鬼才を誇る劣等生――イレギュラーは舞台を返す―― (silika)
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入学編
第一話 入学式
#0
魔法、というものがおとぎ話、もしくは裏世界の存在から、表に出てきたのが何時であるか、私は知らない。それでも、当初、異能、超能力とされ、先天的な才能のみに寄ると思われていたのと裏腹に、体系化が進み、いまやある程度の才能--それが天才と呼ばれる必要があるものである必要は無い--さえあれば、誰でも使える領域に降りて来ていることは知っている。
その力は、本来の世界のパワーバランスを崩壊させるのは、想像に容易い。だからこそ、他の国に遅れを取らないために、どこの国もこぞって魔法人材の開発育成発掘に勤しんでいる。それは、日本とて変わらない。そして、その判定基準は、残酷なまでの実力主義。その教育にさえ、機会均等などの建前的平等すら適用されない。
魔法科に進学する、できる、ということ自体が、その均等ではない、教育の機会を得たエリートであることを示すが、それですら完璧ではない。その学校の中ですら、区別が存在している。個別に魔法の指導が成される一科と、その権利の無い二科に。
……その二者における、測り易い魔法力ではなく、戦闘力においてどれだけの逆転があろうとも。それは、覆らない。
#1
「早く着きすぎた」
現在、入学式開会二時間前。式の準備をする先輩方や、同期になるはずの一年生の姿も、視界の奥に居る一組以外は存在していない。我ながら、ちょっと早過ぎたとは思わないでもない。だがまあ、面白い物が見れたからよしとする。
一組の一年生らしき男女は何かを言い争っていた。女の方は見覚えがある。名前は知らないが、入試の実技テストが同じ組だった。その会場の中で一番一般的な意味での魔法力が高そうに見えた少女だろう。その奥の人物の方は私は見覚えもないが、ブレザーにエンブレムが引っ付いてないあたりから、恐らく二科生。少女の方は、あの魔法力で二科ってことも、学力が余っ程じゃなきゃ無いだろうし。漏れ聞こえてくる音から、関係性は推察できる。
恐らくは兄妹、兄の方が若干保護者、妹の方はブラコン。その辺から考えると、一般的な評価軸において優等生な妹と劣等生な兄。ただし兄の方は、別の評価軸においては同等以上の優等生、かな。兄が評価されない事にキレる優等生な妹、ってネタで一波乱起きる気がする。おもしろくなってくれると嬉しい。
とはいえ、ずっと観察しているとバレそうではあるし、視線は外しておく。妹の方は微妙だが、兄の方は武道……よりも諜報員や忍者の類の訓練を受けていそうな立ち振舞いだから、警戒されても良い事は無い。
……訂正。関係は兄妹より恋人の方が正しそう。まあ、実質だけど。妹の方がかなりのチョロインに見えるかな、頭撫でられてあっさり機嫌を直しているようだし。
「随分と、面白そう。普通かどうかは分からないけどね!」
#2
そのあと、兄の方が妹を送り出したのを見届けて、私は地図を見ながら腰掛けられるところを探して歩き、やっとの思いで見つけると、件の兄上が座っていた。再会が早い気はするが、おたがい面識は無い(ことになっている)し、ちょっとお邪魔をしよう。
「隣、座らせてもらっても?」
「ええ。構いません」
そんな会話で、3人掛けベンチのあっち端とこっち端に腰掛ける。その兄上は、その一連の会話を終わらせると、さくっと携帯端末に戻っていた。
私は、懐に忍ばせておいた本を取り出し読み耽る。いまのご時世、紙の本を持っている人なんて数える程しかないが、私の師匠はわりと好んでおり、その所為で、なんか私も紙の本を良く持っている。とくに、神話伝説民話の類ほどその傾向が強い。
式の準備に狩り出されている、8枚花弁のエンブレムを着けた上級生から無邪気な悪意が溢れてくる。
--あの子、ウィードじゃない
--補欠なのに……張り切っちゃってまあ
--所詮はスペアなのに
別に聞きたくもない、阿呆な言葉が溢れ落ちてくる。一科生の胸元には8枚花弁の校章が着いており、二科生の胸元にはそれがない。その状況を雑草と花の着く植物に例えて、ブルームとウィードと言うらしいが、どうでも良い。差別は、差別されている人に一番強くあるのも、またある事だし。そうではない事の方が多いが。態々スペアであると言わなくとも、かなりの二科生はそれを自覚しているだろうし。
◇
そろそろ時間じゃないかと、私の意識が反応する。腕時計を確認すると、式まであと30分。本を仕舞って立ち上がろうとした時、上から声が降ってきた。
「新入生ですね、開場の時間ですよ」
胸元には八枚花弁、左腕にはブレスレット型の最新モデルのCAD、校則に照らし合わせるなら生徒会か風紀委員。
「どうも、ありがとうございます」
「すぐに行きます」
隣の、件の兄上もおそらくそれに気付いている。やっぱりコイツは面白そうだ。
私の左胸には、8枚花弁は無い。隣のにも。正直どうでも良いが、目の前の暫定生徒会役員なこいつが差別者である可能性は否定できず、そうであるなら面倒くさい。
「感心ですね。スクリーン型端末に紙の書籍ですか」
その人物は、私達の方に身を乗り出してくる。既に胸元は見えているだろうし、意識的には差別的言動をしないようにできる人物に格上げしとこう。あとなんかあざとい。
この学校で仮想端末が禁止なのは知ってたけど……。そもそも私、仮想型は持ってない。
「仮想型は読書に不向きですので」
「私の場合はまあ、環境遺伝。身の回りに仮想型使う人居なかったんですよ」
「動画ではなく、読書ですか。いよいよもって珍しいですね。私も映像資料より書籍資料の方が好きだから、何だか嬉しいわね」
段々と砕けてくる。おそらく、そういう性分なんだろう、人懐っこく、ちっとばかしあざといのが。
それに、読書を好む人はそーゆう言い方をする程珍しいものでも無い気がするし。仮想型は使わせて貰ったことがあるけど、なにより現実と少々切り離されている感覚が合わなかった。なんか怖いし。
「あ、申し遅れました。私は第一高校の生徒会長を務めています、七草真由美です。ななくさ、と書いてさえぐさ、と読みます。よろしくね」
やっぱりあざとい。私の頭を高級娼婦という言葉が過ったけど、言ったらぶん殴られそうだからやめておく。というか、あの"十師族"の一員にそんな喧嘩を売るのは得策ではない。妙なプライドもなさそうだし。
「お二人は知り合いかしら?」
「いいえ。私は箭泉玲です、今年一年どうぞよろしくお願いします」
「いまたまたま相席していただけです。自分は、司波達也です」
名前を聞くと、目を七草は見ひらいた。
「箭泉玲さんに司波達也君……あなたたちが……」
なんか妙な噂が立っているらしい。まあ、最低レベルの実技だったろうしその辺か?にしては表情や纏った雰囲気はそんな否定的なかんじではない。
「入学試験、7教科全て満点の箭泉さんに、100点満点中96点の司波君。特に圧巻だったのは、魔法理論と魔法工学。合格者の平均が70点に満たないのに、二人とも小論含めて文句無しの満点、前代未聞の高得点だって」
……へえ。よくやった、GJ私。これで、一科生が煽り易いったらありゃしない。普通、魔法理論と魔法の実技の結果は比例する。だけど私はテスト的には実技はかなりの下位、自信を持っていえる。だからこそ、気位の高い阿呆を煽るのに使える。
「ペーパーテストの話です。情報システムの中だけですよ」
件の兄上はその賞賛を素直に受けとることができないらしい。なんというか、怖がっているようにも見える、何にかは知らないけど。
そのまま、七草とは別れて、司波と二人で入学式場に入る。生徒会長と少々話し込んでいたせいで、席は半分程埋まっている。
はっきし言って、どこに座ろうが構わないハズにも関わらず、前側は一科、後側は二科とはっきり分かれていた。この学校のクラス発表は学生証の配布、すなわちIDの交付と共に行われるから、クラス毎ってわけでもなく、よーするに差別の当事者達が双方それを認めている訳である。とはいえ、今はそれに乗った方がちょろい。司波にくっついて席を確保する。
さあ本を出そうかと思った所で、司波に声が掛かったようで、顔を上げてみると、女子4人、なんか面白そうなので本はポケットへ再収納。
さくっと座った4人、その一番司波寄りな席に座っている眼鏡を掛けたのが司波に声を掛ける。
「あの……私、柴田美月って言います。よろしくお願いします」
「司波達也です。こちらこそよろしく」
ついでに乗っかろう、面白そうだから。
「私は箭泉玲、よろしくね?」
「あたしは千葉エリカ。司波君、箭泉君……さん? よろしくね」
「あー、やっぱしどっちか分かんない? 一応制服で判別して欲しいかな」
私の見た目は中性的だから、意識的に声を下げて話すと、ほんとにどっちだか分からなくなるとは言われる。まあ、それは嫌いじゃないけど。
奥二人の自己紹介もすんだころ、司波が動いた。
「四人は、同じ中学?」
違うらしい。っていうか、端末を忘れるとか、仮想型禁止を忘れるとか、柴田以外の3人、抜けてるわ……。
「そっちは? 妙に似てるし、噛み合ってるけど。恋人?」
「こっちも初対面なんだな、これが。御互い早く来すぎてね……、同じベンチで本読みながら時間を潰した仲さ。恋人だったらそれはそれで面白かったけどねー、それはありえないかな、絶対に」
「そういうわけだ」
なお、主人公はこの時点で彼女が居る模様
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第二話 クラス分け
#3
総代の答辞が終わる。流石7教科平均96の妹らしく、差し障りは無いが言いたい事は詰め込んだ、聞いてて愉快になるものだった。ブラコンの面目躍如と言いたくなるくらい、お兄様こそ評価しろという意思の強いものだった。
兄司波はさっさと新入生総代、司波深雪を労いたいところだろうけど、ID交付があるせいでそうも行かない。
「司波君、何組? 私はE組だったけど」
「E組だ」
「お、同じクラスだ」
「私もです」
上から私、司波、千葉、柴田である。ようするに、学年ペーパー2TOPと、剣術だけなら恐らくかなりの強者と、かなりの霊子放射光過敏症が同じクラスな訳である。……大丈夫か、これ?
