ハリー・ポッターと日ノ本の死神 (シオンカシン)
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独自設定資料集 壱

主に日本の設定です。
まあご都合とか筆者の趣味もあります。





 

 

《日本魔法界の歴史と魔法族等について》

 

『日本魔法界の流れ』

 

現代日本魔法族の祖先は、陰陽師と死神の祖先が大半で、明治維新後、陰陽師達の組織である陰陽寮が解体された為、陰陽師達は一般の魔法族になる。

 

死神達の組織である護廷十三隊は、明治新政府に対し非介入と瀞霊廷だけを防衛する*1としたため存続する。

 

 

『魔法族について』

 

非魔法族(イギリスで言うマグル)や魔法族との関係は英国より良好。

 

また、明治維新前から下野していた陰陽師達や死神達の血を引く者達が極稀に先祖返りし、魔法族になる事もある。

 

覚醒魔法族*2と生粋の魔法族(イギリスで言う純血の一族)の格差は無い。

 

格差がない理由は覚醒魔法族が少ないから

 

生粋の魔法族からすれば同族が増える事は喜ばしい事である為、魔法などを覚醒魔法族に教える事は良い事とされる*3

 

現代日本魔法界に置いて魔法族とは西洋魔法を主として行使し、斬魄刀と極東魔法をあまり使わない者*4を指す。

 

 

『死神について』

 

現代日本魔法界に置いて死神とは、斬魄刀と極東魔法を積極的に行使しまたそれらを使う者を指す。

 

死神は先祖が魔法力を持った武家出身の者達多いが覚醒魔法族の者も稀ではあるが存在する。

 

死神はほとんどが護廷十三隊に所属する。

 

魔法省では、大陸探題部のみ死神が担当する。

 

 

『魔法族と鬼人族について』

 

鬼人族とは遥か古来より日本に存在している一族で、酒呑童子などの鬼を祖先としている。

 

魔法族と鬼人族は平安時代以来、確固たる同盟と共存共栄をし有事の際には共に戦う勇敢な友である。

 

同盟は源頼光と酒呑童子との酒宴*5にて成立した。

 

以来、鬼人族は特に死神との関係が深い《/ref》昔には護廷十三隊にも鬼人族の隊長がいた《/ref》。

 

当然死神と鬼人のハーフも稀にではあるが存在する。

 

 

《日本魔法界の魔法と斬魄刀について》

 

日本の魔法は陰陽師の生き残りが使う陰陽道。

 

死神や鬼道衆が使う極東魔法*6

明治維新後、西洋文化と共にやって来た西洋魔法*7に分かれる。

 

現代において西洋魔法は魔法。

極東魔法は鬼道と呼ばれる。

 

このうち陰陽道はすでに廃れた為、記述しない。

 

 

『西洋魔法』

 

西洋魔法は長い詠唱もなく、呪文を唱え杖を使えば簡単に魔法を行使できる為、陰陽師と死神を祖先に持たない人達に多く広まる。

極東魔法よりも、攻撃力と防御力に劣る。

 

マホウトコロで学ぶ。

 

 

『極東魔法』

 

極東魔法こと鬼道は詠唱が長く、詠唱の短略化には熟練が必要、攻撃防御しか無く生活魔法が無い為、日本魔法界でもあまり使わない。

 

使用するのは死神と鬼道衆。

 

だがその希少性と古き魔法としての強大性などから、西洋魔法では防げにくい。

 

真央魔法霊術院で学ぶが、マホウトコロでも学べる。

 

 

『斬魄刀』

 

斬魄刀とは平安時代より前に作られた一振りの魔法刀を原型として、いにしえの死神たる二枚屋王悦が創り出した浅打(斬魄刀の原型)をより昇華した刀を指す。

 

斬魄刀は日本に時折出現する虚に有効。

 

斬魄刀は所有者の霊力*8で出来ており、それぞれ固有名と意思を持っている。

 

斬魄刀の解放は三段階。

 

通常形態たる「浅打」

解号と斬魄刀の仮名を呼ぶ事で発動する「始解」

斬魄刀の真名を呼ぶ事で発動する「卍解」

 

始解には斬魄刀との対話、卍解には斬魄刀との具象化と屈服が必要となる。

 

卍解はとても難しく制御も難しい為、修得者は極めて少ない

また卍解を修得した者達は自身の霊力も底上げされ長命化する。

 

日本魔法族は全員斬魄刀を持っているが、死神以外始解が出来ない浅打のままで生活している。

 

 

《日本魔法界の行政体制》

 

英国魔法省と同様、日本魔法省が存在する。

だが魔法省とは別に護廷十三隊も存在する。

 

魔法省と護廷十三隊はお互い表向き不介入としているが、その歴史的背景から護廷十三隊の方が重要視される。

 

ちなみに総戦力は護廷十三隊が上。

日本には魔法学校としてマホウトコロが存在する。

 

 

『日本魔法省』

 

明治維新後解体された陰陽寮に代わり日本最大の魔法領域*9である東京魔法区を始め、日本魔法界全体を統括する魔法族の行政府。

 

所在地は東京。

 

最高位は魔法大臣。

 

非魔法族でその存在を知る者は、皇族の方々と表日本の総理大臣など極少数。

 

部署は主に九つ

 

魔法大臣室

法務部(法廷担当)

魔法生物管理部(文字通り)

外務部(外務省)

運輸鉄道部(暖炉がない為魔法鉄道が発達している)

魔法事故対策部(文字通り)

総務部(総務省)

情報捜査部(警察と公安)

大陸探題部(大陸の魔法族対策)

魔法神秘部(英国の神秘部と同じ)

 

 

『護廷十三隊』

 

組織自体は平安京成立時(西暦794年)に遡り、外敵(異国の魔術師や虚など)から皇族と日本最初の魔術師を守る宮廷護衛隊を前身とする。

 

西暦900年頃に瀞霊廷(平安京の裏、現京都魔法区)が成立すると規模を拡大させ、護廷十三隊とする。

 

現在の主任務は国防と虚対策*10

 

その名の通り13の隊が存在するが、瀞霊廷の何処かに最初の魔術師*11とそれらを守る零番隊があるらしい*12

 

隊長は斬魄刀の卍解を修得した者のみ就任できる。

 

 

『魔法学校』

 

魔法魔術学校としてマホウトコロが存在する。

 

実際には西洋魔法を学ぶマホウトコロと走拳斬鬼*13を学ぶ真央魔法霊術院*14の二つに分かれる。*15

 

真央魔法霊術院には死神の血筋が多く入学し、7歳の頃から非魔法族の勉強も含め死神としての教育を行う。

 

死神の血筋以外でも、志願すれば入学できる。

 

11歳になれば霊術院を卒業し、マホウトコロへ入学する。

 

霊術院に入学しなかった者達でも、11歳からはマホウトコロに入学する。

 

マホウトコロは南硫黄島に、真央魔法霊術院は瀞霊廷(京都)に存在する。

 

マホウトコロの方が歴史が浅い。

 

 

《日本魔法界の地理》

 

魔法使いのエリアは世界各地に存在する。

英国で言えばダイアゴン横丁などであり、それらは日本では魔法区と称する。

 

日本には三つの魔法区が存在している。

 

東京魔法区…魔法省がある日本最大の魔法区

京都魔法区…瀞霊廷がある日本最古の魔法区

博多魔法区…大陸探題部(太宰府)がある国防の要

 

魔法区外でも魔法族は普通に暮している。

 

魔法区から魔法区外への入り口は各地にある。

 

 

《日本魔法界の移動手段》

 

明治維新までは馬か徒歩か瞬歩。

 

明治維新後は箒か魔法鉄道(ホグワーツ特急みたいなの)か瞬歩か姿眩まし。

 

各魔法区へは非魔法族の移動手段である車、飛行機、電車などか魔法鉄道で移動する。

 

長距離の移動にも箒が使われるが、免許がいる*16

 

マホウトコロには数十年前まで海燕か箒で行き来していた。

 

しかし硫黄島に非魔法族の基地*17ができたため、魔法鉄道を東京魔法区から走らせている。

 

しかし英国などからは未だに海燕を用いていると誤解されているらしい

*18

 

 

『魔法鉄道』

 

各魔法区間と東京魔法区〜マホウトコロへ繋がる鉄道。

 

陸地を走るのはリスクが高い為、浮遊魔法によって空を走らせている。

 

電線を張れない、煙も出せないのでディーゼル機関車*19で牽引する。

 

国外へ行くには非魔法族の飛行機に頼る他ないが、団体で移動する際には魔法鉄道を用いる。

 

国外用魔法鉄道には瞬歩を応用したワープ機能がある。

 

 

 

 

 

 

*1
実際には瀞霊廷重視だが日本全域を防衛する

*2
イギリスで言うマグル生まれ

*3
ノブレスオブリージュ

*4
と言うか使えない者が多い

*5
表向きには退治しに行った事になっている

*6
いわゆるBLEACHの鬼道

*7
ウィザーディング・ワールドの魔法

*8
魔力、魔法力とも言い換える

*9
いわゆる魔法族にしか行けない領域、裏日本とも

*10
この作品では虚は謎の存在で虚圏があるかどうかも不明

*11
BLEACHの霊王ではない

*12
護廷十三隊のトップシークレットとして公に公表されていない

*13
特に鬼道と剣術

*14
BLEACHの真央霊術院

*15
真央魔法霊術院はマホウトコロの附属高校的立ち位置

*16
ヘリコプターや飛行機との接触が怖い為

*17
海上自衛隊管理の硫黄島航空基地

*18
この作品ではJKローリング史の日本に関する情報は一部古く間違っているとしています。

小説にはあまり関わらないので見逃して下さい

*19
見た目はD 51蒸気機関車





ハリポタとBLEACHをまとめるにあたり霊王と虚圏、尸魂界を無くしました。
あくまでハリポタがメインなので、BLEACHファンの方ごめんなさい。
でも破面の方達は出す予定なのでハリポタばっかりという訳でもありません。
でも滅却師はかなり難しいので出さない方向で行く予定です。

感想、とても嬉しく励みとなります。
この小説は筆者の趣味と妄想の産物です。
ハリポタもBLEACHもガチガチで詳しい訳では無いので勉強不足が否めませんが、頑張っていきます。
よろしくお願いします。


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死神と賢者の石編
プロローグ


 

 

我々が住む日本とは少しずれた日本……。

 

『日本魔法界』

 

魔法界の名の通り、生き行く人々は全員が魔法使いだ。

 

そんな魔法使いの学校『マホウトコロ』

 

その一角の剣道場で一人、日本刀を振る少年。

 

普通なら時代錯誤だと思われるが、ここは魔法界、それが当たり前だ。

 

ある程度振り終わった後、少年は呼吸を整えて刃禅と呼ばれる行いを始める。

 

これも彼ら魔法使いや死神達からすれば、鍛練として当然の行いだ。

 

深く、深く集中し刀と一体となる。

そして刀と触れ合い、対話を行う。

 

そうすれば刀…斬魄刀はそれに答え、始解という斬魄刀の能力解放を行える。

 

故に斬魄刀との対話…刃禅は重要視されるのだ。

 

 

そんな彼の名前は、刀原将平

現在彼は13歳、マホウトコロ3年生である。

 

刀原が刃禅を終え小休止していると、剣道場の入口から3人の人が来た。

 

3人とも刀原の知り合いで、うち二人は彼の師匠だった。

 

師匠ではない人…このマホウトコロの校長を勤める男は、彼にかねてから伝えていた話の決着を話しに来たのだった。

 

その話しの内容とは…。

 

「つまり、僕が英国のホグワーツへの留学生に選ばれたのですか?」

 

英国にある魔法学校『ホグワーツ』への留学話であった。

 

「そうだ、君は走拳斬鬼共に高いレベルに達しているし、素晴らしい事に天才達が集まったこの学年でも頭一つ抜けている。まあ、師匠が師匠だから当然と言えば当然なのだがね…」

 

男は師匠として刀原を鍛えた二人を見ながら苦笑する。

 

一人は杖を突いて、長いひげを生やした老人。

もう一人は長い黒髪をからだの前で三つ編みにしている女性。

 

日本魔法界では知らない者は居ないといわれる人達だ。

 

そんな二人は「流石は我が弟子」「当然ですね」と言わんばかりに頷く。

事実、刀原は史上最年少の斬魄刀の始解解放を行った実績が有った。

 

男は話しを戻す。

 

「お二人は君の英国行きは反対なさっていた……。だが……まあ、可愛い子には旅をさせよの諺が有るように、最終的には賛同を頂いた。後は君の意思次第だよ?」

 

刀原は二人が自分を孫や息子の様に思っている事に気づいていたが…

 

「無論行きます。本格的な西洋魔法を学ぶ貴重な機会ですし、更なるレベルアップのチャンスです。」

 

「そうか、分かった。ならこのまま話しを通すよ。向こうは確か新学期が9月1日だったから8月30日には身支度を済ます様にね。」

 

「了解しました。」

 

男は話しを済ますとその場から去った。

老人は言う。

 

「英国では原則、浅打で過ごす様にせよ。始解はいざというときにのみ使用せよ。」

 

「了解です。」

 

「大丈夫だとは思うがしっかりするのじゃぞ。何かあれば早急に知らせよ。よいな?」

 

「分かった」

 

「うむ」

 

「向こうに行くまでまだ一月ほどあります。それまでに再度鍛え上げましょう」

 

何があってもいいように。

 

と笑顔を作りながら女性は言う。

 

数年前まで英国は "名前を言ってはいけない例のあの人" とかいう闇の魔法使い『ヴォルデモート』とその愉快な仲間達『デスイーター』が跳梁跋扈していた。

 

そんな闇の魔法使いは "生き残った男の子" とやらによって "倒された" とのこと。

 

しかし日本魔法省曰く、実際は遺体もなく所詮は "行方不明" なので、向こうに行ったらちゃっかり復活していたとか、復活希望の仲間達による工作があったなど……不足の事態があってもいいように再度鍛え上げたほうがいいというのだ。

 

だが刀原は気付いた。

 

今のうちにかまって上げたいのだろうと。

 

二人の過保護な厳しい師匠に彼は苦笑する。

そしてこうも思う。

 

向こうでもいい友人が作れるように…と。

 

 




ハリー・ポッターとBLEACHのクロスオーバー作品となります。

尚、BLEACHのキャラはゲスト程度と思って下さい。

頑張って、途中で投げ出さずに、書いていきますので

感想等お待ちします。

ではよろしくお願いいたします。




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死神、英国入り パブと横丁


自分は今

日本を代表してやって来てるってこと

忘れるな。




8月末。

英国へ留学をするため、刀原はロンドンに来た。

 

日本の成田国際空港から飛び立った飛行機は、ロンドン・ヒースロー空港に降り立つ。

 

流石の魔法族といえど長距離の移動には、文明の利器を使うしかないのだ。

 

英国の首都たるロンドンに着いたその足で、彼は兼ねてより貰った地図を頼りにロンドンの街中にある寂れたパブに行く。

 

見た目は黒く、潰れている様にも見えるこのパブの名は『漏れ鍋』

 

英国の魔法族が集まる場所である。

 

刀原はある人と、ここで待ち合わせをしていたのだ。

 

「お初に御目にかかります、ショウヘイ・トウハラです。呼びにくいと思うのでトーハラで大丈夫です。本日はよろしくお願いいたします」

 

「丁寧な挨拶ですね、よろしくミスター・トーハラ。日本人は礼儀正しいという話しは本当のようですね。」

 

「日本男子として当然のことです。ミネルバ・マクゴナガル教授」

 

ある人とはミネルバ・マクゴナガルのことだ。

 

ホグワーツの副校長を勤め、変身術教授、更にホグワーツにある四つの寮のうちの一つ『グリフィンドール寮』の寮監。

 

ホグワーツは極東よりやってくる留学生のエスコート役に、本来は忙しい筈の彼女を抜擢したのだった。

 

刀原の挨拶に微笑みを持って受けたマクゴナガルは、にこやかに歓迎を伝える。

 

「長旅ご苦労様です、ようこそイギリスへ。お疲れではありませんか?」

 

「いえ、大丈夫です」

 

「そうですか、では早速参りましょうか。必要なものは多いですし、時間がかかります」

 

こうして二人は漏れ鍋に入るのだった。

 

 

 

 

漏れ鍋の中はいかにもパブらしく、酒を飲む客、宿泊客、なんかよく分からない客などで大賑わいだった。

 

そんな客達の話題は『生き残った男の子』の話で盛り上がっていた。

 

聞くところによると「彼が……ポッターさんが帰還したのは、実にめでたいこと」だの「私、握手出来たの」だの言っていた。

 

やはり有名人なのだな、生き残った男の子のポッター君は。

 

刀原は呑気にそう思っていた。

 

英国魔法界の英雄話をそうやって小耳に聞いていると、やがてカウンターでターバンを巻いている人物と出会う。

 

「ミスタ・トーハラ。この人はこの秋より、闇の魔術に対する防衛術を担当なさるクィレル教授です。クィレル教授、こちら日本はマホウトコロから来た留学生、ミスタートーハラです」

 

そしてマクゴナガルに、クィレル教授を紹介される。

 

「トーハラです。クィレル教授、今年よりよろしくお願いいたします」

 

「ど、どうぞよろしく、ミスター・トーハラ」

 

刀原がそう言い手を差し出すと、クィレルは神経質そうに握り返した。

 

怯えすぎでは?ああ、これか。

 

刀原は、自身が腰に差している斬魄刀を見て怯えていると判断した。

 

「大丈夫ですよ、クィレル教授。やたらと抜いたりしませんよ」

 

そしてそう言うが、クィレルはあいかわらず怯えっぱなしであった。

 

「アルバニアで不幸な目にあったそうなんです」

 

マクゴナガルが小声でそう言い刀原は納得した。

 

しかし……

 

クィレル教授…なんか亡霊に取り憑かれていないか?あれが怯えの正体?

 

刀原はクィレルの後ろにいる"謎の亡霊"に気を止める。

 

「その……取り憑いてる亡霊、祓いますか?」

 

死神見習いとして虚を見ることも、斬魄刀で切り冥界へ送り祓うことも、ある程度は出来る。

 

気になった刀原は思わずそう聞くも、大きく目を見開いたクィレルはより怯えてしまう。

 

「だ、大丈夫ですよ。ミ、ミスター・トーハラ。お、お気遣い、あ、ありがとうございます。」

 

そして断られた。

 

なぜ断るんだ?まあ、確かに頼りないかもしれないし……ここでやっても迷惑か

 

刀原はそう思った。

 

「では、希望されるのであれば学校ででも行えるので」

 

そしてそう言い、先を急ぐことにした。

 

 

 

漏れ鍋のには中庭があった。

 

その中庭の一角にある煉瓦の壁に、二人は向かう。

 

「ダイアゴン横丁へ行くには必須なので、よく見て覚えて下さい。」

 

マクゴナガルはそう言うと杖を取り出し、刀原に示すようにゆっくりと煉瓦の壁を叩いた。

 

すると煉瓦は音を立てて動き、やがて煉瓦のアーチに変わる。

 

先に広がるのはごった返す魔法使い、魔法具を売る店が並んだ街並みが広がる。

 

「ようこそ、ダイアゴン横丁へ」

 

マクゴナガルの一言で、刀原はダイアゴン横丁へ踏み出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

ごった返しの中暫く歩けば、中央に一際でかい建物が見えてきた。マクゴナガルはその建物を指し示した。

 

「あれがグリンゴッツ銀行です。日本魔法界のお金も振替出来ると思いますが…大丈夫ですか?」

 

「大丈夫です。お気遣いありがとうございます」

 

そう言ったマクゴナガルに刀原は大丈夫だと伝えた。

 

日本魔法界にも同様の銀行が存在しているため、刀原はそこで事前に両替しておいたのだ。

 

マクゴナガルは満足気に頷き、次の建物であるマダム・マルキン洋装店に刀原を連れて行く。

 

ここではホグワーツの制服一式も購入できるのだ。

 

刀原にマダム・マルキンを紹介したマクゴナガルは、採寸の邪魔になるだろうと隣の店に教科書を見に行く。

 

そしてマダム・マルキンは、流石と言える手捌きで着々と採寸を進ませた。

 

マダム曰く……どうやらここにも噂の生き残った男の子のポッター君が来たらしい。

 

大人しそうな子だったという話を聞きながら採寸は終わりを迎えるのだった。

 

採寸の合間に教科書を買って来てくれたマクゴナガルにお礼を言うと、刀原は魔法動物ペットショップを見ながら兼ねてよりの質問をした。

 

「ホグワーツにはカエル、ネコ、フクロウが許可されると聞いたのですが、隼は許可して頂けるのでしょうか?」

 

日本魔法界では公的な物はフクロウに、私的な物は隼に任せる事が多い。

 

現在では日本魔法界の西洋化に伴い、隼は少数になって来たのだが……刀原は小さい頃から隼を飼っていたのだ。

 

「そちらのやり方は伺っています。フクロウ小屋で過ごすことになり、フクロウと生活することになりますが……それでもよろしいですか?」

 

「大丈夫だと思います。ウチの子は賢いので」

 

「それならば許可が降りるでしょう」

 

どうやら大丈夫だと安心しながら、今まで買ってきた物を速やかに確認する。

 

羽ペンと羊皮紙、魔法薬学に必要な道具一式、材料一揃い、確認項目にチェックを入れていると、一つだけ買ってない物があった。

 

「杖はどうするのですか?日本にもあると聞いていましたが」

 

マクゴナガルがそう聞くと刀原は頷く。

 

確かにマホウトコロ入学と同時に西洋魔法が解禁される為、自前の杖がある。

 

モミジに朱雀の羽、二十五センチ、堅実。

 

西洋魔法や鬼道を使う際には、頼れる存在として使ってきた。

 

しかしやはり西洋魔法を使うには西洋の杖かと思い、思い切って買うことにした。

 

その旨をマクゴナガルに伝えた所、オリバンダー杖店を紹介されたのだった。

 

 

 

 

店に入ると、静かで何処となく神聖な感じがするも……少し埃っぽい店の奥から、店主のオリバンダーが「いらっしゃいませ」と言いながら現れた。

 

こんにちは、と返事をした刀原に対してオリバンダーはふと杖を出し、メジャーで刀原の腕の長さなどを測り出す。

 

そして右利きかな?と言われ、はい、と答えると再び店の奥に行き、暫くすると数箱を小脇に抱え戻って来る。

 

「杖が持ち主を選ぶのじゃ」

 

そうオリバンダーは言うが……既に何回も試しに振ってダメだった事から新しい杖は絶望的、と刀原は思い始めていた。

 

しかし、何故か何処となく喜び顔のオリバンダー。

 

「なんか嬉しそうですね?」

 

と聞くとオリバンダー曰く。

 

「今日は難しいお客様が多い、ポッターさんも難しかった。君もだ、トーハラさん。だが大丈夫、必ず見つかりますよ。」

 

とのこと。

 

噂のポッターさんも難しいかったのか…。

 

どうやらオリバンダーは、見つかりにくいと俄然やる気を出すらしい。

 

その後も長考しながら「うーむ」だの「しかし」だの、なにやら言っていたオリバンダーだったが……やがてピンと来たらしく……一本だけ持って戻ってきた。

 

「ヤマナラシに青龍のたてがみ、三十四センチ、清廉潔白。これならば……どうぞ」

 

刀原は杖を手に取った瞬間、確信した。

 

これは自分の杖だと。

 

そして軽く振れば、杖から青白い光が溢れ輝く。

 

それを見てオリバンダーは誇らしげで、マクゴナガルもほっとした表情をした。

 

「この杖の芯材は、日本の杖職人から譲り受けた物だったのです。どうやらイギリス人には青龍のたてがみは合わないらしく、この杖はずっとあったのですが……。トーハラさん、日本人のあなたなら大丈夫だと思いました。」

 

「そうでしたか……ありがとうございます。大切に使わせてもらいます。あの、もう一本の杖ですが……」

 

「そのモミジの杖は薬学や変身が得意なようだし、そのヤマナラシは戦闘に強い。使い分けると良いでしょう」

 

「そうですか、ではそれを踏まえて使い分けます。ありがとうございました」

 

かくして刀原はヤマナラシの杖を受け取り、箱の散乱を片付けたあとで杖の代金を支払い、オリバンダーの店を後にしたのだった。

 

「さて…これで必要な物は一通り揃いましたね?」

 

「はい、揃いました。マクゴナガル教授」

 

そう返事をすれば、マクゴナガルは微笑んで最後の確認をする。

 

「よろしい…ではミスター・トーハラ、再度確認です。あなたの希望で“一年生として”ホグワーツに来てもらう事になっています。ホグワーツには9月1日にキングズ・クロス駅の9と4分の3番線から出発するホグワーツ特急に乗れば行けます。当日、ホグワーツ魔法魔術学校にてお待ちしていますね。」

 

「はい、本日はありがとうございました。」

 

「こちらこそ、会う日を楽しみにしていますね。」

 

そう言うとマクゴナガルはポンッと姿をくらまし、去っていった。

 

そういえば散々噂になっていたポッター少年には会わなかったな。

 

刀原はそう思いつつ9月1日を楽しみにするのだった…。

 

 





早速の感想、修正指摘等ありがとうございます。
よく初歩的なミスをするのでありがたいです。

まだ明かせない疑問点には、答えられないのですが、出来るだけ感想には返信致しますのでよろしくお願いします。

では次回は
駅と特急です。

次回も見ていただけると嬉しいです。



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死神、駅に行く 特急と出会い人


勇気を持って飛び込め

そこに道があると信じて

それが……最初の一歩となる。




 

 

9月1日

 

今年よりホクワーツに留学生として入学するにあたり、刀原はキングズ・クロス駅に来ていた。

 

ロンドンにおける主要ターミナル駅の一つでもある*1この駅の“9と4分の3番線”から11時発“ホクワーツ行き”としてホクワーツ特急が出るためだ。

 

だが刀原は首を捻っていた。

 

9月1日…日時。

キングズ・クロス駅…場所。

11時…出発時間。

ホクワーツ行き…目的地。

9と4分の3番線…そんな番線存在しない。

 

そう、9と4分の3番線なんてキングズ・クロス駅の何処にも存在し無いのだ。

 

英国魔法省に問い合わせ様にも……日が足りない。

 

「しょうがないけど当日に調べるか…」

 

刀原はそう判断し、出発の1時間前にはキングズ・クロス駅に着けるようにするのだったが……。

 

結果的に言えば刀原の懸念は杞憂だった。

 

万が一の事を考えキングズ・クロス駅に出発の1時間前、すなわち10時に来た刀原は、まず9番線と10番線に向かった。

 

そこで見たのは霊力の痕跡。

 

一応と思い位置を覚え、ホームを見渡せる場所へ。

 

アーチ状になっている柱。

 

そのうち歪みがあるのはホーム手前から3番目の柱。

 

「なるほど。4分の3番とは、4本の柱の3番目にある柱の事か……。つまりあの痕跡が、ホグワーツ特急の出発ホームに繋がっているという訳だな」

 

刀原はそう判断し、痕跡がある柱に飛び込んだ。

 

そして見えたのは……人がいないガラ空きのホーム。

 

当然、列車はまだ来ていない。

 

「やり過ぎた……早すぎだな…」

 

刀原はガックリと項垂れ、ホグワーツ特急の入線を記録用に持ってきたカメラを片手に、のんびりと待つ事にしたのだった。

 

 

 

 

ホグワーツ特急の入線を、誰にも邪魔される事なく堪能した刀原は、コンパートメントの一室に悠々と入り一息ついた。

 

そしてしばらくすると、段々と人がホームへと現れ始め、家族との別れを惜しむ生徒達でいっぱいとなった。

 

日本の家族は元気だろうか?

マホウトコロの友人達は元気だろうか?

 

師匠達は…どうせ元気だろ。

 

「儂等よりお主自身の心配をせよ」だの

「あなたに言われるほど衰えてはいませんよ」だの

 

彼らならそんな事を言うに違いない。

 

彼らを見てそんな事を思いながら刀原は出発を待っていたのだったが……。

 

次第に埋まってきたコンパートメントに入れなかったのか*2少し遠慮気味に「ここ空いてる?他はもういっぱいなんだ」と眼鏡を掛けた少年に聞かれる。

 

刀原は席を開け「もちろん、どうぞ」とニッコリ笑いながら言うのだった。

 

 

 

「この白フクロウ、すごく立派なフクロウだなぁ。名前は?」

 

少年の荷物*3を協力して積み込んだ後、刀原は話の起点として白いフクロウを選んだ。

 

「ヘドウィグっていうんだ。ハグリッド…ホグワーツの森番?をしている人からプレゼントとして貰ったんだ。君もフクロウを?」

 

少年は刀原の荷物にある籠に目をやる。

 

「いやフクロウではなく隼だよ、名前はライ。許可を貰って連れてきた。」

 

刀原は籠に掛けた布を取りながらそう答えた。

 

「隼なんだ。ライ、カッコいいね!」

 

「ありがとう、ヘドウィグも気品あふれる感じですごくカッコいいと思うよ。」

 

「あはは、ありがとう。」

 

まだ自己紹介もしていない二人だったが、しばらくペット談議をしていた。

 

やがて知らぬ間に列車は出発し、そしてまたもコンパートメントの扉が開いた。

 

「お二人さん…ここ大丈夫?他いっぱいでさ…」

 

眼鏡の少年とほぼ同じ事を言いながら開けたのは、赤毛の少年だった。

 

「彼を入れても大丈夫かな?」

 

「うん、大丈夫」

 

「ありがとう。大丈夫だよ、さあどうぞ」

 

刀原は眼鏡の少年に断りを入れ、赤毛の少年を迎え入れたのだった。

 

 

 

 

「それって確かジャパニーズソード?君、もしかして日本の魔法使いとか?」

 

「ああ、俺は日本の魔法使いだよ」

 

赤毛の少年はウズウズしながら、刀原の脇に立て掛けている斬魄刀について尋ね始めた。

 

刀原は刀をちらりと見ながらそう頷く。

 

「日本の魔法使いもホグワーツに来るの?」

 

「いや日本にはちゃんと日本の魔法学校があるよ。俺は留学生って形で入学するんだ。」

 

眼鏡の少年がそう聞けば、刀原は否定する。

 

「へえーおっどろきー。じゃあ日本人が、みんなジャパニーズソードを持ってるのは本当だったんだ!」

 

赤毛の少年は目をキラキラと輝かせてそう言った。

 

「何処のウソ情報だ…違うよ。コイツを持っているのは日本の魔法族だけだよ」

 

真実は時に痛いもの、赤毛の少年は妙な幻想なり憧れがあったのか「サムライはもういないんだ…」とガックリと項垂れる。

 

「そうだ忘れてた。僕はロナルド・ウィーズリー。今年からホグワーツなんだ。僕のことはロンって呼んでよ」

 

そして忘れかけていた自己紹介をし始めた。

 

「宜しく、ロン。俺はショウヘイ・トウハラ。トーハラで構わないけど…」

 

「いや名前で呼びたいな。ショウヘイ…じゃあショウでいい?」

 

「もちろんそれでいいよ。じゃあショウと呼んでくれ」

 

「じゃあ君は?」

 

「僕は…。

 

 

 

 

 

「僕はハリー、ハリー・ポッター」

 

と名乗った少年…ハリーに対して『これが英国魔法界の英雄殿か』と刀原は思っていた。

 

そして……。

 

どっからどう見ても普通の少年だな。

 

とも思っていた。

 

「じゃあ、あるんだ。あの人につけられた傷…」

 

ロンはハリーにそう尋ねる。

 

ハリーはそれに少し苦笑*4しながら、額にある稲妻模様の傷をロンに見せている。

 

しかし刀原は傷には見向きもせず、彼の魔力…日本で言う所の霊圧を見るが、結果は『ごく普通』だった。

 

マホウトコロ開校以来の『秀才と天才の学年』とも『次期護廷十三隊隊長候補が何人もいる学年』とも言われていた学年のトップだった刀原から言えば、他の人*5より少し良い方だった。

 

当然マホウトコロ時代の友人達よりも劣る。

 

普通の少年が、ヴォルデモートとか言う闇の魔術師を倒しただと?

 

ならばヴォルデモートはかなりの雑魚、名前だけではないか?

 

いやもしかしたらなんらかの要因か?

 

刀原は考えるがまとまらない。

 

そして考えている最中に車内販売がやって来た為……刀原は思考を投げ捨てて、金貨を片手に英国魔法界のお菓子を堪能するのだった。

 

 

 

「ねえ、ネビルのヒキガエルを見なかった?」

 

刀原達が百味ビーンズ*6を食べている最中にコンパートメントの扉をガラリと開け、やって来た少女はいきなりそう聞いた。

 

「残念ながら見てないな。チョコレートのカエルなら見て、さっき食べたけど」

 

刀原は先程食べたカエルチョコレートを思い出しながら、少女にそう答える。

 

「見た目はアレだが、あのチョコレートは美味しかったなー。それで、ネビルのヒキガエルとは?」

 

「僕のヒキガエルなんだ……。僕、ネビル・ロングボトムって言います……」

 

そう自己紹介したのは、少女の横からひょこっと現れた気弱そうな男の子。

 

「よろしくロングボトム君、俺はショウヘイ・トウハラ。呼びにくいからショウでいいよ」

 

「よろしく、ショウ。僕もネビルでいいよ」

 

「了解、ネビル。それで……そこの女の子は?」

 

「ああ、私はハーマイオニー・グレンジャー。今年から入学するの。ハーマイオニーでいいわよ」

 

「よろしくハーマイオニー、俺も今年からだ。さっきも言ったけど残念ながら見てないんだ。ハリーとロンは見た?」

 

刀原はハリーとロンにそう聞くが……まあ当然ながら、二人とも見ていないという。

 

「さてどうしようか?ああ、引き寄せ呪文があるじゃないか。あれで引き寄せればいいな……。ネビル、カエルってどんなカエル?」

 

刀原はネビルのヒキガエルを確保する為、物を引き寄せる『アクシオ』という呪文を思い出す。

 

そしてネビルからヒキガエルの特徴と名前……トレバーと言う名前を聞き、引き寄せを行った。

 

アクシオ(来い)・トレバー!」

 

すると……脱走兵トレバーはスーと刀原の元へ引き寄せられ、そのままネビルに保護された。

 

「ありがとうショウ、助かったよ」

 

「あなたすごいのね!私達と同じ一年生でしょう?でも、一年生の教科書には載ってなかったわ」

 

ハーマイオニーは、自分と同じ一年生が教科書に記載がない魔法を使った事にそう驚いたが……勿論、理由がある。

 

「いや俺は日本のマホウトコロからの留学生で……実際は4年生だよ」

 

そう……刀原は本来ならマホウトコロ4年生なのだ。

 

「え、じゃあ年上なの?」

 

「うん。でも別に年上として扱わなくてもいいからね」

 

刀原は『やはり日本人は幼く見られるのか』と思い、苦笑いをする。

 

「分かったわ、でも年上だからといっても負けないわよ。あ、そうだ。もうすぐホグワーツに着くらしいわよ、みんなローブに着替えたら?」

 

こうしてハーマイオニーの助言により、刀原達はローブに着替えた。

 

列車は速度を落とし、まもなくホグワーツに着く。

 

刀原は新たに出来た友人達を見ながら、まだ見ぬホグワーツに想いを馳せるのだった。

 

 

 

 

 

*1
刀原は東京の池袋駅的な存在だと思っている

*2
恐らく意を決して

*3
かなりの荷物。おまけにフクロウ入り

*4
ああ、有名なんだ的な再認識の顔

*5
といっても比較対象はロンだけだが

*6
刀原が食べたのは抹茶味




もうちょっと区切って書いた方がいいですかね?
それも含め感想等お待ちしてます。
それと近いうちに独自設定を一部公開しようと思います。

では次回は
入学式と組分けです。
次回も楽しみに


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死神、入城する 組み分け


獅子は勇猛

蛇は狡猾

鷲は知識

穴熊は慈愛

蛇を選べば明るい未来

だがそれは嫌なのだが……

僕は蛇になるべきなのか?





 

周囲は夜になり、列車はすーっと減速し止まる。

 

ハリーとロンの二人は、初めて袖を通したであろうホグワーツのローブを着用し、刀原はマホウトコロの制服の上からホグワーツのローブを羽織りの様に着用して列車を出た。

 

辺りは暗く、生徒でごった返しのホームの中……ランタンを掲げながら大男がやって来る。

 

「イッチ年生!イッチ年生はこっちだ!」

 

この人でっかいなぁ、狗村さんもおっきい人だけど……この人も相当だ。

 

刀原は師匠経由で知り合った人と比べながらそう思っていると、隣にいたハリーが「ハグリッド!」と呼んでいるのを聞く。

 

「足元に気をつけろよ?さあ、ついてこい」

 

そうして……ハグリッドの先導の元、刀原たちはランタンのライトを目印に半分獣道の様な暗い道を進み始めた。

 

 

 

しばらく進むとハグリッドは止まり、目の前には大きな黒い湖が見えるようになる。

 

「みんな見えるか?あれがホグワーツだ」

 

湖の向こうには山がそびえ、多くの尖塔を持つ巨大で荘厳な城が佇んでいた。

 

「あれがホグワーツか…」

 

刀原はそう呟く。

 

翡翠と羊脂白玉で出来た姫路城の様な見た目のマホウトコロも、かなり美しい城だが……。

 

このホグワーツ城は、それとは違う美しさがあった。

 

闇夜に浮かび、尖塔や石橋に灯る火は……まるで宝石の様だと刀原は思った。

 

持っているカメラで撮った所で、ハグリッドの声がする。

 

「さあみんな、4人ずつボートに乗るんだ!」

 

ホグワーツ城を正面に、ボートは一人でに動き始めた。

 

湖を横断し、洞窟のトンネルを抜け、刀原達を乗せた船団は船着場に接岸する。

 

そこから階段を上がると門があり、ハグリッドがこんこんと門を叩く。

 

「マクゴナガル先生!イッチ年生を連れてきました。」

 

すると門は開き「ご苦労様ですハグリッド」と言いながら、マクゴナガル教授が現れた。

 

 

 

マクゴナガル引率の元、刀原達は大広間前の扉で待機する。

 

そしてその場でマクゴナガル教授は全体を見渡しながら、静かながらよく通る声で話始めた。

 

「ホグワーツへの入学、おめでとうございます。これから新入生を迎える宴がありますが、その前に皆さんが入る事になる寮を決める組み分けを行います」

 

これがロンが言っていた組み分けの儀式か。

 

刀原はロンが列車内で言っていた組み分けの事を思い出す。

 

トロールとやらと一戦交えるとか、すっごく痛いとか言っていたが…どう霊圧を感知してもトロールなる存在は居ないね。

 

刀原は列車内で出会ったロンの双子の兄に一杯喰わされたなと思い、苦笑いする。

 

まあもしそうなった場合、トロールには悪いが武力で撃退するしかあるまい。

 

トロールとやらがどの様な者か知らないが、そんな奴に遅れを取ったとあらば……師匠達からドヤされ拳骨では済まないかもしれない。

 

「まだまだおぬしは修行が足りんようじゃの」

 

ウキウキ顔とニコニコ顔で向かって来る師匠達。

 

楽しくも地獄の様な修行に逆戻り。

 

刀原は万が一の警戒をしながら、マクゴナガルの言葉を待つ。

 

「これから皆さんは組み分けで決められた寮で7年間過ごします。グリフィンドール、レイブンクロー、ハッフルパフ、そしてスリザリン。どれも由緒正しい歴史ある寮です。」

 

確かロン曰く確執があるとか?

 

グリフィンドールとスリザリンの確執は、創始者の代かららしい。

 

マホウトコロにも寮があるが確執はない。

 

これもホグワーツの文化というものだろう。

 

そう思っていると、マクゴナガルの「まもなく始まります」という一言を聞く。

 

刀原は、いよいよだと気を引き締めた。

 

「ミスタートーハラ!居ますか?」

 

だが決意とは裏腹にそう呼ばれ、マクゴナガルの元に向かった。

 

「あなたは留学生ですので、ダンブルドア校長の合図で入って頂きます。校長曰くサプライズにしたいとの事で…」

 

マクゴナガルがやれやれ顔をしながら小声で言う。

 

どうやら世界有数の魔法使いはお茶目な感じらしい。

 

「しかし、列車で道中を共にした子には留学生である事を言いましたが?」

 

「それくらいなら大丈夫でしょう。ではよろしくお願いしますね?」

 

そう言ったマクゴナガルは、他の一年生を連れて大広間に向かい……刀原は一人残されたのだった。

 

 

 

 

 

一人残された刀原だったが、大広間の声が聞こえなかった訳では無い。

 

列車内で出会ったハーマイオニーやネビルが、グリフィンドールに入ったり……。

 

ハリーが、やたら時間が掛かったが……グリフィンドールに入ったり……。

 

ロンが瞬時にグリフィンドールへと入ったり……。

 

そのロンが、やたらと敵視していたマルフォイとか言う貴族みたいな子が、これまた瞬時にスリザリンの入ったりと……。

 

知り合いが次々と組み分けされる中、さしもの刀原も緊張してきた。

 

トロールはどうやら居ないらしいので、戦闘することは無さそうだが。

 

深呼吸しながら大広間の様子を聞いていると、組み分けが終わったらしく……威厳がある老人の声がしてきた。

 

「さて、お帰り生徒達。初めまして新入生達。騒がしくなる前に言っておきたい事が二つある。まず一つ、とっても痛い死に方をしたくないのであれば今年度は4階の右の廊下は立ち入り禁止じゃ。今彼処には死より恐ろしいものがあるのでな…」

 

おい、大丈夫かそれ。

刀原がこう思っても無理はない。

 

安心安全を求める教育機関の筈の学校にそんなものがあっていいのか?

 

刀原は困惑するが長考に入る事ができなかった。

 

何故なら…。

 

「次は嬉しいニュースじゃ…」

 

と次の話題となったからだ。

 

 

 

 

「次は嬉しいニュースじゃ。極東は日本のマホウトコロより留学生を、ホグワーツへと迎えることになった。列車で一緒になったかも知れんの?留学生は先ほどと同様、組み分け帽子で入る寮を決める事になる。」

 

ダンブルドアの一言で各寮は騒がしくなる。

ハリー達も刀原のことを思い浮かべているだろう。

 

「では入って頂こう。マホウトコロの留学生、ミスターショーヘイ・トーハラ君じゃ」

 

ダンブルドアの言葉で扉が自動で開く。

 

刀原はゆっくりと歩き、古びているが強力な霊圧を持つ帽子へと向かう。

 

正面には、今世紀最強の魔法使いとの呼び声高い魔法使い……アルバス・ダンブルドアが立っている。

 

歩きながら刀原は、じっくりと各教授陣の霊圧を見ていった。

 

その中でもやはり、ダンブルドアは別格だった。

 

護廷十三隊の隊長格クラスはあるな……練りに練りこまれている。

 

刀原は主に思考や洞察力を教えてくれた師匠の一人…編み笠を被り、風車を付け、女物の着物を隊長羽織りの上に羽織る古参の隊長…位はあるかな?など思いながら、ダンブルドアの前に立ちニコッと笑う。

 

ダンブルドアも微笑みお互い握手をする。

 

そして握手を終えた後、くるりと後ろに振り返り挨拶をする。

 

「マホウトコロより参りましたショーヘイトーハラと申します。この度は世界有数の魔法学校たる、ホグワーツ魔法魔術学校に留学の機会をいただき、感謝の念に絶えません。この機会を生かし、魔法力等の研鑽をより一層励みますので……諸先輩方、そして優秀な各教授陣のご指導ご鞭撻、どうぞ七年間よろしくお願いいたします」

 

反応はイマイチ…やってしまったかな?

でも正式なものだし…。

 

刀原は堅っ苦しい挨拶になったことに気がついた。

 

 

 

「丁寧な挨拶をありがとうトーハラ。彼はホグワーツで言えば4年生にあたるのじゃが、本人の希望により1年生からとなる。よろしくお願いしますぞ」

 

刀原は本場の西洋魔法が学べる貴重な機会と考え4年ではなく、あえて1年生から再スタートする事にしたのだ。

 

「はい、あらためてよろしくお願いいたします」

 

「では組み分けじゃ!マクゴナガル先生」

 

いよいよか…。

 

「ええ、では…トーハラ・ショウヘイ!」

 

「はい」

 

刀原はマクゴナガルの呼びかけに応え、帽子があった丸椅子に座る。

 

マクゴナガルは間髪入れず帽子を被せる。

 

すると帽子が喋り出す。

 

「ふむ。遥々日本からようこそホグワーツに……。古来より日本守りし死神にお会い出来るとは、光栄だよ……。さて、ふーむ…スリザリンはダメだろう。君は純血では無いし、狡猾ではあるが……基本的に正々堂々とした勝負を好む」

 

狡猾さ…師匠から教わった時に必要になるもの。

 

「うーむ、レイブンクローもダメだろうな。君は賢いし、実に優秀な素質を持っているが……死神という個には、居心地悪くなるかもしれない」

 

優秀だ、天才だなどと言われて居たが……師匠との修行を考えれば当然の結果だろう。

 

「ハッフルパフはまあ良いだろう。仲間に対して、君は力になるべく行動する」

 

当然だ仲間を守る力は最初の原点だった。

 

「だが…やはり君は死神だ。狡猾さも知識も慈愛も、全ては護廷の為、仲間の為、誇りの為に。そして勇猛ある強さを持ちたいと思っている……君はホグワーツの寮の話を聞いて、内心でもう決めているね?」

 

「ええ、決めていました……僕は死神になります。尊敬する曾祖父の様に、師匠達と同じ様に、狡猾さも知識も慈愛も必然的に手に入れたものです。だから僕が、ホグワーツで選ぶ道は……」

 

「分かっている。君の道に、最適な道は……グリフィンドール!!」

 

グリフィンドールのテーブルから歓声が上がる。

 

刀原は椅子から立ち上がり、深く組み分け帽子にお辞儀をする。

 

「君の道に幸運を」

 

組み分け帽子の激励に、刀原は笑顔で返したのだった。

 

 

 

刀原のを最後に、組み分けの儀式は終わった。

 

グリフィンドールのテーブルに着席した刀原は、ダンブルドア校長の一言を聞く事になるのだが…。

 

「食事を始める前にわしが言うことはこれだけじゃ。それ、わっしょい、こらしょい、どっこらしょい!以上」

 

「!?」

 

世界有数の魔法使いが言う言葉とはとても思えず、驚愕する。

 

師匠もそうだったが、実力者が歳を重ねるとお茶目になるのか?

 

刀原がそう考えている間に、目の前の皿には豪華な料理が出現する。

 

こう言っては何だが……。

英国料理は美味しく無いと聞くが…。

 

刀原は警戒し過ぎるのも考え物だな、と思いながら目の前のローストビーフに舌鼓を打つのだった。

 

 

 

生徒達がデザートまでしっかり食べた後、ダンブルドアが再び立ち上がる。

 

「全員よく食べ、よく飲んだことじゃろう。じゃあ寮に向かう前に一言二言、伝えなければならん。まず一年生じゃが、校庭にある禁じられた森に入っていかんぞ。もちろん上級生もじゃ」

 

刀原は戦闘訓練には丁度良いかもしれないと思った。

 

その後も廊下で魔法は禁止であること、クィディッチは二年生からでフーチ教授に伝えることなど周知し、最後に校歌を歌ってダンブルドアが感動した後、各寮に行く事になった。

 

そしてハリー等にお休みの言葉を言い、明日からの授業に刀原は備えるのだった。

 

 

 




BLEACHの巻頭ポエムの様なものをこの小説でも書きます。
感想等お待ちしてます。

次回は薬学と箒かな
よろしくお願いします。


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死神、授業を受ける 薬学と箒

目は恋人
顔は宿敵
そして彼らの
忘れ形見
彼女の為に
僕は蝙蝠となろう






「ああ、ハリー・ポッター。我らが新しい…スターだね」

 

「有名だけではどうにもならんらしいな?ポッター」

 

なんだこの教授。

 

刀原が一瞬ではあるがこう思ったのも、無理もないかもしれない。

 

 

 

組み分けによりグリフィンドール生となった刀原は、汽車で道中を共にしハリーとロンの二人と、行動を共にしていた。

 

刀原自体は彼らより年上という事になるのだが……。

 

「気楽な感じでいいよ、同学年なんだし」

 

という刀原の一言により、年齢差を感じさせない関係となっていった。

 

そんな関係を彼らと築いた刀原だが……マホウトコロで過ごした3年間は、彼らとの実力差を引き離すのには造作もない時間だった。

 

記念すべきホグワーツ最初の授業は、マクゴナガルの変身学だったのだが……。

 

「このマッチ棒を針に変えて下さい」

 

という課題に対して、刀原は紅葉の杖を持ってマッチ棒を針*1に変えたのだ。

 

ハーマイオニーも一発で出来た為、マクゴナガルは満足気に頷き……それ以降刀原は、課題が出来次第、他の生徒にも教える事になったのだった。

 

 

そんな刀原は、次の授業である魔法薬学に高い期待をしていた。

 

マホウトコロでも魔法薬学はある。

 

だが、魔法薬学は西洋薬学と東洋薬学に分かれていた。

 

刀原には、東洋薬学と回道という自身や他者の傷や霊圧を回復する鬼道を、剣術と共に叩き込んだ師匠が居る。

 

そして西洋薬学にも明確な師匠が居たのだ。

 

本人曰く、古い物らしいが。

 

刀原はそう思い浮かべて苦笑いするが……結局のところ、目的は変わらない。

 

マホウトコロでは学べない西洋薬学の真髄を。

 

「こっそり、後で僕に教えて下さいっす」

 

なんてその人に頼まれても、いるにはいるが。

 

刀原はウキウキ気分で、ハリー達と共に魔法薬学の教室に向かう。

 

そして……冒頭に戻るのだった。

 

 

 

刀原が期待を寄せる魔法薬学の授業は、スリザリンとの合同授業となった。

 

授業を担当するのは、そのスリザリンの寮監。

 

セブルス・スネイプ教授。

 

そのスネイプが……生徒の名前を読み上げている最中に、ハリーに対して言った言葉が。

 

「ああ、ハリー・ポッター。我らが新しい…スターだね」

 

という言葉だったのだ。

 

言葉だけ聞けば……漏れ鍋でも見たハリーを英雄視する人の言葉だ。

 

だが神経を逆撫でする様に言われれば……余程の者じゃない限り、皮肉だと気づくだろう。

 

敵視か私怨か知らないが、他所でやれ。

 

刀原は最初からジト目になってしまう。

 

その後出欠を取り終えたスネイプは出欠簿をコトリと机に置き、話始める。

 

「このクラスでは、魔法薬調剤の微妙な科学と厳密な芸術を学ぶ」

 

なるほど、調合をミスすれば爆発。微妙な科学と厳密な芸術とはある意味正しいかもしれない。

 

刀原は最初の事をひとまず忘れ、関心し納得する。

 

スネイプは話し続ける。

 

「吾輩の教えるこのクラスでは、杖を振り回すようなバカげたことはやらん。フツフツと沸く大釜、ユラユラと立ち上る湯気、人の血管を這い巡る液体の繊細なる魔力……真にこの素晴らしさを諸君らが理解できるとは思っておらん」

 

楽しかった…そして難しかった…。

 

思い出す、師匠との薬学調合。

 

西洋薬学は少ししか教えてくれなかった。

 

「これぐらい簡単っすよ?」

 

そう言われて悔しくて、頭を悩ませながら作った魔法薬が教科書の何処にも無く……「発表されたばかりの物っすよ」と聞いた時……師匠は自分を何にならさせたいのか分からず困惑したのはいい思い出だった。

 

刀原が考えている間も、スネイプの話は続く。

 

「吾輩が諸君らに教えることができるのは、名声を瓶詰めにし、栄光を醸造し、死にさえ蓋をする方法である……もっとも、諸君らが吾輩のこれまで教えてきたウスノロたちよりマシであればの話だが」

 

ウスノロでは無いと思いたい。

 

「全員が理解できるとは思っておらぬ。素質を持つ一部の者だけに、人の心を操り感覚を惑わす方法を伝授してやろう」

 

スネイプの演説が終わると教室が静まる。

 

そして静寂が教室を支配する中、「ポッター!」とスネイプの鋭い声が響き、刀原の隣にいたハリーは飛び上がる。

 

そしてスネイプは……。

 

「アスフォデルの球根の粉末に、ニガヨモギを加えると何になる?」

 

という質問をするのだった。

 

 

 

 

アスフォデルの球根の粉末に、ニガヨモギを加えると何になる?

 

という質問に……刀原はそれだけでは駄目だったはず、と考えた。

 

アスフォデルの球根にニガヨモギ、催眠豆の汁、ナマケモノの脳味噌、それに水を加え調合する事で生ける屍の水薬という強力な睡眠薬が出来るはず…。

 

刀原がそう考えている一方、ハリーは完全に?の顔をしており、ハーマイオニーは分かったのか手を挙げる。

 

ハリーはロンを見るが……ロンは力無く首を横に振り、最終的にハリーは「…分かりません。」と答えた。

 

スネイプはハリーの言葉に、わざとらしく溜息を吐く。

 

「有名だけではどうにもならんらしい。ではポッターよもう一つ。ベゾアール石を見つけてこいと言われれば、どこを探すべきか?」

 

そしてハーマイオニーを無視しながら再度質問をする。

 

ベゾアール石…山羊の胃から発見される石の様な物。

 

石と言いつつ山羊が消化しきれなかった物質なのだが、大概の毒を解毒できるという物だ。

 

しかしやはりハリーには分からず……彼は虚しく首を横に振り、「分かりません」と答える。

 

そしてスネイプはハーマイオニーをまたも無視し、

 

「クラスに来る前に教科書を開いて見ようと思わなかったわけだな、ポッター?」

 

と答えられなかったハリーに嫌味を言った。

 

なんだこの教授?

 

刀原はそう思い目を細める。

 

寮の確執を超えた個人攻撃。

此奴、本当に教授なのか?

それとも何か理由でも?

 

刀原は思惑を考えるが、次の質問が飛んでくる。

 

「ではポッター、もう一つ聞こう。モンクスフードとウルフスベーンの違いは何だね?」

 

「……わかりません」

 

スネイプは相変わらず挙手をし続けるハーマイオニーを完全に無視して、やれやれといった仕草をする。

 

モンスクフードとウルフスベーン、正体はどちらもトリカブトの一種だ。

 

刀原はスネイプの意地の悪さにウンザリする。

 

だがウンザリしている暇はなかった。

 

「どうやら……我らが新しいイギリスのスターは、我輩が出した質問に答えられないらしい。では……日本から来た留学生のトーハラ、君は答えられるかな?」

 

「!?」

 

自分に矛が向かって来るとは思わず、一瞬戸惑う。

 

だが、向けられた以上受けざる得ない。

 

「はい。まず、最初の質問ですが……アスフォデルの球根の粉末にニガヨモギを加えても、それだけでは意味はありません。これら二つに催眠豆の汁、ナマケモノの脳味噌、それに水をさらに加えて調合する事で『生ける屍の水薬』という無色透明で強力な睡眠薬となります。適量を間違えれば一生眠り続ける薬品ですが……近年、対抗薬として『死せる生者の水薬』が開発されています」

 

死せる生者の水薬。

 

師匠に煽られ作らさせれた、師匠が開発した魔法薬。

 

師匠は護廷十三隊に科学と西洋薬学を持ち込んだ人なのだが、いかんせんマッドサイエンティストっぽく見えるのは気のせいであって欲しい。

 

刀原は思い出しながら話を続ける。

 

「二つ目の質問ですが……ベゾアール石とは主に、山羊の胃の中から見つかる、山羊が消化しきれなかった石の様な物質ですね。なので探し出せと言われれば、山羊の胃を探ります。三つ目はどちらもトリカブト、別名アコナイトの呼び名です。トリカブトの葉は猛毒として知られており……魔法薬としては、脱狼薬の原材料になります。以上です」

 

スネイプは刀原の答えに頷く。

 

「見たかね?そして聞いたかね?流石は日本の留学生。我らが情け無いスターとは大違いの様だ。そして……何故諸君らは、刀原の答えをノートに書き留めない?」

 

スネイプがこう言うと、生徒は慌ててガリガリとノートに書き始める。

 

「刀原の謙虚ながらその歳にしては高い知識に免じて、ポッターの情け無い答えは帳消しにしてやろう」

 

スネイプはハリーに吐き捨てる。

 

そして終始ハーマイオニーを無視した。

 

その後スネイプは二人一組に生徒を分け、所々で小言を言いながら授業を行うのだった。

 

ちなみに…。

 

「ネビル、大鍋に火から離してから山嵐の針を入れるんだぞ」

 

「ああショウ、ありがとう。助かったよ」

 

ネビルが大鍋を爆破する所を、刀原は寸前で止めたのだった。

 

 

 

 

魔法薬学の授業もそうだったが、刀原には理解できないことがあった。

 

軋轢があるグリフィンドール寮とスリザリン寮。

この二つの寮に何故合同授業などさせるのだろう。

 

ハリー達に毎度毎度ダルがらみするマルフォイと、スリザリンを目の敵にするロンの様に……両陣営が顔を突き合せれば喧嘩や騒動に発展するのは決まっているのに。

 

こう思った最大の理由が、今まさにハリーとマルフォイとの間で行われようとしているドッグファイトだろう。

 

初めての箒訓練が行われるということを受け、刀原の朝食は一段と賑やかなものとなった。

 

スリザリンのテーブルでは、マルフォイがヘリにぶつかりそうになったという……自慢話だか失態話だかよく分からない話をしていた。

 

ネビルは今朝届いた『思い出し玉』という魔法具が何かを忘れていることを伝えていたが……ネビルにはそれがわからないという、なんとも残念な有様となっていた。

 

そんな騒がしい朝食を終え、刀原達は飛行訓練場に向かうのだった。

 

ちなみに刀原は正直な話、箒の飛行訓練に消極的だった。

 

というのも刀原、いや死神に箒などいらないからだ。

 

何故なら……死神の持つ技術には、瞬歩という高速移動と大気中にある霊子を固め足場とする歩法がある。

 

なお、刀原の瞬歩の師匠は瞬神と謳われる人物である。

 

「箒なんぞ役に立たんぞ!」

 

と言い放っていたほどだ。

 

 

 

 

 

「何をぼさっとしているのですか、早く箒のそばに立って。」

 

飛行訓練場に着くなりそう言い放ったのは、クィディッチの審判もするというマダム・フーチ教授だった。

 

「右手を箒の上に突き出す。それから上がれという。」

 

檄を飛ばすマダム・フーチの言う通り、生徒たちは一斉に上がれと言った。

 

だが……ハリーやマルフォイなどの、ごくわずかしか一発で成功していない。

 

そんな彼らを尻目に「上がれ」の一言で、刀原も一発で箒を上げる。

 

上がらなかった生徒たちは直接持たせる。

 

そして全員の手に箒が握られたことを確認したマダム・フーチは、生徒達に箒に跨るように指示した。

 

「私が笛を吹いたら地面を強く蹴る!箒をしっかり握って、数メートル浮上したら前かがみになって下りてくること! 笛を吹いたらですよ? さぁ、1、2の…」

 

そうしてマダム・フーチが笛に口をつける直前、事件が発生する。

 

「うわぁああああ!!」

 

箒を上げる時点からビクビクしていたネビルが、先に地面を蹴り、勢いよく飛びあがったのだ。

 

「こら、戻ってきなさいロングボトム!」

 

マダム・フーチが制止するも、ネビルが自身の箒を制御出来るはずがない、

 

ネビルはフラフラと上昇していき、おまけに箒が暴れだし、そして…。

 

ネビルがついに箒から手を放す。

 

数十メートルからの自由落下。

 

その瞬間。

 

辺りにシュッという音とカランという音がし、ネビルの落下を刀原が受け止めたのだった…。

 

 

落ちたと分かった瞬間、箒から手を離し、師匠直伝の瞬歩を使い一気にネビルの落下点に向かう。

 

地面を蹴り、空中でキャッチし着地。

 

そしてそのままストンとネビルを地面に降ろして、様子を確かめる。

 

うん、五体満足。

まあ、白目剥いて気絶してるが無理も無いね。

 

数十メートルの自由落下なんて、多くの子達は経験して無いでしょ。

 

空中歩行が俺達みたいに出来るとは聞いてないし。

 

そう思っているとネビルが目覚める。

 

「う、うーん。あ、あれ?僕はどうなったの?」

 

「お、起きたね。どっか痛い所無い?」

 

俺がそう聞くとネビルはキョトンとしながら「う、うん大丈夫」と答えたので、ようやくここで一息つく。

 

周囲を見ると、フーチ教授がハリー達を引き連れてバタバタとやって来ていた。

 

「ロングボトム!大丈夫ですか!?」

 

「は、はい大丈夫でした。」

 

ネビルがそう答えたのを見て、フーチ教授も安心したのか、フーと息を吐く。

 

まあ、あのまま落ちれば生死に関わる事態だった。

 

「あなたは数十メートルから落ちたのですよ。」

 

などとフーチ教授がネビルに伝えれば、ネビルの顔がみるみる青くなる。

 

「全員、ここで待っていなさい! もし箒に指一本でもふれた場合は、クィディッチの『ク』の字を言う前に、この学校から出て行ってもらいますからね!」

 

とフーチ教授はネビルを立ち上がらせ、ハリー達に伝える。

 

是非そうした方がいい。

 

ネビル吐きそうだぞ。

 

そう思っているとフーチ教授が俺を見る。

 

「ミスタートーハラ。先程は見事でした。ロングボトムを助けた事に対し、グリフィンドールに二十点あげます」

 

そしてそう言った。

 

当たり前の事をしただけなんだけど…。

 

級友が目の前で落ちて、助ける手段があるのに、助けないなんてありえないだろ。

 

まあそんな事を言ってもアレだから、素直に受けるか。

 

「いえ、当たり前の事をしただけですよ。」

 

 

 

 

「アイツの顔を見たか?あの大まぬけの」

 

刀原がネビルをキャッチし、マダムフーチがネビルを保健室に連れて行った後、マルフォイが嘲笑う。

 

手には光るガラス玉、思い出し玉を掲げ、

「見なよ!ロングボトムの婆さんが送ってきたバカ玉だ!」

とバカにする。

 

思い出し玉とは忘れ物などがあると赤く輝き教えてくれる道具なのだが、肝心の忘れ物の内容までは教えくれないという道具。

 

今朝それをハーマイオニーから教えてもらった刀原は、そんな思い出し玉を『とんだ欠陥品』と断じたので、バカ玉という表現は理にかなっていると思った。

 

そんなことを刀原が思っている間に、事態は動く。

 

「返せよマルフォイ」

 

とハリーが思い出し玉を返すように、マルフォイに言っていたのだ。

 

「いやだねポッター。取り返したかったら自分で取り返してみるんだな。」

 

当然大人しくマルフォイが返す筈もなく……ハリーに向かってそう言い放ち、箒に乗って空に浮かび上がる。

 

「ダメよハリー!退学になるわ!」

 

ハーマイオニーはハリーを制止しようとするが、ハリーはそれを無視しマルフォイを追いかける。

 

あーあ、やっぱりこうなるか。

 

刀原はため息をつく。

 

だが、それと同時に感心もする。

 

マルフォイのヘリ衝突未遂話は確からしいし、ハリーは魔法界にいなかったことを感じさせない飛びっぷりだ。

 

刀原が感心していると。

 

「取ってみなよ、ポッター!」

 

マルフォイがそう言って思い出し玉を投げる。

 

ハリーはそれを見て一瞬戸惑ったように見えたが、直ぐに箒を再度強く握りしめ、思い出し玉に向かって突進する。

 

思い出し玉はホグワーツの尖塔にぶつかる直前だったが、ハリーは間に合い、くるりと一回転しながら思い出し玉をキャッチする。

 

良かった、また瞬歩しなくて……あ。

 

刀原はそう吞気にハリーを見ていたが、その先の光景を見て目を見張る。

 

尖塔には当然窓があるのだが……そこからマクゴナガルの姿がちらりと見えたからだ。

 

あ、やばそう。

 

刀原の顔が引きつる。

 

その間も、ハリーはマルフォイを空に放置して歓声を上げる生徒達に向かって降りてくる。

 

刀原はハリーにマクゴナガルが来ることを一応伝えようとするが……時すでに遅し。

 

「ハリー・ポッターぁあああああ!」

 

マクゴナガルがやってくる。

 

先程まで歓声を上げていた生徒達と、誇らしげだったハリーの顔がさーっと青ざめていく。

 

「まさか…こんなことが。」

 

怒りのせいなのか、体がわなわなと震えているマクゴナガル。

 

それを見たハーマイオニーやロンが、必死に釈明をしようと試みるも。

 

「事情はこちらで判断します」

 

と一蹴されてしまう。

 

「ポッター。ついてきなさい」

 

そしてハリーは連行されてしまった。

 

 

 

「これでポッターは退学だな」

 

とマルフォイは余裕そうに高笑いするが、そう人生は甘くない。

 

「大丈夫でしょ。少なくとも退学にはならんはずだ」

 

と俺は反論する。

 

するとマルフォイは納得できなかったらしい。

 

「なに!何故だ!」

 

と聞いてくる。

 

分かんないのか。

 

「一、ハリーが退学ならマルフォイ、君も一緒に連行され退学となるからだ。だってハリーと一緒に飛んでいたのだからな」

 

そう、マクゴナガル教授を見ていれば……あの人が如何に厳格な人か分かる。

 

グリフィンドールとスリザリンの確執や贔屓など関係なく、同罪なら一緒に処罰するはず。

 

「二、飛んだら退学という事情を、マクゴナガル教授はご存じないと思うから」

 

飛んだらクィディッチの『ク』の字を言う前に、この学校から出て行ってもらいますからね!

 

この言葉を言ったのはフーチ教授。

 

マクゴナガル教授が聞いていた可能性も……まあ、無くはないけどね。

 

「とまあざっと簡単に思いつくのはこんな感じかな?」

 

と俺が言えばマルフォイは反論ができないのか押し黙る。

 

だが、ハリーが退学にならないと思う決定的な状況を俺は見てる。

 

だって…。

 

確かにハリーを見ていたマクゴナガル教授は、一見すると激怒しているように見えた。

 

「ついに見つけた!」

 

だが、そう言うかのようにらんらんと目が輝いていた。

 

それに口をニヤリとし、軽く、本当に軽くガッツポーズしていれば。

 

退学じゃないことなんて分かることじゃないか。

 

刀原は師匠直伝の洞察力を十分に発揮し、ハリーがマクゴナガルに何を任されたのか聞くのを楽しみにするのだった。

 

その夜、ハリーからクィディッチの選手になったことを聞き。

 

次の朝、ハリーのもとにニンバス2000という競技用箒が届き、マルフォイ等を驚愕させ。

 

マルフォイは、グリフィンドールに最高のシーカーを発見させる栄誉に輝いたのだった。

 

 

 

 

 

 

*1
なお、糸通し付き




みなさんは一人称だけが良いでしょうか
それとも三人称と一人称を混ぜる方が良いでしょうか

感想も含めご意見お願いします。


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死神、ハロウィンを楽しむ トロールを添えて


木を隠すなら森の中

人を隠すなら人の中

騒ぎを隠すなら騒ぎの中。






 

刀原はホグワーツの廊下を走る。

 

女子トイレに向かって。

 

トロールも女子トイレに入る。

 

それを見て刀原は抜刀態勢に入った。

 

女子の悲鳴を聞きながら…。

 

 

 

ホグワーツに来てから早二ヶ月が過ぎた。

 

本日は10月31日。

 

つまり、日本ではあまり馴染みのないハロウィンの当日となる。

 

そのためホグワーツでは朝からカボチャの匂いが充満しており、甘ったるい空気となっていた。

 

しかしホグワーツは魔法学校、ハロウィンだろうが授業は行われる。

 

そして、この日の授業は妖精の呪文という授業。

 

刀原は相変わらず首を傾げていたが……今回もスリザリンとの合同授業となっており、物を宙に浮かす呪文を学ぶという内容だった。

 

「ビューン、ヒョイですよ。いいですか……ビューン、ヒョイ。呪文も正確に、これも重要ですよ」

 

レイブンクローの寮監も務めているという小鬼の血筋を持つ教授、フリットウィック教授はそう生徒達に教える。

 

「ウィンガーディアム・レヴィオーサ。ですよ皆さん」

 

杖の動きから呪文の発音までを丁寧に実演した後、生徒達は机の上にある羽を浮かそうと試み始める。

 

だがしかし、うまくいっている生徒はいない。

 

見よう見まねで杖を振っているが、おそらく発音などが違うのだろう……。

 

だが、マホウトコロにて既に習得している刀原にとっては、おさらいも同然だった。

 

ウィンガーディアム・レヴィオーサ(浮遊せよ)

 

刀原は羽を容易く浮かび上がらせ、フリットウィックから称賛される。

 

「凄い!どうやったの?」

 

「ああ、この呪文はな……」

 

隣のハリー達にコツを聞かれた刀原は、羽を降ろしておしえようとする。

 

だが、近くのロンとハーマイオニーが騒ぎ出す。

 

「ウィンガーディアム・レヴィオサー」

 

ロンはそう言って杖をブンブンと振るが、羽はピクリともしない。

 

「ロン、発音がちょっと違うわ。レヴィオーサよ。あなたのはレヴィオサーになってるわ」

 

ハーマイオニーは闇雲に杖を振るロンを止めながらそう言うが、お年頃のロンは反発する。

 

「そんなに言うならまず君がやってみろよ」

 

ロンにそう言われたハーマイオニーは、んんっと咳払いし呪文を唱える。

 

ウィンガーディアム・レヴィオーサ(浮遊せよ)

 

するとハーマイオニーの羽は、ふわふわと浮き始めたではないか。

 

「オオッ!よくできました!皆さん、グレンジャーさんが一発でやりました!」

 

ハーマイオニーは褒められ恥ずかしがり、ロンは気に食わなかったのか不貞腐れる。

 

その後も授業は続いたのだが……浮かび上がることができたのは刀原とハーマイオニーのみだった。

 

ほかの生徒はうんともすんとも言わず、特にシェーマスという生徒の羽は、何故か爆発して本人もろとも黒焦げになるという結果を迎えたのだった。

 

だが、この授業で出来たロンとハーマイオニーとの喧嘩は、予想外の騒動に発展することになったのだった。

 

 

 

 

今日はハロウィンということで朝っぱらからカボチャの匂いがしていたが……やはり今夜の晩餐会のための匂いだったか。

 

夜空を模した天井には、従来の蝋燭ではなく、大小さまざまなカボチャが浮かんでいる。

 

何やら顔っぽいが…。

 

ハリーに聞いたところ、どうやら『ジャック・オー・ランタン』というものらしい。

 

日本ではあまり目にしないハロウィンというイベント*1に、カボチャパイやカボチャスープを代表とするパンプキンディナー。

 

それらをハリー達と共に、今まさに堪能しているところなのだが……俺には気掛かりなことが一つある。

 

今まさに三階の女子トイレに立て篭っているという、ハーマイオニーのことだ。

 

ロンが腹いせなのかハーマイオニーの悪口を言い、彼女はそれに傷ついたというのが一連の流れなのだが………。

 

まあ、ぶっちゃけ……ロンに弁護の余地なしというのが、俺の結論だ。

 

「悪夢のような奴」だの「そんなだから友達ができない」だの。

 

たとえムカついたとしても、本人が聞きそうな場所で言うかね?

 

まあハーマイオニーも言い方がきついというとこは、あるのだし…。

 

あと俺が励ましに言ったら「私より優秀で、謙虚なあなたにはわからないわ!」って言われ案外傷付いた…。

 

優秀な理由なんていくらでもある。

 

年上であること。 

マホウトコロでやっていること。

師匠との修行*2をやっていたこと。

 

だがそれを言っても始まらないので、ご飯は取っておくと言い放置したのだ。

 

「大丈夫かねぇ?」

 

「ハーマイオニーのこと?」

 

俺がボソッと言えばハリーが小声で聞いてくる。

 

「まあね……せっかくのパンプキンディナーだ。できればみんなで食べたいじゃないか」

 

俺がカボチャジュース片手に言えば、ハリーも「そうだね」と同意する。

 

「別にいいだろ。いないやつのことなんて」

 

俺たちの会話を聞いていたロンが、そうボソッと反論してくるが無駄だ。

 

「声、震えているぞロン。強がりはやめて大人しく謝れ。それでも英国紳士か」

 

そう言えば、やはり反省しているのか静かになる。

 

どうやら俺がハーマイオニーに拒否られた後、ロンに「言い過ぎだバカモンが」と一喝したのが効いているようだな。

 

とりあえずそこの空き皿にカボチャパイとカボチャスープとかを載せて、ハーマイオニーへの手土産にしようか…。

 

なんて考えていたら、大広間の扉が勢いよく開く。

 

入ってきたのはターバンとニンニクの匂いが特徴的で、亡霊?に取り憑かれているクィレル教授だった。

 

いったいどうした…。

 

「トロールが!ホグワーツ地下牢に!」

 

トロール?

 

「お知らせ…しなくてはと…」バタリ…。

 

気絶した…。

 

ん?

トロール!?

 

ええ~せっかくの晩御飯が…。

 

 

 

 

大盛り上がりの晩餐会。

 

そんな中……。

 

場違いのゲストとしてトロールがやってきた。

 

生徒がパニックになるのも仕方なかった。

 

しかしダンブルドア校長の

 

「鎮まれぇええええ!」

 

という一喝で、生徒たちはおとなしくなる。

 

おお!師匠みたい。

 

俺はハーマイオニーの分を空き皿に確保しながら、呑気にそう思う。

 

「監督生の諸君、生徒を連れて寮に戻りなさい。先生方はトロールの対処を」

 

ダンブルドア校長がそう言えば、生徒たちは自分たちの寮へ向かい始め、先生方はトロール対処へ赴く。

 

さて、料理も確保したし……俺もハリー達と寮へ向かいますか…。

 

あ!

 

俺はここで気付く。

 

ハーマイオニーはトロールのことを知らない。

 

やばい!

 

ネビルにハーマイオニーの料理を託し、俺は急いでマクゴナガル教授に状況の説明をしに行く。

 

「マクゴナガル教授!」

 

「一体どうしました、ミスタートーハラ……?今、忙しいのですが…」

 

「詳しいことは省くのですが、ハーマイオニー・グレンジャーさんが三階の女子トイレにいるんです」

 

「なんですって!それは本当なのですか!?」

 

「はい!ハーマイオニーを救出する為に、僕が別行動をする許可を下さい」

 

「しかし、あなた一人では無謀です。先生たちも同行致します」

 

「いえ、それには及びません。クィレル教授曰く、トロールは地下牢にいるとか。僕が遭遇する可能性は低いですし、先生方はトロール討伐に人を取られるはず。他の生徒の護衛戦力も考えると、一人で大丈夫かと」

 

「ですが」

 

「それに!」

 

「…それに?」

 

「トロールに後れは取りません」

 

「…」

 

「教授、時間がありません。ご決断を」

 

「…ミスタートーハラ、あなたを信じます。お願い出来ますか?」

 

「ありがとうございます。お任せを」

 

よし、マクゴナガル教授の許可は得た。

 

俺はここ二ヶ月の間、手に持っているだけだった愛刀たる斬魄刀*3を腰に差す。

 

そして走り出た。

 

三階の女子トイレを目指して。

 

 

 

 

刀原がはハーマイオニーがいる女子トイレに向かっていた。

 

そして目を見開く。

 

少し先にあるT字路を左に曲がれば女子トイレなのだが、その女子トイレに向かってトロールが歩いていたのだ。

 

何故、地下牢にいるはずのトロールが?

 

など考える暇もなく。

 

「キャーーーーーーー!!」

 

というハーマイオニーの悲鳴が聞こえてくる。

 

トロールが女子トイレに侵入したのだ。

 

刀原は霊圧を更に高める為にスーっと息を吸い、腰を低くし、抜刀態勢に移行する。

 

そして廊下の壁を蹴って曲がり突入する。

 

目の前にはトロール。

 

刀原はスライディングしながら抜刀し、トロールの膝裏を叩きながらハーマイオニーとトロールの間に割り込み、斬魄刀を構えた。

 

 

 

 

 

こいつがトロールか。

 

そう思いながらトロールを観察する。

 

中々に大きい図体。

打撃性しかない只の棍棒。

 

こいつに後れを取るようなら……日本に強制的に戻され、修行のやり直し確定だな。

 

「ショウ!?どうしてここに!?」

 

ハーマイオニーが聞いてくる。

 

「いや、ハーマイオニーを助けに」

 

「ええ?」

 

「細かいことは後、まずはこいつを何とかしよう」

 

「う、うん」

 

さて……やるのはいいが、どうするかね。

 

そう思っていると、トロールが棍棒を振りかぶり、叩きつけに来る。

 

ガキンッ

 

師匠やマホウトコロの友人からすれば遥かに遅い。

容易く斬魄刀で防御する。

 

そして、防御しながら後ろのハーマイオニーに声を掛ける。

 

「とりあえずハーマイオニー。俺が抑えているから……トイレ入り口に行けるか?」

 

「ごめんなさい、ちょっと今立てそうにないの(腰を抜かしたの)

 

「ああ、了解」

 

さあどうする。

 

「とりあえず止めるか。縛道の四『這縄』!」

 

トロールの棍棒をかちあげながら、這縄を放つ。

 

這縄はトロールを捕らえるが、奴ご自慢?の筋肉であっさりと破られる。

 

「ええー、まじか」

 

ちょっと予想外。

 

その時、トイレの入り口の方からバタバタと人が来る音が聞こえて来る。

 

教授陣が来たかと思ったが、予想はまたも外れ。

 

「ハーマイオニー!」

 

「大丈夫か!?」

 

なんとハリーとロンだった。

 

 

 

ハリーとロンが参戦した間も、トロールの攻撃は遅いかかってくるが、難なく防御し続ける。

 

「ハリー!ロン!あなたたちも来てくれたのね?」

 

「ハーマイオニーがトロールの事、知らないと思ってきたんだ」

 

「なんでショウもいるんだ?」

 

「その理由は、二人と同じだ!」

 

ガキンッ!

 

トロールの攻撃をもう一度抑え込む。

 

「おい、こののろま!」

 

「こっちだ!」

 

俺の方が形勢不利と思ったのか*4、ハリー達はトロールが壊したトイレの残骸を投げて、トロールの気を引こうとする。

 

あっぶね。

 

気を引こうとするのはうれしいんだけど……俺にも当たりそうなんだけど。

 

あ、でも…。

 

コツン……。

 

二人が投げた残骸が、見事にトロールの頭へ着弾する。

 

トロールが二人の方へ向く。

 

ビクッとなる二人。

 

よくやった!その隙は逃さん。

 

「そこだぁ!」

 

俺はトロールの膝脇を叩けば、トロールの体勢が僅かに崩れる。

 

その間に、ハーマイオニーはトロールの脇をすり抜け、ハリー達に合流する。

 

だがトロールは体勢を立て直し、今度は三人目掛けて棍棒を振り下ろそうとする。

 

だが。

 

「ビューン、ヒョイよ!」

 

「ウィンガーディアム・レヴィオーサ」

 

ロンが浮遊呪文を成功させたのだ。

 

トロールが持つ、唯一の武器らしい武器は宙に浮く。

 

つまり、最大のチャンス。

 

「よし今だ!縛道の九『撃』!」

 

撃を使うが、やはり破られかける。

 

トロール相手には撃でも足りないか。

 

だが、もう遅い!

 

お前に恨みは、まあ無くは無いが!*5

 

「おりゃぁああ!」

 

跳躍し、トロールの脳天目掛けて刀を振り下ろす。

 

ガツンッ!

 

鈍い音がして、俺が着地すると同時に。

 

トロールは地に伏したのだった。

 

 

 

フーっと息を吐く。

 

トロールを仕留めようとせず、無理に攻め込もうとしなかったことが長引いた原因だと思う。

 

まあ……まだ一年生の三人がいるこの場で、トロールを始末するのはどうかとも思い、仕留めなかったのもあるが。

 

もし次があるのならば*6……次はスマートに倒そう。

 

俺ははそう決意しながら、血はついていないが一応斬魄刀を払い鞘に納める。

 

「死んじゃったの?」

 

とハーマイオニーが聞いてくる。

 

襲われたというのに優しいな。

 

「いや、気絶しただけだよ」

 

俺がそうこたえると、ハリーが頭に?を浮かべながら聞いてくる。

 

「でもさっき刀で切ってたんじゃないの?」

 

「ああそのことか」

 

確かに言ってなかった。

 

「俺の斬魄刀はね、切れないんだよ。ほら」

 

俺はそう言いながら斬魄刀を再び抜き、三人に見せつつ説明する。

 

「斬魄刀は始解をすることで、能力が解放されるんだけど……。解放していない状態を浅打っていうんだ。それで、ほとんどの浅打は日本刀の形をしているんだけど……俺の斬魄刀は刃が全くないんだ」

 

「ホントだ全くない」

 

「なんで?」

 

「まあ、それが俺の斬魄刀の特徴だからかな」

 

そう、俺の斬魄刀は刃が全くない。

 

言うなれば両峰刀とでもいう感じで、ただの刀の形をした鉄の棒でしかない。

 

理由は斬魄刀から聞いたから大丈夫だけどね。

 

バタバタ…。

 

そして響く複数の足音。

 

ようやく教授陣が駆け付けたみたいだね。

 

「まあ、なんてことでしょう」

 

マクゴナガル教授が唖然としながらそう言った。

 

そりゃあ、トロールが伸びていたらそうなるよね…。

 

 

 

 

女子トイレに駆け付けた教授陣は、マクゴナガル・スネイプ・クィレルの三人だった。

 

教授陣は、まず女子の惨状を見た。

 

そして教授が来たことを察知して斬魄刀を鞘に納めた刀原と、比較的無事そうなハリーとロン、最後に埃を被っているが無事そうなハーマイオニーを見て、愕然とする。

 

クィレルは気絶したトロールを見て悲鳴を上げるが、マクゴナガルは流石というべき判断力を発揮する。

 

「まあ、なんてことでしょう。グレンジャーとトーハラがいるのは分かっていましたが……。何故、ポッターとウィーズリーが居るのです?」

 

「えっと、あの、その」

 

マクゴナガルに詰められ口どもる二人。

 

「私のせい…」

 

ハーマイオニーが二人が庇おうと、マクゴナガルに話しかけようとする。

 

「…ここは俺に任せて」

 

それを刀原が制止し、マクゴナガルに説明をする。

 

「僕がご説明します。マクゴナガル教授」

 

「トーハラ、これはどういうことですか?私はグレンジャーの救出はお願いしましたが……トロールの討伐はお願いしませんでしたよ」

 

「はい。僕もトロールと交戦するつもりは、全くありませんでした」

 

「では何故?」

 

「第一に……僕がここに現着したときには、既にトロールがこの場に居たためです」

 

「ではグレンジャーを守りながら、ここを出ればよいのではないのかね?」

 

スネイプはねっとりと刀原に聞く。

 

だが刀原は反論する。

 

「まあ確かにそうなのですが……グレンジャーさんを守りながら撤退すれば、合流先の生徒達をさらに危険な目に合わせることにも成りかねないと思いました」

 

トロールが数体いた可能性も考慮しましたしね。

 

と刀原はつぶやく。

 

実際、地下牢にいるはずのトロールが別の所に居れば、そう考えてもおかしくはない。

 

「以上の事から……ここで仕留める、あるいは先生方が来るまでハーマイオニーを守るべきと判断しました」

 

マクゴナガルとスネイプは納得するかのように頷く。

 

だが…。

 

「それでは、ポッターとウィーズリーが居た理由が無いように思いますが」

 

マクゴナガルはハリーとロンが居た訳を刀原に聞く。

 

だが、刀原はちゃんと答え(言い訳)を用意していた。

 

「ハリーとロンは、おそらく僕と同じくハーマイオニーを助けに来たのだと思います。二人もハーマイオニーが女子トイレに居る事を、知っていたので」

 

「なるほど、そういうことだったのですね…」

 

マクゴナガルは納得するそぶりを見せる。

 

そして評価を下す。

 

「ポッター、ウィーズリー。あなたたちが助かったのはトーハラがこの場に居たからです。助けに行くのであればせめて先生方に言うべきでした。まあ、友人を助けるためにトロールに立ち向かった勇気と運に免じて、二人に五点ずつ与えます」

 

マクゴナガルの言葉に、ハリーとロンはお互いに見合って喜んだ。

 

そして刀原とハーマイオニーを見る。

 

「グレンジャーはトーハラ達三人に、よくお礼を言うことです。三人が来なければ、間違いなく命はなかったでしょう」

 

ハーマイオニーは頷く。

 

「トーハラ。その歳でトロールから友人を守り、かつトロールを倒す者はいません。さすがは日本の魔法使い…死神というべきですね」

 

「ありがとうございます、マクゴナガル教授。ですが僕も含め死傷者が出なかったのは、途中で参戦した二人のおかげでした」

 

刀原はハリーとロンの方を見ながら言うと、二人は照れ臭そうに笑った。

 

「そうですか、ですがこれは貴方ありきの話です。そこでトーハラ、あなたに二十点差し上げます。本当によくやりました」

 

マクゴナガルはそう微笑みながら刀原にそう言い、女子トイレから去る。

 

それに合わせる形でスネイプも去り、残ったのは刀原達四人とクィレルのみとなる。

 

「さ、さあ四人とも、も、もう寮へお戻りなさい。ぐずぐずしているとトロールが、お、起きてしまうかも」

 

クィレルから言われた四人は、寮へ戻るのだった。

 

 

 

その後ハーマイオニーから謝罪をされ、ロンもハーマイオニーに謝罪することで一件落着となり、真の意味でハリーとロンとハーマイオニーは親友になるのだった。

 

ちなみに…。

 

トロールをノックダウンさせた話は尾ひれがつきまくり、刀原はうんざりすることになった。

 

 

 

 

 

 

*1
日本にハロウィンが広まったのは2000年頃

*2
他人から見れば地獄の修行

*3
拗ね始めた為、ここ最近必死に宥めている

*4
そんなことはない

*5
刀原はトロールパニックによって、最後の楽しみにしていたカボチャプリンを食べ損ねていた

*6
もちろんそうならないことを祈っているのだが




感想、質問、修正指示等ありがとうございます。
すごく励みになります。

主人公の斬魄刀は個人的に強力なもの選んでいます。
故に浅打はあんな感じに…
なお、BLEACHに出た斬魄刀ではありません。
似たようなやつはありますが、所詮オリジナル斬魄刀ですね。

次回は三頭犬とハリーの初陣まで行くかもですね。
それでは次回もお楽しみに


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死神、観戦する クィディッチと三頭犬

見た目に騙されるな

陰険な見た目でも
臆病な見た目でも

勇敢な見た目でも
飄々な見た目でも

人の見た目に騙されるな、内面も見よ

それでも本質は見れないのだが。







トロールパニックとなったハロウィンが終わり、気づけば11月に入る。

 

ホグワーツ城があるイギリスのスコットランドは北緯が高く*1、11月ともなればいよいよ寒くなっていく。

 

朝晩は湖の上に霧が出て、校庭には霜が降りている。

 

そんな寒空の中、ホグワーツにクィディッチのシーズンが到来する。

 

異例の一年生となったハリーも含めたグリフィンドールチームは、いよいよ練習の時というわけだ。

 

そしてグリフィンドールの秘匿兵器*2であるハリーの初陣は、今季初の試合ともなるスリザリン戦だった。

 

その肝心のハリーは……練習がきつくなるにつれ、宿題までに手を回すのがきつくなっていった。

 

まだホグワーツの生活に慣れていない一年生なのだから、それは仕方ないのだが……先生達は容赦しない。

 

刀原とハーマイオニー、それに乗じる形でロンも一緒になって、ハリーの宿題の面倒を見るのがお決まりの形となっていた。

 

 

 

そんな初戦の前日、トラブルがハリーを襲う。

刀原が席を外している間にスネイプが襲来したのだ。

 

「んで、何があったの?」

 

先ほどすれ違ったばっかりだったスネイプを思いだしながら、刀原はご立腹の三人に聞く。

 

「さっき、ねちねちと因縁を付けて来たんだ」

 

「中庭が校外だって言って、ハリーが図書館で借りた本を没収していったのよ」

 

んな無茶苦茶な。

 

刀原はそう溜息をつきながら呟く。

 

スネイプは、かなりハリーが気に食わないらしい。

 

「それがまかり通るなら、森の渡り廊下もそこの廊下も駄目だな」

 

「まったくショウの言う通りよ。勉強に行くのも気をつけなきゃいけないじゃない」

 

刀原とハーマイオニーが言い合っていれば、ハリーとロンの怒りもましになってきたらしい。

 

ロンが話題を変える。

 

「それにしても、見たかスネイプの足。あれ、一体どうしたんだろう」

 

「ああ、確かにそうだね」

 

四人は、ここ最近スネイプが片足を庇いながら歩く姿を見て、疑問に思っていた。

 

「何かケガしたんじゃない?」

 

「何に?」

 

結論は当然出なかったが、その日は過ぎていく。

 

 

 

そして初戦となる日。

 

ハリーは緊張でガチガチだった。

 

「何か食べないと」

 

「そうだぞ、腹が減っては戦はできぬだ」

 

緊張のあまり朝食に手を付けないハリーに対し、刀原とハーマイオニーは頑張って食べるよう促すが……。

 

「食欲ないんだ…」

 

ハリーは手を付けない。

 

そして。

 

「グリフィンドールチーム!行くぞ!」

 

というグリフィンドールチームキャプテン、オリバー・ウッドの号令がかかり、ハリーはガチガチのまま競技場に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

そういえば……マホウトコロにもクィディッチチームがあったよな*3

 

俺はそんなに興味なかったけど。

 

「なあ、ショウ」

 

そんなことを思っていると、ロンが肘で小突きながら言ってくる。

 

「昨日も見ただろ?スネイプが足を引きずりながら歩いているの」

 

「もちろん、ばっちりと」

 

「昨日ショウが寝た後*4にさ、僕とハリーが考えてみたんだ。ショウは、立ち入り禁止の先に居る犬のことって……知ってる?」

 

「ああ、ハーマイオニーが前に言っていた三頭犬(ケルベロス)のこと?確か足元に扉があったとも言ってたけど」

 

俺は、まだハリーとロンと仲良くなっていなかった頃のハーマイオニーが、愚痴っていたのを思い出す。

 

 

ーーーーーー

 

「ねえ、聞いてショウ!」

 

「どうしたハーマイオニー」

 

「ダンブルドア先生が、四階の右の廊下は立ち入り禁止だっておっしゃっていたでしょう?」

 

「うん、確かに言っていたね」

 

「私とハリーとロンが、間違ってその廊下に入ってしまって……その時奥の部屋に入ってしまったの」

 

「ふむふむ」

 

「それでその部屋に三頭犬が居たの!」

 

「はい?」

 

「三頭犬の足元には扉があったのよ。多分それを守っているんだわ…」

 

「三頭犬を番犬替わりねぇ」

 

「それにしてもまったくあの二人、いつか死んじゃうんじゃないかしら。悪ければ退学ね」

 

「そ、そうだね。それは確かに心配だ」

 

(死より退学が心配なのか…)

 

ーーーーーー

 

 

「そうそれそれ、知ってるんなら話が早いや。スネイプは時間を稼ぐためにトロールを放って、その間に三頭犬の所に行った。だけど、そこで噛まれて怪我をした。こうだと思ったんだけど……ショウはどう思う?」

 

「うーん……。確かにスネイプ教授は、ぱっと見れば悪役っぽい見た目してるし……ハリーをやたら敵視してるけど。だからといって、そんな暴挙に出るかなぁ?」

 

「でもあいつならやりかねないよ」

 

「俺の師匠はね。人は見た目を見ても、内面を見ても、結局のところ本質は分からないって言ってた。残念ながら、そこまで断定するのは難しいと思う。もう少し、証拠がなくちゃね。それにトロールや、そのトロールを放った犯人から何かを守る為に、三頭犬の場所に行って怪我をした。そんな可能性もある」

 

洞察と推理考察を教えてくれた師匠。

 

 

ーーーーーー

 

「本質なんて、そんな簡単に分かるわけないじゃない。様々な事を見て聞いて把握して、考えて、それらを探るんだよ」

 

「そんなもんなんですか」

 

「そんなもんなんだよ」

 

「へぇー」

 

ーーーーーー

 

 

なんてやり取りしたな。

縁側でお茶飲みながら。

 

「とりあえず。スネイプ教授を犯人だと決めつけるのは早い気が…」

 

そこまで言ったところで競技場全体で歓声が上がる。

 

選手が二列になってグラウンドが出てきたのだ。

 

試合が開始された。

 

マダム・フーチが審判をし、グリフィンドールのリー・ジョーダンが実況する。

 

最初はグリフィンドールが先制点をあげ、さらに追加点をあげるもスリザリンが追いつく。

 

そして次第に反則級のプレーで荒れていく。

 

そんな中、ハリーの箒が次第にコントロールを失い、最終的にはロデオ状態になる。

 

そのことに、少なくない生徒が気付き始めた。

 

「おいおい……まじか」

 

「あ、いたわ!あそこ!スネイプよ!箒に呪いをかけてるわ」

 

「ど、どうしようショウ!ハーマイオニー!」

 

「私に任せて!」

 

ハーマイオニーはそう言って駆け出た。

 

ロンはぶつぶつと必死で、ハーマイオニーに祈る。

 

俺は、ハーマイオニーが置いていった双眼鏡を覗く。

 

そこには……隣のロンと同様に、ぶつぶつと何かを言っているスネイプ教授がいた。

 

ロンとの違いは、ハリーをずっと見ていることだ。

 

すみません師匠。

 

あの教授(スネイプ)すっげー怪しく見えます。

 

だが俺の目は、もう一人に釘付けになる。

 

誰あろう、クィレル教授だ。

 

スネイプ教授との違いはぶつぶつ言っていないこと。

 

この局面、本来なら隣の人と見合ったり心配するそぶりをするはず。

 

臆病で神経質なクィレル教授なら……今頃は失神してもおかしくはない。

 

それこそハロウィンの様に。

 

なのに……ずっとハリーを見つめている。

 

そして、クィレル教授に取り憑ついている悪霊っぽい何か。

 

やばい、スネイプ教授とクィレル教授。

どっちかわからん。

 

犯人捜しを置いていき、事態は解決へと導かれる。

 

スネイプ教授の足元に火の手が上がり、スネイプ教授とクィレル教授両名がパニックにより他の教授に押され、そしてドミノ倒しの様に倒れた。

 

おそらくハーマイオニーがやったんだな。

 

そして呪いが解かれた箒はおとなしくなる。

 

ハリーを見れば、箒に復帰し、加速していく。

 

やれやれ、とりあえず大丈夫だな。

 

俺がそう思っていればハリーは急降下していく。

 

そして。

 

ハリーはスニッチを取った。*5

 

なんかスリザリンチームのキャプテンが文句を言っているが、結果は変わらない。

 

ハリーの初陣となった試合は、グリフィンドールの勝利で幕を閉じたのだった。

 

 

 

 

ハリーにとっての初陣を勝利で飾った訳だが……試合終了後の喧騒も祝賀も、どこか遠くへ置いてゆき、ハリーとロン、ハーマイオニーに刀原も加えた四人は、ハグリッドの小屋に居た。

 

刀原にとって、ハグリッドの小屋は初訪問であり、微妙な家具サイズの違いに驚いていた。

 

ハグリッドも含めた五人が何故小屋に居るのか。

 

勿論、先ほどの試合で急に箒がロデオし始めた原因解明の為だ。

 

刀原以外の三人は、スネイプがハリーの箒に呪いを掛けたのだと主張する。

 

対するハグリッドは、それはいくら何でも勘違いだ、あり得ないと主張する。

 

だが、人数差も相まって押され気味のようだ。

 

一方の刀原は……ハグリッドがおすすめしてくれたロックケーキを、どうやって食べるか悩んでいた。

 

ホグワーツでも時々出てくるロックケーキ。

 

普段の奴なら大丈夫なのだが……ハグリッドのロックケーキは固すぎたのだ。

 

最終的に刀原は、斬魄刀に謝りながら柄頭で砕いて食べるという手段を思いつく。

 

なかなか味わいがあってうまい。

 

ロックケーキを堪能していた刀原。

 

しかし、ちらちらとハグリッドが見てくる(助けてくれと言っている)

 

やれやれと助け船を出すことにしたのだった。

 

 

「世の中には無言呪文とか色々とあるから……。スネイプ教授が掛けていたのか、逆なのか分んないんだよね…」

 

「ショウはスネイプを庇うって訳?」

 

俺が反対論を出せば、ハリーが反発する。

 

「いや、黒に近い灰色であることに否定はしない。でも同じようにクィレル教授も怪しく見えるんだよね…」

 

「クィレル教授?なんで?」

 

「あの人にそんな度胸あるわけないだろ」

 

ハーマイオニーもロンも聞いてくる。

 

俺は三人にクィレル教授も怪しく見えた理由を言う。

 

だが。

 

「一周り周っちゃたんだと思う」

「失神を通り過ぎて見てたんだ」

「幽霊なんてそこら中にいるわ」

 

と否定される。*6

 

駄目だこりゃ。

あきらめろハグリッド。

説得は無理だ。

 

スネイプ教授が犯人と断定した三人。

 

だが俺は発した一言……。

 

「スネイプ教授が犯人だとして、ハリーの件と三頭犬の件は本当に関わりがあるのか?」

 

によって ? 顔になる。

 

やれやれ説明するか。

 

「三頭犬の話は、三頭犬が守っている物を奪おうとする奴が居るっていう話だ」

 

「なんでフラッフィーの事知ってる?」

 

ハグリッド、その話は後だ。

 

「ハグリッドは黙ってて」

「はい…」

 

ハーマイオニー、意外と辛辣だな。

 

「それもスネイプだ!」

 

「だとするとロン、何故ハリーを消すことになる?」

 

「スネイプ先生はハリーの事、何故か敵視してるでしょう?」

 

「三頭犬については、ハリーより俺の方が障害になりやすいのに?」

 

「何で?」

 

「俺がトロールを倒しているから」

 

「あ」

 

「自惚れているつもりはないけど、先生方以外で彼を脅かす存在はトロールを倒した俺だと思う」

 

「確かにそうだ」

 

「それなのに、何故わざわざ……しかも公衆の面前でハリーを狙う?しかも死ぬ確率は案外低いのに」

 

「え、なんで低いの?」

 

「あの高さから落ちたら、さすがにタダじゃすまないでしょう?」

 

「だって……マクゴナガル教授を始めとする先生方の誰かが、絶対助けるでしょ」

 

俺がネビルを助けたように。

 

「確かにそうね…」

 

「確実に、ばれないようにこっそりと、誰がやったか分からない。これぞ暗殺だと隠密機動の師匠には教わった」

 

「なんちゅーことを教えてるんだ…」

 

五月蠅いぞハグリッド。

 

あの黒猫みたいな師匠には白打と瞬歩も教わっているんだ。

 

暗殺の心得はおまけみたいな物でしょ。*7

 

「多分、ハリーの件は……あわよくば的な面が大きいと思う」

 

「僕はおまけじゃない」

 

「そんなこと誰だって知ってるよハリー」

 

「そうよハリー」

 

「まったくだ」

 

「ハリーよ。お前さんが思っている以上に『生き残った男の子』という名は大きいんだ。日本でも噂になるくらいにね」

 

「そうなの?」

 

「そうだよ。だから大きな障害になるかもしれないから先に手を打った。俺はそう思う」

 

だからちょっと気を付けた方がいいね。

 

 

 

 

 

…よし、スネイプ犯人説、誤魔化せたか?

 

俺でもスネイプ犯人説を完全否定は出来ないのだが…。

 

「でも犯人はスネイプに違いないんだ」

 

あー、駄目みたいですね。

 

「いいか、よく聞け四人とも」

 

「おい、俺もか?」

 

散々ハグリッドを擁護してたのにか。

 

「ンンッ、とにかくよく聞け三人とも。一応ショウも」

 

修正したか。

 

「あの箒は、先生方がよーく調べてくださってるだろう。お前さん達はこれ以上、余計なことに首を突っ込むな。危険だ」

 

そりゃそうだろう。

 

「でもハグリッド、スネイプは足をあの犬に噛まれた。それは間違いないんだ」

 

うん、それはタイミング的に否定しない。

 

「いいかお前さん達…」

 

うん。

 

「あれは関係ないことだ。フラッフィーも、フラッフィーが何を守っているかも」

 

あ、やっぱ何か守ってんだ。

 

「みんな忘れるんだ。いいか」

 

それで忘れるなら、こんな議論してないぞ。

 

「このことに関われるのは、ダンブルドア先生とニコラス・フラメルだけだ」

 

ん?

ニコラス・フラメル!?

 

「ニコラス・フラメルって人が関係してるんだね!?」

 

やってくれたなハグリッド…。

 

あ、やっべ…って顔してるんじゃないよ。

 

そしてこの狼狽っぷりよ…。

 

本当の話か。

 

しっかし……ニコラス・フラメルねぇ…‥。

 

「ッ、もう聞かんでくれ!いいな、忘れるんだ」

 

かくして墓穴を掘ったハグリッドは俺たち四人を小屋から追い出した。

ちなみに、去り際にロックケーキをちゃっかり確保した。

 

 

 

 

 

俺はニコラス・フラメルについて知っている。

 

それについては、うちの校長(マホウトコロの校長)について少し触れなくてはならない。

 

俺の師匠ではなかったが、マホウトコロの校長は万能型な人だった。

 

斬術、鬼道、魔法、隙が無い人だった。

 

俺の師匠達も一目置く人だった。

 

そりゃあ、元護廷十三隊隊長だからね。

 

しかも多くの隊長格を、遥かに上回る人ときた。

 

そして、親友たちの師匠でもあった人だ。

 

マホウトコロでは、その知恵と技術を教わりに、親友達とよく校長室まで行ったものだ。

 

そんなマホウトコロの校長が教えてくれた物の一つ。

 

それが『賢者の石』という物だった。

 

 

ーーーーーー

 

「若気の至りである物を作ろうとした際、参考にさせてもらったんだ」

 

「もう作ろうなどとは思ってないけどね」

 

ーーーーーー

 

 

なんて言ってたっけ。

 

ある物については、言いたくないのか(黒歴史なのか)教えてくれなかった。

 

だが、賢者の石がどのようなものかは教えてくれた。

 

賢者の石の力は大きく分けて二つであること。

 

一つ、どんな金属をも黄金に変えられること。

二つ、『命の水』という飲み続ければ(定期的な摂取が必要)、不老不死を得るという水を作り出すこと。

 

そしてそんな錬金術の極みとも呼べるとんでもない石(つまりやべー石)を作ったという人こそ……。

 

錬金術師ニコラス・フラメル(先ほどハグリッドが言っていた人)だ。

 

 

 

『三頭犬が何かを守っている』と言う話に、ニコラス・フラメルの名が出るということ……。

 

すなわち、賢者の石が絡んでくる話(三頭犬が守護しているのは賢者の石)だと言うこと。

 

賢者の石が目的ということは、黄金か不老不死を目的にしていると同義。

 

今世紀最強の魔法使いと名高いダンブルドア校長のお膝元からわざわざ黄金を目的に盗もうなどとは考られれない。

 

ということは。

不老不死を得るのが犯人の目的。

 

しかもマホウトコロの校長はこうも言っていたはずだ。

 

 

ーーーーーー

 

「賢者の石の仕組みは製作者たるニコラス・フラメルすら理解していないらしい」

 

「不老不死が可能なら死者に近い存在すら復活出来るかもしれないね」

 

ーーーーーー

 

 

この英国で復活希望の人など一人しか思いつかない。

"名前を言ってはいけない例のあの人"なんて呼ばれる者。

 

ボルdじゃないヴォルデモートとかいうやつだ。

 

もしかしたらご主人様復活させ隊の連中かもだが。

どっちにしろ危険な連中(めんどくさい連中)であることに変わりはない。

 

関わらない方がいいんだが…。

 

 

 

ハグリッドの小屋からの帰り道。

 

「ニコラス・フラメルって誰?」

 

とハリーが聞き。

 

「知らないわ」

 

とハーマイオニーが答える。

 

「ハーマイオニーが知らないんじゃ、僕たちはどうすればいいんだ?」

 

とロンが叫べば。

 

「そ、そうだね…」

 

と刀原が苦笑いする。

 

 

 

刀原はニコラス・フラメルを知っている。

 

だが刀原は答えない。

 

ハグリッドから去り際に目配せされて(口止めされて)コクンっと頷いた(言われなくてもそうする)から。

 

刀原は答えたくない。

 

日本に帰ったら、師匠からのありがたいお言葉と鉄槌(お説教と拳骨)を貰いたくないから。

 

 

だが刀原の思いは、容易く打ち破れるのだった。

 

 

 

 

 

 

*1
スコットランドは大体北緯55度 北海道の札幌は北緯43度

*2
刀原は秘匿兵器の内容(ハリーが選手であること)を一応黙っていたがそれは公然の秘密(皆が知っている事)だった

*3
マホウトコロはクィディッチでも優秀な人材を輩出している

*4
刀原は早寝早起きを是としている

*5
正確には飲み込んだ

*6
クィレル教授はこの時点で三人に、完全になめられている

*7
各師匠は刀原を自分の後継者にしようと考えていたが、刀原はそれに気付いていない




斬魄刀の考察と感想ありがとうございます。

もうちょっとイベントとか文章を区切った方がいいですかね?
それも含めて感想、考察、ご意見
お待ちしております。


次回は
休暇と調べ物に望む物
次回もお楽しみに



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死神、すっとぼける。 調べ物と休暇と望む物

鏡よ

僕が心の底から望むものは何?
富?名声?力?
愛?家族?永遠の命?

鏡よ映せ
僕が望むものを見せよ。









《拝啓 師匠達へ

 

師匠達におかれましては、相変わらずご壮健の事と思います。

 

現在、遠い異国の地たる英国におりますれば、新年のご挨拶にお伺い出来ぬこと、平にご容赦下さい。

 

師匠達からの教えは、ここホグワーツに置いても充分に発揮され、日々の役に立っております。

 

改めて感謝を申し上げます。

 

その感謝も込め、英国魔法界のお菓子をクリスマスプレゼントとして送付します。

 

ちゃんと一人ずつ名前も書いてあるので、独り占めしないでくださいね。

 

さて話は変わるのですが、最近ホグワーツは何やらきな臭くなっており、その案件に我が友人のハリー・ポッター君が首を突っ込もうとしております。

 

日々説得をしておりますが応じませんので、おそらく僕も巻き込まれる事と相成りそうです。

 

肝心な案件の内容についてですが、どうやら賢者の石についての事である可能性、極めて大と考えております。

 

また下手人は、例のヴォルデモート卿なる闇の魔法使い達、その一味だと考えております。

 

有事の際には禁*1を破る事と相成りますが、その際もご容赦ください。

 

それではまた、何かありましたら連絡致します。

 

刀原将平より》

 

 

 

「これで良し」

 

刀原はグリフィンドールの談話室にて、師匠達への手紙を書いていた。

 

まもなく訪れるクリスマス休暇について、今年は日本に帰国しない事を師匠達へ報告するためだ。

 

帰って来ないとなんやかんや煩いので、刀原はご機嫌取りに糖蜜パイを選出した。

 

渋い緑茶に甘い糖蜜パイ。

 

お茶請けに丁度いいとでも書いておけば、師匠達もニンマリであろう。

 

 

そんな師匠達を納得させる手紙を書く刀原の傍には、何やらあーでもないこーでもないと言い合うハリー達が居た。*2

 

議論の内容は当然授業の内容。

 

などでは無く、ニコラス・フラメルについてだ。

 

どうせ先生に言ってもあてにならない。

ハーマイオニーも知らないと言う。

だったら自分達で調べようという魂胆だ。

 

ちなみに……。

 

ーーーーーー

 

「マクゴナガル教授。少し質問が。」

 

「なんですか?ミスタートーハラ」

 

「うちの師匠が新しく錬金術を始めたらしくて、それでヨーロッパの錬金術師を調べたらニコラス・フラメルという方が居ると分かったんです」

 

「え、ええ。ヨーロッパでは、ニコラス・フラメルが錬金術師の代表だと思いますよ」

 

「良かった。それで、教授がジャンル違いなのは知っているのですが、フラメル氏についてご教授願いませんか?」

 

「分かりました、少しだけなら…。ニコラス・フラメル氏の功績は何と言っても賢者の石についてですね。彼は……」

 

 

ーーーーーー

 

 

と言った感じで、比較的簡単にマクゴナガル教授は教えてくれたのだ。

 

ちなみに今のところ、師匠が錬金術をやるなんて真っ赤な嘘である。

 

つまり先生方は、聞き方を工夫すれば(真実味のある嘘をつけば)教えてくれる。

 

それにハリー達は、刀原に一度も「ショウはフラメルについて知ってる?」と聞いていない。

 

まあ刀原は……例え聞かれたとしても、誤魔化したり忘れりしたフリをして教えるつもりは全く無い。

 

ようするに刀原は、ニコラス・フラメルについてすっとぼけることにしたのだ。

 

 

 

そして始まるクリスマス休暇。

 

生徒達にとっては待望の休暇の為か、ホグワーツからはめっきり人が居なくなる。

 

刀原も人が居なくなった暖かい談話室で、刃禅や斬魄刀の手入れなどをし、ホグワーツ(イギリス)の冬を楽しんでいた。

 

一方、ハリーとロンのニコラス・フラメルについての調査は、難航していた。

 

調べ物をする三人のうち、主力だったハーマイオニーが帰省したため、完全にお手上げ状態になっていたのだ。

 

刀原はそれにしめしめと思いながら、錬金術の本を図書館から再度借りるのだった。

 

そのハーマイオニーはというと、フラメルの調査に関して帰省間際にこう言った。

 

「閲覧禁止の棚はまだよね」

 

それを受けロンは思わず。

 

あいつ(ハーマイオニー)、俺たちのせいでワルになった」

 

とつぶやいた。

 

刀原は苦笑いしかなかった(言ってやるな)

 

そして。

 

 

《賢者の石、およびホグワーツ内での厄介ごとの件、相分かった。

 

友を助けることもまた大切な事、我らはおぬしに任せることとする。

 

おぬしに会えないと一部の者たちが寂しがっておるが気にするでない。

 

おぬしにしか出来ぬこと、しかとやり遂げよ。

 

くりすますぷれぜんとの糖蜜ぱいとやら、なかなか美味であった。

 

特に雀部が喜んでおったぞ。

 

儂は洋食はあまり好まぬが、偶には悪くないの。

 

そちらは日本より寒いと聞く。

 

健康には一段と気を付けよ。

 

それと、勉学と修行を怠らぬよう心掛けるように。

 

では吉報を待つ。

 

愛弟子へ》

 

 

刀原は師匠からの許可(免罪符)を得た。

 

 

 

 

 

 

 

クリスマスの朝、俺の元にはちょっとしたプレゼントの山が出来ていた。

 

ハグリッドからは先日も食べたロックケーキ。

 

砕くと美味しく、ココアやコーヒーとの相性もバッチリな一品だ。

 

ロンの母、モリーからは中々に大きい大鍋ケーキ。

 

これもお茶請けにぴったり。

 

残念ながら面識はまだないのだが……有難く頂戴しよう。

 

ハーマイオニーからは羽ペン。

 

ハーマイオニーには同じく羽ペンを送ったので、奇しくも同じ物を送り合った形となった。

 

日本の親友達からはインスタントの日本食。

 

そろそろ本格的に味噌汁と白米が食べたくなっていたので、かなりうれしい。

 

お返しには英国魔法界のお菓子を選んだ。

 

師匠からもそれぞれ来た。

 

粉の抹茶セット。

投擲用ミニ苦無。

軟膏の傷薬。

新しい着物。

黒い外套。

刀手入れセット。

 

薬や着物、手入れセットは案外使うのでいい。

 

抹茶は…あとでハリー達に茶をたててやろう。

 

苦無って、まあいいや。

 

そしてこの黒い外套はなんだ。

 

あ、説明書付いてある。

 

《此奴は霊圧を遮断する外套っす。

 

ほんの少し鬼道を練り込むだけで、姿すらも景色に紛れてほぼ見えなくなるっていう代物でして。

 

そちらだと透明マントって奴が近いっすかね?

 

ただ、音はあんまり遮断出来ないので注意してくださいっす。

 

使ったら後で感想聞かせてくださいっす~》

 

 

へぇ、隠密とかで使えそう。

 

後で試してみよう。

 

一方……ハリーの元にも、何者からかのプレゼントが来ていた。

 

《君のお父さんから預かっていた物だ。

 

君に返す時が来た、上手に使いなさい》

 

そんなメッセージと共に送られたのは透明マント。

 

()()()使()()()()()、ねぇ?。

 

 

 

刀原がハリーとロンと共に大広間に向かうと、中は人数が少ないにもかかわらず喧騒に包まれていた。

 

既にハグリッドは泥酔しており、ロンの双子の兄であるフレッド・ジョージのコンビが巨大なクラッカーの紐を引っ張る所だった。

 

クリスマスのご馳走は、流石は本場ヨーロッパというべきか……素晴らしいものばかりだった。

 

七面鳥にポテト、ソーセージ等々。

 

刀原はクラッカーを炸裂させながら、ハリーとウィーズリ-家と共に昼食を楽しんだ。

 

 

昼食後は雪合戦も行った。

 

刀原はフレッド・ジョージの双子とチームを組み、ハリー・ロン・ロンの兄パーシーのチームと対戦する。

 

特に制約もなかった為……刀原は双子との協議のすえ、斬魄刀で向かってくる雪玉を全て叩き切り、双子が攻撃するという戦法を採用した。

 

結果、刀原は雪玉を量産して投げまくる双子を完璧に守り切り、三人で勝利の歓声を上げるのだった。

 

雪合戦を終えた後の夕食も豪華だった。

 

昼食にも出ていた七面鳥は、夕食にも当然の如くグレードアップして出てきた。

 

他にも……マフィンにドライフルーツ、クリスマスケーキにフルーツケーキ。

 

ホグワーツでのクリスマスディナーに、刀原もハリーもウィーズリー家の兄弟達も酔いしれるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

その翌日の朝、ハリーの様子がおかしくなる。

 

心ここにあらずといったような感じになったのだ。

 

そんな感じで寮から出ないハリーをやむを得ず置いていき、俺はロンに事情を聞くことにした。

 

「ショウは寝ていたから気付かなかったと思うけど、実はハリーが昨日一度夜中に出て行った後戻ってきて」

 

「夜中に出て行った?ああ、透明マントでか」

 

「そう、透明マントを被って出て行って、戻って僕を叩き起こしたんだ。それで妙な鏡の前に連れてったんだ」

 

「鏡?」

 

「うん、僕はその鏡は未来が見えると思ったんだけどね」

 

「未来って?」

 

「えっと、僕が首席になって、グリフィンドールの優勝カップを持っているのが見えたんだよね」

 

「それってロンの未来というよりかは(願望)じゃないか?」

 

「え、いや、そう、そうじゃなくて…」

 

「大丈夫、少年よ大志を抱けって言うし、恥ずかしいことじゃないぞ」

 

「あ、ありがとうショウ」

 

「うん。んでハリーの事だけど……確かに今朝は様子がおかしかったね」

 

「ハリーには死んじゃった家族が見えるらしいんだ」

 

「亡くなったご両親の」

 

「うん…」

 

ハリーにとっては何としても見たい夢、いやこの場合……望みと言い換えるべきか。

 

だがこのままその鏡に夢中になれば、廃人同然にもなりかねない。

 

「分かった、とりあえず今日の夜は俺が同行してみるよ。まあ、気づかれないようにこっそりと……だけどな」

 

「え?透明マントもなしにどうやって行くの?それに管理人のフィルチに、スネイプもウロウロしてるんだ。危ないよ」

 

「あれ、言ってなかったっけ?俺も透明マントに近い奴(霊圧遮断外套)を持ってるんだよ」

 

「聞いてないよ!」

 

「すまんすまん。まあ、うまくいくさ」

 

折角の贈り物だ。

 

早速使用してみようかね。

 

 

 

早寝早起きを是とする俺だが、別に早寝しなくちゃいけない訳じゃない。

 

ただ校庭で朝練をする関係で、早起きするためだ*3

 

いい加減鬼道の練習もしたいため、そろそろ鬼道用の朝練場が欲しいところだけど。

 

ハグリッドあたりに聞いてみるかな。

 

話が逸れた。

 

誰もが寝静まる丑三つ時。

 

俺が寝たフリをしていれば、ロンの密告通り、のっそりとハリーが起き上がった。

 

そして透明マントを着て、姿が見えなくなる。

 

だが、俺には無駄だ。

 

霊圧を探れば、どこに行くかなどお見通しだ。

 

クックック。

 

俺から逃げられると思ったら大間違いだぞ?ハリー?

 

俺も起き上がり、貰った黒外套を羽織って、さらに念のために縛道の二十六 曲光*4を使用する。

 

最小限の足音にするため靴は履かず、雪駄を履き姿を鏡で確認。

 

うーん確かに分からん。

バッチリだな。

 

んじゃ深夜のホグワーツ探検と行きますか。

 

 

 

 

 

 

 

深夜の空き教室に大きな鏡がポツンとあり、鏡の前にはハリーが座っている。

 

こっそり近づき一言。

 

「こんばんは、ハリー。こんな寒い床で、そんな格好で(寝間着姿で)居れば、風邪をひくぞ?」

 

「え、ショウ!?なんでここに?」

 

俺が話しかければハリーはビクッっと驚く。

 

この外套、すっごく便利。

 

気配も足音も消せれば、最高の隠密外套だな。

 

まあ、俺は消せるけど。

 

「そりゃあハリーが昨夜、深夜のお散歩で摩訶不思議な鏡を見つけたって、ロンに聞いたからさ」

 

「ロンみたいに、ショウも僕を止めるの?」

 

「そう言うって事は解ってるんだね。まあ、エスカレートしなきゃ止めないよ。小言は言うけど……。俺が来たのはハリーと同じで、俺もその鏡を見に来たからだよ」

 

ちょっくらごめんよ、と言いハリーに退いてもらう。

 

どれどれ。

 

俺の背丈よりも高く、古びてはいるものの……装飾は金で美しく仕上がっている。

 

そして、上の方には何やら文字が彫ってある。

 

Erised stra ehru oyt ube cafru oyt on wohsi*5

 

あれ?なんか似たようなもの日本で見なかったっけ?

 

「あ、そうか、鏡文字だ。ひっくり返せばいいな」

 

I show not your face but your heart's desire*6ね。

 

「やはりこれがみぞの鏡ってやつか」

 

種は解った。

 

さてと何を見せるのかな?

 

「ふーん、やっぱりこれが望みか……。」

 

「何が見えたの?」

 

ハリーが聞いてくる。

 

「…俺には目標があるんだ。それが達成されたのが見えるよ」

 

 

見えたのは想像通りだった。

 

中央に隊長羽織を羽織り椅子に座っている俺。

 

そして俺を囲うように立っている師匠達。

 

そして俺の両脇には家族が……立つことすら儘ならない筈の父と母が立っている。

 

俺の目標を叶えた姿。

 

「目標って?」

 

「ハリーはご両親が亡くなっているんだよね?」

 

「うん…」

 

「俺の場合、亡くなっては居ないけど……似たようなものでさ、それを何とかしたい為に、俺は今後も研鑽を続けるんだ。ここに来たのは……それが、ぶれていないかを確認しに来たんだ」

 

「そうなんだ…」

 

「…ハリー、解ってるんだろ。こいつは(みぞの鏡)は心の底から願う望むものを見せる物であって、それを叶えるような物じゃない。ここにいて、これを見続けても、何も始まらないよ」

 

「でも…」

 

「あと、先生に見つかるよ。ってか見つかってるよ」

 

「え」

 

「ほっほっほ…ばれてしもうたの」

 

スーッと現れたのはダンブルドア校長だった。

 

 

 

 

 

 

「こんばんは、ダンブルドア教授。教授も深夜のお散歩ですか?」

 

「まあ、そういった感じかの。どうして儂が居るのが分かったんじゃ?完璧に透明だった筈じゃが?」

 

「確かに姿は全く見えませんでしたね。ですが僕ら(死神)は霊圧を見て、感じ取れば分かります。姿が見えずとも見えましたよ、教授の高い霊圧と気配がね」

 

「…なるほどのう。あの方々が師匠として教えていただけあって、その歳でかなりのレベルに達しているらしいの」

 

「師匠達をご存知なのですか?」

 

「うむ、若い頃知りおうての。一目見て格が違うと、はっきり分かった初めての方達じゃった…」

 

「ああ、うん、まあ、そうですよね…」

 

「さて、ハリーよ。先ほどトーハラが言ったように……この鏡は真実も知識も、与えてはくれん。これに魅入られその身を滅ぼした者は何人もおる。我らは霞を食べても生きていけないんじゃ。生きることを、止めてはならぬ」

 

俺達(死神たち)でも無理だな」

 

「明日には、この鏡をいずこかへ移す。再び探そう等とは思わぬことじゃ」

 

「んじゃ、寮へ帰ろうかハリー」

 

「……うん、そうだねショウ。ダンブルドア先生、おやすみなさい」

 

「おやすみハリー、良い夢を」

 

「では、失礼します教授」

 

「ああ、トーハラは待ってくれんかの?」

 

「?わかりました。先に帰ってていいよハリー。また明日」

 

「うん、また明日ね。おやすみショウ」

 

 

 

鏡が置いてある空き教室からハリーが出るのを見守る。

 

残ったのは鏡に俺、そしてダンブルドア教授。

 

「君が見たものを聞きたくての」

 

「見たもの…ですか」

 

「うむ、ハリーには君も知っての通り家族が居ないから、家族に囲まれているのを見たのじゃ。対して君は、言葉だけでは掴めなかった」

 

「……」

 

「ホグワーツに留学してくるのが君だと聞いて、少なからず驚いた。刀原の名は、山本・卯ノ花の名などにも引けを取らないほど、このイギリスにも伝わっているからの」

 

「…貴族でもないのに、刀原の家名は有名なんですか」

 

「知る人ぞ知る、といった感じじゃがの。何せ初代の一人なのだから。だから驚き、気になったのじゃよ。刀原家次期当主にして護廷十三隊次期隊長は間違いなしという君が……何故、必要もなさそうな留学に名乗りを上げたのかを」

 

「そんなに気になるものですか?」

 

「儂は気になると確かめたく性分での」

 

はぁ。

話さないとダメか。

 

「……父と母の事はご存知で?」

 

「面識はないがの」

 

「では今の父と母の身に何が起こったのかは?」

 

「父君が隊長格を辞したことは」

 

「それなら早いですね」

 

 

 

夜は更ける。

さらに深く。

 

深夜の対談は続く。

さらに続く。

 

 

取り敢えず続きは校長室にて行うのだった。

 

 

 

 

 

*1
刀原は師匠から「始解しない事」と言われている

*2
手紙は日本語で書いているのでハリーには読めない

*3
マクゴナガルの許可は得ている

*4
霊圧で覆うことで対象を視認させなくする鬼道

*5
すつうを みぞの のろここ のたなあ くなはで おか のたなあ はしたわ

*6
私は あなたの 顔 ではなく あなたの 心の のぞみ をうつす




感想・考察・ご意見等
お待ちしております。
そしてありがとうございます。


次回は
主人公の事情について
ついでにフラメル発見もします。
次回もお楽しみに




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死神、語る。


愛する者に祝福を
病の者に薬湯を
犯す者に切っ先を
死ある者に花束を

私は富も、名声もいらない
ただ家族と、恩と、誇りの為に
我が身、我が服を、血と汗と涙と砂で汚す

私は
あなたたちに花束をまだ贈りたくないのだ。








 

 

まず俺の過去についてですか?

 

では家族の話からしましょうか。

 

 

 

曾祖父の名は刀原将衛門平介。

 

護廷十三隊総隊長山本元柳斎重國を開祖とする流派『元流』に匹敵すると謳われた『刀源流』の開祖。

 

だからだろう。

 

曾祖父は護廷十三隊結成時、初代三番隊隊長に就任した。

 

以来、約1000年間もの間、三番隊隊長として剣を振るい続けたらしい。

 

だがそんな曾祖父も流石に歳だという事になり、隊長職を後任に任せる事になった*1

 

 

 

祖父、刀原将之介平三郎は剣の腕はあったが西洋魔法を使い、魔法剣士として大陸探題*2に所属し、そのトップになっていた。

 

そしてその後、魔法大戦*3の終結を見届け、亡くなっている。

 

 

そこで白羽の矢が立ったのが父、刀原将一郎だった。

 

若き俊英と名高く、親友でもある四楓院・浦原両隊長や現マホウトコロ校長といった実力者と共に、父は隊長に就任した。

 

そして隊長就任後、父は当時副隊長になったばかりの母、慶花*4と結婚した。

 

そして俺も誕生して、刀原家当主も受け継ぎ、正に順風満帆だったらしい。

 

 

だがそれも長くは続かなかった。

 

貴族の一人が現マホウトコロ校長が作っていた『ある物』を使い、心を同じくする貴族達とやらと共に反乱を起こしたのだ。

 

貴族の反乱など公には出来ない。

 

四十六室*5まで反乱に加担したから尚更だ。

 

貴族の復権を狙った反乱は呆気なく鎮圧された*6

 

だが反乱の首謀者は大陸へ逃亡されてしまった。

 

 

 

反乱の結果は以下の通り。

 

隊長二名の喪失。

 

反乱に加担した四十六室は解体、並びに永久解散。

 

首謀者の家、綱彌代家は取り潰し。

 

また隊長二名が負傷し数年後引退する事になった。

 

これが俺が三歳の時の出来事だ。

 

 

 

 

 

 

 

三番隊隊長の父と同隊の副隊長の母は反乱の首謀者によって、呪いと言い換えてもいい病に侵されてしまう。

 

五番隊隊長だった現マホウトコロの校長が、隊長を辞して教育者になったのも……自身が若気の至りで作った物が、最大の理解者であり親友の父と母を侵す物になった事に、大きな責任を感じたからだと言う。

 

「私は君に会う資格など無いのだ」

 

「私の一生を掛け、二人を取り戻す。これが私の贖罪だよ」

 

マホウトコロ入学時に、搾り出す様な声でそう言われたのを今でも思い出す*7

 

 

父と母は……剣を振るうどころか、立つことすらままならなくなった。

 

そうさせている呪いは極めて強力かつ厄介な代物だった。

 

何せ日本で最高峰の回道の使い手である四番隊隊長卯ノ花烈ですら、解くのは出来なかったほどだ。

 

卯ノ花隊長はこの呪いが自分の範疇を超えていることを察し、自身に回道を教えた零番隊の麒麟寺天示郎に頼った。

 

だが呪いは強力で……回道を生み出した麒麟寺隊長ですら、呪いの進行を止める事しか出来なかった。

 

「ごめんなさい」

「すまねぇ」

 

歳も地位も経験も遥かに上の二人に頭を下げられ、幼いながら悟ってしまった。

 

もうあの頃の元気な両親には会えないのだと。

父に剣術を教えてもらうことも。

母の手作り料理を食べることも。

 

不可能なのだと……。

 

 

それでも前を向こうと、死神界全体で改革が始まりようやく通常な状態に戻ろうとしたタイミングで、強大な戦力がまた無くなることになった。

 

倒れた父に大きなショックがあったのだろうか。

曾祖父は何かを悟ったのか、俺に刀源流のすべてを見せてくれた。

 

「真似してみよ」

 

そう言われ見せてもらった刀源流を、曾祖父や多くの隊長達の前で再現した。

 

「よし、あとはお主が手を加えるのじゃ」

 

曾祖父はそう言いながら、大きく頷いた。

 

そして後は頼むと、横に居た山本総隊長と卯ノ花隊長にポツリと言った後。

 

曾祖父、刀原将衛門平介は眠るように亡くなった。

 

 

 

 

卯ノ花隊長、麒麟寺隊長両名(回道の最高峰)に匙を投げられた*8が、俺は両親の事を諦められなかった。

 

そんな時に助言をくれた人がいた。

 

曾祖父の葬儀には大勢の方々が来ていたが、その一人に零番隊の兵主部一兵衛が来ていたのだ。

 

「あれほどの呪い、今は手立てがない。だが未来となれば話は別じゃ」

 

「未来…ですか?」

 

「そうじゃ。正確に言えばおんしの斬魄刀じゃ」

 

「斬魄刀…」

 

「斬魄刀の卍解の内容次第では、不可能も可能となりうるだろう」

 

「!」

 

「おんしは運がいい。他の子らよりも、浅打を早く持つことが出来ておる」

 

「…」

 

「聞いておろうが……卍解は極めて難しい、だからこそ研鑽を積め。良い師を見つけよ。目的を忘れるな」

 

「はい!」

 

「この葬儀には儂の他にも、零番隊や護廷十三隊の隊長が多くいる。いろんな事を聞くが良い」

 

「分かりました、ありがとうございます!」

 

この助言を受け俺の目標は決まった。

 

卍解の習得。

西洋、極東魔法の多くの習得。

 

その為には多くの人に教えを貰うことだ。

 

 

まず初めに和尚様(兵主部一兵衛)に、二枚屋王悦隊長を紹介してもらった。

 

「ちゃんボクも零番隊だから師匠とか無理」

 

と言っていたが……浅打の事、斬魄刀との向き合い方等を聞かせてくれた。

 

大きな参考になった。

 

零番隊の方々には、本当に感謝しかない。

 

そうこうしている間に、俺が師匠を募集していることを聞きつけた人たちが集まってきた。

 

「平介に、後は頼むと言われたのじゃ。儂が全てを教えるかのう」

 

「あら、平介さんは私を頼ったのですよ。総隊長が教えれば折角の原石*9が焼き焦げになってしまいます」

 

「なんじゃと。お主が教えればバラバラになって(切り刻まれて)原型をとどめんかもしれん。平介の曾孫となれば儂の孫*10も同然じゃ。孫に死神の何たるかを教えて何が悪い?」

 

「んじゃ山じいが祖父替わりなら、僕たちが父替わりじゃないか?」

 

「年齢的に先生が曾祖父替わりで、俺たちが祖父替わりじゃないか?」

 

「そっか」

 

「それなら儂が母替わりじゃな。この瞬神が瞬歩と白打、手取足取り教えるとしよう。平治と慶花が倒れとる今、儂らが面倒見ないでどうする。のう喜助?」

 

「そうっすね。んじゃあ(あたくし)が技術と西洋魔法とか教えちゃいましょうか」

 

 

こうして師匠は決まったのだ。

 

内容は以下の通り。

 

山本元柳斎重國総隊長*11に剣術と斬魄刀。

 

卯ノ花烈四番隊隊長*12に剣術と薬学、回道、鬼道。

 

京楽春水八番隊隊長*13に剣術と洞察、推理。

 

浮竹十四郎十三番隊隊長*14に座学と生活に必要な事。

 

四楓院夜一二番隊隊長*15に瞬歩と白打、隠密。

 

浦原喜助十二番隊隊長*16に鬼道と技術、西洋全般。

 

 

 

こうして師匠達と修行に明け暮れた訳だが……遂に7歳になり、真央魔法霊術院に当然入学することになった。

 

筈なのに何故か。

 

「行かんでよい」

「行かなくていいですよ」

「行かなくていいよ」

「行かなくてもいいぞ」

「行かんでいい」

「行かなくていいっすよ」

 

と言われた。

 

一応席だけはあったが。

 

当時は勢いと目標の為に、師匠に関してまったく気にしなかった。

 

 

だが10歳の時に真央魔法霊術院に卒業の為に改めて入り、同期の奴と比較され、実力と立場を自覚するようになった*17

 

「あの方達から教えてもらってるんだから、そんな実力も持つよ」

 

多くの人から、親友の一言が結論だと言われた。

 

 

マホウトコロの友人の中で最も親しい奴は三名。

 

いずれも、真央魔法霊術院に入るより前に知り合った奴らばっかりだ。

 

白髪で少し背が低いが天才とまで言われる男子。

 

その白髪の奴の幼馴染の女子。

 

俺の幼馴染で、総隊長の右腕の孫娘。

 

4人で一緒にいろんなことをした。

 

俺の幼馴染以外の二人はマホウトコロの校長を師匠にしているし、俺の幼馴染だって彼女の祖父から剣術とか教わっている。

 

正直……あの三人と別れることが寂しかったことを、否定はしない。

 

 

 

両親の呪いの正体は今だ掴めない。

 

鬼道。

斬魄刀の能力。

陰陽道。

 

すべて違った。

 

そんな中やってきたのが、ホグワーツに留学する話だった。

 

西洋魔法はマホウトコロの教授達や、師匠の一人の浦原隊長に教わっているが、強力な呪いを解くには本場英国の西洋魔法を学びたいと思ったのだ。

 

故に留学生に立候補したのだ*18

 

 

かくしてマホウトコロと真央魔法霊術院(日本の魔法学校)を代表し、日本魔法界の学生最強なんて言われている*19俺が英国にやって来た。

 

ということですね。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

まもなく日が出ようとする時間。

 

校長室にてココア片手にした刀原は、そうダンブルドアに語り終える。

 

「なるほどの、日本の魔法界でもそんなことが…」

 

話を聞き、ダンブルドア校長が項垂れる。

 

そして思い出話を聞かせてくれる。

 

「……儂が若い頃、君の師匠達に会ったことがあると言ったの?」

 

「ええ、仰いました」

 

「直接会ったのは山本殿、卯ノ花殿。そして君の曾祖父、刀原将衛門平介殿じゃ」

 

「ああ、やっぱり…」

 

「山本殿は劫火のような方、卯ノ花殿は剣の山のような方、刀原殿は激流のような方。どなたも凄まじい方達じゃったのを思い出すのう」

 

「ですよね…」

 

「刀原殿が亡くなったと聞いた時は葬儀にお伺いしたかったが、例のあの人との戦いで忙しくての*20

 

「あの人?ああ、ヴォルデモートとかいう連中ですか」

 

「そうじゃ、日本にも届いておったか」

 

「ええ……。お気楽貴族の反乱は、ヴォルデモートの影響もあるらしいので」

 

「それは…迷惑をかけたの」

 

「少なくとも、そのヴォルデモートには鬼道を叩きこんでやりたいと思ってます」

 

「あ奴はとんでもない子を敵に回したの、自業自得じゃがな」

 

 

 

「どちらかというと儂がお世話になったのは君の亡き祖父、刀原将之介平三郎殿の方じゃ」

 

そう言いながら、ダンブルドア校長はココアを飲みながら祖父についても聞かせてくれる。

 

「祖父ですか?というとグリンデルバルド関連ですか」

 

「…鋭いの、洞察力と言葉を読み取るのはへーザブロー(平三郎)譲りじゃなぁ」

 

「鍛えられましたから」

 

「ふふっ、確かにの」

 

「ですが当時、英国と日本は敵国状態だったはず*21では?」

 

「いや当時はまだじゃった。儂がへーザブローと初めて会ったのは1939年じゃ*22

 

「なるほど、確かにそうですね」

 

「へーザブローは日本にも影響を及ぼそうとしたグリンデルバルドを撃退しての」

 

「ああ、それで刀原の名は有名なんですか…」

 

()()護廷十三隊の初代隊長。グリンデルバルドを撃退した数少ない者。どちらも知っている者は知っておるよ。特にヨーロッパではへーザブローが有名じゃな」

 

「祖父の方ですか」

 

「うむ、英国ではヴォルデモートの影響で名が消えた。だがフランスやドイツ、アメリカではグリンデルバルドの方が今でも有名じゃ。ここだけの話……先の大戦で連合国側が日本との末期戦を、最後まで躊躇った理由の一つじゃな」

 

「グリンデルバルドを退けるほどの実力者と、まともに戦う自信が、連合国側の魔法界には無かったと?」

 

「そうじゃ、グリンデルバルドの事で首が回らなかったこともあるがの。儂もへーザブローと戦って確実に勝てるとは思わんかったから止めに回ったしの」

 

「それだけですか?」

 

「あとはやはり、護廷十三隊の存在じゃ。絶対に勝てぬ。お主達の国もろとも灰燼に帰しても良いなら止めぬと儂は断言した*23*24。」

 

「…やっぱり師匠達すごいんだなぁ」

 

「ふふっ、ようやく気付いたかの?」

 

ダンブルドア校長は笑いながら言った。

 

 

「さて、君が来た最大の理由、呪いの正体じゃな」

 

「手がかりだけでも良いんです……。何かご存知ありませんか?」

 

「聞く限り、闇の魔法であることは間違いないの。ただ正体までは……すまぬ、儂にもわからぬ」

 

「そう…ですか」

 

「亡き友人であり恩人、へーザブローの忘れ形見に起きたことじゃ、他人事には出来ぬ。儂もその呪いの正体について、調べてみよう」

 

「ありがとうございます!」

 

「その代わりと言ってはなんじゃがの…」

 

「はい」

 

「ハリーを助けてやってはくれんかの?」

 

「ハリーを…ですか?」

 

「君ならなんとなく察していると思うのじゃが……ハリーは試練と困難が待ち構えていると、儂は思うのじゃ」

 

「まあ、確かにそうですね。正義感強そうですし」

 

「彼はまだ未熟じゃ、故に君にも助けてもらいたい」

 

「ふふ、了解です、分りました」

 

「ああ、あともう一つ」

 

「何ですか?」

 

「儂の茶飲み友達になってほしいのじゃよ、君との会話は楽しいからの」

 

「僕でいいなら喜んで、ですよ。ダンブルドア教授」

 

「アルバス、で構わぬよ?」

 

「それは無理です」

 

「まあ無理にとは言わないがの」

 

「…」

 

「ではショウ、よろしく頼むの。では、おやすみ…と言ってももう朝じゃの」

 

「あ、本当ですね」

 

「長々と年寄りにつき合わせて悪かったの、じゃが久しぶりに楽しかったわい」

 

「貴重なお話、ありがとうございました。では、失礼しますね」

 

「うむ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、そうだ。ダンブルドア教授一つ聞きたいことが」

 

「ん?何かのショウ」

 

「…賢者の石について、なんですが。ダンブルドア教授の思惑(狙い)を知っておきたくて」

 

「!?」

 

「……犯人を放置する理由、本来無いはずですよね?理由……いや、目的、お聞かせください」

 

「……まったく、本当に君はとんでもない子じゃの」

 

「鍛えられましたから」

 

「…へーザブローよ、此度も儂の負けじゃ。よし、誠心誠意、偽りなく答えよう。他言は駄目じゃぞ」

 

「承知いたしました」

 

 

 

 

 

 

*1
長年共にした副隊長もその時引退した

*2
大陸方面の魔法族の侵入を監視する組織 大宰府にある

*3
第二次世界大戦の裏で起きていた戦争のこと。

祖父はグリンデルバルドとも戦ったらしい。

*4
母は父の隊長就任と共に副隊長に昇格した

*5
瀞霊廷の司法機関だったが有名無実な組織。

腐敗して、権力にしがみつき、保身に走っていた。

師匠曰く、あのクズども

*6
怠惰で保身に走る、雅擬きの貴族が勝てるはずがない

*7
今では良き師として、軽口も言いあう存在だが

*8
完全に投げたわけではない

*9
今だから分かる。絶対に可愛いが前についていた

*10
今だから分かる。これも絶対に可愛いが前についていた

*11
重じいと呼べと言われた 様は禁止された

*12
特別に、の前置きでやち姉と呼ぶようにと言われた。様は付けるが後に禁止

*13
任せるよ、と言われたので京楽兄様と呼ぶ

*14
任せるよ、と言われたので浮竹兄様と呼ぶ

*15
夜姉と呼べと言われた 様は付ける

*16
任せるっす、と言われたので喜助兄様と呼ぶ

*17
幼い時から周りがあれなので、自覚できなかった

*18
師匠達は反対していたが

*19
そんなこと無いという反論は全否定された。解せぬ。

*20
反乱が起きたのは1980年

ヴォルデモートの失脚は1981年

*21
グリンデルバルドとダンブルドアの決闘は1945年

第二次世界大戦が終戦した年でもある

*22
1939年にドイツはポーランドに侵攻し、第二次世界大戦が開戦した

日本が米英に宣戦布告した真珠湾攻撃は1941年

つまり1939年時点では緊張はあれど直接戦争にはなってない

*23
最初の魔術師こと霊王と皇室は深い関係があるため、守護の為にそうなるのは確実

*24
此処で(この小説で)言う霊王はB()L()E()A()C()H()()()()()()()()




感想、考察、ありがとうございます

本当はフラメル発見まで行きたかったんですが…
ちょっと長くなるので次回にします。

では次回は今度こそ
フラメル発見
次回もお楽しみに




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死神、諦める。 フラメルとドラゴン

門番はよく選んで決めよ

弱点が知られた門番は、門番ではない

入る味方を食す門番は、門番ではない

弱点を敵に教える門番は、門番ではない

無能な門番は最大の敵になりうる。












 

クリスマス休暇も終わり、ホグワーツには沢山の生徒が戻ってくる。

 

その中には、当然ハーマイオニーも含まれていた。

 

そしてハリーとロンは兎も角、刀原までも夜間外出をしていたことにハーマイオニーは驚愕していた。

 

「ショウってば、朝に帰って来たんだ」

 

「ええっ?何してたのショウ?」

 

「ダンブルドア校長とお茶会をしてたと、何度言えば分かる」

 

「何も深夜にやらなくてもいいじゃない?」

 

刀原は全く反論できなかった。

 

 

新学期と同時に、クィディッチの練習も再開される。

 

雨の日、風の日、雪の日も。

 

彼らの気合を抑える事はできないらしい。

 

ずぶ濡れ、泥だらけを全く気にせず練習するチームに、刀原は感心していた。

 

次の試合はグリフィンドール対ハッフルパフ。

 

そんなクィディッチの次の試合は、あろうことかスネイプが審判をするということになったらしい。

 

三人はスネイプが試合にて、ハリーを狙ったりケチを付けたりするのでは、と危惧していた。

 

どうすればいいんだ、と三人は頭を悩ませた。

 

「試合が始まったら瞬時にスニッチを取って、あっという間に試合を終わらせてしまえばいい」

 

そして刀原の一言に、ハリーは活路を見出した。

 

 

そんな助言をした刀原はというと……ハグリッドに、鬼道を容赦なくぶっ放せる場所は何処か?と聞いていた。

 

ハグリッドは禁じられた森しかないと答えたが、直後に生徒が行っちゃなんねぇと言われた。

 

そこで刀原は、ダンブルドアに許可を貰うことにした。

 

あんまり深い所に行くのは駄目じゃぞ?

 

刀原は許可を得た。

 

 

 

刀原は休暇が終わろうとも談話室という暖かい場所から離れ、今までのように肌寒い空き教室で刃禅をする気にはなれなかった。

 

休暇中にも双子が面白がって攻撃をしてきたが、強く薄く霊圧を結界の様に纏っていれば、襲撃が成功することはない。

 

 

反撃も『這縄』で拘束すれば事足りる*1

 

これらを見て他の生徒達もちょっかいを出すのを辞めた。

 

 

ハリー達のクィディッチの試合も近づき、自分の鍛錬場も決まった。

 

三人は懲りずにフラメルを調査し続けているが、錬金術の本は自分が借りている(確保している)

 

大丈夫だろう。

刀原は油断していた。

 

子供の好奇心*2は計り知れなかった。

 

刀原はそのツケを払うことになる。

 

 

 

 

 

「ちょっと来て、ショウ!」

 

そう言ったハーマイオニーは、昼食の為に大広間に居た俺を容赦なく連れ出す。

 

その手には大きな本を持っていた。

 

そのまま、嫌な予感が拭えない俺を図書室へと連行する。

 

そしてハーマイオニーは、既にいたハリーとロンの二人と合流すると若干興奮した様子で語り始めた。

 

「三人とも。ついにニコラス・フラメルの正体が分かったの」

 

「んでその本?」

 

「そうよ。これ、随分前に借りた本。軽い読み物だけど」

 

「軽い?これが?」

 

ロンが呆れたように言えば、ハーマイオニーはムッとした表情で返す。

 

「…ここよ、『ニコラス・フラメルは賢者の石を作り出した人物である』って書いてあるわ」

 

あーあ、とうとう見つけちゃったか。

 

「「何それ」」

 

「……本読まないの?あなた達」

 

言うな、ハーマイオニー。

 

「賢者の石は恐るべき力を秘めた物体で、如何なる金属をも黄金に変え、命の水を生み出す。これを飲めば不老不死になれる」

 

「不老不死?」

 

「現在存在する唯一の石は、ニコラス・フラメル氏が所有している」

 

「うむ、ニコラス・フラメル、御年665歳。世界最高峰の錬金術師。確か…フランス在住で、ダンブルドア校長とも共同研究をしている筈だ」

 

「そういうことよ…ってショウ、知ってたの?」

 

あ、やべ。

 

「知ってるんなら言ってよ!」

 

「いやーごめんな、ハグリッドに口止めされてて。*3それに、俺に聞いてこなかっただろ」

 

「確かにそうだけどさ…」

 

「まあいいわ、見つかったんだし。それよりも、フラッフィー(三頭犬)が守っているのはこれよ!あの扉の向こうにあるのは、賢者の石なんだわ」

 

見つかったのなら諦めるっきゃないね。

 

 

 

その夜、俺はこっそりハグリッドの小屋を訪ねる。

三人にフラメルと賢者の石のことがバレてしまったことを言うためだ。

 

「そうか、バレちまったか…」

 

「すまん、ハグリッド」

 

「ショウが責任を感じることはねぇ。べらべらとしゃべっちまった、俺が悪いんだ」

 

「それにはフォローが出来んが……。そう言えばハグリッド、さっきから何を温めてる?」

 

「聞くな、と言ってもお前さんは分かっちまうんだろうなぁ」

 

かなりでかい卵、これってもしかして。

 

「……ドラゴンの卵、といったところか」

 

「まあな、お前さんはまるでシャーロック・ホームズみてぇだなぁ」

 

「俺は探偵じゃない。洞察と推理とかには良い師匠が居るだけだよ。んで?確かドラゴンの飼育には免許がいる筈だよな?持ってんの?」

 

「いや?持っちょらん」

 

おいおい、まじか。

 

駄目じゃ(違法飼育じゃ)ねぇえか…」

 

「しょうがねえだろう」

 

「それで済む話じゃないだろう、どこで手に入れた?」

 

「パブで貰った、知らない奴から」

 

「ええー」

 

「ちなみにハリー達も知ってるぞ、もうすぐ孵ることも伝えてある」

 

そんなキメ顔で言われても……。

 

「…」

 

そんな顔(ジト目顔)すんな、大丈夫だ」

 

「…孵ったらどうすんだ?大きくなるのはあっという間って聞いたぞ?この小屋で隠し切れないだろ」

 

この小屋、吹っ飛ばなければいいが。

そんな俺の心配を全く意にも返さず、ハグリッドは目先の卵に夢中だ。

 

「はぁ………。まあ、孵化したら考えるか……」

 

俺はドラゴンに対しても諦めた。

 

やがてハリー達三人もやって来ると、卵は孵化した。

 

 

 

 

ノーバートと名付けられたドラゴンは、すくすくと大きくなっていった。

 

手遅れになる(小屋が崩壊)前に、ドラゴンをなんとかしなくては。

 

ぐだぐだぐちぐち言うハグリッドに「ダンブルドア校長に迷惑がかかってもいいのか!」と一喝し、俺たちは対策を考えるのだった。

 

そんな中、不用意に手を出したロンがノーバートに噛まれ、手が二倍に膨れ上がってしまうという事件がおきる*4

 

取り敢えず師匠から貰った軟膏タイプの薬を塗り、回道までしたが……即効性があるわけでもなく、ロンに口止めさせた上で医務室に放り込んだ。

 

医務室の主、マダム・ポンフリーがロンの怪我の理由を特に聞いてこなかったことが幸いか。

 

彼女の腕なら、傷跡一つたりとも残さず治療してくれるだろう。

 

 

 

ロンを医務室に放り込んだ日の放課後、俺は彼のお見舞いに訪れる。

 

放り込む直前、放課後に来てくれと言われたからだ。

 

マダム・ポンフリーは一瞬渋い顔をしたが、俺が応急処置をしたことは知っているので通してくれた。

 

ロンの怪我の治りは遅かったが、内容が内容なのでポンフリーの質問(尋問)に沈黙を決め込むしかなく、そんな患者(ロン)に一般的な処置しかできないのが難点の様だった。

 

「ハリーとハーマイオニーと行ったとき、マルフォイに僕たちがノーバートをチャーリーに託そうとしていることがバレたみたいなんだ」

 

「あいつはまた、余計なとこに鼻が利くな」

 

事ある事に粗を探そうとするマルフォイに、俺とロンは呆れる。

 

そしてバレてしまった場合、面倒になる。

 

ドラゴンナイトエクスプレス(ドラゴンを深夜に処分しようぜ)作戦は、絶対に実施しなくてはならないのだ。

 

ちなみにチャーリーとはロンの兄の一人で、ルーマニアにてドラゴンキーパー*5をしている。

 

ロン達三人はチャーリーに手紙を出し、ノーバートを深夜に天文台にて受け渡そうと考えていたのだ。

 

俺は素直にダンブルドア校長に事のあらましを説明し、手を打ってもらおうと説得したのだが…。

 

「ダンブルドア先生にそこまでしてもらうのは申し訳ねぇ。先生方には黙っててほしいんだ」

 

とハグリッドに言われたのだ。

 

「申し訳ないと思うなら、ドラゴンを違法飼育すんじゃねぇ!」

 

思わず一喝してしまった俺は悪くないと思う。

 

 

 

 

「DNE作戦*6の決行は今夜でいいんだよな?」

 

チャーリーの弟たるロンは負傷して医務室から出られないが、刀原はハリーとハーマイオニーと共に、まだ寒い校庭にて最終の作戦会議をするのだった。

 

「ショウは確か、透明マントみたいなのを持っているんだよね?」

 

そう言ってきたのはハリー。

刀原は頷く。

 

「個人用だけどな」

 

「でも、ハリーのマントは大きいでしょう?私たちとドラゴンを隠せると思うわ」

 

「それじゃあ俺はサポートをするよ、ピーブズ対策も兼ねてね」

 

ホグワーツのポルターガイスト、ピーブズ。

 

お騒がせ幽霊として名高いが、刀原にちょっかいをかけてきたことは今のところ一度もない。

 

刀原は、おそらく本能的に自身の持つの斬魄刀をピーブズが恐れているからだろうと思っている*7

 

「それにドラゴン、結構重いぞ。俺が浮遊呪文を使うよ」

 

ドラゴンは今も順調に成長し、そこそこの重さになっていた。

 

「でもハグリッドの小屋から塔まで、結構な距離があるわよ?大変じゃない?」

 

「運搬に手間取って、時間が掛かるよりかはマシだと思う」

 

「確かにそうだね、ごめんショウ、お願いするよ」

 

「おう、任せろ」

 

作戦はこれで決定となった。

 

 

 

 

誰もが眠る丑三つ時…という時間でもないが、すっかり夜になったころ。

刀原は先行してハグリッドの小屋に向かう。

 

小屋に着けばハグリッドがおいおいと泣いていた。

 

だが刀原が来たと分かれば……覚悟を決めたのか、それとも諦めたのかは分からないが少しだけ泣き止み、箱を取り出す。

 

箱にノーバートと何故かテディベアを入れ、最後の別れとばかりにゆっくりと蓋を閉める。

 

その光景を見て、刀原も罪悪感が出る*8が……ここは心を鬼にする。

 

やがてハリーとハーマイオニーが合流し、最終確認をして準備完了。

 

よろしく頼むと言ってきたハグリッドに見送られながら、作戦開始となった。

 

 

 

作戦などと銘打っているが、実態は運搬である。

 

唯一の懸念事項と思われたマルフォイも、先ほど塔に行く途中で捕まっているのを目撃した。

 

ピーブズも管理人のフィルチも来ない。

 

ドラゴンの受け渡しも成功した。

 

ハリーとハーマイオニーは、やり遂げたことを確認して上機嫌だった。

 

「よし。それじゃあ俺は、ハグリッドにちゃんと引き渡した事を伝えに小屋に戻る。成功したからといって、警戒を怠るなよ?」

 

「うん」

 

「分ったわ」

 

「んじゃな、おやすみ」

 

刀原はハリーとハーマイオニーと別れ、ハグリッドの小屋に戻った。

 

戻ってしまったのだった。

 

 

 

 

「ノーバートはちゃんと行ったか?」

 

「おう、ちゃんと渡した」

 

「そうか、良かった。…まあ、なんだ、俺も今になって気が付いたんだ。俺は確かにドラゴンを飼いたかった」

 

「うんうん」

 

「だがノーバートの事も考えなくちゃなんねぇ。免許持ってねぇ俺が育てきれる保証はどこにもねぇんだ」

 

「凶暴性もあるが難易度の問題もあると聞いたぞ」

 

「そうだ、他のドラゴンやキーパーの奴らと暮らした方がずっとええ」

 

「そうかもな」

 

「だから、ショウ。お前が良心の呵責に苛まれることはねぇんだぞ?」

 

「…俺、そんな顔してるか?」

 

「ああ、俺も伊達に何年もお前さんより歳食ってねぇし、多くの生徒も見てきた。いかに歳以上の実力を持っててもな、お前さんが心を鬼にして、俺を心配して言ってきてるってこと位、分かるってもんだ」

 

「すまなかった」

 

「謝らねぇでくれ、俺はお前さんに感謝してるんだ。また失敗をしなくてすんだからな。ありがとう」

 

「そう言ってくれるだけで、救われる気分だよ」

 

「お前さんは大人になるのが早いんだ、もっと周囲を頼ってもええんだぞ?」

 

「それを言うならハリーとかに喋ったり、違法飼育すんなよな?」

 

「それは、すまん」

 

「まあいいさ、過ぎたことよりその対策を。だよ」

 

「そうだな。やっぱお前さん、いい師に恵まれたな」

 

「全くだよ」

 

 

 

 

「さてそろそろ戻るとしますかね…」

 

「おう、気を付けろよ。捕まるんじゃねぇぞ?」

 

「大丈夫、へまはしないよ」

 

「だろうがな」

 

「……ところでハグリッド」

 

「なんだ?」

 

「卵は知らない奴から貰ったと言ってたな?」

 

「ああ、そうだ。パブでな、賭けに勝って貰った。そいつも卵を持て余していたみてぇだった」

 

「そりゃあドラゴンの卵だもんな…」

 

「どうしたんだショウ?そんな考え込んで」

 

「いや、どっか引っかかるんだよな…」

 

「引っかかる?」

 

「ああ、そもそもなんでそいつ、ドラゴンの卵なんて持ってる?入手するだけで一苦労だろう」

 

「確かにな。まあひょんなことから手に入れたんじゃねぇか?持て余していたみたいだったしな」

 

「…考えすぎかな」

 

「さあ、もう帰った方がええ、送っていくぞ」

 

「そうだね。すまんがよろしく頼むよ」

 

「おう、任せろ」

 

 

 

 

 

翌朝、俺は目を見張った。

 

スリザリンは兎も角、グリフィンドールの点が下がっていたのだ。

 

下がった点数は150点。

 

聞けばあの後ハリーとハーマイオニーは、あろうことか透明マントを着用せず寮に戻ったらしい。

 

警戒を怠るなと言ったのに…。

 

その二人で50点ずつ。

 

もう一人はネビル。

 

彼は寮の合言葉を忘れ、寮に帰れなくなったところをあえなく御用となったわけだ。

 

これは、まあ、しょうがない。

 

「「ごめんなさい」」

 

謝る二人にとりあえず…。

 

「ばっかもーん!!」

 

どうせ、マクゴナガル教授にねっちょりこってり絞られているはず。

 

あと一言二言で勘弁してやろう。

 

 

 

 

*1
鬼道も腕力もない彼らに『這縄』を解くのは無理

*2
お前だって十分子供の年齢だろう

*3
アイコンタクトで

*4
ノーバート…ノルウェー・リッジバック種の牙には毒がある

*5
簡単に言えばドラゴン使い

*6
Dragon night express 作戦名を考えたのは自棄になった刀原

*7
ピーブズを魂葬出来るかどうかは試してみないと分からない

*8
刀原は手遅れになる前にドラゴンを手放すよう、ハグリッドに言っていた




主人公は実行犯を完全には断定していません。
ダンブルドアは犯人までは教えてくれませんでした。

感想、考察、ありがとうございます。
そしてお待ちしております。

次回は
森での会敵
次回もお楽しみに


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死神、森に行く。 探索と会敵


永遠の命、復活の為
その為なら
代償など気にはしない

代償など
下僕に負わせれば良いのだから






 

 

マクゴナガル曰く……前代未聞だという一年生の生徒四人による、深夜の徘徊。

 

その犯人の名は。

 

ハリー、ハーマイオニー、ネビル、マルフォイ。

 

その裏で、もう一人徘徊していた痴れ者がいる。

 

そう、刀原だ。

 

あの夜、刀原にはハグリッドとドラゴンにまつわるもう一つの疑問が出ていたが……夜も遅かったために追及はせず、ハグリッドの見送りもあってバレずに寮に戻った。

 

その時刀原は、ハリーのベッドを見ること無く眠りについた。

 

 

そして翌朝、大広間に来てみれば目も当てられない(このザマ感が否めない)ことになっていたのだ。

 

「なにがあった!?」

 

とりあえず二人の言い訳(事情)を聞いたのだった。

 

そして……。

 

「ばっかもーん!!」

 

その残念な理由*1を聞き、雷を落としたのだった。

 

 

 

150点という数字はかなり大きい。

 

その為、グリフィンドールだけではなくスリザリン以外の寮からも、責められることになった。

 

そして先程雷を落とした刀原とて……バレていないだけで犯行の片棒どころか犯行をしていたわけだが。

 

「クィディッチでハリーがスニッチを取って*2、ハーマイオニーが授業でガンガン答えれば150点以上は稼げる。集団で責め立てるのが騎士のやり方なのか?」

 

とりあえず刀原は彼らを庇うため、ギャーギャー喚くグリフィンドールの面々に対し、そう言い放った。*3

 

騒いでいた生徒はどうやら納得したらしく、途端に静かになった。

 

実際は、恐怖に駆られただけだが。

 

しかし……医務室から戻ってきたロンもフォローするが、二人の気力は回復しそうになかった。

 

だが間も無く始まった試験勉強により、半ば無理矢理に気力を入れる事になる。

 

そんな試験勉強の最中、ハリー達徘徊者4名の罰則が行われることになった。

 

『23:00、玄関ホール』

 

罰則の紙にはそれだけが書いてあった。

 

そして何をさせられるのか二人とネビルは、終始ビクビクしていた。

 

「とりあえず俺も同行する。当然、姿は隠す……見つからなかったとはいえ、俺もあの場にいたから他人事じゃないからな。それにこっそり聞いたところによると、ハグリッドと禁じられた森の見回りに行くらしいからな。尚更だ」

 

刀原は責任を感じていた為、二人にそう伝える。

 

それを聞いた二人は驚く。

 

「禁じられた森!?その話が本当なら危ないわよショウ。もしも何かあっても、あなたのことを助けられる人はいないのよ」

 

「そうだよ!折角罰則を受けずに済んだんだから」

 

「私達の為に、そんな事する必要はないわ。いくらあなたの実力が高いと言っても危険よ。」

 

特にハーマイオニーは心配みたいだった。

 

「大丈夫だ、ハグリッドには事前に伝える。それに、実は……鬼道や森林での訓練として、森には入ってるんだよ」

 

許可も貰ってる、と言えば二人はさらに驚く。

 

「それに入って分かったんだが、空気が妙に変だった。正直に言ってあの空気の場所に、いくらハグリッドの引率だとしても安心出来ない」

 

「空気が変?」

 

「どう言う事?」

 

「文字通りの意味なんだが…本来の空気じゃ無さそうって事だ。何と言うか…厳戒態勢って感じか?夜な夜な邪悪な奴が殺し回っている街、みたいな?」

 

「それこそハーマイオニーの言う通り危険なんじゃない?」

 

「そうよショウ、危険すぎるわ!」

 

「大丈夫だ、手札は何枚も持ってるから。それに森の異変と賢者の石が狙われてることが、無関係だとはどうしても思えない。俺は隠密行動するから自由に動けるし、遊撃役はいた方がいい」

 

きっぱりと言い切った刀原に、二人は説得の余地なしと諦めたようだ。

だが最後に「やはり危険になったら逃げてね」と刀原に念を入れて、その場は別れたのだった。

 

 

 

夜、ロンの悲痛な応援を寮で受けたハリーとハーマイオニーに、半ばおまけみたいになっているネビル、そして策士策にガッツリ溺れたマルフォイが玄関ホールにいる頃。

 

ハグリッドの小屋に刀原は居た。

 

責任者となるであろうハグリッドに一応、断りを入れる為だ。

 

「駄目だ、来ちゃなんねぇ!」

 

ハグリッドもハリーとハーマイオニー同様、刀原を説得しにかかるが…。

 

「ハリーに敵が居るのは明白だ。ここで襲われない保証は何処にも無い。有事の際にはハグリッドがみんなを逃し、俺が応戦する。この森で伊達に訓練してる訳じゃ無いしな」

 

「………分かった、お前さんを信じる。だがな、基本的には俺の側にいてくれ」

 

ハグリッドの説得は不首尾に終わったのだった。

 

 

 

 

 

よし、説得は完了した。

ハグリッドは渋々って感じだったがな。

 

さて…。

 

ピィーー

俺がハグリッドの小屋を出て笛を吹くと利口な隼、ライがやってくる。

 

ここ最近あまり構ってやれなかったから、ここぞとばかり甘えてくる。

 

よしよし、可愛い奴だ。

 

「俺達の上空を旋回し警戒してくれ。頼むぞライ」

 

俺がそう言うと、羽を数回バタつかせた後暗い夜空へと飛んでいく。

 

何かあったり発見した場合、ライを向かわせることはハグリッドにも伝えてある。

 

「お、もうすぐ来るな」

 

俺がハグリッドの小屋の屋根の上で待っていると、集団の足音と話し声が聞こえてくる。

 

どうやら管理人のフィルチがハリー、ハーマイオニー、そしてネビル、更にはマルフォイが連れ立ってやってきたようだった。

 

しかし、ネビルも可哀想に。

 

合言葉を忘れたのはドンマイとしか言えないが、こんなとこまで来させられるとは。

 

俺たちが出歩いてなきゃ、此処まで大事にもならなかったろうに。

 

あーあ、あんなにビクついて。

 

今度なんか奢ってやるか。

手段無いけど。

 

トントントン。

 

フィルチが小屋の扉をノックする。

 

「哀れな子供達だ」

 

そうだな。

ネビルがな。

 

二人は…まあいいとして。

 

マルフォイは…トンマと言うかおバカ様だな。

自分自身が捕まる可能性を、何故考えない?

 

密告者も規則を違反してりゃ、こうなることは明白。

捕まえたのがマクゴナガル教授なら、尚更のことだ。

 

やれやれ。

 

そうこうしているうちにフィルチが校舎に戻って行く。

 

さて、俺もそろそろ行くか。

 

俺がハグリッドの近くに飛び降りると、簡単な説明が始める。

 

ハリーとハーマイオニー、そして二人と同様にネビルにもある程度伝えた為か、三人はやっぱりと言った顔をしている。

 

だが、マルフォイにとっては想定外らしいな。

面白いほどの狼狽っぷりだ。

 

その後、往生際悪くマルフォイはぐちぐち言っていたが、結局言い含められて、一行は森へと入っていった。

 

それじゃ、俺も後に続いて行きますかね。

 

 

 

ハグリッドから離れるなと言われたし、三人が心配なので彼らと行動を共にする。

 

「今日は傷つけられたユニコーンを探してもらう。ほれ、これを見ろ」

 

突然ハグリッドが止まり、足元にある物を四人+一人に見せる。

ハグリッドの足元にあったのは銀色に光る粘着性の液体であった。

 

「水曜日にユニコーンの死体を見つけた。何者かがユニコーンを傷つけているんだ。これがそのユニコーンの血痕だ。今から傷ついたユニコーンを俺たちで探しに行くぞ」

 

ユニコーン……一角獣の名の通り、頭から一本の角がある白銀の美しい馬。

角は勿論、タテガミ、血に至るまで希少性が高い。

 

特に厄介なのがその血だ。

 

そのユニコーンを狙う…ますます怪しいな。

 

そして…コイツはやっぱり馬鹿だな。

 

「森に入るなんて…父上が知ったらただじゃ済まされないぞ」

 

などとビクビクしながら吐かしていたマルフォイも、ハグリッドの提案でネビルを組ませたところ、悪戯をしはじめた。

 

それを見たハグリッドは、ハリーをネビルの代わりにマルフォイと組ませた。

 

「ハリーについてってくれ」

 

ハグリッドが小声で言うのが聞こえる。

 

「任せてくれ」

 

俺も小声でそう答える。

 

ハグリッドは小さく、頼むと呟いた。

 

 

 

ハリー、マルフォイと暫く行動していると、再びユニコーンの血痕を発見する。

 

俺は木の枝に飛び乗り、ライを呼んだ。

 

「ハグリッドをここに連れて来てくれるかい?」

 

何処と無くキラキラした目で見てくるライに、そうお願いすると、任せてよ的な表情で再び夜空へ飛び立った。

 

ライを使者として派遣した俺は地面へと戻るが……そこにはユニコーンの血痕だけ。

 

あいつら…。

勝手に行きやがったな!*4

 

そしてその時、

「ぎゃああああああ!!助けてぇえええ!!」

と言う情け無い感じの悲鳴が聞こえる。

 

この声はマルフォイだ。

 

ってことは……やばい!

 

木の枝にもう一度乗り、枝へ枝へと飛んで移動する。

幸いなのは、ハリーとマルフォイの霊圧がまだ確認できる事だ。

 

直ぐにマルフォイとファングと、上下ですれ違う。

 

すると、枯れ葉の上を何かがマントを引きずりながら滑るような音が静かな森に響く。

 

音の主と思しきフードの奴は、足がすくんで動けないハリーにスーッと近づいている。

 

させるか!

 

ハリーの真後ろの木にからハリーとフードとの間に目掛け、最後のジャンプをする。

 

「ハリー!頭下にして、動くな!」

 

「!?」スッ

 

ハリーは俺の言葉で動ける様になったのか、頭を下げつつ後ろへと下がる*5

 

よし、射線が通った!

 

「破道の四『白雷』!」

 

 

フードの人間には惜しくも外れたが、大きく後退させることには成功する。

 

そして、そこに抜刀しながら着地する。

 

「大丈夫かハリー?」

 

「う、うん」

 

「よし。さて、そこまでにしてもらおうか?」

 

俺は斬魄刀を正眼に構えて相手に切っ先を向けつつ、注意深く観察する。

 

真っ黒のフード付きローブ。

口元らしき箇所が銀色に光っている。

微かに血の匂いもする。

 

奴の先にはおそらく事切れているユニコーン。

 

気配的には人間、ただし邪悪。

そして霊圧が入り混じっている。

その数は二つ。

 

特定が出来ない。

しかし此奴…。

 

「その口元…ユニコーンの血だな?馬鹿な事を。代償を知らん訳じゃあるまい?」

 

ユニコーンの血を飲んでる。

 

俺はそう問いただすが、フードは沈黙を決め込む。

 

「化け物のフリはやめなよ。人間だろ?何処の誰だか詳しくはわかんないけど…そう容易く俺の友人に手ぇ出せると思ったら大間違いだぞ」

 

威圧の為に、さらに霊圧を上げる。

フードの人間は俺の振る舞いに不快そうに震え、呪文を打つもりなのか手を伸ばそうとする。

 

「させねぇよ」

 

一気に接近し、斬魄刀を横薙ぎに振るう。

 

ガツンと鈍い音がする。

腕で防がれたのだ。

 

中々の反応速度だと思った。

 

浅打のままだと俺の斬魄刀は殺傷力に欠けるが…。

 

「当分、その腕は使えない筈だ」

 

骨を砕くぐらいは出来る。

 

 

 

フードの人間の右腕が力無くダラリと垂れる。

 

「降伏しなよ。時期に援軍も来る」

 

そう勧告するが応じる気配など無い。

 

まあ、当然といえば当然だが。

 

うーん、捕縛よりは……撃破したがいいな。

 

「君臨者よ 血肉の仮面…」

 

俺は詠唱を始める。

 

ここでの鬼道の運用は、まず試し打ちしてから実戦としたかったが……やむ終えないな。

 

「万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ 」

 

フードの人間は慌てたかの様に行動し始める。

 

だが…。

 

「焦熱と争乱 海隔て逆巻き 南へと歩を進めよ」

 

もう遅い。

 

わざわざ完全詠唱したんだ、食らえ!

 

「破道の三十一『赤火砲』!」

 

「クッ!」

 

フードの人間が初めて呻き声の様な声を出す。

 

「うわっ!?」

 

爆風にびっくりしたのか、ハリーも声を出す。

 

そしてやがて煙が晴れるが、そこには誰もいない。

 

霊圧を探れば、急いで離れているのが分かる。

 

手応えはあった。

しかし逃げられた。

 

ハリーがいるし、追撃も出来ない。

 

「失態かもな…」

 

始解しなかった事を、俺は少しだけ後悔した。

 

 

 

フードの人間が去り、静かになる。

フーっと息を吐き斬魄刀を鞘に納めようとするが、新たな気配が向かって来た。

 

「チッ、ハリー!油断するな!」

 

俺がハリーに警告し再度構えた直後、林から馬の様な存在が現れた。

上半身は裸の男、下半身は馬の身体。

確か…。

 

「ケンタウロス…だったか?」

 

ケンタウロスだとしても、自分達の味方ということではない。

襲いかかって来てもすぐに対応できるよう身構える。

 

「落ち着きなさい勇敢なる人の子よ。私は君達の敵ではない」

 

 

そんな俺に向けて、ケンタウロスのゆったりとして落ち着いた声が聞こえてくる。

 

その言葉を間に受けるつもりは無いが、ケンタウロスが取り敢えず襲うつもりが無いことは……何と無く確認出来た。

 

俺はゆっくりと斬魄刀を鞘に納める。

 

しかし未だ警戒を解いてない事をアピールする為に、斬魄刀に手を掛けたまま対峙する。

 

その様子を見たケンタウロスは微笑みを浮かべる。

 

「警戒心の強い子だ。いや、彼を守るためからか」

 

「まあな」

 

背後で今の状況に頭が追いついておらず、呆然としているハリーをケンタウロスは見やる。

そしてすぐに俺に視線を合わし、自身の胸に手を当てて敬意を示す。

 

「勇敢なる人の子よ、私の名はフィレンツェ。あの邪悪な存在より君達を守る為に馳せ参じた」

 

 

 

 

フィレンツェに挨拶された後、ファングの鳴き声が聞こえライがやって来る。

 

ファングを連れたハグリッド達がやって来たか。

ファング…ただ逃げだした負け犬ではなかったようだな。

 

さてと、直ぐに離れなきゃな。

 

「馳せ参じたはいいが、必要なかったかな?」

 

「いやそんなことはない、フィレンツェ…だったな。俺はハグリッド達に姿を見せられない。だからここを離れなくては。ハリーを託してもいいか?」

 

俺が聞けばフィレンツェは微笑みながら答える。

 

「ああ任せてくれ、我が名に誓って彼を守ろう」

 

ケンタウロスが自らの名を賭けるなら安心出来るか。

 

「良かった、それでは頼む。んじゃハリー、フィレンツェと一緒にハグリッドと合流してくれ。おそらく彼と一緒なら大丈夫だ」

 

「…分かった。ショウも気をつけてね」

 

「ああ」

 

「待ってくれ、勇敢なる人の子よ。君の名を聞きたい」

 

「グリフィンドール寮生、刀原将平。こちら(英国)だとショーヘイ・トーハラだ」

 

「ありがとう、トーハラ。幸運を」

 

「こちらこそだ。では、失礼する」

 

フィレンツェとハリーに一旦別れを告げ、霊圧遮断外套を羽織り直し、姿を消す。

 

直後、ハグリッド達がやって来た。

 

結構際どいタイミングだったな。

 

ハグリッド達はハリーを心配したのだが、ひとまず無事な様子に安堵していた。

 

……マルフォイだけは残念そうだったが。

 

ハグリッドはフィレンツェに礼を言う。

 

その気安い様子から、二人が旧知の仲であることが何となく伺えた。

 

フィレンツェは最後、ハリーにまた会おうと告げて森の奥へと去っていく。

 

そして、そこで今日はもう終わりだとハグリッドが告げ、そのままハグリッドが四人を森の外へと先導する。

 

俺もそれに続いて森を出たのだった。

 

 

 

 

 

グリフィンドール寮に着くとロンが談話室で待ってくれていた。

 

ネビルは疲労困憊の様子で、そのままベッドへと行った。

そして、森から固く口を閉ざしていたハリーが漸く口を開く。

 

「ショウ…いる…よね?」

 

「ああ」

 

ネビルが完全にベッドに向かったことを確認し、俺は姿を現す。

 

「ショウ、あの時ちゃんとお礼を言ってなかった。本当に有難う。君のおかげで助かったよ」

 

「いやいや、礼には及ばないよ」

 

実際には捕縛も討伐も出来なかった。

判断ミスだな。

奴の正体は、察しが付くんだが…。

 

「何があったの?」

 

唯一参加して無いロンが聞いてくる。

 

「私達、傷ついたユニコーンを探していたの。そしたらハリーが何かに襲われたの」

 

「襲われた!?」

 

「うん、でも無事だよ。ショウに助けてもらったから。ショウ、あれは何だったの?」

 

「…ある意味、怪物の人間だよ」

 

「怪物?」

 

「ああ。ハリー、奴の口元を見たか?」

 

「うん見たよ、銀色に光ってた。あれ、ハグリッドが見せてくれた奴だった…」

 

「……本で読んだわ、ユニコーンは純粋な動物。殺す事は、大きな罪になる」

 

お、流石だな。

 

「正解だハーマイオニー。だから怪物ってのが当てはまる。だけど何で罪になると思う?」

 

「何でかって?」

 

「あ!ショウ…さっき森で言ってたよね?「馬鹿な事を。代償を知らん訳じゃあるまい?」って」

 

「ああ、確かに言ったなハリー」

 

「わかった!ユニコーンの血には何か特別な力があるのね?そしてその力には代償がある」

 

「完璧だハーマイオニー。ユニコーンの血には延命効果がある」

 

「でも、代償があるって…」

 

「ああそうだ。ユニコーンの血は表裏一体、その血が唇に触れた瞬間から其奴は呪われる。生きながら死ぬような呪いが、永遠にな」

 

「どうしてそんなに詳しいの?」

 

「調べた。俺の両親は敵によってとんでもない呪いに侵されてしまったんだ。その呪いがユニコーンの呪いかどうか確かめる為にな」

 

「そうなんだ…」

 

まあ、違かったが。

 

「その話は長くなるからまた今度にしよう」

 

話が逸れるからな。

 

 

 

「さて、三人とも。この学校には今、何がある?」

 

「「「賢者の石………」」」

 

「そう、賢者の石さえ手に入ればユニコーンは必要無くなる。だが、そこまでして誰が生き永らえたいと思う?」

 

そんな奴、英国じゃ一人だろう。

 

「もしかして……ヴォルデモート」

 

ほぉ、名前を言ってはいけないとか言ってたから、全員言わないと思っていたが、流石はハリーだな。

ロンはすごく動揺したが。

 

「おそらく…いや、十中八九そうだろうな」

 

「で、でも例のあの人は死んだって…」

 

「違うな、ロン。正確には『倒された』だよ。英国魔法省の見解は知らないが、日本魔法省の見解なら未確認、未確定。現状は行方不明。となっている」

 

だって()()()()()、だもんな。

 

「じゃあ、例のあの人があの森にいるって事?」

 

「うん、だけど弱ってて、そしてユニコーンの血で生き永らえてるんだ。スネイプが賢者の石を狙っていたのは自分の為じゃなくて、ヴォルデモートの為なんだ」

 

いやだからハリー、スネイプ教授とは限らないと…。

 

「そして石を手に入れたら、復活するんだ…」

 

……もういいよそれで。

 

「でも復活したらあの人は君の事を…殺す気だと思う?」

 

愚問だなロン。

 

「多分チャンスがあれば、今夜殺す気だったと思う。ショウが前言ったように」

 

「ああ、あわよくばって言ってたわね」

 

「確かに言ったな」

 

とにかく気をつけないといけない。

その日の結論はそれでお終いとなり、三人ともベッドに行くのだった。

 

 

 

 

俺は暖炉の前で静かに考えをまとめる。

あの霊圧は何処かで感じたことがある…。

 

特にあの禍々しい霊圧…一体何処で?

 

しかし、入り混じっている影響で分からなかった。

 

 

 

 

 

*1
透明マントを被り忘れる

*2
スニッチは150点

*3
その時()()()()()()霊圧を解放した

*4
姿が見えないので、勝手も何もない

*5
正確には尻餅を突きながら





いくら主人公といえど霊圧で区別するにはまだまだ経験不足ですね。

感想、考察ありがとうございます。
そしてお待ちしています。

次回はいよいよ
賢者の石を死守せよ
次回も楽しみに



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死神、賢者の石を守る 決着


人の人生には運命がある
進むべき道がある

その先の道に行くのは

僕ではない
彼女でもない

その先に行くのは君だ









 

今この学校に陰謀の魔の手が迫ろうとしている。

だがそれを知っているのは極めて少ない。

 

その数少ない知っている者の一人、刀原は…。

 

「そのような訳で、僕は嗅ぎ煙草を知りません」

 

目の前にいる変身学の教授を説得していた。

 

 

ついに始まった期末試験。

刀原にとっては簡単だった。

 

だが悩ませたものはある。

 

そのうちの一つであるフリットウィックの試験は、パイナップルをタップダンスさせることだった。

 

足がないパイナップルにどうやってさせろと?

 

刀原は少しだけ悩んだあと……とりあえずヘタを左右に振るよう飛び跳ねさせ、その後くるんと回転させながら反復横跳びさせた。

 

これってバレエでは?と刀原は思ったが、フリットウィックが笑顔になったのでとりあえず成功とした。

 

 

問題はマクゴナガルの変身学だった。

 

内容は鼠を嗅ぎ煙草入れにすることだったのだが。

 

嗅ぎ煙草とはなんぞや?

 

刀原は嗅ぎ煙草という物を知らなかったのだ。

 

日本で煙草と言えば、紙巻き煙草と刻み煙草、煙管位しかない。

 

葉巻なるものが舶来品としてあるぐらいだった。

 

「嗅ぎ煙草って何ですか?」

 

刀原はさんざん記憶を辿った結果、そんなものは知らないと結論して*1事情を説明しマクゴナガルの説得を試みた。

 

「それならば仕方ないですね」

 

刀原の説得は成功し、結果違う物を変える事になったのだった。

 

 

 

 

生徒達を苦しめた試験も終わり、ホグワーツは晴れやかな空気で満ちていた。

 

それは天気も同様で、晴天の心地良さが生徒達を癒す。

 

刀原も湖畔で緑茶片手に伸びやかに過ごしていた。

 

フラメルに、ドラゴンに、森の探索。

 

刺激的な毎日も嫌では無いが、こういう穏やかな日の方がいい。

 

…そういや、ハリー達は何処に行った?

 

またなんかしてなきゃいいけど。

 

そう刀原が思っていた矢先、三人がやって来る。

 

「ショウ!ここに居たのね。試験はどうだった?」

 

「嗅ぎタバコ以外大丈夫だった」

 

「嗅ぎタバコ?日本には無いの?」

 

「無い、はず。見た事無いしな。そういうそっちの試験はどうだった?」

 

「ショウまでハーマイオニーみたいに言うの?ハーマイオニーったらさっきから、失敗したとか、もっと早くからやるべきだったとか言うんだよ」

 

「実際そうよ」

 

ハーマイオニーは試験対策勉強を十週間前から始めていたのだ。

当然、刀原も含めた三人はそれに付き合うことになったのだった。

 

「まあまあ、今日ぐらいゆっくりしたら?」

 

「そう、ね。そうしようかしら」

 

刀原の一言にハーマイオニーも賛同し、三人は刀原の側に座る。

 

「確かに試験もそうだったけど、石の事とかドラゴンの卵の事とか忙しかったしね」

 

ロンの一言でハーマイオニーに溜まっていたハグリッドへの鬱憤が吹き出る。

 

「ハグリッドには困ったものだわ。ドラゴンを無許可で育てようだなんて。一歩間違えたら犯罪よ!」

 

「ハーマイオニー……?一歩間違えるまでもなくあれは犯罪だぞ」

 

「ハグリッド、ずっとドラゴンを育ててみたいって言ってたから…」

 

ハリーが苦笑いしながら言う。

 

「ああ、確かに…言ってた…な」

 

刀原は賛同しながら何かを思い出す。

 

「ショウ?」

「どうした?」

 

ハグリッド、ドラゴン、三頭犬、賢者の石の守り。

 

「そうだよ……。何故気付かなかった!」

 

刀原は遂に気付く。

 

「何が?」

 

「いいか三人とも。ドラゴンは各魔法省が厳重に管理、監視している。事故とかが起きない様にな。それなのにドラゴンの卵なんて代物、普通はそこら辺の奴が持っているはずないじゃないか」

 

「…確かにそうだ」

 

「でも偶然じゃない?」

 

「そう、俺も最初はそう思った。しかしだ、ハリー、ハグリッドはずっとドラゴンを飼いたかったと言っていたよな?」

 

「うん」

 

「ずっと欲しがってた物を偶々持ってる奴がいる。しかも其奴は持て余してると来たもんだ。挙げ句の果てに「賭けで勝てば譲りましょうか?」なんて言って来た。結構な金になるかも知れないのにだ」

 

「…話が旨すぎるんだ!」

 

「そういう事だハリー!」

 

「だとするとやばいぞ。ハグリッドの所に行こう」

 

「行きましょう!」

 

 

 

 

「其奴はドラゴンの面倒をみれるのか聞いて来た。それでフラッフィーに比べたらドラゴンなぞ楽なもんだ、って言ったよ」

 

「フラッフィーに興味持ったの!?」

 

「まあな、魔法界でも三頭犬はそう滅多にいるもんじゃねぇ。日本でもそうだろ?」

 

「まあ、確かに日本には居ないな」

 

「そうだろう、実際に奴も驚いてた。んで言ってやったんだ、フラッフィーなんか宥め方さえ知ってりゃ、お茶の子さいさいよ。ってな」

 

「宥め方?」

 

「簡単な事だ。フラッフィーの場合は、ちょいと音楽を聞かせてやればすぐにおねんねしちまう」

 

「それも言ってやったのか」

 

「ああ」

 

「「「………」」」

 

「いけねぇ、内緒だった…」

 

「「「「…………」」」」

 

 

 

 

 

「あんの野郎…」

 

俺は激怒した。

 

かのザルな門番(ハグリッド)に後で鉄槌(仕置き)を下そうと決意した。

 

ハリー達は大慌てで校舎に引き返したし、俺は呆れて頭痛がした。

 

フラッフィーの手懐け方が漏れたとあれば、賢者の石が危ない。

 

「ダンブルドア先生に知らせなきゃ」

 

「よし、校長室に行くか」

 

幸いにも俺は、ダンブルドア校長と茶飲み友達になっているので、校長室の合言葉を知っている。

 

だが、校長室には反応がない。

 

だったらという事で、マクゴナガル教授の元に駆け込むのだが…。

 

「ダンブルドア先生ならお留守です」

 

やはりダンブルドア校長は居なかった。

 

なん…だと…。

 

三人も顔を見合わせる。

 

「魔法省から緊急のフクロウ便が来て、急ぎロンドンに立たれました」

 

緊急のフクロウ便…間違いなく犯人の罠だな。

 

「でも…」

 

「待てハリー」

「ショウ?」

「ここで言っても、どうせ取り合ってくれん」

 

「ここは一旦、出直そう」

「分かった…」

 

「どうかしたのですか?」

 

マクゴナガル教授が心配そうに聞いてくる。

誤魔化さなきゃな。

 

「いいえ、大丈夫です。ではマクゴナガル教授。お手数をおかけしますがダンブルドア校長に、ハリーとトーハラが会いたがっていたと、お伝えください」

 

俺は三人より一歩前に出て伝える。

 

「……分かりました。必ずお伝えします」

 

マクゴナガル教授は頷き、一旦納得するフリをするが…。

 

「そういえば…トーハラ、残ってくれませんか?

