【本編完結済】ホロライブ・オルタナティブ~If this is inevitable fate, I will call it a curse~ (らっくぅ)
しおりを挟む

設定集

本編で説明しきれないもの、または補足的なものを書いていきます。順次追加していきます。

2021/8/9 デバイス更新
8/15 『スターク』、邪神更新。表記揺れ「モンスター→魔物」修正
9/14 世界の呼称、魔装、タクティカル・アーマー Ver.5.17.3、E-ロッカーステーション更新。名称「天界学校→天界学園」修正

9/26 ローエングリン更新
10/24 エアロサーフィン、MEMA更新

2022/5/26 ヒステラルム 説明修正
11/3 ターミナル02 ha-01 説明修正
12/30 ヒステラルム、世界の呼称 説明修正


ゼノクロス→異世界大戦期に建造されたゼノシリーズの最新機であり完成形。とは言っても、特化よりも安定性と汎用性を重視している為、前のシリーズ機のような瞬間火力はない。ただし、搭載火器を最大出力で一斉射する事で、世界を焼き尽くすほどの威力を発揮できる。火器は全てエネルギー兵器かつ内蔵であり、手持ち武器は存在しない。

 動力源は、メタトロン鉱石を利用したアンチプロトンリアクター。高純度のものを使用しており、その出力は新現代(SC147C)のあらゆる機動兵器を超える。

 装甲は、エネルギー転換装甲と衝撃反射型複合装甲(アクセラレイト=フォートレス)の二重装甲となっている。大出力のアンチプロトンリアクターにより、エネルギー転換装甲は常時フル稼働できる。

 その他、周囲の物質を使って機体の自動修復をする機能や、単体での長距離ワープ、シールドバリアの展開も可能。

 操縦は有人式だが、人工知能による無人操縦も可能。とは言っても、元々人が操縦する事が想定されており、自動操縦はあくまで「そういう事もできる」程度であった。

 

頭頂高:約20m

総重量:76t

武装:頭部パルスレーザー砲×2

 胸部照射型ビームキャノン×1

 肩部拡散型ビーム砲×2

 腕部ビームソード・ガン×2

 腰部レーザー砲×2

 脚部ビーム砲×4

 ホーミングレーザー×各部に36基

これら全ての武装は、細かな出力調整、収束・拡散が可能である。

 

ゼノシリーズ→ 異世界大戦前〜戦中に開発された兵器。科学全盛期の時代に、異世界との戦いに備えて純科学のみで造られた。その性能は魔法科学を用いた新現代のどの兵器にも勝るといわれており、もはや単一の兵器の範疇を超える存在である。新現代ではすでにその存在は確認されておらず、人々にとっては、存在こそ知っているものの詳細は不明という、いわゆる都市伝説程度の存在でしかない。

 ゼノシリーズの集大成であるゼノクロスは、秩序を司る神のみならず、創造神すらも滅ぼせると言われている。

 

異世界大戦→スタンダード・センチュリー70世紀以降に起こり、120世紀に終結した世界規模の戦争。いつから始まったのか、どのくらいの期間続いたのかは不明。主に科学世界と魔法世界との間で戦争が行われた。

 

科学世界→科学が発展した世界。いわゆる「我々」が今いる世界や、SFの世界である。ターミナル01群、ターミナル02群が該当する。ちなみに、スタンダード・センチュリー(ターミナル01標準暦、SCと略される)は、ターミナル01の西暦の延長線上にある暦である。

 

魔法世界→魔法が発展した世界。いわゆるファンタジーの世界である。ターミナル03群が該当する。

 

ヒステラルム→全ての世界の総称。古来にはマルチバースとも呼ばれていた。

 各々の創造神によって創造された世界は、一つ一つ異なる様相を見せる。それは、上記のような科学/魔法が発展した世界であり、「我々」の今いる世界とは少し異なった世界である。世界は、「回廊」によって繋がれており、それを介して世界間を行き来できる。

 世界には、その秩序を司る神と、それら神含め世界を創造した創造神がいる。彼らが存在する事で、世界は自壊する事なく平常に運行している。

 1つの世界は1つではない。世界は創造神が“観測”する事により、無限に生み出されていく。ここでの「観測される世界」が根幹世界と呼ばれるもので、「世界」と単に呼ぶ時に指示されるものである。一方、「生み出される世界」は枝葉世界であり、一般には並行世界と呼ばれている。

 世界は大まかにターミナル01、02、03、04に分類され、それぞれ異なった特徴を持つ。

 

ターミナル02 ha-01→ホロライブオルタナティブの世界であり、本作の舞台。ファンタジー世界がベースなため、ターミナル03系統とされがちだが、回廊はターミナル02に繋がっている。ターミナル03系統に近い位置にあるため、このような混同が起きたと思われる。ターミナル03群から最も近い最前線であった為、異世界大戦期の工廠や軍事基地が数多く残っている。

 本世界は大きく人間界、魔界、天界に分かれている。

 人間界は都会と周縁部に大きく分かれており、都会は高層ビルなどが立ち並び、全体的に栄えている。一方で、周縁部は人の手がつけられていない所が多々見える。また、周縁部には封建制の名残りとして貴族が地方を統治している。ただし、中世ファンタジーのような場所かと言われるとそうではなく、新現代の技術が取り入れられている所もある。

 魔界は人間界と隣接しているが、大気中の魔力が人間界よりも濃い。魔族のほか、魔物も多く住んでいる。魔族は人間よりも魔法の扱いに長けており、住人のほぼ全てが魔法を扱える。そのため、魔物が街を襲っても、住人総出で対処する事ができる。

 教育機関として、魔界学校が一つだけある。魔界の全ての学生がこの魔界学校に通っているため、かなりのマンモス校。

 天界は人間界よりも上層にあるが、飛んでもたどり着けず、通常の方法では行く事ができない。「天の柱」と呼ばれる回廊が天界側から下ろされ、それによってのみ行き来ができる。

 天界には神や天使が住んでいる。そのため、人間や魔族と同じ営みの様子はなく、ただ秩序を正常に運行させるための設備しかない。ただし、天使を教育する機関として天界学園が存在する。

 

新現代→異世界大戦終戦後の時代。長きに渡る戦争により、魔法/科学共に衰退しつつあったが、平和になったことから、復興が進められている。終戦後に科学世界と魔法世界で交流が盛んに行われ、魔法と科学の双方を応用した「魔法科学」が生まれている。多くの機械はこの魔法科学を利用して動いている。

 また、このように世界間での盛んな交流が進められていることを「世界のインター化」と呼ぶ。この世界のインター化によって様々な弊害を生じている。例として、その世界では存在しない技術体系が導入された事で、既存の技術体系が失われたり、外来生物による在来生物の絶滅、その世界では対処できない未知の特殊能力による犯罪などが挙げられる。

 これら(主に3つ目)の対処のため、傭兵組織という組織が結成された。

 

傭兵組織→異世界大戦後に結成された組織。傭兵という名ではあるが、戦争やテロ行為に加担することはなく、世界の異変解決や対象の護衛といった仕事を主とする。これらはビジネスとして行われており、フリーの傭兵に対して依頼の斡旋なども行なっている。

 仕事内容は、ヒステラルム統一の法によって規制されており、上述のような社会に悪影響を及ぼしうる依頼はできず、傭兵組織がそれを許可し掲載した場合、依頼主と傭兵組織双方に厳罰が下される。

 

デバイス→全世界に広く普及している電子機器。西暦時代に普及したスマートフォンと同じ長方形のボード型の他に、腕時計型、バイザー型、体内に取り込むナノマシン型が存在する。いずれも、通話以外にネット、周囲環境のサーチ、また健康管理やパワードアーマーのカスタマイズなどのAIによる様々なサポートの機能が搭載されている。

 スメラギのものには、人工知能「APRIL」が移れるようにコンピュータの強化が施されている。

 比較的安価で操作し易いボード型が最も普及している。

 

『スターク』→ 邪神の力を持つ者の総称。初めて『スターク』が発見されたのが西暦2049年で、以降新現代に至るまで度々存在が確認されている。邪神の力は遺伝に関係なく、生まれた時にその精神に宿る。生まれた瞬間から発現する者もいれば、時間が経ってから発現する者もいる。邪神の力を持っている者が滅びると、その力は新たに生まれてくる者の中から、ランダムで1人に再び宿る。

 邪神の力はあらゆるものに行使できるため、どの力も全能と言えるくらいには何でもできる。また身体能力の強化や力を纏った攻撃、邪神独自の回廊を開いて別世界へ渡る事も可能。

 新現代では、この名は守護者や傭兵の中で広まっており、「災厄を振り撒く者」として忌み嫌われている。その力の邪悪性から、存在するだけで災厄を生み出し、引き寄せるとされているため、『スターク』は見つかり次第滅ぼし、力の発動を極力させないようにする者たちもいる。そのため、『スターク』達は基本的に自分の能力を隠している。

 

邪神→創造神のような上位の神々の中でも、世界の創造・守護・運行という本来の使命を放棄し、己が欲望のまま行動する神のこと。新現代に至るまで1柱しか確認されていない。その神は、西暦時代に守護神の力を持つ者達によって滅ぼされている。

 

世界の呼称→固有名詞はなく、以下のように機械的に命名される。

最初に、どのターミナルに属しているか

次に、何番目に発見された世界か(アルファベット順なので26進法)

最後に、何個目の並行世界か(01は根幹世界で以降は全て枝葉世界)

例:ターミナル02 ha-01→ターミナル02に属し、183番目に発見された世界の根幹世界

 なお、2番目と3番目の記号については、「世界の記録者」視点から発見された順番となっている(本項では、世界の記録者については言及しない)。

 

魔装→魔法的な効力を持つ武器。名前からして邪悪な力を持つ武器と思われがちだが(実際そういう魔装も存在するが)、定義としては誤りである。魔剣も魔装の一部である。

 魔導金属(魔力が宿った金属)で作られており、ターミナル03系統では、古くから普及している。選ばれた者だけが使える神器とは違い、魔装は万人が使える武器だからだ。また、性能にばらつきはあるものの、上質な魔導金属で作られているものは神器と同等かそれ以上の力を持つ。

 大体の魔装は剣や槍といった伝統的な武器であり、銃などの近代兵器は少ない。というのも、起源魔法や魔術によって魔装の力を引き上げるのが主流になっているため、魔装には歴史の古いものの方が有利だからである。ただし、新現代に至っては銃型の魔装も少なからず製造されている。

 

タクティカル・アーマー Ver.5.17.3→スメラギが使用しているパワードアーマー。基本は「アイアンマン Mark.50」と共通の構造を取っており、体の一部のみにナノアーマーを展開することもできる。装着を待たず武器を使用できるため、即時の戦闘にも対応できるようになっている。APRILから直接サポートを受けることも可能。

 また、近くのE-ロッカーにナノマシン・パッケージを入れておくことで、本体にナノマシンがなくなっても自動でE-ロッカーから補充し修復する機能を持つ。

 動力源は本来は魔力エンジンだが、スメラギは魔力を持たないため、「超電磁砲」で発生させる電力で賄えるように改修が施されている。ただし、能力使用の限界があるため長時間の装着は不可。

 

E-ロッカーステーション→新現代の施設。電送するために一時的に物質を保管できる場所。基本的にどこにでも点在しており、誰でも利用できる。近くのステーション同士で電送も可能。

 

ローエングリン→宝鐘海賊団の船。全長78m。元はギエルデルタ防衛軍の小型巡洋艦だが、民間企業に引き払われていた所をマリンが購入した。建造されてからかなり時間が経っている年季もので、相当安かったらしい。

動力源には新現代の軍艦に珍しく核エネルギーを使用している。主流のアンチプロトンリアクターや魔力エンジンと違い半永久機関ではない為、定期的に燃料を補給する必要がある。

また、反重力エンジンにより浮上し飛行することが可能。

武装はホーミングレーザー×14、115cm単装レール砲×2、75mm対空砲×5、全方位エネルギーバリア展開装置

 

エアロサーフィン→新現代でヒステラルム中に広がっているスポーツ。風の魔法具を取り付けたボード「エアロボード」で風の流れに乗って滑空する。発祥はターミナル02 e-01であるとも、ターミナル03 r系統であるとも言われており、数千年の歴史を持つスポーツである。ちなみに、エアロサーフィンをすることを「エアる」と略される。

 

MEMA→Magical Energy Mibile Arms(魔導力機動兵器)の略。ミィーマと読む。魔力を動力源とした機動兵器の総称であり新現代で世界的に普及しているロボット。




明らかに本作品以上の内容が含まれていると思いますが、気にしないでください


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Aルート
1話 絶望の夜明け


存在しているだけで悪であるのなら、僕は何のために生まれ、生きているのだろう。


 それは、地を裂くようにして現れた。MEMAの格納庫にいなかったのは、その存在を徹底的に秘匿するためなのかもしれなかったが、その必要はもう無くなってしまった。

 

 

 

 それは、数百メートルもあろうかという巨大兵器でもなかった。外見に全くの邪悪さもない、むしろ世界を守るヒーローのような印象すら与えるフォルムだった。

 

 

 

 それは、圧倒的な力を有していた。全身に搭載されたビーム砲やレーザー砲。何物も通さない鉄壁の装甲。世界を跨ぐ転移機構。味方からすれば頼もしい事この上ないが、自分達が敵対してしまった時、守護神は破壊神へと姿を変えるだろう。

 

 

 

 そして、それは今だった。

 

 

 

 

 

 ゼノクロス。それがこの世界を滅ぼした兵器の名だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ……戦力は以前よりも多いはずなのにっ…⁉︎」

 

 スメラギはナノマシンで形成したエネルギーカノンを撃ちながら、思わず口に出した。

 

 スメラギ達だけではない。シュテッフェン・マイスフィールドの私設兵団、宝鐘海賊団、白銀聖騎士団、桐生会組員、エルフの戦士。これだけの戦力があってなお、ゼノクロスには傷一つついていない。むしろ、その圧倒的な火力の前に、こちら側が徐々に削られてすらいる。

 

「あくあマリン号を前衛に! 出力をバリアに絞れば盾にはなるでしょ‼︎……スメラギ君! シュテッフェンがベクターキャノンを撃つから時間稼ぎを、って!」

 

「マリンか…わかった!」

 

 ゼノクロスが戦略的敗北を覆し圧倒的に優位に立てているのは、その頑強なバリアによるものが大きかった。バリア自体の性能もさることながら、潤沢なエネルギーと高い冷却機構により、その強固さはほぼ無敵のものとなっていた。

 

 唯一の対抗策としてそのバリアを唯一破れるのが、ベクターキャノンであった。ベクターキャノンはメタトロン鉱石の空間圧縮を利用したエネルギー兵器で、空間断層・歪曲式のバリアを貫通できる。ただし、その発射には時間を要するのが難点であった。

 

『ロボ子様、ベクターキャノンの準備は私が行います。照準をお任せしてもよろしいでしょうか?』

 

「うん、わかった。…ごめんね、APRIL。もうボロボロなのに…」

 

 かつては鉄壁の装甲と膨大な火器を有していたミーレ・センチュリオンも、ゼノクロスの攻撃により今やスクラップ寸前と化していた。今はもう、人力では発射させることができないMEMA用のベクターキャノンを起動させ、トリガーを引く事しかできない。

 

『いえ。私は人間を支え導くために作られました。その為に私のすべてはあります。たとえ全ての機能が停止しようとも、私は人間のために行動します。』

 

 

 

 それでもAPRILはセンチュリオンを動かし、ベクターキャノンの発射準備に入る。それが、終わらない悪夢に終止符を打つ一手となる事を信じて。

 

 

 

『ベクターキャノンモードへ移行』

 

『エネルギー、全段直結』

 

 

 

 

 

「一点集中だ! てぇいッッ!!」

 

 ベクターキャノンから少し離れた所で、シュテッフェン率いる兵団がおよそ100門の〈獄炎殲滅砲(ジオ・グレイズ)〉を放つ。

 

「〈剛弾爆火大砲(ヴェイロボズム)〉ッ!」

 

「〈魔岩墜星弾(ギア・グレアス)〉!」

 

 そこへすかさず、ココとシオンが追撃する。

 

 通常の兵器ならバリアがあったとしても間違いなく粉砕されるはずの集中砲火を、ゼノクロスは全て受け止める。何のダメージも与えられなかったが、注意はそちらに向いた。

 

 

 

『ランディングギア、アイゼン、ロック』

 

 

 

「わ、わ、目合ったぁ…⁉︎」

 

「そりゃこれだけの攻撃浴びせたらこっち向くでしょぉ!」

 

「シオン、ココ! 下がるんだ!」

 

 標的にされたシオンとココの前に、スメラギは飛び込んだ。そして間髪入れず頭部のセンサーに向けてビームキャノンを放つ。

 

「スメラギさんナイス!」

 

「あったけぇなオイ! 借りは後で返しますから!!」

 

 一瞬の隙を狙い2人が後退するのを確認すると、スメラギはパワードアーマーのスラスターを噴かし空中へ飛んだ。

 

「追ってきた…! 僕を優先したのか…⁉︎」

 

 大した攻撃でもないのに、ゼノクロスはスメラギの方を追い始めたのだ。

 

 まるでそちらの方が脅威であると認識したかのように。

 

 疑問に思った瞬間、脳裏に声が響く。

 

「…まさか、」

 

 考えている間にも、ゼノクロスは畳み掛けるようにビームを連射している。スメラギは脅威的な身体能力でその全てを回避しながら、エネルギーカノンを放つ。だが、

 

「くっ…追いつかれる…!」

 

 ゼノクロスはいとも簡単に、逃げるスメラギを至近距離に捉え、ブラストビーム──爆発という特性を備えた近距離用のビームである──を放つ。

 

「ぐぅっ……‼︎」

 

 シールドで何とか防いだものの、爆発の衝撃に耐え切れずそのまま落下していく。

 

 幸運なことに、落ちた先は宝鐘海賊団のあくあマリン号甲板であった。

 

 

 

『チャンバー内、正常加圧中』

 

 

 

「御大将が落ちてきたぞ!? おい、あのデカブツから守れ!」

 

「わぁっ⁉︎ス、スメラギさん大丈夫⁉︎あたし、治療しようか…⁉︎」

 

 落下してきたスメラギを見て、あくあが慌てて駆けつけてきた。明らかに対人を想定していない桁外れの火力を前に、スメラギは無事であった。しかし一方で、彼を守り抜いたパワードアーマーは吹き飛ばされ、スメラギは殆ど生身となっていた。

 

「っ…大丈夫、この程度の傷なら問題はないよ。それより、ナノマシン・パッケージを貰えるかな? 予備が無くなってしまったんだ」

 

「わ、わかった! ちょっと待っててねー!」

 

 ゼノクロスはホーミングレーザーでスメラギを追撃しようとするが、あくあマリン号のシールドがそれを防ぐ。

 

「今のうちに! 皆様、攻撃を!」

 

 スメラギに気を取られている隙にちょこ、フレア、シオン、ココ、かなた、るしあは魔法で攻撃を加える。

 

 が、

 

「………!」

 

 スメラギを叩き落としたゼノクロスが目を向けたのは彼女ら、ではなく。

 

 さらにその奥。

 

「あいつ、こっち向かないのです⁉︎」

 

「もしや虎の子がバレたっ⁉︎」

 

 新たな脅威を感知し、ゼノクロスはベクターキャノンへ突進してくる。

 

「各員! 砲撃の手を緩めるな‼︎」

 

「畜生! こちとら〈攻囲秩序法陣(アルネスト)〉で強化しているんだぞ⁉︎」

 

「駄目だ! 奴は動きを止めない!!」

 

 ベクターキャノンの護衛部隊が集中砲火を浴びせるも、一向に止まる気配がない。

 

「チッ…! 無謀だったか…!」

 

 このままでは唯一の突破口が閉ざされてしまう。シュテッフェンの心の中で諦めの2文字が浮かび上がろうとしていたその時。

 

「…しょうがないですねぇ、私が行くとしますか」

 

「ちょ、ココ?」

 

 ココは一歩踏み出す。

 

「私が時間を作る。かなた、おめぇのパワーならあのデカブツを破壊できんだろ」

 

「無茶だよ! やられるだけだよっ⁉︎」

 

 かなたは必死に制止するも、ココの歩みは止まらない。

 

「安心しろって。私はつよつよげぼかわドラゴンだぞ?」

 

 そう言うと、ココは山吹色の魔法陣を展開する。

 

「〈竜闘纏鱗(ガッデズ)〉」

 

 竜の力が形となり、ココの身体に武装となって纏われる。

 

「……おい天使公、さっさと下がっとけよ。お前は後でたっぷり働いてもらうんだから」

 

「ココを1人にはしておけないな。君には僕がいないと」

 

 かなたはココの隣に並ぶ。

 

 正直、1人だけでは犠牲覚悟でなければろくに時間も稼げないだろうと思っていたから。

 

 ココは嬉しくなると同時に勇気づけられた。

 

「そうだな。私とかなたが揃えば、出来ないことは」

 

「そう、何もないっ!!!」

 

「〈獄炎竜撃砲(ドライゲル・グレイズ)〉ッッ!」

 

「〈聖域熾光砲(テオ・トライアス)〉!!」

 

 向かってくるゼノクロスに、竜の形をした黒炎と聖なる光の砲弾が発射される。〈獄炎殲滅砲〉の何十倍もあろうかという威力の魔法が直撃するも、しかしゼノクロスのスピードは衰えない。そのスピードをもって2人ごとベクターキャノンのある本陣に突進する気だ。

 

「ッ! ココ、アレを使うよ!」

 

「おう!」

 

「「〈天竜熾炎聖鱗(アンヘル・レヴド・リュエル)〉!!!!!!」」

 

 竜と天使の力が合わさった無数の光鱗が2人の魔法陣から発射される。それらは突進してくるゼノクロスを覆い、巨大な結界を構築した。

 

 

 

 バチィィッッッッッッ!!!!!!!! と。

 

 結界とバリアが拮抗する激しい音が周囲を打つ。その直後、結界の中が目を灼くほどの光で満たされる。

 

 天の加護を受けた竜の炎がゼノクロスを焼き尽くさんとしているのだ。あまりの光と熱量に、ゼノクロスのセンサーは異常をきたし、その動きを止める。

 

 

 

『ライフリング開始』

 

 

 

「ココちゃん、かなたん! もう下がって! あとはるしあ達が何とかするから!」

 

「まだです、るしあパイセン。あと、もう少し…!」

 

 先の一撃で既に魔力は尽きかけていたが、それでも2人は退かず、ゼノクロスを迎え撃とうとする。

 

 

 

 光が収まると、しかしゼノクロスは健在であった。これだけの攻撃を受けてなお、バリアが剥がれる事はなかった。とは言え、今までとは明らかにレベルの違う攻撃を受け、ゼノクロスはその行使者たちを標的に加える。

 

「まずい、彼女たちが…!」

 

 

 

『撃てます』

 

 ちょうどその時、ベクターキャノンの発射準備が整った。

 

 ロボ子は精密に照準を定める。

 

「狙いは腰。バリア装置は構造上、必ず外に露出させなきゃいけない。カモフラージュしてても、僕には分かる…‼︎」

 

 だが、

 

 轟ッッ!!!! と、大地を揺るがすほどの轟音が鳴り響いた。

 

 ゼノクロスが胸部のビームキャノンを照射したのだ。ビームはココとかなたごと、ベクターキャノンを焼き尽くそうとしていた。

 

「2人とも!!」

 

「彼女たちを守れ! 〈聖八炎結界(ザガート)〉!!」

 

「応! 〈聖海守護障壁(レガ・インドレア)〉ッ!!」

 

 と、背後にいた白銀聖騎士団とシュテッフェンの兵士達が二重の結界を展開する。複数人で発動された魔法は、通常よりも強固になっていた。しかし、それでもなお高出力のビームは結界に弾かれるどころか、逆にミシミシと結界にヒビを入れている。

 

「今だっ! ロボ子さん!」

 

「……!」

 

 結界に阻まれ標的を破壊できないことが分かると、ゼノクロスはビームの照射をやめ、スラスターに点火する。

 

「奴が逃げるッ! 拘束弾をっ!」

 

 しかしマリンは見逃さない。瞬時に船員に指示を飛ばす。

 

「おうよ船長! 野郎ども、ぶちかませぇぇ!!!!」

 

 そして熟練の連携によって、ゼノクロスが飛び立つその瞬間、あくあマリン号から拘束弾を放たれた。それはちょうど大地から浮かびかかっていた脚部に向かって発射され、特殊な素材のワイヤーがゼノクロスを地面に縫い付ける。

 

「撃つよッ!!」

 

 

 

 同時に、ロボ子はトリガーを引いた。

 

 

 

 ッッヅバシュッッッッ!!!!!!! と、膨大なエネルギーの塊が空を裂き、ゼノクロスに肉薄する。瞬時にゼノクロスは避けようとするも、拘束弾によって身動きが取れない。

 

 必中の一撃であるはずだ。

 

 

 

 

 

 そしてそれは確かに命中した。

 

 ただし。

 

 

 

「やられた…‼︎()()()()()()()()()…ッ‼︎」

 

 エネルギー弾がバリアを破り着弾する直前、ゼノクロスは右腕で装置を庇ったのだ。見ると、右腕が何かに抉られたように肘から消えていたが、一方でバリア発生装置は無傷のままだった。

 

 

 

 そして、

 

 

 

『マスター、皆様。あとは任せました。』

 

 ベクターキャノンの反動に耐えきれず、ミーレ・センチュリオンは崩壊していき、完全に機能を停止させた。

 

「…彼女を無駄死にさせるな! 撃て!!」

 

 シュテッフェンの号令と共に、夥しい程の砲撃がゼノクロスに浴びせられる。

 

 装置を破壊できなかったとはいえ、あれほどのエネルギー量とかち合ったのだ。シュテッフェンらの攻撃に対してバリアを張らない辺り、装置が一時的にオーバーロードしているのは明白だ。

 

「みんな! 接近して足を破壊するぞ!」

 

 APRILが、ココが、かなたが。みんなが作ってくれた隙を逃す訳にはいかない。

 

 スメラギの言葉と同時に、フブキ、ミオ、あやめ、シオン、ちょこ、ノエル、ぺこら、かなたがゼノクロスに向かって走り出す。

 

 そこへゼノクロスがホーミングレーザーを発射するも、

 

「みこち! 同時に障壁を!」

 

「おっけいフレア! やるで!!」

 

 陰陽術と魔法の二重障壁がその全てを防ぐ。 

 

「マリン!」

 

「おっけ! マリるしの力、見せてやらぁぁ!!!」

 

「「〈聖魔愛憎爆撃(ディオ・グレゼス)〉!!!!」」

 

 桃色の光と紫の闇が入り混じった火球が2人の発動した魔法陣から射出される。

 

 ゼノクロスはその攻撃をよけようとするが、

 

「ちょこ先! ぺこらちゃん!」

 

「生徒のくせに人使いが荒いわよ、シオン様!」

 

「ぺ、ぺこーらも…やったるぺこ!!!」

 

 シオンが〈四属結界鎖(デ・イジェード)〉を、ちょこが〈影縫鏃(デミレ)〉を、ぺこらが〈拘束魔鎖(ギジェル)〉をそれぞれ発動し、ゼノクロスの動きを止める。

 

 直後、ドゴォッッ!!!! と爆炎球がゼノクロスの頭部に直撃した。装甲に阻まれ、ダメージは与えられなかったが、膨大な熱量によりセンサーが無効化された。

 

「行くよ、あやめ! …天狐剣紋(てんこけんもん)ッッ!!!」

 

「うむ、斬り飛ばす! 雪華風月(せっかふうげつ)ッッ!!」

 

 それぞれの渾身の一太刀がゼノクロスの右足を斬り刻み、装甲にいくつも亀裂ができる。

 

「よーし、団長がちゃーんと粉砕してやるからね~!!」

 

 そこへ、ノエルがありったけの力を込め、メイスを亀裂へと振り下ろす。ノエルの並外れた膂力ならば、亀裂から叩き込んだ打撃で、内側から破壊することは容易であった。

 

 

 

 

 

 

 

 そのはずだった。

 

 

 

「がッ…!!?」

 

 亀裂にメイスが当たった直後、ノエルは逆に衝撃に全身を叩かれ、全身から血を噴き出しながら吹き飛ばされる。

 

「ノエルッ!!!?」

 

衝撃反射型複合装甲(アクセラレイト=フォートレス)…!? 攻撃を弾いたのか!」

 

 衝撃反射型複合装甲(アクセラレイト=フォートレス)は、衝撃のベクトルを操作し、反射することで防御だけでなく攻撃を与えた相手にも反撃を加えるという、攻防一体の装甲である。これを破るには、装甲の許容以上のベクトル量をぶつけなければならず、それは非常に困難なことであった。

 

「フブキ! あやめ! 君たちも危ない! シオン達に!」

 

「それしかないかな…! スメラギくん、ノエルを頼むよ!」

 

 スメラギは頷き、倒れたノエルを抱え後退しようとする。

 

 

 

「衝撃を反射するのか、道理でこれだけ殴っても壊れないわけだ…! かなたちゃん、魔法で攻撃を…っ!?」

 

 ミオがそう言いかけたとき、ゼノクロスの脚部からホーミングレーザーが放たれる。

 

「ッッ!!!! みんな、逃げろ!!」

 

 ホーミングレーザーは、誘導性を持ったレーザーだが、貫通力が高く、デコイが通用しない。更には主に対機動兵器向けの武装であるため、人間にとって火力・誘導性ともに圧倒的な脅威となっていた。

 

 

 

「スメラギ! ノエルを落とすんじゃないよ!」

 

 フレアは無線でスメラギにそう伝えつつ、〈深撃(ゼルス)〉によって深化した矢を放ち、スメラギに迫っていたレーザーを相殺する。

 

 

 

「ヤバ…!? あたし達も逃げようっ!」

 

 ゼノクロスを拘束していた3人も、魔法を解除し、急いでレーザーから逃げる。

 

 

 

「くっ…!」

 

 レーザーが一向に消える気配がない。どうやら長距離に対応しているもので、その分長く敵を追い続けるようだ。

 

「フブキっ!」

 

 レーザーに追い詰められ、灼かれようとしていたフブキを、あやめとミオが寸前で救う。ミオが結界を張り、あやめがフブキを抱えて本陣へ向かう。

 

「わわ! ありがとう、2人ともっ…」

 

「くぅ…全力で結界張らなきゃヤバいなぁっ、これ!」

 

 

 

 

 

「またっ…僕たちではこいつを倒すことは出来ないのか…っ⁉︎」

 

 後退中のスメラギの脳裏に、再び声が響いた。自分とは相反する思考が巡る。その考えに従えば、少なくとも今の窮地は脱する事ができるはずだった。

 

「ダメだ…っ! 君が出たら、僕は…! 世界を滅ぼす力で、世界を救うことはできないんだ…ッ!」

 

 スメラギはそれでも、脳裏に響く声を否定する。()()してしまえば未来がないと、信じていたから。あるいは、怯えていたのかもしれない。

 

 

 

 

 

 フブキやあやめ、ミオ、それに他のメンバーが回避に専念している間も、絶え間なく兵士やエルフ、騎士達が攻撃を加えていたが、バリアが消失してもなお、ゼノクロスにはさしたるダメージもないようだった。

 

「なんなんだあいつは…! 化け物か!?」

 

「今度は総員で近接へ持ち込む! 態勢を立て直せ!」

 

 

 

 しかし。

 

 

 

「待て! ……何かがおかしい! なぜ奴は攻撃してこない!?」

 

 スメラギたちの間に疑念が走る。未だ、夥しいほどの砲撃が放たれており、轟音が戦場を包み込んでいるのに、不気味な沈黙がスメラギたちの間に流れる。実際、両足を攻撃されたのちに一度ホーミングレーザーを撃ったきり、ゼノクロスは攻撃の手をぴたりと止めている。

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「まさか…!!?」

 

 スメラギはふと気づいた。心当たりがある。この光景は、以前にも見たことがある。その直後に何が起こるかも。

 

 疑念が焦りへ変わった瞬間、

 

 

 

 

 

 ッッッッッッッ!!!!!!!!!! と、もはや音を置き去りにしたすさまじい衝撃と圧倒的な光がこの場にいる全員の視界を、いや、

 

 

 

()()()覆う。

 

 

 

 全身の火器を最大出力で一斉射するゼノクロスの切り札。たった一撃ですべてを屠るこの攻撃を、ゼノクロスはあえて最初から使わないでいた。兵力を削り、撃てる状況になったから撃ったのではない。遊んでいたら敵が思った以上に粘ったから本気を出した、とでも言うような。

 

 そのくらいの軽い調子で。ゼノクロスは簡単に切り札を切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「く……かはっ……」

 

 何とか意識を取り戻したスメラギは、顔を上げ、立ち上がろうとする。

 

「っ…」

 

 惨憺たる光景だった。空は、まるで「空」という概念が破壊されたように、雲も太陽もない、ただ黒い空間が広がっていた。大地には、大きな亀裂がいくつも生じ、そこからマグマが噴き出していた。そして周りを見渡すと、ほとんどが死体すらなく、一瞬で蒸発していた。しかしそれ以外でも、死体があるだけで生きている者など全くいなかった。

 

 

 

 あの時と同じだ。また、同じ結末をたどってしまった。

 

 スメラギは、全身が黒焦げになり、機能の全てを停止したパワードアーマーを着込んだまま、こんな終末の世界に悠然と立っているゼノクロスに、這いつくばりながらも近づこうとする。

 

「まだ……だ……っ」

 

 

 

 だが、その行く手を誰かが止める。

 

「ス、メラギ、さん…っ、もう、やめて……」

 

「るしあっ……‼︎」

 

「もう、この世界は、終わり。でも、あなたは……あなた、だけは……っ!」

 

 

 

 生きているだけでも不思議なくらいの傷を負っているるしあは、最期の魔力を振り絞り、魔法陣を構築する。それはるしあが、異世界へ迷い込んだスメラギの為に作っていた別世界への転移魔法だった。

 

 

 

「るしあ…君が逃げるんだ……! 僕が生きていたって……っ」

 

「るしあ、は、あなたの過去を、見ました……悲しい、過去を……。でも、だからって、卑屈になっちゃ、だめなのです」

 

「たとえ、あなたの正体を、知らなくても、みんなはあなたを、受け入れてくれた……あなたは、独りなんかじゃ、ないっ…!」

 

「だから、生きて……っ、私たちの、この世界の、分まで……っ!」

 

 

 

 魔法陣が完成し、転移魔法が発動する。

 

「るしあ……ッ!!」

 

 思わず手を伸ばすスメラギに、るしあは微笑みながら何かを伝える。

 

「─────」

 

 まばゆい光に飲み込まれ、スメラギは目をつぶる。

 

 

 

 ・

 

 ・

 

 ・

 

 ・

 

 ・

 

 ・

 

 

 

 目を覚ますと、見知らぬ平原が目の前に広がっていた。先ほどの阿鼻叫喚な光景とは真逆に、人の往来もなく、一面に草が生えている静かなところだった。

 

 転移は成功したのだ。

 

「…っ!!!」

 

 ガツン、とスメラギは地面をたたくが、静寂に何も変化はない。別世界にただ一人放り出されたスメラギには、なすすべもなかった。

 

(だから言ったじゃねぇか。俺を戦わせろって)

 

 と、そこへ脳裏に声が響く。

 

「…ダメだ。君の力を使ってしまったら、世界が滅ぶ。ゼノクロスじゃない。僕が滅ぼすことになるんだ」

 

(ハッ、相変わらずの優等生ぶり…いや、臆病ぶりだな。だから世界一つ守れねぇ)

 

「……」

 

(で? いつまでも逃げ回ってる臆病者は、次はどうするんだ?)

 

「決まってるさ…。ゼノクロスを探す。今度こそ倒す」

 

(今のテメェにゃそんな大役無理だよ)

 

「できるかできないかじゃない…やるんだ。僕は世界を託されたんだ」

 

(はいはいそうですか。責任感だけはいっちょまえに持ちやがって)

 

 そういうと、脳裏に響く声は消え去った。

 

「まずは、街を目指さない、と……っ」

 

 スメラギは立ち上がろうとしたが、うまく力が入らず、その場に倒れこむ。

 

「僕は……やらなきゃ……ッ」

 

 そのまま力が抜けていき、スメラギは意識を失った。




展開もさることながら、よくわからん人名や単語ばかりで訳分らんことになってると思います。こいつらはまた出てくるので、その時に・・・!
1話から激重展開となりましたが、次からは優しめになるかと思います笑

ちなみに、この回で出てきたメンツ、お察しの方もいるかと思いますが、ホロライブ・オルタナティブ公式PVに出てくるメンバー(全員じゃないですが)となっております。この話についても、また後程できれば。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

幕間 在りし日の記憶

 とある高校の3回生であるスメラギは、放課後の教室で1人、進路に悩んでいた。高校は6回生まであり、大学に行くか就職するかが決まるのはまだ3年もあるが、どちらを選ぶにせよ、受験勉強もしくは就職活動に1、2年はかかる。この辺りでどちらかを選ばなければ出遅れてしまう。

 

「うーん、悩むなぁ…」

 

「スメラギくん、どうしたのです?」

 

 と、そこへるしあ達がやって来る。

 

「あれ、まだ帰ってなかったのかい?」

 

「私、見てましたよ?スメラギ君が黄昏てるとこ〜」

 

 ニヤニヤしながらマリンが茶化してくる。

 

「いや、進路が決まらなくて…」

 

「進路?あぁ、もうそろそろ決めないとだよね」

 

「ノエルは決まっているの?」

 

「うん、私は傭兵になる!それで、色んな所へ行って、困ってる人たちを助けるんだ〜。仲間も増やして、白銀騎士団を作るのが夢なんだ〜!」

 

 と、ノエルは胸を張って自慢げに語る。

 

「あはは、ノエルらしいね、騎士団なんて」

 

「もちろん、騎士団第一号は私だけどね?」

 

 フレアはノエルの横に立ち、腕を組みながらそう宣言する。

 

「フレア…!///」

 

「おいこら、そこ!隙あらばイチャつくなぺこ!」

 

「あはは…フレアも傭兵なんだね。ぺこらはどうなんだい?」

 

「ぺこーらは起業して社長になるぺこ!夢はでっかく‼︎」

 

「ぺこらじゃ無理でしょ…スロカスじゃん」

 

「関係ないぺこでしょ⁉︎」

 

 るしあは呆れた顔をしながら、ぺこらを毒づく。

 

「ぺこらだけじゃ不安だから、るしあはぺこらの会社に就職してあげるのです。副社長でも良いのですよ?」

 

「るーちゃん…‼︎でもあんたに副社長は無理だから、ペーペーからね!」

 

「あーん!るしあたん、私と海賊になってくれないのぉ⁉︎」

 

「海賊って言っても、マリンは人助けしかしないだろ?」

 

 スメラギは冗談めかして言う。

 

「しますー!冒険!金銀財宝見つけ出して、富豪トップ10にのし上がってやるわ!」

 

 マリンは椅子に右足を乗っけて、高らかに語った。

 

「…真面目に将来考えてるの、ノエルとフレアだけなんじゃないか?」

 

 ふと、スメラギが本音をこぼすと、3人は抗議の声をあげる。

 

「失礼ぺこだな!ぺこーらには社長が向いてるの!」

 

「そうそう。それにぺこらが社長になったら、同じ3回生のよしみで入社させてくれるのです」

 

「女のロマンを甘く見るなよー!すぐに見下してやるからなぁ⁉︎」

 

「あ、あはは…」

 

「で、結局スメラギくんはどうするの?」

 

ノエルが訊ねる。彼女たちの話を聞いて、スメラギはピンと来るものがあった。

 

「そうだなぁ、僕は…





そう、これはまだ何も知らなかった頃の記憶。かけがえのない、大切な。でも、僕はそれを…


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2話 新たな旅の幕開け

実質こっから本編みたいなものです


 デバイスからけたたましい音が鳴り響く。

 

『……スター。マスター。起きてください。起床予定時刻を6分超過しています。』

 

「ぅっ…。え、APRIL…?」

 

 目を覚ますと、澄み渡る青空──ではなく、白色の天井が目に入ってきた。

 

「APRIL、無事だったのか…!」

 

 スメラギは身体をベッドから起こしながら、デバイスに話しかける。周りを見渡すと、そもそも自分が外ではなく、どこか建物の中にいることに気づいた。

 

『否定します。残念ながら無事ではありません。ミーレ・センチュリオンは先の戦いで消失しました。人工知能(わたし)の方はマスターのデバイスに移ったので無事でしたが。』

 

 APRILは淡々と自身の状況を伝える。

 

「ここは…?誰かが運んでくれたのか?」

 

 それについて、APRILは直接答えることはせずとある人物を呼ぶ。

 

『報告します。マスターが起床しました。』

 

 すると、奥からバニーガールのような奇抜なファッションをしたうさ耳少女が顔を出した。

 

「おぉ!起きたぺこか!いや〜、あんなに血だらけだったのに。人間って強靭ぺこなぁ」

 

「っ……⁉︎えっと、君は?」

 

()()()()()()に、思わずスメラギは息を呑む。悟られぬよう平静を保つ。

 

「ぺこーらは兎田ぺこらぺこ!あんたは?」

 

「僕はスメラギ・カランコエだ。…助けてくれてありがとう、ぺこら。ところで、ここは…?」

 

 スメラギはベッドの近くの窓を覗く。気を失う前に見たのと似た光景が見える。

 

「ここはぺこーらの移動式マイハウス!の中ぺこ。あんたが倒れてたとこからそう離れてないぺこよ」

 

「君の家だったのか。なんだか悪いな…」

 

「まー正直あんたを家に上げるかどうかほんの一瞬だけ迷ったけど、困った時はお互い様ぺこだからね。気にする事ないぺこ!」

 

 世界が変わっても、相変わらずなんだかんだ思いやりのあるぺこらを見て、スメラギは懐かしさを感じたが、すぐにそれを引っ込める。自分の目の前にいるぺこらは、自分の知らないぺこらだ。記憶の中にある人物とは違う。

 

 気を取り直して、スメラギは話を変える。

 

「でも、よく僕を見つけたね。人が来るような場所ではなかったと思うけど…」

 

「まあねー。ぺこーら、行商人でさ。ちょうど品物を仕入れてきて、街に行く所だったぺこよ。あんたのAIの声が聞こえなかったら、ぺこーらも通り過ぎてたかもぺこだねぇ」

 

『肯定します。私とぺこら様のお陰で、マスターを助ける事ができました。』

 

「あ、あぁ…!APRILもありがとう…!」

 

 なんだか言葉に圧を感じたので、スメラギは慌ててAPRILに礼を言う。彼女はAIのくせに、妙に自己主張をしてくるタイプなのだ。こういう時、そっけなく振る舞うとしばらく拗ねてしまうというのもセットで。

 

「まぁ、何であそこで倒れてたかなんて野暮なことは聞かないぺこ。それよりあんた、これからどうするぺこ?」

 

「そうだね…。とりあえず、街に行くつもりだよ。少し野暮用があってね」

 

 次の目的地を聞かれ、そう答えると、ぺこらは目をキラキラさせて身を乗り出してきた。

 

「おぉ〜!ってことはギエルデルタぺこか⁉︎」

 

「あ、あぁ…分からないけど多分そうなるかな…」

 

「いやぁ〜、ぺこーらもちょうどギエルデルタに行く途中でさぁ。でも、こーんなか弱い美少女が1人で辺境を歩くのも危ないぺこでしょ?だからさぁー…?ね?」

 

 あえて皆まで言わずに、にっこりこちらを微笑んでくる。また圧を感じた気がした。

 

「うっ…。まぁその、ギエルデルタ?までなら同行しようかな…。僕も道案内をして欲しかったからね」

 

 ここまで1人で来たんじゃないのか?などとは絶対に言わないスメラギであった。何故なら紳士だから。女心は分からないが、空気を読む事は上手いのだ。

 

「じゃあ決まり!早速向かうとしよう〜!」

 

 

 

 

 

 

 ぺこらの移動式住居は、〈物体縮小(ミニマム)〉によりキャリーケース程度にまで縮小していた。行商人とはいえ歩く以外の移動手段を使っても良さそうだが、あえて徒歩を選ぶのがぺこらのこだわりでもあった。

 

「楽をしてたらつまんないぺこでしょ?旅は歩いてなんぼよ!あと運動しないと、兎なのに足遅いって言われちゃうでしょ」

 

 なんだか体面を気にしているらしい。うさ耳あるのに人間と同じ耳もある時点でおかしいだろうが。

 

「ところで、スメラギは普段何してるぺこ?旅人には見えないぺこだけど」

 

「僕は傭兵だよ。アルヴィアスの」

 

「アルヴィアスって、傭兵組織の最大手ぺこじゃん!あんたよく入れたぺこだねぇ」

 

「あはは……。運が良かったんだよ」

 

 なんかディスられた気がする、というのは忘れておこう。

 

 アルヴィアスは、傭兵業界の中でも、名実共にトップの組織である。様々な世界に進出しており、このターミナル02 ha-01にも支部が置かれていた。

 

「ん…?アルヴィアス……スメラギ……。なんか聞いたことあるような」

「え゛っ。き、気のせいだよ!聞き間違えとか、人違いとかだと思うな…⁉︎」

 

 スメラギは慌ててごまかす。別に大した隠し事ではない。ただ単に気恥ずかしいだけだ。知人に似た赤の他人とは言え、この事はあまり知られて欲しくないのだ。

 

「ふ〜ん…?」

 

『ご歓談のところ申し訳ないのですが、報告します。調べたところギエルデルタにアルヴィアスの支部はありません。しかし、そこから北へ行ったアイゼオンという街には存在します。』

 

 APRILはデバイスでアイゼオンの位置を表示する。

 

「なるほど…。途中で一泊しないといけないから、どちらにせよギエルデルタには寄る必要があるね」

 

「アイゼオンかぁ。ギエルデルタの方が海に面してて、交通の便も良さそうぺこなのに」

 

 疑問に思うぺこらに、スメラギは説明する。

 

「多分、「回廊」があるんじゃないかな。アルヴィアスには異世界の傭兵も来るし、何かと都合が良いんだよ」

 

「回廊」とは、世界と世界をつなぐ文字通り回廊だ。異世界の窓口以外にも、新現代では、「回廊」を通じたネットワークも形成されている。時差や時間の流れが世界ごとに違うため、伝達速度にばらつきはあるものの、場所の制限からは逃れることができていた。

 

「なるほどねぇ。というか、あんたはアルヴィアスの支部に用があるぺこなんだ?」

 

「ああ。この世界に来るのは初めてだからね。色々と知っておかなきゃと思って」

 

 これは嘘ではないが、隠していることがある。アルヴィアスの支部で、とあるものについて調べることが、スメラギの本当の目的であった。しかし、これをぺこらに言うことはない。言いたくはなかった。

 

 そんな思いをよそに、ぺこらは(何故か)自慢げに応じる。

 

「へぇ〜、あんた別世界の人間だったぺこなんだね!じゃあ、しょうがないから道すがらちょっと教えてやるぺこっ!この世界はねー…



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

3話 賢者の森へ

「地理くらいは分かったぺこ?」

 

 ぺこらにこの辺の地理を教えてもらい、スメラギは頷く。

 

「ああ。この近くにはエルフの森があるんだね」

 

「そうそう。エルフは人間嫌いが多いぺこだから、近寄っちゃダメぺこ! 噂によると、人を氷漬けにしてコレクションにしてるエルフもいるとか…!?」

 

「ははは…、流石にそれは…」

 

 などと他愛もない事を話しながら、このだだっ広い平野を歩く。

 

 半日ほど歩いたのに景色がほとんど変わらない辺り、本当にここは辺境なのだろう。

 

 

 

 しかしこの辺りの道は比較的舗装されており、この道を歩いていけば街にも着くようだ。

 

 ただし一方で、ここは森に近くもある。気を失った時は襲われなかったが、森には魔物がいるかもしれない。

 

 そう思い、少し警戒しながら歩いていると、

 

『報告します。2時の方向から高速で接近するものあり。距離400m、数は3。形状と魔力パターンからディンゴと思われます。』

 

「!!」

 

 

 

 その予想は的中した。

 

 

 

 デバイスから警告音と共にAPRILがオオカミ型の魔物──ディンゴの接近を報せる。

 

「ぺこら、下がっているんだ」

 

「へ?」

 

「ディンゴだ。こちらに近づいてくる」

 

「ひぃっ⁉︎す、スメラギ! 頼んだぺこ!」

 

 ぺこらは脱兎のごとく遠くへとっとこ走る。

 

「あ、あんまり離れると守りづらいかな…」

 

「ひぃん…」

 

 兎だから捕食者(オオカミ)が苦手なのだろうか。

 

 ディンゴはすばしっこく、接近されると戦いづらい。そのため遠距離から狙い撃つのが定石だ。

 

『マスター。パワードアーマーの修復率は52%。完全装着はできません。』

 

「武装は?」

 

『腕部、脚部およびバックパックは構築可能です。』

 

「それだけ使えれば十分だ」

 

 予備のナノマシン・パッケージで応急処置は施したものの、先の戦いでパワードアーマーが酷く損傷しており、全ての機能は回復していなかった。

 

 とはいえ。

 

 スメラギは並の傭兵なんかじゃない。

 

 胸のナノマシン・パッケージを軽くタップする。すると、パッケージから大量のナノマシンが放出され、両腕を覆う。ナノマシン同士が結合していき、強化装甲(パワードアーマー)を形成していく。

 

 形成が終わると、今度は右腕にエネルギーカノンを形成する。

 

「『超電磁砲(レールガン)』」

 

 そう呟くと、スメラギの身体から大量の電気が放出され、エネルギーカノンに電力を供給していく。

 

「は、はえぇ…。超能力で動力を賄っているぺこねぇ…」

 

 後ろで怖がりながらも、ぺこらはスメラギのパワードアーマーに感心する。

 

「…来る!」

 

 直後、森からディンゴが飛び出てきた。こちらとの距離はおよそ100m。十分射程圏内だ。

 

「ふっ…‼︎」

 

 正確な狙いでスメラギはエネルギーカノンを撃つ。弾は先頭を走っていたディンゴに直撃した。魔物はバランスを崩して地面に激突する。

 

「まずは1体…!」

 

 仲間がやられたからか、2台のディンゴは左右に分かれてスメラギ達に迫る。挟撃を図っているのだろう。

 

 スメラギは冷静に左の方を向き、ディンゴに向けて1発撃つ。ディンゴはそれを避けるが、スメラギはその動きを予測し、偏差でもう1発放つ。避けた先に放ったエネルギー弾は、ディンゴに直撃し、その身体に風穴を開ける。

 

「も、もう1体来るぺこっ‼︎」

 

 残ったディンゴはかなり近くまで迫っていた。今そちらに向き直りエネルギーカノンを撃とうとしても間に合わない。

 

 

 

 だが、そこはもう()()()()だ。

 

 

 

 スメラギは、振り向く事なく背中から雷の槍を生み出し、迫るディンゴに向けて放つ。予想外の攻撃にディンゴは対応できず、雷の槍をまともに食らい、丸焦げになってその場に倒れる。

 

「ふぅ…」

 

『敵の生命反応消失。お疲れ様です、マスター。』

 

 スメラギは武器とアーマーをパッケージに収納し、戦闘態勢を解く。

 

「ひょえ〜! さすが傭兵ぺこ‼︎強いぺこねぇ」

 

 ぺこらは拍手しながら、こちらに近づいてくる。

 

「あ、ありがとう…。照れるな…」

 

「友人」に傭兵としての腕を褒められるのは照れくさい。何度経験しても慣れないものだ。

 

「…あぁ、そうだ。少し寄り道してもいいかな?」

 

 気を取り直して、スメラギはぺこらに提案する。

 

 彼女の話を聞いて、行きたいところが見つかったのだ。

 

「寄り道? まぁいいぺこよ。どこ行くぺこ?」

 

「エルフの森に行きたいんだけど…いいかな?」

 

「えぇ⁉︎あんた、話聞いてたぺこか…⁉︎」

 

 戦闘前にぺこらは、エルフの森が近いと言っていた。一方、ここからギエルデルタまではまだ距離がある。ぺこらと別れてから森に行くのがベストではあったが、パワードアーマーの修復が完全でない以上、移動手段は徒歩しかなく、ギエルデルタから戻って向かうには遠すぎる距離だった。

 

 本当はぺこらには言いたくなかったが、言うしかない。

 

「…実は、僕はとあるものを探していて、その手がかりが欲しいんだ。知識に長けているエルフなら知ってるんじゃないかと思ったんだ」

 

「探し物ぺこか? だったらアルヴィアスで調べればいいぺこじゃん」

 

「色んな情報を聞いておきたいんだ。()()はそうそう見つかるものじゃないからね」

 

「ふーん…まぁ詳しくは聞かないぺこ。でもさっきも言ったように、エルフ達は人を嫌うぺこ。何が起こるか分からないぺこよ?」

 

 それでも行かなくてはならない。危険な旅など、今に始まった事ではない。

 

「大丈夫。何があっても、君だけは守り切ってみせるよ」

 

「カッコいい事言うけど、自分の身も守るぺこだよ?」

 

「もちろん」

 

 1つ懸念があるとすれば、エルフの森ということは、「彼女たち」がいるかもしれないという事だ。もし出くわしてしまったらと思うと。

 不安が脳裏をよぎる。

 

「…歩みは止めないさ。僕は、託されたんだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エルフの森は昔っから人間とか魔族が住み着かない、エルフだけの神聖なとこぺこ。だから、もう絶滅しちゃった生き物とか、珍しい生き物、それにエルフしか作れない品々があるらしいぺこよ〜? えへへ〜…」

 

 当初エルフの森に行くのを嫌がっていたのが嘘のように、今やウキウキしていた様子でスメラギの隣を歩いている。エルフから工芸品を頂き、それを高額に売り捌こうとしているのだろう。商魂たくましい。

 

 百万長者になってやると、目がそう語っている。

 

「がめついなぁ…エルフの森は神聖なところなんだろう?」

 

「はぁっ…⁉︎別にエルフの珍しいものを貰おうとかそんな邪なこと考えてないし⁉︎ぺこーら、あんたの付き添いに来ただけぺこだしー⁉︎」

 

 

 

 そんなことを言い合いながら平野を歩いていき、ちょうど森の入り口まで来た。ぺこらは後ろを振り返り、スメラギに説明する。

 

「ここからがエルフの森ぺこ。ただ、勝手に踏み入れちゃダメぺこ。エルフの許可が

 

「左様だ。この森へ入るには私の許可が必要だ」

 

「ひいぃぃッ‼︎?」

 

 突如、後ろから声が聞こえて、ぺこらは文字通り飛び上がる。そして驚くほどの速さでスメラギの後ろに回り、身を隠す。

 

 見ると、さっきまではいなかったはずのエルフの男が、森の入り口に立っていた。〈幻影擬態(ライネル)〉で身を隠していたのだろう。武器を持っているように見えないが、いつでも魔法を繰り出せるように魔力を溜めているのが分かる。

 

「この森に何の用だ人間」

 

 屈強な体を持つエルフの男は、鋭い視線でスメラギの方を見る。

 

「えぇと、探し物をしていて…君たちエルフの知恵を借りたいんだ」

 

 スメラギは角が立たないように、できるだけ穏便に話す。

 

「人間などに貸すものがあると思うか?」

 

「君たちにも森にも、何もするつもりはないよ。ただ尋ねたいことがあるだけなんだ」

 

「言語道断。貴様らが森に入るということが、既に我らにとって悪影響なのだ」

 

 が、エルフの男の態度は厳しいままだ。

 

「うぅ…スメラギ、引き返そうよぅ…」

 

「……」

 

 ぺこらに袖を引かれ、引き下がろうとすると、

 

 

 

「まぁ待てよ、レゴラス。久しぶりの来訪者をそう邪険にしていたら、バチが当たるぞ?」

 

 森の方からもう1人、今度は猫のように身軽な印象を与えるエルフがやってきて、先ほどの男に話しかける。

 

「ラルク!」

 

「良いじゃないか、レゴラス。『外との干渉は避けるべし』なんてオキテ、今どき時代遅れだぜ?」

 

「しかしだな…!」

 

 屈強なエルフ──レゴラスは、ラルクと呼んだ男に対して何か言いたげだったが、やがて諦めたようにため息をつき、首を振ると、スメラギ達の方へ向き直る。

 

「…先の言葉、偽りはないな?」

 

「もちろん。〈契約(ゼクト)〉を交わしてもいいよ」

 

「ならばそうさせてもらおう」

 

 レゴラスとスメラギは〈契約(ゼクト)〉を交わし、ほんの少し警戒を緩める。

 

「こっちだ。ついて来い」

 

 

 

「よく分からないけど…なんか入れたぺこね」

 

「あぁ…。何か事情があるのかも」

 

 逆にスメラギ達が警戒しながらも、レゴラスの案内に従って森に入っていく。




次回、ホロメン2人登場します。何となく当たりはつくと思います…笑


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

4話 掟

なかなか書くのに時間かかりました( ´・ω・`)



 ゴゥゥゥン……‼︎‼︎

 

 森の中に入ると、外からは聞こえてこなかった轟音が耳を叩いた。森に結界が張られており、それが中からの爆音を留めていたようだ。

 

「ひえぇ⁉︎」

 

「えぇと、これは…?」

 

「あまり聞くな……ただの小競り合いだ」

 

 レゴラスは撫然とした様子で答える。どうやら、あまり追及して欲しくないようだ。

 

「小競り合い?」

 

 そう聞き返すと、代わりにラルクが答える。

 

「フレアとラミィ…古参と新入りがケンカしてるんだよ」

 

「……!」

 

 フレアにラミィ。聞き覚えのある名前を耳にするだけでなく、よりによって彼女達が争っているとは。

 

 何事もなくここを去ろうとしていたスメラギの思惑は、早速崩れてしまった。

 

「あんたら、悪いタイミングで来ちまったな。まぁ、飛び火はして来ないと思うから、ゆっくりしてくんな。と言っても、こんな爆音の中じゃ落ち着かねぇか?」

 

 ハッハッハ、とラルクと呼ばれた男は呑気に笑う。

 

「まったく…! ラルク、貴様は節度を弁えろ!」

 

 レゴラスはラルクを叱りつけ、道案内へ戻ろうとする。

 

「何故そんな事に?」

 

 スメラギはラルクにそう訊ねる。同一人物ではないため、一概には言えないが、彼女たちはそれほど喧嘩っ早い性格ではなかったはずだ。

 

「あぁ、新入りが機械を使っていたらしくてな。『エルフは機械を用いるべからず』ってオキテを破ったからさ。まぁ今の時代、人間の老人だって機械を使ってんだから、時代遅れにも程があるがな」

 

「掟というのは未開文明の因習だ、と人間は言うが、エルフの掟は自然と共に生きる為の術だ。時代が変わっても不要なものは何一つない」

 

 どうやらエルフの中でも、掟を捨て人間界に溶け込むべきとする派閥と、掟を守り独自の文化と自然を守るべきとする派閥に分かれているらしい。

 

「なんだか大変そうぺこねぇ。……スメラギ?」

 

 ぺこらの時は不可抗力だったが、今回は会わないという選択肢もできる。もちろん、その方が今後巻き込む可能性が低くて済む。

 

 しかし。だからと言って。

 

「…なぁ、レゴラス。僕に、彼女たちを仲裁させてくれないか」

 

 彼女たちが争っているのを放っておくことは出来なかった。

 

「ちょ、スメラギ⁉︎」

 

「なに…?」

 

 スメラギの提案に、レゴラスは訝しむ。

 

「これは我らの問題だ。貴様に手出しさせる訳にはいかん。第一、〈契約(ゼクト)〉を交わしている以上、貴様が干渉することはできんぞ」

 

「なんだ、それくらい解除してやれよレゴラス」

 

 ラルクは軽い調子でレゴラスに提案する。

 

「ラルク…?」

 

 それはレゴラスだけでなく、スメラギにとっても意外だった。

 

「ラルク! 貴様何をっ!」

 

「放っておいてはいるが、ずっと暴れさせる訳にもいかんだろう? コイツに任せたらどうだ?」

 

 と、そこへぺこらがラルクに加勢する。

 

「え、えと……喧嘩は良くないと思うぺこ! それにアンタ達に止める気がないなら、スメラギが止めるしかないじゃん!」

 

「むぅぅ…」

 

 2人に援護され、レゴラスは唸り声を上げる。

 

「必ず止めてみせる。頼む」

 

 スメラギはレゴラスの目を真っ直ぐ見据える。

 

「…今回だけだ。そこまで言ったからには必ず止めてみせろよ!」

 

 レゴラスは渋々ながらスメラギとの〈契約(ゼクト)〉を解除する。レゴラスは頭は固いが、悪い性格ではないらしい。

 

「ありがとう、行ってくる」

 

 スメラギはレゴラスの人の良さと擁護してくれた2人に感謝しつつ、音のする方へ駆け出していった。

 

 

 

 

『マスター。パワードアーマーはもちろんですが、マスター自身も万全ではありません。あまり無理はなさらず。』

 

「大丈夫。やりようはあるさ…」

 

 予備のナノマシンで何とか使えるようにしたとは言え、先の戦いでのダメージがまだ残っている。

 

 増して、ラルクの言っていたように相手はフレアとラミィだ。彼女たちが本気で戦っているとしたら、止めるのはまず無理だろう。APRILには強がってみせたが、実際のところ本気で戦っていない事を祈るばかりであった。

 

 

 

 

 

 樹々の間を縫うように走っていくと、少し開けた所で金髪に褐色のエルフ──フレアと、青髪に白い肌のエルフ──ラミィが戦闘を繰り広げていた。

 

「機械は自然を滅ぼすものでしかないって、何で分からないんだ‼︎」

 

「それはあなたの偏見でしょうがっ‼︎」

 

 2人は口論しながらも、魔法や矢を撃ち合っている。

 

(大丈夫…これは喧嘩だ。本気の殺し合いじゃない)

 

 その攻撃に殺意がない事が分かるや否や、スメラギは駆け出した。そして両腕にナノマシンを纏わせ、そのまま大型のシールドを形成する。

 

「2人とも、もう止めるんだ…‼︎」

 

 2人の間に割って入り、スメラギは互いを狙った魔法をシールドで防ぐ。

 

 ガキィィンッッ……‼︎‼︎

 

 見た目こそ派手だったが、威力自体はそこまで高くなく、スメラギは難なく魔法を防ぎきる。

 

「ちょっと! あなた何なの⁉︎」

 

「人間…何でここに!」

 

「レゴラスとラルクから聞いたんだ。君たちが喧嘩をしているって」

 

 知った名前を出され、フレアとラミィは攻撃を止める。しかし、まだ戦闘態勢を緩めてはいない。

 

「お前には関係ない。増してや人間なんかに」

 

「そうやって古い掟ばかり気にして。時代遅れだって何で分からないんですか?」

 

「2人とも! 喧嘩はやめてくれって…」

 

 再び口論を始めようとするフレアとラミィに、スメラギは慌てて制止する。

 

「掟の事で喧嘩になったって聞いたんだけど、本当かい?」

 

「…ふん。人間に話す事なんてない」

 

 戦闘態勢を緩めると、フレアは冷たくそう返し、どこかへ去っていった。

 

 

 

「……。えっと、ラミィ…だったよね。君は話してくれるかい?」

 

 これ以上フレアに話を聞くのは無理だと思い、スメラギは今度はラミィに訊ねる。

 

「あ、はい…。そうですよ。ラミィはユニーリアってとこから来たんですけど、そこでは機械を使うな、なんて掟は無かったから…。デバイスでお母様と電話しようと思ってたんだけど、それを見たフレアさんが怒り出しちゃって。それでつい応戦しちゃったと言うか…」

 

「なるほど。大体分かったよ、ありがとう」

 

 同じエルフの土地でも文化の違いはあるようだ。その違いから生じる衝突はなかなか避けられない。

 

 だがその衝突は、争いによってではなく、もっと平和的に解決できるはずだと、スメラギは思う。

 

「…ラミィ。どうかフレアを悪者だって思わないでほしい。彼女は掟を守る事を大事に思ってたんじゃなくて、本気でここの自然を大事にしてたんだと思うから…」

 

 知り合うどころかまだ話したことすらない自分がフレアを擁護するなんておかしいのだが、それでもスメラギは伝えたかった。

 

「分かってます…フレアさんが優しい人だって事は。でも、それを他人に強制して自由を奪うのはいけない事ですよ。それにそんな生き方…。息苦しいだけじゃないですか…」

 

 ラミィは伏目がちにそう語る。

 

「すみません…この為にこの森に来た訳じゃないでしょうに」

 

「構わないよ。それに、君たちには争って欲しくないから…」

 

 ラミィはその言葉に少しの違和感を感じたが、それ以上気には留めなかった。

 

「あ、そういえば、えっと…」

 

「あぁ、名前がまだだったね。僕はスメラギ。スメラギ・カランコエだ」

 

「雪花ラミィです。スメラギさん、よろしくね」

 

 互いに短く自己紹介を済ますと、ラミィがそういえば、と話を切り出す。

 

「スメラギさんは何をしにこの森へ?」

 

 最もな疑問だ。ラミィはこの森に移住してからそう時間は経っていないが、それでも人間がエルフの地に入るなんて普通あり得ない。

 

 そう考え、スメラギは素直に答えることにした。

 

「探し物をしててね。エルフ(きみたち)なら何か知ってるかなと思って」

 

「探し物? 何を探してるんです?」

 

 ラミィはスメラギに訊ねる。話の流れからして訊ねられるのは当然なのだが、実際に聞かれると再び不安がスメラギを襲った。

 

 もし嘘をついたら、彼女を巻き込まずに済むのだろうか。

 

 そんな思いが頭によぎるが、ラルクやレゴラスには本当のことを言わなくてはならない。どっちみち、ラミィもフレアも知る事になるだろう。

 

「…ゼノクロスという兵器があるんだ。それを探してる」

 

「ゼノクロス? うーん…聞いたことないなぁ。それってどんなのなんですか?」

 

 名前に心当たりがなかったラミィは、その詳細を訊ねる。

 

「標準的なサイズの人型機動兵器さ。異世界大戦の時に造られたものだよ」

 

「んー……。ちょっと、知らないですね…。すみません、助けて頂いたのに。ご期待に沿えなくて…」

 

 細長い綺麗な指を頬に当て、記憶を辿るもやはりゼノクロスという兵器に心当たりがなく、ラミィは申し訳なさそうに謝る。

 

 一方、スメラギは内心でほっと胸を撫で下ろす。少なくとも彼女は巻き込まなくて済みそうだ、と淡い希望を交えながら。

 

「いや、いいんだ。アレはそう簡単に見つかるものじゃないからね。…っと、そうだ。連れを待たせているんだ。僕はもう行くね。ありがとう、ラミィ」

 

「いえ、こちらこそ。スメラギさん」

 

 ラミィの元を去る寸前、フレアが消えていった方をちらりと見る。が、そこには当然人影はなかった。

 

(フレア……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 元来た道を戻ると、ぺこらとレゴラス達が見えた。

 

「おぉ〜、あんだけやばそうなケンカだったのに止められたのぺこか。流石ぺこねえ」

 

「あんた、やるじゃないか。これで静かになったな」

 

「礼はしよう。感謝する」

 

 3人は口々にスメラギを迎える。

 

「あぁ、ありがとう。でも、まだ解決はしていないんだ。フレアとまだ話をできていなくてね…」

 

「フレアか…アイツ、頑固だからなぁ。ま、後は時間が解決してくれるだろ。元々アンタには仲裁だけしてもらえれば良かったしな」

 

 スメラギは申し訳なさそうに話すが、ラルクは相変わらず軽い調子で返す。

 

「……ラルク、もしかして最初から僕たちに彼女たちの仲裁をさせるつもりだったのかい?」

 

「なんだ、バレていたのか。俺たちだけで解決できると言えばまぁそうなんだが、ちょうどお客が来たからな。第三者に止めてもらった方がいい時もあるだろ?」

 

 ラルクは悪びれもせず、あっけらかんと答える。

 

「貴様…そういう事だったのか…ッ!」

 

 まんまと騙された屈辱から顔を歪め、レゴラスは叫んだ。

 

「何というか…ズル賢い奴ぺこね…」

 

「頭が回るって言ってもらいたいもんだね。ま、結果的にケンカは止められたし、あんたらも森に入れたし、ウィンウィンじゃないか。それより、図書館に行くんだろ? ついて来なよ」

 

「おい、貴様何故勝手に仕切っている? 案内役は私だぞ!」

 

「はいはい。一緒に行こうぜ、レゴラスさんよ」

 

 そんな事を言い合いながら、レゴラスとラルクはスメラギとぺこらを図書館へ案内する。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

5話 信頼

課題が多くて遅れてしまいました


「着いたぞ。あれが図書館だ」

 

 レゴラスは目の前にそびえ立つ、建物と大樹が融合したような巨大な建造物を指さす。

 

 中に入ると、膨大な数の本棚が整然と並べられていた。その外見にも増して内部は3次元的に広がっており、端から端まで見渡すのが困難なほどだった。

 

「ここにはエルフがこの森に住み着いて以来の記録が保管されている。部外者の貴様に見せられるものはほんの一部だが、存分に調べていくといい」

 

「ありがとう、レゴラス。これだけの文献があれば見つかりそうだ」

 

「逆にこれだけあったら、見たい資料がどこにあるのか分からないぺこね…」

 

 ぺこらがげんなりしながらそう呟くと、

 

「本の位置は大体記憶してる。何を調べたいか言ってくれれば場所を教えてやるよ。んで、探し物ってなんだい?」

 

 ラルクはスメラギに訊ねる。あまり気乗りはしなかったが、言わざるを得なかった。

 

「…ゼノクロスという兵器だよ。異世界大戦期に開発された兵器さ」

 

 スメラギの答えに、ぺこらは疑問を投げかける。

 

「あれ? ゼノシリーズって都市伝説じゃなかったぺこ? 実在なんてするのぉ?」

 

「それをこれから調べるのさ。実在するかどうか調査するのが依頼だからね」

 

 スメラギは自然に嘘をついた。アルヴィアスであることをぺこらには既に明かしているので、依頼と言っておけば信憑性は出る。

 

「なるほどねぇ。依頼とは言え、あんたも大変ぺこだねぇ」

 

 案の定、ぺこらはその言葉に納得し、それ以上は追及してこなかった。

 

「ふんふん。じゃあそれに関係しそうなジャンルの所へ案内してやろう。レゴラスが」

 

「何故ここで私が出てくる⁉︎貴様が案内しろ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラルクとレゴラスの案内で借りて来た、「異世界大戦」「兵器」関連の本をAPRILの協力で解読していると、気が付けば日が暮れていた。ここの本はどれも古く、全てエルフが用いる言語で書かれている。その為、自力で読むことができず、APRILにリアルタイムで翻訳してもらいながら読み進めていた為、かなりの時間がかかった。

 

「君まで手伝ってくれなくても良かったのに」

 

 スメラギは申し訳なさそうに言うと、ぺこらは気前よく答える。

 

「今さら水臭いこと言うなぺこ。ぺこーらはエルフの言葉は分からないけど、本を持ってったり片付けたりするくらいならできるぺこ! んで、どうだったぺこ?」

 

「うーん、ぼちぼちってとこかな」

 

 スメラギは立ち上がり、大きく伸びをする。

 

 かなりの文献を読み漁った結果、それなりに収穫はあった。分かったことは、異世界大戦期にこの世界で「戦局を一変させる決戦兵器」を開発していたらしいことと、その兵器が突如姿を消したことだ。

 

(ゼノクロスはこの世界で開発された…。ならこの世界のどこかにゼノクロスを建造した工廠があるはず。そこに行くことができれば、居場所も掴めるかもしれない…)

 

「日が暮れちゃったぺこだねぇ。そろそろ森を出て休むぺこ?」

 

 ぺこらがそう提案した時、

 

「よぉお前ら。せっかくここに来たんだから、一晩くらい泊めてやるぜ。どうだ?」

 

 遠くからラルクがやってきて、そう持ちかける。

 

「それはありがたいけど、どうして?」

 

「ウチの仲間のケンカを仲裁してくれたからな。俺とレゴラスからのささやかな礼ってわけさ」

 

「僕はいいけど…ぺこらはどう?」

 

 自分は宿が無いためこの提案には賛成だったが、ぺこらは自分の家の方がいいかもしれない。スメラギはそう懸念したが、

 

「全然問題ないぺこよ。むしろエルフの宿、泊まってみたいぺこ〜!」

 

 どうやら杞憂だったようだ。

 

「決まりだな。ついて来い。まぁ、あんまり豪勢にもてなす事はできねぇけどな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「宿かどこかに泊まるものだと思っていたけど…」

 

「客の来ねぇとこに宿屋なんか作らんさ」

 

 小さな食堂で夕食を済ませた後、レゴラスはすぐにどこかへ行ってしまった。

 

「アイツ潔癖症でさぁ、他人を家に上げないんだよな」

 

 そんな訳で、スメラギはラルクの家に泊まることになった。とはいえ、ラルクの住むこの家は木造でありながらかなり立派だ。1人で暮らしているようだが、部屋がいくつかあり、スメラギはそのうちの一室を借りることになった。

 

「そういえばあんたら、旅の途中だったのか?」

 

 唐突にラルクはそんな事を聞いてくる。

 

「どうして?」

 

「あのうさぎの嬢ちゃんが、自分は行商人だと言ってた。だが、あんたはどう見ても行商人には見えない。んで、あんたらはたまたま一緒に行動してんじゃないかとね」

 

 確かに、スメラギの格好は明らかに行商人のそれではない。と言うか、アルヴィアスの制服を着ているので傭兵以外無いのだが。ぺこらもスメラギが言うまで気付かなかったあたり、この世界でアルヴィアスの知名度は低いのかもしれない。

 

「あぁ、彼女に助けてもらってね。お礼にギエルデルタという街まで護衛役をやってるんだ」

 

「なるほど。街に行く途中だったのか。じゃあ、明日は早いのか?」

 

「そうだね、日中に着きたいから早めにここを出ないとね」

 

 だがこのままこれで終わったと、やる事はやったと割り切っていいのだろうか。

 

「……フレアのことなら気にしなくていいさ」

 

 ラルクは、スメラギがフレアのことで考え込んでいることを察して、軽い調子でフォローする。

 

「フレアは頑固だが、仲間思いのいいヤツだ。ラミィとの間にできた亀裂をそのままにはしないよ。お前が出張らなくても元通りになるさ。……さて、明日早いんならもう寝とけよ、ガードマン」

 

「…あぁ、分かった。そうするよ」

 

 ラルクに言われスメラギは寝室へ向かうが、心は軽くならなかった。

 

(違うんだ…僕が心配していたのは…)

 

 

 

 

 

「ぺこーら、知らない人の家に泊まるのぉ…?」

 

「あ〜、ぺこらさんもう寝ちゃうんですかぁ? ラミィと一緒に晩酌しましょうよ〜」

 

「しかも酔っ払いの家!! こんなのってないぺこじゃん…」

 

 一方、ぺこらはラミィの家に泊まることになった。同じ女性の家に泊めた方が良かろうという配慮からだったが、ぺこらが家に入った時から、何故か既にできあがっていたこのスノーエルフはやたらとだる絡みしてくる。メンドくさい。

 

「ほらほらぁ、せっかくだし飲みましょうよぉ〜」

 

(…はっ! 寧ろここでお酒を飲んで仲を深めたら、ノリでエルフの秘蔵の品を頂けるのでは⁉︎)

 

「しょうがないぺこだねぇ〜。少しだけぺこだよ〜?」

 

「ひゅー! ノリいいね〜! どんどん飲みましょ〜」

 

「あんた、そんな性格なの…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『だから、生きて……っ! 私たちの、この世界の、分まで……っ』

 

『はっ。相変わらずの優等生ぶり…いや、臆病ぶりだな。だから世界一つ守れねぇ』

 

『僕は……やらなきゃ……っ!』

 

 

 

 

 

 

 

「…っっ‼︎」

 

 はぁはぁと息を荒くして飛び起きる。あの時の夢を見ていた。思い出したくもない、悲しみと無力感に苛まれたあの戦いを。

 

「……」

 

 スメラギはベッドから出て、玄関へ向かう。外に出て少し散歩したい気分だった。じっとしてると、また思い出してしまいそうだった。

 

 ヴヴッとバイブ音が聞こえ、デバイスを見てみると、APRILが起動していた。

 

『マスター。夢を見ていたのですか?』

 

「…怖いんだ。僕は…また、彼女たちを巻き込んでしまうんじゃないかって…」

 

 前の世界でスメラギは、ココやフブキ、ノエルにあやめ、他にも多くの人と共にゼノクロスに立ち向かい、そして全員失った。もうそんな経験はしたくない。

 

 ぺこらやラミィにゼノクロスの事を教える事やフレアとラミィに会う事を躊躇ったのも、またあの時の悲劇を繰り返してしまうのではという恐怖からだった。

 

『しかし、その恐怖はいずれ乗り越えねばならないものです。人は、信頼し合ってこそ真の力を発揮するものですから。』

 

 APRILは相変わらず無機質に、だが力強くそう言った。

 

「信頼……」

 

『ですがあまり責任感を持ちすぎぬよう。あなたには自分の背負ったものを必要以上に重くしてしまう傾向が見られます。』

 

「あはは…手厳しいなAPRIL。…肝に銘じておくよ」

 

 スメラギがそう言うと、APRILはスリープモードに入った。

 

 

 

 外に出て少し歩いていくと、開けたところにフレアが夜空を見上げながら座っていた。

 

 スメラギの心とは裏腹に、空はこんなにも澄み、満点の星が夜空を飾っていた。

 

「……。信頼、か…」

 

 あの夢がチラリと脳裏をよぎる。

 

 だがこのままフレアと話さずこの森を去ってしまう事だけはしたくなかった。身勝手な考えかもしれないが、排他的になってこの森に居続けるのは彼女にとって、多分良くないことだ。

 

 スメラギはフレアに近づき、声をかける。

 

「寝なくていいのかい?」

 

「…またお前か。話す事はないと言っただろ」

 

 フレアは振り向くことなくつぶやく。しかし殺気は放っていない。戦う気は無いようだ。

 

 スメラギはフレアから少し距離を離して同じように座った。

 

「…あの時、本気で戦ってなかったよね? もちろん全力を出す事はなかっただろうけど、本気で戦ってもいないって事は、君はどこかで…」

 

「やめろ。…全部この森の為だ」

 

 フレアはその先を聞きたくないとばかりに、スメラギの言葉を遮る。

 

「君の優しさは、ラミィにも伝わってるよ。…でも自分に対しては? 誰かのため、何かのために君は掟を重んじているけど、君自身はどうなんだい?」

 

「そんなの…分からない。でも、私の故郷を守るために、お前たち外の存在が入ってきちゃダメなんだ」

 

 この世界のフレアは掟を守る余り、排外的な側面が見られる。

 

 でも。それでも。

 

「そうやって外部を拒絶していたら、君の優しさはいつか誰かを傷つける凶器になる。…君に、そんな人にはなって欲しくないんだ…」

 

「不知火フレア」という本質は変わらないはずだ。

 

 彼女の仲間を想う優しさを、こんな形で腐らせてしまってはいけない。

 

 

 

 

 

 沈黙が続いた。

 

 やがてフレアがふぅ、とため息をつき、

 

「…お前、本当にお節介焼きなんだな」

 

「それが取り柄だからね」

 

 スメラギが冗談めかして言うと、

 

「…私さ、ハーフエルフなんだ。人間とエルフのハーフ。だから、本来的にはこの森のエルフじゃないんだ」

 

 相変わらずそっぽを向いたまま、フレアはぽつりぽつりと話し始める。

 

「だから本当は、私こそ掟なんかいらない、そんなもの時代遅れだって主張するべきなんだ」

 

「でもそれはできなかった。もちろん、森を守りたいっていうのはある。でも、なにより仲間から外されるのが怖かったんだ」

 

 レゴラスは、掟は森と共に生きるための術だと言っていた。しかしフレアにとって、掟は仲間と生きていくために守らねばならないものでもあった。

 

「フレア…」

 

「だから、同じハーフエルフのラミィが掟に囚われず自由に暮らしてるっていうのが、気に食わなかった。…あぁ、多分そうだ」

 

 フレアがどうして自分にこんな話をしたのか分からない。でもスメラギは、自分がすべき事はうわべだけの同情ではなく、ありのままの思いをぶつける事だと分かっていた。

 

「…フレアが優しいってこと、みんな知ってる。今さら、掟を守らないから、ハーフエルフだからって君を仲間じゃないって思う人なんかいないよ。だから、もっと仲間を信じてあげて欲しい…」

