モンスターハンターダブルクロス ~ 四天王と4人の狩人編 (にがいまっちゃ)
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プロローグ:幻惑の魔術師
最近モンスターハンターダブルクロスの村クエストをクリアしてきたので、その記念?てことで小説でも書いてみようかと思いました。
テスト投稿&試し書きって感じで書いてます。初投稿なので至らぬ点はご容赦下さい。
それでは、どうぞ。
木々が生い茂り、木漏れ日が地面を点々と照らす。
風が樹木の葉を優しく撫で、彼らはそれに応えるようにサラサラと音をたてる。
だが、それは嵐の前の静けさに過ぎなかった。
風向きが変わる。本能的に甲虫《オルタロス》たちが急いで巣穴へ戻っていく。空気がざわめく。
空の青さとは違う、深い藍色の翼が姿を現した。
幻惑の魔術師とも呼ばれる夜鳥《ホロロホルル》。フクロウのような見た目をした鳥竜種の仲間だ。
ホロロホルルは周りを見渡すと、湿り気のある大地を踏みしめて―――――――
シャキン。
金属器特有の快音が夜鳥の見回りに水を差す。魔術師の頭が金属音へ振り返ったそのとき…
「やあッ!」
夜空色の鱗が数枚、宙を舞う!
続けて爆発音が響き渡り、ホロロホルルの身を焦がす。
突然の攻撃に怯んだホロロホルルに、今度は先の尖った貫通弾が飛び込む!
しかし。
幻惑の魔術師は体を軽く震わせると、『
そして頭をもたげ、《咆哮》する!
『邪魔者』たちは本能的に耳を塞ぎ縮こまった。
顔を上げると、眼前まで魔術師の爪が近づいていた。
ゴシャッ。鈍い音が響く。
「ぐあぁぁ!」
『邪魔者』のひとりを吹き飛ばし、もうひとりも風圧によって仰向けに倒れる。
ホロロホルルは次に、離れていた残りのひとりに狙いを定める。
翼をはためかせた刹那、死角から藍色の塊が飛び込む!
懐に夜鳥の頭が食い込み、高く打ち上げられて地面へ叩きつけられた。
「ぐッ…」と、3人の呻き声。
だがまだ夜鳥の猛攻は止まらない。
自慢の大翼を目一杯広げ、内側から蒼色のレーザーを放つ。
全身を使い扇状にハンターたちをまとめて薙ぎ払う!
全員が再び吹き飛ばされ…はしなかった。
が。
「な…」「い、意識が…っ」
突然の眠気に襲われ、足取りが覚束なくなり、やがて3人共地に伏してしまった。
魔術師が迫りくる。意識を失い眠りに堕ちた『邪魔者』たちに迫りくる。
夜鳥の翼が振り上げられ、叩きつけられる―――――――
「何眠りこけているのですかニャっ!」
―――――――直前に、黒い小さな影があわや大翼に押しつぶされかけたハンターを蹴り飛ばす!
「いってぇ!」悲鳴を上げすっ飛んで行く人影。
翼がそのハンターと入れ替わる形となった小さな影に振り下ろされる!
影は持っていた武器を掲げ全身で翼を受け止めた。
そして、
「あなたたちも寝てちゃダメですニャ!」
と、残り2人も武器で乱暴にたたき起こす。
「ぐはぁ!」「ぐぬッ…!」それぞれ違う悲鳴を上げて目を覚ます。
「ありがとよ!」短く礼を言い、最初に起こされたひとりが武器を構え直す。
「みんな!いくぞ!」
その号令に皆個々に頷き、ホロロホルルへと向き直す―――――――
不定期投稿になるかと思いますので、次回がかなり遅くなるかもしれません。
マイペースですが、読んでやって下さい。改善点や感想なんか残していただいたら喜びで爆発します。
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第1話(前半):ルカとリディアと毒怪鳥
今回で4人のハンターのうち2人が登場します!
