クソデカ感情抱え込んだ紅魔館組の異変騒動! (ライドウ)
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吸血鬼異変

『吸血鬼異変』

 

それは、幻想郷史上”最悪の異変”と呼ばれる異変である。

 

事の始まりは、紅魔館がこの幻想郷に転移する前、紅魔館先遣隊がこの幻想郷にやってきた。

それが、悲劇の始まりとはこの時の幻想郷の住民も、紅魔館の住民も予測できないものであった。

先遣隊は、紅魔館”七代目メイド長”十六夜 マリアを含めた10名。役割は、紅魔館転移範囲の指定と幻想郷における事前情報の収集だった。

 

転移から9日目にして、紅魔館先遣隊に300もの妖怪組織の軍勢が攻め入った。

この際、紅魔館”七代目メイド長”十六夜 マリアは、他のメイドを逃がすために殿を務め、その圧倒的な戦力を全滅させたのち、消息不明とされていた。

 

その後、紅魔館が転移後、八雲紫は紅魔館と”第一次紅魔不可侵協定”*1を結び紅魔館と幻想郷は、平和的解決をしたかのように見えた。

しかし、これこそ・・・幻想郷を恐怖と絶望のどん底に叩き落す最初に過ぎなかったのだ。

 

   =幻想郷縁起『異変編』42ページ『吸血鬼異変の始まり』から一部抜粋=

 

~~~~~~~~~~~~

 

「良い夜だな。八雲紫。」

 

「・・・ええ、いい夜ですわね。」

 

重苦しい雰囲気。星一つない夜空には恐ろしいほどの赤く丸い月が浮かんでいる。

紅魔館の騒動を検知し、確認しに来た八雲紫は・・・恐ろしさほど感じる赤い槍を持ったレミリア・スカーレットに対し・・・気圧されていた。

だが、八雲紫とて大妖怪。たかが、蝙蝠の擬人化の小娘などに怖気づくはずなどなかった。

 

「こんなにも、いい紅い月なのだ。どうだ?月見でも・・・」

 

「残念ながら、私は多忙の身。これで退散させていただきますわ。」

 

紅い月を眺めながらのレミリアから、一歩、また一歩と下がる紫。

変わらず言うが、八雲紫は気圧されて怖気づいているわけではない、これは戦略的撤退の準備だ。

 

「まあ・・・飲むものは、貴様のその血だがなぁッ!!」

 

瞬間、レミリアが全力を持って手に持つ赤い槍”グングニル”を八雲紫に向かって投擲した。

八雲紫は瞬時に隙間を展開し、自身を隙間に格納する。

 

「あ・・・あぶなかっ・・・なっ!?」

 

瞬間、隙間の空間にひびが入りそこから赤い槍が飛び出す。

しかしそれ以上、こちらに来ることはない・・・どうやら隙間の空間の壁を壊すだけで止まったようだ。

そこまでして、八雲紫は自身が襲われたことに関して怒りが湧き始める。

 

「藍!!」

 

「ここに、いかがなさいましt「今すぐ、幻想郷全戦力を持って紅魔館を排除なさい!!これは絶対よ!!」は、はっ!!」

 

自身の式神”八雲 藍”に命じて、紅魔館を怒りのままに排除しようとする。

もはや、紅魔館が来たことによる利益など忘れ、ただただ報復しようとしか、頭になかった。

 

「よくも・・・よくも私の幻想郷にやってきて、この私に牙をむいたわね・・・その蛮行、精々後悔すればいいわ!!」

 

あははははっ!!と、高笑いが隙間の空間にむなしく響く。

・・・しかし、のちにこの判断が・・・八雲紫の信用をほぼ無くすような行為になることは明らかであった。

 

 

 

 

 

 

*1
一つ、幻想郷は紅魔館に土地と食料である血液を提供する。

一つ、紅魔館・幻想郷、双方において交流を図り、相互の理解を深める。

一つ、幻想郷が危機に瀕した際には、その戦力の3割を八雲紫に譲渡すること。

 

第一次紅魔不可侵協定の内容を抜粋。





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レミリア視点で見る吸血鬼異変
シロツメクサの墓標へと


 

中庭の、一番きれいな花畑が見える場所。

その場所にはシロツメクサの花壇に囲まれた一つの墓標がある。

 

「・・・待っていてくれ、マリア。私は、この幻想郷を、必ず壊す」

 

マリアの羽と、彼女の使っていたハルバートは此処の墓標に埋めてある。

それゆえにいつかマリアは、よみがえってくれるだろう。

その時まで私は、この幻想郷を破壊し続ける。

 

・・・いや、幻想郷ではない。私は、この幻想郷を破壊し、紅魔郷として支配する。

そうすれば、マリアはしばらくの間ゆっくりと休めるし・・・復活して私たち紅魔郷を見たとき、マリアはきっと喜んで、私をなでて、私の好きなキャロットカップケーキを作ってくれるだろう。

 

「・・・フランとも、どうにかして和解しなければ。」

 

確かに、フランは仇的である八雲紫と勝手に条約を結んだ。

いや、あの時の私は、私たちは動けなかった。それ故にフランは、私たちを護るためにその協定を結んだのだろう。

 

「だが、それはすべてが終わった後でいいか。」

 

いま、フランは邪魔になる。

八雲紫を撃ち滅ぼし、幻想郷を紅魔郷にした時にゆっくりと話し合うとしよう。

私は立ち上がり、振り返る。

 

「・・・レミリアお嬢様。」

 

「美鈴か。状況はどうだ?」

 

「はっ、フラン派のメイドやホブゴブリンは、こちらの隙をついて次々と脱走を図っています・・・いかがなさいますか?」

 

「どうせあまり戦力として期待はできん、逃がせ。」

 

美鈴を引き連れて、執務室に戻り始める。

美鈴から話される内容を最適な答えで返答する。

 

「それで、幻想郷のリアクションはどうだ?」

 

「戦力を集結している模様です、とある場所からの気がだんだんと膨れ上がっています。」

 

まあ、八雲紫に牙を剝いたのだ。

精々抵抗らしい抵抗をしてもらわねばこちらも困るというものだ。

それに、どうやら人間に手を出さねば幻想郷最大戦力である”博麗の巫女”は動かないようだし、私には”必勝・必中の槍”でもあるグングニルがある。

 

「咲夜とパチュリーはどうだ?」

 

「・・・咲夜メイド長代理はいまだ行動不能です。パチュリー司書長は、気が狂ったかのように復活魔法の構築を始めています。」

 

「そうか。・・・・・・まだ考えさせてあげて、咲夜は特に相当きてるはずだから」

 

咲夜は自身の唯一の親を亡くし、パチュリーは命を助けてくれた恩人が亡くなったのだ。

誰だってつらいはずだ、私とてこうして狂わない限りいまだ立ち直れないほどなのだ。

 

「かしこまりました。」

 

冷静にしている美鈴もよく見れば、小さく震えている。

・・・美鈴も美鈴で、相当無理しているみたいだ。

 

「美鈴も。」

 

「・・・」

 

「美鈴も、つらいなら休みなさい。私が許す。」

 

「・・・私は、紅魔館私兵長です。この紅魔館に危機が迫るというのなら私は一切の私情を捨てます。」

 

そう言って、美鈴は軽い敬礼してどこかに行ってしまう。

 

「・・・・・あぁ。」

 

本当に、なぜこうなったのだろう。

私には”運命を操る程度の能力”があったのではないのか?

なぜ、私はマリアが死ぬという運命を変えることができなかったのだ。

 

フランとは、ひと時の感情で姉妹喧嘩をしてしまい。

副メイド長は、フランの専属メイドとしてフランの側に立ち

美鈴は、私情を捨て紅魔館を護る兵士を演じ、

咲夜は、育ての親をなくし

パチュリーは、できるはずのない復活の魔法を作り上げようとし、

 

私は、ただ怒りのままに気狂いとなった。

 

「ははっ、酷いものだな。」

 

本当に、なぜ私は最後まで狂えないのだ。

 

「こんなに苦しいなら・・・・・・完全に狂えれば楽だったというのに!!」

 

私の叫びは、ただ暗い廊下に消えてゆくだけだった。





レミリアには元々狂気があるわけではなく、マリアに育てられたために最後まで狂うことができませんでした。けれど、レミリアにとってそれはとても苦しい苦行でした。





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破られた約束

「お嬢様。」

 

執務室の椅子に座り、窓から外を眺めていると美鈴が完全武装の狼女たちを引き連れて部屋に入室する。

 

「どうした?随分と騒々しいじゃないか。」

 

「幻想郷の軍勢が、こちらに迫ってきております。直ちにヴワル魔法図書館に避難を。」

 

どうやら、私の身を案じて言いに来てくれたみたいだ。

・・・それならその二人は、私の護衛と言う事だろうか・・・だが

 

「心配は無用だ、今宵も”満月”。私も事に当たるとしよう」

 

「っ・・・かしこまりました。無理だけはしないよう。」

 

頭を下げて、狼女たちを引き連れて退出する美鈴。

美鈴には悪いことをしたわね・・・でも今は、これでいい。

 

「マリア・・・今だけ、貴女との約束を破るわ。」

 

今まで扱っていた、魔力を練って作り上げたニセモノのグングニルではなく・・・

壁に飾り付けていた”本物の”グングニルを手に取る。

本当は、私もこんなものを使うことなど一生ないと思っていた。

だが・・・私はこれを使わざるを得ない。だからこそ、私は・・・

 

「マリア、貴女に勝利という”安らぎ”を必ず渡す。だから、今だけは許してくれ。」

 

精々、気狂いのマネをして・・・この幻想郷に住む者たちを殲滅しようではないか。

 

~~~~~~~~~

 

紅魔館の正門前に陣をしく、陣と言っても私とパチュリー、美鈴と、美鈴の率いる狼女の私兵部隊しか展開していない・・・しかし今の私たちにとってはこれが最大戦力。

マリアへの贈り物の為にも・・・負けることはできない。

 

「パチュリー、頼む。」

 

「・・・・・・ええ。」

 

パチュリーが拡散の魔法を展開する。

私は、それを見て一息吸い

 

「ようこそ!幻想郷の有象無象の雑多妖怪ども。今宵はよい赤き満月だ。精々貴様らのその醜い血で、この大地を赤く染めてみるがよい!!」

 

そう言った後に、高笑いをする。

これだけでも、結構心がスカッとする。

敵の殺気が、膨れ上がるのが・・・戦いに関しては素人である私でもよくわかる。

 

だけど大丈夫私には、このグングニルがある。

 

「始めよう、美鈴。パチュリー。」

 

 

 

 

 

 

 

「弔いの聖戦だ。」

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「あははははっ!!弱い、弱すぎるぞ!!これが、幻想郷の実力なのか!?」

 

グングニルを軽く振るだけで、幻想郷の雑多妖怪どもは次々と塵に帰ってゆく。

あぁ、なんて爽快なんだ!!この赤い血が舞うだけでも、私のテンションはさらに上がる!!

だけどあぁ・・・弱い、弱い、ヨワスギル!!

 

「こんなのでは、マリアへの弔いになドなるわけナイジャナイカ!!」

 

あぁ、もっとだ、もっと貴様らの死骸を!!もっと貴様らの醜き血を!!

そこまで暴れて、ピタリと止まり・・・本能が警鐘を鳴らす。

 

「あの(むらさき)ニートに頼まれて・・・まあ出るだけいいかと来てみれば。とんでもないのが居るじゃないの」

 

緑色の髪の毛にチェック柄の洋服。

ピンク色の日傘からは禍々しいほどの魔力が溢れている。

間違いない、こいつは・・・ヤバい。

 

「ねえ貴女?好きな植物はあるかしら?」

 

「私は・・・そうだな、赤いバラも好きだが・・・いまは、シロツメクサが一番のお気に入りだな。」

 

聞かれた質問を返答しながら、どうにかして隙を見出そうとする。

 

「シロツメクサ・・・なるほど、花言葉は『幸運』『私を思って』『約束』・・・・・・そして【復讐】。今のあなたにピッタリね。大体のことは(むらさき)ニートに聞いているけど。そうね、私もあなたもほぼ関係のない赤の他人。しかし私は、あの(むらさき)ニートに交換条件で戦力として参加してほしいと頼まれている。」

 

「・・・つまり、戦うということか?」

 

「ご名答、大丈夫手加減はするわ。植物好きの貴女を殺すわけにはいかないもの。」

 

「それはどうも・・・しかしこちらは、殺す気で行かせてもらう!!」

 

「良いわね・・・じゃあ始めましょう」

 

 

 

 

 

 

「紅魔館当主”レミリア・スカーレット”!!」

 

「あら?ああ、なるほど・・・四季のフラワーマスター”風見 幽香"」

 

 

 

 

 

 

「その余裕を、いつまでもたせることができるか!!」

 

「精々、ぺんぺん草の様にしぶとく足搔きなさい?」

 

 




レミリアには元々狂気があるわけではなく、マリアに育てられたために最後まで狂うことができませんでした。けれど、レミリアにとってそれはとても苦しい苦行でした。


しかし、レミリアは苦しくとも、悲しくとも・・・その狂うという行為をやめませんでした。レミリアは、紅魔館皆の為に狂うことを選んだのです。
たとえ、後の世で罵られようとも、レミリアのこのときは、狂う以外の道はありませんでした。


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やるせない復讐は

「くっ・・・」

 

放った蹴りが簡単に掴まれ、空に投げられる。

咄嗟に羽をはばたかせて浮遊し、いまだ余裕そうにニコニコと笑顔を浮かべる風見幽香を睨む。

 

「うふふ、いいわね・・・筋がいいわ。」

 

傷をつけるどころか・・・息をきらせることもできていない。

そして対決して分かる、今私は・・・本物の化け物を相手にしている。

 

(グングニルの必勝能力をもってしても・・・押し負けてる?)

 

グングニルを投擲しても掴まれて止められ、だからと言ってグングニルで突こうとしてもすべて避けられる。そしてそれで、私の余裕は崩されて段々と焦り始める。

ここで冷静にならねば私が負けるということはよく理解している。

だけど、こいつ・・・風見幽香に一太刀も浴びせられるイメージが湧きやしないのだ。

 

(だけど、やるしかない!!)

 

覚悟を決し、グングニルを構えて突撃する。

 

 

「そうこなくっちゃ。」

 

すぐさま、風見幽香が反応し大量の魔法陣が展開される。

そしてその魔方陣からは大量の妖力弾が私に向けて発射される。

当たりそうなものはグングニルで弾き、それ以外の物は無視してただ風見幽香に向かって走り続ける。

 

「これなら?」

 

一部の魔法陣の模様が瞬時に書き換えられ、次の瞬間には膨大な妖力がレーザーとして発射される。

あれは完全に私狙いである。しかも動作予測していたのかぴったりと直撃コースだ。

・・・だけど、

 

(”当たる”という運命を操る。)

 

咄嗟に能力を発動すると、レーザーが面白いようにぐにゃんと曲がるが・・・私の洋服の裾を焦がしてちぎれさせる。

その様子にも風見幽香はただ笑っているだけだ。

 

そして

 

「あら、近づかれちゃったわ。」

 

「うああああああっ!!」

 

全力でグングニルを振り回す、もちろんただ振るだけではなくグングニルを突き出して攻撃を続けている。

吸血鬼としての能力を最大限に活用し、なんなら蹴りも織り交ぜたその乱舞は・・・

 

「うふふ。近くで見ると可愛いわね。」

 

「かわっ!?い、今そんなことを言ってる場合か!?」

 

「いいのよ、私別に戦ってるなんて思ってないし。」

 

風見幽香にとって遊びやスキンシップのそれらしい。

それが何というか、腹立たしさや悲しさよりも・・・清々しさを感じていた。

それはそれとして、八雲紫はぶっ飛ばすのだが・・・

 

「さて、お遊びはそろそろおしまいよ。」

 

最期の一突きをかわされて、頭をポンポンとされる。

・・・周りをチラリと見れ見れば、雰囲気の違う奴らが取り囲んでいる。

・・・終わったか。そう思っていると、風見幽香が私を抱きしめた。

 

「あ~ら、八雲の所の番犬じゃない。どうかしたのかしら?」

 

「・・・犬ではなく狐だ。確かに同じイヌ科ではあるがな、どうもしたもこうしたも我が主がその”気狂いの吸血鬼”を抹殺しろと命令したんだ。逆らえなくて困ってる。」

 

「忠誠心が厚いと思ったのに意外ね?」

 

「私にばかり仕事を押し付けて、挙句自分は何もしないんだ。本来やるべき結界の管理でさえ私に任せているんだ・・・1000年の忠義も何とやらだ。そのくせ私が式神だからということで、逆らえないと知っててあの態度だ。こんな態度になるのは普通だろ?」

 

「・・・そうね、あの(むらさき)ニートだものね」

 

「ああ、(むらさき)ニートだからな。」

 

臨戦態勢でありながらも、どこかほのぼのとした井戸端会議が開かれている。

周りの式神もやれやれといった感じで緩い立ち方でそれを聞いていた。

 

「さて、私はそんな主の使命を護らなくてはならない。けれど、どうやら・・・貴女が”解決した”らしいな。」

 

「ええ、この子は”気狂いの吸血娘”ではないわね。ただの”レミリア・スカーレット”よ。」

 

「ああ、了解した。そこに落ちてる洋服の切れ端でも持っていくさ。」

 

ひょいっと、風見幽香のレーザーでこげ落ちた洋服の切れ端を持ってさっさと撤収し始める。

・・・どういうことなのだろう。

 

「割と、この幻想郷に住んでる住民たちって・・・ほとんど(むらさき)に愛想をつかしているのよ。昔は、聡明で賢者にふさわしいぐらいだったのに・・・どうしてああなったのかしら。」

 

歳ボケかしらと独り言を零しながら、私を抱きしめたまま頭をなでる風見幽香。

やがて満足したのか手を離し、

 

「さて、あなたの家に帰りなさい。レミリアちゃん。」

 

そう優しく、わざわざ私の目線に合わせていってくれる。

 

「・・・・・・そうする。」

 

色々とやるせなくなり、私は紅魔館へトボトボと歩くのであった。

 




レミリアには元々狂気があるわけではなく、マリアに育てられたために最後まで狂うことができませんでした。けれど、レミリアにとってそれはとても苦しい苦行でした。

しかし、レミリアは苦しくとも、悲しくとも・・・その狂うという行為をやめませんでした。レミリアは、紅魔館皆の為に狂うことを選んだのです。
たとえ、後の世で罵られようとも、レミリアのこのときは、狂う以外の道はありませんでした。


しかし、幻想郷はひどく優しく、皆がその苦しみをその悲しみを理解していました。
ゆえに、レミリアは”気狂いの吸血鬼”とはなりませんでした。
そしてレミリアに与えられたのは、考えをまとめるための時間が与えられました。
レミリアは復讐を・・・報復を与えるべき相手を、いま一度考え直すのであった。


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昏い優しい幻想は

「マリアー!」

 

夢、悪魔は夢を見ないというが・・・今私は、夢を見ている。

私は、鏡の中にいて・・・鏡の向こうに映る景色を、ただただ見つめている。

 

「・・・お嬢様?」

 

「マリアー!これみて、また拾ってきちゃった!!」

 

「はぁ~。宝石なんて、お嬢様の宝箱にいっぱいあるでしょう?しかも・・・レッドサファイアですか、また珍しいものを拾ってきましたね。」

 

「うん!これ、マリアに上げる!!」

 

「私に…ですか?」

 

懐かしい、確かマリアは・・・そのレッドサファイアをもらったとき、あんなふうに鳩が豆鉄砲を食らった顔のような、そんな驚いた表情をしていた。

 

「うん!ほら、これ!」

 

鏡の中の私が、ポケットの中から同じようなレッドサファイアを取り出す。

綺麗な金細工が施されており、マリアに渡されたものと違って・・・随分と華やかである。

 

「これと一緒の装飾をして、私とマリアでお揃い!!」

 

「レミリアお嬢様・・・」

 

嬉しそうで泣きそうなマリアが、鏡の中の私を抱きしめて頭をなでてくれる。

この時・・・

 

この時だけは、落とし物を拾って怒られなかった。

 

 

・・・鏡がひび割れたかと思ったら、場面が切り替わった。

 

 

「うー、うー・・・まりあぁ、こわいよぉ・・・」

 

これは、私がかなりの高熱を出した時の夢だろうか。

ベットの上で、随分と赤い顔の私がマスクをしたマリアに泣きついている。

 

「大丈夫です、レミリアお嬢様。私は、ここにちゃんとおりますよ?」

 

「まりあぁ・・・て、ぎゅっとして・・・」

 

「はい・・・大丈夫、大丈夫ですよ。」

 

あの時、あのときほど・・・怖いものはなかった。

身体が、まるで燃えるかのように暑くて・・・足の先から灰になって消えてしまいそうだった。けれど、あの時マリアは決して離れずに、私の看病を続けてくれた。

 

 

・・・また、鏡がひび割れる。

 

 

「ねえマリア。」

 

これは、あの時だろうか。

私がマリアに、どうして何十年も嫌がらずに私の専属メイドをしているのか、それを聞いた時であろうか。

 

「はい、何でしょうか。レミリアお嬢様」

 

「マリアは、メイドを辞めたいってときは、あるの?」

 

確かこの時、一人の顔馴染みの若いメイドが自身の事情を理由に紅魔館のメイドを辞めた日だ。

 

「そうですねぇ・・・。私も、思考や心、感情があります。もちろん、辞めたいなぁ。と思うときはありますね。」

 

「えっ・・・・・・そ、それは・・・私のせい?」

 

あの時から、ずっと自覚はあった。

紅魔館・・・いや、スカーレットのお嬢様として生まれ、私は蝶よ花よと育てられ、いつの間にか散歩に出れば落とし物を見つけて拾う癖がついていた。

・・・ずっと、お父様に叱られたときもあったから。なおさらだ。

 

「いいえ、違いますよ?例えば、お嬢様は・・・そう、フラン様の為なら例えどんな苦しいことでもやりますか?」

 

「フランのため?それなら、もちろん・・・でも、いつまでもは無理かなぁ~私にも、休憩~とか、休日~とか欲しいから・・・・・・あっ。」

 

「そう、たとえどんなメイドでもずぅっとは働けません、適度に休まないといつかは倒れてしまいます。そして、私がメイドを辞めたいと思うときは・・・仕事が増えたときだけです。レミリアお嬢様のお世話は、全然苦ではありませんとも。」

 

優し気な笑みを浮かべて、ティーカップをトレーに乗せて持ってきてくれる。

あのときほど、甘くて優しい紅茶はなかったと思う。

 

 

・・・また、鏡が割れる。

 

 

「このものに、安らかなる眠りがあらんことを・・・」

 

この日、人間の老メイドが一人・・・夜の寝ている間に、亡くなっていた。

パチュリーがこの紅魔館に来たときに雇われていたメイドだ。

これで、あの時の人間メイドはすべて亡くなったということになる。

 

「マリア様、葬儀はすべて終わりました。きっと・・・」

 

「そう、ありがとう。さて、今日の仕事は一人少ないわよ。それに、仕事に取り掛かる前に、きちんと彼女に感謝の言葉を、そして心の整理をきっちりつけなさい。いいわね。」

 

「「「はい!!」」」

 

メイドたちが、マリアの言葉通りにしてゆく。

死んだ彼女にお礼の言葉や感謝の言葉を言い、最後に祈りをささげて彼女が眠るベットから離れる。私は、それを部屋の隅から見ているマリアに近づく。

 

「・・・マリアは、最後に?」

 

「ええ、私は彼女と、一番長く交流してましたから。」

 

曰く、あのメイドは・・・パチュリーが紅魔館に来た時に雇ったメイドたちの中でも、どんくさくて、よく失敗をする子だったらしい。だから付きっ切りで、マリアがよく面倒を見ていた。

 

「彼女、身寄りが無くて・・・ほぼほぼ捨て身でこの紅魔館のメイドになったそうです。」

 

「・・・紅魔館に雇われて、彼女幸せだったかしら。」

 

「少なくとも、幸せそうでした。自分にできることがあるなんて、とっても嬉しいことだったんですね!と、彼女は語っていましたから。」

 

確信のまなざして安らかに目を閉じている彼女を見つめるマリア。

 

「葬儀は死者の為に。しかし、それ以上に生者の為に。」

 

その時、マリアがポツリとつぶやいた言葉は・・・私の心に深く刻まれていた。

 

 

「・・・葬儀は死者の為に、それ以上に生者の為に。ね。」

 

