリィ博士、ぷちモンバンクって使えるかな?」

 

 

 するとことがなにかを気にしているように言った。ぷちモンバンクは過去シリーズで育てたぷちモンをこっちに持ってこれるシステムだ。

 

 

「なんだ、ぷちモンを育てた経験があるんだリーね。ならこの転送装置でぷちモンバンクに接続できるよ」

 

 

 するとリリィは奥にある機械に目を向けた。

 

 液晶パネルとぷちモンを転送するための転送装置があった。

 

 

「その液晶パネルでぷちモンバンクにIDとパスワードを入れて接続してパネルの説明通りに使うリー。最初は使うにしても一匹だけつれていくのをおすすめするリー」

 

 

 リリィが説明をした。

 

 するとことは液晶パネルを操作する。

 

 

「よし……!」

 

 

 数分後、ことは意を決したかのようにボタンを押す。どうやら転送を開始する最終確認ボタンのようだった。

 

 ひとつのカプセルが転送される。

 それをことは手に取りそして投げた。

 

 

「おいでライルー!」

 

 

 するとカプセルからぷちモンが飛び出してきた。はじめて実際の視覚でみるぷちモンの登場シーンだ。

 

 ことが出したぷちモンはライルー。

 ぷちモンを代表するぷちモンだ。

 

 

「やっぱりことちゃんはライルーを選ぶんだね!」

 

「そだね、ことにとってライルーは小さい頃から育ててきたぷちモンだから」

 

 

 笑顔で言うこと。ライルーはつむぎとことが会話をするきっかけになったぷちモンでありことが一番好きなぷちモンだ。

 

 

「ライルゥ」

 

 

 そのライルーはというと、ことをみるなり鳴き声を発し犬のような息づかいで尻尾を振った。

 

 それを見てライルーをなでること。

 

 

「もうこんなになついてる! きっとことちゃんと直接あえてすごい嬉しいんだね」

 

 

 つむぎは言う。今までのシリーズで育ててきた分それが好感度として蓄積されるのだろう。

 

 はじめてとは思えないほどにライルーはことに甘えてきた。

 

 

「ふふっ。つむはどうするの? ぷちモンバンク使う?」

 

 

 ライルーの顎を撫でながらことは言う。

 つむぎも一応ぷちモンバンクに登録しているため過去シリーズのぷちモンを持ってこれた。 

 

 

「うーん……それもいいけどわたしは一からぷちモンを育てたいかな! リリィ博士、ぷちモン見せて!」

 

 

 つむぎは迷った末に新しいぷちモンを使うことを選んだ。

 

 

「分かったリー。じゃーいでよぷちモンたち!」

 

 

 そう言ってリリィは懐から小さなぷちモンカプセルを三つ取りだし投げた。

 

 

 すると三体のぷちモンがあらわれる。

 

 

「フラピィ」

 

「フロー」

 

「フレルー」

 

 それぞれが鳴き声を出す。

 

 

「火属性のフラピィ、水属性のフローン、草属性のフレールだリー。このうちの一体を選んでリー」

 

 

 リリィが説明をする。

 フラピィはうさぎ。

 フローンはカエル。

 フレールは花の姿をしたぷちモンだ。

 

 

「えーっとどれにしよう……みんなかわいいし」

 

 

 つむぎは迷う。どの子も可愛らしくすぐに選ぶのはむずかしい。

 

 すると一匹の子と目が合う。

 そのぷちモンはじーっとこちらを見てきた。

 そしてつむぎは決意する。

 

 

「じゃあフラピィ、相棒はキミだよ!」

 

 

 つむぎはフラピィを選択した。

 

 

「フラピィ!」

 

 

 言葉が通じたのかフラピィは喜んでこちらに来てピョンピョン跳ねた。

 その姿はとても可愛らしくて思わず抱き締めたくなる。

 

 

「これからよろしくねフラピィ!」

 

 

 こうして二人はぷちモンUで最初のパートナーを選ぶことができた。

 



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はじめてのぷちモンバトル

「それじゃあ二人には戦いかたを覚えてもらうために実際にぷちモンバトルをしてもらうリー」

 

 

 つむぎたちは外に出て広い場所にいた。

 リリィ博士の指導の元、ぷちモンバトルのやりかたを教えてもらえるらしい。

 

 

「戦いかたはシンプル、技を言ってぷちモンに命令を出すんだリー。相手の技が出てそれをかわすよう命じるとタイミング次第で避けてくれるリーよ。あとは励ましの言葉を送ってあげればぷちモンがそれに答えてくれることもあるから頑張ってリー」

 

 

 リリィ博士はざっくりと説明をした。

 それは選択式の従来のぷちモンのやり方ではなくアニメでのぷちモンバトルに近いやり方だ。

 そのリアリティさに本当にここがただのゲームじゃなくぷちモンの世界だと錯覚してしまう。

 

 だがつむぎにはパートナーであるフラピィのステータス画面が見えており、どの技を覚えているかわかっていた。

 フラピィが覚えている技は大声とラブラブファイアーというものだった。

 

 

「がんばってねフラピィ!」

 

「フラピィ!」

 

 

 フラピィにエールをおくるつむぎ。

 こともライルーを撫でた後、ライルーを前へと出した。

 

 

「二人ともいいリー? ではバトルスタート!」

 

 

 リリィが審判の元バトルの合図がなされた。

 

 

「それじゃあさっそく、フラピィ! ラブラブファイアー!」

 

 

 つむぎはフラピィに指示を出す。

 その光景はまさにぷちモンバトルそのものだ。

 

 

「フラピ?」

 

 

 しかし首を傾げるフラピィ。それからなにかをひらめいたようにこちらを向いた。

 

 

「フラピィ!」

 

 

 フラピィはこちらにたいしてウインクをした。

 

 

「かわいいけどそうじゃないよ! あとせめてわたしじゃなくてライルーにやって!」

 

 

 はじめてのバトルでフラピィもやり方がよくわかっていないのだろう。しかし、かわいいので許される。

 

 

「ライルー体当たり!」

 

「ライルッ!」

 

「フラッ!?」

 

 

 すると指示を出したことに従いライルーが体当たりをしてきた。フラピィはそれを避けることができずまともにダメージを受けてしまう。

 

 

「フラピィ!? とりあえず大声をだして!」

 

「フラァァァアアピイィィイ!」

 

 

 体勢を元に戻したフラピィは大声を出した。

 その声はこちらの耳までキンキンするほどだ。

 しかしそれはライルーに聞いているようで、ライルーは身動きができてない。隙ができた。

 

 

「フラピィ、そのままラブラブファイアーをライルーに当てて!」

 

「フラピィ!」

 

 

 フラピィは今度は命令通りに動きジャンプをして空中で手から炎を生み出した。

 

 それはハートの形となりライルーに向かって魔法のように放たれた。

 

 

「ライルー避けて!」

 

「ライッ!」

 

 

 しかしことはライルーが動けるようになってすぐ指示を出しギリギリのところで攻撃をかわした。

 

 

「ライルー、ライジングスマッシュ!」

 

 

 そしてライルーは雷を身に纏い素早い早さで突進してきた。ライルーの代表技ライジングスマッシュだ。

 

 

「フラピィッ!」

 

 

 その早さになす術もなく倒れるフラピィ。

 

 

「フラピィ……」

 

 

 フラピィの目はぐるぐると回っていた。

 

 

「勝負あったリー。この勝負ライルーの勝利リー!」

 

 

 審判のリリィが決着の合図を言う。

 

 

「フラピィ大丈夫!?」

 

 

 倒されたフラピィを心配するつむぎ。こういうものとはいえ自分のぷちモンが実際に倒されるのをみると自分のふがいなさを感じてしまう。

 

 

「研究所に行けば回復装置があるからそれを使うといいリー」

 

「うん、そうするよ」

 

 

 つむぎはリリィに言われるがままに研究所の回復装置を使うことにした。

 

 

 ◇

 

 

 フラピィを回復装置で回復させた後つむぎたちはまた博士と最初にあった部屋に戻ってきた。

 

 

「最後にこれ、ぷちモン図鑑とぷちモンカプセルリー」

 

 

 旅立つ前に博士は図鑑とぷちモンを手に入れるのに使うぷちモンカプセルを授けた。

 

 

「これでたくさんのぷちモンを見て手に入れて言ってほしいリー。そしてぷちモンのよさをもっと知ってリー」

 

 

 笑顔で微笑むリリィ。

 

 

「うん、わたしぷちモン好きとしてトレーナーとして頑張るよ!」

 

「ことも。ありがと博士」

 

 

 二人はそのアイテムを手に取るとお礼をし研究所を後にした。

 



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ぷちモンゲットだよ!

 博士に別れをつげ次の町に向かうつむぎとこと。町の外へ出たつむぎたちは辺り一面を見渡した。

 

 そこは広大な草原が広がっており、自然が豊かだ。野生のぷちモンがところどころにいて、住むのに適しているように思えた。

 

 

「オープンワールドみたいにフィールドが広がってて凄いね! ここ全部がぷちモンの世界で行ける場所なんだよ!」

 

 

 つむぎはことに嬉しそうにつげる。

 

 

「そだね。前作もそこそこ凄かったけどこれはその比じゃないや」

 

 

 ことも微笑みながら言う。

 

 

「フラピィ」

 

「ライライルゥ」

 

 

 するとカプセルに入れずに一緒に歩いてきたライルーとフラピィは二匹で会話をするように追いかけ遊んでいた。

 

 

「二匹とももう仲良くなったかな? こうやって遊んでいる姿をみると癒されるね」

 

 

 ことがライルーたちを観察していた。

 するとふとつむぎはあることを思い出す。

 

 

「そう言えばぷちモン図鑑をもらったっけ。どんな感じなのか使ってみよう」

 

 

 つむぎはぷちモン図鑑を取りだしフラピィを図鑑に収めた。

 

 すると図鑑からは音声が聞こえる。

 

 

『フラピィ。ラブうさぎぷちモン。片耳がハートの形をしているのが特徴的なぷちモン。基本気ままで自己中心的だが気に入った相手にはとてもなつく』

 

 

「へぇこんな風にぷちモンの特徴を教えてくれるんだね。体重や身長、生息地域も書いてある」

 

「ゲームと一緒だね」

 

 

 とくに前作までと変わった仕様はなかったが使い方はなんとなくわかった。

 

 

「フラピィ~」

 

 

 ライルーを追い回すフラピィ。その姿は楽しそうで可愛い。

 すると一匹の蝶のぷちモンが横を通りすぎていった。

 

 

「フラピ?」

 

 

 フラピィはそれをみると興味が蝶のぷちモンへと代わり次第にそちらの方へ足を運んでいた。

 

 

「フラピィ~」

 

「あっフラピィ、こっちに戻ってきて!」

 

 

 つむぎは何処かへいかないようにフラピィに指示を出す。

 

 

「フラピィ!」

 

 

 フラピィはおとなしくこちらに戻ってくるように足を向いた。よかった、ちゃんと言うことは聞いてくれるようだ。

 

 

「フラッ!?」

 

「フラピィ!?」

 

 

 だがフラピィは突然なにもないところで転び倒れた。

 

 

「なにもないところで倒れるなんて……ひながいたら飼い主に似たのかなって言ってきそうだね」

 

「あはは……たしかに言いそう」

 

 

 つむぎはことの言うことに納得する。

 つむぎはなにもないところで転んでいる印象はないがひなたならそういじってきそうだ。

 

 

「フラピィ……」

 

「大丈夫フラピィ?」

 

 

 つむぎは戻ってきて落ち込んでいるフラピィの頭を撫でてあげた。とても柔らかくもふもふだ。

 

 

「フラピィ!」

 

 

 撫でていると次第にフラピィは元気を取り戻し嬉しそうに鳴いた。

 

 

「よーしまずは次の町に行く前に一匹くらいぷちモンをゲットしよう!」

 

 

 そう言ってつむぎは意気込み目的を決める。

 

 

 ぷちモンをゲットして仲間にするのはこのゲームの基本だ。そうして図鑑を埋めていきコンプリートさせるぷちモンコレクターもいるくらいだ。

 

 そうしてつむぎたちは仲間にするぷちモンを探しに歩き出した。

 

 

 ◇

 

 

「どこかにぷちモンいないかな?」

 

 

 つむぎたちは森の中へと入っていった。

 ここならもっと多くのぷちモンに会えると思ったからだ。

 

 しかし思ったよりぷちモンはいないように見えた。どこかに隠れているのだろうか。

 

 

 ガサッと音がした。

 

 

「あっ! ぷちモンだ!」

 

「アッポム!」

 

 そこには一匹のぷちモンがいた。

 ピンクのリンゴの形をしたぷちモンだ。

 

 

「ぷちモン図鑑でどんなぷちモンか見てみるよ」

 

 

 するとことがリンゴのぷちモンを図鑑に撮り音声が流れる。

 

 

『アッポム。リンゴ爆弾ぷちモン。自らが爆弾を持っているため体を張った攻撃をし、時には生き残るために考えて戦う』

 

 

「爆弾なんだね。なんかリンゴに爆弾って面白そう! わたしこの子ゲットしてみるよ!」

 

 

 つむぎはアッポムを気に入ったためゲットすることを決めた。

 

 

「アッポアッポム!」

 

 

 するとひょこんとアッポムはこちらに向かってきて戦う態勢をとっていた。

 

 

「あっちもやる気だね。じゃあがんばっていってきてフラピィ!」

 

「フラピィ!」

 

 

 外に出したままつれてきたフラピィに戦うように命じる。フラピィもやる気になっていて元気に返事をしてくれた。

 

 

「フラピィ、ラブラブファイアー!」

 

 

 つむぎはまず先制攻撃としてフラピィにラブラブファイアーを放つよう命じた。

 

 そこでフラピィからハートの炎が放たれる。

 

 

「アッポアッポ」

 

 

 するとアッポムは高速で横回転していき直に攻撃を受けてきた。そしてラブラブファイアーは打ち消される。

 

 

「高速回転で無効果した!?」

 

「いや、ダメージは受けてるみたいだよ。でもこのアッポム結構賢いね」

 

 

 アッポムの体は少し焦げていた。

 ダメージ自体は普通に受けるより軽減されているようだが相手は恐らく草属性。火属性のフラピィの攻撃は抜群だ。

 

 

「アッポム!」

 

 

 そこからアッポムは止まらずにまた高速回転をしていき突進するように向かってきた。

 

 

「フラピィ避けて!」

 

「フラッ!」

 

 

 指示を出すとフラピィはタイミングよく攻撃をかわしてくれた。どうやら回避に成功したようだ。

 

 

「フラピィ大声!」

 

「フラァァァアアピイィィイ!」

 

 

 そのままフラピィは大声を出す。

 その声にアッポムは動きを止める。

 

 

「アッポ、アッポム!」

 

 

 だがアッポムは声に臆することなくころりと回っていきフラピィに近づいた。

 そして……

 

 

 ドカーン!

 

 

「フラピィ!?」

 

 

 アッポムは自爆し爆風が巻き起こる。

 つむぎは心配してフラピィのことを呼んだ。

 爆風が収まり次第に視界は見えてくる。

 

 

「フラ……」

 

「アポ……」

 

 

 両者はお互い立っていた。しかし、立っているのが精一杯で攻撃する力は残っていないようにみえた。

 

 

「よし、今なら!」

 

 

 そこでつむぎはぷちモンカプセルを手に取る。

 そしてそれをアッポムに投げた。

 瀕死の今ならゲットできる可能性が高い。

 カプセルはアッポムに命中してアッポムはその中に入る。

 

 

 カプセルは揺れる。この揺れがおさまり止まればゲット完了だ。

 

 どうなるかはこの瞬間にかかっている。

 

 揺れるのが一回、二回、三回……そして

 

 

 ピコン!

 

 

 カプセルは揺れが止まった。

 

 

「やったゲットだ!」

 

 

 つむぎは投げたぷちモンカプセルを取りに行く。

 

 

「出てきてアッポム!」

 

「アッポム!」

 

 

 アッポムは返事よく出てきてくれた。

 そしてアッポムはつむぎを見た。

 

 

「アッポムこれから一緒に冒険してくれる?」

 

「アッポム!」

 

 

 アッポムはつむぎの質問に嬉しそうに答えてくれた。

 

 

「ありがとう! それじゃあ戦いお疲れさま二匹とも。回復スプレーで回復してあげるね」

 

 

 つむぎは回復用のスプレーを手に取り、それを傷ついた二匹にかけてあげることにした。

 二匹は気持ち良さそうにスプレーを受ける。

 

 その様子を見てつむぎは微笑ましそうに見る。

 

 こうしてつむぎの手持ちのぷちモンが増えたのだった。 

 



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新しい生活の一部

 つむぎたちはマップを見ながら次の町へと向かっていた。

 つむぎはフラピィとアッポムをカプセルから出したまま一緒に歩く。本来ぷちモントレーナーはぷちモンをカプセルに入れ行動するのだがここではそれも自由だ。なのでつむぎは一緒に歩くことを選択した。

 

 こともそうしておりことの後ろをライルーがついて来る。

 一番先頭にはフラピィが楽しそうにぴょんぴょんして動いていた。

 はぐれない範囲で楽しそうに遊んでいるようだ。

 

 

「フラピィこっち向いて」

 

「フラピィ?」

 

 

 パシャ

 

 

 つむぎはこちらへ顔を向けたフラピィを写真に撮った。フラピィは不思議そうな顔でこちらを見ている。そのかわいさは癖になる。

 

 

「やっぱり、かわいいなぁ。もちろんアッポムも」

 

「アッポム!」

 

 

 アッポムは返事をするように鳴き笑顔を見せた。するとつむぎはその笑顔も写真にパシャりとおさめる。

 

 

「えへへ、後で咲夜ちゃんに写真送ろ」

 

 

 つむぎはこの二匹を咲夜にも見てほしいと思った。咲夜はぷちモンUを買っていないためこの世界にはこれない。

 後で魅力をたくさん伝え布教しようとつむぎは思っていた。

 

 

「もう少しで森を抜けて町に行けるみたいだよ」

 

 

 ことがマップを見てそう言う。

 たしかにマップではもう少しで森を抜ける表示がされており、抜けた数百メール後に次の町の表示が出ていた。

 

 

「よーし、じゃ次の町までれっ……ぎゃふっ!?」

 

 

 意気込みを言おうとするつむぎの言葉はそこで途絶えた。

 

 つむぎは突然一メートルの穴に落下したのだ。

 

 

「大丈夫つむ!?」

 

「いたた……穴なんてなかったのになんなのいったい……」

 

 

 尻餅をついたつむぎは起き上がるとことの手を借りて地上へと上がった。

 

 すると突然上空から声が聞こえる。

 

 

「なんなのと言われたら」

 

「答えてあげようじゃあないか」

 

「誰!? ……ってこの声……」

 

 

 上空には謎のロボットが浮上していた。つむぎはそれを見て叫ぶがその声に聞き覚えがあった。

 

 そしてロボットは地面に着地する。

 

 

「ウチたちは!」

 

「いたずら大好きブルローネ団!」

 

「いや違うよシキチャンサイバーカッコイイ団だよ」

 

「なんだいそのださださネーミング」

 

「しきちゃんひそかちゃん!」

 

 

 ロボットから顔は見えないがそれはどう考えてもしきとひそかだった。

 ロボット越しでも聞こえる他愛のない口喧嘩にひそかたちらしさを感じる。

 

 

「つむの知り合い?」

 

「うん、Uドリーマー仲間の」

 

 

 ことに二人のことを苦笑いしながら説明するつむぎ。

 

 

「ところでぷちモンの世界にきてなにしてるの二人とも?」

 

 

 つむぎはひそかたちに質問した。

 

 

「やぁつむぎくん。それとお知り合いさんかな? ひそかたちは悪の組織として活動してるんだ」

 

「悪の組織?」

 

「ぷちモンシリーズには毎回悪の組織がなにかしらいるーるでしょ? だからウチらがそれを真似て組織ごっこしてんのー」

 

 

 ひそかとしきが説明をする。

 

 

「いったい何を……まさかぷちモンを強奪したりいじめたりしてるの!?」

 

「ライライ!!」

 

 

 ことの声は震え、それがライルーにも伝わったのかライルーがひそかたちのロボに威嚇をしてきた。

 

 

「いや単純に来た人を落とし穴に落としたーり」

 

「ぷちモンの催眠術で眠らせて顔に落書きしているのさ」

 

「ただのいたずら!?」

 

 

 拍子抜けすること、つむぎはなんとなくそうなることはわかっていた。ひそかはしょうもないいたずらをすることが好きだ。

 

 しきがそれに乗ってロボットを作ったのだろう。

 

 

「それとは別に出会ったトレーナーに対してマシィンで足止めするんだよ! 食らえイカスミ爆弾!」

 

 

 ロボットは銃を取り出してイカスミらしき黒い液体を発射させた。このままではみんな真っ黒になる。

 

 

「アッポアッポ!」

 

 

 するとアッポムが前に出てイカスミを自ら受けようとした。そしてさっきもみせた大回転をして液体はすべてアッポムの技で飛び散りつむぎたちはイカスミまみれになるのを防いだ。

 

 

「さすがアッポム!」

 

 

 つむぎはアッポムを励ます。

 アッポムは勇敢で賢くて頼りになる存在だ。

 

 

「むむっ……なかなかやるね、ならこれはどうだ! ロケットパンチ!」

 

 

 ひそかは次の行動へと移り変わり右腕をロケットにして発射された。

 

 それはつむぎたちの方へ……来る前に上空へと上がっていった。

 

 そしてドカーンドカーンと打ち上がる。

 それは打ち上げ花火に変わっていた。

 

 

「あれ?ロケットパンチは?」

 

「そんな危ないの作らないなーい」

 

「設計図通り作るよう言ったじゃあないか!」

 

 

 しきとひそかはまた喧嘩をしていた。

 しかし今度の喧嘩は大きくロボットの操作にまで影響が出ている。

 

 

「ちょっ操作! マシィンの操作!」

 

 

 しきが止めるように言うが遅くロボットは木へと倒れた。

 

 

「コケフラーイ!」

 

 

 態勢を崩した木には鳥の巣があったらしく無数の白い鶏のような鳥が飛んでしきたちのロボットを襲ってきた。

 

 

「ちょ……鳥ィ! やめて! やめてぇ!!」

 

 

 しきは怖がり制止するように言ったが遅くロボットはボロボロになりそして爆発した。

 

 しきたちは空中に放り出される。

 

 

「これは凄いね、本当に悪の組織のように空を飛んでいるよ」

 

 

 この体験を楽しそうに言うひそか。

 

 

「えーん、またウチのマシィン壊れたぁ!」

 

 

 悲しみながら言うしき。彼女たちは遠く空の彼方へと吹き飛ばされて一言叫ぶ。

 

 

『アンハッピー!』

 

 

 

「つむの知り合いおかしな人たちだったね」

 

「うん、いつもだいたいあんな感じだよ……あはは」

 

 

 つむぎは苦笑いをすることしかできなかった。

 

 

 ◇

 

 

「やっと町についたぁ!」

 

 

 町の中へと入ったつむぎたち。

 ここまでくるのに結構な時間が掛かったようにみえた。

 

 それはこの世界が広大で隅々まで行けるせいだ。

 

 

「とりあえずぷちモンセンターにいこう! ぷちモンたちのご飯もあげたいし」

 

 

 つむぎはマップ上でぷちモンセンターを探した。みるとぷちモンセンターは町に入ってそこまで遠くないところに存在している。

 

 つむぎたちはそのままぷちモンセンターに行き中へと入った。

 

 

 

 

 ぷちモンセンターに入るとつむぎたちは食堂へと行った。ぷちモンセンターはぷちモンの回復だけでなく、トレーナーなら無料で宿泊食事ができる施設だ。

 

 そのため気軽に利用することができる。

 

「美味しいねこれ。ぷちモンの世界で食べられるフルーツを使ってるのかな」

 

 フラピィたちはぷちモンフードをつむぎたちはぷちモン世界のフルーツを使ったと思われるタルトとジュースを飲んでいた。

 

 

「みたいだね。森にあるフルーツを使ってるみたいだし」

 

 

 ことはジュースを飲みながら言う。

 

 

「これからことちゃんはどうするの?」

 

「どうって?」

 

「定番だといつもジムバッチをもらって進んでいくのが基本だけど……。今作は自由度が増えてぷちモンコンテストやぷちモンレンジャー、ぷちモンアスリートとかいろいろなことをできるみたいだし」

 

 

 今作はUnreallyが関わってあることもありUnreally番版はできることが無限にある。同じことは一瞬として存在しないのだ。

 

 

「やれることは無限大だね。できれば受験が終わった後発売してほしかったけど」

 

「あはは……それは仕方ないね」

 

 

 この世界だけでも無限に遊べてしまう。そう思うと時間はいくらあっても足りない。

 受験に影響がでない程度にやるのが大事だ。

 つむぎもこれからのUnreallyでの活動はそれを考えている。

 

 

 それからことは一息つき言う 。

 

 

「ことはこの世界でぷちモントレーナーとして思う存分とにかく楽しむよ。一緒についてきてくれるよねライルー?」

 

「ライルゥ!」

 

 

 ぷちモンフードを食べてたライルーは嬉しそうに返事をする。

 そのあとことはライルーの頭を撫でる。

 

 つむぎはそれを見てほほえましく思う。

 

 こうしてUnreallyの世界にぷちモントレーナーとしての新しい生活が追加された。

 



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舞台は宇宙へ

 ある日つむぎはしきに呼ばれしきの家の前に来ていた。同じく一緒にいたのは咲夜、ミーシェルだ。

 

 

「それで用事ってなにしきちゃん?」

 

 

 つむぎが言う。

 

 

「ふんふん、実はね実はね見せたいものがあるんだよー」

 

 

 しきはいつもより嬉しそうに明るくテンションが高かった。しきの近くにはホックが側にいる。

 しきは辺りを見渡しある程度の広さを確認するとあるアイテムを取り出した。

  

 

「いでよウチの自信作のマシィン!」

 

 

 しきが出したアイテムは次第に大きくなっていき本来の姿を現す。

 それは家よりも大きなロケットだった。

 

 

「しきちゃん特製宇宙船! これ作るの大変だったんだよー」

 

「ほんとにこれを作ったと言うのか……凄いな」

 

 

 ミーシェルが腕を組み、感心していた。

 その大きさとクオリティを見るに力をかけて作ったのが分かる。

 しきは馬鹿だがこうしたマシンの作成については本当に上手い。

 

 

「ユノもだいぶかかったからねー。あとでユノ稼がないと新しいマシィン作れないよー」

 

「じゃあ売れば……あの二億の指輪」

 

「売らないよ! あれ売るとか怖すぎるし!」

 

 