1クラス25人、8クラス。そこは平等だけど、二科生はE-H組、一科生はA-D組で、使用する階段すらも分けられているが、まあ。他の人も、そこを気にしてはいなさそう。ただ単にクラス分けで浮かれてるだけかも、分からないけど。
「ホームルームを覗いてみる?」
千葉は問う。私としてはどっちでも良いので達也に投げる。
「悪い、妹と待ち合わせているんだ」
やっぱコイツもシスコンか、成程。柴田が司波に司波深雪の--面倒だから達也と深雪で良いや--兄か尋ねている。そりゃそうだろ、という感じではあるが。
それよりも、本人が似ていると認識してないほうが気になる。
「なんていうかさ、司波君のガワを女性化させて、より美人にすると妹の方になりそうなんだよ」
まあ、雰囲気もよく似ているけどね……。
そしてなんでかは知らないけど、柴田は霊子放射光過敏症を隠したいらしい。
#4
「お兄様、おまたせしました」
噂の妹殿、司波深雪の登場である。想定外の人物を伴って。
「また会いましたね、司波君、箭泉さん」
とはいえ、深雪の方はそっちよりも兄の方が気になるよう。
「お兄様、そちらの方たちは……?」
ふむ……恋敵チェックか。兄が人を伴っていることの方を優先するとは……ガワ程優等生じゃないな、深雪は。
「こちらが、お前の言っていた全教科満点を取った箭泉玲さん、こちらが柴田美月さん、そしてこちらが千葉エリカさん。同じクラスなんだ」
「早速、クラスメートとデートですか?」
「こらこら、そう言う言い方は三人に対して失礼だよ」
達也は嗜める。この兄妹、やっぱなんかオカシイけど、面白そうだから問題は無い。
「はじめまして、箭泉さん、柴田さん、千葉さん。司波深雪です。兄同様、わたしも新入生なので、どうぞよろしくお願いしますね」
「こちらこそ」
というわけで、名前呼び捨ての許可を貰う。区別とかかなり面倒だしね。エリカは見た目通りに開放的、深雪も結構気さくだし、仲良くやっていけそうなのは良いことだ。
深雪としても、恐らく、私とエリカの大雑把な物言いが、ストレスフルな世辞愛想群を襲ったあとの心にはとっても有り難かったらしく、一発で打ち解けられた。
「深雪、生徒会の方々の用は済んだのか? まだだったら適当に時間を潰してるぞ」
「大丈夫ですよ、今日はご挨拶させていただいただけなので」
達也の問いに対する答えは、深雪じゃなくて、七草から齎された。
「では深雪さん、詳しいお話は、また」
七草は一礼したら出て行こうとしたが、それを後ろの男子が引き止める。
「しかし会長、それでは予定が……」
「予めお約束していたものでもありませんから。別に予定があるなら、そちらを優先すべきでしょう?」
食い下がる気配のあるその男子を見て、こっちを意味深そうに笑顔でみてから、その男子を半ば強制的に掴まえながら、退散した。
なお、達也はその男子に睨まれてた、笑える。
微妙な雰囲気になったところで、達也が半ば強引に切りだす。
「……さて、帰ろうか」
達也の、深雪の入学祝いにエリカが店の情報を提供し、結果的に5人でぞろぞろとサ店に向かって、少々お話しをした。ほんとに、ブラコンシスコン兄妹の評価を覆すのは無理だわ。
#5
家に帰り着く。今日は同居人が二人共、運が悪いせいで帰ってこない。でも、お祝いは昨日も今朝もいっぱいしてくれたから私は大丈夫。
家の、私のPCにはメールが一通入っていた。送り主は、私の実の両親。一応の義理で中身を見るが、相変らず碌でも無いことばかり書いてあったため、即効で削除する。
家柄なんざ知ったことじゃないし、私の家族は、この家の同居人であって、生みの親ではない。私の家族から習った、身を守る術の鍛錬とCADの調整だけは怠らず、それを済ませるとさっさと寝る。
#6
登校した1-Eの教室は相変らず雑然としていた。登校一発目から1-Aの深雪に会いに行くのも面白いが、その前に、エリカともう一人の男子が面白い。
「おはよう、エリカ、美月、達也。で、そっちのゲルマン人はどなた?」
「……おいエリカだっけか? さっきお前が言ってた失礼な奴じゃないか、コイツ?」
「ちょっと悪かったわ、レオ」
なんか妙な共感をしている。まあ、理由は分かる。
「流石に冗談。さっきの一騒ぎは一部始終見てたから敢えてかぶせたの。私は箭泉玲、玲で良いよ、よろしくね、レオ」
「玲、お前実はかなりのお調子者か……?」
「そりゃねえ……面白そうな奴が居たらまず弄るでしょ?」
なんかレオに引かれた。解せぬ。
◇
レオと達也がどこに行くか決めて、美月とエリカが乗った所に混ぜてもらう。
「私も一緒に行っても良い? 一応魔工師希望なんだよね」
「え、玲もそこのと同じで肉体労働派かと」
「そこのじゃねえよ名前で呼べや、エリカ」
私をネタにまた言い合いを始める二人。中々に息ぴったりというか、相性が良い様で。
「んー、まあ否定はしないけどね、喧嘩は得意だよ」
「やっぱり」
「止めといた方が良いと思うぞ」
と達也。だがそこで止まれないから野生動物呼ばわりされるのである。
「そーかぁ? 見るからに脳筋だろ」
「あはは、実はこれでも入試7教科満点の学力学年1位でーす。見直した?」
「世も末だな。こんなのが一位とは」
「あんたと同じ意見なのが気にくわないけど、本当にね」
悪し様に言われ過ぎでは? 私そんな肉体労働派に見えるのか、か弱い乙女に向かって酷いことを言う連中である。
「だ、大丈夫です……よ? 充分可愛いですから」
美月の謎のフォローが一番キツいかも。
無駄に高スペックな主人公が二科生な理由はおいおい。まあ、達也と同じで、評価と噛み合ってないだけです
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第三話 クラス分け-弐
#7
離れたところで司波兄妹がはらはらしながらこっちを眺めている。私は一歩引いた所で口を挟まなしでいるが。そろそろ良い頃合いかもしれない。
第一幕は、昼食時だった。私達5人が食堂で御飯を食べていると、深雪と、それに引っつく阿呆共が来た。まあ、深雪は深雪だから、達也と同じ席で御飯を食べたがるが、ひっつきの一科生、特に相席を狙ってた連中が、それをどうにか押し止めようとあれやこれやと言い掛かりを付けてきた。そん時は深雪と達也が大人な対応をしたから。暴発はしなかったけど。
第二幕は、午後の専門過程見学会の最中。その時は、3-Aの実技が射撃場で行われていた。あの七草、遠隔魔法では十人に一人と言われる英才の居るクラスなもんだから、当然人は沢山来て、見れる人は限られている。勿論そこでの優先に一科二科は関係無いから、私達が前に居ても何の不自由も無い。が、前に出てるのは一科ばっかなもんだから最前列で唯一の二科生たる我々は少々悪目立ちをした。
そして来たる第三幕が今まさに展開している。
「いい加減あきらめたらどうですか? 深雪さんはお兄さんと一緒に帰ると言っているんです、他人が口を挟むことじゃないでしょう?」
まったく最もな意見を美月は言うが、道理が分かるならここまでの騒ぎにゃならんて。
「別に深雪さんはあなたたちの事を邪魔者扱いしてるわけでも無いじゃないですか。ついて来たいなら一緒に行けば良いんです。何の権利があって二人を引き裂こうと言うのですか!」
良く言った美月、GoodJob、hooooooo! よし、じゃっかん達也の方まで照れさせた。
ただまあ、それだとさらにヒートアップするよねって。
「司波さんには悪いけど、ちょっと時間を貸してもらうだけなんだから」
「はん! そういうことは自活中にやれよ、ちゃんと時間取ってんだろ」
「そういうのは先に本人の意思を取らなきゃ。そんな常識も分かんないのー? 高校生なのに」
美月はともかく、レオとエリカの言い返しは完璧に煽ってる煽ってる。
「うるさい! 他のクラス、それもウィード如きが僕たちブルームに口出しするな!」
ついに切れた、男子生徒その1……じゃねえや森崎の奴が暴言を吐く。一応校則違反だが……取るのは難かしそうだな。
「同じ新入生じゃないですか。あなたたちが、今の時点でどれだけ優れていると言うんですか!」
お、美月がトドメを刺した。よぉっし、じゃあこれを決闘に持ち込むか、たまたま丁度良く会長さんも来たし。
「……どれだけ優れているか、知りたいなら教えてやるよ」
「あらそう、是非とも教えてくださいな。ただし、ちょっと待ってね。会長が来たら、決闘しましょう?」
ここで私が参加。頭に血が昇っているらしく、あっさりと承諾した。
そっから30秒後、生徒会長と……風紀委員長も到着した。
「あなた達、何をしているのですか?」
「すみません、会長さん。ちょっと意見がすれ違ってしまったので。決闘をお願いしたいのですが」
役員二人がなんとも言えない雰囲気を醸し出す。まあ、仕方があるまい、彼女らにとっては唐突だから。だけども、やると言っている二人がやる気だから、ルール上否定もできないでしょう。
「私は、生徒会長の権限により、1年A組森崎駿と、1年E組箭泉玲の模擬戦を、正式な試合として認めます」
「生徒会長の宣言に基き、風紀委員長の権限によって、二人の試合が校則に乗っ取った正式な課外活動であると認める」
よしよし。ルール確認も終わる。まあ、あれだ。校則に書かれた通りの奴だ。
「すみません、迷惑を掛けてしまって、玲」
「なーに大丈夫。私が決闘やる気じゃなかったら、森崎が動く前にレオとエリカが動いて、役員二人が出てきて終わってたさ」
そのまま、戦闘状態に移行する。森崎の方も、既にCADを構えており、準備は万端。森崎家の持ち味はその魔法の展開速度。たしかクィックドロウとして有名だったはず。
「それでは、試合、開始!」
開始した瞬間に踏み込む。3mを進むのに1秒も要らない。加速術式込みなら特に。そのまま魔法展開しかけのCADを持つ森崎の腕を掴んで、CADを奪う。驚愕している間に締め技に入る。思った以上にあっさり決まって少々驚き。
「……そこまで!」
外野が煩い。不正をしたんじゃないか、とか。
「いやいや……見物人の皆様。二科生の私が会長に風紀委員長という名立たる魔法師の前で不正な魔法の準備なんてできるわけないじゃないですか」
そこで目覚めた森崎共々阿呆な台詞が続く。
「最初っから抱き込んでたんじゃないのか?」
「隠れてこっそり発動しようとしたんだろ!」
……やばい、笑いが抑えられない。いやまずい、いやうん。ここで笑ったら達也に深雪、レオにエリカに美月にも変な人を見る目で見られる。
「何がおかしい!」
「……あ、もしかして私、笑ってた?」
「うん、かなりがっつりと」
「あー、そりゃマズったわ。まあでも、問題無いよね、一科生の皆様。だって貴方達被虐趣味の塊なんだからさー? ねえ」
「ちょっと待て、どうしてそうなる?」
論理の飛躍を感じたらしく、風紀委員長渡辺摩利が割り込みを掛ける。
「まず抱き込み発言に関しては……会長さんに委員長さんに対する宣戦布告だから置いとくとしてもさ。まずね、もーしその二人にバレないように魔法を準備して私が発動したんだとしたらさ……」
そこで発言を区切ってタメを作る。達也が若干苦笑いをして、エリカとレオは既に面白がる顔に切り替えている。
「私、とんでもなく隠蔽が上手ってことになるよね、一科三年トップを欺けるようなさ。そんな化け物染みた存在を二科生に認めちゃって、貴方達のプライドは大丈夫かい?」
私の言いたいことを理解したらしく、じわじわと顔が赤くなって行く取り巻きの囃し立てた一科生さん。だけど言い返す言葉も無いらしく三々五々に散っていった。
とはいえ、騒ぎを起したのは事実だから、あきらめてお叱りを受けるつもりだったけど、そこで司波兄妹のファインプレーが光る。
「すみません、悪ふざけがすぎました」
「悪ふざけ、か? 決闘まで話が進んでおいて」
「最初は後学の為に森崎一族のクイックドロウを見せて貰おうという話だったのですが、妙な抉れ方をしてしまって」
「では、決闘の直後に、1-Aの生徒が攻勢魔法の用意をしていたのは?」
達也が適当にぺらぺらとそれっぽい出来事を供述していく。別に嘘は言っていないのがタチの悪いところ。言い方はかなり違うけど事実ではあるんだよね、決闘のくだりは10割私が原因だけど。
「驚いたんでしょう、玲の動きは凄まじかったですから。それに、発動しようとしていたのは失明もしない程度の目眩しでしたし」
……おう。まじか、達也は起動式が読める、と。なんていうかぶっとんでるわ。推定高い身体能力と格闘技術、起動式から魔法を判別できる能力、すごく多い想子。術式解体を打ってるだけで役割が持てる超高スペ戦力じゃん。
「ほう、君は展開された起動式を読むことができるらしいな」
「ええ、分析は得意ですので」
適当に誤魔化す達也。まあ、常識を返す様な事ができる人の共通技能みたいなもんだしね、誤魔化し。
「摩利、もう良いじゃない。達也君も、ほんとうにただの見学だったのよね?」
七草会長が委員長を止める。私と達也に貸し一と言いたげな視線を寄越してから、言葉を続ける。魔法の発動には規則があるから、授業で説明するまでは避けた方が吉、という話だった。
「会長がこう仰られていることでもあるし、今回は不問にします。以後このようなことの無い様に」
出来たら、ね。
そうして委員長が去っていこうとしたが、去る前に達也に名前を聞いていた。
「1-Eの司波達也です」
「そうか、おぼえておこう」
私の名前は模擬戦宣言の時に触れたから聞かないわけね。なんか目を付けられたっぽい。
#8
「借りだなんて思わないからな」
「安心しな、私もそんなこと思ってないから」
「そうだぞ。決め手は俺達の言い訳じゃなくて深雪の誠意だしな」
「言えてる」
若干ぴくっとした気がするが、気にはしない。
「僕はお前を認めないぞ、箭泉玲」
「いや知らんわ。誰が誰と関わるか、それは本人にこそ決定権があるさ。良いも悪いもないよ」
いわゆる捨て台詞の類で答えは期待してないんだろうけど。やっぱり阿呆みたいに意識してるらしく、私の一言に肩を震わしていた。ただまあ、良い加減疲れたし、さっさと帰りますか。
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第四話 クラス分け-参
#9
そんなわけで帰り道なのだけど、少々面倒な……というか微妙な空気を纏っていた。私、司波兄妹、レオエリカ、美月はまあ分かる。だがしかし、さらに、1-Aの光井ほのかと、風紀委員長に睨まれた時に彼女を支えていた北山雫。まあ、第一声が謝罪だったのもちょっと笑えるけどねえ。
「じゃあ、深雪さんのアシスタンスを調整しているのは達也さんなんですか?」
「ええ、お兄様にお任せするのが一番安心ですから」
得意気に深雪がほのかに答える。そして、達也はかなりのレベルのCAD調整能力を持っているらしい。この優秀な妹は、良くも悪くも、兄に対して虚偽に当たる様なお世辞が使わないから。
「少しアレンジしてるだけなんだけどね、深雪は処理能力が高いから、メンテに時間が掛からない」
「それにしたって、デバイスのOSを理解できるだけのスキルが必要ですよね」