 

~~~~~~~~~~

 

目がぼんやりと覚める、チラリと窓の外に目を向けてみればさんさんと輝く太陽が。

 

「変な時間に目覚めちゃったな。」

 

・・・結局あの後、八雲の軍勢が攻めてくることはなかった。

”気狂いの吸血鬼”が死んだものとして、全軍が撤退していった。

・・・こちらの私兵たちは、重軽傷はあるものの・・・命にかかわりがあるような怪我をしたような狼女やメイドはいなかった。

 

ブランケットを蹴り飛ばす。マリアが生きていたら怒られそうだけど・・・

今はただ考えをまとめていたい。

 

(私は、私はどうすればいいんだろう。)

 

フランとの仲直り、紅魔館の皆のケア。

これからの幻想郷との付き合い方。

 

「そう、悩みなさい。レミリアちゃん。」

 

「・・・いつの間に来たの?風見 幽香。」

 

「いつの間にか。ちゃんと、門番ちゃんとメイド長代理ちゃんから許可は取ったわ。」

 

ドサリと、風見 幽香がベットの端に座る。

そして、私の部屋に飾っている謎の植物*1を観察している。

 

「・・・その子が教えてくれてるけど、貴女・・・本当は、とってもつらいんでしょう?」

 

「・・・・・・まさか、能力?」

 

「ええ、私の能力は”植物を操る程度の能力”よ・・・まあ、普段は”花を操る程度の能力”ってだましてるけどね。」

 

その方が楽だもの。

と、ケラケラと笑っている風見 幽香。

 

「で、どうなの?」

 

「・・・・・・まあ、507年連れ添った人が、ついこの前、唐突にいなくなったんだ。」

 

「そう・・・・・・」

 

「だから、葬儀を済ませても心の整理がつかない。マリアが与えてくれた日常が、こんなにも脆いものだったとは・・・思わなかった。」

 

「・・・そうなの。」

 

風見 幽香は相槌をして、私がポツポツと語ることを聞いてくれる。

 

マリアと初めて出会ったときのこと、マリアと過ごした日々の事。

マリアが死んだとわかったあの時の事、マリアとの約束を破りグングニルを振り回したり投げたりしたこと。

 

「わたしは、わたしは・・・・・・わたしは、どうすればいいのよ!!マリアが死んだ悲しみを、この怒りを本当にただ八雲紫にぶつけていいの!?マリアは、マリアは自分を犠牲にしてまで・・・私の幸せと安全を願っている。それは、私が何よりもわかってる!!けれど、けれどぉっ!!」

 

「・・・」

 

「マリアが復讐を望んでいないことは、マリアがこんなことを望んでいないことは507年も一緒だった私が一番よくわかってる!!でも、大切な人を殺されて・・・黙ってそれを受け入れて殺された場所で住むのは嫌よ!!」

 

「それに、それにッ!!どうやってフランに謝ればいいの!?フランは、私たちを護るために煮え湯を飲みながら八雲紫と協定を結んだのに・・・私が全部水の泡にした!!フランの思いも、考えも聞かずに!!ただただ否定して、糾弾して・・・・・・こんなの、お姉ちゃんとしても失格じゃない!!」

 

顔に手を当て、ベットに横たわりながら・・・心の奥底にため込んだ気持ちを吐き出してゆく。

心がおしつぶれて、寒くて、怖くて・・・誰でもいいから、この私を殺してほしいぐらいに・・・辛かった。

 

「もう・・・いやよ。まりあ・・・まりあぁっ!!」

 

そして、最後の心の遮りが崩壊し・・・私は、壊れたかのように泣き出した。

それを、何も言わずに撫でる風見 幽香。

その撫で方はマリアとは違って、ちょっとだけ荒々しかったけど・・・でも優しさを感じられる心地の良いものだった。

*1
いつか拾ってきた植物、うねうねと動くが結構かわいらしい。それにどうやら虫を食べてくれるようで、おかげで私の部屋には虫がいない。



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最悪の運命は再び

私の、内側に溜まっていた色々な感情が出ていったあと・・・心が少しだけスッキリしたというのと、同時に私がやりたいことを見出してくれた。

 

「私は、八雲 紫を引っ叩く。」

 

「あら、そこはぶん殴るじゃなくて?」

 

「ふは、私は”気狂いの吸血鬼”だけど、それ以前に1人の”吸血鬼のお嬢様”よ。物騒な言葉なんて使いませんわ。」

 

そう言うと、風見 幽香は耐えきれなくなったのか吹き出した。

もう、なによ。せっかく私が覚悟を決めたのに。

 

「あははは、まあいいわ。その引っぱたく機会は私が作ってあげる。」

 

「・・・いいの?何から何まで。」

 

「あのニートにも懲りる時が来たってだけよ、私は平和に暮らしたいの。少なくとも、血よりはかわいい女の子を見たいってね。」

 

「ありがとう」

 

「あらあら、なんのことかしらねー。」

 

そう言って立ち上がり、私の部屋から退出する風見 幽香。

その後ろ姿は全然違うものだけど、マリアのような姿が見えたような気がした。

 

===========

 

その日から10日。

美鈴とパチェは、その10日の間にだいぶ落ち着いてきたようだ。

咲夜は、なんというか私が起きている夜の間はマリアの部屋に閉じこもっている。

けれどマリアが育てていたメイドたちのおかげで、咲夜がいなくともまともに紅魔館が綺麗だったり私たちにとってのランチが出されたりしているのは、さすがマリアと言わざるを得ない。

 

そして今日、私は風見 幽香に指定された場所にいる。

今日この場所には、何も知らない八雲 紫がやってきて、私が美鈴とパチェと咲夜と・・・紅魔館全員の気持ちを込めた平手打ちをする。

 

約束の時間が刻一刻と迫り、やってきたのは・・・

 

「・・・・・・レミリアお嬢様。」

 

「ふ、副メイド長?どうしてここに?」

 

暗い雰囲気を引っさげた副メイド長が、2本の剣を構えてやってきた。何故だろう、とてつもなく嫌な予感とせっかく収まった私の感情が暴走しそうな予感がする。

 

「・・・申し訳ありませんっす。だけど、私も、レミリアお嬢様も、もう”こう”するしか道は残されていないっす。」

 

副メイド長の手元から溢れ出した嫌な光(聖なる光)が、副メイド長が両手に持つロングソードに伝わり、私の生存本能が最大限に警鐘を鳴らす。

 

「我は、教会の墓守人、葬送の施行執行者。」

 

「我が使命は、死の運命から逸れた者に、安らかなる眠りを与えること・・・。」

 

そして彼女は泣きそうな顔で、

 

Amen・・・(眠る前のお祈りを)

 

私に、敵対したのであった。

 

 




八雲 紫の罪は、加速する!


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死闘

ガキィン!!

 

咄嗟に魔力で作り上げたグングニルと、副メイド長の双剣が甲高い音を立ててぶつかり合う。

何とか鍔迫り合いに持ち込めたので副メイド長の目を見る。

 

「何があったの!?」

 

私がそう問いかけると。

 

『フラン様が八雲 紫に捕まりました。』

 

と口パクで伝えてくる。

・・・通りであの時、八雲 紫本人ではなく、その部下であるあのキュウビ?がやってきたわけだ。

 

『人質ってこと?』

 

『返して欲しければ、レミリアお嬢様を殺せ、と。』

 

それを理解して、心の底に押し込めた激情の感情がざわめき出す。

 

「目を赤く光らせてして、怒っているんすか?でも、私はそれで引く訳には行かないっす!」

 

「なら、決死の覚悟でかかってくるといい!」

 

『できるだけ手加減しますけど本気で行くっす。ついてきてくださいよ!!』

 

『あら、紅魔館当主を舐めないでちょうだい。』

 

=========

 

私のグングニルと、副メイド長のロングソードが、激しく火花を散らす。

本気を出し始めた、副メイド長の斬撃はまるで増えたかのような手数の多さと、防いでも剣圧だけで私の肌を切り裂きそうなほどの速度が私を襲い続けている。

 

ガッと、副メイド長を蹴ってその隙に・・・

 

「サモン!『グングニル』!!」

 

本物のグングニルを呼び出して双槍として構える。

副メイド長の表情が引きつった笑顔となっていて、それがどこか面白い顔だった。

 

「あは、あははは!!そうだ、このグングニルは私だけの必勝であり必中必殺の槍!!怯えろ!竦め!!何も出来ぬまま死んで行け、裏切り者!!」

 

「あたしは死ねないっす。だから、私が貴女を眠らせてあげます。(浄化してあげます。)

 

偽物の方のグングニルをグッと構える。

対して、副メイド長は双剣を十字に構えて備え始める。

 

貫けえぇぇぇぇっ!!(スピア・ザ・グングニル)

 

Aaaaameeeeeen!!!(救済実行!!)

 

ぶん投げたグングニルと、副メイド長が放った聖なる光の波が激突しあった。

 

============

 

グチャリ!

 

嫌な肉の音と共に、私の目の前で大きな赤い噴水が発生する。

 

「かはっ!?ふ、らん・・・さ」

 

「心配するな、フランはあとから送ってやる」

 

「れみ、り・・・・・・あ」

 

 

ガクンと副メイド長の頭が下がる

 

 

死んだ。

 

「わたしが、殺した。」

 

そうポツリと呟くと

 

パチ、パチ、パチ、パチ。

 

「1人ならず、2人までも。その手にかけますか。気狂いの吸血鬼。」

 

 

 

 

歪んだ笑みでこちらを挑発する八雲 紫と、十字架に縛られたフランが現れた。

 

 





おや、どこからか処刑用BGMの足音が・・・


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逆転劇


流れる処刑用BGMは皆さんのお好きなBGMをお流しください。


 

「ふたり、も?つまり、マリアの時も貴様が!!」

 

「そう!私が仕組んだこと!あの妖精メイドの能力は私にとってとっても厄介で迷惑で私の絶対支配を揺るがす不確定要素!!それを排除して何が悪い!!」

 

大きく破顔させて、こちらを嘲る八雲 紫。

その目は黒くただただ暗い瞳だ。

 

「貴様ァ!!」

 

グングニルを構えて、突撃するも・・・

 

「笑止!!」

 

腕の一振で、私は弾き飛ばされる。

それがかなりの衝撃で意識が飛びそうになるが・・・

 

「ぐっ・・・貴様、だけはっ。」

 

「それに、後は貴女を排除すれば・・・」

 

そう言いながら、八雲 紫は死んでいる副メイド長に近づいて

 

「あのお方の乗っ取りが、確実なものとなる!」

 

そしてそのセリフを聞いてニヤリと笑った。

 

========

 

「・・・つまり、貴様は八雲 紫であって、八雲紫では無いということか?」

 

「はぁ?この死に際の気狂いが・・・いや、死に際だからこそ正解にたどり着いたのかしら。ええ、そうよ、私は意識を乗っ取っているだけ、だけどみんな騙される。私の演技は完璧だもの、そうね・・・正解祝いに正体を表してあげる。」

 

八雲 紫の影から何やら黒くて小さい化け物が現れる。

 

「そして、私の能力は乗っ取る程度の能力。影に潜んで操っちまえば、どんな大妖怪でさえ私の支配下!!」

 

随分と機嫌がいいのか、ペラペラペラペラと情報を喋ってくれる。

 

「それに気づいた貴様の妹も!そして、邪魔な貴様らも、所詮は西洋から来た木っ端妖怪!!」

 

 

 

「我ら東洋妖怪にその命を捧げるといい!!」

 

影から出ている化物が、足を残して完全に出ている。

そして八雲紫の傘が向けられ妖力がチャージそれでゆく。

 

「そうね、もう終わりよ。」

 

「随分と潔い、姉妹仲良くしんでゆ「あなたがね!!」はぁ!?」

 

ガバリと、死んでいたはずの副メイド長が起き上がる。

 

「づがま”え”だぁ”!!」

 

「ギィヤァァァァアアアッ!?!?!?」

 

死んでいたと思ったはずの人間が、生き返って羽交い締めしたのだ。そりゃ驚くに決まっている。

驚いたからなのか、八雲 紫の影から化け物が完全に出てくる。

支配から開放された八雲紫は、ドサリと倒れふす。そして八雲紫の力が消えたおかげかフランも地面に落ちる。

 

「いやー、さすがレミリアお嬢様っす!!さすがの演技力っすね!」

 

「茶化さないの、それに私の引っぱたく相手はどうやらこっちみたいだったし。」

 

「なぜ、なぜ生きて、というか、最初から知っていたのか!?」

 

「あなた、私たちのことを舐めすぎよ。そんな愉快そうな雰囲気を垂れ流しにされたんじゃぁ、ここにいますよって言ってるようなものじゃないの。」

 

隣に落ちているグングニルを手に取り、そいつに向ける。

 

「それに、私の妹がどうやら世話になったみたいだな。」

 

心の奥にしまい込んでいた、感情を解放しそいつに全力で向け、首元にグングニルを突きつけてやる。

 

「ひっ、ひぃぃぃっ!」

 

「さあ、言え。貴様の主は?所属は?今の私は気が短いのだ。答えは早くした方がいいぞ?hurry?hurry!(どうした早く言え!!)





もう少しだけ続くんじゃ。


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吸血鬼異変の終わり。





 

「ふーん、人里の長に化けた”ぬらりひょん”、そしてそのぬらりひょんの妖怪組織所属ねぇ。本当なの?嘘は言ってない?」

 

「ほ、本当だ!!嘘は言ってない!!なぁ!?ちゃんと言っただろ!?たがら、だから命だけは助けてください!!お願いします!!」

 

副メイド長の拘束に抵抗しながら命乞いをするそいつ。

本物のグングニル・・・というか、武器を向けられたら誰だって命乞いはするはずだ。

 

「ああ、私は殺さない。」

 

「ほ、本当ですか!?あ、ありがとうござ」

 

そいつがそこまで言った途端に、轟速の拳が顔面に叩き込まれる。

 

‪「”私は”な。随分お早いお目覚めだな、フラン。」

 

目を煌々と赤く光らせ、克服していた狂気が軽く出ているフランドール。しかし、そいつを殴ったおかげなのか、ザワザワとした嫌な殺気がどんどんと小さく萎んでゆく。

 

「・・・お姉様。」

 

「何?フラン・・・」

 

「心配かけさせてごめん、あと・・・その」

 

「いいのよ、その件に関しては私が完全に悪いわ。」

 

こちらに顔を見せないけど、泣きそうなフランの頭を優しく撫でる。

 

「さて、もっと痛めつけ・・・たかっけど、その必要はないみたいね。」

 

「ええ、お待たせ。連れてきたわよ?”人里の長”を」

 

風見 幽香が、何かを投げつけ地面に叩きつけられたそれは即座に体勢を立て直して、こちらを見つけた。

 

「な、なんだ貴様ら!?こ、こんなことをしていいと思ってるのか!?直ぐに博麗の巫女が飛んでくるぞ!!」

 

「あら、妖怪のくせにいけしゃしゃと言うわね。」

 

「わ、ワシが妖怪!?そ、そんなデタラメ!!」

 

「あら、こいつが洗いざらい吐いてくれたわよ?」

 

慌てている人里の長の前に・・・フランのパンチで顔面が凹んで死んでいるアイツを放り投げる。

 

「あら惨い。」

 

「ひっ、ヒィィィッ!?!?!?」

 

実の所を言うと、この場面は最初から私が”運命を操る程度の能力”で操って引き寄せた運命だ。

風見 幽香にはパチェに協力してもらい、盗み聞きの魔法を繋いでもらい。

風見 幽香は、それを”幻想郷のエンマ”と”ヨウカイノヤマのテンマ”という人物と一緒に聞いていた。

 

「さて、チェックメイト・・・あー、幽香。ここではチェックメイトとの事をなんて言うんだ?」

 

「詰み。」

 

「ありがとう。さて、人里の長・・・いや、ぬらりひょんとやら。圧倒的な詰みの状態だが。どうする?それでも否定するかね?」

 

「わ、ワシはぬらりひょんなどではない!!断じて」

 

「往生際が悪いですね。圧倒的なほど黒なのに。」

 

風見幽香の後ろから、私と同じぐらいの女の子が出てきた。

これが、幻想郷のエンマという人物なのだろうか。

 

「初めまして、レミリア・スカーレット。私は四季映姫・ヤマザナドゥ。気軽に映姫とでもお呼びください。」

 

「え、ええ。」

 

「ぐ、ぐぬぬ。こうなっては仕方がない。そうた、ワシはぬらりひょんだ!!これで満足か!?」

 

さすがにエンマ*1

の前だと観念したのか白状する。

 

「えぇい、これも全てあのクソ妖精のせいだ!!」

 

「「ぁ”?」」

 

「あやつさえ、あやつさえいなければ今頃ワシの軍勢とこの幻想郷を支配できたと言うのに!!あやつが部下共の兵を全滅させたせいで!!忌々しい!!」

 

「あーあ、幽香しーらない。」

「バカです。圧倒的なほどバカです。」

「こんなに怒ったお嬢様方を見たことがない。てか、狂気再発してんじゃないっすか。」

 

 

いま、こいつはなんと言った?

 

「ナア、ブランドール。イマコイツハキキマチガイジャナキャ、”マリア”ヲブジョクシタヨナ?」

 

「エエ、オネエサマ。コノガイチュウハマチガイナクソウイイマシタネ!」

 

「ひっ、き、貴様ら!?なにを!?」

 

「マリアヲブジョクシタヨナ?デハ、シネ!」

「コロサナキャ、マリアヲバカニシタナラコロサナキャ!」

 

グングニル(次元を穿つ神滅の槍)!!」

レーヴァテイン(世界を壊す炎)!!」

 

「く、くるな、や、やめ!!ギャァァァアアアアッ!!!」

 

 

*1
そもそもエンマがどういう存在なのか知らないが、こいつの様子を見る限り嘘を見抜く種族なのだろう。





こうして吸血鬼異変は誰にも悟られずに始まり、
誰にも悟られずに終わりを告げるのであった。


・・・ちなみにスカーレット姉妹が最大解放した跡地には巨大なクレーターができ、そこにもうひとつの湖ができたと言われている。


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フラン視点でみる吸血鬼異変
喧嘩別れと小さな女の子


今回からフラン編となります。

どうして、八雲 紫が乗っ取られていたのか
どうして、ぬらりひょん達がマリアを邪険にしたのかが分かります!

あと色々とやります。


「はぁ、はぁ、ここまで来れば心配いらないっすね。」

 

副メイド長・・・アンナが私を降ろして、座り込む。

私とアンナは、紅魔館から脱出したあと・・・何とか日差しが強くなり始める前に、誰にも見つからなそうな洞窟をみつけ、そこに入り込んだ。

 

「ありがとう、アンナ・・・それにしても。」

 

「・・・レミリアお嬢様の気持ちも分かるっす。マリアを殺しておいて、いい顔をしている相手に不可侵協定を結ぶ。しかも、それは身内がやった事っすよ?」

 

「裏切り者扱いは当然ってわけね。いや、予想はしてたけど。」

 

頬に手をついて、ため息を着く。

レミリアお姉様がああなったのと、私がこんな目にあっているのも全部あの紫のアバズレのせいだ。

 

「あー腹立つ。」

 

「抑えてくださいっす。今ここで私に八つ当たりしてもいいっすけど、血の匂いで獣でも来たら大変っすよ?」

 

「はぁーい。」

 

目線を洞窟の奥に向けながら適当に返答する。

多分だけど、お姉様は私に追っ手を差し向けないだろう。姉妹だからわかるが、だけど・・・もし本当に怒ってるなら。

 

「じゃぁ、どうしろってんのよ。」

 

ただでさえ、紫のアバズレのせいでイライラしていたのに今回のこれのせいで更にイライラし始める。

協定を結ばなきゃ紅魔館は攻められ、結んでもコレだ。

 

「そもそもが、ハンターグリーンとミッドナイトブルーの奴らのせいよ!」

 

アイツらが、お父様に戦争を吹っかけなければ、そもそもが、幻想郷に向かうことなく、マリアが死ぬことは無かった。

マリアが死ななければ、お姉様がああなることは無かったし、私もこんな目にあう必要もなかった。

 

考えれば考えるほど、イライラが増して押さえ込んでいた狂気が顔を見せ始める。

 

「はぁ・・・」

 

やっぱり、マリアの言う通りイライラするのはダメか。

いくらマリアとの特訓で狂気を克服したとはいえ、完全ではない。

イライラが溜まりすぎると、さっきみたいに狂気が顔を出し始めるのだ。

 

「”常に冷静に。”深呼吸、深呼吸。すぅ〜・・・はぁ〜・・・」

 

「マリアの教えっすか?」

 

「ん〜、そう。イライラしたらするようにって言われてた。 」

 

アンナがそう言いながら立ち上がった。

 

「さ、て、と。これからどうするっすか?まさか、紅魔館に帰れるわけがないですし、そもそも幻想郷だと身寄りがないっすよ?」

 

「そうなんだよねぇ。どうしよっかな〜・・・」

 

幻想郷のお金はないし、そもそも幻想郷に知り合いなんて居ない。

 

 

「だぜ?誰かいるのぜ?」

 

 

その声を聞いて、咄嗟にレーヴァテインを作り出し、アンナは双剣を抜剣する。

だけど、入口には誰もいなくて、背後をふりかえっても誰もいない。

 

(どこ!?敵は、どこなの!?)

 

「おーい、下なのぜ。」

 

「「下?」」

 

ちょいちょいとスカートの裾を引っ張れ、その引っ張った張本人を見る。

そこには、金髪金目のかなり幼い女の子が私を見上げていた。

わ、私より身長が低って・・・見た感じ8歳ぐらいだし当然か。

 

「びっ、びっくりしたっす・・・脅かさないで欲しいっす!」

 

「だぜ!?ご、ごめんなさい・・・」

 

「あっああ、怒ってるわけじゃないっすよ!こっちこそごめんっす!!ほーらいい子いい子。」

 

なんというか、8歳の人間の女の子がこんな所にいていいんだろうか・・・手ぶらだけど、いや・・・んー。

 

「そ、そういえば、きれいな羽のお姉さん!」

 

「あっ、私のことか・・・なに?」

 

「さっきの!さっきのひのけん!まほうだよな!!もう1回見せてくれだぜ!」

 

「火の剣?」

 

「多分、レーヴァテインのことっすね。魔力で作り出してるから、魔法って勘違いしてるみたいっす。」

 

「あーなるほどね。はいっ。」

 

女の子の要望通りに、偽物の魔法陣を展開しながらレーヴァテインを魔力で作り上げる。

それを見ただけで、その女の子は大はしゃぎ、とても楽しそうにしている。

 

「お姉さんたち、おうちがないのかだぜ?いえでなのかぜ?」

 

「あーうん。ちょっとお姉様と喧嘩しちゃってね。」

 

「えぇっ!ケンカはダメなのぜ!ちゃんと仲直りするのぜ!」

 

「あー・・・えーと。」

 

さすがにこんな子に、今の私とお姉様との関係を話すのは気が引ける。アンナもそれを理解しているのか、引きつった表情で私を見つめている。

 

(ど、どう説明すれば・・・そ、そうだ!!)

「えっとね、お姉様が私の大切なものを壊しちゃってね。それで喧嘩して家出してるんだ〜。」

 

「そうなのかぜ?ならそのおねえさま?が、ごめんなさいするまでかえらないのぜ?」

 

「う、うん。そういうこと・・・」

 

どうしよう、嘘を教えていると思うととっても心が痛い。

ごめんね、純真なのに嘘ついちゃって・・・

いつか借りは返すから許して・・・

 

 




ガチロリ魔理沙(年齢8歳)登場です。

ちなみにフランが(外見年齢13歳。実年齢■■■歳ぐらい)なので、傍から見るとフランの方が姉のように見えます。

しかし、数年経つと魔理沙の方が勝ち越します。


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隠れ場所

「綺麗な羽のお姉さん!名前は?」

 

「私は、フランドール。フランって呼んでね?」

 

「うん!」

 

かわいい子だなぁ。

 

「そっちのお姉さんは?」

 

「あたしは、アンナっす。よろしくっすよ。」

 

アンナも挨拶をして嬉しそうにしている。

金髪の子も嬉しそうにアンナに引っ付いている。

 

「わたしは、きりさめ まりさって言うんだぜ!」

 

「うん、よろしくね。マリサ。」

「よろしくっすよ。マリサ。」

 

自分の名前をいえただけでもとっても嬉しそうだ。

そんなマリサは、しばらくした後

 

「いえがないのなら、うちに来るといいぜ!」

 

「「ンンッ・・・」」

 

マリサは多分善意で言ってくれてるんだけど、その言葉を聞いてまた引き攣った表情になってしまう。

まだ人間のアンナは容姿が問題となるが、ある意味ではまだ大丈夫だ。だけど、私は完全にアウトである。というか、この羽でアウトである。それに、例の協定もあり干渉自体がダメだったはずだ。

マリサ?マリサは偶然に会っただけだからセーフのはずだ。

 

「だ、だめなのかぜ?」

 

な、泣きそうになられても・・・

 

「その、私の羽がみんなを怖がらせちゃうから、ごめんね?」

 

「えーっ!?フランお姉さんの羽とってもキレイなのぜ!!」

 

泣きそうになりながら、私に抱きついてくる。

しかも、フランお姉さんって、妹でお姉さんって呼ばれたことないからなんだか新鮮だなぁ・・・

 

「マリサが良くてもみんなはダメなの。ごめんね」

 

「ふぇぇ・・・」

 

泣きそうなマリサを撫でて何とか宥めようとする。

こ、ここで私が折れたらダメだ。い、いくらマリサが可愛いって言っても、ここで折れて行ったらダメなんだっ・・・

 

「あっ、それならちょうどいい所があるぜ!」

 

「ちょうどいい所?」

 

「ついてくるのぜ!」

 

そう言いながら、マリサは洞窟から出ていった・・・。

幸いまた曇り始めたから。私でも動くことができるようになるだろう。できるだけ近いところがいいけど。

 


 

「ついたのぜ!」

 

歩いて1時間ほど、息を切らせている私たちとは裏腹にマリサが元気よく森の入口を指さす。

 

「あ、あそこが、いいところなの?」

 

「そうなんだぜ!あそこは魔法の森って言って、誰も近寄らない場所なんだぜ!」

 

誰も近寄らない・・・それなら確かに隠れるにはうってつけの場所だ。でも、そろそろ夕方のはず。辺りが結構暗くなってきた。

 

「むかし、探検したんだけど、なかにふるいおうちがあるから、そこにすむといいぜ!ほんとうは、そこまで案内したいけれど・・・はい、これ!!」

 

マリサが、ぽけっとから古ぼけた地図を取り出して私に渡してくる。受け取って、その地図を開いてみると・・・子供が書いたとは思えないような精巧な地図がそこにあった。

 

「!・・・ありがとう、マリサ。お礼に、はいこれ。」

 

ポケットの中に入れて置いたとあるものを取り出す。

渡したものは紙の切れ端だけど、魔力を込めれば誰でもレーヴァテインを展開できる紙切れだ。

 

「だぜ?なんなんだぜこれ?」

 

「いつか、魔法が使えるようになったら、それに力を送ってみて?私からの贈り物だから。 」

 

「ぜぜ!わかったのぜ!!」

 

渡した紙切れを大事そうにポケットにしまい込むマリサ。

多分だけど、もう会わないような気がする・・・お姉様みたいに運命を知ることができるってわけじゃないけど。

 

「じゃぁ、フランお姉さん!”また”な!!」

 

「っ・・・うん、マリサ。また、ね。」

 

それを合図にマリサが来た道を走って引き返してゆく。

 

「・・・いいんすか?もう会わないと思うんスけど。」

 

「いいの、さっきまで私もそう思ってたけど。また合いそうな気がするし。」

 

まあ、ただの直感なんだけどね・・・

でも、

 

「結構、あの子が色々と変えてくれると思うなー。」

 

「変なフランお嬢様っすね。レミリアお嬢様見たいっすよ?」

 

「妹様ですから」

 

ドヤ顔をキメつつ、私とアンナはマリサから受け取った地図を頼りに魔法の森に入ってゆくのであった。

 





ロリ魔理沙が言っていた古ぼけた家というのは、霧雨魔法店の家で間違いないです。

そしてロリ魔理沙に強化イベントが発生しましたね。
ちなみにフランはその紙切れがなくともレーヴァテインを展開することは出来ます。


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霧雨魔法店ではなくフランドールの隠れ家

夕方で、まだ明るかった森もすっかり暗くなった夜。

明らかに不気味なキノコや、見てるだけでも気分が悪くなりそうな植物が鬱蒼と生い茂っている。

 

「うへぇ。ここ、いるだけで毒じゃないっすか。ぐふっ。」

 

あっ、アンナが見た目だけで毒と分かりそうな植物に触って死んだ!

 

「んー、私的には快適だけど。」

 

「マジっすか?いやまあ吸血鬼のイメージ的にはあってますけど・・。」

 

「んー、なんて言えばいいかな。魔力が満ち溢れる〜って感じ」

 

そう、私がこの森に入ってからアンナが死にまくっている影で、私はとても生き生きしている。

気になって、少しだけ魔力感知を使ってみる。

 

「うっわ、なにこれすご。」

 

「どうしたんっすか?」

 

「この森の空気中に含まれている魔力がとっても濃いよ!元々の場所で、魔力が濃いって言われてたけど、その10倍ぐらいは・・・」

 

「つまりどういうことっすか?」

 

「マリアの言い方を借りるなら1000パチュリーぐらいは余裕かもしれないってレベル。」

 

「マジでやばいっすねここ!!」

 

私が例えたことを理解したのかアンナも驚きの声をあげる。

故郷から遠く離れた場所。しかも、こんなに鬱蒼と魔法植物が生えてるんじゃぁ当たり前かもしれない。それに、魔力を使うことの出来る人がいないから、尚更ここには魔力が貯まりやすいのだろう。

 

「つまり、魔術師や魔法使いにとってここはとんでもなく良物件ってことっすか?」

 

「私はパチュリーぐらい魔法に明るいってわけじゃないけど、たぶんパチュリーがついてきてたら大興奮するぐらいだと思う。」

 

「あのクールなパチュリーさんがってレベルっすか・・・。」

 

呆れた表情をしながら先頭を歩き植物をロングソードで切り開いてくれるアンナ。

 

「ふぉぉぉおおおっ、あへぇ・・・」

 

急に体を震わせたと思ったら、良い子には見せられない顔になって死んだ!?

 


 

「ふぅ、ふぅ・・・や、やっと見つけたっす。」

 

あれからかなり森の奥へと探索した結果、恐らくマリサが言っていたであろう壊れて古ぼけた家を見つけた。

 

「所々壊れて腐ってますけど・・・それも外観だけっすね。家の骨や土台は無事みたいっす。」

 

「さすがアンナ。見ただけでわかるの?」

 

「伊達にマリア並に副メイド長をやってる訳じゃないってことっすよ。」

 

そう言いながら、アンナは扉を引く。

ギギギィと嫌な音を鳴らしながらも、その家の内部を私たちにさらけ出す。

埃が大量に溜まっていて・・・マリアが見れば卒倒しそうなほどに散らかっていた。

 

「うわぁ・・・こりゃひどいっすねぇ。」

 

「マリアが卒倒しそうだけどね。」

 

「いーや、マリアは絶対卒倒したはずっすよ」

 

さて、掃除っす!!その元気な掛け声をあげ、どこからか箒を取り出したアンナ。

・・・どこから取り出したんだあの箒。

 

「フランお嬢様はしばらく待っていてほしいっす。掃除だけなら10分で終わらせますから!!」

 

「えっ、逆に10分で終わるの!?」

 

「人が居るなら修理込みで3分もかからないんっすけどね・・・」

 

「流石マリアのメイド隊・・・」

 

こうしてみて、マリアの教育が素晴らしくそしてそのメイドたちもかなり優秀ということが再確認できた。

・・・やっぱり、紅魔館にはマリアが必要なんだな・・・お姉さまたちの為にも、私たちの為にも・・・そして咲夜にも・・・



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それから数日、そして不思議な幻夢


なんだか読者の空気が不完全燃焼で終わってるけど・・・後日談がまだあるぞい。
それに”曇らせ表現多数”っていうのも忘れてないかい?




 

あれから、この魔法の森の古ぼけた家を拠点にあれこれ調べ回ってみた。

何というか、どうやら八雲 紫はおおよそ3か月前から急に言動と行動がおかしくなり始めたらしい。

 

私が日傘をさしてマリアの事とは無関係、そして私たちとも中立の関係をとってくれている妖怪たちに聞きまわったから確かな情報だ。

 

しかもとある妖怪の話では、「あれはたしかに八雲なんだか、何かがおかしい」とのこと。

その妖怪は”見分ける程度の能力”と呼ばれる能力を持っていて、おかしくなった時に見たのだが、どうも前とは違って存在があやふやだったそうだ。

 

「・・・どういうことっすかねぇ?」

 

「どうもこうも、三ヵ月前から八雲 紫は頭がおかしくなっていた。幻想郷の管理はそのままだが、人里の意見を多く取り入れるようになっていたっていう証言と、人里の長に対してヘコヘコしていたのを見たって言うのが一つ・・・」

 

「謎が謎を呼ぶってこういうことを言うんすね。マリアならとっくの昔に解決してそうっすけど。」

 

「そのマリアを殺したのが、こいつら。」

 

無理を言って似顔絵を描いてもらったが、似顔絵だけでも見るからに悪そうという雰囲気が伝わってくる。

どっちかって言うと、人を食ってたり無理難題を試練と称して押し付けたりしてそうな奴らが数体。妖怪と趣味の悪い神共の似顔絵だ。

 

「だけど、マリアが殺していなかった唯一の生き残りの証言では・・・」

 

「”八雲 紫との密談で、襲撃するという約束をした”ってことっすね。」

 

アンナが殺気立って目が紅くなる。

 

「ステイステイ、まだそうと決まったわけじゃない。その生き残りの嘘かもしれないからね。」

 

「・・・」

 

殺気は収めてくれるが、どうもイラ立っているようだ。

 

「そういえば、紅魔館から逃げ出してきたメイドたちとかはどうなの?」

 

話題転換でそんな話を振ってみる。

アンナは、あっそうっすねという感じで反応を示し。

 

「このまま解雇も可愛そうなので、この屋敷の周辺に建物を建ててるっす。」

 

「・・・ここ、全部終わったら綺麗にして放棄するつもりだったんだけど。」

 

「しょうがないっすよ。紅魔館があんな調子なんっすから。」

 

逃げてきたメイドが言うに、今現在の紅魔館は丸で戦場最前線の軍事要塞の様にピリピリとしているらしい。

狼女たちが武器を持って走り回り、明らかに不機嫌そうな美鈴がただ中庭で鍛錬し続け、パチュリーに至っては、デキもしない”死者復活の魔法”を完成させようと躍起になっているとのことだ。

 

・・・お姉さまに至っては言わずもがな。

狂ったような言動をしては、マリアのお墓の前でずっとお祈りをささげているらしい。

 

「・・・はぁ。」

 

「やっぱり、許せないっすね。不当に、そして理不尽にマリアを奪ったこの場所が・・・」

 

強く握っている握りこぶしから、血が零れ落ちる。

・・・お姉さまや咲夜も辛くて悲しい思いをしているけど、それと同じぐらい悲しくてやりきれない感情を抱えているアンナ。

もしあの時、アンナが先遣隊を率いていってくれたなら・・・

 

私も、そう考えられずにはいられないのであった。

 


 

「■■■■■■■■■■■■。」

 

頭が、割れるように痛い・・・

 

「■■■■■■■■■■■■。」

 

圧縮された、言語が・・・情報が、頭を駆け巡る。

”コレ”を理解するな・・・したら、死ぬ!!

 

そう思い、私は足に力を込めてレーヴァテインを突き出す。

が、手に持っている■■■■■で弾き飛ばされ、腕を折られる。

 

「があああああっ!?」

 

「■■■■■■■■■■■■?」

 

「黙れ!!その顔で、その声で・・・!しゃべるなぁッ!!」

 

隣をチラリとみてみれば、血だらけのお姉さまが・・・

両方の足を折られており、もう立ち上がることすらできないだろう。

・・・ああ。

 

「■■■■■■■■■■■■。」

 

もう、おしまいだ。

 


 

「はぁっ!?」

 

目が覚めて飛び起きる。

悪魔や吸血鬼は基本的に夢を見ないと言われているが、私はついさっき変な夢を見た。

モザイクががった存在に、私とお姉さまが殺されるという夢だ。

 

「な・・・なんなの・・・」

 

冷や汗を拭いながら、テーブルを見てみる。

・・・そういえば、情報の整理中に寝落ちしてしまったんだっけ。

この私にかけられているブランケットを見るに、どうやらアンナがかけてくれたものらしい。

 

「・・・・・・これから、どうなるんだろう。」

 

再び横になり、見慣れない天井を眺めながら・・・そうぽつんとつぶやいた。

 



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最悪の運命の少し前

「はぁ・・・はぁ・・・」

 

私は、片膝を付いて目の前で薄気味悪い笑みを浮かべている”八雲 紫”を睨む。

 

「もう終わりなのかしら?ほら、さっさと立ち上がって抵抗ぐらいしたらどうなのですか?」

 

「うる・・・さいっ!!この、ニセモノ!」

 

いや、正確には八雲 紫の影から飛び出している化け物を見て睨んでいる。

 

・・・事の始まりはほんの数分前。

 


 

「こんにちは、フランドールさん。」

 

「・・・八雲 紫」

 

あちこち調べ回った地図が置いてあるリビングに唐突に八雲 紫が現れる。

薄気味悪い笑みを浮かべながら机の上に散乱しているものを眺めている。

 

「・・・協定では、あの妖精メイドのことは追及しない、そのはずでしたが?」

 

「それは、紅魔館と結んだ協定の事、私個人では関係ないことのはずです。」

 

「貴女も、紅魔館の一員のはず。」

 

「追い出されたので関係はありませんね。」

 

どうやら、あちこち調べ回ったことを罰として何かをしたいらしい。

さっきから、どうやって私に罪を追及させようかと目線を泳がせ続けている。

 

「ならば、何をお調べになって?私、貴女方の文字が読めるというわけではないの。」

 

メモ帳と走り書きを母国語で書いておいてよかった。

もしこっちの言葉だったりしたら終わりだった・・・。

 

「この幻想郷についていろいろと、地理や妖怪組織について調べるのは当たり前でしょう?」

 

「・・・なるほど、道理ですね。しかし・・・」

 

「こちらは?」

 

「っ。」

 

厳重に隠しておいた”マリアの死に関する資料と関係者の似顔絵”が八雲 紫の手元にある。

あれは、アンナに頼んでここに落ちていた金庫に入れといてあったはずなんだけど・・・

 

「やはり、調べていましたね?」

 

「・・・ええ、私個人として調べていましたが?」

 

「確かに、今の貴女は紅魔館から追い出され、協定の範疇から外れているとも言えましょう。」

 

「それなら、マリアの死を調べても何ら」

 

「ですが、調べてしまった以上。協定は破棄・・・ここで処分させてもらいます」

 

その言葉を聞いて、バックステップで大急ぎで家からでる。

そして、レーヴァテインを抜剣し・・・構えて八雲 紫をにらみつける。

 

・・・先ほどまで私がいた場所が、丸々と何かに削られている。

 

「強引っ!強引な女は嫌われるよっ!!」

 

「あはは、精々足搔きなさい。蝙蝠風情が・・・」

 

大量の不気味な裂け目ができたと思うと、そこから大量の妖力弾が発射されてくる。

当たりそうなものだけレーヴァテインで相殺するが・・・量が異常に多い。

 

「そして、貴女も。」

 

ガキィン!

 

「なっ、完璧に気配を消したのに!?」

 

いつもの「っす」口調じゃないアンナが焦りながら距離をとる。

・・・参ったな、今のでやれないんじゃぁ。ヤバいかもしれない。

 

「人間風情が、私には向かおうというのですか?」

 

「副メイド長を舐めないでもらいましょうか。」

 

アンナの目が紅く光って、背中に手を回したと思ったら、大量のブロードソードが指と指の間に掴まれていた。

それを叫び声も上げずに、軽々と八雲 紫に投げつけたと思ったら・・・今度はロングソードを取り出して、突撃しだす。

 

「残念、ボッシュート。」

 

「うあああああぁぁぁぁぁぁァァァァァァァァ・・・・」

 

しかし、次の瞬間にはアンナの足元にあの不気味な裂け目が現れて、突撃していたアンナがそれに落ちていった。

やがて悲鳴が聞こえなくなり、八雲 紫は何事もなかったかのようにこっちを見た。

 

「さあ、逃げまどいなさい」

 

「ちぃっ!!」

 


 

そして冒頭に戻る。

あれからというもの、私はレーヴァテインで大量に飛んでくる妖力弾を弾くか相殺するかしかできず。

八雲 紫に押し込まれていた・・・

 

流石の体力ももう限界ギリギリで、正直立とうとしても足に力が入らない。

その最中でしびれを切らしたのか八雲 紫の影から、変な化け物が出ているし・・・

 

「なるほど、アンタが八雲 紫を操ってるってわけ?」

 

「いーや、私はこのババアを乗っ取ったのさ!!」

 

「三ヵ月前から?」

 

「なんだ、そこまで調べたのかよ。めんどくせぇな。」

 

首だけ出ている影の化け物は、やれやれといった感じで出てくる。

 

「ああ、そうさ。事の始まりは三ヵ月前さ、八雲の式の式の影に潜むのも一苦労だったぜぇ?」

 

(なるほど、ヤクモノシキノシキとかいう奴の影に潜んだ後、八雲 紫の影に入り込んだってことか・・・)

 

ソイツは私が聞いたわけでもないのに面白いようにベラベラとしゃべってくれる。

この幻想郷を、人間と妖怪の共存のための場所・・・ではなく、人間を飼育し妖怪達だけの繁栄の地に変えたい様で・・・

そのためには、幻想郷をほぼ総括で管理している八雲 紫を操る必要があった。

しかし、八雲 紫は尋常じゃないほどの警戒心と徹底した自己防衛管理により、どんな呪術だろうが能力だろうがすべて無効化されていた。

だからこそ、こいつは思いついた。直接操ればいいと。

 

「影とは魂、魂とは影!!斬っても切れない関係の物さえ操れば!!この通りよ!!」

 

ソイツの叫びと同時に八雲 紫の体が動いて私に巨大な妖力弾を撃ってくる。

さすがにこれは、レーヴァテインで弾けないので避けると・・・

 

「なっ・・・こ、これって・・・」

 

十字架につながれた鎖が私の腕をとらえていた。

 

「調べるのにも苦労したぜ?吸血鬼には十字架が効くらしいなぁッ!!」

 

 

(・・・いや、確かに十字架って聖遺物とかに例えられるけど・・・吸血鬼に効くってわけじゃないんだよなぁ。)

 

あくまで吸血鬼は、祝福が施されたものが苦手なだけで、銀やニンニクはあくまで吸血鬼個人の好き嫌いに分かれている。

流水と日光だけはマジでダメなんだけどね・・・

まあこんな見かけ騙しの十字架なんてパワーでちぎりさえすれば!!

 

「こんのっ!!」

 

あ、あれ?おかしいな・・・”鎖がちぎれない”。

いや、そんなはずはない。吸血鬼のパワーさえあればこんなほっそい鎖なんて!!

 

「な、なんで!?」

 

「残念だったなぁッ!そいつは、鬼さえちぎれないと言われている特別な鎖だ!!八雲紫の隙間にあったから使わせてもらったぜぇっ!!」

 

お、鬼?いや、一応吸血”鬼”だから間違っちゃいないけど・・・

けれど、そんな・・・

 

「れ、れーヴぁてい!?」

 

レーヴァテインを使って鎖を焼き切ろうとしたけれど・・・

もう片方の腕にもその鎖が巻き付く、やがて足首にその鎖が巻き付き始め、私は十字架に縛り付けられてしまった。

 

「はははっ!!いい格好だなぁッ!!」

 

「やめろ、時間をかけすぎだ。」

 

・・・森の奥から、一人の男が現れる。

見慣れないけれど、確か・・・

 

「どうして、人里の長がここに?」

 

私がそう問いかけると、その男は、「ふん」と不機嫌そうにするのであった。





この次のお話でフランドール編は終わりになります。
色々やるって?


正直すまんかった。
色々やるとは言ったけどプロットでは魔理沙強化イベントしかなかったの忘れてたんや・・・下手に入れるとせっかくのシーンがダレるんや・・・ゆるして・・・ゆるして・・・


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マリアの存在は

 

「・・・一つ、聞きたいことがあるの」

 

もうこの際、どうして人里の長がそこにいるのか~とか。

どうして幻想郷を支配しようと目論んだのか~とか、しばりつけたあの影野郎はぶん殴る~とか、もはやどうでもいいぐらいだった。

 

「なんだクソガキ。言ってみろ。」

 

「・・・どうして、マリアを殺したの?」

 

「まりあ?・・・あぁ、あの妖精のことか。あやつはかつて、この幻想郷の者だ。」

 

「・・・・・・は?」

 

どういうことだろう。いや、お姉さまも洞窟にいたから拾ってきたって言ってたけど・・・

・・・何となくだが、つかめてきた。

 

「まさか、邪魔だから飛ばした・・・とか?」

 

「ほぉ、クソガキにしては冴えた頭じゃないか。」

 

厭味ったらしく笑いながら拍手をしてくるそのにんげ・・・いや、妖怪。

なるほど、その時から幻想郷を支配する目論見が進んでいたわけだ。

 

「アレは、この幻想郷における龍脈の管理者。各地の力を制御し、そして維持する役目にあった。」

 

リュウミャク?私たちにとっての魔力と言う事だろうか・・・

いや恐らくそういうことだろう。こいつの言い方からしてそうだ。

 

「その力を奪うがために、必死に探したが・・・アレは自分が作り出した空間に閉じこもって出てこないとんでもない奴だった。」

 

いや、リュウミャク・・・てか魔力の流れを管理しているならそりゃ、隠れるに決まってるじゃん。なに言ってんだこいつ。って、そんなことを考えている暇はなかった。

 

「でも、飛ばした。それで、戻ってきた。」

 

「・・・ああ、忌々しいことにな。だが、どうやら記憶は戻っていなかったようだ。かつての威厳と無駄に偉そうな態度はどこへやら・・・・・・そして、厄介なことに今度は神性を携えて戻ってきおった。」

 

「しん・・・せい?神様みたいな力を持ってたってこと!?」

 

いや、マリアがそんな力を持つこと自体は心当たりがある。

近隣の村や町に足を運んでは困っていることを解決していたマリア・・・それで仮に崇められていたとしたならば、それは確かにそんな力を持つに決まっている。

 

「あのままでは、その神力に耐えきれるわけがない。暴発するに決まっている、ワシの幻想郷を吹き飛ばされてはたまらんのでなぁ・・・殺した。」

 

つまり・・・

 

「タダジャマダカラコロシタダケカ!!」

 

抑えていた狂気が、あふれ出す。

しかし、狂気の力をもってしても・・・この鎖が引きちぎれることはなかった。

 

「邪魔?しかし、貴様らにとっても都合の悪い話じゃぁないだろうが。」

 

ガシッと髪の毛を捕まれる。

その痛みが、狂気をさらに暴れさせるが・・・それでも鎖が引きちぎれない。

 

「あのままでは、貴様の言う”まりあ”は存在を塗りつぶされ、暴走し・・・この幻想郷を吹き飛ばすどころか、貴様らを殺すかもしれない存在だったのじゃぞ?」

 

・・・・・・え?

 

「どういう・・・こと?」

 

理解が、及ばない。

マリアが、私たちを・・・紅魔館の皆を・・・殺す?

 

う、うそだ・・・そんなことはあり得ない。

マリアが、私たちを殺すはずがない・・・

 

「嘘だ。そう思うか?貴様は知っているのだろう?暴走の果てを」

 

「ひぅっ・・・」

 

首を掴まれ、変な声が出てしまう。

そして、その男が言ったことが理解できてしまう。

おそらく、こいつの言う暴走というのは私の狂気と似たようなものだろう。

感情そのもの、知性がある妖怪たちが心の奥底にしまい込んでいる凶暴性。

 

・・・それを理解して、私は・・・

 

「そんなの・・・・・・うそ・・・だよ。」

 

絶望に折れること・・・ただそれだけしかできなかった。

 

だって、マリアは優しくて・・・暖かくて・・・

でも怒るととても怖くて・・・・・・でも、でもでも

 

「うそ・・・・・・だ・・・」

 

目の前が、真っ暗になっていく。

・・・私まで、私まで折れたら・・・誰が、誰がマリアの・・・マリアの・・・

 

アレ?マリアは、イキテイルハズナノニ・・・

 

ドウシテワタシハ、死んでいるって勘違いをしてたんだろう。

 

あぁ、でも眠いや・・・今は寝てしまおう。

お休み・・・マリア・・・





そのあとの展開は、レミリア編の”死闘”通りです。
はい・・・フラン編はもうおしまい。



後日談へと続きます・・・


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幻想郷で始まった地獄
後日談 その1


後日談は3話ぐらいで終わりますよ。

ちなみに後日談の視点は、副メイド長視点となります。


あれから・・・まあ、たった2日しかたってない。

幻想郷の支配を企てた”ぬらりひょん”とその部下たちは、マリアと、そしてレミリアお嬢様方により・・・すべてが死んだ。

 