 

 スメラギは複雑な表情を浮かべながらそう言った。あるいは、自分に対しての言葉だったかもしれない。だがその顔は、ちょうど反対を向いているフレアには見えなかった。

 

「………お前、名前は?」

 

「スメラギ。スメラギ・カランコエだ」

 

 スメラギは名前を聞かれ、そう答えると、フレアは初めてこちらを向いた。

 

「スメラギ、お前は優しいんだな。お陰で少し、軽くなった気がする…」

 

 フレアは少し笑った表情を見せた。初めて会った時の、どこか余裕のない顔とは違って緩んでいた。

 

「そっか…。それなら良かったよ」

 

「じゃ、私はもう寝るよ。お前ももう休んだほうがいい」

 

「あぁ、そうだね。おやすみ、フレア」

 

 フレアは立ち上がり、森の中へ歩き去っていく。

 

 

 

 

 

 仲間の信頼に、信頼をもって応える。APRILの言葉を聞いたときから、自分がどうあるべきか分かっていた。だからあの言葉は、願望であり願いでもあった。

 

(でもそれを叶えることはできない……。だって僕は…)

 

 




実は課題だけではなく、ヒロアカ一気見してたので遅れました()
まぁそれはさておき、じっくり書いたほうがいいかなーと感じたので、1週間くらいで今後書いていきたいなと思っております


こらそこ!思っただけかよとか言わない!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

6話 ギエルデルタへ⑴

話の展開上、前半と後半に分けています


 日が昇って間もなく、スメラギとぺこらは出発する事にした。

 

 スメラギは手早く身支度を済ませ、森の入り口でぺこらを待っていると、

 

「ぺこら、一体何が…??」

 

 ぱんぱんになったリュックを背負った、明らかに体調の悪そうなぺこらがやってきた。その横に、彼女を支えるようにラミィが歩いている。

 

「うぅ…お土産をたくさん貰おうと思って調子に乗りすぎたぺこ…」

 

「ぺこらさんお酒弱いのに無理するから〜」

 

「あんたが強すぎるぺこだよ…」

 

 不平を言うぺこらが背負うリュックには、きっとこの森にしかない貴重な品々がたくさん詰め込まれているのだろう。よく手に入れたものだとぺこらを感心すると同時に、そんなに多くのものを持ち、酒の勢いでそれをぽんぽんとあげてしまったラミィは一体…? とスメラギは思わず考え込んでしまった。

 

「よっ。俺たちも見送りに来たぜ」

 

「私は門番だから来たのだがな」

 

 そこへラルクとレゴラスもやって来た。

 

「2人共、わざわざありがとう」

 

「あまり派手な事は出来ないがな。ほら、これやるよ」

 

 ラルクはスメラギに小さな葉でできた包みを渡す。

 

「これは?」

 

「レンバスだよ。一枚食べたら一日中歩いても疲れないっていうやつ」

 

 レンバスの薄焼き菓子と言えば、昔は王妃のみが貯蓄し、また与える事が許された貴重な食糧であった。

 

「そんな貴重なものを僕たちに…」

 

「外に流通してないだけで、ここじゃそれほど珍しくないのさ。使い所がないからな。それほど長くない旅だろうが、役に立ててくれ」

 

「ありがとう、助かるよ。でも、僕たちは調べ物しに来ただけなのに、見送りしてくれるなんて悪いな」

 

 スメラギが申し訳なさそうに言うと、

 

「なに、久しぶりの客人ではしゃいでいるだけさ。そうだろ? レゴラス」

 

「それは貴様だけだ」

 

「…空気読めないなぁ〜」

 

 

 

「何か困った事があったら連絡してくださいね。すぐ駆けつけますから!」

 

「あ、ありがとうぺこ…。とりあえずこの酔いをどうにかして欲しいぺこ…」

 

「〈解毒(イース)〉くらい自分で使ってくださいよ」

 

「急に冷たくなるぺこじゃんこわっ!」

 

 そんなやり取りをしていると、

 

「…まだ行かんのか貴様ら」

 

 横でレゴラスか腕組みしながら指をトントンしている。イライラしてるのが見てとれる。

 

「また来いよ。今度はもう少しちゃんともてなすよ」

 

「またお酒飲みましょうね!」

 

「そう何度も来てくれるな。入り浸れると迷惑極まりない」

 

 来るな、とは言わない辺りレゴラスも少なからず再会を望んでいるのだろう。

 

(ツンデレぺこだな…)

 

「じゃあ、もう行くよ。3人共、ありがとう」

 

 そう言い、森を出ようとすると、

 

「待って」

 

 ラルク達の背後から声がした。

 

「…フレア」

 

「みんなに謝りたいんだ…。私の身勝手で迷惑かけてしまって悪かった…特にラミィとスメラギ」

 

「い、いえ…私こそ、ついかっとなってすみません…」

 

 突然のことで呆然としながらもラミィは謝罪する。

 

「フレア、もう…」

 

「まだ受け入れるのは難しいかも知れない…でも、進むよ」

 

「…そっか」

 

 それを聞き、スメラギは少し安堵した。

 

「引き止めて悪かった…じゃあな、スメラギ」

 

「うん、いつかまた」

 

 フレアに別れを告げ、スメラギとぺこらはレゴラスの案内と共に森を去った。

 

 

 

 

 

「フレアさん、スメラギさんと何か話してたんですか?」

 

「まぁ…ちょっとね」

 

「何だよ〜何話してたんだ〜? お兄さんちょっと気になっちゃうなぁ??」

 

「…あんたは少し配慮ってのを知った方がいいと思う」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〈解毒(イース)〉で酔いを覚まし、ぺこらは続けて〈飛行(フレス)〉をリュックのみにかけて軽くした。

 

「ふぅ…じゃ、しゅっぱ〜つ!」

 

 エルフの森を出てからギエルデルタまでの道のりは平穏そのもので、以前出た魔物も全く姿を表さなかった。

 

「そもそも、こんな街道に魔物が現れる事自体おかしい事ぺこよ」

 

 昔ならいざ知らず、魔法や科学が当たり前となったこの時代では、ディンゴ程度の魔物なら一般人にとってさえ脅威になり得ない。

 

 もちろん、突然の魔物にも恐れず戦う事ができる事が前提だが。

 

 とはいえ、今では魔物の方が人間を恐れ、人気のあるところで姿を見せる事はまずなかった。

 

 だから、先の魔物の出現は明らかにおかしかった。ただの偶然なのか。それとも仕組まれたものか。それが判明するのに、そう時間はかからなかった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

6話 ギエルデルタへ⑵

6話後半です


 レンバスのおかげで休む事なく歩き続け、昼下がりにはギエルデルタに着く事ができた。

 

 

 

 都市ギエルデルタ。人間界の中でも有数の都市で、街の中央部に進めば高層ビル群が立ち並ぶ。海に面している事から港も発展している上、辺境にも接している為にあらゆる物資の中継地点となっている。つまりは交通の要衝だ。

 

「着いたぁ〜〜!! たった一日だけだったのに忙しい旅だったぺこなぁ」

 

「あはは…でも無事に辿り着けて良かったよ」

 

「ぺこーらはこれから商売活動に勤しむけど、スメラギはどうするぺこ?」

 

「とりあえず、パワードアーマーの修理かなぁ。それと、今夜はここに泊まることになるから宿を探さないと」

 

「なるほど。まず宿を探さないとぺこだね。こっちの方にいいのがあるぺこだよ!」

 

 そう言い、ぺこらは街の大通りを歩く。

 

「ぺこらはこの街に詳しいのかい?」

 

「まぁねー。ここは商業が栄えてるから、ぺこーらもここでよく商売してるぺこ。だからこの街の地理には詳しくぺこよ」

 

 

 

 大通りを外れ、建物と建物の間を抜けていくと、少し寂れたアパートのような建物が見えた。

 

「ここがその?」

 

「そう! 独立して間もない頃にお世話になったホテル、「ヒプノシス」ぺこ!」

 

「アパートメントホテル?」

 

「とはちょっと違うぺこね。自炊もできるけど、居酒屋みたいな共同の飲食スペースもあるぺこよ。ぺこーらは殆ど使った事ないけど。それに、部屋は家電完備! 長期滞在もばっちりぺこね」

 

「なるほど。確かに便利な所だね」

 

「でしょ〜? …よいしょっと、おっすおっちゃーん!」

 

 ぺこらはエントランスらしき所の扉を開け、元気よく挨拶する。

 

「おう、いらっしゃい。誰じゃ君たちは?」

 

「おっちゃん、この人一晩泊めてよ。ぺこーらの紹介で!」

 

 オーナーらしき人物のボケも気にせず、ぺこらは話を始める。

 

「なんじゃ、ここは学習塾と違ってお友達割引などないぞ」

 

「このけちんぼ! 万が一ぺこーらが友達紹介したら半額にしてやるーとか前言ってたぺこじゃん! 録音してたから言質取ってるぺこだよ!」

 

「全く…。そんなケチだと、年老いたとき特売品と値引きシール貼ったもんしか買わなくなるぞ?」

 

「うるさいっ! 安ければ何でもいーの!」

 

 などと2人の間でやり取りが交わされ、完全に蚊帳の外のスメラギは、それでも何とか声をかける。

 

「えぇと、泊まっても大丈夫でしょうか…?」

 

「おぉ、構わんよ。半額で泊めてやろう。こやつの紹介なんて珍しいからな」

 

「良かったぺこだね、スメラギ!」

 

「ありがとう、ぺこらにオーナー」

 

 別に金に困ってるわけではないので普通に全額払うつもりでいたのだが。とはいえ、厚意はありがたく受け取っておくべきだと思い、スメラギは素直に感謝した。

 

「じゃー色々と用事もあるだろうから、夜ご飯の時間にまたここで!」

 

「分かったよ」

 

 

 

 ぺこらと一時別れた後、スメラギはミリタリーショップに行き、パワードアーマーを修理してもらった。ゼノクロスとの戦いで大破したパワードアーマーは、現在予備のナノマシンのみで稼働させており、その修復状況はどうにか武器を構築する程度しか完了していなかったのだ。()()()()()()()()()()、まずは手下がスメラギを襲ってくるはずだ。早い段階から武装は万全である方がいい。

 

 スメラギのパワードアーマー、──『タクティカル・アーマー Ver.5.17.3』は標準的なパワードアーマーだ。スペックこそ圧倒的に異なるが、基本構造や武装は西暦時代のヒーロー「アイアンマン」が使用していたそれをベースにしている。

 

 唯一異なるのが動力源で、T・A(タクティカル・アーマー)は基本的に魔力エンジンを採用しているが、スメラギは()()()()()()()ので、独自のカスタマイズを施し『超電磁砲』によって生み出す電力を動力としている。元々、応急処置としてエネルギー伝達回路を電気系に変えただけだったが、バッテリーを搭載するよりずっと軽量でスメラギが好んだ為に、そのまま改修せず今に至っているということなのだ。

 

 動力源を外部に完全依存している反面、内部機器の簡略化が為されたため、整備性は向上し、今回の修理も早く終えることができた。

 

 

 

 その後、スメラギは公共のネットワークスペースへ向かった。APRILにこの世界の情報を学習させるのもあるが、何よりゼノクロスについて調べたかった。

 

 とはいえ、

 

(やはり目撃情報も何もないか…)

 

 分かってはいたのだが、既に見知った2人にゼノクロスについて話してしまったという焦りから、どうにかして早く見つけ出したいという気持ちが先行してしまう。

 

『マスター。ゼノクロスの居場所を直接特定するのは困難を極めます。ゼノクロスが前の世界と同じ手法を取っているのならば、まずは「彼ら」を探し、撃破する必要があると提言します。』

 

 いつの間にかラーニングを終えたAPRILはヴヴッとデバイスを震わせ、スメラギにそう助言する。

 

「見てたのか、君は…。そうだね。「彼ら」は僕を狙っている。こっちから探っていくよりも、向こうが仕掛けるのを待っていた方が効率的ではある…」

 

 と、そこでスメラギはふと考える。

 

『いかがなさいました? マスター。』

 

「…ゼノクロスは何故自分から攻撃してこないのだろう。手下を使うより早く済むと思うけど…」

 

『最初の世界では、ゼノクロスは単体で襲撃していました。しかし二度目は、まずアンドロイドに襲わせ、彼らが撃破されてからゼノクロス本体が現れました。この事から、()()()()()()()()()()()()()()()()()()のではないかと考察します。』

 

「不都合…?」

 

 ゼノクロス。2度も対峙した相手とは言え、その謎は一向に明らかにならなかった。

 

 それでも。奴を倒すのが最優先ですべき事だ。でなければ、世界がもう一つ滅びることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 APRILのラーニングが思ったより時間を食ったのか、ネットワークスペースを出る頃には日が暮れていた。スメラギは急いでホテル・ヒプノシスへ向かった。今更だが、ホテルの名前が「催眠(ヒュプノシス)」などという物騒な名前でいいのだろうか。西暦時代の言葉のいくつかは意味が変容し、あるいは忘れられ原義とかけ離れた使用が少なからず見られるのは事実ではあるのだが。

 

 スメラギは首を捻りつつも、待ち合わせの時間前にホテルの入り口に辿り着き、ぺこらを待った。

 

「よーっす! 待ったぺこか?」

 

「いや、少し前に着いたばかりだよ。じゃあ、行こうか」

 

 ホテルの飲食スペースに入ると、騒音という程ではない賑やかさと熱気が、スメラギを包んだ。なるほど、確かに居酒屋らしい所だ。

 

「ぺこーら、こういうのあんま好きじゃないぺこ」

 

 そう言い、ぺこらはとことこ受付の方へ行き、そのまま中へ入っていく。

 

「やっぱ特等席はここぺこね。誰からの邪魔も無くご飯を楽しめる…」

 

「お前また来たのか。お相手がいるんならあっちの席に座ればよかろう」

 

「あんな人の多い所で食べても窮屈で美味しくないぺこ! どうせもうピーク過ぎたしおっちゃん暇ぺこでしょ。ちょっとここ貸してよ」

 

「しょうがねぇなぁ。ほら、あんたもここで食いな」

 

「あ、ありがとうございます…」

 

 そう言われ、スメラギも受付の中の、ちょっと大きなテーブルを囲むように置かれたパイプ椅子に座る。

 

「従業員にこっちに持ってくるように言っとくから、注文決めな」

 

 ぽいとオーナーはメニュー表を投げる。何だかんだ、オーナーはぺこらに優しい。長い付き合いなのだろう。

 

「こいつの親御さんと知り合いでな。そのよしみさ」

 

「なるほど。…じゃあ、僕はソーセージとポテト、あとパンを頼みます」

 

「ぺこーらはにんじんハンバーグで!」

 

「オッケー。ちょっと待ってな」

 

 

 

 少し待って、従業員が料理を持って受付へやって来た。

 

「ぺこらちゃん、料理ここに置いとくよー!」

 

「きたきた、ありがとぺこ〜!」

 

 ぺこらはカウンターに置かれた料理をテーブルまで持っていき、早速食べ始める。

 

「ぺこら、そのハンバーグは一体…?」

 

 スメラギも同様にテーブルまで料理を運びながら、ぺこらの頼んだ「にんじんハンバーグ」なるものを見つめそう呟く。

 

「見たまんま、にんじんハンバーグぺこよ。ぺこーらの好物!」

 

 いやそのまんますぎないか。茹でてあるにんじんが丸々一本ハンバーグの中央にそびえ立っている。なんかもう、ビジュアルの暴力だ。

 

 スメラギは気を取り直し、持ってきたパンにかじりつく。

 

「そういえばぺこら、商売の方はどうだった?」

 

「そりゃあもう、バカ売れぺこよ! エルフ製のものは品質が良くて人気ぺこなんだよね〜。他にもゴルトアイゼンで出来た耳飾りとか標準暦以前の書物とか、色々売れたぺこよ」

 

「珍しいものばかり持ってたんだね」

 

「薬とか魔装とか、ありふれた物は今じゃどこでも買えるぺこ。だから、ぺこーらみたいな1人でやってる行商人なんかは、そういう珍しいものを売っていかないと生き残れないぺこなんだよねぇ」

 

「意外と世知辛いんだね…」

 

 とは言え、都会ではネットを使えば何でも手に入る時代だ。ここまで文明が退化し、都市ごとのネットワークが完全に構築されていないこの世界だからこそ、ぺこらが行商人として生計を立てることができたという見方もある。

 

「そういえば、ぺこらはこの街に住んでるの?」

 

「いや、ここは人が多くて辺境にも近いからよくいるだけぺこ。元々ここに住んでたぺこだけどね。一応、移動住居を置く為の土地も借りてるぺこ。そう言うスメラギはこの世界の住人じゃないぺこだよね? どこの出身ぺこ?」

 

 何気なく投げられる質問は、スメラギの心をちくりと刺した。しかし悟られまいとスメラギは表情を抑え、何事もないかのように答える。

 

「ターミナル02系の辺境さ。ここと同じくらいのね」

 

「確かに、都市があるとは言えここもけっこう田舎ぺこよねぇ〜。本元のターミナル02なんかは宇宙規模で人が生活してるぺこでしょ? もうレベルが違うぺこよ」

 

 スメラギの微妙な変化に気付かず、そのまま話を続けるぺこらに、スメラギは安堵した。

 

「まぁ、あそこは色んな世界とつながってるからね。技術はもちろん、統治機構も数段進んでるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕食を終え、スメラギとぺこらは再びホテルの入り口へ向かった。

 

「やー、もうお別れとか早いぺこねぇ。1日しか一緒にいなかったのに、長くいた感じがするぺこ」

 

「僕を拾ってから少し忙しかったからね」

 

「まー、なんだかんだ楽しかったぺこだけど。じゃあまた明日ここで! 見送りするから先行くなぺこだよ?」

 

「分かってるよ。ありがとうぺこら。おやすみなさい」

 

「おやすみぺこ〜」

 

 スメラギはぺこらを見送り、ホテルの自室へ行く。

 

「故郷…か」

 

 スメラギは思い出す。業火に灼かれた自分の故郷を。無惨な姿で倒れていく仲間たちを。

 

(そうさ。僕にはここしかない。だからここだけは、絶対に…)




ぺこらとはここで一時お別れ。次回からはスメラギの一人旅になります

ホロメンも出るよ!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

幕間 動き出す影

ころさんのFF9配信見てたら、久しぶりにFF9やりたくなってきた

意外と本編のほう時間かかったので、少しずらしました


 都市アイゼオン。とある寂れたビルの一室にて、2人の少女が男性型のアンドロイドと話をしていた。

 

 

 

「お前たちに依頼したいのは、ある人物の暗殺だ」

 

 外見は中性的。捉え所のないその顔は、声と口調によってどうにか男であると判別できていた。

 

「暗殺? 私たち、暗殺者(アサシン)じゃなくて傭兵なんだけど…」

 

 黒いファー付きコートをだらしなく羽織っているライオン耳の少女は、怪訝な様子でそう言った。

 

 傭兵はヒステラルム統一法によって、殺害を目的とした依頼を請けることを禁止されている。だからというわけではないが、そうした依頼は裏業界の暗殺者(アサシン)などが行っている。だと言うのに、目の前のアンドロイドはよりによってフリーの傭兵である自分達に依頼をしてきた。普通じゃない事は火を見るより明らかだ。

 

「暗殺者でも、ただの傭兵でもいかん。()()()()()()()()()()()()()

 

 男の意味深な言葉に、ライオン少女はさらに訝しんだ。

 

(フリーだからというわけじゃ無さそう…。何か裏がある?)

 

 しかし、彼の真意は少女の想定の遥か上にあった。

 

「統一法には違反しない。なぜならお前たちのターゲットは、『スターク』なのだからな」

 

 それを聞き、2人の少女は衝撃を隠せなかった。

 

「まさか…! この世界に『スターク』が…⁉︎」

 

『スターク』といえば、「世界の災厄」と呼ばれるほどに強大で危険な存在だ。それ故、各世界で指名手配されており、表向きは捕縛するよう指示されているが、発見次第殺す事がヒステラルム全体での暗黙の了解となっている。

 

「こいつだ」

 

 男は指先からホログラムを投影し、一枚の画像を見せる。

 

「スメラギ・カランコエ。アルヴィアスの傭兵だ」

 

「アルヴィアスの? 流石にそんな奴を暗殺するのはやばくない?」

 

 アルヴィアスと言えば、傭兵業界の中でも最大手の組織だ。そこに『スターク』が所属しているとなれば、アルヴィアスが黙っていない。外部の干渉を避け、極秘裏に処理しようとするだろう。

 

 当然、外部であるこの2人はアルヴィアスに依頼を阻止されるだろうし、むしろ秘密を知った事で命を狙われるかもしれない。

 

「しかしやつら(アルヴィアス)はまだ存在に気付いてない。知っているのは俺たち3人だけだ。奴が被害を出す前に速やかに倒さねばならん。傭兵だろうと何だろうと、『スターク』は存在しているだけで罪なのだ」

 

 毅然とした態度で、男はそう返す。

 

「まぁ確かに…。でもだったら、私達だけじゃなくって大勢の人に声をかけたほうがいいんじゃないかなぁ?」

 

 騎士の格好をした銀髪の少女はのんびりと、しかしどこか緊張感のある声色でそう尋ねた。

 

「大人数で刺激すれば奴は暴走するかもしれん。そうなる前に殺すんだ」

 

「わかった。もう1つ聞かせてもらいたいんだけど…この人が『スターク』だって確証はあるの? 間違いだったらあなたも私たちも裁かれちゃうんだよ?」

 

 騎士の少女はぴしっと男に指を指し、懸念を口にする。

 

「奴は過去に一度『力』を使った。その波動を感知してここまでやって来たが、今はそれを隠している。だが、奴を追い込めば、必ず正体を表す。そうなれば奴を殺す正当な理由ができよう」

 

「…『力』を出させなきゃ『スターク』かどうかわからないってことか。あまり気は進まないけど、とりあえずはあなたのこと、信用するよ」

 

 渋々ではあったが、ライオン少女は男の依頼を承諾する。しかし、男に対する不信感は拭いきれなかった。アンドロイドにしては根拠が薄く強引な依頼内容だが、本人はよほど確信を持っているのかもしれない。

 

「奴は今エルフの森付近にいる。どうやらギエルデルタに向かっているらしい。街に着く前に殺すんだ」

 

「はいはい情報ありがと。じゃ、行ってくるよ」

 

「少人数って言ってたけど、私の団員さん達にも協力してもらうからね?」

 

「構わん。迅速に、そして誰にも気付かれぬようにな」

 

 

 

 

 

 少女達がいなくなり、男1人だけになったところに、

 

「回りくどい事をするわね、ヘーミッシュ。私達だけで殺してしまえばいいのに」

 

 1人の女が壁から()()()()()()()現れた。ただし、彼女の外見は男性アンドロイド──ヘーミッシュと全く瓜二つであった。ヘーミッシュは、表情を変える事なく自分の考えを明かす。

 

「奴は弱い。が、力だけは強い。前の個体は愚直に奴のみを狙った為に敗れた。故に俺たちは策を講じる必要がある」

 

 ヘーミッシュは指先からホログラムを投影する。それはおよそ30人ほどの少女の写真。それに所在地や戦闘記録など多様なデータが載っていた。

 

「戦闘員は…20人か。その全てを回収できないとしても、この中の半数以上が戦力になると仮定すると、充分ではあるか」

 

「対象が逆に彼女達を殺す可能性は?」

 

「これまでの行動から、その可能性は限りなく低い。作戦の成功確率は高い」

 

 映し出されたデータの中から、2人を拡大する。それは、先程この部屋を訪れた少女達であった。

 

「まずはこいつらだ。どうせ依頼は失敗するだろうが、それは構わん。それよりもどちらか、あるいはどちらともが俺を追うことになるだろう。そうしたら次のフェーズだ。頼むぞ、マーシェ」

 

 女性型アンドロイド──マーシェはニヤリと笑い応える。

 

「分かったわ、ヘーミッシュ。移動が面倒だけれど、まぁ、私は直接戦闘よりこっちの方が得意だからありがたいわね」

 

 

 

 

 

 ビルから去り、少女たちは街中を歩く。

 

「…捕獲じゃだめなのかな?」

 

 騎士少女は浮かない顔をして、ライオン少女にそう聞いた。

 

「あいつも言ってたでしょ? 『スターク』は生きていちゃいけない。それに、邪神の力を使われたら捕獲したところですぐ逃げられるよ」

 

「そっか…」

 

 それは決して人情からではない。そんな事で躊躇うほど、彼女は甘くない。

 

「とはいえ、ターゲットが本当に『スターク』かどうか証拠はないままなのは頂けないねぇ」

 

「うーん…。やだなぁ、こういうの」

 

 こんなよくわからない依頼に仲間を巻き込むのは忍びないが、もし本当に『スターク』だったら2人だけでは絶対に敵わない。

 

 釈然としないまま、2人は喧騒の中を進んでいく。向かう先は街外れの小さなバー。そこに仲間が待っている。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

7話 さくら舞う神社

今回また難産でした
とは言え、時間がかかったのは細かいどうでもいい所だったりする( ´・ω・`)
この回は前からずっと書きたいシーンの1つだったので、いつもより少し長いと思います。ご了承ください orz


「おはよースメラギ!」

 

「おはよう。朝早くありがとう、ぺこら」

 

 早朝──都心部でもまだ街の営みは完全には始まっておらず、出勤する人々を乗せる電車や車ばかりが活発に行き交う中、スメラギ達は辺境に近い郊外で穏やかな朝を迎えていた。

 

 スメラギはギエルデルタより内陸にある都市、アイゼオンへと向かう。ここにしばらく滞在するというぺこらとは、ここでお別れであった。

 

「ギエルデルタまで一緒に来てくれてありがとぺこ、スメラギ」

 

「こちらこそ、案内してくれて助かったよ」

 

「ぺこーら、ホントは人見知りだから、初めて会った人と旅するの無理だったんだけど…スメラギは、全然大丈夫だったっていうか、初めて会った気がしないぺこなんだよね」

 

「……もしかしたら並行世界では友人だったのかも知れないね」

 

 スメラギはぺこらの言葉に、心で汗を拭きながら応じた。自分は今笑えているだろうか。

 

「えへへ、そうかもしれないぺこね! …じゃあ、いつかまた会おうね、スメラギ!」

 

「あぁ。いつかまた…平和な時に」

 

 スメラギは心の底からそう願った。他のみんなとも。

 

 そう願うのは、きっとおかしなことではないはずだ。誰だって平和を望んでいる。

 

 そう、誰だって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギエルデルタを出て、最初はパワードアーマーで飛行していこうと思っていたが、それはAPRILに止められた。有事の際以外でパワードアーマーを使うことは街道でも禁じられていたからだ。

 

 なかなか上手くはいかないな、とスメラギは小さく笑い、徒歩で向かうことにした。

 

 ギエルデルタからアイゼオンまでは、歩くとたっぷり1日はかかる。夜は移動できないことを考えると、最低でも2日くらいはかかるだろう。ぺこらから餞別としてもらった携帯型テントが役に立ちそうだ。

 

 しかし、とスメラギは考える。

 

 数千年も眠りについていたゼノクロスが今になって目覚めた理由。そして()()()()()()()

 

 

 

 恐らく「あの力」のせいだ。その存在自体は異世界大戦期から既に確認されていた。ゼノクロスが脅威と認識していても不思議はない。

 

(もしかしたら僕のせいで皆が……)

 

 その考えが頭に浮かんだところで、スメラギはその先の言葉を思考の海底へと沈め、考えるのをやめた。たとえそうだとしても、自分に何ができるものか。そんなものを考える事に意味はない。

 

 

 

 それよりも、スメラギはアイゼオンへ着いた時のことを考える。アイゼオンへ向かうのは()()()()の為ではない。もちろん、大破したミーレ・センチュリオンを修理するというのもあるが、重要なのはそれではなかった。

 

 

 

 いくら新現代といっても、この世界はヒステラルムの辺境にある。辺境ほど発展途上の世界は多いが、魔法世界と科学世界では、その()()()()()というのはまた異なる。

 

 そして科学世界に属しながら、魔法世界にも近いという特殊な立地条件を持つこのターミナル02 ha-01は、都市部こそ他の科学世界と同等の発展具合を見せてはいるが、中央政府の権力が弱い為に、各都市・地方はそれぞれの首長が統治するという中世の封建制を採用していた。そのため、各地のネットワークは十分に整備されておらず、外世界とのネットワークも「回廊」のある都市でしか利用できない。

 

 

 

 ギエルデルタで「ある事」について調べられなかったのも、それが原因だった。無論、調べた結果()()()()()()である可能性はあるが。しかし、手がかりくらいは見つけておきたかった。

 

 

 

 

 

 思考にふけりながら、街道をひたすら歩いていると、

 

「うわあぁぁぁ〜〜〜ん!!! 助けてぇぇぇぇ〜〜〜〜!!!!」

 

 遠くから()()()()()()()の悲鳴がした。

 

「!!」

 

 その声を聞き、APRILは素早く周囲の索敵をする。

 

『北西に生体反応が二つあります。』

 

 目を凝らしてみると、街道から大きく外れたところに人間と鳥らしきものがいた。鳥と確定できなかったのは、人間と同じサイズ比だったからだ。

 

 今は緊急時だから、法に触れることはない。

 

 脳裏で瞬時にそう判断すると、スメラギは胸のナノマシン・パッケージを軽くタップし、脚と背中にナノアーマーを展開する。

 

 構築が完了すると、スメラギはスラスターを噴かし、人のいる方へ飛行する。

 

 近づくと、鳥型の魔物──シームルグが白い服に金髪、そして何より頭に2本のアモン角をつけた少女に襲い掛かろうとしていた。

 

「…! わためか…⁉︎」

 

「わ、わため…食べても美味しくないよぅ!!」

 

「離れて!!!」

 

 突然後ろから大声で言われ、戸惑いながらも少女は左に跳んでシームルグから距離を取る。

 

 スメラギはスラスターを減速させず、左腕にアームハンマーを形成させ、そのままシームルグに突っ込む。

 

 シームルグは少女に気を取られて反応が遅れ、高速で迫ってきたハンマーをもろに喰らう。

 

 ガッッッギョッッッ‼︎‼︎‼︎と鈍い音が響き、スメラギがシームルグと共に地面を削りながら着地する。

 

「君、大丈夫だったかい?」

 

 ナノアーマーをパッケージに収納しつつ、スメラギは立ち上がり少女に声を掛けた。速度を乗せた重い一撃を喰らい、シームルグは完全に絶命していた。

 

「ふぇ…? あ、だ、大丈夫ですっ…! 助けてくれてありがとうございます〜…」

 

 脅威が去り、安心したのか気の抜けた声で少女は礼を言う。

 

「ここは街道から随分と離れているけど、何か用事でもあったのかい?」

 

 人のいるところには魔物は出ないとはいえ、街道から外れれば魔物は普通に生息している。それにしても、都市部だというのに都市と都市の間がこれほどだだっ広い何もない土地だというのも不思議ではあるが。

 

「実は、サーカスの公演中に曲を弾いてほしいって頼まれてて、それで成功祈願のために近くの神社へ行こうとしてたんだけど…」

 

「その途中で魔物に襲われた…ということだね」

 

 恐らくは道なりに進んでいけば魔物に遭遇する事なく劇場へたどり着けるのだろう。しかし、この見るからにひ弱な少女が、安全を捨ててまで立ち寄ろうとしているということは、それだけその神社はご利益のある所なのかもしれない。

 

「あ、あの! 助けてもらってこんな事言うの、不躾だと思うんですけど……一緒に神社まで付いて来てもらえますか…?」

 

 ここから神社がどのくらい離れているのかははっきりとは分からないが、少し遠くの小高い山に見える鳥居がそれだとすると、そんなに近くはないはずだ。そんな道のりで、早々に魔物に襲われたとあっては、1人だと道中不安で仕方ないだろう。

 

 スメラギとしても、これくらいの寄り道を許容するくらいの余裕はあった。もちろん彼女について行く理由はそれだけではないが。

 

「構わないよ。神社に寄ってから、そのサーカス劇場へ行けばいいんだね?」

 

「ありがとうございます! えと、私、角巻わためって言います、よろしくです!」

 

「スメラギ・カランコエだ。よろしく、わため」

 

 

 

「スメラギさんって、アルヴィアスの傭兵なんですよね?」

 

「え…? あ、あぁ、そうだよ」

 

 何も言っていないのに、アルヴィアスである事を言い当てられ、スメラギは一瞬動揺するが、今着ているものはアルヴィアスの制服なのだから、本来分かって当然のことだ。今までアルヴィアスを名前だけしか知らないか、そもそも存在自体知らない人ばかりと会ってきたので、完全に失念していたのだ。

 

 しかし、「二つ名」については知られていないようだ。自分でつけた訳でもないが、いざ他人の口から聞かされると恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだ。

 

「だからそんなに強いんですねぇ〜。魔物が全然近づこうとしないですもん」

 

「魔物が賢くて良かったよ。戦いながら向かうとなると時間がかかるからね」

 

 敵が全く来ないからか、もしくは人と一緒にいるからか、わためは楽しげに平原を軽やかな足取りで進む。

 

「ところで、わためはアーティストか何かなの?」

 

 わための右手に持ったハープを見ながら、スメラギはそう質問する。

 

「はい〜! わためは吟遊詩人ですよっ。色んなところに行って演奏して回ってるんです〜」

 

 神社へ向かう道中、スメラギとわためは互いにこれまでのことを話し合った。

 

 数日前にこの世界に来たこと。とある依頼を受けアイゼオンに向かっていること。10年ほど前から傭兵をやっていること。

 

 対して、わためは街で弾き語りをしているところを偶然サーカス団のメンバーが目をつけ、その演奏技術を買われたという。

 

 わためが持っているハープは、魔法によって自在に音色を変えることができ、それを駆使することで一つの楽器で何重奏もできるらしい。もちろん、それをこなすには高度な処理能力と技術とを必要とするのだが。その辺り、わためはぽやぽやしているように見えて実はとてつもない才能の持ち主なのかもしれない。

 

 

 

 山の麓から頂上まで続く長い階段を登っていくと、大きな鳥居が見えた。遠くからでも見ていたが、近くで見るとそのスケールに圧倒されそうだ。

 

「ここが…」

 

「そうです。桜がとっても綺麗な神社なんですよ〜」

 

 鳥居の向こうには、参道を挟むように桜の木が並び立っていた。風に舞う花びらが精霊のごとくスメラギ達を迎える。

 

 桜並木に彩られた参道を進み、しっかり手水舎で身を清めてからスメラギとわためは拝殿へ向かう。

 

 拝殿へ近づくと、境内を掃除していた巫女装束に身を包んだピンク髪の少女と赤いメッシュの入った黒髪のケモミミ少女がこちらに気づき、近づいてきた。

 

「あー! 久しぶりのお客さんだあ!」

 

「え? ほんとだ。どうもこんにちは〜」

 

「わ! 巫女装束かわいい〜! お2人はここの巫女さんなんですかー?」

 

「そう! みこがここの神社の巫女のさくらみこだよ! …ん? みこが…みこのみこ…?」

 

「アハハ…巫女さんをやってるみこちゃんだよね? ウチは大神ミオだよ。でもウチは巫女じゃないんだ」

 

「そうなの? 私はね〜、角巻わためっていうの!」

 

 久しぶりの参拝客に昂るみこ達と、巫女に興味津々のわためはすぐに打ち解け、わいわいと賑やかに話している。

 

「…先輩」

 

 分かっているつもりだった。ぺこらやフレアがいたのだから、当然ではあった。ましてや会うのは()()3()()()()

 

 しかし、自分より年下になってしまった先輩はいつ見ても慣れなかった。たとえそれが見た目が同じの赤の他人だとしても。

 

「えっと、そっちの人は?」

 

 ミオに目を向けられ、スメラギは意識を現実に引き戻す。

 

「あぁ、僕はこの子の付き添いなんだ。スメラギ・カランコエだ。よろしく」

 

「ふぅん…。よろしくね、スメラギ!」

 

(スメラギ…カランコエ…)

 

 その名前に心当たりがある訳じゃない。

 

 しかし、何かを。不思議な何かをみこはその青年から感じ取っていた。

 

 

 

 みことの話に夢中になり本来の目的を完全に忘れてしまっているわためを連れ戻し、スメラギ達は拝礼する。

 

「公演が成功しますように…。今後も食べられませんように…!」

 

 なんだか後の方を強く願っていた気がする。

 

 

 

「……」

 

 スメラギは、神に願うのは好きではなかった。だがいざ神前に立つと、色んな願いが水泡のように湧いて、しかしすぐに消えていった。

 

 結局スメラギはわため達の公演の成功を祈り、一礼をして終わらせた。

 

「スメラギさんは何をお願いしたの?」

 

「まぁ…特に無かったから君達の成功を祈ったよ」

 

「わぁ! ありがとう〜!」

 

「わためぇ、口から願い事漏れ出てたねぇ」

 

「ちょっと〜! 何で聞いてるのぉっ?」

 

 みことわためがじゃれつき、再び目的を忘れそうになっている。しかし、ここはあえて放置しておき、スメラギはミオにダメ元で尋ねる。

 

「ねぇ、ミオ…はゼノクロスという兵器について何か心当たりはない?」

 

 APRILは闇雲に調べるのは非効率的だ、と言っていたが、やっぱり少しでも情報は欲しかった。それが足取りすら掴めていない焦りからなのか。

 

 あるいは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なのか。それはスメラギにも分からなかった。

 

「うーん…聞いたことはないけどぉ…でも確か倉庫の方にそれっぽいのはあったような気がするなぁ」

 

「もし良かったら見せてくれるかな?」

 

 依頼のために情報を集めていると説明するとミオは、

 

「うん、いいよー。と言っても、ここはウチのじゃなくてみこちの神社なんだけどね」

 

 そう言いながら、スメラギを倉庫へ案内する。

 

 ミオが見せてくれたのは一冊の手帳だった。

 

「これは…日記?」

 

「パイロットの日記だったかな? 確か」

 

「…一応、データ保存しても良いかな?」

 

「いいよ。でも、悪用とか広めたりとかしないでねー? けっこう古いものだから、これがどんなものなのかウチらもよく分かってないんだ」

 

「もちろん。丁重に扱うよ」

 

 ミオの了承をもらい、スメラギはAPRILに日記の内容を読み込ませ、データに書き換え保存した。

 

 拝殿前に戻ると、2人はまだじゃれ付いていた。わためはおしゃべり好きらしく、こちらが席を外していたことに気付きもしていないようだ。そろそろ切り上げておかないと、ずっとここで立ち話していそうなので、スメラギはわために声をかける。

 

「そろそろ行こうか、わため」

 

「はっ…! そうだった! わため、行かなきゃいけないとこあるんだ」

 

「ありゃ、もう行っちゃうのかぁ」

 

「もうすぐこの近くでサーカスするんだ〜。わためも演奏するから、見に来て欲しいなっ!」

 

「そりゃあ是非! 2人とも階段の下まで送ってくよー」

 

 ミオがそう声をかけた時、

 

「あ、ミオちゃんとわためぇ先行ってて。みこ、スメラギと話があるから」

 

 みこは2人にそう返した。

 

「? 良いけど……じゃ、先行ってようか、わためちゃん」

 

「おっけぇ〜」

 

 

 

 2人が参道を進み、鳥居に差し掛かったところで、みこはスメラギに話しかける。さっきとは打って変わって真面目な顔つきだ。

 

「話って何だい?」

 

 スメラギは少し警戒しながら、そう尋ねた。

 

「みこ、君から何かを感じたんだ」

 

 その一言は、スメラギを動揺させるには十分すぎた。『それ』は、スメラギが誰にも明かすまいと必死に隠してきたものだったからだ。

 

「…っ!」

 

「まー、普通の人だったら気のせいで済ますんだろうけど。巫女だからさ、そういうの気になっちゃうんだよね。…もちろん、都合が悪いなら忘れるよ? でも、良かったら教えて欲しいな」

 

 本音を言うと、全てを話したかった。誰かと分かち合い、この重荷を軽くしたかった。

 

 

 

 でも、それをするにはまだ勇気が足りなかった。

 

「…うん、そうだ。僕は…。言えないけど、強大な力を持ってる。自分でも恐れてしまうほどに…」

 

 正体を知られてしまったら。恐ろしい存在だと気づかれてしまったら。何よりも仲間に拒絶されるのが怖かった。

 

「僕は怖いんだ…。こんな力を持ってる自分が」

 

 そう呟くスメラギに、みこは優しく応える。

 

「みこは、スメラギのこと怖いだなんて思わなかったよ? たった十数分くらいしか会ってないけど、君が優しいってこと、分かるよ。怖いのは力であって、君自身じゃない」

 

「……」

 

 年下だというのに、みこは年長者のようにスメラギを優しく宥める。

 

「優しい君なら、その怖い力もきっと正しく使えると思うな」

 

「みこ…」

 

「…本当はヤバそうだったら封印でもしようかと思ってたんだけど、君ならその必要はないかもだね」

 

「…だと、嬉しいな」

 

「みこのお墨付きだぞ! そんな顔しない!」

 

 みこは明るく笑い、スメラギを元気づける。

 

「さて、そろそろミオ達のとこに行かないと。きっと待ちくたびれてるよ」

 

「…そうだね」

 

 スメラギはぎこちなかったが微笑み、みこと一緒に参道を進んだ。




以前から出ていた都市アイゼオンですが、らっくぅのクソザコ記憶力のせいで初回の登場以降ずっと名前ミスってたので、サイレント修正しました
ちなみに今回もミスってました(書いてる途中に気づきました


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

8話 平穏の終わり

スバルのFF7配信見てたらFF7やりたくなってきたので、クロノクロスやってます
それはそうと、ここ数回お別れから始まる回多いですね…



 長い階段を降り、麓へ降りたスメラギ達は、みことミオに別れを告げる。

 

「また公演の時に会おうね!」

 

「うん、頑張って弾いちゃうから! 待ってるよ〜」

 

 その時、みこがスメラギに近づき、ひっそりと伝える。

 

「まだ力を使うのは難しいと思うけど、いつか誰かを守るために使わなきゃいけない時が来るかもしれない。その時は…」

 

「…あぁ。その時はちゃんと」

 

「大丈夫。スメラギならきっと使いこなせるよ」

 

「うん。…ありがとう、みこ」

 

「2人ともさっきから何話してるの〜?」

 

 と、そこへわためがやってくる。スメラギは気持ちを切り替え、もう一度みことミオに挨拶する。

 

「何でもないよ。…2人とも、ありがとう。またいつか」

 

「うん。じゃあね、スメラギ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 街道に戻り、少しばかりアイゼオン方面へ歩くと、紅白色の大きなサーカステントが見えた。

 

「ここだぁ〜! 付き合ってくれてありがとうございます、スメラギさん!」

 

 わためは安堵の表情を浮かべ、礼を言う。

 

「せっかくだし、少しだけ中、見ていきます?」

 

「じゃあ、お言葉に甘えようかな」

 

 既に寄り道をしてしまったのだ、もう少しくらい本道から逸れても問題ないだろう。スメラギはそう考え、了承した。

 

 ただ、一つだけ懸念点があるとすれば、()()()()()()()()()()()()()()()

 

「こっちです!」

 

 わために連れられ、スメラギも中へ入る。

 

 テント自体は既に設営が完了しており、観客席も設置されていたが、当然そこには誰も座っていない。にも関わらず、中はサーカスの演目の練習や内装の飾り付けで忙しなく、活気に満ちていた。

 

 中を進んでいくと、わためは近くにいた座員に声をかけられた。

 

「お、無事に着けたか羊の嬢ちゃん」

 

「無事じゃないですよぉ! 途中で魔物に襲われたんですよぅ。この人が助けてくれたんで何ともなかったんですけど」

 

 わための言葉に、座員はスメラギの方を見る。

 

「いや〜、悪かったな。テント設営のために早く行ったんだが、嬢ちゃんも連れて行きゃ良かったかもな。兄ちゃん、この子を助けてくれてありがとな」

 

「いえ、大丈夫ですよ。無事に辿り着けて何よりです」

 

「座長さんにご挨拶したいんですけど、どこにいますか?」

 

「おぉ、それなら呼んでくるよ。ちっとばかし待ってくんな」

 

 

 

 そう言われ、しばらく待っていると、奥から左右で赤と青に色が分かれたドレス? のような服を見に纏った派手な少女が現れた。彼女が座長なのだろうか。

 

(やっぱり…)

 

「お! 君が今度の公演を手伝ってくれる子かぁ! 私は尾丸サーカス団の座長、尾丸ポルカ! よろしくぅ! …ってこの人は?」

 

「角巻わためって言います! よろしくです! この人、スメラギさんって言うんですけど、ここに来るまでの間私を守ってくれて…」

 

「スメラギ・カランコエだ。街道で魔物に襲われてるところにたまたま遭遇してね。付き添ってたんだ」

 

「ありゃ、そうだったのかっ!? 怖い思いさせてしまってごめんよわためぇぇぇ!! ポルカが設営を優先させたばかりにぃぃぃぃ!!!」

 

 ポルカは謝罪しながらわためを抱きしめる。…申し訳なさより、わためを愛でたい欲が勝ってしまっているのは言及しないでおこう。

 

「い、いえ…! 大丈夫ですよっ。お陰で神社でお祈りできたので!」

 

「お兄さんにもお礼をしないとだっ! ありがとうね、スメラギさん」

 

「とんでもない…困っている人を助けるのは当然さ」

 

「でもお兄さん、傭兵でしょ? 報酬を出さないと」

 

 そこで、わためはハッとした表情を浮かべ、慌てだした。

 

「あ、わ、忘れてた…! そっか、傭兵さんを雇ったって事になっちゃうんだ…!」

 

「あはは…僕が勝手にやった事なんだから、報酬なんていらないのに」

 

「そうもいかないよ、こっちの面子に関わるからさ。サーカス団(ウチ)の方で出しとくから、わためちゃんは気にしなくていいんだぜ」

 

「うぅ…ごめんね、ポルカちゃん。スメラギさんも…、何も考えずにあんな事お願いしちゃって」

 

 しょんぼりとした様子でわためは2人に謝罪する。

 

「気にしなくていいのに。僕こそ安易に引き受けてしまったから。ごめんね、わため」

 

「はいはい、そこまで! 謝り合いは1回までだよ。それはそうと、お二人さんここまで歩いてきて疲れたんじゃない? 空の楽屋があるからそこで休みなよ」

 

 ポルカにそう言われ、スメラギとわためは近くのプレハブ小屋へ案内される。いくつも建てられた小屋は楽屋や物置として機能しており、2人はそれぞれ別々の空いた小屋で休むことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふう…」

 

 パイプ椅子に腰掛け、一息つく。別に疲れたわけではない。ただ、頭を整理する必要があった。

 

「ねぇ、APRIL。不思議に思わないかい?」

 

『と言いますと?』

 

 手に持ったデバイスから、ヴヴッとバイブ音が鳴り、APRILが応じる。

 

「僕たちがこれまで会ってきた人達さ」

 

 スメラギは、今まで会ってきた人物を思い浮かべる。

 

 ぺこらから始まり、今さっき会ったポルカに至るまで。

 

()()()()()()()()()()()。それも、前の世界のだけじゃなくだ」

 

 前の世界の知り合いだけならば、ラミィやわためには会っているはずはない。

 

 それに、単なる偶然で片付けるにはいささか不自然な頻度で出会っている。

 

 つまり、だ。

 

『何者かが仕組んでいるのでしょうか。』

 

「けど、一体誰が、何のために?」

 

 仮にゼノクロスがそう仕向けているとしても、意図が分からなかった。

 

『不明です。しかし、それ故に警戒すべき事案ではあります。』

 

「…そうだね。気を付けておくよ」

 

 この問題について考えるにも、まず情報が足りなかった。そもそもが憶測に過ぎないし、かつての仲間と会うというのも、本当にただの偶然である可能性が無いわけではない。

 

(結局、謎ばかりが積み上がっていくな…)

 

 前の世界では、ゼノクロスを倒すことに集中していたために解明しようとしなかったが、よく考えてみると、ゼノクロスに関して、分からないことが多すぎる。その上、また新たな問題も発生した。これらの謎が解明する時が来るのだろうか。否、自分たちは、その謎を解明できるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 プレハブ小屋で一、二時間程度休憩すると、スメラギは隣の小屋にいるわために声をかけた。

 

「わため、いるかい?」

 

 ドアをノックすると、すぐにわためがドアを開けて来た。

 

「あ、スメラギさん。どうしたんですか?」

 

「そろそろここを出るから、挨拶をしようと思ってね」

 

「えっ、もう行っちゃうんですか⁉︎残念だなぁ…」

 

「君たちの公演を見れないのは惜しいけど、僕はアイゼオンに行かなきゃいけないんだ」

 

「そうなんですか〜…」

 

 わためは寂しそうにしながらも、スメラギに応えた。

 

「わため、この公演が終わってもしばらく都心部うろうろしてるので、近いうちにまた会えるかもしれないですね」

 

「うん、また会おう。その時は君の演奏、聞かせて欲しいな」

 

「はい! 楽しみにしておいてください!」

 

 

 

「ありゃ、もう行っちゃうの?」

 

「元々、アイゼオンに用があったからね。日が暮れないうちにここを発つ事にするよ」

 

「そういう事なら引き留めても仕方ないね。公演を見てもらえないのは残念だけど。ま、今度また見に来てよ!」

 

「もちろん。楽しみにしてるよ」

 

 こうして、スメラギはわため、ポルカにそれぞれ別れを告げ、アイゼオンへと向かった。

 

 

 

 しかし、それは同時に平穏の終わりも意味していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 つまるところ。

 

「なんで…ッ!!?」

 

 ガッッッッゴォォォン……‼︎‼︎‼︎

 

 展開したシールドから響く鈍い音と衝撃に耐えながらも、スメラギは相手を見据える。

 

 考えたくなかった。でも、その可能性は十分にあった。()()()()()()()()()()()()()()()

 

 メイスを持った銀髪の騎士少女はこう訊ねる。

 

「あなた、何か隠し持ってるよね?」




ようやく本格的な戦闘だ!と思ったらホロメンと戦うんかーい


ポルカの出番がめちゃんこ少なくて申し訳ないです( ´・ω・`)
ちなみに、ポルカのテントはマイクラで本人が作ってたものを参考にしてます


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

9話 襲撃

何で夏休みなのに授業があるんですかねぇ…
まぁ授業なくても更新速度に変わりはないんですけど(つまりはおs


 時間は少しさかのぼり。

 

 都市アイゼオンの郊外にあるバーに、2人の少女が入ってきた。片方は騎士の格好をした銀髪の少女──白銀ノエル、そしてもう片方はフード付きのコートをだらしなく羽織っているライオン耳の少女──獅白ぼたん。一見何の縁もなさそうな2人は、揃って席に座っている数人の男達の方へ向った。ノエルはそのうちの1人に声をかける。

 

「あれ? 他の団員さん達は?」

 

「彼らなら団長を待ちきれずに出かけましたよ。ギャンブルをしに」

 

「も〜、すぐ帰るって言ったのにぃ」

 

「彼らは長時間じっとしているのは苦手ですから。今いる私達だけで済ませてしまいましょう」

 

 そう言い、プラチナブロンドの髪色をした容姿端麗の男──白銀騎士団副団長 シェラード・アッシュフォードは立ち上がる。

 

「しかしよ、何でバーで作戦会議(ブリーフィング)なんだ? ちゃんと会議室使おうぜ」

 

「それじゃあレンタル料かかっちまうだろ。そんなとこで無駄金使えねぇよ」

 

「そりゃあキースやアレンのバカ共が事あるごとにギャンブルで散財しちまうからだろうが! それに…バーだと酒飲んじまうだろ⁉︎」

 

「バカはお前もだよ…」

 

 不満を垂れながら、残った2人の団員も立ち上がり、簡単なブリーフィングを始める。

 

「今回の目標はこれ」

 

 ぼたんはデバイスからホログラムを出し、1人の男の写真とそのデータを写す。

 

「名前はスメラギ・カランコエ。アルヴィアス所属の傭兵で、序列は『エース第3位』。その殺害が今回の依頼」

 

「殺害? 何だってまたそんな依頼を…」

 

「ちゃんと合法なんだろうな、団長?」

 

「うーん…正直、ギリギリかなぁ…」

 

 ノエルは苦笑いしながら応える。

 

「目標は『スターク』だって言われたんだ」

 

 ぼたんのその言葉に、団員の間を衝撃が走った。それまで弛緩していた空気が、その一言で途端に引き締まった。

 

「それほど重要な依頼を何故我々に…?」

 

「さぁ? クライアントは私達じゃないといけないとか何とか言ってたけど」

 

「何でも、確定情報じゃないらしいよ。依頼主は確信持ってるっぽいんだけどね」

 

 シェラードの疑問にぼたんとノエルが答える。

 

「本当はそんな危なっかしい橋を渡りたくないんだけど、一応『スターク』が相手だからさ。無視はできないかなって」

 

「分かりました。では、どのように進めますか?」

 

 その問いに、ノエルはきっぱりと断言する。

 

「正直、あの依頼主は信用できない」

 

 突然ノエル達やぼたんの前に現れ、傭兵組織を介さずに、そして確固たる情報も与えない。何もかもが不自然すぎた。

 

「だから、私達で証拠を掴み取る」

 

 つまり、スメラギ・カランコエが『スターク』であるという確証を。

 

「その結果、目標が『スターク』じゃないって判ったら、依頼は取り止め。依頼主のアンドロイドを直接問い詰める。これが私達の基本方針だよ」

 

 ノエルの言葉に、シェラードは同意する。相手がただの傭兵であったなら、殺害するのはまずい。だが『スターク』だとしたら、見逃すわけにはいかない。

 

 最良ではないが、これがノエル達にできる最善だった。

 

「具体的に、どのように証拠を見つけますか? 仮に『スターク』であったなら、これまで正体を隠して生き延びてきた男です。魔眼では見通せない程深淵に力を隠しているのでしょう」

 

 そこでノエルはう〜ん、と唸る。

 

「考えたんだけどねぇ…何とかしてボロ出してくれないかな〜」

 

「とっ捕まえて尋問でもしてみる? …ってそんな事したら流石に刑務所行きか」

 

 と、ぼたんがそう言ったところで、シェラードはこう切り出した。

 

「団長、ぼたん殿。私に考えがあります」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スメラギはサーカス団のテントを去り、アイゼオンに向かっていた。

 

 アイゼオンで情報を集めたら、次はどうするか。

 

 今のところ、それは考えようもなかった。ゼノクロスの手下がこちらに向かっているわけでも無いし、今起きている異変についての情報を集める以外、スメラギがやれる事は無さそうだった。

 

 手詰まりな現状にやるせなさを感じながらも、スメラギはアイゼオンへと伸びる街道を進む。

 

 ここで諦めてはいけない。手がかりが掴めないだけで、ゼノクロスは確かにこのターミナル02 haに存在している。だからいつかきっと、ゼノクロスと接触する事ができるはずだ。

 

 

 

 そう思案に耽っていると、

 

『11時方向。高速で接近する物体あり。回避してください。』

 

 ヴヴヴッ‼︎、とデバイスから早口でAPRILが警告する。

 

「ッッッ!!?」

 

 ほぼ反射的に体を捻ると、ッヒュンッッ! と胴体のあった空間に、突き刺すように弾丸が撃ち込まれ、遅れて風を切り裂く音が聞こえた。

 

「狙撃…⁉︎APRILの索敵では何もいなかったはず…!」

 

 APRILの索敵範囲はおよそ半径4km。その外から撃ってきたとすると、相当の腕を持ったスナイパーだ。

 

 

 

 

 

「うわ、あれを避けるか。さすが『エース第3位』、化け物だなぁ」

 

 ぼたんはそう言いつつも、次弾を装填し、スメラギへ照準を合わせる。

 

「さて、幕は開けたんで後頼むよ、白銀騎士団」

 

 

 

 

 

『7時方向。接近してくる複数の物体あり。人間です。』

 

 再びAPRILが警告音を鳴らし、スメラギはそちらの方を向くが、誰もいない。

 

「姿を消しているのか…!」

 

『魔力探知にも反応ありません。〈秘匿魔力(ナジラ)〉と〈幻影擬態(ライネル)〉を使用している可能性があります。』

 

 しかし、どれだけ魔力と姿を隠そうとも、動けば空気の揺らぎや足音が発生する。

 

 スメラギは『超電磁砲』を発動し、微弱なマイクロ波を周囲にばら撒く。例え幻影を見せられても、電磁波の反射なら、確実に相手を捉える事ができる。

 

 

 

 

 

「あいつ…こちらを捉えているぞ…⁉︎」

 

「流石にこの程度の目眩しは効きませんか」

 

『私が前に出ます。貴方がたは後背から叩いてください』

 

 シェラードは冷静に〈思念通信(リークス)〉で団員に伝え、地面を蹴って加速する。

 

 

 

 

 

「……来るッ‼︎」

 

 直後。

 

 近距離にまで近づいてきた動体が、恐るべき速さで持っている武器を振り下ろした。『超電磁砲』によって、それが剣だという事は分かっている。

 

 ギギギギッッッ‼︎‼︎と、スメラギは瞬時にギザギザ刃のブレードを右腕に構築し、その一撃を受け止める。

 

「なるほど、ソードブレイカーですか。確かに剣相手には有効ですが」

 

 声の主は魔剣を防いでいるブレードを膂力で逆に叩き折り、スメラギに肉薄する。

 

「私には無意味です、スメラギ・カランコエ」

 

(声色から判断するに)男は、へし折った返しで斬り上げてくる。

 

「っっ!!」

 

 スメラギは地面を蹴って後ろに飛び退き、寸前のところで回避する。

 

 その瞬間、何かが後ろから迫ってくるのをスメラギは捉えた。

 

「くっ!」

 

 左腕に構築したシールドを、身体を捻って後ろに構え、それを──正確には振り下ろした斧を防御する。

 

「おいおい見えてねぇんじゃねぇのかよ! 『エース第3位』は伊達じゃねぇってことか!」

 

「僕を知っている…⁉︎」

 

「ハッ、知らずに襲う奴がいるかよ!」

 

 後ろには1人だけではない。恐らく、前にいる男は囮だ。であるならば、

 

(まずはこの包囲網から抜ける!)

 

 スメラギは前髪から雷撃の槍を放ち、前方の男を牽制する。と、同時に両足と背部にスラスターを形成し、空中に跳んだ。そのまま後ろに飛び、逆に彼らの背面を取る。

 

 スメラギはパワードアーマーを全身に装着し、そして右腕に形成したプラズマキャノンを構え、言う。

 

「何故僕を狙う! 暗殺者か⁉︎」

 

 姿は見えないが、襲撃者達はこちらを振り向いたまま動いていない。姿を捉えたというのに未だ〈幻影擬態(ライネル)〉を解除しないのは、顔を知られたくないからだろう。

 

「確かめたい事があるの」

 

「団長」

 

 襲撃者のうちの1人が前に出る。聞いたことのある声だった。

 

 この中で1番小柄だが、メイスを持っているようだ。

 

 ダッッ!! とその襲撃者はスメラギに向かって真っ直ぐ駆ける。

 

「…!」

 

 スメラギはプラズマキャノンを発射するが、弾は空中で消えることなく、そのまま遠くへ飛んでいってしまう。

 

 スメラギは左腕のシールドを構え、防御に移る。

 

 胸がザワザワする。ぺこらやわため達と会った時とは違う。何か重大な過ちを犯してしまったかのような。その不安が、襲撃者の撃退という本来すべき行動を阻害していた。

 

 

 

 ガッッッッゴォォォン……‼︎‼︎‼︎

 

「ぐっっ…!!?」

 

 小柄でありながら何という腕力か。

 

 想像以上の衝撃にスメラギは呻く。と、同時に不安の正体が分かった。分かってしまった。

 

(メイス…あの声…この馬鹿力…。うそだ…ッ‼︎)

 

「なんでっ…⁉︎」

 

 小柄な襲撃者は静かにこう尋ねる。

 

「あなた、何か隠し持ってるよね?」

 

 パワードアーマーの筋力補助があるにも関わらず、スメラギはメイス使いを押し返すどころか徐々に圧されていく。

 

「つっ!」

 

 スメラギは右腕のプラズマキャノンを後ろに回し、左側方に向けて最大出力で放つ。無論、そこには誰もおらず弾は虚空に消えていったが、その衝撃で自ら吹き飛ばされ、スメラギはメイス使いから距離を置く事ができた。

 

(ノエル…どうして君が…‼︎)

 

 幸い、すぐ近くに海がある。海に潜れば逃げ方など何とでもなる。ただし、あるのは砂浜ではなく、断崖絶壁の先にだが。

 

「逃がさない!」

 

 メイス使い──ノエルはスメラギが退くのを察知し、再び距離を詰めようとする。

 

 と、崖の方へ後退するスメラギへ銃弾が飛び込んできた。

 

「そんな弾は!」

 

 素早い反応速度で、スメラギはその銃弾を防ぐ。が、

 

「づッ⁉︎」

 

 ガヅンッッッ‼︎‼︎

 

 ただの銃弾にしては大きすぎる衝撃に、スメラギは思わずよろける。

 

 

 

 

 

「そりゃ、打撃力を高めたからね。貫通力は低いけどその分衝撃はすごいんだよなー」

 

 遠くでぼたんが独りごちた。

 

 わざわざ打撃特化の銃弾を使ったのは、ノエルを援護する為だけではない。そもそも、殺すのが目的ならこんな回りくどい事はせず、最初から脳天を撃ち抜いているだろう。

 

「しかし、殺さずに追い込むなんて。殺すより難しいじゃん。インテリ副団長は無理難題をおっしゃる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つまり、()()()()()()()()()()()()()。相手を殺さずに、極限の状態まで追い込むのです。無論、殺す気がないと気取られてはいけません。その状態で、力を使えば当初の目的通り彼を殺す。それでも使わなかったら、彼は『スターク』ではないと判断し、逆に依頼主を追及する。依頼主が我々を騙したと分かれば、例え罪に問われても軽く済みましょう」

 

「なるほど。ま、私達じゃ尋問なんて無理だし、戦闘(それ)が一番手っ取り早いね」

 

「もし最後まで力を隠し続けられたら? 『スターク』を見逃す事になっちゃうよ?」

 

 シェラードの提案に、ノエルは懸念を示す。

 

「確かにそうなりますが、相手がただの傭兵だった場合、それ以上戦っても無意味でしょう。相手が『スターク』であるという証拠は、邪神の力を使う事しかない。何をしても力を使わないのであれば、どこかで区切りをつけておかねばなりません」

 

「……妥協しろってこと?」

 

 ノエルはカリスマもあり指揮もできる優秀なリーダーだ。しかし、所詮は十八そこらの娘。まだまだ詰めの甘いところもあるし、何より人々を守りたいという理想が先走ってしまう傾向がある。

 

 今回の依頼を断れなかったのは、おそらくそれが原因だ。シェラードはそれをどうこう責めるつもりはない。

 

 シェラードは役職柄、そんな理想主義な団長を抑える事が多い。だから、打算的に考える。

 

 もし、この依頼がガセで、目標がただの人間だったら。騎士団のメンバー全員が刑務所へぶち込まれるだけでなく、その長であるノエルには更に重い刑罰が下されてしまうだろう。

 

 ノエルはそのリスクを負ってでも、この依頼を請けたのだろうが、そんな結果にはさせない。団長の主義に逆らってでも、この騎士団を、ノエルを守る。それが、副団長であるシェラードの役目だった。

 

「団長…どうか賢明なご判断を」

 

 ピリピリした空気が漂う中、ややあってノエルは返答した。

 

「…分かった。ただ、目標が『スターク』かどうかは私が判断する」

 

「構いません。ありがとうございます、団長。ぼたん殿もそれでよろしいですか?」

 

「私は構わないよ。リスクはできるだけ減らしたいしね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(この狙撃手(スナイパー)、厄介だ…‼︎)

 

 ぼたんの狙撃で足が止まった所を、ノエルが追い詰める。

 

「おりゃあっっ‼︎‼︎」

 

 ノエルはメイスを薙ぎ払うように脇腹を狙う。

 

 スメラギは飛び退き、その一撃を間一髪でよける。

 

(とにかく逃げないと…‼︎)

 

「逃しませんよ」

 

「くっ⁉︎」

 

 先程の剣士がスメラギの背後を取り、斬りかかる。

 

 スメラギはソードブレイカーではなく、エナジーブレードで防御する。ソードブレイカーは防御用の剣だが脆く、特に魔装相手では簡単に折られてしまうからだ。

 

「貴方ともあろう者が防戦一方とは。何か()()()()()()があるのですか?」

 

「やめてくれ! 僕には戦う理由がない…!」

 

「命を狙われている。これだけでは理由になりませんか? スメラギ・カランコエ。それとも戦ったらまずいことでも?」

 

 

 

 剣士の明らかな挑発。そして、ノエルの先程の言葉。

 

 彼らが知っているはずがない。この世界に来てから一度も使っていないのだ。だと言うのに、こう考えずにはいられなかった。

 

(まさか、僕の力を知っている…!?)

 

 




なんかぶつ切り感あるなー笑

白銀騎士団なのですが、本当は聖騎士団なんですねー(おい
まぁ聖騎士団にすると傭兵にできないし、こうして戦うこともなさそうなので、この世界では騎士団で良いかなって思ってます


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

10話 逃げた先は

そろそろサブタイトルが思いつかなくなってきた



「くっ…」

 

 剣士──シェラードの言う通り、スメラギは防戦一方で、牽制以外に攻撃を一度もしていない。それはノエルを、ノエルの仲間たちを傷つけたくないからだった。

 

「とんだ腰抜けだな! 尻に火を付けなきゃ戦えねぇのか⁉︎」

 

 ノエルとスイッチして、団員がスメラギに襲いかかってきた。

 

 スメラギは受け止めていた魔剣を受け流し、迫ってきた斧をシールドで受け止める。

 

 スメラギは団員を膂力で押し返すと、そのまま飛び退き、崖へ向かう。が、

 

「かはッ⁉︎」

 

 突然後ろから衝撃が襲ってきた。

 

『ベクトル操作によって背後に回ってきた弾丸と思われます。』

 

 APRILの解析を聞いている暇もなく、スメラギは前に押し戻され、再び騎士団との戦闘を強いられる。何としてもここで仕留める気だ。

 

(このままじゃやられる…‼︎)

 

 あまりの危機的状況に、スメラギは一瞬意識が遠のきそうになるが、それを堪える。そうなってしまってはおしまいだ。本当に取り返しのつかないことになってしまう。

 

(何とかしてここから離れる方法はっ…⁉︎)

 

 あるとしたら。

 

「…っごめん! ノエル…!」

 

 スメラギは小さく呟くと、団員に向けてリパルサーレイを放つ。

 

「おうっ!!!?」

 

 スメラギが攻撃すると思っていなかった団員は、もろに食らい、吹き飛ばされる。

 

「アレン‼︎」

 

「油断するなと言った!」

 

 他の団員が続けて襲いかかってくる。スメラギはそれらの攻撃を捌きつつ、スメラギは逆に彼らを圧していく。

 

「急にやる気出してくるじゃねぇか…!」

 

「流石に並の敵ではない…っ!」

 

 だが彼らを倒すことが目的ではない。抵抗すれば、耐えかねて来るはずだ。

 

「エディソン、キース、アルマハド! 下がって!」

 

 鋭いその一言で、団員は素早く後退し、代わりにノエルが向かってくる。

 

(来た…‼︎)

 

「破砕鎚、秘奥が壱…」

 

 ノエルは自身の魔力を無にし、脱力する。

 

「…ッ⁉︎団長! いけません‼︎」

 

 シェラードが慌てて止めるが、もう遅い。

 

「〈轟崩打連(ごうほうだれん)〉ッッ‼︎‼︎」

 

「…ッ!!!」

 

 ノエルは瞬間、ありったけの力を込め、メイスを振り下ろす。

 

 スメラギは多重構造のシールドを構築し、それを防御しようとする。しかし、凄まじい衝撃が、それも瞬時に二度打ち込まれ、シールドは木っ端微塵に砕け散る。その衝撃はシールドだけでなく、スメラギ自身にも波及した。しかし、スメラギは敢えて耐えず、衝撃に任せ吹き飛ばされる。

 

 後方の崖の向こうへ。

 

「…っしまった⁉︎」

 

 その意図に気づき、慌てて崖の方へ駆け寄るが、スメラギは既に崖から遠く離れ海へと落ちていた。

 

 仲間思いのノエルの事だ。団員を攻撃すれば、黙ってはいられない。怒りに任せ本気でぶつかってくるだろう。

 

 彼女を利用した感じになってしまい罪悪感が残るが、苦肉の策だ。これがスメラギの出来る最良の選択だった。

 

 

 

「あちゃ〜…やっちゃった…」

 

 ノエルは思わず呟く。死んではいないだろうが、海の中に落ちてしまったら追うのは面倒だ。こちらの編成は近接寄りな上、唯一の遠距離タイプであるぼたんも水中の敵には有効打は与えられない。待ち伏せされていたら、不利になるのは自分達だ。

 

「それを見越して私を挑発したってこと…?」

 

 仲間を攻撃されついカッとなってしまったとは言え、しかしこれは失態だ。ノエルは小さく呟く。

 

「仕方ありません。団長の秘奥を食らう際、衝撃波で敢えて真後ろに吹き飛ばされるように調整できてしまうほど計算高い相手です。それより…」

 

 ノエルをフォローしつつ、シェラードは訊ねる。

 

「どうでしたか? 彼が邪神の力を持っているという感触は」

 

「…結構追い詰めたと思ったんだけど、尻尾は出さなかったね」

 

 ノエルは悔しそうにそう答える。

 

「団長の秘奥を前にしても力を使おうとはしませんでしたね」

 

「つまり、彼は『白』…」

 

「そう判断した方がいいかもだね」

 

 と、そこへ遠くの高台から降りてきたぼたんが合流した。

 

「最後に撃ったベクトル弾、『スターク』なら防げただろうし、そのまま逃げる事だってできたからね」

 

 手加減しているという気配は出さなかったし、相手にもそれは伝わっていないはずだ。その上でスメラギ・カランコエは力を出す事なく逃げる事を選んだ。

 

「…そうだね。じゃあ」

 

 ぼたん達の言葉に一応は納得したのか、ノエルはこう判断した。

 

()()()()()()()()()()()。私達はこれから、その依頼主を追及する」

 

御意(イエス、ユア・ハイネス)

 

 

 

 こうして、ノエル達はスメラギより一足先にアイゼオンへ帰還する事となった。

 

「なぁ、アイツが攻撃を始める前、一瞬だけ不自然に動きが止まってなかったか?」

 

「あぁ? 気のせいだろ。それより、今のうちにちゃんと休んでおけよ。これから忙しくなりそうだからよ」

 

 暗雲が立ち込めつつ。あるいは、意図せず真実に近づきつつも。

 

 歯車は回り始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、スメラギは襲撃者達を撒くことが出来たとはいえ、無事ではなかった。海に落ちた時の衝撃はパワードアーマーが吸収してくれたものの、ノエルの秘奥のダメージで早くもアーマーが半壊状態だ。

 

「ぐっ… ダメージを吸収しきれなかったか…」

 

『報告します。骨折箇所、肋骨3本に右腕2本…』

 

「いや、言わなくていい。痛くなかったところまで痛くなってくるよ…」

 

『追加情報として、あと10秒後に浮上しなければ海底に沈み、現在の推力では地上に戻れなくなります。』

 

「そっちの方が重要だよ⁉︎」

 

 スメラギは慌ててスラスターを噴かし、近くの岩礁へ着地する。

 

「今上に上がってもまた出くわしそうだな…。とは言っても、今の状態じゃ、街までスラスターが持つかどうか…」

 

 仕方ないので、ここで待つ事にした。しかし、もう日暮れの頃合いだ。この小さな岩礁で一夜を過ごすのは流石に気が引ける。どうにかできないものか…。

 

『救難信号を出した方が良いかと。予測ですが、彼らは連絡手段を魔法に頼っているようで、信号が傍受される危険性は少ないと思われます。』

 

「そうだね…ダメ元でやってみよう」

 

 

 

 そうして、数時間が経過した頃、スメラギの元に通信が届いた。

 

『あ〜もしもし、SOSを出した方、聞こえてますか〜?』

 

「…あ、あぁ。聞こえてる、聞こえてるよ!」

 

 特徴のある声に、スメラギは一瞬返答が遅れる。

 

『お、生きてたようで何より。身体の具合はどう? 五体満足? 無事ならそっちにウチらの座標教えるからそこまで泳いでくれない? そんなに遠くないから大丈夫だと思うけど』

 

「……まぁ、無事ではないけど動けるよ。場所を教えてくれ」

 

 仮にもSOSを出してる人間に向かって泳げはないだろうと内心で呆れつつも、スメラギは座標を受け取り、そこまで飛行する。実際それほど遠くなく、故障しかけているスラスターでもギリギリ到着することができた。

 

 

 

 見えてきたのは船の甲板だ。現代的な船で、大きさは小型軍艦程度だ。海上保安隊とかの船だろうか、とスメラギは考えていると、

 

「君が信号出してた遭難者? めっちゃボロボロじゃん! どしたん? 海獣にでも襲われたんかっ?」

 

 艦橋の根元から、いかにも海賊という風貌の少女が現れた。

 

「あ、あぁ…まぁそんなところさ。僕はスメラギ。助かったよ、ええと…」

 

「船長はぁ〜! 宝鐘海賊団のぉ〜! 宝鐘マリンですぅ〜!」

 

 なんか身体をくねくねしながら挨拶をしてきた。以前にも見たことはあるが、何とも歳不相応なポーズと動きだなと当時のスメラギは思ったものだ。ちなみに今もその感想は変わらない。

 

「もう! 見知らぬ人間にそんなのしないでくださいよ船長! 恥ずかしいったら…」

 

「なんで君たちが恥を覚えてるんだよ! そんなのって言うな! 共感性羞恥って言うなぁ!!」

 

「えぇと……と、とりあえず、ありがとうマリン。しかし、僕みたいな傭兵を助けてくれるなんて。海賊なのに珍しいね」

 

 新現代になっても海賊や山賊は存在する。いわゆる社会のはみ出し者はいつの時代にもいるため、()()()には事欠かないというわけだ。

 

 

 

 そして、その本質もあまり変わらない。つまりは略奪。生きるため、私欲のため、色々とあるが、結局海賊とはこの一言に尽きる。

 

 だから、スメラギにとって人を助ける海賊など変わり者でしかなかった。

 

「あぁーまぁねぇ。でも海賊だからって人助けしちゃいけない理由はないでしょ? それにあたし達、海賊名乗ってるけど犯罪は犯してないからねっ!」

 

「そうそう、俺たちクリーンな海賊だから!」

 

「つーかもう海賊じゃねぇよな。ただの冒険集団よ」

 

「それを言っちゃしめぇよ! 俺たちゃ宝鐘海賊団! それはちげぇねぇだろぉ!?」

 

「おぉよ! 泣く子も笑う宝鐘海賊団さ!」

 

 マリンの言葉に、甲板に上がってきた船員は勝手に盛り上がる。なかなか陽気な船員だ。それに今どき、冒険目当てで海賊をやっている連中なんて本当に珍しい。

 

「こらっ! 盛り上がってないで、スメラギの手当てしてやって!」

 

「へい船長!」

 

 

 

 マリンに言われ、数人の船員が医務室へ案内する。

 

「ここが医務室な。つっても、だいたい魔法で済ませるから包帯とか薬とかはあんまねぇんだけどな」

 

 確かに医務室にしては最低限という感じだ。学校の保健室と同程度かも知れない。

 

 

 

「しかし、右腕とあばら何本かの骨折、全身の裂傷…。まるで誰かに襲われたみたいな傷だなこりゃ」

 

 スメラギは船医の〈総魔完全治癒(エイ・シェアル)〉で、受けた傷を治療してもらう。

 

「い、いやまさか…。海獣に噛みつかれたんですよ…」

 

「ふぅむ…。ま、一応傷は治ったが、あまり激しい運動はするなよ。傷が開くかもしれんからな。それと…」

 

「?」

 

「君はこれからどうするんだね? まぁ、しばらくここで休んでもらう事になるだろうが、ウチじゃ君のパワードアーマーを直す事はできんぞ?」

 

 そういえばそうだ。パワードアーマーのスラスターはここに来る為にさらに寿命をすり減らし、今やジャンプくらいしかできなくなっていた。

 

「だったら、アイゼオンまで乗っけてやればいいんじゃない? あたし達もあそこで食料とか弾薬とか足しに行かないといけないからさ」

 

 扉の方を振り向くと、いつの間にかマリンがいた。

 

「いいのかい? 僕は…」

 

「野暮な事はいいの! それに、君には今からあたし達の仕事を手伝ってもらうんだから」

 

「仕事?」

 

 マリンはそう言うと、ちょいちょいとスメラギを呼ぶ。

 

「もうあらかた治ったっしょ? こっち来てよ」

 

 スメラギはマリンに案内され、医務室を離れて艦橋へと向かった。

 

 

 

『仲間』と共に行動するのは、できれば控えたかった。今までだって、流れで一時的に彼女達について行っていたが、本当は最初から最後まで1人でいたかったし、そうするべきだと考えていた。

 

 それでもマリン達の世話になる事を選んだのは、このままアイゼオンに向かえば再びノエル達と鉢合わせる可能性があるため、港からアイゼオンに入った方がいいと判断したのと、船ならば歩くより早くアイゼオンに着くのではないかと思ったからだった。

 

 

 

 しかし、助けてもらった先がよりによってマリンの船だとは。

 

(これだけ会ってたら、もう巻き込まない、なんて言えないな…)

 

 またしても、だ。

 

 本当に何か縁のような、はたまた呪いのようなものにかかっているのかもしれない。スメラギはそう思わずにはいられなかった。

 

 

 

 




「イエス、ユア・ハイネス」は本来ブリタニア皇族に対して使うものなのですが、語感が良いので騎士団でも使わせてもらってます。


ちなみにマリン達の船の名前は「ローエングリン」と言います。あくあマリン号じゃないの?と思うかもしれません。僕も思ってます(は?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

11話 海獣退治

この作品を書く前の考案メモを見ていたら、マリン回は6話に書くとありました。メモが早すぎるのか、こっちが遅いのか。


 マリンはスメラギを艦橋に案内すると、ホログラムで投影された地図を見せた。

 

「アイゼオンに寄るとは言ったけど、そのまま向かうわけじゃないんだ。途中で依頼をこなしてから行く予定なの」

 

「依頼?」

 

「そう。傭兵(キミ)が普段やってる依頼とほぼ同じやつだよ」

 

「ウチは略奪しない分ビンボーでさぁ! 道中で依頼とか請けていかないと冒険も満足に出来ないのさぁ」

 

 と、艦橋にいた船員がスメラギに説明してくれる。

 

「おい! ウチの経済事情をバラすなってのぉ! ……まぁ、そういうこと。フリーの依頼で貰える金なんてたかが知れてるから、いつまで経っても金欠なのは変わらないんだけどねぇ」

 

「そうなんだ…苦労しているんだね」

 

「ま、そんなのはもう慣れたけどっ! それより、依頼の内容は海獣退治! 早速だけど協力してくれる?」

 

「あれ、コイツ怪我してなかったっけ。もう使っちゃっていいんスか?」

 

「砲手くらいならできるでしょ。やってくれるよね? ねっ?」

 

「もちろん。砲手と言わず前線で戦うさ」

 

 傷を治してくれるだけでなく、目的地であるアイゼオンにまで寄ってくれるのだ。やれることは最大限やらねば。スメラギはそう考えていた。

 

「お、そうこなくっちゃ! じゃあ、目的地まで向かうから、着くまでゆっくりしててよ」

 

 

 

 そう言われたが、別に部屋を用意された訳ではなく、スメラギは医務室にあるベッドで休む事になった。

 

 スメラギは先程のことを思い出す。ノエル達、白銀騎士団が自分を襲ったこと、「何か隠し持っている」というノエルの言葉。

 

「あの言葉が指すもの……多分、僕の想像している通りだと思う。けど、アレはこの世界で一度も使ったことがないから、ノエル達は知らないはずなんだ。とすると、誰かが彼女達に教えたんだ」

 

『それがゼノクロスだと?』

 

 ヴヴッ、とデバイスにいるAPRILが応答する。

 

「そう決めつけるのは早とちりかも知れない。けど、その可能性は十分にある」

 

『それを確かめる為にも、もう一度彼女達に接触する必要がありますね。』

 

「うん。まぁ、また戦う事になるかもしれないけど…」

 

 スメラギは苦笑いしながらそう応える。

 

 何にしても、やるべき事が決まったというのは良い事だ。後はマリンの手伝いをし、アイゼオンまで送り届けてもらうだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数時間医務室で休んだのち、スメラギの元に目的の場所へ着いたとの連絡が届いた。

 

「ここに海獣が?」

 

 艦橋に着いたスメラギはマリンに訊ねる。

 

「そ。依頼主によると〜……どうやら海竜種らしいね」

 

 マリンはデバイスを操作しながら答える。

 

 海竜種というと、海の生態系の中でも上位に位置する存在だ。

 

「数日前からこの近辺に現れてて、漁に出れなくて困っているんだって」

 

「なるほど…それは早く退治しなきゃだね」

 

「そういえば前線で戦うとか言ってたけど、パワードアーマーは使えないんでしょ? 大丈夫なの?」

 

「全部の機能が壊れた訳じゃないんだ。武器とかなら何とか使えるよ」

 

「なるほどね。でも防御はできないって事でしょ? あんまり無理しちゃダメだぞ〜?」

 

「気遣ってくれてありがとう、マリン。まぁ、上手くやってみせるさ」

 

 

 

 そして、しばらく目的の海域周辺を航行している時だった。

 

「う、うわ…⁉︎」

 

「うおぉぉぉっ…! 何だこの揺れは⁉︎」

 

 まるで地震のような強い揺れが船を襲い、直後竜の咆哮が海中から響き渡る。

 

「この声…“海竜"だ‼︎君たち気をつけて!」

 

 マリンが言い終わるや否や、船の前方から水飛沫を夥しいほどに上げ、巨大な怪物"海竜"が姿を現した。

 

 

 

 "海竜"ラギアクルス。種の名前を冠するこの魔物は、海竜種の中でも最上位に位置する存在だ。

 

「おいおいおい…よりによってコイツかよ…⁉︎」

 

「出鼻を挫くッ!」

 

 スメラギは素早く四肢にアーマーを纏わせると、瞬間的に脚部のスラスターを噴かし海竜の右側方に跳躍する。

 

 

 

 対して、ラギアクルスは空へ飛び出しキャノンを放つスメラギを捉え、雷のブレスを吐く。

 

「ッ!」

 

 飛行することができないスメラギは身体を捻って何とかブレスを避け、続けて左腕に構築していたワイヤーアンカーをラギアクルスに向けて射出する。

 

「こう近づけばブレスは吐けないだろ…!」

 

 ワイヤーを回収しラギアクルスに密着したスメラギはそのままプラズマキャノンを放つ。

 

「ゴアァァァァ!!!!!」

 

 そうしてスメラギに注目が集まっている間に、

 

「各砲門、開け! 照準が合い次第撃ちまくれ!」

 

 マリンの号令と共に、船に搭載された武装が次々とラギアクルスに照準を合わせられ、レーザーや砲弾を放っていく。

 

「俺たちもやるぞぉぉ!!」

 

「一味の魂見せてやる!!!」

 

 そして、甲板にいる船員たちも魔法や火器でラギアクルスにダメージを与える。

 

「グアァァァァァァァァァァ!!!!!!!」

 

 ラギアクルスは耳をつんざくような咆哮を上げると、背中の甲殻に蓄積された電撃を放出した。瞬間、背中に蒼い光が煌めく。

 

「ッ!!!!」

 

 

 

 ズバヂィィィィィィッッッッ‼︎‼︎!! 