 咲夜の言うことにツッコミをいれるしき。

 前にUnreallyの開発会社シンギュリアの次期社長一式まなに道案内をしてもらった指輪のことを咲夜は言っていた。

 あれを売ればお金には困らないだろうがせっかくくれたものだから大事にしているのだろう。

 

 

「でさーこれ乗って宇宙を探索しようよ! きっとサイバー凄いものいっぱいあるって!」

 

「あっ! じゃあどうせならその様子を撮影して動画にしない?」

 

 

 つむぎは両手を叩きしきに提案をする。

 

 

「ナイスアイデア! それ絶対動画にしたらバ ズーるよ!」

 

 

 しきもそれに賛同し動画を撮ることとなった。

 

 

◆Unreallyの宇宙を探索してみた! │麗白つむぎ

 

 

「どうもアンリアルドリーマーの麗白つむぎです!」

 

「小太刀咲夜だよ」

 

「しゅびっと参上、しきだよー!」

 

「天魔竜族のミーシェル……なのだ」

 

 

 それぞれが宙に浮いたまま自己紹介をする。

 

 

「えーっとわたしたちは今、無重力の中にいます! なんと舞台は宇宙です!」

 

 

 つむぎが説明する。つむぎたちは既に宇宙船に乗り宇宙へと旅立っていた。

 

 撮影画面にはここからみれる宇宙の様子を映像として流していた。

 

 

「今日はしきちゃんが作った宇宙船で宇宙旅行をするんだ。これから宇宙を巡っていくよ!」

 

「しかもしかも今日はウチら以外にもゲストを呼んであるよーん」

 

「そうなの!? でも他に誰もいないよ?」

 

 

 驚くつむぎ。そんなことは聞かされていない。

 あたりを見渡す。宇宙船にはつむぎと咲夜、ミーシェルにしき、そしてしきのマスコットのホックだけがいるはずだ。

 

 

「今日はガイドにこころちゃんを呼んだよー」

 

「こころちゃん!?」

 

 

 するとモニターが現れそこにこころが映っていた。

 

 

「あなたのこころは何色? 七色こころです! 今日はこのUnreallyの宇宙について解説しようと思うよー」

 

 

 まさかこころが登場するとは思ってもいなかった。相手は世界一のトップアンリアルドリーマー。しかし同時に世界一身近なアンリアルドリーマーだ。

 AIなため不可能ではない。

 

 

「Unreallyの宇宙はまず最初にワンダーランドプラネットを中心に数少数の惑星と星で構成されていました。そこから徐々にAIによるUnreallyの宇宙空間の膨張で自動惑星作成により星が増大していったのです。だから今となっては無数のいろんな惑星がたくさんあるんだよ。一生かけてもすべてみることはできないくらいにね。それと大金があれば自分の惑星を作って所持することもできるんだ。まぁ一億ユノ必要だから個人で持つのは現実的じゃないけどね」

 

 

 Unreallyの惑星のことについて解説するこころ。惑星が買える一億ユノはUnreallyでは大金だ。

 有名どころだともふもふあにまるずがあにまるプラネットという惑星を作っている。

 

 

「ここに惑星二つ分のの指輪を持ってるやつが」

 

「だから売らないよ!」

 

 

 しきをいじるように言う咲夜。

 

 

「まながあげた指輪だね。あの子お金に対しての価値観が曲がってるからまた買ってたし心配しなくてもだよ。その指輪はしきちゃんの好きなように使ってね。売っても別になにも悪いこと起きないから」

 

 

 笑いながら言うこころ。

 他の子にはちゃん付けをするこころだがまなだけは呼び捨てにしていた。

 それはやはり似せた別物とはいえ、一式こころというまなの姉を元に作られたAIだからだろうか。

 

 

「そっか……でもウチ大事にしてるよ! 家に家宝として大切に管理してるし。売るつもりないから」

 

 

 しきは胸を張って言う。指輪を大切にしているのは本当のようだった。

 

 

「それじゃあまわりの惑星を見てよー」

 

 

 こころがそう言うと宇宙船の中の一部が透明化し宇宙がはっきりと見えるようになった。

 

 

「あのエメラルドグリーンにピンクの地形でできた惑星がみんなお馴染みのワンダーランドプラネット。そっちのリアルの地球のような惑星がアースプラネット」

 

 

 こころがいろんな惑星を解説していく。

 

 マカロンの形をしたスイーツプラネット。

 もふもふあにまるずのロゴの形をしたあにまるプラネット。

 つむぎたちが来たことのある惑星もみることができた。

 

 Unreallyの宇宙にはたくさんの惑星があることを再確認する。それらがすべてひとつの世界に繋がっていて存在する。

 オープンワールドにしても規模の大きすぎるゲームだ。

 

 やはりUnreallyはゲームであり限りなく異世界に近いものだ。

 

 

 いろいろな惑星をつむぎたちは見て楽しんでいた。

 

 

「こころちゃんあれは?」

 

 

 しばらく宇宙旅行をしているとつむぎはあるひとつの惑星を見つけた。

 

 

「メロディープラネットだね。音楽に特化した惑星だよ。その惑星にいる住人は音楽が大好きなの」

 

 

 メロディープラネットと言われた場所は比較的中規模の大きさの惑星で音符のような隕石がその惑星のまわりを土星のように回っていた。

 

 

「よし、じゃあそこに着陸するーる!」

 

「目的地が決まったようだね。それじゃわたしの解説はここまで。またね!」

 

 

 役目を終えたこころはモニターからの通信を切り消えた。

 

 しきは宇宙船を操作してメロディープラネットに向かった。

 つむぎたちはそこでメロディープラネットにたどり着くことを待つことにする。

 宇宙船は加速し、メロディープラネットにつくのにそう時間はかからなさそうだ。

 

 

「……あ……どうしよう」

 

 

 するとしきは硬直してこちらを機械のように動き振り向く。

 

 

「加速しすぎて着陸できない……このままじゃ追突するんだけど」

 

『え……? ええぇぇ!?』

 

 

 一斉に驚くつむぎたち。

 

 

「なんで加速を落とさなかったのだ!」

 

「だってだって! 速くつきたかったし!」

 

 

 叫ぶミーシェルにしきはしょんぼりした顔で言う。

 

 

「こころちゃんは……もういないよね」

 

 

 つむぎはモニターをみるがもうこころとの連絡は途絶えた。こころならこの状況をどうにかすることが出来たかもしれないがその望みも絶たれた。

 

 

「だ、大丈夫だって……ほ、ほらアンリアルだから死なないし」

 

「死ななければいいって問題じゃないんだけど……」

 

 

 言い訳をするしきに呆れる咲夜。

 

 

「あばばばば!」

 

 

 つむぎは震えていた。

 カメラでみれる宇宙船は大気圏に突入し、宇宙船は隕石のように熱を放っていた。

 

 そしてドカーン!と宇宙船はメロディープラネットに激しい勢いで追突した。

 



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メロディープラネット

「いてて……」

 

 

 追突したつむぎたちはどこかの広い建物にいた。当然のことながらその建物の天井には穴が空き宇宙船は完全に壊れ消滅していた。

 

 

「Unreallyじゃなかったらこれほんとに死んでたよ……」

 

 

 咲夜が頭をさすりながら言う。痛みは思ったよりなかった。過度な痛みは無効化されるUnreallyのシステム上なものだろう。

 もしほんとうに痛覚があったら生きてても苦痛だ。

 

 

「なにものだ!」

 

 

 すると誰かが怒鳴るように叫んできた。

 どしどしと多くの足音がしていく。 

 それは小さな音符の兵隊らしきものだった。

 

 

「あっ……ごめんなさい! ここに来ようと思ったら宇宙船が墜落しちゃって……」

 

「どんな理由であっても建物を壊し無断でこの城に入ってくるのは重罪だ!」

 

 

 言い返す言葉もない。元はといえば着陸を失敗したしきが悪いのだが。

 

 

「落ち着~きなさい~」

 

「姫様!」

 

 

 すると一人の女性が歌うようにこちらに話しかけてきた。ドレスを着た青髪の女性だ。

 ドレスには♯の印がたくさん描かれている。

 

 

「ラララ~ここは音楽の王国~。良い音楽を奏でるものこそが正しい~。悪人でないというなら~音楽で誠意を見せてください~」

 

 

 この国のお姫様らしき女性が歌いながら言う。

 

 

「状況はよく分からないけど良い音楽を奏でればいいってことかな?」

 

「たぶんそうだね……」

 

 

 つむぎの疑問に咲夜は頷く。

 音楽を愛する惑星らしい判断だ。

 ここは歌も演奏も上手い咲夜がいくのが妥当だろう。

 

 

「はいはーい! じゃあうちがやるーる! ホック相槌頼むよ!」

 

「ホック!」

 

 

 しかし最初に手をあげたのはしきだった。

 しきはホックを腕に乗せると歌い始めた。

 

 

「き↑ら↑きーら↑ひー↑かー↑る~↑」

 

「ホック!」

 

「おー↓そー↓らぁあ↓のほしぃ↓よおお」

 

「ホック!」

 

 

 その音程はあまりにもひどかった。

 

 

 カーン!

 

 

 鐘が一回だけ笑うかのように鳴る。

 

 

「なんで!?」

 

「いやまぁそうでしょ……」

 

 

 自分の歌の音程に自覚のないしきに、咲夜が呆れたように言う。

 

 

「なら次はミーがラップをやるのだ」

 

 

 次にミーシェルがサングラスをかけDJをやるようなポーズをして歌い始めた。

 

 

「ミーの名前はミーシェルだ。

ミーちゃん言うなミーシェルだ。

こうやってやるとあれなのだ!

ラップなんてやらんからわからんのだ!」

 

 

 キーンコーン!

 

 

「じゃあなんでやったの!?」

 

「天魔竜の気まぐれってやつ……なのだ!」

 

 

 キメ顔で言うミーシェル。

 あぁ、そういえばミーシェルはひなたなんだとこのおちゃめなところを見て思い出すつむぎ。

 

 

「つぎは~あなたが~やりなさい~」

 

「えっ? わたしっ!?」

 

 

 姫様がつむぎを指名して言った。

 戸惑うつむぎ。

 これは咲夜がやるべきだ。

 自分ができる音楽なんてない。

 演奏はろくにできたことがない。

 

 歌は……一つだけ得意なのがあった。

 するとつむぎは意を決して言った。

 

 

「えっと……じゃあ歌います」

 

 

 そしてつむぎは一度深呼吸をして呼吸を整えてから歌い始めた。

 

 

「これはっ!? モノクローム……」

 

 

 咲夜がすぐに反応する。

 つむぎが得意な曲。

 それは咲夜が作曲しつむぎが作詞した曲。

 冬のUフェスで歌った曲だった。

 これしか自信をもって歌えるものはない。

 だからつむぎは歌う。

 

 

「…………~♪」

 

 

 そこに咲夜のハモりが加わった。

 つむぎはそれを聞き咲夜の方をみる。

 咲夜もつむぎの方をみていた。

 二人は笑い合い歌った。

 

 

 キンコンカンコンキンコンカンコンキンコンカーン!

 

 

 すると鐘が合格とでも言わんばかりの音色を鳴らした。

 

 姫様も大きな拍手をしていた。

 

 

「素晴らしい歌でした……あなたたちの冤罪を認めましょう。私はシャープ姫、代わりにおもてなしさせてください」

 

 

 シャープ姫となのったお姫様はドレスを掴みお辞儀をした。

 

 それからつむぎたちはお城の中を案内されることとなる。

 



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シャープ姫のお願い

 城を壊し無断で場内に入ったつむぎたちは罪を免れ、食卓へと案内された。

 

 白いシーツが覆い被さった大きなテーブルには様々なお菓子や果物が並んでいる。

 

 

「すごい! 音楽の国ってだけあって音符や楽器の形をした食べ物ばかり!」

 

 

 つむぎが心踊るように言う。

 出されていたお菓子には♪のチョコが刺さったカップケーキに、ピアノの形をしたケーキ、オレンジやリンゴを使ったギター、♪や楽器の形のクッキーなど音楽にまつわる食べ物ばかりだ。

 どれもかわいらしく食べるのがもったいない。

 

 

「どうぞ召し上がってください」

 

 

 つむぎたちが席につくとシャープ姫が言った。

 今気づいたがシャープ姫は先程と違い普通のしゃべり方になっている。

 

 

 つむぎたちはそれぞれ自由に好きなものを食べることにした。

 つむぎはカップケーキを手に取り口に運ぶ。

 

 

「ふわふわでおいしい~」

 

 

 つむぎが手にしたカップケーキは甘くてとても美味しい。エレオノーラが作るデザートに並ぶ美味しさだ。

 流石王国のデザートなだけはある。

 

 他のみんなも美味しそうに食べている。

 するとしきが突然立ち上がった。

 

 

「ラララ~なんだかとても歌いたくなる気分~」

 

「しきちゃんいきなりどうしたの!?」

 

「ミュージカルクッキーを食べたせいですね。私もさきほどまで食べてたのであのようになってました。数分後には元通りに戻るので大丈夫ですよ」

 

 

 困惑するつむぎに説明をするシャープ姫。

 なるほど。だからさきほどまでシャープ姫は歌ってたのか。しきの歌の音程もさきほどまでと違いしっかりしてる。

 ほっとひと安心するつむぎは紅茶を飲む。

 

 

「それでは皆様に一曲、演奏を披露しましょう」

 

 

 すると音符の兵隊たちが楽器をもって現れた。

 バイオリンにトランペットなど手に取りシャープ姫が指揮者となり演奏が始まる。

 

 それはオーケストラのような壮大で美しい曲だ。聞いていて心地がいい。

 小さい音符たちが楽器を演奏している姿も見ていてかわいかった。

 

 

 演奏が終わるとつむぎたちは盛大に拍手をした。

 

 

「うむ、なかなか素晴らしい演奏だった……のだ」

 

 

 ミーシェルが素直に感想を述べる。

 

 

「ありがとうございます。喜んでいただきとてと光栄です」

 

 

 お辞儀をするシャープ姫。

 その気品さを感じる姿はやはり王族だ。

 演奏を終えた音符たちは役目が終わったかのようにその場から去り持ち場へと戻っていく。

 シャープ姫は席に座り紅茶を飲む。

 それからほっと一息ついたあと口を開いた。

 

 

「図々しいかもしれませんが実はお願いがあるのです。皆様、私たち姉妹の喧嘩の仲裁してくれませんか?」

 

 

 それからシャープ姫は語り始める。

 

 

 ◇

 

 

 シャープ姫には一つ下の妹フラット姫がいた。

 そんなある日のことだ。

 フラット姫はシャープ姫の部屋のドアを勢いよく開けた。

 

 

「シャープ姉さん! 今度の音楽祭はヘヴィメタルでいきたいです! ヒャッハー!」

 

 

 彼女は普段とは違った姿をしていた。

 白塗りこそしていないがヘヴィメタルでよくある顔に模様をペイントした姿をしていた。

 服装も姫にあるまじき姿だ。

 

 

「えぇ……一国の姫がメタルなんて万人受けしないし却下よ却下」

 

 

 妹の凶変に驚くシャープ姫だが落ち着いて紅茶を飲む。

 音楽祭とはメロディープラネットで開催される音楽のお祭りだ。それぞれ演奏を披露しお祭り感覚で楽しむ。

 それをみたフラット姫はがっくりとし落ち込んだ顔をした。そして拳を強く握りしめた。

 

 

「姉さんはいつも王国のためにってばかり……私の話はちゃんと聞いてくれない! もう知らない! 私、家出します!」

 

 

 怒るようにバタンと扉を閉めたフラット姫。

 それから彼女は姿を消し本当に家出をしてしまった。

 

 

 ◇

 

 

「ということがあったのです」

 

 

 事情を説明するシャープ姫。

 

 

「つまり音楽性の違いで姉妹喧嘩した……のだな」

 

「そんな音楽性の違いで解散するバンドみたいな言い方しないで」

 

 

 ミーシェルの独自解釈にツッコミをいれる咲夜。意味合いとしてはまぁ間違ってはいないのだろうけど。

 

 

「やっぱり彼女の気持ちを理解してあげるべきだったわ。私たち仲直りをしたいのです。皆様、協力してくれませんか?」

 

 

 真剣な表情でつむぎたちを見るシャープ姫。

 シャープ姫たちはこの世界に住んでいる、言わばNPCだ。

 普通のゲームであればこれはクエストの一つのようなもの。

 だが彼女たちは普通に人間関係があり本当にこの世界に生きているように生活している。

 

 そんな彼女たちを放ってはおけない。

 

 

「もちろん。わたしたちでよければ力を貸すよ!」

 

 

 つむぎは微笑んでシャープ姫に答えた。

 

 

「ありがとうございます! 場所はあらかた分かってます。なので連れてきてください。今の彼女は私の言うことは耳にいれてくれないのです」

 

 

 それからシャープ姫はフラット姫の見た目と場所を教えつむぎたちはシャープ姫のいる場所に向かうことにした。

 

 

 

 



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自由な音楽

 つむぎたちはその後城の外へと出た。

 城の壊れた天井はただ今音符の兵隊たちが修復をしている最中だ。

 

 シャープ姫は城に残りつむぎたちがフラット姫を迎えに戻ってくるのを待っている。

 

 城の外の町へと続く階段はピアノでできている。

 外に出て気づいたが建物や地形は空に浮いており数百メートル下は多い海になっていた。

 空にはカラフルな譜面のように音符が並んでいる。それらがなにかの音楽のメロディーになっているのかはつむぎにはわからない。

 

 

 ピアノの階段を歩いていく。

 

 

「あっ! 踏むと音が鳴るよ!」

 

 

 それは踏むと本物のピアノのように鍵盤が沈みドレミファソラシドと音が鳴っていく。

 聞いているだけで楽しい道だ。

 

 町の中にくるとつむぎたちは本格的にフラット姫を探すこととする。

 

 

「えーっとフラット姫の容姿はこんな感じかー」

 

 

 フラット姫の写真を貰っていたつむぎたちはどんな姿かを確認する。

 それは紫の髪にシャープ姫と瓜二つの見た目をした少女だった。

 

 

「場所は恐らくシャープ姫たちが小さい頃使ってた隠れ家らしいね」

 

 

 咲夜が地図を見て言う。そこはシャープ姫とフラット姫が昔お城から抜け出し使っていたとされる隠れ家。そこで自由に歌って演奏をしたりして遊んでいたようだ。

 

 だが地図を見たとはいえここはあまり馴染みのない場所だ。それに一歩間違ったら下へ落ちるかもしれない。気を付けていきたいところだ。

 

 そこでつむぎたちはこの町の住人に地図の場所を教えてもらうことにした。

 

 

「すみません、この場所に行きたいんですけど生き方ってわかりますか?」

 

 

 つむぎは町の住人らしき人いやタンバリンの形をした住人に行き方を教えてもらう。

 

 

「そこならここから東だよ。でもちょっとあぶないから気を付けてね」

 

「ありがとうございます!」

 

 

 つむぎはお礼を言うと立ち去りその方角へ向かう。

 

 しばらくあるくと橋があった。それは普通の橋ではなく巨大な長いリコーダーだった。

 

 

「あぶないねこれ。落ちたら大変だよ」

 

 

 下は落ちたら空中にあるこの場所からは上がれない海。一歩間違えば危険だ。

 幸いにも小さいリコーダーで手すりのようなものができてるためバランスを崩して落ちるのはそこまで無さそうだが。

 

 

「ウチは空飛べるから平気だけどね。ミーシェルも同じでしょ」

 

「うむ、まぁそうだな。だがこの道を普通に歩むのもまた風情がある」

 

 

 空が飛べるしきは楽だと思ってるらしいがミーシェルはこの橋を渡りたそうだった。

 たしかに危ないがこの世界らしさが体験できてスリリングで面白そうだ。

 

 

「じゃあ普通にここを進もう」

 

 

 つむぎはミーシェルの意見に賛成しリコーダーの橋を渡っていく。

 足場は少し悪くて落ちるか不安だったが手すりを使いながら徐々に歩いていった。

 

 そして次につむぎたちに立ちはだかったのはリズムゲームエリアと書いてある場所だ。

 現在その場所には足場がない。

 

 説明を見るとここを進むにはリズムに合わせて現れた青い足場を踏んでいきましょう。

 

 失敗すると最初からやり直しです。

 というものだった。 

 

 

「なんかリズムゲームっぽいね! 楽しそう」

 

 

 つむぎは嬉しそうに言う。

 それからつむぎたちは足場のない数メートル付近にたつ。

 すると音楽が流れリズムゲームのノーツのようなものが青い足場として現れた。

 

 

 それをつむぎたちは踏んでいく。

 反復横飛びに近いそれは結構運動神経が必要だった。

 

 

「きゃっ!」

 

「あわふっ!」

 

 

 つむぎとしきが足場を踏み外し最初のところへと戻る。海に落ちることはないようでひと安心した。

 しかし咲夜とひなたはすでにこの足場を渡り終えていた。

 

 

「つむぎ大丈夫!?」

 

「うん、大丈夫! まっててね今いくから」

 

 

 心配する咲夜に笑顔をみせるつむぎ。

 失敗したつむぎだがこれ自体は楽しかったためなんの苦もない。

 

 それから何度か挑戦しつむぎたちは無事この足場を渡りきる。

 

 

 渡りきり数百メール後。そこには一件の家があった。

 おそらくこれがシャープ姫たちの隠れ家だ。

 

 トントンとつむぎはドアをノックをする。

 

 するとドアが開く。そこにいたのは紫色の髪をしたシャープ姫そっくりの少女だった。

 

 

「あのフラット姫、ですよね?」

 

「そうですけど……」

 

 

 つむぎが尋ねるとすんなり認めたシャープ姫。しかしその表情はどこか不機嫌そうな顔をしている。 

 

 

「私たちはシャープ姫に頼まれて連れてくるように言われたんだ。心配してるから……帰ってきてあげたらどう?」

 

 

 咲夜が言う。

 だがそれを聞くとフラット姫はそっぽを向いた。

 

 

「帰りません。姉さんは私のことを理解してくれない」

 

 

 フラット姫はまだ拗ねているようだ。

 そこでつむぎは言う。

 

 

「お姉さんも後悔してるみたいだよ。姉妹ならちゃんと話し合って理解してくれるよ。……ここって昔、二人で自由に演奏したり歌を歌うのに使ってたんだよね。そのときの楽しさシャープ姫も覚えてるはずだよ……だからきっと大丈夫」

 

「……」

 

 つむぎは思ったことを言う。

 演奏を聞いたり作詞をすることは咲夜とのやり取りでつむぎは好きだった。それは楽しいし大切な時間だ。

 

 だから二人にもそんな楽しさがずっと残っているとつむぎは思った。

 

 

 するとフラット姫は少しの間の後口を開いた。

 

 

「そこまで言うなら……戻ります」

 

 

 ◇

 

 

 それからフラット姫は城に戻りシャープ姫に再会した。

 

 

「シャープ姉さんごめんなさい。勝手に家を飛び出して……」

 

 

 謝るフラット姫。しかしシャープ姫は首を横に振る。

 

 

「いいえ、私のほうこそごめんなさい。あなたの気持ちを軽はずみに捉えてしまって。あなたにも考えがあってヘビィメタルをやろうって言ってたのに……」

 

 

 シャープ姫は真剣に語り始めた。

 

 

「万人の受ける曲がすべてじゃない。楽しいはいろいろな形がある。そうつむぎさんたちの楽しそうな音楽を聴いて私は昔の自分を思い出しました」

 

 

 シャープ姫はつむぎの方を見て言う。

 

 

「一国の姫、その奏でる音楽は古きよき音楽であるべきだと思っていました。でも違いましたね。音楽は自由であるべきもの、なににも縛られてはいけない。なのでこれからは音楽祭で演奏するジャンルを縛るのをやめます。……好きな曲を歌いみんなに自分だけの音楽を届けましょう」

 

「シャープ姉さん……!」

 

 

 シャープ姫を見てフラット姫は驚いた。

 心境の変化にフラット姫はびっくりしたのだろう。

 

 

 フラット姫はシャープ姫の手を両手で握る。

 

 

「ありがとう! じゃあ私アイドルソングが歌いたいです」

 

「へ? ヘヴィメタルはどうしたのだ?」

 

 

 突然の音楽のジャンル変更にミーシェルが困惑する。

 

 

「あぁもうヘヴィメタルは旬じゃないので! これからはアイドルソングですよ! ティンクルスター最高!」

 

「そういえばこの子はすぐに気分が変わる子でした」

 

 

 ズコーっと思わずずっこけたくなるつむぎたち一同。

 しかしシャープ姫は微笑みフラット姫も和解できて幸せそうだ。

 

 

「では、今から音楽祭をしましょう! みんな自由に好きな音楽を奏でて好きって気持ちをぶつけ合いましょう」

 

 

 シャープ姫がそう言うと音楽祭の準備が始まった。

 

 

 ◇

 

 

 その後音楽祭がはじまる。

 町ではみんながいろいろな曲を演奏しそれを見て楽しむものたち、音楽にまつわった商品を販売する者、パレードのように歌いながら移動する者までいた。

 

 

 フラット姫はというとティンクルスターと同じ衣装を着てティンクルスターの歌を歌っていた。

 

 つむぎたちもその場の雰囲気を楽しんで好きなように歌い演奏する。

 しきのように音痴だったりするものもいるがそんなことは関係ない。

 

 ここは誰もが音楽を愛し自由に楽しむことが許される国へと変わっていった。

 



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咲夜ドッキリ作戦

「ふむ、どうしたものかね」

 

 鹿羽ひそかは喫茶店のカウンターで指をトントンと鳴らしながら考え事をしていた。

 

 

「どうしたでありんすか」

 

 

 ひそかにコーヒーを差し出す、喫茶店の店主エレオノーラ。

 

 

「実は咲夜くんにドッキリを仕掛けようとゾンビになって襲ったら銃殺されてしまってね。次の案を考えているんだ」

 

「また失敗したんでありんすね」

 

 

 ひそかはドッキリやいたずらを仕掛けるのが好きでUnreallyでの動画投稿の活動の一部にもしていた。そのターゲットとして咲夜が狙われているらしい。

 エレオノーラもそのことを知っていたようだ。

 

 

「やはり彼女は手強いね。でもそんなクールな彼女から意外な反応を見れるのをひそかは期待してるんだ」

 

「なら食べ物に激辛をいれるのはどうでありんすか。手っ取り早いと思うでありんすよ」

 

 

 だがひそかは首を横に振る。

 

 

「それじゃあつまらないな。もっと大きな反応で彼女がびっくりして動画もバズる。そんなやつがいい」

 

 

 ひそかにもドッキリを仕掛けるプライドがあるのだろう。中途半端なものは出したくないようだ。

 

 

「だったらこれはどうでありんすか……」

 

 

 エレオノーラはひそかの耳元に近づくとなにかを言う。するとひそかは立ち上がりこちら、偶然居合わせたつむぎの方へと向かってきた。

 