あなたに少し聞きたいことがありました(あなたはここに残り事情を聞かせなさい)

 

三人にのっぴきならない事情があることを看破する。

流石だな…。

 

「分りました、僕に答えられる範囲であれば。三人とも、そういう事だから先に帰っててくれ」

 

「分った…」

「うん…」

「失礼します…」

 

俺はマクゴナガル教授の意を汲み取り、三人を帰すのだった。

 

「一体何があったというのですか?」

 

「……実は、三人は賢者の石がこの城にあり、そしてそれを盗もうとしている存在を知っています」

 

「なんと…どこでそのことを?」

 

「元々は三人が誤って禁じられた廊下に行き、その奥の部屋で三頭犬と遭遇したことから始まるらしいです。そして三頭犬が居た部屋の床に、隠し扉が有ることに気づいたそうです」

 

「それだけですか?」

 

「いいえ、ハグリッドと三頭犬の話をしたところ、彼がニコラス・フラメルに関連することだと漏らしました。おそらくうっかりだと思いますが…」

 

「あなたが以前、私に聞いてきたのはそういう事でしたか…」

 

「申し訳ありません。あの時は確認も含めて、でした。それに最終的に彼らだけで調べ、結論を出しましたので…」

 

「遅かれ早かれ、ですね」

 

「ええ、ちなみにダンブルドア校長はこのことをご存知です」

 

「そういえば、あなたはダンブルドア先生と茶飲み友達だと伺っています」

 

「はい、その際に伝えました」

 

「それで?ダンブルドア先生に伝えたい事とは?」

 

「おそらくハグリッドが三頭犬の手懐け方を犯人に漏らした可能性が高く、状況は極めて危険で切迫しているという事です」

 

「なんとまあ………。」

 

「お気持ち、お察しします」

 

「ありがとうトーハラ……さて、三人にお伝えなさい。石の守りは万全なので心配することは無いと」

 

「了解しました」

 

納得するとは思えんがな。

 

 

 

「石を守ろう。今夜だ」

 

はい、駄目でした。

 

マクゴナガル教授からの伝言を伝えたにも拘わらず、ハリー達三人はやる気に満ち溢れていた。

 

聞いたところによると、三人は俺と別れた後にスネイプ教授と遭遇したとのこと。

 

「企みでもあるのかと、怪しまれますぞ?」

 

などと怪しげな感じ*2で言ってきたらしい。

 

「スネイプは間違いなく今夜にでも石を盗もうとしているんだ!」

 

いやだからスネイプ教授だと決まった訳では…。

まあ、もういいか。

 

 

 

 

 

 

夜、俺はベッドから起きる。

 

師匠達から特別にと渡された死覇装に着替え、斬魄刀を腰に差し、外套を肩に羽織る。

 

そして先に寝室から談話室に降りた。

三人はまだの様だ。

 

暇なので近くの椅子に座り、刃禅を始めることにした。

スーっと息を吐き霊圧を練り、斬魄刀と対話する。

 

すると、階段を降りてくる音がしてきた。

 

だが、目を開けると……なんとネビルではないか。

 

「ショウ?まさかショウも寮を抜け出すの?」

 

な、なんでバレた?

俺が言い訳をする前に、都合悪く三人もやって来てしまう。

 

「君たちもだろ?また抜け出すんだね?またグリフィンドールの点が減っちゃうよ。ぼ、僕戦うぞ?」

 

その意気や良し。

師匠ならこう言うのかな?

 

素晴らしいな。

感動的だな。

 

でも、無謀だな。

 

「ネビル、すまんな」

 

俺はそう言うと霊圧を強く込め、ネビルに自身が切られたというイメージと殺気をぶつける。

 

直後、ネビルは膝から崩れ落ちる。

 

だが、

「い、行かせないよ…」

ネビルは立ち上がりかける。

 

すごいな。

 

「素晴らしい、君は最高の騎士だな。少し、少しだけ君を見くびっていたみたいだ。だけど…」

 

俺はネビルの顔に手をかざす。

 

「『居眠り』」

 

ネビルは既に限界だったらしく、あっという間に意識を飛ばす。

そして崩れ落ちたネビルを近くのソファーに寝かせる。

 

「何をしたの?」

 

ハーマイオニーが聞いてくる。

 

「師匠から教わった鬼道の一種だ。霊圧が自分より下なら一発で失神させられる」

 

「…ショウってたまにおっかないよな」

 

「そうか?」

 

師匠達よりかはマシだと思うがな。

 

 

 

場所を知っている三人に先行して貰いながら、一行は四階の右の廊下に着く。

 

刀原がこの場所に来るのは初めてだったが、何処と無く不気味な気配がすると思った。

 

早速入った例の部屋には当然の如く三頭犬がいて、刀原たちの方を姿が見えないのにもかかわらず、ぐるぐると唸っていた。

 

そして犬の傍にはハープがあったが……今の所、音を鳴らしてはいなかった。

 

刀原は恐らく犯人が置いていった物だと考察する。

そしてそう確信し、ハープの方へと歩き出した。

 

「使えるものは容赦なく使ったほうが良い」

 

ハープは犬の目の前にあったが、犬は刀原に気が付く様子が全くない。

 

刀原はモミジの杖を取り出し、ハープを数回叩く。

 

するとハープに元々設定されていたのか、ポロンポロリンと音楽を奏で始めた。

 

そして犬は瞬く間に目がトロンとし始め、やがていびきをかき始めてしまう。*3

 

犬が完全に夢の世界に行ったのを確認した三人は、マントを脱ぐ。

 

それに合わせ、刀原も外套の迷彩を解除する。

 

「スネイプが置いて行ったのかな…」

 

ハリーは、スネイプの恩恵を受けるのに若干抵抗があるらしく、苦笑いをしていた。

 

だが刀原が犬の傍にあった隠し扉を開ければ、瞬く間にその表情は消える。

 

扉の下を覗き込めば、中はどこまでも暗く、階段もロープも無かった。

 

「よし、それじゃあ僕が先行するね」*4

 

ハリーは底知れない暗闇に一瞬だけひるんだ様だったが、すぐに飛び降りる。

 

そしてあっという間に闇に飲み込まれたハリーだったが、遠くからドシンという音と大丈夫だと知らせる声が聞こえる。

 

その後ロン、ハーマイオニーの順に穴に入り、最後に刀原も飛び降りた。

 

 

 

 

最初は悪魔の罠という植物だった。

ハーマイオニーが火を起こそうと戸惑ったが、ロンが珍しく一喝した。*5

 

最終的に俺とハーマイオニーの魔法で攻略した。

 

二番目は羽が生えた鍵。

クィディッチで伊達にシーカーをしてないハリーが、箒で鍵を追跡した。

 

鍵は全力で逃亡を図ったが、敢えなく御用となり、難なく攻略となった。

 

三番目は現実で行う魔法使いのチェス。

ロンの天才的なチェスの腕前が披露させるも、最終的にロンは自らを犠牲にする戦略を使うしかなかった。

 

その後ロンが乗るナイトの駒が、クイーンの駒によって文字通り粉砕されるも、戦略通りにハリーが直後にチェックメイトして勝利した。

 

ロンは命に関わるような負傷が運よくなかったので、俺は軽い回道をし、先に進むことになったのだった。

 

チェスの部屋から出ようとした時。

気配で分かった。

 

この奥に、トロールがいる。

 

案の定扉を開けると、むせ返るような酷い匂いがしてくる。

 

広い部屋だった。

ハロウィンの時の女子トイレよりも。

 

ならば存分にやれる。

 

「いいか、俺が奴の動きを止める。その隙に二人は奥の部屋を目指すんだ」

 

「駄目よ、ハロウィンの時より大きいサイズなのよ。ここは三人で…」

 

「それこそ駄目だ」

 

単独で相手をすると言えば、即座にハーマイオニーが反対するが、俺はその言葉を遮る。

 

「ロンも言ってたろ、石を取られてもいいのかと。いいから行け、ここは任せろ」

 

「………分かった」

 

「ハリー……分かったわ。無理しちゃ駄目よ」

 

ふふ、偶には俺が年長者ってとこを見せなきゃな。

それに…。

 

()()()()()()()()からね。

 

 

俺は頷くと、詠唱を始める。

 

「自壊せよ ロンダニーニの黒犬 一読し 焼き払い 自ら喉を掻き切るがいい」

 

止めるためには完全詠唱。

 

「縛道の九『撃』!」

 

今の今までトロールが違う方向を向いていたので、不意打ちの恰好となった。

撃は綺麗に決まり、トロールを封殺する。

 

だがやはりハロウィンの時と同様、その場しのぎにしかならないらしいが…。

 

その隙に二人は先の部屋に進んだ。

 

「君臨者よ 血肉の仮面 万象 羽搏き ヒトの名を冠す者よ…」

 

トロールは逃がした二人より、自らを動けなくした元凶の俺に向かい始める。

撃も持たなさそうだ。

 

だが、これもハロウィンの時と同様だ。

 

「真理と節制 罪知らぬ夢の壁に僅かに爪を立てよ」

 

遅い。

 

「破道の三十三『蒼火墜』!」

 

トロールに蒼い炎が迫り、防ぐすべもなく炎に包まれる。

 

だが火傷を負いながら今だ健在の様だ。

更に怒り狂い、こちらに向かってくる。

 

「…想像以上にヤバいな」

 

だったら。

 

至近距離、いやほぼゼロ距離で撃ち抜く!

 

跳躍し、瞬歩で一気に距離を詰める。

 

「『一骨』!」

 

そしてトロールが瞬歩に戸惑っている間に、重じい直伝の白打の技をがら空きの腹に打ち込む。

 

「グガァアアア!?」

 

トロールの悲鳴が聞こえるが容赦はしない。

 

「破道の六十三『雷吼炮』」

 

打ち込んだ直後手を開き雷吼炮を撃ち込んだ。

 

一骨の衝撃も加わり、トロールの巨体が吹き飛ぶ。

そして壁に激突する。

 

少しだけ煙が上がるもすぐに晴れ、そこには完全に貫通とは行かないまでも腹に穴が空いたトロールが姿を現す。

 

だが……。

 

「グ、グガァア…」

 

まだ、諦めないのか。

 

「…仕方ない、か……」

 

縛道で封殺しても安心は出来ないし…。

ここで始末する他ない…。

 

俺はここで初めて斬魄刀を抜く。

そして

 

「両断せよ『斬刀』」

 

始解する。

一歩一歩ゆっくり進み、壁にもたれ掛かっているトロールの前に行き…。

 

「許せよ、トロール」

 

俺はトロールの首を切り飛ばした。

 

 

 

 

斬魄刀に付いた血を払う。

霊圧を見て、ハリーもハーマイオニーも無事なのを確認する。

 

「とりあえず先に進むか」

 

俺は斬魄刀を納めること無く歩を進めようとするが。

 

「いや、その必要は無いぞ、ショウ」

 

と言う言葉に止まる。

俺をショウと呼ぶ者に老人は一人だ。

 

「来ましたか、ダンブルドア校長」

 

振り向けばダンブルドア校長が拍手してくる。

 

「トロールの討伐、見事じゃ。それがショウの始解かね?」

 

ダンブルドア校長は称賛しながら尋ねてくるが。

 

「いいえ、違いますよ。さっきのは疑似的な始解です。」

 

答えは否だ。

 

「僕の斬魄刀は刃がない。だから本来持っている筈の刃を持って貰う為、疑似的な始解をしたんです。僕の斬魄刀の始解にはちゃんと刃がありますからね」

 

俺がこう答えると、ダンブルドア校長は妙にキラキラした目で聞いて来る。

 

「疑似的な始解とは?」

 

「斬魄刀の始解は()()()()を呼ぶ事で発動するんですが……。さっきやった疑似的な始解とは、要するに()()()()()()()()()を呼んだんですよ」

 

ちゃんと斬魄刀のお許しは貰った上での行為だ。

 

「そうかそうか、なるほどのう」

 

…しかし随分と悠長だな。

 

ん?

こっちに誰か向かって来る。

 

この霊圧…ハーマイオニーか。

 

「ショウ!大丈夫?」

 

ハーマイオニーは心配そうに聞いてくる。

 

「ああ、大丈夫。なんともないよ

 

「そう良かった…って、ダンブルドア先生!?」

 

ハーマイオニーはここでダンブルドア校長に気が付く。

 

「ほっほっほ、今晩は、ミス·グレンジャー」

 

ダンブルドア校長、心なしか涙目になってないか?

 

「こ、こんばんは…じゃないわ!ダンブルドア先生!ハリーがこの先に行って…」

 

ハーマイオニーが律儀に挨拶するがそれどころでは無いことに気が付く。

 

「うむ、分かっておる。ショウ、グレンジャーさんと前の部屋にいたウィーズリー君を頼めるかの?」

 

この対応、手出し無用って訳か。

まさかと思っていたが、予想的中とは。

 

「…分かりました」

 

納得出来ないがな。

俺はダンブルドア校長をジト目で見ながら*6斬魄刀を納めたのだった。

 

 

 

 

かくして、賢者の石をめぐる攻防戦は一応の終わりを見た。

 

俺はハーマイオニーと巨大チェス盤の上で「さっきダンブルドア先生が、向かって行ったんだけど…」と言っているロンと合流する。

 

ハーマイオニーに目立った外傷はなく、ロンの傷もマシになっていたので回道をかける必要もなさそうだった。

 

その後、完全に失神しているハリーを連れたダンブルドア校長の先導を受け、ハリーとロン、ついでにハーマイオニーが医務室に放り込まれた。

 

俺もそうなりかけたが、ダンブルドア校長の口添え*7もあってお世話になることはなかった。

 

俺はダンブルドア校長と()()()をする為、校長室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
西洋大好き雀部副隊長も持っていないと思われる

*2
その言葉、そのまま返したいと思ったらしい

*3
刀原は「チョロいなこいつ」と思った

*4
刀原は「俺が先行するか?」と聞くがやんわりと断られた

*5
「火が無いわ」というのに対し「それでも魔女か!」と言った

*6
ダンブルドア校長は懇願するような目で見てきた

*7
説明を求める意味も含め、霊圧をダンブルドア校長にだけ少しぶつけていた




余談ですが
クィレルと主人公を会敵させるわけにはいきません。
別にクィレルを切り捨ててもいいんですが…
ハリーの活躍が無くなっちゃうので…
あと、ヴォルデモートを逃す筈ないので…

感想・考察ありがとうございます。
そしてお待ちしております。

次回は
賢者の石編 終幕
次回もお楽しみに







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死神と賢者の石編 終幕


例え作られた道だとしても。
例え暗闇の道だとしても。
進まなければ未来は無い。










 

校長室。

いつぞやの夜と同様、ダンブルドアと刀原がお茶会をしている。

 

いつぞやの夜と違うのは、刀原が若干霊圧を剥き出しにしていることか。

 

「嘘偽り無く。これはやはり嘘でしたか。ダンブルドア校長、あなたはやはり犯人をご存知でしたね」

 

「…そうじゃの、知っておった。ショウ、君は犯人が分かったようじゃな?」

 

「ええ、まあ。黒幕はヴォルデモート。実行犯はクィレル教授ですか」

 

刀原が答えればダンブルドアは拍手をする。

 

「正解じゃ、どうしてわかったんじゃ?」

 

「確証を得たのはロンと合流した直後ですね。感じていた二つの霊圧の内、どす黒い邪悪な霊圧が離れていき、残ったのはクィレル教授の霊圧でした。…直後消えましたが。クィレル教授はやはり?」

 

「ヴォルデモートに誑かされたと言えば彼の名誉にもなるかのう?ああ、彼は死んでしまったよ」

 

「やはりそうでしたか…」

 

 

 

「それで本題ですが、いつぞやの夜でも言っていましたね。黒幕は分かっているが、実行犯を特定するために放置する。でしたっけ?」

 

「左様、黒幕は君も言っていた通りヴォルデモートじゃ。そして、ああ、儂はたしかに犯人は未だ掴めんと嘘を言ったの」

 

「そして目的も嘘だった…僕は当時考えていた理由、犯人を捕らえ、黒幕たるヴォルデモートを釣り上げると言った」

 

「そうじゃ、それで儂はそれを肯定した。じゃが誓って言うが、儂はクィレルとヴォルデモートが一体になっているのは気が付かなかった」

 

「それは僕もです。森での遭遇後、霊圧の感知を上げましたがクィレル教授の霊圧は一つだけで、クィレル教授に取り憑いてる亡霊は霊圧の感知が出来なかった。今思えば、あれがヴォルデモートだったのか…」

 

やはり強引でも魂葬を試みれば良かったと、刀原は後悔する。

「話を戻します、ダンブルドア校長は、肯定はしましたが明言しませんでしたね。言質を取られたくなかったと?」

 

「まあ、そうじゃの…ショウ、君は…」

 

「単刀直入に伺います。ハリーをどうするつもりですか?」

 

「………」

 

「ロンは確かに負傷しており、早急に治療したいと思ってたのは事実です。だけど僕が行ったら殆ど治ってましたね。確かに犯人が複数の可能性もあった。だけどダンブルドア校長、あなたは犯人を知っていた。今世紀最強の魔法使いも参戦したあの状況において、二人目が突入する事はあり得ない」

 

「儂はグレンジャー嬢を安心させようと…」

 

「僕はハリーへ向かうつもりでした。ハーマイオニーなら説得出来た筈です」

 

「………」

 

「ダンブルドア校長、ハリーを英雄へ仕立て上げるつもりですね?」

 

「……全く、本当に恐ろしい子じゃの…」

 

「大方、ハリーを対ヴォルデモート戦への切り札にでもする。とか、今のうちに経験を積ませようとかですか?」

 

「……そうじゃ、その通りじゃ。明言しようその両方じゃ」

 

「やっぱりですか…」

 

「…ハリーには過酷で悲惨で暗黒の闇と対峙する運命が待ち受けておる。間違いなく。その為には」

 

「経験が必要だと…最初から生き残った男の子たるハリー・ポッターとクィレル教授と対峙させるために放置したと」

 

「いずれヴォルデモートと対峙するハリーにはこの件が非常に役に立つ筈なのじゃ」

 

「今回の件で死んだかも知れないのに?」

 

「いや、大丈夫だと言う確証があった」

 

「確証?……まさか、生き残った方法ですか」

 

「そうじゃ、ハリーが母から受けた愛の守りじゃ。それがあればヴォルデモートは、ハリーに指一本足りとも触れられん」

 

「…今回の様に?」

 

「分かっておったのか…」

 

「まさか、ただそれしかないと思っただけです」

 

「一本取られたの。だが君の言う通り、今夜ハリーを守ったのもその力じゃろう」

 

 

 

 

 

「納得は、出来ません。彼は!」

 

「幼い、と言うんじゃろう。その指摘は最もじゃ。じゃが今後も此度の一件ような事は起こりうる。成長なら早い方がよい。それに幼いと言えば君も十分幼い」

 

「…僕はそうならざる得なかった。目的の為にも僕は自ら飛び込んだ。師匠達はその思いに答えてくれた。今でも感謝してるし、これからも教えを受け続ける。全てを身に付けた覚えはないから…。だけどハリーは!」

 

「ハリーにもその時が来た。そういうことじゃ」

 

「……」

 

「分かるじゃろう」

 

「……分かりますよ、それこそ痛い程に。だからこそ納得出来ないんです」

 

「…ありがとう、君は優しい子じゃ。あのトロールも、最期の最後までその命を断つ事に躊躇しておったの」

 

「…僕はそんな立派な人間じゃありませんよ」

 

「いや、そんな事はない。ハグリッドから聞いておるよ」

 

「知ってたんですか…」

 

「後聞きじゃがの。君が心を痛めながら自分を叱責していたとな」

 

「………」

 

「本来ならこの件は、我々イギリス魔法界が背負う物であって、君が関わる物では」

 

「留学話はお互いに持ち込んだと聞いてますが?」

 

「…そうじゃの、互いの校長がそれぞれ合意した」

 

「僕を巻き込む気マンマンだったのでは?」

 

「…白状しよう。日本側の実力者をあわよくばとは思っておった。ただまあ…」

 

「大物が釣れたと?」

 

「まあ、そうじゃの」

 

「少なからず驚いた、そう言ってましたね」

 

「その言葉は紛れもなく本心じゃ」

 

 

 

 

「納得は出来ません。ですが、ヴォルデモートにはなんやかんやで借りがあります。間接的とは言え、両親の仇の一人であることに代わりないですからね」

 

「彼奴に輝かしい未来は無いの」

 

「例えハリーやあなたがトチ狂って許したとしても、我々が処理します」

 

「そうなったら、頼むの」

 

「ええ」

 

「では改めて、ヴォルデモートに対峙するため力を貸しておくれ」

 

「無論です。ハリーは友人ですから。もう二度と、あんな思いはごめんです」

 

「そうじゃの」

 

「ただし、再びこういう事になったら事前に伝えて下さい。あなたのシナリオを潰しかねませんからね。ああそうだ、一応常に薄く霊圧を纏っている影響で開心術も聞きませんし、機密もバッチリですので」

 

「掛けているの、バレておったか」

 

「機密保持と、相手が敵か見極める為でしょう?承知してます」

 

「すまんの、じゃが実に見事じゃ。障壁に阻まれておる感じじゃ」

 

「ありがとうございます」

 

「君の要望は分かった。これからはきちんと開示させて貰うとしよう。君と敵対するのは何としても避けたい」

 

「僕のバック(師匠達)ですか?」

 

「それもあるがの、この一年でよう分かった。君が成長すれば確実に君の師匠を上回る」

 

「その言葉は嬉しいです」

 

「ふふ、さて、もう夜も遅い。君も流石に疲れとるはずじゃ。おやすみ」

 

「そうですね。おやすみなさい、ダンブルドア校長」

 

かくしてダンブルドアと刀原の間に合意はなされた。

 

 

 

 

「あ、そうだ」

 

刀原は思い出す。

重要な事をだ。

 

ダンブルドアの方向にくるりと振り向き、伝える。

 

「この件は、()()師匠達にもお伝えしますね。万が一の時に連携が取れるように」

 

「え。そ、そ、それは…」

 

ダンブルドアは今夜一の狼狽っぷりを見せる。

 

「では、失礼します」

 

刀原は全く意に返さず、校長室を後にする。

校長室で一人になったダンブルドアの顔は青褪めていた…

 

 

 

 

 

翌日の朝、三人の内で最も軽傷だったハーマイオニーが先に目を覚ます。

その脇には校長室から戻って来た刀原が居た。

 

「ん?ああ、おはようハーマイオニー。体調は大丈夫か?」

 

「ええ、大丈夫みたい」

 

刀原はハーマイオニーの言葉を聞いて「そうか、良かった」とほっとした表情を見せる。

 

マダム・ポンフリーもやって来て診断をした後、朝食を持ってくる。

 

「とりあえず食べながら聞いてくれ。ロンは全身打撲だったが、まあ見ての通りもう問題ないらしい。あとは起きるだけだろうな」

 

ハーマイオニーのベッドの横にはロンがいびきをかきながらぐっすり眠っていた。

 

「ハリーは相当疲れていたから暫く目を覚まさないだろう。霊圧、いや魔力か。魔力も体力も、あと精神力もかなり疲弊していたからな。ああ、身体的な怪我は治ってる」

 

「ショウは?」

 

「全く問題ない、まあ若干霊圧を使ったぐらいか。気にすることは無いよ」

 

「良かった…ダンブルドア先生は何か言ってた?」

 

ハーマイオニーがそう聞くと刀原は首を振る。

 

「いや、何も言ってこない。ちなみに寝ていた時にマクゴナガル先生が来たが、多分ダンブルドア校長が事情を言っていたんだろうな。マクゴナガル先生も何も言ってこなかった。まあ相当心配していたから、その時皆の怪我の内容も伝えてある」

 

「そう、なんだか申し訳ない感じね」

 

「まあ、あんなことやったらそうなるわな」

 

「確かにそうね」

 

「ふふっ、ああそうだ、ロンとハーマイオニーの事情聴取は俺がやっておいた。だがハリーの身に起きたことはハリーしか知らないから、彼には後で事情を聞くとのことだ」

 

「ありがとう、ショウ」

 

「礼には及ばないよ」

 

体調が戻ったとはいえ、一夜明けて現実が追いついてきたハーマイオニーはその後二度寝*1を堪能することにした。

その日の午前にはロンが起き、ハーマイオニーと同様に説明する。

 

説明中にマダム・ポンフリーがやってきて診察が行われ、ハーマイオニー共々翌日の退院が決定となった。

 

 

この一件についてダンブルドアは「秘密じゃよ~」と言っていたが、効果は全くなかった。

 

噂は風よりも早く学校中を回って、仰々しい尾ひれをこれでもかとくっつけていた。

 

件の当事者の一人と言ってもいないのに、何故か知られていた刀原には昼飯に大広間に来た際、新聞記者と見紛うばかりの生徒が押し寄せた。

 

迫る生徒達に当然のことながら真実を公表することなど出来ず、刀原は沈黙を守った*2

 

そして当事者が沈黙を守った事で尾ひれは悪化の一途を辿ったのだった。

 

 

 

 

数日後にはハリーが目覚めた。

ハリーが起きたという知らせを受け医務室に駆け付けた刀原に、ハリーは開口一番に謝った。

 

「ごめんショウ、君が言っていた通りスネイプじゃなくて…」

 

「クィレル教授だったか?」

 

刀原がそう言えばハリーは一瞬驚くが、うんと頷く。

 

 

ーーーーーーー

 

「ダンブルドアだけでは飽き足らず、あの日本の少年までも私の邪魔をする!」

 

「ショウが?」

 

「そうだ、ハロウィンのトロール!森でお前を襲った時!あともうちょっとだったのに!」

 

「あれもあなたが…」

 

「その通りだ。今思えば漏れ鍋で我が君が常に私と共にいることを、奴は見破っていたのかもしれない」

 

「俺様を亡霊扱いなど…」

 

「常に奴は私を警戒していた。今、この時まで、私はポッター、お前に手を出せなかった。見ろこれを!」

 

「その傷は…」

 

「森でお前を襲おうとした時、奴の攻撃によって受けた傷だ。右腕の骨折は何とかなったが、防ぐので精一杯だったあの魔法(鬼道)で受けた傷は治りが遅い」

 

「……」

 

「だが奴は私の読み通りトロールで掛かり切りの様だ*3。頼りの日本の少年も、ダンブルドアも、助けは来ないぞポッター!さあ、早く石を寄越せ!」

 

「やるもんか!」

 

 

ーーーーーーー

 

「ショウはずっとクィレルを警戒していたんだね…それなのに僕たちスネイプが犯人だと言い張ってた…」

 

ハリーは目に見えて落ち込む。

 

「まあ、スネイプ教授がすごく怪しく見えるのは事実だししょうがないさ。気にすんなハリー」

 

刀原がそう励ませば「ありがとう」とハリーが少し元気になった。

 

 

ハリーが目覚めた翌日は学年末パーティーだった。

刀原は特に気にしなかった寮杯の行方は、スリザリンの優勝で幕を閉じたかと思われた。

 

だが風よりも早く回っていた噂によって、覆るのではないか?という空気が流れていた。

そしてその空気は、現実となる。

 

「よしよしスリザリン。よくやった。じゃがしかし、つい最近の出来事も勘定に入れなくてはなるまいて…」

 

ダンブルドアがそう告げると、部屋全体がシーンと静まりかえる。

 

「かけ込みの点数をいくつか与えようと思う。まず最初は、ロナルド・ウィーズリー君」

 

ロンの顔が一気に赤くなる。

 

「この何年間かホグワーツで見ることが出来なかったような最高のチェス・ゲームを見せてくれたことを称え、グリフィンドールに四十点を与える」

 

おおーというグリフィンドールの歓声が上がる。

ロンは自身の兄弟達に揉みくちゃにされる。

 

「次にハーマイオニー・グレンジャー嬢。炎に囲まれながら冷静な論理を用いて対処したことを称え、グリフィンドールに四十点を与える」

 

ハーマイオニーは腕に顔を埋めている。

 

「次にショーヘイ・トーハラ君…巨大なトロールに対し全く臆することなく戦い、無傷で完封勝利し、友人を守ったことを称え、グリフィンドールに四十点を与える」

 

さらにグリフィンドールに歓声が上がる。

流石の刀原も今度は逃げられず揉みくちゃにされる。

 

「四番目は、ハリー・ポッター君。その完璧な精神力と、並はずれた勇気を称え、グリフィンドールに四十点を与える」

 

四位だったグリフィンドールが百六十点の差を追い上げ、スリザリンと並ぶ。

 

そして…。

 

「敵に立ち向かった四人は本当に素晴らしい。じゃが、友に立ち向かうのは時としてそれ以上に勇気のいることじゃ。よってこれを称え……ネビル・ロングボトム君に十点を与える!」

 

グリフィンドールは稀にみるであろう逆転優勝を飾ったのだった。

 

 

期末試験の結果も帰ってきた。

刀原はハーマイオニーと揃って学年トップを飾った。

 

マルフォイの名前が少し下にあるのは意外だったが。

ハリーとロン、ネビルも問題なかった。

 

何気に気になっていたマルフォイの愉快な仲間たち(お供たち)もギリギリだったが大丈夫だったようだ。

それをハリーたちが悔しがっているのを刀原はハーマイオニーとジト目で見ていた。

 

 

夏休みが間もなく始まる。

あっという間に洋服タンスは空になり、旅行カバンは服でいっぱいとなる。

 

帰りの電車での道のりは、行きよりも人数が多かったことあってずっと早かった。

 

ハリーは勿論、ロン、ハーマイオニー、刀原も中々の有名人になっていたらしく、多くの生徒が来たり覗いていった。

 

そうしている内にキングス・クロス駅に列車は到着した。

 

大きな荷物を抱え、生徒たちが順に列車から出て、家族の元へと戻っていく。

とはいえハリーにはこれからが悪夢みたいなものかもしれない。

 

聞けばハリーの育ての親は彼に冷たく当たっているとのこと。

日本に招待したいが駄目だろうと刀原は判断する。

 

「ハリーの家の住所、教えてくれ。おそらくだがフクロウ便が使えなくなるかもしれないからな」

 

「あ、ありがとう。でも気をつけて、僕の家、その……」

 

「ああ、ダーズリー家だろう?心配すんな。なんとかする」

 

刀原たちはゲートを出て、元の世界へと戻っていく。

最後に振り返ってみれば、列車の赤い車体に差し込む輝かんばかりの夏の日差しが輝いていた。

 

ホグワーツでは使えなかったカメラにそれを捉える。

来年からは持ってこないと刀原は決めたので、これが最後の写真となるだろう。

 

ハリー達と別れ、刀原はロンドン・ヒースロー空港へと向かう。

 

そして英国土産をたっぷりと買い込み、刀原は日本への帰路についたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
背徳的と言っていたが気にすんなと返した

*2
当然ご飯どころではなく、曲光を掛け逃亡した

*3
刀原はこの時、ダンブルドアの相手で掛かり切りだった。




これにて賢者の石編終了です。

感想、考察ありがとうございます。
そしてお待ちしております。

次回から
秘密の部屋編開始となります。
次回も楽しみに








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死神と秘密の部屋編
死神、日本にて。 二学年に向けて




再度鍛え上げよう
友を守れるように









 

 

《親愛なるハリーへ

 

元気にしていますか?

ダーズリー家にいじめられてませんか?

 

おそらくこの手紙を君に渡さないようにすると思うので、確実に届くように魔術を込めときます*1

 

瀞霊廷は日本の京都にあるんですが、京都はムシムシしてすごく暑いです。

英国の夏は涼しいと聞くので、羨ましいです*2

 

宿題は終わりましたか?

僕は師匠達に急かされたので、終わりました。

 

今年度もホグワーツに行きます。

返信の手紙が書けるようになったらそちらの近況を教えてくださいね。

 

それでは良い夏を。

 

 

君の友人 刀原将平》

 

 

ーーーーーーー

 

 

英国から帰国し、瀞霊廷の邸宅に着く。

荷を解き終わるが一息つく間もなく。

 

「帰ってきたか、将平や」

「夜姉…」

 

縁側から音もなく客人がやって来る。

やって来たのは四楓院夜一。

 

護廷十三隊二番隊隊長で両親の友人でもある。

 

「帰ってきたばかりですまんがの、総隊長達が呼んでおる。例の件についてじゃ」

 

「……賢者の石に関する件ですね。……なんでじりじり向かってくるんですか?」

 

「いや、だって…」

「だって?」

 

「一年間じゃぞ!一年間も可愛い息子を可愛がれなかったんじゃぞ!」

 

「僕は別に息子じゃ…「息子も同然じゃ!」

 

「分りましたよ」

「うむ、さて、良く帰って来たの~」

 

夜一はそう言って刀原に抱き着き、頭を撫でる。

 

「……はいはい、それじゃあ行きますか。重じい達が待ってるはずでしょ?」

 

黒猫みたいという台詞を言うのを必死にこらえ、刀原は待っているであろう人たちの事を言う。

 

「……そうじゃの」

 

夜一はどことなく嫌そうにしながら刀原と共に家を出た。

 

 

 

 

隊首会という訳でもないのに護廷十三隊の隊長達が一番隊隊舎に集まる。

 

集まった隊長は全員、刀原に所縁のある(師匠兼保護者)達だった。

 

本来ならば右が偶数、左が奇数に並ぶのだが、偶数が偶然にも多い為*3、並び方は適当だった。

 

正面に護廷十三隊の総隊長兼一番隊隊長山本元柳斎重國が鎮座している。

 

「英国での一件は既に聞き及んでおる。まずは大儀じゃった。そして、お帰り、将平や」

 

「ありがとうございます。そして…ただいま戻りました」

 

元柳斎の言葉に刀原は答える。

 

「将平君、賢者の石はどうなりましたか?」

 

そう聞いてきたのは四番隊隊長の卯ノ花烈。

刀原に剣術や回道を教えている人物だ

 

「ダンブルドア校長曰くフラメル氏と協議した結果、石を砕いたとのことですが真偽のほどは…」

 

刀原はダンブルドアはハリーや自身に対して

「石は砕いてしもうたのじゃ」

と言っていたのを思い出す。

 

「まあ。あの人は秘密だらけですから」

 

「そうなのかい?」

 

卯ノ花のダンブルドアに対する評価を聞き、八番隊隊長の京楽春水が聞く。

 

「ええ、だから彼を英国に行かせることに難色を示したのですよ」

 

京楽の疑問に卯ノ花は肯定で返す。

 

「元柳斎先生や卯ノ花隊長が嫌がった理由はそうだったのか……」

 

十三番隊隊長の浮竹十四郎が納得する。

 

「孫可愛さだけじゃなかったんだねぇ」

 

京楽は元柳斎や卯ノ花が殊の外刀原を溺愛していることを茶化す。

 

「当然じゃわい」

「当然ですとも」

 

 

 

 

話はダンブルドアが日本から来る留学生を生き残った男の子、ハリーと結び付け、彼を巡る戦いに巻き込むつもりだったと告白したことに移る。

 

日本側の実力者をあわよくば(刀原将平を巻き込もう)とは思っておった。じゃと?/だと?/ですって?/だって?/と?」

 

目の前にいるの師匠兼保護者達の目の色が変わる。

 

「ええ、ポッター少年を英雄へ仕立て上げるつもりだとも」

 

俺はハリーの事も言うが、

「そんなこと、どうでもよいわ」

「そんなこと、どうでもよい」

「そんなこと、どうでもよろしい」

「そんなこと、どうでもいいよ」

「そんなこと、どうでもいいっす」

「そんなこと、どうでもいいぞ」

「ああ、はい……」

 

彼らにはどうでもいいらしい。

 

哀れ、ハリー。

強く生きてくれ。

 

「やっぱり、英国に行くのはもういいんじゃない?賢者の石をめぐる攻防が行われたし、例の…ヴォルデモート…だっけ?そいつも生きてたしねぇ」

 

「ああ、いくら彼が優秀だからといってもな…」

 

京楽兄や浮竹兄が来年度の英国行きに反対する。

 

「ですが、彼が書いて持ってきた資料は、日本魔法界の更なる発展に必ず役立つっすよ」

 

本を持ち出す訳にもいかないので大量に書いた西洋魔法や魔法動物、魔法薬学の資料*4

先ほど喜助兄に渡したが、もう見たらしい。

 

「流石ですね」

「全くじゃな」

 

ありがとうございます、やち姉、夜姉。

誉めて貰えるのは素直に嬉しい。

 

「じゃが、それくらいなら、他の生徒でも可能ではないかの?将平は次期隊長としても、護廷十三隊に必要で貴重な戦力じゃ。もしもの事あらばどうする?」

 

「確かにそうだよ喜助君」

 

重じいや京楽兄に詰められる喜助兄。

 

「いやー、確かにそうなんすけど……」

 

喜助兄はそこまで言い、目の色が本気(マジ)になる。

 

「資料の密度がすごいんす。おそらくこれクラスの資料を作れる生徒は、そう何人もいないっす」

 

いやーそんなことないっすよ喜助兄。

 

「彼奴*5の評価をアテにするなら、彼の他には…日番谷、雀部、雛森ってとこぐらいっすかね?」

 

まあ確かに、そうかもなぁ。

 

「それに、そんなに危ない場所だとしたら、そこらへんの生徒は派遣出来ないっす。彼は理由もさることながら、総合的な実力が評価された結果っすからね…」

 

「これほどの適任者も居らんというわけか、喜助」

 

そんなことないよ、夜姉。

 

「ふむ…将平や」

 

「何だい重じい?」

 

「お主はどうしたい?」

 

俺か…。

 

「僕は英国へまた行く気満々ですよ?ハリーに行くって言っちゃったし。何より心配だし。まだホグワーツの図書室制覇してないし」

 

「…やっぱりかー」

「…やはりそう来ますよね」

 

俺の答えに納得する素振りをする京楽兄とやち姉。

夜姉は嫌そうな顔だったが。

 

 

「決まりじゃな」

 

ドン!

重じいが頷き、杖を突く。

 

「聞いての通りじゃ。それならばさせたいように、そうするべきじゃ」

 

「…総隊長、いいのか?」

 

夜姉は再度重じいに聞く。

 

「無論じゃ」

 

重じいが問答無用とばかりに切り捨てる。

 

「さて将平や?お主の安全の為に幾つかの制限を解除しよう」

 

おおっ!

それはありがたいです。

 

「貴方の事です。どうせこっそり六十番台の鬼道を使用しましたよね?」

 

流石はやち姉。

完璧にバレてる。

何でわかったんだ?

 

「お見通しです。もっと精進が必要ですね」

 

しかも読まれた。

 

「……はい、トロール戦の際に雷吼炮を」

 

俺は大人しく白状する。

 

「トロールっていうのは、雷吼炮を使わないと駄目な相手だったのかい?」

 

京楽兄がちょっと驚いた様子で聞いてくる。

 

「決着を早める為に使いました。倒し切れませんでしたが…京楽兄だったら多分やり切れたと思いますよ?」

 

「さあて、そう上手く行くといいんだけどねぇ」

 

京楽兄はそう言いながら、日頃から被っている編笠を深く被る。

いや、貴方なら簡単だって。

 

と言うか、この中でトロールに苦戦する人いるか?

 

居るわけないだろ。

多分全員余裕綽々で倒すんだろうなぁ。

 

「んんっ!話を戻すぞ」

 

重じいが咳払いしながら言う。

 

「また強敵と対峙するやも知れん。そこで…将平や。お主が使える鬼道の全面使用を許可する!」

 

おおっ!

これでさほど苦戦せずに済む。

 

「さらに!お主の始解の使用を許可する!」

 

何と!

 

「よろしいのですか、総隊長?」

 

やち姉が心配そうに聞いてくる。

 

「構わんじゃろ」

 

重じいは意に返さず言う。

 

「将平や。何度も言うておるが、お主の斬魄刀の能力はかなり難しく、危険じゃ。使用には最大限の考慮をせよ。特に周囲をな」

 

「勿論です、重じい!」

「うむうむ」*6

 

 

 

 

 

「それとな。ダンブルドアにはきつく言うておく」

「あ、はい」

 

俺はダンブルドア校長に心の中で合掌した。

 

 

 

 

 

 

師匠兼保護者達の面談を終え、俺は修行で忙しくなる前に行くべき場所に行く。

 

来たのは四番隊の特別救護室。

病室の名札を見ず、ノックは一応して入る。

 

「ただいま、英国から帰って来ました」

 

病室のベットで横たわっている二人から、お帰りの言葉はない。

相変わらず眠ったままだ。

だけど、まだ生きている。

 

「残ってる時間は、そう長く無いかも知れません」

 

後ろから声がする。

四番隊の虎徹勇音副隊長だ。

 

ここには幼い頃から通っている為、顔見知りだ。

 

「勇音さん…そうなんですか?」

 

「ええ」

 

俺が聞き返せば勇音さんはそう答える。

 

「あ、言いそびれちゃいましたね。将平君、お帰りなさい」

 

「あ、ただいまです。まあ、また行くんですが」

 

「手掛かりは、何か掴めましたか?」

 

「…いいえ」

 

「そう、ですか」

 

「父と母を、よろしくお願いします」

 

「任せて下さい」

 

勇音さんが病室を出た後も、俺は両親の側にいた。

両親の手を握り締めれば、僅か、ほんの僅かだが握り返してくれた。

 

「英国に行く前にもう一度来るね」

 

俺がそう言えば、頷いた気がした。

 

 

 

 

翌日、俺は再び四番隊の隊舎にいた。

 

「さて、時間は長いようで短いです。まずは私から修行を開始しましょう」

 

そう、妙に生き生きとした感じで言うのは四番隊の隊長、卯ノ花烈姉。

いや卯ノ花八千流姉だ。

 

「…やち姉、隊長のお仕事は?」

 

普段は烈姉だが誰もいない為、やち姉呼びだ。

 

「勇音に任せてますので、安心なさい」

 

ごめんなさい勇音さん。

 

「謝る必要は有りませんよ。勇音に言ったら「弟分の為ならしょうがないですね」と言ってました」

 

俺はいつから勇音さんの弟分になったのだろう。

まさか、幼い頃に頭を撫でてくれたり、お菓子をくれたりしてくれたのはそう言う…。

 

まあ、いいや。

 

「それじゃあ、遠慮なく、また胸を借ります」

 

俺は全く遠慮せず霊圧を高める。

 

「ふふっ構いません。さあ、かかって来なさい!」

 

やち姉が普段は三つ編みで巻いてある髪を解く。

 

ほ、本気だ…。

この状態のやち姉相手に遠慮なんか出来るか!

 

 

 

 

「一番手は彼奴に譲ったがの、真の師匠たる儂が久方ぶりに手ほどきをしよう」

 

翌日、一番隊の隊舎にて、重じいと修行する。

昨日のやち姉と同様、妙に生き生きとしている。

 

「重じい、一応聞くけど仕事は?」

 

「ん?そんな物は気にするで無い」

 

ごめんなさい雀部副隊長。

いや、あの人なら喜んで引き受けるか。

 

「第一、孫に鍛錬をつけて何が悪い」

 

孫じゃ無いと言う突っ込みはもうしない。

 

「では、行くぞ」

 

重じいはそう言うと紅蓮の炎の出すかの様に霊圧を解放して……。

あ、違う。

 

この炎、流刃若火だ。

 

英国行きの最終試験の時の様に出さないで欲しい。

 

「何で始解するの!?」

「問答無用!」

 

「ええ!?」

 

流刃若火に対してまともに相手出来るか!

とりあえず始解して立ち向かった。

 

 

 

 

「それで焼き焦げ気味なんだ」

 

「笑い事じゃないですよ!京楽兄!」

 

翌日、何とか黒焦げにならなかった俺は八番隊隊舎……ではなく俺の邸宅にいた。

 

「ところで…京楽兄?」

 

「ん?なんだい?」

 

「昼からお酒飲んで良いんですか?…お仕事は?」

 

京楽兄は昼間なのに飲んでいた。

 

「……大丈夫さ、別にいいんじゃないの」

 

「絶対に駄目でしょ」

 

この人…サボったな。

 

「山じいも卯ノ花隊長も、久方振りの君とのイチャイチャだ。舞い上がっちゃったんでしょ」

 

京楽兄は話題をサラリと変える。

 

「舞い上がったから流刃若火は駄目だと思います」

 

剣八モードもな。

死ぬかと思ったぞ。

 

「確かにびっくりしたよ」

 

京楽兄は笑いながら言う。

 

多くの見物人も来たしね。

そして京楽兄のお迎えも来た。

 

「隊長、見つけましたよ!」

 

「あ、七緒ちゃん」

 

京楽兄、年貢の納め時である。

 

「すみません、伊勢副隊長…」

 

やって来たのは伊勢七緒副隊長だった。

 

「ああ、将平君が謝る事は有りません。悪いのは」

 

伊勢副隊長は京楽兄をキッと見る。

 

「七緒ちゃーん、何でここがわかったの?」

 

京楽兄は悪気も見せない。

 

「将平君が英国から戻ってきているのは伺っていました。昨日と一昨日は大人しく仕事をしていたのに、今日になって居なくなったということは…」

 

「彼の元に居ると…正解だ。流石七緒ちゃーん」

 

「からかわないで下さい。さあ、行きますよ。仕事が残っているんですから!」

 

そう言うと伊勢副隊長は京楽兄の襟首を掴む。

 

「ああー、折角の団欒が…」

 

「全くもう、失礼しますね将平君」

 

「あ、お手柔らかに…」

 

俺の慈悲が効くことを祈ろう。

将平くーんと言ってる京楽兄に手を振って見送った。

 

 

 

 

「はっはっは!彼奴もお間抜けよの〜」

 

そう言い放つのは夜姉。

朝っぱらからやって来て、俺が作った朝飯を平らげた人でもある。

 

「あの、夜姉?みんなに聞いてるんですが…お仕事はどうしたんですか?」

 

やち姉に山じいに京楽兄。

何故か仕事を放っぽり出してやって来る。

 

「ん?ああ、砕蜂に任せた。「お任せ下さい。夜一様!」と言って張り切っておったわ」

 

ああー、砕蜂さん。

騙されてるって。

 

俺は空を仰ぐ。

 

「まあいいじゃろ、そんなことは。それよりも…」

 

ふと霊圧を上げる夜姉。

 

「お主が英国で鈍ってないか、確かめるとしよう」

 

その言葉に誘われ、俺も構える。

 

「白打と瞬歩のみ、だよね」

 

俺も言葉にニッコリと返す夜姉。

 

「応とも、では…行くぞ!」

 

 

 

 

「それは大変でしたね〜」

「全くです。あ、これ、追加の資料です」

「おお、ありがたいっす〜」

 

翌日、俺は喜助兄の元で先日渡した資料の注釈を書く為、十二番隊を訪れた。

今までの師匠とは違い、真面目に仕事をしていた喜助兄に俺は内心驚愕していた。

 

「真面目にやんないとひよ理サンに怒られるんす。君と遊ぶ時間も欲しいっすから」

 

喜助兄曰くこんな理由らしい。

まあ確かに、コテコテの関西弁で喋る猿柿副隊長が怒ったら怖そうなのは否めない。

 

その日は半分ほど喜助兄の仕事で潰れ、もう半分は英国魔法界の事で話の花を咲かせたのだった。

 

 

 

 

 

交友関係の話もしよう。

マホウトコロの友人達のことだ。

 

日番谷、雀部、雛森の話だ。

 

ホグワーツ同様、マホウトコロが夏季休暇に入ったのに合わせ、死神の子供達も瀞霊廷に戻ってくる。

 

三人いる親友達のうち雀部は、祖父であり一番隊の雀部長次郎忠息副隊長の元に帰る。

 

日番谷と雛森はマホウトコロの校長に師事している影響もあって、通年ならマホウトコロに残る。

 

だが、俺が英国に行っていた為ずっと会えなかった事もあり、二人は俺の邸宅にやって来ていた。

 

この二人は俺と雀部の様に幼馴染みで…。

 

「シロちゃん」

「何だ雛森」

 

お互い両思いだが…。

 

「ねえ将平君、シロちゃんのこと何だけど…」

「なあ刀原、雛森のこと何だけどよ…」

 

すなおになれない奴らだ。

 

後三年で十三隊に入るんだから。

どうせ雛森も一緒の隊に入るんだろ。

 

こっちは毎回角砂糖みたいな甘い話を聞くんだぞ。

早く付き合え、そして幸せになれ。

 

 

 

 

もう一人の友人、雀部との出会いは単純だった。

 

5歳ぐらいの時だったな。

ある日重じいの元に行った時に、お世話になってる雀部副隊長と一緒にいた少女がそうだった。

 

「私の孫娘だ。よろしく頼む」

 

と雀部副隊長に紹介されたのだ。

 

「よろしく!」

「…よろしく」

 

今でもそうだが天真爛漫で容姿端麗な奴で、当時修行ばかりだった俺をよく連れ出してくれた。

 

どちらかと言うと腐れ縁的な感じがするが、俺が英国に行くまで殆ど一緒に過ごした。

 

 

そんな彼女だが、なんか様子が変だった。

 

二人がやって来る数日前、重じいの所に行った時に会っていたのだが…。

 

「お帰り!」

 

と言ってダッシュで抱きついて来たときは、なんだどうしたと思ったぞ。

 

「マホウトコロでなんかあったか?」

 

と実際に聞いたら特にないと言ってきた。

全くなんなんだろうか?

 

「雀部?お前が英国に行った二ヶ月くらい、元気なかったな」

 

とは日番谷の証言だ。

 

「間違っても、彼氏出来た?とか言わないでね」

 

とは雛森の忠告だ。

 

彼氏?

そんな存在、あの雀部副隊長が許すとは思えないがな。

 

そんな雀部も、日番谷と雛森が家にいると分かったらすぐ荷物を持ってやって来た。

とりあえずこの夏はこの三人と過ごすことにした。

 

 

師匠も、ちょくちょくやって来ては*7俺や雀部が作った料理を食べたり、修行を付けてくれたりする。

 

狗村隊長や朽木隊長も時折顔を見せてくれる。

親友と共に過ごすこの夏は、実に有意義な物になった。

 

 

だが。

楽しかった夏も終わり、英国に行く日が来る。

 

後ろ髪を盛大に引っ張って来る師匠や、親友達をなんとか振り払う。

 

日本土産よし。

物品類よし。

 

よし、それじゃ行きますか。

 

「「行ってらっしゃい!」」

 

「「気をつけるんだぞ」」

 

「行ってきます!」

 

皆の声を背に、俺は日本を旅立った。

 

 

 

飛行機はあっという間に空へ行く。

 

刀原のホグワーツ二年目が始まる。

 

後に、ちょっと後悔することを知らないで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
手紙を見た瞬間、渡す使命に駆られる

*2
夏のロンドンの平均最高気温は23.2℃

*3
一以外は二・四・八・十二・十三。

三・五・十は隊長不在

*4
刀原は合間を抜っては、持ち帰る資料を精査し纏めていた

*5
マホウトコロの校長の事

*6
完全に孫に対する反応だった

*7
頻度たかめ






雀部副隊長の孫娘はオリキャラとなります。
それと死神陣営が本格介入するのは大分先です。

感想、考察、ご意見ありがとうございます。
そしてお待ちしております。
とっても励みになります。

では次回は
空飛ぶ車 屋敷しもべ
次回も楽しみに




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死神、呆れる。空飛ぶ車と屋敷しもべ


手段は何処かにある。
ほらこんなふうに。
まあ、許されるかは置いておいて。








 

九月一日

キングズ・クロス駅。

 

その9と4分の3番線に刀原は居た。

 

前日にロンドンに来た刀原はその足でダイアゴン横丁に行き、ホグワーツで必要な教科書や羊皮紙、インクなどを購入した。

 

そして宿屋にもなっている漏れ鍋にて一泊した後、前回のことを踏まえて少しだけ早く駅に到着し、そのままやって来た列車に乗り込む。

 

しばらくすると、ハーマイオニーやネビルがやって来て再会を喜ぶ。

後はハリーとロンか。

 

そう刀原が思っていると列車は動き出す。

 

「ハリーやロンはどうしたのかしら?」

 

「さあ?大方、フレッド、ジョージとかと一緒じゃないか?ロンの妹さんも今年入学らしいし」

 

ハーマイオニーが心配し、刀原が考察しているとコンパートメントの扉が開く。

すわハリーとロンかと思うだろうが、去年より霊圧探知の精度を上げた刀原は分かった。

 

違うと。

 

そしてそれは正解だった。

 

「あの…ここ空いてますか?」

 

開けたのは赤毛の髪をした女の子だった。

 

 

端的に言えば、女の子の正体は話題にしていたロンの妹さんだった。

夏休み、ロンと双子によってダーズリー宅から拉致られた*1ハリーは、その後ずっとウィーズリー家にいたと手紙に書いてあったのだ。

 

当然この妹さんもハリーを知っている訳で…。

 

「ロン…私の兄やハリーの話題が上がっていたので、知り合いかな?と思ったので…」

 

妹…ジニーは少しオドオドしながらそう答えた*2

 

「なるほどなぁ、まあ、ロンの妹さんなら歓迎しない訳にはいかないよな?二人はどう?」

 

刀原がそう聞けば、二人も同じ思いだったため即了承し、ちょっとした歓迎会みたいなのが行われた。

ジニーも同性のハーマイオニーとは直ぐに仲良くなり、授業や寮のことなど熱心に聞いていた。

 

 

女子トークが展開される中、半ば蚊帳の外となっていた刀原とネビルの話題は、一向に姿を見せないハリーとロンだった。

 

「二人ともどうしたのかなぁ?」

 

特にネビルは酷く心配しており、探しに行こうとしていた。

 

「そうだな、少し…」

 

刀原も重い腰を上げようとした矢先、車内販売がやって来る。

その時だ。

 

見知った霊圧が外に二つ。

 

刀原は三人が車内販売に夢中になっている隙に、車両の廊下に行き廊下側の窓を見る。

すると…。

 

「!?」

 

何故か空を飛んでいる車*3が目に飛び込む。

 

座席を見れば、ハリーとロンが四苦八苦しながら運転しているではないか。

 

あいつら、なにやってんの!?

刀原は声を出さなかった自分を褒めたいと思った。

 

そして直ぐに頭を抱えた。

 

あれがハリーを拉致ったという空飛ぶ車か。

違法改造だろ、という読みは当たったな。

 

しかし何がどうなったらあんな事になる?

そう言えばジニーが乗り遅れる寸前だったから、二人は知らないと言っていた。

 

なるほど、降り遅れたのか。

 

それであの様な手段を思いついたという事か。

しかし、もっといい方法なかったのか?

 

ライを雀部に預けた俺と違い*4、ハリーにはヘドウィグがいるからふくろう便が出せるはずだろう。

 

それに戻って来るはずの、子供達を見送った大人たち…それこそロンの両親が居るはずだろう。

 

やれやれ。

 

刀原は呆れ果てた。

 

そんなことを思っていれば、迷彩機能(目眩し呪文)でも使ったのか車の姿が消える。

 

刀原は三人が待っているコンパートメントに戻る。

三人…特にネビルを安心させる為に。

 

そして今はもう見えない事を良い事に。

ハリーとロンを見つけたから(二人は車で空飛んでたから)心配すんな(退学かもな)と答え、楽しいが頭痛がする汽車の旅に戻ったのだった。

 

 

 

 

 

去年は船だったが、二年生となる刀原達三人は一人で動くと言う馬車に乗る。

ハーマイオニー達はなんの疑問も無く馬車に乗り、刀原も馬車に乗るが…。

 

なんだこいつ?

羽が生えた馬?

二人は無反応。

二人には見えてないのか…。

 

刀原は馬車を轢いている生物が気になった。

 

流石の刀原も魔法生物にはそんなに詳しく無い。

 

その為知らなかった。

この馬の様な生物の名がセストラルである事。

 

死を目撃し、それを受け入れた者しか見えない事。

曽祖父の死を見ている為見えるのだと言う事。

 

知るのは、案外先である。

 

 

 

グリフィンドールに入ったジニー達新入生の組み分けが終わっても、ハリーとロンは来ない。

 

「ショウ、二人について知っているでしょ?」

 

ハーマイオニーは、刀原が事の真相を知っていると踏んだのか質問してくる。

刀原は黙秘する必要もないと踏み、白状する。

 

「…… 車が空飛んでてな」

 

「はい?」

 

ハーマイオニーは聞き返す。

 

「いや驚いたぞ、英国は空飛ぶ車を発明したのか」

 

刀原は正に驚いた感じで話す。

 

「そんなニュース、聞いた事ないけど?」

 

ハーマイオニーは冷静に返す。

 

「まさかその車に知り合いが乗ってるなんてな…」

 

「え、まさか…」

 

そこでハーマイオニーは事の真相に気がつく。

 

「そいつらの名前、ハリーとロンって名前なんだが……ハーマイオニー、聞いたことは?」

 

刀原が大真面目に聞いた後、ハーマイオニーは天井を見上げ「なんてこと…」とポツリと言い…。

 

「知ってる名前だわ」

 

と刀原の方を向いて、大真面目に言った。

 

「友人だよな」

 

「そうね、私達の友人だわ」

 

「他人の空似かなぁ…」

 

「あなたが間違えるなんて思えないけど?」

 

「嬉しい信頼だね、今後とも答える努力をしよう」

 

ここまで応酬した所で、沈黙が流れる。

 

「……退学になると思う?」

 

ハーマイオニーがポツリと聞く。

 

「……確証は無いが大丈夫だと思う」

 

刀原がポツリと答える。

 

その後日本語で「tabunn…(多分…)」と答える。

 

「ちょっと!?」

 

ハーマイオニーは日本語が分からない為、刀原の最後の一言が気になった。

 

 

 

 

 

結果的に言えば。

 

二人は無罪では無いが放免となった。

刀原の読みは見事に的中していたことになる。

 

ハリー曰く。

ゲートに何故か入れなかったハリー達はロンの父であるアーサー氏の車をパクり、ホグワーツへ向かうことにした。

 

道中様々な目に遭いながらなんとかホグワーツに到着したが、車が不具合を起こしてあえなく墜落。

 

そして墜落した先は暴れ柳と言う貴重な木。

 

その木と車、ついでにロンの杖を破損しながら校門に着いたら、出迎えたのは般若となっていたマクゴナガルとスネイプ。

 

木の破損と、空飛ぶ車を日刊預言者新聞と言う英国魔法界の新聞の記者とマグル達に見られたのも原因だろう。

 

ハリーに対しては陰険さが増すスネイプが退学を請求したが、ダンブルドアの取り成しもあってなんとか退学は免れたらしい。*5

 

 

そして翌朝、車の持ち主の妻でありロンの母親であるモリーからお叱りの吠えメールが来たのだった。

 

 

マクゴナガル、スネイプ、モリーの三名によりこってり、ねっちょり絞られた二人に刀原も一喝する事はなく、事情聴取に留まった。

 

「でも入れなかったのは事実なんだ。僕たち大変だったんだから…」

 

「だからと言っても、もっとマシな手があった筈だ。ふくろう便を出すなり、戻ってくるロンの両親に送って貰うなりな」

 

事故って死んだら元も子もねぇ、と言えばようやく理解したのかうんうんと頷く。

 

「さて、プラットホームに入れなかったと言うことはだ。どう考えても誰かが邪魔したって事だ。なんか心当たりはないのか?ハリーたちに学校に来てほしくないって人に」

 

「うーん、僕には無いな…ハリーは?」

 

ロンが首を横に振り、ハリーを見た。

ハリーも首を振っている。

 

「うーん、マルフォイとかは僕らがいなくなったら、すごく喜びそうだけど」

 

刀原がなんかあるだろう、と聞けば、ロンが意見を言う。

だが、ハーマイオニーが反対論を言う。

 

「でも現実的じゃないわよ。私は結構前に駅に到着したけれど、その時にはマルフォイが乗っていたし…大体、二年生がどうやって特定の人だけが入れないようにする魔法を使うの?私は出来ないわよ」

 

「二人には悪いがハーマイオニーに同感だな。俺もそんな高度な魔法は出来ない、鬼道も無理だな。可能性があるなら陰陽道だろうが、日本ですら使用者が少ない陰陽道をマルフォイが使えるとは思えん」

 

ハーマイオニーの意見に刀原も賛同する。

去年の学年末試験の最高得点者二人が不可能と言っている為、かなりの信憑性があった。

 

「じゃあ誰が?あ、そういえば…ドビーのこと手紙に書いたよね?」

 

ハリーはふと言う。

 

「ドビー?ああ、手紙が来るのを妨害していたって言う奴だったっけ?」

 

刀原がそう聞く。

 

「そう、ドビーは僕をホグワーツに行かせないように…。……行かせないように?」

 

「其奴だ!」

「それよ!」

 

ドビーのことを思い出したハリーに、刀原とハーマイオニーが力強く言った。

 

「ドビーって屋敷しもべ妖精なのでしょう?屋敷しもべ妖精たちの魔法は私が調べたところ、私達の魔法とは少し違うものを使うらしいのよ」

 

「ああ、ホグワーツ特急の出入り口が、その辺の魔法で妨害が出来るとは正直思えん。だが屋敷しもべの魔法ならば…彼らはホグワーツの姿くらましを無効化する魔法すら破れるって噂だ。だとすれば、あの入り口を塞げたとしてもおかしくはない」

 

刀原とハーマイオニーが力説すると、ハリーとロンは納得するかの様な素振りをする。

 

「ハリー、ドビーのご主人は誰か聞いた?」

 

ハーマイオニーがドビーのご主人を聞く。

 

「確か、マルフォイだって…でもドビーは警告しに来たって言ってたよ?」

 

「警告?」

 

ハーマイオニーが聞き返す。

 

「うん、今年のホグワーツはかなり危険だって」

 

「警告?でも結局はマルフォイの仕業って事?」

 

ロンの質問に刀原とハーマイオニーが答える。

 

「いや屋敷しもべ妖精は割と正直な筈だ。おそらくハリーに警告した内容は真実で、本気だと思う。今年のホグワーツに危険が迫ってるってやつな。少なくともドビーの認識下では、だが」

 

「だから本気でハリーを止めようとした。身を案じてね…きっと彼の善意の独断だと思うけど」

 

「だとしたらおせっかいにも程があるよ…」

 

刀原とハーマイオニーの答えに、ハリーがそう言ってため息をつく。

 

よほどダーズリー家の生活は嫌だったらしい。

 

 

その後は今後も邪魔してくるかもしれないドビーの対抗策や、ドビーが言った警告の内容を話し合ったが、残念ながら妙案は出なかった。

 

その要因の一つが…今年の新入生、カメラ小僧のコリン・クリービーがやって来たからである。

 

コリンは実に厄介だった。

ハリーに迫って写真へのサインを求めるのだ。

 

しかもそれをネタにしてスリザリンが笑う。

ハリーには最悪のパパラッチと言えたのだった。

 

 

はた迷惑な善意の塊のドビー。

パパラッチコリン。

 

ハリーには最悪の二学年の幕開けだった。

だがそんなことを気にする暇も無く、二学年の授業が幕を開ける。

 

去年よりも難しくなった教科に各生徒は声無き悲鳴を上げる。

当然ながらハリー達の疑問も、新たに詰め込まれる知識に埋もれていった。

 

変身術では去年学んだ事の応用が多かった。

去年の内容が長期休暇中に頭から飛んでいた者は初手から躓き、マクゴナガルより厳しい言葉を貰う。

 

魔法薬学もより繊細で緻密な作業が求められる様になる。

そしてスネイプによりスリザリン以外の生徒達は嫌味と難癖とともに点数を下げられる。

 

他にも薬草学や呪文学などの授業も、当然ながら去年より難易度が高い。

 

しかし、そんな中でも特に異色の授業があった。

毎年教授が変わると言うジンクスを持つ、闇の魔術に対する防衛術の授業だ。

 

 

新しく教授となったギルデロイ・ロックハートは、教科書に自身の自伝でもある著書を選んだ。

 

泣き妖怪バンシーとのナウな休日。

トロールとのとろい旅。

狼男との大いなる山歩き。

などなど…。

 

かなりの金額をするその本を、刀原は買った直後から読んだ。

その感想としては…。

 

なんか妙な本といった感じだった。

 

何故か。

刀原は日本にいた時も、英国にいる間も大量の本を読んでいる。

 

「本は読んでおくに越したことはないっす。知識が無くっちゃ話になんないっすからね」

 

師匠たる浦原からこう言われているし、両親を救う鍵がどこに転がっているか分からないからだ。

 

刀原が読んだ本には自伝や伝記も含まれている。

 

そのため刀原は思ったのだ。

 

ロックハートの本は第三者目線で書いている感じで、創作か昔の記事や出来事を参考にしているのではないかと。

 

ただ、読み物としては面白い。

自伝として読むのは間違いだな。

 

そんなことを思っている刀原を尻目に、ハーマイオニーは授業前どころか汽車のコンパートメントにいる時から、ロックハートが如何に偉大で素晴らしいかを熱弁していた。

 

意外だがハーマイオニーにもミーハーなところがあるもんなんだな、と刀原は思いながら授業に赴いた。

 

しかし刀原の推理は的中することになる…。

 

 

 

 

*1
空飛ぶ車で拉致られたらしい

*2
マルフォイ一味じゃなくて良かったな。と思った

*3
後に判明するが、車種はフォード・アングリア

*4
流石に隼を飛行機に乗せる事はかなりの手間で、ライにも負担を強いる結果となった。

刀原は一抹の不安を覚えながらも、今生の別れとばかりに鳴くライを大切に扱うであろう幼馴染みの雀部に託したのだ

*5
当然だが罰則はある





善意の道が必ずしもその人に良いとは限らない。
やり方を考えてみてはどうか。

見たからと言って12歳が運転出来るのだろうか?
足、届かないんじゃ…
コ○ンかな?
なんて書きながら思ったり。

感想、考察、ご意見ありがとうございます。
そしてお待ちしております。

次回は
ロックハート
次回も楽しみに











実は、ロックハートの扱いについて毛色が違う物を用意しました。

次回は二つ
一つは正規ルート
ロックハートの正体見たり。

もう一つはifルート
激怒

となります。
簡単に言えば、
正規ルートはロックハートの闇について
ifルートはロックハートがパッパラパーだったら。
と言う事です。
どうぞよろしくお願いします。





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死神、ロックハートの正体見たり。


名作は様々。
嘘か真かは端にやり
英雄か詐欺師かは置いてゆき

本の評価をしよう







 

「私だ」

 

ロックハート教授はそう言ってウィンクする。

 

女子たちはそれに黄色い歓声を上げ、男子は寮の垣根を超えて全員ジト目顔だ。

キメ顔…ドヤ顔?まあ顔だけはいいからいいが。

 

しかしあからさまに過ぎて失笑を禁じ得ないぞ。

 

「そう、ギルデロイ・ロックハートです。勲三等マーリン勲章、闇の力に対する防衛術連盟名誉会員、そして『週刊魔女』五回連続『チャーミング・スマイル賞』受賞!もっとも、そんな話をするつもりじゃありません。バンドンの泣き妖怪バンシーを、スマイルで追い払ったわけではありませんからね!」

 

勲三等マーリン勲章…確か、英国魔法界の知識や娯楽に貢献した人物に贈られる勲章だな。

 

知識や娯楽に貢献…ねぇ。

やはり自伝ではなく、創作か?

それとも臨場感は無いが妙にリアリティがあるから、やっぱり昔のことを書いたのか?

 

「さて、今日は最初にミニテストをやろうと思います。ああ、心配はご無用、君たちがどのぐらい私の本を読んでいるかチェックするだけですので」

 

ほう、テスト?

どれどれ…。

はあ?

 

1.ギルデロイ・ロックハートの好きな色は?

2.ギルデロイ・ロックハートの密かな大望は?

3.ギルデロイ・ロックハートの業績の中で一番偉大だと思うものは?

 

配られたテストはこんな内容だった。

 

………。

 

文才や商才はあっても教育者にはなれんか。

こんな感じの自己満足の質問が延々と続いている。

 

「さあさあ皆さん!私の本を読んでいれば、こんなテスト簡単でしょう?あと20分ですよ!」

 

闇の魔術に対する防衛術に関係のない、教育を冒涜するかのようなテストにうんざりする。

 

こんなバカげた物、やる価値すら無い。

 

当然、指一本も触れない。

俺は目の前の紙切れを細切れにしたい気持ちを全力で抑え、放棄した。

 

30分後、至極どうでもいいテストが終了しロックハートはテストをパラパラとめくる。

 

「チッチッチ…私の好きな色はライラック色だということを、ほとんど誰も覚えていないようですね。『雪男とゆっくり一年』にそう書いてあるというのに」

 

どうでもいいわ。

 

「『狼男との大いなる山歩き』をもう少し読まなければならない子も何人かいるようだ」

ロックハートがクラス全員にそう言って悪戯っぽくウィンクする。

 

「それに私の誕生日の理想的な贈り物は魔法界と非魔法界のハーモニーですが…」

 

それは本当っぽいな。

 

「やれやれ、ほとんどが答えれていない。ですが、ミス・グレンジャーは満点だ!グリフィンドールに10点あげよう!」

 

ほう、流石ハーマイオニーだな。

ハーマイオニーは名前を呼ばれ、顔がピンクに染まった。

 

「ハーマイオニーもあんな奴が良いのかな?」

 

と言うのはハリー。

 

「まあ、顔は良いからな。比較的優秀な部類の方だと思う文才。自身のルックスを使った商法。作家として、商売人としては百点だと思うがな」

 

「ふん、あいつの武勇伝が本当かどうか怪しいな」

 

俺がロックハートの評価をすればロンは気に入らないらしい。

まあまあ。

 

「本を売るのに自分が英雄になる必要などない。あの手の話は創作とか他人の武勇伝だと言うよりも、自身の武勇伝だと言った方が売れるんだろ」

 

ペテン師かどうか、本には関係ない気がする。

ただ、あのテストは頂けないがな。

テストの話が終わって話が変わる。

 

「さてさて?このクラスには生き残った男の子がいるそうですね?」

 

お、呼ばれているぞハリー。

 

「人気者…というか有名人は辛いな?」

 

隣でうへぇーという顔をしているハリーを小突く。

 

「私の授業を受ければ、私のような人間になれるでしょう!」

 

ロックハートはそう言い放つ。

 

「だとさ」

「やめてよショウ」

 

ハリーがかなり苦い顔をする。

このままハリーの話題かな?

 

そう思っていた矢先だ。

 

「そして、日本から私の授業を受けに来た、マホウトコロの留学生もいるらしいですね?」

 

俺か。

 

「言われてるよショウ」

 

ハリーがここぞとばかりに言い返す。

 

「貴方の授業のみを受けに来た覚えはないのだが」

 

俺は腕組みしながら答える。

 

ロックハートは聞こえないのか続けた。

 

「日本…私も行きました。日本刀を持ち、一見古い様に見えますが、実はそれこそ彼らの力の源。古き良き伝統の魔法界と言った感じで、ご飯も美味しい!そんな日本から来てくれたことに感謝しますよ?私の授業は後悔させませんよ!」

 

あのテストで作家先生としては一流だが、教授としては及第点にも満たない事が露呈している。

 

日本へのリスペクトだけ、素直に受けよう。

 

そんな様子を満足そうに見たロックハートは、教壇の下から風呂敷で覆われた籠を取り出した。

 

「さあ、皆さん気をつけて!今よりこの教室で、君達はこれまで経験したことがないような恐ろしい目に遭うことでしょう。だがご安心しなさい。私がここにいる限り君達に決して怪我などさせません」

 

恐ろしい目?

 

小さくて動きまわる霊圧。

まさか…。

 

もったいぶった物言いで風呂敷に手をかけるロックハート。

それを受け、ファンの子達は盛大に怯え、それ以外の者達は冷めた目で見る。

 

そんな生徒達を一瞥して、ロックハートは風呂敷を一息に取り去った。

 

「さあ見たまえ! 捕らえたばかりの、コーンウォール地方のピクシー妖精だ!」

 

籠の中にいたのは、群青色をした羽のある小さい生物達だった。

それが十数匹。

狭い籠の中を金切り声とともに飛び回っている。

 

あれらが脅威…と言うか面倒で厄介極まりない存在だと認識している生徒は俺を除くといない。

 

クラスの中には失笑する生徒もいる。

 

痛い目見るぞお前ら。

 

「笑ってる生徒が何名かいますが、それもこれまで。こやつらは性悪な小悪魔ですぞ…」

 

イマイチ反応が薄い生徒達にロックハートはそう言う。

そしてピクシーが詰まった籠の扉に手を伸ばす。

 

マジか…。

まさかアレを解き放つ気か?

 

俺の懸念はまたしても的中する。

 

「さあ、お手並み拝見!」

 

「本当にやりやがった!?」

 

ロックハートはさっと開けてしまった。

 

そして放たれる群の暴力。

瞬く間に阿鼻叫喚に陥る教室。

 

インク瓶をひっくり返す者。

教科書を破く者。

 

悪行の限りを尽くすピクシー。

 

「さあさあ、どうしましたか皆さん?捕まえてみなさい、たかがピクシーですよ!」

 

そうカッコつけながらロックハートは杖を抜き、何やらヘンテコな呪文を唱えるが効果はなく、挙句の果てにはピクシーに杖を取られる。

 

そして杖を取られ、戦力外となったロックハートは敵前逃亡する。

 

「自分の尻ぐらい自分で拭け!」

 

両耳を引っ張られ、シャンデリアの一部になろうとしていたネビルを救出しながら吐き捨てる。

 

「ショウ!例の、日本の魔法は使えないの?」

 

「うーん。数が多いうえに小さくて捕らえられん」

 

ハリーが悲鳴に近い声で聞いてくるが、俺の答えは芳しく無い物だった。

 

 

うわー。

きゃー。

こっちくんなー。

 

教室は混沌となった。

 

えい。

とりゃ。

そい。

 

刀を抜く訳にもいかないので手刀で相手する。

くそ、周りに人がいなきゃ対処の方法もあるがな。

 

「く、来るなら、来い。これ以上は先には行かせないぞ!」

 

半ば震えた声でそう言うのはマルフォイ。

後ろにはスリザリンの女子を含めたスリザリンの面々。

 

ほう、マルフォイめ、中々根性あるな。

感心感心。

 

だが他勢に無勢。

ピクシーの大半がマルフォイの方に行く。

 

よし。

 

「助太刀するぞマルフォイ」

 

「と、トーハラ!?」

 

劣勢だと考え、援護に向かう。

マルフォイはまさか来るとは思わなかったのか唖然とする。

 

「た、助けなんていらない!」

 

「お、そうか?んじゃあの中に飛び込んで、玩具にならない自信でも?」

 

「うっ」

 

マルフォイは強がるが、俺の質問に詰まる。

 

「グリフィンドールの方は良いのか?」

 

と俺に聞くのはスリザリンの誰か。

 

「大丈夫だろハリーとかハーマイオニーがいるし」

 

俺がスリザリン方面に来たのはハリー達に作戦を授けたからだ。

 

「礼は言わないぞ」

 

マルフォイが照れ臭そうに言う。

このツンデレめ。

 

「かまわん、俺はスリザリンの面々とも友好的に行きたいだけだ。ほら、来たぞ」

 

迫るピクシー。

 

「くっ」

 

苦い顔をするマルフォイ。

 

「落下呪文は覚えているか?」

 

マルフォイに問う。

 

「問題ない!」

 

マルフォイはそう答える。

 

「よし、それじゃあ、ハリー!ハーマイオニー!」

 

マルフォイの返答に微笑みながら三人に合図する。

彼らには合図があったらやって欲しいことを伝えてある。

 

「『イモビラス!(動くな!)!』」

 

ハーマイオニーは停止呪文でピクシーの動きを封殺する。

 

そして。

 

「「『ディセンド!(落下せよ!)』」」

 

「『墜ちろ!』」

 

間髪入れずハリーとマルフォイの落下呪文に俺の霊圧が乗せられ、ピクシーが地に伏す。

 

「よし、一件落着。みんなで回収だな」

 

かくしてピクシーは御用となった。

 

 

 

 

一時的とは言え、グリフィンドールとスリザリンが手を結んだこの一件はピクシー戦線と言われた。

 

ハリーやロンもマルフォイの仲間思いな一面に気がついただろうし、手を結ぶとは行かないまでも、ゴタゴタが無くなれば良いのだが。

 

教室から生徒達が居なくなり、俺一人となる。

さて。

 

「ロックハート教授。お話が」

 

俺が扉を叩きながら、声をかける。

 

「…何かな?」

 

「ピクシー、どうしますか?」

 

「…入ってくれ」

 

「失礼します」

 

部屋に入ると意外と閑散としている。

 

「失望したかね?」

 

「ピクシーの件ですか?テストですか?」

 

ロックハートは授業でのアイドルごっこは何処へやらと言って感じだった。

 

「ダンブルドアに聞いたよ?君は洞察力が高いとね。君は気づいているのかな?私が…」

 

「自伝本と称し、他人の武勇伝を書いている事ですか?」

 

「ッ!正解だ…ああ、正解だとも…」

 

そう言ってロックハートは黙り込む。

手に杖は無い。

先程ピクシーに奪われ、刀原が預かっている。

 

「君の目を見たとき、見透かされていると、気がついた。私にはあまり魔法の才能が無くてね」

 

「ですが文才と商才は有りますね」

 

「嬉しいよ。先程も言ったが、私は日本にちょっとした憧れがあってね。まあ、私の杖が桜で出来ている縁なのだが」

 

「成る程、確かに日本では桜の杖を持つ者はちょっと特別視されますね」

 

「ああ、だから私は英雄になりたい、目立ちたい、そう思っていた。だが…このザマだ」

 

「…」

 

「君がポッター君達に話している内容を聞いて冷や汗をかいた。もう誤魔化しは出来ない、私は、」

 

「教授、言わなくて良いです。大方、忘れさせている。そんなとこでしょう?」

 

「お見通しか…」

 

ロックハートは立ち上がりかけるが、俺の答えに正解を告げ、椅子に再び項垂れる。

 

「一つだけ、聞きたい。どうして分かったのかい?」

 

「一つ、その本達が何処となく第三者目線になっている。二つ、臨場感が文才で補われている。三つ、貴方が受賞した勲章は三等、つまり」

 

「英雄としてではなく、文豪として評価されている。か…」

 

「それと、あの授業での醜態ですかね」

 

「完璧だ。君は…私をどうする?」

 

ロックハートに問われ、俺はふむと頷き…。

 

「どうもしませんよ?」

 

と答える。

 

「ど、どうもしない?」

 

ロックハートは信じられない感じで聞き返す。

 

「例えば、貴方が日本や我ら死神を愚弄してきたのであれば、切りました。今この場で取り繕ったり、記憶を消しに来ようとしてきたら叩きのめし、引っ立てました。でも…打ちのめされている所を見ると…嫌気が差している…そんなとこですか?」

 

「君はホームズみたいだね」

 

「僕は洞察と物事の順序で推理と考察をします。探偵じゃ有りませんし、どちらかと言えばポアロでしょう」

 

「確かにそうかもね」

 

「十分に反省していて、何もしてこないのなら管轄外です。留学生なので。あーでも、あんなテスト出したり、授業で寸劇みたいなことやり出したら引っ立てます」

 

「もう、しないよ。演じるのは懲り懲りだ」

 

「さてと、大人しくダンブルドア校長に言って捕まるか、頑張って良い先生を演じて本当にハリーに防衛術の基礎を教える。どっちが良いですか?」

 

「……」

 

「答えは、今は要りません。貴方の態度でお願いします」

 

そう言って俺は教室を出た。

さて、次の授業が楽しみだ。

 

しかしなんで教授のカウンセラーモドキをせにゃならんのだ?

俺はそう思いながらディナーへ向かった。

 

 

 

 

 





主人公、探偵になる。
ポアロと言ったのは筆者の趣味です。
オリエント急行殺人事件の映画が好きで…

感想、考察、指摘、ありがとうございます。
そしてお待ちしております。

それと、初期のように空白を多く入れてみます。
ifルートはそのままです。
どちらが良いかご意見を下さい。

次回は
穢れた血 石になった猫
次回も楽しみに



この話が正規案、ifルートが初期案となります。
映画を改めて見て、ロックハートってなんとなく無理して、演技して(まあ俳優さんが演技しているからと言われれば否定出来ませんが)笑ってる感じに見えた為、この話としました。

皆さんの意見も頂ければ幸いです。
なおifルートの方は毛色が違う主人公が見れます。




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ifの話 死神、激怒する。



温厚な者を怒らせてはならない。
自分で見てもいない物を見たと言うべきでは無い。
常識は文化によっては使えない。

虎の尾を
龍の逆鱗を
踏むべきで無い。




 

 

「私だ」

ロックハート教授はそう言ってウィンクする。

女子たちはそれに黄色い歓声を上げ、男子は寮の垣根を超えて全員ジト目顔だ。

キメ顔…ドヤ顔?まあ顔だけはいいからいいが。

しかしあからさまに過ぎて失笑を禁じ得ないぞ。

「そう、ギルデロイ・ロックハートです。勲三等マーリン勲章、闇の力に対する防衛術連盟名誉会員、そして『週刊魔女』五回連続『チャーミング・スマイル賞』受賞!もっとも、そんな話をするつもりじゃありません。バンドンの泣き妖怪バンシーを、スマイルで追い払ったわけではありませんからね!」

勲三等マーリン勲章…確か、英国魔法界の知識や娯楽に貢献した人物に贈られる勲章だな。

知識や娯楽に貢献…ねぇ。

やはり自伝ではなく、創作か?

それとも臨場感は無いが妙にリアリティがあるから、やっぱり昔のことを書いたのか?

「さて、今日は最初にミニテストをやろうと思います。ああ、心配はご無用、君たちがどのぐらい私の本を読んでいるかチェックするだけですので」

ほう、テスト?

どれどれ…

はあ?

1.ギルデロイ・ロックハートの好きな色は?

2.ギルデロイ・ロックハートの密かな大望は?

3.ギルデロイ・ロックハートの業績の中で一番偉大だと思うものは?

配られたテストはこんな内容だった。

………。

文才や商才はあっても教育者にはなれんか。

こんな感じの自己満足の質問が延々と続いている。

「さあさあ皆さん!私の本を読んでいれば、こんなテスト簡単でしょう?あと20分ですよ!」

闇の魔術に対する防衛術に関係のない、教育を冒涜するかのようなテストにうんざりする

こんなバカげた物、やる価値すら無い。

当然、指一本も触れず。

俺は目の前の紙切れを細切れにしたい気持ちを全力で抑え、放棄した。

 

30分後、至極どうでもいいテストが終了しロックハートはテストをパラパラとめくる。

「チッチッチ、私の好きな色はライラック色だということをほとんど誰も覚えていないようですね。『雪男とゆっくり一年』にそう書いてあるというのに」

どうでもいいわ。

「『狼男との大いなる山歩き』をもう少し読まなければならない子も何人かいるようだ」

ロックハートがクラス全員にそう言って悪戯っぽくウィンクする。

「それに私の誕生日の理想的な贈り物は魔法界と非魔法界のハーモニーですが…」

それは本当っぽいな。

「やれやれ、ほとんどが答えれていない。ですが、ミス・グレンジャーは満点だ!グリフィンドールに10点あげよう!」

ほう、流石ハーマイオニーだな。

ハーマイオニーは名前を呼ばれ、顔がピンクに染まった。

「ハーマイオニーもあんな奴が良いのかな?」

と言うのはハリー。

「まあ、顔は良いからな。比較的優秀な部類の文才。自身のルックスを使った商法。作家としては百点だな」

「ふん、あいつの武勇伝が本当かどうか怪しいな」

俺がロックハートの評価をすればロンは気に入らないらしい。

まあまあ。

「本を売るのに自分が英雄になる必要などない。あの手の話は創作とか他人の武勇伝だと言うよりも、自身の武勇伝だと言った方が売れるんだろ」

ペテン師かどうか、本には関係ない気がする。

ただ、あのテストは頂けないがな。

そんな事を言っている間にテストの話が終わり、話が変わる。

「さてさて?このクラスには生き残った男の子がいるそうですね?」

お、呼ばれているぞハリー。

「人気者…というか有名人は辛いな?」

隣でうへぇーという顔をしているハリーを小突く。

「私の授業を受ければ、私のような人間なれるでしょう!」

ロックハートはそう言い放つ。

「だとさ」

「やめてよショウ」

ハリーがかなり苦い顔をする。

このままハリーの話題かな?

そう思っていた矢先だ。

「そして、日本から私の授業を受けに来た、マホウトコロの留学生もいるらしいですね?」

俺か。

「言われてるよショウ」

ハリーがここぞとばかりに言い返す。

「貴方の授業のみを受けに来た覚えはないのだが」

俺は腕組みしながら答える。

ロックハートは聞こえないのか続けた。

 

 

 

「確かに()()()()()()()()()()()()()()()()より、ここホグワーツの方がいいでしょう!」

なんだと?

 

 

 

かくして、爆弾は投下された。

 

 

 

例外もいるかもしれんが、誰だって自分の母校の方が他校より優れているとは思うだろう。

現に俺はホグワーツに留学してきているが、マホウトコロだって負けていないと思っている。

口には出さないだけだ。

例え今まさに留学しに来ているからと言って他校の生徒の前でその学校を貶せばどうなるか。

ハリー達と一緒にいる都合上、よく衝突する()()()()()()()()()()()()()()()()()

自らの母校を貶しかねないからだ。

ましてや俺は日本人だ。

人種差別に繋がる懸念すら出てくる*1

 

「ショウ?」

ハリーが心配そうに聞いてくる。

「…ま、まあ、誰だって自分の母校が一番だと主張するよな」

俺は必死に怒りを静める。

ロックハートは、君もそう思っているんでしょ?とばかりに話を続ける。

「日本…勿論私も行きましたよ。私の杖はサクラで出来ていますのでね。知っていますか?サクラの杖は日本では優秀な者しか持っていないんだとか。留学生、君の杖は?」

知ってるわ。

そんなこと。

日番谷の杖がそうだった。

「ああ、気にやむことはありませんよ。私はこの本の通りに…自分で言うのもなんですが…優秀ですからね」

ロックハートは三度目のウィンクをする。

俺が無言なのは、自分より杖が劣っていると思ったのだろうか。

第一、サクラかモミジかヤマナラシかなどで杖と人の優劣が決まるとは思えん。

そして無言なのを良いことに、さらに続ける。

「日本の魔法は古くさくて長い詠唱が必要らしいですね?私の授業を聞けば、あっという間にその苦しみから解放され、短く、優雅で、まさしく泣き妖怪バンシーを退治した時のような魔法が使えるでしょう」

こいつは何を言った?

鬼道の事を言ったのか?

「…ショウ?」

ハリーや机隣のネビル等がなにやら聞いてくる。

「それと、皆さんには留学生君がいますから分かりやすいですが、日本の魔法使い達は未だに時代遅れながら日本刀を持っています。私も日本の魔法界に言ったときは沢山見ましたよ、未だに日本刀を持つ()()()()()()()使()()()()()

こいつ、今、なんつった?

折角ホグワーツに来たのだから、日本刀はもう要らないのですよ。

という半笑いの言葉が、辛うじて聞こえる。

日本刀…斬魄刀の事、言ったのか?

「実は本には書いてないんですが…日本に言った際、少々トラブルに合いました…ああ、ご心配なく皆さん。私はどんなときでも対応出来ますから、怪我などしていませんよ?」

「ト、トラブル?」

女子生徒が聞き返す。

「ええ!日本には()()()()()()()()()()()()がいるんです。彼らは人のような姿で村を襲っていたのです!」

鬼だと?

まさか、彼らの事か?

「ですが、相手が悪い。軽く捻ってやりました。村人達は私を英雄などと言ってくれましたね」

ロックハートは誇らしげに言う。

「……鬼というのは本当に人のような見た目でしたか?」

俺が聞けばロックハートは更にニッコリと笑う。

「ええ、幼気な少女を生贄にしろと言って来てまして、それを私は…」

…彼らの事だな。

だが、そんなことをする筈がない。

俺は彼らをよく知っている。

ロックハートがなにやら言っている。

一応聞くか。

決めつけは良くない。

「……日本では聞いた事の無い話だ。なんて村ですか?」

「えっと、それは…」

さっきまで威勢が良かったが急に端切れが悪くなる。

「もしかして、東北の恐山にある村ですか?」

「そう、それかもですね。村人には固く口止めしていたので、あなたの両親に聞いても無駄でしょう」

ロックハートに聞けばやつはそう答えた…

だが、恐山に魔法使いの村など無い。

 

ロックハートの話はまだ続いている。

 

 

……こやつ。

…どこまで

…日本を。

…俺たちを。

…俺の仲間や家族を

愚弄すればいいんだ?

 

 

もう、許せねぇな。

 

 

マホウトコロ。

鬼道。

斬魄刀。

鬼人の人々。

仲間。

俺の努力。

貶されて。

黙ってられる、筈も無し。

 

 

最早、生かす価値も無し。

 

 

「もういい、喋んな」

問答は無用だ。

ガタッ

音がする。

俺が席を立ったから。

カタリ

音がする。

俺がいつもは右側に立て掛けている斬魄刀を左手で取ったから。

 

 

 

「君…何を…」

奴が聞いてくる。

今さら命乞いか?

問答無用。

 

 

「ペラペラ、御託を並べて…我らを貶し、鬼道を貶し、斬魄刀までも貶し、それで俺がニンマリするとでも?」

 

 

斬魄刀を持つ左手で鯉口を開く。

ゆっくりと奴に向かって歩く。

 

 

「古臭い?時代遅れ?前近代的?それを本人の目の前で言うとは…俺がそんな事を言われ、感涙に震えるとでも?」

 

 

「ショウ!」

「ショウ、駄目だ!」

ロンやネビルが言ってくる。

問答無用。

 

 

「あろうことか、鬼人の人々を野蛮だとのたまうとは…俺の母方の祖父母は鬼人族だ」

 

 

 

「両断せよ『斬刀』」

どうやら斬魄刀の力が知りたいらしい。

だがこんな奴に。

白刃を見せる価値はない。

 

 

 

「苦しむことは無い。首を出すことも無い。ただ立っていればいい」

 

 

「おい、ポッター!や、奴を止めろ!」

マルフォイが慌てたかの様に言う。

 

 

「せ、先生、呼んでくる!」

ハーマイオニーがなにやら言っている。

安心しろ。

君達には向けねぇよ。

 

 

「安心しろ、痛みは無い。目を瞑っていれば」

 

 

やつは一歩も動かない。

否、動けない。

そこで待ってろ。

 

 

「あの世行きだ」

 

 

さあその愚かな口と思考に。

お別れするときだ。

 

 

狙いを定める。

狙いは首。

一刀で。

切り飛ばす。

 

 

 

「全員、目ぇ瞑ってろ。なあに直ぐ済む」

首チョッパなんてこいつらには早過ぎる。

 

 

 

「言い残す事など無いな?では」

「ポッター!」

 

 

 

「さら「待って、ショウ!駄目だ!駄目だよ!」

 

 

 

 

「ハリー?」

 

 

 

ハリーに呼び止められ、俺が刀を止めたのは。

やつの首まであと1cmの場所だった。

 

 

 

「ミスタートーハラ…」

いつ間に来たのだろう?

来ていたマクゴナガル教授が俺を呼び掛ける。

「あ、あは、あはは、わた、私、生きてる?」

やつが間抜け面を晒す。

「……鬼道は戦闘向けです」

「ほへ?」

俺がボソッと言えば、やつが聞き返す。

「雷鳴の馬車 糸車の間隙 光もて此を六に別つ 縛道の六十一『六杖光牢』」

早口で完全詠唱をする。

やつに六つの帯状の光が胴と腕を囲うように突き刺さって、動きを奪う

「う、うわぁ!」

やつが戸惑う。

「ミスタートーハラ!」

マクゴナガル教授が言ってくる。

これぐらい、いいだろう。

「別に死にませんから。縛道の六十二『百歩欄干』縛道の六十三『鎖条鎖縛』」

半透明の光の棒が飛び、やつの胴体を壁に縫い付ける。

直後間髪入れず、太い鎖がやつに巻きつき体の自由を奪う。

何も出来なくなったやつに俺は接近する。

「二度と日本と我ら死神を語るな。貴様はみんなの慈悲で生かされた。断じて貴様の人気で生き延びた訳ではない。再び貴様のその下らん虚栄心を日本や我らで満たそう物なら…」

ここで俺は言葉を止め、ゆっくりとやつの首に刀を向ける。

「ヒィ!」

やつが情け無い声を上げるが意に変えなさい。

「今度は、必ず、貴様の雁首、切り飛ばす。二度はねぇ」

霊圧と殺気を全力で奴にぶつける。

奴は見苦しく、ガタガタと震える。

シメだ。

「縛道の七十三『倒山晶』」

俺が唱えれば、半分ほど床に埋まっているが四角錐を逆さにした形で結界が張られる。

「二度と教室で会う事は無いだろう」

俺はそう言い残し、教室を立ち去ろうとする。

「…待ちなさい、ミスタートーハラ。貴方ほどの生徒が、この様な…一体何があったんですか?」

マクゴナガル教授が呼び止める。

「俺の口から言いたくありません。生徒のみんなから聞いて下さい。その上での罰則や退学なら、喜んで応じます。では、失礼します」

頭を冷やす必要がある。

ここで説明なんてしたらまた振り返すだろう。

シュ!

俺は瞬歩でその場から立ち去る。

「お待ちなさい!」

マクゴナガル教授の言葉が微かに聞こえた。

 

 

 

刀原が居なくなったあと、崩れ落ちる生徒が続出する。

ハリーやロン、ハーマイオニーも例外で無い。

マクゴナガル教授も大きく息を吐く。

刀原は全く気がつかなかったが、ロックハートが斬魄刀の事を言い出してから、濃密な霊圧がクラス中を包んでいた。

ロックハートは何故か気付かなかったが。

そして刀原が斬魄刀を手に持ち、鯉口を切ってから、抑えられていたであろう殺気までも溢れ出す。

擬似始解してからは更に増し、クラスは呼吸困難者が続出した。

付き合いが比較的長く、刀原の霊圧にある程度耐性があったハリー、ロン、ハーマイオニー、ネビル。

そして度胸と意地を見せたマルフォイ。

「とりあえず、ダンブルドア先生にこの事を伝えなくては。私達でこれをどうにかする事は出来ませんから」

マクゴナガルが刀原が残した倒山晶の結界を示しながら言う。

「ま、マクゴナガル先生、しょ、ショウは悪く、ありません」

ハリーが途切れ途切れながら伝える。

「大丈夫ですよポッター。いくら私でもあれ程の怒りを目にすれば、事情はなんとなく分かります。ダンブルドア先生が来るまで、皆さん休んでいて下さい」

マクゴナガルは少し微笑みながら去っていく。

「ハァ、怒っているどこの話じゃ無かったな」

ロンが息を整えながら整理するように言う。

「僕、初めてあんなに怒ってるショウを初めて見た」

ハリーが同意しながら言う。

「ハァ、ハァ、ポッター、正直に言って助かった。礼を言う」

マルフォイがぎこちない礼をするのを見てハリーとロンが驚愕する。

「いや、お礼を言うのはこっちだよマルフォイ。マルフォイが言ってくれなきゃ僕は何も言えなかった」

ハリーがたじろぎながら言う。

「…僕達スリザリンがつっかかっても、あいつは手に持ってる刀を抜く事は無かった。誰だったか忘れたが、抜かないのか?と言ったら、あいつは「生徒同士の小競り合いなんかで抜くもんか。コイツを抜くのはよほどの時、何かを守る時だけだ。第一、刃ないしな。だから…抜かせるなよ?」と言ってたからな」

マルフォイは思い出しながら言った。

 

刀原には寮の確執など意に返さない。

スリザリンだろうがなんだろうが全く関係無く、丁寧と親切さを出し、マルフォイにだって魔法薬学などで組めば助言を出す。

しかも的確で、フォローも忘れない*2

去年図書室で頭を抱えながら勉強していたマルフォイに、半分ちょっかいもあるだろうが「何処が分かんないんだ?」と言ってくるのだ。

理由を聞けば「実は年上だから」などと言う始末。

そんな刀原といざこざを積極的にする者はスリザリンの同学年の中では皆無になっている。

そんな中ロックハートは何故か知らないが、日本の魔法使いを悪く言う。

そしてその結果が…

紳士の塊の様なやつが激怒する。

「まあ、当然の末路だな」

マルフォイが吐き捨てるように言う。

ハリーやロン、ネビルも無言で頷く。

第一、クラスが途中から静まり返っていたのを何故気がつかないのか?

ロックハートのファンである女子すら何の反応もしなかったのに。

「これは…とんでもないの」

「ダンブルドア先生…」

音も無くダンブルドアが教室にやって来る。

「ダンブルドア先生、これどうしようも無いんですか?マクゴナガル先生が匙を投げていましたが…」

ハーマイオニーが刀原の倒山晶の指す。

「正直に言おう。全く、打つ手無しじゃ」

ダンブルドアはそう言って力無く首を振る。

「確か、ショウ言ってた。これは魔法とは別だって」

ハリーが思い出しながら言う。

「左様。ショウから聞いたかの?これは日本に伝わる鬼道と言うての。かなり古いが、長い歴史を経て精錬されておる魔術なのじゃ。詠唱こそ長いがの。残念ながら儂等ではどうすることも出来ない」

ダンブルドアは説明しながらそう言う。

「じゃあ解く事は出来ないと?対抗も出来ないのですか?」

マルフォイがそう聞く。

「強力な魔法使いなら、ある程度は防御呪文で対抗出来よう。じゃが、ここまでの物じゃと…無理じゃな。方法があるとすれば…掛けた本人、すなわちショウが解いて貰うしかないの」

「絶対無理だ…」

ダンブルドアの答えに、ハリーはそう断じた。

 

 

 

湖の畔。

授業中の時間であることもあって、誰もいない。

俺は一人、刃禅をする。

『少し冷やっとしましたよ、我が主人』

「ごめんな、あともうちょっとで君を穢すところだった。」

精神世界で対話している相手は、斬魄刀。

『私は所詮刀です。斬るための道具ですから、穢すとかどーでもいいんです。私は貴方の事を言ってるんですよ!』

「ごめんってば」

見た目が自分と同じくらいなので、少し微笑みながら完全にプンスカ状態の斬魄刀を必死に宥める。

『大体、貴方は優しすぎる上に慎重すぎます。私の力に制限をかけているのもそう、普段から刃を無くしているのもそう、擬似始解なんてしてるのもそう。私は不満です。もっと私を刀として使って下さい』

擬似始解なんて始解の略称なんですからね!

ちょっと悲しくなるんですよ!

貴方は私をもう使える筈です!

なんて言う斬魄刀。

「ぜ、善処します…」

と返せば、『全くもう!』と言ってくる。

…多分、ハリーに言われただけじゃ止まらなかった。

『それ以上は駄目です!』

斬魄刀が寸前で止めてくれたのだ。

口ではああ言っているが、何気に俺の気持ちを優先してくれる。

小さい頃からの絆は家族を通り過ぎている。

「ありがとうな」

『いいんです』

本当に感謝している。

さて。

「来た」

『分かりました。今夜はいつも以上に手入れして下さいね』

「勿論そうさせてくれ」

斬魄刀との対話を終え、精神世界から戻るとダンブルドア校長がやって来る。

「ダンブルドア校長。どうしましたか?」

来た理由は分かっている。

だが言わずにはいられない。

「分かっておるじゃろ?」

「なんの事ですか?」

俺がとぼければ苦い顔をする。

「ギルデロイのことじゃ」

「ああ、そういえば…あの屑、そんな名前でしたね」

「く、屑…」

俺がこんな言葉を使うとは思わなかったのか、ダンブルドア校長は戸惑う。

「屑とは言え、教授などと言う身分不相応な立場にいますからね…僕は罰則ですか?退学ですか?日本に強制送還ですか?どれでも構いませんが」

「いや、ハリー達生徒に事情は聞いた。君は無実じゃよ。まあどうしてもというなら罰則じゃな」

「そうですか…それだけですか?」

「いや、その…」

ダンブルドア校長がわざわざ俺に無罪だと伝えることなどしないだろう。

マクゴナガル教授で済むからだ。

「何ですか?」

「ギルデロイのことなんじゃがの…」

「あの屑を拘束している鬼道なら二日で解けます。いい仕置きになるでしょう」

鬼道の維持は、本来ならば付きっきりでしなくてはならない。

だが、奴の底は知れた。

放置しても二日は保つ。

当然拘束されたままになるし、飲まず食わずでいることになるが…

命があるだけいい方だ。

「まさか…解いてくれんかの?とでも言うつもりでしたか?奴は日本の死神に宣戦布告したも同然、五体満足でいることを感謝して欲しいぐらいです」

「………」

ダンブルドア校長は苦虫を噛み潰したような表情になる。

言おうとしたことを俺が先に潰したからだ。

「…手紙を書くかの?此度の事を」

「まさか…書けませんよ。第一、俺も貴方も怒こられますし」

絞り出した問いに答える。

「怒られる?ショウがかね」

「なぜ切らなかった?と言われかねませんので」

「……」

「マホウトコロの事はまだ分かります。イラッとしますがその程度です」

それだけなら後で抗議で済む。

「だがあの屑は、鬼道を、斬魄刀を、鬼人族までも貶した。何も知らない。日本など行ったことも無いのに」

見たのなら、行ったのなら、その人の考え、感想として受け入れることが一応可能なのかもしれない。

だが奴は見たことも、行ったこともない。

なのにホラ話をする。

彼から影響を受けやすい人(ロックハートの熱狂的支持者)も、非難を受ける人(今回の刀原的な人)もいるのにだ。

「やって無い手柄を主張するために、見栄を張るために、貶し、貶め、馬鹿にする」

「下手な知識をまるで真実の様に言い、会ったこともない人を野蛮だと言う」

「下手な詐欺師より悪質です」

 

 

「まさか…奴の授業とやらを受けろと、言うつもりですか?」

「言えば、どうするのじゃ?」

「荷物をまとめ、帰らせて頂きます」

ダンブルドア校長が何か言いたげだったので先制する。

暗に言うつもりだったと言われれば、吐き捨てるように答える。

「荷物をまとめ、日本に帰国し、そして二度と英国の地を踏みません」

僕の後任が来ればいいですね。

と続けて言う。

間違いなく来ないだろうな。

俺が突然戻ってくれば、十中八九事情を聞かれる。

その時は真実を公表しなくてはならないからな。

「どうせ奴は今年度だけ、ならば僕が今後、今年度の防衛術の授業に一切参加しなければいいだけです」

「………分かった、君の配慮に感謝する」

俺が黙っている条件は奴の授業に参加しないこと。

もし明るみになれば大問題に発展する事を告げる。

ダンブルドア校長も流石に理解していたのだろう。

ここに来たのは確認する為だろうな。

そして確認が取れたので了承した感じだな。

「改めて、ホグワーツを代表して謝罪する。すまんかった」

ダンブルドア校長に謝罪される。

別に貴方に謝られても…

 

「一つ、聞かせて下さい。何故あんな()()()()()()()()を教授にしたんですか?」

「…何故じゃと思う?」

ふむ。

「ハリーは英国魔法界にとっては既に英雄になっている。そんな彼の教師になる機会をちらつかせて奴を公の場に引き込み、奴の詐欺を世間に明るみに出す。おそらく…生徒達の反面教師にする為、といった感じですか?」

「流石じゃ、グリフィンドールに十点!」

俺が推理すれば、拍手で讃えられる。

「つまり、俺は貴方の策略の被害にあったわけですね?」

俺は霊圧を上げる。

「う、それはすまんかった。まさか彼がここまで見栄を張ろうとは思わなかったのじゃよ」

…そういう事にしておこう。

 

 

ロックハートは刀原の見立て通り、2日で解放された。

拘束されている間は授業が出来ない為必然的に休みとなり、ロックハートの信奉者達は彼の身を案じた。

対照的に二年生の中にも少なからずいた信奉者達は、見事に駆逐された。

信奉者だったハーマイオニー曰く、

「本に書いてある通りの人だったら、ショウをあんなに激怒させる言動はしない」

との事。

無論、刀原の元に行く前にダンブルドアが事情を説明したのもあるだろうが。

肝心のロックハートだが、彼は何故か講談に立った。

そして素晴らしい(ポンコツな)授業をした。

刀原はダンブルドアに啖呵を切った通り、授業を一切出なくなった。

ハリーは特に羨ましがった。

 

なお、ロックハートは刀原を見るたびに悲鳴を上げるようになった。

 

 

波乱の幕開けとなった二学年。

しかし、この出来事は…

ほんの始まりにもなっていなかった。

 

 

 

 

*1
まあ、そうなったら日本を代表して笑顔で叩き潰すが

*2
わ、分かっている!などと言えば

「そうか、そうか。まあだと思ったが一応な」

などと笑いながら言う






詐欺師、命だけは助かる。
物語の進行上、生かす道へ。
ロックハートは石の様な心臓を持ってますね。

感想、考察、誤字報告ありがとうございます。
そしてお待ちしてます。

次回は
穢れた血 石になった猫
次回もお楽しみに


ーーーーーーーー


これが一応、初期案となります。

次にロックハートと刀原を遭遇させる決闘クラブや今後、絶対面倒臭い事になること。
主人公とは違うかなと思ったこと。
映画を改めて見て、考えが変わったこと。

以上の事から正規ルートを
ロックハートの正体見たり
とします。



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死神、ハロウィンは騒乱の幕開けと思う。


まず、第一発見者を疑え
次に、王道を疑え
最後に、ありえない者を疑え
だが、罪を問うのは証拠が出てからだ。


 

ピクシー戦線からあっという間に日が過ぎてゆき、間も無く10月が迫ろうとしていた休日。

そんな安息の休日の早朝。

 

いつもの朝練を終え、今日は何をして過ごそうかと思案していた刀原は、向かいからやって来た赤い集団*1に拉致られた。

 

そしてある人の説得を受けていた。

 

とは言っても刀原は頑として受け付けない。

刀原と共にいるハリーは、心底申し訳ないと言った顔だった。

 

「ショウ!是非ともクィディッチチームに入ってくれないか?ハリーに聞けば身体能力が高いって聞いた。良い選手になれるだろう。それに日本のチームは優秀だからね」

 

そう言うのはオリバー・ウッド。

クィディッチチームのキャプテンだ。

 

彼の目的は二つ。

 

一、身体能力が高い刀原なら良い選手になれる、その為戦力強化に繋がる。

ニ、刀原が握っているであろう日本のクィディッチチームの戦術や運用方法が欲しい。

 

だが。

 

「嫌だ、無理だ」

 

ウッドの説得など意にも返さない刀原。

何故と聞くウッドに、刀原は説明する。

 

「確かに日本のトヨハシテングは良いチームなのだろうし、マホウトコロでもクィディッチは盛んだった。だけど俺は日本ではクィディッチをやって無いし、箒もろくに乗ってない。戦術など知らないし、技術も無い。諦めてくれウッド」

 

大体自分用の箒を持ってないし、と刀原が言えばウッドも押し黙るほかかなかった。

 

そんな感じで競技場へ向かう途中、スリザリンチームと遭遇する。

グリフィンドールの寮監であるマクゴナガルは大のクィディッチ好きで有名で、去年ハリーの負傷により優勝杯を逃した事を悔やんでいた。

 

そして去年優勝したスリザリンの寮監であるスネイプは絶対優勝杯死守の意向らしい。

 

スリザリンチームのキャプテン、マーカス・フリントの手にある許可証*2が良い証拠になっていた。

 

 

そして彼らには恐るべきスポンサーもいた。

スリザリンチームが揃いで持っているのはニンバス2001と言う性能が良い箒らしく、新しいシーカーに着任したマルフォイは鼻高々に…。

 

「どうだ、僕の父上がチーム全員に買ってくれたんだ。このニンバス2001を。グリフィンドールも資金集めして買ったらどうだ?君たちの箒は……」

 

言い終わる前に、クィディッチチームの諸場争いに興味がない刀原が、ひょこっと顔と口を出す。

 

「おはよう、マルフォイ…お前、そんな事言ったら、金でシーカーの地位を買ったみたいな感じじゃないか…それで良いのか?」

 

「ショウ…なんでいるんだ?君はクィディッチには興味無さげだったが…」

「ああ、ウッド…グリフィンドールチームのキャプテンに拉致られた」

「それは…大変だな」

 

マルフォイは若干面食らったような顔をしたが、刀原のウッドを親指で指しながらの説明に納得し、同情する様な顔をした。

だが、直ぐに真面目な顔に戻す。

 

「んんっ、ともかくだ。ポッターのニンバス2000よりも、僕達のニンバス2001の性能の方が格段にいい。何せ最新型だからね。それにグリフィンドールのクイーンスイープなんかと比べれば……」

「いつものマルフォイに戻ったな」

 

マルフォイがグリフィンドールを馬鹿にしようとご高説を言う。

刀原はそんなマルフォイを放置し、ぼそっと言う。

 

「「ショウ、いつからマルフォイなんかと交友を結んでるんだ?」」

 

先程までのやり取りを聞いていたフレッド・ジョージの双子はそう聞いてくる。

 

「なんかって…あいつ、あんな高飛車な言い方してるが、根はいい奴だぞ?仲間思いだし、貴族らしくあろうとやり過ぎて、素直じゃなくなってるだけだろうね」

 

マルフォイを見ていると、虚勢を張っているだけだろうって分かる、と刀原は言う。

 

「「見たって分かんないよ」」

 

刀原の思いは通じず、双子は否を言う。

そんな会話をしている間にもマルフォイの話は続く。

 

「…持っている箒を慈善事業の競売にかければ、博物館が買い入れるだろうさ」

「そんな大層な箒がなくたって、グリフィンドールは負けたりしないわ!こっちの選手は、純粋に才能で選手になったのよ」

 

スリザリンチームが爆笑する中、ハーマイオニーがきっぱりと反論する。

 

「応えなきゃならんな?ウッド?」

 

刀原は横にいたウッドを小突きながら言う。

 

「勿論だ。ハーマイオニーの期待に応える為にも、僕達は勝つ」

 

ウッドが握り拳を作った時だ。

 

「だ、誰もお前の意見なんか求めてない。この…『穢れた血』め!」

 

 

「な」

「よくもそんなことを!」

「マルフォイ思い知れ!」

「ちょい待て」

 

双子のウィーズリー兄弟が飛び掛かろうとするが、刀原が阻止する。

 

「ショウ、止めるな!」

「なんで邪魔するんだ!」

「暴力沙汰になったらクィディッチなんか出来無くなる!ここは耐えて、試合でぶつけろ」

 

試合なら事故となるだろ?

刀原がそう耳打ちすれば双子は納得する。

だがロンが呪文を出す為、杖を出すのは止められない。

 

「あ、待てロン。その杖で呪いなんかやったら…」

「ナメクジ食らえ!うわっ!?」

「遅かったか…」

 

カンカンになったロンが呪いを掛けるも、刀原の懸念通りに自爆し、口からナメクジを吐き始めた。

 

「ロン!」

「大丈夫?」

 

吹き飛ばされたロンの元にハリー達が駆けつける。

スリザリンチームが笑う中、同じくニヤニヤしていたマルフォイに刀原が近づく。

 

「な、なんだショウ?」

 

「いや…なんだ、痛い所を突かれたからと言って()()()()()()()()()()()()。身を滅ぼすぞマルフォイ」

 

「な、なんだと!あまり調子に乗るなよショウ!」

 

刀原の言葉にマルフォイはたじろぐ。

 

「それと、これは日本の友人の師匠からの受け売りだがな…あまり強い言葉は使わない方が良い。弱く見えるからな」

 

マルフォイの威嚇など意にも返さず刀原は警告する。

 

「ショウ!ロンをハグリッドの所に連れてかなきゃ。手伝って!」

 

「ああ、直ぐ行く!」

 

ハリーの救援要請が聞こえ、刀原は返事をする。

 

「さて、じゃあ最後に…お前も友人だとは思っているが、あんまり俺の友達を侮辱すんなよ?ドラコ・マルフォイ?」

 

そう言って刀原は少しだけ霊圧をぶつける。

 

「ッ!わ、悪かった…」

 

「分かればよろしい、以後気をつけてな」

 

刀原はマルフォイが絞り出した謝罪を聞き、ニッコリとしながら受け入れ、ハリーの元へ向かった。

 

 

「全部出しちまえ」

 

一番近いハグリッドを頼った答えがこれだった。

ハグリッドはそういうと、洗面器を差し出す。

 

「うぇ」ボトッ

 

ロンは苦しみながらナメクジを洗面器に吐く。

自爆した都合上、呪文がどの様な効力を及ぼしているか不明瞭な為、自然に収まるのを待つしか無い。

 

「んで?誰を呪おうとしたんだ?」

 

「マルフォイだよ。意味は分からなかったんだけど、ロンやフレッド、ジョージ達が怒ってた…」

 

ハグリッドの問いにハリーが答える。

 

「穢れた血……だそうだ。噂には聞いていたが、本当だったんだな」

 

ハリーの答えに刀原が補足する。

 

「そんなこと、本当に言ったのか!」

 

「どう言う意味なの?」

 

「私も分からなかったの」

 

「ハリー、ハーマイオニー…確かに本には載ってない事だし、載らんでええ事だ。本当は知らなくても言いんだが……」

 

ハリーとハーマイオニーの質問にハグリッドはお茶を濁す。

 

「要するにマグル生まれに対する呼び方の、最低の汚らわしい言葉だそうだ。場合によっては、半純血にも使われるらしい。多分俺たち日本人をジャップって呼ぶことと同意義だな」

 

刀原の答えにハグリッドも頷く。

 

「ショウの言う通りだ。それは最低最悪の、侮辱的な言葉だ。魔法使いの中にはな、マルフォイ一族みたいに純血だってことが、彼らより偉いって思ってる連中がいるんだ」

 

刀原はあくまで知識として知っていた為、ハグリッドの言葉で更に使用が忌みされている言葉だと理解する。

 

「日本には無いの?」

 

ハリーが日本にはあるのかと聞いてくる。

 

「少なくとも、聞いた事はない。日本は魔法族が少なくて、覚醒魔法族…こちら(英国)で言うマグル生まれの数はもっと少ない。生粋の魔法族…純血とかからすれば、同族が増える事は喜ばしい事だから、逆に魔法などをマグル生まれに教えるんだ。第一、俺はこっちで言う半純血だ」

 

「え、そうなの?」

 

「てっきり純血かと思ってたわ」

 

「まあ、死神の純血と鬼人の純血だな。刀原家は純血の死神の家系。母方は鬼人族の名門、鈴鹿家だな」

 

ハリー達は刀原を純血だと思っていたらしい。

 

「鬼…」

 

「それってジャパニーズクリーチャーの…」

 

しかもマグル出身である為、日本の一般的な鬼のイメージを想像している。

 

「なんの話だ?」

 

「?」

 

ハグリッドやロンは分からないらしい。

 

「ああ、日本魔法界にいる鬼は見た目、完璧に人間だぞ。前髪上げたら、ちょっと角が生えてる感じ。俺は刀原家の血が濃いから角無いし、霊圧がより多くなって、本気になったら白髪になっちゃうくらいだって」

 

刀原が説明するも反応は薄い。

 

「…人、食べない?」

 

ハリーが聞いてくる。

 

「食べねぇよ…」

 

刀原が項垂れながら言えば漸く信じてくれた。

 

 

 

刀原の血筋はさておき、ハーマイオニーは目に見えて落ち込む。

 

「俺たちのハーマイオニーを見ろ…成績だってショウと並んでトップだろうが」

 

「しかも俺は数年先を行っているのにだ*3

 

「そうだよ、それに今までどれだけハーマイオニーの知恵に頼ってきたか!ハーマイオニーがいなかったら去年、僕たち死んでるよ」

 

「ハーマイオニーがいなきゃ、間違い無く今頃蔓に絞め殺されてるよ」

 

刀原達四人からの賛辞に、ハーマイオニーは嬉しそうに頬を紅潮させた。

 

「それにしても…マルフォイに呪いをかけると面倒そうだからな。ある意味失敗してよかったのかも」

 

「確かにやっこさんの親、ルシウス・マルフォイが学校に乗り込んできおったかもな」

 

息子にあんな高そうな箒をチーム分買うのだ。

モンペなのは言うまでもなかろう。

 

「マルフォイ…折角見直したのに…ガッカリだ」

 

ピクシー戦線以降、ハリーとマルフォイとの仁義なき戦いは一定の膠着状態となっていた。

 

「まあ確かに、言って良い事と悪いことがあるのは事実だな。だがハリー、擁護するつもりは無いが、あいつもバツが悪そうにはしていた。咄嗟に出てしまった言葉って感じかな?最後に悪かったと言っていたしな」

 

「だとしてもだよ」

 

「そうだなぁ」

 

刀原の言葉に、そうだとしても許せないとハリーとハグリッドが言う。

まあ確かにな、と刀原も返す。

 

刀原にも貴族の知り合いがいるが、彼らは貴族のプライドにかけて、そんな事は言わない。

 

だが日本にも選民思想でやたら血の優劣をつけたがる馬鹿げた貴族はいた。

反乱とそれの鎮圧によってほぼ壊滅したが。

 

「まあ、あいつもまだ子供って事だ」

 

刀原がそう言ったら「おまえさんも子供だ」とハグリッドに言い返された。

 

 

 

10月に突入しクィディッチシーズンと、寒さと、ハロウィンが迫ったある日。

廊下で刀原がハリーに話しかけられる。

 

「絶命日?」

 

「そう、次のハロウィンで殆ど首なしニックが五百回目の絶命日らしくてね。それで、地下牢でやるパーティーに誘われたんだ…」

 

刀原の問いにそう答えたハリー。

 

曰く、グリフィンドール付きのゴースト、殆ど首なしニックことサー・ニコラスが、今年で五百回目となる命日にパーティーを開催するとの事。

 

ハリー達三人はそのパーティーに参加すると決め、刀原もどうだい?と言われているのだ。

 

「うーん、五百回忌という単語には興味があるけど…」

 

「ショウ、避けられてるもんね…」

 

そう、刀原はゴースト達から避けられていた。

 

ーーーーーー

 

 

刀原とゴーストとの話は去年の入学時まで遡る。

 

刀原がホグワーツに来た日のこと。

ハリー達新入生を迎え入れようと、颯爽と登場したゴースト達は全員ぎこちなかった。

 

殆ど首なしニック以外は次第に軽快となったが、彼は終盤までぎこちないなさが取れなかった。

見かねたパーシーがどうしたんだ?と尋ねた。

 

「そ、その、日本の少年が持つ剣が、怖いのです」

 

殆ど首なしニックはこう答えた。

 

 

ーーーーーー

 

彼らゴースト達曰く。

斬魄刀とそれを使う刀原はまさに黄泉への案内人の様な感じらしく、いつ斬られ、冥界へ連れて逝かれるのか不安で不安でしょうががない。

 

とのこと。

 

現にピーブズは今も接触して来ないし、ゴーストも積極的には来ない。

 

確かに、斬魄刀には虚や亡霊を払う力がある。

おそらくで試したことは無いが、ホグワーツのゴースト達にも有効なのだろう。

 

彼らにとって刀原は文字通り、死神の鎌を持った死神*4なのだそうだ。

 

かくして刀原はビンズ*5以外のゴーストから恐れられ怖がられているのだ。

 

そんな刀原が絶命日パーティーにゲスト参加した場合、会場はパニック決定だ。

去年のトロールパニックに匹敵するかも。

 

「…辞めとくよ。代わりにパンプキンディナーをネビルと一緒に確保してやる」

 

去年、トロールパニックを終えたハーマイオニーはゴタゴタの中でもネビルがしっかり死守したパンプキンディナーを食べている。

 

「あっちでもご飯出るんじゃ?」

 

ハリーは大丈夫だろうとタカを括るが…

 

「甘いな。良いかハリー?ゴースト達のパーティーだぞ。ゴーストが食える物、用意するわけ無いだろ」

 

刀原の指摘に納得したのだろう。

 

「確保お願い」

 

とハリーは言った。

 

「任せろ」

 

刀原はニッコリ笑う。

そんな様子を見たハリーは安堵し、話題を変える。

 

「…そう言えばショウ。この前の夜、なんか、声、聞こえなかった?ロックハートもロンも聞こえなかったって言ったんだ」

 

ハリーはロックハートとの罰則の最中に掠れるような声が聞こえたと話す。

 

「声?いや…聞こえなかったな」

 

「そっか、やっぱり気のせいなのかなぁ」

 

刀原が分からないと答えれば、ハリーは自分の気のせいなのかと首を傾げる。

それは刀原も同様だった。

 

うーん、何かの合図か。

よからぬ事の始まりか。

刀原の頭にドビーの警告がよぎるが、とりあえず置いておいた。

 

置いておいてしまった。

 

 

 

 

来るハロウィン。

 

ハリー達はニックの絶命日パーティーで不在だが、ネビルやシェーマスといった寮の面々と共に、刀原はパンプキンディナーを楽しんだ。

 

ハリー達の事情は寮の皆に説明して彼らの分も確保し、去年食べ損ねたカボチャプリンまできっちり平らげれば、ディナーも終了となり、当然ながら去年の様な事件は起きなかった。

 

 

筈だった。

 

 

事件は既に起きていたのだ。

 

管理人フィルチの猫であるミセス・ノリスが石となって発見されたのだ。

しかも第一発見者は、ハリー達ときた。

 

事件現場の廊下には一面に水が広がっており、壁には血文字が書かれていた。

 

『秘密の部屋は開かれた。継承者の敵よ気をつけよ』

 

居合わせたマルフォイが叫ぶ。

 

「継承者の敵よ、気をつけよ!次はお前たちの番だぞ、マグル生まれ!」

 

期せずしてマルフォイと同タイミングで現場に来ていた刀原は、直ぐに吊るされている猫を確保する。

フィルチは自分の飼い猫が、死んでいるかも知れないことになっている事に激しく取り乱す。

 

「石になってる…だが死んではいない。多分大丈夫だと思うが…」

 

「ほ、本当か!死んではいないんだな!?」

 

刀原の言葉にフィルチが聞いてくる。

 

「ええ、確固たる確証は無いですが…」

 

どうぞ、と刀原が猫を渡せばフィルチは労るように抱きしめ涙を流す。

 

ちょうどその時、ダンブルドアが各教授陣を引き連れて、大勢の生徒の波を掻き分けてやって来る。

ダンブルドアは猫、フィルチ、刀原、ハリー達、最後に壁の文字の順に見て頷いた。

 

「ふむ…アーガス、一緒に来なさい…トーハラ君とポッター君達も、共にな…」

 

「ならば私の部屋が一番近いですから、そこへ行きましょう」

 

そう言ったのはロックハート。

群がる生徒たちの波は再びモーゼの如く割れ、一行はロックハートの部屋に向かった。

 

 

 

「トーハラは…うちの猫が、どうやら石になったようだと…。だが、死んではいないらしいとも…」

 

ロックハートの部屋に着き、フィルチが半泣きになりながら部屋にある机に猫を置いて言う。

ダンブルドア達がフィルチにそう言われチラリと見れば、刀原は杖を右手に持ちながら猫を解析していたところだった。

 

「トーハラ君、どうじゃ?」

 

「うーん…まず、やはり微かに生命反応が感じれますから、死んだ訳ではありませんね。おそらく…生きたまま石になり今は仮死状態、といったところでしょうか?」

 

ダンブルドアがそう聞けば、刀原は苦い顔をしながらそう解析結果を言う。

 

「あと回道をかけてますが、効いている様子も無いです。まあ…僕の技術が未熟*6だと言われたらそれまでですが…」

 

「いや、我らは使う事すら出来ぬ術じゃ。文句など付ける事すら出来ぬよ」

 

刀原が付け足せばダンブルドアはそうフォローし、フム、と言って猫の様子を刀原と一緒に調べ始める。

 

「トーハラ君の言うとおりらしいの…。アーガス、やはり猫は死んではおらんよ。石になっただけじゃ」

 

 ダンブルドアがそう告げると、フィルチは安堵したのか近くの椅子に崩れ落ちた。

 

「そういえばダンブルドア校長…薬草学のスプラウト教授が、マンドレイクを育てていました。あれは確か…石になったものをもとに戻す効果があるとか。それで元に戻すことが出来るのでは?」

 

ハッフルパフの寮監、スプラウト教授は薬草学の教授だ。

彼女の授業においてマンドレイクの植え替えをやったのは刀原達二学年生なのだ。

 

「うむ、ミスタートーハラの言う通り、マンドレイクならば問題なかろう。魔法薬の先生たる我輩が作ろう」

 

チラッとロックハートの方を見ながらそう答えたのはスネイプだった。

スネイプもロックハートが英雄などでは無い事を見抜いているらしい。

 

なお、そのロックハートは自分の本と、正規の教科書と思しき本を両手に四苦八苦しながら授業を行っている。*7

 

やったのは自分では無いとは言え、彼の本は参考本になり得たのだった。

 

「ならば何故、私のミセス・ノリスは石に…」

 

 治せると聞いて一安心した被害者…被害猫の飼い主、フィルチがそう言う。

 

「すまんがの…何故こうなったのか、わしには分からんのじゃ。トーハラ君の意見は?」

 

「そう、ですね…まず鬼道ではありません。考えられるのは縛道ですが…縛道の一から九十九まで、このような効果の縛道は無かった筈です。というか霊圧の痕跡がありません。無論、あとで鬼道衆総帥で大鬼道長の握菱鉄裁殿に一筆書きますが、答えは同じかと…」

 

刀原は日本で最高クラスの鬼道使いで、知り合いの握菱鉄裁に意見を聞くと言う。

 

「ミスタートーハラ。確か、日本にはオンミョージという方もいたはず…彼らはどうですか?」

 

刀原の言葉に考え込む一同だったが、ここで沈黙を貫いていたロックハートが口を開く。

 

「!ああ、陰陽師ですか…」

刀原は一瞬目を見開くが直ぐに考え込む。

 

「どうなのですか、ミスタートーハラ?」

 

マクゴナガルも半分驚きながら刀原に聞いてくる。

 

「確かに、陰陽道とその使い手たる陰陽師の可能性が無いとは言い切れません…。彼らは呪いのプロですから…」

 

刀原はかつて、両親の呪いを解く為日本陰陽道*8の最高峰、土御門家に接触し実際に治癒の為に来てもらった事まである。*9

 

その時ちゃっかり土御門家当主に、マホウトコロではやらない陰陽道を教えて貰ったのは内緒だ。

 

「ですがそもそも陰陽師の数は少ないうえ、これほどのものとなると日本では三人ぐらいしか思いつかないです」

 

「そんなに使い手が限られますか…」

 

刀原の言葉にマクゴナガルが反応する。

 

「では、彼らということは無いのですかな?」

 

「スネイプ教授の指摘は最もですが…正直、日本防衛の要の一つでもある彼らが日本を離れるとは考えにくいです。第一に動機が無い。当然、陰陽道はそこら辺の人が使える術でも無いですし、術印や札といった痕跡も無さげです。陰陽師の可能性は極めて低いかと」

 

スネイプの問いに刀原が答える。

 

「ふむ、あり得んとは思っていたが違うようじゃな。やはり……」

 

教授達と刀原のやり取りを見て、ダンブルドアが熟考する。

 

「ダンブルドア校長?」

 

考え込むダンブルドアに刀原が聞く。

 

「いや、なんでも無い。さて、ポッター君達…。君たちは何か見たかの?」

 

刀原にそう言って、ダンブルドアはハリー達を見た。

 

ハリー達は顔を見合わせ、説明を始めた。

 

ハロウィンに居なかった理由…首無しニックの絶命日パーティーに参加していたこと。

何やら声が聞こえた事。

その声を追ったら事件現場だった事。

 

怪しさがあるとはいえ、相変わらずハリーを目の敵にするスネイプが疑うも…。

 

「西洋魔法のプロ、ダンブルドア校長が分からないと言い、僕が極東魔法でも無理といった以上、ハリーが実行するのは不可能では?」

 

と刀原が反論し…。

 

「疑わしきは罰せずじゃよセブルス」

 

とダンブルドアも擁護したため、ハリー達は放免となった。

 

「どうせ寮でハロウィンの続きをやっているだろうし、帰ってよろしい」

 

そう言ってハリー達はダンブルドアに帰された。

だが。

 

「ああ、トーハラ君は残ってくれまいか?」

 

刀原は残ることになったのだった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

各教授達は警戒のために巡回することとなり、俺はダンブルドア校長と共に校長室へ移動した。

 

「ダンブルドア校長、犯人に心当たりありますね?」

 

「流石じゃのう、わしが熟考しておったからかの?」

 

探りを入れれば、ダンブルドア校長はにこやかにわらいながらそう言う。

 

「それで心当たりとは?」

 

「なんじゃと思う?」

 

質問を質問で返しやがった。

出された紅茶を片手に考える。

 

現場の文字。

 

「…秘密の部屋は開かれた。継承者の敵は気をつけよ……。なるほど、秘密の部屋を開けた者、ですか…」

 

「素晴らしい、わしもそう思う」

 

秘密の部屋ねぇ。

 

「質問しても?」

 

「何なりと。分かる範囲じゃがな」

 

よし。

 

「秘密の部屋とは?」

 

「ホグワーツの創設者の一人、サラザール·スリザリンがこのホグワーツの何処かに作ったとされる部屋じゃ」

 

スリザリンが対敵対者用に作った部屋か。

 

「何がその部屋にはありますか?」

 

「スリザリンの敵を排除する怪物がいるそうじゃ」

 

怪物…怪しいな。

 

「怪物の正体は?」

 

「すまん、それは分からん」

 

まあ、だろうな。

 

「過去に開けられましたか?」

 

秘密なんだろ?

開けられたとは思えんが。

 

「うむ、開けられた。犯人も分かっておる」

 

「hai?」

 

はい?

 

過去に、開けられたぁ!?

しかも、犯人が分かってるだってぇ!?

 

「mazikayo、hannninn、soituzyann」

(マジかよ、犯人、そいつじゃん)

 

「ショウ、英語で喋っておくれ…」

 

「あ、すみません。つい思わず」

 

「そいつが今回の犯人なんじゃ…」

 

「わしは冤罪だと思っておるのじゃ」

 

冤罪ねぇ。

 

「ちなみに誰ですか?」

 

「誰じゃと思う?」

 

また返してきやがった。

英国にホグワーツ以外の知り合い、いねぇな。

 

「まさかホグワーツ関係者とか言いませんよね」

 

笑いながら言う。

ないない。

あるわけ無い。

 

「そのまさかじゃ」

「ファ?」

 

今なんつった?

 

「プ、プリーズ リピート」

 

「片言になっておるぞ…?今一度言おう、前回開けた者はホグワーツにおる」

 

何やってんのこの人?

聞き間違いじゃなかったのか…。

 

「何年前ですか?」

 

「約五十年前じゃな」

 

五十年前ねぇ。

 

年齢的に考えると…。

あれ?

そういや、あの人ホグワーツを卒業してないって言わなかったか?

 

「まさか、ハグリッド…」

 

「そうじゃ」

 

なるほど……。

 

うん、冤罪だな。

ありえん。

 

 

 

 

「問題は三つ。一つ、誰が開けたのか。二つ、どうやって開けたのか。三つ、怪物の正体は何か。ですね」

 

「誰が襲われるのかは、良いのかの?」

 

「スリザリンの敵対者。つまりマグル、或いはマグル生まれ。気になる点は、何故まず猫を狙ったのか、ですが…」

 

「思い当たる点でも、あるのかの?」

 

「日頃から巡回している影響で地理を把握し、管理人フィルチさんの目と言っても良い。要するに、敵は索敵役を潰したかった。だと思います」

 

怪しげなものを見れば、即フィルチに報告する猫。

実に優秀な索敵役だ。

 

「成る程の、索敵役か…確かにそう言われて見ればそうじゃの」

 

「あと、怪物に関しては蛇の可能性大では?」

 

「スリザリンのシンボルかの?」

 

各寮にはシンボルとなる動物があり、スリザリンの蛇だ。

 

「ええ、むしろそれ以外ないと思いますが」

 

「確かにの…よし、調べてみよう」

 

「あと、校長が持ってる五十年前の資料を見たいです。ハグリッドがやらかした事、その時の怪物の正体、被害者。そして、解決した人と怪しかった人」

 

まず見ないと分からん。

 

「分かった、あとで見せよう」

 

「お願いします」

 

対策はここで一旦止めとなり、今日は解散する事になった。

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

「しかし、また君の師匠達にこってり絞られることになるのう…」

 

ダンブルドアはそう言って深くため息を吐く。

 

刀原の予想通り、昨年の一件でダンブルドアは元柳斎らに絞られたらしい。

目に見えて元気を失うダンブルドア。

 

ドンマイ…。

今回のダンブルドアは無罪だと師匠達に言おう。

 

刀原はそう心に決め、寮に戻った。

 

 

*1
グリフィンドールのクィディッチチームとハーマイオニー、ロン

*2
「私スネイプ教授はスリザリンチームの新しいシーカーを育成する為、競技場の使用を認める」

と言う内容だった。

*3
刀原はハーマイオニーと互角だったことに、ほんの少しショックだった

*4
西洋の死神

*5
魔法史の教授でゴースト

*6
当然、比較対象は尊敬する師匠たる卯ノ花烈である

*7
少し大袈裟にやっているのが玉に瑕だが

*8
陰陽道はマホウトコロの選択授業として残っている。

当然、刀原もその授業を受けている。

*9
呪いは解けなかった





主人公の推理力が有れば、仮想敵は簡単に分かってしまう。
と思いたい。
犯人からすれば、真っ先に倒す相手ですね。

寮の確執?知ったことでは無い!
そんな主人公と友好関係を結び、穢れた発言で睨まれた為、マルフォイは穢れた発言はしないでしょう。

感想、考察、意見、指摘ありがとうございます。
そしてお待ちしてます。

では次回は
ホーミングブラッジャー ポリジュース薬
次回も楽しみに



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死神、阻止する。変身薬と暴れ玉


キャンキャン鳴く子犬は、
ただの子犬だったりする。

善意で舗装された道は、
時に悲劇を生み出す。










 

ミセスノリスが石になり、秘密の部屋が再び開けられたと分かった事件の翌日。

 

恐れ知らずのホグワーツの生徒達は、早速犯人探しを開始した。

それはハリー達も同様で、事件から最初の授業となったマクゴナガルの変身術の授業にて、彼女から秘密の部屋がなんたるかを聞いていた。

 

そして…

 

「スリザリンの談話室に忍び込む!?」

 

「ええ、其所で秘密の部屋の事を調べたり、聞いたりするの」

 

その日の昼。

刀原にそう言ったのは、ハーマイオニーだった。

当然傍にはハリーとロンもいる。

 

グリフィンドール特有の正義感か、はたまたマグル生まれとしての危機感か。

刀原は後者だろうと推察していたが、前者が含まれていないとは考えてなかった。

 

「本気か?」

 

「ええ。本当に秘密の部屋が開いたのだとしたら、その中にいる怪物が目の敵にするのは誰?マグルやスクイブ、マグル出身の人々のはずよ。彼らはなんと言ってもスリザリンの敵なのだから…」

 

つまり、ハーマイオニーの主張とは『スリザリンが作ったのだから、スリザリン寮に鍵があるのでは?』と言う事だ。

 

「それに考えてみろよ。僕たちが知っている人の中で、マグル生まれは屑だなんて考えているのは誰?」

 

「おいおいロン。まさかとは思うが、マルフォイのことを言っているのか?いくらマルフォイでも…」

 

ハーマイオニーの後、おどけたように言うロンに刀原が言い返す。

 

「あいつが何言ったかなんて、みんな聞いただろ。『次はお前たちだぞ』って。どう考えたってあいつじゃないか」

 

ロンの反論を受け、刀原はチラッとハーマイオニーの方を見る。

 

ハーマイオニーは、それは結論として早すぎる、とばかりに首を横に振る。

 

どうやらロンは、スリザリン憎しのあまり、前のめりになっているようだ。

 

「こう言ってはなんだが、マルフォイは態度は虎並みだがメンタルは子犬同然で脆弱だ。人の命を奪うなんて真似、出来やしない」

 

「でもショウ。ハーマイオニーも。あいつの家族を見てよ、上から下までスリザリンだぜ。スリザリンの末裔だったとしてもおかしくないよ」

 

「確かに、代々スリザリン寮の生徒なら秘密の部屋の鍵を持っててもおかしくないとは思うな…」

 

ハリーもマルフォイ犯人説は置いておいて、継承者はスリザリンだと思っているらしい。

 

「まあ、マルフォイが継承者かどうかはともかく…。そんな訳で私達はスリザリン寮に入り込んで、マルフォイに正体を気づかれずに質問するの。いくらショウがマルフォイと親しくしても、自分が犯人だとしたら白状するはずないでしょうからね」

 

おそらく刀原の元に来る前に意見をぶつけてまとめたのだろう。

ハーマイオニーが三人を代表するかのように言う。

 

だろうな、と刀原はハーマイオニーの意見には同意する。

しかし刀原はだが、と前置きし…。

 

「規則を破る事になるぞ?」

 

とハーマイオニーに試すかのように聞く。

 

「確かに、多分校則を五十個以上破ることになるわね。それに難しいし、危険よ。でも調べる必要があるわ」

 

ハーマイオニーは刀原に向けはっきりと言う。*1

刀原もハーマイオニーの覚悟したような言葉を受け、そうか、と頷いた。

 

「でもどうやって入るの?」

 

「そんなこと不可能じゃ?」

 

作戦において障壁となり得る刀原が承諾したことで、ハリーとロンがどの様にしてスリザリン寮に入るのか聞いて来る。

 

「勿論、考えがあるわ」

 

二人の心配を他所に、ハーマイオニーが答える。

 

「ポリジュース薬よ」

 

「「ポリジュース薬?」」

 

ハリーとロンが見事に揃って聞き返した。

 

 

ポリジュース薬。

 

制作に必要なのは、多数かつそこそこ貴重な材料、高度な技術に知識、変身したい相手の一部。*2

 

効果は一時間ほど他人に変身すること。

 

そして、当然だがそんな危険な薬品の調合方法など二学年の教科書には掲載されていない。*3

 

「僕らの教科書には載ってない薬だろ?どうやって作るの?」

 

ハリーはその問題を指摘する。

 

「大丈夫。この前、スネイプが『最も強力な薬』という本にそれが書いてあるって言っていたわ。多分その本、図書館の禁書の棚にあるはずよ」

 

ハーマイオニーが問題無いと言うが、ハリーが渋い顔をする。

 

「でも禁書の棚の本は、先生のサインがないと持ち出せないよ…絶対許可貰えないって」

 

ホグワーツの図書室には生徒が普通に見て良い棚と、教授の許可が必要な棚…通称、禁書の棚の二種類があった。

そして禁書の棚と言うだけあり、危険極まりない本が沢山あるその棚にお目当ての本は存在するとハーマイオニーは言うのだ。

 

禁書の棚の閲覧には教授の許可がいる…。

当然、教授はなんの本を借りるのかと問う。

 

ハリー達は許可が欲しい為、本の名前を言う。

無論、教授はその本で何をするのかと問うだろう。

 

まさか馬鹿正直に、ポリジュース薬を作りたいんです、と言う訳にもいかない。

 

だが下手な嘘で誤魔化しが効く教授達では無い。

問い詰められ、白状し、最終的に不許可とされ、ポリジュース作戦失敗。

というオチまで、容易く想像がつく。

 

だが、何事も例外はある。

 

「そんなのロックハートに適当に頼めば?」

 

刀原が、その例外となる解決策を投げると、ハリーとロンの顔がぱあっと輝く。

 

そして数日後、刀原の元に三人から感謝の言葉が来る。

それは刀原の見立て通り、ちょろいロックハートが軽率に、そして迂闊にもサインを書いた結果、容易くハリー達三人が目当ての本を手に入れられたと言う事だった。

 

自分が立てた作戦なのだが、刀原はロックハートのちょろさは問題だと思った。

 

 

 

そしてその翌日、刀原は再びハーマイオニーからの相談を受けていた。

 

何事かと問う刀原に対し、ハーマイオニーはポリジュース薬の材料のリストを持っていた。

 

「昨日、本を借りることが出来たって言ったでしょう?それで、早速材料を見てみたんだけど…まずクサカゲロウに満月草、ニワヤナギ等々。確かここまでは、生徒用の棚にあったわ」

 

「ああ、確かにあったな」

 

ハーマイオニーが指で追う十数個の材料を確認して、刀原は頷いた。

 

「そうよね。でも問題がこの二つなの…二角獣の角の粉末と、毒ツルヘビの皮の千切り…これは生徒用の棚にないわよね?でも、多分スネイプの個人用保管庫にならあるかもって…」

 

「まさか、その足りない材料をスネイプの棚からちょろまかす気か?」

 

ハーマイオニーの言葉を遮り、刀原が続きを言う。

そしてハーマイオニーは頷く。

 

「ええ、このままだとね。でもそんな危険な橋、渡りたくないのも事実なのよ。ショウ…持ってたり…しない?」

 

どうやらハーマイオニーは、刀原が素材を持ってきているのではと思っていたらしい。

だが、現実は甘く無い。

 

「残念だが、流石に持って来ていないな…」

 

刀原は力無く首を横に振る。*4

 

「やっぱりそうよね……」

 

ハーマイオニーも望みは薄いと思っていたらしく、力無くがっくりと項垂れる。

 

「とりあえず君達に窃盗させる訳にはいかないから、日本の師匠達に一筆書いて取り寄せるよ」

 

刀原とて、親友達が窃盗罪を犯させるのは忍びなかった。

そこで日本の師匠達に手紙を書いて、足りない材料を送って貰おうと思ったのだ。

 

無論、懸念点はある。

 

「ありがとう。でも、ショウの師匠達にバレちゃうんじゃ無いかしら?」

 

ハーマイオニーがお礼を言いながらその懸念点を指摘する。

そう、刀原は師匠達に秘密の部屋に関する一件を、いまだに報告してないのだ。

 

バレた場合、強制帰還命令が発令される可能性があるだ。

 

「…大丈夫、うまく説明するさ」

 

刀原はその日のうちに、日本に向けて国際フクロウ便を送った。

内容はしっかりと吟味し、当然ながら秘密の部屋についてなどは一切書かず、ただ参考と勉強の為に使用するとだけ書いた。

 

その数日後、師匠達からの返信には足りない材料が同封されていた。

そして手紙にはこう書いてあった。

 

《まさか、ポリジュース薬でも作る気っすか?》

《また厄介事に巻き込まれておらんじゃろうな?》

《有事の際にはそっちに行きますからね》

 

ハハッ、バレてら…。

 

そう思いながら刀原はハーマイオニーに材料を渡した。

しかし、これによって刀原は三人が窃盗犯になることを阻止したのだった。

 

 

さて、いよいよ制作開始となったのだが。

当然ながらポリジュース薬の作成など寮で出来る筈もなく、四人は作業場所に『嘆きのマートル』と言うゴーストが居る三階の女子トイレを選んだ。

 

「そ、そいつが、来なければ良いわよ」

 

しかしトイレの主たるマートルが刀原を拒絶したうえ、ハリーもクィディッチシーズンの本格的な到来により、四人のうち二人が不参加となった。

そしてロンがポリジュース薬の調合など出来る筈もない為、あってないような見張り役となった。

 

かくしてポリジュース薬作戦の成否はハーマイオニーの手腕に託された。

 

 

 

秘密の部屋が開かれようとも恒例の物は中止されない。

ポリジュース薬の制作開始と共に、クィディッチの最初の試合がやって来た。

 

すなわちハリー達グリフィンドールチーム対スリザリンチームの試合だ。

 

去年とは違い性能が高い箒の手にしたスリザリンチームが試合を有利に進め、グリフィンドールチームはリードを許してしまう。*5

リードの原因については箒の性能差もあるのだろうが、別の要因も考えられた。

 

「ブラッジャーがハリーだけ狙ってるんだ!」

「誰かが細工したんだわ!」

 

クィディッチにある三種類の玉の一つ、ブラッジャーが執拗にハリーのみを追尾し、グリフィンドールチームのメンバー達はそれを気にして本来の動きが出来ない状況なのだ。

 

ハリーは毎年クィディッチで厄介事をしなきゃならんルールでもあんのか!?

 

ハリーが聞けば「僕のせいじゃないよ!」と全否定するであろうことを刀原は思う。

 

肝心のハリーは、マルフォイと熾烈なスニッチチェイスを行いながら、ブラッジャーにも気を配る。

 

そうこうしているうちにマルフォイが落下する。

 

その為スニッチを追う者がハリーのみとなり、そのままスニッチを捕らえた。

 

だがスニッチを捕らえたのも束の間、ホーミングブラッジャーが迫り、遂にハリーの右腕を捕らえた。

 

ハリーはスニッチを手放す事はしなかったが、痛みと衝撃で地面へと落下する。

そしてそんなハリーをブラッジャーは追撃をする。

 

しかしブラッジャーの追撃は失敗した。

 

スニッチをキャッチしたと言う事は試合が終わった。

そのように判断した刀原が、落下したハリーの元に瞬歩して、やって来たブラッジャーを斬魄刀で迎撃したのだ。

 

だが諦めないブラッジャーはなおも突撃を図る。

 

それを許すようなハリーの友人はいない。

 

「『フィニート・インカンターテム!(呪文よ 終われ!)』」

「『破道の四 白雷』!」

 

ハーマイオニーの呪文終了呪文と刀原の『白雷』を受け木っ端微塵になった。

 

駆け付けた刀原と審判のマダム・フーチによる簡単な診断の結果、ハリーの右腕は残念ながら折れていた。

 

ハリーの友人達、心配そうなマクゴナガル、わざわざやって来てハリーを励ますロックハート。

 

完全に本日の主役となったハリーは担架に乗せられ、大勢が見送る中、医務室に搬送された。

 

 

 

マダム・ポンフリー曰く、こんな骨折あっという間に治せるとのことだった。

だが経過と念の為としてハリーは医務室へ入院する事となった。

 

その為。

 

パジャマを持ったロン。

翌日の着替えを持った刀原。

何故か本を持ったハーマイオニー。

ユニホームのままで、お菓子やジュースなどを持ったフレッドとジョージ。

同じユニホームのままのグリフィンドールチーム。

 

大勢で医務室にいるハリーに押しかけた。

 

こいつら宴会にでも行く気か?

刀原は途中から頭が痛くなっていた。

 

医務室に着けば、ちょうどハリーが骨折を治す薬を飲み終えたところだった。

やれ飛び方が良かっただの言いながら、双子がハリーのベッドにお菓子などをドサドサ置き、刀原の懸念通り、今まさに宴会が始まろうとした時。

 

マダム・ポンフリーの雷が落ちた。

 

そして医務室を騒がすような真似を医務室の主が許す筈もなく、瞬く間に全員が追い出された。

 

 

 

 

 

事件はその夜、起こった。

 

その夜、俺はダンブルドア校長との深夜のお茶会を兼ねて、秘密の部屋に関する捜査資料を受け取りに校長室に来ていた。

 

資料を受け取り、資料を元に推理するが、まあ分からない。

 

「気分転換もよいじゃろう、ココアを取りに行かんかね?」

 

ダンブルドア校長はココアが飲みたくなったらしく聞いてくる。

 

「…確かにそうですね」

 

俺はそれに賛同し、二人で厨房に行くことに。

そうしたら…。

 

階段の付近でマクゴナガル教授と石になった生徒らしき石と遭遇した。

 

マクゴナガル教授は俺がいることに一瞬たじろぎ、叱ろうか二秒間位悩んだような素振りを見せた後、それよりも被害者を医務室に連れて行くことを優先したようだった。

 

石になった生徒は浮遊呪文で浮かせ、三人は足早に医務室へ駆け込んだ。

マダム・ポンフリーは起きていないようで、マクゴナガル教授が起こしに行く。

 

「くそ、やっぱ駄目か…」

 

その間にダメ元で回道を掛けてみるが、やはり効果はない。

 

「どうじゃ?やはり石になっておるのかの?」

 

「…ええ、そのようです。そしてやはり回道では直せません…。すみません、僕に卯ノ花隊長みたいな技術があれば…」

 

回道を掛けていることを見ていたダンブルドアが聞いてくる。

俺は力無く首を横に振り、拳を握る。

 

嫌でも両親を重ねてしまう。

石になっているわけでは無いのだがな。

 

「自分を追い込んでは駄目じゃよ、ショウ。何ら恥じることは無い」

 

ダンブルドア校長はそう言って、俺の拳を解く。

 

「…ありがとうございます」

 

確かに、高望みかもな…

 

(その通り、まだまだですよ。もっと精進なさい)

 

うん、絶対こう言うに違いないな。

 

さて。

近くのベッドにはハリーが寝て…無いな。

けど、まあいいか。

 

 

 

 

「ダンブルドア校長先生がココアを飲みたくなってトーハラと階段を降りていなかったら、どうなっていたことか…。トーハラ、やはり彼は……」

 

マクゴナガル教授は被害者の正体を気づいている筈だが聞いて来る。

 

「ええ、パパラッ。ンンッ、グリフィンドールの一年生、コリン・クリービー君ですね。彼はハリーが大好きでしたから、おそらくこっそりお見舞いに行く途中にやられたんでしょうね…」

 

俺はコリンの側にあった一房葡萄を見せて、証拠とした。

ダンブルドア校長はそれを聞いて、ぐるりと見回し、コリンのカメラに目をつけた。

 

確かにコリンは写真を撮っているかの様な感じで石になっていたのだ。

固まっている為、こじ開けるようにして何とかカメラを取り出す。

 

「この子が襲ったものを撮っていると?」

 

そう聞くマクゴナガル教授に、ダンブルドア校長は頷いた。

 

そして裏蓋をこじ開けると…

急にシュー、ボンボン、とカメラから音がした。

 

見てみると中身は全て溶け、フィルムも分からないような状態だった。

そしてプラスチックを溶かしたような、酷い匂いが漂った。

 

「カメラの中身が…どう言う事なのでしょうか?」

 

マクゴナガル教授がダンブルドア校長を見ながら聞く。

俺もチラリとダンブルドア校長を見る。

 

「ショウ。他言無用、と約束してくれるかの?」

 

数十秒後、俺を見ながらダンブルドアは聞いてくる。

 

「まあ、可能な限り、ですが…」

 

ハリーが起きてる以上、四人で話し合いが行われるのは確実だ。

明言はしない。

 

「ふむ…ミネルバ、ショウ。おそらく…いや、間違いなく、秘密の部屋が開けられたという事じゃ。そして、アーガスの猫にクリービー君を襲ったのは秘密の部屋の中にいる怪物なのじゃろう」

 

「でも、一体誰が?」

 

 そう言ったマクゴナガル教授に、ダンブルドア校長は頭を振って違うという。

 

「誰がという問題ではないのじゃ…問題は、どうやってじゃよ…」

 

マクゴナガル教授とやって来たマダム・ポンフリーは、よく理解できていないようだった。

 

それはかく言う俺もで…

どうやってなんて犯人を締め上げれば分かるのでは?

なんて思ってた。

 

そして…

 

 

うん、師匠達には悪いけど、内緒にしよう!

 

 

 

と思った。

 

 

 

 

*1
ハリーとロンはハーマイオニーの言葉にあんぐりしていた。

*2
なお、滅茶苦茶不味いらしい

*3
悪戯など、悪行し放題かつ犯人をなすり付けられる。

*4
飛行機を使う都合上、刀原は荷物を最小限にしている。

*5
スリザリン120点  グリフィンドール30点





メタ的な事を言えば…
師匠達の介入を許せば事件は解決しますが、原作は改変となるので内緒にします。
それに師匠達は、主人公の成長の為にならないと言って介入してこないと思うので。

感想、考察、意見、ありがとうございます。
そしてお待ちしております。

諸事情につき投稿頻度が下がるかもですが、
今年中には秘密の部屋編を終わらせる予定です。
何卒応援をよろしくお願いします。

さて次回は
決闘クラブ
次回も楽しみに






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死神、決闘クラブに参戦する。

戦闘は泥臭い物だ。
決闘の作法などは余裕がある者がする。

だが最低限の礼儀はすべきだ。
お辞儀をし、名乗りをあげよ。





パパラッチコリンが石となってしまった件は瞬く間にホグワーツ中に知れ渡り、生徒は恐怖に包まれた。

何しろ今まで被害が猫だったのに対し、遂に人が被害にあったのだ。

 

誰もが他人事ではいられなくなったのだ。

 

そして犯人が秘密の部屋を開けた事も確実となり、継承者の敵、つまりマグル生まれの生徒達の恐怖は特別だった。

一年生は特に怖がり、ロン曰くジニーも様子がおかしくなっていると言うことだった。

 

そして生徒の間で大流行したものがある。

いわゆる継承者に対する対策グッズだ。

 

かく言う刀原にもフレッドとジョージの双子からジャパニーズ的な物として、お札やら御守りやらの作成依頼がやってきた*1

 

そんな中ハリー達三人が作成しているポリジュース薬の作成は刀原が取り寄せた魔法薬の材料もあって順調だった。

 

完成はクリスマス頃の予定との事。

 

そして調合中も四人で話し合いをする。

ハリーやロンは刀原が何故ダンブルドアと一緒にいたのか聞いて来たが、お茶会に呼ばれていただけだと言えば納得した。

 

 

 

そんなクリスマスも迫るある日。

人だかりが出来た玄関ホールの掲示板に張り紙があった。

 

「決闘クラブを始めるんだって!今夜だ!」

 

そう興奮したように言ったのはロン。

他の生徒達の殆どが興味津々らしい。

 

「決闘クラブねぇ?」

 

刀原は考え込むように言う。

 

「ショウは興味無いの?真っ先に参加しそうだけど?」

 

そんな刀原を見てハリーが聞いてくる。

 

「…俺ってそんなに好戦的な人だと思われてる?ちと心外なんだが、それは…」

 

「ごめん、ごめん。そんなこと無いよ」

 

刀原は少し項垂れ、ハリーはフォローする。

 

「…まあ、いいや。とりあえず教える係がロックハートじゃないことを祈るだけだ」

 

まともな事にならんからな、と刀原は言い放てば、ハリーも頷いた。

 

 

 

「mazika…」(マジか)

 

刀原は決闘クラブに来たことを若干後悔した。

少なくとも日本語を出すくらいには。

 

会場となった大広間に行くと寮の長テーブルは端に寄せられ、中央に縦に長い舞台のようなものがあった。

中には大勢の生徒達。

 

「やあやあ皆さん、 ようこそ決闘クラブへ!」

 

そんな中、マントを羽織り大仰にお辞儀をして登場したロックハートに、未だ目が覚めないファンの女の子達は黄色い声を上げる。

だがそれは全体の一、二割ほどであり大半はうんざりした様子だった。

 

「では早速、助手のスネイプ先生をご紹介しましょう!」

 

ロックハートもそうだろうが、生徒達の嫌われ者の一人とされるスネイプがロックハートの横に立っていたことも原因の一つだろう。

 

最近は真面目にやっているが、演劇口調が抜けずに一々大仰に自分語りをするロックハート。

言わずと知れたスリザリン贔屓で特にグリフィンドールを敵視するスネイプ。

 

まさに嫌われている教授の二大巨頭見参と言った感じだ。

 

刀原はロックハートの英雄譚の真実(彼がポンコツだと言うこと)を知っている分、よくもまあノコノコとこの場に来れたな、と半ば感心していた*2

そしてよくスネイプは了承したなとも思っていた。

 

「スネイプ先生は決闘についてご存じだそうで。模範演技のために、勇敢にもお手伝いを名乗り出てくださりました。ああ、ご心配なく、終わった後でもみなさんの魔法薬の先生はちゃんと存在しますよ!」

 

とロックハートは高らかに言う。

 

スネイプそれを受け苦虫を噛み潰したような表情になる。

おそらく確実に激怒しているようだが、鋼の精神で堪えているらしい。

 

「お前が消されないといいな?」

 

と刀原が吐き捨てる

 

「どっちもやられちゃえばいいと思う」

 

とはロンの言葉だ。

 

「そうだね」

 

とハリーが同意する。

 

 

そして始まった模範演技。

杖を構えてから、3つ数えたら術をかける、というロックハートの説明があった。

互いに殺す気はないと言い張っているが、スネイプの方はそうでもない。

寧ろ、校長からの指示が無ければ屍にする気満々だと、刀原は推察した。

 

「では行きますよ。1…2…3!(ワン…ツー…スリー! )

 

「『エクスペリアームズ!(武器よ去れ!)』」

 

スネイプの『武装解除』が炸裂し、ロックハートが吹き飛ぶ。

直後スリザリン生から歓声があがり、ロックハートを快く思わない他の寮の生徒からも歓声が上がった。

 

「皆さん分かりましたか?あれが『武装解除呪文』です。この通り、私は杖を失ったわけです。あの術を生徒に最初に見せようとしたのは、素晴らしいお考えだと思いますよ。スネイプ先生、お見事です」

 

上から目線が抜けていないが、今までならさらに余計なことを言っていた可能性は高い。

刀原はそう思った。

 

だがしかし、スネイプには当然ながら尺に触り、ロックハートに向けて殺気を出す。

そしてその殺気が、彼の厚いバリアを貫通してようやく到達したようで…。

 

「それではスネイプ先生、生徒を2人ずつ組にします。お手伝い願えますか…」

 

ロックハートはいそいそと生徒達を組にし始めた。

 

 

 

 

「杖を構えて!私が三つ数えたら、相手の武器を取り上げる術をかけなさい…取り上げるだけですよ!では、1…2…3!」

 

ハリーがマルフォイと組んだ事で、俺はクラッブとゴイルの二人を纏めて相手取ることになったのだが…

 

「やれやれ…『エクスペリアームズ!(武器よ去れ!)』」

 

たっぷり三まで待ったにも関わず、クラッブとゴイルはモゴモゴ言っていた。

最も、彼らに遅れを取るような鍛錬をしている筈もない。

きっちり吹っ飛ばした。

 

だがその他の生徒達の惨状は凄まじかった。

 

まずはハリーとマルフォイ。

どうやら武装解除以外の術を使っていたようで、スネイプに止められていた。

だが当の本人達はお互いに、中々やるな、的な雰囲気を出していた。

 

ハーマイオニーは対戦したミリセント・ブルストロードとキャットファイトと言うべき取っ組み合いの大喧嘩。

 

ロンの杖はやはり暴発して、対戦したシェーマスにひどい貧血を起こしていた。

 

他にも煙が出たり、異臭が出たり。

まさに死屍累々の大広間。

 

スネイプ教授が煙を消したりして対処していたり、ロックハートがあわあわしているうちに、何とか事態は収まった。

 

「さて、数組ほど誰か進んで模範演技をしてくれる組は居ますか?」

 

ロックハートは次に、生徒同士でやって貰いましょうと代表者を募った。

 

しかし、誰も名乗り出ない。

よし。

 

「スネイプ教授。不肖ですが僕ならば手本となれると思うのですが、如何ですかな?」

 

俺が名乗り出れば、ハリーやハーマイオニーも驚いていた。

 

「…よかろう。来たまえ、トーハラ」

 

スネイプ教授は一瞬考えた後、受け入れた。

 

よしよし。

 

スネイプ教授の許可も得た為ジャンプして、先ほどスネイプ教授とロックハートが模範演技した舞台に行く。

 

舞台に降り立ったはいいが、おそらく誰も俺とやりたがらない筈だ。

 

ハリー、ハーマイオニー、マルフォイ。

実際に誰しもが顔をプイッと横に向く。

 

スネイプ教授も周りを見回すが、大袈裟にお手上げといったように肩をすくめた。

 

「しかし困りましたな。トーハラとまともにやれる生徒はここにはいないようだ。どうですかな、ロックハート教授?お相手をして差し上げては?」

 

スネイプ教授は半ばニヤニヤしながら言う。

 

「成る程、確かに闇の魔術の防衛術の教授から、直接ご指南頂けるのは光栄ですね」

 

俺も少しニヤニヤしながら言う。

 

ロックハートは声をあげなかった。

だが顔は青かった。

 

確実に負ける。

先程スネイプに負けた醜態をなんとか誤魔化したばかりだ。

二度目は流石に苦しいだろう。

 

そんなことを思っているんだろう。

 

今、ロックハートは頭の中で状況の打開を図っているのだろう。

そして少し考えた末…。

 

「いやいや、ここはスネイプ先生に譲りますよ」

 

スネイプ教授に擦り付けることを閃いたらしい。

 

だが、それこそが俺の目的だ。

 

「…では、スネイプ教授。是非とも御指南をお願い致します」

 

ロックハートから擦り付けられ、俺は元からそのつもりだったことを悟ったのだろう。

スネイプ教授は今日一番の苦い顔をして一言、「……よかろう」と言った。

 

しかしすぐさま鋭い眼付きになり、舞台の中央に向かってくる。

 

「いいぞ、そう来なくっちゃな」

 

俺はボソッとそう呟きながら、ヤマナラシの杖を右手に持ち、中央に向かう。

 

スネイプ教授…いやスネイプは杖を顔の中心に掲げ、また下に下ろす。

そしてお辞儀をする。

いわゆる英国流ってやつか。

 

郷に来ては郷に従え、と言うが…。

 

俺は杖を掲げず、常に下げたまま「グリフィンドール生、刀原将平」と名乗りお辞儀をする。

しかしお辞儀をしながらも相手は見続ける。

 

「あれが日本のやり方か…」

 

誰かが言う。

決闘の前に名乗るのは流儀だからな。

 

さて。

 

双方いい感じの距離を取り、構える。

スネイプは杖を上から下ろすように。

 

対して俺は杖を正眼に構える。

ついでに霊圧も上げる。

さらに刀を構えたようなイメージを出す。

 

ピクリとスネイプが動く。

それじゃまずは軽い挨拶と行くか?

 

スネイプに対して霊圧と、切ったと言うイメージを叩き込む。

昔、やち姉に散々やられた技だ。

 

直後スネイプがガクンと動き、自身の右肩をなぞる。

だが右肩には何も無い。

当然、血も出てなんか無い。

 

俺はニコッと笑う。

 

なお、防がれなかったと言うことは。

実際に切れる可能性が高いらしい。

これもやち姉に教わった事だ。

 

スネイプは僅かに表情を変える。

そして…。

 

「『エクスペリアームズ!(武器よ去れ!)』」

 

睨み合いは不利と判断したのか、ロックハートに打ち込んだ時よりもスピードを上げ《武装解除呪文》を打ってくる。

 

「『プロテゴ!(守れ!)』」

 

だが追いつけるスピードだ。

《防御呪文》で防ぐ。

 

「『エクスペリアームズ!(武器よ去れ!)』」

 

「『プロテゴ!(守れ!)』」

 

だがお返しの《武装解除呪文》は防がれる。

流石だ。

 

「『インペディメンタ!(妨害せよ!)』」

「『プロテゴ!(守れ!)』」

 

妨害呪文に…

 

「『ステューピファイ!(失神せよ!)』」

「『プロテゴ!(守れ!)』」

 

失神呪文。

 

スネイプと俺との呪文の応酬は泥沼化した。

だが、そこはホグワーツの教授。

 

バシッ!

無言呪文を打ってきた。

 

バン!

ならばこちらも無言呪文で防ぐ。

 

だが、手数と練度はあちらが上だ。

 

「ちぃ!」

こっちが防戦一方になって来やがった。

つーか早ぇ。

 

攻撃が出来ねぇスピードだ。

こりゃあ本気にさせたか?

 

だったこっちも解禁だ。

出すつもりは無かったがな。

 

「両断せよ!『斬刀』」

 

鯉口を切りそのまま左手の逆手で斬魄刀の斬刀を抜き、擬似始解する。

名前の略称なので、斬魄刀の能力は使えない。

だが刃を出せば良い。

 

「よいしょっとぉ!」

 

そのまま体を回転させ、逆手で斬撃を放つ。

スネイプは一瞬戸惑ったが…

 

「『プロテゴ・マキシマ!(完全防御せよ!)』」

 

直ぐに防ぐ。

まあブラフだがね。

 

逆手から順手に持ち替え、右手に杖、左手に斬刀を持つ体勢にする。

 

ビシッ!

無言で武装解除しにかかるが。

 

バスン!

当然防がれる。

 

ビシッ!ビシッ!

直後、スネイプが猛烈な二連を打って来るが、

 

パシュン!パシュン!

と左手の斬刀で切り裂く。

 

スネイプは目を見開き、益々打ち込んで来るが…

パシュン!パシュン!パシュン!

俺の剣技に隙はない。

 

そしてジリジリと斬刀で防ぎながら接近する。

当然間を縫って《妨害呪文》や《武装解除呪文》を打ち込む。

 

スネイプも防ぎながら打ち込んで来るが、最早手数の差は無くなった。

さらに崩す為に鬼道も解禁する。

 

「破道の四『白雷』!」

 

「ッ!『プロテゴ・マキシマ!(完全防御せよ!)』」

 

白雷は惜しくも防がれるが、体勢を崩すことには成功する。

 

バシッ!バシッ!パシュン!

 

スネイプが打ち込んで来たタイミングで打ち込む。

打ち込まれた呪文は切り裂く。

 

そして俺が打った《武装解除呪文》は命中し、スネイプの杖が飛ぶ。

その隙は逃がさない。

一気に距離を詰める。

 

そしてスネイプの首元に斬刀を突きつけた。

 

「……見事…だな」

 

苦い顔をしたスネイプの敗北宣言を受け、俺は勝利した。

 

だが使うまいと思ってた斬魄刀を抜き、鬼道も使った時点で、俺はある意味敗北していた。

それは西洋魔法だけの勝負なら、スネイプ教授が優っていたと言う事だ。

 

「まだまだ鍛錬が必要だな、俺は…」

 

俺は斬魄刀を収めるながらそう思った。

 

しかし、少し疲れた。

それはスネイプ教授もらしい。

大きく肩で息をしている。

 

俺もフゥーっと息を吐き、ハリーの元へ戻る。

 

「これ以上強くなってどうするの?」

 

ハリーが聞いてくる。

やべ、声に出てたか。

 

「あと…あれって模範演技でしょう?ハイレベル過ぎて模範にならないのだけど?」

 

ハーマイオニーがおずおずと聞いてくる。

周りを見れば、ロンもマルフォイも頷いていた。

 

「や、やっちまった…」

 

二学年生に唱えてないのに出る呪文(無言呪文)をやれと?

あと斬魄刀は君しか持って無いよ?

鬼道なんか使えないよ?

 

こう言われている気がする*3

やらかしたことを、俺は悟った。

 

 

 

 

 

「では次はポッター、ウィーズリー、どうだね?」

 

刀原対スネイプの対決で出来た余韻も過ぎ、半ば空気となっていたロックハートが手を叩きながら言う。

 

「待て、ウィーズリーの杖では簡単な呪文でも惨事を起こす。ポッターを粉々にして医務室送りにしかねない」

 

刀原はスネイプの一見辛辣な言葉に激しく同意した。

先程のシェーマス然り、蛞蝓の件然り。

暴れ柳によって大破したロンの杖はセロハンテープで杖の形を留めていたが、もはや正常な動作をしなくなっていたのだ。

 

正直、危険物になっていた。

 

「代わりに…マルフォイではどうかな?」

 

そうこうしているうちに、スネイプはハリーを負かす相手としてマルフォイを選んでいた。

ここの所、マルフォイが言った穢れた血という発言以外、ハリー対マルフォイの小競り合いは無かった。

まあ、先ほど決闘の練習相手同士だったが。

 

「さっきの決着と行こうか、ポッター」

「望むところだ、マルフォイ」

 

クィディッチ戦はハリーが勝った。

さっきの練習は引き分けた。

 

「…フッ、良い好敵手の関係みたいだな」

 

このまま友人関係になってくれれば俺としても楽なんだが。

刀原はそんなことを思いながら同級生の練習を見た。

 

 

結果から言えば、ハリーとマルフォイの決闘は引き分けに終わった。

最初は二人とも武装解除呪文を使用していたが、熱くなったのだろう、次第に鼻呪い呪文や歯呪い呪文、くすぐり呪文などを使い始めた。

決闘は刀原対スネイプの時と同様に泥沼化したが、事態は簡単に動いた。

 

「『サーペンソーティア!(蛇よ出でよ!)』」

 

マルフォイが蛇を召喚したのだが、その肝心の蛇がハリーではなく周囲の生徒達を威嚇し始めたのだ。

 

「動くなポッター、マルフォイ。我輩が追い払ってやろう」

 

マルフォイ(召喚者)ハリー(対戦相手)では対処できないと判断したのだろう。

スネイプがそう言って前に出てきたが、ここで要らない仕事をしようとしたものがいた。

そう、ロックハートである。

 

「私にお任せあれ!『ヴォラーテ・アセンデリ!(蛇よ、去れ!)』」

 

珍妙な呪文を唱えたロックハートだったが、盛大な音と共に蛇を浮かせて叩きつけただけで終わった。

当然ながらなんの解決にもならず、蛇はブチギレモードになった。

 

そして蛇はシューシューと威嚇して、近くにいたジャスティン・フィンチ=フレッチリーに目掛けて襲い掛かろうとした。

するとハリーがおもむろに蛇に近づき、何やら囁き声みたいにシューシュー言いだした。

 

語りかけているようにも見えたが、傍から見れば操ったり嗾けている様にも見えた。

 

兎にも角にも蛇はジャスティンを襲うことは無く、動きも止めて大人しくなり、最終的に我に返ったのスネイプの呪文で消えた。

 

かくして決闘クラブは何とも言えない空気のまま、お開きとなった。

 

 

 

だが問題はそう簡単では無かった。

蛇を嗾けられたと解釈したジャスティンが怒って出て行き、困惑した様子のハリーもロンやハーマイオニーに引っ張られて出て行った。

 

距離があったため、三人に置いて行かれた恰好となった刀原は壇上で立っているマルフォイと話したのだが。

 

「ふうん、ハリーはパーセルマウスなのか…」

 

「まさかポッターが…」

 

マルフォイも困惑していたのだ。

 

パーセルマウスは蛇と会話することが出来るという能力、パーセルタングの持ち主のことだ。

当然ながら基本的先天性の為パーセルマウスは希少で、数は少ない。

 

そして有名なパーセルマウスはサラザール・スリザリン。

つまり、昨今話題になっている継承者がハリーだと疑われる、ということになる。

 

「マルフォイ、一応聞くが…継承者はお前か?」

「ち、違う。断じて違う。信じてくれ」

 

刀原は霊圧を出しながらマルフォイに聞くが、マルフォイは怯えながらも刀原の目を真っ直ぐに見ながら言う。

 

刀原は直感だが、嘘は言っていないと判断した。

 

「分かった。なんかあったりしたら教えてくれ。今は少しでも情報が欲しい」

「わ、分かった」

「頼んだ」

 

マルフォイにそう言うと、刀原は未だざわつきが収まらない大広間を後にして、ハリー達と合流するために移動した。

 

 

移動した先…グリフィンドールの談話室にハリー達はいた。

ロンやハーマイオニーは、パーセルマウスがどんな対象として見られているのかを理解していないハリーに説明している最中だった。

 

「パーセルマウスって日本にはいないの?」

 

英国では珍しいと言っていたハーマイオニーの言葉を聞き、ハリーは刀原に訴えるように聞くが…。

 

「分からん」

 

と刀原は答えた。

 

「良く白蛇と一緒にいた奴が後輩にいたんだが…。接点は無いし、無口な奴らしいから、其奴がパーセルマウスなのかは分からない」

 

現実は非情だった。

ハリーはがっくりと項垂れる。

 

刀原やハーマイオニーは、ハリーが継承者の恐れ有りとの疑いがかかるかもしれない、と伝えた。

そしてそれは間違いではなく、翌日からハリーは数奇な目と、疑いの目で見られるようになった。

つまり、第一発見者だという事でただでさえ微妙だったハリーの立場がさらに悪化したのだった。

 

 

ハリーの不幸は更に続く。

 

決闘クラブで悶着があったジャスティン・フィンチ・フレッチリーとゴーストの『ほとんど首無しニック』が襲われ、石にされたのだ。

 

しかもハリーは今回も第一発見者となった。

ホグワーツの生徒達は、その理論に重大な欠点があるにも関わらず、ハリーを継承者と断定したのだった。

 

 

 

 

 

奴さん(継承者)はハリーを犯人に仕立て上げるのが目的なのか?」

 

「ショウはそう思うのかね?」

 

恒例となりつつあるダンブルドアとのお茶会兼捜査会議において、刀原は疑問を投げかける。

 

「いや…そんな事しても意味がないはずです。ハリーは仮にも闇の帝王を退けたと言われている訳ですから。 しかも彼はグリフィンドール生。スリザリンの継承者とは真逆にいる者の筈…。捜査の撹乱でしょうか?」

 

「じゃとしたらお粗末じゃの」

 

「そうとしか言えませんね…」

 

うーん、と刀原は考え込む。

今日のお茶として出した日本の緑茶はダンブルドアに好評で、お茶受けの羊羹もダンブルドアは嬉しそうだった。

 

そんな暖かかった緑茶もとうに冷めても刀原は長考していた。

ダンブルドアも刀原の思考に邪魔しないようにと静かだった。

 

「50年前の事件…。犯人はハグリッド。怪物の正体はアクロマンチュラ。動機…不明。被害者…マートル・ワレン。ん?マートル?」

 

刀原は何処かで聞いた事のある名前を聞いてみれば。

 

「嘆きのマートル、彼女じゃよ」

 

ダンブルドアが嘆きのマートルだと言う。

 

「ああ、それでゴーストに…」

 

無念だろうな、そりゃ。

刀原は心の中で合掌した。

 

 

「スリザリンの部屋…スリザリン、蛇、怪物の候補は?」

 

「すまん、分からんのじゃ。石にする能力を持つ蛇はあんまりおらんらしい」

 

「石、余りいない、か……。被害者の周りは?持ち物は?猫は周囲が水浸し。コリンは周りは何も無いが、カメラを持っていた。なおカメラは壊れていた。ジャスティンは?周りは何もなく、持ち物も特になし。ゴースト…ゴーストは半透明…。統一事項は?見る。成る程な…」

 

「ショウ?何か分かったのかの?」

 

「なんとなく、ですが。怪物を見たら石になる…いや、()()()()()()()()()()()()()()()()()。それが怪物の能力ですね。となると、怪物の正体は…」

 

 

「「バジリスク」」

 

「じゃの」

 

「ですね」

 

だが怪物の正体が分かっても、根本的解決にはならなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
ちゃんと断った

*2
呆れてもいた

*3
大正解である




感の良い主人公は嫌いだよ。

思ったんですが、この主人公って真っ先に狙われませんかね?
実力、推理力、真っ先に消したい奴の筈です。
作者が継承者ならそうします。

ああ、でもそうすると…おしまいですね。
小説的にも。
命的にも。


感想、考察、意見。
ありがとうございます。
そしてお待ちしております。

作者の都合により、更新が二週間に一回のペースになってしまいますが。
何卒ご容赦を。

では次回は
事態急変
次回も楽しみに


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死神、部屋に突入する。事態急変


我が眼を見よ。
我が牙を受けよ。

継承者の敵よ。

覚悟せよ。





 

刀原の2年目のクリスマス。

ホグワーツの生徒のほぼ全員が帰宅した。

 

ハロウィーンにミセス・ノリス。

クィディッチ戦の夜にコリン・クリービー。

そして決闘クラブの後日、ジャスティン・フィンチ・フレッチリーと「ほとんど首無しニック」が石になったというニュースは、ホグワーツに更なる混乱と混沌を招いた。

 

そして秘密の部屋の怪物が徘徊しているのだ。

怪物の正体はバジリスクである可能性が高い、との発表がダンブルドアからなされたが、それがどうしたということだろうか。

とにかく、帰宅者が激増するもの仕方ないだろう。

 

 

ハリーは決闘クラブの一件以降、完全に容疑者扱いとなっており、彼を見る目はかなり厳しいものだった。

 

そんなハリー達三人の切り札はポリジュース薬。

これでマルフォイに聞くんだ!とロンは息巻いていたが、真実が聞けるかは不明な所だ。

 

「幸運を祈る」

 

刀原はそんな彼らの為に、睡眠薬を練り込んだカップケーキを作成し、クリスマス当日に手渡した。

 

今までポリジュース薬作戦に余り協力的では無かった刀原の意外な援護に驚きつつ、三人は作戦を実行した。

 

ハリーはゴイル、ロンはクラッブに化けたポリジュース作戦は戦術的失敗…すなわちマルフォイが継承者ではなく、加えて僅かな情報しか得られないという結果に終わった。

 

 

なお、ハーマイオニーは猫の毛を入れたポリジュース薬を飲み、医務室送りとなった。

ドンマイ…

 

 

 

クリスマス休暇も終わり、ホグワーツには暫しの平穏の毎日が続いた。

そしてとあるニュースが校内中に発表された。

それはもうすぐマンドレイクが収穫できるという素晴らしいニュースで、今までピリピリムードだった生徒達を一安心させた。

そして警戒のネジも緩んだ。

 

ロックハートなどはその典型だった。

 

戻って来なければ良かったノーてんきぶりを発揮した彼は、大広間をピンクでけばけばしく飾り立て、本来は慎ましく行うはずの恋のイベント…バレンタインをお祭りにしようと企んだらしい。

本人がキューピッドと命名した羽をつけた小人を学校中に派遣し、授業に乱入してはバレンタインカードを配っていた。*1

傍迷惑極まりない行為だった。

 

 

そんなある日、ハリーが謎の本を持ってきた。

マートルがいるトイレに落ちていたというその本は、文字を書き込めばなんと返事を返すだけでなく、過去に開かれた秘密の部屋の事件の当事者で解決した者が書いた日記らしい。

記入者の名はトム・リドル。

刀原がダンブルドアから貰った事件資料にも書かれていた名前だ。

 

検知してみれば結構な霊圧を持ったその本はとても怪しく不気味であり、刀原はハリーにさっさと処分しろと言った。

対するハリーやロンはこの本に秘密の部屋をめぐる案件の鍵を握っていると判断し、処分より活用をするべきだと言って譲らなかった。

 

最終的にハリーがその夜、日記に事件の事を聞く事で合意した。

但し、刀原はハリーに偽名を使えと言っておいた。

 

そして翌朝、ハリーは日記で見たと言うハグリッドとトム・リドルの事について報告してきた。

事前にハグリッドが当時の犯人であることを知っていた刀原も含め、四人はハグリッドを信じる事にした。

 

そして日記の役目は終わりだと判断した刀原によって処分されかけた日記だが、あろうことか持ち主のハリーの元から盗みだされたらしい。

しかし、それを重く見ていたのは刀原だけだった。

 

 

来年の話もやって来る。

三年生からは選択授業が始まるのだ。

刀原は悩んだ末、魔法生物飼育学と古代ルーン文字学、占い学を選んだ。

 

ハリーとロンは生物飼育学と占い学だけだが、ハーマイオニーはなんと全部取ることにしたらしい。

明らかにオーバーワークだ。*2

逆転時計(タイムターナー)でも使うのだろうか。

過労死しなければ良いが…。

刀原は来年のハーマイオニーを心配した。

 

 

ホグワーツ内に流れる平穏な空気。

だが継承者も部屋も見つかっていないのは変わらない為、ホグワーツに発令中の非常事態宣言は今だ有効だった。

 

そして被害者が四ヶ月間出ていない事で緩みきったホグワーツの生徒に、冷や水をかける事件が起きる。

新たな被害者が二人も出たのだ。

 

一人はペネロピー・クリアウォーター。

そしてもう一人の名を聞き、クィディッチの試合直前だったハリーや、応援席にいたロン。

そして図書館にて、つい先程被害者と別れたばかりの刀原を愕然とさせた。

何故ならもう一人は、ハーマイオニーだったからだ。

 

 

 

先日まで流れていた平穏な空気など彼方へと飛ばし、ホグワーツにはこれ以上ないほどの厳戒態勢が敷かれることになった。

ダンブルドアは、頭脳明晰なハーマイオニーと生徒の中で最高戦力と言える刀原の両方を狙ったのではないかと考えたらしい。

 

その為刀原に日本へ帰国するかどうかを問うてきたが、刀原は最後の最後までいると伝えた。

 

「目の前で友人に手を出された以上、泣き寝入りなど後免被りたい。第一、このままでは腹の虫が収まりませんので」

 

だが結果的に、ダンブルドアとのお茶会は無くなった。

 

 

刀原には怪物の正体が分かってはいたが、真犯人と部屋の場所が不明だった。

その為ハグリッドに事情を聞くため、ダンブルドアと英国魔法省大臣コーネリウス・ファッジ氏がハグリッドを捕縛し連行する際に同行を求めた。

 

ファッジ氏はかなり難色を示したが、ダンブルドアのお墨付きと…

 

「日本魔法省から小言を言われたくないでしょ?」

 

と言う刀原の卯ノ花直伝の笑みによって許可した。*3

 

小屋にはハグリッドと見知った霊圧が二つあったが気にしない。

ハグリッドは当然ながら無実を訴え、ダンブルドアも庇い、刀原もハグリッドがどうやって石にするのかと問うた。

だがひっくり返す事は叶わず、ハグリッドは英国魔法界の監獄であるアズカバンに行くことになった。

 

だが、話はまだ終わらない。

 

ホグワーツの理事だと言うルシウス・マルフォイ*4が現れ、ダンブルドアの停職を言い渡したのだ。

 

「ダンブルドア校長を解任したところで事態は解決しませんよ?むしろ悪化させるだけ。事件がまだ起こっているのに最高責任者兼最高戦力が追い出されるとは…。やれやれ、これは信頼に関わりますよ?日本魔法省や護廷十三隊は抗議するでしょうね」

 

刀原がそう言えばファッジ氏は震え、マルフォイパパも顔が青ざめる。

だが、

 

「た、他の魔法界には不干渉が鉄則*5。抗議しても結果は変わりませんよ?日本の少年」

 

と、刀原にとっても痛い所を付かれる。

流石に国際問題に発展させる事は避けたい。

だが退くわけにもいかない。

 

顔をひきつらせながらも威厳たっぷりに言うマルフォイパパと、卯ノ花直伝のにこにこした笑み(目が笑ってない笑み)の刀原との睨み合いは、ダンブルドアが「理事が退陣を要求するなら仕方がない」と言って終わった。

 

「わしが本当にこの学校を離れるのは、わしに忠実なものがここに一人も居なくなったときだけじゃよ。それと…ホグワーツで助けを求める者には、必ずそれが与えられる」

 

ダンブルドアは毅然と言い放つ。

その目は間違いなく見知った霊圧がある位置、透明マントで隠れているハリーたちの方を向いていた。

 

ハグリッドは「蜘蛛を追いかけろ、あとファングに餌をやってくれ」と言い残す。

 

まずはダンブルドアが小屋を出る。

ハグリッドも続こうとするが…、

 

「ハグリッド、ちょっと待て」

 

刀原が呼び止める。

うん?と聞き返すハグリッドに背後から近づく。

 

「アズカバンとやらはひどい場所らしいからな。お供に連れていくといいと思ってね」

 

そう言うと刀原はハグリッドの背中に杖を向ける。

 

「『エクスペクト・パトローナム(守護霊よ来たれ)』」

 

そして刀原の守護霊たるハヤブサが、ハグリッドの周りを一回ほど旋回して取り憑く。

 

よろしく頼むぞ、ライ。

刀原は全幅の信頼を置いているペットのライに似た守護霊に、ハグリッドを託したのだ。

 

「ありがとうな、ショウ」

 

「無事を祈る、ハグリッド」

 

そうやり取りをし、ハグリッドは小屋を出た。

ファッジとマルフォイパパも一緒に出ていき、残ったのは刀原と…。

 

「ま、不味い事になったよ…」

 

顔を青ざめたハリーとロンだった。

 

「大変だ…ダンブルドアがいなくなった。今夜にも学校を閉鎖したほうがいい……」

 

ハグリッドがアズカバンにドナドナされ、頼りのダンブルドアは居ない。

かくしてホグワーツに最大の危機が訪れた。

 

 

ハグリッドはともかくとして、ダンブルドアが居なくなった事は、ホグワーツにとって最悪のシナリオだった。

迫って来る季節は初夏の筈だが、校内はどこもかしこも警戒心と恐怖心で満ち溢れ、真冬に戻ったようだ。

 

そんな中、ハリーとロンは刀原が静止する前に、ハグリッドの助言通りに禁じられた森へ蜘蛛を追いかけていった。

 

そして前回の事件で怪物の正体となったアクロマンチュラとその群れと接触らしい。

アラゴグと名乗ったらしいそのアクロマンチュラの長は、ハグリッドとは友人だがハリー達は違うと言う理論でハリーとロンに襲いかかったらしい。

 

「「ひどい目にあった……」 」

 

ウィーズリー家の空飛ぶ車と言う伏兵によってアクロマンチュラの晩餐にならずにすんだハリー達は、心身共に疲弊しながら刀原に泣きついた。

 

「ハグリッドめ、絶対許さないぞ…蜘蛛を追いかけろだなんて。僕達はあともうちょっとで奴らの晩飯になるところだったんだ!」

 

「きっとハグリッドは、アラゴグが自分の友だちは食べないと思ったんだよ…それに少なくとも、秘密の部屋に関しては無実だったってことがわかった」

 

ハリーはそう言うが、ロンは怒ったままだった。

 

 

刀原はロンを宥めがならこう思った。

 

怪物の正体はバジリスクの可能性が高いって、ダンブルドアが言わなかったっけ?