「ここが龍歴院前集会所かぁ…」
感嘆の声を漏らしているのは新人ハンター・《ルカ》である。
新人ハンターとはいえ、ハンターになって2ヶ月は経っている。
《龍歴院前集会所》は、龍歴院と呼ばれる龍の紋章が彫られた巨大な建物…の前にある広場、つまり前庭にあたる場所だ。毎日新たなクエストを求め、多くのハンターたちで賑わっている。
ベルナ村やココット村といった村でもクエストは受けられるのだが、集会所の一番の特徴といえばやはり「多人数向けのクエストを紹介している」ところだろう。
ルカはベルナ村で発生するクエストを着実にこなし、ベルナ村の村長から龍歴院前集会所を薦められたのだ。
そんな集会所を見渡すと、実に様々な防具をつけたハンターがいることがわかる。ベルナ村伝統の初心者向け装備《ベルダーシリーズ》をつけている者もいれば、蒼空の王者火竜《リオレウス》の素材を使った赤い《レウスシリーズ》を装備する実力派ハンターもいる。
ルカはというと、桃色の尖った甲殻に黄色いラインと緑の紐が特徴的な《クックシリーズ》を身に纏っている。
腰に装備しているのは鳥竜種《ドスランポス》の素材から作られる武器《ドスバイトダガー》。防具の桃色とは対照的な蒼い持ち手に、まるで血のような赤い刃が光っている片手剣である。
「早速、ハンター登録をしなきゃな。」
ルカは集会所の中心に座っているギルドマスターに声をかけた。
「あの、俺ハンター登録をしたいんだけど…」
するとギルドマスターは、
「あぁもうやっかましいねぇ。そんなに急かしてもこいつの解読が終わるわけでもないんだから…」
とこちらを見もせず手で追い払うような動作をする。
「あの!」
「だから何度言ったら…って、あら。」
何か勘違いをしていたようだ。
「すまないね、また古文書の解読を急かしに研究員の若造が来たと思ってしまったんだ。」
「いえ。それより、集会所でクエストを受けるための手続きをしに来たんだが…」
「あぁ、ハンター登録だね。」年期の入った手で、手続き用の書類を書いていく。
「あとは…お前さんのことを色々聞かせてくれるかい。」
「あ、ハイ!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「名前はルカ、歳は17、得意武器は片手剣…と。よし、これで登録は完了だ。そこの受付からクエストを受けられるよ。」
「ありがとうございます!」
「健闘を祈るよ、お若いの。」
ルカは《HR1》として龍歴院に登録された。HR1というのが少し気に入らなかったが、みんな最初は1から始まったんだ、と思うとすぐに忘れられる気がした。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「はい。こちら、龍歴院前集会所の《クエスト受付》です。あ、あなたはさっきハンター登録をしてた…ルカさん、ですね?」集会所の受付嬢が流暢に、丁寧に質問する。
「はい。」
「まだ登録したばかりで集会所に慣れていないと思うので、簡単にですが説明をさせて頂きますね。」
「お願いします」こちらもつられて敬語になってしまう。
「まず…あちらに見える掲示板は《クエストボード》になります。普通のクエスト…一般的なモンスターの狩猟クエストは私から紹介させて頂く形になるのですが、クエストボードではクエストとして登録ばかりの案件や他のハンターさんが既にクエストを受けていて、同行者を募集しているものが貼り出されています。
そして…あの女性の方が立っている建物は《ギルドストア》です。売っているアイテムは村の雑貨屋と概ね同じですが…集会所の中でも《回復薬》などの消耗品を買い足すことができます。
最後に、集会所入り口付近にある比較的小さな場所は《準備エリア》です。加工屋兼武器屋やアイテムボックス、装備ボックスなど狩りの準備を整えるところです。狩りの前は寄っていくといいですよ。
…とこんなものでしょうか。他にわからないことがあったらその時また聞いてくださいね。」
「ありがとうございます!」
「さて…」ほとんど間をとらずに話していたので少し疲れているのか軽く息が切れている。
そして、ルカの待ちに待ったフレーズが彼女の口から飛び出す。
「クエストを受注されますか?」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
そのあとルカは受付嬢の提示したクエスト一覧を確認したのだが…。
「《特産ゼンマイ》の納品…《特産キノコ》の納品…《深層シメジ》の納品…」
「ごめんなさい、受注されますか?と言ったのはいいんですけど…」
今募集されているのは採取クエストばかりだったのだ。
「あ、クエストボードを確認してみては如何でしょう?モンスターの狩猟もあるかもしれませんよ」
「そうしてみるよ」ルカはクエストボードへと向かった。たまたま装備をつけたハンターであろう少女と目が合った気がするが無視した。
クエストボードに辿りついたルカは、ひとつひとつクエスト内容を読んでみる。
「えーっと?《ランポス》10頭の討伐、《ケルビの角》の納品、《ジャギィノス》8頭の討伐…狩猟クエストはあるけれど小型モンスターか…」
肩を落としボードの端を見ると…
「あっ!」
『《ゲリョス》1頭の狩猟』を見つけた。しかも、まだ誰にも契約されていないようだ。
「よし、これを受けよう!」依頼書に手を伸ばした時、依頼書の感覚と同時に明らかに紙ではない異様な感覚を覚えた。
その感覚の正体とは…
―――「アタシもそれ受けるつもりだったんだけど」
さっき目が合った少女の手だった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「お前もこれ受ける予定だったのか…」
「初対面に対してお前って失礼だなアンタ」強気な少女はぶっきらぼうに返す。
「アタシは《リディア》。アンタは?」
「俺はルカ」
「ルカって言うのか。んで、その武器は片手剣だな?」