そのため、幻想郷には圧倒無敵のハッピーエンドが訪れる!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・まあ、そんな話はどこにもなかった。

 

まず初めに言うと、紅魔館は”吸血鬼異変”が起きる前よりも酷い状態となっている。

 

 

まず、レミリアお嬢様についてだ。

 

レミリアお嬢様については、まだましな方だ。

マリアが死んだと理解し、ちょっとずつでも前に進もうとしている。

けれど、その一歩はとても弱々しく・・・最近ではまともに起きてくることも少なくなってきている。

 

・・・大好物のキャロットカップケーキなんかは・・・マリアが作った物以外は受け付けないとまで。そう言いながら、もう10日も飲食をしていない。

 

日に日に弱り果てていくレミリアお嬢様を見てみると・・・とても物悲しくなる。

 

 

次に、フランドールお嬢様。

 

私が、アイツに落とされた後、何があったのかは知らないが・・・

目が完全に黒く濁ってしまった、前までの明るい性格とは裏腹に一日をボーっと過ごしていると思いきや、壁に向かってマリアとの会話を壊れた蓄音機みたいに何回も何回も何回も何回も繰り返している。

 

「今日は、お勉強頑張ったよ!だからほめて!」とか「マリアー!このお人形!はじめて壊さずに作れたの!!」やらはまだいい・・・

 

「マリアっ・・・すき。だいすきっ。愛してるっ」なんて言葉を聞いたときは・・・

 

もはや、私たちのよく知るフランドールお嬢様はどこにもおらず。

今は隔離の為にヴワル魔法図書館の奥に作った地下部屋に閉じ込めている。

 

 

・・・3番目に、咲夜ちゃんっす。

 

咲夜ちゃんは・・・なんというか、薄気味悪くなった。

髪の毛はぼさぼさで、あの綺麗だった銀髪もくすんで、ピシッとしていたメイド服なんかは・・・ボロボロで、マリアとお揃いにしていたであろう手袋を抱きしめては、マリアの私室に閉じこもって、ずっとずっとすすり泣いているだけ。

 

幸い監視を任せたメイドによれば、ちゃんとご飯を食べてくれているようで・・・レミリアお嬢様とフランドールお嬢様よりかはまだましだった。

 

 

そして、紅魔館の門番である・・・美鈴さん。

 

美鈴さんは何というか、以前より自分を大切にしなくなった。

落ち着いた狼女たちの話では、もうあの日からずっと寝ていないとのことだ。

・・・食事も最低限の物しかとらずに、空いた時間があれば中庭で鍛錬しているという。

雨の日も、風の日も・・・そして今も続けている。

 

もう、護るものさえズタボロで・・・護りきれなかった自責の念か・・・一度、倒れたとき・・・ただひたすらに「ごめんなさい」とうなされていた。

 

 

パチュリーさんも、終わったとはいえ・・・

 

パチュリーさんは、あれからというもの運動する時間も食事する時間もすべて投げ捨てて、”死者復活の魔法”を追い求めている。それも、狂ったようにだ。

ただひたすらに、完全無欠の魔導書と言われている魔導書を一つ一つのページを読み漁り・・・なければページを破いて捨てて・・・

 

その魔導書も、レミリアお嬢様が拾ってきてマリアが形状記憶の魔法をかけていたからページが回復して・・・また読んだページを読み返しての繰り返し・・・

 

小悪魔さんだけは、そんなパチュリーさんを心配していたけど・・・

何もできることはない、今は好きにさせていいと伝えると、どこか不満げに頷いてくれた。

 

 

・・・・・・そして紅魔館の住民ではないが、八雲 紫もだ。

 

八雲 紫は、どうやら・・・かなり深い部分まで乗っ取られてしまっていたようだ。

あれ以来、八雲 紫が起きる気配はない。

 

八雲 紫の式であるという”八雲 藍”の話では、式神の主従関係が解除されているとのことだ・・・どうやら、あの影の野郎は魂に結び付いたらしい。

魂に結び付いたソイツを八雲 紫の影から引っ張り出した私のせいだと頭を下げると、八雲 藍は何もせず、何も言わずに背を向けて私を紅魔館へと送り返した。

 

・・・後から聞いた話だが、八雲 紫は今後一切・・・奇跡でも起きない限り目を覚ますことはないという事、そして八雲 紫がそんな調子なので・・・おそらく近い将来、いつになるかは分からないが・・・幻想郷を覆う”博麗大結界”と呼ばれるものが崩壊するとのことだ・・・

 

 

 

 

 

・・・紅魔館も大変になったのだが、幻想郷もこれまた大変だった。

 

今まで八雲 紫が居たことによる平穏が、八雲紫が行動不能になったということで、ただでさえ引火前の爆弾だったというのに、引火してしまい爆発した。

今や幻想郷のあちこちでは、妖怪組織と妖怪組織が血を血で洗う大戦争を起こしている。

そこで動いたのが、”博麗の巫女”と呼ばれる存在だ。

 

拳一つで数々の妖怪と争いをちぎっては投げちぎっては投げ・・・

正直に言えば、彼女が出張っていれば・・・吸血鬼異変も簡単に終わったんじゃないかと思うぐらいだ。

 

しかし、彼女はそれを聞いて・・・ただ一言「すまない。」とだけ言い、帰っていった。

 

 

そして人里も、いきなり長が居なくなったからか・・・

人里も人里で大混乱、元々抑えられていた人々が次の長の座を奪おうと、我こそは我こそはと、外で妖怪たちが大戦争を起こしているというのに呑気にそんなことをしだしていたのだ。

 

 

 

・・・あの時、私が行くと言っていれば。

こんなことにはならなかったのかもしれない。



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後日談その2

目が覚める、相変わらずの私の私室だ。

 

「副メイド長、おはようございます。朝食はすでに用意できています」

 

すかさず声をかけてくるのはなんだか、久々に見る気がする副メイド長補佐。役職と肩書きはそのままだが、メイド長は死亡、メイド長補佐・・・咲夜ちゃんも行動不能で事実上私がメイド長代理、副メイド長補佐がメイド長補佐代理を務めている。

 

「ありがとう・・・今日のレミリアお嬢様とメイド長代理は?」

 

「レミリアお嬢様は12日ぶりのお食事を、メイド長代・・・咲夜ちゃんは、メイドちょ・・・マリア様の部屋です。」

 

レミリアお嬢様が久々に食事をとったっていうのは、嬉しい報告だ。

 

「分ったわ、朝食を食べてから合流します。先に業務を開始して。」

 

「・・・」

 

「・・・悪い知らせ?」

 

行くように促したが、副メイド長補佐が悔しそうな顔で顔を伏せる。

 

「美鈴様がまた倒れて、パチュリー様の喘息がまた悪化。美鈴様はベットに拘束して無理やりに休息を取らせて、パチュリー様は現在地ヴワルの司書全員で治療中です。」

 

また状況が悪化した。

美鈴が倒れるのは今週に入って早4回目。パチュリーに至っては今月で3回目の喘息の悪化だ。

 

「はぁ・・・こっちの身にもなって欲しいわね。」

 

「っ・・・」

 

思わず零してしまった愚痴に副メイド長補佐がビクつく

 

「ごめんなさい、ちょっといらっしゃい。」

 

「はいっ・・・」

 

私がそう言うといなや、副メイド長補佐はダッシュで私に飛びついた。頭を撫でてあげると、小さく泣く声が聞こえてきた。

 

「わたしは、わたしはなにもできません!!こんなことになるならば・・・こんなことになるならば!!」

 

副メイド長補佐も、それなりにマリアに懐いていた。

だからこそ、直接的な力にはなれなくても間接的にマリアの助けになる”副メイド長補佐”を買ってでたのだ。

だからこそだろう、今この状況が、今の私たちでは現状維持すら難しい状態が、とてもとても悔しいのだ。

 

「とりあえず、貴女も今日は休みなさい。3週間前から働き詰めでしょう?」

 

「そ、そんなの5週間も働き詰めの副メイド長と比べれば!」

 

「だめ、私も貴女の事を言えないけど。しっかりと休みなさい。今まともに動けるのは、私たちメイド隊と狼女たちしかいないの。それを統括する私たちまでが倒れたら大変なのよ?」

 

軽く、優しく叱りつけると・・・副メイド長補佐は観念したかのように弱々しい声で、はい。と言って・・・そのまま眠ってしまった。

 

「いい子。」

 

そっと、副メイド長補佐を私のベットに入れて、ブランケットをかけてあげる。

 

「さてと、今日も一日頑張るっすよ!」

 

働かない頭を無理やり切りかえていつもの口調を使う。

今紅魔館がめちゃくちゃな今、アタシが頑張らないとすぐに砕け散ってしまうっす。

 

だからこそ、

 

「マリア、見ててくれっす。かならず、私はあの頃の紅魔館を取り戻してみせるっす。」

 

それが何年かかろうが、何百年かかろうが。

私にはもう生命の枷など無い、だからこそ、ゆっくり、気長に、だけどちょっと慌てつつ。ゆっくりとでもこの状況を何とかしよう。

 

 





紅魔館最後の希望”副メイド長 アンナ・ゲールマン”
彼女は決して折れない、そして最後まで希望を信じた女性であった。








・・・なんか死にそうなフラグ立ってるけど。
副メイド長は死なんぞ。マジで。

(副メイド長の不老不死としては、自身を生命の石を使って地球の生命サイクルから完全に離脱し人間を辞めたその時の姿をアンナと完全に同化している生命の石がその姿かたち記憶を常に保存、それこそ心臓が止まろうが存在を消されようが死亡もしくは消滅直前に保存したアンナを再現しているため、心臓が穿たれようが脳が潰されようが魂が消されようが何をしてもアンナが復活する仕組みである。ちなみに本人は死んだとは知覚しているため経験を糧にできるというチートである。)


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後日談その3

今日は、珍しくあまり忙しくない日。

メイド隊だけでなく狼女たちも張り切って業務をしてくれたおかげで、紅魔館全体の作業がかなり早く終わった。

 

そのため私は、部下たちだけの報告だけではなく、この私自身の目でみんなを見ることにした。

 


 

フランドール・スカーレット。

 

かつて、この紅魔館のムードメーカーでありこの紅魔館の中でもずば抜けて明るかった彼女。

それが今では、光も届かない地下の特別室に押し込まれている。

 

「ねーマリアー。今日は、何をする?」

 

どうやら今日は、久々に意識(?)が覚醒しているみたいだ。

壁にいると思われる”マリア”に視線を向けて、会話続けている。

・・・私はそれを、ただ黙ってみている。

 

この状態のフラン様は本当に気が触れている。

話しかけようものなら、速攻で頭を『キュッとしてドカーン』されるのだ。

何度か私がこの状態のフラン様に話しかけたのだが即爆殺されては満足するまで破壊され続けていた。

 

「えーっ、それはもう飽きたー!えっほんと!?じゃあがんばる!!」

 

そういうが、彼女の体は何も行動を起こさない。

 

(壊れてる・・・)

 

そう、完全に壊れてしまっている。

何がどうなって、こう壊れてしまったのかは分からない。

だけど、きっとそれはフラン様がこうなるほどの否定しがたいことだったのだろう。

 

・・・私は、できるだけ物音を建てずにフラン様の特別室を出るのであった。

 

「・・・?マリア、今、誰かいた?ううん!気のせいだったみたい!!」

 


 

十六夜 咲夜。

 

・・・マリアの唯一の娘であり、この紅魔館の最も・・・完璧で瀟洒なメイドだった娘。

そんな娘が、ただマリアの部屋の快適そうな椅子に座って、マリアがしていたであろう手袋を抱きかかえながらただ何もせずに座っていた。

 

「咲夜ちゃん、気分は・・・大丈夫じゃなさそうっすね。」

 

「・・・アンナお姉ちゃん。」

 

そんな咲夜ちゃんも、私だけに反応してくれる。

外見が似ているということもあり私と咲夜ちゃんはある意味では姉妹のような関係だった。

一緒にふざけてマリアのお説教を食らったことがあったし、一緒にマリアにサプライズや感謝の言葉を贈ったことがあった。

・・・いつの間にか、本当にお姉ちゃん呼びが固定されたときは驚いたなぁ。あの時マリアは、「本当に私の娘になる?」って言ってたし・・

 

「お仕事は・・・もういいの?」

 

「今日は、みんな頑張ってくれたっす。だから早く終わって・・・今は咲夜ちゃんの様子を見に来たっす。」

 

そう言いながら近づいて頭を優しく撫でてあげる。

身じろぎも抵抗もなく、ただそれを受け入れている咲夜ちゃん。

 

「お母様とマリアお姉ちゃんは、始めて会ったときとっても怖かった。」

 

「そうっすねぇ、そんなこともあったっす。」

 

咲夜ちゃんが教会の刺客として送られ、私とマリアと戦ったあの時。

 

「紅魔館に受け入れられて、とっても暖かくて・・・安心した。」

 

あの時は大変だった、みんながみんな咲夜ちゃんの警戒心を解こうと時間と暇を見つけてはマリアに好きな物とか聞いて・・・

最期には、咲夜ちゃんを中心としたパーティーが毎日のように起きてたってけ・・・それでマリアがしかりつけるまでがワンセット。

 

「お母様に抱きしめられたとき・・・あぁ、これが幸せなんだって実感した。」

 

咲夜ちゃんは・・・マリアが生きていて、咲夜ちゃんが成長してもずっとマリアとハグすることが好きだった。

それも、不器用な愛情表現って言う事は紅魔館全員が知っていたのでほっこりした表情で見ていたことも多かった。

それでバレて見つかったときは、顔を真っ赤にした咲夜ちゃんに追いかけまわされたっすねぇ・・・

 

 

「でも、でもっ・・・」

 

ボロボロと、また咲夜ちゃんの瞳から大粒の涙がこぼれだす。

 

「もう、あの頃の紅魔館はないっ・・・あの頃のお母様は・・・もういないっ。いないんだっ・・・」

 

悔しそうに歯を食いしばりながら、顔を伏せて涙を流す。

私はそれをただ相槌を打ちながら頭をなでることしかできなかった。

 

「どうして、どうしてお母様が死なねばならなかったのっ・・・どうして・・・・・・かえしてよぉ、まりあを・・・おかあさんをかえしてよぉっ!」

 

ついに大きな声をあげて泣き始めてしまった。

娘を失った母の心の傷は大きい・・・とはよく言うが、その逆も・・・母を失った娘の心の傷はこれまた大きかった。

 


 

紅 美鈴。

 

紅魔館を護る狼女たちの警備隊の隊長であり、紅魔館正門の門番だ。

そんな彼女は、ベットに無理やりに拘束されつつも、私をにらみつけている。

 

「美鈴、気分はどうっすか。」

 

「・・・最悪。せめて腕の拘束を外してくれない?暇で仕方なくって・・・」

 

「そう言ってこの前、拘束具を破壊して鍛錬してたの知ってるんですよ。」

 

私がそういうと、ばつが悪そうに顔をそむけた。

おそらくまた懲りずに鍛錬しようとしていたのだろう。

 

「はぁ・・・まったく、なんでまたぶっ倒れるまで鍛錬するんすか。」

 

「じゃあ私には何が残るというの!!」

 

急に怒りを爆発させ、こちらを睨みつける美鈴。

その怒気だけでも人を殺せそうだ。お生憎様で、私は死なないが。

 

「マリアさんを護れなかった時点で、私にはもう価値なんてない!!じゃあせめてもの残った紅魔館を守るために力をつけようとして、何が悪いんですか!!」

 

「その守るための力を得るために、ぶっ倒れてメイドたちの子たちや狼女たちに迷惑をかけるんすか?」

 

エンドテーブルの上に飾られている花瓶に刺された花を飾りなおしながらそう冷酷に言い捨てる。

その一言は、今の美鈴にひどく突き刺さる言葉だからだ。私に向けられていた人殺しができそうなオーラもなりを潜めていく。

 

「そ、それは・・・」

 

「・・・分かったでしょ。今の貴女は迷惑ばっかかけているってこと。だから、天井のシミでも数えながら体を休めて、気持ちと考えを整理なさい。」

 

しっかりと釘を刺しておいて腕の拘束具を解く。

 

「それと、そこのメイドにいえば暇つぶしにはちょうどいい小説を持ってこさせるから。絶対に鍛錬するんじゃないわよ。」

 

「・・・・・・ごめんなさい。」

 

「いいってことっすよ。」

 


 

パチュリー・ノーレッジ。

 

いつの間にか住み着いたって言われているけれど、その実は誰よりもレミリアお嬢様とマリアの恩を受けていた人物。

 

「こひゅーっ・・・こひゅーっ・・・」

 

そんなパチュリーは、天井を見上げながら過呼吸で苦しんでいる。

だけど、今日は随分と『軽い』みたいだ。

 

「調子はどうっすか?」

 

「あまりいいとは言えないわ。けれど、今までよりかはずっとましよ・・・」

 

こひゅーっと呼吸を続けながらそういう。

流石に何回も喘息に陥ったことがあるから、随分と落ち着いて大人しくしている。

どこぞの鍛錬馬鹿の門番とは大違いだ。

 

「・・・んで、まだ探してるんっすか?例の呪文」

 

「いいえ、死者使役の魔法しか見つからなかったから・・・書き換えて死者復活の呪文にしている最中・・・実験の結果は芳しくないわ。100匹に1匹のマウスが復活する程度・・・もっと精度を上げてと魔力消費量を抑えないと・・・」

 

むしろそこまでこぎつけた辺りやっぱり、パチュリーの天才加減がよくわかる。

・・・でもやっていることは、一番まともなのだが・・・一番目を離してはいけないのがこのパチュリーだ。

フランお嬢様も咲夜ちゃんも特定の場所に居るからまだいい、美鈴に至っては鍛錬する場所は複数個に分れているから面倒くさいが、また近場のため助かる。

だけどパチュリーの場合は、喘息を持っていつ倒れてもおかしくないというのにわざわざ材料集めや実験体収集に外に行こうとするから危なっかしいのだ。

 

「そうっすか・・・あんまり魔法に明るくないんで、応援しかできないっすけど。」

 

「・・・いいえ、応援だけでもうれしいわ。」

 

多分、パチュリー自身は迷惑をかけているということを理解しているのだろう。

他のメンバーが軒並みダメになっていることも知っていて、それでなお・・・

 

「私が・・・」

 

顔を伏せながら、パチュリーがポツリとつぶやく。

 

「私が、死者復活の魔法という前代未聞の魔法開発を成功させれば・・・魔法界の魔女の代表になれるでしょ・・・でも、今はそんなことどうでもいい。レミィの為にも、そしてマリアの為にも私は死者復活の魔法を作り上げる。そうすれば、紅魔館も何もかもが元通りなの・・・」

 

涙がぽろぽろと零れながら、そういうパチュリー。

 

「・・・分かってるっす。だけど、ちゃんと喘息を直しつつゆっくりと・・・」

 

「私のことなんてどうでもいい!!」

 

・・・多分、抑えていた感情なんだろう。

泣きながら、そう叫んだ。

 

「死者復活の魔法なんて、私でも作れるわけじゃないじゃない!!時間をかければいつかはできるかもしれないけど・・・でも、その間にレミリアは立ち直ってるの?咲夜は生きているの?美鈴は前を向いているの?フランは元通りになっているの?

そんな奇跡が起きるのを待つぐらいなら、私が必然に変える!!死者復活の魔法ができるわけがないっていうのは私が一番よくわかっている!!魔女学会に死者復活魔法の難易度の論文を提出したのは私よ!!

だからこそ、死者復活の難しさを一番よくわかってる私こそがやらないといけない!!レミィの為にも、紅魔館の為にも!!」

 

覚悟がこもった、まっすぐで歪んだ眼。

その眼を見て私は・・・

 

「・・・大丈夫っす、いつまででも待つっすから。慌てないで死者復活の魔法を作るっす。」

 

優しく、そういうしかなかった。

 


 

最後に、レミリア・スカーレット。

 

かつてこの紅魔館の中心人物であり、マリアを拾ってきた私たちの仕えるべき主でもある。

フランお嬢様とは違い、冷静でクールな印象もあったけれど子供っぽくてかわいらしい・・・そんな主だったのだが・・・今は、カーテンすら閉め切って薄暗い部屋に膝を抱えて丸くなっている。

 

「レミリアお嬢様、お気分はどうっすか?」

 

いつもの口調と雰囲気で近づき、ベッドのそばに立つ。

ピクリと腕が動いたと思ったら、頭が動いてこちらを見る。

 

「・・・あぁ、アンナね。まだ、いいとは言えないわ」

 

随分と弱った目だ。これでもまだ他の連中と比べてマシなんだから本当に腹立たしい。

よく見れば、蝙蝠の羽もボロボロになって細くなっている。

・・・やっぱり何日も食べない間が続くからか、ちょっとずつだけどやせ細っていってる。

 

「そうみたいっすね。あんまり無理しちゃだめっすよ?食べたくなくても、ちゃんと食べないと・・・」

 

「うん・・・・・・ごめんなさい。」

 

顔を伏せながら、そういうレミリアお嬢様。

・・・なんだか説教臭くなってるっすね。

こういう時のメンタルケアとしては最悪なんでしょうけど、あいにく私にはそんな方法しか思いつかない。

 

「・・・まあ、ゆっくりとレミリアお嬢様の好きにするといいっす。私たちはその判断に従うっすから。」

 

「ありがとう。」

 

あっ、顔をあげたと思ったらちょっとだけ笑ってくれた。

やっぱり、レミリアお嬢様が一番回復の予兆が速そうだ・・・

 

「ねえ、アンナ。」

 

「どうしたっすか?レミリアお嬢様」

 

抱えている膝を離して、ぺったんずわりをする。

正直ネグリジェでしてるから、何となくエロさを感じるのは不思議じゃないっすね。

えっ、相手は500歳児だろうって?

・・・そうっすか。

 

「もし、もし私が・・・この幻想郷で悪戯したら・・・マリアは怒ってくれるかな。」

 

「・・・多分、怒るんじゃないっすかね。」

 

「・・・やりましょう?」

 

「・・・はい?」

 

思わず私はレミリアお嬢様に聞き返してしまう。

いや、レミリアお嬢様の目は輝いてるから別におかしなことを考えているみたいじゃないみたいっすけど。

 

「この幻想郷で、平和だけど厄介な悪戯をするの!」

 

段々と雰囲気が元に戻ってゆく。

 

あぁ、なるほど・・・

 

「どう?やる?やらない?」

 

「いいかんがえっすね!やりましょう!!」

 

ようやく、受け入れられた見たいっすね。

 

「太陽が邪魔だから、霧で隠すとかどうっすか?」

 

「いいわね!じゃあ、それを赤くして、紅魔館の威光を知らしめるとか!」

 

私は、元気になったレミリアお嬢様と一緒に、悪戯の内容を考えるのであった。

 

 





次回から、紅霧異変となります!



立ち直ったレミリアは、妖怪大戦争や人里政変戦争が終わったのちに異変を起こす。
しかしそれは、さらなる困難の始まりだった!!

やめて!
美鈴はただでさえボロボロなのにそんなにボコボコにしたら死んじゃう!!
お願い、死なないでパチュリー!あんたが今ここで倒れたら死者復活の魔法はどうなっちゃうの?

咲夜も頑張ってるし、紅魔館はなんか静かだけどきっと異変解決のために戦力を軒並み回してるんだから!!

次回「アンナ 死す」。

デュエルスタn(マスタースパーク


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紅魔郷編
紅い霧の異変 その1


今回から紅霧異変に突入します!!

紅霧異変が終了した際に二つ目のアンケートは応募を終了。
アンケートで人気だった上位3つを連載させていただきます。




幻想郷が戦火に包まれたのは、おおよそ14年前。

すっかり幻想郷は平和がもたらされた、何を隠そう鬼神の如き活躍をした”第12代博麗の巫女”がすべての争いを終わらせ、その後任”第13代博麗の巫女”がその後の争いを一切禁じ”スペルカードルール”と呼ばれる決闘方を決めたのである。

そのおかげで、幻想郷には平和がもたらされたわけである。

 

・・・まあ払った代償はそれなりに大きかったのだが。

まあ何はともあれ、妖怪たちの大戦争は終わりましたとさ!!

 

~Fin~

 

と、行かないのが人里の内情だった。

いまだに続く政治闘争にさすがの妖怪たちもドン引き、幻想郷最高管理者権限(八雲藍の説教)で一時的に代表者を寺子屋の教師である”上白沢 慧音(かみしらさわ けいね)”に任せたのである。

・・・けれどもそうもいかないのが人間の愚かさ、隠れて政治闘争をやっているそんなときに・・・

 


 

幻想郷が”紅い霧”に包まれた。

しかし、怪しげな霧が発生しても、色付けされたただの霧だったがために人間たちや妖怪たちに何ら健康被害をもたらさなかったのだが・・・

厄介なことに白い洗濯物は軒並み赤く染まり、野菜や水までもが赤くなり出したためにさすがに人里も呑気にはいられなかった。

そして、その被害は・・・

 

「うわああぁぁぁっ!!せ、洗濯物が真っ赤に!!」

 

幻想郷の辺境・・・”博麗神社”にも及ぶのであった。

 

 

「どこのだれよ!!こんな紅い霧発生させたの!!きぃ―!!」

 

どこからか取り出した布を口で引っ張りながら騒ぎ立てる紅白の巫女。

彼女が第13代博麗の巫女”博麗 霊夢(はくれい れいむ)である。

 

「絶対異変よ!!起こした犯人を絶対にぶっ飛ばしてやるわ!!」

 

そう言って彼女は、槍のように長いお祓い棒を持って博麗神社から飛び出すのであった。

 

「・・・元気だな。」ズズズ・・・

 

その様子を隠居中の”第12代博麗の巫女”がお茶をすすりながら見送るのであった。

 


 

そして、魔法の森。

 

「ん?なんだなんだぁ?この魔理沙様を差し置いて随分と楽しそうな雰囲気じゃないか!!」

 

かつての幼い少女は、人里の父親の元を離れ・・・魔法の森、もう顔も思い出せないが、金髪の綺麗な少女に教えた屋敷で暮らしている。

そして今、彼女は・・・

 

「こりゃ、異変だな!!霧の着色に魔力を使ってるあたり、犯人のいるところには魔法道具がいっぱいあると見た!!よーし、霧雨 魔理沙様の出陣だー!」

 

”単身浮遊し、腰脇の剣を揺らしながら”この霧を起こした犯人の元に向かうのであった。




博麗 霊夢(はくれい れいむ)

我らが原作主人公。
感想覧で「苦労人に育ちそう」という懸念があったが、存命していた12代博麗の巫女のおかげで割といい性格と体系に育った。

原作との違いは
お祓い棒を槍として扱っていることと
ペタンヌではない
あと感情表現が豊かであるということである。


霧雨 魔理沙(きりさめ まりさ)

我らが原作主人公。
金髪で綺麗な女の子に、とある紙切れを渡されそれを使うために魔法使いになったらその紙切れはあの火の剣を召喚する魔法だったために”魔法剣士”となった女の子。
原作同様家出はしているが、家族仲は良好だし生活力と女子力は死んでいない。

原作との違いは
疑似・レーヴァテインを主武器として使っている。
4属性の魔法全てを仕える上に魔法薬の調合も得意。
あと危機管理能力がしっかりしているという事。
疑似・レーヴァテインの馬鹿みたいな魔力消費を使うためにとんでもないぐらい魔力操作がうまいという事。


第12代博麗の巫女

歴代最強の巫女として名の知られているよく見る先代巫女・・・ではなく。
御札だとか針とかを飛ばすタイプの巫女。えっ、素手で結界を破壊する?何それコワ。
性格自体は男らしいが、割とおとなしい。
最近では人里に暮らしている夫が博麗神社に引っ越そうとしているのを手伝っているぐらい。ちなみに霊夢は娘である。


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紅い霧の異変 その2

「もーこの邪魔な霧視界にも悪いわね!!目が痛くなってくる!!」

 

霊夢が、そう叫びながら紅い霧の中を進んでゆく。

道中に、紅い霧の魔力に引かれたのか現れた妖精やそこらへんに見たくないほどいる毛玉なんかがわんさかといるのを御札で片っ端から叩き落しながらも、着々と進んでいるのだが・・・そもそもの視界が悪いためあんまり進んでいないように見える。

 

「ほらほら!邪魔よ邪魔邪魔!!ピチュりたくなかったら退きなさい!!」

 

そんな霊夢の行く手に・・・

 

「よっ、霊夢!」

 

「・・・何よ魔理沙。随分遅い到着じゃない。」

 

魔法の森の方面から飛んできた魔理沙がやってきた。

 

「で、あんたも邪魔すんの?」

 

すっと霊夢が御札と針を構えると。

 

「いやいやいや、流石に霊夢とやるほど馬鹿じゃないのぜ。」

 

頬を掻きながらそれを否定した。

じゃあ何の用だと霊夢の眉間のしわが寄ったところで魔理沙はニヒッといい笑顔を繰り出す。

 

「この異変、どっちが早く解決するか勝負しようぜ!!」

 

「・・・しょぉぶぅ?」

 

心底めんどくさそうに表情を変える霊夢。

いや、実際めんどくさいのだろう手に持つクッソ長いお祓い棒で肩をたたき出した。

 

「なんでアンタとやんなきゃいけないのよ。そんなことよりもそこ退きなさいよぶっ飛ばされたいの?」

 

せっかくの洗濯ものを真っ赤にされてかなり気が立っている霊夢。

正直に言えば、洗濯物後に取るはずだった朝食をとれずにとても気が立っているのだ。

 

「ちぇー残念だなぁ。解決が速かった方は、親父に頼んで最高級の酒を送ってもらったからそれをあげようと思ったのに~」

 

「何してるの魔理沙!はやく勝負しましょう!」

 

「わー、清々しいほどの手のひらドリルだなぁ」

 

勝負の報酬が以外にもよく、博麗 霊夢はすぐさま手のひらを返した。

霊夢は良くも悪くもこういう巫女であった。

 

「まあまあ、落ち着け。勝負は、妨害なしでどうだ?」

 

「・・・いいわね。この勝負私が勝つわ」

 

「気が早いのぜ。じゃあ、10数えたらスタートな!」

 

 

「「10!!」」

 

二人は、それぞれの飛行能力云々かんぬんの前に、空中でクラウチングスタートの構えをする。

 

「「9!!」」

 

そして、飛ぶための力をため込みつつその場にとどまるという器用なことをしだした。

 

「「8!!」」

 

そんな二人の元に

 

「わはー、あなた達は食べていい人類なのかー?」

 

黒いワンピースを着た少女が目の前を遮った。

 

「「・・・・・・」」

 

すっかり邪魔された気分の二人。

一瞬、二人とも凄い形相になった気がするのだが・・・

すぐさま、その形相はなくなり・・・

 

「多分、お腹壊すわよ。」

「私を食べてもおいしくないのぜ」

 

「そーなのかー。ところでこのポーズ『聖者は十字架に磔られました』っていっているように見える?」

 

呑気にそんなことをし始める。

二人の頭はすっかり勝負の事など忘れてしまったのであった。

 

「そうね、紅い二股の槍が刺さってそうね」

「私には、『人類は十進法を採用しました』って見えるな」

 

「そーなのかー・・・」

 

「「いやなんでそこでしょんぼりするの!?」」

 

どこかずれているような気がする黒いワンピースを着た少女・・・”ルーミア”は、気を取り直して。

 

「まあ、食べられるか食べられないかはとにかく食べたらわかるのだ―!!」

 

「食い意地はった妖怪ね!!」

「まったくだ!!拾い食いはダメって教わらなかったのかぜ!!」

 

あろうことか、霊夢と魔理沙二人に向かって弾幕を放つのであった。

 


 

「魔理沙、前衛お願いできる?」

 

「はっ、お安い御用だぜ!よっと!!」

 

魔理沙がいきなり腰脇の剣を抜剣したと思ったら、その剣が燃え始めた。

これが霧雨 魔理沙の主力武器・・・いつかの金髪の綺麗な少女からもらった大切な魔法だ。

そしてあろうことか魔理沙は、その『疑似剣・レーヴァテイン』でルーミアの放つ弾幕を次々と斬って相殺してゆく。

 

「わはー!?弾幕を斬るなんてずるいのだー!」

 

「さっすが魔理沙!じゃあ、私の弾幕に当たらないでよ!!」

 

そんな魔理沙を見て霊夢は、警告を飛ばしながらクソ長いお祓い棒を一回転させる。

その次の瞬間には、いつの間にか複数個の陰陽玉が現れる。そして、その陰陽玉が光ったと思ったら、大量の御札がルーミアに向けて発射されてゆく。

 

「な、何なのだこの弾幕の嵐はー!!」

 

流石のルーミアも回避に集中せざるを得ず、弾幕の発射を一度辞めてしまう。

・・・そしてそれを見逃すほど、霧雨 魔理沙は脳筋ではなかった。

 

「へへっ、霊夢も派手にやってるみたいだし・・・私もっ!!」

 

左手をルーミアに向けたと思ったら、マリサの背後に黄色の魔法陣が四つほど展開される。

そしてすべての魔法陣から星型弾幕が発射される。

魔理沙のオリジナルの魔法で、魔力を星型に作り上げて豪速で打ち出しているのだ。

 

「はわわわっ、こ・・・これはひどいのだー!こうなったら~・・・闇符『ディマーケイション』~」

 

ピンチになったルーミアはスペルカードの一枚を発動させる。

ルーミアから色鮮やかな米状弾幕を放ちながら、魔理沙狙いの球体弾幕が発射される。

 

「おっとと、スペカか!」

「魔理沙、一掃して!!」

 

「はいよっ。火符『疑似・レーヴァテイン』!」

 

レーヴァテインが轟々と燃えたと思った瞬間、巨大なレーザーが発生して魔理沙の動作に合わせながら横薙ぎに動く、そしてディマーケイションで発生した弾幕全てを相殺した。

 

「わはー!?」

 

「はい、おしまい!!」

 

「うわー、やられたのだー!」

 

ピチューんという音を立てながらルーミアが落ちてゆく。

それをキャッチしないほど霊夢と魔理沙も冷酷というわけではなかった。

 

「どうするんだ?」

「そうね、木に吊るしときましょ」

 

・・・冷酷では、ないはず、だ。

 

 

 

 

 

 

 





ルーミア
わはールーミア。

火符『疑似・レーヴァテイン』

魔理沙の使うレーヴァテイン。
魔力で西洋剣を燃やしているため、本当に『疑似』なのである。
フランのレーヴァテインとの違いは、こっちの方が煌びやかという事である。


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紅い霧の異変 その3

「はぁ、なんだか勝負の気分じゃなくなったわね。」

 

「全くだぜ、こうなったら協力でもするか?」

 

「・・・・・・お酒は半分こよ?」

 

「わーてるよ。」

 

こうして、霊夢と魔理沙が一時的に共闘を組むことになった。

霊夢と魔理沙がタッグを組むなんて異変の犯人側の難易度”ルナティック”じゃないですかやだー。まあ、そんなことは置いといて・・・

 

「それで、この霧。いったい何なのよ。」

 

「この霧はただの霧さ。魔力かなんかで赤く着色してるだけだがな」

 

そういいながら、ホレ。と懐から魔力カウンターなるものを取り出し霊夢に見せつける。

霊夢がそれをのぞき込むと、魔力数値100という文字が出ている。

 

「いまいちわからないわね。わかりやすいように三行で伝えなさい。」

 

「魔法の森の魔力数値は3000。つまり一般人が吸い込んでも特に問題ないレベル。しいて言うなら洗濯物とかが紅くなるだけ。」

 

「わかった、把握したわ。」

 

ジト目になりながらも霧を睨みつける霊夢。

そして、両こめかみに人差し指を押し付けたと思ったらいきなり唸りだした。

 

「おっ、霊夢の勘か?てか考えてる時点で勘なのか?」

 

「そう・・・よっ!私の勘だとあっちが怪しいわ!!あと、一々細かいのよ!!さあ行くわよ!!」

 

と、”霧の湖”へとむけて飛び始めた霊夢を魔理沙はやれやれと言いながらついていくのであった。

 


 

霧の湖は、人里からかなり離れた場所にある年中寒く、霧が立ち込める湖である。

噂では、氷の妖精が常に悪戯を仕掛けているという噂があるのだが・・・

 

「うーん、うーん・・・」

 

件の氷の妖精が、両腕を組んで一方向だけを見ながらうーん、うーんと悩ましい声をあげていた。

二人が聞いた噂では、霧の湖の氷の妖精はかなり頭が幼稚らしくお菓子をあげれば簡単にそこを通してくれるとのこと、まあ滅多に通る人などいないが。

しかし、頭が幼稚と聞いた割にはその氷の妖精が考え事をしている姿を見て、警戒してしまう。

 

「うーん・・・うーん、どうしたものかなぁ。」

 

「もうずっと悩んでるよね。チルノちゃんは。」

 

そんな氷の妖精・・・チルノの隣に、緑髪の妖精が近づく。

 

「大ちゃん、やっぱりいい考えが浮かばないよ~。タマネギ頭に乗せた方がいいのかなぁ~。」

 

「だめ。あれやるとせっかくのチルノちゃんのいい匂いがタマネギ臭くなっちゃうじゃない!」

 

「いや、その前になんでアタイの匂いを嗅いでいるの?」

 

考え事をしていたチルノが、大ちゃん・・・大妖精のその発言で、真顔になる。

そして、ついうっかり本音を言ってしまった大妖精は慌てて話題を高速で考えだす。

 

「けっ、健康チェックのためだよ!!髪の毛からいい匂いがすると、その人は元気ってことなんだよ!チルノちゃん!!」

 

グルグル目になりながらも、苦し紛れの言い訳を言い放つ。

するとチルノは・・・

 

「いや、いくらアタイが算数できない馬鹿だからってそれは馬鹿にしすぎだよ大ちゃん。」

 

あからさまに大妖精に対して引いていた。

その罵声を浴びせられた大妖精は、自分自身の肩を抱き蕩けた顔をしながらクネクネと曲がりだした。

 

「うわっ、えーんがちょっ。」

 

「あっ!?ご、ごめんねチルノちゃん!!そんなつもりじゃなかったの~!!」

 

明らかに異変だというのに日常のような会話をしている大妖精とチルノ。

 

((ずっと見てたけど、なにあれ))

 

霧の湖に来てからうーんと唸るチルノを見て隠れた霊夢と魔理沙が、そのやり取りを見て困惑していた。

 

「なあ、あれヤッていいのか?」

「いや、まだ私たちの邪魔してないから手を出せないわよ。」

「この前異変が起きたら目に見えた相手全員片っ端からぶっ飛ばすって言ってなかったっけ。」

「アンタが居るから無駄にぶっ飛ばさないのよ。」

「なるほどな。」

 

そんな会話を小声でしつつ、再びチルノの方を向くと。

 

「ところでそこの人間二人は、何をしているのかな?」

 

大妖精が、鋭い目つきでこちらを睨みつけていた。

 

((―――――バレたっ!?))

 

気配と魔力と霊力は完全に消していたし、何なら魔理沙が消音魔法を使っていたがゆえに音もしないはずだ。

草の茂みに隠れているから、あっちからは完全に見えないはずなのに。次の瞬間、二人の勘が警告を鳴らしすぐにその草むらから脱出する。

そして、霊夢と魔理沙が、チルノと大妖精の目の前に現れた途端、先ほどまで霊夢と魔理沙が隠れていた場所が大爆発を起こした。

 

「ひゅぅ~・・・派手だねぇ」

「言ってる場合かっての・・・」

 

「やっぱり、いたんだね。」

「人間?珍し「チルノちゃんとのラブラブ生活を邪魔する奴は・・・」・・・ここらへんはさ「許さない!!」大ちゃん?」

 


 

大妖精が、腕を霊夢と魔理沙に向けたと思ったらクナイ状の弾幕が発生し、霊夢と魔理沙の動きを阻害しようとバラまかれ始める。

魔理沙はとっさに『疑似・レーヴァテイン』を抜剣し、自身と霊夢に当たりそうな物を切り払う。

しかし、ルーミア戦とは違い大妖精はおり込み済みなのか、まったく焦りが見えていない。

 

「一瞬でいい!隙を作ってくれ!!」

 

「分かったわ!!本当に少しだけよ!!」

 

霊夢が魔理沙の後ろから飛び出し、5枚の結界を展開する。

大量のクナイ弾幕がその結界に襲い掛かり一枚、また一枚と割り続ける。

最後の1枚に霊力を送り込み、簡単に割れないように耐え続ける。

 

「ま・・・り、さっ!!」

 

「待たせたな!魔符『スターダストレヴァリエ』!!」

 

帽子の中から魔理沙の隠し道具の1番”八卦炉”を取り出し、魔力を送り込む。

魔力が送られた八卦炉から大量の星型弾幕が発射されバラまかれる。

発射された星型弾幕は、大妖精が発生させているクナイ弾幕とぶつかり合い、次々と相殺させてゆく。

 

「くっ、スペルカードっ」

 

「させないっ・・・ての!!」

 

クナイ弾幕が相殺されたことによって、霊夢に行動する隙が生まれる。

一瞬にして大妖精の背後に移動し、指の隙間全てに針を構える。

 

「は、はやっ!?」

 

「魔理沙!行くわよ!!」

 

「へへっ、OK!!」

 

大妖精を挟み込む形で二人は一つのスペルカードを発動させる。

 

「針符『千本封魔針』!」

「魔符『ミルキーウェイ』!!」

 

霊夢は指に挟んでいた針を、魔理沙はあいた左手を構え・・・

大妖精に向かって逃げ場のない弾幕を発生させるのであった。

大妖精は何とか反抗しようと動きを試みる物の

 

「・・・あっ」

 

その反抗もむなしく、ただピチューンと情けない音を鳴らすのであった。

 

 

 

 

 

 





2021年8月9日

”ミニ八卦炉”を”八卦炉”と間違えていたため修正しました。
原作ファンに怒られるっ・・・ゆるして・・・ゆるして・・・


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紅い霧の異変 その4


前作のあとがきに載せ忘れた大妖精の設定


大妖精

クレイジーサイコレズ。チルノ一筋ウン年。
最初は普通の親愛だったが、いつの間にか狂愛に変貌していた。
これでも掃除洗濯炊事、勉強や運動に関してもとても優秀。
持っている能力も強いのだが本人が使おうとしない。

・・・そしてそれを残念とさせているクレイジーサイコ変態。


ピチュって落ちてゆく大妖精の頭を持つチルノ。

よく見ると手袋をしており、明らかに嫌なものを持っているような表情をしている。

 

「そ、そんなに嫌なのか?」

 

思わず魔理沙が聞いてみる。

 

「こいつ、クレイジーサイコレズの変態。」

 

「なるほど、把握。」

 

霊夢も魔理沙もリアクションに困り、苦笑いしかできなくなった。

まあチルノが相当厄介そうだったのと、弾幕ごっこ前に変なことを言ってたので間違いなく厄介なんだろう。

 

チルノがそっと、地面に降りたと思ったら

 

「ふん。」

 

ズドン!

 

「「うわぁ」」

 

次の瞬間には、大妖精の体が地面に埋まる。

しかも首から上が地面から出ているため、どこかシュールな光景が広がっていた。

さらに言えば、チルノが大妖精の頭に変な形の氷を乗せる。

 

「さて、邪魔者がいなくなったとことだし、かなり寒いから早く帰った方がいいよ」

 

そう言いながら、ほら帰り道はあっち。と人里の方を指さして帰るように促すチルノ。

気のせいなのだろうか、チルノが帰るように促すと冷気が増したような気がした。

 

「そうはいかないんだぜ!!あたしたちは異変解決のためにこの先に行かないといけないんだ。」

 

「ええ、そのためにここを通してもらうわよ。」

 

異変解決の為なら邪魔をするならぶっ飛ばす。

それが二人のスタンスであったが、今回の異変に何かを感じ取りあまり消耗をしたくないみたいだ。

 

「うーん、うーん・・・異変解決者かぁ~。それなら通しても~・・・いや、でもなぁ~。」

 

いつの間にか頭にタマネギを乗せて、腕を組んで唸りだす。

なぜタマネギを頭にのせるんだという疑問は置きつつ、霊夢はやがて面倒になったのか。

 

「それじゃあ、アタイから試練を与えよう!!」

 

「妖精のくせに生意気ね。」

「まあまあ霊夢。そんな生意気に付き合うのも一興ってやつだぜ。」

 

「紅白はともかく、白黒は分かってるわね・・・ここから先に行くためにはアタイを倒してからにしろ!!ここから先は、アタシより強い敵がわんさかいるぞ!!」

 

「はんっ、上等!!」

「やっぱり霊夢って、異変の事となると喧嘩っ早いよなぁ。」

 


 

チルノが頭のタマネギを取り外してどこかに投げ捨てた。

それが開戦の合図となり、霊夢と魔理沙はほぼ同時に、弾幕の嵐を発生させる。

 

「さすがに二人分の弾幕は苦しいかな!」

 

チルノがそんなことを叫びつつ、本当に紙一重で霊夢と魔理沙の弾幕を回避してゆく。

しかしそこは、流石の霊夢と魔理沙。慌てずに互いの弾幕が相殺しないようにそしてお互いの弾幕の隙間を埋めるように放たれる。

 

「だけど、氷符『アイシクルフォール』」

 

苦し紛れだろうか、チルノがスペルカードを宣言する。

チルノたちの頭上に多数のツララが発生しだし、一つができればまた一つ、また一つと空中に固定される。

二人は、準備に相当な時間がかかるという事と、そんなに難しそうなスペカじゃないと判断し、攻撃を優先し始めた。

 

「その油断が、命取り・・・寒冷『凍てつく寒さ』」

 

次の瞬間、2連続のスペルカードを宣言した途端にアイシクルフォールが強化されて空を埋め尽くすような数のツララが発生する。かすかな光に反射されて、そのすべてのツララが星空のように輝きだす。

 

「なっ・・・・・・き、きれい。」

 

そのあまりの光景に、思わず息をのみ見とれて足を止めてしまう。

 

「霊夢!!」

 

咄嗟に、魔理沙が疑似・レーヴァテインに魔力を送り込み、1枚のスペルカードを取り出す。

 

「火魔『ファイアーレーザー』!」

 

疑似・レーヴァテインが激しく燃え盛り、炎のレーザーが霊夢頭上の氷のつららを一瞬にして焼き溶かす。

それを見て、霊夢はハッと気を取り戻し手を伸ばしている魔理沙を掴む。魔理沙を引き寄せたその瞬間、大量の星屑のようなツララが霊夢と魔理沙の周りに降り注いだ。

ズドドドドと豪快な音を立てながら、人すら突き殺せそうなツララが地面に突き刺さってゆく、もしあれが本当に刺さっていたらピチュるとどころか当たり所が悪ければ死んでいたかもしれない。

 

「あっぶな!かすりやがった(グレイズった)!!」

「ごめん、ボーっとしてた。」

「助かったからお相子な!!」

 

二人は、先のスペルカードとその威力を見て、簡単に勝てる相手ではないとようやく理解する。

一方そのころのチルノは、困った表情で霊夢と魔理沙を見ていた。

 

「やれたと思ったのに!おっしぃ~・・・」

 

額に冷や汗が浮き出ているあたり、制御に相当な集中力を使っていたんだろう。

よく見ると、左腕が小さく震えている。

 

「アレはそんなに連発できないみたいね。」

「じゃあ、一気に攻めるか!!こいつは最後まで取っておきたかった『とっておき』だぜぇ!!」

 

疑似・レーヴァテインをもう一度構え、魔理沙は1枚のスペルカードを構える。

 

「出力リミッター解除、演算魔法陣、最大出力!いくぜっ!!魔剣『レーヴァテイン・レプリカ』!!」

 

轟ッ!!と疑似・レーヴァテインが燃え盛ったと思ったら疑似・レーヴァテインから炎のレーザーが発生する。

それは、魔理沙の疑似・レーヴァテインの動きに会われてレーザーが倒れ始める。

 

エク〇カリバー(ビーム)!?」

 

チルノが思わず、そんなことを言ってしまう。

最近拾った漫画で今目の前と同じ必殺技を見たからか、思わず口に出してしまったようだ。

 

「いいや、レーヴァテイン(赤レーザー)だ!!」

 

ドヤ顔で、疑似・レーヴァテインを振り下ろす魔理沙。

 

「結局、変わんないじゃねぇか!!や、やばっ・・・バカやってないで逃げないとって・・・結界!?」

 

「逃がすと思った?」

 

チルノが逃げようとした瞬間、チルノの周りに博麗の紋様が浮かんだ結界が展開される。

チルノが慌てたように霊夢の表情を見ると。

 

(か、完全に悪党側の顔になってるぅぅぅっ!?)

 

それが、チルノの遺言であった。(ピチュっただけです)





チルノ

みなさんご存じの⑨・・・ではなく、普通の数学ができない系妖精。
一般常識とそれなりの知性を兼ね備えたマジで最強状態のチルノ。
何でこうなったかって?大妖精を見てみな?あれを反面教師にしたんだよ。

焦ると口調が荒くなるが、基本的におとなしくて優しい。
最近のマイブームは、考えるときに頭にタマネギを乗せること。
原作と違ってそれなりに頭を使うため、油断しているとすぐやられる。
そして、大妖精との付き合いを本気で考え直している。




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紅い霧の異変 その5

あぁ、もしあの時。
私が、ついて行けたというのなら・・・貴女を守ることができたのでしょうか。
あの日あの時、世話をされて・・・それからしばらく大切に扱ってくれて。

何というか、生まれて初めての経験を教えてくれて・・・
とても暖かくて優しいものをくれた。


・・・だからこそ、私は2度と大切なものを壊させない。
もう、二度と・・・あの絶望を味わうものか。


”我々”は・・・紅魔館を護る兵士なり


チルノを倒した、霊夢と魔理沙はお互いに連携を取り合いながら、出てくる妖精や毛玉、なんか偶然道にいた妖怪を倒しつつ、紅い霧の原因へと向かう。

・・・霧の湖を越え、そのほとりにそれはあった。

 

「な、なに・・・これ」

「噂には聞いてたが・・・さすが”紅魔館”目が痛くなるほどの紅さ加減だぜ・・・」

 

今二人が見下ろしている場所には、紅魔館がある。

しかもご丁寧に、その敷地には結界が余すことなく広がっており・・・見たところでは、正門ぐらいしか侵入できそうな場所はない。