ハリー達の行為って、もしかして無駄だったのでは?

あと、何で俺に聞かないんだ?

 

喉にから出かけたその言葉は飲み込んだ。

理由はあまりにも可哀想だからだ。

 

 

 

ハリーとロンも含めてだが、生徒達は秘密の部屋にばかり関わっているわけにもいかなかった。

代理で校長を務めているマクゴナガルが「一応言っておきますが、期末試験はありますので」と宣言したからだ。

 

こんな情勢下なのにやるのかと刀原は思ったが、ここホグワーツが学舎であることは否定出来ない。

 

そしてこんな情勢下なのに(非常事態宣言中なのに)と言う思いは生徒共通らしく、生徒達は大慌てでテスト勉強を行い始めた。

 

ハリー達には問題が出来た。

今年は頼もしいハーマイオニーが居ないのだ。

よってハリー達は刀原に駆け込んだ。

その刀原だが、大問題が起きていた。

 

ハリーやロン、ネビルと言ったグリフィンドールの面々は勿論、何故かマルフォイ率いるスリザリンの一部も含めた二年生の一部が駆け込んで来たため、全く首が回らなくなった。

 

「何でこんなことになった?」

 

理由は単に刀原が去年と今年でやっていた全方位親切が、この結果を招いただけだ。

 

「オメーら全員、今年何やってたんだ?」

 

もう一つの理由としてロックハートの杜撰な授業だ。

大袈裟で分かりにくいロックハートより、スネイプと互角以上に渡り合える刀原なら分かりやすく教えてくれるだろうとの見積りだ。

 

ハーマイオニーが居ればグリフィンドールの面々を任せられたが彼女は居ない。

 

そして刀原はやっぱり結局は日本人だった(頼まれたら断われない人)

 

「ったく、しょうがねぇな。防衛術だけだぞ!」

 

かくして空き教室を使った一日だけの講義が開かれた。

 

刀原が申請を出したためマクゴナガルも顔を出したこの講義は、重要ポイントを噛み砕いて教えたものだった。

だがなかなか良かったらしく、ロックハートより百倍良いという評価を貰った。

 

 

 

 

 

現在の情勢下は鍔迫り合いのようだと思っていた。

そして此方が押し返すかのような朗報がテストの数日前にあった。

マンドレイクがとうとう収穫できるということだ。

つまり石になった人たちが元に戻るという知らせに、学校中が湧いた。

 

だが此方が押すのなら向こうも押すのが鍔迫り合いというものだ。

そしてそうであるように、石になった人たちが元に戻る事になったその日、事態は大きく動いた。

マクゴナガル教授が生徒たちにそれぞれの寮に戻るように、そして教授陣は職員室に集まるように促す声が響いたのだ。

 

「秘密の部屋と呼ばれるものの中に、グリフィンドールの一年生、ジニー・ウィーズリーが連れ去られました」

 

グリフィンドールの談話室にて集合した俺達に待ち受けていた報告は、最悪のシナリオだった。

 

「…明日の朝一番に、ホグワーツ特急を出します。…こうなったらみなさんを家に帰すしかありません」

 

「マクゴナガル教授…」

 

絞り出すように声を発したマクゴナガルの心中を察し、一声かける。

何せ自身の寮生を守れなかったうえ、ダンブルドアの留守も守れなかったのだ。

かなり辛いだろう。

 

「…ミスタートーハラ、貴方は特急には乗らず留まって下さい。貴方の師に連絡をしましたら迎えを出すとのことで」

 

「ゲッ……。了解しました」

 

マクゴナガルは最早隠せぬと思い、日本にいる師匠達に連絡をしたらしい。

心配性な重じいの事だ。

もしかしたら自ら乗り込んで来るかも。

ヤバイ……。

 

「今までホグワーツに居てくれたこと、感謝しています。貴方の師から黙っていたことを咎められたら、私が庇いますよ」

 

それはありがたい。

 

「ありがとうございます。此方もお役に立てずすみません…」

 

事件も解決出来ず、ハーマイオニーの仇も打てんのか。

 

「気に止むことはありません。貴方がアルバスと対策や推理をしてくれたのは本当に有り難かったです」

 

そう言ってくれるのは嬉しいのだがな…。

 

そんな中、お通夜状態の談話室から抜け出す見知った霊圧が二つ。

言わずもがな、ハリーとロンだ。

彼らが向かう先は職員室。

情報収集だろうか。

 

俺はなんとしても犯人にグーパンを叩き込むべく、彼らをこっそり追いかけた。

 

 

 

 

ロックハートは逃げるべく自室で準備していた。

自らが英雄などではなく、ただの作家で、手柄を横取りしているだけだと言うことを理解していたからだ。

 

だが先程、職員室にて要らないことを言ったばかりに、そのツケを払う事になった。

怪物退治とジニー・ウィーズリーの救出だ。

出来る筈がない。

 

故に彼は荷物をまとめていたのだ。

その為、彼をつけて来る生徒三人に気がつかなかった。

 

「死する運命を感じ取って、自ら荷物をまとめるか。自分亡き後、迷惑にならぬようにかな?」

 

「ビクッ!ミ、ミスタートーハラ…」

 

ロックハートの目は凍りついた。

明らかに今から死地に赴かんという教師の顔では無く、聞いた本人…刀原もそんなこと、微塵も思ってないからだ。

 

「あの、ロックハート先生?どこかへ向かうのですか?」

 

「…緊急に呼び出されてですね…仕方なく…行かなければ」

 

ハリーの問いにロックハートが暫く黙ったのち、誤魔化す様に言う。

 

「僕の妹を見捨てて去るっていうんですか!」  

 

嘘を言うロックハートに、ロンが怒って言った。

ロックハートは目をそらせながら自分の荷物を片付けていく。

「…まったく気の毒なことだ。誰よりもわたしが一番残念に思っている……」

 

「じゃあ逃げ出すって言うんですか!? 本に書いているような、いろんなことをなさった先生が!?」

 

「そりゃあ、誰も怪物を倒してくれなくて、その手柄を横取りできなかったからな」

 

刀原はハリーの言葉に返答するかのように言う。

 

「…ミスタートーハラ…」

 

ロックハートは更に顔を青ざめさせ、ハリー達はどう言うことだと聞いてくる。

 

「単純なことだ。本の質は高く勲章を貰うほどだが、決闘クラブでの失態や授業の質は低い。つまりこの人は腕の良いただの作家なんだよ。それ以上でもそれ以下でも無く、ましてや英雄なんかではないって事だ」

 

「それじゃ、先生は…他の人達がやったことを、自分の手柄になさったんですか?」

 

ハリーが半信半疑と言った感じでロックハートに尋ねた。

ロックハートは完全に蛇に睨まれた蛙のような状態になっていた。

 

「そんなに単純な仕事ではないですがね……。そういう人達を探して、どうやったのかを聞く。それから忘却術をかける。そしてマネジメントもする。上手いように本も書く……大変な仕事ですよ」

 

ロックハートの最初の授業後、刀原が推察し、聞き、そして正解と言われた内容をロックハートが自ら言う。

 

「さてと……皆さん、特にジニー・ウィーズリー嬢には気の毒ですが、」

 

ロックハートが徐に話す。

既に荷物は粗方片付いていた。

 

今更忘却術でもかける気か?

刀原は悟られないように身構えるが要らなかった。

 

「そもそも怪物と戦うなんて、教師の契約の範囲外だ。私は去らせて貰う」

 

ロックハートはそう言って荷物を持つ。

 

「な、ちょっと、」

「待てハリー、行かせてやれ。」

 

ハリーはロックハートを止めようとするが、刀原がそれを止める。

刀原とて二人の気持ちが理解出来ない訳では無い。

だが、時間が惜しい。

 

「どうして?」

 

「奴に構っている暇は無い。それに、確かに契約の範囲外だと思うしな。おまけに荷物を抱えこんでる場合でも無い」

 

ぶっちゃけ邪魔になるだけだ。

と言う刀原の言葉にハリーとロンは納得する。

 

「……ミスタートーハラ」

 

「さっさと、何処へなりとも行きなよ」

 

「……失礼する」

 

ロックハートはそう言って部屋から出て行った。

部屋は閑散とし、夜逃げのように何も無かった。

 

 

 

刀原が長い事悩んでいた秘密の部屋の場所について、ハリー達は心あたりがあるらしい。

そう言ってやってきたのはマートルがいる女子トイレだった。

 

「おいおい、まさかこんなとこに?」

 

刀原とて唯一の死者が出た(マートルの住まいの)この場所は怪しいと踏んでいたが、秘密の部屋などという仰々しいものがこんな間抜けな場所に有るなど思わ無かった。

当然、捜査の対象外だった。

 

マートルがビビって入室を拒否った為、刀原はトイレの前で待っていた。

暫くすると入り口が何処にあるのかの見当がついたらしい。

ハリーが刀原を一つの蛇口に呼び寄せた。

 

「ハリー、何か言ってみろよ、蛇語で。」

ロンがそう言い、ハリーが蛇口に向かってシューシューと蛇語を話す。

すると手洗い台が一斉に動き出し、埃を巻き上げながら外側に進み出た。

そして手洗い台はそこに隠していたもの、太いパイプを露わにした。

 

「まじか…」

 

刀原のがっくりと項垂れる。

 

(アハハ、まだまだっすね〜。色んなこと考えて、可能性を捨てちゃ駄目っすよ?)

 

師匠の浦原の声が聞こえた気がした。

くっそ、言い返せねぇ。

 

そんな刀原の心中を置いていき、ハリー達はパイプ内に突入した。

刀原も当然続いた。

 

 

 

 

事態は動く。

いよいよ解決へ。

 

 

待ってろよ?そして覚悟しろよ?

何処の誰だが知らん継承者とやら。

グーパンだけじゃ済まさねぇからな?

 

ウォータースライダーかのようなパイプ内を進みながら、刀原は斬魄刀を片手に握り拳を固めた。

 

 

そして師匠達がやってくる事を忘れた。

 

 

 

 

*1
刀原にも何故か来たが、無視した

*2
実際に時間が重なっている授業もあった。

*3
刀原は交渉と言ったが、ダンブルドアは恫喝に等しいと言った

*4
ドラコ・マルフォイの父親

*5
魔法界同士の戦争や揉め事を防ぐため、国際魔法条約として定められている





ロックハート先生の次回作にご期待下さい!
再登場の予定は有りませんが。

問題は、原作なら蚊帳の外になる筈のロンですね。
まあ、あてはあります。

感想、考察、ご意見。
ありがとうございます。
そしてお待ちしております。

次回は
バジリスク戦とおまけ
次回も楽しみに



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死神、VSバジリスク。とそのおまけ

刀とは所詮何かを切る道具
それ以上でもそれ以下でもない

これこそ真の刀剣と言える物だ。




右へ左へとパイプの中を流され、たどり着いた先は少し湿っているトンネルだった。

そしてそのトンネルは若干の水が溜まっており、見渡す限りずっと続いている。

おそらくこのトンネルは、ホグワーツ城の地下を網羅するのだろう。

 

おまけに辺りには小動物の骨らしき物がそこら中に散らばっており、その光景を見たロンはガタガタと震えていた。

そして少し歩けば蛇の脱殻の歓迎を受ける。

全長は推定六、七mぐらい。

ハリーとロンはそれを見て、呆然と立ち尽くしてしまう。*1

 

約千年の月日を過ごす毒蛇の王。

刀原は腰にある刀を触れる。

 

(けして躊躇しないで下さいね?私はいつでも準備があります)

 

斬魄刀がそう答えてくれる。

 

ありがとう。

刀原は少しだけ笑みを浮かべた。

 

その後は曲がりくねっているが、一本道のトンネルを終始無言で歩いた。

ただただ静かで、音といえば天井から落ちる雫の音と、水たまりを踏む音だった。

 

先頭を歩く刀原は先程から斬魄刀を左手に持ち、いつでも鯉口を切れる(戦闘が出来る)状態で進んだ。

そして暫く歩くと、蛇の装飾が施された壁と丸い蓋のような扉が目の前を塞いでいた。

 

刀原やロンが何かを言う前にハリーは前に出て、マートルのトイレで聞いたシューシューという音を出した。

おそらく蛇語であろうそれを認識したのか、蛇の装飾が動き、扉が開いた。

遂に秘密の部屋が明らかになった。

 

内部は一本の通路が伸びて、その左右は浅い池のようになっていた。

水は周囲が暗いのもあって黒く怪しげに輝く。

そして池には多くの蛇のオブジェが立ち並び、通路を通る者を威嚇する様な感じだった。

 

正面には巨大な男性の顔の石像が壁と一体になっていた。

一見するとポセイドンのように見えるそれは、まるで魔王のように構えているかのようだ。

 

「いよいよだな」

 

刀原はポツリと言い、更に警戒を強めた。

 

 

 

 

足音を潜めながらゆっくりと通路を通ると、その石像の下に誰かが倒れている、

綺麗で長い赤毛に黒いローブ。

間違いねぇな。

 

「ジニー!」

 

ロンが叫び、ハリーと駆け寄ったがピクリとも反応しない。

 

「死んじゃ駄目だ!」

 

ハリーの悲痛な叫びにも反応はない。

額に手を当てれば氷の様にとても冷たく、肌の色も蒼白だった。

 

完全に死人の様だが、微かに霊圧を感じる。

まだ手遅れではないはずだ。

咄嗟に回道を掛けようとしたが俺達以外の霊圧を感じ取り、中断する。

 

杖を放ってジニーを揺さぶるロンと懸命に声をかけるハリーを脇目に見渡すと、一人の男子生徒が立っていた。

 

「その子は目を覚まさない」

 

声は物静かで、どこまでも冷淡だった。

ハリーもその声に気づいて、そちらの方を見た。

 

「トム・リドル?どうして目を覚まさないって…」

 

ハリーの声は絶望を湛えて震えていた。

 

「これはお前の仕業だな?リドル…だったか?確かお前はハリー曰く単なる五十年前の記憶の筈…。だがそれがこうしている、おまけにその霊圧の大半はジニーの。と言うことは……お前はジニーに自身の魂を埋め込み、乗っ取り、最終的にそれを元に肉体を得た……。だからもうこの子は必要ない、というわけか」

 

俺がそう言えば、ハリーがリドルと呼んだ男子生徒は拍手をしながら、おもむろに転がっていたロンの杖を手に取った。

 

「流石と言うべきかな、君はもう真実にたどり着いているようだね…。素晴らしい、僕の学生時代よりも洞察や推理に長けているようだね、ショーヘイ・トーハラ」

 

「オメェみてぇなクズに言われても嬉しくねぇえよ。本心とも思えん言葉、つらつら並べやがって。褒めてもグーパンの未来は変わんねぇぞ?」

 

「フッ…賛辞は素直に受けるべきだよ。その洞察力、推理力、実力…。あの忌々しいボケ老人(ダンブルドア)と並んで、僕が一番警戒していたのは君だ。だからあの時、君と穢れた血をジニーとバジリスクに襲わせたのさ。まあ、惜しくも君は免れたがね…」

 

リドルは俺を指で指し示す。

 

「成る程、やっぱグーパンじゃすまさねぇ。切る事にしよう、その雁首」

 

「ふふ、その時代遅れの刀…いや、刀の形をした棒切れでかい?」

 

「へぇ、知ってるんだ」

 

「勿論。いずれ僕は世界を統べるんだ*2、当然ながら日本の事も調べてるさ。君の刀は斬魄刀と言って、始解という力を持ってる」

 

「よく調べてんな」

 

「そして君の始解は刃を出すこと。ただそれだけ…なんの力もない…。君の斬魂刀は恐怖に値しない。ジニーから報告を受けているから筒抜けだ……。横のハリーも青ざめてるから真実みたいだね」

 

チラリと見れば、ハリー達は追い詰められたといった顔だった。

 

「………」

(あの野郎、舐めてますね。殺っちゃいましょう)

(待て待て)

 

「図星と言ったところかな?さて、君とのおしゃべりはお仕舞いだ。僕の狙いは君では無いからね…」

 

俺が無言なのを図星だと判断し、リドルはハリーの方を向く。

 

「僕はハリー、君と会いたくてたまらなかった」

 

こいつ男の子が好きな奴なのか?

 

「どうして僕に合いたかったの?」

 

「君と話をしなければと思っていた。だが偽名だったから君を信用させる為、間抜けなハグリッドを捕まえた場面を見せた。だが信じてはくれなかったみたいだね」

 

そりゃそうだ。

俺もハーマイオニーもそんな怪しい日記とハグリッド、どっちを信用するんだ?と聞いたからな。

 

「お前がハグリッドを嵌めたんだな……」

 

ロン、正解だ。

 

「ああその通りさ、そしてみんなが僕の方を信じた。ダンブルドアだけは違ったが……。だから在学中にもう一度部屋を開けるのは危険だと思い、開けられなかった。そして僕は記憶を日記に封印し、後世に託した。サラザール・スリザリンの崇高な仕事を完遂するためにね」

 

「…だけどあと数時間もすればマンドレイク薬が完成するし、誰一人として殺すことが出来なかったじゃないか」

 

そーだ、そーだ!

言ったれハリー!

 

「ふふ、忘れてしまったのかい?()()()()()()()()()()()()()()()()。穢れた血を殺すことなど目的では無くなっていたんだよ。ここ数ヶ月の間、僕の目的は君だった。ハリー・ポッター」

 

「僕?」

 

「ハリーを?」

 

「そうだ。特にこれと言って特殊な魔力も力も無いただの赤ん坊が、如何にして偉大な魔法使いを破ったんだ?何故、その傷だけで済んだんだ?ヴォルデモート卿を、何故君は破れた?」

 

こいつまさか。

その可能性は考えていたんだが……。

 

「ヴォルデモートはお前よりも後の人間だろ?」

 

「…違うぞロン。時系列的に、ヴォルデモートが暗躍する前の時代にリドルは学生だった。つまりこいつは……ヴォルデモートの学生時代なのさ」

 

「フハハハ、やっぱり君は頭がよく回るね。その通りさハリー、赤毛のおまけ君も*3。偉大なる魔法使い、ヴォルデモート卿は僕の過去であり、今であり、そして未来だ」

 

リドルはそう言うと自身の名前を空中に書く。

 

Tom Marvolo Riddle(トム・マールヴォロ・リドル)

 

直後文字を並び替える。

 

I am Lord Voldemort(私がヴォルデモート卿だ)

 

 

 

「nanntekotta…」

 

「今なんて言った?」

「ショウ?」

「英語でお願い」

 

「なんてこった…」

 

「状況が飲み込めたみたいだね」

 

リドルが勝ち誇ったかのように言う。

 

「やっぱり、偶然の産物じゃ無かったのか……」

 

「なに?」

「え、どう言う事?」

「ショウ?」

 

俺は持っていたとあるノートを取り出して見せる。

そこには日本語で『秘密の部屋事件 関連資料』と書いてあった。

 

「ハリー達には口止めされてたんで言わなかったが、実は最初の事件からダンブルドアと俺とで事件の捜査をしていたんだ」

 

「深夜のお茶会じゃ無かったの?」

 

「お茶会をやっていたのは事実だよハリー。さて…お茶会のついでにやっていた捜査の際、参考資料として貰った資料を日本語で模写したのがこれだ」

 

「確かにそれ、今年よく見てたやつだ」

「なんで日本語?」

 

「読まれても良いように」

 

「「成る程」」

 

「さっき言った通り、これにはダンブルドアから貰った資料の内容が書いてある。当然だが、犯人、被害者、解決させた者の名前も書いてある。すなわち、犯人ルビウス・ハグリッド。被害者マートル・ワレン。そして解決したトム・マールヴォロ・リドル」

 

「それが一体なんだって言うんだ!」

 

「リドル、こん中で怪しい奴はお前しか居なかったんだよ。何故なら書類上では優秀な生徒が探偵役だったら、アクロマンチュラを怪物だなんて特定しないからだ。スリザリンの怪物が蜘蛛な筈無いし、マートルの死因が毒でも牙でも無かった*4からね」

 

「でも、探偵が犯人だなんて考えないんじゃ?」

 

「それは小説とかだったら適応する法則だろうな。まあ、それは置いておいて。さっきロンに言った様に、ヴォルデモートが悪さし始めた時期と、怪しい探偵のリドル少年がいた時期は一致する。そして両者の名前のアルファベットがほぼ一致した。そこでそれをを弄ったり入れ替えたりしてみたら………トム・リドルの名前がヴォルデモートになった」

 

「………」

 

「なんで教えてくれなかったの?」

 

「考えすぎ、偶然の産物だと思ったん*5だ…。まさか日本にも悪名が轟くかのヴォルデモートの名の由来が、こんな単純で痛々しいものだとは思わなかったんだよ……」

 

世界一の悪の魔法使いを夢見て、イカした自分の名前(笑)を考える。

どう考えても可哀想で痛い少年である。

きっと学生時代は苦労しただろう。

周りが。

 

「い、痛々しいだと?僕は汚らわしいマグルの父親姓をこのまま使うなんて、勿論ノーだと突きつけた!そして後の世に世界一偉大な魔法使いとなり、魔法界の全てが口にすることを恐れる名前を自分で付けた!それが痛々しいだと!?」

 

「いやだって、明らかにキラキラネームじゃん。しかも自分で自分のアナグラムを考えて付けるだなんて……。おまけにちょっとダサいし」

 

「だ、ダサい!?」

 

「あと汚らわしいマグルの父親姓とやらを拒否ったのなら自分の名前なんて全部捨てて、全く違う名前で良かったんじゃ?」

 

「な、なんだと!?」

 

「とまあこんな感じで、ヴォルデモートの正体が日本で言うところの痛々しくて残念な奴だとは思わなかった訳だ」*6

 

「ざ、残念だとぉ!?」

 

やれやれ、師匠達になんて報告すれば良いんだ?

とりあえず…。

ヴォルデモートは昨今話題の『厨二病』でしたって書くか。

 

「ショウ、さっきから妙にトゲトゲしくないか?」

「きっと自分の推理がこんな単純で残念な結果で惑わされたことに、腹を立ててるんだよ」

 

こそこそと内緒話しをする二人。

聞こえてるぞ、ハリー、ロン。

 

「し、失礼なガキ共だ!」

 

まるで可哀想で残念な子を見るかのような目をしている俺たちに、リドルは叫んだ。

 

 

 

「……いいだろうっ!この僕を残念などと言う日本の少年と、未来で闇の帝王を倒した少年とそのおまけよ!三人まとめてこのヴォルデモート卿がお相手しよう!」

 

側から見れば痛い所を突かれた腹いせに暴力を振るう子供のようにリドルがそう言った後、シューシュー言う。

 

「ショウ、ロン!バジリスクが来る!」

 

ハリーがそう警告する。

 

「ハリー!ロン!ジニーを連れて後ろへ走れ!ここは俺の出番だ!」

 

抜刀体勢を取りながらそう叫ぶ。

直後、巨大な霊圧が出現する。

咄嗟に目を瞑る。

 

「二人とも目ぇ瞑れ!縛道の二十二『瞑光破』!」

 

瞑光でバジリスクの目を眩ます。

 

「縛道の二十一『赤煙遁』!」

 

そして間髪入れず煙幕を出す。

 

「バジリスク、何をやっている!」

 

リドルの他力本願な言葉が聞こえる。

彼方も此方も敵が完全に見えない状態だろうが、此方は霊圧で感知する。

見えるよ。

霊圧が集中している部分がね。

 

「君臨者よ 血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ  蒼火の壁に双蓮を刻む 大火の淵を遠天にて待つ 破道の七十三『双蓮蒼火墜』!」

 

狙い澄ました完全詠唱の鬼道がバジリスクの眼を捉える。

 

「キシャーッ!!」

 

バジリスクから甲高い悲鳴のような咆哮が聞こえる。

直後、霊圧が集中していた部分…すなわちバジリスクの眼が完全に潰れた。

やがて煙も晴れれば、そこには眼が潰れてもがき苦しむバジリスクとピーピー喚くリドルがいた。

 

「バジリスク!くそっ『クルーs(苦しm)』」バーン!

 

「ブフッ!」

 

リドルは呪文を唱えるが、直後爆発する。

奴が鹵獲した杖はロンの杖。

な、何故だ!と言ってもしょうがない。

それ、最早正常な効果を発揮しない不良品なんだから。

輝くセロハンテープが見えねぇのか?

 

と言うか、側から見ればコントだぞ。

吹き出すのを頑張って堪えた俺は偉い。

 

「キシャーッ!!」

 

主人が情け無い醜態を晒している間にバジリスクが咆哮する。

おそらく自分の眼を潰した者が誰か分かったのだろう。

 

「ッツ!」

 

バジリスクの突進を横っ飛びで躱す。

 

「縛道の六十一『六杖光牢』! 縛道の六十三『鎖条鎖縛』! 縛道の六十二『百歩欄干』!」

 

やち姉直伝の三連縛道。

バジリスクが鈍くなる。

 

鉄砂(てっさ)の壁 僧形(そうぎょう)の塔 灼鉄熒熒(しゃくてつけいけい) 湛然(たんぜん)として終に音無し 縛道の七十五『五柱鉄貫』」

 

五本の柱で封じられるバジリスク。

だがこれで終わりじゃ無い。

それは向こうも同じ。

 

「キシャーッ!!」

 

破りやがった。

まあだと思ったが、自信無くすな…

よし、賭けに出るか。

 

「破道の八十八『飛竜撃賊震天雷砲』!」

 

掌から大きな光線を放つ。

問題なくバジリスクに吸い込まれる。

だが。

 

「シャーッ!!」

 

「な!?」

 

効かなかっただと?

やっぱ、まだ詠唱破棄は無謀だったか。

 

バジリスクの突進を躱す。

しかしバジリスクは胴体をひねり、尻尾の方で攻撃してくる。

 

「ッ!グぅ!」

 

ガキン!

ドン!

 

咄嗟に斬魄刀で防いだが止められずに壁に叩きつけられる。

 

「いいぞバジリスク!そのまま殺せ!」

「シャーッ!!」

 

バジリスク、再度突進。

くそっ、練度不足の断空じゃ無理だ。

 

「両断せよ『斬刀』!」

 

突進を躱し、動体を縦に斬りかかる。

 

ガリガリガリ!

 

硬ってぇなこいつ!?

 

「くそったれ!刀源流三ノ太刀の二『滝昇』!」

 

縦に三回切り上げてバジリスクを仰け反らす。

だが。

 

ブン!

ガキッ!

ドン!

 

クッソ…

硬てぇし早えぇし。

おまけに尻尾が厄介すぎる。

 

「シャーッ!!」

 

くそっ、またか!

だったら!

 

「刀源流二ノ太刀『渦潮』」

 

横に躱しつつ回転しながら横薙ぎに切り続ける。

相変わらず切れた感触はなく、鎧を叩いているみたいだ。

 

だがバジリスクも横移動してくる。

 

ドン!

 

「ガハッ」

 

またも壁に打ち付けられる。

 

「フフッ、分かったかい。所詮切れるだけの刀なんて使うからこうなる」

 

先程から何かする度に自爆するリドルがそう言う。

煩ぇぞ。

ちょっと焦げてる癖に。

 

だがまあ、確かにそうだな。

切れるだけの刀か。

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

「刀剣ってのは結局のところ、切る道具なのよ。ちゃんボクや零番隊、護廷十三隊の隊長達も、持ってる斬魄刀は強力だが、刀匠からすれば刀とは言えねぇわけよ」

 

そう語ったのは全ての斬魄刀を作った人。

零番隊の二枚屋王悦。

 

「そうでしょうか?」

 

俺は首を傾げた。

 

「だって、マグルの刀は炎とか雷とか出さないっしょ?」

 

「確かに…」

 

言われてみればそうだ。

 

「初代含め、歴代剣八も純粋な刀を使う剣士じゃねぇ。だからちゃんボクはこれを作った」

二枚屋隊長はそう言うと後ろに有るのを指差す。

 

「鞘伏…」

 

「だけどこいつは欠陥品だ。特殊な液体で管理しなきゃならねぇ刀なんて無いからな」

 

鞘伏は簡単に言えばめっちゃよく切れる刀だ。

だが切れすぎるのだ。

 

「やり過ぎたって事ですか?」

 

「そうなのよ。その点、ちゃんボクも間違えてた」

 

二枚屋隊長は自身も所詮は死神だったと言う。

そんな事は無いと思いますよ?

 

「そこでそれだ。浅打の状態で刃が無く、始解で刃を出す。しかもその始解は擬似の奴らしいときた」

 

二枚屋隊長は俺の隣に有る斬魄刀を指差す。

 

「斬刀…」

 

「ちゃんショウが言った真の始解の内容が本当なら……」

 

二枚屋隊長は今までに無い真面目な顔をする。

 

「それこそ真の刀剣だ。卍解が楽しみだよ」

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

(遅いんですよ貴方は)

(ごめんね)

 

「刀剣とは所詮切る道具。そんな刀で何が悪い?」

 

「なに?」

 

「刀神からお墨付きを貰ったこの刀剣は、確かに切る事しか出来ない。でも切り過ぎない。収める鞘も有る。そしてこの刀剣より刀剣と言える斬魄刀は無い」

 

スーッと息を吸う。

髪色が白くなるのがわかる。

 

「さて、お前さんのその傲慢と誤解。切って捨てよう」

 

俺は腰から鞘を抜き、身体の前で刀を収める。

 

 

 

 

 

(行くよ)

 

 

 

 

 

 

(ええ、我が名を呼んで下さい!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「万象一切両断せよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『神殲斬刀』」

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
ロックハートが見たら使い物にならなかったか、恐慌状態になっていただろう

*2
随分と恥ずかしい台詞が言えたな、と刀原は思った

*3
おまけ扱いのロン、涙目である

*4
最初、心臓発作じゃね?と思ったのは内緒だ

*5
思い込みは駄目っすよ。と、絶対に師匠達におちょくられるだろう

*6
自分で卿だと名乗っちゃうんだ?プークスクス、恥ずかしぃ。

と続けて全力でおちょくりたかったが鋼の精神で止めた




はい、まあ、そんな訳で。
主人公の斬魄刀の、始解の御披露目です。
ネーミングセンスくそダセェとか言わないで。
頑張って捻った結果です。

久保先生がヤバイだけだから。
本当、オサレ度欲しいです。

能力は…まあ、分かりますかね?


縛道の二十二『瞑光破』はオリジナルです。
効果はスタングレネードです。
ハリポタにもBLEACHにもスタングレネードの効果を出す奴見つかんなかったんですよね。
あったら教えて下さい。


感想、考察、意見。
ありがとうございます。
そしてお待ちしてます。

次回は、
秘密の部屋 決着
次回もお楽しみに



おまけ





自称継承者のリドルが勝負を仕掛けてきた!

リドルはバジリスクを繰り出した!
「行け!バジリスク!」

バジリスク どくじゃポケモン
・どくどくのキバ
・アイアンテール
・ヘビにらみ
・とっしん

「まるでポケモントレーナーじゃねぇか!」
「リドルはポケモントレーナーだったのか」
「誰がポケモントレーナーだ!」


ポケモンって1996年なんですよね。
当時は1992年だから、主人公はポケモンを知りません。

バジリスク戦を書いていてふと思ったので書きました。
勿論、小説には一切関係有りません。



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死神と秘密の部屋編 決着と終幕



真の獅子たる証
ここに示そう

恐るな、立て
強き若獅子よ

君は
一人では無い。








 

 

「万象一切両断せよ『神殲斬刀』」

 

 

 

 

 

 

「フフッ、フハハハハ。何かと思えば、それだけなのかい?拍子抜けも良いところだ!ただ刀が立派になっただけじゃ無いか!」

 

俺の始解を見てリドルは笑い飛ばす。

始解前は小太刀に近い形状だった斬魄刀は刃渡りが少し長い日本刀になっただけだったのだ。

 

何も変わっていない。

ただ形状が良くなっただけ。

普通ならそう思うだろう。

 

端から見れば。

 

「そうだといいな?」

 

流していた血はもう止めた。

息も整っていた。

 

ゆっくりと正眼に構える。

 

「ふん、減らず口を。バジリスク、殺れ!」

 

リドルは叫ぶ。

バジリスクも突進してくる。

横に避ける。

先程と同じ。

 

バジリスクはまた体を捻り、曲がった勢いで尻尾を打ってくる。

 

 

「元流 一ツ目」

 

 

『唐竹割』

 

 

 

ーーーーーー

 

 

「良いか?剣術の基本となるのは九つの斬撃じゃ。そのうちのひとつである唐竹又は切落とも言うこの切り方は、まあ簡単に言えば縦方向に真っ二つに切るというものなのじゃ。」

 

「知ってます、重じい!」

 

「よろしい、儂が開祖の元流は唐竹を含む剣術の基本九つをより昇華し、一刀の元に切るのを本質としている。今では大型の敵や一対一を想定しておる」

 

「大きな敵……」

 

「左様。対して刀源流は連続技を基本としておるのは知っておろう?」

 

「ひいじいちゃんから習いました!」

 

「じゃろうな。彼奴は対人戦や一対多数戦を想定して刀源流を作った。お主は卯ノ花からも習っておるし、元流も早いじゃろう。では早速、この丸太を切ってみよ」

 

「重じい!僕の浅打は刃が有りません!」

 

「では儂のを貸そう」

 

「え」

 

「始めい!」

 

「え、あ、うりゃあぁぁぁ!?」

 

 

 

ーーーーーー

 

 

ザシュッ!

 

鮮血が飛び散る。

だがその色は俺の血では無かった。

 

鋭く強固であったバジリスクの尻尾はもう無くなった。

 

「ギィギャアァァァァ!?」

 

バジリスクが絶叫を上げる。

幾千の時を超え、未熟とは言え八十番代の鬼道すら防ぐ鎧が全く効果が無かったのだ。

 

「なに!?バジリスクが!一体何をした!」

 

リドルが驚愕を隠そうともせずに聞いてくる。

 

「教えるか、バーカ。…ゲホッ」

 

チッ、思った以上に消耗が激しい。

結果的に鬼道を無駄打ちしたし…。

さっさと決めないとヤバイな。

 

そんなことを思っていればふと隣に気配を感じた。

見てみればそこにはハリーがいた。

右手には何やら煌びやかなロングソードを持っている。

 

「ハリー。その剣どうした?」

 

「さっきダンブルドア先生の不死鳥が組分け帽子を持ってやって来て…。その組分け帽子からこの剣が出たんだ」

 

なんとまあ。

と言うことは、それはかの剣だな。

 

「一緒に戦うよ。何時迄もショウに守られてちゃ駄目だ」

 

「いや、駄目って訳じゃ…」

 

俺は下がってろと言いかける。

だがハリーは俺の方をじっくりと見る。

 

……相応の覚悟はしてきたみてぇだな。

 

「ロンは?」

 

「ロンはジニーを守るために後ろに下がった。今は安全だよ」

 

そこまで指示を出したか。

フフッ。

流石は真のグリフィンドール生だな。

 

「無理して前に出んなよ?」

 

「ッ!うん、分かった!」

 

「作戦会議は終わったかな?」

 

出たな残念なイケメン。

 

「ここが君達の墓場だ」

 

リドルがそうほざく。

 

「それはこっちの台詞だ!」

 

ハリーが高らかに言い返す。

 

「行くぞ、ハリー」

「うん!」

 

 

 

バジリスクは口を大きく開けながら突っ込んでくる。

ハリーは後ろに下がる。

 

「元流 二ツ目『逆風』」

 

跳躍して真正面から斬りかかる。

ガザシュッと音がし、バジリスクの頭が跳ね上がった。

流石にスパッとはいかないか。

 

「刀源流 三ノ太刀の一『滝流』」

 

間髪入れず斬り落とす。

 

ガシュ!

ドスン!

 

バジリスクの頭が床に叩きつけられた。

 

「はあぁぁぁぁ!!」

 

そのタイミングでハリーがバジリスクに目掛けて駆け出し、ジャンプする。

その勢いのままバジリスクの脳天を剣で串刺しにした。

 

「ギィギャアァァァァ!!」

 

またも響き渡るバジリスクの絶叫。

 

「うわぁあ!」

 

必死に頭をふるバジリスクによって、ハリーが床に叩きつけられる。

その声と音を聞いたバジリスクがハリーに向かって口を開きながら突進した。

 

させねぇよ。

 

「これにて終い」

 

 

 

「元流 五ツ目 刀源流 一ノ太刀」

 

 

 

 

「『双連袈裟斬り』」

 

 

 

 

ズパンッ!

 

 

バジリスクの頭と胴体の間付近を、真っ二つに斬り裂いた。

 

おそらく即死したのだろう。

バジリスクは悲鳴をあげることなく倒れ、息絶えた。

 

「そんな……バジリスクが……」

 

リドルは呆気にとられる。

だが頬を緩ませていた。

 

おそらく十分もしないうちにジニーは死に、自らは完全な復活を遂げる。

そうすればハリーや俺など簡単に殺すことができる。

 

 

そんなことを思っているのだろう。

 

 

リドルは更に時間を稼ぐため、その顔に驚愕を露にして口を開こうとした。

 

 

だが、そうは問屋が卸させない。

 

「さて、あとはこいつだけか…」

 

俺はリドルの日記を奴に見せる。

 

「な……なんで………」

 

リドルは演技など放り出した驚愕を見せる。

 

「お前は単なる五十年前の記憶、その霊圧の大半はジニーの。そしてお前はジニーに自身の魂を埋め込み、最終的にそれを元に肉体を得た。お前はこの俺の推理を肯定した」

 

「そ、それがなんだって言うんだ!?」

 

どもってるぞ。

 

「ジニーに魂を埋め込む前は何処にあった?答えはこの日記だ。つまり…お前の本体はこの日記だ」

 

「一体、いつ…手に取った……?」

 

「お前さんがハリーに熱いラブコールをしていた時。さりげなく頂戴した」

 

「き、貴様ぁっ!」

 

「んじゃ、もう二度と相見えないよう、一応祈ってるよ」

 

「ま、待て!やめ、」

 

「ハリー!斬っちまえ!」

 

俺はハリーに向かって日記を投げる。

 

「うん!」

 

ハリーは剣を振りかぶる。

 

「させるか!『アクs(来い、n)』」チュドーン!

 

リドルはおそらく引き寄せ呪文を使おうとするが、やはりロンの杖は呪いの道具だった。

自爆する。

 

ザクッ!

 

ハリーが日記に剣を突き刺す。

剣に突き刺された日記帳は黒いインクを吹き出した。

 

「おのれ、こんな杖じゃなければーーーっ!!!」

 

声にもならないつんざくような悲鳴をあげながら内側から光を放ち、自称継承者のリドルは消えていった。

 

 

ピュッ!

 

斬魄刀についた血を払う。

そして始解を解きながら鞘に納める。

 

「……フッ、最期まで残念な奴だったな」

 

俺は思わず鼻で笑いながら吐き捨てた。

 

 

 

 

 

 

「ふう、あ……」

(主様!)

 

「ショウ!?」

 

直後、ガクッと身体が膝から崩れ落ちる。

咄嗟に斬魄刀で身体を支える。

 

「大丈夫!?」

 

ハリーが心配そうに聞いて来る。

俺はへにゃりと笑いながら大丈夫だと言う。

 

「ハリー!ショウ!大丈夫か!?」

 

時を同じくして、避難していたロンが駆け寄っており、その傍らには覚束ない足取りだが、顔色は戻っていたジニーもいる。

 

良かった、無事だったか。

 

「ショウ!君、大怪我じゃないか!」

 

「ああ、だけど見た目だけだ。心配は要らないよ」

 

笑って誤魔化しながら、斬魄刀を使ってゆっくりと立つ。

 

(すまん、杖代わりにするよ)

(構いませんとも)

 

「わ、私は、なんてことを……」

 

ジニーはハリーを見て、俺を見て、ロンを見て、そしてもう一度ハリーを見て、心の底から安心したのだろう。

泣きじゃくりながら自らが何をしたのかを告白した。

 

 

行きはよいよい、帰りは怖い。

 

と言う言葉があるように、秘密の部屋から帰るのは大変なことだった。

ジニーは足取りが覚束ないままだったし、俺は負傷している。

おまけにあのパイプをどうやって登るんだ、と言う問題もあった。

 

だがハリーがダンブルドアから聞いていた不死鳥の特徴を思い出したことで、やって来ていたフォークスに掴まって秘密の部屋を出れたのだった。

 

 

 

 

ジニー救出作戦が成功した以上、俺達はとにもかくにも報告の為に校長室に向かった。

 

しかし、俺は校長室に行くための螺旋階段を守っているガーゴイルを前に立ち止まる。

 

うっすらと、そしてひしひしと感じていた霊圧の正体がわかったからだ。

本来なら英国に来ない、来る筈の無い人がいる。

 

 

絶対に、怒られる。

 

 

 

……行くか。

 

「ショウ?」

 

ハリーの心配そうな言葉に俺は覚悟を決め、校長室に足を踏み入れた。

 

 

泥まみれ、血塗れ、砂埃まみれ、インクまみれで校長室に行くと、しばしの沈黙の後に叫び声があがった。

 

「ジニー!」

 

暖炉の前で泣き崩れていたウィーズリー夫人とおぼしき婦人がジニーに駆け寄り、少し遅れてウィーズリー氏とおぼしき男性と二人で娘を抱きしめる。

 

「あなた達がこの子を助けてくれたの!?でも、一体どうやって?」

 

「私たちも、それを知りたいですね」

 

ウィーズリー夫人とマクゴナガル教授が言う。

 

俺達は校長室の机まで歩いていき、ハリーが剣とリドルの日記、ロンが組み分け帽子、俺が戦利品替わりに剥ぎ取ったバジリスクの牙を証拠に置く。

 

そしてかの部屋で起こった出来事を説明し始めた。

 

 

継承者の正体。

ジニーと継承者との関わり。

怪物、バジリスクとその最期。

 

全てを説明し終えると、日記についてジニーとウィーズリー夫妻、そしてダンブルドアとの間で議論が始まった。

 

ジニーは退学になるだろうと考えており、そうなったら全力で弁護しようと校長室に来る前、三人で相談していた。

だがダンブルドアはジニーに対して、責任を追及しなかった。

 

大の大人ですらあの残念な奴に誑かされている以上、まだ年端も行かぬ少女には仕方の無いこととした。

かくして無事に放免となったジニーは、ウィーズリー夫妻と共に医務室に行った。

 

 

そしてこの時点でかなりくたびれていた俺は、ハリーに後を託し、近くの椅子に座った。

 

ふぅーっと息を吐き、眼を閉じる。

流石に疲れた。

 

「バジリスクとやらはそんなに辛い相手でしたか?」

 

ふと声が聞こえる。

幼い頃から母のように優しく、厳しく見守ってくれた人。

護廷十三隊の最高戦力たるこの人は、本来なら瀞霊廷を離れない。

だけどわざわざ来てくれた。

 

「ええ、鬼道が全くと言っていい程に効果がなく、無駄打ちしました」

 

「そのようですね、霊圧がかなり疲弊してます。それに、バジリスクの即死の眼をシャットアウトしていましたね?」

 

「後で気が付きました」

 

「まあ、分かりにくいでしょうね、これは……。ポッター少年がバジリスクの脳天を貫き、貴方が首付近を斬り飛ばしたそうですね?」

 

「ハリーは大活躍でした。剣の筋も良さそうです」

 

「ほう、それは期待できそうですね」

 

会話の最中も、話し相手は回道をかけてくれる。

その心地よさが、忘れていた睡魔を呼ぶ。

 

「しかし……全く、無茶をしましたね……。肋骨が数本、折れてます。頭も強打。足にもヒビが入ってます。分かりますね?」

 

「自分で…少しずつ、回道を……」

 

「ええ、足は治りつつありますし、血は止まってます。これも鍛練の成果ですね」

 

「ですが…、未熟でした……」

 

「ふふっ、まだまだ精進なさい。ですが……良く頑張りましたね」

 

頭を優しく撫でられる。

この人から誉められるのは本当に嬉しい。

 

椅子に座った時から閉じた瞼はついぞ開かず。

俺はゆっくりと眠りについた。

 

やっぱり、来てくれてありがとう。

 

やち姉。

 

 

 

 

 

すぅーっと言う刀原の寝息が聞こえ、卯ノ花は立ち上がる。

 

「あの…ショウは、大丈夫ですか?」

 

ある程度の説明を終えたハリーがおもむろに聞く。

 

「肋骨が数本骨折し、足の骨にはヒビ、その他に頭部も含めて打撲が数ヶ所。けどもう大丈夫ですよ」

 

卯ノ花が先程から診断していた結果を言う。

 

「ショウ、僕たちを守って……」

 

「謝る必要は有りませんよ?ポッター君」

 

ハリーが俯くが、卯ノ花は止めさせる。

 

「え?」

 

「あの子は自分の意志でそうしたのです。負傷も当然、覚悟して。ならば、あの子には謝罪ではなく感謝をなさい。彼はさも当然だと言うでしょうけども」

 

卯ノ花はそう言う。

 

ハリーは少し考えていたが「分かりました」と返事をする。

それを受け、卯ノ花はニコリと笑ったのだった。

 

 

「ああ、ご挨拶が遅れましたね。私、日本の護廷十三隊の四番隊隊長を務めている、卯ノ花烈と申します」

 

「あ、えっと、ハリー・ポッターです」

 

「ロン・ウィーズリーです」

 

「ふふっ。貴方たちの事は、彼から良く聞いていますよ?弟みたいでほっとけないと言ってました」

 

「「あ、あははは」」

 

卯ノ花の言葉を受けハリー達は照れくさそうに笑う。

 

 

「ご足労をお掛けして、申し訳ない」

 

ダンブルドアが卯ノ花に頭を下げながら謝る。

ハリーはダンブルドアが頭を下げたことに驚き、卯ノ花がかなりの地位と実力を持っているのだと感じた。

 

「いえいえ、うちの将平がお世話になっているので、ご挨拶のついでです」

 

卯ノ花はそう言う。

 

「あの…ショウとは、どんな関係なんですか?」

 

「あの子の母親替わりであり、師匠です」

 

ハリーはそれを聞き、あのショウを生み出したのはこの人なのかと思った。*1

 

 

さて、ではそろそろ良いかの?

ダンブルドアはそう前置きして言う。

 

「君たちは百ぐらいの校則を木っ端微塵に粉砕したわけじゃが……状況が状況なのでな。当然ながら処罰はない。そして三人に百五十点と、ホグワーツ特別功労賞を授与しよう」

 

ダンブルドアは続けて、バジリスクの被害者たちがマンドレイクのジュースで回復したことを告げる。

 

「ハーマイオニーたちは大丈夫なんだ!」

 

「回復不能の障害もなかった」

 

「良かった!」

 

 

 

 

 

その後、熟睡中の刀原を卯ノ花が医務室に運び、ハリー達も少なからず傷を負っていたため医務室に行き、一人になった校長室にて。

ダンブルドアは物思いに耽っていた。

 

ハリーが持っていた剣と日記についてだ。

 

ハリーが土壇場で組分け帽子から抜いたこの剣の名は『グリフィンドールの剣』と言う名で、真のグリフィンドール生にしか抜けない物だった。

そしてこの日記。

ダンブルドアの脳裏にある邪悪な魔法具の名が過ぎる。

 

そしてハリーは剣で日記を破壊したらしい。

ダンブルドアは考える。

おそらく……この剣はその邪悪な魔法具を破壊出来る、数少ない物になるだろうと。

 

 

そしてハリーの事も考える。

 

ダンブルドアとて、秘密の部屋事件が起きることは予想外だった。

だが、ハリーの成長にこの事件は使えると考え、本気では動かなかった。

 

そうして立てた計画では、ハリーが一人で秘密の部屋の怪物…バジリスクが最有力候補だったそれを打倒するはずだった。

 

ダンブルドア自らが不死鳥と共に送った組み分け帽子からグリフィンドールの剣を引き抜いて。

 

そして恐怖に打ち勝つ勇気を育んでもらおうと考えたのだ。

 

確かにハリーはグリフィンドールの剣を引き抜き、彼が真のグリフィンドール生であると言う自信を身につけてくれた。

バジリスクにも果敢に挑み、倒すために奮闘した。

これは大きな経験になっただろう。

 

だが当初考えていた程の結果は出なかった。

 

時にはハリー達の頼れる友として、兄貴分としてハリーを守る者…刀原が参戦したからだ。

終始ハリー達を気遣い、支え、守り、もしハリーがバジリスクの前に立たなかったら、バジリスクは確実に刀原一人によって始末されていただろう。*2

 

当然、リドルも。

 

それに、刀原はリドルの正体にも当たりを付けていた。

 

負傷していたが、おそらく能力を使うのを躊躇したからだろうと卯ノ花は言っていた。

下手に使えば部屋を崩壊させかねないと思ったのだろうと。

 

ダンブルドアは未だに刀原の斬魄刀の能力が分からなかった。

ハリー曰く、普段より立派な剣になって、切れてなかったバジリスクを切れるようになったとの事。

 

しかし、刀原家の血を引く彼の斬魄刀がそんな物の筈がない。

曽祖父、刀原平介の能力は激流を司ると謳われていた。

祖父、ヘーザブローは無い。

父、刀原将一郎平治の能力は見た事が無いが、様々な属性を使う物だったと聞く。

 

おそらく彼もかなり強力な能力の筈だ。

 

 

そして先程の卯ノ花とのやり取り。

卯ノ花は完全に母親のように接していた。

 

もし万が一、刀原を敵に回せば……。

考えたくも無い。

 

ダンブルドアは項垂れる。

 

今年の出来事で分かった。

やはりハリーの未来には壮絶で困難な運命が待っている。

自身の心を焼き尽くしかねない辛い運命が。

だからこそ、今度こそ、自分は彼を導かねばならない。

 

だが、迂闊に刀原を計画に組み込もうとしても、彼は自身の実力と洞察でひっくり返せるだろう。

現にロックハートの一件を覆された。

 

魔法界の秩序と未来のためにと言っても、彼は日本の魔法界に属する存在だ。

容赦無くその提案を蹴るだろう。

 

 

「難しいの……」

 

ポツリと言った言葉は、夜の暗闇に消えていった。

 

 

 

 

 

刀原は起床しハリー達の傷も癒え、宴会が行われる前に揉め事があった。

 

ルシウス・マルフォイが乗り込んで来たのだ。

 

刀原達はさも当然の様に受け入れていた訳だが、本来なら居ない筈のダンブルドアに問いただす為だ。

 

ちなみに何故ダンブルドアが居るのかと言うと、一向に止まない子供達の犠牲、そしてついに部屋に連れ去られた者まで出たため、彼を追放した理事会が彼に泣きついたのだという。

実になんともお粗末だがこれには裏がある。

なんとルシウス氏が理事会を脅したらしい。

 

それを暴露されたため何も出来ずに、苦々しい顔をしながら立ち去ろうとしたルシウス氏だったが、ハリーが追いかけ計略を仕掛けた。

 

日記の裏に自らのソックスを仕込み、ルシウス氏が日記を投げ捨て、一緒にいたドビーがそれを拾ったことで、ドビーを解放したのだ。

 

「き、貴様ぁ!」

 

「させねぇよ?」

「遅いですよ?」

 

思わず杖を上げる氏だったが、ここにいるのは刀原と卯ノ花。

 

そんなことさせる筈もない。

 

「ぐほはぁ!」

 

氏は全身をバラバラにされる擬似体験をし、直後に刀原の白打で吹っ飛ばされた。

刀原が負傷していたため大幅に威力は下がっているが、きっちり水月に叩き込まれた蹴りは氏をほぼノックアウトした。

 

「鍛え方がなってませんね」

「やt、れつ姉。それ言ったら駄目です」

 

結局何も出来ず、ルシウス氏は逃げ帰ることになった。

 

 

 

かくして障害を文字通り吹っ飛ばした三人は宴会へと向かった。

 

その宴会は一番の破天荒ぶりだった。

殆どの生徒はパジャマで、挙句それを誰も気に留めていなかった。

先生達も上機嫌で、仏頂面がデフォルトのスネイプすらも何処となく一安心といったように見えた。

 

ジニーは元気を取り戻し、友人と語らい合っていた。

 

そしてこの数ヶ月、医務室のベッドに横たわり痛々しい姿を見せていたハーマイオニーも元に戻り、ジャスティンもやって来て疑ってすまなかったとハリーに何度も謝った。

 

ハーマイオニーはグリフィンドールのテーブルでハリーとロンに抱きついた後、刀原にも同様に抱きついた。

卯ノ花はそれを見て、ふむ、と頷いた後「あの子には内緒にしましょう」とポツリと言った。

 

刀原はハーマイオニーを気遣いながらも、卯ノ花が何を言っているのか分からなかった。

 

卯ノ花は折角英国に来たのだからと、残り短い今年度が終わるまで滞在することにしたらしい。

刀原はおすすめの料理やホグワーツの友人を卯ノ花に紹介したり、逆にホグワーツの面々に卯ノ花を紹介した。

 

そして事件解決のささやかなお祝いとして、ダンブルドアが試験をキャンセルした事が発表された。

ハーマイオニーとレイブンクローの面々は呆然と立ち尽くしたが他の生徒からは歓声が上がった。

 

パーティーの途中からは、アズカバンから帰還したハグリッドが現れた。

ハグリッドの肩叩きによって、ハリーとロンがプディングに頭から突っ込むのを眺めていると彼が刀原の前に来た。

 

「ありがとうな、ショウ!こんなに元気なのもお前さんのおかげだ!」

 

どうやら守護霊のライはしっかりと任務を果たしたらしい。

刀原は「それは良かった」とニッコリ笑って返した。

 

寮対抗優勝杯は、当然の結果なのだがグリフィンドールが制した。

ハリーとロンが胴上げされる中、病み上がりの刀原は迫り来るグリフィンドール生を頑張って防いだ。

 

卯ノ花はそんな刀原を見て、終始笑顔だった。

 

 

 

あっという間に夏が来る。

荷物をまとめ、ホグワーツともまたお別れだ。

 

刀原は卯ノ花と共に国外用の魔法鉄道の乗って直接日本に帰る為、ハリー達とはここでお別れとなる。

 

ホグズミードの駅のホームでハリー達と別れを惜しみ、ホグワーツ特急はロンドンへ向け、発車していった。

 

「では、そろそろ私たちも出立しましょうか」

 

「ええ、行きましょう」

 

乗員は二人だけ。

お土産を持って日本に向け発車する。

 

 

ゆっくりとした列車の旅はあっという間に終わり、刀原は日本に帰ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帰って来た刀原には、まず真っ先に行くところが出来ていた。

秘密の部屋を巡る一件は護廷十三隊やマホウトコロだけではなく、日本魔法省にも話は行ったのだ。

 

その為、東京にある日本魔法省の魔法大臣に説明しなきゃ行けなかったのだ。

 

 

「だいぶ大変やったみたいやね?一先ずお疲れさん」

 

そう言うのは元護廷十三隊の隊長だと言うこの男。

白蛇みたいだが魔法大臣である。

そして実力も極めて高い。

 

「ええ、大変でした」

 

「そらぁそうやろ。何と言ってもバジリスクやろ?そないなけったいな相手して、よう死なへんかったねぇ?」

 

「ちょっと、そんな言い方無いでしょ?」

 

秘書で幼馴染みだと言う端麗な女性が、大臣を嗜める。

 

「大丈夫やで乱菊。こん人達には僕のおちょくりなんて効かへんよ」

 

「あははは…」

「そんな鍛え方してませんからね」

 

大臣はカラカラと笑い、刀原と卯ノ花も答える。

 

「さて……。とりあえず君が無事で何よりや。遠い異国の地で死なれたらあの人達に申し訳が立たんしな。校長もだいぶ心配しとったから、後で顔見せたらええと思うで?」

 

「そうよ。良かったわ、無事で」

 

「ご心配をおかけしました」

 

「うん。まあ君は若い。若いうちにチャレンジしとくのはええ事や。せやけど限度ってもんがある。君は立場もあるんやから、あんまり無茶すんのはアカンで?じゃないと僕、君の英国行きにサイン出来んようになってまうやないの」

 

「き、気をつけます……」

 

「まあ、気持ちの片隅に置いといてや」

 

「はい」

 

「ええ返事や。僕も乱菊もそうやけど、君には大勢の人が期待してるんや。頑張ってな」

 

「ありがとうございます」

 

刀原の言葉に大臣は頷く。

 

「話は変わるけど……僕、そろそろ護廷に戻りたいんやけど……卯ノ花さん、駄目やろか?」

 

「貴方には魔法省の大臣をしなくてはいけません。その席にいれる人物が少ない以上、頑張って下さいね?」

 

「ええー。僕もう嫌や。飽きたんや。なんだったら平子さんとかに任せてええやん」

 

「平子さんには別のお役目が有るのです。我慢して下さい」

 

「チェッ」

 

「良いじゃない。私はこのままで良いわよ?」

 

「まあ、乱菊がそう言うなら……しゃーないな」

 

ちょろいな。

ちょろいですね。

ちょろいわね。

 

白蛇大臣と恐れられてる切れ者も、好きな女性には弱いらしい。

 

「さてと、それではお暇致しますか?」

 

「そうですね。それでは市丸さん、松本さん。失礼しますね」

 

「また遊びに来てな?」

 

「ギンも私も楽しみにしてるわ」

 

白蛇大臣こと市丸ギン魔法大臣。

正直言って勿体ない人選だと思う。

 

 

こうして、刀原は日本の夏を迎えた。

 

 

山じいから激怒されるまで、後二時間。

 

 

 

 

 

*1
合っているが不正解でもある。

刀原がこうなったのは『この人も含め、実力者達がよってたかって学ばせた結果、スポンジの如くそれを吸収したから』である。

 

つまり、言い換えるなら『この人達』である。

*2
正解である。

 

刀原は最初から最後まで、ハリー達に手を出させるつもりは無かった。

 

その為、ハリーが刀原の横に来なければ……刀原がバジリスクを単独撃破していたであろう。






もうすぐ年も暮れますね。

今年はご愛読ありがとうございました。
来年からはアズカバンの囚人編となります。
何卒宜しくお願いします。


では次回は
アズカバンの囚人編開始となります。
次回も楽しみに



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人物紹介 BLEACH side 秘密の部屋終了時

今更ながらの紹介です。

紹介するのは登場を確認出来た人物となります。
内容は筆者が手に入れた情報のみとなります。





刀原将平

 

性別 男

立場 主人公

 

所属 日本 マホウトコロ

   英国 ホグワーツ魔法魔術学校

 

血筋 一応半純血*1

 

容姿 ミディアムショートの黒髪黒目

   本気モードで白髪に青目

   

性格 真面目 紳士的 

 

好きな食べ物 美味しい物 特に和食全般

 

嫌いな食べ物 美味しくない物と味が無い物

 

趣味 読書 

 

特技 特になし

 

杖  モミジ

   朱雀の 二十五センチ 堅実

 

   薬学や変身術が得意

   日本の杖作りが作成。

 

   ヤマナラシ

   青龍のたてがみ 三十四センチ 清廉潔白

 

   戦闘全般が得意

   オリバンダーから購入した

 

 

 

本小説の主人公。

 

父方は死神界の名門 刀原家。

母方は鬼人族の名門 鈴鹿家。

 

死神界の最上位陣からの熱烈な指導と教育により、剣術、体術、鬼道、推理力とも高い水準にあり、 現在はBLEACHで言う副隊長並み。(と思いたい)

 

魔法力はハリポタで言う不死鳥の騎士団のメンバーを下回る位で、斬魄刀を持ち出せば勝てる。

 

ホグワーツに来た理由は研鑽と両親の呪いの手掛かり探し。

 

グリフィンドール生でありながら全方位外交とも言うべき親切さで友人を作った為、スリザリンのマルフォイともそこそこ親しい。

 

 

斬魄刀

 

始解の名は『神殲斬刀』

解号は『万象一切両断せよ』

 

形状は始解前が小太刀並みの大きさの日本刀。

しかし刃が潰れた鉄の棒の様な状態。

 

擬似始解、あるいは略式始解の「両断せよ『斬刀』」で刃がある普通の刀になる。

 

始解後は立派な日本刀になる。

柄の色は白銅色。

 

二枚屋王悦は「最も刀の本質を極めた刀」と言った。

悪く言えば"ただ単になんでも切れる刀"なので、剣術が伴っていなければただの刀同然。

 

さまざま人の斬魄刀を見て育ったこと。

両親の呪い崩しに有効、かつ攻撃力があるものを望んだことで、こうなった。

 

流刃若火や氷輪丸に正面から対抗できるらしい。

 

ーーーーーーーー

 

山本元柳斎重國

 

主人公は孫同然であり、可愛がっている。

そして主人公を魔改造した原因の一人である。

 

年齢の限界を少し感じており次期総隊長を探していたところ、都合が良い原石を見つけ、次期総隊長にしようと企んだ。

今は企みをほぼ忘れているが、小説内で不介入をするのはその企みのせい。

 

 

主人公にとっては祖父の様な存在で、最も信頼している人らしい。

 

ーーーーーーーー

 

卯ノ花烈

当代の剣八が豚*2なので剣八にしようと企んだ。

 

剣術、鬼道、回道、薬学など。

仕込んだ物は数知れず。

今は企みを捨てたが、自分の後継者にしようとしている。

 

主人公に対してはちょっと甘くなる。

 

主人公にとっては母親的存在で、最も安心出来る人らしい。

 

ーーーーーーーー

 

四楓院夜一

主人公に対して企みはない……筈…。

 

我が子のように溺愛している。

昔はよく鬼ごっこした。

 

白打と瞬歩、隠密関連を仕込んだ。

 

主人公にとってはお姉ちゃん的存在らしい。

 

ーーーーーーーー

 

浦原喜助

主人公に対して企みはない……筈…。

 

他の師匠よりかは溺愛してない。

主に鬼道や技術方面を仕込んだ。

面白半分に推理力も仕込んだ。

 

主人公にとってはお兄ちゃん的存在。

 

ーーーーーーーー

 

京楽春水 浮竹十四郎

主人公に対して企みはない。

だが京楽は不明。

 

性格や、考え方を仕込んだのは主にこの人たち。

主人公にとっては親戚の叔父さん。

 

ーーーーーーーー

 

朽木白哉

主人公が幼い頃、夜一との遊び相手をしていたと聞いてシンパシーを感じたらしい。

 

 

狗村左陣

山じいが孫同然に可愛がっているため、幼い時の主人公に会いに行き、よく遊び相手になったらしい。

 

ーーーーーーーー

 

零番隊

 

兵主部一兵衛

 

主人公に対して企みがあるが、詳細不明。

霊王関連ではない。

 

 

二枚屋王悦

主人公とは面識があり、注目しているらしい。

 

 

麒麟寺天示郎

両親関連でお世話になった。

 

ーーーーーーーー

 

日番谷 雛森

 

マホウトコロにて主人公の同級生。

日番谷にとって主人公は良きライバルらしい。

二人とも始解を習得している。

 

なお、両名とも両想いだが、それに気付いていない。

 

ーーーーーーーーー

 

雀部長次郎忠息

 

一番隊副隊長

 

山じいと連動して知り合った。

 

孫娘を超溺愛している。

その孫娘が嫁に行く時は自分と決闘し、勝利することを条件に設定しているらしい。

ぶっちゃけ無理ゲーであるため、そのような下賤な輩は現れていない。

 

なお、孫娘の気持ちは薄々気付いているらしい。

そして彼なら良いかと考えているらしい。

誰だか不明。

 

 

ーーーーーーーー

 

雀部

 

雀部長次郎忠息の孫娘。*3

 

容姿端麗らしい。

雷撃系の斬魄刀を使うらしい。

金髪らしい。

好きな人がいるらしい。

 

以下不明

 

 

ーーーーーーーー

 

 

刀原将衛門平介

 

主人公の曽祖父

故人

 

能力の詳細は不明だが流水系だったらしい。

刀源流の開祖。

初代三番隊隊長。

 

山じいの盟友だった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

刀原将之介平三郎

 

主人公の祖父

故人

 

明治の文明開花でやってきた西洋魔法を使い、魔法剣士として名を挙げた。

ヘーザブローの名前はグリンデルバルドを退けた人物として有名。*4

 

ダンブルドアはお世話になった人物としている。

 

 

ーーーーーーーー

 

刀原将一郎平治

 

主人公の父

 

能力の詳細は不明だが、複数の属性を使うらしい。

現在は寝たきりでかなり弱っている。

 

元三番隊隊長

 

 

刀原慶花

 

主人公の母

旧姓は鈴鹿

 

現在は寝たきりでかなり弱っている。

 

元三番隊副隊長

 

 

ーーーーーーーー

 

マホウトコロの校長

 

詳細不明

 

元五番隊隊長

 

黄色髪だったなー?

おかっぱだったなー?

眼鏡かけてたような、かけて無いような?

 

ハッ!私は何を!?

催眠でもかけられてたのかな?

 

 

ーーーーーーーー

 

市丸ギン

 

日本魔法省 魔法大臣

 

元隊長。

くじ引きの結果、魔法大臣に推薦された。

早く隊長職に戻りたいらしい。

 

 

ーーーーーーーー

 

反乱者

 

詳細不明

 

下衆。

 

ーーーーーーーー

 

 

*1
死神と鬼人のハーフ

*2
当然ながら更木ではない

*3
オリジナルのキャラ

*4
当時でいうダンブルドア的存在らしい




シオンカシン

腕利きの情報屋。
刀原家とは縁がある人。

その為、彼の師匠達などに取材が出来る。

シオンカシンはペンネーム

ーーーーーーーー

なんてね?





今年もよろしくお願いします。
頑張って連載間隔を開けないようにします。






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死神とアズカバンの囚人編
死神、日本にて。三学年に向けて


ニコリと微笑む
貴方の笑顔に
私は救われ、安堵する

悲しげな顔をする
貴女の涙に
僕は弱くなり、強くなる










《親愛なるハリーへ

 

 元気にしているか?

 君が叔母を膨らませたと言う一件は聞いた。

 叔母から余程酷い事を言われたんだろう。

 災難だったな。

 そして君が退学にならずにすんで、一安心した。

 まあ、ならないだろうとも思ったがな。

 

 さて、今年もホグワーツに行く事になった。

 だが昨年度の一件を受け、俺一人じゃない。

 日本の友人と二人で行くよ。

 彼女も非常に楽しみにしているとのことだ。

 君やロン、ハーマイオニーとも仲良くなれるだろうと思うが……まあ、よろしく頼む。

 

 今年はちょっと早めに行く事になりそうだ。

 彼女は初の外国だから、そちらで二泊ぐらいする。

 確か、今は漏れ鍋に居るんだよな?

 君がここ最近で詳しくなった、ダイアゴン横丁を案内してくれると助かる。

 

 それと、そちらだと脱獄犯が逃亡中だと聞いた。

 大丈夫だとは思うが……気を付けろよ?

 狙われやすい過去を持ってるんだからな。

 

 

 それでは良い夏を。

 

 

 君の友人 刀原将平》

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「ばっかもーん!!」

 

怒鳴り声と共に、どん!という振動が一番隊隊舎に響く。

出したのは齢一千歳を越える死神、山本元柳斎重國である。

目の前には彼が孫の様に可愛がっている少年が正座している。

 

「良いか。何度も言うが、お主には立場というものがあるのじゃ。心配をかけたくない、大問題となる。そんなお主の気持ちはよう分かる。お主らしいとも思う。じゃが!例え儂等が大丈夫であろうと思うても、気が気でなかった者達は多かったのじゃ。せめて、報告はすべきじゃった」

 

「はい……」

 

「私の孫娘など、卒倒したと聞きましたぞ」

 

そう言うのは山本の側近、一番隊副隊長の雀部長次郎忠息。

 

「うっ……」

 

「後で尋問されると思いますが、諦めなさい」

 

「はい…そうします…」

 

「四楓院隊長なんて、君を救出しに行くと言って、飛び出そうとしたんだよ?」

 

「京楽!要らんことを言うでない!だが喜助も、聞いた瞬間、持っていた物を落としたらしいぞ?」

 

「夜一サン、言わなくていいです」

 

「分かったでしょう。貴方がどれだけ愛され、心配されているかを」

 

「分かりました……れつ姉‥…」

 

「大変よろしい」

 

刀原はすっごく反省した。

 

 

 

「さて。ホグワーツが毎年、何かしらの事件が起こっているのはよう分かった。そんな中、お主を行かせるのは無理じゃ」

 

「重じい…。それは、もうホグワーツには行くなと?」

 

「儂等も一時はそう考えた。じゃが……まあ、行かせる事にはした*1

 

「つまり?」

 

「お主一人で行かせるのは無理じゃと、結論したのじゃ。現在、お主と共に行く者を選定しておるが……まあ、簡単に選べるじゃろ」

 

「そうなんですか?」

 

「うむ。儂には積極的に手を挙げる者が、はっきりと想像出来る」

 

「ああ、そうだねぇ」

 

「ええ、あの子なら適当ですね」

 

山本、京楽、卯ノ花、には簡単に想像出来るらしい。

 

誰だ?

日番谷か?

 

刀原は首をかしげながら考えたが、分からなかった。

 

「はぁ……」

 

そんな刀原を見て、誰かが呆れた様にため息をついた。

 

 

 

 

 

カンッ、キンッ、と金属音が響く。

瀞霊廷にある刀原家の邸宅で、刀原と日番谷が剣を合わせているからだ。

 

「俺もホグワーツに行くかと誘われた」

 

「でも来ねぇって聞いたぞ?」

 

一応勝負の最中だというのに日番谷が刀原に話し掛けてくる。

刀原は珍しいなと思いながら答える。

 

「ああ、俺は行かねぇ。学べる事は多いと思うが、俺は此方が好きだからな。それに…」

 

日番谷がチラリと邸宅の縁側を見る。

そこには呑気にお茶を飲んでいる雛森と雀部の姿があった。

 

「彼奴も行きたいって言うだろ、ただでさえ片方が居なくなるんだから。雛森に危険な真似はさせたくねぇ」

 

「確かにな。だが、彼女はお前が行くって言うまで言わねぇよ。後輩の面倒も見たいだろうし。しかし、それにしても…」

 

刀原は半ばニヤニヤを隠しながら日番谷を見る。

 

「な、なんだ?」

 

「いや、やっぱ雛森が大切なんだなぁと」

 

「お、幼馴染みだからだ!」

 

日番谷は誤魔化すかのように言う。

だが、刀原は追撃する。

 

「早く告った方が良いぞ?雛森は先輩、後輩問わず人気だからな」

 

「な、なんだと!?」

 

「俺がホグワーツに行く迄はそうだったし、今もどうせそうだろ。何で早く告白しねぇの?」

 

実のところ、日番谷は隊長になった時に雛森に告白しようと思っているが、その野望は内密であった。*2

 

そして親友であり、好敵手(ライバル)と思っている刀原にそんな事情は言えなかった。

 

「う、五月蝿い!お前には絶対に言うか!」

 

ガキンッと刀原を引き剥がす。

 

「霜天に坐せ『氷輪丸』!」

 

日番谷の始解は氷輪丸。

氷雪系最強と謳われる斬魄刀だ。

 

「な、こんなとこですんじゃねぇ!」

 

そんな斬魄刀を照れ隠し、誤魔化しで発動した。

しかも刀原家の邸宅で使われては堪ったものではない。

 

「ったく。しょうがねぇな!」

 

邸宅を破壊するなど言語道断。

刀原は親友の暴挙を止めるべく…。*3

 

「万象一切両断せよ『神殲斬刀』!」

 

始解した。

かくして始まった戦いだったが。

 

「私もやりたい!」

 

雀部の参戦によって混沌となった。

そして…。

 

「何をやっているのですかな?」

 

雀部副隊長によって両成敗となった。

 

なお、刀原家の邸宅は雛森によって守られた。

そして斬擊と氷と雷と、派手にやった事は多くの隊長達に知るところになった。

 

 

 

 

 

日番谷と雛森がホグワーツには行かないと言った事で、候補者は雀部となり、決定となった。

刀原は雀部副隊長が猛反発するのではと思っていたが、当の雀部はホグワーツ行きにかなり乗り気であり、雀部副隊長の許可もスムーズに得られた。

刀原はそれに疑問を抱きながらも準備に取り掛かった。

 

マホウトコロの校長が正式的な留学生の派遣に関する手続きを行い、日本魔法省も承認し、ホグワーツからも了承の返事が来た。

 

刀原もダンブルドア宛に手紙を送り、推薦等の根回しを行った。

 

決まった段階で、マクゴナガルからは《今のうちにグリフィンドールをアピールしてください》との手紙が来ていた。

だがそんなことをせずとも、雀部は刀原と同じグリフィンドールに行きたいと言っており、刀原はマクゴナガルに心配は要らなさそうだと返事を書いた。

 

 

師匠達による稽古は刀原と雀部のみならず、日番谷と雛森まで巻き込んで行われた。

四人とも始解は既に修得していたため、その強化やその先、すなわち卍解を見据えた稽古となった。

四人が卍解を修得する日も近いだろう。

 

 

マホウトコロの他の同期もやって来た。

 

刀原と日番谷を成績の筆頭とした同期達は雀部が二人に続き、雛森が追随し、後は阿散井、朽木、吉良という面々が追い掛ける形となっていた。*4

阿散井、朽木、吉良も従来のマホウトコロならばトップを張れる力を持っていたが、相手が悪かったという他無い。

そんな同期との仲は良好であり、今回彼ら三人やって来たのも刀原が日本に来ているということに加え、雀部のホグワーツに行ってしまうことが分かったからだ。

 

「英国に行ってもしっかりな!」

「オメェ達なら心配要らねぇと思うがよ」

「頑張ってきなよ」

 

三者三様の激励の後は総当たり戦を行い、友好と力を高め合った。

 

 

 

英国の情報も入ってくる。

 

まずはハリーについて。

日本魔法省外務部と情報捜査部(警察、諜報)によると、彼は叔母を風船のように膨らませ、空へと飛ばしたらしい。

ハリー曰く、彼の保護者?というダーズリー家はハリーに対してかなり辛辣な対応をしているそうだ。

 

実のところ、刀原はそんな酷い夏を過ごすハリーを日本に拉致ろうかと大真面目に考え、卯ノ花の許可も得るとこまでやった。

だがダンブルドアが何故か止めにかかった為、断念した経緯がある。

 

やっぱあの時、拉致れば良かったか?

刀原はダンブルドアに事情を聞くことを心に決めた。

 

 

話を戻す。

叔母を空の彼方へ物理的に飛ばしたハリーは、遂にダーズリー家から飛び出した。

しかし、問題があった。

行く宛が何処にもなかったのだ。

 

マグルのお金は持ってない。

ハリーが住むプリベット通りは、ロンドンのすぐ南にあるサリー州にあった。

当然、ハリーにはトランクにヘドウィグの籠を始めとした荷物が沢山あり、ロンドンまで行く事は不可能だった。

 

ヘドウィグでウィーズリー家に救援を頼もうにも、かの一家は賞金を使ってエジプトに行っていた。

おまけに英国魔法省が定めている「未成年は親の許可なく魔法を使ってはならない」という法律を破っている。*5

 

正に八方塞がりと言った状況だったらしいが、幸運の女神はハリーを見捨てて居なかった。

英国には『夜の騎士(ナイト)バス』と言う車両が走っており、運良くそれに乗れたのだ。

 

かくしてハリーはバスに乗ってダイアゴン横丁の入り口たる『漏れ鍋』に着いた。

 

漏れ鍋には英国魔法省の大臣、コーネリウス・ファッジが待っていた。

ハリーは退学の恐れを懸念していたが、ファッジは英国魔法界の英雄である彼を退学にするつもりは無く、ハリーは無罪となった。

だが放置も出来ない為、ハリーは漏れ鍋で残りの夏を過ごすことになったとのことだった。

 

 

 

ハリーが即刻、保護されたのには理由があった。

先日ハグリッドがお世話になった英国魔法界の牢獄、アズカバンから脱獄した凶悪犯がいたのだ。

 

刀原はハリーに手紙を書いた直後、この英国魔法省の素早い動きに疑問を持った為、日本魔法省にこの脱獄犯の情報を求めた。

 

そして分かったのは…。

脱獄犯の名はシリウス・ブラック。

かのヴォルデモートが失脚した直後、魔法使い一人とマグル十二人を爆破して殺害した犯人とのことだ。

 

 

シリウス・ブラックとハリーには因縁があった。

ブラックがヴォルデモートの信奉者だったのは言うまでもないのだが……。

 

なんとブラックはハリーの両親の親友だったのだ。

 

 

事件の内容はこうだ。

ブラックはハリーの両親を裏切り、ポッター家の在りかをヴォルデモートに密告した。

しかしヴォルデモートは赤ん坊だったハリーによって無様にも撃退され、ブラックは逃亡した。

 

だがブラックは逃げられず、ハリーの両親の親友の一人だったピーター・ペディグリューよって追い詰められ、問い詰められた。

ペディグリューは果敢にも挑んだが…、哀れにも返り討ちにあい、周囲にいたマグルもろとも爆破されて死亡した。

 

そしてブラックは駆け付けた当局に捕まり、アズカバンで長い余生を過ごすことになったとのことだ。

 

 

だが先日、脱獄不可能と謳われるアズカバンをどうにかして脱獄し、英国魔法界を恐怖に陥れているのだ。

 

ブラックの目的は当然、ハリーだろうとされている。

ハリーを殺害し、ヴォルデモートに捧げる。

実に狂気じみている。

 

あんな残念な奴にそんな価値があるのか?

刀原には理解出来なかった。

 

 

ブラックが逃亡中だと言うことは、留学する予定の刀原や雀部の耳にも当然ながら入った。

つまり、護廷十三隊の耳にも入ったということだ。

 

留学の中止も一応、検討はされた。

だが当の本人達が行く気満々のため*6予定通りに留学が行われる事になった。

まあ、雀部副隊長は凄まじく心配そうだったが。

 

大丈夫、彼女には指一本足りとも触れさせません。

刀原は固く、決意した。

 

 

 

 

凶悪犯が彷徨いている英国に向け、刀原と雀部は間も無く機上の人となる。

見送りには去年以上の人が集まった。

 

そんな出発を控えた刀原に卯ノ花が近づいてくる。

 

「良いですか将平君?もしブラックなる不埒者がやって来た際は…」

 

「やって来た際は?」

 

「死なない程度にやって仕舞いなさい」

 

「…了解です。れつ姉」

 

刀原は神妙な顔で頷いた。

 

 

時を同じくして雀部の共に彼女の祖父である雀部副隊長がやって来る。

 

「良いかな我が孫娘よ。万が一ブラックなる痴れ者がやって来たら…」

 

「やって来たら?」

 

「構わん、殺れ」

 

「……分かった」

 

やる気満々に頷く雀部。

 

「雀部副隊長、ご心配には及びません。彼女が手を汚す前に僕が叩き切りますので」

 

「ほう、では将平君に任せるとしましょう」

 

刀原が代わりにやることを言えば、雀部長次郎は満足げに頷いた。

ブラックがのこのことホグワーツにやって来ないことを、祈るばかりである。

 

 

「楽しみだね!」

 

そう言い、ルンルン気分に見える雀部。

其処に緊張など無かった。

 

「全くだな」

 

刀原も今までとは違い、何処と無く気分が良かった。

 

英国まであと数時間。

着くまでの長いようで短い時間を、二人は話を弾ませながらあっという間に過ごした。

 

 

 

 

 

 

 

*1
如何にも渋々と言った感じだった

*2
「隊長って格好いいよね!」という雛森の発言を受けての野望である

*3
刀原が焚き付けたのだろう

*4
刀原=日番谷>雀部>>>雛森>>阿散井=朽木=吉良

*5
未成年のため『未成年魔法使いの妥当な魔法使用制限に関する法令』

おまけに『国際魔法連盟機密保持法』にも違反の恐れあり

*6
雀部に至っては「来たら返り討ちにします!」と言い放った




改めて、今年もよろしくお願いいたします。

オリキャラである彼女の詳細はまた今度。
ホグワーツでフルネームを開示します。


感想、考察、意見。
ありがとうございます。
そしてお待ちしてます。


では次回は、
再びの横丁と恐怖
次回もお楽しみに



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死神、払う。 再びの横丁と特急


我らは幸福を求める
其れを糧とする

全ての幸せよ
我が口腔の中へ。








 

イギリスへと降り立ち、興奮しっぱなしの雀部*1を宥めながら、刀原達は無事に漏れ鍋へと着いた。

 

「ショウ。こっちだ!」*2

 

中は相変わらず人で大賑わいだったが、その中からハリーが手を振ってアピールする。

 

「ハリー、元気そうだな。初めての自由は謳歌してるか?」

 

刀原が茶化す様に言えば、ハリーはニッコリと笑う。

 

「あれ程嫌だった夏がすっごく楽しいんだ!それにショウの手紙通り、この夏でダイアゴン横丁にすっごく詳しくなったよ」

 

「それは何よりだ」

 

どうやらハリーは初めての自由な夏(娑婆)をウキウキで過ごしていたらしい。

 

「ねえ、早く紹介してよ?」

 

ハリーとそんな話をしていると雀部がワクワクしながら刀原を突いてくる。

 

「ああ、そうだな。ハリー。こちらは日本の友人で、今年からホグワーツに留学することになった雀部だ」

 

「君がハリー・ポッター君ね?雀部です。よろしく!」

 

「よ、よろしく」

 

雀部の挨拶に戸惑いながら返事をするハリー。

刀原はそんなハリーの反応に首を傾げながら「それじゃ、ダイアゴン横丁に行くか」と言った。

 

 

 

 

雀部は俺の様に杖は購入しなかったが、午前中のうちに教科書やホグワーツの学生服をマダム・マルキン洋装店で購入し終える。

彼女のウキウキ気分は全く色褪せることは無く、終始ニコニコしていた。

 

「なあ、ハリー?」

 

そんな中、俺はハリーに先ほど何故どもったのかを聞いた。

 

「だって、すっごく綺麗な人じゃないか」

 

ハリーは雀部をチラッと見ながら小声でそう返す。

 

「なるほど、まあ、確かにな……」

 

俺は改めてそう言われている幼馴染みを見る。

 

容姿端麗で身長も小柄。

いつもニコニコしてフレンドリー。

髪は金髪で瞳は翠と、一見すると日本人には全く見えない。

こうしてダイアゴン横丁を歩いているのを見ているとすごく様になっている。

 

母方が日系の英国人だったからその遺伝なのだが、昔は良く見た目の事で騒ぐ馬鹿もいた。

まあ、俺が全員叩きのめしたが。

 

「雀部は綺麗で可愛いんだから、自信をもって。成長して誰もが振り返る美人になればいいよ!」

 

などと言ったっけ……。

 

そして実際に綺麗になっているし、実力だって俺や日番谷に次ぐ。

始解だって習得している。

 

だがかなり心配になるのは、俺が未だに彼女を信じ切れていないのだろうか。

 

「あ、いた!ハリー!ショウ!」

 

そんなことを考えていると、聞いたことのある声が俺とハリーの名前を呼んだ。

声が聞こえた方向に振り返れば、そこにはロンとハーマイオニーがフローリアン・フォーテスキュー・アイスクリーム・パラーのテラスに居た。

 

「やっと会えた!」

 

とハリーが言うあたり、どうやらこの夏は未だ会っていなかったらしい。

 

「僕たち『漏れ鍋』に行ったんだけど、もう出ちゃったって言われたんだ……。君は誰?」

 

ロンが雀部を見ながら首を傾げる。

 

「忘れちゃったの、ロン?ショウが今年から友人も留学しに来るって手紙で言ってたじゃない。彼女がきっとそうよ」

 

ハーマイオニーがロンを見ながら言う。

 

「正解です!貴女がハーマイオニーさんですね?ショウ君が相当頭が良い女の子だと言っていたのですが、本当なんですね!」

 

雀部がそう言えばハーマイオニーは照れながらも勝ち誇ったかのような顔をする。

 

「ごめん…。だって、見た感じ日本人っぽく見えなかったんだ…」

 

ロンは申し訳なさそうに言う。

 

「大丈夫です、気にしてませんよ。貴方は赤毛のロンさんですね?」

 

雀部が若干失礼なことを言ったロンをフォローする。

フォローされたロンは名前を当てられたことに喜んだ。

 

「改めまして、雀部です。よろしくお願いしますね」

 

雀部はハリーを含めた三人にニッコリを微笑みながら自己紹介した。

 

 

 

自己紹介が終わったあと、ハーマイオニーが大真面目に「ハリー、ほんとにおばさんを膨らましちゃったの?」と尋ね、ハリーとロンは吹き出した。

 

「笑ってる場合か?」

「笑いごとですか?」

 

二人が吹き出したのを見て、刀原と雀部が聞く。

 

「ハリー、ロンも。ショウ達の言う通り、笑うようなことじゃないわ。ハリーが退学にならなかったのが驚きよ」

 

ハーマイオニーもむっとしながら戒める。

 

「退学処分どころじゃない。僕、逮捕されるかと思った」

 

「まあ、ハリーは二年生の時に警告をされているからな。本来ならそうなっても何らおかしくはないだろう」

 

「何でそうならなかったのかな?」

 

「多分、ハリー君だからでしょうね。有名で英雄のハリー・ポッター。そんな貴方を逮捕すれば、抗議が来るからでしょう」

 

「雀部の推察は、おそらくあっているだろうな」

 

 

「まあ、答えは今晩パパに直接聞いてみろよ。僕たちも『漏れ鍋』に泊まるんだ! だから、明日は僕たちと一緒にキングズ・クロス駅に行ける! ハーマイオニーも一緒だ!」

 

「パパとママが、今朝ここまで送ってくれたの。ホグワーツ用のいろんなものも全部一緒にね」

 

ロンとハーマイオニーがニッコリと笑う。

 

「最高!それじゃ、新しい教科書とか、もう全部買ったの?」

 

ハリーの言葉に、ロンは袋から細長い箱を引っ張り出すと、テーブルの上に乗せて開けて見せた。

刀原はその箱に見覚えがある。

オリバンダーのところの杖の箱だからだ。

 

「これ見てくれよ。ピカピカの新品の杖だ!三十三センチ、柳の木、ユニコーンの尻尾の毛が一本入ってる。前のはもう駄目だったからね……」

 

「ああ、あれを使い続けるのは自殺行為に近いだろうな。これでもう自爆ともおさらばだな」

 

どうやらリドルを苦しめたロンの大破した杖(ブービートラップ)はお役御免となったらしい。

はっきり言って英断である。

 

「良かったねロン!」

 

刀原とハリーの言葉に、ロンは「ありがと」と笑顔を浮かべた。

 

 

 

「僕の新しい杖とは別に、僕たちも教科書は全部そろえた。あの怪物本、ありゃ、なんだい、エ?僕たち、二冊欲しいって言ったら、店員が半べそだったぜ」

 

ロンがこう言うのは魔法生物飼育学の指定教科書。

その名も『怪物的な怪物の本』。

ダイアゴン横丁のフローリッシュ・アンド・ブロッツ書店で刀原と雀部も購入した本だ。

 

その名の通り、随分な怪物っぷりを発揮していたかの本は、刀原と雀部が購入した直後まで確かに怪物だった。

 

だが所詮は本。

堪忍袋の緒が切れた二人は、容赦なく斬魄刀を、あと数センチあれば本を貫通するように突き刺した。

微笑みながら。

 

以来、かの本はただの本になった。

目の前に迫った確実な死に恐怖したらしい。

 

 

ロンがそんな怪物の本について話しているのを横目に、雀部がある疑問をハーマイオニーに投げ掛ける。

 

「ハーマイオニーさん。そんなにたくさんの本はどうしたの?」

 

雀部はハーマイオニーの隣の椅子に山積みになっている袋らを指差した。

ハーマイオニーは語る。

 

「さんは要らないわよ?私、たくさん新しい科目を取るのよ。これはその教科書。数占い、魔法生物飼育学、占い学、古代ルーン文字学、マグル学――」

 

「……要するにハーマイオニーは今年から始まる選択科目をすべて受ける事にしたんだよ」

 

下手すると長くなりそうなので、刀原は雀部に解説した。

 

「なんでマグル学なんかとるんだい?君はマグル出身じゃないか!パパやママはマグルだろ!?マグルのことはとっくに知ってるだろう!」

 

「だって、マグルのことを魔法的視点から勉強するのってとっても面白いと思うのよ」

 

ロンの言葉にハーマイオニーは真顔で答える。

だからと言って無茶苦茶大変だろうと刀原は思うのだが。

 

「ハーマイオニー、これから一年、食べたり眠ったりする予定はあるの?」

 

ハリーはこう尋ねる始末だった。

 

 

 

一行はアイスを食べたあと、ハーマイオニーがふくろうがほしいのと、ロンのペットであるネズミのスキャバーズが調子が悪いと言うことで、ダイアゴン横丁にあるペットショップに向かった。

 

店には多種多様な魔法動物がおり、そんな中ロンが店員にスキャバーズを見せる。

 

なんやかんや刀原もまともに見るのは初めてだったのだが、確かに具合が悪いようで、痩せ細っているし髭もダラリとしていた。

どう見ても絶好調では無い。

 

かなりの歳であろうスキャバーズのためにネズミ栄養ドリンクを買うロン。

なんとも健気だが、そこに忍び寄る存在が一つ。

 

「アイタッ!」

 

「駄目!クルックシャンクス!」

 

ロンを奇襲した存在はクルックシャンクスと名付けられた猫であった。

体はけっこう大きく、全身をオレンジの毛に包まれ、太いふわふわの尻尾と黄色い目が特徴なその猫は、店員曰く誰もほしがる人がいなかった(売れ残り)とのこと。

 

やたらとロンとスキャバーズを威嚇するクルックシャンクス。

堪らずロンと、おまけにハリーがペットショップから撤退する。

 

そして静かな女子二人。

 

「「か、可愛い!」」

 

どうやら二人はクルックシャンクスに一目惚れしたらしい。

 

「うわぁ、もふもふだぁ…。すっごく可愛いです!ショウ君もそう思いますよね!?」

 

雀部は目をランランに輝かせながらそう言う。

刀原も既にハーマイオニーの腕のなかにいるクルックシャンクスの頭を撫でる。

 

確かにもふもふで可愛い。

 

斯くしてハーマイオニーは雀部に断りを入れ、クルックシャンクスを購入した。

 

三人は外でハリー、ロンと合流したが、ロンの目は見開かれた。

彼は自身とスキャバーズを襲撃されたこともあって、クルックシャンクスを毛嫌いしていたのだ。

二人は対立したまま歩き続け、そしてそのまま漏れ鍋に到着したのだった。

 

 

 

 

「あの時、お礼を言いそびれてしまったから…。ここで改めてお礼を言わせて。ジニーを助けてくれて、本当にありがとう!」

 

「私からもお礼を言わせてくれ。勇敢な日本の少年よ、我が娘を助けてくれて本当に感謝している」

 

「は、はあ…」

 

刀原はロンの両親であるアーサー・ウィーズリーとモリー・ウィーズリーとは、汽車のお迎え時や去年のの一件の解決後(秘密の部屋からの救出後)に顔合わせはしていた。

しかし本格的な顔合わせは初めてであった。

 

そして挨拶もそこそこに言われたのがこの言葉だった。

 

こうして夕食は豪華となった。

漏れ鍋の亭主、トムが三つも食堂のテーブルを繋げてくれたので、その周りにウィーズリー家の七人とハリー、ハーマイオニー、そして刀原と雀部が座った。

 

雀部にとっては初めての英国料理だったが「噂より美味しい」との感想だった。

 

 

そして色々小さなニュースもこの時飛び交った。

 

まず、ロンの兄であるパーシーが主席になったらしい。

規律の鬼とも称される彼なら相応しい立場だろう。

なお、フレッドとジョージの双子が我が家最後の、と付け足したが刀原はその可能性は大いにあると考えた。

 

次に英国魔法省が車を出すとのこと。

おそらく例の件の対策だろうと刀原は結論した。

 

 

大にぎわいで夕食は進み、終わったあとも賑わいは続いていた。

雀部はハーマイオニーとジニーと女子トークをし、ハリーはロンとチェスをし、双子はパーシーの主席バッチをくすねて魔改造していた。

 

「トーハラ君。ちょっと良いかな?」

 

そんな中刀原はアーサーに呼ばれ、漏れ鍋の隅に行った。

 

 

 

 

「シリウス・ブラックと言う凶悪な魔法使いが先日脱獄したのだが、トーハラ君は聞いているかな?」

 

「ええ、まあ。耳には挟んでます」

 

アーサーの用事はやはりブラックの事についてだった。

 

「そうか…ではブラックの狙いも?」

 

「ハリーの殺害。そしてヴォルデモートの復活ですか?」

 

日本魔法省が集め、推察されたブラックの目的。

ヴォルデモートの名を刀原が平然と言えば一瞬顔を青くしたアーサーだったが、神妙な顔で頷く。

 

「その通り、少なくとも魔法省はそう考えている。ファッジは…ああ、こっちの魔法省大臣なんだが……彼はハリーに詳しい事は言わないと言っていてね、譲らないんだ。モリーも反対していてね……」

 

「ハリーは心配されてますね」

 

「それはそうだろう、私とて心配だよ。だが、ハリーには知る権利がある。それにハリーはもう十三歳なんだ。それに……」

 

「アーサー、本当のことを言ったら、あの子は怖がるだけです!ハリーがそれを引きずったまま学校に戻る方がいいって、本気でそうおっしゃるの?とんでもないわ!知らない方がハリーは幸せなのよ」

 

「わたしはあの子に自分自身で警戒させたいだけなんだ。ハリーやロンがどんな子か、母さんも知ってるだろう。二人でフラフラ出歩いて……『禁じられた森』に二回*3も入り込んでいるんだよ!今学期はハリーはそんなことをしちゃいかんのだ!」

 

刀原を置いていきヒートアップする二人。

 

「マダム。お言葉ですが…知らない方が逆効果だと思いますよ?」

 

刀原の言葉にやっぱりかと言う顔をするアーサー。

 

「ハリーは知りたがり、そしておそらく探ろうとするでしょうね。下手に隠したら面倒な事に成りかねませんよ?」

 

「……貴方は本当の事を知らないからーー」

 

「本当の事とは、ブラックがハリーの両親の親友で、ブラックは彼らを裏切ったと言うことですか?」

 

モリーの反論を遮って言う。

 

「ッツ」

 

「……そこまで知っていたのか」

 

「日本魔法省の情報調査部は優秀ですからね」

 

刀原はニッコリと笑って言った。

 

 

 

 

「トーハラ君の言う通りだろう。それに『夜の騎士バス』があの子を拾っていなかったら、魔法省に発見される前にあの子は死んでいたよ」

 

「あの子は無事なのよ。トーハラ君の言う事は分かるけども、わざわざなにも――」

 

「モリー母さん。ブラックは狂人だとみんなが言う。たぶんそうだろう。しかも不可能といわれていたアズカバンを脱獄した。もう三週間も経つのに、誰一人、ブラックの足跡さえ見ていない。ファッジが『日刊預言者新聞』になんと言おうと、事実、我々がブラックを捕まえる見込みは薄いのだよ。一つだけはっきり我々が掴んでいるのは、ヤツの狙いが――」

 

「でも、ハリーはホグワーツにいれば絶対安全ですわ」

 

 

「我々はアズカバンも絶対間違いないと思っていたんだよ。でもブラックがアズカバンを破って出られるなら、ホグワーツにだって破って入れるかもしれない」

 

「でも、誰もはっきりとは言ってないし、わからないじゃありませんか。ブラックがハリーを狙ってるなんて、」

 

またもや刀原を置いてヒートアップする二人。

 

「モリー、何度言えばわかるんだね? 新聞に載っていないのは、ファッジがそれを秘密にしておきたいからなんだ。いつもおんなじ寝言を言っていたそうだ。『あいつはホグワーツにいる……あいつはホグワーツにいる』とね。ヤツは、ハリーを殺せば『例のあの人』の権力が戻ると思っているんだ。ハリーが『例のあの人』に引導を渡したあの夜、ブラックはすべてを失った。そして十二年間、ヤツはアズカバンの独房でそのことだけを思いつめていた……」

 

「アルバス・ダンブルドアのことをお忘れよ。ダンブルドアが校長をなさっている限り、ホグワーツでは決してハリーを傷つけることはできないと思います。ダンブルドアはこのことを全てご存知なんでしょう?」

 

「もちろん知っていらっしゃる。アズカバンの看守たちを学校の入り口付近に配備してもよいかどうか、我々役所としても、校長にお伺いを立てなければならなかった。ダンブルドアはご不満ではあったが、しぶしぶ同意した」

 

「ご不満? ブラックを捕まえるために配備されるのに、どこがご不満なんですか?」

 

「ダンブルドアはアズカバンの看守たちがお嫌いなんだよ。私も嫌いだがね…」

 

アズカバンの看守。

良い噂は全く聞かない。

 

「それで?僕をこの場に呼んだのは何故でしょうか?」

 

刀原はこの夫婦喧嘩に飽きていた。

 

「……ハリーを守って欲しいんだ。生徒側で頼めるのは君しか居ない」

 

アーサーはハッキリとした目で訴える。

 

「元よりそのつもりですよ。ご安心を」

 

刀原もしっかりとアーサーの目をして答える。

 

「よろしくお願いね」

 

モリーが刀原の手を取りながら言う。

 

あんた等の息子さん達(ロンと双子)は良いのか?

刀原はよぎったこの疑問に蓋をした。

 

 

 

 

翌日はバタバタだった。

あれが無いこれが無いだの、何故前日に入念な準備と確認をしないのか。

 

そして時間になってやってきた魔法省の車は、アーサーの車と同じように何やら魔法がかけられていた。

大きなトランクも各ペットたちもそれから中に乗る人々も、二台分乗ではあるがすべて収まり、車は駅に向けて発進した。

 

キングス・クロス駅から入った九と四分の三番線は、今年も大混雑だった。

 

乗り込む寸前には最後の挨拶をアーサーやモリーたちにした。

モリーは別れを惜しんで一人一人の頬にキスをしていた*4

 

そしてアーサーに呼び止められたハリー以外が、列車に乗り込んだ。

少しだけ遅れてハリーはやって来て、列車は煙を吐いて汽笛を鳴らし、いつもの通りに走り出した。

 

 

誰も居ないコンパートメントを探し、一行は結局最後尾まで歩くことになった。

そしてそのコンパートメントに乗客は一人しかいなかった。

おまけに眠っている。

これぞ幸いとばかりに、一行はそのコンパートメントに転がり込んだ。

 

「この人、一体誰なんだ?」  

 

全員が席について落ち着くと、ロンが声を潜めて聞いてきた。

 

「ルーピン先生よ。ほらそこ……鞄に書いてあるもの。」

 

答えるのはハーマイオニー。

 

「おそらく闇の魔術に対する防衛術の先生だな。其処しか空席じゃないからな」

 

刀原が付け足す。

 

「……この人がちゃんと教えられるといいけど。」

 

ロンは懐疑的な様子だが、それはもっともな指摘だろう。

ルーピンの見た目はかなりみすぼらしいし、刀原達が入ってきても起きる様子の一つもない。

なんとも頼り無さげだ。

 

それに、今までの先生はどいつもこいつも駄目な連中ばかりだった。

一年目のクィレルはヴォルデモートと融合していたし、二年目のロックハートはペテン師だったという実績がある。

 

「……大丈夫かな?」

 

「み、見た目だけで判断するのは悪手だ」

 

雀部の心配そうな声に刀原はそうフォローした。

 

「何だか強力な呪いをかけられたら一発でだめになりそうだ……で、ハリー。何の話だったっけ?」

 

ロンにそう言われ、ハリーが昨晩聞いたことやらさっきアーサーに言われたことを説明すると、ロンとハーマイオニーは非常に驚いていた。

 

それもそのはずだ。

かの有名な殺人犯たるシリウス・ブラックが難攻不落の牢獄島アズカバンから、ハリー殺害を目的に逃走したというのだ。

しかもいままで脱走者はいなかったにもかかわらずにだ。

 

 

「ああ、何てこと……ハリー、お願いだから自分からトラブルに飛び込んでいったりしないでね?」

 

そう言うのはハーマイオニー。

だがハリーはため息をついて首を振る。

 

「いつだってトラブルの方から飛び込んでくるんだ。どうしようもないよ」

 

「可哀想に……」

 

事情を刀原から聞いている雀部が、心中お察しすると言った顔で慰める。

 

「でもどうやってブラックはアズカバンから脱獄したんだ?だって今まで脱獄したのは誰もいないし……」

 

「脱獄の方法など、問題じゃない」

 

ロンの問いに刀原が答える。

 

「え、どうして?」

 

「そんなもの、ブラックを引っ捕らえた後でも分かるからだ。そしてそれを受けて対策をすれば良いだけの事。問題なのは、」

 

「ブラックの目標と、それを達成されないようにする事です」

 

刀原が答えの理由を言い、雀部が続きを言う。

 

「雀部の言う通りだ。幸いにも目標は実に分かりやすい、即ち我らが親愛なる生き残った男の子……ハリー・ポッター君の命。そして策はハリーの滞在先……つまりホグワーツの防備を固めること。確か…ハリーはホグズミード村には行けないんだったな?」

 

ホグズミード村とはホグワーツの近くにある英国魔法使いだけの村で、ホグワーツ生は四年生から時々行けるのだ。

 

「うん……叔父さんから許可証のサインが貰えなかった」

 

そしてその村に行くには保護者からのサインが必要*5だった。

 

「残念な事だろうが、逆に良かったのかもしれないな。むざむざ狙われに行くようなもんだ」

 

諦めろと刀原が言えば、ハリーはガックリと項垂れる。

四人はそんなハリーに対し、ハニーデュークスのお菓子を買ってくる事を確約したのだった。

 

 

 

列車は順調に北へ向かって行くが天気は明らかに悪くなっていった。

刀原が間も無く雨が降りそうな雰囲気であると思ったすぐ後には、外はバケツを引っくり返したかのような大雨になり、まるで滝のようだった。

 

ルーピンは全く起きる気配も無く、車内販売にもマルフォイ一行にも起きなかった。

そして間も無く夜の帳が来る少し前、汽車が唐突に速度を落とし始めた。

 

「お、そろそろ着くのかな? 宴会が待ち遠しいよ。腹ペコペコなんだ」

 

ロンが呑気にそう言う。

窓の外は相も変わらず滝のような雨だが、真っ暗で駅のようなものはまるで見えない。

そしてハーマイオニーが首を振って否定する。

 

「時間的にはまだ着かないはずよ……どうしたのかしら」

 

その言葉を皮切りになったかのように、どんどん列車は速度を落とし、やがて停車した。

その上、停電まで発生する。

 

完全に視界不良となったコンパートメントは、誰かが動けば誰かの足を踏むと言う面倒な事になった。

おまけにネビルとジニーまでコンパートメントに入り、プチパニックになった。

そんな騒ぎでとうとうルーピンが起きたらしく「静かに」という少ししわがれた声がコンパートメントに響く。

 

「ショウ君………?」

 

「大丈夫だ雀部。……一応構えとけ」

 

事態は悪化し、列車の通路から得体の知れない寒気が夏だと言うのにコンパートメントに侵入していた。

打ち付ける雨がだんだんと凍りつき、ピシピシというガラスが割れそうな嫌な音が刀原の耳にはっきり届いていた。

 

刀原は不安そうな雀部に大丈夫だと答え、コンパートメントの出入口に陣取る。

 

「とりあえず私が様子を見てくるからーー」

 

ルーピンがそう言って立ち上がり、前に出ようとしたその時だった。

より強烈な寒気が押し寄せ、それから少しずつコンパートメントの扉が開いていく。

 

この寒気、まさか!

 

刀原の脳裏にある生き物的存在が浮かんだ矢先、黒いローブのようなものが目に映る。

 

しわがれ、不自然に痩せこけたもはや骨と言っても言い黒っぽい手、黒い頭巾をかぶった丸い頭。

そしてそこから冷たく凍えるような吐息が漏れているのは感じられた。

まるで空気以外の何かを吸い込もうとしているように。

 

その正体は『吸魂鬼(ディメンター)

人の幸せを食らう獣。

 

刀原が先程脳裏に過った存在である。

刀原の斬魄刀である『斬刀』は小太刀だが、狭いコンパートメントでの使用は不可能。

 

「ここにシリウス・ブラックは居ない」

「貴様等の餌はない。さっさと失せろ!」

 

やって来たルーピンと刀原が言うが、会話が通じる存在ではない。

吸魂鬼はおもむろに相対する二人に接近しようとする。

 

だが、それを許す二人では無い。

 

「「『エクスペクト・パトローナム!(守護霊よ来たれ!)』」」

 

二人の杖から出る狼と隼。

二匹の白い守護霊はに襲いかかり、それらをコンパートメントの外まで一息に追いやってしまった。

 

そしてその直後、二人の後ろから前へ駆け抜けた白い雷鳥がいた。

後ろで守りに徹していた雀部の守護霊だ。

 

「ありがとうな雀部。助かった」

 

「ふふっ。どういたしまして」

 

刀原の感謝に雀部はニッコリと笑って答えた。

 

 

 

 

「君たちが校長が言っていた日本の留学生だね?優秀だとは聞いていたが、まさかここまでとはね……」

 

吸魂鬼を撃退したあと、車内の灯りは即座に復旧した。

直後、ルーピンから賛辞を受ける。

 

刀原が後ろに振り替えるとハリーがぶっ倒れていた。

既に気付いた雀部が介抱しており、心配そうなロン達に「大丈夫。気絶しているだけみたいです」と答えていた。

 

「今のは吸魂鬼……。何故こんなところに?」

 

「おそらくシリウス・ブラックがこの車両に居るのではないかと思ったのだろう。その為、」

 

「検分に来たと? しかし奴らにそんな権限が? ……まさかあいつ等がアズカバンの看守だとでも?」

 

「日本の留学生なら知らないのも無理はない。そしてその通り。吸魂鬼はアズカバンの看守役だ」

 

syoukitohaomoenexezinnzidana(正気とは思えねぇ人事だな)

 

「今何て言ったのかな…?」

 

「ああ、失礼しました。日本では考えられない手法だったもので……」

 

何故アズカバンの看守に良い噂が無いのか。

さしもの刀原も知らなかったが、十分に理解出来る内容だった。

 

「とりあえず、私は運転手と話してこなければ。申し訳無いが皆にチョコレートを配ってくれ。知っていると思うが食べれば元気になる」

 

ルーピンはそう言って刀原に巨大な板チョコを託す。

刀原に断る理由など無いので「分かりました」と答える。

 

刀原の答えに満足げに頷いたルーピンは「では頼んだよ?」と言ってコンパートメントを出た。

後ろではハリーが目を覚ましたらしい。

 

事件が起きねぇ年はねぇのか……?

 

刀原はため息をつきながら雀部の隣に座った。

そして雀部が安心そうに、だが不安そうにしているのを見て「大丈夫だ」と声をかける。

雀部はそう言われると少しだけ刀原に身体をもたれかけた。

 

 

ホグワーツ特急は再び走り出す。

雨の中、ホグワーツに向けて。

 

チョコレートを食べながら、刀原はハリー達に説明を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
初めてテーマパークに来た子供さながらだった

*2
「ショウって言われてるんですか?じゃあ私もそう呼びますね」と雀部が言った

*3
一回目は罰則で、二回目はアラゴグ案件で

*4
いい加減そう言う文化に慣れた刀原はともかく、雀部はかなり戸惑った。

*5
ちなみに雀部の許可証には雀部長次郎忠息と書かれている

刀原の許可証には山本元柳斎重國と達筆な文字で大書されている





忙しい中でも頑張って書いていきます。
ですが、遅れることをご容赦ください。

斬魄刀で吸魂鬼、切れそうですね。
うちの主人公ならやれるはず!


感想、考察、ご意見。
ありがとうございます。
そしてお待ちしています。


では次回は
占いと動物
次回もお楽しみに







おまけ



強烈な寒気が押し寄せ、それから少しずつコンパートメントの扉が開いていく。

しわがれ、不自然に痩せこけたもはや骨と言っても言い黒っぽい手、黒い頭巾をかぶった丸い頭。

そこから冷たく凍えるような吐息が漏れているのは感じられた。
まるで空気以外の何かを吸い込もうとしているように。

その名は吸魂鬼。
人の幸せを食らう獣。


とても生物の様には見えないその姿を見たプレイヤーの皆さんは、SAN値チェックです!


ハリーとジニー以外、セーフ

ジニー 失敗
1d3 ー1

ハリー、ファンブル
1d6 ー5

ハリーは、謎の叫び声を聴きながら失神します。







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死神、友を紹介する。占いを添えて


私はたまに
未来の霧を晴らす。









 

滝のような土砂降りの中、ホグワーツ特急は駅に着いた。

吸魂鬼と遭遇し、かつ雨の中であることも相俟ってか生徒達に何時もの喧騒は無かった。

体の芯から凍りつくような寒さに加え、吸魂鬼は皆の新学期への期待感といった類のものをどうやら削いでしまったようであった。

それは刀原達の馬車も同じだった。

 

特にハリーはかなりどんよりしており、気分が麗しく無い様子だった。

そして刀原の隣にいる雀部は何時もの笑顔は何処へ行ったのか、ガチガチに緊張していた。

 

「大丈夫だ、雀部。何時も通りのままで良いんだよ」

 

刀原が日本語でそう言えば、少しだけ緊張が溶けたらしかった。

 

 

ホグワーツ城の門も抜け、広い玄関ホールへ踏み入ると、城の中も外の天気か生徒の気分を反映でもしたのか寒々しかった。

 

「ポッター!グレンジャー!トーハラ!三人共私のところにおいでなさい!トーハラは隣のご友人も忘れずに!」

 

突如、マクゴナガルの呼び声が響く。

よくよく見れば、玄関ホールの向こう側から三人を呼んでいたのだ。

ロン達に断りを入れ、若干ぼうっとしている生徒たちがなかなか避けてくれなかったが、何とかそこにたどり着く。

 

「まず……ルーピン先生から聞いていますが、ポッターの気分が悪くなったそうですね。大丈夫ですかポッター?」

 

ルーピンはどうやらホグワーツに一報を入れていたらしい。

傍にはマダム・ポンフリーが来ておりチョコレートを食べたならまあ大丈夫だと言っていた。

そんなマダム・ポンフリーの言を聞いて安心したのか、マクゴナガルはハリーに大広間に行っているように言い渡し、解放した。

 

 

「次に…貴女が今年よりホグワーツに留学してくる子ですね?ようこそホグワーツへ。私は副校長でグリフィンドールの寮監のマクゴナガルです」

 

マクゴナガルが次に目を向けたのは雀部だった。

 

「は、はい!雀部です。よろしくお願いします!」

 

マクゴナガルに自己紹介する雀部。

そんな雀部にマクゴナガルは「こちらこそよろしくお願いします」とニッコリ笑って返した。

 

「貴女には新入生の組分けが終わり、ダンブルドア校長先生が合図を出したら大広間に入って来て貰います。そこでホグワーツの生徒に紹介と組分けを行いますので」

 

「はい、分かりました」

 

「トーハラは彼女に付き添ってあげなさい」

 

どうやら刀原の顔には、雀部が心配であると言うことが書かれていたらしい。

マクゴナガルは気を効かせてくれたのだ。

 

「ありがとうございます、マクゴナガル教授」

 

マクゴナガルの意図を読み取った刀原が感謝を伝える。

 

「よろしい。では二人は大広間近くで待機なさい。私はまだグレンジャーに用が有りますので」

 

「はい」

 

「失礼します」

 

こうして刀原と雀部は解放され、大広間前に向かった。

 

 

大広間に来たときには、もう組み分けは終わっていて、ダンブルドアの話が始まろうとしていた。

そしてそれまでざわめきに満ちていたのが、一斉に静かになる。

 

「新学期おめでとう!皆にいくつかお知らせがある。一つはとても深刻な問題じゃから、皆がご馳走でボーッとなる前に片付けてしまう方がよかろうの……ホグワーツ特急での捜査があったから、皆も知っての通り、わが校は、ただいまアズカバンの吸魂鬼、つまりディメンターたちを受け入れておる」

 

今年入った新入生にとっては恐怖の洗礼を受ける羽目になってしまった吸魂鬼によるご用改め。

トラウマにならない事を祈るのみである。

 

「魔法省の御用でここに来ておるのじゃ。ディメンターたちは学校の入り口という入り口を固めておる。はっきり言うておくが、あの者達がここにいる限り誰も許可なしで学校を離れてはならんぞ。ディメンターはいたずらや変装に引っかかるようなシロモノではない――『透明マント』でさえムダじゃ」

 

今年は禁じられた森には行かないようにしよう。

刀原は固く誓った。

 

「言い訳やお願いを聞いてもらおうとしても、ディメンターには生来できない相談じゃ。それじゃから、一人一人に注意しておく。あの者たちが皆に危害を加えるような口実を与えるではないぞ。監督生よ、男子、女子それぞれの新任の主席よ、頼みましたぞ。誰一人としてディメンターといざこざを起こすことのないよう気をつけるのじゃぞ」

 

警告も通じない奴らだ。

問題なのは斬魄刀や鬼道が通じるかどうかだが……おそらくいけるだろうと刀原は思っていた。

 

「楽しい話に移ろうかの。まずは新任の先生から。今学期からうれしいことに新任の先生を二人、お迎えすることになった。リーマス・ルーピン先生。ありがたいことに、空席になっている『闇の魔術に対する防衛術』の担当をお引き受けくださった」

 

パラパラと拍手がちらほら起こる。

去年はロックハート(ペテン師作家)だったので、またあんなヤツじゃないだろうなという警戒心の方が強いのだろうか。

見た目があれなのもあるだろうが。

 

「もう一人の新任の先生だが……『魔法生物飼育学』はケトルバーン先生じゃったが、残念ながら前年度末をもって退職なさることになった。手足が一本でも残っているうちに余生を楽しまれたいとのことでの。そこで後任じゃが嬉しいことに、ほかならぬルビウス・ハグリッドが、現職の森番役に加えて教鞭を取ってくださることになった」

 

ざわざわっとざわめきが巻き起こると同時に、盛大な拍手が起こる。

ハグリッドが今まで大勢の生徒に慕われてきたことの証だろう。

 

だが……一抹の不安を覚えるのは俺だけだろうか。

刀原は気のせいとした。

 

そして。

 

 

「最後に、極東は日本のマホウトコロより留学生を、もう一人ホグワーツへと迎えることになった。留学生は先ほどと同様、組み分け帽子で入る寮を決める事になる。なお、学年は三年生じゃ」

 

ダンブルドアの一言で各寮は騒がしくなる。

 

「では入って頂こう。マホウトコロの留学生、ミス・ササキベじゃ」

 

「行ってこい」

 

「……うん」

 

雀部の名前が呼ばれ、刀原がトンと背中を押す。

腰には斬魄刀を差しており、綺麗な金髪が靡く。

 

「可愛いなあの子」

「本当に日本人なの?」

 

一部邪推な感想も聞こえるが、雀部は堂々と組分け帽子がある椅子の前に立つ。

 

「マホウトコロから参りました、雀部雷華(ささきべらいか)と申します。母が英国の魔法使いなので、所縁のあるホグワーツに来れたこと、嬉しく思います。これからよろしくお願い致します」

 

ニッコリと笑ったあとペコリと頭を下げる雀部は堂々としており、ホグワーツ生は拍手で彼女を迎えた。

 

「ありがとうミス・ササキベ、よろしくお願いしますぞ。さて、では組分けじゃ!」

 

いよいよだな。

刀原もグリフィンドールのテーブルに座り固唾を見守る。

 

「ササキベ・ライカ!」

 

「はい!」

 

凛とした声が響く。

ゆっくりと椅子に座る雀部は絵に成っていた。

 

「…………」

 

「…………」

 

被せられた直後から起こる静寂。

よくよく見れば各寮の生徒、とくに男子が祈ってるではないか。

 

「ふざけた野郎どもだ」

 

刀原は少しだけ不快だった。

 

「……よし、君に幸運あれ。グリフィンドール!!」

 

1、2分の静寂の後、組分け帽子がグリフィンドールであると宣告する。

雀部の寮は彼女が望んでいた結果になったのだった。

 

「…………ふぅ」

 

刀原も安堵の声を漏らす。

 

「ありがとうございました」

 

雀部はペコリと頭を下げ、刀原の隣に座る。

 

「狙い通りになったな?」

 

「これでホグワーツでも一緒ですね!」

 

「とりあえず一安心だ」

 

「全くです」

 

刀原と雀部は互いに笑い合った。

 

 

 

「さて、これで大切な話はみな終わった。さあ、宴じゃ!」

 

ダンブルドアの合図で、一斉に空だった皿にご馳走が現れる。

皆が一斉に自分の皿に、料理を我先にと奪い合う。

特急内で腹ペコを宣言していたロンなど狂戦士(バーサーカー)のようだ。

 

「こう言っては何ですが、漏れ鍋の料理より美味しいです」

 

雀部もローストビーフを食べながらそう言った。

 

宴も幕を閉じ、ダンブルドアの最後の言葉も終わり、生徒達は各寮に向かう。

そして多くは、あっという間に眠りにつく。

それは刀原も例外では無かった。

 

 

 

 

ホグワーツ初日、朝食に大広間へと降りてきた刀原達は、早速新しい時間割を受け取ることになる。

中でも目を奪うのはハーマイオニーの時間割。

 

「ハーマイオニーの時間割がメチャクチャだ……一体どうやって一日にこんなに授業を受けるつもりなんだ?こんな二つも三つも、いっぺんに出席するのかい?」

 

ロンの言うことは間違っていない。

現に9時から『占い学』と『マグル学』と『数占い学』が重複している。

 

「まさか。でもちゃんと先生と一緒に決めたから問題はないわよ………それに、私の時間割がちょっと詰まってたところで、あなたには関係ないでしょ?」

 

「どこがちょっとなんですかね……?」

 

ロンがため息をついて、寮のテーブルに戻りつつ言う。  

ハーマイオニーはその皮肉を受け流した。

 

「ハーマイオニーはどうやって受けるのでしょうか?やはり、あれでしょうか?」

 

雀部がそう言い、刀原も「おそらくな」と答えた。

刀原と雀部はおそらくこれだろうと言う魔法具を知っている。

即ち逆転時計(タイムターナー)だ。

 

使用に細心の注意を要するそのアイテムを大っぴらに公表するわけにはいかない。

昨夜刀原、雀部、ハリー、ハーマイオニーを呼び止めたマクゴナガルがハーマイオニーを最後の一人にしたのもそれが理由だと刀原は推察していた。

 

情報漏洩を防止するにあたって「Need To Knowの原則」と言うものがある。

これは『必要とする人にのみ情報を開示または閲覧を許可し、不要な人に開示または閲覧の禁止とするべき』という考え方だ。

 

今回の場合は、使用者ハーマイオニーと責任者と許可を出したマクゴナガル、ダンブルドアぐらいだろう。

 

刀原と雀部は暖かく見守る事にした。

 

 

 

さて、いよいよ授業が始まる。

まず行われるのは『占い学』だ。

 

刀原達がやって来た教室はかなり異質で奇妙だった。

屋根裏部屋と昔風の紅茶専門店を合わせたようなところ、とはハリーの感想だったが、刀原も同意見だった。

 

深紅の仄かで暗い灯りが部屋を満たしており、窓のカーテンは閉めきられ、ランプは暗赤色のスカーフで覆われている。

おまけに気分が悪くなる程の濃厚な香りが暖炉にある大きな鍋から漂っている。

 

そして壁の棚には埃を被った羽や蝋燭の燃えさし、何組ものボロいトランプ、膨大な数の水晶玉、紅茶のカップなどが詰め込まれていた。

 

「雰囲気はありますね……」

 

雀部は刀原にコソッと呟いた。

 

「先生はどこだい?」

 

ロンがそう言うと「ようこそ」と暗がりの中から突然声がした。

霧の彼方から聞こえるかのようなか細い声だった。

 

「この現世で、とうとう皆様にお目にかかれて嬉しゅうございますわ」

 

ひょろりと痩せ、大きな眼鏡を掛けた女性がそう言った。

 

「さあ、お掛けなさい。あたくしの子供たちよ」

 

女性の言葉で生徒達は教室に並べられている丸テーブルの周りにある丸椅子などに座る。

 

「改めて…『占い学』にようこそ。あたくしがトレローニー教授です。多分、あたくしの姿を今まで見たことがないでしょうね……。学校の俗世の騒がしさの中にしばしば降りてしまいますと、あたくしの『心眼』が曇ってしまいますのでね……」

 

なんか…インチキ臭いな……。

刀原はそう思った。

 

「皆様がお選びになったのは『占い学』…。魔法の学問の中でも一番難しいものですわ……」

 

そう言ったトレローニーは長々と語る。

本があまり役に立たないこと『眼力』が無いと駄目だということ等々だ。

 

そして幾つかの予言らしきものも行った。

ネビルの祖母に対して思わせ振りなこと言ってみたり、数ヵ月後に悲しい別れをするなど言ってみたり……。

 

刀原は、占い学と言うのはかなり抽象的で、理論的な考え方をする生徒とは相性が悪いと考えた。

 

紅茶の茶葉で占いをする際など、ハリーのカップをトレローニー先生が持ち上げて「隼……まあ、あなたは恐ろしい敵をお持ちね」などと言ったのだが……。

 

「でも、誰でもそんなこと知ってるわ」

 

ハーマイオニーが聞こえよがしに囁いたのだ。

よっぽど、占い学に書物は不必要だと言われたことが癪だったのか、それとも簡単に分かりそうなことを言ったからなのか。

 

とにかくハーマイオニーはお気に召さなかったらしい。

 

 

そしてハリーも散々な目に遭った。

 

「グリム、あなた、死神犬ですよ! 墓場に取り憑く巨大な亡霊犬です! かわいそうな子。これは不吉な予兆――大凶の前兆――死の予告です!」

 

などとトレローニーが言い放ったのだ*1

しかしハーマイオニーは冷静に立ち上がって、ハリーのカップを傾ける。

 

そして

「グリムには見えないと思うわ」

と言い放った。

 

 

流石にそれはトレローニー先生にも無視できなかったのだろう。

 

「こんなことを言ってごめんあそばせ。あなたにはほとんどオーラが感じられませんのよ。未来の響きへの感受性というものがほとんどございませんわ」

 

イラッとした表情でハーマイオニーに言い返した。

 

間違いなくバチバチのにらみ合いだったと言える。

 

ハリーが「僕が死ぬか死なないか、さっさと決めたらいいだろう!」と大声を出さなかったら面倒な事になっていただろう。

 

なお、占い学は刀原とも相性が悪かった。

 

具体的な証拠も無いのに死の予言をするのは如何なものか。*2

刀原も後にハリーのカップを見たが、グリムには見えなかったのだ。

無論、人によってはグリムに見えたかも知れない。

が、それは人それぞれの意見や捉え方の問題だ。

 

 

おまけに。

 

占い学の授業が終わったあと、クラス中がハリーがいつばったり死ぬか分からないとばかりに注目し、次の授業である『変身術』の授業に集中できないでいた。

マクゴナガルが動物もどき(アニメーガス)の変身をやってもだ。

 

「全く、今日は皆さんどうしたんですか? 別に構いませんが、私の変身がクラスの拍手を浴びなかったのは初めてです」

 

マクゴナガルが疑問に思い質問する。

そこでハーマイオニーが最初の授業が占い学であったことを言えば「ああ、そう言うことですか」と言って顔をしかめたのだ。

 

そして

()()()いったい誰が死ぬことになったのですか?」

と言ったのだ。

 

そしてハリーが自分であると答えた。

 

「今年は?……まさか、毎年恒例なんですか?」

 

刀原はマクゴナガルの言葉を受けて疑問を投げる。

マクゴナガルはキラリと光る目でハリー、刀原を見た。

そして答えた。

 

「その通りですよトーハラ。ポッター、教えておきましょう。シビル・トレローニーは本校に着任してからというもの、一年に一人の生徒の死を予言してきました。ですが、未だに誰一人として死んではいません」

 

マクゴナガルは、先の予言が新しいクラスを迎えるときのお気に入りの流儀だと言ったのだ。

 

「ポッター。私の見るところ、貴方は健康そのものです。ですから本日の宿題を免除したりしませんのでそのつもりで。もっとも、()()貴方が死んだのなら、提出しなくても結構です」

 

マクゴナガルのジョークに、刀原もハーマイオニーも吹き出した。

 

「……辞めてぇな」

 

刀原は占い学に対し、ボソッと呟いた。

 

「……一年は我慢しましょう」

 

雀部もげんなりした様子でそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
簡単に言えば死の予言だ

*2
ただし、ハリーが呪われているのは否定しない。

ターバン野郎、蛇、アラゴグ、ブラック等が良い例だろう





予定では動物まで行きたかったのですが……
次回にさせて頂きます。



感想、考察、ご意見、評価。
ありがとうございます。
そしてお待ちしております。


では次回は
鉤爪と真似妖怪
次回もお楽しみに





オリジナルキャラ『雀部雷華』

性別 女

立場 不明

 
所属 日本 マホウトコロ

   英国 ホグワーツ魔法魔術学校

 

血筋 魔法族で言うなら純血
   日本とイギリスのハーフ

 

容姿 金髪、翠眼

   

性格 真面目 頑張り屋 

 

好きな食べ物 強いて言うなら甘いもの

 

嫌いな食べ物 強いて言うなら苦いもの

 

趣味 のんびりすること

 

特技 美味しい紅茶を淹れる



雷華と言う名前はパッと思い付いた名前ですが、BLEACHのアニメオリジナルに『雷火』と言う斬魄刀があるんですよね……。
悩んだすえ、採用と致しました。

関係はありませんので、気にしないで貰えると嬉しいです。


なお、キャラのモデルは『Fate/Grand Order』に出てくるキャラ『アルトリア・キャスター』としております。

ただ、あくまでも容姿のモデルなので、伏線やキャストリアとしての行動はありません。
キャストリアのファンはどうかお許しを……。





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死神、慌てる。鉤爪とまね妖怪



さあ
恐怖を笑おう
Riddikulus!





 

 

微妙な幕開けとなった新学期の授業にはもう一つ注目の授業があった。

 

それは選択科目の一つでもある魔法生物飼育学。

新任教授、ハグリッドは小屋の外で既に待っていた。

オーバーを着込み、新任の緊張など無い様子で、むしろ早く始めたくてたまらないといった表情だ。

 

「さあ、急げ。早く来いや!今日はみんなにいいもんを見せるぞ!すごい授業だぞ!みんな来たか?よーし、ついてこいや!」

 

ハグリッドの先導の下、生徒達は森の開けた場所へとたどり着く。

そこでハグリッドから教科書を開くように言われるが、誰も開けない。

 

当然だ。

ほとんどの者達が、隙あらば噛み付いてこようとする教科書の開け方など知らなかったのだ*1

 

「おまえさんたち、撫ぜりゃーよかったんだ」

 

ハグリッドは背広を撫でるようにそう言って、森の奥へと姿を消していく。

 

"分かるか!"

 

誰もがそう思った。

 

 

「楽しみですね!」

 

まるで動物園に来たかのようにワクワクした様子で言う雀部。

 

「そうだな。向こうにはあまり魔法動物が居ないから、何が見れんのか楽しみだ」

 

日本では魔法動物が少ない為、こうして触れ合えるのは絶好の機会なのだ。

 

「オォォォォォォォー!」

 

急に誰かが甲高い声を出した。

何事かと刀原と雀部が周囲を見渡せば、馬と鳥を足して二で割ったような動物が十数頭、こちらに向かって走って来ていた。

 

「ドウ、ドウ!」

 

ハグリッドが大きく掛け声をかけた。

そして動物たちを柵に繋ぎ、嬉しそうな声で「ヒッポグリフだ!どうだ、美しかろう?」と笑う。

 

生徒達は静かに数歩下がった。

 

しかし美しいと言うハグリッドの言葉は否定できない。

毛並みの色が驚くほどに綺麗で、思わず触ってみたいとさえ思うほどだ。

しかし他の生徒達は、美しさより恐怖が勝っているようだったが。

 

 

「まんず、イッチ番先にヒッポグリフについて知らなければなんねぇことだが、こいつらは誇り高い。ヒッポグリフを絶対、侮辱してはなんねぇ。そんなことをしてみろ、それがお前さんたちの最後のしわざになるかもしんねぇぞ。必ず、ヒッポグリフの方が先に動くのを待つんだぞ。それが礼儀ってもんだろう?」

 

ハグリッドがそう説明する。

 

「絶対にあの子ふわふわです!触りに行きましょう!」

 

動物大好きな雀部が、特にふわふわなヒッポグリフを指差し、目をランランに輝かせて言う。

 

「落ち着け。今はハグリッドが説明してるだろ」

 

刀原は飛び出そうとした雀部を止める。

ハグリッドの説明は続く。

 

「こいつのそばまで歩いてゆく。そんでもってお辞儀する。そんで、待つんだ。こいつがお辞儀を返したら、触ってもいいっちゅうこった。もしお辞儀を返さなんだら、すばやく離れろ。こいつの鉤爪は痛いからな……。よーし、誰が一番乗りだ?」

 

ハグリッドがあたりをぐるりと見渡したすが、誰も行きたがらないようだった。

雀部は遠慮したのか手を上げない。

 

「誰も行かないのであれば、私が……」

 

雀部が痺れを切らしたその時、ハリーが「僕、やるよ」と名乗り出た。

 

「よーし、そんじゃ……バックビークとやってみよう」

 

ハグリッドは嬉しそうに言う

そして鎖を一本解き、灰色のヒッポグリフを群れから引き離すと首輪を外した。

 

クラスの誰もがハリーに注目しているようだった。

ハリーも緊張したように身構えていた。

 

完全にお預けを食らった雀部だが「まあ、ここはハリー君に任せますか」と言っていた。

刀原もお手並み拝見とばかりに様子を伺う。

 

「さあ、落ち着け、ハリー。目をそらすなよ。なるべく瞬きするな……ヒッポグリフは目をしょぼしょぼさせるやつを信用せんからな……」

 

ハリーを生徒一同が固唾を呑んで見つめる中、ヒッポグリフはまだ動かない。

そして心配したハグリッドがハリーを後ろに下がらせようとしたその時、ヒッポグリフは前足を折り、お辞儀をした。

 

おおっ、と生徒の間でも歓声が起こる。

でも一番喜んでいるのはハグリッドのようだった。

 

「やったぞ、ハリー!よーし……触ってもええぞ!嘴を撫でてやれ、ほれ!」

 

ハグリッドにそう言われ、戸惑いながらバックビークを撫でるハリー。

 

「よーしと。ほかにやってみたいモンはおるか?」

 

 ハリーが成功したことで勇気付けられたのか、他の生徒も恐る恐るではあるが放牧場へと入っていく。

 

ハグリッドはヒッポグリフを一頭ずつ離していき、やがてあちこちでお辞儀をする光景が見えた。

 

雀部は先程から目を付けていた、真っ白いふわふわなヒッポグリフに、既に抱き着いていた。

 

いつの間に手懐けたんだ?

 

雀部の早業に刀原は舌を巻きながら、雀部の元に駆け寄った。

 

 

 

ハリーがバックビークの背中に乗り、遊覧飛行をして帰ってくる。

道中ハリーの歓声が上がっていたところを聞くと、大満足な飛行だったのだろう。

 

生徒達もハリーの元に駆け寄る。

 

その時だ。

 

「危ない!」

 

マルフォイの悲鳴に近い声が聞こえる。

見るとマルフォイがスリザリン生の誰かを庇い、腕を切っていたのだ。

 

生徒を庇いながら倒れるマルフォイ。

女子生徒の悲鳴。

 

ヒッポグリフはかなり激怒しているらしく、マルフォイに追撃の鉤爪を振るう。

 

ガキン!

 

誰もがもうダメだと思った瞬間、金属音が響く。

刀原がマルフォイとヒッポグリフの間に割って入ったのだ。

 

「雷華!マルフォイを下がらせてくれ!」

 

「任せて!」

 

刀原の指示に雀部は了承し、マルフォイに駆け寄って「こっちへ!」と庇いながら後ろへ下がらせる。

 

その間もヒッポグリフは怒りのままに鉤爪や嘴で攻撃するが、刀原は容易く防ぎきる。

そうして防いでる間にヒッポグリフの怒りが収まったのか、それとも全く関係の無い者達を攻撃したことに気がついたのか。

 

ヒッポグリフは、我に帰ったかのようにピタリと攻撃を辞めた。

 

「お前さんは何てことをしちょるんだ!!」

 

今の今まで下手に動くことが出来なかったハグリッドだったが、場が静まったことを把握し巨体を揺らしたやってきた。

 

「後は任せた」

 

刀原はハグリッドにそう言い残すと、雀部とマルフォイの元に駆け寄る。

 

「大丈夫かマルフォイ!?」

 

「あ、ああ……助かったぞショウ。ササキベ…だったけ?君もありがとう、痛みが収まってきた……」

 

「ふふっ、どういたしまして」

 

マルフォイは腕を鉤爪で切られ、出血もしていた。

だが雀部が既に回道で治療しており、出血は止まり傷も塞がりつつあった。

 

「マルフォイ、大丈夫か?」

 

ハリーも心配で駆け寄って来た。

 

「ああ、ポッター。二人のお陰だ……。だが……カッコ良く飛び出したはいいが、このざまじゃな……」

 

どこか自虐的なマルフォイ。

 

「そんなことないよマルフォイ。友達を守るために庇うなんて、中々出来ることじゃない」

 

そんなマルフォイをフォローするハリー。

厚い友情である。

 

「そうだぞマルフォイ。飛び出しただけでも十分なもんだ」

 

刀原もフォローする。

 

「……ポッター」

 

特にライバルのハリーの言葉は考え深いものらしい。

 

「この借りは必ず返す」

 

マルフォイはそう言って、庇った生徒と共にマダム・ポンフリーの元に向かったのだった。

 

 

「……じゃ、じゃあ、その……うん。もう授業はこれで終わりだ……解散」

 

ハグリッドが震える声でそう言い、声と同様に震えている手でヒッポグリフに首輪をし、森へ連れていく。

 

「すぐクビにすべきよ!」

 

「スリザリンのあいつが悪いんだ!」

 

スリザリン生は非難轟々で、全員がハグリッドを罵倒していた。

グリフィンドール生は逆にハグリッドを擁護していた。

 

だがスリザリン側の旗頭たるマルフォイは居らず、グリフィンドール側の旗頭たるハリーはハグリッドの元に向かった。

そんな状態で何かを出来るはずもなく、ただ無駄な口論が行われるだけだった。

 

「ハグリッドや問題のヒッポグリフに、何かを出来るのは事の当事者たる俺とマルフォイぐらい」

 

そのように刀原が言えば、次の授業もあるためか、両陣営は別れていった。

 

 

数多く生徒達が思ったであろう。

ドラコ・マルフォイは何らかのアクションをとると。

 

そのアクションは件のヒッポグリフの処刑要求か、ハグリッドの罷免か。

だがマルフォイはどちらも起こさず、ヒッポグリフの一件はうやむやになった。

 

スリザリンの面々は特に不振に思い、刀原も理由を本人から聞いた。

その理由は至ってシンプル。

 

「ロクな授業になるよりかはまし」

 

との事だ。

 

だがハグリッドはかなりショックを受け*2、魔法生物飼育学はこれ以降つまらないものに当分なるのだった。

 

 

 

 

 

今学期の闇の魔術に対する防衛術の教授……リーマス・ルーピンは、どうやら()()()()()()である。

と言うのが刀原達が授業を受けるまでの評判であった。

 

そしてその評判は正しい評価である、と言うのが少なくとも判明した。

 

何故なら、今までの教授陣はピーブスを秀逸な手口*3で追い払うことは出来なかったであろうし、とある生徒に対し要らない警告をする某魔法薬学の教授に完璧な返しは出来ないだろうからだ。

 

「……しっかりとしたまともな授業を受けられることに、何故か違和感を感じるんだが」

 

「……そこまでだったんですか?」

 

軽快な音楽を聞きながら楽しげに授業に励んでいるハリー達を少し離れた場所で見守っていた刀原の呟きに、隣にいた雀部が疑問を投げ掛けた。

 

「……そうだよ」

 

刀原は今までの頭の痛い授業を思い浮かべながら、苦い顔で肯定する。

雀部はそれを聞いてひきつった顔をする。

 

そこまで酷かったのだ。

 

それに比べたらこの授業は素晴らしいものだろう。

いや、比べる事すら烏滸がましいだろう。

 

 

 

授業の最初、ルーピンは言った。

 

「教科書はカバンに戻してもらおうかな。今日は実地練習をすることにしよう。杖だけあればいいよ」

 

それを聞いた生徒達の過半数が不安そうな顔をする。

おそらく先学期のピクシー戦線を思い出したのだろう。

 

まあ、今迄の闇の魔術に対する防衛術の授業における最初で最後となっている実地練習がまさにあれだったのだから、クラスの皆が実地練習という言葉を不安視(トラウマに)するのも、半ば当然ではあったが。

 

こうしていろんな事が起こりながら*4教室を移動し、生徒達は古い洋服箪笥の前に立った。

その箪笥は急に震えだし、バーンと大きな音を立て何人かが驚いて飛び上がった。

 

「この中にはまね妖怪(ボガート)が入ってるんだ。こいつらは暗くて狭いところを好む。洋箪笥、ベッドの下の隙間、流しの下の食器などにね」

 

ルーピンはそう語る。

刀原はそれを聞いて、咄嗟にネズミを思い出した。

 

「ここにいるのは、昨日の午後に入り込んだやつだ……。それでは、最初の問題ですが、まね妖怪のボガートとは何でしょう?」

 

ルーピンがそう聞けば、ハーマイオニーが速攻で手を上げる。

 

「形態模写妖怪です。わたしたちが一番怖いと思うのはこれだ、と判断すると、それに姿を変えることができます」

 

「私でもそんなにうまくは説明できなかったろう」

 

ルーピンはにっこりと笑う。

相変わらずの博識っぷりだ。

 

「だから中の暗がりに座り込んでいるまね妖怪は、箪笥の戸の外にいる誰かが何を怖がるのかまだ知らないから、まだなんの姿にもなっていない。まね妖怪が一人ぼっちのときにどんな姿をしているのかは誰も知らないけど、私が外に出してやると、たちまちそれぞれが一番怖いと思っているものに姿を変えるはずです。ということは、初めっから私達の方がまね妖怪より大変有利な立場にありますが、ハリー、それは何故だか分かるかな?」

 

ハリーが突然当てられ、びくっと肩を震わせた。

そして「えーと……」と少し考えて、思い切って発言する。

 

「僕たち、人数がたくさんいるので、どんな姿に変身すればいいかわからない?」

 

「その通り。……まね妖怪退治をするときは、誰かと一緒にいるのが一番いいむこうが混乱するからね。クビのない死体に変身すべきか、それとも人肉を喰らうナメクジになるべきか? 私はまね妖怪がまさにその過ちを犯したのを一度見たことがある……。一度に二人を脅そうとしてね、半身ナメクジに変身したんだ。どうみても恐ろしいとは言えなかった……」

 

ルーピンの言う半身ナメクジを迂闊にも想像した刀原は、ふふっ、と笑う。

とんだ珍獣の爆誕だ。

その刀原の隣にいる雀部もクスッと笑う。

 

「まね妖怪を退散させる呪文は簡単だだが、恐怖に勝つ精神力が必要だ。何故ならこいつを本当にやっつけるのは……笑いなんだ。君達はまね妖怪に、君たちが滑稽だと思える姿にさせる必要がある。初めは杖なしで練習しよう。私に続いて言ってみよう『リディクラス(ばかばかしい)』」

 

「「『リディクラス!(ばかばかしい!)』」」

 

全員が一斉に唱えれば、ルーピンは満足気にに頷く。

 

「よし、とっても上手だ。まあ、ここまでは簡単なんだけどね。呪文だけでは十分じゃないんだよ。さて、そこでネビル、君の登場だ」

 

ネビルはガタガタ震えながら進み出た。

 

「よーし、ネビル。君が世界一怖いものはなんだい?」

 

ネビルが口を開き、何かを呟く。

だが、声が小さすぎて聞き取ることが出来なかった。

 

「ん?すまないネビル、聞こえなかった」

 

「……スネイプ先生」

 

ネビルの解答に、ほとんど全員が思わず吹き出してしまう。

 

まあ、あれだけ目の敵にされればな……。

刀原は同情を禁じえなかった。

 

しかしルーピンは笑わずに、至って真面目な顔をしていた。

 

「スネイプ先生か、確かにそうだね……。よし、ネビル、君はおばあさんと暮らしているね?」

 

「え……はい。でも、僕、まね妖怪がばあちゃんに変身するのも嫌です」

 

「いや、そういう意味じゃないんだよ。おばあさんはいつも、どんな服を着ていらっしゃるのかな?」

 

「えっと……いっつもおんなじ帽子。たかーくて、てっぺんにハゲタカの剥製がついてるの。それに、ながーいドレス……たいてい、緑色……それと、ときどき狐の毛皮の襟巻きしてる」

 

「ハンドバッグは?」

 

「おっきな赤いやつ」

 

成る程、実に派手な方のようだ。

 

「よし、それじゃあネビル。今からボガートが洋箪笥からウワーッと出てくる。そして、君を見る。そうすると、ボガートはスネイプ先生の姿に変身するんだ。そしたら、君は杖を上げて叫ぶんだ。『リディクラス、ばかばかしい』とね。そして、君のおばあさんの服装をイメージする。全て上手くいくと、ボガート・スネイプ先生はてっぺんにハゲタカのついた帽子をかぶって、緑のドレスを着て、赤いハンドバッグを持った姿になってしまう」

 

教室中が爆笑の渦に包まれる。

 

何それ、凄まじく面白い人じゃん。

刀原も堪えきれず吹き出してしまった。

 

「ネビルが首尾よくやっつけたら、そのあとまね妖怪は君たちに向かってくることだろう。さてみんな、ちょっと考えてくれるかい。何が一番怖いかって。そして、その姿をどうやったらおかしな姿に変えられるか、想像してみてくれ……」

 

刀原も言われて想像する。

 

親しい人の死体とか?

いや、あの人達やあいつらがそう簡単に死ぬとは思えん。

そうさせない為に頑張ってる訳だし。

 

やはりあれかな?

 

刀原が想像した時、ボガートはネビルの前に現れた。

 

 

 

 

スネイプ教授には悪いが、面白すぎる。

 

ネビルの前に現れたボガートはすぐさまスネイプに変わり、そこから更にドレスを着て帽子を被りハンドバッグを持ったスネイプに変わった。

 

その姿は珍妙な人を絵に書いた感じで、クラスの腹筋を幾つか破壊した*5

その後、丁度良いタイミングでルーピンが音楽をかけ始め、クラスは自らの恐怖を笑い物に変え始めた。

 

刀原と雀部は、そんな生徒対ボガートのやり取りを一歩引いたところで高みの見物と洒落込むことにした。

 

スネイプから始まり、ミイラ、バンシー、ヘビ、目玉、手首、蜘蛛……。

それらをそれぞれ面白い物に変えていく生徒達。

 

そしてその光景を笑う刀原と雀部。

 

 

「守護霊を出せる君達では、真似妖怪では役不足だったかな?」

 

生徒とボガートを笑いながらルーピンが近づいてくる。

 

「いや、そうではありませんが……。ルーピン教授。僕も雀部も、おいそれと自身の弱点や恐怖の具現化を周囲に晒す趣味はないのです……」

 

刀原の言葉に「成る程…」と頷きながら言うルーピン。

 

「私は逆に行ってみたいけど?自分の恐怖を知るのも良い経験じゃない?」

 

雀部は逆に興味津々らしい。

 

「あ、そうなの?んじゃ、どうぞ」

 

そう言うと雀部は列に並びに行った。

 

「この歳の子ども達は、まだ恐怖というものをよくわかってない。だからこそ、ボガートはいい教材になる。と、踏んだんだがね……。流石はバジリスクを倒した子だ。その歳で恐怖を理解しているのか」

 

ルーピンは感心したかのように言う。

 

「……少なくとも失う恐怖は知ってます」

 

刀原はそう返す。

 

両親に残された時間はもう少ない。

刀原はボガードが目の前に来たら両親の遺体が現れるのではと考えていた。

 

「失う恐怖か……。私は、味わったよ……」

 

ルーピンは何やら考え深そうに言った。

 

 

 

生徒達の列は段々と短くなっていき、ハリーの出番がやって来ようとしていた。

順番が回ってきたハリーはワクワクした様子でボガートが化けるその時を心待ちにしていた。

 

そしてボガードは黒いローブと痩せこけた骨のような手をしたもの……吸魂鬼(ディメンター)になった。

 

顔面蒼白になるハリー。

呪文どころでは無さそうだ。

 

「任せて!」

 

刀原とルーピンは若干の距離があるため庇うことが出来ず、雀部が割って入る。

するとボガードはまたも変身し始める。

 

出てきたのは。

 

o、oziisama!?(お、おじいさま!?)

 

雀部長次郎忠息だった。

しかもかなり激怒している。

 

刀原は知らなかったが、どうやら雀部は昔、雀部長次郎をかなり激怒させたらしい。

 

osiokigahituyounoyoudesuna?(お仕置きが必要のようですな?)

 

その言葉を聞いてたじたじになる雀部。

souzousitetanototigau!(想像してたのと違う!)」と言っている辺り、まったくの想定外だったらしい。

 

sasakibehukutaityou!doukasonohennde!(雀部副隊長!どうかその辺で!)

 

今度は刀原が割って入る。

日本語で言う辺り、刀原も想定外だったのだろう。

 

そして刀原が割って入ったことで、ボガードがまた変身する。

 

パチン!

 

出てきたのは怪しげな笑みを浮かばせる卯ノ花烈だった。

 

rett、retunexe(れっ、れつ姉)……」

 

刀原は幼いころ、初めて本気になった卯ノ花を見てマジ泣きしたのを思い出す。

 

卯ノ花は既に鯉口を切っており、今にも切りかからんとしていた。

 

刀原と雀部以外の生徒は既に脱兎のごとく教室の後ろへと避難しており、女子に至っては半泣きの者もいた。

 

【ら、雷華……】

 

【しょ、しょう君……】

 

たじたじになる刀原と雀部。

 

本来は杖を構えるところのはずだが、二人は斬魄刀を抜こうとしている辺り、既にこの卯ノ花の正体がボガードであることを忘れている*6

 

【あの人が来たら、俺が何とかしてブロックする。雷華はその隙に一発いれてくれ】

 

【分かった。でも、私も防がれるかも】

 

【おそらくな。だが、そうなったらそうなったらで俺が打ち込むだけだ】

 

【来なかったら?】

 

【30秒後に俺が切りかかるんで、援護宜しく】

 

【了解!】

 

なお、すべて日本語でのやり取りである。

 

 

「両断せよ『斬刀』」

 

髪は白くなり、抜刀体勢に入る刀原。

同様に抜刀体勢の雀部。

始解こそしていないが、ほぼ本気モードの二人。

 

そして二人が何を言っているのか分からないが、とりあえず固唾を飲んで見守るハリー達*7

 

偽ってはいけない人(剣八モードの卯ノ花)を偽った為、切りかかられたら当然血祭りになるボガード*8

 

緊張の中、動いたのはルーピンだった。

 

「こっちだ!」

 

ルーピンはそう叫び、ボガートの前に飛び出した。

 

「ル、ルーピン教授!危険です!」

 

「離れて下さい!」

 

刀原と雀部は急にと飛び出してきたルーピンに離れるよう警告する*9

 

だが、相手は所詮ボガート。

パチン!という音と共に卯ノ花は姿を消し、銀白色の玉がルーピンの前に浮かんでいた。

 

「『リディクラス!(ばかばかしい!)』」

 

面倒くさそうにルーピンが呪文を唱えれば、ボガートは風船に変わり、そのまま洋服箪笥へ逃げ込んだ。

 

「「あっ………」」

 

そして刀原と雀部はこの場が瀞霊廷ではなくホグワーツであり、対峙していたものが卯ノ花では無くボガートであることにようやく気が付いた。

 

「ふう、ここまでだね。みんな良くやった、ボガートと対峙した生徒全員にそれぞれ五点をあげよう。今日の授業はこれでおしまい」

 

ルーピンがそう言った。

 

 

 

確かに激怒した雀部長次郎と卯ノ花を見れば、授業の続行は不可能だったようなのでルーピンの判断は正しかったように見える。

 

生徒達は先ほどまでびびっていたこともすっかり忘れ、自分が対峙したボガートの感想であっという間に元の興奮状態に戻った。

 

「バンシーと対決するの見たか?」

「帽子をかぶったスネイプ!」

 

「今までの『闇の魔術に対する防衛術』じゃ、一番良い授業だったよな?」

 

ロンはそう興奮した様子でそう言う。

 

「本当にいい先生だわ。だけど、私もボガートと対決したかったわ」

 

ハーマイオニーがそう言う。

確かにハーマイオニーは対峙し損ねていたようだった。

 

「君は何に変わったかなぁ?成績とか?」

 

ロンはそうからかうように言う。

 

 

ハリーはそんな生徒の中でも心が弾んでいない様に見えた。

やはり彼にとって吸魂鬼はかなり苦手らしかった。

 

 

そして刀原と雀部もまた心は弾んでいなかった。

 

【まさかボガートをれつ姉だと思い込むなんて……】

 

【すっごく恥ずかしいです……】

 

トボトボと歩く二人だが、見るものは見ていた。

 

【ルーピン教授の苦手なもの……あれは、満月でしょうか?】

 

【雷華もそう見えたか?俺もだ。まあ、苦手なものは人それぞれだからな】

 

そう言う二人にハリー達三人が来てこう言った。

 

 

「「「お願いだから、英語でしゃべって」」」

 

「「あ。ごめんごめん」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
本を恐怖で静かにさせた例外二名を覗き、全員が何らかの方法で拘束していた

*2
励ましに言ったハリー曰く、自棄酒をしてたらしい。

*3
鍵穴にチューインガムを仕込むピーブズに逆づめ呪文で返り討ち

*4
ピーブズと某魔法薬学教授の嫌味など

*5
なお、一番笑っていたのはルーピンである

*6
そして英語も忘れている。

*7
彼等もボガードであることを忘れている

*8
何故こうなったのかと後悔しているだろう

*9
一応英語で






ハリポタの世界はイギリスでの出来事なので、主人公達が使う言語も当然英語です。

しかし、主人公に日本語でしゃべれる幼馴染みが一緒にいるようになったので、日本語で内緒話する際は【】で表示します。

ハリー達が聞いている内容は、今まで通り日本語変換してないローマ字で表現させて頂きます。



映画でも小説でもボガートは基本的に変身しての精神攻撃だけで、それ以外の実害は無いように見受けられます。
筆者の記憶が正しければボガートはしゃべってませんし、物理的な攻撃もしていません。

おそらく人の目の前に現れると同時に『開心術』をかけて、その情報を元に最適な変身し、敵を追い払うという自衛行動だと筆者は考察しています。

よって卯ノ花・ボガートは攻撃をしてきません。


まあ、攻撃させても良かったんですが。



感想、考察、ご意見、評価。
ありがとうございます。
そしてお待ちしております。


では次回は
太った婦人の災難、敗北
次回もお楽しみに






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死神、警戒する。婦人の災難と敗北。

雨の中
恐怖の帳がただ落ちる。

響く声
探る間も無く意識無く。

滑る手に
空飛ぶ我は砕け散る。

魅せる舞
群がる者に防ぐ術無し







本格的に始まった三学年の授業の中でも『闇の魔術に対する防衛術』の授業はほとんどの生徒から、一番人気の称号を手にした。

中にはルーピンのみすぼらしいローブを指摘する生徒もいたにはいたが…。

 

前任者の馬鹿ども(クィレルとロックハート)より百倍良いのだから、気にすることでは無い」

 

という刀原の意見は多くの生徒も同感であり*1、ルーピンを批判する生徒はほぼ居なくなっていた。

 

だがそれによって残念な授業が比較されたりすることになった。

 

 

『魔法薬学』の授業は特段変わりは無かったが、スネイプの機嫌は麗しく無かった。

ネビルによってまね妖怪がスネイプに変わったうえ、極めて派手で笑える格好(ハゲタカの帽子と緑のドレス)にさせられ大爆笑を呼んだという()()()()()()()()が広まったからだ。

 

スネイプにとっては面白くも可笑しくもない。

無論、ネビルに対するいびりが酷くなったのは言うまでもなかった。

 

 

『占い学』に関して、刀原は完全に見切りを付けた。

見方が個人の匙加減で決まるものに、刀原は意味を見出せなかったのだ。

しかしグリフィンドール生のパーバティ・パチルやラベンダー・ブラウン等はトレローニーを崇拝に近い敬意で崇める熱狂的な信者となった。

 

彼女等は毎度の様に死の宣告に近い予言を受けるハリーに対して、あたかも臨終の床についてる人の様にひそひそ声で話しかけるようになった。

 

 

そして最初は華々しかった『魔法生物飼育学』は、勢いを完全に失い、途轍もなくつまらない授業になってしまった。

どうやらハグリッドは完璧に自信を失ってしまったらしく、生徒たちは毎回レタス食い虫(フロバーワーム)というつまらない生物を世話する羽目になった。

 

魔法生物が大好きな雀部は「もふもふ…………」と言いながら死んだ魚のような目で授業を受けていた。

 

早急に手を打たねば。

 

刀原はそう誓ったが、どんな手を打ってもハグリッドがメンタルリセットすることは無かった。

 

 

 

 

そんな授業達と激闘を繰り広げている中、ホグズミードに行ける一回目の予定が発表された。

十月末、すなわちハロウィンの日だ。

 

【よりによってハロウィンかぁ……】

 

年月を感じられる掲示板にそう書かれているのを見て刀原は苦い顔をする。

 

【ハロウィンに何か嫌な事でもあったの?】

 

雀部が首を傾げながらそう聞いてくる。

 

【ああ……。まあ、聞いて驚け……】

 

刀原は語る。

 

【一年生の時はハロウィンディナーの最中にトロールが侵入したとかで大パニックになってな……。おまけに色々あってトロールと対峙するハメになった】

 

そう、刀原にとって初めてのハロウィンでウキウキだったのにトロールパニックで台無しになったのだ。

 

【確かハーマイオニーを助けに行くためだったっけ?】

 

【まあな。そして…去年は秘密の部屋を巡る一連の事件の幕開けだった】

 

後に 闇の帝王(笑)(ヴォルデモート)の仕業と判明する事件の最初の犠牲者*2が出たのもハロウィンだった。

 

【災難だったね……】

 

雀部は心底同情するような感じで刀原の肩を叩く。

 

【今年はきっと大丈夫よ……多分】

 

そう言って励ます雀部だったが。

 

【やめてくれ、フラグにしか聞こえねぇから】

 

刀原の脳裏は既に諦めモードになっていた。

 

 

そしてハリーも諦めムードになっていた。

ホグズミードに行けないからだ。

 

「ハリーは学校内に居なきゃいけないのよ」

 

ハーマイオニーの意見は確かに正論なのだがそれで納得いくなら面倒は無い。

 

「マクゴナガルに聞いてみろよ、ハリー」

 

ロンはそう言い、ハリーもやってみると返していた。

 

ハーマイオニーは呆れたように何かを言おうとしたが、クルックシャンクスが今晩の戦利品(蜘蛛の死骸)を持ってやって来た為言わずじまいとなった。

そこからクルックシャンクスを巡る一騒動が起きる。

 

なんの恨みがあるのか、はたまた猫がネズミを狙うのは当然の摂理だからなのか。

クルックシャンクスはロンのペットのスキャバーズを狙ったのだ。

 

スキャバーズはロンのカバンから逃走し、クルックシャンクスはそれを追いかける。

 

グリフィンドールの談話室で起きた小動物による生死をかけたチェイスは、約二十人の股をくぐった後、古い整理箪笥の下に潜り込んだスキャバーズの辛勝で幕を閉じた。

だが戦後処理とばかりに起きた飼い主達による口論は引き分けで終わった。

 

 

 

 

「許可証が無ければホグズミードは行けません。残念ですがポッター。これが最終決定です」

 

変身術の授業が終わったタイミングでハリーはマクゴナガルに交渉を試みた。

だがマクゴナガルはそう言ったため、調略は不首尾に終わった。

 

これで良かったのよという顔をするハーマイオニー。

それに怒りながら「ご馳走があるさ」と励ますロン。

「確かにハロウィンのディナーは最高だと聞いてます!」と目を輝かせて言う雀部。

「土産を沢山買ってきてやるから」と励ます刀原。

 

ディーン・トーマス等は許可証にダーズリー氏の偽造サインをすれば良いのでは? と言ったがハリーは先の交渉で「サインは貰えなかった」と言ってしまったため、その手はもう使えない。

『透明マント』を使用すればどうか? とロンが提案したが情勢がそれを許さない。

 

ハーマイオニーが「ダンブルドアが、ディメンターは透明マントもお見通しだとおっしゃっていたじゃない」と踏み潰し、雀部が「ブラックに殺されたいのですか?」とばっさりとトドメを刺した。

 

かくして、ハリーは一人寂しくホグワーツに残ることになった。

 

 

夜、ホグズミードから帰って来た四人は、夕食の前にハリーと合流した。

 

「持てるだけ持って来たんだ」

 

そう言ってロンはハリーの膝に鮮やかな彩りのお菓子を雨の様に降らせた。

 

「ホグズミードのどこに行ったの?」

 

ハリーがそう聞けばとりあえず、全部、としか答えないだろう。

ロンやハーマイオニーと行動を共にした刀原と雀部は、ホグズミードのあらゆる場所に行った。

 

魔法用具店『ダービシュ・アンド・バングス』

悪戯専門店『ゾンコ』

バタービールという飲み物がある『三本の箒』

等々……。

 

ハリーは郵便局がどうだの、ハニーデュークスの新商品がどうだの言う四人を見て聞きながら、いつか行く憧れのホグズミードに思いを馳せていた。

 

ちなみに、ハリーはルーピンの所でお茶会をして、先に 水 魔 (グリンデロー)を見たらしい。

 

 

今年のハロウィンは一段と気合が入っている。

とは刀原の感想だ。

そしてその理由は、ディメンターによって憂鬱で不安な気分に少なからずなっている生徒たちに少しでも良い思い出を、という学校側の嬉しい思惑があるのだろうと考えた*3

 

大広間には何百ものくり抜かれたカボチャが蝋燭で輝いており、何本もの燃えるようなオレンジ色の吹き流しが空を模した天井の下で泳ぐように漂っていた。

 

当然食事も素晴らしい。

 

ホグズミードに行ったロンやハーマイオニーはお菓子ではち切れそうだった*4のにも関わらず、全ての料理を御代わりをしていた。

 

先ほどハリーと茶会をしていた際、スネイプが直々に調合した苦い薬品を飲んだルーピンも実に楽しげだったが、ハリーは時々ルーピンの方を見ていた。

 

宴の最後はゴーストたちによる余興だった。

グリフィンドールの寮付きゴースト『ほとんど首無しニック』は自身が受けたしくじった打ち首の場面を再現し、生徒に大受けした。

 

相変わらず刀原と雀部の周りに、ゴーストは寄り付こうとしてこなかったが。

 

 

大盛り上がりで宴は終わった。

後はふかふかのベットでゆっくりと寝るだけ。

 

全ての生徒がそう思い、刀原達五人も他のグリフィンドール生と同様に寮へ向かった。

 

グリフィンドール寮に入るためには『太った婦人』の肖像画に向かって合言葉を言わなければならない。

その為当然ながら『太った婦人』の肖像画がある廊下まで向かうのだが、その廊下は生徒がすし詰め状態だった。

 

「まさか、誰も合言葉を覚えてない。そんな訳ありませんよね?」

 

雀部が不思議そうに言う。

 

「そんな訳ないと思うが……。確か合言葉は『フォルチュナ・マジョール( た な ぼ た )』だったよな?」

 

刀原が今の合言葉を言う。

 

「何でみんな入らないんだろう?」

 

ロンが怪訝そうに言う。

 

「通してくれ」

 

そう言ってパーシーが生徒の人波をかき分けて行き、肖像画の元に向かう。

 

そして流れる沈黙。

 

「誰かダンブルドア先生を呼んで。急いで」

 

パーシーが突然鋭く叫ぶ。

ざわざわと頭が動き、後列の生徒たちが爪先立ちになる。

 

「何事かの?」

 

一、二分もしないうちにダンブルドアがやって来る。

マクゴナガルも当然ながら一緒にだ。

 

生徒たちが彼らの為に道を開ける。

刀原達五人も把握のために肖像画の近くまで行った。

 

「ああ、なんてこと……」

 

ハーマイオニーがそう言ってハリーの腕をつかむ。

 

つい先ほどまでグリフィンドール寮の番人だった『太った婦人』は肖像画から姿を消し、絵は滅多切りにされていた。

キャンパスの切れ端が床に散らばっており、絵の大部分が切り取られているという無残な姿になっていた。

 

ダンブルドアはそんな無残な肖像画の惨状を見るなり暗い深刻な目で振り返った。

その時ルーピン、スネイプの両名も駆け付けていた。

 

「城中のゴースト達に連絡を。『婦人』を探し出さなければならん」

 

ダンブルドアがこう言う。

 

「その必要はありませんよ、ダンブルドア校長。『婦人』ならあそこに居ます」

 

雀部がそう指をさす。

流石の動体視力だった。

 

教授陣はもちろん生徒たちもその場に雪崩れ込む。

先に瞬歩で先行した刀原達が『婦人』を()()する。

 

「おお『婦人』。大丈夫かの?……一体誰がこんなことを?」

 

周囲の人々を代表してダンブルドアが婦人に聞く。

聞かれた『婦人』は犯人の名を言う。

 

「……あいつです、あいつが居るんです。この城に。シリウス・ブラックが!」

 

そう、犯人はシリウス・ブラックだったのだ。

 

 

おいおい、マジか。

 

yappa、halloweenhanorowaretennna (やっぱ、ハロウィンは呪われてんな)

 

刀原が呟いた言葉(日本語)は、雀部だけが理解した。

そして同時に、吐いた溜息も理解できた。

 

 

 

 

 

ホグワーツに非常事態宣言が発令された。

 

ダンブルドアはグリフィンドール生に大広間にUターンするように言い渡し、十分後にはグリフィンドール以外の各寮の生徒達も大広間に集まった。

 

「一体何事なんだポッター!?」

 

マルフォイがスリザリンの面々を引き連れ、ハリー達のいる場所にやって来る。

 

「マルフォイ、実はシリウス・ブラックがこの城に居るみたいなんだ」

 

「な!んんっ。それは本当かポッター」

 

マルフォイは一瞬驚きの声を上げそうになるが踏みとどまり、小さく聞いてくる。

ハリーはマルフォイの問いに頷きで返す。

蒼白になるマルフォイ。

 

避難訓練などではない(これは演習にあらず)ということを理解したらしい。

 

「グリフィンドールに来ていいの?」

 

ハリーがマルフォイにさりげなく聞く。

何度も言うが、グリフィンドールとスリザリンには積年の因縁があるのだ。

 

「そんなことを言ってる場合じゃないだろうポッター。僕たちは狡猾なスリザリン。こんな如何にも緊急事態な状況なら、グリフィンドールにいる最高戦力(刀原と雀部)を頼るのは当たり前だ。安全を得るためならグリフィンドールのエリアに来ても損では無い」

 

そう言うマルフォイ。

要するにプライドより安全を取ったのだ。

おまけに仲間も引き連れているあたり、その庇護も含めての算段である。

中々に戦略的である。

 

一年生の時点では全く考えられないことである。

 

「……いざという時には頼りにするよマルフォイ」

 

ハリーがそう言う。

 

「ふん、情けないことを言うな。足手纏いになるなよポッター」

 

マルフォイもそう言い返す。

傍から見れば完全に仲良しである。

 

グリフィンドールの面々はあっけに取られたが、平然とハリーと共に雑魚寝体勢に移ったマルフォイを止めることは無かった。*5

 

 

仲良くお泊り会状態になった一部生徒たちを他所に、ダンブルドアの指揮でブラック包囲網を作っていく。

 

「先生たちで、城の中をくまなく捜索せねばならん」

 

ダンブルドアはそう告げ、それを合図に各教授たちが動き出す。

 

「さて、気の毒じゃが…安全の為じゃ。皆、今夜はここで寝泊まりすることになろうの。監督生の諸君は大広間の入り口に立ってもらうかの、指揮は首席の二人に任せるとしよう。何か不審な事があれば直ちにわしに知らせるように」

 

ダンブルドアはそこまで言ったあと、考え込み。

 

「……トーハラ君とササキベ嬢は居るかの?」

 

と聞いてきた。

 

捜索隊か、防衛戦力か。

どちらか分からないが、生徒の中でも最高戦力に位置する二人を使わない手は無いのだろう。

 

招集を受け、スッと立ち上がる刀原と雀部。

 

「そ、そんな……」

「頼みの綱が……」

 

すると小さく聞こえる声が多数上がる。

頼れる盾がどっかへ行く気分なのだろう。

 

ダンブルドアにも聞こえたのかふふっと笑う。

 

「君たちにはわし等と共にブラック捜索の手伝いをお願いしよう、と思っておったのじゃが……。君たちを大広間から出すと一部の生徒たちからブーイングが来そうじゃの。……よし、監督生は大広間の入り口の内側を、トーハラ君とササキべ嬢には入り口の外側を守ってもらうとしよう。よろしいかの?」

 

「了解しました」

「お任せください」

 

刀原と雀部はそう頷く。

 

周りに居た生徒たちも安堵の表情だ。

 

 

「では皆、よろしく頼む」

 

「「「はい」」」

 

ダンブルドアの号令で各員は役割を果たすため行動を開始した。

 

 

 

 

【ブラックは見つかるでしょうか?】

 

【無理だな、おそらく寮に入れなかった時点で撤退しているはずだ】

 

【やっぱり、そうですよね。いつまでもグズグズいるはずありませんよね】

 

【ああ、その程度も分からん奴じゃない。分かってないならこの城に侵入する前に御用になってるはずだからな】

 

【それは、英国魔法省の警務部が無能じゃなければの話。では?】

 

【そんな可能性信じたくないがな】

 

 

刀原と雀部が油断しているかのように平然と話す、という釣りをしているが全くかかる様子がない。

時刻は既に日付を跨いでおり、雀部などは「ふあぁ~」とあくびをする始末だ。

 

大広間にやって来る者と言えば、びくびくしながら刀原と雀部の傍を通るゴーストと、一時間ごとに何事も無いかどうか確かめに来る教授達だった。

 

もう日付は11月になっているため、深夜の大広間の外は案外冷える。

そんな冷える場所で門番代わりになっている刀原と雀部を案じてか、それとも申し訳なさからか。

 

おそらくその両方だろう。

やって来る教授は必ず差し入れとして温かい飲み物を持ってきてくれた。

 

ーーーーーーー

 

 

「お疲れ様です、マクゴナガル教授。見つかりましたか?」

 

「いいえ、おそらく見つけられないでしょう。それでも明日の朝までは捜索を続けます……。お二人にも、迷惑をかけます。紅茶を持ってきたので、お飲みなさい」

 

「「ありがとうございます」」

 

 

ーーーーーーー

 

 

「お疲れ様です、フリットウィック教授」

 

「おお、お二人とも、お疲れ様です。生徒だというのに、こんな役目を押し付けて申し訳ありませんね」

 

「いえいえ、そんなことはありません」

 

「ありがとうございます。差し入れを持ってきたのでこれで温まってください」

 

「「いただきます」」

 

 

ーーーーーーー

 

 

ある意味衝撃的だったのは、やはりルーピンとスネイプだった。

 

 

ーーーーーーー

 

 

大広間の外で見張っていた二人に向かって来た、フードを被った者が一人。

 

【ついに来やがったな】

 

【ええ、顔は見えませんが。教授なら堂々と来るはずですからね】

 

【行けるか?】

 

【勿論】

 

【さすが。んじゃ、アレで行くぞ】

 

二人はそして瞬歩で一気に接近する。

瞬歩の特性上、フードの者からすれば大広間の入り口前で陣取っていた二人が、突如消えたように映っただろう。

それこそ油断を誘う二人の罠。

 

「ブラック」

 

「覚悟」

 

正面から刀原。

背後から雀部。

 

息の合った二人の同時抜刀攻撃。

それは吸い込まれるようにフードの者に向かう。

 

「私だ、ルーピンだ!」

 

そしてフードの者……もといルーピンのカミングアウトと降参で止まった。

 

 

「ルーピン教授か……。紛らわしいことしないでくださいよ」

 

「あともう少しで犠牲者が出るところでしたよ……」

 

「いや、すまないね。つい出来心で」

 

ルーピン曰く、まだ年も若い刀原と雀部の実力を確かめるのと、二人が油断しているのではと思い、脅かそうとしたらしい。

そして消えたことで逃げたと思ったらしい。

 

ところがそれは大きな誤りであった。

 

二人は油断などしておらず、逆に手ぐすね引いて待っていたのだ。

結果、油断していたのはルーピンであり、返り討ちにあったという訳だ。

 

「いやはや末恐ろしかったよ。ハリー達が頼りにするのも分かるというものだ。君たちならブラックも仕留められるだろうね」

 

そう言ってルーピンは、二人にココアの差し入れをしたのだった。

 

 

 

【霊圧感知すれば良かったですね】

 

【あ、忘れてたわ。あぶねぇあぶねぇ】

 

【まあ、私も油断作戦がまんまと決まって嬉しかったので、完全に失念してましたが】

 

 

あわや犠牲者が出るところだった。

 

 

ーーーーーーー

 

 

「二人ともご苦労な事ですな」

 

「あ、スネイプ教授。お疲れ様です」

 

「ブラックは見つかりましたか?」

 

「逆に二人は見つかると思っているのですかな?」

 

「いや、全く」

 

「もう逃げてると思いますが?」

 

「でしょうな……」

 

チラリと二人を見るスネイプ

 

「何か?」

 

刀原がそう聞けば、スネイプは答える。

 

「なに、諸君らはただの生徒で監督生でも首席でもないというのに、わざわざこのようなことをしなくても…と思ったのだよ」

 

てっきりまた嫌味かと思っていた二人は驚く。

 

「私たちが高く評価されその上での判断だと思っています。それに生徒の皆を守るためならどうという事ではありません」

 

「逆に協力を申し出ようかと思っていたので。余計なお世話かと思いますが」

 

二人がそう言えば、スネイプはフンッと息を吐く。

 

「あまり調子に乗らないことですな。しかしまあ、差し入れ位は与えても良いかと思うがね」

 

そう言ってスネイプは二人に紅茶を差し入れた。

 

 

【スネイプ教授って、やっぱり不器用な方(ツンデレ)?】

 

【おそらくな】

 

 

ーーーーーーー

 

 

丑三つ時も過ぎ、もう朝になる三時頃。

大広間の入り口にこっそりとやって来る者が居た。

 

誰あろう。

ダンブルドアである。

 

先ほどルーピンを返り討ちにしかけた二人は抜かりない。

こっそりと寄ってきたダンブルドアに対し「「お疲れ様です。ダンブルドア校長」」と言った。

 

「おお、バレてしまったの。二人とも流石じゃなぁ」

 

「伊達にホグワーツ三年目ではありませんよ」

 

「先ほどブラックの振りをして来たルーピン教授を仕留めそうになったので、霊圧感知は怠りません」

 

ダンブルドアの賛辞に平然と答える二人。

 

「そんなことが出来るホグワーツ生は、君たちだけじゃよ」

 

ダンブルドアはそう答えた。

 

「ところでダンブルドア校長。ブラックの手掛かりは依然ありませんか?」

 

「うむ、そうじゃの。ブラックがいつまでものこのこと残っているとは思っておらなんだ。ショウも同じじゃろ?」

 

「まあ、そうですね。少なくとも僕たちはその意見で一致していますよ」

 

やはりブラックは逃亡に成功したらしい。

ダンブルドアの意見に刀原達もそう思っていたと言えば「流石じゃの」とダンブルドアは誉めたたえた。

 

「吸魂鬼の介入が無かったのは、やはりダンブルドア校長が?」

 

「ああ、止めたとも」

 

「英断ですね」

 

「そうじゃろう」

 

ブラックから大広間を守るのではなく、ディメンターから守ることになったかもしれない。

その可能性がある以上、ダンブルドアの考えは正しかったと言える。

 

「さて、二人ともご苦労じゃった。ブラックがのこのこと戻って来ることは、とりあえず今日は無いはずじゃ。大広間でゆっくりと寝るとよかろう……」

 

ダンブルドアはそう言い、二人はダンブルドアが大広間から出ていくまではここにいると言った。

 

「では、用事をさっさと済ませてしまうかの。それと、改めて協力に感謝しよう。それと二人に十点ずつ与えるとしようかの」

 

 

ダンブルドアは微笑みながらそう言って、暫くしたら大広間から出て行った。

 

 

 

 

 

それから数日間。

学校はシリウス・ブラックの話題で持ち切りだった。

如何なる方法でホグワーツに入り込んだのか。

話に尾ひれがついてどんどん大きくなり、非現実的な手段まで言われるようになった。

 

ハリーにはマクゴナガルから警告があったらしい。

既に始まっているクィディッチシーズンの練習を行うかどうかだった。

しかしハリーにそれは愚問であり、最終的にはマクゴナガルも教授の護衛付きで許可した。

 

 

今シーズン最初の試合は、グリフィンドール対スリザリンの試合の予定だった。

しかしグリフィンドールはハッフルパフと対戦することに変わった。

スリザリンチームのキャプテンたるマーカス・フリントは、試合に向けて次第に悪くなっている天候を恐れたのだ。

 

「僕としては、天候など関係なく君からスニッチを奪える!と豪語したんだがな……」

 

マルフォイは『魔法生物飼育学』の授業の最中、ハリーにそう言った。

 

「マルフォイは不本意なのか」

 

ハリーが聞く。

 

「当然だ!どんな状況だろうと僕は負けない!」

 

高らかに言い放つマルフォイ。

 

上から目線だが「どうせ君もそう言うだろう」と続けるあたり、マルフォイはクィディッチに関してハリーに一定の評価をしている故の発言なのだろう。

 

「いいかポッター。君を倒すのはこの僕だからな」

 

マルフォイはそう言ってハリーの元を去る。

 

「それまで負けるなよポッター」

 

刀原が続ける。

 

「完全にツンデレですね」

 

雀部が評価する。

 

「誰がツンデレだ!あと僕の気持ちを()()するな!」

 

マルフォイが戻ってきてそう言う。

 

「代弁って言ったよ……」

 

ロンがマルフォイが滑らした言葉を指摘する。

 

「ありがとうマルフォイ。君のライバルとして頑張るよ」

 

ハリーが少し照れながら言う。

完璧に本音を言ってしまったマルフォイは数秒の後に開き直り「分ればいいんだ!」と言って今度こそ離れていった。

 

 

 

マーカス・フリントが逃げ出すのも無理はない。

クィディッチシーズン最初の試合は、かねてからの予報通り最悪の天気だった。

 

tyuusida、tyuusi!(中止だ、中止!)

 

刀原がそう日本語で叫ぶ。

 

mattakumotte、sonotooridesu !(全くもって、その通りです!)

 

雀部もそう日本語で叫んだ。

 

「なんて言っているのか分からないけど、この天候でもクィディッチをやる事に怒っているのならその通りだと思うわ」

 

ハーマイオニーはジト目になりながらそう言う。

 

「ちょっとぐらいの雨はへっちゃらよ」

 

朝食時、グリフィンドールチームはそう言ったらしいが、雨は「ちょっと」では済まされなかった。

 

風は突風、耳をつんざく雷鳴が響き渡り、観衆の声援は消される。

もはや台風である。

 

「正気の沙汰とは思えん」

 

「馬鹿です。言い方は悪いですが、馬鹿です」

 

刀原と雀部がようやく分かる言語( 英 語 )で言えばハーマイオニーも頷いた。

 

兎にも角にも試合は行われるが、まあ酷い。

 

何とか歓声を上げようとするが、風と雨で正面が向けないのだ。

当然正確な試合状況など分かるはずもない。

 

特にハリーはからっきしだった。

おそらく眼鏡が役に立ってないのだろう。

刀原と雀部は荒天時の訓練をしていた為、その状況を察した。

 

「ハーマイオニー、防水呪文を使えるか?」

 

「ハリーの眼鏡にかけるのね?分かったわ」

 

刀原がそう指示を出せば、ハーマイオニーは意図を把握してピッチに降りた。

 

【しょう君が行かなくていいのですか?】

 

【大丈夫だろ。俺が指示出さなくてもハーマイオニーなら行っていたしな】

 

刀原の読みは当たっていた。

ハーマイオニーが刀原達の元に戻って来た時には、ハリーの動きが良くなっていたからだ。

 

そして戦局が動いた。

ハッフルパフのシーカー、セドリック・ディゴリーがスニッチを見つけ、上空へ急上昇したのだ。

つかさずハリーも追いかける。

 

 

その時。

刀原が何かを察知する。

 

直後、ハリーが落ちてくる。

 

まず事前に察知していた刀原が動き、次にダンブルドアが動いた。

 

【縛道の三十七『吊星』!】

 

「『アレスト・モメンタム(動きよ、止まれ)』」

 

墜落しているハリーをダンブルドアが遅くし、刀原が用意した霊圧のクッションでキャッチした。

 

そしてやって来たのはディメンター。

 

「お灸をすえねばならんの」

 

「全くだ」

 

ダンブルドアは本気で怒っており、刀原もまた白髪になっていた(本気モードだった)

しかし、既に攻撃態勢に移行していた者が居た。

 

 

 

雀部雷華だ。

 

 

 

 

 

【雷鳴響け】

 

 

 

 

 

 

【『雷霆』】

 

 

 

 

 

特大の雷鳴が響き渡る。

雀部が持っていた斬魄刀が細身のロングソードに変わり、その剣は稲妻を纏っていた。

 

【落とせ雷霆】

 

雀部が縦に剣を振り下ろした直後、ディメンターに等しく落雷が直撃する。

焼き焦げたディメンターの完成だった。

 

【駆けよ雷霆】

 

雀部は剣を持って舞う。

 

優雅に。

可憐に。

 

しかし上空には落雷が駆け巡り、逃げ惑うディメンターを正確に追撃していた。

それは確実にディメンターを焼き焦がし、塵すら残さなかった。

 

「出番を取られたの」

 

「そうですね」

 

ダンブルドアも刀原も手は出さなかった。

 

 

そして雷鳴ではなくホイッスルが響く。

どうやらセドリック・ディゴリーがスニッチをキャッチしたらしい。

つまり試合終了だということだ。

 

 

「まあ、こんなところでしょうか?」

 

雀部がニッコリと笑ってそう言う。

 

「流石は雷華だな」

 

刀原もニッコリ笑った。

 

「やりすぎだ馬鹿」

 

「アイタッ」

 

そして優しく雀部の頭を杖で叩いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
マルフォイも同感だと言っていた

*2
人ではなく猫だったが

*3
まあ、それに文句を言うつもりは無く、もしろ企んだ真犯人(ダンブルドア)に拍手喝采を浴びせたいが

*4
雀部もそうなりかけたが【ハロウィンディナー】と刀原が囁いた為、鋼の精神で程々にしていた。

*5
双子は「「ツンデレって言うんだぜ、そういうの」」と茶化した




と言うわけで、オリキャラの始解の御披露目です。

名前が雷華ですし、あの副隊長の孫なので雷系の斬魄刀です。
雷系の斬魄刀って少ないので、色々と盛り込めそうで楽しみです。


感想、考察、ご意見、評価。
ありがとうございます。
そしてお待ちしております。



では次回は
炎の雷と守護霊
次回もお楽しみに






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死神、考慮する。炎の雷と守護霊

希望を持て
幸福を持て
仲間を持て
誇りを持て
自信を持て

抱えるすべてを持って

目にもの見せてやれ。





ハリーは敗北した。

吸魂鬼に。

恐怖に。

 

 

ハリーは吸魂鬼に襲撃され約二十mほど自由落下し、その直後ハッフルパフのシーカーであるセドリック・ディゴリーがスニッチをキャッチした。

ディゴリーは意図せぬ決着に不満だったらしく再試合を要求したが、受け入れられることは無かった。

 

ハリーの不幸はそれだけでは無かった。

 

忠実な相棒であったニンバス2000が大破したのだ。

ニンバスはハリーが滑り落ちたあと完全に制御を失い、そのまま『暴れ柳』に衝突したのだ。

その結果ニンバスは残骸となり、初の敗北も相まって、ハリーは凄まじく塞ぎ込んだ。

 

 

そんな中、刀原と雀部は暫く注目の的になった。

 

刀原は一年生の時にトロールを血祭りにあげ、二年生の時にはバジリスクと対峙したという事で、何かと武勇と噂が数多くの生徒に知られてはいた。

だが刀原がノーコメントをつらぬいていたこともあって噂止まりであり、当然ながら事実かどうか怪しむ者もいたのは言うまでも無かった。

ましてや雀部は今年からホグワーツにやって来た新参者であり、二人が噂どおりの実力があるのか疑問視されていたのだ。

 

だがクィディッチの試合中の出来事であった事で、その噂が現実味を帯びた。

 

刀原は怒れるダンブルドアと共にハリーを難なく救出した。

雀部は『守護霊の呪文』を使わずに吸魂鬼の集団を、謎の雷の剣で壊滅させた。

 

注目されない訳が無かった。

 

あの魔法(鬼道)はなに?

君が持っていた雷の剣は何だい?

