第二次スーパーロボッコ大戦 XD編(if) (ダークボーイ)
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第二次スーパーロボッコ大戦 XD編(if) EP01

 

 会場を熱気が包んでいた。

 人気ボーカルユニット・ツヴァイウィングの響き渡る歌声に、会場にいる誰もが熱狂する。

 だがその中で、ただ一人だけその光景を冷静に見ている者がいた。

 

「………そろそろだな」

 

 観客席の最奥、誰も気付かない場所でその人物はかぶっていたパーカーのフードを外す。

 もし熱狂している観客の誰かが気まぐれで振り向いたなら、驚愕しただろう。

 今まさにステージの上で歌っている人物と全く同じ顔をした人物がいる事に………

 

 

「どうした!」

「上昇するエネルギー内圧にセーフティーが持ちこたえられません!」

「このままでは聖遺物が起動、いえ暴走します!」

 

 

 突如として、ライブ会場の中央で爆発が起きる。

 悲鳴が響き渡り、ツヴァイウィングの二人も思わず歌を止めるが、直後に妙な事に気付く。

 爆発其の物が、なにか透明なシールドのような物で防がれている事に。

 

「何、あれ………」

「実験の失敗? けど………」

 

 だが、そのシールドの中で大型の異形、ノイズが出現した事で今度こそ本物の悲鳴が上がる。

 

「ノイズが、来る!」

 

 我に帰ったツヴァイウイングの一人、天羽 奏がその透明なシールドからノイズが飛び出してきた事に身構えるが、そこへ巨大な一閃がノイズの先陣を一撃で消失させる。

 

「え?」

「奏、あれ!」

 

 完全に予想外の事に奏が思わず声を漏らす中、ツヴァイウイングのもう一人、風鳴 翼がその攻撃の大本を指差し、絶句する。

 それを見た奏はその相手と自分の隣を数度視線を往復させる。

 ステージ衣装の翼とシンフォギアをまとった、二人の翼に。

 

「つ、翼が二人いる!?」

「そうだ、私は風鳴 翼。ただし、三年後のな」

「三年後の、私?」

「話は後だ、早くシンフォギアを纏え! そして奮起しろ! さもなくば、天羽 奏は今日、ここで死ぬ」

「死ぬ、私が!?」

「そうだ。私は、いや私達はその過去を変えるために来た」

 

 凛とした声で宣言しつつ、未来の翼は手にしたスイッチ、作戦開始を告げる次元信号発振器を起動させ、直後に彼女の背後に虚空に浮かぶ渦のような物が出現し、そこから次々と人影が飛び出す。

 

「501統合戦闘航空団、ノイズに攻撃を開始!」

「502統合戦闘航空団、上空防御! 避難者に近寄らせるな!」

「グラディウス学園ユニット、上空のノイズを殲滅!」

 

 飛び出してきたウィッチとGの天使達が一斉にノイズへと攻撃を開始、湧き出すノイズがその攻撃を食らい、次々と消滅していく。

 

「効いてる!? シンフォギアじゃないみたいだけど………」

「話は後! 私らも!」

 

 状況が全く飲み込めない翼に、奏は促して聖詠を開始、ツヴァイウイングの二人がシンフォギアをまとうと、その隣に未来の翼も降り立つ。

 

「おい翼!」

「何?」「何だ?」

「え~と未来の翼!」

 

 声をかけたら二人の翼に同時に反応され、少し言い直した奏はその手にガングニールのアームドギアを構えながら、戦闘を続けるウィッチや天使達を指差す。

 

「あいつらは何だ! なんでノイズと戦える!?」

「説明は後、とにかく仲間だ。もっと来るぞ」

「もっと?」

 

 ノイズと戦いながらも、奏と翼は不穏な言葉に首を傾げるが、虚空の渦からさらなる増援が出現する。

 

「マイルズ隊、避難民の脱出路を確保!」

「帝国華撃団は北ゲート、巴里華撃団は南ゲートを確保! 一体もノイズを近寄らせるな!」

 

 飛び出してきた陸戦ウィッチと霊子甲冑が、ノイズと戦いながら脱出路を確保していく。

 

「何か変なロボット出てきたぞ!」

「華撃団の霊子甲冑だ、頼りになる」

「私は未来で一体何を………」

「だりゃああ!」

 

 困惑が更に深まる奏と翼だったが、そこで気合と共にノイズを殴り飛ばしながらこちらに向かってくる人影に気付く。

 

「翼さん! そちらの状況は!?」

「第一段階は成功だ。初動は抑えられた」

「そいつ、装者か」

 

 その人物がまとっているのがシンフォギアだと気付いた奏だったが、それが自分の物と酷似しているのにも気付いた。

 

「あ、奏さんですか!? 初めまして! 今のガングニール装者で立花 響です!」

「言ってみればお前の後継者だ」

「こいつが?」

「奏の?」

「とりあえず後です! 今は一人でも犠牲者を出さないようにしないと!」

「つってもこの状況……」

 

 奏はノイズだけでなく、会場のパニックを懸念するが、そこで観客の間に妙な事が起きているのを見た。

 

「わああ!」

「押すな! 落ちる!」

「スロ~ム~ブ~」

 

 上層の観客席からパニックになった者達が落下するが、そこで突然動きがスローモーになり、床へと軟着陸する。

 

「え?」

「大丈夫!? 落ち着いて向こうへ! 詩織ちゃん、次はあっちへ! ユーリィ!」

「分かりました~」

「行くですぅ!」

 

 下に待ち構えていたプロテクターをまとった者達の姿に観客は呆然とするが、指示を出している少女に促され、避難を再開する。

 

「いやあ! 死にたくない!」

 

 ノイズにまとわりつかれそうになり、絶叫を上げる女性の首根っこが無造作に捕まれ、そのままスッポ抜かれる。

 

「は?」

 

 のみならず、その女性を救った相手、ドレス姿で三白眼の女性は無造作にノイズを素手で殴り飛ばす。

 

「急げ」

「は、はい!」

 

 女性は訳が分からないまま逃げ出すが、よく見れば同じようにノイズ相手に身を挺して、というより何故かノイズに触れられても平然としている者達が逃げる観客達を守っていた。

 

「おい、なんかノイズに触られてるのに平気な連中がいるぞ!」

「特にあっちのドレスの人と、そっちのスナ○フキンみたいな人がすごい………」

「あちらはメンタルモデル、そっちは機械人、あちらは確かユグドラシル…」

「簡単に言えば皆さんアンドロイドです! ノイズに触った程度じゃへっちゃらな人達を集めました!」

「殴り飛ばしてるのは論外ね」

「そこにも!」

 

 戦いながらも奏と翼に説明する未来の翼と響だったが、響の肩にいる武装神姫・紗羅檀の姿に更に困惑が深まっただけだった。

 

「待て、ここはいいとして原因は恐らく地下の実験だ!」

「知っている。未来から来たと言っただろう奏」

「そっちにもすでに仲間の人達が行ってます!」

「こちらより厄介になりそうだがな………」

 

 未来の翼の呟きの意味をこちらの奏と翼が今は知る事が無かった。

 

 

「うん?」

「風鳴司令、出来れば早く起きてもらえませんか」

 

 爆発が生じ、とっさに身構えた特異災害機動部二課司令、風鳴 弦十郎は目を開ける。

 そしてそこで、爆発で発生した崩壊が自分達の目の前で止まっている、正確には何かで阻まれている事に気付く。

 

「これは………」

「よろしくて? 私のテレキネシスもそろそろ限界…」

「ほとんど防いだのは私なんだけど」

 

 自分の目の前にシンフォギアと違うバトルスーツをまとった少女と、白衣にモノクルをかけた女性がいる事に弦十郎は眉をひそめる。

 

「どうやら、助けてもらったようだが、君達は何者だ?」

「ちょっとお待ちを」

 

 バトルスーツをまとった少女が突き出していた手を下ろすと、爆発で生じたガレキが落下していく。

 

「これでよし、申し遅れました。私、香坂財閥令嬢、香坂 エリカと申します」

「私はヒュウガ、霧の大戦艦のメンタルモデルよ」

「香坂?」

 

 聞き覚えある財閥、だが彼の記憶に該当する人物はいない事に若干不信感を覚えるが、それよりもまずする事が有った。

 

「被害状況を報告! 上はどうなっている!」

「ご心配なく、上は翼さんとこちらの仲間達が防いでますわ。ここも私の率いるエリカ7が各所で被害を防いでます」

「ま、問題はあるけどね」

 

 そう言いながら、ヒュウガは目の前で爆発の原因となった聖遺物を見る。

 

「さて、それでは失礼」

 

 ヒュウガは白衣の下から、奇妙なバズーカのような物を取り出して、今なお鼓動を続ける聖遺物・ネフシュタンへと向けて構える。

 

「それは…」

「こちらの技術班が開発した対聖遺物封印装置ですわ。正式名称は『バラす君三号』」

「封印って言うか破壊ですけれど」

「待て、聖遺物をそう簡単に…」

 

 弦十郎の制止も聞かず、ヒュウガはバラす君三号を発射、ネフシュタンへと直撃したかと思うと、凄まじい不協和音が周辺に響き渡る。

 

「何をしている!?」

「霊子コンデンサーによる振動弾頭増幅、うるさいのが難点ですけれど」

「仕方ないわよ、ここまで出力上げるの苦労したんだから」

 

 両手で耳を塞いでいるエリカに、ヒュウガはちゃっかりフィールドで防ぎつつ様子を見守り、やがてネフシュタンに大きな亀裂が生じ、そして崩壊が始まっていく。

 

「おい、何て事を!」

「生憎ですけれど、これは貴方の指示ですの」

「今ここで壊してしまった方が、後の問題は生じない、ってね」

「オレの? どういう事だ」

「私達の組織名はNORN、複数世界に渡って攻撃を繰り返すJAMに対抗するため、幾つもの組織が統合して作られた組織ですの」

「その中に貴方方も入ってますわよ、もっともここから三年後の話ですけれど」

「三年後、だと………」

「ほらアレが証拠ですわよ」

 

 弦十郎が疑惑を深める中、かろうじて生きていたモニターが上の様子を映し出し、状況が理解出来ないスタッフ達が絶句する。

 

「し、司令! 翼さんが!」

「二人いる!? しかも天羽々斬とガングニールの反応が二つずつ有ります!」

「何だと!? 間違いないのか!?」

「間違いが有ったら困りますね」

「そう、私達は今日ここで死ぬはずだった天羽 奏を救いに来たんだから」

 

 



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第二次スーパーロボッコ大戦 XD編(if) EP02

 

作戦発動より少し前 学園 大会議室

 

 NORN参加組織の各司令達が一同に会し、真剣な表情で映し出されるあるデータを見つめていた。

 

「以上の通り、深井 零少尉の証言とメイヴ内にアーカイヴされていたデータと総合し、惑星フェアリィの空間座標特定には成功しました。しかし………」

 

 説明半ばで、エルナーは言葉を濁す。

 

「惑星フェアリィの周辺時空に複層の次元断層が展開されており、これの突破はかなり困難である事が推測されます」

「一層一層見ても、かなり強固です。これを順次突破にしても、強行突破にしてもかなりの戦力を使用せざるを得ません」

 

 エミリーの続けての説明に、各指揮官達は互いに相談を始める。

 

「例えばだが、強行突破となるとどれくらいの戦力が必要になるのだろうか?」

 

 大神の質問に、エミリーがいくつかのシュミレーションを表示する。

 

「最低でも重力子兵器か侵食兵器、最大で次元振動兵器の使用が想定されます。これらを順次使用すれば周辺時空に著しい影響が推測され、次元通路の湾曲、最悪はワームホールの複数発生の可能性が有ります。目的地である惑星フェアリィへの全戦力の投入は極めて困難になるでしょう」

「意味がよく分からんが、まずいという事は何となく分かった」

「敵陣に突入しようってのに、突入路がまともに出来なかったら話にならないね」

 

 ガランドが少し首を傾げ、グランマが嘆息する。

 

「次に順次突破ですが、これは極めて時間を要しますし、最悪突破した次元断層がJAMによって修復される可能性も有り、その際は戦力が分断される事となります。これも難しいでしょう」

「戦力の分断は論外だ。これだけの戦力を集めても、充分という保証は無い」

「こちらのように、運用が限定される戦力も有る。やはりどうにか全戦力を順次投入出来る方法を模索しなくては………」

 

 門脇の断言に、冬后提督も艦娘達を例に出して肯定する。

 

「だとしたら、やはりあの手段しか有りませんね………」

「その事なのだが…」

 

 エルナーの指摘に、その手段を持つ弦十郎が渋い顔をする。

 

「こちらでも色々試算と実験を繰り返してみた。次元を渡る力を持つ聖遺物『ギャラルホルン』の力を持ってしても、これだけの次元断層を突破するのは困難と言わざるをえない」

「華撃団やウィッチ、その他似たような力を持ってそうな子達を集めてやってみたけど、やっぱそこまでのパワーが出せないみたいでね」

 

 弦十郎の説明に、実験に協力していたサニーサイドが補足する。

 

「やはり根幹となる、シンフォギア装者の力が足りない。そもそもギャラルホルンの制御方もようやく確立出来たのだからな」

「ユナがふざけて吹いたら起動するとは思いませんでしたが」

「妙な所で規格外だよね、彼女」

 

 弦十郎が唸る中、一切の干渉を受け入れない完全聖遺物のはずがいとも簡単に動かせた事にエルナーとサニーサイドが苦笑する。

 

「シンフォギアはかなり特殊な適性を必要とするからの。早々簡単に人数も増やせまい」

「まさかクローン作るわけにもいけませんしね」

 

 相変わらずのぬいぐるみ姿の健次郎が問題点を指摘し、香坂 エリカも危険な提案を自ら否定する。

 

『確認したい事がある』

 

 通信参加の未来のアイーシャがある可能性を考え、発言する。

 

『つまり、シンフォギアの装者を増やせれば次元断層の突破は可能なのか?』

「こちらの試算上は、最低でもあと二人以上。無論、当人の希望で調整中の小日向君を除いてだ」

『だったら、連れてくればいい』

「装者のパラレル存在をかね? パラレル存在に必要以上の干渉は危険だと聞いているが。それに、ギャラルホルンにどんな影響が…」

『だから、今存在しない装者を連れてくればいい』

「は?」

 

 アイーシャの提案に、弦十郎のみならず他の司令達も唖然とするが、数名がすぐにその意図に気付く。

 

「そうか、武装神姫の逆ですね?」

『そう、私達は過去の可能性を変えるために未来から武装神姫を送り込んだ。逆に、未来に過去の装者を連れてくる』

「それは、死亡した装者を連れてくるという事か!? 可能なのか!?」

 

 驚くべき提案に、弦十郎が思わず声を荒げる。

 

『可能。ただし、過去其の物を変えるわけじゃない。過去は変えた時点で、別の可能性が生まれるだけ』

「つまり、彼女が……あの時に死んだはずの天羽 奏が生きているパラレルワールドが生まれる、と」

『変えるなら、半端でなく変えた方がいい。近いとむしろ干渉を起こす可能性が有る』

「だとしたら、彼女が死ぬ直前に助けるという事になるが………」

『それがいい。確か、もう一人いたはず』

「セレナ・カデンツァヴナ・イブの事か………」

 

 アイーシャの指摘に、弦十郎はしばし考え込む。

 

「………他に可能性は?」

「色々討議、シミュレーションした結果が今の状況です。時間軸への干渉は本来避けるべき案件ですが、かつての武装神姫の時と同様、必要では無いかと私は思います」

 

 弦十郎が俯きながら問うのに、エルナーはアイーシャの提案に賛同の意思を示す。

 

「他に方法が無いのなら、仕方ないのではないか? まあ色々揉めそうだが………」

「過去から死ぬはずの仲間を助けて引っ張ってくるか、なんでもありだな」

「あら、仲間の人達は喜ぶんじゃないかしら?」

 

 ナツキがまず賛同し、千冬とどりあも呆れながらも賛同する。

 

「使えるカードは使うべきでしょう。例えそれがどんな物でも。JAMにこれ以上の干渉を阻止するためにも」

 

 JAMの事を最も知るクーリィが賛同した事で、他の司令達も顔を見合わせ、頷く。

 

「それでは風鳴司令」

「………いいだろう。天羽 奏とセレナ・カデンツァヴナ・イブを過去から救出し、ギャラルホルンの発動に参加させよう」

 

 弦十郎の賛同を持って、かつての武装神姫計画を上回る計画が発動する事となった。

 作戦名『オペレーション・エインヘリャル』、死せし英雄を意味する作戦は、NORN発足以来、有数の規模を持つ作戦として準備が進められた。

 

 

 

オペレーション・エインヘリャル発動中 コンサート会場

 

『観客の退避はあと少しで完了!』

『地下の聖遺物は処理を確認!』

『ノイズ増援を確認……撃破確認!』

 

 各所から送られてくる報告に、奏と翼は戦いながらも、どこか唖然としていた。

 

「どいつもこいつもやるな………」

「うん………」

「我々同様、それぞれの世界を守る精鋭達だ。どいつも実力は折り紙付きだ」

「それぞれの、世界?」

 

 未来の翼からの言葉に、奏は首をかしげる。

 

「詳しい話は後で! かなり複雑なんで!」

「マスターが理解してないだけでしょ?」

「う…」

 

 拳を振るいながらの響の言葉に、紗羅檀が冷静に突っ込んで響が言葉に詰まる。

 

「とにかく、今はこのノイズを殲滅するのが先だ! 恐らくもう直、地下からもっと厄介なのが出てくる!」

「どういう意味だ!?」

「この件の黒幕だ。今ここで言っても信じないだろうが………」

「黒幕? このノイズ発生は誰かが起こしたっていうの?」

「だから後で! 私達だって最初信じられなかったし!」

 

 困惑が更に深まる奏と翼だったが、取り敢えずノイズとの戦いに集中する。

 

「未来の翼、一つだけ教えろ。お前、三年後に一体何やってんだ?」

 

 槍でノイズを薙ぎ払いながら、種々の疑問を集約した疑問を奏が問うてくる。

 

「色々有って一言では難しい。だが端的に言えば」

「言えば、何だ?」

「三年後の私達は宇宙人と戦っている」

『はあ!?』

 

 未来の翼の発した答えに、奏と翼は同時に最大級の疑問符を発する。

 

「何でシンフォギア装者が宇宙人と戦う事になるんだ!?」

「そ、それ本当に?」

「本当です! 私もそのせいで、色々大変な目に会いました!」

「どういう意味!?」

「だから後だ! いいか、これから何を見ても驚くな!」

 

 未来の翼が断言しようとした時、突然真上から中型ノイズが振ってくる。

 挙げ句、巨大な結晶のような物で構成された剣が中型ノイズに突き刺さるが、ダメージを与えられずすり抜ける。

 

「ふむ、やはり演算時間のラグで位相空間に潜られるな」

「霧のコンゴウさん! もう少し周り注意して戦ってください!」

「すまない。やはりまだノイズとの戦闘には改良がいるな」

 

 響がもがく中型ノイズに止めを指しながら、ノイズをこちらに投げてきた相手に注意する。

 

「今、あのドレスの人ノイズを一本背負いしてたような………」

「あたしは空中からいきなり剣を出したの見えたぞ………」

「だから何を見ても驚くなと言っている。アレでもまだ序の口だぞ」

 

 頬が引きつっている翼と奏に、未来の翼が助言するが、そこであちこちから警告音が響く。

 

「今度は何だ!?」

「空爆警報! みんな伏せて!」

 

 奏の怒声に紗羅檀がかぶせるように警告し、上空を小型で高速の影が横切り、何かを投下していく。

 投下されたそれはノイズが固まっている所に落ちたかと思うと、突如として漆黒の渦のような物を発生させ、それに巻き込まれたノイズを飲み込み、穿っていき、そして消失する。

 

「何アレ………」

「侵食兵器の使用は許可されてないはずだぞ!」

「あ~、またメイヴね。いつのまに来たのかしら」

「お父さん目覚めて、更にひどくなってない?」

「どういう連中連れてきた! 本当に三年の間に何が有った!」

「だから後で…」

『こちらポリリーナ! 対象が逃走したわ! 作戦をCプランに!』

 

 何かと危険な話をしている未来の翼と響に奏は思わず怒鳴るが、そこで緊急を知らせる通信が飛び込んでくる。

 

「まずい、地下にも精鋭を送ったはずだが…」

「来るよ!」

「何が!?」

 

 未来の翼と響が警戒し、翼が困惑する中、コンサート会場の地面が一部崩落し、そこから誰かが飛び出していく。

 

「逃げるぞ!」

「下手に追うな! とんでもない危険人物だ!」

「だがあの子達に任せて大丈夫か?」

 

 周囲の者達がその飛び出してきた人物、長髪の女性らしき相手を異様に警戒している事に奏と翼も警戒するが、直後に崩落した地面からとてつもなく巨大なノイズが出現する。

 

「で、でけえ!」

「こんなのは初めて………」

「気をつけて! 前もすごい苦戦したから!」

「ここから第2フェイズだ、行くぞ!」

 

 四人の装者を中心とし、皆が一斉に巨大ノイズへと立ち向かっていた………

 



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第二次スーパーロボッコ大戦 XD編(if) EP03

 

「何がどうなってるの………」

 

 特異災害対策機動部二課の研究者、櫻井 了子は困惑していた。

 

「ま、間に合った………」

「全く無茶ばかり言うわね、そちらのお嬢様は」

 

 実験の失敗による爆発事故、それにより多数の被害者が出てもおかしくない状況が、寸前で制止していた。

 目の前に突如として出現した氷壁によって。

 

「エリカさま、こちらミドリ。下部実験ラボの被害は食い止められました」

「こちら楯無。軽症者が数名出てるようだけど、重傷者死者は無し。ここまでは予定通り」

 

 目の前にいる二人、バトルスーツのような者をまとった二人がこの氷壁を作り出してラボにいた者達を守ったらしい事を悟った了子は、内心焦りながら本心をひた隠す。

 

「ここをお願い、私は風鳴司令の所に…」

「おっと、どこ行こうってんだ? 了子先生?」

 

 適当な理由をつけてその場から離れようとした了子だったが、ラボのドアに立つ赤いシンフォギアをまとった装者が行く手を塞ぐ。

 

「あなた………雪音 クリス!? なぜここに!」

「確かにあたしは雪音 クリスだ。ただし、三年後のな」

「三年後? 一体何を…」

「だから全部知ってんだよ。これからあんたが何をしでかそうとしてるかもな」

 

 自分の知るクリスとは明らかに雰囲気が違う三年後のクリスに、了子の焦りは更に大きくなっていく。

 

 

「だから、先手を打たせてもらおうって事になってんだ」

「先手?」

「バッキンビュー!」

 