「おう。リディアは武器何なんだ?今は武器外してるみたいだけど」彼女の背中には武器がついていない。集会所では武器を外し、狩りに赴くときの飛行船に荷物と一緒に積んでいき現地で装備する…といったハンターもいる。
「アンタ今度は突然慣れ慣れしいな…まぁいいけど。アタシの得意武器は『ガンランス』だ」
「は?」
「聞こえなかったのか?『ガンランス』」
「ガ…『ガンランス』!!?」
ガンランスとは、『ランス』という武器から派生したものである。ただの槍とは違い長さは人の身長の何倍も高く、体を多い尽くすほどの巨大な盾を利き手に持って戦う。ガンランスはその槍部分に砲撃機構を備えた、という感じだ。
元々のランス自体がかなり重く、抜刀状態だと前転してモンスターの攻撃を避けることはもちろん、走ることすらままならなくなる。ガンランスはそれに砲撃機構が加わり、大剣にも劣らない超重量となっているのだ。
そんなガンランスを華奢でパッと見自分よりもずっと背の低い体格だけならまさしく少女といった感じのリディアが縦横無尽に操ることなど想像もできない。
いや、パッと見どころか誰がどう見てもルカよりも背が低い。ルカの身長は大体170後半くらいなのだが、ルカの肩あたりがリディアの目の高さなので140代くらいだろうか。
「なんだ?まさかまだアタシがガンランス使いだってこと信じてねーのか?」
「いやそういうことじゃないんだが…」
「いーや!その目はまだ疑ってる目だ!アタシに隠し事しようだってそうはいかねーぞ。
そうだ、アンタもゲリョス狩りに行くんだよな?」
「お、おう。そうだが…」
「証明も兼ねてアタシもゲリョス狩りついて行くからな!目かっぽじって見てろよ!」
「え?」
「アンタ老人レベルに耳遠いな…アタシもゲリョス狩りに参加するって言ってんだよ!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
結局、クエスト依頼書の参加メンバーにはルカの次にリディアの名前を書くことになった。
「アタシの華麗なガンランス捌きよ~く見とけよっ!」
「お、おう…」―――――――
集会所とリディアの下りが長くなったので前後半と分けています。
次回第1話後半、ゲリョス狩りです!お楽しみに!
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第1話(後半):ルカとリディアと毒怪鳥
いよいよ本格的な狩猟パートです!
【前半のあらすじ】
新人ハンターのルカは初めて《集会所》へと足を踏み入れた。
そこでルカは「リディア」というハンターと出会い、一緒に毒怪鳥《ゲリョス》の狩猟へ行くこととなったのだが…?
「あっそーだ!すっかり忘れるところだった!」何かを思い出すリディア。
「ん?何をだ?」
「メシだよメシ!」
「メシ?」
「あーもうじれったい!アイルービストロのことだよ!ついて来い!」
「ちょちょちょちょ!」ルカはリディアに手首を捕まれ連れて行かれる。いや、連れて行かれるというより引きずられていくの方がこの場合正しい。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ようっ!ニャンコック!」
「オウ、リディア様。…と、そのお連れ様は?」《ニャンコック》と呼ばれた、人の高さほどもある縦も横もアイルーとしては規格外なコックは、独特な話し方でリディアに問いかける。
「コイツはさっき知り合ったルカだ。今日もいつもの頼むぜ」
「承知致しました。ルカ様はどうなさいますか?」
「ちょっと待って、いつものとかどういうことだ…?」
「おっと、失礼しました。ここは《アイルービストロ》。言い換えればお食事場です。狩りに行く前にお食事をとって頂くと、体力アップや攻撃力アップ…等様々な良い効果を得ることができますよ。
それから、ミィはリディア様も仰った通りニャンコックと申します。以後、お見知りおきを」
「んで、俺も何か食べてみたいんだが…」
「こちらがメニューとなります」使い込まれ、所々にクリーム色のシミがついている皺だらけのメニューを受け取る。
「えーと…ん、ソースって何だ?」
「当店では料理をチーズにくぐらせて食べるスタイルが主流です。テーブルのあの美しきチーズフォンデュをご覧なさい!」
「な、なんじゃこりゃあぁっ!!?」漫画のような反応をするルカ。だが、驚くのも無理はない。
ルカが振り向くとそこにはまさしく『山』としか例えられないチーズフォンデュがあった。頂上からはチーズが休むことなく流れ出し、波を作っている。
何故今まで気づかなかったのか不思議なくらいの存在感と香りを放っている。
「アレに肉も魚も野菜も、なんでも串にさしてぶち込んでチーズまみれの状態で食うのがうまいんだ」リディアは自分でその光景を頭に描いているのか、空を見つめている。口元に至っては緩みっぱなしだ。
「というかまだ決まらないのかよ!アタシもう待てねーぞ?」
「じゃあ…《砂丘チャーハン》』これにしよう!」
「承知しました。では、ルカ様は《砂丘チャーハン》、リディア様は《リモセラミとお肉のキッシュ》で宜しいですか?」リディアの言っていたいつものとは《リモセラミとお肉のキッシュ》のことだったようだ。
「おう」「お願いしまーす」
「では席について少々お待ちください。すぐにお持ちします!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「こちらが《砂丘チャーハン》、そして《リモセラミとお肉のキッシュ》です。では、ごゆっくり」
「「いただきまーす!」」
「…って言ってもアンタは食い方わかんねーだろうから見とけよー…」リディアは慣れた手つきで料理を長さが片手剣ほどもある串に刺す。そして…
「よいしょーっ!」右手をぶん回し、握られた串がチーズへ飛び込む!とほぼ同時にクリーム色を撒き散らしながら出てきた料理はチーズ一色に染まっていた。リディアはそれに全力でかぶりつく!