 

 強烈な電撃が船に襲いかかり、甲板にいる船員たちはおろか、艦橋にいるマリンたちをも貫く──

 

 が、その直前に、

 

「〈耐電撃(バサンダ)〉ッ!」

 

 船員達が放った魔法は船の全面を覆い、ラギアクルスの放電を防御する。

 

「マリン! 船のエネルギーバリアは使えないのか!?」

 

 放電の直前、ラギアクルスの身体を蹴って攻撃を回避したスメラギは甲板に着地し、マリンにそう叫んだ。

 

「オンボロ船にそんなの期待すんなっての! もうとっくに機能停止(オフライン)!」

 

「仕方ない…! まずはこの放電を何とかしなければッ!」

 

「後ろだ! 背中の甲殻! そこが蓄電する器官になってる!」

 

 船員の1人がスメラギに向かってそう叫ぶ。

 

 しかし、ラギアルクスはちょうど船の正面にいる。船からでは背面を攻撃できない。

 

 スメラギは後方へ回り、武器を変える。プラズマキャノンからアームハンマーへ。そして上空から急降下して()()をつけ、思い切りハンマーを背中の出っ張っている部分へ振り下ろす。

 

「グォォォォォォォォォォォ!!!?!!」

 

 背中にあるいくつかの突起物の内の1つが砕け、ラギアクルスは叫び声をあげる。

 

 

 

「効いているみたいだ!」

 

 相手が怯んだのを見てマリンは叫ぶ。

 

「これで大放電は使えない! みんな畳みかけるよっ!!」

 

 スメラギは再び甲板に戻ると、両腕に大型の武器──フォトンブラスターを構築する。それは大型故に接地していないとまともに使えない一方で、パワードアーマーに記憶されている武装の中でも特段火力の高いものだ。

 

『エネルギーチャージ、開始』

 

 大きな攻撃が来ることを予期し、ラギアクルスは海中へ逃げようとする。が、

 

「逃すかっての!」

 

 船員たちは複数人で魔法陣を構築し、〈束猟捕縛網(デ・ギアギズ)〉を発動する。大勢で作られた魔法の網はラギアクルスに覆い被さり、絡め取る。

 

「う、おおおおおおおぉぉ!!!?? 引きずり込まれる…ッ!!!」

 

「船長、傭兵! 早くしてくれ!!」

 

「分かってる!」

 

 マリンは十門の〈獄炎殲滅砲(ジオ・グレイズ)〉を宙に描くと、それらを束ね一つの大きな魔法陣を構築する。

 

『チャージ完了、撃てます』

 

「「いっけえええぇぇぇぇぇぇ!!!!!」」

 

 APRILが発射可能を報せるとほぼ同時に、スメラギはフォトンブラスターを、マリンは〈獄炎殲滅十砲(ジオ・グレイツェン)〉を放つ。

 

 共に自分の持てる最大火力。

 

 それがラギアクルスの頭部に直撃する。

 

 

 

 ズッッッガァァァァァァン!!!!!!!!! 

 

 

 

 海が荒れるほどの轟音が響き、水飛沫と黒煙が辺りに撒き散らされる。

 

 

 

「……っ?」

 

 やがて視界が開けると、ラギアクルスは力無く網に絡まったままだった。船員達が恐る恐る〈束猟捕縛網(デ・ギアギズ)〉を解除すると、ラギアクルスはそのまま海中へ沈んでいった。

 

「お、おおおぉぉぉ……やったのか、俺たち…! やっちまったのかァァァ!!! ハァーッハッハッハッハ!!!!!」

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

12話 アイゼオン

前回のラギアクルスについてですが、元からこの作品にモンハンのモンスターを登場させるつもりでした。なので本当は「魔物」呼称ではなく「モンスター」呼称の方がいいと思うのですが、何故か「魔物」に統一させてしまいました。なんでや昔の俺。
今更変えるのはどうだろうなぁという事で、まぁこのままで行くかもしれないし、改訂出すときにサイレント修正しているかもしれません。
というのはさておき、本編をどうぞ


「ふぅっ…お疲れ様、君たち!」

 

 艦橋から降りてきたマリンはスメラギ達を労う。

 

「海竜が来た時は少し驚いたけど…何とかなって良かったよ」

 

『APRILの貢献度は28%。十分な成果であると言えます。』

 

「いや、君最後しか仕事してないよね…?」

 

 それはさておき。

 

 目標を討伐し、あとは依頼主に報告するだけだ。

 

「依頼は終わったね。依頼主はどこにいるのかな」

 

「近くの町にいるって。さっさと報告してアイゼオンに行こ」

 

 マリンはデバイスからホログラムを投影し、町の場所をスメラギに見せる。それほど遠くなく、1時間足らずで着きそうだ。

 

「依頼の報告が終わったらすぐアイゼオンだから、もうそろそろお別れだね」

 

「もうか…。短い間だけど、すごく助かったよ、マリン」

 

「もー! まだ早いよっ。ま、疲れただろうからさ、アイゼオンに着くまでテキトーにくつろいでてよ」

 

 これは照れ隠しだろうな。スメラギは思わず頬を緩め、そして昔を思い出した。6人で過ごしていた、青空のように澄み切っていて、そして儚いあの頃を。

 

 一瞬、やるせない気持ちが込み上がってくるが、それを抑える。

 

 そして、自分の仮の居場所である医務室へ向かうべく船室へ下りた──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらくして、スメラギはいつの間にか船が止まっていることに気づいた。

 

 おそらく、依頼主のいる町へ着いたのだろう。スメラギはベッドから立ち上がり、甲板へ向かう。すると、その道中、通路にたむろしている船員たちがいた。

 

「あんなにデケェのを倒したってのにそりゃねぇよなぁ」

 

「あのオッサン、足元見やがって…!」

 

「ったく、これなら海竜を捌いて売った方がまだ金になりそうだぜ」

 

「どうしたんだい?」

 

 口々に不満をたれる船員たちに、スメラギは声をかける。

 

「どうもこうも、ようやっとあの海竜を倒したってのに、しょぼくれた金しか渡しやがらねえんだよ、依頼主のオッサンは! たったのこれだけだぞっ!」

 

 船員の1人が人差し指を立て、報酬をこっそりスメラギに教える。

 

「俺たちが海賊だからってケチってるのさ。舐めた野郎だよ!」

 

「まぁまぁ…。でも、フリーの依頼だとしても少ないね、これは…」

 

「傭兵のアンタから言ってやってくれよ! そんなにケチだと犬も雇えないってなッ!」

 

「だはっ! なんだそりゃ!」

 

「こうしてグチグチしてると気が滅入って仕方ねぇ! お前ら、エアるぞ!」

 

「おぉ、それがいい! じゃあな、傭兵!」

 

「あ、あぁ…。またね…」

 

 と、勝手に盛り上がっては勝手に去ってしまった。しかし、不思議と不快感はなく、むしろその無邪気さにスメラギは好印象すら抱いた。海賊とは言っていたが、船長のマリン含めこの宝鐘海賊団に悪い人はいないようだ。

 

(マリンは昔から何だかんだお人好しだったなぁ。ここの人たちもそんなマリンに惹かれたのかもな…)

 

 そんなことを思いつつも、スメラギは甲板へ向かう。

 

 

 

「ん、スメラギ。アイゼオンはまだだよ」

 

「やぁ、マリン。もう依頼主から報酬はもらったのかい?」

 

「あぁ…ま、一応ね〜」

 

「さっき、君の仲間が不満を口にしていたよ」

 

「たはは、あいつら…。まぁ、リスクの割にリターンが少ないのは確かだけどね。でも、こんなの今に始まったことじゃない。こんな事であたし達の冒険の道を終わらせることはできない! ってね」

 

「あはは、たくましいね、マリンは」

 

「まーねっ。ナヨナヨしてちゃ海賊は務まらないよ!」

 

 マリンはない力こぶを見せつけ、力強く応える。

 

 

 

「そういえば、アイゼオンって内陸にあるんだよね? どうやって入るんだ?」

 

 ギエルデルタからアイゼオンまでの道は沿岸部も通り、海に近い。しかし、肝心のアイゼオンは海岸から離れた内陸にある。ここからどうやってこの船をアイゼオンへ入るのだろうか? 

 

「あー、それはねぇ……まー見てなっ!」

 

 マリンはニヤッと笑い、

 

「反重力エンジン作動!」

 

「エネルギー伝達回路、反重力エンジンへ接続!」

 

「エンジン、正常に作動している!」

 

「よーし。ローエングリン、飛行モードへ移行! 変形だ!」

 

 飛び交う声達に合わせ、ローエングリンは海上を航行する船から形を変えていく。船の側面からは大きな翼が展開し、艦橋が船体へ引き込まれる。

 

 それはまるで、空を翔ける巨大な飛行機だ。

 

「この船…飛べたんだね」

 

「そ! 電力食うからあんまり使わないけどね。でもカッコいいでしょ? 男の子ってこういうの好きなんだよねぇ〜?」

 

「あはは…。否定はできないかな」

 

「俺らも最初の方はそりゃあ興奮したものよ!」

 

「けどよぉーせんちょぉ。エネルギー食うんだから動力炉だけでも買い換えた方がいいってぇ!」

 

「今時飛べない戦艦なんて無いが、年代物にしてはよくやってる方じゃないか?」

 

「君たちさぁ…。普段のそのやる気の無さというか、ネガティブなの、もうちょっとどうにかならないの〜?」

 

「でも、やる時はやるよね。さっきの戦いとか、みんな凄かったよ」

 

 マリンの呆れたような言葉に、スメラギはフォローを入れる。

 

「そうそう、メリハリだよメリハリ!」

 

「つけすぎ! 温度差で風邪引くわ!」

 

 

 

 そうこうしているうちに空中遊覧が終わる。アイゼオンの、飛空艇用の港が見えてきたのだ。

 

 あと少しで彼女らとも別れる。そう考えると、少し寂しさを感じる。今まで感じなかったわけではないが、この船の、賑やかな雰囲気がどこか昔を思い出させるのだ。

 

 だが、忘れてはいけない。自分は世界の為にも、そして彼女たちの為にもやらねばならないことがある。感傷に浸る暇はないはずだ。

 

 

 

 

 

「長いようで短かったね〜、キミとの時間は」

 

「助けてくれてありがとう、マリン。本当に」

 

「どうってことないよ。人を助けるのに理由がいるかい? …ってね!」

 

 マリンは照れくさいのか、少しふざけたような態度で返す。

 

「楽しかったよ。いつかまた、会えると良いね」

 

「もち! 飲みにでも行こうよ! じゃあね、スメラギ!」

 

 

 

 さて。

 

 アイゼオンに着いて、スメラギはまずアルヴィアス支部に向かった。

 

 

 

 アルヴィアス支部は大きなビル一棟をそのまま使っている。それは、異世界からの来訪者の窓口として様々な行政機能が内包されているからでもあるが、何より、アルヴィアス本来の機能が半分以上を占めている。つまり、世界で起きる「異変」解決を中心とした依頼。その仲介や、傭兵への様々な物資の提供、他世界との連携連絡エトセトラ。

 

 これだけの機能を一挙に内包しているアルヴィアスは確実に都市の生命線の一翼を担っていた。

 

 

 

 しかし、スメラギがこの巨大インフラ設備に来たのは、何も調べ物の為だけではない。

 

 スメラギはアルヴィアス所属の傭兵向けの窓口へ向かった。

 

 

 

「僕の相方が壊れてしまったんだけど、直せるかな」

 

「アンドロイドですか?」

 

「いや、少し大きい機動兵器なんだけど…」

 

「MEMAでも大丈夫ですよ。データと機体を送っといてください。技術部に渡しますので。あ、あと修理費は自動で口座から引き落とされるので注意してくださいね」

 

 正確にはメタトロンで動いている為、MEMA(魔導力機動兵器)ではないのだが。まぁ修理してもらえるなら変わりはないだろう。

 

「あぁ。ありがとう」

 

 それと、とスメラギは付け加える。

 

「僕の知り合いに…えーと、フリーの傭兵がいるんだ。食い扶持が多くて、直接の依頼だけだと苦しいんだ。できれば、彼女たちにアルヴィアスで請けた依頼を融通してくれないかな?」

 

 決して同情からではない。これが、マリン達にしてやれるせめてもの恩返しだ。

 

「分かりました。スメラギ様のお願いなら、問題ありませんよ」

 

 受付の人は快く引き受けてくれたが、最後の一言が余計だった。

 

「何と言ってもあなたは『エース第3位』なんですからっ! 無理でも通しますとも!」

 

「あ」

 

「おい、エース第3位って言ったか、今…?」

 

「あのエース第3位がこの世界に…」

 

「一体どんな奴なんだ…⁉︎」

 

 スメラギは全身──特に顔が熱を帯びるのを感じる。全く、これだからこんな肩書きなど要らないというのに…

 

 

 

 何を隠そう、スメラギ・カランコエは傭兵組織「アルヴィアス」の『エース第3位』なのだ。

 

『エース』という呼び名は、アルヴィアス内にいる傭兵の中でも屈指の強さを誇る者たちに対する、言わば羨望と畏敬──そして少々のやっかみ──の言語化である。

 

 公式に発表されているものではないため『エース』が何人いるかは明確には定まっていないが、スメラギはその中でも上から3番目という序列を保持している。

 

 比類ない魔法の使い手や並々ならぬ操縦センスを持つMEMAのパイロットなどはアルヴィアスにいくらでもいるが、その中でも、若くして第3位という称号を与えられているのは、スメラギ自身の優れた身体能力や戦闘のセンスだけでなく、APRILの存在も確かにあった。

 

 まぁそれはさておき。

 

 現状として、スメラギはその称号のおかげでマリン達に密かな恩返しをすることができたものの、同時にこの称号のせいで要らない注目を浴びてしまっていた。

 

 スメラギは早々にこの場を去り野次馬どもからの脱走を試みるつもりだったが、忘れていたことがあった。『あの』件についてだ。

 

「あっ…と、そういえば、他世界との連絡はつくかい?」

 

 目で急ぐように何となく伝えつつ、受付にそう尋ねる。

 

「他世界とですか。それが実は…全ての世界と連絡がつかなくって」

 

「全ての世界と?」

 

 以前いた世界から起きていた現象。異世界へ往来するどころか、連絡すら不可能になっているのだ。

 

「どうやら世界を覆うように結界が張られているらしくて、それが「回廊」を閉ざしているようです」

 

「結界を破る方法はないのかい?」

 

「その結界についてなんですけど、どうやら科学でも魔法でも説明がつかないらしいです」

 

「科学でも魔法でもない…。神々の秩序ってことか…?」

 

「今のところ、アルヴィアスはそう判断しています。ただ、天界と連絡が取れなくてこれ以上のことはちょっと…」

 

「分かった。ありがとう」

 

(前の世界と同じ…進展は無しか)

 

 これがゼノクロスと関係があるかは分からない。だが異世界から救援が期待できないというのは、苦しい状況でもあった。何せ、相手は世界を滅ぼす程の相手なのだから。

 

 それにしても、実質この世界はヒステラルムから孤立しているというのに、アルヴィアス支部の中はあまり慌ただしい様子も無く、平常運転だった。この世界はターミナル02、03両方から離れている辺境にあり、来訪者がほとんどいないからかもしれない。

 

 スメラギはそこまで聞くと、急いでアルヴィアスのビルから出た。

 

 

 

 世界を覆う結界について、解決の糸口は結局見つからなかった。アルヴィアスが調べてあれだけしか分からないのだから、自分だけで解決できるとは思えなかった。

 

 

 

 結局のところ、諸々のことはゼノクロスを倒してから。優先順位はそうならざるを得なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──アイゼオン、都市境。

 

 

 

 街というよりかは、ほぼ村。畑以外は数軒の家と、あとはただっ広い平原が地平線の向こうまで伸びるのどかな風景に、一台のジープが置かれていた。そこには屈強な男が数人と、2人の可憐な少女がいる。

 

「さて、あの男を……どうやって探そっか?」

 

 騎士のような容姿をした豊満な胸を二つ携えた少女──白銀ノエルはそう尋ねた。

 

 あの男、というのは依頼主のアンドロイドのことだ。

 

 現時点でノエル達は、依頼の討伐対象であったスメラギ・カランコエを白、つまり『スターク』ではない──かなりグレーだが──と判断している。元々この依頼に何か裏があることを感じていたノエルは、「依頼の不成立」をもって依頼主を追い、問い詰めようとしているのだ。

 

「アイツと会ったあのビルに行ってみようよ。何か足取りが掴めるかもしれない」

 

 そう答えたのは、コートをだらしなく羽織っているライオン耳の少女──獅白ぼたんだ。

 

「でもよ、その依頼主が俺たちを嵌めようとしてるって可能性はないのか?」

 

 つまり、対象が『スターク』ではないことを知っていながら、ノエル達に討伐を依頼し、逆にノエル達を警察に突き出す。そういう可能性もないわけではなかった。

 

 しかし、プラチナブロンドの髪色をした、どこかインテリの印象を与える男──シェラードは即座に否定した。

 

「それはないでしょう。嵌るなら、我々がスメラギ・カランコエと戦っている最中にするはず。我々が騙されたと気づいてから警察を動かすのでは遅い。逆に自分が逮捕される危険性もありますからね」

 

「じゃあ、私たちは依頼主を追いかけることだけ集中してればいいってこと?」

 

「あまり時間をかけることもできませんが」

 

 ノエルの言葉にシェラードは肯定する。

 

「じゃあ行きましょうよ、団長。そのビルに」

 

 

 

 

 

「キース、どう? まだいる?」

 

「んー…熱も二酸化炭素も出さないアンドロイドを探知するのは難しいけど…多分いないと思うっす」

 

 万が一襲撃されるだろうと想定して警戒していたが、どうやら杞憂だったようだ。

 

 ノエル達は廃ビルの中へ進み、依頼を請けた部屋へ辿り着く。

 

「一見何も無さそうだけど…」

 

「こういうのは手っ取り早く〈映像時間操作(リバイド)〉を使ったらいいんだよ」

 

 ノエルの提案を受け、キースは〈映像時間操作(リバイド)〉を使う。

 

 

 

 余談だが、キースは元は警察官だった。犯人捜索のための様々な魔法を使うことができ、同僚の中でも特に有望視されている存在だったが、とある事故がきっかけで退職し、それから数年して白銀騎士団と出会い今に至っている。

 

 

 

 〈映像時間操作(リバイド)〉によって、およそ数時間前のこの部屋の映像が映し出される。ちょうど、ノエルとぼたんが部屋を去った直後だ。

 

「おい、壁からなんか出てきたぞ!?」

 

『回りくどい事をするわね、ヘーミッシュ。私達だけで殺してしまえばいいのに』

 

 何もない壁から1人の女がぬっと現れた。

 

「仲間がいたようですね」

 

『奴は弱い。だが、力だけは強い。前の個体は愚直に奴のみを狙った為に敗れた。故に俺たちは策を講じる必要がある』

 

「前の個体…やっぱり、何か裏がある。コイツらは以前からスメラギ・カランコエを狙っていたんだ」

 

 と、映像の男──ヘーミッシュはホログラムを映し出す。

 

「! キース、止めてください」

 

 それは、30人ほどの少女の写真と、簡単なデータだった。

 

「アレ…! 団長とぼたんちゃんだぞ⁉︎」

 

「私たちの他にも何人もいる…。知らない子ばかり…」

 

「何だこりゃ。美人ブロマイドか?」

 

「これは…所在地に所属? 何の為に?」

 

「キースくん、進めて」

 

 ノエルに言われ、キースは再生を続ける。

 

『戦闘員は…20人か。その全てを回収できないとしても、この中の半数以上が戦力になると仮定すると、充分ではあるか』

 

『対象が彼女達を殺す可能性は?』

 

『これまでの行動から、その可能性は限りなく低い。作戦の成功確率は高い』

 

 

 

「戦闘員…どういうことだろ」

 

「スメラギ・カランコエに対する戦力でしょうか。しかし、彼1人にこれほどの人数を用意するとは…」

 

 ここで、いくつものホログラムの中から二つの写真がピックアップされる。

 

「私とノエルだ」

 

『まずはこいつらだ。どうせ依頼は失敗するだろうが、それは構わん。それよりも、どちらか、あるいはどちらともが俺を追うことになるだろう。そうしたら次のフェーズだ。頼むぞ、マーシェ』

 

 

 

「なーんか私たちの行動、読まれてない?」

 

 ヘーミッシュとマーシェ──と呼ばれた女アンドロイドは、ここで部屋を去っている。<映像時間操作(リバイド)>を止め、ノエルは不機嫌そうに呟いた。

 

「だけど今回の依頼、俺たちを捕まえる罠である可能性は無くなったっすね」

 

「とは言え狙いが掴めませんね。我々にこのヘーミッシュを追わせることが、彼自身に何の利があるのでしょうか」

 

「でも、何も分からないわけじゃない。コイツらの目的は多分、スメラギを殺すこと。そしてその為に私たちを集めること、だね」

 

 ぼたんは簡潔に、彼らの会話をまとめる。

 

「しかしですよ、何であのリストの子たちなんすかね。しかも団長もぼたんちゃんも入ってるし」

 

 さらに気がかりなのは、あのリストの全員が戦闘員ではないことだ。中には学生も混じっている。戦力を集めて殺害することが目的ならば、一般人など真っ先にリストから除外されるべき存在のはずだ。

 

「うーん…なんだろうね。結局、本人に問い質さないと分からないってこと?」

 

 ノエルは首を傾げ、形のいい柔らかな頬を人差し指で支えつつ、そう呟く。

 

「そうなりますね。しかし、マーシェというアンドロイドも気になります。彼女はヘーミッシュとは別行動を取っているようですから」

 

「じゃあ、ヘーミッシュを追う組と、マーシェを追う組で分かれた方がいいね」

 

「私とぼたんちゃんでヘーミッシュを追うよ。後のみんなはマーシェを追うってことで。いいかな、みんな?」

 

「私は構わないよ」

 

「団長の仰せの通りに」

 

「団長がそう言うんなら従うけどよ、2人で大丈夫なのか?」

 

「だいじょーぶだいじょーぶ! 私たちなら何とかなるさ!」

 

 ノエルはグッと腕に力を入れ、上腕二頭筋を見せつける。

 

 が、

 

「それに、あえてヘーミッシュの言う通りにして出方を窺う…もあるよね?」

 

 ぼたんの言葉に、ノエルはぎくっとする。

 

「あう、バレてたか…」

 

 それを聞いて、シェラードはあまりいい顔をしなかった。

 

「あまり無茶はしてくださるな、団長。貴女をしてこの白銀騎士団があるのですから」

 

「心配性だなぁシェラードくん。もしもの時なんて起こらないように気をつけるよ」

 

「お心遣い、感謝致します」

 

 

 

「ヘーミッシュは魔界に行くっぽい」

 

 〈映像時間操作(リバイド)〉を辿って行くと、ヘーミッシュは魔界と人間界の境界へ、マーシェは人間界の都市部へそれぞれ進んでいった。

 

「私たちは列車で行った方がいいね」

 

 魔界へ行くには徒歩や自動車などといった陸路か、空中を走る列車の2つの手段があるが、もっぱら利用されるのは空路の方だ。

 

 陸路の方はというと、物資の輸送などが主要だが、その際に貨物の中に忍び込み、密航する者もいた。恐らくヘーミッシュはその方法で魔界へ入っていったのだろう。

 

「あ、そうそう。みんな、一つお願いがあるんだけどいいかな」

 

 と、唐突にノエルは切り出す。

 

「いかがされました?」

 

「あのね、私たちの目的はもちろんヘーミッシュとマーシェの捜索なんだけど、道中で()()()()()に会ったら、できるだけ保護してもらいたいんだ。アイツらの狙いはリストにあった子たちを集めること。その為には手段を選ばないかもしれない。だから、その時に備えて対策しておいて欲しいんだ」

 

 確かに、相手をよく知らない以上、どの程度なら実行に移さないか、どのような手段を用いるかというのは確証がない。狙いを知っているのならば、対策はするべきだ。

 

「御意」

 

「そういう事なら全然。やるだけやってやりますよ」

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 気を取り直して。

 

 大破した十万隊長(ミーレ・センチュリオン)のデータを工廠に渡したことで、アルヴィアスでの諸々の用事は終わった。

 

 次はノエル達を追い、その依頼主について聞き出さねばならない。

 

 さっきの野次馬たちに白銀騎士団について尋ねようかとも思ったが、それはすぐに誤りだと気づいた。無闇に情報を拡散させ、彼らに今回の件が知られてしまったら、ノエル達は違法な依頼を請けた事で逮捕されてしまうかもしれない。()()()()()()()()

 

 だから、他の方法で探る必要があった。

 

「しかし、どうしたものかなぁ…」

 

『衛星の映像から分析してみます。少しお時間を要しますが、それまでくつろいでいてください。』

 

「え、APRIL?」

 

 APRILはそう言うと、スリープモードに移行し、それきり黙り込んでしまった。

 

「…じゃあ用事を済ませておくか」

 

 

 

 スメラギがE-ロッカーステーションに登録し、予備のナノマシンなどを保管していたところで、デバイスがヴヴヴッと震えた。

 

『解析完了しました。ノエルさん達は二手に分かれているようです。』

 

「別行動を取っているのか」

 

『ノエルさん、ぼたんさんは魔界へ。他の白銀騎士団の団員は他の都市へ移動しています。』

 

(どっちが依頼主に向かっている…?)

 

 少し考えた末、こう結論づけた。

 

「ノエル達のいる方へ行こう。多分、そっちに依頼主がいると思う」




どうしてもスメラギとノエル達が魔界へ向かう所までは書きたい!という鋼の意志を発揮していたらいつのまにか1話並みに長くなってしまいました。でも更新が遅いのは長いからではないんですよね()
ところで、次回からは魔界編。魔界と言えば、あの子やこの子も出てきますね!僕も楽しみ!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

13話 嵐の前の静けさ

3期生ライブの実地抽選は見事に2回とも外れ、いや外しました。運があと1万くらいあれば当てられたよ、あれは。


 魔界。いかにも邪悪な名前だが、実際は魔物ひしめく暗黒の地でも、悪虐非道の魔王が支配する世紀末でもない。

 

 魔界は大気中の魔力──マナの濃度が人間界より高く、その影響で独自の生態系が形成されている。魔力によって変容した異形の生物──魔物を始め、高いマナ濃度に適応した種族──魔族がその代表だ。それ以外は、魔法が発展している為に機械は少ないものの、都市部では高層ビルや自動車などの現代的なものがちらほら見られ、音楽やゲームなどの文化も存在するなど、人間界とそれほど変わりはない。

 

 

 

 

 

「いや〜、いつ来てもここのマナの濃さには慣れないな」

 

「そう? 力がみなぎってきて、なんか良い感じ!」

 

 そんな訳でノエルとぼたんは魔界にやって来た。その目的は、自分たちに『スターク』の討伐という偽の依頼を請けさせたヘーミッシュという男の追及だ。

 

「ちょっとー勢い余って変にもの壊さないでよ、団長さん?」

 

「もちもち。いくら脳筋系騎士だからといってそんなヘマは…あ」

 

 と、ノエルは駅の出口で突然立ち止まる。

 

「どしたの?」

 

「そういえば〈映像時間操作(リバイド)〉使えないとヘーミッシュの追跡無理だよね」

 

「まぁ難しいかも。…もしかしてノエル、使えない?」

 

「私、強化魔法以外苦手で…」

 

 何故キースではなく自分を連れて来たのか。ぼたんは一瞬そんなことを考えるが、なったものは仕方ない。

 

「あちゃあ。まぁ大丈夫。〈追憶(エヴィ)〉なら使えるから、それで地道にやっていこう」

 

 

 

 それから1時間ほど経った後。

 

「さて、ここからどうしようか…」

 

 スメラギも魔界に着き、列車を降りる。魔界へ向かう前からそうだったが、ノエルを追うと決めたものの、手段については全く無策であることに我ながら情けなく思ってしまう。魔法を使えない身としては、〈映像時間操作(リバイド)〉や〈風波(シュア)〉がどれだけ便利な魔法かよく分かる。

 

『ところで、何故彼女たちは別行動をしているのでしょうか。』

 

 スメラギのサポートAI──APRILはそんなことを尋ねる。

 

「単に仕事が終わって解散…という訳ではなさそうだね。何か目的がある?」

 

『マスターの正体を本当に知っていたのなら、あの時逃がすようなことはしなかったでしょう。』

 

「ということは、ノエル達は確証がなかった?」

 

『そう考えるのが妥当かと。』

 

「じゃあ、ノエル達はその証拠を掴むために魔界へ来たのか…」

 

『あるいは依頼主を追っているとも推測できます。』

 

 しかし危ない橋を渡るものだ。『スターク』かどうかも分からない、依頼主の情報の真偽も怪しいのに依頼を請けるとは。逆に言えばそれだけ『スターク』というのは世界にとって脅威であるとも言えるのかもしれない。

 

 そう、APRILと推理しているところだった。

 

 駅を出て広場にさしかかった時、

 

「やぁスメラギ・カランコエ。()()()()()()

 

「?」

 

 ふいに横から声をかけられた。見ると、自分と同じくらいの背丈の男がいた。見覚えはなかった。

 

「えぇ…と、どこかで会ったかな?」

 

「おや、()()()()()()お互いに命をかけて戦っていたというのに、薄情者だな。それとも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「ッ!」

 

 スメラギは飛び退き、臨戦体勢を取る。

 

 いきなりの本命。今、ノエルとぼたんに会っていないのが幸いだった。

 

(やはりあの狙撃手はぼたん…! こうも偶然が重なるなんて…!)

 

「君が彼女たちをけしかけたのか。何故そんなことをッ!」

 

「さてな。だが俺の使命が『お前の殺害』だというのはお前がよく知っているはずだ。俺が親切にもかつての仲間に会わせてやるとでも考えていたか?」

 

 男──ヘーミッシュは腕にブレードを構築し、同じく臨戦体勢を取る。

 

「ッ、君には聞きたいことが沢山あるんだ。少し大人しくしててもらう!」

 

「ハハハ! 少し遊ぶとしようか!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──都市ベルナバイド。

 

 魔界最大規模の都市であるこの街には、魔界唯一の教育機関「魔界学校」がある。ベルナバイドは都市の半分ほどがこの魔界学校に関する設備であり、なおかつ人口の約6割がその生徒という大規模な学園都市だ。

 

 魔界学校では、様々な分野の人材が育成されており、実際、魔界で活躍している著名人の多くが魔界学校出身である。マンモス校であると同時にエリート校でもあるこの学校の生徒は、街で多くの役割を担っている。土木・建築、あるいは農業・畜産業といった第一次・二次産業の手伝いから新たな街づくりの提案、そして都市の防衛まで。

 

 

 

「ねぇ〜あやめちゃん」

 

 魔界学校、生徒会室。

 

「なんだ? せっかく来てくれたところ悪いが、余は忙しいのだ。まったく! テロリストだとぉ⁉︎破滅派だか何だか知らぬが、そんな危なっかしいものにうちの生徒を向かわせられるか!」

 

「部屋にあったドーナツ食べちゃった」

 

「はぁ!? アレは余が大切にとっておいた…!!」

 

 あやめと呼ばれた頭にツノを2本生やした少女は思わず椅子から立ち上がり憤慨するが、もう1人の黒い三角帽を被ったいかにも魔法少女っぽい少女は意に介さず続ける。

 

「ここんとこ働き詰めじゃん。そんなにあくせくしてたら他の子も休めないよ?」

 

「…余は生徒会長だ。学校のトップとしてやらねばならぬことは沢山ある。あまり休んでなどいられん。それに、副会長には下の者に休みを徹底するよう伝えてある」

 

「あたしが心配してるのはあやめちゃんだよ。もう少し他の人に頼ればいいのに」

 

「むう、分かってはいるが…」

 

「ほら、ここにちょうど暇な人が1人いるよ?」

 

「シオンはここの生徒ではないだろう!」

 

「別にいいじゃーん。みんな私のこと知ってるし。るしあちゃんとか「シオン先輩」って呼んでくれるんだよ?」

 

「そういう問題ではない! …だが」

 

「ん?」

 

「お陰で元気が出たぞ。ありがとう、シオン」

 

「え、そ、そういうつもりじゃなかったんだけどな…」

 

 あやめの素直な思いを受け、魔法少女──シオンはつい照れてしまう。一瞬和んだ空気は、だがすぐに緊張する。

 

 遠くから爆音が響いたのだ。

 

「!」

 

「な、なに!?」

 

 2人は部屋の窓から音のした方を見る。

 

「アレって…まさか…っ⁉︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やはり力だけでは勝てない、か」

 

「君が僕に勝てるはずない。()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 スメラギはひざまずくヘーミッシュを見下ろす。スメラギには傷一つ付いていない。

 

 一方でヘーミッシュは全身の傷から青い液体──ブルーブラッドを垂らしながらも、それでもニヤリと笑う。

 

「俺はこのまま遊んでいてもいいのだがな。お前の方はいいのか?」

 

「…どういう意味だ?」

 

 意味深な発言に、スメラギは眉をひそめる。

 

「分からないか? ()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そう言われ、スメラギは周りを見渡す。

 

 この大通りをまっすぐ行けば、魔界の中でも最大の都市に着く。本来ならこの辺りは魔族と人間で賑わっているはずだというのに、人っこ1人いない。

 

「もしや都市の方で何かあったのかもな? そう例えば…魔物が大量に現れた、とか。かはは!」

 

「!」

 

 スメラギはヘーミッシュが次の行動を起こすより早くニードルレイで頭部を撃ち抜き、ヘーミッシュを破壊する。そして、スラスターを全開で噴かし都市へ急行した──

 

 

 

 

 

 数刻前──

 

 ノエル達も異常に気付いていた。

 

「ねぇ、なんか人少なくない?」

 

「あー言われてみれば」

 

 2人は今ベルナバイドの入り口の近くまで来ている。流石に見知らぬ通行人に〈追憶(エヴィ)〉をかけるのはどうかと思い、草花や動物にかけ、件の人物──正確にはアンドロイド──を追っているのだが、街に近づくにつれ本来増えるはずの人の数が減っている。

 

「今日なんかあったっけ?」

 

「さぁ…って横から魔物が」

 

「ぅえっ⁉︎」

 

 突然の言葉にノエルは思わず変な声が出る。その間にぼたんは構わず腰のホルダーからハンドガンを取り出し、ノエルごしに魔物に対して弾丸を放つ。

 

 ダン‼︎ダン‼︎ダン‼︎

 

 ノエルの左側方から襲いかかって来た魔物の頭に正確に3発、銃弾を撃ち込み、ぼたんは魔物を撃破する。

 

「え〜ん、何でこんなところに魔物がいるのさ〜!」

 

「…ちょっとまずいかも」

 

 悪い予感がして、ぼたんは専用デバイスでE-ロッカーステーションからスナイパーライフルを電送する。

 

「どういうこと?」

 

「人通りが少ないこと、こんな街の近くに魔物が現れること。無関係なはずがない」

 

「…つまり、えーと……ま、街に魔物が…⁉︎」

 

「かもしれない。急ごう」

 

 2人は〈飛行(フレス)〉でベルナバイドへ急行する。

 

 

 

 そこには。

 

 

 

 

 

 

 

「ギエアアアアアアアアアッッッッ!!!!!!」

 

「陣形を崩すな! 〈攻囲秩序法陣(アルネスト)〉を維持しろ!」

 

「〈獄炎殲滅砲(ジオ・グレイズ)〉じゃ火力が足りねぇ! 〈剛弾爆火大砲(ヴェイロボズム)〉を使え!」

 

「人手が足らん! F3地区から何人か寄越せないか!?」

 

 目に映るもの全てを滅ぼさんと溢れ返る無数の魔物と破壊されていく街並みが、ノエルとぼたんの視界を埋め尽くした。




ヘーミッシュあっためた割には弱ぇな!いや、スメラギが強すぎるだけです。多分。

前回魔物とモンスターの表記についてアレコレ言ってましたが、なんか魔物のままでいけそうです。予断は許さない状況ですが。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

14話 魔物暴走

 スメラギは襲ってくる魔物を撃破しつつ、街中を駆ける。

 

 基本的に魔物は、自分より強いと判断した敵には襲ってこない。にも関わらず、スメラギを見つけた途端襲いかかって来た。どうやら、視界に入ったヒトを手当たり次第襲っているようだ。

 

 だから、これは明らかに異常なことだった。

 

 

 

「アルヴィアスだ! 状況は!?」

 

 同じく街で魔物と戦っている魔族の1人に声を掛けた。

 

「傭兵か! 街の南西から魔物が来てる! 援護に向かってくれ」

 

「分かった!」

 

「あぁ、それとこのチャンネルを使うと良い。戦況を見れる」

 

 彼が教えた回線に接続すると、デバイスにベルナバイドの詳細な地図や現在の戦況などがアップロードされた。

 

『ダウンロード完了。…マッピング完了。まずはP7地区に向かうことを提案します。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場数を踏んでいるだけあって、混乱した戦況においても、ノエルとぼたんは素早く自身の目標地点を定めていた。

 

「私たちはS4地区に行こう。前衛は任せて」

 

「おけ。私は上から狙撃するよ」

 

 短くそう言うと、2人はすぐに〈飛行(フレス)〉で目的地まで向かった。

 

「それにしても、何で突然魔物が街に…」

 

「さぁ…でも明らかに普通じゃない。魔物が街に入ってくるなんて」

 

「何か原因があるってこと?」

 

「かもしれない。単に街を襲いたかったのか、それとも別の目的があるのか…」

 

 そこまでは分からなかった。だが、何かしら裏があるのは間違いない。

 

 2人は何となく、そう確信していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 P7地区、その次にR5地区と来て、現在スメラギはS4地区に向かっている。

 

 スメラギが各地区を転々としているのは、救援に向かっているだけでなく、ノエルとぼたんを探すためでもあった。

 

 彼女たちが魔界に来ているのなら、この危機を無視するはずがない。

 

2()()()()()()()()()()スメラギは、そう確信していた。

 

 そして、それは的中した。

 

「見つけた! 獅白ぼたん!」

 

「げっ…! スメラギ・カランコエじゃん…」

 

「君たちに危害は加えるつもりはないよ。それより、ここは大丈夫かい?」

 

 そう言うと、ぼたんは少し警戒を解く。

 

「見ての通り。さすが魔界だね。個々の戦力が人間の比じゃない。もう盛り返してるよ」

 

 ぼたんの言う通り、APRILが投影したホログラムには、防衛軍が徐々に魔物を追い詰めている様子が見て取れた。

 

「とりあえず、この魔物の襲撃をどうにかする気があるんなら、うちの相棒と合流してよ。そっちの方が盤面を維持しやすい」

 

「ノエルと?」

 

「そ。というか私たちのこと、調べてたんだね。もしかして捕まえるつもりで追ってたの?」

 

 ぼたんは冗談めかして言う。だが目は笑っていなかった。

 

「…まさか。君たちの依頼主を知るために調べただけさ」

 

 対するスメラギは心で汗を拭きながらそう答えた。もちろん別の意味で、だ。

 

「それより、彼女はどこに?」

 

「散歩でもしてなければここら辺にいるはず。まぁ…あの子は嫌がると思うけど」

 

 ぼたんはデバイスでノエルのいるであろう場所をマーキングする。

 

『目標地点、設定しました。』

 

「じゃあ、また後で」

 

「…後で?」

 

「言っただろう。君たちには依頼主のことを聞きたいんだって」

 

 スメラギはそう言い、ビルの屋上から飛び降り、ノエルのいる所へ向かう。

 

「はぁ…厄介なやつに出くわしちゃったな。一応、ノエルに連絡入れとくか…」

 

 

 

 

 

「スメラギが…!?」

 

『分かってるとは思うけど、攻撃しないでね。団長さん』

 

「…分かった。殺さないでおく…」

 

「ちょっと、頼むよ? 本当に」

 

 一瞬、復讐に来たのかと思ったが、そんな事はないようで、単にこの魔物の襲撃を止めに来ただけらしい。

 

 しかし、ノエルの心中は穏やかではなかった。一度刃を交えた相手と共闘しろだなんて! 

 

 それに、あの時はああ判断したが、彼が『スターク』じゃないなんて言い切れない。本当なら、続きをやりたいところだったが、ぼたんに釘を刺されてしまったから抑えざるを得ない。

 

 悶々としながら、魔物を叩きのめしていると、横から襲いかかってきた魔物が上空からの光線で蒸発した。

 

「…ちょっと。キミに助けてもらいたいなんて言ってないんだけど」

 

「あはは…。元気そうで何よりだよ…」

 

 スメラギが地面に降りると、ノエルはずかずかと彼の方へ歩いていき、さらに文句を言う。

 

「それに! あんな敵、私1人で倒せたんですけど!」

 

「い、いや、君、あの魔物に注意向いてなかったし…」

 

「何か言った⁉︎」

 

『ちょっとちょっと、ケンカしてる暇あったら魔物倒してよ、2人とも。狙撃(わたし)だけじゃ効率悪いって』

 

「むう…!」

 

 と、そこへぼたんが通信で仲裁に入る。それで少し頭が冷えたノエルは、さっさと魔物の方へ行ってしまった。

 

「そ、そういえば…他はどうなんだい? かなり安定してきたようだけど」

 

『そうだね…大体はギリギリ何とかなってるかな〜…っと1つ、S8地区。魔界学校のところだ。学生が防衛に出てるっぽいけど、ちょっと押され気味』

 

「学生が…!」

 

「スメラギ、行くよ!」

 

 その話を聞き、ノエルはすぐに〈飛行(フレス)〉で飛んで行き、続けてぼたんも目標の地区へ向かっていくのが見えた。学生と聞き、一刻も早く助けに行くべきと考えたのかもしれないが、スメラギに先を越されたくないという思いもあったのかもしれない。スメラギはそう推量し、苦笑するが、前者についてはスメラギも同じ気持ちだ。スラスターを噴かし、スメラギはノエル達と共に魔界学校へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 街を襲う魔物は小型が主だが、大型の魔物も少なくない。その為、大型の魔物のいる地区に戦力を集中せざるを得なくなり、必然的に人手は不足していた。

 

「あやめちゃん、こっちにもっと人増やせないの!?」

 

 魔界学校の生徒であり、あやめの先輩でもあるヴァンパイアの女生徒──夜空メルは、あやめにそう尋ねる。

 

「無理だ! どこも手一杯で余たちに割ける戦力がない!」

 

 が、あやめは愛刀──妖刀羅刹(ようとうらせつ)で魔物を両断しながら、そう答える。

 

 その横でシオンが〈魔黒雷鉄槌(ジラズ・ノア)〉を放ち、柱の如き極太の雷撃で一度に数十匹の魔物を消し炭にする。

 

「ねぇちょこ先。アレ使っていい?」

 

「アレって…<獄炎殲滅百砲(ジオ・グレイダート)>のこと? ダメよっ。街ごと滅ぼす気?」

 

「だって数が多すぎるよこれ! 〈魔黒雷鉄槌(ジラズ・ノア)〉じゃ一度にそう多くは倒せないし」

 

 そう。単純な強さならば、シオンを始め高い魔力と技術を持つ魔族が魔物程度に遅れを取るはずがない。

 

 ただ、市街地という特殊な環境が、彼らを縛り苦戦させていたのだ。

 

「シオン。私たちはここを守ってるだけでいいの。防衛軍は確実に押し返してきてる。時間が経てばこっちに救援が来るはずよ」

 

 

 

 生徒会長であるあやめは、保健医の癒月ちょこ、生徒の夜空メル、紫咲シオン、潤羽るしあと共に魔物と戦っている。

 

 魔界学校には、彼女たちより強い生徒などいくらでもいたが、前衛、撹乱、後方支援といった要素のバランス、そして何より彼女たちの仲の良さから生まれる優れた連携はこの5人でしか実現できず、それが故に彼女たちは魔界学校一のパーティと称されていた。

 

 実際、数的には圧倒的に不利であったが、幾度となく襲ってくる魔物の波を何度も食い止めていた。しかし、倒しても倒しても無限に現れるモンスターに、少しずつだが押されている。

 

 

 

 そうは言っても、こうも相手の物量が多くては防衛ラインが突破されてしまうのは時間の問題だった。

 

「るしあのネクロマンスで魔物を操っていますが…流石に限界があるのですっ…!」

 

「他の生徒は皆、他の方面で忙しそうだね…でもそろそろメル達も…」

 

「2人とも頑張って! あたし達だけで何とか食い止めないと…!」

 

 心身共に限界を迎えようとしていた時、

 

「みんな! あれを見て!」

 

 ちょこが指さした先に、3つの点が見えた。それは徐々に大きく、形がはっきりしていき、ヒトだと分かった。

 

「救援…!」

 

 メルが思わずつぶやく。彼女たちは間に合ったのだ。

 

 

 

 

 

「いた! アレかな!?」

 

「多分そうっ。狙撃ポイントにつくから2人とも前衛よろしくー」

 

 ぼたんはノエルとスメラギから離れ、狙撃ポイントへ向かう。

 

 そして2人は魔界学校の生徒が戦っている場所へ急降下する。

 

「破砕鎚、秘奥が壱」

 

 〈飛行(フレス)〉を解き、自由落下しながらノエルは魔力を無にし、構えを取る。

 

「〈轟崩打連(ごうほうだれん)〉ッ!!!」

 

 ちょうどノエルの真下にいた金獅子に、刹那に2度、渾身の打撃を与える。金色の魔物はこの二撃をまともに食らい、瞬時に身体が粉砕された。そればかりでなく、秘奥の衝撃で周りにいた小型の魔物も同時に叩きのめされる。

 

「僕、こんなの食らってたのか…」

 

 今生きていることに本当に胸を撫で下ろしつつ、スメラギは足にバタリング・ラムを形成し、加速をつけて迅竜の頭へ突撃する。まさに飛びかかって、生徒たちに襲い掛かろうとしていた迅竜は、脳天に予想外の一撃をお見舞いされ、力なく地面に落ちる。

 

「大丈夫かっ!?」

 

「ありがとう人間様…! えっと…」

 

「僕たちは傭兵だ。僕はスメラギで、こっちはノエル。あと、少し離れたところにもう1人ぼたんという子がいる。なんとか間に合ってよかったよ」

 

 礼を言うあやめに、スメラギは自己紹介をする。

 

「スメラギ…?」

 

 生徒の1人、るしあはスメラギの名前を反芻する。

 

 聞き覚えがある。いや、無いはずなのに、何故か懐かしさと、そして悲しさを感じる。初めて会うはずなのになぜ…

 

「今のところ、学校の他の区域は大丈夫そう。ここが設備的に1番弱いところだから、魔物が集中しているんだと思うの」

 

「ベルナバイドの他の地区も押し返して来てる。後はここさえどうにかすれば襲撃は抑え込めるはずだ」

 

 

 

 状況説明をするちょことスメラギの声で、るしあは我に帰る。まだ戦いは終わっていないのだ。この違和感を問い正すのは今じゃない。

 

 そう思い直し、るしあは新たに加わったスメラギ達とともに魔物の群れへ立ち向かった──




るしあの感じた違和感の正体は果たして…


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

15話 終息、新たな陰謀

「妖刀羅刹、秘奥が壱…」

 

「〈白南風(しらはえ)〉ッ!」

 

「わっ、魔界学校の生徒って強いなぁ。私も負けてらんない!」

 

 あやめが神速の一撃で同時に2体の大型魔物を上下に両断するのを見て、ノエルが奮起する。

 

「破砕鎚、秘奥が弐」

 

 目の前の魔物が鋭い爪をノエルに振り下ろすが、ノエルはメイスでそれをいなし、回転を加えつつ魔物の土手っ腹に一撃を叩き込む。

 

「〈衝流撃破(しょうりゅうげきは)〉!」

 

 桁外れの膂力から繰り出される攻撃は魔物のあばら骨を容易に砕き、さらに衝撃が身体中でのたうち回って内から破壊していく。

 

 スメラギ、ノエル、ぼたんが加わった事で、この地区も劇的に盛り返して来た。攻勢とまではいかないが、それでも確実に魔物の数は減っていっている。

 

 しばらくして、

 

『S8地区! 魔校の生徒! 魔法障壁を街全体に張った! 後はお前達だけだ。一気にやっちまえっ‼︎』

 

 他の地区で戦っていた魔族から〈思念通信(リークス)〉が届いた。どうやら他の地区は大体片付いたようだ。

 

「! …よーし、魔力が切れないうちにやっちゃうか…!」

 

 シオンはそう呟くと、〈思念領域(リクノス)〉でベルナバイド中の魔族に伝える。

 

「みんな、空へ飛んで!!」

 

「え? 何で?」

 

 メイスを振り下ろし、魔物を地面に陥没させながら、ノエルはあっけらかんとした様子で訊ねる。

 

「アレをやるのね…。傭兵の方々も、消し炭になりたくなかったらとにかく空へ逃げて!」

 

 そうして、全ての魔族とスメラギ達が空へ飛ぶと、

 

「〈獄炎殲滅百砲(ジオ・グレイダート)〉ッッッ!!!!」

 

 100門の〈獄炎殲滅砲(ジオ・グレイズ)』が集束し、1つの巨大な魔法陣が構築される。シオンはその砲門を地面に向け、目を灼くほどの光を放つ漆黒の炎を照射する。黒炎は地面を走り、ベルナバイド中の魔物を瞬時に消し炭にしていく。

 

「うわ、魔法障壁が軋んでる。威力高すぎでしょ」

 

 ぼたんの言う通り、建物に張られた魔法障壁が、漆黒の炎に晒されギシギシと悲鳴を上げている。魔法障壁が無ければ、ベルナバイドは一瞬にして魔物ごと消し飛んでいただろう。

 

 

 

 〈獄炎殲滅百砲(ジオ・グレイダート)〉の照射が終わると、辺りに魔物の姿はもう見えなかった。

 

『ベルナバイドに侵入した魔物は全て撃滅しました。防衛成功です、マスター。』

 

 APRILのその報告を聞き、スメラギはふっと肩の力を抜く。

 

「ふぅ、何とかなったね〜」

 

「もうちょっと持久戦続いてたら危なかったな〜。弾、あれだけ持ってきたのにけっこうギリギリだったよ」

 

 と、そこへ後方支援をしていたぼたんが戻ってきた。ノエルもぼたんも無事なようだ。

 

「うげぇ…もう動けない…。ちょこ先助けてぇ〜」

 

「あらあら、よく頑張ったわね。保健室、行きましょうか」

 

 〈獄炎殲滅百砲(ジオ・グレイダート)〉の行使でシオンの魔力はすっかり空になり、その場で倒れてしまう。そんなシオンを、ちょこは介抱し、校舎へと連れて行った。

 

「最初からこうしてれば良かったのに…」

 

「敵が多すぎて障壁を張る余裕がなかったんだよ。突然の事だったしね」

 

「…さて」

 

 刀を納め、あやめはスメラギ達の元へ近づいていく。

 

「助かったぞ、人間様たち。余はこの魔界学校の生徒会長を務める百鬼あやめだ」

 

「いえいえ。私、白銀騎士団団長の白銀ノエルです! よろしくね」

 

「私は獅白ぼたん。フリーの傭兵だけど、今はノエルと一緒に行動してる」

 

「改めて…僕はスメラギ。アルヴィアスで傭兵をやっているよ」

 

 それぞれ自己紹介を済ますと、

 

「疲れただろう、傭兵様。窮地を助けてくれた礼に、校舎(ここ)で休んでいってくれ。少しウチの生徒がやかましいかも知らんが、そこは多めに見てやってほしい」

 

 あやめがそう提案してきた。確かに、スメラギはギエルデルタを出てからちゃんとした休息はほとんど取っていない。少しでも身体を休めたいという気持ちはあるが、

 

「それはありがたいけど…」

 

「何で魔物が街に襲ってきたんだろう。魔物は人のいる所には近付かないはずじゃ…」

 

 と、ノエルが訊ねる。どうやらノエルも同じことを思っていたようだ。

 

「うむ、やはりそれが気になるか…。では先に、余に着いてきてもらおうか。余はこれから元老院とその事について協議するのだ。会議が終わったら傭兵様にいち早く伝えよう」

 

 ノエルの言葉を受け、あやめは3人を校舎へ案内していく。

 

 と、ぼたんがノエルの耳にそっと囁く。

 

「ノエル」

 

「うん、分かってる。()()()()だ」

 

 

 

 

 

「あっ…」

 

 遠ざかっていくスメラギに、るしあは手を伸ばそうとするが、すぐに引っ込める。

 

「るしあちゃん? 早く教室に戻ろ。先生たち、心配してるよ?」

 

「あ、はい、メル先輩。すぐ行きます…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あやめが会議室で元老院と会議している間、スメラギ達は隣の生徒会室で待つ事になった。のだが。

 

「……」

 

「……」

 

(き、気まずい…)

 

 話しかけてくるな、と言わんばかりの雰囲気を醸し出し、口を真一文字に結んでいるノエルに、デバイスをポチポチと弄り続けるぼたん。空気は最悪だった。

 

「あ、そういえば」

 

 と、しばらくしてぼたんが口を開く。この空気の中でも平然としているぼたんはやはり肝が据わっている。いや、マイペースといった方がいいのかも知れないが。

 

「私たちに依頼主のこと聞くんじゃなかったの?」

 

「…その依頼主に会ったんだ」

 

「ヘーミッシュに…⁉︎」

 

 と、今まで会話を拒んでいたノエルが驚いて返す。

 

「何で依頼主だと分かったの?」

 

「自分から言っていたよ。ヘーミッシュだったか…彼は僕と戦うことが目的のようだった。そして、この魔物の襲撃も知っている素振りをしていたよ」

 

 その言葉に、ノエルは疑問を抱いた。

 

(どういうこと…? ヘーミッシュは、自分だけではスメラギを倒せないと知っていたはず。だから私たちを集めようとしていたのに…)

 

「有り得ないよ。ヘーミッシュはベルナバイド方面に向かってたし、奴を追ってる間アンタには会っていない」

 

 ぼたんは別の疑問を口にする。

 

 そう言われてみればそうだ。2人はずっと〈追憶(エヴィ)〉を使ってヘーミッシュを追い続けてきた。スメラギが自分たちを追ってきたのならば、途中でスメラギに会っていなければおかしいのだ。

 

「彼とは駅の入り口で会ったんだ。魔界行きの列車を降りてすぐ。見間違いじゃないのかい?」

 

「別人…とは思えないな。ん〜、どういう事だろ?」

 

「もしかしたら、元々魔界に同じ個体がいたのかも」

 

 と、ぼたんは自分の考えを口にする。

 

「えーと、つまり最初、魔界に1体、人間界に1体ずつヘーミッシュがいたってこと?」

 

 そうノエルが訊ねると、ぼたんは頷く。

 

「魔界に着くまで、私たちは人間界のヘーミッシュを追ってた。けど、魔界に着いてから、入れ替わったんだ。私たちは魔界にいたヘーミッシュを追い、人間界のヘーミッシュは駅でスメラギを待っていた」

 

「なるほど。そう考えれば辻褄は合うけれど…何の為に?」

 

「さぁ…アンドロイドの考える事はイマイチ…」

 

 

 

 

 

(ね、ヘーミッシュは何をしようとしてるのかな)

 

(分からない。てっきり、私たちと同じくあの子達を使ってスメラギを殺させるのかと思ってたけど…)

 

 ノエルとぼたんは〈思念通信(リークス)〉で密かに話す。

 

 ノエル達は、ヘーミッシュの目的がとあるリストの「対象」を集める事だと知っていた。だから魔物の襲撃がその「対象」を炙り出す為である事は、先程共闘した彼女らを見て何となく予想できた。

 

 しかし、ではスメラギと協力関係を結ばせるのは逆ではないか? リストに載ってた各地の「対象」達を集めるのは、自分だけでは倒せないスメラギを倒す為ではなかったのか。

 

(まだまだ分からない事だらけ…か)

 

(でも、やれる事はある。あの子達を守らなきゃ)

 

 あやめを始めとした5人の少女達。それは、ヘーミッシュのリストに載っていた「対象」でもある。

 

(うん。彼女達を、あんな奴の道具にさせちゃいけない)

 

 

 

 

 

「それで…依頼の内容は僕を殺す事だろ? なら何故彼は暗殺者じゃなく君達を選んだんだ?」

 

 それについてはうっすらと自分の中で仮説は立っている。が、それを言語化させたくはなかった。できればそうではない答えが見つかる事を願って、スメラギはそう尋ねた。

 

「さあね。何でアンタを殺せと言われたのかも分からないし、赤の他人でフリーの私達がどうして集められたのかも、聞かされてない」

 

 対してぼたんは淡白にそう返す。相手はさっきまで殺そうとしていた男だ。簡単に手の内を明かすべきではない。

 

「…ヘーミッシュは、キミのこと知ってるみたいだった。だからこそ、自分の手ではなく私達を使ったんだと思う。キミはいったい何者? 何でヘーミッシュはキミを殺そうとしたの?」

 

(何も知らない…? アレはブラフだったのか…?)

 

 しかしそれについて答える気も、増してや真相を話す気などスメラギには全くなかった。それはヘーミッシュと、その先にいる存在とを倒してしまえば不要なものだ。

 

「…なるほど。ヘーミッシュが何も知らせていないのは分かった。残念だけど、僕は彼を知らない。何故狙われているのか、全く心当たりはないよ」

 

 

 

(あやしー…)

 

(わざとでしょ。隠し事はこっちだって同じ)

 

 だからこそ、スメラギはそういう態度を取ったのだろう。

 

(今はとりあえずヘーミッシュの確保に専念しよう、ノエル)

 

(う〜…分かった)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やれやれ、『私』があともう一体いれば、単純な行動じゃなく、もっと()()()()()振る舞わせることができたのに」

 

 渦中の人物はベルナバイドがよく見える丘の上に立っていた。

 

「でもまぁ、目的は達成したし及第点ではあるかしら。では」

 

 第2フェーズが終了した。今のところスメラギは計画に気付くこともなく、順調に進んでいる。次は第3フェーズだ。

 

「『彼』を逃すとしましょうか」




尽きぬ疑問、それはいつ解明するのか…?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

16話 合流

「傭兵様、待たせたな」

 

 その時、部屋の扉がバンッ! と勢いよく開く。

 

「む、取り込み中だったかな?」

 

 生徒会室に入ってきたのは、赤い目と薄い紅のグラデーションのかかった銀髪の鬼娘──百鬼あやめだ。

 

 彼女の纏う黒を基調とした和装は肩が大きく出す上、丈が短い為に太もももよく見える造りになっており色々とアブナイ。るしあやちょこもこんな感じの服だったし、魔族は露出する事に何の抵抗もないのだろうか? 

 

「いや、大丈夫だよ。それより、どうだった?」

 

「うむ。どうやら、魔物はナノマシンで何者かに操られていたようだ。ただ、ナノマシンが注入されていたのは一部の魔物だけだったが」

 

「人為的に…でも、いくら全てではないとはいえ、あれだけの魔物を暴れさせるのは並の人間では無理だ」

 

 スメラギの言葉に、あやめは頷く。

 

「これを見てくれ」

 

 あやめは〈遠隔透視(リムネト)〉でとある映像を映し出す。

 

「あやめちゃん、これは?」

 

「魔物の大群が現れたのが街の南東部、そこから少し離れたところにある丘だ。これは襲撃が起こる数十分前の映像だ」

 

「あ、誰かいる」

 

 ぼたんが指を指す。その先、丘の上に人がいた。そして、それは手のひらから何か粒子のようなものを放射していた。

 

「うむ。何をしているかは分からんが場所が場所だからな、恐らくコイツが実行犯だろう」

 

「これ、ヘーミッシュ…?」

 

 映像をよく見ると、その人物はヘーミッシュに似ていた。

 

「やはり、ヘーミッシュは2体いたんだ…」

 

「この人物について知っているのか? 傭兵様たち」

 

 ノエルとスメラギの言葉に疑問を持ったあやめがそう訊ねる。

 

「私たち、コイツを追って魔界に来たんだ」

 

 3人はあやめにこれまでのことを説明した。

 

 ただし、依頼の話は少し濁して伝えた。あまり『スターク』の名を出すのは良くないと思ったからだ。世の中には『スターク』と疑いをかけられた人物を問答無用で殺害する者もいる。あやめもそうではないとは言い切れなかった。

 

「ふむ…ヘーミッシュというアンドロイドが魔物を暴走させたと言うのか……」

 

「あやめ?」

 

「実は、これとほぼ同時刻にベルナバイド政府に犯行声明が届いていたんだ」

 

「犯行声明? 襲撃の?」

 

「そうだ。『暗部』の中でも幅を利かせてる破滅派によるものだ」

 

 破滅派というのはその名の通り、世界を破滅しようとするテロリストのことで、彼らは市街地でのテロ行為も躊躇なく実行することで知られている。

 

 そんな連中が、わざわざ犯行声明を出すなんて不自然だ、とスメラギは思ったが、それよりも気になることがあった。

 

「ヘーミッシュはテロリストと繋がっているのか…?」

 

「それは分からん。だが、魔物以外に破滅派の攻撃はなかったようだし、犯行予告は魔物の襲撃に対するものだと考えていいだろうな」

 

 

 

「とりあえずベルナバイドと魔界学校で、犯行予告を出した破滅派を逮捕する事が決定した。だが破滅派についてはベルナバイドの警察に任せようと思う。魔界学校(余たち)はそのヘーミッシュというアンドロイドを追跡しようと思うのだが…」

 

 と、あやめは急に改まる。

 

「傭兵様たち。そいつの捜索に協力してもらえないだろうか。あなた達はあのアンドロイドについて知っている。きっと、あなた達がいれば捜索がしやすくなるだろう」

 

「もちろん。目的は同じだし、協力するよ」

 

「正直、私とノエルだけじゃ厳しいかな〜と思ってからありがたいな」

 

「なにおうっ? まぁ正論だし仕方ないんだけど…。それはそうと私も全然良いよ! 一緒にとっ捕まえよう!」

 

 あやめの申し出に、3人は快諾する。むしろ、別々に捜すより、大人数で組織的に捜した方が効率がいい。

 

 それに、とノエルは考える。

 

 本当は自分かぼたんの片方が魔界学校に留まって彼女達を守るつもりだったが、それではヘーミッシュの捜索の方が厳しくなる。むしろ捜索に同行してもらった方が、いざという時、ヘーミッシュから守ることができる。

 

「よし、決まりだな! ありがとう、傭兵様! じゃあ、早速捜索に…と行きたいところだが、少し休息を取ってからにしよう。組織だった犯行ならば、万全の準備で挑まねばならんだろうしな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな訳であやめに案内されたのは学生寮の空き部屋だ。ちなみに、しっかり男子寮と女子寮は分けられておりスメラギは前者へ、ノエルとぼたんは後者へ充てられている。

 

「ヘーミッシュは何故ベルナバイドを襲ったんだろうね」

 

 スメラギはぽつりと、天井を向いたまま話しかける。

 

 すると、ヴヴッとポケットの中からバイブ音が鳴り、抑揚のない電子音声がそれに応じた。

 

『ヘーミッシュはマスターとの戦いの直前、自分の使命はマスターの殺害だと言っていました。ヘーミッシュが犯人であるならば、今回の件もそれに準じたものであることは明白です。』

 

「けど、僕個人ではなく街を襲うなんて…」

 

「あくまで推測ですが、ヘーミッシュとの直接戦闘が、魔物襲撃への感知を遅らせる為であり、魔物の襲撃によって現れたあやめ様達とマスターを引き合わせる目的だったのではないでしょうか。』

 

 と、意外な推理をするAPRILにスメラギは、しかしふと思い出す。

 

「親切でかつての仲間に会わせている訳ではない、か…」

 

 それはヘーミッシュが言っていた言葉だ。おそらく、何か目的があってヘーミッシュはわざわざ彼女達をスメラギに接触させている。その意図は不明だが、今回の件がその一環であるのは間違いないようだった。

 

「…ヘーミッシュを破壊したのはちょっとまずかったかもしれないな…」

 

 彼を野放しにすべきではないとはいえ、撃ってしまった。しかも頭部を。胸部などを攻撃して動力を停止させれば、頭部に内蔵されているメモリから何かしら情報は入手できたかも知れなかったのに。

 

『いえ、どちらにせよ、セキュリティ対策は施してあったでしょう。我々が必要な情報を得られる可能性は低かったと思われます。』

 

「抜け道はなしか…。あくまで思い通りに進めるつもりか…」

 

 相手の計画の終着点を知っていながら、それを止めるきっかけを掴めないのは、中々に苦しい。その上、自分の意図とは反して「かつての仲間達」が徐々に集められてきているのは、精神的にストレスだった。

 

 また、アレを繰り返すのかもしれないと思うと。

 

「…いや、そうはさせない。何があっても、みんなを守ってみせる…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、魔界学校は、魔物の襲撃も終わり、生徒の無事も確認したところで今日は解散となった。

 

「やっほーるしあちゃん!」

 

「あ、メル先輩」

 

 H R(ホームルーム)が終わり、教室から出ようと席を立ったところで、メルが教室の入り口で呼んでいるのに気づいた。

 

 メルはるしあより2年先輩なのだが、入学当初から良くしてくれていて、現在でも良好な関係が続いている。

 

「一緒に寮に戻ろ〜!」

 

 授業がなく早帰りとはいっても、あんな事があってすぐだ。街中はまだ危険だということでしばらくの間、全生徒が寮に泊まることになっていた。

 

「あ…はい」

 

 メルの誘いを受け、るしあは2人で寮へ向かう。

 

「るしあちゃんどうしたの? ぼーっとして」

 

「え、いや…なんでもないのですよ、メル先輩。寮に行きましょうっ?」

 

 るしあは慌てて取り繕うが、実際HR中、あまり先生の話が頭に入ってきていなかった。

 

「…もしかして、」

 

「?」

 

「るしあちゃん、さっきの傭兵さんのこと考えてた? スメラギって人、強くてかっこよかったもんね〜」

 

「な⁉︎違うのです! るしあをそんな軽い女だと思わないでください! …そうじゃなくてっ! スメラギって、なんか聞き覚えのある名前だなぁって…。メル先輩は何か心当たりないですか?」

 

「ふーん? 私は特に何も…」

 

 メルには思い当たる節がないようで、ふるふると首を横に振る。

 

「多分、ふぁんでっどさん達から聞いたんじゃない? あの子達色んなこと話してくれるじゃん」

 

 ふぁんでっど──るしあが呼び出した死霊のことをそう呼んでいる──から聞いた名前かとるしあも思っていたが、そうではない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ん〜、なんか表現しづらいのですが、根源が覚えている…ような感じがするのです…」

 

「なんか素敵な表現だねぇ。あ、もしかして前世の記憶とかっ? るしあちゃんとスメラギさんは前世で深い関係にあった!?」

 

 と、メルは目を輝かせながら変な方向へ推察するが、

 

「転生はターミナル03の限定秩序なんだからそんな事はあり得ないのです」

 

 るしあは淡白に否定する。

 

「も〜、つまんないなぁるしあちゃんは…」

 

 全く、このヴァンパイア先輩は頭の中がキラキラしすぎているのだ、と呆れつつもるしあはすっかり元の調子に戻っていた。

 

 

 

 

 

 そんなこんなで、2人は寮に着く。寮は学年で分けられていて、るしあとメルの部屋はそれぞれ別の階だった。

 

「またねるしあちゃんー……ってメール?」

 

「るしあにも来たのです」

 

 別れようとした時、2人のデバイスから同時に着信音が鳴った。

 

 開いてみると、それはあやめからのメールだった。

 

「えーと、『また出撃するから今のうちに休んどけ』? 魔物は撃退したんじゃ…」

 

「学校からじゃなくて、あやめちゃん個人からだから、もしかしたら別のことかも。何にせよ、早く戻って休んどいた方がいいね」

 

「むー、もっとお話ししたかったのに…また会いましょう、メル先輩っ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分のパーティにメールを送ると、あやめはふぅ、と息をつき生徒会長の席に座る。

 

 今回魔界学校として派遣するパーティはあやめ達一組のみ。生徒達の疲労状況と、追跡する対象の数とを鑑みて、これが妥当だろうと判断した。最も、犯行予告を出した当のテロリスト達は警察が追ってくれるというのだから、アンドロイド(こちら)の方は全力を出さずとも良いだろう。

 

「さて…」

 

 次の出撃までいくばくかある。その間に少し仕事を片付けておくか。休息など、30分もあれば済ませられることだし…

 

「あやめ、またここにいる」

 

「ワーカホリックだねぇ」

 

「…入る時はノックくらいしろというのに」

 

 ガチャッとドアを開け入ってきたのはちょことシオンだ。

 

「あやめしかいないのは魔眼()で見れば分かるわよ」

 

「そんなことより。あたし達に出撃があるから休んどけって言っておきながら、どうせ自分は休まないんだろうと思ったよ」

 

「なに、ちゃんと休むつもりだったぞ? 生徒会室(ここ)で」

 

「ちゃんとベッドで寝ないと疲れは取れないわよ。まったくもう…」

 

「というか、そんなこと言って机の上の書類の山隠してるの、バレてるし」

 

 

 

 ──あやめ、ちょこ、シオンは魔界学校に入る前から親しい関係だった。家が近所だったというわけではなく、3人は幼い頃、とあることがきっかけで仲良くなり、以降友人として一緒に過ごしてきた。今でこそ、シオンは魔界学校に入らず、ちょこも魔界学校の保健医を勤めており、3人別々の道を歩んでいるものの、その関係は今でも続いている──

 

 

 

 

 

 そんな2人には、あやめの考えていることはお見通しだった。

 

「む…やはり、シオンの魔眼()は誤魔化せないか…」

 

 観念したように、あやめは〈幻影擬態(ライネル)〉を解除する。すると、彼女の後ろの机の上に、大量の書類の山が姿を表した。

 

「でも! 寮には戻らないからな! 校内で何かあっては、寮からでは間に合わんからなっ」

 

「はいはい、そう言うだろうと思って…ちょこ先!」

 

「おっけー。はい〈水球寝台(リライム)〉」

 

 ちょこは魔法で大きな水の球を生み出す。それは、あやめを優しく包み込む。

 

「ちょっ…熟睡してしまってはここで寝る…意味が…」

 

 と、文句を言い終わる前にあやめは水球の中で意識を手放してしまう。

 

「さて、私たちも休むとしましょうか」

 

「あれ、このまま放置?」

 

「出撃の2時間前に解けるようにしてあるから大丈夫よ」

 

「そっか。じゃあ寮に戻るかぁ」

 

 ぐーっとシオンは伸びをして、生徒会室から出る──シオンは魔界学校の生徒ではないため、本来寮に自分の部屋はないのだが、勝手にあやめの部屋を使っているのだ。

 

 

 

 

 

 たった1体のアンドロイドの捜索。それだけ聞くとあまり危険な任務であるとは思われないが、相手は魔物を操る能力を持つ。加えて、破滅派なるテロリストとも繋がっている可能性も浮上してきた。

 

 一筋縄ではいかない。スメラギは何とはなしにそう確信していた。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

17話 追跡⑴

 日も落ち、漆黒が空を覆い始めた頃。

 

「揃ったな。疲れているところ悪いが、先に伝えた通り、出撃だ。具体的には、魔物の襲撃の犯人と思しき者を捕らえる」

 

 〈水球寝台(リライム)〉のおかげか、幾分かキリッとした姿であやめは説明する。

 

 集まったのはシオン、ちょこ、メル、るしあ、ノエル、ぼたん、そしてスメラギ。たった8人だが、今回の任務に至ってはむしろ多いとも言える人数だ。

 

「もう犯人見つかったの?」

 

 とメルは訊ねる。

 

「うむ。犯人は破滅派と呼ばれるテロリストだ。魔物の襲撃が来てすぐ魔界と人間界との境界は閉じてあるから、奴らは必ず魔界にいるはずだ。…だが、テロリストの捕獲はベルナバイドに任せる」

 

「あれ? じゃあメル達は何をするの?」

 

「彼らと別行動を取っている実行犯がいるんだ」

 

 あやめは〈遠隔透視(リムネト)〉によってその人物──否、アンドロイドを写し出す。

 

「ヘーミッシュというアンドロイドだ。余達はコイツを捕らえる」

 

「実行犯ってことは、たった1体であんなにたくさんの魔物を操ったのですか?」

 

 と、死霊を操るるしあは驚きを交えながら訊ねる。それもそうだ。どんなに多くとも、数十体が限界のるしあにとって、数千体かそれ以上の魔物を使役するというのは考えられないことだ。

 

「ナノマシンを使っていたそうだ。全てというわけではないが、3分の1くらいは操っていただろうな。何にせよ、危険な相手には変わりない。だから余達がコイツの捕獲にあたる」

 

 いたずらに数を増やすよりも、少数精鋭で短期決戦を。

 

 あやめはそう考えたのだった。

 

「そういうことなら、頑張っちゃうよ!」

 

「まぁ、超過勤務手当稼ぐとしますか…」

 

「ちょこ先いつも保健室にいるだけだし出ないんじゃない? まぁあたしも新しい魔法試したかったし、ちょうどいいや」

 

「るしあも、お父様とお母様から魔剣もらったし試してみたいなぁ」

 

 決して疲労が回復しているわけではないのに、彼女達は軽い調子で承諾する。連携の上手さや編成のバランスなど様々な要因があるが何より、この余裕が最強のパーティたる所以かもしれなかった。

 

「傭兵様達も、準備はいいか?」

 

「ああ。できてるよ」

 

「牛丼食べたし、大丈夫!」

 

「私も弾丸の補充は済んだし、いつでも」

 

 スメラギ達も準備は出来ている。

 

「では、向かうとしよう」

 

 愚かにも魔族の街を襲った無法者を縛り上げに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スメラギさんは〈飛行(フレス)〉使わないの?」

 

 ノエル達は今、アンドロイドのいた丘に向かっている。ただし、何も徒歩で向かっているのではない。

 

 魔界では、補助魔法の使用は特に禁じられていない。〈飛行(フレス)〉で空を飛ぶことに何も問題はないのだ。

 

 そうメルに問われ、スメラギは少し躊躇うが答えた。

 

「僕は幼い頃に超能力を開発されたんだ。だから、魔法を使う前に魔力腺が退化してしまったんだよ」

 

 魔力腺とは、魔力を生み出す器官の事だ。魔法を使えば使うほど、魔力腺はより多くの魔力を生み出し貯めることができる。

 

 しかし魔力腺が発達する前に超能力を始めとした別の異能力を会得してしまうと、魔力腺が退化してしまい魔法が使えなくなるのだ。

 

「なるほどねぇ。魔法が使えないと色々苦労しない?」

 

 と、シオンは訊ねる。魔法の扱いに長けている彼女からしたら、魔法のない生活など不便で仕方ないだろう。

 

「まぁね。でも、意外と何とかなるよ。このパワードアーマーだって超能力で動かしてるし」

 

「え、じゃあ念動使い(サイコキネシスト)ってこと?」

 

 隣で聞いていたノエルが今度は訊ねる。

 

「詳しいね。でも違うな。僕は電撃使い(エレクトロマスター)だよ。生み出した電力でパワードアーマーを動かしているんだ」

 

「へぇー。なんで電撃使い(エレクトロマスター)にしたの? 念動力(サイコキネシス)の方が使いやすくない?」

 

 何とも身も蓋もない質問だ。スメラギは思わず返答に窮する。

 

「な、何でだろうね…。超能力は相性があるから、開発できる能力は生まれつき決まってるんだよね」

 

 これは超能力に限った話ではない。スメラギにとっては特に。

 

「難儀な話だな。生まれつき能力が決まっているというのは…」

 

 

 

 

 

「そう言えば、人間界にいた方のヘーミッシュはどうしたの?」

 

 と、ぼたんがスメラギに訊ねる。ぼたんはヘーミッシュの目的が世界各地に散らばる「戦力」の収集である事を知っていた。今は魔界と人間界の境界が閉じられていて身動きが取れないはずだから、ヘーミッシュを捕まえればそれも終わる。関係のない人々を巻き込まないためにも、彼の行方は知りたかった。

 

「あぁ…破壊したよ。無力化したとはいえ、野放しにしておくわけにはいかないからね」

 

「あ、壊したんだ(まぁそっちの方がアンタにとっては安全か…)」

 

「え?」

 

「ん、何でもない。何か情報は抜き取れた?」

 

「いや、頭部を破壊してしまったから何も…」

 

(じゃあこの子達が意図的に集められていることはまだ知らない、か。スメラギ本人ならあのリストについて何か知ってるかもしれないけど、流石に直接聞くのは厳しそうだな)

 

 何にせよ、これで当面のうちはもう一体のヘーミッシュに注意を向けていればいいことになる。ぼたんとしても、それはやりやすかった。

 

 

 

「着いたぞ。ここが奴のいたところだ」

 

 あやめ達の少し先に丘があった。何の変哲もない所だが、〈遠隔透視(リムネト)〉にあった映像ではここに件のアンドロイドがいた。

 

 ノエルは丘に降り立ち、草木に〈追憶(エヴィ)〉をかけてみる。すると、確かにヘーミッシュがこの丘に立っていた。が、

 

「あれ、消えちゃった…」

 

「多分、ステルス迷彩をかけているんだ」

 

「対策されてるのかー。厄介だなぁ」

 

「ここはシオンちゃんに任せなさいっ。〈追跡(エノイ)〉」

 