・・・というかその正門も、二重構造の壁と門の作りになっているため中々ややこしいことになっている。

 

「どうするんだ?上から侵入しようにもあの二重結界に阻まれて無理だぜ?」

 

「上等!なら正面から突破よ!!」

 

行くわよ!と意気込みながら突撃する霊夢。

そのあとをやれやれと頭に手を当てながら、魔理沙がそのあとをついてゆくのであった。

 


 

「うおおおおお!!!?れ、霊夢!!さすがに弾幕がヤバいんだが!?」

 

先ほどまで余裕を保っていた魔理沙が、3人の狼女に追い回されながら弾幕を放たれ、回避することしかできなくなっている。一つ目の正門を突破したところで、狼女たちの歓迎を受けているのだ。

慌てている魔理沙に対して霊夢は、変態軌道で狼女たちを翻弄しながら何とか捌いている・・・しかし、その軌道も狼女たちが慣れてきたのであろうか、段々とグレイズが多くなってゆく。

 

「ゴチャゴチャ言ってないで、とっとと突破するわよ!!私の軌道を真似なさい!!」

 

「そんな変態自由軌道できるのは霊夢だけだよ!!浮遊魔法そこまで器用に動けねぇよ!!」

 

縦横無尽に・・・それこそ三次元的どころか、質量を持った残像を作り出している霊夢に思わず文句を言う魔理沙。

そんな霊夢相手にグレイズをさせている狼女たちも結構動き方がやばいのだが、本人たちは追いかけて弾幕を放つことに精一杯で気付いていない。

対して魔理沙は、しびれを切らしたのか被っている白黒魔女帽子に手を突っ込み、魔女の商売道具を出そうとしていた。

 

(八卦炉を使ってもいいんだが・・・こういう時の為に作っておいて正解だったぜ!!)

 

魔女帽子の中から何かを取り出し、急な反転を行い追ってきている狼女たちをわざと追い抜かせる。

一瞬の出来事で、反応をし切れなかった狼女たちが慌てた様子で反転しようとするが・・・

次の瞬間に魔理沙を見て、あぁ終わったと悟った。

 

なぜなら魔理沙が、八卦炉と一緒に、3つの水晶玉を浮かばせていたからだ。

 

「そう、れ!!」

 

八卦炉からは、マスタースパークほどではないにしろ大きなレーザーが発射され。

水晶玉からは、細々としたレーザーがとても素早い連射速度で逃げ道をふさぐように弾幕を発生させる。

もちろん、狼女たちは指をくわえてただやられるわけにはいかなかった。

ただでさえ、紅魔館の主がやる気を見せているのだ・・・その忠義に反するわけにはいかないので、最善を尽くそうとその魔理沙の激しい弾幕に、勇猛果敢に突っ込んでゆく。

 

「待たせたわね、針符『千本封魔針』!!」

 

しかし、次の瞬間霊夢が来たと思いきやスペルカードを宣言する。

ただでさえ、とても濃くて厄介な魔理沙の弾幕に加えて、見づらくて避けにくい霊夢のスペルカードが合わさったのだ。狼女たちは、弾幕をよけながらただでさえ細くて見えづらい針をよけきれるわけではなく。

やがて、彼女らは全滅したのであった。

 


 

「さっすが、霊夢・・・もうちょっと早く来てくれてもよかったんじゃないか?おかげで水晶玉使う羽目になったんだぜ。」

 

「アンタねぇ・・・。まあいいけど、さあ進むわ・・・!?」

 

二つ目の正門に目線を向けた途端、霊夢にとてつもないプレッシャーがかかる。

そのプレッシャーを感じ取り、咄嗟に回避行動をする霊夢。

しかし、攻撃は来ず・・・ただ魔理沙だけが不思議そうな顔をして霊夢を見ていた。

 

「れ、霊夢?どうかしたのか?」

 

「・・・準備なさい魔理沙、次の相手。とんでもなくやばいわよ。」

 

珍しく霊夢が真剣な表情で忠告をくれる。

霊夢がここまで、冷や汗をかきながら言うのだ・・・間違いなく次の相手はヤバいのだろう。

魔理沙もそれを理解して、少しだけ焦る。

 

「霊夢がそういうなんて・・・相手相当やべーな。」

 

「・・・来る。」

 

霊夢が今まで構えてこなかった、槍のように長いお祓い棒を構える。

魔理沙も西洋剣を構えて、その相手を見つけようと意識を研ぎ澄ませる。

 

「失礼、そこのお二方。当お屋敷のお客様でしょうか、お客様であればお嬢様の招待状はお持ちでしょうか?」

 

緑色のチャイナ服を着た女性が、霊夢と魔理沙に話しかけてくる。

そして、霊夢と魔理沙はそれだけで感じ取る。

この女、デキる。と

 

「いいえ、持ってないわ。だから通しなさい。」

「まず、そのお嬢様の顔すら知らないしな。」

 

その女性の言葉に対して、売り言葉で挑発する。

 

「ならば、迎撃させていただきます。」

 

その一言が、大激戦の始まりだった。

 


 

その戦いで先手をとれたのは、身構えていた霊夢と魔理沙であった。

 

「火魔『ファイアーレーザー』!」

「針符『千本封魔針』!」

 

もはやお約束と化してる開幕スペカを発動させ、ほぼほぼ棒立ち状態の美鈴に向けて赤色のレーザーと大量の針が発射される。

美鈴はそれを見て、冷静に判断し右斜め前に少しずれただけで、その発射された弾幕全てをよけきって見せた。

 

「なっ!?」

「嘘だろ!?」

 

驚き、思わず硬直する二人。

その隙を見逃すほど、美鈴は優しくはないため・・・すぐさまその隙をつく。

一瞬にして、魔理沙に接近したと思いきや容赦のない正拳突きを放つ。

 

それを察知した魔理沙も、ただ黙ってそれを食らうわけにはいかずに身体を右回りに回転させたと思いきや、そのままの反動で美鈴に斬撃を浴びせた。

しかし、美鈴とて近接戦の達人。それを読めていないわけではなく、開いていた左手でそれを受け止める。

・・・ただそれだけの一瞬のことだが、二人の周りにとてつもない衝撃波が発生する。

 

「・・・なるほど、魔力で身体強化からの魔力をブースターとして利用し一撃の強化ですか。ただ者ではないみたいですね。」

 

「へ、そりゃどうも!(あっあぶねぇっ!!ギリギリだった!!)」

 

余裕そうにする魔理沙だが内心冷や冷やだった。

魔理沙が何とかかわせたのは拳が当たる本当にギリギリのところで目が追い付いたからだ。

あとは持ち前の反射神経で何とかかわし、そのまま反撃をしたのだが・・・苦し紛れの一撃は難なく防がれてしまった。

しかも左手に防がれた西洋剣は、まるで鋼鉄に突き刺さったかの様にビクとも動かないのだ。

 

「魔理沙!」

 

「先に行っててくれ霊夢!こいつはアタシが引き受けた!」

 

「・・・・・・下手打つんじゃないわよ!!」

 

魔理沙を信頼してか、魔理沙の言葉通りにすぐさま二つ目の正門をくぐって紅魔館へと侵入する霊夢。

そんな霊夢を美鈴は、忌々しそうにしつつも見送っていた。

 

「・・・案外、スッと通してくれたな。」

 

「そりゃ、貴女からそんな魔力を向けられたら。動けなくなるに決まってるじゃないですか。」

 

「バレたか。」

 

魔理沙は気休め程度にはなっていた魔力での威圧をやめ、水晶玉に魔力を通し始める。

ふわりと二つの水晶玉が魔理沙の魔女帽子の中から飛び出し、西洋剣に仄かな火が燻り始める。

・・・実際、一歩でも霊夢の方向に向かおうとするならば全力の攻撃を美鈴にくらわせるところだったのだが、残念ながら美鈴に筒抜けだったようだ。

 

「確か、武人って言うのはやりあう前に名乗りを上げるんだったか?・・・”普通の魔法剣士”『霧雨 魔理沙』だ!」

 

「・・・なるほど、武人としての心得も多少はあるようにお見受けいたします。名乗られたからには名乗り返しましょう。”紅魔館警備隊総隊長 兼 紅魔館正門門番”『紅 美鈴』です。」

 

「正々堂々、勝負だぜ!」

「いざ尋常に、勝負!!」

 

名乗りを互いに上げ、その次の瞬間には激しい接近戦を繰り広げる。

武器のリーチの差で魔理沙が先手を取ったのだが、素早く繰り出される美鈴の打撃に魔理沙は後手に回ることになる。

しかし魔理沙とて、接近戦に関しては自身があった。ただでさえ、魔法剣士として人里での依頼を若くして数多もこなしてきた魔理沙なのだ。

後手に回りつつも、美鈴の拳法に負けず劣らずの攻撃を繰り出している。

 

美鈴が左のストレートを放つが、魔理沙はそれをかわす。そして、魔理沙は剣士とは思えないような行動をとった。

左のストレートをかわしたと思ったら、避けた勢いで回転し、そのまま回し蹴りを放ったのだ。流石の行動に、美鈴も意表を突かれて大きく隙を作る。

その隙を逃さず、魔理沙は剣の切っ先を美鈴の首元に向けるが・・・その次の瞬間には、距離をとっていた。

 

「はぁ・・・はぁ、」

「ぜぇ・・・ぜぇ・・・」

 

一瞬の出来事であまりに多く動いたからか、美鈴も魔理沙も息切れを起こしていた。

魔理沙に至っては、肩で息を吸っているようなものだ。近接戦になれているとはいえ体力は美鈴の方が上のようだ。

けれど魔理沙はあきらめずに、西洋剣を構えなおす。

 

「近接戦闘はほぼ互角、なら・・・華符『芳華絢爛』!」

 

美鈴が、弾幕戦ならと思い切り、スペルカードを発動させる。

美鈴を中心として花弁のように弾幕が広がりだす。魔理沙は無論、弾幕戦においてもトップクラスの実力を誇るため、あまり慌てずに冷静にその弾幕を分析し回避する。

やがて紅い弾幕が放たれるが、距離を開けていた魔理沙にはその弾幕は当たらなかった。

 

「へへっ、スペルカードブレイクだ!」

 

「やっぱり弾幕戦は苦手だっ・・・」

 

時間切れでスペルカードを割られた美鈴は、苦い顔をしながらそんな愚痴をこぼす。

もちろん魔理沙とてやられっぱなしは性に合わないので・・・魔女帽子の中から再び、ミニ八卦炉を取り出して構える。

 

「お返しだ!恋符『ノンディレクショナルレーザー』」

 

ミニ八卦炉から発射されるレーザーに合わさり、水晶玉からもレーザーが発射される。

美鈴もそのスペルカードをよく観察し回避に専念するのだが・・・

 

「甘いんだぜ!!」

 

ミニ八卦炉を浮かばせたと思ったら疑似・レーヴァテインを起動させ、燃え盛る西洋剣を構える。

その姿を見た美鈴は、思わず足を止めてしまう。

 

「出力リミッター解除、演算魔法陣、最大出力!いくぜっ!!魔剣『レーヴァテイン・レプリカ』ァアアアアアアアッ!!」

 

全身全霊の一撃を振り下ろす。

巨大な紅いレーザーが美鈴に向かって振り下ろされる。

美鈴とて、それをボーっと見続けるほど間抜けではないのだが・・・

 

「・・・っ!!」

 

同時発動されてあるノンディクショナルレーザーが・・・美鈴の逃げ道をふさいでいる。

・・・美鈴は、歯を食いしばりながら腕を構え、迫ってくる紅いレーザーを睨むのであった。

 


 

「はぁ・・・はぁ・・・スペルカードは同時発動するもんじゃないぜ・・・まったく。」

 

文句を言いながら、西洋剣を構えなおす魔理沙。

美鈴一人に大量の魔力を使ったからか、少しだけ眩暈が起きる。

先に行かせた霊夢が心配だ。と考え、すぐに紅魔館の内部に行こうとする魔理沙だが。

 

「・・・おいおい、勘弁してくれ。」

 

煙が張れたと思いきや、腕を黒焦げにしながら体を震えさせつつ立ってこちらを睨んでいる美鈴がそこにはいた。

 

「まけ・・・たく、ないっ。もう・・・・・・にど、と。マリアさんの・・・ためにもっ!!」

 

ギラギラとしている美鈴の緑色の瞳が魔理沙を貫く。

しかし、魔理沙はその視線が自分を見ていないということがよくわかった。

 

「・・・過去に何かあったのは分かる。アンタが、その過去で何をなくしたかは分からないがな。」

 

西洋剣を収め・・・ゆっくりとその美鈴に近づく魔理沙。

そして、美鈴が・・・なぜ諦めたくないのか、なぜ負けたくないのかという気持ちを汲み取れた。

かつて魔理沙も・・・その立場にいたからだ。

 

「護りたいものを護れなかった。それは確かに悔しいことだぜ。でも、もうそれは過ぎて・・・確定してしまったこと。いつまでも引きずっていたら、それはただの重荷になる。」

 

かつて魔理沙は、父親と母親と一緒にお出かけとして里の外に出て・・・母を失った。

その時の魔理沙はひたすらに泣き、父親に口を押さえられて一緒に木の影に隠れていた。

そして、生々しく聞きたくない音を響かせながら怯えていたのだ。・・・妖怪が母親を食らうのを、こんなことになる前までは、魔理沙は自分が二人を妖怪から守ると豪語していたのにだ。

・・・・・・妖怪が去った後に見たものは・・・無残な母親の・・・食い荒らされた遺体だけだった。

 

それ以来、魔理沙は魔法に傾倒するようになった・・・父親は最初は反対していたものの、しっかりとした意志と父親とは喧嘩をしたくないということを誠心誠意伝えると、条件付きでその父親は許してくれた。その条件というのが、怪我も病気もせずに・・・母親の命日や祝日には顔を見せるという事。

だからこそ、今の美鈴と過去の自分を重ねているのだ。

 

「そして残っているものを護りたいという思いもわかる。けれど」

 

もはや動けすらしていていない美鈴の脇を通り過ぎ・・・

 

「残ったものを護るために、その残った人たちを心配させるのは間違ってるんだぜ。」

 

いまだに意識を保たせている美鈴を、当て身で優しく気絶させるのであった。

その言葉に美鈴は思わず目を見開く、そして同時にかつてマリアに言われた言葉を思い出したのだ。

 

「あ・・・あぁ・・・・・・まり、あ・・・・・・さん。ごめんな・・・・・・さい。」

 

そして、美鈴は、その日・・・あの日以来からの心の重りが取れたように、安らか眠りにつくのであった。

 




いつかの昔、彼女は私に向けてこう言った。

「もし、誰かが居なくなって紅魔館が悲しみに暮れていたら・・・美鈴は早く立ち直ってみんなを守ってあげて。」

私は彼女に聞き返した。どうして?と、

「そうね、何となく。でも、美鈴・・・護りたいからと言って、無茶してはダメ。無茶をして守るべき人たちに心配や迷惑をかけてしまったら、元の子もないもの。」

・・・その言葉に私は頷く。
あぁ、どうして忘れてたんだろう。
それを思い出し、私は思わず・・・安堵してしまう。
そして今までの代償なのか・・・とても眠くなり、そのまま寝てしまうのであった。


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紅い霧の異変 その6

私がいつも抱えている黒い無地の魔導書。

あの人たちからもらった大切な物。

これには日々の日常も大切な思い出も、難しい魔法も昨日の晩御飯も記される。
だからこそこれは、私の大切な物。

だからこれは・・・・・・




これは・・・


魔理沙に門番・・・美鈴を任せて紅魔館に突入した霊夢。

しかし寄りにもよって霊夢の勘は此処で鈍り、あろうことか上ではなく地下を目指し始めた。

紅魔館のエントランスが広いというのと、なぜか地下へと続くドアが開けっぱなしということもあり、霊夢はそこに飛び込んで行ったのだ。

 

「ごほごほっ・・・何よ埃っぽくて辛気臭いわねぇ。」

 

何を隠そう霊夢は、こういう陰湿な所が大の嫌いなのだ。

どちらかというと明るくて清潔な所が好きで、隙あらばそういうところで昼寝をしたいと常々口にしているぐらいだ。

 

「こういうところはそう、さっさと突破するのが吉ね!」

 

そういう霊夢は、そのレンガ造りの廊下をトップスピードで駆け抜け。

正面にあった大きな扉を蹴破った。

 

「おらぁッ!!異変の首謀者出て来い!!」

 

「うっひゃぁ!?」

 

扉を蹴破った霊夢に偶然扉の近くにいたのか赤髪の少女が驚きのあまり本を落としている。

 

「ちょ、ちょっと!扉は開ける物であって蹴るものじゃないですよ!そ、それに貴女・・・図書館ではお静かにって張り紙が見えないんですか?!」

 

静かに怒鳴りつけるという器用なことをするその少女・・・小悪魔。

その隣にいたホブゴブリンたちは彼女が落とした本をそそくさと拾いながらどこかに逃げてゆく。

しかし悲しきかな、ドアを蹴破った紅白の巫女は・・・

 

「アンタも異変を起こした一味ね!さっさと首謀者の所に案内なさい!ぶちのめされたくなくなければ。」

 

「うわっ、異変解決者野蛮すぎ・・・」

 

思わず、両手で鼻と口を覆いショックを受ける小悪魔。

この後、あの時のことを振り返った小悪魔によると・・・

 

 

「あの時の博麗の巫女は、理不尽な暴風雨でした。しかもただの暴風雨ではなく、胸ぐらをつかんでくるんですけどね・・・」

 


 

活躍のシーンなく霊夢に弾幕ごっこでぼっこぼこにされた小悪魔。

一応、このヴワル魔法図書館の司書長を務めただけあって中々に強いのだが・・・やはり歩く厄災もとい、異変解決中の博麗の巫女にはかなわなかったよ。

目をグルグルにして一つの本棚に突っ込んで気絶している小悪魔を同僚のホブゴブリンたちが頬を叩いて意識確認をしているぐらいぼっこぼこにされている。

 

(さすがにやりすぎたかしら)

 

流石の霊夢も、ホブゴブリンたちから向けられる軽蔑の目とひと暴れした後の賢者タイムで申し訳なくなってくる。

しかしそこはあくまで異変解決のための致し方ない犠牲だ。あとでちゃんと謝っておこう。

 

「さーて、もうここに用は・・・あー、あるみたいね。」

 

小悪魔をボコボコにしたので元の道に戻ろうとしたとき、怒気に近いオーラを霊夢が感じ取った。

スーッと奥からやってくる紫色のパジャマ姿の女性・・・

紅魔館地下”ヴワル魔法図書館館長”のパチュリーが珍しくこめかみに血管を浮かせながら出歩いている。

 

「貴女ねぇ、図書館内で騒いだ挙句に・・・本棚の破損。さすがにやりすぎじゃないかしら?幻想郷というのは野蛮人しかいないのかしら?」

 

訂正、かなりブチギレてた。

ちなみにその間に小悪魔に視線を向けることなく話題にも出されないためパチュリーは小悪魔がボコボコにされたことに関してはいいらしい。

 

「わ、悪かったわよ。ともかく、貴女が外の紅い霧の維持者ね・・・あの霧どうにかしなさいよ。」

 

「太陽の光を遮るように態々紅く着色した霧の事かしら、それならお断りよ。アレはレ・・・お嬢様からお願いされたものだし。それに維持はしてても停止権限はお嬢様が持ってるわ。」

 

「・・・なるほど、じゃあ私は退散を」

 

そっと用はないと図書館を後にしようとする霊夢。

しかし・・・

 

「逃がすわけないじゃない。少なくとも、私の邪魔をしたこと。後悔させてあげる。」

 

「ですよね・・・」

 

やれやれといった感じで、その場所から走ってはなれる。

直後、さっきまでたっていた場所に魔力で構成されたハルバートが大量に押し寄せた。

 

「こ、殺す気!?」

 

「大丈夫、ミネウチで済ませるから。」

 

「あれに峰とかないわよ!?」

 

槍のようなお祓い棒を構えて、飛んでくるハルバートを弾く霊夢。

久しぶりに魔理沙以上の弾幕ごっこ・・・しかも相手はかなり強いと見える。

霊夢はこれ以上にないほどにワクワクしだした。

 

階段を駆け上がり、渡り廊下の手すりから飛び降り浮遊する霊夢。

それをパチュリーが妨害するかのようにハルバートだけではなく魔法陣を展開し、魔力弾とレーザーを発射する。

普通なら、避けられそうにないほどの弾幕なのだが霊夢はわずかな隙間を見つけては回避を続け、あろうことか反撃に転じる。

 

「何なのよその変態軌道・・・」

 

「アンタまでそれ言うの!?」

 

あまりの軌道にパチュリーがそう評価すると霊夢が青ざめる。

霊夢は自身の軌道が変態ということに関しては自分で知る由もないのだ。霊夢は、”避けられるからそう避けている”だけなので・・・

原作と違い、そんな変態軌道を習得したのもひとえに第12代博麗の巫女との特訓のせいではある。

 

「けれど読めた・・・火符『アグニシャイン 上級』」

 

パチュリーがスペルカードを発動させると、霊夢は直感で距離をとる。

その判断は正しく、高頻度で避ける隙が小さい輪状の火炎球がパチュリーを中心に放たれ始める。

しかし、距離をとった霊夢の元にたどり着くと変態軌道ではないにしても隙間を縫って避けられるほどの弾幕の隙ができている。

 

(今の一瞬で分析された?いや、ただの直感みたいね)

 

避けられたことに関してパチュリーは冷静に分析し、慌てないようにする。

そして冷静に弾幕を展開し、近づけさせないようにそして避けることに集中するように攻撃をし続けるのだが・・・

 

(なぜ、なぜ当たらないの?!)

 

避ける。避けて避ける。

当たらない、当たる軌道のハルバートを弾かれる。当てるつもりで放った魔力弾が回避される。

数で攻めようが質で攻めようが、博麗 霊夢は避け続ける。

 

「ならっ!金符『シルバードラゴン』!!」

 

それならばと、自身のしるもっとも強い人から避けずらいとお墨付きをもらっているスペルカードを発動させる。

銀色の弾幕をアスタリスク上に展開し、霊夢に向かって発射する。

次々に放たれるそれは、その直前に放たれた弾幕と重なり段々と逃げ場をなくしてゆく。

 

「っ・・・さすがにっ」

 

霊夢が苦しい声をだし、ガリガリガリガリとグレイズの音が響く。

しかしグレイズをさせても撃墜までにはいかない・・・霊夢も霊夢で焦るのだが・・・

パチュリーもパチュリーで焦り始めていた。

 

(どうして・・・どうして、落とせないの!?」

 

パチュリーの焦りがピークになってしまう。

感情が前に出て弾幕が止まる。霊夢も止まりパチュリーを見る。

 

「なぜ、なぜ邪魔をするの!?お嬢様の・・・レミィの願いをなぜ!!」

 

パチュリーの叫び声がヴワルの魔法図書館で響く。

パチュリーたち・・・いや、紅魔館の住民にとってはレミリアの提案した今回の件は一つの願いでもあった。

この異変を起こし成功させれば、きっとマリアは反応してくれる。

 

「・・・私は、アンタたちの事情なんて知らない。」

 

霊夢がため息をつきながら、槍のようなお祓い棒を肩に担ぐ。

そう、霊夢にとっては紅い霧を止めに来ただけ・・・ただそれだけだ。

それゆえに霊夢・・・魔理沙も紅魔館の事情など知ったことではない。ただ迷惑だから、ただ面白そうだから。という理由でここにきている。

 

「この異変の意味なんて私たちは知らない。それに、どんな理由があれ異変を止めるのが博麗の巫女の役目」

 

「これを異変というならば、なぜあの時!マリアさんを見捨てたんだ!!」

 

パチュリーが大粒の涙をこぼしながら一つの魔導書・・・”黒無地の魔導書(ベシュヴェールング)”を展開する。

いつかの時、パチュリーがレミィにプレゼントされた魔導書。そして、マリアが手伝いながらなんとか解読した代物。

所有権はパチュリーにあるが・・・パチュリーにとってはレミリアとマリアから渡された大切な宝物なのだ。

 

「魔符『黒本に刻まれた思い出(ベシュヴェールング・メモリー)』!」

 

そのスペルカードを宣言した途端、ヴワル魔法図書館が強く共鳴する。

元よりここは、マリアが能力を応用して作り出した空間。それ故に、それは生まれた。

メイド服を着た一つの淡い幻影・・・薄い色だが銀に近い水色。逆に言えば水色に近い銀色。

しかし・・・その両手に持つのは、いや・・・召喚する物は大量のライフル銃。

 

「居なくなって・・・ここから!私たちの希望を・・・うばわないでよ!!」

 

パチュリーが手を向ければ、ライフル銃はすべて霊夢に指向する。

水色の幻影も両手にライフルを構えて、霊夢に敵対する。

そして放たれる大量の鉄の雨。

 

「・・・・・・これがアンタのラストスペルってわけね。なら私も」

 

一枚のスペルカードを裾から取り出す。

今まで発動させた針符『千本封魔針』の中心に向かって針が飛ぶ絵ではない。

5色の極彩色の弾幕が連なる絵。正真正銘の博麗 霊夢の切り札。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「霊符『夢想封印』!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

虹が、解き放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 




負けた。
虹色に包まれて・・・

ああでも、なんて清々しいんだろう。

全力の・・・”黒無地の魔導書(ベシュヴェールング)”まで取り出して負けた。


そしてあのスペルを、魔符『黒本に刻まれた優しい記憶(ベシュヴェールング・メモリー)』取り出しても・・・負けた。

でも、マリアさんはたしか・・・

「負けることで分かることもあるって・・・」


・・・今ならその言葉の意味が分かる。

「私も・・・だいぶ参ってたみたいね。」

随分長く運動してないからか・・・もう飛ぶ力も持っていない。
このまま墜落して・・・終わりなのかな。

「マスターっ!!まにあってぇぇぇぇええええっ!!」

ふわりと、落下の感覚がなくなる。
そして、

「こ、小悪魔?」

ホブゴブリンの応急処置を受けた後なのだろうか、体中に包帯と絆創膏を張り付けている。

「はぁ・・・はぁ。ま、間に合いました~・・・」

「小悪魔・・・貴女・・・」

全速力で飛んできたのか、背中の羽が若干震えている。

「はふぅ・・・・・・スッキリしましたか?」

「・・・ええ、清々しいほどね。」

思えば小悪魔には苦労を掛けたと思う。

「・・・・・・これからどうしましょう。」

「今は、回復に努めましょう。あと、リハビリですね。」

「・・・ちょっとずつ、進めていきましょうか。」



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紅い霧の異変 その7


私が、マリアに優しく頭をなでられたのはもう結構前のことだ。
マリアが私の”専属メイド”になってからは、声しかかけてくれない。
お世話はしてくれるんだけど・・・それも寝ている間だけだ。

けれど、声をかけてくれているだけでも私はウレシイ。
だって、ちゃんとそこにいるってことだから・・・


でも、でもどうして?私にはアナタの声しかキコエナイノ?



 

「おーい、霊夢ぅ!」

 

エントランスホールに戻った霊夢を迎えるように魔理沙が玄関から飛び込んでくる。

霊夢も魔理沙も傷が一つなく、まだまだ余裕そうだ。

 

「魔理沙、遅かったじゃない。」

 

「あの門番が意外とタフだったんだよ。」

 

不機嫌そうにフンと魔理沙がやるが、どこかかわいらしい。

霊夢も霊夢で、その意図が分かったためにハイハイと適当にあしらっていた。

 

「しっかし、お屋敷の中も随分と真っ赤だなぁ。」

「掃除とか大変そうよね・・・私は神社で手いっぱいだけど・・・」

 

「ふっふっふっ、よく来たっすねぇ!侵入者のお二人さん!!」

 

その声がかかった途端に、霊夢と魔理沙が戦闘態勢に映る。

そして声のかかった方を見ると・・・

 

「ここであったが・・・えーっと、はいはい。ここであったが百年目!!紅魔館副メイド長このアンナが相手だ!」

 

「・・・・・・?」

「あぁーっ!!あ、アンタあの時の!!」

 

霊夢がカンペを読みながら喋るアンナに奇怪な表情を向けたのと対照的に魔理沙は指をさして驚く。

 

「おろ?あららら?もしかして、そこの金髪白黒魔法剣士!あの時の森にいたあの子!?」

 

アンナも魔理沙に気づいたのかうれしそうに手を振ってくる。

 

「そうなんだぜ!久しぶりだな、アンナさん!」

「アタシのことを覚えてくれているなんて嬉しいっす!今そっちに行くからゆっくり話でも」

 

そう言いながらアンナが下りようとした途端・・・

 

 

 

業火の熱線がアンナを真上に吹きとばした。

 

 

 


 

「みぎゃあああああああ!!」

 

アンナが情けない悲鳴をあげながらどこかに飛んで行く。

いきなりなその様子に霊夢も魔理沙も表情を強張らせて再び構える。

 

「アハ・・・」

 

どこからか、狂気的な笑い声が聞こえてくる。

その恐ろしい笑い声は段々と近づいて、霊夢と魔理沙はこれ以上ないほどの命の危険を感じ取っていた。

 

「ねえ魔理沙。逃げ口ってとこかしら?」

「・・・・・・そこの玄関だけど、逃げるのか?」

「正直とっても、今すぐにでも。」

「私もだぜ。」

 

 

 

そして、それは・・・・・・・アンナを吹き飛ばした穴から出てきた。

 

 

 

 

「ミ ィ ツ ケ タ ァ」

 

 

 

 

 

金色のサイドテールは、宝石がぶら下がっているような羽根が羽ばたくたびにふわりとかわいらしく動く。

しかし、どす黒いほど真っ赤に輝く目と・・・むき出しになった凶悪な犬歯が、その可愛さを打ち消してしまっている。

そして右手に持つ、炎の塊が轟々と燃え盛り・・・少し寒いぐらいだったエントランスが、熱く苦しいものに一瞬で変わった。

その少女、フランドールは・・・狂いながらも、霊夢と魔理沙を見下ろしている。

 

「あの人は・・・・・・あの時のっ」

 

かつて、魔理沙が幼いころ魔法の森に案内した二人・・・顔も思い出せなかったが、今はっきりと思い出した。

それがどういうことだろうか、あの時の・・・あの時の優しそうな表情はどこにある?

身体も何も変わっていないのに・・・どうして、ああなっているのだろう。

そのショックで、思わず魔理沙は力を抜いて・・・構えを解いてしまう。

 

「あれが、アンタの憧れた人って?どう見ても頭がいかれてるじゃない!」

 

対して霊夢は、構えを解かずに震えそうな足を押さえつけながらその少女・・・フランドールを睨みつけていた。

霊夢とて魔理沙の恩人と言う事ならば、できるだけ傷をつけずに無力化をしたいのだが・・・相手は完全にこちらに殺意を向けている。

あの母親の言っていた、殺気はこういうものなのかと思い返しながら恐怖に震える自分を押さえつけている。

 

「ネエマリア、アイツラヲコロシチャエバイイノ?・・・ワカッタワ、ジャアソコデミテテ!スグニヤツザキニシテミセルカラ!!」

 

「来るわよ!構えなさい魔理沙!!」

「あ・・・ああ!」

 

すぐさま、フランドールが炎の剣・・・本物の”魔剣 レーヴァテイン”を力任せに振り下ろしてくる。

それに相対したのか、かつてフランから”疑似剣 レーヴァテイン”を受け継いだ魔理沙。

二つの炎の剣が、甲高い金属音を響かせて打ち合わされる。

 

ガァン!

 

「っ!?なんて馬鹿力!?」

 

魔理沙は、魔力で自身の能力をブーストしているとはいえ・・・相手は吸血鬼のフランドール。地の力が違いすぎで、魔理沙がパワー負けしていた。

大きく隙を作ってしまう魔理沙だが、人里の依頼で中々の場数を踏んでいた魔理沙はその程度は予測済み。すぐさま弾幕を足元に撃って何とか距離をとる。

魔理沙の弾幕が床にぶつかって、煙が出ている中霊夢は正確にフランドールに向けて大量の札と針を霊力で練り上げた陰陽玉から発射する。

・・・しかし、

 

「アハハハ、キカナイヨォダ!!」

 

「なぁっ!?」

 

振り回されたレーヴァテインの炎が、その弾幕をすべて燃やし尽くしてしまう。

流石の霊夢も防御されてることは予想していたのだが・・・まさか”霊力で再現し、強化したものを”燃やされるなんて思わず硬直する。

そしてその硬直を見逃さず、フランドールが霊夢に向けてレーヴァテインの力を使いながら弾幕を展開する。

 

「あつッ!?グ、グレイズしても熱いんですけど!?これ弾幕ごっこ用の弾幕じゃない・・・あっちょっ、巫女服が燃えちゃうじゃない!!」

 

本物の弾幕に、相手が割と本気で弾幕ごっことか通用しないぐらいの相手だと理解する霊夢。

冷静さを取り戻そうと、距離を置こうとステップを踏もうとする霊夢・・・

 

しかし

 

「霊夢っ!!」

 

 

 

「・・・・・・えっ?」

 

 

 

「キャハハッ、シンジャェッ!!」

 

 

 

見ていない間に、フランが霊夢の真正面をとらえ・・・そして、レーヴァテインを振り上げている・・・

いきなりのことに足がもつれて、しりもちをつきそうになっている・・・これでは、避けられない。

 

(うそ、私・・・しん、じゃう・・・の?)

 

物理攻撃と言えども弾幕ごっこ用に力を手加減すればピチュる程度で済むのだが・・・

本気で攻撃されては、ピチュることもない・・・つまりは死ぬ。

しかも相手は、本気で殺しに来ている・・・

 

(い、いやっ。し、死にたくない・・・死にたくないっ、だれか・・・たすけてっ!!」

 

死の直前となり、感情的になる霊夢。

助からないとわかっていても、そう叫んでしまう。

 

 

 

 

 

 

 

そして、

 

 

 

 

 

レーヴァテインが

 

 

 

 

霊夢に向かって

 

 

 

 

 

振り下ろされた。

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガキィィィィィィンッ!!

 

 

 

 

 

「・・・ふぇ?」

 

甲高い音が、霊夢の耳に響いた。

しりもちをつき、腕で防いでいたのだが・・・いつまでも斬られない。

恐る恐る、腕をどけて・・・目を開けてみる。

 

「・・・ぁ。」

 

霊夢の前で、フランドールのレーヴァテインを止めていたのは・・・

 

白黒の魔法剣士、彼女の幼馴染の・・・霧雨 魔理沙だった。

 

「大丈夫か、霊夢っ!?」

 

魔理沙が、フランドールとつばぜり合いをしながらこちらをチラ見してくる。

いつもの優しそうな眼ではなく、鋭く・・・細い目だ。

 

「う・・・うん。」

 

「そうか、ならそこでみてるんだぜ!!」

 

魔理沙が、全力で疑似剣 レーヴァテインを振って、フランドールを無理やり引き離す。

 

「アンタは、確かにアタシの恩人。アタシに、この疑似剣をくれて人里で異端扱いだった私に道を作ってくれた人だ。」

 

「・・・ナンノハナシ?ワタシ、アナタノコトナンテシリモシナイワ。」

 

「そうかよ、なら・・・お前は此処で、絶対に倒す。」

 

魔理沙は、ブチギレていた。

正直、相手が恩人で頭が狂ってしまっているということもそうだが、何よりも幼馴染の霊夢を傷つけようとしたことに大激怒していた。

そして、魔理沙は意識を切り替える。これは弾幕ごっこという遊びじゃない、本物の命のやり取りだ。

 

 

「”レーヴァテイン・レプリカ”、出力リミッター解除。」

 

 

魔理沙がそう呟いた途端に、魔理沙の持つ西洋剣に赤い魔法陣が浮き上がる。

そして、その魔方陣が光った途端に、その西洋剣が赤く燃え盛る。

 

「正直、お前相手にここまでの切り札は使いたくはなかった。使うなら、奥に待ち構えるラスボスにってな。」

 

そう言いながら、魔女帽子の中からミニ八卦炉や水晶玉を取り出す。

それらを取り出した後に、もう一つ・・・・・・一本の細い瓶を取り出した。

その瓶を地面に投げ捨てると、巨大な魔法陣が広がり紅魔館のエントランス全体に広がった。

 

 

「覚悟しろ、ここにいるのは幻想郷最強の魔法剣士だ!!」

 

 

その言葉と同時に、巨大な魔法陣が光り輝いた次の瞬間、フランドールはレーヴァテインを振り回し・・・複数個のレーザーを弾いた。

そのレーザーが飛んできた方向を見ると・・・巨大な魔法陣の中心だった場所に、星形のナマモノが現れている。

星型のナマモノが、その先端を動かずたびにレーザーが照射され、フランはそれを弾き続ける。

 

しかし、フランドールはその星形のナマモノに意識を向けすぎていた。

ドゴォッ!!という爽快な打撃音と共に、フランドールは吹き飛ばされる。

星型のナマモノもそれに合わせるように吹き飛ばされたフランドールに向けてレーザーを撃ちおろす。

煙の中でフランドールは、何とか体勢を立て直しその次の瞬間には、レーヴァテインを構えて魔理沙に向けて突撃する。

 

そして、互いの距離がほぼ無くなった途端二人はレーヴァテインを打ち合った。

一回、二回三回。激しく獣のように攻め立てるフランドールとは対照的に魔理沙は隙を見つけては蹴りや格闘術を織り交ぜてフランドールのペースを乱す。

七回目の打ち合いで、魔理沙とフランドールは鍔ぜり合う。

最初の鍔迫り合いとは違い、魔理沙が魔力ブーストが上回ったのかフランドールがおされている。

 

そして、霊夢が瞬きをした次の瞬間・・・

 

ガキィンッ!!

 

魔理沙が、疑似剣 レーヴァテインを振り上げ、フランドールのレーヴァテインをフランドールの手から離させていた。

そして、ここぞとばかりに頭上に疑似剣 レーヴァテインを構えた。

 

「ア、アァ・・・ワタシガ、マケル?」

 

「ああ、お前の負けだ。魔剣『レーヴァテイン・レプリカ』!」

 

轟ッ!!

 

魔理沙が、最後の最後でスペルカードで・・・とどめを刺した。

 


 

倒れ伏すフランドール。

その意識は、かすかに・・・まだ保っていたのであった。

 

 

「マケ、タ。ゴメン、ナサイ・・・マリ・・・ア。」

 

 

声が聞こえない、今まで聞こえていたマリアの声が聞こえてこない。

あぁ、また…また守れなかった。フランドールは、またしても無力な自分を責め立てる。

 

ふとフランの近くに”いまだ燃え盛るレーヴァテイン”が落ちている。

 

(レーヴァ・・・テイン。マダ、タタカイタイノ?)

 

しかし、それを否定するかのように・・・レーヴァテインは温かで優しい火しかその刀身に宿さない。

フランドールはますます混乱する、レーヴァテインは魔剣。意志があるはずではない。しかし、レーヴァテインはその炎によって何かを表現する。

そして、倒れて意識が遠のきかけているフランドールに・・・

 

 

”レーヴァテインは優しい炎で、かつての思い出を見せる”

 

 

 

「ソう…ダ。ワタ、し・・・は。」

 

 

最後の力を振り絞り、無理やり立ち上がるフランドール。

レーヴァテインはそれに呼応し、ふわりと浮かび上がりフランドールのそばに浮かぶ。

それを掴みフランドールは立ち上がる。

 

レーヴァテインの優しい炎はフランドールを包むと、フランドールの傷は見る見るうちに消えてゆく。

 

 

「温かい・・・ありがとう。レーヴァテイン、私・・・思い出したよ。」

 

 

ふと、壁に視線を向ければ・・・安堵の表情で消えてゆくマリアの幻影。

 

 

「マリアは・・・・・・マリアは、確かにあの日に死んだ。けれど、その思い出は私の中に残っている。」

 

 

レーヴァテインを右手でしっかりと持ち、左手はフリーハンドにする。

 

「・・・・・・お待たせ、そして久しぶり。」

 

(私は、再び・・・前を向く。)

 

顔をあげたフランの表情は・・・狂気的なものではなく・・・理性的で、また優しい表情だった。

それを見た魔理沙は、口角を吊り上げながら疑似剣 レーヴァテインを構える。

 

「来なさい、私の全力で相手をしてあげる。」

 

魔理沙が腕を振り上げると、星形のナマモノがレーザーをフランに撃ちおろす。

しかしフランはそれを、進むことで回避しレーヴァテインを下段に構えて魔理沙に近づく。

再び、互いの距離が無くなった途端にフランドールはレーヴァテインを振り上げ、魔理沙は疑似剣 レーヴァテインを振り下げた。

甲高い金属音が響き、そのぶつかり合った衝撃波で風圧が発生する。

 

魔力で全力ブーストしている魔理沙と、吸血鬼のポテンシャルを発揮し始めたフランとのパワーは互角であった。

なら次に求められるのは、速さであった。

 

先ほどの剣の打ち合いとな段違いの速さで争いが繰り広げられる。

霊夢から見ればもはやそれは達人芸の域を越えており、繰り広げられる戦いがとても美しい舞の様にも見えている。

そしてそれに水を差す様にレーザーを照射する星形のナマモノ・・・しかしそれもフランドールは読めていたのか打ち合いをやめてバク転で回避する。

 

「そう・・・れっ!!」

 

そして、フリーハンドの左手で一発の魔力弾を作ったと思いきやその星形のナマモノに向けて放つ。

星型のナマモノは回避するが・・・

 

「キュッとして・・・ドカーン!!」

 

その掛け声と同時に左手を握ると、魔力弾が破裂し大量の小さい魔力弾が星形のナマモノに襲い掛かった。

星型のナマモノはそれを回避できずにピチューンという音を立てて消えてゆく。

 

「マジかよ・・・」

 

「さて・・・これが正真正銘、最後の攻撃よ!!」

 

フランドールがレーヴァテインに魔力を送ると、レーヴァテインが轟ッと炎を強める。

魔理沙もニィッと口角をあげて、疑似剣 レーヴァテインに魔力を送り炎を強める。

 

フランドールは横に構え、魔理沙はレーヴァテインを頭上に抱えた。

 

「禁忌『レーヴァテイン』!!」

「魔剣『レーヴァテイン・レプリカ』!!」

 


 

二つのレーヴァテインのぶつかり合い・・・

大きな爆音と膨大な熱量はエントランスを黒焦げにするには十分であり・・・

 

「すごいね・・・ニセモノのレーヴァテインで、本物のレーヴァテインに勝つだなんて」

 

フランの持つレーヴァテインの火が、ゆっくりと鎮火していく。

 

「貴女に勝つために、ずっと努力したんだぜ。」

 

逆に魔理沙のレーヴァテインは、いまだに燃え盛っている。

 

 

「・・・そっか。じゃあ、この先にいるお姉さまは私より強いから、がんばれ・・・」

 

 

フランはそれだけを伝えると、満足げに倒れるのであった。

 

 





マリアは、確かに死んだ。
それに、アイツらが言っていたことは本当だったのかもしれない・・・
けれど、その時はその時だ・・・私たちは、その時になっていたら全力でマリアを止めようとするだろう。

でもそれは、うん・・・”もしかしたら”の話だ。


だからね、マリア。


私は、前を向くよ。

例えどんなことがあっても、前を向いて思いっきり笑顔でいてやる。
それに・・・長年生きてたらもしかしたらマリアとまた会えるかもしれないし。


いままで、ありがとう。マリア、これからも、見守っていてね・・・


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紅い霧の異変 その8

私は、なんていうか・・・カラ元気を出してアンナを安心させた。
美鈴とパチュリーには、マリアが復活するための異変って伝えたけど・・・
これはただの赤く染めた何の変哲もない霧だ。多分二人も薄々感づいているだろう。
アンナには内緒でフランを暴れさせた。

けれど咲夜は、この話には乗らずにマリアの部屋に閉じこもっている。
・・・あの子が一番つらいはずだから。それでもいいのだ。


・・・カラ元気を出してこのイタズラを始めたけど。

どうやらそろそろ潮時みたいね。



ザッ・・・

 

 

エントランスから、中庭に出た霊夢と魔理沙。

その中心、噴水のすぐ後ろにある”ハルバートの刺さった墓標”の前に、蝙蝠の翼を背中から生やした女の子が祈りをささげている。

 

「美鈴も、パチュリーも・・・アンナは吹き飛ばされてフランもやられた、みたいね。」

 

中庭に出てきた霊夢と魔理沙に気づいたのか、その少女が立ち上がり振り返る。

青みがかった銀髪のショートヘアにふわりとしたモブキャップを被ってはいるが、気品を引き立てている。その顔すらも、先ほど倒したフランによく似ていて・・・立ち振る舞いも、高貴さを感じさせるものである。

 

「初めまして、幻想郷の守護者さん方?私は、レミリア・スカーレット。この紅魔館の主にして、このイタズ・・・異変の首謀者よ。」

 

フリルドレスの裾を持ち上げ、カーテシーで挨拶をする。

その様子に、霊夢と魔理沙は今までの相手とは違うということを理解する。

 

「・・・幻想郷、博麗大結界管理者第13代博麗の巫女”博麗 霊夢”。」

 

「魔法の森在住、人里の守護者・・・白黒の魔法剣士”霧雨 魔理沙”だぜ。」

 

霊夢と魔理沙もそれぞれの挨拶をする。

レミリアも、挨拶を返されるとは思いもよらずに嬉しそうに口元に手を当てる。

 

「一つ聞きたいことがあったのよ。」

「奇遇だな・・・アタシもだぜ。」

 

霊夢が一歩踏み出し、レミリアの目に自信の視線を合わせる。

ネコのような瞳孔のその赤い瞳を除くだけでも、霊夢の足が少し震える。

 

「ええ、何でも聞いていいわよ。」

 

「この異変、アンタたちにとって・・・何の意図があるの?」

 

霊夢はずっと、心の奥底でこの異変に関して引っかかりを覚えていた。

洗濯ものを真っ赤にされて頭に血がのぼって激情のまま飛び出してきたが・・・どうもこの異変には引っかかる点が多い。

 

本当に異変を起こすつもりなら、魔理沙の言っていた魔力係数を人間が吸って体調を崩すぐらいにするのもいいし・・・それこそ、パチュリーが言っていたことが確かなら、これは”マリア”と呼ばれる人物の弔い合戦でもあるはずだ。

 

「この異変に意図なんてないわ、これはただ単純に私のイタズラ。儚い希望を胸に起こした・・・ちょっとした余興よ。」

 

「それなら、なぜ全員”マリア”っていう言葉を口にしてたんだぜ?」

 

美鈴、パチュリー、フランドール・・・その三人は必ずマリアという単語を口にしていた。霊夢はパチュリーと戦い、マリアという人物がかつてこの紅魔館にいて・・・この幻想郷に来た時に何らかが原因で死亡した。というところまでしかわかってない。

魔理沙に関しては、その”マリア”がこの紅魔館でかなり大切だったということしか理解をしていない。

 

「・・・マリアはね。ここに眠っているの。それを受け入れられないから・・・みんなあんなに感情的になっていたのよ。」

 

「それで、この異変を起こしたのか?」

 

「もう、私たちも前を向く時が来たのよ。」

 

そばに置いてあったのだろうか、レミリアが紅に輝く槍を手にし背中の翼を大きく広げる。

いつの間にか・・・霧で空が見えていなかったからなのか、空にはすっかり月が浮かび上がっている。赤くて、とても大きな月。

 

「そしてこれは、私のヤツアタリよ。」

 

「・・・そうね、付き合ってあげるわ。」

「やれやれだぜ・・・」

 


 

何も言わずに霊夢が浮かび上がり魔理沙がレーヴァテインを構えてレミリアに突貫する。

対して、レミリアは優雅に赤い槍・・・グングニルを構えて、魔理沙を待ち構える。

 

「もらったのぜ!!」

 

魔理沙が魔力でブーストしながらレーヴァテインを振り上げる。

しかし、レミリアはそれを読めていたのか軽くステップを踏むだけで回避してしまう。

魔理沙はすぐさま、自身が空振りしてしまった隙を埋めようと弾幕を放とうとするが・・・

 

レミリアがグングニルの石突部分で魔理沙の足を払ったのだ。

 

「うわ!?」

 

バランスを崩しながらふわりと浮く魔理沙にレミリアは同じように石突部分で強打し吹き飛ばす。

咄嗟にレーヴァテインで防いだものの、その吹き飛ばされた衝撃は強く、何回かバウンドしたあと魔理沙は態勢を立て直した。

そして魔理沙が態勢を立て直したとほぼ同時に、魔理沙をカバーするように霊夢が弾幕でレミリアを攻撃し始めた。

 

だが、レミリアは余裕そうにグングニルを構えなおし・・・霊夢の弾幕を一つ一つ丁寧に弾いたりかき消したりし始める。

その槍捌きは、霊夢が見惚れるほどでしかも一歩、また一歩と歩き出している。

 

「っ・・・なら!!針符『千本封ま」

 

「遅いわ」

 

スペルカードを発動させようと、一瞬止まった隙に霊夢の目の前まで移動する。

霊夢はさすがにフランドールと同じことをされていたので焦りはしなかったが、大きな隙を晒してしまっているためすぐさまその対応ができなかった。

フリーハンドだったレミリアの左手に一つの紅い魔力弾が作り上げられほぼゼロ距離で投げつけられる。霊夢は頭をずらして何とかそれを回避するが・・・

 

ドォン!!!

 

遅れて聞こえてきた音と、とんでもない衝撃波で霊夢が地面に落とされる。

 

何事かと弾幕が飛んでいった方向を見ると・・・先ほどの弾幕が、あまりの速さに槍状になってしまっている。

ドヤ顔で霊夢を見るレミリア・スカーレット、今日何度目か分からない冷や汗をかき始めた。

 

「あら、避けられちゃった。」

 

「し、死ぬかも・・・」

 

「大丈夫よ、当たってもピチューンだから。」

 

「それなら安心っ!!」

 

その直後、レミリアの背後から静かに接近していた魔理沙がジャンプをしながら疑似剣レーヴァテインを振り上げている。

それを見た霊夢も、急速に真正面からレミリアに向かって槍のようなお祓い棒を構える。流石のことで、レミリアにも焦りの表情が浮かび上がっている。

 


 

霊夢は槍のようなお祓い棒を突き出し、魔理沙は疑似剣レーヴァテインを振り下ろし着地する。

 

((手応えがないっ!?))

 

明らかにやれたと思ったのに一切の感触が無く、突き抜き、振り抜いた場所には誰もいなかった。

 

「驚いたわ。あとちょっと早ければ、私もピチュるところだったわ。」

 

上から声がかかり霊夢と魔理沙はそちらに視線を向ける。

紅く大きな月を背後に、こちらを拍手しているレミリア。

その様子は、先程とは違い随分と楽しげな様子だ。

 

「まさか、この私が焦らされるなんて・・・うふふ。」

 

左手で口元を隠しながら楽しそうに笑い出すレミリア。

霊夢と魔理沙が予想以上に楽しめる相手だと理解して、どうやら興奮しているみたいだ。その証拠に目が紅く輝き出した。

 