「基礎システムにアクセスできるようなスキルもな」
達也の弁解は美月とレオの発言によってかき消される。が、私には気になることがある。
「……あのさぁ。CADって自分で面倒見るもんじゃないの?」
変なものを見る目で見られる。なんてこったい。
「いやいやいや、それは無い」
「うん。普通はプロに見てもらうもの。ウチじゃ雇ってる」
加えての総スカン。かなり異常な発想なのか……
「だって私の知り合い大体自分でできるしやってるタイプだったし」
微妙な空気を察したのか、エリカが微妙に矛先を変える。
「じゃあさ、達也くんに玲、私のホウキちょっと見てくれない?」
エリカのCADはその警棒のストラップ、すなわち伸縮自在な武装一体型CAD。つまり。
「無理。そんな特殊な形態のCADをいじる自信はないよ」
「同じく。流石に今日明日じゃ無理」
「やっぱり分かるんだ、これがホウキだって」
柄の長さに短縮された警棒をくるくる回すエリカ。
「え、その警棒、デバイスなの?」
美月がさっくりとエリカの思惑通りの答えを返す。エリカが満足そうに頷く。まあ、全員に気付かれてたら普通に悲しいよねぇ……。
「あー? それだと強度はどうすんだ? 物理的な伸縮ギミックだと中空洞だろ、脆くねえか?」
レオが向くのそっち側……ってか気にするのそこかよ。まあでも、タネは簡単な気もするけどね……エリカ、明らかに剣術得意そうだし。
「大丈夫よ、刻印型の術式で強度を上げてるから、硬化魔法、得意なんでしょ?」
「刻印型ってーと、アレか。術式を紋様にして、感応性の合金に刻み、サイオンを注入して発動する。 そんなモン使ってたらすぐガス欠になるだろ、そもそも刻印型自体燃費が悪過ぎってんで殆どすたれた技術のハズだぜ」
「お、流石に得意分野。でもまだ不足ね。実のところ強度が必要なのって振り出しと打ち込みの瞬間だけだし、そこを掴まえてサイオンを流せば充分よ。ようは兜割り……ってみんなどうしたの?」
呆れと感心の混ざった目で見られてたじろぐエリカ。深雪が代表して追い打ちを掛ける。
「兜割りはそれこそ奥義に分類されると思うのだけど……。単純にサイオン量が多いよりもっと凄いわよ」
単なる事実の指摘ではあったが、エリカの動揺は収まらないどころが増していた。
「玲ちゃんも達也さんも深雪さんも凄い人だったけど、エリカちゃんも凄い人だったのね……。ウチの高校は普通の人の方が珍しいのかな」
「そもそも、普通の人は居ないと思う」
だけど、美月のボケた発言と、雫の痛烈な返しで、なんかよくわからない妙な空気は雲散霧消した。
#10
一高生が使う駅の名前は「第一高校前」、駅から学校までは一直線。なにが言いたいかと言うと、登校中に友達と会う、という事象は他所と比較してかなり起き易くなっているということ。にしたって、コレはないと思うけど。
「玲、会長と知り合いだったの?」
「うんにゃ、入学式が初めてのハズ。むしろ達也は?」
エリカのキラーパスを達也に回す。
「一昨日が初対面のハズ……なんだけどなぁ」
そうは見えないと美月とレオ。まあ、仕方がないね。呼び掛けながら走ってきてる訳だし。
「……深雪を勧誘に来てるんじゃないのか?」
「お兄様と玲を呼んでるように聞こえますけど」
「だよねえ……」
最早いつもの、と評しても許されると思う達也、深雪、エリカ、レオ、美月のメンバー、ここまでは良い。だが、後ろから掛かってきたあざとさ満点の声、これは無いと思う。恥ずかしくてこんな台詞は言えんよ。
「達也君、玲さん、オハヨー、深雪さんもおはようございます」
挨拶の丁寧さが全然違う。ここまで露骨で良いのか生徒会長兼十師族。…………まあ、良いからやってるんだろうなー。
「お一人ですか、会長」
「うん、朝は待ち合わせはしないんだよ」
ああもう、引っついてくるのね……なら利用すること考えた方が建設的か、やっぱり……いやそれは最初っからそうか。態々好いてくれる人を邪険にする必要も無し。
「深雪さんと少しお話ししたいこともあるし……ご一緒しても?」
「良いですが……お話とは生徒会のことですか?」
深雪がほいほい踏み込んでいく、まあ仕方があるまいよ。お兄様との時間を邪魔する無礼者、が正直な感想だろうしね。
「ええ、一度ゆっくりお話ししたいと思っていて。お昼はどうする予定かしら?」
「食堂で食べる予定ですが……」
「達也君とは一緒に?」
「そうしたいのはやまやまですが……」
「たしかに、妙なことを気にする生徒も多いですものね」
生徒会長がそれを言うのか、という雰囲気は若干あるが、まことにその通りである。
「じゃあ生徒会室で一緒に食べない? ランチボックスなら自配機があるし」
呆れた話である。ダイニングサーバーが生徒会室にあるってことは残業山盛りじゃん、マジで何をしてるんかな……。
「生徒会室なら、達也君や玲さんが一緒でも構いませんし」
私深雪からの好感度はそんな高くないと思うけどなぁ……。一昨日が初対面だし。
「問題ならあるでしょう……。副会長と揉め事なんて嫌ですよ、俺は」
副会長……ああ、昨日の男子生徒。名前は服部刑部……だっけか。
「はんぞーくんのことなら気にしなくても大丈夫、お昼は居ないし」
気持ちは分かるけど、渾名それで行くのかぁ……やっぱりこの先輩、強いぞ。
「何だったら皆さんで来ていただいても結構ですよ」
「あたしたちは遠慮させて貰います。折角ですが」
なんかエリカが嫌いな人でも居るのかな、妙に尖ってるし。まあ、気にする程のことでも無いような気はするけれど。
「そうですか。玲さんは来てくれますよね」
「勿論。おもしろそうですし」
なんか昨日からホントに良く引かれている気がする。マジで酷いと思うわ……。私そんな妙なことは言ってないでしょうに。ただ単に、学校に遊びに来てるだけなんだからさ……。
感想・質問等お待ちしております。次回は生徒会での一幕の予定です
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第五話 生徒会
#11
お昼、生徒会室に遊びに行く時間である。野暮用が入ったので、そっちを潰してから生徒会室に入ったもんだから、少々出遅れることになった。
「失礼しまーす。……ああ、深雪と達也は先に来てたのね」
「あの……玲さん? その左手に引き摺っているのは……?」
「魔法不適切利用者……ですかね? ちょっとお昼に来るのが遅くなった原因です」
古式なラブレターで呼び出されたと思ったら、まさかの決闘申し込み。ただし、正式な承認はなく、一方的に言われて私の承諾もなかったっていう。
「とりあえず脳震盪で気絶させてあるので、あとで事情聴取お願いします。屋上を映すカメラに一部始終映ってると思いますんで」
状況が状況だけに呆れた目でみられる私。仕方無いじゃん、このあと生徒会室寄る事考えたら態々通報するの面倒なんだもん。
「……ま、まあ玲さんも席に座って」
というわけで、私も持参の弁当を広げる。うん、おいしそう。
「随分と可愛らしいお弁当ですね」
「そうでしょう? 作って貰ったんです」
お弁当を作ってくれたのはリー。正しくはユリーカ・ローレライ、だからつづめてリー。とっても可愛くて優しくて美人でかっこよい、私の一番大事な人である。というか、リーに手を出されたら、ガチでキレる自信がある。
「よっぽど作ってくれた方が好きなんですね」
おっと、幸せオーラが沢山出ていたらしい。あんまり人に見せるもんでは無いよね、うん。
「では改めまして……深雪さん、私たちは生徒会にあなたが入ってくれることを希望します。受けてくださいますか?」
「会長、貴女は兄の入試の成績を知っていますか?」
「ええ、勿論。正直、私も解答を見せてもらった時、自信を無くしかけました」
「成績優秀者、有能な人材を入れるなら、私よりも兄の方が優れていると思います」
「ええ。確かにその指摘は正しいわ。そして、それなら私はまず、玲さんにこの話を持っていったでしょう。一年生で最も成績優秀ですから」
おっとここで私に飛び火するか。でもまあ、それは不可能だよね。
「生徒会権限に対する数少ない制限の一つが、生徒会役員を一科生からしか選べないこと、でしたよね?」
「その通りです。これは規則ですので、改訂には生徒総会で三分の二以上の賛成が必要ですが、一科と二科が同数の現在では、ほぼ不可能と言っても差し支えないでしょう」
会計の市原先輩が残念そうに言う。やっぱし妙な規則だよね、コレ。
「申し分けありませんでした」
「では、深雪さんには、今後の生徒会で、書記として加わっていただいてよろしいですか?
「はい、精一杯務めさせていただきますので、どうぞ宜しくお願い致します」
これでまあ、話は終わりかと思われたのだけども。
「まだ時間はあるな……。風紀委員の生徒会選任枠のうち、前年度卒業生の二枠が埋まっていない」
「それについては、人選中だと言ってるじゃない。摩利、そんなに急かさないでよ」
真由美先輩が摩利先輩を嗜めるが、それには摩利が無視ぶっこいて話を続ける。
「生徒会の縛りは、生徒会長以外の役員は一科から、だな?」
「そうね」
「つまり、副会長、会計、書記だけだよな? 縛られてるの」
続けて真由美が首肯する。摩利先輩は悪い笑みを浮べると。
「つまり、風紀委員には二科の生徒を選んでも構わない訳だな?」
その発言に、真由美、市原先輩、あずさ先輩が驚愕の表情を浮べる。突拍子も無いアイデアらしい。割と見た目通りな、悪巧みの好きな人らしい。
「ナイスよ、摩利。ああもう、どうして自分じゃ思いつかなかったのかしら! 摩利、私は風紀委員に、1-Eの司波達也と箭泉玲を推薦します」
「ちょっと待ってください! 俺の意思はどうなるんです? 大体風紀委員が何をする仕事か説明を受けてないのですが」
「妹さんにも、具体的な説明は何一つしていませんが」
達也の決死の抵抗も虚しく、市原先輩に出鼻を挫かれ、深雪に追い打ちを掛けられる。
「つまり、実社会で言う警察力ですよね? 喧嘩を力で止めさせる」
「そうだな。魔法は使用前に止めるのが望ましいが」
「あの、俺実技が苦手だから二科なのですが」
まあ、それはそうなんだろうけどね。迂闊だよ達也、昨日起動式を読み取れることを知られた時点で負けてた。
「構わんよ、力勝負なら私が居る。……っと時間だな、続きは放課後にしようか」
そんなわけでお昼はおひらきになった。
#12
一時期、学校不要論が流行った事がある。ネットが使えるなら、態々学校に人を集めて授業する必要もないだろう、それは資源の無駄だと。だけどそれは流行りにならなかった。なぜなら、学校とは別に勉強をするための場所ではなく、共同生活を送るための場所だからだ。他の人と一緒に過ごす、というのはそれはそれで難かしいことであるから、それを学ぶ場として打ってつけっと。
あとは、実習が圧倒的にやりやすいってポイントもあるが。
私らも、そんな実習授業を正にやっていた。
「っくっそ……。加速移動減速を6セット計18工程の魔法式ともなると発動が遅い……」
さっきまでホイホイ高速で魔法使ってたろって? 私工程増えると致命的に遅くなるから……。自分用にがっつりチューンナップしてやっと12、3工程使える程度……。
本日の課題は、魔法を使って台車を3往復させること。ようするに、学校の魔法の授業用の端末のガイダンスなわけだ。先生は居ないので、履修の目安は課題の提出、すなわち台車3往復をさせることである。私は一応これで終わりなわけだけど……。タイム取ってないからはっきりとは分からんけど、私まず速度はビリだろうな……勢いもあんまりよくないし。
「玲、生徒会室の居心地はどうだった?」
エリカが聞いてくる。レオと美月も興味津々と言った風情。
「なんとも。深雪は生徒会に入るのが決定。私と達也に風紀委員になれ、だとさ」
「いきなりなんなんだろうな、あれは」
達也とエリカは首をかしげる。レオも突然に感じてるらしい。
「でも凄いじゃないですか、生徒会から勧誘を受けるなんて」
他のクラスメイトが少々ざわめいているのもそういうことだろう。
「そうか? 多分に妹のオマケだが」
達也の頑固な態度にエリカの苦笑が突き刺さる。
「で、どんな仕事内容なの?」
「騒ぎの物理的仲裁とか」
一気に同情の視線が増える。まあ実際面倒そうな仕事だしね。約1名、別方向に思考が飛んで不機嫌になっている奴も居るけど。
「……全く、勝手なんだから」
なんとなーく、誰の事を言っているか分かる気はするけども。敢えては触れない。そして達也に取っては少々嫌な方向に話が進んでいる。まあ、一科生にいきなりしゃしゃり出てこられるより、仲間に注意される方が許しやすいだろうしね。
◇
妬み妬みもなく、頑張ってねー、と応援される。有り難いかぎりだけど、なんか妙な表情をしている奴がいる。まあ、本意ではないだろうし、仕方無い。どうせ短い学校生活なんだから、楽しまなきゃ損だと思うけどなぁ。
というわけで生徒会室。なんとなく流れで私が扉を開ける。達也的には既に達也のIDも扉に登録されているのは不本意だろうけど、気にしてもねえ。
「失礼します」
私と達也に敵意が飛ぶ、3,7くらいの比率か。深雪が入った瞬間にそっちに意識が向いて敵意は薄れる。発信源は昼は空いていた服部副会長の席。
「よ、来たな」
「いらっしゃい、深雪さん、玲さん。達也君もご苦労さま」
完全身内扱いなマリ先輩に扱いの差が明らかな真由美。そして真由美はあずさに、深雪の世話を投げる。如何にも後輩使いの荒そうな先輩である。
「じゃあ、あたしらも移動しようか」
「どちらへ?」
「消防法に喧嘩売った階段から、風紀委員会本部に、な。この真下だよ」
「……だれが考えたんです、マリ先輩」
「知らん。自分で調べたらどうだ、玲」
お、砕けた呼び方が許された。じゃあそれで通そう。
「渡辺先輩、お待ち下さい」
「なんだ、服部刑部少丞範蔵副会長」
なんとなく気付いてるでしょうが、風紀委員の枠が拡大されています。まあ、世界線が違う、パラレル世界とでも解釈してください
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第六話 風紀委員会
「フルネームで呼ばないでください」
「んじゃ服部範蔵副会長」
「服部刑部です! 学校にはそれで届出してます!」
「そりゃ官職だろ?」
「そんなもん残ってないです」
服部先輩とマリ先輩が遊び始めた。ハンゾウか……威牙だな。普通に狩られることあるから……。
「いえ、言いたいのはそうではなく。お話ししたいのは、風紀委員補充の件です。その1年生二人を指名するのは反対です」
そっからは流れるように話が進んでいく。実力で劣る二科生に風紀委員は無いという範蔵氏、対するマリ氏はその論理なら自分一人で充分と言う。範蔵氏、そいつの適性問題だと言うが、マリ氏は違う実力があると述べる。……いや私は?
あ、私に関しては、すでに一科の一年を2回取り押さえたことを上げた。
追加弁論、マリ氏。二科生を風紀委員に入れることの利点を上げる。まあ、溝埋めには良いかもね、今の1年に対しては。上は分かんないけど……波乱が来るよやったねわーい!