等々…。

 

刀原と雀部は噂好きのホグワーツ生に質問責めにあい、逃げるハメになった*1

 

 

 

「どうしてあいつら(吸魂鬼)は試合に来たのかな」

 

医務室にてハリーは悔しそうに言う。

吸魂鬼が来なければ勝算は十分にあった試合だ。

かなり悔しいはずだし、相棒(ニンバス)まで失ったのだから当然の疑問だろう。

 

「クィディッチの試合は生徒の皆を興奮させる。ディメンターにとってあの手の感情の高まりはご馳走ですごく魅力のあるやつなんだよ」

 

「兼ねてからダンブルドア校長は奴らをホグワーツに入れてきませんでした。まあ、それは生徒たちの事を思えば当然の措置なのですが……、吸魂鬼にとってはご馳走が目の前にあるのにおあずけを食らっていた様なものだったのです」

 

「そんな獲物に飢えた奴らは、試合の大興奮という魅力に抗しきれなかった。そんなところだろうな」

 

ハリーの質問に見舞いに来ていた刀原と雀部が交互に答える。

 

「アズカバンは酷い所なんでしょうね……」

 

刀原の情報を受けたハーマイオニーの呟きに「実際にそうだってパパが言ってた」とロンが言う。

 

「まあ、監獄はどれも酷いものだからしょうがないし、因果応報なのだから同情は出来ないが、ディメンターに看守をさせるのは疑問だな」

 

刀原がアズカバンの在り方に苦言をする。

 

「どうしてだい?」

 

「ディメンターは先の一件の様に、とても御し切れる存在ではありません。英国魔法省が管理下に置けているのも、おそらく()()()()()()()()()()()()()()()()という契約をしているからです。ですが、それよりもディメンター側に旨味のある契約……例えば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という契約となればアズカバンを放棄する可能性は十分にあり得ます」

 

ロンの疑問に雀部が代わりに答える。

 

「雀部の言うとおり、ディメンターはそれだけ危うい存在だということだ」

 

刀原も肯定した。

 

 

「とりあえず、ハリーは次のクィディッチの試合に勝つためにも新しい箒を用意しなきゃ」

 

「そうだよ『流れ星』*2なんか使うつもりか?」

 

ハーマイオニーとロンはハリーに言う。

しかし刀原は、クィディッチの試合にまたもディメンターが現れる可能性も考慮していた。

 

 

「ショウ、ライカ。お願いがあるんだけど……。ディメンターと戦う方法を教えてくれないかな?」

 

刀原のディメンターに対する心配はハリーにも伝わっていた。

そのためハリーは、刀原と雀部にディメンターに対抗するための方法を聞き出そうとした。

 

「ロン達から聞いたんだけど、ショウとライカは汽車であいつを追い払ったって聞いたんだ」

 

「まあ、確かにそれはそうなんだが…」

 

「難しいんですよね。あの魔法…」

 

ハリーの期待した顔とは対照的に、刀原と雀部の顔色は冴えなかった。

 

刀原と雀部のディメンター対策は『守護霊の呪文』『斬魄刀』『鬼道』である。

鬼道はまだ試されていないが、斬魄刀に関しては雀部の『雷霆』が有効だったことが分かった。

だがハリーは鬼道も斬魄刀も使えない。

 

つまりハリーが習得できるのは必然的に『守護霊の呪文』となる。

 

刀原と雀部は当然ながら使えるこの呪文はかなり難易度が高く、習得にはかなりの技術がいる。

二人がその呪文を伝えるのは簡単だが、習得させるにはやはり西洋魔法に明るい人物に頼った方が良いと考えた。

 

「とりあえず、ルーピン教授にお願いしたらどうだ? なんと言っても腕のいい教師なんだからな」

 

「それがいいと思います」

 

二人はハリーにルーピンを推薦した。

 

その後、ハリーがほくほく顔で「来学期から吸魂鬼防衛術(守護霊の呪文)を教えて貰えることになった」と言った。

 

 

 

 

十一月の終わりにはクィディッチでレイブンクローがハッフルパフにペシャンコに負かされた。

ハリー達グリフィンドールチームは一試合も負けられないが、優勝争いから脱落したわけでは無かったので首の皮一枚残ったといった感じだろうか。

 

校内に吸魂鬼は影すら無かった。

ダンブルドアの怒りに加え、吸魂鬼を物理的に撃退した雀部を恐れているのだろう。

闇の魔術に対する防衛術の授業ではルーピンが欠席するようになった。

代打となったスネイプは何故か範囲ではない狼人間についての授業を行い、挙句法外な宿題を出し、クラスの思いは『早くルーピンが復帰しますように』で統一された。

なお、その法外な宿題は復帰したルーピンによって撤回されることになった。

 

学期が終わる二週間前には校庭がキラキラ光る霜柱に覆われ、ついでとばかりに城の中はクリスマスムードに満ち溢れた。

 

そして学期の最後の週末、再び残されるハリーと別れ刀原達はホグズミードに向かった。

 

十二月ともなれば当然ながらホグズミードの雪に覆われていた。

巨大なクリスマスツリーに魔法のキャンドル、扉につけられたクリスマスリース等々。

あいにくの吹雪の中ではあったが、日本では味わえない本場ヨーロッパのクリスマスムードに雀部は終始興奮気味だった。

 

一行はまずハニーデュークスに行き、そこでハリーへの土産を選ぶ事にした。

 

「これなんてどう?」

 

「随分と真っ赤なキャンディーだな?」

 

ロンが面白そうに手に取ったのは真っ赤なペロペロキャンディーだった。

 

「それって、もしかしなくても血の味がする奴では?」

 

「駄目よ。きっと吸血鬼用ね。ハリーは吸血鬼じゃないから喜ばないわ」

 

何故こんなものが置いてあるのか分からないお菓子も多い。

 

「じゃあこれは?」

 

そうロンが言いながら手に取ったお菓子『ゴキブリ・ゴソゴソ豆板』などはいい例だった。

 

「駄目だろ」

 

「絶対イヤだよ!」

 

刀原が否定すると同時に否定の意見が出る。

やけに聞きなれた声だった。

 

「ほら、()()()()()()()()()()()()、違うとこに、向かいましょうか……」

 

雀部がそう言っているが実におかしい。

彼女も言ってることがおかしいことに途中で気が付いたらしい。

 

ハリーがそう言ってる?

 

四人が振り向けば、目の前にはハリーが居た。

 

「ハリー!?」

 

「な、え、ど、どうして、どうやってここに?」

 

どうやってここに来た?

刀原は疑問に思うと同時に頭が痛くなった。

 

 

ハリー曰く、フレッド・ジョージの双子から渡された羊皮紙『忍びの地図』を使ってここに来たらしい。

 

余計なことを。

 

当の本人であるハリーとロン以外は頭を抱えた。

ハリーはどうやら、自身が英国魔法界を揺るがしている凶悪犯に狙われているということを自覚してないらしい。

 

しかし、来てしまってはしょうがない。

 

折角のクリスマスinホグズミードをハリー抜きで過ごすことに罪悪感もあった為、ハリーを強制送還することは無かった。

だが外は猛吹雪であり、ハリーは迂闊にも防寒着を持ってきていなかったため、五人は『三本の箒』に逃げ込むことにした。

 

幸いにも三本の箒は暖かく、ぐびっと飲んだ温かいバタービールは最高の一杯だった。

 

しかし、新たな来店者に一行は冷や汗をかくことになった。

やって来たのはマクゴナガル、フリットウィック、ハグリッド、そしてコーネリウス・ファッジ。

ハリーを見られたら不味い面々であるのは言うまでも無い。

 

刀原が確認して目配せすれば、意図を読んだ雀部が即座にハリーに目くらまし呪文をかける。

トドメとばかりに刀原が『曲光』をかければハリーは完璧に見えなくなった。

 

 

 

マクゴナガル達四人の話題はシリウス・ブラック関連だった。

 

まず吸魂鬼について。

 

「吸魂鬼は怒っていた…ダンブルドアに対してね。そして怯えてもいた。日本から来た少女が、日本の魔法使いが持っている刀で吸魂鬼を消し炭にしたからだ」

 

ファッジは戸惑いを隠さずに語った。

 

「ライカ・ササキべ嬢ですな。トーハラ君と常に行動している可愛らしい女の子ですが、吸魂鬼に文字通り、()()()()()様は美しかったですな」

 

フリットウィックが頷きながらそう言う。

その評価を聞いて雀部は嬉しそうだった。

 

「ミス・ササキべが出来るのでしたら、トーハラも出来ることになるのでしょうか?」

 

マクゴナガルの疑問にハグリッドは頷く。

 

「そりゃあ出来ると思いますだ。ショウの実力は知っとるつもりです」

 

ハグリッドは刀原が吸魂鬼を難なく仕留められると思っているらしい。

 

「そうなの?」とハーマイオニーが小声で聞けば「理論上はな」と刀原も返した。

 

そして話題はブラックに移る。

 

内容は日本魔法省外務部と情報捜査部が集め、刀原と雀部が英国に来る前に聞いていた内容だった。

 

ブラックがハリーの両親の親友だった事。

そしてハリーの両親を裏切った事。

追いかけてきた友も爆破した事。

 

しかし、新情報があった。

 

「小指一本だと?」

 

ファッジが漏らした言葉。

それは日本魔法省が掴めなかった詳しい情報だった。

 

ピーター・ペティグリューが爆殺され、僅かな肉片しか残らなかったのは知っていた。

だがその肉片が何なのか不明だったのだ。

 

だがファッジ曰く、残ったのは小指一本だけらしい。

 

何か引っかかる。

 

刀原は頭の中で発生したもやもやを抱えながら、呆然としているハリーをハニーデュークスまで送った。

そして机上の空論に過ぎないことも承知で推理を始めたのだった。

 

 

 

 

ついに来たクリスマス休暇。

その一日目のお昼までハリーは塞ぎ込んでいた。

両親の仇と判明したブラックについてだ。

 

ハリーを励ましに行ったロンとハーマイオニーはそこでハリーに生まれた黒い感情……復讐についての考えを聞いたらしい。

そして話題を変えるためにハグリッドの小屋に行き、お茶会などをしたとのことだった。

 

一方、刀原は雀部に新たに生まれた疑問を話した。

そして彼女の助言を受けダンブルドアと接触し、ブラックとピーターの関係と一連の流れを聞いていた。

 

つまり。

 

ポッター家が狙われていることが分かる。

ポッター夫妻の親友だったブラックが『秘密の守り人』*3になる。

しかしブラックは裏切り者で、ヴォルデモートに秘密をバラす。

ポッター家、襲撃にあう。

ところがヴォルデモートは敗北し、ブラック逃亡。

だがポッター夫妻の親友だったピーターが、ブラックを追い詰める。

そしてピーター、返り討ちに。

周囲のマグルごとピーターを爆殺、ブラック逮捕。

 

という一連の流れだ。

 

ダンブルドアは掴んでいた情報は正しいと言った。

ピーターの残骸が小指一本しか残らなかったこともだ。

 

刀原には一つの仮説が生まれようとしていた。

しかしその仮説には大きな欠陥があり、どうしても崩せないものだった。

理論上は成立するその仮説は秘中の秘とし、雀部にのみ共有されることになる。

 

 

クリスマスにはケーキ、ディナー、ツリーなども必要だが、やはり何といっても欠かせないのはプレゼントだ。

刀原と雀部の元にもかなりの量のプレゼントがやって来ていた。

 

日本からは護廷十三隊の各隊長達とマホウトコロの友人達から。

どうやら日本でも英国魔法界のお菓子は人気らしい。

イギリスからはウィーズリー夫人やハグリッド、マルフォイなんかからも来た。

無論、有難く頂戴した。

 

刀原と雀部がプレゼントを開封していると、突如、歓声が上がる。

興奮気味のハリーとロンが見せてきたのは『ファイアボルト(炎の雷)』という競技用の箒だった。

 

「確かこれ、ダイアゴン横丁でハリーが釘付けになってた箒ですね?」

 

雀部の言葉で刀原も思い出す。

ハリーはダイアゴン横丁で自由の夏を謳歌している際、夢中になって見ていたという物だと。

 

「差出人は?」

 

「分からない。カードも無かったんだ…」

 

最高級の性能を持つ最新型ともなれば金額は相当なものになる。

刀原は当然差出人が気になったが、ハリーは不明だと答える。

 

「ルーピンじゃないか?」

 

「まさか、そんなはずないわよ」

 

ロンがルーピンではないかというが可能性は低いとハーマイオニーが言う。

 

そんなハーマイオニーは何やら思案顔だった。

雀部もだった。

そして刀原も差出人不明の最高峰の箒を睨むように見ていた。

 

 

「さっきの箒……あれはシリウス・ブラックが送ってきた物じゃないかしら」

 

クリスマスディナーの前に話があるとハーマイオニーに言われ、刀原と雀部が聞いた内容はそれだった。

 

「ハーマイオニーも同じ様に考えていたか。実は俺たちもそう思っていたところだった」

 

刀原もハーマイオニーに同意見だと伝える。

 

「ブラックが未だに校内の何処かに潜伏していれば、ハリーがニンバスを失ったことが小耳に挟んでいる可能性は十分にあります。挟んでいなくてもハリーにとっては最高のクリスマスプレゼントですからね」

 

「格好の餌になる、という訳だ。何はともあれ、用心すべきだしな」

 

雀部と刀原が交互に言う。

先ほど三人が思案顔だったのは、ブラックが寄越したトラップの可能性についてだった。

 

確かにハリーはニンバスを失い、新たな相棒が欲しい所だった。

まあ、例えニンバスを失っていなくとも、乗り換えるに足る箒であることに変わりはないが。

 

「問題はあの二人よ。ハリーってばイマイチ警戒心が足りないのよね…。大人しく箒を調査させてくれるかしら?」

 

ハーマイオニーがそう言えば、三人の表情は苦い顔で統一される。

 

「無理だな」

「無理ですね」

 

「まあ、そうよね……」

 

ハリーは念願の箒を手に入れてウキウキの様だし、ロンが大人しく受け入れるとは到底思えない。

しかし、万が一があっては遅いのだ。

 

「とりあえずマクゴナガル先生に伝えてみるわ。調査だけだもの。性能が落ちるとかではないでしょう」

 

ハーマイオニーはそう言う。

 

マクゴナガル教授…ここは私用を捨ててくれるだろうか?

刀原はマクゴナガルのクィディッチ好き(狂い)を知っているため、イマイチ嫌な予感が拭えなかった。

 

 

結果から言えば、マクゴナガルはちゃんと教育者としての責務を果たした。

だがハーマイオニーとハリー、ロンの絆には溝が生まれた。

 

ハリーはハーマイオニーが善意でやった事だと分かっているようだったが、自身の身柄よりファイアボルトの性能劣化に気掛かりの様だった。

ロンはハーマイオニーにカンカンに腹を立てていた。

彼からすれば、新品のファイアボルトを分解*4することは、まさに犯罪的破壊行為だと言うことだ。

 

そして懸念通りに激おこになった二人を叩き潰したのが刀原だった。

 

「ハリー。ファイアボルトと自分の命、どっちが大切だ?」

「なあロン。ファイアボルトとハリーの命、どっちが大切だ?」

 

刀原の意見は正論中の正論なのだが、それで納得出来れば苦労はない。

 

かくして、プレゼント(最高峰の箒)が文字通りバラバラにされるハリーとロンと、最近段々と機嫌が悪くなってきたハーマイオニー*5にはさりげない冷戦構造が出来上がったのだった。

 

 

 

 

休暇も明け、授業は再開された。

 

クリスマスに体調をまたも崩したルーピンは未だ完全復帰したわけでは無さげだった。

しかしハリーに対して約束した『守護霊の呪文』についての特別授業はしっかりと行われ、第一回目だというのに中々の結果だったらしかった。

 

そんなルーピンに刀原と雀部はある一つの確信があったが、別に支障が出る事では無いとして、見逃すことにした。

 

ハリーのファイアボルトは、未だに分解検査から戻って来なかった。

ホグワーツではハリーがファイアボルトを手にしたことと、分解検査の為に泣く泣くマクゴナガルに引き渡したという噂が流れていた。

 

グリフィンドールチームのキャプテンであるウッドはそれに憤慨し、マクゴナガルに対して説得を試みたが、あえなく失敗に終わった。

マルフォイはハリーに同情すると言い「万が一の場合は僕のニンバス2001を使え」などと言ったほどだった。

 

 

そして刀原とハーマイオニーの読みは外れ、ファイアボルトには何もなかった。

マクゴナガルはハリーに返す際に激励していった。

 

「何もなかった?俺の杞憂だったみたいだったようだ…すまんかったな。何はともあれ良かったなハリー。次の試合、期待してるぞ」

 

刀原もそう言ってハリーを応援した。

 

 

ハリーはルンルンだった。

遂に帰って来たファイアボルトを試したくて、ウズウズしている様に見えた。

 

だがそのルンルン気分は数時間後、爆砕される。

 

「これ、スキャバーズの血だ!傍にあったのは何だか分かるか?」

 

「い、いいえ」

 

ファイアボルトに興奮し、一端ベットに戻ったロンが動揺した様子で談話室に戻って来る。

 

あったのは赤い血と、オレンジの毛……クルックシャンクスの毛のような物だった。

 

終わった。

 

刀原はロンとハーマイオニーの仲に決定的な亀裂が入り、修復は困難を極めるだろうと思った。

 

 

 

 

スキャバーズは死んだ。

とはロンの言葉だ。

 

だが確固たる証拠(死体)が無い以上、断言出来ないとは刀原の意見だった。

その為、ロン対ハーマイオニーの冷戦に刀原は中立を宣言した。

そしてロンにはハリーが味方になり、ハーマイオニーには雀部が味方になり、長期戦の様相になった。

 

だがクルックシャンクスがスキャバーズを()()()()()()()かなど、どうでも良いといえるイベントがやって来た。

 

グリフィンドール対レイブンクローの一戦だ。

そしてファイアボルトの御披露目でもあった。

 

試合はグリフィンドール有利で進んだ。

 

ファイアボルトはその名と値段に恥じぬ働きをした。

実況係のリー・ジョーダンはホグワーツでの宣伝大使に雇われたかのようにマクゴナガルの叱咤の声を無視してファイアボルトの素晴らしさを語っていた。

 

まさに鬼に金棒だった。

 

そしてハリーはディメンターのちゃちな仮装をしたクィディッチスリザリンチームに守護霊の術を完璧に決め、スニッチを取った。

 

グリフィンドールは沸きに沸いた。

次の試合……スリザリンとの直接対決に勝利すれば優勝の可能性が大いにあるからだ。

 

そして宴会が行われた。

 

誰も止めようとしない宴会はマクゴナガルが午前一時頃にやって来た事でお開きになった。

全員は興奮冷めやらぬままベットに入った。

 

 

そして。

 

「うあああぁぁぁぁぁ!やめてぇぇぇぇぇ!」

 

というロンの大絶叫で、はね起きることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
あまりバラさないでね、と止められている

*2
学校から借りれるおんぼろ箒

*3
ポッター家は『忠誠の術』という魔法で守られていた。

『秘密の守り人』は術が錠前だとすれば鍵となる人のこと

*4
調査のためだと忘れているかもしれないが

*5
刀原と雀部はその理由を知っていたが




1ガリオンが約800円。
ファイアボルトは500ガリオン。

つまりファイアボルトは約40万円。

お金がある方はいかがですか?
ダイアゴン横丁で購入出来ますよ。


感想、考察、ご意見、評価。
ありがとうございます。
そしてお待ちしております。



では次回は
予言と動物たち
次回もお楽しみに


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死神、当てる。予言と動物たち



復讐の味

蜜より甘い至福の味
望んで我らはそれを味わう

それは終われば虚しい味だ。








 

 

祝宴の余韻冷めやらぬ深夜の寝室に、突如として大絶叫が響いた。

 

「何事だ?」

 

ハリーが跳ね起き、刀原も起きた。

叫んだのはロンだった。

そのロンのベッドのカーテンは片側から切り裂かれていた。

 

「ブラックだ、ブラックが居た!ナイフ持ってた!」

 

「えー!?」

 

「ブラックだと?んな馬鹿な…」

 

ロンはブラックが居たのだと供述した。

とりあえずその場にいた全員が談話室に向かう。

先程までパーティーが行われていた事もあって、談話室はその残骸で散らかっていた。

当然、誰もいない。

 

「叫んだのは誰だ?」

 

「マクゴナガル先生が寝なさいっておっしゃってたでしょう!」

 

どうやらロンの絶叫は寮全体に響いたらしく、何人かが降りてくる。

 

「まったく!いい加減にしなさい!」

 

マクゴナガルもやって来る。

ロンがブラックの襲撃を受けたと言う話をマクゴナガルやパーシーに言っている中、刀原は眠そうな目を擦りながらやって来た雀部と共に入り口近くに布陣していた。

 

そして調べの結果、判明した。

ブラックが本当に居たことがだ。

 

 

 

ロンは一躍、時の人となった。

ハリーを差し置いて襲撃を受けたからだ。

 

ホグワーツはブラックに対する警戒度が、再び一段と高まった。

襲撃を受けた日の夜、刀原と雀部には談話室に待機するよう要請が入ったし、以後ハリーの傍を離れないようにとの要請も受けた。

 

そしてブラックを今回も取り逃がすことになった。

 

 

ブラックに対して、刀原には疑問が残った。

 

《何故ブラックはハリーでは無く、ロンを襲撃したのか》と言う疑問だ。

 

その訳を知るのはブラック本人だけだが、刀原はそれを推理のヒントにしていた。

 

刀原は当初、ブラックは詰めを誤りロンのベッドをハリーのベッドと間違えて襲撃したと思った。

しかし「そんなミスしますかね?」と言う雀部の至極当然な指摘で違うと考えた。

 

ブラックが本気でベッドの主*1を仕留めようとするのならば、()()()()()()()()()()などと言うとんまな事態にはならない。

カーテンごとナイフで突き刺せば良いからだ。

 

そして雀部の「しょう君も気付かなかったってこと?」と言う指摘だ。

 

 

自慢では無いが、同年代よりかは殺気に敏感だろう。

とは刀原の証言だ。

 

無理もない。

幼少期の頃からとんでもない人達(護廷十三隊の隊長)の熱烈な修行をしていたのだ。

そして当然だろうが、ブラックより卯ノ花や四楓院の方が殺気の消し方が上のはず。

 

例え自分が対象では無くとも、()()()()()()()の殺気に気付かない筈がない。

 

刀原と雀部はそう考えた。

 

つまり()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言う可能性が出たと言う事だ。

 

 

 

ブラックがホグワーツに二度も侵入したと言うことは、ホグズミードをブラックが平然と闊歩している可能性が高いと言うことに他ならない。

だが、ハリーとロンは実に呑気だった。

そして刀原とハーマイオニーの説得も虚しく、ハリーはホグズミードに行くことにしたらしい。

 

何故ハリーはホグズミードに行けるのか。

それは双子から渡された謎の魔法具『忍びの地図』を使っているからだ。

 

この忍びの地図はホグワーツを完全に網羅していた。

そして誰が何処にいるのかも完璧だった。

 

例え死んだ筈の人間、ピーター・ペディグリューが地図に載っていたとしても。

 

ハリーはピーター・ペディグリューの名を見つけた後、即座に追跡した。

そして地図の上ではすれ違ったが、そこには誰も居なかったらしい。

 

そんな地図の制作者はムーニー、ワームテール、パッドフット、プロングスという者達。

ハリーがなんやかんやあってルーピンに地図を取り上げられた際、ルーピンは制作者に会ったことがあると言った。

 

 

ここに至り刀原と雀部は、今まで建てていた仮説が現実味を帯び始めていると気が付いた。

 

ルーピンが抱えているであろう秘密。

ボガートが変化した物。

定期的に悪化する体調。

 

ピーターの死の疑問。

そしてすれ違うも姿が見えなかった理由。

 

ブラックの本当の目的。

侵入方法。

 

そして、三人ともハリーの父親……ジェームズ・ポッターと知り合いだったと言う事。

 

そして、ここ最近起きた行方不明事件との関係。

ロン曰く、スキャバーズの指は欠けていたらしい。

 

 

 

謎解きのショーが開かれるのは近い。

 

 

 

 

だがそれよりも近いのがあった。

クィディッチの優勝決定戦である。

 

決定戦はグリフィンドール対スリザリンの一戦となったのだが、因縁の一戦であることもあって、試合前はかなりピリピリムードとなっていた。

 

グリフィンドールが優勝出来る条件は、二百点以上で勝利することだ。

その為、ハリーは何度もウッドに「俺達が五十点以上取った上でスニッチを取れ!」と言われていた。

 

グリフィンドール寮全体が、来る試合に取り憑かれているようだった。

イースターの休暇が終わる頃にはチーム同士や寮同士の緊張がピークに達し、廊下のあちこちで小競り合いが散発していた。

 

大事な大事なシーカーであるハリーは、とくにひどい目に遭っていた。

 

刀原には教授陣から要請されていたハリーの警護の任があり、そうでなくとも普段からよく一緒に行動していた。

そしてハリーを潰そうとするかもしれないと思ったウッドからも、警護の依頼も受けた。

 

ウッドの懸念は当たっており、ハリーの行く先々にスリザリン生が現れては刀原と雀部が傍にいる事を確認し、残念そうに立ち去ることも少なくなかった。

 

試合前夜のグリフィンドール寮の談話室では通常の活動が一切放棄されていた。*2

 

そして翌日、大歓声の中試合が始まった。

 

試合はグリフィンドールが早々にリードを奪ったことで、スリザリンがクアッフルを奪うためには手段を選ばない戦法にシフトした。

その為、最悪の泥試合となった。

 

スリザリンは棍棒で殴ったり*3、ウッドを狙い撃ちしたりをした。

 

だが、グリフィンドールは圧倒的だった。

リードは広がり、約束の五十点以上となった。

 

そして。

 

マルフォイとのデッドヒートに勝利したハリーがスニッチをキャッチした。

グリフィンドールは宿願の優勝を果たしたのだった。

 

 

 

 

優勝したという余韻に浸りたいのは山々だが、生徒達には試験が迫っていた。

 

『変身術』の試験では、ティーポットを陸亀に変えるという課題だった。

とりあえず刀原はガラパゴスゾウガメに変え、マクゴナガルをニッコリさせることに成功した。

 

『闇の魔術に対する防衛術』は独特な試験だった。

 

簡単に言えば野外での障害物競走のようなもので、魔法生物を如何に捌きゴールするかという内容だった。

 

刀原と雀部は協議の末、馬鹿正直に対処せず全て強行突破すれば最速タイムが出せると判断した。

 

そして瞬步一歩手前のスピードで駆け抜けた。

 

その為、魔法生物達は引き込む(水魔)ことも道に迷わせる(ヒンキーパンク)ことも叶わず、撲殺しようとしたレッドキャップに至っては物理的に処理(斬魄刀で撃退)されてしまった。

 

当然、最速タイムを叩き出した。

ルーピンからは反則スレスレと言われたが。

 

 

そして最後に残ったのが『占い学』だった。

先日、遂に我慢ならなくなったハーマイオニーが自主的に辞めたこの科目の試験は比較的簡単に終わった。

 

筈だった。

 

ハリーが試験を受けた際の事だ。

 

つい先程まで()()()()()()()トレローニーが、突如として()()()()()おかしくなっていた(ラリっていた)のだ。

虚ろな目をして口をだらりと開き、肘掛け椅子に座ったまま硬直していたトレローニーは、いつもとは違う荒々しい声で喋り始めた。

 

「事は今夜起こるぞ。闇の帝王は、友も無く孤独に朋輩に打ち捨てられて横たわっている。その召使いは十二年間、鎖に繋がれていた。今夜、深夜になる前にその召使いは自由の身となり、ご主人様の下に馳せ参じるであろう。そして闇の帝王は召使いの手を借り、再び立ち上がるであろう……」

 

なんだ、いつも通りじゃないか……。

 

では済まされない内容だ。

おまけにこれを言ったことをトレローニーは覚えていないらしい*4

つまり、様子が様子だっただけにいつもの様に笑い飛ばすことが出来ない。

 

しかし、これがアルバニア(潜伏先)で起きることであるならば阻止できる筈もない。

手出しも対策も出来なかった。

 

 

 

 

 

魔訶不思議なこともあったが、ひとまず全生徒の永遠の宿敵(期末テスト)は一旦消えた*5

 

そしてハリー達はハグリッドの下へ向かうことになった。

ここ最近調子を取り戻しつつあるハグリッドが、再びバックビークを彼らに会わせたいらしい。

 

ハリー達には雀部も同行することにした。

護衛の為ということもあったが、久しぶりにバックビークと触れ合いたいという願いも兼ねているだろう。

 

刀原としてはルーピンに先の予言について意見を聞きに行きたかったが、同行を願う4人に折れ、一緒にハグリッドの小屋へと向かうことになったのだった。

 

 

小屋では平和な空気が流れた。

ハグリッドは数多くの者が死んだと思っていたスキャバーズを捕獲していたらしく、ロンは最愛のペットと感動の再会をしたのだった*6

そしてスキャバーズの無事が確認されたため、ロンとハーマイオニーによる冷戦構造も雪解けとなった。

 

そんな中、刀原は絶好の機会だとしてスキャバーズをよくよく観察してみた。

するとそこら辺の魔法生物より、遥かに多い霊圧を持っていることが分かったのだ。

人間並の霊圧をだ。

 

まさかな……。

刀原は深く考え混み始めた。

 

なお、ヒッポグリフ達はは相変わらずだった。

雀部お気に入りのヒッポグリフも元気そうで、何かと殺伐だった雰囲気も和やかなものになった。

 

 

 

動物とのふれあいはあっという間に終わり、帰る時間となった。

スキャバーズは未だに暴れており、飼い主たるロンにもどうにもできないようだった。

そして何度か噛みつかれているようで、その都度悲鳴があがっていた。 

 

「一体どうしたんだ!このバカネズミ!」

 

堪え切れなくなったロンが荒げた声を出すも、構わず暴れるスキャバーズ。

そして最悪のタイミングで現れた猫が一匹。

 

クルックシャンクスだ。

 

「駄目!クルックシャンクス!」

 

ハーマイオニー(飼い主)が言うも、クルックシャンクスは気にせずどんどん近づいてくる。

 

「駄目だスキャバーズ!」

 

そしてついにスキャバーズはロンから脱出し、一目散に逃げだした。

クルックシャンクスがつかさず追いかけ始めた。

 

折角再会したのに今度こそ食べられてはならないとロンも追いかける。

そしてロンを追いかける形で残る四人も追いかけ始めた。

 

かくして始まったチェイスは暴れ柳の近くまでたどり着き、ロンがスキャバーズを確保したことで終わった。

既に周りは暗くなり始めていた。

 

ロンはひとまずほっとしているようだったが、如何せん場所が悪い。

 

「ロン!ひとまずこちらへ!ここは……」

 

訓練しているため夜目がきく雀部がロンを呼び寄せようとした瞬間だった。

かなり大きな黒い犬が突如乱入してきたのだ。

何もすることが出来ずにロンが犬に腕を噛まれてしまい、そのまま引き摺られて行ってしまう。

 

そして襲い掛かってくる太い枝。

雀部は言い損ねたのだ。

既に暴れ柳の射程圏内に入っていることに。

 

「『ルーモス!(光よ!)』」

 

刀原や雀部ほど夜目がきかないハリーが杖先に灯りをともし、直後息をのむ声が聞こえる。

 

暴れ柳の根元ではロンが健気な抵抗をしていた。

だが、無駄な抵抗だった。

 

パキッという嫌な音が聞こえてきた。

木の根に足を引っ掛けていたようだが、どうやら足を折ったらしい。

 

そして獲物が無抵抗になった為、ずるずるとロンを容易く引き摺って行く黒い犬。

 

「待ちなさい!縛道の四『這縄』!」

 

「させねぇよ!『インカーセラス(縛れ)』!」

 

雀部の鬼道に刀原の捕縛呪文の甲斐も無く、ロンは拉致られてしまった。

 

 

「助けを呼ばなくちゃ!」

 

ハーマイオニーがそう叫ぶが直ぐに悲鳴に変わる。

暴れ柳の枝に当たったらしい。

 

「駄目だ!あいつはロンを食ってしまうほど大きい、そんな時間はない!」

 

ハーマイオニーの言葉にハリーがそう叫ぶ。

確かに奴はデカかった。

直ぐにでも行けなければロンが奴のディナーにされかねない。

だが行こうにも暴れ柳が邪魔だった。

 

「どうします!?」

 

雀部が枝を避けながら刀原に聞いてくる。

 

剪定か、焼き焦げ炎上か…。

 

刀原は少し悩んだ。

そして決めた。

 

「良し…。んじゃ、俺が止めるから、その隙に木の根元まで行くんだ。いいな?」

 

そう言って刀原は少しだけ距離をとる。

 

「縛道の七十九『九曜縛』」

 

刀原がそう唱えれば、木の周りの縦方向に八つ、胴体に一つの黒い鬼道の玉のようなものが出る。

そして暴れ柳はピクリともしなくなった。

 

その隙に全員が木の根元にあった通路の中に入り込む。

そして入り終わったという雀部の合図で刀原は鬼道を解いた。

再度暴れ始めた暴れ柳だったが、気にせず刀原は突っ込み、枝を避けながら通路へ入ったのだった。

 

 

通路は狭く、薄暗かった。

 

「このトンネルの先は何処に?」

 

雀部が警戒しながらハリーに問う。

 

「わからない……。忍びの地図には書いてあったけど、フレッドもジョージも使ったことはないみたいなんだ。ホグズミードにはつながっているんだろうと思うけど……」

 

ハリーには分からないらしい。

 

やがてうっすらと光が見えてきた。

先には霊圧が三つ。

ロン、スキャバーズ、そしてスキャバーズと同じく人間並の霊圧を持つ黒い犬。

 

まるでこの先3人の人間が居るかの様だった。

 

 

通路の出口は埃を被った部屋だった。

 

壁紙の半分は剥がれ落ちており、もう半分は黄ばんでしまって元の柄が分からなくなっている。

フローリングは所々めくれ上がり、床下の空間が露出していた。

窓には板、そして家具はほとんどボロボロで、原型をとどめていないものも少なくない。

 

完璧な廃墟だった。

 

「叫びの屋敷……でしょうか?」

 

「おそらくな……」

 

雀部が警戒しながら推察する。

刀原は多分正解だろうと言った。

 

ホグズミードにある廃墟など、其所しか思いつかなかったものあるが*7

 

「ハリー、ショウ、ライカ……。此処って、叫びの屋敷よね?」

 

ハーマイオニーも同じ結論に達したらしい。

 

そして辺りを見渡せば、床の埃が擦れていた。

ハリーがそれを指差し、一行はそれを頼りに屋敷の階段を上がっていった。

 

やがて、扉の閉まった部屋の前にたどり着く。

中からは低いうめき声が聞こえてきた。

ロンの声だ。

 

【ご用改めである!って言った方が良いですかね?】

 

【んなこと言ってる場合か】

 

刀原と雀部は腰にある斬魄刀に手を掛け、抜刀体勢をとる。

ハリーが目配せし、刀原と雀部が頷けば戸を蹴り開け、四人は部屋へと突入した。

 

 

 

中は天蓋付きのボロボロのベッドがある部屋だった。

クルックシャンクスがそのベッドに乗っかり、呑気に頭を掻いている。

その脇の床にはロンが足を投げ出して座っていた。

 

刀原と雀部は油断無く霊圧の先を見つめていた。

 

背後ではハリーとハーマイオニーがロンに駆け寄っているようだった。

 

「ロン!大丈夫?犬は?」

 

「犬じゃない。ハリー、罠だ……」

 

ハーマイオニーにロンが呻きながら答えた。

 

「え?」  

 

ハリーが唖然として聞き返し、刀原は目を細めて斬魄刀の柄を握る。

雀部も同じ行動をしていた。

 

既に鯉口は切っていた。

 

ロンが言った。

 

「あいつだ、あいつが犬なんだ……あいつはアニメーガスなんだ……!」  

 

ロンが指し、刀原と雀部が見ていた方向……扉の方をハリー達が振り返った。

 

それと同時に暗闇に包まれた廊下から、もじゃもじゃと整えられていない髪、痩せこけた頬、窪んだ眼窩、そしてぼろぼろの服を着た男が現れた。

男は進み出て、扉を閉めた。

 

「……シリウス・ブラック……だな?」

 

「その通りだと言ったら?」

 

刀原が刀に手を掛けたまま、ゆっくりと男に問うた。

男はニヤリと笑いながら聞き返した。

 

「一応、降伏を勧めるが?」

 

「それは出来ない」

 

「そうか」

 

それが合図だった。

 

「『エクスペリアームス(武器よ去れ)』」

 

ブラックが武装解除呪文を放つ。

それは流石と言うべき技量で、ハリーとハーマイオニーの杖が瞬く間に奪われてしまう。

 

しかし姿勢を低くし、スライディングしながら接近した刀原には当たらず、懐に入り込む。

そのまま横凪に刀を振るうが、ブラックはすんでのところで躱した。

 

「流石は評判の日本の魔法使いだ。躱すので精一杯だよ……」

 

「それは此方の台詞だ。まさか躱されるとはな」

 

ブラックには冷や汗が流れている様だった。

一方、刀原は既に霞の構えをしており、臨戦態勢だった。

 

「おまけに退路を断つとはね。年の割に随分と場馴れしてないか?」

 

ブラックがおどけたように言う。

先のやり取りで刀原は、ブラックが避けた場合、出口から遠退くように仕向けたのだ。

 

「最高の師匠達がいるんでな」

 

「そうか、最近の若者は末恐ろしいな……だがひとりでは無理だろう」

 

ブラックはニヤリと再び笑う。

ハリーとハーマイオニーを既に武装解除しているからだろうか。

 

「生憎と俺は一人じゃねぇ」

 

刀原は言いきる。

 

「ほう、では誰が」

 

「私よ。縛道の九『崩輪』」

 

すると今の今までハリー達の傍から離れなかった雀部が鬼道を放った。

ブラックは完全に意表を突かれた形となり、なすすべなく雀部の縛道に捕らわれる結果となった。

 

「君は、ハリーの友達の一人じゃなかったのか?」

 

ブラックが驚いた感じで言う。

雀部は一瞬キョトンとした。

だが直ぐにニッコリと笑う。

 

「私は確かにハリーの友人ですよ?でも私の出身地は日本なんですよ」

 

ブラックは雀部の容姿を見て、まさか日本人だとは思わず、英国人と思っていた様だった。

それを利用し、雀部はあえて刀原に任せていたのだ。

そして最高のタイミングで参戦したのだ。

 

「まいった。私の完敗だ」

 

ブラックは全てを悟り、項垂れたのだった。

 

 

 

 

ブラックは御用となった。

ブラックの後ろには雀部が刀を向けながら立っており、刀原も前から向けていた。

 

「一応聞くが、何をしに此処へ?」

 

刀原がブラックに聞く。

だがブラックは刀原の質問には目もくれず、ハリーの方を向いた。

 

「ハリー。君なら友を助けに来ると思った。君の父親……ジェームズもそうしただろうし、そうしてくれた。勇敢だ、実に勇敢だ。先生の助けも求めずにね」

 

ブラックは狂人だと誰もが言っていた。

だがハリーにそう言うブラックは実に穏やかだと刀原は思った*8

 

「……ブラック。お前の目的はなんだ?ハリーが狙いならあの瞬間、ハリーのみを狙えば良かった……。だがお前が狙ったのはロンだった。この前もロンだったな?そして仮にロンが狙いなら俺たちが突入する前に始末出来た筈だ。手負いの学生一人屠ることぐらい容易だろうからな……。言え、お前の真の目的はなんだ」

 

刀原がブラックの正面に立ち、強い口調で言う。

ブラックは観念したかのように答えた。

 

「一人を殺せば十分だからだ……。たった一人だけを。その為にここに来た」

 

ブラックは静かにそう言った。

そしてそれを自分のことだと受け取ったハリーは激昂し、ブラックに吐き捨てるかのように聞いた。

 

「この前はそんな事を気にしなかった筈だろう?ペティグリューを殺すために、沢山のマグルも無残に殺した。そのお前がアズカバンで骨抜きにされたのか?」

 

「ハリー!やめて!」

 

ハーマイオニーが悲痛な声を出す。

だが今までの恨みを堪え切れなくなったハリーは止まらない。

 

「こいつが!僕の父さんと母さんを殺したんだ!」

 

目は血走り、表情は怒りに染まっていた。

ハリーは既に杖を取り戻していた。

だが、刀原がハリーの前に刀を出して止める。

 

「ショウ!邪魔をしないでくれ!」

 

ハリーは刀原を睨みつけた。

だが刀原は血が上っているハリーを見ず、ブラックを見ていた。

 

「ブラック。俺の質問に完璧に答えてないぞ?お前が狙ったのはハリーでは無く、ロンだった。つまりハリーの命が狙いではない。だがロンの命も目的では無かった。では一体誰の、」

 

刀原の言葉はそこでいったん止まった。

誰かが階段を駆けてきたからだ。

 

その一瞬のスキはハリーは逃さなかった。

刀原の脇を抜け、ブラックへ迫った。

 

だがハリーの復讐は始まらなかった。

 

「『エクスペリアームス(武器よ去れ)』」

 

乱入してきた者がハリーを武装解除したからだ。

 

「ルーピン教授……」

 

「やあ、ショウ。ハリーを止めてくれてありがとう」

 

やって来た乱入者はルーピンだった。

そして……。

 

「『エクスペリアームス(武器よ去れ)』」

 

ルーピンが武装解除呪文を()()()()()()放った。

 

「ッ!!」

 

しかし刀原はまたも躱し、ルーピンの喉元に刀を突き付けた。

 

「やれやれ、不意打ちでも駄目か。リベンジといきたかったのだが」

 

「残念ながら、咄嗟の不意打ちには慣れてるんです。師匠が隠密機動の人なので」

 

ルーピンが笑ってそう言えば刀原もニッコリ笑ってそう返す。

 

「リーマス、してやられたな。私も先ほど彼らを舐めてかかり、このざまだ」

 

「そのようだな」

 

ブラックとルーピンはやけに親しげだった。

 

「ルーピン教授?一応、理由を伺っても?」

 

刀原は笑みを崩さないまま襲い掛かってきた理由を聞いた。

 

「最大戦力であり、現状最も正面切っての戦闘をしたくない恐ろしい生徒を早めに無力化したかった。では駄目かい?」

 

「本当に?」

 

ルーピンの答えに刀原は真面目な顔でそう聞き返す。

 

「お手上げだ……付け足すとしよう。これから起きる事を邪魔されたくなかったからだ」

 

ルーピンはそう言って手を挙げる。

 

「邪魔はしません。むしろ俺が説明した方がいいでしょう」

 

刀原はそう言う。

 

一連の流れと真相は分かった。

刀原は真実にたどり着いたのだった。

 

 

「ショウ……」

 

「ハリー。今から俺が言うことが、おそらく真実だろう。だがその前に……、出てきたらいかがですか?スネイプ教授」

 

刀原はドアの方へと目線を移せば、スネイプがのっそりと現れた。

 

「トーハラ。気付いていていたのかね?」

 

「ハロウィンの一件以降、霊圧感知を行っていましたから」

 

スネイプが言うと刀原はおどけた様に答える。

スネイプはそれを聞いて「うむ」と一言置くと勝ち誇ったかの様な顔をした。

 

「さて?どうやら我輩の予想は当たっていた様ですな…。ルーピン、君がお友達のブラックを手引きしているとね。だがその様子を見る限り、君たちは我が校の優秀な生徒の実力を履き違えていたと見える」

 

スネイプはかなりウキウキしていた。

と刀原はそう思った。

しかし、どんな恨みがあるのかは知らないが邪魔されるわけにはいかない。

 

「お褒めの言葉、ありがとうございます」

 

「ではトーハラ。彼奴らを長の前へ引っ立てる手伝いをしていただけますかな?」

 

「いえ、スネイプ教授。それはまだ早いです」

 

「……?何故かね?」

 

「それはまだ真相が明らかになっていないからです」

 

「真相だと?」

 

「はい。引っ立てるのは僕の推理を聞いてからでも遅くは無いかと」

 

「ふむ……。他ならない君の言葉だ。まずはそうしよう」

 

スネイプが譲歩したことにハリーは驚いていた。

刀原は、スネイプが退いたことに心の中でガッツポーズ*9しながら扉の前に立った。

 

「……では、今から真相を暴きます」

 

刀原はそう言って話し始めた。

 

 

 

 

 

「まず、ルーピン教授について。ルーピン教授はある一定の時期、いや周期で体調を崩されます。そのヒントは僕らの最初の授業にありました。ルーピン教授に対しボガートが変身したのは満月でしたね。そして体調を崩すのは、決まって満月の時です。そしてこれから導かれる答えは一つ。つまりリーマス・ルーピン教授は狼人間だと言うことです」

 

「狼人間…」

 

ハリーとロンが驚いた表情になる。

ハーマイオニーがそうならなかったのは俺たちと同じく気が付いていたからだろう。

 

「ああ、その通りだ。私は幼い時にフェンリール・グレイバックという狼人間に噛まれ、狼人間になった」

 

ルーピン教授が疲れた様子で話した。

 

「ダンブルドア教授は私に学びの機会をと思って下さり、入学を許可してくださった。そしてその対策として『叫びの屋敷』を作り、ここへのトンネルの出口に暴れ柳を植られたのだよ」

 

ルーピン教授の告白を受けながら推理を続ける。

 

「ルーピン教授、シリウス・ブラック、ピーター・ペティグリュー、そしてハリーの父親であるジェームズ・ポッター。彼らは友人だった。彼らは友人で、ルーピン教授が狼人間であることも暴いた。そして『忍びの地図』の設計者であり、製作者でもある。ルーピン教授がムーニーですね?」

 

「その通りだ」

 

「そしてブラックがパットフットですね?」

 

「ああ」

 

俺がそう聞いていけばルーピン教授とブラックが認める。

 

 

「先ほど見た通り、ブラックはアニメーガスだ。何故か。おそらくルーピン教授の為にアニメーガスの技術を習得したからだ。狼人間へと変身したルーピン教授と共に行動が出来るように」

 

「ああ、ジェームズやシリウス、ピーターは必死になって習得してくれた。私を一人にしない様にとね」

 

ルーピン教授がそう言う。

 

 

「そしてやはり気になるのはワームテールとプロングスはどっちか、ということだ。まあ、さっきまでパットフットも確証が無かったけどね。……実は言うと僕は既にワームテールの答えを気付いていた……理由はハリーの証言だ」

 

「僕の?」

 

「そう。ある晩、ハリーは地図を見ていた。すると地図には死んだ筈のピーター・ペティグリューの文字があった。そうだったね?」

 

「そうだよショウ。でも地図が壊れてたからだよ。追いかけても見つからなかったし」

 

「そう、ハリーは見つけられなかった。だが地図が正確で間違っていないとなると、ハリーは何故見つからなかったのか?暗い深夜の廊下だ。しかも相手は人だと思っていた。だからハリーには見えず、気付かなかったのだ。足元をすり抜けた………ペディグリュー、ネズミを。ルーピン教授。……ピーター・ペティグリューは、ワームテールと呼ばれ、変身したのはネズミなのでは?」

 

「その通りだが、何故そうだと?」

 

「簡単な話です。製作者のコードネームには動物の特徴が由来になっている。そのうちパットフットはイギリスの北部の伝承に伝わる魔犬のことと、犬の柔らかい肉球を指す言葉。つまり犬。プロングスとは角の枝分かれという意味からおそらく鹿、或いはトナカイ。どれも隠れられる動物ではない。一方、ワームテールとはネズミの尻尾を指す。つまりそういうことです」

 

「正解だ」

 

 

「でもショウ。ピーターはもう死んでるのよ?」

 

「そうだよ。こいつが爆殺したんだ!」

 

「小指一本しか残さずにね」

 

ハーマイオニー、ハリー、ロンがそう言う。

 

「確かにそう言われている。だがまあ、聞いてほしい」

 

俺がそう言えば三人は静かになってくれた。

 

「三人の言う通り、ペディグリューはブラックによって爆殺された。小指一本しか残さずに。()()()()()()()()()()()()()()()()。本来なら他の部位が残っていてもいいのに。それこそ他の指とかね。…散々考えた末、小指一本しか残らない条件を二つ見つけました。一つ目はまぐれ、偶々、奇跡的。二つ目は…()()()()()()()……。つまりブラックが爆破呪文を使ったのでは無く、()()()()()()()()使()()()()()

 

「…目撃証言がありますぞ?見た者も大勢いた」

 

スネイプ教授が聞いてくる。

 

「確かにそうだと聞いてます。ですがそれはペディグリューがブラックを叱責した直後、爆発し、残ったのはブラックだった。ではありませんか?」

 

「……確かにそうだ」

 

「でもショウ。ブラックが裏切り者だった!こいつが父さん達の居場所をヴォルデモートに教えたんだ!」

 

「それについては予想が出来てるよハリー。だけどまずはペディグリューとブラックとの疑問についてだ」

 

「……分かった」

 

「ありがとう。さて、先ほど言ったことを覚えていますか?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言うことです。僕はペティグリューの遺骸が小指一本だということを聞いた直後から、ペティグリューは生きている可能性があるという事だけ分かっていましたが、それは机上の空論でしかありませんでした。そしてその時はどうやってペティグリューが爆殺されたと見せかけた後逃れたのか分かりませんでしたが、ここでようやく分かりました。簡単な話です。ペティグリューはアニメーガスなのでネズミになり、そこら辺の下水道に逃げ込んだのです」

 

 

 

「これまでの推理はペティグリューが自らの死を偽装する方法です。何故そうせざる得なかったかについては後程。さて、僕は何故死んでいないという可能性を考えたのか。それはブラックの脱獄とやって来た理由です」

 

「ブラックが脱獄してやって来た理由?」

 

「そんなの僕の命だろう」

 

「いいやハリー。ブラックの目的はハリーじゃない」

 

「「「ええ!?」」」

 

「ブラックは今まで三回、襲撃してきた。一回目はグリフィンドール寮に入れず失敗。二回目はグリフィンドール寮に入り込めた。だがブラックが狙ったのはロンのベットだった。当初は間違えただけだと思いましたが、実は間違えてなかった。そして三回目もロンを狙い、今度は連れ去る事に成功した」

 

「ウィーズリーをかね?」

 

「ええ、そうですよスネイプ教授」

 

「なんで僕を?」

 

「それはこれから。さて、三回目の襲撃ではハリーを確実に狙えましたが、やはり狙ったのはロン。ここまで来たらブラックのターゲットがハリーでは無く、ロンであることが分かる筈です。しかしどうやらロンの命では無い様子。では、何が目的なのか。誰がターゲットなのか……!」

 

 

 

 

 

「……シリウス・ブラック。貴方は脱獄する直前、新聞を貰ったそうですね?」

 

「ああ、そうだ」

 

「まだ持っていますか?持っているなら見せて頂いても?」

 

「…分かった。左のローブに入ってる」

 

俺はブラックのローブに手を入れ、クシャクシャの新聞を見る。

 

「……やはりそうか」

 

見た後、確信した。

間違っていなかったな。

 

「これは約一年前の新聞です。内容は賞金でエジプトに行ったある家族の事。すなわちウィーズリー一家のことです。当然ここにはロンも映っています。そして、一年前から様子がおかしくなったネズミ……スキャバーズもね」

 

「まさか…」

 

「そんな馬鹿な…」

 

ハーマイオニーとスネイプは察したらしい。

 

「スキャバーズには特徴がある。十二年も生きている事、エジプトから帰ってきた時から様子がおかしい事、ロンからも逃げようとしている事、霊圧が人並にある事、そして……指が一本無い事」

 

「だから何なんだ!ショウ!まさかこいつが、スキャバーズが()()()()()言いたいのか?」

 

「その通りだ。でなければロンが狙われる理由がない」

 

「……」

 

「ロン。スキャバーズを渡してくれ。スキャバーズは違うという証明をしたい。無論、ただのネズミならこれで傷つくことは無い」

 

「分った……」

 

「ありがとう」

 

未だキーキー喚くスキャバーズをロンから受け取る。

 

「『レベリオ(現れよ)

 

そしてスキャバーズを掴みながら呪文を唱える。

 

スキャバーズは床に落ちる。

そして先ほどまでネズミだったものは小柄な男となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
主がハリーかロンかはこの際置いておく

*2
あの()()()()()()()()()()本を手放していた

*3
なお言い訳は「ブラッジャーと間違えた」

*4
一種のトリップ状態だったと推察される

*5
どうせまた来年には現れるが

*6
相変わらず()()()()()()()()()キーキー踠いていたが

*7
当然、失礼ではあるが他所様の家である可能性も捨てきれないが

*8
全て諦めたからかもしれないが

*9
なお譲歩しなかった場合、遺憾ながら武力で制圧するつもりだった






投稿が遅れてしまい申し訳ございませんでした。
頑張って投稿間隔を維持したいと思いますので、今後とも宜しくお願いいたします。



推理ショーを行ったのは筆者の趣味です。
問答無用で正体を暴くことも出来ましたが、それはそれでつまらないと思いまして。

なお、刀原・雀部のタッグが本気を出せば、大人を含めた全員の武力制圧は可能だと考察しています。

原作では恨みで冷静さを失っていたスネイプが大人しく退いたのも、ゴネたら武力制圧されると踏んだからですね。
なお、ハリーも同じくです。

ちょっとした抑止力ですね。


感想、考察、ご意見、評価。
ありがとうございます。
そしてお待ちしております。



では次回は
死神とアズカバンの囚人編 決着と終幕
次回もお楽しみに





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死神とアズカバンの囚人編 決着と終幕



友の仇
親の仇

いざ変えん

ただのネズミに。









スキャバーズの正体は暴かれた。

その正体はピーター・ペティグリューだった。

 

背丈はハリーやハーマイオニーとあまり変わらず、てっぺんには大きな禿げがあった。

 

なるほどネズミだな。

刀原はそう思った。

 

そうであると踏んでいた刀原や雀部は驚かなかった。

だが、ハリーやハーマイオニー、スネイプは目を見開いていた。

 

そしてロンの驚き様は同情を禁じ得ないものだった。

今の今まで可愛がっていた*1ペットが、実は小汚い*2男だったのだ。

驚愕は一塩だった。

 

「やあ、ピーター。暫くだね」

 

三者三様の表情を皆がする中、ルーピンが朗らかに声をかけた。

 

「シ、シリウス……リ、リーマス……。友よ、懐かしの友よ……」

 

ペティグリューはそうオドオドと話す。

声までネズミのような声だった。

そして小物臭い。

 

「リーマス……君はブラックの言うことを信じたりしないだろうね?……あいつは私を殺そうとしたんだ」

 

「ピーター、二つ、三つ、すっきりさせておきたいことがあるんだが、君がもし」

 

「こいつはまた、私を殺しにやって来た!」

 

ペティグリューが突然ブラックを指差して金切り声をあげた。

 

「こいつはジェームズとリリーを殺した。今度は私も殺そうとしてるんだ。……リーマス、助けておくれ……」

 

「話の整理がつくまでは誰も君を殺そうとはしない」

 

「整理?」

 

ペティグリューはキョロキョロとあたりを見回し、窓とドアを確かめた。

 

「ああ、まだ完全に暴かれたわけではないからね。直、真相が明らかになるよ。ここにいるトーハラ君がそうしてくれるだろう」

 

ルーピンはそう言って刀原の方を見る。

 

「ええ、そうしましょう。……さて、スキャバーズはこの通りピーター・ペティグリューでした。つまり彼は今の今まで逃亡と隠遁の生活を余儀なくされていたことになります。本来の定説なら英雄として迎えられるのにも関わらずに。それは何故でしょうか?」

 

刀原は唯一の出入り口であるドアを塞ぎながら再び言う。

 

「怖かったからだ。こいつがわたしを狙って戻ってくると分かっていたからだ!」

 

「何故?一体何故()()()()()()()()()()()()()?」

 

「え?」

 

ペティグリューが答えれば刀原が聞き返す。

ペディグリューはそれを受けて間抜けな声を出した。

 

「貴方は定説では裏切り者であるブラックを一度は追い詰めた。たとえ返り討ちにあったとはいえ、皆は貴方を称えたでしょう。事実、貴方の死後にはマーリン勲等一等が贈られている」

 

「それはこいつが必ず戻ってくるからで、」

 

「ならばそう説明して守ってもらえばいい。多くの人はそう言うことならばと、貴方を庇護するでしょう」

 

「それは」

 

「貴方が今まで姿を隠していた理由。それはブラックをアズカバンに送ったからではない。ヴォルデモートの失脚に大きく関わっているからではないでしょうか?」

 

「……」

 

「大きく関わっているからこそ、貴方は逃亡したのです。それはブラックからでは無い。真相に気が付いた者から、そして未だ健在だというヴォルデモートの信奉者からだ」

 

 

「さて、ペディグリューはどのようにして関わっていたのか。そもそも事の発端はポッター家が狙われ、それを庇護するために『忠誠の術』という呪文を用い、ブラックが『秘密の守り人』となった事から始まっています。ブラックが守り人になったのは事実なのでしょう。そしてそのあと、守り人は変わっていたのではないでしょうか?そう、シリウス・ブラックからピーター・ペティグリューへと」

 

「「ペディグリューに?」」

 

ハリーとスネイプが聞き返す。

刀原は頷く。

 

「ペディグリューの評価はブラックを追い詰めるという局面まで、かなり悪いものでした。まあ簡単に言えば、強い者に居る腰巾着といった風にね。だからブラックはこう考えたのではないでしょうか……自分を囮とし、目暗ましとしてペティグリューを守り人とする。そうすればブラックが狙われると。……完璧な作戦でしたが、ブラックは二つの失態を犯した。一つ目は秘匿性を重視するあまり、もしものことに備えて守り人を変更したことを信頼できる他の人に教えなかった事。二つ目は変更先が実は既に裏切っていることに気が付かなかった事……」

 

刀原はここまで言った後、ペティグリューを見る。

ペディグリューは口をパクパクしていた。

 

「ピーター・ペティグリュー。貴方が裏切り者です」

 

 

 

 

 

「正気の沙汰じゃない。君はどこか大きな勘違いを……」

 

「ではそうだという証拠や証言をどうぞ」

 

「……君はこいつからそう言えと言われたからで、」

 

「既にブラックの生殺与奪は握っています。そんな状態でそれを実行するとでも?」

 

「……」

 

「ちなみに操られてもいませんよ?ブラックが僕の前にノコノコ現れたらその時点で捕縛してます。さっきの様にね」

 

ペディグリューは完全に追い詰められた形となった。

周りを見渡しても逃げ道はドアしか無く、それは既に刀原が抑えている。

ブラック、ルーピンの両名を簡単に制圧する者を突破出来るとは思ってないだろう。

 

おまけにブラックは未だ捕縛されたままとしても、ルーピンとスネイプが居る。

 

だが相変わらず窓やドアに視線が移るのはそれを諦めていない証拠だ。

まあ、たとえ逃げられたとしても二度と表には出れなくなるだろうが*3

 

「とりあえず彼は開放してもいいよね?」

 

「……まあ、いいだろう」

 

雀部がそう刀原に聞けば、渋々と言った感じで頷く。

 

「ブラック。一応言っておきますが、妙な真似をしたら今度は失神させますのでそのつもりで」

 

刀原はブラックにニッコリ笑いながらそう警告する。

 

「……分かった。そんな真似はしないと誓おう」

 

ブラックは引き攣った顔でそう返す。

そしてブラック(ピーター絶対殺すマンの狂犬)解放された(野に放たれた)事で、ペディグリューはいよいよ追い込まれた。

 

「ショウ……。ちょっと聞いていい?」

 

ハーマイオニーがおずおずと口を開く。

 

「もちろん。どうぞハーマイオニー」

 

刀原はそう返す。

 

「えっと……仮にショウの推理が正しいのならば、すきゃ、この人は『例のあの人』の手先ってことよね?」

 

「その通りだよ」

 

「でも、ハリーと同じ寝室で三年間も一緒だったわよね?なら、なんで今までハリーを傷つけなかったの?」

 

「確かにそうだね」

 

ハーマイオニーの指摘に刀原も頷く。

ペディグリューは正に救世主現るといった感じで顔を輝かせる。

 

「その通りだよ!私は今までハリーの髪の毛一本たりとも傷つけていない!それが、」

 

「折角の指摘を潰すようだがハーマイオニー。それには理由がある」

 

ペティグリューの言葉を遮り、刀原が言う。

 

「ヴォルデモートは既にペティグリューと一緒で十二年間も行方不明で、死んだ、とも言われている。どちらにしても半死半生だろう。そしてそのままそうなり続けるかもしれない。そんな奴の為にハリーを傷つけるなんてリスク、ましてや今世紀最強と称されるアルバス・ダンブルドアの目と鼻先でする筈が無い。大方、奴が万が一戻って来た際の手土産にするつもりだったんだろう……」

 

「簡単でしょうね。友人のネズミが、実は裏切り者だと誰も想像しないでしょうから簡単に襲えるでしょうね。そしてハリーを差し出せば、ヴォルデモートを裏切ってはいないという確固たる証拠にもなります。実に姑息で、汚くて、外道です」

 

「ショウとライカの推理は正しいだろうね」

 

刀原と雀部の言葉にルーピンも同意見だという。

 

「じゃあ、なんで僕の家に来たの?」

 

「それはな、ロン。魔法使いの家で過ごせば情報が容易く手に入るからだ。ロンの家を選んだのは……おそらくハリーと同学年になりそうな子供が居たからかもな。もちろん組み分けの事もあるからハリーに近づけるかは賭けだったろうが……いや、それも計算に入れた可能性は大いにある。なんせハリーの両親はグリフィンドールだった。ハリーもグリフィンドールになるかもしれないから、代々グリフィンドールのウィーズリー家を選んだのかも」

 

おそらく図星だったのだろう

ペティグリューは首を振ることしかしていなかった。

 

 

 

 

「信じてくれ」

 

掠れた声でブラックがそう言った。

 

「信じてくれ、ハリー。私は決してジェームズやリリーを裏切ったことはない。裏切るくらいなら私が死ぬ方がマシだ」

 

ようやくハリーはそこで、ブラックを信じることが出来たらしい。

ハリーが頷くと、ブラックは目を輝かせ、ホッとしたように大きく肩が上下する。

 

反対にガックリと膝を付いたのはペティグリューだった。祈るように手を握り合わせ、這い蹲っている。

まるで死刑判決を受けた様だった。

 

「だめだ!シリウス、私だ……ピーターだ……君の友達の……まさか君は……」

 

「私のローブは十分に汚れてしまった。この上お前の手で汚されたくはない」

 

ブラックが蹴飛ばそうとすると、ペティグリューは後ずさりする。

 

「リーマス!君は信じないだろうね………。計画を変更したら君には話すだろう?」

 

「シリウスが私をスパイだと思っていたのならば、話さなかったのも理解できる。そうだろう?」

 

「すまなかった、リーマス」

 

「気にするな。我が友、パットフット」

 

ルーピンはにこやかにそう言った。

 

「その代わり、私が君をスパイだと思い違いをしたことを許してくれるか?」

 

「もちろんだとも、我が友」

 

「そう言う訳だ、ピーター」

 

蔑むような目で、ルーピンはペティグリューを見た。

それを受け、ペティグリューはルーピンに伸ばしかけていた手を引っ込める。

 

「セブルス。君は、シリウスを憎んでいた筈だ………。強い恨みがある筈だ……」

 

「その通りだ、そして貴様にもな。まずは貴様から先に始末するとしよう」

 

スネイプとジェームズ等とは確執があるとは思っていたが、やはりあったか。

刀原はハリーを上手く誘導して、スネイプのうざったい嫌がらせを止めさせるか、と企むことを決意した。

 

「ロン……私はいい友達、いいペットだったろう? 私を殺させないでくれ、ロン。お願いだ……君は私の味方だろう?」

 

「自分のベッドにお前を寝かせてたなんて!」

 

「優しい子だ……情け深いご主人様……殺させないでくれ……私は君のネズミだった、いいペットだった……」

 

「人間の時よりネズミの方がサマになるなんていうのは、ピーター、あまり自慢にはならないな」

 

ブラックが冷たく言う。

ロンは折れた脚を痛みを堪えながら、ピーターの手の届かないところへと捻る。

 

「優しいお嬢さん……賢いお嬢さん……貴女は、貴女ならそんなことをさせないでしょう? 助けて……」

 

ハーマイオニーは怯えた顔で、壁際まで下がった。

 

年頃の少女に近付く男。

ただの変態である。

 

「美しいお嬢さん、貴女は賢く、そして強い……。私を殺人鬼から守っておくれ……助けておくれ……」

 

「私の剣は貴方にみたいな外道の為に振るわれるほど安くはありません。貴方など、守る価値すらない。さっさと罪を認めて裁きを受けなさい」

 

雀部は冷徹な目で見ながらそう吐き捨てる。

いつも笑みを絶やさず、優しい雀部とは思えない発言から、よほどなのだろう*4

 

 

「あぁ、ハリー……君は……君は両親の生き写しだ。顔は全体的にジェームズで、目はリリーだ。そっくりだ……」

 

ペディグリューは最終的に、あろうことかハリーにすり寄っていき、命乞いをした。

面の皮が厚い下衆だと誰もが思った。

 

ブラックとスネイプが、ハリーの間にペティグリューの間に割って入る。

確執がある筈だが共通の敵がいる影響で、不思議と息はピッタリとなった。

 

「ハリーに話しかけるとは、どういう神経だ!?この子に顔向けが出来るのか!?よりによって、ジェームズとリリーの事を話すとは!どの面下げて出来るんだ!」

 

「ハリー……君もご両親に似て優しいのだろう?助けておくれ……。ジェームズなら私に情けをかけただろう……」

 

ルーピン、ブラック、スネイプの3人は大股にペティグリューに近付く。

そしてペディグリューの肩を掴み、床の上に仰向けに叩き付ける。

ペティグリューは座り込んで、恐怖にヒクヒク痙攣させながら3人を見つめた。

 

「お前は、ヴォルデモートにジェームズとリリーを売った。否定するのか?」

 

ブラックが体を震わせながら言う。

するとペティグリューがワッと泣き出した。

 

おぞましい光景だ。

育ち過ぎた、頭の禿げかけた赤ん坊みたいな感じで見るに耐えない物だった。

 

「シリウス、リーマス。私に何が出来たって言うんだ?闇の帝王は……君達には分からないんだ。あの方には、君の想像もつかないような武器がある。怖かったんだ……私は勇敢じゃなかった。やりたくてやったわけじゃない……闇の帝王が無理矢理……」

 

「嘘を付くな!ジェームズとリリーが死ぬ1年も前から、お前は奴に密通していた!その少年の推理通り、お前がスパイだった!」

 

「あの方は――あらゆる所を征服していた!あの方を拒んで、何が得られただろう?」

 

「史上最悪の魔法使いを拒んで、何が得られたかだと?」

 

シリウスの顔は、凄まじい怒りに満ち溢れていた。

 

「それは何の罪も無い人々の命だ!ピーター!!」

 

「君には分からないんだ!シリウス!!」

 

ペティグリューは情けない声で訴えた。

 

 

ついに万策尽きたかにように見えたペディグリューは、最後の砦とばかりに刀原の下へ駆け寄った。

 

「トーハラ君と言ったね……?確かに君の言う通り、私はジェームズ達を裏切った」

 

「罪を認めるんですね?」

 

「仕方がなかったんだ。私の命の危機だったんだ。君なら分かってくれるよね……?」

 

ペディグリューは懇願するように言った。

 

「いや、まったく」

 

「え」

 

「迫られたのなら、その場は上手いこと切り抜けたり、スパイになったふりして二重スパイになるなど色々出来たはずでは?」

 

「そ、それは……」

 

「貴方に罪の意識や申し訳なさがあったなら、とっくの昔に姿を現して自白すればよろしいかったのでは?まあ、そのあとアズカバンに放り込まれるでしょうが……」

 

「……」

 

「そもそも友を裏切ること自体、僕にはあり得ませんし、理解できません」

 

敵に命乞いするより、如何にして道連れにするか一太刀食らわせるかを考えるだろう。

刀原が続けそう言えば、ほぼ全員が苦笑いした。

 

 

「お前は気づくべきだった」

 

ルーピンは静かに言った。

 

「ヴォルデモートの信奉者ではなく、裏切った代償として我々が殺すと。ではさらばだ、ピーター」

 

ルーピンとブラックが杖をあげる。

しかし、何も出来なかった。

刀原が介入したからではない。

 

「やめて!」

 

ハリーがそう叫んだからだ。

 

「殺しちゃ駄目だ」

 

「ハリー……。このクズのせいで君は両親を失ったんだぞ。君もその時死んだとしても、平然とそれを眺めていた筈だ」

 

「分かってる」

 

ブラックが唸るように言うが、ハリーの意志は揺るがなかった。

 

「こいつはアズカバンに行けばいい。僕のお父さんは、親友がピーターみたいな者の為に殺人者になることは望まない筈だから……」

 

ハリーはそう言い放った。

 

「ハリー……。本当に良いのかい?」

 

「ポッター……」

 

ルーピンとスネイプが探るように聞くが、ハリーは頷いた。

 

「では、とりあえず捕縛しておきましょうか。縛道の六十三『鎖条鎖縛』」

 

雀部が一連の流れの後に鬼道を放つ。

そしてそれは吸い込まれるかのようにペディグリューを捕縛する。

 

「それではホグワーツ城に戻りましょう」

 

雀部の言葉に全員が頷いた。

 

 

 

 

捕縛したペディグリューを引っ立てながら、全員はトンネルを戻り、城のほうに戻っていった。

やがてトンネルは終わり、暴れ柳の根本から外に出た。

辺りは完全に夜で、城の窓から灯りが漏れている様子は美しい。

 

ハリーは移動中、ブラックと話し込んでいた。

内容は聞こえなかったが、ハリーが嬉しそうな声をあげていることから良いことがあったのだろうと思った。

 

そんな俺には底知れぬ嫌な予感がしており、盛んに首をかしげていた。

だが暴れ柳からも離れたことで、もう大丈夫だろうと思い、ホグワーツにいる他の教授陣や生徒たちにどうやって説明しようかと悩み始めた。

 

そして校庭を歩いていると、少しだけ周りが明るくなる。

咄嗟に振り向く。

 

()()だ。

 

「いかん!」

 

時既に遅く、ルーピンは満月を見てしまっていた。

 

ルーピンは唸り声をあげ、狼人間に変身した。

そしてそのまま近くにいたハリー達に襲い掛かろうとした。

ブラックは雀部と共にペディグリューを押さえていたから間に合わない。

 

咄嗟にスネイプが自らを盾にしてハリー達を守ろうとする。

やはりこの人も先生なのだと実感した。

 

「縛道の四『這縄』!」

 

ルーピンがスネイプに攻撃しようとした瞬間、縛道で動きを止める。

 

「グルルルル」

 

「ルーピン教授!」

 

話しかけるも返事はやはり無い。

チラリと周囲を見る。

 

ハリーとロン、ハーマイオニーは、スネイプが既に城へ避難させようとしていた。

ブラックと雷華は少し遅れているが、泣き喚いているペディグリューと移動しようとしていた。

 

俺の役目は、ルーピンをここで止めること。

 

「そっちは任せました!」

 

そう言うとスネイプと雷華から了承の言葉が来た。

 

 

 

「ガァアアア!!」

 

ルーピンが襲い掛かってくる。

無傷のまま制圧する*5には殺傷力が高い鬼道や始解は出来ないし、打撃もあまり宜しくない。

さて、どうするか……。

よし。

 

浅打の(刃がない)まま抜刀して迎え撃つ。

 

「吹き飛べ『切り払い』!」

 

霊圧を込めたこの技は、本来は敵を切りながら吹き飛ばす技なのだが、俺の斬魄刀の性質上ルーピンを切ること無く吹き飛ばす。

 

近くの大岩に激突するルーピン。

 

「縛道の三十『嘴突三閃』!縛道の六十二『百歩欄干』!」

 

間髪入れず縛道を撃ち込む。

 

俺はルーピンを岩に縫い付ける方法を考えたのだ。

 

そして狙い通りに縫い付けることには成功するも、完全制圧には程遠く、ルーピンは岩ごと動こうとする。

 

しょうがねぇな。

 

「たんこぶぐらい、許して下さいね!」

 

跳躍し、そのままがら空きの脳天に一撃叩き込む。

ルーピンはぐらりとした後、沈黙したのだった*6

 

 

 

 

刀原は完全に沈黙したルーピンを見て一息つく。

その直後。

 

「「「うぁあああああ!」」」

 

という絶叫が聞こえてくる。

ハリー達の声だ。

 

それを聞きいた刀原は急いで彼等の元へ向かった。

そして目撃した。

彼等に、膨大な数の吸魂鬼(ディメンター)が迫っているのを。

 

顔面蒼白のハリー達を守らんと、悲痛そうな顔をしてるスネイプがディメンターに杖を向けて呪文を唱えているように見えるが、流石に多勢に無勢のようだ。

 

そして端ではハリー達と同じく顔面蒼白のブラックと、険しい顔をしている雀部が、ピーピー喚くペディグリューを連れながらハリー達の元に駆けつけている様子が見えていた。

 

「ライカ!八十八番でいくぞ!」

 

【分かった!】

 

名前を叫び、数字を叫べば完璧に把握してくれる。

 

「「破道の八十八『飛竜撃賊震天雷砲』! 」」

 

放った鬼道は何体かのディメンターを焼却して、真っ直ぐに進む道を作る。

そしてそこを瞬歩で駆け抜け、刀原はハリー達の元に合流することに成功した。

 

 

ディメンターは感情が無い筈だが、同族を焼却されたことに少なからず恐怖を抱いているようだった。

しかしどうやら此処まで来て撤退はないらしい。

 

ジリジリと迫ってくる。

刀原の後ろにいるご馳走に目が眩んでいるのだろう。

 

だがここは食事場ではなく処刑場なのだ。

 

 

ikeruka?(いけるか?)

 

motironn!( 勿 論 !)

 

刀原と雀部は互いに頷き合う。

 

 

 

「万象一切両断せよ」

「雷鳴響け」

 

 

 

 

 

「『神殲斬刀』」

「 『雷霆』」

 

 

 

そして同時に始解した。

 

 

 

「切り開くぞ」

 

「うん」

 

言葉は少なくて良かった。

 

 

「一掃せよ『陸薙』」

 

「 爆ぜよ『雷陣』」

 

 

刀原が横薙ぎに霊圧を込めながら最もディメンターがいる方向に一閃し、雀部が雷霆を一旦地面に突き刺したあと回転する。

 

後にハリー達から「驚愕と頼もしさがあったけど、何が起こったのか分からなかった」という証言を貰うこの一撃の結果、ディメンターは全滅こそしなかったが、大幅に数を減らした。

 

「後は撤退させるだけです!」

 

雀部が凛とした響く声でそう言った。

 

「「「「エクスペクト・パトローナム!(守護霊よ来たれ!)」」」」

 

守護霊の呪文で出てきたのは(刀原)雷鳥(雀部)牡鹿(ハリー)牝鹿(スネイプ)

 

四匹は既に逃げ腰になっていたディメンターを、文字通り蹴散らしながら駆け回る。

 

やがて辺り一面を埋め尽くしていたディメンターは一匹たりとも残らず逃げ去り、刀原と雀部は入念に周囲を見渡したあと、ホッと一息ついたのだった。

 

 

 

 

 

戦闘中でもペディグリューの身柄は拘束されたままだった。

 

その為、凶悪犯シリウス・ブラックの罪は冤罪であり、その冤罪を仕向けた真犯人は勇敢で哀れな被害者であった筈のピーター・ペティグリューだという事が、白日の元にさらされた。

 

そして死んだ筈のペディグリューはちゃっかり生き延びており、今は失神して鬼道で捕縛されたまま転がされているという事態になった。

 

深夜になっていたのにも関わらず叩き起こされた教師陣達は、まずブラック(凶悪犯)杖を向け(何故此処にいる?)た。

次にペディグリュー(死んだ筈の人間)首をかしげた(何故生きてる?)が。

 

そして顔面蒼白のハリー、ロン、ハーマイオニーをとりあえず医務室に叩き込んだ。

 

教授達はまさに混沌としか言えない目の前の光景に*7頭が真っ白になっている様だった。

 

その為、何故か一緒にいて、自分達と同様に戸惑いから完全に抜け出しておらず、かつ私怨を挟みそうなスネイプに聞くより、何故か平然としており、基本的に中立を保つであろう刀原と雀部に事情を聞くことにしたらしい。

 

そしてダンブルドアがいつの間にか現れたことで、教師陣もひとまず正気には戻った。

戸惑いを見せるマクゴナガル達をよそに、ダンブルドアは静かに現状を確認していく。

 

そこでは此処でも自らの推理を語る刀原がいた。

 

 

あらかたの確認を終えたダンブルドアは、どうやら刀原の推理が真実だと確信したらしい。

即座にペティグリューの身柄を雀部から引き継ぐ形で確保し、今度はスネイプとブラックにも事情を説明するよう求めた。

 

スネイプはなにやら言いたげな感じだった。

だが終始、目が笑ってない満面の笑み(妙な真似したらどうなるか分かってるよね?)を刀原と雀部がしているのを見て苦笑い(了解)しながら証言していた。

 

最後にダンブルドアは、未だ戸惑いと衝撃から抜け出せない様子のマクゴナガル達に刀原の推理を支持することを表明。

 

マクゴナガル達も刀原に幾つかの質問をした後、それしか状況説明のしようがないことを確認。

 

かくして全英を驚愕させることになる事実と真実を、魔法省に報告したのだった。

 

 

 

 

 

凶悪犯シリウス・ブラック 実は冤罪であった !?

 

という大見出しを飾った一報にホグワーツのみならず英国魔法界全体に激震を走らせた。

 

当初は英国魔法省は事実では無い、としていた。

英国魔法界を取り仕切る者として、自分達は絶対正しいとしたい(しておきたい)魔法省に大きな過ち( 冤 罪 )があったなど、認められるはずがないからだ。

 

しかし真犯人であるピーター・ペティグリューの存在が決定的であり、ならば失態を隠蔽しようするのが定石。

英国魔法省は早速隠蔽工作をしようとするも、新聞に今回の真相を見破った少年の推理内容が載った事でそれも不可能になった。

 

ぐうの音も出ないものだったからだ。

 

おまけにその少年は日本からの留学生であり、そのバックには日本魔法省と護廷十三隊がいる。

 

日本魔法省に報告されるのは百歩譲ってしょうがないとはいえ、隠蔽しているそれを国際魔法使い連盟の会議場等で「あ、そう言えば……」的な世間話感覚で出せれてはたまったものではない。

 

ただでさえヤバそうなスキャンダル(下の何人かが首になる話)なのに、それを国際的な一大スキャンダル(上を含む大勢の首を捧げなくてはならない話)にされれば魔法省の今後の信頼に関わる。

 

当然それを押さえるにはそれ相応の代償(大臣以下総辞職)を払わなくてはならないだろう。

 

これら諸々が決定打となり、魔法省は真実を大衆に知らせざるを得なくなってしまったのだった。

また、隠蔽工作の件もバレた事で、現在魔法省はてんやわんやの大騒ぎとなったのだった。

 

 

 

 

 

そんな政治的判断(保身と給料)によってブラックは無罪となり、かつ謝罪金をたんまり貰うことになった。

ペディグリューはマーリン勲章の剥奪とアズカバンで余生を過ごすことになった。

 

そしてルーピンは辞表を提出した。

 

曲がりなりにも生徒を襲ってしまった*8ことに加え、()()()()()()スネイプがルーピンの正体(狼人間)を漏らしてしまったのだ。

 

こいつ……。

刀原と雀部はジト目で睨んだが、スネイプは何処吹く風だった。

 

 

そんなスネイプだが、彼の守護霊がハリーの母親の守護霊と同じ牝鹿であることにハリーは疑問に思ったらしい。

 

そしてハリーは刀原に意見を求めた。

偶然かなぁ? と。

 

偶然では無いかもね?

刀原はそう答えた。

 

刀原は守護霊が変わる事例をハリーに教えた。

すなわち夫婦で対になるか、好きな人の守護霊に変わるかだ。

 

スネイプはもしかしたらハリーの母……リリー・ポッターが好きだった、或いは好きなのでは?

刀原はそう付け加えた。

 

ハリーは凄まじく「複雑ぅ……」といった顔をした。

 

これを機に和解してくんねぇかな……。

刀原はそれに期待した。

 

 

 

 

 

試験の結果も返ってきた。

寮杯もグリフィンドールが頂いた。

 

後は家に、日本に帰るだけだった。

 

 

ホグワーツ特急ではいつもの面々で楽しく過ごした。

 

ハリーにはシリウスから手紙が届いていた。

 

ファイアボルトを買ったのは自分だということ。

ホグズミードへの許可証が同封されていたこと。

等々。

 

ハリーはシリウスと共に暮らすことは出来ないらしいが、夏休みの大半は共に過ごしてもいいそうだ。

 

良かったな、ハリー。

 

 

賑わっているハリー達を横目に、俺は流れる車窓の風景を見ていた。

 

「少し浮かない顔ですね?」

 

雷華がこっそり言ってくる。

彼女に隠し事は無理そうだ。

 

「まあな、考え事さ」

 

俺の頭には、とある人の言葉が流れていた。

 

ハリーに聞いていた状態が当て嵌まっていた。

 

とある人とはトレローニー教授のことだ。

昨日、占い学の今年度限りで授業を辞めることを伝えに行った際、言われたのだ。

 

人は、俺は。

それを予言だと呼ぶ。

 

【面倒で厄介なことになりそうだ……】

 

俺は飛びっきりのクソデカため息を吐いたあと、思考を切り替え、雷華やハリー達の会話に混ざった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なお、その予言がこれだ。

 

 

 

 

「時は近づいている……。闇の帝王は逃れた召使いの力を借り、再び肉体を手にする。そして帝王の元には、極東から使者が訪れる。その者、古からの高貴な血を持った歪んだ者。彼は帝王と共に破れた仮面を着けた者達に接触する……。そしてその者達が再び返り咲く時、代表となるものは死に絶えるであろう……。時は近づいている。帝王、歪んだ者、破れた仮面の者が、二つの島国に近づいている……。戦乱が近づいている……」

 

 

 

な、ヤバそうだろ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
存外に扱っていたこともあったが

*2
しかも曰く付き

*3
ルーピンのみならずスネイプまでもこの推理を聞き、碌な反論も出来ていないペティグリューを見ているのだ。

*4
なお、万が一触れるようだったら腕をへし折る気満々だった

*5
この時、刀原は自身が傷つくことを想定していなかった。

理由は単純。

狼人間よりよっぽど手強い人達と修行していたからだ

*6
なお、後にルーピンにはきっちり謝罪した。

ルーピンはちょっとしたたんこぶを擦りながら許してくれた。

*7
深夜だと言うこともあるだろうが

*8
返り討ちにあったが




没案

「年貢の納め時だ、ピーター・ペティグリュー」

「それってどういう意味?」

「あー、たまったツケを払うときだからもう諦めろって意味だ。ンンッ。観念しろペティグリュー」

「どうも締まらないですね」

「文化の違いがこんなところで響いてくるとは」



スネイプをゴネらせたり、魔法省にゴネらせたりすることも出来ましたが、まあ黙らせました。
理由は面倒だからです。


またペディグリューを逃がすルートも考えましたが、シリウスを無罪にした方が良いかなと思ったので……。

さらばペディグリュー。
アズカバンで長い余生を過ごすんだぞ☆



感想、考察、ご意見、評価。
ありがとうございます。
そしてお待ちしております。

投稿した賢者の石編等の文章間隔を空ける修正と、所々の文章整理をしています。
大幅な修正はしていませんので特段読み直さなくても結構です。


では次回から
炎のゴブレット編開始となります。
次回も楽しみに















おまけ。
一ファンとしてのファンタビの感想。



ファンタビ、観てきました。
ネタバレになるので多くは言いませんが、とりあえず一言。

ダンブルドアもグリンデルバルドも、マジかっこ良かった。
全盛期やべぇなとも思いました。

マッツ・ミケルセンさんもデップデルバルドとはまた違った感じ良かったです。
ジョニー・デップさんも良かったんですけど。

カリスマ性が同じのようで違う。
甲乙つけがたいです。

とりあえず字幕版でもう一回見ようと決意してます。


それと、うちの主人公が勝てるビジョンが見えませんでした。
でも成長したら行ける筈。

頑張れ、うちの主人公!









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死神と炎のゴブレット編
死神、日本にて。四学年に向けて




悪意ある者によって
切っ掛けが生まれ

怯える者によって
お膳立てがなされ

狂気ある者によって
実行される。












 

 

《親愛なるハリーへ

 

 

 

 先日はお手紙とお誘い、ありがとう。

 

英国で行われるというクィディッチ・ワールドカップの決勝戦とは、なかなかに面白そうで雀部と一緒に行きたかったのだが、生憎と忙しくてな……。

 

残念ながら行けそうにない。

すまん。

 

その代わりとはいってはなんだが、日本のお菓子を大量に同封している。

俺達の代わりに皆に振る舞ってくれ。

よろしく頼む。

 

それと、わざわざチケットを用意してくれたウィーズリー氏やシリウスに、トーハラが謝っていたとも伝えておいてくれ。

感謝していたともな。

 

 

それで、何故忙しいかについてだが……。

 

簡単に言えば修行だ。

 

長期間集中しないといけないものでな、本腰を入れないといけないのだ。

 

それに、例の予言にも関わる事でな……。

 

俺も雀部も、それを習得するまでは英国に行けないかもしれないから、来年度もホグワーツで会うための布石だと思ってくれ。

 

 

それと、ペディグリューの話聞いたか?

 

あんにゃろう、やっぱり片腕ぐらい潰せば良かったと後悔しているところだ。

 

だが、ハリー。

君が気に病む事はない。

 

あの時ハリーは人として最高の判断をしたんだ。

誰でも出来る判断じゃない。

 

胸を張れ。

 

ちなみに俺だったら始末したがな。

 

 

とりあえず気を付けろよ?

まあ、シリウスとかも一緒だろうから、心配してはいないがな。

 

 

ではまた。

ホグワーツ特急で会えることを願っている。

 

それでは良い夏を。

 

 

 

 

 

 君の友人 刀原将平》

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

ハリーからのお誘い……。

 

行きたくない訳じゃない。

ただ、時期が悪いだけだ。

 

日本に帰ってきた直後、知らせを受けた。

両親がいよいよヤバいということだ。

 

そして俺が聞いた予言の内容が内容だった。

 

闇の帝王とは、ヴォルデモートのこと。

極東の歪んだ者とは、十数年前に反乱の首謀者となった者のこと。

破れた仮面の者の詳細は分からないが、良くない者達であることは明白。

 

少なくとも、日本魔法省と護廷十三隊はそう結論したし、俺もそう思った。

 

そして代表……。

おそらく例の代表だろう。

 

 

両親を死の淵から何とかするため。

代表となったものを守るため。

そして近づいているという戦乱に対応するため。

 

俺は求めた。

 

『卍解』を。

 

そして雷華、日番谷、雛森もついでに卍解習得のために本腰を入れ始めた。

 

 

 

 

卍解への道は当然ながら簡単では無い。

 

雷華は彼女の祖父である雀部長次郎副隊長が。

日番谷は彼らの師匠であるマホウトコロの校長が。

雛森はその校長の元上司である平子元隊長が。

 

それぞれ付きっきりの師匠となった。

 

そして俺は。

 

「ゆくぞ!」

 

「おう!」

 

「万象一切灰塵となせ『流刃若火』!」

 

「万象一切両断せよ『神殲斬刀』!」

 

「うりぁあああ!!」

 

「せやぁあああ!!」

 

月曜日、重じい。

 

 

「行きますよ!」

 

「お願いします!」

 

「「はぁあああ!!」」

 

火曜日、やち姉。

 

 

「加減はなしだよ?」

 

「行くぞ将平君!」

 

「無論です!」

 

水曜日は京楽兄と浮竹兄。

 

 

木曜日は再び重じい。

金曜日は再びやち姉。

 

 

「準備はいいかの?」

 

「いつでも!」

 

土曜日は夜姉。

 

日曜日は雷華達と合流して、特別な許可が降りた*1為、霊王宮に行き、零番隊の方に稽古を付けて貰う。

 

 

正直いってヤバい内容だと後々思うのだが、そんなことを思えたほど、暇も余裕も無かった。

 

 

 

 

そして夏はあっという間に過ぎ去り、英国行きまで残り二週間になった日。

 

 

 

 

俺は斬刀から本当の名前を聞いたのだった。

 

 

 

 

そして、師匠達は一切の手加減をしなくなった。

 

 

 

 

特に最年長の二人は。

 

 

 

 

「せよ」

 

「しておきなさい」

 

 

 

『せねば……」

 

「でなければ……」

 

 

「死ぬぞ?」

 

「死にますよ?」

 

 

 

 

とりあえず、本気になったあの二人は鬼です。

 

 

 

 

 

 

そして…………。

 

 

 

両親は死の淵から戻ってきた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

その頃、英国では。

 

 

「ショウとライカ、来れないって」

 

「そう、残念だわ……」

 

「でも代わりに、これみんなで食べて、だって」

 

「なんだい、これ」

 

「これ……確か、ヨーカン(羊羮)って奴よ」

 

「じゃあこれは?」

 

「プティングにしては茶色だなぁ」

 

「確か、オマンジュウよ。ライカが教えてくれたわ」

 

 

 

「これはなんだい?白くて固くて食べられないよ」

 

「さあ……あ、説明書ついてるよ」

 

《そいつは餅って言ってな、焼いて食べるんだ。一緒に入っている少し黄色い粉……きな粉をかけて食べると美味いぞ。ちなみにプクーッと膨らんできたら食べ頃だ。……まさかそのまま食べたりしてねぇよな?》

 

「だって」

 

「……とりあえず焼いて食べましょう」

 

「あ、あと追伸もあるよ」

 

《そうそう、よく噛んで、小さくして食べろよ? それを喉に詰まらせて死んでる人、結構いるからな……》

 

「……恐ろしい食べ物ね」

 

「注意して食べよう」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

「火急である!!」

 

夏がもうすぐ終わり、刀原達が明後日には英国へ向かうという日。

 

護廷十三隊では臨時の特別隊首会が行われた。

 

集まったのは現役の隊長は勿論、元隊長から隊長待遇の者まで。

つまり、日本魔法界の最高戦力が集まったのだ。

 

参加者は以下のとおり。

 

 

護廷十三隊 総隊長 兼 一番隊隊長

山本 元柳斎 重國

 

同隊 二番隊隊長 兼 隠密機動総司令官

四楓院 夜一

 

同隊 四番隊隊長

卯ノ花 烈

 

同隊 六番隊隊長

朽木 白哉

 

同隊 七番隊隊長

狛村 左陣

 

同隊 八番隊隊長

京楽 春水

 

同隊 九番隊隊長

東仙 要

 

同隊 十二番隊隊長

浦原 喜助

 

同隊 十三番隊隊長

浮竹 十四郎

 

鬼道衆 総帥・大鬼道長

握菱鉄裁

 

日本魔法省 魔法大臣

市丸 ギン

 

同省 魔法執行部部長

黒崎 一心

 

同省 情報捜査部部長

砕 蜂

 

同省 魔法神秘部部長

涅 マユリ

 

 

大陸探題部

 

部長 刳屋敷 剣八

 

平子 真子

六車 拳西

愛川 羅武

鳳橋 楼十郎

 

 

錚々たる面子*2だった。

 

なお、オブザーバーとして。

 

「場違いじゃねぇか?」

「場違いですよね?」

「場違いだよな?」

「場違いです……」

 

現役のマホウトコロの生徒でトップの四人。

刀原、雀部、日番谷、雛森。

 

そして。

 

「そんなことはないさ。少しは自信を持ちなさい?」

 

マホウトコロの校長も同席していた。

 

 

 

 

議題は刀原が持ち帰ってきた予言についてだった。

 

闇の帝王ことヴォルデモート。

反乱を首謀した者。

 

それらがおそらく手を結ぶのだろう。

そしてヴォルデモートは英国を、反乱首謀者は日本をそれぞれ狙うのだろう。

 

確かに、それらが実際に起これば戦乱となるのは確実だが、護廷十三隊等が手を打てば勝てる。

 

だが、慢心など愚のする事。

対策の為、緊急特別隊首会が行われるのだ

 

「皆、予言の件は聞いておるな?」

 

総隊長がそう聞けば、全員が頷く。

 

「英国では先日、刀原が捕縛したピーター・ペディグリューとやらが監獄へ連行されている間を縫って逃亡した。……ハリー少年が聞いた予言の内容の者じゃ。つまり……其奴が逃亡したと言うことは、ヴォルデモートなる痴れ者が再び表舞台に立つということとなる」

 

「あんにゃろう……」

 

「やっぱり始末するべきでしたかね……?」

 

総隊長の言葉を聞き、刀原と雀部は苦い顔をする。

 

ペディグリューが逃亡した一件は、事の当事者がいる影響で日本にも早く伝わった。

そしてハリーからは自分は正しかったのかと問う内容の手紙、シリウスからは怒りと悲しみの手紙がそれぞれ刀原と雀部の元に送られていたのだ。

 

なお、ハリーには「ハリーは間違ってない」という内容の手紙を送り、シリウスには「気持ちは分かるが早まるな。ハリーを今守れるのはシリウスしか居ない」という手紙を送っている。

 

「そして先日英国で行われた『くぃでぃっち・わーるどかっぷ』の会場でも騒動が起きたそうじゃな?」

 

「はい、そのとおりだそうです」

 

総隊長の問いに、砕蜂が一歩前に出ながら答えた。

 

彼女は去年の春に護廷十三隊*3から日本魔法省に移動し、情報調査部の部長に就任した。

 

なお、移動に対し彼女はかなりゴネにゴネたらしいが、卍解を習得したことに加え、適任者が彼女しか考えられなかったこと、尊敬と敬愛している四楓院から「頼むぞ砕蜂!」とニカッと微笑みながら言われた為、「分かりました夜一様!」(満面の笑みで了承)となったらしい。

 

我ら(情報調査部)が派遣している諜報員曰く、(くだん)のヴォルデモートの信奉者……通称『死喰い人(デス・イーター)』なる者共で間違いとのことです」

 

砕蜂がそう言えば、全員が「やっぱりそうか」といった反応をする。

 

「これらのことから分かるとおり、最早ヴォルデモートの復活は間近と考えるべきじゃ。市丸や、英国魔法省の動きは?」

 

「それがどうも、危機感が足りんようです……」

 

総隊長にそう聞かれると、市丸が頭を掻きながら苦い顔でそう答える。

 

「外務の子が言うてはりました。「「そんな事はあり得ない」と答えられました」って。向こう(英国)はどうやらヴォルデモートは死んだと思って……いや違うな、()()()()()()()()()らしいですわ」

 

市丸がそう言えば、全員が苦い顔をする。

 

「そんな頭足りん奴らの為に、俺らが命張る必要なくねぇか?向こうはダンブルドアのお膝元だろうし、俺達が出張る必要ねぇと思うぜ」

 

一歩前に出ながらそう言うのは大陸探題部の部長、刳屋敷剣八……召集された面々の中でもトップクラスの実力者だ。

 

彼は7代目剣八として名を馳せていたが、刀原の祖父であり大陸探題部の先代部長、刀原将之介平三郎が亡くなった際、その後任として隊長職を退いた。

 

ちなみに、本来なら剣八の名を明け渡すところなのだが、剣八として敗北した訳ではないということで未だに名乗る事を許されている*4

 

「確かにそうだよね」

 

刳屋敷の言葉に京楽が頷く。

しかし。

 

「刳屋敷、お主の言うことも道理じゃ。それがヴォルデモートだけならばの」

 

総隊長がそれに待ったをかける。

そして続ける。

 

「じゃが、そうはいかん。十数年前に反乱を行ったあ奴がヴォルデモートに接触している可能性が大いにあるのじゃ。あ奴は我らでないと倒せん」

 

総隊長は嫌そうな顔をしながらそう言う。

 

「それじゃしょうがねぇか……」

 

刳屋敷も嫌そうな顔をしながら退く。

 

「あ奴に関しては、大陸にいる……としか分からん。隠密機動としては苦い結果じゃがの」

 

四楓院が特大な苦虫を噛み潰したような顔をしながら言う。

親友夫婦に今の今まで寝たきり生活を余儀なくさせた敵だからだろう。

 

「あ奴もそうじゃが……予言にあった『破れた仮面の者』なる者共の存在じゃ。四楓院、砕蜂、何か手掛りは掴めたかの?」

 

そしてそんな馬鹿どもより、『破れた仮面の者』の連中が問題だった。

その正体が分からないからだ。

 

「申し訳ないが、全く」

 

「こちらもです……」

 

四楓院も砕蜂も首を横に降る。

 

「うむ……技術開発局はどうじゃ?」

 

「此方は手掛りなしっす」

 

浦原が首を横に降る。

 

「魔法神秘部は?」

 

「残念ながら総隊長、こちらも手掛りは無かったネ」

 

首を浦原と同様に横に降るのは魔法神秘部の部長、涅マユリだ。

元十二番隊副隊長の彼は、技術開発局よりも潤沢な研究が出来る魔法神秘部に移動したのだ。

ヘッドハンティングでもあったが。

 

 

「そうか……。実はお和尚に聞いたのじゃが……「古の、それも力をつけた『虚』の亜種、或いは進化先と考えた方が良いじゃろう」とのことでの……まあ、間違いなく敵じゃろう」

 

総隊長はそう語る。

和尚とは零番隊の筆頭、兵主部一兵衛の事だ。

 

「そして……霊王様からじゃ「間違いなく、備えた方がいい」とのことじゃ」

 

霊王様の言葉で全員が「おお……!」となる。

 

「そう言う訳じゃ」

 

その言葉を合図に、全員の顔が引き締まる。

護廷十三隊と日本魔法省、大陸探題部はそれをもって事にあたることとなった。

 

 

 

 

「さて、事にあたることは決定だとしても、問題は人材じゃな。護廷十三隊に三人、隊長の欠員がいるのは喜ばしいことじゃないからのう?」

 

実は問題になっている人材不足。

隊長職を出来る者はいるが、その者達には違う立場があり、それも欠員を出すわけにはいかない。

 

「じゃあ僕が隊長職に復帰を……」

 

元隊長の市丸が手を上げる。

 

「駄目じゃ市丸。お前は魔法大臣という重責がある」

 

だが、総隊長が即座に却下する。

ガックリと項垂れる市丸。

 

「将一郎君は?三番隊隊長に復帰出来ないの?」

 

京楽がそう聞くが、総隊長が否定する。

 

「三番隊隊長の刀原将一郎は、隊長職への復帰は出来ないとのことでの。先程本人の口から、正式に引退宣言がなされた」

 

「残念っす」

 

「全くじゃ」

 

浦原と四楓院がそう言う。

 

「さて、そんな隊長不在の三番隊、五番隊、十番隊の隊長じゃが……一応、候補者が見つかった」

 

「おお!」

 

「遂にか!」

 

多くの者達から声が上がる。

 

「早速、隊首試験を……と行きたいがの、彼らは学生じゃからまだ就任は出来ぬ。それに学生だからこそ、頼みたいこともあるしの」

 

「例の件ですか?」

 

「そうじゃ」

 

ドンっと総隊長が杖を床に打ち付ける。

 

「刀原、雀部。お主達は例年通り英国へ向かうのじゃ。そして日番谷と雛森らは例の件に合わせよ」

 

総隊長の言葉に四人とも頷く。

 

そして総隊長は頷き返す。

 

「では皆、抜かり無く」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
何故降りたかは不明

*2
砕蜂と涅マユリのみ元副隊長

*3
一応確認するが、元二番隊副隊長であった

*4
現在も十一番隊には、一応剣八を名乗る隊長がいる。

しかしなんちゃって剣八と見られており『当代の十一番隊には剣八がいない』『剣八はお出掛け中』と言われている。

無論、陰口である。







破れた仮面の連中を予言で言うのはすごく悩みました。
いきなり登場させるべきかとも思いましたが……明かした方がいいかなと思ったのでね……。

感想、考察、評価
ありがとうございます。
そしてお待ちしております。


さて次回は
魔法学校対抗試合
次回もお楽しみに



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死神、抵抗する。対抗試合と許されざる呪文



洗脳
拷問
殺人

人が起こす業

許されるものではない。






 

 

昨年と同じく最悪な天候だな。

 

刀原はクィディッチ・ワールドカップでの出来事を熱く熱く語るハリーとロンの話を聴きながら、窓の外が土砂降りなのを見てそう思っていた。

 

クラムが凄かっただの。

ナントカフェイントだの。

 

刀原と雀部は、それを既に何回も聞いているであろうハーマイオニーと共に相づちをうっていた。

 

そして隣から漏れ聞こえた影響で、ホグワーツやマホウトコロと同じく魔法学校のダームストラングの話題になる。

 

『闇の魔術に相当な力を入れてる』という噂のダームストラング魔法学校。

相まみえる時が楽しみだ。

 

刀原はそう思っていた。

 

 

 

「ウィーズリー。言い方は悪いが……こんなのを本当に着るつもりか?1970年代に流行ったものだぞ?」

 

そう言ったのはマルフォイ。

ダームストラングの事を話していた隣とはマルフォイの事であり、ダームストラングの話をしていた刀原達に平然と混ざってきたのだ*1

 

「うるさいマルフォイ……。全く、どうしてママはこんなのを僕に持たせたんだろう?」

 

マルフォイの言葉を受け、苦々しい顔をしながらロンはこう言う。

 

こんなのとは、ロンのトランクからはみ出てているドレスローブの事だ。

 

おそらく例の件で使うことになるドレスローブ。

残念ながら趣味がいいとは言えないそれは、古い以前にダサかった。

 

「災難だな……ところで、君たちエントリーはするのかい?特に…ショウ達は出るのか?」

 

心底同情するといった顔のマルフォイが続いて言った言葉に、首を傾げるハリー達。

どうやら例の件について、ハリー達は知らないらしい。

 

「俺と雀部は()()で行くつもりだよマルフォイ。それと……今回は制限があるらしいから、君も含めてここにいる奴らは俺ら以外、全員出れない筈だが」

 

「なに、そうなのか?」

 

「ああ……まあ、結果はもう見えてるがな」

 

刀原は腕を組みながらそう言う。

その横に居る雀部もうんうんと頷いている。

 

「どういうだ?それは君が中立でいる事に関係があるのか?」

 

「まあな」

 

どうやらマルフォイは、例の件が実施されることは知っているが()()()たちの事までは知らないらしい。

それらを聞いた後、マルフォイは去っていった。

 

「一体、何があるんだい?」

 

ロンがじっと刀原を見ながらそう言う。

 

「外交的な守秘義務があるから黙秘する。ただ……悪い事じゃないのは確かだ」

 

刀原はニヤリとしながらそう言った。

 

 

 

「あの闇の印……誰が出したか分からないんですって。会場の警備、どうなってたのよ?」

 

日刊予言者新聞*2を読みながらハーマイオニーがそう言い放つ。

 

クィディッチ・ワールドカップ決勝戦が終わった後、会場付近のキャンプサイトは襲撃を受けた。

そしてその際、会場の空にはヴォルデモートの象徴とされる『闇の印』が打ち上げられていたのだ*3

 

「厳重だったってパパが言ってた。なのにしてやられた。だから大騒ぎになってるんだ」

 

ロンがそう言う。

 

クィディッチ・ワールドカップの決勝戦ともなれば各国の魔法界から来賓が多数来るだろうし、そこで事件なんか起きれば*4英国魔法省は大失態となり看板にも泥が付くことになる。

先日に冤罪事件が起きていた為、よっぽどだ。

 

闇祓いをはじめとする警備陣はおそらく死力を尽くしたのだろうが、敵が一手上回ったという事だろう。

 

「なんにせよ、警戒は必要だな。シリウスの意見はどうだった?」

 

「ショウと同じで、警戒しておいた方がいいってさ」

 

刀原がハリーに聞けば、ハリーはそう答えた。

 

シリウスはペティグリューを合法的に追いかけるため、ハリーを守りやすくするため、闇祓いの職に就いた。

すなわち追いかける側に前日まで追いかけられる側の一人が加わったということであり、刀原はそれを聞いた時に苦笑したのを思い出した。

 

そうこうしているうちに汽車はゆっくりとしたスピードとなり、間もなくホグワーツであるというアナウンスが流れる。

 

外は相変わらずの土砂降りであった。

 

 

 

 

 

大広間での組分けも終わり、ダンブルドアは言う。

 

「思いっきり、掻っ込め」

 

実に単純で明快な一言であり、生徒の全員が一斉に現れた食べ物にガブリついた。

 

因みに、ハーマイオニーはワールドカップの会場の一件が原因で屋敷しもべ妖精の労働環境に憂いる点が出来たらしく、ホグワーツのご馳走に手を付けようとしなかった。

 

しかし雀部が「食べないんですか?折角作ってくれた妖精たちに感謝しながら、美味しく食べましょう」とニッコリと笑い、刀原が「ハーマイオニー、屋敷しもべ妖精の生きがいを奪ってやるな。彼らはそれが幸せなのだから」と言えばおずおずと食べ始めたが。

 

やがて全員が腹が満たされたあと、ダンブルドアが立ち上がり、話し始めた。

 

「さて……みんなよく食べ、よく飲んだことじゃろう。いくつか知らせがあるので、もう一度耳を傾けてもらおうかの」

 

ダンブルドアが生徒たちを見回して言う。

 

「まず管理人のフィルチさんからお知らせじゃ、持ち込み禁止品リストが更新されて、新たに437項目が加わった。一応、リストはフィルチさんの事務所で閲覧可能じゃ」

 

直後に「確認したい生徒がいればじゃが」と追加してるところをみると、ダンブルドアは効果があるとは全く思っていないらしい。

 

「続いて新しい『闇の魔術に対する防衛術』の先生じゃが、」

 

ダンブルドアがそこまで言ったタイミングで、大広間にある魔法の天井から雷が鳴り、雨が降り始めた。

 

ふざけた天井だ。

 

刀原はそう思い、杖を取り出して雨雲を吹き飛ばそうとしたが、それよりも先にそれを行った者がいた。

 

戸口に立っていた異様な風貌の男だ。

 

片足はおそらく義足。

片目もおそらく失陥し、義眼。

 

いかにも歴戦の戦士といったところだ。

 

「ふざけた天井だ……」

 

「フフッ、そうじゃの」

 

男がダンブルドアと握手したあと、ボソッとそう言い放ち、ダンブルドアも同意した。

 

「紹介しよう。新しい『闇の魔術に対する防衛術』の先生、元闇祓いのアラスター・ムーディ教授じゃ」

 

ダンブルドアは教員テーブルに座り、辛うじて残っていたディナーにがっつき始めた男をそう紹介した。

 

 

 

例年通りに禁じられた森への立入禁止とホグズミード村へは三年生からという連絡が行われた。

 

「次に……これを知らせるのはわしにとっても辛いことなんじゃが……今年のクィディッチ寮対抗試合は、全て取り止めとする」

 

「あーはいはい」的な感じで聞いていたハリー達だが、この言葉で空気がガラリと変わる。

選手であるハリーは勿論、熱心なファンであるロンなどが絶句する。

 

巻き起こるブーイングの嵐。

 

「皆の気持ちはよう分かる。じゃが、これも十月から始まり今学期末まで続くイベントの為なのじゃ……」

 

ダンブルドアがそう言えば生徒達も押し黙る。

 

「わしとしても、この開催を発表するのは大いに嬉しい……。これから数ヵ月間にわたり、我が校は誠に心踊るイベントを主催することになった。ここ約二百年ほど行われていなかったイベントじゃ……」

 

ダンブルドアはここで一度言葉を切り、告げた。

 

「今年、ホグワーツにおいて魔法学校対抗試合(ウィザード・トーナメント)を開催する」

 

この宣言に「ご冗談でしょう!」と声を張り上げた双子を皮切りとして、誰もが興奮していた。

 

ダンブルドアはその後、大まかな経緯とルールを説明する。

 

英国魔法省の『国際魔法協力部(外務担当)』などが一人の死者も出ないように調整したこと。

代表選手を一名選出し、過酷な課題に挑むこと。

などなどだ。

 

「さて、従来ならトーナメントにはヨーロッパの魔法学校が参加する。ボーバトン、ダームストラング、そして我がホグワーツがの。じゃが、此度から新たな魔法学校を加えることとなった。それは十月までのお楽しみじゃ」

 

ダンブルドアがそう言ってウィンクする。

 

「ボーバトンとダームストラング、そして新たな参加校の校長が代表選手の最終候補生を連れて十月に本校へと来校し、ハロウィーンの日に代表選手の選考を行う。試合に相応しいと判断された選手が選ばれるのじゃ。そして優勝杯、学校の栄誉、そして選手個人への賞金一千ガリオンと、永遠の名誉を賭けて戦うのに誰が相応しいかを、公明正大なる審査員が決める」

 

沸き立つ大広間。

立候補を表明する多くの生徒。

 

そしてダンブルドアがまた口を開き、それに気がついた大広間が再び静まり返る。

 

「全ての諸君が、優勝杯をホグワーツにもたらそうと熱意に満ちているとは承知しておる……。しかし参加する各校長及び魔法省は、今年の選手に制限を設けることで合意した。安全の為じゃ。ある一定の基準……具体的には十七歳以上の生徒だけが、名乗りを上げることが許される。わし自らがそれを判断する『年齢線』を引くので、くれぐれも基準に満たない者は審査員に名前を提出したりして、時間の無駄をせんようにな」

 

 

 

 

 

「年齢線ってのは、確か……魂の年齢で判断される魔法だったはず」

 

ホグワーツはトーナメントの開催が発表された数日間、年齢線とは如何なる魔法で、どうすれば越えられる(出し抜ける)のかという議論が紛糾することとなった。

 

そして意見を求められた刀原の結論がこれだ。

 

フレッドとジョージ、その他数名は老け薬の確保に乗り出したが、それは魂の年齢には全く関係ないので疑問を呈する声も多かった。

 

そしてそれ以前の話として。

 

年齢線を出し抜くということ。

つまり……。

今世紀最強の魔法使い(アルバス・ダンブルドア)を出し抜くということ。

 

無理じゃね?

 

という結論になったが*5

 

 

 

世紀の一大イベントなど関係無く授業は行われる。

 

「去年は良かったんだが、今年は大丈夫かねぇ?」

 

そう言うのは刀原だが、それは多くの生徒達も心は同じだった。

 

去年(ルーピン)は体質がアレ(狼人間)なだけで他は最高な先生だった。

それ故に駄目だった時の反動は大きい。

 

最高からの転落が何より堪えるのだ。

そして望みは薄いというのが最初の評判だった。

 

アラスター・ムーディ。

通称はマッド-アイ。

 

最近はイカれてるという噂がある伝説の闇祓い。

捕獲した死喰い人で、アズカバンの半分を埋めたと言われている。

 

なお、非常に用心深い性格らしく、水分を取る時も毒殺を警戒しているのか、自分の携帯用の瓶からしか飲んでない*6

 

 

「教科書なんぞ要らん。仕舞ってしまえ」

 

ムーディは入って来て、威圧感たっぷりの風貌とグルグル回る魔法の瞳で生徒たちを睨みつけたあと、そう言い放った。

 

凄みのある声に、生徒達はいそいそと教科書を鞄に仕舞い直す。

 

「アラスター・ムーディ。元闇祓い。ダンブルドアの依頼で一年間だけ教鞭を取る。以上だ」

 

実に簡素で簡単な挨拶だった。

 

「え? ずっといるんじゃないの?」

 

ロンが思わずという感じでそう聞く。

 

「ああ、一年だけだ。ダンブルドアのために特別にな……その後は静かな隠遁生活に戻る」

 

そう言ってムーディは語る。

 

「さて、わしの役目は、魔法使い同士が互いにどこまで呪い合えるものなのか、お前たちを最低線まで引き上げることにある。お前たちは遅れている。呪いの扱い方について、非常に遅れている。魔法省によれば、わしが教えるべきは反対呪文であり、そこまでで終わりらしい。だがわしに言わせれば、戦うべき相手は早く知れば知るほどよい。見たこともないものから、どうやって身を護るというのだ?え?」

 

実践に勝るもの無し。

理論は時に役に立たない。

 

それは戦場に出たものなら痛感するものだろう。

 

「今まさに違法な呪いを掛けようとする魔法使いが、ご丁寧にこれからこういう呪文をかけますなどと教えてはくれん。面と向かって、親切に優しく闇の呪文を掛けてくれたりせん。お前たちは備えなければならん。緊張し、警戒しなければならん」

 

ムーディはそう語った。

そしてそれを聴きながら刀原と雀部は仕切りに、うんうんと頷いていた。

 

油断大敵。

慢心ダメ絶対。

 

刀原はそう思っていた。

 

「さて、魔法界で最も厳しく罰せられる呪文が何か……知っておる者も多いだろう」

 

許されざる呪文。

洗脳、拷問、そして殺人を可能とする呪文。

 

1717年、ヒトに対して使用することを禁じられた三種の闇の魔術であり、ヒトに対して1つでも使用すれば、英国ではアズカバンで終身刑になるとされている。

 

 

ムーディが聞けば何人かがパラパラと手を挙げ、その中からムーディはロンを指名した。

 

「えーと。パパが一つ話してくれたんですけど……『服従の呪文』」

 

「ああ、お前の父親ならよく知ってる筈だ。魔法省は散々てこずらせたからな」

 

ムーディは「訳を教えてやる」と言い、机の引き出しからガラス瓶を取り出し、クモを一匹つかみ出して手のひらに乗せた。

 

実際にやるのか。

 

これから起きることを予期した刀原が、苦虫を噛み潰したような顔をする。

雀部も同じ顔をしていた。

 

「『インペリオ(服従せよ)』」

 

杖先から閃光が零れた瞬間、クモはムーディの手から飛び降りると、様々な曲芸をやってみせる。

自分の吐いた糸で空中ブランコをし、後ろ宙返りをし、側転をするクモ。

その動きに、ほとんどの生徒が笑っていた。

 

「面白いと思うのか? わしがお前たちに同じことをしたら、喜ぶか?」

 

そう言えば、笑い声は瞬時に消える。

 

「完全な支配だ。わしはこいつを、思いのままに出来る。窓から飛び降りさせることも、水に溺れさすことも、なんだってな」

 

『服従の呪文』

対象を自分の絶対的支配下に置く魔法。

これを掛けられている間、対象者は最高の気分になり、術者の命令ならば普段出来ないようなことでも実行するようになる。

 

「無理に動かされているのか、自らの意思で動いているのか、それを見分けるのが、魔法省にとって難しい仕事だった……」

 

掛けられているの分からず、おまけに「誰が裏切っているのかわからない」「誰を信じていいのかわからない」という状況を作り出し、社会全体を疑心暗鬼の渦に取り込むことができる。

洗脳以上の危険性を持った術だ。

 

「この呪文と戦う事はできる。もちろん呪文をかけられぬに越したことはないがな」

 

そう言ってムーディはクモをつまみ上げ、ガラス瓶に戻し、そして改めてクラス中を見渡した。

 

 

「他の呪文を知っている者はいるか?」

 

ムーディ先生が当てたのは、なんとネビルだった。

ネビルが自ら進んで答える姿を、刀原は初めて見た。

 

「一つだけ……『磔の呪文』」

 

「お前はロングボトムだな?」

 

ネビルは恐る恐る頷く。

 

ムーディは二匹目のクモを取り出して肥大呪文を掛け、再び杖を上げて呪文を唱えた。

 

「『クルーシオ(苦しめ)』」

 

途端にクモは痙攣し、ひっくり返り、苦しげにピクピク身を捩った。

 

「やめて!」

「止めてください!」

 

ハーマイオニーと雀部の声にムーディは杖を離し、クモを縮ませてガラス瓶の中に戻す。

そして言葉を紡いだ。

 

「苦痛。『磔の呪文』が使えば、拷問に『指締め』もナイフもいらない……これもかつてさかんに使われた」

 

『磔の呪文』

想像を絶する苦しみを与える拷問用の魔法。

全力で何度も繰り返しかければ、相手を発狂させて廃人にする事も可能という呪文。

 

通常の拷問とは違い肉体は損なわれず、傷まず死ぬこともないため、繰り返して行うことも出来る。

 

 

「他の呪文を何か知っている者はいるか?」

 

響くムーディの声。

そして少し間が空いて、ハーマイオニーが「『アバダ ケダブラ』」と囁いた。

 

「そうだ。最後にして最悪の呪文。『アバダ ケダブラ』……死の呪いだ」

 

ムーディは再びクモを掴み、そして唱えた。

 

「『アバダ ケダブラ(息絶えよ)』」

 

「気持ちの良いものではない。しかも、これら禁じられた呪文に反対呪文は存在しないから、防ぎようもない。これを受けて生き残った者は、たった一人しかおらん」

 

ムーディがハリーを見てそう言う。

 

『死の呪文』

呪文を防ぐための反対呪文が存在せず、命中すれば問答無用で即死させるという最凶にして最悪の魔法。

 

かつて日本で起き、その時殺害された者の検死を担当した医師達は「死んでいるという事実を除けば、医学的には健康そのものである」という見解を示し、共に検死した卯ノ花もそれに同意した。

 

そして刀原が知りうる限り、鬼道にこのような凶悪なものはない。

 

「これら、許されざる呪文を使うには強力な魔力が必要だ。お前たちがわしに向けてこの呪文を放ったところで、鼻血さえ出させられるかも怪しい」

 

つまり裏を返せば、禁じられた呪文を使えるということが、力のある魔法使いという証明になるということだ。

 

最も、そんな形で証明などしたくはないが。

 

「備えが、武装が必要だ。しかし、何よりもまず、常に、絶えず、警戒することの訓練が必要だ。羽根ペンを出せ……これを書き取れ……」

 

それ以降は『許されざる呪文』のそれぞれについてノートを取ることに終始し、授業は終わった。

 

 

授業が終わるまで、誰もが沈黙していた。

しかし授業が終わり、教室を出た瞬間、ほとんどの生徒が興奮したように喋り始めた。

 

「……少なくともマシですか?」

 

「……少なくともマシではある」

 

雀部がそう聞き、刀原がそう答えた。

 

 

 

なお、これ以降の授業は驚愕の内容になる。

 

「今日の授業では『服従の呪文』を生徒一人一人にかけて、お前たちが抵抗できるかを試す」

 

なんとも、ムーディはマッドな考えをしていた。

 

 

ちなみに、抵抗できたのは三名。

 

「僕はしないぞ!」

 

気力で抵抗したハリー。

 

バチィ!

「やっぱり」

 

電撃の霊圧でシャットアウトした雀部。

 

パチン!

「デスヨネ」

 

斬撃の霊圧でシャットアウトした刀原。

 

特に刀原、雀部は三回やっても結果が同じだったので、以降は免除となった。

 

 

シャットアウトできた理由など単純である。

 

深層心理で密接に繋がっている斬魄刀が、主人を洗脳させる筈がないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
そして誰もそれを拒否しなかった

*2
英国の魔法界の新聞

*3
刀原をはじめとする日本の面々は、これを聞いて大いに呆れた。

何を考えているのかは不明だが、犯行を高らかに宣言し、それを自慢しているかのようだと。

かの者(ヴォルデモート)の実力は未知数だが、おつむや戦略は弱そう(頭パッパラパーの可能性大)である》

先の特別隊首会での結論はこれになった。

*4
起きてしまったが

*5
刀原、雀部の両名(生徒最強の二人)をもってしても

「正攻法では無理に近い」

()()()()()西洋魔法では不可能」

と言い放った。

なお、鬼道や斬魄刀を使えば不可能ではないということは伏せた。

*6
飲んだ直後にブルッと震えていることから、刀原は「まさか酒じゃねぇだろうな?」と疑った。

少なくともカボチャジュースでは無いだろう







BLEACHに許されざる呪文要素はなかったはず。

洗脳……。
いや、あれは催眠であって洗脳ではないですよ!

即死させる鬼道はないですよね。
まあ、当たらなければどうと言うことは無いですし。

映画の描写も交えながら書いています。

感想、考察、評価、お気に入り、誤字報告。
ありがとうございます。
そしてお待ちしております。


さて次回は
想定外の選考選手
次回もお楽しみに





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死神、代表選手たちを迎える。




ようこそ

我が留学先へ

君たちを歓迎しよう。







 

 

 

十月三十一日。

大広間は来賓を迎えるために豪奢な飾り付けが施されていた。

 

壁には4つの寮を示す巨大な絹の垂れ幕。

 

グリフィンドールの赤地と金色のライオン。

レイブンクローの青地にブロンズの鷲。

ハッフルパフの黄色地に黒いアナグマ。

スリザリンの緑地に銀色の蛇。

 

教職員テーブルの後ろには巨大なホグワーツの紋章が描かれ、大きなHの文字の周囲を四寮のシンボルとなる動物たちが囲んでいる。

 

そして生徒達はボーバトンとダームストラング、そして未だ明かされる四校目の生徒達を迎えるべく、玄関ホールに集結していた。

 

外国の生徒たちを迎えるのに、失礼があってはいけないため、監督する先生たちも少し神経質になっているようだった。

 

 

明かされぬ四校目については、生徒達の議論の種になり、意見が纏まりつつあった。

 

世界には十一もの名門魔法学校があり、そのすべてが国際魔法使い連盟に登録されている。

 

その中で候補に上がったのは僅か二つ。

 

一つはアメリカの魔法学校、イルヴァーモーニー。

そして最有力候補のマホウトコロだった。

 

 

「でもどうやって来るのかしらね? 箒か、汽車か、移動キーって手もあるけど……」

 

ハーマイオニーが首をかしげながらそう言う。

 

「まさか、どっかの誰かさん達みたいに空飛ぶ車で来るはずねぇしな?」

 

刀原がニヤニヤしながらどっかの誰かさんを見る。

どっかの誰かさん達は苦い顔しながらプイッと横を向いた。

 

そう言う刀原は、他校がどんな移動手段を持っているのか気になっていた。

 

 

「ほっほー!わしの目に狂いがなければ、ボーバトンの代表団が近づいてくるぞ!」

 

そんなやり取りをしている間に、ダンブルドアが指を指す。

 

その指の先の上空に、ぐんぐん大きくなりながら城に向かって疾走してくる何かがあった。

 

「なんだろう?」

 

「馬車だな。如何にもフランスらしい」

 

接近してきたのでそれをよく見れば、それは巨大な馬車だった。

 

大きな館ほどの馬車が数頭の天馬に引かれており、天馬も白銀に輝いて一頭一頭がかなりの大きさがあった。

 

そんな天馬に引かれた馬車は高度を下げ、かなりのスピードで着陸態勢に入り、衝撃音と共に着陸した。

 

車体には金色の杖が交差して先端から3つの星が飛んでいるボーバトンの紋章が描かれている。

 

「カボチャ製か?」

 

「絶対違います」

 

馬車を見て刀原が軽口を言う。

即座に雀部がツッコミをいれるが。

 

 

ダームストラングがやって来るまでに、時間はかからなかった。

最初の発見者となるべく生徒の多くが期待を込めて空を見上げる中、唐突に湖の中から音がした。

 

「湖だ!」  

 

リー・ジョーダンの声に皆が一斉に振り返った。普段は静かな湖面が急に渦巻きはじめ、やがて帆桁が現れた。

 

「船だ!」  

 

誰かがそう叫び、間もなくそれは浮上した。

難破船のようで海賊船のような船が、湖の上に静かに浮かんでいる。

 

「簡単に沈められそうですね」

 

「言ってやるな」

 

やがて船は着岸し、タラップが岸に降りて乗員が下船した。

 

あと一校のみ。

 

するとポォーっという汽笛が響く。

 

【来たか】

 

【みたいですね】

 

「汽車か?」  

 

誰かがそう言った。

 

その直後、シュンという音と共に空中に現れたのは、黒鉄の蒸気機関車と五両編成の青い客車だった。

 

列車は校庭に用意されていた特設プラットホームに静かに降り立ち、停車する。

 

やがて下車してきた生徒達は、全員和服を着ていた。

 

 

 

 

大広間は喧騒に包まれていた。

まもなくやって来る他校の生徒達が気になっているからだろう。

 

「さて、いよいよ魔法学校対抗試合(ウィザード・トーナメント)が開催される。では早速来ていただこうかの……。まずはレディから……ボーバトン魔法アカデミーの生徒達と、校長のマダム・マクシームじゃ」

 

ダンブルドアの紹介を合図に大広間の扉が開かれ、薄青のシルクの膝丈スカートにおそらく同生地のブレザーを着た女子生徒達が隊列をなして入ってきた。

 

容姿端麗な生徒ばかりであり、魔法を交えた美しい舞を披露している。

 

【女子ばっかだな】

 

【女子校なのでしょうか?】

 

それを見てホグワーツの男子は大興奮となり、そんな男子達を見て女子達の多くは面白くなさそうだった。

 

そして特に綺麗な女子生徒がおり、多くの男子生徒が彼女に夢中になっているようだった。

 

「あの人、ヴィーラだ!」

 

夢中になっていた一人であるロンがそう言う。

 

「いいえ、違います!」

 

ハーマイオニーがハッキリ言うが、それは当たっているとは思えなかった。

 

大広間を横切る間、視線を集めたのだ。

ロンの推理は信憑性があった*1

 

そしてボーバトンの生徒達を追いかける形で、極めて大柄で身長が高い女性が入ってくる。

 

【ハグリッド(クラス)はあるな】

 

【もしかして、半巨人ですかね?】

 

堂々と、ゆっくりと進むマキシームはその大きさも相まってかなりの威圧感があった。

 

 

マキシームがダンブルドアと二、三言ほど言葉を交わしているあいだ、ボーバトンの生徒達はレイブンクローのテーブルに座る。

 

「続いて、ダームストラング専門学校の生徒達と校長のイゴール・カルカロフじゃ」

 

ボーバトンの生徒達が着席したのを確認したあと、今度はダームストラングを紹介する。

 

紹介を受けて大広間に入ってきたダームストラングの生徒達は、程よく鍛え上げられており、かつ丸刈りで、まるで軍服のような制服を着ていた。

そして見事なダイナミックな演武を披露した。

 

【士官学校か何かか?】

 

【男子校っぽいですね】

 

先程は男子たちのみが興奮に包まれていたが、今度は性別関係無く歓声が上がる。

 

「クラムだ!」

 

ブルガリアのクィディッチチームの選手で、シーカーを務めている*2彼が、まだ現役の学生だったなんて。

そんな感じだろうか。

 

刀原の隣にいるロンやハリー等は大興奮だ。

憧れのヒーロー(クラム)がいるののだから、無理もないことだろうが。

 

そんなクラムのあとに続いてやって来たのは、山羊髭を生やした男。

 

カルカロフも一見すると威厳たっぷりといった感じだ。

 

【何処と無く、小物臭いな】

 

【自分を大きく見せようとしてますね】

 

しかし誤魔化されない者達もいる。

 

 

 

 

 

「ようこそホグワーツへ!我らは皆さんのことを歓迎しますぞ。本来ならばこれから歓迎の宴といきたいところじゃが、実はもう一校、此度から参加することとなっておる……」

 

ダンブルドアがそう言えば、ボーバトンとダームストラングの生徒達もざわめく。

おそらく彼らには知らされていなかったらしい。

 

「では、来ていただこうかの。極東よりやって来たマホウトコロの生徒達と校長先生じゃ」

 

その合図で大広間にやって来たのは和服に身を包んだ生徒達だった。

 

全員、腰には当然のように斬魄刀を差している。

 

先頭は日番谷、最近になって漸く身体が大きくなってきているが、まだ斬魄刀の方が大きい為に刀を背負っている。

 

その左右にはそれぞれ雛森と朽木。

二人とも緊張が拭えないらしい。

 

その後ろには、余裕綽々といった感じの阿散井もいた。

 

そして最後尾に黒崎と井上。

 

黒崎は日本魔法省の魔法執行部部長で、前十番隊隊長の黒崎 一心の息子。

 

井上はいわゆるマグル生まれ。

しかし西洋魔法に関してはかなりの技量を持っている。

 

しかし……目立つな…コイツら。

 

日番谷は白髪。

阿散井は赤髪。

黒崎はオレンジの髪。

井上は茶髪。

 

日本人らしい髪色は雛森と朽木しかいない。

 

生徒は以上六名*3

 

他と比べると明らかに数が少ない*4が、英国のホグワーツ(揉め事が毎年起きてる場所)に行けるに足る実力を有していると判断された少数精鋭のメンバーだった。

 

その後ろには柔和な風貌でメガネをかけた男性。

三人の校長よりも明らかに年下である。

 

しかしその実力は非常に高く、零番隊を除き日本で五指に入るであろう実力を有している。

 

前五番隊隊長という格は伊達ではない。

 

刀原と雀部が少し会釈をすればニコッと笑い返す。

イケメンだ。

あの笑顔にまんまと騙され、実力を見誤る者は多い。

 

「先程ご紹介を受けましたマホウトコロの校長、藍染惣右介と申します。見ての通り少数ですが、粒揃いですのでご安心を」

 

ダンブルドアから挨拶を求められた藍染がニッコリと笑いながらそう言う。

 

「ありがとう藍染校長。マホウトコロの生徒諸君らは、グリフィンドールのテーブルで良いじゃろう……」

 

ダンブルドアの言葉に従う形で日番谷達はグリフィンドールのテーブル……もっと言えば刀原がいる付近に座る。

 

「では改めて……紳士淑女にゴーストの皆さん、それから客人の皆さん、こんばんは。そしてようこそ。ホグワーツへのご来訪、心から歓迎いたしますぞ!」

 

 

 

 

ダンブルドアが親しげながらも威厳のある声で歓迎の意を伝える。

 

「対抗試合はこの宴の終了と同時に、正式に開催される。それまでは大いに飲み、食し、くつろいでくだされ!」

 

そして魔法学校対抗試合の開始を宣言し、着席すれば、すぐに目の前の皿がいつものように満たされた。

 

 

 

「日本食だ……!」

 

刀原の目の前には、おそらくホグワーツ史上初であろう日本食が出てきた。

 

味噌汁(ミソスープ)に天ぷら、寿司などだ。

 

刀原は早速食べ、そして後悔した。

理由は……なんか違う。

 

ハリー達は美味しそうに食べているが、ここにいる日本人達は全員首をかしげた。

 

そして結論付けた。

 

出汁がねぇんだ、これ……。

 

おそらくではあるが……さしもの屋敷しもべ妖精といえど、出汁の概念を知らなかったのだろう。

 

厨房に行って伝授させなくては……!

 

刀原は固く決意した。

 

 

 

 

 

 

「時は来た。魔法学校対抗試合はまさに始まろうとしておる。その前に、二言、三言説明しておこうかの……」

 

ダンブルドアはそう言ったあと、英国魔法省のバーテミウス・クラウチ氏とルード・バグマン氏を紹介する。

そしてフィルチを呼び寄せて大きな木箱を持ってこさせ、ダンブルドアの前のテーブルに置かせた。

 

「対抗試合で競うのは各参加校から一人づつ、計四人の代表選手じゃ。代表選手は三つの課題に取り組むこととなる……危険な課題じゃ。魔法の卓越性と応用力、果敢な勇気と正しい知識、論理・推理力、そして危険に対処する能力……即ち今までの研鑽が試されるのじゃ。柔な者ではとてもクリアすることが出来ん。代表選手を選ぶのは公正なる選者『炎のゴブレット』じゃ」

 

そう言ってダンブルドアが杖で木箱の蓋を叩くと、箱はゆっくりと開いた。

 

出てきたのは、青白い炎を零すゴブレット。

見た目は素朴だが、凄まじい魔力(霊圧)を感じる。

 

ダンブルドアは木箱の上にゴブレットを置く。

 

「代表選手に名乗りを上げたい者は、羊皮紙に名前と所属校名を書き、このゴブレットの中に入れなければならぬ。明日、ハロウィーンの夜に、ゴブレットは、各校を代表するに最もふさわしいと判断した者の名前を返してよこすであろう」

 

 

明日には返答が来る。

即ち、今から約二十四時間以内に立候補しなくてはならないということだ。

 

 

「このゴブレットは、今夜玄関ホールに置かれる。我はと思う者は、自由に近付くが良い。なお、年齢に満たない生徒が誘惑に駆られることのないよう『炎のゴブレット』の周囲にわしが『年齢線』を引くことにする。十七歳に満たない者は、何人もその線を越えることはできぬ」

 

年齢線に関して、双子を筆頭とする違法に立候補したいと思うもの達が出した結論は『老け薬』だった。

 

それでなんとか出来るなら苦労は無い。

刀原は高みの見物と洒落込むことにした。

 

「最後に、はっきりと言うておこう。軽々しく名乗りを上げぬことじゃ。『炎のゴブレット』がいったん代表選手と選んだ者は、最後まで戦い抜く義務が生じる。ゴブレットに名前を入れるということは、魔法契約によって拘束されることじゃ。代表選手になったからには途中で気が変わるということや、逃げ出すことが許されぬ。じゃから、己が課題に対して本当に用意があるのかどうか、確信を持った上で、ゴブレットに名前を入れるのじゃぞ……」

 

誰もが静まり返って、その言葉を聞いていた。

 

 

 

 

 

その夜、刀原はマホウトコロの列車内にいた。

マホウトコロの校長、藍染に呼ばれたのだ。

 

「将平君と雷華君は立候補しない。それで本当にいいのかい?」

 

「ええ、それで問題無いです」

 

藍染の用件は、魔法学校対抗試合(ウィザード・トーナメント)に刀原と雀部が立候補しないということを再確認することだった。

 

「マホウトコロからは、誰だと思うかい?」

 

藍染は刀原に探るように言う。

 

「さあ、それはなんとも言えませんが……優勝杯はマホウトコロの物で間違いはないと思いますがね」

 

刀原は緑茶を啜りながらそう言った。

その発言をこの場でとがめる者は誰もおらず、藍染も少し笑いながら「そうだろうね、私もそう確信しているよ」と肯定した。

 

「では、ホグワーツからは誰になると思う?」

 

「そうですね……グリフィンドールだとアンジェリーナ・ジョンソン。レイブンクローだとロジャー・デイビース。スリザリンからはカシウス・ワリントン。ハッフルパフからは……セドリック・ディゴリー。その辺りかと」

 

「その中で一番、有り得そうなのは?」

 

「グリフィンドールに席を置いてる者としてはアレな意見ですが……格としてはセドリックが一番かと……」

 

刀原は「間違ってるかもですが」と付け加えながらそう言った。

 

「君の観察眼は京楽隊長も太鼓判を押すほどだからね。信頼に値する情報だよ、ありがとう」

 

藍染がそう言えば照れ臭そうに刀原は笑う。

 

「さて、そろそろ俺は向こう(ホグワーツ城)に戻ります。留学生という身分なので、マホウトコロ側に加担するのは出来かねるので……」

 

刀原は緑茶を飲み干し、右側に置いてあった斬魄刀を持って立ち上がりながらそう言った。

 

「確かにそうだね。ではおやすみ」

 

「はい、おやすみなさい」

 

そうして、刀原は戻って行った。

 

 

 

 

 

翌日は土曜日であり、普段ならば大半の生徒が遅い朝食(寝坊)をしている筈だった。

しかし何人かの生徒達は刀原と同様に早く起きており『炎のゴブレット』を眺め回していた。

 

ゴブレットの周りの床には、細い金色の線で半径三メートルほどの円が描かれていた。

 

そんな中、刀原は特に予定も無かった為、立候補する者を眺める事にした。

 

 

ダームストラング、ボーバトンは当然ながら全員が既に立候補し、マホウトコロの面々も朝食が終わったタイミングで全員が立候補した。

 

【どうもイマイチ覇気がねぇな】

 

そう言うのは日番谷。

既に立候補を終え、近くで高みの見物をしていた刀原達の元に座っていた。

 

【誰がだ?】

 

刀原は既に答えを予想しており、苦笑いにながらそう言うと【コイツら(ホグワーツの面々)がだ】と日番谷が言う。

 

【そういってやるな……】

 

【お前は本当にホグワーツ側で立候補しねぇのか?そうしたら少しは歯応えが出来そうだが……】

 

日番谷はそう言う。

既に自分達の勝利を確信してやまないらしい。

 

【何度も言うが、俺も雀部も立候補しねぇよ。俺達はホグワーツに留学してきてるんだ。そんな俺達が()()()()()()()()()()()()立候補するなんて、出来るわけねぇだろう?】

 

刀原はそう日番谷に言う。

日番谷はそれを受けて【それもそうか……】と言う。

 

【それと……コイツら(ホグワーツの面々)をあんまり舐めないほうが良いぞ?】

 

【へぇ?それは楽しみだ】

 

刀原の言葉で日番谷はニヤリと笑った*5

 

 

刀原と日番谷がそんなやり取りをしながら過ごしていると、ハリー達も多くの生徒と同様、従来よりも早く起きてやって来た。

 

「ハリー、ロン、ハーマイオニー。コイツは日番谷。日本での友人で……まあ、ライバルみたいな奴だ。よろしくな?」

 

刀原はハリー達に日番谷をそう紹介する。

 

ハリー達は「日番谷だ、よろしく」と言って手を差し出した日番谷に戸惑いながらも握手する。

 

そんな事をしていると、フレッドとジョージの双子とリー・ジョーダンが階段を下りてきた。

 

「やったぜ。今飲んできた」

 

フレッドが勝ち誇ったように刀原達に言う。

 

「老け薬だ。一人一滴、俺達はほんの数ヶ月分だけ歳をとれば良いだけなんだからな」

 

フレッド達はひどく興奮していた。

 

「そんなにうまくいくかねぇ?」

 

「無理だと思いますが……」

 

そんな彼らを見て、刀原と雀部はかなり難色を示した。

 

「ダンブルドアはきっとお見通しよ」

 

ハーマイオニーも警告するように言う。

 

しかし双子達はそんな言葉を無視してポケットから薬を取り出して飲み、フレッドが先に「フレッド・ウィーズリー……ホグワーツ」と書かれている羊皮紙もポケットから取り出した。

 

そしてダイバーのように大きく息を吸い、年齢線の中に足を踏み入れた。

 

そして流れる沈黙。

 

ジョージは上手くいったと思ったのか、「やった!」という叫び声と共にフレッドの後を追って飛び込んだ。

 

が、次の瞬間にはジュッという音と共に双子はまとめて年齢線の円の外に放り出された。

 

二人は三メートルほど吹っ飛び、冷たい石の床に叩き付けられ、ついでにポンと大きな音と共に白く長い顎髭が生えた。

 

それを見て玄関ホール中が大爆笑に沸き、当の本人である二人もお互いの髭を眺めて笑い出した。

 

「忠告した筈じゃ」

 

深みがありつつ面白がっている声が聞こえてきた。

 

全員が振り向くとダンブルドアが出てきた。

 

「二人ともマダム・ポンフリーのところに行くがよい……既に何人かがお世話になっておる。最も、君たちの髭は彼らよりも見事じゃがの」

 

目をキラキラさせながらダンブルドアが言う。

 

そうしてゲラゲラ笑っているリーに付き添われ、二人は医務室に向かった。

 

マホウトコロでは絶対に考えられない光景に、クックックと笑う日番谷。

 

「なるほど、中々侮れないな」

 

そう言う日番谷に刀原はニヤリと笑う。

 

「まだまだ序の口だよ」

 

そしてそう返した。

 

 

 

*1
ヴィーラとは魔法生物の一種であり、美しい外見を利用して男性を誘惑するのが特徴である。

*2
しかも世界最高峰の誉れも高い

*3
なお、吉良はお留守番らしい

*4
とはいえ、他校も十名ずつだが

*5
ちなみに【あと……多分、代表者での決闘はしねぇと思うぞ?】と刀原が付け加えると日番谷は【やっぱそうか……】とちょっと残念そうに言った。






本当は選定まで行きたかったのですが、それは次回にさせていただきます。

どうかご了承を。

また、試験が近づいているので次回の投稿が遅れることもお伝えしておきます。

そちらもご了承を。


では次回こそ
想定外の選手
次回もお楽しみに




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死神、頭を抱える。想定外の代表選手



運命など信じぬ

特別など有りはせぬ

目立ちたいだけだろう

そうに違いない

違いないのだ

真実は残酷なので

絶対に見ない

昔も

今も

これからも

見ないふりをする。






 

 

 

十月三十一日はハロウィーンである。

 

必ず毎年盛り上がり、かつ事件が起きる*1ハロウィーン・パーティーだが、今年は生徒全員がそわそわしており、大半の生徒が食事に集中していなかった。

 

そしてついに皿がまっさらな状態になり、ダンブルドアが立ち上がると大広間は静まり返った。

 

「さて、わしの見るところ、ゴブレットはほぼ決定したようじゃな……」

 

ダンブルドアがそう言った。

 

「あと一分ほどじゃの……。さて、代表選手の名前が呼ばれたら、その者たちは教職員テーブルに沿って進んで隣の部屋に入るように……。そこで最初に指示が与えられるであろう」

 

そう言ったダンブルドアは杖を取って大きく一振りし、ほぼ全ての蝋燭を消して部屋を暗くした。

 

その暗闇の中で『炎のゴブレット』は明々と輝き、青白い炎が実に美しかった。

 

やがて炎は赤くなり、火花が飛び散り始めた。

次の瞬間に炎が燃え上がり、焦げた羊皮紙が一枚だけハラリと落ちてきた。

 

「ダームストラングの代表選手は……」

 

ダンブルドアがその羊皮紙を捕らえ、力強く、はっきりした声で読み上げる。

 

「ビクトール・クラム!」

 

「そうこなくっちゃ!」

 

大広間は拍手の嵐、歓声の渦に包まれた。

 

クラムはテーブルから立ち上がり、前屈みにダンブルドアの方に歩いていく。

そして隣の部屋へと消えた。

 

そうこうしている内にゴブレットの火が赤く燃え上がり、二枚目の羊皮紙が飛び出した。

 

「ボーバトンの代表は……フラー・デラクール!」

 

ダンブルドアが読み上げた。

 

ロン曰くヴィーラに似ているという女子生徒が優雅に立ち上がり、クラムと同様に隣の部屋に消える。

 

そして沈黙が訪れ、僅かな間を置いてゴブレットが燃え上がり、紙が飛び出す。

 

「マホウトコロの生徒は……なんて読むんじゃ?」

 

ダンブルドアが読み上げようとして首をかしげる。

それを受け、何人かがずっこける。

 

「あんのアホどもが……」

 

刀原は頭を抱えながら、助けを求めているように見えるダンブルドアの元に向かう。

 

「すまんの……流石に読めんかった」と謝ってきてので「……後で言い聞かせておきます」と返す。

 

そしてダンブルドアが持っている紙を見て「成る程、予想通りだな」と小声で言った後、ダンブルドアに書かれている名前を教える。

 

ダンブルドアは刀原から聞き、改めて宣言した。

 

「マホウトコロの代表は……トーシロー・ヒツガヤ!」

 

マホウトコロの代表は日番谷だった。

 

日番谷はテーブルから立ち上がり、ダンブルドアと刀原の元に向かう。

 

【英語で書け、アホンダラ】

 

【すまん、つい】

 

刀原がジト目になりながらそう言えば、申し訳なさそうに後頭部を掻きながら日番谷がそう謝った。

 

 

珍事が起きてしまったが、代表の選定は続く。

 

刀原は役目(翻訳)を終えたため自身がいたテーブルに戻る。

 

そしてゴブレットが赤く燃え上がった。

 

「ホグワーツの代表選手は……」

 

ホグワーツ(英語)なので、先ほどのような事は起きない。

 

「セドリック・ディゴリー!」

 

ハッフルパフから大歓声が上がり、生徒達が総立ちになって拍手する。

 

セドリックはニッコリ笑いながらその中を通り抜け、隣の部屋へと向かった。

 

大歓声は暫くの間続いたが、やがて収まった。

 

「結構、結構!さて、これで代表選手が決まった!選ばれなかった生徒たちも、あらんかぎりの力を振り絞って代表選手達を応援してくれい。選ばれるだけではない。勝ち残った者のみが、」

 

ダンブルドアがそこまで言って言葉を切った。

もう赤くなる筈がないゴブレットが、再び赤くなったからだった。

 

そして紙が出てくる。

代表選手が選ばれた時と同じように。

 

ダンブルドアが反射的に手を伸ばしそれを捕らえ、そこに書かれていた名前を見て、こう呟いた。

 

「ハリー・ポッター……」

 

そこには、想定外の選手になる名前が書かれていた。

 

 

 

 

 

 

大広間にいる全員が、ハリーの方を見た。

 

拍手も歓声も無く、痛いほどの沈黙が流れる。

 

「僕、名前を入れてない……」

 

ハリーは、放心したかのようにそう言った。

しかし、ロンもハーマイオニーも何も言えなかった。

 

「ハリー・ポッター!」

 

ダンブルドアが沈黙の中、そう叫んだ。

 

「行くのよ…。行かなきゃ」

 

ハーマイオニーがハリーの背を押しながらそう言い、ハリーは立ち上がり、ゆっくりと前に出た。

 

誰も何も言わず、ただ驚いた顔のままだった。

 

その中、刀原は天を仰いだ。

隣にいた雀部は、額を手に乗せていた。

 

やがてハリーが隣の部屋へと消えると、大広間の全員が騒ぎ出す。

 

ダンブルドアは「では、これで選定は終わりじゃ……解散」とだけ言い、隣の部屋へと向かった。

そしてそれにクラウチやカルカロフ、マダム・マクシーム、藍染、マクゴナガル、スネイプ、ムーディーが続いた。

 

生徒達は「不正だ!」「ポッターが出れるなら、何で俺が出れないんだ!」と騒いでいる。

 

「全く、面倒なことになった……」

 

刀原はそう吐き捨てたあと、立て掛けてあった斬魄刀を持って隣の部屋へと向かった。

 

 

 

 

 

 

「ダンブリー・ドール。これはいったい、どういうこーとですか?」

 

「私にも、是非知りたいですな」

 

俺が部屋に着けば、マダム・マクシームとカルカロフがそう言っていた。

 

「刀原君、来たのか。ご覧の通りだ」

 

藍染がやれやれといった感じでそう言った。

 

「ダンブルドア校長、紙を拝見しても?」

 

俺の言葉に一瞬たじろいだ様に見えた(何故ここにいるんじゃ?)ダンブルドアだったが、「これじゃ」と言って見せてくれた。

 

「へぇ?」

 

俺はその紙を見て、何と無く推察する。

 

そんな事をしている間にハリーは尋問を受けており、特に目の敵にされているスネイプのねちっこい目は、意地悪く光っていた。

 

「君は『炎のゴブレット』に名前をいれたのか?」

 

「いいえ」

 

ハリーはそう言うが、大半の者が「信じるものか」と言った感じだ。

 

「上級生に頼んで『炎のゴブレット』名前を入れてもらったのか?」

 

「いいえ」

 

「誓って本当じゃろうな?」

 

「はい、本当です!」

 

ダンブルドア校長が尋ね、ハリーは激しい口調でそう答えた。

 

「でもこの()とは嘘ついてまーす」

 

マダム・マクシームが叫ぶ。

 

この子(ハリー)が『年齢線』を越えることは出来なかった筈です。その事については、皆さん異論はないと……」

 

「ダンブリー・ドールがまちがーえたのでしょう」

 

マクゴナガル教授がビシッと言うがマダム・マキシームが肩をすくめながらそう言った。

 

「それはあり得ないですよ」

 

そうハッキリ言ったのは刀原。

 

「トーハラ……」

 

マクゴナガル教授がそう言えば、マダム・マクシームとカルカロフは「トーハラ……まさか、あの?」といった反応をした。

 

「ダンブルドア校長が間違えていたのであれば、未成年のホグワーツ生の何人かが名前を入れている筈です。彼ら(双子)(悪行)は詳しくは言いませんが……彼らの性格上、入れられただけでも騒ぎ出す筈です。それがない時点で年齢線が間違っている事はありません」

 

俺がそう言えば、大半の者が「ぐぬぬぬ……」と言った感じとなった。

 

「更に、ハリーの名前が書かれていた紙には学校名が書かれていませんでした。つまり……ハリーは本来はない五校目の代表としてゴブレットに名前を入れた、いや、()()()()()と言うことです」

 

「入れられた?」

 

「まず……ゴブレットの魔力は強大です。そんなゴブレットを欺くには強力な『錯乱の呪文』を掛けるほか無いと思います。当然ながら、ハリーにそんな事が出来る筈ありません。おまけに書かれていた文字は、ハリーの筆跡ではありませんでしたし。つまり、ハリー以外の第三者……しかもゴブレットに無いはずの五校目を誤認されられる力量を持つ者が、ハリーの許可も無く、勝手に入れたということになります」

 

「反論があればどうぞ」と続けて言う俺に、反論してくる者はいない。

 

と思っていた。

 

「随分と分かったような口を言うな?ミスタートーハラ……。噂に聞く君の実力なら、それが出来るのではないかね?まさしく君の言った手口で……」

 

そう言ってきたのはカルカロフ。

威圧するように言ってくるが、恐ろしくもなんともない。

 

「そうですね。確かにやろうと思えば出来ます。理由はハリーを代表にさせたいから?それともハリーに頼まれたから?」

 

「自白するのか?」

 

「何故?」

 

「は?」

 

「何故、犯人自らベラベラと手口を言う必要があるんです?そのような利点は一体どこに?」

 

「それは……」

 

「彼はハリー・ポッター、栄誉なら既に持っている。ヴォルデモートを倒した『生き残った男の子』としてね。それにポッター家はかなりの財産を有していることから賞金など目も暮れないでしょう。故に、彼は危険と非難されることを承知で立候補する事などあり得ない。それに僕はマホウトコロからの留学生です。つまり……マホウトコロの名を背負ってここに来ています。そんな事をすればマホウトコロの看板に泥を塗ることにもなる。断じて、そのような恥ずべき行為はしない」

 

「私も、彼の意見に賛成ですね」

 

高らかに言えば、後ろに来ていた藍染校長が俺の両肩に手を置いてそう言ってくれた。

 

「マホウトコロの現校長として、彼の事は理解しています。聡明で、実力も申し分なし。彼が出れば優勝は貰ったも同然だと思っていたので、今回の件で散々立候補しないのかと聞きましたが、断られました。本人曰く、留学生なのだからホグワーツ生に申し訳なく、マホウトコロ側で出ることもないとね。彼は誠実な子です。故に、彼はそのような真似は一切しない。私が……いや、私も含め、護廷十三隊の全隊長が保証致します」

 

藍染校長……。

 

「まあ、しかしじゃ。こうなってしもうては結果を受け入れる他あるまい。ゴブレットの火も消え、ホグワーツ以外の学校がもう一人の代表選手を選定することも叶わんしの……」

 

ダンブルドアはまとめるようにそう言う。

 

「ダンブルドア校長、そして各校長の皆様、こうしては如何ですか?魔法契約*2なので、ハリーは参加させる。但し、ホグワーツの代表としてでは無い。もし優勝したら、報酬として賞金は貰える。しかし、優勝しても優勝杯と学校の栄誉は、その後に代表選手同士の正々堂々とした決闘の勝者の物とする。まさか賞金目当てで立候補した者などいないでしょうからね?」

 

俺がそう言えば「それは名案じゃ!」とダンブルドアが言い、各校長も「まあ、それなら……」といった感じで落ち着いた。

 

俺は心の中で「勝った」と思った。

もし決闘となったら、勝者は決まっている。

 

「では、それでいこう……」

 

そうクラウチ氏が言い、彼によって競技について簡単な説明が始まった。

 

 

 

 

 

「トーハラ君、ちょっと残ってくれんかの?」

 

ダンブルドアは刀原を残るようにそう言い、ふたりは校長室へと移動した。

 

最早恒例となってしまったお茶会(対策会議)を行う為だった。

 

「どう思うかね?」

 

「おそらく罠かと。もっとも、下手人(実行犯)は兎も角として、黒幕は言わずと知れている(ヴォルデモート)でしょうが……」

 

ダンブルドアの問いに、刀原はそう答えた。

 

「ハリーを競技中に殺すのが目的か、我々の眼を眩まして拉致るのが目的か、それ以外か……。これらのどれかは分かりませんが、少なくとも……悪いことへの前触れであるのは間違いないかと」

 

「同感じゃ」

 

そう付け加えた刀原の言葉に、ダンブルドアは頷きながら肯定する。

 

「それで?どう対処するおつもりですか?」

 

「辛い決断じゃが……手を出さず、成り行きを見るほか無いと思う……。事の真相を見抜く為にはの……」

 

ダンブルドアはそう辛そうに言う。

 

「ハリーを囮にすると?」

 

「そうじゃ……」

 

「…………」

 

「言いたい事は分かる。後手に回るのは確かに良くない。受動的なのもな……。じゃが、真意が読めん以上、こうするほか無いのも事実じゃ」

 

「……kusottarega(くそったれが)

 

ダンブルドアの決断は理解出来る。

彼の咎では無いため日本語(ダンブルドアが明確な理解が出来ない言葉)で刀原はそう言った。

 

「とにかく、ハリーから目を離さんで貰えるか?」

 

「勿論です。お任せを」

 

「ありがとう。いま彼には心強く、かつ信頼における者が傍に居たほうが良い。只でさえ不安な筈じゃからな。試練のことしかり、此度の一件もしかりの……」

 

ダンブルドアはそう言って窓を見た。

 

暗い夜のホグワーツは相変わらず幻想的だったが、どこか不気味だった。

 

 

 

 

 

翌日。

ハリーへの視線は何とも言えなかった。

 

雀部曰く、ハリーが寮に戻ってきたら即座に宴会が行われたとのことだが、グリフィンドールからの全体的な反応は、どうもパッとしないもの(おめぇ、セコいことしたな?)だった。

 

そして他の寮からの反応は、お世辞にも良いとは言えないものだった。

 

ゴーイング・マイウェイ(またこいつか、どうでも良いけど)のレイブンクロー。

 

般若のごとき顔になる(折角うちから代表出せたのに!許さん!)ハッフルパフ。

 

ネガティブキャンペーンをする(今だ、グリフィンドールを叩こう!)スリザリン*3

 

以上が各寮の反応だった。

 

中立1。

 

対立2。

 

日和見1。

 

おまけにボーバトン、ダームストラングの生徒からも、当然ながら良い顔はされない(この栄誉乞食が!ああん?)

 

マホウトコロの生徒からは生暖かい目(可哀想に……大変だね)で見られる。

 

ほぼ四面楚歌とは正にこの事だった。

 

マルフォイからも「毎年大変だな……。まあ、頑張れ……」という同情の言葉を言われてしまっていた*4

 

ハリーは投げ出したい気持ち(僕に平穏な学校生活は無いの?)でいっぱいだった。

 

正直、同情するなら代わってくれと思ったし、なんなら実際に言った*5

 

そしてハリーにとって何よりもショックだったのが、ロンとの関係悪化だった。

 

優秀だったらしい長男と次男。

同じく堅物だが優秀なパーシー。

 

双子は問題児だが、彼らの悪戯グッズは中々に高度な技術で出来ており『馬鹿と天才は紙一重』だった。

 

ジニーは唯一の女子であり、モテモテだった。

 

つまり、ロンは個性的過ぎる兄妹によって自身が霞んでいるように感じていたのだ。

 

そして残念ながら刀原は、それについて完全な否定(そ、そんなことないよ!)出来なかった(あれ? その通りじゃね……?)

 

 

とにもかくにも。

 

 

ロンはハリーが自らの名前をどうにかしてゴブレットに入れたと思っており、ハリーを目の敵にし始めたのだった。

 

もっとも、数多くの生徒がそうであったが。

 

すなわち、ハリーが何者かに嵌められて代表選手となったとは夢にも思っておらず、自分の意志で代表選手になったと決めつけているのだった。

 

 

だが、いずれの理論にも欠けているものがあった。

 

『どうやって?』である*6

 

どうやって年齢線を突破した(ダンブルドアを出し抜いた)のか。

 

どうやってゴブレットに()()()錯乱の呪文を掛けたのか。

 

()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

彼らにはその『どうやって?』を覆す方法があった。

 

刀原である。

 

曰く、ハリーは刀原に頼み『どうやって?』を攻略した、とのことだった*7

 

しかし、その理論は一週間で消え去る。

 

理由は二つ。

 

一つ目は『あの刀原がそんなことするとは思えない』である。

 

そして二つ目は……。

 

「んじゃ、その馬鹿な理論が正しいか、実際に試してやろうか?」

 

「え、あ、その、えっと」

 

「心配すんな、ちゃんと加減してやるから」

 

「すいませんでした!勘弁して下さい!」

 

当の本人が大広間で突っ掛かってきたスリザリンの七年生を論破した挙げ句、コテンパン(物理でOHANASI)にしたからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
一年生……トロール乱入。

二年生……終了後、猫が石化。秘密の部屋が開かれる。

三年生……後に冤罪と分かるが、当時は殺人鬼とされていたシリウスが終了後、侵入していたことが判明。

*2
炎のゴブレットの決定は魔法契約であり、誰がなんと言おうとも、どのみちハリーは引き下がれないのだ

*3
尚、例外(マルフォイ一味)を除く

*4
何気に一番効く(効果抜群)言葉だった

*5
尚、返ってきた返答は

「気持ちは分かるがな……魔法契約で無理」

「こうなったら腹を括るしかないです」

だった。

*6
『いつ』に関しては透明マントが有るため議論にならない

*7
おそらくカルカロフ(同じことを言った小者)が広めたプロパガンダであろうと、刀原は思っていたが







願いがある
それはささやかな願い

もうたまにでいいから
平穏な生活をしたい

駄目なのだろうか?



ホグワーツ生って時々「頭足りてなくね?」と思うときが往々にしてあります。

いや、そう考えられないでしょ。
とね。

あと……ハリーの名前が書かれた紙を開示して、ダンブルドアら教授達が見解を示せば、少なくとも四面楚歌にはならないと思うんですよね。

なんでしないんでしょうかね……。

まさか、状況を説明されての態度でしょうか?
それだったら擁護出来ないです……。

まあ、年相応な態度でもありますけどね。


感想、評価、お気に入り、誤字報告。
ありがとうございます。
そしてお待ちしております。


さて次回は
第一の課題
次回もお楽しみに





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死神、ノリが良くなる。第一の課題



恐怖に怯えるな

だが、恐怖を捨てるな

一息吐いて

距離を離して

冷静になるべし

さあ、作戦開始といこうか。









 

 

 

俺は、高みの見物と洒落込む予定だった。

 

誰が勝つとかは言わないが、既に勝利が確定した対抗試合を雀部やハリー達と一緒に見る予定だった。

 

ハリーが予期せぬ五人目として乱入した……というかさせられたので、助ける為に知恵を絞るなんて予定していなかった。

 

乱入を手助けしたとして、ギャーギャー言われるなんて予定していなかった。

 

とりあえずそのギャーギャー言ってきた馬鹿は処理(公開処刑)したが、それはあくまでも刀原に対する文句*1だったので、ハリーに対する冷たい視線は収まらなかった。

 

頭足りてなくね?

俺はそうため息を吐いた。

 

何よりも面倒なのがハリーとロンの不毛な冷戦だ。

 

ロンの気持ち(嫉妬)は解らなくもないが、かといってハリーに当たることは無いだろう。

 

ハリーにはそれが何よりも辛いらしい。

 

ドンマイ……。

 

俺は泣きそうになっているハリーにそう言った。

 

「同情するなら変わってくれ」

 

それに対し、ハリーは暗い顔でそう言った。

 

俺はどう言おうかと悩むまでもなく。

 

「魔法契約で無理」

 

そうバッサリと切り捨てた。

 

そしてハリーは絶望した顔になった。

 

 

 

 

ハリーにとっては最悪の月日になった。

少なくとも、俺はそう思っていた。

 

ロンとは冷戦状態に突入し、生徒たちからは睨まれたり笑われたり、こそこそ何かを言いながら後ろ指をさされる日々。

 

対抗試合で使用する杖を調べる『杖調べ』では何もなかったが、その前で起こったリータ・スキーターとかいうゴシップ記者には散々嫌な目にあったらしい。

 

さらに。

 

その数日後、発売された記事にはハリーに対するでっち上げ記事が掲載され、記事を読んだロンが愚かにもそれを信じた為、ハリーはうんざりしていた。

 

 

うんざりしているのはハーマイオニーもだった。

 

ハリーとロンの間に入っている影響で二人の仲を何とかしようとしていたのだが、全くと言っていいほど成果は無く、ピリピリし始めた。

 

「男ってのは意地を張りたがる生き物だからな……。こればっかりは諦めた方がいい」

 

そういった俺の言葉に、考え込むようなそぶりをした後。

 

「……そうね。そうかもしれないわね」

 

とハーマイオニーは言ったが、効果はなさげだった。

 

おまけに、例のゴシップ記事にはハーマイオニーも乗っており、彼女は好奇の目に晒されることになった。

 

なお、俺と雀部の名は載ってなかった。

 

ちっ、勘の鋭い奴だ。

 

載っており、かつ誹謗中傷の内容が書かれていた場合、行動を起こせたのに。

 

 

 

そんなこんなでピリピリうんざりし始めた英国の友人を他所に置き、俺と雀部はマホウトコロを始めとした他校の面々にホグワーツや各教授陣の紹介や、やたらと鍛錬…というかスパーリングに誘ってくる黒崎や阿散井を何とかするので精一杯だった。

 

何故、他校のエスコートを留学生の俺らがやらなくてはならないのか?

 

マホウトコロの面々は分かる。

 

でも、ボーバトンやダームストラングの面々は意味が分からない。

 

確かにフランス語やドイツ語は喋れる。

 

だがそれは他の生徒でも出来るはずだ。

 

え、ご指名?

 

何故?

 

代表生徒の子たちが、是非とも君たちをと言ってきたからじゃ、だって?

 

ふざけんな。

 

 

 

その後。

 

「校長先生達に一歩も引かず、堂々と意見を言えるだなんてすごいと思ったので。それと、私の魅了に何故か掛からなかったのも不思議です」

 

「実は、大広間で突っかかってきた生徒をコテンパンにしたのを見た。出来れば強い人から聞きたい」

 

さりげなく聞いた結果、帰ってきたのはこれだった。

 

 

 

ボーバトンのフラー・デラクール。

 

ダームストラングのビクトール・クラム。

 

両名とも確かに代表に足る実力を有していた。

 

雀部も「他の面々とは格が違いますね」と言っているし、実際にそうだろう。

 

それに、他校の面々と親しくなっていれば横のつながりも出来やすいか。

 

……仕方ねぇか。

 

だが、日番谷、黒崎、阿散井。

おめーらはダメだ。

 

ホグワーツで剣を交えたら見世物になるだけだ。

だから小声で「ちょっと体動かそうぜ!」って言うな。

 

我慢しろ。

 

ここどこだと思ってる。

 

マホウトコロじゃねぇんだぞ。

ホグワーツにいるんだぞ。

 

今、西洋魔法薬学の本場にいるん(スネイプの授業を見学中)だから。

 

日番谷、おめー代表だろうが。

ちゃんとしろ、ちゃんと。

 

「卍解の鍛錬してぇな……」とか言うんじゃない。

 

おめーら三人とも、はしゃぎすぎだ。

雛森や朽木、井上を見習え。

 

あいつらはちゃんと大人しくして……ねぇな。

 

ダメだ、こいつら完全に遠足気分じゃねえか。

 

藍染校長からもなんか言ってやってください。

 

あれ、藍染校長?

 

あ、スネイプとなんか難しい話してる……。

スネイプも授業半ば放棄してんじゃん。

 

あちゃ……あの人の知識欲、舐めてたわ。

 

ほら、さっさとこのバカども引率してください。

はいはい、資料なら後で俺がマダム・ピンスに言って借りてきますよ。

 

え?

 

後で図書室の場所教えて?

 

ダメです。

 

貴方絶対入り浸るでしょ。

 

そんなこと無い?

 

絶対そうなるでしょ。

 

何言おうとも絶対ダメです。

 

……しょんぼりしたってダメです。

 

 

 

 

 

「さてさて、何がいるんだ?」

 

「この気配……ディメンターではありませんね」

 

「お前ら、ここって立ち入り禁止の森の筈だろ?何でそんなに慣れてんだ?」

 

「「あはははは……」」

 

生徒達の話題は複数あったが、その中でもとびきりの話題があった。

 

第一の課題の内容についてだ。

 

『勇気を試す』……一体どうやって試すのか。

強制的に関係者となったハリーの悩みの種だった。

 

そんな中、刀原と雀部は禁じられた森内で異質な気配を察知しており、それがおそらく課題の内容だと思っていた。

 

そして日番谷もそれを察知しており、三人は仲良く調査と洒落込むことにしたのだった。

 

「しかし、本当に良いのでしょうか?これってカンニングに等しい行為ですが……」

 

「気にすんな雷華。諜報活動なんて、どうせ運営も織り込み済みだろ。戦いは情報が重要だって師匠達も言ってたろ?問題ねぇよ」

 

「確かに、過去にはしていたらしいからな。大丈夫だろ、むしろウェルカムだろ」

 

雀部は乗り気では無さそうだが、刀原と日番谷はノリノリであった。

 

そして乗り気では無さげな雀部も一応言っただけであり、実際にはノリノリであった。

 

本番を前に入念な準備をするのは当たり前、そして準備をするために情報を得ようとするのは当然である。

 

勝ち方を問うのは勝鬨を挙げた後で良い。

おのれ卑怯な!は所詮負け犬の遠吠え。

 

だったら勝つための努力は怠らない。

 

以上が三人の思考である。

 

「第一、諜報活動がダメなら最初に言う筈だ」

 

日番谷がそう言う。

 

実際には「まさかとは思うけど、言わなくても分かるよね……?」という、暗黙のルールであるからだ*2

 

「そうそう。それに、俺達はあくまでも『禁じられた森の内部に、異質な気配があるからそれを調査する』だけであって、別に『この気配は多分第一の課題の内容だから、ちょっと見に行って暴いてやろう』なんてつもり、さらさら無いからな」

 

刀原はそう言うが、詭弁である。

むしろ日番谷(代表選手)を連れている辺り、確信犯である。

 

「まあ、確かにそうですよね!」

 

雀部はそう言って遂に乗り気になる。

 

そしてストッパーの役割を果たす雛森と朽木、井上がこの場に不在の為、最大の抵抗勢力になる()()しれなかった雀部が乗り気になったことで、三人を止める存在は居なくなった。

 

三人の胸中には、久方ぶりに三人そろって行動出来ることへの喜びがあった。

 

かくしてマホウトコロのトップスリーは、気分上々で禁じられた森の内部に向かったのだった。

 

当然、見つかれば怒られる行為である。

 

 

 

「なんでいるんだ?ショウ、ライカ」

 

「あ、やべ」

 

禁じられた森の奥深くにて、三人と出会ったのはハグリッドだった。

 

「隣にいるのは誰だ?」

 

「ああ、こいつは日番谷冬獅郎。マホウトコロでの俺たちの親友で幼馴染だ」

 

ハグリッドと日番谷は会うのが初めてなので刀原がそう紹介する。

 

脇では小声で日番谷と雀部が「こいつがあの?」「ええ、そうです」というやり取りをしていた。

 

「もしかして、マホウトコロの代表か?」

 

「まあな」

 

ハグリッドの疑問に刀原がそう答えれば、ハグリッドは途端に眉をひそめる。

 

その表情からして、他の代表選手には見せたくないもの(第一の課題内容)があるのだろうと刀原は推察する。

 

「それで、なんでお前さんらここにいるんだ?」

 

「なんでって…そりゃあこの森に異質な気配を察知したからだ。もしヤバいものだったら大変だろ?その調査だよ」

 

刀原は兼ねてからの言い訳を言う。

 

それを聞いてハグリッドは「やっぱり、お前さんらは気づくか…」という。

 

「しょうがねえ、ここまで来たんならな。よっしゃ、一緒について来いや。実は、俺も見るのは初めてなんだ…きっと吃驚するぞ!」

 

そう言ったハグリッドはどこか興奮気味に三人の先頭を歩き始め、三人はそれに大人しくついていくことにしたのだった。

 

 

暫く歩くと、突然の咆哮が響く。

 

「まさかでしょうか?」

 

「まさかか?」

 

「まさかだろうな」

 

咆哮を聞きながら、三人はそう反応する。

 

そしてある程度広いスペースにあったものを見て納得する。

 

確かに勇気を試すには相応しい相手だと。

 

最も、付き合いが長いハグリッドがどこかで見たことのある興奮気味な時点で、刀原は何となく察していた。

 

三人の目の前にあったのは巨大な檻に入れられた魔法生物…ドラゴンだった。

 

これは……ハリーには難敵だ。

 

俺たちならまだ対処が出来る。

だが成体の、おそらくあの様子だと営巣中の母親ドラゴン相手だとハリーの手には大いに余るだろう。

 

刀原は腕を組みながらそう思っていた。

 

「これは、手が抜けねぇな…。だが仕留めるのはあまり好ましくねぇし…。さて、どうするか…手っ取り早く氷漬けか?」

 

刀原の横では日番谷がそう呟いていた。

 

「うーん…。縛道系の鬼道で捕縛するか…。あるいは麻痺させて弱らせるか…」

 

同じく横にいる雀部も、自分ならドラゴンをどうやって突破するかを考えていた。

 

そして、二人に釣られ刀原も考え始める。

 

やっぱり、王道は縛道で捕縛だな。

 

火炎放射の射程や威力は知らんが…『断空』で止められるだろうから問題ねぇな。

物理攻撃(爪や噛みつき攻撃)は斬魄刀でどうにか出来るだろうし。

 

縛道以外だと、どうやって仕留めずに済ませるかが問題となるが…まあ『唐竹割』や『海割』で脳震盪を起こせば失神させられるでしょ。

 

三人の思考には如何にドラゴンを出し抜くかではなく、如何に殺さずに済ませるかが焦点となっていた。

 

 

 

 

 

刀原、雀部、日番谷がドラゴンと遭遇した数日後、ハリーもドラゴンとの衝撃的な邂逅をしたらしい。

 

「ショウ!第一の課題がドラゴンを出し抜く内容だって、何で教えてくれなかったの !?」

 

ハグリッドとの深夜のお散歩を終えたハリーは、寮に戻ってきて早々、刀原にそう突っかかった。

 

「教えたところで現実は変わらんから、自分の目で見たほうが良いと思ったのでね」

 

刀原がそうケロッとした感じで言えば「確かにそうだけど……」とハリーは口詰まる。

 

「で、どうすんだハリー?ドラゴンとやり合う方法は思い付いたか?」

 

「無理だよ……ドラゴンとだなんて……」

 

刀原の言葉に、ハリーは力無く項垂れる。

 

「大丈夫。バジリスクよりかはマシだ」

 

刀原はそう言う*3が、ハリーの表情は青いままだ。

 

「あの時と違って、今回はショウが居ないじゃないか……。もうダメだ、おしまいだ。五分も持てば良いほうだ……」

 

ハリーは、まるでこの世の終わりのような感じでそう項垂れ、絶望していた。

 

「大丈夫。ドラゴンなんて一捻りだ」

 

「そうです!ケチョンケチョンにしちゃいましょう」

 

刀原と雀部はそう言って励まそうとするが、効果は全く無さげだった。

 

ハーマイオニーに至っては、いつもなら頼りになる二人がどこか妙なテンションな(頼りにならない)ので「……去年のような慎重さは何処に行ったのかしら?」と頭を抱えていた。

 

ちなみに何故かというと……。

 

去年通りであれば、ホグワーツ生として(ハリーの目線と斬魄刀抜き)の意見を言ったであろう二人だったが、マホウトコロの面々がいることでその意識が薄れており、斬魄刀ありきでの意見とノリになっていたのだ。

 

 

そして更に数日後。

 

「ショウ、引き寄せ呪文のコツってある?」

 

ハリーはどうやら、何とか自らが消し炭にならない方法を発見したようだった。

 

 

ハリーはフィクサー役となったらしいムーディの助言により、唯一の武器である杖を使って箒を引き寄せ、ドラゴンと空中戦をするという戦術を発案した。

 

そして、その戦術には『引き寄せ呪文』の習得が必然的に必須となり、四年生の授業内容ではあるが未だ習得していないハリーには時間の無さも相まって、猛練習をしなくてはならなかった。

 

「引き寄せ呪文のコツはやっぱイメージだと思うな……。引き寄せる、手元に必ず来るという強いイメージ。それを持つんだ」

 

空き教室にて、刀原はそうハリーに言った。

 

「分かってるんだけど……」

 

「いや、完全には分かっていないんだ。心の中で「僕にはどうせ無理」ってなってるんだ」

 

ハリーは自信無さげだった。

 

「……やってみるよ」

 

「ハリー?」

 

ハリーの半ば投げやりな言葉に、真顔で嗜める。

 

「やってみるじゃダメだ、やるんだ」

 

いいな?と続けた刀原にハリーは真剣な顔になった。

 

 

 

その後、ハリーは『引き寄せ呪文』を習得した。

 

 

 

「彼の仕上がりはどうだい?」

 

刀原は第一の課題が始めるの前日の夜、マホウトコロの列車を訪れていた。

 

藍染は探るように刀原にそう聞いた。

彼とは当然ながらハリーのことだ。

 

「まあまあ、といったところでしょうか。作戦も勝率の角度が高いものですし、派手さもありますからね」

 

「君がブレーンになってるんだ。間違いはないだろう?」

 

「いや、この作戦を考えたのは『闇の魔術に対する防衛術』のマッドアイ・ムーディ教授らしいです。どうやらハリーをこの他贔屓しているみたいですね」

 

刀原がハリーの影の参謀になっているムーディのことを明かせばその場にいる者全員が顔を顰める。

 

「おいおい、教授の助力はご法度だった筈だろ?ずるじゃねぇか?」

 

そう言った阿散井に、刀原は苦笑いする。

 

「まあ、そう言ってくれるな……。一応ハリーはまだ年若いし、未熟だ。それに、ダメな作戦なら不採用にするが、最適な作戦なら採用するのは当然の選択だろ?……最も『ムーディ教授が勝手に言った案を改良した』作戦だから、くだらん批判もそらせられる」

 

「確かにそうだが……それで納得出来るのは、ろくにいないのではないか?」

 

「苦しい言い訳なのは理解しているさ」

 

朽木の言葉に、刀原はしょうがないという顔でそう答える。

 

刀原としても批判の種になりうる行為(教授からの作戦提供)は避けたかったが……如何せんハリーが採れる(出来る)作戦の数が限られていたのだ。

 

何より、箒を引き寄せてからドラゴンとの空中戦は実に妙手だと思ったし、よくよく考えてみるとそれしかないのでは?とも思ったのだ。

 

その為、遺憾ながらも採用となったのだ。

 

「それにしても、ドラゴンと戦う課題なんて……みんなは余裕だと思うけど、他校の生徒達はどうするのかな?」

 

「我々とは違い、彼らは西洋魔法だけだからね。有効性が高いのは『結膜炎の呪い』とかかな」

 

井上が首を傾げながら言えば、藍染が答える。

 

「『結膜炎の呪い』ですか?」

 

「ああ、そうだよ井上君。ドラゴンの弱点は目だから、それが有効的な呪文となる」

 

「ですが藍染校長。『結膜炎の呪い』を使用するとドラゴンが暴れてしまいます。周囲への被害が甚大になってしまうのでは?」

 

鬼道や西洋魔法においては刀原と互角の腕と知識を持つ雛森が、考えられるデメリットを言う。

 

「素晴らしい、その通りだよ雛森君。課題の内容によってはそれがデメリットになってしまう。そこは臨機応変さが求められるという訳だ」

 

藍染とて、それは承知の上である。

 

「まあ、冬獅郎の戦法には絡まないだろ」

 

「そうだね」

「そうよね」

「そうだよな」

「そうだろうな」

 

黒崎の言葉にその場にいる全員が同意する。

 

正面からドラゴンと渡り合える日番谷が、そんなまどろっこしい戦法を採る筈がないからだ。

 

その後……。

 

「ポッターのやつに、こんがり美味しく頂かれねぇようになって言っとけ」

 

「おい、失礼だぞ恋次!将平、ポッターに励ましの言葉を伝えておいてくれ」

 

「応援してますと言っておいて下さいね」

 

「頑張ってねって伝えておいてね!」

 

「将平はポッターの奴だけ見てれば良いぜ。冬獅郎に心配は要らねぇだろうからな」

 

「お、おう。伝えておく」

 

どうやらこいつらは、勝ち確な(ほぼスリル無し)方より心配な(ハラハラする)方を応援するらしいな。

 

刀原はそんな仲間達に若干呆れながらも、自分も日番谷の心配は全くしてないということに気が付いたのだった。

 

 

 

 

 

来る十一月二十四日。

 

第一の課題を行う特設ステージでは、代表選手対ドラゴンの激戦が繰り広げられていた。

 

そして既にセドリック、クラム、フラーの出番は終了しており、残すは日番谷とハリーのみとなっている。

 

 

 

 

ちなみに終了した代表の作戦はというと……。

 

セドリックは岩を犬に変えて注意を引き付ける撹乱作戦を実行したが、顔に火傷を負ってしまった。

 

クラムは『結膜炎の呪い』を使用したが、懸念通りドラゴンが暴れて本物の卵を破損させてしまった。

 

フラーは魅惑呪文で陶酔させて眠らせるという作戦を行ったが、スカートに引火してしまった。

 

そして刀原はこの結果に対し『まあ、上出来な方じゃないか?』と判断していた。

 

ドラゴンを殺さずに無傷で完封出来るやつなど少なく、マホウトコロでも僅かだろう*4

 

そんなことを思っていた刀原の耳に、実況をしているルード・バグマンの声が響く。

 

「次に登場するのは、極東はマホウトコロのトーシロー・ヒツガヤ!ドラゴンは『シベリア・スノーホワイト種』!寒さに一段と強い種であるとのこと!」

 

バグマンの解説に思わずニヤリとする刀原と雀部に、隣にいるハーマイオニーは首を傾げながら「寒さに強いことが良いことなの?」と聞く。

 

「ああ、その方が楽だろうな」

 

「下手に弱いと死んじゃうかもしれませんからね」

 

二人にとってはむしろ好都合らしい。

 

「心配じゃないのか?彼は向こう(日本)での友人だろう?」

 

何故かいるマルフォイが二人に言う。

 

「全く心配していない」

 

「むしろドラゴンが心配です」

 

二人はケロッとしながらそう言った。

 

そんな二人を見て、引きつった顔をするマルフォイとハーマイオニー。

 

そんなことをしている間に準備は終わった。

 

 

 

日番谷が颯爽とフィールドに姿を現した。

 

まさに余裕綽々といった感じで、そこには恐怖も緊張も無さげだった*5

 

「さてさて、お手並み拝見といくか……。お前ならどうやる?見せてくれ冬獅郎」

 

刀原は腕を組ながらそう言った*6

 

開始の合図もそこそこにドラゴンが火を吹く。

 

が、日番谷がそれを食らう筈もなく『双蓮蒼火墜』で相殺する。

 

巻き起こる爆風と爆音。

響く歓声。

 

「さっさと決めるか」

 

そう言ったのを聞き取れたのは数人だろう。

 

霜天(そうてん)()せ『氷輪丸』」

 

日番谷が解放する共に、柄尻に鎖で繋がれた龍の尾のような三日月形の刃物が付く。

 

そして空は途端に曇りとなる。

 

天相従臨(てんそうじゅうりん)という天候を支配する能力だ。

 

雀部の『雷霆』も実は可能なのだが、初使用*7は最初から雨雲があったし、二回目は手加減して解放した。

 

その為、こうしてあからさまに曇天に覆われるのは初めて見るだろう。

 

何も知らない面々は驚愕の顔をしていた。

ハーマイオニーとマルフォイもそうだった。

中には腰を抜かしている者もちらほらいた。

 

解説のバグマンは興奮しまくっていた。

 

日番谷はそれらを意に返さず、ただ慎重に斬魄刀をドラゴンに向けた。

 

そして、刀を切り上げた。

 

疾る氷。

だが、本気ではない。

 

何度も共に鍛練し、斬魄刀を交わしてきた刀原や雀部は容易に分かった。

 

それでもドラゴンを凍らせるには十分だった。

 

ドラゴンが完全に沈黙したことを確認した日番谷だが、始解は解かないままゆっくりとドラゴンの元にある金色の卵に向かって歩き、確保した。

 

そしてようやく始解を解き斬魄刀を鞘に収めれば、途端に氷は砕かれ、沈黙したドラゴンが出てくる。

 

日番谷はそんなドラゴンに歩み寄り、顔を擦る。

 

どうやらドラゴンは無事らしく、日番谷はそれを確認した後に悠々とフィールドを後にした。

 

審査員の得点はカルカロフを除いて全員高く、当然ながら一位となる。

 

しかし、会場には余りにも凄まじい光景に、何も言えなくなった観客の沈黙が流れていた。

 

「圧倒的……だったな……」

 

マルフォイが呆然としながらそう言う。

 

「ショウやライカみたいに……別次元ね……」

 

ハーマイオニーもそう言った。

 

「手加減してましたね」

 

「まあ、そりゃあそうだろう(死んじゃうから)な」

 

刀原と雀部が平然とそう言う。

 

!?(あれで!?)

 

それを聞いたマルフォイとハーマイオニーは、本日二度目の驚愕の顔をした。

 

 

 

 

 

日番谷の競技が終わり、後はハリーだけとなった。

 

「なんか、緊張しますね……」

 

そう言うのは雀部。

 

「大丈夫かしらハリー……」

 

雀部の左隣でそう言うのはハーマイオニー。

 

「ポッターなら大丈夫だろう。…………多分」

 

雀部の右隣に座っている刀原の隣でそう言うのは、何故か平然と座っているマルフォイ(ハリーのライバル)

 

四人は遂にやって来たハリーの出番(晴れ舞台)*8を前に、我らが哀れな勇者(ハリー)の登場を待っていた。

 

そしてハリーは、後は胃をひっくり返したかのような感覚に陥っていた。

 

日番谷がドラゴンを圧倒した為、最後となったハリーの緊張はとんでもないものになっているだろうと刀原は思っていたが、その通りだった。

 

鱗に覆われた黒いトカゲのような怪物……ハリーが相手する『ハンガリー・ホーンテール』は、棘だらけの尻尾を地面に打ち付けていた。

 

「ハリー……お前ならやれる。落ち着いていけ」

 

顔面蒼白に成りながらも、冷静さを失わず*9に開始早々『引き寄せ呪文』を使ったハリーを見ながら刀原はそう言っていた。

 

僅かなタイムラグ。

 

そして聞こえてきたビューという音。

 

「……来た」

 

刀原はそう呟く。

 

そしてファイアボルトがやってきた音はハリーにも聞こえたらしく、彼が振り返えると成功した証拠……『ファイアボルト(ハリーの愛箒)』が飛んでくるのが見えてきた。

 

そして忠実に主人の近くで止まったファイアボルトに跨がり、ハリーは一気に急上昇する。

 

更に沸き上がる歓声。

 

その瞬間、刀原は見た。

 

ハリーが恐怖から離れたのを。

 

 

 

そこからのハリーは、まるでクィディッチの試合中かのような飛びっぷりを見せた。

 

急降下し、翻弄し、動きを読んで火炎放射を避け、隙を伺い、チャンスを探った。

 

そして焦れったくなったドラゴンが、上空にいるハリーを捕まえるべく後脚で立った。

 

「そこだ!」

 

「今です!」

 

そう思わず叫んだ刀原と雀部と同様、ハリーはその決定的なチャンスを逃さなかった。

 

全速力で突っ込んでがら空きになった金の卵を掴み取り、再び空高く舞い上がった。

 

ハリーは見事に課題をクリアしたのだった。

 

 

 

 

刀原と雀部、ハーマイオニーはすぐさま選手控え室があるテントに急行した。

 

後ろにはロンも着いてきていた。

 

「ハリー!貴方、素晴らしかったわ!」

 

「よく頑張りましたね!凄かったですよ!」

 

ハーマイオニーと雀部はそう賛辞を送ったが、ハリーはロンの方を見ていた。

 

「ハリー……君の名前をゴブレットに入れた奴が誰だったにしろ……僕、そいつが君を殺そうとしてるんだと思う」

 

ロンは深刻な口調で言った。

 

「気が付いたって訳?随分長いこと掛かったな」

 

ハリーはそう冷たく言う。

ハーマイオニーは心配そうにそんな二人の間に入る。

 

ほんの僅かな時間が流れる。

 

「いいんだ。気にするな」

 

何か(謝罪)を言おうとしたロンに先んじてハリーがそう言った。

 

「いや、僕、もっと早く、」

 

それでもロンは言おうとする。

 

「気にするなって」

 

それを遮りハリーがそう言う。

 

言葉が終わりロンがおずおずと笑いかければ、ハリーも笑い返した。

 

「二人とも、ほんとに大バカなんだから!」

 

ハーマイオニーはワッと泣き出した。

 

ハリーもロンもおろおろする。

 

「クックック、確かにそうだな?ハリー、ロン。二人ともハーマイオニーに散々、迷惑かけたからな」

 

刀原はそんな三人を見て笑う。

 

「確かにそうですね。二人とも、ハーマイオニーに謝罪を」

 

雀部がハーマイオニーの前に腕組みしながらそう言えば「「ごめん、ハーマイオニー」」と二人は謝った。

 

「許しますとも」

 

ハーマイオニーは泣きながらも言う。

 

「はい、じゃあ、解決!」

 

それを確認した刀原がニコッと笑い、手をパンッと叩きながらそう言った。

 

こうして、再び仲良し五人組に戻ったのだった。

 

 

 

 

第一の課題はこれにて終了となった。

 

次の課題は二月二十四日。

 

ヒントは卵の中にあるとのこと。

 

しかし早速卵を開けたが、開けた途端に世にも恐ろしい大きなキーキー声の咽び泣くような音が響いただけだった。

 

なんだこりゃ?