フワリと、霊夢と魔理沙が浮かび上がりそれぞれ構える。

 

「今まで、手加減していたことを詫びるわ。これからは本気も本気よ。」

 

「勘弁して欲しいわね、面倒くさいわ・・・」

「おいおい、手加減の時点でいっぱいいっぱいだってのに・・・」

 

「こんなにも月が紅いから本気で、お相手するわ。楽しい夜になりそうね。」

 

「こんなにも月が紅いのに、永い夜になりそうね。」

「いいや、激しい夜になりそうだぜ。」

 

そう言った直後に霊夢と魔理沙が上下に挟み込むように移動する。

対するレミリアは、左手にグングニルに似せた槍を魔力で編み出し手握り、魔法陣を展開させる。

そして、霊夢と魔理沙がほぼ同時に弾幕をレミリアに向かって展開する。

片や、直線の早いレーザーを主体とした魔理沙の弾幕。片や、遅いものの誘導弾である御札を主体とした霊夢の弾幕が、レミリアを取り囲むように進む。

 

しかしレミリアは、軽く笑った後に両手のグングニルを一振りする。

 

 

それだけで、霊夢と魔理沙の弾幕がすべてかき消される。

それを見た二人は距離をとり、さらなる弾幕を展開させるが・・・

 

「まずは、白黒からね。」

 

一瞬で魔理沙が距離を詰められ、ピンチに陥る。

しかし、それはすでに織り込み済み。魔理沙はミニ八卦炉を構えて

 

「恋符『マスタースパーク』!!」

 

魔理沙の切り札であるマスタースパークをゼロ距離で遠慮なしにぶっぱなした。

しかし、マスタースパークの大轟音に紛れてピチューンという音がない当たり、どうやらレミリアは回避したらしい。

 

「ちぃっ、いいタイミングだと思ったんだけど!」

 

空中でバク転をするという中々器用なことをする魔理沙、そんな魔理沙がさっきまで浮いていたところに赤色の物が高速で横切った。レミリアが右手のグングニルを横に薙ぎ払っていたのだ。

それだけで、マスタースパークをただガードしただけというのがよくわかる。

 

「しかし、その隙を逃すほどってやつだな!」

「ええ!!」

 

大きく横薙ぎし、隙を晒しているレミリアに向けて

 

「針符『千本封魔針』!」

「恋符『ノンディレクショナルレーザー』!」

 

容赦なくスペルカードを使う。

だが、レミリアもそれは運命で見ていたために知っている。

 

「天罰『スターオブダビデ』」

 

レミリアが対抗してスペルカードを発動させると、何もないところに魔力が集まりだす。

 

「霊夢!気をつけろ!!」

 

魔理沙がそう叫んだ直後、六芒星状にレーザーが照射され、照射された直後に青い魔力弾がばらまかれる。

霊夢も魔理沙も咄嗟に回避行動をとったためにグレイズで済んだのだが、スペルカードはブレイクされてしまう。

 

「スペルカードカウンターかよ!?」

「タイミングを誤ったわね・・・魔理沙!長期戦よ!!」

 

ババッと素早く距離をとり、弾幕を展開する霊夢と魔理沙。

だが、レミリアは無理やりに短期決戦に持ち込もうと一枚のスペルカードを展開する。

 

「神術『吸血鬼幻想』」

 

レミリアが大型の魔力弾を発射すると、その大型魔力弾の通った跡に通常サイズの魔力弾が生成され次の瞬間には拡散されてゆく。最初は避けやすかったのがだんだんと拡散される弾幕が多くなり、グレイズが多くなってゆく。

 

「っ・・・火魔『ファイアーレーザー』!」

 

しびれを切らした、魔理沙がレーヴァテインに魔力を回し、一つの紅いレーザーを照射する。

それは見事に弾幕の壁をぶち破り、レミリアの初グレイズをかっさらう。

 

「よしっ!」

 

「良いわね。だけどもうちょっと早くやった方がよかったわよ」

 

魔理沙が気付いて背後を向いた瞬間、ピチューンという音と共に地面に叩き落される。

幸い、噴水にドボンと入ったために衝撃は無効化されて死んではいないみたいだ。

しかし、あまりの衝撃で魔理沙が伸びてしまっている。

 

「ま、魔理沙ぁ!?」

 

「次は、貴女っ。」

 

「う、うわあぁああぁぁぁぁっ!?」

 

瞬間的に、霊夢の背後に現れたと思いきや後ろ襟を掴まれて思いっきりぶん投げられる。

そしてレミリアが好機とみて、また別のスペルカードを一枚切った。

 

 

 

「神槍「スピア・ザ・グングニル」!」

 

 

 

左手で握っていた魔力で練られたグングニルを全力で霊夢に向かって投擲する。

それは、手を離れた時点で音速の壁を越え・・・送れて聞こえてきた音と、バカみたいな衝撃波があたりを襲う。

 

そして、グングニルを投げられた霊夢は・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「負けられるかぁッ!結符『三重結界』!!」

 

 

もう一枚の奥の手を咄嗟に発動し、グングニルを防ぎ始める。

 

 

 

 

バリィィイイインッ!!

 

一枚目の結界は、威力と速度を落とすために

 

 

バリィイインッ!!

 

 

二枚目の結界も、同じ。

 

 

最後の結界にグングニルが激突し、ひびが入り始める。

しかし、霊夢はそれを真正面から迎え撃つ覚悟で、結界に向けて両腕を突き出した。

そして、自身が送れるだけの霊力を最後の結界に向けて強度と密度を再構築する。

 

結界とグングニルで美しいほどの火花が散るが、段々とその火花が収まり始める。

 

「うあああああああああああっ!!」

 

最後の力を振り絞り、霊力をこれでもかというほど送り込むと。

 

キィィイインッ!!

 

 

 

 

 

結界が、グングニルを弾き返した。

 

 

すぐさま霧散していくグングニル。

 

 

そしてレミリアは、自身の勝ちを確信する。

 

 

 

なぜならもう一本のグングニル・・・”本物の”グングニルを投擲しようとすでに構えているからだ。

 

 

 

ここまでの未来はすでに”運命”で見ている。

 

 

 

「残念だけど、これまでねっ!!大人しく、ピチュりなさい!!」

 

 

しかしその次の瞬間。

 

 

 

霧散し、自由落下しているグングニルを霊夢が無理やりに掴んだ。

 

 

そして、

 

「これ。返すわよ。」

 

 

霧散しかけているグングニルを霊夢が自身の霊力で無理やり再構成させると、その槍の色が変わり一つの植物がその槍・・・いや矛に絡みつき、そして霊夢は投擲の構えをする。

 

 

 

「っ!?必勝『オーディン・ザ・グングニル』!!」

 

 

「霊威『茅纒之矟(チマキノホコ)』!!」

 

 

片や必勝とうたわれ、必ず持ち主に勝利を与えると言われる槍。

片や世界に太陽を再び現すための踊りに用いられた象徴的な槍。

その二つの槍は、寸分違わず激突し合う。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・しかし、レミリアのグングニルはチマキノホコに撃ち負ける。

 

 

 

 

「そう・・・運命とは、あてにならないものね。」

 

 

 

レミリアはその言葉を残し、ピチューンという情けない音を鳴らすのであった。

 

 

 




イタズラは結局、マリアが本当にいないということを再確認するだけで終わってしまった。
異変を解決しに来た霊夢に拳骨されて、たんこぶを作りながらお説教されているけど・・・

何となくだけど、これも心地よいと感じる。


その後、とんとん拍子に話が進み。

近いうちに紅魔館が主催で宴会をすることになった。


咲夜に頼んで、料理とか準備しよう・・・もちろん、私も手伝って。


・・・だからマリア。

私たちが、進む道を・・・進もうとする道を、いつまでも見守っていてね。


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紅い霧の異変 EX1

ヴワル魔法図書館の、巧妙に隠された禁術の本棚。
上から三段目、赤地に銀の装飾で鎖と南京錠で厳重に封印された魔本。

426840個の封印結界と防犯結界を解除して、
パチュリーさんの金庫から拝借した鍵を使い南京錠をはずし、大きな音がならないようにゆっくりと鎖を解く。


「・・‪・第66の書、13章18行目・・・。やっと見つけた。」


何とか読める魔法文字を読み上げて、求めていたものだと抱きしめる。




やっとこれで、始めれる。



あの日からスカーレット姉妹は大人しかった。

しかしある時、

 

「姉妹で紅魔館を追い出されたわ。匿ってちょうだい。」

「・・‪・グスン。」

 

 

 

「・・‪・はい?」

 

この日、博麗 霊夢は思わず白目を向いたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、とりあえず。話を聞かせてちょうだい?」

 

紅霧異変からおおよそ1ヶ月。世間はもうすぐ冬と言わんばかりの時期。1週間後には紅魔館での宴会を控えた日に、日傘を指したスカーレット姉妹が博麗神社に大量の着替えを持ってきた。

 

霊夢は困惑しながらも、とりあえず居間に上げて母親である第12代博麗の巫女を交えて、話を聞くことにした。

 

「なんでかは知らないけど、咲夜っていうメイド長を筆頭にメイド隊に謀反を起こされたの。ちゃんとお給料も休日もしっかりと与えてたのに・・・」

 

と、呆れ顔のフランドールがちらりと部屋の隅で頭を抱えて丸まっている姉、レミリアを見る。

 

「うー・・・なんで、なんでなのよぉ。」

 

「あーよしよし、アメなめるかい?まかろんだっけ?それも用意したから、ね?」

 

俗に言うカリスマガードをしているレミリアを慰めている12代博麗の巫女の旦那。

正直、かなり事案に近いのだがレミリアがガチ泣きなためふざけてる場合ではないなと、全員が悟っていた。

 

「謀反される心当たりは何かないのか?」

 

霊夢の母がフランにそう訪ねると、フランは困り顔で首を横に振る。心当たりがなくてお手上げということだ。

思わず霊夢と霊夢の母は、目に手を当ててため息をついた。

 

「とりあえず、私が見てくるから・・・」

 

立ち上がった霊夢はふと、レミリアとフランをよく観察する。

 

(ずいっぶん、泥だらけね・・‪・一体どこを通ってきたのかしら。)

 

紅魔館から直線で博麗神社に来るルートには、泥だらけになるような場所はない。

しかし、遠回りの道・・・紅霧異変の際に通った場所なら霧の湖があり、泥だらけになる可能性はある。

だがどっちとも飛んでくれば泥だらけにはならない。

 

(なら、歩いて・・・いや走ってきた?)

 

「フラン、あなたたち泥だらけだけど・・・どうしたの?」

 

その言葉にレミリアがビクッと体を強ばらせる。

対してフランは、どこか遠い目をしており・・・

 

「やっぱりかぁ・・・えーっとこれはね・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただ単にレミリアお姉さまが霧の湖を通ってる時に、すっ転んで汚れただけだよ。」

 

間を開けるものだから、どれだけシリアスなことかと思いきや・・・放たれた言葉に思わず霊夢の母と霊夢は、ガクッと肩を落としたと言う。

 

 






術者は、対象と深い絆を持つもの。




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紅い霧の異変 EX2


「あぁ、もうすぐ・・・もうすぐだ。」

魔法陣がゴウンゴウンと大きな音を立てて起動している。
メイド隊は私の命令を受け入れ、おそらくくる侵入者全員を追い出してくれるだろう。
厄介な美鈴の狼女たちの警備隊も追い出せた。

「きっとみんな、反対する。だから追い出した。」

皆、強かった。いつの間にか前に向いていた。


「だからこそ、赦せない。」


なぜ、ナゼ!!


 

ふわりと霊夢は紅魔館へと向かう最短ルートを飛び進む。

今回は、相方の魔理沙はいない。

しかしただ調べるだけだ、別にカチコミに行くわけではない。

 

(・・・それにしても、嫌な予感はするけどね。)

 

今日は随分と幻想郷全体の空気が重苦しい。

霊力・・・魔理沙的に言い換えれば魔力だろうか、それが一か所・・・今向かっている”紅魔館”に向かっているのだ。

 

(できれば、そのメイドたちの反乱と無関係であってほしいけど・・・)

 

そう思いつつ、霊夢は飛ぶスピードを速めるのであった。

 


 

最短ルートを飛ぶにしてもいずれにしろ霧の湖は通らなくてはならない。

しかし、今日の霧の湖は随分と様変わりしていた。

 

「なっ・・・」

 

思わずその光景を見た霊夢が驚きですくむ程の変化が、霧の湖に現れている。

 

「な、なんでこんなに・・・・・・”妖精”が!?」

 

霧の湖を覆いつくそうと言わんばかりの妖精たちが、所狭しと飛び回っている。

よく観察すると、目に光がなく・・・まるで操られていると言わんばかりの生気がない様子だった。

しかもそれが、100や200じゃない・・・・・・まるで、”幻想郷中の妖精”がそこに集まっているかのようだった。

 

「ど・・・どういう。」

 

その光景に目が離せなくなりながらも、霊夢の頭は考え出した。

これがメイドの反乱に関係があるのか、そして魔力が紅魔館に向かっていることに関係があるのか。

しかも、この妖精たちはどうしてこの霧の湖に集まりだしたのか・・・

 

(っ・・・だめね、考えても埒が明かない。)

 

普通に考えてみれば、それはメイドの反乱が原因と思えるのだろう。

だが、メイドが反乱してどうして魔力が紅魔館へと向かうのか、そしてこの大量の妖精たちが霧の湖に集うのかの説明がつかない。

 

「れ、霊夢さん!!」

 

と、そこへ誰かが近づいてくる。

霊夢が呼ばれた方向に視線を向けてみると・・・クレイジーサイコレズ大妖精が慌てた様子で飛んできていた。

正直、うげ。と思いながらも、妖精でまともなようだし話だけでも聞こうと思う霊夢

 

「た、大変なんです!みんなが、みんなが!!」

 

「見ればわかるわよ、どうしたのあれ・・・」

 

「分りません・・・でもああなる前に声が聞こえたんです。」

 

「・・・・・・声?」

 

その言葉に霊夢が怪しみだす。

 

「は、はい・・・えっとたしか・・・・・・『今こそ復活の時。』だったかなぁ・・・」

 

「・・・どういうこと?」

 

霊夢は思わず首をかしげる。

言った大妖精にすら訳が分からないらしく、困った顔で首を横に振った。

霊夢が口元に手を当て考え出す。

 

(・・・メイドの反乱、一か所に向かう魔力、様子のおかしい妖精たち・・・大妖精の聞いた『今こそ復活の時。』という言葉・・・。たしか、地下の図書館の魔女が”死者復活の魔法”を探していたとか・・・そして、”マリア”と呼ばれる人物が紅魔館にとって大切で・・・確かこの前レミリアは、その咲夜ってことマリアは血のつながりはないけれども親子の関係って言ってたわね。)

 

点と点がつながりだし、霊夢の頭の中で一つの決着が付こうとしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・咲夜って子が、マリアって言う人を復活させようとしているけど・・・・・・復活するのが別の物?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

点が、全てつながった。





術者は、対象と深い絆を持つもの。

対象の体の一部と、遺品を一つずつ。



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紅い霧の異変 EX3


すこしずつ、少しづつだけど魔法陣から懐かしい気配が漂ってくる。
暖かで、ふわっとした気配が・・・

「うふ、うふふふっ。」

また、会える。早く、会いたい。
その気持ちを抑えて、なれない魔力制御をする。

もうすぐ、もうすぐなんだ。


だから、この言い表せない嫌な予感は、きっと気のせいだ。




 

「ちょ、れ、霊夢さん!?無、無謀すぎますよ!!」

 

大妖精が大量の妖精の群れに向かって飛び込もうとしている霊夢を何とか食い止めている。

 

「嫌な予感がするのよ!今すぐ行かないと、多分手遅れになるっ!!」

 

「だっ、だからって一番層の厚い場所を?!」

 

「そこがいちばん近道なのよ!私の感がそう言ってる!!」

 

無茶苦茶な!という大妖精の叫びはすぐさまかき消される。

袖のヒラヒラに手をかざしたと思いきや、いつかの赤い槍が霊夢の手に握られているからだ。

 

「こういう時に役立つなんて、本当にありがとうレミリア!」

 

もちろん霊夢が展開したものは、あくまで霊力で再現した”グングニル”だ。残念ながら今回は全力で霊力を注いでないので”チマキノホコ”にはなってないが、その効果はそっくりそのままのグングニルである。

なぜこれを霊夢が持っているかと言うと、あの異変の5日後ぐらいにレミリアが博麗神社を訪問し、霊夢に魔力を流すことでグングニルを作り出す魔法陣の書かれた紙を手渡したのだ。

別に垢付けてそのうち紅魔館に引き込もうとかそういった意図はない。と思われる。

 

「貫符『紅色の槍(スピア・ザ・グングニル)』」

 

ステップを踏みながらの助走をつけ、綺麗なフォームで紅色の槍(スピア・ザ・グングニル)を投擲する。

博麗の巫女の・・・いや、正確には人間の非力な力で投げられたグングニルなど、恐るるに足りずと思った人は少なからずいると思われる。しかし、この紅色の槍(スピア・ザ・グングニル)の真骨頂は、

 

”投げつけた直後に、紅色の槍(スピア・ザ・グングニル)に余分に詰め込んだ霊力をロケットのように爆発させる事*1で神槍『スピア・ザ・グングニル』と大差ない威力となっているのだ。”

 

まっすぐと投擲されたこの紅色の槍(スピア・ザ・グングニル)は加速された勢いのまま、目が虚ろな妖精たちの壁に激突した。

 

ピピピピピピピピピピピピピピピピピピチューン!!

 

そして呆気なく大量のピチュり音が響き渡り、一番厚い妖精たちの壁が貫かれた。

 

「は、はわわ。び、びっくりなのです。」

 

思わずあの大妖精も軽くキャラ崩壊を起こすほどの光景は後に語られる博麗最強伝説の1ページ目を飾ることになるのだが今は関係ないので、頭の隅に置いといて・・・

 

「大妖精」

 

「は、はい!」

 

思わず声をかけられると思った大妖精が体を強ばらせる。

あんな光景*2を見たら当たり前なのだが・・・だが。

 

「あとから魔理沙も察知してくると思うから、道案内お願い。あと、心配してくれてありがと、でも大丈夫よ。それと今度博麗神社に来なさい。お茶ぐらいは出してあげるわ。」

 

紅色の槍(スピア・ザ・グングニル)を再び出現させながら、流し目でそう伝えてくる霊夢。

もちろん霊夢は、ただでさえクールビューティな母親とおっとりと優しい性格ではあるが顔面偏差値の高いその夫の子供なのだ。

そんな彼女も例外となくとても顔がいいので

 

「は、はいぃ・・・」トゥンク…

 

大妖精の推しが増えるのも致し方ないというわけだ。

*1
こっちはフランの受け売り、感覚派のレミリアとは違い丁寧な指導の元習得した(魔理沙と同じことがしたいという霊夢ちゃんのツンd)

*2
いくら普段から舐められて腹たっていたけど、あれでも同胞なのだ。しかもそれをたった一撃であれだけ殲滅されて怖くないわけが無い。





術者は、対象と深い絆を持つもの。

対象の体の一部と、遺品を一つずつ。

対象の思い出の詰まった場所で


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紅い霧の異変 EX4



なつかしい、声が聞こえる。



けれども、その声がダレの声なのか思い出せない。



なつかしい、光景がうっすらと見える。


けれども、その光景がどこの物なのか思い出せない。




だけどどうしてだろう、どうしても引き寄せられる。



 

「くそっ・・・!?」

 

正気の無い妖精たちの壁の中に侵入した霊夢なのだが・・・

その後、壁の一部から妖精たちが霊夢に向かい突撃し、普段の弾幕とは大違いの大量の弾幕を撃ち放ってきた。

霊夢も持ち前の勘と変態的な回避技術を持ってそれを一つ一つグレイズして回避し続けている。

だが、一番の問題は・・・

 

「ちっ、やっぱり弾幕が当たっても倒れないっ!」

 

まるでゾンビの様に妖精たちが倒れないのだ。

霊夢はさっきから自身の弾幕を展開し、群がる妖精たちを倒そうとしている。

しかし撃たれた妖精たちはそんなことを気にせず、というか全然効いている様子がないのだ。当たっているのにピチュらないのだ。

 

(妖精たちが強化されてる!?)

 

通常弾幕だと妖精たちを倒せないと悟った霊夢はスペルカードを使おうとするが・・・

発動する寸前で、考え直ししまう。

 

(こいつらでスペルカードを使ったらダメな気がするっ!!)

 

いつもの勘ではあった。

しかしどうしてもそうした方がいいという確信が霊夢の中にはあったのだ。

それゆえに霊夢は、大多数の妖精から放たれる”ほぼ”隙間の無い弾幕をまるで曲芸師かのようにスルスルと弾幕と弾幕の間を避け続けている。挙句の果てには、ローリングまで駆使するようになるのだからとてもその密度の濃さがうかがえる。

 

妖精たちに絡まれてから、ほんの数分程。

ようやく紅魔館の玄関が見えてきた。

 

(あと・・・ちょっと!!)

 

しかし、回り込まれるかのように妖精たちが待ち構えている。

だが霊夢はそんなことはどうでもいい!と言わんばかりに飛ぶスピードを上げる。

 

 

「その覚悟、しっかりと見させてもらいました」

 

 

突如、そんな声が聞こえたと思った途端、エネルギーの塊が玄関を遮る妖精たちの壁に襲いかかった。ついでにいえば、霊夢の周りを囲っていた厄介な妖精たちもそれで全員倒されている。

 

「あ・・・あんたは確か」

 

「貴女とは挨拶をしていませんでしたね。紅魔館警備隊総隊長 兼 紅魔館正門門番の紅美鈴です。ここは私”たち”に任せて、中へお早く。」

 

その言葉につられるかのように美鈴の後ろに視線を向ければ、いつかの異変で散々厄介だった狼女たちの軍集団が集まっていた。

 

「・・・警備隊が通しちゃダメじゃない。レミリアに叱られるわよ。」

 

「きっとお嬢様は許してくれますよ。」

 

「・・・あっそ、お願いするわ。」

 

霊夢はそれだけを言って、玄関に向かって飛び蹴りを放つ。

扉が豪快に壊れて、紅魔館のエントランスホールが丸見えとなる。

 

「・・・・・・随分と、嫌な雰囲気ね。」

 

その言葉だけをぽつんと零し、霊夢は紅魔館の奥へと進むのであった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「・・・随分と派手にあの人は行きましたね。」

 

チラリと、美鈴が空を見上げると先ほどまでは50~60体だった妖精たちが100~180体に倍増している。

どうやらこちらの狼女たちを見て咄嗟に数を増やしたみたいだ。

 

「隊長、全警備隊準備完了しました。」

 

「そう、これは後片付けが大変そうね。」

 

「全くですね。」

 

警備隊副隊長が私の皮肉を全力で同意する。紅魔館の整備や補修は、警備隊が担当している。今回のこれで、全力でぶつかり合ったなら、荒らされたり壊れたりするのは必然だろう。

だが・・・

 

「しかし・・・今回ばかりは、紅魔館への被害は気にするな。これはお嬢様の託だ。」

 

そう、カリスマブレイクから復活したレミリアお嬢様に召集され言い渡されたこと。

紅魔館をぶっ壊してでもいいから霊夢を全力で支援しろ。とのこと。

 

「いいんですか?治すのは私たちでしょうに。」

 

「この空に全部浮かんでる妖精を相手するのに、周りのことなんて考えられないでしょう?」

 

「・・・・・・確かに。では始めましょう。こちらの子たちがもはや待てない状況のようで。総員、放てっ!!」

 

警備隊副隊長が言った途端に、他の警備隊員たちが弾幕攻撃をしだす。

総勢、30名の濃い弾幕が形成されている。

しかも、全員があてずっぽうに撃つのではなく2人が協力して一人の敵に見定めて弾幕を放っているのだ。こればっかりは長年働いていたコンビネーションに頼りっきりだが、そこは私の優秀な部下たち。

それぞれのツーマンセルが、それぞれ息の合った攻撃で次々と妖精たちを叩き落としている。

 

そして私は、霊夢さんが蹴り開けた玄関の前に両腕を組んで仁王立ちする。

今この戦場の最終防衛ラインはこの私だ。

 

 

「霊夢さんと魔理沙さんには抜かれましたが・・・この美鈴。誰一人とて通しはしない。」

 

 

気を拳に纏い、弾幕を潜り抜けて玄関に入ろうとする妖精に向け、正拳突きを放った。





術者は、対象と深い絆を持つもの。

対象の体の一部と、遺品を一つずつ。

対象の思い出の詰まった場所で

術者の補助役として”不老不死”をつけること。



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紅い霧の異変 EX5

魔法陣の中心に、見慣れた”彼女”が横たわって眠っている。
咲夜が彼女に駆け寄り、そっとそばで泣きはじめる。

「さて、じゃあ私は・・・”侵入者”を相手してくる。」

それだけを言い、彼女たちから離れる。


「まって、アンナさん・・・」

呼び止められて、振り返る。

「・・・ごめんなさい。こんなことに付き合わせて。」

おそらく、お嬢様たちへの反逆の事を謝っているのだろう。

「気にしないでいいっすよ。咲夜ちゃんの為っすから。」

お調子者の口調でしゃべりながら、咲夜ちゃんの頭をなでる。

「だから、今来ている侵入者も任せてほしい。」


「今度こそ、必ず守るから。」






魔力をたどりながら霊夢は紅魔館地下のさら奥に進む。

あちらこちらから流れ込んだ魔力が相当な量のようで、魔力や魔法に疎い霊夢でさえ、今ここは魔理沙やパチュリーのような魔法使いでもない限り、危険かもしれないというのが勘で伝わってくる。

 

 

「・・・でも、どうして一人も迎撃に出てこないの?」

 

 

紅魔館地下の入り口らへん・・・ヴワル魔法図書館の入り口周辺では妖精メイドやそれ以外の妖精たちの攻撃があった。

しかしそれらを、振り切り無理やり奥に進むと・・・彼女たちは一切追撃をしてこなくなった。

 

「一体・・・どういうことなの?」

 

言い表せない不安と恐怖が、ぺったりと霊夢の背中に張り付いている。

まるでこの先にいるのは、この先にあるのは・・・”死”そのモノだと言わんばかりに。

ふと、誰かがいる。この薄暗い廊下でも、その人物はかつてあった人物だということを理解する。

 

「アンタ・・・確か、アンナって言ったわよね。」

 

その人影・・・アンナは霊夢の問いかけには答えずに、目をつむって顔を伏せている。

両手に握られている二つのロングソードがキラキラとこの薄暗い廊下の中で光り輝いている。

 

「・・・あんたも、やる気?」

 

「理解が速くて助かるっす。」

 

アンナが、ようやく声を発したと思いきや・・・十字にその剣を構える。

そして、何の口上も告げずにその構えを解き、霊夢に高速で接近し始めた。

 

 


 

アンナがジャンプし、降下しながら右手のロングソードを振り下ろす。

しかしその見え見えの軌道は霊夢にとって避けることなど造作でもなく、すぐさまお返しと言わんばかりの弾幕が展開される。

アンナはその弾幕が視界に入った途端に、ロングソードを構えなおし・・・弾幕を一つ一つ斬り落とし始めた。

 

「っ!?」

 

思わず霊夢も驚き、さらに距離をとろうとバックステップを踏む。

しかしその隙を逃さず、アンナは高速に近い機動で霊夢の背後を簡単にとる。

そして、霊夢の首筋めがけて柄頭を振り下ろすが・・・霊夢が咄嗟にアンナに霊力で強化した回転蹴りを繰り出したせいで、ガードができずに衝撃で右にずれた。

だが、アンナには大したダメージが与えられてないのか鋭い目で霊夢を睨みつけていた。

 

「このっ・・・」

 

霊夢が、回し蹴りの反動そのままふわりと空中に浮かぶ。

そして、追撃と言わんばかりに簡単には切れないように霊力で強化した弾幕を撃つ。

アンナがそれを断ち切ろうとするが、弾幕とロングソードが当たる瞬間にロングソードを引っ込めて回避に専念する。

かわした弾幕が地面に着弾した途端、その弾幕が爆発を起こして霊力弾が拡散される。

横目で確認した後、左手にあるブレスレットに自身の魔力を流し始める。

 

揺らした直後に、アンナの体がふわりと浮かび両脇に二つの十字架が出現する。

棒状の部分は質素だが、十字架のちょうど中心部分にある宝石が輝くと、複数個の矢が出現し霊夢に向かって放たれる。

しかし、追尾性のない直線的な矢は床や壁に突き刺さるだけで霊夢に決定打が与えられない。

一瞬、顔をしかめたアンナ。その次の瞬間には一対のライフルが出現する。

そして霊夢もそれを見て驚く、かつて藍と話をしていたときにライフルの存在を話に出されて、ライフルを知っていたからだ。

 

「fire。」

 

アンナの掛け声でライフルが自動的に狙いをつけて射撃する。

しかし霊夢の超人的な勘でその弾丸すら回避する。

 

「なんて勘の持ち主・・・」

 

「これだけは私の自慢できることなのよっ!!」

 

正直うやましいと思いつつもアンナは容赦なく追撃する。

高速で素早く見ずらいライフル弾と、見やすいが避けずらい場所に放たれる矢。

その二つの弾幕で、段々と霊夢は冷静さを削られてゆく。

なにぶん、避けても最初から分かっていたかのようにライフル弾が飛んでくるのだ。

 

「・・・そろそろ仕掛けさせてもらう。追跡『スレイヴグリム』」

 

アンナがどこからか取り出したスペルカードを宣言すると、どこからともなく1つの大鎌が現れる。それを掴んだと思いきや、思いっきりぶん投げる。

投げられた大鎌は、回転しだして斬撃状の弾幕を発生させながら霊夢に向かって飛んでゆくが、簡単に避けられてしまう。

だが次の瞬間、床に当たったその大鎌が回転そのままにバウンドし再び霊夢に向かって飛び始めた、しかもただバウンドして霊夢に向かうだけではなく、魔力で似せられた大鎌が増えていた。

 

「そういう事っ」

 

霊夢が避ける度に、その大鎌の数は増えてゆく。

1つが2つに、2つが4つに、4つが8つに・・・

段々と霊夢の逃げ場がなくなり、死神の鎌が霊夢の首元にかざされている。

 

「針符『千本封魔針』ッ!」

 

大鎌たちが当たる瞬間に、カウンタースペルを発動させてアンナのスペルカードをブレイクさせる。

最初からこれを狙っていた訳では無くただの勘で発動させたが、さっきまでの危険がかき消される。

だが、カウンタースペルで発動させた『千本封魔針』は身構えていたアンナには当たらなかった。

 

「いいタイミングだと思ったのに!」

 

「油断なんてしないわ、守りたいものがあるもの。追撃『ハウンドウルフ』」

 

間髪入れずに、アンナはスペルカードを発動させる。

脇に浮かぶ十字架から魔法陣が展開されたと思いきや、その魔法陣から2頭の大型の何かが出てくる。

よく見れば人一人は軽く食ってしまいそうなほどの大きさの狼である・・・そして、その2頭がほぼ同時に霊夢へと襲い掛かる!

 

「舐めんじゃ・・・ないわよ!!」

 

しかし、飛び込んできた2頭の狼は霊夢のサマーソルトキックにまとめて吹き飛ばされ、消滅してしまう。

 

「ぜぇ・・・ぜぇ・・・もう、品切れかしら?」

 

肩で息を吸いながら挑発する霊夢。

しかし、そんな挑発もアンナには効果がなく、ただ冷静に細い目で見られていた。

 

「あと1枚ならあるっすよ。」

 

「・・・うぇ、まだ続くの?」

 

その最後の1枚が、アンナの手に現れた途端に、霊夢の体にとてつもない威圧感がかかる。

これまでの言い表せない不安や、少しばかりの恐怖などではない。

 

「アンタっ?!何をするつもりなの!?」

 

「出来れば、この能力は使いたくなかった。でも、」

 

 

 

「私にも、後に退けない理由がある!!解放『パンドーラ』!!」

 

 

 

そして、それ”ら”は、解き放たれた。




術者は、対象と深い絆を持つもの。

対象の体の一部と、遺品を一つずつ。

対象の思い出の詰まった場所で

術者の補助役として”不老不死”をつけること。

注意事項
(術の対象者が上書きされた魂を持つ場合。上書きされる前の魂で復活します。)



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紅い霧の異変 EX6

アンナがラストスペルである”解放『パンドーラ』”を発動させた途端、

霊夢の直感がとてつもないほどの警鐘を鳴らし、撤退を推奨する。

しかし霊夢は逃げずに、槍のように長いお祓い棒を構えていた。

 

「うっ・・・うがあああああああっ!!!」

 

アンナの苦痛を表す絶叫が響き、彼女が膝を付く。

 

そして・・・

 

 

”炎と氷が羽根のように、アンナの背中から突き出てきた。”

 

 

 

 

「・・・・・・はぁ?」

 

 

 


 

 

破壊と再生をつかさどる獄炎の不死鳥”フェニックス”。

時間と空間をつかさどる氷獄の獣”フロスト”。

 

かつて、教会が幾多の時間と、数多もの犠牲を払ってようやくアンナの内側に封じ込めた存在。

なぜアンナがこんなものを内側に封印していたのか、なぜ墓守人と呼ばれるようになったのか、実を言うとこの二匹は元々教会の神獣でもあるのというのは・・・今説明すると長いので割愛する。

そんな二匹は、長年共に生きてきたアンナにすっかりなついており、正直に言えば今からやろうとすることに関しては協力的だ。

だが・・・本人に底知れぬ苦痛と痛みを与えるということを除いては・・・

 

「ぜぇ・・・ぜぇ・・・」

 

滝のように嫌な汗を流し呼吸を荒くさせ、それでもなお霊夢を睨みつけているアンナ。

今この時でも、アンナには気が遠くなるような痛みと狂ってしまいそうなほどの苦しみ、そして干からびてしまいそうなほどの魔力消費が襲い掛かっている。

やがて、背中から生えていた炎と氷の羽が切り離され、そこから件の”フェニックス”と”フロスト”が出てくる。

 

片方は、翼が燃え盛る大鷲。もう片方は、鬣が凍り付いている雄獅子。

 

両者ともに、神々しさの中に荒々しさと恐ろしさを感じさせる風貌である。

持っていた双剣の片方を杖にして無理やり立ち上がるアンナ。

 

「お願い・・・・・・アイツを・・・倒して!!」

 

アンナの声に呼応し、二匹の神獣が咆哮をあげる。

炎の大鷲は飛び上がり、氷の獅子は自らの足元に氷を作ることで空中を縦横無尽に走り回る。

 

そして、二匹の攻撃が始まった。

 

 

 

最初の攻撃は霊夢だったのだが、フロストはアンナを氷の壁で囲うことでその攻撃を無効化させている。

そして、攻撃してしまった霊夢に対してフェニックスは油断なく攻撃をする。

 

前に出たフェニックスが、羽を羽ばたかせれば何もないところに燃え盛る炎の矢・・・いや羽が出現する。

それもあちらこちらから・・・霊夢が見えない一から、挙句の果てには壁を貫通させてまで、しかし霊夢はそれをすべてかわし続け、とても素早く変態的な軌道で回避し続ける霊夢だが、なにぶんその弾幕の数が多く、着々とグレイズの数を増やしていった。

 

そしてフェニックスの弾幕が途切れた瞬間、

 

フロストが前に出て、氷の弾丸がフロストの周りに生成され霊夢に向けて発射される。

フェニックスの弾幕と比べ、数は少ないのだがその分弾がとても速い。

そして的確に、まるで予知の能力があると言わんばかりの弾幕の嵐で、霊夢もグレイズだけではなくかすり傷を作り始めてしまっている。

 

だが霊夢とて負けてはいなかった。

先ほどまで分からなかった分の弾幕も段々と勘が働いてきたのかよけ始めている。

流石の様子に、フェニックスもフロストも焦りの様子が見える。

フロストの弾幕が途切れた途端、今度は二匹同時に前に出る。

 

フェニックスの”ゆっくりとした弾幕だがその密度のある攻撃”と、フロストの”数の少ない攻撃だが、正確で速度のある攻撃”が同時に霊夢に襲い掛かる。

もちろんそうなれば、霊夢の避ける場所などほぼ無くなる。だがしかし、

 

「っ!」

 

霊夢は何と弾幕と弾幕の隙間をグレイズすることですべて避け始めていた。

だが、フェニックスとフロストのこの弾幕はアンナにとって”ラストスペル”。

フェニックスもフロストも負けられぬ維持と気合で大量の弾幕を展開させる。

 

 

・・・だが、

 

 

 

「私の、勝ちね。」

 

 

霊夢には届かなかった。

 


 

アンナの最期の力が付き、倒れ伏す。

それに合わせて、フェニックスとフロストが心配そうに駆け寄る。

 

「・・・どうして」

 

アンナが今にも消えてしまいそうな瞳で、霊夢を見上げる。

もう視界も意識も定かではないだろう。

 

「どうして、あなたは・・・いま、さらに・・・なって・・・」

 

霊夢があの事件の時に居れば、マリアはそもそも死ぬことはなかったのではないか。

なぜ博麗の巫女は2代そろって、マリアを諦めさせようとするのか。

 

「わたしたちは・・・ただ、まりあを・・・・・・マリアをすくいたい・・・だけ、なのに。」

 

「そう、でもごめんなさい。私は貴女たちをボコボコにするしかないの」

 

博麗の巫女とは元来そういうものだ。

博麗の巫女は幻想郷において、異変起こし事件を起こし、人に危害を加えたものを捌く必要がある。

そこにどんな理想、理念、思い、感情があろうと博麗の巫女は押しつぶす必要がある。

 

「せめて・・・・・・さくやちゃんだけは、どう・・・か。」

 

おそらく本心なのだろう、咲夜にだけは手を出さないでほしいとアンナが懇願する。

一番つらい思いをしてたのはレミリアもそうだが何よりも咲夜もそうであった。

母と慕っていた人物が、ある日突然死んでいなくなったのだ。

絶対に隣にいると思った人物が、誰よりも強いと思っていた人が、誰よりも暖かかった温もりが無くなったのだ。

 

だが、そんなアンナの願いでさえ。

 

「・・・ごめん、なさいっ。」

 

 

 

 

霊夢は押しつぶすのだ。

 

 






「お母様!私です・・・咲夜です!!」

目を覚ました。
優しい雰囲気で、温かい目で私を見てくれている。

ああ、うれしい。間違いなくお母様だ。
この雰囲気も、この気配も、この暖かさも。

「よかった・・・ほんとうによかった!!」

でも何なんだろう、この不安感は。
ペッタリとした何かが首筋をなぞって仕方がない。
無意識に足の付け根に隠している暗器に意識が向いてしまう。


「・・・貴様は、誰だ。」


「っ!?」

そして、暗器を抜いた瞬間には・・・



「どう・・・・・して・・・・・・」



私は、腹を”黄金の剣で”貫かれていた。


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紅い霧の異変 EX7

ところ変わって博麗神社、霊夢の父と母とフランが世間話と色々な話をしている最中・・・スクッとレミリアが立ち上がる。
咄嗟のことで、ビクッとなるフランたち。

「お、お姉様?どうしたの?」

「・・・行かなきゃ。」

目を紅く光らせたと思いきや、かなりの衝撃波を放って未だに妖精が覆い尽くしている紅魔館に飛んで行った。

「あ、・・・ぶなっ」

霊夢の母が、咄嗟に霊夢のより強力な防御結界を展開したおかげで家具や、ちゃぶ台の上にある物もフランたちも全員無事であっ
た。

「ふ、フランちゃん。レミリアちゃんがあんな事になったことってあるの?」

霊夢の父がフランに聞くが、フランもあんな状態のレミリアは見たことがなかった。
呼び掛けにも答えずに、太陽が輝いている中あんな猛スピードで飛んでいくなんて・・・

「一体、何が起きてるって言うんだ?」

「わからない、でも・・・とっても怖いことだと思う。」

霊夢の母の目が少し鋭くなり、フランはなにか嫌な予感を感じ取っていた。


「ここ・・・よね。」

 

霊夢は、アンナを倒し奥に進んだ。

そしてその奥にあった扉の前で・・・思わず立ちすくんでいた。

その扉の奥から感じ取れるのは、扉越しでもすくんでしまうほどの重圧感。

そして、紅魔館地下への入り口や外なんかとは比べ物にならないほどの力のたまり具合。

 

「うだうだ考えていても仕方ないっ!」

 

考えることが面倒になった霊夢が、その扉を蹴とばす。

 

バァン!!

 

 

「・・・はぁ?」

 

扉を蹴とばすと、そこは緑豊かな自然が広がっていた。

間違いなく言えることは、これが紅魔館の地下室・・・その最奥の部屋の光景だという事。

間違いなくここは日の当たることのない地下室で、さらに言えば誰も立ち寄らない最も奥にある部屋だ。

だというのにこの光景は・・・

 

「・・・やっぱり、私の勘は当たっていたの?」

 

そう呟き、一歩踏み出した途端。

 

 

 

 

霊夢の四方八方からレーザーが放たれた。

 

 


 

 

「あっぶなっ!?」

 

先ほどまで立っていた場所がかなり穴だらけになっている。

咄嗟に前に飛び出したおかげで霊夢自体もグレイズで済んだのだが・・・

 

「間違いなく、歓迎ってことね。」

 

「いや、迎撃。と言った方が正解だがな。」

 

聞きなれない声が聞こえたので、霊夢がその声のした方向に向けて御札を何枚か飛ばす。

だが、その飛ばした御札は焼き払われてしまい、弾幕としての効果はなくなっていた。

 

「こんにちは、博麗の巫女。私は、”妖精の王 アリア”という。聞いたことはないだろう?」

 

そこにいたのは、そう。マリアによく似た女性。しかし、姿が・・・羽の色が違う。

アリアと名乗った彼女の容姿は、白い色のドレスを身にまとい虹色の水晶のような羽根を持っている。

その右手には、ツタが巻き付いた木の杖が握られている。

 

「でもアンタは私を知ってる。てことは、昔幻想郷にいたってことよね。」

 

「ああ、ご明察。私は昔の・・・そうだな、初代博麗の巫女の頃の話・・・そしてその時代に私は滅びたはずだった。」

 

「・・・じゃあ、アンタはなぜここにいるの?」

 

「さて、な。私にもよくは分からない。さて、無駄話はここまでにして始めようじゃないか。もちろん、命の保証はしないがな」

 

「・・・・・・ええ。」

 

釈然としないまま霊夢とアリアが戦い始める。

霊夢が御札と針の弾幕を展開し始めるが、そのすべてはアリアに当たる直前に、まるで壁に出も当たったかのように消えていってしまう。

思わず霊夢が舌打ちした直後、左から右へとレーザーが順番に発射され始める。それを右端によることで回避する霊夢だが、今度は逆再生がされたかのように逆の順番から発射され始める。驚く霊夢だが、冷静に左端に移動することでそのすべてを回避した。

 

「まずは小手調べといこう。『氷の妖精(チルノ)』」

 

互いの最初の一撃が無意味に終わったところで、アリアが一つの魔法を使用する。

氷のような薄い水色の魔法陣が展開されたと思いきや、その中心からチルノが出てくる。

 

「チルノ!?」

 

「このものはあくまで私の作りだした幻影。本人ではないさ」

 

アリアがそういった途端、チルノが両腕を構えて弾幕を発生させる。

ツララの弾幕が出現したと思いきや、それが霊夢に向けて”落ちてゆく”弾幕。

 

(『アイシクルフォール』?それならっ・・・)

 

アイシクルフォールには一つの弱点があった。

イージーモードのアイシクルフォールには、チルノの正面に大きな安置が発生する。

今発動させているアイシクルフォールは、イージーなのかそれともハードなのかは分からないがとにかくチルノの正面に移動する。

しかし飛び込んだ直後、霊夢は急ブレーキをかけて反転する。

反転した直後、安置だと思われていた場所が”黄金の武器”で串刺しになっていた。

 

「なるほどっ・・・」

 

小さく声を零しながら、アイシクルフォールを避け続ける。

おそらく弾幕を放っても防がれるだけだと霊夢は勘づいているので避けることだけに専念する。

そして、アイシクルフォールの発動時間が過ぎた途端、チルノの幻影がスゥーッと消えてゆく。

 

「流石に当たらないか。さすがは博麗の巫女だ」

 

「はん、今さらチルノの弾幕、グレイズもしないわよっ!」

 

隙があるとみて霊夢がアリアに向けて弾幕を撃つが・・・やはり壁に当たったかのように消えていってしまう。

霊夢はいい加減に食らいなさいと思いながら、消されるとしても大量の弾幕を発生させる。

 

「自棄になってきたのね、残念だけどその程度の弾幕では私の防御を抜くことはできないわ」

 

「そんなのやってみなくちゃ分からないでしょうにっ!」

 

「やってるじゃない」

 

自身が出せる全力の弾幕を余裕そうに防がれている。

そして霊夢は、薄々とそれを感じ取り始めた。

 

(負ける・・・?私が?)

 

そんなはずはないと気持ちを切り替える。

しかし・・・

 

「ぐぅ・・・」

 

 

霊力を少しばかり使いすぎていた。無理もない、最初の入り口からここまで激戦続き。

もはや霊夢の霊力は飛ぶだけの力を残してほぼほぼすっからかんであった。

 

「・・・ここまでか、残念だよ博麗の巫女『炎の妖精(モルガーン)』」

 

弾幕が打ち止めとなった途端、アリアが炎のように赤い魔法陣を発動させる。

その魔方陣から、燃えている羽を持つ女の子が現れ・・・こちらに手を向ける。

 

 

(・・・・・・さすがに、もう駄目か。)

 

 

今考えれば、大妖精の忠告を聞いて魔理沙の到着を待てばよかった。

そうすれば、アンナ戦でアンナに体力と霊力を消耗するどころかこの異変ももっと簡単に終わらせることができたのかもしれない。

 

(なんて・・・いまさらよね。)

 

全てをあきらめたように、霊夢が目をつむる。

 

(ごめんなさい、お母さん・・・お父さん。不出来な娘で・・・)

 

 

そして

 

 

 

 

 

 

霊夢に・・・

 

 

 

 

 

 

 

”溶岩の雨が降り注いだ”

 

 

 

 

 

 

 

 




パリンッ!!


「えっ」

「・・・っ。」

場所は戻って博麗神社。
レミリアが飛び出してさほど時間がたっていない。

・・・それにレミリアが飛び出した時に、被害などなかったのに。


ただ、”霊夢お気に入りの茶碗だけ”が真っ二つに割れていた。


「・・・霊夢。霊夢はちゃんと帰ってくるよね。」

思わず、霊夢の父が霊夢の母に聞く。

「あの子は強い。私が認めるんだ・・・だから帰ってくるさ。」

慰めるように言いつつ、霊夢の茶碗を拾う霊夢の母。
だけど、霊夢の母は・・・言い表せない恐怖感が心の奥底からあふれ出していた。


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紅い霧の異変 EX8

「・・・所詮、博麗の巫女と言えどこの程度か」

モルガーンが降らせた溶岩は、いとも簡単に博麗の巫女を飲み込み。
もはやその存在を骨ごと溶かしている。

「・・・やはり、違う。か」

博麗の巫女を倒せば、この身体と心の違和感と既視感が取れると思っていた。
しかし、取れない。

むしろ博麗の巫女を倒したことで、苛立ちが高まったような気がした。


「もういい、これ以上の解決策が見当たらなければ、この屋敷を・・・!?」


冷え始めた溶岩の塊から、何かが飛び出しモルガーンを貫く。
モルガーンが、スゥッと魔力に還り私はその何かを投げた相手を見る。




「ふふふ・・・まさか。こんなチャンスが巡ってくるだなんてね。」





「運命とはどう転がるか、まったくもって分からないわね。」

 

紅い槍を振り回し、冷え始めた溶岩の塊を切り払う。

その塊の中から出てきたのは、気絶している霊夢を片腕で抱きかかえているレミリアであった。

レミリアは、何も言わずにそっと霊夢を草原の上へと寝かせて、再び浮かび上がる。

そしてレミリアは、目を煌々と紅く光らせアリアを見据える。

 

「お前は?ひどく見覚えがあるのだが、どこかであったか?」

 

「・・・私は、レミリア・スカーレット。この紅魔館の主にして、十六夜 マリアの主だ。」

 

 

「・・・れみりあ・すかーれっと?」

 

レミリアの名前を聞いた途端に、アリアの表情が変わる。

そしてアリアには、とてつもない違和感とそして嬉しさがあふれ出してくる。

 

「貴様・・・私に、何をした!?」

 

「・・・やっぱり。”そこ”にいるのね。マリア。」

 

ふふっ。という嬉しそうな笑顔と共に、紅い槍・・・魔力で練ったグングニルではなく・・・本物のグングニルを構える。

 

「ぐぅっ・・・不快、実に不快だ!!貴様もろともこの屋敷を吹き飛ばしてくれる!!」

 

「運命とは、限りなくゼロに近い誰にもわからない不思議で恐ろしいもの・・・だけど、それは人にいいことを与えれば悪いことを与える。

 マリアが亡くなったのは、私たちにとって運命の日だった。あの時は、全員が泣いて悲しんで後悔して・・・そして全員離れ離れになりそうだったけど。