 

「つむぎくん、突然で悪いが咲夜くんにドッキリを仕掛ける仕掛人になってくれないかい?」

 

「わ、わたしっ!?」

 

 

 つむぎはいきなりのひそかの話に戸惑う。

 ひそかの話は耳に入っていたが自分が仕掛人をするなど考えてもいなかった。

 

 

「ひそかが仕掛けても咲夜くんはあっさり回避するからさ。でもつむぎくんが仕掛人なら上手くいくさ」

 

「でも仕掛けるってなにをすれば?」

 

 

 首をかしげるつむぎ。するとエレオノーラがやってきた。

 

 

「ズバリ、つむぎどのが咲夜どのに告白するんでありんすよ」

 

「こここ、告白!?」

 

 

 つむぎは驚き持っていたティーカップをガタガタ震わせ下に置く。もし口に飲み物を含んでいたら思わず吹き出していたに違いない。

 

 

「君と咲夜くんのカップリングは本が出るほど人気だからね。それで君が告白ドッキリをしたらどうなるか気にならないかい?」

 

「それは……」

 

 

 気にならないわけがない。

 つむぎと咲夜は二人をカップリングとして百合目線で見るファンが一定数いる。

 それが友情的な百合か恋愛的な百合かは人それぞれだが。

 

 冬のUフェスでは実際に咲夜とつむぎのカップリング本が出されており二人がキスする本をつむぎは見てしまった。それを見たつむぎは顔が赤くなり倒れそうになったほどだ。

 その後咲夜にそれが見つかりこういうのはこちら側は見ない方がいいと忠告を受けた。

 

 

 ファン的にはこのドッキリは気になるかもしれないだろう。

 だがドッキリを仕掛けるということにためらいがあった。

 

 

「告白したら咲夜どのが普段つむぎどのの事をどう思っているか知れるチャンスでありんすよ。本当に気にならないでありんすか?」

 

「それは……気になるかも」

 

 

 エレオノーラの人押しで思わず肯定してしまうつむぎ。咲夜が自分のことをどう思ってるか。それは知りたい。

 

 

「じゃあやってくれるね。動画はひそかが撮影するよ。つむぎくんは自然にやってくれればいいさ」

 

 

 ひそかはまだやるとは言ってないのにやること前提で話を進めてくる。

 つむぎは断ることができずそのまま仕掛人をやることに。

 

 ちょっと複雑な気持ちではあったが、やりたくないわけではなかった。

 

 咲夜の気持ちが知れたらいいなとつむぎは少しだけ思っていた。

 



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親友以上恋人未満

 一つの動画が撮影される。

 

 

◆咲夜くんに告白ドッキリ!? 成功なるか?│鹿羽ひそかの秘密の砦

 

「やぁひそかだよ」

 

「エレオノーラでありんす」

 

「ひそかたちは今、公園に来ているよ」

 

 

 自己紹介をしてから状況を説明する二人。

 しかしひそかたちのまわりは暗くなにがあるか見えない状態だ。

 

 

「なぜ暗い場所にいるのかって? それは今から起きるドッキリを見守るためさ」

 

 

 そう言ってから画面は小さな公園へと視点が変わった。

 そこにはつむぎがポツリと立っていた。

 

 

「……」

 

 

 つむぎは胸に手を当て緊張していた。

 果たして今からやることは成功するのか否か。

 

 するとしばらくして咲夜がやってきた。

 

 

「つむぎおまたせ。待った?」

 

「ううん、大丈夫だよ」

 

 

 咲夜はこちらに来ると微笑みつむぎを見てきた。その笑みを見ると今からすることに少し罪悪感を感じる。

 

 

「それでここに呼び出した用ってなに? とくになんともない普通の公園みたいだけど」

 

 

 咲夜は周りを見渡す。

 今回の目的はこの公園である必要はない。

 しかしできるだけ人目につかない場所を選んだ結果。ここを使うことにした。

 

 

「じ、実はね大事な話があるんだー」

 

「なに?」

 

 

 首を傾げる咲夜。

 そんな咲夜に対してつむぎは目を合わせることが出来なかった。

 

 そしてつむぎは目を泳がして言う。

 

 

「じ、ジツハワタシ咲夜ちゃんのことがす、スキナンダー」

 

「うん、私もつむぎのこと好きだよ……」

 

「うっ……」

 

 

 純粋に答え微笑む咲夜につむぎは心が痛くなる。

 同時に好きと言われることに胸が苦しめられた。

 

 だが首を振り本題に入るために冷静さを取り戻そうとする。

 

 

「そ、そうじゃなくてえーっとその……わたし咲夜ちゃんのことがれれ恋愛対象として好きなのっ……だ、だからわたしと付き合ってホシイナーなんて」

 

「つむぎ……」

 

 

 咲夜はただつむぎを見て黙っていた。

 言ってしまった。

 これでどう反応がされるか。

 咲夜がつむぎのことをどう思っているのかそれが分かる……

 同時にそれが怖かった。

 

 

 そして咲夜が答えを言う。

 

 

「気持ちは嬉しい……けど、言わされた言葉じゃなければ良かったな」

 

 

 咲夜は銃を右手に召喚した。

 そしてトンネル型の遊具に銃弾を発砲する。

 遊具には銃弾がめり込んだ。

 

 

「そこにいるんでしょひそか……」

 

 

 咲夜の目は冷たく怒っているような目をしていた。

 咲夜はこれがひそかのたくらんだドッキリであるとわかったようだ。

 それを察してかひそかとエレオノーラが恐る恐る現れる。

 

 

「やぁ咲夜くん……」

 

「どうしてバレたでありんすか」

 

「つむぎのしゃべり方が不自然、すぎたから。どうせひそかのドッキリだと思った」

 

 

 どうやらつむぎの演技力が問題だったようだ。

 どうしても今回のことは告白をしたことのないつむぎにとってはハードルが高く棒読みになりがちだった。

 

 

「私にドッキリを仕掛けるのは構わないけど、こういうドッキリはやめてほしいな……つむぎを巻き込まないでほしい」

 

 

 その時の咲夜はまるではじめてさやとまともに会話をした公園での出来事のような、そんな目付きをしていた。

 言葉では落ち着いていても心の中でなにかが怒っているようなそんな感じだ。

 

 

「わかったよ。もうこれからはこういうドッキリはやめるさ。撮影も今回のは没にする」

 

「わたくしも少し配慮が足らなかったでありんす……」

 

 

 この企画を提案した二人は反省した顔を見せていた。二人がこのような表情を見せるのは珍しいことだった。

 

 

「それじゃあひそかたちは行くよ。つむぎくん今回は君にも本当に悪かったね」

 

 

 そう言ってひそか達は立ち去って行った。

 そして二人きりになるつむぎと咲夜。

 しばらく沈黙が続いた。気まずい。

 

 

「えっとごめんね咲夜ちゃんこんなことして……」

 

 

 最初に口を開いたのはつむぎだった。

 

 

「別にいいよ……どうせひそかたちにそそのかされたんでしょ? それにもしあれが本当だったら気が気でないし」

 

「そ、そうだね」 

 

 

 咲夜が目をそらし言った。咲夜の頬は少し照れているのか赤く見えている気がした。

 

 

「でも、もし本当にわたしと付き合うってなったらどうする? な、なんてねー」

 

「……」

 

 

 つむぎは苦笑いをしながら冗談っぽく言った。

 すると咲夜は数秒硬直し黙っていた。

 それから咲夜は我を取り戻し、背中を向け言葉を発する。

 

 

「それは……私たちは親友であってそういう関係にはならないよ」

 

「そうだね……」

 

 

 つむぎは咲夜の言う事に頷く。

 そうだ。つむぎと咲夜は親友なのだ。

 そこに恋愛感情など存在しない…はずだ。

 

 つむぎは顔を真っ赤にしてる咲夜を知りもせずただ自分に言い聞かせ納得していた。

 



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夏だ!雪だ!

 動画が撮影される。

 画面はまず青空を写し出した。

 

 

「夏だ! 夏といったら……! そう、雪です!」

 

 

 つむぎが言う。すると画面にはつむぎが写りまわりは雪に囲まれていた。

 今は夏の7月。だがつむぎがいるそこは雪が積もった現実世界とは真逆の季節で肌寒い。

 

 

「夏の暑さからさよなら! Unreallyなら夏でも雪を満喫できるんだよ。今わたしたちはアイスプラネットって言う年中雪で覆われた惑星に来ているんだ!」

 

 

 防寒具を来ているつむぎが言う。

 つむぎは咲夜やミーシェルたちUドリーマー友達とこのアイスプラネットで動画撮影をしていた。

 

 

「雪を見るとお母様の故郷を思い出すでありんす……」

 

 

 積もった雪をすくいその雪をなにかを懐かしむように見ながら言うエレオノーラ。彼女はロシアと日本のハーフだ。

 ロシアへ行ったときの思い出を振り返っているのだろうか。

 

 

「今年もサメは出るかな?」

 

 

 ひそかはなにかワクワクしたように周りを見て言う。

 ちょうど去年の夏に海に行ったときは巨大なサメに出くわしたのだ。

 

 

「出るわけないでしょ。ここ雪山よ」

 

「サメ映画に常識は通用しないから……」

 

 

 当たり前のことをつっこむねねこ。

 しかしひそかに付き合わされてサメ映画をみてたしきにはあり得ないとは言えないようだった。

 実際ここはアンリアル。なにが起こっても不思議ではない。

 

 

「ふん……たとえサメだろうとクマだろうといざ来たらミーが全力で相手になるのだ」

 

 

 ミーシェルが手のひらに拳を当て自信満々に言った。戦闘能力の高いミーシェルがいればたとえなにが来ても大丈夫だろう。

 

 

 それからつむぎたちは何人かに別れそれぞれ自分のやりたいことをすることにした。

 

 

「それじゃあわたしたちはスキーをしよっか」

 

「うん、そうだね」

 

 

 つむぎと咲夜は二人でスキー道具を手にして雪山を滑ることにした。

 

 

「つむぎはスキーの経験はあるの?」

 

「中学の時やったことあるくらいかな。でもあんまりできた記憶ないよ」

 

「私も何回かやったことあるくらい。あまり無理せずやろう」

 

 

 二人はスキー用具を装着しそして雪山を滑っていく。斜面はそこまできつくなく比較的初心者向けのコースだった。

 そして二人は雪山を滑っていく。

 はじめは身を任せるように滑っていた。

 久しぶりのスキーはとても楽しい。

 つむぎは楽しくて棒をこぎ加速させた。

 だがある問題に気づく。

 

 

「あれっどうやって止まればいいんだっけ!? 覚えてないよ!?」

 

 

 つむぎはスキーの止まり方を完全に忘れていた。

 バランスが崩れそうになる。

 

 

「ハの字だよつむぎ!」

 

 

 後ろにいた咲夜が心配して隣に来きた。

 

 

「ハの字? ……ハッ!」

 

 

 つむぎは思い描くハの字にした。

 スキーの棒を。スキー板はまっすぐのままだ。

 

 

「違う腕をハの字にするんじゃなくて足を……」

 

「へぶっ!?」

 

「つむぎ!?」

 

 

 バランスを崩したつむぎは顔面から雪に直撃し倒れた。

 そんなつむぎを心配して近寄る咲夜。

 安全を確認するため咲夜がつむぎに触れようとするとその前に雪に埋もれたつむぎが顔を上げた。

 

 

「あははっ! 久しぶりにスキーやると楽しいね!」

 

 

 つむぎはなんてことないようにこの状況を楽しみ笑っていた。咲夜はそんなつむぎを見て微笑む。

 

 

「次からはもうちょっと慎重にやろうか」

 

 

 ◇

 

 

 一方その頃しきはと言うと、上級者向けの急な斜面をスノーボードで滑っていた。

 

 

「ふんふんふん~この日のために作ったマシィン第一号シキチャンボード!」

 

「その名前のセンスはどうにかならないのかい……」

 

 

 付き添いにいたひそかがしきを見てあきれていた。しきのスノーボードは特注でしきの自作のマシンらしい。それはすごいのだがネーミングセンスはどうにかならないのだろうか。

 

 

「科学者が自分の名前を単位につけるのと同じだしー。ほっえいっ!」

 

 

 自分のネーミングセンスには気にしていないようでしきは華麗に斜面を滑っていた。

 

 

「君、意外と運動神経いいよね」

 

「そりゃウチ天才アンドロイドだもん!」

 

 

 自信満々に言うしき。

 しきはなんだかんだ言って運動神経がよかった。そうでなければ空中を自在に移動できたりはしないのだろう。

 

 

「それにここからが本番! ジェットエンジン放出! これで加速するーる!」

 

 

 しきのスノーボードにはターボエンジンがついておりそれが火を吹き加速した。

 

 その速さは普通に滑る何倍もの速さになっていた。

 

 

「そこからスピン!」

 

 

 そのまましきは加速したまま一回転する。

 だが…… 

 

 

「ってちょ! 回りすぎ! 加速しすぎいいい!」

 

 

 加速したしきのスノーボードは言うことを聞かずものすごい速さで回転していく。

 それは次第に渦を巻き竜巻にへとなりしきは木がある方へ突っ込んで木々を破壊して行った。

 

 

「やれやれ天災アンドロイドだねこれは」

 

 

 ひそかは肩をすくめ呆れたように天災を見ていた。

 

 

 ◇

 

 

 スキーをした後つむぎはミーシェルのいる方へと向かった。

 するとそこには大きな雪で出来た像ができていた。

 

 

「こうでありんすか」

 

「うむ」

 

 

 そこにはミーシェルの指示に従いながら雪像の形を整えているエレオノーラの姿があった。  

 

 

「何してるの二人とも?」

 

 

 つむぎはミーシェルに質問する。

 

 

「なに、ミーの雪像をエレオノーラに作ってもらってる……のだ」

 

 

 ミーシェルがえっへんといったポーズをして言った。それは確かにミーシェルの形をした雪の像だった。

 

 

「すごーい。ノーラちゃんいつの間にそんな特技を?」

 

「もふあにどのとのコラボで培った経験を活かしてるでありんすよ。それにもともと雪は好きでありんすからね」 

 

 

 エレオノーラが答える。エレオノーラは結構器用だ。料理の飾り付けも上手いしもふあにとのコラボではその飾り付けのセンスが活きていいものが出来た。

 

 

「にゃっ」

 

「あっブランちゃん!?」

 

 

 するとねねこがブランを追いかけてこちらにやってきた。ブランは雪の中を歩き楽しそうに雪遊びをしている。

 

 

「もう寒いから家で待っててもいいのに……着いてきちゃってほんとかわいいんだから」

 

 

 ねねこは微笑みながら言った。

 雪で遊ぶブランが見えて幸せなようだ。

 それぞれが楽しい時間を過ごしていた。

 



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みんなで一緒に

「これよりUnreally方式雪合戦をはじめるよ!」

 

 

 つむぎが指揮をとるようにカメラに向かって説明をする。

 二手に陣営はすでにくじ引きで別れておりそれぞれが準備の体勢に入っていた。

 雪の壁があり、そこに隠れている者もいる。

 

 

「ルールは体に雪が当たったら退場。なお相手に攻撃する手段は雪に限定されるけど雪の使い方、防御方法はなんでもありだよ。Unreallyらしくアンリアルにいこうね」

 

 

 つむぎが簡単に説明を終了した。

 

 それでは陣営をみていこう。

 Aチームがつむぎ、ミーシェル、ねねこ、エレオノーラの四人。

 Bチームが咲夜、しき、ひそか三人チームだ。

 

 

 人数的にはAチームが有利だがいったいどうなるか。

 

 

「それでは用意スタート!」

 

 

 つむぎの合図で試合が開始される。

 

 

「くらえ今回のために作った雪玉連射銃シキチャンマシンガン!」

 

 

 するとBチームのしきは雪を銃の中に入れ雪玉を連射した。その速さと数はすさまじく普通に回避するのは難しく感じた。

 

 

「させないでありんす!」

 

 

 前線にいたAチームのエレオノーラがなんと刀を手に取り雪玉を高速で全部切り力を失わせていく。

 

 

「ちょっ! これ全部切るとか正気!?」

 

 

 思わずしきも驚きを隠せない。

 その人間業を越えた剣さばきは凄まじかった。

 

 

「ミーの力で終わらせる! シュヴァルトブリッツ!」

 

 

 するとミーシェルは黒い雷を自在に操り人間サイズの大きな雪玉を作ってしきに向かって放った。

 

 

「ちょっ……ぐぇ」

 

 

 大きな雪玉の雪崩に飲み込まれ姿が消えるしき。これでしきが退場した。

 そう思ったが……

 

 

「なーんてね。それはひそかが作った幻さ」

 

 

 Bチームのひそかが言う。

 それはひそかの変化の能力だった。

 自分の分身から他人のコピーまで任意のものを作ることができるひそかの能力だ。

 

 

「こっちが本命!」

 

 

 なんと本物のしきは別の壁から上空に飛び雪玉銃を構えていた。そこからなら壁は関係なく誰でも狙える。

 

 そのまましきは壁に隠れていたねねこに向かって雪玉の連射を放った。

 

 

「危ないのだ!」

 

「ミーシェルちゃん!?」

 

 

 銃撃からねねこをかばったのはミーシェルだった。ミーシェルは翼を広げ上空でねねこへの攻撃をかばった。

 そのせいで自分が退場することになってしまうが。

 心配するねねこ。 

 

 

「ふっ……まさかミーが一番最初に退場とはな。だがまぁいい……ミーの分まで頑張ってくれ」

 

 

 翼を閉じるとさらばといった感じで場外へ退場していくミーシェル。

 こうして三対三にへとなった。

 こちらが戦力であるミーシェルを失うのはとてもおしい。

 

 

「かっこいいーなんで倒したウチよりかっこいい雰囲気だしてんの!?」

 

「人望とカリスマじゃあないかね」

 

 

 ミーシェルのかっこいい最後に思わず羨ましがるしき。それを見てひそかはやれやれと思いながら肩をすくめた。

 

 

「あたしが仇を取るわ!」

 

 

 するとねねこがミーシェルの仇を取らんとばかりに前に出てきた。

 

 

「ふんふん、ひ弱なねねこにウチを倒せる要素なんてないよーん」

 

 

 前に出てきたねねこを見下すように言うしき。

 だがねねこには秘策があった。

 ねねこは上空を指差した。

 

 

「あ、あそこに鳥の大群が!」

 

「えっどこどこ怖い怖い!」

 

 

 そこにはなにもおらず青い景色だけが続く空だがしきは鳥という言葉を聞くだけで怯えしゃがんだ。

 

 

「にゃーん」

 

 

 そしてブランがしきに向かって雪玉を投げた。

 それは簡単にしきに当たってしまう。

 

 

「えっ……ウチリタイア?」

 

「知能指数の低いしきにこの戦法は通じてしまうのか……」

 

 

 咲夜が呆れるように言う。

 ひそかはというとしきから銃を受け取り構えた。

 

 

「しきはいなくなったけどこっちにはまだしきのマシンは残ってる。つまり残機は減ってないのさ!」

 

「ウチをマシィンしか価値ないやつみたいに言うなぁ!」

 

 

 場外に出たしきが怒鳴る。

 ほんとにこの二人は仲が良いのか悪いのか。

 

 

「さぁ咲夜くん一緒にエレオノーラ君達を倒そうじゃあないか」

 

「私は負けてもなんでも正直どっちでもいいんだけど……」

 

 

 やる気満々のひそかとはうって変わってどうでもよさそうに振る舞う咲夜。

 

 

「やる気がないようだね。じゃあつむぎくんはひそかが倒してしまおう」

 

 

 咲夜のやる気を上げるために煽るひそか。

 それにより咲夜の表情は変わった。

 そして戦闘態勢に変わった。

 

 

「それはだめ……つむぎは倒させない」

 

 

 咲夜はいつの間にかひそかに向かって対面して言った。つむぎたちの陣営に入って。

 

 

「あれ? なんか君陣営間違えてない?」

 

 

 きょとんとした表情をするひそか。

 

 

「アンリアルだから陣営は変わってもいいんだよ」

 

「アンリアルってつければなんでもいいと思ってないかい!?」

 

 

 それからひそかがあっさりやられるのは目に見えており、ひそか&しきチームは敗北した。

 

 

 ◇

 

 

 その後つむぎたちは普通に雪合戦をしたり大きなかまくらを作ることにした。

 かまくらが完成すると中でつむぎたちはエレオノーラが作った料理を食べることになった。

 

 

「ボルシチでありんす」

 

 

 エレオノーラが出したのは赤いシチューのようなロシア料理、ボルシチだった。

 

 

 温かいそれを手に取るとつむぎはふーふーと息を吹きかけ冷まして食べる。

 

 

「おいしー、ボルシチってこんな味がするんだね!」

 

 

 その味はトマトスープに近かった。

 具材の野菜の味が濃く出ている。

 

 

「ボルシチは日本で言うところの味噌汁でロシアの家庭料理でありんす。わたくしはお母様に教わったやり方で作ってるでありんすよ」

 

「そっかぁ」

 

 

 ボルシチがどういうものかよくわかってなかったつむぎはエレオノーラの話を聞いてなんとなく理解する。

 

 隣にいたミーシェルを見る。

 ミーシェルは美味しそうにボルシチを食べていた。

 

 そんなミーシェルを見て笑いつむぎは言う。

 

 

「それにしても今年はミーちゃんとも来れてよかったよ。去年の夏海に行ったときはミーちゃんは来れなかったし」

 

「そ、そうだな……」

 

 

 びくっと震えるミーシェル。

 去年の夏の海、彼女がこっそりいたことをつむぎはしらないままだ。

 

 こうしてみんなと遊びにいけてつむぎは幸せだった。

 

 

「また今度みんなでどこか来ようね! 次はどこがいい?」

 

 

 つむぎはそこにいた全員に向けていった。

 

 

「はーい、山! 山がいい! ハイキングでキャンプ!」

 

「心霊スポット巡りをしないかい?」

 

「かわいい動物がいっぱいいるところがいいわ」

 

 

 しきたちがわいわいと行きたい場所の案を出していく。その盛り上がりを見ているだけで楽しい。

 

 

「いろいろあるね! じゃあこれからいっぱいいろんなところを遊びに行こう!」

 

 

 つむぎは笑顔で言った。

 

 季節も場所も関係ない。

 この世界ではどこへでも自由に行くことができる。そんな素敵な場所だ。

 



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勉強をしよう

 つむぎと咲夜は喫茶雪月花で勉強をしていた。

 受験生であるつむぎたちはUnreallyに行きながらも勉強をしておきたい、そういう考えがあった。

 

 課題は基本プリントやノートでの提出のためデジタルのUnreallyではできないのがネックだが。

 

 

 つむぎはなにか集中力を高めるために作業に向いている動画を見ることにした。

 そこでひとつのチャンネルを目にする。

 

 それはほむらすみれというアンリアルドリーマーだった。

 最近話題のアンリアルドリーマーだ。

 つむぎもチャンネル登録をしており最近チェックしている人物の一人だ。

 

 そしてつむぎは彼女のチャンネルからある一つの動画を視聴することにした。

 

 

◆【作業用】美しいピアノメドレー│ほむらすみれ

 

 

「こんにちは、わたしはほむらすみれ。この動画は作業用だから何かしながら聞いてね」

 

 

 すみれはピンク髪のオレンジの瞳。

 ロリータの衣装を着た少女だった。

 動画は基本ピアノの演奏をメインに投稿している。

 

 彼女は白い部屋で、ぽつりと存在しているグランドの椅子に座っていた。

 

 それから彼女はなにも言わずただピアノを演奏し始めた。

 

 彼女のピアノの演奏は美しくて綺麗だ。

 音楽に詳しくないつむぎでも彼女の演奏には聞き惚れてしまう。

 

 

 だがつむぎはハッとする。

 忘れるところだった。

 つむぎは今勉強している最中なのだ。

 この動画は作業用BGMとして聞くべきだ。

 

 

「よーしやるぞー」

 

 

 つむぎは意気込みやる気を取り戻した。

 問題書を見て答えを解いていく。

 聞こえてくる音色はとても美しくて聞き惚れてしまうが勉強に集中するのに無駄な雑念をいれずにできてしだいにはかどった。

 

 

「たのもー! お茶しに来たよー!」

 

 

 すると扉を開けしきがやってきた。

 

 

「あっ、咲夜とつむぎじゃん! なにしてるのー?」

 

 

 しきは図々しくつむぎの隣に座ってきた。

 

 

「勉強だよ。来年受験だからね」

 

「えっつむぎたちも? ウチも来年大学受験なんだけど?」

 

「えっしきちゃんって同い年だったの?」

 

 

 はじめて知った。

 いろいろな乗り物を運転してたり見た目が少し年上っぽかったり自称お姉さんだったりと勝手に年上だと思っていた。

 まぁ知能的には年上っぽくないのはわかるが。

 

 

「うん。でもウチ赤点ばっかで受験どころか卒業できるか分からないんだよー」

 

「卒業できなかったら笑ってあげるよ」

 

「いや全然笑えないから!? 人の不幸をなんだと思ってるの!?」

 

 

 冗談混じりに言う咲夜にテーブルを叩きながらツッコミをいれるしき。

 実際に卒業できなかったら笑えないのでしきには勉強を頑張ってもらうことにしよう。

 

 そこでつむぎは考えひらめく。

 

 

「そうだ! じゃあ息抜きにこんな企画はどうかな?」

 

 

 それは受験生であるつむぎたちには勉強になりなおかつ動画としても楽しい企画だった。

 



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Uドリーマークイズ大会

◆Uドリーマークイズ大会│麗白つむぎ

 

 

 ステージが映し出される。

 それはクイズ番組でよく見る解答席と司会席があった。

 

 

「さぁはじまったよ、Uドリーマークイズ大会。司会はひそかこと鹿羽ひそかと」

 

「わたくしエレオノーラがお送りするでありんす」

 

 

 司会席にはひそかとエレオノーラが立っていた。

 

 

「今日はUドリーマーのみんなの学力、および知識力がどんなものか知るためにクイズ大会を開いたんだ。この番組は企画を提案したつむぎくんのチャンネルで配信されるよ」

 

 

 つむぎの名前を出すひそか。

 司会はひそかとエレオノーラだがチャンネルはつむぎのチャンネルでやっていたため補足を入れていた。

 

 

「ルールはポイント制で最終的にポイントが多かった人が優勝でありんす。優勝者にはなんと喫茶雪月花よりスイーツ食べ放題券を差し上げるでありんすよ」

 

 

 優勝特典はエレオノーラからのプレゼントだった。エレオノーラはこの企画を聞くとすぐこの提案を考えてくれた。

 

 

 ◇

 

 

 それからステージはなんと長方形の長いステージにへと変形した。

 

 

「第一ステージははや押し競争クイズだよ。ボタンに向かって早く押した者から回答権が与えられるんだ」

 