 クリスの言葉が終わった直後、突如としてどこから伸びてきた光のムチのような物が了子の体を絡め取る。

 

「何だ!?」

「いきなり現れたぞ!」

 

 何が何やら分からない他の研究員達が叫ぶ通り、了子の左右に突如として現れた人影の片方がムチで了子の体を絡め取り、もう片方がゴツいリニアガンを了子へと向ける。

 のみならず前方からクリスが、後方から楯無がそれぞれ得物を了子へと向ける。

 

「まて、これはどういう事だ!」

 

 そこへ上から降りてきたらしい弦十郎が捕らえられている了子の姿を見て驚く。

 

「どうもこうもねえよ、おっさん。この実験の失敗と暴走、やらかしたのはこの先生って事だ」

「君は、まさか雪音 クリスか!」

「ああ、三年後のな」

 

 かつて捜索したが見つけれなかったはずの少女が自分の目の前、しかもエリカと同じく三年後という言葉に、さすがの弦十郎も判断に迷う。

 

「とりあえず、今証拠見せっから」

「証拠?」

「こういう事」

 

 クリスは無造作に、手にしたボウガンの形をしたイチイバルのアームドギアを了子へと向けて放つ。

 

「なっ…」

 

 あまりの無造作な所業に弦十郎の反応も間に合わないが、生身の人間なぞいともたやすく粉砕するアームドギアの攻撃は、突如として了子の前に生じた障壁に阻まれる。

 

「ま、こういう事だろ、了子先生? いや、フィーネ!!」

「くっ…!」

 

 今まで隠してきた力を使ってまで身を守らねばならなかった状況に、了子、正確にはその体を器とした超先史文明期の巫女・フィーネが歯噛みすると、その姿が金色の瞳とクリーム色の長髪を持つフィーネと変貌する。

 

「了子君!」

「そんな奴はもういねえよ、とっくの昔にあいつに乗っ取られてたのさ」

「なんだと!?」

 

 クリスの語る真実に、さすがの弦十郎も驚愕するが、今目の前に起きている事がそれを何よりも証明していた。

 

「フィーネ、あなたを拘束します」

「おとなしくしててくれれば、手荒な事はしないわ」

 

 リニアガンを構えたミサキと、バッキンビューで拘束しているポリリーナが、油断なくフィーネへと警告する。

 全てが暴露されようとしている事を悟ったフィーネが憤怒の形相を浮かべ、周りの研究員達はあまりの変貌ぶりに思わず後ずさる。

 

「なめるな、小娘達が!!」

 

 憤怒と共にフィーネは力を開放、力任せに拘束をぶち破り、爆発事故で生じた穴から一気に外へと飛び出していく。

 

「ちっ、逃げやがった!」

「こちらポリリーナ! 対象が逃走したわ! 作戦をCプランに!」

「エリカ、こちらの処理をお願い! 対象の追跡を…」

『こちら大神! 大型ノイズ出現を確認! 作戦をC‘に変更する!』

「逃げただけじゃなく置き土産か! あたしも上に行く!」

「私達はエリカとこちらの処理をするわ」

「………残ったシステムを確認! 上の戦闘を少しでもサポートする!」

 

 手際よく動く少女達に、弦十郎は少し思案して指示を出す。

 

「一度に色々起きすぎて困惑しているが、君達は信じてもよさそうだ」

「まず優先されるのは人命。本当ならば今日ここで未曾有のノイズ災害で多数の死者が出るはずだったのですし」

「本当の目的は天羽 奏の救助なのですが、ついでに全員救ってしまおうという事になってます」

「ついでって………」

 

 ポリリーナとミサキの説明に、爆発事故から残ったシステムの復旧を行っていた研究員が思わず呟く。

 

「奏の救出? 一体君達の目的は何だ?」

「詳しい説明は今は省きますが、私達はある理由で装者を集めています」

「上の状況を見れば分かると思いますが、シンフォギア装者のみならず、数多の世界から多くの戦士達が集結しているのです。JAMと呼ばれる敵と戦うために」

「JAM?」

「すいませんが、上の加勢に行くので詳しい話は後で。クリス」

「じゃ、そういう事で」

 

 ポリリーナの説明を途中で切り上げ、ミサキがクリスの肩に手を置き、クリスが手を振って合図した所で、三人の姿がその場から消える。

 

「消えた!?」

「いや、上に現れた! これは…」

「テレポーテーションか。確かに装者とはまた違う力のようだ………」

 

 目の前から消えた三人が、上の様子を映しているディスプレイに突然現れた事に弦十郎ですら驚く。

 

「上の事は任せて、こちらの処理もしないと」

「この氷壁もいつまで持つか分かりません、工作班を」

「負傷者の確認と整備班の召集を!」

 

 残った楯無とミドリがヒビが入り始めた氷壁を慌てて補修しているのを見た弦十郎は、とにかく今出来る事を指示していった。

 

 

「攻撃開始!」

「ファイアー!」

 

 空陸双方のウィッチ達の一斉砲火が巨大ノイズに炸裂する。

 

「一定の距離を保って! 攻撃力も防御力も段違いだそうよ!」

「この場から動かすな! どう動いても大被害だ!」

 

 ミーナとラルの指示が飛び交う中、空戦ウィッチ達の攻撃が巨大ノイズをその場に釘付けにせんと叩き込まれる。

 

「話には聞いてたけど………」

「これほどとはな。観客の避難は完了しているか!」

 

 周辺で巨大ノイズを取り囲んだ状態で安全確保していたマイルズと大神が、どこに倒れてもまずい巨大ノイズに徹底的に警戒していた。

 

「地下はどうなっている?」

「一応爆発の影響は抑えられたわ」

 

 大神の問に、いきなり背後に現れたポリリーナが答える。

 

「悪ぃ、フィーネに逃げられた!」

「逃走は可能性に入っていたからな。まずは人命優先で作戦は立てていただろう」

「今Gの天使達も追跡に入ったし、対策もしてある」

「ちょっと不安だけれど」

 

 一緒にその場に現れたクリスが謝る中、大神機の頭上にいたプロキシマと圭子の肩にいたサイフォスが用意していた複数のプランを確認し、クリスを連れてテレポートしてきたミサキがフィーネが逃走した方向を見て呟くが、すぐに全員が巨大ノイズへと向き直る。

 

『周辺の一般市民退避を確認。安全圏を確保』

『作戦を第3フェイズへと移行してください』

 

 上空に居る二対の翼を持ち、同型二体で一つのユニットとして機能している探索・指揮型戦闘妖精・バンシーからの報告に、陸戦ウィッチと華撃団が一斉に構える。

 

「総員魔導徹甲弾装填!」

「作戦・火! 攻撃開始!」

 

 一気にケリをつけるべく、巨大ノイズに全火力が集中される。

 

「それじゃあ奏さん! 皆さんと一気にいきましょう!」

「おうよ!」

 

 その中心に、二人のガングニール装者がいた。

 

 

「一体どうなってる………三年後だと?」

 

 常人にありえない身体能力でビルの屋上を跳びながら全力で逃走するフィーネが、全く理解出来ない状況に混乱する。

 

「待て~!」

「フィーネ! あなたの罪状は判明しています! 大人しく捕縛されなさい!」

 

 後ろから小型の戦闘機のような機体、それがライディングバイパーと呼ばれる事すら知らないフィーネが、追手の存在に歯噛みしながら、懐からある物を取り出す。

 

「まだ完全起動はしてないけれど!」

 

 その取り出した物、完全聖遺物の一つ、ソロモンの杖が光り、追ってくるGの天使達の前に空戦型ノイズが出現する。

 

「ノイズが!」

「応戦するわよ!」

 

 突然出現したノイズにフィーネを追跡していた亜乃亜とエリューは慌ててそちらの対処に入る。

 

「今の内に!」

「ネイキッド・ラング!」

 

 そこに飛来した赤いブーメランが、フィーネの手からソロモンの杖を弾く、というよりも吹き飛ばす。

 

「な…」

「来たよ!」

「え~と、クリーム色の長髪に金色の瞳の女の人…」

「聞いてた通り!」

「絶対油断しないように、だっけ」

 

 フィーネの進路を塞ぐように、赤・青・緑・黄の装束を身にまとった四人の少女達が待ち構えていた。

 

「次から次と!」

「ここは通しません!」

 

 強行突破しようとするフィーネに、赤のパレットスーツをまとった一色 あかねを先頭に、パレットチームが立ちはだかった………

 

 



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第二次スーパーロボッコ大戦 XD編(if) EP04

 

「フィーネは今パレットチームとGで交戦中ね。まああれだけの出力なら逃がす事は無いでしょう」

「周り巻き込まないといいんだけど………」

 

 紗羅檀からの報告に、響は出力過多なパレットチームの戦闘に一抹の不安を覚える。

 

「周辺の避難は完了している! 人的被害が無ければ、多少の物的被害は致し方ない!」

 

 未来の翼が断言するが、そこで遠くから轟音のような音と共に、見えていたビル影が一つゆっくりと消えていく。

 

「………多少?」

「どんなのが来てるの………」

 

 奏と翼がそこはかとなく不安を覚えるが、すぐに意識を目の前の巨大ノイズに向ける。

 

「あと一息だ!」

 

総攻撃を食らい、大きく揺らぎ始めた巨大ノイズを見た大神が全員に号令をかける。

 

「一気に行きます!」

「どいてろ、巻き込まれるぞ!」

 

 そこで一気にケリをつけるべく、響と奏が聖詠を高らかに歌い上げる。

 それに応じて、響のガントレット部分が長大化していき、奏のアームドギアが旋回を始める。

 

「はああぁぁ!!」

「LAST∞METEOR!」

 

 響の突き出した拳が強烈な衝撃波を放ち、奏が振り下ろしたアームドギアが竜巻を発生させ、双方の攻撃が巨大ノイズに炸裂。

 二人の装者の渾身の攻撃が決め手となり、巨大ノイズがとうとう体を大きく鳴動させながら崩壊していく。

 

「よおし!」

「なんとか片付いたな」

「こんだけ人手ありゃな」

 

 巨大ノイズを撃破した事で、未来の装者達が胸を撫で下ろす。

 

「一体何がどうなってるの?」

「それを今から聞くんだろ。まずなんで宇宙人と戦ってるかだ」

 

 この時代の装者が一息付きながら、取り敢えず何から聞くべきかを思案していた時だった。

 

「待テ! また来るゾ! しかも半端じゃなイ数が!」

 

 上空のウィッチが叫ぶと、二人の装者を除いて全員が一斉に再度臨戦体勢に入る。

 

「あいつ、何言ってんだ?」

「501のエイラさんは予知能力が有るんです!」

「そんな人まで来てるの!?」

「いいから構えろ先輩!」

「雪音、そっちは過去の私だ」

 

 装者達が円陣を組むように構えると、突如としてあちこちから一斉に大量のノイズが湧き出し始める。

 

「何だこの数!?」

「ソロモンの杖か! 気をつけろって言っといたのに!」

「後だ、行くぞ!」

「空戦部隊から市街地にも出没してるって連絡来てるわ! 自動的に作戦はFプランに移行!」

 

 応戦する装者達に紗羅檀が更に最悪の情報を送ってくる。

 

「Fプランって?」

「現状投入されている戦力による分散撃破だ。できれば避けたかったが………」

「向こうにさっきのデカいのが複数いるぞ!」

 

 翼が未来の翼に作戦内容を確認する中、奏が先程倒した巨大ノイズと同型の姿を会場の向こうに確認する。

 

「まずい、さすがにそれは想定外だ!」

「小型はウィッチ隊で対処します! 大型の方を!」

「パンツァー隊と艦娘隊も今向かってる! 10時方向の大型に帝国華撃団、2時方向には巴里華撃団が当たる!」

「私達は一番遠い奴だ、行くぞ!」

 

マイルズと大神が手早く役割分担し、未来の翼が装者達を先導して向かう。

 

「…立派になったな」

「何か言った?」

「いや」

 

 その後姿を見た奏が思わず呟いたのを翼が聞き返すが、言葉を濁して後に続いた。

 

 

 

「ネイキッド・インパクト!」

「くっ!」

 

 振り下ろされたハンマーをフィーネは障壁で阻もうとするが、そのままの体勢で後方へと文字通り吹っ飛ぶ。

 

「な、なんだこの出力は!? シンフォギア以上か!?」

 

 障壁を張ったまま、背後にあったビルを1フロア貫通した事にフィーネは驚愕する。

 

「い、今の大丈夫かな!?」

「絶対手加減するなって言われてたでしょ?」

「月引っ張って落とそうととしたってホントかな………」

「月はともかく、今の一撃で壊れてないみたい」

 

 本来人間相手に使う事なぞ微塵も想定されてないパレットスーツで戦う事に、パレットチームは若干ためらいも有ったが、前もってのアドバイスと、渡り合ってくるフィーネの戦闘力に考えを改める。

 

「何仕込んできてるか分からないって話だったよね!?」

「こちらも追撃するわ!」

 

 そこに亜乃亜とエリューも対地攻撃でフィーネを狙うが、フィーネは障壁を貼りながらもそれをかわしていく。

 

「これだけ攻撃して、まだ平然と動けるなんて………」

「やっぱり只者じゃない」

 

 わかばとひまわりが機敏に建物の影を利用して攻撃を避けるフィーネに、警戒を更に高める。

 

「どっち行った!?」

「あっち!」

「追いましょう!」

「うん」

 

 逃すまいと低空飛行して追うパレットチームに、フィーネは更に速度を上げる。

 

「待て~!」

「アレ本当に人間!?」

 

 驚異的な身体能力にパレットチームは必死になって追うが、フィーネが懐から何かを投じてくる。

 

「あれ、どこに向かって…」

「違う、ホーミング!」

 

 フィーネが投じた大型の手裏剣のような物が、グングン加速しながらこちらに向かってくるのに気付いたひまわりがとっさにバリアでそれを防ぐ。

 

「何出してくるか分からないとも言われてた! 気をつけて!」

「これ以上逃さない!」

 

 あおいが注意を促す中、わかばが一気に加速してネイキッド・ブレードを振りかざす。

 

「小娘共!」

 

 フィーネが悪態を付きながら、奇妙に捻じくれた短剣を取り出してあおいの一撃を受け止めるが、出力が違いすぎて吹っ飛ばされる。

 

「今度こそ!」

「逃さないよ!」

 

 油断なくネイキッド・ブレードを正眼に構えるわかばのそばで、他のパレットチームも得物を構える。

 だが、吹き飛ばされたフィーネが動かない事に段々違和感を覚える。

 

「………あれ?」

「その、生きてる?」

「え、まさか………」

「いや、生きてる。多分何か…」

「フ、フフフ、フハハハ!」

 

 吹き飛ばされ、建物に叩きつけられた状態でフィーネが突然笑い始めた事に、パレットチームは思わず身構える。

 

「本当に小娘ね。戦いって物を丸で理解していない」

「それって、どういう…」

 

 フィーネの心底馬鹿にした口調に、あかねが聞き返そうとするが、フィーネが持ち上げた物に気付いて絶句する。

 

「私がこれを探してた事に気付きもしないなんて」

「あれって、ソロモンの杖!?」

「! 退避!」

 

 フィーネが巧みに逃走しながら、弾き飛ばされたソロモンの杖を探していた事にようやく気付いたパレットチームだったが、至近でソロモンの杖を出したら絶対近寄るなと言われていた事をわかばがいの一番に思い出し、パレットチームは一斉に急上昇する。

 

「形勢逆転ね、小娘達が!!」

 

 フィーネはまず使わないだろうと思っていたソロモンの杖の禁断コマンド、一斉召喚を入力。

 それに応じて周辺におびただしい数のノイズが出現し始める。

 

「この数、相手出来るかしら?」

 

ほくそ笑むフィーネだったが、そこでRVからの対地攻撃がノイズの先陣を砕く。

 

「なんて事をしてるの!」

「こっちの風鳴司令に緊急連絡! 念の為避難地域を拡大! 上空からノイズの発生状態のアナライズを!」

 

 亜乃亜がノイズに攻撃しつつ怒鳴る中、エリューが報告を入れながら同様にノイズを攻撃する。

 

「さあどうする? こちらにかまけてる暇はあるかしら?」

「だったら、仲間を増やせばいいのよ!」

「仲間?」

 

 フィーネが訝しんだ所で、彼女の背後を旋風が突き抜ける。

 

「ドリル・インパクト!」

 

 思わず振り向いたフィーネの視界に、右手にドリルを装備した小柄な少女が、そのドリルでノイズを一気に貫いていく光景が飛び込んでくる。

 

「な…」

「どりす、あまり出過ぎるな! 孤立するぞ!」

「パンツァー隊、攻撃開始!」

 

 そのドリルの少女を戦闘に、手にシザーやライトと行った風変わりなツールを装備したパンツァー達が、一斉にノイズへと攻撃を開始する。

 

「そう来る可能性も考慮済みよ。だから、こちらもありったけの手勢を用意してたわ」

 

 エリューがそう告げる中、間近の川を遡ってくる者達の姿が見えてくる。

 

「各艦、ノイズに照準! 撃て!!」

 

 水上を滑る、種々の砲撃ユニットを装備した者達が、先頭を行く大型砲を装備した長身の女性の号令と共に、一斉に砲撃。

 新たに現れた者達がノイズを次々と撃破していく様にフィーネは唖然とする。

 

「どこでこれだけの戦力を………」

「正直、あなたにかまけてる余裕も無いから、一気に片付けさせてもらうから!」

「ノイズはこちらで引き受けるわ!」

「りょ~かい!」

 

 ノイズを他の者達が相手する中、パレットチームが再びフィーネに向かっていく。

 

「くっ!」

 

 再度ソロモンの杖を向けて起動させようとしたフィーネだったが、突然杖が何かに奪われる。

 

「これは使わせないのだ!」

「卑怯かもしれないが、頂いていく!」

 

 隙を伺っていたマオチャオとランサメントの二体の武装神姫が、フィーネからソロモンの杖を奪うとそれを持って素早く逃走していく。

 

「小娘どころかあんなおもちゃまで!」

「思いっきりいくよ!!」

 

 次々起こる予想外の出来事に罵倒するフィーネに向かって、あかねはネイキッド・ラングを振りかざした………

 



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第二次スーパーロボッコ大戦 XD編(if) EP05

 

「ノイズ出現、更に拡大!」

「今までに無い規模です! このままだと避難区域をオーバーします!」

「避難区域を更に拡大! 全域に避難要請!」

 

 またあちこちに爆発事故の余波が残る地下施設で、風鳴司令が上げられる報告に指示を返す。

 

「被害状況は!」

「各所でNORN、でしたか? そのメンバーと思われる方々が交戦、なんとか防衛線を引いてます!」

「ノイズと戦える人達がこんなにいるなんて………」

「そうとも言い切れないがな」

 

 オペレーター達がシンフォギア装者でしか対処出来ないと思っていたノイズと戦っている者達を見て呆然としていたが、風鳴司令は幾つかの問題点を見抜いていた。

 

「商業区域で戦ってる者達は武装が単一で、集団で防戦に徹してる。おそらく孤立すると危険と認識してるのだろう。そっちの河川で応戦してる者達は、どうやら水上でしか戦えないようだ」

「なんで触っても平気な人達もいるのが………あれ?」

 

 改めてデータを見直したオペレーターが、人間に有るまじき体温の者達も多数混じっている事にようやく気付く。

 

「ひょっとしてこの人達、ロボット?」

「ロボットにノイズの相手って出来るのか?」

「実際、戦えてはいる。ノイズが実体化する瞬間を狙っているのか………」

「理論上は可能ですが、出来るという人は見た事が………」

「そりゃあ、生身で読み間違えたら即死だからな。オレでも出来る自信は無い」

「櫻井…じゃなくてフィーネ、NORNのメンバーと戦闘中! マーチングバンドみたいな子達が、勢い余ってビルを倒壊させてます………」

「こっちはこっちですごいな」

「本当にアレが櫻井先生なんですか? まるで別人ですが………」

「だから別人らしいんですのよ。又聞きですので詳細は知りませんけれど」

 

 困惑しているオペレーター達に、エリカがどう説明すべきか迷う。

 

「データによれば、櫻井 了子はフィーネによって完全に人格が書き換えられていたそうですわよ。そして世界各所で暗躍してたそうですわ」

 

 エリカの肩に現れたHMT型武装神姫・イーダが提供されていたデータを確認する。

 

「うわ!? ロボット!?」

「なんか可愛い………」

「武装神姫というサポートロボットですわ。とにかく、人的被害はなんとか抑えなければ」

「それは分かっている。ここまでノイズが大量発生して、被害者が出ていないのは奇蹟的としか言いようがないが」

「徹底的にシミュレートしましたので。もっともここまでの大量発生はこちらの処理範囲ギリギリかと」

「ノイズがこの地下施設にも侵入してます! NORNの方々が対処してますが………」

「ここの守りはエリカ7にお任せください。今は一刻も早くノイズの被害を抑えませんと」

「だがあまりに範囲が広すぎるし、動きもバラバラだ。各個対処しかないが………」

「問題はあの大型、三体もまとめて出てくるのはさすがに想定外でした………」

「今巴里華撃団と帝国華撃団がそれぞれ交戦中、シンフォギア装者も今交戦に入りましたわ」

「ウィッチはそれぞれ小型相手に交戦中、天使チームはパレットチームと共にフィーネから手を離せませんし、ユナ達はパンツァーチームと合流、手が全く開いてませんね………」

「ノイズ相手にこれ以上増援呼ぶなら、戦闘妖精隊に侵食兵器爆装させるか、蒼き鋼の艦隊に侵食兵器の絨毯攻撃させる事になりますわよ?」

「詳細は聞かない方がよさそうだな」

 

 戦況を確認するエリカとイーダに、風鳴司令は少し眉間にシワを寄せる。

 

「風鳴司令! 装者達の交戦エリアに民間人の反応が有ります!」

「なんだと!」

 

 

 

「だりゃああぁ!」

「おらあぁ!」

 

 先陣を切って、二人のガングニール装者が大型ノイズへと攻撃を叩き込む。

 

「硬い…!」

「デカいだけでなく頑丈か! 翼、援護を!」

「おお!」「ええ!」

「………どっちに?」

 

 手こずりそうな大型ノイズに、奏が援護を求めた所で二人の翼が同時に答え、クリスが思わず突っ込む。

 

「どっちでも構わん! 行くぞ雪音!」

「雪音さん、ですね。後方支援を!」

「………ややこしい」

 

 明らかに雰囲気が違う二人の翼に、クリスは更に困惑するが、まずは目の前の大型ノイズに集中しようとした時だった。

 

『奏さん、翼さん! 近隣に生体反応あり! 逃げ遅れた民間人がいる模様!』

「なんだって!?」

「いけない!」

 