「う、う…うんまああぁぁぁぁいっっ!!!!」集会所全体に声が響き渡った。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
そのあと、ルカも《砂丘チャーハン》をチーズへくぐらせ食べた。チャーハンを串に刺すというと変に聞こえるかもしれないが、握り飯の形で出てきたそれを刺す形で食べている。
「ぷはー」「食った食った」二人揃ってお腹を叩きアピール。
「さて…」リディアが口を開く。
「そろそろ出発するか!」
「おうよっ」
二人の狩りが始まる。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ここで、まだ触れられていなかったリディアの装備をご紹介しよう。
リディアの武器は彼女の言う通りガンランスの《ゴーレムガンランス》である。骨素材で作られたシンプルなデザインのもので、攻撃力が高い。
防具は盾蟹《ダイミョウザザミ》の赤く堅い甲殻を使用した
《ザザミシリーズ》。防御性能が高く、モンスターの攻撃をガードした時の衝撃を和らげる効果もある。
一式装備した見た目はチアリーダーっぽい。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
二人の乗った飛行船は、《古代林》のベースキャンプへと着陸した。
「おし、着いたな!」リディアが飛行船から飛び降りる。
「まずは《支給品ボックス》の確認をしよう」
「おう」
クエストには、狩りの手助けになるアイテムをポーチに入れて持ち込める。支給品とは、持ち込みアイテムとは別に龍歴院が支給してくれるものだ。
ギギィ…と音をたて、ルカがボックスを開く。
「中身は勿論平等に分けるんだぞ」
「わかってるよ。えーと、《地図》、《応急薬》が12個、《携帯食料》も12個、《携帯砥石》は4個、あとは…《解毒薬》が4個だな。はい、応急薬と携帯食料6個、砥石、解毒薬2個ずつだ。確認してくれ」小袋に入れてリディアに渡す。
「ありがとよ」
「さて…」ルカが古代林の地図を広げる。
「ゲリョスはどの辺で確認されたんだ?」
「クエストの依頼書によるとエリア4らしいんだが…」
「おっし、じゃとりあえずエリア4に行ってみるか」
「おう」
「おっと、こいつを飛行船に積んだまま忘れるとこだった」飛行船から『証拠』を持ってきて、背負った。
「それが例の…」
「おうよ。ゴーレムガンランスだ」見た目からして重そうだが特に苦に思っている様子ではない。
「本当にガンランス使いだったんだな」
「なんだよまだ信じてなかったのかよ」
短い会話を交わしつつベースキャンプから出る。
そして、突然景色が開ける。古代林エリア1に出たらしい。
エリア1は見上げるほど大きな滝が流れており、小さな池などの水場がある。その天然水を求め首鳴竜《リモセトス》を始めとした多くの草食竜が集まってくるのがこのエリアの特徴だ。
「やっぱリモセトスってでけぇよなぁ」リディアが呟く。
「本当だよな…」
リモセトスは分類上は草食モンスターだが、サイズは大型竜に勝るとも劣らない。しかしそんなリモセトスも肉食竜に狙われることがあるのが、弱肉強食の世界の真実である。
「おし早いとこエリア4に行こうぜ」
「そうだな」
こうして二人はリモセトスの群れをくぐり抜け、エリア2へ足を踏み入れた。
にゃあ。
エリア2には《アイルー》たちの集落があった。
「アイルーがいるじゃんか。かわい…じゃねー呑気な奴らだな」
にゃあ。アイルーが辺りを歩くたびに彼らの足元にある水溜まりから水滴が散る。
「今何か言いかけたか?」
「気にしたら負け」何気無い会話だが、こういうくだらないやり取りがこれから始まる命のぶつかり合いの前の気休めとなった。そして、ついに…
「この先がエリア4だな」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ついに来たな…」ルカの緊張が高まる
「おし…」
「「行くぞっ!」」
エリア4は、全体が薄暗くなるほど木が鬱蒼とおい繁っている。
深い緑の中、くすんだ青とも紫ともとれる大型の影。
毒怪鳥《ゲリョス》だ。どうやらまだ気づいていないらしい。
シャキン。二人が武器を構える。
その音で気づいたのかゲリョスは立派なトサカがついた頭をこちらへ向ける。
戦闘開始だ。
―――ギャオオォォォス!!
毒怪鳥は現れたハンター達へ向けて威嚇をするが、二人はまったく動じず
「「やあっ!」」
ルカはゲリョスの頭に一撃。リディアは脚に斬り上げを見舞う。
毒怪鳥はまず、ルカに狙いを定め噛みつき攻撃を繰り出すが上手く横っ飛びに転がり回避。
リディアは突き、突き、斬り上げというガンランスの基本コンボで着実にダメージを与えていく。
ゲリョスは次にリディアの方へ向きを変え、地面を蹴り猛然と突進!