 

 つむぎたちは百メートル先にある目的のボタンを見る。問題が出されたらぽつんと立つそのボタンに向かって走る。

 それだけのことだ。

 

 頭を使い体も使う。バラエティ番組っぽい内容だ。

 

 そうしてひそかの口から問題の内容が出される。

 

 

「では問題、ことわざ知らぬが仏の意味を答えなさい」

 

 

 ひそかが問題を言い終わるとスタート地点の入り口が開いた。

 これで回答権を争う競争が始まる。

 

 

「じゃーおっさきー」

 

「おおっと! しきどのが加速していく!」

 

 

 しきは持ち前の手のひらのジェットで空を飛び加速していった。

 

 

「負けるか!」

 

 

 しきを見たミーシェルが翼を生やして空を飛びしきに追い付いていった。

 

 

「おやミーシェルくんも空を飛んだね。この勝負この二人の独走かな?」

 

「二人ともずるい!」

 

 

 アンリアルの範囲とはいえここで差をつけられるのは卑怯だ。それもありで企画した内容ではあったが。不満をいいながらも追い付こうと走るつむぎたち三人。

 

 しきとミーシェルはお互い一歩も譲らず上空を飛んでいた。

 そして二人はほぼ同時にボタンを押す。

 

 

「ほぼ同時! 判定結果は……しき! さぁ回答は?」

 

「ふんふん! ウチがやっぱり一番ってことだね!」

 

「いや回答は……」

 

「え? これ押したら勝ちの競争じゃないの?」

 

「クイズなの忘れてないかい君。時間切れだよ」

 

 

 はや押しには勝ったしきだが大事な問題を忘れており意味がなかった。

 

 

「回答権はミーシェルどのに変わったでありんすよ。正解の方は」

 

「知らない方が幸せなこと……なのだ」

 

 

 ピンポンピンポーンと正解のチャイムが鳴った。

 

 ◇

 

 

「第二ステージは○×クイズだよ」

 

 

 次のステージでは○と×とかかれた大きな床が設置されていた。回答者のつむぎたちはそのどちらでもない真ん中に集まっている。

 

 

「それぞれ正解だと思う方の床に立ってもらおうか。ちなみに間違えると……おっとこれ以上は内緒でありんす」

 

 

 エレオノーラが笑顔で袖で口を隠すように言う。

 

 

「第一問、光合成と呼吸の問題。葉緑体にある緑色の色素のことをクロロフォルムという。○か×かよーいスタート」

 

 

 そして合図とともにつむぎたちは答えだと思う方の床にへと進んでいく。

 

 

「えーっとこっちかな」

 

 

 つむぎは記憶を頼りに選択をする。

 クロロフォルム……なんだか聞いたことのある用語な気がする。なのでつむぎは○のほうへと立った。

 

 

「つむぎもこっちー? ウチら一緒だねー」

 

「しきちゃん! あれ他のみんなは?」

 

 

 しきが同じ○を選択していた。

 しかし他のみんなはというと……×の方に立っていた。

 

 なにか嫌な予感がする。

 

 

「正解はこちら!」

 

 

 ひそかが言うと○の床が消滅した。

 そして。

 

 

「ぎゃふっ!? あばばばば」

 

 

 つむぎとしきは消滅した底に落ちて深い水に落ちていった。しきもはじめはあたふたするが自前のジェットで空中に浮上する。

 

 

「正解は×クロロフォルムではなくクロロフィルでありんした」

 

「なにそれ数文字しか違わないじゃん! せめて△ちょうだいよ!」

 

「いやこれは○か×の二択しかないのだよ」

 

 しきの屁理屈にひそかは呆れながら答えた。

 



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Uドリーマーとはなにか

「最後の第三ステージは普通のクイズ番組らしい形式で行うよ」

 

 ステージは一番最初のクイズ番組でよく見る解答席が現れていた。

 回答者はそれぞれの位置につき問題が出されるのを待っていた。

 

 

「まずは書いて答える問題だよ。第一問、春の七草と呼ばれるものはなにか全部答えよ」

 

 

 それから制限時間が儲けられつむぎたちは答えを考えていく。つむぎは春の七草がなんなのかよくわかってなかった。何個かは知っているがすべては知らない。だがとりあえず書いてみる。

 

 

「それでは解答を見てみよう。ではオープン」

 

 

 解答席のパネルに書いたものが表示される。

 

 

 つむぎはナズナ、スズシロとかき他はなにもわからず制限時間が来てしまった。

 

 ミーシェルは潔く知らんのだと書いてあり正解することを放置している。

 

 しきはというとじゃがいも、たまねぎ、にんじん、カレー粉、肉、あとはお好みでウチ的にはハンバーグかなーともはや七草ではなくただのカレーの作り方だった。

 

 一方咲夜とねねこはナズナ、スズシロ、ゴギョウ、ハコベラ、セリ、ホトケノザと同じ回答だった。

 

 

「正解は……咲夜くんとねねこくんだ。よく知っているね」

 

 

「まぁたまたまよ」

 

「七草粥作ったことあるから……覚えてた」

 

 

 髪をなびかせるねねこと普通のように答える咲夜。彼女たちはこれまでも比較的正解率が高かった。この中では頭がいいほうなのかもしれない。

 

 

「次の問題。メラニン色素が少なく毛や肌が白い体質のことをなんと言う」

 

 

 ひそかの出題につむぎたちはパネルで書いて行った。

 

 

「正解はアルビノ! つむぎくん咲夜くんミーシェルくんが正解だよ」

 

 

 やったとつむぎは心の中で呟く。

 創作キャラなどでアルビノキャラなどを見たことがあることもありその知識は知っていた。

 

 

「ねねこどのはおしいでありんすね」

 

 

 ねねこはアルピノと一文字違いで不正解だった。

 

 ちなみにしきは老化と答えている。

 

 

「そういえばエレオノーラ君は髪もまつ毛も白いしアルビノなのかい?」

 

「どうなんでありんしょう? わたくしはそんなこと考えたことなかったでありんすから」

 

 

 ひそかがエレオノーラを見て言う。

 たしかにエレオノーラはアニメキャラでよく見るアルビノ体質の姿をしていた。

 だがそれについては謎のままらしい。

 

 

「じゃあここからはUnreallyに関連するクイズ問題を出すよ。はや押しで答えてね」

 

 

 それから数問パネル問題をやったあと次の問題内容にへと変わった。

 

 

「問題、Unreallyの会社シンギュリアが作った自立化型AIシステムその名前を答えよ」

 

 

 するとピンポン! とすぐにボタンが押される。

 

 

「ハーツヴィジョンよね」

 

 

 とねねこがいいピンポンピンポーンと正解の音が鳴る。

 

 

「正解でありんす!」

 

「まるで人の心を持ったような自律AIシステムだね。それによりAIとの高度なコミュニケーションが可能となっているよ」

 

 

 ひそかが説明する。

 UnreallyのNPC、AIは基本これが搭載されている。だから人間も動物も普通のゲームのような単純な思考で動いているのでなく人間にちかい、また動物に近い知能を持っているのだ。

 

 

「次の問題、黒薔薇の歌姫神咲レアのCD、Descreationは現在何枚売れたか答えよ」

 

 

 ピンポンとすぐにまたボタンが押された。

 押したのは咲夜だ。

 

「80万枚」

 

「正解! CDが売れなくなっているこの時代でこの枚数を叩き出すのはさすがでありんすね」

 

 

 それからも回答は続いていった。

 咲夜とねねこが比較的多くの回答を正解していくが他の者もまけてはおらずつむぎも奮闘していった。

 

 そして最後の問題。

 

 

「最後の問題に移る前にみんなのポイントを見てみよう」

 

 

 そこで回答席の上にあるポイントが見せられる。

 

 上から

 ねねこ    200点

 咲夜    180点

 ミーシェル 150点

 つむぎ   130点

 しき     20点

 

 という結果だった。

 

 

「ということで最終問題は逆転のチャンス。正解すると100点が加算されるよ」

 

「えー最後だから1000ポイントで大逆転確定じゃないの? 正解してもウチ負け確定じゃん!」

 

「現実とはそういうものだよ」

 

「ここアンリアルだしっ!」

 

 

 不満を言うしき。

 最下位のしきにはもう勝ち目がなかった。

 

 

「ちなみに次の問題には明確な正解はないでありんす。だから回答の中から素晴らしいと思った回答を視聴者に選んでもらってそれが正解となるよ」

 

 

 明確な回答がないとはどういうことだろうか。

 疑問に思いつつ出題される問題を聞くことにした。

 

 

「最終問題、あなたにとってアンリアルドリーマーとはなにか答えよ。これは自由に思い付きた人から順に回答していっていいよ」

 

 

 アンリアルドリーマーとはなにか。

 それはアンリアルドリーマーにとっては自分の思う確信に迫る答えだと思った。

 

 それぞれ悩んでいるのかすぐには手をあげるものはいない。

 

 しばらくしてまず最初に回答したのはねねこだった。

 

 

「あたしはファンのみんなに笑顔をあげる存在だと思うわ。それがあたしのしたいことだもの」

 

 

 ねねこらしい、ファンのことを思った答えだ。

 

 

「私は自分を表現する方法……かな。音楽を上げたくて元はなったから」

 

 

 次に咲夜が。それははじめて咲夜がつむぎに対して言った事と同じだった。

 

 

「ウチはねーいっぱいみんなに見てもらって人気者になる! でもってお金持ちになってうはうはになーる」

 

 

 テンション高くしきが言う。欲望に忠実なその姿はしきらしい。

 

 

「多くの者と交流を図るためのもの……なのだ」

 

 

 ミーシェルが腕を組み片目を閉じて言う。

 ミーシェルはつむぎたちと一緒に過ごしたい。

 アンリアルドリーマーとしていろんな人と交流したいそう言っていたのを思い出す。

 

 

 最後につむぎに目が向けられた。

 

 

 つむぎは少し迷っていた。

 アンリアルドリーマーとはなにか

 その答えなんてわからないからだ。

 だが自分にとっての……麗白つむぎとしての答えは持っている。

 

 つむぎは深呼吸をしてそのあと口を開いた。

 

 

「アンリアルドリーマーはみんなに夢を勇気を与えてくれる存在。辛いとき暇なときどんなときでもみんなを幸せにしてくれる。そしてなによりアンリアルドリーマー自身が成長できる。仲間とファンのおかげで……そんな存在だとわたしは思うよ」

 

 

 長くなったがそれがつむぎの答えだ。

 

 

「さて、回答が出揃いましたでありんす。それでは審議の視聴者投票がはじまるでありんすよ」

 

 

 投票時間は五分、Dreamtubeを見ている者たちがそれぞれ投票してその中から一番票の入ったものが正解となる。

 そして五分が経ち結果がわかった。

 

 

「正解のない正解……その正解者は……」

 

 

 パッと正解者にスポットライトが当たる。

 

 

「つむぎどのに決まりました!」

 

「へっわたし!?」

 

 

 まさか自分が選ばれるなんてつむぎは思わなかったのだろう。つむぎは一瞬嘘ではないかと疑った。

 

 

「他の回答者も素晴らしかったしもちろん外れではないさ。でもきっと視聴者にはつむぎくんの熱弁が刺さったんだろうね」

 

「ということで優勝は230ポイントでつむぎどの! 大逆転でありんす」

 

 

「やったぁ!」

 

 

 拍手が巻き起こる。

 途中までは全然正解せず無理かと思ったがまさかの大逆転でつむぎは喜んだ。

 アンリアルドリーマーとして楽しいことは視聴者にとっても楽しいことなんだとつむぎは実感して嬉しかった。

 

 

 ◇

 

 

『やったぁ!』

 

 つむぎが喜び拍手が巻き起こる生放送を見ていた少女がいた。

 

 

「…………」

 

 

 彼女が興味があるのはつむぎではない。

 だが興味のあった人物が出ていたから見ていただけだ。つむぎの笑顔を見ている少女はもうその生配信に飽きたのかスマホをスリープにしてしまう。

 

 そしてグランドピアノの椅子に座り無我夢中に演奏し始めた。

 



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夢と期待

「もうすぐUフェスかぁ」

 

 

 7月が終わりを迎えようとしている中、つむぎは次の8月に行われる夏のアンリアルライブフェスに向けて衣装を家でデザインしていた。

 

 

「あ、ビデオ通話だ。誰だろ?」

 

 

 すると視界にビデオ通話のアイコンが表示され鳴った。つむぎはそれを確認し表示する。

 そこに出た相手の名前は……

 

 

「シマリちゃん!?」

 

 

 それはトップアンリアルドリーマーもふもふあにまるずの一人、シマリだった。

 つむぎは急いでビデオ通話を繋いだ。

 

 そしてリスの耳がある少女シマリがモニターに表示される。

 

 

「やっほーつむぎちゃん。元気しとるー?」

 

「あっ、はい! お久しぶりです!」

 

 

 画面越しに手を振るシマリにつむぎはお辞儀をした。

 

 

「そんなかしこまらなくてええとよー。つむぎちゃん、最近衣装のデザインはやっとると?」

 

「はい、今ちょうどUフェスに向けてデザインをしてます!」

 

 

 つむぎは少し気を緩めようとしたがどうしても相手が相手のためかしこまってしまう。

 大物相手に久しぶりに会話をするのは緊張した。

 

 シマリは自分がデザイナーになろうとする夢を後押ししてくれるきっかけをくれた人物だ。かしこまってしまうのも当然かもしれない。

 

 

「がんばっとるねー。なら今度のUフェスデザインコンテストに応募するとよかばい」

 

「デザインコンテスト?」

 

 

 つむぎは首を傾げて言った。

 

 

「今回のUフェスの衣装展示、希望者にはデザインコンテストが開催されるとよ。そのデザインコンテストで最優秀賞を取ると、なんと現実世界でその衣装が製作されて販売されるばい」

 

「現実世界でっ!?」

 

 

 それは思ってもいないことだ。

 現実世界で衣装を作り販売するのは簡単なことではない。なのにコンテストで最優秀賞を取るとそれが可能だと言う。

 大規模な企画だ。

 

 

「どう? 興味あると?」

 

 

 シマリが微笑みながら言う。

 つむぎの答えは決まっていた。

 つむぎの夢はデザイナーだ。

 いつか自分の衣装を実際にリアルで着てくれる人がいたらそれは嬉しいに決まってる。

 夢に一歩近づくんだ。

 

 

「はい! もちろんやります!」

 

 

 つむぎはしっかりとした表情でシマリに答えた。

 

 

「いい表情ばい。うちは応援してるとよー」

 

 

 それを見たシマリが笑顔を見せて言った。

 

 

「おーいシマリ、そろそろ撮影だぞー」

 

「ちょっと待ってとってウル」

 

 

 画面外からウルと思わしき人物の声がしシマリはその方向を向いた。

 声をかけたあとまたこちらに振り向く。

 

 

「それじゃあうちはもう時間だから通話切るけんね。衣装デザインがんばってねー」

 

 

 シマリは最後にまた笑顔で手を振って通話を切った。

 

 

「デザインコンテストかぁ……楽しみだなぁ」

 

 

 ベッドに座り言うつむぎ。

 つむぎはデザインコンテストの内容を知り、そしてシマリに応援の電話をもらって気分が高揚していた。

 胸が希望に道溢れ創作意欲をより引き出していった。

 



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仁瀬のあ

 夕方の駅前。そこはつむぎと咲夜にとって大事な場所。

 

 いつものように咲夜はギターを演奏しつむぎはそれを聞きながら衣装のデザインをしていた。

 

 咲夜の演奏を聞きながらデザインをするのは作業が捗った。この時間は彼女の演奏を歌を独占できる特別な時間だ。

 

 加えてさきほどのシマリの応援の言葉がつむぎの頬を緩ませる。

 

 そんなことを考えていると一曲演奏しきった咲夜がギターをしまい、つむぎの方へと向かってきた。

 

 

「随分嬉しそうな顔してるねつむぎ。なにかあった?」

 

「えへへっ実はシマリちゃんから次のUフェスの応援のメッセージもらったんだ。コンテストもあるし頑張ろーって思ってね!」

 

「そっか、それは良かったね」

 

 

 つむぎは嬉しくて咲夜に先程あったことを言う。

 

 プロのデザイナーとして活躍してるシマリから直接応援メッセージをもらえるなんて夢にも思ってなかった。

 前に運よくコラボする機会があったとはいえまさかまたシマリと会話できると誰が思うだろうか?

 

 今回のコンテストは入選すれば夢に一歩近づける。言わば力試しだ。

 だからこそ素敵な衣装を作らなくてはいけない。つむぎは精一杯、自分の全力を出すことにした。

 

 

「あの、Uドリーマーの小太刀咲夜さんですよね?」

 

 

 すると咲夜を呼ぶ一人の少女の声が聞こえた。

 そこにいたのは茶髪のボブに青い帽子を被り黒い眼鏡をかけた少女だった。

 

 

「そうだけど、なにか用?」

 

「良かったらぁ! わたっち仁瀬のあって言います! いつも応援してるずら!」

 

 

 少し独特な訛り方で喋る少女のあは胸を撫で下ろし嬉しそうに言った。

 彼女はどうやら咲夜のファンらしい。

 咲夜のファンの女の子が咲夜を応援しにここに来るようなことは時々あった。

 

 

「わたっちもUTAOを使って音楽作ったりしてて咲夜さんの曲はたいへん勉強になるべ。あの、よかったら咲夜さんの曲作りについてとかいろいろと詳しゅう聞かせてくれんませんか?」

 

 

 だが彼女は普段見るそのファンの子達とはちょっと違った雰囲気を醸し出していた。

 

 

 ◇

 

 

 つむぎたちはそれから近場のレストランにへと入った。

 座って会話をしようと提案したらのあがここへ誘ってきた。どうやらおすすめの場所らしい。

 

 

「すみませんモヤシパスタ、もやし多めでおねがいします」

 

 

 席に座りメニューを注文しようとした時のあがちょっと疑問に思うような事を言った。

 それからすぐに店員がドーンと、もやしがたくさん乗ったパスタを差し出した。

 

 

「もやし……好きなの?」

 

 

 咲夜が少し引くかのような表情で言う。

 このもやしの量といいメニューといい謎だった。

 

 

「はい。好きってかわたっちが子供の頃から貧乏なせいでよく食べてて大好物なんです。Unreallyの機械も福引きで当てちょるね」

 

「へぇ……そうなんだ」

 

 

 つむぎはその過去を聞くと少しだけ納得がいった。のあは美味しそうにもやしのパスタを食べている。

 

 もやしが好物だと言い張るくらい貧乏だと言うことは結構ハードな人生を送ってきたのかもしれない。そう思うとのあにはUnreallyだけでも好きなだけ食べたいものを食べてほしいと思った。

 

 

「じゃあ曲のことについていろいろ聞かせてもらいますね。まず作曲はどういう行程で作っていますら?」

 

 

 数口パスタを食べたあとのあは口を拭いてメモ帳を手にした。

 その目付きは真剣なものだった。

 だからか咲夜も真面目な表情になり口を開く。

 

 

「私は自分が伝えたいことを考えながら想いをぶつけるように演奏をしてそれをベースに作曲、編曲しているよ。そこから自分の考えを深掘りしていって伝えたい歌詞をメロディーに合わせて書いてる」

 

「なるほど……」

 

 

 咲夜の言うことに対しのあは重要な箇所をメモするようにメモ帳に書いていった。

 

 のあの質問はおよそ20分近くにも及んだ。

 

 

「ありがとうございました。とても参考になります!」

 

 一通り質問が終わり満足したのか、のあはモヤシパスタを食べきり言った。

 

 

「そういえばのあちゃんUTAOで作曲してるんだよね。のあちゃんはどんな曲作ってるの? 動画とか投稿してない?」

 

 

 つむぎは気になったことを聞いた。

 ここまで熱心に聞いているのだ。

 つむぎも少しのあの曲を聞いてみたいと思っていた。

 

 

「それはっ! 趣味でやってるだけなので他の人には見せる予定はないちょる……です」

 

「そっか。のあちゃんの作った曲聞いてみたかったかも」

 

 

 手を大袈裟に振り無理無理と言うポーズをして拒否するのあ。

 少し残念だが本人が否定するなら強制するわけにはいけない。

 

 

「まぁ曲はすべて誰かのために聞かせるものとは限らないから」

 

 

 咲夜がのあのフォローをするように言いコーヒーを飲みきる。

 

 

「はい、今日は本当にありがとうございました。咲夜さんを大舞台で間近で見れるのを楽しみにしています!」

 

 

 最後にのあが帽子をとってお辞儀をし、立ち去って行った。

 

 

「のあちゃんちょっと不思議な子だったね。方言っぽい独特な訛りとか」

 

「うん、あんな子が私のファンにいたんだって思ったよ」

 

 

 咲夜とつむぎはのあが立ち去ったあとそのままレストランで会話を続けていた。

 

 

「咲夜ちゃんはフェスに出す新曲の方は順調?」

 

 

 つむぎはフェスの話題を出した。

 咲夜が次のフェスで新曲を披露することをつむぎは知っていた。

 肝心の曲はまだ内緒と一切聴かせてもらってないが。

 

 

「まぁぼちぼちかな。伝えたいことを私は伝える。それだけだよ」

 

 

 咲夜はつむぎの目を見て言った。

 緑色の瞳がただ純粋に語りかける。

 

 

「そっかぁ。よーし、じゃあわたしもがんばるぞー!」

 

 

 つむぎは咲夜の熱意に負けないようにシマリやファンのみんなの期待に応えるためにこれから本格的に頑張ることを決意した。

 



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デザインコンテスト!

 つむぎはその日からUフェスに出す衣装を考えていった。もしこの衣装が現実で再現され製作されたらどうなるんだろう。

 肌触りなどの質感はもっと細かく繊細になっているのだろうか。

 

 自分の衣装がもっといろんな人に知れ渡って欲しい。ああなったらいいな、こうなったらいいなと妄想する。

 

 そんなこんなでつむぎは渾身の衣装が完成させ8月の中旬、Uフェス当日を迎えた。

 

 

 一日目は展示、販売メインである。

 つむぎはその日一人自分の出展販売スペースで待機して一般入場がされるのを待っていた。

 咲夜は三日目に向けて練習がしたいらしく一緒にはいない。後で出展スペースの写真を送ることは約束していた。

 

 ドン! と大きな音がなる。

 パステルピンクの空に花火が上がっていた。

 それは午前9時、一般入場が開始される合図で一般参加者がたくさん展示スペースに押し寄せて行く。

 

 

「はじまったかぁ……どれくらいお客さん来るかな?」

 

 

 つむぎは少し不安に思いながらもお客が来ることを待っていた。

 事前に参加の告知動画は出していた。

 作った衣装の一部も実際に着て見せて、これを購入したい人は是非Uフェスへきてねと言った内容のものだ。

 果たして今回はどうなるやら……

 

 

「つむぎちゃんこんにちは!」

 

 

 すると思ったよりすぐにつむぎのところにお客がやってきた。

 

 

「あかねちゃん! 久しぶりだね!」

 

 

 それは初期の頃からつむぎと咲夜のファンとして応援してくれる子の一人紅あかねだった。

 

 

「真っ先に来ちゃいました! これが今回の衣装ですね」

 

 

 あかねは展示されている衣装たちを回るように見ていった。

 

 

「どれもかわいいです! 特にこの衣装が自分は好きです!」

 

「ほんとっ!? それ一番の自信作なんだ!」

 

 

 あかねが一番気に入ってくれた衣装はつむぎが今回一番力を出してデザインした衣装だった。

 

 それはクリーム色をベースに青色が少し模様ととして入ってあるカーディガンに水色と黒のボーダーのシャツ。紺色のミニスカートと言う組み合わせのものだ。

 

 特にカーディガンはつむぎの普段着ている服の色をイメージしてリメイクしたものだ。

 

 

「全部一着ずつ買います!」

 

「ありがとう! いつも買ってくれてほんと嬉しいよ!」

 

 

 あかねに感謝をするつむぎ。

 つむぎは他にも衣装を時々作っては販売していたことがあるが毎回購入者履歴にあかねの文字が表示されていた。

 Unitterではその衣装を着て写真を上げていてくれたりほんとに熱心なファンであった。

 

 

「そういえばデザインコンテストにこの衣装も出すんですよね? きっとつむぎちゃんなら入選できます! 自分信じてます!」

 

「えへへ、そうかな? わたしも最優秀賞に選ばれてデザイナーへの一歩に近づけたらいいなって思ってるよ」

 

「きっとその夢叶いますよ! 自分は応援してますんで頑張ってくださいね!」

 

 

 予想以上に誉められて照れるつむぎ。

 それからしばらくしてあかねはその場から去っていった。その後すぐまたお客がやって来て接客をしながらファンとも交流をし衣装を販売していく。

 

 ブースにはどしどしと人が押し寄せてくる。

 盛り上がりは去年以上だ。

 それはひとえにつむぎのファンが増え知名度も上がったと言うことが理由付けられるだろう。

 

 衣装の評判も上々でこれはコンテストでもいい評価をもらえるに違いないとつむぎはどこかで確信を持っていた。

 

 

 ◇

 

 

 そして迎えたUフェス二日目の夕方。

 あるステージにこころとシマリが立っていた。

 つむぎもそのステージを緊張しながら見ている。

 

 

「さて! いよいよ迎えました。今回のUフェスの一大企画の一つ、衣装デザインコンテスト結果発表!」

 

「応募いっぱい来て審査するのが大変だったって関係者の人が言ってたとよー。うちも見たけどみんないい衣装ばっかで選ぶとしたら迷うけんね」

 

 

 こころの後にシマリが言う。

 今がデザインコンテストの審査結果が発表される時。

 シマリは司会としているのは彼女がデザイナーであるが故だろう。だが今回審査は彼女はしてないらしい。

 もっと上の衣装を製作してくれるコラボ会社のベテランデザイナーたちが審査してふさわしいものを選んでるらしかった。

 

 

「では長話も無駄なのですぐに結果発表にいきましょう! まず入選作品から!」

 

 

 こころが言い入選作品が表示されていく。

 

 緊張の時間だった。

 これで自分の実力が分かる。

 つむぎは唾をのみこみ手を握りしめながらステージのスクリーンを見た。

 

 

「それでは最後に最優秀賞……見事一番に輝いたのはこちらばい!」

 

「……ッ!?」

 

 

 つむぎはそれを見ると目を見開いた。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 Uフェスの二日目が終わった後咲夜はつむぎを探していた。

 

 連絡しても一切つむぎは電話にでない。だがUnreallyにログインはしている状態だ。場所はフレンド欄からある程度確認することができる。

 

 そのつむぎがいると思わしき場から一番近くにあるワープポイントに転移し、くまなく探していく。

 

 するとつむぎは案外早く見つかった。

 その場所は一度だけ来たことのある場所だ。

 ひそかたちにそそのかされてつむぎが告白ドッキリをしかけてきた公園だ。

 