 突然の通信に、奏と翼は慌てて周囲を探る。

 

「私が保護します! 紗羅檀!」

「あちらに! 生体反応3!」

 

 響が紗羅檀のセンサーを頼りに逃げ遅れた相手を探すが、同時に大型ノイズもそれに気付く。

 

「やばい!」

 

 逃げ遅れた相手がいる方向に、ノイズがビームを放とうとしているのに気付いた奏がとっさに正面へと飛び出し、離れたビームをアームドギアで防ごうとするが、予想以上の威力に完全に防げず、散開させてしまう。

 散開したビームの一部が、その先にいる人影へと向かっていくのを見た響は半ば強引に飛び込み、そのビームを拳で叩き落とす。

 

「ま、間に合った………大丈夫?」

「は、はい………え?」

「あ」

 

 なんとか守り抜いた相手に声をかけながら振り向いた響は、そこにいる自分に気付く。

 子犬を抱いた少女をかばっていた自分が、唖然として響を見ていたが、徐々にその顔が驚愕に変わっていく。

 

「わ、私!?」

「え? え? お姉ちゃんが二人?」

 

 かばわれていた少女も、全く同じ顔が2つある事に当惑する。

 

「チ、チガイマスヨ? 私ハ立花 響ジャアリマセンヨ?」

「やっぱり私だ~!」

「バレバレよマスター」

 

 とっさに首元のスカーフを引き上げ、声色でごまかそうとする響だったが、過去の自分はごまかせなかった。

 

「お姉ちゃん、ヒーローだったの?」

「何で? 何で私がヒーローでノイズと戦ってるの!?」

「え~と、話すと色々長くなって」

「後よマスター、こっちは私がどうにかするから」

「お願い紗羅檀!」

 

 取り敢えず紗羅檀が響の肩から降りて過去の響の方に行くのに任せ、響は大型ノイズへと向かっていく。

 

「妖精!? いやロボット!?」

「はいはい、とにかく案内するから逃げましょう」

「すご~い、アニメみたい!」

 

 紗羅檀に促され、過去の響は少女と子犬と共にその場から逃げ出す。

 

「後で記憶処置しといた方いいわね………」

 

 

「おい、聞こえてたぞ! 今のお前か!」

「そうでした………」

「会場から逃げたはずが、こんな所にいるとはな」

「あ、女の子と子犬かばってました」

「助かった! あやうくあの子、というかあんた巻き込む所だった!」

「これくらい………アレ?」

 

 クリスと翼にあれこれ言われる中、そこでようやく響はある事に気付く。

 

「今のを防いだって事は、ここの私は装者にならない?」

「何だ気付いてなかったのか? 奏を助けるって事はそうだろう」

「どういう意味だ?」

「後だ! 今はこいつを!」

 

 首を傾げる響に未来の翼が注釈するが、奏も首を傾げ、答えるよりも大型ノイズの撃滅を優先させる。

 

「先輩、長引かせたら厄介だ! イグナイトモードで一気に!」

「そうだな、奏! 切り札を使う! 少しの間頼む! 立花、雪音!」

「切り札?」

 

 クリスの提案に、未来の翼は一時戦いを預け、胸元のイグナイトモジュールを手に取る。

 

「行くぞ!」「イグナイトモジュール」「抜剣!」

『ダインスレイフ』

 

 未来の装者達が宣言すると、イグナイトモジュールが剣を思わせる形状に変化して胸元へと突き刺さり、装者達の苦悶と共にまとっていたシンフォギアが漆黒の文様へと変化していく。

 

「な…」「それは………」

「これが私達の切り札だ! 行くぞ!」

 

 初めて見るシンフォギアの変貌に、奏も過去の翼も絶句する中、イグナイトモードを発動させた装者達が大型ノイズへと向かっていく。

 

「こっちも負けてられないぞ翼!」

「うん!」

 

 先程とは比べ物にならない出力の攻撃を繰り出す未来の装者達を見た奏が、翼を促しながら自分達も大型ノイズへと向かっていく。

 

(あのイグナイトとかいうの、かなり無茶してるな………長くは使えないかもしれねえ)

 

 変化前の苦悶を見た奏は、内心その危険度を感じていた。

 

「はあぁぁ!」

 

 聖詠を歌い上げた響が、気合と共に渾身の拳を大型ノイズに叩き込み、大型ノイズの側面が大きく吹き飛ぶ。

 

「BILLION MAIDEN!」

 

 クリスがアームドギアをガトリングに変化させ、無数の銃弾を叩き込んでいく。

 

「同時に行くぞ!」

「はい!」

『天の逆鱗!』

 

 二人の翼が、左右から同時に大剣を大型ノイズへと突き刺す。

 

「こいつでトドメ…」

 

 奏がトドメを刺そうとアームドギアを構えた瞬間だった。

 突然、大型ノイズがその巨体に似合わぬ速度でその場から離れていく。

 

「………え?」

「ノイズが、逃げた?」

「まさか………」

「おい、どうなって!?」

「こっちが聞きたい!」

 

 今までノイズと多くの戦闘を行ってきた装者達も、突然の事態に唖然とする。

 

『こちら大神! 目標大型ノイズが逃走した!』

『こちらシスターエリカ! こっちも急に逃げちゃいました!』

 

 同様に各所で大型ノイズと戦っていた帝国華撃団と巴里華撃団からも相手の逃走の報告に、困惑は深まる。

 

「取り敢えず追うぞ!」

「おうよ!」

『待って! 今メイヴから情報が来たわ! 逃走した大型ノイズは、同じ地点に向かってる!』

 

 

 追跡しようとした未来の翼と奏に、紗羅檀が通信である情報を流す。

 

「合流する気か!」

「ノイズにそんな知恵があった?」

「そんなのこっちでも聞いた事が………」

「後だ! とにかく急げ!」

 

 何が起きているのか理解出来ないまま、装者達は急いで大型ノイズの後を追う。

 建物を透過、破壊を繰り返しながら逃走する大型ノイズを追跡する装者達の視界に、同様に周辺を薙ぎ倒しながら迫る他の二体の大型ノイズの姿が入ってくる。

 

「雪音! 合流させるな!」

「了解!」「ARTHEMIS SPIRAL!」

 

 直感的に危険と判断した未来の翼がクリスに攻撃を指示、アームドギアを弓矢へと変化させたクリスが矢を放つと、それは途中でミサイルへと変化して大型ノイズへと向かう。

 大型ノイズの合流とミサイルの着弾はほぼ同時、爆炎が周囲を多い、その姿を隠してしまう。

 

「どうなった!」

「分からん! 追撃準備!」

 

 爆風が吹き抜ける中、奏が煙の向こうを見ようとするが、未来の翼は用心を欠かさなかった。

 

「もう一撃…」

「それともS2CAで…」

「え…」

 

 クリスと響も追撃を準備する中、一番最初に翼がある事に気付く。

 爆煙が晴れていく中、それを上へと突き抜ける物が有った。

 

「なん、だと?」

「おい、冗談じゃねえぞ………」

 

 未来の翼と奏も爆煙を上へと突き抜けた物が何か気付く。

 

「おい、マジか………」

「大っきい………」

 

 追撃準備していたクリスと響も、それを見て思わず手が止まる。

 それは、周辺のビルを凌駕せんほどに高く、巨大になった超巨大ノイズだった。

 

「融合した、だと?」

「このサイズでか!?」

「うそ………」

「ど、どうすれば………」

「決まってる!」

 

 当惑する装者達だったが、すぐに気持ちを切り替える。

 

「こちら大神、目標三体が融合! 巨大化した!」

「こちらシスターエリカ! ものすごくでっかいです!」

 

 そこへ帝国華撃団と巴里華撃団も合流する。

 

「どんな大きくても、ノイズには変わりない!」

「行くぞ!」

「注意してください!」

 

 三人のリーダーが声が飛び交う中、誰もが恐れず、超巨大ノイズへと向かっていった………

 



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第二次スーパーロボッコ大戦 XD編(if) EP06

「何あれ!?」

「で、でけえ………」

 

 市街地のノイズ掃討に当たっていたパンツァー達が、自分達の頭上に刺した影にそちらを見ると、そこにある超巨大ノイズに絶句する。

 

「あれの相手はシンフォギアチームと華撃団に任せて、私達は引き続き市街地の掃討だそうよ」

「そもそもアレとどう戦うんだよ………」

「ブリット何発有っても足りないわよ!」

 

 あかりが指示を伝える中、はさみとのずるは自分達のツールではダメージも与えられるか怪しい巨体を見て叫ぶ。

 

「ああいうのは出力過多の連中に任せとけ!」

「そっちから来た!」

 

 自分達の役割を割り切り、ねじるとどりすが現れたノイズに向けてドリルを構える。

 

「行くぞ~!」

 

 どりすを先頭に、パンツァー達はノイズへ向かっていった。

 

 

「目標、全長約50m。これは完全に怪獣ね………」

「どうする! これは幾らなんでも…」

 

 上空から援護に当たっていたジオールとエスメラルダが予想外の超巨大ノイズに愕然とする。

 

「エスメラルダ、ポイニー、エリューはあの超巨大ノイズに行って! こっちは私達でなんとか抑えるわ!」

「了解! 行くぞポイニー、エリュー!」

「OK!」

「気をつけて!」

 

 三機のRVが向かう中、ジオールは改めて状況を確認する。

 

「ノイズの駆逐は進んでるけど、肝心のフィーネはどこに消えたのか………」

 

 戦闘のどさくさに紛れて消えたフィーネをRVのセンサーで探すが、反応は見当たらない。

 

「この状況で街の外まで逃げ出せたとは思えないし、どこかに潜伏してるはず………」

 

 更にセンサー感度をあげようとするが、そこで襲ってきた飛行ノイズにジオールは迎撃せざるを得なくなる。

 

「今逃すわけにはいかない、一体どこに…」

 

 

「なんとか撒いたか…」

 

 戦闘のどさくさに紛れ、マンホールから地下に逃げたフィーネは、異臭漂う中でなんとか呼吸を整えようとする。

 

「何が一体どうなって………とにかくまずはソロモンの杖をどうにか取り戻して」

 

 今後を考える中、突如フィーネの背後で轟音と共に天井が崩落する。

 

「!?」

 

 崩落は一度で収まらず、次から次へと起きて、その度に瓦礫が地下へと押し寄せていく。

 

「バレているの!? どうやって!」

 

 それが上からの攻撃だと確信したフィーネが、地下の通路を必死に逃げ出す。

 

 

「まだ逃げてます! 多分10時方向にまっすぐ!」

「オーナー、もうちょっと正確にや!」

「10時ってそっち?」

「もうちょっとこっち!」

 

 地面に手をついたひかりが、固有魔法の接触魔眼で地面を透視し、フィーネと思われる反応を這うようにして追いながらパレットチームに伝える。

 一緒になって地面を這い回りながらサーチしている寅型MMS・ティグリースが呆れる中、パレットチームは台ごと破壊する物騒なモグラ叩きでなんとかフィーネを追い詰めようとしていた。

 

「あんまり出るナ! ノイズがまだうろついてル!」

「そっちに二体、近づく前に倒そう」

「まだ出てこない!?」

「これ以上壊すのはまずそう」

 

 

 エイラとサーニャもサポートに回る中、パレットチームはフィーネをどうにか地下から追い出せないかと思案する。

 

「確かにこのまま市街破壊続けたらアカンかもな」

「でもどうすれば?」

「だったら、一気にやれば!」

「手加減しないで思いっきりやれって言われてたし!」

『は?』

 

 あかねとあおいの提案に、ウィッチ達が思わず疑問符を投げかけるが、すでに二人は行動に移っていた。

 

「オペレーション!」「ビビットブルー!」

「ビビットブルー、オペレーション!」

 

 ドッキングして一心同体となった二人が、手に巨大なネイキッドハンマーを構える。

 

「ちょっと待って…」

「離れよう」

 

 さすがに止めようとするわかばだったが、その手を掴んでひまわりが高速でその場を離れる。

 

「逃げロ! 手加減無しでやらかす気ダ!」

「何を?」

「いいから逃げい!」

 

 未来予知で何が起きるかを見たエイラがサーニャの手を引いて逃げ出し、首をかしげるひかりを慌ててティグリースが離れるよう促す。

 

「ビビッドインパクト、セーフティー解除!エンジン出力、120%! 150% 180%!」

『臨界突破! 出力200%!』

『ファイナル・オペレーション!!』

 

 巨大化したネイキッドハンマーの渾身の一撃が地面へと向けて振り下ろされ、地下どころか周辺一区画がまとめて吹き飛び、周辺に凄まじい衝撃波と瓦礫を撒き散らす。

 

「わああぁ!?」

「堪えロ!」

「掴まって!」

「ネイキッド・コライダー!」

「シールドに集中を!」

 

 ウィッチ、パレットチーム双方が固まって必死にガードし、衝撃波の後に立ち込める粉塵がやがて晴れていく。

 

「す、すごい………」

「やり過ぎたんじゃ………」

「かもしれない」

「お前ら、もうちょっと加減って物を覚えロ!」

「出力負けしないからって彼女達が選ばれたって聞いたけど」

「これ、跡形も無いんちゃうか?」

 

 完全にクレーターと化している跡地を見ながら、皆が口々にぼやく。

 

「待って、反応は有る。一応生きてる」

「本当かサーニャ!」

「あ、ホンマや」

「ウソ………」

「あ、あそこ」

 

 粉塵が晴れていく中、クレーターの一角にいるフィーネの姿を皆が見つけるが、その手足はあらぬ方向に折れ、体は僅かに痙攣している。

 どう見ても逃げも隠れも戦闘も出来そうにない状態に、皆は顔を見合わせる。

 

「ありゃ、シールドに全力掛けテやばいとこ守ったんダナ」

「脳波微弱、完全に失神しとるで」

「あの、大丈夫?」

「やりすぎちゃったかな………」

 

 フィーネの状態を確認する中、ドッキングが解けたあかねとあおいが恐る恐るフィーネの方を見る。

 

「ま、少しとは言えへん被害出とるけど、あんたらの任務は達成や。回収班に報告しとくで」

「じゃあ後は任せタ! サーニャあっちに合流するんダナ!」

「私も行きます!」

 

 周辺に他に敵の反応が無い事を確認したウィッチ達が仲間に合流すべくその場を飛び立つ。

 

「あの、これ応急処置とかした方が…」

「動かなくなっても下手に近寄るなって言われてた」

「だ、大丈夫かな?」

「多分………」

 

 自分達に出来る事は終わったパレットチームは、完全に失神しているフィーネをどうするか悩みつつ、遠くに見える超巨大ノイズとの戦いを見守る事にした。

 

 

「狼虎滅却・天地神明!!」

 

 大神機の渾身の一撃が、超巨大ノイズに叩き込まれる。

 超巨大ノイズの胴体が大きく吹き飛んだかのように見えたが、その異常過ぎる巨体の前では大したダメージにならなかった。

 

「これでもダメか!」

「質量が違いすぎる。ノイズ相手に物理攻撃は効果が薄いが、このサイズに有効なまでに侵食兵器を使用したら、空間がワームホール化しかねない」

 

 大神機の中でプロキシマが相対ダメージを計算し、ただならぬ強敵に対策を思案するがいい手が浮かばない。

 

「プランHに移行を進言! 一度防戦に徹して体勢を立て直す!」

「防戦って行っても…来る!」

 

超巨大ノイズから、ビームや肉弾、触手といったありとあらゆる攻撃が一斉に放たれる。

 

「くっ!」

「うわわ!?」

 

 大神はとっさに双刀をかざして攻撃を受け止めるが、接近してると危険と判断してそのまま後方へと飛び退る。

 

「手数が多すぎる! 被害状況は!?」

「各部隊、なんとかしのいでるけど、これでは…!」

 

 ハリネズミどころか要塞並みの攻撃力に、どの部隊も防ぐのに手一杯でようやく接近した大神の一撃も致命傷には程遠い状況に、事態は膠着しつつあった。

 

『こちらパレットチーム、任務完了! フィーネ確保しました、一応…』

「よし、これでこちらに専念出来る!」

「問題はノイズに物理攻撃は通じない、奥の手のミラージュキャノンも効かない、だとしたら…」

「手はまだ有る、だが問題は…」

 

 強敵と判断したのか、大神機に向けて肉弾と触手が文字通り降り注いでくる。

 

「それを使う隙をどう作るかだ!」

 

 高速の剣さばきで降り注ぐ攻撃をさばきなながら、大神は機体を更に後退せざるをえなくなる。

 

「大神さん!」

「大丈夫ですか!?」

 

 さくらとエリカがそれに気付いて援護してくるが、超巨大ノイズの攻撃は緩急こそある物の、止む気配は無い。

 

「攻撃の手を止めるな! 無限に攻撃出来るとは思えない! なんとしても相手に隙を作るんだ!」

『了解!』

 

 大神の号令に華撃団皆が答える中、大神は自ら先頭に立って再度突撃を試みた………

 

 

 



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第二次スーパーロボッコ大戦 XD編(if) EP07

 

「そっちに中型一体!」

「任せろ!」

「行くよトゥルーデ!」

 

 ミーナの固有魔法で補足された空中型ノイズに、バルクホルンとハルトマンの集中攻撃が叩き込まれて爆散する。

 

「後は!?」

「この空域のは今ので最後よ!」

「となると残るは、アレか………」

 

 ペリーヌが素早く周囲を見回しながら問うが、ミーナが掃討を確認し、シャーリーが残った相手を見る。

 

「でっか~い」

「まあもっとデカいネウロイ相手にした事もあるけど」

 

 ルッキーニがかなり離れているのにイヤでも目につく超巨大ノイズに率直な感想を述べ、シャーリーは目算で相手の大きさを比較していた。

 

「問題はあれは普通の人間は触っただけで死んでしまう危険物体だという事だ」

「しかも派手に攻撃してきてるしね~」

 

 バルクホルンが連射した銃のダメージを確認しながら呟き、ハルトマンはマガジンを交換しながらボヤく。

 

「でもアレを倒さないと」

「ここの人達の迷惑になるね」

「し、しかしさすがにあの大きさは………」

 

サイト越しに相手を確認するリーネに、芳佳が回復ドリンクを確認しながら力説し、静夏はあいてのあまりの巨大さに生唾を飲み込む。

 

「下は片付いたゾ~」

「向こうはもう大丈夫です」

 

 そこでエイラとサーニャが戻ってきたのを確認したミーナは固有魔法で他にノイズがいない事を確認して頷く。

 

「これより501統合戦闘航空団は超巨大ノイズに対処! フォーメーションはキャンサー、防戦に徹して地上への攻撃をなるべくこちらで受け持ちます!」

『了解!』

 

 ミーナの指示を受け、501のウィッチ達が一斉に超巨大ノイズに向かっていった。

 

 

「攻撃が薄くなってきたな」

「上空でウィッチ達が防いでくれている。他のノイズの掃討が終わったのだろう」

「それでもこの手数かよ!」

 

 防戦一方だった装者達が、超巨大ノイズの攻撃の半数を上空に展開し始めたウィッチ達がシールドや攻撃で防いでいる事に気付く。

 

「このまま一気に…」

「まだだ。こいつを完全に殲滅するには、まずは他のチーム全てと合流し、攻撃を完全に封じる必要が有る。下手に決め手を外せば、洒落にならない反撃が効かねん」

 

 突撃しようとする響を、未来の翼が冷静に状況判断して制止する。

 

「………あれ、本当に私?」

「まあ、あたしの知ってる翼先輩は元からあんな感じだったけど」

 

 過去の翼がこっそり聞いてくるのを、クリスが会ったばかりの事を思い出しつつ呟く。

 

「NORNに入る時にシンフォギアチームのリーダーに抜擢されたからな。まあちょっと揉めたけど…」

「話は後だ! 油断するな!」

『はい!』

 

 未来の翼の叱責に過去の翼とクリスが思わず答える。

 

「しかし、あのサイズを倒すには絶唱しか…」

「手は幾つか用意してる! あたしらの任務は天羽 奏に絶唱を歌わせない事だ!」

「そうです! 私達に任せてください!」

「頼りになる後輩だな」

 

 力説するクリスと響に奏が苦笑するが、二人の頬や額に流れる汗に気付いていた。

 

「おい未来の翼」

「なんだ奏」

「そのイグなんとかモード、あとどれくらい持つ?」

「何の事だ」

「ごまかすな。明らかに出力が異常だろ、って事は負荷もそれ相応なんだろ?」

「無理矢理装者になった人間には分かるか。だが、お前を守るくらいは出来る」

「けど…」

 

 アームドギアを振り回しながら心配する奏だったが、そこで轟音と共に間近に大型蒸気トラックが急ブレーキと共に止まる。

 

「今度は何だ!?」

「帝国華撃団の切り札、双武ね。いよいよ決着が近いわ」

「済まないが援護を! さくら君!」

「はい大神さん!」

 

 奏が仰天するのを紗羅檀が説明する中、大神とさくらが蒸気トラックのコンテナに乗り込み、そこから光武・二式よりさらに大型の霊子甲冑が起動する。

 

「詰めに入るぞ! Gプラン発動!」

「Gプラン?」

「上位ランカーによる飽和攻撃だ! 行くぞ!」

 

 超巨大ノイズを包囲したNORNの戦士達が、大神の号令と共に半数が攻撃態勢を、半数が防御態勢を取る。

 

「私達は…」

「決まってるだろ!」

 

 過去の翼が一瞬悩むが、奏が断言して聖詠を歌い上げながら、アームドギアを構える。

 今だ続く超巨大ノイズの猛攻をウィッチ達が中心となって防ぐ中、残った半数がそれぞれの得物に力を込め、特に装者達の聖詠が高らかに響いていく。

 

「攻撃…」

 

 大神が号令を出そうとした瞬間、突如として超巨大ノイズの攻撃が止む。

 

「あれ?」

「弾切れか?」

「警戒維持! 何か来るかも…」

 シールドを張っていたウィッチ達が首を傾げる中、何らかの準備段階かと警戒した者達が超巨大ノイズを見上げると、その巨体が鳴動を始める。

 

「なんか揺れてる!?」

「何する気だ!」

「やられる前に!」

 

 あまりに不気味な超巨大ノイズの鳴動に、誰もが困惑しながら攻撃しようとした時だった。

 

「!! 全員逃げロ! 降ってくるゾ!」

「降る?」

「何が?」

 

 エイラがありったけの声で通信機に叫び、501の仲間達も一瞬判断に迷った瞬間、それは起きた。

 鳴動していた超巨大ノイズがその身を大きく弛めたかと思うと、その頂点が噴火する。

 おびただしい何かを噴出する超巨大ノイズに全員が呆気に取られるが、すぐにその意味を知る。

 噴火するがごとき勢いで噴出する、おびただしいノイズの大群に。

 