 

刀原は耳を塞ぎながら、首を傾げた。

 

 

 

 

 

 

*1
というかいちゃもん

*2
ちなみに言われてるのがこれらである。

 

「どのような形であれ、先生方からの援助を頼むことも受けることも許されない」

「選手は杖、あるいは斬魄刀を武器として携帯を許される」

 

つまり簡単にまとめると…。

 

『教職員からの協力の禁止』

『杖、斬魄刀以外の武器の使用禁止』

 

である。

 

つまり、今まさに刀原たちが行っていること…。

 

『スパイ活動、および課題内容の情報収集、諜報活動』

『生徒間での協力』

『他校間での課題内容についての討論、及び合同作戦会議と調査』

 

は禁止事項では無いのだ。

 

最も、代表選手本人がそれをする可能性は『生徒間での協力』を除いて少ない。

卑怯だと考えるだろうからだ。

 

だが、それに当てはまらない者もいる。

 

*3
なお、心の中ではサムズアップしている

*4
刀原、日番谷、雀部、雛森が主に挙げられる。

 

阿散井は鬼道が苦手の為、斬魄刀を使う他無いのだが、彼の『蛇尾丸』では制圧が厳しいだろう。

黒崎も同じ理由で厳しい。

井上は西洋魔法に特化しているため難しい。

留守番している吉良の『侘助』ならその能力から可能かもしれない。

 

といった感じだ。

*5
なお、何故か野次が飛んだ。

その内容は……。

 

「殺すなよ!手加減しろよ!」

 

「行け!やっちまえドラゴン!お前なら出来る!」

 

「あまり本気を出すでない!」

 

である。

 

当然ながら日本語だ。

 

*6
ちなみに刀原の戦法はというと……。

 

ドラゴンが疲れるまでブレスを吐かせ、自身は『断空』でひたすら耐久する。

 ↓

ドラゴンのブレスが途切れた瞬間、瞬歩で一気に接近し、『双骨』を叩き込む。

 ↓

それだけではどうせダメなので、縛道の『六杖光牢』『百歩欄干』『鎖条鎖縛』による三連コンボに『倒山晶』『五柱鉄貫』を間髪入れずに打ち込む。

 ↓

作戦終了

 

といった感じだ。

 

なお、雛森の作戦は『双骨』の代わりに『双蓮蒼火墜』を叩き込むこと以外同じであるらしい。

 

*7
ハリーがディメンターによって落っこちた時

*8
なお、ハリーについて絶賛ネガティブキャンペーン中のスリザリンは『公開処刑』『生け贄』『餌』などと叫んでいた。

*9
『冷静さを失わないこと』

ハリーが最も意識するのはその一点にある……

 

刀原はこれをハリーに言い聞かせていた。






見たもの
聞いたもの

それが真実だなんて

誰が決めたんだい?



大変お待たせ致しました。



BLEACHメンバーは殺傷力高い連中ですから……。
さすがに……殺しちゃ駄目だよね……。


映画ではドラゴンとのドッグファイトをしていたハリーですが、小説ではそんなことしてません。
結構地味です。

映画版を文字で表すのは正直に言って手間だったので、小説版を採用しました。

あと、映画版観客サイドで見ると何が起こってるのか分からないんですよね。



感想、評価、お気に入り。
ありがとうございます。
そしてお待ちしております。


さて次回は

クリスマスパーティー

次回もお楽しみに。





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死神、自覚する。パーティーとパートナー 前編



いま
一世一代の

大勝負をする

Shall we dance

Are you ready?





 

 

第一の課題で手に入れた金の卵は、第二の課題のヒントになっているらしい。

 

それを聞いたハリー達は、宴会が行われているグリフィンドール寮内で意気揚々と卵を開け、後悔した。

 

聞こえてきたのは絶叫。

 

大絶叫だった。

 

ヒントも糞もない、なんだこれ?

 

「まあ、一筋縄じゃあ行かねぇよな……」

 

刀原はそう言った。

 

「一筋縄どころではないですけどね……」

 

雀部は半ば呆れながらそう言った。

 

これも課題の一環なのだ。

ならば、頭を捻るしかない。

 

だがとりあえず、一先ずは。

この宴会(馬鹿騒ぎ)を楽しもう。

 

二人はその考えで一致し、宴会に戻った。

 

 

 

 

 

「此方に注目なさい!」

 

『変身術』のクラスにて、マクゴナガルの半ばイライラした声が教室中に響く。

 

何かしらの話をしようとしていたらハリーとロンが『だまし杖』という双子が発明したグッズを使ってちゃんばらをしていたからだ。

 

「全く、ポッターもウィーズリーも、歳相応な振る舞いをしていただきたいものです」

 

マクゴナガルは二人を睨みながら言う。

 

「全くね」

 

「そうだな」

 

「その通りです」

 

ハーマイオニー、刀原、雀部がうんうんと頷きながら言えば、何人かがクスクスと笑った。

 

「さて、皆さんにお話があります」

 

二人を叱ったマクゴナガルが真面目な感じで言う。

 

「クリスマス・パーティーが近づいてきました。魔法学校対抗試合(ウィザード・トーナメント)の伝統でもあり、外国からやって来るお客様と知り合う機会でもあります。そしてパーティーには必ずダンスパートナーを見つけ、連れて行くことになります。つまり、他校の方々をパートナーにしても良いということです」

 

刀原はこれを聞いて苦笑いをした。

 

あいつら(マホウトコロ)の面々が他校の面々とパートナーを組むとは思えないからだ。

 

しかし見た目も良いメンバーなので、引く手あまただろうなとも思っていた。

 

「パーティーにはドレスローブを着用すること」

 

マクゴナガルのこの一言で、ハリーやロンの顔は「あ、あれか!」といった感じになった。

 

「ダンスパーティーは大広間にて、クリスマスの夜八時に始まり、夜中の十二時には終わります。つまり……クリスマスのダンスパーティーは私たちにとっては……羽目を外すチャンスだということになります」

 

マクゴナガルは渋々認めるといった声でそう言った。

 

「しかし、だからといって……決して、羽目を外しすぎて良い訳ではありません。グリフィンドール生がどんな形にしろ、学校に屈辱を与えるようなことがあれば……私としては大変遺憾に思います」

 

 

ハンガリー・ホーンテールと戦うのと女の子をダンスパーティーに誘うのとどちらがいいかと言われら、前者だとハリーは言った。

 

クリスマスにホグワーツに残留する生徒のリストには、ダンスパーティーに参加出来る四年生以上の生徒全員の名前が載っていた。

 

「どうして女子たちって、塊って動かなきゃいけないんだ?」

 

廊下で通り過ぎる女子集団を見ながら、ロンはハリーと刀原にそう言った。

 

「さあな」

 

刀原はそう言えばそうだなと思いながらそう言った。

女子が集団を組むのは日本も同じなのだ。

 

「いいよな、君たちは苦労しないで……」

 

ハリーと刀原の方を見てロンが言う。

 

「ハリーは代表選手だろ?ハンガリー・ホーンテールもやっつけたばっかりだ。みんな君の前に行列を作って行きたがるよ」

 

ロンが首を竦めながらそう言う。

 

「まあ、ハリーはそうだろうが……俺もか?」

 

刀原がそう言えば、ロンは溜息を吐く。

 

「君もある意味特別な存在だからね?ショウは全生徒中ホグワーツ最強って陰で言われてること、気が付いてないのかい?」

 

そんなロンの言葉に、刀原は口をあんぐりさせながら「初耳なんだが……」と言う。

 

「実力を持っている、容姿も良い。だからワンチャンを狙ってくる女子も多いんじゃないか?ダメ元でって奴さ」

 

「んな馬鹿な」

 

半ば呆れたようにそう言ったロンに、それはあり得ないと刀原は一蹴する。

 

「まあ、確かにショウにはもうパートナーがいるもんね」

 

ハリーは羨ましそうに言う。

 

「さあてな?」

 

パートナーというか相棒というか……。

まあ、誘う相手はもう決めているしな。

 

しかし、容姿が良いって……。

あいつら(マホウトコロメンバー)じゃあるまいし……。

 

刀原はそんな風に考えていた。

 

だが。

 

 

「一応聞くのだけど……パートナーはもう決まったのかしら?」

 

「?いえ未だですが?」

 

「!?え、本当?じゃあ、もしよければ私とどう?」

 

「あー」

 

 

「あの、えっと、パートナーはもういますか?」

 

「まだだけど……」

 

「えっ、そうなんですか?じゃ、じゃあ…私とパートナーになって頂けませんか?」

 

「あー」

 

 

マジか、本当にあったよ、信じらんねぇ。

 

刀原はそんな思考だった。

 

まず声をかけられたのが、六年生の女子*1、次が三年生の子だった。

 

他にも二名ほど。

 

「いえ、すみません。申し訳ありませんがお断りさせて頂きます」

 

刀原がそう断れば、全員が「あ、やっぱりそうよね……。ありがとう、聞いてくれただけでも嬉しかった」と言って立ち去っていくのだ。

 

なんで相手は納得して立ち去るんだ?

 

刀原には疑問()しか浮かばなかった。

 

そしてそれをホグワーツやマホウトコロの男子陣に言ったところ……。

 

「何言ってんだお前?」

 

全員がそんな顔をした。

 

何故だ。

 

 

 

 

 

「誘ってくれるでしょうか?」

 

「大丈夫よ、きっと」

 

そう言うのは雀部とハーマイオニー。

 

常に共に居て、共に行動する人。

 

今回のダンスパートナーに真っ先に誘ってくれると思いきや、そんなことは無く……。

 

案の定、他の女子達に誘われている始末。

 

まあ、断っているのが幸いか。

 

「とりあえず、諦めるには早いわ」

 

「そうですね。待ってみます」

 

雀部はそう言ってハーマイオニーと別れた。

 

そして数分後。

 

「ちょっといいかい?」

 

雀部は知らない男子生徒から、また声をかけられた。

 

 

 

その頃。

 

「…何を緊張することがある」

 

刀原は緊張気味にそう言っていた。

 

刀原としては早めに目的の人……相棒といつも通り一緒に行動し、いつもの会話の様に誘うつもりだった。

 

だが、何故か切り出すことが出来ず……こうしてずるずると時が過ぎてしまったのだ。

 

「……よし。覚悟を決めるんだ」

 

刀原はそう決意し、相棒の元に向かうが……。

 

「すまないハーマイオニー、雷華にちょっと個別の用があるんだ。……あー、内密の用なんだが……雷華は?」

 

「ごめんなさい。さっき別れてしまったのよ」

 

なんと居なかった。

 

「分かった。ありがとうハーマイオニー」

 

刀原は一瞬面食らうが、直ぐに感謝を伝える。

 

そして霊圧感知で場所を探り、相棒の元に向かった。

 

 

 

 

「僕とダンスパーティーに来てくれないか?」

 

雀部は数えるのも飽きた、お誘いを受けていた。

 

「申し訳ありませんが、お断りさせていただきます。待っている人がいますので」

 

幾度となく言ってきた決まり文句(断りの言葉)を言う。

 

ダメ元でやって来たホグワーツ生や、自信満々で来たダームストラングの生徒……。

一度断れば全員*2が諦めた。

 

だが、この生徒は諦めないらしい。

 

「そう、か……そうだよな。でもさ、君が」

 

しつこい。

 

雀部がそう思った瞬間。

 

【雷華!】

 

最も聞き慣れた日本語で、聞きたかった人の声が聞こえた。

 

パッと振り向く。

 

そこには待ち焦がれた人がいた。

 

【しょう君!】

 

 

雀部が見知らぬ男子に声を掛けられているの見て、刀原は不快になる。

 

気に入らねぇな……。

 

雀部の方も、不快になっている様に見える。

 

【雷華!】

 

【しょう君!】

 

刀原がそう呼び掛ければ、雀部が笑顔になりながら刀原の方にパッと振り向く。

 

【知り合いか?】

 

念のため、刀原はそう聞く。

 

【いいえ、違います。何でも、私と共にダンスパーティーに行きたいとのことで】

 

雀部はそんな問いにあっけらかんと答える。

 

【まあ、もう断りましたが】

 

【……良かった】

 

そして既に断ったことを伝えれば、刀原は小声で安堵の言葉を伝える。

 

「さて、再度お伝えします。申し訳ありませんが、お断りさせていただきます」

 

雀部はペコリと頭を下げながら言う。

 

先ほどから蚊帳の外になっていた男子生徒は、青い顔になっていた。

 

「すいませんでした」

 

そしてその一言と共に生徒は頭を九十度下げ、逃げるように立ち去って行った。

 

 

【さて、改めて言うぞ雷華】

 

【はい】

 

刀原が真剣な顔で言えば、雀部も真剣な顔で答える。

 

【俺と共にクリスマスのダンスパーティーに来てくれないか?無論、パートナーとして】

 

刀原はフーっと息を吐いた後、ゆっくりと言う。

 

【もちろん、喜んでお受けいたします。よろしくお願いしますね、しょう君?】

 

雀部はその誘いにニッコリと笑いながら受ける。

 

【こちらこそだ、雷華】

 

刀原はそう言いながら、安堵したのだった。

 

 

 

 

 

他校の客人が来ている中、ごく普通の飾りつけでは沽券に関わるとホグワーツの飾りつけ担当は考えたらしい。

 

かくしてホグワーツはクリスマスに向け、最高に素晴らしい飾りつけが成されていった。

 

大理石の階段の手摺には氷柱が下がっており、十二本のクリスマスツリーの飾りには赤く輝く柊の実や、ホーホー鳴く金色のフクロウまで盛り沢山だった。

 

そんな中、ハリーとロンは談話室で深刻な顔をしていた。

 

「我々は、歯を食いしばってやらねばならぬ」

 

ロンは、今から砦に攻め込む計画を練っているかのような顔で言った。

 

刀原が重爺みたいに言うな……と呑気に思っている中、ハリーはうんと頷く。

 

「今夜、この談話室に戻るときには二人ともパートナーを獲得している……いいか?」

 

「オッケー」

 

ロンの言葉にハリーは頷きながら言う。

 

「オッケーとは言うが、なにか当てでもあるのか?」

 

刀原はそうハリーとロンにそう聞く。

するとロンはサッと顔を背け、ハリーは顔を複雑な色にした。

 

「なんか情報ないの?誰が誰と行くとかさ」

 

ロンは背けた顔を戻して聞く。

 

刀原は「うーん……(言っていいのかな?)」と唸った。

 

「とりあえず、俺は決まった」

 

「知ってる」

 

「相手もね」

 

自身を指さすと二人は頷く。

刀原が雀部とペアになった事は、当人たちが公表していないにも関わらず、周知の事実になっていた。

 

ここ最近、何処となく不機嫌だった雀部に笑顔*3が戻っているのが動かぬ証拠らしい。

 

「あと、マホウトコロの連中は当の昔に決まってる」

 

マホウトコロの連中には、この場が国際交流の場であることなどお構いなし。

彼らは身内同士でペアを組んだのだ。

 

つまんねー奴らだな。

 

刀原は一瞬そう思ったが……。

自身とてそうなのだから*4口には出せなかった。

 

「ハーマイオニーは?」

 

「さぁ?分からん、情報は無いな。だが相手はいるみたいだぞ?ライカがそう言ってた」

 

ロンの問いに刀原がそう答えれば、二人は「嘘だ…」といった顔になる。

 

常に一緒に居るから気付かないってやつか。

 

刀原は半ば呆れる。

 

「他は?例えば代表選手とか…」

 

「そうだな……最近、あんまり情報収集して無かったから……フラーは確かロジャー・ナントカって奴だった筈だ。本人から聞いた」

 

「フラー?」

 

ロンは刀原のフラーに対する呼び方に疑問を持った。

 

刀原は名前呼びの文化に未だ順応しておらず、友人以外は全員苗字呼びの筈なのだ。

 

「ああ。ほら、俺ってホグワーツの案内役だろ?そん時に本人から「デラクール呼びじゃ嫌だ」って言われてな……ライカと一緒にフラー呼びになった。同じ理由でクラムもそう呼んでる……ちなみにクラムの相手はホグワーツ生らしい、詳細は不明だがな」

 

刀原がそう言えば二人は、驚愕を露わにする。

 

特にロンは口をカクーンと開けたまま動かなくなった。

 

「あと、セドリックは誰だっけ…これも本人から聞いたんだが……確か、レイブンクローのチョウ・チャンだ。クィディッチ選手の。ハリーは良く知ってるだろ?セドリックとは同じポジション同士で良い……」

 

刀原はここまで言って気が付いた。

 

ハリーもロンと同じ顔になっていることに。

 

あ、やっべ。

 

刀原は「んじゃ、健闘を祈る」と言って立ち去った(逃げた)

 

残った二人……特にハリーは呆然としたまましばらく動かなかった。

 

その後……なんとか持ち直したハリーは、再び刀原と雀部に情報を貰い……刀原達が裏で手を回していたジニーと*5一緒に行くことになった。

 

そしてロンはパーバティと一緒に行くことになった。

 

 

無事パートナーを見つけたハリーには、懸念がいくつもあった。

 

まず初めに、直近の問題としてダンス。

 

ハリーはダンスが出来なかったのだ。

刀原も見てみたが、かなりギクシャクしていた。

 

「ハリーは一応代表選手なんだし……それに、折角パートナーになってもらったジニーに恥を搔かせられないよな?まあ、頑張れ」

 

刀原は呑気に言えばハリーはブスッとする。

 

「ならショウは出来るの?」

 

「ふ、出来なかったらこうして、呑気にクッキー食べてると思うか?」

 

ハリーの言葉に刀原は勝ち誇ったかのように言う。

 

刀原は夏休み期間中、休みの合間を縫っては雀部と練習していたのだ。

講師役には雀部長次郎がいた為、練度に関しても文句は付けられない。

 

対策はバッチリというやつだ。

 

そもそも……五歳の頃からほぼ毎日一緒に居た雀部とは、息ピッタリなのだ。

 

苦戦はあり得なかった。

 

「せっかく雀部が練習相手になってくれてるんだ。とりあえず練習あるのみ、頑張れ」

 

「そうです。頑張りましょう!」

 

刀原と雀部はそう言うが……残念ながらハリーのギクシャク感は本番当日まで抜けなかった。

 

 

次に、第二の課題に対する対策だ。

 

第一の課題がドラゴンだったことからも分かる通り、やはり対策をしてないとマズイ事態になるのは確定だ。

 

刀原、雀部、ハーマイオニーからなる対策陣は、ハリーに対し「二月二十四日まで“約二か月しかない”のだから、金の卵の解明を急ぐべき」と再三言っているのだが……。

 

当の本人は“まだ約二か月もある”としているのだ*6

 

シリウスから第一の課題について祝福と、警戒を怠るなという内容の手紙にも「あーはいはい」という感じだった。

 

「とりあえず……年明けから本格的に動けば、間に合うだろう……」

 

刀原は雀部とハーマイオニーと共に溜息を吐きながらそう言った。

 

 

 

 

 

クリスマス当日。

 

どうにかしてくれと頼まれたロンのドレスローブのひらひら(レース)を容赦なくぶった切る、といったことが途中ありながらも、俺は一時間前には用意をし始めた。

 

俺は下にはスーツを着こなし、上には黒く大きめの羽織をマントの様に羽織っていた。

 

羽織は夜姉が、スーツは京楽兄がねだっても無いのに用意してくれた一品であり、特に羽織は金色の刺繍が淵を囲んでいる物で……値段の想像が出来なかった。

 

そして普段は手に持っている斬魄刀も腰に差し、鏡の前に行く。

 

くるっと回る。

 

ネクタイ良し、ベスト良し、雀部副隊長から貰った懐中時計も良し。

 

羽織るならジャケットは着ない方が良いって京楽兄が言ってたな。

 

……個人的には、和装にしたかったが。

 

「雷華ちゃんはドレスなんでしょ?だったら将平君も洋装にしなくちゃね。よし!僕が見繕ってあげるよ」

 

なんて言われたら断れないし、確かにそうだった。

 

……駄目だな、バジリスクの時より緊張する。

 

「ショウ!君、バッチリ似合ってるよ!」

 

「おう、ありがとう。ハリーも決まってるな」

 

ハリーの褒めに俺はそう返し、一足先に談話室へと向かった。

 

 

談話室はいつものような黒いローブでは無く、色とりどりのドレスなどで溢れ返っていた。

 

雷華は、まだの様だな。

 

そう思っていると、雷華がゆっくりと女子部屋の階段から降りてくる。

 

白を基調としながら中心には黒地に金の刺繍があり、裏地は青色のドレス。

 

綺麗だ……。

 

少し……何というか、圧倒される。

 

(うっす)らとメイクもしているが……それはさり気無いものであり、それにより普段の可憐さがより際立っているように見える。

 

「待たせてしまいましたか?」

 

「いや、今来たばかりだよ雷華」

 

では行こうか?

 

そう言った俺の声は震えていなかっただろうか?

 

そう思いながら、エスコートのために腕を出す。

 

雷華は嬉しそうにその腕に捕まり、俺たちはゆっくりと大広間に向かった。

 

 

 

 

 

 

*1
今は四年生だが、刀原の本当の学年は七年生なので結局のところは年下だが

*2
特にホグワーツ生

*3
しかもとびきりの笑顔

*4
どんな戦果をホグワーツで挙げようとも刀原は留学生であり、立場上はマホウトコロの生徒なのだ。

だからホグワーツ生(立場的には他校生)と組めばまだ言い訳出来たが……組んだ相手はマホウトコロのメンバー、つまりは身内である。

もっとも、組んだ相手以外の相手など全く考えてなかったし考えられなかったが。

*5
刀原達……というか雀部とハーマイオニーは、前々からジニーがハリーを好いていることを把握していた。

そこでハリーが打つ手が無くなる(パートナー不在)ことを予期し、姉御肌を見せた二人がジニーを説得し、彼女は声を掛けられるのを待っていたのだ。

 

なお……これで困ったのが、ネビルである。

彼はハーマイオニーに断られたあと、ジニーに声を掛けたのだ。

 

最後の望みとして。

 

刀原達はジニーから推薦を貰い、ネビルは彼女の友人でもあるレイブンクローのルーナという少女と共に行くことになったのだった。

 

*6
まあ、目の前の課題(ダンス)で手一杯ということもあるだろうが






雷華のドレス衣装は、容姿のモデルとなっているアルトリア・キャスターの第三再臨の衣装を想像していただければと思います。


一つにまとめると一万二千文字になるため、前編と後編に分けました。

後編は来週になります。
お楽しみに。


感想、評価、お気に入り。
ありがとうございます。
そしてお待ちしております。


さて次回は

クリスマスパーティー 後編

次回もお楽しみに。




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死神、自覚する。パーティーとパートナー 後編


誓わせてくれ

貴女に

誓わせてください

貴方に

この想いと共に。




 

 

大広間に行くまでに何人の人から見られただろうか?

 

俺に対する視線と雷華に対する視線は三:七ぐらいの割合だったが、それでも大半の生徒達の視線を総なめにしたんじゃないかと思う。

 

というか、雷華が凄く綺麗なのだ。

 

常に一緒に居た俺がこうなのだから、他の奴の驚き様はもっと凄いだろう。

 

いかん、こんな感じでは失態をしてしまう。

気をしっかり持て、緊張しすぎだ。

 

俺は息を少しだけ吸い、吐く。

 

「どうかしましたか?」

 

雷華が普段の様に聞いてくる。

 

「いやな、雷華があまりにも綺麗なんでね……」

 

俺がぽろっとそう言えば雷華は少し赤くなる。

 

「……ありがとうございます。でも、しょう君だって凄くカッコいいです!」

 

雷華の評価に、俺は「お互いにな」と答える。

 

「しかし、どうも不思議な感じだ。緊張かね……バジリスク戦の時だってこんなことは無かった」

 

「全くです。ここまで来るのにとんでもない数の視線がありましたし……」

 

俺たちがそう言っていると、大広間前のホールにも続々と人がやって来る。

 

そして驚いた。

 

代表選手で唯一情報が無かったクラムの相手が、なんとハーマイオニーだったからだ。

 

よくボサボサ気味の髪は滑らかになっており、頭の後ろでシニョンにしている。

 

雷華も気が付いたらしい。

 

「ハーマイオニーですよね ⁉ すっごく綺麗です!」

 

と言っていた。

 

「こんばんはショウ、ライカ!貴方達凄くお似合いよ!ショウ格好いいし、ライカはお姫様みたい!」

 

ハーマイオニーはキラキラな笑顔で言う。

 

「こんばんは、ハーマイオニー。一瞬、誰だか分からなかった……。驚いたよ」

 

「ハーマイオニー、すっごく綺麗です!秘密の理由が分かりましたよ、確かに秘密にしたい相手ですね」

 

俺たちがそう言えばハーマイオニーは嬉しそうに「ありがとう!」と言う。

 

[やあ、ショウ。凄く凛々しいな。隣のライカが姫なら、君はそれを守る騎士みたいだ]

 

クラムがハーマイオニーの会話の相手が俺たちだと気が付いたらしく、そう話しかけてくる。

 

[クラムか、そう言う君こそ騎士にふさわしいがな。お互いに姫を守るとしよう]

 

[ああ、そうだな]

 

俺たちがそう言っている中、言葉が分からない二人()は首を傾げる。

 

「あ、もうそろそろ行かないと。それじゃあ良いクリスマスを!特にライカ!」

 

「はい!そちらこそ!」

 

[ではなクラム。心配はしてないがちゃんとエスコートしろよ?]

 

[ありがとう。そちらも]

 

そう言って二人は先に大広間に向かった。

 

 

 

クラムとハーマイオニーとの会話が終わったら次はフラーがやって来る。

 

〔ショウ、ライカ、こんばんは!綺麗ね貴方達〕

 

〔フラー。そちらもな〕

 

〔こんばんはフラー!ありがとうございます。フラーも綺麗ですよ!〕*1

 

〔ふふ、ありがとう〕

 

〔それにしてもいいのか?パートナーのロジャー・ナントカを放置して〕

 

俺はフラーのパートナーになったという、ロジャーとやらをチラッと見る。

 

〔別に良いわ。彼はこの中じゃ一部例外を除いて一番マシだったから受けただけよ〕

 

フラーはやれやれといった感じだ。

 

〔マシって……〕

 

〔ちなみに例外とは?〕

 

雷華が半ば呆れたように言い、俺はフラーが言う例外が気になった。

 

〔ショウ、貴方とマホウトコロのヒツガヤよ〕

 

〔は?俺?〕

 

フラーは溜息をつきながら俺を指さす。

 

かくいう俺はその答えを全く予想しておらず、面食らう。

 

〔ライカ、大変ね貴方〕

 

フラーは雷華に同情するといった顔で言う。

それに雷華は少し苦笑いした。

 

 

 

【よう、お前ら】

 

【こんばんは、お二人とも】

 

フラーが離れた後は日番谷と雛森がやって来る。

 

日番谷は白を基調としたコートを着用を着ており、雛森は自身の色、薄い桃色のドレスが似合っていた。

 

【おう、冬獅郎。洋装も似合ってんな。しかし、お前にはやっぱ白が似合うな。桃も淡いピンクのドレスが似合ってるし、お似合いのカップルって奴だな】

 

【うるせぇ、てめーこそバッチリ決まってんな。お似合いだぜ。雀部も綺麗だな】

 

【ありがとう冬獅郎君。コート、カッコいいです】

 

【ありがとな】

 

【桃ちゃんもすっごく可愛いです!】

 

【ありがとう雷華ちゃん。雷華ちゃんだってお姫様みたいですよ】

 

【ありがとう!】

 

【それじゃあ先に行くぜ】

 

【行ってきますね】

 

そう言って、二人は大広間へと向かい始めた。

 

【しっかりな冬獅郎。ちゃんとエスコートすんだぞ】

 

【ふん、誰にものを言ってるんだ。そっちもな】

 

【頑張ってね桃ちゃん】

 

【緊張してますけど、頑張ります!】

 

その後も恋次とルキアのペアと一護と織姫のペアとも会い、お互いを褒め合った。

 

 

 

「やあ、こんばんはショウ。黒が映えてるな。ライカもすごく綺麗だね」

 

そうハンサムに笑いながら言うのは、セドリック・ディゴリー。

 

「こんばんはセドリック、君もバッチリだな」

 

「こんばんは、ありがとうございます。パートナーの方は?」

 

雷華の言葉にセドリックは肩を狭める。

 

「まだみたいなんだ。だから、ほら、この人だかりだから分かんないかもしれないからさ。二人には申し訳ないと思ってるんだが……特に目立つ君たちと話すことで分かって貰おうとね。すまない」

 

セドリックは俺たちと接触した理由を明かす。

 

本来なら言わなくても良い情報を、素直に話すことに好感が持てる。

 

セドリックとは去年知り合った仲だが、英国紳士とはこういう男なのかと毎回思ってしまう。

 

歳は一つ下だが、いずれ彼は優秀な魔法使いになる。

それと、是非ともあいつらの(ハリーとロン)手本になって欲しい。

 

「いや、そんなことならお安い御用だ」

 

「そうですよ。それにチョウならもう来ましたし」

 

俺たちがそう言えば、丁度その時チョウが来る。

 

「待たせてごめんなさいセドリック」

 

「いや大丈夫だよ。僕も今さっき来て、ショウ達と話していたのさ」

 

「まあ、ショウ。こんばんは!ライカも久しぶりね。二人ともお似合いよ」

 

「おう、こんばんはチョウ。ありがとうな」

 

「こんばんはチョウ。ありがとうございます。チョウもチャイナドレス、似合ってますよ!」

 

「ありがとうライカ!」

 

「それじゃあ行こうか?」

 

「ええ、それじゃあお先に!」

 

セドリックとチョウは幸せそうに大広間へと向かった。

 

 

 

「さて、俺たちもそろそろ行くか?」

 

「ええ、そうしましょうか」

 

「ショウ、ライカ!」

 

俺たちも大広間へと向かおうとしたら、ハリーがジニーを連れてやって来る。

 

ハリーは王道のドレスローブ。

ジニーは明るいオレンジ色のドレスだった。

 

「うわ……ライカ、君、凄く綺麗だね……」

 

「本当に……素敵よライカ……」

 

「ふふ、ありがとうございます。ハリー、ジニー、お二人とも素敵ですよ」

 

「うん、お似合いだな二人とも」

 

「「あ、ありがとう」」

 

そうやってお互いを誉めていると「代表選手とそのパートナーはこちらへ!」というマクゴナガル教授の声が聞こえてくる。

 

「呼ばれましたね」

 

「それじゃあ、行こうジニー」

 

「あ、ハリー、蝶ネクタイが曲がってるぞ?……完璧だ。頑張ってこい」

 

今まで見送ったペアとは違い、ハリー達は緊張でガチガチになりながら大広間に向かった。

 

「さて、それじゃあ俺たちもそろそろ行くか……?」

 

「ええ、そうですね行きましょう」

 

「改めてよろしくな、相棒」

 

「こちらこそよろしくお願いします」

 

そう言い合って俺たちは大広間へと向かった。

 

 

 

大広間の壁はキラキラと銀色に輝く霜で覆われ、星空の天井の下に広がっているのは各寮のテーブルでは無く、ランタンの仄かな灯りに照らされた小さなテーブルだった。

 

先に呼ばれた筈の代表選手達はどうやら最後に来るらしく、まだいない。

 

俺と雷華は審査員テーブルの近くにあるテーブルに着席する。

 

そしてその後、代表選手がやって来る。

 

クラムのパートナーがハーマイオニーであることに、ここで多くの者が気が付いたらしく、特にロンの驚き様はパートナーであるパーバティを膨れっ面にさせた。

 

審査員テーブルには各校長とバクマン氏が居たが、クラウチ氏が座るはずだったと思われる席にはパーシーが座っていた*2

 

各テーブルには金色に輝く皿があったが、皿だけでご馳走はなく、小さなメニューが一人一つずつ目の前にあるだけだった。

 

「どうすれば良いんですかね、これ……?」

 

雷華が不思議そうに言う。

 

「さあな……あ、もしかして……」

 

俺はそこまで言ってメニューを見る。

 

「スシ」

 

そして書いてあったメニューの一つを呟く。

 

するとなんと、俺の予想通りに寿司が醬油も伴って目の前の皿に現れたのだ。

 

「マジか、どんな仕組みだよ」

 

「全くですね……。あ、私もお寿司を」

 

雷華もそう言うと、ちゃんと寿司が出てくる。

 

マグロ、イカ、サーモン等々。

 

十貫ほどの寿司は、十月末に出てきた寿司とは比べ物にならない味だった。

 

「彼らにレシピを教えて正解だった…」

 

「全くです…」

 

実はこの日の為に、俺たちは情報提供者(ウィーズリーの双子)司法取引(悪事を見逃す)をしてまでホグワーツの厨房の在り処を見つけ、彼らと接触したのだ。

 

全ては美味しい日本食の為に。

 

かつお節や昆布等、出汁の取り方。

味噌と醤油の提供と量産方法。

 

それらの事を厨房に居る屋敷しもべ妖精に伝授し、彼らはそれを習得してくれた。

 

「俺、ちょっと感動してる…」

 

「私もです…」

 

俺たちはその後も天ぷらと茶碗蒸しなどを堪能し、翌日には最大限の賛辞を厨房に伝えたのだった。

 

 

ディナーも食べ終わり、いよいよダンスに移る。

 

先ずは代表選手が踊りはじめる。

 

ハリーのギクシャク感は猛特訓の成果もあってかマシになっており、少なくともジニー(女性)にリードされるということ(醜態)は無かった。

 

セドリック達はごく普通。

 

クラム達は無骨な感じ

フラー達はロジャーが使い物にならない(惚けている)様子。

 

そして冬獅郎達は見事なコンビネーションだ。

若干あわあわ気味の桃を冬獅郎の奴がちゃんとカバーしていた。

 

そしてある程度終わったら、周囲の人たちも加わり始める。

 

「さて、俺らも行くか(踊るか)?」

 

「ええ、そうしましょう」

 

俺が問いかければ雷華は頷き、同じタイミングで立ち上がる。

 

「では…お手をどうぞ。レディ(雷華)?」

 

少し芝居がかってしまったしまったかもしれないが、俺はそう言って雷華に手を差し出す。

 

「はい……」

 

雷華は今まで見た中で最も笑顔で頷く。

 

ああ、最高の相棒だ。

 

俺はふとそう思い、雷華と共に前に出た。

 

 

 

 

 

ステップを踏む。

音に合わせてターンやリフトをする。

 

やがてそれはお互いが主導権(リード)を奪い合うかのようなダンスへとなり始める。

 

曰く、それは剣舞の様だったらしい。

 

そんなダンスが他のペアを圧倒したため、対抗馬(共に踊る人)が居なくなりつつあることを辛うじて認識してはいた。

 

だがそんなことは頭から追い出してしまう。

 

何といっても、目の前にいる雷華とのダンスが楽しいのだ。

 

冬獅郎以上にお互いの手の内を知り尽くしていると、互いが思ってる。

 

ダンスは特にだ。

お互いが練習相手だったから。

 

しかしそんな感じで踊り続けていると、あまり練習してない曲が掛かり始めた。

 

「ここまでか。引き時だと思うが、どうだ?」

 

「そうですね……そうしましょうか」

 

踊りながらそんなやり取りをし、曲が変わるタイミングで撤退する。

 

「楽しかった……」

 

「全くです……欲を言えば、ずっと続けたかったです」

 

「そうだな……全くだ」

 

近くのテーブルに座り、そんなことを言いながらフーっと息を吐く。

 

「とりあえずなんか持ってくる。何がいい?」

 

「あ、ではバタービールがいいです」

 

「了解。ちょっと待っててな」

 

雷華のリクエストを聞き、取りに行く。

 

そしてその道中。

 

「やあ、凄かったね。完全に君たちが主役だった」

 

セドリックにこう言われ。

 

「圧倒されたわ……。みんな、貴方達に遠慮し始めたの……分かってた?」

 

ハーマイオニーからこう言われ。

 

「分ってはいたが、てめーらが本気になると凄まじいな。あと、周囲のこと半分気にしてなかったろ。全部飲み込みやがって」

 

冬獅郎からこう言われた。

 

あはは……やっちまったな。

 

俺は頭を搔きながらこう思った。

 

 

そんなことがありながら、雷華の元にバタービール二つを手に戻る。

 

雷華はパアっと笑いながら持ってきたバタービールを受け取り、コクコクと飲み始める。

 

「生き返ります……」

 

そして半分ほど飲み干し、心底美味しそうに言う。

 

「聞きましたか?私たちのダンス、凄かったらしいですよ?先ほどフラーやルキアちゃんがやって来て、そう言ってました」

 

「ああ、俺もセドリックやハーマイオニーとかから、そう聞いた」

 

雷華の隣に座り、バタービールを俺も数口飲みながらそう答える。

 

「でも……私は楽しかったです。途中からなんか、主導権の奪い合いになった気がしましたが」

 

「確かにそうだな。俺も途中からそんな気がしてた」

 

「まあ、私が奪おうとしたからですが」

「奪われないようにしたからな」

 

「「あははは……」」

 

笑い合う。

 

そこからは飲み物片手に喋ったり、ちょっとダンスしたり*3をした。

 

雷華と二人っきりで過ごすのはいつ以来だろうか。

 

 

 

 

 

ゆっくりと踊りながら、ふと、雷華を見る。

 

本当に、最高の相棒だ。

 

改めてそう思う。

 

 

この人は。

 

美しく綺麗で可憐だ。

 

強く気高く背中を預けられる。

 

 

ずっと共に。

 

ずっと隣に。

 

ずっと後ろに。

 

ずっと。

 

ずっと。

 

そう思わずにはいられない。

 

 

やはりそうかと自覚する。

 

そうなのかと思う。

 

 

この人は。

 

雷華は。

 

俺の想い人なのだ。

 

 

 

 

「しょう君?どうしましたか?」

 

雷華がそう聞いてくる。

 

「いや、今更気が付くとは……。とな」

 

「?」

 

俺が思わず言った言葉に、雷華は首を傾げる。

 

「不意打ちみたいで悪いが……今ここで伝えたいことがある。いいか?」

 

「え、あ、」

 

いきなりそう言ったから、雷華は困惑する。

 

「いいか?」

 

「……はい、いいです。勿論」

 

雷華は少し涙を浮かべながら、それでもそうニッコリと笑いながら答える。

 

「ありがとう……」

 

少しだけ息を吸い、そして吐く。

 

(わたくし)刀原将平は、雀部雷華さん…貴女の事が好きです。願わくば生涯の伴侶となることを前提として、お付き合いをお願いしたく思います」

 

震えている。

それでもはっきりと伝えた。

 

それを聞いた雷華は涙を浮かべながら、微笑む。

 

「ずっと…ずっと待ってました。刀原将平君、貴方の事が好きです。こちらこそ、よろしくお願いします…」

 

その時、ちょうど曲が終わる。

 

俺はそのまま雷華を、思わず抱きしめる。

そうしたら雷華も抱きしめ返してくれた。

 

 

 

 

 

 

 

パーティーもそろそろ終わりが近づいている。

 

そんな中生まれたばかりのとあるカップルは、向かい合わせで座っていた。

 

二人は刀を体の前に立てながら持ち、少しだけ刃を抜いている。

 

「貴女を、生涯を通して愛し、守ると誓います」

 

「貴方を、生涯を通して愛し、支えると誓います」

 

そう言ってワザと音を立て、刀を収めた。

 

 

 

 

 

*1
雀部はクラムの言葉は無理だが、フランス語は喋れる

*2
後にハリーから聞くことになるが、クラウチ氏の体調がどうやら芳しいものではないらしく自分はその代理で来たのだと誇らしげに語ったそうだ

*3
さっきの様な感じで無く、ゆっくりと





多くは語りません。

まあ、そういうことです。


ちなみに日番谷のコートは、滅却師のコートをモデルとしています。

またBLEACHサイドのドレスやスーツ等は、皆様のお好きなような格好でどうぞ。


感想、評価、お気に入り。
ありがとうございます。
そしてお待ちしております。


さて次回は

第二の課題

次回もお楽しみに。



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死神、顰める。第二の課題




とっておく

とは

余裕がある者だけの

特権だ。







 

 

クリスマスパーティーの翌朝。

 

全員が寝坊した。

 

 

そしてそれは早起きを習慣としているはずの刀原もそうだった。

 

 

グリフィンドールの談話室は、ここ一週間の浮かれようやお祭り感が無くなって通常運転に戻りつつあったし、昨夜は綺麗だったハーマイオニーの髪もいつもの様にボサボサに戻っていた。

 

「『スリーク・イージーの直毛薬』を使ったの。でも、面倒くさいから毎日やる気にはなれないけど」

 

「あの髪、一体どうやったの?」というハリー達の質問に対し、ハーマイオニーはそう答えた。

 

そして一夜明けて生徒たちも通常の休みに戻る中、人生最良とも言うべき時間を過ごした刀原と雀部もまた、ダンスパーティーに起こった出来事をハリーから聞かなくてはならなかった*1

 

まず一つ目として……ハーマイオニーはロンとダンスパーティー中に、かなり揉めたらしい。

 

ロンはあれだけクラムをヒーローの如く見ていたにも関わらず「ホグワーツの敵」などと言い、ハーマイオニーに対しては「君は敵とベタベタしている。ハリーの内部情報を得ようとしているんだ」と言い放ったらしいのだ。*2

 

そしてそんなロンに対し、ハーマイオニーは「彼が到着したとき大騒ぎしていたのは、一体どこの誰?彼は私にただの一言も、ハリーの事を聞いてこなかったわ」と反論した。

 

ロンの思考は簡単にして単純。

 

嫉妬しているのだ。

 

だが当の本人はそれに全く気が付いていないようだし*3、言ったら意地になって認めないだろう。

 

せめて冷戦はやめてくれ、面倒くさいから。

 

聞いた刀原やハリーはそう思っていたが、二人は一夜明けてから争点には触れないと暗黙の了解に達したらしく、これ以上の進展は無かった。

 

 

二つ目として、スネイプとカルカロフの密会だ。

 

「我輩は何も騒ぐ必要は無いと思うが」

 

「何も起こっていないふりをすることは出来ない。数ヵ月の間にますますはっきりしてきた。否定することは出来ない」

 

これってなんのことだと思う?

 

と言ったハリーの言葉に、刀原はうーんと唸った。

 

「これから言う事は、大っぴらにしないと誓うか?」

 

刀原が真剣な表情でそう言えば、ハリーは「分った」と言う。

 

そんなハリーを見て、刀原は「よし」と言って頷く。

 

「日本魔法省情報調査部によると、イゴール・カルカロフは元死喰い人(デスイーター)らしい。そして、死喰い人(デスイーター)は絶対に消えない闇の印というのが刻まれているそうだ。つまり、おそらく「はっきりしてきた」というのは闇の印だろうな」

 

「じゃあ、なんでそれをスネイプに?……まさか」

 

「ハリー、憶測であまり言うな。だが、その可能性は十分にあるといっていいかもな……。兎も角、カルカロフは要注意人物って事になる。あまり一人で行動しない方が良い」

 

刀原は探るべき人が増えたことに頭が痛くなった。

 

カルカロフ。

 

スネイプ。

 

そして……いまいち警戒心が抜けないマッド・アイ。

 

このうちスネイプは除外してもよさそうと思っていたが…またお前か、とも思う刀原だった。

 

 

 

 

 

一部の例外を除き、ほとんどの生徒が思い出した宿題をする最中、既に宿題を瞬殺していた刀原と雀部、ハーマイオニーからなる『ハリーの第二の課題に対する対策作戦部』は本格的に動き出した。

 

「私はあの咽び泣くような声、というか音を何とかすれば……ヒントが聞けると思うのですが」

 

「確かにそうかも知れないけど、あるいは何か呪文でもかければ?」

 

「呪文が有効とは思えんが……。だが、雷華の案は近いと思う。特定の場所で聞けばヒントが聞けるとか?」

 

「特定の場所ですか?例えば?」

 

「そうだな、音が関係するところだと……何がある?」

 

「より静かなところとか、騒がしいところとかは?」

 

「静かな場所はともかく、騒がしい場所ならあの場(終了時の宴会)で聞けたと思うがな」

 

「確かに……」

 

「それに生徒がどこでも聞ける場所ではないと……公平性に欠けますから」

 

「公平性か。それなら自然発生する物にも、音が変化するのがあるぞ」

 

「土とか水とか風とか?」

 

「その辺だな」

 

「それとあと、あれが何の音なのかにもヒントが隠されているような気がします」

 

「雷華、それ、いい案だ。なんの音か、か…」

 

「あんな咽び泣くような音、聞いたこと無いわ」

 

「声、か。鳴き声とかの可能性は?」

 

「魔法生物とかの?」

 

「ああ」

 

「うーん……」

 

「土や水、風に関係する生物で声……」

 

「……分かったぞ」

 

「え、」

 

「分かったの、ショウ?」

 

「ああ、おそらく水中人(マーピープル)の言葉だ」

 

「成る程……確かに水中人(マーピープル)の言語なら辻褄が合いますね。人にはただの叫び声ですから」

 

「でも、どうやれば声が分かるの?確か水中人(マーピープル)の言語ってマーミッシュ語よね?私たちには解らないわ」

 

水中人(マーピープル)は水中に住んでる。だから、卵を水に沈めて本人もそれを潜って聞けば……」

 

「ヒントが聞こえる……!」

 

「早速ハリーにやってもらいましょう!」

 

 

 

結果から言えば、正解だった。

 

そして唖然とした。

 

なんとハリーはセドリックから「風呂に行け」(ハリー談)という、ある意味決定的な助言を貰っていたのだ。

 

「あのなぁハリー……セドリックに(いろんな(恋敵的な)意味で)対抗心があるのは分かるが、せめて俺らに共有してくれ。じゃねぇと手遅れになりかねん」

 

「そうですよ。一生懸命に考えた私たちが馬鹿みたいじゃないですか」

 

刀原と雀部はそう言ってぷりぷりと怒る。

 

しかしハリーは「だって…」だの「だけど…」だのぶつぶつと言い訳がましく言う。

 

二人はそれを聞いて「「はぁ~」」と深いため息をつき、眉間を押さえる。

 

「とりあえずこの件はもういい。それよりも、卵はなんて言ってた?」

 

刀原がそう仕切り直すように言う。

 

「ええっと、確か…」

 

ハリーは思い出すかの様に言い始めた。

 

ーーーーーーーー

 

探しにおいで 声を頼りに

 

地上じゃ歌は 歌えない

 

探しながらも 考えよう

 

我らが捕らえし 大切なもの

 

探す時間は 一時間

 

取り返すべし 大切なもの

 

一時間のその後は もはや望みはあり得ない

 

遅すぎるならそのものは もはや二度と戻らない

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「って言ってた」

 

ハリーは風呂内で聞いた内容を歌の様に言う。

 

「うーん…」

 

「また難問ですね」

 

それを聞いて刀原と雀部は頭を捻る。

 

「でも、ある程度は分かるわ。基本的には大切なものを取り返すって訳ね」

 

そう言ってハーマイオニーは、現在分かるだけの情報を言う。

 

「問題はどんな状況で、何が取られるのか。だな」

 

刀原がまとめるように言えば、他の三人は頷いた。

 

「どう思いますか?」

 

雷華が刀原に尋ねる。

 

「うーんそうだな……。とりあえず、場所が水中なのは間違いない」

 

「どうして?」

 

ロンがそう言って質問する。

 

「地上では歌えない。つまりこの卵のように、水中なら歌える……活動するってことだ。卵と潜って、終わりな訳がないしな」

 

「成る程……」

 

「だからハリーが用意しなくてはならないのは、水中戦の準備だな。それも一時間は活動出来るようになる準備だ」

 

刀原がこう言えば、ハリーは青い顔をした。

 

「僕、泳げないよ……」

 

どうやら道のりは長いらしい。

 

 

 

 

 

 

卵の真実が明らかになり、順調に思われた。

 

だが、予想外の伏兵によって事件が起こる。

 

『ダンブルドアの「巨大な」過ち』という記事が新聞に載ったのだ。

 

長くなるので割愛するが、内容としては……。

 

ハグリッドが半巨人である事。

 

杜撰で酷い魔法生物飼育学の授業をしている事。

 

巨人は凶暴で、彼も凶暴である事。

 

等々、よくもまあこんな個人を攻撃できる記事を書くもんだと思う酷い内容の記事だった。

 

「半巨人?ああ、やっぱりそうだったか。しかしこれはマズイな」

 

「ええ、これでハグリッドの教師生命は危機に瀕します。誰がこんな話を密告したんでしょうか*4……半巨人だろうが、ハグリッドはハグリッドなのに……」

 

新聞が記載された日の朝、朝食を食べながら刀原と雀部はそう言い合っていた。

 

「マルフォイ……。まさか、おめーじゃねぇだろうな?密告者は……?」

 

刀原は半ば慌てた様に新聞を持ってきたマルフォイに対し、霊圧を出しながらそう言う。

 

「そ、そんなわけないだろう!僕だったら去年の際に動いているはずだ、そうだろう?」

 

マルフォイは必死な形相でそう首を横に振る。

ここ最近、マルフォイとはハリー共々友好的な関係を構築していたのだ*5

 

刀原、雀部としても、マルフォイを信じたい気持ちはあった。

 

「まあ、確かに『尻尾爆発スクリュート』は勘弁してほしいが」

 

そんなマルフォイはポツリとそう言う。

 

「あ、それは俺も思ってる」

 

「私もです」

 

そしてポツリと言ったマルフォイの本音に二人は即座に肯定する。

 

「とりあえず……また去年の様につまらない授業(レタス喰い虫の世話)に戻るのだけは、こちらとしても勘弁してほしい。リータ・スキーターだとか言ったか……奴を何とか出来ないか父上に聞くとしよう」

 

「ああ、理事じゃなくなっても権力の一つや二つは残ってるか。とりあえずそっちは任せた。ありがとうなドラコ」

 

「ありがとうございます、ドラコ。あとでクッキーとか差し上げますので」

 

「ああ、あのとてもおいしいクッキーか。ありがとうライカ。それとショウも、貴族としてこの様な馬鹿気た記事が許せないだけだ。礼はいらない」

 

マルフォイはそう言ってグリフィンドールのテーブルから立ち去っていく。

 

刀原達の予想は当たった。

 

ハグリッドは罷免されはしなかったが引き篭もってしまったのだ。

 

おまけに、代行として授業を行うことになったグラブリー・プランクは割と好評であり、「もうこの代行の先生で良いんじゃないかな?」という生徒がかなりいる*6のも、引き篭りに拍車をかけることになった。

 

「あのリータって嫌な女、どうやって知ったのかしら?」

 

「全くだ、隠密機動の(すべ)を持ってる俺らですら知らなかった情報だ。入手は困難を極める」

 

「スキーターは既に、学校への立ち入りが禁止されているはずです。どうやって侵入を」

 

「透明マントは?スキーターが持ってるのかも」

 

「だとしても俺や雀部の霊圧探知に引っかかる筈だ。だがそれすらなかった」

 

「とりあえずスキーターは嫌い」

 

「だな」

 

「です」

 

「うん」

 

「ええ」

 

五人はスキーターを目の敵にした。

 

そして……。

 

いつか天誅を下す。

 

刀原はそんな物騒な考えをしていた。

 

 

 

 

 

「さてハリー、ヒントは解いたよな?」

 

課題が行われるまであと二週間に迫ったある日、刀原はそうハリーに聞いた。

 

「何かを一時間以内に捜索する」

 

「場所は?」

 

「……水中」

 

「よろしい」

 

そこまでの解答に、刀原は満足げに頷く。

 

「ではどうやって一時間もの間、水中戦をするのか。その方法は考えついたのか?」

 

そして刀原が肝心な部分を聞けば、ハリーはバツが悪そうにプイッと顔を横に背ける。

 

「はぁ~」

 

あと二週間しかねぇのに……。

 

刀原は、眉間を押さえながら溜め息を吐く。

 

「ハリー。二週間もある、じゃねぇんだ。二週間しかねぇんだぞ?解ってんのか?方法を考えついた後、呪文だったらその習得や練習、アイテムだったらその調達なんかもあるんだ。少なくともこの時点で、方法ぐらいは考えついてないとヤバいんだぞ?「二度と戻らない」がハッタリじゃなかったらどうする気だ?」

 

刀原が珍しく強い口調でそう言えば、ハリーもヤバい事態であることにここでようやく気が付いたらしく、次第に顔が青ざめてくる。

 

「ど、どうしよう……」

 

「……はぁ~」

 

夏休みの宿題を最終日にやる子供か。

まったく……。

 

刀原はハリーの反応にそう思った。

 

「……とりあえず、呪文なら『泡頭呪文』。アイテムなら『(エラ)昆布』が妥当なところだろう」

 

刀原は、そうさらりと言う。

 

「泡頭呪文?鰓昆布?そんなの、どこにも書いて無かった……」

 

ハリーがそう言う。

 

「まあ、確かにメジャーでは無いな。泡頭呪文は比較的新しい呪文らしいし……鰓昆布は新しくはないが、地中海原産でそう簡単には手に入らないものだから」

 

刀原はウンウンと頷きながら言う。

 

「ショウはどっちがおすすめなの?」

 

「鰓昆布かな。泡頭呪文は習得までに時間が掛かるし、緊急事態になった時に不安が残る。それに失敗した時にリスクが大きい。鰓昆布はその点、失敗の可能性が低いし、緊急事態にも強そうだ」

 

刀原はそう言う。

 

「じゃあ、鰓昆布がいいね」

 

ハリーは刀原の意見を聞いて、リスクが少なそうな鰓昆布を採用するつもりらしい。

 

「そうか、だが鰓昆布には時間制限がついてくる。まあ、どちらにしろそうだが……短期決戦になるぞ?」

 

「でも、いずれにせよそうでしょ?」

 

刀原が確かめるようにそう言うと、ハリーは結局はそうなると言う。

 

「確かにな」

 

ハリーの言葉を聞いて刀原は頷く。

 

「だが、水泳の準備はしないとな?ほら、さっさと湖に行くぞ!あと二週間しかねぇんだから」

 

刀原がそう言ってハリーを立たせ、そのまま引き摺るように湖に連れていく。

 

ハリーはその後、水着を着て寒中水泳を行うのだった。

 

 

鰓昆布を使用するのは決定したが、それをどうやって調達するのかが問題になった。

 

スネイプの薬品棚や、スプラウト教授の鉢等を漁れば入手出来るかもしれないが、それは最終手段であるためしたくない。

 

「しょうがねぇ。頼るか」

 

刀原はそう言って浦原に手紙を書いた。

入手出来るかを聞き、出来るのであれば送って欲しいと頼む為だ。

 

《出来るっすよ?ただ時間は掛かりますけど……第二の課題って二月二十四日でしたよね?それには何とか間に合わせるっす》

 

浦原の返答はこのような内容だった。

 

そして刀原はハリーに『英国魔法界のお菓子詰め合わせセット』を用意するように言ったのだった。

 

 

 

課題当日を翌日に控えた日の夜。

刀原達は図書館にいた。

 

「そっちはどう?」

 

「駄目だ、載ってない」

 

理由は泡頭呪文のことを調べるためだ。

 

実はこの日になっても鰓昆布が贈られてきていないため、慌てて次の対抗策である『泡頭呪文』の習得をしようとしたのである。

 

しかし、いくら探しても本は見つからない。

 

「借りられてる可能性が高いな」

 

「そうでしょうね……」

 

泡頭呪文のことを知っているのは刀原と雀部だけであったが、それはあくまで知識として知っているだけであり、詳しくは知らない。

 

「マホウトコロにもあった本なんだ。必ずホグワーツにもある筈だ」

 

そこで泡頭呪文が記載されている本を図書館で探している訳だが、見つからない。

 

古い本から新しい本まで。

 

図書館の主とも言われている刀原、雀部、ハーマイオニーですら死力をつくしているのに見つからない。

 

そして時刻はあっという間に夜になる。

 

「おい、ウィーズリーにグレンジャー。マクゴナガル先生がお呼びだぞ?」

 

そう言われ、途中ロンとハーマイオニーが離脱する。

 

そして最後まで粘るというハリーに別れを告げ、刀原と雀部も談話室へと引き揚げた。

 

「談話室で会いましょう」

 

そうハーマイオニーは言ったが、雀部曰くハーマイオニーは居らず、ロンも談話室にも寝室にも居なかった。

 

「駄目です。居ませんでした」

 

「そうか、こっちも居なかった」

 

まさかですか?

 

まさかだろうな……。

 

雀部の問いに、刀原は苦い顔でそう答える。

 

しかしハリーに報告したらマズイことになりそうだと判断し、ハリーが談話室へと戻って来ても刀原達は何も言わなかった。*7

 

 

そして翌朝。

 

ハーマイオニー達は一向に帰ってこず、ハリーもおそらく図書館に行ったままだった。

 

刀原達は不安げに思いながらも、フクロウを待つために朝食へと向かった。

 

そしてフクロウはやって来た。

 

鰓昆布は間に合ったのだ。

 

「良かった」

 

「流石にヒヤリとしましたね」

 

二人は安堵し、行動を開始する。

 

「雷華は図書館に向かってくれ。おそらくそこにはハリーが突っ伏して寝ている筈だ」

 

「了解です。しょう君は?」

 

「俺は現地の下見に行く」

 

「分かりました」

 

そう言っていた矢先、日番谷が血相を変えて来る。

 

【雛森を見なかったか!?】

 

二人はそう言った日番谷を見て全てを悟った。

 

【そっちは桃が捕られたか】

 

【そっちは、だと?】

 

刀原の言葉に日番谷が食い付く。

 

【ええ、実は昨夜からロンとハーマイオニーの姿が見えないんです。おそらく人質役になったからだと思うのですが……】

 

【ロンはハリーの人質。ハーマイオニーはおそらくビクトール・クラムの人質だろうな】

 

【なんてことだ……あいつを巻き込むなんて!】

 

二人の推理に怒りを露にする日番谷。

 

あ~あ、やっちまったな。

 

これで冬獅郞君は手加減しなくなりましたね……。

 

それを見て思わず二人はそう思った。

 

【一応、水泳はするつもりだったのか?】

 

【まあな……だがこうなったら、チンタラと泳いでる場合じゃない。さっさと決着(けり)を付けないと】

 

刀原の確かめるような問いに、握り拳を作りながらそう答える日番谷。

 

どうやら一応、泳ぐ気ではいたらしい。

 

だが、しないようだ。

 

【雛森に手を出したこと、後悔させてやる……!】

 

そう固く誓うように言った日番谷に【あ、うん、頑張ってね】となる刀原と雀部。

 

だが、この二人とてそうなった場合……手段を選ぶつもりなど無いのも、また事実である。

 

 

 

 

 

 

第二の課題の会場はやはり湖だった。

 

ハリーは刀原の読み通り図書館で寝ていたが、雀部がサンドイッチを片手に呼び(起こし)に行ったことで、余裕で間に合っていた。

 

「『ソノーラス(響け)』」

 

司会進行役のルード・バグマンが増幅呪文を使い、会場に自らの声を響かせる。

 

「さて、各代表選手の準備が出来ました。選手達は一時間のうちに奪われたものを取り返します」

 

刀原は司会を聴きながら各選手を見渡す。

 

フラーは思い詰めた顔をしていた。

 

どうやら妹が捕られたらしく、先ほど刀原と雀部の方に確認に来ていたのを思い出す。

 

【完全に、心ここにあらずって感じだな……】

 

【まあ、気持ちは分かりますが……】

 

刀原は【あれでは途中で脱落するかもしれん】と思っており、【万が一の時には動きますか?】という雀部の言葉に【まあ、大丈夫だろうがな……】と頷きながら答えていた。

 

そんなフラーの横では心配そうなセドリックがおり、そわそわしながらもウォーミングアップをしていた。

 

クラムも何処と無く緊張している。

 

ハリーは顔面蒼白。

 

「ローブは脱げ」

 

という刀原の言葉が無ければ、ハリーは邪魔になるローブを脱がなかっただろう。

 

緊張で、そこまで頭が回らなかったのだろう。

 

そしてそんなハリーの隣には、着物姿の日番谷。

 

【緊張のき文字もねぇ】

 

【逆に怒ってますね】

 

薄い水色の着物、氷輪丸を背中に背負い、腕を組む姿は、どう見てもこれから水中に飛び込む姿ではない。

 

まあ一応、濡れても良い格好ではあるが。

 

そして雀部の言うとおり、怒っていた。

 

【あ、早くしろって言った】

 

【速攻で終わらせる気満々ですね】

 

刀原達は【せめて、他の選手に影響が出ませんように……】【くわばらくわばら】と祈っていた。*8

 

 

「では、三つ数えます。いち、にい、さん!」

 

ホイッスルが響き、選手達が日番谷を除いて一斉に水へ飛び込む。

 

そして日番谷は瞬歩でその場から居なくなる。

 

【やっぱりか】

 

【だと思いました】

 

それを見て二人は項垂れる。

 

日番谷が考えて実行し、刀原と雀部が予想したのは以下の通りの戦法である。

 

まず霊圧探知で雛森の位置を特定する。

 ↓

次に瞬歩でその場に行き、着いたら急降下して潜水。

 ↓

潜水時は空中歩行の技術を使って移動する。

 ↓

人質はおそらく縛り付けられているので、斬魄刀で縄を切断し救出する。

 ↓

その後はまた瞬歩か空中歩行で帰ってくる。

 

 

実にシンプルだが、第二の課題を考えた者は想定外の攻略法だろう。

 

泳ぐのは遅いから空中を移動するなど。

 

まあ、刀原も実は考えていたのだが……破綻する部分があったため断念したのだ。*9

 

さて、話は競技に戻る。

 

競技開始早々に姿を眩ました(瞬歩)*10日番谷は、意外と離れた場所に現れた。

 

そしてそのまま空中に立ち、呪文を唱えた。

 

インパービアス(防水せよ)

 

距離があるため、聞き取れた者は少ない。

 

良い手だ。

 

刀原はそう思った。

 

それなら水の抵抗を軽減出来る。

 

日番谷は自身の身体を確認したあと、泡頭呪文で顔を覆い水へ落ちるように飛び込んだ。

 

そして三分もしない間に水から飛び出してくる。

 

雛森をお姫様抱っこしたまま。

 

「あ、シロちゃん。おはよう……」

 

どうやら雛森を始めとした人質達は守りを万全にした上で、昏睡させられているらしい。

 

「大丈夫か雛森?体調とか……」

 

「うん……大丈夫だよ……」

 

日番谷は労るように、ゆっくりと空中を歩いてステージの方へ向かう。

 

だが雛森は昏睡から抜けきっていない様子だ。

 

そして寝惚けたままの雛森は、ムギュッと日番谷を抱き締めた。

 

「ちょっ、おい、雛森!?」

 

固まる日番谷。

 

日番谷を抱き締めたまま、夢の世界へ戻る雛森。

 

沸き上がる会場。

 

ヤジと祝福の言葉を飛ばすマホウトコロ生。

 

甘い空気は日番谷がステージに戻り、雛森が起きて全てを把握するまで続いた。

 

なお、言うまでもないが一位である。

 

 

 

 

 

正気に戻ったカップルが赤面している間にも、競技は順調に進行していった。

 

だが、漸く戻ってきた次の選手の意識は無かった。

 

「フラー、脱落したか……」

 

「急いで救助を!」

 

俺と雷華が最も早く気付きいた為、直ぐ様水面からフラーを引き揚げてステージへと運ぶ。

 

顔面は蒼白で足や腕、顔には赤く掴まれたような跡や切り傷があり、かなり痛々しいものだった。

 

水魔(グリンデロー)に襲われたか……それで呪文が乱れて最後的には溺れたと……。雷華は蘇生呪文とかで水を吐かせて……俺は回道で傷を直す。毛布を!」

 

マダム・マキシームやマダム・ポンフリーもこっちに来ているが、到着を待つ余裕はなく、早急に治療を開始する。

 

フラーは雷華が蘇生呪文を使えば、ひどい咳とともにかなりの水の量を口から吹き出しながら起き上がる。

 

Ne bougez pas encore(まだ動かないで下さい)Rester calme(安静にしてないと)

 

Calmer(落ち着け)! フラー!〕

 

「ガブリエル!ガブリエル!」

 

俺達の静止も聞かずフラーは立ち上がろうとしたが、回復しきっていないため足元が覚束ず、すぐにふらりと倒れ込んでしまう。

 

「ありがとうミスタートーハラ。毛布です」

 

「ありがとうございます。マダム・ポンフリー」

 

ここでマダム・ポンフリーが到着し、フラーの側にいた俺に分厚い毛布を差し出した。

 

俺はそれを受け取り、問答無用という雰囲気を雷華と共に出しながらフラーに渡せば、フラーは大人しくふかふかなそれに包まれた。

 

水魔(グリンデロー)か?〕

 

俺の問いに、フラーは蒼白のまま頷く。

 

〔ええ、泳いでいたら……急に襲われて、咄嗟のことで対処できなくて……それで慌ててしまって……〕

 

〔そうか〕

 

(いもーと)、どんな様子でしたか(でーしたか)…?ガブリエルは……」

 

フラーはそう日番谷に聞く。

 

「大丈夫だ。まあ、元気一杯って訳じゃねぇが……人質は昏睡状態なだけだった。心配要らねぇよ」

 

腕を組みながら水面を見ていた日番谷は、フラーの問いに心配するなと言った顔でそう答える。

 

「ですが、『二度と(にどーと)』と…」

 

「フラー、それは多分ブラフです」

 

フラーは、卵が言っていた文言を信じていたらしい。

 

それを雷華が首を振りながら否定する。

 

「その通り、安全に配慮してるって言うんだ。人質を死なす筈が無い。まあ、そうなったら俺達が奪還するから」

 

「そうです、その時は任せて下さい!」

 

俺達がそう言えば、フラーは安心したようだった。

 

 

 

 

 

 

セドリックがチョウを連れて戻り、クラムがハーマイオニーを連れて戻ってきても、ハリーとロンは戻ってこなかった。

 

既に一時間は過ぎている。

 

「どうしたハリー……なぜ戻らない?」

 

刀原は霊圧探知で既にハリーが人質がいる場所に着いていること、しかもセドリック達より先に着いていることを把握していたため、大丈夫だろうと思っていたがそれでも心配だった。

 

「もしかして、フラーを待っているのでは?」

 

雀部も霊圧探知で把握しており『もしかするとフラーの人質も連れてくるつもりだろうか』と聞いてくる。

 

「かもな……」

 

刀原はこうまで遅いとそうなのだろうと言う。

 

「天挺空羅で知らせるべきでしょうか?」

 

「いや、やめておこう……」

 

雀部が既にフラーが戻ってきていることをハリーに伝えるべきかと聞いてくる。

 

しかしリスクが大きいと刀原は言う。

 

そうしているうちに、水しぶきが上がった。

 

ハリーが戻ってきたのだ。

 

「戻ってきたぞ!」

 

「ですね!フラーの妹さんも一緒です!」

 

二人の言葉を受けて、会場に歓声が上がる。

 

ハリーはロンと共に、フラーの妹を連れていた。

 

「ガブリエール!あの子は無事なの?」

 

「大丈夫そうですから!落ち着いて!」

 

フラーは今にも湖に戻ろうとしているようで、雀部が必死に止めていた。

 

やがてハリー達はステージへと戻り、まだかまだかと患者(ターゲット)を待っていたマダム・ポンフリーによって確保され、他の選手や人質役が集まっている場所に連れてこられた。

 

「よくやったわ、ハリー!」

 

ハリーのちょうど隣にはハーマイオニーがおり、盛んにハリーを褒め称えていた。

 

 

 

点数を付ける前に審議が入る。

 

審議は短時間で終わり、結果が発表される。

 

 

フラー……呪文は良かったが、人質の奪還に失敗。

25点

 

セドリック……奪還には成功、しかし一分オーバー。

47点

 

クラム……奪還に成功、しかしセドリックより遅い。

40点

 

日番谷……奪還に成功、時間も余裕。

50点

 

ハリー……奪還に成功、時間は大幅にオーバー。

しかし二番目に到着し、遅れた理由も人質ではない者も奪還しようとしたためである。

 

そのため、その道徳的な行動を称え……45点。

 

「第三の課題、すなわち最終課題は六月二十四日の夕暮れ時に行われます。代表選手はその一ヶ月前に課題内容を知らされることになります」

 

バグマンがそう会場にアナウンスし、第二の課題はこれで終了となった。

 

 

終わった。

 

その思いがハリーを包んでいるのだろう。

 

「さて、最後の課題は何かな?」

 

「三ヶ月後が楽しみですね」

 

ホグワーツ城に引き揚げる最中、二人はそう話していたが、途中でハリーが割って入る。

 

「鰓昆布を用意してくれたウラハラさんにあげるお菓子って、何がいいと思う?」

 

二人はクスッと笑い……。

 

「「ゴキブリゴソゴソ豆板とかどう?」」

 

と答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

審査員が審議中の間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「髪にコガネムシがついているよ」

 

クラムがそう言った。

 

「コガネムシ?ハーマイオニーちょっといいか?」

 

刀原は「この時期に珍しいな、新種か?」と思い、スパッと捕まえ鬼道で囲う。

 

そしてつい癖で霊圧感知をする。

 

「!?」

 

そして驚愕を露にする。

 

「どうしました?そのコガネムシが何か?」

 

その顔を見て雀部が尋ねてくる。

 

「……ちょっとこれ見てみろ。霊圧感知でな」

 

「!? これって……」

 

霊圧感知をした雀部も、驚愕を露にする。

 

「ショウ、ライカ。何かあった?」

 

ハリーやハーマイオニーがそう尋ねる。

 

「いや何でもない」

 

「大丈夫ですよ」

 

二人はそう答える。

 

「審議の結果が出た!」

 

そしてルード・バグマンがそうアナウンスしたため、その話題はそれで終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これって、確かホグズミードで……」

 

「……ああ、だが気のせいってこともある」

 

刀原がチラリとコガネムシを見る。

 

「……見たところただの虫です。ポイっと湖に捨てましょうか……揚がってこないようにして」

 

雀部が黒い顔をして言う。

 

「そうか?俺は粗方調べたあと、暖炉かな」

 

刀原が黒い顔でそう言う。

 

「あ、でも、ひょっとしたら珍しい虫かもしれませんよ。日本の涅部長に送るというのは?」

 

ほほう、あの二人からのプレゼントかネ!

コイツの正体が楽しみダヨ!

 

はい、マユリ様。

 

「悩ましいな……」

 

「ですね……」

 

二人は黒い顔をしながらコガネムシを見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

二人がコガネムシをどうしたのかは不明である。

 

 

 

 

 

 

だがそれ以来、コガネムシの姿は見られなかった。

 

 

 

 

 

 

そして、何故か……リータ・スキーターも。

 

 

 

 

 

*1
ハリーはことあるごとに「見てなかったの?」と聞いてきたが、お互いの事しか見ていなかった二人は「いや、全く」と答えた

*2
実は……刀原はハリー達に開示こそしていないが、第一の課題に対して他の代表選手(日番谷以外)が取る戦術を高い角度で把握していた。

 

なお。手段としては師匠に隠密機動のスペシャリスト(四楓院夜一)が居るためこの場では語らない。

 

兎にも角にも、そんなこと訳で……セドリックやクラム、フラーが取る作戦に対して諜報活動をこっそりとしている刀原には耳が痛い話だった。

*3
これについても刀原は耳が痛かった

*4
親しいハリーや刀原ですら本人の口から聞いてない情報である。

 

当然、ハグリッド本人がこんなことをゴシップ記者(リータ・スキーター)に喋る筈が無い。

 

記者本人がこっそり聞いたか、話を聞いた者が密告したかのいずれかになる。

 

*5
一緒にハリーを応援したり、ハリーにネガキャンをするスリザリン生を「貴族らしく振舞ったらどうだい?」と窘めたり

*6
少なくともパーバティはその意見を鮮明にした。

 

そして刀原、雀部、マルフォイ、ハーマイオニーも薄っすらとだがそんな態度だった。

*7
もっとも、ハリーはそれどころではなさそうだったが

*8
無駄っぽかったが。

 

実際、日番谷から漏れ出た霊圧がただでさえ寒い気温を更に下げていた。

 

*9

方法はこうである。

 

ハリーに箒を持たせる。

 ↓

空中を飛行し人質が囚われてる地点まで行く。

 ↓

着いたら箒から飛び降りて降下し、潜水。

 ↓

救出したら泳いで帰ってくる。

 

である。

 

 

完璧じゃね?

 

刀原はこう思っていた。

 

しかし……。

 

「どうやってハリーはその場所を特定するんですか?」

 

「あ」

 

ハリーは霊圧探知など出来ない。

 

またその当時は捕られるのが何か不明だった。

 

 

かくして作戦名『空中降下作戦』は、雀部の冷静な判断と言葉によって中止となった。

 

*10
と言っても日本出身の者は全員目で追ったが






誰に手を出したのか

教えてやる。




第二の課題って、取られたものの位置さえ分かってしまえば空中から行った方が早いですね。

霊圧感知が万能過ぎる……。


前回、一万二千文字を避けるため前編後編を分けたのですが……。

今回はそうなってしまいました。

感想で短い方が良いか、それとも長くても良いか、教えていただけると嬉しいです。


感想、評価、お気に入り。
ありがとうございます。
そしてお待ちしております。


さて次回は

狂気と第三の課題 前編

次回もお楽しみに。



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死神、護衛する。狂気と第三の課題 前編



ひとつの綻びが崩れ

それはやがて大きなものとなる

私は知るのが遅すぎた

もう取り返しがつかない

そして、せめて罪滅ぼしにと

私はそれを作ってしまう

より大きな綻びなるとも知らないで。







 

 

 

第二の課題が終了したことで、人質役になった者も一時期脚光を浴びるようになった。

 

その一人であるロンは、人質になるまでの経緯を周囲に話していた。

 

まあ、最初はおそらく本当のことを言っていたが、次第にスリルに満ちた誘拐話に変わっていったが。

 

ハリーはとりあえず冷たい湖で寒中水泳をせずに済むことに安堵し、次に対抗試合にて比較的優位に立っているということを自覚していった。

 

そしてハーマイオニーは、クラムが一番失いたくないものが自身だったことを周囲がからかったり冷やかしたりするので、結構気が立っていた。

 

 

ハリーは対抗試合が始まった当初からシリウスと頻繁に手紙のやり取りをしていた。

 

そして第二の課題も終わり、いよいよハリーを狙う輩も本腰をあげるだろうと考えたシリウスは、次のホグズミード行きの日程に合わせてやって来るそうだった。

 

そしてハリーは目に見えて機嫌が良かった。

例え次の授業が魔法薬学の授業だったとしてもだ。

 

「鰓昆布とは、また考えたものだな?ポッター。珍しい植物だ、そこら辺に這えているようなものではない。我輩の保管庫からは……盗んではいないようだが」

 

スネイプが嫌味ったらしくそう言う。

 

やっぱりあったか、危ない危ない。

刀原はそう思っていた。

 

「だが、おまえの頭で考えたものではないだろう?それに入手方法もだ……。大方、親切で優秀な人物がバックにいて……おまえは何もしていない……そうだろう?」

 

うぐっ。

 

ハリーが一瞬固まる。

バック(刀原と雀部)は知らん顔をする。

 

「まあ、良い。だが、気を付けねばなりませんな……怪しまれますぞ?」

 

その言葉、そっくりそのまま返しますよ。

 

ハリーはそう思った。

刀原と雀部もそう思った。

 

なんなら殆どの生徒がこう思った。

 

怪しいのはおまえだと。

 

 

 

 

 

 

ホグズミードに行く日、五人はダービッシュ・アンド・バングズという店を過ぎた所の柵で午後二時に落ち合おうというシリウスとの約束のため、曲がりくねった小道を進んでいた。

 

暫く歩くと黒髪でスーツを着た男性が見えてきた。

 

「シリウス!」

 

「やあ、ハリー」

 

ハリーはシリウスに駆け寄り、熱い包容をかわす。

 

「みんな、来てくれてありがとう。夏以来だね?」

 

そう言うシリウスは去年よりも立派な服に身を包み、肉つきも良くなっていた。

 

「ショウ、ライカは久し振りだね。去年よりも心なしか立派に見えるよ。ロンやハーマイオニーもそうだが、ハリーのことを支えてくれてとても感謝している」

 

シリウスは刀原と雀部に向かってそう言う。

 

「お久しぶりだ、シリウス。ハリーのことは当然だ」

 

「それと、夏の招待には応じられなくてすみません」

 

「いや、ハリーからは事情を聞いているから問題ないよ。それに日本の和菓子が最高だったしね」

 

シリウスは刀原と雀部にそう返し、ウィンクする。

 

「それは良かった」

 

「選んだかいがありました」

 

二人は満足そうに頷いた。

 

 

「ハリー、みんなも……ますますきな臭くなっていることは何と無く分かるだろう」

 

シリウスはそう言って日刊予言者新聞を示す。

 

『バーテミウス・クラウチの不可解な病気』

 

『魔法省の魔女、未だ行方不明 本格捜査へ』

 

「ワールドカップでの闇の印の一件。魔女が行方不明。それと、先日ハリーが言ってきたカルカロフとスネイプの左腕の件。私はこれが繋がっているように思えてならない」

 

シリウスはそう警戒するように言う。

 

「シリウス、英国魔法省の動きは?」

 

「鈍い、非常に鈍い。漸く動き出したのも、あくまで格好だけと言った感じだ」

 

刀原の問いにシリウスは苦虫を噛み潰したような顔で、愚痴るように言う

 

「格好だけ、ですか?」

 

「ああ、『闇祓い』の中でもまともに受け止めているのは少ない。私、キングズリー、トンクス、スクリムジョールくらいか」

 

雷華が信じられないと言った顔でそう言えば、シリウスはまったくと言った顔で言う。

 

「楽観的だな……」

 

刀原はそれらを聞いて項垂れた。

 

 

「クラウチのことについてもそうだ。あいつは病気などで休むような男ではない。厳しい男だ、自分にも他人にも……。すばらしい魔法使いなのは認めざる得ないだろうが」

 

シリウスは苦々しい顔で言う。

 

「クラウチをよく知っているの?」

 

ハリーの言葉に「ああ、まあね……」とシリウスは歯切れが悪そうに言った。

 

「暗黒の時代、ヴォルデモートが全盛期の時、クラウチは頭角を現した。誰を信じて良いか分からない時代に、はっきりと闇の陣営に対抗していたからね。『魔法執行部』の部長になった彼は、闇の陣営に対し極めて厳しい措置を取り始めた。『闇祓い』達にとある許可を与えたのだ」

 

「とある許可?」

 

ハーマイオニーが首を傾げる。

 

「ああ。尤も、ヴォルデモートが台頭する前の時代、グリンデルバルドの時代にもあったらしいが……」

 

シリウスの言葉にハリー達は悩む。

 

「大方……殺しの許可、だろ?」

 

刀原が言う。

 

「……その通りだよショウ。目には目を歯には歯を、暴力には暴力を。疑わしいものには『許されざる呪文』の使用を許可したのだ」

 

「そんな……」

 

シリウスは刀原の答えに頷く。

 

ハーマイオニーは信じられないと言った顔だ。

ハリーとロンもだ。

 

刀原と雀部は逆に感心していたが。

 

「君らは肯定的なのか?これがどんなに危険で恐ろしいことか理解できる筈だ……」

 

二人(刀原、雀部)の反応が他の三人(ハリー達)とは違っているのを見たシリウスが、不思議そうに見る。

 

「肯定的……では無いが……」

 

「私達は、違いますからね……」

 

二人はバツが悪そうに言う。

 

「違う?」

 

「そんなことは……」

 

「いや、決定的に違う」

 

ハリーやハーマイオニーがそんなことはないと言うが、刀原は即座に否定する。

 

「私達は魔法も使いますが、結局は魔法使いではありません。死神です。そして将来は護廷十三隊の一員になる者達です。最終的に魔法は生活にのみ使うことが多くなります」

 

「切った張ったをするのが俺達だ。時には白刃を交じり合わせ切り合いをする。そこに躊躇いはない」

 

「躊躇すれば切られます。仲間を守れません」

 

「汝、友を、家族を、愛する者を、護廷を守りたくば、眼前の敵を切るのを躊躇うな」

 

「時には躊躇いが無粋になると知れ」

 

「それが俺達、死神の戦闘の心得です」

 

「第一、殺す者も殺される覚悟をするのが普通です」

 

二人はそう語った。

 

「……そうか、君達の強さが分かった気がするよ」

 

シリウスがそうポツリと言う

 

「ああ、ですが、それはあくまでも殺しの場合です」

 

雀部がさらりと補足する。

 

「服従、磔を疑わしき者にやるつもりはない」

 

「裁判無しで刑務所に送るのもです」

 

「それを聞いて少し安心したよ」

 

シリウスはそう言うが、ハリー達三人はドン引きしていたようにも見えた。

 

 

「話しを戻すよ。ヴォルデモートがいなくなった時、クラウチが魔法大臣に就くのは時間の問題だと思われた。しかし、それ待ったをかけた事件が起きた」

 

「事件?」

 

「ああ、クラウチの実の息子が『死喰い人』の一味と一緒になって捕まったんだ」

 

「死喰い人と?」

 

「本当なの?」

 

クラウチの息子が死喰い人。

 

一大スキャンダルだ。

 

「その息子は本当に死喰い人だったのか?」

 

「ただ単に居合わせただけの可能性だって……」

 

刀原と雀部の問いにシリウスは「わからない」と首を振りながら答える。

 

「いずれにしろ……あの時クラウチの息子と一緒に捕まったのが、死喰い人だったのは間違いない。それも、より過激な奴らだった……」

 

シリウスがまとめるように言う。

 

「息子さんはその後、アズカバンに?」

 

雀部がシリウスに聞く。

 

「嘘、流石にそこまでは……」

 

ハーマイオニーが信じられないと言う。

 

「ライカの言う通りなんだよハーマイオニー。一応親の情けで裁判にはかけた……それとて格好だけだったがね。半分はアピール目的だ」

 

シリウスは苦々しい顔で言う。

 

非情な男だ。

 

「十九歳になるかならないかだった、最初は泣き叫んでいたが……連れてこられて約一年後には死んだよ」

 

「死んだ……」

 

「死際、クラウチ夫妻が面会に来た。婦人はかなり憔悴していてね……息子の後を追うかのように亡くなったらしい。クラウチはすべてをやり遂げたと思ったら、すべてを失ったと言う訳だ」

 

「それは、なんと言うか……」

 

雀部が痛々しそうに言う。

 

「クラウチの息子には同情が少し集まった。れっきとした家柄で、成績も良く、立派な若者が何故?とね。結論は、父親が構ってやらなかったから、となった」

 

「構って欲しさにそう言うことをした、か……」

 

「最終的にクラウチは『国際魔法協力部』に事実上の左遷となり、繰り上げ人事もあってコーネリウス・ファッジが大臣に就いた」

 

シリウスの語りは終わり、沈黙が流れた。

 

 

ハリー曰く、以前深夜にクラウチはスネイプの保管庫に入っていたらしい。

 

それが何故かはわからないが、クラウチには考えがあるのだろうとシリウスは言う。

 

「気を付けてハリー、何か大きなことが起きる気がするんだ。用心してくれ……」

 

シリウスは懇願するようにハリーに言う。

 

「ロン、ハーマイオニー。ハリーを頼む」

 

同じようにロン達にも言う。

 

「ショウ、ライカ。ハリーを守ってあげてくれ」

 

そして刀原達にも言う。

 

「分かった」

 

刀原はそう言う。

 

シリウスは最後に見送ると言い、ホグワーツへの道ギリギリまで付いてきた。

 

「……シリウス。クラウチの息子の名前は?」

 

刀原は最後にそう聞いた。

 

「確か……バーテミウス・クラウチ・ジュニア。だった筈だが……それがどうかしたかい?」

 

シリウスは不思議そうに言う。

 

「いや、気になっただけだ」

 

刀原はそうシリウスに返す。

 

忍びの地図がマッド・アイに取られたのは痛いな……あれで色々と確認出来たんだが。

 

刀原はそう思いながら、ホグワーツに戻った。

 

 

 

 

 

 

日にちはあっという間に過ぎる。

 

そんなイースターも過ぎた五月の最後の週。

 

マクゴナガルがハリーと刀原を呼び止めた。

 

「ポッター、今夜九時にクィディッチ競技場へ行きなさい。そこで第三の課題を代表選手に説明します。それと、トーハラはそれに同行するように」

 

「同行……ですか?」

 

マクゴナガルの言葉に刀原はそう聞き返す。

 

「ええ、ポッターの件しかり、最近何やらきな臭いので……開催校であるホグワーツから、防衛戦力を出して欲しいとのことで。申し訳ないのですが……」

 

「……そう言うことでしたら、喜んでお引き受けいたします。お任せください」

 

刀原の言葉にマクゴナガルは本当に申し訳なさそうに「……よろしくお願いしますね?」と答えた。

 

そして玄関ホールを横切る途中でセドリックと合流しながら、刀原はハリーと共にクィディッチ競技場へ向かった。

 

「今度はなんだと思う?フラーは地下トンネルで宝探しをやらされると思っているらしい……」

 

セドリックは石段を下りながらそう話す。

 

「それならいいけど……」

 

ハリーはそう言う。

 

大方、先日ハグリッドから授業を受けたニフラーを借りて、探させるつもりだな?と刀原は思っていた。

 

そんな話をしながら三人は芝生を歩き、クィディッチ競技場のピッチに出た。

 

「あれまあ……」

 

「一体、何をしたんだ!?」

 

刀原は唖然とし、セドリックは憤慨した。

 

平らで滑らかだったクィディッチのピッチが、四方八方に長く低い壁が張り巡らしていたのだ。

 

「生け垣だ!」

 

その壁を調べたハリーがそう言う。

 

「よう、来たな」

 

バグマンはそう元気良く呼び掛けてくる。

側には日番谷達、代表選手も既に来ていた。*1

 

「さあ、どうだね?しっかり育ってるだろう?あと一ヶ月の経てば、ハグリッドが六メートルほどの高さにしてくれる筈だ……」

 

「ろ、六メートル……」

 

セドリックがそう言う。

 

「ああ、心配は無用だ。課題が終わればピッチは元通りにして返すよ!」

 

バグマンが付け足すようにそう言った。

ホグワーツのクィディッチ選手であるハリーやセドリックの顔がご機嫌麗しくない(ちゃんと責任もって直すよな?ああん?)のを見たためだ。

 

「さて、私達がここに何を作っているのか、君達は想像できるかね?」

 

「迷路だろう?」

 

バグマンの問いに日番谷が即答する。

 

「その通り!迷路だ」

 

正解だとバグマンが言う。

 

「第三の課題は極めて単純で明快、迷路の中心に置かれる優勝杯を取ること。最初にこの優勝杯に触れた者が優勝、というわけだ。」

 

バグマンが楽しそうに言う。

 

「迷路を早く抜けるだーけですか?」

 

フラーが言う。

 

「いや、障害物がある。ハグリッドが色々な生物を置いたりしているし、様々な呪いを破らなければ進めない。まあ、そんな感じだ」

 

バグマンはそう言う。

 

「さてと、迷路に入る順番だが……これまでの成績で決める。点数がリードしている選手が先にスタートする……まず、ミスター・ヒツガヤ」

 

バグマンはそう言ってまず日番谷を見る。

 

「次にハリーとセドリック、その次にミスター・クラム。最後にミス・デラクールとなる。しかし、全員に優勝出来るチャンスがある。まあ、障害物をどううまく切り抜けるかによるけどね。おもしろいだろう?」

 

面白いかはともかく、代表選手達は頷く*2

 

「よし、それじゃあ戻ろうか」

 

バグマンがそう言ったため、全員が育ちかけの迷路を抜けて外に出ようとする。

 

「ちょっと君と話したいんだけど?」

 

ハリーと刀原もそうしようとしたが、クラムがそう言ってハリーの肩を叩いたため立ち止まる。

 

「ああ、いいよ」

 

ハリーはちょっと驚きながらもそう言う。

 

「俺も同行して良いか?」

 

「……いいよ」

 

刀原はそう聞き、クラムは少し悩んだあと渋々といった感じでそう答えた。

 

 

 

 

 

 

「知りたいんだ。君とハーマイオニーとの関係は、どんな関係なのか……をね」

 

禁じられた森の方に向かいながら、クラムはハリーに対してそう言った。

 

クラムがハリーに何を話すのか気になったが、内容がハーマイオニーとハリーの関係だったことに、俺は半ば拍子抜けしていた。

 

クラムはカルカロフ(最重要容疑者)の生徒であるため、半ば警戒していたのだが、杞憂だったか。

 

「何もないよ。僕たち友達なだけだ」

 

ハリーはこう言うがクラムは疑う。

 

「彼女は、しょっちゅう君のことを話題にする」

 

「友達だからだよ」

 

「君達は、一度も?」

 

「一度もないよ」

 

クラムは怪しむが、ハリーは否定する。

 

「……ショウ」

 

「本当だよ、間違いない。ただの交遊関係だ」

 

俺もそう言って頷く。

 

それをようやく信じたのか、クラムは少し気が晴れたような顔をして、再度ハリーを見てこう言う。

 

「君は、飛ぶのが上手いな。第一の課題の時、僕、見ていたよ……」

 

ハリーはニッコリと笑い「ありがとう」と言った。

 

「僕、クィディッチ・ワールドカップで君のこと見たよ。ウロンスキー・フェイント。君って本当に、」

 

その時、クラムの背後の林の中で何かが動いた。

 

「ハリー、クラム!俺の背後に!」

 

即座に鯉口を切れるように構えながら、二人を背後に移動させる。

 

ハリーも今までの経験から、本能的にクラムの腕を掴みながら俺の背後に移動する。

 

「何だ?」

 

クラムがそう言う。

 

油断なく気配がある方を見ていると、大きな樫木の陰からよろよろと男が現れる。

 

「まさか……クラウチさんか!?」

 

俺は目を見開く。

 

クラウチさんは何日も旅をしてきたかのように、ローブはボロボロで、顔は傷だらけ、無精髭も伸び、疲れきっていたようにだったのだ。

 

おまけにきっちりと分けられていた髪のボサボサで汚れており、明らかに不審者だった。

 

だがそんな格好より、行動が不審者だった。

 

ブツブツと何か言いながら、身振り手振りで見えない誰かと話しているようで……。

それはまるで麻薬患者のように不気味だった。

 

「確か、審査員の一人ではないのか?」

 

クラムがそう言う。

 

「ああ……。クラウチさん、大丈夫ですか?」

 

俺はクラウチさんが一種の極限状態かつ錯乱状態だと判断し、慎重に接近しつつ声をかけた。

 

だがクラウチさんはブツブツ言ったままだ。

 

内容的に、今回の対抗試合についての調整をしている話だったが……。

 

「クラウチさん?」

 

ハリーも声をかけるが、効果は無い。

 

完全にラリっているようだった*3

 

「この人、いったいどうしたの?」

 

「分からない……」

 

クラムもハリーも、クラウチの異常性に戸惑っているようだった。

 

「ダンブルドア!!」

 

「うわっ!」

 

クラウチさんが突然叫び、手を伸ばす。

 

思わずサイドステップで避けてしまい、クラウチはハリーのローブをグッと握り締める。

 

「私は……会わなければ……ダンブルドアに……」

 

あらぬ方を見ながらそう言う。

 

「分かりました。一緒に行きますよ……」

 

ハリーはそう言う。

 

「私は……馬鹿なことを……してしまった……」

 

クラウチさんが後悔しているように言う。

 

「どうしても……話す……警告を……ダンブルドアに……」

 

目は飛び出しているようで、それに加えてぐるぐる回り、涎もだらりと垂れていた。

 

ヤバイな……。

 

「ありがとう、それが終わったら紅茶を一杯貰おうか。今夜はファッジご夫妻とコンサートに行くのだ。妻と息子も一緒にね」

 

すると、いきなり木に向かって流暢に話し始めた。

 

「そうなんだよ。息子は最近『O・W・L(ふくろう)試験』で十二科目もパスしてね。満足だよ。いや、ありがとう。全く、鼻が高い」

 

尋常ではない。

 

妻や息子は既に死亡しているはずだ。

 

「ハリー、呼び掛け続けてくれ!とりあえずダンブルドア校長を呼ぶ!」

 

俺はこのままではマズイと判断する。

 

「え、そんなこと出来るの?」

 

ハリーがそう聞いてくる。

だが、返答をしている暇はない。

 

「黒白の(あみ) 二十二の橋梁 六十六の冠帯 足跡・遠雷・尖峰・回地・夜伏・雲海・蒼い隊列、太円に満ちて天を挺れ 縛道の七十七『天挺空羅(てんていくうら)』!」

 

天挺空羅を使い、ダンブルドアへ。

 

「『トーハラよりダンブルドア校長へ。錯乱状態のクラウチさんを発見しました。かなり危険な状態です。ハリーを向かわせますので、急ぎ玄関ホールまで来てください!』」

 

メッセージを飛ばす。

 

その間もクラウチは支離滅裂な事を言い続けている。

 

「ハリー!ダンブルドア校長を玄関ホールに呼んだ!迎えに行ってくれ!」

 

「わ、分かった」

 

俺の言葉にハリーは頷き、ローブにしがみつくクラウチを何とか振りほどいて学校に向かって走り出そうとした。

 

だが走れなかった。

 

「私を……置いて……行かないでくれ!」

 

クラウチがハリーにしがみついているからだ。

 

「逃げて来たんだ……警告しないと……言わないと……ダンブルドアに……私のせいだ……全て……私のせいなのだ……バーサ……死んだ……私のせいだ……息子も……妻も……私のせいだ」

 

悔やむように、謝るように呟いている。

 

「ダンブルドアに……言わなくては……ハリー・ポッター……闇の帝王……より強くなった……ハリー・ポッター……警告を……」

 

「今からダンブルドアを連れてきますから!」

 

ハリーが叫ぶようにそう言ってクラウチを振りほどき、ホグワーツ城へ全力疾走した。

 

「とりあえずダンブルドアを待とう」

 

俺は相変わらずブツブツ言っているクラウチを見ながらそう言い、クラムは頷いた。

 

すると人の気配を察知すると同時に『失神呪文』が飛んでくる。

 

「ッ!?」

 

即座に反応して刀で呪文を弾く。

 

「誰だ」

 

「さてな」

 

のっそりと男が現れる。

 

ダメ元で聞いてみたが、やはり返答はない。

 

「見事だ、完璧な不意打ちだと思ったが」

 

「褒めたって何も出ねぇよ?」

 

そう言いながら刀を左手に持ち直し、左腕にあるホルスターから杖を取り出す。

 

「さて……残念ながら、ダンブルドアが来てもらっては困るから……君たちには気絶してもらう」

 

「そう簡単に出来ると思うか?」

 

「思うな」

 

「なめんな」

 

「「『ステューピファイ(麻痺せよ)』!」」

 

同タイミングで放った失神呪文は、俺と男の中心でぶつかる。

 

バチィイイ!!

 

ぶつかった呪文は一本の線となり、すぐに弾ける。

 

「小生意気で小賢しい日本のガキが……!」

 

「なんだ?人種差別か?受けて立つぞ?お?」

 

苦々しそうに悪態をついた男にそう言われ、思わずそう返す。

 

「邪魔をするな」

 

「お前が諦めて大人しくズゴズゴと帰るなら、邪魔も何もないぞ?」

 

最初こそ丁寧な口ぶりだったが、次第に乱暴な口ぶりに変わっていく。

 

「さてと…どうせお前、あの()()()()()()()()使()()のしもべの一人でしょ?」

 

とりあえず情報を収集するためと、ダンブルドア達が到着するまでの時間稼ぎの為に対話を試みる。

 

「頭のイカれた魔法使い?」

 

「あれ、違った?ヴォルデモート(頭のイカれた魔法使い)忠実なしもべ(笑)(不愉快な狂人たち)……でしょ?」

 

やっべ、つい隠語使っちゃったぜ。*4

 

「き、貴様ぁああ!」

 

「君らが求めてるハリーは居ないよ?ほらほら、さっさと()()()()()帰りなよ、見逃して()()()からさ」

 

「殺す!」

 

俺の言葉にそう言い返した男は即座に無言呪文を放ってくるが、そんなものは容易く弾き返す。

 

「許さん!あのお方を侮辱しt」

 

「破道の三十三『蒼火墜』!」

 

「は!? ぐわぁああ!!」

 

男は何やら言ってきたが、完全に隙だらけだ。

 

蒼火墜は吸い込まれるように向かい、直撃する。

 

爆炎と爆音が響き、煙も出る。

 

「あっちです!」とハリーの声も聞こえてくる。

 

「ほら、さっさと撤退を……!」

 

そう言って煙が晴れた先を見るが、そこには誰もいなかった。

 

逃げた……。

 

ちっ、日和ったか*5

 

「ショウ!クラム!クラウチさん!大丈夫!?」

 

「ありがとうショウ、二人を守ってくれたんじゃな?礼を言わなくてはの」

 

ハリーとダンブルドア校長が近寄ってきてそう言う。

 

クラウチが居たから、積極的攻勢に出れなかった。

まあ、ひとまずは良しとしよう。

 

刀原はそう言いながら「大丈夫だよハリー」と答え、斬魄刀を納めた。

 

一抹の不安を感じながら。

 

 

 

 

 

 

ホグワーツで狂人状態のクラウチが保護された事は、瞬く間に魔法省に知らされ、新聞にも掲載された。

 

シリウス曰く、それでも英国魔法省……というかコーネリウス魔法大臣は何のリアクションも起こさず、静観に留める方針らしい。

 

そしてクラウチは、聖マンゴ魔法疾患傷害病院と言う英国魔法界の病院に送り込まれる事になった。

 

ホグワーツではカルカロフがクラムが危機に瀕したこと等で軽い恐慌状態に陥り、意味不明な事*6を羅列する等があったが、一ヶ月後に控えた第三の課題は予定通り行う事になった。

 

そんなことがありながら、ハリーは迷路を攻略するべく対策を始めるのだった。

 

失神呪文(ステューピファイ)妨害呪文(インペディメンタ)盾の呪文(プロテゴ)爆発呪文(コンフリンゴ)四方位呪文(ポイント・ミー)武装解除呪文(エクスペリアームズ)等々。

 

他にも多数の呪文を、ハリーは叩き込まれた。

 

ハーマイオニーやロン曰く、それはまさに地獄の試練と言うに相応しいものだった*7

 

ハリーは迫り来る刀原*8に対し、時は半泣きになり、時に絶叫し、たんこぶを幾つも作り、幾度も吹っ飛ばされながら、それでも多数の声援もあって、何とかこの試練を耐えた。

 

「……まあ、マシにはなれたかな?」

 

第三の課題前日、肩に竹刀をトントンと叩きながらそう言った刀原に、ハリーは芝生の上に横たわりながら「ほ、本当?」と弱々しく言う。

 

「おう、んじゃ仕上げだ。ハリー、立て。そして自分なりの得意呪文で、そして出来るだけ最速で呪文打ってこい」

 

刀原は竹刀を放り捨てながら言う。

 

「わ、分かった。行くよ?」

 

ハリーはゆっくりと立ち上がりながら言う。

 

「ああ、やり返すつもりでな」

 

「よ、よーし……『エクスペr(武器よs)ステューピファイ(失神せよ)』!」

 

ハリーが呪文を放つ前に、失神呪文を打つ刀原。

 

その早さにハリーは全く対処出来なかった。

 

「あっははは!まだまだ未熟だなハリー」

 

高らかにそう言う刀原。

 

完全に失神しているハリー。

 

唖然とする周囲。

 

やると思った……と言わんばかりに手を額に当て、頭を横に降る雀部。

 

「まあでも、本気で早打ちしなきゃ……相討ちだったかな。早くなったなハリー」

 

ふとそう言った刀原に周囲は少しどよめく。

 

「明日は大丈夫だろう」

 

自身の弟分にそう言い、刀原は夕暮れの空を見た。

 

 

 

 

 

 

*1

なお、刀原がいることに疑問を持った日番谷が「何でお前がいるんだ?」と言ったため「ああ、護衛を頼まれたからな」と刀原はケロッと言った。

 

日番谷は【ああ、大変だな】と同情するように言った。

 

フラーは頼もしそうにした。

 

クラムは感心するような素振りを見せた。

 

バグマンはすまなそうにしていた。

 

*2
少なくとも誰も心から面白がっていないようだった

*3
少なくとも去年のトレローニーの比ではなかった。

*4
もちろんわざと

*5
撤退を薦めていたのはお前だろう

*6

これは罠だ!私を英国に呼び寄せて嵌めるつもりなのだろう!

*7

右手に杖、左手に竹刀を持ち、ハリーをボコボコにする気満々の刀原と戦うもの。

 

刀原は時々魔法も使うが、基本的に接近戦を仕掛け、瞬歩や鬼道は無し。

 

ハリーは刀原からひたすら逃げつつ、魔法を当てる。

 

*8

「雰囲気を作った方が良いのでは?」

という雀部の助言を受け、刀原は笑いながらハリーに迫った。






クラウチ生存です。

彼にはやることがある……予定。

生きろ、そして償え!


個人的に死喰い人は煽り耐性に低いと考えてます。

あの御方を侮辱するとは!的な感じで。

戦いは頭に血を昇ったらつけ込まれますよ?


感想、評価、お気に入り。
ありがとうございます。
そしてお待ちしております。


さて次回は

第三の課題 後編。

次回もお楽しみに。



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死神、駆ける。 第三の課題 後編


信じる者に

進むべき道が開かれる

見失わない者に

扉は開かれる

さあ、一歩前に踏み出そう

何があろうとも。




 

第三の課題、当日。

 

いつもよりは緊張していない様子のハリーと共に、刀原達は晩餐会を過ごしていた。

 

「大丈夫よハリー。貴方、あの地獄の特訓を乗り越えたんだもの、きっと上手くいくわ」

 

ハーマイオニーはそう言い、ロンも盛んに頷く。

しかし、それでも気が昂り始めたハリーは無言で、あまり食べていないようにも見えた。

 

「紳士、淑女の皆さん……あと十分ほどで魔法学校対抗試合、最後の課題が行われる。代表選手は競技場に行くように……」

 

ダンブルドアが高らかにそう言うと、ガタッとハリー達は立ち上がる。

 

そして応援にやってきたシリウス*1や刀原達からの激励に答え、ハリー達は大広間を後にした。

 

そしてその五分後、刀原達も観客席に移動した。

 

 

 

観客席に着けば、既に選手達は準備を終えていた。

 

「『ソノーラス(響け)』!」

 

バグマンが杖を喉元に当てそう唱える。

 

「紳士、淑女の皆さん。第三の課題がまもなく始まります。各代表選手は現在の順位が良い順から迷路に入っていきます。先ずは現在一位、トーシロー・ヒツガヤ君、マホウトコロ!」

 

歓声と野次*2と拍手が湧く。

 

日番谷は観客席の方に振り向き、苦笑いしながらもしっかりと頷いて生け垣の方に向き直った。

 

「次に第二位、セドリック・ディゴリー君とハリー・ポッター君。両名ともホグワーツ校!」

 

セドリックとハリーが手を振る。

ハリーの緊張は大分薄れているみたいだった。

 

「続いて第三位、ビクトール・クラム君。ダームストラング専門学校!」

 

また拍手が湧く。

クラムはしかめっ面だったが。

 

「そして四位、フラー・デラクール嬢。ボーバトン魔法アカデミー!」

 

フラーが優雅にお辞儀をする。

 

「ではホイッスルが鳴った瞬間、開始となります!」

 

最初に飛び込む日番谷が背中に掛けてある刀の柄を手に持ち、走り出す準備をする。

 

生け垣の中の様子は魔法をかけられているのか、よく見えないず霧が掛かっている様で、ざわざわという不安を掻き立てる音だけが明瞭だった。

 

「いち……に……さん……!」

 

そしてホイッスルの音がやけに大きく響き、日番谷は生け垣の迷路へと飛び込んだ。

 

その後、セドリックとハリーも飛び込むように入り、やがて全員が迷路へと突入した。

 

「頑張れよ……ハリー」

 

「貴方なら出来るわ……」

 

「負けたら許さないぞ、ポッター……」

 

ロン、ハーマイオニー、マルフォイがそう言う。

 

「なんか、嫌な予感がします」

 

「ああ、そうだな」

 

雀部がそう言えば、刀原も頷く。

 

何事もなく終われ。

 

刀原は腕を組ながらそう思っていた。

 

 

 

 

 

ハリーは迷路の中を歩いていた。

 

フラーの悲鳴を聞き、天地が逆さまになり、『尻尾爆発スクリュート』と悪夢の遭遇をしたり……。

 

クラムがセドリックに襲いかかっていた為、後ろから失神呪文を命中させたりもした。

 

「見ているのが真実だとは限らない」

「起こっている事が現実とは限らない」

 

ハリーは刀原が言っていた事を思い出しながら、迷路の中を慎重に歩く。

 

フラー、クラムは脱落しているだろう……。

 

つまり、あと僕とセドリックと、ヒツガヤっていうショウの日本の友達って人だけってことだ……。

 

ハリーは一瞬、自分が優勝杯を手にして表彰台にあがっている光景を想像する。

 

即座に頭を横に振り、芽生えた邪念を消し去ったが。

 

 

その後、スフィンクスからの謎々*3が解けた為近道となり、ハリーは優勝カップが目前となった。

 

だが、その前には黒く巨大な蜘蛛がいた。

 

蜘蛛はハリーに凄まじい速さで接近して来る。

 

「『ステューピファイ(麻痺せよ)』!『インペディメンタ(妨害せよ)』!」

 

ハリーとて似たような特訓をした*4ため、呪文を放って迎え撃つが効果は皆無に等しく、接近され呆気なく宙吊りになってしまう。

 

蜘蛛を蹴飛ばそうとするが、迂闊にも片足がハサミに触れてしまい、ハリーは激痛に襲われてしまう。

 

だが、ハリーは諦めなかった。

 

呪文を放ちまくり、そのうちの一つである『武装解除呪文』が効いたのか、蜘蛛はハリーを取り落とす。

 

かわりにハリーは、四メートル上から落下したが。

 

そして本日の獲物(ハリー)を取り落とした蜘蛛だが、ノックアウトした訳では無いためハリーに再度近づいて来る。

 

ハリーは何とか立ち上がろうとするが、落下した時に負傷した足に力が入らない。

 

蜘蛛がハリーに再び覆い被さろうとしたその時。

 

hyourinnmaru(氷輪丸)!」

 

という声が響き、蜘蛛だけが氷漬けにされる。

 

「え?」

 

ハリーは去年からよく聞く言語(日本語)に驚く。

 

ttaku(ったく)nanndeorehakoituwotasuketannda(何で俺はこいつを助けたんだ)?」

 

そこには呆れつつ、不思議そうな顔の日番谷がいた。

 

 

 

「な、何で僕を助けたの?」

 

ハリーは当然そう聞く。

 

日番谷はマホウトコロの生徒なのだ。

助ける義理も無いし、別に親しくもない。

 

「俺にも分かんねぇよ、何となくだ」

 

日番谷は刀を納めながらそう言う。

 

二人の三メートル先には優勝杯があった。

 

「そういやぁ、お前。誰かに襲われてないか?俺はこの迷路に入った時から、ずっと不意打ちで呪文を放たれててな……」

 

日番谷は迷路に入った当初から呪文による襲撃を受けており、鬱陶しいそれを防ぎながら探索していた。

 

「呪文?いや、僕は打たれてない……。クラムが『磔の呪文』をセドリックに使ってたのは見たけど」

 

「なに?ダームストラングの噂は聞いていたが、優勝の為にそんなことをするのか」

 

ハリーの言葉に日番谷は眼を見開く。

 

「分かんない……でも、クラムがそんなことするとは思えない。多分、操られていると思うんだ」

 

ハリーはクラムがスポーツマンシップに則り、勝負をする筈だと信じていた。

 

「……まあ、迷路を抜ければ解る話だ」

 

日番谷は暗に信じられるか、と言う。

 

二人はそんな話をしながら優勝杯に近づき、あと少しで手に届く所まで来る。

 

「そういえばセドリックを見た?」

 

ハリーはクラムの一件以来見ていない、セドリックの事を気にかける。

 

「セドリック?ああ、黄色の……。見てねぇが……」

 

日番谷は思い出すかのように言う。

 

そんな感じで二人がセドリックの話をしていたその瞬間、セドリックの悲惨な呻き声が聞こえて来る。

 

「……どうやら脱落したみたいだな」

 

日番谷がハリーをジト目で見てくる(お前がこんな話するから……)

 

「セドリック……」

 

ハリーは日番谷の目線に気付きつつ、そう言った。

 

 

「……ンンッ、とりあえず、優勝杯は俺が貰う」

 

日番谷が先の話(セドリック)から脱却するためにわざと咳払いをして、左にある優勝杯をチラリと見ながら、ハリーにきっぱりと言う。

 

「別にお前が不満なら、決闘で決着つけてもいいんだぜ?尤も、俺はアイツ(刀原)と互角の実力を持ってるから、お前に勝ち目はほぼねぇけどな」

 

ハリーは日番谷の言葉に一瞬顔をしかめるも、直ぐに首を横に振った。

彼の言う通り、勝ち目は無かったからだ。

 

「それで良いよ。僕は元々参加するつもりが無かったし、勝ってもホグワーツの優勝にはならないしね」

 

ハリーは首をすくめ、そう言う。

 

日番谷はそんなハリーの答えに少しだけ肩透かしをくらった様な顔をするが、直ぐに「そうか」と頷いた。

 

そして日番谷が優勝杯を手にしようとしたその時。

 

 

 

空に四つの亀裂が入った。

 

 

 

「なに!?」

 

日番谷は驚いた顔をする。

そして即座にハリーと優勝杯を目にやる。

 

「お前、優勝杯手に取って良いぞ。ってか取れ」

 

日番谷が如何にも渋々と言った顔でそう言った。

 

「え、何で!?」

 

そう言われたハリーは、空に亀裂が入っていることに驚いていたし、ついさっきまで優勝に拘っているようだった日番谷がいきなり譲った事にも驚いていた。

 

「事情は向こうに戻って、保護されてから聞け」

 

日番谷はハリーを見ず、鬱陶しそうに言う。

 

「で、でも」

 

「今は時間がねぇから、説明してる場合じゃねぇ!良いから早く取りやがれ!」

 

渋るハリーに日番谷は怒鳴る様に言う。

 

ハリーは戸惑いながらも「分かった、ありがとう」と言い残して優勝杯を手に取り、その場から消えた。

 

「ようやく行ったか……。全く、アイツは毎年こんな事(後輩のお守り)をやっているのか……?……大変だな」

 

日番谷はそうポツリと言いながらも、目の前の事態に対処するため、霊圧を高めていった。

 

 

 

 

 

時間は少しだけ戻る。

 

「……」

 

「厳しいみたいですね……」

 

俺がそう言っていると雷華も険しい表情をしていた。

 

既にフラーが脱落しており、残るは四人だった。

 

「……ハリー、大丈夫かしら?」

 

ハーマイオニーがそう不安げに言う。

 

「ポッターはタフだ。そう簡単にやられはしないだろう。あんな特訓をしたのだからな」

 

マルフォイも不安げではあったが、そう言う。

 

「……クラム?」

 

「え?」

 

「クラムの霊圧が大きく乱れてる。何かの干渉を受けているみたいに……。これは……?」

 

「どういうこと?」

 

俺の言葉が解らずハーマイオニーがそう言った瞬間、赤い花火がパンッと上がる。

 

救出の合図だ。

 

やがてクラムが気絶した状態でやって来る。

 

「ショウはおるかの!?」

 

暫くすると、突如ダンブルドアがそう言う。

 

「雷華、一緒に来てくれるか?」

 

「勿論!」

 

俺は雷華と共にステージに上がる。

 

ステージではダンブルドアとカルカロフ、未だに失神状態で横たわったままのクラムがいた。

 

「ショウ、すまんの。ビクトールの様子がおかしいのじゃ、診てくれんか?そして意見が欲しい」

 

ダンブルドアの言葉に頷き、霊圧感知をおこなう。

その隣では雀部もしていた。

 

「……これは!?雷華!?」

 

「ええ、おそらく……そうだと思うのですが」

 

間近で診たことで解らなかった事が分かった。

 

「何が分かったのじゃ?」

 

ダンブルドアがそう言う。

 

「……確固たる確証がありませんが……」

 

「構わぬ、聞かせてくれい」

 

「……服従の呪文を掛けられている可能性が高いです」

 

「……なん、じゃと?」

 

「クラムの霊圧に何者かの霊圧が混じっているのです……。ごく僅かなので、推測の域を出ないのですが。迷路には服従の呪文に対抗する……という内容の試練が?」

 

「無い、断言しよう」

 

「……であれば、なぜ?」

 

「……解らぬ」

 

解らないものは調べる他無い。

 

そうこうしている内にセドリックも戻ってくるが、彼もまた失神呪文で気絶させられている状態だった。

 

「……とりあえず、一旦中止にしては」

 

俺がそうダンブルドアに具申した時。

 

 

 

空に亀裂が入り、膨大な霊圧が辺りを染めたのだ。

 

 

俺はその亀裂から出てきた存在に驚く。

 

「な、虚だと!?」

 

それは日本に時折現れる虚だったのだ。

 

 

 

 

 

亀裂は複数あり、真っ黒な穴が開かれていた。

 

「アルバス!ポッターが居なくなりました!」

 

「なんじゃと!?」

 

ダンブルドアがそれを注意深く見ていると、マクゴナガルが駆け寄ってきて、ハリーが迷路から居なくなり追尾も出来なかった事を報告する。

 

優勝杯を手にすれば自動的に此処に戻って来る筈にも関わらず、ハリーはどっかに行ってしまったのだ。

 

「何が起こっているのじゃ……?」

 

ダンブルドアは戸惑いを隠すこと無く、空に開いた空虚な穴を見る。

 

既にその穴からは怪物らしきものが現れている。

 

「失神、妨害、武装解除、爆破……その他多くの呪文を試しましたが、効果はありませんでした」

 

先行し対峙したスネイプの苦々しい報告を聞き、どうするかを考えるも、逃げの一手しか思い付かない。

 

「ここは、我らにお任せいただきたい」

 

そうやってダンブルドアが考えあぐねていると、藍染とマホウトコロのメンバー達がそう言う。

 

「お任せしてもよろしいのかの?」

 

ダンブルドアはそう聞く。

 

「ええ、大丈夫ですよ」

 

皆を代表し、刀原がはっきりとそう言う。

 

眼前の日本の少年が、何度も聞いた言葉を言ってくるのを聞いて、ダンブルドアは「いつも負担をかけてしまってすまんの……」と言う。

 

刀原はその言葉に「いつもの事ですから」と答え、マホウトコロのメンバーと共に作戦会議に入った。

 

ダンブルドアもそれを横目に見ながら、各教授陣に指示を出し始めた。

 

最悪、ホグワーツの一時的な放棄も視野に入れて。

 

 

 

「朽木君、雛森君は競技会場の防衛」

 

「畏まりました」

 

「分かりました!」

 

「井上君は救護」

 

「はい!」

 

「雀部君は防衛重視の遊撃」

 

「了解です!」

 

「刀原君、黒崎君、阿散井君と私は穴から現れたあいつ等の対応だ。日番谷君は、既に独自の判断で戦っているみたいだしね」

 

「了解」

 

「分かったぜ!」

 

「おう!」

 

藍染はそう指揮を執っていく。

 

「穴は四つ、そしてその中からかなり大きい霊圧が複数ある。各部隊の部隊長的なものだろう。刀原君、黒崎君、阿散井君は一人一つずつ対応してくれ」

 

藍染のその言葉に四人は頷く。

 

「ただし」

 

その頷き見て満足そうに頷き返し、さらに続ける。

 

「深追いや無茶は絶対に禁止」

 

藍染は窘めるように言う。

 

「無理だった場合は私が何とかするから。まあ、尤も……黒棺が効いてくれれば……だけどね?」

 

おどけるように言った藍染に全員苦笑する。

 

「最後に、相手は虚だ。躊躇は要らないよ?では、みんな……健闘を祈る」

 

藍染の言葉に全員が各々の返事をし、自分の戦闘配置に付くため移動した。

 

 

 

 

 

ここはどこだろう……。

 

ハリーはズキズキと痛む足を引摺りながら、注意深く周囲を見渡していた。

 

ホグワーツから完全に離れていることは解った。

 

さすがに場所までは解らない。

だが城を取り囲む山々さえ見えないことから、かなり遠くに来てしまったのは確かだった。

 

ハリーはここが墓場であることに気付いた。

墓場には通常無い筈の大鍋があったが。

 

ハリーは周囲の不気味な気配を警戒し、杖を出す。

 

とりあえずもう一回優勝杯を手に取れば、少なくとも競技場には戻れるかもしれない。

 

そう判断したハリーが優勝杯に近づいたその時、墓石の間を通ってこちらに近づいてくる人影を見つける。

 

顔や誰かまでは解らない。

フードをすっぽり被っているからだ。

 

それでも、小柄であることや、歩き方や腕の組み方から何かを大切そうに抱えていること。

 

そしてより近づかれたことで、それがローブで包まれている赤ん坊ようなものだと解った。

 

ハリーはそれに訝しげな視線を向けると、何の前触れも無しに傷痕に激痛が走った。

 

これまでに一度も経験がない痛みに、ハリーは思わず両手で頭を覆う。

 

そして杖を落とし、地面に座り込んでしまう。

今にも頭が割れそうな痛みだった。

 

フードの男は痛みに苦しむしかないハリーを大理石の墓石の方に引き摺っていき、その墓石に縛り付けた。

 

ハリーは決死の抵抗をし、フードが取れる。

 

「お前だったのか!」

 

ハリーは絶句する。

 

男はワームテール(ピーター・ペディグリュー)だったのだ。

 

ワームテールはそれに答えず、ハリーの口に布を押し込んだあと、側にあったローブの包みを回収する。

 

そして大鍋でなにやら準備をし始め、それが終わると、ローブの包みを開いた。

 

その中身は、縮こまった子供の様に見えなくも無かったが、髪の毛は無く、手足は細く弱々しく、顔は蛇のようにのっぺりとしたものだった。

 

 

 

 

 

 

ハリーが墓場にてローブの包みの中身を見て絶叫(SAN値チェック)*5しているちょうどその頃。

 

会場内ではパニックが起こっていた。

 

空には亀裂が入り、やがてそれは口のように開き、その中からは呪文がロクに効かない謎の怪物達が現れているからだ。

 

おまけに膨大な霊圧に当てられた一、二学年の生徒達が全員失神していることで、ホグワーツ城への撤退も困難になっていたのだ。

 

「あの怪物にはマホウトコロの方々が対応する事となった!皆はひとまず落ち着き、観客席に留まること!ここはわし等もおる!安全じゃ!」

 

ダンブルドアがそう言ったことで、ひとまずパニックは終息する。

 

「ショウ……ライカ……」

 

ハーマイオニーとロンはそう祈るしか無かった。

 

「だ、だだだ、だいじょ、大丈夫だろう」

 

マルフォイはそう言うが説得力は無い。

 

三人は…いや、多くの生徒はただ祈るしか無かった。

 

 

 

 

 

 

「さて、文字通りの単独戦闘は久しぶりだな」

 

刀原は穴の一つに着き、そう言う。

 

「おもいっきり、やれそうだ」

 

思わずニヤリと笑う。

 

斬刀の真髄を思う存分出せる。

しかも周囲を全く気にせずに。

 

 

 

若き死神達は、戦闘に入る。

 

 

「霜天に坐せ『氷輪丸』!」

 

「行くぜ……『斬月』!」

 

「吼えろ『蛇尾丸』!」

 

「弾け『飛梅』」

 

「舞え『袖白雪』」

 

「雷鳴響け『雷霆』」

 

 

仲間達が始解したことを察知した刀原も、普段とは比べられない程に霊圧を高める。

 

バジリスク、ディメンター、どれも周囲に人が居たため満足に始解出来なかったが今回はその縛りも無い。

 

「んじゃ、行こうか……解禁だ」

 

 

「一閃煌めき両断せよ『神殲斬刀』」

 

 

「『陸薙』」

 

始解し、真一文字に横に斬り裂く。

 

斬擊となったそれは、三十を超える虚の図体を等しく真っ二つにした。

 

「相変わらず良く斬れる…。ま、そりゃそうか」

 

刀原はそう言って、虚を殲滅していった。

 

 

 

 

 

穴の付近で虚を粗方斬った四人は、藍染が部隊長では?と言っていた大きい霊圧を持つ人?と対峙した。

 

尤も、純粋な人かどうかは解らなかったが。

 

そして同じように、防衛担当の三人も対峙していた。

 

 

「誰だ、てめぇは?」

 

日番谷とは金髪で褐色の肌を持つ女性。

 

 

「三人か、俺だけ多くね?」

 

刀原とは、容姿が一致していない三人の女性。

 

 

「なんだ、お前。ヤンキーみたいだな」

 

黒崎とは、青い髪の狂暴そうな男。

 

 

「なんだ……?こいつ」

 

阿散井とは、金髪で長髪の男。

 

 

「?」

 

雀部とは、帽子のようなものが左目を隠している男。

 

 

「誰だ?」

 

「さあ……?」

 

朽木、雛森とは、頭に包帯を巻いた灰色の髪を持つ男と、右半分だけ仮面をつけたオカッパ頭の男。

 

 

 

「我らは、破面(アランカル)

 

彼ら、彼女らはそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1

代表選手の家族が応援に来る事になっていたのだ。

 

その為、ハリーには名付け親であるシリウスが来ていた。

 

なお、その他の代表選手達の両親も来ていたが、日番谷のみ来ていなかった。

 

日番谷の親代わりである人が高齢であり、英国まで来れないからだ。

 

*2

といっても、それが野次だと解るのは日本人だけだが。

ちなみに内容は……。

 

「あっという間に終わらすなよ!」

「空から行くなよ!」

「迷路を破壊するでないぞ!」

 

*3

 

最初のヒントは変装し、秘密の取引をし、嘘をつく人。

 

二つ目のヒントは、何だの最後は何だ?

 

最後のヒントは、ただの音、言葉探しの時によく出す音。

 

キスしたくない生き物は何だ?

 

*4
ちなみに、蜘蛛よりも(刀原)は速い

*5
とはいっても口の詰め物が押し殺したが






おまけ

「どうやって迷路を攻略しよう」

「ショートカット、出来そうにありませんよね……」

「だが待って欲しい、迷路そのものを破壊すれば良いのでは?」

「それです!」

「どこぞの誰かさん(ショウやライカ)達のように、そんなこと出来るわけ無いじゃない!」

「迷路の壁は生け垣です。燃やせば解決です」

「よしハリー、さっそく放火の準備だ!」

「絶対に駄目」

「それは攻略じゃない、破壊だよ……」

「だから破壊って言ってるだろう」

「その案は却下!とにかく却下!」

「「な、何で!?」」



今回はここまでとなります。
第三の課題は強制終了したので……。

いよいよ復活のVですね……。
次回はしませんが必ずいつかは玩具にしm……いや、何でもないですよ。

そして刀原達、死神に立ちはだかる敵。
やめて!ハリー達が空気になるから!(止めません)


そして刀原君の斬魄刀の真の解号も明らかに。

「万象一切両断せよ」

これは山じいの流刃若火と似ている解号ですが、刀原君が意図的に似せたものになります。

パクった訳じゃ無いんですよ?

なお、伏線は用意してたんですが……気付きました?



感想、評価、お気に入り。
ありがとうございます。
そしてお待ちしております。


さて次回は

復活、宣戦布告。

次回もお楽しみに。





更におまけ。

スフィンクスの謎なぞの答えは『蜘蛛』となります。

変装し、時には嘘をつき、取引もするのは『スパイ』

何だの最後の文字は『だ』

考えながら会話すると『あー』って言いますよね?

これらを組み合わせると『スパイダー』となります。



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死神、圧倒する。復活のVと破面(アランカル)




諦めることなく

媚びることなく

震える己を奮い立たせ

杖を握って前を向き

僕は、死ぬ準備をする。





 

 

 

ワームテールが見るからにおぞましく、思わず眼を背けたくなるような何かを鍋に入れる。

 

溺れてしまえ……お願いだから……!

 

ハリーは傷む傷痕に耐えながらそう願った。

 

しかし、願いは届かなかった。

 

 

「父親の骨……知らぬ間に与えられん……。父親は息子を蘇らせん」

 

杖を上げ、両目を閉じ、ワームテールがそう唱えると、ハリーの足下の墓の表面がパックリと割れ、そこそこ大きい骨が浮かび上がった。

 

 

骨はゆっくりと静かに鍋に入った……。

 

 

「しもべの……肉……よ、喜んで差し出されん。……しもべは……ご主人様を……蘇らせん」

 

ヒーヒー泣きながらワームテールはそう言って、指が欠けている右手を鍋の上に持ってくる。

 

ハリーはワームテールがやろうとしていることを事の直前に悟り、両目を固く閉じた。

 

だが、夜に響く悲鳴は防げなかったが……。

 

 

何か(右手)が鍋に落ちる音がした……。

 

 

「敵かたきの血……力ずくで奪われん……汝は……敵を蘇らせん」

 

ワームテールが苦痛に喘ぎながらハリーに迫る。

 

ハリーは必死に逃げようとするが、縄で縛り付けられている以上どうしようも出来ない。

 

やがてハリーは右腕の肘の内側に鋭い痛みを感じ、そこからは鮮血が滴り始めた。

 

そしてガラスの薬瓶で滴る血を採取したワームテールは、鍋にハリーの血を注いだ。

 

 

鍋の中にある液体は目も眩むような白色に変わり、四方八方にダイヤモンドの閃光を放っている……。

 

 

大鍋の中から痩せ細った男がゆっくりと立ち上がる。

 

「ローブを」

 

甲高く、冷たい声だった。

 

骸骨より白い顔。

 

細長く、真っ赤で不気味な目。

 

蛇のように平らで、切れ込みのような鼻。

 

ヴォルデモート卿が復活した。

 

 

 


 

 

 

一人につき一人、じゃねぇのか。

 

刀原はそう思っていた。

 

空にひびが入り、それがやがて巨大な口のようになった穴から出てきたリーダー格とおぼしき奴ら。

 

自らを破面(アランカル)と名乗る奴らは、(ホロウ)を相手に大立ち回りしていた刀原達の目の前に立ちはだかった。

 

霊圧でそれを感じていた刀原は把握しているが故に、目の前にいる三人の女性を見ながらそう思わざる得なかったのだ。

 

まあ、良い。

とっとと無力化して、もろもろ情報吐かせよう。

 

それに、霊圧的に言えば日番谷、黒崎と対峙している奴らがヤバそうだからな。

 

刀原はそう思いながら、既に始解状態の刀を浅打(刃が潰れている)状態に戻す。

 

斬るより叩きのめすのを優先するためだ。

 

「一応言っとくけど、早く降参してくれよ?」

 

刀原はおどけながら構え、そう言った。

 

「なんだとてめぇ!」

 

「生意気ですわね!」

 

「調子に乗るんじゃないよ!」

 

目の前にいる女性達はキレた。

 

 

 

此処でいきなり話を折るが……。

 

刀原が納めている剣術は大きく分けて三つ。

 

曾祖父から教わった『刀源流』

 

山本元柳斎から教わった『元流』

 

卯ノ花から教わった『八千流(やちる)の剣術』

 

その三つの特徴は。

 

『刀源流』は一対多数戦を想定。

 

『元流』は剣術の基礎。

 

八千流(やちる)の剣術』は全てに対応できる。

 

となっている。

 

さて、当然ながら刀原がそのうち最も得意な剣術は……次期宗家になる予定の『刀源流』である。

 

まあ、最近は三つの良いとこ取りをしているが。

 

 

そして、何が言いたいのかと言うと……。

 

 

「つ、強ぇ」

 

オッドアイで左目の周りに隈模様があり、額に角のような仮面の名残が付いている女性……エミルー・アパッチが悔しそうに言う。

 

「なんなんだ、こいつ……!」

 

褐色肌で露出の高い服を着ており、上腕と腰には紫色の宝石のような装飾品を着けている女性……フランチェスカ・ミラ・ローズが顔をしかめながら言う。

 

「始解すらして無い筈なのに……」

 

長髪で、アオザイのような袖の長い服を着ている女性……シィアン・スンスンが半ば呆然としながら言う。

 

 

最も得意な状況で彼が遅れをとることは無い、ということを言いたいのだ。

 

 

キレた三人は一斉に刀原へと襲いかかったのだが、刀原は飛んで火にいるなんとやらとばかりに迎撃した。

 

アパッチが投げたチャクラムをフランチェスカに向かって弾き、彼女(フランチェスカ)が怯んだ隙をついて一気に接近する。

 

そして人体急所である左脇の下を一閃し、続けて右袈裟斬りで止めを差す。

 

「破動の一『衝』」

 

「グッ!?」

 

「は?」

 

左手で衝をスンスンに打ち込み、迂闊にも左横にいた彼女の方を見てしまったアパッチを右逆袈裟斬りで怯ませ、直後一瞬浮かせ右凪払いを叩き込む。

 

「ッ!」

 

右横にいたスンスンが釵で突きをしてくるが後ろに体を反らして躱し、柄頭でみぞうちを打つ。

 

そして怯んだところを左袈裟、右逆袈裟斬りを叩き込みつつ、距離を離した。

 

 

 

「くそが……」

 

三人は苦しそうにしながらも立ち上がる。

 

所詮は刃が無い刀、殺傷力には雲泥の差がある為、致命傷とはならないからだ。

 

だが刃があった場合、死んでいたのは事実だった。

 

「此処で使うぞ」

 

「本気ですの?」

 

「まあ、しょうがないか」

 

三人は苦々しそうに言う。

 

切り札を切る気か。

 

その様子を見て、刀原は警戒する。

 

「こんな序盤で使いたくはなかったが」

 

「しょうがないですわ」

 

「こうなったらな」

 

 

「「「『混獣神(キメラ・パルカ)』」」」

 

 

三人はそう呟き、召還されたのは……鹿の角とヒヅメ、ライオンのタテガミ、大蛇の尾を生やした巨大な獣人のような姿をしている巨大な怪物だった。

 

「あたし達三人の左腕から創ったペットだ」

 

アパッチからそう説明された『アヨン』という怪物を見て、刀原は間をおいて一言こう言った。

 

「どう見てもペットじゃねぇだろ」

 

 

 

 

 

「な、なんじゃ……あれは……?」

 

ダンブルドアが驚きを隠さずに言う。

 

空の亀裂、謎の怪物と、驚くべき事が続いていたのに、ここにきて巨大な怪物が出現したのだ。

 

各教授達も驚愕を隠していない。

 

「だ、大丈夫……かしら……?」

 

「だ、だだ、大丈夫だって……」

 

「ほ、ほほほ、ほんt、本当だろうなぁ!?」

 

ハーマイオニー達は観客席で震えるしかなかった。

マルフォイに至っては腰を抜かしていた。

 

「刀原君……みんな、見誤らないようにね……」

 

朽木と雛森が頭に包帯を巻いた灰色の髪を持つ男(ディ・ロイ・リンカー)と、右半分だけ仮面をつけたオカッパ頭の男(ナキーム・グリンディーナ)と対峙しているため、代わりに(ホロウ)達を殲滅していた藍染は、一瞬だけ目を細めながらそう呟いた……。

 

 

 

「どうした?あちらが気になるか?」

 

刀原とアヨンの方に一瞬目をやった日番谷に対し、ティア・ハリベルと名乗った金髪で褐色の肌を持つ女性がそう聞く。

 

日番谷とハリベルはここまで互角の斬り合いをしており、周りには日番谷(氷輪丸)の影響で氷があちこちにあった。

 

「デカイから、目が行っただけだ」

 

日番谷がそう返す。

 

「心配してもどうせ無駄になるだけだ。それよりも……私に集中しろ」

 

ハリベルが言う。

 

「無駄?確かに無駄だったな」

 

「なんだ、心配してないのか?」

 

日番谷の言葉にハリベルが尋ねる。

 

「ああ、アイツがこんなところで死ぬ筈がない」

 

日番谷は断言するように言った。

 

「信頼……というやつか……」

 

ハリベルはどこか羨ましそうに言った。

 

 

 

 

「『雷光閃』!」

 

ドンッという落雷のような音ともに突きを放つ。

 

そしてそれを受け「ぐぅうう」という呻き声と共に、帽子のようなものが左目を隠している男、シャウロン・クーファンが吹き飛ぶ。

 

雷華vsクーファンの対決は、雷華のスピードと落雷の火力にクーファンが終始圧倒される展開となった。

 

 

最初から始解状態の雷華はクーファンを雷撃の放射と落雷で攻撃し、それに応戦するためか、クーファンは斬魄刀で始解する時のように「『五鋏蟲(ティヘレタ)』」と言った。

 

するとハサミムシのような装甲に身体が覆われ、両手に装備された長い爪が武器のようになったのだ。

 

だが、それでも雷華の猛攻は防げない。

 

雷華の斬魄刀『雷霆』の真髄は雷を落とすだけではなく、その雷エネルギーを使った爆発的なスピードとパワーにあった。

 

山本元柳斎の戦闘スタイルも取り入れており、攻守遠近共に隙など無い。

 

氷輪丸や流刃若火と同じく、雷系統の斬魄刀で最強と言われ始めているのだ。*1

 

「み、見事だ……」

 

やがてクーファンはそう言って崩れ落ちる。

 

「しょう君……大丈夫よね」

 

雷華は事切れたクーファンに片手で祈った後、刀原と対峙している巨大な怪物の方を見てそう言った……。

 

 

 


 

 

ホグワーツの巨大な怪物が現れた頃。

 

 

復活したヴォルデモートは、ワームテールの左腕にある髑髏の口から蛇が飛び出している刺青……『闇の印』を指で押し当てた。

 

ワームテールは悲鳴を上げる。

 

「戻る勇気のある者が、何人いることやら……」

 

ヴォルデモートがワームテールの腕から手を離し、暗い墓場を見渡しながらそう言う。

 

「そして離れようとする愚か者が何人いることやら」

 

そして吐き捨てるように言った。

 

やがてマントを翻す音が辺りに響き、一人また一人と魔法使い達が『姿現し』してきた。

 

全員が黒いフードを被り、髑髏の仮面をつけている。

 

「よく来た『死喰い人(デスイーター)』達よ……俺様の真の家族よ……」

 

ヴォルデモートが静かに言う。

 

「十三年だ……十三年が過ぎた。だがなぜ、誰も……お前達は主を助けようとは思わなかった?お前達は特に魔力を失っていない……つまり、五体満足で何不自由なく過ごしていた筈なのに……」

 

「俺様は失望した」と吐き捨てるように言う。

 

「ルシウス。抜け目の無いわが友よ……世間的には対面を持ちながら上手くやっていると聞いているぞ」

 

「我が君。私は、常に準備しておりました。あなた様からの印が、あなた様に関する情報、ご消息などが少しでも耳に入っていたら私は……」

 

「馳せ参じるつもりだったと……?だが、お前はこの夏、俺様の忠実なる下僕(しもべ)が空に打ち上げた『闇の印』を見て逃げ出したと聞いたが?」

 

ヴォルデモートの指摘にマルフォイ氏は口をつぐむ。

 

「お前にも失望した……。これからは、もっと忠実に仕えて貰うとしよう」

 

「勿論です、我が君。お慈悲を感謝致します……」

 

ヴォルデモートは満足そうに頷く。

 

「ここにはいない者達もいる……レストレンジ達がそうだ。忠実な者だった……。奴らはアズカバン行きを選んだのだ。彼処が解放された暁には、彼らは最高の栄誉を受けるだろう……吸魂鬼(ディメンター)も我々に味方するだろう。彼らは生来、俺様達と同じく闇の住人なのだからな……」

 

「次に欠けた六人の者達。三人は任務で死に、一人は臆病風に吹かれて戻らず、一人は永遠に俺様の下を去った……」

 

「そしてもう一人、最も忠実な下僕(しもべ)はホグワーツにて、既に難しい任務に就いている。その者の尽力によって、我らが若き友人を招待させる事が出来た」

 

ヴォルデモートは知らしめるように死喰い人に言う。

 

死喰い人達はざわつき、互いに見交わしている。

 

「ハリー・ポッター君が俺様の復活の儀式にわざわざご参加してくれたのだ。賓客だな?」

 

ヴォルデモートはニヤリとしながら見る。

 

「我が君……。どのようにしてお戻りに?」

 

マルフォイ氏が尋ねる。

 

「ああ、ルシウス……それは長い話になるな……」

 

ヴォルデモートはそれから語った。

 

赤ん坊のハリーを襲った時、ハリーの母、リリー・ポッターの護りによって返り討ちにあったこと。

 

確実に死んだ筈だが死の克服に取り組んでいたことで、辛うじて霊魂にも満たないものになったこと。

 

時には動物に取り憑きながら存在していたが、四年前にクィレルと出会ったこと。

 

賢者の石の奪取を目指すも叶わなかったこと。

 

望みを捨て諦めかけていた時、ワームテールがやって来たこと。

 

ついでに英国魔法省の役人、バーサ・ジョーキンズもやって来ており、彼女から有益な情報……魔法学校対抗試合がホグワーツで開催されることなどを引き出したこと。

 

そして古い闇の魔術だが、魔法薬、下僕の肉、肉親の骨、(かたき)の血を使い、復活すると決めたこと。

 

などを。

 

「『炎のゴブレット』に名前を入れさせ、ハリー・ポッターが試合に優勝させる。ダンブルドアの庇護は無いこの場に来れるようにな…」

 

ヴォルデモートは大変だったと言うよう語る。

 

「そして三年前、賢者の石の奪取の時に俺様を妨害した日本の小僧(刀原)のことも、予てより懸念であった日本の死神達と同様に対抗策が出来た」

 

「た、対抗策……でございますか?」

 

「そうだ。血筋は良いらしいが、護廷十三隊の怪物達もなんとか出来ると豪語していた、いけ好かん男ではある。そして無礼な男でもあるな。まあ、利用価値はあるので日本の奴らをなんとか次第消す。奴と手を結んでいる破面(アランカル)とか言う者共はいずれ、我が配下となろう」

 

忌々しそうにヴォルデモートは言う。

 

「さて、日本の事など端に置いてだ……。こうしてポッターは我が両腕の中に連れてこられ、俺様がより強力に復活する為の糧となってくれた訳だ……。俺様はつい先程まで、小僧に触れるとすら出来なかった……。俺様は無力だった……。だが!」

 

そう言いながらヴォルデモートは、ゆっくりとハリーに近付いて来る。

 

「今はお前に、触れる事が出来る……!」

 

そして抵抗できないハリーの額の傷跡に、蒼白く細い指先を押し付けた。

 

「うわぁあああああああ!!!!」

 

額から頭が割れるかと思うような痛みが走り、ハリーはくぐもった声をあげる。

 

「見たか!この小僧が俺様より強かった事など、ありえんことなのだ!」

 

ヴォルデモートは高らかにそう言う。

 

「そして、ここでお前達全員の目の前でこの小僧を殺すことで、俺様の力を確固たるものとしよう。ダンブルドアもいない、小僧の為に死んでくれる母親も、頼れる日本の者共(刀原、雀部)もいない。文字通り、一対一だ」

 

ヴォルデモートは言う。

 

「さあ、こやつの縄を解けワームテール」

 

そう言うとワームテールがハリーの縄を解く。

 

久方ぶりの自由だが感傷に浸っている場合ではない。

 

「杖を取れポッター!立て、早く!」

 

ヴォルデモートが白い杖を構えている。

 

ハリーはここで始めて、明確に死を感じた。

 

 

 


 

 

 

「一閃煌めき両断せよ『神殲斬刀』」

 

刀原は霊圧感知で日番谷、黒崎以外の面々が勝利しつつあることを知りつつ、再度始解した。

 

軽く八メートルはある巨体を前に、浅打(刃が潰れている)のままでは力不足と判断したからだ。

 

「さて、先ずは……元流 九ツ目『突き』」

 

刀原は始解早々、人体でいえば心臓がある部分に突きの斬撃をアヨンに向かって飛ばす。

 

光の矢のように飛んだ斬撃は狙い通りにアヨンの左胸へと直撃し、その筋肉隆々の巨体に容易く、大きい風穴が空く事になった。

 

アヨンは首を少しだけ傾げて自身に空いた穴を確め、そして何度もその部分を掌で叩く。

 

何度も。

 

何度も。

 

やがて完全に怒ったのか、アヨンは思わず耳を塞ぎたくなるような咆哮を上げ、そして今まで顔だと思っていた髑髏の仮面のある部分の左右に眼が、下には口が露になった。

 

そしてアヨンに風穴が空いた瞬間、歓声が沸き上がっていた観客席にもそれは聞こえ、その場の者達を恐慌状態にさせていた。

 

「ありゃ、大して効いてねぇ」

 

刀原はめんどくさそうに言う。

そして「そこが顔じゃねぇのか……」とも思っていた。

 

その間にもアヨンはズシンズシンと接近して、刀原を上から殴り潰そうとし、右拳を振り抜いた。

 

大地が割れるかのようなその一撃はまさしく大爆発のようで、観客席で震えるしかない者達を絶望させるに相応しい光景だった。

 

が……。

 

「ハッ、遅いわ。当たんねぇよ」

 

刀原には当たらず、アヨンの右肩付近にいた。

 

瞬歩で回避していたのだ。

 

「とりあえず……このままだと周辺がヤバいことになる(破壊される)からさ……貰っといたわ、右腕」

 

そしてそう言って斬魄刀を鞘に納めると、アヨンの右腕が音もなく斬り落とされた。

 

「………ーーーーーーー!!」

 

すると、アヨンはピタリと止まって右腕の方を向き、そして無いことを確認した。

 

そして再び咆哮を上げ、痛みなど感じないかのように残った左拳を刀原に向けた。

 

「人を殺すことしか考えられねぇ物の怪か」

 

刀原は呆れたように、哀れむように言う。

 

そしてアヨンの左拳を易々と躱し、左腕も斬り裂く。

 

右腕と同様、音もなく落ちる左腕。

 

アヨンは自身の残った左腕すら斬り落とされた事を自覚すると、瞬歩で距離を取っていた刀原に眼から虚閃(セロ)を放った。

 

「甘いわ」

 

刀原はそう言いながら虚閃を斬って防ぐ。

 

虚閃より呪文の方が早い。

 

つまり、迎撃出来ない筈がないのだ。

 

そして、決めにかかる。

 

「『海割』」

 

刀原はそう呟き、アヨンを頭から真っ二つにした。

 

だが。

 

アヨンは半身になっても立ち上がる。

 

「もう止せ、てめぇみたいな哀れな物の怪を、そう何度も斬りたくはねぇ」

 

刀原は諭すように言う。

 

だが、アヨンは止まらなかった。

 

「止せって言ってんのが、判らねぇのか!」

 

刀原はうんざりし、そう吐き捨て、一閃する。

 

「『千斬り』」

 

アヨンの身体には幾千もの斬撃が走り、刀原が斬魄刀を鞘に納めると、文字通りバラバラに切り刻まれた。

 

「そんな!」

 

「くそっ!」

 

「おのれぇ!」

 

バラバラに散ったアヨンを見て、既に片腕がない状態のアパッチ、スンスン、フランチェスカが刀原に特攻を仕掛ける。

 

だが力の差は大きかった。

 

「『斬払い 陣円閃』」

 

「「「ぐぁああ!」」」

 

一閃で三人は吹き飛ばされる。

 

「片腕で来たからな、その意気に免じて命までは獲らないでおいてやるよ」

 

刀原はそう言って斬魄刀を鞘に納めた。

 

 

 


 

 

 

「決闘のやり方は学んでいるな?」

 

ヴォルデモートはどこか興奮気味に言う。

 

その言葉には余裕が感じられた。

 

尤も、ハリーにそんな余裕などある筈もなく、二年前にほんの少しだけ参加した決闘クラブを前世の事のように思い出していたが。

 

「先ずはお辞儀だ……」

 

ヴォルデモートは軽く腰を折る。

 

「格式ある儀式には守らねばな?さあ、死にお辞儀を……するのだ!」

 

ハリーが頭を下げない(お辞儀をしない)のを見たヴォルデモートが杖をハリーに向ける。

 

すると見えない手がハリーを強引に頭を下げさせ、観客となっている死喰い人はそれを見て拍手する。

 

「よろしい、良い子だぞハリー……」

 

ヴォルデモートが楽しそうに、満足そうに言う。

 

「さあ……今度は男らしく俺様の方を向け……。背筋を伸ばし誇り高く……。お前の父親が死んだ時のように……さあ、決闘だ」

 

そう言われたハリーが何か手を打つ前に『磔の呪い(クルーシオ)』が襲い掛かる。

 

全身を消耗させる痛み、あまりに激しい痛みにハリーは自分が何処にいるのか判らなくなってしまった。

 

熱いナイフで全身の皮膚を切られたみたいだった。

 

やがて痛みが止まり、地面に転がっていたハリーは生まれたての小鹿のようによろよろと立ち上がった。

 

「ひと休みだ」

 

ヴォルデモートが遊ぶかのように(ニコニコ顔で)言う。

 

「ほんのひと休みだ……ハリー、痛かっただろう?もう二度として欲しくないだろう?イヤだろう?答えるのだ!『インペリオ(服従せよ)』!」

 

ハリーは頭がふわふわする。

 

『イヤだと言えば良いんだ』

 

甘い、甘美な言葉……だが。

 

「僕は言わないぞ!」

 

ハリーは叫ぶ。

 

「ほう、言わないか……」

 

ヴォルデモートが静かに言う。

 

「どうやら従順さは得だと、死ぬ前に教える必要があるな……。では、もう一度痛い薬を与えるべきだな?」

 

ヴォルデモートはそう言って呪文を飛ばすが、今度はハリーも反射神経で避けられた。

 

ハリーはヴォルデモートが猫撫で声(ウキウキ気分)で近付いて来るのを感じとり、最期が来たことを悟る。

 

そしてただ一つの事を思っていた。

 

《死ぬならせめて一太刀いれてから》

 

親友であり頼れる人、ショウ(刀原)がそう言っていた。

 

そうだ。

 

ヴォルデモートに跪くものか!

 

堂々と立ち向かって死ぬのだ!

 

ハリーは立ち上がる。

 

そして杖をしっかり握り締め、身体の前にすっと構え、ヴォルデモートと向き合った。

 

「『エクスペリアームス(武器よ去れ)』!」

 

「『アバダ ケダブラ(息絶えよ)』!」

 

二人は同時に叫ぶ。

 

そしてハリーの赤い閃光とヴォルデモートの緑の閃光が、空中でぶつかった。

 

 

 

 

 

 

 

赤と緑の閃光はやがて金色の糸となり、やがて二人の周囲は金色のベールにすっぽりと覆われた。

 

「手を出すな!俺様の獲物だ!」

 

ヴォルデモートが周囲を確認しながら、杖をだし始めた死喰い人にそう命令する。

 

そしてここまで終始余裕を見せていたヴォルデモートを、驚愕させる事が起きた。

 

灰色のゴーストとおぼしきものが飛び出したのだ。

 

『やっつけろ、坊や……俺の代わりに……』

 

ハリーの夢に出てきた老人。

 

『手を離すんじゃないよ!絶対に!』

 

バーサ・ジョーキンズ。

 

そして……。

 

『お父さんも来ますよ……ハリー、頑張って……』

 

今宵、ハリーが誰より心に思っていた母。

 

『繋がりが切れると、僕達はほんの僅かしかこの世に留まれない。それでも時間を稼ぐこと位は出来る。だから振り替えらずに移動キー(ポート・キー)まで行くんだ。わかったね、ハリー?」

 

支えてくれた父がそう言う。

 

「ありがとう……」

 

そしてハリーは渾身の力を込めて、杖を捻り上げた。

 

途端に金色の糸もベールも消え去る。

 

ハリーは走り、優勝杯(ポート・キー)までたどり着いた。

 

ヴォルデモートが迫るが、もう遅い。

 

ハリーは消え去り、ホグワーツへと帰って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

*1

厳霊丸を差し置いて。

 

「孫……ということを考慮に入れずに言うが、彼女は天才だ」

 

雀部長次郎は自慢げにそう語っている。






黒き死の飛翔

白き髑髏の仮面。

肉と骨と血。

虚ろなる穴。

さあ、地獄の釜を開けるとしようか。







V卿復活おめでとう。

英語版だとそんなこと無いのに、日本語版だと楽しげなヴォルデモート……。

お辞儀様だの、ヴォルちゃんだの言われてますが……。

本当はもうネタキャラ化させたかったのですが、ハリーしか居ないので断念しました。

良かったね!


アヨンを圧倒できるのは隊長達くらいでしょうか。

まあ、もしこの場面で刀原が倒されても藍染様がなんとか出来ますので……。



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そしてお待ちしております。



では次回は

死神と炎のゴブレット編 決着と終幕

次回もお楽しみに。




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死神と炎のゴブレット編 決着と終幕




貴方が小さな椅子に固執している間に
奴らはその椅子の土台を崩壊させるだろう

貴方が恐怖で物事が見えないと思う間に
奴らは貴方ごと周りを覆い尽くすだろう

歴史は貴方をなんと残すだろう

勇敢な者か、無能な者か
偉大な者か、暗愚な者か

それでも貴方が前を見ないなら

仕方ない
袂を、分かつしかない。










 

 

 

 

刀原がアヨンを倒したことで、形勢は不利と判断したハリベルと、黒崎と戦っていたもう一人の破面(アランカル)……グリムジョー・ジャガージャックは苦々しそうに撤退し、残った(ホロウ)も刀原達によって駆逐された。

 

「ハリーはまだ戻って来て無いのか?」

 

「ええ、まだみたいです」

 

残党処理を終え、観客席に戻って来てそう言った刀原に、先に戻っていた雀部がそう頷く。

 

「冬獅郞と一護は?」

 

「その二人は既に……ただ一護君は負傷してます。どうやら敵は、想像以上に手強いみたいですね……」

 

「ふむ……」

 

確かに、あの『アヨン』と対峙できるのは相性的に俺か、藍染校長ぐらい……。

 

その俺とて『斬刀』の能力無しじゃ無理だったし。

 

敵……ヤバくね?

 

刀原はそう考えこんでいた。

 

 

 

観客席周辺の怪物()達が掃討され、漸く全員が一段落ついたところでハリーが現れた。

 

倒れているハリーはボロボロで、疲弊していた。

 

「ハリー!大丈夫か!」

 

「何があったのじゃ!?」

 

刀原とダンブルドアがハリーに駆け寄る。

 

「戻ってきた!あの人が戻ってきたんです!あの人が、ヴォルデモートが……!」

 

「え、マジで?」

 

「そうじゃったか……」

 

ハリーの悲痛な報告に、めんどくさそうに刀原は答え、ダンブルドアは遂にかと言う顔で答えた。

 

「ダンブルドア、一体どうしたというのだ?取り敢えず、授賞式をしてからでも……」

 

何も分かってなさそうなファッジが呑気にそう言うが、最早それどころではない。

 

「残念じゃがコーネリウス……授賞式は中止せねばならん……ハリーは一先ずここにいるのじゃ……」

 

ダンブルドアは半ば呆れながら、考えながら言う。

 

そんな中、会場は再びプチパニックになっていた。

 

セドリック、クラム、フラーの謎の脱落。

 

ハリーの行方不明。

 

怪物達の出現。

 

止めに、ハリーがボロボロで帰還した。

 

こんな事が、立て続けに起こっているのだ。

取り敢えずホグワーツ城に戻るべきだと、観客が言うのも無理ないだろう。

 

ダンブルドアとて、それが最適なのは理解しているだろうが……それでもボロボロのハリーをここに留める(医務室送りにしない)のは、自身の近くに留めておきたいのだろう。

 

ハリーはおそらく、ダンブルドア達が喉から手が出るほど欲しい情報を得ているため、失ってはマズイのだ。

 

「ハリー、先ずは応急処置を」

 

雀部が取り敢えずそう言って駆け寄ってくる。

 

本来は井上の方が治癒に関しては上なのだが……彼女は黒崎(恋人)の治療で手一杯のようだ。

 

「おう雷華、頼む……って、あれ?」

 

刀原は雀部の方を向きそう言った後、ハリーの方を振り向いて目を見開いた。

 

いつの間にかハリーが居なくなっていたのだ。

 

「やっべ、どこ行った!?」

 

「あ、あっちじゃないですか!?」

 

そして慌てて霊圧を探り、二人は駆け出した。

 

 

 


 

 

 

「わしがやったのだ。わしが、お前の名前をゴブレットに入れたのだ。トーハラとかいう日本のガキが、あの晩に指摘した方法でな」

 

ハリーをこっそりと連れ出し、自らの部屋に引き入れることに成功したムーディは、自身が『炎のゴブレット』にハリーの名前を入れた犯人だと言った。

 

「まさか……違う、あなたの筈が無い」

 

ハリーは信じられないとばかりに言う。

 

ムーディには、そんなことをする動機がないからだ。

 

「ハリー……()()言った筈だ。俺が何より憎むのは、自由の身になった死喰い人だと。それも()()()()に背を向け、裏切り、保身に走り、のうのうと過ごしている死喰い人だ」

 

ムーディは狂気的な笑みを浮かべ、そう言った。

 

『ご主人様』彼はそう言ったのだ。

 

当然、さっき復活した頭のイカれた魔法使い(ヴォルデモート)の事だ。

 

歴戦の、有名な『闇祓い』の、この人が……?

 

ハリーの頭が混乱している間にも、ムーディは狂気的な笑みを変えず告白を続ける。

 

「思い出してみろ?第一の課題でドラゴンと戦う方法をお前に授けたのは誰だ?この俺だ。ハグリッドを唆し、ドラゴンをお前に見せるように言ったのは誰だ?この俺だ」

 

「てっきり、ショウかと……」

 

ハリーは唖然としながらそう言えば、ムーディはふん!と機嫌が悪そうに言う。

 

「トーハラの事だな?奴は期せずして俺の邪魔をしまくった。知っているか?奴は情報収集と諜報活動で俺の先を行った。お前に授ける戦略でもな。全く、忌々しい事だ」

 

苦々しそうにムーディは言う。

 

「ともかくだ」

 

「第二の課題でセドリックに水の中で卵を開けと教え、ネビルに鰓昆布の事を教えていたのは?」

 

「この俺だ」

 

「卵の一件は時間の問題でしたし、鰓昆布はしょう君が紹介して、調達もしたから無駄になりましたね」

 

「忌々しいがな」

 

「第三の課題の迷路でハリーに勝たせるために、フラーを襲い、クラムに『服従の呪文(インペリオ)』をかけ、セドリックも襲い、冬獅郞を妨害していたのも?」

 

「この俺だ」

 

「第三の課題ではハリーが私達と特訓したから、それしか出来なかったみたいですけどね」

 

「確かにな」

 

「そんなお前は死喰い人?」

 

「その通りだ」

 

「やっぱりあの噂の、痛々しい人達(ヴォルデモートとその下僕達)ですか……」

 

「名前はバーテミウス・クラウチ・ジュニア?」

 

「その通りだ」

 

「どうやら正解だったみたいだな」

 

「みたいですね」

 

「そうd……ん?」

 

ハリーとムーディ(偽)との会話に、さも最初からいたかのように平然と混ざっていた二人の男女。

 

刀原と雀部である。

 

二人はさりげなく部屋に侵入し、さりげなくムーディ(偽)を捕縛しようとしていたのだ。

 

まあ、なにやらムーディ(偽)が種明かしをし始めたので、ついつい加わってしまったのだが。

 

「き、貴様ら。い、一体、何時からここいたぁ!」

 

ムーディ(偽)が驚愕しながら聞く。

 

「え、そりゃあ……」

 

「『わしがやったのだ』ってことからですかね」

 

「さ、最初からぁ!?」

 

そして、二人がケロッとそう言い、結構最初の方からいたことに驚いたのだった。

 

 

 

 

「バーテミウス・クラウチ・ジュニア……ってアズカバンにいた筈じゃないの!? 確か、死んだって……」

 

ハリーも驚いてそう言った。

 

クラウチ・ジュニアはアズカバンにて、少なくとも世間的には非業な死を遂げた筈なのだ。

 

「ああ、らしいな。だが……実は生きていたわけだ。それに、死んだ筈の人間(ピーター・ペディグリュー)生きていた(スキャバーズだった)なんて事例が、去年あっただろ?ならば、今回だってそうかもしれないって思うだろ?」

 

「た、確かに?」

 

刀原の理論にハリーは首を傾げながら(あれ?そうかな?)そう言う。

 

「……邪魔が入ったが……まあ、良い……この場で全員殺せば済むことだ」

 

ムーディ(偽)は開き直ったかのように言う。

 

「ポッター、闇の帝王はお前を殺し損ねた。あの方はお前の死を強くお望みだったが、どうやら辛うじて逃げ延びたらしいな……」

 

ムーディ……いや、クラウチ・ジュニアは狂気的な目をらんらんと輝かせてそう言う。

 

「だがあのお方に成り代わり、俺がそれをやり遂げたら……あのお方は……どんなに俺を誉めて下さることか」

 

ジュニアはそれを、もう成し遂げたとでもいうかのように興奮気味に言う。

 

そしてその手には、既に杖が握られていた。

 

「はっ、それを俺たちの前で言う度胸には感服するがね……。そんなこと、俺たちがさせるとでも?」

 

刀原が笑い飛ばしながら言う。

 

「出来るとも……貴様のようなガキなど、一捻りだ」

 

ジュニアも笑いながら言う。

 

「だけどこの前ボロ負けして、トンズラしたのは何処のどなたさんなのかな?」

 

「ふん、あれは手加減しただけだ」

 

「手加減して目的果たせないんじゃ本末転倒だけどな?それと、今回はトンズラ出来ないからね?部屋だし。それとも辛うじて逃げ延びて愛するイカれたご主人様(笑)に泣きつくのかな?」

 

「そんなことは無い!『ステューピファイ(麻痺せよ)』!」

 

ジュニアは誤魔化すように『失神呪文』を放つが、刀原に容易く弾かれる。

 

「あの時の屈辱を晴らし、貴様を殺してその刀を奪い、それをあのお方に献上すれば……この国であのお方に敵う敵はいなくなる」

 

「屈辱って言ってるじゃん」

 

「黙れぇ!」

 

刀原によって言い負かされる形となったジュニア(未だムーディ顔)は顔を真っ赤にしながらそう言う。

 

「一度ならず二度m」

 

「はい、隙だらけです『エクスペリアームス(武器よ去れ)

 

「な!?」

 

ジュニアは怒りを剥き出しにして怒るが隙だらけであり、雀部によって簡単に武装解除されてしまう。

 

「少しは学べ」

 

「ガフッ!?」

 

その直後、接近した刀原がジュニアの水月に回し蹴りを叩き込む。

 

「ハリー!大丈夫かの!?」

 

そしてジュニアが壁に叩きつけられ、失神したところでダンブルドア、マクゴナガル、スネイプも現れ、ジュニアはご用となった。

 

 

 

「バーティ・クラウチ・ジュニア……」

 

「ええ、ムーディ教授は偽物だった……」

 

刀原は、ダンブルドア達が突入したタイミングでジュニアに対し『百歩欄干』と『鎖条鎖縛』を容赦なく叩き込み、捕縛していた。

 

「なぜこやつがジュニアだと気がついたのか、わしはさりげなく気になるのじゃが?」

 

「ああ、クラウチ・ジュニアだと確信したのは、ついさっきですよ?」

 

「ついさっき?」

 

「ええ、最初は『何故ムーディ教授はハリーを贔屓するのか?』から始まりますが」

 

刀原はそう言って語り始めた。

 

 

 

「ムーディ教授は、第一の課題の時にハリーに入れ知恵をしてたらしいんです。すなわち、第一の課題でハリーがやった箒でドラゴンと対峙するって言う。そこで、何故それをするのか……疑問しました」

 

「些細なことだからと、利することだからと言って放置しないのは貴方の良いところですね」

 

「ありがとうございます。ずっと気になっていたんですよ『何故、ハリーの名前が炎のゴブレットに入っていたのか』それはハリーを殺すため、そして、ハリーを勝たせるためだった。だからムーディはハリーを勝たせるため、行動した」

 

「そこから、何故ジュニアが出てくる?」

 

「去年の事が役に立ちました。クラウチ氏が襲われたことから氏に強い恨みがあり、かつ今生きている可能性が僅かでもある人達の中に、ジュニアがあったからです」

 

「アズカバンで死んでいる筈のジュニアが?」

 

「入れ替わりの可能性です。ジュニアが公式的に死ぬ少し前に、クラウチ夫婦がアズカバンに訪れてます。多分、その時に婦人とね。吸魂鬼は目がありませんから、病弱だった婦人とジュニアが入れ替わったのが分からなかったんです」

 

「役人は?死体は?」

 

「ポリジュース薬ですよ。おそらく婦人は、最期まで飲むのを続けていたんでしょう」

 

「成る程の……」

 

「ワールドカップ、バーサ・ジョーキンズ。調べたら、何れもクラウチ家が関わっていました。バーサは行方不明になる少し前にクラウチ家を訪れているそうです。おそらくバーサは偶然にも、ジュニアが生きていることを知ってしまった……」

 

「可哀想じゃの」

 

「ムーディの怪しい行動、そんな当の本人はホグワーツに着任する前に襲われているらしいですね?それが何時もの奇行じゃなかったとしたら……そして今ここにいるムーディが本人じゃないなら……その時、入れ替わっている筈です。では誰と入れ替わってる?実は生きているジュニアかも知れない。ムーディはやたらクラウチ氏に突っ掛かっていましたしね」

 

「確かにそうですね……」

 

「辻褄はあっている……」

 

 

その後、刀原の推理が正しい事はジュニア(被告人)が目覚めたため、証明された。

 

ジュニアは真実薬(ベリタセラム)の効果もあってすらすらと証言し、「俺は英雄として迎えられるだろう」と締めくくった。

 

「優秀な飼い犬は、全てが終った後には処分される。それは歴史が物語っている。仮に勝利したら……確かにお前は迎えられるだろう。但し、処刑台だろうがな」

 

刀原は吐き捨てるように言う。

 

正体を看破し、捕縛もした。

 

だが決定的な証拠は掴めておらず、阻止も出来ず、目的は完遂されてしまったのだ。

 

刀原が言ったのは、皮肉であり賛辞であった。

 

 

 

ジュニアのことは鬼道で封殺している為、見張りはマクゴナガルに任せ、刀原と雀部、ダンブルドアはハリーに付き添う形で医務室へと向かった。

 

そしてそこで待機していたシリウスと共に、今宵ハリーの身に何があり、そして何が起こったのかを正確に聞くことになった。

 

「…………そして…優勝杯をつかんで、戻ってました」

 

ハリーは自分の身に何があったのかを伝えた。

 

「……」

 

全員が押し黙る。

 

「……取り敢えず、ハリー。良く帰って来た!」

 

「ええ、良く帰って来ました!」

 

刀原がハリーの頭をくしゃくしゃに撫で、雀部が労るように抱きつく。

 

「ハリー……今夜君は、熟練の魔法使いに匹敵する心の強さと、期待を遥かに超える勇気を示してくれた。そして、我々が知らなくてはならないことを全て話してくれた」

 

ダンブルドアもそうハリーを褒め称える。

 

「今夜は寮に戻らぬ方が良い。すぐに君の友達も来る……というか、既に来ておるからの。顔を見せてあげると良いじゃろう……シリウス、ショウ、ササキベ嬢はハリーと共にいてくれるかの?」

 

そう言われた三人は、勿論とばかりに頷く。

 

ダンブルドアはそれに満足そうに頷き、ファッジと今後の対応を話し合う為に医務室を後にした。

 

やって来ていたロン、ハーマイオニーは、ダンブルドアが言った『今夜はハリーに質問禁止』を忠実に守った。

 

そしてハリーはマダム・ポンフリー(医務室の女主人)の手によって睡眠薬を飲み、疲れもあってか容易く夢の世界へ旅立っていた。

 

シリウスはハリーを労るように頭を撫でている。

 

「流石に英国魔法省(無能な魔法大臣)も、こんなことになった以上……動き始めます(対策をたてる)、よね?」

 

雀部は表情を固くしながらそう言う。

 

「そうだと良いんだが……そこまで呑気(無能)じゃないと思いたいが」

 

刀原は嫌な予感を隠さずに言う。

 

不安は全く拭えなかった。

 

そして暫くすると、口論が聞こえてくる。

 

ファッジと、意外なことに(監視している筈の)マクゴナガルだった。

 

 

 

 

 

「残念だが……仕方ない……」

 

「あれを城に入れてはならないと、あれほど……」

 

医務室のドアが盛大な音と共に開かれ、ファッジがドカドカと入り、その後ろにマクゴナガルとスネイプがついてきていた。

 

「ダンブルドアはどこかね?」

 

ファッジが刀原にそう聞く。

 

「ここにはいませんよ。病室ですから……少しお静かになされては?」

 

「何事じゃ、コーネリウス?ここで騒いでは病室で寝ている者達にとって、迷惑になるじゃろう?」

 

刀原は半分イラつきながらもそう答え、直後にダンブルドアも颯爽と現れ、鋭い目で見る。

 

「ミネルバ、クラウチ・ジュニアを監視するようお願いした筈じゃが……?」

 

ダンブルドアはマクゴナガルの方を見て、不思議そうにそう言う。

 

「見張る必要が無くなったのです!大臣がそのようになさったので!」

 

何時も冷静沈着*1なマクゴナガルが、こんなに取り乱すのを刀原は初めて見た。

 

両手の拳は固く握られ、わなわなと震えている。

 

「大臣には今夜の事件を引き起こした犯人……死喰い人を捕らえたと報告したのですが……」

 

スネイプが普段よりも低い声で言う。

 

「そしてその際、危険はあり得ないとも言ったのですが……大臣は尋問に吸魂鬼を付き添わせたのです……」

 

スネイプは頭が痛そうにそう言う。

 

「失礼だがね。魔法大臣として護衛を連れていくかどうかは私が決めることだ。尋問する相手が危険性があるものなら当然じゃないか。え?」

 

ファッジもまた怒っているようだった。

だが、恐怖に刈られているようにも見えたが。

 

「あの、あの物が部屋に入った瞬間……クラウチに覆い被さって……そして……」

 

マクゴナガルは言葉を失っていた。

その理由は信じたくないが想像しやすかった。

 

おそらく、ジュニアに死の接吻をしたからだ。

 

「そ、そんな……」

 

雀部が顔を青ざめる。

 

「おい、それじゃ……証言は?推理があっても、証言が無くちゃ……」

 

刀原は唖然としながらそう言う。

 

「失礼だがね、ジャパニーズ・ボーイ。証言などいらないのだよ。聞くところによると?あいつは支離滅裂で、命令は『例のあの人』だと言うじゃないか。良いかい、それは都合の良い上手い言い訳なのだ」

 

「言い訳?」

 

「その通りだとも、『例のあの人』はもう十数年前に()()()()んだ。思い込みか、虚言に違いないのだよ」

 

「おや?それはおかしいですね。ヴォルデモートの一件に対して、日本魔法省の公式見解は()()()()です。英国魔法省は、ヴォルデモートの死体を確かに確認したのですか?そしてそれは偽物では無かったですか?死んだと言う確たる証拠は?」

 

「そ、それは……」

 

「無い。そうですよね?であれば、英国魔法省にとって今夜の事件はそれを決定的に出来る最大のチャンスだったのでは?」

 

「だが、それすら必要では……」

 

「必要が無い?何故?それを公表すれば、各国も安心できる筈です。しかし……その気がないのであれば、由々しき事ですね。各国からすれば、英国魔法省が証拠をふいにし、真実を隠しているようににも見える。それにもし復活が事実であれば、それをを隠蔽しようと見られてもおかしくはない……これは」

 

「もう良いショウ。ありがとう」

 

「これは大変なことです。早急に日本魔法省へと報告し、場合によっては米合衆国魔法議会(アメリカ)仏国魔法省(フランス)等とも連携して早急なる調査をせねばなr」

 

「ショウ、もう良い。もう良いから、そこまでにしてあげてくれんかの……」

 

刀原の追及を、半ば懇願して止めるダンブルドア。

 

刀原としては『折角、生かしたまま捕らえてあげたジュニア(重要証拠)を葬られた』形なのだ。

 

何時もの笑み(笑っていない満面の笑み)を浮かべ、淡々と冷徹に正論で追及しても文句無いだろう。

 

少なくとも、まだまだ足りないと不満げな顔をしても良いだろう。

 

「コーネリウス。確かに、ヴォルデモート卿が命令していたのじゃ。言い訳でも、思い込みでも、虚言でもない。ヴォルデモート卿は今宵……復活したのじゃ」

 

ダンブルドアの言葉に、ファッジは呆然として目を瞬きながら見つめ返す。

 

それは「何言ってんだコイツ?」といった顔だ。

 

「『例のあの人』が……復活した……?馬鹿馬鹿しい……いいかダンブルドア、そんなことは……」

 

「ミネルバもセブルスも、わしも、ハリーも、クラウチ捕縛に大きく貢献してくれたトーハラ君とササキベ嬢も、先ほどクラウチの告白を聞いた。真実薬じゃから嘘偽りもあり得ない」

 

「自慢気に言ってましたよ「ご主人様の、あのお方からの命令だ」とね」

 

「おいおいダンブルドア……まさか、それを信じているのかね?『例のあの人』が戻ってきたと?あり得ない、クラウチは()()()()()()命令を受けたと()()()()()()()のだろう。しかし、ダンブルドア……そんな戯言を真に受けるとは……」

 

「大臣、先ほど我々は真実薬を使用したと言いました。あれはその戯言すら出ない魔法薬だった筈。そうですよね、スネイプ教授」

 

「さよう」

 

ダンブルドア、刀原の言葉にファッジ狼狽える。

 

「ダンブルドア、貴方は……まさかだとは思うが……本件に関して、ハリー(未熟な子供)クラウチ(異常な殺人者)の言葉を信じると?」

 

「クラウチの告白、優勝杯に触れて行方不明になったハリーからの証言、そしてトーハラ君のクラウチに対する推理。三人の話は辻褄が合う。この夏から起こっていること全てが説明出来る」

 

「どうやら、信じられるおつもりのようだな……」

 

ファッジはダンブルドアの説明(説得)を聞いても、全く無駄なよう(アーキコエナイー)だった。

 

むしろ妙な笑みをすら浮かべている。

 

あんた達(英国魔法省)うち(日本魔法省)が何かあるから気をつけろと散々警告したのに……このザマじゃな……」

 

刀原は吐き捨てた。

 

そして見切りもつけた。

 

こんなノータリン(イカれポンチ)に付き合ってられないと。

 

 

 

 

 

 

「成る程……分かったぞ……!どうやら諸君は、この十三年間我々が、()()築き上げた物全てを壊そうということだな!?」

 

ファッジは完璧に分かったと言う顔でそう言う。

 

行くとこまで行ったか(駄目だコイツ)

分かったぞじゃねぇよ(何言っても無駄か)……。

 

刀原は既に頭が痛くなっていた。

無駄な議論(平行線)になってるからだ。

 

そしてファッジもダンブルドアも、既に議論も説得も終わりだった。

 

「皆さんも、何を言っているのか……私にはさっぱりだが……もう聞くだけ聞いた。私は帰らせて貰う」

 

ファッジはそう言い、出ていこうとする。

 

「おい、待てよ英国魔法大臣(無能大臣)

 

だが、出口の前に刀原が腕を組んで立ち塞がる。

重要な事は、あともう一つあるからだ。

 

「ヴォルデモートの件に関しては……まあ一千歩ぐらい譲ってやるが」

 

「競技場にて出現した(ホロウ)破面(アランカル)についてはどうするんですか?」

 

刀原と雀部の指摘に、ハリー以外(当時いた者達)が全員「(忘れてた)……」という顔をする。

 

どうやら彼らはヴォルデモートのことで頭が一杯で、それどころではなかった(忘却の彼方に行っていた)らしい。

 

「スネイプ教授やフリットウィック教授が手も足も出なかった怪物を……我々、日本の死神達しか対処出来ない怪物を、あなた方(英国魔法省)はどうするのか?それも放置(知らんぷり)か?虚言(キコエナイー)か?幻覚(これは、夢だ)か?自力で対処するの(で、出来るもん(震))か?」

 

刀原は最早、笑っていない。

 

死神としての責務があるからだ。

 

そして此処でも見栄を張る(知らんぷりを決め込む)というなら、遺憾ながらも手を退くよう上層部に進言するつもりだった。

 

だが、ファッジはそこまでバカではなかった。

 

「遺憾ながら……我々(英国魔法省)では対処不可能だと考える……。近いうちに日本魔法省と護廷十三隊へ、正式に救援要請をすることになるだろう……」

 

若干渋々そうに、ファッジはそう言う。

 

「分かりました。此方からも日本魔法省魔法大臣 市丸ギン殿と護廷十三隊総隊長 山本元柳斎重國殿にお伝えておきましょう。確固たる明言は出来ませんが……本案件に対しては隊長格を派遣する形になるかと思います。それで問題は?」

 

「いや、問題は無い。よろしくお願いする」

 

ファッジはそう言って一礼する。

 

「では、そのように」

 

刀原もそれに一礼で返す。

 

そしてファッジは出ていこうとするが。

 

「そうそう、英国魔法大臣。一つ忠告を」

 

刀原が呼び止める。

 

それ(保身)は甘美な夢の味だが、毒でもある。そして取りすぎれば己も全ても破滅する。気付いた時には、もう手遅れ。分かっている筈です。お忘れなきよう」

 

ファッジは苦虫を噛み潰したような顔をして刀原を見たあと、今度こそ出ていった。

 

 

 

 

 

「さて、やるべきことは沢山じゃ。早急に、仲間達へと知らせねばならぬ」

 

ダンブルドアはそう言う。

 

そしてマクゴナガル等に指示を出す。

 

「さてシリウス、セブルスよ。今は信頼を確固にすべき時……先ずは握手じゃ」

 

ダンブルドアの言葉に、二人は苦虫を噛み潰したような顔をする。

 

「握手だ、スネイプ。この件に関してだけだがな」

 

「利害が一致しているだけだ。馴れ合う気はない」

 

ゆっくりと歩み寄り、握手する。

即座に離すが。

 

「よし、それでは……シリウスは昔の仲間に厳戒態勢を取る様に伝えておくれ」

 

「分かりました」

 

「セブルスは……もう分かっておろう。もし、準備が出来ているなら……もし、やってくれるなら……」

 

「大丈夫です。行って来ます」

 

指示を受けた二人は、颯爽と医務室を後にする。

 

「ショウ、ササキベ嬢には、後で手紙を託すことになるじゃろう……宛先は山本元柳斎殿じゃ。君達からも、良しなにと……是非にと……」

 

ダンブルドアは二人に、懇願するように言う。

 

「分かっております。最終決定(派遣するかどうか)は隊首会等で決定されますが、良い返事が返ってくると思います」

 

「ありがとう。それと、もう一つ。実は…藍染校長から伝言があっての。予定通り二人とも、マホウトコロの列車にて共に帰るとのことじゃが……もしかすれば予定より早く出立するかもしれんから、準備を早急に…とのことでの」

 

「了解です」

 

「分かりました」

 

刀原と雀部はしっかりと頷いた。

 

 

 

 

それから二日後。

 

本国(日本)から『早急ニ帰還セヨ(とっとと戻ってこい)』……とさ」

 

「そう、なんだ」

 

「急な話ね」

 

「そうだよね」

 

マホウトコロ所属の鋼鉄の汽車を後ろにし、そう言った刀原の言葉に、ハリー達は不安そうに言う。

 

簡潔に言えば、刀原達に強制帰還命令が出たのだ。

それも早急に。

 

そのため、刀原と雀部は他のホグワーツ生は勿論、フラーやクラムに慌てて別れを告げ、急遽日本に帰国することになったのだ。

 

ヴォルデモートが復活し、虚とその覚醒先と黙される破面、そして想像の遥か斜め上を行った英国魔法省の無能、保身(ノータリン)ぶりは、急いで今後の事を検討する理由には十分だった。

 

実は、ぶっちゃけて言えば……破面さえいなければ、日本は我関せず(オウエンシテマース)ですんだ話だった。*2

 

勿論、英国魔法界がヴォルデモートの物になった場合は冗談抜きでヤバイ(世界全体の危機)*3ので、万が一そんな事態になれば世界の主要な魔法界(米、日、仏、独、伊、等々)が全力で動く。

 

だが、虚という英国魔法界じゃ対処不可能で日本魔法界……護廷十三隊しか対処出来ない奴らが相手では、出張ってくるしかないのだ。

 

まあ、対虚部隊は米国魔法界にもいるらしいが……。

残念ながら、あてには出来ない。

 

と言う訳で、日本魔法省も護廷十三隊も()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

「また、会えるよね……?」

 

ハリーは心配そうに話す。

 

「……大丈夫だ、多分会える」

 

刀原は確約出来ない為、明言を控えた。

 

「そろそろ出発すると言ってますよ?」

 

雀部が車両から顔を出し、刀原を呼ぶ。

 

「ああ、分かった」

 

手を上げ、それに答える。

 

「それじゃあ、気をつけて夏を過ごせよ?」

 

刀原はそうハリー達に告げ、列車に乗る。

 

手を振る三人に見送られた列車はゆっくりと動きだし、ある程度の距離を進めばふわりと浮く。

 

そして加速し、あっという間にホグワーツを離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
クィディッチ戦の時を除く

*2

当然、刀原達の留学話は無くなる(消え去る)

*3
その辺は長くなるので、後書きのおまけにて後述。








見たくないものは見ない

聞きたくないものは聞かない

信じないぞ

認めないぞ

終わってしまうから

夢が覚めてしまうから。



感想で散々『とある連中は出さない』と言っておりましたが……ゲスト参戦させます。

名前だけ、名前だけ……。
英国には越させません。

また、国際外交やその辺も出来れば書いていきたいなーとか思っています。

要するに、ようやく本編開始的な訳です。

あ、おまけは予告の後です。


感想、ご意見、評価、お気に入り登録。
ありがとうございます。
そしてお待ちしております。


では次回は

死神と不死鳥の騎士団編 開始となります。

次回もお楽しみに。








《おまけ》

筆者が考える、ヴォルデモート(バカ、イカれポンチ)が英国魔法界を握ったらヤバイ理由。


1、マグルに完全露呈したらヤバイ。

魔法界というのは、マグル達にとって夢のような(喉から手が出る)物が沢山ある場所です。

不老不死、瞬間移動、簡単な飛行手段、魔法動植物。
魔法という行為その物、魔法薬、貴金属。

挙げればキリがない。

それらを狙う者、守る者で全面戦争になります。

そうならないように、マグル側からも誤魔化して貰うために、マグル側の執政者達にある程度自分達の事を明かしているのだと思われます。


だが、我らが愛すべき(ネタにすべき)ヴォルデモート(バカ、イカれポンチ)はおそらくそんなことお構い無し。

イギリス首脳とか洗脳したり、強さを見せ付けるとか言ってテレビとかで魔法使ったりしたらマグルへ露呈は待った無しです。

世界中で放映されるヴォルデモートなんて、明らかにヤバイでしょ。

失礼したカメラマンをアバダしたら……。
それこそマズイ。

そうでなくともイギリスとの通信が途絶えたら、どうなっているのか探索する国や組織は必ず出てくる。

そして、イギリスにもあるんだから我が国にもあるだろう……とか言って捜索が始まるかもしれない。

全面捜索されたら……?

ホグズミード村よ、航空写真とかどう誤魔化してるのか?とか思っちゃいます。



2、世界的な大国の一角(イギリス)掌握される(好き勝手される)のがヤバイ。

イギリスは誰が言おうとも大国です。
その複合的な影響力は無視出来ない。

そんなイギリスが持っている経済、文化、影響力が失うことになれば……世界への影響は想像を絶します。

それだけではない。
イギリスは軍事面でも大国です。

一応、通常兵器も沢山ありますが……それは大きな問題ではありません。

『核兵器』と言うヤバイ兵器が大問題なんです。

核兵器を各国にばら蒔かれたり、言うこと聞かない国や市民に対して強力な爆裂魔法感覚で乱打されたりしたら……核戦争(世界崩壊)待った無しでしょう。

そして……ヴォルデモートは、それらをおそらくではあるが……全く理解してません。

彼はヒトラーのユダヤ政策に、スターリンの粛清を足して割らなかった奴で、かつ頭がイカれてる(狂人である)

使用に躊躇いは無いでしょう。
むしろ積極的に使うかも。

その為……。

絶対にイギリス(英国魔法界)そのものを渡してはならない。


ヴォルデモートよ、ちゃんと考えてるんだろうな?

原作で天下取ったらどうするか、言ってなかったような気がするから……マグル界の掌握はやらないかも知れませんが。

ちなみに、各国が不干渉だったのは「ダンブルドアが居るから大丈夫でしょ」だったからだと思われます。

各国よ、まさか……。
考えてなかった……とか、言わないよね?


なお筆者だったら、即時介入待った無しです。

世界の危機を前に国際魔法条約(各魔法界は相互不干渉)なんて、そこら辺のドラゴンに食わせとけ。


そんな泥々の国際問題を書いたたら、ハリポタじゃ無くなると思うけど。

まあ、出来るだけ書いていくんですけど。




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死神と不死鳥の騎士団編
死神、海外にて。外交と交渉





斯くて、杖は抜かれた

無能な者を引き摺って

策謀する外を背に

勇気ある者達

闇の帳りを迎え撃て。





 

 

 

《親愛なるハリーへ

 

 

 先ずは一言謝ろう、すまん。

 

ヴォルデモートや破面の一件で、日本魔法省も護廷十三隊もゴタゴタでな……手紙を書く時間すらなかった。

 

手続きやら引き継ぎや式典やらで、忙しいんだ。

雷華もな。

 

今書けているのも、移動中だからだ。

 

で、何処に行っているかというと……詳しくは言えん。

守秘義務があってな。

 

場所だけは言える。

 

アメリカ合衆国だ。

 

そして……米国での交渉が終わり次第、英国に向かう予定なんだが……任務が目的だから、ハリーに会えるかどうかはさっぱり分からん。

 

 

それと、そっち(英国魔法界)の事だが……見たか?英国魔法省と日刊予言者新聞はヴォルデモートの事を、一言たりとも書いてねぇ。

 

それどころか、ダンブルドアやハリーの事を扱き下ろしてやがる。

 

内容は此処では書かねぇがな。

 

全くふざけた話だ。

 

これじゃあそっちへ援軍へ行く俺達が、バカ見てぇじゃねぇか?

 

ナポレオンが言ってた『真に恐れるべきは有能な敵ではなく無能な味方である』って言葉ほど、今のチキンファッジに相応しい言葉はねぇと思うよ……。

 

……ぶっちゃけ敵だと思うんだが?