 だけど、マリアが帰ってくるかもしれないというこの運命!逃してなるものか!!」

 


 

怒りをあらわにしたアリアが、レミリアに向けて恐ろしいほどの弾幕を発生せる。

しかしレミリアは、グングニルを構えてその弾幕へとツッコんでゆく。

当たりそうな弾幕はグングニルで切り払い、グレイズしながらも避け激しい弾幕を掻い潜り、

 

アリアの喉元にグングニルの刃先が伸びた。

 

「っ!?き、貴様ぁッ!!」

 

「その程度?お可愛い弾幕だこと。」

 

「舐めるなぁッ!『雷の妖精(アンペア)』!!」

 

レミリアの煽りにアリアが怒り、黄色の魔法陣を発動させる。

その魔方陣から、黄色の妖精が飛び出しレミリアに向かって大量の雷が降り注ぐ。

しかし、それは一つもカスリはせず、レミリアのあまりの速さに光るだけ光って次々と消えてゆく。

やがて力を使い果たしたのか、アンペアがスゥッと魔力へと還ってゆく。

 

「おのれっ・・・こざかしいコウモリが!・・・だが、甘いなぁ。」

 

レミリア優勢かと思われたが、次の瞬間レミリアは黄金の鎖に囚われてしまう。

いきなりの出来事にレミリアも驚き、グングニルを思わず落としてしまう。

 

「この程度の鎖、私が引きちぎれないとでも・・・・・・あら?」

 

レミリアがぐっと力を込めて引っ張るが、その黄金の鎖はビクともしない。

 

「ははははっ!ムダムダムダ!!その鎖は、捕らえた者の力よりも固くなる特別な鎖だ。もはや貴様に、逃げ場はない!!」

 

「・・・これだけの力をもってしても、かつて死んだとは。情けない」

 

「減らず口を・・・遺言はそれでいいな?死ねい、レミリア!!この忌々しい不快感と共に!!」

 

囚われたレミリアに向かって黄金の剣が飛翔する。

レミリアは余裕そうにその剣を眺め、アリアは勝ったと確信する。

 

しかし・・・

 

 

「「魔剣『ダブル・レーヴァテイン』!」」

 


 

「・・・・・・は?」

 

黄金の剣が、ドロリと溶けてそのまま消えてなくなる。

 

「・・・はぁ、遅いのよ。あとちょっとで当たってたじゃない。」

 

「あはは・・・ごめんねお姉さま。気付くのにちょっと遅れちゃった。」

 

「昨日は夜遅くまで研究してたんだ、勘弁してほしいぜ。」

 

窮地のレミリアをすくったのは、あとからやってきたフランドールと、寝坊してきた魔理沙の二人だ。

二人はレーヴァテインを轟々と燃やし、即興の合体スペルカードで黄金の剣を切り裂いたのだ。

間違いなく言えることは、これでアリアの優位が崩れたということである。

 

「なぜだ・・・私の、私の勝利は・・・必然だったはずだ。運命のはずなんだっ!」

 

アリアが、確実に勝てていた状態だというのにいきなり劣勢になったことに受け入れができていなかった。

信じられないという表情で、フルフルと震え出し・・・次第に怒りのオーラがにじみ出てくる。

 

「・・・魔理沙、霊夢を連れて逃げなさい。」

 

「なんだよ、私だってでき」

 

「魔理沙。」

 

「・・・・・・わかったわかった。その代わり、しっかり勝つんだぜ?」

 

魔理沙に指示して、伸びていいる霊夢を逃がす。

そしてレミリアは、グングニルを・・・フランはレーヴァテインをそれぞれ構える。

だが、再びアリアに視線を戻し二人は気付く。

 

「あ・・・アAぁaあ・・・」

 

アリアの様子が、どうもおかしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――――――■■■■■■■■■■!!!!!」

 

 

そしてため込まれた怒りと絶大な力は、大きく爆発したのだ。

 


 

レミリアとフランが、姉妹の息の合ったコンビネーションで”ソレ”に攻撃する。

”ソレ”は、いとも簡単に防御されむしろいつの間にか握っていたハルバートで弾き飛ばされる。

弾き飛ばされ、地面に激突したところで凶暴な弾幕の追撃が二人を襲う。

 

魔理沙が霊夢を連れて逃げてからわずか5分。

たった五分で、レミリアとフランはボロボロに追い詰められていた。

その原因は・・・

 

「■■■■■■■■■■。」

 

目を幾何学模様に光らせている”アリア”であった。

煌びやかなドレスと虹の結晶のような羽根は大きくまた荒々しくも美しくなっており、

手に持つハルバートには何の植物なのかは不明なツタが巻き付いていた。

 

「もぉ~!こんなのって・・・」

 

「焦らないで、フラン。何回か繰り返せば必ず隙を見つけれるはず・・・多分。」

 

「それさっきも聞いたんだけど!?」

 

流石のフランと言えども苛立ちを隠せず、レミリアも疲弊してきたのか同じセリフを何度も繰り返している。

大量の弾幕の嵐を捌きながら突撃し、なおかつ防がれてそれでダメージを受けているのだ。

弾幕で削ろうにも、相手にはどうやら反射機能を持った防御能力があるらしく・・・先ほどやって地下室の森の一部が大きくえぐれてしまっていた。

 

「・・・さすがに、お姉さまは限界なんじゃない?何回も私のも防いでくれてるじゃない。」

 

「お姉ちゃんを舐めないでほしいわねフラン。それに、妹は姉が守るものよ。」

 

「ありがたいけど、ボロボロになってまで言うこと?」

 

しかし、そこは仲の良い姉妹・・・すぐさま冷静さを取り戻しそれぞれの武器を構える。

 

「っ・・・大技が来る!」

「分かったわ!お姉さま!」

 

勘の良いレミリアがアリアの大技を察知する。

すぐさまレミリアが前に出ようとするが、フランがそれを押し留めてレーヴァテインの出力を上げる。

目線でフランのやりたいことを理解し、今回は力を温存することになったレミリアは、アリアの行動を見逃さないように注意を払った。

 

「『風の妖精(ストーム)』」

 

緑の魔法陣が展開されたと思いきや、軽装の緑を基調とした妖精の少女が現れる。

その少女が腕を振るったと思いきや大量の鎌鼬がフランたちに向かって襲い掛かる。

しかしフランはそれらをレーヴァテインで一気に焼き払う。

 

 

”アリアの呼び出したストーム事”、鎌鼬の弾幕を焼き払ったのである。

 

 

「やる事が派手ね。」

「でもこれでスペルブレイク、ってね!

 

「■■■■■■!!」

 

スペルブレイクをされて明らかに怒ったのか、もう一度大技を仕掛けてくる。

だが今度は、レミリアも察知できないほどに迅速で・・・

 

また”レミリアたちが冷や汗をかくほどの重圧”が発生したのだ。

 




ここまでのアリア使用スペルカードまとめ

氷の妖精(チルノ)』(元ネタ 原作チルノ)
・あくまで幻影のチルノを呼び出しアイシクルフォールを撃たせる。
 なぜパーフェクトフリーズではないのというと、あくまで”妖精王としてのアリア”がチルノの技はアイシクルフォールしかないと”覚えているから”である。

弾幕のイメージ
アイシクルフォールEasyのチルノの正面の安置に入ると、アリアの黄金の武器が飛び出してくるしかもアイシクルフォールも(作中霊夢は軽々避けたが)神経を使うほど隙間が隙ないので避けるのには苦労する。


炎の妖精(モルガーン)』(元ネタ モルガン)
・なぜモルガンなのに火属性かと言われると、作者の頭の中のモルガンのイメージが火を扱うイメージでだからである。ちなみにモルガン系の神話・伝承系は履修済み。
・かつて幻想郷にいた(チルノ含めた)四妖精の一人。本人は現在、どこかの火山でのんびりと暮らしておりそのうち幻想郷に帰ろうと考えている。

弾幕イメージ

巨大な弾幕が警告が出た場所に画面上から落ちてゆき、警告が出た場所で爆発。
小さい炎弾幕をまき散らす。しかもペースが速く、炎弾幕一つ一つの挙動はランダムでさらに速度も全く別々である。


雷の妖精(アンペア)』(元ネタ 電流)
・安直な名前の雷の妖精。ちなみに幻影ゆえに無口だが、本体はとにかく元気で活発。チルノとは違って別ベクトルの馬鹿である。

弾幕イメージ

自機狙いの雷が結構な高頻度で襲い掛かる。
避ける事態は苦労しないのだが縦長に判定があるため横に避けなければ危険である。


風の妖精(ストーム)
・名前の割に幻影とはいえ作中フランに一刀両断されたかわいそうな娘。
ちなみにその不運通りに不憫な子であり、いいかえればドジっ子なのだが本人への精神的ダメージが他人より大きいので結構かわいそうな目に遭っている。

弾幕イメージ

大量のカマイタチを発生させ、自機狙いのカマイタチとばらまくカマイタチで追いつめる弾幕。堅実でまた避けづらいが、ボムで一掃できてしかも一発でスペルブレイクされてしまう。



・・・えっチルノ以外の容姿?
チルノのカラーバリエーションで羽の色がそれぞれの属性になっているだけです()


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紅い霧の異変 EX9

黙示録がやってくる。
”女王”が我らの封印を、拘束を解いた!

”白の矢”を放て!勝利の上の勝利を女王に!!
”赤き剣”を持て!女王の為の戦争をここに!!
”黒い天秤”を測れ!女王の名のもとに飢餓を!!

そして最後に死を与えよ!女王の敵に”青ざめた死”を!!



「『支配する者(ホワイトライダー)』」

 

アリアの声が鮮明に聞こえたと思いきや、真っ白の魔法陣が展開され・・・その中心から矢を持つ白い妖精が”落とされる”。

間違いなく言えることは、レミリアとフランに”冷や汗をかかせるほどの重圧”をその白い妖精が放っているという事、二人はグングニルとレーヴァテインにぐっと力を込めてその白い妖精に注意を向ける。

 

「ふふ・・・・・・あはははははっ!!」

 

唐突に、落下している白い妖精が狂ったように笑いだす。

ふわりと浮かび上がり、一回転をして・・・アリアに体と頭を向ける。

 

「なんて、なんて久しぶりなのでしょうか!我が女王!!もはや昔、貴女様が行方不明になったとき我々も貴女様がお亡くなりになったと思いましたが・・・」

 

「■■■■■■■■―――。」

 

「ええ、ええ。そうでしょうとも!そして私を呼び出したということは、そう言う事なのでしょう!!」

 

 

 

「支配を!!!再びの勝利の上の勝利を貴女様に捧げましょう!!!!」

 

 

 

そのセリフの途端、グルリと恐怖を覚えるような振り返りでレミリアとフランを見る。

その次の瞬間には、”レミリアと、フランの眼球に向けて矢が飛んで生きていた”。

 

「っ!?」「うわわっ!?」

 

間一髪、吸血鬼としての身体能力と反射神経で避けた二人だが・・・避けきれずに頬に傷を作ってしまっている。

 

「あらららら、避けられてしまいましたか。ですが・・・”私の矢からは逃れられない”っ!!」

 

今の一瞬で、レミリアとフランは思考を切り替える。

ここからは、弾幕ごっこ(手加減)なんてできない、すぐさま思考を切り替えた。(殺し合いの覚悟を決めた。)

 


 

「あははははっ、逃げろ逃げろ!!だがどれだけ逃げようと、私の支配の矢からは逃れられないぞ!!」

 

彼女(ホワイトライダー)が一度、弓の弦を引くだけで万を越える矢の雨がレミリアとフランに襲い掛かる。

二人は、後退しながらそれぞれその矢の雨を弾き、燃やし、叩き落すのだが・・・無尽蔵のその矢の数に段々と生傷を増やしていっている。

アリアはその様子を、ただつまらなそうに眺めている。

 

(どうにか、どうにかしないとっ・・・)

 

追い詰められながらもレミリアは冷静に観察する。

しかし、どれほど観察しようとも一切の攻略法など思いつかないし、なんなら耐えることもかなり厳しくなってきている。

 

「あはっ、ははははっ!弱い弱い!!さあこれでトドメだァっ!!」

 

彼女(ホワイトライダー)の弓矢が強く輝きを放ち始め、段々と魔力がその弓矢に充填されてゆく。

レミリアとフランは咄嗟に止めようと前に出るが・・・

 

「!?」「か、体が!?」

 

何かに縛られたかのように、動作が一切できなくなる。

だが、自分の体を見てもなんともない、しかし2人の体は何かに縛られているかのように動かないのだ。

 

「『破城の一矢』!」

 

そしてその矢は放たれ、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やらせは・・・しないっ!!」

 

割って入ってきた誰かに切り裂かれるのであった。

 

 

 

「・・・お嬢様方には、もう傷1つ付けさせないっ!」

 

「「アンナ!?」」

 

その割り込んできた誰かとは、紅魔館の副メイド長”アンナ”だった。

両手にはコウモリの装飾が施されたロングソードを持ち、レミリアとフランを庇うように浮いている。

二人の声に、アンナは振り返り優しいほほえみを見せる。

 

「・・・あとは、お任せを。」

 

それだけ言い残すとアンナはぐっと力をため、ホワイトライダーに向けて突貫する。

瞬時に霊夢にも使ったライフルを出現させ、発砲しながらアンナは勇敢に突っ込んでゆく。

 

「真正面からだなんて、なんて愚か!!」

 

ホワイトライダーが弓矢を構え、そして放つ。

レミリアとフランが大いに苦戦した矢の嵐だが・・・

 

「フェニックス!フロスト!!」

 

いつの間にか出現していたその二匹の援護により一瞬にして矢の嵐の大半が燃え尽き、もう大半が高利付そのまま砕け散っていった。

 

「ばかなっ!?」

 

一瞬の隙を見せ、アンナがホワイトライダーの懐に入り込む。

咄嗟にホワイトライダーは蹴りを放つが・・・

 

「甘い。」

 

アンナはいとも簡単に回避する・・・しかし。

 

「お前もなっ!!」

 

蹴りを放った反動で体を回転させつつ、弓矢を構えたホワイトライダー。

ほぼ同時にアンナが浮かせているライフルをホワイトライダーに向ける。

 

「「喰らえっ!!」」

 

 

 

 

そして、二人同時にピチューンという音を鳴らすのであった。

 

 




ホワイトライダーちゃんの紹介

ホワイトライダー
能力:支配する程度の能力(発動条件は自分の攻撃で相手が弱っていること、ちなみに戦意がある敵の場合は体が動かなくなるだけだが、戦意のない相手は完全に支配することができる。)

戦闘狂と言うよりかはただの狂ってるだけのメスガキ。
しかしその戦闘能力は、四騎士の中でもNo.2。先発として出てくるがあとから出てくるレッドライダーの方が戦闘能力が高いし、なんなら能力も四騎士の中でもかなりしょぼい。
メイン武器は弓矢で、1回弓矢の弦を引くだけで矢の嵐を作り上げることができるモードと魔力を貯めて放つ一撃必殺のモードがある。だけど正直に言うと、普通に矢を放った方が強い。

ちなみに、四騎士のまとめ役で敵の前だとロールプレイをしているだけで根は真面目ないい子である。


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紅い霧の異変 EX10

「・・・『戦争に魅入られた者(レッドライダー)』」

 

落ちてゆくホワイトライダーとアンナを尻目に、アリアが二つ目の魔法陣を展開する。

その魔方陣から出てきたのは、一つの大剣を持つ妖精の少女。

ホワイトライダーと違うのは、出てきた途端に気だるげそうにアリアを見たこと。

 

「・・・敵。」

 

「■■■■■■」

 

「・・・あい。」

 

ただそれだけの会話で、レッドライダーは大剣を構えてレミリアたちを見下ろす。

レッドライダーからの視線を感じグングニルとレーヴァテインを構えるレミリアとフラン。

 

「面倒くさい。」

 

その言葉が聞こえた途端、レミリアが吹き飛ばされる。

しかし、グングニルで何とかガードできたのかレミリア自身にダメージは入ってはいなかった。

だが、防いだであろうグングニルから白い煙が出ていた。

 

「お姉さま!?」

 

「・・・よそ見。」

 

「!?」

 

吹き飛ばされたレミリアを心配したフランだが、次の瞬間には劣勢に追い込まれる。

先ほどまでアリアの前にいたであろうレッドライダーが、いつの間にかフランと鍔迫り合いをしていた。

フランの力をもってしても、なんとレッドライダーが多少押しておりこのままフランが押し切られる様子である。

 

(な、なんて力!?)

 

「・・・フェイク。」

 

フッとフランにかかる力が抜け・・・

 

「う、うわわわ!?」

 

力を思いっきり込めていたフランがバランスを崩す。

すぐさま踏みとどまり、レッドライダーに向けてレーヴァテインを振るが・・・

 

「あ、あれ!?ど、どこに!?」

 

そこにレッドライダーの姿はなく、フランはすぐさまレーヴァテインを構えなおした。

注意深く周りを見渡し、集中力を途切れさせないようにする・・・

しかし・・・

 

「・・・がら空き。」

 

「えっ?」

 

瞬きをした瞬間には、目の前にレッドライダーがいて・・・

 

「あっ・・・(これ、死んじゃったかな。)」

 

ゾッとするほどきれいな大剣の刀身が、フランの視界に入っていた。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・?」

 

迫り来た死を覚悟して、目をつむっていたフラン。

しかし、待てども待てども首を斬られた感触を感じず・・・ふと目を開けてみると。

 

「・・・っ。」

 

驚いているレッドライダーと、

 

「・・・・・・」

 

真剣な表情で、大剣を腕で止めている美鈴の姿があった。

美鈴の腕からは、血は流れておらず・・・そして、その立ち振る舞いも堂々としたものであった。

驚いているレッドライダーに、美鈴は蹴りを放つが・・・レッドライダーはそれを軽くよけ、面倒くさそうに美鈴を睨みつけた。

 

「め、美鈴!」

 

「あ、貴女どうやって・・・外の妖精たちは!?」

 

うれしそうな声を上げ美鈴の名前を呼ぶフランと、外の妖精たちはどうなったのかと尋ねるレミリア。

そんな二人に対し、美鈴はにこっといい笑顔を浮かべて。

 

「ご心配なく、彼女たちはそこまで柔というわけではありません。それよりもお嬢様・・・」

 

自慢の部下たちが敗れないということは彼女がよくわかっていることだ、それ故に美鈴は真剣な表情でレミリアを見る。

 

「あの娘は私にお任せを。」

 

胸に手を当て頭を下げる美鈴。

 

「・・・貴女、弾幕ごっこは苦手じゃなくて?」

 

しょうがないわねとため息をつきながらレミリアはそういう。

美鈴は、たははと表情を崩しながらそれを言われると弱いですと口にした。

 

「ですが大丈夫です。」

 

「・・・任せるわ。行くわよ、フラン。」

 

「うん!お姉さま!!・・・美鈴!負けたら承知しないんだから!!」

 

自信満々の美鈴をレミリアとフランは信頼し、再び浮かび上がりアリアの元へと向かう。

それを追おうとするレッドライダーだが・・・

 

「・・・・・・邪魔。」

 

レッドライダーの前に立ちふさがるようににこやかな美鈴が立ちふさがった。

 

「ええ、邪魔していますもの」

 

「・・・・・・なら、退け。」

 

「それはできませんね。」

 

むっ。と頬を膨らませるレッドライダー。

面倒くさいと言わんばかりにバックステップで距離をとり、美鈴に向けて大剣を向ける。

対する美鈴も、一つ大きな深呼吸をした後拳を構える。

 

「・・・紅魔館 正門門番兼紅魔館私兵部隊隊長。”紅 美鈴”。」

 

「・・・・・・レッドライダー。」

 

「参る。」

 

「・・・・・・・倒れろ。」

 


 

最初の一撃は、レッドライダー。

大剣を美鈴の顔を目掛け片手で突きだし、突撃するが。

美鈴はそれを軽くよけ、レッドライダーの手を下から突き上げて武器を手放させる。

その一瞬の行動でできた隙に、美鈴は容赦なく上段蹴りを放つ。

 

「・・・」

 

「っ?!」

 

だがレッドライダーが足を掴み、それどころか殴り掛かってきた。

咄嗟の事だが、美鈴は慣れた様子でそのパンチをよけ距離をとった。

ブンブンと音を立てながらレッドライダーの大剣が落ちてきて・・・レッドライダーはそれを見向きもせずに大剣の持ち手を掴んだ。

 

「おまえ・・・・・・強い。」

 

「ええ、私は強いですよ。守りたいものがあるんですもの」

 

「・・・だから。」

 

大剣を美鈴に向け、目を鋭くする。

 

「一撃で・・・・・・仕留める。」

 

両手で持ち、下段に構える。

美鈴は意識を強く持ち、気を高めて相手の行動に注視する。

さて、どう来る。どう攻めてくる。

レッドライダーが足に力を込めて飛び出し・・・

 

”真正面”から美鈴を吹き飛ばした。

 

 

(っ?!ばかなっ!どうして私が吹き飛ばされている!?

 何をされた!?斬られたのか?!いや、斬られた感触がない。

 ということは、わざわざ吹き飛ばした!?)

 

 

受け身をとりレッドライダーを再び視界内に捉える。

そこには、光の濁流があった。(・・・・、・・・・・・・・。)

人から見れば、霊力、魔力、妖力、神力、気、オーラ・・・いわば、力の固まりがレッドライダーの持つ大剣に向かって流れている。

 

「・・・それは、随分と苦労して手にしたようですね。」

 

長らく武に触れている美鈴から見ても、その”力の固まり”は異常であった。

力の固まりが”それぞれ別々なのだ”人によって感覚が違う捉え方をされる”それ”がそれぞれ7色の色を放ち、すべてそろいもそろってレッドライダーの大剣にまとわりついているのだ。

 

「私の・・・・・・全力。『不壊たる虹色の大剣(デュ・ランダル)』!!」

 

レッドライダーが大剣を振り下ろし、虹色の力の固まりが美鈴に向かって倒れてくる。

対する美鈴は、構えを解き目をつむって顔を伏せる。

 

(・・・あきらめた。女王さまのとこ・・・行かないと。)

 

勝ちを確信したレッドライダー、相手は極端なまでに力を抜いている。(・・・・・・・・・・・・・。)

勝つつもりがない、闘気がない、レッドライダーはそう判断した。

 

「フゥー・・・・・・。」

 

虹の固まりが、美鈴に迫る中・・・美鈴は深呼吸を行う。

深く、深く・・・とにかく深く。

 

 

 

 

 

・・・・・・ふと、水滴の音が聞こえてきた。(・・・・・・・・・・・。)

 

 

 

 

 

「秘儀『剛撃流し』」

 

 

「・・・・・・えっ。」

 

気付いた時には、レッドライダーは”光の濁流”にのまれていた。

 


 

「はぁ・・・はぁ・・・・・・できた。今までできなかった、『剛撃流し』が」

 

土壇場でぶっつけ本番、自分に武術を教えてくれた師が一度だけ見せた究極の業。

護りたいという意思の元、精神集中を行い・・・深く深く深呼吸をして・・・ようやく見えた。

 

「・・・師の言っていた、『波風の無い湖』。」

 

瀕死の時に、一度だけ見たあの光景。

それをもう一度・・・

 

「っ。今はそんなことをしている場合じゃ・・・・・・なっ!?」

 

「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・。」

 

あの光の濁流を受けてなお、レッドライダーは立っていた。

しかし、自慢の大剣も綺麗な赤髪も、薄い羽根でさえも焦げ付き焼きただれている。

あれだけの力の固まり、まともに受けて無事なわけがなかった。

 

「・・・もう、立つのもやっとでしょう?」

 

「うる・・・・・・さい。」

 

今にも折れそうな、ヒビの入った大剣を杖代わりに何とか立っているレッドライダー。

美鈴は、恐れずに歩き出す。

 

「左腕複雑骨折。胸骨粉砕。内臓破裂多数、右足の筋肉断裂、左の足首粉砕。首の骨にもひびが入ってる。」

 

「・・・何が、言いたい。」

 

「あなた、”一回休みがないでしょう?”」

 

その言葉に、レッドライダーは苦しそうに目を逸らす。

可笑しいと思った、彼女が纏っているのは妖精がよく宿している”魔力か妖力”ではなく、”霊力”なのだ。

霊力は、広く言えば”人間”が・・・そして深く言えば、”人間から他種族”になった者が持つ特徴だ。

レッドライダーはかつては人間だった、妖精になったとはいえ・・・彼女に一回休みを許すほど自然は優しくなかったのである。

 

「・・・・・・私は・・・女王の為にも・・・・・・負けられない。まける・・・・・・わけ・・・に・・・・・・は。」

 

倒れかけてくるレッドライダーを美鈴は受け止め、優しく横にする。

そして、自らの気を流しレッドライダーの自然治癒能力を高める。

しばらくすれば、苦しそうなレッドライダーの顔が・・・安らかなものへと変わる。

 

 

「これで大丈夫・・・・・・お嬢様の元へ行かなきゃ。」

 

 

美鈴は、切り替え・・・レミリアたちが消えていった方向へと走ってゆくのであった。

 

 

 




レッドライダー
能力:ただ強い程度の能力(発動条件が特殊で、戦い続ければ戦い続けるほど相手より強くなる特質を持つ。しかし、基本的レッドライダー自体が火力ブッパ、短期決戦タイプなので本当の意味で強くなれるのはまだまだ時間がかかる。)

元人間、現妖精の女の子。誰よりも物静かで、静かな時間が好き。
実力は、四騎士の中でもトップの戦闘能力、能力を加算してもでも四騎士最強の異名をもつ本物の”戦いの天才”。実を言うと一対一より、一体多数の方がすっごく強い。が、元が人間ということもあり”一回休み”が存在しない妖精。
メイン武器は、装飾がほぼない無骨な大剣で力を籠めると周辺にある”力”を纏って強力なビームを放つバ火力の剣。レッドライダーや周りが知らないだけだが実を言うと『デュランダル』その物だったりする。(本人曰く、やたらと硬い大剣。多少の無茶が効くし、ひびが入ってもいつの間にか直ってるとのこと)

ちなみに四騎士の中でも、怒ると一番恐ろしくまた家庭的だったりする。





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紅い霧の異変 EX11

美鈴が、レッドライダーとの戦いに勝利したころ、レミリアたちは再びアリアを視界にとらえていた。

だが、レミリアとフランも連戦続きでさすがに疲労がたまっているのか、もはや浮遊しているだけでいっぱいいっぱいのようだった。

 

「■■■。」

 

聞き取れない言葉で、アリアが何かを言う。

 

「■■、■■■■■■■■。」

 

そのアリアの表情は、怒りだけではなく困惑すら交じっていた。

何度追い払おうが向かってくるレミリアとフラン、ボロボロになってまで向かってくるその姿にアリアはもはやなぜ向かってくるのか訳が分からなくなっているのだ。

 

「・・・、私たちは貴女がなんて言っているのか分からないわ。でもね」

 

「諦めるわけにはいかないの、恩のあるあの人を・・・大切な人を。」

 

大切な家族(十六夜 マリア)を諦めるわけにはいかないから」

大切な家族(十六夜 マリア)を諦めるわけにはいかない!」

 

二人はもう迷うわけにはいかなかった。

失い、もう二度と会う機会はないと思われていた大切な人をもしかしたら取り返せるかもしれないという希望があった。

だからこそ、いま彼女たちはどんなにボロボロになっても立ち上がる気力がわいていた。どんなに吹き飛ばされても負けるわけにはいかないと闘志が湧いていた。

 

「・・・・・・『均衡をはかる者(ブラックライダー)』」

 

話にならないと判断したのか、アリアが次の魔法陣を展開した。

黒い魔法陣が現れたと思いきや、その中心には一人の女性が現れていた。

 

「・・・なるほど、私まで出てくるということは、ホワイトライダーとレッドライダーは敗北を知りましたか。」

 

召喚されたブラックライダーはちらりとアリアを見ると、アリアは何も言わずに離れていく。

ブラックライダーは、ニコニコと笑顔を浮かべているだけだが何かを感じ取ったのか、お任せくださいと口にした。

 

「ふむ、吸血鬼が・・・たった二匹。ホワイトライダーとレッドライダーを倒すということはそれなりの実力者なのでしょう。だが・・・」

 

レミリアとフランは、グングニルとレーヴァテインを構えて何をしてくるのか警戒を高める。

その次の瞬間

 

「相手が悪かったな、『シャインレーザー(太陽の光)』」

 

二人は、温かくもとても苦しい光に包まれた。

 


 

眩い光が、段々と消えて”煙が轟々と立ち込めて”いる。

対するブラックライダーは、吸血鬼姉妹に対して失望をしていた。

 

「・・・期待外れ、だな。」

 

ブラックライダーは、自分が倒されることを期待していた。

ホワイトライダーとレッドライダーを倒した実力者、だとすれば自分すら倒してしまうと期待していた。

しかしふたを開けてしまえば、

 

「・・・まあ、あの二人を突破しただけ素晴らしいと言えよう。」

 

構えた杖をおろし、煙が晴れていくのを見る。

・・・そこで、ブラックライダーは異変に気付いた。

 

(まて、なぜ”煙がたっている”?)

 

シャインレーザーはあくまで相手を焼き尽くす光の固まりだ。

空中で直撃したならあんな煙は起きるはずがない。

障害物にあたったのならあの煙は立つ・・・ということは、

 

「くく、くふふふ・・・ははははっ!!なるほど、防いだか!!」

 

「ええ、防がせてもらったわ。」

 

煙が完全にはれ、露になったその姿。

武装した小悪魔と、こちらに向け手を向け青白い半透明な防壁を展開しているパチュリーの姿。

小悪魔こそ怖がってはいるが、パチュリーは堂々としていた。

 

「なるほどなるほど、この時代。この世界に、それほどまでの魔女がいたとは!貴公、名を名乗らせていただこう。我が名は”ブラックライダー”。我が、名を知らないわけではないだろう?」

 

「ええ、小さいころ両親に嫌というほど聞かされたわ、妖精にして現代魔法史における立役者、第2次魔法根絶戦争*1で、魔法使い側の英雄。そして忌々しいあの大飢餓と黒死病の原因の片割れ。」

 

あは、あははははっ!!と、ブラックライダーが高笑いを始める。

それはそれは嬉しそうに何度も何度も笑い続ける。

やがて落ち着いたのか、じろりとパチュリーをみた。

 

「よくご存知だ。失礼だが、名を聞いても?」

 

「・・・魔法使いの戦いにおいて名前を知られるということはそれはその魔法使いにとって降伏を意味する。だからこれだけよ、私はノーレッジ。ノーレッジの魔女よ。」

 

「ノーレッジ、ノーレッジだと・・・」

 

パチュリーの名乗りを聞いた途端、口に手を当て考え出す。

その隙を着いてパチュリーはレミリアたちに視線を移す。

 

「レミィ、フラン。今のうちに行って」

 

「ぱ・・・ノーレッジはどうするの?」

 

「そ、そうだよ!いくらぱ・・・ノーレッジだからってあんなの相手に出来るわけが」

 

2人の言葉に頷き、それでも行くように真っ直ぐと2人を見る。

相手に・・・ブラックライダーに勝てないということは1番パチュリーが理解していた。だからこそなのだ、

 

「せめて、足止めぐらいはしてみせるわ。だから、ね?」

「わ、私だっていますから!」

 

優しく笑みを浮かべるパチュリーと、強がりながらも武器を掲げる小悪魔。

レミリアは顔を伏せて、フランは悔しそうに手を握ったあと再びアリアの元へと向かった。

 

「あぁ、思い出したぞ!貴公、グリム・ノーレッジの末裔か!」

 

「・・・ええ、グリム・ノーレッジは私の先祖。それがどうしたの?」

 

「彼には返せない恩義がある、彼は既に亡くなったがノーレッジ家ということならばやらねばならないことがある!

 

 貴公、願いをいえ!」

 

 

 

 

 

 

「は?」

 

あまりにもいきなりなことに思わずパチュリーの思考は停止してしまった。

 

(願いを・・・な、なら。マリアさんの復活を願えば・・・・・・でも待った。)

 

一瞬で再起動をしマリアの復活を考えるが、考えを切り替える。

 

(仮に、マリアさんが復活するとしても・・・”こいつ”がそれを叶えるとは思えない)

 

そう、マリアの正体はあくまでアリアの記憶喪失時の仮想人格。

魂までは一緒でも、たとえ魔法使いの最高峰である”ブラックライダー”と言えども、主の人格を帰るなんてことはしないだろう。

それに、今ここでそれを言ってしまえば・・・何かがまずいような気がする。

・・・それならば、

 

「・・・本当に、私の願いをかなえるというの?」

 

「ああ、もちろんだ。だが、これから始める勝負と我が主に関すること以外ならば。」

 

(つまり、私に勝利をという願いや、マリアさん関係の願いはやっぱり無理ということね。でも、これで決まった)

 

「ならば私は、一人の少女の復活を願うわ。」

 

「・・・ほぉ?」

 

「ぱ、パチュリー様!?」

 

どう見ても胡散臭い話に乗ったことに小悪魔が動揺を表す。

頭がよく聡明な主が、何をしているんだと目を見開いて見るが

パチュリーの表情は真剣そのもの、それどころか・・・

 

(わ、笑ってる?)

 

「その少女はどういう少女だ?」

 

「かわいそうなことに、その少女はとある妖怪に操られて・・・今は昏睡状態なの。」

 

「それは何ともかわいそうだな。それで?その子を起こせというのか?」

 

「ええ、理解が速くて助かるわ。」

 

小悪魔は何が何だかという思いを頭の中に浮かべながら、ブラックライダーに対して警戒する。

相手がここぞとばかりにかこつけて襲い掛かってくるかもしれない、もしそれでパチュリーが死亡したとなれば小悪魔の今後の(悪魔的な)生活に危険が迫る。

どうせ小悪魔自体は、死んでも悪魔界で何度も復活できるからいいのだが、契約中のパチュリーが契約の遂行すらできずに死んだともなれば・・・考えるだけで冷や汗が出てきた。

しかし、小悪魔の警戒とは裏腹に

 

「よかろう。少し待て・・・・・・・・・ふむ、終わったぞ?」

 

案外あっけなく終わってしまう。

そ、それだけ?とパチュリーも小悪魔も拍子抜けするが、確かにブラックライダーは魔法陣を展開させた。

しかも魔力を使用したというのがパチュリーにはよくわかったために、本当にかなえられたのだと理解した。

 

「さて、貴公の願いはかなえた。ここから先は、主からの使命を果たすとしよう。」

 

「・・・そう、ならこちらも全力で行かせてもらうわ。」

 

パチュリーは黒無地の魔導書(ベシュヴェールング)を、小悪魔は支給品のブロードソードを、ブラックライダーは天秤を構える。

訪れる沈黙、だが魔力が渦のようにパチュリーとブラックライダーの間を流れ続ける。

 

そして、戦いの火ぶたが切って落とされ

 

 

 

 

 

廃線『ぶらり廃駅下車の旅』

 

 

”ブラックライダーを襲った廃電車”によって、終わりを告げたのであった。

 

 

 


 

 

「げぶら!?」ピチューン

 

情けないピチューン音と共に、吹き飛ばされるブラックライダー。

分かっていたと言わんばかりに、黒無地の魔導書(ベシュヴェールング)を開かなかったパチュリー。

そしていきなりのことで目が点になっている小悪魔。

 

そんな、二人の背後に”二つの気配が”現れる。

 

「こんにちは、”紅魔の知識”さん。」

 

 

 

 

「・・・随分、お早いお目覚めね。八雲 紫。」

 

 

そう、*2パチュリーが言った少女とは八雲紫のことだ。

ブラックライダーは、何となくで使ったのだが今の幻想郷において”妖怪に操られた結果昏睡状態になった少女”というのは八雲紫以外にはおらず。

結果的に八雲紫が目を覚ましたのである。

 

「やー!お堅いわね~、もうちょっとフレンドリーに”ユカリン”とか”ユカちゃん”でもいいのよ?」

 

流石の大妖怪、このプレッシャーは堪えると冷や汗をかいていたパチュリーだが、次に飛び出た台詞に思わず目が点になり、紫の隣にいた藍に目を向ける。

その藍も、どこか遠い目で目線を逸らしていた。一方的に、マシンガンのようなトークを繰り広げる八雲紫、パチュリーは話半分聞き流しながら、どうにかしてこの状況を打開しようと思考を巡らせるのであった。

 

 

*1
アンナが所属していた教会が行った戦争、その被害者は当時では多いとされもはやその話題を出すこと自体が禁忌に近くなっている。

*2
多分みんなわかってたかもしれないけど





八雲 紫

今作幻想郷支配者にして妖怪の賢者。
大妖怪としての実力は折り紙付きの上に、八雲藍をして勝てないと言えるほどの頭脳の持ち主。なのだが・・・その実性格は、フレンドリーでとてもマイペース。
しかし、会議となると影野郎が操っていたときの口調になるので(藍以外)は見破れていなかった。楽しいことが大好きで、悲しいことは大嫌い。
ぬらりひょんの裏切りやアリア関連については知っていたのだが、あえて放置した。
放置した結果操られたのだから、どこか抜けている。
ちなみに、”12代博麗の巫女”が結婚していることに気づいていないし、霊夢は12代博麗の巫女がどこからか拾ってきたと思い込んでいる。


ブラックライダー

偉そうで強そうなことを言っていた割には電車に挽かれてあっさりと退場した。
だが4騎士の中で相手にすると厄介な相手で、少なくともパチュリーが勝てる相手ではなかった。最も得意な魔法は、拷問魔法だったりする。真性ドS。
レッドライダーを妖精にしたのもコイツだったりする。
そして随一の問題児である。



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紅い霧の異変 EX12

支配の矢は堕ち、
争いの剣は倒れ、
均衡の秤は傾いた。

ならば私が出るしかない。
死を、絶対の死を。
恩義ある女王のために、女王の敵に死を。


だけど、どうしてだろう。
女王が心のどこかで、殺さないでと叫んでいる。
女王が何かを迷ってる。


なら、確かめないと、私は女王の・・・アリアの親友なんだから。


「■■■■■■■■■。」

 

もう何度目だ。そう言わんばかりのアリアの鬱蒼とした表情。レミリアもフランももはやボロボロになってアリアを守っている結界を殴り続けている。

 

弾幕で、グングニルで、レーヴァテインで、

手足を使ってでも攻撃をするがヒビ一つどころかビクともしていない。

 

「■■■、■■■■■■■■■■。」

 

面倒だ。と言わんばかりに杖を出現させた黄金の武器で2人をはじき飛ばす。ガードこそ成功はしたものの、”ソレ”を呼ぶには十分な時間が出来てしまっていた。

 

「・・・『死を与える者(ペイルライダー)』」

 


 

青い魔法陣が、アリアの前に展開しその中心から可愛らしい妖精が出てくる。2人は警戒度を高め、そして感じとった。

 

自分の首に押し付けられる、死神の鎌を

 

大袈裟とも言える程のリアクションで、大きく距離をとるレミリアとフラン。2人の額どころか身体中から冷や汗が流れ、ただアリアの傍にたっている青白い妖精を見ていた。

やがて、その妖精の目は見開かれた

 

傍から見れば、可愛らしくまた美しいとも言える物憂げな表情、どこか哀れんでいて、優しさすら感じる雰囲気。だが人一倍敏感なフランの生存本能が訴えかけている。

 

アレから一刻も早く逃げろ、さもなければ死ぬ!

 

無意識に押さえつけようとした恐怖でさえ、抑えきれずに表情として現れている。

 

「お、お姉様。」

 

震えた声でフランドールがレミリアに聞く。

 

「あ、アレに勝てる?」

 

余裕のない表情でレーヴァテインを、構つつ腕の震えがみてとれるフランドール。対するレミリアは

 

「ええ、勝てるわ。」

 

堂々とした表情で答えた。

思わず、頭でも狂ったのか?と姉ながら失礼なことを考えレミリアを見る。

 

しかしその表情は、狂ってなどいなかった。

 

「見えたもの、運命が。」

 

真っ直ぐに、ただただ恐ろしいものを見続けるレミリア。

でもよく見れば、グングニルを持つ手が震えている。

相手が強いこと、そして下手をすれば自分が死ぬことを理解していのは何よりもレミリアだった。

 

だけど、レミリアは勝つことを諦めなかった。

大切な家族が、大好きな人が、愛おしい存在がもう少しで帰ってくるのだ。

 

「怖いなら、そこで見ていなさい。私は死んで這ってでも戦ってやるわ!」

 

レミリアは、フランドールを置いてゆきペイルライダーに突撃をしかけた。

その姿を見ていたフランドールは、ただ見送ることしか出来なかった。

 


 

レミリアがフランドールを置いてきぼりにした直後、

 

「でりゃぁぁぁあああっ!!」

 

「・・・」

 

レミリアがグングニルを縦横無尽に振り回し、ペイルライダーに攻撃を与え続ける。

対するペイルライダーは、デタラメながらも的確に急所を狙ってくる攻撃を弾くだけの後手に回っていた。

 

(攻撃を与え続けろ、レミリア・スカーレット()っ!!一瞬でも隙を作って攻撃されたらおしまいだ!!)

 

刃先での振り下ろし、石突での打突、反動を利用しての蹴り、隙を埋めるための暴風雨のような弾幕。レミリアができる限りの攻撃でペイルライダーを襲い続ける。

 

しかしその全てが

 

「遅い。」

 

たった1回の切り払いで破られた(レミリアにとても大きな隙ができた)

 

(あっ、そっそんなっ!)

 

切り払いの反動が大きすぎて、レミリアの体は言うことを聞かない。弾幕を放とうとも、魔力が間に合わない。

 

「終わりだ。」

 

未だ響く金属音の中、その言葉だけが異様に、そして鮮明にレミリアの耳へと届く。

 

(い、嫌っ!ここまで来て、ここまで来て死にたくない!マリアを取り戻せると思ったのに!もう少しだったのに!!)

 

「たすけてっ・・・『咲夜』! 」

 

パニックと混乱の中レミリアはギュッと目を瞑り、思いついた人物の名前を呼ぶ。

 

 

そして、

 

 

青白い剣が

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガキィッン!!

 

防がれた。

 


 

「・・・ふぇ?」

 

いきなり響いた金属音、その音を確かめるべく目を開けたレミリア。そしてレミリアの視界に入ったのは

 

「・・・」

 

「やらせは、しません!」

 

青白い剣を、たった1本のナイフで防ぐ大切な家族の1人(十六夜 咲夜)の後ろ姿であった。

 

「さっ、さくやぁぁぁ」

 

「申し訳ありませんお嬢様。この咲夜、少々居眠りしておりました。」

 

「ばか!ばかァァっ!!」

 

今まで押さえつけていた不安と恐怖が溢れだしてきたのか、レミリアがプライドなど投げ捨て泣き出した。

そして同時に、咲夜の姿にさらに泣き出していた

 

「なんでそんな怪我してるのにきたのよ!」

 

咲夜の腹は包帯が巻かれており、よく見れば赤く滲んでしまっていた。傍から見なくとも、どんなバカだろうと致命傷ということは一目瞭然だった。

 

「大丈夫です、応急処置は白黒の魔法剣士と紅白の巫女がやってくれましたから。」

 

そのセリフの直後、咲夜がフェイントを仕掛けペイルライダーを蹴ることで距離を強制的に開けさせる。

ペイルライダーにダメージ自体は入っていないものの距離を開けさせるには十分なものだった。

 

「お嬢様、見ていてください。虫がいい話ですが謀反したお詫びにあの相手を片付けてご覧に入れます。」

 

自信満々の咲夜、少なくとも時間稼ぎや捨て身が目的でないことは、目を見たレミリアが、いちばんよく分かっていた。

 

「ぐすっ、わかったわ。その代わりに、余裕で倒しなさい!」

 

「はっ、かしこまりました。」

 

レミリアの命令を受けて、両手にナイフを構える咲夜。

律儀に待ってくれていたペイルライダーに感謝と同時に警戒を表す。

 

しばらくの沈黙の後、先に口を開いたのはペイルライダーだった。

 

「ひとつ、聞きたい。」

 

「・・・なんでしょうか。」

 

構えを解いてまで聞いてきたペイルライダーに、咲夜は警戒の色を強める。こういった的は大抵油断した所を斬りかかってくるのだ。教会な所属していた時に、狩りの対象がよくやっていた常套手段だった。

 

「アリア様は十六夜 マリアとして生きていた時、幸せそうだったか?」

 

真っ直ぐに問いかけたペイルライダー。

レミリアと咲夜は思わず驚くが、すぐさま冷静さを取り戻す。

積もる話は色々とある。しかし今は、それどころの話ではない。

 

「・・・少なくとも、私が知っている限りでは幸せそうだったわ」

 

レミリアは目を伏せ思い出す。

初めて出会ったあの時、一緒に暮らし始めて10年経ったあの時、マリアがメイド長となったあの時。いくつもの思い出の中で、彼女は常に幸せそうだった。

 

「・・・・・・そうか、幸せそうだったか。」

 

「ええ、見てないところは知らないし、分からないけどね。」

 

「いや、それだけでも大丈夫だ、無駄話が過ぎたな。そこのメイド、名を名乗れ」

 

「・・・紅魔館メイド長補佐”十六夜 咲夜”。」

 

「・・・そうじゃないかと薄々勘づいてはいたが、なるほど。妖精王に使える四騎士が最後の一人、”厄災と死の騎士”ペイルライダー!」

 

いざ、推して参る!!

その言葉が合図に、咲夜はナイフを構えて飛び出した。


 

勝負の世界というのは一瞬の油断が命取りという。

しかし、レミリアが見た光景は信じられずともとても嬉しいものだった。

 

「・・・見事。」

 

「お嬢様の命令だもの、スマートで余裕に勝たせてもらったわ。」

 

先ほどまで、咲夜がナイフを構えて飛び出した直後だった。

しかし、レミリアが瞬きした一瞬でペイルライダーは膝をつき、咲夜はナイフを振り抜いていた。

 

時を止めた世界で咲夜が攻撃したのだろう、見たところ咲夜に(腹の大怪我以外の)生傷は見受けられない。

 

「しかし、貴女。手を抜きましたね?」

 

「・・・はは、なんのこと・・・かな。」

 

最後の最後で、誤魔化しながら倒れるペイルライダー。

しかし、咲夜は気づいていた。この娘は、かなり手を抜いていたと、正直に言ってしまえば咲夜の勘は当たっていた。

レミリアとフランが大袈裟に回避行動をとるほどの相手が、これだけなわけが無い。だが、倒してしまったのも事実。もう既に伸びてしまって話は聞けなかった。

 

「・・・さて、ついにたどり着いたわよ。」

 

やがてレミリアが咲夜にそう言いながら浮かんでいるアリアに目線を移す。咲夜もつられて、主と同じ方向を見る。

ここまで来た、もはやアリアを守るものはアリア自身の実力のみ。

 

「■■■■。」

 

アリアが、言うセリフは相変わらず理解が出来ない。

しかし、まだ余裕を保ち続けている当たりやる気は十分とあるのだろ。

 

「さあ、最終決戦よ。いくわよ、咲夜!」

 

「はい、お嬢様!」

 

 

「■■■■■■、■■■■■■■■。」

 

そして、その戦いは始まった。




ペイルライダー

四騎士の中でも、かなり危険な相手。
時を止めることのできる咲夜のみが唯一倒せる”かも”しれない相手だったが、咲夜はそれを撃破して見せた。
程度の能力は”死と疫病を操る程度の能力”と、幽々子様とヤマメと似た能力をかけ算したもの。
直接的な死を与えることは出来ないが、少なくとも即死させる程度には凶悪なものである。

四騎士の中で最も古参で大人びているが、実の所を言うと四騎士の中でも甘党の妖精だったりする。


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紅い霧の異変 EX12.5

わーにんぐ!わーにんぐ!

今回、霊夢と魔理沙のCPでのシチュエーションがあります!!
苦手な方はブラウザバック推奨です!!

そして割と重めな設定もございますので、ご注意願います!!


『なあ、噂によると・・・第12代の巫女様の娘。平々凡々な才能らしい』

『えぇ・・・12代様の娘さんでしょ?才能が遺伝しなかったの?』

『それに、博麗の巫女様(12代の巫女)に全く似てない・・・どうせ、捨て子だろうよ』

 

やめて・・・私は、私は確かにお母さんの子供なんだ。

お母さんとお父さんが、愛し合ってできたのが私、だから私に才能がないなんて何かの間違いだ。

頑張らなきゃ、きっと、私が頑張らないから才能が目覚めないだけなんだ。

私の『空を飛ぶ程度の能力』だって、力が目覚めればもっとすごい能力になるんだから・・・

 


 

『聞いたか?第12代の娘、妖怪相手に苦戦したらしいぞ。』

『ああ、聞いた聞いた。なんでも、吹き飛ばされて納屋を壊したらしいぞ。』

『■■さんも不運な物ねぇ・・・12代様なら一瞬で片が付くでしょうに』

 

違う、あの妖怪は・・・私が勝てる相手じゃなかった。

”牛鬼”なんて、私一人で勝てるはずがない・・・みんなそいつを見てないからそんなことを言えるんだ。

この怪我を見たってなんとも思わないの?この折れたお祓い棒を見て何とも思わないの?

 

・・・今で認められないなら、もっともっと努力しなきゃ。

お母さんに頼んでもっと厳しい修業を積まなきゃ・・・藍お姉さんに頼んで集中力をつけなきゃ。

もっともっと私の『空を飛ぶ程度の能力』について、理解しなきゃ。

 


 