「!! 攻撃中止! 作戦・山!」

「シールド全開! 一体でも多く受け止めて!」

 

 大神が即座に攻撃から防御へと作戦を変更、ミーナが叫びながらもシールドを傘のように展開、上空のウィッチ達もそれに続くが、火山弾のごとき勢いでノイズが次々とその場に降り注ぐ。

 

「うわわ!?」

「た、退避!!」

「撃ち落としきれない!」

「全艦回頭! 最大速度で離脱!」

 

 対ノイズ防御が低いパンツァーチームと艦娘チームが上空に攻撃しながら、大急ぎで撤退を開始。

 

「ドラマチックバースト!」

「だめ、多すぎる!」

「一体でも減らすのよ!」

 

 RVにまたがったGの天使達が必死になって攻撃するが、噴出するノイズはあまりに数が多すぎた。

 

「ど、どうしよ!?」

「下がれ、援護する」

「まさかこんな手を打ってくるとは」

 

 光の戦士、特にリーダーのユナが一番慌てる中、メンタルモデルや機械人達が防御を受け持ちながら、かろうじて距離を取る。

 

「作戦山を維持!耐えるんだ、必ず途切れる時は来る!」

「手近の華撃団と組んで! 攻撃は一任!」

 

 大神とマイルズの指示が飛び交い、至近で逃げようもない華撃団は無数に降ってくるノイズに迎撃し、陸戦ウィッチ達がシールドでそれを援護する。

 

「こなくそ!」

「攻撃の手を止めるな!」

「分かってます!」

「けどこんなの………」

 

 装者達が必死になって降ってくるノイズに向かって攻撃するが、後から後から降ってくるノイズの豪雨に活路を見いだせないでいた。

 

「持ちこたえろ! 無限に続くわけではないはずだ!」

「つっても!」

「きゃあ!」

 

 未来の翼も必死になって剣を振るう中、クリスが聞こえてきた悲鳴にそちらを向くと、限界に達した陸戦ウィッチのシールドをノイズが突破し、とっさにそばにいた霊子甲冑がそのノイズを撃破する。

 

「このままだと、こっちも…」

 

 それを見た過去の翼の呟きに、隣で槍を奮っていた奏がある覚悟を決める。

 

「悪ぃ、翼。どうやら運命って変えられないみてえだ………」

「え…」

「待て奏!」

 

 奏の覚悟を悟った未来の翼が止めようとするが、奏は悲しげに微笑む。

 

「立花!」

「はい! ってうわ!」

 

 未来の翼にうながされ、響が奏の元に向かおうとするが、そこに新たに降ってきたノイズに阻まれる。

 

「奏、だめえぇぇ!」

 

 過去の翼も止めようとする中、奏は槍を大きく振るいながら、奏者達から一気に距離を取る。

 そして、その口から装者の禁断の切り札である歌が紡がれる。

 装者自身をも滅ぼす、絶唱の歌が。

 放たれた絶唱が、上空から降り注ぐノイズの雨を触れる端から崩壊させていく。

 

「Lプラン! 頼む!」

 

 未来の翼が叫び、それに応じて地上と上空から動く者がいた。

 その中、奏は絶唱の反作用で全身に激痛が走るも、その呪われた歌を止めようとしない。

 

(私の命が尽きるのが先か、このデカブツを倒すのが先か………うっ………)

 

 降り注ぐノイズを殲滅しつつも、さすがに超巨大ノイズまではなかなかダメージが通らないのを見た奏だったが、その意識が遠のき始める。

 

(ダメか………だがきっと翼達がこいつを倒してくる………痛みも感じなくってきた………)

「大丈夫です!」

「私達が治します!」

 

 とうとう限界が来始めたかと思った奏だったが、突然掛けられた言葉に思わず振り返り、そこにいる柴犬の耳を生やしたウィッチと赤い霊子甲冑に気付く。

 両者とも絶唱の範囲を強行突破してきたのか傷だらけだが、双方が触れる手から流れてくる力が、奏の体の痛みを消していく。

 のみならず、自らが追ったはずの傷すら消えていく事に奏はやっとその意味に気付いた。

 

(治癒能力!? こいつら、私を助けるためにこんな無茶を…)

「シスターエリカさん! 防御は私のシールドでなんとかします!」

「芳佳さん、私達でです! ありったけを奏さんに!」

 

 芳佳とシスターエリカのありったけの治癒が、絶唱と引き換えに失われそうになった奏の命を繋ぎ止める。

 

(どうやら、無茶は装者の専売特許じゃないようだな………)

 

 予想以上に無茶をする異世界の戦士達に奏は内心苦笑するが、傷は治癒出来ても消せないダメージに限界が来、絶唱が途切れるとその場に崩れ落ちる。

 

『奏!』

「大丈夫です!」

「致命傷には至ってないはず!」

 

 二人の翼が同時に駆け寄る中、自らの負傷を気にもとめずに芳佳とシスターエリカは治癒を掛け続ける。

 

「奏さんをお願いします! 後は、あいつを!」

「絶唱食らってもまだ立ってやがるぞ!」

 

 響とクリスが未だ立っている超巨大ノイズに相対するが、相手はまだ致命傷には遠かった。

 

「巨大ノイズ、絶唱攻撃後も健在確認。最終プランを発動する!」

「立花! 神楽坂! すまん、後は頼む!」

 

 大神の指示に続くように、未来の翼が通信先のユナと巨大ノイズに対峙する響へと声をかける。

 

『任せて! 思いっきり行くよ』

「任されましたぁ!」

『それじゃ響ちゃん! とっておき行くよ』

 

 そこで届いてきたユナからの通信に、響は大きくうなずくと一度イグナイトモードを解除する。

 そしてその口から聖詠が紡がれると、それに応じるように通信からもユナの歌声が響いてくる。

 それに呼応するように、響の体が光に包まれると、突然どこかに飛んでいく。

 

「なんだ………?」

「しゃべらないで奏!」

「大丈夫、最後の切り札の使用許可が降りたらしい」

 

 虚ろな目でそれを見た奏が首を傾げるのを、二人の翼が慌てて抑える。

 だが奏の目は、こちらに向かってくる巨大な光の塊、そしてそれがみるみる形を成していくのを捉えてしまう。

 そしてそれは、轟音と共に超巨大ノイズの前に降り立った。

 

『行くよ響ちゃん!』

『任せてユナちゃん!』

『ユーリィも手伝うですぅ!』

『エルライン・ノイ シンフォギアモード!!』

 

 光の救世主の切り札、光のマトリクスの集合体であるエルライン・ノイに、光の救世主の因子を持つ響のガングニールの力が合わさった、青白の巨大ロボがその姿を表す。

 その両腕に響のシンフォギアを思わせる黄色のガントレットが、その首にスカーフを撒いたエルライン・ノイ シンフォギアモードが拳を構える。

 戦いは、とうとう最終局面を迎えようとしていた………

 



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第二次スーパーロボッコ大戦 XD編(if) EP08

「な、何アレ………」

「巨大ロボット?」

「そうだよな………」

 

 会場下の地下施設、特異災害対策機動部二課のオペレーター達は市街カメラから表示されるエルラインの姿に呆然としていた。

 

「あの巨大ロボットから確かにガングニールの反応が出てます………」

「つまり、どういう事だ?」

「マルチバースによるパラレル存在、シンフォギア装者と光の救世主、両方の因子を持つ者達の力の結晶だ」

 

 弦十郎も目を疑う中、同じ声で答える相手に思わず皆が振り向き、絶句する。

 

「え………」

「今度は風鳴司令が二人!?」

「………状況的に考えて三年後のオレか」

「その通りだ」

 

 オペレーター達が再度絶句する中、二人の弦十郎は頷きあう。

 

「あら風鳴司令、こちらに来るのは作戦後のはずでは?」

「そのつもりだったが、かなり状況が悪化してると聞いてな」

「確かに、アレを使うのは文字通り最終手段のはずでしたし………」

 

 未来の弦十郎に香坂 エリカが問いかけ、その返答に彼女も思わず頷く。

 

「つまりアレがそちらの切り札か」

「ええ、光の救世主の切り札 エルライン。それに光の救世主の因子を持つ響さんの力を融合させたシンフォギアモード。正真正銘、対ノイズ用の最終兵器ですわ」

「出来れば使いたくはなかったが………」

「どうしてです?」

 

 香坂 エリカと未来の弦十郎の言葉に、オペレーターが思わず問い返す。

 

「あれ、情報操作や隠蔽出来るか?」

「無理だな………」

 

 未来の弦十郎の問に、過去の弦十郎が即答する。

 

「今でさえ情報操作の限界を迎えつつあるが、あのロボットで完全に決壊したかもしれん」

「だから使いたくなかった。悪いがそっちの始末はそちらに一任する」

「オレに押し付けるのか」

「オレだからな」

「………え~と」

 

 二人の弦十郎のやりとりにオペレーター達が微妙な表情をする。

 

「ともあれ、決着は近いですわ」

「そうね、アレを出した以上早くつけてもらわないと」

 

 香坂 エリカと肩にいたイーダが呟く中、画面の中では巨大な両者が激突していた。

 

 

「奏!」

「大丈夫か!」

 

 地面に寝かされ、芳佳とシスターエリカ二人がかりで治癒を受けている奏を二人の翼が心配そうに覗き込む。

 

「翼、私はもうダメかもしれない………」

「そんな事言わないで!」

「オイ!」

「巨大ノイズと巨大ロボが戦っている幻覚が見えてきた………」

 

 奏の呟きに二人の翼が思わず声を荒げるが、続く言葉に全員がしばし無言で、向こうで戦っている超巨大ノイズとエルライン・シンフォギアモードの方を見る。

 

「………えと、あのね奏」

「安心しろ、私達にも見えている」

「………あれ幻覚じゃないのか」

「幻覚じゃなく現実だ。私も話には聞いていたが………」

 

 気まずそうにする過去の翼に、未来の翼が説明していく。

 

「光の救世主の切り札、エルラインか。まさか本当に巨大ロボとはな」

「あの、響さんがあの中に入っていったような………」

「あいつもまた違う世界で光の救世主とやらなんだと。その力を持ってる奴はあのロボに乗れるらしい」

 

 未来の翼の説明に、クリスが補足してやる。

 

「これで大丈夫のはずです」

「念のために移送しましょう。サポート班の皆さ~ん!」

 

 芳佳とシスターエリカが手当を終え、移送の準備に入る。

 

「お任せよ~~~!!」

 

 そこに搬送用医療ポッドを携えたナース服姿の薔薇組がすごい勢いで向かってくる。

 

「何だよ、あれ………」

「お、ま、た、せ♪」

 

 傷はある程度治癒したが、まだダメージが残っている奏はこちらに向かってくるゴージャスなナース姿の薔薇組の姿に絶句するが、ドアップで顔を覗き込まれて色々限界を迎えて気を失ってしまう。

 

「あら、寝ちゃってるみたいね」

「今の内に安全な所へ」

「任せなさい。薔薇ウサギレスキュー隊の名にかけて、すぐに移送するわ」

「今度はお二人が互いに治した方いいですよ」

「分かりました~」

 

 失神している奏を手際よく搬送用医療ポッドに乗せると、薔薇組は来る時同様の勢いでその場を去っていく。

 その凄まじすぎる光景に、絶句したままだった過去の翼が無言で過ぎ去っていく薔薇組を指差す。

 

「あ~、言いたい事は分かる。アレはアレでもこちらのサポート部隊だ。なんでかすげえ色物ばかりいっけど、結構優秀だから」

 

 何かを言いたいが言葉が出てこないらしい過去の翼に、クリスがなんとか説明してやる。

 

「とにかく、あの大物は立花と神楽坂に任せよう。雪音はここに残って宮藤とフォンティーヌのガードを」

「OK先輩」

「私達は残った小物を急いで片付けるぞ」

「り、了解」

 

 未来の翼の指示にようやく我に帰った過去の翼が頷く。

 

「手際よくやるぞ。さもないと」

「さもないと?」

「あの巨大ロボが変形合体するそうだ」

「するの!?」

 

 

「さあ一気に行くよ~!」

「うん!」

 

 エルライン・シンフォギアモードの中でユナと響が気合を入れる。

 

「市民が避難済みとは言え、ここでの戦闘は被害が拡大します。なんとか相手を抑え込んで海上へ!」

「手伝うですぅ!」

 

 エルラインの中枢ユニットとなっているエルナーの指示にサブパイロットとなっているユーリィの気合も交じる。

 

「来ます!」

「任せて!」

 

 超巨大ノイズが複数の触手を突き出してくるが、響が操作してそれを次々と薙ぎ払っていく。

 

「フォースミサイル!」

 

 そこへユナが複数のミサイルを発射、のたうつ触手を撃破していく。

 

「なんとか懐に!」

「あれ抱えるのはちょっとヤダな~」

「言ってる場合ですか!」

 

 接近を試みる響にユナは見るからにグロテスクな超巨大ノイズに少し引くのをエルナーがたしなめる。

 そんな中、超巨大ノイズの一部が大きく歪むのを見たユナと響が同時に反応する。

 

「何か来る!」

「合わせて!」

 

 攻撃の予兆と判断した二人は響に合わせて拳を引き、そして一気に突き出す。

 

「ライトニング・シュート!」

 

 突き出された拳から発射されたビームが、超巨大ノイズが打ち出した巨大肉弾と激突、爆砕させる。

 

「このままだと、更に被害が拡大します! 早く海上へ!」

「ええい! ちょっとイヤだけど、ここから運び出そう!」

「うん!」

「調整はユーリィがするですぅ!」

 

 エルナーが周辺への被害がないかを確認する中、ユナと響がうなずきあい、ユーリィも同調する。

 そして、まず響の口から、それに重ねるようにユナの口からも聖詠が紡がれる。

 出力を更に増していくエルライン・シンフォギアモードは全身を輝かせながら超巨大ノイズに突撃、その巨体を両腕で抱え込む。

 

「飛ぶですぅ!」

 

 ユーリィの宣言と共にエルライン・シンフォギアモードは背部バーニアを吹かし、一気に空へと舞い上がる。

 

「海上周辺も避難は完了しています! こちらで指定したポイントまで!」

「分かったですぅ!」

 

 被害の少ない海上へと向かう中、エルナーの指示にユーリィが頷くが、超巨大ノイズはその巨体でもがき、触手を絡ませてくる。

 

「うわ、この!」

「離すもんか!」

 

 ユナと響は必死になりながらも、超巨大ノイズを離そうとしない。

 

「もうそろそろです! 二人共しっかり!」

「周辺にお船もいません!」

「じゃあここらで!」

「離れろ~!」

 

 エルナーとユーリィが安全を確認した所で、ユナと響が力を込めてエルライン・シンフォギアモードから超巨大ノイズを引き剥がす。

 巨大な水柱を立てながら超巨大ノイズは海面に落下し、それに相対してエルライン・シンフォギアモードも海面へと派手に水しぶきをあげながら着水する。

 

「それじゃあ、ここで一気に行くよ!」

「うん! 私達の力、見せてあげよう!」

 

 

「なんか、すごい事になってます………」

「世界中の軍事衛星がフル活動でガン見してますが………どうします?」

「どうすると言われてもな………」

「ほっておくしかないだろう」

 

 衛星からの映像と、リンクが繋がったNORNからの映像の双方から送られてくる、海上の大決戦を見ながら報告してきたオペレーター達に、二人の弦十郎が答える。

 

「そうだな、今更隠しようもない」

「今頃、世界中の軍上層部や首脳陣が自分の目と正気を疑うか、コーラとポップコーンを用意してるかもしれんな」

「オレも用意してきたくなったぞ」

「全てが片付いた後でな」

 

 最早驚愕を通り過ぎて達観の領域に達しつつある過去の弦十郎に、未来の弦十郎が苦笑する。

 

「こちらのサポート班から連絡が有りました。天羽 奏を搬送終了、多少ダメージはある物の、生命に問題は無いそうです」

「絶唱の負傷を治せる程の能力とはな………」

 

 香坂 エリカからの報告に、過去の弦十郎は胸を撫で下ろす。

 

「NORNの治癒能力者のNo2とNo3を用意していたからな。ただかなり無理をさせたようだ」

「あれ以上がいるのか」

「No1は今別件で動いてるから来れなかったがな。それとそろそろ決着が付きそうだ」

 

 

「たああぁ!」

 

 響の操作で繰り出される拳が、超巨大ノイズに次々と突き刺さる。

 超巨大ノイズの巨体が大きく揺らぐが、そのまま大きく体を振るって巨体其の物を叩きつけてくる。

 

「うわぁ!」

「くっ!」

 

 ユナが思わず悲鳴を上げる中、響はなんとかガードする。

 

「ユナさん!」「お返し! フォースミサイル!」

 

 ユーリィが心配そうに声を上げる中、ユナはミサイルを放って反撃するが、その半数は再度伸びてきた触手に阻まれ、半数は超巨大ノイズに炸裂するが大きなダメージにはならない。

 

「半端な攻撃は致命傷にはならないようですね………」

「変にタフだ~」

「じゃあ、一気に行こう!」

 

 エルナーの解析にユナがイヤそうな顔をするが、響はむしろ力を込めて構える。

 

「ユーリィ、出力上昇お願い! エルナー、空へ!」

 

 ユナもそれに合わせて指示を出す中、響の口から聖詠が紡がれ、ユナも合わせて歌う。

 同時にエルライン・シンフォギアモードが超巨大ノイズの攻撃を避けながら上昇を開始。

 高度が上がっていく中、二人の歌声と共にエルライン・シンフォギアモードが燐光を帯び始める。

 重なる歌声と共に燐光は更に輝きを増していき、聖詠がクライマックスになると同時にエルライン・シンフォギアモードはまばゆいばかりの輝きに包まれる。

 

「一気に行くよ!」

「うん!」

 

 聖詠を歌い上げた二人は、頷くとエルライン・シンフォギアモードを急降下させる。

 そのまま片足を突き出し、突き出された足を中心に輝きが収束していき、それは足を矢尻にした、巨大な光の矢へと変じていく。

 

「ライトニング~」「バスター」『キーック!!』

 

 天空から超高速で降ってくる巨大な光の矢に、超巨大ノイズはありったけの攻撃を繰り出すが、それは全て光の前に弾かれ、そして光の矢は超巨大ノイズの体を貫き、半ば以上を吹き飛ばして海面をえぐって盛大な水しぶきを盛大に拭き上げてようやく止まる。

 中央部を完全に失った超巨大ノイズの上下に残った部分が崩れ落ちたかと思うと一気に崩壊していく。

 

「敵超巨大ノイズ、撃破を確認しました!」

「やった~!」

「うん!」

「ユーリィお腹すいたですぅ~」

 

 エルナーの撃破確認にユナと響は手を取り合って喜び、ユーリィはいつもどおりに空腹を訴える。

 

「残っていた通常ノイズも掃討完了。オペレーション・エインヘリャル、Aパートの終了とします」

「じゃ、皆の所に戻ろう♪」

「そうだね!」

 



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第二次スーパーロボッコ大戦 XD編(if) EP09

 

「そういう訳で、今私達はJAMと呼ばれる宇宙人と戦う事になっている」

「うん分からん」

 

 香坂財団謹製万能医療コンテナ内のベッドに横たわる奏に、ここまでの経緯を説明した未来の翼だったが、肝心の奏は一言で返す。

 

「だろうな………こっちもはっきり言ってよく分からねえ」

「それで戦ってるんですか?」

「どうにかしないと、やられっぱなしで」

 

 狭いコンテナ内に半ば押しかけている他の装者達も頷いたり首を傾げたりしているのを見ながら、奏はため息を漏らす。

 

「とにかく、こうやって私は助かったし、犠牲者もほとんど出なかった事には感謝するよ」

「前もって被害を知っていれば、対策を立てるのは容易だからな」

「因果律に変な影響出るかもしれないから、あまりおすすめ出来る事ではないのだけど」

 

 未来の翼の説明に、響の肩にいた紗羅檀が釘を刺す。

 

「とにかく、JAMの本拠地に行くには奏の協力が必要だ。すぐにとは言えないが、手伝ってほしい」

「構わないぜ。まあ司令が許可するかだが」

「こちらの風鳴司令は未来の風鳴司令が今説明と説得をしているはずだ」

「ホントに二人いたのはびっくりした………」

「そっちの司令も来てんのかよ………これ以上こっちの頭を混乱させないでくれ」

「すまん………」

 

 呆れている奏に、未来の翼が小さく頭を下げる。

 

「それにしても、そっちじゃ私が死んで大分苦労したみたいだな」

「まあ………色々有った」

「こんなに性格荒んじまって…」

「………は?」

 

 明らかに性格が一変している二人の翼を見ながら、奏の呟いた言葉に未来の翼が思わず気の抜けた声を漏らす。

 

「何かに付けて自信が無くて、いつも奏、奏と私の後ばかり付いてきたのが、こんなになっちまって」

「いや、それはその…」

「ライブの時だっていつも開演前に子犬みたいに震えてたってのに」

「へえ~、翼さんが…」

「そう言えば、全然片付け出来ないのは直ったのか?」

「そこはまだだな」

 

 奏の語る過去の翼に響とクリスが頷きながら興味深そうに耳を傾ける。

 

「奏、それ以上は言うな! 今の私はシンフォギアチームの戦闘リーダーなんだ! 沽券に関わる!」

「リーダー? 私が?」

「出世したな~、あんなに気弱だった翼が…」

「他に何かあります?」

「もっと聞きたいな~、翼先輩の過去」

「お前達も聞くな~!」

 

 何か含み笑いをしながら更に聞こうとする響とクリスに、未来の翼の声が外にまで響き渡った。

 

 

「向こうは大丈夫そうだな」

 

 医療コンテナから何かやたら元気そうな声が響いてくるのを聞いた大神が、頷きながらも各部隊の損害状況を確認しつつ、撤収準備を進めていた。

 

「問題は、この周辺被害だな」

「あそこまでの超大型は想定外だったし、パレットチームが頑張ってくれすぎたからね」

 

 被害者を抑えられた事は予定通りだが、何かあちこちやたらと見通しが良くなっている状況に大神が思わずぼやき、大神に代わって多機能タブレットでデータ整理をしていたプロキシマも思わず頷く。

 

「因果律とやらがどういうのかまでは分からないが、損害賠償はした方がいいだろうか………」

「その辺は風鳴司令同士が話し合って決めるらしいよ」

「当人同士だと話が合わない事は無いか…」

 

 言葉の途中で、背後からいきなり轟音が響き渡り、大神もプロキシマも思わず手が止まってそちらを見る。

 そこには、なぜか対峙している二人の弦十郎の姿が有った。

 