お、討論参加者3人目、司波深雪。主張は、兄は実戦じゃまず負けない。対する範蔵氏、意見聞く気なし。4人目、乗り気じゃなかったはずの司波達也、主張意見は……妹傷つけんな阿呆、ですねコイツ。シスコンを隠そうともしない。
かくして、達也対範蔵先輩、私対範蔵先輩のカードが成立した。達也の戦闘力が気になるところ。
#13
達也がCADを準備する間に私もCADを準備する。口で駄目なら力ずく、が割と奨励されているのは笑えるが、この先輩らなら悪用も基本はされないだろうし、良い制度、多分。
達也のCADは拳銃型が2丁、ストレージ切り替えで複数の系統に対応した特化型。多分に優秀そう、っていうか実戦的だわ。
「ルールはさっき提示した通りだ。それでは、試合、開始!」
武器禁止、殺害や重症になり得る行為も禁止、他アリアリ。うん、このルールなら多分わたしは勝てる。
試合は、始まった瞬間に範蔵先輩は魔法を起動、一方達也は踏み込み、範蔵先輩のすぐ近くにあらわれる。その勢いのまますれ違って、範蔵先輩が見失っている間に、サイオン波を三連、範蔵先輩が倒れる。
「待て、今の動きは、予め魔法を発動していたのか?」
「そうでは無いのは先輩もわかってるのではないですか?」
マリ先輩がある種の驚愕を滲ませながら問うが、当然の如く返される。続けて深雪が、達也が九重八雲の弟子であることを出して、裏付ける。
「じゃあ、あの攻撃に使った魔法も忍法ですか? サイオン波そのものを放ったようにしか見えなかったですが」
「多分そっちは波の合成じゃないですか? 酔ったんだよね、達也」
「正解、見ただけなのによく分かったな」
「そりゃ、よく見えるから」
私の解答に達也は花丸を付けるが、他の先輩方は納得していない様子。多分それは、一瞬、1秒程度の間に、周期の違う波、すなわち違う魔法式を3つ使えるだけの処理能力があれば、二科生ってことはないだろう、という部分だと思うけど……。
助けは思わぬ所から出てきた。
「あの、もしかして司波君の使っているCADって『シルバー・ホーン』じゃないですか?」
「シルバー・ホーンって、あの天才魔工師トーラス・シルバーの?」
真由美があずさ先輩の質問に脇から質問を加える。その瞬間にヒートアップしたあずさ先輩は、嬉々としてトーラス・シルバーについて話し始めた。私としてはそれ以上に、達也がトーラス・シルバーの名前や業績が語られる度にピクピクして、深雪が微妙に誇らしげなのが気になる。
そして、あずさ先輩がトーラス・シルバーの最大の業績とも言われるループキャストについて語り始めたあたりで制止が入った。
「ストップ! ループ・キャストについては知ってるから」
結局止まり切れずに、達也が、シルバー・ホーンを持っていることにかんして少し問い詰めてしまっていた。
「でもおかしいですね。ループキャストだとしても同一の魔法式を再生する物なので……。まさか、振動数の部分も変数化してあった……? それを実行しているのですか」
市原先輩が気付いて、驚愕に言葉を失う。私としては、現行の魔法師格付けでは放置されてるもの多いし、そういうこともあるか、という感じだけど。
「ええまあ。多数変化は評価されないですから」
「実技試験の魔法力の評価は、魔法の発動速度、魔法式の規模、情報を書き換える強度で決まる。なるほど、実技が本当の能力を示していないとはこういう事か」
服部先輩がのっそり起き上がりながら、シニカルな達也の物言いに答える。ずっと起きていたかのような台詞だけど、本人の弁論を聞く限り、好きな人の発言は気絶してようが耳に残る、とかそっちの方が実態に即していそう。
「えー、服部先輩、大丈夫ですか?」
「ああ……。いや、お前に心配される筋合いは無い」
にべもなく断わられる。まったく酷い先輩も居たものである、だけどまあ、勘違いは一つ訂正しよう。
「いえいえ。私が言っているのは、今からもう一戦できますか、ってことですよ」
マリ先輩と真由美先輩がちょっと忘れてた、って顔をしている。市原先輩は……服部先輩を哀れんでる。あずさ先輩は完璧に忘れたっぽいな。
とはいえ、普通にやるらしい。やるからには負けられない。
「試合、始め!」
マリ先輩の合図で服部先輩との模擬戦を始める。靴は履き換えているから蹴り技も使えるけど、まずは踏み込み。自己加速術式4連起動、さっきの達也を見た直後でもやっぱり吃驚させれるような速度で接近する。
そしてそのままの速度で鳩尾に膝蹴りを叩き込む。吹っ飛ぶ瞬間に、吹っ飛ぶベクトルに対して、ベクトル反転の魔法を掛けて、瞬間的に前後に揺さぶった直後、巴投げの要領で後方に吹っ飛ばした。すぐさま翻って見ると、なんとか着地はしたものの、かなりグラついている様子。ただ、まだ制止は入らないし、降参する見込みもなし。よって追撃
具体的には締め技である。首の血管を締め上げて、脳味噌に血液がいかないようにする。
「あ、落ちた」
「あ、ああ。そこまで。……さらに早いのか」
「一応確認するけど、フライングはしていない、のよね……? 魔法の速度が異常に速かったけど」
私は服部先輩の横隔膜のあたりを押し上げ、強制的に叩き起しながら答える。
「まあ、見ての通りですね。単一工程単一系統の魔法ならCAD無しで発動まで10msくらいですよ」
これまた驚愕に彩られる先輩方。こっちは深雪と達也にまで呆れられてるけど。
「……それこそ、そんな速度があれば、二科生ということは無いと思いますが」
「確かに、工程増えてもそれだったら良いんですけどね……。工程増えると極端に速度が落ちるんですよ。学校の無調整CADじゃまともな速度で出来るのは5工程くらいが限度です」
「……入試の魔法力のテストの時は……12工程だったな。なるほど、確かに評価基準と絶望的に噛み合わない」
マリ先輩がかなり呆れを滲ませている。
「まるで戦闘をする為に生まれてきたかのような能力だな。実戦でよく使う4工程程度ならCAD無しでも高速で発動でき、さっきの速度でもきっちり体を動かせ怪我をしない」
私もそう思うけど、なんでかは知らない。
と言う訳で、無事風紀委員就任、わーい!
#14
というわけで風紀委員本部にやってきた。なんか、魔法師が沢山居るのを良い事に、盛大に消防法を破った、非常階段のあるはずの部分にあった直通階段で風紀委員会本部にやってきた。
「少しちらかっているが、まあ適当に座ってくれ」
マリ先輩は言う。少し、っていうか……デスクの天板が見えないくらいに机の上をぐしゃっとしておいてそれは無い。しかもCADを転がして……。
「……達也、機械の整理と書類の整理。どっちやりたい?」
「……たしかに片づけたいが。機械の整理出来るのか?」
「一番面倒な奴は、そこに6台あるEagle Ringでしょ? 余裕」
「オーケー、書類を頼む」
うわ性格が悪い。にしても、EagleRingが6台も放置されてるって普通にヤバいと思う。感度の良い非接触式スイッチがあって、設定の自由度も高い。ソフトや一部パーツをどうにかすれば後30年くらいはやってけるハズのCADなんだけど。
「……すまん。あたしには整理が出来ない。手を動かしながらで良いから話を聞いてくれ」
達也のスカウト理由は未遂犯の罰則適正化。私と達也の両方に掛かるのが二科生に対するイメージ戦略。私らが魔法を使った戦闘に鬼みたいに強くて、2年生トップクラスの先輩を歯牙にも掛けないのは予想外の結果だけど、風紀委員としては強いに越したこと無し。
「イメージ戦略としては、上級生に対してはイマイチじゃないですか?」
「どうしてそう思う」
「同じ立場のハズの下級生に取り締まられれば、おもしろくないと感じるモノでしょう」
マリ先輩が適当に頷く。正直どうでも良かったらしい、な?
「あと1年一科にも駄目では……? 私森崎に認めないとか言われてるし」
「教職員推薦枠で入るぞ」
……まじか。思わず手が止まる。っていうかアレで大丈夫なんだろうか、凄く弱いんだけど。
「言っただろ? 腕っぷしなら私が居る。だから少々弱いのが入っても問題じゃない」
この先輩はほんとに自信家だけど、その自信を裏付けるものがあるからこその強さだな……。
「まあ、最初は断わるつもりだったんだけどな、お前らが入った以上それは無理だろ?」
「…………マリ先輩。傍から見てもイジメに見えないようにしながら精神叩き折っても良いですか!」
「風紀委員の言って良い台詞ではないな」
どうでも良いですが、箭泉玲はDMプレイヤーです。仲間内で、見つけたデータを元に、使用可能カードプールを決めて勝負する、というのを繰り返してます。
好きなデッキはホーガン系とロスパラ系のガチャ系統、嫌いなデッキはダーツデリート
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第七話 風紀委員会-弐
「ここ、風紀委員会本部よね?」
「いきなりご挨拶だな、真由美」
先に書類整理を終えた私が、達也に合流して手分けして機械の設定をしたりセキュリティを設定したりメンテしたりしていると、真由美とマリ先輩の会話が聞こえてくる。
「だって、どうしちゃったの、摩利。リンちゃんがいくら注意しても、あーちゃんがいくらお願いしても片付けようとしなかったのに」
「事実に反する中傷には抗議するぞ、真由美。やらないんじゃない、できなかったんだ!」
「そっちの方がどうかと思うのだけど……。ああ、そういうこと、早速役に立ってるのね、二人共」
まあ、そういうことである。っていうかマリ先輩、料理できるけど整理はできないって、家大丈夫だろうか。
「委員長、点検終わりましたよ。痛んでいた部品も交換したので、問題無いはずです」
「CADは、達也が使おうとしている2台以外は全部、適当に起動式組んで、個人調整せずに出来るギリギリにしてあります」
「ねえ摩利。あの二人、優秀過ぎない」
「ああ、そうだな」
何故かそのまま、コントに入った真由美と、巻き込まれた達也だったけど。正直言うと、真由美先輩の行動がかなり面白かった。すっごいステレオタイプにあざとい行動をしてるモンだから。
なお、来た用件はそれではなく、生徒会は今日はもう閉めるってことを言いに来ただけらしい。入学式からのゴタゴタが済んで一段落したころだったそう。
それから少して、二人の先輩がやってきた。
「ハヨースッ」
「オハヨーございまス!」
「お、姐さん。いらしたんですかい」
古風というか……古風なヤクザかなんか……? リアルでそのノリを見る機会がまた有るとは思ってなかた……。
「委員長、本日の巡回、終了致しました! 逮捕者はありません」
姐さんと言ったほうは、如何にも大工っぽいデカい奴、報告した方は見た目は普通だがなんか軍人っぽい感じがする。
「この部屋、姐さんが片付けたんですかい?」
マリ先輩が? おっきい方へがしがし近付いて? 丸めたノートを、ガシっと……ふりおろしたー!
「ってぇ!」
「姐さんと言うなと何度言ったら分かるんだ! 鋼太郎、お前の頭は飾りか?」
ベチベチとマリ先輩が頭をはたくが、いまいち効いてる用には見えない。よっぽど頑丈らしい。
「んで……そっちで機械弄ってる二人は? 新入り?」
「お前の言う通り、そっちの二人は新入りだ。生徒会枠でウチに入ることになった1-Eの司波達也と箭泉玲だ」
「紋無しですかい」
「辰巳先輩、その表現は禁止用語に抵触する恐れがあります。この場合、二科生と言うべきかと思います」
「お前たち、そんな考えだと足元を掬われるぞ。いや、正面から破られるかもな。服部がさっき、その二人に一回ずつ負けたばかりだ」
私の頭を一つの罵倒が過っている。どうしよ、っけふ!
「マリ先輩、痛いです」
「お前今良からぬことを考えただろ」
「別に考えちゃいません。ただちょっと、ウィード呼ばわりされたら、既に満開だからアンタらもう散るしかないじゃん、って言い返してやろうと思っただけです」
「……そういうのを良からぬ事と言うんだ」
もう一発ノートで殴られた。解せぬ。
「へえ、マジですかい、服部に勝ったってのは」
「ああ、正式な試合でな」
あっさり納得して引き下がるどころか、強いと聞いて歓迎してくれた二人。まったく有り難いこってす。
なんか握られた腕を適当な所で解いたら褒められたけど、私は思う。
「手を握ると、抑えるのって別じゃないですか……。握力50kg超えたら大差無くないですか?」
#15
家に帰ると、リーに抱き抱えられる。私はすっかりそのまま脱力して、リーに今日の学校であったことをぴよぴよ話す。リーと一緒に居ると言語レベルが小学生に退行するけど、それは問題じゃない。
「あのねあのね、風紀委員になったよ」
リーに報告すると、よしよしと褒めてくれる。好き、大好き。深雪がお兄様を愛するよりも深く愛していると私は言い切れる。……よりも、じゃなくてように、かな。
「玲、幾ら強くても無理しちゃだめだからね」
当然心配される。それはリーにとって、態々考えたりするようなことじゃない。リーにとって、私を心配するのも、甘やかすのも、いちゃいちゃするのも、全部自然なことなのである。そう、自然なこと、お付き合いを始めてから一気に甘やかしてくれることが多くなった。
そして何より嬉しいのは、私がそれを享受できること。疑いもなく、余裕を持って過ごせること。それが一番嬉しい。
「玲、溶けるのは構わんが、宿題とか無いのか?」
「大丈夫ー。今日も特に何かあったわけじゃないからー」
話しかけてきたのは師匠。保護者と恋人と同棲してるって結構アレな気もするけど気にしてはいけない。それに、師匠の教え方が良いお陰で、今のところ授業は恐しく温い。
「で、今は何やってるんだ?」
「CADの設計。刻印型の効率を上げたいなって」
CADの作成や調整は、本来専用の精密機械が必要な所為もあって、個人で出来るものではあんまり無い。でも、私とリーの場合は師匠がぶっとんでるから普通に出来る。
ハードはリーの分野だけど、ソフトは私の分野。普通のは。でも最近はあんまり普通のCADを作らないで、もうちょっと尖った代物ばかり作っている。
まあ、そんなことはどうでも良くて。刻印型って実質どこでも使えて自由自在だから好きなんだよね。
「効率が悪いのが難点……。サイオン消費がさ」
「それこそサイオン吸収システムの出番だよね」
リーの言う通りではあるんだけど、そうじゃない、そうじゃないんだ。いや、それで良いのか?