 

 

さて、愚痴は此処までにして……。

 

とりあえず、ヴォルデモートとその一味はまだ仕掛けてこないだろう。

 

奴らの存在が()()()()()露呈してない以上、今姿を大々的に晒せば不利になる。

 

だから奴らは当分は仕掛けてこない。

 

むしろ警戒すべきは後ろから来る弾……つまり、味方のふりをした奴らだ。

 

最悪なことに、魔法省の役人が保身や出世の為に君を貶めようと仕掛けてくる可能性が、状況を聞く限りだが……捨てきれないのが現状だ。

 

出来るだけ外出するな。

引きこもってろ。

 

……嫌だろうがな。

 

 

今は耐え忍ぶ時だぞ、ハリー。

 

ではまた、俺が英国派遣部隊に選ばれたら……まあ、多分選ばれると思うが……ホグワーツで会おう。

 

 

 

それでは良い夏を。

 

 

 君の友人 刀原将平》

 

 

 

 


 

7月末、刀原の姿はアメリカ合衆国にあった。

 

理由はヴォルデモート対策の共有、そして破面の情報を少しでも得ることだった。

 

そのため、護廷十三隊随一の英語力を持つ刀原が外務部に仮所属したうえで、特使としてアメリカへと派遣されたのだ。

 

つまり、目的はアメリカ合衆国魔法議会との連携、共闘体制の構築だ。

 

 

「英国魔法省には困ったものです……尤もそれが事実であれば……ですが」

 

困り顔でそう言うのはMACUSA(マクーザ)……アメリカ合衆国魔法議会の議長。

 

刀原はヴォルデモート復活の可能性があることを伝えるために、アメリカ合衆国魔法議会を訪れていた。

 

「少なくとも……日本魔法省と護廷十三隊は、復活はほぼ間違いないと確信しております。実は……既に我が隠密機動が復活の儀式の痕跡を見つけております。資料は此方に……」

 

刀原はそう言って、資料を議長に見せる。

 

「拝見します……」

 

議長は資料を受け取り、隅から隅まで見ていき……やがて顔色を変えていく。

 

「これは……成る程……マズイですね」

 

議長はやってしまったといった感じでそう言う。

 

「マズイ……とは?」

 

「……先日、国際魔法使い連盟の議長……すなわち『上級大魔法使い』の職についていたアルバス・ダンブルドア殿を……英国魔法省の投票もあったからなんですが……解任したのです」

 

「か、解任……こんな時に……?」

 

「ええ……先の議会でダンブルドア殿が「ヴォルデモートが復活した」と演説しました……。ですが英国魔法省はそれを否定して、老いぼれて判断力を失い、妄想が激しいと……」

 

「それを、各国は真に受けたと?」

 

「はい。尤も……各国とて、かの大魔法使い(ダンブルドア)()()()耄碌した(ボケた)とは考えていないでしょう。ただ、グリンデルバルドの一件以降にあった英国魔法界の影響力低下のチャンスですので……」

 

「折角出来た弱み、それをつけこんだと……?」

 

「ええ、そうです」

 

「それで、後任は?」

 

「ババジデ・アキンバデ殿。アフリカ……ワガドゥー出身の魔法使いです」

 

「失礼ながら、無名では……?」

 

「まあ、前任者が有名でしたから……私も実はそう思います。そしてこれすらも、なし崩しです。ヨーロッパのパワーゲームに巻き込まれたくない国や、恩を売っておきたい国。ダンブルドア殿や英国が()()()()()()()()既成事実を作っておきたい国。色んなものが複雑に絡み合った結果と言えます」

 

「それなのに英国は呑気ですね……」

 

「ええ……。各国、特に欧州の魔法界はヴォルデモートのことを、グリンデルバルドの再来の予感だと警戒してます。尤も、それは我が国もですけれど……。そして……当の英国は、内部抗争(内ゲバ)ですか……」

 

「頭が痛いですね……」

 

「お互いに……日本とて虚の人型が出現した以上、関わらなくてはならないのでしょう……?おまけに救援部隊の派遣ですか……」

 

「その件ですが、協力について議会の方からも英国派遣について掛け合っていただきたい。彼らとて、過激派が本体の意思に反してアジアで活動しているのですから」

 

「まあ、掛け合っては見ますが…確約は出来ませんね。日本魔法省と護廷十三隊が別の組織であるように、我々と彼等も全く別の組織ですので……「うん」とは言わないと思います」

 

「そう、ですか……」

 

「しかし、ヴォルデモートに関しては……我々は日本と協力関係を結べるかと思います。是非ともそう、市丸大臣にお伝え下さい」

 

「分かりました。必ずお伝えします」

 

刀原と議長は互いに握手を交わし、会談は終了した。

 

 

 

 

そして刀原は翌日、とある組織を訪ねていた。

 

アメリカにも、此方ではクリーチャーと言うらしいが……虚が出現することがあり、その対策の為の組織が組まれている。

 

護廷十三隊には残念ながら破面の情報は無いが、その組織にはあるかも知れない。

 

それにその組織の連中の一部……所詮、過激派がアジアで暴れまわっており、日本にもちょっかいをかけているのだ。

 

そいつらを始末する為にも……一応、奴らの元々の所属組織にご機嫌を伺う(殺っちゃって良いか聞く)必要があるのだ。

 

「我々としては……英国に団員を派遣するつもりはございません。要請も受けておりませんし」

 

「やはりそうですか……」

 

「ですが、アジアで活動しているかつての同胞の対処(始末)については……協力を惜しむつもりはございません。むしろ、喜んで参戦させて頂きます」

 

「了解です。宜しくお願いいたします」

 

「我が騎士団の面汚し達は腹立たしいですが、これはチャンスと考えております。かの有名な護廷十三隊の戦いを拝見できるとは、こちらとしても貴重なことですので。我が騎士団は正式成立して五十年、メンバーも世代交代をしたばかり……。いつまでも先代団長に頼ってばかりいられません」

 

「英国派遣の件も、それが真の理由ですか……?」

 

「……お恥ずかしながら」

 

「……失礼しました。では、その様に。日本でお待ち申し上げます……ハッシュヴァルト団長殿」

 

「ええ、良しなに……トーハラ殿」

 

こうして刀原はアメリカでの交渉を概ね予想通りに済ませ、複雑怪奇で風雲急を告げる英国に向かった。

 

「さてと……確かここに……」

 

刀原はアメリカのジョン・F・ケネディ国際空港から飛び立つ前、送られてきた紙を鞄から引っ張り出す。

 

 

『不死鳥の騎士団本部はロンドン、グリモールド・プレイスの十二番地に存在する』

 

 

紙にはそう書かれていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

ハリーは憤慨していた。

 

認めたくはないが自身の守りに寄与していると言う叔父(ダーズリー)の家に帰ったはいいものの、そこから一ヶ月放置されているのだ。

 

魔法界からは完全に切り離され、ロンやハーマイオニー、シリウスからの()()()()手紙は一向にこない。

 

『日刊予言者新聞』は購読しているが、ヴォルデモートが復活した事に対する大見出しはいつになっても載らない。

 

そして待望の手紙がショウから送られてきた。

 

そこにはとんでもなく忙しいこと、今はアメリカにいること、日刊予言者新聞が僕やダンブルドアの事を扱き下ろしていること、ヴォルデモート達はまだ大々的には動かないこと。

 

そして、魔法省からの刺客が来るかもしれないから嫌だろうけど家にいろ……と書いてあった。

 

「遅いよ!」

 

ハリーはようやくやって来たショウからの手紙を、床にパァン!と盛大に叩き付けた。

 

何故遅いのか?

 

ハリーは昨夜、吸魂鬼に襲われたのだ。

 

そしてハリーは自身と一応従兄弟(ダドリー)の身を守る為に守護霊の呪文を使ったのだ。

 

そして『未成年魔法使いの妥当な制限に関する法令(未成年は魔法使っちゃ駄目だぜ?)』と『国際魔法戦士連盟機密保持法(マグルの面前で魔法使っちゃ駄目だぜ?)』に違反したと言うことで懲戒尋問が行われるのだ。

 

せめて昨日の昼ぐらいに読んでいれば……。

ショウの言う通りになってしまったのだ。

 

しかし、だからと言って『手紙が遅いから悪い』という訳ではない。

 

貴重な情報、貴重な手紙。

 

ハリーはショウに感謝しつつ、部屋に引きこもり、ロンやハーマイオニーからの救援を待った。

 

ちなみに……ハリーと共に自分の息子が襲われ、ハリーへの手紙など本来は破り捨てる心情であったにも関わらず、そうはしなかったのは数年前からショウが使っている術式*1のおかげであった。

 

 

 

そして、ハリーが吸魂鬼に襲われてから四日後。

 

待望の救援チームがやって来た。

 

本物のムーディにリーマス・ルーピン等だ。

 

ダーズリー家がまんまと騙されて外出した隙を狙いハリーを連れ出した(拉致った)彼等は、やたらと複雑なルートで進んだ。

 

そのためハリーは、自身がいまどこにいるのかさっぱり分からなかった。

 

そしてようやくやって来た建物に入り、暗闇の玄関ホールを抜けると、ロンの母親のウィーズリーおばさんが笑顔で歓迎していた。

 

「ハリー、また会えて嬉しいわ!少し痩せたわね?でも夕食まではちょっと待たなくてはいけないわ」

 

明るくそう言うおばさんだが、少し痩せて、青白い顔をしているのにハリーは気がついていた。

 

そして此処が何処なのかを聞きたかった。

 

「あの方とあの子が今しがたお着きになって……騎士団の会議が始まってますよ」

 

おばさんがそう言えば、ハリーの後ろにいる魔法使いが興奮と関心でざわめき、次々と脇を通り過ぎて奥の扉へと入っていく。

 

全てがさっぱり分からないが、おばさんもルーピン達も何も教えてはくれない。

 

結局ハリーは此処が何処なのか、騎士団の会議とは何なのかを知るのに、ロンとハーマイオニーに対して激昂するまで待たなくてはならなかった。

 

今まで溜まりに溜まった不満(自分を放置した怒り)を吐き出したハリーは、ロンやハーマイオニーに彼等が分かっている範囲のみではあるが……情報を聞いた。

 

そしてショウが言っていた通り、日刊予言者新聞(英国魔法省)がふざけた事を言っているのが分かった。

 

「会議は終わりましたよ。夕食にしましょう」

 

そしてそんなことを話している間に、ウィーズリーおばさんが部屋に現れ、ハリー達にそう言った。

 

 

 


 

 

 

 

「よっ!約一ヶ月ぶりだな、ハリー!」

 

ハリー達がリビングに降りると、テーブルの椅子にすわっていた刀原がサッと片手を上げて挨拶する。

 

一ヶ月前よりもずっと大人びており、去年からよく着るようになっていた黒い和服をシャツの上に着て、おまけにあまり見ない袴も着ていた。*2

 

「俺の手紙は、間に合わなかったみたいだな……。襲われたって、さっき聞いたよ……聞き直した(耳を疑った)がな。吸魂鬼って……マジか」

 

「マジだよ、ショウ」

 

ハリーはテーブルの椅子に座りながら言う。

 

「てっきり会えないって思ってたよ……此処にいるってことは、任務って騎士団の?」

 

「いや、護廷の仕事だ。先日、めでたくマホウトコロを主席で卒業したからね。師匠達曰く『ようやく護廷十三隊の一員になった』んだよ。此処(騎士団の本部)にいるのもお仕事さ」

 

「え、マホウトコロを卒業……」

 

「ちょっとショウ、それって……」

 

刀原の言葉に、ハリー達は聞き捨てならないワードを見つける。

 

「だから手紙で書いてた米国も、英国に来る件も、護廷の仕事ってわけ。そして明日には日本に戻ることになっているんだ」

 

「ちょ、ちょっと待って!マホウトコロを卒業したってことは、ホグワーツにはもう来ないの!?」

 

「そうよショウ!貴方マホウトコロの留学生って話だったでしょう?」

 

刀原は全く気づかずに会話を続けるが、ハリー達はそれを慌てて遮る。

 

「ああ、その話ね……」

 

ハリー達の慌てように、刀原は頷きながら言う。

 

「本来なら……こんな事にならなければ……俺はマホウトコロを特別留年すると言う形で、ホグワーツの七年生の卒業までいる予定だった。だがそうは言ってられない事態になった、そうだろ?」

 

刀原の説明にハリー達は頷く。

 

「恥ずかしい話、護廷十三隊……と言うか日本魔法界自体が人材不足気味でね……ホグワーツの留学話とかが無かったら、俺はとっくの昔にマホウトコロを飛び級卒業していたのさ。無論、行き先は護廷十三隊になる。血筋的にそう決まっていたし、師匠からもずっと催促があったのさ」

 

「それをホグワーツに来るために蹴っていた……」

 

「そう。そしてそれは平時なら許されていた。だけど今は有事だ。詳しいことは後でまとめて話すけど、俺や雷華を留学に行かせる余裕はない。だから上層部としては、俺達をさっさと卒業させて、護廷十三隊に所属させたかったのさ」

 

「だからバタバタで忙しいって……」

 

「全くだよ……まあ、半分はいずれ来るものだったし、俺はそれを望んでいたから良かったけどね」

 

「半分?」

 

「着任式とかの式典や、襲名、引き継ぎかな。引き継ぎに関しては今までいてくれた爺や…じゃない…豊永副隊長がいるから、そうでもないけどね」

 

「着任式や、襲名?」

 

「トヨナガ?」

 

「爺やって……」

 

「ああ、それはまた今度……長くなるからね……それに、ご飯が出来たみたいだし」

 

刀原がそう言ってキッチンの方を振り向くと、フレッド・ジョージの双子がシチューの大鍋とバタービール、ナイフ付きの重い木製パン切り板を魔法で飛ばしたところだった。

 

「あの双子は成人しても変わらんな」

 

刀原はウィーズリーおばさんに叱られている双子を見て、笑いながらそう言った。

 

「日本じゃ珍しいかい、あれは?」

 

吹っ飛んだパンナイフが、あともうちょっとで右手に刺さるところだったシリウスが笑いながらそう言う。

 

「ああ、見たことないし……。ある意味、羨ましいですね。それに……母親から怒られるのも、羨ましいと思いますよ」

 

刀原が頬杖のしながら言う。

 

「そうか、君の母親も、ハリーと同じく……」

 

そう聞いたシリウスが申し訳なさそうに言うが「いや、生きてますよ?」と言う刀原の言葉に「え?」となる。

 

「呪いの所為で寝たきりだったってだけで……。それに母親代わりの人もいましたし、ハリーほど寂しくは無かった」

 

刀原は染々と言う。

 

「二年生の末に僕達が会った、ウノハナって人?」

 

ハリーの言葉に、刀原は頷く。

 

「あの人が怒ったら、あの比じゃないから……」

 

やったことは無いし、つもりも無かった。

と言うか、起きなかった。

 

そう言った刀原に『ファッジに見せた笑みは卯ノ花譲り』と判断したハリーは、意味深に頷いた。

 

 

賑やかになった夕食も、ハリーと刀原がルバーブ・クランブルの食べ終わった頃にはほぼ全員が一段落しており、何人かは欠伸もしていた。

 

「もうおやすみの時間ね」

 

ウィーズリーおばさんがそう言って、ハリー達をベットヘと誘おうとする。

 

「いや……モリー、まだだ」

 

だがそうは問屋が卸さないとばかりに、シリウスがそれに待ったをかける。

 

「君には些か驚いたよハリー。此処についた途端、真っ先にヴォルデモートの事を聞くだろうと思っていたからね」

 

シリウスの言葉に、和やかだった部屋の空気がガラリと変わり、警戒して張りつめているようだった。

 

「聞いたさ!だけどロンやハーマイオニーは「僕達は騎士団に入れて貰えなかったから、教えてくれない」って言ったかr」

 

「その通りよ、若すぎるもの」

 

ハリーの憤慨に、ウィーズリーおばさんがピシャリとそう言った。

 

そこには間違いなく母親としての目があった。

 

「ハリーはあのマグルの家に、一ヶ月も閉じ込められていた。何が起こっているのかを最低限知る必要がある。そして、それは子供たちもだと思う」

 

シリウスも負けじと反論する。

 

「何も知らないのと、知っているのとでは、万が一の時の対応が変わってくる。モリー、何も全てと言うわけではない。必要最低限の情報を、子供たちに聞かせるべきだ」

 

「この子たちは騎士団のメンバーではありません!」

 

「では誰かに湾曲された情報を好き勝手に与えられたら?それこそ危険だ!それにハリーとて自分で判断できる年齢だ」

 

情報とは独占するべき物と共有すべき物がある。

この場合は間違いなく後者だろう。

 

心配なのは分かるが……。

 

刀原がそう思っている間に、体制は決まった。

 

「分かったわ……ハリー以外は寝なさい!」

 

ウィーズリーおばさんはそう宣言する。

ハリーに関しては止められないと踏んだからだ。

 

だが、不満は出る。

 

成人しているフレッド・ジョージ、どうせハリーが後で教えるロンやハーマイオニー。

 

最終的に、ジニーのみが……盛大かつ粘りに粘った抵抗の末、寝室へ向かうことになった。

 

 

それから(過保護者が消えたため)、シリウス達は語る。

 

ヴォルデモートは水面下ではあるが、自分の軍団を再構築しようとしていること。

 

英国魔法省……というかファッジが『ヴォルデモートの復活』と言う大問題に正面切って向き合えないこと。

 

その為、『ダンブルドアが乱心して魔法省転覆を図っている』と思い込んでいること。

 

そしてその影響でダンブルドアの信用が落ちており、ヴォルデモート陣営にとって有益になっていること。

 

等々を。

 

「英国も大変だな……」

 

シリウス達の話がある程度終わったあと、刀原は何処か他人事のようにそう言う。

 

ショウ達(日本)とて大変だろう?」

 

「まあね」

 

シリウスがお互い様だと言うと刀原は頷く。

 

「さて……シリウスのあとは俺の話だ。具体的には世界情勢のお話と、虚……ホグワーツに現れた怪物達と俺達、日本側の対応について。俺が許されてる範囲で話そう」

 

刀原はニヤリと笑いながらそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
刻印か宛先を見たら、絶対にハリーへと届けると言う術式

*2
刀原は三年生まではホグワーツの制服をローブも含めて着ていたが、去年からはホグワーツ制服の上に黒い和服(死覇装)を羽織っていた。






姿無き恐怖に

食べられる

只のお菓子に

貴方はなるのか。



ファンタジーに国際情勢を持ち込む……。
やりたかったんです、すみません。

あと一話、お付き合いを。


千年血戦編が始まったので……『クロスオーバーではなく刀原が主人公のBLEACH』を書きたいと言う欲が芽生えてきてますが……。

鋼の精神で我慢します。



感想、ご意見、評価、お気に入り登録。
ありがとうございます。
そしてお待ちしております。



では次回は引き続き

海外と日本にて。

次回もお楽しみに。





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死神、海外と日本にて。戦支度



斯くて、鯉口は切られた

長き座興は此にてお仕舞い

『国を守る』その為に

各々、戦支度をせよ。





 

 

「世界のお話と日本、虚についてだ」

 

刀原はニヤリと笑いながらそう言った。

 

 

 

 

「まず、世界情勢の話……先日、ダンブルドアが『ヴォルデモートの復活』を国際魔法使い連盟の会議場で演説したことで、各国……特に、英国以外の欧州と米国には激震が走った」

 

「やっぱりヨーロッパの国々も、ヴォルデモートの事を知っているの?」

 

「いや、知名度はそんなに無いな。奴は悪名こそ響き渡ってはいたが、英国以外の国には仕掛けて来なかったからね。だけど、少なくとも……グリンデルバルドに匹敵する闇の魔法使いであることは周知されてる」

 

「グリンデルバルド?」

 

「ダンブルドアが倒したっていう、ヴォルデモートの前の闇の魔法使いのことか」

 

「そう。かつてグリンデルバルドは世界中で行動を起こし、世界中の魔法界を混乱と混沌に陥れた。アメリカ、フランス、そして特にドイツで。今、欧州や米国はその再来を危惧し、警戒してる」

 

「でも……そのグリンデルバルドを倒して、ヴォルデモートが唯一恐れてるダンブルドアは、議長を辞めさせられたんでしょ?」

 

「それは政治って奴さ。ヴォルデモートは警戒したい、でもグリンデルバルドの退治したダンブルドア……と言うよりも、英国魔法界の影響力は削ぎ落としたい。そんな感じさ」

 

「複雑だね……」

 

「欧州各国がそんな(呑気な)事をやっているのは、半ば高を括っているからだ。「どうせ、ダンブルドアが解決してくれる」ってな。だが、肝心のダンブルドアが英国魔法省からの理解が得られていない以上……非常に宜しくない。対応が遅れるからな」

 

「当然、それを座していない国もあるだろう?」

 

「ええ、特に米国と日本はそれの筆頭です」

 

「……納得出来る二つだ。アメリカは、魔法使いが最も多い国。日本はショウ達、護廷十三隊を始めとした強力な魔法使いが多い国。この二つは欧州(列強)のご機嫌を伺う必要がない」

 

「闇の魔法使いが、連続で欧州で誕生してます。そして、その影響だと黙されてますが……米国にも日本にも、権力や力を握ろうとしている奴らがいます。米国は過激派、日本は貴族派……とね。」

 

「なるほど、それで二つの国は頭がいたい。そして欧州にはそれを理由に強く出れる」

 

「日本は明治以来、英国魔法界と仲良くやってきました。ですが……ヴォルデモートの件、最近の英国魔法界の動きを見て、英国に見切りをつけるべきだという話が出てます」

 

「……そう思われても仕方がないな」

 

「変わり先は、アメリカか?」

 

「ええ……先の大戦(第二次世界大戦)以降、米国とは英国並みに友好関係を築いてきました。それに米国は五十年ほど前から虚が出現し始めており、それについても支援や連携をしていました。これを機に、一気に同盟を結んでは?と」

 

「しかし虚が……」

 

「奴らと対抗する為には、日本の協力が必須だ」

 

「そう、まさにそれです。虚を倒せる組織は世界に二つしかない。米国のとある騎士団と日本の護廷十三隊。……日本は米国の連携も必要だが、英国の救援も急務だと判断しました」

 

「ありがたいことだ」

 

「アメリカの騎士団ってのは来ないの?いや、ショウ達が頼りないってわけじゃないけどさ……」

 

「来ない。彼等はそもそも数が少ないし、虚の出現数が増加していてそれどころではないらしい。まあ、増加してるのは日本もなんだが」

 

「そう、なんだ……」

 

「以上が、各国の情勢だ」

 

 

 

 

 

「では次に、日本の事について。ファッジがチキンだったことが分かったあの日の翌日……つまり、俺達が帰った日の前日。日本魔法省と護廷十三隊に正式的な救援要請が入った」

 

「だからあんなに急いで帰ったんだ」

 

「そう……一刻も早く、現地の情報が欲しかったからね。そして情報が集め終わって開かれた会議は……大いに揉めた」

 

「も、揉めた?」

 

「ああ、ヴォルデモートが復活した件を俺たちが報告し、日本魔法省外務部が英国魔法省に問い合わせたら……『そんなことはあり得ない。貴国の生徒が何を見聞きしたのかは知らないが、それは悪質な被害妄想の結果であり、それに騙されている』という回答が返ってきたんだよ」

 

「ええ!?」

 

「やっぱりか」

 

「それで?」

 

「大いに……大いに揉めた。具体的には、派遣するかしないかで揉めた。日本側はこのとき既に復活の儀式の跡を探しだして『復活は間違いない』って結論がなされたからね」

 

「さすがに素早いな……」

 

「それを証拠にしなかったの?」

 

「それは出来ない。日本魔法省はこの件に関して捜査権を貰ってないんだ。だから折角握ったその証拠を見せたら、違法捜査になりかねない。そしたら国際問題だし、日本としても譲歩させる口実を与えたくない」

 

「複雑……」

 

「ヴォルデモートのことを認めない……。つまりこの件に関して英国魔法省の協力は得られない。なら、派遣の必要はない。会議でそう判断されかけたけど……虚の一件がそうはさせなかった。だけどね……」

 

「何かあったのか?」

 

「ああ……。もっと俺達を呆れさせる事態が起こったんだよ。派遣する人員についてね」

 

「何人なの?」

 

「当初、日本……護廷十三隊は隊長三名、副隊長三名の計六名を派遣する予定だった」

 

「それって多いの?」

 

「かなり多いだろう?ショウ……?」

 

「多いよシリウス。護廷十三隊の隊長は、全部で十三名。だから英国に四分の一を送ることになるんだ。異例だよ。海外に隊長を派遣するのだって珍しいのに、隊長三名ってのは開闢以来史上初のはず」

 

「それじゃあ、数年前に来た卯ノ花さんも異例?」

 

「あれは俺だったからだ」

 

「そうなんだ……」

 

「話を戻すぞ?開闢以来史上初の隊長三名、副隊長三名の派遣。それは同じく史上初の破面との遭遇。そして日番谷、黒崎と戦った破面の上位、十刃(エスパーダ)に対抗するためだった。増やしてくれと言われても、護廷十三隊としてはこれ以上出せない。ところがだ……」

 

「増やせって……?」

 

「いや、その反対だよ」

 

「まさか、ファッジは減らせ……と?」

 

「正解だシリウス。英国魔法省……というか、最早『名誉死喰い人』となりつつあるチキン・ファッジは「六名など多い、一名で十分だ」などとほざいたんだ」

 

「ええ!?」

 

「嘘でしょう!?」

 

「本当だから困ったものだ。おまけに『滞在は英国ではなくフランスなどに』とか『今、ホグワーツには危険だから近付かぬよう』とか『どうしても英国に滞在するなら魔法省に』とかほざいた。そして……会議にいたほとんどの人が、それを聞いて激怒した」

 

「ええー」

 

「何がしたいんだファッジは!」

 

「激怒するのは当たり前だよな?善意で隊長格六名も派遣すると言ったら、一名と限定されるなんて。それでは……一気に大勢でこられたら?さすがに太刀打ち出来ない。貴重な戦力を無駄に失うことになる」

 

「そうだよね?」

 

「おまけに指図されるなんて。フランスなんかにいたら即応が出来ない。防衛の都合や、地理的、以前出現した場所ということでホグワーツに陣を敷く計画だったのに。ほとんどの人が激怒した……何様だとね。してない者は完全に呆れ果てた」

 

「それじゃ……派遣は……?」

 

「『派遣は中止し、中立を宣言するべき』とか『ならばフランスに研修生を出し、それを派遣とする』とか。とにかく……英国には関わらず、ファッジの政権が潰れる(自滅する)まで様子見しようと言う意見が九割を占めた」

 

「最悪の事態だ……」

 

「何でファッジはそんなことを言ったの……」

 

「護廷十三隊はダンブルドアと仲が良いって思われている。破面は怖いけど、それ以上にダンブルドアが怖いチキン・ファッジは、護廷十三隊の隊長とダンブルドアが連結するのが怖いんだよ」

 

「それだけだとは思えないが……」

 

「さすがはリーマス、その通りだ。ファッジは英国魔法界を彷徨かれて、ヴォルデモート復活の『確固たる証拠』を握られたくないんだよ」

 

「もう日本は握ってるのに?」

 

「ああ、全くもってバカらしい」

 

 

 

 

 

「さて……会議に出席していたメンバーは、本気で派遣を中止しようとした。さっき言ったけど、日本でも虚の活動が活発化してるし……米国の過激派と手を組んだ貴族派が事件を起こしてる状態なんだ」

 

「日本も大変じゃん」

 

「ああ……日本魔法省の闇祓い、大陸探題、護廷十三隊はそいつらと戦っていて……ぶっちゃけ手が足りてない。本来ならまだ正式就任するはずの無い者達が、隊長になったりしないといけないくらいには」

 

「臨時ということか?」

 

「いや、満場一致で就任を認められた隊長だよ。実力だって、隊員達の目の前で現役の隊長と一対一で戦う方法で認められた。だけど……入隊と同時に隊長に就任するのは珍しいかな」

 

「研修みたいなものをすっ飛ばしたのか」

 

「そう、まさにそれ」

 

「そんな中で六名も派遣してくれようと……」

 

「だからみんな怒った。そして中止しようとしたけど……一歩手前で『救援はしてやろう』ってなった」

 

「こう言ってはなんだが……何故だ?」

 

「一つ目は、日本魔法界全体に尤も影響力がある『とあるお方(霊王様)』が「うーん……派遣しないと、ヤバイことになるよ!」……と警告(御告げ)があったから」

 

「とあるお方?」

 

「誰?」

 

「機密事項だ。それは言えない」

 

「ふーん」

 

「二つ目は、国際魔法使い連盟が泣きついてきたから。破面の件に関して、米仏独伊露西から日本魔法省に「対応をお願いする」っていう要請が来たんだよ。非公式だけどね。それを受ければ、国際的な発言力や地位向上に役立つ」

 

「外交と政治か……」

 

「各国としては、ダンブルドアを追い落とした手前、ヴォルデモートや破面がヤバくなったら泣きつく……。そんな訳には行かないでしょ?」

 

「確かにな……」

 

「三つ目に『ヴォルデモート復活の可能性』の調査依頼が来たから。各国とて、ダンブルドアが本当にボケたとは考えていない。内心『あのダンブルドアがそう言っているなら……そうなのでは?』って思ってる。そして日本なら大手を振って英国に入れるから、さりげなく調査して欲しい……とね」

 

「ファッジが言っていた通りね」

 

「そこは腐っても魔法大臣、想定してたってことだ」

 

「その判断力をヴォルデモートに使って欲しい……」

 

「確かにね。さて……そんな感じで各国からの要請を受け……最終的に『派遣は隊長二名。拠点はホグワーツ城。これを認めない場合……護廷十三隊と日本魔法省は、計画していた『英国救援部隊』の派遣を行わない』と通達した。簡単に言えば……ある程度譲歩しつつ、要求は曲げずに通達した」

 

「返事は?」

 

「さあ?今頃は、大急ぎで検討してるんだろ。何せ……昨日、俺がファッジに対してそう通達(脅した)からな」

 

「ファッジが大人しく受け入れれば良いんだが」

 

「受け入れなければ、残念だが……そこで終わりだよ。日本魔法界としては『では交渉決裂ということで(虚は君たちで頑張れ)』となる。既に総隊長達から許可は貰ってるし、ファッジにもこれが最終通告だって言ったしね」

 

「ファッジに祈らなくちゃいけないなんて……」

 

「気持ちは分かるよ……。とりあえず明日の朝一番で答えを貰って、そのあとその足で日本に帰国することになる。返事がどうであれ、対応は急がないとね」

 

「え、じゃあ、明日の朝にはお別れ?」

 

「まあ……そうなるな。でも、安心しろ。ファッジが『うん(了承)』って言えば、派遣されるのは、多分……俺と雀部になるから」

 

「微妙に安心できない……て、え?」

 

「……とりあえず言えるのは、此処までかな……」

 

刀原はそう言い、話を終わらせ……られなかった。

 

「ちょっと待って!ショウ達が来るの?」

 

「でも派遣されるのは隊長さんだけって……」

 

「ってことは」

 

ハリーやハーマイオニーのみならず、その場にいた子供全員が驚愕を露にする。

 

「ん?ああ、隊長に就任したんだよ。俺」

 

ケロッと刀原が言う。

 

「さて、とりあえず今日はこれで終わり。おやすみ」

 

固まったままのハリー達を完全に無視し、刀原はそう宣告する。

 

夜ももう遅く、先程から時計をチラチラ見ていたウィーズリーおばさんが、いつ止めようかと思案中なのを感じたからだ。

 

ハリー達は問い詰めようとしたところを、強制連行に近い形でベッドへと連れていかれた。

 

そしてそれを見ながら、刀原は笑顔で見送った。

 

それは幼い頃に泊まりに来た雀部と、夜まで騒いだ為……卯ノ花によって「煩いですよ?何時だと思ってるんですか?」と言われたのを思い出していたからだ。

 

しかし、ハリー達はそれどころではなく……。

 

「「「どういうこと~~?」」」

 

と言いながら上の階に連行されていった。

 

 

 

 

 

 

翌日、刀原は英国魔法省を訪れた。

 

「我々としては、貴国の要望に問題はない。よろしく……お願いする」

 

「それは良かった。此方としても貴国の冷静な判断に感謝を。こちらこそ、宜しくお願いします」

 

ファッジのたどたどしい言葉と共に手紙を差し出す。

そして刀原はニッコリと笑いながら受け取った。

 

両者は互いに握手をする。

 

しかし、両者の顔は全く違った。

 

 

だが、それも共闘関係は結ばれた。

 

 


 

 

 

「では……刀原よ。おぬしの口から報告せよ」

 

刀原が英国から戻った翌日。

瀞霊廷で開かれた会議にて、元柳斎はそう言う。

 

「宜しいんですか?十一番隊の鬼厳城隊長がまだ来られていませんが……?」

 

「構わぬ」

 

「構いません」

 

刀原は即座にそう言った元柳斎と卯ノ花に「あ、そうですか……」となりつつ話し始めた。

 

「まず……資料の通り米国魔法議会(マクーザ)は、対ヴォルデモート戦において我々と共闘することに合意しました。具体的に言うと『万が一の場合(英国魔法界陥落)の際には、ヴォルデモート討伐を早急に行う』ということです。また他国……特に東側諸国への牽制もするとのことです」

 

刀原がそう言うと、会議の参加者達は頷く。

 

「えらい苦労かけてすまんかったな。それとありがとう。こないなご時世やから、君が行ってくれてホンマ助かったわ」

 

市丸がすまなそうに刀原に謝る。

 

「大丈夫です。護廷の仕事も有りましたし……ハリーの顔も見れましたので」

 

刀原は心配ないと市丸に返す。

 

ヴォルデモート復活が水面下で囁かれているため、外交にも護衛に手練れがいるのだ。

 

それに……護廷十三隊の案件を、魔法省の外交担当に任せるわけにもいかなかった面もある。

 

「米国魔法議会はそれでよし。次は米国の騎士団じゃが……どうなった」

 

元柳斎の言葉に刀原は「米国において虚と戦っている者達……滅却師(クインシー)達のですね?」と答える。

 

滅却師(クインシー)達の組織『星十字騎士団(シュテルンリッター)』の二代目団長『ユーグラム・ハッシュヴァルト』殿との会談で……日本に来ている『滅却師の過激派』との戦いに、彼らは団員を派遣するとのことです。そして過激派と手を組んでいる『貴族派』の連中との戦いも、出来れば参戦したい……とのことで」

 

「ほう?」

 

「まあ……」

 

刀原の報告に、元柳斎と卯ノ花が反応する。

 

「何か……因縁でも?」

 

「まあの……。奴ら(滅却師)の先代頭目は、先の大戦の終戦後、わし等(護廷十三隊)に突っかかって来たことがあったのじゃ」

 

「まあ、軽く捻ってやりましたがね」

 

そして刀原が聞けば、笑ってそう言った。

 

「そ、そうですか……。とりあえず反逆者達の同盟……呼称『賊軍』に対して、『星十字騎士団(シュテルンリッター)』とは共闘関係となります。ただ……やはり人員や練度の問題で、『英国には派遣出来ない』とのことです」

 

「そうか……やはりの」

 

予想された報告に、元柳斎は思案顔で言う。

 

「しかし、その過激派……何か裏があるんじゃないのかい?その先代頭目の指示とかさ。野心……有りそうだしね」

 

京楽はそう懸念する。

 

「京楽隊長のご指摘は尤もですが……。少なくとも現団長のハッシュヴァルトさんは、誠実で真面目そうな印象でした」

 

「あやつ等はわし等以上に人数が少ない(人材不足)。そんな事をする余裕もない筈じゃ」

 

京楽の言葉を元柳斎は否定する。

 

「そうなのかい山じい?」

 

京楽は元柳斎の方を見てそう言う。

 

「ええ。ですが……可能性が全く無いと決めつけることは出来ません。考慮に入れる必要は有りますね」

 

卯ノ花がそう言えば全員が頷いた。

 

 

 

 

 

「では次に、英国魔法界情勢についてです。まず英国魔法省……ファッジは我々の提案を飲み(脅しに屈伏し)ました」

 

「そこまで愚かではなかった訳ね?」

 

刀原の報告に安堵するかのように京楽が言う。

 

「ええ、ですが……僕が大西洋上空にいた時にハリーが吸魂鬼に襲われるという事案が発生してます」

 

「なんとまあ……」

 

しかし、刀原の報告に一同は絶句する。

 

吸魂鬼が英国魔法省管轄である以上、それ(吸魂鬼)に襲われるということは……英国魔法省内に襲わせた(指示をした)者がいると言うことだ。

 

「ハリー少年は大丈夫だったのかい?」

 

浮竹が心配そうに言う。

 

「はい、大丈夫でした。彼は『守護霊の呪文』を修得していましたので、偶然(不幸)にも彼と共にいた従兄弟(ダドリー)を守りながら返り討ちにしたとのことです」

 

「ほう?」

 

「若いけど、やるようだね!?」

 

刀原の報告に狛村が感心するように言い、浮竹も驚きと感心が混じった声をあげる。

 

「去年、私達が突発事態でも冷静に対応出来るよう、鍛えましたから」

 

雀部がどこか誇らしげに言う。

 

「思いの外、優秀っぽいっすね……」

 

浦原は考えるように言った。

 

「ハリーは現在、ダンブルドアが創設したヴォルデモートに対抗する組織……『不死鳥の騎士団』の保護下に有ります。しかし……マグルの面前だったことや、本人が未成年である事もあって、近々裁判にかけられるそうです。おそらく、有罪にして貶める算段かと」

 

「なんと卑怯なやり口だ」

 

「無能極まる下劣なやり方だな」

 

朽木や東仙が怒りを露にする。

 

「ハリーにはダンブルドアがついていますから……無罪放免になるでしょう。ですが安心は出来ません」

 

「左様、もし有罪になったら如何致す」

 

刀原達は、考えうる最悪の事態を考える。

ハリーを失うのは、対ヴォルデモートのことを思えば痛い損失だからだ。

 

「そうなった場合、此方に亡命させる他あるまい。我ら隠密機動が英国魔法省に潜入し、ハリー少年を連れ去れば良い」

 

四楓院夜一がそう平然と言えば、その他もそれに賛同するような反応を見せる。

 

「分かりました。それではハリーには「抵抗せずに大人しく拉致られろ」と伝えておきます」

 

「頼むぞ!」

 

一応言っておくが……バレたら国際問題である。

 

 

 

 

「ご苦労であった刀原。では、次は我らの対応について話そうかのう?」

 

元柳斎が刀原を下がらせ、そう言う。

 

「英国魔法界に対しては……新三番隊隊長の刀原将平、新五番隊隊長の雀部雷華。この二名を派遣する事とする。両名ともまだ若いが……語学的にも地の利としても、これ以上の適任者はおらんと儂は思う。皆の意見はどうじゃ?」

 

「二。異議なし、むしろ賛成じゃ」

 

「四。異議はございません」

 

「六。異議なし」

 

「七。異議はござらん」

 

「八。異議なしだよ山じい」

 

「九。異議なし」

 

「十。異議なしです」

 

「十二。異議なしっす」

 

「十三。異議は有りません」

 

元柳斎が決を採れば、三、五、不参加の十一以外の隊長達全員がが賛同する。

 

「市丸はどうじゃ?」

 

「賛成です、総隊長。僕らからも推薦します」

 

そう言って市丸も賛同する。

 

「宜しい。では、両名とも良しなにの」

 

「了解です」

 

「分かりました」

 

元柳斎は返事をした二人の反応に満足そうに頷く。

 

「十番隊の新隊長、日番谷冬獅郎。おぬしは後詰めとして瀞霊廷内に待機せよ。同隊副隊長、雛森も同じくじゃ。万が一の場合、おぬし達も英国に跳んで貰うからの。そのように心せよ」

 

「はい」

 

「総隊長。僕らが居ないときは、副隊長に指揮を任せたいと考えていますが……それで宜しいですか?」

 

「構わぬ。三番隊の指揮は同隊の副隊長、豊永康隆に任せよ。五番隊は副隊長が空席じゃからの……やむを得ない、平子真子を代理とする」

 

「了解しました」

 

 

 

「では次は賊軍についてじゃ。米国と手を組むのは良いが、当てには出来ん。四楓院。彼奴等の情報は?」

 

「ちょくちょく博多に来ているのは間違いない。先日、賊軍の長『綱彌代時灘』を確認したからの」

 

「博多に……」

 

四楓院の報告に顔を歪ませる刀原。

 

両親の呪った張本人ともなれば、冷静沈着を心構えている刀原とて激情を露にするのだ。

 

「将平君、抑えて……ね」

 

ただ、京楽が優しく声をかければ「すみません」と言って直ぐに直ったのだが。

 

「直ぐには仕掛けてこぬだろう。奴らは裏で、英国のヴォルデモート一味と繋がっているという噂もある。巧妙な奴じゃ」

 

四楓院が苦虫を噛み潰したように言う。

 

「おそらく、わし等に二正面作戦を許容させるつもりじゃろう……。英国に戦力の派遣させて、わし等の戦力を少しでも削ぐ……そんなところじゃろうて」

 

元柳斎はたくわえた髭をさわりながら言う。

 

「英国に……?まさか元柳斎先生は、綱彌代が破面の親玉だと言うのですか?」

 

「そうじゃ、藍染や浦原の報告を聞く限りはの」

 

浮竹がそう言うと、元柳斎は頷く。

 

「彼は崩玉を持っています。あれにはそれが出来ます……。もし彼が虚と接触していれば、十分可能です」

 

「可能……?(けい)は、破面に対して正体が判明したと言うのか?」

 

藍染がそう言えば朽木が問いかける。

 

「私と藍染さんで、結論したっす」

 

藍染の代わりにそう言ったのは浦原だった。

 

「あれはおそらく、虚の死神化。仮面を外し死神の力を手に入れた虚……それがおそらく破面の正体っす。そしてそんな芸当が出来るのは、崩玉を持っている綱彌代時灘だけっす」

 

「我々魔法省魔法神秘部も、破面の正体については、彼らと同じ結論に達したヨ。見た目は人間だが、中身は虚。おまけに腰には、斬魄刀のような刀。そう結論するしか無いネェ」

 

魔法神秘部部長の涅マユリもそう言う。

 

「面倒なことになったね……」

 

京楽が項垂れように言う。

 

「いずれにしろ、全て斬れば良いのでは?」

 

刀原が平然と言う。

 

「その通りですよ、皆さん?」

 

卯ノ花もそれに同意する。

 

「結局はそうじゃの」

 

元柳斎はどこか頼もしそうに言った。

 

 

こうして会議も終わり、まとめに入る。

 

「では最後に……。我らはまもなく、賊軍と本格的な戦端を開く。英国共々、我らが日本を守るのじゃ!」

 

「はっ!」

 

元柳斎が檄を飛ばせば、その場にいた全てが頷く。

 

「よし、では……各々。抜かりなく」

 

 

 

 

 

 

 

そして……九月一日。

ホグワーツ城にて。

 

 

「お初に……じゃないですけど……お初にお目にかかる。二ヶ月前にホグワーツ城にて発生した虚に対して、皆様の守護するために日本より派遣された、護廷十三隊 三番隊隊長 刀原将平と申します」

 

「同じく派遣されました、護廷十三隊 五番隊隊長 雀部雷華と申します」

 

「我らが此処に布陣する限り、皆様には指一本足りとも触れさせませんので……どうかご安心を」

 

「但し、私達の避難指示等に従わないのであれば……その限りではありませんので、あしからず」

 

「「では、宜しくお願いいたします」」

 

刀原と雀部は、新しさが未だにある白い隊長羽織を身に付け、ハリー達ホグワーツの生徒達にそう言った。

 

雀部の髪型はツインテールからポニーテールへと変化し、刀原もミディアムショートが短くなっていた。

 

 

そして、より凛々しくなっていた。

 

 

 

 





護国の為

友の為

誇りの為

我ら修羅と成らん。


アンケートに答えていただき、ありがとうございます。
半ば予想通りなのですが……やはり彼女は、破滅を望まれているんですね……。

民意は取った!
後は徹底的に!


刀原、さりげなく隊長に就任。
詳しくは次回。


ちなみに次の投稿は人物紹介になります。


感想、ご意見、評価、お気に入り登録。
ありがとうございます。
そしてお待ちしております。


では次回は

ピンクと読書

次回もお楽しみに。







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人物紹介 炎のゴブレット編終了時


人物紹介となります。

用語とかも紹介いたします。

一部メタ発言やネタに走ってます。





 

BLEACHサイド

 

 

刀原将平

 

 

所属 日本 護廷十三隊三番隊

      

   英国 英国救援部隊 兼 ホグワーツ留学生

 

服装 シャツにグリフィンドールカラーのネクタイ。

   その上に死覇装と隊長羽織を着ている。

 

   隊長羽織は袖があるタイプ。

 

斬魄刀『神殲斬刀(しんせんざんとう)

解号は『一閃煌(いっせんきら)めき両断(りょうだん)せよ』

 

卍解修得済み。

 

卍解を修得したことで、真の始解が出来るようになり、刃がない状態も常態化しなくなった。*1

 

通常時が小太刀なのは変わらない。

 

 

技  『刀源流』刀原の曾祖父が開祖の剣術。

        一体多数を得意としている。

   『元流』 山じいが開祖の剣術。

   『八千流の剣術』卯ノ花の剣術。

 

   これらを複合させた剣術を修得している。

 

 

   『陸薙』

    陸を薙ぎ払うように横に斬撃を放つ。

 

   『海割』

    海を割るかのように縦に斬撃を放つ。

 

   『千斬り』

    敵を細切れにする。

 

   『切り払い』

    敵を吹き飛ばす。

 

   『斬払い 陣円閃』

    切り払いの上位互換。

    回転斬りで敵を切りつつ吹き飛ばす。

 

 

先日、満場一致で三番隊の隊長に就任した。

 

 

走・拳・斬・鬼や回道、魔法など、全てが揃った万能型死神になりつつあるが、各ジャンルのスペシャリスト*2には流石に勝てない。

 

多くを叩き込まれた結果、こうなった。

 

なお、マホウトコロの主席の座を巡る争いにおいて、日番谷と壮絶な決定戦を行い、最終的に教授陣が決められずに決闘となる。

 

双方ともに卍解を使用しての決闘は、刀原の勝利に終わり、二人を隊長に推す決定的な決め手になった。

 

剣術に関しては斬魄刀の能力の都合上、尤も得意。

少なくとも、日本においては五本の指に入る。

 

ハリー達からすれば頼れるお兄さん的ポジション。

 

 

筆者としては……「此処まで強くさせる気は、あんまりなかった」とだけ言っておく。

 

 

 

 

雀部雷華

 

 

所属 日本 護廷十三隊五番隊

      

   英国 英国救援部隊 兼 ホグワーツ留学生

 

服装 刀原と変わらず。

   隊長羽織は袖があるタイプ。

 

 

斬魄刀『雷霆(らいてい)

解号は『雷鳴(らいめい)(ひび)け』

 

卍解修得済み。

 

あるようで以外と無い雷系統の斬魄刀。

雷系か光系で悩んだのは秘密。

 

『厳霊丸が凄いのは、雀部長次郎が凄いから』と言う筆者の予測のもと、雷系最強の斬魄刀とした。*3

 

始解をすると、稲妻を纏う細身のロングソードに変わり、刀身は黄色く輝く。

 

また、氷輪丸と同様『天相従臨(てんそうじゅうりん)』という天候を支配する能力を発動する。

 

 

技 『落とせ雷霆』

   縦に剣を振り下ろし、上空から雷を落とす。

  

  『駆けよ雷霆』

   落雷が駆け巡り敵を追撃する。

 

  『爆ぜよ雷陣』

   一旦地面に突き刺したあと回転斬りをする。

   簡単に言えばギガスラッシュ。

 

  『雷光閃』

   突きを放って吹き飛ばす。

   その際、雷が落ちた音がする。

   

 

 

 

幼馴染みヒロイン。

幼少期から刀原と共に過ごし、ほぼ同じように修行をしてきた。

 

雀部長次郎忠息は祖父。

 

一人で狂ったように鍛練に打ち込む刀原に『仲の良い友人を』と願った山じいに頼まれ、雀部長次郎が刀原に紹介したのが始まり。

 

それ以降、何かと刀原にくっつき、半ば強引に遊びに連れ出したりした。

 

霊術院に遅れて入学した刀原に友人が出来たのも、彼女が主導したから。

 

その為、刀原は無意識に彼女を『大好きで大切な人』と思い、行動していた。*4

 

また、彼女自身は八、九歳頃には刀原を『大好きで大切な人』と意識していた。

 

 

ちなみに、マホウトコロの卒業時の検定では天才日番谷に勝てず、総合三位となる。

 

実は……隊長には着きたくないと言い放っている。

本人のご指名は、当然三番隊。

 

しかし人材不足、戦力不足などから認められることはなく『平時に戻ったら』となった。

 

 

 

日番谷冬獅郎

 

我らが天才子供隊長。

本小説では子供から大人の間付近の見た目。

 

卍解修得済み。

 

刀原との決闘については、日番谷曰く「純粋な剣術じゃ勝ち目がない。最初から卍解すると決めていた」とのこと。

 

予定通り、十番隊の隊長に就任した。

 

 

 

雛森桃

 

松本乱菊が魔法省にいるため、十番隊の副隊長に。

その人事には大いなる意志(結婚しろ、幸せになれ)が含まれている。

 

 

 

藍染惣右介

 

ヨン様。

 

崩玉をこっそり作っていたが……それには特に目的もなく、ただの知的好奇心。

 

刀原の父親とは親友であり、共に護廷十三隊を引っ張っていく次世代の名コンビと黙されていた。*5

 

ところが、ゲス灘がヴォルデモートになんやかんやで感化されて反乱を起こし、崩玉を悪用されてしまい、刀原の両親は呪われてしまう。

 

以降、隊長職を自ら辞職し、マホウトコロの校長に就任する。

 

なお、普段かけている眼鏡は伊達メガネ。

本気になったら自ら壊す。

 

 

当初は予定通り黒幕ポジだった。

 

しかし「ヨン様な藍染様が見たい」「平和で行こうよ……」「要するに理解者を作ればいいのでは?」と言う筆者の大いなる意志が働いた結果、こんな事に……。

 

そして崩玉と黒幕ポジをゲス灘に奪われる形に。

 

ど、ドンマイ……?

 

 

 

他、地味に出てきた方々

 

 

 

綱彌代時灘

 

本小説の藍染ポジ。

黒幕。

 

こいつがどんな奴で、原作で何をしたのかは、是非とも各自で読んで欲しい。

 

グリンデルバルドの思想と、ヴォルデモートの過激さに影響された。

 

そして崩玉を藍染から奪い、刀原の両親に呪いをかけ、反乱を首謀した。

 

結果的に失敗はしたが、結果などはどうでもよいと本人は思っている。

 

現在は貴族派を率いつつ、英国に破面を向かわせ、ヴォルデモートを援護し、米国の過激派とも手を組んでいる。

 

多分、今の状況を尤も楽しんでいる人。

 

 

 

十一番隊隊長、鬼厳城。

 

誰だこいつと思ったそこのあなた。

こいつは更木の前任の剣八です。

 

え、更木はどこかって?

 

さあ、知りません(すっとぼけ)

 

 

 

三番隊副隊長 豊永康隆

 

通称、爺や。

刀原の曾祖父と共に長年三番隊を引っ張ってきた人。

 

父、刀原将一郎と母、慶花が三番隊を率いることになった時に引退し、幼い刀原の面倒をしていた。

 

その二人がほぼ再起不能になってしまった為、三番隊副隊長に復帰し、以降三番隊を率いていた。

 

一応オリキャラですが、出番はほぼ終わりです。

 

 

刀原の両親

 

父、将一郎

母、慶花

 

元三番隊隊長と副隊長。

 

死ぬことは無くなったが、出番は有りません。

父だけあるかも。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

ハリポタサイド

 

 

ハリー・ポッター

 

我らがハリポタの主人公。

 

ほとんど原作と変わっていないが、刀原達がいることで精神的な余裕が出来ている。

 

また、リータ・スキーターが()()()第二の課題から行方不明の為、英国魔法界は原作よりもハリーに好意的である。

 

 

ダンブルドア

 

原作よりも策謀していない。

 

理由は刀原に看破されたり、知らず知らずの内に潰されている為。

 

また、策謀を刀原に看破された時、それを理由に戦線を離脱されるのを怖れているから。

 

但し、刀原達がいることで抑止力が生まれており、精神的にも戦力的にも余裕がある。

 

 

 

同じ感じで精神的に余裕がある人は大勢いる。

 

合法的に活動出来るシリウス。

シリウスを原作よりは恨まなくなったスネイプ。

生存したセドリック。

 

等々。

 

 

マルフォイ

 

原作から尤も変わっている人物の一人。

 

なんでこうなった……?

 

筆者はただ「ハリーとマルフォイが『良いライバル』になったら良いよね」って思っただけなのに……。

 

炎のゴブレットではハリーを苦しめるバッチなんか作らず、逆にスタンドにて全力で応援する始末。

 

もう一度言います、なんでこうなった……?

 

とりあえずこうなった以上、彼にはこのままの形を維持して貰います。

 

親衛隊……?

所属するはず無いじゃないですか。

 

 

 

ファッジ

 

原作よりも無能。

 

それはあくまで刀原サイドから見ているから。

 

ちなみに彼が怖れていることは……実は正しい。

 

 

 

ヴォルデモート

 

BLEACHサイドがいる影響でハードモードに。

 

例え英国を落としても、直後に護廷十三隊の全力攻勢が行われる為、結局は負け確定。

 

だって……ヴォルデモートが『卍解した山じい(残火の太刀)』に勝てると思いますか?

 

答えはNOです。

 

 

また、早めに死ぬ死喰い人もいます。

 

 

 

 

他、基本的に原作通り。

 

但し、運命が変わる人は大勢います。

 

 


 

 

用語集

 

・国の呼び方

 

 英国=イギリス魔法界

 日本=日本魔法界

 米国=アメリカ魔法界

 

 イギリス=マグル界のイギリス

 アメリカ=マグル界のアメリカ

 

 日本のマグル界については、出しませんので。

 

 

 

・霊王について

 

 BLEACHの霊王ではありません。

 日本史に出てくるある人物です。

 

 予言を行い、日本魔法界を導いています。

 

 五体満足でBLEACHの霊王みたいになってない為、藍染は「私が天に立つ」とか言いません。

 

 三界……?何ですかそれ?

 

 

 

・虚について。

 

 古来から日本に出現する怪物。

 最近は米国にも出現しています。

 

 日本には護廷十三隊。

 米国には滅却師(クインシー)がいます。

 

 

 

・貴族派と過激派。通称『賊軍』

 

 貴族派は元中央四十六室のメンバーや、一部の貴族達が結成した派閥のこと。

 

 ヴォルデモートの行動に感化され、綱彌代時灘に言いように操られ、反乱を起こした。

 

 しかし朽木家や志波、四楓院など心ある貴族などは参加しておらず、自らの戦力に隊長格と渡り合える手練もおらず、結果大敗した。

 

 それでも一部は逃げ延びた。

 

 

 過激派は米国の滅却師(クインシー)達の一部がヴォルデモートに感化され、米国の転覆を図っている奴らのこと。

 

 手練ではあるが、星十字騎士団本体と正面から戦える訳でも無いため、日本の貴族派と手を組んだ。

 

 

 貴族派と過激派(この選ばれたバカ達)の連帯組織を『賊軍』と呼ぶ。

 

 

実は……綱彌代時灘にとってはただの(玩具)

 

というか……綱彌代時灘にとって、賊軍やヴォルデモート、破面は自軍の駒であり、護廷十三隊や不死鳥の騎士団も敵軍の駒であり、己すらも駒である。

 

世界を盤上にしたチェスをしないで欲しい。

 

 

 

・『星十字騎士団(シュテルンリッター)

 

 滅却師(クインシー)達の組織。

 拠点は米国魔法界。

 

 米国版護廷十三隊という認識。

 

 二代目団長はユーグラム・ハッシュヴァルト。

 先代団長?お髭が立派な黒髪ロングの人……『ユーハーーー』さんですよ。

 

 先の大戦の終戦間際に成立し、もし本土決戦があった際には護廷十三隊と激突する予定だった。

 

 しかし、結局本土決戦は無かったため不完全燃焼で突っかかるしかなかった*6

 

 引き揚げの際にサンプルとして虚の死骸を運んだと言う噂が、まことしやかにある。

 

 そして現在、ヴォルデモートに感化された過激派が日本の貴族派と手を組んでいる。

 

 

 ちなみに誤解の無いように言っておくが……先代団長は何もしていないし、何も指示してない。

 

 

 

出すつもりは無かった。

 

少なくとも第二の課題時までは、全く無かった。

 

最終的に英国に来させず、あくまでゲスト参戦に留める形に落ち着いた。

 

こうなった最大の原因……アニメ化。

 

おのれ、月島さん!

 

 

 

 

 

 

 

*1
ONOFFは可能

*2

走や拳は、山じいと四楓院に。

斬は山じいや卯ノ花に。

鬼は藍染や浦原に。

回道は卯ノ花や井上に。

魔法はマクゴナガル級に。

*3
いっそ厳霊丸を継承させようかとも悩んだのは秘密

*4
刀原がそれを自覚したのはダンスパーティーの時

*5
京楽・浮竹。ジェームズ・シリウス的な関係

*6
当然返り討ち






今回はこんなところでしょうか。

ご質問お待ちしてます。




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死神、挨拶する。ピンク蛙と読書の時間


我が身も

我が心も

我が周りでさえも

全て統べてピンクにすれば

私もピンクになれるだろうか。







 

 

九月一日。

 

キングズ・クロス駅にも、ホグワーツ特急の中にも、馬車にも、刀原と雀部の姿は無かった。

 

約一ヶ月前、ハリ-達が起床した時には刀原の姿は既になく、数日後に手紙*1がやって来た。

 

そして裁判が終わって無罪だった為、その手紙*2を書いても返事は最低限だけで、それ以降は来なかった。

 

「きっと忙しいのよ」

 

ハーマイオニーはそう言ったし、ハリー自身もそう思っていたが……それでも心の余裕は次第に減っていた。

 

それに、監督生に関してもそうだ。

 

ロンとハーマイオニーが監督生になったのは喜ばしいが、僕よりもロンが優秀な人だというのか?

 

双子(フレッド・ジョージ)は「ハリーが本命だと思ってた」と言ったし、さっきバタバタとやって来たマルフォイも「どういう事だあれはぁあああ(何で君じゃないんだぁあああ)!?」と言っていたし……。

 

ハリーはそんな暗い事を思い(暗黒面に染まり)ながら、少し寂しい列車に揺られていた。

 

そしてホグワーツ城に着き、大広間のテーブルに座り、組分け帽子が警告をし、いつものように豪華なディナーを食べ始めても、刀原達は来なかった。

 

食べ終わり、ダンブルドアが話し始めてもだ。

 

「最初に新しい先生を紹介しようかの……?まずは、グラブリー・プランク教授が復帰なさる。『魔法生物飼育学』じゃ。そしてドローレス・アンブリッジ教授……『闇の魔術に対する防衛術』の新任教授じゃ」

 

ハリー達は内心、穏やかではなかった。

 

プランクがハグリッドの代理なのか、それとも完全に変わったのか、言わなかったのだ。

 

それに……アンブリッジ。

 

けばけばしいピンクの装いに身を包んだこのガマガエルみたいな女は、チキン・ファッジの手先なのだ。

 

「次に、とっても重要なお話じゃ……。昨年、ホグワーツ城において、」

 

ダンブルドアがそう話を続けた時だ。

 

「ェヘン、ェヘン」

 

アンブリッジがそうわざとらしく咳をする。

 

ダンブルドアもさすがに無視ができなかったのか、アンブリッジに発言を許す。

 

そして……生徒はニヤニヤしている者が多かった。

 

この()、ホグワーツの仕来りを知らないな?

と思っていたからだ。

 

 

 

 

 

 

 

「魔法省から参りました。ドローレス・アンブリッジと申します」

 

大勢の生徒達から心の中で馬鹿にされてることも露知らず、アンブリッジは作り笑いをし、女の子のような甲高くて人を小馬鹿にしたような声で話し始めた。

 

しゃべったぁあああ!?

やっぱり人間だったんですか!?

 

そして、それを端で見ていた刀原達は驚愕していた。

 

アンブリッジが余りにもガマガエルそっくりだった為、先ほどまで【あのピンク女……蛙人間とか?】【新種の可能性も……】【喋れるのかな?】【「ゲコゲーコ」とかだったら、みんな困りますから……多分大丈夫かと】等と言い合っていたからだ。

 

「ホグワーツに戻って来れて嬉しいですわ。そして……可愛い皆さんが幸せそうな顔で、私を見上げているのは素敵ですわ」

 

そう言われて刀原はぐるりと見渡す。

 

……誰も幸せそうな顔などしておらず、逆にドン引きしていたり、愕然としていたり、生理的嫌悪感が拭えない……と言った顔で一杯だったが。

 

隣にいる最愛の相棒たる雀部も【めっちゃキモいです。生理的に無理です。あのオバサン、嫌いです】と真っ青な顔で、嫌悪感を露にしていた。

 

かくいう刀原も【無いわー……。あのピンクガマガエル……。無いわー】と言っていた。

 

「魔法省は『若い魔法使い達への教育は非常に重要である』と、常に考えてきました……。ーーーー」

 

アンブリッジはそう長々と演説をし始めた。

 

長い上に噛んでも苦く、全く飲み込めない。

 

しかし刀原は一応、聞く必要があった。

 

そして長々と続いた演説も終わり、アンブリッジが座ると、ダンブルドアが拍手をする。

 

しかし、生徒達で拍手をする者は殆どいなかった。

 

「ありがとう……。実に啓発的じゃった」

 

ダンブルドアがそう言って会釈する。

 

「啓発的ちゃ、啓発的だな?」

 

「ええ、全くですね」

 

「記録は?」

 

「バッチリです」

 

刀原達はそんなやり取りをする。

 

「やはり……英国魔法省は、ホグワーツに介入と干渉をする気のようだな。全く、教育と政治は極力切り離すのが前提だと言うのに」

 

「一歩間違えれば洗脳や軍隊ですからね」

 

二人は思わず溜め息を吐く。

 

はぁ、もう帰りたい。

誰が好き好んで火中の栗を拾おうと言うのか。

 

そう思いつつ、二人は死んだ目で大広間を見ていた。

 

 

 

 

「昨年、ホグワーツ城において……謎の存在である(ホロウ)破面(アランカル)が出現した。率直に言おう、隠さずに言おう。わし等や魔法省では対処不可能な存在じゃ……」

 

ダンブルドアが赤裸々にそう言えば、生徒達はざわざわと騒がしくなる。

 

アンブリッジはそれを苦々しくを見ている(余計なこと言いやがって)

 

ハリーはヴォルデモートと対峙していたために見ていないが、聞く限り……ヴォルデモート並みに恐ろしい敵だと認知していた。

 

「じゃが……日本の護廷十三隊の方々が、ホグワーツの守護をしてくれることとなった。彼らは摩訶不思議な存在である虚にも対抗が出来るのじゃ」

 

ダンブルドアが微笑みながらそう言えば、生徒達は安堵したかのような反応をしていた。

 

「ショウ達が所属してる組織だ……」

 

「良かった……来てくれるのね」

 

「ファッジもそこまで馬鹿じゃなかったんだ」

 

ハリー達は諸々の事情(大臣が日本を怒らせた)を知っているため、他の生徒以上に安堵していた。

 

「護廷十三隊の歴史は、このホグワーツ以上にある。……古来より日本を悪しき者達から守ってきた、素晴らしい方々なのじゃ。今回の一件では、有り難くも二名の隊長を派遣して下さった」

 

ダンブルドアの言葉には溢れんばかりの敬意があり、よく知らない生徒達も、その凄さがなんとなく分かるだろう。

 

現に生徒達は『とんでもない人』が来ていることを察知して、息を飲むような感じとなっていた。

 

そんな中、ハリー達はニヤリと笑い合った。

 

「さて……早速ご紹介しようかの?」

 

ダンブルドアがそう言って目配せをすると、二人の死神が入ってくる。

 

そして、そんな二人は感慨に浸っていた。

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

約二ヶ月前。

 

「皆も知っておろうが……この度、空席となっておった三番隊、五番隊、十番隊の隊長を任せるに値する者が現れた」

 

元柳斎は隊長格を初めとした、日本魔法界上位陣が集まった特別隊首会にてそう言った。

 

「既に、隊首試験は行われており……特に三番隊の新隊長は、数多くの推薦を受けておる」

 

「そりゃそうだろうね……」

 

元柳斎の言葉に、京楽はそう呟く。

 

「わし、四楓院、卯ノ花、朽木……長いわ、十一番隊隊長以外の隊長達と、市丸(魔法省)藍染(マホウトコロ)から推薦の新三番隊隊長。同じく、わし、四楓院、卯ノ花、京楽、浦原、浮竹、藍染から推薦の新五番隊隊長。同じく、四楓院、卯ノ花、京楽、浦原、浮竹、藍染から推薦かつ隊首試験合格の新十番隊隊長。いずれも、その実力は皆も知るところであろう?」

 

元柳斎が言えば、その場にいる全員が頷く。

 

「では、念のため……三名の新隊長就任に異議が有る者はおるか?」

 

沈黙が流れる。

 

「よし……ではこのまま就任式と行こうかの?新隊長三名は中へ!」

 

元柳斎の合図で扉が開く。

 

勝手知ったる場所ではあるが……三人の足取りは慎重であり、ゆっくりとしたものだった。

 

「お、三人とも凄く似合ってるねぇ!」

 

「立派じゃぞ!」

 

三人を見た京楽と四楓院がそう言う。

 

「これで護廷の未来は更に安泰となるな」

 

「まさに新世代だな」

 

東仙や狛村も頷きながらそう言う。

 

「凛とした風格、素晴らしいですね」

 

卯ノ花がそう誉める。

 

「新三番隊隊長には刀原将平。新五番隊隊長には雀部雷華。新十番隊隊長には日番谷冬獅郞。この三名を、今日この時をもって護廷十三隊の隊長とする。三名とも、護廷の為に身命を尽くせ!」

 

「「「はい!」」」

 

元柳斎の檄に刀原、雀部、日番谷は声をあげた。

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

「お初に……じゃないですけど、お初にお目にかかる。約二ヶ月前、ホグワーツ城にて発生した虚に対して、皆様の守護するために派遣されました……護廷十三隊 三番隊隊長 刀原将平と申します」

 

「同じく派遣されました……護廷十三隊 五番隊隊長 雀部雷華と申します」

 

気概も新たにした刀原と雀部は、少しだけ霊圧を出し、新しさが未だにある白い隊長羽織を身に付けて、ハリー達ホグワーツの生徒達にそう言った。

 

去年もホグワーツにいた生徒達は、一瞬驚いたような顔をしていたが、直ぐに納得した様子に変わる。

 

「我らが此処、ホグワーツ城に布陣する限り、皆さんに降りかかる()()には、指一本足りとも触れさせません。……どうかご安心を」

 

「但し、私達の避難指示等に従わないのであれば……その限りではありませんので、あしからず」

 

刀原が高らかに言えば……生徒達は頼もしそうに頷き、雀部が冷徹に言えば……生徒達は真面目な顔で頷いた。

 

「「では、宜しくお願いします」」

 

二人はそう言ってほんの少しだけ頭を下げると、大広間には先ほど行われたアンブリッジの演説とは違って、万雷の拍手が響いた。

 

 

少しの間を待ってから……ダンブルドアが両手を上げて静まるよう合図する。

 

「なんとも頼もしいお二人じゃ!わしの方からも改めて宜しくお願い致しとしよう!彼らはまだ若いが、その実力は皆が知っておるはずじゃ……。彼らが守ってくれる……じゃから皆は安心して勉学に励んでくれい」

 

ダンブルドアがそう言えば、生徒達は一安心だと言った顔をする。

 

「それと……一応伝えておくが……お二人にはグリフィンドール寮で過ごしていただく。じゃが、グリフィンドールの諸君は普段通りで良いからの?」

 

それを聞いた生徒達……特にグリフィンドールの生徒達はニヤッと笑い、頷く。

 

刀原と雀部の二人は、去年まで留学生としてグリフィンドールに在籍していたのだ。

 

その証拠として……彼らが身に付けているネクタイは赤と金色(グリフィンドールカラー)であり……まるで『自分達は今もなお、ホグワーツの生徒だ』と言っているみたいだった。

 

 

 

 

宴会も終わり、刀原達はダンブルドアや寮監の教授達との打ち合わせを行うために、校長室にいた。

 

「これが派遣に関する正式な任命書です」

 

刀原はそう言ってダンブルドアに紙を渡す。

 

ダンブルドアは「ありがとう」と言ってそれを受け取り、一読する。

 

「改めて言おう。こんな状況下にも関わらず、来てくれてありがとう。ホグワーツを代表してお礼を」

 

ダンブルドアはそう言って深々と頭を下げる。

 

「いえ……お礼ならば、派遣を決定した護廷十三隊と日本魔法省に言ってください。我々はあくまで任務として来ていますので……」

 

刀原はそう言うと、ダンブルドアは「だとしてもじゃよ」と言う。

 

「立派になりましたね……トーハラ。ササキベもです。グリフィンドールの寮監としても鼻が高いです……」

 

隊長羽織を見ながら、マクゴナガルは半ば目を潤ませつつそう言う。

 

「「ありがとうございます」」

 

二人は照れつつもも、お辞儀をしながら言う。

 

「さて……一応、わしは知っておるがの……改めて君たちの任務の内容を共有しておきたいのじゃが?」

 

ダンブルドアが真面目な顔でそう言う。

 

「まず……虚及び破面の討伐と主要防衛戦域……即ちホグワーツ城周辺の防衛が主任務となります」

 

刀原がそう言うと、教授達は頷く。

 

「魔法省は防衛しないのですか?」

 

スプラウトが聞いてくる。

 

「はい、英国魔法省周辺は含まれておりません」

 

刀原がきっぱりと言う。

 

「我々が行った事前調査の結果、ホグワーツ城は『重霊地』……虚が集まりやすい地域に指定されました」

 

『重霊地』は日本にも数ヶ所ほどある『虚が出現する場所』であり、護廷十三隊はこの重霊地に駐在部隊を配置することで重点的に守っている。

 

「派遣される人数がもっといれば、英国魔法省に人員を割くことが出来ましたが……。生憎と二名しかおりません。我々は『重霊地』たるホグワーツを重点的に守護する必要がある為、英国魔法省へは『出現が確認され次第』となります」

 

続けてそう言った刀原に教授達は苦笑いする。

 

当初の予定は六名であり……隊長三名と副隊長一名でホグワーツを防衛し、残る副隊長二名でロンドン(英国魔法省)を守る予定だった。

 

だが……どっかの無能(チキン・ファッジ)が六名と言う数を拒絶したため、ホグワーツのみの防衛になったのだ。

 

その理由があるため、英国魔法省(クレーマー)ブーブー文句を(此方も守ってよ!)言って来ても『そちらが人数制限をしたからですよね?』と言えるのだ。

 

「そして、非公式な命令が……今年度に魔法省が送り込んでくる出向者(アンブリッジ)の動向の監視と、抑止力になること」

 

「抑止力……なるほど、外交特権ですね?」

 

言葉の意味を読んだマクゴナガルがそう言う。

 

「流石はマクゴナガル教授、その通りです。この際ですので、明かしておきます。我々は外交特権の他に……『特命全権大使の権限』と『英国魔法省に対する最後通牒』を持っています」

 

 

刀原達は英国魔法省の正式的な要請を受け、日本魔法省と護廷十三隊から正式的な命令を受けている。

 

つまり、二人は外交特権を持っているのだ。

 

その為……アンブリッジが手出しをしようとも、刀原達は外交特権でそれを拒絶出来る。

 

また……ホグワーツの教育に英国魔法省が介入して、生徒達に洗脳教育が施されたり(魔法省至上主義に染めたり)、生徒を傀儡化させる(魔法省に忠実な兵隊とする)可能性を日本側は考えていた。

 

その為……。

 

生徒達を*3守る為にも、日本魔法省と護廷十三隊は刀原達(抑止力)をホグワーツに送り込んだのだ。

 

そして生徒達に手出しをすれば……その報告を刀原達が日本魔法省に上げて、英国魔法省にそれを突き付けられることも狙っている。

 

また刀原には、最後通牒……『ヴォルデモート復活が確認された確固たる証拠』を持たされており、万が一の時には開示しても良いと言われている。

 

ファッジが恐れているのは『刀原達(日本)が密かに、ヴォルデモート復活の証拠を発見する』ことであるが……残念ながら既に握られているのだ。

 

もし刀原が持っている最後通牒(ヴォルデモート復活の証拠)を開示すれば、日本魔法省は有事と判断して英国にやってくる。

 

また日本だけではなく……闇の魔法使い(グリンデルバルド・ヴォルデモート)を放っておけば面倒なことになる(余計大変になる)過去の一件(グリンデルバルド)で学習した米国(アメリカ)仏国(フランス)独国(ドイツ)が雪崩を打ってやってくる。

 

ヴォルデモートとしても、ダンブルドアやハリーが健在なのに日本(護廷十三隊)や米国と戦争する訳にはいかない。

 

日本や米国とて、多くの死人が出るそれ(戦争)をしたくないし……本国で問題がある(賊軍が暴れてる)のに、そんなことをしてる暇も余裕もない。

 

そしてそれが始まる前に……英国(ファッジ)は崩壊するだろう。

 

誰も望んでいない泥沼の地獄(全面的な魔法戦争)が英国に形成されることになるのは……なんとしても避けたい。

 

 

「最後通牒……!それは……貴方の懐でずっと眠って貰いたいですね……」

 

苦虫を噛み潰した顔をした刀原を見て、全てを察したマクゴナガルが言えば、他の教授達も頷く。

 

「僕としても、その思いです」

 

刀原達としては、あのピンクガマガエルが『それが分からぬ無能』でないことを祈るばかりである。

 

「しかし、魔法省の最終的な目標が『ホグワーツの完全掌握』でほぼ間違いないと我々は確信してます。プロパガンダは学校から、騙しやすい純粋な子供は染めやすいですからね。かのNSDAP(ナチスドイツ)が良い例でしょう?」

 

「今時ではないのう……」

 

刀原の言葉に当事者だった(その時代を生きていた)ダンブルドアは嘆いた。

 

「そんなことはしない。……と思いたいですが」

 

苦虫を噛み潰したような顔で刀原は言った。

 

しかし……そのささやかな願いは、脆くも潰れる。

 

 

 

 

 

 

「は?読書?それで終わりで実技は無しですか?」

 

授業見学と言う名目でハリー達と共にアンブリッジの授業を見ていた刀原は、いつもの表情(目が笑ってない満面の笑み)でそう言った。

 

先ほどアンブリッジが生徒達に『実技など必要ない』『理論だけで良い』と言い放ち、それを疑問に思った生徒達の質問も一蹴したからだ。

 

「ミスタートーハラ。これが英国流ですのよ?」

 

アンブリッジは見え透いた笑みを張り付け、人をイライラさせるような声で、小馬鹿にするように言った。

 

暗に日本を馬鹿に(田舎扱い)するような発言だが、そんな事に動じる刀原ではない。

 

「そうなんですか。英国は西洋魔法の本場と伺っておりましたが……随分と遅れてる……失礼、安全第一で昔ながらの授業なのですね?」

 

ニコニコと笑いながら、刀原は平然とそう言う(カウンターを叩き込む)

 

ハリー達は内心あわあわしつつ(ショウ、怒ってる……)期待しつつ(いけ!やっつけてくれ!)、二人のやり取り(論戦)を固唾を飲んで見ていた。

 

ちなみに止め役の雀部は、外周り中なのでいない。

 

「しかし……『実技無くば実践無し』と言う言葉はご存知ですよね?確かに教授の仰る通り、この授業中で襲われることはないでしょう。では試験はどうなのですか?実技は無いのですかな?」

 

「理論を十分に勉強すれば、呪文がかけられないということはあり得ません。理論的な知識で十分足りるのが魔法省の見解です」

 

「ほう?本を読み込めば本番でも出来ると?ですが、どうでしょうね……。店で客に料理を振る舞う料理人が、必ず試作を繰り返すように……。普通は理論を学んだ後、それを教授の指導の下で実践をするのではないのですかな?」

 

「有りません。『その必要は無い』と言うのが、魔法省の見解です」

 

「では彼らが卒業した時……例えば暴漢に襲われた時に、本当に冷静に対処出来ると?学校外にある危険に対して、理論のみでそれ以外の準備が本当に必要ないと?英国魔法省はそんな『危険極まりない』見解なのですか?」

 

「外で危険などは有りません。そちら(日本)と違って英国は安全なので」

 

「おお、それはそれは……安全なのは良いことです。ですが……昨年のクィディッチ・ワールドカップで、死喰い人の残党が暴れまわった事件は記憶にも新しいですよね?それらは危険ではないのですか?その一件の犯人達は未だに野放し……失礼、捕まっていないと聞いていますが?」

 

「……それらについては魔法省が行方を追っております。何も心配は有りません」

 

「そうですか。ですが未だに捕縛されていない以上、いくら安全だと言っていてもそれは妄言に等しいと思いますが?それともこのような()()()な授業だったため、捕縛が出来ないとかでは無いのですか?」

 

「現役の闇祓い達は旧式の指導要綱です」

 

「おや?先ほど、「これが英国流」と自慢げに言っていたの事実ではないと?」

 

「新しい英国流です」

 

「では……かつてヴォルデモートと戦った戦士達が学んだ授業のほうが良いのでは?」

 

「先ほども言いました通り、理論的な知識で十分足りるのが魔法省の見解となります」

 

「理論ばかりでは、実力の低下は否めないと判断してないのですか?」

 

「……判断はしておりません」

 

ニコニコの笑みを崩さず淡々と問う(殴りかかる)刀原に、アンブリッジは最初(反撃)の余裕が無くなりつつあった。

 

「では……万が一生徒達が卒業後に暴漢に襲われ、負傷または死亡した際……貴女は、英国魔法省は……その責任を取れるのですね?」

 

「……そ、それは」

 

刀原が責任の所在を問えば、アンブリッジはあからさまに動揺する。

 

「取れないのであれば、止めておいた方が良いでしょうね……。無論、これはたんなる忠告ですがね?」

 

「…………検討しておきますわ」

 

たどたどしくアンブリッジはそう言う。

 

刀原がチラリとクラスを見渡せば、ハリー達が寮の垣根を越えて目をキラキラさせていた。

 

「そう言えば……『ヴォルデモートが復活した』等と言う()が最近有りましたよね?それが真実かどうかは知りませんが……それがもし事実であれば、備えなくてはならないのでは無いのですか?」

 

「例のあの人が復活したと言うのは嘘です。その危険性は全く有りません」

 

あからさまに溜め息を吐きながら刀原が言えば、アンブリッジは息を吹き替えしたかのようにそう言う。

 

「ヴォルデモートの死体や死亡は確認されていませんよね?確認していない以上……潜伏中だと言う可能性もありますよね?それとも死んだと言う確実な証拠があるのですか?見つかったのですか?あるのならば、何故公表しないのですか?公表すれば復活が嘘であることも証明となりますし、英国魔法界も、各国も安心させられますが?」

 

「それは……」

 

しかし、刀原がそう言えば何も答えられない。

 

「証明がなされていない以上、復活がデマであると断言は出来ませんよね?先ほども言いましたが、それでは『妄言』に等しいですが」

 

「妄言などでは有りません!」

 

刀原の言葉に、アンブリッジが怒鳴る。

 

「では、その証拠をご提示願いたい。妄言ではない、復活は嘘である、死んでいると言う『確固たる証拠』を。我々日本側としても、それがなければ納得出来ませんよ?」

 

「…………」

 

アンブリッジはついに沈黙する。

 

「沈黙、ということは……『証拠は無い』と言うことで相違無いですね?と言うことは……ヴォルデモートが復活していると信じている生徒を『言ったから罰則する』とかも……勿論、無いでしょうね?英国魔法省が独裁政権のような『言論・思想統制』を行うはず、有りませんよね?」

 

「…………勿論ですわ」

 

刀原にぎこちない笑みでアンブリッジは返す。

 

「それは良かった。では、失礼」

 

刀原はニッコリと嗤い、ほんの少しだけ腰を折って礼をして教室を出た。

 

『言質は取った』とばかりに。

 

そしてアンブリッジは、それを悔しそうに見ていた。

 

 

 

 

 

刀原とアンブリッジが論戦をし、アンブリッジが完敗したことはホグワーツ中にひっそりと知れ渡った。

 

しかし……アンブリッジは残念ながらその後も、忍耐力しか身に付かない読書の時間(呪文を使わせない授業)を続けた。

 

 

 

ハリーやハーマイオニーは刀原に泣き付いたが……いくら外交特権を持っているからといって、そう何度もアンブリッジと論戦をするわけにもいかない。

 

刀原達には、警備の任務や考えることがあるのだ。

 

幸いにもまだ姿を現さないが……虚や破面が、いつやって来るか分からないし、アンブリッジ(英国魔法省)の次の一手は何かも読まなくてはならない。

 

おまけに……ハリーは何かとピリピリしており、ハーマイオニーやロンにも噛みついていると言うのだ。

 

そして……ハリーは迂闊にもアンブリッジに罰則の口実を与えてしまい、『I must not tell lies(僕は嘘を言ってはいけない)』と言う文字を物理的に手の甲に刻まれてしまった。

 

刀原としてはこの一件(非道な体罰)を何とか問題化したかったが、流石に『情報と証拠を残すこと』しか出来なかった。

 

はぁ……もう日本へ帰りたい。

 

様々な問題を抱えた刀原と雀部は、精神的な疲労のあまり……晩御飯を食べながら一緒に小声でそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
ーーーーーーーー

 

ハリーへ。

 

君が有罪になった時、君を日本に亡命させる為に日本の者が裁判に潜入する。

 

そして、もし有罪判決が出たら……その瞬間に君を日本に拉致する予定だ。

 

だから……ハリーは大人しく拉致られろよ?

 

じゃないと……『気づいたら日本(失神させて拉致る)』だからな?

 

ーーーーーーーー

*2
ーーーーーーーー

 

ショウへ。

 

僕の裁判の結果は無罪だった。

 

それと僕の為に準備してくれてありがとう。

 

ファッジは頷いた?

ホグワーツにショウ達は来るの?

 

ーーーーーーーー

*3
というより、ハリー・ポッター(対闇の帝王決戦兵器)





真の恐怖は

往々にして見えぬ

だからこそ良い

見なくて済むのだから。




大衆の多くは無知で愚かである。

大衆は忘れる事が極めて多い。

大衆が理解することは極めて少ない。

これはNSDAP(ナチスドイツ)の国民啓蒙・宣伝相『ヨーゼフ・ゲッベルス』の言葉です。

ファッジよ、知らないとは言わせないぞ?


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ありがとうございます。
そしてお待ちしております。



では次回は

高等尋問官と結束する生徒

次回もお楽しみに。




おまけ

刀原達が隊長に就任したその祝いの宴にて。

京楽曰く……『孫に囲まれて幸せなそうなおじいちゃん』の様だった元柳斎は、盛り上がっている会場の庭で感慨に浸っていた。

「これで安心出来るの……」

ボソッとそう言った元柳斎の言葉の意味を知っているのは、傍に控えていた雀部長次郎だけだった。

「某も、お供いたしますぞ」

雀部の言葉に元柳斎は頷く。

「良い場所を見つけねばの?」

「しかし、呼ばれるのでは?」

「かもしれんがの」

二人の会話を知る者は居ない…………。



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死神、嗤う。高等尋問官と結束する生徒達


小さき塵と思う無かれ

力無き小と思う無かれ

私達は必ず山となり

その弛んだ喉笛

噛み千切ってやるから。









 

 

倒れるのは勝手だし、多分来年には倒れる。

だが倒れ先の方向がヤバい。

 

だから添え木をしたり、倒れ先や倒れ方を誘導しなくてはならない。

 

そしてそれをやる者は、当然ながら忙しく……それ以外の事に手が回らない状況であった。

 

では……腐って倒れそうな木をさらに食べる白蟻ならぬガマガエルの相手は、誰がしなくてはならないのか。

 

ガマガエルの毒素からホグワーツを守る役目は、誰が担わなくてはならないのか。

 

ダンブルドアは馬鹿と無能(ヴォルデモートとファッジ)の相手で忙しく。

 

他の教授達は苦々しくも、止めようがない。

 

そんな状況下で、力が無い生徒達は……誰も彼もが最も力のある人物達に頼るしかない状況になりつつあった。

 

そして、その最も力のある人物達は……。

 

「はぁあああ!」

 

「せい!やあ!たあぁ!」

 

虚退治で凄く忙しかった。

 

 

 

 

 

アンブリッジとファッジめ。

 

刀原は吐き捨てるように言った。

 

早々にアンブリッジを論破し、ヴォルデモート関連の罰則をさせずにすんだのは良かった。

 

しかし、ハリーが迂闊にもアンブリッジに口実を与えてしまい、ハリーの手の甲には『I must not tell lies(僕は嘘を言ってはいけない)』と言う文字が物理的に刻まれることになったのだ。

 

「これは許されない体罰です!抗議しましょう!」

 

憤慨した雀部に刀原も大いに賛同したかったが、そうはいかない事情がある。

 

内部干渉になりかねないからだ。

 

ただでさえ拗れつつある英国と日本の関係が、これ以上悪化するのは避けたい。

 

それに、ハリーやダンブルドアへのネガキャンは続いており、抗議したところで紙の無駄になるのは分かりきっている。

 

そしてシリウスや情報部からの情報だと、ファッジは『ダンブルドアが私設軍団を作り上げ、魔法省と抗争するつもり』だと妄想しているらしい。

 

授業で呪文を使わせないのも、それが理由だ。

 

『無能極まれり』

 

刀原と雀部はそう吐き捨てた。

 

そして無能な大臣に対する怒りとストレスは、ホグワーツに出現した虚を殲滅(に八つ当たり)することで発散していた。

 

 

 

 

 

パーシーから支離滅裂な手紙が届き、ロンがそれを八つ裂きにして暖炉で処分した日の翌日。

 

その朝食にて。

 

「魔法省、教育改革に乗り出す……?ドローレス・アンブリッジ、初代高等尋問官に任命……か。まあ、想定通りだな。そろそろかと思っていたが、俺の予想より少し早かったわ」

 

「そうですか?私は遅かったと思いましたけど」

 

日刊予言者新聞の大見出しには刀原が言った通り『魔法省、教育改革に乗り出す。ドローレス・アンブリッジ、初代高等尋問官に任命』と書かれており……刀原は、半ば呆れつつ感心するように言い、雀部も呆れながらそう言った。

 

「予想通りだって!?」

 

ロンは刀原の言葉を聞いて、声を荒げる。

 

「お前らは、アンブリッジとファッジの目的が『ホグワーツの監視だけ』だと思っていたのか?それはあり得ない。ファッジの目的はホグワーツの掌握。そして干渉と介入をするのに必要なのは、役職と権力だ」

 

「だからこのような事態は、予想の範疇でした。そして妥当なのが……自分達の言うことを聞かない教授を追い出す権限と、追い出した先生の補填が見つからなかった場合は魔法省から送り込む権限です」

 

「まあ、『じわじわと乗っ取っていく』っていう作戦は、戦略的には悪くねぇ。尤も、やるべき相手を間違っている時点で無能だがな」

 

刀原と雀部の言葉に驚く三人。

 

「確かに、筋は通ってるわね」

 

ハーマイオニーは納得するように言う。

 

「ファッジの最終目的はダンブルドアの逮捕だろう。絶対に失敗するがな。ダンブルドアは、自分がヴォルデモートへの抑止力だと理解している。アズカバン行きは絶対に避けるはずだ」

 

「そうよね。ダンブルドアが逮捕されたら……ヴォルデモートが喜んで不在を突くはずだから……」

 

刀原がの言葉に、ハーマイオニーは意を決したように『ヴォルデモート』と言って返す。

 

「ショウ、ライカ。二人が虚退治で忙しいのは分かってる。でも、僕達が当てに出来るのは……ショウ達だけなんだ」

 

ハリーは懇願するようにそう言った。

 

「そうしたいのは山々なんだが……いくら外交特権を持っているからといって、何度もアンブリッジと戦う(口論)するわけにもいかないんだよ」

 

「これ以上は、外交問題になりかねないので……」

 

刀原と雀部は苦い顔でそう答える。

 

それを聞いたハリー達も、日本側(刀原達)英国魔法省(アンブリッジ)に対してイライラしていることは知っているため「そう、だよね……」となった。

 

三人達による、刀原達への説得は失敗した。

 

 

 

高等尋問官という新しい権力(玩具)を手に入れたアンブリッジは、数日の時を置いて動き出した。

 

まず……不幸にも最初の査察先(ターゲット)となったのは、トレローニーの『占い学』。

 

続いてマクゴナガルの『変身術』にも出没したらしいが、素晴らしくも返り討ちにあい、『魔法生物飼育学』の授業でも上手くあしらわれたらしい。

 

そして……ハリーはまたもアンブリッジの魔の手にかかり、悪質な罰則を受ける羽目になった。

 

そんなハリーが出血する手を庇いながら寮の談話室に行くと、怒り心頭の雀部が回道を掛け始める。

 

「やはり、あの(カエル)を何とかしないことには……事態の解決にはならないと思います」

 

雀部が思い出すのも嫌だといった顔で言う。

 

「ライカの言うとおり、あの女はとんでもなくひどい人だわ。あのね、ロンとも話していたんだけど……。私達、あの女に対して何か動くべきだと思うの」

 

ハーマイオニーは神妙な面持ちで言う。

 

「僕は毒を盛れって言ったんだ」

 

「いいなそれ、早速やろう」

 

ロンがそう言えば、刀原が真面目な(疲れきった)顔でそう言う*1

 

「冗談よね……?」

 

「何を言ってるんだ?俺はいつでも本気だぞ?」

 

苦笑いしながら言ったハーマイオニーに、刀原は真面目な(疲れきった)顔をして、袖から怪しい小瓶を取り出す。

 

なお、その怪しい小瓶の中にある液体は薄い黄緑色をしており、浦原と涅が共同で開発した代物らしい。

 

ーーーーーーーーー

 

「こっそり始末したい奴がいたら使ってくださいっす。意味は……分かりますよね?」

 

「入れた液体の色にも溶ける代物だが、効き目はバツグン。イチコロだヨ?因みに味は、リンゴ味だヨ」

 

ーーーーーーーーー

 

「しょう君?浦原さん達から貰った怪しい薬を出さないで下さい。気持ちは大いに分かりますが……」

 

ハリーへ回道を掛け終わった雀部は、刀原の思考が監視から排除へとシフトしつつあるのを察し、彼の隣へと移動して諭すように言う。

 

そして、雀部(最愛の人)が隣へ来たことで正気に戻った刀原は「…………冗談だヨ」といって瓶を袖に戻す。

 

「毒を盛るのは駄目よ。そうじゃなくって……あの女からは防衛なんて何にも学べないじゃない?だから……自分達がやるのよ」

 

ハーマイオニーが躊躇いつつも決心した様に言う。

 

「自分達で何をするんだい?」

 

ハリーは治して貰った手を確認しながら言う。

 

「『闇の魔術に対する防衛術』を自習するのよ。そして、外の世界で待ち受けている脅威に対して準備をするのよ。自己防衛を出来るように……。この一年間をふいにするわけにはいかないわ」

 

ハーマイオニーの言葉に、ロンは頭を捻る。

 

「だけどさ……僕達だけじゃ、大したことは出来ないと思うぜ?そりゃあ……図書室へ行って呪いを探して、それを試したり練習したりは出来ると思うけど……」

 

「確かに『本からだけで学ぶ』という段階は過ぎてしまったと思うわ。私達に必要なのは、先生よ。呪文の使い方を教えてくれて、間違ったら直してくれる『まともな先生』」

 

ハーマイオニーがそう言う。

 

「でも、リーマスの事を言ってるのなら」

 

「ええ、リーマスは無理よ。騎士団で忙しいもの」

 

ハリーの言葉を遮ってハーマイオニーは言う。

 

「じゃあ、ショウ達の事?」

 

「違うわ、ショウ達も忙しいもの」

 

ハリーはハーマイオニーの真意が分からない。

 

「別に出来ますよ?」

 

雀部の言葉にハーマイオニーは首を振る。

 

「これ以上、二人に負担はかけられないわよ。それに、これは私達の問題なんだから。あと色々とね……」

 

ハーマイオニーは言う。

 

今、彼女の頭には……去年にハリーが受けた特訓を思い浮かべているのだろう……。

 

「じゃあ誰?」

 

「分からない?」

 

ハリーの問いにハーマイオニーは言う。

 

「あなたの事よ、ハリー。貴方が『闇の魔術に対する防衛術』を教えるって言ってるのよ」

 

ハーマイオニーはハリーの方をじっと見て言う。

 

「僕は先生じゃない、成績だって君には及ばない」

 

「いいえ、三年生の時……まともな先生の授業を受けた貴方は、私を上回ったわ」

 

ハリーは首を振るがハーマイオニーはそう言う。

 

「それに、私はテストの結果の事を言ってる訳じゃないわ。貴方がこれまでやって来たことを考えて?」

 

ハーマイオニーの真意が分からないのか、ハリーは呆けた顔で「どういう事?」と言う。

 

「貴方は一年生の時に『例のあの人』から『賢者の石』を守った」

 

ハーマイオニーはニヤニヤしながらハリーに言った。

 

「それは僕だけの力じゃない。ロンがチェスを攻略して、ショウがトロールを倒して、ハーマイオニーが論理パズルを攻略してくれたからだ」

 

「でも、クィレルと直に対峙したのは貴方よ」

 

「それは運が良かったからで、」

 

「運も実力のうちです」

 

首を振りながらそう反論したハリーに、ハーマイオニーと雀部がピシャリと言う。

 

「二年生、君はバジリスクを倒してジニーを救った」

 

ロンもニヤニヤしながら言う。

 

「バジリスクを倒したのはショウだ。ショウがリドルを追い詰め、滅ぼしたんだ」

 

「確かにそうだが……。バジリスクには、ハリーも対峙したな?君はグリフィンドールの剣でもってバジリスクの脳天を貫き、果敢に挑みかかった。それにリドルにトドメを刺したにはハリーだ」

 

卯ノ花隊長も誉めてたぞ?と続けて言った刀原の言葉に、雀部は驚き、ハーマイオニーは「ほらね?」とばかりにハリーを見る。

 

「三年生は人として最高の判断をしましたし、去年はヴォルデモートをまたしても撃退し、生還しました」

 

「そうだけど……それも運が良かったり、ショウ達から地獄の特訓を受けたからだ」

 

雀部の言葉にハリーはまたも否定する。

 

「でも一人でヴォルデモートと、」

 

「違うってば!」

 

三人と同じくニヤニヤしながら言い始めた刀原に、ハリーはほとんど怒った様に言う。

 

「いいかい?そんな言い方をすれば、なんだか凄い事をしたように聞こえるけど……みんな運が良かったり、誰かが助けたりしてくれたからなんだ」

 

ハリーはそう言うが、四人のニヤニヤは止まらない。

 

「どの場合でも『闇の魔術に対する防衛術』が素晴らしかったから切り抜けられた訳じゃない。ほとんどがやみくもで、何がどうなったのかさっぱり…ニヤニヤするのをやめろってば!」

 

ハリーは立ち上がってそう叫ぶ。

 

「君たちは分かっちゃいない!あ、ショウとライカ以外……。ロンとハーマイオニーは分かっちゃいないんだ!あいつと正面切って対決する時、実際そういうことになった時、授業で役立つことなんて一握りだ!授業で呪文を覚えて、敵に向かって放てばいい訳じゃない!僕は紙一重だったんだ!」

 

ハリーが肩をいからせながらそう叫ぶ。

 

「……君の言う通りだよハリー」

 

そんなハリーに、刀原は頷きながらそう返す。

 

「……いつそれが来てもいいように鍛練し、備え、覚悟を決める。それでも学んだことなんてほとんど役に立たないし……結局は『経験に勝るものなし』だ。だからこそ、ハーマイオニー達は君の経験を必要としてる」

 

刀原がそう言えば、ハーマイオニーは頷く。

 

「ショウの言う通り……私達はハリーの、その貴重な経験が必要なのよ。備える為に、戦う為にしっかりと知る必要があるの。それを知っているのは、ヴォルデモートと戦ったのはハリーだけよ……?」

 

ハリーはハーマイオニーの言葉を聞いていた。

 

「考えてみてね……いい?」

 

ハーマイオニーが静かに言えば、ハリーは頷く。

 

刀原はそれを満足気に眺めていた。

 

 

 

ハーマイオニーがハリーを説得してから数週間がたち、ホグズミードに行ける日が近づいてきた。

 

ハリーはあれから随分と考えているようだし、ぶつぶつと呪文を呟いていたのも一度や二度ではなかった。

 

そして、ホグズミード行き週末の前日の夜。

 

「ショウは……どう思う?」

 

ハリーは談話室の隅にて、自身が最も頼れる人物に相談していた。

 

「ハリーの心の中は、もう決まってるんだろ?」

 

毎日の習慣でもある斬魄刀の手入れをしながら、刀原はそう言った。

 

「まあ、うん。でも……ほら、新聞じゃあ僕は頭がおかしいって言われてるしさ……。僕から習いたいなって思う奴いないと思うよ」

 

ハリーは刀原の横に座りながら、自信無さげに言う。

 

「……俺はそうは思わんがな」

 

手入れを終わらせた刀原が刀を鞘に納めながら言う。

 

「ハリー。君が闇の魔術に対する防衛術に優れていることをいくら否定しようとも……君自身の記憶、経験、習得し積み重ねてきたものはとても貴重なものだ。そして、その経験を欲する者は多い筈だ」

 

ハリーの方に向き直し、真面目な顔で言った。

 

「でも……幸運だった部分が多かったのは事実だ」

 

「ああ、そうかもな。じゃあ君は、なんの努力もしなかったと言うのか?賢者の石を守るために、懸命に調べたことは?バジリスクを倒すため、グリフィンドールの剣を握ったことは?吸魂鬼を退けるため、守護霊の呪文を習得したことは?去年、ドラゴンと空中戦したり、寒中水泳したり、俺と特訓したことは?」

 

「……それは」

 

「去年。一人になり、ヴォルデモートに襲われ、それでも逃げずに立ち向かったのは?無駄だったのか?それも運だと言うのか?」

 

「……」

 

「否、否だ。無駄ではない。運だけでは、決してない。それを証明することを、君はもうしているんだよ。この夏、君は何に襲われた?」

 

「……吸魂鬼」

 

「その時、君は誰を守った?」

 

「……ダドリー」

 

「その通りだ。心情はどうであれ……君は確かに、君自身と従兄弟の身を守った。一昨年に、懸命に努力して習得した守護霊の呪文でな」

 

「……」

 

「果たして……それは運が良かったから出来たか?」

 

「……違う」

 

「そうとも。君は立派に努力し、経験し、乗り越えてきたんだ。誰にでも出来ることではない。その積み重ねを馬鹿にする奴は、俺が許さん」

 

「……ショウ」

 

「ハリー。君は確かに今まで……誰かに教えられ、守られ、助けられてきた。それは俺だったり、ダンブルドアだったり、母の護りだった。それを自覚していることは素晴らしい。だが……今や君は強くなり、誰かを守れる強さを身に付けた。だから今度は……君が周囲の人に教え、守り、助ける番なんだよ。まあ、まだ君は守れられる側でもあるがね」

 

「僕が、教える側……」

 

「君に期待しているのは、英国の魔法使い達だけじゃない。護廷十三隊の隊長の中にも、見処があると言ってる人がいるんだ。あの人達からそんな評価を貰う奴……なかなか居ないんだよ?」

 

「日本の人達も、僕に?」

 

「ああ」

 

「……」

 

「俺としても……そろそろ、背中を預けるに相応しい英国の魔法使いが欲しいと思っていたんだ。君は……俺の、護廷十三隊三番隊隊長、刀原将平が背中を預けるに足る魔法使いに成ってくれるのかな?」

 

「……なる!」

 

「そうか。じゃあ、期待してるよ……ハリー」

 

刀原はそう言ってベッドへと向かう。

 

そして残されたハリーの目に迷いは、もう無かった。

 

 

 

 

 

 

 

ホグズミード行きの日。

 

ハリーや刀原達の姿は『ホッグズ・ヘッド』と言うちょっと胡散臭いパブにあった。

 

「注文は?」

 

「あ、バタービールを五本お願いします……」

 

どことなく不機嫌そうなバーテンに、ハーマイオニーはそう注文する。

 

ハーマイオニーは心ある同志達(アンチアンブリッジ)に『ホッグズ・ヘッド』に集まる様に言っているらしく、刀原達も護衛対象がいることを良いことに、参加したのだった。

 

注文をしたハリー達は、カウンターから一番離れたテーブルに座る。

 

しかし、刀原はバーテンがどこかで見た事のある顔なのに気づいた為に、カウンターへと座る。

 

「……なんだ?」

 

刀原がじっと見ている事に気づいたバーテンが、不機嫌そうに聞いてくる。

 

「……いや……見知った顔だな……と」

 

刀原はバーテンに手をあげて謝罪しながらそう言う。

 

長い白髪に蓄えた顎ひげ、痩せて背が高い。

もしや……。

 

「……間違っていたら申し訳ないが、もしかして……アルバス・ダンブルドア校長の弟、アバーフォース・ダンブルドア殿か?」

 

そう刀原が問うと、バーテンは苦い顔をする。

 

「……ああ、そうだ。そう言うお前はトーハラだな?噂は聞いていた」

 

「噂……?」

 

刀原はそう言って疑問に思う。

あまりホグズミードで噂が立つようなマネは、特にしていない筈だと思っていたからだ。

 

「優秀だとな、アルバスに聞いた」

 

アバーフォースはそう言う。

 

ーーーーーーーーー

 

「ショウと言う日本の少年が優秀での……」

 

ーーーーーーーーー

 

茶飲み友達であるダンブルドアが、そうアバーフォースに自慢している様子が簡単に想像でき、刀原は苦笑いする。

 

「今日はゾロゾロとどうした?ポッターを連れて、こんなパブで……」

 

「そのハリーが仲間と一緒に行動を起こすらしいので、その監督と護衛です」

 

アバーフォースが不思議そうに言ったので、刀原はそうあっけらかんと返す。

 

「行動だと?」

 

「今に分かりますよ……。ああ、バタービールを三十本ほど準備しておいたほうが良いです。そのくらいは来るはずですからね」

 

刀原がそう言うとアバーフォースは目を見開き「それは……大急ぎで用意した方がいいな」と言ってカウンターに引っ込んだ。

 

「……バーテンと知り合いなの?」

 

アバーフォースとのやり取りを終えてやって来た刀原に、ハリーは不思議そうにそう聞く。

 

「いや、大勢が来るかもと言ってきただけだ」

 

刀原はそうさらりと返す。

 

「ほんの数人よ」

 

先ほどからチラチラと心配そうにドアを見ていたハーマイオニーは、時計を確かめながらそう言う。

 

「さて……それはどうかねぇ?」

 

刀原がそう言った直後、その言葉が事実であることを示すかのように、大勢の生徒達がやって来る。

 

先頭にネビル、続いてディーンとラベンダー。

直ぐ後ろにパーバティ、パドマ・パチルの双子。

 

チョウとセドリック。

 

昨年に知り合ったルーナ・ラブグッド。

 

その他にケイティ、アリシア、アンジェリーナのグリフィンドールのクィディッチメンバー。

 

ハンナ・アボット、アーニー・マクミランを含む四人のハッフルパフ生。

 

アンソニー・ゴールドスタイン、マイケル・コーナーを含む四人のレイブンクロー生。

 

最後の方にジニー、フレッド・ジョージ、リー・ジョーダンの四人。

 

 

 

そして……。

 

 

 

「なんだ、意外そうな顔だな?ポッター」

 

マルフォイ、ダフネ・グリーングラスとその妹とおぼしき女子生徒の三名。

 

刀原は目の奥で確かな覚悟を宿しているマルフォイを見て、満足げに頷いていた。

 

 

ーーーーーーーーー

 

ハリーがホッグズ・ヘッドで集会をする数日前。

 

刀原とマルフォイは、密かに接触していた。

 

実は……マルフォイとは今年度が始まって以降、ロクに会話もしておらず疎遠だった。

 

それは、刀原の立場が留学生から護廷十三隊の隊長へと変わった様に、マルフォイも死喰い人の息子へと立場が変わったからであり、言わば敵同士の関係になったからである。

 

「そうか、やはり日本は英国入りに乗り気か」

 

マルフォイは腕を組ながらそう言った。

 

それはマルフォイが会って早々に「日本の対応はどんな感じだ?」と聞いてきたため、刀原はありのままを伝えたからだ。

 

因みに……既に刀原は「この事は伝えて良いぞ」と言っており、マルフォイはしっかりと父親に言うつもりだった。

 

「ああ、悪いことは言わん。こちら側に来い……。俺個人としては、お前を斬りたくない」

 

「僕も、君と戦うなんてゴメンだね」

 

「なら……」

 

「問題は父上だ。闇の帝王と深く繋がっている。止められないんだ……。どうすれば良い……?」

 

マルフォイは懇願する様に言う。

 

「二重スパイ……とか?……とにかく、日本と米国は英国介入に意欲的だ。ファッジが陥落すれば、それが早まるだけって伝えとけ。それと……これをお前さんの父親に渡してくれ」

 

刀原はそう言って、袖から手紙を出して見せる。

 

「寝返った時の保証。特に、お前も含めた家族の保護を確約する内容が書かれてる」

 

「トーハラ……。ありがとう」

 

「おっと、これを渡すのは……お前が俺の要望に答えると誓った時だ」

 

刀原はそう言って手紙を袖に戻す。

 

「よ、要望……?」

 

マルフォイは何を言われるのかと、たじろぐ。

 

「ああ、ーーーーーーーーー」

 

刀原はそう言って黒い笑みを浮かべる。

 

「ーーーーーーーー?……よし……分かった……」

 

マルフォイは刀原の要望に青くなったり呆れたりしていたが、やがてしっかりと頷く。

 

「よし。では契約成立だ」

 

刀原はにこやかにそう言った。

 

「ところで……そちらでのアンブリッジの評判はどうだ?毛嫌いされているか?」

 

「悪いな、すこぶる悪い。僕らをお子様扱いして……馬鹿にしてる。虫酸が走るし、貴族らしくない。僕もあの女は大嫌いだ」

 

「やっぱりか……。チョウ(レイブンクロー)セドリック(ハッフルパフ)も同じ評価だった。あの様な手合いが嫌われるのは万国共通だな」

 

「だろうな」

 

ーーーーーーーーー

 

「ポッター。今、僕は複雑な立場にいる。だから、怪しむなら怪しめば良い。僕はただ『ノブレス・オブリージュ』を守る為に力を付ける。そして、スリザリンに害しかないあの(カエル)を追い出す。その為に学ぶ。それだけだ」

 

流石にマルフォイが来ることを全く予測していなかったハリーやハーマイオニーに、マルフォイはそう言った。

 

「……信じて良いんだな?マルフォイ」

 

「いや、信じるな」

 

ハリーはそう真面目に聞き、マルフォイも真面目にそう答える。

 

「は?」

 

ハリーはマルフォイのこの答えを想定しておらず、思わず驚愕した顔をする。

 

「僕の行動理由はただ一つ、そこにいる日本の死神に敵対したくない。そして……僕の行動の事情や理由は、全部あいつが知っている」

 

マルフォイはそう言って刀原を指し示す。

指し示めされた刀原は、二人にふりふりと手を振る。

 

「信じるならあいつを信じろ」

 

マルフォイの言葉にハリーは苦笑いしながら頷いた。

 

 

 

 

 

かくして……。

 

 

 

 

グリフィンドール。

 

ハッフルパフ。

 

レイブンクロー。

 

スリザリン。

 

共通の敵を得た四つの寮は、垣根を越えて手を結び、共闘体制に入った。

 

「えー……それでは……『闇の魔術に対する防衛術』を自習する為の会合を……始めます」

 

たどたどしくハーマイオニーがそう言う。

 

「これで良かったんですよね?」

 

「ああ、これで局面が動く」

 

端で見ていた雀部と刀原は、そう言い合う。

 

「動けないなら、動かすまで……泣き寝入りなどせん。反撃開始といこうじゃないの」

 

ニヤッと刀原はそう嗤った。

 

 

 

 

 

 

 

*1

アンブリッジを監視する為もあって、刀原は丸一日ハリー達に同行していたのだ。

 

そして当然、アンブリッジの活躍(視察)も見ていた訳で……。

 

刀原が拳をワナワナと震わせ、何度も腰にある刀の柄に手を伸ばそうとしていたのを、ハリー達は見ていた。

 





信じてくれるな

忘れてくれるな

迷ってくれるな

僕は君の敵だ

僕は君を

多分……後で裏切るんだ。



行動を起こし始めるハリーやハーマイオニー。

何かを決意するマルフォイ。

黒い笑みを浮かべる刀原。

ガマガエルを退治する為に、全員が動き出します。


頑張れガマガエル。
真の敵はやベー奴だゾ☆

でも、もし彼の最愛の人に手を出したら……物理的に文字通り、消されちゃうゾ☆


あ、千年決戦編で公開された初代護廷十三隊の隊長達、マジカッケーです。

あと、卯ノ花さん……怖いです。
更木戦が楽しみですね。



では次回は

教育令二十四号とDA

次回もお楽しみに。





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死神、演説する。教育令第二十四号とDA



雛達は団結し

巣を飛び出して、懸命に羽ばたく

大空という未来へ向かって。








 

 

本来……『ホッグズ・ヘッド』と言うちょっと胡散臭いパブに、ホグワーツ生が来ることは稀であった。

 

しかし……本日のホッグズ・ヘッドは、約三十名ほどのホグワーツ生で溢れていた。

 

しかも全ての寮の生徒が同じ目的で来ていたのだから、彼らの目的を知らない教授達が見たら驚いていただろう*1

 

さて、その気になる内訳はと言うと……。

 

グリフィンドールからは、ネビル、ディーン、ラベンダー、パーバティ、パドマ・パチル姉妹、ケイティ、アリシア、アンジェリーナ、ジニー、フレッド・ジョージ、リー・ジョーダン等。

 

レイブンクローからは、チョウ、ルーナ、アンソニー・ゴールドスタイン、マイケル・コーナー等。

 

ハッフルパフからは、セドリック、ハンナ・アボット、アーニー・マクミラン等。

 

スリザリンからは、マルフォイ、ダフネ・グリーングラスとその妹。

 

そして、主催のハリー、ハーマイオニー、ロン。

 

監督兼護衛の刀原と雀部だった。

 

 

 

「えー……それでは……えー……こんにちは」

 

まさかこんなに来るとは思っていなかったハーマイオニーが、緊張で声が上ずりながらそう言った。

 

「えーっと……じゃあ、皆さん。なぜ此処に集まったか、分かっていると思いますが……。私達は『闇の魔術に対する防衛術』を、本物の、アンブリッジが教えているようなことじゃないものを勉強したいと思っている為……それで、良い考えだと思っていますが……自分たちで自主的にやってはどうかと考えました」

 

ハーマイオニーがそう言えば、何人かの生徒が頷く。

 

「その理由は……ヴォルデモートが戻ってきたからです。私達は……それに備えなくてはいけません」

 

息を大きく吸い込んでそう言ったハーマイオニーに、生徒達は金切り声を上げたり、ビクッとしたり、身震いしたりする。

 

「じゃあ……とにかく、そういう計画です。皆さんが一緒にやりたければ……どうやってやるかを決めねばなりません」

 

「『例のあの人』が戻ってきたっていう証拠が、何処にあるんだ?僕たちは正確に知る権利があると思うな……」

 

ザカリアス・スミスと名乗った男子生徒が食って掛かるようにそう言った。

 

「それは……」

 

言われたハーマイオニーは、ハリーをチラリと見ながらどもってしまう。

 

「証拠ならあるぞ?」

 

それを遮って言ったのは刀原だった。

 

「オフレコでお願いするが……日本魔法省と護廷十三隊は『ヴォルデモートが復活した確固たる証拠』を既に入手している。具体的に言えば、おこわれた儀式の跡や形跡だな。故に……日本側は『ヴォルデモートの復活は確実』と判断している」

 

「護廷十三隊隊長の名に懸けての保証では不満か?」と続けてそう言った刀原に、ザカリアス・スミスは何も言えずに押し黙る。

 

「それじゃあ、さっきも言ったように……みんなが防衛術を習いたいのならやり方を、」

 

「ねえ、叔母から聞いたんだけど……守護霊の呪文を作り出せるって本当?」

 

ハーマイオニーの言葉を遮り、長い三つ編みを背中に垂らした女子生徒……スーザン・ボーンズがそう言う。

 

「ダンブルドアの校長室にある剣で、バジリスクに立ち向かったのは本当なのかい?」

 

テリー・ブートと名乗った男子生徒がそう聞く。

 

「ああ」

 

ハリーが少し恥ずかしそうに言うと、生徒達は感心したようにざわめく。

 

「それに、去年は魔法学校対抗試合で活躍した!」

 

セドリックがそう言うとハリーは照れる。

 

「でも、僕は……随分と色んな人に助けられたから出来たことなんだ」

 

「ドラゴンの時はそうじゃなかったろ?君はかっこ良かったよ……」

 

ハリーの否定にマイケル・コーナーがそう言う。

 

「それに……知ってるぞポッター。お前は昨年、そこのトーハラと地獄の特訓をしていただろう?」

 

マルフォイが追加でそう言い、それを聞いた刀原は「そういえば……ちょくちょく来ては、ハリーに声援を送っていたな」とふと思いだす。

 

「否定するなよハリー。君は凄い奴なんだ」

 

フレッドがそう言うと、全員が頷く。

 

「じゃあ、改めて……みんなはハリーに習いたい……で問題ないのね?」

 

ハーマイオニーの言葉に全員が頷いた。

 

 

 

その後、生徒達は積もり積もったアンブリッジや魔法省への批判を言い合い、一時は目的を見失いかけた。

 

しかし……最終的には連判状じみたリストに全員がサインし、最初の集まりの日時と場所が決まり次第伝言を回すことで話はまとまった。

 

「よし、じゃあ最後に……私達の監督を引き受けてくれる大人……ショウ達からお言葉を貰いましょうか?」

 

リストを回収したハーマイオニーが、刀原の方をじっと見ながらそう言った。

 

今まで沈黙を決め込んでいた刀原がそれを受けて立ち上がれば、全員が静かになり刀原を見た。

 

「まず、今回の一件について……護廷十三隊の総隊長、山本元柳斎重國殿からは「大いにやるべし。日本はお主等に期待しておる」とのお言葉を貰っている。他……日本の多くの大物達からも、激励の言葉を貰ってる。これから分かることはただ一つ……みんなこそが、次世代を担う者ってことだ!」

 

刀原がそう言えば、全員が「そうだ!」と言う。

 

「ファッジは恐れてる。それを間違いとは、言わない。誰もが、恐怖ってものは持つからね……。だが、その恐れを君達とホグワーツに向けるのは、間違ってるとしか言えない!」

 

「そうだ!」

 

「全くよ!」

 

「そして……アンブリッジ。あのカエルは、間違いなく君達を舐めてる。実際にハリーはこの前、彼奴から悪逆無道の体罰を受け、手から出血までした。反撃されないと踏んでいるからだ!あの授業も、あのカエルが君達を無能に仕立て上げるためにやっている!それは君達の未来を汚そうとする行為だと、俺は思う!学生の本分は、学ぶことだと言うのにも関わらずにだ!」

 

「そうだ!」

 

「俺たちは学びたい!」

 

「あのカエルは分かってない!健全な知識は、経験は、実力は、健全な教育によって身に付くものだ!理論だけ身に付くものでは、断じてない!あえて言おう……アンブリッジの授業はカスであると!」

 

「そうだ、読書はもう沢山だ!」

 

「君達がこのままで良い筈がない。学びの機会、大切な時間を捨てられて良い筈がない!君達にはしっかりと学ぶ権利があるんだ!」

 

OWL(フクロウ)テストだってあるんだ!」

 

「諸君!今こそ立ち上がる時!今こそ学ぶ時!未来の為に!自らを、友を、大切なもの守る為に!ハリーと、俺と、みんなで学ぶんだ!防衛術を!」

 

「そうだ!そうだ!」

 

「責任は全て俺が取る!諸君、大いにやるべし!」

 

刀原が高らかに言えば、全員が歓声を上げた。

 

 

因みに……。

 

「君は扇動力があるな……」

 

近くで刀原の言葉を聞いていたアバーフォースは、何やら苦い顔でそう言っていた。

 

誰か(グリンデルバルド)を思い出すかのように。

 

 

 

 

 

 

 

「ヤケに……対応が早いですね……」

 

「…………ああ、そうだな」

 

会合があった日の翌々日、雀部と刀原は神妙な顔でそう言い合っていた。

 

なぜなら……二人の視線の先にはとある広告が張り付けてあり、その内容がとんでもないものだったからだ。

 

『ホグワーツ高等尋問官令。

 

 学生による団体・チーム・グループ・クラブ等は、ここに全て解散される。

 

 再結成の許可は高等尋問官(アンブリッジ)に願い出て、その承認を得なくてはならない。

 

 承認外の組織等を結成、属した生徒は退校処分

 

以上は、教育令二十四号に則ったものである。

 

高等尋問官 ドローレス・アンブリッジ 』

 

これを見た刀原は思わず【全く……数十年前の独国(ナチスドイツ)数年前の露国(ソ連)かよ】と言い放ち、呆れ果てた。

 

その隣にいる雀部も【あれ?此処って学校でしたよね?】と、もはや呆れて溜め息も出なかった。

 

直後やってきたハリー達も、呆れ半分怒り半分、少しだけ困惑気味の様子だった。

 

「狙い済ましたかのようね」

 

「一昨日だもんな……」

 

ハーマイオニーとロンが苦い顔でそう言う。

 

「どうします?抗議は出来ませんし……」

 

「ああ、どうせ紙の無駄になるだけだ」

 

雀部の言葉に刀原は頷く。

 

「それよりも……ハーマイオニー。アホカエルの奴に、例の件の許可を願い出ろ」

 

「ええ!?」

 

刀原がハーマイオニーの方にそう言えば、彼女は心底驚いたように言う。

 

「それこそ紙の無駄ってやつだよ」

 

「そうよ。絶対に許可されないわ」

 

ハリーはそう言い、ハーマイオニーも頷く。

 

それは刀原とて当然分かっているらしく「ああ、十中八九許可なんておりないだろうな」とのたまう。

 

「だったらなんで?」

 

「やることに意味があるからだ」

 

ロンの問いに刀原はそう言った。

 

「いいかハーマイオニー?それとお前ら。俺が今日中に奴に出す届け出を書くから、ハーマイオニーは一人で持っていくんだ。内容は『生徒による、生徒の為の、生徒だけで行う、生徒同士による学力向上の為の自主的自習会』と書く。マルフォイやセドリックとかの名前も出して渡せ」

 

「でも、絶対に許可は……」

 

「ああ、降りない。これは奴が潰したい組織に他ならないからな。だが、出さなければ駄目だ」

 

「だったらなんで?」

 

「それは……後で話す」

 

刀原は何やら思わせ振りにそう言った。

 

「……まあ、分かったわ」

 

ハーマイオニーやハリー達は訝しげに頷いた。

 

 

 

「私は今年度が始まって以来、アンブリッジ教授やファッジ大臣がおっしゃる『ホグワーツの著しい学力低下問題』を何とかしようという思いに、凄く共感していました。

 そこで……私達、生徒の方からも変えていこうと思い、心ある生徒達と数日前にその会合をしたばかりでした。

 実は既に試験運用も済ませ、各寮からも賛同……具体的にはスリザリンのマルフォイ君やハッフルパフのセドリック先輩等から賛同を得ております。

 ですからアンブリッジ教授、是非とも私達の『生徒による、生徒の為の、生徒だけで行う、生徒同士による学力向上の為の自主的自習会』略して『生徒自主自習会』の許可を頂けないでしょうか……?」

 

ハーマイオニーは刀原の書いた台本通りに言った。

 

しかし最初から結論を言えば、許可は降りなかった。

 

そしてハリーやハーマイオニーは、最初から結果が分かっていたこの行為に首を捻っていた。

 

しかし、それ以上に首を捻ったのは刀原の反応だ。

 

「……そうか、やはり不許可だったか……」

 

それは刀原が考えこむようにそう言い、少しだけニヤリと笑みを浮かべていたからだ。

 

それを見ていた雀部は何かを察していた。

 

 

 

 

さて……そんな一幕がありながらも、彼らは取り組まなくてはならないことが沢山あった。

 

まず、OWL(フクロウ)に備えての勉強。

 

今年度から異様に増えた宿題を、ハリーとロンは去年より助っ人が少ない状態*2でやっつけなくてはならないからだ。

 

次に『自習会』の場所。

 

人数がなんやかんやで三十人を越えているうえ、それらが一堂に会して練習が出来て、かつ秘匿性がある場所……。

 

忍びの地図やシリウスから情報を貰ったりしているが、ふさわしい場所を発見する難易度は非常に高く……残念ながら未だ発見には至っていなかった。

 

しかし、そんな彼らに救いの手が差し伸べられる。

 

偶然にも、『必要の部屋』と呼ばれる部屋を発見することに成功したのだ。

 

この『必要の部屋』またの名を『あったりなかったり部屋』とも称される部屋は、来訪者が最も必要なものを提供してくれるという摩訶不思議な部屋であり、実際に願いごとに合わせて部屋の内容が変わっていた。

 

「不思議な場所だな」

 

刀原は目の前に広がる光景を前にそう呟いた。

 

広々とした空間は揺らめく松明によって照らされ、壁際には木製の本棚が並び、床にはかなりの数のクッションが置かれていた。

 

本棚には『自己防衛呪文学』や『闇の魔術の裏をかく』といった本が並び、特にハーマイオニーなどは目を輝かせていた。

 

 

 

場所が決まれば後は早かった。

 

早速とばかりに最初の集会が行なわれ、全員が部屋に驚きながら入り終わる。

 

「リーダーと名前を決めなくてはならないわね」

 

「ポッター以外に誰がいるんだ?」

 

集まった全員の前でハーマイオニーがそう言うと、つかさずマルフォイがそう言った。

 

「そうだね。僕達はハリーに教わりに来てるんだから、ハリーがリーダーで問題ないだろう」

 

続けてセドリックもそう言い、儀礼的に行われた多数決によってリーダーはハリーに決定した。

 

「じゃあ……名前はどうしましょうか……?」

 

リーダーが決まったときとは違い、名前はすんなりとは決まらなかった。

 

魔法省はみんなまぬけ(the Ministry of Magic are Morons Group)

 

反アンブリッジ同盟(Anti-Umbridge League)

 

防衛協会(The Defence Association)

 

等々……。

 

ほんの少しだけ揉めたが、最終的に『ダンブルドア軍団(Dumbledore’s Army)』通称DAに決定したのだった。

 

 

因みに……。

 

「ショウの案は?」

 

生徒連合自由防衛軍(Student Union Freedom Defense Force)

 

「お堅い名前ね」

 

「ライカの案は?」

 

アンブリッジを潰す為の同盟軍(Allied Forces to Destroy Umbridge)ですかね……」

 

「『俺たちアンブリッジを抹殺し隊(We want to kill Umbridge)』も良いな」

 

「ショウもライカも……物騒ね」

 

「とりあえず却下」

 

「何故だ。俺はあのカエルを抹殺したいだけだ」

 

「だから駄目だってば」

 

刀原と雀部の案は却下された。

 

 

 

場所も決まり、リーダーも決まり、組織名も決まり、練習も遂に始まった。

 

初回は基礎中の基礎と言う事で『武装解除呪文(エクスペリアームス)』から始まったのだが……最初からほぼ完璧に出来たのは、残念ながらセドリックとハーマイオニーとマルフォイぐらいだった。

 

「出来た奴は俺か雷華とのツーマンセルにするか」

 

「「え!?」」

 

合格者を前に刀原はそう提案し、それを聞いたハーマイオニーとマルフォイはあからさまに動揺し固まる。

 

「大丈夫、去年みたいに厳しくしないから」

 

「じゃ、じゃあ……そうしようか」

 

二人が何やら深刻そうな顔をしているなか、たどたどしくなりながらセドリックがそう言う。

 

それを聞いた二人は「裏切り者!」とでも言いたげな表情を浮かべていた。

 

そしてそれ以降、ハリーから合格を貰った者は、刀原・雀部との実践練習へと移ることになった。

 

ちなみに……幸いにも刀原達との練習内容は、ハーマイオニーとマルフォイが想定していたものではなく、きちんと手加減されていたものだった。

 

「うん、とっても良かった。でももう時間も遅いし、この辺でやめた方が良い」

 

最初の練習会はあっという間に終わり、時刻が21時を過ぎたこともあって、ハリーはそう言った。

 

「来週の同じ時間、同じ場所で良いかな?」

 

ハリーはそう言ったが、多くの生徒はそれを望まなかった。

 

「もっと早く!」

 

ディーン・トーマスがそう言うと、そうだそうだと頷く生徒が多かったのだ。

 

「じゃあ、今度は水曜日だ。クィディッチ・シーズンも近いから、そっちの事もあるし*3……。練習を増やすならその時考えて決めれば良い」

 

そうハリーが言えば全員が頷いた。

 

そしてやがて全員が部屋から出ていき、ハリーや刀原達の五人だけが残った。

 

「本当に……とっても良かったわよ」

 

ハーマイオニーがハリーに向かってそう言った。

 

「ええ、立派でしたよ。しっかりと教えてましたし」

 

雀部も関心するようにそう言った。

 

「初めてだとは思えん位、上出来だな」

 

刀原も同じようにハリーを褒める。

 

ハリーはそれらを聞いてニッコリと笑った。

 

 

 

それからというもの、練習は順調に続けられ、生徒たちの練度は非常に高くなっていった。

 

ハリーは胸の中に護りの護符があるかのように穏やかになり、アンブリッジの悪寒が走る目線を受けても優雅に微笑みで返すことが出来るようになっていった。

 

ネビルはハーマイオニー相手に武装解除呪文を成功させ、次の回が刀原との実践練習になる事になったし、『妨害呪文(インぺディメンタ)』を三回目で習得した者も現れた。

 

そして特に目を見張るのは、やはりセドリックとマルフォイであった。

 

次回の練習日でセドリックは刀原と、マルフォイは雀部と、それぞれ一対一の模擬決闘をすることになったのだ。

 

「勝てないまでも、君に一矢報いてみせるよ」

 

「遠慮は無用。全力でかかってこい」

 

「……刀は無しだぞ」

 

「分ってますよ」

 

次回の大目玉になる事は間違いないだろう*4

 

更に、全員に日時をバレないように通達する賢いやり方をハーマイオニーが思いついた。

 

まず手始めに、彼女は偽の金貨を大量に用意した。

 

そしてハリーが持ってる金貨の日時が変更されれば、それに連動して変更された日時が分かる金貨*5に作り変えて全員に配ったのだ。

 

なお、その金貨達には「変幻自在呪文」という高度な魔法が掛けられており、レイブンクローの生徒たちは「その頭脳があるのに、どうしてレイブンクローに来なかったの?」とハーマイオニーに不思議そうに問い詰めた一幕があったのはご愛嬌だ。

 

 

 

 

 

 

 

練習日とは別に、ハリーは忙しくなり始めた。

 

本格的なクィディッチシーズンが到来したからだ。

 

去年試合が無かったこともあって、来るべき最初の試合……グリフィンドール対スリザリンの試合に多くの関心が寄せられていた。

 

「私はクィディッチ優勝杯が自分の部屋にあることにすっかり慣れてしまいました。スネイプ先生に、これを渡したくはありません。ですから……貴方達にはやるべきことがある……そうですねポッター?」

 

そう平然と言ったマクゴナガルに対する衝撃を、刀原は暫く忘れられそうに無かった。

 

「今年こそ君に勝つ。貴族らしく、正々堂々とな。首を洗って待っておくがいい」

 

「フハハハハハ」

 

「完全に良きライバルですね。良いことです」

 

「笑いを足すなトーハラ!感心するなササキべ!」

 

マルフォイがハリーにそう高らかに宣言したほどに。

 

そして……オリバー・ウッドの後任としてキーパーに就任したロンも、猛特訓を重ねていた。

 

そうして始まった注目の試合は大接戦となり、双方が四十点ずつを入れ合う展開となった。

 

最終的にはハリーがまたもデッドヒートを制し、グリフィンドールの勝利で幕を閉じたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1

内容を知ったら感心しただろうが

*2

去年までは刀原と雀部がいたため手伝ってくれていた。

 

しかし……今年度の彼らは授業に参加していないし、第一に虚対策で忙しい。

 

援軍は期待できそうに無かった。

 

*3

 

グリフィンドールのクィディッチ・チームのほぼ全員。

セドリックはハッフルパフのシーカー。

チョウはレイブンクローもシーカー。

マルフォイはスリザリンのシーカー。

 

この様に……クィディッチ・チームに所属している生徒が、意外と多かったのだ。

 

後々、クィディッチとのブッキングを如何に避けるかが難題となる。

 

*4
なお、当然ながら惨敗した

*5
熱くなることでそれを知ることが出来るオマケ付き






手のひらという舞台で

踊ってくれ。






映画で見る限り……グリンデルバルドって演説が巧みですよね。

特に黒い魔法使いでのデップバルドは映画館で震えた記憶があります。


個人的に……。

カリスマ性で率いたヒトラーとグリンデバルド。
恐怖と粛清で率いたスターリンとヴォルデモート。

彼らは対になっていると思っています。


え、刀原の扇動力はどこから来たって?
やだなー誰かが教えたに決まってるじゃないですか。




ここから刀原は色々と策を講じていきます。

布石や伏線をいくつも用意していきますので、お楽しみに。



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では次回は

蛇と閉心術

次回もお楽しみに。



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死神、諭す。蛇と閉心術


夢じゃない

僕はそれを

受け入れたくない。






 

 

 

 

DAの練習がスタートし、クィディッチ・シーズンも始まった。

 

そして……ハグリッドが帰ってきたという報告がハリー達の元にやって来た。

 

「何があった?」

 

ハリーや刀原達が小屋に着くと、そこには傷だらけのハグリッドが謎の肉を手に座っていた。

 

「酷い傷です。直ぐに直しますね」

 

「何でもねぇ。自分で処置できる」

 

雀部が心配そうに駆け寄り回道をかけようとするが、ハグリッドは何故か首を振って嫌がる。

 

だが、そこで大人しく引き下がる二人ではない。

 

「なんでもねぇじゃありません!治します」

 

「普通に治されるのと、捕縛されて治されるの。どっちが良い?」

 

刀原と雀部は有無を言わさず(いつもの笑みを浮かべながら)、半ば強引に回道をかけて治し始める。

 

そしてハグリッドの方も最初こそ拒否していた(「大丈夫だから」)が、二人がニコッと笑う(うるせぇ大人しくしてろ)と、遂に観念したのだった。

 

 

 

「で、何があったの?」

 

傷が癒えたハグリッドにハリーがそう聞く。

 

「ハリーでも教えらんねぇ。極秘だ」

 

ハグリッドはまたも頑なに首を振る。

 

「そういやぁ、ショウ、ライカ。隊長さんになったってな?すげぇなぁ、おめでとう」

 

そして、まるで話題を逸らすように刀原と雀部の方を向いてそう言った。

 

「ああ、ありがとうハグリッド。巨人たちのご機嫌は麗しくなかったと見えるが、どうだった?」

 

刀原が平然とそう言うと、ハグリッドが目を見開く。

 

「一体……誰が、そう言った?」

 

「見れば分かる」

 

それを聞いたハグリッドは項垂れる。

 

半巨人であるハグリッドは頑丈でタフだ。

 

それをここまで疲弊させ、傷つけることが出来るのは……虚か、同業者(死神)か、同業他社(滅却師)か、強力な魔法生物か、巨人ぐらいしか刀原は思いつかなかったのだ。

 

「やっぱ、お前さんは他とは別格だな」

 

「そうか?巨人か魔法生物か……一か八かだった*1

 

刀原はそう言うが、ハグリッドの苦い顔は変わらなかった。

 

そしてハグリッドは観念し、話し始めた。

 

魔法省の追手をフランスで撒き、巨人の群れに接触したこと。

 

最初は友好的だったが、内ゲバ(反乱)が発生して凶暴な者(過激派)が長になり、交渉は決裂したこと。

 

死喰い人も接触していたこと。

 

「巨人が敵になるかもしれないの?」

 

「……その可能性は、ゼロじゃねぇが……」

 

ハーマイオニーが深刻そうな顔でそう言えば、ハグリッドは考え込む。

 

「大丈夫だ。巨人ごとき、臆す必要はない」

 

「いざとなったら切り捨てればいいんです」

 

刀原はそうケロっと答え、雀部もうんうんと頷く。

 

「そういう問題じゃないよ……」

 

ハリーは心配そうにそう言った。

 

 

 

 

 

 

傷だらけだったとはいえハグリッドが戻って来たのは喜ばしいことなのだが、彼は帰還して早々にアンブリッジの洗礼(査察)を受ける事になった。

 

当然ながら良い訳も無く……狼人間やケンタウルス等、混血をを毛嫌いしているらしいアンブリッジは、ハグリッドをトレローニーと並ぶ二大ターゲットにした様だった。

 

しかし、それ以外は平穏な空気が流れた。

 

ハリー達は、DAの会合やクィディッチの練習などで充実した毎日を送っている。

 

刀原達は防衛作戦が軌道に乗ったことやアンブリッジに対しては諦める事にしたためイライラが減った。*2

 

そんな彼らの癒しとなっていたDAの会合、その参加者達の練度は日増しに増していった。

 

特に見違えるほどに上達していたのはネビルだ。

 

『妨害呪文』や『武装解除呪文』を習得し、まだあちこち飛んでいく*3が『失神呪文』の習得も時間の問題だった。

 

 

更に、ハリーには新しく好きな人が出来たらしい。

 

それは昨年にダンスパートナーとなったジニーだ。

 

「みんなには内緒だよ。特にロンや双子達には!」

 

「おう。分かった」

 

気恥ずかしそうに言ったハリーを見て、刀原はなんだか嬉しい気持ちになったのだった。

 

また……セドリックとチョウは内々に婚約したらしく、照れながらそう言った二人を、刀原と雀部は盛大に祝福した。

 

近づいてきたクリスマス休暇はとても楽しみなものになる予定だった。

 

ハリー達はロンの家である『隠れ穴』に招待されることになり、刀原と雀部もそれに招待された。

 

そして時々ホグワーツに戻らなくてはならないかもしれないが、二人はその招待を有難く受ける事にした。

 

特に刀原にとっては……なんやかんや初めて行く『隠れ穴』である。

 

ここ最近忙しかったこともあって、二人はとても楽しみにしていたのだった。

 

そう……クリスマス休暇はハリーや刀原達にとって、とても楽しみなものになる予定……()()()

 

 

 

 

 

 

 

クリスマス休暇を目前にした日の夜、ハリーは不思議な夢を見ていた。

 

その夢で、ハリーの体はしなやかに動いていた。

 

光る金属の格子の間を通り、暗く冷たい石の上をまるで這うように、腹這いで滑っていた。

 

周囲を見渡すとそこは廊下であり、行く手には男が一人いる。

 

ハリーはその男を猛烈に噛みたい気分になったが、もっと重要な仕事があることを思い出して踏みとどまり、男の脇をすり抜けようとした。

 

だが、男はハリーに気づいて杖を抜いた。

 

……仕方がない。

 

ハリーは床から高々と伸びあがり、男を襲った。

 

一回では済まさず、二回三回と。

 

牙が男の肉に深々と刺さり、ハリーは男のあばら骨が自分の両顎によって噛み砕かれるのを感じ取った。

 

そして生暖かい血が噴き出して床に飛び散り、男は苦痛の叫び声を上げながらドサリと崩れ落ちた。

 

やがて、男は静かになった……。

 

「ハリー、ハリー!大丈夫か!?」

 

ここでハリーは目が覚めた。

 

体中から冷や汗が止まらず、震えも止まらなかった。

 

呼びかけていたのは刀原だった。

 

深刻そうで顔色もあまり良くない(凄く動揺している)彼の顔を、ハリーはここ最近見たことが無かったと思った。

 

「ハリー!」

 

ロンも凄く驚いた表情で近くに居た。

 

「ハリー、自分が誰だか分かるか?俺が誰だか分かるか?ここが何処だか分かるか?」

 

刀原は懸命な表情でそうハリーに問いかけた。

 

ハリーはそれにただ頷いた。

 

そして猛烈な吐き気に襲われる。

 

余りにも生々しかったが故に。

 

だが、伝えなくてはならない。

 

「ロン……。君のパパが、襲われた」

 

「え?」

 

ハリーの言葉に、ロンは「何言ってんだこいつ」と言った顔になる。

 

が、それも一瞬であり「君は、悪い夢でも見たんだよ」と直ぐに説得するように言う。

 

「襲われた?アーサー氏が?夢じゃないのか?」

 

刀原は冷静にそう言った。

 

「夢なんかじゃない!感触まで伝わった!ウィーズリーおじさんが……血だらけで倒れて……!」

 

ハリーは半ば錯乱状態になりながらそう言った。

 

傍から見れば悪夢を見てパニックになった子供だが、刀原はそう切り捨てはしなかった。

 

「……ネビルは?」

 

少しだけ考えた後、刀原はそう周囲に聞いた。

 

「マクゴナガル先生を呼びに行くって言ってた」

 

ディーンがそう刀原に伝える。

 

刀原はネビルの成長を感じられるその即応性に、ほんの少しだけ笑みを浮かべた。

 

「とりあえず、校長室に向かうぞ。俺の嫌な予感が的中すれば……おそらく、一刻の猶予も無い」

 

そして刀原はそう言って『天挺空羅』を使い、伝言を飛ばしたのだった。

 

 

 

「事は早急に行わなくては」

 

ハリーから事情を聞いたダンブルドアは、そう言って歴代校長の絵画に捜索を命じた。

 

そして、アーサー氏は酷い状態で発見された。

 

嫌な予感ってのは当たるもんだな。

 

それを聞いた瞬間、刀原は苦虫を嚙潰したような顔でそう思った。

 

幸か不幸かはさておき……ハリーの悪夢は現実(ガチ)であり、アーサー氏は騎士団の任務中に襲撃されたのだ。

 

あと少しでも発見が遅れるとヤバい(死んだかもしれない)状態だったと、運ばれる様子を見ていた歴代校長の一人は言う。

 

それを聞いたマクゴナガルはフレッドとジョージ、ジニー、おまけに雀部を起こしにグリフィンドール寮へ戻った。

 

やがてやって来た彼らは、次々とやって来る一報を深刻そうな顔で聞いていた。

 

そして刀原がふとハリーの方へ眼をやると、ハリーは心ここにあらずと言った感じだった。

 

いや、それだけじゃねぇ……。

まるで、狐憑きの様な……。

 

そう思った刀原はおもむろにハリーの目の前に立ち、霊圧を込めてパァンと猫だましをする。

 

それを受けてハッと気づいたハリー。

 

その顔は蒼白だった。

 

「気をしっかり持て、ハリー」

 

そう言った刀原にハリーは一瞬たじろいだが、しっかりと頷く。

 

「こちらも猶予はなさそうじゃな」

 

それらを目線の端で見ていたダンブルドアは、ポツリとそう言った。

 

暫くして、アーサー氏は聖マンゴ魔法疾患傷害病院に運ばれたとの一報が入る。

 

「君たちはシリウスの元に向かうのじゃ」

 

ダンブルドアはそう言って移動(ポート)キーを用意する。

 

「雷華はハリーに同行してくれ。連絡は密に、伝令神機を使ってな」

 

「了解」

 

刀原はそう言い雀部はそう返事をする。

 

そして、ハリー達はグリモールド・プレイスに飛んだ。

 

時刻は朝に向かっていく。

 

刀原が次に受けた一報は、『アーサー氏は一命をとりとめた』と言う喜ばしい吉報だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の午後。

 

取り残される形のとなったハーマイオニーを連れて、刀原はグリモールド・プレイス十二番地を訪れた。

 

「ハリーは?」

 

出迎えた雀部に、刀原は早速そう聞いた。

 

「どうも思い詰めていたみたいだったので……強制的に寝かせました(落としました)

 

雀部があっけらかんと言うと、刀原は「最高の選択だよ」と言う。

 

ハリーはあれから随分と悩んでいた様子で、自分がまた寝たら周囲を襲うんじゃないかと心配していた。

 

それを見かねた雀部が「まずは寝なさい。ハリーが心配しているようなことは起こりません」ときっぱり言ったのだ。

 

しかし、ハリーはそれでもごちゃごちゃブツブツ言っていた。

 

そしてそんなハリーに堪忍袋の緒が切れた雀部は「じゃあ、無理やりにでも寝させますので」と言い、容赦なく腹に一発入れて失神させたのだ。

 

「今頃ぐっすりだと思いますよ?ああ、一応の事態に備えて結界で周囲を覆っていますが」

 

「流石は俺の相棒、任せて良かったよ」

 

報告に刀原がそう言えば、雀部はニッコリと笑った。*4

 

 

 

ハリーがぐっすりと眠っている(気絶している)間に、刀原も聖マンゴに行ってアーサー氏のお見舞いをした。

 

アーサー氏は喜ばしい事に……刀原が思っていた最悪の想定(再起不能の判定)に反して……順調に回復しているらしく、厄介そうな蛇の毒も解毒剤が見つかったと言っていた。

 

そして……刀原がグリモールド・プレイスに戻ってくる頃には、ハリーも復活していた。

 

「ハリー。起きて早々に悪いが、重要な話がある」

 

寝室にやって来た刀原がそう言うと、ハリーは頷く。

 

「まず、君が見た夢だが……『君は蛇になって、アーサー氏を襲った』で間違いないな?」

 

「うん、そうだよ」

 

「で、俺が君に猫だましをした時も様子がおかしかったが……あの時も不思議な感じだったか?例えば……無性にダンブルドアを襲いたくなった……とか」

 

「…………うん、ショウの言う通りだ」

 

ハリーの返答を刀原は頭に叩き込んでいく。

 

「そうか……。今はどうだ?さっき寝た時は?」

 

「いつもと変わらないよ」

 

「ふむふむ」

 

刀原は考え込みながら頷く。

 

「とりあえず……。ハリー、君はまだ正気だ。今すぐ隔離しなくちゃならんという訳でもない。そこは安心して良い」

 

刀原がそう言うと、ハリーは心底安堵した様だった。

 

やはり、気が気でなかったらしい。

 

「だがな……『今はまだ』だ。今後も大丈夫と言う保証は全く出来ない」

 

しかし……続けて刀原がそう言えば、ハリーは絶望に打ちひしがれる。

 

「……どういう事?僕はどうしてこんな風に……?」

 

ハリーの疑問は最もだった。

 

そして刀原はその至極当然な問いに口を開く。

 

「ヴォルデモートとの繋がり……ダンブルドアはそう結論した。原理は不明だが、君とヴォルデモートとの間には切っても切れない深い繋がりがあるらしい」

 

「ええっ、ヴォルデモートとの繋がり!?」

 

昨夜ダンブルドアから聞いた言葉を刀原が言えば、ハリーは驚愕する。

 

「ああ。そして今回の事は、その繋がりが招いたものと思われる実際に……校長室で君がおかしくなった時、俺は確かにヴォルデモートの霊圧を……まあ、若干ではあるが……君から感じ取った」

 

「彼奴との繋がりなんて要らない!」

 

そして刀原の言葉に、ハリーは特大の嫌悪感を表す。

 

「誰だって嫌さ、あんな頭のイカれた魔法使いとの繋がりだなんて。だが、まあ残念ながら……君にはそれがある。そして、一つ対応を誤ったり遅れたりしたら、取り返しのつかないことになる。君自身が操られたり、周囲が危険に瀕したりね」

 

それを聞いたハリーの顔色が途端に悪くなる。

 

「ど、どうにかしなくちゃ!でも一体どうすれば?」

 

ハリーはそう懇願するように言う。

 

「そう、どうにかしなくちゃならん。そこでだ……ハリーには年明けから習得してもらわなくちゃいけないものがある」

 

刀原がそう言えば、ハリーの顔に希望の光が宿る。

 

「何を習得すればいいの?」

 

「『閉心術』と呼ばれる術だ。簡単に言えば……心に幕を張って、見えない様にするんだ。詳細は後日、ゆっくり解説しよう」

 

「む、難しそう……」

 

「ああ、とても難しいが……やるしかない。出来なければ、ヴォルデモートの操り人形になるだけだ」

 

「それだけは嫌だ。……分かった。頑張るよ!」

 

ハリーはそう言って握りこぶしを作ったのだった。

 

 

 

 

「で、誰が教えてくれるの?」

 

話がまとまった後、ハリーはとても重要な事と言わんばかりにそう言う。

 

スネイプ教授(ハリー永遠の宿敵)

 

「え……。じょ、冗談……だよね?」

 

刀原がニヤニヤしながら言うと、ハリーの顔は絶望の色に染まる。

 

(or)

 

(or)?」

 

「俺」

 

「ショウが!?」

 

ハリーの顔に、またも希望の光が宿る。

 

「どっちが良い?」

 

その問いにハリーは全く悩む素振りすらしない。

 

「ショウが良いです!お願いします!」

 

一秒の間もなく、ハリーは刀原に頭を下げた。

 

「おう、任された」

 

刀原は笑いながらそう言ったのだった。

 

 

 

 

 

 

「さて、早速始めるか」

 

正月三が日が過ぎ、新学期を目前にした日の夜、空き教室にて刀原はハリーにそう言った。

 

「改めて言うが、これからハリーに習得してもらうのは『閉心術』と言う術だ」

 

刀原は黒板に閉心術と書いてハリーに見せる。

 

ハリーはそれを真面目な表情で見ていた。

 

「閉心……その名の通り、この術は自らの心を外部からの脅威……例えば魔法で侵入をしようとしたり、影響を及ぼそうとするものに対して守るためのものだ」

 

「心を守るための術……」

 

ハリーの言葉を肯定するかのように刀原は頷く。

 

「じゃあ、何故閉心術を習得しなくてはならないのか。それは、ヴォルデモートは『開心術』……他人の心や感情、記憶などを引っ張り出す術に長けているらしいからだ」

 

「開心術?それって人の心が読めるの?」

 

「そうだね……読心術と似てるかな。だけど、そんな行儀の良いものじゃない。相手の心を強制的に開くんだ。簡単に言えば、押し入り強盗みたいなものかな。嘘を見抜いたりも出来る」

 

ハリーはそれを聞いて、納得するような素振りを見せる。

 

「ハリーがそれを受けるとする。すると術者……例えばヴォルデモートが使ったら……ハリーが抱えている秘密や、絶対に隠しておきたいものがヴォルデモートにバレることになる。つまり、ハリーのあーんな事やこーんな事がヴォルデモートにバレるという訳だ」

 

おやおや、昨夜はお楽しみだったようだな?

 

「ぜ、絶対に嫌だ!」

 

ヴォルデモートが半笑いで言ってくるのを想像したハリーは、立ち上がってそう叫んだ。

 

「嫌だよな?そうだとも。プライバシーの欠片も無いし、ヴォルデモートにおちょくられるのは目に見えている」

 

おやおや、お前はジニーとやらが好きなのか?

青春だな、良いことだ。

大切にするんだぞ?

 

「い、嫌だぁあああ!」

 

またしても想像してしまったハリーは、頭を抱えながらそう叫ぶ。

 

「それに……この前も言った通り、ハリーとヴォルデモートは深層心理で繋がっている。確かに……この前のアーサー氏の一件の時の様に、役立つときがあるかもしれない。だが、強力な開心術を持つヴォルデモートがそれを利用する可能性が非常に高い以上、防ぐ手段を持っていた方が良い」

 

「この前ショウが言っていた……僕が操られたり、周囲の皆に危険が及ぶかもしれないことを避けるってことだね」

 

「その通りだ」

 

刀原はハリーがやる気になった事を見て頷いた。

 

 

「さて、じゃあ……杖を取って立て。今から俺がハリーの心に侵入を試みる。ハリーはそれを武装解除させるなり、防ぐなりして防衛してみせろ」

 

刀原は立ち上がりながらそう言った。

 

「分った」

 

ハリーも立ち上がりながら言う。

 

「行くぞ?『レジリメンス(開心せよ)』!」

 

刀原の速さにハリーは何も出来無かった。

 

部屋が暗転し、画面が過る……。

 


 

五歳の時…ダドリーが新品の赤い自転車に乗ってるのを見て、羨ましかった。

 

九歳の時…マージ叔母さんのブルドッグに追いかけられ、木に登った。

 

組み分け帽子を被っている。

 

ハーマイオニーが横たわっている。

 

大量の吸魂鬼が襲い掛かってくる。

 

ジニーが……駄目だ。

 

これは秘密なんだ。

 


 

そう思った瞬間、空き教室に戻ってくる。

 

「友達にやるのは……心情的にキツイな」

 

目の前の刀原は苦々しそうにハリーを見ていた。

 

「……初めてにしては及第点だな。入りこませ過ぎな気もするが、最終的には追い出したんだし」

 

刀原は考えながら、そうハリーに告げる。

 

「さて、初めて食らった訳だが……どうだった?」

 

「……コツとか、無いの?ショウはどうやって防いでるとか……」

 

疲弊した様子でハリーがそう言えば、刀原は「あー」と目を逸らす。

 

「俺のは……参考にならん。霊圧を纏っているし、斬魄刀と繋がっているから……よほどのことが無ければ掛からないからね」

 

そう言う刀原に、ハリーは当てが外れた様に項垂れる。

 

「取り敢えず、心を空にするんだ。感情や思考を一旦捨てて、無にする。心頭滅却。落ち着いて、深呼吸して、集中するんだ。続けて言ってくれ……集中」

 

「集中……」

 

「集中」

 

「集中……」

 

「では行くぞ?『レジリメンス(開心せよ)』」

 


 

巨大なドラゴンがハリーの前に君臨している。

 

バジリスクがとぐろを巻いている。

 

大量の蜘蛛が、追いかけてくる。

 

トロールの近くでショウが戦っている。

 

蛇が、ウィーズリーおじさんを……!

 


 

ここで空き教室に戻ってくる。

 

「ほう……こんな風に見ていたのか」

 

刀原は興味深そうに言う。

 

ハリーは肩で息をしていた。

 

「またしも俺を追い出したのは上出来だ。だが、欲を言えば……見られたくないものに場面が変わる前に、追い出しておきたいところではある」

 

刀原がそう言うと、ハリーは頷く。

 

「もう一回だけ……いや、やめとくか?」

 

疲弊した様子のハリーを見た刀原は、仏心を出す。

 

そしてハリーは深く息を吐き、その有難い提案に同意するため、ゆっくりと頷いた。

 

 

 

 

 

 

ハリーが頑張り始めた閉心術の訓練について、刀原は『苦戦必至である』と断言していた。

 

そしてそれは的中した。

 

ハリーは、誰が何と言おうともお年頃(思春期真っ盛り)なのだ。

 

そして当然ながら、色々と考えちゃう悩める年頃の男子に、心頭滅却(心を無にしろ)は非常に厳しかった。

 

辛い。

 

ハリーはロンやハーマイオニーにそう打ち明けた。

 

そんな彼に救世主が現れる。

 

「ハリー、そんな時は座禅です」

 

雀部がダメ元で提案した座禅が、どういうわけか効果を示したのだ。

 

また、雀部は刃禅のやり方も教えた。

 

そしてダンブルドアに交渉した。

 

「良いぞ」

 

交渉に対して、ダンブルドアはそう軽い感じで頷く。

 

こうして、借りたグリフィンドールの剣を使ってやってみることになった刃禅に、ハリーは興味を示した。

 

そして実際にやってみた所……効果覿面だったのだ。*5

 

「浅打かこれ?」

 

「まさか、そんなはず……?」

 

刀原と雀部がそう疑う*6位、効果覿面だった。

 

 

 

ハリーは救われたが、救われなかった者がいる。

 

刀原だ。

 

親しき仲にも礼儀あり。

友人だからこそプライベートは詮索しない。

 

そんな心情を持つ彼に、弟分の赤裸々な心を覗けというのは……いささか酷なことだと言えた。

 

更に彼の心を苦くさせたのは、ハリーとジニーの甘酸っぱい関係を見てしまったことだった。

 

ハリーとジニーが付き合い始めたのは知っていたが、クリスマスの日にキスをしていたのは知らなかった。

 

護廷十三隊の隊長という重責を担う彼。

忘れがちだが、まだ彼は二十歳に達して無い。

 

一応、一応だが……彼にも思春期というのがある。

 

そして……彼は誰がどう言おうとも日本人(恋愛関係を大っぴらにしない人種)

 

昨年、愛でたく付き合うことになった雀部とは、気恥ずかしくて()()()()()()()()()()()のだ。

 

一応……一緒に出掛けたりご飯食べたり、彼女の祖父である雀部長次郎にそういう挨拶(雷華を僕に下さい!)をしたりしているが。

 

他人事だというのに残る記憶。

 

他人事だというのに何故か恥ずかしくなる。

 

そして複雑になる、封じ込めたはずのある思い。

 

それに対する、理性と葛藤と気恥ずかしさ(ダメだ、それは平和になってからだ!)

 

それらに数日間悩まされ……彼は閃く。

 

杖をこみかみに押し当て、頭から銀色の糸のようなものを取り出すことにしたのだ。

 

そして……それをポイっと空中に放り捨てた。

 

気持ちがスッキリした(綺麗さっぱり忘却した)

 

ハリーのため、俺のため……覗く度にやろう。

 

刀原はそう決意した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
とはいえ、魔法生物の扱いになれているハグリッドが下手を打つとは思えなかったため……実質的には一択だったが

*2
アンブリッジや英国魔法省に対する鬱憤を、虚を殲滅することで発散することは辞めなかったが

*3

「ネビル。落ち着いて……狙いを定めて……相手を指し示すように杖をビシッと向けて、『ステューピファイ(失神せよ)』」

 

「『ステューピファイ(失神せよ)』!」

 

横にいた刀原の教えを受けたネビルがディーンに向けて放つも、横に居たパドマ・パチルに命中してしまった。

 

「あ、ごめん……」

 

だが、自分が失神するよりかはマシと言えるだろう。

 

*4

 

「容赦ないな……君も」

シリウスはそう雀部を見て、苦笑いしていたが。

 

*5
実は……効果覿面だった理由として『憧れ』がある。

 

ハリーは刀原に対して密かな憧れの念を持っており、そんな彼が一年生の時から毎日欠かさなかったのが刃禅である。

 

きっと良いことがある。

これこそ彼の強さの鍵。

 

あながち間違ってもいないその密かな思いが、効果覿面足らしめたのだった。

 

*6

なお、念のため確認を取った。

 

『西洋剣の浅打を制作したことは?』

 

答えは『そんなの作って無いYO。見に覚え無いYO』だった。





ああ

美味しそうだなんて

思いたくもない。




今回はちょっと生々しかったですかね……。
しかし、だからこそカットはしませんでした。

ですが、親身になってくれるウィーズリーおじさんを襲う体験をしたハリーの心情を思うと……。


原作でスネイプが言う閉心術の説明ですが、どう考えても読心術に近いと思います。

読心術……家を見て、物があるだろうと推察する。

閉心術……家に押し入り、物を実際に手にすること。

こう言う説明で問題無いかと……。


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では次回は

始まった暴走と密告

次回もお楽しみに。



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死神、動く。始まった暴走と、密告



転がり始めた石ころは

やがてその速度を増し

致命的な一撃を周囲にもたらす

速めようと思う者はいるが

止められる者はいない。







 

 

ハリーは夢を見ていた。

 

狂ったような笑い声が耳の中で鳴り響く。

歓喜、光悦、勝利、確信、素晴らしい。

 

実に、素晴らしい……!

 

「ハリー、集中だ」

 

もう一つの声が静かに、だが確かに聞こえる。

 

ハリーは半ば無意識に深呼吸をし、幸福感にこれ以上染まらない様にする。

 

そして、目が覚める。

 

その時初めて、今まで聞こえていた狂った笑い声が自分の口から出ていることに気が付いた。

 

「焦る事は無い。ゆっくりと、確実に、少しずつな」

 

近くには刀原がおり、ハリーにそう言っていた。

 

「で?何で笑ってたんだ?」

 

少し時を置き、ハリーが落ち着いたころを見計らって刀原がそう聞いた。

 

「……奴が、ヴォルデモートが喜んでいる。とっても……。多分、何かいいことがあったんだと思う」

 

ハリーはそう呟く。

 

「奴にとって喜ばしい事ねぇ……?奴のハゲ頭にアフロが生えたとか?」

 

フハハハハハ、見たか!これで私をハゲと蔑む奴は居なくなるだろう!

 

ヴォルデモートが高らかにそう(パーリーピーポーな感じで)部下たちに宣言している光景を想像してしまったハリーは、今まで落ち込んでいたことも忘れて「フフッ」と笑ってしまう。

 

「冗談はさておいて……まあ、きっとロクでもないことだろう。おそらく直ぐに分かるんじゃないか?だから深く考えず、今夜は大人しく寝てろ」

 

そうと言う刀原の言葉に頷いたハリーは、ふかふかな布団に再度潜りなおす。

 

夢は見る事は無かった。

 

 

 

刀原の言う通り、ヴォルデモートを大喜びさせた出来事は直ぐに分かった。

 

日刊予言者新聞にその内容が書かれていたのだ。

 

それは『ヴォルデモートがアフロになったこと』などでは無く、十人の魔法使いがアズカバンから集団脱獄したという内容だった。

 

アズカバンから集団脱獄

死喰い人達、結集か?魔法省危惧

 

この様な大々的な見出しの後、脱獄した魔法使いたちの詳細と魔法省のコメントなどが書かれていた。

 

『アントニン・ドロホフ』

ギデオン、フェービアンを惨殺した罪。

 

『オーガスタス・ルックウッド』

魔法省にスパイしていた罪。

 

そしてハリー達が良く見ていたのが唯一の魔女。

 

『ベラトリックス・レストレンジ』

フランク、アリス・ロングボトム夫妻を拷問し、廃人にした罪。

 

「ロングボトム夫妻を……。なるほど、こいつがネビルの仇ってことか」

 

刀原は近くに居たネビルを横目に見ながらそう呟いた。

 

そしてDAの会合で見せる彼の覚悟に納得した。

 

そのネビルは『憤怒に燃えている』と言ってもいいほどの顔をしていた。

 

「具体的な事は何も言ってませんね。薄いです」

 

一方、新聞を読んでいた雀部は顔色を変えず(予想通りとばかりに)に言う。

 

ちなみに内容は……。

 

マグルの首相に対し、警告したこと。

 

奴らは凶悪な過去があるから(ヴォルデモートの狂信者)用心をするよう(注意してね!)

 

我々は奴らを一網打尽にする(僕たちは頑張ってあいつらを捕える)

 

そして再び捕えるために全力を尽くす(だから、あんまり批判しないでね!)

 

などが書いてあった。

 

そして雀部の指摘の通り、この手の記事にありがちな『首謀者は誰か』『手引きしたのは誰か』などが書かれていなかったのだ。

 

「こうなったのは……『やり玉に挙げる格好の人物(ブラックが首謀者で手引きしたんだ!)』が、居ないからだろうな」

 

刀原がそう推察する。

 

「今更『実は、ヴォルデモートが復活してたんだ!隠しててごめんね?』とか『アズカバンの看守がヴォルデモートに加担した(魔法省を裏切った)』とか言えませんしね」

 

雀部が器用に何故か様になっている仕草(やっちゃったZE☆感)をしながらそう言った。

 

ハリー達はそれを横目に見ながら「ライカもストレスが溜まってるんだなぁ」と思っていた。

 

この様に、事態の深刻さを理解している生徒(DAのメンバー)が新聞をのぞき込んでは何かを言い合っていると言う光景が、各寮のテーブルで散見された。

 

ダンブルドアとマクゴナガルは深刻そうな顔で話し込んでいるし、薬草学のスプラウトなどは食事が完全に止まっていた。

 

しかし……このような重大事件(緊急事態案件)が起こったのにも関わらず、今朝の話題にしている生徒は()()()()ごく少数にとどまった*1

 

そんな中アンブリッジは……時々ダンブルドア達の方に毒々しい視線を投げかけながら、オートミールを旺盛に搔っ込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

それから数日後。

 

ホグワーツ生たちの話題や関心事は、集団脱獄に関することであふれていた。

 

集団脱獄が発生したこと。

 

脱獄したのは死喰い人の中で、最も凶悪で危険でヤバい連中だということ。

 

魔法省の発表内容が非常に薄く、全く頼りにならなさそうだということ。

 

あの刀原が『ヴォルデモートが復活したという噂が、彼らを駆り立てたのではないか』『彼らが脱獄した以上……復活していようがいなかろうが、奴が再び表舞台に上がる可能性は非常に高まった』と言う考察をしているということ。

 

そして……刀原が魔法省に行ってこの件についてご機嫌を伺ったが、門前払いを受けたこと。

 

これらの話題はあっという間に生徒達へ広まり、やがて朝食の時間に新聞を見ていない生徒の方が少なくなりつつあった。

 

刀原は当初から、この話題がホグワーツ中を席巻するのは時間の問題だと予測していた。

 

生徒達は、脱獄した死喰い人がヴォルデモートと同じくらい恐れられているの聞いてる。

 

ネビル等と同様に、肉親や親戚が犠牲になった魔法族出身の生徒達もいる。

 

だから絶対に話題は広がり、生徒達を変える。

 

ならば……()()()()()()脚色しても良い。

 

刀原はそう断じていた。

 

そう、この話題がこれほど早く多くに広まったのは……刀原がセドリックやチョウ、アンジェリーナ等、各寮に影響を及ぼせる有力者に広めるように仕向けたせいだったのだ。

 

そして刀原の狙い通り、生徒たちは変わった。

 

今までハリーに向けられていた視線や声は『敵意』だった。

 

しかし、今では『好奇』や『関心』になっていた。

 

「新聞や魔法省の発表内容が薄くて、とても満足できない」という会話を耳にしたのも一度や二度では無かった。

 

そして広まった「魔法省は()()()()()()()()()()()()を隠蔽しているのではないか?」という噂。

 

二年前に起こった『シリウス・ブラックの冤罪事件を魔法省が揉み消そうとした』と言う前例が、それに拍車をかける。

 

早急に手を打たないとマズイ事(制御不能)になる。

 

焦ったアンブリッジ(ガマカエル)はとんでもない手を打つ。

 

ーーー

 

『ホグワーツ高等尋問官令

 

 教師は、自分の担当科目に厳密に関係すること以外の情報を、生徒に対し与えることをここに禁ず。

 

以上は教育令第二十六号に則ったものである。

 

高等尋問官 ドローレス・アンブリッジ』

 

ーーー

 

言論統制甚だしい(実に前時代的な)教育令だ。

 

どうやらこの事件は、ホグワーツに関する一切を自らの統制下に置きたいというアンブリッジの激烈かつ前時代的な野望に拍車をかけただけだと刀原は思った。

 

そしてアンブリッジはその頭のイカれた(ヴォルデモート的な)野望を現実にするべく、トレローニーとハグリッドへの攻撃を激化していくことになる。

 

 

 

一方、DAの練習は、活気に包まれていた。

 

全ては例の集団脱獄の影響だった。

 

誰もがやる気を出していた。

 

元々成長著しいネビルは、よりその成長速度を増していった。

 

怪我や事故にも臆すことなく、誰よりも懸命に、新しい呪文を練習していく。

 

刀原と、特に雀部はそれに既視感と懐かしさを覚えつつ、練度が高まっていくDAのメンバーを指導していった。

 

「じゃ、そろそろ……去年、ハリーにやった特訓を始めるか。やりたい人は手ぇ挙げろ」

 

そしてある日……刀原がそう言ったが、手を挙げたのはセドリック(向上心溢れる青年)ネビル(敵討ちに燃える少年)のみ。

 

去年のあれを見ていた者(ハーマイオニーやマルフォイ)は手を上げない。

 

『逃げる』を選択した形だ。

 

「セドリックとネビルだけ?」

 

刀原は不思議そうにそう言う。

 

そしてほんの少しだけ悩んだ素振りを見せた後。

 

「じゃあ……ハーマイオニー、ドラコ、ロンは参加な」

 

三人を指名した。

 

残念『逃げられない』のだ。

 

「「「え……」」」

 

絶望に染まる三人。

 

内心ホッとし、ニヤけるハリー。

まるで生贄を見ている気分だった(あの地獄を君達も味わうがいい)

 

だが、それも少しの間だけ。

 

「あとハリーもな」

 

「え」

 

絶望に染まるハリー。

 

ほ、ほら(い、嫌だ)僕は教えるっている役目が(またあの地獄は嫌だ!)……」

 

何とか逃れようとするが……。

 

「ああ、役目は雀部が務めるから心配すんな」

 

「皆さん、十分に強くなりましたからね」

 

そう言って堀を埋める刀原と雀部(鬼教官たち)

 

「……ハリー、私たちと頑張りましょう(逃がさないわよ)!」

 

「……そうだぞ(逃がさないぞ)ポッター」

 

「……一緒に頑張ろうぜ(逃げるなんてズルいぞ)

 

道連れを狙う三人(一緒に地獄へ行こう!)

 

結局、ハリーは逃げられなかった。

 

 

 

 

 

 

集団脱獄が起こってから一か月が過ぎても、ホグワーツの話題内容は殆ど変わっていなかった。

 

初日の朝刊から何の進展も無いことと、魔法省(アンブリッジ)出した先の教育令二十六号が、『魔法省が何かを隠している論』に拍車をかけていた。

 

明らかに見え透いていたのだ。

 

更にダメ押しとして刀原とハーマイオニーの策が、ルーナの父親が編集長をしている『ザ・クィブラー』という雑誌に、ハリーへの独占インタビューを記事に載せてもらう事だった。

 

『ハリー・ポッター ついに語る。「名前を呼んではいけないあの人」の真相』

 

そしてそれは数日後に発行され、この様な内容で前面に記載されていた。

 

当然、アンブリッジには面白くない。

 

早速ハリーを罰しようにも「おや、言論統制とは……。英国魔法省はいつの間に、戦前のドイツ(ナチスドイツ)とかになったのですか?」「時代遅れ、前時代的ですね」と刀原と雀部に言われ、邪魔をされてしまう。

 

そして……次に打った手が決定的になってしまう。

 

ーーー

 

『ホグワーツ高等尋問官令

 

 『ザ・クィブラー』を所持しているのが発覚した生徒は退学処分に処す。

 

以上は教育令第二十七号に則ったものである。

 

高等尋問官 ドローレス・アンブリッジ』

 

ーーー

 

この教育令が出された瞬間、刀原とハーマイオニーは満面の笑みでそれを眺めた(「勝ったな」「ええ、勝ったわね」)

 

都合が悪いインタビューを読ませないためには、それを禁止にするのが手っ取り早い。

 

でも生徒達は、新たな情報を欲している。

 

だから確実に、記事を欲する筈だ。

 

魔法省が禁止しているなら、なおさら。

 

狙い通り、噂はあっという間に広まった。

 

そしてアンブリッジがいくら所持品検査をしようとも見つかる事は無く、やがて生徒全員が記事を読んだ。

 

ますます反魔法省*2の生徒達が増える事になる。

 

気付けばいつの間にか、ホグワーツの外……すなわち世論の流れも変わっている。

 

九月の時には「ハリーを信じられない」と言ったシェーマスは、ハリーに対して謝罪と応援するという旨の言葉を伝えたし、シリウスからも説得に応じる者たちが増えてきたと言ってきた。

 

 

 

自分(アンブリッジ)にとって、状況は芳しくない。

 

焦るアンブリッジ。

 

そして……ここ最近、やって来るようになった手紙。

 

ここは一つ、自らの権力を示してみては?

さすれば皆、貴女に恐怖し、従うでしょう。

 

書かれていたその内容に満足したアンブリッジは、次の一手に出る。

 

 

 

ある日、甲高い女性の悲鳴が玄関ホールに響いた。

 

敵襲か、守りが突破されたか。

 

そう思った刀原と雀部が現場に急行すると、目の前に光景に気分が悪くなった。

 

今にも錯乱しそうなトレローニーが、自身の荷物であろうトランクと共に、玄関ホールの真ん中に呆然と立っていたからだ。

 

しかし、それが気分を害した訳ではない。

 

刀原達……いや、多くの生徒達はトレローニーの目の前にいるガマガエルに、気分を害したのだ。

 

「貴女、こういう事態になると思わなかったの?」

 

少女っぽく人を小馬鹿にした声が、面白がっているような言い方をした。

 

顔は楽しそうに、優越感に浸っていた。

 

トレローニーが悲しみのあまり嘆けば、卑しい悦びに舌なめずりしながら眺めていた。

 

「ッ!こんな、ふざけたことを……!」

 

トレローニーとはあまり親しくない雀部だが、怒りと嫌悪で顔を歪ませながらそう言う。

 

一方の刀原は、ただ厳しい顔でそれを見ていた。

 

やがてマクゴナガルがやってきて、トレローニーを庇うように励ます。

 

ガマガエルはそれにすら優越感を感じながら、ドヤ顔で解雇辞令を見せびらかす。

 

ニタニタ顔で出ていくよう言い放つカエル。

 

しかし、その暴挙もそこまでだった。

 

ダンブルドアもやってきて、トレローニーをホグワーツ城内に戻すよう、マクゴナガルに伝えたからだ。

 

「どうやら立場をお忘れかしら?『教育令二十三号 高等尋問官及び魔法省は、教師を視察し要求する基準に満たさないと判断した場合、停職または解雇する権限を有する』と」

 

「ああ、その通りじゃ。じゃが、この城から退去させる権限は持っておらん。それは校長が有しておる」

 

ガマガエルの聞くに堪えない声を遮って、ダンブルドアがそう宣言する。

 

「今はまだね」

 

一瞬、面食らった顔になったカエルはそう言う。

 

相変わらずそこには、優越感と余裕が感じられた。

 

こいつらは私に勝てない。

 

そう思っているかのようだった。

 

この一件でホグワーツは、より反アンブリッジ一色になった。

 

ハリー達は、よりDAの練習に力を注ぐようになった。

 

そしてアンブリッジを支持する者は、極一部……カエルのおこぼれに預かりたい者だけになった。

 

 

 

水面下ではあるが、悪くなっている己の立場。

 

気に入らない。

 

ここはもう私の……。

 

何とか、何とかしなくては……!

 

そんな焦るアンブリッジに、また届く手紙。

 

直ぐに中を見る。

 

そしてニヤリと笑う。

 

一番欲しかった情報が入っていたからだ。

 

 

 

 

 

 

その日、DAの練習はいつも以上に盛り上がっていた。

 

『守護霊の呪文』をやっていたからだ。

 

セドリックやチョウは既に守護霊の有体化に成功し、少ししてハーマイオニーとロンなども成功していた。

 

しかし、いつもならお手本を見せてくれる刀原と雀部の守護霊が居ない事に、ハリーは少し寂しさを感じていた。

 

だが、しょうがないとも思っていた。

 

ここ最近、刀原と雀部は忙しくてDAの練習に来れていなかったし、今まさに虚退治の真っ最中の筈だ。

 

そして……出来た瞬間、勝ち誇ったような声(「ハッ、見たかポッターぁあああ!」)を毎回上げるマルフォイも何故かいない。

 

何か、嫌な予感がする。

 

ハリーがそう思った瞬間、聞きなれたシュンという(瞬歩の)音が響く。

 

「皆さん、ここから脱出を!ガマガエルが来ます!」

 

そう言ったのは雀部だった。

 

部屋に激震が走る。

 

「みんな!バラバラになって逃げるんだ!!」

 

ハリーが直ぐにそう叫ぶ。

 

刀原の助言で、ちょっと前に逃走訓練をしたことが生かされた。

 

メンバーは、ハリーが叫ぶ前に逃げ始めた。

 

「リストは私が預かります!健闘を祈ります」

 

立場上、加担したとバレる訳にはいかない雀部がリストを持って再び消える。

 

ハリーは全員の退出を確認し、最後に逃げる。

 

そして……。

 

「彼じゃない!お手柄よドラコ!」

 

苦々しい顔をしているマルフォイと、超絶笑顔のアンブリッジに捕まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

一方。

 

ハリーが捕まった数分前、虚の大群を相手取っていた刀原はと言うと……。

 

「おらぁあああ!」

 

「せやぁあああ!」

 

昨年、黒崎と戦っていた青い髪のヤンキー……グリムジョー・ジャガージャックと激突していた。

 

「黒崎のヤローが居ないのは誤算だったが、てめーも十分強えじゃねぇか!」

 

凶暴、狂犬、好戦的という刀原の第一印象に違わず、興奮したようにそう言うグリムジョー。

 

「もっとだ!もっと来い!」

 

そう言って切りかかってくるグリムジョーに、刀原は思わずため息を吐く。

 

「『斬払い』!」

 

「ガフッ!」

 

そして斬払いが直撃し、グリムジョーは吹き飛ぶ。

 

「……やるじゃねぇか」

 

岩に叩き付けられたグリムジョーは立ち上がり、そう呟く。

 

「やるじゃねぇか!」

 

そして吠えるようにまたそう言い、刀原に接近し、上段から切りかかる。

 

「ッ!」

 

それに反応した刀原はグリムジョーの剣を受け止め、押し返す。

 

直後横に薙ぎ払うが、グリムジョーは押し返された衝撃を使って真後ろに飛び、回避をする。

 

刀原は心の中で舌打ちする。

 

さっきから刀原の間合いに、グリムジョーが深く踏み込んでこないからだ。

 

「悔しいが……剣術じゃ、てめぇに勝てなさそうだからな」

 

グリムジョーは苦々しそうにそう言う。

 

刀原の剣術には隙が無く、彼の間合いに長く留まれば斬られることが分かっているからだ。

 

しかし、膠着状態のままでは埒が明かない(仕留められない)

 

「しょうがねぇ。始解するか」

 

刀原はそう決断し、構えを変える。

 

「ハハ、ついに本気って訳か?」

 

グリムジョーも噂に聞く帰刃(レスレクシオン)をするためか、構えを変える。

 

顔は凶悪な笑みで溢れていた。

 

「ああ、座興はこれにてお仕舞いだ」

 

刀原もニヤッと笑い、霊圧を高める。

 

両者、いよいよ本気で激突するかに見えた。

 

しかし。

 

「しょう君!ダンブルドア教授が呼んでます!あと、ハリーがピンチです!」

 

瞬歩で近づいてきた雀部がそう言ったのだった。

 

 

 

「わりぃな。水入りだ」

 

刀原は構えを解き、刀を鞘に納める。

 

「あ?」

 

グリムジョーは不機嫌そうに聞き返す。

 

「けっ、つまんねぇな。ま、黒崎の野郎もいねぇから、今回は引き上げてやるよ」

 

そしてバツが悪るそうに後頭部を掻きながらそう言う。

 

「お、おう」

 

「あ、はい」

 

てっきりゴネたり拒否したり(そんなこと、俺には関係ねぇ!)して切りかかってくる(行くぜ、おらぁああああ!)と思っていた二人は、面食らったよう(随分と聞き分けが良いな……)にそう言う。

 

「黒崎を連れてこい!奴は俺の獲物だからなぁ!」

 

グリムジョーは吐き捨てるようにそう言って撤収していった。

 

「……哀れ黒崎、獲物判定されているとは」

 

「……少し同情しますね」

 

刀原と雀部はそう言い合う。*3

 

「あ、雷華……リストを、」

 

「そう言われると思って、回収してから来ました」

 

そう刀原の言葉を遮って、雀部がリストを見せながらドヤ顔で言う。

 

「流石だな、ありがとう。そのまま持っててくれ」

 

刀原はそう感謝する。

 

「とりあえず行って来るけど……守りは任せた」

 

「任されました」

 

刀原と雀部は、にこやかにそう言い合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

最終的に両者様子見となったグリムジョーとの激突を終えた刀原は、休む間もなく校長室へと向かった。

 

どうやらまだハリーは来ていないらしく、ダンブルドアの他にマクゴナガルとファッジ、そしてその護衛が居ただけだった。

 

破面(アランカル)が襲来したと聞くが、大丈夫じゃったかの?」

 

到着早々、ダンブルドアが心配そうに聞いてくる。

 

「ええ、まあ。お互い様子見に徹したので……」

 

刀原はそう言って問題ないと伝えれば、ダンブルドアの顔に安堵の表情が浮かぶ。

 

「様子見?何故かね?さっさと全員倒してくれないと、こちらとしては困るんだがね?」

 

そのやり取りを聞いていたファッジが怪しむように言う。

 

「……では貴方ご自身の手でさっさと全員倒されよ(文句があるならお前が戦え)

多分……名誉の戦死となるかと思いますが(どうせ何も出来ずに死ぬだろうが)……。

支持率は上がりますよ(少しは無能じゃ無くなるぞ)?」

 

ある程度包まれているとはいえ、いつもの刀原らしからぬ直接的な(皮肉が効いてない)物言いに、マクゴナガルは同情の表情をする。

 

「そ、それが出来るのならば苦労はせんよ!」

 

そして少し怒気と霊圧が含まれたその言葉に、ファッジは明らかにビビった様子だった。

 

「では、我らにお任せあれ(邪魔すんな、黙ってろ)

 

刀原はそう言って会話を終わらせる。

 

 

やがて気持ち悪いくらい(生理的嫌悪が湧く)満面の笑みをしているアンブリッジと、悲痛にくれた様子のハリーがやって来る。

 

 

やれやれ。

 

刀原はアンブリッジ、ファッジを見て呆れるように項垂れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*1
毎日新聞を取っている生徒がほとんどいないのもあるが。

*2
と言うよりアンチ・アンブリッジ

*3
そして、来年は必ず黒崎(生贄)を連れてくると決意した





手はまだある

そう信じて

私はその手を取ってしまった。





そろそろ、アンケートの結果を反映させる……かもしれない時間となりました。

社会的+物理的抹殺ルートが、2位の社会的抹殺ルートに2倍近い差で上回ってますが……。

うーん、どうしよう……。


グリムジョーはチャン一が担当です。

なので彼に戦ってもらいます。

それでも今回登場させたのは、「そろそろやって来そうだなぁ……」と思ったからです。



感想、ご意見、評価、お気に入り登録。
ありがとうございます。
そしてお待ちしております。



では次回は、あえて伏せ字で

さらば◯◯◯◯◯◯

次回もお楽しみに。






おまけ





ーーーーーーー

圧倒的なアンケート結果!

筆者、読者、登場人物。

あらゆる人々から望まれる、報いと裁き。

感想では『死すら生温い』と言われる始末。

「私に味方はいないの?」

「はい、いません」

まさに四面楚歌な状況。

そんな中、ガマガエルが秘策の手を遂に繰り出す!

その奇想天外、天才的、前時代的な一手とは!?

次回

『死神、ホグワーツを去る。さらばダンブルドア。そしてアンブリッジ大勝利!』

「遂に私が校長よ!」


ーーーーーーー


っていう展開……かもしれない。




更におまけ。


next刀原ヒント

「フリクション」






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死神、○○○○○。さらば○○○○○ 前編


井の中の蛙、大海を知らず

けれども不遜の夢をみて

懸命に井の中を出ようとする

海では生きられぬことも知らずに。









 

 

 

苦々しい顔をしているマルフォイと、超絶笑顔のアンブリッジに捕まってしまったハリーは、校長室へと連行される。

 

その校長室は人で一杯だった。

 

主であるダンブルドアは穏やかな表情で机の前に座り、マクゴナガルが緊張した様子でその脇に立っている。

 

ファッジは如何にも嬉しそうに暖炉の傍に立ち、護衛にはキングズリー・シャックルボルトとハリーが知らない厳つい顔をした魔法使い。

 

記者のように立っているパーシー。

 

壁際には、刀原が腕組みしながら彼らを睨みつけるように見ていた。

 

チラリと刀原がハリーを見る。

 

直後、「駄目だったか……」とばかりに項垂れた。

 

ハリーはそれを見て、申し訳なさで一杯だった。

 

「さてさて、ポッター。どうしてここに連れてこられたか分かっているだろうな?」

 

ファッジが楽しみでしょうがないかのように言う。

 

「いいえ」

 

ハリーはきっぱりと言った。

 

「なに?分からんと?」

 

「ええ、分かりません」

 

ファッジが面食らったように聞き返せば、ハリーはまたもきっぱり言い放った。

 

ハリーはチラリと刀原とダンブルドアの方を見れば、刀原はにやりと笑い、ダンブルドアはウィンクしたように見えた。

 

リストは雀部が持って行った。

 

それに……常に突発事態(急なガサ入れ)に対応出来るように、証拠となるものは日頃から持ち込まない様に徹底していた。

 

だから、ハリーは強気に出れたのだ。

 

「では、全くわからんと?校則を破った覚えはないと?」

 

「校則ですか?いいえ」

 

「魔法省令は?」

 

「僕が知る限りでは」

 

魔法大臣相手にすっとぼけているハリーの頭は、マルフォイの事で一杯だった。

 

おそらく彼が密告者で間違いない。

 

本人が信用するなと言っていたし、彼の父親であるルシウス・マルフォイは死喰い人なのだ。

 

だが、それにしては様子が妙だったし……最近の態度を見る限りそんな事をするとは思えなかったのだ。

 

「では、校内で違法な学生組織が発覚したことは知っているかね?」

 

そう考えている間に、ファッジが怒りでどすが効いている声でそう聞く。

 

「はい、初耳です」

 

ハリーは寝耳に水だというかのように、まるで純粋無垢なように言う。

 

「大臣閣下、彼は嘘をついていますわ。私が手に入れた情報では……ダンブルドアが首謀し、組織の名はダンブルドア軍団。組織のリーダー役がポッターだと」

 

アンブリッジがそう滑らかに言う。

 

「ほっほう!ダンブルドア軍団だと?これはこれは」

 

それを聞いたファッジがおどけた様にいう。

 

「おまけに……ミスタートーハラ?貴方もそれに加担したそうですね?」

 

勝ち誇ったように言うアンブリッジ。

 

先日トレローニーを追い出そうとした時のように、優越感と今までの仕返しだとばかりに笑っていた。

 

「なんと!これは由々しきことだな!」

 

まるで芝居がかったようにファッジも言う。

 

そこには自分の思い通りにならない目の上のたん瘤を消せる口実を見つけた様だった。

 

「なるほど……。大胆な仮説と告発ですが……アンブリッジ教授。何度も言っておりますが、そうだと言う具体的な証拠はあるのですか?手に入れた情報とは?例えば……密告者とか?」

 

刀原がいつもの笑みになりながらそう言う。

そこには余裕が感じられた。

 

しかし……ハリーの内心は、穏やかでは無かった。

 

多分、ショウはマルフォイがアンブリッジ側に着いたことを知らない。

 

アンブリッジが勝ち誇ったようにマルフォイの名前を言うと思い、ハリーは内心身構える。

 

「ええ、勇気ある生徒?が告発してくれました」

 

しかし、そんなハリーの内心を他所に、アンブリッジは生徒?と疑問しながら言った。

 

「では、その人物は?」

 

「そうだぞドローレス。早く連れてきたまえ!」

 

刀原とファッジにそう促されたアンブリッジは、困ったように言う。

 

「ああ、いえ。会ったことは無いのです。いつも手紙のやり取りでした」

 

「手紙?」

 

ここでハリーは、全体の空気がおかしく(え、は?手紙……ですか?)なりつつあることに気が付いた。

 

「では、その手紙は?」

 

「持っていますとも!ほらここに!これが動かぬ証拠ですわよ?」

 

再び刀原に促されたアンブリッジは、そう高らかに手紙と思しき便箋を見せる。

 

しかし……。

 

「真っ白ですね?これ?」

 

「なに?」

 

「え?」

 

「そ、そんな馬鹿な!?」

 

刀原が周囲に見せたのは真っ白く、何も書かれていないただの羊皮紙だった。

 

ファッジが惚けるように言い、ハリーが驚き、アンブリッジは明らかに動揺した。

 

「か、返しなさい!」

 

アンブリッジは顔を真っ青にしながら刀原が持っていた羊皮紙をひったくる。

 

「た、確かにさっきまで……」

 

アンブリッジがそう言って様々な術を掛けるが、ただの白い紙のまま。

 

そんなやり取りを、校長室に居た者達は三者三葉の表情で見ていた。

 

青い顔になるアンブリッジ。

 

青なのか赤なのか分からない顔ファッジ。

 

失笑しているのを懸命に隠しているマクゴナガル。

 

戸惑った様子(俺達どうすれば良いんだ?)のキングズリー達。

 

穏やかな顔から余裕の顔になったダンブルドア。

 

いつもの表情(ふざけてんの?ん?)の刀原。

 

ハリーは安心して良いのか分からない。

 

「ドローレス?君は確かに……その、見たところ何も書かれていない紙から……情報を得ていたのかね?」

 

ファッジがそうやんわりと言うと、「ええ、そうですわ大臣閣下」と青い顔のまま弁明するアンブリッジ。

 

「しかし、果たしてそれが本当に証拠に成りますかな?ただの被害妄想と見られますよ?」

 

「ひ、被害妄想!?」

 

「それに……そんな何も書かれていない紙を証拠として、ダンブルドア殿や護廷十三隊隊長の僕を告発するとは……。英国魔法大臣殿には任命責任があるのでは?」

 

刀原がスラスラとそう言えば、アンブリッジやファッジは青い顔をする。

 

「ドローレス!組織に関する具体的な証拠はないのか!メンバーの名前が書かれたリストとかあるはずだ!」

 

「い、いえ。リスト等はありません……。入手に失敗しました……」

 

二人のやり取りを聞いたハリーは安堵する。

 

リストは今、最も安全な場所にあるはずだからだ。

 

「……では、もう何もないようなので。僕はこれにて失礼させていただきます。破面に対して、色々と事後処理もありますので……よろしいですね?ダンブルドア校長殿」

 

刀原が笑みを崩さず、ダンブルドアに言う。

 

「もちろんじゃよ、刀原隊長殿。ご足労かけて申し訳なかった」

 

ダンブルドアも微笑みながらそう言う。

 

「いえいえ。では」

 

刀原はそう言ってダンブルドアとマクゴナガルにだけスッとお辞儀し、校長室の扉に向かう。

 

「ま、待ちなさいミスタートーハラ。まだ話は終わってません!」

 

アンブリッジがヒステリックにそう言う。

 

「まだ何か?」

 

刀原は心底鬱陶しそうに言う。

 

「貴方も共犯である事は明白、私は知っています」

 

アンブリッジが言い張るも、刀原はどこ吹く風だ。

 

「先程も言いましたが……『証拠があるならそれをご提示ください』と言っております。あるなら……ですが。いや、ある筈が無い。なぜなら、それは事実では無いのですからね」

 

刀原は微笑みながら言う。

 

「それと……僕はあくまで、英国魔法省の正式な要請を受けてここに居るだけ。だから、貴女や英国魔法省の指示や命令を受けることはありません。どうしてもと言うなら、日本魔法省や護廷十三隊にどうぞ」

 

刀原は一瞥も無くそう言い放ち、扉に手を掛ける。

 

そして思い出すように振り返る。

 

「ああ、そうだ。英国魔法大臣殿。此度の一件は向こう(日本)に報告させていただきます。近いうちに抗議(遺憾の意)が来ると思いますので、そのつもりで」

 

そう言って、刀原は今度こそ校長室から出て行った。

 

その後、校長室では混沌とした議論が行われた。

 

しかし、結局ハリーは証拠不十分でお咎め無しとなり、ダンブルドアも一応だが校長職に留まる事になったのは言うまでも無い。

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

ーーー

 

『魔法省令

 

昨今のホグワーツに関する混乱を鑑み、魔法省は更なる全面的な抜本的改革と指導を行う為、高等尋問官を『魔法学校特別指導部 部長』に就任させる。

 

魔法大臣 コーネリウス・ファッジ』

 

 

『ホグワーツ高等尋問官令

 

高等尋問官を守るため、尋問官親衛隊を創設する。

 

高等尋問官 ドローレス・アンブリッジ』

 

ーーー

 

多くの生徒はこの魔法省令に、度肝を抜いた。

 

『魔法学校特別指導部 部長』はアンブリッジに全ての権限を与える事に等しい役職であり、これでアンブリッジはホグワーツの実質的な支配者になったも同然だった。

 

尋問官親衛隊には監督生を超える権限を与えており、ありもしないでっち上げやいちゃもんを付けての減点が早速横行した。

 

親衛隊のリーダーには、昨夜ハリーを捕えたマルフォイが就任する。

 

しかし……彼は不思議とやる気を見せなかった。

 

生徒達から点を引くことも無く、ハリー達には「すまない」と呟くだけに留まった。

 

ハリー達はそれを聞いて、周囲に「マルフォイは多分味方だよ」と伝えた。

 

一方のアンブリッジは、自身が新たな女王になったつもりで自信満々に往来を闊歩し、満面の笑みで朝食を食べていた。

 

当然、それに生徒達は反発する。

 

そしてささやかとは言いがたい……どちらかと言うとド派手な抗議やボイコット、ネガキャンを行い始める事にした。

 

それも早速。

 

アンブリッジが『魔法学校特別指導部 部長』に就任した直後に。

 

()()()アンブリッジが就任を祝うかのように巨大な仕掛け花火を炸裂させ、朝食が終わった大広間を伏魔殿状態にさせたのだ。

 

やたらカラフルなドラゴンが何匹も現れ、火の粉をまき散らし、大きな音を立て始める。

 

直径一メートルは優に超えるショッキングピンクのネズミ花火が破壊的に飛び回り、ロケット花火が壁に当たって跳ね返っている。

 

「ここはいつの間に花火大会の会場になったんだ?」

 

「あはは!凄く綺麗です!たまや~」

 

ハリーの傍で刀原と雀部が大笑いしながらそう言っていた。

 

「な、なんとかしないと。『ステューピファイ(麻痺せよ)』!」

 

蛮行(花火大会)を止めるため、アンブリッジがロケット花火に失神呪文を当てる。

 

が、それは失策だった。

 

ロケット花火は、被害をより悪化させたのだ(体感で言うと五倍になった)

 

「『消失呪文』を使ってくれるといいな。そしたら花火が十倍になるんだ」

 

首謀者(フレッド・ジョージ)がそう言ったのを、二人は確かに聞いた。

 

「聞いたか雷華?十倍だってよ」

 

「それはぜひ見たいですね」

 

ニヤッと笑う二人。

 

やる事は一つだ。

 

「「『エバネスコ(消えよ)』」」

 

目の前に広がる花火は二十倍になった。

 

 

 

結局、アンブリッジを祝う花火は学校中に広がった。

 

いつもなら何とかしてくれるはずの各教授陣は「花火を消していい権限があるのか分からないから」と言ってアンブリッジに全てを託した(丸投げした)

 

そしてアンブリッジは、時々十倍になる花火に悪戦苦闘した。

 

出向いたその場所で、花火がようやく最後の一個になったと思った瞬間、その最後の一個が十倍になる(振り出しに戻った)のだ。

 

しかも、何回も。

 

二十倍になった時もあった。

 

その度に啞然となる(orzになる)アンブリッジ。

 

しかし、心が折れてる暇もない。

 

そんなことをしてる間にも、被害は拡大する一方だったからだ。

 

当然、援軍を期待できるはずも無く(誰も手伝ってはくれない)

 

アンブリッジは丸一日、鎮火に勤しむことになった。

 

 

 

 

 

それから……ホグワーツは極めて騒がしくなった。

 

『ダンブルドアは居るが実質的には何もできない』

 

『教授陣達は黙認している』

 

『だったら、僕らを止める者はいない』

 

という理由から、派手な悪戯が横行したのだ。

 

更に極めつけが、広まった大義名分だ。

 

彼ら曰く『僕らは抗議をやってるんだ(アンブリッジネガティブキャンペーン中)』とのこと。

 

一体何に対しての抗議なのかは分からないが、いつの間にやら『我らホグワーツ解放戦線』などと言う物騒な言葉が合言葉(スローガン)になった。

 

『あのババァ』だの『ガマカエル』だの言われていたアンブリッジには『ターゲット(みんなの玩具)』なる新たな渾名が付けられた。

 

団結した生徒達は恐ろしかった。

 

学生運動じみてると刀原は思った。

 

当然、アンブリッジが何もしていない筈はなく……。

 

状況発生から約一週間後。

 

悪戯っ子の親玉であり、首謀者と思われた双子、フレッド・ジョージを追い詰めることには成功した。

 

「そこの二人には、()()()()()学校で悪事を働けばどのような目に合うのかを思い知らせてあげましょう」

 

アンブリッジが勝ち誇ったようにそう言う。

 

二人を見せしめにし、力と恐怖でホグワーツを支配しようという顔だった。

 

しかし、そう上手くはいかなかった。

 

「我らが親愛なるターゲットよ、僕らにはフィクサー(黒幕)がいる!」

 

「抗議は終わらない、残念だったな!」

 

そう高らかに宣言した双子は、箒に乗って逃亡したのだ。

 

「ピーブズ。俺たちに変わって、あの女を手こずらせてくれよ?」

 

双子は最後にそう言い、言われたピーブズの敬礼に見送られながら彼らは空へ消えていったのだった。

 

 

 

さて、悩みの種だった双子はこれで消えた。

 

ホッと一息つくアンブリッジ。

 

気になるのは彼らが言っていた黒幕だが……心配はいらないだろう。

 

統率者が居なくなった以上、これで訳の分からない悪戯は終息するはずだ……。

 

 

 

こう思っていたアンブリッジだったが、誤解していたことがある。

 

『双子は統率者ではない』と言う事だ。

 

そして大勢の生徒達が、空席になった『悪ガキ大将』の椅子を目指し始めたのだ。

 

つまり、本当の悪夢はこれからだった(これからが本番だぜ!ヒャッハー!)