「あの、風鳴司令。一体何を…」

「おお、大神司令か。少し離れていてくれ」

「自分同士と戦える機会なんてまず無いからな」

「これほど手加減がいらない相手もいない。ちょっと手合わせしてみようという事になってな」

「………何をどうしたらそういう事に?」

 

 双方楽しげな二人の弦十郎に、大神は思いっきり首を傾げる。

 

「そういう事だから、今後については手合わせしながら話し合う事にした」

「それでは行くぞ!」

 

 何か妙な事を言いながら、二人の弦十郎の拳がぶつかり、生身とは思えない異音と衝撃がその場を突き抜けていく。

 

「………なるほど、確かに響の師匠だね」

「響君はもうちょっと大人しいと思ったが」

「とにかく離れよう」

 

 プロキシマが凄まじい激戦を繰り広げながら、確かに何か話し合っているらしい二人の弦十郎に呆れ果て、大神も思わずため息を漏らす。

 

「後始末が更に大変になりそうだ………」

 

 

「点呼確認~」

「パンツァーチーム、そろってます」

「佐世保班、全艦集結」

「光の戦士隊、皆いま~す」

 

 先行帰還の人員を皆で確認しながら、サポート班やメンタルモデルが中心となって簡易転移装置の設置が進められる。

 

「本当に帰っちゃっていいのかな?」

「確かに、ちょっと予想以上にすごい事になっちゃったけど………」

 

 どりすがぽつりと呟いたのを聞いた吹雪が、局所災害でも起きたかのような惨状に困り顔になる。

 

「人的被害が最小になったからこれでいいのだ」

「その通りだな」

「そ~かな~?」

 

 それぞれの肩の上にいたマオチャオとランサメントが頷くが、周囲の者達は首を傾げるだけだった。

 

「詳しい所は風鳴司令同士の話し合いで決めると聞いた」

「向こうからすごい音が聞こえてるけれど…」

「諜報出身の割に脳筋な所有るのよね、あの人…」

 

 長門が話をまとめようとするが、向こうから響いてくる生身同士とは思えない衝突音にポリリーナとミサキが呆れた顔をする。

 

「あっちはほっといて、帰れる人から帰るわよ~」

「ライン形成確認、エネルギーチャージ、準備できた」

 

 ヒュウガとコンゴウが転移装置の起動を確認した所で、皆が順番に並ぶ。

 

「いちいちメンドくせ~よな。来る時みたいに一遍に帰れりゃいいのに」

「う~ん、ミラージュに頼めば可能かもしれないけど…」

「永遠のプリンセス号は最後の手段よ。前はそのせいで大分大騒ぎになったらしいわ」

「どういうルートからかGに苦情来たそうよ」

 

 少人数ずつの順番待ちにねじるがボヤいたのを聞いたユナがある提案をするが、香坂 エリカと肩にいたイーダに速攻却下される。

 

「市街地じゃなければ豪雷号かエクレールで一度に出来るのですけれど」

「この間それで文句言っていたのは誰だった?」

 

 転移装置を操作しながらボヤくヒュウガにコンゴウが釘を刺す。

 

「あれはあんな骨董品で無茶させられたからですわ!」

「401が行くなら自分もとも言っていたな」

「イオナ姉さま一人にあんなのを任せるわけにはいけません!」

「なら我らの仕事をしよう。ゲート発生確認」

「さあとっとと戻りなさい!」

 

 半ばやけくそヒュウガが指示する中、皆は次々と転移装置に入っていった。

 

 

「………ここは?」

 

 香坂財団謹製万能医療コンテナ(2号)の中で目を冷ました女性が、周囲を見ようとして体が微動だに出来ない事に気付く。

 同時に周囲で物音が聞こえ、武装した者達が一斉に警戒した事にも。

 

「あの、貴方達………」

「意識が戻ったみたいね、フィーネ」

 

 ISを展開している楯無が代表して呼びかけるが、当の女性は首を傾げる。

 

「フィーネ? それは………いえ私は………」

 

 何か様子がおかしい相手に、楯無は眉を寄せる。

 

「記憶が混濁してるみたい。脳にダメージは無かったはずだけど………」

「ちょっと強く殴り過ぎたのでは?」

 

 盾無の隣で愛刀の鯉口を切っていたさくらも、相手に敵意が無い事を悟って刀を収める。

 

「一応暴れられないギリギリのラインで治療は施したはずなのだけど………」

「暴れる? 私が?」

「覚えてないんですか?」

 

 全身のケガと麻酔で、首だけを唯一動かせると言っても過言ではない相手が、首を傾げ続ける事に楯無とさくらも顔を見合わせる。

 

「貴方の名前は?」

「櫻井 了子、特異災害対策機動部二課の研究者………なのだけど、なんで私こんな大怪我してるの? いえ、そもそも私は…」

「………ちょっと大神さんと風鳴司令に知らせてきます」

「そうして。フリじゃないといいけど」

 

30分後

 

『すいませんでした!』

 

 パレットチームが全員そろってベッドの上の女性に頭を下げる。

 紛れもない、櫻井 了子当人に。

 

「いいのよ、気にしないで。おかげで頭はすっきりしたし。それにしてもまさか乗っ取られてたなんてね………道理で記憶が飛び飛びな訳よ」

 

 両手両足骨折の紛れもない重傷だが、確かにすっきりした顔の了子にパレットチームは頭を下げ続けていた。

 

 

「フィーネが消えた?」

「らしい」

「消える物なのか?」

 

 二人の風鳴司令と大神が、導き出された結論に半信半疑になっていた。

 

「あのフランス人形のような子の判断は確かなのか?」

「少なくてもアイリスは彼女の中にフィーネという人物はいないと言っている」

「NORNでもレアなテレパス能力の持ち主だ。ごまかせないとも言い切れないが、あれだけの負傷でその余力は無いだろう」

「確かフィーネは器が死ぬと、次の器に転生すると聞いていたが………」

「死にそうな目に会って、逃げたか引っ込んだか………こちらとしても全く予想外だ」

「まあ、あんだけ派手に殴られたらそうなっても不思議じゃないが。正直オレは死んだと思ってた」

「オレもだ………」

「とにかく、後はこちらでなんとかしよう。念の為監視も含めてな」

「頼む」

 

 

「は? フィーネが消えて了子先生に戻った?」

「それ本当ですか!?」

「まだ半信半疑だがな」

 

 フィーネ消失と了子復活の報に、装者達も一喜一憂する。

 

「おいおい、了子先生が黒幕ってさっき言ったんじゃねえのか?」

「正確には櫻井先生の器に転生したフィーネが黒幕だ」

「ややこしい………」

 

 奏と過去の翼は理解しきれない中、未来の翼もどう注釈すればいいかを迷っていた。

 

「ちょっと強く殴り過ぎたんじゃ………」

「かもな。誰だパレットチームに余計な事言ったのは」

「………はい」

 

 響と未来の翼が思わず唸る中、クリスが小さく手を挙げる。

 

「お前か雪音。まあ下手に手加減出来る相手ではないとは言ってはおいたが」

「いやまさかマジであんな大技叩き込むたあ思ってなくて………」

「私達と違って、純真で素直な者達だ。バカ正直に鵜呑みにしてしまったか………」

「みんないい子だからね~」

「悪かったなスレてて」

「シンフォギア装者なんてやってたら大なり小なりスレっだろ」

「そうかな………」

 

 喧々諤々にアレな話をする装者達だったが、そこでコンテナのドアがノックされる。

 

「どうぞ」

「あの、こっち準備出来ましたけど」

「おっとそういやもう一つあるんだった」

 

 顔を覗かせた亜乃亜からの連絡に、クリスが思い出したかのようにそちらへと向かう。

 

「まだ何かあるのか?」

「恐らく今一番スレてる奴を迎えに」

「それって?」

「ここの私だよ」

 

 

数時間後 ヨーロッパ某所

 

 フィーネの隠れ家兼研究所の一つの扉が、轟音と共に吹き飛ぶ。

 

「なに!? 何が起きた!?」

 

 突然の事に驚愕する過去のクリスが、吹き飛んできた扉から入ってきた人影に気付く。

 

「誰!?」

「誰って、見れば分かるだろ。私はお前だよ、三年後のな」

 

 入ってきたのが、シンフォギアをまとったクリス自身だった事に、過去のクリスが唖然とする。

 

「な………どうして………フィーネの仕業!?」

「フィーネは多分もう帰ってこねえよ。まあ違う器に入ってる可能性も無いわけじゃねえけど」

「あの、クリスちゃん………ちょっと派手すぎない?」

 

 混乱している過去の自分に、一応適当に説明する未来のクリスだったが、同じくシンフォギア姿の響が吹き飛んだ扉を見ながら呟く。

 

「お前達、フィーネをどうした! なんで、シンフォギアをそれもアタシが使ってるんだよ!」

 

 絶叫しながら、自身の首にかけられているペンダントをためらうように手を伸ばすが、思い直したかのようにそれを振り払い、そばにあった武器を構える。

 

「やはり歌わない……いや、歌えないか。あ~、そういやこの頃フィーネに色々叩き込まれたんだった」

「落ち着いてクリスちゃん!」

「言って聞く玉じゃねえのは知ってるだろ、行くぞ!」

 

 

更に数時間後

 

「とりあえず、なんとか説得出来た」

「むが~~!」

「それがか?」

 

 戻ってきたらなぜかボロボロの未来のクリスの足元、ロープその他で簀巻きにされて猿ぐつわまで噛まされている過去のクリスの姿に、未来の翼は呆れ、過去の翼は呆然とする。

 

「これって、貴方よね?」

「まあな」

「自分同士だからなんとかなると豪語してたのは誰だ?」

「いや、それがこの頃のクリスちゃん、フィーネが帰ってこないって聞いたらすごい暴れちゃって」

「その結果がこれか………」

「むご~~!!」

 

 完全ミノムシ状態だが、まだもがいている過去のクリスに未来の翼が冷めた視線を向ける。

 

「ま、無事ならいいんじゃねえのか?」

「奏!」

「起きて大丈夫なのか?」

 

 外から聞こえてくる物音に医療用コンテナから出てきた奏の姿に、二人の翼が反応する。

 

「なんとかな。妙なドリンクだの注射だの治癒能力だのしこたま食らったしな」

「色んな治療法があちこちから持ち込まれたからな。よほどの事がない限りなんとかなるらしい」

「サイボーグ手術とかクローン手術とかしなくて済んでよかったわね」

「………そんなのする予定だったのか」

 

 かなり強引な治療に奏が首を鳴らしながら具合を確かめるが、翼の説明に紗羅檀が余計な事を追加して奏の顔が引きつる。

 

「とにかく、急いでんだろ? こっちの司令の許可は出ている。だったら早く行こうぜ」

「………ありがとう。それでは奏を少し借りていく」

 

 奏の申し出に未来の翼が頷くと、過去の自分へと声をかける。

 

「大丈夫………なの?」

「余計な事はさせない。惑星フェアリィへの通路を開くだけだ」

「相当派手な作戦なんだろ? 手伝ってもいいぜ」

「いえ、奏さんを借りる以上、ちゃんと返さないと悪いですし」

「つう訳でその間これ頼む」

「ふご~~!」

「………え?」

 

 あくまで最低限の援護を申し出る未来の装者達だったが、未来のクリスが足元の過去の自分を指差した所で過去の翼の表情が凍りつく。

 

「その、どうすれば………」

「とりあえずアンパンでも食わしときゃ大人しいと思うから」

「むぐ~~!」

「本当に?」

 

 表情がこわばったままの過去の翼が、まだ抵抗している過去のクリスにどう接するべきか迷う。

 その視線に気づいた過去のクリスが、睨み返そうとすると、その時になってやっと目の前の翼が二入いる事に気づく

 

「むが?!」

 

 何度も二人の翼を交互に見比べた過去のクリスが、今度は未来のクリスへと視線を向け、更に暴れ始めた。

 

「む~! むぐぐ~!」

「あ~先輩見て更に混乱したか。自分も二人いるし、他にも二入いるしじゃな~」

「司令のオッサンも二人連れてくるか?」

「奏さん、それは勘弁してあげてくださいよ」

「本当に大人しくなるのか? なぁ?」

「なに落ち着けば、素直になるさ。頼んだぞ、過去の私」

「そういや、装者が調整中の除いて六人いるって話だけど、あと三人はどうしてんだ?」

「もう一人の装者の救出に向かっている」

「向こうもそろそろ終わったか?」

「無事だといいんだけど………」

 



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第二次スーパーロボッコ大戦 XD編(if) EP10

 

 アメリカの有る地、ある秘密研究施設に禍々しい咆哮が響き渡る。

 施設内は緊急事態を示すレッドアラートと共に、咆哮の主が暴れる振動が響いてきていた。

 

「ネフィリムの出力は未だ不安定。やはり歌を介さずの強制起動では完全聖遺物を制御出来る物ではなかったのですね」

 

 その咆哮の主の制御を試みる女性が、沈痛な表情で背後の方を見る。

 そこにはまだ幼さを残す二人の少女がいた。

 それを見たショートヘアの少女が、決意して口を開く。

 

「私、歌うよ」

「でも、あの歌は…!」

 

 もう一人のロングヘアの少女が困惑した顔で止めようとする。

 しかし相手はそれを笑みで返した。

 

「私の絶唱で、ネフィリムを起動前の状態にリセット出来るかもしれないの」

「そんな賭けみたいな…もしそれでもネフィリムを抑えられなかったら!」

 

 更に強く制止しようとするロングヘアの少女に、ショートヘアの少女は首を小さく振る。

 

「その時は、マリア姉さんがなんとかしてくれる。F.I.S.の人達もいる。私だけじゃない。だからなんとかなる」

 

 そうショートヘアの少女、セレナ・カデンツァヴナ・イヴはロングヘアの少女、セレナの姉のマリア・カデンツァヴナ・イヴに宣言する。

 

「セレナ………」

「ギアをまとう力は私が望んだ物じゃないけど、私の力で皆を護りたいと望んだのは私なんだから」

 

 そう言うとセレナは咆哮の元、暴走を続ける異形の完全聖遺物・ネフィリムに対峙するべく、その身ににアガートラームのシンフォギアを纏う。

 そして禁じられた歌を歌おうとした時だった。

 

「その必要は無いわ」『INFINITTE CRIME!』

 

 突然背後から響いた凛とした声と共に、無数の短剣がネフィリムへと突き刺さる。

 

「誰!?」

 

 思わず振り返ったセレナの目に、自分と同じアガートラームのシンフォギアを纏う女性の姿が飛び込んでくる。

 

「まさか………マリア姉さん!?」

「そう、私はマリア・カデンツァヴナ・イヴ。八年後のね」

「え………」

 

「間違いありません! アガートラームの反応がもう一つ出現しました!」

「どういう事!?」

 

 オペレーターの報告に、その場の責任者のナスターシャ・セルゲイヴナ・トルスタヤは激しく困惑する。

 

「マム! あれ見てあれ!」

 

 マリアの視線は、妹の背後に立つ謎のシンフォギア装者に注がれるが、その相手がこちらを見て微笑んだ事に愕然とする。

 

「あ、あれひょっとして私!?」

 

 その相手が自分そっくり、ただし明らかに成人女性のそれである事にマリアは完全に混乱していた。

 

「一体何が起きているの!?」

「取り敢えず後なのデス」

「マム達はすぐに退避して」

 

 そこで新たに響いた声に皆が振り向くと、そこに新たに二人のシンフォギア装者がいるのに気付く。

 

「まさか、貴方達、暁 切歌に月読 調!?」

 

 それが先日シンフォギア装者候補としてパッチテストを受けた少女達の二人、ただし明らかに成長している姿にナスターシャも困惑する。

 

「あ、分かっちゃったデスか?」

「マム、ここは私達に任せて退避を」

「あ、あの…」

「ほら昔のマリアも早くデス」

「後は未来の私達がなんとかするから」

「未来?」

「そ、私達は八年後から来たのデス」

「セレナを助けるために」

 

 

 聖詠と共に、大人のマリアがアームドギアを振るい、ネフィリムを攻撃する。

 強烈な一撃に、ネフィリムの口から絶叫が迸る。

 

「ほ、本当にマリア姉さんなの?」

「ええそうよ。下がってて」

 

 困惑するセレナをかばうように、大人のマリアが前へと出る。

 

「ど、どうして大人になったマリア姉さんが私のアガートラームを…」

「これは形見よ、ここで死んだ貴方の」

「え…」

 

 大人のマリアの言葉に、セレナは更に困惑を深める。

 

「私達は未来からその運命を変えるために来たの。だから、ずっと言いたかった事を今言うわ」

 

 大人のマリアは、記憶通りのまだ幼さの残る妹を背に、万感の思いを込めてその言葉を叫ぶ。

 

「助けに来たわよ、セレナ!」

 

 

「何だ、何がどうなっている!」

 

 ネフィリムの起動実験を半ば強行させた軍の将校と政府要人が、突然の謎の装者達の出現に困惑する。

 

「ここは退避を…」

「貴重な完全聖遺物だぞ! その結果を見ずに…」

 

 退避を促すスタッフに、将校の一人が怒鳴り返した時だった。

 突然轟音と共に天井が吹き飛ぶ。

 

「今度は何だ!?」

「馬鹿な、この施設はそう簡単に…」

「はい、見学はそこまで」

「すぐにこの場から退避を勧告する」

 

 天井の大穴から、こちらを見る真紅のスーツの少女とその傍らの小さな人形のような物に、そこにいた者達は絶句する。

 

「き、貴様何者だ!」

「私はトリガハートTH44 FAINTEAR」

「私は武装神姫戦車型MMS ムルメルティアだ」

「マリアから一応あんたらも命だけは助けてやれって言われてね。で、逃げるの逃げないの?」

 

 虚空に浮かぶ謎の少女フェインティアからの退避勧告に、居並ぶ者達はどう反応すべきか迷う。

 

「だ、誰が貴様のような素性の知れない奴に!」

「あっそ、じゃあこっちで勝手に退避させるわね。ガルクァード!」

 

 虚勢を張るように拒絶する将校をフェインテァイはつまらなそうに見ると、随伴艦に指示を出し、天井の大穴から突如として飛び込んできたアンカーがそこにいたVIPを根こそぎキャプチャー、そしてスイングすると同じく天井の大穴から外へとリリースしていく。

 

「ぎゃああぁぁぁぁ…」

「うわああぁぁぁ…」

 

 悲鳴が遠ざかっていくのを、その場に残されたスタッフがポカンとした顔で見ていた。

 

「あの…」

「大丈夫、ちゃんと受け止める準備はしてるから。死にさえしなければ手足の一、二本折れる位は許容範囲でしょ。ともマリアは言ってたわ」

「マリアちゃんが、そんな事…」

「妹見殺しにした相手に其れ位で済まそうってんだから優しいわね。ほら貴方も逃げた逃げた」

「は? セレナちゃんが見殺しって………貴方は一体………」

「味方よ、マリア達のね」

「こちらムルメルティア、邪魔者は投棄した。作戦を次のフェイズへ」

「今邪魔者って………」

「他に何だっての?」

 

 あまりに酷いVIPへの扱いに唖然としながらも、残ったスタッフも退避を開始した。

 

 

『切呪リeッTお!』

『α式・百輪廻!』

 

 切歌と調の放った鎌の刃と丸鋸がネフィリムへと突き刺さる。

 

「皆強い………」

「下がってセレナ!」

 

 未来から来た装者達の戦闘力の高さに、セレナが絶句してる所に、大人のマリアが更にセレナを下がらせようとする。

 

「セレナ!」

「マリア姉さん!」

 

 そこに過去のマリアが現れ、セレナが駆け寄るのを見た大人のマリアが仰天する。

 

「ちょ…貴方も退避しなさい! と言うか今ここで貴方まで何かあったら困るのよ!」

「ホントに私だ………」

 

 慌てる大人のマリアに、過去のマリアが呆然として見る。

 

「二人とも早く逃げなさい! でないと、セレナはここで死ぬわ!」

「ほ、本当に?」

「本当みたい」

 

 まだ困惑している姉妹に大人のマリアは更に退避を促そうとするが、そこへ別の人影が現れる。

 

「マリア、セレナ!」

『マム!』

 

 部下を退避させたナスターシャが過去のマリアとセレナを退避させようとした所に、その場にいた全員に呼ばれて思わず硬直する。

 

「マムも早く逃げるのデス!」

「でないと酷い怪我して眼帯車椅子になる」

「え………」

 

 ナスターシャも一瞬困惑するが、すぐに納得した顔になる。

 

「未来から来た、という話は本当のようね」

「ええ、他にも色々と」

『マリア、邪魔者は排除したわ。次のフェイズに』

「OK!」『EMPRESS REBELLION!』

 

 マリアはアームドギアを蛇腹剣へと変化、本来ならそれを鞭のように扱う技を何故か直線、しかもネフィリムではなくその頭上へと突き刺す。

 

「離れるデス!」

「天井を崩落させるの!? その程度では…」

「いいから早く!」

 

 切歌と調が退避を促した直後、突然天井が上から崩落どころか吹き飛ぶ。

 

「何が…」

 

 ナスターシャはそれが何者かの外部からの攻撃と悟るが、直後崩落した穴から二つのアンカーが飛び込んでくる。

 

「え?」

 

 全く予想外の事にセレナが思わずきょとんとした直後、アンカーはネフィリムをキャプチャー、そのまま一気に穴から外へと引きずり出していく。

 

「今の何!?」

「トリガーハートのアンカー艦の攻撃。大丈夫、仲間の物よ」

 

 過去のマリアが大人のマリアに思わず問うが、あっさり答えた所でネフィリムの後を追って外へと出ようとして足を止める。

 

「マム、一応言っておくけど、ネフィリムは破壊するわ」

「破壊? 完全聖遺物を?」

「出来るだけの連中が来てるんデス」

「変わったのばかりだけど」

 

 それだけ言うと、三人の装者は天井に開いた穴から飛び出していく。

 残された三人は、あまりの展開の早さに呆然としていた。

 

「信じられないけれど、たしかにアレは未来のマリアのようね………」

「タイムスリップ? そんな聖遺物あるの?」

「それにあの妙なアンカーみたいなのは………」

 

 イヴ姉妹が困惑する中、ナスターシャは僅かな思考で判断する。

 

「とにかく退避を。彼女達はセレナを助けるために来たのだけは確かよ」

「けれど…」

「安全距離を取って見極めましょう。恐らく、ただセレナを死なせない以上の理由があるはず」

 

 ナスターシャに促され、三人はとにかくその場を後にする。

 

「一体、未来の私は何をしてるの?」

 

 過去のマリアの呟きが、現状をもっとも的確に言い表していた………

 