それに対してリディアは大盾を振り上げガード。
しかもこのガードはただのガードではなかった。
《ジャストガード》である。
ベルナ地方を中心に最近発達してきた《狩猟スタイル》のひとつ、《ブシドースタイル》ハンターの得意技だ。
青い火花を散らす盾を引き寄せ、走り去ろうとしたゲリョスの脚へ斬り上げで反撃!
驚いたゲリョスはたまらず転倒してしまう。
「今だ!」ルカは転んだゲリョスの頭付近へ移動しラッシュ。
リディアはもがく毒怪鳥に向けてガンランスの引き金を引き《砲撃》!青いゴム質の皮が黒く焦げる。
ようやく起き上がったゲリョスは、
―――ギャオォ!
声を上げ小さく跳び跳ねる。
と同時に、目元が赤く染まり、目が血走る。《怒り状態》だ。
モンスターは命の危機を感じると怒り状態となり、本気で目の前の敵を蹴散らしにかかるという性質を持っている。
ゲリョスは後ろ向きに飛び上がり、距離をとる。
そして頭をもたげ、振り降ろす勢いで毒液を吐きかけてきた!
ルカには当たらなかったが、反応の遅かったリディアは…
「うわぁっ?!」頭から毒液を被ってしまう。
「大丈夫か!?」
「げほっげほっ!」咳き込んで出た息には微かに紫色が混じっている。
毒怪鳥はその隙を見逃さなかった。
―――ギャオオォォォ!!
「ぐあああぁぁぁッッ!!!」ゲリョス渾身の突撃をもろに受け、リディアの体が紙吹雪のように宙を舞う。
「リディアァァァっ!!」
リディアは時折唸り声を上げ、倒れたまま動かない。
「くそっ…とりあえずゲリョスを引き付けなきゃ…!」ルカはリディアの倒れている方向とは逆向きから斬りかかる。
が、毒怪鳥は止まらない。
今度はルカに滑空し襲いかかる!
「ぐわぁぁっ!!」ルカも吹き飛ばされる。
そしてゲリョスはそのまま蒼空高く飛び、他のエリアへと移動していった。
「ぐ、ぐぅ…っ」緊張の糸が解け、痛みがより鮮明に感じられる。
「そ、そうだ…リディアは…?」
「んな…アタシは大丈夫…」と小さな声で返事が返ってくる。
「くっ…やっぱり強いなゲリョスは…」
「んだな…正直ナメてたわ…」リディアは解毒薬を飲みながら返す。
「とりあえず落ち着いたか…?」
「まぁとりあえずはな…」
二人は野生に生きるモンスターの強さをその身で味わったのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~〜
「よし、ゲリョスを追いかけるか」
「その前に何か対策を練ったほうがいいんじゃねーの?」リディアが提案する。
「対策って言ってもなぁ…」
「そうだ!こういうプランはどうだ…?」―――
―――「なるほど!それで行ってみよう!」
二人はゲリョスの飛んでいったエリア2へ向かった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~〜
ハンター共を撒いたと思い込んだゲリョスだったが、不意に背後で砲撃の音がした。
振り返るとさっきのハンターのひとりが見えたので突進したのだが…
「かかったなぁ!!」
リディアのプランとはこのことだったのだ。
《落とし穴》である。
地面に設置し、超重量の物体が乗ると穴となり一定時間モンスターの動きを止める強力なアイテムだ。
「たまたまアイテムポーチに入っていたのを思い出したんだ!」
ここぞと言わんばかりにふたりとも夢中で攻撃を続ける。
そしてゲリョスが穴から脱出した時には、背中にヒビが入り翼膜が破けるほどの大ダメージを与えていたのだった。
しかしまだ作戦は終わってない。
今度はリディアが毒怪鳥の鼻先で何度も砲撃を続ける。ゲリョスは砲撃に気を取られ、何度も噛みつきを繰り返すが全て冷静にジャストガードと回避で切り抜ける。
ゲリョスは足元にルカがいることを忘れていた。
ルカは左手に力を溜め、全力で振り下ろした。
毒怪鳥の脚の筋が断ち斬られ、鮮血が吹き出す!
倒れ込んだゲリョスは起き上がろうと必死にもがく。
そこに砲撃とは違う姿勢のリディアがゲリョスの頭に銃口を向け…
「竜・撃・砲ーッッ!!!」耳を劈く爆音が古代林の大気を震わせる!!
煙が晴れた時には、毒怪鳥はぐったりとして動かなくなっていた。
「やった…のか…?」
「よ…よ…よっしゃああぁぁぁ!!!ついに…毒怪鳥を倒したんだな!!」
「剥ぎ取って討伐した証拠を手に入れなきゃ…」と、ルカが剥ぎ取りナイフを突き立てた瞬間…
―――ギャオオオオォォォォォォス!!!