#16
達也は、九重八雲の寺へと向かっていた。気になることがあったからである。いつもの挨拶を抜けて、八雲の居る本殿へと向かう。
「師匠、ご相談があるのですが……」
「なんだい、達也君? 調べて欲しいことでもあるのかい?」
八雲のあまりの察しの良さに、狸と言う印象を抱くが、それを無視して話を続ける。
「箭泉玲という人物を調べて欲しいんですよ。師匠に匹敵し得る近接格闘能力を持ち、プロ並みのCADのソフトを弄るスキルがある。偶然で片付けるには怖いんです」
達也の言葉に、八雲は目を細める。それは或る種、面白がっているとも取れるものだ。
「へえ……。ん、まあ良いか。大前提は、恐らく態々君に敵対することも無いよ。彼女の逆鱗に触れなければ大丈夫」
「箭泉玲。元十師族八泉の末裔だが、俗に言う数字落ち。両親は魔法が一応使える程度で才能は無し。祖父母も十師族側の人が少々使える程度。系譜は遡ると、古式の家系、『夜出海』家まで出てくるけど、夜出海家の術式は完全に散逸していいて、伝わってはいない。まあようするに、背後関係無し、魔法能力は突然変異、かな」
その答えは、安心材料にこそなれど、謎はより増すものだった。
「その割には、かなり戦場慣れしているようでしたが」
「ああ、それは保護者の問題だろうね。彼女の保護者は、血の繋がった両親じゃない。九島烈華という人物だよ」
「それは十師族、九島家の……?」
「まあ、一応そうだね。九島烈の姉にあたる人物だ。とはいえ、所謂魔法力では足元にも及ばないよ。近接戦闘に関しては僕にとっても師の一人だけど」
それ以上は今は話すつもりのない八雲。達也としても、最低限の、少なくとも自分達の秘密を、個人の好奇心以外では暴きに来る奴ではないことを理解し、一応の納得を得た。
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第八話 部員争奪週間
#17
「なぜ、お前がここにいる」
「何故もなにも、風紀委員だからだけど?」
再会第一声がそれで良いのか、森崎。完全に言動パターンがかませ犬だぞ……。しかも試合で完全に叩きのめされた相手に対してさ。
「やかましいぞ、新入り!」
マリ先輩の一喝であっさり押し黙る。まあ、自業自得だから突っ込まない。そのまま、席につかされていた。マリ先輩の表情は少々罪悪感の滲んだモノで、立場に物言わせるのはあまり好きではない。腰を降ろしたのは私の前の席、面倒な気はするけど、気にするのも阿呆らしいし、放置一択で。
そのまま、小説片手に待っていると、2,3年生がばらばらとやってきて、室内の人数が15人になったところで、先輩が立ち上がる。
「そのままで聞いてくれ、今年もあの莫迦騒ぎの一週間がやってきた。風紀委員会においては、新年度最初の山場になる。この中には、去年、自分から大騒ぎした阿呆も、騒ぎを静めようとしてさらに大きくした莫迦もいるが、今年こそは処分者を出さないように動いて欲しい。
いいか、くれぐれも風紀委員が率先して騒ぎを起こすような真似はしてくれるなよ?」
その台詞に、首を竦めるのが半数以上……いいのか、それで。風紀委員は厄介者の集まりとか言われてもオカシくないんじゃ……。
「幸いにして、今年は補充が間に合った。紹介しよう、立て」
打ち合わせされて無いんだけどなぁ……。まあ良っか、無難に行こう、無難にね。
っていうか、対極的だなぁ……。生徒会推薦側の私と達也に比べて、教員推薦枠の森崎他1名、無駄に緊張してるじゃん……。そんなに緊張すること無いだろうにさ、命狙われた訳でもなし、単なる高校の話だし。
「1-Aの森崎駿、1-Dの利賀慶太、1-Eの司波達也と箭泉玲だ。今日から早速パトロールに加わって貰う」
ざわめいたのは……私らのクラスの所為か……。流石に取締り総本山らしく、紋無しの発言は聞こえなかったが……。
「ウィード……?」
をいをい……風紀委員がして良い発言じゃないねえ……。マリ先輩は頭を抱えながら注意を発しようとしているようだけど、ここは私が盤面を取る。
「知ってますか? 早咲きの桜はその分早く散るんですよ、ブルーム先輩?」
「まあ、確かに、19か20で死んでしまうなら今咲かないと咲く時無いですしね……、成長出来ないって認めてしまうんですね、ブルーム先輩。そんな向上心の無い人がこの学校に居たなんて……私吃驚しました」
適当に煽ってみる、思い付きの台詞が言えて少し幸せ。あ、マリ先輩の頭痛が悪化しているよう、御苦労様です。
「おまっ……巫山戯るな……!」
「良いんですかブルーム先輩、ここ、それを取締る場所ですよ?」
「その辺にしとけ、玲。それからお前も、今処分しようか……?」
「で、そいつら役に立つんですか?」
マリ先輩に言われたので引き下がる。いやー、正直舌戦なら負ける気がせんわ、何せ私の方にルールは分がありトップがあれだし。
「ああ、心配するな。箭泉、司波の腕前は私が確認している。森崎も資料は見せて貰った。それでも心配なら、お前が森崎に付いてやれ」
間違っても私らを心配しない。仕方無いね、戦力的にはこっちのが余っ程上等だから。
「他に何か言いたい奴は居るか? ……居ないなら、レコーダーを持って行動に移れ。1年4人には私から説明しておく、他の者は直ちに出動」
上級生の皆様が踵を揃えて立ち上がり、握り込んだ右手で左胸を叩く。曰く風紀委員式敬礼との事だったけど、私の連想としては軍だな。どっかの軍隊がよく似た敬礼を採用していた気がする。私が普通の学校生活を送れる日は来るんだろうか。
レコーダーの操作と、CADの携帯に付いて説明を受ける。
「質問があります」
「許可する」
「CADは備品を使用しても良いでしょうか?」
達也が質問しているが……あれ? そう言えば確認してなかったわ、普通に使える前提で考えてたんだけど。
「構わないが、理由は? 釈迦に説法かもしれんが、旧式だぞ?」
「それは無いですよ、マリ先輩。アレは、最新型の一種です。非接触スイッチのあるCADの中では最高ですし、速度の遅さは、燃費悪化に目を潰ればどうとでもなります。ちゃんと使える子ですし、売ったらかなりの高値が付きますよ」
あんまりにあんまりなマリ先輩の発言に思わず突っ込んでしまう。っていうか、あずさ先輩は知ってそうだけど。
「あいつは怖がって降りてこない。……にしてもそうか、そんなモノを我々はガラクタ扱いしていた訳だな、片付けは偉大だ」
そんな訳で達也は二個持っていくそうだ。発想がまる被りでウケる、笑える、草生える。森崎の視線は気にしない。ただ敢えて言うなら、出来る奴は出来る訳で……2個操作出来ない奴による負け犬の遠吠えとしか言えない。
「ああ、言い忘れてましたけど、共用と名札の付けた箱に入れた奴、個人調整しないでも使えるように調整してあります。魔法リストはそっちの端末に入れてあるので、一応確認しておいてください」
「は? いやちょと待て……氷炎地獄!?」
お、一番のキワモノを見つけたらしい。達也もびっくりしてるし……ちょっと笑える。あの達也もこれくらいすれば驚くのか。ただ、個人調整をしてないCADでインフェルノ使える奴はそんなに多くないから、あまり意味は無いけど。
というわけで巡回に向かう。
#18
兎に角、行く宛のあるわけでも無いので、適当に回る。改めて思うけど、学校の敷地って広いもんだね。大きな校舎と、2号校舎、さらに体育館が4つ、プールが二つ……。普通の学校という奴を知っているわけではないけど、ここがとても大きいのは分かる。なんというか、軍の基地みたいだな、と思う。
そんなわけで、私が騒ぎに行きあたったのは、グラウンド。なんかヒートアップしている二集団が居る。
「ちょっと、あんたら後半でしょうが!」
「は? どうせ魔法使ってない連中活躍してねーんだから関係無いだろ」
「年がら年中魔法頼りの連中がよくも大口叩くわね!」
いや喧しい。規定に沿うならまだギリセーフだけど、乱闘になったら割り込むか。
っていうか、漏れ聞こえてくる発言が、積年の恨みとか、二週間前の云々とか、なんか部活が、っていうよりは、個人の恨みの総集編のような……。は、いや、6股? おう、男女問わずか……凄いな……今のご時世日本にそれする奴居るんだ……。
まあ、それはともかく、槍投げの槍やら砲丸投げの弾を明かに武装として持ち出してきているので仲裁に入る。
「そこまでにしてください! 争いは平和的に行いましょう、じゃないとしょっぴきます」
メガホン片手に、若干音が割れるくらいの音量で怒鳴る。ちゃぁんと風紀委員の腕章が見えるように掲げながら。驚いたらしく、投げる準備をしてあったらしい槍と砲丸が飛んでくる。きっちり加速と移動の魔法を使ってある。が、狙いが雑なため躱す必要すらない。硬化魔法を使って相対位置を固定してから、それによって掛かった前向きの力をベクトル反転でもって慣性と相殺させ、槍、砲丸を地に落す。
あきらかに視線は、二科生如きが出てくんな、というものだけど。陸部、半数二科生だよなぁ……。
「なんだお前」
「風紀委員です。今のは見逃がしますが、次からは取締ります」
吃驚したようではあるが、私が無視して話を続けたことで、自分達のやりかけた事に気付いたらしく、大人しく、道具を手放す。みんな理性的でとても助かった。
#18
陸上部の方は、警告だけで止まったから良かったけど……こっちは駄目だな。
「バスケットボールは砲丸じゃないと思うのですが? 魔法の不正使用に付き、そこの3名も検挙します」
現在第三体育館、バスケットボールやソフトボールあたりの競技が主にやられる体育館である。事の発端はなにだか知らないけど、私が割り込んだ時点で既に殴り合いの喧嘩になっていた。
喧嘩しているのはマジック・バスケット部とバスケットボール部。前者は、相手やボールに掛ける以外の魔法が許可された魔法競技、後者は魔法の使用が原則禁止の通常競技。MB部の方もボールには魔法を掛けないハズだけど、私の方には、まるで砲丸の様に、加速魔法が掛けられたボールが飛んでくる。
ボールは避け、殴り掛かってきた奴は、脚を引っ掛け投げ技を多用する事で同士討ちに持ち込む。
「はい、大人しく検挙されてください」
魔法不正利用者全員に検挙バッジ--この人は風紀委員のお世話になってるけど、まだ罪状を清算していない状態を意味するバッジ--を付け終わる頃には、体育館は死屍累々になっていた。
ギャラリーをやっていた一科生の皆様方は、これをどう見るべきか悩んでいる様子。まあ、阿呆な行動をしなきゃノーカン。
それよりやばいのは、赤と青で縁取られたリストバンドをしている阿呆が居る事……エガリテの構成員であることを大っぴらにするのはあかんでしょ。
まあでも、校則違反ではない、というか、風紀委員の管轄じゃない、というか、あまり表に出てない情報だから見なかったことにしておこう、うんそれが良い。
玲は、自信過剰な相手、人を無闇に侮る相手を煽ってマウント取ってぼっこぼこにするのが大好きです。まあ、性格は悪いですね
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第九話 キャスト・ジャミング
#19
「以上が、バスケットボール部の3by3にMB部が乱入した事件の顛末です」
さっきの騒動の報告をやる。普通に面倒くさいけど、やらない訳にもいかないので、ちゃきちゃきと、罰が軽くなるように話す。といってもたかが知れてはいるけれど。
「当初の経緯は見ていないのだな?」
「はい。私が割り込んだ時点で既に乱闘は始まっていましたので。バッジを付けたのも、私が見始めて以降に魔法を不正使用した人物だけです」
質問するのは部活連会頭、十文字克人である。現在の実質的な十文字家当主であることもあって、まだ高三だと言うのに、カリスマトップの風格を漂わせている。
「また、乱闘後半に関しては私が一言多かった所為もあるので、懲罰委員会に持ち込むつもりはありません」
基本的に訴追は摘発者に依存、そして今回は実害が何一つ出てはいないので、無理に訴追する理由も無く。
「ふむ。それでは彼らにはこちらから、今回の件を教訓とするよう言っておく」
「任せた」
◇
部活連本部から、昇降口の所に行くと、先に報告を済ませていた達也を含め、雫とほのか以外のいつもの人物が集っている。
「悪い、待たせたわ」
「用件は達也と同じだったんだろ、仕方無いって」
「ありがとう。詫びと言っては何だけど、一人1000円までは奢るよ?」
と言う訳で、私主導で、なんか流れで達也と割り勘と言うことになりつつも、喫茶店へと向かう。
入学式とは別の喫茶店で、6人で今日あったことを交流する。
「--その桐原って二年生、殺傷性ランクBの魔法を使ったんだろ? よく怪我しなかったな」
「致死性がある、といっても刃の部分だけだからね、よく切れる剣と大差無い。それほど対処の難かしい魔法じゃないさ」
手放しで褒めるレオと美月、誇らしげな深雪、少々呆れるエリカ。私としては……まあさもありなん、と言った気分なのだけど。
「でもそれって、真剣を振り回す人を素手で止めようとするのと同じですよね、危なくなかったんですか?」
「大丈夫よ、美月。お兄様なら、心配要らないわ」
「随分余裕ね、深雪?」
エリカの指摘は冷静に考えると、とても正しいけど、昨日の対副会長戦を見た身としては、その自信はよく分かる。っていうか、私にとっても難かしい事では無いし。
「10人以上を捌く達也君の腕は確かに見事だったけど、桐原先輩の腕だって別に鈍じゃないよ、寧ろ、あの中じゃずば抜けてる。ホントに、深雪、心配じゃなかったの?」
「ええ、お兄様に勝てる者などいるはずが無いもの」
一厘足りとも躊躇の無い断言、ここまで来ると清々しい。流石のブラコン、胸がよく張られていて、いつも以上に美しい姿勢を生み出している。
「--えーっと……」
「達也さんの技術を疑う訳じゃないけど、高周波ブレードは単なる刀剣と違って、超音波を放っているんでしょう?」
「そういや俺も聞いたことあるな、超音波酔いを防ぐ為に耳栓を使う術者も居るとか」
「そういうことじゃないのよ、単にお兄様の体術が優れているというだけじゃなくて」
……それは開示しても良い情報なのか? いやでも、達也の顔は特に崩れていない、って事はセーフか。あのブラコン娘が兄に不都合な事をするとも思えないし、喋っても良い相手認定されてるのね、何かは分からないけど。
「魔法式の無効化はお兄様の十八番なの」
「無効化? 領域干渉でも情報強化でも無くて?」
「ええ!」
嬉しそうな深雪と、仕方無いなあ、とでも言いたげな達也。なんというか、見てて心が暖かくなる一幕である。というか、この笑顔を見る為に動く人は男女問わず沢山出て来そうだな。
「それ、結構レアなスキルだと思うのだけど?」
「まあ、少なくとも高校では教えないと思うわ、知っているからと言って誰でも出来る訳でも無いのだし。エリカ、お兄様が飛び出した直後、床が揺れた様に感じたのでしょう?」
「うん。私は大したことにならなかったけど、乗り物酔いみたいな感じになった子も居たみたい」
「それ、お兄様の仕業よ。お兄様、キャストジャミングをお使いになったのでしょう?」
とても綺麗な、でも作り笑いと分かる笑顔で深雪に見られた達也は、あっさり白旗を上げ白状する。
「深雪には敵わないな」
「それはもう、お兄様の事なら何でも、深雪は御見通しですよ」
「いやいやいやいや」
かなり素頓狂な声でレオが割り込みを掛ける。
「それって兄妹の会話じゃないぜ、恋人同士のレベルも超えちまってるって」
「そうかな?」「そうかしら?」「そう?」
思わず私は疑義を呈してしまったけど、図らずも深雪と達也とハモる結果になった。1秒程硬直した後、マジかお前、という顔でこっちを見ながらレオは突っ伏した。
「……このラブラブ兄妹につっこみ入れよう、ってのが間違ってるのよ、アンタじゃ太刀打ち出来る訳ないじゃない」
「ああ、俺が間違ってたよ……」
「どうしたの、二人揃って疲れた顔して」
不思議なくらいに疲れ果てている理由が気になる。そんな辺な事も無かったはずなんだけど。
「玲、アンタはアレ見てなんも思わないの?」
「いや別に、仲が良いな、ってくらい」
「いやそれがおかしい、普通の兄妹はあんなに仲良くないから」
「……? いやいや、時々居るでしょ、あれくらいなら。私知り合いに二桁思い浮かぶよ? 恋人同士ならもっと甘い感じになるし……。ちょい待ち、深雪に達也、なぜアンタ達まで引いている?