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第二次スーパーロボッコ大戦 XD編(if) EP11

「目標確認しました」

「ホントにぶん投げたんだ………」

「予定通りね。ネット展開!」

「一応落とさないように!」

 

 予定のポイントで待機していたソニックダイバー隊の指示に従い、ソニックダイバーレスキュー隊がネットを広げ、こちらに向かっってくる人影を待ち受ける。

 

「来るぞ、確保!」

 

 瑛花の号令と共に、飛んできた人影がネットにキャッチされていく。

 

「人数全員確認しました」

「怪我も無いね、一応加減はしてたみたい」

 

 可憐が人数を確認し、ヴァローナが負傷も無い事を確認する。

 

「君達は何者だ!? その武装は見た事も無いぞ!」

「我々は人類統合軍ソニックダイバー隊の者です。シンフォギア装者のサポートに来ました」

「どこの部隊だ! 聞いた事も無いぞ!」

「でしょうね。この世界の部隊じゃないもの」

「どういう意味だ!?」

 

 いきなり文字通り投げ捨てられたVIP達が見たこともないソニックダイバーを見ながら声を荒げるが、ソニックダイバー隊を有る者は肩をすくめ、有る者は少し困り顔をする。

 

「我々の任務は、ネフィリムとの戦闘から貴方方を守る事です。戦闘終了までここで大人しくしてもらいたいのですが…」

「終了だと? 君達は完全聖遺物を鎮められると言うのか!?」

「一応それなりの戦力は整えてきてるから」

「まさか他にもシンフォギア装者がいるのか!?」

 

 瑛花とエリーゼの説明にネットの上でVIP達は騒ぎ立てるが、どう言えば納得するかを皆悩む。

 

「あの、一条教官…」

「どうかした?」

「その、一人…」

 

 そこでソニックダイバーレスキュー隊の一人がネットの中央、うずくまっていると思っていた将校の一人が何かもがいているのを指さす。

 

「一人はまってます………」

「ちゃんとネットの状態確認した?」

「レスキュー用の新品です。持ってくる前に確認しました」

「あ~、落ち方まずかったんじゃない?」

「それでもこうすっぽり行くかな~」

 

 瑛花も見事にはまっている将校を見ながら首を傾げ、音羽とヴァローナが首から先が見事にはまっている将校を見ながら同じく首を傾げる。

 

「どうする? これなら静かだけど」

「そういう訳にもいきません。誰か手伝ってください」

 

 エリーゼは放置を進言するが、可憐がなんとか引っ張り出そうと風神でもがいている将校の足を掴む。

 

「じゃあ私がもう片方を」

「注意してください。ソニックダイバーのフルパワーだと足が千切れかねませんので」

 

 ソニックダイバーレスキュー隊の一人がもう片方の足を掴むが、可憐の注意に足を掴まれた将校が何かわめくが生憎とくぐもって詳細は聞こえない。

 その将校が投げられる前に一番文句を言っていた、更には本来はセレナの死に暴言を言い放った相手だとは知りもしないまま、二機のソニックダイバーがその足を引っ張る。

 

「出力を最弱で維持してください。出ないと足を握り潰しかねないので」

「難しいですね………」

「あれ、何かひっかかって?」

「首しまってないよね?」

「肌の色変わってないから大丈夫じゃない?」

 

 音羽とヴァローナが引っ張られている将校の状態を確認するが、身体的に異常は無いが、なぜかネットから抜けない。

 

「これ、で!」

 

 業を煮やしたレスキュー隊の一人が出力を不用意に上げた瞬間、異音が響き渡る。

 軍服のズボンが引き裂ける音と共に、ベルトでもひっかけたのか、ついでにパンツもボロキレとなったズボンと共に宙を舞う。

 

「キャ~~~!」

「うわあ…」

「ちょっと!?」

「す、すいません!」

 

 いきなりの事態にその場を悲鳴が飛び交い、瑛花の叱責と謝罪も飛ぶ。

 それでも将校の首は抜けなかった。

 

「お前ら!」

「申し訳ありません、予想外の事故で…」

「何やってんのよ………」

 

 ほかのVIP達も声を荒げ、瑛花が頭を下げる中、様子を見に来たフェインティアが妙な状態になっている事に呆れる。

 

「仕方ない、ネット切ろう」

「オーニャー、間違って生身切らないようにね」

 

 なるべくさらされている物を見ないように反対側に回り込みながら、音羽がMVソードを抜き、ヴァローナもWA666アマラジェーニを構える。

 

「動かないでくださいね~」

 

 警告しながら音羽がMVソードをネットに突き刺すと、いきなり生えてきた切っ先に将校が激しくもがく。

 

「わあ! 動かないで! 危ないから!」

「一度黙らせる~?」

「どうやって!?」

「きゃあああ! すごく暴れてる!」

「ちょっと音羽!」

 

 もがくのに合わせて揺れるのを見て再度悲鳴が上がる中、フェインティアがあきれ顔のままもがく将校へと近寄る。

 

「父さんが言ってたわ。詰まった時は押し込めばいいのよ」

 

 フェインティアはそう言い放つと、片足を持ち上げ、何のためらいもなくもがく将校の尻を思いっきり踏みつける。

 鈍い音と共に、将校の体が少しめり込み、もがいていた両足が硬直したかと思うと、そのまま全身が弛緩する。

 

「意外とうまくいかないわね」

「もう一度だマイスター」

「ストップ! ストップ!」

「それ以上はいけません!」

「あ、抜けた」

 

 動かなくなった将校に向けて再度足を持ち上げたフェインティアと促すムルメルティアをソニックダイバー隊が慌てて止める中、力が抜けたせいか将校の首がやっとネットから抜ける。

 

「だ、大丈夫かな?」

「た、多分………」

「一応、そっちは踏んでないわね」

「お尻って痛覚が集中してるらしいけど?」

 

 ソニックダイバー隊が恐る恐る完全に動かなくなった将校の無事を確認する中、フェインティアは自前のセンサーで一応問題が無い事を確認する。

 

「じゃ、私向こうに戻るから」

「少しダメージで失神しているだけのようだ。問題ない」

「いや、あの…」

「多分そいつよ、セレナに暴言吐いたって奴」

「じゃあいいかな~?」

 

 踵を返すフェインティアとムルメルティアに音羽が何か言おうとするが、続いての一言にヴァローナが小首をかしげる。

 

「とにかくこっちはどうにかするから、気を付けて」

「トリガーハートの武装もどこまで有効か分かりませんし」

「ソニックダイバーじゃ相手出来ないだろうしね」

 

 ソニックダイバー隊から見送られながら、フェインティアは目にも止まらぬ高速でFIS施設へと向かっていく。

 

(とんでもない連中が来た………)

 

 その場に残されたVIP達の心中はその一言で一致していた。

 

 

「ターゲットキャプチャー!」

「なんてパワー!」

 

 アンカー艦でネフィリムを文字通り引きずり出したクルエルティアとエグゼリカは、暴れるネフィリムをなんとか虚空に固定しようとする。

 

「さすがは完全聖遺物、トリガーハート二機がかりでも抑え込むのが精いっぱい………!」

「お願いします!」

 

 もがくネフィリムをなんとか固定する中、エグゼリカは同じく宙で待ち構えた者達に叫ぶ。

 

「総員構え!」

 

 居並ぶマイスター乙HiME達の中央に立つ五柱が一人、ナツキの号令で全員が一斉に長い槍のような武装を構える。

 

「放てぇ!」

 

 号令と同時に、全てのマイスター乙HiME達が構える武装、マイスター乙HiMEの力をわざと不安定にさせる事でダメージを通す新兵器≪ノイズブレイカー≫のエネルギー弾がネフィリムに次々直撃し、ネフィリムの口からすさまじい絶叫がほとばしる。

 

「効果有り! 次の…」

「撃ちまくるのよ! あんなグロテスクな怪物!」

「それには賛成。下手したら腕食い千切られるって言うし」

 

 ナツキが次の号令を出すより早く、ハルカの声とナオの声が重なり、砲撃が連続して放たれる。

 

「一応指揮官は私なのだが…」

「でも一切手加減せずに全力って言われてましたし」

「飽和攻撃は妥当だと思います」

 

 思わずボヤいたナツキに隣にいたアリカとジュピジーがフォローしつつも、攻撃の手は緩めない。

 次々と炸裂するマイスター乙HiMEの攻撃にネフィリムは絶叫を上げ、束縛するアンカーから逃れようとさらに激しくもがく。

 

「なんて奴! これだけ攻撃してるのに!」

「見た目程ダメージが与えられていないのかもしれん。もしくは耐久力が異常なのか………」

「確かすごいタフだって聞いて…あ!?」

 

 出力ならNORN内でも有数のマイスター乙HiMEの飽和攻撃を食らってもまだもがいているネフィリムにハルカが思わず悪態をつき、ナツキが状況を監察しようとするが、そこでアリカの攻撃がネフィリムがもがいた拍子にアンカーに直撃、キャプチャーが外れてしまう。

 

「しまった…!」

「なんとか保持を…」

 

 アンカーに誤射されたエグゼリカがアンカーを再度操作しようとし、クルエルティアが残ったアンカーでなんとか固定しようとするが、ネフィリムは残ったアンカーを強引に己の体の一部ごと引き千切って脱出、落下していく。

 

「逃げたわよ!」

「攻撃中止! 下を巻き込む! 地上部隊に一任しろ!」

 

 ナオが思わず地上に落ちていくネフィリムにノイズブレイカーを向けようとするが、ナツキが慌ててそれを制止させる。

 

「追います!」

「皆さんはそのまま待機を!」

「分かった! ノイズブレイカーのダメージを確認! 再攻撃にそなえろ!」

 

 トリガーハート二機がネフィリムを追う中、ナツキが再攻撃の準備を指示する。

 

「やはり早々予定通りにはいかんか………」

 

 ナツキの呟きは、さらなる困難をもって上書きされる事を、知る者はいなかった………

 



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第二次スーパーロボッコ大戦 XD編(if) EP12

 

「落ちてきたデス!」

「やはりそうそう都合よくはいかないようね………」

「来る!」

 

 上空から落ちてくるネフィリムに向けて、装者達は構える。

 轟音と共に着地か墜落か分からない状態で落ちたネフィリムだったが、舞い上がった土煙から即座に飛び出し、装者に襲い掛かろうとする。

 だがそこに二つのアンカーが飛来し、ネフィリムを食い止める。

 

「データ通り………!」

「させません!」

 

 ネフィリムはエネルギーの補充のため他の聖遺物、つまりシンフォギアを狙うと知っていて警戒していたクルエルティアとエグゼリカが、もがくネフィリムをなんとか抑え込もうとするが、空中と違い地面を駆け回ろうとするネフィリムの力は予想を超えていた。

 

「データ以上………!」

「抑えきれない!」

 

 随伴艦の出力を上げるクルエルティアとエグゼリカだったが、そこに独特の起動音が響いてくる。

 

「Feuer!」

 

 ドイツ語の号令と共に、一斉砲撃がネフィリムへと叩き込まれる。

 砲撃の主、Bismarck級 1番艦 ビスマルクを先頭に陸戦ストライカー改造型艦娘用陸戦ユニットを装備した呉鎮守府艦娘達が一斉に攻撃を加えていく。

 

「攻撃の手をゆるめるな!」

「分かっとる! 艦載機のみんな、お仕事お仕事!」

 

 砲弾再装填の間に、龍驤型1番艦 龍驤を中心に艦上戦闘機が次々ネフィリムへと襲い掛かるが、砲撃と違って艦上戦闘機の銃撃は左程効いてはいなかった。

 

「やはりあの程度では無理か…!」

「爆撃機出すで!」

 

 ビスマルクが生半可な攻撃が効かない事を悟り、龍驤が再度艦載機を発進させるべく巻物を広げるが、そこでネフィリムのすさまじい咆哮が響き渡る。

 いかな効果が有ったのか、至近で食らった艦載機がバランスを崩し、墜落する物まで出ていく。

 

「なんや!?」

「威圧でこれか………艦載機も距離を取れ! 聞いてた以上の怪物だ! こちらも射程ギリギリに…」

 

 ネフィリムの潜在能力を危険視したビスマルクが部隊を下がらせようとするが、そこで周囲を見回したネフィリムがある方向を見るとアンカーを強引に引きはがしてそちらに猛ダッシュを始める。

 

「今度はどこに…」

 

 龍驤がネフィリムの向かう先に視線を向け、そこにいる人影に気付く。

 

「あかん!」

 

 

「こっちに来る!」

「セレナ!」

 

 距離を取ってネフィリムとの戦闘を見ていたセレナ達の元に、すさまじい勢いでネフィリムが向かってくるのに気付いたセレナは逃走は不可能と判断して臨戦態勢を取る。

 

「ダメよセレナ…」

「おっと、そいつは待った」

 

 ナスターシャが制止しようとするが、そこで突然セレナの背後から声をかけられたかと思うと、セレナの顔の両脇を何かが高速で通り抜ける。

 

「え…」

 

 その通り抜けた物が二本のマシンアームだと気付いたのは、マシンアームが向かってくるネフィリムを抑え込んでからだった。

 

「く、なかなか………だが!」

 

 自分の背後から聞こえる声にセレナが振り向くと、そこにいる褐色の肌に眼鏡をかけた長身の女性がいる事にやっと気付く。

 

「これでも食らえ!!」

 

 そのまま長身の女性はマシンアームを操作し、驚異的なパワーでネフィリムを持ち上げたかと思うと、そのままネフィリムをぶん回し始め、十分に回転が付いた所で上空へとぶん投げる。

 

「全砲照準! 撃てぇ!」

 

 さらにそこでマシンアームと一緒に彼女が装備していた大砲が一斉発射、空中で回転しながらもがくネフィリムに直撃させる。

 

「すごい………」

「やはりいいなこれ、艤装に正式につけてもらうか?」

「自重を考えるでありますよ。ただでさえ海と勝手が違う陸上用艤装なのに、こんな無茶苦茶な追加艤装付けてるの貴女だけであります。こんなのつけて海上に出たら速攻で沈むでしょう」

 

 ネフィリムをぶん投げた女性に続き、学生服に似た陸軍制服姿の女性が現れる。

 

「貴方達は…」

「呉鎮守所属、大和級二番艦の武蔵だ」

「特種船丙型 揚陸艦 あきつ丸であります。貴方方、特にセレナ殿の警護が我々の任務であります」

 

 マリア(小)の問いかけに、武蔵とあきつ丸は名乗る。

 

「あんたの大きい方の姉さんは手が離せないからな。今回の私の仕事はあの怪物が向かってきたら投げ返す事だ」

「投げ…」

「む、目標まだ健在! 武蔵殿の大戦艦おろしを食らってまだ動けるとは!」

「予想の範疇だ。もっと離れるぞ! 次弾装填急げ!」

「ささ、博士もこちらに!」

 

 武蔵がセレナとマリア(小)をまとめて抱き上げると艦娘用陸戦ユニット(戦艦用特大)で後方へと下がり、あきつ丸はナスターシャの退避を促す。

 

「一体あの子達は、未来で何をしてるの?」

「それは当人達から聞いてほしいであります。説明が極めて難しいものでして………」

 

 

「またこっち来るデス!」

「追い返すのには成功したようね」

「やっぱりあの技どこかで見た事あるような………」

 

 セレナを、正確には彼女のアガートラームを狙ったネフィリムが武蔵に投げ返されるのを見た装者達が、改めて臨戦態勢を取る。

 

「目標は再度装者を狙ってくる! 包囲陣を展開!」

「これ重いし遅くてイヤなんやけどな」

 

 ビスマルクの指示で艦娘達が装者を中心に反包囲をしこうとするが、海上と違って陸戦機動に苦労する。

 

「来た!」

 

 装者達に襲い掛かろうとするネフィリムだったが、そこへ再度アンカーが今度は三つ飛来し、ネフィリムをキャプチャーする。

 

「捕らえた!」

「今度こそ逃さない!」

「もちろんよ!」

 

 エグゼリカ、クルエルティアに戻ってきたフェインティアも加わり、もがくネフィリムを完全にキャプチャーする。

 

「攻撃!」

 

 マリアの号令と同時に、シンフォギア、艦娘、更には上空のマイスター乙HiMEの攻撃が一斉にネフィリムへと叩き込まれていく。

 

「攻撃の手を休めないで! 過剰って事は全くないわ!」

「了解した! 撃ちまくれ!」

「攻撃範囲に留意! 巻き込むなよ!」

 

 マリア、ビスマルク、ナツキの指示が飛び交う中、アームドギア、砲弾、ノイズブレイカーの攻撃が矢継ぎ早にネフィリムに撃ち込まれ、すさまじい咆哮も砲声に半ばかき消され、立ち上る爆炎がその姿を覆いつくす。

 

「だんだん当たってるか分からなくなってきたデス!」

「声がわずかに聞こえる、つまりまだ生きてる」

「もっとよ!」

 

 すさまじい攻撃の応酬に、ネフィリムの姿が見えなくなってきているが、わずかに聞こえるネフィリムの絶叫に向かって装者達も攻撃を放ち続ける。

 

「なんてタフな…!」

「姫級より上ちゅう話はホントやな! 軽巡以下の奴は下がるで!」

 

 戦艦クラスの主砲を何発も撃ち込んでいるのにも関わらず、未だ爆炎の中に蠢く影にビスマルクは歯噛みし、龍驤は用心して部隊を一部退避させる。

 

「あんた達、どいてなさい!」

 

 上空で業を煮やしたハルカが、懐から大統領承認と刻まれた金色のキーのような物を取り出す。

 

「何でしょうか?」

「さあ?」

 

 ジュピジーとアリカが首を傾げる中、ナツキは半ば直感で叫んだ。

 

「総員退避~~!!」

 

 

 ネフィリムとの激戦が続く研究所の上空、マイスター乙HiME旗艦となっている空中戦艦の中で乙HiMEのマスター達が望遠やトリガーハート、武装神姫などからリアルタイムで送られてくる戦闘映像を見ていた。

 そこでハルカが何かを取り出したのを見た彼女のマスター、エアリーズ共和国大統領、ユキノ・クリサントの顔色が変わる。

 

「ハルカちゃん、それは我が国の最新機密兵器! すぐにこの場から退避を! 防御態勢を…」

「そんなにまずい物なのかの?」

 

 同乗していたマシロが訪ねる中、映像でハルカが黄金のキーを上空にかざすと、そこから光が上空へと延び、その先で何か巨大な球体のような物が形成されていく。

 

「まさか、あれがエレメント………」

「あんな巨大な!?」

「退避、退避だ!」

 

 それがマイスター乙HiMEの常識からも外れた、とほうもなく巨大なエレメントだと気付いた他のマスター達も慌てる中、空中戦艦も退避を始める。

 

「何であの中将はいつも力任せなのだ!」

「あれでも一応セーブしてるんです………」

「そちらのも似たような物だぞ?」

 

 マシロも慌てる中、ユキノはうなだれるが同じくマスターとして同乗していたミコトに呆れられる。

 そんな中、巨大な球体がすさまじく巨大な輝くトゲ鉄球へとなっていくのを見ながら、ミコトは呟く。

 

「効けばよいが………」

 



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第二次スーパーロボッコ大戦 XD編(if) EP13

 

『総員退避~~!』

 

 響いてきたナツキからの通信に、下にいた者達は上空を確認しながらも踵を返す。

 直後、上空に出現していく巨大な球体に有る者は呆気に取られ、有る者は顔をしかめる。

 

「何だありゃ?」

「マイスター乙HiMEのエレメントであるようでありますが………」

 

 武蔵とあきつ丸が上空を見ながら、段々形を成していく輝く巨大トゲ鉄球に呆れていた。

 

「その、大丈夫なんですか?」

「なんかすごく威力がありそうな………」

 

 武蔵の両腕に抱えられたセレナとマリア(小)も上空の巨大エレメントを見ながら、武蔵の移動速度の遅さを懸念していた。

 

「安心しな、ちゃんと対策してる」

「来たであります!」

 

 武蔵が笑みで返す中、あきつ丸の声に甲高い音が重なる。

 こっちに向かってくる高速の影にセレナとマリアが驚く中、その影は直前で急停止する。

 

「目標確認!」

「セットを!」

 

 急停止した二機の機影、紅椿をまとった箒と白式・改をまとった一夏が、準備していたハンガーユニットからキャプチャーワイヤーを伸ばし、武蔵とあきつ丸はそれぞれにそれで艤装と自らを固定、更に武蔵はセレナとマリア(小)、あきつ丸はナスターシャも固定する。

 

「しっかり掴まってろ」

「かなり早いでありますから」

『え?』

「行くぞ!」

 

 訳の分からぬ中、固定された三人が反論する間もなく、固定を確認したIS二機が急発進、高速でその場を離脱していく。

 

「うわああぁ!?」

「ひゃああ!」

 

 姉妹の悲鳴が飛び交う中、ナスターシャだけはISを冷静に観察していた。

 

「そのサイズにしてはすごい出力ね」

「ISって言います。なんでかオレ以外は女性にしか使えないんですけど…」

 

 ナスターシャの疑問に一夏が答える中、ナスターシャは他にも同様に未来の装者や艦娘達が待機していたらしいISに運ばれて離脱しているのを見ていた。

 

「最新ISが緊急離脱の運び屋とはな………」

「仕方ないさ、ISの攻撃はあの怪獣に効かないみたいだし」

「それで、アレは効くの?」

「さらに大きくなってきたような………」

 

 箒と一夏がボヤく中、少し落ち着いたセレナとマリア(小)が上空の巨大トゲ鉄球を見つめる。

 

「さあな、一つ言える事は最大防御!」

 

 武蔵が声と同時に腕の中の姉妹を抱きしめ、あきつ丸もナスターシャをかばい、二機のISは防御に全エネルギーを回す。

 

「来るぞ!」

 

 

「友軍機、安全圏まで撤退確認!」

「上空、攻撃来ます!」

「じゃあ、パージ!」

 

 ネフィリムをキャプチャーしたまま、友軍の退避を確認したトリガーハート達は、一斉にアンカーをリリース、NORNでも有数の速度で一気にその場から離脱する。

 突如として自由になったネフィリムだったが、己の頭上に輝く巨大なトゲ鉄球に気付くと威圧するように咆哮するが、向こうは怯みすらしなかった。

 

「これでも食らいなさい! ゴルディオン・メテオ!!」

 

 ハルカが気合と共に、マイスター乙HiMEの常識から見ても桁外れの巨大なマテリアルを振り落とす。

 振り下ろされた巨大マテリアルは凄まじい速度で加速していき、迎撃しようとしたのか待ち構えていたネフィリムに直撃、そのまま地面へと激突し凄まじい振動と衝撃波を周辺に轟かせる。

 程なくして、解き放たれたエネルギーと土埃がその場に巨大なキノコ雲を形成していった。

 