 その公園のブランコでただ一人ポツリとつむぎは地面から足を浮かせて下を見たまま暗い顔をしていた。

 

 

 咲夜の足音が聞こえたのかつむぎはこちらに顔を向ける。

 

 

「えへへ……コンテスト、最優秀賞どころか入選すらしなかったよ。きっと入選できるって自信があったのに……これが現実なんだね」

 

「つむぎ……」

 

 

 つむぎは笑っていた。しかしそれは心の底からの笑いではない。

 彼女の笑みはひきつっていた。無理をした笑顔だ。

 

 そして彼女の瞳からは次第に涙がポツリと落ちていく。

 一粒また一粒と涙の量は増えていく。

 

 

「なんでかな……なんで涙が出るのかな。ただのわたしの力不足なのに」

 

 

 彼女は泣いていてもまだ頬を無理矢理ひきつって笑っている。右手はぎゅっと力強く握られていた。

 

 

「…………」

 

 

 咲夜はつむぎの瞳から出る涙を右手の人差し指で拭く。

 そして優しい微笑みを見せて咲夜は言った。

 

 

「無理しないで……泣きたいなら泣いていいんだよ」

 

「咲夜ちゃん……」

 

 

 その言葉はつむぎを吹っ切れさせたかのように一つのスイッチを押されたかのように涙の量が増えていった。

 

 

「うっ……うわあぁぁぁぁん!」

 

 

 つむぎは立ち上がりそして咲夜に抱きついた。

 

 

「せっかくシマリちゃんが応援してくれてみんなが応援してくれてっ! なのに入選すらできなかった! みんなにちやほやされて勝手に浮かれて入選できると思っちゃって結果はこれ! ……馬鹿みたい」

 

 

 つむぎは思いのままずっと込み上げていた感情を咲夜にぶつける。

 咲夜はつむぎを優しく抱き締め頭を撫でた。

 

 

「私は不器用だから今のつむぎをどう励ませばいいかよくわからない。こうやって側にいてあげることしかできない」

 

 

 すると咲夜はつむぎを抱き締めるのをやめ距離を取る。そして真剣な目付きで言う。

 

 

「だから、明日私の歌を聞いて……私の伝えたい想いをぶつけた歌を」

 

 

 それが咲夜のできる咲夜なりの励ましかただ。

 

 



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咲夜の想い出

 最終日となったUフェス三日目。

 今日は一日ライブが行われる。

 今年も相変わらず多くの人数がライブ会場へと訪れていた。

 

 

「こと、さくとしての生ライブ見るのはじめてだよ」

 

「ミーもやつ一人のライブははじめてだな。どんなものかとくと見てやろう……なのだ」

 

 

 一緒にいたこととミーシェルが言う。

 今日はつむぎとこと、ミーシェルの三人でライブ会場にいた。

 

 つむぎは昨日の一件のあとだいぶ気分も落ち着き平常心を取り戻しつつあった。

 だがやはり入選しなかったことはショックであり思い出すと辛くなる。

 

 しかしこの状況で咲夜のライブを聞くのは失礼だ。

 彼女は言った。

 自分の歌を聞いてほしいと。

 

 その彼女の願いをちゃんと聞いてあげたかった。

 

 ライブは次々と様々なUドリーマーたちが歌やダンス、演奏を披露していく。

 

 咲夜の出番はそう遠くはなかった。

 

 

 ◇

 

 

 一方咲夜は舞台裏で演奏の準備をしていた。

 昨日つむぎに言った言葉。

 それはただその場のノリ。

 それしか方法がなかったというのもあった。

 自分にできることはそんなに多くはない。

 人を言葉で励まして勇気付けられるほど人間として上手く生きていない。

 

 自分には歌が演奏が音楽が

 それだけしかないのだ。

 

 だから咲夜は歌い演奏する。

 彼女のために

 自分を応援してくれる人たちのために。

 

 そして彼女の出番がやってきた。

 

 

 ◇

 

 

「続いては小太刀咲夜ちゃんです! ではどうぞ!」

 

 

 こころの紹介と共に咲夜の出番がやってきた。

 

 つむぎは咲夜の方をただじっと見つめる。

 

 

 咲夜はギターを構えながらマイクスタンドから声を発した。

 

 

「小太刀咲夜です。ソロでフェスに出るのは二回目。今回の曲……みんなの心に響くといいな」

 

 

 咲夜はまわりを見渡すように言った。

 するとつむぎと目が合う。

 つむぎをこの数の中から探そうとしてたのか。

 そう思ったがそれは一瞬のみですぐに咲夜は正面を向いた。

 

 ただ咲夜はこの会場にいるみんなにむけて言いたかっただけなのかもしれない。

 

 

「それでは聞いてください小太刀咲夜で───」

 

 

 そして演奏がはじまった。

 いつもの切ないロックな咲夜らしい曲調だ。

 大切な時間が進んでいくのを怖がりながらそれを残すためにカメラにおさめていくそういった物語性のある歌詞。

 だが最後にはカメラは壊れデータも消えてしまう。

 でも心の中では思い出は残り続ける、それを大切に生きていこう。そういった歌詞だった。

 

 その圧倒的な歌唱力は日に日に増しているように思える。

 

 そしてつむぎは呟く。

 

 

「やっぱり咲夜ちゃんには敵わないなぁ……」

 

 

 その才能も心に響かせる歌もなにもかもがすごくてつむぎは心が軽くなる。

 落ち込んでいた気持ちも完全に晴れその歌に聞き惚れていた。

 

 

 ◇

 

 

 また同じく一人のピンク髪少女がライブ会場で咲夜の演奏を聞いていた。

 彼女は本来、咲夜のように今日ライブに参加してもおかしくない実績もスキルも持っている。

 しかし彼女は別に多くの人にみられることに関心があまりなかった。だから参加はしていない。

 

 

 だがその視線は咲夜だけに向けられていた。

 

 

「絶対に勝って見せる……」

 

 

 ロリータの衣装を着た少女ほむらすみれはそうポツリと言った。

 



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さやの違和感

 Uフェスが終わった次の日。

 つむぎはリアルで夏祭りに行くこととなった。

 気分は完全に元通り。

 それも昨日の咲夜の歌を聞いたからだろう。

 

 そんなこんなで夏祭りの会場にへと足を運ぶつむぎ。

 

 

「おーいつむぎー」

 

「みんな! おまたせ!」

 

 

 夏祭りの会場には既に待ち人たちがいた。

 去年と同じくひなたとことね、そしてさやも既に一緒にいた。

 みんな去年と同じ浴衣を着ていた。

 

 

「今年は四人で集まれたね!」

 

 

 つむぎが笑顔で言う。

 さやも一緒にいるのが嬉しかった。

 

 

「ま、もうこうやって夏祭りに来れるのも今年で最後だしねぇ」

 

「来年はどうなるかわからないからね……」

 

 

 ひなたとことねは少し寂しそうに言う。

 確かに来年はこうやって四人で夏祭りに行けるとは思えない。

 バラバラになって忙しくてリアルで会うのは本当にわずかだろう。

 だから今を楽しまなくては。

 

 

「……」

 

 

 さやの方を見るが彼女は黙ったまま横目でつむぎから目をそらしていた。

 

 

 それからつむぎたちは屋台の食べ物を食べ歩くことにした。

 

 つむぎはかき氷ことねはりんご飴、ひなたはたこ焼きを食べる。さやは食欲がないからと狐のお面を買って頭に飾っていた。

 

 

「ねぇさやあたしと射撃勝負しようぜ!」

 

 

 すると射的屋を見つけたひなたがさやに勝負を挑むように言った。

 さやと射的で勝負をしてみたかったのだろう。

 さやの銃の腕前は去年射的屋の人が全部取られてしまうか不安になってたくらいだ。

 

 

「……うん」

 

 

 少し間が空いた後歯切れ悪く頷くさや。

 

 二人は銃を持ち構え射的バトルがはじまった。

 

 

 パン!

 

 

「よっしゃ! まず一個ゲット!」

 

 

 ひなたは去年の反省を活かしてか勝負だから本気なのか大物ではなく比較的落ちやすい軽いお菓子の箱を狙って見事撃ち抜き景品を手に入れた。

 

 

 対してさやはというとギリギリのところで景品に当たらず外してしまう。

 

 何度か挑戦するがひなたが景品を手にいれる一方でさやは一個も景品を手にいれることができなかった。

 

 

「Unreallyでは凄い射撃なのにどうしたんささや? あたしに恐れおののいた?」

 

「今日は不調なだけ……」

 

 

 冗談半分で煽るひなたに対してさやはいつもより大人しい反応だった。

 普段ならミーちゃんは黙ってとか言っていじり返したりしても良さそうだがなんか違和感がある。

 

 

「つむ、なんか今日のさや不自然な気がしない?」

 

「わたしもなんかそんな感じはするよ。どうしたのかな?」

 

 

 後ろで一緒に見守ってたことねは同じことを思ってたようだ。本当に今日のさやはどうしたのだろうか。

 

 

「あっ先輩!」

 

 

 すると聞き覚えのある声が聞こえた。

 振り向くとそこには。

 

 

「そまりちゃん!」 

 

 

 そこには浴衣を着たそまりがいた。

 浴衣姿をしたそまりは一段とかわいく見えた。

 

 

「そまりちゃんも夏祭り来てたんだね!」

 

「は、はい……友達と一緒に……」

 

 

 そまりは顔を赤くして照れるように言う。

 すると浴衣姿の女の子が二人そまりの後ろにいた。

 

 

「そまりちゃんこの人たちは?」

 

 

 青い長髪の少女がつむぎたちを見て言う。

 

 

「あ、紹介するね……この人たちはあたしがよくお世話になってる先輩たち」

 

「へぇこの人たちがそまり姫の言ってた先輩たちかぁ」

 

 

 ボーイッシュな見た目をした赤色の短髪の少女が言う。そまりはリアルでも姫と呼ばれているのか。

 

 

「うちのそまりちゃんがお世話になっててありがとうございます」

 

「ありがとうございます」

 

「ち、ちょっと二人とも//」

 

 

 お辞儀をするそまりの友達二人に対しそまりは顔を赤くして恥ずかしそうにしていた。

 

 

「そ、それじゃああたしたちは別のところ回りますね。また学校で、あ、会いましょうね」

 

 

 そまりたちはそう言ってその場を立ち去って行った。

 

 

「そまりちゃん友達と仲良くやってるようでよかったぁ」

 

 

 つむぎはあがり症な彼女が普通に友達と一緒に仲良く過ごしている姿を見て少し安心した。

 彼女は着実に成長していっている。

 

 

 ◇

 

 

 ドン! ドン! と花火が打ち上がる。

 

 

 つむぎたちは以前さやが教えてくれた河川敷で花火を見ていた。

 

 

「うっわぁここ結構いいじゃん! 人少なくて映りも綺麗でほんと穴場だねぇ」

 

「さやはここでいつも見てるんだね」

 

 

 ひなたとことねは花火を見るのに夢中になっていた。

 

 

「えへへ……去年とは違うねさやちゃん」

 

「うん……」

 

 

 つむぎはさやに微笑みかける。

 去年は屋台を見るのはことねとひなたとだけ。

 花火はさやとだけ見たのだ。

 しかし今は全員と一緒に花火を見ることが出きる。

 

 それは幸せなことだった。

 

 これもさやが心を開いてくれたおかげた。

 

 そんなことを考えているとつむぎの浴衣の袖が引っ張られる感覚がした。

 

 

「さやちゃん?」

 

 

 相手はさやだった。

 今日一切まともに会話ができてないさやが自らなにかを話したがっているように感じる。

 

 そしてさやは切なそうな顔をして口を開く。

 

 

「つむぎ……ちょっと二人で抜け駆けしない?」

 



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抜け駆けと思わぬ事実

「ここでいいか……」

 

 

 さやはつむぎの手をとってひなたたちとは距離を置ける場所を探した。

 そしてたどり着いた場所は橋の下だった。

 そこには誰もいない。静かに花火の音だけが響く。

 

 

「どうしたのさやちゃん突然抜け駆けするなんて……」

 

 

 つむぎは状況もわからぬままさやについてきた。なぜ自分達がここにいるのかわからない。

 

 先ほどからの不自然さといい今日のさやはどこかおかしい。ちゃんと話を聞いてみないと分からなさそうだ。

 

 

「つむぎにだけ話しておきたいことがあるんだ……」

 

 

 少し複雑そうにしかし意を決したかのようにさやは口を開く。

 

 

「実は私に……小太刀咲夜にレーベルデビューのオファーが来た」

 

 

 その言葉の後に大きな花火の音が鳴り響いた。

 

 

「れ、レーベルデビュー!? どういうこと!?」

 

 

 つむぎは一歩遅れて驚く反応をする。

 レーベルデビューということはCDを現実世界で販売すると言うことだろうか?

 

 しかしどういうきっかけでオファーがきたのだろう?

 つむぎは疑問に思いながらさやの話を聞いていく。

 

 

「それはね……」

 

 

 花火の音が鳴り響くなかでさやは一人淡々とこれまでのことを話していった。

 

 

 ◇

 

 

「ふぅ……」

 

 

 それは夏フェスで咲夜がライブを披露した後、自分の楽屋に戻った時のことだ。

 当然ながら楽屋には自分以外誰もいない。

 

 

「お疲れさまでした咲夜さん」

 

 

 そう思っていたら後ろから声がかかってきた。

 扉の後ろ。

 楽屋に入ってきたばかりではすぐには気づかない場所に一人の少女がいた。

 

 咲夜は驚く。ここに自分以外がいるということとその少女を知っているがために。

 

 

「のあ……どうしてここに?」

 

 

 それは仁瀬のあ。

 咲夜のファンと名乗り数週間前に会った少女だ。

 曲作りのことを色々聞かれしゃべり方も少し特殊だったため印象に残っている。

 だが彼女がなぜここにいるのか。

 

 彼女はライブの参加者ではないはずだ。

 

 

「実はあなたに大切な話があるのです。そのためにここで二人きりで話がしたかった」

 

 

 彼女のしゃべり方は敬語で前の時の訛りのようなものはない。

 そのしゃべり方と声はどこかで聞いたことのあるようにも感じた。

 

 

 そしてのあは冷静に単刀直入に言う。

 

 

「小太刀咲夜さん。音楽レーベル『ノワルツ』でCDデビューしませんか?」

 

「CDデビュー!?」

 

 

 のあが言った内容に咲夜は追い付けてなかった。

 

 ノワルツは神咲レアもCDを出している大手音楽レーベルだ。

 そんな所からCDデビューを持ちかけられるとはいったいどういうことだ?

 

 

 それ以上に……

 

 

「のあ、君はいったい何者?」

 

 

 のあの存在が不思議でしょうがなかった。

 彼女はただ趣味で作曲をしてる少女じゃなかったのか。

 彼女の本性はいったいなんなのか。

 

 

 そして彼女は口を開く。

 

 

「私は……」

 

 

 すると彼女から黒いバラとオーラが現れた。

 それは彼女を包み込むように舞い彼女の姿を変えていく。

 それは姿だけではなく名前までもを。

 

 その姿を見て咲夜は目を見開いた。

 あまりにもありえない光景を目の辺りにして言葉を失っていた。

 

 

「私は、神咲レアです」

 

 

 その姿名前は正真正銘本物の黒薔薇の歌姫。

 Uフォースの一人として君臨し続けるトップアンリアルドリーマー。

 神咲レア本人だった。 

 



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たとえ遠くに行っても

「神咲……レア!?」

 

 

 その姿そのネームプレートを見て間違いようのない事実。

 憧れであり遠い存在に感じた孤高の黒き薔薇。

 咲夜がどうしても届かないと感じた相手。

 だが咲夜には少し疑問があった。

 

 

「本当に……? アバターはまだしもネームプレートの変更はこんなすぐできないはず……どういうこと……」

 

 

 それはネームプレートが仁瀬のあから神咲レアに変わっていることだ。

 もし仁瀬のあのネームプレートで神咲レアの姿をしているならただレアの真似をしたアバターに変わっただけで話は済む。

 

 だがネームプレートまでもが神咲レアと表示されている。これは本来ありえないことだ。

 

 

「この世界だとできないことさえ覆す存在がいますよ?」

 

 

 レアのその言葉を聞き咲夜は理解する。

 Unreallyの常識を覆しねじ曲げることすら可能な存在。

 それは誰もが知っている存在だ。

 

 

「七色こころか……」

 

 

 レアはそれに頷く。

 

 

「彼女に頼んであのアバターを使うときはお忍びのネームプレートに変えてもらっているんです。私のこの裏表を知ってるのはアンリアルドリーマーであなたとUフォースのみなさんだけですよ」

 

「そう……でもお忍びにしてもあのキャラのしゃべり方難しくない? 神咲レアとかけ離れすぎてる」

 

 

 レアとのあが同一人物だとは少し信じがたい。

 もやしが好きて貧乏でしゃべり方が訛っている。

 そんな属性マシマシなキャラにする必要はあるのだろうか。

 

 しかしレアは首を横に振る。

 

 

「逆です。あっちが本来の私の素に近い姿なんですよ。こうやって敬語で喋るようにして表に出るのも苦労したんです」

 

「なら素でいたら? 黒薔薇の歌姫様が田舎訛りの元貧乏少女だと知られたら新たな層を獲得できるかもしれないよ」

 

 

 咲夜は冗談混じりに言った。

 

 

「ふふっ……確かにそれもいいかもしれないですね。確かにそう思ったこともあります  」

 

 

 するとレアは微笑んだ。

 彼女がこうやって笑うのは珍しい。

 それから彼女は続けてしゃべる。 

 

 

「でもこの姿は本来歌うときのために作った理想の姿。いつもの私がでてくるのは嫌なんです。私は私の理想であり続けるためにこれからも気高き黒薔薇の歌姫として居続けます」

 

「気持ちは…分からなくはない……」

 

 

 レアの気持ちは理解できた。

 Unreallyはなりたい自分に理想の自分になれる場所だ。それは姿だけじゃなく言動や性格までも変えてまるで生まれ変わったかのように振る舞うものもいる。

 

 咲夜もさやに比べたら前を向いて人と接することができるから。

 

 

「本題に戻しましょう。プロのアーティストデビューしませんか?」

 

「どうして私なの?」

 

「事務所の方からメジャーデビューしてもおかしくないポテンシャルのUドリーマーを誰か推薦するように言われたんです。それであなたのことは去年から気になってました。なので近づいたんです。あなたはもっと上に行ってもいい存在です。なのでどうですか? もし、あなたにその気があるなら」

 

 

 するとフレンド申請の通知がくる。

 相手は神咲レアからだ。

 

 

「いい返事を待っています」

 

 

 彼女はそう言ってドアを開きその場から立ち去っていった。

 

 

 ◇

 

 

「神咲レアが直接、私に会ってきて同じレーベルでCDデビューしないかってオファーをしてきたんだ……」

 

 

 さやはこれまでのことを思い出しながらも仁瀬のあの事は伏せてつむぎに話せる内容だけを説明する。

 

 

「レアちゃんが……」

 

 

 つむぎは口を開けたままその事実を知り沈黙する。

 まさか咲夜があのレアに直接レーベルデビューを受けるとは思いもよらなかった。

 確かに咲夜は凄い音楽センスを持っている。

 だがあの黒薔薇の歌姫が認めるほどだったとは。

 

 思えばティンクルスターの番組で注目している気になっているUドリーマーがいるとは咲夜のことを言っていたのかもしれないとつむぎは思った。

 

 

「でも受けようかどうか迷ってる……」

 

 

 だが当の本人は嬉しそうな表情をしていない。

 

 

「どうして?」

 

 

 つむぎが聞くとさやは寂しそうな顔で言った。

 

 

「つむぎが夢を叶える機会を失って私がその機会を得ていいのかなって思って。あんなこと言ったのに私だけ幸せになっていいのかな……」

 

 

 つむぎはやっと理解した。

 さやはこれをずっと今日悩んでいたのだろう。

 だからつむぎは言う。

 

 

「それは……ちょっとその才能に嫉妬しちゃうよ。レアちゃん自らオファーでデビューなんてわたしだったらすぐOK出しちゃうよ」

 

「そう……だよね」

 

 

 さやは悲しそうな表情をした。

 つむぎはそれからさやに背を向き数歩距離 を取り言った。

 

 

「でも応援しないわけないでしょ……だってさやちゃんは親友なんだもん」

 

 

 つむぎはさやの方に振り向く。

 そして笑顔を見せた。

 

 

「さやちゃん……昨日咲夜ちゃんの歌を聞いたとき、胸がいっぱいになるような気持ちになったよ。咲夜ちゃんの歌はわたしに勇気をくれた。だから咲夜ちゃんがどれだけ遠くに行ったとしてもわたしは応援し続けるよ!」

 

 

「つむぎ……」

 

 

 さやは悲しそうな表情からなにかを安心したかのようなかすかな微笑みを見せた。

 そしてつむぎは咲夜の腕をつかむ。

 

 

「チャンスは何度でもあるから大丈夫! ほらみんなのところに戻ろ!」

 

 

 ◇

 

 

「つむぎーさやーどこ行ってたんだよ二人してよぉ」

 

 

 ひなたたちのところに戻ってくるとひなたが不満そうに言った。怒ってるというよりは心配している雰囲気だ。

 

 

「それは……」

 

「えへへ……ごめんごめん。ちょっと二人で話したかったことがあったんだよ」

 

 

 さやが言おうとして言葉に詰まった後つむぎがフォローをするように言った。

 

 戻ってくると花火の時間は後少しで終わりそうになっていた。

 

 

「それよりさ記念写真しない。せっかくみんな浴衣で花火もきれいだからさ」

 

 

 するとことねがスマホを持って言った。

 

 

「いいね! じゃあことちゃん撮影お願い」

 

「わかった、じゃ後でUINEで写真共有するね」

 

 

 するとつむぎたちは四人が密着するように集まる。

 

 

「ほらさやちゃんも笑って!」

 

「うん……」

 

 

 つむぎの言葉でさやは微笑みを見せる。

 

 

「はいチーズ」

 

 

 ドーンと花火は美しく咲いていくなかでスマホのシャッターが押された。

 

 今年の夏は少し切なくて、でも新たな成長が見込めた季節だった。

 



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新曲を作ろう

「さやっちすごいレーベルデビューなんて夢叶えたじゃん」

 

 

 かなでがさやに言う。

 ここはいつも軽音部が練習をしている音楽室。

 夏休みももうすぐ終わりと言う頃、軽音部の活動にさやは参加していた。

 さやはレーベルデビューすることをつむぎの一押しで決めその報告をひなたと軽音部の皆に伝えた。

 

 レアによるとCDが出されるのは恐らく来年の四月らしい。それまでにCDに入れておきたい曲を決めておくように言われた。

 今後はレーベル関係者ともUnreallyで会ったりして打ち合わせをすることもあるだろう。

 直接会うのはアンリアルドリーマーという理由で無理強いはされなかった。

 

 

「これならブルーシルも一躍有名になるし!」

 

「いや……リアルの名前とか素顔とか公表しないから知らされない」

 

「そんなー残念」

 

 

 しょんぼりし残念がるかなで。それからいつものようにスティック菓子を食べる。

 

 

「でもももうすぐ最後の文化祭だしここはパーっと新曲で盛り上げましょうよ、ことね」

 

 

 ひびきがことねの肩をポンと叩き言う。

 ことねはというと座りながらノートを開きシャーペンをリズムよく叩きながらなにかを悩んでいた。

 

 

「それが……全然新曲のアイデアが出てこないんだ」

 

 

 ことねのノートにはなにも書かれていない白紙だった。

 

 

「えーじゃあどうすんのー?」

 

 

 かなではお菓子を持ちながら言う。

 夏休みもわずか、文化祭まで二ヶ月しかない。

 今のうちに曲の方向性だけでもちゃんと決めて練習しておきたいところだった。

 

 

「うーん……」

 

 

 ペンを頬に当て悩むことね。

 するとなにかを閃いたのかノートを閉じた。

 

 

「そうだ……合宿をしよう!」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 合宿をすると決めてから開始されるまではそこまで時間がかからなかった。

 

 場所は青い空が炎天下の中照らす

 

 

「なんで学校に来てまで合宿ー? どうせならホテルとかでやりたいしー」

 

 

 合宿先はさやたちの通う姫乃女学園であった。

 愚痴を溢すかなで。手には止まるための荷物がある。

 

 

「そんな部費もお小遣いもないでしょ! 学校の方に申請したら運動部の使ってる施設使わせてくれることになってほとんどお金は使わないんだし」

 

 

 かなでを指摘するように言うひびき。手には泊まるための荷物以外にもここ数日分の食料が入った袋を持っていた。

 

 

「設備それなりにいいからねうちの学校」

 

 

 ことねが校舎を見ながら言う。

 姫乃女学園はここら辺の学校では設備が良く比較的新しい学校だ。

 部活動や文化祭の活動にも力を入れていて制服もかわいく、女の子が行きたい学校として人気。

 

 その分偏差値が高いので受かるのは少し難しいが。

 

 さやは特になにも言わず、いい曲ができるといいなと心の中で思った。

 



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いざ合宿!