「……交友関係、大丈夫?」
「つまりエリカは頭が飛んで……げふぅ」
思わず言ったら殴られた、まあ当然だな。きっと私の交友関係も問題は無いハズ、みんなまともな頭をしているし。
閑話休題。
「で。キャストジャミングって言ってたよね?」
「ああ、種を明かせばそうなる」
エリカによって強引に軌道修正が図られる。大事。キャストジャミングは、魔法式のエイドスへの作用を、大量のノイズで押し潰す、対抗魔法の類。使えるなら魔法に対して最も有効な手段になる。
「あれ、でもアンティなんとかとかいう特殊な鉱石が必要なんじゃなかったっけ?」
「アンティナイトよ、エリカちゃん。達也さん、アンティナイトを持ってるんですか、すごく高価な物だったと思うんですけど」
「いや、持ってないよ。そもそもアンティナイトは軍事物資だからね、値段以前に、一民間人が手に入れられるものじゃない」
すっごく一民間人の所に疑義を呈したいけども。どっちだろうな。
「特定魔法のジャミング、かな。達也、どっちの原理を使ったの?」
「……それで合ってるが、どっち、とは?」
「んー、とさ。電波で例えるとするじゃん。まず普通のキャストジャミングは、全ての帯域にノイズを当てて聞こえなくする手段だよね」
頷く一同。まあ、この辺はある種の常識だからね。
「でも、一つの魔法を使う時に、全ての帯域を使用する訳じゃない。帯域にAからZまでの文字を振ったとして、αという魔法を使う時に帯域Aを使用するとすると、帯域Aさえジャミング出来れば、それでαって魔法は使えなくなるよね。これが思い付くパターンA」
「で、もう一つの方はもうちょい面倒でさ。一箇所の帯域を全部塗り潰すんじゃなくて、全体を薄くジャミングするんだよね。こっちの方だと、魔法が使い難くなるだけだけど、そこに精神魔法とかを使って思い込みを強調してあげると、発動に手間取ってるだけの状況を魔法を打ち消されたと思って、ホントに魔法が使えなくなっちゃう、これがパターンB」
「その色分けだとパターンAになるが、どこで気付いたんだ?」
「気付いたの自体は半分偶然で、4年前。達也が使えるだろうな、って思ったのは風紀委員の備品から非接触式スイッチの付いたCADを二つ持っていった時だよ」
「……ん? それだと、達也は二つの魔法を同時に発動したのか?」
「ああ。片側で妨害したい起動式、もう片方でそれと逆向きの起動式を展開、その両方を魔法式に変換しないで複写増幅して、サイオン信号波の無系統魔法として放つと、相手が送ろうとしているエイドスが完璧に塗り潰される、というわけだ」
深雪を除く皆様が完璧に驚いておられる。どの辺がそんなに驚きなんだろうか?
「どっちに驚けば良いんだろーな」
「それを出来ちゃうことと、それを思い付くのが同級生に二人も居ることとね」
「それに関してはどっちでも構わないが、この件に関してはオフレコで頼む」
達也が、一つ付け加えてお願いする。とても軍人らしい発想に思えるけど、実際のところ、民間レベルじゃほとんど出来る人居ないだろうし、気にしなくても良いと思うけどなぁ。
「お兄様は考え過ぎだと思いますけどね? そもそも、相手が展開中の魔法式を読み取ることも、CADの干渉波を投射することも、誰にでも出来る物ではありませんし。ですが、それでこそお兄様と言うべきでしょうか?」
「いやほんと、気にし過ぎだとは思うよ? 完全メタは無茶ぶりだし、出来る人はもう出来るだろうからさ」
「それは貴女の体感?」
「私はー、うん。起動式を読み取るんじゃなくて、相手が使いそうな魔法を予想して、先にジャミング撒いておく感じかな。どっちも難易度高いでしょ」
「それはそれでアレじゃない? 無茶」
「読み取って差し込み発動とどっちが?」
冷静に考えて、当たれば良いや程度に先回りして発動するのと、相手の発動する魔法を先読みして、該当の魔法を二つ同時に差し込みで発動するのとだと、前者の方がマシな気がするけどなぁ。
この話の根本的コンセプトが、国やら十師族やらに縛られない達也クラスの人間の話なので、まあこうなります。
差し込み発動と先読み発動は趣味次第、出来る人は気付いてるというか、技術そのものは40年程前からある設定になります
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第十話 ブランシェ
それから、今更ながらに祝10000UA! ハーメルンって人口多いですね……
#20
生徒会室の様子は、2週間前とはかなり変わっている。何が一番変わったと言って、みんな弁当持参であることである。あとは、あずさ先輩がほぼ連日駆り出されていた。曰く、1年と3年だけじゃなんか変、らしい。
意味が分からないけど、気にしてもしょうがない、だって会長の言う事だもの。
「達也くん」
「何でしょうか、委員長?」
野次馬根性丸出しのマリ先輩。あの噂話かな。
「昨日、2年の壬生を言葉責めにした、というのは本当かい?」
下世話な言い方をチョイスするマリ先輩。聞いた話の中では下世話な方に思う。
「……先輩も淑女なんですから、『言葉責め』などという、はしたない言葉は使わない方が良いとおもいますが」
「ハハハ、ありがとう。あたしを淑女扱いするのは達也くんくらいのものだよ」
……まあ、しないかな。私の場合は、『淑女』、という言葉が好きじゃないし。態々言う時は、『都合の良い』『人形みたいな』『言い成りの』あたりの言い換えとしてだけ。
「そうなんですか? 自分の恋人をレディとして扱わないなんて、先輩の彼氏はあまり紳士的な方ではない様ですね」
紳士は……明確に嫌いかな。英国紳士は第一級の警戒対象。自分ルールを世界のルールと勘違いするから……。gentlemanを名乗る奴は大体碌でなし。
「そんなことはない! シュウは……」
それはともかく、達也に掛けられたカマにあっさり引っ掛かる先輩。そんなので良いのだろうか、うん。失言に気付き、愕然としながらあたりを見回すマリ先輩。彼女の視線は、笑いを堪える会長さんに止まる。まあ、仕方の無い事である、アレじゃあ。
◇
「それで、剣道部の壬生を言葉責めした、というのは本当かい?」
「ですから、言葉責め、という表現は止めた方がよろしいかと……深雪の教育にも良くありませんし……」
「じゃあ、相手が不慣れとしていることが分かっている表現を用いて相手の羞恥心を煽り精神的に追い詰める変態的行動、って言えば良い?」
「……悪化してないか?」
「してるな」
「そりゃまあ、悪化させた訳だし?」
なんか言葉責め、という語にたいして妙な談義が始まりそうだったから、適当に茶化して終わらせる。
「そんな事実はありませんよ」
「そう? その……壬生先輩だったかが、顔を真っ赤にして恥じらっているトコ、目撃されてるけど」
私が達也から情報を引っこ抜くべく噂をさらに投下した瞬間、私の横の席から冷気が飛んでくる。
「お兄様? 一体何を為されていらっしゃったのかしら?」
あー、なるほど。これ超能力と現代魔法の境に位置する現象か。深雪の干渉力の強さは本当に規格外だわ。無意識レベルの発露でさえ、凍傷になりかねない。
「落ち付け、深雪。ちゃんと説明するから」
「申し分けありません」
深雪が深呼吸をして落ち付くと、気温の低下も収まる。突発的な感情の変化に釣られたのかな。というか、この物理的な冷却は本質からズレてる気がする、勘だけど。
「夏は冷房要らずね」
「真夏に霜焼けも間抜けな話ですが」
それはともかく、達也が、回想するように、一部始終を再現してくれた。
ただ、正直壬生先輩の方に理があるとは思えない。まあ、支配者はいつも、抵抗運動反対運動にそう言うんだけどさ。
「まあ、学内において高い権力を持っているのは事実ね。特に今の体制に不満を持っている人からすれば、治安維持の実働部隊である風紀委員は、権力を笠に着た走狗に見られることもあるの。正確には、そういう風に印象を操作している何者かが居るんだけどね」
嫌な言い方。無秩序でも倫理に反している訳でも無い反対勢力のバックに陰謀を見るのは悪い考え方だと思う。だって、そんなこと出来る人別に多くないし。
「そんな陰謀論的な考え方をするのはどうなんでしょう? 無い煙を起こすのはかなりの手間ですよ」
「あ……いや。いや、うん」
「で、デマを流す末端を操る、黒幕の正体なんですが」
だからさぁ……。確かに破滅的テロ行動を行っている組織の参加者は居たけどさぁ……そこで分かり易い黒幕なんて案外いないんだってば。
「例えばブランシュのような組織ですか?」
少々動揺していた3年二人組が、達也による具体名の提出によって、明確な驚愕に変化した。
「何故、その名前を……」
「別に、極秘というわけでも無いでしょう。噂を防ぐのは至難の業ですから」
まあ、そう。ブランシュは……何よりも手段が間違っている。指摘自体は、あながち間違いでもない--表層的な部分、分かり易くやっていたり、根本的な自分達のエリート性に気付いてない所為でかなり間違えている--けど、それを暴力中心にやっているのが何よりもやばい。
フランス革命の昔から、暴力によって行われた革命は、その暴力そのものによって破滅に導かれたんだからさ、学ぼうぜ。
「こういうことは中途半端に隠しても、悪い結果にしか繋がらないものなんですが」
「ええ。達也くんの言う通りよ。魔法師を目の敵にする集団が居るのは事実なんだから、彼らが如何に理不尽な存在であるか、そこまで含めて正しい情報を行き渡らせることに務めた方が一見最もらしく見えるアジテーションをそのまま隠してしまうよりも、効果的な対策を取れるのに……」
とは七草会長。一見まともっぽい事を言えるようで、少し感心した。いつもは愉快犯的行動しかしないわりに、これでも十師族ということなんだろう、きっと。
だけど。
「無理ですよ、それは。日本がこうである限り、彼らの発言は大して理不尽じゃないですから。やり方は理不尽ですけど」
「ん……? いや、理不尽だろ、ブランシュの発言は。魔法師が政治的に優遇されているなんて事実は無いぞ?」
「それを、提示して見せたことはありますか? 普通の視点で見たら、十師族の権勢が強過ぎますし、魔法能力が血によるモノとされている所為で、一族主義に見えるんですよ。それに対する反証自体は立てれるかもしれませんが、誰もが十師族や政府、軍隊が沢山の隠し事をしているのを知っています。そこで態々反証を立てたら、隠蔽していると見做されるのがオチです。それを回避したければ、事実のみを全て開示する必要がありますが、今の日本にそれは不可能です。何故なら、魔法師に関する日本の全事実の公開は、所謂安全保障的に考えれば、実質的な敵対国に対する情報明け渡しですか1ら」
そこで一旦言葉を区切る。うーんよくない、これはちょっと威圧的過ぎるか……?