「「うわああっ!!?」」突然、死んだはずのゲリョスが暴れだしたのだ。
当然反応できるわけも無く二人は吹き飛ばされる。
「あ…あれはまさか…」
「そうだ…ゲリョスの《死んだふり》…!」
毒怪鳥ゲリョスは瀕死の状態では死んだふりをして敵を欺く習性があるのだ。
ゲリョスは生きようとしている。
これが野生のモンスターの『本能』であり、人間にはない底知れない生命力。
翼が破れようが脚が動かなくなろうが命の灯火は最期まで消えることはない。
「でもゲリョスももう限界が近いはず…!」
「喰らえっ!」
「斬り下ろしっっ!!!」「溜め砲撃っっ!!!」
そんな強大なモンスターに立ち向かうのが《モンスターハンター》という職業である。
―――ギャオオオオォォォ…
ゲリョスは地に伏せ動かなくなった。その目は閉じられ、二度と開けられることはない。
「はぁっ…はぁっ…今度こそ…やったんだな!」
「よっしゃああぁぁぁっ!!!はぁっ…」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~〜
そのあと二人は、剥ぎ取った《ゴム質の皮》や《毒袋》といったゲリョスの素材と毒怪鳥を討伐した、という誇りを持って集会所に帰還した。
「はい、これでクエストクリアです。お疲れ様でした!こちら、報酬金と報酬素材になります」小袋に入った報酬金と素材を受け取り…
「「ありがとうございます!!」」と同時に叫んで喜びを表した。
こうして波乱続きのゲリョス狩猟は幕を閉じたのであった。
後半勢いで押し進めた感のある後半パート、いかがでしたでしょうか。
これを書いてたらゲリョスがどんどん強い生き物に見えてきますw
今回、XやXXのメイン要素の狩技やブシドー以外のスタイルは登場しませんでしたがこれからどんどん出てきますよ!
それではまた次回をお楽しみに!
【今回の登場人物紹介】
・ルカ
ハンター歴2ヶ月の新人。協調性が高く、リディアともすぐに打ち解けることができた。
ドスバイトタガーは彼が初めて自力で手に入れた片手剣で、肌身離さず愛用している。スタイルはストライカー。
・リディア
気が強いが体は小さいガンランス使い。ぶっきらぼう。
体格のせいで他のハンターからバカにされがちだが、そこは気の強さと怪力で切り抜ける。
咄嗟に判断するのが得意で、ピンチの時も前向きに作戦を練ったりできる。
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第2話:新たな仲間、リディアの過去
次話も遅れそうです。本当にすみません…
「へへーん!これを見ろ、ルカ!」集会所に快活な声が響く。
「おおっ!これは…!」
リディアが自慢げに見せてきたものは…
「この前討伐したゲリョスの素材で作った…こいつだっ!」
ガンランス《ハードヒッター》である。
毒怪鳥の素材が使われているこの武器は、骨製の刃を直接突き刺すゴーレムガンランスと比べると攻撃力はどうしても劣ってしまう。
だがその代わりとして、筒形の銃口にゲリョスの毒袋から抽出された猛毒の小さな棘が剣山のように沢山、円形に仕込まれている。モンスターを攻撃すると同時に棘が飛び出し、物理的ダメージと共に毒を体に染み込ませる仕組みだ。
「早くこいつを使いたくてウズウズしてんだよな」
「それじゃ、クエストカウンター見てみようぜ」
「おう!」
二人はカウンターへ足を進める。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「…?」
「どうされました?御主人様」
「いや…。あの少女、何処かで見たことがあると思ってな…」
「あの盾蟹の防具の子ですかニャ?」
「うむ…」その大男は静かに頷く。
「…ちょうど二人だけのようですし、あの子たちの狩りに参加してみてはいかがですかニャ。何か思い出せるかもしれませんニャ」
「…」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「こちら、クエストカウンターです」受付嬢の決まり文句。
「新しいクエストは増えてるか?」
「はい、今度は前と違って狩猟クエストも仕入れてきましたよ!」
「おおっ!」二人の目が輝く。
「それが…」依頼書が大量に貼り付けてある分厚い本を捲り…
「こちらです!」その中の一枚を剥がす。
「ん…?これは…」
「《テツカブラ》…?」
クエスト依頼書に書かれていたのは怪力の鬼蛙《テツカブラ》。
手足の形や体つきはその名の通りカエルなのだが、一番の特徴は発達した巨大な顎と一対の極大牙である。
テツカブラは、この顎と牙で地面から大岩を掘り出して攻撃する、という恐るべき力を持つ両生種のモンスターだ。