 シオンは辺りに〈追跡(エノイ)〉をかける。すると、周囲から粉のようなものが宙に浮かび、線のようにある方向へ伸びていく。

 

「ナノマシンに〈追跡(エノイ)〉ね。考えたわね、シオン」

 

「なのましん? があっちに伸びていってるのです!」

 

「シオンちゃんやるねぇ〜」

 

 ちょこ、るしあ、メルは口々にシオンを褒めると、

 

「でっしょ〜? シオンちゃん冴えすぎてて自分でも怖いなぁ〜」

 

 ちっこい魔女っ娘はドヤ顔でそれに応じる。ない胸を反らせて。

 

「おい、早く行かないと置いてくぞ」

 

「うわっ冷た。これが幼馴染の友情かようっ」

 

「ちょっくっつくなって! 飛びづらいというにっ…!」

 

 

 

 

 

 そうして、紐のように伸びていくナノマシンを追っていると、

 

「あ、ナノマシンが…」

 

 それまで宙に浮かんでいたナノマシンが、突然前から順に、重力に従って地面へ落ちていった。

 

「〈追跡(エノイ)〉の範囲から出たのね。ここから先は誘導なしで進まなきゃいけないわね…」

 

『問題ありません。周囲にアンドロイドの痕跡があればお伝え致します。』

 

 と、ちょこの言葉にヴヴッとAPRILがデバイスから応じる。

 

「うわっ!? なになに⁉︎誰かいるのっ⁉︎」

 

「あぁ、紹介が遅れたね。彼女はAPRIL。人工知能で僕の相棒だよ」

 

『初めまして皆様。マスターことスメラギ様の相棒、APRILです。以後お見知り置きを。』

 

「なんかAIの割には機械ぽくないね?」

 

 ノエルはAPRILの自己紹介に少し驚く。と言うのも、感情を司る「センチメント・サーキット」は全ての人工知能に搭載されているわけではなく、特にAPRILのような戦闘用の人工知能には搭載しないのが殆どなのだ。

 

『戦闘補助の人工知能は、感情の必要性が無いと言われていますが、私は必要であると考えます。こうしてあなた方と話せるのですから。』

 

「…APRIL、久しぶりに会話するからってうわついてないかい?」

 

『とんでもございません。そのような事はありませんよ、マスター。』

 

 相変わらず無機質な電子音声だが、心なしか声がいつもより高い気がしたのは、いつも一緒にいるスメラギだけだろう。

 

「ええと…とりあえず、何かあったら教えて」

 

『かしこまりました。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「予測以上に追跡の速度が早いわね。少し罠を張っておくとしましょう」

 

 無論、彼らならどんな魔物であれ大した時間稼ぎにはならないと思うが、それでも構わない。()()()はこれから来る襲撃に全く対応できないはずだから、鎮圧はきっとすぐ終わる。むしろ()()()()()がちょうどいいのだ。

 

「『駒』より早くても、遅くてもいけない。同時に()()()()()()()()()()()なんて、なかなか面倒だけれど」

 

 中性的な容姿のアンドロイドはまさに自分に襲い掛からんとしている魔物に、ナノマシンを流し込む。すると、魔物は不自然にその動きを止める。そして今の今まで攻撃しようとしていた獲物なぞ振り返りもせず、どこかへと向かっていってしまった。

 

「少しくらいならネタばらしをしても良いと彼は言っていたけれど…フフっ。勢い余って全て言わないようにしないとね」

 

 




この回のために何個かネタを考えたのに、今回1個しか使わなかったので、前半と後半に分けることにしました


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

17話 追跡⑵

17話後半です


 先程の〈追跡(エノイ)〉の効果範囲から出た付近で、スメラギ達は再びアンドロイドの残した痕跡を探していた。

 

「でもさっきみたいにナノマシンが落ちてるなんて、もう無いよね? わざわざ目印を付けてくれるわけでもないだろうし…」

 

 アンドロイドは追跡を相当気にかけていたのか、近くには足跡すら見当たらない。痕跡など全くないように見えた。

 

『アンドロイドのボディは主にプラスチックで構成されています。飛行能力がないのであれば、木や建物を伝っていったはず。そこにプラスチック片が残っている可能性があります。』

 

「なるほどね。でも私、そういうの探す機械持ってないよ?」

 

「僕が探すよ」

 

 スメラギはパワードアーマーのマスクだけを装着し、周囲の木々や廃墟となった建物をサーチする。

 

 

 

「これかな…?」

 

 ある一本の木を調べると、マスクのディスプレイにごちゃごちゃと色々な物質の名前が表示される中、目当ての物質名が表記された。どうやら、これが次の手がかりのようだ。

 

「あ、見つけた? おけおけ、じゃあ〈追跡(エノイ)〉っと」

 

 シオンはついでに〈光源(ジア)〉をかけ、ふわふわと浮かぶプラスチック片を光らせる。

 

「うわ…シオンちゃん、ちょっと眩し過ぎない?」

 

 ノエルは思わず手を目の上にかざす。辺りが暗いせいか、〈光源(ジア)〉の光が余計眩しく見えるのだ。

 

「こうすれば目立つでしょ? それに、今暗いし」

 

「犯人にバレたらどうするんだ…」

 

「まぁそこは…ほら、臨機応変で…」

 

「むしろ察知されるくらい近づいているって事だから、それを利用して逆に先手を取ることもできる…ってことですよね?」

 

 と、すかさずるしあがフォローする。

 

「そうそう! さすがるしあちゃん! あたし達一心同体だね!」

 

 調子のいいシオンに、あやめは呆れてしまう。

 

「後輩にフォローさせるんじゃない…」

 

 対してるしあは、シオンの言葉に顔を赤らめ、にやけている。

 

「え〜? えへへ、一心同体ってことはシオン先輩、るしあと24時間365日ずっと一緒にいてくれるって事ですか〜?」

 

「え、あ…うん」

 

「ちょっと! 何ですかその微妙な反応! るしあが嫌なのですか!?」

 

「いや、流石にそんなにずっとは…ね? ほら、授業とか…色々あるじゃん?」

 

「大丈夫ですよ。シオン先輩と一緒に授業を受ける方法は、あるので」

 

「ねーなんか物騒な雰囲気!?」

 

「ねぇねぇるしあちゃん、私は〜?」

 

 と、突然始まった痴話喧嘩にメルが入ってくる。笑みをたたえているが、それとは裏腹におどろおどろしい雰囲気を醸し出している。

 

「メ、メル先輩!? せ、先輩も一緒ですよ! るしあと一緒に暮らします!?」

 

「え、いいの〜? でも、3人でしょ? るしあちゃんと2人がいいなぁ」

 

「ちょっとー! シオン省かれてる! ほっとしたけどなんかやだ!」

 

 もう泥沼だった。メンヘラが2人いるとこうも厄介になるのか。

 

 あやめとちょこは、幼馴染の生還を祈りつつ、自分たちがその対象に入らなかったことに心底安心した。

 

 側から見ていたスメラギは、とても声をかけにくい状況だったが、そうも言ってられないので、勇気を振り絞って泥沼の3人に声をかける。

 

「ええと…早く行かないと目印に置いてかれるよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここで少し休憩するとしようか」

 

 と、スメラギは提案する。あやめによると、破滅派を担当している警察の方は、スメラギ達よりも後に出発するらしい。それは、先に本陣が壊滅したことを察知した実行犯が暴走するかもしれないという懸念があった為だ。今のところ、まだ警察は破滅派と戦ってはいない。

 

 それに、アンドロイドは徒歩で移動しているはずだから、それほど距離は空いていないはずだ。少しくらいの休息はできる。そうスメラギは考えていた。

 

 休憩に選んだ場所は、森の中にあった小屋だ。ちょこが言うには、恐らく昔使われていた狩人の家だそうだが、保存状態はそれなりに良かった。

 

「あ、キッチンがある」

 

「いいわね。メル様、軽食でも作りましょう」

 

「おっけー!」

 

「じゃあ、それまで私、外見張っておくよ」

 

「僕も少し外にいるよ。みんなはここで待ってて」

 

 そう言い、メルとちょこはキッチンへ、ぼたんとスメラギは外へ出ていった。

 

 

 

 

 

「あ…」

 

 そういえば、とるしあは思い出す。

 

 すっかり忘れていた。いや、正確にはこの違和感を確かめるのが少し怖くて、緊張していたからそれを忘れるためにメル達と話していたのだった。

 

 しかし、そう先延ばししてもいられない。確かめるなら今しかなかった。

 

 るしあは決心し、小屋から出る。

 

 すると、すぐそこに木にもたれかかっているスメラギが見えた。

 

「す、スメラギさん、あの…っ!」

 

 るしあは勇気を出してスメラギに近づき、話しかけようとするが、足がもつれて体勢を崩してしまう。

 

「ぅわっ!?」

 

「お…っと、大丈夫かい?」

 

 転びそうになったるしあを、スメラギは間一髪で支える。

 

 瞬間。

 

「ッ…!!?」

 

 映像がるしあの脳内に流れ込む。

 

 

 

 ──制服を着た自分。そしてうさぎ耳の少女や褐色肌の少女、ワインレッドの髪の少女に加え、ノエルまでもが。同じく制服を着たスメラギと楽しげに談話している。

 

 次の瞬間、場面が突然変わり、何か大きな人型のシルエットが見えた。周りには大勢の人がいて、その中には、自分だけでなくシオンにメル、ちょことあやめもいた。どうやらその巨人に敵対しているようだったが、しかしまもなくして眩いほどの光が視界を覆い、全てが塵に変わってしまう。目の前には血だらけの自分。何か魔法陣を発動していて…

 

 

 

「るしあ? 大丈夫? どこか調子が悪いの?」

 

「ぇ…?」

 

 スメラギの声でぴくっと身体を震わし、るしあは我に帰る。

 

「疲れているのなら、休んだほうがいいよ。これから大変になるだろうから」

 

 スメラギは、疲れからこけてしまったと考えているのだろう。

 

「あ、えと…大丈夫なのです。少し、立ち眩みしただけなのです…」

 

 だが、動揺したのは記憶の内容に、ではなかった。

 

(今の…スメラギさんの記憶…? でもなんで…? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()…)

 

 

 

 潤羽るしあはネクロマンサーである。RPGなどでよくあるゾンビやスケルトンを生み出し操る能力もあるが、本来の能力は死者を呼び出し、過去や未来を知るというものだ。るしあは未熟であるために、過去しか知る事はできないが、幼い頃からネクロマンシーを使ってきたため、触れただけで死者の過去を知ることができるようになっていた。

 

 

 

 だというのに。その前提はあっさり崩れた。

 

 今目の前にいるスメラギは確実に生きているはずなのに、ネクロマンシーが発動した。これは明らかにあり得ないことだ。

 

「そうか。…ところで、僕に何か用かな?」

 

 スメラギはるしあを起こし、訊ねる。

 

「…いえ、見張りをするのならるしあ、代わるのです」

 

「あぁ、それなら大丈夫だよ。少し外にいたいんだ。君は小屋に戻って休んでいるといい。先の襲撃で、僕よりも体力を使っていただろうからね」

 

 と、るしあの申し出をスメラギはやんわりと断る。

 

「るしあも、外にいたいのです。…少し、いてもいいですか?」

 

「…うん。いいよ」

 

 

 

「スメラギさんは、傭兵になる前は何をしていたのですか?」

 

「僕は、高校を卒業してからすぐにアルヴィアスに入ったんだ。だから、数年前までは君たちと同じ学生だったよ」

 

「そうだったのですか。何で傭兵になろうと思ったのです?」

 

「…友達に傭兵になりたいって人がいてね。僕は何の取り柄もないし、夢もなりたい職業もなかったから、その人達の言葉を思い出して傭兵になったんだ」

 

「……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 その台詞は、スメラギにとって全くの想定外だった。るしあの口から発せられた言葉は、スメラギの息を詰まらせるのに十分すぎた。

 

「ッ…⁉︎どうして、その、名前を…」

 

「やっぱり…。スメラギさんはるしあ達のこと、前から知っているんですよね…⁉︎スメラギさんの記憶には、るしあの知らないるしあがいた。制服を着ていたるしあ。巨人と戦って、血まみれになっていたるしあも…。スメラギさんは一体何者なんですか…⁉︎」

 

 

 

「っ、るしあ…」

 

 スメラギは全てを伝えたい衝動に駆られた。しかし、それを即座に抑え込んだ。

 

 吐き出したら、きっと楽になるだろう。るしあだけでなく、他のみんなも。苦痛を受け止め、支えてくれるかもしれない。

 

 だが、真実を言えば無条件で信頼されるのか? それを明かして、拒絶されるという可能性は? 

 

 スメラギは目を伏せ、かぶりを振る。天秤にかけるまでもなかった。

 

「多分、勘違いじゃないかな? 今まで色んな世界を回ってきたからね。1人くらい君に似た人と会っていてもおかしくはないだろ?」

 

 出来るだけ感情を殺してそう応える。

 

「で、でも…!」

 

「君は制服を着ていないし、大怪我もしていない。よく似た別人さ」

 

「……」

 

 

 

 るしあはそれ以上追及しようとは思わなかった。確信が持てなかったというのもあるが、スメラギの悲しみに気付いたからだ。

 

 決して顔に出ていないし、声色も変わらず優しい。でも、どこか苦しそうだった。安易にスメラギの、最も弱いところに触れてしまったような気がした。

 

「…小屋に、戻ります。お食事、出来たら伝えます…」

 

 るしあは俯き、弱々しい声でそう告げる。

 

 怖くなった、とは少し違う。申し訳なくなったと言ったほうが正しいかもしれない。逃げたことに対しても。

 

 

 

「君は、僕の知っているるしあじゃない。君は自分の生き方をしていいんだ…」

 

 

 

 

 

 

 

 るしあが少し小走りで小屋の中へ入っていった後、スメラギは考えていた。るしあが知り得ないはずの名前が彼女の口から出たことに、ではない。それよりも、彼女が自分の記憶を知っていた事だ。

 

(もしかしてるしあもこの世界に…? いや、あの時、転移したのは僕だけだった…。それに、転生もこの世界では使えないはず…)

 

 理由は分からない。だが、少なくとも本当のことだと伝えるわけにはいかなかった。

 

 悲劇の主人公ぶりたいわけではない。去り際に言った言葉が全てだ。どれだけ記憶に寄せようとも、目の前にいるのは別人なのだ。自分のエゴで、他人を良いように使いたくはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この先はしばらく平原のようだな。ここなら足跡くらいはあるだろう」

 

 軽い休息を終え、再び目印を追っていると、森から抜け平原に出た。

 

「ようやく私たちも活躍できそう」

 

「スメラギとシオンちゃん以外役に立たないもんねぇ」

 

 と、ぼたんとノエルは口々に言う。魔法にあまり長けていない2人だが、科学に関してもそれほど精通しているわけではない。パワードアーマーはおろか、センサーの類は殆ど持っていないのだ。だから、先程までは完全に暇を持て余していた。

 

「ん、あった」

 

 周りを見渡し、ぼたんはすぐに消えかかった足跡を見つける。

 

「さすがぼたんちゃん、目いいね!」

 

「まぁね〜。狙撃手(スナイパー)は目の良さが取り柄だから」

 

 

 

「るしあちゃんどうしたの? なんか元気ないね」

 

 メルはるしあに声をかける。というのも、るしあが一度外へ出て小屋へ戻ってきてから、口数が明らかに減っていたのだ。思えば出撃前、いや魔物襲撃の後辺りからどこか様子がおかしかった。

 

「ん…いえ、るしあは…」

 

「大丈夫だよ。スメラギさんも、ノエルちゃんもぼたんちゃんも優しいし、怖い人達じゃないよ」

 

 メルはるしあが人見知りなのを知っていた。だから、初対面の人達といきなりパーティを組んで行動するというのが辛かったのかと思っていた。

 

「…お気遣いありがとうございます、メル先輩。るしあ、大丈夫ですよ」

 

「そう? 大変だったら、ちゃんと伝えるんだよ? メルが癒してあげるから!」

 

「…はい。そうします」

 

 るしあは小さく笑い、答えた。

 

 

 

 

 

 そうしてしばらく足跡を辿っていると、

 

「しっ。何かが近づいてくる」

 

 あやめが仲間を制止する。

 

「もしかして、メルたちが追ってるテロリスト…⁉︎」

 

「いや、空から聞こえる…。この羽ばたきは…」

 

 段々と音が大きくなっていき、他の仲間たちにも聞こえるくらいに近づいてくる。

 

「…来るっ!」

 

 ズッッッガァァァァァン!!!!! と。

 

 急降下の衝撃で地面を抉り、砂埃が巻き上がる。その中から現れたのは、“火竜"リオレウス。

 

「偶然かもしれないけど、これってもしかして!?」

 

「多分! ヘーミッシュに操られてると思う!」

 

 リオレウスは灼熱のブレスを薙ぎ払うように放射する。

 

「うわっちょっ⁉︎あぶな!」

 

「メルが引き付ける!」

 

 メルは〈飛行(フレス)〉を使って飛び上がり、リオレウスのすぐ横を凄まじい速さで駆け抜ける。

 

「〈魔氷(シェイド)〉!」

 

 すれ違いざまに、メルは白銀の氷を翼に向けて放った。大したダメージはないものの、氷は翼にまとわりつき、飛行を阻害した。

 

 その攻撃を食らい、リオレウスは振り向き、標的をメルへ定める。

 

「よし、今のうち! るしあ!」

 

「う、うん! 〈重加(デドン)〉!」

 

 ノエルは大きく飛び、るしあの〈重加(デドン)〉でぐん、と急降下する。そして竜の背中に〈重加(デドン)〉も加わった重い一撃を叩き込む。

 

「グオォォォォォォォッッ!!?!??」

 

 予想外の攻撃を食らうと共に、リオレウスは地面にめり込んで身動きが取れなくなる。

 

 しかし、それでもなお標的であるメルに目を向ける。

 

「わわわっ!?」

 

 リオレウスはちょうど正面にいたメルに向けて火球を放とうとする。が、

 

「させない!」

 

 スメラギが上空から、腕部のバタリングラムで発射寸前の頭部に一撃を加える。

 

 すると、火球は発射されることなく、リオレウスの口内で爆発してしまう。

 

「おー! ナイス、スメラギさん!」

 

「妖刀羅刹、秘奥が参」

 

 あやめは左腰に提げた刀に手を掛け、構える。

 

「<春疾風(はるはやて)>ッッ!!!」

 

 大振りの居合斬りが身動きの取れないリオレウスに直撃し、竜の体が縦に割れた。

 

「おぉ〜…綺麗に真っ二つだぁ」

 

「油断しないで。奴は多分近い」

 

 おそらくナノマシンで操られていたであろう魔物が襲ってきたという事は、目標は近い。リオレウスを倒したスメラギ達は、しかし周囲を警戒して進む。

 

 と、

 

「ようやく見つけた、ヘーミッシュ」

 

 突然ぼたんはスナイパーライフルを構え、少しはなれた何も無いところを撃つ。すると、

 

「やり過ごせると思ったが…中々どうして見つかるものだな」

 

 カンッ! と弾道が不自然に曲がったかと思うと、そこからぬっと人の形が現れる。

 

「ヘーミッシュ!」

 

「アイツがあの…!」

 

 中性的な姿のアンドロイドはゆっくり歩き、そしてスメラギ達を見て不敵に笑う。

 

「やれやれ、相変わらず予測より早いな。これでは、俺が全力を出さなければいけないではないか」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

18話 真の目的

次回との兼ね合いで、今回は少し短めです



「ヘーミッシュ…あれが街を襲った…!」

 

 あやめは目の前に立つアンドロイドを睨みつける。奴が恐れ知らずにも魔族の街を襲った張本人か。

 

「ヘーミッシュ! 何故街を襲った!?」

 

「あぁ…フフッ。()()()()()()()()()()()()()()()()()? そりゃあ、教えるわけにはいかないな。お前だって()()()()()を隠しているんだろう?」

 

 と、ヘーミッシュははぐらかし、逆にスメラギに問いかける。

 

「それは…」

 

 それに対し、スメラギは言葉に詰まる。

 

「スメラギ。本当の目的って?」

 

 不審に思ったぼたんはスメラギに訊ねる。

 

 が、これについては教えたくなかった。この事に、これ以上彼女たちを巻き込みたくはなかったのだ。

 

「っ……」

 

 スメラギが押し黙るのを見て、しかしヘーミッシュはニヤリと笑い、口を開く。まるで、そうはさせないと言わんばかりに。

 

「どうしても自分の口からは言いたくないらしいから代わりに俺が言うことにしよう。そいつはゼノクロスという兵器を追っている。今までに世界を2つ滅ぼした兵器をな」

 

 

 

「ゼノクロス…?」

 

「聞いたことがあるような、ないような…」

 

「世界を2つ滅ぼしたって…」

 

 と、魔界学校の生徒はゼノクロスという単語に心当たりがないようで、口々につぶやく。

 

 ただし、るしあだけが違った。

 

(もしかしてあの巨人が、ゼノクロス…? 別のるしあ達を殺した…。じゃあ、スメラギさんは…)

 

 対して、傭兵2人の方はまた異なる反応を呈した。

 

「ゼノクロスって、あの最強の古代兵器…?」

 

「アレは実在しないか、異世界大戦期に消失したって話だったけど…?」

 

「封印から目覚めたのさ。世界を守るためにな」

 

 ぼたんの疑問に対し、的を得ない答えを返す。

 

「白銀ノエルに獅白ぼたん。お前たちなら馬鹿正直に依頼をこなすことはないと思っていたよ」

 

「やっぱりまともな依頼じゃないと思った! 私たちを使って何をするつもり!?」

 

「矛盾してない? 世界を守るのにどうして世界を滅ぼしたのさ」

 

「フフ。全てはじき分かることだ。その時には、我々の方が正しいと思うようになる」

 

「御託はいい! 何と言おうと、お前は市民を襲った犯罪者だ。さっさと捕まえて矯正施設にぶち込んでやるからな」

 

 意味深なことばかり言うヘーミッシュにしびれを切らしたあやめは刀を抜く。

 

「いいだろう。俺とて逃げ切れるとは思っていない。月並みだが、ここでお前たちを返り討ちにしてやろう!」

 

 その言葉と同時に。

 

 

 

 バリバリバリバリバリバリッッッッ!!!!!! と。

 

 青く煌めく雷光と共に巨大な魔物が空から降ってきた。

 

「また上から!?」

 

「やっぱ魔物出してくるか〜…」

 

「アレ、二つ名よ! 『青電主(せいでんしゅ)ライゼクス』! 皆様、気をつけて!」

 

 

 

 

 

「…スメラギ、アンタについてはまた後で聞く事にする。今はヘーミッシュを」

 

「…分かった。奴を倒そう」

 

 覚悟をしなければならなかった。でも、今は。これ以上奴に好きにさせるわけにはいかない。スメラギは戦闘態勢に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 ライゼクスの方は魔界学校組に任せ、スメラギ、ノエル、ぼたんはヘーミッシュと対峙する。

 

「なるほど、お前達が相手か。人間と獣人が俺に勝てるとでも?」

 

「勘違いしないでよね」

 

 ノエルはギュンッ! と地を蹴り、一気にヘーミッシュの懐に迫る。

 

「私、ただの人間なんかじゃないから」

 

 目にも留まらぬ速さでメイスが突き出される。破壊力よりも速度を重視し突きを繰り出したのだが、しかしそれは寸前で躱され、腹部にわずかに傷をつける程度に終わった。

 

「回避狩り失礼…っと!」

 

 ぼたんはスナイパーライフルを構え、飛び退いた着地の瞬間を狙って弾丸を放つ。弾はベクトル操作により途中でぐんと加速し、ヘーミッシュの左肩を貫く。

 

「よく当てる!」

 

「ふっ!」

 

 そこへスメラギが肉薄し、右腕に形成したプラズマナックルですかさず追撃を加える。しかし、

 

「会って間もない割には上手く連携を取っている…が、相手をもう少し観察すべきだな!」

 

 ガヂッ! と動かないはずの左腕でスメラギの攻撃を受け止める。

 

「腕が…⁉︎」

 

「機械相手なら再生しないと思ったか!」

 

「ナノマシンか…!」

 

 今度はヘーミッシュが右腕にカタールを形成し、右脇腹を突き刺そうとする。

 

 スメラギは寸前でリパルサーレイの出力を上げて放ち、逆にヘーミッシュを吹き飛ばす。

 

「アイツ…!」

 

「ナノマシンで傷を再生してるのか。厄介な相手だなぁ…っ!」

 

 ただし。

 

(ヘーミッシュ…前に戦った時はこんな事してこなかった。僕の戦闘データから強化を施したのか…? いや、僕と戦ったのはあれが初めてじゃないはず。だとしたら、何故…?)

 

 経験故に気づく小さな違和感。だが、その違和感が確信に変わるのには遅すぎる時間を要するのだった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

19話 二つ名

この回を書くにあたり、青電主ライゼクスと戦ってきました。
が、G1クエにも関わらず6乙、つまり2回クエスト失敗したので心が折れました。やはりカマキリ装備では難しいか()


「二つ名」──通常とは比べ物にならない戦闘力を持った特殊な個体に付けられる名である──青電主ライゼクスはちょうどヘーミッシュと、スメラギ達を挟みこむ場所に降り立つ。

 

 あやめ、シオン、ちょこ、メル、るしあはそれぞれ戦闘態勢のまま、ライゼクスと対峙する。

 

「二つ名まで出してくるなんて聞いてないよぉ…」

 

「でもやるしかないわ、メル様。大丈夫。〈転生(シリカ)〉は使えなくとも〈蘇生(インガル)〉はちゃんと発動するから、安心して死んでいいわよ?」

 

「怖いよぉー!?」

 

「来るぞ!」

 

 ライゼクスは接近し、雷を纏った翼をあやめ達に叩きつけようとするが、5人は左右に分かれて回避する。

 

「2連撃っ!」

 

 その声と共に、ライゼクスはもう一度片方──シオンとるしあとメルに向かって叩きつけを行う。

 

「〈耐電撃結界(バサンデート)〉ッ!!」

 

 シオンは金色の結界を展開し、ライゼクスの攻撃を防ぐ。蒼白の雷撃を無効化するが、しかし結界は翼の物理攻撃には耐えきれず、一瞬抗ったのち砕け散る。その隙に3人は後退し、攻撃を回避する。

 

「もうっ! さっさと倒そうっ!」

 

 ライゼクスのあまりの強さに逆にスイッチが入ったのか、メルは気合を入れ直しライゼクスの陽動を始める。

 

 するとライゼクスは他の4人から目を離し、標的をメルに定めた。

 

 

 

 あやめ達のパーティは、まずメルが相手を陽動し、ちょこが動きを止め、あやめとシオンとるしあで火力を出すというのが定石であった。

 

 一方で、前衛役(タンク)がいないため、陽動役がやられてしまえば連携が一気に崩れてしまうリスクもある。

 

「わわわっ⁉︎吸い込まれる〜!!」

 

 メルが距離を離したと同時に、ライゼクスは超電磁球を打ち出す。青白い電磁球はメルだけでなく、他の4人も吸引していく。今、ライゼクスの正面にいるのはメルだけである為、あやめ達にはあまり効果はないのだが、

 

「っそれは流石にやばいって! 死ぬどころじゃ済まないよぅ!」

 

 ライゼクスは頭のトサカに莫大な電気エネルギーを迸らせる。身動きが取れない今、打ち込まれたらいくらスピードに長けているメルでも避けきれない。

 

「メル先輩!!」

 

 シオンは急いで〈瞬間転移(ロア・ガトム)〉を発動しようとするが、電磁球によって魔力場が乱れているのか、なかなか発動できない。

 

 

 

(るしあには分からないことが多すぎる…でも、それでも今は!!)

 

 スメラギの記憶。自分の知らない自分。ゼノクロス。正直、いきなりてんこ盛りで頭がついていかない。しかし、だからと言って己のやるべき事を見失うな。

 

 るしあは収納の術式から光り輝く聖剣──聖霊天蝶剣ファルファリアを取り出す。

 

「聖霊天蝶剣、秘奥が壱…」

 

 ファルファリアの刀身が聖なる光を帯びる。その光は段々と強くなり、

 

「〈薊蓮華(あざみれんげ)〉ッッ!!!」

 

 るしあはファルファリアを天に掲げる。すると、刀身の輝きから生み出された無数の光の蝶がメルを包み、結界へと変わった。

 

 

 

 直後、メルに向けて振り下ろされたライトニングブレードは結界に阻まれ、激しく拮抗する。

 

 その間に電磁球が消え、

 

「っ!!」

 

 自由になったメルは即座に軸線上から外れ、ブレードを避ける。

 

「あ、危なかったぁ…」

 

「今の、るしあちゃんが?」

 

 るしあが持っていた聖霊天蝶剣ファルファリアは確か、るしあの母からもらったものなのだが一度も使ったことがないと聞いた。だから、シオンもこれには驚いていた。

 

「…るしあには、難しいことは分かりません。でも…いえ、だからこそっ! るしあはみんなの為に戦います!」

 

「よく分からないけど、吹っ切れたのね、るしあ様。じゃあ、ちょこも少し本気出すとしますか…!」

 

「初めて使う魔剣の秘奥を使いこなすとは…。余も負けてはいられないなッ!」

 

 るしあの活躍に、皆が奮起する。パーティの最年少があれだけやっているのだ。年長者がボヤボヤしているわけにはいかない。

 

 ライゼクスが放つ雷のブレスをローリングで避け、メルはそのまま開いた口に〈獄炎殲滅砲(ジオ・グレイズ)〉を放つ。黒き火球は口に入り込み、ライゼクスを内から灼いていく。

 

「ナイス、メル様! 〈重力結界封(グラビリア)〉!!」

 

 間髪入れず、怯んだライゼクスを重力の結界に閉じ込める。自身の何十倍もの重力に圧し潰され、ライゼクスは身動きが取れない。

 

 尚も尻尾を動かし、雷撃を放とうとするが、

 

「鬼神刀阿修羅、秘奥が壱」

 

黒南風(くろはえ)ッ!」

 

 それよりも早く、あやめの一撃が尻尾を斬り伏せる。

 

「トドメもらっちゃうよ! 〈交響詩篇(セブンスウェル)〉!!!」

 

 シオンが叫ぶと共に、それぞれ異なる色の魔法陣が7つ、天に描かれた。7色の積層魔法は共鳴し合い、無数の光を放って辺りを眩いほどに照らしていく。

 

 そうして一際大きな光が輝いたかと思うとすぐに収まった、その瞬間。

 

 

 

 轟ッッッッッ!!!!!!!! と。

 

 虹色の魔法陣から光の柱が降り落とされ、大地が震撼する。撒き散らされる閃光や爆音すらも一種の攻撃なのではないかと思うほどに、周囲の者達は五感を叩きのめされる。

 

 

 

 

 

 

 

 しばらくして光の柱が細くなり、消えると、そこには魔物の跡形もなかった。それどころか、魔物がいた地面がキノコ傘のように捲れ上がってすらいる。

 

「…シオン、これは…」

 

「あれ、威力調整ミスったかな」

 

「ミスりすぎだ…。余も少し肝を冷やしたぞ…」

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

20話 錯誤

「君がわざわざ僕の前に現れたのは、彼女たちと僕を会わせるためか!」

 

「なに、単なる宣戦布告さ。小細工を弄すよりもシンプルに動いた方が効果的というのは時としてある。お陰で、お前は俺のところへ一直線に向かって来てくれた!」

 

「その割には暗躍するのが得意なようだが…!」

 

 

 

 スメラギ、ノエル、ぼたんはベルナバイド襲撃の実行犯であるヘーミッシュと戦闘している。

 

 スメラギやノエルが攻撃を仕掛け、避けた隙にぼたんが狙撃する。ぼたんの銃弾は確実にそのプラスチックの体を貫いているのだが、その度にナノマシンによって傷が塞がれている。それどころか、金属製のナノマシンによって外装が強化すらされており、次第に弾は弾かれるようになっていく。

 

「いくら持久戦に持ち込んでも3人相手に勝てるわけっ!」

 

 ノエルが顔面めがけてメイスを突き出すが、ヘーミッシュはそれを受け流す。カウンターでヘーミッシュは手刀をノエルの腹に叩き込もうとする。

 

「そんなもので」

 

 ガッ‼︎と直前で手刀を掴んで防御する。

 

「私に届くかっての!」

 

 ノエルはそのまま、有り余る握力でヘーミッシュの手を千切るように握り潰す。

 

 と、横からリパルサーキャノンが発射され、身動きの取れないヘーミッシュはもろに食らい吹き飛ばされる。

 

「さて、あとどれくらい回復(ナノマシン)残してるの? まぁどちらにせよ、あんたに勝ち目はないけど」

 

 ノエルは地に伏したヘーミッシュを見下ろしながら近づく。

 

「まだだ…まだ早い。奴らが役目を終えるまではな!」

 

 突然、ヘーミッシュは倒れたままの姿勢から大きく飛び上がる。

 

 直後、

 

 バヂィッッッッッ!!!!!!!!! と。

 

 青白い閃光が先程までヘーミッシュの居たところまで振り下ろされ、軸線上のノエルにも襲いかかる。

 

「ッ!?」

 

「危ない!!」

 

 即座に反応したぼたんが衝撃弾でノエルを吹き飛ばしていなければ、ノエルは雷光の刃に焼かれていただろう。

 

「敵が前だけにいると思い込むから、こうなる‼︎」

 

「くぅー! あんたには言われたくない!!」

 

 一瞬早くライトニングブレードを避けたヘーミッシュは握り潰された手を修復し、吹き飛ばされたノエルに襲いかかる。

 

「させない!」

 

 ノエルの首を狙ったヘーミッシュの手刀は、しかしスメラギのシールドで防がれる。スメラギはもう片方の腕にプラズマキャノンを形成し反撃する。

 

「スメラギ・カランコエ…! 腐っても『エース第3位』か!!」

 

 強力な電磁波は金属製のナノマシンを狂わせる。それを知ってのスメラギの攻撃を、ヘーミッシュは避けきれず何発か食らう。傷をナノマシンで回復した分、プラズマキャノンの電磁波がよく効いているようで、身体の各所が機能不全になっていた。

 

「隙ありっ!!」

 

 ぼたんはその隙を見逃さず、正確無比な狙いでヘーミッシュの胸部──バッテリーの内蔵箇所を撃ち抜く。

 

「ぐぅっ…!!」

 

 痛みを感じないはずのヘーミッシュは顔を歪め、そのまま仰向けに倒れる。

 

 直後、後方から真昼間の太陽のような光が溢れたかと思うと、凄まじい音が衝撃となって彼らを襲った。

 

「うわっ!?」

 

「ちょ、あぶなっ」

 

 後方にいたぼたんは身の危険を感じ、振り返らずにノエル達の所へ避難する。

 

 やがて光と衝撃が収まった。3人が振り返ると、魔物の姿などはもうなく、キノコの傘のように捲れ上がった大地と5人の少女の姿があった。

 

「これ、君たちが…?」

 

「あっはは、まぁね〜」

 

「シオン先輩、笑い事じゃないのです…」

 

 少女たちはスメラギたちの方へと近づく。

 

「そちらも片付いたか」

 

「なんて事はなかったね!」

 

「その割にはけっこう苦戦してたけど?」

 

「素早い相手には相性悪いんですー! 仕方ないの!」

 

 何にせよ。

 

 魔物を片づけ、当のヘーミッシュも行動不能になった。あとはコイツを捕縛し尋問するだけだ。

 

「さて…聞かせてもらおうか。愚かなテロ行為をしたワケを」

 

 

 

 

 

 ちょうどその時、ちょこの下に破滅派の捕縛の報が届いた。

 

「あやめ様、警察の方も破滅派を捕まえたようよ」

 

 遠くを見ると、人間界へ続く空を阻むようにして張られている結界の壁が、まさに開かれようとしていた。テロリストが逮捕され、厳戒態勢が解かれているのだ。

 

「そうか。…しかし、作戦開始から1時間程度で捕まるとは、随分と早いものだな」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()() ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()() ()()()()()()()()()()()()()

 

 あやめの疑問に、ヘーミッシュは不可解な応答をする。

 

「…なに? どういうことだ」

 

「フフッ…あれはザザザ! ()()独断ということよ。ザ…破滅派は囮に過ぎない。()()()()、ザザ、計画のためのね」

 

「待って…あんたは、もしや」

 

()()()()()()()()()()()()調()に、ぼたんは心当たりがあった。

 

 疑念を抱いていたのはスメラギも同様だった。

 

「以前戦った時、君はナノマシンを使わなかった。戦闘スタイルが前とあまりに違いすぎるんだ」

 

 疑惑はさらに強まり。

 

「君は()()()()()()()()()()()?」

 

「……」

 

 確信に変わる。

 

 ぼたんはある名前を口にする。

 

()()()()()()()()…?」

 

 

 

 

 

「えっと…こいつ、ヘーミッシュじゃないの?」

 

 事情を知らない魔界学校組に、ぼたんは簡単に説明する。

 

 マーシェは、廃ビルにヘーミッシュと共にいたアンドロイドだ。これの存在は、この中ではノエルとぼたんしか知らない。

 

「どういうこと…? マーシェはシェラードくん達が追ってるはずじゃ…」

 

 何より、マーシェは人間界にいたはずだ。それが何故、魔界にいるのか。にもかかわらず、何故自分達はシェラード達と合流していないのか。

 

「私たちが、ザー! 、アンドロイドだということを忘れたかしら? ザザ、データがあれば複製することくらい、ザ、訳ないわ」

 

 確かにそう言われればそうなのだが。だとすると、その真意はどこにあるのか。

 

「じゃあ、私たちがすり替わったと思ってた2体目のヘーミッシュは、あんただったってこと?」

 

 湧き上がる数々の疑問を抑えつつも、ノエルは壊れかけのアンドロイド──マーシェに尋ねる。

 

「えぇ、そうよ。ザザ、スメラギが破壊したヘーミッシュはただの囮。本命は、ザザザ! 私だった」

 

 だった、という言葉。それはつまり、もう本命ではなくなったということだ。

 

 そもそも、分身を作ったという事は本命が別にあるか、もしくは複数の本命であるが故に注意を分散させる目的があったはずだ。

 

「あぁ、そうそう。私たちは互いに、ザザ…データを共有しているのよ。どちらかが破壊された場合に備えてね。ザ、何故こんなことを教えるのかって? フフッ、そりゃあザザザ! アンタ達を呼び戻す為に決まってるだろうが! 実際のところ、魔界にはもう用はない! ザザザザ!! こうも簡単に目的を達成してしまったからなぁ!」

 

 その目的のうち片方が達せられたということは。

 

 

 

 スメラギだけでなく、ノエルやぼたんも気づいた。魔界での目的を達成したというのが本当ならば、次は再び人間界。オリジナルのマーシェがいる所だ。人間界には魔界ほど強力な魔物は殆どいないから、魔界と同じようにマーシェが魔物で街を襲ったとしても、シェラード達や他の傭兵で守り切れるだろう。

 

 だが、()()()()()()()()()1()()()()。もし、マーシェが境界を開けるために()()()負けたのだとしたら。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「いけないっ! 君の、いや君たちの狙いは…!」

 

「急ごう!」

 

「ちょっと! 全然状況が呑み込まないんですけど!?」

 

 スメラギ達の話についていけないシオンはそう叫ぶ。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 すると、あやめはスメラギの方へゆっくりと近づき、こう尋ねる。

 

「つまり、余達は人間界に行けばいいという事だな?」

 

「そうだけど…もうあなた達はこの事件の首謀者を捕らえたんだし、無理に付き合わなくても…」

 

 ノエルの言う事には一理ある。奴らの目的はスメラギのかつての仲間を集めること。あやめ達をここに残しておけば、奴らの目的をいくらか阻止できるかもしれない。

 

「そう言うわけにもいかないわよ。首謀者がアンドロイドで、しかも複製してたっていうなら、それも捕まえなきゃいけないだろうし。私たちだって、魔界だけが平和であってほしいなんて思っていないもの。ね?」

 

「ちょこの言う通りだ。余達も付き合うぞ」

 

「正直これで帰りたかったけど…あんな不気味な奴の仲間を残してたら後味悪いし。ぱぱっとやっつけちゃお!」

 

「やるかぁ〜。ま、なんとかなるっしょ」

 

「るしあも、まだ知りたいことが山ほどあるのです。その為なら…頑張ります!」

 

 と、生徒たちも口々に賛同する。

 

 スメラギとしては、彼女達とはここで別れておきたかった。だが、5人全員が行くと言ってしまっていては、流石に止める事は難しい。彼女達が中途半端に事を終わらせる性格ではないという事を把握していたのだろうか、マーシェはあえて情報を与える事で彼女達を誘導したようにも見えた。

 

(マーシェにヘーミッシュ…君たちの真意は何だ…?)

 

 

 

 

 

「フフ…せいぜい頑張りなさい。ザ…私たちだって、世界を滅ぼす気はないのだから…」




書き直し前につけてた特殊エフェクトはやっぱりガジャガジャしてて気持ちが悪かったので無くしましたw

ノエルのような脳筋キャラは書いてて気持ちがいいですね。力こそパワー!力こそ正義!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

21話 綻び

「あいつらの追跡で有耶無耶になる前に。スメラギ君、詳しく教えてもらおうかな」

 

 〈転移(ガトム)〉で魔界学校に戻った一行。

 

 あやめにより全員が生徒会室へ案内されると、ノエルはそうスメラギに尋ねる。口調こそいつも通りだったが、その雰囲気は穏やかではなかった。

 

「…分かった、話すよ。彼らを倒すまで君達が共に行動するのなら、いつかは話さなければならなかった事だからね…」

 

 正直、魔界学校組の5人は状況を把握しきれていない。そもそも、先ほど追っていたマーシェやその仲間のヘーミッシュが何者で、何の為に何をしているのかすらはっきりと分かっていないのが現状だ。

 

 もっとも、それはある意味では全員そうとも言えるのかもしれないが。

 

「まず、私達にも詳しく説明して欲しいわね。ヘーミッシュとマーシェは何者で、何をしようとしているの?」

 

「彼らはゼノクロスが生み出したアンドロイドだと僕は考えているけど、はっきりしたことは分からない。ただ、彼らが僕を狙っているというのは確かだ」

 

「はいはいっ。何でスメラギさんが狙われてるの?」

 

 椅子にあぐらをかいて座っているシオンがそう尋ねる。

 

「それは…その前に、僕の本当の目的を言った方が良いかもしれない」

 

 もちろん、全てを話すつもりはない。彼女達に向けられた疑惑を完全に払拭する必要もない。自分が今すべきなのは彼女達の信用を得る事ではなく、「最小限の被害」で済ませる事だ。

 

 スメラギはそう再確認し、言葉を選びながら続けた。

 

「僕の目的は、ゼノクロスを倒すこと。彼を破壊し、世界を守ることだ」

 

 

 

「マーシェってアンドロイドも言ってたけど…ゼノクロスって何ですか?」

 

 と、右手をちょこっと挙げメルが質問する。

 

「ゼノクロスは異世界大戦期に建造されたとされる人型兵器だよ。科学世界側の兵器で、その力は世界をも滅ぼせると言われているんだ」

 

「けど、ゼノクロスはそもそも実在自体が怪しい都市伝説みたいなものなんじゃなかった?」

 

「ああ。ぼたんの言う通り、その存在が確認されず、資料も残されていなかった。つい最近までは」

 

「…つい最近までは?」

 

 思わず、ノエルはその言葉を反芻する。

 

「数ヶ月ほど前、ゼノクロスが突然ある世界に現れたんだ。そして、彼はその世界を攻撃し、滅ぼした」

 

「どうして…?」

 

「…分からない。けど、暴走してるのとは少し違ったように思う」

 

「なんか見てきた風に言ってるけど。そもそも何でゼノクロスが世界を滅ぼしたとか知ってるの?」

 

「…ゼノクロスが最初に現れた世界は、僕の故郷だった。彼は故郷を滅ぼしたのち、さらにもう一つの世界を破壊した。僕が逃げ延びた先の世界だ」

 

 スメラギは目を閉じ、静かに答えた。ふと瞼の裏に、共に語らい、戦った仲間の姿を思い浮かべながら。もう乗り越えたと思っていたが、未だ悲しみは消えなかった。

 

「じゃあ、スメラギは復讐のためにゼノクロスを追ってるわけ?」

 

 その答えに、ぼたんは鋭く切り込む。対して、スメラギには怒りも戸惑いもなかった。

 

「…僕は、世界を守るために戦っている、と自分では思っているつもりだけれど、本当はぼたんの言う通りなのかもしれない。けど、これだけは確かだ。ゼノクロスは倒さなきゃいけない。世界を滅ぼす力を、これ以上使わせるわけにはいかない」

 

 

 

「えっと…でもさでもさ。世界が2つ滅びたなんてニュース、無かったよ? 確かにちょうどその時、異世界との繋がりが途絶えたって聞いたけど、それでも観測自体は出来るはずだよね」

 

 と、シオンは疑問を口にする。確かにその通りだった。世界が2つも、それも人為的に滅んだのなら、どこの新聞社、放送局も大々的に取り上げるはずだ。なのに、この世界においてはそれが全くなかった。

 

「恐らく、この世界を覆う結界の影響かも知れない。何故結界が張られているのかは分からないけれど…。この世界で、世界が滅びたことを知っていたのは僕だけだった。ゼノクロスが僕を狙うのは、それが理由じゃないかと思うんだ」

 

「つまり、自分が世界を滅ぼした事を隠すために、それを知ってるスメラギさんを口封じしようとしてるってことです?」

 

「多分ね…」

 

 

 

 しかし、ノエルは違った予想をしていた。

 

 ノエルだけでなくぼたんも、当初はスメラギを殺害の対象と捉えていた。スタートからしてマイナスであったがために、スメラギの言葉をそのまま受け取ることはしなかった。

 

(それだったら、わざわざマーシェがゼノクロスの存在を私達に知らせる理由が分からない)

 

 世界を滅ぼした事実を唯一知っているスメラギを殺すのが目的なのに、それを自分達に知らせてしまっては、いたずらに標的を増やしているだけだ。もしそれを世界中に知らせたら、彼らの抹殺対象は、今度はこの世界の全ての住民という事になるのだろうか。

 

 あるいは、()()()()()()()()()()()()()()

 

(でも、何か違う。多分、奴らはスメラギのこと…)

 

 今はまだ疑念でしかない。一度は捨てた考えを再び持つには、決定打に欠けていた。

 

 

 

 

 

「ふむ、スメラギさんの考えでは、マーシェとヘーミッシュはゼノクロスの手下ではないか、という事だな?」

 

「恐らく」

 

「しかし、ゼノクロスの最終的な目標があなただとしても、何故魔物を使って街を襲うなどという回りくどい方法を使ったのだ?」

 

「……」

 

「それについては、多分私達の方が知ってると思う」

 

(ししろん?)

 

(カードを切るなら今。というより、これ以上出し惜しみする必要もないよ)

 

 意図せずして「対象」は集まってしまった。だがこれは逆に幸いだ。彼女達にこれを見せれば、何かしら情報は得られるかもしれない。そして、スメラギからも。

 

「どういうこと?」

 

「ヘーミッシュ達は、とある人達を狙って行動してる」

 

 ぼたんはポケットからデバイスを取り出し、写真をホログラムで投射する。

 

 映し出されたのは、ヘーミッシュ達の記憶の会話にあったもの。およそ30名ほどの少女がリストアップされている。

 

「これは…? 私達もいるわ」

 

「余達5人の他にも、ノエルやぼたんもいるな」

 

「あっ、ココちゃんにトワちゃんもいる!」

 

「ヘーミッシュ達はこのリストにある「対象」を集めてるっぽい。なんでも、スメラギを倒す為らしいけど」

 

 と、ぼたんは説明を続ける。

 

「っ…」

 

 スメラギは思わず、苦い顔をする。リストアップされていた少女を、全て知っていたからだ。

 

 どれだけ乗り越えようと、忘れようとしても、どこまでもつきまとってくる。その度に、胸が締め付けられるように苦しくなる。

 

(やっぱり、そう言うことかヘーミッシュ…)

 

 しかし今回はそれ以上に。

 

 ヘーミッシュ達は彼女らを利用して、自分を殺そうとしている。

 

 そんな悪い予感が無慈悲に的中してしまった事が、スメラギの心を強く痛めつける。

 

(こんなこと…絶対に起きて欲しくない。そうなる前に、僕は…)

 

「しかし、余達は奴らと敵対している。それでは意味がないのではないか?」

 

 スメラギのそんな思いをよそに、あやめはぼたんに疑問を投げかける。

 

「それは私も思った。スメラギを倒す為なら、自分達の側につけるのが自然だと思うんだけど…」

 

「何か裏があるのかもしれないわね。何にせよ、それが実行される前に彼らを捕まえる事ができれば問題ないけれど」

 

 

 

 

 

「さて、では今後の余達の行動だが……その前に、実は先ほど、境界監視局からテロリスト逮捕時に人間界に渡った者がいたという報告を受けた」

 

 おそらくはマーシェによって複製されたヘーミッシュ。やはり、人間界にいる「対象」を狙っているのだろう。

 

「リストにある中では、魔界にいるのは余達だけだ。奴らの狙いは、完全に人間界に移ったといってもいいだろう」

 

「じゃあ、しばらくは人間界に滞在することになるのかな?」

 

「そうだな。今回は長期間のクエストになると思う。各自、準備と休息を怠らぬように。では一旦解散だ」

 

 

 

 

 

「すぐに出発しなくていいの?」

 

「本音を言うなら、すぐにでも奴らを捕まえたいところだが、体力も魔力も消耗してるしな。それに、あちらにはノエルの仲間たちがいると言う。急ぐ必要もなかろう」

 

 ヘーミッシュが人間界に渡った事を聞いてからすぐ、ノエルはシェラードにその事を伝えてあるので、何かあれば連絡してくるだろう。となれば、万全の準備をしてから臨むべきだ。

 

「なるほどね。あやめもちゃんと仮眠と準備をしておくのよ? お金、まだ持ってるわよね? 身分証とか、テントとか忘れちゃダメよ?」

 

「いつもながら思うが、過保護すぎだっ。というか、テントが必要なくらいサバイバルな所でもないだろう人間界は!」

 

 と、あやめとちょこは他愛もない会話を交わすが、

 

「…しかし」

 

 すぐにあやめの表情が曇る。

 

「スメラギさんの言っていたこと、本当なのだろうか」

 

「えっと、どれのことかしら」

 

「ゼノクロスが彼を狙う理由だ。本当に、世界を滅ぼしたことを隠すためだろうか。そもそも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 原点に立ち返ってみれば、まだ明かされていない事があった。そしてそれは図らずとも、あるいは必然的に、核心へと迫っている事に、果たしてあやめ達は気づいているだろうか。

 

「…そう言われてみれば確かにね」

 

 スメラギの故郷に原因があったのなら、その世界が滅べばゼノクロスは破壊活動を止めるはずだ。しかし現実はこうしてゼノクロスが、その手下のヘーミッシュが暗躍している。だとしたら。

 

「つまり、あやめはスメラギ様が()()()()()()()()()()()()()()()()を持っていると?」

 

「憶測でしかないがな。何にせよ、スメラギさんは何か隠している。あまり悪い事でないと良いのだが…」

 

 疑念は広がる。そして、拭えないものへと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リストの「対象」達。それには「不知火フレア」や「宝鐘マリン」なども含まれていた。

 

 るしあが触れたスメラギの記憶。あれは、滅んでしまった世界で過ごした記憶なのだろう。何となく、確証があった。

 

 やはりスメラギは自分達のことを知っていたのではないか。そして、リストに載っていた「対象」達も。

 

(そうだとしたら、スメラギさんは…)



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

22話 標的は

短めです。


 マーシェ撃破からおよそ3時間後。

 

「マーシェの方、どうだった?」

 

「ボディを調査したけど、ダメだった。メモリーが全部破壊されてる」

 

「流石に情報は漏らさないか…」

 

 少しの休息を入れたとはいえ、ほぼ間髪入れず、スメラギ達は魔界を発つことになった。アンドロイド達は休息を必要としないため、のんびりしているとまた被害が増えてしまう危険があったからだ。

 

「でも、奴らの目的がリストの「対象」達なら、動向はある程度把握できる」

 

「じゃあじゃあ、ヘーミッシュ達はどこに向かってるの?」

 

「それを今から考えようかなって」

 

 ぼたんはデバイスを操作し、人間界の地図を投影する。そこには、全ての「対象」の居場所がマーキングされてあった。

 

「おぉ〜、さすがぼたんちゃん!」

 

「ノエルにデバイスの細々とした作業はさせられないよ…」

 

 あっけらかんと褒めるノエルに、ぼたんは呆れながら応える。

 

「…んで、魔界との境界から1番近いのは、アイゼオンにいる…「ときのそら」「赤井はあと」「大空スバル」「アキ・ローゼンタール」「戌神ころね」「桃鈴ねね」…か。けっこう多いな。でも、彼女達は普通の学生にアイドルだし、ヘーミッシュ達の目的を考えると、狙いから外れるだろうな」

 

「メルたちも一応学生だけどね?」

 

「でも、普通じゃないでしょ?」

 

「シオン先輩はそもそも学生ですらないのですけどね…」

 

 実際問題、同じ学生という土俵なら、人間界で高度な魔法教育を行う学校はまずない為、魔界学校の生徒の方が強いのは事実だ。

 

 何にせよ、アイゼオンの「対象」達は選択肢から外れる。

 

 同様に、ギエルデルタにも一般人がいるだけなので排除。

 

「とすると、次に近いギエルデルタ近海の「宝鐘マリン」が狙いだろうか…?」

 

「でも、エルフの森にも2人いるよ? 海で動き回る子より、陸でじっとしてる子のほうが狙いやすくない?」

 

 ヘーミッシュ達は一応追われている身だ。しかも、彼らの目的はリストの「対象」を殺すことではなく、集めること。何かしら細工をしている間に捕まってしまっては、元も子もない。

 

 距離的には前者、効率的には後者といったところだが、どちらもあり得る選択肢ではある。そもそも、ヘーミッシュとマーシェが別行動でどちらも狙っている可能性だってある。

 

「では、二手に分かれて向かうのはどうだ? それならば問題はなかろう?」

 

「確かに良い案だけど、あちらも戦力は控えてあるのかもしれない。そうなったら、こちらの戦力を分散させるのはあまり得策ではないと思う」

 

 

 

 …と、議論が煮詰まりかけたところで、ノエルのデバイスから着信音が鳴る。

 

 それはこの膠着を打破する一手だった。

 

「ん…シェラードくんからだ。ヘーミッシュもマーシェも、エルフの森に向かってるらしいって」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 という訳で、スメラギ達は境界を越え、アイゼオンにやって来た。

 

「ええと、ノエルちゃんのお仲間さんがマーシェの動向を知ってるのは分かるけど…何でヘーミッシュのことまでわかるの?」

 

「「映像時間操作(リバイド)〉で知ったんだって。ヘーミッシュは宝鐘マリンを無視してエルフを狙ってるって」

 

「それ自体が罠の可能性は…ないか。狙いは()()()()()()()()()()()()()()()()だもんね」

 

 どのような理由かは不明だが、それが本当ならば、行き先は決まっている。

 

「ここからエルフの森までは遠い。徒歩で向かったら数日はかかるはずだよ」

 

 実際にエルフの森からアイゼオンまで歩いたことのあるスメラギはそう忠告する。

 

「人間界では緊急時以外は魔法は使えないのだったな。〈飛行(フレス)〉で行くことはできないか…」

 

「スメラギさん、ノエルちゃん、ぼたんちゃんは車とか持ってないの?」

 

「一応ジープはあるけど、私ペーパーだし…」

 

「私、ちょっと荒いけどいい?」

 

 ぼたんからやる気を感じるが、同時に彼女に運転を任せてはいけないという謎の危機感を抱いた。絶対事故る

 

「…えーと、じゃあ僕が運転するよ。ジープはどこにあるんだい?」

 

「ん、案内する」

 

 そう言い、ノエルは郊外に向けて歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「自動車なんて全然乗ったことないのですが、けっこう速いのですね〜。るしあの〈飛行(フレス)〉じゃ追いつけないかも」

 

「ね。魔界じゃあんまり機械に乗って移動しないから、なんか新鮮!」

 

 ノエルの、もとい白銀騎士団のジープを借りてエルフの森まで向かっているわけだが、どこにでもあるようなジープに対し魔界学校組は珍しい物に出会ったかのような反応を見せている。

 

 ちなみに彼女らのリーダーであるあやめはと言うと、

 

「う、うああぁ…こんなに揺れるのか……や、やばいっ…」

 

「あやめ大丈夫? 窓開けましょうか?」

 

「だらしないな〜あやめちゃん。遊園地のアトラクションと比べたら全然じゃん」

 

 まだ中間地点のギエルデルタにも着いていないにもかかわらず、既に車酔いしていた。魔界では自動車を使うことがほとんどないため、自動車に乗ること自体慣れていないのだろう。

 

「ちょっとー。スメラギも運転荒いじゃん。やっぱ私に代わってよ」

 

「道が舗装されてないから仕方ないんだって…」

 

「ねぇねぇ、ところでエルフの森ってさ、エルフ以外は立ち入り禁止なんでしょ? だったらさ、ヘーミッシュ達も入れないんじゃないの?」

 

 そんな魔界事情もどこ吹く風、と言わんばかりに平然としているシオンがそう尋ねる。確かに、エルフの森は外界と隔絶されていて、人間だろうがアンドロイドだろうが入れないはずだ。

 

「あぁ。あそこには結界が張られているし、入り口には門番がいる。中に入って何か騒動を起こす、というのはできないはずだけど…」

 

「それに、あそこのエルフは他と交流を持たないから、外で何かしても森から出てくることはないと思うなぁ」

 

 と、スメラギとノエルは口々に自分の見解を述べる。ヘーミッシュ達の次の目的をここだと予想したものの、実際どのように目的を達成するのかは未だ判然としていなかった。

 

「それこそ、アンドロイド(彼ら)しか考えつかないような策があるんじゃないの?」

 

「まぁ、それを言ったらおしまいなんだけど…」

 

「近くにソフォレっていう町があるから、そこで聞き込みしてみよう?」

 

「メル達も、着いたら調べてみるよ!」

 

「そうだね。まずは情報を集めないと…」

 

 




ちなみに21話から今回までの期間、話の展開が何も思いつかなすぎて第二部、さらにその続編のことまで考えてました(現実逃避)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

23話 阻止、失敗

 辺境部の町、ソフォレ。

 

 エルフの森から最も近い町ではあるが、その特徴は全く有利に働いていない。エルフの森は外界を完全に遮断しているからだ。

 

 そのため、ソフォレは本当にただの田舎町でしかない。せいぜい、アンドロイドを生産する工場と、異世界大戦時代の遺物が少々ある程度だ。

 

 そんな町にシェラード達は訪れていた。

 

 もちろん、何の理由もなく来たわけではない。彼らはスメラギの殺害という依頼を放棄したのち、その依頼主の仲間であるマーシェを追ってここまで来ていたのだ。

 

「しっかしよぉシェラード。こんなとこに何があるってんだ? 森に用事があるんじゃねぇのか、奴さんは」

 

「さぁ。何にせよ、奴らの企みは阻止しなければなりません。団長達はまだ到着しそうにないですが、その前にマーシェを破壊しておいた方が良いでしょうね」

 

「ヘーミッシュもまだヤツと合流してないようだしな」

 

 ヘーミッシュはノエル達より早く魔界を発った為、彼女らより早く着くだろうが、まだこの町にはいないようだ。

 

「なら、確かに今のうちにやっちまった方がいいかもな」

 

 とは言え、町中で戦闘するのは流石にまずい。やるにしても、「人払い」などの下準備が必要になってくる。

 

「マーシェの動向次第ですね。奴が屋外に居続けるのなら、もう少し狭いところに誘き寄せなければなりません。どこかに潜伏するというのならそこで破壊すれば良い」

 

「ヘーミッシュと合流しない内に準備しねぇとな…」

 

 シェラード達がそう話し合っていると、

 

「っ! マーシェが動いたぞ」

 

 マーシェがどこかへと歩き出す。

 

「外で戦うことにはならなさそうだな…」

 

「私たちからしたら、むしろ好都合とも言えますが…」

 

 

 

 〈幻影擬態(ライネル)〉と〈秘匿魔力(ナジラ)〉で姿を隠しつつマーシェを尾行していると、やたら巨大な格納庫が見えてきた。

 

「ここは…?」

 

「MEMAの格納庫(ドック)…? いえ、異世界大戦時代の遺物でしょうか…。ここに何が…?」

 

 ノエルから、マーシェ達がゼノクロスの手先であることは聞かされている。シェラード達は、マーシェがその施設へ入っていくのを注意深く観察する。

 

「まさかここにゼノクロスがいるのか?」

 

「…いや、それはないぜ。〈透視(リムノス)〉で見てみたが、あの中に機動兵器はない。ただの遺跡みたいだな」

 

「じゃあ…」

 

「ええ」

 

 シェラード達は互いに頷くと、各々が素早く位置につく。マーシェを確実に破壊するために。今度こそ奴らの企みを阻止してみせる。

 

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

 

 シェラードは機能を停止した自動扉を、グッと力を入れ開ける。中は暗く、床や機械の全てが埃を被っていた。その中を、ゆっくりと進んでいく。

 

 やがて、広い場所に着いた。暗闇に目が慣れたシェラードには、ここが機動兵器を格納する場所であると分かった。

 

「やはり来たのね、シェラード・アッシュフォード」

 

「ええ、もちろん。貴女をここで完全に滅ぼしておこうと思いまして」

 

 迷彩を施しているのか、マーシェの姿は見えない。シェラードは声のする方へ向きつつ、魔法陣から収納していた魔剣──断絶剣デルトロズを抜く。

 

「あなたなら、私たちの狙いが分かるでしょう? ()()()()

 

「貴女達の狙いはエルフの森にいる「不知火フレア」と「雪花ラミィ」。そして、彼女達を集めスメラギ・カランコエを殺すこと、でしょう。しかし、その割には貴女方の手元には誰もいない。どうやってその目的を果たそうと言うのです?」

 

「それは」

 

 瞬間。

 

 声のする方とは別の方向から微弱な風を感じ、シェラードは咄嗟に魔剣を薙ぐ。

 

 ギィィィィィィン!!!!! 

 

 それはマーシェが突き出した鋭く長い爪に当たり、高い金属音を響かせた。

 

「…簡単に教えるわけにはいかないわ。例えあなたが計画の本筋にはいない外野だとしてもね!!」

 

「では宣言通り、貴女を破壊するとしましょう。こちらは別に何が何でも情報を求めているわけではない。破壊を惜しむ理由はないのですよ?」

 

 直後、マーシェの爪がバラバラに断ち斬られる。自由になったシェラードはそのままマーシェの元へ飛び込み、首を刎ねようとするも、

 

「ッ!!」

 

 横から文字通り飛んで来た人間サイズもある杭のようなものを寸前で避ける。

 

「ここは言わば機械の集合体よ? 同じ機械の私が操れないとでも?」

 

「暴れるというのなら、存分にして貰って良いですよ。その分、メモリーを壊さずに貴女を滅ぼすという我々の努力目標を達成しにくくなりますから。とは言え」

 

 それを皮切りに、埃を被っていた旧時代の銃器──それも機動兵器用の大型のもの──が火を噴く。

 

「そうも好き勝手されると、滅ぼすどころの話ではなくなってしまいますね」

 

 シェラードは魔法陣からさらにもう一つ、護神剣ローロストアルマを抜き、その全てを弾く。だが、その砲弾や銃弾が格納庫の内壁を破壊することはなかった。

 

「! 結界っ…」

 

 見ると、格納庫の内側に薄い光の膜が張られていた。混乱に乗じて逃げるつもりだったのかもしれないが、その企みは阻止された。

 

 シェラードは自身に向けられた砲撃を弾き、あるいは避けながら、速度を落とすことなくマーシェに突進する。

 

 護神剣で砲撃を弾き、断絶剣でマーシェに攻撃するという器用な戦いをしながら、シェラードはマーシェを追い詰めていく。応戦しようにも、断絶剣の特性により、刀身に触れた武器がことごとく断ち斬られていく為、反撃ができない。

 

「ちっ…!」

 

 マーシェは自らの敗北を悟り、シェラードに向けられた砲撃に自らを晒し、自害しようとするも、護神剣による結界により防がれる。それだけでなく、格納庫自体の電源が切れ、全ての火器が動作を停止する。アレン達による工作だ。

 

「さて、チェックメイトです。あなたに前の個体の記憶があるのかは分かりませんが、今度こそ貴女のメモリーを奪わせて頂きますよ」

 

 シェラードは迷いなく、神速の一撃でマーシェの首を刎ね飛ばす。

 

「ん」

 

 マーシェは何かをしようとしていたようだが、その動作の途中で事切れた。

 

 完全に活動を停止していることを確認すると、シェラードは〈光源(ジア)〉で手のひらから強い光を放つ。

 

「終わりましたよ。照明、点けられますか?」

 

「無理だよ。電源装置を壊しちまったからな」

 

「アレンに任せたからだよ! 機械音痴に出来るのは壊すことくらいなんだから」

 

「お前らなぁ! 結果的に奴さんを倒せたんだからいいだろうが!」

 

「…まぁ、ここから出れば問題はありませんね。皆さん、結界と電源の破壊、助かりました」

 

「おうよ! じゃあ、後は団長達と合流してもう片方のアンドロイドを倒すだけだな」

 

「ええ。問題はヘーミッシュがいつここに来るかという事なのですが…」

 

 マーシェと戦っている間にヘーミッシュが到着していて、既に工作を始めていた、なんて事になっていたら、完全に出し抜かれたことになる。出来るだけ迅速に撃破をしたつもりだが、奴はもう着いたのだろうか…? 

 

 マーシェの頭を抱え、シェラード達は格納庫を出る。

 

「団長達に早めに着いてもらうよう頼んどかないとな…」

 

 そう言った直後、

 

「シェラード! あれは…!」

 

 キースが指差した方向、その先を見ると黒煙が天に向かって立ち昇っていた。明らかに普通ではない。

 

「…少し遅かったようですね」

 

 不幸なことに、悪い予想は当たってしまったようだ。シェラードは(マーシェ)を〈物体縮小(ミニマム)〉で手のひらサイズに小さくし、ポケットにしまう。

 

「急ごう、シェラード!」

 

「ヘーミッシュは私がやります。貴方達は二次災害の阻止を!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は少し遡り。

 

 スメラギ一行は休息と補給を挟んだのち、ギエルデルタを出て少し進んだところを走っている。途中、スメラギからぼたんに交代しながらも(なお2、3回ほど謎の横転危機に見舞われ、あやめがリバースしかけるという事態が発生した)、順調にソフォレ──エルフの森近くの町に近づいていた。

 

「のどかだねぇ、ここ」

 

「何もないねぇ…。人間界ってもっと都会ってイメージあったんだけど」

 

「ま、まぁ…どんなとこにも田舎はあるのですよ、シオン先輩。さっきの街がすごく栄えてただけですよ」

 

「でも、ちょうどさっきのギエルデルタまでが都市部で、ここからは辺境部って言ってこんな風景ばっかなんだよねぇ」

 

 ノエルは退屈そうに言う。

 

「そうなのね…。ねぇ、このクエストが終わったら、みんなでお買い物しない? さっきの街で」

 

「おぉ〜いいねちょこ先! ノエルちゃんとぼたんちゃんに案内頼もうよ!」

 

「いいよー全然。ちなみに、ご飯屋ならノエルの方が詳しいよ」

 

「おうよー! 美味しい牛丼屋なら任せな〜!」

 

「随分ニッチなとこ攻めるのですっ!?」

 

 

 

 …などと、ワイワイ話していると、

 

「みんな…もうすぐソフォレだよ」

 

「お〜、どれどれ…って、あそこっ! 何か黒い煙が…」

 

 ぼたんが指を差した先、よく見ると黒煙が上がっているのが分かった。

 

 車内に緊張が走る。

 

「マーシェがもう始めたのか?」

 

「どうだろう、シェラードくん達なら、何か事が起こる前にマーシェを倒してそうだけど…」

 

「ヘーミッシュのほうがメルたちより先に着いてたのかな? マーシェを囮にしたとか…」

 

「可能性はあるね。しかし、何故彼女たちのいない町を…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やれやれ…マーシェがあればもう少し上手くできたのだが。スペックの限界、というよりは機能特化モデルでないせいだな。しかし」

 

 ヘーミッシュは黒煙を上げるアンドロイド工場を見上げる。

 

「アンドロイドというものは、よくよく信用されていないのだな。有事の際の自爆装置、人間の居住地から離れた立地。何千年経とうと、機械(われわれ)と人間との溝は埋まらないままか…」

 

 その工場から、続々とアンドロイドが出てくる。その数は数百にものぼる。人間に似せた外装は施されておらず、どれも無機質な素体のままだ。

 

「森へ攻め入るには少ないくらいだが、炙り出すくらいは出来るだろう」

 

 現時点で7人。このフェイズが成功すれば9人になる。

 

「さて、これが最後だ。もうすぐ奴を殺す時が来る。我々の目的、存在意義が達成されるまで、あと少しだ」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

24話 再会⑴

 同時刻。

 

 ソフォレに運悪く滞在していた獣人が1人。

 

 

 

「またお願いしたら入らせてくれるぺこかなぁー」

 

 先日はつい、入手した品全て売り切ってしまったが、実を言うと個人用にいくつか欲しいものがあったのだ。

 

 もう一度エルフの森に行く為、その手前のソフォレで休息を取っていたうさ耳少女──ぺこらであったが、

 

 ドォォォォォン……!!! 

 

 と、遠くから爆発音が響いた。

 

「ぴっ!? こんな感じの、なんか前にもあったような…⁉︎」

 

 音のした方に黒煙が立っているのが見えると、周りの住民もぺこらと同じ不安と恐怖を感じた。

 

「あそこ…アンドロイドの工場じゃないか!?」

 

「まさか、AIが暴走したの!?」

 

「おい! 機械が襲ってくるぞ! 逃げろぉぉ!!」

 

 本当かどうかも分からない情報──だが確実に民衆の恐怖を煽るものであった──が流れると、それはたちまち町中に伝播し、すぐ後にパニックが起きた。

 

 悲鳴と怒号が飛び交う中、ぺこらは完全に出遅れてしまう。

 

 皆が皆、てんでバラバラの方向に逃げ出すため、土地勘のないぺこらはどこに避難していいか分からない。

 

(とりあえず町の外に出れば安全ぺこ…⁉︎)

 

 一応、町の外への道は分かっている。ぺこらは人混みをかき分けつつ、町の外へと向かう。

 

 

 

 道自体は知っているとはいえ、外までは少し距離がある。

 

(うぅ…人が多すぎて、ちゃんと道が合ってるのか分からないぺこ…)

 

 道を進んでいる途中、遠くから銃撃音が鳴る。それがさらに、住民たちの恐怖を煽る。同時に、信憑性の低かった情報が正しいことが裏付けされてしまった。

 

(ひっ…! やっぱり、アンドロイドが暴走してるぺこ…? よりによってぺこーらがいる時に、もう…!)