「つまり、結論として。何のツテもない一般市民は、ブランシュの発言を否定出来るだけの根拠を持ち合せる事が、本人の主観で出来ない状態なんですよ。そんな状態でアレコレ言っても仕方が無いと思います」
「つまり、ブランシュの主張を理不尽だと断じるなら、誰が見てもその主張を不当だと判断出来るだけの情報を開示しろ、ということか?」
「はい。端的に言うならそうですね。……あ、勿論彼らのやり方や主張には基本反対ですよ。特に、魔法師が魔法を使った仕事をする事に関して無償労働を強いる辺りは。ただ、原発下っ端作業員と、原発付きの魔法師の賃金格差には物申したいですけど、原子力技術のレベル、魔法周り除いて100年前から大した進歩してないんですから」
なーんか。すっかり妙な空気になってしまった。ただ、それでも。特に十師族の人には、十師族がどれだけの力を持った、巨大なシステムであるか。
あと、深雪にこそこそ囁く。
「分かってます、玲。お兄様こそ気にしてませんけど、お兄様が無能扱いなこのシステムがどこかおかしいことくらい」
深雪をね、抱き込めば達也も抱き込める。司波兄妹の抱き込みは、世界を変える一手の類だと思う、きっと。やっぱり、こんな不条理は許せないし。
#21
本日は実技テスト。単一系統単一工程の魔法を制限時間内にコンパイルして発動するだけの簡単なお作業、というか私のもっとも得意な分野。このレベルだと、500ms以内に発動するのが一流の条件な訳だけど。
「43ms、新記録って出てるんだけど?」
こうなる。ほんとに、一工程ならなんとかかんとか何だけど……。
「簡単な魔法は得意、って言ってたけど、ここまではとはね……」
「エリカ、エリカ。私、個人調整したCADだったらもっと速いよ?」
「なんで二科に居るのよ、アンタ」
そりゃまあ、多工程が苦手ですから。
「十工程でも、こんな風に出来たら此処に居ないって……。ほんとに、少工程でしか使えない、魔法的には戦闘特化みたいなモンなのよ、私」
というわけできゃっきゃきゃっきゃと話を続ける。これは秘密だけど、単一工程単一系統なら、1msを切った発動すら可能。まあ、これは参考記録以上には出来ないけど。
◇
そして昼休み。
「1060ms……ほら頑張れ、あと一息だ」
「と、遠い……0.1秒がこんな遠いとは知らなかったぜ……」
「バカね、時間は遠いとは言わないの、それを言うなら長いでしょ」
「エリカちゃん……1052msよ」
「ああもう! 言わないでよ、折角バカで気分転換してたのに!」
「ご、ごめんなさい……?」
「ううん、良いのよ。どうせ何時かは現実を直視しなきゃいけないもの」
「テメエの三文芝居なんざどーでも良いが、いい加減人を玩具にするのをやめやがれ」
仲良く1000msを突破できなかったお二人。達也をコーチ役に指名しての居残り。レオの方はちょろく達也が教えてるから良いとしても……。
「エリカは何が問題なんだろうな……」
「えー。玲は分かんない?」
「んー、パネルの上で両手を重ねて、計ってみて?」
「そんなので変わる?」
「確証は無いけど、まあ実験実験」
余剰想子光が閃き、丸い小さな的の上で、時間と圧力が表示される。時間は発動に掛かった時間、圧力は魔法で発生させた圧力の最大値。
「1010ms、一気に40も短縮したよ、あと一息」
「よーし、やれそうな気になってきた」
時間は、起動式を読み始めてから、圧力が既定値を超えた時までを計る。
「お兄様、お邪魔しても宜しいですか?」
「っとと、深雪に、雫に、ほのか?」
「すまん深雪、次でラストだから少し待っててくれ」
「ちょ!」
「エリカ、気ィ逸らさない!」
達也がしらっと圧力を掛けてるけど見ないフリ。まあ、実際終わるでしょ、多分。
玲は、テロ等の言葉に関しては強いこだわりがあります。そして、強権的な政府もまた嫌いです
(嫌いなもの:リアル西欧にアメリカなど)
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第十一話 公開討論会
「やっと終わったぁ」
そっからさらに2回掛かって終了。深雪が買って来てくれたサンドイッチを受け取った千西コンビ。コイツらなんか本当、思考パターンと行動パターンが被ってると思う。
「深雪さん達のクラスでももう実習が始まってるんですよね、どんなことをやってるんですか?」
私は深雪と他3人より少し仲が良い分、雫やほのかとも仲が少し良いけど、他はそうもいかない。ほのかと雫が美月の質問に少し顔を見合わせている間に、深雪が半分拗ねた様に答えを提示する。
「多分、美月達と同じよ。ノロマな機械をあてがわれて、テスト以外では役に立ちそうもないつまらない練習をさせられているとこ」
かなり不貞腐れている御様子。まあ、気持ちは分からなくも無いけど。
「加重系単一工程、戦闘では使い勝手が良いじゃん」
「それはそうですけど、CADがこんななのはいただけません」
「ご機嫌斜めだな」
「不機嫌にもなります。あれなら、自習していた方がためになります」
「ふーん、手取り足取りも善し悪しみたいね」
エリカが言う。まあ、確かにやる気の無い奴に付きっきりで教えても仕方無いのはそうなんだけどさあ……。
「でもさ、一科二科の分けは見込みのアリナシにはなってなくない? あの森崎を見込みアリだと思える?」
「……あー、ちょっと無理かも、虚栄心が強過ぎ。まあでも、基本はね?」
「お説がこもっともだけどよ、俺らさっきまで達也と玲に教わってたんだぜ?」
「うっ、それを言われるとつっらいなー」
そのまま、話の流れで、両手を合わせてCADに置いただけで上手く行った理由のタネ明かしをする。聞いてみたら拍子抜けをした様子。ただまあ、大体の事は大体そんなもんな気がする。
「あのさ、深雪。参考までに、今タイム計ってみてくれない?」
「えっと、わたしが?」
大袈裟に頷くエリカ。実は私も気になってる、どんくらいなのか。
「いいんじゃないかな、やってみれば」
「お兄様がそう言うのでしたら」
一番測定器に近い美月がセットをして、測定を開始する。
それ自体はすぐに終わったのだけど、美月は驚いた表情のまま、記録を言わず、エリカが結果を催促する。
「235ms……」
「え……?」
「すげ……」
「何回聞いても凄い数字よね……」
「深雪の処理能力は人間の反応速度の限界にも迫っている」
感嘆の溜息を漏らす一同。実際、おそろしく速い。でも、何事にも例外は居るようで、達也は驚かず、深雪は不満気に顔を曇らせる。
「結果が不満?」
「ええ。お兄様が調整してくださったCADならもっと速くなるのに……こんな雑多な起動式を使わなければならないなんて……」
そういうこと、まあ確かにCADのハード性能に比して、個人調整無しにしても起動式がゴミなのは事実なんだよな……冗長だし、半分スパゲティ化し掛けてるし、ゴミが多いし。
「……アレ? でも玲、さらに速かったような……?」
「……それ、本当?」
「まあ、うん。実演するわ」
というわけでさっさと機械をセット、裏技組み合わせて更に速い結果を出す。
レディ、ゴ! 先にセットして合った変数で起動式を読み込み、魔法式展開、発動。
「34ms……?」
「お、本日最速記録」
「え……?」
「イカサマ?」
「というか、なんでこの記録で二科?」
そんなこと言われましても……。
「私、魔法の工程数と干渉力や処理速度が反比例するから。一工程ならこんなもんだけど、調整無しで12工程やったら多分学年ドベだよ。まあ、5工程あたりまでは多分一科でやってけると思うけど、7だと落ちて来て、10だと二科レベル、20超えてくると、使い物にならないレベルで遅いんだよ」
「……つまり、工程が少ない時だけとても強い?」
そういう訳である。ほんとに、喧嘩には向いてるけど、それ以外だと使い勝手はあまり良くない。日常なら逆に使うけど。
#22
家もしくば放課後活動に向かわんと欲っす人々を襲う割れた音。
『全校生徒の皆さん!』
すぐに音に気付いたらしく、調整が為される。
『僕たちは、学内の差別撤廃を目指す有志同盟です』
「……有志ね」
達也が若干の笑いを潜めさせた呟きを漏らす。なんでか現状維持派な達也の発想をトレースすると、政治集団有志が過去ほんとに自発的な有志であったことはどれだけあっただろうか、というあたりじゃないかなと思う。
全く、教育が行き届き過ぎて少々怖い。大体の有志、特に末端は概ね、たとえ口車に乗せられていたとしても、自発的に、自分自信の良心に基づいてやってるんだけどな……。それに、有志の最初のメンバーは本当に自発だし。
『僕たちは、生徒会と部活連に対し、対等な立場における交渉を要求します』
「ねえ、行かなくて良いの?」
「直にあつめられるでしょ。少なくとも、放送室の鍵に関する窃盗はほぼ確定してるし」
もうちょっと手段を選ぼうね、有志さんや。
◇
着いてみると、盤面が強行に踏み込み派と、慎重に待機派が論争していたので、間を取って内部と連絡付けて、中と連絡を取る派になる。十文字先輩があっさり乗った為、それで決定。
「おまえたちの行動は、本来ならば懲罰委員会送りだが、要求の議論の打ち合わせの為、来週の生徒集会終わりまで延期する。ただし、どんな目的だとしても手段は正当化されない。裁きは受けろ」
というのが、会議の期日が決定した直後の十文字先輩の台詞。
ごもっともではあるが、反体制派が、反対を行う上で、反対している物の論理に乗っかって反対しなければいけない、というのもナンセンスな話である。特に、相手に対して、話を聞いて貰えない、という印象を抱かせてる場合には。
「にしても、君も手が早いな。壬生と連絡先を交換しているとは」
「手が早いね~」
「玲が保険掛けとくように言ってたと思うが」
「何のことだかさっぱり分かりません!」
「……れ~い~? お、は、な、し、しましょう?」
深雪の後ろにうっすら般若が見える。まったく、深雪には正妻としての余裕が足りない。基本的に達也は深雪以外には注意を払わないんだから、殺虫剤ばら撒かなくても良いと思うんだけど。
というわけで達也達を待たせたまま、カフェラウンジで深雪とお話する。
「いやね、私別に達也と深雪を別つつもりは無いからね?」
「でしたら、万が一を起こしかねないことはしないで欲しいのですが」
「だーかーら、保険だったんだってば」
一応声を潜める。暴力的な、明確に悪意を持っている集団が一枚噛んでいるとなると、ある程度は保険的になっても仕方がない。
「もしブランシェあたりに乗せられたテロをやった時に、連絡が取れないのは良くないと思うのさ」
「それは分かりますが……」
というわけで適当に言い包める。……これだと私が悪人みたい、かな。どうせ達也は深雪越しにしか他の人を見ないんだから、まず大丈夫だと思うけどね。あと深雪は友達として好きだし、傷つく展開は宜しくない。そういう意味では達也と目的が被るしね。
#23
そうして始まった公開討論会当日。生徒会部活連側からは会長のみが出る。論理的整合性はあの人の場合、一人で取れるから、複数で行った場合の破綻の方が怖いし妥当か。普段のアレを見てたら少々怪しい気もするけど。おまけで、服部副会長が、立つだけの存在として行く感じ。
あちらさんの方は同盟の3年が4人。会場に居る生徒を合わせても、同盟と確定している人は合計で12人程。放送室に入った面々は居ない、彼らにとって、ここが正念場のハズなのに。
「実力行使の部隊が他に居るのかな……?」
「受け入れられないかも分からない状態で、ハナっから討論での目的達成を放棄するのは違くないですかね……」
「同感です」
もう少しぼやきたいこともあったけど、話が始まる故黙る。
話そのものは、同盟の質問に生徒会が答える形式で進んでいっている。ただ一つ。
「一科と二科の分けって厳然たるものでしたっけ……? 私はなし崩しでそうなったと聞いたのですが」
「現状は厳然としちまってる、が正解だな。本来は違ったハズだぞ」
「深雪には聞かせられないかな」
「流石にそこまで深雪は子供じゃないですよ」
「アンタが絡むと一気に子供っぽくなるんだよ、達也」
「あの……それを私の前でしてもよろしいのですか?」
あ、深雪もここに立ってたわ……。まあ、凍て付き始めてないし、ノーカンと言う事でFA。
そうこうしているウチに討論は、七草先輩の演説会へと変貌を遂げていた。まあ仕方あるまい、同盟の質問が傍から見たら、真由美パイセンに言いたいことを言わせる物になってたし。
演説の締め括りに行われた決意表明、差別意識の改革と、そのための生徒会の一科規定の削除に、拍手が鳴り響く。
玲の思考パターンは反体制派、革命派寄りになります。というより、強い側が、弱い側の反抗に対して、俺のルールに従わないからお前悪、って言うのが嫌いなのです
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第十二話 襲撃
みんなで拍手、という陶酔を生む状況を鳴り響いた轟音が破壊する。即座に同盟メンバーを捕縛。
続いて、窓をぶち破って紡錘形の物体が飛び込んでくる。催眠弾の類でほぼ間違いは無い、爆薬じゃなかっただけセーフ。それは速やかに服部先輩の魔法で巻き戻すように屋外へと排出される。
その数瞬後に突入してきたガスマスク隊はマリ先輩が一瞬で仕留める。この場は大体鎮圧されたハズだが、本番はこっから。
「では、俺は実技棟の様子を見てきます」
「私は一旦裏口覗いてから、何も無ければ実技棟に向います」
侵入者のチェックをしに行く。こう派手にやったら陽動を疑わずにはいられない。正門は見張ってる人も多いから大丈夫だろうけど、裏門は使える割に使い難いせいで警備がザルだし。
#24
裏口へと来ると、銃器で武装した集団が入ってきていた。
「えー、風紀委員です。どちら様でしょうか?」
誰何に答える声は無く、返答は銃撃によって行われた。前方中心角120度の扇状にマシンガンを抱えた6人。銃はファブルス26,現代のAK47、なんて歴史マニアには呼ばれる傑作銃で、精度が良く、壊れ難く、整備が楽で、反動は少なく、火力は高くてジャムり難い、まあマシンガンとしては最も使い安い代物。
銃撃が始まる前に最寄りの一人に近づき、盾にしながら銃器を強奪、撃つのを躊躇った隙にこっちから撃ち返す。一応、始めて会った人は相手がなんであれ殺さない主義ので、銃を持つ腕を撃ち抜く。
「がぁっ……」
自己加速術式を組み合わせて、顎を蹴り抜き、6人とも昏倒させる。
続いて来たのは14人、一番近い二人にはドライアイスの弾丸をぶつけ怯んだ隙に銃器を乱射する。魔法師が二人居たらしく、他の人が肉壁として機能している間に防御魔法が組まれる。縦断を防ぐ単純極まりない術式ではあるが、確かに効果的。もともと、乱射しつつも被弾位置を調整して殺さないようにしてるから余計に。
なので、肉薄して真正面から打撃が来る様に見せ掛けた所で、その二人のウチ、前の奴に後ろから転がっていた礫を魔法で撃ち込む。思わず同士討ちを疑って振り返って、魔法を解いてしまったところを顎を蹴飛ばす。
もう一人の方がその間に攻撃に転じようと、防御魔法を切ってた故、その隙に雷撃を打ち込む。それで侵入者は打ち止めらしい。
ガムテープで捕縛することにする。手錠でも持ってりゃ良いのだけど、無いから仕方無い。ほんとは魔法師相手に普通の拘束は意味無いハズだけど、現代魔法はCADが必要だからそうでもない。思考だけで発動出来る人には関係ないんだけど……。
一応CADも押収しておくかな。
「で、狙いはどこさ?」
「言うと思ったか?」
まあ、そうなるよね。というわけで襲撃犯の爪を一枚剥がす。あと19回は同じ事ができる。
「言ってくれる気になった? あと19箇所は剥せるけど……」
「いっ、言うわけないだろ!」
「ごーお、ろーく、なーな……あー、あと少しで手の指終わっちゃうなあ……」
「い、言う……! なんでも言う! だから……!」
手の爪を七枚剥いだあたりで白旗を上げて、大人しくなった。流石に大人の靴を脱がして、足の爪剥いでくのは面倒だから助かった。
「うん、良いよ? で、今回の襲撃の目標は?」
「図書館だ。……もっ……目的は……最先端魔法研究だ」
「そっかそっか、ありがとね? じゃあオヤスミナサイ」
というわけでもっかい昏倒させてその場を立ち去る。まだ戦闘は終わってない以上、私も図書館に行こうか、破壊されたら面倒だから。
◇
「壬生先輩、これが、現実です」
やっと辿り着いた特別閲覧室。そこでは達也が、壬生先輩にお説教をしていた。その奥では、"分解された"クラッキング用機械群と、少しの停滞を見せている襲撃者達が居た。
「まあ、そりゃそうだ。テーゼにしろアンチテーゼにしろ、能力主義に囚われてる間は平等なんて幻想だよ。だって、能力主義、ってのは能力を言い訳に差別を許容する言葉なんだから」
私はこの状況に置いて闖入者。それでも、私の言説は、壬生先輩に最後の一撃を加えるには充分だったらしく、堰を切ったように話し始める。
「誰からも、莫迦にされてきたハズよ!」
「……? 私恋人居るんだけど?」
「あの……玲? そういう問題でしょうか?」
ぷっちんしかけた深雪が、私が無意識に言った一言にすとんと沈静化される。
「んー、私の友達も恋人も師匠/姉/保護者も、私が魔法を使えるから好いてくれるわけでも、あいつらが魔法を使えるから好いてるわけでも無いんだよねえ……。大体、魔法の有無なんて、実際のところ、手札の枚数以上の意味は無いし……足が速いのと同程度では?」
「いや……流石に……」
私は、壬生先輩の作ったシリアスな空気を破壊してしまったようで。まあ、仕方無い。思わず、条件反射のように返しちゃったから。
そして、追撃するように、深雪が達也を讃え、壬生の言い分を破綻へと追い込む。あと、壬生を認めてるのはその桐原って先輩もな気がするけどねえ……。態々演武の相手をかって出たくらいなんだから。
「たった四回しか会っていない人物に何を求めると言うのですか!」
それは、壬生の意識を漂白するには充分過ぎる程に充分だった。人は、思いも寄らない事を思いも寄らない所から突き付けられた時、消化に時間の掛かるのが普通だから。
そこを、詐欺師は突く。
「壬生、指輪を使え!」
襲撃犯の叫びに、壬生先輩が呼応してしまう。とはいえ、壬生先輩は下に居るエリカが捕獲するだろうから関係無い。スモークグレネードの所為で白煙が広がり視界が潰れるが、相手は大したこと無いので、気配を頼りに二打撃。感触は顎と腹、私の方には二人、最後の一人が別に倒れる音がする。
これでこの場は終わり、拘束に移る。
「拘束用の道具、持ち合わせ、ある?」
「ああ、これか」
という訳で受けとって縛り上げた。
#25
保健室で、マリ先輩を筆頭に壬生先輩の尋問が始まっていた。曰く、侵入者は大人の領分だから、情報を取れる相手が生徒に限られる所為らしい。問題は。
「先輩、先輩、あの、さっきの騒ぎの最中に、尋問しちゃったんですが……?」
「捕まった奴の一人に、爪が剥がされている奴が居たが、それか?」
「あ、はい、それですそれです。裏口に回って、20人程居たのですけど、とりあえず昏倒させてから、どこを目的とした誰なのか聞こうと思ったんです」
「わーお、容赦無いのね、玲」
「うっさいなあ、襲撃犯相手で、ある程度余裕あったらどこ狙いか吐かせるのは条件反射みたいなもんなんだよ」
「……そいつ、引き渡す時に、幼女怖い、あの笑いが夢に出る、って繰替えしてたぞ」
なにそれ、っていうか幼女って誰のこと?