『第12代の巫女様の娘』

『第12代の娘さん』

博麗の巫女様(12代の巫女)

 

まだだ、まだ・・・まだまだ努力しないと。

 

『第12代の娘』

歴代最強の巫女の跡継ぎ(第12代の跡継ぎ)

『12代様』

 

もっと・・・もっともっと、もっと。

 

出来損ないの博麗の巫女(13代博麗の巫女)

博麗の面汚し(13代博麗の巫女)

博麗と関係ない捨て子(13代博麗の巫女)

 

もっと、もっと、もっと、もっと、もっと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もっともっともっともっともっともっもっともっともっともっともっともっともっともっともっともっとともっもっもっともっともっともっともっともっともっともっともっともっとともっともっともっともっともっともっともっともっともっとともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっもっともっともっともっともっともっともっともっともっともっとともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっとももっともっともっともっともっともっともっともっともっともっとっもっともっともっともっともっともっともっともっともっともっとともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっもっともっともっともっともっともっともっともっともっともっとともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっもっともっともっともっともっともっともっともっともっともっとともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっとももっともっとももっともっともっともっともっともっともっともっともっともっとっともっともっともっともっともっともっともっとっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっもっともっともっともっともっともっともっともっともっともっとともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっと

 

 

頑張って、努力しないと・・・

 


 

「ぅ・・・うぅん?」

 

霊夢は目を開ければ、ぼんやりと視界が歪んでいる。

だけどかすかに見える光景は、あの緑が生い茂る森ではなく前に見たとのある紅魔館の天井だった。

 

(・・・・・・こんな時に、過去の事を思い出すなんてね。)

 

ぼやける視界を直そうと目に腕を当てる。

博麗の巫女服のデザイン上独立した裾が顔にかかるが気にしない。

むしろ今は、顔を見られたくない気分だ。

 

「よう、気分はどうだ?」

 

「・・・・・・最悪。」

 

ふと、聞きなれた声がかかる。

その声を聞くだけで幾分か落ち着く、霊夢の競い合うべきライバル霧雨 魔理沙の声だ。

彼女が、いつもの調子で話しかけてきたということは・・・もう異変は終わった、ということだろう。

そう思い何とか表情を作ろうとすると・・・

 

ズドン!!

 

何かが爆発するような、もしくは何かが叩きつけられたかのような爆音と振動が霊夢と魔理沙を揺らす。

思わずその衝撃に霊夢は飛び起き、魔理沙は「うおー、今度のはでかいな。」と呑気にコメントしていた。

そんな魔理沙に霊夢の顔がギュルン!と言わんばかりに振り向く。

 

「うぉ!?急に振り向くなよ!!心臓にわる」

 

「異変は!?」

 

「お、おいおい人の言葉は遮らな」

 

「異変はどうなったのよ!!」

 

魔理沙の襟元につかみかかり異変の詳細を聞く霊夢。

明らかに冷静さを失っているが、魔理沙は一貫して冷静にしている。

 

「・・・正直に言う、今レミリアたちが交戦中だ。ちなみにもう行くのはやめとけ。エントランスは妖精共の巣窟だ。私のマスタースパークで焼き払ってもすぐに沸いてきやがる。」

 

魔理沙の忠告を無視し起き上がり向かおうとするが。

フッと・・・霊夢が踏み出した足の力が抜けてしまい、そのまま魔理沙に向かって倒れこんでしまう。

 

「うわっとと、大丈夫か霊夢?」

 

「っ・・・なんで、なんで私の体が動けないの・・・まさかアンタっ」

 

「何もしてない、いつもの変態軌道の反動だ。今日は諦めて休め。」

 

「・・・こんなのへでもないわ。」

 

「・・・じゃあ、なんで私を突き飛ばせないんだ?」

 

魔理沙の言うとおりだった、無理やり行こうとするならば今頃魔理沙は霊夢に突き飛ばされている。

だけど、今魔理沙は突き飛ばされるどころか寄りかかられていた。

霊夢の変態軌道は間違いなく、身体に大きな負担がかかるものだ。当然、身体を無理やりに動かして避けているわけだから負担がかからないわけがない。しかもそれは体への負担だけなく人並外れた集中力も使うため脳にも負担がかかる。

疲弊した脳と体では、もう霊夢は動くことがやっとと言わんばかりである。

 

「じゃあ・・・あんたが連れてってよ。」

 

「諦めろ、私はもう魔力切れだ。そういうお前も霊力切れでまともに弾幕をはれないぞ。」

 

ギュッと霊夢が泣きそうな顔になり、魔理沙の服を掴む。

そしていきなり泣き始めてしまった。

 

「私・・・私っ、」

 

「・・・大丈夫だ、今回の異変は誰も責めない。人里の連中は知る由がないだろうさ。」

 

あの異変の時、人里にいた魔理沙は12代博麗の巫女の活躍を知っているし、人里で霊夢がどういう評価を受けているというのも知っている。

 

「でも・・・でもっ、異変・・・解決できなかった。私、私っ・・・」

 

目から光が消えうせ、魔理沙の腕の中で小さく震えだす。

霊夢は普段は何でもできる自信家をふるまっているが、何かができないとこうなってしまうとてもか細く脆い女の子だ。魔理沙は長年の付き合いだからか慣れてはいるが、始めてみる人が見てしまえば困惑してしまうに違いがいない。

 

「異変を解決するのが『博麗の巫女』の役目・・・・・・でもどんなに頑張ってもどこまでいっても歴代最強の博麗の巫女(お母さん)の跡継ぎだって。だれも、誰も私を見てくれない!!どんなに頑張ってもお母さん、第12代博麗の巫女(お母さん)って・・・だから、だから頑張ろうって頑張れば頑張るほど私は強くなれて・・・それでようやく認められるって。」

 

人里の霊夢の評価は、正直に言えばとにかくひどいものだ。当事者でもないくせに、歴代最弱の巫女(使えない巫女)の刻印を霊夢に一方的に押し付けている。

その結果、当事者たちがどれだけ褒めようが、そんなのは気にせずにただひたすら厳しい修業をする”博麗 霊夢”が出来上がった。

何度も何度も厳しい修業を繰り返し、倒れても立ち上がり無理やりにでも続ける霊夢。そんな霊夢を当事者たち・・・霊夢の母親と八雲家の面々は人里の霊夢の評価を知っているがゆえに止められるはずもなく。目をつぶって協力していた。

そうして霊夢は正真正銘、歴代最強最弱の博麗の巫女となった。

 

だが、12代博麗の巫女(霊夢の母親)吸血鬼異変(英雄になった異変)と、13代博麗の巫女(博麗 霊夢)やってきた地道こと(博麗の巫女として最善最良な事)は天と地ほどの差があった。

12代博麗の巫女(霊夢の母親)は人里を背に迫りくる妖怪たちを退治した、13代博麗の巫女(博麗 霊夢)は妖怪が人里に近寄らないように結界をはった。

12代博麗の巫女(霊夢の母親)は血だらけになってでも立ち上がって人里を守った、13代博麗の巫女(博麗 霊夢)は傷すら負わずに妖怪たちを撃退した。

12代博麗の巫女(霊夢の母親)は存在するだけで妖怪達への抑止力になる、13代博麗の巫女(博麗 霊夢)は・・・・

 

「でも・・・異変を解決できないなら・・・私・・・わたしなんて、んむっ?!」

 

私なんて存在しない方がいい、霊夢がそう言おうとした途端霊夢の口がふさがれた・・・魔理沙の唇によって。

急なことで頭がいっぱいになる霊夢、触れ合うだけのフレンチ・キスだが魔理沙が顔を離せば霊夢の顔どころか体全体が真っ赤になっていた。

 

「だめだ霊夢。それだけは、いっちゃだめだ。」

 

目を細めてもう一回できそうな顔の位置。

霊夢とて無意識イケメン系の女子なのだが、脳内どころか心は乙女そのままだ。

どさりと、魔理沙が霊夢を抱えたままベットの端に座る。

 

「お前は、お前の両親が愛して生まれて、愛されて育てられた。あの狐の姉ちゃんもお前を愛してくれてる。だからダメだ、愛されていない、存在しない方がいいなんて軽々しく言うのは。」

 

「ま、魔理沙・・・あんた。」

 

「私は、ありがとうも言えないで・・・お袋が死んだ。だから、親父と話し合って私はこの道を選んだ。私みたいなやつがもう二度と増えないように。」

 

今度は、魔理沙の瞳からポロポロと涙が零れ落ちる。

あの時にこの力があれば、あの時に助けていられれば、あの時に、あの時にあの時に・・・

後悔だけが魔理沙を蝕んでいた。でも、あの時、魔理沙は自分の父親と話し合って、その呪縛から解放された。

 

「死んだら、死んだらそれまでなんだ。死んだら、ありがとうも、ごめんなさいも、どんな言葉も届かない。だから・・・消えるなんていうなよっ、霊夢!!」

 

ギュッと、力の入れすぎで霊夢にちょっとした痛みが出るぐらいに抱きしめる。

その痛みが霊夢の思考を元に戻す。

 

「・・・ごめん、私。どうかしてた・・・」

 

そっと、優しく抱き返す霊夢。

不安定だった霊夢が落ち着きを取り戻すと、魔理沙はさらに泣き出した。

 

「ごめん、ごめんな!早くこの異変に気づけなくてっ・・・私が、もっと私が気付いていれば!!」

 

「ううん、私の方こそごめん。一人で解決できるって思っちゃって・・・あんたを置いてって・・・」

 

紅魔館のとある一室、しばらく二人の少女が・・・互いの存在を確かめ合うように熱い抱擁を続けるのであった。

 

 




博麗 霊夢

第13代博麗の巫女にして正真正銘”歴代最強にして最善の巫女”。
しかし、人里の心ない者たちによって比較されて自己評価がかなり低いのも相まってかなりひどい心情状態だった。
親や育ててくれた人じゃない、赤の他人に認められたくて頑張っているのだが・・・その天才的で天武の才能をいくら磨こうと、自らの母親が為したことと比べられたため原作霊夢より努力家、才能と自分の腕を磨くことを忘れずに多分原作の3倍は強い。
ちなみに一歩間違えば、鬼巫女や闇霊夢に変質していた。

余談だが、この異変の後魔理沙と常にいるようになり周りから「ついに手を出されたか。」と思われるような行動をとるようになったらしい。
ちなみに本人にそのことを尋ねると、顔を赤くしてそっぽを向く。


霧雨 魔理沙

人里随一の商会”霧雨百貨”の一人娘にして”霧雨の魔法剣士”として名高い少女。
幼いころに母親を亡くしたショックで、いなくなろうとしたところあの二人に会い最初の目的を忘れて帰ったところ遺書を見た父親とであって説教をされて自分がしでかしたことに気づいた。
それ以来、誰か親しい人がいなくなるのが極端に嫌になり、幼馴染であり大親友の霊夢を機にかけるようになっていた。
誰よりも、誰かが傷つくのを見たくなく誰かが泣いているのなら最後まで話は聞くタイプ。それゆえに人里での顔が広い。

ちなみにこの異変の後霊夢と常にいるようになり周りから「ついに手を出したか」と思われるようになったらしい。
ちなみにそのことを本人に聞くと目が笑っていない笑顔で中指を立てられるので注意しよう。
あと、くれぐれも本人の目の前で霊夢を馬鹿にしたり下げずんだりにしよう!間違いなく疑似剣・レーヴァテインで灰すら残さず燃やされるゾ!





えっ、本編はどうしたかって?
いや、あの後の霊夢と魔理沙がどうなったか気になる人も多いんじゃないかと思って書きました。あと百合が含まれている件に関しては私は絶対に譲らんぞ。GLタグはこのために追加した。

ちなみにもし魔理沙が霊夢を止めなかった場合、霊夢死亡→魔理沙が禍化→誰彼構わずヌッ殺す→幻想郷滅亡\(^o^)/オワタ。の場合や
霊夢を大人しくさせて魔理沙が言った場合、魔理沙死亡→霊夢が鬼巫女化→誰彼構わずヌッ殺す→幻想郷滅亡\(^o^)/オワタ。とか
二人していく→レミリアたちがそれに気を取られて一気に全滅→二人が異変を解決→龍脈が・・・暴走する!?(ゆかりん)→幻想郷あぼーん。→霊夢と魔理沙が混ざり合ったクリーチャーが世に放たれて世界\(^o^)/オワタ。などもある。

えっ、一番ひどいのは何かって?
霊夢、魔理沙、紅魔館組が全滅→いてもたってもいられなくなった12代が出撃→それを目撃する、悲しみと怒りのあまり暴走→幻想郷が焦土となり暴走12代現世へ→幻想郷が焦土となった影響で高エネルギーが純度の浄化エネルギーへと昇華→地球全体を初期化するエネルギーが発生してしまう→全世界が幻想郷化してしまう→暴走12代神へ。という終わり方です。

でぇじょうぶだ書く気がねぇ。(慢心)



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紅い霧の異変 EX13

わーにんぐ!わーにんぐ!

今回かなり長くなりました。
それでも良いというお方は・・・そのままスクロールを!!
ダメだっていう人はブラウザバックをお願いします!!



・・・でもこれある意味で最終回なんだよなぁ。


「・・・ようやく、ようやくお前に一撃を浴びせられる。」

 

ボロボロのレミリアと、無傷のアリア。

しかしアリアの後ろには、誰も控えておらず。対するレミリアの後ろには紅魔館の住人たちが集まっていた。

 

パタパタと煌びやかに光るアリアの七色の羽は、ただ綺麗な鱗粉をチラシ・・・沈黙だけがこの空間をとらえていた。

 

やがて、目をつむっていたアリアが目を開き、レミリアをじっと見つめる。

 

「どうしてだ。」

 

「!?」

 

今まで、何かに邪魔されていたかのように聞き取れなかったアリアの声が、クリアに鮮明に聞こえ始める。

レミリアは思わず驚くが・・・しかしすぐさま冷静さを取り戻す。

 

「なぜ、そこまでして・・・あきらめない。私が、本当にその時の記憶を思い出すと信じているからか?それとも、その者の・・・その魂(十六夜 マリア)が私の中に残っていると・・・本当に信じているのか?」

 

「信じているとも」

 

間すらおかずに、レミリアは即答で返す。

レミリアはもはや確信していた・・・間違いなく、妖精王アリアの中に十六夜 マリアがいる。

感覚や直感なんかではけっしてない。それはもはや運命であった。

世界から・・・運命から与えられたとても・・・細く綺麗で風に煽られただけでちぎれ飛んでしまいそうな一筋の希望の光。

その光が、その光のもとが今目の前に存在している。

 

「もはや、私は確信している。貴女の中に間違いなくマリアがいる。だからこそ私は、いえ・・・紅魔館の家族全員(私たち)はやってやる!!みんなで力を合わせてその一筋の光を、たった1%の奇跡をつかみ取ってやる!!」

 

「・・・・・・なるほど、そうか。あい分かった。」

 

 

 

もはや言葉など不要。さあ、絶対的な力を前に抗って見せ、そして絶望をするがいい!!

 

絶望など二度としない!!私たちがすることは、前を向いてそれを掴むだけだ!!

 


 

世界に流れる力を管理する者

 

 アリア・クレイドル・ユグドラシル

 


 

「まずはすべてを燃やし尽くしてくれよう!!最上級の炎の妖精(フェアリーコード:スルト)

 

高笑いしながらアリアは背後にとても巨大な燃え盛る魔法陣が広げられ、やがてそこから山のように大きな髪が燃えている妖精が現れる。

空を飛んでいる状態のレミリアたちでさえ見上げるほどの巨大さ、真っ赤で炎のように明るい瞳が・・・レミリアたちをとらえる。

 

ガオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォッ!!!!!!!!

 

そして瞬時に敵対の咆哮をあげる。

その咆哮だけで、びりびりと空気が震え出し、全員が耳をふさいでも聞こえてくる大音量にダメージを受けていた。

レミリアは何とか片眼を開けてスルトの動きに注視する・・・するとスルトが、

 

 

右手を持ち上げていた

 

 

「ぜ、全員散開!!後の指示は通信魔法にて通達する!!回避、回避っ!!」

 

パチュリーを抱えてレミリアが号令を下す。

ハッとその号令を聞き分け、全員が思い思いの方向へと逃げ出してゆく。

その直後、巨大な固まりが・・・スルトの巨大な掌が、轟音と共に巨大な土ぼこりを巻き上げた。

 

高速で飛び始めたレミリアだが、パチュリーは冷静に通信魔法を発動させる。

 

「全員聞こえるか。確認不要、全員が聞こえると想定して話す。聞こえていない者には伝達をすること、これより我々は、アリア・・・そして彼女が召喚するであろう大軍勢を相手に総力戦を仕掛ける。」

 

総力戦・・・それは間違いなく、紅魔館の全戦力を持ってことを当たるということだ、逃げていた妖精メイドたちもゴブリンたちも、狼女たちでさえ・・・その言葉に恐怖心を抱いていた。

それは、間違いなく・・・これで負けてしまえば自分たちに逃げるところなどありはしないのだ。

 

「間違いなく、この戦いは私たちにとって敗北必至の戦いだろう。だが私は信じている、今まで私を信じ従ってきた皆は、これぐらいの絶望には負けないって。みんな、前を向いて行動をしているって。」

 

実際、この言葉を聞いている全員はあきらめずに行動をしていた妖精メイドたちはライフルを片っ端からかき集めゴブリンたちは少しでも役に立つようにとできることをはじめ・・・狼女たちは自慢のスピードで駆けまわり偵察と警戒を繰り返していた。

 

「だからみんな、誰一人死なないで!みんな、大切な私たちの家族なんだ!!家族を取り戻すために、犠牲なんて必要ない!!だからみんな、前を向こう!!」

 

レミリアの力強い言葉で全員の士気が上がる。

今までの恩義や忠義が、レミリアの言葉によって火が付いたのだ。

 

美鈴は即座に警備隊の統率を整え、戦力を整える。

咲夜は妖精メイドたちに指示し、倉庫から様々なものを引っ張り出す。

小悪魔は即座に、ゴブリンたちの指揮をとり始め自分にできることをし始める。

レミリアは、パチュリーを見下ろしのいい場所へと降ろし、ついてきたフランドールを見る。

 

「フラン、貴女は大丈夫なの?」

 

「・・・うん、私は大丈夫。そうだよね・・・前を向かなきゃ、始まらないよね!!」

 

バチンとフランが自分の量頬を叩く、気合を入れなおしたようでフランドールは目を輝かせる。

 

「行こう、お姉さま!!私たちで、取り戻すんだ!!」

「・・・ええ、フラン。私たちで、取り戻しましょ!!」

 


 

山のように巨大なスルトに、スルトと比べれば小さいが大きい弾幕がスルトに向かって放たれそれがスルトに当たっている。

しかしスルトには効果が全くないのか、手を振り上げては振り下ろす動作を何度も繰り返している。

だが、スルトの攻撃はとても大きな大ぶりと言う事と、スルトが小さすぎる紅魔館の軍勢をうまくとらえられていないという点からか多少の負傷者は出ようともいまだ死者は出ていなかった。

そんな背景の中、レミリアとフランが姉妹らしい素晴らしいコンビネーションでアリアに攻撃を加えていた。

 

力のあるフランが一応大剣の部類であるレーヴァテインを片手剣のように振り回し、その隙を埋めるようにレミリアがグングニルで攻撃を加える。

アリアを守っていた鉄壁の結界が無くなったからか、アリアは回避と本当に避けられないものにだけ、黄金の波紋から盾を出現させ攻撃を防いでいた。

 

「スルトを相手に、攻めあぐねているな。」

 

ドォン!ドォン!!と、スルトの攻撃の音と振動が響く中アリアは攻撃を続ける二人にそう問いかける。

事実、紅魔館側にはスルトを倒すだけの火力を持つ人物はいない、それならダメージを重ねるだけだと言いたいが・・・そのダメージすら入っている様子はないのだ。

唯一ダメージを与えられそうなのは、レミリアの命を懸けた全力投擲のグングニルとフランの存在すら賭けた限界突破出力レーヴァテインしかないだろう。

 

「それにしても、驚いた。レーヴァテイン(スルトの剣)が主に逆らってまで、今の持ち主に忠を尽くすとは。それほどまでに絆したのか、それとも絆されたのか。」

 

「はっ、アンタのその余裕。いつまで続けれる!?」

 

「ええ、あのデカブツが倒れずとも先に貴女さえ倒してしまえば問題はないはずよ!!」

 

「ふふふ・・・ならば、こうしよう・・・・・・『武の頂に立つ妖精(フェアリーコード:タダカツ)』」

 

その名前が呼ばれた途端、レミリアの眼前に槍が迫った。

だが、レミリアは今日だけで何度も眼前に攻撃をもらっていたためにすでに避けることは慣れていた。

槍を紙一重で回避したレミリアは、そのままその槍の持ち主。召喚されたであろう妖精を見る。

銀色の甲冑に身を包み、鋭い目つきで槍を振りぬいている妖精。その圧倒的な風格は間違いなく”ペイルライダー”に匹敵するとも思える。

だが・・・

 

「”美鈴”!こいつの相手は任せたわ!!」

 

「お任せください、お嬢様!!」

 

レミリアがバックステップでタダカツから距離をとると、入れ替わりで美鈴が飛び込んでくる。

タダカツはその入れ替わりに対応できずに、美鈴に対して大きな隙を晒してしまう。

 

一!(イー!)

 

軽い正拳突きの連打から相手の体すら利用したサマーソルトキック。

そこからほぼゼロ距離での華符『芳華絢爛』。

 

二!(アー!)

 

態勢を立て直し、すぐさまばねのように飛び出して強烈な飛び膝蹴りを浴びせる。

そしてそのままかなり素早い蹴りを連続で食らわせた後に、方向性を定めた彩符『彩光乱舞』。

 

三!(サー!)

 

ドロップキックのような蹴りで一瞬で距離を詰め、アッパーカットからの飛び上がっての踵落とし。

相手より早く相手の下にたどり着き、回転しながらの蹴り上げで吹き飛ばし。

 

四!!(スー!!)

 

また一瞬で距離を詰め、タダカツにとどめの一撃・・・気を纏わせたアッパーカットで、とどめを刺した。

たった一瞬の事だが、アリアは予想出来ていたと言わんばかりに次なる妖精を呼び出していた。

 

「『魔法の頂に立つ妖精(フェアリーコード:ソロモン)』」

 

次の瞬間に現れたのは、絢爛な装飾が施されたローブを着た妖精、手には黄金製の杖を持っており明らかに美鈴相手には部の悪い妖精ではあった。

 

「パチュリー様!あとはお任せします!!」

 

【ええ、まかせなさい。】

 

だが、部が悪いことは美鈴が何よりも理解していた。

それゆえ早々に交代し、他の場所にへと援護に向かうことを優先した。

 

「神の力によって消え失せるが良い!『メギ・・・」

 

【停止からの詠唱、ソロモンの名前を聞いて期待したのだけど、所詮は妖精のソロモンか、ガッカリだわ。】

 

通信魔法からため息が聞こえたと思いきや、ソロモンが次の瞬間には極太の7色のビームに飲み込まれ、ピチューンと言う音を鳴らした。

 

【今の時代は杖で詠唱ではなく、魔導書での詠唱省略時代よ。それにしても魔理沙もいい魔法を作るものだわ。】

 

「っ!『暗殺者の頂に立つ妖精(フェアリーコード:ハサン)』」

 

もはや、ヤケになっているのかアリアはすぐさま別の妖精を召喚する。黒い魔法陣から黒い色の妖精が飛び出し、レミリアには襲いかかっていた。

 

【レミィのピンチよ?咲夜。】

 

「はい、言われるまでもありませんわ。」

 

だが、その妖精も瞬きをした次の瞬間には銀色のナイフの串刺しとなりしばらく耐えたと思いきやピチューンという音を鳴らした。

 

「せめて一太刀浴びせればいいものの・・・」

 

イラつきながら、そう愚痴をこぼすアリア。

一番付き合いの長いレミリアにとって、マリアの顔、マリアの声でそのセリフを言われてしまうと一番腹立たしいものがあった。

 

「やはり、私自らが貴様らを始末する必要があるか。」

 

「あなた、戦う前に自分で言った言葉を覚えているかしら。」

 

「ああ、『もう言葉など意味をなさない』だろう?」

 

「ええ・・・ゴチャゴチャと文句を垂れて口うるさい妖精さん?」

 

「・・・その減らず口、いつまでもつかな?カリスマもどき。」

 

次の瞬間、咲夜が時間を止めて飛び出しアリアの喉元にナイフを突きつける。

しかしアリアはそれすら予測していたのか咲夜の顔を掴みそのままレミリアに向かって全力で投げた。

吹っ飛ばされる咲夜はあまりの力に方向転換や受け身をとれずにまっすぐレミリアに飛ぶ。

レミリアは、アリアに向かって突撃し飛んできた咲夜を軽くよける。

 

「咲夜、太もものナイフ、借りるわよ。」

 

咲夜の耳に届いたその言葉に驚き、フランドールにキャッチされてようやく止まった。

そして次に見た光景は、すさまじいものだった。

レミリアは決して近接戦闘の達人でも、ナイフ捌きがうまいというわけでも、魔力操作が超精密な動きで操れるわけでもないが・・・

何と咲夜が目に負えない速度で、アリアと攻撃の応酬を繰り広げていた。

 

「お姉さまあんな動きできたんだ・・・」

 

「い、妹様。そろそろ大丈夫ですのでおろしてくれませんか?」

 

「んー、おろしたいのはやまやまだけどっ!!」

 

フランドールが咲夜を抱えたまま、その場所から大きく離れる。

すると、先ほどまでフランたちがいた場所に巨大な固まりが落ちて・・・いや、振り下ろされていた。

 

「あー、こっち来ちゃったかー」

 

「妹様!もう一回来ます!!」

 

「うわっ!?あぶないっ!!」

 

先ほどは右手での一撃だったが、今度は左手の握りこぶしが振り下ろされた。

フランが近づいていたスルトに目を向けると、膝立ちで完全にこちらにターゲットを向けていた。

 

ガオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォッ!!!!!!!!

 

「も、もしかしてレーヴァテインを返せって叫んでるのかなぁ・・・ごめん咲夜、おろすよ!!」

 

フランが咲夜に声を掛ければ咲夜も、一瞬で移動する。

ありゃ?とフランが声を出すと、右手が平手打ちで飛んできた。

 

ガオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォッ!!!!!!!!

 

(イラッ)・・・さっきからぁ、ガオォ、ガオォってうっせぇな!叫ばずとも聞こえてるっちゅうの!!」

 

ギャウ!?

 

フランが右腕を振りかぶって、そのスルトの右手を殴りつける。

ズドン!!と何もかもを吹き飛ばしそうな衝撃波が発生し、フランが右腕を振りぬくとスルトの態勢が大きく崩れた。

ズドドドドォン!!と、スルトが倒れたことで周辺に大きな振動と被害が広がる。

 

「はぁ、スッキリ・・・さて、そろそろアンタ邪魔だから・・・一撃でコワシテアゲル。」

 

フランの声がダブったように聞こえると、フランの左目が黒くなり瞳孔か紅く妖しく光る。

ゾワリと、スルトだけでなく、周りでスルトを攻撃していた紅魔館の住人達まで激しい悪寒に見舞われる。

何を隠そう、昔なじみの妖精メイドたちやアンナ以外では一切見たことのないフランの能力・・・その効果が発動しているのだ。

 

「ん~、これがアナタの目かぁ。」

 

いつの間にかフランの差し出している手には、サッカーボールほどの巨大な宝石のような物体が収まっていた。

 

「普通の生き物が5センチぐらいの大きさなのに・・・中々に大きいね。握りつぶせないや。」

 

がうぅう~・・・

 

何かを察したのか、スルトがかわいらしい声でフランに向けて手を伸ばす。

しかし、フランはニヤリと黒い笑みを浮かべた後。

 

「ごめんね~、敵と定めた以上・・・貴女が妖精で、あの妖精王に味方している限り容赦はしないのぉ~。じゃ~・・・」

 

魔剣『レーヴァテイン』

 

「ネッ!!」

 

巨大な宝石のようなものを上に投げたと思いきや、おちてきたそれをレーヴァテインで思いっきり切りつける。

炎が綺麗に舞いながら、宝石が真っ二つに割れる。

たったそれだけのことで・・・

 

いつの間にか、スルトの体が粉々に砕け散っていた。

 

が・・・があぁあぁぁぁぁ・・・

 

「・・・まあ、なんていうか。」

 

消えていくスルト、スルトもまたあくまで召喚された存在なので召喚された状態では死ぬことはできず、痛みを感じぬまま切り口から魔力を垂れ流して消えてゆく。

そんなスルトを見ながら、フランは頬をポリポリと掻きながら

 

「次ぎ会うときは、一緒にお話でもしようよ。紅茶でも飲みながら、ね?」

 

ぐぅるるる・・・ヤク・・・・・・ソク

 

最後にその言葉だけを残し、スルトは完全に消え去った。

足元の森のあちこちから、紅魔館の住人たちの歓声の声が上がる。

 

「さて・・・と。」

 

パッパッとスカートの裾についたホコリを払い、レーヴァテインを肩に担いでレミリアがいた方向に目を向ける。

 

「あとは、お姉さまだけか。」

 


 

フランドールが離れてから少し、もうほぼ勝負はついていた。

そもそもレミリアには吸血鬼としての圧倒的な身体能力と運命による相手の行動誘導や完全予測、挙句の果てにはグングニルの必勝能力がある。

だが、レミリアはそれらすべてを動員して。

 

「・・・やはり、この程度か。」

 

「ぐっ・・・ぐうぅぅぅうっ。」

 

アリアに負けていた。

首を圧倒的な力で掴まれ、呼吸さえままならないレミリア。

侮っていたわけでもないし、あそこでフランに行かせなければどのみちスルトに潰されて終わりだった。

レミリアとしては最適解な運命を選び、なおかつ自分が勝てる運命を見て、引き寄せたのだが・・・

アリアの目が黄金に光ったかと思った次の瞬間、自分は首を掴まれていた。

 

「な・・・・・・」

 

「ほぉ?この期に及んで命乞いか?いいぞ、申してみろ。言葉によってはその命を助けてやっても」

 

「なめんじゃないわよ、羽虫風情が!!」

 

首を掴まれながらも、大きな叫び声をあげるレミリア。

瞳孔を赤く光らせ、使ったことのないような馬鹿力でアリアの手の力を緩まそうとするが・・・微動だにしない。

 

「私は、私は!誇りあるブラド・ツェッペシュの末裔!!屈強たるスカーレット家の女!!この程度で根をあげるとは思わないことだ!!」

 

「・・・その状態で何ができる。負け惜しみで自らの偉大さを誇るか?いいだろう、ならばその誇りを胸に死んでゆくがいい!!」

 

いつの間にか、アリアの左手には黄金のナイフが握られており、レミリアの胸に突き刺さんと動き出す。

レミリアは、そっと目を閉じ瞼の裏に移りだす走馬灯を見て懐かしむ。

 

そして・・・黄金のナイフが、レミリアに・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突き刺さらなかった。

 

 

なっ!?私の左腕に何をした貴様!!(今です!!レミリアお嬢様ッ!!)

 

 

「ッ!美鈴!!!」

 

「御意!!」

 

大きな隙ができたアリアに美鈴が突っ込む。

ダメージを受けたくないアリアはレミリアを放り投げ攻撃の姿勢に移るが・・・すでにそこは美鈴の拳の範囲だった。

 

「たぁああああっ!!」

 

突き出された黄金の槍を紙一重で避け、アリアの顎を殴りつける。

衝撃でアリアが吹き飛び、・・・”その直線には何もなかった”

 

「パチェッ!!」

 

【仰せのままに、レミィ】

 

パチュリーの黒無地の魔導書(ベシュヴェールング)に記載されている最大魔法。

7つの光の濁流がドリル上に混ざり合いアリアを容赦なく飲み込む。

魔法史におけるそれぞれの属性の魔人を呼び出し、放たれた光線を束ねるという魔法だが今この場においては一番の火力を持っていた。

 

「咲夜ぁッ!!」

 

「この命に代えてもッ!!」

 

ブゥン。

重苦しい音ともに咲夜以外の全てが灰色になり停止する。

瞬間的に、何とか防御態勢ができているアリアに近づき、”致命傷”になるようにナイフを設置してゆく。

しかも、投擲用のナイフだけではなかった。妖精たちが持つライフル、紅魔館に貯蔵されている武器の数々。そのすべてを配置してゆく。

 

(12秒経過ッ・・・これでっ!!)

 

仕上げに自分自身もアリアに向かってナイフを突き出しながら突撃する。

シュンッ。そんな気の抜けるような瞬時に切り替わった音がした途端、咲夜が設置したすべての武器がアリアに殺到する。

 

「ぬぅっ!?」

 

「うあああああああああああああっ!!」

 

咲夜が決死の叫び声をあげ、無理やりにアリアを投げる。

アリアの体が再び、何もない場所へと移動し・・・

 

「待ってましたっ!!」

 

そこにフランドールが追撃をかける。

レーヴァテインを器用に振るい、アリアの持つ杖を弾き・・・能力でその杖を破壊する。

そしてがら空きのアリアに攻撃を加えるのも忘れない。

レーヴァテインになけなしの魔力をつぎ込み、フランドールにとって最後の攻撃を振り下ろす。

 

アリアも最後に取り出した黄金の盾が、砕け散った。

 

 

そこをすかさずフランドールが蹴り上げる。

 

「今です!お嬢様!!」

「今よ!!レミィ!!」

「お願いします、お嬢様!!」

「決めちゃって!お姉さま!!」

 

 

 

「ありがとう・・・みんな!!」

 

既に準備を整え・・・レミリアのありったけの魔力をつぎ込み、グングニルは今までにないほどの危ない赤い光を放っていた。

投擲の構えをするレミリアも、ダラダラと汗が流れ続け・・・意識が薄れそうになり標準が定まらない。

 

・・・しかし、レミリアの肩にそっと手が置かれた。

 

(だれ・・・だ?)

 

『あの光を狙ってください。お嬢様』

 

背後にいる誰かの腕が視界に入り、アリアを指さす。

その指をさした先には、キラキラと鮮やかな赤い光が輝いている。

・・・それを見たレミリアは察する、あれは・・・マリアに上げたあのブローチだ。

 

『”妖精ちゃん”のことを・・・マリアちゃんのことを、よろしくお願いします。』

 

「・・・ああ、任せてくれ。」

 

意識がハッキリと覚醒する。

 

手元はぶれない、足元には何もない。

 

「たとえ、どんな邪魔があっても・・・この一撃は外さない!!」

 

神殺『レミリア・ザ・グングニル』

 

「いっけぇええええええええええええっ!!!」

 

レミリアが投擲したその槍は・・・

 

 

 

音速を越え・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奇跡をもたらした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピチューン!

 


 

 

「・・・・・・私は、また負けたのか。」

 

戦いにも巻き込まれず、綺麗に残っていた花畑の上・・・そこでアリアは倒れていた。

レミリアたちは狼女たちや妖精メイドたちに支えられながら何とか立っていた。

 

「ええ、貴女は・・・私たちに負けたの。」

 

「・・・なぜだ。」

 

「それは・・・貴女が、家族や仲間(妖精たち)を大切にしないからよ。」

 

「・・・・・・そう、か。私が忘れていたものは・・・・・・それだったのか。」

 

スゥッ・・・と、アリアの体が光りはじめる。

 

「・・・そうか、私も帰るのか。」

 

腕を天井へと伸ばし、光の無い目でそれを眺める。

 

「・・・・・・あ・・・あ。おべ・・・・・・ろん。むかえに・・・きて・・・・・・くれたのか。」

 

その言葉を最後に、”アリア”の腕がポトリと落ちる。

 

「・・・・・・これで、終わった。わね。」

 

「・・・マリアさんは、帰ってきません・・・でしたか。」

 

「・・・おかあ・・・さまっ」

 

それを見て諦め始める面々、レミリアも顔を伏せ・・・キラキラと光るものを流していた。

 

「・・・えっ・・・み、みんな!!足元を!!」

 

フランの驚いたような声を聞き、全員が足元・・・花畑を見る。

花が・・・シロツメクサの花々がアリアの体に向かって光の波を作っている。

 

「な、なに!?どういうこと!?」

 

「ま、また新しい敵…ですか?」

 

「くっ・・・」

 

そんななか、ふわりとレミリアの胸から出ていくものがあった。

・・・それは、レミリアとマリアの思い出の品。二人のお揃いのブローチだった。

それはかなり昔の話で・・・どうやって渡したかも覚えていない大切な思い出。

 

だけど、それたしかに二人をつないでいた宝物だった。

やがてそのブローチから、一粒の光が零れ落ちる。虹色に輝くそれは、ゆっくりとアリアの体に落ち・・・アリアの体に吸い込まれていった。

 

「うぅ・・・こ、ここは。」

 

やがて、フラフラとアリアが立ち上がった。

 

「私は・・・一体、確か。あの子を送り届けて・・・それで、」

 

「・・・まり・・・あ?」

 

 

 

「・・・えっ。レミリア…お嬢様?そ、それに・・・みんなも?咲夜まで?」

 

やがて、レミリアとフランと咲夜が走り出し・・・

そして・・・

 

 

【挿絵表示】

 

 

「マリアっまりあぁぁぁぁぁっ!!」

 

「本物だっ!本物だよお姉さま!!」

 

「お母様・・・」

 

困惑していたマリアだが・・・やがて落ち着きを取り戻し、それぞれの娘たちを慰めだす。

 

「よかった・・・よかったぁっ!」

 

「ええ・・・これで、全員集合。ですね!」

 

「はぁ・・・やっと終わったかぁ。」

 

安堵の涙を流すパチュリー、嬉しそうに笑顔を崩さない美鈴。

そして小悪魔は、やれやれといった感じで座り込んだ。

 

 

 

それからしばらくの間、紅魔館の人々の喜びの声は・・・まったく途切れなかったという。




妖精の名前について

スルト、タダカツ、ソロモン、ハサン。
古今東西の神や英雄の名前を持っているが、あくまで彼女たちはその彼らの名前をマネしてるだけではある。
しかし、名前補正がかかりその名前を持った妖精は名前の持ち主とよく似るようになるという。

オベロン

アリアの最期の言葉に出てきた名前。
アリアの元腹心にして幼馴染、四騎士の上司。
既にぬらりひょんによって殺害されている。


アリア

幻想郷にある力の流れ・・・龍脈の管理者。
元々は中立の立場だったがぬらりひょんの策謀によって封印されワープ。
そのショックで記憶をなくしてしまったうっかりさん。
最後は幼馴染と一緒に天へと昇った。




というわけで、クソデカ感情抱え込んだ紅魔館組の異変騒動!は、EXの後日談と+αを書いて終わりとなります。ここまでの御愛読本当に感謝です!!
さて、グダグダとあとがきを書くのはまた今度としましょう!!
ではまた、次のお話をお楽しみに!


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EXの後日談

紅魔館が、妖精に覆われた事件とその真相は結局、八雲紫の手によって真っ黒い闇の中へと葬られた。

操られてはいたとはいえ幻想郷側の失態と、復活させてもらった恩としてその二つはレミリアたちの想定以上に事が進んでいた。

さらに懸念のあった、レミリアとフランドールにとっての主食。血液は、八雲紫独自のルートから確保され、その受け渡しは紅魔館側完全優位で進んでいた。

 

その後、余裕と大切なものを取り戻した紅魔館は幻想郷各勢力にわざわざレミリアが出向き菓子折りと西洋の美術品*1を渡すことによって、表向きは不可侵条約を結んでいた。*2

 

そんな中、紅魔館では・・・

 

「ふぅ~・・・かつてできた力仕事が、かなりキツイですね~。」

 

中庭で、大量の洗濯ものが風にあおられてバサバサと音をたてている。

その中でマリアは、額の汗を拭きながら少し休憩していた。

 

そんな様子を見た妖精メイドがすぐさまマリアに近づき冷えた水が入った水筒を渡していた。

 

「ありがとう、助かるわ。」

 

「いえいえ、無理は禁物ですよ!メイド長!!」

 

嬉しそうな雰囲気で仕事場に戻る妖精メイド。

今この洗濯物を共同で干している妖精メイドたちは、元々マリアのメイド隊の精鋭中の精鋭だ。

かわいらしい掛け声と、動作でベットのシーツやワイシャツを干し続けている。

ふと、マリアが紅魔館の方に目を向けると・・・

 

「誰かー、レンガの追加こっちにおねが~い!」

「西館の瓦礫運ぶの誰か手伝ってー!」

「あぁ~!?私の私物~!!とほほ・・・あんまりだぁ~。」

 

警備隊の狼女たちが土木作業をしていた。

あの戦い・・・正確にはスルトが召喚され彼女が攻撃した際、大きな衝撃波を地上にまで届けていた・・・その結果本館は耐衝撃建築を多少なりとも施していたために無事だったのだが・・・まだ施されていなかった西館と東館、時計塔や離れの倉庫などは完全に崩落しており現在復旧作業が施されている。そのため、大半の妖精メイドや狼女たちは中庭にテントを張って生活している。

ちなみに建築しているのは狼女たちだけではなかった。

 

「へぇ~、こうするといいのかぁ。勉強になるなぁ。」

「ま~日本建築は西欧と比べて改良するべき点が多かったからなぁ。それにここらは地震が多いからなぁ」

 

八雲紫が連れてきたであろう、鬼が建築現場に混ざっているのだ。もちろん報酬は八雲 紫もちらしいが・・・

何となく騙されそうで少しだけ会計帳簿に余裕を持たせようとマリアは考えた。

 

「お母さ・・・メイド長。」

 

そんなマリアのもとに、咲夜が現れる。

手には買い物かごが握られており、連れの妖精メイド2人も満足そうに買い物かご・・ではなくちょっとした馬車に乗っていた。

 

「おかえりなさい、咲夜。どうだった?」

 

「はい、八百屋の哲さんと肉屋の松さんが注文通りに・・・こちら詳細書です」

 

「ふむふむ・・・あら、予想より安い。おまけしてくれたわね~。」

 

幻想郷での生活もなんとかうまく言っている。

人里でもまだ一部の反感はあるものの、こうして買い物をするぐらいには適度な交流をしている。

八百屋と肉屋の人たちに最初に大量発注したときは驚かれたのだが、紫が交換してくれた大判を見せたところ喜んで発注してみせた。

 

「ありがとう、私の部屋の机の上にって・・・一緒の部屋だったわね」

 

「ふふ、もう・・・お母さんったら。とりあえず、いつもの所に置いておくわ」

 

そう言いながら、咲夜は本館の中へと消えてゆく。

それを見たマリアは、もう一仕事!と意気込むと、トコトコとひときわ大きなテントに向かった。

 

「でね~、魔理沙ったら酷いのよ~。『レミリアのグングニルより、フランのレーヴァテインの方が強そうだぜ』って!」

 

「・・・まあ、見た目的には紅い槍と燃え盛る剣だからね。魔理沙の言う事は一理あるわ」

 

「パチェまで!?も~、フラン~貴女からも何か言ってよ~!」

 

「はは、地味乙。」

 

「フラン!?」

 

ひと際大きなテントは、レミリアとフランのテント・・・そのテントの前に、日傘が突き刺さったテーブルがありそこでレミリアとフラン、そしてパチュリーが紅茶を飲みながら優雅にお茶会をしていた。

ちなみにだが、スルトの衝撃波の一番の被害を受けていたのはヴワル魔法図書館で、現在は衝撃波により発生した本の山(全高42m)を一冊一冊丁寧に分別しているところだ。

小悪魔が主体となって頑張っているけど西館と東館の修理と同じですぐには終わりそうにないらしい・・・

 

「レミリアお嬢様、フランお嬢様、パチュリー様。お茶のお替りとおやつのケーキはいかがなさいますか?」

 

「あ、欲しい!チョコレートケーキを頼むわ!」

「私、イチゴショートで!」

 

声をかけたマリアにすぐさま反応した吸血鬼姉妹。

レミリアがチョコレートケーキでフランはイチゴケーキ。

チラリとパチュリーの方を見ると本で顔を隠しながら

 

「ぶ、ブルーベリーで」

 

少し恥ずかしそうにそう答えた。

マリアはそんな三人に笑顔で答えて、一礼して離れていく。

 

「マリア!」

 

そんなマリアにレミリアから声がかけられて、マリアは振り返る。

レミリアはふふん。と言いたげな表情とフランは笑顔で、椅子を3つ増やす。

 

「美鈴と咲夜、そしてあなたも一緒にティータイムよ!」

 

「!」

 

その言葉にちょっとだけ驚きながらも、すぐにうれしそうな笑顔になるマリア。

嬉しそうにぺこりと一礼した後、そそくさとキッチンへと向かっていく。

 

(今日はちょっとだけ、豪華に作っちゃいましょうか♪)

 

その日のマリアは、とてもうれしそうだったと言う。

 

 


 

 

これは、とある幻想郷のお話。

 

紅白の巫女と、白黒の魔法使い・・二人の異変解決者が解決した初陣の異変。

 

”紅魔郷異変”。

 

 

それが、この幻想郷で再び起きていた。

 

 

しかし、”第14代博麗の巫女”はすぐさま行動開始。

 

ルーミアをぶっ飛ばし、大妖精とチルノを氷の湖に沈め、狼女たちをボコボコにした後、美鈴をぶっ飛ばし、妖精メイドたちを蹴散らしたのちに、小悪魔を本棚に突っ込ませ、パチュリーをそっとソファーに寝かしつけた後、精鋭妖精メイドをコテンパンに倒し、アンナを完膚なきまでに倒した後・・・

 

 

 

「ようこそいらっしゃいました。博麗の巫女。」

 

 

先を急ぐ博麗の巫女を、遮るように”黄金の武器”が突き刺さる。

博麗の巫女は、”琥珀色”の瞳でその犯人を睨みつける。

 

「ですがすぐさま、おかえりいただけないでしょうか。」

 

そこにいたのは、空色に似た髪色の妖精メイド・・・だが、他の妖精メイドたちと違って雰囲気が全く違う。

 

「乱暴で危険な貴女様を、お嬢様方のもとへといかせるわけにはまいりませんので」

 

「それなら、アンタをぶっ飛ばして案内させてやるわ」

 

「・・・そう。なら、無限に広がる空間の中で永遠と時が止まったかのように彷徨がいい!!」

 

 

 

そこに在る、紅くて大きくそして笑顔が絶えないお屋敷で・・・

幸せそうに、その妖精メイドは笑っていた。

 

 

 

そしてそんな彼女に、また運命の出会いが近づいていることは・・・また別のお話である。

 

 

*1
レミリアが拾ってきて結局倉庫にしまっていたもの

*2
あくまで、幻想郷にはまだまだ人間の恐怖心が必要と言う事と里に内部紛争の火種があるため。そして裏側では、お互いの理解を深めるために交渉しましょう(意訳)という条約がある




これにて、完☆結。

あとはおまけを書いておしまいですが、これまでの物語はいかがだったでしょう。
不完全燃焼や納得いかないっという方はいるでしょうが、少なくともこれで終わりです。
少なくとも、自分はこれ以上このお話を広げるつもりはありませんし、マリアとその紅魔館の物語はこれにて終わりです。
ちなみに最後に出てきた14代博麗の巫女は間違いなく霊夢の娘です。(魔理沙ェ・・・)
名前や能力、戦闘スタイルなどは伏せますが、黒髪で琥珀色の瞳、スタイルは魔理沙寄りと言う事だけは言っておきます。

さて、蛇足はこのぐらいにしてこの小説を書いたきっかけをお話ししましょう。
そもそもが、この小説をここまで長編にする予定はありませんでした。
少なくとも12話ぐらい書いてとっとと別の小説を書こうと考えていたのですが、気が付けばこっちのプロットを書いてしまっていたので・・・はい、気が付けばこの物語を書いていました。
というのも、なんだか書いているうちに楽しくなりいつの間にか無意識に達してしまっていたようで、まあせっかく書いたんだしといった感じでずるずると・・・
まあ結果的に長くなってしまったんですが・・・

さて、読者が興味ないだろうあとがきをズルズルと書くのもなんですし。
作者のお言葉はこれにて終わりにします。校長先生のお話よりかは短いじゃろ?

おまけのIF展開に関しては、期待しないでください。
ほぼほぼ燃え尽きかけていてもう頭は、別の作品を作り上げようとしているので・・・
とりあえず頑張りますが、本当にクオリティだけは期待しないでください。



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おまけ
IF.煤けた日記


IFシリーズ第一弾。

マリア生存ルート(最終的に暴走)です。

時系列的には、マリアが最後の妖精を無理やり送り返した辺り
今回はレミリアの日記から、”誰か”の視点に変わります。

このお話はバットエンドですがメリーバットエンドです。
ですが、かなりの鬱展開が見受けられます。




地獄へようこそ、諸君。


幻想郷転移後1日目。(クモリ)

 

我々は、最悪な形で幻想郷へと転移した。

幻想郷の連中は、あろうことかマリアを利用し捨て駒として切り捨てるつもりだったらしい。

誰の許可を経てそんなことをしたのだと、幻想郷の管理者たる”八雲 紫”に尋ねたのだが、答えはせず。

ただ傷だらけで血だらけのマリアを見下し「失望した」とだけ言って消えていった。

 

・・・そしてそれは、昨日の話だ。

 