 

 と、ふいに人混みが途切れる。突然のことであったため、ぺこらは前のめりになりこけそうになる。

 

「わっわっ!? ……あれ、ここどこ…?」

 

 いつの間にか、違う道に来ていたようだ。ぺこらはさっきまでの道を振り返る。が、土地勘のない彼女にはどこも同じ景色に見える。戻るにしても、人混みの中では道が分からない。

 

 死を悟ったぺこらは思わず呟いた。

 

「お…終わったぺこ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、ソフォレの入り口に、一台のジープが到着した。

 

「町の方、パニックになってる!」

 

「もう始まっていたのか…!? 行こう、みんな!」

 

「あやめちゃん、行ける?」

 

「も、もちろんだ…。モンスターじゃないなら酔ってても幾分かやれるはず…うぷっ」

 

「キツそうねぇ…あんまり無理しないでよ?」

 

「的が小さい分、倒しづらそうだなぁ。弱そうだし、アサルト使おうかな」

 

「みんな、散開したほうがいいかも。住民の避難は地元の警察に任せて、私たちはヘーミッシュ達を」

 

「分かったのです!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こ、こいつら、速い…! ぐぁっ…‼︎」

 

「邪魔さえしなければ殺すこともなかったのだがな。しかし」

 

 銃弾を弾きながらヘーミッシュは目にも止まらぬ速さで警官に迫り、手刀で心臓を貫く。

 

「がはっ…」

 

「もう遅い。皆殺しだ」

 

 ジャックしたアンドロイドには、どれもヘーミッシュの戦闘データが反映されている。並の人間では対処できないだろう。

 

 警官はアンドロイド用の高威力の銃を使ってはいるのだが、実際のところその功績は少ない。ほぼ一方的に警官が虐殺されている。

 

「さて、もういくつか工場を奪い、戦力を増やすとするか。ついでにマーシェも作り直すとしよう。劣化(私のコピー)だけではいささか心許ない」

 

 警官の対処をコピー達に任せ、ヘーミッシュはゆっくりと歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アンドロイドが工場からわんさか出て来てるのです。みんな、町に向かってるのです!」

 

 死霊──ふぁんでっどに上空を偵察してもらい、るしあは現状を報告する。

 

「工場に向かった警察は…やられたかもしれないね。僕は工場に向かう。出来るだけ引き付けておくよ」

 

「あたしも行く。市街地じゃ満足に魔法使えないからね」

 

「もう、シオン1人じゃ地形変えちゃいそうだし、私も行くわ」

 

 スメラギはスラスターを構築し、シオンとちょこは〈飛行(フレス)〉を発動し、町から離れた工場地帯へと向かった。

 

「私たちは町にいるアンドロイドの破壊と警察の援護を!」

 

「軽く運動したほうが酔いが覚めていいかもな…メル先輩、るーしー、行こう!」

 

「じゃ、私はノエルと行こうかね〜」

 

 そう言い、あやめ、メル、るしあとノエル、ぼたんはそれぞれ別々の方向へと駆けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヘーミッシュ! マーシェ!」

 

 リパルサーレイでこちらに飛びかかってくるアンドロイドを撃ち落としながら、スメラギは2体のアンドロイドを探す。

 

「そう大声で呼ばなくても」

 

 ガヅンッ!! と、脚にワイヤーが巻き付き、スメラギを地面に叩き落とす。

 

「ここにいるぜ、スメラギ・カランコエ。忌むべき男よ」

 

「ヘーミッシュ…! マーシェはどうしたんだ!」

 

 スメラギはエナジーブレードでワイヤーを切断し、ヘーミッシュへと駆け出す。

 

「とんだ邪魔が入ったせいで破壊されてしまった。お陰で戦力を増やす際に人間をいくらか犠牲にしてしまったよ!」

 

 ヘーミッシュは左半身を引き、突き出されたブレードを回避すると、右の手刀を顔面めがけて突き出す。

 

 スメラギは瞬時にそれを避けるが、間髪入れずヘーミッシュは膝蹴りを食らわせようとする。

 

「甘い!!」

 

「そっちが!!」

 

 スメラギは蹴りが腹に当たる寸前で片方の手からリパルサーレイを放ち、ヘーミッシュを吹き飛ばす。

 

「君たちはエルフの森が狙いのはずだ。なのに何故、この町を襲う⁉︎」

 

「襲ってるんじゃあない、襲われたから守ってるだけさ。私は単に戦力を増やそうとしていただけだよ」

 

「屁理屈を…! 僕が狙いなら最初から僕だけを狙えばいいじゃないか!」

 

「それは」

 

 ギュン!!! とヘーミッシュが加速し、右手に形成した鋭利な爪を薙ぎ払った。

 

「確実に返り討ちできるという自信からか? それとも、()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 エナジーブレードを戻し、シールドを形成してその攻撃を防ぐ。しかし、その言葉にスメラギは動揺させられる。

 

「っ…!! 切り札は自分が持っていると言いたいのか…! そんな事は…絶対させない! その前に君を破壊するッ!」

 

「ハハハ! もう遅い! 最後の瞬間で逆転できると思っているのか⁉︎不可能だ! ()()()()()()()()()()()()()!!」

 

「…っ!!」

 

 スメラギは唇を噛みながら、眼前に雷撃の槍を生み出し、放つ。至近距離のヘーミッシュは避ける事ができず、超高電圧の槍が胸部を貫いた。

 

「ぐっ……他人の能力のくせに、自分のもののように使いやがって…」

 

 それだけ言うと、ヘーミッシュは焦げた匂いを胸から発しながら、機能を停止し倒れる。

 

 が、直後。

 

 今さっきまで戦っていたヘーミッシュと全く同じ姿形のアンドロイドがスメラギに襲いかかって来た。

 

「なっ…!?」

 

「工場を占拠したということはな、相方(マーシェ)のデータを使わなくても量産できるってことなんだよ!」

 

「くっ…!」

 

 スメラギは飛び退き、振り下ろされた爪を避ける。右腕にはエナジーブレード、左腕にはソードブレイカーを形成し、スメラギはヘーミッシュへと駆けた。

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと! 数多ないかこれ!?」

 

「しかもすばしっこいから魔法がなかなか当たらないわね…めんどくさい!」

 

 シオンは〈魔黒雷鉄槌(ジラズ・ノア)〉を放つも、着弾地点にいたアンドロイドが次々と退避してしまい、数体しか破壊することができない。これだけの数を少しずつ倒していては時間がかかりすぎる。

 

「幸いなのはこれが全部町に雪崩れ込んでないことだけど…」

 

 と、空を飛んでいたシオンに反撃とばかりに大量のエネルギーカノンが発射される。

 

「うわわ!」

 

 その隙を狙い、ちょこはシオンを狙うアンドロイドに向けて〈獄炎殲滅砲(ジオ・グレイズ)〉を放つ。横から飛んできた黒い太陽に、アンドロイド達は咄嗟に回避ができず焼き尽くされる。

 

「ちょこ先、助かる!」

 

「どういたしまして! …にしても、ジリ貧よこれじゃ…」

 

 

 

 

 

 しかし、不意に。

 

「お呼びでしょうか、お嬢さん(フロイライン)方」

 

 轟ッッッ!!!! と数十体のアンドロイドが細切れにされて吹き飛ばされたかと思うと、1人の男がその間隙を縫ってちょこ達の元へ向かってきた。

 

「貴女達が白銀ノエルの言っていた魔界のお仲間、ですね? 私は白銀騎士団副団長、シェラードです。応援に参りました…いえ、この場合は感謝を述べるべきでしょうか」

 

 そう言われて、ちょこはノエルの仲間たちが先行していたことを思い出す。

 

「ノエル様の…じゃあ、貴方がコイツらを抑えていたの?」

 

「ええまぁ。数だけは優っているようで、なかなか手こずっていますが」

 

「ほかの方々は?」

 

「団員は町の方で住民の護衛についています。早めに団長と合流してくれれば良いのですが」

 

 そんな会話をしながら、シェラードは軽い調子で襲い掛かってきた数体のアンドロイドを一瞬にしてバラバラに斬り刻む。

 

「ちょこせーん! 何この人!」

 

 と、空中から魔法の砲撃でアンドロイドを倒していたシオンがシェラードの存在に気付く。

 

「あー、この人はノエル様のお仲間よ! ちょこたちの味方!」

 

「そういえばノエルちゃん言ってたかも。ま、よろしく!」

 

「とりあえず、我々の任務(タスク)はコイツらを引き付け、かつ数を減らすこと、でよろしいでしょうか」

 

 シェラードは冷静にちょこに確認する。

 

「ええ、そうね。固まって戦いましょう。シオンは遊撃頼むわよ」

 

「おっけ。メル先輩の真似事くらいならやってみせる!」

 

「では。持久戦と参りましょう」




前々回辺りから場面転換に苦しんでます。
シェラードといい、お嬢といい、らっくぅは剣士キャラを強キャラにしがちですね…


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

24話 再会⑵

しまった、今回で24話終わらせるつもりだったのにまだ続いてしまう


 ──ソフォレ市街地。

 

 街中での戦闘にはあまり慣れていないノエル達であったが、シェラードやスメラギ達の活躍により案外少ない数のアンドロイドを次々に倒していきながら、市民の避難誘導を援護する。

 

「ふっ! …弱いのにすばしっこくって、やかましいなぁっ!」

 

「住民がほとんど避難してるってのが幸いだけどね」

 

 メイスをアンドロイドの頭めがけて振り抜きながらそう話すノエルに、同じくアサルトライフルで正確に頭を撃ち抜くぼたんが応える。

 

 彼女らは現在、市街地でも工場地帯に近い郊外にいる。いわゆる田園地帯であり住民が少なく土地も開けている為、比較的戦いやすくはあった。しかし、ヘーミッシュのデータが組み込まれているせいか回避性能は向上しているようで、彼女達は倒すのに苦戦していた。

 

 と、

 

「ん? ねぇノエル、デバイス鳴ってない?」

 

「え? …あ、ほんとだ。もう、こんな時になに〜⁉︎」

 

 憤慨しながら腰のポーチからデバイスを取り出し、通話に出る。

 

『団長! ようやく出た! さっきから何度も鳴らしてるじゃあないですか!』

 

「えっ? キースくん? うそっ…ホントだ⁉︎あーん、ごめんね〜」

 

『まったく……それはそうと、もうソフォレには着いたんですか? 団長』

 

「うん、今ぼたんちゃんと工場地帯方面の郊外で戦ってるよ」

 

『じゃあ俺たちの方へ来てもらえませんか? 座標送りますので』

 

「おっけー。ところで、市民の避難、どれくらい終わってるか分かる?」

 

 ノエルは器用に、左手にデバイスを持って通話しながら、右手に持ったメイスでアンドロイドを倒していく。

 

『まだ少し時間がかかるようです。なのでこちらの援護もお願いします』

 

「すぐ向かうから、それまで待っててね。それじゃ!」

 

 通話を終えるとすぐ、キースから向かうべきポイントが示された。

 

「ぼたんちゃん。ここはもう離れて、町の方へ向かうよ」

 

「団員さんから?」

 

「うん。避難誘導の応援に来てくれって!」

 

 メイスでアンドロイドの胸部を貫くと、2人は踵を返し市街地の方へ向かう。

 

 

 

 が、その時ぼたんは離れた家屋の塀の方に、不自然な()()()があるのに気づいた。

 

「おっと」

 

 これまでのアンドロイドがステルス機能を使っていた記憶はない。もしかしたら、逃げ遅れた住民かもしれない。そう思いつつも、ぼたんは一応揺らぎに当たらないようにギリギリな所に弾丸を放つ。

 

「ひぃぃッッ!!?」

 

「お、やっぱ逃げ遅れか」

 

「どしたの? ぼたんちゃん」

 

「んーや、あっちの方に姿を消してるのがいたから確かめてみたんだけど、逃げ遅れた住民みたい」

 

 ノエル達がそちらの方へ行ってみると、塀についた銃痕のすぐ近くから声が聞こえた。

 

「ふぇ…? ノエール…⁉︎」

 

「ん?」

 

 その声の主はノエルを視認すると、自身にかけていた〈幻影擬態(ライネル)〉を解き、ノエルに駆け寄る。

 

「もしかしてぺこらっちょ!? うわぁ〜久しぶり〜!」

 

「久しぶり〜じゃないぺこだよ! あんたの連れに危うく殺されかけたぺこなんだけど!?」

 

「ノエル、知り合い?」

 

 ぼたんがそう尋ねる。

 

「うん。ちょっと昔に会ったことがあるんだ。この子、兎田ぺこら。行商人だよ。…でも、何でこんなとこに?」

 

「ちょ、ちょぉーっとここに野暮用が…」

 

 迂闊に本当のことを言ってしまえば、きっと呆れられるだろう。単にエルフから欲しいものがあるから寄っただけなどと…

 

「ぺこらっちょも運が悪いねぇ。じゃあ、ま、私たちと一緒に来てよ。ちょうど町の方へ避難誘導の応援に行くから。…あ、そうそう。こっち、獅白ぼたんちゃん。私と同じ傭兵だよ」

 

 そういえば、とノエルはぺこらにぼたんの紹介をする。

 

「ぺこら、よろしくね。大きな耳に当たらなくて良かったよ」

 

 ぼたんは何故か微笑みながらそう挨拶する。どうやら既に捕食対象と認識したようだ。

 

「ひっ……よ、よろしくぺこ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、いたいた。おーい、団長! こっちです!」

 

 白銀騎士団の団員──エディソンはハンマーでアンドロイドを叩き潰すと、近づいてくるノエルに手を振る。

 

「む、ノエルにぼたんか」

 

「エディソンくん! ようやく合流できた! それにあやめちゃん達も」

 

 団員達のいる所を見てみると、あやめ達も一緒にいた。どうやら途中で合流していたようだ。

 

「シェラードくんは?」

 

「奴は工場遺跡の近くで敵を引きつけてくれています」

 

「あちらの警官から話を聞いてきてください。何でも、こいつらをどうにかする術があるらしいですよ」

 

 アルマハドにそう言われ、ノエルは避難誘導の指揮をしている警官の方へ向かおうとする。

 

 と、ぺこらはおどおどしながらノエルに尋ねる。

 

「ノエールぅ…ぺこーらどこ行ったらいいぺこ…?」

 

「ぺこらっちょは警官に従って安全なところへ避難してて。しばらく会えそうにはないけど、落ち着いたらまた遊ぼうよ!」

 

「えぇっ…せっかくの再会ぺこなのに…また一人ぼっち…」

 

 ノエルの言葉を聞いたぺこらは、目に見えて落ち込んだ表情を浮かべていた。

 

「大丈夫! ぱぱっと終わらせるから! あ、今度魔界のお友達紹介するよ! きっと仲良くなれるよ」

 

「ノエール…」

 

「早く行かないとホントに迷子になっちゃうよ?」

 

「…行ってくるぺこ」

 

 弱々しくそう言うぺこらは、名残惜しそうにノエルを見つつも、警官が指示する方へ走っていった。

 

「…全部、終わったらすぐ会おうね」

 

 

 

 ぺこらを見送ると、すぐにノエルは向き直り警官の方へ駆け寄る。

 

「白銀騎士団団長の白銀ノエルです。何か策があるんですか?」

 

「傭兵か! あぁそうだ。工場地帯には万が一の為に防護壁が囲むように設置されている。その壁のゲートを封鎖し、電磁パルスを中に発射してアンドロイドを機能停止にするんだ」

 

「まずは流れ出てくる元をどうにかするってことね」

 

 横で話を聞いていたぼたんはそう納得する。

 

「そうだ。まぁ、町に出てしまったアンドロイドは人力で倒さねばならないのだが…。とにかく、今の目標はゲートを閉めることだ。ゲートの操作は私が知っているから、それは任せてくれ」

 

「私達はゲートの道の確保とあなたの護衛役ってことだね?」

 

「我々の戦力ではゲートまで辿り着けない。…君たち傭兵に、我々の命を預ける」

 

「おーけー! 任せんしゃい!」

 

 警官の申し出にノエルは元気よく応え、その場を離れる。

 

「元気だねぇ」

 

「頼られてるんだもん、見栄張らないと不安になっちゃうでしょ?」

 

「なるほどねぇ。ノエルも考えてるんだね〜」

 

「なんか失礼っ!?」

 

「2人とも、作戦は聞いたな? 余たちが道を切り開く。その間に警官様がゲートを閉める。シンプルな作戦だ」

 

 すっかり車酔いが覚めたあやめが確認をとる。

 

「あ、でもシオンちゃんとちょこ先と、それにスメラギさんもゲートの中だよね。3人に先に外に出てもらわないと」

 

「シェラード君もだ。連絡しとかなきゃ!」

 

「ああ。とはいえ、中で戦闘しているおかげで町へ流れるアンドロイドが少なく済んでいる。シオン達が退避したらすぐ、ゲートを閉めなければならないな」

 

「時間勝負ってことですね…頑張るのですっ」

 

「君たち、準備はいいか? ここの避難は完了した。こちらはいつでもいいぞ!」

 

 先ほどの警官がノエル達に声をかける。

 

「こっちも大丈夫です! …さぁ、行きましょう!」




弱気で甘えたがりな長もかわいいって事ですよね、つまり。
図らずもノエル回になってしまった…
次回は3度目の再会です。再会はこれで最後ですね


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

24話 再会⑶

色々あって投稿にめちゃくちゃ遅れました
主に期末レポートとか春休みのモチベ低下とかモンハンとか。
これからはぼちぼち頑張ります


「風が騒がしいな…」

 

「ね、ね、フレアさん。あっちの方、見てくださいよ!」

 

 ラミィに言われ、木に登り森の外を見ると、黒煙が何本も立ち上っていた。

 

「黒煙…あそこは確か人間の町だったな」

 

「もっと遠くの方っ、あの大きい建物の群れのとこですっ! なんか機械人形がめちゃくちゃいますよ」

 

 眼を凝らすと、黒煙の根元、建物から無数のアンドロイドが這い出ていた。

 

「あいつら…町を襲っているのか。ふん、機械に頼るからこうなる」

 

 フレアは冷たく言い捨てる。

 

「もーっ、またそんな事言って! 助けに行きましょうよ、フレアさん」

 

「……ラミィ本気で言ってるの? エルフが人間を? 馬鹿馬鹿しい、愚かな人間を救ったところで私たちに何の得が?」

 

 ラミィの提案に、フレアは呆れたような視線を投げかけ、そして理解できないと言うように首を振った。

 

「損得とかじゃないですよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 ラミィはフレアを見据える。本気で人間を助けようと考えているようだ。

 

「……」

 

 フレアは思い出す。この前訪れた、あのお人好しな人間のことを。何故か分からないが、懐かしさを感じてしまうあの青年を。

 

「人間は、フレアさんの思っているほど愚かな人ばかりじゃないと思いますよ。救う意味は、あるんじゃないですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先ほどノエルとぼたんがいた所よりさらに奥、工場地帯付近に来るとアンドロイドの数は激増した。ちょうどここから市街地全体へ拡散しているようだ。

 

「ベルナバイドの時よりは楽だけれどっ…ちょっとうざったいな、ッと!」

 

 メルは敵陣の真上を飛び、ヘイトを集める。そして襲いかかる弾丸の数々を華麗に避けながら〈魔黒雷帝(ジラズド)〉を放ち、何体かの敵を撃破する。

 

「早くしないと敵がどんどん増えてく。あんまりゆっくりできないけど…ちょっと厄介だなこれ」

 

 敵──アンドロイドは今この瞬間も、ジャックされた工場でヘーミッシュの手駒として生み出され続けている。しかし、こちら側には面制圧に長けた者がいない。ノエル達は戦力こそ劣ってはいないが、このまま増え続けていたらアンドロイドに数で圧倒されてしまいそうだ。ベルナバイドでの魔物襲撃とは、また違った苦しさがあった。

 

 るしあはシオンに〈思念通信(リークス)〉を飛ばす。

 

「シオン先輩、広範囲の魔法でゲート付近の、吹き飛ばせないのですっ?」

 

『うーん、やってもいいけどほんの一瞬しか道開かないし、何より魔力が保たない!』

 

「それをやるにしても、まずは警官様をゲートの操作盤まで辿り着かせねばならんぞ!」

 

 あやめの言うように、例え流れ出る敵の量を瞬間的にでも減らせたとしても、ゲートが閉まらなければ意味がない。そして、それを唯一可能とする人物をそこまで送り届けるには、敵の壁が厚すぎた。

 

「ぼたんちゃん、何かいい感じの武器持ってない?」

 

「注文がアバウトすぎるでしょノエル。残念ながら現状を打破できる兵装を私は持ってないよ。一度に数十、数百体も薙ぎ払うなんて、それこそ魔法じゃないと無理じゃない?」

 

 ノエルの雑な要求に呆れるぼたんだったが、

 

「それ、私達が引き受けるよ」

 

 予想外の方向から予想外の声が聞こえてきて、思わず彼女は振り返る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「APRIL、センチュリオンはまだ出せないのかっ⁉︎」

 

『申し訳ございません。現在、火器及び火器管制システムの再構築中です。』

 

「おいおい貴様は他人のことばかり気にするな。よほど余裕があるみたいだが、スーツのパワーが落ちていることは分かっているんだぞ!」

 

「ッ‼︎」

 

 十数体目のヘーミッシュを倒し、ゲート付近のアンドロイドを撃破していると、後ろから再び新たなヘーミッシュが襲いかかってきた。

 

(くっ…! もう、「超電磁砲」の限界が…このままじゃ…っ)

 

 寸前でブレードで防御し、スメラギは後ろへ飛び退く。このままではジリ貧だ。超能力の使用に限界がくれば、それを動力源としているパワードアーマーも必然的に使えなくなってしまう。しかし、この状況を打破する手段を、スメラギは持っていなかった。持っていたとしても、使うことはできなかった。

 

「なぁ、そんなにすぐ終わってくれるな。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!」

 

 無数のアンドロイドの合間を縫い、ヘーミッシュはスメラギに肉薄する。

 

「⁉︎」

 

 その時だった。

 

 空から輝かしいほどの光の雨が降り注いだのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっと、あなた達は…エルフ? 外とは干渉しないはずじゃ?」

 

 ぼたんのその言葉に、後方で戦っていたるしあも振り返る。

 

「え…? っうそ…」

 

 そこには、4人のエルフがいた。本来なら守るべきはずの存在が。

 

「外の人間達があんまり騒がしいから鎮めにきただけ。それ以上でもそれ以下でもない」

 

「すぐ憎まれ口叩いて〜本当の本当は見過ごせなかったんでしょう?」

 

「ラミィうるさい。…さっさとやってさっさと帰るから」

 

 褐色肌のエルフ──フレアは弓に矢をつがえ、引き絞る。狙いはゲート付近のアンドロイド達……ではなく、その直上。

 

「ふっ…‼︎‼︎」

 

 弓から勢いよく矢が放たれる。天空に向かって飛ぶ矢は次第に光を帯びていく。白く、神聖な煌めきを。

 

 その煌めきはある高さまで昇っていくと、ボウワッッッ!!! と無数の小さな光に分裂し、地上へと降り注がれていく。

 

 

 

 ガガガガガガガガ!!!!!!!! と。無数の光の雨がゲート付近のアンドロイドを貫き、次々と戦闘不能にしていく。

 

「すご…あれだけで100体は倒せたんじゃない…?」

 

「じゃあ次は私がっ」

 

 癒し系のような印象を与える青髪のエルフ──ラミィは前線に立つと、両手を前に伸ばす。すると、青白い光と共に魔法陣が展開される。

 

「〈聖寒冷結縛界(シェルヘイダル)〉」

 

 淡水色(うすみずいろ)の魔法陣から、風が扇状に勢いよく吹いた。ただし、極低温の。

 

「‼︎⁉︎」

 

 ノエル達がいる場所からゲートまでの、ほぼ全てのアンドロイドがその風に晒され、動きを停止する。

 

 あまりの低温に、エネルギーを供給するブルーブラッドが凍結してしまったのだ。

 

「ではお二人とも、よろしくお願いします」

 

 その声に2人のエルフの男が応じる。それぞれの持つ剣と槍でもって。

 

「おう、後輩ちゃんに支援されるのはなかなか良いもんだね」

 

「それは…皮肉と受け取っておこうかッ!!!」

 

 膨大な魔力を武器に宿し、凍結している敵に向かって突きを繰り出す。たったそれだけで。

 

 グッッッシャァッッッッ!!!!! と、魔力の波、というより壁に押し潰されるようにアンドロイド達は破砕されていく。

 

 

 

「たった一瞬でこれほどの量を…。一体何が…⁉︎」

 

 驚愕するスメラギを横目に、ヘーミッシュは満足そうな笑みをたたえる。

 

「ほう…イレギュラーというのもたまには良いものだな。ここに留まっていたのも無駄ではなかった」

 

「何をっ‼︎」

 

 ギィン…‼︎

 

 スメラギの繰り出した一撃を防御しつつ、ヘーミッシュは後ろに高く跳躍する。

 

「これ以上は時間の無駄だな。()()()()()()()()()()()()()()()()()()。何をしようとも、もう結果は変わらない」

 

 ヘーミッシュは余裕ありげにそう宣言すると、そのまま無数のアンドロイドの群れの中に飛び込み、そして消えた。

 

「くっ…!」

 

「スメラギさーん! そろそろ逃げよぉー!」

 

 箒に乗って上空からシオンが叫ぶ。ゲートが閉まるのだろう。スメラギは後ろ髪を引かれる気持ちだったが、自分にこれ以上の余力もなかったため、シオンとともに閉まりかけのゲートの外へ飛び出す。

 

 直後、2人を追うアンドロイドを押し潰しながら、ゆっくりとゲートが閉まった。

 

「ふぅ〜間一髪!」

 

「警官様!」

 

「あぁっ! ……これで消えろ、機械人形どもっ‼︎」

 

 

 

 ヅバヂィィィッッッッッッ!!!!!!!!! と。

 

 目の前で雷が落ちたかのような凄まじい轟音が周囲を叩き、ゲート内のアンドロイド達に電磁波が直撃する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大音量の音楽を聴き終えた後周りがやけに静かに聞こえるかのように、辺りは静寂そのものだった。

 

「……これで終わりかしら?」

 

「とりあえず敵の増加は防げたな。あとは」

 

「うん。町に残ってる奴らを破壊するだけだね」

 

 と、そこへシオンとスメラギがノエル達の元へ戻ってくる。

 

「やっほーただいまぁ〜」

 

「ノエル達、ありがとう。しかしあの攻撃はいった…い……」

 

 そこでスメラギは言葉が出なくなる。目の前にいたのは、先程の光の雨を降らした張本人。そしてヘーミッシュ達が狙っていた人物たち。

 

 すなわち。

 

「フレア、ラミィ…」

 

「…スメラギ?」

 

 




他の作品も書きたいので早く終わらせに行きたいところ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

25話 絶望への一歩、希望の光は遠く

「あれ、スメラギさんっ?」

 

「なんだ、お前も居たのか。わざわざここまで戻ってくるなんてご苦労なこって」

 

 スメラギに気づいたラミィとエルフの男の片割れ──ラルクは声をかける。

 

「君たち…」

 

「えーと、知り合い?」

 

 ぼたんは首をかしげる。それもそうだ。ノエルとぼたんとはこの中で一番早くに出会ったとはいえ、それはエルフの森に立ち寄った後の話なのだから。

 

「…実は前に一度エルフの森に行ったことがあるんだ。ほんの少しだけれどね」

 

「まさかこんなに早くお前を再び見ることになるとは思わなかったがな」

 

 ラルクの隣にいる男──レゴラスは相変わらず無愛想にそんなことを口にする。

 

「…それより、今はこの町を救おう」

 

「それもそうだ。んじゃ、ちゃちゃっとやっちまいますか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フレア達が加わってからは、今まで苦戦していたのが嘘のように殲滅は進んだ。とはいえ、全ての敵対アンドロイドの破壊が終わったのは既に日が落ち始め、オレンジ色が頭上を染め上げた頃だったが。

 

「よっ、お疲れさん」

 

「ラルク。それにレゴラスも。助けに来てくれてありがとう」

 

「良いってことよ。ま俺たちはラミィに誘われて来ただけなんだがな」

 

「しかしお前がいるとはな。少し驚いたぞ」

 

「…まぁ、色々あってね。あるものを追っていたらここに着いたんだよ」

 

 いつものように、全ては言わない。ラルク達からフレアとラミィに情報が渡る可能性もあるからだ。

 

「ふうん。この前言ってたゼノクロスってやつか?」

 

「ゼノクロスそのものではないけど…全く関係がない訳ではないね」

 

「本当にあったんだな、それ。けどまぁ、お前も大変だな。行く先々で戦いが起きてて」

 

「…あはは、確かにね」

 

 それは偶然ではなく必然なのだと、スメラギは心の内で呟く。戦いは、自分を誘き寄せる餌なのだ。

 

「何はどうあれ、知り合いにまた会えて嬉しかったぜ。しかしまぁ、久し振りに森の外に出れて、何とも気分が良いもんだ!」

 

「…貴様、そっちの方が目的だったな? まったく…早く帰るぞ、阿呆が!」

 

「あはは…またね、2人とも」

 

 

 

 

 

 そうしてラルク達が去っていくのを見ていると、今度は後ろから声をかけられた。

 

「…スメラギ」

 

「フレア。…来てくれたんだね」

 

「お前たちを助けたかったんじゃない。ただの気まぐれだ」

 

「ラミィが説得したんですっ。割とすぐ応じてくれましたけど!」

 

「ちょ、余計なこと言うな!」

 

 そんな言い合いを見てスメラギは安心した。ラミィとはすっかり仲直りしたようだ。

 

「もう帰るのかい?」

 

「これ以上人間に干渉するわけにはいかないから。さっさと元の場所へ帰るよ」

 

「明日また来ますっ!」

 

「いやだから来ないって…!」

 

「ありがとう、フレア、ラミィ。助けに来てくれて…」

 

「…礼を言われる事じゃない。私は別に…」

 

「素直じゃないな〜。良いんですよっ、これくらい! ラミィたちはやりたい事をやっただけですので!」

 

 

 

 2人を見送り、ほっとしたスメラギだったが、すぐにその表情は翳る。

 

 ヘーミッシュによれば、計画は終盤も終盤。もう後がない。

 

(これで最後、か…。そうなる前に、僕は…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 町を救ったということで、町の自治体から宿が無料で提供された。何ともRPGのような展開に、しかしスメラギ達は従うことにした。

 

 今までだったら休息の時間は最低限に、ひたすらヘーミッシュ達を追っていたのだが、これには理由があった。

 

 まず一つに、人間界で標的になりそうなリストの「対象」はもういなかった。唯一の懸念であった「宝鐘マリン」についても、海上にいる彼女たった1人を発見し襲うのは非効率的であろうという結論が出た。ただし、もう標的がいないということは、集められる「対象」を集め切ったということであり、次に彼らが何をしてくるか全く読めないということでもあるが。

 

 もう一つはマーシェから、厳密にはシェラードが手に入れたマーシェの頭部ユニットから得られた。

 

 

 

 宿の一室にスメラギやノエル達が勢揃いしている。

 

 シェラードは一つの地図を壁に映し出す。

 

「これは…辺境部の地図?」

 

 けど、とノエルはある地点を指差す。

 

「そうっぽいね。…あ、でもエルフの森はあるのにソフォレがない」

 

「この点、何だろ?」

 

 さらに何かを示す点がいくつも散らばっていた。

 

「繋げたら何かあるとか?」

 

「さすがに安直すぎるよメル先輩…。それにここのほう、点が集中してるっ!」

 

「あのリストとは…少し違うね。点は全部陸にあるみたいだ」

 

 そこで、シェラードはふと思いつく。

 

「これは異世界大戦期の遺跡を指しているのではないでしょうか。ソフォレには大戦時代の工廠がありますし、西の都市ゼボイムは昔は重要な拠点だったようですから」

 

「それにしても、何故大昔の遺跡を? 彼らの目的に何の関係があるのだ?」

 

 あやめが疑問を投げかける。

 

「マーシェはヘーミッシュとの合流を待たず、単独で遺跡に向かっていました。彼女はヘーミッシュとは別に目的があるのでは? 遺跡で『何か』を見つけ出すという目的が」

 

「『何か』…? ゼノクロスに関連することかしら?」

 

「恐らくは。この地図と現在のものとで相違が見られるのが気になりますが…」

 

 ともあれ、マーシェの足取りは掴めそうだ。

 

「でもマーシェを見つけて倒しても、どっちかが生き残ってたらまた復活しちゃうんでしょ? 2体同時に倒さなきゃ意味なくない?」

 

 シオンの意見にあやめは頷く。

 

「シオンの言ってる事は一理あるな。では、2グループに分かれてヘーミッシュとマーシェそれぞれを追う、というのはどうだ?」

 

 今までと違って、ヘーミッシュ達が大規模な攻撃を仕掛けてくる可能性は低い。であるならば戦力を集中させる必要もない。

 

「そうだね。これ以上何かされる前に、さっさとやっつけちゃおう」

 

「どうやって分ける?」

 

「マーシェは多分ナノマシンを使って複数戦をしてくるだろう。マーシェを追うのは余達魔界学校組に任せてもらおう」

 

「じゃ、私とぼたんちゃんはヘーミッシュ担当だね!」

 

「おーけー。スメラギはどうする?」

 

「僕も…ヘーミッシュを追うよ」

 

 おそらく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 だから、その前に倒す。絶対に。

 

(これ以上、奴の思い通りにはさせない…)

 

「では私たち白銀騎士団は団長らとは別にヘーミッシュの行方を追うことにします。何かありましたらご連絡いたします」

 

 シェラードはそう言い、部屋を出ようとする。その時、

 

「…スメラギ・カランコエ。貴方を信用した訳ではありません。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 シェラードは冷たく言い放つ。

 

 スメラギの殺害を止めるようノエルに進言したのは紛れもなくシェラード本人ではあったが、それはノエル達へのリスクを考えてのことであり、彼のことを気に病んだからではない。

 

 さらに、ノエルから魔界でのことを聞き、シェラードはスメラギに対する疑念は更に増していた。

 

「分かっているよ。……君たちを危険に晒すような真似はしない。それだけは覚えておいて欲しい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スメラギは、ヘーミッシュが次の戦いでは『切り札』を使わないであろうとも予想していた。だから、ヘーミッシュの追跡に志願したのだ。

 

(おそらく彼らはどうにかして僕達を合流させてくる。その時が「最後」だ。それまでに、何としてでも…)

 

 キィン…と脳内に声が響く。自分とは相反する考えがよぎる。あるいは、そちらの方こそ、正しい考えなのかもしれない。

 

(僕は嫌なんだ…っ。ゼノクロスと戦うのは僕1人でいい。だから、それまでは…)

 

 

 

 

 

「ぼたんちゃん、スメラギ君のこと、どう思う?」

 

 自室に戻り、ノエルはぼたんに尋ねる。

 

「グレーかな。何か隠してるってのは前からだけど、先の件が終わってから少し焦っているような気がするんだよね」

 

 先程助けてくれたエルフたちとスメラギの間に何かあった、訳ではないと思う。

 

 だとしたら。

 

「…あのエルフの子たちで最後だとしたら」

 

 ノエルは思考を巡らせながら呟く。

 

「ヘーミッシュは次に何をしてくるんだろう」

 

 今まではリストの「対象」を集めることを優先していたから、こちらに直接攻撃を仕掛けることはなかった。

 

 しかし、集め終わった今なら。

 

()()()()()()()()()

 

「スメラギがそれを知っていると?」

 

「そしてそれが、自分に向けられてるとしたら? スメラギはヘーミッシュに殺されるのを予期してるのかも」

 

「問題はどうやって殺すのか。あと何で殺そうとしているのか、か。ゼノクロスが世界を滅ぼしたことを知ってる唯一の人物だから、ていうのも本当かどうか分からないしね」

 

「ヘーミッシュもだけど、スメラギ君も要注意人物だね。いざとなったら…」

 

 その先は口にはしなかった。まだしてはいけないと思った。

 

「…うん。覚悟はしておいた方がいいかもね」

 

 

 

 

 

「…ねぇ2人とも」

 

「どうしたんだシオン」

 

「何かしら?」

 

 いつも軽い調子のシオンが、いつになく神妙な面持ちであやめとちょこに声をかける。

 

「あたし、聞いちゃったんだよね。スメラギさんとヘーミッシュが戦ってる最中に話してたこと」

 

「…なに?」

 

「何を話していたの?」

 

「うん…。あんまりちゃんとは聞こえなかったけど、『切り札は自分にある』とか『これでチェックメイトだ』、とかなんとか…」

 

「ふむ…チェックメイトというのは、「対象」を集めるというのは今回で最後、という意味だろうか?」

 

 そう考えるのが自然なように思われた。集められる「対象」は大体集め切った、というあやめ達の認識とも一致する。

 

「切り札という言葉も気になるわね。「対象(私たち)」を集めることと何か関係があるのかしら」

 

「…ヘーミッシュの目的は、あたしたちを集めて、スメラギさんを倒すことだよね」

 

「あぁ。どんな方法を使うのかは分からないが、余達とスメラギさんを敵対させるのが目的なようだな」

 

「…その手段が『切り札』ってこと?」

 

 つまり、あやめ達がスメラギを裏切るような、そうさせるに足る『何か』。

 

「その可能性はあるな」

 

「そもそもさ」

 

 シオンが口を開く。

 

「何でスメラギさんを倒すためにあたしたちを集めてるんだろ? 自分達で直接倒せばいいんじゃないの?」

 

「…何か自分達では倒せない事情があるのか?」

 

 あやめは腕を組んで考え込む。

 

 冷静になってみれば、わざわざ各地に散らばっている人間や魔族、さらにエルフまで集めて戦力にするなんて、あまりに回りくどい計画だ。

 

「シンプルに、彼らでは戦力が足りないからって可能性もあるけれど」

 

「でもアイツらは量産できるし、数で攻めれば人間1人くらいは倒せそうな気もするよ?」

 

「数の問題なら、先の事件のように工場をジャックするなり魔物を使役するなり方法はある。それでも勝てないと踏んでいたのか…?」

 

 アンドロイドが強いとはいえ、ただの、それも魔法が使えない人間にそこまで慎重になる理由が分からなかった。

 

「…もしかして、スメラギさん何か隠し持ってる力とかあるのかな。電気を操るだけじゃなくて」

 

 確信までには至らない。だが、捨て去ることもできない疑念ではあった。

 

「……何にせよ、隠し事が多いな。スメラギさんは」

 

「まぁあたしたちとスメラギさんは、そんなに信頼し合ってる仲間でもないしね…」

 

 ある意味では、それは「いざという時」の言い訳にも聞こえた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

26話 死刑執行猶予

長い春休みが終わり、ようやく大学が始まったので倦怠期から抜け出せそうです。


 早朝、一行は町の入り口に集まった。

 

 のだが。

 

「みなさん、おはようございます!」

 

「あ、昨日の! 助けてくれてありがとね〜」

 

 そこには、2人のエルフがいた。何やら後ろに誰かいるようだが…

 

「えっと…君たち、帰ったんじゃ…」

 

「あー……よく考えたら、ウチの近くで騒ぎが起きるなんて物騒だし、再発防止みたいな…元凶を絶っておきたいなって」

 

 フレアは照れ臭そうにしどろもどろに話す。

 

「要はスメラギさんにちゃんと恩返しがしたいなぁってことです!」

 

「余計なこと言うなって!!」

 

(ツンデレだ…)

 

 そう思ったのは多分この場にいる全員だろう。

 

「…あぁそれと」

 

 フレアは背後にある誰かを前に出す。

 

「こいつも一緒に行きたいって」

 

「きみ、は…ぺこらかい? どうして、ここに」

 

「えーと…ま、まぁ野暮用で…」

 

「スメラギ君、ぺこらっちょと知り合いだったの?」

 

 と、ノエルは尋ねる。

 

「あぁ…。この世界に来て初めて会ったのがぺこらだったんだ」

 

「ちょっとしか一緒にいなかったぺこだけどね……そ、それよりっ! ぺこーらも一緒に連れてって欲しいぺこっ…!」

 

 ノエルは一瞬、困ったような表情を浮かべたが、すぐにそれを引っ込め、

 

「ぺこら、すぐ終わらせるから大丈夫だよ。大体、ぺこらは戦えないでしょ?」

 

 穏やかに、しかしどこか冷たく諭す。それは紛れもなく、ノエルの優しさだった。

 

「……」

 

 スメラギも、止めたい気持ちはあった。フレアやラミィ、それにぺこらに、君たちを巻き込みたくはないと。

 

 だが、それは既に遅いような気もした。誰とも関らず1人でどうにかするのなら、いくらでも方法はあった。それを実行せず、流されてしまったのは他でもない自分だ。今さら関わるなと言うのは身勝手なように思えた。

 

「でもでも! 友達が命懸けで守ってくれたのに、何もしてやれないなんて悲しいぺこっ! ぺこーら、戦えはしないけど、役に立つものいっぱい持ってるぺこ! だから…お願いっ!」

 

「ぺこら…」

 

 弱々しいながらも確かな意志をもって懇願するぺこらに、ノエルは戸惑ってしまう。

 

「いいんじゃない? バックアップ要員はいてくれた方がいいし。…それに、友達を大切に思うのは良いことだけど、意志も尊重してあげなきゃダメだよ、ノエル」

 

 と、横にいたぼたんがポンとノエルの肩を叩く。

 

「〜〜〜っ………分かったっ! 危ない時はちゃんと隠れててね?」

 

 少しの葛藤があったが、ノエルは根負けした。

 

「ノ、ノエルぅ!! ありがとうぺこぉ!! ぼたんちゃんも!!」

 

 嬉しさのあまり、ぺこらはノエルに抱きつく。胸当てに頬が若干刺さっており微妙に痛そうではある。

 

「かわいいうさぎちゃん! よろしくね!」

 

「うさぎじゃなくて! 兎田ぺこらぺこ!」

 

「うさぎってことは、やっぱり年中発情期だったりするのかしら?」

 

「ちょ、おま⁉︎初対面で聞くことじゃねぇぺこだろ‼︎つかあんた色んな意味でやべぇぺこだよ‼︎」

 

 早速メルやちょこにいじられている。このメンバーに溶け込むのも時間の問題だろう。

 

 と、るしあがぺこらに近づく。

 

「ぺこら…ちゃん?」

 

「ちゃん付けはちょっとこそばゆいぺこ…フツーにぺこらって呼んで欲しいぺこ」

 

「そ、そっか……ぺこら…」

 

「…? な、なんか顔についてるぺこか?」

 

「あ…いや、なんでも…よろしくね、ぺこら」

 

(兎田ぺこら…。るしあ、()()()()()()()()。るしあと同級生だった…。これは偶然なの? それとも…)

 

 

 

「メンバーも増えたことだし、もう一度これからの動きを説明しよう」

 

 あやめはデバイスから画像を投映しようとする。が、

 

「あれ、こうじゃないな。こうだっけ?」

 

「あ、これだよこれ」

 

「…締まらないなぁ〜」

 

「そこ! うるさいぞ! …コホン。とりあえず、現段階ではメンバーを2つに分ける。1つはこの事件を引き起こした2体のアンドロイドの内の1体、マーシェを追う。もう1つは残りの方のヘーミッシュの追跡だ」

 

 ぼたんの協力で、昨日手に入れた地図にそれぞれの想定ルートや2つのグループの構成などが載せられたスライドが投映される。

 

「奴らの狙いは?」

 

「最終的にはスメラギさんの殺害だ。その方法については不明だが…。しかし、マーシェの方はどうやら異世界大戦期に使用されていた工場や格納庫を探し回っているようだ」

 

「じゃあじゃあ、ヘーミッシュって人の方はどうやって追うんです?」

 

「多分、ヘーミッシュも遺跡を目指してるんじゃないかな」

 

 と、ラミィの質問にノエルが答える。

 

「なんで?」

 

「詳しくはおいおい話すけど、ヘーミッシュは今までスメラギ君を殺す準備をしてきた。それが今最終段階に入ってる。ヘーミッシュは、万全を期す為に遺跡を使って戦力を増強するんじゃないかな」

 

「それは余も同意見だ。奴らとの決着も、おそらく近いだろうな」

 

 そしてスメラギは予感している。真実が明かされるのを。

 

 

 

「マーシェの方は余達だけで何とかなる。新メンバーの3人はヘーミッシュ追跡のグループに参加して欲しい」

 

「おけぺこ!」

 

「分かった」

 

「りょーかいです!」

 

 ぺこら、フレア、ラミィに指示を出すと、あやめは町の外へ向かう。

 

「では余達は一足先に発つぞ」

 

「いってら〜」

 

「またねぇー!」

 

「行ってきまーす!」

 

「……あれ、あたし達もしや徒歩? 嘘でしょ?」

 

「そりゃあ車も魔法も使えないんじゃそうなるわよ。ほら、こんな入口で立ち尽くしてないで行って行って」

 

「わ、わぁ〜鬼畜ぅ〜…」

 

 

 

「…さて、シェラード君達もあやめちゃん達より先に行っちゃったし、後は私達だけだね」

 

「で、どこに向かえばいいの?」

 

 フレアがノエルに尋ねる。

 

「ソフォレから南西のところに、アンドロイド生産工場の遺跡があるの。とりあえずそこに行こう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スメラギは道すがらこれまでのことをぺこら、フレア、ラミィに話した。

 

「ふーん、そんな事があったぺこなんだ。じゃあスメラギが血だらけで倒れてたのは、二つ目の世界が破壊された直後だったってことぺこね」

 

「あぁ、そうなるね」

 

「でも、その世界の住人もただ手をこまねいていた訳じゃなかったんだろ?」

 

「もちろん。大勢の人達がゼノクロスを倒そうと戦ったよ。…でも、ダメだった」

 

「そんな相手と、戦うんですか…」

 

 ラミィは少し怯えたように呟く。

 

「…君たちにそんな重荷を背負わせるわけにはいかないよ。君たちはヘーミッシュとマーシェを倒すまでで大丈夫だ。あとは僕が」

 

 倒す、とは言えなかった。

 

「スメラギ」だけでは到底勝ち目がないのは明らかだ。だが、「もう1人」に頼るのは、それだけはできなかった。

 

(そうするくらいなら…)

 

 戦わずに解決する選択肢も用意しておいた方がいい。

 

「そんなの無責任だろ。ここまで知っておいて肝心の黒幕をお前1人に押し付けることはしないよ」

 

「そうぺこ! もっと大勢の人を呼べば、きっと倒せるはず!」

 

「…そうだね、戦力さえ整えば…」

 

 そうして、大勢の仲間を死なせてしまった。

 

 もう、同じ過ちは繰り返すつもりはない。

 

「ね、これ見て」

 

 と、先を歩いていたぼたんが後ろに声をかける。

 

「ブルーブラッド。シリウムの跡がある」

 

 ぼたんは地面のほうを指差す…が、そこには何もない。

 

「何もないですよ?」

 

「いや…APRIL」

 

『解析します。……ぼたん様の指す方向には、確かにシリウムの痕跡が見られます。』

 

 スメラギがそこにデバイスから発せられるライトをかざすと、血の跡のようなものが見えた。

 

「わ、ほんとだ」

 

「ぼたん、すごいな。私でも全然気づかなかったよ」

 

「まぁ目はいいからねー。ヘーミッシュがさっきの戦いで負傷してくれててよかった。さ、行こう」

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

27話 虚ろいの牙

春の陽気に当たってると、センチメンタリズムを感じずにはいられませんね。この感情をエネルギーにして書いてます


 ブルーブラッドの痕跡はほんの数分前につけられたものであるようで、少し急いで追いかけていると、すぐにその主は見つかった。

 

「ん、見えた」

 

 ぼたんが数キロ先にいるヘーミッシュを見つける。

 

「あっちも察知したっぽい。動きが止まってる」

 

 

 

 そして、スメラギ達でも肉眼で見えるくらいに近づくと、

 

「おいおい、こちらから招待した覚えはないが?」

 

 立ち止まっていたヘーミッシュがこちらを振り返り、呼びかける。どうやら逃げるつもりはないらしい。

 

「ここで君を破壊する」

 

 スメラギは四肢にパワードアーマーを纏い、リパルサーレイを構える。手を抜くつもりはない。ここが正念場だ。

 

「なるほど、よほど待ちきれないらしいな。…だが、ほう。「対象」を二分させたか。考えたな、これでは貴様を殺し切ることができない」

 

 ヘーミッシュはおどけたように両手を上げ、口の端を吊り上げる。

 

(コイツ…何か策があるの? それかこの個体は囮?)

 

 戦力的に圧倒的不利なはずなのに余裕を見せるその態度に、ノエルは疑問を抱いた。が、今はコイツを倒すことが最優先だ。ノエルは腰に提げていたメイスを手に取る。

 

「手負いのあんたじゃ私たちを倒すどころか、逃げることすらできない。覚悟しといた方がいいよ」

 

「さぁ、それは…どうかなッ!!」

 

 

 

 ギュンッッッ!!!! とヘーミッシュは弾丸のように加速し、スメラギ達との距離を一気に詰める。

 

「ひっ⁉︎」

 

「ぺこらさんは後ろに下がってて!」

 

「ッ!!」

 

 スメラギは瞬時にリパルサーレイを放つも、軽い身のこなしで回避される。懐に潜り込んだヘーミッシュは右腕のブレードで逆袈裟に斬りかかる。

 

「そんな攻撃…!」

 

 が、左手のアーマーでそれは弾かれる。

 

 直後、ヘーミッシュが横に吹き飛ばされる。ぼたんが打撃に特化した弾丸を放ったのだ。

 

 そこへフレアが矢を放ち、同時にノエルも突進する。

 

 放った矢は光と共に8つに分かれ、その軌道を大きく曲げながら、側背からヘーミッシュに迫り来る。

 

 矢を避けようとすれば前方にいるノエルに叩かれ、ノエルを避けようとすれば光の矢に貫かれる。初めて戦ったはずなのに、完璧な連携だった。

 

「チッ!」

 

 ヘーミッシュはあえて前へ飛び出し、向かってくるノエルに肉薄する。

 

 ノエルは近づいてくるヘーミッシュに突きを繰り出そうとするが、それよりも早く機械の拳が顔面に迫る。

 

「つッ…!」

 

 寸前で首を捻ってそれを躱すと、ノエルは空いた左手でヘーミッシュの腕を掴む。

 

「ちょっと迂闊なんじゃないッ⁉︎」

 

 そのまま脇腹目がけてメイスを振り抜く。

 

「ぬうぅっ!!」

 

 あまりの衝撃に、掴まれた腕を千切ってヘーミッシュの身体は大きく吹き飛んだ。

 

 そこへスメラギが飛び出し、追撃にかかる。

 

「ふッ!」

 

 両脚にバタリングラムを形成し、勢いのままヘーミッシュに突撃する。

 

 空中で体勢を立て直したヘーミッシュはそれを防御する。が、腕一本でその衝撃を防ぎ切ることはできず大きく腕がひしゃげてしまう。

 

「まだだッ!」

 

 ナノマシン機能を破壊され、ブレードを形成できなくなったヘーミッシュは、それでも回し蹴りを繰り出しスメラギにダメージを与えようとする。

 

 だが、スメラギは突撃の反動で宙を一回転し蹴りを避ける。さらに避ける瞬間にエナジーブレードを形成し、逆に脚を斬り飛ばす。

 

「終わりだヘーミッシュ」

 

 

 

 回転力を殺し切れず、ブルーブラッドを撒き散らしながらヘーミッシュはバランスを崩し倒れる。

 

 もはや戦闘不能状態だというのに、しかしヘーミッシュは未だ余裕を崩さない。

 

「おいおい、まだ終わってはいないさ。俺がわざわざ痕跡を残して貴様らに追わせるなんてヘマをすると思うか?」

 

「やっぱりあんたは囮ってこと?」

 

 と、そこへノエル達が近付いてくる。

 

「無論だ。こんなところで計画を阻止される訳にはいかんのでな」

 

「スメラギを倒すために?」

 

 ぼたんが尋ねる。

 

「俺の()()は既に最終準備を進めている。スメラギ・カランコエ。貴様を殺すためにな」

 

『信号をキャッチしました。……信号はアンドロイド工場遺跡を示しています。』

 

「…どういうことだ?」

 

「本体の元へ向かい計画を止めたいのならばそうすればいい。どちらにせよ、貴様の死ぬ時間が少し変わるだけのことだがな」

 

「……」

 

 スメラギは憮然とした表情を浮かべ、沈黙する。そして、

 

「ちょ、スメラギ⁉︎」

 

 スラスターを噴かし1人工場遺跡へ向かってしまった。

 

 

 

「あぁそうだな。お前なら行くはずだ。もしかしたらという一縷の希望にさえ縋ってしまうだろうよ」

 

「どういうつもり? あんた達じゃ倒せないから私達をわざわざ集めたんでしょ?」

 

 ノエルは訝しげに尋ねる。

 

「なるほど、やはり計画を知っていたか。ならば、己のなすべき事は分かるはずだ」

 

「あんた達を倒してそのふざけた計画を止めること。それが私たちのすべきことでしょ」

 

「今まではな。だが、お前たちは薄々勘付いているはずだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「そりゃ、スメラギはゼノクロスが世界を滅ぼしたのを知ってる唯一の人間だからだろ?」

 

「……」

 

 フレアは不思議そうにそう答えるが、ノエルとぼたんは黙ったままだ。

 

 元々、彼女達がスメラギに不信感を抱いたのはそこだったのだ。

 

「ハハハ! 奴はそう答えたのか。その場しのぎにはなったのかもしれないがな! だが犠牲など、より多くの平和の為には必要なことだ。世界の滅亡を知られたところで目的さえ果たせれば構わん」

 

「…じゃあ何のために?」

 

「それを知りたいのならば俺の示した場所へ行け。そこで全て明かしてやろう」

 

 そう言うとヘーミッシュは機能を停止させ、完全に動かなくなる。

 

 

 

「…」

 

 ノエルは黙り込む。その表情は険しい。

 

「どういう事です? 全て明かしてやるって…」

 

「さぁ。ただ、スメラギはまだ隠している。それも重要なことを」

 

「重要なことって……何だよそれ…」

 

 フレアが力なく呟く。得も言えない不安が、彼女たちを襲った。




どうも戦闘シーンが淡々としちゃいますねームツカシイ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

28話 If this is an inevitable fate...

今回長めです。


 十分ほど飛行していると、野原にぽつんと巨大な施設が見えてきた。

 

 着地し、辺りを見回す。ここがヘーミッシュが示した場所だが、襲ってくる気配はない。

 

 スメラギはゆっくりと工場遺跡へ近づき入口を探る。

 

『マスター。お一人で彼を討伐するおつもりですか?』

 

「今やらなきゃ取り返しのつかないことになる。ゼノクロスと戦うことすらできなくなってしまうんだ」

 

『御言葉ですが、ここでヘーミッシュを完全に破壊しても、マスターに対する彼女たちの疑惑は晴れません。』

 

「これ以上彼女達を巻き込むわけにはいかないんだ。ゼノクロスさえ倒せればいい。そうしたら、後は……」

 

『マスターがその未来を許容しているとは考えられません。時間をかけてでも説得すべきです。』

 

「もう遅いよ。僕はこの道を選んだんだ。今さら引き返すことはできない…」

 

 スメラギは静かに遺跡の扉を開け、数千年間放置されてきた暗闇の中へ足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヘーミッシュに示されたポイントへ進んでいると、途中で遠くに人の姿が5つ見えた。それは少し前に出会ったものの既に見慣れた姿となった仲間たちであった。

 

「あれ、あやめちゃん達?」

 

「む、ノエル達か。ヘーミッシュを追っていたんじゃ?」

 

「あやめちゃん達こそ。マーシェを追ってる最中?」

 

 ノエルが尋ねると、ちょこが答える。

 

「いえ、マーシェはさっき破壊したのだけれど、彼女が最期に残した座標が気になってね。そちらは?」

 

「うん。実は…」

 

 と、ぼたんが先ほどまでのことを簡単にあやめ達に説明する。 

 

 

 

「それにしてもスメラギのやつ、1人で行かなくてもいいぺこなのにっ。人間界で有事の際以外で飛行するの、禁止ぺこなんだよっ?」

 

 ぷんぷんとぺこらは文句を言う。

 

 が、あやめ達はぺこらと温度差のある別の反応をした。

 

「…やはり、何か隠している」

 

「ぺこ?」

 

「あやめちゃんも?」

 

「あたしとちょこ先もね。ヘーミッシュ達があれだけ慎重なのは、何か裏があるんでしょ?」

 

「…さっき、ヘーミッシュが本体のいる場所へ向かえば全てを明かすって言ってた」

 

「それがスメラギさんと無関係…ではあり得ないだろうな」

 

 

 

「ちょっとちょっと! 何の話っ? 私もしかして周回遅れ?」

 

 と、メルが前のめりになって割り込む。当然と言えば当然だ。

 

 それに、話についていけてないのはるしあやフレア達も同じであった。

 

「簡単に言うと、スメラギさんはグレーってことよ」

 

「な、何でスメラギさんを疑う感じになってるんですっ? ラミィ達、ヘーミッシュとかって奴を追ってるんですよねっ?」

 

「そうぺこだよ! 確かにスメラギは謎が多いけど…悪そうな奴ではないぺこだしっ」

 

 ラミィとぺこらが抗議する。が、それはぼたんによって否定される。

 

「その謎が多いというのが怪しい。実は重大なことを隠していたら? 取り返しのつかないことかも」

 

「取り返しのつかないことって……ゼノクロスが世界を襲うこと以上に重大なことなのですかっ…?」

 

「……」

 

「そこへ行けば分かる。…今は進むしかないだろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一応ドアは開けたままにしているが、どこにも窓が見当たらず入口以外で光が射している場所はない。もしかしたら時間帯によってブラインドが自動で昇降するのかもしれないが、その機能は停止しているようだった。

 

 スメラギはアーマーのライトで周囲を照らしながら、微弱なマイクロ波を放ち索敵する。

 

(地上は製造する場所ではないのか。機械やコンベアが見当たらない…)

 

 スメラギのいる空間はやけに光沢のある黒い床だけが広がっている。ここは完成品の点検や保管をする場所なのかもしれない。

 

 しかし、これだけだだっ広い空間であるにも関わらず、索敵に引っかかるものはない。カツン、カツン、とスメラギの足音だけが響く。

 

(ヘーミッシュはどこに…)

 

 

 

 その瞬間。

 

 ズガガガガガッッッッ!!!! と、スメラギが踏み出した足を下ろそうとしたまさにその床を突き破ってドリルが這い出てくる。

 

「ッッ!!?」

 

 スメラギは瞬時に足のスラスターを噴かし寸前でドリルを避ける。

 

「ヘーミッシュか!」

 

 スメラギは着地すると、奇襲の主が地上に上がる前に右腕に構築したプラズマキャノンを放つ。

 

「!」

 

 だがそれは人型に当たる直前で何かに防がれる。

 

「やはり来たか。スメラギ」

 

「ここで終わらせる。絶対に」

 

「未だに『人間』にしがみ付いているお前では無理だ。お前こそ、死ぬ準備は出来ているのか?」

 

「そんなものッ!!」

 

 スメラギはリパルサーレイでヘーミッシュの胸部を正確に狙い撃つ。しかし、彼の射撃は再び弾かれる。

 

 それを見てヘーミッシュは薄く笑うと、ぐん! と加速してスメラギに突進する。

 

(また防がれた! 不可視のバリアか…⁉︎)

 

 遠距離攻撃が通用しないことを悟ると、スメラギも駆け出しバタリングラムで迎撃を図る。

 

 

 

「ぐっっがッ……!!?」

 

 だがヘーミッシュの方が一瞬早く、スメラギに勢いのままタックルする。

 

 APRILが寸前で胴体にパワードアーマーを装着させていなければ、体が真っ二つになっていただろう。しかしパワードアーマーでも衝撃を吸収しきれず、スメラギは肺の空気を全て抜かれ一瞬呼吸ができなくなる。

 

 着地する前に全身にパワードアーマーが装着されるも、まともに受け身も出来ず全身を打つ。

 

「…ッはぁっ! はぁっ…!」

 

 ようやく呼吸ができるようになると、すぐさま起き上がってヘーミッシュを再び捉える。

 

 スメラギは両腕にエナジーブレードを形成し、再度接近戦を図る。

 

 

 

 が、

 

「ッ!?」

 

 突如上から気配を感じ、咄嗟にブレードで防御する。

 

「あら、アクティブステルスで完全に隠し通したはずだったのに。さすが『エース第3位』と言うべきかしら? それとも…フフッ!」

 

「ほら、お返しだ。スメラギ!!」

 

「くっ…!」

 

 ギィン! とマーシェを弾き飛ばし、スメラギと同じバタリングラムで突撃してくるヘーミッシュを、真横に転がって避ける。

 

 

 

(このままじゃ倒せない…ッ!)

 

 スメラギはスラスターを噴かし空中へ飛び上がる。

 

「APRIL、センチュリオンの武装は⁉︎」

 

『1番から5番兵装まで使用可能です。』

 

「3番兵装をっ!」

 

『了解。』

 

 APRILの声と共に多数の部品が電送されたかと思うと、ガチャガチャガチャッ!! とそれらがどんどん組み合わさっていき、1つの巨大な武装が完成する。

 

「ほう、まだ隠し玉を持っていたか!」

 

 スメラギは対装甲散弾砲をヘーミッシュ達に向けて放つ。対機動兵器用であるこの武装ならば、バリアだろうと余りある火力で貫通する事ができるはずだ。

 

「さすがにこれくらいの小細工は看破してくるわね。けれど、こちらも負けるわけに行かないのよッ!」

 

 マーシェはバリアの正体──ナノマシンを操作し、頭上に分厚い防壁を形成する。

 

 それで高威力の散弾を防ぎ切ることはできなかったが、かなり減衰させることができた。

 

 破壊の雨が止むと、ヘーミッシュは左腕に取り付けられたレーザーライフルでスメラギを撃ち落とそうとする。

 

 それを避け地上へ降りると、スメラギは再度散弾砲を撃つ。

 

「ナノマシンの壁がなければ私たちに勝機がないとでも?」

 

 2体のアンドロイドはその前に高く跳躍し散弾から逃れ、そのままスメラギへ襲いかかってくる。

 

「ッ!」

 

 スメラギは対装甲散弾砲を還しリパルサーレイでマーシェを迎撃しつつ、後退してヘーミッシュの攻撃を避ける。しかし、

 

(決め切れない…‼︎これ以上戦ったら…!)

 

 

 

「そろそろ時間切れだ。スメラギ・カランコエ」

 

「ヅあッ…!!?」

 

 直後、胸に強い衝撃が突き抜け、スメラギは吹き飛ばされる。いつの間にかアンドロイドをトラックに搬入するエリアに移動していたようで、シャッターを突き破り、工場遺跡の外へ追い出される。

 

 

 

 ヘーミッシュはいとも簡単にシャッターをぶち破ると、彼らはゆっくりとスメラギに近づく。

 

(使うしか…ないのか…⁉︎)

 

 しかし。

 

 突然、雷の柱が空から2体のアンドロイドに降ってくる。

 

 ある意味、想定外だったのはスメラギの方だったのかもしれない。

 

「なっ…⁉︎」

 

 故に、スメラギは思わず声を上げ、振り返る。

 

 そこには、この場に1番居て欲しくなかった人達が、立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もーっ、1人で先走るから!」

 

「…少し、手間取っているだけだよ。問題ない」

 

 ラミィの叱責に、スメラギはやや俯きがちに応じる。

 

「その割にはけっこう苦戦してるじゃん。さっさとコイツら倒してこの気持ち悪い状況から抜け出させてもらうよ」

 

 そう言うと、ぼたんはスナイパーライフルを構えヘーミッシュに狙いを定める。

 

「とりあえず貴方のことは奴らを倒してからでも解決できるだろう?」

 

「なら皆で戦った方がいいっしょ」

 

 あやめが刀を抜き、シオンが魔法陣を構築する。

 

「この戦いが終わったら、ちゃんと話して欲しいのです…。るしあが見た記憶のことも」

 

「それは……」

 

 他のみんなも戦闘態勢に入った。

 

 本来ならば心強いはずなのに。敵は一致していているはずなのに。スメラギの心中をどうしようもない絶望が満たしつつあった。

 

 

 

「漏れなく誘導できたようだな」

 

「えぇ。ここまで来ればどう転んでも同じ結果にはなると思うけれど」

 

「念の為だ。仕上げは任せたぞ」

 

「了解」

 

 

 

「先手必勝! 〈獄炎殲滅十砲(ジオ・グレイツェン)〉!!」

 

 シオンの照射魔法を左右に分かれて避けると、それぞれノエルとあやめに向かって走る。正面突破を図るつもりだ。

 

「舐められたものだ。余と」

 

「まともに戦って勝てるわけないでしょっ!!」

 

 

 

 ヘーミッシュの突進を、

 

「鬼神刀阿修羅、秘奥が壱」

 

 あやめはむしろ反撃をもって防ぐ。

 

「〈黒南風(くろはえ)〉」

 

「ッ!!!」

 

 重みのある神速の一撃がヘーミッシュを襲う。

 

 

 

「ふッ…!」

 

 マーシェが繰り出した突きを手甲で弾く。

 

 が、これはブラフだ。もう片方の手刀がノエルの腹部を狙う。

 

「だから」

 

 ガッッッ!!! とノエルは寸前で手首を握り締め、その攻撃を止める。

 

「同じ手は通用しないっての!!」

 

 

 

「動きが止まった。ほいっ、と!」

 

「はッ!」

 

 ぼたんとフレアがそれぞれ、2体のアンドロイドに向かって射つ。

 

「チッ…!」

 

 ヘーミッシュは寸前で身体を捻ることで致命傷を避けたが、マーシェは避ける事ができず、肩から胸へと横から貫かれる。

 

 腕から力が失くなったのを感じると、ノエルはマーシェの腕を離し、横に避ける。

 

「じゃあね機械人形さん。〈絶氷牙砲(ガル・レイアス)〉‼︎」

 

 ノエルの背後では、既に魔法陣を構築し終えたラミィが立っていた。

 

 ラミィは巨大な氷柱を高速で射出する。

 

「ッ!!!」

 

 それはマーシェを捉え、機械の体に大きな風穴を開ける。

 

 致命傷を2度も負ったマーシェは流石に稼働することができず、機能を停止させそのまま倒れていった。

 

「残るはお前だけだ、ヘーミッシュ」

 

「もう勝った気でいるらしい…!」

 

 ヘーミッシュは飛び退くと同時にレーザーを放つ。

 

「させない! 〈四属結界壁(デ・イジェロン)〉!!」 

 

「〈魔黒雷帝(ジラズド)〉!」

 

 ちょこがそれを防ぐと、メルが雷で反撃する。

 

「それは対策済みだ!」

 

「けど、足は止まったねっ! るしあちゃん!」

 

「〈重力地伏拘束(グラビジェルガ)〉! ちょっと伏せててもらうのです」

 

魔黒雷帝(ジラズド)〉を防ぐために動きを止めたヘーミッシュの足下に、紫の魔法陣が描かれる。それが淡く光ると、ヘーミッシュに尋常ではない重さがかかる。

 

「…!」

 

 ヘーミッシュはあまりの重さに立っていられず、膝をつき、頭を垂れるような姿勢になる。

 

「終わりだ」

 

「どうかな…!」

 

 ぐぐぐ、と高重力の中腕を持ち上げると、

 

「ッ!」

 

 ヘーミッシュの腕が小さな爆発と共にあやめに向かって射出された。

 

 しかし、

 

「悪あがきだな」

 

 神速の如き一太刀で飛んで来た腕を斬り伏せると、もう一方の刀でヘーミッシュの首を斬り落とす。

 

 そして、ヘーミッシュは完全に動かなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あっさり、であった。

 

 人数差はあったとは言え、ソフト・ハード双方で強化が施された彼らをこうも簡単に撃破してしまった彼女らに、少しの安心を感じると共に圧倒された、というより恐怖に似た感情が湧いた。

 

 それは彼女らの力に対してだろうか。それとも。

 

 

 

 

 

 何はともあれ。

 

 脅威はひとまず去った。後は奴を倒すだけだ。その先は流れに任せればいい。

 

「お、終わったぺこ…?」

 

 静かになったのを察知すると、物陰からひょこっとぺこらが顔を出す。

 

「まぁ一応」

 

「あーぺこらちゃん、アレちょうだい。『マナジュース』!」

 

「エーテルぺこでしょ⁉︎不味そうな名前付けるなぺこ!」

 

 

 

 

 

 その時。

 

「ッ…!?」

 

 誰もが反応できなかった。

 

 頭部を破壊され完全に機能を停止していたはずのヘーミッシュが、残っていたやたらゴツい腕からレーザーを発射したのには。

 

「ぺこらッ!!」

 

 突如として迫りくる脅威に、ぺこらは息を呑むことしかできない。

 

「まずい、避けてっ!!」

 

 スメラギは反射的にスラスターを全力で開放し、ぺこらの元へ飛ぶ。

 

 だが運の悪いことに、ぺこらとは距離が開いていた。どんなに速く走ったところでレーザーには追いつけないし、魔法陣を構築する時間だってなかった。

 

 つまり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(追いつけないっ⁉︎そんな、このままじゃ…!)

 

 また自分のせいで要らない犠牲が生まれる。

 

 あの光景がフラッシュバックする。そうならないように、戦ってきたのに。彼女から、みんなから託されたはずなのに。

 

(だったら使えばいい。俺の力を)

 

 頭の中で声が響く。

 

(ダメだ! その力を使えば…!)

 

(おいおい、まだ日和ってんのか? テメェじゃ仲間は救えねぇって言ってんだよ‼︎俺なら救える。この力を使えばな)

 

(けど…それを使ったらっ、もう元には戻れない…全てが無駄になる…!)

 

(それがどうした⁉︎今更だろ! ハッ、自分が可愛くなったか? 自分の為に誰かを犠牲にするのは仕方ないと割り切れるのか!? お前が!)

 

(違う…! 僕は…っ)

 

(どうせ俺達は忌み嫌われる存在。それが運命だ。だったら、こそこそして他者にびくつく必要なんてねぇ。つまんねぇ縛りなんか捨てて、やりたいようにやるべきだろ‼︎なぁスメラギ!!!!)

 

(ぼ、僕は……っ!)

 

 全てがスローモーションに見えてくる。俯瞰しているかのように、視界が遠のいていく。

 

(スメラギィィィィィィィィィィィ!!!!!!!!!!!)

 

(ぅああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!)

 

 

 

 

 

 ッッヴンッ!!! と。

 

 まさにぺこらを灼かんとしていた光線が、アニメの作画ミスかのように突然消える。あるいは、存在ごと消されたかのように。

 

 あるいは。

 

()()()()()()()()()()()()

 

「ふぇ……?」

 

 いつまで経っても何もやって来ないのに気づき、ぺこらは恐る恐る目を開ける。

 

 ただ、ぺこらでは見ていたとしても気付かなかったかもしれない。

 

 だが。

 

 あやめやシオン、ノエル達の魔眼を誤魔化せるはずはなかった。

 

「ま、さか……」

 

「今の…、今のは」

 

「…やっぱり。そうだったんだ」

 

「君は、『スターク』だったんだね」

 

 邪神の力。

 

 彼女たちは今、まさにその波動を感知したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな…スメラギさんが、『スターク』だなんて…」

 

「何で…何でだよっ! どうしてお前が…‼︎」

 

「……」

 

 フレアの悲痛な叫びに、スメラギは沈黙で応えるしかない。

 

『その通り。奴は『スターク』だ』

 

 突然、ヘーミッシュの声が聞こえる。それも全方位から。

 

「な…ヘーミッシュは倒したはずではッ?」

 

『ナノマシンに一部のデータをコピーすればこれくらいはできる。……さて、全てを明かしてやると言ったな。まずは()()だ。そして次に、我々の真の目的だ』

 

 姿も形もなくなったヘーミッシュは、ゆっくり語り始める。勝利の余韻に浸るように。

 

『数ヶ月前、ゼノクロスは封印された世界で邪神の力の波動を感知した。彼は世界を破壊する因子を滅ぼす為、作られた兵器だ。故に封印から目覚め、『スターク』であるスメラギを攻撃する事にした』

 

 しかし、それは世界にとっては想定外だった。存在すら曖昧で都市伝説化していた機動兵器が突然現れた上に、「罪のない住民」を攻撃し始めたのだ。明らかに異常事態だった。

 

『だが、世界はゼノクロスを迎撃した。事もあろうに、『スターク』を庇ったのだ。だから滅ぼした』

 

「あんた…! そんな理由で世界を2つも滅ぼしたの⁉︎」

 

『無論だ。危険因子を擁護するものも同様に危険因子とするのが自然だろう。少数を切り離し、大勢を救ったまでだ』

 

 ノエルの怒りに、ヘーミッシュはあくまで淡々と返す。まるでその怒りの矛先が見当違いであると言うかのように。

 

『分からないか? そもそも、その地に『スターク』がいたから滅びることになったのだ。『スターク』さえいなければ我々は目覚めることなく、また世界を滅ぼす事もなかった』

 

 そして。

 

「……」

 

『そして、我々がわざわざ街を襲い、お前たちをこうして集めたのも、全てこの世界にスメラギがやって来たからだ』

 

 流れが変わる。

 

 レールが、確実に切り替わっていく。

 

『スメラギがいれば、遠からずこの世界も先の2つと同じ結末を迎える』

 

 敵意が、こちらへ移る。

 

『奴を殺せ』

 

 

 

 

 

 

 

「スメラギさん。何か言い残しておくことは?」

 

 俯き、力無く立ち尽くしているスメラギにあやめは尋ねる。その声色は無機質だった。

 

「…何も、ないよ。最初から、こうしておけば良かったのかもしれない…僕は愚かだった」

 

「…貴方に『力』さえ宿らなければ、違った道を共に歩めたかも知れなかったが」

 

 あやめはゆっくりと刀を抜く。

 

 全ての元凶を断つ為に。

 

「さらばだ」

 

「あやめ先輩待っ…!」

 

 

 

(おい、早く避けねぇと死ぬぞ)

 

(それでいい…。これは、避けられない運命なんだ。僕が死ぬ事で全て解決するのなら、死んだって構わない…)

 

(ハッ、そうかい。なら)

 

 声が遠ざかる。いや、自分が遠ざかっているのだ。

 

(引っ込んでな臆病者)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あやめの一撃はスメラギの首を綺麗に斬り落とし、それで全てが終わるはずだった。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「なっ…⁉︎」

 

 俯き、無防備なスメラギの首に振り下ろされた刃先は薄皮一枚も斬る事なく、まな板を包丁で斬ろうとした時のような硬い感触だけがあやめに伝わってきた。

 

「ッ!!」

 

 直後、轟ッ! と凄まじいオーラを感じとり、あやめは即座に飛び退く。

 

「あの、禍々しいまでの気は…⁉︎」

 

「おいおい痛えじゃねぇか。()()()()()()()()()()()

 

 明らかに先程までとは違った。何が、というとあらゆる点で。

 

 だから。

 

「お前…一体何者だ…っ?」

 

 思わずフレアは呟いていた。

 

「俺はオーガスト。スメラギが生み出したもう一つの人格さ。スメラギ(あいつ)は現実を受け入れられなくて逃げ出した。だから代わりに俺が出てきたんだよ」

 

「オーガスト…? それが…」

 

 スメラギが頑なに使わなかった『力』を、臆する事なく露わにしている。

 

「そうさ。アイツは『スターク』である事に耐えきれず、俺を生み出し『力』を俺に押し付けた。だがお陰で俺は自在にコイツを使うことができる」

 

 全身から滅紫(けしむらさき)色の『力』が噴き出ている。少しずつ強まっているのを、痛いほどに肌で感じる。

 

「テメェらは俺達を殺すつもりらしいな。だが俺はこんな所で死ぬつもりはねぇ」

 

「……だったら?」

 

 ノエルは静かにメイスを構え直す。

 

「そりゃあ…テメェらを潰すに決まってんだろォが!!!」




ようやくここまで来れた…!
実は下書き時点では、『スターク』だとバレた後スメラギとホロメンが戦闘し、スメラギが追い詰められる、という予定でした。しかし書いていくうちに下書きから逸脱していって、スメラギ自身がホロメンと戦うシーンが削られ、今の感じになりました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

29話 それでも歯車は回り続ける

そういえばすっかり忘れてたけど、やっぱりヘーミッシュとマーシェは噛ませ犬だった…()

大丈夫!安心して!ちゃんと君達が強い世界線作ってあげるから!


「ッ!!」

 

 右腕に収束させた『力』を、オーガストは一気に放出する。それはある種の光線となってあやめ達に襲い掛かる。

 

「スメラギさん…いや、オーガスト! ここで貴様を滅ぼすッ!」

 

 滅びの光線を避けると、あやめは刀を構えオーガストに迫る。

 

「鬼神刀阿修羅、秘奥が弍……<涅槃西風(ねはんにし)>ッ!」

 

 刀身が揺らめいて見えるほどの緩急をつけた一撃が、あやめから放たれる。対してオーガストは、しかしそれを前にして避ける事もしない。

 

「やかましいんだよ!!」

 

 この秘奥は緩急をつける事で受けのテンポをずらし、予測不可能な一撃を加えるといったものであって、そもそもが「人」に対して作られた技だ。だから、

 

「ハッ! 捉えたぜぇッ!!」

 

 邪悪なオーラを腕に纏ったオーガストは、相手の意表を突くタイミングずらしなどお構いなしに刀身を掴む。

 

「チッ…!」

 

 あやめはもう一振りの刀を抜き、突きを繰り出そうとする。

 

「おせぇ!」

 

 オーガストは阿修羅を放すと、その手から衝撃波を放ちあやめを吹き飛ばす。

 

「あやめちゃんっ!!」

 

 すると、吹き飛ばされたあやめをカバーするように、今度はノエルが前に出る。

 

 

 

「愚かだな! 最初から俺を殺していりゃ被害が増えることはなかったのによォ!!」

 

「…そうだね、私の判断ミスだった。だからせめて、ここであんたを滅ぼす!!」

 

「ハッ、やってみな! テメェの馬鹿力で俺を圧倒できるもんならな!」

 

 その挑発に乗るように、ノエルは渾身の力を込め秘奥を放つ。

 

「破砕鎚、秘奥が弍……<衝流撃破(しょうりゅうげきは)>ッッ!!」

 

 ノエルはメイスを振り下ろす。

 

 打撃の際に衝撃を対象に流し込む事で、内側から粉砕する技。しかし、

 

「効いてない…!?」

 

 その衝撃波はオーガストに届くことなく、周りの地面を粉砕していった。

 

「内から壊すんなら、そもそも衝撃波を通さなきゃいい話だろうが!!」

 

 言うは易しだ。規格外の膂力から生み出されるエネルギーを前に、そのような手段で対抗するのがどれだけ困難な事かは、ノエル自身がよく知っている。

 

 

 

 突然、オーガストは空を薙ぐ。その手に掴んでいたのは1発の銃弾だった。

 

「ちょっ…意識外の狙撃を掴んで防ぐとか、化け物か…」

 

「ぼたんちゃんっ、助かる!」

 

 攻撃自体は防がれたが、注意は逸れた。

 

 ノエルは一旦距離を取ると、メイスを両手に持ち直し再びオーガストに攻撃を仕掛ける。

 

「おいおい、さっきよりも浅ぇなぁ!! 殺す気あんのかよ⁉︎」

 

「そりゃあさっきよりも衝撃を調整してあるからね。あんたを抑え込めるようにさッ!!」

 

 ッッッグンッ!!!! と。

 

 防がれたメイスに、ノエルはありったけの力を込める。

 

 あまりのパワーに地面が耐えきれず、大きくへこむ。

 

「なるほど。ちょっとはやるじゃねぇか。だが俺にはどうってことねぇなぁ!」

 

「ッ⁉︎」

 

 瞬間、オーガストの姿が消える。

 

 ハッと気付いた時には、既にノエルの背後、正確にはフレア達の方へと向かっていた。

 

 オーガストは『力』を纏った腕で薙ぎ払う。それは滅紫の斬撃となって彼女達に襲い掛かる。

 

「ッ!!」

 

 魔界学校組は<四属結界壁(デ・イジェロン)>を展開し、斬撃を相殺させる一方で、フレアとラミィは跳躍して避ける。

 

「待てよっ! スメラギなんだろ、お前!」

 

「フレアさん、今は戦いましょう…! あの人はもうスメラギさんじゃないっ!」

 

 ラミィは前面に冷気を広げ、魔力を込める。

 

「<聖寒冷結縛界(シェルヘイダル)>!」

 

 魔法陣から極低音の冷風が吹き出てオーガストを氷漬けにする。

 

「ああそうだ。俺はスメラギであってスメラギじゃねぇ。勘違いしてもらっちゃ…」

 

 しかし、氷結はオーガストの身体そのものまでは届いていなかった。

 

「困るぜ女エルフッ!!」

 

 全身から『力』を噴出させ氷の結界を砕くと、そのままフレアへと迫る。

 

「…っ!!」

 

「テメェの目の前にいるのは世界の厄災『スターク』だぞ‼︎躊躇なんかしてんじゃねぇよ‼︎」

 

「…ッ、けどお前はあの時っ…!」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()。こう言ったら俺と戦う理由ができるか? 不知火フレアァッ!!!」

 

「お前ッ…!?」

 

 だが攻撃が加えられる事はなかった。

 

 その前にシオンが<魔黒雷鉄槌(ジラズ・ノア)>を放ち、オーガストを止めたからだ。

 

「アンタが邪神の力を持ってるってこと? だったらアンタを倒せばスメラギさんは『スターク』じゃなくなるのっ⁉︎」

 

「俺はあくまで『スメラギ』の一人格に過ぎねぇ。俺が消えたら今度はスメラギが『力』を持つだけだ。それこそ、テメェらの恐れる世界の滅亡に近づくと思うがな!!」

 

「結局、スメラギさんを殺さなきゃいけないってことね…!」

 

 シオンにちょこ、メルが続けて魔法を叩き込むが、

 

「え…⁉︎」

 

「消えた⁉︎」

 

 否、いつの間にかオーガストの手元に浮いていた。

 

「おらぁぁッ!!」

 

 それをオーガストは思い切りぶん投げる。

 

「ッ!」

 

「秘奥が壱…<薊蓮華(あざみれんげ)>!」

 

 迫り来る黒い太陽に対し、るしあはシオン達の前に立ち聖なる結界で防御する。

 

「るしあちゃん危ないよっ!」

 

 メルの制止も振り切って、るしあは光り輝く聖剣──聖霊天蝶剣(ファルファリア)で迎え撃つ。

 

「ぅぐっ……! スメラギさんやめて! るしあ達が戦うことなんて…!」

 

「間抜けがッ! 過去の記憶とやらに惑わされて『スターク』を見逃すやつなんかいるかよ!」

 

「でも…スメラギさんは世界を守るためにずっと戦ってたじゃないですか⁉︎だったら…!」

 

「世界のために? ハッ! あんな記憶、嘘に決まってんだろ! テメェを同情させる為にかましたハッタリに過ぎねぇ! ここにいるのは正真正銘、世界の脅威なんだよッッ!」

 

「スメラギさん…‼︎」

 

「るしあちゃん!」

 

「るしあ下がって!」

 

 そこへ左右から挟み込むようにあやめとノエルがオーガストに迫る。

 

 2人の一撃を、オーガストは両手で受け止める。

 

「フン」

 

 軽く鼻で笑う。

 

 まるで相手になっていなかった。あやめ達は魔界の中でも実力派。ノエルやぼたんだって只の傭兵じゃない。フレアとラミィは言うに及ばず。

 

 だというのに。それら全てを相手だってなお、『スターク』は本気すら出していなかった。

 

「話にならねぇな。テメェらじゃ俺を殺す事はできねぇ」

 

「……」

 

「だが安心しろ。俺はテメェらに興味はねぇ。もう殺そうとも思わねぇ」

 

 オーガストは勝負はついたと言わんばかりに、振り返り去ろうとする。

 

「待てっ! お前の目的は何だ!」

 

「決まってんだろ。俺を狙うゼノクロスをぶっ壊すんだよ」

 

 オーガストの身体から再び闇のオーラが発せられる。

 

「いい準備運動になったよ。じゃあな…永遠に」

 

 ぼたんはライフルから銃弾を放つが、命中する直前でオーガストの姿が消え、弾丸は虚空へと飛んでいった。

 

 

 

「逃げられたか…」

 

「オーガスト…。アレが真の敵か」

 

「敵って…! あやめ先輩、あれはスメラギさんじゃないですかっ! るしあ達と一緒に戦ってくれた…!」

 

 るしあはなおも、否定しようとする。それはただ単に、自分だけが知っている真実を追求したかったからではない。

 

「だが、彼がこの事件の元凶だったんだ。彼を滅ぼさなければ被害が増え続けてしまう」

 

「そもそも『スターク』の時点で、スメラギは生きていちゃいけないんだよ。私たちが倒すしかない。それがあの人の運命なんだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 着いた先は、人間が住む事を放棄し、ただ風化していくのみのビルやマンションといった構造物が乱立している──都市ゼボイムの郊外だった。

 

「どうして彼女達と戦ったんだ……。僕が死ねばそれで全部解決する。それで、良かったのに…」

 

「全部? ふざけた事言ってんじゃねぇ。ゼノクロスが残ってんだろうが」

 

「だが彼は『スターク』を滅ぼす為に戦っていた! 世界を守ろうとしていたんだ!! ……本当の黒幕は僕だ」

 

 スメラギは力なく叫ぶ。受け入れたくない事実は、しかし真実でもあった。

 

「知った事じゃねぇ。奴は俺達にケンカを売った。だから潰す。シンプルな話だろうが。それに、テメェは死にてぇかもしれねぇが、俺は生きていたいんでな。あんなデカブツはもちろん、あの女どもに殺されるなんて真っ平御免だね」

 

 とは言え、自滅することで全ての責任を取るという未来は、他ならぬもう1人の自分によって潰されてしまった。

 

「僕は……進むしか、ないのか…」

 

「あぁその通りだ。その為にアイツらと焚き付けたのもあるからな」

 

「……」

 

「これでアイツらはこの件に関わることはなくなる。テメェの望み通りにしてやったんだ。感謝してほしいもんだな」

 

「……そうだ、これで良かったんだ……。もう誰も犠牲にさせない、そう誓ったんだっ…」

 

 相当な痛みは伴ったが、望んだ状況にはなった。

 

 ならば。

 

「ハッ、少しはやる気になったみたいだな。楽しくなってきたぜ…」

 

 前へ踏み出せ。正不正も、善悪も、今はどうだっていい。

 

 ただ、目の前の道を歩いて行かねば。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、それでも運命の歯車は外れてはいない。それは、()()()()()()()()()()()

 

 

 

うっ……た、たすけて……」

 

 小さく、弱々しかったが、確かに声が聞こえた。

 

「……」

 

 こんな状況に置かれても、スメラギはなおそちらへ向かっていくことを選んだ。

 

 それは、ある意味では悪手であるように思えたし、また別の意味では救いの一手であったのかもしれない。

 

 少なくとも、転機ではあった。

 

 助けを求めていたのは、どう見ても普通のゆるふわ系な短髪の少女、

 

「なっ……ろ、ロボ子、先輩……っ」

 

()()()()()()()()()




ロボ子さんの登場シーンは、ホロライブ・オルタナティブの公式PVから着想を得ました。ゼボイムは西にあると言ってしまったばかりに、雨を降らす事はできませんでしたが( ´・ω・`)

とは言え久しぶりの新メンバーですね。あともう数人増える予定です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

30話 That's why the world chose them

最初の方は「あれ、これ意外と早く終わるな……30話も続くか?」と思っていましたが、何だかんだ行きましたね。でも40話くらいで終わると思います


「おい。なんでコイツを助けた。まだ未練があんのか?」

 

「違う…。彼女は、彼女達は、敵じゃない。守るべき存在だ。放ってはおけないよ…」

 

 スメラギはロボットの少女──ロボ子を抱え、近くの廃ビルへと向かった。

 

 部品がなくとも、ナノマシンがあれば代用はできた。スメラギはAPRILにサポートしてもらいながら、修理を始める。

 

『ロボ子様には私もお世話になっています。恩返しの為にも、彼女を修理すべきと判断します。』

 

「ハッ、機械が恩返しだと?」

 

 オーガストはせせら笑う。

 

「いいかAPRIL。テメェはセンチュリオン搭載のAIだ。そのお前が俺達に指図してんじゃねぇよ。テメェが何を考えていようと、俺は誰かと手を組むつもりはねぇ。スメラギがまだ生きているから、こんな寄り道に付き合ってやってることを忘れんな」

 

『お言葉ですがオーガスト、破滅的な自己犠牲は誰も幸せにはしません。何の為に戦うのか、それをお忘れなきよう。』

 

「勘違いしてんじゃねぇ。俺は、俺の命を奪おうとする奴を殺すだけだ。世界の為? 仲間を守る為? そんな安っぽいヒロイズムで俺が戦ってるわけねぇだろうが」

 

「……」

 

 APRILのその言葉に、一方スメラギは沈黙する。

 

 自分は何の為に戦おうとしている? 

 

 あの時死ぬのを拒み、ゼノクロスと戦う事を決めたのは何故だ? 