「あんたでしょ。一人だけちんちくりんなんだから」
「ただ単に身長が150に届いて無いだけじゃん、これ見て幼女とか言う奴は頭の悪いロリコンだけだろ」
……なんで3TOPがそろって目を逸らす、身長は人物の年齢を読むにあたって必要って訳じゃないんだけどな……?
そんなことは兎も角、壬生先輩から経緯を聞いたところ、色々な事実が明らかになった。特に注意すべきは、相手の中に洗脳系が混ざってる、ってことかな。強烈じゃなくても、思い込ませられる、ってだけで面倒は面倒。
「問題は奴らがどこに居るか、という事ですが」
「……達也君、まさか奴らと一戦交えるつもりなの?」
多分達也にはそんな気は無いんじゃないかな、私がこうだし。
「その表現は妥当ではありませんね、一戦交えるのではなく、叩き潰すんですよ」
「危険だ! 学生の領分を超えている!」
「私も反対よ。学外の事は警察に任せるべきよ」
マリ先輩と真由美先輩が反対する。まあ、納得の行く話ではある。特にマリ先輩は、学校の治安維持に取り組む以上、危険は可能な限り避ける必要があるわけだし。
そして、十文字先輩は、例え壬生先輩のためには警察送りにしない方が良くとも、学生に命を掛けるよう言う訳にゃいかない。
っていうか、これ家裁送りになるんだ。事情を斟酌してー、とか無いんだね。
「最初から、委員会や部活連の手を借りるつもりはありません」
「……一人で行くつもりか?」
「本来ならば、そうしたいのですが」
「お供します」
深雪、割り込み速いぜ。まあ、私も一緒にやるんだけどね? 当然の如く、エリカとレオも乗っかる。美月だけ置いてけぼりだけどまあ、仕方があるまい。
「しかし、お兄様。どうやってブランシェの拠点を突き止めれば良いのでしょう?」
「多分扉の外でそわそわしてる人が知ってるんじゃないかなー?」
深雪の質問に私がジャックして返す。達也はそのまますっと扉を開けた。
居たのは予想通りに小野先生。ただ、あまりカウンセラーという風情でもない。
玲の戦力レベルがかなり高いので、原作より全体的に襲撃者などの戦力も増強されるのは決定事項になります。なんか世界がハードになってしまっている気もしますがノーカンです
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第十三話 逆襲撃
小野先生渾身のボケで、完璧に本題が流れ掛けたが、達也の手で修復される。
「目と鼻の先じゃねえか」
「舐めた事してくれるわね」
憤慨しきりのレオとエリカ。むべるかな、徒歩一時間足らずの距離に置かれてたらまあ、そうもなろうよ。町外れの丘に立てられたバイオ燃料工場の骸、データには、過去にも武装暴力集団の隠れ蓑だったらしい。
「当局が気付かない内に舞い戻ってたのかしら?」
「同源だと?」
真由美先輩、マリ先輩共に、問答の形式を取りつつも、日本国と敵対する勢力による暗躍の枝葉だという確信を持って会話している。その感覚はイマイチ分からないのだけども。とはいえやり方が、正当なテロルの系譜ではなく、20世紀初頭の自滅的テロリズムの系譜でもない、手段そのものが目的化した目的の無いテロの系統、すなわち反抗の為の反抗っぽいとこが有るのは否定出来ないのだけど。
「車で襲撃掛けようか? どうせ探知されてるのは変わんないだろうし」
「正面突破ですか?」
「それが一番意表を突けるだろう、なにせアンティナイトを持ち出してくる相手だからな」
私と深雪と達也が好戦的に作戦を決めてく中、十文字先輩が賛同してくれる。ついでに車も出してくれるらしい。
十師族の義務がどうのこうのとか言ってたけど、大変だねえ、貴族って奴は。
#26
「ふいー」
すっかりお疲れなレオ。時速100kmオーバーで衝突する車を、その瞬間に硬化魔法で守る、という阿呆みたいに集中力の要求される芸当をしたわけだから仕方無いね。
「司波、お前が立てた作戦だ、お前が指揮を取れ」
「レオはここで退路の確保、エリカと玲はその補助と逃げる奴を狩れ。俺と深雪は正面から、会頭と桐原先輩は裏口からお願いします」
「あいよ、殺しても?」
「生け捕りは狙わなくて良いだろう、安全重視だ」
うんうん、すっかり指揮官の風格がある。やっぱし軍人か……? だとすると勧誘は困難かもしんないなぁ……。
「深雪、気を付けてね?」
「達也も気をつけろよ」
悠然と裏口に向かう先輩コンビ、ちょっとそこの公園に、って雰囲気で正面から入ってく司波兄妹。どっちも頼りがいのあることこの上ない。
ってか正直暇である。一応、銃器構えて見張ってはいるけど。
「……って、ああ! よく考えたら、その銃、どうしたのよ」
「裏口の連中シバいてる時に確保した。そのあとずーっと背中に背負ってたんだけど……?」
「マジか……似合い過ぎてて気付かなかった」
「機関銃が似合うってどうなのよ……っていうか反動大丈夫?」
「かなり鍛えてるからまあ、ちゃんと構えれば? あとは魔法でどうにか」
雑談をする。っていうか、背中に銃を背負ってるのが自然に見えるってどういう事さ……。私練習しただけでそんなに銃器の扱いが上手い訳じゃないんだけど。
「軍人かなんかだったりする?」
「違うよ? 私軍隊とかそういうの嫌いだし」
「軍人じゃないのに銃器に慣れてる、ってどういうことさ? 千葉家は警察に強い影響力を持ってるってこと、知ってて言ってる?」
「知ってるけど……。日本では銃器持ってないよ」
湿度の高い目で見られる。レオからも同じような目線を向けられる、なんか変な事言ったかなぁ……。銃器は魔法があったってとても重要なんだけど。大国連中を撃退してるだけでかなりの修練になるし。
◇
あの後も、特に何か起きた訳でもなく、普通に戻ってきて、普通に帰った。後始末は、十文字先輩がやってくれるらしい、素敵。恋人が居なかったら惚れてたかも、その枠は既に、私の存在意義として埋まってるけどね。
一番笑ったのは、ブランシェのメンバーの殆どが氷漬けになってたことだけど。擬似的なコールドスリープだったらしいし、深雪がやらかしたのかな?
ちなみに、帰って銃器をずっと担いでたことを自供したところ、十文字先輩以外の全員がそのことに気付いてないか、気付いても忘れていた模様……。
「セーラー服と機関銃、って小説あったなー」
っていうか達也よ、それで良いのか。
そして、そんな物騒な物を担いでたことについて、がっつり御叱りを受けた。
「だって丁度良く武器があったんですもの、使うのは普通ですよね?」
「普通の奴は機関銃なんて使えないぞ」
この辺で、入学式から続く騒動に一段落が着いた。なんか達也と深雪の雰囲気が一段と甘くなったり、桐原先輩と壬生先輩が甘い関係になったりしているけど、そういうことも有るでしょう。
「あ、カップルで思い出したのだけど、玲、恋人が居るのね?」
発端は深雪の一言。エリカが、あの場に居なかった美月、雫、ほのかにも、カフェで桐原先輩と壬生先輩がお付き合いを始めた事を報告したことで、思い出したらしい。
「あれ、そうなの?」
「ちょっと驚き」
「えっと、どうして知ったんですか?」
「ああ、あれか。襲撃事件があったろ、あの時に壬生先輩が、恐らく俺を念頭に置いてだろうが、『誰からも侮辱されてきたはずよ』って言った直後にな、何を思ったかいきなりカミングアウトしたんだ」
えぇ……、という目で見られる、いや酷くない? っていうか達也は面白がってるし。
「いやだって……侮辱軽蔑侮蔑してきた相手と付き合う人いないじゃん? だから、凄い有効に否定できるかなって」
「分かるけどそれは無い。もうちょっと言い方あると思うんだ、私」
「で、この猫みたいな行動をよくしている玲を射止めたのはどなた?」
「ん、すっごく綺麗で優しい人」
レオが脇で小さくなっている。達也もこっそり気配を消してる。まあ、仕方があるまい、ガールズトークの類は基本的には男子にとって肩身が狭いものらしいし。写真をせびられたので、端末を操作して、二人で記念撮影した時の奴を出す。
金髪に、血のような赤い瞳でスタイルの良い美女が私をお姫様抱っこしている写真。凱旋門で取った時の奴。師匠がかなりノリノリに取ってくれた。
「あ、玲ってそっち系?」
「そっちってどっち?」
「同性愛」
「愛の前に性別も年齢も種族も関係無いと私は思ってるんだけど……。私の恋人が女性なのもまあたまたま」
私にリーの事を話させると何もなくとも甘くなると聞いてる。というか、話す過程で主にエリカの顔が窶れてくる。深雪はいつもの皮を被ってるし、美月は顔を赤くしながら興味津々。弄れそうなのは寧ろレオか。なんというか初心……いや、私が耳年増なだけかな。
「えー、じゃあどこまで進んでるの?」
「まだ16なんだけど?」
いやまさかそんなねえ、16才やそこらで性行為なんてしてるわけないじゃないですかやだー。
……脳裏に過るあれやこれや。カップル成立13才、始めての性行為15才のカップルとか、死体姦とか、眼孔姦とか、ハレムとか、そんなもの私は知らない、知らないのだ。
これにて、第一章、入学編は終了となります。まだ原作との乖離は大きくありません。
次回からは、第二章、九高戦編となります。予定では玲はエンジニアとしての参加になる予定です。あと司波兄不敗伝説は発生しません。
気付いていると人も多いと思いますが、玲を風紀委員に入れるために、風紀委員の枠が若干増えています。九高戦でも同じように、枠が増えていますが、そういう世界線なのだと思って頂ければ幸いです。
終了記念に、活動報告の方にて、デュエマにおいて箭泉玲の使いそうなデッキを掲載しました。気になる人は少々覗いて頂けると幸いです。知らん、どうでも良い、という人は無視して先へお進みください。
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