「それじゃあまずいつも通りの曲で音合わせしようか」

 

 

 それから荷物を置いてきて音楽室にやってきたことねたちはバンドTシャツを着て自分達の楽器を持ち、いつも通り練習をし始めた。

 

 今回の合宿は新曲作りがメインであるがブルーシルの作曲は基本ことね一人でやるため基礎練習もやることになっていた。

 

 これで最後となる文化祭だ。

 できるだけ全力を出しきっていきたい。

 

 

「ワンツースリー!」

 

 

 ひびきの合図と共に演奏が始まる。

 それは去年の文化祭、はじめてさやを加えて演奏した曲だ。

 

 その演奏と協調性は去年よりも上がっている。

 バンドとして成長しているということが明らかだということをさやは感じた。

 

 

「いい感じ~、わたしたち去年より上手くなってるよねさやっち?」

 

「うん……良くなってる」

 

 

 何曲か演奏をし終わった後、休憩をとっている中でかなでが聞いてきた。さやはそれに同意して頷く。

 

 ひびきはスポーツドリンクを飲んで首にタオルを巻いている。ことねはと言うと机と椅子を持ってきて作曲をするのにノートを広げていた。

 

 

「どう、なんかいいの思い付いたことね?」

 

 

 スポーツドリンクを口から離すとひびきがことねに進捗を聞いてきた。

 

 

「うーん駄目だね……全く進まないや。ことの事は置いといてみんなで練習しててくれないかな」

 

 

 ことねの作曲の進捗は先日までといっこうに変わっていないようだった。

 新曲を作るのは難しい行程だ。

 それは凝ろうと思えば凝ろうと思うほどなかなか進まない。

 

 ことねは最後の文化祭ということで少し気を負いすぎなのではないかとさやは思った。

 

 

 ◇

 

 

 それからさやが仕切るようにギターを演奏しバンド練習をしていった。練習の方は上手くいった。しかし、ことねはずっとノートとにらめっこしていたが今日は収穫はなし。

 なんの進捗もなしに合宿一日目は終わりを迎えた。

 

 夜、合宿施設に戻ったさやたち。

 施設内にあるシャワーを浴びた後、夕飯担当であることねが夕飯を作った。

 料理はかなで以外がそれぞれ分担してやることとなっていた。かなでは全然料理をしないためさせない方がいいということになった。

 

 その後二階の寝室に布団を敷きパジャマを着て寝る準備を始めていた。

 

 

「あー失敗しちゃったー。やっぱり難しいよ難易度ルナティックスターは」

 

「それくらい慣れればクリアくらい簡単よ。まずはマスターをフルコンできるようにしなさい」

 

「それが無理なんだよー」

 

 

 かなでとひびきはスマホのリズムゲームをやっているようだった。

 ひびきはリズムゲームが得意なようでかなでに教えているようだ。

 だがひびきの特訓は鬼のようでかなでは愚痴を言っている。

 

 二人は二人でこの合宿を楽しんでいるようだった。

 

 

「うーん……どうしようか」

 

 

 ことねは布団をかぶり寝たまま未だにノートを見つめていた。

 ことねは顔ではあまり心配させないような表情をしているがさやは感じていた。

 ことねがずっと新曲作りが上手くいかなくて思い詰めていることを。

 

 なんとかしてあげるべきか……とさやは右手につけてある白黒のミサンガを見つめながら思った。

 それは去年の冬、つむぎと一緒にお揃いで買ったものだ。寝る前にはお守りのようにつけている。

 

 つむぎならどうするだろうか?

 

 なんて思っているとピコンとUINEの通知が来た。それはちょうどよくつむぎからだった。

 

 

つむぎ:合宿の方はどう?

    進んでるかな?

 

 

 といったものだった。

 つむぎは今日合宿があることを知っていた。

 つむぎもつむぎで心配しているようだ。

 合宿中はUnreallyには行けない。

 だから連絡をもらえるのはさやは嬉しかった。

 さやは少し微笑みながら返信をする。

 

 

さや:練習の方は順調

   でも新曲作りはなんか行き詰まってるみたい

つむぎ:さやちゃんは曲作り手伝わないの?

 

 

「……」

 

 

 さやはつむぎのチャットを見て少し迷った。

 作曲はさやもできる。

 本当は手伝ってあげてもいい。

 だが……

 

 

さや:私は本来助っ人として入った身だし、あんまりでしゃばるべきじゃないと思う

 

 

 それがさやの答えだった。

 ブルーシルはあくまでことねたちのバンドだ。

 それにさやは助っ人として入ってる形である。

 普段の練習にはあまり参加できてないのが現状だ。

 

 そんな自分がことねの作り上げてきた作風の曲に手を加えていいのか?

 そういうためらいがあった。

 

 

 だがつむぎは返信をする。

 

 

つむぎ:そうかな?もっとさやちゃんの方から関わっていってもいいと思うよ。きっとことねちゃんも喜ぶよ!

 

 

 そうつむぎから返信が来た。

 

 

「私が関わってもか……」

 

 

 さやは考える。自分が関わってもいいなら……

 どうすればいいか……

 さやは布団に入り考え込んだ。

 



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全員で全力で楽しもう

 翌日、合宿二日目。

 その合宿二日目を仕切っていたのはさやだった。

 

 音楽室の黒板にはさやの書いた文字が書いてあった。さやは黒板の前に立ち他のみんなは椅子に座っていた。

 

 

 新曲作りについて

・どんな曲が好きか

・どんな演奏が好きか

 

 と書いてある。

 

 

「私からの提案だけど新曲作り……それぞれどんな曲が好きでどんな曲を作りたいか考えてみない?」

 

「それってつまり?」

 

 

 ことねが疑問を抱く。それに対しさやはことねの方を一度見てから全員に言うように答えた。

 

 

「みんなで一緒に曲を作る。困ったときはみんなが一致団結する……それがバンド……だと思う」

 

 

 昨日考えた結果。

 それは自分がブルーシルに手を加えてもいいとするならば自分だけじゃない、みんなで作曲をするべきだ。

 

 という答えだった。

 

 するとことねは微笑む。

 

 

「みんなで作る……とてもいい考えだとことは思うよ」

 

 

 さやは安堵する。

 これはことねが許可しなければ成立しない。

 ことねがこのバンドの作曲者だ。

 彼女の作風を尊重したかったからさやは自分が手伝うのをためらいがあった。

 

 

「それじゃあことから。ことはエモい曲……感情が揺さぶられるような曲が好きでそういった曲を作ろうといつも思っているよ」

 

 

 ことねが答えた。ことねの作る曲は青春をモチーフとした曲でエモさがよく伝わる曲が多かった。

 

 

「私は切ない曲が好き……胸が苦しくなるような……でも優しさもあるそんな曲」

 

 

 さやは胸に手を当てながら言う。

 さやはロック全般好きだが特にピアノとギターがメインの曲をよく一人で作っていた。

 このバンドにはピアノはいないが。

 

 

「わたしは落ち着いてる曲かなー。あまりBPMの高い曲は得意じゃないしー」

 

「私はテンションが上がる曲が好きよ! BPMが高くて叩きがいのあるやつ」

 

「ふふっ二人とも正反対だね」

 

「さすがにその二つを成立させるのは難しい……」

 

 

 かなでとひびき両者正反対の意見を言いくすりと笑うことね。

 これは相談しあって二人が満足する方向を考えるしかない。

 

 するとひびきが椅子から立ち上がる。

 

 

「こういうメロディーあったらどうよ。ラララーラララーラララーララ」

 

 

 ひびきは思い付いたメロディを言葉に出して歌う。

 

 

「いいねどんどん思い付いたのを入れていこう!」

 

 

 ことねは微笑みながらノートにこれまで言ったことをまとめていく。行き詰まっていた作曲がどうにか進んでいく。

 

 

 それからも全員で思い付く限りのアイデアを出していった。

 

 こういう歌詞を入れよう。

 こういう音を入れてみよう。

 そういったことを考えていき今日は一日作曲作りに全員で力を入れた。

 

 

 

 ◇

 

 

「今日一日でこんなに進むなんて……」

 

 

 その日の夜ことねはノートを見て言う。

 ノートには昨日までなかったたくさんの文字やメロディーが書かれている。

 びっしりとノート一冊が埋まるほどだった。

 それだけ語り合っていたのだ。

 

 

「一日でこんな進むなら最初からこうすればよかったのにねー」

 

「ふふっそうだね。一人で悩んでいたのが馬鹿みたいだよ」

 

 

 かなでの言うことにことねは笑いながら答える。

 

 

「軽音部はさ……ことが設立してできるかどうか最初は分からなかった。経験者はいなくて、一からのスタートでひびきとかなでが部に入って……そしてさやが加わって。諦めずにやったおかげで今こうやって夢が叶って嬉しいよ。みんなでバンドを組んで仲を深めあって……この瞬間がとても楽しい」

 

 

 思い出に浸るようにことねは両手を胸に当てながら言った。

 さやは部の設立についてはつむぎから聞いていた。それは心の底からのことねの想いだった。

 

 

「わたしもひびっちに誘われて入ったけどことっちたちとバンド組めて良かったよー。いっぱい楽しいことできてさー」

 

「あのときびびっときた私のセンサーは間違ってなかったわ。練習は大変だったけど……やる都度に新しくできることが増えて楽しくて、はじめて一曲通して演奏できたときは感動したわ」

 

 

 いつの間にかみんなは布団の上で囲むようにこれまでのことを語り合っていた。

 ここまでいろいろあったのだと実感する。

 そしてさやも口を開く。

 

 

「私は途中からの参加であまり部活に顔だし出来なくてちょっと距離感があったけど……こうやって輪の中に入っていいんだって気付けた」

 

 

 さやはありのままの想いを口にする。

 

 

「なにーさやっち距離感感じてたのー?」

 

 

 するとかなではにやにやと笑い言う。

 

 

「馬鹿ね、そんなこと感じなくてもあなたは立派な軽音部の仲間よ」

 

 

 腕を組んで言うひびき。

 

 最後にことねがこちらを見て微笑む。

 

 

「さやのおかげでブルーシルは成長できたんだよ。今日だってそう。さやには助けてばかりで仲間以外の何者でもないよ」

 

 

 さやは自分は部外者だと勝手に感じていた。

 しかしそれは違ったようだ。

 

 

「ありがとう……」

 

 

 さやは微笑んでそう言った。

 

 

 ◇

 

 

 翌日。合宿は最終日だ。

 

 

「起きなさいみんな! 朝御飯作ったわよ!」

 

 

 朝からひびきの目覚ましのような声でさやは起きた。

 

 

「ふぁー……まだ8時じゃん……寝させてよー」 

 

 

 同じく起きたばかりのかなでが眼鏡を外したままの状態でスマホを見て言う。

 まだ眠たげにあくびをしていた。

 

 

「もう8時よ! 合宿は今日で最後なんだからしゃきっとしなさいな! あんた寝癖酷いわよ!」

 

 

 ひびきがかなでに怒鳴るように言う。

 かなでの寝癖はあり得ないくらい跳ねていて簡単には解けそうになかった。

 

 

「えーひびっち解かしてぇ」

 

「仕方ないわね……」

 

 

 ひびきは仕方なさそうに言いかなでの髪をブラシで整えてあげることにした。

 なんだかんだいってひびきは面倒見がいい。

 

 

「ひびきってかなでのお姉ちゃんみたい……」

 

 

 そのせいか思わずさやは思っていたことを笑うようにボソッと言った。

 

 

「違うしっ! まぁかなでは妹と重なって放っておけない部分はあるけども」

 

「いや、わたしからしたらお母さんだよー」

 

「姉ならまだしも私はあんたのお母さんじゃないわ!」

 

 

 かなでの発言に突っ込むひびき。

 しかし髪は丁寧に解かしてあげていた。

 そんな二人を見てさやはとても微笑ましく思う。

 

 

 ◇

 

 

 ひびきがつくった朝食を食べた後、さやたちは音楽室へと行った。

 

 

「仮の楽譜ができたよ。とりあえず演奏してみよう」

 

 

 ことねがそれぞれのパート用の楽譜を渡す。

 ことねは昨日のうちに纏まったメロディーとコードを合わせてそれぞれがやりたい曲調を尊重しながら楽譜を作ったようだ。

 

 

 楽譜が全員に行き渡り一通り見るとさやたちは演奏することにした。

 

 

 

 

 

「これが新しい曲……いい感じね」

 

 

 演奏が終わってからひびきが言う。

 完全に完成されたとはいえないこの曲はそれでもなお素晴らしい曲であることが皆に伝わっていた。

 

 

「これがわたしたち四人ではじめて作った曲かー」

 

「はじめてでおそらく最後……」

 

 

 かなでが何気なく言った言葉の後にさやが言いその場がシーンとする。

 そう、これはきっと最後の曲だ。

 文化祭が終わったら残りやれる回数はいったいいくつあるだろう。そもそもあるのだろうか。

 ことねもそれを分かってか、さやの言ったことに頷く。

 

 

「そだね。きっとこれが最後のオリジナル曲。そしてブルーシルの集大成の曲。あと何回演奏できるか分からないけどこの瞬間を楽しもう」

 

 

 この青春は今しかない。だから全力で楽しもう。

 そう彼女たちは誓った。

 



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そまりの文化祭

「では一年B組の文化祭は演劇をやります」

 

 

 それは姫乃女学園のとあるクラス。一年B組の文化祭の出し物が決定したばかりの時だ。

 

 

「誰か脚本をやりたい方はいませんか?」

 

 

 眼鏡をかけた学級委員長が言う。

 すると一人の少女が立ち上がった。

 

 

「はい私が脚本をやります。オリジナルストーリーでやりたいです!」

 

「演劇部の雪ノ瀬さんですね。頼もしいです。それでは次回、配役を決めましょう」

 

 

 そうして文化祭の出し物が決まりチャイムが鳴った。

 

 

「演劇か……」

 

 

 クラスメイトが休み時間でばらけているなかで1年B組の生徒夕凪そまりは憂鬱だった。

 

 演劇など自分には無縁だと彼女は思っていた。

 彼女は極度のあがり症だ。

 リアルでは人前でしゃべろうとすると噛みまくり照れて緊張してしまうことばかりだ。

 

 そんな自分を直したいと思いつつもどうせ無理だと思いとりあえず演劇は裏方に回っておこうと心の中で決める。

 

 そうして暇を潰すように猫の形をした消ゴムを撫でて遊んでいた。

 

 

「そまりちゃん!」

 

「ひゃっ、ひゃい!? ってせつちゃんか……」

 

 

 いきなり声をかけられ驚き変な声が出るそまり。

 

 振り向くとそこには先程演劇の脚本を担当すると言っていたそまりの友達、雪ノ瀬せつが立っていた。

 

 

「ごめんね驚かせちゃったかな? でもね!そまりちゃんに是非聞いてほしいことがあるの」

 

 

 彼女はなぜか嬉しそうに楽しそうに言ってきた。

 

 

「そまりちゃん、演劇の主演やってみない?」

 

「え、えっ!? えっ!? あたしがっ!?」

 

 

 そまりははじめせつの言ってたことが理解できなかった。

 自分が演劇の主演?

 つまり舞台に立つ

 しかもメインで

 

 理解できない。

 

 

「私、そまりちゃんがお姫様役のストーリーを考えてて是非そまりちゃんにやってほしいの」

 

「いいねそれ。僕もそまり姫が本当のお姫様になるところ見てみたい」

 

「まいかちゃんまで!?」

 

 

 赤髪のボーイッシュな少女、火乃まいかが会話に入ってきて面白そうに言ってきた。

 せつとまいかは二人とも演劇部でそまりが気楽に話すことができる友達だった。

 

 

「実はねもう脚本はあらかた作ってあるんだ。読んでみて考えてみて」

 

 

 せつは持っていた一つのノートをそまりに差し出す。

 

 そのノートには演劇シャルロットというその脚本のタイトルらしきものが書かれていた。

 

 

「う、うん……」

 

 

 そまりは恐る恐る手に取り脚本を読むことにした。

 

 

 ◇

 

 

 脚本の内容を見た後、そまりはその日のうちにある人物に相談をすることにした。

 場所はつむぎたちと一緒に行ったことのある喫茶店。

 

 そこでそのある人物と飲み物をテーブルに置き話をする。

 クラスで演劇をやること。

 そまりが脚本担当の友達に主演を推薦されたこと。

 丁寧に説明していく。

 説明し終わった後その人物は言う。

 

 

「それであたしに相談? なんでつむぎでもさやでもなくあたし?」

 

 

 その相手はつむぎでもさやでもなくひなただった。

 

 ひなたとはつむぎとさやの友達で何度か面識がある。だがそこまで親しい真柄ではない。

 

 当然の反応だろう。リアルだけの面識ならば。

 

 

「ひなた先輩ひそかちゃんの映画の主演やってたじゃないですか」

 

「はぁ!? なんでそれを!? そまりってあたしの正体ミーシェルって知ってたの!?」

 

 

 思わず立ち上がりテーブルを叩くひなた。

 そう、ひなたは今や輝くアンリアルドリーマーミーシェルなのである。

 そまり、もといねねこはそれを知っていた。

 

 

「つむぎ先輩に教えてもらいました」

 

「つむぎのやつめ……あとで撫で回してやる」

 

 

 どうやらつむぎはねねこにひなたの正体をばらしたことはひなたには言ってなかったらしい。

 ひなたの手にはオーラが纏われているような雰囲気があった。

 

 

「ひなた先輩がミーシェルちゃんだなんてリアルとのギャップが激しすぎます! その演技力あたしにも伝授してください!」

 

 

 だがそまりはひなたを尊敬していた。

 ひそかの映画でみせた演技力。

 現実の人物ではいなさそうなしゃべり方のロールプレイ。

 それが一切ぶれることなく徹底してやれてたひなた、ミーシェルは凄いと心のそこから思っていた。

 

 するとひなたは椅子に座り言う。

 

 

「いや、そまりもねねこで全然性格違うじゃん。あたしに教わることなんてないんじゃないの」

 

「あ、あれはっあがり症にならない代わりに生み出された産物で演技っていうかねねこそのものなんです」

 

「それはそれですごいんだけど……」

 

 

 ひなたは困惑した表情で言う。

 

 

「リアルのあたしはねねこみたいに舞台に立ったり大勢に見られることは無理です……あがり症のあたしなんかに主演なんてできるか」

 

 

 不安そうに言うそまり。

 ねねこはねねこだから動画にも配信にも出られる。

 しかしそまり自身にはそう言った表舞台に出ることなんて無理だった。

 

 

「なら断ればいいでしょうに」

 

 

 そんなそまりをみてひなたはメロンソーダをスローで飲んでから言った。

 

 

「それはっ……嫌です! 脚本を書いて主演に推薦してくれた子はあたしの大事な友達なんです。なによりあたしはこのストーリーが大好きなので……」

 

 

 そまりは一つのノートを取り出す。

 それは今日せつに渡された脚本だった。

 それを見ながらそまりは思い出す。

 

 

 ◇

 

 

 そまりは中学生まであがり症でまともに話すことができず友達と呼べる友達ができなかった。

 

 

「ねぇ夕凪さんも今度映画一緒に行かない?」

 

 

 中学時代のときそまりに話しかけてきたクラスメイトがいた。

 その時そまりは……

 

 

「えっ……あ、あた、あたしは……」

 

 

 それ以上言葉が出てこなかった。

 

 

「あっ……なんか予定あったのかな? いきなり声かけてごめんね。またねー」

 

 

 そう言ってクラスメイトは去っていった。

 

 悪いのは自分だ。

 ちゃんと受け答えのできない自分が悪いのだ。

 本当は一緒にいきたいのに。

 自分がバカみたいに思えてくる。

 

 

 そんな自分を変えたくて

 新しい自分になりたくて

 そまりはねねこを生みだし

 成長することができた。

 

 

 そして高校生になりクラスで話している二人の女の子に向かって勇気を出し言った。

 

 

「あ、あの……あたしも、話に混ぜてくれませんか?」

 

 

 その相手は今では大切な友達であるせつとまいかだったのだ。

 

 

 ◇

 

 

「Unreallyのおかげで……ねねこのおかげであがり症が少しだけ克服して出来た友達なんです。その二人があたしが主演をやるのを望んでいる。だからあたしはその期待に応えたいんです」

 

 

 そまりはただ真剣に自分の答えをひなたに言った。

 ひなたもその表情をみて真剣な顔をした。

 

 

「まぁ気持ちはわかるよ。あたしだって一年前はミーシェルが動画にでることがはずくて嫌だった……でもつむぎたちと一緒の時間を過ごしたくてあたしはアンリアルドリーマーになった」

 

 

 その後ひなたはまたメロンソーダを飲みそして笑顔を見せる。

 

 

「いいよあたしが伝授したげる!」

 

 



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演劇 シャルロット

 迎えた文化祭当日。

 つむぎは体育館でステージイベントをひなたと一緒に見ていた。

 目的はさやとことねたち軽音部の演奏とそまりのクラスの出し物だ。

 

 

『次は1年B組による演劇です』

 

 

「そまりちゃんのクラスだ。そまりちゃん主演って聞いたけど大丈夫かな?」

 

 

 アナウンスが流れつむぎが隣に座っていたひなたに向かって言う。

 つむぎは心配していた。

 そまりはあがり症なのだ。

 彼女が主演を務めると聞いてつむぎは大丈夫か不安であった。

 

 

「大丈夫っしょ。なんたってあたしが直に秘策を伝授したんだから」

 

 

 だがひなたは腕を組みながら言う。

 それを聞きつむぎは首を傾げる。

 二人はいつの間に仲が良かったのだろうか。

 

 

「やけに自信満々に言うねひなたちゃん。なにをしたの?」

 

「ししっそれは二人だけのひ・み・つ」

 

 

 ひなたはいたずらっぽく片目を閉じて言った。

 

 

 ◇

 

 

 舞台裏、そまりは緊張していた。

 心臓の鼓動がバクバク鳴っている。

 

 当然だ。

 演劇の主演を務めるのだ。

 普通の人でさえ緊張するであろう役をあがり症であるそまりがやらなくてはいけない。

 

 失敗したらどうしよう。

 台詞が言えなかったらどうしよう。

 そんな事で頭がいっぱいになる。

 

 そんな不安を押さえ込むためにそまりは手をぎゅっと握りしめて胸に当てた。

 

 そまりはひなたに言われたことを思い出す。

 

 

「いい? まず演技をするのに重要なのはそのキャラの心理、キャラの深堀りをすること。そのキャラならどう行動してどう演じるかを考える。演技に没入できればあがり症も気にならなくなるよ……実際つむぎとか冬のUフェスで歌うことと目的地につくことで精一杯で終わるまで気付かなかったし。そまりはさ……できると思う?」

 

 

 喫茶店で相談してもらったときひなたに言われた言葉。それは深くそまりの心のに残っている。

 そまりは答える。

 

 

「たぶん……で、できます……いえ、絶対やってみせます!」

 

 

 真剣な表情でそまりは言った。

 するとひなたは笑顔を見せる。

 

 

「なら気合いは良し! きっとどうにかなる!」

 

 

 それはそまりにとって背中を押してくれる言葉だった。

 

 

 

 

 

「すぅ……よし」

 

 

 ひなたとの会話を思い出すとそまりは緊張が自然とおさまっていた。

 今からそまりはそまりでありそまりじゃない。

 シャルロットという物語の主人公になるのだ。

 強い決意を胸にそまりは演劇がはじまるのを待った。

 

 

 ◇

 

 

 閉じていた緞帳が開く。

物語が始まる。

 そこにいたのはそまりだ。

 彼女はボロボロな衣装を着ていた。

 

 

『あるところにシャルロットという一人の少女がいました』

 

 

 一人の少女が語り部としてナレーションをする。

 その声はそまりの友達である雪ノ瀬せつだった。

 

 シャルロットというのがそまりの演じる主人公らしい。

 

 

『シャルロットは病気のおばあさんの面倒を見てる心優しい女の子です。シャルロットは絵本が大好きでした。』

 

 

 おばあさん役の少女の看病をしたり絵本を読むそまりが舞台上で演じられる。

 彼女は緊張している姿を一切見せていなかった。

 彼女には観客は目に見えてなくて演技に没頭しているように感じられた。

 

 

『絵本の世界のお姫様のように彼女は舞踏会に行きお姫様になりたいと強く願っていました。お城で行われる舞踏会はもうすぐです。しかし、少女には舞踏会へ行くためのドレスがありません』

 

 

 

「ごめんね。かわいいドレスを買ってあげられなくて」

 

「いいのおばあちゃん。ここからお城までは遠いからどっちにしろいけないもの」

 

 

 ベッドで横たわるおばあさんをみながらシャルロットは言う。

 

 

『シャルロットとおばあさんの住む場所は森に囲まれててお城は遠い場所にありました。シャルロットは夜、絵本を読みながらつぶやきます。』

 

 

「はぁわたしも絵本の国のお姫様のようになれればいいのに」

 

 

『現実には魔法使いなんて都合のいい存在はいません。シャルロットは憧れだけを抱き続けます』

 

 

 するとそれを窓の奥でみていたものがいた。

 

 

『それを森の動物たちは見ていました。

 森の動物たちはシャルロットと仲良しでたちが怪我をしたらシャルロットがいつも手当てしてくれます。そこで動物たちは団結します』 

 

 

「シャルロットのためにドレスを作ろう!」

 

 

 動物たちは小さな人形でできていた。

 それを裏方の子達が操って声を出しているようだ。

 

 

『動物たちはドレス作りを始めます。

まず羊の毛を刈りドレスの生地を作っていきます。そしてぶどうを使い生地に色をつけていきました』

 

 

「ガラスの靴はつくれないけど木の靴ならボクたちが作るよ!」

 

 

『リスたちが木をかじり木の靴を作っていきました。みんながシャルロットのために一生懸命でした』

 

 

『そして舞踏会当日』

 

 

「シャルロット目を覚まして! 今日は舞踏会だよ」

 

 

 動物たちがベッドで眠っているシャルロットを起こした。

 

 

「え?動物さんたち? 私は舞踏会には行けないよ」

 

「これを見て!」

 

「これは!?」

 

 

『シャルロットは動物たちが作ったドレスを見て驚きます』

 

 

 それは羊の毛でできた青いドレスに木で出来た青い靴だった。

 それを手に取るとシャルロットは一度舞台裏に隠れる。 

 そしてまた姿を現した時にはその衣装を着ていた。

 

 

『シャルロットは早速ドレスに着替えました。最後に花の冠を被ります』

 

 

「これが私……!? ありがとう……でもみんな……舞踏会は今からじゃ間に合わないよ」

 

 

『舞踏会のあるお城は遠い場所にあります。歩いていっては間に合いません』

 

 

「それなら僕の背中に乗って! 馬車はないけど馬にだって負けないやい!」

 

 

『そこに現れたのは以前怪我をしていたところを助けたロバでした』

 

 

「シャルロット行ってきなさい」

 

 

 寝たきりのおばあさんが言う。

 

 

「おばあちゃん……」

 

 

 シャルロットは不安そうな表情だ。おばあさんを置いてきていいのか。

 

 

「大丈夫おばあさんはボクたちが面倒を見るから!」

 

 

 しかしその不安を打ち消すかのように動物たちが言った。

 

 

「ありがとうみんな!」

 

 

『シャルロットはロバの背中に乗りお城へと向かいました』

 

 

 そして緞帳は一度幕を閉じる。

 ステージの取り替えを行っているようだ。

 開くとそこはシャルロットの家から舞踏会の会場にへと変わっていた。

 

 

『お城に無事ついたシャルロットはお城の中へ入ります』

 

 

「うう……私ここにいて大丈夫かな……」

 

 

『まわりの女の子たちはみんなかわいくて立派なドレスを着ています。シャルロットは自分がここにいても大丈夫か不安になりました。

 

 そこに一人の王子さまのような男の子が現れます』

 

 

 その男の子役はボーイッシュなそまりの友達火乃まいかだった。

 その男装した彼女の姿は似合っており、みとれそうになるほど綺麗で格好いい。

 

 

「そこの君名前は?」

 

「えっ、そ、そのシャルロットって言います」

 

「シャルロット……いい名前だ。その服もとても似合ってる」

 

「これ……森の動物さんたちが作ってくれたんです。私が舞踏会に着るドレスがないからって」

 

 

 シャルロットはドレスをヒラヒラと揺らせながら嬉しそうに言った。

 

 

「素敵な話だね。良かったら僕と一緒に踊ってくれないかい?」

 