「なんか…ゲリョスよりも苦戦しそうだよな…?」珍しく弱気なリディア。
「だよな…。そうだ、クエストって4人まで参加できたよな?」
「はい」受付嬢が答える。
「よし、それじゃまだ出発はせずにしばらく仲間を募集することにするよ」
「では、その依頼書はクエストボードに置いて下さい。参加したい人が見つかるはずです」
「よいしょ…っと」クエストボードの高く目立つ場所に依頼書をかける。
「おし、んじゃちょっと待ってみるか…」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「…誰も来ねぇな」
「…だな」
依頼書をボードに置いてから30分、参加しそうなハンターはひとりも来ない。
だが、それもそのはず。集会所にはルカたちと同じHRの者ばかりいるわけではないからだ。
それに、クエストボードには他にもテツカブラよりもランクの低い「跳狗竜《ドスマッカォ》の狩猟」や、高難度の「火竜《リオレウス》と雌火竜《リオレイア》の同時狩猟」といったたくさんのクエストが用意されている。
「まぁそもそもテツカブラ自体ハンターからの需要がないしなぁ…」ため息混じりに話すリディア。
「うーん、どうする…?」ルカが腕を組んで悩んでいると…
「少しよろしいですかニャ」
「!?」足元から声がして驚くルカ。
下を向くと、可愛らしい赤毛のアイルーと目があった。
そのアイルーは一歩後ろへ下がり丁寧にお辞儀をしてから、
「驚かせてしまったようですニャ。私はソフィと申しますニャ」
「んで、アタシたちに何か用なのか?見たところ《オトモアイルー》みたいだが…」
「ソフィはオトモアイルーではなく一人前の《ニャンター》ですのニャ!」
「ニャンター?」ルカが口を開く。
「ソフィは人と同じように登録をしたれっきとしたハンターですニャ。他のハンター様たちには《ニャンター》と呼ばれていますのニャ」
「アイルーの世界も進んでるなぁ」感嘆の声を漏らすルカ。
「話が脱線しちまってるぞ…。何か用があって来たんじゃないのか?」
「あっ…し、失礼致しましたニャ!えーっと、ソフィたちもテツカブラの狩猟に参加したいと思って参りましたニャ」
「あれ?『たち』ってことはもうひとりいるのか?」
「このレイアシリーズの方ですニャ」
「えっ!?この人がもうひとりのハンターだったのか…あんまり喋らねぇから…」
「…ボリーだ。よろしく頼む」若葉色の鱗に身を包むその大男が口を開ける。
「よ…よろしく」ボリーと目があったルカはまるで絞蛇竜に睨まれた釣りカエルのように固まってしまう。それほどまでに威圧感のある男なのだ。
「オイ…なんか怖ぇぞボリー…」リディアがソフィに耳打ちする。
「…昔からこういうお人柄なのですニャ。良く言えば寡黙、悪く言えば人付き合いの苦手な方」
「…結構ズバズバ言うのな」思わず苦笑い。
「こう見えて付き合いは長いのですニャ」
「と、とりあえず二人の名前を依頼書に書かないか…?」ルカの提案。
「…ということはソフィたちも参加してよろしいのですかニャ?」
「もちろんさ、むしろ大歓迎だよ」
「おし、これが依頼書だ」リディアがボードにとめていたピンを外し、依頼書を渡す。
「…」無言でペンをとったボリーは、受け取ったそれに堅苦しい字で名前を書き込む。
その下にソフィもサイン。綴られた字はボリーとは対象的なまるっこいものである。
「書けましたニャ」
「つっても今日はもう出発できねぇな」空は既に橙色から星空へ変わろうとしている。
「それじゃ、明日の朝に出発するんだな」
「おう」「了解ですニャ」「…うむ」
「それじゃ、今日は解散!」
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そのあと、4人はそれぞれの場所で食事を終え宿屋に泊まったのであった。
場所は変わって、リディアの部屋。
「ふぁ〜ぁ…そろそろ寝るとするかぁ」
コンコン。扉からの音だ。
「ん?誰だ?」
「ソフィですニャ。お邪魔してもよろしいですかニャ?」
「ソフィか。どーぞ」
「失礼しますニャ…」古傷だらけの扉が軋み、動く。
「何かあったのか?」
「御主人様…ボリー様がずっとボウガンの調整をしていて眠れないのですニャ。こちらで寝てもいいですかニャ…?」
「ん、別にいいぞ。アタシは困らねぇよ」
「ありがとうございますニャ」一人用のベッドにソフィとリディア、ふたりが寝転ぶがふたりとも小柄なので難なく収まった。
しばらくして、ソフィの寝息が聞こえてきた。が…
リディアはまだ眠れていなかった。
(クソっ…隣にこんな可愛いのが寝てて眠れるかっつーの…)
そんな時、ひとつの考えが思い浮かんだ。
(…今なら肉球ぐらい触ってもバレねぇよな…?)