~~~~~~~~~~

 

幻想郷転移後5日目。(クモリ)

 

今日もクモリだ、昨日も一昨日も・・・ずっと曇りのままだ。

あれからというもの、紅魔館は三日三晩幻想郷勢力による攻勢を仕掛けられている。

最悪なことにこちらの劣勢は当然、もうすでに美鈴の警備隊には死傷者まで出ている。

美鈴もすでに意識不明の重体、今はフランが指揮を執って何とか保っている状態だ。

 

・・・そしてマリアは、目を覚ますどころか容体が悪化している。

傷は治ってきてはいるのだが、日に日にマリアの表情が青く苦しいものとなっている。

この胸にあるザワザワは幻想郷に対する怒りなのだろうか、それともマリアが苦しんでいるということを悲しむ心なのだろうか。

 

言い表せない不安感があるが・・・まだマリアが生きているという実感だけがある。

しかし・・・とても嫌な予感がするのはなぜだろう。

 

~~~~~~~~~

 

幻想郷転移後7日目。(クモリ)

 

今日もクモリだ。なんというか、太陽でもいいから空を見てみたい。

そして私は今、フランと咲夜とアンナ、そして数十名の妖精メイドたちと軽傷の狼女たち、そして重体のパチュリーと美鈴と、いまだに目を覚まさないマリア一緒に、幻想郷から脱出しようと紅魔館から逃げ出してきた。

しかし、転移魔法を扱えるパチュリーは魔力を扱えるほどの体調ではないし、そもそも帰るにしても時間がかかる。

 

・・・はっきり言って絶望的だ。

明日を生きるためには、何かを犠牲にしなくてはいけない。

その言葉が、どうしても頭の中をぐるぐるとよぎっていた。

なぜ今になってその言葉が頭をぐるぐると駆け巡っているんだろう。

 

・・・私は、どこで間違えたのだろうか。

いや、私に・・・私に間違いなんてない。

今は隠れよう、そして脱出の機会をうかがって逃げ出すんだ。

そうすれば、みんなまた笑って生きていけるはずだから。

 

~~~~~~~~~

 

幻想郷転移後12日目。(アメ)

 

・・・なんというか、日記に書くことがありすぎて何を書けばいいのか分からない。

心の整理代わりに・・・起きたことを少しずつ書いていこう。

 

つい3日前、ついてきていた最後の妖精メイドが息絶えた。

死因は6日前に私を庇ったことによる火傷が原因だった。

たしかあの子は、マリアが最後に逃がしたあの妖精メイドだったはずだ。

 

そして2日前、狼女たちも全滅してしまった。

最後の一人は、勇敢に牛鬼と呼ばれる妖怪に突っ込んでゆき・・・相打ちでその命を散らしたという。

 

・・・昨日、アンナが幻想郷につかまった。

咲夜も、左腕を失って日に日に元気がなくなってきてる・・・パチュリーも美鈴も目を覚まさない。

 

でも嬉しいこともあった、なぜだかは分からないけどマリアが、虹色の繭に包まっているの。フランが言うに、魔力がこの繭に向かっていて多分再生のために力を蓄えているんだと思うってことだった。

 

それはつまり、マリアが目を覚ますということだ。

それ以上に嬉しいことはない、きっと犠牲になってしまった子たちも、これで報われるはずだ。

 

~~~~~~~~

 

幻想郷転移後31日目。(クモリ)

 

ようやく、落ち着いて日記を書くことができるようになった。

そしてもう、正直に言えば12日目の私を殴り倒したいぐらいだ。

 

・・・あれからというもの、幻想郷は地獄に様変わりした。

いや・・・その地獄も飲み込まれ、今や本当の意味での”楽園”となっている。

まあ、楽園と言っても・・・妖精たちにとっての・・・だが。

 

私とフラン、そして咲夜は・・・重体の美鈴とパチェを見捨ててまで何とか逃げ出していた。けして居場所がばれたから二人を置いていったわけではない。連れて行こうとして、既に飲み込まれていたからだ。飲み込まれた、というのも・・・マリアを包んでいた虹色の繭に・・・だ。

いや、それ以前にもうあれは、私たちの知るマリアではなかった。

幻想郷の敵共・・・あれらはすべて・・・・・・蝶、そう。月光蝶に呑まれていったと思いきや次の瞬間には美鈴やパチェと同じ虹色の繭に包まれた。

 

正直に言えば、もう私たちは明日死ぬかもしれない。

もう私には最後につかまって、同じような結末をたどる運命しか見れないのだ。

 

だけど、かすかに希望がある・・・・・・それは、あの虹色の繭につかまった後、そこでは紅魔館の皆で、笑顔で暮らしている未来が見えるのだ。

 

 

 

きっとこれが、最後の日記になると思う。

だから、もし・・・もしこの日記を読んでいる人がいれば人々伝えてほしい。

 

これは、これを引き起こしたのは・・・・・・決してマリアのせいではないと。

 

そして、これを書いている私・・・レミリア・スカーレットは妹のフランドール・スカーレットと共に、”アレ”に特攻を仕掛ける。

 

もしあれが、私たちのせいであるというのならば・・・その落とし前は私たちでつける。

 

~~~~~~~

 

「ん~、なんていうか変な本ね~。わからない言葉しか書かれてないし」

 

「レミリアお姉さま、何を呼んでるの?」

 

「あら、フラン。なんでもないわ、この本は何も書かれてないもの」

 

「そうなんだ・・・じゃあ向こうで一緒に遊びましょう!もうみんな待ってるよ!」

 

「今行くわ~。」

 

そう言いながら、二人の少女は”妖精の羽”を羽ばたかせ・・・その場から去っていった。

そしてその場所には、古ぼけた日記と朽ちた槍、そして燃え尽きた剣が残され・・・やがてそこは誰の記憶からも忘れらされていくだけであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここは妖精郷。

この世界はただ、妖精たちが生きる秘境。

朝も昼も夜も、妖精たちがみんな仲良く、気ままにそして、幸せに暮らす土地。

 

しかし、この地を訪れるものは帰ってこない。

なぜなら、妖精になって・・・この地で永遠に生き続けるからだ。

 




このお話を整理すると、

レミリアたちが転移に間に合う。

マリアの一命が取り留められる。

八雲紫(操られてる)が紅魔館を攻め立てる。

紅魔館組が壊滅状態で逃亡生活

マリアの神の力暴走する(虹色の繭に包まれる)

マリアでもアリアでもない神となる

全てを飲み込んで新しい世界を作り始める。

レミリアとフランが、特攻を仕掛けるが飲み込まれる。

そこから何年も再構築を続けて

妖精郷誕生。


ちなみにですが、この世界線の咲夜は生き残っています。
左腕はないですが健在です。
ですが悲惨な事になっています。

(続きは)ないです。


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IF.理の外


IFルート第二弾

もしマリアが幻想郷に行かなかったら。


このお話は、前作の紅魔館が幻想郷に行かないという選択をとった後のお話です。


そして今回もレミリア視点です。



 

あれから何年もの時が過ぎた。

 

あの日、あの時・・・幻想郷に転移せずにこの場所にとどまるという選択をしたのち。

この紅魔館は不可視の魔法結界をはることによって、吸血鬼戦争をやり過ごした・・・が、後にこの選択が、私たちを苦しめる結果となっていた。

 

吸血鬼戦争の結末は、三つ巴の決戦の末にスカーレット家、ハンターグリーン家、ミッドナイトブルー家の三つの神祖級吸血鬼の全滅で終わり、最終決戦で割って入り見事に漁夫の利を得た教会によって西欧諸国の魔者狩り・・・異端審問が始まっていた。

 

いまや吸血鬼の中で神祖の血を引くのは、私とフランだけ・・・教会の連中は、血眼になって隠された紅魔館を探していたのだが・・・教会が潰えるその時まで、紅魔館を見つけることができなかった。

 

・・・そこまでは、よいところだった。

 

その時代から、おおよそ1000年近く。

今、紅魔館にいるのはもうこの私・・・レミリア・ツェッペリン・スカーレット*1と、今なお私に仕えてくれているマリアだけであった。

かつてあった温かな屋敷は、今や私とマリアだけが住むとても寂しい・・・ただ広いだけの家となっていた。

マリアも、笑顔を必死に繕っているが・・・どこか寂しそうと感じてしまう。

 

・・・私以外の家族は、分からない。

フランドールは、お母様を探す旅に出て・・・643年前の手紙を最後に生きているのか死んでいるのかもわからない。

美鈴は、気の衰えを感じたらしく再び修行しなおすために、東へと向かい・・・その後どうなったかさえ分からない。

パチュリーは、イギリスから呼び出しを受けて以来、それ以来音信不通。咲夜は、なんていうか・・・いつの間にか消えていた。本当に気がつくと居なくなっていた。

アンナも咲夜と同じで、いつの間にか姿を消していたし・・・妖精メイドたちはほとんどが居なくなっていたし。

かつてこの紅魔館を護っていた狼女たちも、美鈴についていってしまい・・・誰もいない。

 

・・・かつてこの身体が幼かったころは、この屋敷をとても大きくそして広く・・・暖かい場所だと思っていた。

しかし、この身体・・・1500歳になったころには、この屋敷は意外と小さくて狭くて・・・とっても寒い場所だと理解してしまっていた。

今日も今日とて、誰が来るわけでもないのに・・・紅魔館のお父様の私室で、何百回何千回と呼んだ本を繰り返し読み返している。

凡そ、234年前にマリアが買ってきてくれた何の変哲もない恋愛小説だ。

 

「・・・レミリアお嬢様、またその本をお読みになられておられるのですか?」

 

「・・・これ以外、読むものがないのだ。」

 

「・・・申し訳ありません、私が・・・この羽さえ消せれば」

 

「責めているわけではない、謝るな・・・・・・今日の紅茶は随分と素直な味だな。」

 

「久方ぶりに、いい紅茶の葉が入手できたので」

 

エッヘンとかわいらしく胸を張るマリア。

その姿は私より小さくとも、いつもと変わらずとても頼もしい姿だった。

ふとマリアを眺め、彼女についての情報を整理する。

 

・・・マリアもまた1000年という時の流れの中で、元々のマリアとは違う存在に一度生まれ変わっている。

今のマリアは、妖精でありながら地母神という一側面を持つ・・・つまりは、マリアは半神半妖精。半分妖精でありながら、半分神という存在だ。

無論彼女は、すぐに忘れ去られるような存在ではなく・・・1000年前の紅魔館の周辺にあった村々の村人の子孫たちに今でも信仰されている。

教会から異端審問にかけられそうだが・・・そんな輩にはなぜか神罰という名前の不運が襲い掛かっために、異端審問にかけられず・・・妖怪や怪物などいないとわかった今でも信仰されている。

 

ふと、彼女の首筋にある噛み傷が目に入った。

 

「・・・その傷、隠さぬのだな。」

 

「っ・・・ええ、もうこの屋敷には私とレミリアお嬢様しかおりませぬので・・・隠す相手もいないでしょう」

 

顔を赤くしながらそう答えるマリア。

・・・私は、一人でいることが寂しくて・・・マリアに手を出した。

そして彼女を襲い、血を吸ったおかげで・・・私もいまだに長らく生きながらえている。

それはもう・・・982年前の事だ。それ以来、私たちの関係は何とも言えないものとなっている。

愛し合っていると言われれば、愛し合っているだろうし・・・愛し合っていないと言われれば愛し合っていないともいえる。

しかし、一方的とはいえ私はマリアを愛していた。マリアが私をどう思っているのかは分からないが・・・それでも私はマリアが好きだ。

 

無言で、両腕を広げると・・・マリアは顔を赤くしながらティーカップを机の上に置いて私に抱き着いてくる。

・・・かつて大きかったマリアの背丈は今では私がすっぽりと覆い隠せるほどに小さくなっていた。

ちょっと力を入れるだけで折れてしまいそうなほどの細く小さな体・・・

 

ふとマリアが私を見上げている。

 

「・・・してくださらないんですか?」

 

顔を赤くし、妖艶に私を誘うマリア。

いやきっと彼女は無自覚なのだろう・・・だけどそれが私の中のナニカを引き立てる。

私は彼女の後頭部に手を添え顔を近づける。

マリアも目をつむり・・・やがて私たちは・・・・・・

 

 

バン!!!

 

 

「たっだ、い"ぃ?!」

 

書斎の扉を急に開ける不届き者が居たらしい・・・そうイラつきながら目線を向けると・・・

 

「あ、あは・・・あははは・・・お、おねーさまったらだいたーん。あは、あははは・・・」

 

「・・・・・・フラン?お前なのか?」

 

「あっ、えっと・・・その~・・・・・・おっ、お邪魔しました!!

 

パタン・・・・・・

 

「あわわわ、お、お姉さまがま、マリアに手を出してた・・・」

「うぇ!?お、お嬢様が・・・お母様に!?」

「あ、アタシたちがいない間に・・・な、ナニが」

「くっ・・・私がもっと早く武の極みにたどり着ければっ!!」

「え、えーと、つまり・・・と、とりあえず式をあげましょう!!めでたいことだわ!!」

「いやパチュリー様!?待ってください、それ以前に私はレミリアお嬢様の事を何とお呼びすればいいのですか!?」

 

扉の向こうから聞こえる話し声・・・小声だがまったくもって丸聞こえだ。

 

「・・・なんというか、また騒がしくなりそうだ。」

 

「でも、嬉しそうですよ?レミリア」

 

マリアが、私の名前を呼び嬉しそうに笑顔を作る。

・・・そうだな、私たち二人だけよりも

 

「・・・みんなで一緒に生きていった方が、楽しい輪よね」

 

私はマリアを離し、椅子から立ち上がり扉を開け

 

 

「アンタたち、それよりいうことがあるんじゃないの?」

 

 

そう声をかけた。

 

 

 

帰ってきた言葉は、とても暖かかった。

*1
300年ほど前に、紅魔館に吸血鬼にとっての法王級の人物が現れ、私にこの名前を与えてくださった。正直に言えば、いらない・・・。





はい、幻想郷に行かないルートはレミリア×マリアの百合ルートだったんや。
だけど、アンケートにあったもう一つのレミリア×マリアのカップリングとネタは被っておりません!!断じて!!

あ、あとキャラの細かい設定です。↓


レミリア
吸血鬼たちにとっての法王から名前をもらい、本当にめっちゃえらい吸血鬼となったレミリア。寂しさからかマリアに手を出してその血を吸った。
そのせいで、吸血鬼でありながら妖精であり神であるというなんか訳の分からない状態になっており正直マリアが居なければ世界を破壊しかねない存在となっている。
本人的には、手を出したことに関しては後悔はしていないらしい。

マリア
レミリアに手を出された結果、乙女らしさがカンストしている。
咲夜になんて説明したらいいのか、実は結構悩んでいる。

フラン
長旅から帰ってきたら、実の姉が育ての親に手を出していてパニックになった。
ちなみに実母のことに関しては何もわかっていない。
これからレミリアとの付き合い方について真剣に悩み始めている。別に否定的なわけじゃない。姉がイチャイチャしているシーンを見てしまって気まずいだけだ。

咲夜
教会を滅ぼした後、紅魔館に帰るべく旅をし続け帰ってきたら義理の母親が使えるべき主に手を出されていた件について。
正直一番パニック状態で、別にマリアに好きな人ができるのはいいしその人がもう一人の親となってもいいとは思っているのだが・・・それが自分が使えている尊敬するべき人だった場合はどうするべきなのでしょうか!?

アンナ
親友が主に手を出されていたでござる。
一体何をした・・・いや、ナニをした!?

美鈴
美鈴の師匠曰く「気が衰えたんじゃなくて、気が多くなって衰えたように感じた」だけだった。
どの面下げて帰ればいいのか分からず、困ったのでとりあえず武者修行していた。

パチュリー
親友が恩人に手を出してたでござる。とりあえずウエディングの準備だ!!
上記の中で一番パニック中、半ば頭がよかったのが悪運だった。

妖精たち
マリアが掃除していたとはいえ、お屋敷中が大変なことになってる件について。

狼女たち
修行から帰ったら、庭が大変なことになっていた件について。


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IF.こかげのひととき

IFシリーズラスト

最後はマリアと咲夜のカップリングです。
イチャイチャ注意報を一応出しておきます。

時系列は伏せますが、どうぞお楽しみください。


いつもは賑やかで、ちょっと騒がしいぐらいの紅魔館。

しかし今日は、随分と静かである。

 

それもそのはずだ、今日の紅魔館は全員がお休みの日。

・・・まあ、警備隊にお休みは無いのだけれど、少なくともメイド隊は今日一日はお休みだ。

 

さて、そんな今日は私と咲夜でピクニックをしている。

まあ、家族としてではなく咲夜のおねがいで恋人としてだが・・・。

 

(まさか、恋人ができた時の予行練習でピクニックに誘われるなんて思わなかったわ。)

 

娘の将来が少しだけ不安になりながらも、今日のピクニックは咲夜が頑張って計画してくれたものだ。

前日から、下見とかてるてる坊主やお祈りを欠かさず、今日の朝だって朝早く起きてお弁当の用意を頑張っていた。

 

そして彼女の願い通り、雲ひとつない満点の青空。

レミリアお嬢様は、「雲がないじゃないか」とブーたれていたが、そもそもレミリアお嬢様、バルコニー以外で太陽が出ている間お屋敷からでないじゃないですか。

 

まあ、レミリアお嬢様の事は置いておいて記念すべき咲夜とのデートだ。

 

~~~~~~~~~~

 

「それでね、気になってその部屋を開けたらそこになんか変な生き物が居たの。」

 

「あ、もしかしてそれが」

 

「そうそう、レミリアお嬢様がこっそり拾ってたチュパカブラだったのよ・・・。思わず、ナイフを投げてしまった私は悪くないと思うの。」

 

「そうね、それなら咲夜は悪くないわね」

 

「でしょ!」

 

手を恋人繋ぎにしながら、森の中を歩いている。

普段、仕事仕事でちょっとしか時間を作れなかったからか今日の咲夜は随分と甘えん坊である。

 

「だからね〜・・・あっ、ねえお母様!そろそろ見えてくるはずよ!」

 

「咲夜イチオシの花畑?どんなものか楽しみだわ。」

 

「ふふん、見て驚いてね!見えたわ!!」

 

「・・・わぁ!」

 

そこにあったのは、シロツメグサの花畑。

しかもただの野草の集まりという訳では無い、シロツメグサに交じって様々な花々が咲き誇っているのだ。

 

「どう、綺麗でしょ。」

 

むふー。と自信満々な咲夜。思わず抱きしめて頭を撫でる。

ちょっと顔を赤らめて、恥ずかしがる咲夜だけどすぐに抱きしめ返してきて猛烈に甘え始める。

 

「さて、ちょうどいいしランチにしましょう!」

 

満足したのかパッと離れて、バスケットを取り出す咲夜。

確かに歩きっぱなしで少しだけお腹がすいていた。

咲夜が張り切って作ったお弁当が楽しみで仕方がない。

 

食べ終わってみれば、咲夜の作ったサンドイッチはとっても美味しかった。咲夜いわく、「好きな人の好みの味を知り、胃袋を掴むのは当然。」と、自信満々に語っていた。

そんなこんなで今は、シロツメグサの花畑にポツンとある木下で咲夜に膝枕をして休んでいる。

 

心地の良い風が吹き、鳥のさえずりがどこからともなく聞こえてくる。

 

「・・・。ねえ、お母様。」

 

ふと、咲夜が私のことを見上げていた。

なに?と微笑みながら頭を撫でる。

 

「私、私はねマリアが好き。」

 

「私もよ?私も咲夜の事が」

 

「違うの。」

 

ゆっくりと起き上がり、私の目をじっと見る。

 

 

「私は、私はね?家族(お母様)じゃなくて、好きな人(マリア)が好きなの。」

 

 

さぁぁぁあっと、風の音が鳴く。

そして私は、やっぱりかという確信と少しだけ嬉しさを心の中で持っていた。

 

「・・・いつから?」

 

「気づいたのはつい最近、お母様が・・・マリアが人里であの男の人と話してるのを見てモヤッとして・・・。」

 

あの男の人とは恐らく霖之助さんのことだろう。

人里に行った時のちょっとした自分のご褒美でよった甘味処で偶然知り合った人。私も彼もそんな気は一切ないが他人からしてみれば、好き同士なのかもしれない。

 

「・・・そう。」

 

「失望した?」

 

泣きそうな表情で、私から目をそらす。

 

「いいえ、失望なんてしないわ。むしろ、その気持ちを聞かせてくれただけでも嬉しい。」

 

「じゃっ、じゃぁ」

 

 

「でも、ごめんなさい。私は貴女の気持ちに答えることは出来ないわ。」

 

 

「・・・っ。」

 

咲夜が分かっていたと言わんばかりの顔をするが、とても泣きそうな表情になる。

 

「それは、どうして?」

 

咲夜が勇気を持って聞いてくる。

 

「・・・ちょっとだけ、長くなるけど・・・聞いてくれる?」

 

私がそう聞くと、咲夜は泣きながらも頷いてくれた。

 

「私は、最初貴女の事は始末しようと思ってた。それは貴女もよくわかっているはずよ。」

 

「・・・ええ、あの時・・・あの時の私は教会の剣。お母さん・・・マリアは、お嬢様を護る盾としてお互いにその武器を構えた。でもあの時、」

 

「そう、あの時私は・・・同情心であなたを助けた。避けながら見せるあの悲しい表情が、何度も何度も私の良心に問いかけて・・・私は、殺すことをためらってしまった。だからこそ、あの時あなたを優しく抱きしめた。最初は、ただの私の自己満足だったわ。」

 

「違う!私は、私はあの時・・・マリアに救われた。拾われていなかったら・・・今頃っ」

 

「分ってるわ。だから落ち着いて。」

 

拾ったあの後、お母さんと呼ばれた時。

あの時私は雷に打たれたような衝撃を受けた。

嫌だったわけじゃない。むしろ、嬉しかったのだ。

同情心で拾っただけの子供が、私のことを母親と呼んだ。

それだけで、私の同情心は決意へと変わった。

 

「私はね、あなたの親として守ろうって、何がなんでも貴女を私の子供として幸せにしてみせるって。あの時、初めてお母さんって呼ばれた時に決意したの。」

 

それが私の奥底にある・・・何も無かった私にできた願いだった。そしてそれは今でも続いている。

咲夜の幸せが私の幸せ、咲夜が間違えた道を歩んでいるなら叱って止めて・・・咲夜が正しい道を選んでいるなら応援して・・・一緒のご飯を食べて、一緒に生活して・・・・・・いつかは、好きな人ができてその人と幸せな道を歩むならそれでもいいと思っている。

 

「だから、ごめんなさい。私は・・・咲夜の大切な人(家族)にはなれても、運命の人(恋人)にはなれないわ」

 

優しく抱きしめながら頭をなでてあげる。

やがて、咲夜は大きな声をあげて泣き始めた。

それが・・・うれしいから泣いているのか悲しいから泣いているのか・・・分からない。

けれど私は、優しく抱きしめ頭をなでてあげる。

 

「私・・・私っ、マリアの事が・・・好きなのにっ」

 

「ごめんなさい、ごめんね・・・咲夜」

 

「違う・・・違うの!謝るのは私の方で・・・」

 

「いいのよ、今だけは・・・いっぱい泣きなさい」

 

私はしばらく、泣き叫ぶ咲夜を抱きしめ・・・ただ優しく接するだけだった。

 

~~~~~~~~~~~~~

 

「・・・ごめんなさい、お母様。その・・・メイド服を濡らしちゃって。」

 

「良いのよ、替えは部屋に戻ったらあるし。」

 

泣き止んだ咲夜は、恥ずかしそうにちょこんと座っていた。

涙の跡がちょっとだけ目立つけれども、その表情はどこかスッキリしたものだった。

 

「・・・お母様、私。決めたわ。」

 

バッと咲夜が立ち上がり、しばらく坂を下ったと思うとこちらに振り返ってとびっきりの笑顔を見せてくれる。

 

 

「いつか、お母様以上に好きな人を見つけて、お母様を泣かせてやるんだから!」

 

 

決心したかのようなセリフ、そして晴れ晴れとした表情。

きっと咲夜も、心の中ではまだ不満や怒りがあるのだろう・・・だけれど、私には見せないように努力している。

なら私も・・・

 

「ええ、楽しみにしているわよ?それと、もしできたなら私の所に連れてきてね?顔ぐらいは見たいわ」

 

「ふふっ・・・絶対顔合わせじゃ済まさない気でしょ~」

 

「さて、どうかしらね。少なくとも、美鈴より弱い軟弱な人は嫌いよ。」

 

「比較対象が美鈴って時点で相当じゃない・・・あーあ、強くて私好みの人かぁ~・・・絶対見つけ出してやる」

 

ちょっとした心の寂しさは、今ここに置いておこう。

咲夜は十分に育ったんだ、この旅立ちは・・・この姿は私が止めていいものではないんだ。

だから咲夜の未来に、永遠の祝福あらんことを・・・

 

~~~~~~~~~~~~~~~

n年後

~~~~~~~~~~~~~~~

 

今日は、咲夜と一緒に廊下のお掃除。

最近咲夜の様子がおかしいと、部下の妖精メイドたちからよく聞くけど・・・

どこもおかしなところはない。妖精メイドたちの気のせいだろうか・・・

 

「あっ・・・あのねお母様。」

 

「ん?何かしら?咲夜?」

 

「落ち着いて聞いてほしいんだけど…ね。」

 

・・・ん?なんだこの雰囲気は。

 

「わ、私・・・好きな人ができて、それで・・・」

 

 

「・・・・・・・・・・・・ふぇ?」

 

ガッシャーン!!(見た限りすっごい高そうな壺)

ゴゴゴゴゴゴゴッ!!(マリアからあふれ出す赤黒い負のオーラ)

 

「・・・・・・・・・・・・好きな人?今間違いなくそう言ったわよね?」

 

「う、うんっ。その人ね・・・すっごくカッコ良くて、優しくて・・・それでね多分だけど美鈴より強いの!」

 

「・・・・・・・・・」

 

何たることだ、この幻想郷にそんな人物が?!

掃除なんてしてる場合じゃねぇッ!!

 

「ちょっと、マリア!?すっごい高そうな壺が割れたような音がしたけど大丈b」

 

「お嬢様!!お屋敷のメンバーを全員集めてください非常事態です!!」

 

「えっちょっどういうこと?!ちゃんとせつめ「咲夜に好きな人ができました!!」(カリスマスイッチオン)今すぐ全員を書斎に集めろ!!今すぐにだ!!」

 

「れ、レミリアお嬢様!?お母様!?」

 

 




はい、マリア×咲夜のIFストーリーでした。
これどっちかって言うと後日談なのでは?という意見は受け付けません。

ちなみにですがその後咲夜が連れてきた人がどうなったかというと・・・

ルーミア、大妖精、チルノを抜いた紅魔館組オールスター(ルナティック+フラン・レミリア&マリアのトリオ、能力最大発動状態)で弾幕ごっこしました。
ステージ構成はこんな感じ
一面道中:狼女隊副隊長 一面ボス:吸血鬼警備兵隊長
二面道中:精鋭狼女隊隊長 二面ボス:紅美鈴
三面道中:妖精メイド隊 三面ボス:アンナ・ゲールマン(能力不使用)
四面道中:小悪魔(ホブゴブリン連携) 四面ボス:パチュリー・ノーレッジ(ベシュヴェールング最大稼働)
五面道中:アンナ・ゲールマン(能力仕様) 五面ボス:十六夜 マリア(手加減)
六面道中:フランドール(レーヴァテイン不使用) 六面ボス:レミリア(グングニル不使用)
七面道中:フランドール&レミリア 七面ボス:フランドール(全力全開)&レミリア(グングニルと能力仕様)&マリア(能力最大稼働)
八面道中:なし 八面ボス:マリア(妖精王能力開放中)

となっております。
難易度はルナティック固定です()


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