 

『男の子は手を差し伸べます』

 

 

「はい、喜んで」

 

 

『二人はダンスをしました。その後、その男の子は本当に国の王子であることがわかりました』

 

 

「シャルロットよかったらこれからも一緒にいてくれないかい?」

 

「私なんかで……いいの?」

 

「君ほど美しくて心優しい人を僕は見たことがない。君がいいんだ」

 

「私でよければお願いします王子さま//」

 

 

『そうして二人は結婚することになりました。おばあさんの病気もお城のお医者さんにより治り健康な体になりました。結婚式は森で行われて森の動物たちも祝福しみんな幸せに暮らしました。めでたしめでたし』

 

 

 そうして緞帳は閉められ物語は幕を閉じた。

 

 

 

 

 一斉に拍手が巻き起こる。

 物語はとても優しさに溢れた物語だった。

 つむぎもその優しさに包まれ心が暖かくなる。

 なによりそまりがあそこまで緊張せず演技を出来ていたことに関心をしていた。

 

 

「凄いよかったねひなたちゃん!」

 

「うん……さすがあたしの弟子!」

 

 

 ひなたの声は震えていた。

 

 

「ひなたちゃん泣いてる?」

 

 

 つむぎはひなたの顔を見ようと近づく。

 すると視界が真っ暗になる。

 

 

「泣いてないっての! というかそまりにミーシェルの正体バラしたなこのこの~」

 

「えっ!? ちょっ!? なんで今っ!?」

 

 

 ひなたはつむぎの髪をぐしゃぐしゃにするように両手で撫で回した。

 つむぎはあわてふためく。しかしそれはひなたの照れ隠しだったのかもしれない。

 



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文化祭の終わり

 そまりたちの演劇が終わってからしばらくイベントは続きついに軽音部の出番になった。

 

 緞帳が開かれていく。

 そこにいる軽音部もといブルーシルのメンバーたち。彼女たちの衣装はいつも通りの制服を着ていた。

 はじめはしっかりとした衣装を用意しようかみんなで検討したがブルーシルらしさを考えたとき女子高生であることを強調するために制服にした。

 

 

「どうもブルーシルです。私たちメンバー全員が三年生でこれが最後の文化祭です……なので精一杯全力で演奏させてもらいます!」

 

 

 ことねは笑顔で挨拶をする。

 その後メンバー全員にアイコンタクトを取る。

 正面を向きことねは一度目を閉じ集中する。

 

 そしてひびきのドラムスティックの合図により演奏が開始された。

 

 

 その曲は終わりを迎える青春を唄った歌だった。切なくもエモいその曲はメンバー全員の意見を込めて作られたブルーシルの集大成。

 

 この日のために何度も練習した。

 最後の文化祭。

 その悔いが残らない演奏を披露するために。

 

 ありのままのすべてを全力で出しきった。

 

 

 演奏が終わりを迎え壮大な拍手が巻き起こる。

 

 

「……ありがとうございました!!」

 

 

 最後にことねが汗をかきながら笑顔で挨拶をし幕を閉じた。

 

 

 ◇

 

 

『文化祭成功を祝ってかんぱーい!!』

 

 

 文化祭が終わり、つむぎたちはファミレスで軽音部の打ち上げをしていた。

 それぞれジュースを持って乾杯をする。

 

 

「いやーよかったね文化祭。わたし軽音部じゃないけどほんとに来てよかったのかな?」

 

 

 つむぎは誘われて打ち上げに来ていた。

 

 

「つむがいなかったら軽音部は成立しなかったかもだし歓迎するよ」

 

 

 ことねが微笑み言う。

 

 

「そうそう楽しも楽しも」

 

「そう言うひなたは完全に無縁だと思う……」

 

「なんだと!?」

 

 

 一緒についてきたひなたが遠慮なくメロンソーダを飲んでいるとさやがつっこみを入れる。

 

 ひびきとかなではフライドポテトを食べながら何をつけて食べるかで二人で話していた。

 

 

「あっ、先輩たち!」

 

「そまりちゃん! そまりちゃんたちも来てたんだね」

 

 

 つむぎたちが和気あいあいと話をしているとそまりとその友達のせつとまいかが一緒にこちらの方を見ていた。

 

 

「演劇良かったよ! ひなたちゃんなんて泣いて「あーあーあー聞こえない!!」

 

 

 つむぎが感想を述べているとひなたがそれを妨害するように騒ぎ立てた。

 泣いてたことがよほど知られたくないようだった。

 

 

「その……ひなた先輩のおかげであたしはあがり症を克服できてその……ありがとうございました!」

 

 

 そまりが大きくお辞儀をする。

 ひなたに演劇のアドバイスを貰ってたと聞いたがそれほどまでに彼女に影響を与えたのだろう。

 

 

「ししっ……ま、あたしにかかればそれくらいなんてことないさ」

 

 

 片目を閉じひなたは笑うように言う。

 

 

「それでその演技をする中であたし……夢が出来たんです!」

 

「夢?」

 

 

 するとそまりは顔を赤くした。

 つむぎはそまりの言葉に興味を持った。

 春には夢がなかった彼女に出来た夢。

 果たしてそれはなんなのだろうか。

 

 

「声優になること……です。元からティンクルスターは好きだったしその中の人たちみたいな声優にあたしもなりたいとか考えてたり……はぅ//誰にも言ってなかったのに言っちゃった//」

 

 

 最後は顔を真っ赤に染めて顔を両手で隠すそまり。

 

 

「いいね声優! そまりちゃん頑張って!」

 

 

 つむぎは笑顔で応援する。

 そまりが声優になりたいというのはあがり症という彼女の性格を考えれば意外ではあった。

 しかし彼女はどうやら本気らしい。

 その上でのカミングアウトだろう。

 

 

「言ったからにはちゃーんとなりなさいよ」

 

 

 するとひなたがストローに口を離してから言う。その目は真剣な表情だ。それに答えるようにそまりも真剣な目付きでひなたを見つめる。

 

 

「……はい! 頑張ります!」

 

 

 それは新たなそまりの人生の一歩とも言える日だった。

 



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思わぬ再会

 文化祭が終わり数週間後。

 つむぎたちはいよいよ本格的に受験勉強に専念しなければいけなくなった。

 

 それによりUnreallyにいる時間は勉強の時間が多くなっていきアンリアルドリーマーとしての活動も徐々に少なくなっていく予定だ。

 これも受験を成功させるために致し方ない。

 

 

 そんな中つむぎはリアルでライブハウスに来ている。

 それは息抜きであり、ことねたちブルーシルの活動の大きな舞台での最後だった。

 

 なのでその姿を目に焼き付けなくてはならないとつむぎはライブハウスに足を向けたのだ。

 ライブハウスで演奏をしているのを聞いてから何度か来てはいるがその賑わいは文化祭のときとは別の雰囲気が漂っていた。

 

 このライブハウスはつむぎの思ってたライブハウスのイメージと少し違っていた。

 つむぎはバリバリロックな雰囲気のあるのがライブハウスだと思っていたがグランドピアノがステージの端に設置されており幅広いジャンルの音楽が楽しめるようだ。

 

 

 舞台裏。

 楽屋でことねたちブルーシルは話し事をしていた。

 

 

「これが終わったらもうあとは卒業ライブだけかー。受験が終わるまで活動は一旦終わりだねー」

 

「そうね、寂しくなるわ」

 

 

 制服を衣装にそれぞれ楽器の調整を終わりもうすぐステージ本番という所。ひびきとかなでが寂しそうに今までを振り返りながら言った。

 

 

 ブルーシルの活動は卒業式の後の謝恩会で披露するのが最後となりそれでブルーシルは解散だ。

 

 そして受験が終わるまで活動は今回きりで休止となる。

 今回のライブはとても大切な数少ないライブの機会なのだ。

 

 

「だからこそ……全力でこの瞬間を楽しもう」

 

「うん……」

 

 

 ことねがリーダーとしてその場の空気を変えるように言いさやはそれに頷いた。

 

 そして彼女たちは円陣を組み手を全員重ねていく。

 

 さやたちは目を瞑り集中していた。

 ことねの合図を待っている。

 

 

「……行こう! 空に羽ばたけ!」

 

『ブルーシル!!』

 

 

 掛け声を全員で言う。

 この掛け声も何度もやりさやははじめは気恥ずかしかったが慣れていった。

 

 

 ◇

 

 

 一組目からブルーシルの出番だった。

 ライブハウスのステージにはことねたちが制服を着て楽器を持ち立っている。

 

 客の中にはブルーシルのファンがいるらしくさやちゃんかっこかわいいーと叫んでいる女の子がいた。つむぎも心の中でがんばれーと応援する。

 

 するとことねがマイクスタンドを片手で持った。

 

 

「こんばんはブルーシルです。たぶんこうやってライブハウスで演奏するのはこれで最後かな……だから精一杯やらせてください!」

 

 

 気持ちのこもった言葉をことねがいいそれから演奏が開始された。

 

 

 ◇

 

 

「お疲れみんな!」

 

「おつあり~つむっち」

 

 

 演奏が終わりそれぞれジュースの入ったペットボトルを持ち観客席へと来たことねたち。

 かなでが真っ先にお疲れの挨拶を返してきた。

 

 

「いい演奏だったよ! ほんと何度聞いてもブルーシルの曲はエモくてすごいよ! やっぱりこれからももっとバンド活動してほしいなぁ」

 

「ふふっ、そう言ってくれるのは嬉しいわ」

 

 

 ひびきが微笑み嬉しそうに言う。

 

 

「でも活動は今回と次でおしまいだよ。それはもう決めてあることなんだ」

 

「どうして?」

 

 

 ことねが首を振り期待を裏切るように言った。

 それは高校を卒業してバラバラになるから解散というだけではなさそうだ。

 

 

「ブルーシルは女子高生の青春を歌ったバンドだから。高校を卒業するってことはブルーシルは卒業するって決めてるんだ」

 

 

 真剣にことねは言う。

 ことねはいつも言っていた。

 今この瞬間を楽しもう。

 それは女子高生であることを

 青春を楽しもうということなのだろう。

 それがブルーシルなのだ。

 

 

「そっか……それなら仕方ないね」

 

 

 つむぎは納得した。

 彼女たちがそう決めたならなにも言うことはない。

 

 

「それより……どうしてわざわざ客席に来たの?」

 

 

 さやが口を開く。

 確かになぜこちらに来たのだろう。

 

 

「いやねーコンテストで毎回優勝してる天才ピアニスト女子高生がちょうど今日ここで演奏するらしくてねーこれは見るしかないしって思ったのー」

 

「まぁいいじゃないこれで最後だし、せっかくだから見ていきましょう」

 

「まぁそう言うなら……」

 

 

 乗り気でなかったさやが納得する。

 

 グランドピアノがおいてあるだけあってやはり普通のバンドだけが参加するわけではないらしい。

 

 しかし天才ピアニストとはいったいどんな子だろう。

 

 すると一人の少女がグランドピアノの方に現れる。

 

 髪は黒髪のサイドテール。水色の瞳をした少女だった。

 

 

「霧谷かすみです。わたしの演奏是非聞いてくださいね」

 

 

 少女お辞儀をし、グランドピアノの椅子に座る。

 

 

 するとポトッとペットボトルが落ちる音がする。

 それを落としたのはさやだった。

 

 

「うそっ……でしょ……」 

 

 

 彼女は震える声で言った。

 

 そうしている間にかすみの演奏が始まる。

 ピアノの美しい音色が響いてくる。

 

 

「さやちゃん!?」

 

 

 さやはというとなぜか最前列の方へと向かって行った。つむぎはさやのあとを追う。

 素早くいくさやに対しすいません前通りますといいながらつむぎは追っていった。

 

 

 さやは最前列に来ると動きが止まった。

 つむぎは声をかけようとしたがさやは彼女をかすみをじっと見つめていて聞こえそうにない。

 

 それから演奏が終わるまでこの状態が続いた。

 

 

「ご静聴ありがとうございました」

 

 

 かすみがグランドピアノから立ちお辞儀をする。すると一斉に拍手が巻き起こった。

 

 彼女の演奏は天才ピアニストと言われるだけあって指が細かく動き常人じゃ無し得ない演奏を披露していた。

 

 彼女は周りを見渡す。するとさやと目があった。

 そしてさやの方に近づいて来る。

 

 

「かすみっ……」

 

 

 震えるように言うさや。

 彼女はなにか怯えているようにも感じる。

 

 

「こんなところで再会できるなんて思ったより早く会えて嬉しいよさやちゃん」

 

 

 しかしかすみの方はにやりと笑っていた。

 

 

「さやちゃんこの子知り合い?」

 

 

 つむぎが問う。二人は知り合いのような口ぶりであった。

 

 

 それに対しさやが言った答え……

 

 

「私が小さい頃……友達だと思っていたピアノ教室の子」

 

「この子がっ!?」

 

 

 つむぎはその答えに驚き目を見開く。

 

 彼女こそさやにとっての分岐点

 

 

 友達と言う言葉を信じられなくなり

 

 さやが孤独を選択したきっかけ

 

 

 霧谷かすみ本人なのである。 

 



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宣戦布告

「…………」

 

 

 沈黙だ。

 向こうでは演奏がされ盛り上がっているのにここでは気まずい沈黙が周りをシーンとさせる。

 

 場所はライブハウスのロビーにあった席。

 そこでつむぎとさや、そしてかすみが対面して座っていた。

 この場所に話があるからと誘ってきたのはかすみだった。

 つむぎはさやに手を引かれついていったのだ。

 

 

「久しぶりの再会なのに嬉しそうじゃないね。わたしは会えて凄く嬉しいのに……」

 

「……」

 

 

 微笑むかすみに対してさやはただただ無言だった。

 つむぎは止めに入った方がいいのか迷っていた。最初はここにいるべきか迷いはしたがさやはこの再会を快く思っていないらしい。

 なら彼女のそばにいてあげるべきだと思い見守っていた。

 

 

「ねえさやちゃん覚えてる? わたしがあなたとは友達じゃないって言ったこと」

 

「……っ!?」

 

 

 さやの手がピクリと動いた。

 それはさやにとっては忘れられないある種のトラウマ。

 

 小さなさやの心を抉った深い傷。

 

 

「それにはねちゃんと理由があるの」

 

 

 するとかすみは微笑む表情をやめて真剣にさやを見つめた。

 

 

「わたしはねさやちゃん……ずっとあなたを越えたかった。わたしのお母さんは有名なピアニストでわたしはそれに憧れてピアノを習った。

 

 そこにさやちゃんが現れてわたしの人生は変わった。最初は嬉しかった。こんなに素敵な演奏ができる子が同い年にいることが。

 

 だから仲良くしてた。でも……それはいつしか嫉妬に変わってた。

 

 どんなに頑張ってもコンテストで優勝するのはあなたでわたしは二番手どまり。両親はそれでも喜んでくれてた。でもわたしにとってピアニストの娘であることがプレッシャーでもあった。

 

 それで気付いたの……あなたと関わることがわたしが成長するのに不要なことだって。だから縁を切った」

 

 

 それは衝撃的な事実だった。

 彼女が縁を切った理由。

 それがさやのピアノの演奏の腕前による嫉妬だということに。

 

 

「そしたらあなたはピアノ教室には来なくなってどのコンテストを受けてもあなたはいない。そのおかげでわたしはコンテストで優勝するようになった。けど、あなたのいない場所での一番なんていらない。わたしはあなたに勝った上での一番が欲しい」

 

 

 かすみはその後しばらく言葉を溜める。

 そして口を開いた。

 

 

「だから、わたしと対戦して」

 

「対戦って……いったいどうやって……?」

 

 

 ずっと黙り込んでいたさやが口を開く。

 対戦するとはどういうことか?

 ピアノで勝負するということなのか。

 それとも別のなにかなのか。

 かすみはスマホを取りだしある画面を見せた。

 それが分かるのはそう遅くはなかった。

 

 

「あなたにならぴったりな場所があるでしょ? 小太刀咲夜ちゃん……」

 

『ほむらすみれっ……!?』

 

 

 つむぎとさやは同時に言う。

 彼女の出してきた画面それはほむらすみれのチャンネルアカウントだ。

 それは登録者の画面ではない。

 投稿者にしか見れない設定アイコンが表示されていた。

 

 しかしなぜさやが咲夜であることを知っているのだ?

 

 

「わたしは去年の冬たまたま見たUフェスの配信であなたがわたしに聞かせてくれた曲のメロディーが耳に入った。一発であなたの曲だと分かったよ。小太刀咲夜がさやちゃんであることもそうかからなかった」

 

 

 そういえばさやは、おそらくはじめて自分の作曲した曲をかすみに聞かせているのだ。

 それが今のモノクロームだ。

 かすみはそれを覚えていたというのか。

 

 

「それからわたしはほむらすみれとしてUドリーマーでピアニストとして活動してる。順調に登録者も増えていてあなたに並ぶ日も近い。だからあなたとUnreallyで音楽勝負させてよ。わたしがあなたより優れてるって証明するために」

 

 

 するとかすみは立ち上がる。

 

 

「ルールは後日Unreallyで決めるから。決戦の日を待ってて」

 

 

 かすみはそのまま荷物を持って立ち去って行った。

 

 

「…………」

 

「さやちゃん……大丈夫?」

 

 

 心配そうにさやの方を見るつむぎ。

 さやは左の二の腕を右手で握り震えていた。

 つむぎはずっとただ見守ることしかできなくて彼女を助けてあげることができなかった。

 あの会話の中に入っていくことが自分にはできなかった。

 

 

「へ、平気だよつむぎ……」

 

 

 さやは笑う。それはもちろん心のそこからの笑いではない。

 無理をした苦しそうな笑いであった。

 

 

 ◇

 

 

 帰路。つむぎとさやはことねたちとは別々に帰ることにした。

 

 ことねたちはこの詳細を一切知ってない。

 今日この日を楽しいものにするためにも彼女たちには知らないでいてくれた方がいい。

 

 

「私知らなかった……かすみが私の音楽に嫉妬していたなんて。縁を切った理由が私の音楽のせいだなんて……」

 

 

 さやは変わらず元気がない表情だ。

 それもそうだろう。

 自分が思ってた以上に二人の関係には深い傷があったのだ。

 

 そこでつむぎは考える。

 

 

「さやちゃん……そのさ、今日さやちゃんの家に泊まりに行ってもいい?」

 

「……別に親も今日いないから平気だけど……どうして?」

 

「今のさやちゃんは一人にしておけないから」

 

 

 彼女のそばにいてあげたい。

 今にも触れてしまうと崩れてしまいそうな彼女をただ支えてあげたい。

 

 つむぎはその一心でこれからのことを考えていった。 

 



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誰よりもあなたの…

 つむぎはさやの家に行く前に支度をしに家に戻る。

 つむぎは母に許可をもらい着替えなど荷物を取ってきて服を着替えてからさやの家に向かった。

 

 

「おじゃまするね」

 

 

 向かいいれてくれたさやは部屋着に着替えていた。

 その後つむぎはさやの家のリビングに入る。

 高級マンションのさやの家はつむぎは最初入るのにためらいがあったが今となってはそれは些細なことだ。

 つむぎはリビングを見渡したあとキッチンの方を見る。キッチンには食材が置いてあった。

 

 

「今日ってご飯なにか作る予定だった?」

 

「うん……カレー作ろうと思ってた」

 

「そっか、じゃあわたしも一緒に作るよ!」

 

「ありがとう……」

 

 

 さやは少しだけ顔色が良くなってきた。

 

 やはり彼女のそばにいて正解だったかもしれない。それはただ自分がそばにいてあげたいだけなのかもしれないが。

 

 

 それから二人はカレーの材料を手分けして切っていく事にした。

 つむぎはたまねぎを切っていく。

 リアルでの料理はいつぶりだろうか。

 Unreallyでは料理企画もやっているためそこまで久しぶりな気は自然としなかった。

 

 

「いたっ……」

 

 

 しかし不注意で人指し指に包丁の刃がかすり切り傷ができてしまう。

 

 

「今絆創膏探してくるから座ってて……」

 

 

 さやが絆創膏を取りにリビングを漁る。

 つむぎはさやの言う通りに従いソファーに座った。

 

 さやは戻ってくると絆創膏を手にしておりつむぎの切った人差し指に絆創膏を貼る。

 

 

「これでよし……」

 

「えへへ……ごめんね」

 

「いいよ……痛くなかった?」

 

「大丈夫これくらいすぐ治るよ。そりゃアンリアルよりは痛むけどさ」

 

 

 幸いにも浅く少し血が出るくらいだった。

 だがUnreallyだったらちょっとの痛覚を感じたらすぐに消え去るだろう。そう思うとやはりリアルは不便だ。

 

 だがそれ以上に、心の傷はどこへいようとも変わりはしない。

 彼女の痛みに比べたらこんなことなんてことなかった。

 

 

 

 ◇

 

 

 カレーが完成し二人は夕食を食べその後リビングのソファーでココアを飲んでいた。

 

 

「私の音楽は不幸にするのかな……」

 

 

 右隣に座るさやがココアを口にしながら言う。顔色は多少よくなってもまだ気持ちは悪いままのようだ。

 

 

「どうして?」

 

 

 とつむぎは問う。

 

 

「かすみは私がいなければきっと幸せでいたと思う。もっと自由に音楽ができたはず。彼女がああなってしまったのは私のせい……私はどうすれば……」

 

 

 さやは自分を追い詰め追い込んでいた。

 自分のせいでかすみは不幸になったと。

 自分がいたから彼女はプレッシャーや嫉妬を負ってしまったと。

 

 自分さえいなければとそういう考えになっていた。

 

 

「大丈夫だよ……」

 

 

 だからつむぎは手を両手で握る。

 彼女が存在しない方がいい世界なんて存在しない。

 

 

「さやちゃんの音楽は多くの人を幸せにするから」

 

「そんな確証ある?」

 

 

 さやはそれを信じていなかった。

 だからつむぎは言う。

 

 

「わたしはね……さやちゃんの音楽があったからさやちゃんに出会うことが出来て、辛いときくじけそうな時もさやちゃんの音楽に救われたんだよ。誰よりもあなたのファンであるわたしが言うんだもん」

 

 

 つむぎは笑顔で言う。

 

 

「つむぎ……」

 

 

 さやは今にも泣きそうな顔でつむぎをみた。

 彼女にはこんな表情より笑顔の方が似合う。

 だからこそつむぎは決意する。

 

 

「それにね……きっとそう思ってる人はわたしだけじゃないと思うの。それを証明してあげるよ!」

 



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本当の友達

 後日ルールが決まった。

 内容は対バン形式でネット配信されすみれと咲夜が演奏をする。という内容なのだがなんと司会としてこころが参加することとなった。

 

 というのも公平さを保つためにこころのチャンネルで配信されることとなったからだ。

 

 結果はUnreallyの会場、Dreamtubeの投票数の合計を競う。

 合計の多い方が勝者として決まるようだ。

 

 

 そして迎えた当日。

 

 

◆【対バン】小太刀咲夜ちゃんVSほむらすみれちゃん【勝つのはどちらか】

 

 

 何十万もの視聴者がこころの配信を見る。

 この対バンは告知がされており地味に話題になっていた。

 またその会場にも一万人以上が来ていた。

 

 

「あなたの色は何色? わたしは虹色! 七色こころです! 今日はビッグイベント! なんとなんと音楽Uドリーマーとして人気の咲夜ちゃんとすみれちゃんが対バンをするよ! 司会配信チャンネルは公平さを保つためにわたしが受け持ちました! ルールは簡単! Unreallyの会場とこの配信を見ているみんなに投票権が与えられるよ。総合投票数が多かった方が勝ちだからたくさんの人に見てもらいたいな」

 

 

 こころがルールを改めて説明をする。

 

 一方その少し前、当の本人たちは舞台裏の廊下で顔を見合わせていた。

 

 

「やっとこっちでもやっと会えた……今日はよろしくね」

 

「うん……」

 

 

 はにかむかすみことほむらすみれに対し咲夜はただ大人しく挨拶を交わした。

 つむぎはその咲夜の隣に付き添っていた。

 

 先行はまずすみれからだった。

 挨拶をし終えるとすみれは自分の楽屋に向かおうと立ち去ろうとする。

 

 

「あのっ……!」

 

 

 そんなすみれを呼び止めるつむぎ。

 呼び止められて振り向くすみれ。

 

 

「いつも咲夜ちゃんと一緒にいるつむぎちゃんね……なに?」

 

「ちょっとお話をしませんか二人で」

 

 

 ◇

 

 

 咲夜には先に楽屋に行ってもらいそのまま廊下で二人は話をすることとなった。

 

 

「話ってなに?」

 

 

 すみれは少し不機嫌そうに言う。

 つむぎはそんなすみれを少し怖く感じるが気に止めない彼女に言いたかったことを言った。

 

 

「すみれちゃん……さやちゃんのこと本当は友達だと思ってたんですよね?」

 

「どうして?」

 

「さやちゃんが作った曲をずっと覚えていたのって本当は大切な友達だからじゃ……友達だと思ってないなんて嘘ですよね?」

 

「あなたにわたしの気持ちがわかるって言うの?」

 

 

 つむぎの考えに反対するかのようにすみれは睨んできた。

 後ろに下がろうとしてしまうがその足を止める。逃げてはいけない。

 

 

「全てはわからないです……でもさやちゃんの才能に嫉妬する気持ちはわかります。わたしだってそう思う気持ちがないわけではないですから」

 

 

 咲夜は音楽に関して天才だ。

 凡人のつむぎからしたら本当に天にも上がる存在なのだ本来。

 

 つむぎがデザインコンテストに入選しなかった傍ら咲夜は神咲レアからレーベルデビューのオファーをもらっていた。

 

 分野は違えどそれだけ才能に差がある。

 

 

「でも……だからって縁を切るなんて間違ってる。本当の友達だったらどんな時でも側にいてあげるべきです」

 

 

 咲夜には嫉妬する気持ちはある。

 でも彼女のそばにいたいとつむぎは思う。

 それはもちろん彼女の音楽が好きだから

 それもあるが一番は彼女のことが大切なのだ。

 

 

「……そんなの……もう今さらわたしには遅いの……」

 

 

 見切りをつけたのか、すみれはそれだけを言い残し自分の楽屋の方へと向かっていった。

 



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みんなを幸せに

 すみれとの話を終えた後、つむぎは咲夜の楽屋に入っていった。

 

 

「つむぎ……いったい何を話してたの……?」 

 

 

 心配する咲夜。

 つむぎはそれを見て笑顔を見せた。

 

 

「えへへ……ちょっとした挨拶だよ。それよりさ、今から生配信しようよ!」

 

「生配信? どうして?」

 

 

 首をかしげる咲夜。咲夜はいきなりのことに困惑してるようだ。

 

 

「いいからいいからじゃあ配信始めるよ!」

 

 

 つむぎは羽が映えたカメラを取り出し配信を始めた。

 

 

◆咲夜ちゃんを応援する会│麗白つむぎ

 

 

「こんにちは、麗白つむぎです。今日は咲夜ちゃんとすみれちゃんの対バン。なので咲夜ちゃんを応援するために急遽配信することにしました!」

 

「ど、どうも……いきなりのことで戸惑っている咲夜です」

 

 

 自然と会話を進めるつむぎに対しいきなりのことで状況をまだ理解してない咲夜が言う。

 

 

「咲夜ちゃんはね……今凄い悩んでるの。自分の音楽がみんなを幸せにできるか。だからねわたしとファンのみんなの励ましのエールを送ろうと思うの!」

 

「エール……?」

 

 

 それからつむぎは言う。

 

 

「わたしはね、咲夜ちゃんの音楽があったから咲夜ちゃんに出会えて今アンリアルドリーマーとしていられる……運命だと思えるくらいにわたしに幸せを咲夜ちゃんは与えてくれた。みんなも咲夜ちゃんへの気持ちを伝えてくれないかな?」

 

 

 つむぎが視聴者に向かって言う。

 するとコメント欄は咲夜に対するコメントがたくさん書かれていく。

 

 

コメント:咲夜様に出会えたことが私の幸せです

コメント:咲夜ちゃんの曲毎日リピートしてる

コメント:咲夜ちゃんの影響で作曲はじめました!