実のところ彼女は極度のアイルー好きである。ニャンコックには反応しなかったようだが。
(…)
自然にリディアの手が伸びて…
ぷにっ。
(本物の肉球なんて初めて触ったがこんな感じだったのか…たまらん)
柔らかさに感動していると…
「ニャ…?」
(ヤベっ!)咄嗟に後ろを向いて寝たフリをするがもう遅い。
「リディア様…ソフィの掌を触りましたね?隠してもムダですニャ」
「う、うぐ…」
「あ、そんな身構えなくたって怒っているわけではないのですニャ。ちょっとビックリしただけですニャ」
「そうなのか…?」
「リディア様がお望みならもっと触ってもいいんですニャ」
「な…!?」
触りたい気持ちと申し訳無さの真っ向勝負は…
「そ、それじゃお言葉に甘えて…」
触りたい気持ちの大勝であった。
ぷにぷにぷにぷに…
(あ…できることならこのまま死にたいレベル…)
夢中で自分の手を握るリディアに、苦笑いが隠せないソフィ。
そして我に返ったリディアは、
「な、なんかすまねぇな…」嬉しさと欲望を曝け出してしまった恥ずかしさで複雑な気持ちになる。
「いえいえ…」
「アタシもなんかお礼しないとな。…そうだ、アタシの昔の話でも聞いて貰おうかな」
「リディア様の過去ですニャ?」
「そうだ。アタシがハンターになったきっかけを…」
ソフィが姿勢を正す。
ひとつ咳払いをすると、話し始めた。
「こほん。…よくこの喋り方はぶっきらぼうだとか女らしくないとかって言われるんだが、アタシも子供の頃はごくごくフツーの女の子だったんだ」
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9年前。リディアがまだ9才の幼子だったときの話である。
彼女はハンターの村、ココット村の出身だ。父はハンターをやっており、いつも家にいなかったので彼女を育て上げたのは主に母だった。
今とは違いリディアの髪は長く、綺麗に切り揃えられていた。
その日も父は狩りに出掛け、リディアは母と家にいた。
照りつける日差しの下、今日も変わらない平和な日だと村の皆が思っていた。
しかし、村と平和な日は一瞬で破壊されてしまったのだ。
空から舞い降りた、『雷の反逆者』によって。
「逃げろォォッ!!!」
村の男衆の声で異変に気づいた母は、リディアの腕を掴んで家から飛び出した。
村は既に半壊だった。近所の家も木屑と化しており、雑貨屋があったところには焦げた果実らしきものが幾つも転がっていた。
その奥に、動く何かがいる。蝶の羽に似ている翼膜は眩しく輝いて美しい。
その『反逆者』はこちらを向いた。
全体を紫がかった黒い鱗と甲殻で覆い、所々に黄緑色のアクセントを持つ『反逆者』は、口周りだけが紅く染まっていた。
『反逆者』がこちらへ迫る。
「あなただけでも逃げなさい、リディア!」
「でも、おかあさん!!」
目と鼻の先に『反逆者』が、死が迫る。
「リディア!!」
母はリディアを抱きかかえると、死とは逆方向へ投げ飛ばした。
「おかあさん!?」
地面に叩きつけられたが、『反逆者』から距離をとることができた。
しかし。
逃げ遅れた母は、『反逆者』の翼爪によって吹き飛ばされ、家屋の壁に激突し…とどめだと言わんばかりに追撃の雷ブレスが放たれ、その壁もろとも爆発。
「おかあさぁぁぁん!!!!」
煙が晴れた頃には、壁と母は跡もなくなっていた。
「お…おかあさん…」
『反逆者』はリディアへ目を向ける。目線がぶつかる。
「あぁっ…あぁぁっ…」恐怖と絶望で言葉も出ない。体から血が、温もりがなくなっていくような錯覚に陥る。必死に立ち上がろうとするが足に力が入らない。
おかあさん、わたしもいくから…
諦めて目を瞑ったその時だった。
空中から数発の弾丸が放たれ、『反逆者』の左眼に命中。
目を抉り飛ばされ、流石の『反逆者』も悲鳴をあげた。そして、そのまま飛び去っていった。
弾丸を放った主が、構えていたボウガンをしまい近づいてくる。
「…大丈夫だったか」
「うぐ…あ…う…」まだ気持ちがまとまっていないのか、まともな言葉が出てこない。
「…」男は気持ちを察したのか、黙って手を差し出す。
リディアは差し出された手を握り、なんとか立ち上がった。男の手は暖かかった。
涙が溢れる。9つの少女にとって、目の前で肉親を亡くすことはあまりにも重すぎた。少し突付けば崩れてしまいそうだ。
リディアが泣いている間、男は手を握ったまま黙っていた。
その後彼女はその長い真珠色の髪をばっさり切り落とし、『反逆者』への復讐を誓った。
それからは毎日がむしゃらに金を貯めた。ココット村を離れ他の村でも仕事をし、道中で野宿もした。
6年の月日が経ち、ハンターの養成所に入ったリディアはぶっちぎりの高成績で卒業したのだった。
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「んで、今に至るってわけよ」
「こんなに重たい話だなんて想像してませんでした…。なんだか申し訳ないようなことを聞いてしまった気がしますのニャ」
「いやいや全然いいんだ。今まで誰にも話したことなくてさ、ずっとひとりで抱えてたんだ。聞いてくれてありがとよ」
「それならよかったですニャ」
「さてと、そろそろ寝るか。電気消すぞ」
「おやすみなさいなのニャ」
消灯してすぐにリディアが寝息をたてる。
ソフィは寝返りを打つフリをしてリディアに背中を向けると、何か考え事を始めた。
(あの話…前に御主人様から聞いた話と共通点が多すぎるのニャ…。9年前ココット村を襲った雷属性のモンスターはおそらく最近発見された電竜《ライゼクス》…。そして御主人様が助けた少女の話、集会所でのリディア様を知っているかのような発言。無関係なわけがないのニャ…
これから少しずつ探っていく必要があるのニャ)
考えている間に、ソフィも夢の中へ落ちてしまった。
テツカブラの狩猟は次回です。
リディアばっかり掘り下げてるので他のキャラも設定を練っていきたいところ。
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