 

ある者は二フラー*1をアンブリッジの部屋に忍び込ませ、部屋を滅茶苦茶にした。

 

廊下で『クソ爆弾』や『臭い玉』を炸裂させるのは日常茶飯事になった。

 

正に混沌(カオス)

 

双子が居なくなったことで、タガが外れたのだ。

 

とにかく数が多く、惨事が偶発的に起きる。

 

そのため犯人を血眼で探そうとも、無駄であった。

 

尋問官親衛隊も懸命に助けようとするが……ことごとくが返り討ちにあい、被害者を増やすだけになる。

 

アンブリッジが頼りにしたマルフォイは、返り討ちにこそ合わなかったが、何の成果も得られてなかった。

 

そして何より一番厄介なのが、ピーブズだ。

 

狂ったように高笑いしながら(アヒャヒャヒャヒャヒャー!)学校中を飛び回り、テーブルをひっくり返し、黒板から急に現れ、銅像や花瓶を倒しまくった。

 

ランプを打ち壊し、水道蛇口を引き抜いてフロアを水浸しにし、何時間もアンブリッジに付きまとっては「バーカ」とシンプルに馬鹿にしまくった。

 

味方する者は、親衛隊の面々しかいなかった。

 

教授陣はことあるごとに呼び、全て放り投げた。

 

それどころか……。

 

クリスタルのシャンデリアを落とそうとしているピーブスの傍を知らん顔で通り過ぎ、挙句「反対に回せば外れます」と口を動かさずに助言したマクゴナガルを刀原とハリーは見たし、確かに聞いた。

 

ちなみにシャンデリアは、無事に落下した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふふ」

 

「悪い顔になってますよ?」

 

「いやあ、つい」

 

「まあ、その気持ちは……分かりますが」

 

ホグワーツの中庭にて空を見張っていた男女は、暇つぶしの将棋をしながらそう言い合っていた。

 

「そろそろ良いのでは?」

 

「ああ、そうだな」

 

男は考えるように言う。

 

「……これで、王手。詰みだ」

 

「え、ああぁそんな!」

 

頭金をくらい、項垂れる女。

 

「さて、あちらも詰ませるか」

 

男はそう嗤った。

 

 

 

 

 

 

 

折角この学校を支配したというのに、胃痛の日々。

 

そんなのある日、アンブリッジは考えていた。

 

ここまで来て諦める訳にはいかない。

 

幸いにも試験が迫ってきた為、生徒達の行動は下火になっている。

 

何かしらの切っ掛けがあれば……いや、切っ掛けなどでっち上げればいい。

 

誰にしようかなど、考えるまでも無い。

 

彼女を人質にするか。

 

それともポッターか。

 

言う事を聞かせて、抑止力を私が手に入れば……。

 

ぐふふ。

 

思わず笑みが浮かぶ。

 

ああ、楽しみだ。

 

そう思っていた時。

 

こんこんと部屋のドアを叩く音がした。

 

少しだけうんざりする。

 

また何かあったのかと。

 

胃が痛くなるのを感じながら「どうぞ」と返事すると、意外な人物だった。

 

「やあ、ドローレス」

 

顔が青いのか赤いのか分からない感じでファッジが現れたのだ。

 

「まあ、大臣閣下。御用がお有りでしたら、わたくしの方から伺いましたのに」

 

「いや、それには及ばない」

 

アンブリッジの笑みにファッジは不機嫌そうに言う。

 

「君があの珍妙な手紙……いや、紙切れを証拠と言い張ったおかげで、私は苦境に立たされているのだから」

 

ファッジは唸るようにそう言った。

 

「日本から正式な抗議が来た。向こうの魔法大臣と護廷十三隊総隊長の連名でな。場合によっては、いまここに派遣している二人を日本に帰還させ、少なくとも私が政権を持っている間は二度と派遣しないとのことだ」

 

それを聞いたアンブリッジは苦々しく思う。

 

奴らが生意気にも、小癪にも圧力をかけてきたのだ。

 

しかし「ならばそうさせればよいではないですか」とは、流石のアンブリッジも言えない。

 

自身も虚という謎の怪物を間近で見たし、何なら魔法がほぼ効いていないことも確認したからだ。

 

「それに、極めつけがこれだ」

 

ファッジが次に見せたのが『Secret contents(秘密の中身)』という雑誌だった。

 

「これが二日前に日刊預言者新聞に挟まれる形で出回った。何者かがやったと思われるが……そんな事よりも中身が問題だ」

 

そこに書かれていた内容を見たアンブリッジは愕然とし、絶望の顔に染まった。

 

その内容とは。

 

ーーー

 

アンブリッジが防衛術の授業で読書しかさせてくれず、杖を使わせてくれないこと。

 

生徒の発言を無視、あるいは許さず、言論統制をしていること。

 

生徒達が教授達に授業以外の内容を質問しようとしても『教育令』で認められておらず、生徒達の勉学に支障が出ていること。

 

ハリー・ポッターを始めとした数多くの生徒達に、悪逆非道な体罰をおこなったこと。

 

トレローニーやハグリッドを目の敵にし、トレローニーに至っては追い出そうとしたこと。

 

ホグワーツでは、その抗議のために『心ある生徒達(ホグワーツ解放戦線)』がささやかな抵抗(ド派手な悪戯)をおこなっていること。

 

その抵抗に、()()()()()()()参加していること。

 

アンブリッジがその『心ある生徒達』のリーダー格(双子達)を捕え、生徒達の面前で見せしめに(公開体罰を)しようとしたこと。

 

アンブリッジが私設部隊(尋問官親衛隊)を組織していること。

 

その私設部隊に参加している生徒とて……自らの保身のために、嫌々ながら参加していること。

 

ーーー

 

それらが証言付き、写真付きで載っていたのだ。

 

 

「例の紙切れの事も書かれている」

 

ファッジは見せる。

 

ーーー

 

ダンブルドアとハリー、日本から救援に来てくれている刀原を追い出し、ホグワーツを自分の物にするため、アンブリッジが彼らにありもしない言いがかりをつけたこと。

 

その言いがかりの証拠は『何も書かれていない真っ白な紙切れ』という杜撰なものだということ。

 

ーーー

 

「他国からも抗議が来ている」

 

ーーー

 

あのクラムが、今のホグワーツを知人から貰った手紙を見て嘆いていること。

 

フランス社交会ではフラーがクラムと同じ様なことを伝たえ、大きな関心となっていること。

 

日本が正式に『遺憾の意』を表明し、救援部隊の全面撤退を視野に入れていること。

 

ーーー

 

「そして、一番騒がせているのはこれだ」

 

ファッジはそう言って見せる。

 

そこには、数ヶ月前にアンブリッジが却下した『自習会』を行うための申請書について書かれていた。

 

ーーー

 

九月、魔法省はホグワーツの教育に関して改革を行うと発表していた。

 

そしてそれに共感したのが、一人の女の子だった。

 

「私は今年度が始まって以来、アンブリッジ教授やファッジ大臣がおっしゃる『ホグワーツの著しい学力低下問題』を何とかしようという思いに、共感していました。

 

そこで……私達、生徒の方からも変えていこうと思い、心ある生徒達と数日前にその会合をしたばかりでした。

 

しかし……その『自習会』の許可を、アンブリッジ教授は何故かくれませんでした。

 

私達は、ただ学びたいだけなのに……。

 

凄く悲しく、憤りを覚えずには……いられません。

 

とても、とても残念です」

 

少女は瞳に涙を浮かべてそう答えた。

 

世界に冠するイギリスの、学校内での出来事とはとても思えない。

 

ーーー

 

頑張る少女に、悲しんでいる少女に、世間はいつだって弱く、同情的になるのだ。

 

批判が集まらない訳がない。

 

 

「新聞で誤報だと流せば……」

 

アンブリッジにそう言われたファッジは溜め息をはく。

 

「聞いていなかったのかね?これらは新聞に差し込まれる形で、世に出回ったのだ。否定すれば、信用を大きく失うことになる。それに……」

 

そして言葉を中断して雑誌を見せる。

 

そこには……ハリーがこの夏に吸魂鬼に襲われ、撃退したら未成年の魔法使用と言われ、裁判まで行われた事が書かれてあった。

 

ーーー

 

吸魂鬼が罪なき市民……しかもハリー・ポッターを襲ったと言うのに、新聞は全く報じなかった。

 

そして……未成年の魔法使用の例外『自身の生命に関わる事態には適用されない』だったのに、ハリー・ポッターは裁判で有罪判決を受けそうになったことも、新聞は報じなかった。

 

挙げ句……新聞は事あるごとに、ハリー・ポッターをネガキャンしている。

 

つまり新聞は、魔法省の圧力に屈したことになる。

 

ーーー

 

「既に新聞に対する信用は無いに等しい。仮にいま否定する報道をさせても、全く効果はない。それどころか、余計に悪化するだけだ」

 

それ見たことか、やはり新聞には魔法省の圧力がかかっているのだ。

 

そう思われるのは必定。

 

要するに……魔法省は詰んだのだ。

 

そして……。

 

君の社会的信頼は皆無になった(君は社会的に抹殺された)

 

アンブリッジはその瞬間。

 

自らの足元、積み上げてきたもの、折角手に入れた地位が……無惨に崩れ落ち、無くなったのを察した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その場は何とか切り抜けたアンブリッジだったが、最早残された手段は無いに等しかった。

 

「数日後、君は全ての職を失うことになる」

 

ファッジにそう通達されたアンブリッジ。

 

胃痛どころではない。

 

そう言えば……あんなものをばら蒔いたのは誰だ。

 

アンブリッジはそう思い、雑誌を見る。

 

そして……。

 

「え……。う、嘘。そんな……」

 

ポトリと雑誌を落とす。

 

急いで今まで来ていた手紙で、唯一内容が消えてないものを取り出す。

 

手紙の差出人は……『S・R』

 

雑誌を書いたのも……『S・R』

 

「あ、あぁああああ」

 

アンブリッジは『全て誰かの手の平の上だった』と、ようやく分かったのだった。

 

 

 

 

 

 

そして……。

 

 

 

 

「まさか、『S』って……」

 

「まさか、『R』って……」

 

ハリーとハーマイオニーが二人にそう聞く。

 

「「なんの話?」」

 

「だから『S・R』って」

 

「「知らない子ですね」」

 

二人は、惚けた顔でそう言った。

 

「ワルイヤツダナー『S・R』ッテ」

 

「ソーデスネー、ダレナンデショウカネ」

 

そしてにっこりと微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃…………。

 

アンブリッジは自棄になっていた。

 

酒を飲み、暴れ、疲れ果てるも、絶望は変わらない。

 

戦いだ!こうなったら!

 

標的はただ一人。

 

 

 

 

 

雀部雷華だ。

 

 

 

 

*1
光る物が大好きな魔法生物





証拠は

あるのが仕事

世に知らしめるのが仕事。



本投稿をもって、アンブリッジに関するアンケートを終了と致します。

が、アンブリッジに関してはまだ続きます。

ご安心を、これだけでは済ましません。
覚悟しろよアンブリッジ。



今年も本小説をご愛顧、また読んでいただき、誠にありがとうございました。

来年も宜しくお願いいたします。

本当はアンブリッジを今年中にしま、んんっ、処理したかったのですが、残念です。

良かったね、年は跨げるよ☆



では次回は

さらば○○○○○ 後編

次回もお楽しみに




おまけ



生徒、教授、ピーブス。

この学校の全てを敵に回した女、アンブリッジ。

慢心感溢れる彼女の言葉が、生徒達を悪戯に駆り立てた!

「この学校?もう私のものよ。ひれ伏せ!支配者はこの私だ!」

子供達は自由を求め、悪戯をする。

世は正に、大抗議時代!

ありったけの~「これ以上は駄目です」







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死神、○○○○○。さらば○○○○○ 後編




逃げようにも

忘れようにも

逃れられない破滅の道。








 

 

 

アンブリッジは自棄になっていた。

 

あれだけ苦労して集めた皿を叩き割りまくる程に。

 

畜生!畜生!

 

その奇行には酒の力(やけ酒)も含まれていた。

 

そして閃く、ある一手。

 

こうなったら……戦いだ!

 

戦いだ!

 

決意したアンブリッジはマルフォイを呼んだ。

 

彼はポッターを捕まえた張本人だ。

 

少なくとも、信用出来る。

 

「お呼びですか、アンブリッジ教授」

 

「雀部雷華を捕えます」

 

部屋に入った瞬間、目の前に広がる惨状に顔をしかめたマルフォイにそう宣言した。

 

「はい……はい?」

 

全く予想外の選択に、二度聞くマルフォイ。

 

「そして彼女を人質に刀原を支配下に加えます」

 

「え、は、えっ?」

 

困惑しているマルフォイ。

 

それを無視し、行動を開始する。

 

が。

 

「では、仲間を呼んで来ます。無策では勝てませんから、教授はその間に作戦を練って下さい」

 

と言ってマルフォイが足早に部屋を出る。

 

アンブリッジはそれに満足し、回らない(酒が入った)頭で作戦を練ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

阿保か、あのカエルは!

 

勇み足ではなく、千鳥足じゃないか!

 

マルフォイは猛烈に怒りながら、ずんずんと歩く。

 

ササキベを襲う?

 

そんなことをすれば、ササキベに返り討ちになるだけだし……それに、もし()()()()()()()()()……。

 

死ぬ。

 

確実に。

 

間違いなく。

 

怒れるトーハラがそれを躊躇するとは思えない。

 

味方には死ぬほど甘いが……敵には一切の躊躇なく、損得勘定抜きで殺しに来るのが奴ら(日本人)なんだぞ。

 

絶対に死ぬ。

 

加担した僕もついでに死ぬ。

 

ならば、躊躇う必要などない。

 

マルフォイは数ヶ月前を思い出す。

 

 

ーーー

 

 

「寝返った時の保証。特に、お前も含めた家族の保護を確約する内容が書かれてるが……これを渡すのは……お前が俺の要望に答えると誓った時だ」

 

「よ、要望……?」

 

マルフォイは家族と自身を守る為、刀原と交渉した。

 

そして刀原にそう言われ、何をするのかとたじろぐ。

 

「ああ。まず……近いうちにハリーが、反アンブリッジを兼ねた防衛術を自習する組織を作る予定だ。お前は心ある……こちら側に来たがっている奴らをまとめて、それに参加するんだ。ってか、参加したいだろ」

 

「……ああ、それは言われなくても参加したいところだが。……まず、ってことはそれだけじゃないな?」

 

「お、察しがいいな。そのとおり。あまり考えたくないが……おそらくアンブリッジは、ダンブルドアを一時的に失脚させる。それに失敗しても、ホグワーツを支配下に置く」

 

「そんなことが本当に可能とは思えないが……」

 

「罪を適当にでっち上げるとかしてな」

 

「なるほど……」

 

「そしてあの女がホグワーツを掌握した時、おそらく自分の戦力を生徒側に持ちたがる筈だ。例えば……親衛隊、とか言ってな」

 

「おい、まさか……」

 

「それに参加しろ、出来ればリーダーになれ。スパイとしてな。お前にしか出来ない。これが本命だ」

 

刀原はそう言って黒い笑みを浮かべる。

 

「そして、ここぞと言うところで裏切れ……と?」

 

「ああ」

 

「………………よし、分かった」

 

マルフォイは刀原の要望に青くなったり呆れたりしていたが、やがてしっかりと頷く。

 

「よし。では契約成立だ」

 

刀原とマルフォイは握手をした。

 

 

 

「これでお前は、あの女が絶望に染まるのを間近で見れるぞ?」

 

「……君も趣味が悪いな、僕は見ないよ」

 

 

ーーー

 

 

よし。

 

マルフォイは決意した顔で、ある場所に向かった。

 

「ふーん、そうか……残念だ」

 

そして会った男は、怒気を隠さずにそう言った。

 

「記憶……消していいな?」

 

そう言われたマルフォイは、これから起こることを何と無く察する。

 

「ああ、そうしてくれ」

 

察したマルフォイは頷く。

 

「それと……ご苦労だったな、約束の物だ」

 

手紙は渡しながら男はマルフォイを労う。

 

「確かに貰った。ありがとう」

 

「では」

 

「ああ」

 

「『オブリビエイト(忘れよ)』」

 

 

 

 

 

 

 

その日、いくら待ってもマルフォイは来なかった。

 

しかし、一人で行っても勝てないのは明白。

多分今頃、他を説得してくれているのだろう……。

 

そうアンブリッジは思っていた。

 

やがて酔いが回って眠くなり。

眠りに就こうした。

 

 

その時。

 

 

「ずいぶんと……舐められたものだな。俺の最愛の人、相棒に手を出そうするなんて」

 

と言う声で跳ね起きる。

 

「え、何故……」

 

そこには予想外の男がいた。

 

何故バレたのか……。

 

「ん?何故、露呈したかって?マルフォイが教えてくれた。愚かだな。彼が俺の協力者だとも知らずに」

 

「きょ、協力者……ですって?あ、あり得ないわ!だって彼は!」

 

「お前に協力するように言っていたのさ。信用を得るためにハリーを捕えるようにもね。お前はまんまと騙され、彼を親衛隊のリーダーにした」

 

「そ、そんな」

 

「それに、お前は『S・R』からの手紙を(助言で)動いていたな」

 

「え」

 

「あの時、お前はあの手紙を証拠として利用しようとしたみたいだが……真っ白の紙切れになっていて慌てていたな?」

 

「何故それを!」

 

「あれには……一定時間が経過したら、書かれていた全ての内容が消えるように細工してあった。だから、ただの紙切れになったんだよ」

 

「な……」

 

「そもそも……『S・R』の指示が、やけに的確だと疑問に思わなかったのか?ハリー達が組織を作ったことを知らせ、その対処方法を教えたことに、お前はなんの疑問も持たなかった」

 

男はニヤリと笑いながらそう言った。

 

「それだけじゃない。教授達を骨抜きにする策、クィブラーの禁止の策、親衛隊の創設案。そして……DAと言う組織名とその会合の日時。誰かが裏切らないと、絶対に手に入らん情報だ。まあ……あの時、虚と破面が現れたことは流石に計算外だったがな」

 

男は嘯くように言う。

 

「ま、まさか……貴方が……」

 

「そう、俺こそが『S』。お前に助言をし、ハリー達(DA)双子や他の連中(ホグワーツ解放戦線)に入れ知恵していた黒幕だ。ちなみに……相棒が『R』な。まあ結局、お前は全て俺達……主に俺の手の平で踊っていたに過ぎないんだよ」

 

Rの名を借りたのは俺だとバレないようにするためだが、相棒だと思われなくて良かったよ。

 

そう男が続けて言ったが、私はそれどころではなく、殆ど聞こえなかった。

 

 

 

「んじゃ、冥土の土産もあげたし(種明かしもすんだし)……」

 

男がそう言いながら、少しずつ近付いてくる。

 

腰には刀が差してあり、今にも抜きそうだ。

 

「だ、誰か……」

 

切られる、殺される。

 

死ぬ……。

 

助けを呼ぶために声を出そうとするも、喉がカラカラで声が出ない。

 

「誰も来ないよ。結界を張ってある」

 

男が無表情でそう言い、迫ってくる。

 

「い、いや……」

 

「諦めろ、無駄な抵抗もすんな。心配はいらん、一瞬だ。傷みもない。あっという間に……その頭と胴体は、泣別れだ」

 

「私が死ねば、貴方が犯人だと……」

 

僅かでも時間を稼ぐため、必死になってそう言うが。

 

「ああ、心配ご無用。既に手は回してる」

 

相手にしてくれない。

 

「じゃ、さようなら。アンブリッジ教授殿」

 

「ヒッ、あ……」

 

その瞬間。

 

私の首は切られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハッ!」

 

翌朝、私は目が覚める。

床で寝ていたらしい。

 

そして咄嗟に首を触る。

 

だ、大丈夫だ。

 

ついてる。

 

切られてない。

 

ゆめ、夢だったのか。

 

周りを見渡す。

 

散々に壊した皿なども、壊す前のままだった。

 

全て夢だったのか。

 

魔法大臣が来たのも、自棄になったのも。

 

全て、全て……。

 

安堵する。

 

やはり、私が悪いなんておかしいのだ。

 

しかし……。

 

それにしても喉が乾いた。

 

そう思っていると。

 

机に紅茶があるのが見えた。

 

そしてその近くには小瓶があり、黄緑色の中身からは仄かに林檎の香りがした。

 

たまにはアップルティーも悪くない。

 

そう思って紅茶に小瓶の中身を入れ、全て飲む。

 

ああ、美味しい。

林檎味が良く効いている。

 

しかし、何故か眠い。

 

 

 

 

という、か。

 

 

 

 

頭が、回ら…ない……。

 

 

 

 

つ、つくえに…ふうと、うが…おいてあ、る。

 

 

 

 

 

い、い…しょ?

 

 

 

 

 

な、んd……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、ドローレス・アンブリッジが発見された。

 

死体として。

 

死因は毒。

 

責任を感じての、自殺と思われた。

 

それを裏付ける遺書も発見された。

 

また目撃証言が無く、他殺の可能性も無いとされた為、その説に拍車をかけた。

 

そしてその結論には、魔法省が『そういうことにおきたかった』という事情があった。

 

クビになる予定だったとはいえ、彼女は魔法省高官だったのだ。

 

しかもここ最近の疑惑に関する最重要人物。

 

そんな彼女が誰かに殺されたとなれば、犯人を吊し上げなくてはならない。

 

『見つかりませんでした』では済まされないのだ。

 

しかし、吊し上げるにふさわしい人物はいない。

 

ダンブルドアの所為にするには、余りにも信憑性が無さすぎる。

 

ハリー・ポッターの所為にするにも、彼の実力も合間って不可能。

 

日本の彼等(刀原と雀部)の所為には、絶対に出来ない。

 

第一、ホグワーツ内(英国魔法界一、安全な場所)で行われたので外部犯でもない。

 

証拠も皆無だし。

 

 

かくして、魔法省は自殺と断定したのだった。

 

 

だが……魔法省(ファッジ)への信用が無くなっていた民衆は、それを信じることは無かった。

 

全ての責任を彼女に押し付ける為に、魔法省が暗殺した可能性が指摘されたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






題名。
死神、ネタバレする。さらばアンブリッジよ永遠なれ


年は跨げたね。


新年明けましておめでとうございます。

今年も当小説を宜しくお願いいたします。

それと、新年早々ちょっとダークな物になってしまったことを深くお詫び致します。



では次回は

過去と神秘部の戦い

次回もお楽しみに





補足説明。


刀原は当初からアンブリッジを何とかするべく、策を講じてきました。

主なものとしては。

ハーマイオニーに対して

・対抗組織を作るよう唆す。(本人も乗り気だった)

・クィブラーを使うことを提案する。


アンブリッジに対して

・協力者『S・R』として情報を渡す。

・DAが設立したことを教える。

・教師を骨抜きにする策を教える。

・クィブラーの禁止策。

・権力を示すように言う。(ただし、トレローニーが追い出されかけたのは想定外)

・DA会合日時の密告。

・親衛隊創設案。

・マルフォイをスパイに送る。


世間に対して

・『Secret contents(暴露本)』をばら蒔く。


ホグワーツ生に対して

・双子達を唆し、悪戯をおこなわせる(黒幕(フィクサー))。

・脱獄に関する情報と、自身の見解をばら蒔く。


まあ、これくらいでしょうか……。


……マッチポンプかな?


 


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死神、向かう。過去と神秘部の戦い。



そろそろ、自覚した方が良い

あの方との繋がるという

真の恐ろしさを

もう、遅いようだが。








 

 

アンブリッジが責任を取って自殺した。

 

その為、ダンブルドアが名実共にホグワーツの校長(アンブリッジ流で言えば支配者)に復帰し、大量の抗議と発案者が消えたことで教育令も極一部*1を除いて全面廃止となった。

 

生徒達はアンブリッジの死に疑問を持っており(責任を感じる様な殊勝な奴か?)……察しの良い生徒達などは『もし他殺なら、犯人は彼しかいない』と思っていた。

 

それでも……とりあえず不倶戴天の敵が消えたことを喜び、最後の花火を一発だけ打ち上げた。

 

そしてそれをもって、ホグワーツ内の混乱も、抗議と称した悪戯も、完全に終息することになった(パーティータイム終了のお知らせ)

 

 

しかし、英国魔法界の混乱は終息しなかった。

 

というか悪化した。

 

魔法省によるアンブリッジ暗殺説が消えなかったからだ。

 

相次ぐ抗議、相次ぐ批判の声。

 

発覚する『吸魂鬼にハリー・ポッターを襲撃させたのは魔法省高官』という情報。

 

日刊預言者新聞からで出たこの記事で、世論はさらに沸騰し、民衆はファッジの退陣と魔法省の全面的な改革を望んだ。

 

そして、そんな魔法省では水面下で派閥が出来始めた。

 

ルーファス・スクリムジョールなどが、対ヴォルデモートの為に動き始めたのだ。

 

彼らの目的は無能なファッジ政権を倒し、ヴォルデモートに対抗出来る魔法省にすることだ。

 

「協力は確約出来ないが、日本は見守っている(何も言わない)

 

手紙で「出来れば協力を」と言ってきたスクリムジョールに、刀原と雀部(日本全権大使)はそう通達した。

 

英国魔法界は政治の季節になった(政治闘争スタート!)

 

 

 

 

世間が政治闘争をやっている中、ホグワーツはアンブリッジを巡る事後処理が終わり、生徒達には永遠の宿敵である期末試験がやってきた。

 

そして今年、ハリー達にはOWL(フクロウ)試験があるため、同級生全員がグロッキー状態だった。

 

「ショウ達は良いよな、試験が無いから」

 

机に突っ伏しながら、羨ましそうにロンが言う。

 

それに同意するようにハリーが頷く。

 

「これを見てもそう言うか?」

 

そして、そう言われた刀原が示すのは大量の紙。

 

英国魔法省から来た『ご機嫌伺い(撤退だけは何卒ご勘弁を)

 

日本魔法省から来た『全権委任状(君に一任するで?)

 

スクリムジョールからの『ラブコール(ぜひ協力を!)

 

護廷十三隊から来た『派遣の増加か撤退かの問い(増やすか?引き上げか?)

 

マクーザ(米魔法評議会)から来た『状況伺い(そちらはどうなってますか?)

 

元柳斎や卯ノ花、四楓院など来た個人的な手紙。

 

等々……。

 

膨大な手紙……しかもほぼ自身宛のそれに刀原はうんざりし、嫌になっていた。

 

だがどれも良く内容を吟味して、返事を必ず返さなくてはならない。

 

幸いなのが、日本魔法省からも護廷十三隊からも『良き計らえ(君に一任する)』と言ってきていることか。

 

「しかし……何で俺に来るんだ」

 

刀原が行った夏の外交が効いている証拠だった。

 

「どっちも嫌だな」

 

苦笑いしながらロンがそう言った。

 

「あ、そうだハリー。試験が始まる前に、閉心術の練習するからね?」

 

「え」

 

刀原が思い出したかのように言えば、ハリーがギクッとした表情でそう言った。

 

「え、じゃない。明日な」

 

宣告するように刀原が言うと、ハリーは覚悟を決めたかのように「……分かった」と言ったのだった。

 

 

その日の翌日。

 

 

「だいぶ良くなってきたが……まだまだだな」

 

ぐったりしているハリーを尻目に刀原はそう言った。

 

「練習する回数を重ねられるようになったし、見られたくない記憶に行くまでに追い出せるようになったのは評価できる。だが……厳しいこと言うがな。俺は別に専門家ではないし、悪意を持っているわけでもない。そして……当然ながら、本番はこの程度の比ではない。常に研鑽はしなくてはならないぞ?」

 

刀原の言葉に頷くハリー。

 

刃禅や関連本を読むなど、出来ることはしているし、着実に結果になっている。

 

それを刀原も理解してくれているし、褒めてくれるのも嬉しい。

 

少なくとも去年の様な地獄の特訓では無いことに、ハリーは内心ホッとする毎日だった。

 

「んじゃ、もう一回するぞ」

 

「うん、分かった」

 

ある程度休んだと判断した刀原は、ハリーにそう言った。

 

そして、ハリーはここでふと思った。

 

盾の呪文で防ぐことは出来るのかと。

 

「『レジリメンス(開心せよ)』」

 

「『プロテゴ(守れ)』!」

 

企みは、成功した。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

周囲は如何にも日本の庭園と言った風景であり、周りの建物の日本の建築物だった。

 

縁側には見知らぬ老人が座っている。

 

その老人の目線の先では幼い頃のショウが懸命に剣を握り、振るっている。

 

そして老人は満足げにそれを眺めていた。

 

ショウはこんな小さい時から剣を振っているのか。

 

 

場面が変わる。

 

 

ショウが再び剣を振っている。

 

【ここは、こうだぞ?】

 

そうショウに教えているのは、ショウに良く似ている黒髪黒目の男性だった。

 

男性はショウやライカが来ている黒い着物と袴を身に着け、少し違うが似たような白い羽織(袖が無いタイプの隊長羽織)を着ている。

 

【はい、父様!】

 

言われたショウが、元気よくそう言う。

 

【少し休まれてはいかがですか?お団子とお茶を持ってきましたよ】

 

青みがかった白い髪に赤い瞳を持つ非常に綺麗な女性がやって来て、二人にそう言った。

 

【母様!】

 

ショウが目を輝かせて女性に振り向く。

 

クリスマスプレゼントで日本から『オダンゴ』が届き、ショウが凄く喜んでいたのを思い出す。

 

【では、少し休むか。ありがとう慶花】

 

男性も女性にお礼を言いながらそう言う。

 

ショウは休憩になった事を喜び、女性に抱き着いた。

 

この男性と女性はショウの両親だと、ハリーには分かった。

 

 

場面が変わる。

 

 

ショウの年齢は変わっていない。

 

そんな彼の目の前にはベッドが二つあり、男性と女性が眠っている。

 

ハリーは眠っている彼らが、さっきの記憶では元気だったショウの両親であると気づいた。

 

いや、本当に眠っているのだろうか?

 

最早、死んでいると同じ様な雰囲気だ。

 

ここは、病院だろうか。

 

ショウは何も言わず、暗い顔のまま、ただ立っている。

 

【何か……食べないと】

 

優しそうで藤色の髪の毛をした女性にそう言われるも、ショウは首を振り、それを拒絶した。

 

 

場面が変わる。

 

 

先ほどの縁側にいた老人が写った写真が、黒い額縁に入っており、年齢が変わっていないショウが悲し気な表情でそれを持っている。

 

そんなショウの後ろにはハリーが二年生の時に会った卯ノ花という女性が立っており、彼の両肩を支えている。

 

そして……ショウの目線の先には、木で作られた櫓の様なものが立っていた。

 

櫓の前には大勢の人が立っており、ショウと同じように白い羽織を着た人たちもいた。

 

【火を】

 

太鼓の音が暫く鳴った後、長い髭を蓄えた老人が徐にそう言い、櫓に火がつけられた。

 

【さらばじゃ、我が友よ】

 

老人が悲しむように言う。

 

これは、お葬式だ。

 

 

場面が変わる。

 

 

そこは先ほど見た病室の様な場所であり、ショウの両親と思われる二人は、相変わらずの様子だった。

 

【ごめんなさい】

 

【すまねぇ】

 

卯ノ花とお葬式に居たリーゼントの男が、ショウに対して頭を下げている。

 

ハリーは二人が何を言ってるのは分からなかったが、謝っていることは理解できた。

 

ショウはただ静かに、たどたどしい日本語で【頭を……お上げください】と言った。

 

 

場面が変わる。

 

 

【刀原のご子息は立派だ。両親があのようなことになり、曾祖父である平介殿も亡くなった。だが……あの子は涙一つ流さず、毅然と振舞っている】

 

誰かがそう言った。

 

ショウはただ座っていた。

 

だが、目は虚ろだった。

 

 

場面が変わる。

 

 

先ほどの記憶では和やかで明るい雰囲気に包まれていた屋敷の中は、誰もおらず、暗く寂しい雰囲気に包まれていた。

 

その中で、ショウは一人で立ち尽くしていた。

 

広い部屋が不気味に感じる。

 

痛々しい無音が響く。

 

そして、ポタっという水音がする。

 

外は雨など降っていない。

 

【頑張るんだ。頑張るんだ】

 

そうショウは言った。

 

 

場面が変わる。

 

 

ショウが一心不乱に剣を振っている。

 

嘆きにも聞こえる声を上げている。

 

そして……ハリーは、それを直視出来なかった。

 

【もう四時間半じゃ。少し休んではどうかの?団子と茶を持って来たぞ?】

 

お葬式に居た長い髭を蓄えた老人が、労わるように言う。

 

【休んでられません】

 

しかしそれをショウは一向に返さず、剣を振るのを止めない。

 

何かに駆られているとハリーは思った。

 

【……】

 

老人は思い詰めたなショウを見て、悲し気な表情を見せた。

 

 

場面が変わる。

 

 

ダンッとショウが吹き飛ばされ、壁にぶつかる。

 

【その程度ですか?】

 

吹き飛ばした卯ノ花の表情は分からなかったが、鬼のような形相だろうと思った。

 

【いえ、まだまだ】

 

ショウはそう言って立ち上がり、剣を振りかぶって挑みかかる。

 

しかし勝てず、腹を打たれ、頭を叩かれ、突かれ、吹き飛ばされる。

 

【今日は、この辺にしますか?】

 

【いえ、まだまだ】

 

何度打ちのめされようとも、ショウは立ち上がった。

 

ハリーは、去年の特訓が生易しいものだったと思い知らされた。

 

 

場面が変わる。

 

 

【ササキべライカです。よろしく!】

 

少しだけ成長した様子のショウにライカがそう言った。

 

【……トウハラです。よろしく】

 

ブスッと不機嫌そうにショウがそう返す。

 

今では全く考えられない二人のやり取りに、ハリーは驚きを隠せなかった。

 

【……では、僕はこれで】

 

ショウは不機嫌そうにそう言い、その部屋から出て行こうとする。

 

だが。

 

【ちょっと待って!】

 

ライカが咄嗟に手を掴み、それをさせなかった。

 

【何か?】

 

明らかに機嫌が悪そうなショウ。

 

【美味しいお団子、一緒に食べよ?おじい様からお小遣いを貰ったの!】

 

ライカはそう言って強引にショウを引っ張っていく。

 

【え、あ、ちょ】

 

ショウの制止も空しく、二人は部屋を後にした。

 

「懐かしいな……」

 

そして響いた、聞きなれた言語。

 

「だが御仕舞だよハリー」

 

 


 

 

ハリーが周囲を見渡すと、そこは日本では無く、ホグワーツだった。

 

「『盾の呪文』を使ってくるとは。油断したよ」

 

刀原がハリーを褒めながらそう言う。

 

しかし、ハリーの内心はそれどころでは無かった。

 

「ごめんショウ。その、見るつもりは……」

 

バツが悪そうにハリーはそう謝った。

 

「いや、油断して守りを突破された俺が悪い。ハリーが謝ることではないよ」

 

刀原は首を振ってそれを否定する。

 

「……ショウ、あの」

 

「ベットで眠っていたのは俺の両親。葬儀は曾祖父の葬儀。髭が長い老人は日本の護廷十三隊総隊長、山本元柳斎重國殿。リーゼントの男性は麒麟寺天示郎殿。ハリーが知らない人はこの程度かな」

 

ハリーの言いたいことを察した刀原が、聞かれる前にそう言った。

 

「……ショウの両親は、今は治ったんだよね?」

 

「ああ。だが……もう二度と戦う事は出来ないだろうと言われているし、まだ立ち上がれないけど」

 

「そこまで酷かったんだ」

 

「あと少し遅かったら……ってことまで行ったからね」

 

でも間に合ったから良かったと言ったショウは、いつも通りの顔で、いつも通りの表情だ。

 

あんな悲痛で、無表情で、暗い顔が嘘のように。

 

自分は両親の記憶がほどんど無い。

 

でも、だからこそ何となく分かる。

 

幸せが突然奪われ、失い、二度と戻らないかもしれないという、恐怖と悲しさを。

 

だから記憶の中でショウは、あんなに辛い顔で頑張っていたんだ。

 

そうハリーは思っていた。

 

「数奇な運命だよ。父と母があのような形にならなければ、ライカとは違う出会いをしていたし。おそらくハリーとは会わなかったかもしれない」

 

刀原はそう言う。

 

「ライカは俺の恩人の一人なんだよ。彼女が居なかったら、俺はまともな思考も、人との関わりも、全然出来なかったと思う。彼女が俺を救ってくれた。あ、これは内緒な」

 

そして少し笑いながらそう言った。

 

「うん、分かった」

 

「よし、じゃあ今日はこの辺でお開きにしようか」

 

刀原はそう言って教室を出て行こうとしている。

 

それを見ながらハリーは、刀原の強さは過去の努力と壮絶な鍛錬の結果だと思った。

 

「もっと頑張ろう」

 

ハリーは少しでも追いつく為、努力をすると誓った。

 

 

 

ハリーが刀原の記憶を見てから数日後。

 

ついに試験(デスマーチ)が始まった。

 

ハリー達が勉強しない日は無く、グロッキー状態は更に悪化し、声無き悲鳴を上げていた。

 

刀原と雀部はそれを見守り、少しだけアドバイスするだけに留まった。

 

そんな試験の最中、ハリーは連日の疲れもあってうたた寝をしていた。

 

「『クルーシオ(苦しめ)』!」

 

夢の中のハリーの口から出たその言葉は、甲高く、冷たく、思いやりの欠片もない声だった。

 

周りは、神秘部。

 

冷たい床に居る黒い影……男が苦痛の叫び声を上げていた。

 

ハリーは笑っていた。

 

床の男は両腕をわなわなと震わせ、顔を上げる。

 

血まみれで、やつれ、苦痛に顔を歪ませながらも、男は頑として服従を拒んでいた。

 

「……殺すなら殺せ」

 

シリウスが掠れた声でそう言った。

 

「最後は殺してやるとも。だがその前に、俺様の為にそれを取るのだ」

 

暗く冷たい神秘部にて、ヴォルデモートはシリウスを拷問していたのだ。

 

 

 

跳ね起きたハリーは、試験をどうにかやり過ごし、終了と同時に走り出した。

 

ダンブルドア、刀原、マクゴナガル。

 

幸いなことに、助けを求められる人は大勢いる。

 

そう、ハリーは思っていたのだが。

 

「え、いない?ダンブルドア先生も、マクゴナガル先生も、ショウとライカも?」

 

「ええ」

 

フリットウィックの言葉に、ハリーは思い出す。

 

スクリムジョールが考えているファッジ政権打倒のためのクーデター、その件についてダンブルドア、マクゴナガル、スネイプが出かけているということを。

 

刀原と雀部は在イギリス日本大使館に行っていることに。

 

ど、どうしよう。

 

ハリーの頭はパニック状態になっていた。

 

シリウスのピンチを前に、冷静な判断が出来なくなっていたのだ。

 

やがてハリーの元にハーマイオニーやロン、ネビル、ジニー、ルーナが集まってくる。

 

その中でハーマイオニーだけが慎重な態度だった。

 

シリウスが捕まる筈が無い。

まずは確認をするべきだと。

 

彼女はそう言った。

 

しかし……任務でその場に居たかもしれない、それこそウィーズリーおじさんのように。

 

と言う意見には抗えなかった。

 

そしてハリーが煙突飛行ネットワークでグリモールド・プレイスに行き、シリウスが実際に居ないことが分かった。

 

もしこの場に刀原や雀部が居たら、ハーマイオニー以上のストッパーに成れただろう。

 

もしダンブルドアやマクゴナガルが居れば、宥められただろう。

 

彼らなら、シリウスがダンブルドアと同じく、クーデターの為の秘密会議に参加していることが分かった筈だろう。

 

だがなんの運命か、彼らは不在で、ハリーを止められる者は居なかった。

 

こうして……暴走機関車になってしまっていたハリーは、神秘部へと向かってしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

神秘部の内部はやけに暗く、不気味だった。

 

脳みそや謎のアーチがある部屋に行きながら、ハリー達はシリウスが居ると思われる部屋へと向かい、そして目的の部屋にたどり着く。

 

そこは埃っぽく、中に煙が入ったように見えるガラス玉が、びっしりと棚に陳列された部屋だった。

 

「九十七列目の棚だ」

 

一行は延々と延びている棚の通路を、振り返りながら忍び足で歩いた。

 

シリウスはおろか、人の気配も、声も、音も感じないし聞こえない。

 

それでも一行は歩みを止める事は無かった。

 

やがて九十七列目に到着する。

 

だが、そこにシリウスは居なかった。

 

ハリーは何故だ何故だと思ったが、この場に争った形跡はない。

 

ふと、刀原が言っていた事を思い出す。

 

「ヴォルデモートは君との繋がりを利用して、幻を見せ、誘い出すかもしれない」

 

そう、刀原はハリーに言っていたのだ。

 

にも拘らず、自分はのこのことここまで来てしまった。

 

皆を連れて。

 

「ねえ、これに君の名前が書かれているよ」

 

ハリーが内心冷や汗をかき、赤面をしている中、何かを見つけたロンがハリーを呼ぶ。

 

ロンがそう示したのは、小さいガラス玉と黄色いタグの様なラベルだった。

 

『S・P・TからA・P・W・B・Dへ

 闇の帝王そして

 (?)ハリー・ポッター』

 

ラベルにはこう書かれていた。

 

ハリーはまるで取り憑かれたかのように、無性にそれを取りたくなった。

 

そしてハーマイオニーやネビルの静止も半ば無視し、ハリーはそれを手に取った。

 

取ってしまった。

 

「良くやったポッター。さあ、それを寄越すのだ」

 

ハリーが手に取った瞬間そう言ったのは、ルシウス・マルフォイだった。

 

その瞬間、ハリーは自身が嵌められたことを悟った。

 

 

 

その頃。

 

在イギリス日本大使館がロンドンに有るため、刀原と雀部はハリーからの連絡に愕然としながらも短時間で英国魔法省に到着していた。

 

「帰ったらお説教だな」

 

「全くです」

 

軽率としか言えないハリーの行動に、二人は怒りながらアトリウムを駆け抜け、神秘部を目指す。

 

刀原は英国魔法省に何度も来ているが、流石に神秘部には行っったことは無い。

 

しかし、それでも迷うことはなくエレベーターに乗り、やがて神秘部があるフロアにたどり着く。

 

廊下には何の気配もなく、動くものは松明の揺らめきしかなかった。

 

「……妙だな」

 

刀原はそう疑問視する。

 

ここまで誰にも会ってないどころか、人の気配が皆無なのだ。

 

『当直の警備の一人や二人いても良い筈なのに』

 

「ッチ、やっぱ雷華を残せば良かったな」

 

刀原が舌打ちしながら小声でそう言う。

 

顔は険しく、警戒していた。

 

罠だと悟ったからだ。

 

「過ぎてしまったことです」

 

雀部も苦い顔でそう言う。

 

「……嫌な予感がします」

 

そして取っ手のない黒い扉を前にポツリと言う。

 

「俺もだ」

 

刀原は苦い顔でそう言った。

 

「行くぞ」

 

「ええ」

 

横に並んだ二人は向き合うことなく拳をぶつけ合い、神秘部に突入した。

 

 

 

 

 

 

 

何処からともなく黒い人影が次々と現れ、ハリー達の進路を断った。

 

「私にそれを寄越すのだ、ポッター」

 

ルシウス・マルフォイがそう言う。

 

「……これは一体、何の予言なんだ?」

 

ハリーはそれをあえて無視し、そう問いかける。

 

ここに来る前にショウ達を呼んだんだ。

時間を出来るだけ稼げば加勢に来てくれる。

 

ハリーはそう思っていたのだ。

 

「何の予言なんだ、だって?何かの冗談かい?ちっちゃなベイビー・ポッター」

 

癪に障る赤ちゃん声でそう言ったのは、おそらくベラトリックス・レストレンジだと思われる女だった。

 

「いいや冗談じゃない。なんでヴォルデモートが欲しがるんだ?」

 

ハリーは挑戦的にそう言う。

 

奴らはこれを気にして迂闊には来れないはずだと判断したからだ。

 

「……不敵にもあのお方のお名前を口にするか?純血でもない、混血のお前が!」

 

ベラトリックスは甲高く叫んだ。

 

「あいつも混血だ。母親は魔女だが、父親はマグルだ。それとも、お前たちには自分が純血だと言い張っていたのか?」

 

「黙れ!」

 

ハリーの挑発にベラトリックスは激昂する。

 

ショウが言っていた通り、こいつらは沸点が低いらしい*2

 

「貴様、よくも!」

 

「まて、攻撃するな!予言が手に入るまではな!」

 

ベラトリックスとマルフォイがそう言い争う。

 

ハリーが想像した以上の結果だった。

 

だが、残念ながら余裕は生まれなかった。

 

「くだらない言い争いをするのなら、俺は帰らせてもらうぞ」

 

そう冷たく、感情の起伏も感じられない声が響いたからだ。

 

「お前がハリー・ポッターか。……平凡だな。霊圧も特に普通だ」

 

男はそう言った。

 

ハリーはそれを聞いて目を見開く。

 

()()と彼はそう言った。

霊圧なんて言葉はショウ達しか使ってない、そう思ったからだ。

 

やがてはっきりと男の姿が分かる。

 

角が生えた骸骨のようなものを左頭部に被った、黒髪に白い肌を持つ瘦身の男だった。

 

そしてもう一人。

 

「まあ、しょうがないんじゃないか?」

 

気だるそうにそう言った、下顎骨のようなものを首飾りのように着けた黒髪の中年の男。

 

「まさか、破面(アランカル)?」

 

「如何にも、その通りだ」

 

「ああ、そうだ」

 

ハリーの問いに、男たちはそう答えた。

 

「……確かに、こんなことをしている暇はない。さあ、ポッター。早くそれを此方に寄越すのだ」

 

そして破面達に言われたマルフォイが迫って来る。

 

だがハリー達の準備(覚悟)はもう出来た。

 

「………答えはNoだ。いまだ!」

 

「「『レダクト(粉々)』!」」

 

「「『ステューピファイ(麻痺せよ)』!」」

 

ハリー達は一斉に攻撃し、全員で駆け出した。

 

そしてハリー達からの攻撃に対応出来なかった死喰い人達は、彼らをその場では取り逃すことになる。

 

 

 

 

 

 

 

ただならぬ霊圧を感じる。

 

予言と思しきガラス玉が沢山ある部屋に着いた刀原と雀部は、それを感じ取った瞬間、破面が居る事を察知した。

 

ハリーがピンチであることも。

 

足を速める二人。

 

そして響く爆音。

 

ドタバタとこっちに向かってくる足音。

 

「みんな、無事だったか!」

 

「ショウ!ライカ!良かった」

 

やって来たのはハリー達だった。

 

「よし、逃げるか」

 

刀原はここから脱兎のごとく逃げる事にした。

 

ハリー達六人を確保した以上、長居は無用だからだ。

 

かくして八人は駆け出した。

 

だが。

 

「考えたなハリー・ポッター。だがあのような小技、俺には効かん」

 

先ほどの破面の一人に追いつかれてしまう。

 

「っ」

 

ハリーが悔しそうな声を上げる。

 

ヴォルデモートの時よりも恐怖を感じるからだ。

 

しかし、ここには頼れる死神がいた。

 

「ここは私に任せて下さい」

 

雀部がそう言い、ハリー達の前に出る。

 

「護廷十三隊の隊長か」

 

「ええ、そうです」

 

男の問いに、雀部は不敵に笑って返す。

 

「すまん雷華、ここは任せた」

 

刀原は確実にハリー達を脱出させるために雀部がかって出たことを理解し、任せる事にした。

 

「ええ、任されました」

 

雀部はニッコリと笑って刀原に答える。

 

「行くぞ」

 

刀原はハリー達を連れてその場から離脱していく。

 

雀部はそれを振り返らず、破面を見つめる。

 

「護廷十三隊、五番隊隊長。雀部雷華と申します」

 

そして丁寧にペコリとお辞儀しながら破面にそう名乗った。

 

第四十刃(クアトロ・エスパーダ)、ウルキオラ・シファーだ」

 

破面、ウルキオラも雀部にそう名乗った。

 

「では…雷鳴(らいめい)(ひび)け『雷霆』」

 

(とざ)せ『黒翼大魔(ムルシエラゴ)

 

 

 

 

「扉よ!」

 

後ろで雷鳴と剣戟の音が響いているなか、ハーマイオニーが黒い扉を見て、そう言う。

 

「おっと、逃がさないぜ?」

 

しかし、あと一歩の所でもう一人の破面に出会ってしまう。

 

気だるそうだが、ただならぬ気配を感じて、ハリー達は思わず息を飲む。

 

「いいや、彼らは逃がさせてもらうよ?」

 

そんな中、そう破面に言ったのは刀原だった。

 

「そうかい。んじゃ、あんたを逃がさないようにしよう。それで仕事をしたことにしよう」

 

男は気だる気に、そう言った。

 

「行けハリー。そして帰ったらお説教だ」

 

刀原は男と向かい合いながらそう言う。

 

ハリーは青い顔をしながら、頷いて扉をくぐった。

 

「お説教か、何を彼はやらかしたんだ?」

 

「ここに来たこと」

 

「ああ、それは……そうだな」

 

刀原と男との会話に緊張感は感じられない。

 

だが、双方ともに油断無く相手を見ていた。

 

「三番隊隊長、刀原将平。よろしく」

 

「これはどうもご丁寧に……コヨーテ・スタークだ」

 

名乗り合った二人は、刀をぶつけた。

 

しかし二人は、互いに全力に成れない制約があった。

 

 

 

 

 

 

 

強い。

少なくとも去年のあれとは比較にならない。

 

雀部は苦い顔をしながらそう思っていた。

 

始解し、スピードと電撃で攻撃しているが、向こうも早くて捉え切れない。

 

単純な速度では互角といったところか。

 

しかし、このままでは千日手になるだけだった。

 

「しょうがないですね」

 

雀部はボソッと呟く。

 

「何がだ?」

 

ウルキオラは不思議そうにそう尋ねる。

 

「後で絶対に怒られそうですが……まあ、貴方達のせいにすれば良いでしょう」

 

開き直ったようにそう言う雀部。

 

これから起きる惨状を自分達のせいにすると宣言されたウルキオラは、訳が分からない様子だ。

 

だが、それも一瞬のこと。

 

雀部が霊圧を高め始めたことを察知し、警戒する。

 

「行きますよ?ウルキオラ・シファー。出来れば被害を最小限にしたいので、そこのところよろしくお願いします」

 

半ば懇願するように言ったそれは、紛れもない、本心から来る言葉だった*3

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「卍解」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『大雷公霆天神社(だいらいこうていてんじんやしろ)』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
『授業中は音楽禁止』など

*2

「おそらく……死喰い人はプライドが高い。特にヴォル、頭のイカれた魔法使いへの侮辱には、ほぼ必ず激昂する」

 

DAの練習の時、刀原はそう言った。

 

「そこが狙い目だ。相手を怒らせ、決定的な隙を作る。そこに勝機が生まれる。戦いは頭に血が上ったら御仕舞だからな」

 

"そんな余裕、ある筈ないだろ!"

 

全員がそう思った。

 

*3

 

英国魔法省神秘部という()()()()()が、こんがり焼き上がるその前に、降参するか撤退するか死ぬかして欲しい。

 

という本心から来る言葉だ。

 






(たが)うこと無き同じ道

どれほど険しくとも
どれほど遠くとも

私は貴方に並びたい

だから

高らかに響く
裁きの雷よ

私の敵を穿て。




主人公より先に卍解するヒロイン。

これには訳があります。


そもそも、卍解は昨年末に行わせる予定でした。
しかし、なんやかんやでそれが没になりました。

でも、そろそろ卍解させたい。

でも、現在考えている刀原の卍解をすれば……英国魔法省は崩壊しかねません。

正確にいえば……下の階が崩解するため、自重で上から潰れかねません。

それはちょっとやりすぎだな……。

どうしようかな。
ウルキオラ相手に卍解しないってのもな……。

よし、雷華に卍解して貰おう。


と言う訳です。

なので……刀原の卍解は来年、広い所で。

どうか、それでご勘弁を。

なお、少しだけネタバレしますと……。
スタークの出番はほんの少しです。

詳しくは次回。


あ、ちなみに……英国魔法省の許可は取ってません。

ごめんねファッジ☆



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ありがとうございます。
そしてお待ちしております。



では次回は

雷撃、虚無、狂人、伝説。

次回もお楽しみに







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死神、やっちゃう。雷撃、虚無、狂人、伝説



私が狂ってる?

いいや違うね

この世の方が狂ってるのさ!













 

 

私に大きな影響を与えたのは二人。

 

一人はおじい様、雀部長次郎。

 

両親は日本魔法省駐米大使としてほぼ一年中米国に居る為、私はおじい様に育てられた。

 

厳しくも優しいおじい様。

 

そんなおじいさまの様な死神に私も成る為、幼少のころから修行を重ねてきた。

 

だからおじい様の厳霊丸と同じ雷系統の斬魄刀になったのは宿命であると思ったし、とても嬉しかったのを覚えている。

 

今でも、おじい様は私の目標。

 

 

 

もう一人は親友であり相棒であり、最愛の人でもあるしょう君。

 

彼との初顔合わせは長い月日が経とうとも、簡単に思い出せる。

 

ある日、私はおじい様に紹介したい人が居ると言われて一番隊隊舎に向かった。

 

そこで会ったのがしょう君だった。

 

一人で狂ったように剣を振るう私と同い年の男の子。

 

カッコいいと思った。

 

ほっとけないと思った。

 

一緒に居るべきと思った。

 

何故そう思ったのか、今でも分からないけど。

 

とにかく、私はおじい様から貰ったお小遣いを懐に入れつつ、仏頂面で不機嫌そうに立ち去ろうとしていた彼を呼び止めた。

 

そして有無を言わさず、お団子屋さんに連行した。

 

彼がお団子を複雑そうに食べつつも、先ほどまで狂戦士の様だったのが嘘だったように、顔が綻んだのを覚えている。

 

また二人で行こう。

 

私はそう誘い、彼は複雑そうな顔をしながら「……たまになら」と言ってくれた。

 

何時の頃だったろうか。

 

彼が好きだと自覚したのは。

 

明確には分からない。

 

でも、彼が英国に行くと言った時には心配したし、悲しんだ。

 

彼と一年会えないなんて信じられなかったし、寂しかった。

 

再会したときに思わず抱き着いた時は恥ずかしかったけど。

 

でも彼はまた英国に行ってしまった。

 

しかも今度は、おじい様たちや私たちに内緒でバジリスクと戦い、少なくない負傷をした。

 

卒倒した。

 

成長してカッコよくなったけど、強くなったけど、彼は幼少の時と根っこが変わってないと思った。

 

人の事は言えないけど美味しいものを食べると目を輝かせて表情も明るくなるし、思慮深い時もあるけど友達と一緒になって悪ふざけをするようなノリの良さもある。

 

なのに戦いになればとんでもなく強く、とても頼りになる。

 

誰よりも努力家で、何よりも仲間を案じ、自分のことなど顧みずに無茶をする。

 

やはり彼と一緒に居るべきだと思った。

 

 

 

昨年、彼が告白してくれた時は……まさに夢のようなひと時だった。

 

西洋のお城で、綺麗なドレスを着て、ずっと大好きだった人と踊り、告白してくれた。

 

今まで彼は、私たちは、頑張ってきました。

 

両親と仕事の都合で全く会えない私。

 

両親と会話出来ず、努力し続けた彼。

 

ほぼ同じ師を持ち、ほぼ同じ時を一緒に過ごした私たち。

 

努力したのです。

 

頑張ったんです

 

 

そろそろ……幸せになっても……良いですよね?

 

 

だから……。

 

 

だからここで、貴方を穿ちます。

 

 

「卍解『大雷公霆天神社(だいらいこうていてんじんやしろ)』」

 

 

邪魔はさせません。

 

私は彼の背中を守るのだから。

 

 

 

 

 

 

卍解と同時に、雀部の背後には雷で出来た鳥居と、緑色で出来た雷の槍のようなものが左右に四つずつ現れる。

 

今まで手にしていたロングソードは腰の鞘へと戻り、手には新たに下部が西洋剣の鞘にも見えるものが付いた金の装飾が美しい杖に変化した。

 

雀部自身にも変化が現れる。

 

額には金色の紋様が現れ、心なしか髪も伸びた。

 

雷で出来た王冠を頭に身に付け、死覇装も白を基調とした美しいドレスに変化している。

 

天井には雷雲が発生し、今にも落雷が来そうだった。

 

「落ちよ」

 

雀部がそう手を振り下ろすと、ウルキオラに雷が落ちてくる。

 

速さも威力もけた違いになったそれをウルキオラは躱す。

 

しかし、雷は一つだけでは無く、間髪入れず次々と雷が落ちてく。

 

それを躱しながらウルキオラは雀部に接近する。

 

雀部はそれを見て、手をウルキオラに向けて翳す。

 

すると背後の雷の槍がウルキオラの方へと飛んで行った。

 

「ッ」

 

ウルキオラは苦々しい顔でそれらを躱すが、八本もあるそれを全て躱すことは出来なかった。

 

最後の一本を躱しきれず、直撃してしまう。

 

致命傷には成らなかったが、吹き飛ばされるウルキオラ。

 

そして吹き飛ばされたところにまた落ちてくる雷。

 

ウルキオラはそれを何とか躱すが、再び間髪入れずに落ちてくる雷の精度と密度が高くなっていき、次第に躱しづらくなっていく。

 

じり貧だな、このままでは……。

 

速度を上げても躱しづらい雷に、ウルキオラはそう思う。

 

そして障害物が多い為、奥の手を出しても戦局は変わらないと判断する。

 

ウルキオラは再び雀部の方へ突撃し、雀部は先程と同じように雷の槍をウルキオラに差し向ける。

 

それらを全て躱すことに成功したウルキオラは、雀部に肉薄しようとする。

 

雀部は腰にあるロングソードを抜き、ウルキオラの突撃を迎え撃とうとする。

 

だが。

 

「『黒虚閃(セロ・オスキュラス)』」

 

ウルキオラの目的は肉薄攻撃では無く、黒い虚閃を放つことだった。

 

「ッ!『雷壁(らいへき)』!」

 

雀部は一瞬戸惑ったが、杖を構えて目の前に雷で出来た障壁を作って防ぐ。

 

「弾けて『雷公天来撃(らいこうてんらいげき)』!」

 

間髪入れず雀部は、爆煙で姿が見えなくなったこともあって全方位攻撃を行う。

 

杖から一筋の光が天へと上った直後、雀部の周囲に雷が円形状に降り注ぎながら広がっていく。

 

だが、ウルキオラに当たった感触がない。

 

雀部は警戒しながら杖と剣を構える。

 

そしてやがて煙が晴れる。

 

周囲には予言が入っていたガラス玉と棚の残骸が広がり、部屋の床は雷で空いた穴やウルキオラの斬撃で滅茶苦茶になっており、一部は放電していた。

 

しかし、そこにウルキオラの姿は無かった。

 

「逃げられましたね……まあ、良いでしょう……」

 

周囲を再度見渡した雀部は、そう呟きながら卍解を解く。

 

そして部屋の惨状を見なかったことにした。

 

 

 

 

 

 

雀部が卍解をしている頃。

 

「すごいな、あんた等……」

 

「……そりゃどうも」

 

刀原はスタークの言葉にそう返した。

 

刀原と交戦しながらスタークは感心するようにそう言った。

 

奔目には雀部の卍解が見えており、その派手な爆音と閃光がより二人の目を引き付けていた。

 

そして刀原とスタークの戦いはほぼ互角であり、お互いに様子を見ながら斬り合っていた。

 

「隊長君も卍解出来るのか?」

 

「まあね。でも……今は出来ないね」

 

スタークの探るような言葉に刀原はそう返す。

 

「へえ、何故だ?」

 

「禁止されたからだよ。俺の卍解は雀部のあれ以上に周囲への被害が酷くなるからな。……流石に他国の施設を崩壊させる訳にはいかないからね……」

 

そして刀原はやれやれといった感じでそう言った。

 

ーーーーーー

 

「良いか二人とも、これから遣英救援部隊心得を申し渡す」

 

「「はい」」

 

「一つ目。英国魔法省内、ホグワーツ城内での……卍解禁止!」

 

「二つ目。出向者への、報復の為の……卍解禁止!」

 

「三つ目。戦闘以外の面倒ごとを、解決するための……卍解禁止!」

 

「「…………は~い」」

 

「……ちゃんと分かっておろうな?」

 

二人のやる気のない生返事に、元柳斎はそう言った。

 

ーーーーーー

 

「それじゃあ、お互い本気になれないって訳だな」

 

スタークは少しほっとした様子でそう言った。

 

「お互い?」

 

「ああ……そもそも俺を含めて、一部の連中は……ヴォルデモートだっけ?そいつらと組むなんて嫌なんだよ。崩玉を持ってるあいつも嫌いだしな。そんな奴らの為に本気になるなんて御免被るね。今日はリリネットも連れてきてないし」

 

スタークはそう言い放つ。

 

それを聞いた刀原は、非常に有益な情報が思わぬ形で得られたことに目を見開く。

 

スタークが言ったことが事実であるならば、破面(アランカル)穏健派(やる気のない連中)と和議を結ぶことだって夢ではないからだ。

 

リリネットなる人物については、少し気になるが。

 

「それに、隊長君は十分強いよ。特に剣術は俺でも油断できないね」

 

「そ、そりゃどうも?」

 

敵からの思わぬ誉め言葉に、たどたどしく刀原はそう返した。

 

「でも、あんただって強いよ。この前のグリムジョーよりもね。多分、本気になったあんたはヤバそうだ」

 

「そりゃどうも」

 

そして刀原はそう言った。

 

お互い踏みこんでおらず、始解もしていないとはいえ、日本で五指に入ると自他共に認める刀原の剣術だけでは、仕留められそうにないのだ。

 

手加減している状態でこれなのだから、本気(帰刃)になって来られたら刀原だって、遺憾なれど始解するしかなくなる。

 

刀原は内心、冷や汗をかいていた。

 

そんなこんなで斬り合っていると、先ほどまで響いていた雷鳴がピタリと止まった。

 

決着が着いたか、逃げられたか。

 

そう刀原が思っていると、スタークもピタリと止まり、溜息をつく。

 

「今日のところは、これで終わりにしようぜ隊長君?向こうは終わったみたいだし、時間も十分に稼いだし、この先に行かなきゃならないだろ?」

 

スタークはそう言って刀を鞘に納める。

 

「あんたが引くなら、俺は追わない。あんたの言う通り、先に行かなきゃならないからね」

 

刀原もその提案に同意し、刀を鞘に納める。

 

「理解ある隊長君で安心したよ。じゃあな」

 

スタークはそれを見て、フッと笑うと、そう言って立ち去ろうとする。

 

「あ、待って」

 

刀原は思い出したかのようにスタークを呼び止める。

 

「なんだ?」

 

「……あんたらが和議を結びたいなら、護廷十三隊はそれに前向きだよ。少なくとも俺はね」

 

刀原は少し悩みながらそうスタークに伝える。

 

ヴォルデモートや賊軍のことで手一杯な現状、破面の面々と不可侵を結べるだけでも有益だからだ。

 

その後は潰すなり、共存の道を図るなりすればいい。

日本魔法省だってそれに賛同するはず。

 

刀原はそう思いながら言ったのだった。

 

「……現状は無理だな。十刃の面子で好戦的な輩が多数派な現状ではな」

 

スタークは少しだけ驚いた後、後頭部を掻きながらそう言った。

 

「では……そいつらを片付けた後は?」

 

「……考えなくも無いな。俺と同じようなことを思っている面々も賛同するだろうぜ」

 

それを聞いた刀原は内心でガッツポーズをする。

 

穏健派は少数だが確実にいて、しかも内心では和議を結びたがっている!

 

「分かった。それを護廷十三隊と日本魔法省の上層部には伝えておく」

 

「期待しない程度に期待しておくぜ」

 

刀原の言葉にスタークは振り返らずそう返し、消えて行った。

 

それを見送った刀原は、雀部の到着を待たずしてハリー達を追いかけるために駆け出した。

 

 


 

 

刀原、雀部と言う存在はこれほどまでに大きかったのかと、ハリー達は思っていた。

 

ハリー達は刀原と別れた後直ぐに死喰い人に補足され、そのまま戦闘状態へと移行したのだが……。

 

ハリー達は、今まで刀原と雀部と言う別格の存在に護られていたのだと痛感することになったのだ。

 

ハリーは昨年ヴォルデモートと一戦交えていたとはいえ、それはあくまで決闘という状況であり、敵味方入り乱れての乱戦は初めてだった。

 

ハーマイオニー達に至っては、初めての実戦である。

 

それは教科書では分からない、本だけでは身に着かないものばかりだった。

 

ハリー達は己の未熟さを恥じていた。

 

一方、ルシウス・マルフォイ率いる死喰い人たちは、刀原達が居なくなれば簡単に制圧出来ると踏んでいたが……子供達の予想以上の強さ(抵抗)に半ば驚愕していた。

 

こいつら只のガキじゃないと、先ほどネビルにしてやられたベラトリックスが苦々しく言うほどには。

 

だが、やはり実戦経験や戦略眼は死喰い人達の方が上であり、一枚上手だった。

 

次第に追い込み漁の如くハリー達は追い詰められ、やがてハリーを除く全員が死喰い人達に捕まってしまった。

 

「手こずらせてくれたが……。それでも勝ち目があると思ったか?子供だけで、我々に……勝てるとでも?」

 

勝ち誇ったように、マルフォイがハリーに対してそう言った。

 

「もう、選択肢はないぞポッター。今すぐ予言を渡すのだ。それとも仲間を見殺しか?」

 

そう言って手を出すマルフォイ。

 

「渡しちゃだめだ!」

 

ネビルがそう言うが、それでもハリーの選択肢にそれはあり得なかった。

 

仲間を救うため、ハリーは意を決してマルフォイに予言を差し出した。

 

「利口な選択だな」

 

マルフォイがニヤリと笑い、高らかに勝利宣言をしようとする。

 

正にその瞬間。

 

「私の息子に近づくな」

 

シリウスがそうマルフォイに言い放ち、思いっきりぶん殴った。

 

そしてそれを合図に、不死鳥の騎士団の面々が現れたのだった。

 

 

 

 

 

 

人質になっていたハーマイオニー達を素早く奪還した騎士団は、そのまま死喰い人と戦闘に入った。

 

殴られた事で吹っ飛んだマルフォイを他所に、シリウスは素早くハリーを自分の方に引き寄せる。

 

「君はみんなを連れてここを脱出するんだ」

 

そして早くも閃光が飛び交う中、シリウスはハリーにそう告げた。

 

「え、嫌だ。一緒に……」

 

ハリーはそれでも一緒に戦うと伝える。

 

しかし、当然ながらそれを許すシリウスではない。

 

「君はもう、十分に良く頑張った。後は私たちに大人に任せるんだ」

 

シリウスは慈愛の目をハリーに向ける。

 

「そうはいかない」

 

だがマルフォイが立ちはだかり、男の死喰い人も現れる。

 

「二対二か」

 

シリウスはハリーに、もうひと踏ん張りしてもらうことを察する。

 

「いや、三対二だねぇ?」

 

そしてベラトリックスが狂気的な笑みを浮かべながらやってきているのを見て、シリウスは舌打ちをする。

 

「いや、お前と俺との一騎打ちだよ」

 

そう言いながら、ベラトリックスとシリウス達の間に割り込んできたのは刀原だった。

 

彼はスタークとの戦いを終わらせて来たのだ。

 

「舐めるんじゃないよ、日本の小僧が!」

 

ベラトリックスがそう吠える。

 

「ピーピー喚くなよ狂人が。弱く見える……いや、実際弱いな。あいつらに比べると」

 

刀原がそうニヤリと笑いながらそう返す。

 

「そう言えば……あの頭のイカれた魔法使いは元気?ハリーから聞いたけど……なんか顔色悪くて、おまけに毛根死滅してるんだって?今度良いお薬を『おくすり飲めたね』と、色んなタイプのカツラと一緒に贈ってやるよ。あとで住所教えて?あ、それともあばら家に住んでたりとか?」

 

スラスラと刀原の口から出てきたヴォルデモート(愛する我が君(笑))に対する罵詈雑言(馬鹿にする発言)に、ベラトリックスはキレた。

 

 

 

マルフォイと死喰い人の男。

ハリーとシリウス。

 

二対二となった四人の決闘は互角だった。

 

その他、リーマスやアーサー、トンクス、キングズリー、マッド・アイ等。

あちこちで行われている騎士団と死喰い人による決闘によって、部屋には閃光が飛びかっていた。

 

刀原よりも遅れて現れた雀部は、そんな流れ弾が飛び交う危険極まりない戦場に取り残されることになったハーマイオニー達を守りつつ、時々やって来る死喰い人達を電撃で倒していた。

 

そして、この戦場で一番激しい決闘をしているのが刀原とベラトリックスだった。

 

刀原が呪文を瞬歩で躱し、お返しに打ち込めば、ベラトリックスも『盾の呪文』や短距離の姿くらましで防ぎつつ応戦する。

 

怒りの表情で呪文を連射するベラトリックスに対し、それらを躱したり防いだり、刀で切ったりして接近を図る刀原。

 

その刀原は始解していないが、刃は出している為、飛ぶ斬撃を放っていた。

 

ベラトリックスは『最大防御呪文(プロテゴ・マキシマ)』でそれを防いでいた。

 

まだ決着は着きそうになかった。

 

だが一方で、決着が着いた決闘があった。

 

ハリー達だ。

 

まずシリウスの呪文が男に命中し、男が吹き飛んだ。

 

そして迂闊にもそれを見てしまったマルフォイに対し、その一瞬を逃がさない様に練習していた*1ハリーが、得意の『武装解除呪文』を命中させたのだ。

 

吹き飛ぶマルフォイの杖。

 

「いいぞジェームズ!」

 

おそらく無意識にそう言ったシリウスが、間髪入れずマルフォイを吹き飛ばした。

 

「やった!」

 

思わずそう声を上げるハリー。

 

そしてそれを端目で見ていたベラトリックスは、苦々しい顔で刀原に呪文を打ち込んだ後、ハリーに杖を向けた。

 

「『アバダ・ケダブラ(息絶えよ)』!」

 

緑の閃光は真っ直ぐに飛び、ハリーに向かう。

 

それに気づいたシリウスがハリーを庇おうと体を動かす。

 

ハリーも気付く。

 

だが二人よりも早かった者が居る。

 

「神殲斬刀!」

 

解号無しで始解した刀原が、緑の閃光とシリウスの間に瞬歩で割り込んだのだ。

 

そして刀原は、正確に迫りくる緑の閃光を切り裂いた。

 

「な……死の、呪文を……」

 

ベラトリックスは愕然とする。

死の呪文は防御不能の呪文の筈だからだ。

 

だが、それは英国での常識だった。

 

断空で防げるし、斬魄刀で切れる。

 

古来より受け継がれてきた日本の魔術を前に、死の呪文など『ちんけな即死呪文』なのだ。

 

「俺との決闘の最中にハリーやシリウスを狙うとは、舐めたことしやがって」

 

刀原は怒気を隠さずにそう言った。

 

「だがおかげで射程には誰もいない。それが運の尽きだな」

 

そして徐にそう言った。

 

「はっ、お前の飛ぶ斬撃なんて防げる。雷とかも出ないみたいだしねぇ?所詮、お前のはただの刀さ」

 

ベラトリックスは吐き捨てながらそう言う。

 

「そうか、じゃあ防いでみな」

 

刀原はそう言い、ベラトリックスに斬魄刀を向けながら霊圧を高める。

 

「死の呪文を防いだぐらいで調子に乗るんじゃないよ!『プロテゴ・マキシマ(最大の守りよ)!』

 

「散れ」

 

ベラトリックスは確かに最大防御呪文を自分の体の前に張った。

 

それに対し、刀原は始解状態でただの斬撃を放った。

 

ただの斬撃を。

 

だがその斬撃は、ベラトリックスが張った呪文を容易く切り裂いた。

 

「ば、かな……」

 

ベラトリックスは信じられないと言った顔でそう言った。

 

そして右肩から左脇へ一本の線が引かれたベラトリックスは、前へと崩れ落ちた。

 

「悪いな、これこそが俺の始解の能力だ」

 

刀原はそう言って始解を解いた。

 

「あ、やっちまった」

 

そしてそう呟いた。

 

物言わぬ躯とかしたベラトリックスの後ろには、綺麗に縦に切り裂かれた壁があったからだ。

 

 

 

 

ベラトリックスが死に、マルフォイも気絶した。

 

つまり、指揮を執れる主要なリーダー格が居なくなったということだ。

 

未だにドロホフ等の有力者も残ってはいるが、戦場は収束に近づきつつあった。

 

そして遂に、決定的な援軍がやって来た。

 

ダンブルドアだ。

 

杖を高く掲げ、顔は険しかった。

 

ハリーは体の隅々まで電流が流れるような気がしたし、刀原は流石だなと思っていた。

 

ダンブルドアが現れたことは、その近くに居た死喰い人が叫んで仲間に知らせた事で広まり、多くの死喰い人が撤退を開始し始めた。

 

だがそれを許すようなダンブルドアではなく、次々と見えない糸のようなもので逃げ惑う死喰い人を捕縛し始めた。

 

「とりあえず、もう安心だ」

 

ハリーと共にいたシリウスはそう言った。

 

「あとはダンブルドアに任せるか」

 

近づいてきた刀原が、刀を収めながらそう言った。

 

「そう言えばハリー。予言だっけ?あの、持っていたガラス玉は?」

 

「マルフォイに……。あ」

 

刀原にそう指摘されたハリーは予言が今どこにあるか探し、そして見つけた。

 

マルフォイと共に吹き飛んだ予言をさりげなく回収したと思われる、小柄な死喰い人を。

 

小柄なその死喰い人はバレたと分かった瞬間、脱兎のごとく駆け出した。

 

「ま、待て!」

 

ハリーは反射的にそれを追いかけ始めた。

 

「待てハリー、一人では危険だ!」

 

シリウスはそう制止しようとするが、ハリーは止まらない。

 

追いかけようとするも、死喰い人の残党が阻み、追いかけられなかった。

 

「ちょい!お前が待て。おいコラ!」

 

刀原もそう追いかけようとするが、シリウスと同じように未だ戦意旺盛な死喰い人の男によって阻まれてしまう。

 

「邪魔だ!『瞬歩斬り』!」

 

鬱陶しそうにそう言った刀原は、瞬歩して死喰い人の眼前に迫ると、その勢いのまま横なぎに切り裂く。

 

それに全く反応出来なかった哀れな死喰い人の男は、防ぐ事すら出来ずに斬られた。

 

だがそのせいで刀原はハリーを見失ってしまった。

 

一応ダンブルドアが追いかけて行ったが……。

 

「全く、世話の焼ける」

 

刀原は霊圧探知を行い、ハリーの位置を探ると、その場所に向けて駆け出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
ちなみに、その練習相手が見せる隙はブラフであることが多い






背は違うが
瞳は違うが
声は違うが

分かってはいるのだが

それでも確かに

私は友と共に戦っていたのだ。





早いですが、ベラトリックスにはここで死んでもらいます。

何故って?

それはこの狂人女が登場人物を、結構殺しているからですね。

シリウスとかトンクスとか。

その為、殺される前に殺されてもらいます。

ゴメンね☆


そしてさりげなく生存したシリウス。

当初から生存させる気満々だったので、既定路線です。

良かったね。


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そしてお待ちしております。


では次回は

決着。今世紀最強と予言について

次回もお楽しみに。





卍解『大雷公霆天神社』


雀部雷華の卍解。

キャストリアの第三再臨をモデルとしています。

雷を魔法のように操り、落とす。

ロングソードによる接近戦も出来るが、真骨頂は息つく暇も与えない雷落としや放射。

その為、中距離戦を得意としています。


名前の由来は……。

雷公とはかみなりさまの別名。
雷霆とは激しいかみなりのこと。

社は要するに神社。

凄く悩みながら考えました。

オサレ度を僕にも下さい。
お願いします。



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死神、有言実行する。今世紀最強と予言



見えぬものだから

人は恐れ、怯え、希望すら見出す

慈悲か、酷かは死者が決めよ

我ら生者は歩き続ける

今わの際で後悔せぬように。








 

 

小柄な死喰い人が一心不乱に逃げ惑う。

 

余り体力が無いのか、ゼイゼイと息を吐いているが、それでもその足を止める事は無かった。

 

そんな男をハリーは全力で追いかけた。

 

そしてハリーは、目の前で懸命に走る男に見覚えがあった。

 

まさか……こいつは……!

 

やがて男とハリーは『アトリウム』までやって来る。

 

「『インベディメンタ(妨害せよ)!』」

 

ここまで来て逃げられるわけにはいかないと思い、焦ったハリーが『妨害呪文』を男に打ち込む。

 

呪文はがら空きの背中に命中し、男は盛大に転倒してしまう。

 

吹き飛ぶ予言。

 

それをあらかじめ予測していたハリーは、それを何とかキャッチし、確かにポケットへ入れる事に成功した。

 

ハリーは予想以上に上手くいった為にニヤリと笑い、男の方へと向き直る。

 

男は床に四つん這いになりながら、それでも醜く予言を探していた。

 

ハリーはそれに既視感を覚えた。

 

「まさかお前……ペディグリューか!?」

 

「……」

 

ハリーの指摘に男はビクッと動きが止まり、バツが悪そうに俯いた。

 

正解だったのだ。

 

ハリーは自分の指摘が正しいと分かった瞬間、怒りで目の前が真っ白になったような感じに陥った。

 

一昨年に僕がこいつを助けたのは、あくまでシリウス達が犯罪者になって欲しくなかっただけだった。

 

いわばこいつは、僕に命の借りがあるはずだ。

 

なのに……こいつはヴォルデモートを復活させるだけでは飽き足らず、予言という武器をヴォルデモートに捧げようとしていたのか。

 

両親の敵、こいつが居なければ……!

 

ハリーの心の中で、どす黒い復讐の心が宿る。

 

一方、ペディグリューはキョロキョロと周囲を見ていた。

 

床には何もない。

 

目的の物。

予言はどこだ?

 

ペディグリューはハリーを観察する。

 

そして見つけた。

 

ハリーのポケットの膨らみ、予言の場所を。

 

ペディグリューは耳を覆いたくなるほどの醜い奇声を上げ、ハリーへ迫った。

 

怒りでそれを察知するのが遅れたハリーは、ペティグリューの突進に堪え切れず倒れ込んでしまう。

 

そして……倒れた時に鳴った、パリンという音。

 

それに気が付かず、床の上で暴れまわる二人。

 

傍から見れば……小柄で小太りで後頭部が禿げてる男が、今だ少年の面影を残す青年に上から襲い掛かっている、という明らかに『事案』な場面だった。

 

そのうちハリーはペディグリューの目的がポケットの中にある予言だと分かり、奪われない様に必死で抵抗してペディグリューを蹴り飛ばすことに成功する。

 

立ち上がったハリーは、さらに怒りを募らせる。

 

なんと生き汚い男だろうか。

 

『本気にならなければ効かぬぞハリー?両親の仇、敵も同然の男だ……。お前には敵討ちの権利がある……!そうは思わないか?』

 

囁くような声がハリーの耳に入る。

 

そうだ、僕は……!

 

しかし、ここでふと我に返る。

 

この声の主は誰だ。

 

そして感じる、濃い死の気配。

 

ハリーは徐に振り向く。

 

「ほう、気付いたか」

 

恐ろしい蛇の様な顔は蒼白で、縦に裂けたような真っ赤な瞳孔がこちらを見ている。

 

ヴォルデモート郷がホールの真ん中に立ち、杖をこちらに向けていた。

 

「予言はどうした?」

 

ヴォルデモートの冷たさを感じる指摘に、ハッとなったハリーは急いでポケットの中を探る。

 

ここでハリーはようやく、切り札である筈の予言が砕け散っていたことに気が付いた。

 

そしてハリーがポケットをひっくり返すと、細かくなったガラスの破片がパラパラと床に落ちた。

 

「……何か月もの準備、苦労が徒労に帰すとは……我が死喰い人は情けない。そうは思わないか?」

 

その光景を見たヴォルデモートは、全てを察したようにそう言った。

 

刀原がここに居れば「全くもってそう思う」と頷いていただろうが、ハリーにはそんな余裕は無かった。

 

「さて、俺様がわざわざ此処まで来たにも関わらず、何も得られないまま帰るのは余りにも空しい。そこで、ポッター。お前の死を手土産としようではないか。『アバダ・ケダブラ(息絶えよ)』!」

 

ヴォルデモートの死の呪文に対し、ハリーは抵抗の為に口を開くことさえ出来なかった。

 

頭が真っ白になっていたからだ。

 

ところが、ハリーに呪文は当たらなかった。

 

アトリウムにあった黄金の魔法使い像が突如立ち上がり、台座から飛び降りてハリーを守ったからだ。

 

「なんと……ダンブルドアか!」

 

一瞬だけ目を見開いたヴォルデモートが周囲を見回し、そう言った。

 

ダンブルドアが、金色のゲートの前に立っていたのだ。

 

ヴォルデモートは即座に杖を上げ、緑色の閃光をダンブルドアに打ち込んだ。

 

ダンブルドアはくるりとその場所で一回転し、姿をくらます。

 

そしてヴォルデモートの背後に現れ、呪文を放った。

 

ヴォルデモートも姿をくらまし、噴水の脇に現れる。

 

「今宵、ここに現れたのは愚かじゃったなトム。じきに闇払いや仲間たちがやって来る」

 

「その前に俺様は居なくなる。そして貴様は……死んでおるわ!」

 

ダンブルドアから発せられる呪文はとても強く、毛が逆立つのをハリーは感じていた。

 

さすがのヴォルデモートも、その呪文を逸らすの空中から銀色の盾を取り出さなくてはならないほどだった。

 

その銀色の盾はゴングを鳴らしたかのように低い音を鳴らしたが、目に見える損傷は無かった。

 

「ダンブルドア、俺様を殺そうとはしないのか?そのような野蛮な行為は相応しくないと?」

 

「確かにお前の命を奪うだけでは……わしは満足せぬだろうが。それでもわしは、この一点においては……甘い人間でありたい」

 

「死よりも酷な事は無いぞダンブルドア」

 

「おまえは大いに間違っておる。死よりも酷いこともあると理解できんのが、昔からの弱点よの」

 

ダンブルドアとヴォルデモートの問答は平行線で分かり合えそうになかった。

 

「そうか、では間違っていると証明してみよ!」

 

ヴォルデモートはそう言ってハリーの方へ呪文を飛ばした。

 

ハリーは、まさか自分が狙われるとは思っておらず、それに反応することが出来なかった。

 

だがハリーは再び同じ人に救われることになる。

 

「縛道の八十一『断空』」

 

目の前に半透明の板が現れ、ハリーの身を守ってくれたのだ。

 

「死は時として救いとなる、って言葉。ご存知か?ヴォルデモート卿」

 

そして、そう言いながらハリーの目の前に現れたのは、刀原だった。

 

 

 

 

 

 

 

「貴様は……!」

 

「やあどうもこんばんは。会えて全く嬉しくないよ、頭のイカれた魔法使い殿。ここは君がいて良い場所じゃない、さっさとご退場願おうか」

 

苦々しい顔と共にそう言ったヴォルデモートの言葉に、刀原は相変わらずの感じでそう言った。

 

そしてハリーの周りに結界を張ると、刀を抜きながらダンブルドアの横に並び立った。

 

「今世紀最強の魔法使いには野暮かもしれませんが……助太刀致します」

 

「すまないのショウ」

 

そう言った刀原にダンブルドアは感謝するように言い、二人はヴォルデモートの方を向いた。

 

「……よかろう。二人共々、ここで始末してくれるわ!『アバダ・ケダブラ(息絶えよ)』!」

 

ヴォルデモートは激高するように言って、ダンブルドアに向けて緑の閃光を放つ。

 

「神殲斬刀!」

 

刀原は始解し、緑の閃光を斬り裂いて防ぎ、返す刀で飛ぶ斬撃を放つ。

 

ヴォルデモートは盾を残して姿をくらまし、それを躱す。

 

そして残された銀色の盾は、先ほどダンブルドアの呪文を防ぎ切った時とは違ってバッサリと斬り裂かれ、ヴォルデモートがそこにいた時の末路が容易に想像出来た。

 

 

 

刀原とダンブルドアのペアは、ヴォルデモートにとって厄介極まりないペアだった。

 

死の呪文をあっさりと斬り裂いて防ぎ、隙を見てはおそらく防御不可能の斬撃を飛ばす刀原。

 

そんな刀原が呪文を防いでくれるため、防御の事を一切気にすることなく強烈な呪文や変幻自在の呪文を使うダンブルドア。

 

注意を引く為ハリーの方へ呪文を飛ばそうとしても……そんな暇さえ得られず、たとえ成功しても先ほどの様に防がれることは明白。

 

そのハリーは「一歩たりとも、そこから動くんじゃねぇ!」という刀原の怒号を忠実に守っている。

 

一方の刀原とダンブルドアのペアも、ヴォルデモートの予想以上の粘りと強さに驚いていた。

 

尤も、刀原の方は卍解や九十番台、八十番台の鬼道が使用できないという制約がある為、仕方がないと言えばそうなのだが……。

 

ダンブルドアの呪文が殺傷力がそんなに高くないのも、致命打を与えられない所以だった。

 

「縛道の六十三『鎖条鎖縛』!」

 

しかし刀原が隙を見て放った太い鎖が、まるで蛇のようにヴォルデモートの体に巻き付いて動きを止めさせ、直後にダンブルドアが長く流れるような動きで杖を振り、泉の水を繭のようにヴォルデモートを包み込ませた。

 

わずかとは言えない間、ヴォルデモートは拘束されながらもなんとかしようと藻掻いて、さざ波ように揺れる顔のようにぼんやりとした影となり、水の繭は少し浮いて揺らめいている。

 

ダンブルドアはかなりの霊力(魔力)でもってそれを維持していた。

 

「君臨者よ・血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ・蒼火の壁に双蓮を刻む・大火の淵を遠天にて待つ」

 

そして好機と見た刀原が詠唱を開始する。

 

心情的には『黒棺』の一発ぐらいは食らわせてやりたいが、駄目と言われているので仕方がない。

 

「破道の七十三『双蓮蒼火墜』!」

 

刀原が放った蒼い炎は、ヴォルデモートがいる水の繭に着弾し、爆発した。

 

勝ったとハリーは思った。

 

水の繭は形を維持出来ずに凄まじい音と共に床へと落ちたが、中に居たヴォルデモートは焼き焦げていながらも健在であった。

 

直後、ヴォルデモートは特に疲弊している様子のダンブルドアに向けて、黒い魔力の奔流をぶつけようと杖を振った。

 

刀原はそれを見て直ぐにダンブルドアの前に立ち、刀で防ぐ。

 

だが、それはブラフだった。

 

ヴォルデモートは魔力の奔流を出しながらも、両手の中で空気を圧縮していたのだ。

 

そして今までのお返しとばかりに、叫び声をあげながらヴォルデモートはそれを炸裂させた。

 

圧縮されていた空気は開放され、強力な衝撃波となって刀原とダンブルドアに襲いかかる。

 

「どわっ!?」

 

前にいた刀原は直撃を受け、後ろに倒れ込むしかなかった。

 

それでも刀原が庇う形になり、ダンブルドアにはあまりダメージにならなかった。

 

周囲のガラスはあっけなく砕け散り、盛大な音と共に落ちる。

 

そして炸裂させた時に両手を上に掲げていたヴォルデモートが両手を重ねると、砕け落ちた大量のガラスが二人に襲い掛かってくる。

 

だが刀原と入れ替わる形で前に出たダンブルドアが半透明の盾を作り、ガラス片を白い砂に変えることでそれを防いだのだった。

 

 

 

ダンブルドアがヴォルデモートを見据える。

 

少し疲弊している様子だが、それでもまだまだ戦える状態だった。

 

刀原も立ち上がり、ヴォルデモートを睨む。

 

「あたたた……」と言いながらも、疲弊している様子は全く見られない。

 

そして、ヴォルデモートも二人を睨んでいた。

 

だが三人の中で一番疲弊しており……特に余裕が感じられる刀原を、苦々しそうに睨んでいた。

 

アトリウムは酷い有様で、滅茶苦茶だった。

 

「老いぼれてもなお、油断ならぬな?ダンブルドア。それに日本の死神、貴様も厄介極まりない……」

 

ヴォルデモートは苦々しい顔でそう言った。

 

「ダンブルドア、これ以上長引かせるのは得策ではないでしょう。……少し、本気を出します」

 

刀原は決断するように言った。

 

「あれを、するのかね?」

 

ダンブルドアが言った疑問に刀原は頷く。

 

「ほう。本気と来たか」

 

ヴォルデモートは笑いながら言う。

 

そこに余裕はなさそうだったが。

 

「ええ、怒られますが……まあ……相手が相手ですし?貴方のせいにすれば良いでしょう」

 

刀原はそう言ってダンブルドアの前に立つ。

 

「行きますよ?卍解…」

 

刀原はそこまで言って止まった。

 

何故なら、アトリウムの近くにある暖炉にエメラルド色の炎が次々と灯り、大勢の人がやって来たからだ。

 

先頭は、唖然とした様子のコーネリウス・ファッジ。

 

魔法省の役人が事態を聞いてやって来たのだ

 

「ッ」

 

ヴォルデモートは舌打ちし、直ぐに姿くらましして逃げ去った。

 

「やれやれ」

 

刀原はどこかホッとした様子で始解を解き、刀を鞘に納めた。

 

「……戻って来た。『例のあの人』が……戻って来た」

 

ファッジは呆然としながら、そう噛み締めるように言った。

 

「ここで、あろうことか……ここで!だ、ダンブルドア。と、トーハラ殿。な、え、ど、どう、して」

 

しどろもどろになりながら、ファッジはそう言った。

 

闇祓い達はどうするのかとキョロキョロと見渡し、ファッジの下知を待っている様子だった。

 

「君はその目で、わしやハリーが一年間言ってきたことが真実だと分かった筈じゃ。そろそろ現実を見るときじゃ!」

 

ダンブルドアはそう宣言するように言った。

 

ファッジは誤魔化すようにアトリウムの惨状を見て、ダンブルドアをチラリと見て顔を背け、刀原のいつもの笑み(誤魔化すんじゃねぇぞ?)を見て、項垂れた。

 

自分の目で見てしまい、周りの人間も見てしまい、他国の重鎮(刀原)も見てしまっている*1以上、これ以上の誤魔化しは出来ないと判断したからだった。

 

そして翌日、日刊預言者新聞の大見出しに『名前を呼んではいけない例のあの人、復活す』が載った。

 

 

 

 

 

 

 

『魔法省のアトリウム』や『神秘部の予言の間(雀部対ウルキオラ)』などは、滅茶苦茶にもほどがある被害となっており……完全復旧にどれだけの時間と労力と金が要るのか分からなかった。

 

とはいえ……死喰い人の多くが捕縛され、要注意人物であったベラトリックスの死亡も確認されたことは、今後の趨勢に大きな影響を与えられるだろう。

 

そんな中、事後処理などを魔法省の役人と不死鳥の騎士団に任せたハリー達は、ダンブルドアとホグワーツに戻ることとなった。

 

「君の学友じゃが……今宵の戦いでいつまでも残るような障害を負った者はおらん。まあ、明日や明後日まで医務室でお世話になる者はおるじゃろうがの」

 

校長室にてそう言ったダンブルドアに、ハリーは「良かった」と返そうとしたが、声が出せなかった。

 

誰一人も死者が出なかったとはいえ、自らが招いた事をようやく実感してきたからだった。

 

「……ショウ達は大丈夫でしたか?」

 

ハリーの呟きにダンブルドアはにっこりと笑い「大丈夫じゃよ」と言った。

 

刀原達はハリー達と一緒には戻らず、報告があるからと残ったのだ。

 

すると丁度そのタイミングで校長室の暖炉が灯り、刀原と雀部の二人がやって来た。

 

「ああ、ダンブルドア。破面出現の報を受け、来年度の派遣人員を大幅に増やしますが……問題無いですか?」

 

やって来て早々にそう言った刀原に、ダンブルドアは了承の意を込めて頷く。

 

「ではそのように。じゃあ雷華は戻っていいよ、疲れたでしょ?」

 

「じゃあお言葉に甘えてそうさせてもらうね。じゃあねハリー、お説教頑張って」

 

そして刀原がそう言えば、雀部はニッコリ笑って校長室を出て行った。

 

「騒がしくなりますよダンブルドア」

 

刀原はハリーの方を見ず、ダンブルドアにそう聞いた。

 

「それは構わぬが、此度の一件は儂にも責はある。お手柔らかにの」

 

ダンブルドアの懇願するように言った言葉に、刀原は全く当てにならない「善処します」とだけ言い、ハリーを見据えた。

 

ここで、ハリーは今夜の件が始まってから初めて、刀原をまじまじと見つめた。

 

そこには、怒り、呆れ、心配、安心などがあった。

 

「まず、言うべきことがあるんじゃないかな?我らが親愛なるハリー・ポッター君よ」

 

いつもの笑みすら浮かべず、無表情で腕を組みながらそう言った刀原に、ハリーはヴォルデモート以上の恐怖を感じた。

 

「……ご、ごめんなさい」

 

あ?

 

ハリーは緊張と恐怖のあまり、正座をしながらそうボソッと言ってしまう。

 

しかし、それを許す刀原はではなく……ドスの効いた声で即座にそう聞き返した。

 

「ごめんなさい!」

 

「よろしい」

 

そして今度は叫ぶように言えたハリーに、刀原は頷きながらそう言った。

 

「まあ、色々と言いてぇ事はあるよ。良く考えなかったのか?とか。別に不死鳥の騎士団以外の人……それこそ、残ってる教授達に知らせるべきだったとか。俺の忠告はどうしたのかとかな。だが、一言で済ますのなら……この、大馬鹿者が!!

 

刀原から発せられる怒気は以前ハリーが起こられた時*2よりも凄まじく、校長室にあるいくつかの道具にヒビが入るほどだった。

 

その道具たちの持ち主であるダンブルドアが、少なくとも「あっ(こ、壊れた……)」と言ったのをハリーは確かに聞いた。

 

尤も、そんなことに構っている暇も隙も、度胸も無かったが。

 

「俺も言えた義理じゃねぇがな。今回、お前が迂闊な行為をしたせいで、どれだけ多くの人に迷惑かけたか、心配させたか。分かってるよな?」

 

その言葉に、ハリーは俯いて「……はい」としか言えなかった。

 

「俺は言っていたよな?ヴォルデモートがお前との繋がりを利用して、お前を誘い出すかもしれないと。言っていたよな?言っていたはずだ!!

 

ハリーは頷く。

 

確かにショウはそう言っていた。

毎回閉心術の授業をする度に、言い聞かせるように。

 

なのに、僕は……のこのこと、あそこに誘いこまれてしまった。

 

「ハーマイオニー達が、お前が、死んでいたかもしれないんだぞ?シリウスやリーマスを始めとした不死鳥の騎士団のメンバーだって、死人が出ていたかもしれない。その時……誰が一番悲しむか、後悔の念を持つか。それはお前だよハリー」

 

ハリーは頷く。

 

事実、シリウスには死の呪文が命中しそうになったし、ハーマイオニー達だって少なくない傷を負った。

 

今回の戦いを無傷で切り抜けたのは、ダンブルドアと刀原と雀部しかいない。

 

「ハリー。君が死ねば、大勢の人が悲しむ。後悔する。もう、こんな真似はするな……。お願いだ」

 

刀原は悲しげな顔でそう言った。

 

ハリーは……その顔を幼い頃の刀原もしていたと、ここでようやく気がついた。

 

「ごめんなさい……」

 

改めて実感したハリーが、頭を下げて謝る。

 

すると刀原は腕を解き、ハリーの頭をくしゃくしゃと撫でた。

 

「まあ、とりあえず……良く頑張った。良く戦った。良くみんなを守った。と、褒めてもやるよ」

 

それはまるで『全く、手のかかる弟だなぁ』と言う兄のようだった。

 

「但し、二度とすんな。いいな?」

 

そしてそう言ってハリーの額にデコピンした。

 

めっちゃ痛かった。

 

 

 

 

 

刀原のお説教が終わり、ハリーは改めてダンブルドアから全てを聞くことになった。

 

窓の外は完全に朝となっていたが、ハリーはここで聞かねばずっと聞けない思い、ダンブルドアに説明を求めたのだ。

 

「十五年前。赤ん坊の君の額の傷跡を見た後、わしはそれが何を意味するのかを推察した。君とヴォルデモートとの間に結ばれた絆の印じゃと思い、そして……それは正しかった」

 

ダンブルドアの言葉に刀原とハリーは頷く。

 

「わしが君に『閉心術』を教えなかった理由は、まさにそれが理由じゃ。あやつが君を乗っ取っとって、スパイや殺害をさせようとするかもしれんと思ったのじゃ。そしてショウはわしの意を組み、君とセブルスの関係を鑑み、「自分が教える」と名乗り出てくれた。そしてわしはその提案に賛同した。そこには……もし君がヴォルデモートに完全に乗っ取られた場合、ショウなら『()()()()()()()()()という方法以外を採れる』との期待もあったからじゃが」

 

そう聞いたハリーは刀原を見る。

 

見られた刀原は頷く。

 

「君は努力した……それはわしも認める。ショウの教えも良かった。悪いのはわしじゃ。君とヴォルデモートとの繋がりの深さを見誤った。じゃが、これだけは言わせてほしい。わしにとっての最優先課題は、『君を生き延びらせること』じゃった」

 

ダンブルドアはそう言って長く息を吐いた。

 

「今宵失われた予言は、君とヴォルデモートとの関係の全てが詰まっていったのじゃ。何故と……疑問に思うじゃろう?何故、君は『生き残った男の子』になったのかを。このような過酷な目に合わなくてはならないといけないのだろうと……」

 

そして意を決したようにそう言った。

 

ハリーは息をのみ、刀原は答え合わせが出来ると思っていた。

 

「遂にその時が来たようじゃな。五年前に話すべきじゃった事、全てを。話すとしよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
おまけに、おそらく交戦している

*2
明確に怒られるのは二年生の時に、自動車で登校して以来となる






ようやく、はっきりと
真実を知るときが来たのじゃ

背けるでない
逃げるでない

酷なそれから。



原作では参戦していないペディグリューですが、ここで大抜擢です。

ちなみに彼は、刀原・ダンブルドア対ヴォルデモートの戦いが始まった直後に、鼠になって逃げました。


刀原が卍解すれば……ヴォルデモートもただでは済まされません。

ただ……まだ箱が健在なので、ここで斬り捨てると色んな意味で面倒くさくなります。

またヴォルデモートは、ダンブルドアに対してはあのように言ってますが、刀原には言えません。

理由は単純、言われるまでもなく容赦なく殺しに来てるからですね。

流石は薩摩ホグワーツの生徒……じゃない、護廷十三隊の隊長ですね。


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ありがとうございます。
そしてお待ちしております。


では次回は

死神と不死鳥の騎士団編 決着と終幕

次回もお楽しみに。




おまけ

『遣英救援部隊 部隊心得』

1、英国魔法省内及びホグワーツ城内での卍解禁止。

2、出向者、英国魔法省関係者に対し報復、抹殺等をする為の、卍解禁止。

3、戦闘以外の面倒事を解決する為の、卍解禁止。

4、戦闘以外の威嚇、見せびらかし、誤魔化す為の、卍解禁止。

5、邪魔な障害物を破壊する為の、卍解禁止

6、訓練時の、卍解禁止

7、お仕置き、脅しの為の、卍解禁止

8、1から7は卍解禁止だけじゃったが九十、八十番台の鬼道禁止も加える。

9、断空だけは許可しよう。

10、黒棺は威力を抑えれば……確かにこんぱくとじゃが……やはり駄目じゃ。

11、一応言っておくがの……ホグワーツ城内とは中庭や禁じられた森も含むのでな。

12、「「ええ~」」ではない、お主らが卍解したら周囲がえらいことになるじゃろうが。

13、面倒事を解決する時は、脳筋的ではなく、常識的に良く考えて行動せよ。

14、甘いのう、儂は対抗試合でお主らがどのような策を考えていたのかを知っておる。

15、聞いたぞ?迷路そのものを破壊する……お主らは何故その様な脳筋思考になったのじゃ?

16、儂を指差すでない、儂はもうちょっとすまーとにやるわい。

17、すまーとにやれば良いという訳ではないわ。

18、謀を巡らせているのは向こうも同じじゃ。その為、お主らも謀をして良い。

19、英国魔法省の謀は全て潰せ。

20、ダンブルドアの謀は……よく吟味して、潰して良さそうなものは潰せ。

21、出向者の抹殺は最終手段とし、かつバレないようにすれば良い。

22、出向者の企てに対しての妨害、論破等は大いにしても良いが……あまり外交問題に発展せぬ範囲でな。

23、訂正しよう、妨害に関しては大いにしてはならぬ。ささやかにせよ。

24、「「ええ~」」ではない。『ドアノブに永久粘着呪文』は、明らかにやりすぎじゃ。

25、寝ている間に部屋を地雷原にしたり、ぶーびーとらっぷを仕掛けるのはもっと駄目じゃ。

26、部屋の外に運んでやるのも駄目じゃ。

27、抹殺は最終手段と言ったであろうが。何故お主らは……そう、物騒なんじゃ?

28、儂を指差すでない。

29、あと、連絡は密にな。

30、最後に一言、良きに計らえ。

29、30以外破ったら……。
いろんな人の胃に穴が空きます。



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死神と不死鳥の騎士団編 決着と終幕



来るものは来る

逃れられはしない

ならば

来た時に受けて立てば良い。







 

 

「五年前。君に話すべきだったこと。それを話すときが来たようじゃ」

 

ダンブルドアは白状するようにそう言った。

 

ハリーはそれを聞いて思わず息をのみ、刀原は推察していた事への答え合わせが出来ると思っていた。

 

「わしの目的は君を『生き残らせる事』だった。そして五年前……わしの計画の通りに、君は無事にホグワーツにやって来た。だが……君は苦しみに耐えてきたし、完全に健やかという訳ではなかった。実の所、わしはダーズリー家の戸口に君を置いてきた時、こうなることは分かっておった。君に暗く、辛い十年の月日を過ごさせてきた事を知っておった」

 

それを聞いた刀原は、徐にハリーを見る。

 

五年前のハリーは確かにヨレヨレのボロボロで、酷い扱いを受けている子供と言う印象だったし、ダーズリー家での扱いは散々なものであるとハリーから聞いていたからだ。

 

「誰か適当な魔法使いの家族が、君を引き取る事が出来なかったのかと疑問に思ったじゃろう。勿論、喜んで手を上げ、それを名誉に思う家族は多かったじゃろうな。しかし……それは出来なかったのじゃ」

 

「ヴォルデモートから守るには役不足……というわけですか」

 

「それもあるの。ヴォルデモートは敗北したが、支持者達の中でも過激な者達はまだ捕まっておらんかったし、自暴自棄で暴力的になっていたこともある。じゃがそれ以前に、ヴォルデモートが永遠に去った……死んだとは思っておらんかった。必ず戻ってくると確信しておった」

 

「では、貴方自らが育てれば良かったのでは?」

 

「それもあまり有効的な手段とは思えん。ヴォルデモートは存命中の『魔法使いと呼ばれる(死神を除く)者達』の誰よりも広範な魔法の知識を有しておると思っておる。わしが強力な術で守っても、あやつがその力を取り戻した時には破られてしまうと分かっておった」

 

「日本は?我らなら守れると思いますが」

 

「それは、一時は頭に過ったの。護廷十三隊の元柳斎殿ならば安泰じゃとは思った。じゃが……ヴォルデモートを倒すには、どうしてもハリーの力が居ると思っておった。だから英国から出すわけにもいかんかったのじゃ。それに、死神にさせる(薩摩ホグワーツ化させる)気はなかったしの*1

 

「だから、ダーズリー家でしか出来ない特別な護りに頼らざるえなかった……と?」

 

「さよう、わしは苦渋の決断の末じゃが……ハリーの母上の護りを頼ったのじゃ。そしてそれを維持するために、ハリーの母上のたった一人の血縁である叔母の所へ届けたのじゃ」

 

話の内容がまだ良く分からないが、どうやら自身の護りの維持にはダーズリー家が居るらしい事は分かった。

 

だから自分はシリウスと暮らせないんだ。

 

ハリーは、自身が忌み嫌っているダーズリー家にそんな事情があることに対し、複雑な感情を抱いた。

 

「なるほど。数年前にハリーを日本へ連れていこうとした時、止められたのはこれが理由ですか」

 

「その通りじゃ。そこに、ダーズリー家に一年に一度だけ帰る必要がある。最初から日本に連れて行かれるわけにはいかんかったのじゃ」

 

そして、刀原とダンブルドアとの会話に驚いていた。

 

どうやら自分は……知らぬ間に、あと一歩の所で……憧れの日本行きを逃していたらしい。

 

「話を戻すとしよう……。五年前、君が()()()()()ホグワーツにやって来た。ちやほやされた王子様ではない、まともな男の子として。そして……最初の年に起きた一件は憶えておるじゃろう?君は向かって来た挑戦を見事に受けて立ち、解決に導いた。ヴォルデモートと真正面に対決した。仲間と共に……わしは誇らしかった」

 

ダンブルドアはそう言ったが、刀原はそれをジト目で返していた。

 

クィレルをのさばらせ、ハリーが解決するように導いていた張本人(誘導していた黒幕)が何を言っているのかと。

 

一応、黙っておくが。

 

「ホグワーツ二年目の時、君は大人の魔法使いですら立ち向かえぬような挑戦を受けた。わしの想像を遥かに超えるほどに。たとえ、大人顔向けの実力を誇る友人が居たとしても、君は果敢に立ち向かい……再び勝利した」

 

確かにあれは凄かったと、刀原は思い出していた。

 

ロクな鬼道も魔法も使えず、ただの剣でバジリスクと対峙出来る者が、日本に果たして何人いる事やら……。

 

「そして三年目の時も、昨年も……君は困難に立ち向かい、乗り越えてきた。……わしは知っておった。ショウには既に言っていたが……ハリー、君には過酷な運命が待ち受けていると……知っておったのじゃ。じゃが……わしは知っておったのにも関わらず、君に全てを話さなかった」

 

ハリーは刀原の方を思わず見た。

 

刀原は頷いた。

 

「君は幼い、若すぎる。荷が重すぎる……。そう、思っていた。わしは、君を愛おしく思い過ぎていたのじゃ。幸せでいる方が良いと、真実を知るよりも良いと思っていたのじゃ。ショウに言っていたのは、君を守ってもらう為じゃ。ショウは強い。そんな彼が傍に居るだけで、大抵の障害を排除できる」

 

ダンブルドアはそう言って息を吐いた。

 

「白状せねばなるまいの」

 

 

 

 

 

 

「全ては『ヴォルデモートを倒す者が現れる』という予言から始まった」

 

ダンブルドアはそう言って二人に『憂いの篩』を見せた。

 

『闇の帝王を打ち破る者が近づいている……。七つの月が死ぬとき、帝王に三度抗った者達に生まれる……。そして闇の帝王は、その者を自分に比肩する者として印すであろう。一方が他方の手にかかって死なねばならぬ。一方が生きる限り、他方は生きられぬ……』

 

シビル・トレローニーが、二年前に二人に見せた声でそう言っていた。

 

「ヴォルデモートを倒せる唯一の存在が、七月末に、ヴォルデモートから三度逃れた者から生まれる……それがハリーだと?」

 

「奇妙なことじゃが、ハリーではなかったかもしれんのじゃ。実は……この予言に当てはまる赤ん坊は二人いたのじゃよ」

 

刀原が冷静に分析しながらそう言ったが、ダンブルドアは首を横に振ってこう言った。

 

「勿論、一人はハリーじゃ。あと一人は……ネビル・ロングボトムなのじゃ」

 

「ネビルが!?」

 

ダンブルドアが挙げた意外な人物に、ハリーは驚く。

 

しかし、刀原は腕を組んで考え込んでいた。

 

「では……予言の子はネビルだったかもしれないと?でも……そうか。『その者を自分に比肩する者として印すであろう』……結局、刻まれたのはハリーだった」

 

「流石じゃのショウ。そう……最終的に、ヴォルデモートはハリーを選んだのじゃ。純血のネビルではなく、自分と同じ混血のハリーを選んだのじゃ。おそらく、ハリーの中に自分自身を見ていたからじゃろうな」

 

「ですが、であればなぜ赤ん坊の時に襲ったんですか?どちらが危険か見極めてからでも……」

 

「それはのハリー、あやつが聞いたのは最初の部分だけだったからじゃ。印をつけてしまうという危険性を、あやつは手に入れられなかったのじゃ」

 

「なるほど。間抜けですね」

 

「それをきっぱり言えるのはショウだけじゃ」

 

「え?」

 

 

 

「予言を聞いたのはわしじゃ。そして……君が将来、間違いなくヴォルデモートと対峙するということが分かっておった。だからこそ、わしは先に言った手段で君を生き残らせる方法を考えた。そして、ハリー。君を強く、立派な男の子にするように導かなくてはならないとも考えた」

 

ダンブルドアが苦い顔をしながらそう言った。

 

「許してほしいとは言わぬ。罵って構わぬ。じゃが、分かって欲しい。この学校開闢以来、最大の責務と重荷を背負った君を……わしは見守り、そして、それに負けぬ強さを持って欲しかったのじゃ」

 

謝罪するように、懇願するようにダンブルドアはそう言った。

 

「まず……わしは、君をより近くから見て、そして守ってくれるであろう子を探した。無論、そうなれと言った訳ではない。そうなって欲しいと思った。そして……わしは考えた末に、マホウトコロへ手紙を出した。丁度良く、交流の話があったからの。留学に来てくれないかと手紙を出した」

 

それを聞いたハリーは、再び刀原を見た。

 

その刀原は……うっすらと聞いていたとはいえ、苦々しい顔をしていたが。

 

「駄目で元々のつもりじゃった。じゃが……留学の話は通り、そしてやって来たのは……ハリーも知っておろう?当時のマホウトコロで最強と謳われ、護廷十三隊隊長候補のショウだった。指定したわけではない。じゃがわしは、内心でほくそ笑んでいた。予想以上の子が来たとな。ショウはわしの想像を遥かに超える実力と、聡明さを兼ね備えておった」

 

「ショウが来たのは……ショウの事情とダンブルドア先生の思惑が、偶然にも一致したから」

 

「そして起こった一年目の事件。誘導したわけではない。どこかのタイミングで、賢者の石を隠さねばならないと考えていたのは間違いない。あやつが狙っているのは読めていたからの。じゃが……わしはそれを利用し、ハリーの強くしようと考えた」

 

「そ、そんなことが。僕、知らなかった……」

 

「わしの狙いは成功した。そして、君はわしの期待を超える覚悟と勇気を見せてくれた。間違いは……悪辣ともいえるわしの狙いと、ショウの聡明さを読み間違えていたことじゃ」

 

「ショウの聡明さ……?」

 

「最終的に全てバレたのじゃ、ショウにの。わしは悪辣にも、黙っているように頼んだ。勿論、ショウの保護者……護廷十三隊の皆さんからのお叱りは受けた」

 

「バレた……って」

 

「ハグリッドの杜撰さだよ。ハリーに関心を持たれたくないなら……一緒のタイミングじゃなくて、別のタイミングで賢者の石をグリンゴッツから引き出せば良い。それに、ハグリッドの性格上、計画を漏らすかもしれないから……情報も最初から渡さなくていい筈だ。三頭犬を借りるだけなら、賢者の石の件は黙っていればいいからね。現に、俺たちが得た情報のほとんどは……ハグリッドが漏らしたやつだっただろ?」

 

「確かに……」

 

「罠だって、一年生が何とかクリア出来るレベルっていうのがそもそもおかしい」

 

「ショウの言う通りじゃ。わしは、君が……君の仲間たちが解決することを望んだのじゃ。全てが終わった後、ショウはこれらの推理を突きつけ、わしは肯定した。そのうえで、ハリーを守ってくれるよう頼んだ。以後、わしの身勝手な企ては全てショウに話すことにもした」

 

「ショウは全て知っていたの?」

 

「予言の事は知らなかったな。何かしらの因果関係があるのは予想していたが。そしてそれ以外の企てについては……」

 

「それはわしが話そう。それ以降の企ては無い。あったとしても、ショウに潰されておる。順にいこうかの……。秘密の部屋の件は全くの予想外で、君の範疇を超えておることは目に見えておった。死人が出なかったのは不幸中の幸いじゃし、わしも事件解決に全力を傾けた。君とショウがバジリスクを討伐したと聞いた時は、嬉しさより驚きが勝った」

 

「シリウスの件は大体予想通りじゃったが、わしではシリウスの無実を勝ち取る事は出来なかった。君がピーター・ペティグリューを生かしたことが、最大の証拠になったのじゃ。それでも、わしの予想では屍になっている(刀原が斬り捨てる)と思っていたがの」

 

「昨年も全くの予想外じゃった。君とショウが力を合わせて切り抜けたんじゃ」

 

「そして今年、わしの企ては……ショウの策謀と君の人徳と覚悟でひっくり返った。わしの予想では……わしはつい先ほどまでお尋ね者になっていた筈じゃし、それを覚悟しておったのじゃが。実の所……今年は企てのことより、ファッジとヴォルデモートに掛かり切りでの。ショウに任せておったのじゃ」

 

ハリーはこれを聞いた瞬間、一応謎の存在であった『S・R』の正体を確信した。

 

「わしが真の黒幕と言われておかしくはないし、その責は痛感しておる」

 

ダンブルドアは独白をこう締めくくった。

 

「ハリー、例えダンブルドアから言われなくとも……俺は君の友であった筈だし、弟分のつもりだ」

 

ショウもそう言った。

 

それは、ハリーだって思ってる。

 

ダンブルドアの策謀もショウの思いも、全部自分の為だったと、痛感していた。

 

ハリーは、それを噛み締めるようにゆっくりと頷いた。

 

 

 

 

翌日。

 

「『名前を言ってはいけない例のあの人 復活す』『コーネリウス・ファッジ魔法大臣 遂に辞任か。後任はルーファス・スクリムジョール?』『例のあの人が復活したという噂は事実無根 あれは何だったのか?』……ね。だいぶ騒いでんな」

 

「そりゃあ、パニックになるには十分な真実だからでしょうね……」

 

医務室で新聞を読みながら呑気にそう言い合っていたのは、刀原と雀部だった。

 

 

英国魔法省内部で戦闘があった事が正式に確認され、しかも破面(アランカル)の上位陣である十刃(エスパーダ)が二名もいた。

 

そして戦場になった神秘部の予言の間は大惨事となっており、復旧には相当な金と労力と時間が必要と思われていた。

 

ただでさえ痛いはずのファッジの胃を、さらに痛めさせるには十分だろう。

 

尤も。実際の犯人は別にいるのだが……。

 

教えたら外交問題だし……。

 

総隊長の拳骨(ばっかもーん!)が降ってくるのは目に見えている。

 

現場検証した者は(惨状を見た刀原は)それを(雀部)ジト目で見ていたが(これやったの、お前だろ?)

 

そういう真実はさておき、そんな大惨事をたった二人の十刃が起こしたという事実(公式発表)は、英国魔法省に激震を走らせるのに十分だった。

 

ファッジは直ぐに日本へ連絡した。

 

二人限定?

ダンブルドアとの繋がり?

 

そんなものなど、もうどうでも良い。

 

ファッジは、隊長格四名の緊急増派を要請した。

土下座せんばかりに。

 

というか……日本魔法省外務部にやってきた使者は、日本での滞在が長い者だったため……実際にしたらしい。

 

そこに恥とか外聞とか、プライドとかは皆無だった。

 

だが……悲しいかな。

 

日本の回答は『明確な拒否(あ?今更何言ってるんだてめー?)』だった。

 

 

ーーーーーー

 

『人数を絞れ』言うたんは其方さんやろ?

 

それなのに……。

 

何を今更、ガタガタ言うてはんの?

 

要望通り、わざわざ二人に絞って派遣したんや。

 

それで満足しいや。

 

あ、指揮権は変わらずうちが持ってるんで。

 

越権せんよう、気ぃつけてな?

 

以上、原文のママ。

 

ーーーーーー

 

 

乱菊曰く、使者の人は半泣きだったらしい。

 

日本魔法省のトップが、霊圧を出しながらニッコリ笑ってそう言えば……そうなるのはしょうがないだろう。

 

 

 

なお……一応、一応元柳斎に話を通した。

 

答えは『否じゃ(何を言っておるか)』だった。

 

ファッジは泣いた。

 

今までのツケを精算するときが来たのだ。

 

 

 

 

「で、総隊長達はなんと?」

 

雀部は、新聞を読み終えた刀原にそう聞いた。

 

「二人とも帰国だとさ。早急に諸々のことを話さなくちゃいけねぇからな」

 

刀原は肩をすくめながらそう言った。

 

「今回手に入れた情報もそう、奴らの力量もそう、頭のおかしいイカれた魔法使い達(ヴォルデモートと狂った下僕達)のこともそう。現地の情報こそ重要だってさ」

 

十刃との戦闘記録。

いると分かった穏健派。

ヴォルデモート、賊軍への感情。

 

それらは重要な情報だ。

 

出来るなら……今すぐにでも二人を日本へと帰還させ、今後の対策会議を行いたい。

 

それが上層部の思いだった。

 

「私たちが帰るのは分かりましたが……良いんですか?私たちが居なくなれば、誰が虚を倒すんです?」

 

雀部は、顔をしかめながらそう言った。

 

心なしか縮小しているとはいえ、今も虚が出現していることは変わらない。

 

それ故に……二人が居なくなれば、ホグワーツは虚や破面達によって滅茶苦茶になるかもしれない。

 

雀部がそれを心配するのは当然だった。

 

「それについては……心配無いらしい」

 

そんな雀部の心配を理解しつつ、刀原はそう言った。

 

「交代要員でも来るんですか?」

 

「ああ、確か……矢胴丸リサさんと六車拳西さんをリーダーとした、臨時部隊が来るらしい」

 

「それなら、問題無いですね」

 

刀原が言った情報に、雀部は安堵する。

 

矢胴丸リサは前八番隊副隊長。

 

六車拳西は前九番隊隊長。

 

戦力的にも、心配いらない布陣だろう。

 

……だが、二人には別の心配もある。

 

「……あの方々。英語、出来るんでしょうか?」

 

「最悪……それ系の引き継ぎをしなくちゃな」

 

二人は祈るしかなかった。

 

そして、夏休みに入る前にやって来た二人は……。

 

「英語?出来るわけ無いやろ。アイ、キャン、ノット、スピーキング、イングリッシュや」

 

「無理だな。すまん、さっぱりだ」

 

と言った。

 

現実は非情だった。

 

「矢胴丸さん……実は出来るんじゃね?」と思ったのは、二人の秘密だが*2

 

 

 

 

 

 

ハリーは……まあ、毎年恒例なのだが……憂鬱になっていた。

 

ダーズリー家に帰らなくてはならない理由がはっきりしたとはいえ、心情は複雑だったし、理由が分かったところで楽しみになったわけでもないからだった。

 

刀原達は凄く忙しそうにしていた。

 

ロンドンに何回も行っては呆れた表情で帰って来るし、日本語で言い合っては項垂れていたり、頭を抱えていたりしていたし、紙にずらずらと日本語で何かを書いていた。

 

そして……そんなこんなで学期が終わる直前の日。

 

刀原はハリーに「ちょっといいか?」と言って、空き教室に連れ出した。

 

来年のことかなと油断していたハリーは精神的奇襲に遭う。

 

空き教室にはマルフォイが居たからだ。

 

彼の父、ルシウス・マルフォイが神秘部の戦いに参加し、そして捕まったというのは周知の事実になっていた。

 

それ故に、ハリーはマルフォイと接触するのは極力避けていたのだった。

 

「何故ポッターがいる?」

 

会った瞬間に『 揉め事(父上の敵ぃいい!) 』になると踏んでいたハリーだったが、彼の予想とは裏腹に、マルフォイの表情や態度は変わっていなかった。

 

「当事者の一人だし、事情を知っていたほうが利点になると思ってね」

 

刀原はマルフォイにそう言った。

 

マルフォイは半ば呆れた様に「まあ、いいか」と言って、懐から手紙を取り出す。

 

「父上からだ。「どうかよろしく」と言っていた」

 

マルフォイが差し出した手紙は、蝋封がされた高級感漂う物で、ハリーはそれがとても重要なものだと瞬時に察した。

 

「なるほど……まあ、出来なくはないけど……」

 

刀原はその手紙を読み、そう言った。

 

「……ハリーにも読ませていいか?」

 

やがて読み終わった刀原は、マルフォイにそう聞いた。

 

「……まあ、良いだろう。その方がこちらの事情を理解出来るだろうからな」

 

マルフォイは少し悩んだ素振りを見せた後、頷いた。

 

そしてハリーは、刀原に渡される形で手紙を読み、目を疑った。

 

要約すると……。

 

自分の身はどうなっても良いので、妻のナルシッサと息子のドラコの命を助けること。

ヴォルデモート陣営の情報を提供すること。

作戦に参加した際は、極力何もしないこと。

特にドラコの保護をしてほしいとのこと。

 

その余りにもな内容に、ハリーは罠だと思ってしまうのも無理はないだろう。

 

「ショウ、これって……」

 

ハリーは刀原を見る。

 

その刀原は、腕を組んで考え込んでいた。

 

「……とりあえず、ダンブルドアに共有しよう。日本にマルフォイを連れてく訳にもいかないからな……。やはり、不死鳥の騎士団を頼るほかないな」

 

刀原はそう言って、マルフォイを見る。

 

そのマルフォイは既に覚悟を決めていたらしく「よろしく頼む」と、刀原とハリーに頷いたのだった。

 

 

 

 

 

 

翌日、ハリー達はホグワーツ特急に乗っていた。

 

久しぶりに列車に乗れた刀原達も交え、ハリー達の話題は尽きない。

 

セドリックとチョウが婚約したことが、DAのメンバー全員に共有されたからだ。

 

その他にも頭のイカれた魔法使いの情報や、注意事項、今後の動きなども話し合われた。

 

そしてキングズ・クロスが近づいてくると、ハリーの憂鬱な気持ちは酷いものになっていた。

 

しかし、そんなハリーを歓迎する一行が来ていた。

 

マッド・アイやシリウス、ルーピンを筆頭とした不死鳥の騎士団のメンバーだ。

 

「護衛か?」

 

「それもあるけど……ね」

 

刀原がルーピンにそう聞けば、彼は端目でハリーを迎えに来ていたダーズリー家を見る。

 

「なるほど。警告……いや、脅迫か」

 

刀原はルーピンの態度で全てを察した。

 

そして……。

 

「だったらいい方法がある。俺に任せてくれ」

 

と言った。

 

ルーピンはそんな黒い笑みを浮かべる刀原を嬉しそうに見て「じゃあ、ショウに任せるとしよう」と言った。

 

かくして警告と言う名の脅しを引き受けた刀原は、マッド・アイやシリウス等を引き連れてダーズリー家の方へ向かった。

 

ハリー達はそんな一行をハラハラと見ていた。

 

刀原と雀部が、あの黒く目が笑ってない笑みを浮かべているときは、必ずと言っていいほど誰かが不幸な目に遭うと学習していたからだ。

 

「こんにちは。ダーズリー家の皆さんですね?」

 

ニコニコといつもの笑みをしながらそう言った刀原に、バーノン・ダーズリーはビクッとなりながら「そ、そうだが?」と言った。

 

「始めまして。(わたくし)、ハリー君の友人で……『日本国 護廷十三隊 三番隊隊長』兼『日本魔法省 遣英特使』兼『在英国日本国大使館 特別特魔大使』の刀原将平と申します」

 

ずらずらっと出た刀原の役職に。ダーズリーは「ヒエッ」という情けない声を上げた。

 

そして名刺を受け取り、また「ヒエッ」と言った。

 

しかし、そんな態度を取っているのはダーズリーだけだった。

 

マッド・アイ達は刀原の役職を関心しているかのように頷き、ハリー達は懐かしさを覚えていた。

 

それら周囲を置いていき、刀原は警告(脅し)をする。

 

「貴方方が過去にハリーに対して行った行為は、明らかに虐待のそれです。栄光ある英国のご家庭が、いまだそのような時代錯誤な教育をしているとは……我々日本側は、いささか驚いている次第です。日本国としては、大事な同盟国である英国の英雄、ハリー・ポッター君がそのような目に遭っていることに大変憂いを感じております。ここに、正式的に『遺憾の意』を表明します。そして今後、ハリー君がまたあのような目に遭っていると判明しましたら……日本国大使館を通じて、正式に抗議と報告をイギリス政府に伝えさせていただきますので……そこのところ良しなにお願いしますね?」

 

つらつらとそう言った刀原に、ダーズリーはしきりに頷くしか出来なかった。

 

「ご理解いただけたようで何よりです」

 

ダーズリーの反応に満足した刀原は、最後にそう締めくくった。

 

「ではなハリー。出来たら一か月後にな」

 

「出来なかったらホグワーツで会いましょうね」

 

刀原と雀部は、そう言ってキングズ・クロスを去っていた。

 

ハリーはそれを見送りながら、追撃の脅迫をしているシリウス達の元に駆け寄った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1

もしハリーが日本で育てられた場合、下手すれば英才教育(お主も死神になるのじゃ!)を受けることになる。

 

流石にそれは避けたい…というかやめて欲しい、勘弁してくださいというのが、ダンブルドアの嘘偽りない思いだった

*2

「喋れないなら……アイム、ノー、スピーク、イングリッシュとかじゃないか?」

 

「あのカタコト、わざとのような気が……」

 

と思ったのが理由である。

 

実際の真相は藪の中だが






奴には無いものを、僕らは持ってる

愛する者
信頼出来る友

そして

守るべき価値があるものだ。



ダンブルドアは稀代の策士ですが、自身の過去が邪魔をして後手後手になってますよね。
まあ、しょうがないと言えばしょうがないですが……。

ある意味政治の章になった本篇。

次の編はそんなことにはならない……筈。

あ、昨今話題の『あれ』について、おまけ…あります。


感想、ご意見、ご質問、評価、お気に入り登録。
ありがとうございます。
そしてお待ちしております。


では次回は

死神と謎のプリンス編 開始となります。

次回もお楽しみに。





おまけ


巷で話題の『薩摩ホグワーツ』なる言葉と存在について、某一般死神の緊急記者会見。


『薩摩ホグワーツという言葉が流行ってますが、お二人との関係性は?』


「ありません。僕らは死神であり、薩摩ホグワーツ生ではありません」

「出身も、生まれも育ちも由緒正しき瀞霊廷です。薩摩ではありません」


『薩摩ホグワーツ生は、呪文を打たれる前に敵を切るらしいですよ?』


「薩摩ホグワーツ生じゃなくても出来ます。死神にとって、必須スキルなだけです」

「私達はチェストしません」


『刀を持ってますよね?そこから雷とか、切れる刃とか出してますよね?やっぱり杖(刀)なんじゃないんですか?』


「これは斬魄刀です。薩摩ホグワーツ生が使う杖(刀)ではありません」

「私達は魔法(物理)はしません。鬼道と剣術と、西洋魔法を使うんです」


『しかし、pixivとかで書かれている内容。……お二人でも出来ますよね?』


「出来ることは否定しません」

「ですが、あれほどではありません。私達は規律を守る護廷十三隊です」


『証言があります。お二人が禁じられた森で『修行』と称して出入りをしたり、そこから時折爆音がしたり、絶叫に似た声や剣戟の音が聞こえると』

『やっぱり、お二人は薩摩ホグワーツ生ですよね?』


「修行と称しではありません。修行です。出入りに関しては、ダンブルドア校長から正式な許可を貰ってます。無断ではありません」

「爆音は鬼道や斬魄刀です。絶叫に似た声は、霊圧を高めているだけです。間違っても猿叫ではありません。剣戟の音は文字通り、剣戟の音です」


『やっぱり薩摩ホグワーツ生じゃないか!』


「違います」

「私達は死神です」


『でも敵を切ったり、敵を盾の呪文(プロテゴ)ごと切ったりしてますよね?』


「死神としては当然です」

「出来て当然です」


『我々、普通のホグワーツ生は……それは出来ないのですが?それでも薩摩ホグワーツ生ではないと?』


「「死神です。薩摩ホグワーツ生ではありません」」


だ、そうです。
皆さんはどう思います?



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死神と謎のプリンス編
死神、日本にて。会議と準備




熱く、激しく

黄金に輝き、美しく

気高く、気品あるそれは

不埒者に裁きを下す

(あま)の使いのよう。












 

 

《親愛なるハリーへ

 

 無事か?

 ご飯ちゃんと食べてるか?

 

 そちらが益々きな臭くなっていると聞いているし、報告も受け取っているよ。

 

 だから一度、英国に行くことになりそうだ。

 

 そっちの新大臣、スクリムジョール氏との会談や調整もしなくちゃいけないからね。

 

 もしかしたらその時会えるかもしれないから、期待しない程度に期待しておいてくれ。

 

 

 

 こちらの戦況はぼちぼちだ。

 

 向こうの主力は傭兵崩れの死神で、意外と面倒だけど……あんな奴らに負ける護廷十三隊じゃないからな。

 

 そこは安心してくれ。

 

 だけど、滅却師が厄介極まりないな。

 

 俺もベレニケとか言う、なんかごちゃごちゃと異議唱えてきた奴と戦ったよ。

 

 安心しろ、そいつは瞬殺した。

 

 だけど、蒼都って奴は難敵かもしれん。

 

 始解してないとはいえ、俺の斬魄刀で斬れないだなんて……ちょっと驚いたよ。

 

 まあ、こちらにも援軍の第一陣として米国から来た『石田雨竜』っていう日本人で正当な滅却師と、『バズビー』っていう赤いモヒカン男と『バンビエッタ・バスターバイン』っていう爆撃女がいるしね。

 

 ってか、滅却師って変人が多いのかな?

 

 バズビーは某世紀末のモヒカン(ヒャッハー!の奴)だし。

 

 石田って奴は真面目なんだけど、黒崎となんかよく揉めてるし。

 

 バンビエッタは高飛車だし。

 

 バンビエッタと雷華がマジ喧嘩したし。

 

 ……最終的に、バンビちゃんって呼んでるけど。

 

 何あいつら、世紀末じゃん。

 

 世紀末か、今年1997年だし。

 

 早く来てハッシュヴァルトさん、あいつらの統率執って。

 

 あと、噂なんだが……。

 

 向こうに怪物みたいな奴が……加わったんじゃないかって話だ。

 

 名前は……確か『更木』とか言う奴だ。

 

 

 

 話が逸れたけど……。

 

 とりあえず……気を付けろハリー。

 

 不死鳥の騎士団の主要メンバーに戦死者が居ないのは喜ばしいが、決して油断するな。

 

 今年もホグワーツ……いや、英国に派遣される部隊『遣英救援部隊』も相応の戦力で行く予定だ。

 

 ちなみに俺が部隊長になった、やったね。

 

 まあ、会えたらゆっくり話そう。

 

 

 ではな、ハリー。

 

 無事に夏を乗り越えてくれよ?

 

 

 君の友人 刀原将平》

 

 

 

 

刀原達が日本に帰国すれば、直ぐに隊首会が行われた。

 

そしてその会議では多くの情報が共有され、多くの議題が検討された。

 

まずヴォルデモートが正式に復活したことを受けての対応や、それに関連する各国との協議について。

 

日、米、仏、独の魔法界が共同声明を発表し、場合によっては闇祓い(討伐部隊)を派遣すること。

 

特に日本魔法省と米国魔法評議会(マクーザ)は、互いに連携を強めることを確認し合った。

 

次に破面について。

 

刀原が持ち帰った『十刃の中には穏健派がいて、それらはこちらとの和議を結んでも良いと考えてる』という情報は、二正面作戦をしている護廷十三隊にとって大きな情報となった。

 

勿論『叩き潰すのは当然(敵ならば斬れ、斬り捨てぃ!)』というのが護廷十三隊の姿勢なわけだが、それでも奴らが油断ならぬ(容易く倒せぬ)敵であることには変わりないため、『和議が結べるのであれば、結ぶのが良い』という結論となった。

 

次に『賊軍』との戦況について。

 

賊軍の主力が傭兵くずれの死神や魔法使いの為、護廷十三隊はそこまで苦戦して居なかった。

 

しかし、賊軍についている『星十字騎士団を追い出された過激派』の滅却師が中々の手練れであり、一部の者は隊長格レベルの強さを持つらしい。

 

刀原もその会議が終わった後『ベレニケ・ガブリエリ』とかいう滅却師と『蒼都』という滅却師と戦った。

 

ベレニケとかいう滅却師に関しては、刀原曰く「なんかいきなり自分の能力を悠長に説明してきたから、速攻で接近して首を刎ねた」とのことだ。

 

しかし蒼都に関しては、始解していないとはいえ刀原の斬魄刀(斬刀)の刃が通らないという、恐るべき硬さを持った敵だった。

 

尤も、その場はそれで終わりとなり、刀原の始解が通じないレベルの硬さかどうかは分からないままだが。

 

そして会議中に入った『更木』『班目』『綾瀬川』という新たな手練れの情報。

 

特に『更木』という敵は、戦った黒崎達曰く『あれはもう怪物』とのこと。

 

「今後も、油断禁物で当たれ!」

 

元柳斎のその下知を最後に、会議はひとまず終わったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

刀原達が帰国して二週間後、激化する賊軍との戦争に新たな援軍がやって来た。

 

米国に拠点を持つ星十字騎士団からの三名の援軍は、若い世代に移行しているという同騎士団の団長『ユーグラム・ハッシュヴァルト』の言う通り、若手のメンバーだった。

 

唯一の日本人で「僕は正統派の滅却師さ」と言った、知性に全振りしたハリーようなインテリ眼鏡。

『石田雨竜』

 

雀部が一目見て「ニワトリ?」と呟いた、赤い髪色をしたモヒカン。

『バザード・バズビー・ブラック』

 

ドヤ顔で挨拶した高飛車女。

『バンビエッタ・バスターバイン』

 

石田(インテリ眼鏡)は黒崎と井上が、バズビー(モヒカン)は阿散井と朽木ルキアが案内している。

 

そして残ったバンビエッタ(高飛車女)を刀原、雀部が案内していたのだが……。

 

「こんな子供まで隊長やってんだ?こっちも言えた義理じゃないけど、随分人手不足なんだね。護廷十三隊って」

 

バンビエッタは挑発するように、達者な日本語で刀原と雀部にそう言ったのだ。

 

「チェンジで」

 

刀原が思わずそう言ってしまうのも、無理もないだろう。

 

「はあ?どういうことそれ?わざわざ助けに来てやったっていうのに、失礼じゃない!?」

 

刀原の言葉にバンビエッタはそう噛みつく。

 

「刀原って言ったけ?あんた達はマシっぽいけど?金髪の女、あんたは本当に子供っぽいわよね」

 

そして、挑発するようにそう言った。

 

「私、十九歳ですけど?彼と同じで」

 

それを聞いた雀部は、ニッコリとしながらそう返す。

 

「ふ~ん、同い年(タメ)なんだ。でもパッとしないわよね?」

 

バンビエッタもそう言う。

 

「パッとしないのはそちらの方では?」

 

雀部も負けじとそう言う。

 

いつの間にか両者は詰め寄り、明らかにバチバチの関係になっている。

 

これが女の戦いって奴か。

 

刀原はめんどくさいという顔をしながら左右を見るが、残念ながら誰もいない(誰も助けてはくれない)

 

「彼氏とかいる?いなさそうだよねー」

 

「いますよ。そこに居るしょう君です」

 

「はぁ?彼が?……はっ、あんたには似合わないわよ。あたしが貰ってあげましょうか?」

 

「彼が首を縦に振るとは思えませんが」

 

二人の会話はどんどん不穏な空気になってきた。

 

「あたしはイルヴァーモーニー(米国の魔法魔術学校)を次席で卒業したわ!」

 

「そうですか。私はマホウトコロを三席で卒業しましたが、上の二人(刀原、日番谷)が同率だったから便宜上三席になっただけですね」

 

「なに、言い訳?見苦しいわよ?」

 

「私は事実を言ったまでですが?」

 

期せずして巻き込まれてしまった刀原は、この壮絶な女の戦い(マウントの取り合い)を見守るしかなかった。

 

二人はにらみ合う。

 

「こうなったら実力行使よ!あたしが勝ったら彼はあたしが貰うわよ!あんたは大人しく泣きべそかいてなさい!」

「かくなる上は、実力で分からせます。私が勝ったら貴女には土下座して貰います。そして米国に強制送還(返品)です!」

 

同時にそう言った二人。

 

「……」

「……」

 

一瞬の沈黙。

 

「上等よ、吠え面かかせてあげるわ!」

「上等です!返り討ちにしてあげましょう!」

 

そして二人は、また同時にそう言った。

 

こうして、二人はお互いの獲物を抜き放った。

 

 

 

 

 

 

爆音と雷鳴が響く。

 

当初は斬り合いだけだったのだが、剣技では雀部が圧倒的に勝っていたため、バンビエッタが霊子の爆弾を放ち始めたのだ。

 

そしてそれを躱した雀部も、始解したのだ。

 

始解の状態とはいえ、目の前の高飛車女の排除に本腰を入れた雀部は、落雷を操ってバンビエッタを寄せ付けなかった。

 

Fuck(くそ)!厄介ねこいつ!」

 

「この程度、しょう君や冬獅郎君なら、とっくに何とかしてますよ?」

 

始解状態の『雷霆』は卍解状態と違って落雷の威力や感覚が抑えられている。

 

二人はその隙を斬撃や氷で何とかしているのだ。

 

ちなみに、雀部の最終目標は……。

 

始解状態の『雷霆』で、祖父の雀部長次郎の卍解『黄煌厳霊離宮』を超えることらしい*1

 

「貴女ごときに遅れは取りません。私を舐めた代償は、貴女のその身で払ってもらいましょう」

 

いくら見た目が可愛くとも、争いごととは無縁な容姿をしていようとも……時には苛烈になり、冷徹にもなれる。

 

彼女も、実力第一主義の護廷十三隊(世界最強クラスの実力集団)の隊長なのだ。

 

縁故や贔屓で就任などしていない。

 

バンビエッタは心の中でそれを見誤っていたらしい。

 

「っち!しゃーないわね!」

 

舌打ちしたバンビエッタは、霊圧は膨れ上がらせる。

いよいよ本気で行くらしい。

 

「やべぇな、そろそろ止めるか」

 

気付いた刀原は、穏便に止めるために策を練り……そしてふと閃き、気配を消した。

 

「全力全開で行くわ!謝るなら今のうちよ!」

 

それに気付かないバンビエッタは頭に円盤、背中に翼を出現させる。

 

発動したのは、滅却師(星十字騎士団)の切り札。

 

滅却師完聖体(クインシー・フォルシュテンディッヒ)

 

「そちらがそうなら、こちらも本気で行きます」

 

それを見た雀部は霊圧を高める。

 

「卍解『大「もういいだろ?」~~ッ!?」

 

そして雀部が卍解をしようとした瞬間、背後から刀原が抱きしめたのだった。

 

 

 

良い策だったな。

……ちょっと恥ずかしいけど。

 

刀原はそう思っていた。

 

あそこまでヒートアップしてしまった以上、普通の制止では効果は得られないと考えたのだ。

 

そこで実行したのが、『背後から雀部(恋人)を抱きしめる』という案だった。

 

案は図に当たった。

 

雀部は顔を真っ赤にしながら止まり、霊圧は霧散したのだ。

 

バンビエッタもそれを見て止まった。

 

「両者、それまでだ。これ以上やると周囲の被害が許容を超える」

 

刀原は雀部を抱きしめながらそう言った。

 

「ひゃ、ひゃい……」

 

雀部は茹蛸状態となっており、たどたどしい声をあげながらコクリと頷いた。

 

しかし、バンビエッタは不服そうだった。

 

「ざっけんじゃないわよ!このまま引き下がるわけないでしょうが!」

 

そう言ったバンビエッタは高く跳躍し、翼を広げ、霊子の球体を出現させる。

 

「これでFinish(終わり)よ!」

 

そして高らかにそう言い放ち、手を二人の方へと向け、霊子の球体を打ち出した。

 

「やれやれ。しょうがないな」

 

刀原はそう吐き捨てて抜刀し、跳躍しながら打ち出された球体を剣圧で弾き飛ばした。

 

「噓でしょ!?」

 

バンビエッタは、己の攻撃が弾き飛ばされることなど全く想定しておらず、思わずそう驚く。

 

そしてその驚いている一瞬で、刀原が肉薄する。

 

「うぇ!?」

 

迫られたバンビエッタはそう情けない声を上げるが、直ぐにその場でくるりと回転し、姿を消す。

 

「お、惜しかったわね。でも残念。あたしは『姿くらまし』が出来るのよ」

 

内心ビビりながらも、それを隠すためにドヤ顔でそう言うバンビエッタ。

 

しかし、言い終わった瞬間。

 

チャキ……。

 

刀原の刀がバンビエッタの喉元に突き向けられた。

 

「ふぇ?」

 

間抜けな声をあげるバンビエッタ。

 

「ああ、その程度……読んでいたさ。イルヴァーモーニーを卒業しているのなら、回避のために『姿くらまし』ぐらい使えるだろうからな」

 

ニヤリと笑いながら刀原はそう言った。

 

「さて……そこまでだバンビエッタ・バスターバイン。これ以上やるなら……俺も参戦するぞ?」

 

いつもの笑みを浮かべ、そう通告する刀原。

 

「やめてくれるよな?」

 

「ひゃ、ひゃい。やめます」

 

バンビエッタは半泣きになりながらそう言った。

 

その後……雀部とバンビエッタは謝罪し合い、数時間後には何故か仲良くなっていた。

 

おそらく『中々の手練れ同士』であることを認め合ったからだろうだと、刀原は考えていた。

 

とにかく……勝ち気で何処と無くアホの子疑惑が浮上したバンビエッタと、引っ張る時もあるが基本的には物静かで真面目な雀部は、中々のコンビとなったのだった。

 

そして、最終的に刀原と雀部はバンビエッタを『バンビちゃん』と呼ぶようになった*2のだった。

 

 

 

 

 

 

日本で死神と滅却師との共闘が始まったころ、英国では政治闘争が一先ずの終結を迎えようとしていた。

 

日本から『名誉死喰い人(味方の振りをした敵)』とまで言われていた英国魔法省大臣、コーネリウス・ファッジの辞任だ。

 

英国魔法界全体が声高に辞任を要求していたからだ。

 

本人曰く、『自分の任期中に、英国魔法界がこれほど一致団結したことは無かった』とのことだが……。

 

かの無能と保身っぷりの影響(被害)をもろに受けたハリーや、無茶苦茶な要求や制限を受けた刀原から言わせれば、『どの面下げてそれを言えるんだ?(あ?当然の末路だろ?)』だった。

 

とにもかくにも。

 

英国魔法省が()()()()()()()()()()事は、ハリー達にとっても、刀原達(日本側)にとっても歓迎すべき事と言えた。

 

 

 

さて、今後の戦局を大きく左右することになるであろうファッジの後任は……誰も後釜になって死にたくないという思いが加わって、すんなりと決まった。

 

順当に行けば、英国魔法省法執行部の部長『アメリア・ボーンズ』が後任だったのだろうが……残念ながら彼女はヴォルデモートと戦い、死亡してしまった。

 

その為、後任には闇祓い局の元局長『ルーファス・スクリムジョール』が選ばれることとなった。

 

彼自体は……闇祓いとして魔法省に入って以降、そのキャリアを闇の陣営との戦闘に費やしてきた百戦錬磨の魔法使いとのことだ。

 

しかし、就任の数時間後に行われたダンブルドアとの会談では、どうやら亀裂が発生したらしい。

 

それに、彼は徹底した反ヴォルデモートの姿勢を貫く気骨ある人物……らしいのだが……どうにも彼は、『()()()()()()()()()()として優れているのでは?*3』と、刀原は思いつつあった。

 

とりあえず、そのダンブルドアとの亀裂の事、今後の見通しやこちらとの連携についてなど、面を合わせて話し合う必要があると刀原は判断していた。

 

と言う事は……。

 

また刀原による外交が行われるということだ。

 

 

 

 

 

 

 

その日、刀原は朝から忙しかった。

 

と言うか……刀原はここ最近、ずっと忙しかった。

 

英国魔法省での会談に向けて、集まった資料に目を通したり、資料をまとめたり、隊員たちに指示を出したり、日本に居るからとやって来る書類を捌かなくてはならないからだ。

 

当然、流石の刀原も疲れる訳で……。

 

「うわぁあああ!もう嫌だぁあああ!」

 

周りを山の様に積まれている書類や資料に囲まれつつ、刀原は未だ慣れない隊長の椅子に座りながら、机に突っ伏してそう叫んでいた。

 

「お強くなられても、ご立派になられても……こういうのは、まだまだの様ですな」

 

微笑みながらそう言った老人は、三番隊の副隊長『豊永康隆』

 

刀原の曾祖父に長年仕えてきた人物であり、刀原にとっては信頼のおける人であった。

 

「そう言わないでくれ爺や……じゃない、豊永副隊長。これでも頑張っているはずなんだ……。はあ、戦っていた方が良いだなんて思いたくないな……」

 

刀原は項垂れながらそう言う。

 

滅却師と戦った時の方がイキイキとしていたし、そっちの方が……個人的には性に合っていると分かってしまったのだ。

 

一応、これでも努力はしている方だ。

 

筆より羽ペンの方が使いやすいのでそうしているし、先日は浦原と組んで電話網を巡らせ、瀞霊廷に新たな改革(文明)をもたらした*4

 

まあ、だからこそ余計に忙しくなったのだが。

 

「ほっほっほ。あとひと踏ん張りですぞ若様」

 

頭から湯気を出している刀原に、豊永はそう言ってお茶を出す。

 

お坊ちゃま呼びこそ無くなったけど、若様呼びもそろそろやめて欲しいな……。

 

なんて思っていた矢先。

 

「失礼致します」

 

伝令役の者が駆け込んでくる。

 

緊急時にしか来ない伝令役に、刀原は目を細める。

 

これは……何かあったな。

 

「何があった」

 

刀原はそう聞く。

 

そう聞かれた伝令役は、淡々と伝えた。

 

「英国に派遣された、七番隊第四席『一貫坂慈楼坊』殿が戦死いたしました」

 

「なに!?」

 

「至急、一番隊隊舎にお急ぎください」

 

「分かった。急ぎ向かいます」

 

刀原はそう伝令役に言い、急いで一番隊隊舎に向かった。

 

 

 

 

「元柳斎殿、私の隊の者が殺られたのです!英国に行く許可を!私に四席の仇を討たせて下さい!」

 

「ならぬ」

 

「死喰い人ごときに、遅れはとりませぬ!」

 

「左様なこと、分かっておる」

 

「であれば、何故!?」

 

呼び出しを受けた為、一番隊の隊舎に着くと、中からそう声が響いていた。

 

声からして、狛村さんと重じいだな。

 

狛村さんが重じいに強い口調で迫るだなんて珍しいと思いながら、戸を叩く。

 

「刀原です。呼ばれたので来ました」

 

俺がそう言うと、威圧感たっぷりな声で「入れぃ!」と言う重じいの声が響いてくる。

 

そして中に入ると、そこには先ほど声を荒げていた狛村さんに、京楽さんと夜一さんがいた。

 

「京楽隊長、四楓院隊長。お二人もですか?」

 

俺がそう二人に言えば二人は何処となく膨れたような(不満たらたらな)顔をする。

 

「おじさん、寂しいな~。京楽兄って言ってくれた、あの頃の将平君は過去のものになったんだねぇ」

 

()()()()はそう残念そうに言う。

 

「全くじゃ。「夜姉」って呼んでくれた、あの可愛かった将平はどこ行ったのかの?」

 

()()()()()も悲しむように言う。

 

何時の話だ。

 

少なくとも十年は前の話だが、隊長格であるこの人達にその程度の時間は微々たるものなので、その反論は辞めておく。

 

「僕もいい歳(十九歳)になったんですから、流石にその呼び方はもうしないです。……ってか、そんな話をしに来たわけじゃないでしょ?それで総隊長、状況は?」

 

俺が咳払いしながらそう言うと、重じいは頷く。

 

「英国からの一報での。倫敦(ロンドン)のだいあごん横丁にある杖の店が襲撃にあったそうじゃ」

 

ダイアゴン横丁にある杖の店……まさか、オリバンダーの店か。

 

「四席は警備の為に近くにいたらしくての、店と店主を守る為に戦い……そこで殺害されたとのことじゃ」

 

「山じい、四席を殺った下手人に関しては?」

 

「向こうからの報告では……襲撃者は『アントニン・ドロホフ』なる者をリーダーとする、死喰い人五名。そのうち三名を四席は倒し、最後はそのドロホフに殺害されたとのことじゃ」

 

「オリバンダーの店は英国随一の杖の店です。そしてその店主である『ギャリック・オリバンダー』は、間違いなく世界最高峰の杖職人です。死喰い人陣営が彼を手中にすることは、絶対に避けるべき事案です。四席は、それをその避けるべき事案を防いだ」

 

「じゃが、また来ないとは限らないじゃろう?」

 

「ええ。総隊長、英国の反応は?」

 

「警備をより強化するとのことじゃ。新大臣は前任とは違うみたいじゃの。それに証言によれば、四席は斬り損ねた者どもに手傷を負わせておるらしい」

 

「彼は良くやったよ」

 

「……大儀だった」

 

 

 

「さて狛村よ。敵討ちといきたい気持ちはよう分かる。じゃが、今お主が行っても事態は好転せぬし、そもそも仇が見つかるかどうかも分からん。ここは堪えるのじゃ」

 

重じいの言葉を、狛村さんは嚙み締めるように聞いている。

 

握りこぶしは固く握られ、悔しそうな顔だった。

 

「分りました、元柳斎殿。ここは堪えます」

 

しかし、それでも狛村さんはしっかりとそう頷いた。

 

「うむ、よう言ってくれたの。次に……刀原。すまぬが英国に飛んでほしい。務めを立派に果たした四席を連れて帰ってくるのじゃ。そして新大臣と話してまいれ。また……一名、同行者を許可する」

 

そう言った重じいの言葉の意味を、俺は察する。

 

「では……同行者には狛村隊長を指名したく思います。狛村隊長、お願いできますでしょうか?」

 

俺は狛村さんの方を向き、そう尋ねた。

 

「……無論。こちらの方からお願いしたくらいだ」

 

狛村さんは目を見開き、こちらの方に頭を下げた。

 

「粋な計らいってやつだね」

 

京楽さんはそう言い、重じいも頷いていた。

 

 

 

 

あ、狛村さんの顔……どうしよう。

 

ま、いっか。

 

空飛ぶ列車*5使うし。

 

 

 

 

 

 

 

*1
雀部長次郎は「出来なくはないだろう」と言っており、それを待ちわびているとのこと。

*2
本人が呼べと言った。

*3
それはファッジにも言えると、刀原は最近思っていた。

 

すなわち。

『おそらく()()()()()()()としては良かったのでは?』

という意見だ。

 

まあ……無能であったという実績がある以上、言い逃れも言い訳も出来ない。

 

第一、そんな理由を持ち出すぐらいなら……さっさと辞めれば良かったのだ。

 

*4

後に刀原は、雀部や日番谷、浦原等と示し合わせ、瀞霊廷にパソコンをもたらすことになる。

*5
炎のゴブレットにて、マホウトコロの生徒達を運んだ列車のこと





牙を見せ、高らかに吠える。

恩に、誇りに

身を焦がすように。





まず、訂正致します。
チョウの卒業は謎プリでした。

その為……セドリックとの結婚関連は持ち越しです。

セドリックは死なない……予定なので、悲しいことにはならない……はずです。


再びアンケートをさせていただきます。

内容は、謎のプリンス終了後について。

現在、刀原と雀部はハリー達の分霊箱捜索旅に参加しない予定です。

ではハリー達が捜索している間に何をしているかというと……日本で賊軍(破面抜き)との決戦をしてます。

ハリポタとは全く関係ない為……出すかどうか迷っております。

その為……。

1 vs賊軍→ホグワーツの戦い。

これは文字通りです。

がっつり賊軍との決戦を書いた後、ホグワーツの戦い開戦です。

2 vs賊軍は全部カット。

謎プリンス終了後、幕間をして、いきなりホグワーツの戦い開戦です。

賊軍との決戦は全部カットし、出したとしても……「こう言うことがあったんだ」「うわー、そっちも大変だったね……」程度です。

筆者的には楽ですね。
文章量減りますから。


3 終了後、おまけとして

死の秘宝終了後、予定している番外編や後日談にて公開します。

ただ……その頃は多分、次回作はどうしようとか考えてますので……本編より質や量は落ちます。

4 刀原もハリーの旅に参加するんだよ!

ハリーの分霊箱捜索旅が、めっちゃイージーになります。

原作追随とか言っておきながら……崩壊します。

そして当然、賊軍との決戦は……刀原が参加してないので闇に葬られます。

以上が、想定しているルートとなります。

よろしくお願いいたします。



感想、ご意見、ご質問、評価、お気に入り登録。
ありがとうございます。
そしてお待ちしております。


では次回は

英国にて

次回もお楽しみに




おまけ

「四席は確か……『鎌鼬』の称号を持つ手練れだった筈では?」

「ああ……。彼は半分おこぼれで、あの称号を得たようなものだったはずだよ」

「うむ。確か……白哉に襲名の話が行ったのじゃが、あやつは「ダサいから要らぬ(意訳)」と言ったのじゃ」

「な、なるほど……」

「今は君の方が相応しいと思うよ?」

「まあ、確かに斬撃を飛ばすのが僕の得意技ですが……。ってか、あの称号って『随一の飛び道具使い』に与えられるんですよね?僕のは飛び道具じゃないんですけど」

「まあ、そう固いこと言わずにさ」

「どうじゃ?これを機に襲名せんか?」

「え、嫌ですよ。『鎌鼬将平』とか、ダサいじゃないですか。謹んでお断りさせていただきます」

「え~」

「つれないの~」

「……おぬしら、そろそろ雑談をやめい」

「「「は~い」」」


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死神、英国にて。交渉、会談



近づくは死

迫り来るは恐怖

黒より黒き漆黒の闇

深き闇夜が我らを飲み込んでいく。








 

 

七月末。

刀原の姿は英国にあった。

 

その理由は二つ。

 

一つ目の理由は……先日、ダイアゴン横丁にあるオリバンダーの店が襲撃され、それを阻止せんと戦った七番隊第四席を遺体を回収すること。

 

そして二つ目は、同じく先日に就任した英国魔法省新大臣『ルーファス・スクリムジョール』との会談のためだった。

 

「なんとなく違和感があるが……これが人間の姿か」

 

魔法省に向かっている間、考え深そうにそう言うのは、刀原の同行者である『狛村左陣』

 

七番隊の隊長である彼は、戦争中であることもあって、本来ならばここ(英国)にはいないはず(来れないはず)の人物だった。

 

そんな彼がそう言った理由には、彼の容姿が関係している。

 

特に日本(瀞霊廷)では隠していないのだが、彼は珍しい人狼族だからだ。

 

無論、英国魔法界の人狼(ハリポタの人狼)のように満月で変身し、理性なく人々に襲い掛かる生物ではない。

 

彼自身は義理や仁義に厚く、恩義を大切にする人物であり、断じて理由もなく人々に襲い掛かる犬畜生ではない。

 

分かりやすく言えば、『見た目は犬だが、それ以外は人そのもの』なのだ。

 

刀原にとっても、小さいころからの付き合いがある人物でもあり、遊び相手や鍛錬の相手になってくれたのだ。

 

だが、それは彼と接しているから分かること。

 

見た目がどう見ても『服を着て、二足歩行をしている犬』であることは変わらない。

 

そのうえ……厳つい狼に似た風貌も相まって、ありのままの姿でいることは周囲に要らない誤解を与える(お、お前、人狼か⁉︎)ことになるかもしれない。

 

めんどくさいため、それは避けたい。

 

そもそも狛村は、その見た目もあって、あまり瀞霊廷外に出ない人だ。

 

裏を返せば、彼は瀞霊廷守護に専念出来る戦力ということでもある。

 

それにも関わらず、見た目をどうにかして、話せない英語が主流の英国に来たのか。

 

それは戦死した部下を労い、自らの手で連れて帰ってやりたいという思いからだった。

 

そして、元柳斎もその気持ちは痛いほど分かるのだが、そうホイホイと行かせるわけにもいかなかった。

 

そこで元柳斎は、刀原に同行者を一名選出して良いと言い、刀原はその思いを汲んで狛村を指名したのだ。

 

そのため、刀原は変身術やらなんやらを駆使し、狛村の容姿をどう見ても男性に変えたのだ。

 

「それにしても……せっかく気を利かせてくれたというのに、苦労をかけてすまないな」

 

英国魔法省へ入る手続きが終了し、再建途中のアトリウムを通り過ぎる間、狛村は刀原にそう謝った。

 

英語を話せず、武骨者ゆえに交渉ごとにも向いてないと自身を評価している狛村は、自分は今回の英国行きでは何も出来ない足手纏いであると思っているからだ。

 

「謝らないでください。狛村さんは、腕を組んで堂々としてるだけで大丈夫ですよ」

 

そんな心境を察している刀原は、ニコッと笑ってそう告げる。

 

例え見た目が人間の男になったとしても、その威厳溢れる雰囲気と佇まいは変わらない。

 

交渉や外交では舐められたらお仕舞いなため、今の狛村が纏う巌のような佇まいがあれば、より巧く事を運べると刀原は考えていた。

 

「なるほど……ならば少しでも役立てるよう、堂々としていよう」

 

狛村がそう頷いている間、刀原は懐中時計を確認する。

 

約束の時間にはまだ若干早いが……まあ良いだろう。

 

「では行きますか」

 

「ああ、そうだな」

 

刀原と狛村はそう言いあって、大臣との会談に向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

「よく来てくださいました。ミスタートウハラ。ミスターコマムラ」

 

そう二人に言った新大臣のスクリムジョールは、ライオンのたてがみのような髪をしているために、年老いたライオンといった見た目をしていた。

 

「まずは謝罪を。前任の大臣(チキン・ファッジ)が、貴国と皆様方に多大なるご迷惑をお掛けしたこと。深くお詫び致します。そして……それがあったにも関わらず、我々からの救援要請を再び受けて下さったこと。英国魔法省を代表して深く感謝を」

 

そして開口一番、スクリムジョールはそう言って頭を下げた。

 

「その謝罪、受け取りましょう。ただ、あのようなことが二度と起きないよう、お願いしたい。それと、救援に関してはあくまでも日本を守るためですので」

 

刀原がそう言えば、スクリムジョールはホッとした表情で顔を上げる。

 

「では、今後について、お話しましょうか?」

 

続けてそうニッコリと笑いながらそう言った刀原に、スクリムジョールは頷き、二人を席へと誘導する。

 

「では早速ですが……まず、去年の一件を受け、派遣する人数を増やすことになりました。具体的には……隊長三名、副隊長二名、日本魔法省から二名です。配置としては、ホグワーツ城に四名、ロンドンに三名。メンバーは、(刀原)、雀部、日番谷、雛森、朽木、黒崎、井上。なお、派遣部隊到着は九月一日を予定しております。これが任命書です」

 

刀原はそう言うと、リスト等も混じった資料をスクリムジョールに渡す。

 

スクリムジョールはそれを一瞥し、了承の言葉と共に頷いた。

 

「次に指揮権に関してですが……日本魔法省大臣(市丸ギン)護廷十三隊総隊長(山本元柳斎重國)が第一位。遣英救援部隊長(刀原将平)が第二位。ホグワーツの校長(ダンブルドア)と貴方が第三位となります。また、防衛計画や作戦立案権はこちらにあります。これもよろしいですね?」

 

「勿論、承知しています」

 

「ありがとうございます。最後にヴォルデモートに関してですが……。これに関しては、我らは国際条約に基づき、基本的には手を出しません(出せません)。そしてそれは他国……米、仏、独なども一緒です。しかし、対虚として派遣する部隊に関しては……敵対された段階で交戦権を行使し、排除または撃破、撃退の為の戦闘を行います。これについては貴国の承認待ちですが……」

 

「勿論、承認いたします」

 

「ありがとうございます。以上で大まかな打ち合わせはお仕舞となりますが……これまでに関して何かご質問はございますか?」

 

「いえ、ありませんが……」

 

「?」

 

「隊長格の方々だけなのですか?他の隊士などもおられた方が……何かと良いですし……」

 

「……ですし?」

 

「いや……」

 

スクリムジョールはそこまで言って……刀原がムッとした表情をしていると分かった為に口を濁した。

 

刀原はその反応で粗方を察する。

 

「……一応お伝えしておきますが、我々がいるからヴォルデモート対策になる……などと考えない方が宜しいでしょう。我々が来ているのは、あくまでも特例。虚や破面が来襲するから我々が来るだけです」

 

そして刀原がそう釘を刺すように言えば、スクリムジョールは渋い顔する。

 

どうやら図星だったらしい。

 

『心強い彼らが来たから、ヴォルデモートも安心』

 

などと宣伝しようとしていたのか、はたまたそう思っていたのか。

 

どちらかなのかは分からないが……刀原から言わせれば、そんな考えは浅はか(馬鹿かお前)としか言えなかった。

 

隊長格からすれば雑魚同然の虚とて、一般隊士からすれば充分な脅威。

 

破面に至っては、逆立ちしたって勝てない。

 

十刃には時間稼ぎにもならない。

 

一桁の席官とてそれは同様。

 

そして、それらはヴォルデモートや死喰い人に対しても同じことだと判断された。

 

おまけに、そこに日本の事情が追加される。

 

ただでさえ人材不足気味(頭数が少ない)なのに、日本()賊軍との戦争中なのだ。

 

無論……戦力的には問題ない。

 

歴代最強、史上最強と名高い『初代護廷十三隊』*1に匹敵すると言われている当代の護廷十三隊。

 

元隊長、副隊長を主要席に置いた日本魔法省。

 

元隊長で固めた当代の大陸探題。

 

『開闢以来最強の世代』が卒業したとはいえ、マホウトコロも鉄壁の布陣。

 

おそらく、日本魔法界が始まった当時に次ぐ面子が揃っている。

 

まあ、始まった当時がヤバかっただけなのだが。

 

何せ……。

 

周囲や思想、戦略に躊躇皆無の『元柳斎』。

今では最強にして最後の砦と称される『卯ノ花』が、()()()な時点で『あれ(察しろ馬鹿)』なのだ。

 

その他にも……。

 

元柳斎の好敵手と言われていた『刀原の曾祖父』

最強系スケバンと刀原は思った『齋藤不老不死』

夜一の祖先と聞いて即時に納得した『四楓院千日』

 

等々。

 

刀原が「いや、明らかにやベー人達の集まりじゃん」と評価した初代護廷十三隊がいる。

 

そこに……。

 

実は死神だったらしい『源頼光』

最強の陰陽師『安部晴明』

 

などが加わるのだ。

 

それは流石に越えられない……ってか、越えたらなんかヤバそう……うん、もう君たち殿堂入り……と言うのが現在の評価である。

 

 

閑話休題(まあ、それはさておき)

 

 

現在の日本の戦力は、質も幹部の数も問題は無いが、一般兵が少ないというのが現状だ。*2

 

そのような状況化で、大勢の派遣をする訳にはいかない。

 

それに。

 

虚や破面の奴らは何とかしてやる(お前らじゃ駄目だから俺らがやる)

 

ヴォルデモートのことは君たちで何とかしろ(だがお前のケツはお前で拭け)

 

謝罪を受けると言ったな、そんなわけねぇだろ。

 

どうせお前も戦犯戦隊センパンジャーの仲間(チキン・ファッジと同類)だろ?

 

散々迷惑かけておいて、今更おんぶにだっこだなんて、虫が良すぎるんだよ。

 

日本上層部の内心はこうだった。

 

そう、新体制になったからと言って……前任が前任だっただけに……日本は英国魔法省を安易に信じられなかったのだ。

 

そのため…一般隊士の派遣は『人材の無駄(要らない)』と判断されたのだ。*3

 

ましてや、英国魔法省が自らの安心を得るためにそれを望むなど言語道断。

 

まあ、ある意味らしいと言えばらしいのだが。

 

「…………そう言えば。ダンブルドア殿との会談について、あまり良くない話を聞きましたが?」

 

ある意味で調子を取り戻した(ブリカス式交渉術を復活させた)スクリムジョール(英国魔法省)に、刀原はそう牽制するためにそう言った。

 

「意見の相違があったとか」

 

「まあ……そうですな。確かにありましたが」

 

「意見や戦略を統一するのは非常に重要なこと。最早戦時中と言っても差し支えない情勢なのですから、なおの事です。我々は、英国魔法省とダンブルドア殿達が手と手を携えて、この困難に立ち向かうことを期待しています」

 

「最大限の努力はしています。当然の事」

 

「また……神経質になり過ぎて、証拠をロクに集めずに人を監獄へぶち込むのも避けるべきでしょうな。昨今は人権が重要視される時代ですし、それを好ましく思わない人からは評価も支持も得られないでしょうし」

 

「そうですな、気を付けておきましょう……」

 

その後も、会談は和やかに(一方的に)続き、そして終わった。

 

 

 

会談を終えた二人は英国魔法省を出て、ロンドン郊外へと向かった。

 

四席の遺体を回収した狛村は先に日本へと戻る為、刀原はそれを見送る事にしたのだ。

 

「スクリムジョールに……英国魔法省に期待は出来なさそうですね。前は遠ざけておいて、今度は我らを利用しようとは……」

 

「この期に及んで、まだそのような企みを?」

 

「ええ、するつもりだったでしょうね。一応釘を刺しておいたので、二度は無いと思いますが……。新政権もあまりあてには出来なさそうですね」

 

「しかし、流石の交渉と読みだな」

 

「ありがとうございます。京楽さんに教わりましたから。……それにしても、あれでは具体的な策や手は出せないでしょうね。もしダンブルドアが倒れでもしたら、英国魔法省は二ヶ月も持たないかもしれません」

 

「そうなれば由々しき事態になるな」

 

「そうならないことを祈るばかりです」

 

日本と同様に、英国にも風雲急を告げる嵐が迫っているのを刀原と狛村は肌で感じ取っていた。

 

 

 

 

 

 

ハリーの夏休みは、去年よりかは幾分マシだった。

 

少なくとも新聞内で『頭のおかしい少年』扱いはされてなかったし、吸魂鬼に襲われて裁判になることも無かった。

 

だが周囲の空気は、去年より確実に悪化していた。

 

ダンブルドアと二人で『ホラス・スラグホーン』の元に行き、それからウィーズリーの家に行っても、失踪事件や死亡事件が連日のように報道されていたからだ。

 

だが、十六歳の誕生日となる今日の朝のニュースは少し喜ばしいものだった。

 

『新大臣。日本の特使と会談を行う』

 

というニュースに、スクリムジョールと曖昧な笑み(アルカイックスマイル)を浮かべた刀原が載っていたからだ。

 


 

 スクリムジョールの補佐官は、ホグワーツ城周辺で出現している虚への対抗のため、昨年に引き続き、日本の護廷十三隊へ部隊の派遣を要請したと明かした。

 そしてそれに伴い、昨日は護廷十三隊の隊長であり日本魔法省の特使である刀原氏と会談を行った。

 刀原氏は会談後、記者のインタビューに対して次のように語った。

 

「我々護廷十三隊は虚、並びに破面の者どもに対し、有効的な策と戦力を保持しております。その為、約一カ月後から始まるホグワーツの新学期に合わせ、隊長格三名を主力とする部隊を派遣いたします。現在、日本魔法界は戦時下であるため、派遣する人数は少数ではありますが……我らがホグワーツに布陣する限り、生徒達には指一本たりとも触れさせませんので、どうかご安心を」

 

 また刀原氏は、死喰い人に関しての明言を避けたが「敵であるならば、立ち向かってきた以上は切り捨てるまで」という発言をしている。

 

 しかし同氏は、国際条約に則り死喰い人への対抗のための派遣では無いことも強調していた。

 


 

刀原が英国に来ているなら、昨年の様に会えるかもしれない。

 

ハリーはそんなサプライズ(刀原による誕生日パーティー乱入)に期待していた。

 

そして、刀原はその期待を裏切らなかった。

 

「あれ、ここでいいのか?すみません……?」

 

夜、ハリーの十六歳の誕生パーティーが始まる直前、玄関を叩く音と共に刀原の声がしたのだ。

 

その声を聞いたハリー達は玄関へ駆け寄ったが、ウィーズリーおばさんは用心の為に一応の警戒をしていたので、簡単には扉を開けさせなかった。

 

そしてシリウスが「彼に化けているのなら日本語を喋らせればいい」と言うと、扉の向こうへ「日本語で話せ!」と叫んだ。

 

sonokoehasiriusudana?(その声はシリウスだな?) youzinnnotameka(用心の為か)iikotoda(良いことだ)a-koredeiika?(あーこれで良いか?)

 

直後に聞こえてきたのは、流暢な日本語だった。

 

「うん、間違いなくショウだな」

 

その場にいた全員がそう確信し、扉を開け、刀原を迎え入れたのだった。

 

 

 

「そう言えば、初めて直に言えるな……誕生日おめでとうハリー」

 

刀原はニッコリとそうハリーを祝福した。

 

ハリーの誕生日は夏休み真っ只中なので、刀原からは手紙でしかお祝いされなかったのだ。

 

「ありがとうショウ」

 

なんだか気恥ずかしくなったハリーは、照れながらそう言った。

 

「それに……初めての隠れ穴か。グリモールド・プレイスよりもこっちの方が良いかな。一週間ぐらいここでゆっくりしたいなぁ……」

 

刀原は家の中を見渡し、心底疲れたと言った表情でそう言った。

 

「そう言ってもらえるのは嬉しいわ」

 

「別に一週間ぐらい居てもいいんだぜ?ねぇママ?」

 

「勿論、大歓迎よ?」

 

誉め言葉に気をよくしたロンとウィーズリーおばさんがそう言うが、刀原は至極残念そうな顔をする。

 

「いやーマジでそうしたいんだけど……。明日には日本へ帰らなくちゃいけないんだよね。戦線に穴を空けるわけにもいかないし……。スクリムジョールとの会談の結果も報告して、会議もしなくちゃいけないし。遣英救援部隊の準備もしなくちゃいけないし……」

 

そう今後の予定をあげていった刀原の目は、段々と暗くなっていく。

 

ここ最近の刀原はワーカホリックなのだ。

 

「た、大変だね……」

 

「ここにいる間はゆっくりしていってね」

 

その場にいた全員が、刀原に同情するような目を向けたのだった。

 

 

 

 

 

刀原という特別ゲストを迎えた誕生日パーティーは楽しいものになる筈だったのだが、時世が時世なだけに、暗いものになっていた。

 

刀原の後にやって来たルーピンが、暗いニュースを運んできたからだ。

 

それでも刀原の提案で、食事の後にするということになったのは、ハリー(本日の主役)にとって嬉しいことだった。

 

「吸魂鬼の襲撃事件、イゴール・カルカロフの死体。数日前にはダイアゴン横丁でフローリアン・フォーテスキューとオリバンダーも襲撃された。全く嫌になるよ」

 

夕食会が終わった後にも関わらず、ルーピンは相変わらずのげっそりとやつれた顔でそう言った。

 

「あのアイスクリームの店と杖職人の?」

 

ハリーは自身がお世話になった店が襲撃にあったことを聞いて驚く。

 

「ああ、尤も……」

 

「偶々その場にいた護廷十三隊の七番隊の四席が食い止めた。残念ながら彼は戦死してしまったがね」

 

ルーピンの目線に気が付いた刀原が、そう語る。

 

「それで魔法省は、日本に()()借りが出来てしまった。わざわざ来てもらい、守ってもらい、死なせてしまったのだから。それにオリバンダーが拉致される事態は、我々にとって好ましからぬことだからね。いま、ダイアゴン横丁は厳戒態勢が敷かれている。スクリムジョールが早速手を打った」

 

尻を叩きましたから(圧力を掛けましたから)。「腑抜けた対応を取るなら、ヴォルデモートに対抗する指揮権を貰う」とね。撤退もほのめかしましたし、わざわざめんどくさい記者のインタビューを受けてまで釘を刺したんです。少しはまともになってもらわないと」

 

「まあ、あまりそう言ってくれないでくれよ。前任が前任だっただけに、負の遺産が残っているんだ。それを処理するので精一杯なんだよ」

 

「それは向こう(英国魔法省)の事情。日本としては……正直言ってこれ以上の状況悪化は、邦人保護なども考えて、見過ごせないです。米国(マクーザ)は、もう踏み込みたいらしいですよ?」

 

「それは日本もかね?」

 

「いや、うちはそれほどじゃないです。こっちも戦争中ですから……ぶっちゃけ、構ってられない。だから踏み込むとなったら、主力は米国でしょうね。ですが……もし英国魔法省が陥落してしまった場合、救援や派遣がストップする可能性があります」

 

「国際条約……か」

 

「まあ、最悪無視しますが」

 

 

 

 

 

 

その後。

 

結局あまりゆっくり出来なかった刀原は、昼まで隠れ穴でゆっくり過ごし、日本へと戻った。

 

そして英国へ再び渡るまで一か月、刀原は頑張るのだった。

 

しかし、ダンブルドアからの手紙を見た刀原は唖然とする。

 

「……ふ、ふざけんな!無茶ぶりしやがって!」

 

「な、何事でございますか⁉」

 

突然の絶叫に驚いた様子でやって来た豊永が見たのは、手紙を八つ裂きにしている刀原だった。

 

「断固拒否だ!」

 

戸惑っている豊永を捨て置き、刀原がそう言っていると、続けてもう一通の手紙がやって来る。

 

差出人はさっきの手紙と同じ人物(ダンブルドア)

 

「しつこいわ!」

 

受け取った瞬間、刀原は読まずに八つ裂きにする。

 

だが、同様の手紙は二通三通と続き……それら全てを八つ裂きにしても、さらに送られてくる手紙が増えるだけだった。

 

最終的に、刀原はそれを条件付きで認めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
その実態は、護廷とは名ばかりの『殺伐とした殺し屋集団』だったらしいが……

*2

わかりやすく言うと……戦車はあるしその質も良いが、歩兵が足りないのだ。

*3

そしてその判断は、先日七番隊の四席が戦死したことで確信に至った。






そう簡単に膿は消えぬ

摘出しきるその前に

我が身が持てば良いのだが。





謎のプリンス編から、原作も映画版もよりダークになっていきます。

色んな人か死んだり、行方不明になったり……。

や、ヤバいですね。

だからこそ、クスっと笑ってしまうようなネタ等を仕込んでいきたいと思います。

シュールはシュールになる時だけで充分でしょう?




アンケートに早速のご回答、ありがとうございます。

『お前も同行』が予想以上の伸びで、正直驚いています。

第二位はおまけで書こうかな……なんて。




感想、ご意見、ご質問、評価、お気に入り登録。
ありがとうございます。
そしてお待ちしております。


では次回は

呪いと無言呪文

次回もお楽しみに。



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死神、強制する。呪いと無言呪文



「私が悪かった」

「すまなかった」

ただ、それだけでいいから

私は貴女に送りたかった。







 

 

英国へ向かう魔導列車の中で、刀原は目に見えて不機嫌だった。

 

しょっちゅう溜息を吐き、雀部や日番谷に負担を強いることに頭を下げ、無茶振りを言ったダンブルドアに恨み言(呪詛)を唱えていた。

 

何か深い事情があるんだろうな?