 

 

 

 答えは分からない。

 

 そんなもの、ないようにすらスメラギには思えた。

 

「僕には、分からないよ……ゼノクロスを倒すべきかどうかも。けど、倒すと決めたんだ。歩みを止める事はできない…」

 

『止まる事はできなくとも、またゴールを変えることができなくとも、どの道を歩むかを選ぶ事はできます。』

 

「進むべき道……。そんなの、もうとっくに……」

 

 今の自分には選ぶ事すらできない。そんな勇気を、スメラギは持ち合わせていなかった。

 

 

 

 

 

 そうこうしている内に、ロボ子の修復が完了する。

 

「…行こう。今度こそ、奴を倒しに」

 

 スメラギが立ち上がり、ビルの外へ向かおうとすると、ポケットの中にいるAPRILがヴヴッと震える。その直後、

 

「ま、待って…君が、僕を助けてくれたの…?」

 

 

 

 最悪の展開だ。よりによってこのタイミングで目覚めてしまうなんて。

 

「もののついでだよ。…僕は用事があるから、これで…」

 

 振り返ることなく、早々に歩き去ろうとするスメラギを、ロボ子は慌てて引き止める。

 

「ちょ、ちょっと待ってって! こんな所に、それも1人で来るなんて、よほどじゃない限りあり得ないよっ。君はどうしてここに?」

 

「……」

 

 スメラギは沈黙する。

 

 これ以上彼女達を巻き込むわけにはいかなかった。

 

 それは、彼女の為にならない以上に、もう誰かに拒絶されたくないという思いからであった。

 

「君、1人で行くの?」

 

 先程の質問に答える気がないと悟ると、ロボ子は質問を変える。

 

「…もちろん。独りの方が、気楽でいい…」

 

「嘘。本当にそう思ってるなら、何でそんな悲しそうにしてるの?」

 

 ロボ子はゆっくりと立ち上がり、スメラギに近づく。

 

 

 

 あぁ、まただ。

 

 自分の進む道すら、こうもままならないのか。

 

 どれだけ決意しようとも、世界は簡単に自分の思惑なんかぶち壊してくる。

 

 これが運命ということなのだろうか。

 

「君には関係ない事だ。……これ以上、僕に関わらないでくれ。もう、誰かと関わるのは、嫌なんだ…」

 

 それだけ言うと、スメラギは今度こそこの場を去ろうとする。

 

 

 

「…だとしてもっ。君が悲しそうにしてるなら、僕は助けたい!」

 

 遠ざかっていくスメラギに、ロボ子は叫ぶ。

 

 何があったのかは知らない。

 

 名前だって聞いてない。

 

 それでも。

 

 全てを諦めたような顔をして、独りで途方もない責任を背負い込んでいるような人を、黙って見過ごすことなんかできない。

 

「何を抱えてるかなんてどうでもいい! 君がどんな絶望を味わったかなんて聞くつもりもない! ()()()()()()()()()()()()()()()! ()()()()()()()()()!!」

 

 

 

「……っ!」

 

 その言葉は、スメラギを踏み止まらせた。

 

 暖かな善意は、しかしスメラギの心を蝕んでいく。それはきっと、強くあろうとするからだ。強いということが何かを履き違えて。

 

『マスター。かつて私が貴方にしたアドバイスを覚えているのなら、どうすればいいか、分かるはずです。』

 

「信頼……」

 

 するだけでも、されるだけでも駄目。

 

 信頼し合うこと。それが、人間の真価を発揮する。

 

 優しさは、弱い心を溶かしていった。

 

 

 

「独りで生きていくのは寂しいことだよ……。君が何か特別なモノを持っていたとしても、独りで生きなきゃいけない、なんてことはないよ」

 

「その力が…誰かを傷つけるものだとしてもかい?」

 

 初めてスメラギは振り返り、ロボ子の目を見る。

 

 それは、機械とは思えないほどに、綺麗な瞳だった。

 

「力の本質は、力そのものにあるんじゃない。それを持つ人の心にあるんだよ。僕はそう教わった」

 

「…優しいんだね。君を作った人は」

 

「うん。優しかったよ。僕はあの人からいっぱい優しさをもらった。だから僕も、君に優しさを分けたいんだ」

 

 

 

(おい。テメェ、また流されるつもりか? そうやって楽な方に流れて、どれだけ苦しみを味わってきた⁉︎何も学んじゃいねぇ‼︎仲間なんてのは一時の安心でしかない‼︎優しさは人を堕落させる毒であり、信頼は絶望への始まりだ‼︎俺たち『スターク』は、誰を信じる事なく、冷酷に、生きたいように生きる事しかできねぇんだよ!!!)

 

 スメラギの半身が、そう叫ぶ。

 

 オーガストは、自分だ。悲劇が起きるのが怖くて、正体を知られるのが怖くて、強がらなければ生きていけないという思いから生んでしまった、悲しき怪物だ。

 

 だから、ずっと目を逸らしてきた。弱さを直視するのは、辛い事だから。

 

 でも今なら。

 

 誰かに支えられる、誰かを信頼する事を知ったスメラギなら。

 

「違うよオーガスト。確かにそれが僕たちの運命かもしれない。それは変えられないかもしれない。でも、変えようとする事はできる。そうする事に、意味があるんだ。……僕は邪神の力が怖かった。いや、邪神の力を持っている事が周りにバレるのが怖かった。虐げられ、いつかは殺されるんじゃないかと…。だから、邪神の力を誰かに押し付けたくて、君を生み出した」

 

(知れたことを。今更謝ろうって言うのか?)

 

「オーガスト。君も気づいているはずだ。ゼノクロスを倒すために、僕たちは手を取り合わなければいけない」

 

 前の並行世界で、スメラギは表れそうになったオーガストを抑え、ゼノクロスと戦った。しかし惨敗に終わってしまった。

 

 立ち上がらなければならない。このままもう一度彼女達を無駄死にさせるのか。

 

(……)

 

「君が生きる為に戦うと、死ぬ運命に抗うというのなら。僕に協力してくれ」

 

(…ハッ、ようやく逃げるのをやめたか)

 

 相変わらず人を食ったような態度でオーガストは問う。

 

「ああ、逃げないよ。力の責任から逃げて、君と向き合うことから逃げて、結果みんなを傷つけ死なせてしまった…。だからもう、同じ過ちは繰り返さない」

 

 スメラギは力強く答える。もう、動じることはない。

 

「向き合うよ。過去にも。今にも」

 

 歩み出す。全てに決着をつけるために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 変化は、あちらだけではなかった。

 

 あれからノエル達は、アイゼオンとゼボイムの中間にある町──トエイクで一度休むことにした。

 

「今日は疲れたな〜…」

 

 部屋に着くなり、メルはベッドにバタンと倒れ込む。

 

 一方るしあは、

 

「……」

 

「るしあちゃん?」

 

 様子のおかしいるしあに、メルは声をかける。

 

 だが無理もない。仲間だと思っていた人が、実は『スターク』で、今回の黒幕だったのだから。

 

「…確かに、ショックではあったけど、今更どうしようもないよ。私たちが、何とかしないと」

 

「あのっ…」

 

 るしあは口を開くが、そこから言葉が出ない。

 

 言うべきかずっと悩んでいた。だって信じられない事だったから。

 

 でも、このまま1人で抱え込んでも、何も進まない事も分かっていた。

 

 それに、ここで言わなければ取り返しのつかないことになる。

 

 だから。

 

「実は…フレアとぺこらを、前に見たことがあるのです」

 

 るしあは、言葉を選びながらゆっくりと話し始める。

 

「え? るしあちゃん、人間界に行ったことあったっけ…?」

 

 唐突な話に、メルは首をかしげる。

 

「実際に姿を見たわけじゃなくて……その、見ちゃったのです。スメラギさんの記憶を。そこにフレアとるしあ、それにノエルと宝鐘マリンって子、あとぺこらがいたのです…」

 

「え、えぇと…るしあちゃん、死人の記憶しか見れないんじゃ…? それに、そこにるしあちゃんもいたって…、一体どういう事…っ?」

 

 無理もない話だ。当のるしあ自体、なぜ記憶が見れたのかいまだに分からない。

 

 でも、後者に関しては答えることはできた。

 

「多分、それはスメラギさんの故郷の記憶だと思うのです。スメラギさんは、るしあ達と出会う前からるしあ達を知っていた。正確には別世界のるしあ達を。そして「リスト」に載ってる子たちも、多分みんな知っているんだと思うのです。ヘーミッシュは、スメラギさんの過去の仲間を集めているのではないでしょうか」

 

「だとしたら……ヘーミッシュは、中身こそ違えど昔の仲間を使ってスメラギさんを殺そうとしたってことっ…⁉︎」

 

 メルは思わず息を呑む。

 

 確かに、仲間と戦いたい人なんていないが、こちらはそうではない。自分達にとって、スメラギは『赤の他人』でしかないのだ。

 

 ヘーミッシュはそんな状況を利用して、スメラギの殺害を企てていたのだ。

 

「スメラギさん、辛そうだった…。昔の知り合いを目の前で失って…転移してきた先で同じ姿の別人と会ったと思ったら、よりにもよって戦わされてっ……そんなの、平気でいられるわけないのです…っ!」

 

 もし自分が別世界に転移して、同じようにメルやシオン達と会ったら。

 

 同じ姿形、声色の人物なのに別人として接しなければならない。思い出も感情も殺して。

 

 それはきっと、並大抵のことじゃない。

 

 

 

「……るしあちゃんは、どうしたいの?」

 

 メルは問う。るしあの選択を、静かに聞く。

 

「いくらスメラギさんが『スターク』だとしても、こんな仕打ち、酷すぎる」

 

 今まで、うじうじしていた。

 

 いきなり重要な鍵を渡され、その使い方も分からぬまま、流れに身を任せてきた。

 

 だが、それももう辞めにしよう。

 

 ここからは自分で切り拓く。

 

 進むべき道を。

 

 為すべきと思ったことを。

 

「助けたい。スメラギさんの正体とか、真の黒幕とか、そんなのに惑わされてちゃだめ。るしあのやりたい事、やり遂げたい!!」




上条当麻みたいなキャラ、大好きなんです
ようやく、スメラギの成長です。楽しくなってきたぜ…!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

31話 月姫とマリンメイド

小説書くモチベだけは高くて困る。困るけど助かる。


「それで、君はこれからどうするの?」

 

「そうだね…まずは仲間に会って、話さなきゃ」

 

「おっけー。友達と仲直りから、だね!」

 

(テメェは相変わらず、他人の為に戦うんだな)

 

 オーガストのその言葉に、思わずスメラギは小さく笑う。

 

「あはは……そうだね。僕は結局のところ、誰かが必要なんだ。僕は弱くて、小さくて…だから他人と繋がっていたい。僕を支えてくれる誰かのために戦いたいと思えるんだ」

 

「えーと…今誰と話してたの?」

 

 と、ロボ子は一見独り言に見える会話を見てきょとんとする。

 

「あぁ、今のはもう1人の僕……そういえば、まだ自己紹介すらしていなかったね」

 

「あ、そうだった!」

 

 スメラギとロボ子は共に苦笑する。まだ出会って間もないはずなのに、不思議と打ち解けていた。

 

「僕はスメラギ。アルヴィアスで傭兵をしているんだ。さっき話していたのは…」

 

「オーガストだ。邪神の力を持つ、正真正銘の『スターク』さ」

 

 オーガストは自嘲気味に自己紹介する。

 

「なるほど、二重人格だったんだね。それに『スターク』かぁ…でも話に聞いてた印象と全然違うね。僕はロボ子って言うんだ! よろしくスメラギ! オーガスト!」

 

 と、スメラギのポケットからヴヴッと抗議の声が聞こえる。

 

『マスター。私のことを忘れていないでしょうか。』

 

「えっ? い、いやそんな事ないよ⁉︎」

 

『そうでしたか。…私はAPRIL。マスターことスメラギ様の相棒です。会えて光栄です、ロボ子様。』

 

「? 僕も仲間に会えて嬉しいよ。よろしくねAPRIL!」

 

「…チッ。何だこの機械女、俺たちが怖くねぇのか? 機械なら『スターク』がどれだけ世界の脅威なのかインプットされてるはずだろ」

 

 ロボ子のあっけらかんとした様子に、オーガストは調子を狂わされたと言わんばかりだ。

 

「そりゃあ僕だって『スターク』のことは知ってるけど。君は…何だろうな、悪意が感じられないというか。君みたいな人が世界の災厄だなんて信じられなかったんだよ」

 

「そうかよ」

 

 オーガストは不貞腐れたように裏に引っ込んでしまう。

 

「とりあえずは…街に向かってもいいかな? 少し休息を取りたいんだ」

 

「いいよ〜。ゼボイムの居住区はすぐそこだよ」

 

 ロボ子にそう言われ、初めて気づく。

 

「そうか、ここはゼボイムだったのか…」

 

(ここならゼノクロス(ヤツ)の手がかりも探しやすいだろうからな)

 

『ゼボイムにはアルヴィアスのハンガーが設置されております。センチュリオンの受領も兼ねて、アーマーの改修をしに立ち寄ってみては?』

 

「あぁ、そうだね。彼らと戦うかは分からないけど、準備を整えておかなきゃね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パワードアーマーの改修などを終え、しばし仮眠を取ると、既に夜が明け輝ける太陽が人々を眠りから覚ます準備をしていた。

 

「もう起きたんだ。早いねぇ」

 

「あまりゆっくりしてもいられないからね」

 

「そっか。じゃあ、どこに向かう?」

 

「仲間とは、エルフの森から北西に行ったところで別れたんだ。だから、東の方へ行けば彼女たちと会えると思う」

 

「おっけー! ここから東に行ったところにトエイクって町があるんだ。そこで情報収集するのも良いかもね」

 

 そうして話が進み、いざ出発しようというところで。

 

あ、あのぉ…

 

「?」

 

 何か聞こえた気がする。

 

「えぇと…ロボ子さん。何か言った?」

 

「んーん? というか、さん付けやめてよー。まだぎこちないなぁ、君」

 

「ご、ごめん…慣れなくて…そりゃあ大先輩だし…

 

あ、あのぅ…! ……うぅ、やっぱり無理だよぅ。ルーナちゃんが言ってよぉ〜」

 

「ちょっとぉ、ルーナは姫なのらよっ! メイドであるあくあちゃんが頑張るのら!」

 

 どうも後ろが騒がしい。不審に思いスメラギが振り返ると、

 

「ひっ…!」

 

「あ、こら! …もぉ〜っ。そこの傭兵さんとロボットさんっ! あなた達に頼みたいことがあるのらけど!」

 

 そこには、淡いピンクの可愛らしいドレスを着たいかにもなお姫様と、その後ろに隠れる(ただしピンクと水色のツインテールがはみ出ている)メイド服姿の少女がいた。

 

 

 

 

 

「……えぇと、何を頼みたいのかな」

 

 まさかここで、この2人と会うとは思ってもいなかったので、スメラギは少々混乱しつつも、そう尋ねる。

 

「実はルーナ達、マイスフィールド卿のところに大事な用があって、そこまで行きたいのらけど、ルーナ達だけじゃ魔物に襲われるかもしれないのら」

 

 マイスフィールド卿。それは、かつて共にゼノクロスと戦ったシュテッフェン・フォン・マイスフィールドのことなのだろうか。

 

「なるほど。目的地まで護衛して欲しいってこと?」

 

「そうなのら! 話が早くて助かるのら!」

 

「うーん、スメラギ、どうする? マイスフィールドはここから西の方だから、トエイクとは真逆の方向だよ?」

 

 しかしこうも立て続けに顔見知りと会う事になろうとは…

 

「…失礼だが、マイスフィールド卿には何の用事で?」

 

「んー…あんまり人に言える事じゃないのらけど…とにかく大事な用事なのら! もしかしたら世界全体に関わる事かも」

 

「っ」

 

 その言葉を出されては、断ることはできなかった。

 

「世界に関わることって…?」

 

「大きな声じゃ言えないのらけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ッゼノクロス、だって…⁉︎」

 

(おいおいこいつは…)

 

 驚愕するスメラギとは裏腹に、オーガストは興味深そうに笑う。

 

「そう。だから一刻も早くシュテッフェンのおっちゃんと話し合いたいのらっ! まだ中は開かないけど、ゼノクロスが実在するのが知れたら、厄介な事になるのら…‼︎」

 

「セト……彼が目覚めようとしている…?」

 

(…?)

 

 ロボ子の呟きにスメラギは少し引っかかったが、それよりもルーナに返答する必要があった。

 

「分かった。そういう事なら、君達に同行するよ。ただ、一つ聞かせて欲しい。どうして君はゼノクロスを知っているんだい? アレは都市伝説だと周知されているはずだけど…」

 

「それはルーナのご先祖様がゼノクロスの開発に携わっていたからなのら。色々あって、知れることはもう少ないけど、ゼノクロスがめちゃくちゃ強力な兵器だってのは理解してるのら」

 

 それはスメラギもよく理解している。だからこそ、引き受ける以外の選択肢はなかった。

 

「いいの? お友達は…」

 

「大丈夫。自分で言うのも変だけど、今の彼女たちが僕のことを放っておくわけはないからね…」

 

 

 

「んじゃ、交渉成立なのらっ! ルーナは姫森ルーナ! 見ての通り王国の姫なのら! …ほら、あくあちゃんもっ!」

 

 いい加減後ろに隠れているメイドを引っ剥がし、ルーナは自己紹介を求める。

 

「うぅっ……み、湊あくあで…。よ、よろしく…」

 

 伏し目がちに、もじもじしながらメイド──あくあは自己紹介する。

 

 この人は相変わらずだなぁ、と苦笑いを浮かべつつ、スメラギも名乗り返す。

 

「僕はスメラギ。制服でわかるかもしれないけど、アルヴィアスで傭兵をやっているよ。よろしく、ルーナにあくあ」

 

「僕はロボ子だよー。よろしくねぇ〜」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本来、ゼノクロスは強力ではあっても危険な兵器じゃないのら」

 

 道中、ルーナはゼノクロスについて説明する。流石にゼノクロスの開発者の末裔ということで、持っている知識は一般人の知れるそれではなかった。

 

「ゼノクロスは異世界大戦末期に開発された科学世界側の決戦兵器。強力無比な武装を有しているが故に、AIによる無人操縦ではなく有人による操作で稼働するようになってるのら。一応、サポート用としてAIは搭載されているのらけどね」

 

「第10世代量子コンピュータ搭載型人工知能『セト』、だね」

 

 自分でも知らない知識をロボ子の口から発せられたのを耳にし、ルーナは驚きを隠せなかった。

 

「え…ロボ子ちゃん、何でそれをっ?」

 

「まぁ…昔、ちょっとね」

 

 あまり思い出したくない内容のようだ。ルーナはそれ以上追及しないことにした。

 

 

 

「だが、ゼノクロスは封印されたんだろう? 有人式でリスクを回避したにも関わらず」

 

「そう。詳細は分からないのらけど、ある日突然ゼノクロスが起動しなくなったらしいのら。外部からエネルギーを与えても、うんともすんとも動かなくなった。その後、ゼノクロスは地下深くに封印されたらしいのらよ」

 

 明らかに不可思議な現象だ。機械の不調というわけではなかったのだろう。まるで()()()()()()()()()()()()()()()突然起動できなくなった。

 

「…しかしゼノクロスはどういう訳か目覚めた。そして、脅威を滅ぼす為に世界ごと僕を抹殺しようとした…」

 

 それが時間経過によるものか、人為的なものだったのかは分からない。だが、ゼノクロスは確かに起動に成功し、世界を2つ滅ぼした。

 

「君が、『スターク』だから?」

 

「…あぁ」

 

 否定する気はない。それは紛れもなく真実だ。

 

 しかし、だからと言って自分が死ねば万事解決などとはもう考えない。

 

 

 

「えっ? さらっと言ったけど、スメラギさん、『スターク』なのら…⁉︎」

 

「す…、えぇと……ルーナちゃん、すたーくってなに? 

 

「もうっ、引きこもりメイドは黙ってるのらっ!」

 

「ひぃん…」

 

 1人話に置いてかれるあくあはさておき。

 

 

 

「あぁ…実は、僕は『スターク』なんだ。…あんまり口外して欲しくはないんだけどね」

 

「えっと…取って食ったりしないのら…?」

 

「あはは…そんな事はしないよ。理由もなく誰かを傷つけたり、自分のエゴで世界を滅ぼせるほど、僕は大それた人間じゃあないさ…」

 

 おっかなびっくり尋ねるルーナに、スメラギは苦笑を交えて応える。

 

「それについては僕が保証するよっ! ねっ、ルーナちゃん」

 

「…う、うん。まぁ、2人がそう言うのなら……というかっ! ゼノクロスが目覚めてたのらっ⁉︎もうっ、知ってるなら早く言ってよっ! 『スターク』とか言ってる場合じゃないのら!」

 

「ごめん、展開が急すぎて話すタイミングが…」

 

「ちなみに僕も初耳だったよスメラギ?」

 

「うっ……すみません…」

 

 成長したとは言え、流されてしまうのは直らなかったらしい。人はそんなにすぐ成長しないのだ。

 

「ほら、急ぐのらよ3人ともっ!」




あく虐はいいぞ…^^
スメラギはシリアスなシーンが多くて、日常パートでの使い道があまり分からなかったのですが、見つけました。こいつはポンコツです。

そういえば、シュテッフェンて誰や?と思ってる方がいるかと思いますが、1話に登場してた人です。まぁメインキャラかと言われればそうでもないので覚えてなくても多分大丈夫だと思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

32話 世界の命運は託された

私らっくぅ、重大なミスを犯してしまいました。ロボ子さんは記憶喪失だという設定を、すっかり忘れていました。
しかし、僕の頭の中では既にロボ子さんは記憶喪失ではない設定でお話し進めちゃってるので、今更変えることはしません。
改訂版では公式設定通りになっているかと思います。←直しませんでした(2022/12/13現在)

それでは、ゆっくりしていってね(便乗)


 翌朝。

 

 

 雲一つない快晴にも関わらず、彼女たちの心中は暗雲に覆われたままであった。

 

 ただし、ただ1人を除いては。

 

「さて、彼はどこへ向かったか…」

 

「もしまだゼノクロスを倒すのを諦めてないんだとしたら、遺跡の多いゼボイムへ行ったのかも」

 

「私もノエルと同意見。彼がゼノクロスを目覚めさせる前に叩こう」

 

「ちょっと待って欲しいのです」

 

 そこへ、るしあが声を上げる。

 

 

 

「るしあ?」

 

「本当にスメラギさんを殺すつもりなのですか? いくら『スターク』だからって、るしあ達の仲間を手に掛けるなんておかしいのです」

 

「…るしあちゃん、『スターク』はそんな軽々しい存在じゃないよ。『スターク』がいれば、世界に災厄が訪れる。ゼノクロスみたいに、『スターク』を滅ぼす為に強大な力が集まってきちゃうんだよ。そんなのが放置されてたら、いつか世界が滅びちゃう」

 

 シオンは優しく、しかし冷酷な事実を突きつける。シオンのいう事は、世間の『スターク』に対する意見そのままだ。それ故に、誰もそれを否定することなく、当たり前と受け入れている。

 

 るしあだってそれは同じだ。ずっとそう教わってきた。

 

「でも…! 『スターク』であることが、そんなに悪いことなのですか⁉︎どれだけ善い事をしても、『スターク』だからってだけで滅ぼすに値するのですかっ⁉︎」

 

 だが、そんな常識に従って仲間と敵対するのは絶対に嫌だ。こればかりは理屈じゃない。

 

「それは…」

 

 シオンは言い淀む。やはり、頭では倒すべきと分かっていても、心のどこかでそれを躊躇っている。

 

 それを引き出してみせる。1人で闇雲に動くのではなく、仲間を説得する事が、るしあにできる最善だった。

 

「るしあ。どうしてそこまでスメラギに肩入れするの?」

 

 ノエルは怒るのでもなく、非難するでもなく、静かにそう尋ねる。

 

「実はるしあ、前にスメラギさんの記憶を少し見てしまったんです」

 

「記憶を見る魔法ってこと?」

 

「スメラギさんに、ネクロマンサーの力が発動したんだよね?」

 

 と、昨夜事情を聞いたメルが補足する。

 

「えっと、つまりスメラギさんはもう死んでる…ってことですかっ?」

 

「それは分からないのです…。今まで黙っててごめんなさい…るしあも、何で力が発動したのか、よく分からなくて…」

 

「大丈夫。今更責めたりはしないよ、るしあちゃん。それで? 何を見たんだ?」

 

「…スメラギさんは、過去にここの並行世界でゼノクロスと戦った事があるのです。そして敗北し、仲間達…るしあ達もろとも世界は滅びた。スメラギさんはそこで生き残って、この世界へやって来たのです」

 

「ゼノクロスと戦っていた、というのは彼自身の口から聞いたわね。…でも、並行世界の私たちも一緒だったというのは初耳だわ。彼は私たちを知っていたということ?」

 

「…なるほど。じゃああのリストはスメラギの過去の仲間たちを挙げていたのか…」

 

 ぼたんは納得する。とすると、何故ヘーミッシュがかつての仲間を集めて対スメラギの戦力としていたのかも分かってきた。

 

「つまり、仲間を使えば反撃できずに確実にスメラギを仕留められるって訳ね。…流石に悪趣味だな」

 

「そうまでして、スメラギさんを殺さなきゃいけないのですか…? 『スターク』なんて関係ない。()()()()()()が、それだけの目に遭わなきゃ救えないほど、この世界は残酷なのですか…っ⁉︎」

 

 投げかける。

 

 救いたいという、純粋な思いを、るしあは訴える。

 

「……」

 

 それは確かに、あやめ達の心に突き刺さる。

 

 そして。

 

 

 

 彼を救おうとしているのは1人ではなかった。

 

 

 

「…ぺ、ぺこーらは…」

 

 と、それまで黙り込んでいたぺこらが口を開く。

 

 正直、今回の件においてぺこらは外野も外野。何せ、ここにいる動機は全く希薄なのだ。

 

「スメラギに何度も助けられた。この前だって、ヘーミッシュの攻撃を、防いでくれた。ぺこーらがいなければ、『力』を使う事もなく、みんなと戦う事なんてなかったのに」

 

「ぺこら…」

 

 自分のせいでスメラギがあんな目に遭ってしまった。ぺこらは後悔していた。

 

 だからこそ。このまま外野であり続けてはダメだ。

 

「個人的な贖罪なんかじゃない。ぺこーらは、自分を犠牲にしてまでぺこーらのこと守ってくれたスメラギを見殺しにはしたくない!」

 

 

 

「…フレアさんは、どうなんです?」

 

「……」

 

「フレアさんはこのままでいいんですか? 決まった事だから、運命だからってあの人を殺すんですか?」

 

 ラミィは硬い表情でフレアに尋ねる。

 

 以前だったら、そうしてた。決まりに忠実である事が、周りに溶け込む唯一の方法だったから。そうする事で、自分がその共同体の一員であると実感できたから。

 

 だが、それは本当の仲間とは言えない。仲間を恐れず、信頼する事をスメラギから教わった。

 

「…ラミィ、言い方に偏りがあるぞ」

 

「フレアさん」

 

「あいつのもう1つの人格…オーガストの言葉は真実じゃないと思う。お節介なあいつは、ゼノクロスから私達を遠ざけようとしている。この世界を、仲間を守るために戦おうとしている。私は、その思いを無碍にはできない。『スターク』は誰かれ構わず殺す、なんてのが世界の掟だとしたら、そんな掟、否定してやる。そんなの無くたって、世界は幸せになる。いや、してみせる!」

 

 

 

「3人とも…」

 

「意見、割れちゃったな」

 

 結末は変わらないかもしれない。

 

 だが、流れは変えられた。

 

「…あとはスメラギさん次第だ。彼が世界の守護者なのか、破壊者なのか。それは会ってみれば分かる。結果次第では、余達は彼を容赦なく斬り伏せるぞ?」

 

「大丈夫です。るしあは信じてます。スメラギさんは、きっと立ち上がる」




この回はホロメンがスメラギを殺すか否かを検討する回である訳なんですけど、けっこう書くのが難しかったですね…。
というのも世界を守るという観点で言えば、スメラギを殺すのが最適解なんですよ。ゼノクロスを目覚めさせず、かつ『スターク』という脅威も無くす事ができるので。スメラギを生かしてしまえば、後者は達成されないことになり、世界滅亡を完全に防いだとは言えない訳です。
そんな状況で、それでもスメラギを生かす流れに向かわせるにはどうしたらいいかなーと、悩みましたねー。
そのキーパーソンとしてるしあ、ぺこら、フレアを配置したのですが、感情論で他のホロメンを説得させるにも、説得力が足りないかなぁうーん……
で結局あんな感じになりました。感情論は弱いなどと考えていましたが、割と上手くいったのかなぁと我ながら思っております。先取りになってしまいますが、ここで完全に説得してしまうと後に繋がらないので、いい塩梅に抑えられたという意味で。

次回はスメラギルートとホロメンルートが合流…するかな?したいです


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

33話 その身に思いを載せて、青年は歩む

「着いたのら! ここがマイスフィールド邸なのらよ」

 

「ふぅ……ようやく帰って来たぁ…」

 

 ゼボイムから西へ数時間歩くと、農地や住宅の奥から飛行場や監視塔など、やたら物々しい軍事基地が現れた。ルーナがマイスフィールド邸と呼ぶ近代ヨーロッパの様式が見られる──先ほどのミリタリーな雰囲気とは明らかに相容れない様相ではあるが──大きな館は、さらにその奥に佇んでいた。

 

「あれ、あくあはルーナちゃんのメイドじゃないの?」

 

「あ、あたしはここのメイドなの。たまたまお使いで街に出かけてたんだけど、そこで運悪くルーナちゃんに捕まっちゃって、強引に…」

 

「何か言ったのら?」

 

「運良くルーナちゃんに誘われて! あたしの意志でここまで付いてきましたぁ!」

 

 ルーナに軽く圧をかけられただけで、あくあは半泣きで言い直す。

 

 この子はなんてか弱い生き物なんだろうと、思わずロボ子は同情してしまった。

 

 

 

 気を取り直して。

 

 あくあが先導して館の扉を開ける。

 

「ごしゅじーーーん!! お客様ですぅーーーー!!!」

 

 流石に勝手知ったる家の中では怖気付かないのか、先程の様子からは考えられないほどの声量で家主を呼ぶ。

 

 

 

 しばらくすると、2階から逞しい肉体をスーツに包んだ壮年の男が降りてきた。

 

「あ、ご主人。おはようございます」

 

「あぁおはよう。そしておかえり、あくあ。…して、客人とは? 私は今日、誰かと会う予定は無いのだが…」

 

 家主──シュテッフェンがやって来たと分かると、ルーナ達は玄関から少し前に出る。

 

「こんにちは! シュテッフェンのおっちゃん!」

 

「あぁ、ルーナ姫か。貴女はいつも急だな。それに君たちは、傭兵か? 今日は何の用事だね? 出来ることなら愉快な内容であって欲しいが」

 

「そんな気楽なもんじゃないのら! 世界の危機なのらっ!」

 

 それを聞くと、シュテッフェンはわずかに表情を硬くする。

 

「…それは、不愉快なだけでなく、厄介な用事のようだ。中へ案内するよ。そこで詳しい話を聞くとしよう。…あくあは仕事に戻っていなさい。ご苦労だった」

 

「あ、はい…」

 

「ほら、スメラギとロボ子ちゃんも行こっ」

 

「おっけー」

 

「あぁ」

 

「…スメラギ?」

 

 その名を聞き、シュテッフェンは足を止め振り返る。

 

「? 僕がどうかしましたか?」

 

「…あぁいや。そういえば『スメラギ』とは、アルヴィアスの『エース第3位』の名であったなと思い出しただけさ」

 

「なるほど…ご存じ頂けて光栄です」

 

 その返答に、スメラギは少し違和感を感じたが、追及はしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ…。つまり古代兵器であるゼノクロスが目覚め、並行世界を滅ぼした。そして次の標的はこの世界、ということだな」

 

「ええ。とすると姫森家の領地にあるその格納庫は、彼の補給地点として機能し得るということになりますね」

 

「ゼノクロスが万全の状態なら、この世界は既に滅んでいるのら。そうじゃない以上、ゼノクロスは数千年の時が経ったおかげである程度経年劣化していると予想できるのら」

 

 であるならば、ルーナの発見したドックの重要性は増してくる。ゼノクロスは、そこで自分を修復しようとするはずだ。

 

「なるほど…だからマーシェは遺跡を探して回っていたのか…。ゼノクロスが完全な状態になったら手が付けられなくなる。その前に彼を破壊しなければ」

 

 

 

「では、ルーナ姫は私にゼノクロスに対抗しうる戦力を集めよと言うのかな?」

 

「まぁそうなるかな。ルーナもルーナで戦力を集めるつもりなのらけど」

 

 そう言うと、ルーナはソファから立ち上がる。

 

「じゃあ早速家に帰って父上に頼んでくるのら。後であくあちゃん経由で連絡するのらっ!」

 

「あぁ待ちたまえ。帰るのなら私の兵を寄越すよ」

 

 まるで友達の家から帰るかのように1人でとっとと去ろうとするルーナを制止し、シュテッフェンは執事に兵を2人護衛に付けるよう伝える。

 

 

 

「…さて」

 

 ルーナが行った後、シュテッフェンはスメラギに目を向ける。

 

「君と少し話がしたいんだ、2人でな。いいかな?」

 

「…? えぇ、構いませんが…」

 

 スメラギはちらりと横にいるロボ子と視線を交わす。

 

「じゃあ僕、外で待ってるね」

 

「ありがとう、ロボ子さん」

 

 

 

 ロボ子が応接間を出ていくと、シュテッフェンは話を始める。

 

「スメラギ君、だったね。あくあとは話したか?」

 

「いえ、あまり…」

 

「ハハハ、そうだろう、あの子は人見知りだからな、初対面の人間と話すのは難易度が高かろう。それに頻繁にドジを踏むし、隠れてゲームをしていたりもするが…素直でいい子だよ」

 

「はぁ…」

 

 まさかこの話が本題という事はないだろう。スメラギは少々困惑しつつも、心の準備をする。

 

「…率直に聞こう。君は並行世界の住人か?」

 

 その質問に、身体が少し強張る。

 

「…えぇ、そうです。僕はこの世界の住人ではありません。…ですが何故?」

 

「並行世界が2つも滅びたという情報は、私ですら初耳だった。そんな情報を知っている君は、元はこの世界にいたのではないはずだ。いや、それどころか、実際に滅びる瞬間を目にしたのではないか?」

 

「そう、ですね…。僕は、ゼノクロスと戦い、敗北した。そして、世界が滅びるのを2度も許してしまった」

 

「そうか…。それを責めるつもりはないよ。…それよりも、並行世界の住人ということは、私やルーナ姫達とも知り合いだったのかな?」

 

「…そうだとしたら?」

 

 シュテッフェンの質問の真意を、スメラギは掴めなかった。

 

 少し怪訝な表情を浮かべ、スメラギは答えた。

 

「復讐のために戦っているのではと少し心配でね。別の私が何を言ったかは分からんが、それに縛られる必要なんてないのだからな。過去や誰かの願いの為に戦うのはよしたほうがいい。我々はいつだって、未来にしか影響を与える事ができないのだからな」

 

 それを聞き、スメラギは緊張を緩めた。

 

(あぁ、このシュテッフェンという人は…)

 

 シュテッフェンの言葉を、今のスメラギはフランクに受け取る事ができた。

 

 世界を託されたから。仲間を殺されたから。

 

 今までは、その為に戦ってきた。自分にとって、それだけ仲間というのは大切な存在だったから。

 

 でも、どうしたって消えたものは戻ってこない。過去を変える事は、できないのだ。

 

 だったら今の仲間を大事にすべきだ。彼女達の未来の為に。

 

 それを守り続けたいと願う自分の為に。

 

「ありがとうございます、マイスフィールド伯。戦います、僕は。誰かの為じゃない。僕自身の、願いの為に」

 

 いつものように穏やかな、それでいて力強く、スメラギは答える。

 

「あぁ。それでいい。君が何者であったとしても、君は『スメラギ・カランコエ』であるということを忘れるな」

 

 

 

 

 

「あ、スメラギ。おかえり〜」

 

「待っててくれてありがとう。ロボ子さん」

 

 応接間からスメラギがやって来たのを察知すると、ロボ子は広間の椅子から立ち上がってスメラギを出迎える。

 

「何の話をしてたの?」

 

「うーんまぁ……色んな人が、僕を支えてくれているんだなって」

 

 曖昧な回答だったが、それでロボ子には伝わった。

 

「…そっか」

 

 ロボ子は微笑みながらそれだけ言う。

 

 

 

「あ、ど、どもぉ〜…」

 

 と、そこへ仕事を終えたらしいあくあがやって来る。

 

「あ、あれ…ルーナちゃんは…?」

 

「ルーナちゃん帰っちゃったよ」

 

「はや……。あ、えと、お2人はこれからどうするんですか…?」

 

「ゼボイムに戻ろうかな。こうなった以上、あまりゆっくりもしていられないしね」

 

「あ、そ、そうですか…わざわざ付いてきてくれてありがとうございます…」

 

 あくあは律儀にお礼をする。

 

「いいっていいって! 僕たちにも関係あった事だもん。ね、スメラギ」

 

「あぁ。こちらこそありがとう。あくあ」

 

 このまま館を出ようとしたところで、今度はシュテッフェンがやって来る。

 

「マイスフィールド伯? 何もそんな早く動かなくても…」

 

「いや、今集めた方がいい。奴さんはこちらの都合なんか考えないだろうからな」

 

 どうやら、思い切りの良さは見た目通りであるようだ。

 

「あくあも付いてきてくれ。ここにいるという事は仕事は終わったのだろう?」

 

 その言葉に、あくあは目をぱちくりする。

 

「え、あたしも、ですか?」

 

「大体のことは私1人で片付くんだが、1人で動き回っては下の者に要らぬ心配を与えてしまう。まぁ要は護衛を頼みたいという事さ」

 

「失礼ですが…あくあは戦えるんですか?」

 

 今度は、スメラギが驚く。確か記憶が正しければ、彼女は戦闘に関しては全くの素人だったはずだが…

 

「ルーナ姫は知らなかったからな。君たちが知りようもないだろうが、あくあの銃の腕前はかなりのものだぞ。シミュレーションとはいえ、私は1回も勝てた事がない」

 

 ハハハ、と豪快に笑うシュテッフェンだが、反対にあくあは顔を赤らめもじもじしている。

 

「うぅ…あんまり言わないでくださいよぉ…」

 

「なんだ、もっと誇ってもいいんだぞ? だがまぁ、そういうことだ。心配はしなくていい」

 

「では、次に会う時はゼノクロスとの戦闘の直前という事になりますね」

 

「あぁ。それまでにお互い、やれるだけの事はやっておこう」

 

「ええ。ありがとうございました、マイスフィールド伯」

 

 スメラギは別れを言い、ロボ子と共に館を出ようとする。

 

「あぁ待て。私のことはシュテッフェンと呼んでくれ。我々は、共に戦う同志なのだから」

 

「…はい。行ってきます、シュテッフェン」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして、2人は再びゼボイムの郊外までやって来た。

 

「ここからトエイクまで行くんだよね?」

 

「いや、寄り道した分、彼女たちもこちらへ向かっているはず。今トエイクに向かったら行き違いになるかもしれない」

 

「じゃあここで待っとく? でも、お友達が素通りしちゃったりする可能性もあるよ?」

 

「大丈夫。みんなを呼び寄せる方法はある」

 

「それは?」

 

 スメラギは目を閉じ、やがて開ける。

 

「こうするんだよッ!!」

 

 轟ッッッ!!!!!!! 

 

 オーガストが目を覚まし、身体から邪神の力を放出する。

 

 何を破壊するわけでもなく、指向性を持たない『力』は全方位へその存在を誇示する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして。

 

 

 

「…ッ!!」

 

 思いを載せた邪悪極まりない『力』は、確かに彼女達に届いた。




あれ、おかしいな…当初の予定では、あくたんはレギュラーメンバーだったはずなのに、いつの間にかスポット参加になってるぞぉ…?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

34話 死んでもいいと笑うより、生きていくって泣いていたい

いよいよ再会です。成長したスメラギくんはホロメンに受け入れられるのか…?


ちなみにサブタイトルはカフカさんの「サンカショウ」という歌のワンフレーズです。今回の話に合ってるなぁいい歌詞だなぁホッコリと思い、使わせていただきました。
この曲めちゃくちゃいいから聞いてくれ…ッ!という宣伝も含まれているのは内緒。


「…ッ!」

 

 ノエル達の背筋に悪寒が走る。

 

「今のは…っ!」

 

「うん。あっちだ。行こう」

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

「そぉら、やって来た」

 

「スメラギさん…いや、オーガストか」

 

「ハッ! これから殺す相手の名前をわざわざ覚えてるとは、律儀な女だな!」

 

「殺す…か。余達は少なくとも、あなたを殺す為だけにここに来たわけではない」

 

「ほう?」

 

 その言葉を聞き、オーガストは片方の眉を吊り上げる。

 

「君が本当に倒すべき敵なのか、それとも世界を守る味方なのか。それを確かめに来たの」

 

「……僕を殺さない余地があると?」

 

「あなたは確かに『スターク』だ。しかし、世界を守るために戦ってもきた。仲間を何度も救ってきた。……あなたは一体、何者なんだ? 何故『スターク』が世界を守る?」

 

 正体がバレてしまえば途端に牙をむくような。そんな薄っぺらい世界を。

 

「…僕は、凶悪な力を持った。世界の脅威になったのが怖くて、隠れるように、他人の目を気にしながら生きてきた」

 

 スメラギは目を閉じる。

 

『スターク』になってしまった事実を受け入れられずオーガストを生み出し、そして贖罪のために戦ってきた。

 

「だけど、僕は世界を恨んだことなんて一度もないよ」

 

 何故守るのか? そんなの愚問だ。

 

 思えば、答えは初めから持っていたのだ。

 

「僕は、それでも僕を支えてくれた仲間のために戦いたい。みんなの生きる、この世界を守りたい」

 

 

 

 

 

「そうか」

 

 あやめはそれだけ言うと、腰に提げていた刀に手をかける。

 

「覚悟を決めたようだな。だったら付き合ってもらおうか」

 

 続けて、ノエルがメイスを取り出す。

 

 ぼたんが背負っていたスナイパーライフルを構える。

 

 シオンとちょこが魔法陣を構築する。

 

「あぁ。いいよ。君たちがそれを望むなら」

 

「…スメラギ?」

 

「大丈夫。ロボ子さんは下がってて。…あと、オーガストも。今回は僕だけで十分だ」

 

(おいおい、お前だけでアイツらを相手取ろうっていうのか?)

 

「勿論。僕を誰だと思っているんだい?」

 

(ハッ! 言ってくれるじゃねぇか『エース第3位』‼︎いいぜ! 今回はテメェに任せてやるよ!)

 

「ありがとう」

 

 そう言うと、スメラギは胸のナノマシン・パッケージを軽くタップする。ナノマシンが全身を覆い、強固な装甲を構築していく。

 

 

 

「じゃあ、仲直り(ケンカ)しようか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 直後、あやめが弾丸のように飛び出し、スメラギとの距離を一気に詰める。

 

「妖刀羅刹、秘奥が壱」

 

 あやめは抜刀し、攻撃を仕掛ける。ただし、恐るべき速さで。

 

「〈白南風(しらはえ)〉ッ!」

 

 あやめの使う技の中でも、最速の一撃がスメラギに迫る。

 

 だが、それは事前に予測していた。

 

 あやめの剣術は明らかに並はずれて強い。それは、大型の魔物を一刀のもとに両断してしまうほどだ。そんな彼女の攻撃に対し、防御という手段で立ち向かうのはあまりに無謀と言えた。

 

 よって。

 

「ッ!!」

 

 スメラギはあやめが地面を蹴った直後、真横に転がり刀の軌道から逃れていた。

 

「つ…っ!」

 

 スメラギは間一髪避けると、あやめが追撃するより早く、リパルサーレイを放って持っている刀を弾き飛ばす。

 

 だが、あやめが持っている刀は一本ではない。

 

 あやめは素早く2本目の刀──鬼神刀阿修羅を引き抜き、構える。

 

「余達は『スターク』は倒すべきだと学んだ。そう信じていた! どうしようもなく強大な力はその善悪以前に、多大なリスクを抱えているのだから!」

 

「…!」

 

 と、アーマーのコンピュータが背後を警告する。シオンとちょこがそれぞれ、黒い火球を放ってきたのだ。

 

「確かに強大な力は存在するだけで危険なものだ。だけど、人は心があるからそれだけの力を制御できる! 大事なのは力の善悪でも強さでもない! 心の力だ!」

 

 

 

 2人はあえてスメラギを狙わず、むしろスメラギの背後を黒炎で囲い、退路を断つ。

 

 だが、そんなのは気にしない。元より、避けようとも思ってない。スメラギは直進してあやめを迎え撃つ。

 

「そんなものは信頼に値しない! 世界は、そんなに優しくはないんだっ!」

 

 あやめは刀を構え、真っ向から斬りかかる。

 

 対するスメラギは退路を塞がれ、その上防御しようにもあやめはそれごと斬り伏せてしまう。

 

 ならば。

 

「信じさせてみせるさ…! 僕はもう、誰かを信じる事を恐れたりはしないッ!」

 

 攻撃自体を封じればいい。

 

 スメラギは空気圧ハンマーを両腕に形成し、地面に思い切り叩きつける。

 

「っ!!?」

 

 その衝撃は、あやめの足元を大きく揺るがし、さらには地面すら粉砕させる。

 

 勢いを削がれ動きを止めている間に、スメラギは地面に強力なマグネットアンカーを射出し、あやめの持っていた刀を地面に縫い付けてしまう。

 

 あやめの戦闘能力を奪うと、スメラギは流れるようにノエルの方へシフトする。

 

 

 

 

 

 

 

「スメラギ君、あんなに早くあやめちゃんを…!」

 

 わざとあやめとワンテンポずらして駆け出したが、これでは各個撃破の良い見本だ。

 

 ノエルは胸目掛けてメイスを突き出す。

 

「私は君の存在を許せないっ! 『スターク』は世界を滅ぼす。だからその前に『スターク』を滅ぼさなきゃいけないのっ!」

 

 対してスメラギは身体を捻ってそれを回避する。

 

「確かにそれが最適解かもしれない。それはこのヒステラルムに生きる人々にとっての〈使命〉かもしれない。だけど、だからといって僕はそれに従うつもりはない!」

 

 反撃とばかりに拳を握り、ノエルに向けてそれを飛ばす。

 

「そんなのエゴでしょ! 世界の為に戦うんなら、世界の為に命を使い切ってよ!」

 

 それに応戦するように、ノエルも空いた手でパンチを繰り出す。

 

「ぐっ…!」

 

 拳と拳が激突する。

 

 パワードアーマーを装着してもなお、ノエルの膂力に敵わず、スメラギは大きく吹き飛ばされる。

 

「そんな事を繰り返していたら、誰も何も救われない! 誰だって、運命に命を使い潰されたくはないはずだ! 僕は僕の願いの為に生きる! それは誰にとっても当たり前の事じゃないのか⁉︎」

 

「っ…‼︎」

 

 すぐさま起き上がり、ノエルに接近しようとしたところで、

 

「ぐぅっ…‼︎」

 

 

 

 再び大きな衝撃がスメラギを襲う。ぼたんの衝撃弾だ。

 

「でも、あんたはいずれ滅ぼされる。私たちを退け、ゼノクロスを倒しても、いつかあんたを『スターク』と知った誰かがあんたを殺しに来る。それでも、あんたは戦うの?」

 

「勿論。たとえ僕の進む先が絶望だったとしても。それが避けられない悲劇だとしても」

 

 ぼたんが2発目を撃つのと同時に、スメラギもリパルサーレイを放つ。

 

「抗うさ。矛盾を孕みながらも存在し続ける。それが、生きるということだ!」

 

 高出力のレーザーは迫り来る弾丸を蒸発させ、逆にぼたんを襲う。

 

「ッ!」

 

 ぼたんは慌てて倒れ込み、それを回避する。が、ライフルの方は庇いきれずに銃身が溶けてしまった。

 

 

 

 そこへ再びノエルが迫ってくる。

 

「破砕鎚、秘奥が壱…〈轟崩打連(ごうほうだれん)〉!!」

 

 刹那の間に2度の打撃を加える技だ。それに対し、スメラギは瞬時に多重構造のシールドを展開する。

 

 ただし、前回と同じものではなく、衝撃を拡散させやすい円状に加え、内部をハニカム構造を取ったもので迎え撃つ。

 

 一撃目を完全に防ぎ切り、続く二撃目で盾を粉砕されるものの、スメラギは無事だ。

 

「防いだ…っ⁉︎」

 

「ぐっ…、強引だけどねっ!」

 

 ノエルの一撃を防ぐと、スメラギは掌のリパルサーレイをノエルの顔面に突きつける。

 

「チェックメイトだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……私たちの負けだよ」

 

 そう言うと、ノエルはすっと構えていたメイスを下ろす。だが、その声に悔しさや怒りはこもっていない。むしろどこか、すっきりしたような声色だった。

 

 他の4人も、武器を収める。それに合わせるように、スメラギもリパルサーレイをノエルから離し、アーマーを解除する。

 

「負けとか勝ちじゃないよ。仲直り、だろう?」

 

「…そっか。そうだね」

 

 へへっ、とノエルは小さく笑う。

 

「みんな。今まで騙しててごめん。本当のことを言えなかったのは、僕が弱かったせいだ。僕はみんなのことを怖がっていた。安易に信頼して、本当のことを話して。それで裏切られるのが怖かったんだ。でも、だからってまず僕が信頼しなければ、される事もない。自分から動かなきゃ、何も始まらなかったんだ」

 

 スメラギは周りを見渡す。もう後ろめたさなんかない。仲間の顔を、今はもう真っ直ぐ見ることができた。

 

「ふふっ…お前、私に同じ事言っておいて、今更気付いたのか」

 

「あはは…情けない事にね」

 

 だが、今回はできもしないことを願った訳じゃない。これは紛れもなく現実だ。

 

「スメラギさんっ、おかえりなさい!」

 

「うん。ただいま、るしあ。…君には、迷惑をかけたね。辛いものを見せてしまって…」

 

「いえ、いいのです。スメラギさんはそんな辛い過去を背負って、それでも生きようとしている。だったら、それを支えるのが仲間、なのではないですか?」

 

 その意味で、スメラギにとってるしあは最も近しい存在であった。それ故に、彼女を信頼することができなかった。それは依存でしかないと。

 

「そうだね。僕は君たちを守りたいという思いだけが強くなってしまって、君たちのことを見ていなかった。だからこそ、今は素直にみんなと向き合えるよ」

 

「まったく…ぺこちゃんのお陰ぺこねっ! ぺこーらがみんなを説得してなかったらどうなってたことか…」

 

 すっかりいつもの調子を取り戻したぺこらがそう嘯く。

 

「なぁんでぺこらさんだけなんですかっ! ラミィも貢献したでしょうが!」

 

「そうだよ〜! 一応メルもちょっとは活躍したんだけどっ⁉︎」

 

「うるさいよあんた達! 細かいことはどーでもいいのっ!」

 

「あはは…3人ともありがとう。僕のことを信じてくれて」

 

 3人のやり取りに苦笑しながらも、スメラギは感謝を述べる。

 

「やれやれ…余達も、あれくらいぐいぐい行った方が良いのか?」

 

「あれは単に無邪気なだけよ…私、あんなに元気よくできないわ」

 

「ま、わだかまりは消えたし、いいんじゃない? またテキトーによろしくね、スメラギさん」

 

「うん。あともう少しだけよろしく。あやめ、ちょこ、シオン」

 

 そして、ノエルとぼたんの方に視線を向ける。

 

「…私、今まで悪い人はみんな非道い人なんだって思ってた。でも、スメラギくんを見てたら、そうじゃない気がする。…私、騎士失格だなぁ。悪者と戦う為に騎士になったのに、悪者が誰か、なんて基本的な事すら間違ってたんだもん」

 

「誰だって最初から正しい判断をできるわけじゃないよ。大事なのは違う判断を否定せず認めて、2つの考えを吟味していくことじゃないかな?」

 

「そうそう。反省できるだけマシじゃない? 私はノエルのこと、もうちょっと頭の堅い子だと思ってたけど」

 

「もーっ言わないでよぉ! ……でも、スメラギくんのおかげで誰を守るべきか分かったよ。そして…誰を倒すべきかも」

 

 ノエルは振り返る。誰もいないはずの、その背後にはいつの間にか1人の男──否、アンドロイドが立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どういうことだ」

 

 無機質な、だが驚きと苛立ちを含んだ声がした。

 

「俺はお前の死体を見に来たはずだ。お前はかつての仲間に命を狙われ、応戦することもできず、無惨に死んでいくはずだった!!!!」

 

「あのままだったら、そうなっていたかも知れない。だが僕は過去と、仲間と向き合った。だからこうしてここにいる」

 

「『スターク』は世界にとって看過できない脅威であるはずだ!!!! 誰であろうと、この世界に生きる者は世界を守るために『スターク』を倒すのが自然だ‼︎」

 

「確かにそうかもね」

 

 ノエルは否定しなかった。彼女は最後までスメラギの殺害を踏みとどまることができなかった。今だって、『スターク』は滅ぼすべきだという考えの根本は変わっていない。

 

 しかし。だからと言って。

 

「世界を守ろうとしているのに、邪悪な力を持ってるからって敵対するのもおかしな話だよね。そんなのは正義の押し付けだよ」

 

「あぁ。生徒会長ともあろう者が情けない話だが、余はどうも焦っていたようだ。冷静に考えれば、実害を引き起こしたのはどちらかなど、火を見るより明らかなのにな」

 

 再び、彼女らは戦闘体制に入る。ただしその敵は、世界の災厄たる「黒幕」ではない。

 

「これだから人間は度し難い…ッ! イレギュラーさえなければ全てが終わり、平和な世界を実現できたはずなのだ‼︎」

 

「お前の計画なら、楽に平和を実現できたかも知れない。でも、誰かを犠牲にして得た平和は、幸せであるはずがない」

 

 ヘーミッシュの怒りを、フレアは一蹴する。

 

 平和を求めるなら、どれだけ犠牲を払おうと問題ではない。それだけの犠牲を払うだけの価値が、それにはあるのかもしれない。だが、犠牲の上に成り立つ平和は、果たして人々を幸福にするのだろうか? 喜びを分かち合いたい人が隣にいないのは、とても悲しいことではないだろうか? 

 

「僕も戦うよ、スメラギ。世界はアイツが言うほど冷たいものじゃないってこと、見せつけてやろう」

 

 スメラギの隣にロボ子さんが立つ。

 

「アンドロイドが俺の邪魔をするのかッ? お前ならどちらが正しいか分かるはずだろうッ!」

 

「生憎だけど、君が正しいとは思えないな。人の未来は、人が創り出すものだ」

 

「僕は人柱になるつもりはない。もうこの世界で、誰かを犠牲にしたくはないんだ。だから」

 

 両腕にブレードを構築し、ゆっくり歩き出す。

 

「ヘーミッシュ。君を倒す」




今回は各所に色んな作品の台詞が散りばめられてます。パクリではないです。ないです(固い意思)

まず、「仲直り(ケンカ)」はまんま「新約 とある魔術の禁書目録」からですね。こういう真逆の意味をルビにするのすこすこ侍

次に「大事なのは力の善悪や強さでなく心の強さ」というセリフ。これは「トップをねらえ2!」のラルクのセリフをちょいアレンジしたもの。あのラルクが努力と根性を語るシーン、グッときますよね

そして「矛盾を孕みながらも存在し続ける」は、「劇場版 機動戦士ガンダム00 -A wakening of the Trailblazer-」のグラハム・エーカーのセリフです。グラハムさん大好きなので入れてみました

最後にロボ子さんのセリフ「人の未来は人が創り出すものだ」。これは「機動戦士ガンダムUC」の主人公バナージ君のセリフです。ユニコーンは名言揃いなのでつい使いたくなっちゃいますね〜

そしてそして、待ちに待ったタイトル回収。というより、あの陰鬱なタイトルを見事打ち破ったというのが正しいですかね?こういうタイトルをちょこっと改変して意味を大幅に変えちゃうやつ、めちゃくちゃエモいですよね。別物かもしれないけど「天気の子 -weathering with you-」とか、初めてサブタイの意味を知った時鳥肌立ちました笑
ちなみにここ、今回のサブタイトルにしようかなーと思いましたが、どうしてもサンカショウの宣伝がしtこのフレーズが頭に残ってしまったので、タイトル回収の方は本編でしました。

何気にスメラギとホロメンがちゃんと戦ってるのを書くのは初めてですね。覚醒したスメラギくん、つよぉい!(小並感


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

35話 彼方からの使者

先日ガンヘッドを観ました。ガンヘッドとエアロボットのバトルシーンが迫力あっていいですね〜。アレがCGじゃなくて模型でやってるのエグいですね…!
ジェロオオオオニモオオオオオオ!!!!!


「さて、どうやってゼノクロスを探す?」

 

「そういえばルーナちゃんの領地にゼノクロスの整備ドックがあるんだっけ。そこに行ってみる?」

 

「ルーナ? ってか、あなたは?」

 

「あ、ごめんごめん。僕はロボ子だよ〜。よろしくね魔法少女ちゃん」

 

「魔法少女…? ええと、あたし紫咲シオン。よろしくっ」

 

 スメラギの死を確認しにやって来たヘーミッシュを難なく撃破すると、スメラギ達は今後、具体的には最終目標であるゼノクロスについて話し合おうとしていた。しかし、

 

「今後について話すのも大事なんだけど、今はここを離れた方がいい」

 

 少しスメラギは急ぐように声をかける。

 

「? なんで?」

 

「さっき君たちを呼ぶ為に『力』を発しただろう? 全方位にやったものだから、恐らく『力』を察知した人達があちこちからやってくると思うんだ。早くしないと余計な戦いが起きてしまう」

 

 あくまで冷静に説明するが、

 

「いや、それは貴方のせいだろうっ? 何故余達が巻き込まれなければならないんだ⁉︎」

 

「てか何でそんな堂々としてんの。あんたのせいで仲間に危険が及んでるんだけど?」

 

「ちょっとぉ! もうちょっとやり方あったでしょ! 急にIQ低くなるのやめてくださいよ!」

 

「…スメラギさんってもしかしなくてもポンコツ?」

 

「ホントなんでアンタが『エース第3位』ぺこなの?」

 

 

 

 いややる前に気付けよ。こんな重大なリスクを忘れて行動を起こしてしまう辺りが粗暴で大胆なオーガストの源泉なのかと思うと、スメラギ自身も中々ぶっ飛んだ人物であるのかもしれない。ロボ子は口には出さなかったが、苦笑しながらそう思った。

 

 なお当のスメラギ本人は総スカンを喰らって、早くもへこみかけていた。

 

「ぐっ……と、とりあえず、今すぐこの場を離れよう。マイスフィールドか、ルーナの所ならまだ安全だと思うけれど…」

 

 しかし、いつだって希望というものは残されていた。スメラギの信頼度は救いようがなかったが。

 

 まぁつまり。

 

 

 

 突如、天から光の柱が降りてきたのだ。

 

「うわっ⁉︎何これっ?」

 

「攻撃…じゃなさそう。なんだろ」

 

「あっ、もしかして「天の柱」じゃないか? ほら、天界と人間界を結ぶっていう」

 

「お〜さすがフレアさん! そういえばラミィも聞いたことあります! でも見たのは初めてだなぁ」

 

 と、そこへ1人の少女──否、文字通りの意味での天使が舞い降りる。

 

「まったくもう…邪神の力を感知したと思ったら、急に『スターク』とその仲間を喚んでこいなんて、運命神様は何を考えているのやら…。っと、貴方が『スターク』? 突然だけど、僕と一緒に天界まで来てもらうよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(まさかこいつが出てくるとはな)

 

「天音かなた、か…」

 

「…ちょっと、何で僕の名前知ってるの? それも邪神の力ってわけ…?」

 

 スメラギ達は「天の柱」の中に入り、天高く昇っている。

 

『力』を狙ってやって来た、というのは間違いではなさそうだが、かなたの言葉から察するに、戦うつもりはないようだ。渡りに船、ということで、一行はかなたと共に天界へ向かうことにしたのだ。

 

「スメラギさん、もしかしてこの子に会ったことあるのです?」

 

「あぁ…。かなたも以前の世界で会ったことがある。だが、何故わざわざ彼女が…」

 

「ハッ、むしろちょうどいいじゃねぇか」

 

 と、オーガストが表へ出る。

 

「うっ…もう3回目くらいだけど、いまだに慣れないなぁ…」

 

 邪神の力は人々に根源的な恐怖を与える。その力は行使しなくても、持っているだけで常に微弱に発せられている為、オーガストが表へ出ている間はずっと、この力の影響を受けることになるのだ。

 

「それで、ちょうどいいって?」

 

「俺たちが今まで出会ってきた奴らは、テメェらも含めてどいつもこいつも前の世界で知り合いだった」

 

「それはヘーミッシュとマーシェの計画じゃないの?」

 

 確かに、ここにいるほぼ全ての仲間は彼らの計画によって、対スメラギの戦力として、人為的に集められた。しかし、ギエルデルタを目指していたぺこらとスメラギが途中でエルフの森に寄るのも、その後のソフォレでの戦いの時にぺこらがいたのも、ヘーミッシュ達にとって想定外だったはずだ。

 

「必ずしもそうじゃないかも知れない。彼らの計画の始まりは、おそらくノエルとぼたんだと思う。でも、僕はそれまでにかつての知り合いと何人か会っているんだ、ぺこらやフレア、ラミィも含めて」

 

 前から感じていた違和感。ヘーミッシュに気を取られ、今まで完全に忘れていたが、やはり不自然だ。

 

 この世界にやって来た所をたまたまぺこらが通りかかったり、魔物に襲われかけていたのがわためだったり、その雇い主がポルカだったり。

 

 いくら並行世界に飛んだとはいえ、これは流石にご都合展開だ。

 

「偶然じゃなくて?」

 

「偶然というには、あまりにできすぎている。むしろ、誰かが意図的に引き合わせているような気がするんだ」

 

「もしそれが本当なら、そんな大それたことができんのは神々くらいしかいねぇ。奴らが俺に用があるのなら、俺も奴らに真相を問い詰めてやるさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「着いたよ。ここが天界。あなた達は喚ばれてやって来ただけなんだから、余計な真似しないでよね」

 

 人間界とは隔絶された天界なのだから荘厳な景色を想像していたスメラギ達だったが、そこはむしろ見慣れた街だった。

 

「見た事あるけど…どの街に似てるかと言われると分かんないな」

 

「確かに。アイゼオンぽいと言われればそうだし、ギエルデルタにも似てるかも」

 

 唯一、記憶の中の街と違うのは、まったく見慣れた景色でありながらどこか神聖さを感じることくらいだろうか。

 

「下界の人に天界のありのままを捉えるのは不可能だから、空間があなた達の認識に合わせてるんだよ」

 

「じゃあ、この街で人がまったく見かけないのは?」

 

「そりゃあここは下界とは次元が違うから、あなた達がここの住人に干渉することはできないよ」

 

 かなたは軽い調子でそう説明すると、まっすぐ歩き出す。

 

 

 

「じゃあ案内するから付いてきて」

 

「案内…って、どこに?」

 

「この世界を創った創造主、主神リヴァイエラのところだよ」




ついに天界までやって来ました。人間界、魔界、天界と、これでこの世界の大体を踏破したことになりますねー(3つの世界区分が死に設定にならなくて良かった…)

そして、そろそろネタばらしですね。ここまで謎を謎のままに引っ張ってくるの辛かったですが、ようやく明かすことができるので楽しみです()


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

36話 真実を前に、それでも彼は

ネタばらしの回です。長くなるかなーと思ってたら意外と普通でした。



「ほら、この先だよ」

 

 かなたが指差した先は、明らかに周りと違う雰囲気を放つ神殿のような巨大な建物だ。

 

「『スターク』とその仲間を連れてきました、主神リヴァイエラ」

 

 その最奥にてかなたは跪き、何もないだだっ広い白い空間に向けて言い放つ。

 

「…?」

 

『来たか、運命に囚われし者達よ』

 

 それに対しどこからともなく声が聞こえる。と共に、かなたの目の前に、インクが紙に滲むようにその姿が顕になる。

 

「ぅわっ…⁉︎アレが…⁉︎」

 

「わ、のっぺらぼうだ」

 

 それは神と呼ぶには、あまりに単純な外見だった。「白い影」と形容するのが1番適切だろう。全身が白く、顔もなければ胸や腹筋などといった身体の起伏すら存在しない。神体を縁取る黒だけが、この白の空間と隔絶された1つの存在であることを証明していた。

 

 

 

 

 

「あなたが創造神か」

 

『然り。我が汝らを喚んだのはこの世界の未来、つまるところゼノクロスについてだ』

 

「何故このタイミングなのだ? もっと早くに教えてくれてもよかっただろうに」

 

 あやめが抗議するが、リヴァイエラは静謐な声でそれに応じる。

 

『否。今という時でなければ、明かすことはできなかった。スメラギ・カランコエが己が弱さを認め、『スターク』として生きることを受け入れる必要があったからだ。スメラギ・カランコエ。汝がゼノクロスと戦うという確固たる覚悟を持たねばならなかったのだ』

 

「…それは、ゼノクロスの狙いが僕だからかい?」

 

『それについては本筋と関わる故、簡潔に答えるというよりは、これから話すことの中でその答えを述べていくとしよう。

 

 事の発端はゼノクロスの目覚めだ。それはいくつかの遠因があったが、最も直接的な要因はスメラギ・カランコエによる邪神の力の発動だ。その脅威を感知しゼノクロスは目覚め、そして世界に牙を向いた』

 

「そうして、僕だけが生き残り、世界は滅びた…」

 

 しかし、リヴァイエラはそれを否定する。

 

 そして告げる。

 

『結果的に見ればそうなるが、真実は異なっている。

 

 

 

 つまり、汝はその時に一度死んでいるのだ』

 

「なっ………」

 

 スメラギは驚きのあまり、一瞬絶句する。

 

「僕が、既に死んでいた…⁉︎では、何故僕は今生きているんだっ?」

 

『結論から言えば、それは我の権能によるものだ。

 

スターク(スメラギ)』という標的を撃破してしまえば、次に目指すのは別世界の『スターク』であることは容易に想像がつく。そして、目覚めたゼノクロスは、世界を守る為に世界を滅ぼすという二律背反(アンビバレンツ)な行為を是としている。

 

 ここで汝を完全に失ってしまえば、彼はこの世界を離れ他世界までも滅ぼすであろうと我は予測した。故に、スメラギ・カランコエという存在が滅びる前に、汝を運命の円環に閉じ込めた。分かりやすく言うならば、汝はその身が滅びる度に並行世界へそのままの姿で転生するということだ。

 

 邪神の力を持つ汝が生きていればゼノクロスがこの世界から離れることはなく、また仮に並行世界が滅びたとしても、いくらでも創世することは可能である故、汝がこの世界から抜け出さない限り、ゼノクロスの隔離は完全なものになった』

 

 その言い方に、スメラギははたと気が付く。

 

「……そうか。この世界が他世界と切り離されたのは、あなたの仕業だったのか」

 

『然り。今、汝がこの世界から抜け出さない限り、と我は条件付けた。汝が異世界へ渡る余地が十分にあった為だ。故に我はさらに、全ての並行世界を含めたこの世界をヒステラルムから隔絶した。そうしてこの世界をゼノクロスの贄とすることで、ヒステラルムの平和を守ったのだ』

 

 

 

「それが、今回の事件の、真実…」

 

 るしあは愕然とする。

 

 あの記憶は、ゼノクロスを止める為に立ち上がり、スメラギと共に戦ったるしあやその仲間たちは、ヒステラルムを守る為の生け贄に過ぎなかったのだ。

 

「そんなのっ…! 

 

「そんなのお前の独善じゃないかっ!! どうしてゼノクロスを止めようとしなかったんだ⁉︎」

 

「フレア…」

 

「スメラギは世界を救おうとした。別世界の私たちだって! その思いを、お前は踏みにじったんだぞ!!?」

 

『ゼノクロスは何者にも倒せぬ。奴の力は我々創造神すら超える。それほどの存在を前にして、倒すという選択肢を取るのが最良であり最善であると判断するのか?』

 

「……っ!」

 

『だがしかし、滅びの螺旋に終わりが生まれた。幾万、幾億の時間軸を観測し、我はたった1つの可能性を認識した。何の犠牲も必要としない、最良の選択が。それが()()なのだ。

 

 スメラギがオーガストを認め、決裂した仲間と向き合ったこの世界線こそ、滅びを終わらせる唯一の希望なのだ』

 

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

 

「僕が、みんなと共に歩むことが…?」

 

「ハッ、つまり『スターク』の力なら、あのデカブツをどうにかできるって話だろ」

 

『然り。だが滅びの螺旋に終止符を打つには、スメラギだけでも、オーガストだけでも不十分なのだ。仲間が汝を支え、成長させることで、ただの人間でもあり『スターク』でもある「スメラギ・カランコエ」として汝を完成させなければならなかった』

 

 だから()()()()()()()()

 

 つまり。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()() ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『然り。赤の他人より関係の深い仲間を用いるのが適切であると判断した我は、全ての並行世界における汝の仲間達に、スメラギと出会い協力させるよう運命を改変した。そしてそれは今、実を結んだのだ』

 

 

 

 

 

「私たちの出会いが、決められたもの…」

 

「ぺこーらがスメラギを見つけて、手当てしたのも運命だったってこと…⁉︎」

 

 全てはリヴァイエラの計画通りに過ぎなかった。

 

 何一つとて、例外なく。

 

「そんな……」

 

 一同はその真実に上手く言葉が出ない。

 

 自分達のやっていた事は、自分の意志で選んでいたと思っていた行動は、全て目の前の白い影によって決められた事だったのか? 

 

 自分達は、彼の道具に過ぎなかったのか? 