 同時刻、アメリカのみならず周辺諸国で観測された不自然な地震波にすわ核攻撃かと大騒ぎになるが、程なくして放射線の類が検出されない事が大きな謎となった。

 

 

「来るわよ!」

「総員防御!」

 

 ソニックダイバーが密集し、直後に吹き抜ける衝撃波からネットから降ろされたVIP達を守る。

 

「何だ、何が起きている!」

「まさか、核攻撃か!?」

「さっきの巨大な光球はなんだ!」

 

 混乱するVIP達だったが、衝撃波が止んだ所で研究所の辺りに発生した巨大なキノコ雲に呆然とする。

 

「き、貴様らまさかアメリカ国内で核攻撃を!?」

「安心してください、核兵器じゃありません」

「放射線は全く検出されてませんから」

 

 混乱する相手に、瑛花と可憐がセンサーデータなどを開示しながら説明する。

 

「また派手にやったわね~」

「大丈夫かな………」

「一応味方は全員避難してるよ~」

 

 エリーゼと音羽がキノコ雲を見上げながら呟くが、ヴァローナが全員の無事を確認する。

 

「これだけやったらさすがに効いたわよね?」

「聖遺物というのは、現状物理学から一部ずれた所が有りますから、何とも………無傷という事は無いでしょうけど」

「お、お前達本当にネフィリムを倒すつもりなのか!?」

「あれは合衆国の所有する数少ない完全聖遺物で…」

「は~い、落ち着いて~」

 

 ソニックダイバー隊の会話に猛抗議するVIP達に、ヴァローナがどこかから取り出したスプレーを噴射し、それを吸った者達がバタバタと倒れて寝息を立て始める。

 

「催眠ガス………貴方達一体何のために………」

「私達の目的はセレナ・カデンツァヴナ・イヴの保護とその障害となるネフィリムの撃破。そのための準備は十分にしてきました」

「そもそも人食いの怪獣なんて飼っててもいい事ないんじゃない?」

 

 あまりに用意周到過ぎる相手に、残ったVIPが問うてくるのを瑛花は端的に答えるが、音羽はそれを混ぜ返す。

 

「響腕食べられたんだっけ? その後生えてきたらしいけど」

「正確にはシンフォギアを装者ごと食べようとするらしいけど」

「悪趣味極まりないわね」

「あ、影響収まってきました。データ来ます」

 

 

 巻き上げられた土煙が徐々に晴れていき、その場にある巨大なクレーターが露わになっていく。

 

「うわぁ………」

「また派手にやったな」

 

 退避していたマイスター乙HiME達が戻りつつ、その有様を見て呆然としていた。

 

「研究所が跡形もあらしまへんな」

「一応避難は完了していたから人的被害は無いが」

 

 シズルとナツキが完全に風景が変わってしまった事に半ば呆れる。

 

「あら、残ってるわね」

 

 そこでそのクレーターの中央、直撃地点のど真ん中にネフィリムがまだいる事にナオが気付く。

 だがその体は各所が千切れ飛び、地面に押しつぶされて微動だにしなかった。

 

「ちっ、出力が足りなかったようね」

「あれ以上上げたら、クレーターどころか地殻変動起こしかねんぞ………」

 

 まだ相手が残っている事にハルカが舌打ちするが、ナツキはさすがに危険すぎる武装に警告する。

 

「総員、距離を取りつつ包囲! 乙HiMEの攻撃では倒しきれないかもしれん!」

「やっぱりシンフォギア装者じゃないとあきまへんか」

 

 ナツキの指示でマイスター乙HiME達が用心深くネフィリムを包囲し、そこで退避した時と同様にシンフォギア装者と艦娘(※用心して戦艦クラスのみ)がISに釣られて戻ってくる。

 

「あれだけの攻撃食らってまだ生きてんのか………」

「確かにこれはこっちの手には負えないな」

「気持ち悪~」

 

 専用機持ち達も愕然とする中、更に多重に包囲が完了していく。

 

「アレで決着が付いたら楽だったデスが」

「元々アレは予定に無かった」

「さすがにここまで更地にする予定もなかったのだけど………」

 

 装者達が完全に地形が変わってしまった事に呆れながらも、止めの準備に入ろうとするが、そこでセレナに呼び止められる。

 

「あの、マリア姉さん」

『なに?』

「その、大きいマリア姉さん」

 

 マリア×2に返答され少し言い直したセレナは、ネフィリムを包囲している面々を見てから口を開く。

 

「一体未来で何をしてるの?」

「色々、そう色々有ったわ………」

 

 セレナからの問いに、マリアは酷く遠い目をする。

 

「せめてこの人達は何なのかだけでも知りたいのだけれど」

 

 ナスターシャも問う中、マリアは言葉を選ぶ。

 

「今、この人達と一緒にエイリアンと戦ってるわ」

『何があったの!?』

 

 マリアからの返答に、幼い姉妹は全く同じ言葉を思わず叫ぶ。

 

「簡単に言えば全くその通りなのデス」

「そのエイリアンの母星に行くのに、セレナの力が必要」

「………私にも全く話が見えてこないのだけれど」

「マムには後からマムが説明するのデス」

「未来の私も来てるの?」

「とにかく後、今は…」

 

 注意深く装者が三方に分かれる。

 そしてそこで胸元のイグナイトモジュールを手に取る。

 

「イグナイトモジュール、抜…」

 

 切り札のイグナイトモードを装者達が発動させようとした時、ネフィリムが僅かに動いた事に気付いた者は極僅かだった………

 



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第二次スーパーロボッコ大戦 XD編(if) EP14

 

「イグナイトモジュール、抜…」

 

 イグナイトモジュールを発動させようとした瞬間、瀕死状態だったはずのネフィリムが今までで最高の速度で跳ね起き、マリアへと襲い掛かる。

 

(しまっ…)

 

 まさかそこまで動けるとは思わなかったマリアは反応が遅れ、ネフィリムが巨大な顎を開いて食らいつこうとする。

 だが直前、ネフィリムを横から弾き飛ばした者がいた。

 

「このぉ!」

「アリカ!?」

 

 ネフィリムが僅かに動いた事に気付き、マリアに襲い掛かろうとした瞬間とっさに反応出来たアリカが、全力でぶつかる事で何とか軌道をそらす。

 だがネフィリムは咆哮を上げながら、再度マリアに襲い掛かろうとする。

 

「まだ動けるのか!」

「攻撃を…」

「ダメだアリカにも当たる!」

 

 ようやく反応した者達が得物を構えるが、襲い掛かろうとするネフィリムをアリカが必死に抑え込むため、逆に手が出せない。

 

「こいつ! 大人しく…」

 

 瀕死とは思えない力強さで暴れるネフィリムを抑え込もうとするアリカだったが、ネフィリムの圧倒的なパワーの前にはあまりに困難だった。

 

「アリカ離れろ!」

「ダメです! 今離れたら!」

 

 ナツキが何とかネフィリムを狙うためアリカに退避を促すが、今まで以上に狂ったように暴れ狂うネフィリムを開放するのは危険と判断したアリカは離れようとしない。

 

「切歌! 調! イグナイトは中断! もっと弱らせて…」

 

 イグナイトモジュールを一度戻したマリアがアームを構えた時だった。

 ネフィリムは今まで一番の咆哮を上げ、アリカを振りほどいて大きく跳ね上がる。

 

「逃げ…」

「攻撃を…」

 

 包囲から一気に飛び出すような予想外の行動に全員が攻撃しようとした時、ネフィリムの目的を悟った。

 

「セレナ!!」

「だめえぇ!」

 

 ネフィリムの目的が、包囲の外から様子を見守っていたセレナだと気付いたマリアが絶叫する中、アリカも後を追って飛び出す。

 

「この…」

「くっ!」

 

 護衛についていた武蔵のマシンアームとあきつ丸の艦載機を強引に弾き飛ばし、ネフィリムは一気に迫る。

 

「え…」

「セレナ!」

 

 最大限に顎を開き、セレナをシンフォギアごと飲み込まんとするネフィリムからマリア(小)がかばおうとするが、死の顎が届くより早く、アリカが追いつく。

 

「セレナちゃんから、離れろ~!」

 

 アリカが叫ぶと同時に、まとっていたローブがピンクから蒼へと変化、結んでいた髪がほどけて広がっていく。

 アリカの切り札、≪蒼天≫モードがマスターの認証も無しに発動し、ネフィリムを後ろから抱え込んだアリカの体が一気に加速する。

 

「こいつを、遠くへ! 遠くへ!」

 

 ネフィリムを抱えたままアリカは更に加速。

 幼い姉妹の頭上を飛び越え、そのまま強引に弧を描きながら、上空へと向かっていく。

 

「なんて速度だ!」

「蒼天モードだ、我々でも追いつけん!」

「IS以上だ………」

「でもどこに向かっているデス?」

 

 アリカとネフィリムの姿がどんどん小さくなっていくのを、誰もが呆然と見送る。

 

「恐らく、ネフィリムが私達に手出しできない場所へ」

「それってつまり………」

「宇宙空間?」

 

 装者達も全く予想していなかった展開に、ただもはや蒼い光としか認識出来ないアリカを見守るしかなかった。

 

 

「こ、の!」

 

 もはや半狂乱としか言いようのない暴れ方をするネフィリムをアリカは抑え込もうとするが、そこですでに己が重力から解放されかかっている事に気付く。

 

(ここなら! でも私だけじゃこいつを倒せない………)

 

 マイスターローブの保護機構で成層圏でも活動出来るアリカは、最早大気もほとんど無い状態でも暴れるネフィリムをどうすべきか考える。

 

「どうにか、こいつにもっとダメージを!」

 

 もがき続けるネフィリムに弾き飛ばされそうになりながら、必死になって抑えようとする。

 弾かれながらも片手は外さず、強引に背中合わせになって逆さになったネフィリムの四肢を抑え込んだ時だった。

 

『RECOGNITION NEW SKILL』

 

 突然蒼天の青玉がその体勢を技として認識、同時にそれからどうするかを表示させていく。

 

『CREATOR LENA SAYERS。INPUT SKILL NAME』

「お母さんの技!?」

 

 くしくも、その体勢はかつて最高クラスのマイスター乙HiMEとしてその名を轟かせたアリカの母、レナ・セイヤーズがある強敵を撃破した時と全く同じだった。

 

「分かったお母さん! 食らえ、ブルーヘブン・ドライバー!!」

 

 顔に渾身の笑みを浮かべ、アリカはネフィリムを固定したまま、上昇に用いた加速を今度は急降下へと変更する。

 アリカとネフィリムは再度体に掛かる重力を糧に更に降下速度を増していき、その体が炎に包まれてもアリカは加速を落とそうとしない。

 

「行っけえぇ!!」

 

 

「降下を確認、更に加速中!」

「音速を軽く超えてる! 総員退避よ!」

「またか!」

「マイスター乙HiMEってのはこんなのばかりか!」

「いや、そういう訳では………」

 

 火の玉となって落ちてくる両者を確認したトリガーハート達の警告に、全員が再度落下予想地点から退避を行う。

 

「あのような速度で落ちてあの人は大丈夫なのですか?」

「恐らくは。アリカの母親が似たような事をやったと聞いた事が有る」

「親子そろってやらなくても………」

 

 再度吊られて退避しながらのナスターシャの至極当然な質問に、隣のナツキが説明すると、マリア(小)もある種当然の反応をする。

 

「来るぞ!」

「防御態勢!」

 

 着地、というか激突寸前で皆がシールドを張ったり防御の構えを取る中、すさまじい速度でネフィリムが地面へと叩きつけられた。

 再度研究所跡地に轟音と衝撃波が吹きすさび、巻き上げられた土砂が巨大なキノコ雲を形成していった。 

 

 再度アメリカのみならず周辺諸国で観測された不自然な地震波に、今度こそ核攻撃かと(以下略)

 

「………何か予定とだいぶ違うデス」

「仕方ないよ切ちゃん、やっぱりネフィリムは強いし」

「それを力技でねじ伏せてるけれどね………」

 

 装者達は当初の複数チームによる飽和攻撃からのトドメという予定が大幅に狂いつつ、ついでに周辺の被害も人的被害以外は予想を大幅に上回っている中、とにかく様子を確かめるべく落下地点へと向かう。

 ようやく土煙が晴れていく中、巨大なクレーターの中央でネフィリムを完全に決めているアリカの姿が現れる。

 逆さの状態で音速超過で叩きつけれたネフィリムは大きく体をひしゃげさせ痙攣していたが、やがてその口から大量の血液のような吐しゃ物を吐き出し、動かなくなった所でアリカは手を放す。

 そこへ落下の衝撃で巻き上げられたのか、研究所のパイプか何かの金属片がそばに落ちてきて、甲高い音をゴングがごとく響かせる。

 

「………ノックアウトなのデス」

「パーフェクトな、ね」

「まだよ」

 

 完全に動かなくなったネフィリムを見た切歌と調が頷くが、マリアは警戒しながらクレーターの中に降りる。

 

「あ、マリアさん! やりました! これ母さんの作った必殺技です!」

「すごい威力ね、けど離れてて。崩壊しないって事は、まだ完全に倒してはいないわ」

 

 蒼天モードから元の状態に戻ったアリカがはしゃぐ中、マリアは冷静にネフィリムを観察する。

 

「え、これで!?」

「聖遺物の破壊は長期の経年劣化以外は難しいのよ、特にこいつは強度と再生は他の聖遺物を遥かに上回っている。技術班の破壊装置は効きそうにないからこんな手を取ったのだし」

「わ、分かりました」

 

 慌てて離れるアリカを見送ると、マリアはアームを構える。

 

「待ってマリア姉さん!」

 

 そこへ戻ってきたセレナがクレーターの中へと降りてくる。

 

「私にもやらせて」

「………そうね、行くわよ」

 

 最後は己の手で、決意したセレナに微笑みながら、姉妹はアガートラームのアームを同時に構える。

 

『『SERENADE!』』

 

 姉妹の声と同時に、長大化した刃がネフィリムへと突き刺さる。

 二つの刃が深々と突き刺さったネフィリムは一度大きく痙攣したかと思うと、その体がゆっくりと崩壊していった。

 

「終わったわ、これで」

「そうだね………」

「セレナ!」

 

 大きく息を吐くマリアと頷くセリアの元に、マリア(小)がクレーターを滑り降りると駆け寄ってくる。

 

「大丈夫!?」

「ええ、ネフィリムは完全に破壊出来たみたい」

「まさか本当に倒せるなんて………」

 

 驚いている昔の自分とようやく実感が湧いてきたらしいセレナを見ていたマリアが、微笑してから口を開く。

 

「それじゃあ、ここからが本題なんだけれど」

「本題?」

「少しの間、セレナを貸して欲しいの」

『え?』

 

 突然の話に、幼い姉妹は同時に疑問符を浮かべた………

 

 



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第二次スーパーロボッコ大戦 XD編(if) EP15

 

「これが現在私達が置かれている状況です」

 

 ほぼ荒野とクレーター×2だけとなった研究所跡地に臨時設置されたキャンプで、現在NORNの置かれている説明がされていた。

 

「信じられない、と言いたいけれど、他でもない証拠が目の前にあっては信じざるを得ないわね」

「ええ、そうでしょう」

 

 真剣な顔をするナスターシャが事情を説明していた人物、他でもないもう一人のナスターシャを見て呟き、そのもう一人のナスターシャ、隻眼に車椅子姿の彼女も頷く。

 

「本当なら、今日ここで私はこうなるはずだったのだから。ついでに言えば、内臓も幾つか人工臓器に交換してるわ」

「だが、結果だけ見れば完全聖遺物の破壊に研究所の破壊、大問題だぞ!」

 

 避難から戻ってきたVIPの一人が思わず声を荒げる。

 

「仕方あるまい。それだけ厄介な相手だったのは周知でなかったのか?」

 

 同じく事情説明に参加していたナツキが苦言を呈するが、それでも人的被害以外の損害にVIP達は険しい顔をしていた。

 

「犠牲者が出ない事に苦慮した結果だ」

 

 呉鎮守府の杉山提督が威圧的に断言するが、それでもVIP達の顔色は晴れない。

 

「話から察すれば、装者の絶唱で封じられたのではないのか?」

 

 何故か下半身に上着を巻いた将校の話に、NORN側の者達の表情が険しくなるが、そこでその将校の首根っこが掴まれ、持ち上げられる。

 

「つまりそれは、あんな小さな子の命と引き換えにしてもいいって事か?」

「そ、それは結果論だろう!?」

 

 杉山提督のそばに控えていた武蔵が、片手で将校を持ち上げて(艤装解除済み)問うが、相手は躍起になって反論する。

 

「その結果を変えるために私達は来たのです」

「だがそれがこの被害だぞ! 抑え込めるならば…」

「子供達に人体実験を行ってまでか?」

 

 まだ反論する将校に、杉山提督は鋭い視線を向ける。

 

「ノイズの脅威に対抗するためだ! 装者を増やせる物なら幾らでも…」

「…提督」

「少し静かにしてもらおう」

 

 段々暴言がひどくなってくる将校に、武蔵が杉山提督に視線を向けると、杉山提督が許可を出す。

 すぐに武蔵が将校の首だけでなく襟元を掴む。

 

「なんだ脅しには…」

「大・戦・艦おろし~!!」

 

 次の瞬間、将校の体は武蔵の手によって猛回転の後、天高く放り投げられる。

 絶叫を上げる暇も無く、将校の体がVIP達の視界から消える。

 

「さて、では続きを」

「ま、待て!? お前達は脅迫に来たのか!?」

 

 続けようとする隻眼のナスターシャに、残ったVIPが慌てだす。

 

「下手な交渉は無意味だと体験済みですので」

「だ、だがこれは…」

「ぁぁぁああああ!」

 

 そこへ落ちてきた将校の声が地面に激突する直前、アンカーがその体を地面ギリギリで止める。

 

「やっぱりこうなったのね」

「股間程度では無意味だったようだな、マイスター」

 

 前もって何か飛んで行ったらそうするよう言われていたフェインティアとムルメルティアが恐怖で泡を吐きながら失神している、しかも下半身に巻いていた上着もどこかに飛んで行って丸出しの将校を適当に放り投げる。

 その向こうでは、完全に廃墟と化した研究所を、マイスター乙HiME達が中心となって解体していた。

 

「ホントに壊していいんですかこれ?」

「そういう指示よ、残してたら人体実験されるし」

「いっそ更地にしろとも言われてるしな」

 

 アリカがエレメントを手に廃墟を木っ端みじんにしていき、ナオも同じようにする中、用意していた図面を見ながら指示をしていたビスマルクも頷く。

 

「………どうやら相当未来でひどい事が有ったようね」

「ええ、それはもう………」

 

 二人のナスターシャが、どうやら全く容赦するつもりのないらしいNORNの面々に思わず顔を見合わせる。

 

「そういう訳で、ネフィリムを破壊したついでにセレナを貸してほしいと」

「ええ、こちらで使う聖遺物の発動に装者が多く必要で」

「一応その間、こちらで試作の対ノイズ兵装も貸し出すそうだ」

「かなり取り扱いは慎重にせねばならないそうだがな」

 

 ナスターシャに続き、ナツキと杉山提督もあれこれ説明していく。

 

「もし、彼女の貸し出しを許可しないと言ったら?」

「そん時は勝手に連れてくだけだ。あんな小さな子を見殺しにする連中にこれでも遠慮してるぞ?」

 

 VIPの一人が釘を刺すが、そこへ武蔵が手を鳴らしながらその釘を強引にたたき返す。

 

「言ったはずです、下手な交渉は無意味だと体験したと。これでもかなり譲歩しているのですよ?」

「手っ取り早く人員だけ退避させて浸食兵器を使用するという手も有った。まあ結局はあまり結果は変わらなかったようだが」

「人的被害は出なかったのなら悪い結果ではないだろう」

 

 かなり勝手な事を言うNORN指揮官達にVIP達は内心冷や汗をかいていた。

 

(とんでもなくヤバい連中だ………)

(装者一人引き渡すだけで帰るならそうすべきか?)