コメント:いつか咲夜ちゃんみたいな曲を作ってみたいな

コメント:つむぎちゃんから咲夜ちゃん知ったけどかっこいい曲で大好き!

紅あかね:咲夜ちゃんの曲のおかげで毎日が楽しく過ごせてます!

 

 

「みんな……」

 

 

 咲夜はファンのみんなのコメントを見ていく。

 つむぎも一緒にのせられているコメントをたくさん見ていった。

 

 

「それになんとUドリーマーの友達たちからショートビデオをもらっているよ!」

 

 

 するとつむぎは一つのモニターを表示させる。

 そこにはショートビデオとしてUドリーマー仲間たちからの応援の言葉をあらかじめもらっていた。

 

 

 *byしき

 

 

「元気がないなら美味しいもの食べなよー。不幸だったらウチの方が負けないし!」

 

「ホック!」

 

 

 唐揚げを食べながらマスコットのホックと共にしきが映っている。

 突っ込みどころも多いが彼女らしい励まし方だ。

 

 *byエレオノーラ

 

 

「咲夜どのはいつも素晴らしい演奏をしているでありんすよ。その演奏ならきっと勝負に勝てるでありんす」

 

 

 エレオノーラは笑顔で喫茶雪月花のカウンターで言った。

 

 

 *byひそか

 

 

「咲夜君はからかうのは難しいけどその分歌が上手くて面白い。クールな歌声からは想像できないびっくりさせるいたずらをきっと成功させてみせるよ」

 

 

 ひそかは秘密結社ブルローネのステージに立ち言った。なんだかんだ咲夜の歌を評価している。いたずらばかりするひそからしい考えだ。

 

 

 *byミーシェル

 

「音楽で幸せにできるかだと…? 貴様らしくない……もっと胸を張ってミーをいじる時みたいにいろ……それこそ貴様らしい……のだ」

 

 

 いつものようにミーシェルは腕を組み言う。

 素直じゃないがミーシェルは咲夜のことを信頼している。それはきっと咲夜も同じだ。

 

 

 *byねねこ

 

「咲夜ちゃんにもらった曲本当に素敵な曲よ……みんなが喜んでくれる。あなたのおかげなんだからねっ」

 

 

 自分の部屋で髪をなびかせながらねねこが言った。その顔はやはり少し赤くなっているようにも見えた。

 

 

 

「みんな……ありがとう。でも私にできるかな……」

 

 

 咲夜は微笑み言った。だが彼女はまだなにか不安があったようだ。

 

 

「まだ不安なんだ……つむぎとお揃いにしたミサンガもこの前突然切れちゃって……せっかくもらった大切なものなのに……」

 

 

 咲夜の悩んでいることはミサンガのことだったらしい。それが彼女にとって不安になったのだろう。大切なものが突然壊れたのが。

 そこでつむぎは言う。

 

 

「ミサンガにはなんて願いを込めたの?」

 

「これからも友達を大切にしたいって願ったんだ。でも切れた今、なにもかも失うんじゃないかな……」

 

 

 咲夜は弱気だった。

 だがつむぎはそれを聞いて笑顔で微笑んだ。

 

 

「なら大丈夫だよ! ミサンガは切れたとき願い事が叶うんだ」

 

 

 そして咲夜の手を両手で握る。

 

 

「咲夜ちゃんは一人じゃないよ。わたしが……わたしたちがいるから大丈夫。自分に負けないで! 咲夜ちゃんは咲夜ちゃんのままでいいんだよ!」

 

「つむぎ……」

 

 

 咲夜は握られた手をもう一つの手で握り返す。

 

 

「わかった……私頑張る」

 

 

 咲夜は一つの決意ができたかのように表情が変わりいつものキリッとした顔に戻っていた。

 



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Monochrome

「さぁいよいよ演奏の始まりです! まず先行はほむらすみれちゃん! ピアノニストとしてUnreallyでは活動していきその指先の音色で多くの人を虜にしていきました!」

 

 

 こころが司会を進行させる。

 ステージにはすみれが立っていた。

 

 ロリータの衣装を見に纏った彼女はぺこりとお辞儀をした。

 

 

「ほむらすみれです。みんなわたしの曲の虜になってくださいね」

 

 

 自己紹介をしてから彼女はステージのグランドピアノの席に座る。

 そして演奏をしはじめた。

 

 

「~♪」

 

 

 彼女の演奏はやはりかすみ本人であることがわかるくらい繊細で細やかな動きをしていた。

 

 そして流れる綺麗な音色。

 しかしそれはどこかせつなげで悲劇を物語っているようにも見えた。

 

 

「ご静聴ありがとうございました」

 

 

 演奏が終わるとまたぺこりとお辞儀をして彼女の出番は終わった。

 

 観客からは拍手が巻き起こる。

 素晴らしい演奏であった。

 

 

「さぁ次は小太刀咲夜ちゃん! 自分で作詞作曲全部してて音楽に精通してるスペシャリスト! 果たして今日はどんな曲を演奏してくれるのかな?」

 

 

 ステージが変化しそこには咲夜が立っていた。

 こころが楽しそうな表情で言い咲夜を見ていた。

 

 咲夜は深呼吸をする。

 

 咲夜はなんの曲を演奏するかはずっと迷っていた。

 でも今ならあれしかない……

 

 咲夜はそう決意し、一つの曲名を言う。

 

 

「小太刀咲夜です。それでは聞いてください……Monochrome(モノクローム)」

 

 

 そして咲夜はギターを演奏し始めた。

 Monochromeそれはつむぎと一緒に作ったモノクロームをロック風にアレンジした曲だった。

 

 歌の歌詞はそのままに、今まで培ってきたものをすべて乗せて歌う。

 

 人生ではじめて作った曲

 つむぎと一緒に作った曲

 かすみに正体がバレるきっかけとなった曲

 

 それらすべてが詰まったこの曲のリメイクこそ今この場にふさわしい。

 

 新しい一歩を踏み出すために

 怯えていた過去を打ち消すために

 咲夜は全力で歌い演奏した。

 

 

「ありがとうございました」

 

 

 演奏が終わり一斉に拍手が巻き起こった。

 その勢いはすみれのときと同じくらいだった。

 これですべてが終わる。

 過去との因縁が。

 

 

 ◇

 

 

「さぁ二人とも素晴らしい演奏でした! それでは制限時間は五分! 投票開始です!」

 

 

 そして投票が始まる。

 会場とこころの配信から投票できる二つの選択肢を視聴者は選択していく。

 

 泣いても笑ってもこれが最後だ。

 つむぎは舞台の裏から結果を見守っていた。

 

 咲夜とすみれはお互い並ぶようにステージの中心に立っていた。

 

 緊張の五分間。

 それはあっという間に過ぎていくのが早かった。

 

 

「さぁ投票が決まりました! 果たして投票結果は……」

 

 

 ステージの後に大きなディスプレイが表示される。

 

 そこには咲夜とすみれの投票数が増えていくのが見えた。

 投票数は同じタイミングで同じように増えていく。つまり先に投票数が表示された方が負けだ。

 投票数はどちらも10万票を越えていた。

 さすがこころの配信。ただなんとなく見に来た人も二人の演奏を客観的に評価することができそれによりどれだけ評価されてるのかが明確にわかった。

 

 そして投票数が止まった。

 

 しかしそれはほぼ同時だった。

 

 

「投票結果 ほむらすみれちゃん 212561票! 小太刀咲夜ちゃん 216279票! なんと僅差! 勝ったのは小太刀咲夜ちゃん!」

 

 

 一気に歓声が巻き起こる。

 

 咲夜を祝福する声が巻きおこった。

 咲夜は微笑みそしてすみれをみた。

 

 ガタッとすみれは膝を落としていた。

 

 

「負けた……結果は僅差……でも圧倒的に足りないものがあった……わたしはあなたを追い抜くことばかりに集中して周りに目を向けられてなかった……そしてなによりわたし自身が楽しむのを忘れてた…」

 

 

 彼女は自分の敗因を探るかのように言う。

 咲夜との明確な違い。

 それは咲夜の音楽は自分が楽しみその中で周りにも楽しんでもらうことだからだ。

 

 咲夜ははじめ自分のために音楽を作ってきた。

 そんな彼女がつむぎと出会ってから誰かのために向けて曲を作るように心変わりをしていった。

 

 それに対しすみれは一直線に咲夜に向けた対抗心だけを曲に乗せ演奏していた。

 

 それが大きな違いだった。

 

 するとすみれの瞳からは涙が溢れだしていた。

 

 

「本当はあなたの演奏を一番近くでずっと見たかった! あなたのそばにいてもふさわしい存在になりたかった! それだけだったのに……だから認められるために追い抜く必要があった……例えあなたと離ればなれになっても……でもそれが間違いだった……」

 

 

 ボロボロと後悔するように涙を流すすみれ。

 彼女はただ想いがすれ違っていただけだった。

 咲夜のことをさやのことを友達だと思ってたからこそ遠くの存在になるのを怖がっていた。

 

 誰よりもほんとうにさやのそばにいたかったのはすみれだったのだ。

 

 すみれは立ち上がり背を向ける。

 

 

「わたしは失格……Uドリーマーとしてもアーティストとしても……」

 

 

 すみれはもうこれでさよならとでも言うように立ち去ろうとしていた。

 

 

「そんなことない」

 

 

 咲夜がすみれに対して言う。

 その声を聞いてすみれは足を止め咲夜の方を振り向いた。

 

 

「すみれは演奏でたくさんの人を幸せにしてる。それは私に追い付きたいって努力あってのこと。だからここまで評価されるようになったし勝ち負けが全てじゃない。どっちが劣っているとかは本来存在しないんだ……誰かの心に響いたならそれは立派なアーティストだよ」

 

「咲夜ちゃん……」

 

 

 咲夜は微笑みかけるようにすみれに言う。

 涙目のすみれはそれを拭うように目を擦る。

 

 

「こんなこと今さら過ぎるのは図々承知なのは分かってる。でもお願いがあるの……本当は素直になれなかったあの日の答え……」

 

 

 すみれは深呼吸をしてから次の言葉を発した。

 

 

「わたしはあなたと友達になりたい……だめかな?」

 

 

 それは素直な本来のすみれの気持ちだった。

 

 だが咲夜は首を振る。

 

 

「友達になることはできない……」

 

「そうだよね……」

 

 

 しょんぼりと悲しそうな表情をするすみれ。

 しかし咲夜の言葉は続いていた。

 

 

「友達じゃない……それ以上の親友にこれからなっていこう……」

 

 

 それが咲夜の答えだ。

 

 

「いいの?」

 

 

 思わぬ回答にきょとんとするすみれ。

 それに対し咲夜は微笑む。

 

 

「やり直したいんだ私は……あの日なれなかった私たちの関係に……」

 

 

 咲夜は手を差し伸べた。

 すみれは少しためらいながらもその手を握る。

 

 

「よろこんで……」

 

 

 

 その新たな友情が芽生える瞬間に多くの視聴者が感動を覚えたという。

 

 これで幸せなハッピーエンドのはずだ。

 

 

 なのに

 

 なのに

 

 

「なんでだろう……胸が苦しいな……」 

 

 

 つむぎはその胸の痛みを理解できずに、ただもやもやとその光景を見ていた。

 



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卒業

 そして時は数ヵ月流れていく。

 外は晴れ渡った青空。桜が綺麗に咲いている。

 

 季節は春の三月。

 

 

「この道を歩くのも今日で最後かぁ」

 

 

 つむぎは少し寂しそうな表情で桜を見ながら通学路を歩いていた。

 今日は卒業式。

 高校生でいられる最後の日だ。

 

 

「なーにしけた面してんのつむぎらしくない。つむぎは楽しそうにるんるん気分で電柱にぶつかるくらいがちょうどいいって」

 

「なにそのわたしに対する偏見!? さすがにそこまでドジしないよ!?」

 

 

 隣を歩いていたひなたが両手を頭の後ろに置きながら言った。

 今日は最後ということで家が近くであるひなたと一緒に登校することにしたのだ。

 幼馴染みであるひなたとこうして歩くのもこれで最後になる。

 

 

「卒業式だもん嬉しさもあるけど寂しさのが多いよ」

 

「まぁね。みんな第一志望に受かって無事来月から大学生。けどもう全員揃ってリアルで会えるのは最後」

 

「うん……」

 

 

 ひなたの言うことにつむぎは頷く。

 

 つむぎたちは無事第一志望の学校に受かることができた。つむぎはファッションデザインの専門学校に入学することになる。

 

 Unreallyでは悔しい思いをしたつむぎだが今度は夢のためにも絶対受かってみせるという強い意思で入試を受け合格することができた。

 

 これから夢に向けての本格的な道がはじまっていく。

 

 

 ◇

 

 

 学校につくと校門では在校生が複数人いた。

 赤いリボンの卒業生の胸に花をつけているようだ。

 在校生たちはご卒業おめでとうございますと卒業生たちに挨拶をしていた。

 

 その中に一人見知った顔があった。

 

 

「あっ先輩方ご卒業おめでとうございます」

 

 

 それはそまりだった。

 

 

「あたし花付け係なので先輩たちのコサージュあたしが付けますね」

 

 

 コサージュ係をそまりがしていたとは驚きだ。

 そまりはコサージュを持ってつむぎの制服に付けようとする。

 

 

「ありがとう、そまりちゃん」

 

 

 つむぎはこれまでの感謝を告げるように言う。

 

 

「こちらこそ、つむぎ先輩とさや先輩にはほんと失礼なことをしました」

 

「あはは……そういえば初対面のときはいろいろ大変だったねぇ」

 

 

 UnreallyでUドリーマー仲間として友達になったねねこがまさかの学校の後輩になるとは思いもしなかった。

 リアルでは最初あがり症でまともにしゃべれずひあたふたしていた子が、今では前を向いていて成長したと感じる。

 

 

「リアルでもアンリアルでも本当に申し訳ないですっ//」

 

「そんなかしこまらなくても……」

 

 

 そまりは顔を赤くして何度もぺこりと謝ってきた。つむぎはそれに困惑していた。

 

 つむぎのコサージュはつけ終わり次はひなたにコサージュをつける番だった。

 

 

「ひなた先輩には文化祭のときお世話になりました」

 

「まぁあたしにかかればあれくらいどうってことないっての。夢の方はどう?」

 

「演技力はまだまだですがきっと声優になってみせますよ。そう約束しましたもん」

 

 

 そまりは微笑みながらも真剣な目でひなたに言う。

 それを見てひなたはにっこりと笑った。

 

 

「ししっ、かわいいやつめ。最後に先輩が可愛がってあげよう!」

 

「はぅ!? いったいなんですか//!?」

 

「あはは……ひなたちゃんの奥義撫で回しの刑にそまりちゃんもあっちゃったか」

 

 

 ひなたはそまりの頭を撫で回しつむぎは二人を微笑ましそうに笑ってみていた。

 

 

 ◇

 

 

 教室に入ると既にクラスメイトたちが何人か既にいた。

 皆、これまでのことを振り返りながら思い出話をしているように思える。

 

 

「さやちゃんたちもう来てたんだね」

 

「うん、どうしても早く起きちゃってね」

 

 

 既にいたことねとさやは、さやの席で話をしていたようだ。

 

 

「つむぎも見習いなさいよー。あたしが家まで迎えに行ってなきゃ遅刻してたかもしれないし」

 

「今日は寝坊してないよっ! ひなたちゃんが勝手に心配して来たんでしょ!」

 

 

 冗談混じりにいうひなたにツッコミをいれるつむぎ。

 ひなたは朝起きたらつむぎの家に来ていた。

 そんなことしなくても寝坊しないのに。

 と言いたいところだがUnreallyの冬フェスで盛大に寝坊した件があるため強くは言えない。

 

 

「ふふっ……もうひなとつむのやり取りもリアルで見れなくなっちゃうのか……寂しくなるね。さやもそう思わない?」

 

 

 くすりと笑ったことねはさやに話を振った。

 

 

「うん……最初は青春なんて私には遠いものだと思ってた……リアルの私は死んでいてどうでもいいもの、捨てたものだと勝手に思ってた。でも今なら言える……つむぎたちに出会えてこの学園での日々は人生で一番楽しい学生生活だった」

 

 

 最後にさやは微笑むように言った。

 

 

「そうだね。わたしも高校に入ってからさやちゃんとことねちゃんに出会えてとても幸せな時間が増えたよ」

 

 

 つむぎは三人を一人一人じっと見つめる。

 この三人とこの二、三年間過ごすことができて本当に良かった。

 この三人がいたからつむぎはたくさんの喜びと幸せを感じることができた。

 

 だからこそ……こうやって過ごす日々が終わるのが寂しくなる。

 

 

「うぅっ……ほんとにほんとうに三人ともありがとう!」

 

 

 つむぎは瞳に涙が流れながらも三人に感謝の気持ちを込めて笑顔で言った。

 

 

 ◇

 

 

 それから卒業式がはじまりつむぎたちは卒業証書を受け取る。

 

 この三年間いろいろな事があった。

 ことねと友達になりアンリアルドリーマーを好きになった一年生。

 Unreallyをはじめてさやちゃんと親友になった二年生。

 そして夢に向かってつき進んだ三年生。

 

 どれもかけがえのないつむぎの思い出だ。

 

 卒業式はなんなく終わりつむぎたちはそうして無事高校を卒業することとなった。

 

 

 そしてその後ホテルで行われる謝恩会。

 

 そこでは軽音部の最後のライブが行われようとしていた。

 

 ステージは既にセットされており四人は楽器を構えていた。

 

 ことねがマイクスタンドを持ち微笑む。

 

 

「元軽音部のブルーシルです。私たちブルーシルは高校卒業とともに……バンドを解散します」

 

 

 ことねはゆっくりと言う。

 ずっと変わらない決意。

 女子高生である時までがブルーシルが活動できる期間。

 それが今日終わりを迎える。

 

 

「これが本当に最後のライブです! それでは聞いてください!」

 

 

 そしてブルーシルの最後の演奏が幕を開けた。

 



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エピローグ 君と紡いでいく物語

 高校を卒業して数ヵ月後。

 それぞれその後どうなったかの話をしよう。

 

 

 つむぎはデザインの専門学校に行き夢のデザイナーに向けて勉強中。いろいろ覚えることが多い毎日だが楽しくやっている。

 

 

 咲夜は無事レーベルデビューを果たし4月にCDを出した。

 CD名は『Monochrome』

 すみれとの対決の時に歌ったMonochromeが曲に収録されておりその名前からCD名をつけたようだ。

 つむぎにとってもモノクロームは大事な言葉であり曲だ。だからそれがCD名として使われることがとても嬉しい。

 

 

 ひなたはゲームの専門学校に行きゲームクリエイターとして理想のゲーム作りに向け勉強中。近いうちに自作したゲームを配布するだとか。

 

 

 ことねは文系の大学に入り大学生活を満喫している。そしてなんと大学に入ってからUドリーマーとして蒼樹ことがデビュー。

 ぷちモンの世界をおとものライルーとともに旅しながらそれを配信しているようだ。

 

 

 かなでとひびきはUnreallyにはいないため詳しくは知らないが、同じ大学に入りまだまだ腐れ縁が続くとか。

 

 

 そまりは声優養成所に入り本格的に声優を目指すことに。あがり症は完全に克服したわけではないがリアルでも徐々に人と話すのが苦手でなくなってきたらしい。

 

 

 しきは無事高校を卒業することができたが志望校にはなかなか受からず第三志望でようやく受かったようだ。

 相変わらずホックがいないと不幸だったりするが元気そうにやっている。

 

 

 エレオノーラは喫茶雪月花の二号店をオープン。はじめて会ったときとは変わるように店は大繁盛を見せているようだ。

 

 

 ひそかは相変わらずいたずらをしたり映画を撮っている。しかもなんと撮影した映画がUnreallyで受賞されたそう。

 

 

 そして咲夜と対決をし和解したほむらすみれはUnreallyでつむぎたちと一緒に動画に出るようになる仲になった。

 

 

 

 そんなこんなで皆それぞれ充実した日々を送っているようだ。

 

 

 

 つむぎはそんなことを考えながらUnreallyで咲夜がよく演奏をしていた駅前に一人でいた。

 咲夜がよく立っていた場所に目をやる。

 

 

「ここでなにしているの?」

 

 

 懐かしんでいるとつむぎに声をかけてくる少女がいた。

 

 

「こころちゃん」

 

 

 それはトップアンリアルドリーマーの七色こころ。彼女は当たり前かのように平気でつむぎの前に現れる。

 AIだからそこまで不思議なことではなかった。

 

 

「うーんUnreallyに来て咲夜ちゃんに会って二年経ったんだなぁって思ってさ」

 

「そうだねつむぎちゃんはここに来るのが目的でわたしと出会ったもんね」

 

 

 咲夜に会いたくて迷っていたときその後押しをしてくれたのがこころだ。

 だからこころには感謝するしかない。

 

 

「うん、咲夜ちゃんに出会えたのはこころちゃんのおかげだよ」

 

「えっへん! こころちゃんは運命の相手と出会わせることだって可能なのです!」

 

「運命の相手とか言われると恥ずかしいな///」

 

 

 つむぎは運命の相手と言われると少し照れてしまう。確かに運命だと思うところはあるが。

 

 

「そうだこころちゃん! 二年ぶりに色占いしてくれない? 今のわたしの色が知りたいの」

 

 

 つむぎはふと思ったことを言った。

 真っ白だったつむぎの色はいったい今何色に変わっているのか。

 

 

「いいよまってね。あなたの色を計測中」

 

 

 するとこころは快く受け入れてくれて髪のメッシュをいろんな色に光らせながらつむぎの色を占ってくれた。

 

 その結果。

 

 

「真っ白なままだね」

 

 

 こころのメッシュは白く染まった。

 色は変わっていなかった。

 

 

「そっかよかった」

 

 

 だがつむぎは笑顔で言った。

 

 

「いいの? 自分の色を探してたんじゃないの?」

 

 

 きょとんとするこころ、しかしつむぎは言う。

 

 

「いいんだ。わたしの色は真っ白な白。まるでいろんな色をそこに塗るキャンバスみたいに大切な色。それが自分の色だってようやく知ることができたんだ」

 

 

 つむぎは語る。

 白はつむぎにとって大切な色なのだ。

 他の色ではないその色こそがつむぎがつむぎである理由。

 

 

「そっか。答えをみつけることができたんだね」

 

 

 こころが笑顔で言いメッシュの色を元にもどした。

 

 

「うん、ありがとうこころちゃん。それじゃわたしこのあと予定があるからログアウトするね」

 

 

 つむぎは手を振りログアウトを押し消滅する。

 

 

「つむぎちゃん……これからも真っ白なままでいてね」

 

 

 消えたつむぎを見てからこころは微笑み呟いた。

 

 

 ◇

 

 

 Unreallyからログアウトしたつむぎはリアルでお出かけ用の服に着替え外に出た。

 今日は大事な約束があった。

 目的の場所はとても大切な場所。

 

 

 

 時刻は午前11時。

 

 

 つむぎは姫乃公園にやってきた。

 公園の中にある噴水が待ち合わせの場所。

 そこにいくと既に先着がいた。

 

 それは目的の相手。彼女は早く来ていたからかスマホをいじっている。

 つむぎはその相手を見つけて笑顔で言った。

 

 

「久しぶりさやちゃん!」

 

 

 さやが気付いて振り向く。

 数ヵ月しか経ってないが彼女は私服だからか少し大人びた雰囲気を見せていた。

 しかし彼女は首を傾ける。

 

 

「昨日もあってたよ?」

 

「咲夜ちゃんとはね。でもさやちゃんとは数ヵ月ぶりでしょ?」

 

「まぁ確かに……」

 

 

 つむぎの言ったことに納得したさや。

 咲夜とは昨日も会って遊んでいた。

 しかしさやと会うのは実に卒業式以来だった。

 

 

「元気な顔しててよかったよ。音大の方はどう?」

 

「まぁぼちぼち……人と話すのも苦手じゃなくなったから……かすみとも一緒だし」

 

「そっか。わたしは大変だよー服の流行とか勉強したり覚えるのが多くてさー」

 

「そう……」

 

 

 大学生活の愚痴を言うつむぎ。

 さやは偶然にもかすみと同じ音大に入学したようだ。

 さやは昔と違って人と関わることを避けなくなり人として成長していた。

 

 つむぎの後をついてきていたさやはもういないのだ。

 そんな彼女を寂しくも思い嬉しくも思う。

 

 

 それからつむぎは噴水を見ながらあることを言う。

 

 

「ねぇさやちゃん知ってた? ここって実は告白スポットとして有名なんだって。そう考えるとさ! ここで親友になってっていったのまるで告白みたいだよね! えへへ……」

 

「ふふっ……」

 

 

 さやはつむぎの言ったことに対してくすりと笑った。

 彼女はよく笑うようになった。

 

 そしてつむぎは意を決する。

 ここへきた本当の目的を果たすために。

 

 

 

「さやちゃん……あのさ……わたしと……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後も彼女たちの物語は続いていく。

 これから先の物語は君と一緒に紡いでいく。

 




ここまで読んでいただきありがとうございます


【重大告知】

漫画動画化製作中

つむぎ(CV紲星あかり)
咲夜(CV東北きりたん)
ミーシェル(CVついなちゃん)
ねねこ(CV琴葉葵)

 
詳しくはTwitterとyoutubeで

Twitter:@hikari_prituber

youtube:https://www.youtube.com/channel/UCdrfxAn_YaGcN3RtvFIIFJg


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