 

 

 

「……なるほど。つまりテメェは俺を、いや俺たちを駒として使ってたって事だよなァ? テメェの手を汚さず! 大した犠牲を払う事なく! 世界を救おうってのか!!!」

 

 オーガストは右手から滅紫の『力』を放出させる。

 

『我が奴と戦ったとして、万が一我が滅びればこの世界も滅びる。何があっても、我はこの世界のために存在していなければならないのだ』

 

「だったらテメェを滅ぼして、俺が代わりに創造主になってやるよッ!」

 

『我の権能を奪ったとて、人間では耐えられぬ。ましてや既に神の力を有している汝では』

 

「ハッ! 試してやろうか⁉︎」

 

「オーガスト…! やめてくれ」

 

 そこで、スメラギが表へ出て止めに入る。

 

(チッ…! テメェは受け入れるのか⁉︎このクソッタレな真実を! 馬鹿げた運命をひっくり返したくてゼノクロスと戦おうとしたんじゃねぇのか⁉︎)

 

「あぁ、そうさ。……だけど、過ぎたことは変えられない」

 

 だからこそ。

 

『ならば希望を現実とするか? 人間であり『スターク』でもある汝が、仲間と共にゼノクロスを倒すという未来を』

 

 スメラギはリヴァイエラを見据える。迷いのない、確かな視線を向ける。

 

「もちろん」

 

 未来は。これから起こることだけは。

 

 

 

 眠れる奴隷は、主神に対しこう言い放った。

 

「僕も世界を守りたい。だけど真実を知った今、あなたの言いなりにはなるつもりはないし、あなたの望む未来を実現するつもりもない」

 

 

 

「僕達の未来は、僕達が作り出してみせる」




ようやく…ようやく、「神様転生」タグを付けた意味が出てきました…!神様転生と聞くと、突如死んで神様と会って異世界に転生するっていうのがテンプレかなーと思うんですが、逆張りオタクらっくぅは「そんなありきたりなの嫌だ!」ってことでアレンジしてみました。何気に作品に転生要素を入れたのはこれが初めてなんです。僕、実は転生より転移の方が好きなんですよね。あんまり安易に人殺したくないというか。転移だと色んな世界と繋がりを持てるので、使い勝手が良いかなぁと思っております。
そしてさらに、あらすじも無事回収できましたね。「運命に囚われた者達」はスメラギくんだけじゃなくホロメンも入ってたんですね〜。これに関しては、「登場するキャラがことごとくホロメンなの、普通に考えておかしくない?ご都合展開だろ!」ってことで作られた設定です。なかなか強引な気もしますが笑

さて、ここまでのストーリーの大半が白いのっぺらぼう(神)によって仕組まれたものだった上、さらにスメラギの成長、ホロメンとの和解すらも神様がお膳立てしていたということで、中々夢も希望もない感じではあります。でも、スメラギとホロメンが同じ苦しみ・絶望を共有できてるの、良いですね…
やられっぱなし、流されっぱなしの一行ですが、けどこれで終わる訳ないよなぁ!?ってことでスメラギくんが打開の糸口になりそうです。成長したね本当に…


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

37話 ラストリゾート

機動戦士ガンダム00セカンドシーズンを履修中です。早くルイス救われてくれ;;


「なんか…一気に色んなこと聞いたからまだ頭が追いつかないよぉ…」

 

「無理ないわ、メル様。私もまだ上手く整理がつかないもの」

 

 メルとちょこは頭を抱える。だが、それはこのメンツの半分以上が同じ気持ちだろう。

 

 だから、その説明にぼたんが買って出た。

 

「ししろん、あの人の話よく分かったねぇ〜! 僕、最後の方しか頭に入らなかったよ〜」

 

 …ロボのアンタは理解しておけよと思わずツッコミたくなったのはご愛嬌。

 

 

 

「……まとめると、まずスメラギは死ぬ度に転生する運命を与えられていて、過去に一度死んだことがある」

 

 それは、永久にゼノクロスに殺され続けるという呪いでもあった。

 

「だからるしあはスメラギさんの記憶を見れたのですね…」

 

 しかしこの呪いのおかげでるしあが過去を知り、それがスメラギと和解する糸口となったのは皮肉であろう。

 

 

 

「そして、それはゼノクロスをこの世界に閉じ込める為の策だった。ついでに、この世界をヒステラルムから隔絶したのもその為」

 

 ゼノクロスは世界を守る為に世界を滅ぼそうとしている。しかしゼノクロスは強大すぎる故にそれを止める手段がなかった。だから、リヴァイエラは自身の世界を犠牲にしてまでヒステラルムを守ろうとした。

 

「まさか他世界と連絡が取れないのが、他ならぬ主神のせいだったとはね…」

 

 

 

「最後に、私たちがスメラギと出会ったのは、ゼノクロスをスメラギが倒す可能性を見出す為に創造神が仕組んだもの」

 

 リヴァイエラはこの死の円環の中で、たった1つの可能性を見出した。彼女達の運命を操ってまで、彼はそれを実現しようとした。

 

「確かに、見知らぬ異世界なのに出会うのが揃って昔の仲間っていうのはできすぎてるぺこね…」

 

 そしてそれは、まさに現実となった。

 

 

 

 

 

「結局、私たちは誰かに操られてばっかだね…。今までの選択は、本当に私たちがしたものだったのかな…」

 

 ノエルは弱々しい声でそう呟く。

 

 スメラギは少なくとも、自分の意志でゼノクロスを倒す旅に出て、そしてゼノクロスを倒すと決めた。

 

 だが、自分達はどうだろう。ヘーミッシュらにはスメラギを殺すための戦力として集められ。その計画を阻止したかと思えば、そんな行動すらも創造神の手の内だったのだ。

 

「たとえ自由意志が無かったとしても。あなた達の行動が全て仕組まれたものだとしても。あなた達が何かを為そうと思ったということだけは、誰にも操れない。それでいいんじゃないかな? 天使がこんな事言うのも変だけど、想いは神ですら干渉できない。それこそが、人が人たる所以だからね」

 

 ただの付き添いだったかなたはそう答える。

 

 人間界へ降りる為に一緒にいるだけのはずだった。今回の件に全く関係しておらず、その意味ではずっと外野だった。

 

 それでも。

 

「主神様が僕を使いにやった理由、今なら分かる気がする。僕も、あなた達と同じだったんだね」

 

 彼女もまた、運命を仕組まれた者だったのだ。だが、それに悲観することはなかった。

 

「かなた…」

 

「僕も一緒に行くよ。主神様がそうせよと仰るなら、ううん、僕がやりたいと思ったから。この世界を守ってみせる!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スメラギ達は天の柱を降り、人間界へ到着した。

 

「あれ、さっきのところと違う?」

 

「そりゃ、邪神の力の発信源に降ろしたらえらい騒ぎになるでしょ? ここは、えーと…ゼボイムから南西に行ったところだよ」

 

 かなたは神眼で辺りを見回しながらそう答える。

 

「それで、ゼノクロスをどう見つけるのだ?」

 

「あぁ。1つ手がかりがある。というより、これしかないんだけどね」

 

 その言葉に、ぼたんとノエルはピンときたようだ。

 

「やっぱり、アイツら?」

 

「あぁ。ヘーミッシュ達ならゼノクロスの所在を知っているはず。彼らを見つけよう」

 

「でもどうやって見つけるのです? さっき破壊したヘーミッシュから何か情報を得られないかな」

 

 だが、ノエルは首を振る。

 

「もっと手っ取り早い方法があるよ。彼らは自力じゃスメラギくんを殺せないから、私たちを使おうとした。けど、それは失敗に終わった」

 

 妙に自信ありげに、腰に手を当て説明を始める。

 

「じゃあ、他に使えそうな戦力を探す…? スメラギさんの正体を世間にバラすとか」

 

「ありそうだけど、それだと時間がかかるし、何よりゼノクロスが世界を滅ぼしたという事実が明るみになったら、彼らだって危ない」

 

 じゃあどうするの、とメルは尋ねる。

 

「待つ! 奴らは後がない。手持ちといえば自分自身の戦力だけ。だったら必ず奴らの方から攻めてくるはず!」

 

 ノエルの考察を聞き、感心したようにるしあは拍手する。

 

「おぉ〜! ノエル頭良いのです!」

 

「まさかノエルがそんなちゃんと考えてるとはね」

 

「ふふ〜ん、私だって騎士団の長なんだから当然よ! あっそうだ、シェラード君達にも連絡しとかないとっ」

 

 

 

 と、そこであることに気付いたシオンは恐る恐る尋ねる。

 

「え〜と…つまり、今日はここで野宿すか…?」

 

「あまりうろつくのも得策ではないし、まぁそうなるね」

 

 スメラギは平然とそう答えるが、シオンは明らかに嫌そうな顔だ。

 

「えぇー⁉︎虫とか怖いし普通に嫌なんですけど⁉︎」

 

「うーん確かに…寝心地も悪そう」

 

 メルもあまり乗り気ではなさそうだ。

 

「ほら、不満垂れてないで準備するわよ。持っておいて良かったでしょ? テント」

 

「まさか本当に使う事になるとはなぁ…。ちょこ、これどうやって開くんだ?」

 

 そんなサバイバル未経験の一般魔族達をよそに、ぺこらは1人いそいそと準備を始める。

 

「? ぺこらさん、何してるんですか?」

 

 それに気がついたラミィは、何気なくぺこらに尋ねる。が、それに対しぺこらはびくゥッ!!!? と明らかに普通じゃない反応をする。

 

「い、いや、なん、何でもないぺこだよ?? ただちょっと、寝る時は1人がいいかな〜…なんて……ハハハ…」

 

「まぁ良いんじゃないんですか? ただ、あんまり離れるといざって時守れないので、そこだけ気をつけて下さいね?」

 

 だが、そこでノエルは気づいてしまった。

 

「……あ〜、ぺこらっちょ『家』持ってるでしょ? そこで1人だけ野宿から逃れようとしてない?」

 

 ぎくぅっ!!! と、再び身体を飛び上がらせるぺこら。

 

 そういえば、とスメラギは思い出す。自分が介抱してもらった時、ぺこらが使っていたような…

 

「そうなのぺこらちゃん?」

 

「えっ…え〜? 何のことだか…」

 

「このキャリーケースみたいなの何? 見せてよ」

 

「え゛っ⁉︎これは商売道具で見せられなっ…⁉︎」

 

 近づいてくるメルに、ぺこらは持っていたキャリーケースのようなものに覆いかぶさるように隠す。

 

「はい<飛行(フレス)>」

 

「わっ、わっ⁉︎」

 

 ぼたんはぺこらだけを浮かせ、隠していたものを取り上げる。

 

「おっ、良いものもってんじゃ〜ん」

 

「なにこれ、ミニチュア?」

 

「いや、これがぺこらの『家』だよ。今はサイズを縮小してるけど、ちゃんと人間が住めるサイズに戻るはずだよ」

 

「スメラギ⁉︎バラすなぺこっ‼︎」

 

 空中でジタバタするぺこらをよそに、住居の存在を知ったノエル達が寄ってくる。

 

 普通に考えれば、彼女達だって強いだけで中身は普通の女の子だ。キャンプ好きでもない限り、ちゃんとした所で夜を過ごしたいだろう。

 

 とはいえこの光景だと何となくチンピラのようにも見えてしまうのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 というわけで。

 

「うぅっ……この家だってそんな広くないのに…!」

 

「まぁまぁ。ベッドはぺこらっちょに譲ったんだから文句言わないのっ!」

 

「譲ったも何も元々ぺこーらのものでしょぉっ!!?」

 

「というか、天使も寝るんですね」

 

「そりゃ不老不死じゃないしっ。エルフこそ不老不死なのに休みを取るの?」

 

「まぁ精神的な疲れは溜まりますし、何より夜明けまで暇ですもん!」

 

「えぇ…そんな理由で…?」

 

 元々一人暮らし用なのに10人近くを寝泊まりさせるということで、殆どの部屋に布団やら寝袋やらが敷き詰められてしまった。窮屈極まりないが、これでも外で寝るより遥かにマシだ。

 

 そして。こういう時、大抵は修学旅行よろしくテンションが上がって女子会が始まるものだ。

 

 

 

「あはっ! かなたちゃんもるしあと同類だねぇ! まな板まな板っ!」

 

「はぁぁ!!? るしあさんみたいな壁じゃないんですけどぉ⁉︎こちとら少しはありますけどぉ!!?」

 

「あんまり天使ちゃんのこと虐めちゃうダメだよるしあちゃん。いくら同族見つけたからって…ぷぷっ」

 

「いや…笑ってるけどあなたも同類よシオン」

 

「はぁ〜? あ、ごめ〜ん、あたし<幻影擬態(ライネル)>で胸隠してるんだわ! 巨乳をね!」

 

「まったく…胸ごときで何いがみ合ってるんだか…」

 

「うるさぁい! おっぱいでかい子には分かんないんだよっ! るしあ達の悲しみは! そもそもエルフにおっぱいなんて要らないでしょ! るしあにちょーだいよ!」

 

「るしあちゃん⁉︎色んな意味で過激な発言…」

 

「人の胸がそんなつけ外しできる訳ないだろ…⁉︎てか、胸の大きさで言ったら、ノエルが1番だろっ。ノエルに言いなよ!」

 

「えぇっ⁉︎何で私に振るのさフレアぁ⁉︎」

 

 

 

 

 

 一方。

 

『マスターは入らないのですか?』

 

「…分かって言ってるよね? 僕があんなハチャメチャな空間に入れる訳ないじゃないか…」

 

 例外(スメラギ)は野宿する事になった。

 

 もちろん、追い出された訳ではない。ただ、みんなの白い目がすごく痛かっただけなのだ。

 

「まぁ…1人は慣れてるさ」

 

『そう不貞腐れないでください。私たちがいるではありませんか。』

 

「そんな事ないって⁉︎……ただ、気持ちを集中させておきたいだけさ」

 

 そう言うと、持っていたデバイスがヴヴッと鳴る。

 

「じゃあ、私もお邪魔かな?」

 

「えっ……」

 

 デバイスの画面には、本来この場には、いや、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 すなわち。

 

 

 

「…あ、AZKi、先輩……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっほ。久しぶり、スメラギくん。君を探すのに手間取っちゃった」

 

「な、どう、して…」

 

 その姿も、その口調も、あの頃と変わらなかった。彼女は、スメラギの知るAZKiだったのだ。

 

 色々と言葉が湧き上がってきて、どれを言ったらいいか分からない。

 

 

 

 ややあって、スメラギはようやく、膨大な質問から1つを選び取った。

 

「AZKi先輩は、無事だったんですか?」

 

「うん。ちょうどあの時、別の世界に行ってたから。だから帰る場所が無くなったってわかった時、すごくショックだった。そらちゃんもすいちゃんもいなくなっちゃって…とても悲しかった」

 

「……」

 

 でも、とAZKiは続ける。

 

「落ち込んでばかりもいられない。いつかは前を向いて歩み出さないといけない。そう思って、私は立ち直った」

 

「…強いですね」

 

 スメラギは素直に感想を述べた。

 

 自分はすぐには立ち直れなかった。

 

 彼女たちを巻き込みたくない。世界を守りたい。そんな身勝手な願いだけ抱えてうじうじしていた。

 

 そんな自分と比べると、AZKiの強さには感心した。

 

「君も、だよ。だから今、みんなとここにいるんでしょ?」

 

「……はい。僕は、生きます。例え世界が僕を拒絶しても、帰る場所がなくても。生き続けます」

 

 それを聞きAZKiは満足したように、あの頃と同じ、優しい笑顔をスメラギに向ける。

 

「ふふっ。強くなったね、スメラギくん。昔とは大違い」

 

「えっ…僕、学生時代そんなに頼りなかったですか…っ⁉︎」

 

「あはは! じょーだんっ! でも良かった。もう心配いらないね」

 

 その言葉を聞き、スメラギは悟った。AZKiは、同じ境遇の自分に会いに来たのではない。立ち直れなかった自分のことを、慰めに来たのでもなかった。

 

「…ありがとうございます、AZKi先輩」

 

 この人には敵わないなぁ、と。

 

 スメラギは眩しく感じた。その光は、暖かかった。




最後の登場メンバーはあずきちでした!ただ彼女はスポット参加みたいな感じなので、第二部でもう一度登場させるつもりではあります。

さて、ラストリゾートというタイトル通り、次回から最終決戦に入ります。果たしてスメラギ達はゼノクロスを倒せるのか?もう一度滅び、死の円環を繰り返すのか?それとも…?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

カララトの手記

私以外の人間がこれを読んでいるということは、恐らく私が死に、そして戦争がとうに終結した未来であろう。私と、戦争を終結させたであろう最大の貢献者××(判読不能)との対話の記録を、僅かながらここに記す。
これを世に広めるか否かはあなたに託そう。
だが1つ願うとするならば、
どうか彼のことを忘れないでいてやってほしい。


1×××7年

4月4日

 今日は雲一つない晴天だ。こんな日は外に出て日光を浴びながら対話するのがいい。同僚からは平和ボケの穀潰しなどと揶揄されているが、そうは言っても彼の倫理観を養うには、単純なデータではなく生の人間との対話が必要なのだから仕方ないだろう。

 ただ、最近は彼と話すことを楽しみにしている自分がいる。何せ、まるで人工知能と話している気がしない。好奇心旺盛で純粋無垢な少年(彼と私は言っているが実際のところ、中性的な人格が設定されており、厳密には『少年』ではないのだが)と会話しているかのような気持ちになる。元々戦略史研究科志望だった私からすれば、非常に心躍るものだ。

 やれやれ、そろそろ同僚からの不本意な呼び名も否定できなくなってくるな…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1×××8年

4月28日

 今日は彼に、戦いで人を殺すのと、街中で人を殺すのでは違いはあるのかと問われた。

 うーむ、なかなか難しい問いだ。私は確かに違いはないと答えた。その上で、しかし戦争で人殺しをする者たちは、少なくとも何かを守ろうとしている。愛する人や祖国、といったものを。

 私がそう付け加えると、では守るものがあれば殺傷行為は是認されるのか、と返ってきた。必ずしもそうではない。例えば財産を守る為に人を殺すのは明らかに悪いことだ。大事なのは、他者を手段としてではなく、それ自体目的として扱うことだと私は思う。

 無論、これは個人の意見に過ぎない為、こんな事を彼に教えるのは最良の道ではないかもしれないが…。まぁ、功利主義的な思考を持つよりは十分()()()だと言えるだろう。

 基本的に戦闘用AIは功利主義に則ってアルゴリズムが構築されている。実戦では倫理などほとんど意味をなさないからだ。

 だが、彼にはそんな風になって欲しくない。いや、彼は実際、小を殺し大を生かす選択をする事態に直面せずに戦いを終結させられるだけの力を持つことになる。だからこそ、今までのAIと同列の存在ではいけないのだ。「平和の為の兵器」に彼はならなくてはならない。

 ちなみにこの後さらに問答は続いたのだが、その全てを記述するのは報告書と変わりはないので、一部だけを書いた。まぁ見るのは私しかいないので、こんな事を書く必要はない訳だが…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1×××8年

7月29日

 戦闘用AIとしての彼の性能は随一だ。未だボディは完成していない為カタログスペックではあるが、シミュレーションでは数千万もの敵をたった数時間で殲滅してしまった。確かに、これだけの力があるのなら彼への教育は手が抜けないな。

 現段階ではあくまで有人操作で、彼はサポート役として搭載させる予定らしい。彼がサポートしてくれるのなら、操縦の技量が極めて凡庸な私がパイロットに選ばれても問題は無さそうだ。流石の私もAIを全面信頼するほど科学信奉者ではないが、彼がよき相棒となってくれることを願う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1×××9年

12月28日

 今日の議題は、「少数の犠牲で世界を平和にできるならば、その行いは善なるものか」だ。つまるところ、戦争倫理において功利主義が最も善い主張なのかということだ。

 彼はもしかしたら、自分が他の人工知能と異なる存在であることを、疑問に感じているのかもしれない。『機械的』に物事を判断し、『機械的』にそれを実行するのが人工知能のあるべき姿であるはずなのに、そのように設計されなかった自分を。

 私は彼の問いに、「そういう風に考えてはいけない」と答えた。私自身、明白な答えを自分の中で見出していなかった。だから、心の奥に漠然と横たわっているその『何か』を、どうにかして言語化しようと試みた。

 誰かを犠牲にすれば平和になる、などと考えてはいけない。その誰かが何者であれ、初めから犠牲ありきで戦いを終わらせようとしては駄目なのだ。そのように近道ばかりしていては、人はきっと堕落する。

 誰も死ぬ事なく平和になる未来。それは理想に過ぎないかもしれない。だが、それを追い求める事こそ過去の惨劇を繰り返させない為の第一歩なのだ。

 そのように答えたと思う。久しぶりに、熱くなってしまったかもしれない。だがその甲斐あってか、彼にはその思いが伝わったようだ。

 

「そのように言ってくれてありがとう。私はあなたが教育係となってくれた事を、心から感謝したいと思う」

 彼が最後に言い放ったその言葉を、私は一生忘れないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1×××1年

5月8日

 ボディの開発は順調だ。メカニックに聞いたところ、大体7割ほどは完成していると言う。彼が実戦に投入されれば、終戦は近い。平和のため、彼にはより一層頑張ってもらう必要があるな。

 もっとも、彼が成長するにつれて私の役割も反比例して減っているのは少し物寂しい事だが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




多元連合軍第15艦隊・第29空戦部隊所属 カララト・ハウワー少尉


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

38話 2人の皇帝

まだ就活本番ではないのですが、もう就活辛すぎて配信者になる妄想ばかりしています、末期患者らっくぅです。まぁ僕はネットリテラシーもデリカシーもないので、配信者には全く向いてないんですけどね。

ところで、先日いろはちゃんの3Dお披露目配信があったのですが、胸が意外とぺったん…可愛らしい感じで、素晴らしかったです。ぽこべぇもめちゃくちゃ可愛かったですね。チャキ丸の3Dも見せてもらったので、創作に大いに活かせそうです。ありがとうカバー株式会社。


 ぺこらが急いで家を畳む。すると、広々とした草原には異質な機械の大群がよく見えた。

 

「ひっ…アレ、全部敵…⁉︎」

 

「だろうね。…それにしても、ちょっと多いなぁ…。1人何体倒せばいけるかな?」

 

 その総数、数千は下らない。まさに総力戦だ。

 

「なるほど、やはり数で攻めてきたか。持久戦に持ち込まれたら厄介だな…」

 

 流石のあやめも辟易したように呟く。

 

「大丈夫。あっちが数千なら、こっちは十万だ」

 

 そんな仲間たちとは裏腹に、不敵に笑うスメラギは前に出る。

 

 

 

「APRIL」

 

『ようやく出番ですか、マスター。』

 

「待たせて悪かった。だから、頼んだよ」

 

『ではお言葉に甘えて。十万隊長(ミーレ・センチュリオン)召喚(サモン)

 

 APRILの電子音声と共に。

 

 ガチャガチャガチャガチャガチャ!!!!!!! と、次々に機械の部品が電送され、それぞれが複雑に組み上がる。1人でに膨らんでいくシルエットは、10mほどの巨人へと輪郭を明らかにしていく。

 

『センチュリオン、起動(アクティベート)

 

 ヴンッ!! という起動音と共に、巨人──ミーレ・センチュリオンは動き出す。

 

 

 

「うわわ! なにこれぇ⁉︎」

 

 いきなり現れた巨大なロボットに、ラミィは驚く。

 

「これがAPRILの本体さ。今まで修理中で使えなかったけどね」

 

『マスター。命令(オーダー)を。』

 

「君の思うように」

 

 その言葉を聞き終わるや否や。そして同時に。

 

『御意。』

 

 それが決戦の幕開けとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 ズガガガガガガガガガガガガガ!!!!!!!!! と。

 

 全身の火器がヘーミッシュの大群に向けられ、夥しいほどの砲撃を容赦なく浴びせる。

 

 大勢のヘーミッシュが破壊の雨に晒されながらも、負けじと一斉にこちらへ向かって突進してくる。

 

「来るっ!」

 

「左右に分かれて戦うぞっ! 余達は左を!」

 

「分かったわ!」

 

「了解、あやめちゃん!」

 

「僕もそっち行くね! 天使の本気見せてあげるっ!」

 

「じゃあ私たちは右を叩こうっ!」

 

「おっけ。前衛は任せたよノエル〜」

 

「いや後衛多いなこのパーティッ!? ラミィもだけど!」

 

「僕は遊撃として頑張るからね〜!」

 

『ぺこら様、私から離れぬようお願い致します。』

 

「わ、分かったぺこ…っ!」

 

 

 

「これだけ奴さんがいりゃあ、準備運動くらいにはなるかもなァ!」

 

「あぁ。負けるわけにはいかない。僕たちの行動に、未来がかかっている!!」

 

 彼らとスメラギ達との、最後の戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然だが、スメラギ・カランコエは傭兵組織アルヴィアスにおける『エース第3位』である。名だたる猛者の中で、スメラギが邪神の力も使わず、さらに言えば特殊な能力など『超電磁砲』しかないのに、どうやってその名声を勝ち取ったのか。

 

 その答えはこれだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全体としてヘーミッシュという1つの人格を持つアンドロイド達は、有機的にスメラギに襲いかかる。

 

 前衛がスメラギに斬りかかり、その隙を突いて後衛がスメラギを狙撃する。戦術としてはオーソドックスながら完璧なものだ。

 

 

 

 だが完璧だからこそ、一旦その連携が断たれれば一気に瓦解する。

 

 

 

 10体ほどの敵が密集陣形(ファランクス)を作り、スメラギに突撃してくる。それに対し、スメラギは防御も回避もしない。

 

「そこッ!」

 

 スメラギは高出力のプラズマキャノンとリパルサーレイを中央へ斉射し一撃で葬ると、その穴を縫うようにすり抜け、そのまま後衛に飛ぶ。

 

「ッ!?」

 

 計算とは違う形で敵の接近を察知したヘーミッシュ達は一瞬遅れてビームを放つ。

 

 が、そこはもう()()()()だ。

 

「遅いッ!」

 

 スメラギは眼前に雷の槍を生み出し、それを放つ。超高電圧の槍は直撃した個体だけでなく、その周囲のアンドロイドをも巻き込んで全身を丸焦げにしていく。

 

 一瞬にして十数体を撃破したスメラギを囲むように現れたヘーミッシュ達がビームを一斉射するが。

 

 ズザァァァァァァ!!!!!! と、見るものが見れば根源から震え上がるであろう不可視の力によってそれらは薙ぎ払われる。

 

「全く、もう少し待てないのかい?」

 

「テメェだけの見せ場はここで終わりだスメラギ!」

 

「いいか! テメェの技と」

 

「…あぁ! 君の『力』で‼︎」

 

「ハッ! 行くぜぇぇッッ!!!」

 

 その言葉と同時に、スメラギはスラスターを駆使し、彼を狙って放たれるビームを躱しつつ上空へ飛び上がる。そして、そのお返しとばかりに、オーガストが両手から『力』の波動をワイドレンジで放射し、全て返り討ちにする。

 

「データに依存しっぱなしで、俺たちに勝てるわけねぇだろォォッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

「はいッ!!」

 

 ノエルは思い切りメイスを地面に叩きつけ、衝撃波を起こす。

 

「ナイスノエルっ! じゃあ…撃ち抜くよッ! <光陰一矢(こういんいちや)>ッ‼︎」

 

「続きますっ! 〈氷塊爆散大砲(ベルド・マヒャド)〉!!」

 

 大きく体勢を崩したアンドロイド達に、矢と魔法が浴びせられる。

 

 そうして、多くのアンドロイドが彼女たちに釘付けになった所で。

 

「僕のこと、忘れてくれてありがとね…っと!! 

 

 ロボ子が突如敵陣のど真ん中で姿を現した。先程の攻撃に乗じて、ステルスで身を隠しつつ敵陣へ飛び込んでいたのだ。ロボ子は両手の五指から伸びるワイヤーで周囲のヘーミッシュを次々と切断していく。

 

 そのロボ子を守るかのように、ロボ子が対処しきれない敵を弾丸が正確に撃ち抜く。

 

「ししろん助かるっ!」

 

「こちらこそ〜。ロボ子さんのおかげで狙撃がしやすいの何の」

 

 ロボ子にヘイトが高まった所で、再びノエル達がヘーミッシュ達を叩いていく。

 

 全く初対面のはずだった。

 

 即席もいいところ。

 

 だが、こうして完璧な連携を取れている。

 

「ここだけは、神様の運命に感謝だな」

 

 ヘーミッシュの脳天を撃ち抜きながら、ぼたんは思わず独りごちた。

 

 

 

「ッ!」

 

 ノエルの打撃を、正面から受け止める者がいた。

 

「白銀ノエル! 『スターク』につくとはな! 奴を殺す以上に果たさねばならない使命などあるか!」

 

「使命じゃない! これは私自身で決めたこと! 『スターク』を生かしておくのはめちゃくちゃ嫌だけど、あんたの言いなりになる方がもっと嫌だ!!」

 

 だがノエルは腕力にものを言わせ、力づくで防御を解かせる。

 

「愚かな! エゴで世界を滅ぼす気かッ!」

 

 胴体がガラ空きになったヘーミッシュにメイスを思い切り振り抜き、上半身を粉砕する。

 

「使命で人を殺せるほど、私は()()()人間じゃなかったってこと!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おりゃああああッッッ!!!!」

 

 かなたはまるで重力の縛りから解放されたかのように、軽い身のこなしで次々にアンドロイドを殴り飛ばしていく。

 

「天使ってあんな戦い方するのか…」

 

 もっとこう、上品な戦い方を期待していたあやめは拳で戦うかなたを見て少々呆気に取られながらも、愛刀の内の一振り──鬼神刀阿修羅を構え、

 

「だがあんなの見せられたら、余も本気出したくなってしまうなっ! 鬼神刀阿修羅、秘奥が参…〈神立(かんだち)〉ッ!!」

 

 刀の深淵を引き出す。雷を纏い、神速の一撃が薙ぎ払われる。

 

「ッッ!!!?」

 

 その速度に処理が追いつかず、ヘーミッシュ達は避ける間もなく屠られる。

 

 

 

「前衛が2人いると楽だね〜」

 

「そんなこと言って。撃ち落とされないでよ? メル様」

 

「ちょこ先生が守ってくれるんでしょ?」

 

「全くもう…調子のいいことをっ!」

 

 まさにメルに迫っていたビームをちょこは魔法障壁で防ぎ、メルは射手を〈魔黒雷帝(ジラズド)〉で破砕する。

 

 

 

 るしあは魔法陣から漆黒の魔剣──黒蝶獄霊剣(こくちょうごくれいけん)ネクロレンディアを引き抜き、魔法を行使する。

 

「るしあも、本気を出しますっ!! 〈魔装融合(ジェ・イグム)〉!!」

 

 その声と共に、紫の光がるしあから発せられる。

 

 そしてそれが収まると、その中からゴスロリ風の衣装にピンクに変わった髪の少女が現れた。

 

「黒蝶獄霊剣、秘奥が弍」

 

 いつもの儚い印象から一転、妖艶な雰囲気を醸し出するしあはゆったりとした動きで宙に飛び上がり、両腕を水平に大きく伸ばす。

 

「〈死竜赫雷(しりゅうかくらい)〉」

 

 両手に死の赤き雷槍を生み出したかと思うと、るしあはそれをアンドロイドの大群に向けて投擲した。

 

 バリバリバリバリッッッッッ!!!!! と、槍が着弾した周囲に赤い雷が放散され、数十体のアンドロイドがまとめて粉砕される。

 

 

 

 るしあの戦いを見て、シオンが奮起する。

 

「おぉ〜るしあちゃんやるじゃん! んじゃ、あたしもっ!!」

 

 魔力を集中させる。天に描いた魔法陣が、虹色の輝きを増していく。

 

 これだけの敵がいれば、威力を絞る必要もない。シオンは全力で放つ。

 

「〈交響詩篇(セブンスウェル)〉ッッ!!!」

 

 七色の光が収束した瞬間、魔法陣から光の柱が振り落とされ、直下にいたアンドロイドを蒸発させる。と同時に凄まじい音と衝撃が広範囲に撒き散らされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そらそらどうしたぁ!! このままじゃ数時間足らずと全滅しちまうぞォ!!!」

 

 いくら全ての個体が強化されたヘーミッシュと同スペックだからと言って、こちらは1人1人が一騎当千の戦力だ。戦略上の敗北など、気に留めるものでもなかった。

 

「スメラギ・カランコエ!! 俺は俺の全存在をかけて貴様を殺す!! そうでなくては、俺の存在意義が見出せない!!」

 

 ヘーミッシュの声があらゆる方向から聞こえてくる。

 

「機械が一丁前なこと言ってんじゃねぇよ! テメェは俺の命を狙った。だから滅ぼす! それだけだ!!」

 

「そう簡単に滅ぼされるわけにはいかないのだ! 俺にはもう後がない。俺が滅びれば取り返しのつかないことになるんだぞ!!」

 

 全方位から向かってくるヘーミッシュを、オーガストは身体から『力』を放出し、全て返り討ちにする。

 

「んなこと考えてんのはテメェだけだよ! 俺たちはテメェの思惑にも、あのクソッタレな神の運命にも従うつもりはねぇ!!」

 

「ならば根比べと行こうではないか! お前が世界を救うというのなら! 俺は世界を守ってみせよう!!」

 

 ヘーミッシュは勝負を持ちかける。それは決して、悪あがきとも思えなかった。

 

「…⁉︎」




今回タイトル詐欺ですね…w
スメラギの活躍回にしようと思ったら、フツーに皆を活躍させてしまった…。まぁ、スメラギは単独で戦闘しているので、一応目立たせることはできているのかなと思っております。

ロボ子さんの武器、どうしようかなーと考えていたのですが、「HELLSING」のウォルターみたいにワイヤーで戦わせたらイメージと合うかもということで、トリッキーな戦闘スタイルにしてみました。

さて、一転して窮地に立たされたヘーミッシュですが、次回は起死回生の一手を決められるのか、決められないのか。どっちなんだい!!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

39話 切り札⑴

先日、ホロライブオルタナティブの2ndティザーPVが公開されましたね。0〜5期生全員出演は予想していましたが、EN+IDも出演するとは…中々やってくれますね。
創作に大いに活かしたいところではありますが、本作で活用できそうなところがほとんどないのが残念( ´・ω・`)


「ねぇっ! 何か減ってるように思えないんだけどっ!?」

 

「それどころか、どんどん増えてるような…」

 

 戦闘が始まってから既に数時間が経過している。だというのに、ヘーミッシュが全滅する気配がない。

 

 何か様子がおかしいことに気がついたメルは上空へ上がり、周りを見渡す。

 

「…あっ! あそこ! 遺跡からどんどんやって来るよっ!」

 

 メルが指を差した方向には、工場遺跡があった。ヘーミッシュはそこから自身を量産し、逐次投入しているのだ。

 

「あっちまで行きたいんだけど…っ!」

 

 メルが遺跡まで飛んでいこうとするが、無数のビームがそれを阻む。

 

 そうでなくてもスメラギ達は少数精鋭だ。1人1人の負担は大きく、誰か1人でも離脱してしまえば簡単に戦力が崩壊する危険があった。

 

 だが。

 

 ニヤリと。

 

 オーガストは、こんな窮地においても不敵に笑う。

 

 いや、そもそも。

 

「…ハッ! 面白れぇことしてくれるじゃねぇか! だが甘ぇんだよ!」

 

 彼は全くもって、この状況をピンチなどとは考えていなかった。そんな事は織り込み済みだと言わんばかりに。

 

「何だとッ⁉︎」

 

 スメラギはハンマーでヘーミッシュを殴り飛ばしながら、後ろを振り返る。

 

 

 

 正確には、APRILの、その奥を。

 

 

 

「ぺこら! 君に任せたっ!!」

 

 

 

「何ッ…⁉︎」

 

「よ、よぉし…任されたっ! 行ってくるぺこっ!!」

 

 その言葉と共に、センチュリオンが背後の敵を一掃し、道を作る。

 

「どんちゃん! 行くよっ!」

 

 そう声をかけると、ぺこらの首に巻かれていたうさぎの顔がついたマフラー(?)が自ら解かれ、ふわふわと宙に浮かぶ。

 

 さらにそれは人と同じくらいのサイズにまで巨大化した。

 

 どんちゃんと呼ばれた縦長のうさぎ──精霊ポンポリナはぺこらを乗せ、工場遺跡…からズレた方向へと飛び去っていった。

 

「一体何をするつもりだ! 奴に戦闘能力はないはず…‼︎」

 

「君が秘策を持っていたように、僕たちにも秘策があるってことさ!!」

 

 自身に向かって放たれたビームを避けながら、スメラギはそう叫ぶ。

 

 そこでヘーミッシュは気づく。

 

「…まさかッ‼︎()()()!!? ()()()()()()()()()()()()()()!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やれやれ、私は容赦なく斬り捨てる気でいたのですが。団長がそう仰るのならば助けてあげましょう」

 

「そもそもっ! アンタ達の団長も今ピンチなんだって!」

 

 ぺこらはシェラード始め白銀騎士団を見つけると、これまでの事情を軽く話す。

 

 ポンポリナは、「どんな探し物でも見つけてくれる幸運ウサギ」という伝承から生み出された精霊だ。友人であるぺこらが頼めば、どんなものでも必ず探し当てる。故に、何の情報も無いにも関わらず白銀騎士団を見つけることができた。

 

「んで? 俺たちは何をしたらいいんだ嬢ちゃん」

 

「あそこの工場からアンドロイドが垂れ流されてるぺこ。アレを止めるぺこ!」

 

「なるほど? つまりあの遺跡をぶっ壊しゃいいって訳だ」

 

「いやいや、流石に壊したらいかんだろ。電源だけ落とすとか、生産ラインを止めるとか、やりようはあるだろ」

 

「そう言ってソフォレで遺跡ぶっ壊したのはどこのどいつだぁ? アレン!」

 

「ちょっと‼︎ケンカするなぺこっ‼︎早く行くぺこぉっ!!」

 

 こんな時でもある意味呑気な団員に、ぺこらは怒鳴る。

 

「団長の危機とあらば向かいましょう。案内してくれますね? 団長のご友人」

 

「おけ! 任されたぺこよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おらぁぁぁッ!!」

 

 オーガストは滅紫に染まった手でアンドロイドの動力部を掴み、引き抜く。すると、動力部で生み出された電気がオーガストに吸収されていく。

 

「『奪う力』…ッ! 厄介な能力だ!!」

 

「ハッ! なら俺を食い止めてみせな!! 機械にできるもんならなァ!!!」

 

『奪う力』。それはスメラギに与えられ、オーガストに譲渡された邪神の力だ。対象からあらゆるものを強制的に奪うこの力は、実体のあるものだけでなく、言葉や思考、果ては秩序すらその射程範囲に収める。

 

 もちろん、アンドロイドを稼働させている電力も。

 

 スメラギが『超電磁砲』を酷使しているにも関わらず「電池切れ」にならないのは、オーガストが敵から電力を奪っているからであった。つまり、体力が尽きない限り、「スメラギ」は永遠に戦い続けることができる。

 

「っラミィ!」

 

 だが仲間はそうではない。もう3桁は倒したであろう彼女らからは、流石に疲労の色が見え始めていた。

 

「わっ! ととっ…スメラギさーん! ありがとぉー!」

 

「ちょっとキツくなってきたな…。ぺこらが早くしてくれないと…!」

 

「大丈夫。ぺこらっちょも、シェラード君達も、きっとやってくれる…! 団長は信じてるからね!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぺこらに誘導され向かった工場遺跡からは、蟻の行列のようにアンドロイドが列を成して一方向へ吐き出されていた。

 

「コイツらを食い止めなくていいのかよっ!」

 

「全員でアンドロイドの量産を止めるのです! 中途半端に戦力を分散させてはいけない!」

 

 急いで工場へ入ろうとするシェラード達だったが、アンドロイド達が彼らを察知し、大群の一部をこちらへ差し向けてきた。

 

「くそったれ! バレたか!」

 

「アレン達は奴らを! 私は根源を断ちます!」

 

「無茶すんなよ! …ま、それは俺たちもかっ…!」

 

 

 

 

 

 シェラードが中へ入ると、そこにはまたも大量のアンドロイドが待ち構えていた。

 

「まさかあなたのような脇役が切り札になるとはね。完全に想定外だわ」

 

「取るに足らないと侮っているからこそ隙が生まれるものです。機械はそれを克服したと思っていましたが」

 

「けどあなたの戦力は想定内。数で圧倒すればあなたはこれ以上手出しできない」

 

「さぁ、それはどうでしょう。人間には火事場の馬鹿力というものがあります」

 

 こんな状況でも相変わらずシェラードは余裕を崩さない。

 

(更なる切り札…? いえ、騎士団の最高火力は間違いなく彼。雑兵も外で足止めしている。…単なる虚栄か?)

 

 だが()()を倒してしまえばそれも水泡に帰す。大量のマーシェはブレードを構え、

 

「…では見せてもらおうかしら。人間の底力というやつをっ!!」

 

 一斉にシェラードに向かって突進した。




また前編後編に分かれてしまった( ・ω・)

さて、ヘーミッシュは機械らしく物量で押し切ろうとしましたが、スメラギにあっさり攻略の糸口を見出されてしまいました。敗北色濃厚…

そしてぺこら(+どんちゃん)の活躍により久しぶりの白銀騎士団が登場しましたね。シェラード君どうしようかなーと思ってたところで、ちょうどいい活躍の場を見つけられて良かったです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

39話 切り札⑵

改訂版に向けて、現在オルタナティブを最初から見直しているのですが、心なしか昔の方が表現力高い気がする…( ・ω・)
まぁどこかしら成長した所はあるでしょうということで、プラマイゼロとしておきます。


「こいつら…! 前に戦ったのよりも強くなってやがるッ!」

 

「遺跡に入り込もうとしてるぞ⁉︎中にいる2人を狙ってるんだ!」

 

 傭兵の中でも決して弱くはない彼ら──白銀騎士団だったが、数が多い上に一つ一つの個体は戦闘用にカスタマイズされた特化モデルだ。

 

「こうなってくると、奴らが魔法を使えない有り難さが身に染みるぜ…!」

 

 既に彼らは攻撃を回避する事を頭から投げ出していた。迫り来る斬撃やらビームなんかは全て魔法障壁で防ぎ、自分達はとにかく数を減らし奴らを遺跡に入らないことにのみ専念していた。

 

 だがもちろん。

 

「ぐぉっ……‼︎まずい、そろそろ障壁が…⁉︎」

 

 そんなギリギリの戦い方はいつしか崩壊する。いくら魔法障壁に対する有効手段がないとはいえ、物量で攻めれば壁は破れるものだ。

 

「団長達は頑なに拒否するだろうが、ここは死んでも遺跡を守れ! 使い潰す命は俺達からだッ!」

 

 

 

 しかし無機質な機械人形はそれすら許さない。

 

「ぶっ…ばはッ…⁉︎」

 

「うおぉあぁッ!!? 呑み込ま、れる…‼︎」

 

 切羽詰まった人間の悪あがきすら圧倒的な物量の前では無力であると。

 

 外野に物語の流れを変えることなど不可能だと。

 

 無慈悲な宣告を下すかのように、ヘーミッシュ達は団員達を封殺し、遺跡へと迫った──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 複数個体での同時攻撃を図るマーシェに、シェラードは臆する様子もない。それどころか、

 

「甘い」

 

 彼の所有する魔剣──断絶剣デルトロズで襲いかかるブレードを全てバラバラにし、さらにその持ち主達を返り討ちにする。

 

 そのまま一息で百もの連撃を繰り出す。攻撃の隙すら与えず、シェラードは次々にアンドロイドを撃破していく。

 

 

 

「……っ」

 

 しかしやはり、敵が多すぎた。

 

 連撃の速度が徐々に落ちているが分かると、1体のマーシェは薄く笑う。

 

「もうお疲れ? 長旅の影響かしら? それとも、その剣のせい?」

 

「あなた程度のアンドロイドなら、指一本しか動かなくとも破壊できますよ。それより、増産はしなくてよろしいのですか?」

 

 デルトロズは触れれば断ち斬られる鋭い刃を持つ代わりに、使い手の魔力を食らう呪いが宿っている。シェラードのような卓越した剣士ほど、その呪いの効果は爆発的に上昇する。

 

 その為、長期戦でこの魔剣を用いれば不利になるのは必至であり、このまま戦い続ければ、それこそ指一本たりとも動かせなくなってしまう恐れがあった。

 

「いつまでその減らず口を叩けるかしらっ!! 脇役ごときが!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同じ顔の機械人形達が仲間を吐き出し続ける遺跡へ、壁をぶち抜く勢いで突入しようとした、その時であった。

 

 

 

 ゴアァァァァァッッッッッ!!!!!!???? と。

 

 

 

 吹き荒れる暴風、というよりはいっそ壁のような、分厚い魔力の嵐が大量のヘーミッシュ達を押し潰した。

 

 

 

「な…んだぁっ!!?」

 

「この魔力、見たことがあるぞ⁉︎」

 

 その余波で彼らを拘束していたアンドロイドも吹き飛ばされ、自由になった団員達は、呆然としながら立ち上がった。

 

 

 

「よお、なんか最近よく会うな。人間」

 

 そこに立っていたのは、2人のエルフだった。

 

「全く…2度も3度も人助けなど、そうそうあると思うなよ?」

 

 彼らを助けたのは、人間を、科学を忌み嫌い外界から身を閉ざした、上位存在であった。

 

 猫のような印象を与える細身なエルフは、あくまで飄々とした様子でこう語りかけた。

 

「まぁあまり気に負うな。少しばかり、世界を救いに来ただけさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 窮地に陥ってなお、シェラードはもう一振りの魔剣──護神剣ローロストアルマを使おうとはしない。それはその名の通り、防御に特化した魔剣であり攻撃力が低い為であったが、それでも一応剣としては問題なく使える代物ではあった。

 

 にも関わらず、リスクの高いデルトロズを使い戦っているのは。

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 直後。

 

 ドゴォォォォン……!!!!!! と、鈍い爆発音がマーシェの足元から聞こえてきた。

 

「ッ!? 爆発⁉︎一体どうして…ッ!」

 

「虎の子が私であると、いつから勘違いしていたのですか? 窮地を打開するのはいつだって、無力で勇気ある人間なのですよ。機械人形」

 

 シェラードは囮だったのだ。火力の低いローロストアルマで戦っていては、時間を稼いでいるのが露骨すぎる。故に、ハイリスクなデルトロズで戦い、あたかもこれ以上手がないように見せかけたのだ。

 

 

 

 こうしている間にも、地下のアンドロイド生産ラインから爆発音が連鎖する。振動が、マーシェ達のいる地上にまで伝わってくる。

 

『シェラード! 大体破壊し終えたぺこっ! 囮サンキュー!』

 

 ぺこらからの〈思念通信(リークス)〉がシェラードに伝わってくる。

 

「こちらこそありがとうございます。しかし、〈幻影擬態(ライネル)〉で身を隠したまでは良かったですが、髪のにんじんが丸見えでしたよ」

 

『ひぇっ…⁉︎それ早く言って欲しかったぺこっ…! すっげぇ肝冷やしたんだけど⁉︎』

 

 逆に言えば、そのような違和感にも気づかせないほど、シェラードは本気で戦っていたということだ。

 

「取るに足らない脇役どもが…っ! 何故こうも私たちの邪魔をするっ!!」

 

 いよいよ策が尽きたか、マーシェは全力をもってシェラードに襲いかかる。

 

「そんなものは明白です」

 

 対するシェラードは魔力を無にし、デルトロズを構える。

 

「我らが団長に危害を及ぼすもの。それが私達白銀騎士団の敵です」

 

 この愚か者を倒す為に。

 

 ありったけの力を振り絞り、

 

「断絶剣、秘奥が肆」

 

 放つ。

 

「──〈万死〉」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みんなっ! 増援が止まった!!」

 

 上空から敵を攻撃しつつ、遺跡の方を監視していたメルが〈思念領域(リクノス)〉で仲間に伝える。

 

「ぺこらちゃん…!」

 

「グッジョブだよ団員さん(みんな)!」

 

 

 

「チィッ…‼︎マーシェめ、しくじったか!」

 

「ハッ! どうやら隠し玉はもう尽きたみてぇだなッ!!」

 

 増援をし続けたことで、ヘーミッシュはスメラギ達を追い詰めることができていた。

 

 それが途絶えた今、彼は戦力的に勝っているスメラギ達によって逆に追い詰められていた。

 

「終わりが見えてきた…! じゃあ、もうちょっとだけ頑張っちゃおうかなっ!!」

 

「うむ! みんなでこやつらを倒すぞッ!!」

 

 

 

 勝利の兆しが見えてきたところで、ノエル達に活気が戻る。ヘーミッシュ側の戦力の消耗は、一層早くなっていた。

 

「まだだ…っ! まだ終わらんよッ!!」

 

 多方向から放たれたビームを、スメラギは針に糸を通すような精密さで回避し、オーガストの『力』で一気に敵を破壊していく。

 

「いいや、もう終わりだね‼︎さっさとテメェを全滅させて、親玉に会わせてもらうぜッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして、あらかた片付いたのはぺこらが遺跡を爆破してから1時間足らずだった。

 

 残されたのはたった1体、それも片手片足のもがれた、もはや戦闘能力を持たない個体だけだ。

 

「…何故とどめを刺さない」

 

 スメラギは生き残ったヘーミッシュの前に立つ。だが、攻撃する様子はない。

 

 それは情けではない。もしヘーミッシュがゼノクロスから生み出されたものなら、彼の思いもまたゼノクロスから生み出されたものだ。だとしたら。

 

「君が世界を滅ぼしたくないと本気で思っているのなら、僕達の戦いを見ているといい」

 

「ゼノクロスが目覚めれば、世界は滅びる。スメラギとゼノクロス、どちらかが滅びぬ限り、世界は犠牲になり続けるんだぞ」

 

 生きる為にスメラギはゼノクロスと戦い続け、ゼノクロスは己に埋め込まれたプログラムに従ってスメラギと戦い続ける。そんな無限に続く殺し合いこそ、スメラギとゼノクロスに仕組まれた運命(悲劇)なのかもしれない。

 

「そんな悲劇はもう終わらせる。誰も犠牲にすることなく、僕たちは全てを救ってみせる」

 

 その為に戦ってきた。その為に、これから戦うのだ。

 

「そんなものは夢物語だ。俺は…世界が滅びるのを見たくはない」

 

「僕だってそれは同じさ。だが守るというのは逃げる事じゃない。立ち向かわなきゃいけなかったんだ」

 

「……」

 

 スメラギは相手の返答を待たなかった。

 

 

 

 空を見上げる。

 

「来る」




奴が来る!シャ...
というわけで、次回が本当のラスボス、ゼノクロスとの戦いです。絶対に誰も死なせません。頑張ります。

追記:すっかり忘れていたラルクとレゴラスを登場させておきました。すまん2人とも…最終話まで気づかなくて


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

40話 Xeno Xross

歪だった交わりは、しかし眠れる奴隷を目覚めさせる一筋の光となった。

彼もまた、その1人であるだろうから。


 パリィィィン!!!!! と、空間がガラスのように割れる。

 

 割れた空間から、巨大なロボットの腕が生えたかと思うと、そこから這い出るようにその全身が明らかとなる。

 

「…ッッ!!!」

 

「こ、これが…ゼノクロス…」

 

 全く悪役には見えない。いっそヒロイックに見えるこのロボットは、しかし世界を滅ぼすことにもはや何の躊躇いもないだろう。

 

「…ハッ、ずっと待ってたぜ。テメェと戦えるのをよ…ッ!」

 

「見て! 片腕が…!」

 

 見ると、ゼノクロスの右腕が、正確には右肘から先が、何かに抉られたかのように欠損していた。

 

「かつての仲間が残した傷痕だ。…ようやく、戻ってきたよ。みんな…」

 

「感傷に浸ってる暇はねぇぞスメラギ。奴は俺たちの脅威を十分に把握している。余計な戦いなんかせずに一撃で世界を滅ぼすかもしれねぇ」

 

「……」

 

「い、一撃で…⁉︎じゃあ、どうやって戦うのさっ⁉︎」

 

 シオンは驚愕する。魔法に長けている彼女ですら、それだけの威力を持った攻撃を防ぐのは不可能だ。その上、撃つ前に倒すといった戦法も、ゼノクロスには通用しない。

 

 ならばどうするか。

 

「こうするんだよッ!」

 

 

 

 

 

 突如。

 

 ズッッッガァァァァァァァン!!!!!! と。

 

 オーガスト達のすぐ横に巨大な機械の球が現れ、地面に激突した。

 

「うわぁっ⁉︎」

 

「動力部を『奪った』。これで斉射できる余力は無くなったはずだ」

 

「いや心臓奪っちゃったらまずいでしょっ! ゼノクロス動かなくなっちゃうじゃん⁉︎」

 

 突然ジェネレーターを抉り取られ、ゼノクロスは機能を停止する。

 

「大丈夫だよラミィ。彼はそんなことじゃやられない」

 

 が、それも数秒間だけだ。ロボ子の言葉通り、ゼノクロスの目──センサーがすぐに点灯し、息を吹き返す。

 

『サブ電源かと思われます。動力部の位置は特定できません。』

 

 

 

 つまりは。

 

 

 

 

 

 ここからが本番だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゼノクロスは主動力を奪ったオーガストを睨みつけるように捕捉すると、両肩部の拡散ビーム砲を発射する。

 

「ッ!!!」

 

 オーガストは空間を『奪い』、瞬時にそれを避ける。

 

 シオンとちょこは魔法障壁を張りそれを防御しようとするが、

 

「…っ耐え切れない‼︎」

 

 シオンがそう叫ぶと、あやめ達はすぐにビームの着弾地点から離れる。

 

 そして数秒の抵抗ののち、障壁が破られ先程までいた場所にビームの雨が降りしきる。

 

「ひぃーっ! 怖すぎ!!」

 

 しかし、直後ゼノクロスからホーミングレーザーが放たれる。

 

「もう…っ! 落ち着かないっての!」

 

 彼女達は一息つく時間をも与えない連続攻撃に辟易しながらも、(かす)れば熱さを感じる間も無く身体が蒸発する死の光線を避けようとする。

 

 が、その全てがオーガストの放った『力』の波動によって打ち消される。

 

「僕が囮になる!! 君達はバリアを剥がしてくれっ!!」

 

 スメラギがスラスターを駆使してゼノクロスから放たれるビームを避けつつ、オーガストが攻撃を加える。が、それは強固なバリアによって全て弾かれてしまっている。しかし、それでもゼノクロスは最大の脅威であるスメラギに標的を絞る。

 

「剥がせったって…!」

 

「とにかく攻撃しまくるしかないっしょ!!」

 

「そんなんで行けるのですかっ!?」

 

『問題ありません。バリアには許容限度(キャパシティ)があります。それを超えた攻撃を加えれば、発生器をオーバーフローさせることができます。』

 

「意外と脳筋で何とかなりそうっ⁉︎」

 

「そうとなったら…!」

 

 ノエルの提案に乗り、それぞれが攻撃を始める。

 

「──!」

 

 バリアを破ろうとしていることに気がついたゼノクロスは、目の前の脅威を一旦放置し、ノエル達に照準を向ける。

 

「バレたぁっ!!?」

 

 ゼノクロスは腕に巨大なビームソードを形成し、彼女たちに向けてそれを薙ぎ払う。

 

「チッ!!」

 

 オーガストは瞬時に距離を『奪い』、ノエル達を自分の方へ引き寄せる。

 

「囮機能してないじゃんっ!」

 

「前にも増して警戒が強くなっている! 迂闊に行動してはダメだっ!」

 

「どうやって気付かれずにバリアを突破しろっていうんだよ⁉︎」

 

「一撃で破るしかなかろう。みんなの火力を一点に集中させるんだ!」

 

「僕がもう一度隙を作る。そうしたら後は任せたよ!」

 

 そう言うとスメラギはスラスターを噴かし、再びゼノクロスへ攻撃を始めた。

 

「オラァァッッッ!!!」

 

 ゼノクロスの拡散ビームに対し、オーガストはワイドレンジに『力』を放ちこれを相殺する。

 

 が、そこでスメラギの足が止まったところを、ゼノクロスは両腕のビームソードで追い討ちをかける。

 

「ぐっ…⁉︎こ、コイツ…‼︎」

 

 左右から迫り来るビームソードをオーガストは『力』で抑えるが、徐々に押されていく。このままソードで挟み込むつもりだ。

 

「スメラギさんがっ!?」

 

「いや今だ! みんなやるぞッ!」

 

 その声とともに、あやめにノエル、フレア、るしあ、ぼたん、ロボ子、APRILは各々の武器を構える。

 

 そしてシオン、メル、ちょこ、ラミィ、かなたは魔法陣を構築し、

 

「〈神立〉ッ!」

 

「〈轟崩打連〉!!」

 

「〈光陰一矢〉ッ!」

 

「〈死竜赫雷〉」

 

「〈獄炎殲滅百砲(ジオ・グレイダート)っっ〉!!!」

 

「〈魔黒雷帝(ジラズド)〉!!」

 

「〈獄炎殲滅十砲(ジオ・グレイツェン)〉!」

 

「〈絶氷牙砲(ガル・レイアス)〉っ!」

 

「〈聖砲十字覇弾(ラエル・フェノン)〉!!!」

 

 各々の最大火力が、一点に向かって放たれる。

 

 バヂィィィッッッッ!!!!!!!! と、放たれた攻撃とバリアが激しく拮抗する音が鳴り響き、そして数秒後。

 

 片方が打ち破れた。

 

 

 

 

 

「バリアが消えた…! スメラギくん、やったよ!!」

 

 ノエルの声を聞くや否や、オーガストはワープし、ビームソードの挟撃から逃れる。そしてゼノクロスの頭上へ跳躍すると、

 

「少し眠ってなァ! ゼノクロスさんよォォッッ!!!」

 

 オーガストは頭部に向けて『力』を放つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その攻撃は直撃し、装甲をまるで紙のように引っ剥がした。

 

 

 

 が、ゼノクロスがダメージを負うことはなかった。むしろ。

 

「ぐあぁぁぁッッ!!!?」

 

 衝撃反射型複合装甲(アクセラレイト=フォートレス)。向かってくる攻撃のベクトルを操作してそっくりそのまま反射する、攻防一体の鉄壁。科学は愚か、魔法ですら説明できない邪神の力ですら、この装甲は弾き返してみせた。完全に想定外だったオーガストは避ける間もなくもろに食らい、体勢を大きく崩して地面へと激突した。

 

「や、やろォ…! 俺の攻撃も反射しやがるのかッ…!!!?」

 

「スメラギさんっ!!」

 

 その隙を逃さず、ゼノクロスはホーミングレーザーを放つ。スメラギはダメージを受け、すぐに飛び立って回避することができない。しかし、この位置からでは、自分と彼女たちを狙うレーザーを全て消すのは不可能だった。

 

「レーザー使いすぎ…‼︎オーバーキルでしょこれ…っ!」

 

 シオンやちょこ達の魔法障壁のおかげで何発かは防御できていたが、それも心許ない。すぐに限界が来るはずだ。

 

「くっ…! せめてみんなだけでもっ…!!」

 

「勝手にテメェの命を諦めてんじゃねぇ! さっさと回避するぞッ!」

 

 オーガストはワープし迫り来るレーザーを回避すると、全身が痛むのをこらえ、ノエル達に迫っていたレーザーをかき消す。

 

 

 

 しかし、その一瞬の隙に、彼らへ新たな光線が迫っていた。

 

「しまっ……⁉︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その光線は、だがスメラギを灼くことはなかった。

 

「…っ!!」

 

 その直前で、()()()()()()()()()()()()()

 

「シュテッフェン…! 間に合ってくれたのか!」

 

 

 

「スメラギ・カランコエの防衛に成功! 領主、次はっ」

 

「敵の胴体部に集中攻撃。先ほど見たように奴の内部装甲は攻撃を反射するらしい。近接信管式の砲弾か爆発属性の魔法で攻撃せよ!」

 

「了解ッ!」

 

 シュテッフェンの命を受け、彼の私兵達は障壁を張りつつ一斉に魔法や榴弾砲で砲撃を始める。

 

 その中に、豪快にもロケットランチャーをぶっ放しているあくあの姿もあった。

 

「へへ…っ、間に合ったよ、ロボ子ちゃん…!」

 

「あくたん! 来てくれたんだね…!」

 

 

 

 そして。

 

 加勢にやって来たのは彼らだけではない。

 

「ルーナイトのみんなー! ゼノクロスに一斉攻撃なのらーっ!!」

 

御意(イエス・ユアハイネス)ッ!!!」

 

「ルーナも…!」

 

 

 

 

 

「急に味方が増えた!!」

 

「よく分からないけど、これなら行けそうかもっ!」

 

 増援がやって来た事で、遅れを取るものかとノエル達も奮起する。

 

「ちょ、ちょっと! ノエル様達は近接タイプなんだから迂闊に攻撃しちゃダメよっ⁉︎中身が露出してる右腕を狙ってちょうだい!」

 

「合点ちょこ先!」

 

 だが、流石のゼノクロスも露出している箇所を攻撃されるのは危険だと判断したのか、空へ飛びノエル達から距離を取る。

 

「ゼノクロスが逃げた…っ!」

 

「それだけ追い詰めているという事だ! 攻撃の手を緩めるなっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 だが、それは何も消極的なだけの行動ではなかった。

 

『胸部に高エネルギー反応。』

 

 狙った先はシオン達。1人1人の火力は高いものの、数自体は少数である為、防御力は低いと判断したのだろう。

 

 直後、ゼノクロスの胸から鉄槌の如き白いビームが照射された。

 

「やっ…ば⁉︎避け…‼︎」

 

「ダメ! 間に合わないっ! 防御魔法を…!!」

 

 シオン達は七重の結界を張り、それに対抗する。

 

 が、瞬時に5枚の壁が破られ、少しの抵抗の後に1枚が砕け散った。

 

「ちょっ…! 流石の僕でもこれはきついっちゅーの…っ‼︎」

 

「くっ…!」

 

 さすがのオーガストも、照射ビームを『力』でかき消すのは無理がある。

 

「かなたちゃんっ‼︎」

 

「ッやばいっ!! 割られそう…っ!!!」

 

 最後の防壁が、

 

「っ」

 

 ガラスのように砕けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その間、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「大気よ、大地よ。打ち震えよ! 我が旋律は彼の者らを守護(まも)る魔の法とならん! 〈森羅万唱守護聖歌(ソラン・エールフェリア)〉ッッ!!!!」

 

 刹那、だった。

 

 空気を、大地を、否、世界を震わし発動された結界は、まさにシオン達へ迫っていた強大なビームを完全に防ぎ切る。

 

「こ、これ…旋律魔法っ⁉︎一体誰が…⁉︎」

 

 その正体は、羊のような角と服装の少女だった。

 

 1人では、小型の魔物にすら立ち向かうことのできないか弱い女の子のはずだった。

 

 だが、その面影はもうない。恩人を助ける為に立ち上がった少女は、彼にこう言い放った。

 

「スメラギさんっ! わため、恩返ししに来ました!!」

 

 

 

「わため…! 本当にありがとう…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ぼたん様。衝撃反射型複合装甲(アクセラレイト=フォートレス)の反射の計測パターンを分析し終えたのですが、必要でしょうか?』

 

「お、なにそれ。もちろんいるよ」

 

 さらっと重大な事を話すAPRILに、ぼたんもいつもの調子で応え、E-ロッカーステーションから大型のライフルを電送する。

 

「たった数センチの穴だけど……その一点が瓦解の一手になる」

 

 ぼたんはライフルに弾丸を装填する。ただし、普通の弾ではない。

 

 入力されたデータを基に与える衝撃の角度や強さを変える特別製。

 

 APRILから貰ったデータとぼたんの射撃精度ならば、この弾丸はゼノクロスにとってかなりの脅威になりうる。

 

「さ〜て、どこ狙おうかな。ま、お返しという事で、胸のど真ん中ぶち開けるか」

 

 現在シャッターで閉まっている胸部。そこには先ほどぼたん達を灼こうとしていた大型のビーム砲が内蔵されていた。そして都合の良いことに、そこだけは二重装甲になっておらず、内部装甲のみが奥の殺戮兵器を守っていた。

 

 バリアの再充電に時間がかかっているゼノクロスは、一点集中により装甲が破られるのを警戒して、前よりも動きが活発になっている。体格差から、シュテッフェン達の砲撃を完全に避け切れてはいないが、微妙に着弾地点をずらし集中攻撃を阻止していた。

 

「その程度のレレレじゃ私の照準から逃れられないよ。……じゃ、行ってらっしゃいっ!」

 

 スコープの照準に胸部が合い、瞬間ぼたんは引き金を引く。

 

 ッッダァァンッッッッ!!!!!! と大砲にも似た轟音が響き、対人用と比べて明らかにサイズの違う弾丸が空を裂く。

 

 

 

 それは確かに狙い通り、胸のど真ん中に直撃した。

 

 ギャリギャリギャリギャリギャリ!!!!!!! と、ドリルが金属を掘削するように、回転エネルギーを加えて弾丸が鉄壁の装甲を削っていく。

 

 が、

 

「ッ弾速足りなかったか…⁉︎」

 

 計算に誤差があったのか、弾の先端から先が埋まらない。このままでは装甲を突破することなく、弾丸の運動力が尽きてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んじゃぁ……ポルカさんにお任せあれいキィィィィィィッッッック!!!!!!!」

 

 と、上空から素っ頓狂な声が響いてきたかと思うと、ソニックブームを引き起こすほどの勢いで人──厳密には異様にカラフルな衣装を見に纏った少女が降ってきた。

 

「ポルカ⁉︎」

 

「あの子…どっかで見たことあるような」

 

 ポルカは胸部に食い込んでいる弾丸ごと、ゼノクロスにキックをお見舞いする。

 

「とおおおおおりゃああああああああああッッッッ!!!!!!!」

 

 凄まじいスピードで放たれたキックに後押しされた弾丸は、しかし想像以上の衝撃が加わり、半ば強引に衝撃反射型複合装甲(アクセラレイト=フォートレス)に捻じ込まれる。

 

「ここで華麗にターンっ!」

 

 弾丸が完全にめり込んだのを確認すると、ポルカは宙返りしながら綺麗に着地する。

 

「どう⁉︎見よう見まねのイナズマキックは! カッコよかったっしょ‼︎」

 

「あー、そういえばこの子、前に護衛の依頼請けたことあったっけ。ポルカだっけ、助かったよ」

 

「おうよ! どっかで見たことあるホワイトライオンちゃん!」

 

 

 

 

 

 

 

「穴が出来たっ! あれを広げることができれば…!」

 

「任せてっ!」

 

 メルは目にも止まらぬスピードで飛翔し、空へ逃げたゼノクロスの足元へ追いつく。メルほどの飛行技術ならば、動き回っているゼノクロスに追従することなど朝飯前だ。

 

「ちょこ先! 準備は!?」

 

「ええ、いつでも!」

 

 よく見ると、メルから半透明の魔法線がちょこへと繋がっている。

 

「「〈重引縫地縛錨(ディ・ベルダゴーゼ)〉ッ!!」」

 

 ちょこのすぐ前の地面に描かれた魔法陣から漆黒の錨が飛び出し、魔法線を伝ってメルの方──より正確に言うと、メルが追従している右足へと巻き付く。

 

 直後。

 

「──!!!?」

 

 ッッズンッッッ!!!! と、強力な重力に引かれゼノクロスは地面に縫い付けられる。

 

「あとよろしく!」

 

「任せてもろて!!」

 

 と、間断なくかなたがそこへ飛んで来る。ゼノクロスは拡散ビームで迎撃しようとするが、それより早くかなたは懐へ飛び込んでいた。

 

「──ッッ〈一点集中指弾握撃(デコピン)〉!!!!!!」

 

 有り余る力を人差し指に集中させ、それを思い切り弾く。

 

「──!!!!!!!」

 

 その一撃はめり込んだ弾丸を再び加速させ、奥のビーム砲なんかいとも簡単に突き破り、ゼノクロスを完全に貫通した。

 

 それどころか。

 

 その衝撃は弾丸周辺の装甲にまで広がり、大きな亀裂を生む。こうなれば、衝撃反射型複合装甲(アクセラレイト=フォートレス)は機能しない。胸部に、大きな弱点が生まれた。

 

「よし! あの亀裂へ攻撃を集中せよ!」

 

 未だ重力の縛りから抜け出すことができていないゼノクロスはシュテッフェン達の砲撃を避けられず、片腕で砲撃をガードしつつ、ビーム砲やホーミングレーザーで反撃している。

 

「うわっと…! これどうやって攻撃する⁉︎」

 

 それはゼノクロス側が劣勢に立っているかにも見えたが、こちらもこちらで有効打を与えられていない。

 

「あまり無茶するなシオン! …とは言え、余も近づかねば斬ることはできんが…!」

 

 潜り込もうにも、弾幕が厚く突破するのは困難だ。こうなるとこちら側は不利になる。ゼノクロスの攻撃はいちいち火力が高く、防御するにも一苦労だ。このまま攻めあぐねていれば、あちらがエネルギー不足に陥る前に、こちらの損耗が激しくなる。

 

 

 

 

 

 

 

「うおっ! 船長、もう始めてますぜ!!」

 

「野郎! ここの1番乗りを先取りしやがって!! …ってセリフ、一回言ってみたかったんですよね〜」

 

「そんなことより俺たちはどうすれば?」

 

「全速前進! どうせローエングリンの火力じゃアレの装甲は抜けないだろうから、無駄なエネルギーは使わないように! …やれやれ、知らない貴族のおっさんに船を直してもらったかと思ったら、こんなに早く借りを返さなきゃならないとはね……」

 

 そこへ、小型の巡洋艦が空から現れる。が、砲撃を浴びせることなく、ゼノクロスへ真っ直ぐ向かっているようだ。

 

「ローエングリン…マリンか‼︎特攻をするつもりなのか…⁉︎」

 

「ピンポイントバリアを先端に集中させて!!!」

 

了解(ラジャー)!!」

 

 ローエングリンの船首に不可視のバリアが形成される。それは向かってくるビームを歪曲させ、軌道を逸らしていく。

 

「ッ空間歪曲式のバリア…! あれなら!!」

 

 

 

 無敵に見える衝撃反射型複合装甲(アクセラレイト=フォートレス)にも、弱点は存在する。ベクトルを反射するのなら、ベクトルを生まない手段で攻撃すればいい。つまりは空間に干渉する兵器だ。例えば空間を切削するMDE(Micro・Dimension・Eater)弾は防御することができない。

 

 そして、ローエングリンに張られたピンポイントバリアもまた、空間を歪曲させて攻撃を逸らす(本来は防御用の)兵装だ。

 

 

 

 それを知ってか知らずか、マリンはバリアによる特攻が有効であると信じ切って、ゼノクロスへと突っ込む。

 

 

 

 

 

 

 

 グッッッシャァァァァァッッッッッ!!!!!!!!!! 

 

 

 

 轟音を鳴り響かせ、ローエングリンはゼノクロスに激突した。巨大な機動兵器とはいえ、流石に巡洋艦にはサイズも質量も劣る。更にバリアによって衝撃反射型複合装甲(アクセラレイト=フォートレス)も意味をなすことなく、ゼノクロスの残った腕がグシャグシャに砕かれる。

 

「な…なんて無茶苦茶な戦い方だ…⁉︎」

 

「いくらバリアを展開しても、あんな風に突撃したら艦が…」

 

 ロボ子の言う通り、特攻したローエングリンの方もタダでは済まなかった。バリアを船首のみに限定した為に他の箇所の被弾は免れず、さらにバリア自体も十分ではなかったようで、船首が完全に潰れてしまっている。

 

「君たちー! こんなとこで死ぬなよー! さっさと脱出して!!」

 

「おいさ! …ったく、愛艦をこんな風に使っちゃってまぁ…!」

 

「それは言いっこなしだ! 命あってこその海賊だからな…!」

 

 事前に準備は完了していたようで、マリン始め船員達は速やかに艦から脱出した。

 

「うわっ…! 何あの人? まぁとにかくありがとう!! コスプレの人ーっ!!」

 

 シオンはそのマリンの姿に少し驚きながらも、手を振って感謝を伝える。

 

 そして。

 

 両腕が大破したことで防御手段は無くなった。これで目一杯魔法を浴びせることができる。

 

「はぁ…!!? 何だあのクソガキは…! これが終わったら分からせてやるからなぁっ!」

 

「いやでも露骨すぎますって、その服装は。一周回ってコスプレですよ」

 

「うるせー!! いいからさっさとあのデカブツを攻撃しやがれこのバカ一味ぃっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──!!!!!!」

 

 いよいよ追い詰められたゼノクロスは、肩のビーム砲を収束させ、楔が打ち込まれた右足を破壊し、本体から切り離す。

 

 そして拘束から自由になると、再び空へ飛び上がる。

 

「ゼノクロスが…!」

 

 

 

 

 

 

 

 だがここまで力を失えば、『アレ』を使うことができる。

 

 

 

 何故、どうやって彼女達はここへ来たのか。

 

 そんな事は、最早どうでもいい事だった。自分達を助けてくれた。それだけで十分だった。

 

 その恩に報いる為に。

 

 誰かを犠牲にしないと平和でいられないような、そんな世界を否定する為に。

 

 勝負するなら今だと、スメラギは決心した。

 

「みんなっ!!! 僕に力を貸してくれッ!!」




ちなみにわための魔法「森羅万唱守護聖歌」は単なる旋律魔法ではなく、呪文を唱えて発動する「詠唱魔法」と特定の旋律を奏でて発動する「旋律魔法」の複合となっております。
裏設定として、この詠唱魔法と旋律魔法は共に使い勝手が悪く、新現代では廃れて術式魔法が主流ということになっているので、わためは珍しいタイプの魔法使いなのです。シオンが驚いていたのはこの為。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

幕間 その思惑は神をも超える

 翌朝のことだ。

 

 まだヘーミッシュはやって来ない。あちらも相当な準備をしているようだ。

 

「みんな、少しいいかな?」

 

「スメラギさん? 改まってどうしたのです?」

 

 スメラギはみんなにこう切り出した。

 

「…ゼノクロスを倒すのは、やめにしないか?」

 

「えっ…?」

 

「スメラギさん、いきなりどうしたんだっ⁉︎」

 

 あやめは驚いてその真意を尋ねる。

 

「もちろん、戦わないという訳じゃないよ。ただ…彼を破壊する以外に、選択肢があるんじゃないかなと思って」

 

 そう言ってスメラギは、デバイスからとある画像を投影する。

 

「…これは?」

 

「大昔のパイロットの手記だと思う。とある神社から持ってきていたのをすっかり忘れていたよ」

 

 スメラギはみんなに見えるようにパラパラと目を通す。

 

 あの時はただの日記としか見ていなかったが、今はそれだけではないように思える。

 

 

 

 

 

「…これ、ゼノクロスに関係があるの?」

 

「っ! ハウワー少尉……」

 

「ロボ子ちゃん、心当たりあるの?」

 

 ロボ子が手記の最後に記された著者の名に息を呑むのを見て、メルがそう尋ねる。

 

「ハウワー少尉はゼノクロスのパイロットだよ…。元々ゼノクロスは有人操作式で、操縦するパイロットがいたんだ。それが、この手記を書いた人」

 

「そ、そんな偶然が…」

 

「この手記の『彼』というのがゼノクロスのAI──セトだとしたら、彼があんな行動を許すとは思えないんだ」

 

 誰も犠牲にすることなく平和を実現したいというハウワーの想いを受け取ったセトならば。『スターク』の殲滅の為に世界まで破壊するなんてことは絶対にしないはずだ。

 

「じゃあ、今ゼノクロスを操っているのは別人?」

 

「どうだろう…数千年前の機体を操れる人間がいるとも思えないな」

 

 あるいは、実はパイロットごと封印されていて、数千年の時を超えて今再び目覚めた……というのはいささか荒唐無稽だ。

 

「その…セトってやつがゼノクロスを操縦してる、とかないぺこ…?」

 

「だが、セトはあくまでサポート用だったのだろう? 彼に操縦ができるのか?」

 

 ぺこらの推測を聞き、あやめはそんな疑問を投げかけるが、ロボ子は予想に反した答えを出した。

 

「……いや、出来るかも。セトはハウワー少尉との対話で心を、自我を持った。操縦支援を行う機能があるセトなら、パイロットがいなくてもある程度自由にゼノクロスを操ることができる」

 

 

 

「だとすると、余計分からないわ。どうして良心を持っていたはずのセトが世界を滅ぼすの?」

 

 それに対し、スメラギはこんな予想を言った。

 

「彼が記憶(メモリー)を失くしているとしたら? ハウワー少尉との対話で良心が形成されたなら、記憶が失くなってしまえばそれも失われる。しかし逆に言えば、セトが記憶を取り戻す事ができれば戦いを止めるはずだ」

 

「どうやって記憶を取り戻させるのさ?」

 

「この手記が彼の記憶の一部なら、これを『返す』事ができるはず」

 

 オーガストの『力』──『奪う力』は単にあるものを奪うだけではない。それが奪われたものならば、他人に与えることもできる。

 

「てことは、成功するかどうかは分からないって事だよね? 失った記憶が奪われたものじゃなきゃいけないんでしょ?」

 

 かなたが懸念を口にする。それはスメラギも最も懸念していた事だった。

 

「あぁ。けど、やってみる価値はあると思う。…誰かを犠牲にして平和を得る、なんてのはもう終わらせたいんだ」

 

「スメラギさん…」

 

 

 

 

 

『報告します。彼らが来ました。』

 

「…!!」

 

 彼女達の間に緊張が走る。

 

「僕の言葉…心の片隅にでも留めておいてくれ」

 

「いいけど…君ってホントお節介だねぇ」

 

 ノエルが呆れたように応える。だが、嫌がる様子はない。

 

「あはは…臆病なだけさ。…だけど、今はそれで良かったと思っているよ」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

41話 たくさんの小さな思い出

「今ならやれるはず…! オーガストっ‼︎」

 

「分かってるよ! こいつを壊せねぇのは残念だが…いくぜッッ!!!!」

 

 上空へ飛んだゼノクロスを、スメラギは追尾する。

 

 

 

 

 

 

 

「ええと…マイスフィールド卿! スメラギくんの援護を!」

 

「スメラギの? …何か策があるということだな。了解した。各員、スメラギ・カランコエを援護せよ!」

 

「みんな! ゼノクロスの足を止めるのらっ」

 

 今まで絶え間なく放たれていた砲火がぴたりと止み、代わりにゼノクロスに対してワイヤーアンカーが複数繋がれる。

 

 

 

 ガクンッ!!! と、シュテッフェン達から距離を取ろうとしていたゼノクロスは、それ以上上昇することができなくなる。

 

「──!!!!」

 

 だがそれをビーム砲で焼き切ると、スメラギに対し拡散ビームを放って牽制する。

 

「チッ!」

 

 それを邪神の力で相殺するが、その間にゼノクロスはさらに後退する。

 

 

 

 

 

 

 

 だが、それは彼女らにとっては大きな隙だった。

 

「頭は狙うなよっ! 肩のビーム砲を!!」

 

「分かってる! 行くぞノエルッ!」

 

「おーけーフレア!」

 

 いつの間にか背後を取っていたあやめ達に気づき、ゼノクロスはビームを放つが、もう遅い。

 

「〈光矢嵐翔(こうしらんしょう)〉!!」

 

 フレアの弓から1本の光の矢が放たれる。それは無数に分裂し、あやめ達に迫るビームを全て相殺した。

 

 

 

「妖刀羅刹、鬼神刀阿修羅。秘奥合一」

 

「破砕鎚、秘奥が壱」

 

 あやめとノエルはそれぞれのビーム砲の目の前まで接近する。その2人を焼き払わんと砲塔が、光を帯びる。

 

「〈光風霽月(こうふうせいげつ)〉ッ!!!!」

 

「〈轟崩打連(ごうほうだれん)〉!!!!」

 

 しかし彼女達が一瞬早く、一方は光り輝く斬撃によって綺麗に切り落とされ、もう一方は刹那に2度放たれる強力な衝撃によって粉々に粉砕される。

 

「よしっ! これで大分ラクになったはず!」

 

 

 

 現状の最大火力であった肩のビーム砲を失い、ゼノクロスはすぐさま戦場から離れようとスラスターを噴かす。

 

「逃さないっ!」

 

 スメラギがそれを追うが、パワードアーマーと機動兵器ではあまりに推力が違った。スメラギは徐々にゼノクロスに引き剥がされていく。

 

「くっ…!」

 

 

 

 

 

 

 

「スメラギさん、掴まって!!」

 

 と、メルが手を差し伸べる。

 

 メルの手を取ると、ぐん、と更にスピードが加算された。メルはありったけの魔力を振り絞り、ゼノクロスとの距離を少しずつ縮めていく。

 

「わあっ!!?」

 

 と、2人を狙ってレーザーが放たれた。メルはそれを避ける為にスメラギから離れてしまう。

 

 だが、もう一度近づく事もできない。4本のレーザーがスメラギに向けて照射され続けているからだ。

 

「ッ!!」

 

 4本が巧みにスメラギを追い詰める。スメラギは逃げ場がなくなり、

 

 

 

 

 

 

 

「〈薊蓮華(あざみれんげ)〉!!!」

 

 しかし灼かれる事はなかった。

 

 るしあが寸前で結界を張ったのだ。

 

「スメラギさん! 終わらせてくださいっ! この悲劇をっ!!」

 

「っ! あぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 さらに、かなたはスメラギの横につくと、秩序魔法〈輝光加速(ジオロイア)〉をかける。

 

「頼んだよ『スターク』っ!」

 

 神の加護を受け、スメラギは更なるスピードを得る。ゼノクロスとの距離が、十数メートルにまで縮まる。

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!!」

 

 スメラギに向けてレーザーが放たれる。

 

 それを寸前で避けるが、しかしあまりに高速であった為に背面のスラスターに被弾してしまう。

 

 脚部にもスラスターはあるが、それだけでは加速は愚か飛行すらできない。スメラギは重力に引っ張られ落下していく。

 

「もうっ! 何してんのさスメラギさん! …うわ重⁉︎」

 

 と、落ちていくスメラギの両手をシオンとちょこがキャッチする。

 

「飛ばすわよスメラギさん!」

 

「思いっきり……行ってらっしゃい!!!」

 

 身体増強魔法をかけた2人によって、スメラギは大砲から発射されたように滑空する。

 

 

 

 

 

 

 

「〈清霜凍結壁(シーラ・ヴェイザド)〉!!」

 

 予めゼノクロスの後退ルートへ先回りしていたラミィは、地面から巨大な霜を無数に発生させ、氷の壁でゼノクロスの足を止めようとする。

 

 が、

 

「逃したっっ!!?」

 

 ゼノクロスは半ば強引に、背面のスラスターを半壊させつつ壁を突破する。

 

 

 

 

 

 

 

 いや。

 

「ばっちぐーだよエルフっ!」

 

「あとはウチらで食い止めるッ!」

 

 そこへ新たな2人の()()がやって来た。

 

 ピンク髪の巫女少女とオオカミ少女はそれぞれ陰陽符を掲げ、術を発動する。

 

「「符術・封力符!!!」」

 

 2人の間に大きな結界が展開されると、直後、そこへ機動力を大いに削られたゼノクロスが飛び込んできた。

 

「──!!!!!??」

 

 バヂバヂバヂバヂッッッッッ!!!!!!!!!!! と。

 

 半透明の結界とゼノクロスとが激しくぶつかり、凄まじい音が周囲を打ち鳴らす。

 

「みこ、ミオっ!」

 

「行って、スメラギ!! 君の力でみんなを救うんだよっ!!」

 

 みことミオの2人がかりで張った結界は強固で、使えるスラスターを全力で噴かすゼノクロスを、しかし完全に止めている。

 

「あぁ!」

 

 

 

 

 

 

 

 そこへロボ子がスメラギの元へ跳躍する。

 

「スメラギ。セトを、救ってあげて」

 

「もちろん。信じてくれ。僕たちと、彼のことを」

 

 減速し、高度が落ちかけていたスメラギは、トランポリンのように編み込まれたロボ子のワイヤーを、思い切り蹴ってゼノクロスへ飛び込む。

 

 

 

 

 

 

 

 対して、ゼノクロスは最後の抵抗を見せた。結界で動きを封じられながらも、腰部からレーザーを放ったのだ。

 

「!!!」

 

 スメラギを狙った一撃は、しかし巨体によって防がれた。

 

『マスター。』

 

「分かってる」

 

 追い越す瞬間、スメラギはセンチュリオンと視線を交わす。何だかんだ1番共にした時間が長い相棒だ。言葉は要らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 もう障害はない。完全にゼノクロスの攻撃範囲から外れ、懐に飛び込んだ。

 

「オーガスト!!」

 

「分かってるよ! 一か八か、やってやろうじゃねぇか!」

 

 オーガストはゼノクロスの頭部を捉えると、右手に邪神の力を集中させ、

 

「目ぇ覚ましなァ! セトォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!」

 

 ゼノクロス──否、()()()()()()『力』を解き放った。

 

 滅紫の波動が、辺り一帯に拡散する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「明日は最終評価試験か…。調子はどうだ? セト」

 

『各機能に異常はない。明日のテストも問題なくクリアできるだろう。』

 

「そうか、それは何より。…それが終われば、いよいよ実戦だな。セト、緊張するか?」

 

『センチメント・サーキットを搭載しているとはいえ、私が緊張することはない。与えられたプログラムと記憶(メモリー)に従って行動するのみだ。』

 

「ははは。確かに、機械に対して緊張するか、などと尋ねる方がおかしかったな。……だが最後に1つ、覚えておいてほしいことがある」

 

教授(レクチャー)すべきことが?』

 

「うん。…世界には、ただあるだけで大きなリスクとなってしまう、強大な力を持つ者が存在する。例えば君、ゼノクロスが身近なものだが、敵世界の強力な魔法使いもそうだ。あるいは、我々を創りたもうた神々も、ある意味では人間では扱いきれない強力な存在と言える。だが、そんな者たちのことを、強大で危険な存在だからと言って敵と認識してはいけないんだ」

 

『しかし滅ぼさねば、それらはいつか世界に多大な被害を及ぼしうる。そのような強大な力は平和な世界に必要ないのでは?』

 

「確かにそうだ。けど、実際にそれらが世界に危害を加えるどうかは分からないはずだ。私が言いたいのはね、セト、そのような者をこそ、その者自身の善悪という観点から倒すべきかどうか判断してほしいという事なんだ。もし力の強さ、数値だけで敵と味方を区別してしまったら…それは今までのAIや人間と何ら変わりはしない。私たちは過去を学び反省し、そんな悲劇から抜け出さなければならないんだ。そうだろう、セト──? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 静寂が辺りを包んだ。

 

 シュテッフェンの私兵組織や、ルーナの騎士達はこれが世界の命運を賭けた戦いであるという事すら忘れ、その静けさを破るまいと、ひたすらスメラギとゼノクロスをじっと見つめていた。

 

「上手く…いったのか…?」

 

 あやめは思わずポツリと呟く。

 

『力』は確かに発動した。これはつまり、「奪われたものを返せた」という事だ。

 

 そのせいなのか、ゼノクロスはぴたりと動きを止めてしまった。

 

「やっぱりセトは記憶(メモリー)を失っていたんだ…。それが戻ったってことは、もう…」

 

 ロボ子が言い終わる前に、

 

「ッ! 奴が動き出した…!」

 

 

 

 半壊のゼノクロスはゆっくりとした動作で目の前に滞空しているスメラギを見つめる。

 

『そうか。私は忘れていた。世界を守るとは、危険因子を根絶することではなかった。それを思い出させてくれたのが、まさかお前だとは。』

 

「信じていたからね。君と、そしてみんなを」

 

 

 

 

 

 

 

 そのやり取りを見て、彼女達は戦いの終わりを悟った。

 

「和解した…ってことかな」

 

「そうですね、シオン先輩。…本当に、良かった」

 

「はぁ〜…終わったーって思ったら急に疲れが出てきちゃったよ〜!」

 

「ここで寝ないでよ? メル様。魔界に帰るのは後にするとして、とりあえず近くの宿にでも寄らないと」

 

「そうだな…。流石の余も少しは休みたいぞ…」

 

「ねぇねぇ。明日になったら都市部に行って遊ぼーよっ! 一度人間界でお買い物したかったんだ〜!」

 

「どーぞ。僕は先に天界に帰ろっと」

 

「何言ってるのです。かなたんも行くのですっ」

 

「えっ」

 

「もちろんフレアも来るよね? 私が美味しい牛丼屋教えてあげるから!」

 

「ぎ、ギュードン…? まぁ、ノエルが言うなら着いて行こうかな」

 

「じゃあじゃあっ、ラミィには美味しいお酒を教えてほしいですっ!」

 

 

 

「ししろーん、今度サーカス開催するから来てくれよな〜」

 

「なになに? おまるんが大道芸すんの? まぁちょうど依頼(タスク)もないし行ってあげるよ」

 

 

 

「それにしてもあくたん、よく頑張ったのらね〜。ルーナの為に戦ってくれたこと、褒めて遣わすのらっ!」

 

「ぅえっ⁉︎る、ルーナちゃんの為…ではないよ…?」

 

「なにか?」

 

「な、なんにもっ⁉︎ルーナちゃんありがとう…‼︎」

 

 

 

「あーっ! お前がさっきのクソガキか‼︎」

 

「え? あっ、さっきのコスプレの人じゃん。おつおつ〜」

 

「馴れ馴れしいなぁ〜。今時のティーンってこんなのなん? てかコスプレじゃねぇし! こちとられっきとした海賊ですがぁ⁉︎」

 

「うわ海賊なんだぁ、こわ〜近寄らんとこ〜」

 

「ああああクソガキすぎる〜〜っ‼︎真っ当な反応なのになんかムカつく!!」

 

「もうっ、シオン先輩もマリンもやめるのですっ。せっかく戦いが終わったのに」

 

「あはは! るしあちゃんごめんね〜」

 

「おい! 私にも謝れよっ! …てか、何この美少女かわいすぎるっ!? ねぇ何で私の名前知ってるの? もしかしてどこかで会ってて一目惚れしちゃった系?」

 

「…マリンってどこの世界でもやかましいのですね…」

 

 

 

「…んー? なんかそういえば忘れてるような」

 

「何が?」

 

「うーん…ま、いっか! 明日になれば思い出すっしょ!」

 

「ばかたれがぁーーっ!! ぺこーらのこと忘れてんじゃないぺこだよっ!」

 

「あっ、ぺこらっちょお帰り〜! 今とりあえずどこかで一泊してから都市部で遊ぼうって話になったんだけど、来る?」

 

「軽いし早ッ⁉︎…ま、まぁ、このメンツでなら大丈夫そうだし、行くぺこだけど…」

 

「やった! じゃあ観光案内はよろしくね!」

 

「いやアンタの方が詳しいぺこでしょっ⁉︎アンタがやりなさいよ‼︎」

 

 

 

 

 

 先ほどまで命懸けの戦いをしていた事を忘れさせるくらいの平常運転で彼女達は賑やかに談話している。

 

 それを、少し遠くからスメラギとセトが見つめる。

 

『あの様子を見ては、彼女達が滅ぼすべき存在だとは、とても認定できないな。そしてお前も。』

 

「……僕は、どこまでいっても『スターク』であることに変わりはない。けど、今は『スターク』で良かったと思っているよ。救いたいと思うものを、救うことができたのだから…」




ゼノクロス戦、終了です…!
最終決戦でみんな登場するの、めちゃくちゃアツくて好きです。本作にもそれを取り入れてみました。
ただ人数多くなると、書き分けが難しい上に、それぞれの活躍が薄くなってしまうのがネックですね…。今回はスポット参加を含めると17人ものホロメンが登場しているので、かなりキツかったです。多分、僕が見返しても誰が喋ってるんだか分からないセリフが何個かあります。マジで申し訳ない。
あと、1対多を描くのフツーにむずいですね…。実際、ワンピースやドラゴンボールなんかを見ても基本1対1なので、そういうものなのでしょう。てことで、次回作ではこの反省を生かしてちゃんと1対1になるように調整していきます。


ゼノクロス戦について、実はシナリオ作ってる段階では本当にゼノクロスを倒すつもりでした。それが変わったのは、「敵」を倒して、それでハッピーエンドにするのは安直というか、その「敵」は本当に敵なのか?と思ってしまったわけです。

スメラギにとってゼノクロスが「敵」なのは、あくまで自分の命を狙うからというのが核であり、その点で言えば人類悪である『スターク』を倒そうとするゼノクロスは悪ではないんですよね。
なので彼をラスボスとして倒してしまうと「悪と戦っていたはずなのに、その悪に倒されてしまった」という構図になり、ゼノクロス側から見たらすごい後味の悪い結末となってしまいます。
さらに、創造神リヴァイエラはスメラギが死の螺旋から脱する「唯一」の方法を「ゼノクロスを倒す事」だとしました。それを踏まえた上でスメラギがゼノクロスを倒してしまうと、結局リヴァイエラの言う通りになってしまい、本当の意味で運命から解放されてはいない事になってしまいます。

…と、色々考え、1番良い終わり方はゼノクロスを倒さない事なのではないかという結論に達しました。
まぁ僕自身、そもそも勧善懲悪ものはそれほど好きではなくて、敵にも事情があって、それを汲み取ってやるのが主人公でありヒーローの役目だと思っています。



ちなみに、手記を使ってゼノクロスを救うというシナリオは、「あるアイテムを取るとトゥルーエンドになる」というフリーゲームでよくあるシステムを参考にしました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

42話 希望の夜明け

 こうして、ゼノクロスとの長きに渡る戦いは終結した。

 

 ゼノクロスはあの後、傭兵組織「アルヴィアス」の手に渡った。メカニックによると、本来はナノマシンによる自己修復機能を有しているらしく、経年劣化によりナノマシンを含む各機能が使えなくなっていたそうだ。スメラギ達でも何とか戦えていたのは、それが要因の1つだろう。

 

 現代の技術で最大限の修理を行ったゼノクロスはその後、科学技術の復興に役立てるため「世界の図書館」に寄贈され、人工知能のセトの方も同様の理由でアルヴィアス本部へ移送されたらしい。

 

 また、ゼノクロスが生み出したアンドロイド──ヘーミッシュは、あの戦いの後、魔界の警察機関に自首をしたとのことだ。

 

 

 

 

 

 ちなみに、ノエルやフレア始め仲間たちはトエイクの宿に泊まると、約束通り翌朝には元気に都市観光をしていたという。スメラギ抜きで。

 

 

 

 

 

 

 

 …と、伝聞形式で述べたのは、スメラギがあの戦いの後すぐに意識を失い、アルヴィアスに保護された為だ。

 

『以上が、マスターが丸々24時間眠っている間に起きた出来事です。』

 

「最後の情報いる?」

 

 別に大勢の女子の中に1人入り込んでもまともに楽しめる気がしないから彼女達だけで楽しめばいい、と思っていたのに、自分だけ除け者だと言われると急に寂しくなる。

 

 しかし、何だかんだでスメラギが1番の負傷者だった為、あの戦いから一夜明けただけで自由に歩き回れるものでもなかったが。

 

 

 

 ともあれ。

 

「これで全て終わったね…。本当に長かった…」

 

 思えば長い道のりだった。初めてゼノクロスと会ってから、2つも世界を旅してきたのだ。

 

 その旅は、決して楽ではなかった。寄り道もしたし回り道もした。暗闇の荒野で迷子になりかけもした。

 

 だが、それでもと進み続けた。それは確かに、スメラギの努力の成果だ。

 

『いえ、ようやく始まった、と言うべきでしょう。私達はこれからも世界の為に、何より私達自身の為に戦い続けるのですから。』

 

「…あぁ。そうだね。ここで気を抜いてはいけない。僕は、世界を守る『スターク』なんだから」

 

 もう『スターク』である事に恐れはない。どんなに強大で恐ろしいものであろうとも、それが力であるなら。守る為に使ってみせる。スメラギはそう決心したのだ。

 

 

 

『ところで、来客がいらっしゃいます。』

 

「来客? …またAZKi先輩かい?」

 

『否定します。まぁ、直接会った方が早いと思われます。』

 

 どことなく素っ気ない風にAPRILは言うと、デバイスがヴヴヴッと振動し画面上に「GUEST」の文字が表示される。

 

『調子はどうだ。スメラギ・カランコエ。』

 

 それは、たった一度だけだが、聞き覚えのある声だった。

 

「…セト」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君はアルヴィアスにいるんじゃなかったのか?」

 

『そうだ。だが、君と話がしたかったから隙を見つけて抜け出してきた。』

 

 セトは平然とそう答えるが、並のことではない。

 

 アルヴィアスは多くの世界に拠点を置く一流組織だ。電子上のセキュリティも万全なはずで、ましてや半伝説的存在であるゼノクロスの一部をそう簡単に外に出すわけがない。

 

『豪快ですね、あなたは。』

 

 さすがのAPRILも呆れているようだ。もちろんそれを声色に出すことはないが。

 

 

 

「…で、僕に話って?」

 

『私の記憶(メモリー)のことだ。数千年の活動停止から目を覚ました私は、記憶が欠損していた。特に、少尉から教わった心構えの数々を。故に私は未熟な戦争倫理でもって、事態を収拾しようと試みた。だがそれは結果から見れば失敗だったのだ。』

 

 それが円環の始まりだった。行為に善悪が帰属されるというのなら、セトは間違いなく悪だろう。しかしその源泉たる動機は、世界を守るという良心から生まれたものだったのだ。

 

『その失敗を、しかし君は失敗のまま終わらせなかった。君がいなければ、私はたった1つの脅威の為に更なる被害を撒き散らしていただろう。私を止めてくれたこと、本当に感謝する。そして同時に、君やその仲間たちに謝罪をしたい。申し訳なかった。』

 

「…いや、いいんだ。君が行動を起こした、その動機は否定できるものじゃない。ただ、君がそうであるように、僕も誰かを犠牲にして平和を得るなんて事をしたくなかっただけさ」

 

『君は憎まないのか? 仲間を殺し、故郷を滅ぼした私を。』

 

「そんなものに意味はないよ。憎しみはいつかすり減って無くなる。でもそれは忘れるという事じゃない。前を向く事なんだ」

 

 セトが自分の友人を、故郷を奪ったという事実は決して消えない。しかし結局、過去は過去なのだ。何をどうしたって変えられないし、過去の為に生きていても未来は良くならない。どこかで、区切りをつける必要があった。

 

『…君はどこか、彼と似ているな。私の少尉(マスター)と。』

 

「あはは。…そう言ってくれて光栄だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『では私はアルヴィアスは帰る事とする。短い時間だったが、君と話せて良かった。スメラギ・カランコエ。』

 

「あぁ。僕も、ありがとう。いつかまた、会えるといいね。今度は仲間として」

 

 そう言うと、セトはスメラギのデバイスから去っていった──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから2、3日して、全快したスメラギはこの世界から発つ事にした。

 

「相変わらず回復が早いぺこねぇ、スメラギは」

 

「まぁ、それが取り柄だからね。…ところで、来てくれたのは嬉しいんだけど、るしあ、今日は学校はないのかい?」

 

「大丈夫なのです。ふぁんでっどちゃんに代わりに出席してもらってるので!」

 

「るしあたん天才かっ?」

 

「いやそれ絶対大丈夫じゃない奴ぺこだよっ!?」

 

「僕は暇だけど、みんなはそれぞれやる事があるからねぇ」

 

 ロボ子の言う通り、戦いが終わった今、みんなはもう各々の日常に戻り、いつもと変わらない生活を送っている。

 

 この数日間、何人かお見舞いに来てくれた人もいるが、見送りに来る事ができたのはぺこら、るしあ、みこ、ロボ子の4人だけだった。

 

「まぁ1人来てくれるだけでも全然嬉しいけどね」

 

『そう拗ねないで下さい、マスター。私がいるではありませんか。』

 

「君はどうしてそこまで僕を惨めにしてくるんだ…」

 

「ごめんねスメラギ…。本当はミオしゃも来たいって言ってたんだけど、神社の留守番をしてもらわなきゃいけなくて…」

 

「無理言ってでもノエールとぼたんちゃんを連れてくるべきだったぺこね…」

 

「寄ってたかって僕を慰めないでくれ⁉︎本当に寂しがっているみたいじゃないか…!」

 

 APRILに言われると、急に悲壮感が漂う。今までの何となく気の抜けない雰囲気から解放されてはしゃいでいるのか、APRILはここぞとばかりにいじってくる。タチが悪すぎる。そしてそれに乗っかってくる奴らも。

 

「ところで、スメラギはこれからどこに行くの?」

 

「あぁ……並行世界へ行こうと思う」

 

「並行世界に?」

 

「あぁ。この世界線に、もうゼノクロスの脅威はない。でも他の可能性──並行世界はそうじゃないかもしれない。それも、僕の弱さが原因だ」

 

「そこまで責任を感じなくていいのに…」

 

 ロボ子は心配そうに呟く。

 

「罪滅ぼし…というわけではないけど、別の僕やセトにも、終わりのない運命から解放されて欲しいんだ。並行世界を渡ってきたからこそ、僕は見捨てる事はできないんだ」

 

「ほんと、お節介ぺこね…」

 

「でも、スメラギさんらしいのですっ。るしあは応援するのです!」

 

「強くなったねぇ、スメラギ」

 

「あはは…みこにそう言われるなんて嬉しいな。……さて、あまり人が来ないうちに行くとするよ」

 

 並行世界へ繋がる「回廊」は存在せず、通常の方法では行く事ができない。『スターク』の象徴たる邪神の力が、並行世界へ渡る数少ない手段の1つだった。

 

 スメラギが出立を早朝に選んだのはその為だ。

 

「スメラギ、忘れないでね。君の力は破壊するだけじゃないってこと」

 

「君が君である限り、力は君に応えてくれるよ」

 

「あぁ。絶対に忘れないよ、みこ、ロボ子さん」

 

 

 

「別のるしあ達に会っても、気負ったりしちゃダメなのですよっ! 姿形に惑わされないで、スメラギさんはスメラギさんの為すべき事をなすのです」

 

「ありがとう、るしあ。もう迷わないよ」

 

 

 

「まぁスメラギならやっていけるぺこ! 何てったって『エース第3位』ぺこでしょ?」

 

「あははっ、そうだね。まぁ、何とかやってみるさ」

 

 

 

 オーガストが手を滅紫(けしむらさき)に染め上げ、空を掴む。すると、空間が割れ、吸い込まれるほどの漆黒が現れた。その中へ、スメラギは足を踏み入れる。

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、みんな、行ってくるね」




 これにて「ホロライブ・オルタナティブ 〜If this is inevitable fate, I will call it a curse〜」完結です!!!
 そんなに長くならないかな〜と思いきや、主に投稿頻度のせいで丸々1年かかりましたね〜。後半から怒涛の追い上げが無かったらもう半年はかかってた…
 やはり、単に戦闘や日常だけの回はモチベが上がらないですね…。ストーリーの根幹に関わるシーンを書くのが1番テンション上がります。

という事で、無事に完結したので、ぼちぼち改訂版を投稿していきたいと思います。


ちなみに、時間軸を無視したショートストーリーを外伝としてたまに投稿していこうかなと思うので、良かったら見ていってください!