(だが研究所がこれでは後の事が…)

 

 思い悩むVIP達だったが、そこで外から凄まじい轟音と振動が響いてくる。

 

「な、なんだ!?」

「おっと、もう迎えが来たか」

 

 VIP達が驚いて周辺を確認する中、ナツキは冷静に時間を確認する。

 轟音と共に、巨大な艦影が間近まで迫ってくると停止する。

 

「なんだアレは!?」

「あれもお前達のか!?」

「エアリーズ共和国所有の超弩級潜砂空母《スズシロ》だ。我々の帰還用に用意しておいたのだが」

「あんな物まで所有してるのか!?」

「アレでもNORNの所有している母艦の中では中規模だ。もっと巨大な宇宙戦艦も保有しているらしい」

「う、宇宙戦艦だと………」

 

 ナツキと杉山提督の説明に、VIP達は完全に絶句する。

 

「い、いいだろう。セレナ・カデンツァヴナ・イヴの一時出向を許可しよう………」

「ご理解ありがとうございます」

「理解していると思っているのか?」

「理解しない方が今後のためでしょう。常識の中に生きていたいなら」

 

 隻眼のナスターシャが礼を述べ、苦い顔のVIPが嫌味を返すが、杉山提督が鋭い視線で反論する。

 

「それじゃあ、話は付いたって教えてくる」

「ええ、頼むわ。私は私ともう少し話が有るから」

 

 ナツキが交渉か脅迫か分からない結果を知らせに行く中、二人のナスターシャは険しい顔で対峙する。

 

「さて、少しこれからの話をしましょう。ここで歴史を改変した以上、あなたはこうならないのだけど」

「安心、していいべきかどうか悩むわね」

「ええ、取りあえずは…」

 

 

「そういう訳で、そのJAMってエイリアンの母星に行くのに、装者が最低9人必要になったという訳よ」

「よく分からない………」

「そうだね………」

 

 マイスター乙HiMEの母艦である空中戦艦、元はヴィントブルーム王国で死蔵されていた宇宙船を改造した物の艦内で、シャワーを浴びながらマリアは過去の自分と妹に現状を簡潔に説明する。

 

「ま、そうでしょうね。私だって正確には理解してない、というかNORN内部でもJAMの考えてる事なんて理解出来る人は極々少数よ。文字通り正真正銘のエイリアンなんだから」

「そんなのと戦ってるんだ………」

「人間のそれとは根本的に違うけれど意思を持った相手だからね。ノイズよりもはるかに厄介よ。色んな世界の組織が団結して、ようやく決戦間近まで持っていけたんだから」

「それで、そのフェアリィとかいう星へのゲートを開くために聖遺物と装者がいるのね」

「そう。まさか過去に行く事になるとは思わなかったけれどね。でも、パラレルとは言え願いが叶ったわ」

 

 なんとか頷く姉妹に、シャワーを浴び終えたマリアが優しく微笑みかける。

 

「必要なのはギャラルホルンの発動まで。その後にセレナはすぐに返すわ」

「大きいマリア姉さん、大丈夫なの? そんなエイリアンの星なんて………」

「多分ね。見たでしょ? 色んな世界から色んな戦士が集まってるの。無論シンフォギア装者もね。それに、せっかく助けたんだから、また危険にさらす事はしたくないの」

「そう言うなら………」

「マリア~、話ついたそうデス」

「一人投げただけで納得してくれたって」

「………投げた?」

 

 シャワールームの外から切歌と調の知らせに何か不穏な単語が混じった事にセレナが首を傾げる。

 

「セレナの一時出向を上も認めてくれたようね」

「その、投げたって………」

「大丈夫、ちゃんと受け止めてるはずだから」

「こっちのマムが話し合いは無意味だろうって断言してたデス」

「前にひどい目に有ったって」

 

 セレナが自分が死んだ後に姉達に何が有ったのかが全く想像出来ずにいる中、ふとそこでこちらの姉がやけに静かな事に気付く。

 そして、マリア(小)がシャワー上がりのマリアの肢体を凝視している事にも。

 

「え~と、こっちのマリア姉さん? 何を…」

「これが、未来の私………」

「どうかした?」

 

 過去の自分の視線に気付いたマリアも首を傾げるが、そこでマリア(小)がいきなり拳を握りしめガッツポーズをする。

 

「よし、美人だ!」

「………ちょっとそこの私、言っておくけれどこのプロポーション、維持に大分苦労してるからね?」

「カップラーメンの食い過ぎに注意デス」

「注意してるのにたまに勝手に食べてるし」

「い、いいじゃないたまには!」

 

 マリアが過去の自分に注意するが、そこで切歌と調の突っ込みに思わず赤面する。

 

「とにかく、帰る準備だそうデス

「セレナは何か準備有るなら早めにだって」

「準備って言っても………」

「研究所消し飛んじゃったしね………」

 

 セレナとマリア(小)が戦闘の余波で消し飛んだ研究所、クレーターにはならなかったが明らかに使用不能となっていそうなダメージの居住棟とそこにあった私室を思い出す。

 

「大丈夫、うまく行けば数日で帰れるわ」

「何か有っても追加の装者はすぐ帰す事になってるデス」

「あんまり離れると因果律がどうこうって」

 

 着替えながらシャワールームの脱衣所から出てくる三人にあれこれ説明するが、幼い姉妹は微妙に首を傾げる。

 

「ともかく、私はそのギャラルホルンとかいう聖遺物の起動を手伝えばいいのね?」

「そう、それだけ。そのために私達は来たんだからね」

「もう一人の方は対ノイズ戦力の過半数を投入したのデス」

「こっちは質とサポート重視したって」

「どれだけノイズと戦える人いるの………」

「他にも色んな世界の敵とも戦ってきたからね」

 

 ネフィリムと戦っていた色んな戦士達を思い出しながら呟くマリア(小)にマリアはウインクする。

 

「さて、それじゃあ戻って最終決戦の用意よ!」

 



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第二次スーパーロボッコ大戦 XD編(if) EP16

 

「こちらα―1、当該地域に到着。これは………」

 

 国内で発生した謎の地震波と爆発現象らしき物、そしてその地域に政府の機密施設が有るためにその確認にスクランブルしたアメリカ空軍の戦闘機パイロットが、眼下に広がる光景に絶句する。

 

『α―1、報告を』

「それが………施設らしき物はほとんど残ってない! 馬鹿でかいクレーターが二つある! しかもなんだあれは!? まさか陸上空母か!?」

『………α―1。何を言っている?』

「本当だ! 当該地域に見た事も無い陸上艦らしき物が…」

 

 オペレーターから正気を問われる声にパイロットが思わず声を荒げる中、物音が響く。

 まるでノックするような音にパイロットが思わずそちらを振り向いた時、そこにあり得ない物を見た。

 確認のために最高速ではないとは言え、戦闘機と並列して飛ぶパワードスーツをまとった黒髪の少女の姿を。

 

「!?」

『あー、聞こえてますか? こちらはすぐに撤退します。見えている物は気にしないでください。繰り返します、見えている物は気にしないでください』

「!!?!?!?! 直通回線? コードも送ってないのに、どうやって!?」

『どうしたα―1! 報告を!』

「あ、アイ〇ンマンスーツをまとった少女がすぐ隣を飛んでいる!!」

 

 混乱して声にならない声を上げたパイロットにオペレーターが問い質す中、パイロットが見たままを報告する。

 

『…今そちらの脳波モニターを確認中。もう一度報告を』

「まさか、そんな!」

 

 混乱したパイロットは機体を加速、音速を突破せんとするが、パワードスーツをまとった少女は平然と並列についていき、パイロットは更に機体を上下左右に揺さぶるが相手はまるで張り付いたかのように同調して飛んでみせる。

 

『落ち着いてほしい。だからこっちは今撤退するから、見なかった事に………』

 

 並列していた少女、箒は紅椿で戦闘機から離れずに相手に警告をしていたが、キャノビー越しにも相手が混乱しているのが見て取れた。

 

『だからとっとと帰れって言ってるでしょ!』

 

 箒が視線を移すと、そこでは同じく確認に来た戦闘機に、フェインティアが張り付いて警告していたが、向こうも同じく混乱しているのがそのデタラメな飛び方で分かる程だった。

 

『帰還準備出来たわ。二人とも戻ってきて』

「了解」『了~解』

 

 真下にいる潜砂空母スズシロから届いたマリアからの通信に、箒とフェインティアは返信すると戦闘機から離れて降下していく。

 

「まさか撃ってこないよな?」

「あの程度の技術レベルならなんとでもなるでしょ」

 

 こちらが離れた事で動きが落ち着いてきた戦闘機を見送りながら、二人はスズシロへと着艦する。

 甲板上で二人を出迎えたマリアが用心して周囲を見回す。

 

「これで全員ね。忘れ物とか無いわよね?」

「恐らくは」

「まだちょびっと残ってるとこも吹っ飛ばしとく?」

「あそこは通常倉庫区画だから問題無いわ。それにここまでやったらこれ以上は必要ないだろうし」

「やり過ぎるのも問題が…」

 

 そこで残っていた区画もダメージが有ったのか、話の途中で崩落していく。

 

「………やり過ぎたかしら」

「幼い妹を助けるのにやりすぎという事はないだろう」

「人的被害は出てないし。まあ一人アレになってたけど」

「あの人ならまあいいわ。むしろ少しはマトモになってるでしょう」

 

 二度ほどぶん投げられ、しかも下半身裸のまま放置されている将校がいた気もしたが、構わず皆が艦内へと入っていく。

 

「派遣人員プラス一名の総員搭乗を確認」

「上空マスター艦の転移準備完了を確認」

「さあ帰ってカチコミの準備よ!」

「だからなぜお前が仕切る………」

 

 スズシロのブリッジでクルー達が準備を進める中、ハルカが腕組みして気合を入れるのをナツキが呆れる。

 

「向こうもなんとかうまく行ったらしいな」

「そりゃ、あれだけ人員割り振ったらそうなるでしょ」

「いや、かなりギリギリだったそうだ。切り札まで投入したらしい」

「あらそう。まあこっちも少し危なかったからね。アリカは後でほめとかないと」

「程ほどにな。あいつは調子に乗りやすすぎる」

 

 ハルカとナツキがあれこれ言う中、着々と帰還準備が進んでいく。

 

「帰還準備完了」

「転移座標入力」

「転移装置起動します」

 

 武装神姫も協力して転移装置が起動、転移ホールへとスズシロが進んでいく。

 

「後始末くらいは任せてもいいだろうな」

「大分始末しておいたからね」

 

 後は丸投げする事にして、NORNはその場から去っていく。

 その後、正体不明の大規模戦闘跡に合衆国上層部が大混乱に陥る事になった。

 

 

 

 人気の無い霊園の一角にある墓地に、そっと花束が捧げられ、線香の煙が棚引く。

 それらを墓前に供えた者は、その場で手を合わせて黙祷する。

 その者の後ろで同じように黙祷していた者がそっと手を下ろして声を掛ける。

 

「奏、そろそろいいか」

「ああ、無理言ってすまなかったな」

「構わない。けれど………」

 

 墓前にいた者、奏が背後にいた翼に振り返りながら小さく詫びる。

 翼は頷きながら、目前の墓の方を見る。

 こちらの世界の、天羽 奏の墓を。

 

「一応こっちの私に話通しておこうと思ってな」

「そうか、すまない。最近忙しくて私も来れてなかったからな」

「今の仲間とうまくやれてるなら、それが一番だ。こっちの私もそれが一番心配だったろうからな」

「………そうだろうか」

「自分の事は自分がよく分かってるよ」

 

 笑みを浮かべつつ、奏は翼の肩を叩く。

 

「さて、戻って最終決戦の準備だな」

「だからギャラルホルンの発動まででいい。何かあったらそっちの私に申し訳が立たないからな」

「そうか………まああんだけ仲間がいれば大丈夫、か?」

「ああ、見た通り変わったのばかりだがな」

「他の連中から見りゃこっちもそうだろ」

「違いない。こちらが一番最初に接触した奴は、いきなり宝石なぞ出してきたぞ」

「どんな金持ちだよ………」

 

 色々と話し込みながら、二人はその場を後にする。

 見送るように線香の煙が二人の後を追うようになびいていた。

 

 

 

 香坂財団の保有するある惑星に、NORNの保有する全戦力が終結していた。

 

「すごい………これ全部?」

「そ、私達の味方。こうやって見ると壮観ね」

 

 各組織の母艦、陸上艦、空中艦、水上艦、宇宙艦その他などが一堂に並ぶ光景に、セレナは絶句し、マリアも頷いていた。

 

「これから行く所には、これでも足りるかどうか分からないデス」

「セレナはその前に帰って。危ないから」

 

 切歌と調の説明に、セレナは小さく頷く。

 

「この間の戦い見ても、私じゃ足手まといみたいだし………」

「セレナはそのままでいいわ。こっちで開発した対ノイズ兵器を幾つか置いてきといたし」

「ちょっと強力なのが問題デスが………」

「対ノイズ用ディストイーションガントレットは風鳴司令しか使えなかったし」

「そろそろだぞ」

 

 あれこれ話す四人に、背後から翼が声をかける。

 その先にはステージが設置され、その中央に次元を渡る力を持つ聖遺物『ギャラルホルン』がセットされ、そこから複数の機器に繋がっているのが見えた。

 

「起動準備、完了しました」

「目標座標入力、いつでも行けます」

 

 準備を進めていた技術班のスタッフ達が最終確認をする中、装者達はステージへと昇る。

 

「わざわざステージまで作ったのか?」

「いや最初から付いてた」

「最初から?」

 

 奏の疑問への翼の答えに、セレナも首を傾げる。

 今装者達のいる場所、香坂財団所有の異世界調査交流用戦闘艦《ギャラクシー・フロイライン号》の甲板上には、他にもやたら派手な装飾が施されており、まるでコンサート会場その物だった。

 

「作らせたお嬢様の趣味らしいぜ。船首に自分の像つけた奴」

「まあ、私達の参加も彼女が尽力してくれたおかげだけれど」

「………どういう人?」

「今あそこで仁王立ちしてるぞ」

 

 何か妙な仕様に奏とセレナが疑問に思うがクリスに言われて振り返ると、ブリッジでバトルスーツ姿の香坂 エリカがエレガントソードを床に突き立てるような形で仁王立ちしているのが見え、二人とも見なかった事にする。

 

「全員準備できているか?」

 

 そこへ弦十郎が隣にシンフォギアをまとった小日向 未来を連れて訪れる。

 

「こちらはいつでもいけます」

 

 翼の報告に、弦十郎は頷く。

 

「よし最終確認だ。現在ここにいる装者9名によってギャラルホルンを起動、惑星フェアリィを覆う次元障壁を無効化させる。その後先遣隊が突入、マーカーをセットしている間に奏とセレナ君は元の世界に帰還してもらう。未来君はギャラルホルン防衛のために攻撃隊には加わらず、この場にて待機。質問は?」

「ホントに加勢しなくていいのか? 確かに仲間はいっぱいいるみたいだけど………」

 

 奏の質問に、ギャラルホルン周辺のチェックをしていた紗羅檀が答える。

 

「因果律の問題よ。ただでさえ過去の改変で違う世界線を作った上に当事者を連れてきてるんだから、早く元の世界に戻らないと、最悪因果律の乱れでそっちの世界が消失しかねないそうよ」

「そうなのか!?」

「それなら確かに早く戻った方が………」

 

 奏とセレナが驚く中、弦十郎が更に追加する。

 

「あと未来君は装者としてはギリギリの調整しかしていない。前線に出るには難しいから防衛に務めてもらう事になっている」

「技術班と医療班のリーダーが両方厳しくてな。奏のような無茶は絶対させてくれない」

「LiNKERの再現も安全重視を徹底してたしね」

 

 翼とマリアも唸る中、その場にいた全員の通信機がアラームを鳴らす。

 

「時間だ」

 

 弦十郎の一言に、装者達は頷くとその口から聖詠が紡がれる。

 そしてその身にシンフォギアをまとった九人の装者が、勢ぞろいする。

 

「始めよう、立花」

「はい!」

 

 翼に促され、まずは響が聖詠を紡ぎ、その旋律に一人、また一人と装者達が聖詠を重ねていく。

 それに応じるようにギャラルホルンが鳴動、光を帯びていく。

 聖詠の輪唱は更に高まり、ギャラルホルンが眩く輝いていく。

 そして九つの歌声が頂点まで高まった時、ギャラルホルンから閃光が放たれ、虚空へと延びていったかと思うと、そこに突如として穴のような物が穿たれる。

 閃光は放たれ続け、虚空の穴は更に大きくなっていく。

 

「次元障壁弱体化進行中!」

「虚数空間固定装置起動!」

「座標確認、急げ!」

 

 技術班が忙しく動き出す中、とてつもなく巨大になった虚空の穴の向こうに、一つの惑星が露わとなる。

 

「座標確認! 惑星フェアリィに間違いありません!」

「先遣隊を…」

 

 目的地へのルートが確認されると同時に、一機の戦闘機と一機の戦闘妖精が突入していく。

 

「あの二人が行ったという事は、間違いないようだな」

 

 弦十郎がもっともJAM殲滅に燃えている二人が先遣隊に行った事を確認する中、装者達は聖詠を終えて視界の先に有る惑星フェアリィを見つめる。

 

「あれが………」

「JAMの本拠地、惑星フェアリィか」

「さあて、何が待ち受けてんのか」

 

 口々に呟く中、翼は奏に、マリアはセレナに振り向く。

 

「じゃあここまでだ」

「送迎はあちらに準備してるから、そっちの私によろしくね」

「翼」「マリア姉さん」

 

 何かを言いたい相手に翼とマリアは背を向ける。

 

「ここからは私達の戦いだ。短い間だが、話せてよかった」

「そうね、けどこれ以上独占する訳にはいかないしね」

「………そっか、頑張れよ」

「無茶しないでね………」

 

 決戦に赴こうとする相手に、奏とセレナも短く別れを告げると、その場を後にする。

 

「それじゃ、行きましょう!」

 

 響の声を皮切りとしたように、各母艦が順次発進していく。

 数多の世界を巻き込んだ激戦の、最後の戦いの幕が今上がろうとしていた………

 

 

This story is END



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第二次スーパーロボッコ大戦 XD編(if) EP X

 

「………おや?」

「あれ?」

 

 奏とセレナは、自分達が不可思議な場所にいる事に気付いた。

 

「ここは………」

「どこでしょう?」

 

 惑星フェアリィに決戦に赴く者達を見送りながら、元の世界への帰路についたはずの二人は、不規則な光の明滅する空間に居り、今自分が浮いているのか立っているのかもはっきりしなかった。

 

「まさか、帰るのに失敗か?」

「そんな!?」

「大丈夫とは言ってたはず………?」

 

 首を傾げる奏と慌てるセレナだったが、そこでふと気配を感じる。

 

「誰かいるのか!?」

 

 奏はとっさにセレナをかばい、いつでもシンフォギアをまとえるように身構える。

 

「誰かいるんですか~?」

「あっちだあっち!」

「どっちだ?」

 

 光の明滅で遠近感が掴みにくいが、近寄ってくる声に敵意が無さそうな事に奏は少し警戒を解く。

 やがて互いの姿を確認した所で、現れた三人組の少女が驚いた顔をする。

 

「あれ、奏?」

「ホントだ! って、そっちの小さい子………」

「ひょっとして、セレナちゃん?」

 

 現れた三人、全員が制服姿でこちらを知っているらしい事に奏とセレナは顔を見合わせる。

 

「すまないが、こっちはそっちを知らないんだが………」

「え? シンフォギア装者の奏とセレナ………だよね?」

「あ、ひょっとして更なるパラレル?」

「こっちを知らないって事は、そうかな?」

「なるほど、私じゃない私を知ってるって事か」

「じゃあ改めて、私は安藤 創世」

「板場 弓美」

「寺島 詩織と言います」

「私達はこっちの世界で、シンフォギアとは違う対ノイズ武装、メックヴァラヌスの竜姫をしてる」

「けど、何か急に妙な霧の竜巻みたいのに飲まれて………」

「気付いたらここに」

「やられたな、確かJAMは霧の竜巻でパラレルワールドを渡るって聞いた」

「じゃあ、私達も?」

 

 話を聞いた奏が顔をしかめ、セレナは小首をかしげる。

 

「JAM? なんだそれ?」

「ああ、多分そっちともこっちとも違うシンフォギア装者が戦ってた宇宙人だとさ」

「宇宙人!? 何宇宙人と戦ってるの!?」

「響さん達が?」

「そこでそいつらの母星に殴り込みかけるのに、装者が足りないからって呼ばれてな」

「影響を最小限にするのに、ルートが開けるの手伝ったら後は帰っていいって言われて帰った、はずなんですけど………」

「はあ~、似たようなので色々やってんだな~」

「待った。じゃあ私達も宇宙人と戦うの?」

「どう戦えばいいんでしょう………」

『いえ、その必要は有りません』

 

 互いの事情に色々困惑するシンフォギア装者とメックヴァラヌス竜姫だったが、そこに響いてきた声に周囲を見回す。

 

「誰だ!」

「敵? 味方?」

『心配ありません。私は皆さんの味方です』

 

 思わず警戒する中、彼女達の前に光が集ったかと思うと、それは一つの形となった。

 

「あ、確かエグゼリカさん?」

「いえ、私はイグゼリカ。光の救世主の一人です」

「光の救世主?」

「そういうのもいんだと。こっちの響はその光の救世主とやらの一人で、もう一人と一緒に巨大ロボットででかいノイズと戦ってたぜ」

「巨大ロボット!?」

「いいなそれ………」

「話を続けてよろしいでしょうか?」

 

 何か脱線する話をイグゼリカはなんとか元に戻す。

 

「ここは世界と世界の狭間。どこにも存在していない場所です。私が皆さんをここに導きました」

「どうしてだ? JAMとやらが何かしでかしたか?」

「はい。先程奏さんから聞いたでしょうが、多次元侵略体JAMとその対抗組織、NORNは惑星フェアリィで決戦を迎えようとしています。JAMに決戦の概念その物が有るかは謎ですが」

「まさか、私らもそれに加わるの?」

「いいえ」

 

 創世が自分を指さすが、イグゼリカはそれを否定する。

 

「実はJAMの一部が惑星フェアリィの決戦とは別に行動を起こしているらしいのです」

「別行動?」

「はい。ある惑星を完全に次元隔離し、NORNとは違う存在の方々を転移させているらしいのです。皆さんはギリギリで私がこちらに誘導したので、それを逃れました」

「おいおい、まだ他にもいるのかよ」

「残念ながら、すでに転移させられた方々は私の力では干渉不可能です。幸運なのは、JAMのほとんどが惑星フェアリィの決戦に集結しているので、その惑星にいるのはそれほど多くないようなのですが………」

「ギャラルホルンでも持ってくるか? つっても装者が足りねえか」

「はい。皆さんはここから元の世界に帰ってもらいます。私の力ではそれが限度なので………」

「宇宙人と一緒に別の星に閉じ込められるのは勘弁してほしいな………」

「有ったね、そんな映画」

「有りましたっけ?」

「だけど、それだともう転移された人達を助ける方法はないんですか?」

「勘弁うんぬんはともかく、助けなくちゃいけない連中がいるなら・・」

 

 装者達とと竜姫達の覚悟を決めた視線にイグゼリカは、困った表情の笑みを返す。

「その気持ちはありがたいです。でも、JAMのこれ以上の異世界の干渉を避けるには、関わるメンバーは少ないに限るのです。そして、それは私の役目」

「そうか・・」

「うん・・・」

 

 イグゼリカの強い視線に装者達と竜姫達は、自分達の次の言葉を飲み込んだ。

 

「皆さんを戻した後、私はここからなんとかその惑星の観察を試みます。何か出来るかもしれませんので」

「そっか。あんま無理するなよ」

「はい。それではそろそろ」

「あ、もう?」

「もうちょっと話を聞きたかったけど………」

「あまり長居する所ではなさそうなので」

 

 少し残念がるメックヴァラヌス竜姫達の前に、世界を繋ぐ渦のような次元ホールが出現する。

 

「そこから元の世界に戻れます」

「分かった。じゃあ、機会が有ったらまた会えるかもな」

「そっちでも頑張ってください」

「そっちもな~」

 

 次元ホールに入っていく三人を見送った所で、今度は奏とセレナの前に次元ホールが出現する。

 

「それじゃあ、無理するなよ。姉さんのためにも絶唱は控えとけ」

「奏さんも」

 

 互いに別れを告げて握手した装者は、それぞれの世界へと戻っていく。

 

「これでよし。あとは…」

 

 一人その場に残ったイグゼリカは、何とか次元隔離された惑星を観察しようとしていた。

 

 

 

同時刻 次元隔離惑星

 

「何だこいつら!」

「攻撃してきた!」

 

 広がる草原の中で、複数の者達が慌てふためく。

 

「あれはアルティメギルじゃありません!」

「見れば分かるわよ! でもなに!?」

「私達も見た事有りません!」

「また来ます!」

「ならやり返すまでだ! 行くぞ皆!」

「分かったわ!」「はい!」

『テイルオン!』

「変身した!?」

「じゃあ、私達も」

「ドライブ!」

「変身した!?」

 

 孤立無援とも思える状況で、異なる世界から来た異なる力を持つ者達が、謎の敵へと立ち向かっていった………

 



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