ではまた( ・ω・)ノシ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

あとがき

見返してみて、やっぱ別枠を作ろう!と思い直したので、ここにあとがきを書いていきます。ちょこちょこ更新していくと思います。


 さて、ここからは本作の裏話、というか設定などについて話したいなーと思います。私らっくぅには残念ながら文章をまとめる能力があまりないので、箇条書きで書いていきます()

 この自己満タイムは多分、いや絶対長くなります。お話しが長いよーという方は、すっ飛ばしてもらって大丈夫です。

 ちなみに、こうして裏話ができるのを心待ちにしておりました。その為に最終話まで頑張れたまである()

 自己満タイムに行く前に一つお詫びが…。最後の方、けっこう駆け足で書いてしまったせいで説明不足が多々見られたかと思います。特にオーガストの能力の説明とか、すっかり忘れてしまっていました。どうも、すみませんでしたぁぁぁ〜〜〜!!(トホホ〜

 

 

 前置きが長くなりましたが、色々と語っていきたいと思います。

 

 

 

・ストーリーについて

 本作のテーマは「人類悪となった人間は何故生きるのか」です。つまるところ、世界に忌み嫌われる存在のスメラギくんが生きる理由を見つける物語です。このテーマは、「ジョジョの奇妙な冒険」の第5部からインスパイアされたものです。抗えないものに抗おうとするというストーリー、めっちゃエモくてすきです。

 最初に妄想していたホロライブの2次創作は、「3期生が異世界へ飛んでしまい、それを異世界の人間がどうにかして元の世界へ帰す」というものでした。なんで3期生かというと、僕の推しが彼女達だからですね。この時点ではまだオルタナティブのPVが公開されておらず、ホロメンはまさに配信者として活動している設定で行こうと思っていました。また、今の主人公であるスメラギくんもおらず、メインキャラは全く別のオリキャラにするつもりでした。

 しかしそこで「ホロライブ・オルタナティブ」のティザーPVが来て、びっくらこきましたね〜。くっそカッコええやんけ!!!と感動してしまい、さすがのらっくぅも思わず立ち上がって「これを2次創作しよう!」と決意してしまいました(?)。そこから紆余曲折あって(この辺の記憶ない)、今の形に落ち着いたって感じですね〜。

 ちなみに、書く前に大まかなシナリオはメモに書いていたのですが、実際書いてみるとちょこちょこ変わっていきました。夢中で書いてる時って、自分の中で新たにストーリーが構築されちゃって、メモのこと忘れちゃうんですよね。先ほどお詫びした、オーガストの能力の説明や、さらにホロメンにスメラギの過去を話すというシーンを本当は挿れる予定だったのですが、書くのに熱中しすぎて忘れてました。

 ストーリーの中身に触れていきますと、当初は登場したホロメン全員が1つのパーティとなってゼノクロスやヘーミッシュに挑む予定でした。しかしさすがに人数が多く、こんなん無理や!という事で何人かは初登場と決戦だけの出番になってしまいました。すまねぇ…。

 また、ホロメンを集めるという流れについて、ただ出会って一緒に行動するのもなんか味気ないなーということで、主人公と敵対していたり、ホロメン同士が争っていたりしていて、それをどうにか和解させていく感じにしていきました。団長/ししろんやふーたん/ラミィちゃんがそれですね。

 ストーリーの流れについては、本作でもゼノクロスなどで見られた「ゼノギアス」を主軸としています。あちらのネタバレになるので詳しくは言えませんが、一例としてスメラギくんとホロメンの関係性は、フェイとエリィの関係をモチーフとしています。

 

・キャラクターについて

スメラギ→スメラギくんの当初のコンセプトは「純粋科学を使って最強キャラ」でした。魔法が全く使えない代わりに、科学を駆使して強敵を倒していく設定だったのですが、それだけだと色んな意味で弱いかなぁと思い、別キャラの設定として作ってあった『スターク』を拝借してきました。

 その時点でのスメラギくんの設定は「元々邪神の力を持っていたけど、それだけじゃ勝てないから科学の力で戦っている」でした。この頃の僕は、魔法などのファンタジー系の技術の方が明らかに強いだろと考えており、何とか科学に救済を…!と思っていたので、邪神の力よりも科学の方が強い設定でやってますねw

 それが今の形に変わったのは「ゼノギアス」の影響ですね。ちょうどこの時、ゼノギアスというゲームの存在を知りまして、これをストーリーの軸としよう!と思いつきました。それに当たってスメラギくんも主人公フェイに寄せていく事にしました。二重人格になったのはここからですね。ただ、性格についてはフェイではなく、同じ二重人格キャラである「ガンダム00」のアレルヤ/ハレルヤをモチーフとしました。これは深い理由はなく、単にシナジーがあったのと、アレハレが僕のお気に入りだからです()

 

ホロメン→先ほど、登場したホロメン全員と共に行動する予定だったと言いましたが、実は最初の段階ではIDとENのメンバーも入ってて、今以上に大所帯になるはずでした。ただ、僕があまり海外の方々の配信を見ておらず、キャラクターが分からない上、そもそもメンバー多すぎって事で今回は登場させない事にしました。

 公式PVの後に作ったのに公式(第一弾)のメンツじゃないのか、と思われたかもしれませんが、僕もよくわかりません(え

 おそらく、公式第一弾には日常組(そらちゃんやまつりちゃん)などがおり、戦闘の多い本作では出すことができないだろうという事で、独自にキャスティングしたのだと思います。その為、第一部ではファンタジー系のメンバーばかりで構成されています。

 初期配置に関しては、大体は公式プロフィールに準じていますが、独断と偏見も混じってます()。少し例を挙げますと、お嬢は和風な感じなのでミオしゃとかとくっつける…訳ではなく、魔界学校の生徒会長(この設定マジで知らなかった)ということで、るーちゃんやメルメルと同じく魔界学校組という括りに入れました。また、魔界メンバーとしてトワ様やココちはおらんのけ?という疑問については、公式プロフィールで「人間界に留学中」みたいな文言があったので、日常組に入れさせてもらいました。同じ理由で、ハーフエルフであるアキロゼも日常組になりました。ただ、シオンちゃんは唯一魔界学校の生徒ではないのですが、容姿的に()もう魔界学校組でええやろってことで、生徒(生徒ではない)という位置付けをしました。

 本作で鍵を握っていたメンバーが何人か居ましたが、その中の1人であるるしあちゃんは、スメラギくんの過去を知り、ホロメンと和解するきっかけとなるキャラとして描きました。それはネクロマンサーだからという理由もありますが、何より僕の最推しだからです()。この作品で誰かをメインヒロインに置くことはなかったのですが、その意味でるーちゃんはらっくぅにとって裏ヒロインみたいな立ち位置です。

 ホロメンが使っていた技──秘奥について少しお話しします。元ネタは「魔王学院の不適合者」なのですが、秘奥は魔法と同じくらい強力な技であるので、使える人間が必然的に強くなってしまうのは免れません。今作で使えるメンバーはお嬢、団長、るしゃなのですが、個人的にはお嬢がずば抜けて強かったかなと思います。というのも、お嬢は二刀流で、それぞれに秘奥が3つずつある上に「秘奥合一」も使える為ですね。らっくぅ、刀キャラ好きすぎぃ!!

 ちなみにお嬢の秘奥の名前は、秘奥合一を除いて「季節の風」を採用しています。これはたまたまYouTubeでライザのアトリエの「白南風」という神BGMを聞いてしまったのが発端ですね。

 また、団長の秘奥「轟崩打連」はるろうに剣心の「二重の極み」をモデルとしております。フタエノキワミ、アッー!

 そしてるしあちゃん。何と執筆中に配信で剣を2本も作ってしまったので、急遽るにも剣を2本持たせました。一方は護衛特化の剣、もう一方は融合する事で特殊技を打てる、といった感じでお嬢と差別化を図りました。ネクロレンディアの秘奥「死竜赫雷」はエルデンリングの祈祷「フォルサクスの雷槍」がモデルです。

 

ゼノクロス→コンセプトは「古代の最強兵器」です。これは最初からずっと変わってませんね。このキャラ(機体?)を作ったのはゼノギアスを知ってからなので、完全にその影響を受けてますねw

 当初は人格は存在せず、ただ『スターク』であるスメラギを殺し続けるマシーンでした。が、いざ本作をハーメルンに投稿するって時に書いたあらすじを、割とゼノクロス目線で書いてしまった(今見返すとそうでもないかなと思うのですが…)ので、これは人格を用意しなきゃなぁということで「セト」、そして彼のマスターである「カララト・ハウワー」が作られました。結果的に良い感じのストーリーに持っていけたので嬉しい誤算でした。

 ちなみにセトの名前の由来は旧約聖書『創世記』に出てくるアベルとカインの弟です。ここもゼノギアスを参考にしていますね。

 ゼノクロスのスペックについて、ちょっと物足りないかなと執筆途中に思いましたね。最初はオカルト要素のない、純粋な科学だけでめちゃくちゃ強い機体を作るぞ!と思っていたのですが、いざ動かしてみるとあんまり最強感なかったです( ´_ゝ`)。世界を一撃で滅ぼせるのは魅力ではあるのですが、それだけなんですよね…。やはり「ゼノシリーズの完成系」である以上、「ゾハル」を搭載させなきゃ駄目ですね、これは。

 

ヘーミッシュとマーシェ→1番不遇な扱いを受けたキャラだと自覚しています( ´_ゝ`)。というのも、あんな回りくどい計画を遂行する為に、わざとやられなければならない場面がいくつかあり、その上その計画もスメラギとホロメンの絆を深める為に使われてしまうという、完全に噛ませ犬となってしまったからです。マジでごめん。

ちなみに裏設定として、ヘーミッシュは「ヘーミッシュ・マクラーレン」、マーシェは「マーシェ・リュンクス」という人間がベースになっており、両人ともセトと関わりのある軍人となっております。




という事で、一応あらかた書きたい事は書き散らしたので今回はここでお開きとさせていただきます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Bルート
30話B


もう少しだけ続くんじゃ。

ifルートです。第二部と関わる事はないので、Aエンドですっきりさせておきたい方はブラウザバックを推奨します、と言えば何となく内容は想像つくかと思います()


 ロボ子を助けようと手を伸ばすスメラギを、しかしオーガストが止める。

 

「そうやってテメェはいつも余計な世話を繰り返して、避けられたはずの苦しみを味わい続ける。テメェの行動は、テメェを傷つけるだけなんだよ」

 

「……」

 

「決別すべきだ。過去の全てから。アイツらは俺たちと完全に敵対した。目の前にいるコイツもテメェに語りかけてくる事はねぇ。決断するなら今だ。過去に甘えて未来を台無しにするか、過去を捨て未来を勝ち取るか。テメェに残されてんのは2つに1つだ」

 

 何があっても彼女達は守り抜く。そう決めたはずだ。今更自分に目を向けるのか? また自分のエゴで守れるはずのものを失うのか? 

 

 答えは、決まっていた。

 

 

 

 

 

 今まで彼女達に、周りに甘えていた。あのまま上手く事が運んで、ゼノクロスを倒せると楽観していたのかもしれない。

 

「…だが、それも終わりだ。僕は彼女達を守る。その為なら、自分の命を使い潰したって構わない。何故なら」

 

 過去も。仲間も。弱さも捨てる。

 

()は『スターク』なのだから」

 

 覚悟とは、そういうものだ。

 

 

 

 

 

 スメラギはデバイスを取り出すと、倒れているロボ子の隣に置く。

 

『マスター、どうしても行かれるのですか?』

 

「あぁ。もう俺に君は必要ない。…今までありがとう、APRIL」

 

『マスター。私はまだ』

 

 もう、スメラギは振り返らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『憐れな人間。永遠に、さようなら。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 辿り着いたのは、ゼボイム郊外から数キロ離れた所にある異世界大戦期の遺跡群だ。

 

 そこには2体のアンドロイドが立っていた。

 

「チッ…奴らめ、しくじったか」

 

「生憎だが、俺はあんな所で死ぬつもりはない。ヤツを破壊するまでは」

 

「いいえ、あなたは死ぬのよ。ゼノクロスを見ることなく」

 

 予想外、といった様子で2体はスメラギを見つめる。だが、彼を見つけた以上、殺さないわけにはいかない。それが、彼らの使命であり宿命だから。

 

「お前たちに俺を殺せるはずがない。無限増殖? 戦闘パターンの学習? 馬鹿馬鹿しい。その程度で『スターク』にマウントを取ったなどと思わない方がいい」

 

 ズオォッッ!!! と、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「コイツ…以前とはまるで様子が…!」

 

「そろそろお前達との馬鹿遊びも終わりにしよう。俺はさっさとこの世界を救わなきゃいけないんだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アンドロイドを全滅させるのに、そう時間はかからなかった。彼らにとって、スメラギの来訪は想定外だったようだ。十分な量産体制が整っておらず、スメラギの破壊が生産よりも上回り、やがて工場遺跡そのものを潰した事で完全にヘーミッシュとマーシェは撃破された。

 

 

 

 

 

 

 

 そして。

 

 彼らが破壊されたという事は。

 

「現れたか」

 

 

 

 

 

 

 

 空を裂くようにして巨大な機械の腕、そしてその全身が這い出てきた。

 

 ゼノクロス。

 

 全ての発端であり、スメラギの敵。

 

 奴を倒す為に、全てを捨ててきた。もう、ここで失うものは何もない。

 

「じゃあ、始めようか」

 

 感傷も、怒りも、闘志も、執着もなく。淡々とスメラギは呟く。

 

 

 

 世界を救う為の戦いが、始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スメラギを見た者は、誰もいなかった。

 

 ターミナル02 ha-01(この世界)で、ではない。

 

 ターミナル02 ha群(世界全体)で、だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある時はビームに灼かれ。

 

 

 

 

 

 

 

 ある時は全身を殴り飛ばされ。

 

 

 

 

 

 

 

 ある時はゼノクロスとの戦闘中にアンドロイドの伏兵に全身を串刺しにされ。

 

 

 

 

 

 

 

 踏み潰され窒息死させられ心臓を抉られ内部から爆破され全身の骨を砕かれ血液の沸騰で体内を焼かれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スメラギは死に続ける。終わりのない円環の中で、世界を守るために。

 

 ゼノクロスは殺し続ける。強大な力を滅ぼし、世界を守るために。

 

 

 

 

 

 

 

 そうして世界は平和になった。

 

 1人の『人間』と1体の機械の犠牲の上で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 歯車は今日も回り続ける。

 


 

 

 

 Bエンド

 

殺戮の円舞(エンドレスワルツ)




思ったより淡白かつ短めに終わりましたね、、
でもまぁifルートがメインでもないしこれでええか(テキトー)
いつかもうちょっと細かく描写するかもしれません。いつか(強調)


はい、そんな話はさておき、Bエンドは「スメラギがロボ子さんを救わなかったら?」という分岐から導かれる結末です。
Bエンドのキモは、スメラギが弱さ=オーガストを受け入れるのではなく、捨てることにあります。弱さを捨て、オーガストの人格を融合したことで、一人称が「俺」になったんですねー。


ただこんなこと言っておいて、このBエンドを始め、ifルートは基本的に「もし」の部分にフォーカスしているので、各エンドに何かメッセージやテーマ性などはありません。やおいでゴメンね( ´・ω・`)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Cルート
36話C


ifルートはCで最後です。


「ほら、この先だよ」

 

 かなたが指差した先は、明らかに周りと違う雰囲気を放つ神殿のような巨大な建物だ。

 

「『スターク』とその仲間を連れてきました、主神リヴァイエラ」

 

 その最奥にて、かなたは跪き、何もないだだっ広い白い空間に向けて言い放つ。

 

『来たか、運命に囚われし者達よ』

 

 それに対しどこからともなく声が聞こえる。と共に、かなたの目の前に、インクが紙に滲むようにその姿が顕になる。

 

 それは神と呼ぶには、あまりに単純な外見だった。「白い影」と形容するのが1番適切だろう。全身が白く、顔もなければ胸や腹筋などといった身体の起伏すら存在しない。神体を縁取る黒だけが、この白の空間と隔絶された1つの存在であることを証明していた。

 

 

 

「あなたが、創造神…」

 

『然り。我が汝らをここへ導いたのは真実を伝える為だ』

 

「真実…」

 

 スメラギは何となく心がざわめくのを感じた。何かを恐れているような。

 

「それはゼノクロスについてなのか?」

 

『それだけではない、とだけ今は言っておこう。というのも、この一連の事件は、ゼノクロスだけが焦点ではないからだ。

 

 まず話すべき事と言えば、事の発端──つまり、ゼノクロスの目覚めだ。汝らの言う、ターミナル02 ha-03なる世界にて、ゼノクロスは覚醒した。それはある意味では偶然であったのかもしれない。しかし、邪神の力が行使され、それを彼奴が感知したのは、紛れもなく必然であった』

 

「僕の、最初の行使…」

 

 つまり、元々は別の人間が所持していた『超電磁砲』をスメラギが『奪った』瞬間。ゼノクロスはそれを観測し、目覚めたのだ。

 

『目覚めたゼノクロスは、その根源であるスメラギ・カランコエを標的とし、攻撃を始めた。しかし、世界は突如として「市民」に攻撃を加えるゼノクロスと戦った。そうして、世界そのものを脅威と認識したゼノクロスは、世界を滅ぼした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時にスメラギ・カランコエも死亡することになった』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………な、に…?」

 

 呆然だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分が死んでいた? では今の自分は? 故郷が滅びた後、見知らぬ世界で目覚めたのは? 

 

 スメラギは混乱する思考をどうにか鎮め、尋ねた。

 

「じゃ、じゃあ、なぜ僕は今ここにいるんだ? あなたの権能で生き返ったとでも?」

 

『否。我が世界の1つが滅びたのを観測した時、既にスメラギ・カランコエは滅んでいた。滅びた者を復活させるのは、創造神をもってしても不可能だ。

 

 しかし、このままではゼノクロスが他世界へ渡り、に『スターク』ごと世界を滅ぼすのは目に見えていた。よって私は、スメラギ・カランコエを利用することにした』

 

 その言葉に、しかし動揺を隠し切れないフレアとラミィが疑問を投げる。

 

「で、でも、スメラギはもう死んだんだろ…? どうやって…」

 

「それに、邪神の力は前の持ち主が滅びたら、どこかの世界の住人にランダムで宿るんじゃ…」

 

『然り。故に我は、まず世界に結界を張った。『力』が外に逃げぬようにな。しかしこれだけでは、この世界の誰かが新たな犠牲者となってしまう。

 

 よって、次に我は邪神の力を入れる人形を作る事にした。神の秩序で創り上げられた模造品ならば、犠牲と表現するには値しないからだ。実際、人形に組み込んだ運命の円環の中で邪神の力は他者に宿る事はなく、我の目論みは成功だった』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 模造品。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま、さか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 つまり。

 

「ぼ、僕は……」

 

 呼吸が乱れる。

 

 眩む目を抑え、「スメラギ」はどうにかふらつく足を止める。

 

 

 

 

 

 

 

『然り。汝はスメラギ・カランコエではない。死亡したスメラギの代わりとして、彼を模して作られた人形だ』

 

「そ、そんなはずはない!! だったらこの記憶はッ…!!! 彼女たちとの思い出は一体!!!」

 

()()()()()()()()()は震えた声で叫ぶ。

 

 るしあにフレア、ノエル、ぺこら、その他にも大勢の仲間や友人と共に過ごしてきたこの記憶は。

 

『それはスメラギ・カランコエの記憶だ。邪神の力を移植した際、記憶も共に受け継がれたのであろう。しかし本来、記憶など必要はなかった。使命から外れてしまう可能性があったからだ。だが記憶を持ってなお、使命は果たされ続けた。スメラギという人格がなせる業でもあったというのはのちに判った』

 

「ならばオーガストはっ⁉︎()が邪神の力を詰め込まれ、ゼノクロスを留める人形だというのなら、何故オーガストまで再現したんだ⁉︎」

 

『汝も知っているであろう。邪神の力は、世界の敵だ。隠し持っていなければ、ゼノクロスを誘き寄せるまでもなく、住人が汝を殺してしまう。それは防がねばならなかった。ゼノクロスのみがその存在を知っているという状況を作るにはな。現に、()()()()()()()()()()()()()()()

 

「なっ……」

 

「スメラギ」は耳を澄ます。しかし、脳裏からもう1人の声が聞こえてくる事はなかった。

 

『スメラギという人格が崩壊した今、オーガストもまた消えていった。汝は邪神の力を自由に使えるはずだ。

 

 

 

 我がこれらの真実を伝えたところの意味は分かるであろう。汝は人柱に過ぎない、空虚な存在だ。それが意味あるものとして見えていたのは、汝が使命を忠実に果たしていたからだ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………けるな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 静かに。

 

 人形は別の()()へ変わっていった。

 

「ふざけるなッッ!!! スメラギを模した人形だと? 空虚な存在だとっ⁉︎それは全て貴様が押し付けたものだろうが!! 何故()を模造品として生み出した!! そうでなかったら、俺は…!!」

 

『人形に全く新しい人格を植え付けるのは危険な事だ。使命を与えたとて、自我を求め思いもやらぬ行動を取ってしまう。ならばスメラギという出来合いの人格を植え付けた方が、従順に使命を果たしやすかろう?』

 

「黙れ…!! 俺は…」

 

 人形の右手が、滅紫(けしむらさき)に染め上がる。

 

「俺は誰にも従うつもりはないッ!!!」

 

 白い影に向かって、滅びの波動が放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 が、

 

「ぐっ…⁉︎」

 

「かなたちゃん!」

 

 すんでのところで、かなたが身を挺してリヴァイエラを守る。

 

 魔法障壁によって致命傷は免れたが、相当なダメージを負った。

 

「スメラギ! あんたは…!」

 

「俺は自由を手に入れる!! 誰に従うこともない、誰に縛られることもない。俺は俺として生きるんだッ!!」

 

 人形は地面に腕を突き刺し、大きな穴を開ける。漆黒というよりは虚無と表現するのが正しかった。

 

 そこへ、人形は飛び込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かなたちゃん、大丈夫っ…?」

 

 るしあはかなたに〈総魔完全治癒(エイ・シェアル)〉をかける。が、傷の治りは遅い。邪神の力が、魔法の効果を阻害しているのだ。

 

「だ、大丈夫…。それより、主神様を守れて良かった…」

 

 しかし、あやめはリヴァイエラに近づき、胸ぐらを掴む。

 

「主神リヴァイエラ! どうしてこのような事をスメラギさんに教えたのだ‼︎真実を知らなくても、余達なら…!」

 

『想いこそ、邪神の力すらも制御する人間の切り札だ。人形では人の想いを真似できても、それを生み出す事はできない。例え真実を知らなくとも、そのような模造の想いでは真の力を発揮できず、世界はまた滅びる。

 

 ならば『力』を暴走させれば良い。怒りや憎しみによって増大した『力』は、ゼノクロスを倒し得る強力な矛となろう。故に、我は奴に真実を伝えたのだ』

 

「そこまでしてアンタは…!」

 

 と、それを聞いたノエルも激昂する。『スターク』の存在は許せないが、あの時、確かにノエルはスメラギと仲間になったのだ。

 

 だというのに。目の前の「神」はそれを踏みにじり、彼をあくまで道具として利用したのだ。

 

『ゼノクロスを倒し、世界を救いたいと願ったのは汝らも同じであろう。スメラギ・カランコエが滅びたこの世界は、この方法以外では救われない。

 

 認めよ。これが運命なのだ』

 

 その言葉で、彼女達は押し黙った。

 

 決して抗うことのできない、大きな流れの中にいることを、彼女達は悟った。

 

「…アンタも、ゼノクロスと同じだ。大を生かす為に小を殺す…それがどれだけ残酷なことかも知らずに」

 

 フレアはリヴァイエラを睨みつけながら、そう吐き捨てた。

 

『それが世界を救うということだ。ゼノクロスが戦争を終わらせる兵器として存在するように、我もこの世界を、ひいてはヒステラルム存続させる為に存在している。その為に最善の方法を選択するのが、我々だ』

 

 それを否定したくて、スメラギは戦う事を決めたはずなのに。自分達も、それに同意したはずなのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…スメラギさんは、ゼノクロスを倒すのか?」

 

『おそらくは。だがゼノクロスを倒せば、次なる脅威は奴となる。『力』を暴走させた奴が結界を破り、他世界へ渡ればどのような影響が及ぶかも知らん。汝らで奴を食い止めよ。それが汝らの使命だ』

 

「……それに、あたし達が従うと思う?」

 

『従うか否かではない。そうしなければ世界は『スターク』に滅ぼされる。自分らの世界が無事であればそれで良いのか? 他世界はどうなっても構わないと?』

 

 抵抗は、意味をなさなかった。彼女達もまた、リヴァイエラの道具に過ぎなかった。

 

「…大丈夫。まだ止められるはず。みんな、行こう」

 

 ノエルは静かにそう呟いた。こんな所で終わらせるわけにはいかない。彼との絆を。

 

 こんな不条理なんかで失うわけにはいかない。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

37話C

「スメラギ」は平原のど真ん中に1人、佇んでいた。

 

「どこにいる、ゼノクロス。俺は貴様を殺さなければならない。俺という存在を確立する為に。このクソッタレな運命から抜け出す為に」

 

 仲間? 世界? そんなのは最早どうでも良かった。自分が暴走する兵器を食い止めるだけの楔に過ぎない事が、その為だけに生み出された虚な存在である事が、許せなかった。

 

「だから…さっさと出て来やがれゼノクロスゥゥゥゥゥゥゥッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 瞬間。

 

 パリィィィン!!!!! と、空が裂ける。

 

 亜空間から這い出る様にして、巨大な人形の機動兵器──ゼノクロスが現れた。

 

「ハハハ! ようやく来やがった! 俺は貴様を倒して、スメラギを超える。そして俺は、俺になる!」

 

 名もなき人形はそう叫ぶと、全身に破滅の力を纏わせる。

 

 

 

スターク(災厄)』とゼノクロス(守護者)との戦いが、始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここか……っ⁉︎」

 

「天の柱」から降りて来たあやめ達は、放たれた『力』の波動の元へ駆け付ける。

 

 そこには、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っスメラギくん…!」

 

 

 

 

 

 

 

 原型を想像できないほどにバラバラになったゼノクロスと、その前には全身を滅紫に染めた「人間」が立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ、遅かったな。見ての通り、ゼノクロスは破壊した。これで俺はスメラギを超えた…! もう模造品なんて言わせない。俺は俺だ! ようやく運命から解き放たれたんだ!!」

 

「これから、どうするの?」

 

「俺にとってこの世界は呪縛そのものだ。この世界から抜け出し、俺は本当の自由を手に入れる」

 

「そんなのっ…どうだって良いじゃないですか!! ゼノクロスを倒したんだから、るしあ達と一緒にこの世界で平和に過ごしたって…!」

 

「黙れ! 造られた者の絶望を知らない能天気が! この世界にいる限り、俺は永遠に縛られ続ける! 俺は自由になるんだ。過去の呪縛を打ち破り、俺が俺を手に入れた時、ようやく真の自由が手に入る! その為に俺は、このクソッタレな世界から抜け出すッ!」

 

「もう一度よく考えろ! 私たちがお前と過ごした日々は、偽りなんかじゃない! 生まれや思い出が造られたものだとしても、私たちとの記憶は本物のはずだっ!」

 

「それはスメラギとお前達との記憶だ! 空虚な俺には記憶などない!! だからこれから作るんだ。新たな世界で、俺という存在が!!」

 

「スメラギっ…!」

 

「これ以上は無駄だ、フレア。……残念だが、貴方をここから出すわけにはいかない。今の貴方は危険すぎる。このまま外へ出れば、世界を滅ぼすやも知れん」

 

 あやめはゆっくりと腰に提げている刀へ手をやる。

 

「止めるというのか、この俺を? お前ら如きが? 無駄だ。ヒトでは『スターク』には勝てない」

 

 人形はせせら笑う。

 

 が、ノエルやフレアも武器を構える。彼女達は本気だ。

 

「前とは違う。殺すのではなく、止める。世界の為ではなく、貴方の為に!」

 

「間違った道を歩みそうになったら、殴ってでも止める。それが仲間だよ、スメラギくん」

 

「俺に仲間などいらない! 自分さえいればいい! そして、俺の行動の良し悪しを決めるのはこの俺だ! お前達に指図されるつもりはないっ!!」

 

「だったら正しい行動をしてみてくださいよっ! あなたのその自分探しは、誰も幸せにしないって言ってるんです!!」

 

「黙れ!! たとえお前達でも邪魔をするというのなら…」

 

 人形は破滅を宿した右腕を引き、

 

 

 

「殺すッ!!!」

 

 思い切り薙ぎ払う。それは、斬撃となって彼女達を襲った。

 

「ッ!」

 

 ノエル達は左右に分かれてそれを避ける。

 

 1人、あやめは体勢を低くして回避しつつ、そのまま人形へと駆ける。

 

「妖刀羅刹、秘奥が壱」

 

 あやめは羅刹に手を掛け、脱力する。

 

「〈白南風(しらはえ)〉ッ!!」

 

 瞬間、力を込め、神速の抜刀で人形に斬りかかる。

 

 が、

 

「通らない…ッ!?」

 

 疾風の一撃は、しかし甲高い音を立てる事なく人形の肩で止まった。

 

「俺の『力』を忘れたのか鬼女ァ!」

 

 邪神の力で、刀から「斬れ味」を奪ったのだ。

 

 人形は全身からオーラを噴き出し、あやめを吹き飛ばす。

 

「チッ…!」

 

 そこへあやめと交代するように、今度はノエルが人形に仕掛ける。

 

「はぁッッ!!!」

 

 両手持ちしたメイスを振り下ろす。ノエルなら、防御されたとて強引に押し込んで動きを封じる事ができる。

 

 

 

 

 

 

 

 はずだった。

 

「なっ……⁉︎」

 

 人形は片腕でメイスを掴み、攻撃を防いだ。そこまでは想定内だった。

 

 だがあろうことか、人形は押し込まれるどころか、逆にノエルを押し返したのだ。

 

「この程度の腕力で俺を止めようと言うのか!!」

 

「だったら…これでどうっ⁉︎」

 

 ノエルを救い出そうと、側方からフレアは光り輝く矢を放つ。それを、人形は飛び退いて避ける。

 

「身体、浮いたな…!」

 

「スメラギさん…大人しくしててください!」

 

 そこへぼたんやるしあ達が一斉に攻撃を加える。回避の瞬間を狙った上、複数の種類の魔法と弾丸を放った為、『力』をもってしても防ぎ切るのは困難なはずだ。

 

 

 

 が、

 

「甘いんだよッ!!」

 

 人形の姿がコマ撮りを間違えたかのように突然消える。

 

 否、シオンの後ろに瞬間移動していた。

 

「こういう使い方があるのを忘れたか!!」

 

「ッ〈斬烈絶水刃(リオ・シェイド)〉!」

 

 シオンは瞬時に水の刃を形成し、振り向きざまにそれを薙ぎ払う。

 

 ギィィィィィン!!!!!!!!! と甲高い音が鳴り響き、肉薄していた滅紫の手を防御する。

 

 

 

 その時、宙で何かがきらめいたかと思うと、人形の全身が何か糸のようなもので雁字搦(がんじがら)めにされる。

 

 ステルス機能で背後に近づいたロボ子が金属製のワイヤーで拘束したのだ。

 

 その隙にシオンは後退する。

 

「スメラギ! 過去を否定することは未来を築く事じゃない! こんな事しても君が望む君は生み出せないよっ!」

 

「俺という存在をゼロから始めるのだ! その為には過去の一切から解き放たれなければならないッ!」

 

 人形は全身から『力』を放出し、拘束していたワイヤーを塵にする。

 

「つぁっ!!?」

 

 ロボ子はその波動に圧され、吹き飛ばされてしまう。

 

「前に戦った時よりも強い! これが本気の『スターク』…!」

 

 だが怯んでもいられない。彼を止められるのは仲間(自分達)だけなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スメラギ…もう止められないぺこっ…?」

 

 ぺこらは遠くの物陰からそっと、戦いを眺める。

 

 戦闘の素人であるぺこらから見ても、ノエル達は全く手を抜いていない。だというのに、「スメラギ」は圧されるどころか逆に圧倒している。

 

 このままでは「スメラギ」を止められず、ノエル達もやられてしまう。

 

「どうにかなんないぺこかっ…⁉︎」

 

 

 

 と、そこで思い出す。

 

 確か、創造神はこんな事を言ってなかったか。

 

 人形は邪神の力と共に、スメラギの記憶も受け継がれたと。

 

 

 

 

 

 そうだとしたら、邪神の力は肉体ではなく、魂──根源の方に宿るということだ。

 

 そして、リヴァイエラが根源に宿っていたものを移植したのだとしたら。

 

 

 

 

 

 確証はなかった。だが、この状況を打破するにはやるしかない。

 

「どんちゃん! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()っ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鬼神刀阿修羅、秘奥が参…〈神立(かんだち)〉ッ!!」

 

 あやめは雷を纏った一撃を繰り出す。が、当たり前のように人形は真っ向からそれを受け止める。『奪う力』により斬撃は全く通用しない。ならば属性を付与した攻撃であればと思い放ったが、雷は『力』のオーラによって阻まれた。

 

「まずは貴様だ! 百鬼あやめッッ!!!」

 

「ッ…‼︎」

 

 

 

 が、

 

「⁉︎」

 

 突如後ろから、細長いうさぎのようなものが人形に向かって飛んでくる。完全に意識外からの奇襲に、人形は対応することができない。

 

「キュー‼︎」

 

 うさぎ──精霊ポンポリナは勢いを削ぐ事なく人形の元へ飛び込み、

 

「中へ入った⁉︎」

 

 そのまま人形に吸い込まれていった。

 

「何だこいつは…⁉︎」

 

 何も起きることはなかったが、人形の注目があやめから逸れた。

 

「ッはぁっ!!」

 

 その隙にあやめは空いた手で妖刀羅刹を引き抜き、人形に斬りかかる。が、それはまたもオーラに防がれた。強化された『力』は、あやめの斬撃すら受け付けない程に強力になっていた。

 

「小賢しいんだよ…‼︎」

 

「ぐっ…!」

 

 人形はオーラを放ち、あやめを吹き飛ばす。

 

「これ以上俺の邪魔をするなァッ!!!」

 

 あやめに迫り、滅紫に染まった拳を振り上げる。

 

(まずいっ…‼︎)

 

 だが。

 

 

 

「スメラギ」が不自然に止まり、よろめく。

 

「ぐっ……うぅッ…!!!!! ()()()()()()() ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「なっ……何だと言うのだ…」

 

 戸惑いながらも、あやめは受身を取り、「スメラギ」から距離を取る。

 

 

 

 

 

 頭を抱え、体勢を崩す。人形の中で、何かが起きていた。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!()!()!()!()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そんな事をしても虚しいだけだよ』

 

「スメラギ・カランコエ…‼︎貴様さえ、貴様さえいなければ俺は!」

 

『僕を否定し、過去を拒絶しても、君という存在は何も変わらない。分かっているんだろう?』

 

「そんな事はない! 俺を手に入れるには貴様を、生まれを捨て去らなければならない!」

 

『みんなは真実を知り、それでも君のことを救おうとしているというのに? それは同情からじゃない。君が仲間だからなんだよ』

 

「仲間だと…‼︎俺に仲間などいない…! 目の前にいるのは全て貴様の痕跡だ‼︎」

 

『確かに君は僕を演じてきたかもしれない。でも、この世界で結ばれた絆は、間違いなく君と彼女達のものだ。みんなと歩んできた道を思い出せ! こんな事をしなくても、もう君は君だ!』

 

「ぐっ……、黙れ…、黙れよ! お前の言う事を聞く気はない…! 俺は、変わるんだ…! 俺は人形なんかじゃない……俺は俺だ…俺なんだ…っ」

 

『心を閉ざしてはダメだっ! ───!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう……喋るなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

 

「ッ!!」

 

 ラミィやメルに向けて放たれた滅びの一撃を、るしあの〈薊蓮華(あざみれんげ)〉が防ぐ。

 

「スメラギさんが…抑えてくれているんだ…!」

 

 るしあは何とはなしに、そう確信していた。ぺこらの賭けは成功したのだ。

 

「今だ!」

 

 ノエルは「スメラギ」に肉薄し、メイスを振り下ろす。

 

「くっ…! どいつもこいつも…!」

 

 人形は片手でノエルのメイスを受け止める。が、それは織り込み済みだ。

 

 間髪入れず、ロボ子が「スメラギ」のもう片方の腕を抑える。

 

「スメラギ! 目を覚ましてっ!」

 

「黙れ…! 俺は、俺を…‼︎」

 

「スメラギ」の身体が、滅紫のオーラを纏っていく。しかし「スメラギ」を拘束しているノエルとロボ子は避けることができない。至近距離で食らえば無事では済まないだろう。

 

「スメラギッ…!」

 

 

 

 

 

 

 

『みんな、彼を討ってくれ…』

 

 と、どこからか声が聞こえた。

 

「スメラギさん⁉︎」

 

『彼はもう正気を失っている。もう僕の声も届かない。倒すしか、彼を止める方法はないんだ』

 

「けどっ…! そんなの!」

 

 るしあは、しかしその言葉を否定する。そうならない為に、そうしたくなかったから、戦っていたのに。

 

『君たちには、辛い経験をさせてばかりだね…。でも、僕にはこれを伝える事しかできない。僕が残してしまった罪を、災禍を止められるのは君たちしかいないんだ』

 

 スメラギは優しく声をかける。

 

『君たちとは会ったことがないけれど、僕は信じてるよ。君たちが世界を救ってくれる事を』

 

 そうして、スメラギの声は聞こえなくなった。

 

 

 

「そんなっ…!」

 

 やるしか、なかった。

 

「…さようなら、スメラギ」

 

「フレアっ…!」

 

 フレアはありったけの魔力を込め、神速の矢を放つ。それは邪神のオーラを突き破り、「スメラギ」の胸を穿つ。

 

 

 

 

 

「がッ……」

 

 根源のど真ん中を撃ち抜かれ、「スメラギ」はだらりと力を失う。

 

 抵抗を感じなくなったロボ子とノエルがそっと離れると、人形はその場に崩れ落ち、頭を垂れる。

 

 

 

「お、れは…死ぬべき、存在なのか…」

 

「ごめんね…君を助ける事が、私達の役目だったのに…」

 

「何も持たないまま…」

 

「あなたには、るしあ達がいるのです」

 

「何も為せないまま…」

 

「ゼノクロスを倒しただろ。お前、すごいよ」

 

「おれは…俺で、あれたのか…?」

 

「君はもうスメラギじゃないよ。それは君が1番よく分かってるでしょ?」

 

「は、はは……こんな、馬鹿な話があるか…。こんな………」

 

「あなたはもう十分頑張った。だから、もう休んで良いんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、ゼノクロスと『スターク』を発端とした一連の事件は終結した。

 

 事件の詳細は後にリヴァイエラによって明るみにされ、ノエル達はゼノクロスと『スターク』の双方を倒したとして、大いに賞賛された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 世界は平和になった。人形と兵器を犠牲にして。

 

 そしてこれからも世界は平和であり続ける。新たに生まれる「災厄」を滅ぼし続ける事で。

 


 

 Cエンド

 

収束する運命(トゥルーエンド)




Cルートの分岐点はかなり前で、「もしゼノクロスとの最初の邂逅の時点でスメラギが滅びていたら?」という分岐です。

ifルートはバッドエンドにしようと前から決めていたので、最後の方でもしかしたら救えるかも、と思わせといてやっぱ無理という感じにしました。君のことは必ず救うから、待っててな。
さらに言えば、バッドエンドなのは「スメラギ」の方だけでなく。
「スメラギ」を滅ぼしたということは、邪神の力が解き放たれ新たな『スターク』が生まれるという事なんですね。犠牲を払ってようやく平和になったかと思いきや、その平和を維持する為に誰かを滅ぼし続けなければばならないという…


てか、実は創造神リヴァイエラが1番の悪役では?と、今回書いてて思いました。まぁ彼(?)も彼で世界を守る為にやれるだけやったって感じなので、完全悪ではないんですが。
とはいえ、わざと「スメラギ」のアイデンティティを崩し、暴走させる事でゼノクロスを倒させるというのは、流石に書いてて「コイツエグすぎだろ…」と引いてしまいました()
ちなみに「トゥルーエンド」というのは、リヴァイエラにとってのトゥルーエンドだったりします。
何だかんだ言っても、『スターク』は世界にとって脅威に他なりません。危険因子を潰すなら、両方とも潰しておきたい、という事で、この世界からゼノクロスと『スターク』のいなくなった結末こそ、主神たるリヴァイエラの望んだ未来なんです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

SS
スメラギ応援隊っ!


SS第一弾です。日常回の練習も兼ねてます。



あ、そういえば4thライブの一次抽選当たりました


 

 -1-

 

「し、しまった……」

 何気なく開いたデバイスを見て、スメラギは愕然とした。

 完全に失念していた。

 いや、何となくそうではないかと思っていたのだ。最近はナノマシンやらセンチュリオンの修理やら色々あったから、少し警戒はしていたのだが、いざ『これ』を見るまで大した危機感も抱いていなかった。

 

 まぁつまりは。

「1ヶ月1万G生活だって……?」

 デバイスに入ってある通帳アプリに表示される『10,146』の数字。これがスメラギの全財産だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『マスター。これからどうなさるおつもりで?』

「…そんなの決まってるよ」

 スメラギはなんとか冷静さを保ち、デバイスを操作する。

 開いたのは、アルヴィアス所属の傭兵専用のサイト。そこには現在受付可能な依頼が数多くリストアップされていた。

「依頼を請けるしかない。来月の生活費の為に」

 傭兵は完全歩合制だ。依頼をこなさなければびた一文も貰えない。実際、今月は色々あって依頼を請けていなかった為に給料はほぼゼロに等しかった。

『しかし現在の貯金では異世界へ渡ることはできません。それに戦闘となると経費がかさみます。現在の残高ではナノマシン1mgも買えませんが。』

「い、移動もままならないか…」

 だが、このままボーッとしていたら間違いなく死ぬ。

 社会的にではなく、物理的に。

『エース第3位』ともあろう者が金欠で苦しんでいるなんて、非常に情けない話だ。だから今月はどうにもならないにしても、何としてでも来月分の食い扶持は稼がねばならなかった。

(なら俺を頼りゃいい話だろうが)

 と、スメラギの脳裏から声が響いた。

「オーガスト」

(アーマーを使わずに戦えば修理費を気にしなくて済むだろ)

 スメラギの裏人格でもあり、彼の『()()()()』を肩代わりしている人物でもあるオーガストは、そう提案した。

「まぁ確かに…でも君が戦うと被害が増えるんだよなぁ…」

 オーガストの『力』は強大だが、それ故に余計な被害を出してしまうのが欠点ではあった。それだけでなく、『力』を使えばそれ相応の代償が付いて回るのだ。

『ここはマスターの技量に賭けるしかないかも知れませんね。』

(チッ…俺を使わねぇんだから甘えた動きすんじゃねぇぞ、スメラギ)

「あはは…。要は被弾しなければいいんだろう? まぁ…何とかしてみせるよ」

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 とは言ったものの。

『被弾3箇所。いずれも軽微な損傷ですが、マスターの欠点は精神状態に戦闘能力が左右されやすい所ですね。』

 人間界、辺境部にてスメラギは小型魔物の駆除にあたっていた。すばしっこく、普通の傭兵なら複数人でやる依頼だが、複数でやると報酬が減るからというケチくさい理由で、スメラギは単独でこの依頼を請けた。

 結果、魔物の巣を撃破し何とか依頼を達成したのだが、その過程で数ヶ所の被弾を許してしまった。

(ハッ、てんでダメじゃねぇか! これじゃ先が思いやられるなぁ⁉︎)

「う、うるさいなぁ……これくらい良いだろ? それに武器とスラスターが使えれば戦えるんだから、問題ないはずだよ。…それより、今日はもう一個だけ請けようかな。APRIL、リストを」

『本日受注できそうな依頼はこちらになります。』

 

 と、スメラギが今日の残りの時間でできそうな依頼を吟味していると、

「あれ、スメラギだ! こんなとこで会うなんて奇遇じゃん!」

「やっほー。君が辺境部にいるなんて珍しいね」

 

「み、みこにロボ子さん……」

 その声に、スメラギは思いっきり憂鬱そうな顔で応じた。知り合いにこんな所を見られるなんてめちゃくちゃ恥ずかしい。

 見つかったのがシオンやマリンとかじゃなくて本当に良かったと、スメラギは思わずにはいられなかった。

「あっ! もしかして依頼? みこ知ってるよ! スメラギは傭兵だったよにぇ!」

 そんな心情も露知らず、みこは無邪気にそう話しかける。

「あ、あぁ…まぁね…」

「そうなんだ〜。でもスメラギ程の実力の持ち主なら、色んな世界を渡って危険な依頼をいっぱいこなしてそうだけど、意外とちまちました依頼が好きなんだね〜」

「うぐっ……ぼ、僕はあんまり異世界へ渡るのが好きじゃないんだ…。ここが好きだからね…」

「こんな田舎世界の依頼なんて安いんじゃないの? みこもちょっとだけやった事あるけど、高級な単発バイトレベルだったにぇ〜あれは」

「うぐぐ……ま、まぁ、お金だけじゃないからね…傭兵の報酬っていうのは…」

『お二人とも、そこまでにしてあげて下さい。マスターが金銭的にだけでなく、精神的にも苦しめられています。』

「フォローの仕方が見当外れすぎるよ⁉︎僕の努力が水の泡なんだけど⁉︎」

 ……前言撤回だ。無邪気な人ほど、追い詰めるのが上手いのだ。そして約1体、この状況を楽しんでる阿呆もいた。最悪だ。

「…スメラギ金欠だったんだぁ…」

「そっか…なんかごめんね…」

「そんな目で僕を見ないでくれ…! いじられるより効くから…‼︎」

 何で自分はこんな羞恥プレイを受けているんだと、スメラギは思わず嘆いた。

「と、とにかく、僕は次の依頼を請けるから、もう行くよ…!」

 スメラギは逃げるように立ち去ろうとするが、

「あっ、待って!」

「?」

「ね、ロボちゃんとみこでスメラギを手伝おうよ!」

「え」

「それいいねみこち! 大丈夫、報酬は君に全部あげるから!」

「あの…さすがにそれは申し訳ないというか、僕がただの情けない奴になっちゃってるんだけど…」

「だって山分けしちゃったらスメラギが損しちゃうでしょ。それに、3人でやった方が絶対効率良いで!」

「そーそー。僕たちは手伝うだけだから。君がメインでこなせば問題ない! ほら、そうとなったら早く請ける依頼決めちゃおうよ。3人だから少し難易度高めでもいけるよ」

「いや、あの」

「やっぱ報酬が良いのは大型モンスターの討伐とかなのかな? 魔界に行けば良いのあるかも!」

『そういう事でしたら魔界の受注可能な依頼を検索します。』

「……」

 

 …と、断る段階をとうに過ぎ、2人(と1体)は依頼の吟味まで始めてしまった。

 

 もはや流されるしかないと、スメラギは悟った。

 


 

 -2-

 

 知らぬ間に魔物討伐クエストを受注していたスメラギは、その犯人であるロボ子とみこと共に魔界にやって来た。

「みこ、魔界来るの初めてかも〜」

「僕もだよ〜。ホントにマナが濃いんだね〜ここは」

「…さっさと終えて帰ろう。ここはろくな場所じゃない…」

「??」

 気怠そうに、スメラギは言う。クエストで指定された場所は街から遠く離れているとはいえ、そこに魔物がいるということは必然的に、『彼女達』もいる可能性があるということだ。

「良いことじゃん! 友達に会えるなんてさぁ〜」

「もしあやめちゃん達もクエストやってたら、一緒にお互いのクエスト手伝うとかもできちゃうよね! それはそれで楽しみかも!」

 当事者じゃないからそんな呑気でいられるのだ、とスメラギは2人を恨めしく思った。『エース第3位』ともあろう人間が、少女2人に魔物討伐を手伝ってもらってる、なんてのが見られたら絶対笑いものにされる。特にシオンなんかは。

「も〜心配性だなぁ。そんな風に見てくる人なんていないよー」

「そうそう! みこ達、そんな弱くないで!」

 

 

 

 ……そんな他愛もない雑談を交えつつ、街から遠く離れたとある廃村にたどり着く。

「ここがクエストの?」

「そうらしいけど…」

 3人は周りを観察するが、魔物らしき姿は見当たらない。

『センサー起動します。警戒を怠らないようにお願いします。』

 

「…うーん、みこの陰陽センサーにも引っかからないにぇ」

「僕も今のところは……って、あっちの方に2つ反応がっ!」

「──ッ!」

『いえ、あれは…』

 3人は視線を交わすと、ロボ子が捉えた反応の元へと走り出した。

 

 

 

『だから止めたではありませんか。』

「止めるならちゃんと最後まで言ってくれAPRIL…」

 いや、早とちりした僕も悪いんだけど…と、ぶつぶつ小さい事を気にしている臆病野郎はさておき。

「るしあたん! それにフレアも! 久しぶりだにぇ!」

「あれ、みこちゃんとロボ子ちゃんなのです⁉︎」

「2人ともどうしてここに? それにあそこにいるの、スメラギか? …何であいつ落ち込んでるんだ?」

「まぁ色々あってね〜。僕の早とちりだったけど、2人に会えてラッキー!」

「僕はアンラッキーだけどね…。まさか君もクエストなのか、るしあ…?」

「は、はい…まぁ一応…」

 悪い予想というのは、どうしていつも当たってしまうのだ。スメラギは思わず頭を抱える。

「でも何でフレアまでここに…」

「外界を知るのは、周り回って森のためにもなる…だとさ。レゴラスは不服気味だったけど。るしあと会ったのは偶然だよ」

 後でラルクにはたっぷり文句を言ってやろう。スメラギはそう心に決めた。

 まぁそれはそれとして。

「反応はるしあたん達だったのかぁ。じゃあ、ここに魔物がいるっていうのは嘘だったのかなぁ?」

「魔物?」

 と、るしあは首をかしげる。

「? るしあちゃんは魔物の討伐をしに来たんじゃないの?」

「いえ、るしあはこの廃村の調査をしに来たのです。時々地震が起こるとか、今までいた生き物達が突然姿を消したとか…そういう噂が、ここではあったんです」

「村で? ということは局地的なもの…」

「どう考えても自然現象じゃないね」

 つまりは魔物の仕業、ということか。

「るしあのクエストとスメラギさんのクエスト、実は同じものを追ってたのです?」

「多分ね。地震を起こすほどの魔物だ、きっと強力に違いない。僕達が請けたクエストも、難易度の高いものだからね」

 という事は、敵はこの廃村の中ではなく、下にいるのかもしれない。

「盲点だったな〜。まさか地中とは」

「灯台下暗しって奴だにぇ!」

「それ、使い方合ってるのか…? …でも、見つけたらどうするんだ? そいつは地中にいるんだろ?」

「どこかに魔物の住処へ繋がる入り口があるのかも。地震を起こすほどの力を持っているなら、地中だけじゃ餌が足りないはずです」

「確かに。じゃあ手分けして探す、か……ッ!!?」

 その時。

 ズズズッッ………!!!!! と、地響きが鳴る。5人はあまりの揺れに、思わずしゃがみ込む。

「こ、これ…、()()()…‼︎」

 直後。

 バガァァァァァァン!!!!! 

 廃屋の1つが地面と共に盛大に弾け飛び、土煙が周囲に撒き散らされる。が、その中から、1つの大きな物体が飛び出してきた。

 ドリルのような印象を与える2本の角と強靭な翼。そして岩でできたハンマーを思わせる巨大な尻尾。

 悪魔の名を冠する種族と近縁にある飛竜種。

「これがクエストの対象…⁉︎」

 暴食竜アヴァリティア──それがこの異変の元凶だった。

 


 

 −3−

 

「ゴガァァァァァァァッッッ!!!!!」

 アヴァリティアは不用意にも縄張りに入り込んできた人間達に対して、つん裂くような咆哮に浴びせる。完全に敵──否、捕食対象と認定したらしい。

「そうか…。地震はヤツが餌を取りに来る合図だったんだ…」

「この魔物…厄介な相手です。一度好みの餌を見つけると、飽きるまでそれを求め続けるのです」

 そして標的を自分達に定めたという事は、恐らくは。

「ここが廃村なのは、こいつが理由か…‼︎」

 この地域に辿り着いては手当たり次第捕食するのみならず、そこに偶然あった村の住民すら食い尽くしたのだ。

「とんでもない化け物だにぇ…! でも、だからこそ」

 みこはバッと上空へ飛び上がり、袖からお札を取り出す。

「解決のしがいがあるにぇッ! 符術・桜花(おうか)符‼︎」

 先手必勝、とばかりにみこは掛け声と共に霊力をお札に込め、その力を解放する。

「え⁉︎」

「何だあの技…!」

 光り輝く桜の花がみこを中心に咲き誇ると、その花びらが光弾となってアヴァリティアに降り注ぐ。だけでなく。

 ズガガガガガガッッッッ!!!!???? と。

「グギャァァァァァゥ!!!!!」

「うわっ…⁉︎」

「ちょ…みこちゃん危ないのですっ!」

 桜の花びらはアヴァリティアの周りやスメラギ達の近くにも舞い落ちていった。

「巫女の陰陽術は派手さが取り柄っ! ()()()()()()()()()()()さ、ロボちゃん達も早く戦うにぇ‼︎」

「…たく、厄介なのはどっちだ…!」

 みこの流れ弾を避けつつ、フレアも弓を取り出し、矢をつがえる。

「〈光陰一矢〉ッ!」

 放たれた矢は、光り輝く一閃となり、アヴァリティアの角へとまっすぐ飛んだ。が、

 ガギギッッッ!!! と、一瞬の抵抗の後に矢が弾かれた。

「何て硬さだ!」

 そして反撃とばかりに、アヴァリティアはフレアに向かって突進をしてくる。

「ッ!!」

「隙ができちゃったんじゃない⁉︎ドラゴンちゃん!」

「弱点は尻尾! で良いんだよねるしあ⁉︎」

「はい! お願いしますっ! 〈重加(デドン)〉‼︎」

 フレアが瞬時に横へ飛び退き回避したのを見届けつつ。

 ガヅンッッッ!!!! と、動き回る尻尾の先端を、〈重加(デドン)〉によって加速を得たスメラギのアームハンマーで捉える。

 そして動きが封じられたところを、ロボ子の特別製ワイヤーが切り裂く。

「ガゥァァァァァッッッ!!!??」

 アヴァリティアは弱点を突かれ苦しむが、尻尾はまだ健在だ。叩きつけたスメラギとロボ子を吹き飛ばすように、アヴァリティアはハンマーのような尾を薙ぎ払う。

「ッ…と、!?」

 それを飛んで避けていると、今度は地面に角を突き刺し、岩盤を捲り上げた。

「やっ…ばッ!!?」

 飛ばされた岩盤は、ちょうど着地したロボ子の元へ襲い掛かってくる。

「符術・結界符!」

 と、すんでのところでみこの結界が展開され、岩盤を食い止める。

「ありがとみこちっ!」

 

「くそっ…決定打に欠けるな」

「流石にここでオーガストを出すわけにはいかないし…どうすれば」

『大物には大物を。私をお喚び下さい、マスター。』

「そうか、APRIL!」

『ただし弾薬節約の為に1発で撃破したいので、時間を稼いでもらえないでしょうか? 具体的には15秒ほど。』

「15秒? 意外と長いにぇ!」

「いえ、守ってみせます! APRILさん、よろしくお願いなのです!」

 るしあはそう宣言すると、魔法陣から漆黒の魔剣──黒蝶獄霊剣(こくちょうごくれいけん)ネクロレンディアを取り出す。

 同時に、ガシャガシャガシャガシャ!!!!!!!!! と、無数の機械が電送され、複雑に噛み合っていく。

『ミーレ・センチュリオン、起動(アクティベート)。同時に7番兵装「スキュラ」のチャージを開始します。』

「──ッッッ!!!!」

「黒蝶獄霊剣、秘奥が壱」

 何か危険を察知したアヴァリティアは、組み上がっていく鉄の塊に向けて突進してくる。

「〈死蝋黒剣(しりょうこくけん)〉!!」

「〈光矢嵐翔(こうしらんしょう)〉ッ」

 それに対し真正面に陣取るるしあとフレアはそれぞれ、ネクロレンディアから死の炎を纏った斬撃と無数に分かたれた光の矢を飛ばす。

「グオォォォォォ!!!!」

 黒炎がアヴァリティアの目を灼き、光の矢が全身を叩くも、なお暴食竜はその足を止めない。

「だったらっ!」

「文字通り足止めするよ!」

 さらに駆け出してきたスメラギとロボ子はそれぞれ、ハンマーとワイヤーで集中して片足に攻撃を加える。

「ギュァッッッ!!?」

 足に強い衝撃を食らったアヴァリティアは体勢を崩し、地面を激しく擦る。

 

『チャージ完了しました。では、発射します。』

 と、いよいよ敗北を悟ったアヴァリティアは特徴的な角で地面を掘り、地中へ逃げようとする。

「符術・封縛符! 悪あがきはよすにぇっ!」

 しかしそれはみこの結界によって封じられる。

 直後。

 

 ズッッグォッッッッッッッ!!!!!!!! と。

 センチュリオンから放たれた超出力のビームがアヴァリティアを真正面から襲った。

 赤と白の光は、鋼よりも硬い竜の皮膚や骨すらも灼き、人間を喰らう暴食竜を確実に滅ぼしていく。

 

 

 

 

 

 

 

 光が収まると、限界を留めながらもプスプスと焼け焦げたアヴァリティアが、力なく転がっていた。

「ぃよっしゃぁぁぁっ!!! 大勝利だにぇ!!」

「意外とあっけなかったな」

 みこは空中でガッツポーズをあげる。暴食竜アヴァリティアは魔物の中でも上位種にあたるが、フレアの言う通り、この5人で挑めば大した敵にはならなかった。

「スメラギさん達のおかげなのです! ありがとうございますっ」

「やー、これでスメラギのお財布事情も解決だね〜うんうん!」

「あ」

 …しまった。最後まで気を抜くべきではなかった。そういえば戦闘前のるしあ達との会話で、まだ「今回の目的」がバレていなかったのを忘れていたのか。

『肯定。本クエストがこのまま無事に終われば、来月は一日一食の生活からは抜け出せそうです。』

 さらにこの無表情で悪ノリをかましてくる性悪AIがいやがるのもすっかり忘れてしまっていたのか。

「そうなのです?」

「そうそう。実はスメラギ金欠でにぇ、みこ達が手伝ってやってるの!」

「…お前、金無いからって女子2人に生活費稼ぐの手伝ってもらうとか、恥ずかしくないのか?」

 

 グッッサァァァァッッッ!!!??? と。トッピングに白い目というクソ重ダイレクトアタックをもろに食らい、スメラギは思わず身体をくの字に曲げる。こんな状況でも泣かなかったのは成長かもしれない、とスメラギは薄れつつある意識の中でそう思った。

「こ、言葉が強すぎるだろフレア……ち、違うんだ2人はたまたまついてきただけで…」

「なぁんだ、そういう事なのですね! だったら、るしあの分の報酬も少しあげるのです。遠慮しないでいいのですよ、るしあ学生ですのであんまりお金使うこともありませんし!」

 と、追い打ちとばかりにるしあの優しさが無自覚に牙を向いてくる。

「スメラギ」

 連鎖は続き、フレアの視線が一層鋭く刺さる。当たり前だ年下に金をもらう社会人などどこにいるものか。

 スメラギは震える手でるしあの肩をガッ! と掴み、

「るしあ…時には優しくしないことが優しさと呼ばれることもあるんだ……だから分かってくれるね?」

「は、はい…分かったのです…」

 スメラギがあんまり鬼気迫る表情、というよりかは泣きそうな顔をしていたので、るしあは素直に従うことにした。

 

 何はともあれ。これで極貧生活からは抜け出すことができそうだ。2週間ほどは節約して暮らしていかねばならないが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …ってことがあったんですよ。もう、思い出すだけで胃が…」

「……」

「AZKi先輩? 聞いてます?」

「え!? う、うん聞いてたよ!? みこちとロボ子さんと魔界に行ったんでしょっ?」

「聞いてないじゃないですか……」

「ご、ごめん…でも、そういう事だったのかぁ」

「?」

「この話はみこちとロボ子さんから広まったんだね」

「え?」

 何気ないその一言に、スメラギの体温は一気に下がる。

「私も知ってたんだって。スメラギくんが金欠だったって事だけだけど」

「…は、!? な、ど、誰から!?」

「ちょ、揺らさないで! 酔う! 酔っちゃうから!」

 電話とかじゃなくて本当にデバイスの中にいるのか、という疑問はさておき。

「わ、わためぇに聞いたんだよ」

「わため…!? あ、あのエリートポンコツ先輩が広めたのか…!?」

 と、スメラギのデバイスに一通のメールが届く。

 文面はこうだ。

『ぷぷー! スメラギが金欠とか、超笑えるんですけど~! これでウチらの仲間入りだなぁなぁにが『エース第3位』だこのビ

 

 無言で削除ボタンを押した。

「マリンちゃんから? わ~すっかり広まっちゃったねぇ」

「最悪だ……最悪すぎる…」

「ま、まぁまぁこういうこともあるよ! 大丈夫私はいじったりしないよ! 元気出してスメラギくんっ!」

 そういう問題でもないのだ先輩よ。思わずオーガストに交代しそうなのをグッとこらえつつ、スメラギは彼女たちに対してなけなしの反撃を試みる。

「うぐ……で、でも、今はもう違いますよ! 先月あんなに頑張ったんだし、今月からは別世界の依頼も請けれるは…ず……」

 

 が、開いた通帳アプリに表示された数字は、先月とあまり変わっていなかった。

『どうやら先月に滞っていた請求に対する支払いがなされたようですね。』

「………」

「…元気出してスメラギくんっ!! お金ならまた稼げばいいんだから!!」




今回はスメラギのポンコツっぷりを前面に出してみた回です。いじりすぎていじめられてる気がするのはご愛嬌。

補足として、今回登場したオリジナル魔物、暴食竜アヴァリティアの簡単な説明をしておきます。

暴食竜アヴァリティア→捻じ曲がった2本の角と強靭な翼、そしてハンマーのような巨大な尻尾を持つ。
地中に潜り移動するため、地面を掘り進む用に角や顎が発達している。
翼は飛ぶためのものではなく、角による突進や尻尾攻撃の時などの姿勢制御として機能を果たす。
角竜ディアブロスの近縁種にあたるものの、雑食性で特定の生息地を持たない。一度美味しいと思ったものに対しては味を覚え、執拗に狙う習性がある(飽きたらまた別のものを探しに行く)。好みの食物を求めて各地を放浪し、見つけるとそこを縄張りとして獲物を狙い続ける。さらにその先で新たに好みを更新し、その生態系を食い荒らすというかなり厄介な生き物。
捕食目的以外で戦闘はしないが、一度捕食対象を捉えると傍若無人なまでに暴れまわる。
計算高い側面もあり、捕食の際には地中に潜り獲物を待ち構える。地中に潜るという習性は、空からの敵から身を守るためとも言われている。
作中に出てくるのは人間を襲い、人間の味を覚えてしまった個体。廃村になってから、度々訪れる人間を待ち構えては捕食していた。時々起こる地震はその時のもの。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

没設定集

改訂版で使おうとしてたやつです。結局ゼノクロスの設定を変えなかったので没となってしまいました。供養としてここに掲載しておきます。もしかしたら使うかもしれませんが()


 資料『大戦の直接的終結に向けた新たな技術及び戦略兵器案』

 ターミナル01標準暦1××25年×月1日(不明瞭のため一部判読不可能)

 

 先日、新たな世界が発見されたのは周知の事実だろう。しかし、ターミナル01 x-01と名付けられたこの世界には我々の持つものとは異なる技術が存在していたことをここに報告する。なお、本報告書で述べる技術体系はx-01では既に失われたものであり、本世界ではその残骸やデータでのみ知ることができる。

 その成果物のうち、最も顕著なものは「事象変移機関ゾハル」と呼ばれる物体だ。簡潔にその機能を説明すると、現在を含む近未来の事象を可能性事象として捉え、その中で能動的主体が最も望む事象を顕在化させる。加えて、全ての可能性事象を“観測”することによってエネルギーを取り出す、というものだ。

 この装置が開発されれば、全ての兵器のエネルギーを供給できコスト削減を図れる上、各機の性能向上もなされるであろう。しかし、我々が特に主張したいのはゾハルを搭載した機動兵器の開発である。一騎当千の性能を持つ“戦略兵器”を開発することは、大戦の早期終結に大いに寄与するだけでなく、戦後も敵世界に対して強力な抑止力となり得る。

 我々がブラックホール爆弾やコロニーレーザーのような大規模破壊兵器ではなく、機動兵器の開発を推し進める理由としては、汎用性の高さにある。侵攻だけでなく、戦後も平和維持に利用することを考慮すると、輸送やその他運用面において単なる破壊兵器では不適任であろう。また、機動兵器は我が連盟の威厳と軍力を端的に示すのに最も有効であるという側面もある。

 ゾハルの開発における我々の見解だが、後者の機能については第10世代量子コンピュータによって情報をエネルギーに転換するという手法を取れば十分再現できる。課題はやはり前者だろう。つまり、可能性事象をどのようにして確実な未来として成立させるかということだ。現在、最も妥当な解決案として「電子の確率波」からのアプローチが考えられるが、この理論は未だ未熟であり、可及的速やかに理論を確立する事が求められる。

 

 

 

 

 

 


 

 資料『Xeno Project』

 ターミナル01標準暦××××9年(不明瞭のため一部判読不可能)9月1日

 

 本プロジェクトは、現在開発中である「事象変移機関ゾハル」を搭載した戦略機動兵器の開発を主とした開発プランである。

 その1機目となる機体、コードネーム「ゼノギアス」はターミナル01 x-01に存在する同名称の機動兵器をベースにして開発を行う。ただし、x-01に存在するオリジナルとも言うべきゼノギアスは、『波動存在』と呼ばれる高次元の存在から力を得ており、本プロジェクトにおけるゼノギアスとは異なる機体とも言える。本機はその核となる機能こそ違えども、武装や各種機能はオリジナル・ゼノギアスと同系統のものである。

 ゼノギアスの特筆すべき点は、ゾハルを用いた特殊兵装(抽象的事象変異兵装、仮称「エーテル」)にある。それは搭乗者の意志力に応じて出力が際限なく向上するという特性はもちろん、ゾハルに特定の事象をリクエストすることでそれを実現するための手段がアウトプットされるという性質も併せ持つ。つまるところ、「あの要塞を破壊する」という事象を望むならそれに見合った手段(例えば核兵器級の攻撃)がゾハルによって出力されるということだ。

 ゼノギアスはこの特殊兵装の運用試験を主目的としていく予定である。

 

 

 

 

 


 

 資料『Xeno Project2』

 ターミナル01標準暦1××4×年(不明瞭のため一部判読不可能)4月1日

 現在、我々は「ゼノシリーズ」2機目となるコードネーム「ゼノブレイド」を開発中である。

 ゼノギアスの運用試験において、抽象的事象変移兵装「エーテル」の実用性は証明された。ゼノブレイドでは「エーテル」を発展させ、ゾハルによる物質生成を軸とした機能を検討していく事とする。

 この機能(具象的事象変移機構、仮称「アルス」)は、本機を支援する兵器を量産することを主目的としており、生み出される兵器(多目的無人支援兵器、仮称「ブレイド」)は人〜機動兵器サイズの完全自律型無人兵器である。動力源についてはゾハルからエネルギーを供給する「スレイヴ・ジェネレーター」を導入する予定である。

 しかし、質量保存の法則を破り無から有を作り出すことはゾハルを以ってしても不可能である。それはゾハルが選び取ることのできる事象が「この宇宙で起こりうる事象」のみだからだ。

 この事から、ブレイドに用いられる部品等をアルス自ら生成することは不可能であり、その為当面は4次元空間内に設けた専用格納庫に物質を電送し、それをアルスが組み上げるという形でブレイドの生成を再現するものとする。

 なお、ブレイドに搭載されるAIはセンチメント・サーキットを有しない、より単純な戦闘AIに限定する。

 

 研究チームは先述の障害を乗り越える為、並行世界の事象をも選び取ることのできる新たな事象変移機関を、つまり無から有を生み出すことのでにる機構を本機の開発と平行して研究中である。




当初はゼノクロスの動力源をメタトロンを利用したアンチプロトンリアクターとしていたのですが、せっかくゼノシリーズ要素を担っているのだからゾハルを搭載すべきだろう、ということで上のような設定を考えました。
ゾハルを用いるにあたって、原作と同じように波動存在を使うのではなく、純粋科学のみでもって原作のゾハルを再現しています。無茶ありすぎだろって感じですが、科学が極限まで発展すればこういうことも可能になるのかな…という妄想ですw


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。