無かったら片腕斬ってやる。

 

誰がどう見ても不機嫌な刀原が、ボソッと言ったこの物騒な言葉を、雀部は確かに聞いた。

 

一方、ハリー達が乗るホグワーツ列車では……マルフォイが悲痛な表情で、ハリー達に相談をしていた。

 

その表情は「我が命運、ここに潰えた(ああ……僕、もう終わったな……)」と言わんばかりであり、そのあまりに可哀そうな表情に、ハリーもロンも同情するほか無かった。

 

「やらなくても殺される……。やろうとしても殺される……。でも、だけど……。うぁあああ!僕はどうすれば良いんだぁあああ!」

 

「な、なにがあったんだマルフォイ……」

 

「し、信じてくれポッター……。僕は……家族を……。だけど、だけどダンブルドアをなんて……」

 

マルフォイは絞り出すような声で白状する。

 

父であるルシウスの失敗を埋め合わせするという名目で、ヴォルデモートにダンブルドアの暗殺を命じられたこと。

 

英国にやってくる死神を、出来るだけ妨害すること。

 

無理ゲーなのは誰でも分かるのだが、失敗すれば家族や自分自身が殺されるであろうことは……簡単に想像出来た。

 

「失敗すれば……分かるなドラコ(殺しちゃうぞ☆)?」と言われた時点で、お察しである。

 

叫ぶように吐き出し、最後に「出来るわけないだろ!」と叫んだマルフォイに、ハリー達は怒るどころか思わず慰めてしまう。

 

ここに来て、こうして吐露している以上、彼にその気がさらさら無いことが明白だからだ。

 

完全に迷える子羊になったマルフォイは、その後も彼らしからぬ取り乱し方をしていた。

 

「……とりあえずショウ達に力を借りましょう。私たちではどうすることも出来ないわ」

 

ハーマイオニーはそう言い、その場にいた全員がそれに頷いた*1

 

 

 

マルフォイを何とか宥めた後……ハリー達の話題は、空席となっている『闇の魔術に対する防衛術』の次の教授になった。

 

ハリーの本命は、自身が約一か月前に出会った『ホラス・スラグホーン』だ。

 

あのセイウチの様な男性は、ダンブルドアの元同僚で……わざわざダンブルドアが教授になってくれと言いに行ったのだ。

 

きっと、優秀な元闇の魔術の防衛術の教授だったのだろう……とはハリーの言葉(願望)だ。

 

だが、それに待ったをかけているのが刀原の証言だ。

 

同じく約一か月前に会った彼は「スラグホーン?確か……魔法薬学で有名な人だったような……」と言っていたのだ。

 

ではスラグホーンじゃないのならば、誰になるのか。

 

ハリーにとっては信じたくないし、絶対にありえないと思っているし、悪夢そのものなのだが……。

 

スネイプ(ハリー永遠の宿敵)なのでは?というのが刀原の予測だ。

 

理由としては、新たにやってくるスラグホーンが魔法薬学の教授であるならば、その職に就いていたスネイプのポストが空くからだ。

 

その理由に、流石のハリー(アンチ・スネイプ筆頭)とて「スネイプはクビになったんだ!」とは断言出来なかった。

 

尤も、シリウスに言わせれば「あいつが闇の魔術に対する防衛術を教えるなんて、許しがたい暴挙」らしい。

 

まあそれは、様々な情報を加味した結果『スネイプは元死喰い人である』と判断した刀原も「危険な考え」と思ったのだが。

 

兎にも角にも……。

 

ハリーや他の生徒達にとって、次の闇の魔術に対する防衛術の教授が誰なのかは、非常に気になる事案だった。

 

「スネイプじゃありませんように。スネイプじゃありませんように。スネイプじゃありませんように……」

 

ハリーは懸命に祈っていた。

 

だが現実は儚く、残酷で、奇なりだった。

 

 

 

 

組分けの儀式が終わり、恒例の合図(思いっ切りがっつけ!)と共に宴が始まって、生徒たちは目の前の食事に夢中になった。

 

そんな中、ハリーは食べながら周囲を見渡していた。

 

スネイプ……ちっ、いる。

 

スラグホーン……いる。

 

ショウ達……職員テーブル近くにあるテーブルで食べている。

 

ハリーの心配ごとは悪化した。

 

そんなハリーを余所に、生徒たちの腹は満たされ、ダンブルドアが立ち上がる。

 

「皆さん。今宵は素晴らしい夜じゃ!」

 

宴の前、ダンブルドアはそう高らかにそう言い、両手を広げた。

 

しかし、多くの生徒達がダンブルドアの異変……すなわち『左手が黒く、痛々しいものになっている』ことに気が付いた。

 

囁き声が広間中を駆け巡るが、ダンブルドアは「何も心配には及ばぬ」と気軽に言った。

 

「明るい話題から話そうかの?まずは新しい先生の紹介から……ホラス・スラグホーン先生じゃ。昔教えておられた()()()()()()()として復帰なさる」

 

その瞬間、大広間に衝撃が走った。

 

聞き間違えたのでは(遂にボケたか)と、多くの生徒がざわついた。

 

そしてハリーの心境は、地獄へ叩き落とされた。

 

「そして空席となっていた『闇の魔術に対する防衛術』には、スネイプ先生が就任なさる」

 

ダンブルドアがざわめきを無視してそう言えば、さらなる衝撃が大広間を駆け抜けた。

 

紹介されたスネイプは何の反応も無かったが、勝ち誇った顔をしたのをハリーは確かに確認した。

 

「さて次は、申し訳ないが……少し真面目で暗いお話をさせていただこうかの?」

 

ダンブルドアはそうひょうきんな口ぶりで言うが、話す内容は宣告通り暗いもの(ヴォルデモートに関して)だった。

 

ホグワーツの守りはより強固になっているという事。

 

だからといって、軽率な事をしてはいけないこと。

 

何かあったら直ぐに教職員に知らせる事などだ。

 

「そして……これも重要なお知らせじゃ。と言っても、去年も居た生徒たちは覚えておるじゃろうがの。現在、ホグワーツには『虚』という怪物が時折出現している」

 

ダンブルドアの言葉に、それを見た多くの生徒達が神妙な顔で頷く。

 

「わしら英国の魔法使いでは対処出来ぬ危険な奴らじゃが、幸いなことに、今年もその虚を倒せる護廷十三隊の方々が駆けつけて下さった。それでは……『遣英救援部隊』の部隊長を務める刀原殿から、一言貰おうかの?」

 

ダンブルドアがそう言って目配せすれば、それを察した刀原が前に出てきた。

 

白い長袖のシャツに赤と金色(グリフィンドールカラー)のネクタイ、その上に死覇装と袖のある隊長羽織は変わっていないが、彼は新たに黒い手袋を身に着けていた。

 

「遣英救援部隊を率いている刀原だ。我々がここに布陣する以上、諸君らには指一本たりとも触れさせないと約束しよう。だから安心して、諸君らは学業や青春に明け暮れてほしい。また昨年の一件を受け、人員を増やした。と言っても、三学年以上の(魔法学校対抗試合の時に居た)諸君らは見たことのある者達だと思うが。一応紹介しよう」

 

刀原がそう言って合図すると雀部を筆頭にした死神たちが前に出てくる。

 

その面々は刀原の言う通り、見たことのある者達だった。

 

「まずは、昨年もいた雀部雷華」

 

雀部は変わらない笑顔でペコリとお辞儀をし、顔見知りに手を振った。

 

彼女も服装は変わっていないが、新たに黒い手袋*2と青い帽子、青く大きなリボンを身に着けていた。

 

「護廷十三隊、十番隊隊長。日番谷冬獅郎」

 

日番谷が少しめんどくさそうに前に出る。

 

一昨年よりも背が伸び、髪型も少し変わり、碧色の布をマフラーの様に身に着けていた。

 

「同隊副隊長、雛森桃」

 

雛森が少し緊張気味に前に出る。

 

髪がシニョン(お団子頭)からショートヘアーに変わっており、新たに髪留め*3も身に付けている。

 

「十三番隊、第二副隊長*4朽木ルキア」

 

朽木が、少し緊張していることを隠すように腕を組んで前に出る。

 

彼女も髪が少し短くなっただけで、それ以外は変わっていない。

 

「日本魔法省から、黒崎一護、井上織姫」

 

黒崎を見て最初に目につくのは、やはり背中の刀だ。

 

一昨年の時よりも鋭角な形状をし、柄頭には途切れた鎖が追加されている出刃包丁のような刀だからだ。

 

井上は唯一刀を帯刀しておらず、死覇装も着ていないが……きっと彼らと同じで、とんでもない人なんだろうと生徒達は思っていた*5

 

「朽木、黒崎、井上は時々ロンドンへ行くが……それ以外はホグワーツに常在する形となる。なお、俺と雀部以外は……校庭内にある列車内で寝泊まりしているので、何かあれば来ると良い。では、よろしく頼む」

 

刀原がそう言って少しだけ頭を下げれば、他の全員もそれに倣って軽くお辞儀をする。

 

生徒達は、それを万雷の拍手で歓迎した。

 

「ありがとう刀原殿、そして部隊の方々。よろしくお願いいたしますぞ!さて、これでお知らせはお仕舞じゃ……と言いたいんじゃがの。ここで一つ、追加のお知らせじゃ……」

 

挨拶を終えた刀原以外の者達が、自分のテーブルへと戻る中、ダンブルドアがそう言った。

 

「実は『闇の魔術に対する防衛術』の先生は、スネイプ先生だけではないのじゃ……。今年は特別に、二人体制となる」

 

ダンブルドアのその言葉に、ハリーを含む一部の(アンチ・スネイプ)生徒達がざわつく。

 

このタイミングと言う事は……まさか!

 

察しの良い生徒達は気付く。

 

刀原は如何にも不服と言う顔をし、スネイプは少しだけ悔しそうな顔をしているが。

 

「一から四年生の生徒達は、スネイプ先生が教鞭を執られるがの。五、六、七年生の生徒達は……この刀原殿が教えることとなった!」

 

ダンブルドアのその言葉に、対象となる生徒達は歓声を上げた。

 

彼の実力を考えれば、スネイプよりも絶対にまともなはずだからだ。

 

一方……一部の生徒は「え……あ、おお?」という、戸惑いの声を上げた。

 

一部とは『DAメンバー』だ。

 

彼らは刀原のスパルタっぷり(実戦で覚えろ!)を知っている為、諸手を上げて歓迎出来ないが……それでもスネイプよりかは、まともであるという複雑な気持ちだからだ。

 

そして極一部の生徒達は……複雑っぷりが激しかった。

 

極一部とはハリーやマルフォイ達(昨年にねっちょり教わった勇者たち)のことだ。

 

まあ、歓声を上げた生徒達も……後々に地獄を見る羽目になるのだが。

 

 

 

 

 

 

大広間での宴が終わり、生徒達が全員ベッドへ向かっても、ダンブルドアと刀原達は残っていた。

 

「あのなぁアルバス、俺は忙しいんだ。虚退治に外交に書類に報告に鍛錬にと、色々やる事があるんだ。まあ、ハリー達の戦力強化を考えて請け負ったが」

 

刀原が強い口調でそう言えば、ダンブルドアは「すまぬ、じゃがこれしか無いのじゃ」と申し訳なさそうに答えた。

 

「……まあいい。大方、スラグホーンに何か事情があるんだろ?それでスネイプを『闇の魔術に対する防衛術』の教師にするしか無い、だけどハリーを含む死喰い人と一戦交えるかもしれない生徒達には酷だと考えた。だから俺を選んだ……そうだろ?」

 

「正解じゃ」

 

「ふん。それと……隠しているようだが。なんだその左手は?」

 

刀原の指摘に、ダンブルドアはギクッとしながら誤魔化そうとする。

 

だが、誤魔化しが効くような刀原ではない。

 

問答無用の表情(うるせぇ見せろ)をすれば、ダンブルドアは渋々左手を前に出した。

 

「まるで、強烈な呪いが掛かった物品を触れたような……触れたのか?」

 

「迂闊じゃった。呪いには気が付いておったんじゃがの……。どうしても、触れたかったのじゃ」

 

そう言ったダンブルドアの表情を刀原は初めて見た。

 

「まあ、詳しくは聞かないでおくよ」

 

「すまんの。そうしてもらえると嬉しい」

 

何か重大な理由があったと考えた刀原がそう言えば、ダンブルドアは頭を下げながらそう言った。

 

「見たところ……呪いは体内の組織を破壊して命を奪うのやつですね」

 

「もって一年……かな。初期の処置をした人が優秀で良かった」

 

そしてそんなやり取りを刀原とダンブルドアがしている間、雛森と井上がそう判断する。

 

「まさか……。何とか出来るのかの?」

 

ダンブルドアの問いに、刀原達は答えずに考え込む。

 

「どうする。桃、織姫。他の皆も、何か案はあるか?」

 

刀原がそう切り出す。

 

「王道だが、呪いを食い止める。あるいは排除するってのは出来ないのか?」

 

日番谷がそう疑問する。

 

「うーん、ちょっと厳しいかも。卯ノ花隊長ならより完璧に食い止められると思うけど……私も将平君も織姫ちゃんも本職ではないし」

 

簡単に往診した雛森がそう答える。

 

「この中で一番回道が得意な桃が言うんだから、無理そうか……。あ、俺も同じ意見だ」

 

鬼道においては自身に次ぐと思っている雛森の言葉に、刀原は頷いた。

 

「いや、別にわしの自業自得じゃから……。別に無理はせんでも……」

 

「うるせぇアルバス黙ってろ」

 

自身の控え目な発言を、刀原に即座に一蹴され、ダンブルドアは何とも言えない顔になる。

 

「いっそ、この左腕を斬り飛ばすというのは?」

 

普段はこうでは無いのだが、誰に似たのか……雀部は時折、こういう時にぶっとんだ(脳筋)発言をする。

 

「えっ」という顔になるダンブルドア。

 

だが誰も気にしない。

 

「おいおい、それじゃ隻腕になるぞ」

 

そう言った黒崎に、ダンブルドアは希望を見出だす。

 

「まあ死ぬよりかはマシか。幸いにも左だしな」

 

だがその希望はあっさりと潰える。

 

彼は雀部以上にそう(脳筋思考)だからだ。

 

そして、それが一番手っ取り早いのも事実。

 

問題は……。

 

「切れるでしょうか?切ったとして、全身に呪いが回っていたら?これほど強力な呪いです。斬り飛ばしただけで体から除去出来るとは……」

 

雛森が当たり前な疑問を口にする。

 

「凍結させるか?俺の完成した卍解なら」

 

日番谷が背中にある(氷輪丸)に手を掛ける。

 

「いや、俺の卍解なら……切ったうえで回った呪いを排除出来る。それで問題は無い」

 

刀原がそう言って鯉口を斬る。

 

自身の両親の呪いを排除した時と同じ手法だ。

 

「だけど、やっぱり隻腕になるのはマズイですよね」

 

自分が言い出しっぺであるのに、雀部がそう言う。

 

「私の『盾舜六花』の力があれば、片腕ぐらいなら再生出来るよ」

 

そしてそう言った井上の意見が決定的になる。

 

たじろぐダンブルドア。

 

直後、雛森の鬼道によって抑え込まれる。

 

「シロちゃんが傷口を凍結させて(血を止めて)、直後に織姫ちゃんが『盾舜六花』を使う。私は失う血や霊力を回道で和らげます。雷華ちゃんは周囲に結界を……流石、もう張ってますね。ではそれの維持を。一護君は全体のバックアップ」

 

雛森がそうテキパキと指示を出す。

 

お互いに気心知れた同期だからこそなせる業だ。

 

この連携を前に、ダンブルドアは蚊帳の外だった。

 

「安心しろ、痛くない痛くない」

 

刀原が優しく微笑みながら、刀を抜きつつダンブルドアに迫る。

 

今にも軽く注射をするかのような口ぶりと表情だが、ダンブルドアはその表情(大人しくしてろ……)を見て少し涙目になった。

 

「じゃあ行くぞ。全員準備は良いか?」

 

刀原の合図に全員が頷く。

 

「では、卍解……」

 

 

こうしてダンブルドアの呪いは、有無を言わさず除去された。

 

やはり日本の死神は、世代が変わろうとも凄いの一言に尽きるの。

 

ダンブルドアは、後にこう語った。

 

 

 

 

 

 

ハリーの心境は複雑怪奇だった。

 

永遠の宿敵にして自分を目の敵にしてくる『あいつ(スネイプ)』の……闇の魔術に対する防衛術の授業か。

 

自分が全幅の信頼を置き、教え方や分かりやすさも段違いだが、あまりにも実戦的で恐怖が勝る『兄貴分の授業』か。

 

数年前なら迷うことなく後者だし……実際の所、今もほぼ即答で後者なのだが……。

 

如何せん一昨年と去年の特訓で地獄を見ている為に、ハリーやハーマイオニー等の面々は手放しで歓迎出来なかった。

 

それなのに、知らない奴らは……。

 

ーーーーーー

 

『ショウの授業は、きっとルーピン先生の時(生徒からの支持率一位)の様な、実践的で素晴らしい授業なんでしょうね』

 

だの。

 

実践的?いや違う。

あれは()()()なんだ。

 

ーーーーーー

 

『きっと凄い授業だろうな。間違いないぜ!』

 

だの。

 

凄い授業?いいえ、あれは授業ではないわ。

ただの鍛錬と訓練よ。

 

ーーーーーー

 

『俺もあいつみたいな強い奴になれるかも!』

 

だの。

 

トーハラと同じことをすれば、なれるかもね。

僕?謹んでお断りする(ノーセンキュー)に決まっているだろう?

誰があんな、地獄を煮詰めたような事をするもんか。

 

ーーーーーー

 

ハリー達から言わせれば「どいつもこいつも、おめでたい奴ら」だった。

 

あいつじゃなくて嬉しいのか、再び地獄を見ることが確定したことを嘆けばいいのか。

 

百面相しているハリーに、同志たちは言った。

 

「素直に喜ぼう。そして諦めよう」

 

ハリーは自棄になって、とりあえずあいつじゃないことに歓喜の声を上げた。

 

 

 

 

「教科書なんて使わないから。しまって良いよ」

 

授業初日、刀原はそうニッコリ笑いながらそう言った。

 

それを聞いた何も知らない生徒たちは期待し、知っている生徒たちは何とも言えない顔(まあ……そうだよね)になった。

 

「まず、初めに……俺が何を教えるのかについてだけど……。残念ながら日本の技術は教えない」

 

「え、なんで?」

 

きっぱりとそう言った刀原に、ディーンが談話室で質問するかのように聞いた。

 

「それはだな。君たちが使ってる西洋魔法と、俺たちが使ってる極東魔法……鬼道は全くの別物だからだ」

 

「でも、ショウやライカはどっちも普通に使ってるよね?」

 

「鬼道の方が圧倒的に難しいのさ。古いし、強力だしね。実のところ、日本でもポンポン使える人は、そう多くないのが現状だ。それに君たち、自分の霊力なんて感じたことないでしょ?」

 

刀原の指摘に、全員が頷いた。

 

「鬼道はそれが必要だ。自らの霊圧を感じ取り、練り上げ、放出する。詠唱は長いし、失敗すれば爆発したりする。それこそ、そこにいるシェーマス(爆破魔)がよくやらかす『あれ』とは比にならない感じでな」

 

刀原がおどけるように言えば、ほぼ全員が笑った。

 

鍋の中身やティーカップの中身は勿論、羽や紙に至るまで。

 

シェーマスが今まで多くの物を爆破してきたこと(なんでもかんでも爆発させるのが得意な奴)は、同期の中では有名だからだ。

 

「鬼道の取得にはそれなりの努力と才能と時間が必要だ。どうせ一年しかないだろうからな、時間がない。だから鬼道の習得は不可能だ。そしてそれは、俺が持ってるこいつ……斬魄刀にも言える。……尤も?君たちがベリーハードコースでいいし、習得できないかもしれないけど……それでもやりたいなら止めねぇが?」

 

刀原がニヤニヤしながらそう言えば、全員が「結構です」という顔をする。

 

刀原はその顔に満足そうに頷いた。

 

「懸命な判断だな。では本題に入ろう。ダンブルドアから託されたのは、君たちの戦力上昇だ。だからNEWT(いもり)を……まあ頑張って添わせるけど……あまり気にしないでやる。試験の前に死にたくないでしょ?」

 

再び全員が頷く。

 

「この授業では『如何に戦場で生き残るか。敵を倒すか』に、焦点をあてる。そのために色んな呪文を習得必須とし、それら全てを無言呪文でやってもらう。そして、それを習得出来ているかが……学期末試験の課題になる。宿題なんて出さないし、レポートも求めん。最終的に、俺が求めるレベルまで行っていれば合格だ。逆に言えば、それらを習得していないと不合格ってわけだ」

 

刀原の言葉に、少なくない数の生徒が安堵する。

 

学年が上がることで各授業が高度化し、それにつれて宿題やレポートの数や求められる質も跳ね上がっている。

 

『宿題は無い方がいい』とは、古今東西の生徒たちが望むことだからだ。

 

「さて。では君たちが何を習得せねばならないかだが……それはさっきちらっと言った『無言呪文』だ」

 

そう言った刀原は、黒板に『無言呪文の有効性について』と書く。

 

「こいつがどんなもので、どんな有効性があるのか……。口で言っても分からんだろうからな。実際にやってみる。ってことでハリー、立ってこっち来い」

 

ご指名を受けたハリーは、渋々前に出る。

 

ロン達の方をちらっと見ると、ロンはサムズアップ(グットラック)し、ハーマイオニーとマルフォイは同情した顔(アーメン)をしていた。

 

ちくしょう、誰も助けてくれない。

 

「そんな顔すんなハリー。大丈夫だから」

 

ニッコリ笑って刀原はそう言うが、ハリーは学習している。

 

味方であればとても安心するこの一言も、相対しているときに言われると恐怖しかないことを。

 

「ではハリー。俺を武装解除してみろ」

 

ハリーはその言葉に頷き、刀原に杖を向ける。

 

「『エクスぺr(武器よs)』」

 

そして呪文を放とうとした瞬間、刀原が()()()ハリーを武装解除した。

 

「これが無言呪文だ」

 

ハリーや他の生徒達が呆気にとられている中、刀原はハリーの杖を見せびらかしながらそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1

なお、刀原に白状したところ「ダンブルドアに言え。その後俺たち(お茶会)で協議して、沙汰を出す」と、迷わずそう言った。

*2
言わなくても分かると思うが、刀原とお揃いである

*3
ちなみにこの髪留めは、日番谷に買って貰ったやつらしい。

*4

異例である第二副隊長な理由は、十三番隊の隊長『浮竹十四郎』に事情がある。

 

彼は生まれつき、重い肺病を患っているのだ。

 

一応……マグルの医療技術も使っての治療で、年々良くなってはいるが、それでも時々は副隊長の志波海燕が補佐に入っている。

 

そしてその志波の補佐に、朽木が入る……という仕組みを作ったのだ。

 

まあ、同期が『あれ』なせいで、必然的に手練れとなった彼女の進路を作るため……という一面もあるが。

 

*5

井上がそれを聞いたら「そんなことないよ!(異議あり!)」と言うだろうが……。

 

ホグワーツ生からすれば至極まっとうな意見(どう足掻こうがその通り)だった。

 






素晴らしい提案をしよう

君も先生になるのじゃ。



前回で刀原に来た、ダンブルドアのからの手紙の内容は『闇の魔術に対する防衛術の先生になってくれぬか?』でした。

当然ながら刀原は断ろうとしますが、最終的に『ハリー達の強化』を目的に合意しました。

頑張れハリー達。
強くなるんだぞ☆

なお薩摩(瀞霊廷)ホグワーツ化はしません。
時間が無いので。
え、時間があったら?
愚問ですね、刀原なら間違いなく仕込みます。


ダンブルドアの呪い。
裏設定として……実は刀原の両親の呪いもこれです。

その為、刀原は真っ先に気が付けたという訳です。

尤も……刀原達は『あれと類似したもの』と誤認しており、某魔法薬学の元教授の初期処置が効いて、刀原の両親よりかはマシになってます。

あの人、何気に優秀なんですよね。

何で死喰い人なんかになったんだ。
絶対進むべき道、間違えたって。
誰だ、ねじ曲げたの
あ、この小説では出番皆無のハリーパパか。




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そしてお待ちしております。


では次回は

プリンスとスラグクラブ

次回もお楽しみに。





おまけ

「どうしてこのメンバーなの」

「確かにそうね。私たち、てっきり知らない人が来ると思っていたのよ?」

「知っている人ばっかりだよな。まあ、その方がこっちも気楽なんだけどさ」

「ああ、それはな。とりあえず英国事情に詳しく、英語も堪能で、留学しているから地の利も知り合いもいる俺と雀部が、部隊メンバーの任命を選任された」

「うんうん」

「まあ、それはそうよね」

「次に……俺が信頼出来て、実力も分かってて、語学的にも問題ない人を選べ……ってなってな。必然的に冬獅郎を選んだ」

「当然だな」

「で、残る人は適当に手練れを選んで……。って話だったんだけど……」

「だけど?」

「まずグリムジョーっていう奴のご指名で、必然的に一護」

「全く嬉しくないご指名だけどな」

「シロちゃんが行くなら私も行くってなったから桃」

「もう一回ホグワーツに来たかったんだもん」

「回復役に、一護の恋人の織姫」

「えへへ」

「何かと暴走しがちな一護と織姫の手綱を握れるルキア」

「まあ、そうだな」

「一応、同期達で固めると……何かとあれかなと思ってな?だったら人数を増やせないかと、思ったんだけど……」

「恋次君が「だったら俺も行きてぇ」って言い始めまして。それなら引率の人を、となったんですが……」

「こんな濃いメンバーを引率できる人は限られるから却下されて、結局このメンバーになった」

「ピクニックかよ」
「卒業旅行かよ」

「それを言うな」
「それを言わないで下さい」




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死神、怪しむ。プリンスとクラブ


折角磨くなら

宝石を磨きたいじゃないか?

それが私を飾るなら、尚更だ。








 

 

ハリー達の恐れは……()()()()()()()杞憂だった。

 

戦々恐々になりながら初回授業を受けたハリー達だったのが、その予想に反して、刀原の授業は優しかったからだ。

 

分かりやすい無言呪文の解説……。

 

ーーーーーー

 

「無言呪文の有効性は、何といってもその隠密性にある。発音しなくていいから『先手を取りやすい』し、敵対者は何の呪文が使われたのか分からないし、発音という分かりやすい『警告(今から呪文を使います!)』も無いから不意打ちもしやすい。発音ミスによる失敗からおさらば出来るしな。ちなみに……有力な魔法使いたちの決闘は、発音が無いから意外と静かだし、派手さも無い」

 

ーーーーー

 

無言呪文に対する心構え……。

 

ーーーーー

 

「コツは『心の中で唱えること』思うだけだ。だが……当たり前だが、そんな単純で簡単な話ではない。深い集中と強い意志。その呪文に対する知識と練度。発動したらどうなるのかの正しいイメージ。それらがないと駄目だ。ちなみに……残念ながらほとんどの呪文は唱えた方が効果が高い。おい、「意味ねーじゃん」とか思うな。その身で味あわせてやろうか?」

 

ーーーーー

 

刀原は無言で様々な呪文を実際に使いながら、ハリー達にそう教えた。

 

おまけに刀原は「なんの呪文でも良い。次回までに無言呪文を習得してきた奴には、一つにつき十五点を約束しよう。一つにつきだ」と言い放ったのだ。

 

一つにつきということは、習得してきた数に応じて、点数は倍増になるということだ。

 

大量得点のチャンスに、生徒たちは色めいた。

 

事実上の宿題だが、他のとは違って成果が得点に直結するため、生徒達の中で気にする者は皆無だった。

 

「最高じゃないか!分かりやすいし面白い。かと言って理不尽でもない!ハリー達が言っていたのは何だったんだ?」

 

何も知らない生徒たちは、呑気にそう言っていた。

 

しかし、ハリー達は分かっていた。

 

初回が優しかったからと言って、今後もそうだとは思えない……ってかありえない……と。

 

今は優しい先生を装っているだけだ。

 

どうせ、後で絶対に鬼教官になるはずだ。

 

そして、その思考は正しかった。

 

今の刀原は……忙しいのと、まだまだ序盤だから飛ばし過ぎないようにしていただけだったのだ。

 

そう……『いつかは絶対にハードモードになる(地獄の釜の蓋が開く)』というハリー達の恐れは、現実なものになるのだ。

 

具体的には……ハロウィンを過ぎた辺りで。

 

 

 

 

 

 

さて、そんな確定した未来(地獄)置いて(見ないことにして)おいて。

 

マクゴナガルの変身術、フリットフィックの呪文学、スプラウトの薬草学等々……。

 

ハリー達は己が未来の進路のために、より高度になった六学年の授業を受けなくてはいけなかった。 

 

その中でも特に注目を集めたのは、スネイプから変わった……どちらかと言うと復帰らしい……ホラス・スラグホーンの魔法薬学だ。

 

このセイウチみたいな老教授は……実はかなりのベテランらしく、引退した1981年までの約五十年以上にわたって魔法薬学を教えてきたらしい。

 

そんな彼の授業は、ハリー達生徒だけでなく、刀原達も注目していた。

 

少なくとも、雀部と雛森*1が警護と称した見学を行うほどには注目していた。

 

 

 

「今回は生ける屍の水薬を調合する。そして一番良く出来た者には……この魔法薬のうち、一つだけを贈呈しよう」

 

流石、上手い手ですね。

 

スラグホーンの言葉に、雀部は素直にそう思った。

 

飴をちらつかせるという手法自体は刀原もやっていたが……あれとは得られる物の格が違う。

 

何せ『幸運の液体(フェリックス・フェリシス)』という、日本でも滅多にお目にかかれない魔法薬が景品の中に含まれているのだ。

 

幸運の液体……効果は『全ての物事が上手くいく』

 

飲んだ者は、薬の効能が切れるまで全ての物事が成功することが約束されるのだ。

 

但し、過剰に摂取し過ぎれば自己過信や傲慢さ、無謀さを引き起こすというデメリットがある。

 

無論、その効能故に……クィディッチ等の競技での服用は禁止である。

 

ちなみに……何故滅多にお目にかかれないかというと、調合に約六ヶ月もの時間が必要であり、調合に失敗すると悲惨な結果を招くことになるからだ。

 

日本でも調合が出来るのは、浦原や涅、藍染を頂点とした日本魔法界科学技術部門の上層部(上澄み)ぐらいだろう。

 

そんな希少な魔法薬が……例え効果が十二時間位だとしても……得られるかもしれないのだ。

 

生徒達が目の色を変えない筈がない。

 

幸福というのは、全ての人間が欲しいものだから。

 

ってか、なんなら私も欲しい。

 

今すぐ飛び入り参戦して、浦原から教わった生ける屍の水薬の()()()()調()()()()で圧勝しようかと思うくらいには欲しい。

 

まあ、後でしょう君にしこたま怒られるでしょうからしませんが。

 

雀部は、鋼の精神で我慢することにした。

一緒にいた雛森も、同じように我慢することにした。

 

 

 

そんな感じで日本の死神たち(雀部と雛森)が己の表と裏の職務(警護兼見学)を全うしようと我慢し始めたころ……。

 

ハリーは目の前にある、少し草臥れている教科書を見ながら首を捻っていた。

 

なぜハリーが少し草臥れた様子の教科書を使っているのか。

 

それには結構複雑な事情がある。

 

実は、『去年の教授(スネイプ)』が「O・優が取れなかった者に、我輩の授業は受けさせん」と宣告していたのだ。

 

そしてハリーは、残念ながら去年のOWL(フクロウ)でO・優を取れなかった*2

 

しかし……幸運なことに教授が変わった。

 

その新教授であるスラグホーンは、ハリー達を温かく向かい入れる準備があると言ったのだ。

 

ハリーは自分の進路……『闇祓いになりたい』という進路を叶えるために、喜び勇んで授業に向かった。

 

だが、ハリー達『受ける予定じゃなかった者』には問題があった。

 

教科書を準備していなかったのだ。

 

慌てたハリー達だったが、スラグホーンはそんなことぐらいお見通しだった。

 

スラグホーンはそんなこともあろうかと、貸出用の教科書をちゃんと用意していたのだ。

 

そしてハリーはその貸出用の教科書を巡る争奪戦に負け、いま目の前にある教科書を入手したのだったが……。

 

随所に走り書きや書き込みなどが散見されたのだ。

 

『催眠豆は、切るよりも押し潰した方が汁が出る』

 

『催眠豆は十二粒ではなく十三粒』

 

『時計回りと反時計回りに七回攪拌した後、時計回りに一回攪拌する』

 

これらの書き込みをハリーが実際にやってみたところ、なんと正しいどころか効果的だと言うことが分かったのだ。

 

「君が勝利者だ!母親の才能を受け継いでいるな!」

 

こうしてハリーは、ハーマイオニーなどを差し置いて生ける屍の水薬を完璧に調合し、『幸運の液体(フェリックス・フェリシス)』を獲得したのだった。

 

 

 

 

 

 

「……一体、誰の教科書なんですか?」

 

談話室で今だホクホク顔のハリーに、雀部は怪しむようにそう言った。

 

この怪しげな教科書に否定的なハーマイオニーが不在の時を狙っての追求に、ハリーは内心で有難がったが、刀原と雀部を相手に誤魔化せる自信はなかった。

 

「そんなに気になるのか?見たところ怪しい点は見つからなかったが……」

 

何も知らない刀原は、雀部が珍しく表情を厳しくしていることに疑問を抱く。

 

「……あの調合方法は、私やしょう君に魔法薬学を教えてくれた浦原さんのマル秘テクニックでした。浦原さんに匹敵する魔法薬学の腕を持つなんて、気になりませんか?」

 

雀部は、ハリーの調合方法が正規の手法(教科書のやり方)ではなかったことを見抜いていた。

 

「なるほど。それは確かに気になるな……見せてくれハリー」

 

刀原は雀部の証言を内心で驚きながら、有無を言わさない表情でハリーに開示を求めた。

 

この表情の刀原には勝てない。

 

ハリーは今までの付き合いでそれを学習しており、「ちゃんと返してね」と念を押して刀原に例の教科書を差し出した。

 

「……『半純血のプリンス』蔵書……?」

 

そして本に書かれている内容を見た刀原は、思わず目を細めた。

 

その恥ずかしい(中二病くさい)名前に、既視感を抱いたからだ。

 

まさか……。

 

またあの頭のイカれた……いい歳して闇の帝王とか名乗ってるハゲチャビン関係のやつか?

 

自分の名前を弄くって、死の飛翔とかいう恥ずかしい名前をつけるやつだ。

 

今の名前になる前に、自らを王子(プリンス)と読んでいてもおかしくはない……。

 

刀原はそう思いながら、パラパラと本をめくる。

 

「……『ラングロック(舌縛り)』に、『マフリアート(耳塞ぎ)』。『レビコーパス(身体浮上)』も……」

 

少し朧げな記憶なのだが、どれも比較的新しい呪文だったのはず。

 

この呪文が日本にやってきたのは、確か約二十年前だったはずだから……。

 

おそらくこの本の持ち主の同期は、シリウスやリーマス達だな。

 

まさか、彼らが?

 

いや、彼らにはれっきとしたコードネームがあった。

 

別のやつを名乗るとは思えん。

おそらく違うな。

 

じゃあ、誰だ?

 

ハリーのお母さんは魔法薬学が得意だったらしいが……彼女の旧姓はエバンスだったはず。

 

……まさか。

 

いや、そんなはず……。

 

…………。

 

ないないない、ありえない。

 

あの人だったら腹抱えて笑うわ*3

 

刀原は京楽仕込みの深い洞察力と推理力で、本の持ち主を考えた。

 

そして最有力候補を見つけ出すが、その考えを置いておいた。

 

「とりあえず……あまりこれに頼るな」

 

その言葉に、ハリーは愕然とする。

 

「で、でも。魔法薬学では使えるんだよ?」

 

決死の反論に、刀原は考え込むような仕草をする。

 

「まあ、確かにそうなんだがな……」

 

怪しげなところは特に見受けられないし、興味深い調合方法や呪文が記載されているのだが……なにか嫌な感が働いているのだ。

 

刀原はその感を信じていた。

 

そして……見つけ出した。

 

「……『セクタムセンプラ』……。聞いたことのない呪文だな」

 

ヤバい予感の正体はこれだと直感する。

 

どんな効果を持つのかは分からないが……だからこそこう言うのは危険だ。

 

「……この『セクタムセンプラ』という呪文を使わない。それを守るなら……この本の活用を許可をしてもいいだろう」

 

刀原は如何にも渋々といった表情でそう言った。

 

「やった!ありがとうショウ。でもなんでその、『セクタムセンプラ』っていう呪文は使っちゃダメなの?」

 

ハリーは逆転勝訴した(「意義あり!」が通じた)ことに喜びの声をあげながら、その呪文が使用不可であることを問う。

 

「それはだな、こいつがどんな呪文なのか分からないからだ。他のは良い。うっすらとだが、聞いたことがあるからな。だが、こいつは聞いたことがない。この手のやつは、何があっても大丈夫な備えをしたうえで試してみるものだ。だから使用は許さん。人に向けてやるなんて言語道断だ」

 

刀原はハリーの目をじっと見ながら、はっきりとそう宣告した。

 

ハリーは、内心で気にしすぎだと思っていた。

 

だが……確かに何も知らない呪文を使って、とんでもないことになるのは嫌だと思い、ハリーは「分かった」と神妙な顔で頷いたのだった。

 

 

 

「あ、そうだ。後でそれ、全部丸写しさせてくれ」

 

「え、なんで?」

 

「勿論、日本に送るからです」

 

「魔法薬学の調合に関する、貴重な資料だからな。浦原さんや涅さんが喜ぶぞ」

 

ーーー

 

「おお~これはいい資料っすね!ほほう、こんなアプローチの仕方もあったんっすか」

 

「ふむ、中々素晴らしい資料じゃないか?やってみるのが楽しみダヨ!」

 

ーーー

 

「ついでに……セクタムセンプラについての検討も、技術開発局でしてもらう。書かれている呪文も、日本魔法省や大霊書回廊に登録しないとね」

 

「ハリーに感謝しないといけませんね。こんな掘り出し物があったなんて」

 

「ど、どういたしまして?」

 

 

 

 

 

 

条件付きとはいえ……ハリーが『例の本(半純血のプリンス蔵書)』を使用することが認められ、刀原と雀部がその本の複写版を日本へ送ってから数週間後。

 

「休息中に申し訳ないのだが……ちょっといいかね?」

 

つかの間の休息を満喫していた刀原と雀部にそう言ったのは、ホラス・スラグホーンだった。

 

「……ええ、構いませんよ」

 

「……ダイジョウブデスヨ」

 

刀原は曖昧な笑み(アルカイックスマイル)を浮かべながらそう言い、雀部はぎこちない笑みと若干カタコトになりながらそう言った。

 

「在野でくずぶっていた身だが、君たちの評判は良く耳にしていてね。一度、直に会ってみたかったのだよ。初めまして、ミスター・トーハラ、ミス・ササキベ。あの護廷十三隊の隊長に就任したお二人に会えて光栄だ!」

 

そう言って握手を求めてきたスラグホーンに、刀原と雀部は「こちらこそ、お会い出来てうれしいです」と握手に応じながらそう言った。

 

「アルバスから聞いたんだが、二年前まで留学生だったらしいね?それを聞いた瞬間、もう少し早く復帰していればと思ったものだ!」

 

悔しいという割に、カラカラとスラグホーンは笑う。

 

それを見た刀原は、「セイウチみたい」と評したハリーの見立ては正解だなと感じた。

 

「さてさて……虚退治をしながら教授も兼任していて、忙しそうにしているからね。折角の休息に、いつまでもお邪魔するのは忍びない。早速、本題に入ろう。私が主催するクラブ……『スラグ・クラブ』に、ぜひ君たちも招待したいんだ」

 

「スラグ・クラブ……ですか?」

 

スラグホーンが生徒たちを招待してホグワーツ特急内で会食をしたというのは、結構有名だった。

 

ハリーは当然の如く招待され、反ヴォルデモートを宣言したマルフォイも参加していたらしい。

 

「ああ。私が選んだ、優秀だったり有名な学生を招待してね。会食をしたり、お茶会をしたりするんだ。この前に第一回目を早速してね……その時に君たちが、今のホグワーツで多大な影響力があると聞いたんだ。それで、これは招待しなくては!とね」

 

影響力……というか、抑止力というか。

 

「私がいた時と比べてあの二つの寮(スリザリンとグリフィンドール)に争いごとがあまり無いことを、いささか驚いているよ。しかも、このような情勢下だというのにね……。ハリーとドラコ曰く「必要無いから」らしいが……君たちも関与しているんだろう?それしか考えられないのだが」

 

刀原と雀部は、苦笑いをする。

 

各教授たち曰く、寮同士*4の対立やいざこざ、小競り合いなどは年を重ねるごとに減っているらしい。

 

その裏には、それぞれのリーダー格であるハリーとマルフォイが、良きライバル関係になっていること。

 

それぞれリーダー格が、「寮同士での争いなど、無駄でしかない」と後輩たちに教えていること。

 

そしてその更に裏には……。

 

そのリーダー格の頭を押さえ(を上手いこと誘導し)、過去にちょっとした抗争に発展しかけた時に「喧嘩両成敗だ/です」と言って武力制圧した某留学生たちがいたからだ。

 

「「……何のことやら」」

 

全てを知っている刀原と雀部は(某留学生たち)、知らんぷりを決め込んだ。

 

スラグホーンはそれを聞いて訝しげな表情をしたが、直ぐに「まあ、いい」と言った。

 

どうやら、深入りはしない方が良いと判断したらしい。

 

「とにかく……新進気鋭の君たちにも、是非来てほしいんだ」

 

「私たちは、もう生徒ではありませんが……?」

 

「それに囚われるような私ではないさ。他ならぬ君たちなのだからね。さて、ここらでお暇させていただくとしよう。忙しいだろうが……いい返事を期待しているよ?美味しいお菓子とかも用意しているから、是非来てくれ」

 

スラグホーンはそう言って立ち去って行く。

 

「……さて、どうしようか……」

 

刀原は少し悩む素振りをしながら、最愛の相棒を見る。

 

「……お菓子、お茶会……いいですね。お呼ばれとあらば、行くしかないでしょう?」

 

雀部は目をランランとさせながらそう言った。

 

そういうところは自分の欲望に忠実だなぁ……。

 

刀原は「じゃあ、行くか」と言って、雀部の頭をポンポンと叩いた。

 

 

 

 

 

 

数日後に行われた第二回目のスラグ・クラブは、刀原と雀部や、ハリーから推薦を貰ったハーマイオニー等を新たなメンバーとして開催された。

 

「諸君!今宵も大いに語り、大いに食し、大いに楽しんでくれ!」

 

スラグホーンはテンションも高めにそう宣言した。

 

その挨拶が終わった直後、雀部は意気揚々とお菓子の海へ飛び込んでいった。

 

今はハーマイオニーやジニー等と、仲良くお茶会をしていた。

 

そんな最愛の相棒を傍目に見ながら、刀原は参加メンバーを見ていた。

 

その中には、闇との決裂と反ヴォルデモートの立場を鮮明にしたマルフォイがいた。

 

何故、立場を鮮明に出来たのか。

 

それは、刀原とダンブルドアの二人が、彼が安心してこちら側に味方出来るように知恵を絞ったからだ。

 

作戦は『マルフォイの両親を生死不明にする(あれれ~マルフォイ家が消えちゃったぞ?)』という作戦だった。

 

ーーーーーー

 

ある日の深夜、二人が寝静まったころ、誰かがマルフォイ家の屋敷へと侵入。

 

気が付いた二人は抵抗するも、行方不明に……。

 

屋敷にある寝室では、血の跡や戦闘の跡が見られるため……おそらくマルフォイ家は裏切りを行おうとしていたのだが、気が付かれてしまい、殺されてしまったのだろう。

 

生き残ったドラコ・マルフォイは両親の意を組み、ダンブルドア陣営に加わった。

 

ーーーーーー

 

という筋書だった。

 

敵には、行方不明の首謀者は向こう(ダンブルドア陣営)だと見える。

 

夥しい血の跡もあり、盛大に荒らされていて、スパイのスネイプもそう言っていた。

 

ヴォルデモートはそれをあっさりと信じた(あっそう、分かったわ)

 

ドラコ・マルフォイへの制裁命令すらなかった。

 

度重なるルシウスの失態で、マルフォイ家への信用が薄れていたこと、子ども(ハリー)にしてやられて戦力として信用できないことも、それに拍車を掛けた。

 

ヴォルデモートは、最早マルフォイ家を戦力に数えていなかったのだ。

 

何も知らない一般人には、報道された筋書きが真実のように見えた。

 

スクリムジョールはオフレコ(記録が残らない非公式会談)でことの全て(真実)を知り、その上でありのままを報道した。

 

敵に裏切り者が出たと言うのは士気高揚に役立つ上……調略に魔法省も関わったと言えば、支持率上昇にも役立つからだ。

 

全ては……刀原、ダンブルドア、そしてルシウス・マルフォイの策だった。

 

ルシウスは、ヴォルデモートが勝つことはあり得ないこと、自身がすでに期待されていないことに気がついていた。

 

故に、神秘部の戦いでは無能を演じたのだ。

ハリー達が存外に手強かったのもあるらしいが。

 

そして、最愛の息子を鉄砲玉のように扱われたことで、辛うじて残っていたヴォルデモートへの忠誠心も消え去った。

 

狡猾なスリザリンらしく……どんな手段を使おうとも『ドラコだけでも助けてくれ』と、刀原とダンブルドアに要請した。

 

ダンブルドアはスネイプからの報告(ドラコに自身への暗殺命令が出た)、ルシウスから息子を思う手紙を受け取り……子供に罪はないとして、ドラコを闇の魔の手(ヴォルデモート)から救い出すことに賛同した。

 

刀原は要請を受けた段階で、ドラコとの友情を考え、そしてヴォルデモートを片づけた後でマルフォイ家が役に立つと考えていた。

 

そして考えた末……ドラコを救出することを決断。

四楓院から指揮権を一時譲渡してもらい、隠密機動を動かせるようにした。

 

こうして……刀原が先の作戦を考え、ダンブルドアが先の筋書きを考え、ルシウスが事前準備をしたのだった。

 

 

 

……真相はこうだ。

 

事前にルシウスが自ら屋敷を荒らし、やって来た隠密機動に拉致してもらったのだ。

 

隠密機動からすれば、暗殺が拉致に変わっただけだ。

しかも相手は抵抗せずに、進んで拉致られるのだ(お待ちしてました、さあ行きましょう!)

 

事前演習よりも簡単だったらしい。

 

そして刀原は、二重スパイ役だと発覚したスネイプに『証言』してもらってまで(あいつらがやったって言ってました!)、信憑性を高めた。

 

結果、ヴォルデモート(頭パッピーセット)はあっさりと騙された。

 

現在……ドラコ以外のマルフォイ家は日本にいる。

今頃は日本で観光でもしてるだろう*5

 

故に、マルフォイは立場を鮮明に出来たのだ。

 

刀原は全てが終わり、ルシウスと握手し、彼らが日本へ向かったあとでこう言った。

 

「チョロいね」

 

 

 

 

ハリーと仲良く談笑しているマルフォイを見ながら、刀原はにこやかにそちらへ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
刀原と日番谷は、残念ながら多忙の為に不参加

*2

テストの成績が悪かったからか、はたまた陰謀かは……この際おいておく。

*3
後に、謎のプリンスの正体をハリーから聞いた刀原は……。

 

「アッハッハッハ!じゃああれ、黒歴史ノートだったのか!」

 

腹を抱えて大爆笑した。

 

*4
特にグリフィンドールとスリザリン

*5
「俺の友人のご両親だ。もてなして、丁重に扱ってくれよ?」

 

刀原はそう念を押していた。

 

これを機に、マルフォイ家を親日家にさせるつもりだったからだ。

 

少なくとも……市丸ギン宛に持たせていた手紙には、そう書いていた。

 

「流石やな。ちゃんとこっちのメリットも考えてるわ」

 

市丸ギンは手紙を読んで、そう笑った。

 







後ろ指を差されようとも

いかなる汚名を着ようとも

我らは狡猾なスリザリン

愛する者の為なら

何だってしよう。




マルフォイ家はこれを持って戦線離脱です。

ヴォルデモートからしてみれば……無能が忽然と消えたわけで、別に裏切ったようにも見えないので報復する気もありません。

一般人からすると……先日捕まった悪の組織の大幹部が粛清によって消され、その息子は親の敵討ちに燃えていると言った見方になります。

マルフォイからしてみれば……大手を振ってダンブルドア陣営に成れますし、親は日本で亡命生活ですので心配もない。

日本からすれば……未だに英国で影響力を有する貴族の一家を親日にさせるチャンス。

ダンブルドアからすれば……敵が少なくなったうえ、獅子身中の虫が味方になり、こちら側にそう言う戦力があると知らしめる結果になります。

つまり、みんなハッピーになれる訳ですね。

一応ナルシッサも日本に行ったおかげで、来年のとあるイベントをどうするかという問題が出てきますが……。

まあ、なんとかなるでしょう。

なる……はずだよよね?



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そしてお待ちしております。

では次回は

特別授業と幸運

次回もお楽しみに。



おまけ

「さて……君たちも俺も、だいぶ授業に慣れてきたよな?」

今年も何もなかったハロウィンが過ぎ、十一月に入った闇の魔術に対する防衛術の授業で、刀原はそう言った。

授業はかなり順調で、ハリーは得意の武装解除呪文なら無言で出来るようになってきたし、多くの生徒も簡単な呪文ならば無言で出来るようになっていた。

そしてハリー達の警戒を他所に、刀原はスパルタではない授業を展開しており……ハリー達のようやく杞憂だったかと思い込んでいた。

「慣れてきた。つまり、ある程度は出来るようになってきたという訳だ。そこで、授業をより()()()にしようと思う」

刀原は宣告するようにそう言い放った。

その瞬間、ハリー達『知っている連中』に衝撃が走った。

来るべき時が来た。
遂に開かれたんだわ。
……頑張ろう。

ハリー達は瞬時に諦めムードになった。
悟ったと言い換えてもいい。

一方、知らない連中は疑問に思った。

あれ?文字違くね?
実戦的?実践的じゃなくて?

間違いではなかった。

「じゃあ、手始めに……。俺と一対多数戦をしよう。ああ、安心してくれ、ちゃんと竹刀で応戦するからさ」

刀原は生徒達に広がる厭戦ムード(やりたくない)困惑ムード(なんか空気違くなった⁉)を無視し、竹刀を取り出しながらそう言った。

「俺をノックアウト出来たら、今日の授業はお仕舞でいいからさ」

その言葉に一部は色めき立つが、一部は出来る訳ないと思っていた。

DAでやっていたからだ。

ハリー、ハーマイオニー、マルフォイ、セドリック、チョウ、フレッド・ジョージ、ジニー等。

ホグワーツのオールスターメンバー(最精鋭パーティー)と言ってもいい彼らで、駄目だったのだ。

無理ゲーだった。

当然、完膚なきまでに……ボコボコにされた。





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死神、参謀になる。特別授業と幸運



唾棄すべき己の名を消した

憎むべき肉親を消した

忌々しい過去を消した

消して、消して、消して

残るものは、何も無かった。




 

 

 

今学期が始まってから最初の週の土曜日。

 

ハリーはダンブルドアからか呼び出され、特別授業と称した『ヴォルデモート対策』を行っていた。

 

それはヴォルデモート自身が切り捨て、謎に包まれている過去と、それにまつわる記憶を探るものだった。

 

彼の出生と母親の血筋……すなわちゴーント家のことだ。

 

ゴーント家自体は非常に古くから続く魔法族の家柄だったのだが……。

 

いとこ同士が結婚する、つまり近親婚が繰り返される慣習から情緒不安定と暴力に染まり*1、やがて衰退していった。

 

そんな一家の一員だった女性『メローピー・ゴーント』こそが、ヴォルデモート(頭のイカれた魔法使い)こと『トム・マールヴォロ・リドル』の母親だったのだ。

 

記憶の中で彼女は、ハンサムなマグル『トム・リドル・シニア』に胸を焦がしていた。

 

だが純血思想に固執するゴーント家が、そんな真似を許す筈が無かった。

 

普通なら叶わない恋の筈だったのだ。

 

だが、何の因果か……歯車が狂った。

 

メローピーの父と兄が、マグルを襲ったとしてアズカバンに収監されたのだ。

 

こうして、彼女を遮る障害は無くなった。

 

リドルには婚約者が居たが、数か月後にリドルとメローピーは駆け落ちをした。

 

暑い日に水を一杯差し出す振りをして『愛の妙薬』を盛るのは簡単だったのだろう。

 

しかし、その一年後にリドルはメローピーから離れ去った。

 

メローピーもゴーント家の一員として、残念な女だったのだ。

 

一つは……リドルを忘れられず、彼には婚約者がいるにも関わらず強引に手に入れようとした。

そしてそれを成功させてしまった。

 

二つは……そのような事をしたが、魔法で夫を隷従させ続ける事に耐えられなくなったこと。

彼女は中途半端な心で実行したのだ。

 

三つは……そんなことをしていたにも関わらず、彼が自分の愛に応えてくれると確信していたこと。

そんなことあり得ないのに。

 

全てはゴーント家の情緒不安定で暴力的で自己中心的な思考が、彼女にも宿っていたが故だった。

 

一応、先の三つはダンブルドアの推察だ。

 

だが事実は一つだ。

 

メローピーはリドルに魔法を掛け、駆け落ちした。

 

しかし一年後、解けたのか解いたのかは一応不明なれど、リドルは正気に戻った。

 

当然ながらリドルは、メローピーと二人の間で出来た赤ん坊を捨てた。

 

メローピーは赤ん坊を孤児院で出産し、直後に亡くなった。

 

そしてその数十年後、赤ん坊はヴォルデモート(頭のイカれた魔法使い)となった。

 

「英国魔法界の闇を濃縮したみたいな感じだな」

 

ハリーから一通り聞いた刀原は、頭のイカれた魔法使いになるべくしてなったヴォルデモートに、小さじ半分ぐらい同情した。

 

 

 

二回目の授業では、トム・リドルの幼少期についての記憶を探った。

 

 

孤児院で成長したトム・リドルは、ゴーント家の呪いと言っても差し支えない凶暴性を発揮した。

 

天井の垂木から他人のウサギを首吊りにし、他の子供を洞窟に誘い込こんで様子をおかしくさせ、戦利品の様に様々な物を子供たちから盗んだ。

 

しかもそれらの犯行には魔法を使用し、一切の証拠を残さなかった。

 

彼は幼く若い魔法使いにありがちな行き当たりばったりのものではなく、意識的に力を行使出来たのだ。

 

それに始めてダンブルドアから彼と接触した時も「真実を言え!」「証明しろ」等、命令口調や乱暴な口調も目立った。

 

何より、彼は猫を被るのが上手かった。

 

立場が上と判断した場合、がらりと人が変わったように丁寧な口調に変える事など朝飯前だった。

 

何も知らない人が見れば、そのような危険性を忍ばせていることなど分からないだろう。

 

トム・リドルという少年は非情に自己充足的で秘密主義であり、友人を作らず誰も信用せず、自分ひとりでやる事を好んだ。

 

怪物は元から怪物であり、そこに魔法と言う他者とは違う特別な力が組み合わさったことで、怪物はより凶悪になったのだ。

 

「次回はショウも一緒に来てくれ。だってさ」

 

ハリーはこれまでに知った全てを刀原に打ち明けた後、まとめるようにそう言った。

 

「……はぁ~。分かった」

 

刀原は面倒くさそうに了承した。

 

 

 

 

 

 

ハリーとダンブルドアの特別授業が順調に進む中、各授業も軌道に乗り、ホグワーツでは穏やかな日々が続いていた。

 

しかし、残念ながら世情(ホグワーツの外)は悪化しつつあり……ほんの時々だけ死喰い人の斥候が現れては侵入を試みたり、虚が出現したりしていた。

 

一応……死喰い人はホグワーツ全体を覆っている防御魔法によって阻まれ、虚は出現するたびに刀原達『遣英救援部隊』の面々によって殲滅されていたが。

 

だがホグワーツでは、戦時下とは思えない穏やかさがあった。

 

ハリーに至っては、「入学して以来、初めての平和な日々*2」と称するほどだった。

 

そんな穏やかなホグワーツに迫ってきたことがある。

 

クィディッチシーズンだ。

 

「いいですかポッター。当然ながら、学業はとても大切です。しかし、それと同等に大切なのがスポーツです。私は自分の部屋に、優勝カップがあることにすっかり慣れてしまいました。無いことなど考えたくもありません。ですからポッター?新キャプテンとして全力を尽くしなさい」

 

ホグワーツ屈指のクィディッチ狂いとして有名なマクゴナガルは、シーズンの開始を控え、ハリーへ強く厳命した。

 

ハリーも事実上の三連覇を目指し、ありとあらゆる手段でチームの強化をしようと決意した。

 

そのために、まずはメンバーの参集と選抜を行うことにした。

 

参謀役として刀原も招集し、とある土曜日に選抜会は行われることになった。

 

 

 

「今から選抜試験を……静かに、静かに!」

 

ホイッスルがいるなと、ハリーはデジャブを感じながら思った。

 

選抜会には、ハリーの予想を遥かに超える人数が集まったのだが……ごく一部を除いて、どいつもこいつも騒がしかった。

 

理由は単純。

 

こいつらは『選ばれし者』として名高いハリーを見に来た野次馬なのだ。

 

うるせぇ

 

突如、ドスの効いた声が響いた。

 

発した本人にとっては僅かだが……霊圧が込められたそのたった一言は、野次馬達を一瞬で黙らせるには充分な威圧だった。

 

「あ、ありがとうショウ」

「おう」

 

さ、さすがショウだ……。

ちょっと怖かったけど。

 

ハリーは、自分が刀原を怒らせた時を思い出して少し震える。

 

直ぐに頭を振って忘却したが。

 

「多いな、どうしよう」

 

「とりあえず、競技場を一周させてみたらどうだ?どうせ大半が野次馬だ。それだけで篩いにかけられるだろ」

 

ハリーは刀原の策を即座に採用し、そしてそれが正しかったことを実感した。

 

刀原の言う通り、大半の生徒達が全く飛べなかったのだ。

 

そんな中でも、やはり希望はあった。

 

古株にしてハリーからも信頼の厚いケイティ・ベル。

去年、ハリーの代打を務めたこともあったジニー。

新人だが、箒捌きは中々に光るものがあるデメルザ・ロビンズ。

 

少なくともハリーが一学年の時から続く伝統、チェイサー三人娘が今年も結成されたのだった。

 

ビーターは少しだけ問題があった。

 

「使えなくはないけど……いまいちパッとしないな」という感想が先行してしまったのだ。

 

前任の『かの双子(フレッド・ジョージ)』は、誰が何と言おうとも最高のビーターだったからだ。

 

双子ならではのコンビネーション。

邪魔をするという点においては、天才的な頭脳。

 

ハリーも刀原も、それを基準にしてしまっていたのだ。

 

「前任者があまりにも良すぎたな。あの双子とは比べない方がいい」

 

刀原は考えこむようにしながらそう言った。

 

それでも、リッチー・クートとジミー・ピークスという新人が最終的に選ばれることになった。

 

残る最後にして最大の問題は、キーパーだった。

 

ハリーも刀原も「ロン一択だろ」で半ば結論付けていたのだが……。

 

彼のパフォーマンスがメンタル面で大きく左右されることは、考慮に値する問題だった。

 

少なくとも、それはハリーも刀原も同じ思いだった。

 

そしてその痛い隙を突いて自身を売り込んだのが、コーマック・マクラーゲンとかいう傲慢にも似た自信家だった。

 

もっとも、実力はロン以下というのが総評だったが。

 

そして刀原は、こいつに見覚えがあった。

 

実はこの男……ダンスパーティーのパートナーにと、最愛の相棒である雀部に迫っていた過去がある*3のだ。

 

挙句、ロンやジニーの悪口をいう始末。

 

「獅子身中の虫、排除した方が良い。なんなら今すぐそうしようか?」

 

友人への悪口を許さない刀原は、ハリーにそう断言した。

 

最終的には……応援に来ていたハーマイオニーが『錯乱呪文』をこっそり使ったこともあって、選抜試験でロンにあっけなく敗北。

 

それでも不服をぴーぴーと言ってきたのだが……。

 

黙れ小僧

 

刀原の本気の威圧を受け、あっけなく失神した。

 

ピンポイントで放ったため……周囲はマクラーゲンがいきなり失神したように見え、ちょっとした騒動になったが。

 

そんなことがありながら、キーパーはロンに決まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クィディッチシーズン最初の試合は、例年通りにグリフィンドールとスリザリンの試合となった。

 

ハリーは、スリザリンチームの事実上のキャプテンであり自身ライバルでもあるマルフォイに勝つべく、闘志を燃やしていた。

 

他のメンバーも新生グリフィンドールチームを見せつけるべく、練習に勤しんでいた。

 

一方、ここ最近のロンはおかしかった。

 

ロンがハーマイオニーを()()しすぎており、その感情が複雑に絡み合った結果……おかしくなっちゃった、と刀原と雀部は判断していた。

 

マクラーゲンとくっついた方が良いなどと()()()()()ことを言ったり……。

 

ハーマイオニーを露骨に冷たく無視したりもした。

 

試合前の最後の練習でも、ロンはダメだった。

 

チェイサーからのシュートは全く防げないのに大声で怒鳴りつけ、デメルザを泣かせてしまうほどだった。

 

「見るに堪えんな。叱る気すら起きん」

 

刀原などは早々に匙を投げてしまい、ピッチを去っていってしまうほどだった。

 

去り際に「ロンの思考を変えさせろ」と指示はしたが。

 

ハリーはロンを何とかしようとするも……叱れば絶望し、挑発も意味は無かった。

 

しかし、クィディッチの女神はハリーを見捨ててはいなかった。

 

天啓が降りたのだ。

 

 

 

試合前の朝。

 

「今年こそは勝つ!正々堂々勝負だ!」

 

マルフォイがハリーに対し、恒例になっているいつも通りの宣言を朝食の時にした。

 

一方、ロンは明らかに絶不調だった。

 

【はぁー生気(せいき)がねぇ、気合がねぇ、気概もあんまり感じねぇ。気迫もねぇ、覇気もねぇ。こんなキーパー見たことねぇ。もうこんなじゃあ駄目だ~。今日の試合は終わった(オワタ)~。敗北確定だ~【そこまでにしましょうか、日本語だから(彼らが分かんないから)って駄目です】はーい】

 

ロンの顔を見て「終わったな」と思った刀原が、日本語でこの様な歌を歌うぐらいには駄目そうだった。

 

止めた雀部とて「歌の通りですけどね……」と思うほどには、駄目そうだった。

 

傍目から見たマルフォイなどは、敵だというのに心配し「おいウィーズリー。僕とポッターとの戦いを、決着が着く前に終わらせる気か?」と凄むほどだった。

 

三者統一の見解(駄目だコイツ)を示す間も、ロンの調子は全く改善されなかった。

 

絶望と緊張、今までの態度の申し訳なさでおかしくなっていた。

 

そんな中、ハリーは諦めていなかった。

秘策中の秘策に自信があったのだ。

 

無論、難点はいくつもあった。

 

肝心のロンが、狙い通りになるか。

ハーマイオニーや雀部が見つけてくれるか。

刀原が信じてくれるか。

 

しかし、もう後には引けない。

これしか策は無いのだ。

 

ハリーは秘策を準備し始めた。

 

 

 

 

 

刀原が日本語で何やら悲痛を感じる歌を歌い、雀部がそれをやんわり諌めながらも「確かに……」と言った顔をし、マルフォイがハリーに宣戦布告しつつロンを叱責しても、ハーマイオニーはやってこず、ロンは絶望した顔の(ダークサイドに堕ちた)ままだった。

 

それでもマルフォイが自分の寮テーブルに戻ったころ、漸くハーマイオニーがやってきた。

 

「おはようハリー、ロン、ショウ、ライカ。ショウは……何を歌っていたの?」

 

「最近人気だという日本の歌だ」

「それを改造したふざけた歌です」

 

ハーマイオニーが挨拶早々に刀原にそう聞けば、刀原はあっけらかんと答え*4、雀部は呆れながらそう言った。

 

「ああ、そう……」

 

ハーマイオニーは、時折見せる刀原の悪ノリに「ツッコんだら負け」と判断したのか、それだけ言ってハリーとロンの近くに座った。

 

「この試合が終わったら、キーパーはマクラーゲンの奴にやらせろよ」

 

相変わらず暗黒面(ダークサイド)に堕ちた様な顔をしているロンが、絞り出すようにそう言った。

 

「好きにしろ、このジュースでも飲め」

 

ハリーはぶっきらぼうにそう言い、飲み物が入ったカップをロンに差し出した。

 

「まあ、このままだと辞める以前の話ですからね……」

 

雀部がよいしょと言いながらハーマイオニーの近くに座る。

 

「それは栄養ドリンクか何かですか?」

 

続けてそう言った雀部に、ハリーは少しだけニヤリと笑ったあと、左手に隠し持っていた『ある物』をポケットにしまい込んだ。

 

「え、ちょっと待って下さい!それって、」

 

「幸運の液体!?」

 

「なにぃ?」

 

即座に雀部とハーマイオニーが反応する。

 

少し遅れて刀原も反応する。

 

大声ではなかったが、ロンが『カップの中身の正体』を知るには十分な反応だった。

 

「ハリー、流石にこれは……」

「退学になるわよ!?」

 

「さあ、何の話?」

 

雀部とハーマイオニーの叱責にも、ハリーはどこ吹く風だった。

 

「ハリー……お前」

 

刀原の声には流石に反応するしかないが、それでも「何のこと?」と言いながら少しだけウィンクした。

 

「…………ふっ」

 

刀原は一瞬だけ目を見開いたあと、楽しそうに少しだけ笑った。

 

「しょう君?」

 

いつもなら叱責する筈の刀原が沈黙を維持しているのを見た雀部は、何かあると踏んで「しょうがないですね……」と言ってこれ以上の追求はしなくなった。

 

肝心のロンは、そのやり取りで中身を確信したようで……飲むのを少しだけためらっていたが、やがてカップの中身を全て飲み干した。

 

飲み干したロンの表情はみるみるよくなり、明らかに『覚醒した』感じになる。

 

「さあ、行こうハリー。楽勝だぜ!」

 

そして高らかにそう言いながら立ち上がったロンは、同じく立ち上がったハリーと握手をしたあと大広間を後にした。

 

ハリーも同じように出ていこうとするが、刀原に呼び止められる。

 

刀原は一言だけ確認するかのように何かを聞くと、ハリーはニッコリ笑って頷いた。

 

「…………上出来だ」

 

刀原はそう褒めるようにハリーに言い、ピッチへと送り出した。

 

ハーマイオニーはそれを見て唖然としていたが、やがて呆れたような表情をしながら応援席に向かっていった。

 

「ああ……なるほど」

 

ハリーと刀原のやり取りを観察していた雀部は、感心するように頷いた。

 

 

 

 

始まる前から終わったかに見えた試合は、ある意味で終わっていた。

 

絶不調だったはずのロンが、まるで覚醒したかのように冴えわたるプレーを連発し、スーパーセーブをいくつも成功させたのだ。

 

「くそ、やられた!ウィーズリーは絶不調じゃなかったのか!」

 

「騙された!」

 

「おのれ、ショウめ!」

 

「アイツが参謀だなんて反則だろ!」

 

それは絶不調がブラフのように感じられる程で……スリザリンチームの油断を誘うために、参謀役がそう指示したと思ったほどだった。

 

尤も、それはグリフィンドールチームも同じ思いであり……味方から見ても絶不調のロンがいきなり覚醒したことは、少なからず戸惑いを見せた。

 

ハリーはそれを、この状況を利用することで変えた。

 

「全てはショウの作戦だ。ロンを絶不調のように感じさせ、スリザリンに油断させる作戦だったんだ」

 

刀原から言わせれば「なんのこっちゃ?」となる言われっぷりだが……それは「アイツならやりかねない」と思われるような行動と実力を持っているせいだ。

 

兎にも角にも。

 

余裕綽々だと思っていたスリザリンチームは、覚醒ロンに戸惑い狼狽え、一度たりともゴールを成功させられなかった。

 

逆に覚醒ロンに引っ張られる形で士気を上げたグリフィンドールチームは、その勢い(行け行けドンドン)のまま、スリザリンチームへ襲い掛かった。

 

試合は圧倒的にグリフィンドール有利で進んだ。

 

ハリーとマルフォイが決着を着ける(シーカー対決)その前に、試合を事実上終わらせてしまったほどだった。

 

そしてスリザリン最後の希望となったマルフォイも、心理戦で敗北した動揺もあって、ハリーとの直接対決に敗北。

 

グリフィンドールは、圧倒的勝利を飾ったのだった。

 

ちなみに……。

 

スリザリンチームは、この圧倒的大敗が尾を引く*5ことになる。

 

 

 

 

 

 

 

圧倒的な勝利を飾ったグリフィンドールは、その勢いのまま祝勝パーティーに移行した。

 

「幸運様様(のおかげ)ね」

 

宴の最中、ハーマイオニーは呆れるようにハリーにそう言った。

 

『幸運の液体をスポーツの前に服用してはならない』という規則を破ったうえでの勝利だったからだ。

 

しかし、言われたハリーはどこ吹く風だった。

 

「ショウもライカも、どうして止めなかったのよ?」

 

糠に釘のハリーを放置することにしたハーマイオニーは、刀原と雀部にもそう言った。

 

「あの……ハリー?私の推察では、その……。()()()()()のではありませんか?」

 

雀部はそれを半ば無視し、確かめるようにハリーに聞く。

 

「入れてない……。まさか、思い込み?」

 

雀部の指摘にハッとなったハーマイオニーがここで漸く真相に気が付く。

 

試合が終わり隠す必要が無くなったハリーは、頷きながらポケットからコルク栓が蝋封されたままの『幸運の液体』を刀原、雀部、ハーマイオニーに見せる。

 

「プラシーボ効果だな。単純なロンならあっさり騙せるだろうからな。それに……ハーマイオニーや雀部なら入れたかもしれない気付いてくれると踏み、俺はいち早く真相にたどり着いてくれると判断したのか……。うむ、最上の策だった。上出来だ」

 

刀原はハリーを褒めたたえる。

 

「ショウが立てそうな策を考えただけさ。でも、上手くいって良かった」

 

ハリーは照れながらもそう言った。

 

全てが上手くいった。

 

ロンは、自分が幸運の液体を飲んだと()()()()、とんでもないプレーを実力で引き出した。

 

ハーマイオニーと雀部は、その観察眼でハリーの仕込み……幸運の液体を入れたかの様な仕草を見つけ、狙い通りに自分(ハリー)を問い詰める形で、ロンに『さっき飲んだジュースには幸運の液体が入っている』と思わせてくれた。

 

刀原は、その圧倒的な洞察力と推理力で自分の策を早々に看破し、それを黙認する振りをしてハーマイオニーや雀部の追求を止めてくれた。

 

……完璧だった。

自分が気が付かない間に飲んでしまったのかと思うぐらいに上手くいった。

 

 

 

だが、その対価として……ロンとハーマイオニーとの仲が悪化した。

 

ロンが一躍ヒーローになり、ラベンダー・ブラウンとイチャイチャし始めたからだ。

 

おそらく、ハーマイオニーに対する当てつけだろう。

 

ハーマイオニーは訳が分からず、心底ウンザリした様子だった。

 

「ショウって素敵な男性よね……。聡明で誠実で……ライカが羨ましいわ」

 

思わず雀部にそう漏らしてしまうほどには。

 

「……あげませんよ。彼は私の大切な、人生の相棒です」

 

雀部は、自身の相棒であり恋人の刀原を褒める意味でそう言ったハーマイオニーの真意を理解しつつ、釘をさすように言った。

 

「分かってるわ」

 

ハーマイオニーは数少ない同性の親友の警戒度に苦笑しつつも、羨む言葉に偽りは無かった。

 

「ハリーとジニーもそうだけど……。ショウとライカの関係は、誰もが羨むわ」

 

幼馴染で、相棒で、戦友で、お互いがお互いを完璧に信頼し合っている。

 

ハーマイオニーは、大きな溜息を吐きながら「いったいなんなのよあれは……」と呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1

近親婚のリスクとしては……。

 

遺伝上の多様性の欠如、それに伴う免疫力の低下。

遺伝病の原因となる劣性遺伝子の発現率の向上、それによる遺伝性疾患のリスク。

 

などが主に上げられる。

 

ーーーーーー

 

現代日本(こちら)では、法律上は『いとこ』までなら可能だが……。

あまりお勧めは出来そうにない。

 

詳しくは『近親婚 ハプスブルク』で調べてみると良いだろう。

 

*2

一年生……トロールからの賢者の石

二年生……秘密の部屋

三年生……吸魂鬼と殺人鬼(冤罪)

四年生……対抗試合に強制参加

五年生……頭のおかしい男の子扱い

 

「何もねぇ年がねぇ……。大変だったなぁハリー」

 

当事者でもあった刀原は、しみじみとそう振り返った。

 

「仮初めとはいえ、ようやく平穏な学校生活を送れてる!」

 

ハリーは、何もない穏やかな学校生活に感謝していた。

 

*3

 

ちなみに……雀部にそれを言ってみたところ。

 

「そんなこと、ありましたっけ?」

 

彼女はそれを完全忘却していた。

 

*4

ちなみに『最近の歌』は大嘘であり、かの歌は1984年の歌である。

*5
チェイサーとビーターを何とかして、キーパーの前に出てしまえば……後は点を取ったも同然だ。

 

気になるのは参謀役のアイツの策だが……ウィーズリーがあの調子じゃ、何も出来ないだろう。

 

勝ったぞみんな、この試合……我々の勝利だ!

アーハッハッハッハ!

 

などと、マルフォイは試合前に言っていた。

 

スリザリンの生徒達も、全員が勝利を確信していた。

全員がゲラゲラ笑っていた。

 

何点取れるか賭けをしていた者もいた。

 

話題は、試合が決着した後の事……マルフォイ対ハリーのシーカー対決の行方だった。

 

試合が始まり、ロンがスーパーセーブをするまで……スリザリン生の全員が幸せそうだった。

 

だが現実は非情で、無慈悲だった。

 

試合後、スリザリン生の全員がお通夜状態になった。

 






やはり思い

思いが多くを解決する

当然、限界はあれど

病も士気も思いのままだ。





大人になって、改めて読んだとき……ヴォルデモートはなるべくしてなったと思いました。

凶暴性と暴力性を持つゴーントの血筋。
凝り固まった純血思想と選民思想。
半ば腐っていた行政府。

時代も悪かったですね。

何せ卒業した年が1945年。
民族戦争、思想と主義の戦争でもある第二次世界大戦の中で青春を過ごしてます。

自分の思想に近いものを持ったやべー奴ら(ナチス・ドイツ)が身近にいるんですから、感化されてもおかしくないでしょう。

だとしても、同情などは一切出来ませんが。


なお、ダンブルドアが上手く導ければ良かったのにと思うでしょうが……。

おそらく彼は、グリンデルバルドとの決戦で手一杯だったのではないでしょうか。




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ありがとうございます。
そしてお待ちしております。


では次回は

恋とクリスマス、そして記憶

次回もお楽しみに。



おまけ

「真相を言った方が良いかなぁ?」

「本人にだけ明かせ。調子と自信を取り戻して、イケイケの気持ちで次も張り切るかもしれん。だが、誰にも言うなとも言っとけ」

「分かった」

「それにしても、ロンってば単純ね」

「次の試合もそうしたらどうです?」

「いや、それはやめておこう。あくまでもこれっきりの策にすべきだ」

「スリザリンチームは今頃お通夜状態でしょうね」

「ああ、可哀そうなスリザリンチーム。ひとえに君たちの油断とロンのハイテンションのせいだが」





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死神、助言する。恋とクリスマス、そして記憶



さあ
溺れよ、呑まれよ

其れは噎せるほどに甘い甘露

さあ
融けよ、爛れよ

其れは怯むほどに熱い業火

いざ
くるりくるりと狂いたまえ。








 

 

クィディッチの前から、ロンとハーマイオニーの仲は険悪だった。

 

実際のところは、ロンが一方的に冷たく接していただけだったが。

 

理由は複数ある。

 

ロンはスラグホーンが主催している『スラグ・クラブ』に特別感と優越感を見出し、参加しているハリーやハーマイオニーを羨ましがっていたこと。

 

ロンがハーマイオニーのことを、あまりにも()()()()()()()()こと。

 

素直に慣れないお年頃なこともあり、雀部曰く「あまりにも残念で痛々しいツンデレもどき」になっていたこと。

 

故に……ロンは暴走機関車のように、ハーマイオニーとの仲を最短距離で悪化させていった。

 

あろうことか、同学年のラベンダー・ブラウンと付き合い始めしてしまい……見せつけるかのようにイチャイチャすると言う暴挙に出たのだ。

 

ハリー曰く、「今まで耐えてきた『塞ぎ込み攻撃型のロン』よりかはマシ」とのことだが、この『始終イチャイチャ型』は改善とは言えなかった。

 

ハーマイオニーに対して言い訳じみた発言を事あるごとにしている為、刀原は『女々しい奴め』と吐き捨てたほどだ。

 

おそらくロンとしては「ハーマイオニーに嫉妬してもらいたい」というのが狙いなのだろうが……それは実にも浅はかな(ハーマイオニーの思考を学習していない)思考だ。

 

何せハリーとマルフォイが刀原の影響を受けているように、ハーマイオニーも雀部の影響を受けていたのだ。

 

来るならば迎え撃つ。

 

彼女は実に気概を持った女性になっていた。

 

その為ハーマイオニーは、最初こそ困惑したが直後に憤慨し、最終的に徹底抗戦(「上等よ!」)を宣言した。

 

一方の刀原と雀部は、ラベンダーとはあまり付き合いが無かった為に、彼女のことを急いで調べ始めた。

 

情勢が情勢だけに、もしかしたら疚しい気持ちや企みがあるかもしれないと怪しんだからだ。

 

幸か不幸か……調査結果は『(無罪)』。

 

『彼女はどうやら……本気でロンのことが好きである?』という結論に二人は達した。

 

だがそうなると……ロンはおそらく本気であろう彼女(ラベンダー)の気持ちを弄んでいる事になる。

 

「女の敵ですね」

 

恋愛に関して純情な思考を持つ雀部は、余りにも紳士的ではないロンの行動に怒り、ハーマイオニーの味方を宣言した。

 

「情けねぇ……男らしくねぇな」

 

同じく恋愛には『紳士的かつ誠意ある行動をすべき』としている刀原もハーマイオニー寄りの中立を宣言した。

 

そしてハーマイオニーや雀部は、刀原にさりげない制裁をやってくれと依頼する。

 

「彼女に良いとこ見せなくても良いのか?オラオラ、さっさと立て!死にてぇのか!」

 

刀原はそれに同意し、授業をロンに対してのみ()()()()()()少しだけ厳しくすることにした。

 

尤も。

 

彼が内心で抱いている劣等感や嫉妬心も相まって、ロンは最早どう接すれば良いのかが分からなくなり……『おかしくなっちゃった(引くに引けなくなった)』というのが、刀原の結論だったが。

 

さて、そのロンが参加したがっているスラグホーンの『スラグ・クラブ』は、今年のクリスマスにパーティーを行うことになり……当然、ハリーや刀原、雀部にハーマイオニーやマルフォイなどが招待された。

 

また、スラグホーンは招待した生徒達に「誰か一人、ペアとして連れてきても良い」と言ったため、招待された生徒達はペアを探すことになった。

 

そこで困ったのがハリーとハーマイオニーだ。

 

とはいっても、ハリーの方は『ペアが居ないから困った』という訳ではない。

 

前年度の夏の一件(神秘部の戦い)以降、有名人になったハリーをつけ狙う女子たちが居るから困ったのだ。

 

一応ハリーには、ジニーが恋人になっているのだが……彼らが付き合っていることはトップシークレット(色々面倒くさいから内緒ね!)であった。

 

その為、その事実を知っている人はかなり限られており……ただ単に有名人とお近づきになりたいミーハーな女子たちは何も知らなかったため、ハリーはつけ狙われることになったのだ。

 

ではハリーとジニーとの関係を周囲に明かせばいいというかもしれないが、事はそう単純ではない。

 

安易に真相をカミングアウト(情報解禁)した場合、ロンとの関係に壊滅的な亀裂を与えかねない。

 

おまけにハリーは、自身にやって来たモテ期に対してまんざらでもなさそうだった。

 

ーーーーーー

 

「彼女たちは、()()()()()()()()()()()()()狙っているのよ」

「まあ『選ばれし者』に興味があるだけだろうな」

「貴方が『選ばれし者』じゃなくても、ジニーは貴方と付き合っている筈です」

 

「僕『選ばれし者』だもん」

 

ベシッ!

スパァン!

ポカァン!

 

「ごめん、今のは、あー、冗談」

 

「「「よろしい」」」

 

ーーーーーー

 

数日後に気を引き締めるようになったが。

 

一方、ハーマイオニーは困った事になっていた。

 

こんな事になっていなければ彼女はロンを誘っていたのだが……あいにくと彼は見せびらかす事で一杯になっていた。

 

ハリーはジニーと行くらしいし、刀原は言うまでも無い。

 

ハーマイオニーは悩んだ末……ハリーとジニーに相談し、事情を知っているルーナに協力を要請した。

 

そしてハリーはルーナと行き、ハーマイオニーはジニーと行くと言う手段に出た。

 

彼女は『ペアは別に異性でなくても良い』と言う理屈を出してきたのだ。

 

ハーマイオニーはパーティーを、なんとか無事に乗り切った。

 

そして、こんなめんどくさい事態を引き起こしたロンにはヘイトが溜まった。

 

 

 

 

 

 

 

ハリー達が恋愛と言う青春に明け暮れている間も、ホグワーツには敵の襲来が散発していた。

 

死喰い人の襲撃頻度は低下しているが、虚の出現数は変わらないどころか増してすらいた。

 

幸いなことに手練れが現れる事も無く……相変わらず何かと忙しい刀原が本格参戦せずとも、戦線の維持が出来ていた。

 

しかし、遂に到来したクリスマス休暇には問題があった。

 

刀原達にはホグワーツ防衛の他にハリー・ポッター(対ヴォルデモート用決戦兵器)の防衛も任務に含まれているのだ。

 

ハリーの防衛は刀原と雀部が当然の如く担当するのだが……ツーマンセル(二人一組)を基本隊形にしている都合上、ホグワーツ防衛の戦力がたった二人(日番谷・雛森)になるのは些か心許無い。

 

遣英部隊の長である刀原は少し悩んだ後、苦い顔をしながら(はぁ~、騒がしくなるな……)後詰の人員……阿散井恋次を召喚することに決定。

 

ホグワーツ防衛戦力を日番谷・雛森・阿散井・朽木にすることで、充足を図ったのだった。

 

「あいつらに『聖なる夜(クリスマス)だから今日はやめとこ』という概念はねぇのか!」

「第一次世界大戦のクリスマス休戦を見習ってほしいですよね」

 

なんだかんだで西洋文化にも染まっていた刀原と雀部は、折角の休暇を邪魔されることに憤慨した。

 

穏やかなでほんわかな空気に包まれている隠れ穴に行けることには喜んだが。

 

一方のハリー達や不死鳥の騎士団の面々は、昨年よりかはマシなクリスマスを過ごしていた。

 

世間の情勢は緊迫しているのは変わらないが、蛇に嚙まれてもいないし、誰も死んでないからだ。

 

「尤も、私たちは交代で警護の任に就かなくてはいけないけどね」

 

シリウスは、ケーキをぱくつきながらそう言った。

 

顔を合わせての情報交換が出来る貴重な機会のため……刀原達はクリスマスだというのに会議をしていた。

 

「私とて、向こう側の狼人間たちと過ごしている」

 

リーマスは心なしか窶れていた。

 

闇の陣営側の狼人間のスパイをしているのだ。

心身ともに疲労するのも無理はないだろう。

 

「それでも、死喰い人たちの活動は縮小しているように感じる。やはり大幹部を失った穴は大きいのだろう」

 

しみじみとそう言ったのはキングズリー。

 

イギリスの首相の護衛をしている彼はあまり前線には出れていないが、報告ではそのように受け取っていると言う。

 

大幹部のベラトリックスは先の戦いで戦死し、ルシウス・マルフォイは行方不明(日本で休暇中)

 

一応、未だに油断ならない手練れもいるが……統率が取れるメンバーを失った事実は変わらないのだろう。

 

「ここ最近はホグワーツへの威力偵察も少なくなってます。どうやらヴォルデモートや死喰い人たちにも、クリスマスを穏やかに過ごす文化は残っているらしいですね」

 

雀部が思い出すようにそう言う。

 

何をやっても無駄だとようやく学習したのか、それとも聖なる夜を楽しんでいるのかは彼らしか分からない。

 

「連中もクリスマスぐらい楽しみたいんだろう?ヴォルデモートがサンタクロースの格好して、パーティーを開いていたら笑えるな」

 

刀原がそう言えば、何人かが固まった後に笑い声が聞こえる。

 

部下とのクリスマスパーティーを盛り上げるために、自らサンタクロースの恰好をしたヴォルデモートを想像してしまったらしい。

 

「アイツが「せっかくの聖なる夜だ。プレゼント交換でもしようではないか……?」とか言ったら、僕絶対に戸惑っちゃうよ……」

 

想像してしまったらしいハリーがそう言えば、堪え切れなくなった何人かが噴き出す。

 

アイツの口から『聖なる』とか聞きたくない。

 

あのヴォルデモートがウキウキ顔でプレゼントを選ぶ光景は、確実にシュールだろう。

 

「「変な物を用意したら、アバダケダブラだゾ☆」」

 

ブフッ!

 

刀原と雀部の息の合ったこの発言で、お堅い会議は崩壊した。

 

 

 

お堅い会議があっさりと崩壊した(爆笑の渦に呑まれた)ことを皮切りに、クリスマスは楽しい夜に包まれた。

 

そんな夜の翌朝には、隠れ穴に珍客がやってきた。

 

一人は、パーシー・ウィーズリー。

 

ファッジ政権の時には反目し、たもとを分かつことになってしまっていた彼だったが……あれほど死喰い人の活動が起こった以上、もはや事実から目を背けるのはいけないと判断したらしい*1

 

「目が覚めたよ。もう背けることはできないと思ったんだ」

 

申し訳なさそうに、照れくさそうにそう両親に言うパーシー。

 

「良いのよ、もう心配ないわ」

 

モリーはそう言いながら、帰ってきた息子をゆっくりと抱きしめる。

 

「良く帰ってきたな。おかえり」

 

アーサーもにこやかに笑いながら、パーシーに話しかけている。

 

そして一通りのハグが終わったパーシーを待ち受けていたのは、兄弟からのいじりだった。

 

パーシーはそれを甘んじて受け入れつつも、まるで学生時代を彷彿させるような雰囲気を出していた。

 

そんな家族団欒の空気が流れる一方で、少しピリピリしている空気があった。

 

もう一人の珍客、ルーファス・スクリムジョールとハリーとの対談だ。

 

尤も、彼にはシリウス(保護者)刀原(兄貴分)が傍についていたが。

 

「ずいぶん前から……君と会いたかった」

 

若干の沈黙の後、スクリムジョールはゆっくりと話し始めた。

 

「しかし……ダンブルドアや君の兄貴分になっている者が、君をしっかりと保護していてね」

 

「当然だ。ハリーはまだ若いし、経験が無い。政治の神輿なんかにされては彼の為にならん」

 

スクリムジョールの発言に、刀原は腕を組みながらそう言う。

その目は油断なくスクリムジョールを見据えていた。

 

「理解しているとも。彼はこれまで色々な目に遭って来たし、散々な目にも遭ってきた。特に魔法省での出来事の前後でね。私は大臣職に就いて以来、つねに心がけていることがある。それは『前任者の様にはならないこと』だ。そして……ダンブルドア、刀原と言う存在とは友好的にやっていこうとね。だから彼にはあまり積極的に接触しない様にしていたつもりだ」

 

スクリムジョールは刀原の目を見ながらそう言った。

 

「だが世間は違う。ハリー、君は今や……多くの人にとっての『選ばれし者、希望の象徴(アイツを倒すかもしれない人)』なのだよ。真実がどうであれ……選ばれてい様が、いなかろうがね。『例のあの人』を破滅させされる存在がいることを、人々はそれを信じたいし信じている」

 

「勝手だな。清々しいほどの手のひら返しだ」

 

「世間はいつでも勝手なものさ。見たい物を見て、聞きたい物を聞く。それが世間だ。君もそれは知っているだろう?ミスタートーハラ」

 

「さてな」

 

「……さて、本題に入ろう。正直、ダンブルドアはあまり協力関係とは言えない。それは前任との亀裂のせいでもあり、信用のなさが故だと思っている。前任が残した傷、負債は非常に重いと言わざる得ない。日本とも良いとは言えない。向こうが我々を信用していないのは理解している」

 

「まあ、そうだな」

 

「正直に言おう。ハリー、君を神輿……マスコットにしようとは思った。君が魔法省に度々出入りすることで、我々との蜜月を演出した方が手っ取り早いと思った。だが、そんな事をしては……既に奔っている亀裂が決定的になる。それだけは避けたい。ダンブルドアと刀原という規格外と対立するつもりは毛頭ない。当然、君ともだ。君がドローレスの一件で我々に悪印象を持っているのは理解している」

 

ハリーは、スクリムジョールの赤裸々な発言に頷きで返した。

確かにピンクガマガエルの事やチキン・ファッジの事もあって、魔法省を信用していない事は事実だからだ。

 

「要件はただ一つ。ただ見守って欲しい。敵対しないで欲しい。君が我々を信用に足ると判断した時、我々とも協力して欲しい。それだけなのだ。我々に膿を除去する時間を貰いたい。『例のあの人』にこの国を渡したくない。この一点においては、心を同じくしている筈だから」

 

スクリムジョールはそう言って頭を下げた。

白髪交じりの髪と顔はくたびれていた。

 

ハリーはチラリと刀原を見た。

 

刀原は腕を組み、黙っていた。

 

「……協力に関しての確約は出来ません。ですが、敵対してこないのであれば……僕は魔法省とは敵対しません。それに、確かにヴォルデモートが蔓延っていい筈が無いのは事実です」

 

ハリーは慎重に言葉を発した。

 

「ありがとう。これで私は魔法省に蔓延る膿を取り除ける」

 

スクリムジョールはニッコリと笑いながら、決意ある目でそう言った。

 

英国魔法省の改革が始まる。

 

 

 

 

 

 

クリスマス休暇が終わり、ハリー達はホグワーツへと戻った。

 

そして暫くするとハリーはダンブルドアとの特別授業に呼ばれることになった。

 

そしてダンブルドアは、ハリーとの特別授業(ヴォルデモート対策)に刀原も連れてくるように頼んだ。

 

その理由は、次に探る記憶がヴォルデモートの根幹に関わる重要な物だからだと言う。

 

刀原も最初こそ嫌がっていた(「忙しいんだよ!」)が、その理由を前にしては拒否する訳にもいかず、参加することにしたのだった。

 

「これこそ、わしが収集した記憶の中で一番重要な記憶じゃ」

 

開始早々、ダンブルドアはそう言ってクリスタルの薬瓶を見せる。

 

「ショウ。君に来てもらったのも、これを見て意見が欲しいからじゃ。さあ二人とも、憂いの篩へ……」

 

そうしてハリーと刀原は、ある男の記憶へと潜っていった。

 

 


 

 

男はずっと若いスラグホーンだった。

 

陽気な顔で片手に小さいワイングラスを傾け、もう一方の手では砂糖漬けパイナップルを口に運んでいた。

 

男子が六人ほど、椅子に座っている。

 

若くてハンサムな頃のリドル……後のヴォルデモートもいる。

 

一番くつろいだ様子で、手にはマールヴォロの物であった金と黒の指輪をはめていた。

それを手にしているという事は……既に殺人を経験しているという事だ。

 

刀原は「人の事は言えんが、もう人を殺めているのか」と思った。

 

俺はベラトリックスを含め、去年に数人を切り捨てた身だが……こいつは十五、六歳で殺人、しかも肉親殺しか。

 

刀原はリドル達がスラグホーンと談笑している間、ずっとリドルを観察していた。

 

「さて、もうこんな時間だ。怒られる前に戻った方が良いだろう」

 

時計の針を見たスラグホーンがそう言い、男子生徒達がぞろぞろと出ていく。

 

しかしリドルだけがその場に残った。

 

「トム、早くしないか。時間外にベットを抜け出しているところを捕まりたくはないだろう?」

 

リドルが残っているを見たスラグホーンがそう言う。

 

「先生に、お聞きしたいことがあるんです。他の先生だと、誤解をするかもしれない……先生にしかお聞きできない……」

 

上手い手だ。

その者に対し、特別感と優越感を与える言葉だ。

 

「そうか、遠慮なく言ってみなさい」

 

「ありがとうございます。実は……ホークラックスの事なんですが」

 

リドルが言った瞬間、濃い霧が部屋を包んだ。

 

スラグホーンもリドルも見えなくなるほどの濃い霧だった。

 

そして刀原は軽い頭痛に襲われ、この記憶が()()()()()()()事に気が付く。

 

俺の斬魄刀の能力で、幻覚や催眠とかは無効化できるのだが……記憶の中に居る影響で無効化しきれないのか……。

 

刀原は頭を抑えながら周囲を見渡し、耳を澄ませる。

 

「ホークラックスの事は何も知らんし、知っていても教える事は出来ん!直ぐに立ち去れ!そんな話は聞きたくない!」

 

暫くしてスラグホーンの怒号が響き、刀原とハリーは記憶から出された。

 

 


 

 

「ショウ、大丈夫?」

 

「ああ、大丈夫だ」

 

記憶から戻って来たハリーは、頭を抑えたままの刀原を気遣う。

 

「二人とも、どう思ったかの?」

 

「……まず、あの記憶は改竄されてますね」

 

ダンブルドアの言葉に刀原は少し考え込んだ後、そう断言した。

 

「流石じゃの」

 

「改竄されている?」

 

ダンブルドアは感心するようにそう言い、ハリーはそう聞き返した。

 

「俺の軽い頭痛は、俺の斬魄刀の能力で干渉出来なかったからなったものだ」

 

「うむ、スラグホーン先生は自分自身の記憶に干渉した」

 

「でも何で?どうしてそんな事を?」

 

「その理由は……多分隠したかったんだろう。後に世紀の極悪人になる男子にヤバい物を教えたことを」

 

「ヤバい物?」

 

「『ホークラックス』」

 

「うむ、まさしく」

 

刀原の言葉にダンブルドアは頷く。

 

「ホークラックスにまつわる記憶、しかも改竄されている。裏を返せば、それを教えたってことになる。教えてしまったから、おそらくそれを恥じて改竄した」

 

「そんなにヤバい物なの?そのホークラックスって」

 

ハリーの疑問に刀原は頷く。

 

「知っておるのか?」

 

「ええ。尤も、僕も少しだけですけど……」

 

「どうして?いかにして?」

 

ダンブルドアの追求に刀原は少し考え込む。

 

「ヴォルデモートが如何にして生き延び、復活出来たのか。前の夏に、浦原隊長と藍染校長の二人と一緒にそれを探りました。その時、マホウトコロの全蔵書と大霊書回廊を調べ上げ……『分霊箱(ホークラックス)』に関する情報が大霊書回廊の最奥に記録されてました。そしてその情報を精査し、最終的に……『ヴォルデモートは『分霊箱(ホークラックス)』を作ったのではないか』という仮説が考え出されました」

 

「どうしてそれを共有してくれなかったんじゃ?」

 

「あくまでも仮説だからです。大霊書回廊の最奥に眠っていた記録が英国にもある可能性。そんなヤバい物をヴォルデモートが把握している可能性。実際に作った可能性。低い可能性です。それに証拠が無い以上、仮説や考察に過ぎないので……共有はまだ控えるべきだと、浦原さんも藍染校長も判断しました」

 

まさか現実になる(マジだった)とは思いもよりませんでしたけど。

 

バツが悪そうにそう言う刀原に、ダンブルドアは「それならば仕方がないの」と言う。

 

ハリーはそれらを聞いて、その『分霊箱(ホークラックス)』がいかにヤバい物かを理解した。

 

そして刀原が「あ~、これは面倒なことになった」と思っていることに気が付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
ある人物の影響があるのは秘密だ






闇より黒き闇は

その闇が見えぬもの

悪魔はいつでも

天使の振りをしている。



よくよく考えてみると、ハリポタの主人公サイドって誰も殺してないんですよね。

そりゃあ殺人を許容している訳では無いのですが……。

刀原君はベラトリックスとかガマガ、ンンッ、何人か手に掛けてますね。

まあ、刀原君は死神だからしょうがないね。



原作ではパーシーはまだ和解しませんし、スクリムジョールはハリーを利用しようとします。

でも面倒なのでパーシーは和解させ、スクリムジョールとハリーは険悪にはしません。

どうせ何処かの誰かさんが裏で色々としているでしょうし。


あの浦原さんと藍染様が手を結べば、これくらいのチートなんて簡単に出来ますよね?

万の手札を用意する浦原さんが調べない筈ないですし、あの藍染様が分からないなんてなさそう……。

諦めろヴォルデモート。
相手は特記戦力二人とその愛弟子だ!


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ありがとうございます。
そしてお待ちしております。


では次回は

分霊箱と最悪の誕生日

次回もお楽しみに。







おまけ


俺様を倒しても、いずれ第二第三の俺様が現れる。

俺様は滅びぬ、何度でも蘇るのだ!


生き汚いなこいつ。

命を何だと思ってるんだ。



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死神、思考停止する。分霊箱と最悪の誕生日


我らは語らぬ
我らは示さぬ
我らは明かさぬ

その結果も、成果も
その邪悪さも、末路も

我らは口を閉ざしたまま

ただ警告するのみ。











 

先日の特別授業(対ヴォルデモート対策会議)で発覚した『ヴォルデモートが分霊箱を作成した……かもしれない』と言う情報は、ダンブルドアと刀原を苦い顔にさせた。

 

記憶の中でのスラグホーンは何も教えてなさそうだったが……その記憶が改竄された代物である以上、ほぼ確実に教えてしまったのだろうと刀原は断言し*1ダンブルドアも「そのつもりで動くべき」と判断した。

 

と言うか。

 

ダンブルドアはほぼ確信しており……その信憑性が欲しかっただけらしい。

 

ーーーーーー

 

「ハリーが二年生の時に破壊した『トム・リドルの日記』と、わしが発見した『マールヴォロ・ゴーントの指輪』は……。これらは分霊箱に違いない」

 

「……先に言えアルバス!」

 

ーーーーーー

 

ただし、問題が一つあった。

 

『いったい何個作成したのか』である。

 

これについてダンブルドアは「おそらく七個じゃろう」と言った。

 

魔法界にとって七と言う数字は強い力を持つ……と言うのが根拠らしい。

 

「一個作るだけでも業が深いのに、七個もかよ」と刀原は呆れるように言うが……「現に二個もあった事を考えると、七個も作っててもおかしくないな」と考えを改めた。

 

尤も、根拠があるだけで確証は無い。

 

そこでハリーには、『スラグホーンから真実の記憶を貰うように』と言う指令が出されることになる。

 

なお、この情報は刀原によって日本にも共有され……即座に技術開発局や日本魔法省神秘部では、分霊箱に関する情報の収集や研究等が開始されることになった。

 

一方、分霊箱に関する情報を共有されたハーマイオニーは、その圧倒的な読書量をもってホグワーツの図書室にある本を漁りまくった。

 

そしてようやく見つけたのが『最も邪悪なる魔術』と言う闇の魔術に書かれた本の一文だけだったのだが……。

 

『分霊箱、またはホークラックス。魔法の中で最も邪悪な発明なり。我らは其を語りもせず、説きもせぬ』

 

あまりにも短く、書いてある通り何の参考にもならなかった。

 

「え、それだけ?」

 

ハリーは思わずそう言ってしまった。

 

「それだけね……。ウラハラさんとアイゼンさんだっけ?良く分霊箱の存在を見つけたわね?」

 

「あの人たちの読書量ははっきり言って異常だしね。それに大霊書回廊の存在が大きい。あそこには日本魔法界が、その長い歴史を掛けて収集した情報が入っているからな」

 

「でも凄いわ」

 

ハーマイオニーは感心するように言う。

 

そんな中、刀原は内心で大変だったなぁと思いだす。

 

大霊書回廊の最奥に眠る、封印指定され閲覧に魔法大臣と総隊長の許可が必要な情報。

 

それが分霊箱についての情報が書かれた『深い闇の領域』と言う本だったのだ。

 

この本自体が、非常に邪悪な闇の魔術や忘れ去られた秘術について詳しく書かれているというヤバい本のだが……。

 

その中でもとびきりヤバい内容が分霊箱だった。

 

分霊箱……闇の魔法使いたちが己の不死性を得るために自身の魂を切り取り、閉じ込めるための物体で……分霊箱がこの世にある限り、例え肉体が破壊されようとも魂は現世に残り続けられる。

 

作成には明確で殺意でもって、故意に殺人をする必要がある。

 

そして破壊するには非常に強力な魔法でなければならない。

 

現在まで分霊箱を作成したのはただ一人、古代ギリシャの魔法使い『腐ったハーポ』のみ。

 

発明者もこの魔法使いらしく、刀原達は腐ったハーポに『大変に遺憾である(とんでもないもん作りやがって)』を表明した。

 

なお、浦原や藍染は「八十番台後半以上の鬼道か、始解あるいは卍解した斬魄刀で破壊出来るだろう」と推察したが、別にサンプル実験をした訳ではないため確定ではない。

 

「出来ればサンプルを手に入れてほしいっす」

「チャンスがあれば耐久実験をしてほしい」

 

二人は刀原にそう言った。

 

"出来るか!"

 

刀原はそう思った。

 

そしてとりあえず「全力を尽くします(出来たらやります)」と言った。

 

 

 

 

 

 

分霊箱に関する調査が日本や図書室で始まった頃、ハリーには新たな難問が降りかかった。

 

ダンブルドアから依頼された『スラグホーンから分霊箱に関する記憶を得る』方法だ。

 

これはハリーの頭を大いに悩ませた。

 

偽りの記憶を渡すぐらいには隠したい記憶(黒歴史)なのだから、「下さい」「OK」で済む話ではないからだ。

 

「スラグホーンを奇襲して、記憶を回収すればいい」

 

相談を受けた参謀(刀原)は、強引な(脳筋極まりない)策を立案した。

 

バカ正直に交渉するなんて面倒だと思ったからだ。

 

刀原はこの問題に関して「今は有事だ。手段は選んでられない。理屈と理論は揃っているのだから、()()強引でも良いだろう」と考えていた。

 

しかしそんな多少強引な(武力行使)策は、無期限延期(事実上の中止)になった。

 

「開心術の達人であるダンブルドアが駄目だったのです。おそらく自発的にさせる以外、無理でしょう」

 

と言う、雀部の冷静な指摘があったからだ。

 

刀原はしばし考えたあと……雀部の指摘に同意し、温厚な策を立てる方へシフトすることになった。*2

 

まず、今まで以上にスラグホーンと親しくなる。

 

ーーーーーー

 

「先生、実はちょっと分からないところがあって……」

 

「どこだねハリー?」

 

「はい、えっと……」

 

ーーーーーー

 

チャンスを伺う。

 

ーーーーーー

 

「ハリー、焦らないで下さい。確実に、好機は必ず来ます。後は何かしらのきっかけや閃きがあれば……」

 

「やっぱり強制徴発(武力行使)を……」

 

「しょう君は黙ってて下さい!」

 

ーーーーーー

 

だが、どんなに慎重になろうとも……良い手段は見つからなかった。

 

業を煮やしたハリーは、ハーマイオニーや刀原、雀部に改めて意見を聞いた。

 

「策を練る……やっぱりこれしかないわね」

 

ハーマイオニーは何らかの策を構ずるしかないと言う。

 

「だが、そんな策があるなら苦労はしない……だろ?」

 

刀原がそう言えば、三人は「確かに」と頷く。

 

「やっぱ、正面突破しかねぇ」

「あー、まあ、もうそれしかないですよね」

 

「待って、武力制圧は「それじゃない。正面から、面と向かって言うんだ。下さいってな」

 

ハーマイオニーの反論を遮って、刀原は真面目な顔でそう言った。

 

「そんな簡単な話じゃないわ」

 

ハーマイオニーは顔をしかめながら言う。

 

「ああ、何も考えずに言ったら間違いなく貰えないだろうな。だから……言い方を考えて、スラグホーンを調略するんだよ」

 

「言い方を考える……」

 

「情に訴える。メリットを提示する。泣き落としでも良い。スラグホーンが喋りたくなるような喋りをするんだ」

 

「なるほど……」

 

刀原の言葉に、賛同したのは雀部だけだった。

 

「上手くいく筈がない」

「ハリーは貴方みたいに交渉が巧くないわ」

 

ハリーとハーマイオニーは否定する。

 

「そりゃあそうだ。ハリーのあれは下準備が無いからな。交渉ってのは下準備をしてからやるもんだ」

 

「ハリーのやつは……行き当たりばったりですからね」

 

刀原はカラカラと笑い、雀部も苦笑いしながらそう言った。

 

「じゃあ、どうすればいいの?」

 

「それはハリーが考えろ」

「それはハリーが考えて下さい」

 

「え」

 

「え、じゃねぇ」

「え、じゃないです」

 

「ハリーよ。俺はお前に、結構色んな事を叩き込んできた。その結果の一つが、この前のロンだったと思う。ハリーは今後も、あれをしなくちゃならん。俺や雷華抜きでだ」

 

「ショウや、ライカ抜きで?」

 

「ああ。いまいち自覚してねぇと思うから言うが、俺や雷華は護廷十三隊の隊長だぞ?」

 

刀原はそう言うが、ハリーやハーマイオニーはピンと来ていない。

 

「ずっとここ(英国)にいる訳じゃないってことです。むしろ、容易には会えなくなりますね」

 

雀部が答えるように言えば「あ……」と二人は反応する。

 

良くも悪くも、刀原たちの影響が大きくなりすぎたのだ。

 

「その通り。ハーマイオニーにも言っておく。近いうち、お前たちはこういう事態を独力で乗り越え無くてはならない。俺らに頼る時期は、お仕舞いなのさ」

 

「最後は私達が何とかしてくれる……なんて思うのも、もうお仕舞いです。ちょっと寂しいですけどね」

 

「そう、だよね……」

「そうよね。いつまでも頼っている訳にはいかないわね……」

 

ハリーもハーマイオニーも自覚したのか、ゆっくりと頷く。

 

「さて……じゃあ、最後にヒントだけやろう。良く聞いとけ?」

 

「うん」

 

「1、ハリーが持ってる物。2、雰囲気を作れ。3、2回目を本番にしろ」

 

「僕が持ってる物。雰囲気。2回目が本番……」

 

「後はお前らで何とかしろ。結果を期待してるぞ?」

 

「幸運を」

 

刀原と雀部はそう言って去っていく。

 

「ヒントは貰ったわ。後は私達で考えましょう」

「うん。そうだね」

 

ハリーとハーマイオニーは不安に駆られる気持ちを押し殺し、策を練りあげる事にした。

 

 

 

 

 

 

二月になった頃から、ハリー達六年生は『姿現わし』の練習をし始めた。

 

『姿現わし』は、習得すれば空間移動が出来るようになる魔法なのだが……。

 

どこへ(Destination)

どうしても(Determination)

どういう意図で(Deliberation)

 

と言う三つを意識していなければ成功しない。

 

そして心が充分に『どうしても』と決意していなければ……『ばらけ』と言う身体があちこち分離する現象が起きてしまう。

 

故に高難易度の魔法であり、使用には魔法省からの免許が必要となる。

 

だがそんな高難易度であるにも関わらず、ハリー達によるこの魔法の習得は比較的順調だった。

 

『闇の魔術に対する防衛術』の授業にて「戦闘においてあの術は大変有効だ。分かりやすく言えば……生死に関わるぐらいには」と言う、刀原の発言を聞いており……彼の授業で考え方や理論、術の有効性などを教わった(叩き込まれた)からだ。

 

その為、ハリー達は合同練習を繰り返す度に上達していき、監督官はその度に歓声を上げた。

 

そんな感じで、二月はあっという間に過ぎた。

 

相変わらずロンとハーマイオニーの仲は最悪だったが、この頃になると流石にハリーは慣れていた。

 

そして三月一日、ロンの誕生日に事件は起こった。

 

その日の朝。

 

ロンにプレゼントを渡したハリーと刀原は、朝食になるまで最近の話題である姿現わしの話をしていた。

 

「ショウ達も習得しているんだろう?」

 

「まあ、習得してはいるが……ほぼ使わないなぁ。ほら、俺らには瞬歩があるだろ?姿現わしの範囲なら、瞬歩で充分だからさ」

 

「ばらけのリスクもないんでしょ?」

 

「おう。ただ瞬歩の練度が低くければ、姿現わしの方が良い場合もある。使い分けが大切だな」

 

ハリーと刀原がそんな話をしている間にも、傍ではロンがプレゼントを開封しては歓声を上げていた。

 

今は大鍋チョコの箱を思案顔で見ながら、誰かから貰ったであろうそれを食べている最中だ。

 

これから朝食だと言うのに「お腹が空いてちゃ『姿現わし』なんて出来ないぞ!」等と言って三個目に入っている。

 

そんなロンをおいて、ハリーは姿現わしの難易度に嘆いていた。

 

「聞いてはいたけど、やっぱり難しいよ。ばらけも怖いし。僕もショウみたいに瞬歩?を使えたら良いのに」

 

「失敗したら壁に激突するぞ?しかも思いっきり。俺も習得まで何度壁に激突したか……。後はランニングとか、走る技術とかもいる」

 

「……やっぱり僕は姿現わしで満足するよ」

 

「その方が良いだろう」

 

刀原は笑いながらそう言うと、ポケットの懐中時計を見て「そろそろ朝食に行くか?」と二人に言う。

 

そう言われたハリーは頷き「ロン、行こう」と声をかけた。

 

そうして刀原とハリーは動き出すも、ロンはボケッとした奇妙な表情のまま微動だにしなかった。

 

「どうしたロン?」

 

刀原は妙だなと思いながら、ロンへ声をかけた。

 

「腹減ってない」

 

「……はい?」

「……え、どうした?」

 

ロンの言葉に刀原は首をかしげ、ハリーは目を丸くした。

 

「……だから朝食まで待っておけと言ったのに」

「大鍋チョコの箱を半分も食べちゃったもんね?」

 

「そのせいじゃない」

 

ロンは溜め息をつきながらそう言った。

 

「君たちには……理解出来っこない」

 

俺はお前が理解出来ねぇよ。

 

刀原はその言葉を鋼の意思で我慢し、「分かった分かった。じゃあ二人で行こう」と言ってハリーと一緒に行こうとした。

 

「ハリー!ショウ!」

 

出し抜けにロンが叫ぶ。

 

「何だい?」

「どうした?」

 

「僕、我慢出来ない!」

 

「……何を?」

「……何が?」

 

ハリーは何かがおかしいと思いながら言い、刀原は半ば呆れながら言った。

 

「どうしてもあの(ひと)の事を考えてしまうんだ!」

 

ロンは二人の内心(何言ってんだ?)を無視するように言った。

 

そしてそれを聞いた二人は今度こそ唖然とした。

 

最近ラベンダーから『ウォン‐ウォン』と呼ばれているロンだが、こいつの思考はまだまともだった筈だ。

 

無論、ロンとは確かに友達だ。

 

だが彼がラベンダーの事を『ラブ‐ラブ』などと呼び始めようと決心したのなら……ハリーとしては断固たる態度を取らねばらないと思ったし、刀原としては『遺憾の意を示す』か『付き合いを見直す』ことになるかもしれない。

 

「だとしても朝食は食べろ」

「なんでそう思ったんだ?」

 

二人は何としても常識の感覚を奪還せねばと思い、極めて冷静にそう言った。

 

「あの(ひと)は僕の存在に気付いていないと思う」

 

駄目だった。

 

「いや、気付いているも何も……なあ?」

「うん……しょっちゅうイチャついているだろう?」

 

二人は盛大に戸惑いながらそう言った。

 

ロンとラベンダーが四六時中イチャイチャしていることは、『今年の冬も寒かった』ぐらい皆が知っていることだ。

 

「……誰の事を言ってるんだ?」

 

ロンは目をパチクリしながら言った。

 

「君こそ誰の事を言ってるんだ?」

「ラベンダーの事じゃねぇのか?」

 

「ロメルダ・ベイン。彼女の事さ!」

 

ロンは高らかにそう言った。

 

「「………………………………………………………………?」」

 

沈黙。

 

その間、およそ一分。

 

「…………naniittenndakoitu(何言ってんだコイツ)

 

あまりの衝撃で思考が緊急停止(シャットダウン)した刀原が、何とか思考を復帰させながら日本語でそう言った。

 

「ショウ、日本語になってる」

 

ハリーが額に手をやりながらそう言った。

 

「あーすまん、ちょっと分かんなくって……」

 

「うん、分かる。僕も分かんない」

 

二人は頭を抱えた。

 

誰か助けてと願い、周囲を見た。

クソ、誰もいない。

 

「ロン……冗談だろう?冗談と言ってくれ」

 

ハリーがなんとか言葉を絞り出してそう言う。

一か月早いエイプリルフールだと思ったのだ。

 

「僕……あの(ひと)を愛してると思う」

 

どうやら冗談ではないらしい。

 

「……本気か、ロン。ラベンダーもハーマイオニーもいいのか?」

 

刀原も何とか絞り出して言う。

 

「僕は本気だ!」

 

どうやら本気らしい。

 

「…………冗談は止せ。冗談じゃねぇなら何かに取り憑かれてるぞ」

 

刀原はパニックとエラーを起こしている脳を何とか稼働させ、事の真相を探る為に周囲を見渡し始めた。

 

「ショウ!」

 

するとハリーが警告を発した。

 

「なん…!?」

 

ロンがパンチを繰り出していたところだったのだ。

 

だが、そんなパンチを食らう事も無く……。

 

「せりゃあぁ!」

 

刀原は華麗に一本背負いを決めた。

 

ドテーンとロンは床に叩き付けられる。

 

「一体どうしたよ?」

 

刀原が冷静にそう聞いた。

 

「冗談じゃない!僕は本気なんだ!」

 

ロンはそう言って、もう一度刀原に突進しようとした。

 

「縛道の一『(さい)』」

 

だが敵う筈もなく、あっさりと取り押さえられる。

 

「無理だよロン……」

 

ハリーは呆れるように言った。

 

しかし、ロンは怒り心頭のままだった。

 

そんなロンを放置した刀原は、先ほどまでロンが食べていた大鍋チョコの箱を検分し、そして真相を突き止めた。

 

「ハリーが以前、ロメルダから貰っ「ロメルダ?ロメルダって言ったか?紹介してk「『シレンシオ(黙れ)』彼女から貰った大鍋チョコ……覚えているか?」

 

「うん、でも怪しくて食べなかったけど……」

 

「ちゃんと処分したか?」

 

「いや、してない……って、まさか!?」

 

「そう、そのまさか。多分惚れ薬が仕込んであったんだろうな。そしてハリーがたまたま落とした物を、ロンが拾って食べた」

 

「ええ……」

 

事の真相を聞いたハリーは、今だ懸命に藻掻いているロンに申し訳なさと哀れさで一杯になった。

 

「とにかく、どうにかしないとな。このまま解放すると、どんな奇行に走るか分からん」

 

刀原は腕を組みながらそう言った。

 

確かにこのまま解放すれば……またショウに無謀な突撃を行うか、ロメルダに永遠の愛を誓うために突撃するかの二択になると、ハリーは思った。

 

そりゃあ、ここ最近はハーマイオニーへのくだらないツンデレや、ラベンダーとのイチャイチャにイライラしていたのは事実だ。

 

しかし何といっても、僕らは友達じゃないか。

 

ロンは正気ではないのだ。

 

このままショウにフルボッコにされる光景や、ロメルダや周囲に変な目で見られた挙句、ラベンダーやハーマイオニーからの評価が地に落ちる瞬間を見物するのは……するのは……辞めてあげるのが友達だろう。

 

ドラッグマシーンの如く(ブレーキ無しで曲がれないまま)突進する様を、ロンの薬の効果が切れるまで見たい……と言う思考が、頭の一部を過ったが……それでも辞めるのが友達だろう。

 

「スラグホーンの部屋に行こう」

 

ハリーは友達として最高の決断をした。

 

 

 

 

 

 

「どうしたんだねハリー、ショウも。土曜日は遅くまで寝てるんだが……」

 

「すみません。でも友達のロンが間違って惚れ薬を飲んでしまったんです。解毒剤を調合して頂けませんか?誕生日を医務室で過ごすのは少し……」

 

眠そうなスラグホーンにハリーはそう言った。

 

「いや……ふむ、分かった。入りなさい」

 

ロンは今もなお刀原の鬼道によって拘束されたままだったのだが、それが逆に事態がヤバそうであることの証明になったらしい。

 

「あの(ひと)はどこ?ここにいるのか?」

 

「分かった分かった」

 

「あの(ひと)がいないぞ?隠れているのか?」

 

「分かった分かった」

 

ロンは相変わらず奇天烈な言動のままだ。

 

奇天烈な発言に真面目に答えるのは馬鹿らしいと思ったのか、刀原はさっきからそうとしか答えてない。

 

そんなやり取りをしている間に、解毒剤を調合し終えたスラグホーンが透明な液体が入っているグラスを持ってくる。

 

「さあ、これを飲みなさい。神経強壮剤だ。そのままだといけないからね」

 

「凄い」

 

スラグホーンの言葉を信じたロンは、戒めから解放されたこともあって勢いよくそれを飲み干した。

 

そして暫くは三人にニッコリ笑ってそわそわしていたが……やがてニッコリは引っ込み、恐怖の表情へと入れ替わった。

 

「どうやら元に戻った?」

 

ハリーはニヤッと笑い、刀原とスラグホーンはクスクスと笑いながらそれを見ていた。

 

「ふむ、気付け薬が必要みたいだね」

 

打ちのめされたような顔で椅子に倒れ込んだままのロンを見たスラグホーンは、そう言って近くにあった飲み物が沢山置かれているテーブルへと向かう。

 

「バタービール、ワイン……。オーク樽熟成の蜂蜜酒……うーむ、これはダンブルドアに贈るつもりだったのだが……。まあ、貰っていなければ残念とは思わんだろう。これでミスター・ウィーズリーの誕生祝いをしよう!」

 

スラグホーンは嬉しそうに瓶を見せる。

 

「おお。それ、美味しい奴ですよね?この前、総隊長達に贈りました」

 

銘柄を見た刀原が感心するように言った。

 

「そうだろうとも。これは私も贔屓していてね……。かの有名なヤマモト総隊長殿に贈る品にはピッタリの筈だ!」

 

スラグホーンは上機嫌に言い、グラスを取りに棚へと向かう。

 

「実際は総隊長じゃなくて、雀部のおじいさん(雀部長次郎)に贈ったんだけどね」

 

刀原はそうこっそりハリーに(こうやって上機嫌にするんだと)伝え*3、二人はニヤッと笑う。

 

「さあ、祝おうじゃないか!出だしこそあれだったが……誕生日おめでとう、ルパー「ロンです」ロン」

 

幸いにもスラグホーンはそれに気が付かず、三人に蜂蜜酒が入ったグラスを渡し、自身のグラスを掲げてそう言った。

 

名前が間違えられていたが……それが耳に入らなかったらしいロンは、とっくに蜂蜜酒を飲もうとしていた。

 

刀原も間違えてんじゃんと思いながら、飲もうとしたが……ふと、匂いが気になった。

 

この蜂蜜酒って、リコリスとチェリーの風味がする筈なんだが……。

 

「スラグホーン教授、この蜂蜜酒は……」

 

刀原が指摘しようとしたその時、ロンの手からグラスがポトリと落ちた。

 

そしてバッタリと倒れ、手足が痙攣し、口から泡が吹き始める。

 

「ロン!」

「ッ!毒か!?」

 

ハリーと刀原がロンの元に駆け寄る。

 

「先生!なんとk「俺が回道で和らげる!ハリー、キットだ!教授はマダム・ポンフリーを!」

 

ハリーがスラグホーンに助けを求めようとするが、それを遮って刀原が指示を飛ばす。

 

スラグホーンが衝撃のあまりに唖然としていて、役に立たないと判断したからだ。

 

指示を聞いたハリーは、キットと言われた瞬間にスラグホーンの魔法薬キットの元へ駆け出し、そして重たいそれを持ってこようとはせずに中身を漁った。

 

ゼイゼイと言うロンの恐ろしい断末魔の様な息遣いが聞こえる中、ハリーは遂に有効な物を見つけた。

 

前の魔法薬の授業でスラグホーンに見せた、萎びた肝臓の様な石。

 

ハリーはロンの元へ駆け戻り、処置をしている刀原に見せ、彼の頷きを確認してから即座に、ロンの口にベゾアール石を押し込んだ。

 

ロンは大きく身震いして息を吐き、ぐったりと静かになった。

 

「良く思いついたなぁ。上出来だ。多分、もう大丈夫だろう」

 

刀原は額の汗を拭いながら、ハリーの頭をクシャクシャに撫でた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
教えていないのであれば、改竄する必要などない。

 ↓

でも改竄されてる。

 ↓

何かあったから隠すために改竄した。

 ↓

ってことは……教えたんですね?

そうなんですね?

 

という理屈だ。

 

*2

後にこの情報を聞いたスラグホーンは、最高級洋菓子を雀部にプレゼントした。

*3
達と言ったのだから嘘は言ってない






その愛は

真の愛か?



色々変えた影響で、この先どうするかを考える今日この頃。

原作追随は何処へやら……。

それとは別に……忙しくなるので、次の投稿が若干遅れるかもしれません。

どうかご了承を。



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ありがとうございます。
そしてお待ちしております。


では次回は

葬儀、そして真相の記憶

次回もお楽しみに。





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死神、幸運を見る。葬儀、そして真相の記憶



見ないでくれ
知らないでくれ
探らないでくれ

私は自覚したくない
私は気付きたくない
私は……

私は……ああ、分かっているとも。




 

 

ロンは多分……いや、間違いなく人生最悪の誕生日を過ごしただろう。

 

惚れ薬入りチョコレートを食べ。

ハリーと刀原に醜態を晒し。

気付け薬は毒薬で……。

最終的には医務室で過ごす羽目になったのだ。

 

最悪を長時間煮詰めた結果と言って良いだろう。

 

だが彼は、幸運でもあった。

 

ホグワーツでも屈指の『有事に対するプロ』が応急措置を施し、『いきなり魔法薬学に詳しくなった生徒』がベソアール石(万能解毒石)を閃いた結果、彼は二、三日の入院で済んだのだ。

 

そして現在は昼になり、ロンは医務室でぐっすり寝ていた。

 

その傍では、ジニーやハーマイオニーが心配そうに座っている。

 

「変わりはないか?」

 

そう言いながら医務室に入ってきたのは、刀原だった。

 

「幸せそうな寝顔ですね」

 

「よかった」

 

近くにはハリーと雀部もおり、二人は来て早々にロンの顔を心配そうに覗き込み……グースカといびきをかいているロンを見て、ホッとした表情でそう言った。

 

雀部は警備、刀原とハリーは事情聴取で席を外していたので、悪化していないか心配していたのだ。

 

「ウィーズリーは大丈夫かの?」

 

ダンブルドアも、マクゴナガルとスラグホーンを連れてやってくる。

 

ロンを一目見た教授達は、相変わらずグースカと寝ているロンを見て安心したような表情を浮かべた。

 

やはり気が気でなかったらしい。

 

「良くベソアール石を思いついたのぉハリー。ショウも流石の応対じゃった」

 

ダンブルドアはそう二人を褒め称える。

 

二人が早急な処置をしなければ……命に関わる事態になっていたかもしれないからだ。

 

「確かに彼らの行動は称賛すべきです。……ですがそれよりも重要なのは『どうしてそうなったか?』では?」

 

「確かにそうですね」

 

マクゴナガルの言葉に雀部が頷く。

 

気づけたから良いものの、刀原もハリーも飲む寸前だったのだ。

 

言葉や表情では表していないが、最愛の人が毒を盛られた雀部の怒りは激しかった。

 

「贈り物にする予定だったそうですね?確か……ダンブルドア宛だと伺いましたが」

 

刀原は飲む前にスラグホーンが言っていた言葉を思いだし、彼に問いただす様に訊ねる。

 

「まあ、ダンブルドア狙いなら僕らに振る舞う筈もないですし?僕らが狙いなら、何かと理由をつけて飲ませれば良いでしょうから……」

 

「ああ。勿論、毒が入っているだなんて思わなかったよ」

 

スラグホーンは疲弊した様子でそう言う。

 

その様子から見ても、彼が毒を盛ったとは思えない。

 

もしこれが演技だとすれば、とんだ名優だろう。

アカデミー賞だって夢じゃない。

 

刀原は短い付き合いとはいえ、スラグホーンの人間性を信じることにした。

 

「それは元々、他の人から贈られてきたもので……。良い物だからダンブルドアに贈ろうとね……」

 

スラグホーンは続けてそう証言する。

 

「他の人?誰だか覚えていますか?」

「いや、匿名のフクロウ便だった」

 

「まだその紙等は残っていますか?」

「ああ、残しているとも」

 

「なるほど……『追跡呪文(アベンジグイム)』じゃな?」

 

刀原とスラグホーンのやり取りを聞いていたダンブルドアが、刀原がやりたいことに気が付く。

 

刀原はその紙などに追跡呪文をかけ、犯人を特定しようと画策しているのだ。

 

「ええ、追跡しきれるかは分かりませんが……。少なくとも、やってみる価値はあるかと」

 

「同感じゃ」

 

刀原の言葉にダンブルドアは頷く。

 

「ではスラグホーン先生、その紙を持ってきてはくれまいか?」

 

「ああ、勿論だ。待っていてくれ」

 

ダンブルドアからそう言われたスラグホーンは、ドテドテと小走りで医務室から出ていく。

 

そしてそのすれ違いとなる形で、ある少女がやって来た。

 

「彼は無事?私のウォン‐ウォンは?」

 

やって来たのは、ロンの彼女であるラベンダーだった。

 

「そこにいるよ」

 

刀原は腕を組んだまま顎で指し示す。

 

その先には相変わらず寝ているロンと、心配そうにそれを見ているハーマイオニーやジニー、雀部とハリーがいた。

 

「……何しに来たの?」

 

ラベンダーは殺意マシマシでそう言った。

 

誰に言ったのかは言うまでも無い。

 

「……貴女こそ、いまさら何しに来たのよ?」

 

ハーマイオニーは立ち上がって言う。

 

【これが修羅場ってやつですかね?】

【俺に聞くな。ワクワクすんな】

 

その様子をどことなくワクワクした表情で(面白くなってきました!)見てる雀部が、小声で刀原に聞く。

 

刀原は苦い顔をしながら(うっわ、めんどくせーことになった)嗜めるようにそう言った。

 

そんな二人を一切気にせずに……ラベンダーとハーマイオニーによる仁義皆無の女の戦いは幕を上げる。

 

「私は彼のガールフレンドよ」

「私は彼の……友達よ」

 

「笑わせないで。ずっと口聞いてなかった(絶交状態だった)くせに。彼が()()()()()()()()から、またやって来たんでしょ」

 

「彼は毒を盛られたのよ?それなのにその言い方はなに?ちなみにロンは、前から面白かったわ」

 

「「「「まあ、確かに」」」」

 

ハリー、刀原、雀部、ジニーは、ハーマイオニーの言葉に思わず同意してしまう。

 

まあ確かに……いろんな意味でロンは面白い奴だ。

どう面白いかは……彼の名誉のために黙っておくが。

 

「う、う~ん」

 

ここで渦中の人になっているロンが、ベッドの上で身じろぎをする*1

 

「ああ、ほら。私が来たのを感じたんだわ。ここにいるわよウォン‐ウォン……」

 

感づいたラベンダーが、少し焦った様にそう言う。

 

ハーマイオニーは、それをじっと見守る。

 

少しだけ……沈黙が流れる。

ロンはなんと答えるのか……注目が自然と集まる。

 

「……ハー、マイニー……」

 

ラベンダーは、ロンがなんと言ったのか分からないと言った表情をした。

 

ハーマイオニーは少し嬉しそうな表情をし、ラベンダーには目もくれずにロンの手を握った。

 

勝者は決まったなと、刀原は思った。

 

そしてそれは、この場にいた全員が思ったことだった。

 

ラベンダーは、打ちのめされた様子で医務室から出て行ったのだった。

 

「漸く決着か」

「長かったですね」

 

いずれこうなるだろうと思っていた刀原と雀部は、そう言って頷いた。

 

「回り道したわね」

「ああ、そうだね」

 

ジニーは「やっとか」といった表情でそう言い、一番の被害を被ったハリーは一息ついた様にそう言った。

 

「若い心に、愛の痛みは深く突き刺さるものよの……」

「そうやって、大人になっていくのです」

 

半ば蚊帳の外だったダンブルドアとマクゴナガルが、しみじみとそう言った。

 

「持ってきたよショウ、ダンブルドア……?……どうしたんだね?」

 

何も知らないスラグホーンが、不思議そうにそう言った。

 

「ンンッ。ありがとうございます、スラグホーン教授。では追跡を開始しますよダンブルドア」

 

「あ、ああ。そうしてくれい」

 

何処となく重くも甘い空気を払拭するように、刀原が咳払いしながらそう言う。

 

ダンブルドアも仕切り直す様にそう言った。

 

ーーーーーー

 

「これだよショウ」

 

「ありがとうございます。では『アベンジグイム(追跡せよ)』」

 

ーーーーーー

 

結論から言えば……犯人はあっさり捕まった。

 

とあるスリザリンの7年生だった。

 

曰く「本当はやりたくなんか無かった。でも家族の為にはやるしかなかった」とのこと。

 

「じゃあ、しょうがないね」とは……ならないが。

 

服毒前()()()()そうなっただろうが、残念ながら服毒してしまった被害者がいるのだ。

 

例えその被害者が超重要主要人物(ヴォルデモートの抹殺対象者)ではなく、ただの一般人……かどうかはさておいて……一応、一般人だとしても。

 

例え、命が失われなかったとしても。

 

これが殺人未遂事件であることに、変わりはないのだ。

 

しかし、法に照らすこと(アズカバン行き)をダンブルドアは望まなかった。

 

彼が悪いのではない、時代が悪いのだ。

 

可哀そうなのはロンであるが、強引に犯行を強要された七年生もそうだと言ったのだ。

 

またその七年生は……十分な反省と謝罪を示した。

 

ロンが起きた時に、ウィーズリー家がロンをお見舞いしに来た時に、即座にそれを行ったのだ。

 

そこそこの名家でもあったため、十分な賠償金も提示した。

 

彼の父親は、何とか死喰い人から抜け出し「息子の代わりに、私がアズカバンに行く」と言った。

 

マルフォイも他人事では無い(僕は彼になっていたかもしれない)として、ロンに見舞をしたし、それとなく減刑を願った。

 

そして当のロンが、マルフォイから説得や各方面からの取り成しの声によって、罪に問う意欲がなくなっていた。

 

最終的な沙汰としては……。

 

七年生は二か月の罰則。

七年生の家族は、死喰い人から永久離脱。

 

死喰い人に加担していた父親は、取り調べの上、アズカバンに収監。

母親はフランスへ亡命。

 

そして、ある程度の賠償金をロンに支払うこと。

 

となった。

 

かくして、仮称『ロン・ウィーズリー毒殺未遂事件(代わりに毒を飲んじゃった事件)』は立件されることなく収束したのだった。

 

 

 

 

しかし、簡単に収束しなかったことがある。

 

言わずもがな、ラベンダーの一件である。

 

本命であり意中の人(ハーマイオニーという存在)がありながら、ラベンダーの乙女心を弄んだ罪は非常に大きく、そして重いのだ。

 

ハーマイオニーとの仲を復活させたばかりか、半ば付き合い出したロンは何とかしようと思った。

 

ラベンダーからの殺気立った冷徹な目に、居たたまれなかったからだ。

 

半ば無意識の状態……つまり事実上の本音の状態で振った為、ラベンダー本人になんて言えばいいのか分からない。

 

それに正気に戻った(夢から覚めた)と言っても良いほど、ラベンダーへの想いは皆無になったため……下手に切り出してよりを戻す訳にもいかない。

 

ロンは大人しく、友人達に泣きついた。

 

だが、彼ら帰って来た言葉は……己を見捨てる言葉や反応だった。

 

waーgannbattekudasaineー(ワーガンバッテクダサイネー)」と言い、無表情かつ日本語でしか相手してくれない雀部。

 

何も言わず、生暖かい目(地獄を見ろ)を向けてくるハーマイオニーと、ハリーにジニー。

 

お前の責任だ(大人しく裁きを受けろ)」と言い、それでも食い下がったら「じゃあ、そんなことなんてどうでも良くなるくらいの特別訓練でもするか?ああ、心配すんな。「今までのやつは座興(お遊戯)だった」って思うくらいの地獄を、()()()三時間だけ見るだけだ。まあ、忘れて無いようだったら延長するが」と言った刀原。

 

ロンは絶望、特に最後のやつに絶望し……大人しくラベンダーから発せられる殺気を受けることにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

ロンを救い、そして見捨てたハリーだったが、スラグホーンの説得(調略)は完全に手詰まりになっていた。

 

いよいよ本腰を上げてスラグホーンを調略しなくてはならないのだが、これがさっぱり上手くいかない。

 

ダメ元で真正面から交渉してみたが、当然ながら取り付く島もなかった。

 

ならば、なんとかスラグホーンを口説き落とす策を練らなくてはならないのだが……。

 

どう頭を捻っても、良い作戦も文言も出てこなかった。

 

少し前だったら自身が全幅の信頼を寄せている参謀を頼ったし、出来ることなら今もそうしたいのだが……あの様に言われた以上、ハーマイオニーとロンにしか意見を聞けない。

 

時間だけが過ぎていく。

 

そんな中、ハグリッドからしわくちゃになっている手紙が贈られてきた。

内容は『アラゴグが死んだ』というものだった。

 

ハリーとロンは「あいつか⁉」と思い出し、自分たちをディナーにしようとした奴らの死を歓迎した(あんな奴、死んで正解だ!)

 

ハーマイオニーと刀原は「ああ、ハリー達から聞いた蜘蛛か」と思い出し、やはりその死を歓迎した(死んで悲しいのはハグリッドだけ)

 

雀部に至っては、かの存在を知らず「え、だれ?」となり……詳しく聞いた後は、やはりその死を歓迎した(死んで良かったですね)

 

しかし、この会話と手紙は無意味ではなかった。

 

会話の途中で、ロンがある魔法薬の存在を思い出したからだ。

 

「ハリー、幸運だ。幸運になればいいんだ!あれを飲んで、スラグホーンの元へ行くんだ!」

 

ロンはハリーが持ち、今なお厳重に蝋封されている『幸運の液体(フェリックス・フェリシス)』の使用を提言したのだ。

 

このまま死蔵(使わないまま終わる)のは忍びないと思ったハリーも、使用を決断した。

 

「じゃあ、飲むよ……」

 

おっかなびっくりの表情で、ハリーが数時間分だけ飲む。

 

「どう、どんな感じ?」

「ラッキーな感じか?」

 

ハーマイオニーとロンも固唾を飲みながら見守る。

 

やがてハリーは、まさに『覚醒した』かのような表情をする。

 

にやりと笑い、その表情には自信が宿っている。

 

「いい、ハリー。スラグホーン先生の所に行って、そして、分霊箱に関する情報を得る。良いわね?」

 

そう暗示を掛けるように、ハーマイオニーは言う。

 

「分かった。よし、じゃあハグリッドの所に行くよ」

 

それをハリーは真っ向から投げ捨てるかのような方針を発表した。

 

「「「!?(何言ってんだこいつ)」」」

 

刀原以外の三人はハリーの言葉の意味を全く理解出来ないようだった。

 

「その方がいい気がした……。そうだな?そうなんだよな?」

 

刀原だけは、それをなんとなく理解したようだった。

 

しかし、それが仇となる。

 

「ああ!よし、ショウも行こう!」

 

「え」

 

ハリーは刀原の肩をガシッと掴む。

 

後に「しょう君の、あんな情けない声聞いたの、本当に久し振りでしたね」と雀部が語る声を、刀原は上げる。

 

「その方がいい気がするんだ!今夜は、あそこで決まりだよ!意味分かる?」

 

「「「「いや、全く」」」」

 

ハリーは正に猪突猛進になっていた。

 

四人が理解不能になっていることにもお構い無しだった。

 

「さあ、行こうショウ!」

 

「え、ちょ、ハリー、ちょと待て!ちょっと助け「「「い、いってらっしゃーい……」」」おい!」

 

刀原は三人に助けを求めるが、三人は手を振ってそれを見送る。

 

今のハリーとは関わりたくない(君子危ウキニ近寄ラズ)』ということだ。

三人にとって刀原は、尊い生贄(必要な犠牲)になったのだ。

 

「覚えてろお前ら!」

 

刀原はそんな捨て台詞を吐きながら、ウッキウキのハリーに半ば引きずられていった。

 

 

 

 

なんでこうなった……。

 

ハリーの気分の赴くままにやって来て、目の前で行われている光景を前に、刀原は複雑な気分でそう思った。

 

ハグリッドはカパカパと酒を飲み、スラグホーンも気分よく酒を飲んでいる。

 

ハリーはそれを、ニコニコしながら見ている。

 

アラゴグと名付けられていたアクロマンチュラの葬儀が終わり、ハグリッドの小屋で行われ始めた宴会は、まさにカオス(混沌)だった。

 

何故こうなったのか。

 

刀原は今までのやり取りを思い出す。

 

ーーーーーー

 

グリフィンドールの寮を気分上々で出たハリーと、ため息を吐きながら出た刀原は、幸運に導かれるようにハグリッドの小屋へ向かっていた。

 

目的はスラグホーンの筈。

何故、ハグリッドの小屋に向かっているんだ?

 

その理由は直ぐに分かった。

 

「こんにちは先生!」

 

ハグリッドの小屋に向かう途中、有毒食虫蔓を失敬しようとしていたスラグホーンに遭遇したのだ。

 

「ああっ!ハリーか!それとショウも……。こりゃたまげた。驚かせないでくれ……」

 

スラグホーンは心底驚いた様な(やべ、見つかった!)表情でそう言った。

 

「教授。あの、スプラウト教授からの許可は?」

 

「ああ……えっと……勿論、いけないことだとは分かっているのだが……採れたて新鮮な有毒食虫蔓は希少でね。それに。新鮮な物と、ある程度の時間が経過した物でどう違うのか……と言う学術的興味もあるのでね」

 

刀原の指摘に、スラグホーンはウインクしながらも懇願するように言う。

 

要するに内緒にしてくれと言う事だな。

でもそれをハッキリとは言えないと。

 

そう察した刀原が、「僕は見なかったことにします」と言えば、スラグホーンは安堵の表情を見せる。

 

「そう言えばハリー、何故ここにいるのかね?まあ、ショウが付いているのならば、これ以上に安心な状態なぞなかろうが……」

 

「実は先生、僕たちハグリッドの所に行く予定なんです。ハグリッドの友達だったアラゴグが昨夜死んだので、その埋葬に立ち会うことに」

 

「そうかね。アラゴグ……どんな存在なのかね?」

 

ハリーの説明にスラグホーンは興味を示した。

 

「アクロマンチュラですよ。()()

 

刀原はスラグホーンを巻き込むチャンスだと思い、強調するようにそう言った。

 

「僕自身はアラゴグとなんの接点もありませんが、アクロマンチュラの遺体がどれほど貴重か……教授なら知っているでしょう?」

 

「確かに、アクロマンチュラの毒は非常に貴重だ。生きている内に毒を採取するのはほぼ不可能。故に、半リットルで百ガリオンになる。勿論、他の部位も……。そちらは、サンプルかね?」

 

「ええ、アクロマンチュラは日本に生息していませんから。ある程度のサンプルが欲しいんですよ。僕はハグリッドと親しいので……上手く交渉すれば、得られるかも」

 

「ふむ」

 

二人は、悪い顔をしていた。

 

そして刀原は、上手く乗せられたと思っていた。

 

ハグリッドの心象を害してまで、アラゴグの死骸からサンプルを得る必要などない。

欲しいのなら、禁じられた森にいる何体かをやればいいだけだ。

 

刀原のそんな心象も知らず、スラグホーンはその気になっていた。

 

「ではハリー、ショウ。あっちで落ち合おう。私は飲み物を一、二本持って、改めて向かうとしよう」

 

スラグホーンはそう言って、バタバタと城へ戻っていった。

 

ハリーは大満悦で、刀原は悪い顔をしながらハグリッドの小屋に向かった。

 

 

 

二人を迎えたハグリッドは打ちひしがれていた。

 

「アラゴグが死んだんで、他の連中は俺を巣に一歩も近づけさせねぇ。ただでさえ、二年前に原因不明の壊滅的打撃を受けていたからな。不信がっているんだ」

 

ハグリッドは溜息を吐きながらそう言った。

 

「壊滅的打撃?」

 

「ああ、巣は文字通り壊滅。個体数も大幅に減った。アラゴグは辛うじて無事だったらしいが……あいつは「黒が襲い掛かってきた」って言ってた。信じられん、あいつらの巣を壊滅させられるやつなんて」

 

そう聞いたハリーは、あいつらの個体数が減ったのは良いことと思った。

                                

そして刀原は、二年前に行った行為*2がバレてない事を安堵した。

 

やがてスラグホーンもやって来て、アラゴグの死骸の前で粛々とした葬儀が行われた。

その際、スラグホーンは自身の目的を達成した。

 

そして、時系列は冒頭に戻る。

 

ーーーーーー

 

埋葬が終わったあと、ハグリッドの小屋では飲み会が行われた。

 

ハグリッドはスラグホーンの世辞で気が大きくなり、酒をカパカパと飲んだ。

 

スラグホーンは、自身が無事に目的を達成したことで、こちらも気分よく酒を飲んだ。

 

ハリーは二人の酒瓶に補充呪文を掛け、酒が無くならない様にした。

 

刀原は、とんとん拍子に事が上手くいっていることに戸惑い、複雑な気分になっていた。

 

やがてハグリッドは、いびきをかきながら寝始めた。

 

「酷い話だ、私はいつも……いや、よそう」

 

スラグホーンは、ついさっきまで話題に上がっていたハリーの両親について、何か言いたげだった。

 

「リリーは素晴らしい女性だった。ユーモアがあって、勇敢で……。なのに」

 

「先生。母は僕に命をくれました。助けてくれました。なのに先生は、助けてくれないんですね。記憶をくれないのですね」

 

ハリーははっきりと言った。

 

「そんなことを言わんでくれ。確かに助けたい……しかし、役には……」

 

「役に立ちます。ダンブルドアには、僕には、情報が必要なのですから……」

 

そこまで言って、ハリーは身を乗り出した。

 

「僕は『選ばれし者』です。奴を倒すのは、僕の責務です。そのために、先生の記憶が必要です」

 

ハリーの目には、確かに覚悟が宿っていた。

 

「……君は、私に決断を迫っている。『あの人』の破滅を援助しろと……」

 

「恐ろしいと言う気持ちは理解出来ます。でも、先生……勇気を出してください。母の様に……」

 

「…………」

 

スラグホーンは、それでも悩んでいる様子だった。

 

「教授。確かに、その情報を出したことは……恥ずべき行為かもしれない。しかし、このまま何もしなければ……それこそ本当の恥ずべき行為です。そしてそれを帳消しにするには……記憶が必要です」

「それはとても勇敢で、気高いことです」

 

刀原とハリーの言葉に、スラグホーンの瞳は揺れ動いた。

 

沈黙が流れる。

 

「私を責めないでおくれ。悪く思わないでおくれ……。あの時、ああなるとは思わなかったんだ」

 

スラグホーンは懇願するようにそう言った後、杖をこめかみに押しあて……長い銀色の糸を出した後、それを瓶に入れた。

 

「未来は誰にも分からず、確定していません。ですが、これだけは言えます。この瞬間、ヴォルデモートの滅びは……より確定に近づきました」

 

「ありがとう先生」

 

刀原とハリーがそう言ったのを確認すると、スラグホーンは酔いもあってか、眠りに落ちた。

 

 

 

 

 

 

ハリーと刀原は、既に夜が深いことも気にせずに、校長室に向かった。

 

幸運の液体の効果は切れていたが、幸いな事にダンブルドアは校長室に居た。

 

ダンブルドアはハリーが真の記憶を入手したことを大いに喜び、三人はすぐさま憂いの篩で記憶を見た。

 

そしてその記憶の中は、ある意味予想通りの……そして最悪の答えがあった。

 

ヴォルデモートは、分霊箱を六つ作成した……という答えだ。

これでヴォルデモートの魂は、本体含めて七つだと言う事だ。

 

もっとも、既に二個は破壊済みだ。

 

『トムリドルの日記』

『マールヴォロの指輪』

 

しかし、ということは……。

 

「あと四個もあるのか」

 

刀原はヴォルデモートの生き汚さに呆れていた。

 

「先生は、何を分霊箱にしたと思いますか?」

 

「推察するしかないが……あやつは品物自体が何か特別な物、偉大な物であることを好んだであろうと思う」

 

「なら簡単だな。俺の記憶が確かなら、あいつはそれらしいものを奪っている」

 

ハリーとダンブルドアの言葉に、刀原は思い出すように言う。

 

「それらしい物?」

 

「ホグワーツの創始者所縁の品。ハッフルパフのカップに、スリザリンのロケット。「偉大なる俺様にふさわしい品だ」とか言いそうだし」

 

刀原は声真似をしながらそう言う。

 

「おそらく正解じゃ」

 

ダンブルドアはクスリと笑いながらそう頷く。

 

「あと二個は、レイブンクローとグリフィンドール所縁の品?」

 

ハリーは指を二本にしながら言う。

 

「俺の勘だが、多分レイブンクローだと思うね。グリフィンドール所縁の品で思い出すのは剣だが、それはまだ健在だし」

 

刀原はダンブルドアの机の裏にある『グリフィンドールの剣』を、親指で指さしながらそう言う。

 

「確かにのう」

 

「レイブンクローだったら……レイブンクローの髪飾りだな。あれは失われたらしいが、あいつは発見してるかも」

 

「じゃあ、最後の一個は……?」

 

ハリーは人差し指を見ながら考える。

 

「いるだろう?奴と四六時中一緒にいる……でっかい奴が」

 

「え、蛇!?でも、それって可能なの……?」

 

「いや、駄目だろう。自立走行出来るってことは、どっか行くかもしれないってことだし」

 

「ショウの言う通り、あまり推奨される話では無いのう。じゃが、そうであろうという実証がある」

 

刀原とハリーの言葉に同意しながら、ダンブルドアは頷く。

 

「なら問題は、何処にあるか……だよね?」

 

「ああ。……だけど」

 

「なにか予測があるのかね?言ってみてくれんか?」

 

ハリーの指摘に刀原が悩んだように言うと、ダンブルドアはそれを言うように促す。

 

「そうですね……まず、ホグワーツにはあるかと。奴にとって、この学校は思い出の詰まった母校。それに、沢山のギミックがあります。何処かに隠した可能性は非常に高い」

 

「確かに。あ奴にとって、この学校は特別な存在じゃろう」

 

「もう一つは……断固たる確証は皆無ですが、部下に預けた。ルシウス・マルフォイが預かっていたように」

 

「アントニン・ドロホフや、ベラトリックス・レストレンジとかに?」

 

「ベラトリックス?……それだ!ベラトリックスは奴の副官の様な存在だった。預けていてもおかしくない!」

 

「じゃあ、レストレンジ家にある?」

 

「いや……まあ確かに、あのベラトリックスだったら……敬愛するご主人様(笑)から預かった品を家に飾ったりするかもしれないけど。焼き討ちとか、家ごと爆破されたら終わりだから……」

 

「や、焼き討ち、爆破……」

 

「相変わらず物騒じゃのう」

 

「え、普通の策では?」

 

「「…………」」

 

 

 

「……でも、じゃあベラトリックスはどこに保管したの?」

 

「金庫、いや軽微過ぎる……。金庫、銀行!」

 

「なるほど、グリンゴッツ。確かにあり得そうじゃのう」

 

「アルバス、直ぐに魔法省へ連絡して強制捜査の手続きを。レストレンジ家は全員死んでるかアズカバンです。立ち合いには親戚筋としてシリウスやドラコが行ける筈」

 

「良し、直ぐに手配しよう」

 

「あと一個は……」

 

「それについてはわしに心当たりがある」

 

「学校を留守にしていた時は、そういう場所を訪ねていたのですね?」

 

「ああ、学校はショウ達の尽力で鉄壁じゃからの。そしてそこに行く時には……ハリー、同行して貰えるかの?」

 

「望むところです」

 

「さて、明日から忙しくなりそうじゃの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
こんな状況下でグースカと寝ているわけにはいかないと感じたのか、それともただ単に五月蠅いと思ったのかは……この際、放置する。

*2

 

実は二年前、刀原は日番谷と藍染と一緒にアクロマンチュラの巣を奇襲し、三体ほどをサンプルとして日本に送っていたのだ。

 

日本にはアクロマンチュラが生息していないのだが、禁じられた森には無数のそれが居て、しかも戦力も問題ない……。

これ幸いにと、三人はアクロマンチュラの巣を駆除の名目で奇襲したのだ。

ちなみに、ダンブルドアからの許可は得ている。

 

あの攻防戦でアクロマンチュラの巣はほぼ壊滅したのだが……。

どうやらアラゴグとやらは無事だったらしい。

 






手繰り寄せる、奇跡の道筋

引き寄せるには幸運と頭脳。



まず……更新が遅れてしまい、すみませんでした。
資格だったり、引っ越しとかで時間が無かったのです。

頑張って更新するので、今後ともよろしくお願いいたします。




映画版での、ハリーのコメントに笑いました。

「死んでるようですね」なんて、ニコニコ顔で言うんじゃないよ。

そして流れるような幸運の連発。
はっきり言って、チートです。



グリンゴッツに強制捜査。
全てはベラトリックスが死んでいるから。

気付いたんです。

ベラトリックスが死んでいるため、ポリジュース薬で彼女に変身してグリンゴッツに入れないこと。
例え変身しても、死んでいるため失敗すること。

ベラトリックスの夫は、影が薄くて介入出来ませんし。

よって、ハリー達はグリンゴッツに潜入が出来ません。

一応……ドラコを利用すると言う手も、無い訳では無いのですが……。
多分その策はヴォルデモートによって封じられます。

なので、まだ魔法省……国家権力がこちらの陣営である内に、強制捜査の上で発見するしかありません。

と言う事で、刀原君には奇跡の閃きをして貰いました。

刀原君、君なら出来る……筈だよね?
ってかしてくれ、お願い。




感想、ご意見、評価、お気に入り登録。
ありがとうございます。
そしてお待ちしております。


では次回は

捜索、そして襲撃

次回もお楽しみに。





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死神、本気を出す。捜索、そして襲撃



遠くから、微かな悲鳴が聞こえる

叫んでいるのだ
嘆いているのだ

だが、奴にはそれが聞こえない。








 

 

ヴォルデモートが作成した分霊箱の数が六個であることは、奴の撃破に大きく近づいたことに他ならない。

 

まあ、例え分霊箱の全てを破壊したとしても……ヴォルデモート自身が世界最高峰の魔法使いであることは変わらないため、その撃破には苦戦が想定されるが。

 

だが、それでも。

 

分かったこと自体は、やはり大きな一歩だった。

 

 

 

分霊箱を探すにあたって重要なこと……『どんなものか』『どこにあるのか』を刀原が推理した日の翌日。

 

刀原はDAのメンバーでも特に信用に値する人物、ハリー、ハーマイオニー、ロン、ネビル、ジニー、ルーナ、チョウ、マルフォイを招集した。

 

本来はハリー達三人に任せようと思ったのだが、如何せん頭数が少なすぎると判断したからだ。

 

「ってことで、かの有名で厄介な頭のイカれた魔法使いを倒すため……まあ、あまりにも凶悪過ぎるんで詳細は話せないんだが……俺たちは面倒なことに、とある品を探さなくちゃいけない」

 

刀原の言葉に、ハリー達三名を除く者たちはざわついた。

 

「とある品って、その正体はなんなの?」

「僕たちにも秘密なのかい?」

 

チョウとネビルが刀原に聞く。

 

「その疑問は最もだ。俺もそこら辺の、普通の物だったら言えるんだが……ちと格が違う。だから言えない。ただ、これだけは言える。その正体は『日本魔法界が永久封印を決定し、ダンブルドアが自ら管理すると判断した本に書かれている物』だ」

 

刀原は真面目な顔でそう言う。

 

「……とんでもなく邪悪でヤバい物ってわけだな」

 

ドラコは内心で戦慄しながらそう言った。

 

「そう言うことだ。だから人数を絞った。だから君たちを呼んだ。俺がいまホグワーツにいるホグワーツ生の中で、最も信頼している君たちをな」

 

刀原の言葉に、彼らはしっかりと頷いた。

 

「では詳細を伝える。ターゲットは『スリザリンのロケット』『ハッフルパフのカップ』『レイブンクローの髪飾り』の三つだ」

 

「どれもホグワーツの創始者所縁の品だな」

 

「ええ、伝説的な品々だわ」

 

哀れにも分霊箱になっているであろう品々を刀原が言うと、チョウやマルフォイは反応を見せる。

 

「この三つのうち、一つだけがホグワーツ城のどこかにある。各位はこれらを見つけ出してほしい。手段は問わない。各教授達からの内諾は得てるからな」

 

「……なにか、心当たりのある場所は?」

 

ジニーがそう聞く。

流石にノーヒントは難しすぎるからだ。

 

「何か、特別な場所に置いたのは間違いない。そこら辺の適当な場所とかだったら、ひょんなことから見つかるかもしれないからな。俺の勘だと……スリザリンの談話室。秘密の部屋。必要の部屋……ぐらいかな」

 

「なるほど、あり得そうな場所だわ」

 

刀原の推察にハーマイオニーが頷きながら言う。

 

「じゃあスリザリンの談話室を僕が探そう。何か紛失したとか言って、寮の皆に探してもらうが……いいな?」

 

マルフォイはそう言って、刀原を見る。

プライドもへったくれもないが、効果的な策だ。

 

刀原は了承の意を込めて頷く。

 

「じゃあ私たちは秘密の部屋に行きましょう。どうせハリーしか行けないでしょう?」

 

ハーマイオニーはそう言って、ハリーとロンを見る。

 

「あ、そのついでにさ……バジリスクの牙を数本、採取してきてくれ。分霊箱を破壊するには強力な呪文か、武器とかじゃないといけないからな」

 

刀原はハーマイオニーにそう言った。

 

「ってことは、私たちが必要の部屋ね?」

 

チョウがネビル、ジニー、ルーナを見ながら言う。

 

「一番大変な場所に人数を置く。常套手段だな」

 

刀原も頷く。

 

「で、ショウは?」

 

指で数えていたルーナが、残った一本を刀原に見せる。

 

「俺は忙しい。残念ながら手伝えない」

 

刀原は首を振る。

 

報告、防衛戦、授業、外交、会議。

そこに捜索を加える為には、刀原は影分身を習得している必要があった*1

 

「まあ、そうだよね」

 

刀原が忙しいのを知っているハリーが、「お疲れ様です」と言わんばかりに頷いた。

 

「んじゃ、そういうことで。よろしく」

 

刀原がまとめるように言えば、全員が頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

重要極秘事項

 

 

(ヴォルデモート)案件』

第七号報告書

 

 

発 

 

遣英救援部隊長 兼 三番隊隊長

刀原将平

 

 

 

一番隊隊長 兼 総隊長

山本元柳斎重國殿

 

マホウトコロ校長

藍染惣右介殿

 

日本魔法省大臣

市丸ギン殿

 

その他、関係各位へ。

 

 

 

先の報告の通り、Ⅴの不死の秘密が分霊箱だったことは……先日お伝えしたかと思います。

 

そしてこの度、奴が作成した個数が判明致しました。

 

ダンブルドアの考察、スラグホーンの記憶を鑑み……個数は『本体含めて七個である』と推察されます。

 

また、ダンブルドアとの協議の末……分霊箱になったであろう六品は、以下の通りと推察されます。

 

『トムリドルの日記』破壊済み

『マールヴォロの指輪』破壊済み

『スリザリンのロケット』

『ハッフルパフのカップ』

『レイブンクローの髪飾り』

『奴のペット ナギニ』

 

現在はダンブルドアが捜索しており、痕跡のある場所が一つ判明してます。

 

また残り三つのうち、一つはホグワーツ城内、一つはグリンゴッツにあるレストレンジ家の金庫と思われます。

 

ホグワーツに関しては、ハリー・ポッター以下、情報共有者及び協力者による捜索を水面下で開始致しました。

 

残りのグリンゴッツに関しては、英国魔法省に働きかけ……戦時特例による強制調査を実施予定です。

 

しかし、英国魔法省にはⅤのスパイや協力者等がいるため、阻止及び露呈の恐れが極めて大です。

 

そのため、市丸魔法大臣におかれましては……外交ルートでの後押しと隠蔽をお願いいたします。

 

 

以上、報告終わり』

 

 

ーーーーーー

 

 

 

ハリー達による分霊箱大捜索会が開幕してから一週間がたったが……残念ながら、発見には至ってなかった。

まあ、そんな簡単な話ではないということだろう。

 

一応……スリザリンの談話室には無く、秘密の部屋にも無いことは分かった。

 

しかし、残った心当たりのある場所……『必要の部屋』の捜索は極めて難航した。

 

如何せん、物がありまくるのだ。

 

この部屋に見事たどり着いた歴代のホグワーツ生が隠した様々な物が、その捜索を阻んだのだ。

 

惨状を見た刀原が「面倒だなぁ……焼き払うか」と思わず呟くほどだった。

 

それに彼らにも、学業やらクィディッチの練習やらがあった。

ゆっくりとやるしかなかった。

 

 

だが、進展したものもある。

 

グリンゴッツの強制捜査だ。

 

許可が下りたのは……。

 

日本からの圧力に、ダンブルドアと刀原からの圧力。

そしてスクリムジョールが実施していた、粛清という名の膿の抽出の成果と言えた。

 

名目は『死喰い人が所持し、保管しているであろう闇の魔法物品の押収』*2

 

その極秘性が故に、スクリムジョールには詳細を知らされなかったが……「打倒ヴォルデモートに必要なのじゃ」というダンブルドアの言葉に、彼は全てを納得した。

 

そして当日。

 

ダンブルドア、刀原を筆頭とし、メンバーをスクリムジョールにキングズリー、シリウス、マッドアイとした捜査班は、グリンゴッツに踏み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「ここからは……ショウと二人だけで行く。お主たちはここで待っててくれんか?」

 

刀原にとっては初体験だったグリンゴッツのトロッコを降り、ダンブルドアは他の者たちにそう言った。

 

「気を付けろダンブルドア。事情はよく分からんが、『例のあの人』案件ならば、殊の外の用心がいる」

 

マッドアイがそう周囲を見渡しながらそう言う。

 

「分かっておるよ。わしの気がかりは有事になった時、ショウの足手まといにならないかどうかじゃ」

 

ダンブルドアは頷きながらそう言う。

 

「頼むぞショウ」

 

シリウスは刀原の顔を見ながら言う。

 

「大丈夫です。何かあったら周囲を吹き飛ばしてでも、目的を達成して逃げますから」

 

刀原は笑いながらそう言う。

 

こうして刀原とダンブルドアはレストレンジ家の金庫の前に立つ。

 

名家の金庫はかなり厳重で、その雰囲気はかなりのものがあった。

 

ダンブルドアは杖を抜き放ち、刀原も腰にある斬魄刀の鯉口を切った。

 

「で、では、開けます。準備はよろしいですか?」

 

不幸にも案内役になった小鬼が、その物々しさに震えながらそう言う。

 

「うむ」

「ええ」

 

そんな小鬼を全く見ずに二人は頷き、開かれた扉に突入した。

 

 

 

中は金庫とは思えないほど広かった。

 

天井から床までぎっしりと詰まった金貨やゴブレット、銀の鎧、宝石で飾られているフラスコ等々。

レストレンジ家が営々と蓄えてきた財宝たちが二人を出迎えた。

 

「これらには触れない方が良さそうじゃのう」

 

ダンブルドアが近くにあったゴブレットを観察しながらそう言う。

刀原はそれに同意するかの様に頷く。

 

触れたら毒に侵されるとか、火傷するとかの可能性が高いからだ。

 

だがそれは、極めて難しい要件だった。

何せ物が多すぎるのだ。

 

それでも、二人は何とか部屋の中央にたどり着く。

 

穴熊のカップか、蛇のロケットか、鷲の髪飾りか。

 

二人は杖の灯りを頼りに周囲を見渡す。

 

そして……見つけた。

 

「アルバス、あれじゃないか?金のカップに穴熊が彫ってある奴」

 

暗視が効く刀原が、そう言ってカップを指差す。

 

「どれじゃ……?」

 

ダンブルドアは目を細めながら刀原が指差している方を向く。

 

そして目をランランとさせ「うむ、間違いない!」と歓喜の声を上げた。

 

「さて、どうやって手にしようかの。引き寄せ呪文も浮遊呪文も使えぬが……」

 

歓喜の声を上げたダンブルドアだったが、直ぐに思考を冷静にし、考える。

 

カップは非常に高い位置に存在し、何も触れずに手にするのが不可能に見えたからだ。

 

しかし、ダンブルドアに救いがあったとすれば……彼の同行者が魔法に捕らわれない人物だったことだろう。

 

「なんの問題もありませんよ」

 

刀原はそう言って空中を階段を上がるかのように歩行し始め、易々とカップの元にたどり着く。

 

そして白い手袋を付けなおし、カップを掴んだ。

 

「熱っち!『燃焼の呪い』か!」

 

手放しはしなかったが、手袋越しからも感じる熱さに刀原は一瞬だけ顔を顰める。

 

「ショウ!大丈夫かの!?」

 

ダンブルドアが心配そうに声を上げる。

 

「ちょっとびっくりしましたけど、これくらいなら問題ないです!」

 

これくらい、重じいの火力と比ぶべくもない。

 

刀原はダンブルドアにそう言い、直ぐに霊圧を纏ってその熱さを遮断し、床に着地する。

 

任務は完了した。

後はさっさとここからおさらばするだけだ。

 

しかし、障壁は『燃焼の呪い』だけでは無かった。

刀原がカップを握った直後から、カップの偽物が手の中から溢れていたのだ。

 

そしてこの『燃焼の呪い』と『双子の呪文』は、他の品々にも掛けられていたのだった。

 

気が緩んだダンブルドアと刀原が、思わず蹴とばしたり触れてしまった品々が、津波の様になっていたのだ。

 

「ええい、煩わしい!」

 

左手にカップを持ったまま右手で刀を抜いた刀原がそう言って、斬払いを放った。

 

着実に増えていた品々が吹き飛び、盛大な音と共に奥の壁に叩き付けられる。

 

「荒っぽいのう……」

 

出口にたどり着いたダンブルドアが呆れた様に言う。

 

「邪魔だったので」

 

刀を収めながら、刀原はあっけらかんと言った。

 

二人はそんなやり取りをした後、レストレンジ家の金庫を後にした。

 

 

 

 

 

 

ハッフルパフのカップは、やはり分霊箱になっていた。

 

そしてこのカップの発見に一番貢献したのは、やはり刀原だと言う事になった。

 

刀原はその貢献度を使い、カップの破壊方法をダンブルドアから一任されることになった。

 

「さっさと破壊したいところだが……浦原さんや藍染校長からの要請があるからな。だけど、これほど重要な物を護衛なしで送るわけにもいかないし……やっぱ来てもらうのが早いかな」

 

そう判断した刀原は、さっそく手紙を出した。

 

そしてその、僅か数日後。

 

「あの、確かに来ませんかと誘ったのは僕なんですが……。フットワーク軽すぎませんか?」

 

「いやー分霊箱の実物が見れるなんて、多分もうないっスから。科学者の端くれとしては、この絶好の機会を逃す手は無いと思ったんスよ」

 

「私も同意見だ。貴重な機会、貴重な実物。直で見るのが早いと判断したまでだよ」

 

「あ、そうですか」

 

浦原と藍染が緊急訪英したのだ。

目的は当然、分霊箱の検分。

 

場所は必要の部屋。

 

こうして……ダンブルドアもやって来ての*3、分霊箱の耐久実験が行われることになった。

 

「じゃあ、何からしましょうか……藍染サン」

 

「そうだな……ではまずは、小手調べといこうか」

 

藍染はそう言って、自身が持つ強大な霊圧を分霊箱に叩き込んだ。

床がその膨大な霊圧に耐え切れず、ひびが入る。

 

「ほう……」

「やっぱ駄目っすか」

 

だが日本でも屈指の霊圧量を誇る藍染でもってしても、分霊箱は破損しなかった。

 

「じゃあ、今度はアタシっす。破道の七十二『双蓮蒼火墜』」

 

浦原が鬼道を叩き込む。

 

だが、やはり損傷は見られない。

 

「これもやはり駄目……。将平君は、何かないかい?」

 

「あー。では……」

 

藍染に促された刀原が、刀を抜いて分霊箱を拾う。

そしておもむろに空中へ放り上げ、「おりゃあ!」フルスイングした。

 

ガキンという金属音と共に、分霊箱は吹っ飛ぶ。

 

吹っ飛んだ分霊箱は壁に激突するが、それでも損傷は見られない。

 

「始解したっスか?」

 

「まさか。まだしてませんよ」

 

浦原の問いに刀原はおどけた様に言う。

 

「さて……今のところは仮説通りだね。霊圧だけでは無理、八十番台後半の鬼道では無理、始解あるいは卍解した斬魄刀でないと無理。では、それらはどうなのだろうか」

 

藍染はまとめるように言う。

その表情は、まさに「興味は尽きない」と言った情だった。

 

ダンブルドアはその言葉に啞然としていたが。

 

「何から試そうか。浦原隊長、将平君」

 

「始解した斬魄刀はどうです?将平君の始解は強力ですから後にして、まずはアタシの始解で切ってみましょう」

 

浦原隊長はそう言って、持っていた杖を構える。

 

「起きろ『紅姫』」

 

始解した浦原は落ちている分霊箱を拾い、空中へ放り上げると縦に切りつける。

 

分霊箱はまたもガキンと言う金属音を鳴らし、床に叩き付けられる。

 

「これも駄目っすか。まあ、予測通りと言えばそうっすけど」

 

「やはり始解状態で破壊が出来るのは……流刃若火、神殲斬刀、雷霆、氷輪丸と言った、鬼道系や直接系の最高峰達だろうね」

 

「次は何を試してみます?」

 

「では鬼道を試そう。破道の八十八『飛竜撃賊震天雷砲』」

 

藍染の手から極太の雷が光線となって打ち出される。

その練度は刀原のそれを上回っていた。

 

流石に黒焦げにはなったが、それでも分霊箱としての機能は保たれていた。

 

「ふむ、では九十番台になるか」

 

「そうみたいっスね。でもぶっ放すのは止しときましょうか」

 

「ああ、そうするべきだね」

 

藍染と浦原はそう言う。

 

そしてそれを聞いたダンブルドアはホッと胸をなでおろす。

さっきの奴(飛竜撃賊震天雷砲)でもヤバかったのに、これ以上はこの部屋が耐え切れないと思ったからだ。

 

「では将平君。止めを刺してあげなさい」

 

「もういいんですか?」

 

「ええ、十分にデータは集まったっス。どうせ九十番台で壊せると思いますし、最後は斬魄刀っす」

 

「了解しました」

 

藍染と浦原に促された刀原は、分霊箱の前に立つ。

 

「一閃煌めき両断せよ『神殲斬刀』」

 

始解すると、刀を逆手に持ち替え、切っ先を分霊箱に向ける。

 

「よっ」

 

刀原は慎重に斬魄刀を分霊箱に突き刺した。

 

パキンという音が響き、直後に遠くから微かな苦痛の声が聞こえた。

それは刀原が破壊した物から響いた悲鳴だった。

 

「末恐ろしい物だ。そして汚らわしい」

 

藍染が冷徹な目で、残骸となったカップを見る。

 

「こんな物を使ってまで、生きようなど、考えられないっス」

 

浦原も藍染と同じ目でそれを見る。

 

「個人的には……もうコイツを斬りたくないです。この子が、斬刀が汚れる」

 

懐からハンカチを取り出し、刀の切っ先を拭う。

まるで一生懸命に宥めているように。

 

「確かに、さっきから紅姫がお冠っス」

 

浦原もそう言って斬魄刀の柄頭を優しく撫でた。

 

「……とにかく、貴重な情報を得られました。これらを急ぎ大霊書回廊に登録しなければなりません。それに、日本を留守にするわけにもいかないので……アタシらは、これにて失礼します」

 

ダンブルドアの方を向いた浦原が、そう言う。

 

「ご足労様でした」

 

ダンブルドアはそう言って頭を下げる。

 

こうして分霊箱の一つは破壊されたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

分霊箱は、あと三つになった。

そのうちの一つは奴の傍にいて、もう一つは未だ発見には至ってなかったが、ホグワーツにあると推察されていた。

 

そして……所在が分からなかった最後の一個の在り処が、ついに分かった。

 

ダンブルドアはか細いリドルにまつわる記憶を辿り、彼が幼少期に行った海岸の洞窟を発見し、そしてそこで魔法の痕跡を発見したのだ。

 

「常に気を強く保て、常に冷静さを保て。しっかりな」

 

ダンブルドアと共に危険地帯へと向かうハリーに、刀原はそう言った。

 

ハリーはそれに対し、緊張気味に頷く。

 

「ではハリー、まいろうk」

 

ダンブルドアがそうハリーを呼んだ、その瞬間。

 

パリーンと言う音が、ホグワーツを揺らした。

 

ホグワーツが誇る魔法障壁が破られた音だ。

 

そして空には二年前と同じように、大きな口の様な物が三つ空いていた。

 

「ここは任せてください。ハリーとアルバスは予定通り、分霊箱の捜索へ」

 

刀原はそう言って、瞬歩で消える。

既に大量の虚が現れ始めていたからだ。

 

「ショウ達に任せる他ないの。わしらは捜索に向かうとしよう」

 

心配そうなハリーに、ダンブルドアはそう言って姿暗ましをした。

 

 

 

「すまん、遅れた。状況は?」

 

有事の際には中庭に陣を敷く様に段取りにしていた刀原は、予定通りに敷かれた陣の中で指揮を執っていた雛森にそう聞いた。

 

「生徒達の避難は完了。一護君達の現着予定は約三十分後。現在は…ルキアちゃんが避難の最終確認。恋次君と冬獅郎君と雷華ちゃんが既に戦闘に入っている状態かな。それと、三人からの情報だと……破面を四名、視認したとの報告」

 

聞かれた雛森は少し安心したような素振りを見せた後、淡々とそう報告する。

 

「破面、やっぱりか。人員は?」

 

「一人はグリムジョーって奴。後の三名は初対面のため、詳細不明」

 

「誰が当たってる?」

 

「グリムジョーは「一護を出せ!」って言ってるから放置。金髪で幼そうな奴は鳥と戯れているから放置。恋次君は他の虚の殲滅。後二人の内、中性的な小柄の男は冬獅郎君が速攻で凍らせて抑えた。巨漢の奴は雷華ちゃんがやってたんだけど、妙に強くて……今は冬獅郎君と二人でやってる」

 

「分かった。じゃあ、俺はまず金髪の奴を仕留めるよ」

 

「え?報告では無害っぽいって……」

 

「だとしても放置する訳にもいかんだろう。んじゃ、行ってくる。本陣は頼んだ」

 

「任せて下さい。そっちも気を付けて下さい」

 

「ああ」

 

刀原はそう言って本陣を飛び出した。

 

目標は霊圧感知で割り出した、金髪の男。

 

「あう?」

 

いきなり接近した刀原に対し、金髪の男……ワンダーワイスは締まりのない声でそれを見る。

 

それを刀原は一切気にせず……。

 

「よう、一閃煌めき両断せよ『神殲斬刀』」

 

刀原はワンダーワイスに接近し、始解する。

 

「『斬払い』!」

「オロァ!?」

 

そしてワンダーワイスを吹き飛ばした。

 


 

当初、巨漢の男・ヤミー・リヤルゴと戦っていたのは雀部だった。

 

だがヤミーが持つ予想以上のタフさに手こずり、中性的な小柄な男・ルピ・アンテノールを速攻で凍らせてきた日番谷との二対一に移行したのだ。

 

でも、崩せない。

 

「まだ、許可下りねぇのか?」

 

「まだ……みたいですね」

 

まだとは、『卍解の許可』の事だ。

如何せん他国の重要施設であるため、開放には現地行政府(英国魔法省)の許可がいるのだ。

 

「どうした隊長格!そんなもんかぁ!」

 

そんな事情を知ってか知らずか、ヤミーは攻撃の苛烈さを増す。

 

苦い顔でそれを迎え撃つ二人、しかしここで雛森から待ちに待った連絡が入る。

 

「英国魔法大臣、およびダンブルドア校長からの許可が下りました!卍解の解放が可能です!」

 

来た!

 

「「『卍解』」」

 

「『大紅蓮氷輪丸(だいぐれんひょうりんまる)』」

「『大雷公霆天神社(だいらいこうていてんじんやしろ)

 

二人はそれぞれ構えを取り、卍解を発動した。

 


 

「卍解したか。ま、そうだよね」

 

二人の卍解を察知した刀原は、既に異形の姿へと変貌しているワンダーワイスを見ながらそう言った。

 

「あああああ!」

 

「おっと!予備動作がねぇな。それに速ぇし、威力も高そうだ。……まあ、直撃すればの話だが」

 

ワンダーワイスは目の前の外敵を排除するだけを目的にしているようで、己のパンチを予備動作も無しに放って来た。

 

しかし、予備動作が無いのは卯ノ花も同じであり、白打の速さも夜一には劣る。

 

それに、防御力もバジリスク程じゃない。

 

故に、刀原はワンダーワイスから繰り出される無数のパンチを完璧に捌き、腕を斬り裂いていた。

 

全く問題なかった。

 

「君は理性がなさそうだけど……加減なく、斬り捨てる」

 

刀原は霊圧を込め、神殲斬刀を構える。

 

「『海割』」

 

そして、ワンダーワイスを頭から真っ二つにした。

 


 

卍解した二人を、ヤミーは抑えきれなかった。

 

体が凍り付いた一瞬を狙って放たれる雷。

 

繰り出される氷の龍と、雷の槍。

 

ヤミーはそれらを対処出来ないでいた。

 

最も、それらが致命傷になる事は無かった。

 

「ああああ!鬱陶しいぜ!」

 

ヤミーは本当に鬱陶しそうにそう言う。

 

「ブチ切れろ『憤獣(イーラ)』!」

 

そして刀を抜いた。

 

「ようやく帰刃ですか」

 

「だとしても俺たちの優位は……」

 

余裕が見て取れた雀部と日番谷は、帰刃したヤミーを見て驚愕する。

 

ヤミーは赤いオーラを出しながら肥大化していき、象に似た複数の足と長い尾を生やしたムカデの様な下半身をもった巨人になったのだ。

 

「速攻でやりましょう!『雷公一閃』!」

 

「ああ!『竜霰架』!」

 

マズイと判断した二人は、突撃を慣行する。

 

「ハッ!効かねぇなぁ、そんなのはよぉ!」

 

だがヤミーは受け止めた上で拳を振るい、二人を吹き飛ばす。

 

「『雷公斬輪』!」

 

雀部が雷で出来た斬撃を放つ。

 

「『氷竜旋尾』!」

 

日番谷が氷で出来た斬撃を放つ。

 

だが、それらも効かない。

 

「どうした隊長格!」

 

ヤミーは笑いながら二人の攻撃を受け止める。

 

しかし。

 

「その程d「『空貫』」ガフッ!」

 

突如、斬撃がヤミーの巨体を貫く。

 

「やれやれ、今日は俺向きの敵ばっかかよ」

 

斬撃を放ったのは刀原だった。

 

ワンダーワイスを斬った刀原は、援護の為にやって来たのだ。

 

「てめぇ、俺の体に……よくもやってくれやがったな!」

 

ヤミーは更に怒る。

 

その巨体は更に変化を遂げる。

 

「『空貫』!」

 

「効かねぇぞ!」

 

そして、刀原の斬撃を弾いた。

 

「ええ、マジか」

 

少なからず衝撃を受ける刀原。

 

「やれやれ、こうも効かないんじゃ……奥の手を使うしかねぇな」

 

刀原はそう言い、霊圧を高める。

 

「そう言うことなら……任せましたよ」

「頼むぞ」

 

事情が分かっている雀部と日番谷が、刀原に後を託して離脱する。

 

「離れていきやがった」

 

「離れて貰ったんだよ。巻き込みたくないんでね」

 

ヤミーの冷笑に刀原は淡々と答える。

 

「んじゃ、切り札を切るとしますかね」

 

 

 

 

 

「卍解」

 

 

 

 

 

 

「『斬滅白刃ノ太刀(ざんめつはくじんのたち)』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
刀原はどこぞのチャクラ忍者(NARUTO)では無く死神(BLEACH)であるため、それは習得していない。

*2

あながち間違ってもいない

*3

 

ちなみに、分霊箱の耐久実験をするという報告を聞いたダンブルドアは耳を疑い、刀原に事実かと聞き返し、確信すると唖然とした。

 

「やはり、彼らにわしらの常識は通じぬらしい」と思った。

 






ついに、この時が来ました。

卍解の御披露目です。

能力が何なのか、お楽しみに……。
考察もお待ちしております。


それと……。
次回の投稿を最後に、アンケートを締め切らせていただきます。
どうかご了承を。



感想、ご意見、評価、お気に入り登録。
ありがとうございます。
そしてお待ちしております。



では次回は

天文台の塔の戦い

次回もお楽しみに。





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死神、卍解する。天文台の戦い そして決着


白刃を見せたからには

ただ、一閃するのみ。







 

『卍解』

 

それは死神の奥義とも言える力。

 

使用出来る実力者は極一部。

習得の有無で勝敗が変わる。

 

習得には斬魄刀本体の「具象化」と「屈服」が必要。

 

死神として頂点を極めた者にのみ許され、習得者は日本魔法界に永遠に名前が刻まれる。

 

 

 

俺は、その卍解を沢山見てきた。

と言うか……当代で習得している人達の卍解は、全部見た気がする。

 

残火の太刀、皆尽、黄煌厳霊離宮、神殺鎗、千本桜景厳、観音開紅姫改メ、花天狂骨枯松心中、黒縄天譴明王、金沙羅舞踏団、鐵拳断風、清虫終式・閻魔蟋蟀、雀蜂雷公鞭……。

 

同期たちの卍解……大紅蓮氷輪丸、大雷公霆天神社、天鎖斬月、双王蛇尾丸、白霞罸……。

 

他にも、浮竹隊長や平子さんに……一心さんに藍染校長に……。

 

それらの経験は……俺の卍解の参考になった筈だ。

 

特に参考になったのは、残火の太刀。

即ち、圧倒的な破壊力。

 

そして、両親の呪いを治す力。

 

一見すると、矛盾の様に見える。

 

 

だが、俺の卍解は……それを可能にした。

 

 

 

卍解『斬滅白刃ノ太刀(ざんめつはくじんのたち)

 

 

発動と同時に斬魄刀の形状が変わる。

と言っても、劇的に変わるわけではない。

 

打刀が太刀に変わり、銀などの装飾が加えられて、より美しい刀剣に変化しただけだった。

 

「は、ハッハッハッハッハ!なんだそりゃ?それがテメーの卍解か?あの二人の方がより強そうに見えたぜ」

 

ヤミーは馬鹿にしたようにそう言う。

 

「まあ……そうだろうな。あの二人が卍解したら、様になるよな」

 

刀原はおどけるように言う。

 

刀を持った腕から、連なる巨大な翼を持つ西洋風の氷の龍を日番谷自身が纏う大紅蓮氷輪丸。

 

ロングソードは腰の鞘へと戻り、手には新たに下部が西洋剣の鞘にも見えるものが付いた金の装飾が美しい杖を持ち、雷で出来た王冠を頭に身に付け、死覇装も白を基調とした美しいドレスに変化する雀部の大雷公霆天神社。

 

あの二人と比べると、見劣りしてしまうのは事実だ。

何せ刀しか変わってない。

 

でも、そう言う卍解だってある。

 

「ま、そう思うなら……そう思っとけ」

 

刀原はそう言いながら、ゆっくりと慎重に刀を鞘から抜き放った。

 

 


 

 

刀原が卍解したことは、ホグワーツにいる死神や破面に即座に察知された。

それは死神達に勝ちを確信させる知らせとなった。

 

だが、彼らは肝心なことを見落としていた。

 

破面の面々が結界を破壊した時、対死喰い人の魔法防壁も破壊されていたのだ。

 

それ故に……この気を逃さぬとばかりに死喰い人達がホグワーツ城に入り込んでいた。

 

目的はただ一つ、ダンブルドアだ。

 

 

刀原がヤミーと交戦状態になった直後から始まったこの死喰い人達による襲撃は、それを即座に察知出来た教師陣や護衛に来ていた騎士団や闇祓い、ハーマイオニーを始めとする有志達の行動が早かった影響で半ば頓挫した。

 

そして死神たちも、死喰い人を撃退するために応戦を開始。

 

刀原がヤミー、日番谷がルピー、黒崎がグリムジョー、雀部と阿散井が下級虚たちの殲滅を担当している為、朽木と井上を本陣に残し、雛森が主に生徒達を守る為に出陣した。

 

死喰い人の中には、死神たちの本陣を狙った不届き者(勇気ある馬鹿)もいたが、朽木の『袖白雪』に駆逐されるだけに終わった。

 

しかしマズイ事態も発生する。

戻ってきたダンブルドアとハリーは、決して無事とは言えなかったのだ。

 

特にダンブルドアの衰弱度合いが酷く、至急の治療が必要だった。

しかも場所が天文台の塔だったため、防衛線を突破した死喰い人がそこに殺到した。

 

死喰い人達は天文台の塔に上がるための階段に戦線を作り、ダンブルドアの暗殺がなされるまで立てこもる格好を取った。

 

だが、死喰い人達の幸運もこれまでだった。

 

「下から行けないのであれば上から破るまで」と現着した雛森が言い放ったのだ。

 

 

上には衰弱したダンブルドアと、彼を守らんと杖を握っていたハリーが居た。

 

「だr!?あ……えっと、確かヒナモリさん?」

 

人の存在を察知したハリーは咄嗟に杖を向けるが、雛森の死覇装と腰の斬魄刀を見て杖を下す。

 

「ええ、もう大丈夫ですよ。敵は私に任せて、貴方はダンブルドアを守ってください」

 

雛森はそう言って斬魄刀を抜いた。

 

天文台の塔に突入した死喰い人が、階段を駆け上がってくる音が聞こえてきたからだ。

 

「ダンブルドアだ!ダンブルドアと……ポッターもいる!」

 

死喰い人の女が歓声を上げる。

 

「日本の死神か!?だが……女か。噂のササキべでもなさそうだな」

 

男の死喰い人がニタニタ顔でそう言った。

色んな意味で有名な雀部ではないことにホッとしたような表情もしていた。

 

「降伏をお勧めしますが?」

 

一応とばかりに雛森が言う。

 

「冗談を言えば助かると思っているのか?」

「隊長でもないお前が、我々に勝てるとでも?」

 

死喰い人達は強気にそう言う。

 

「ええ、勝てますとも。私だって十番隊の副隊長。その肩書に掛けて……」

 

そう言って雛森は斬魄刀を体の前に構える。

今まで可愛らしさがあった顔がキリッとした表情に変わる。

 

「負けはしません。弾け『飛梅』」

 

そして、雛森の斬魄刀が七支刀が変化した。

 

 


 

 

ホグワーツ城に死喰い人が来襲したことを刀原は感知しつつも、特にアクションは起こさなかった。

 

いや、起こせなかった。

 

自身の卍解に全集中を費やしていたからだ。

 

「随分と派手になったが、何か変わったのか?炎も出さねぇ、氷も雷も出さねぇ。何にも変わんねぇように見えるぜ」

 

ヤミーは嘲笑いながらそう言う。

 

「昔……同じような事を言われたな」

 

刀原は数年前、秘密の部屋でリドルに言われたことを思い出す。

 

「そして、それがお前の敗因だ」

 

白刃一ノ太刀(はくじんいちのたち)斬殲散刃(ざんせんさんじん)

 

刀原は構えた。

ゆっくりと、慎重に。

 

「敗因?そんなもんはな、ねぇんだよ!」

 

ヤミーは怒り狂いながらそう言い、右拳を刀原に向ける。

 

刀原は自身の身長を遥かに超えるサイズの拳を瞬歩で躱し、がら空きになった右腕を斬撃で斬りつけた。

 

そして、その右腕はなんの抵抗も無く切断された。

 

「あ?」

 

ヤミーは間抜けな声を上げた。

自身の身に何があったのか分からないと言った顔だった。

 

「て、てめぇ……。いったい、何しやがった……?」

 

「斬った」

 

斬られた右腕を庇いながらそう聞いたヤミーに対し、刀原はあっけらかんと言った。

 

「き、斬った、だと?ありえねぇ!ありえねぇええええ!あああああ!イライラするぜぇええええええ!」

 

ヤミーは更に激昂する。

 

赤い霊圧を噴出し、肉体は変貌、先ほどよりも更に巨大な姿となり、斬り裂いた右腕も再生される。

下半身は赤い毛に覆われ、顔には牙や角を生えた。

 

「俺は憤怒の獣、ヤミー・リヤルゴ様だ。イラつけばイラつくほど強くなるってわけだ!」

 

「そうか。でも……それが何か?」

 

しかし、刀原は再び右腕を切断した。

 

「な、何故こうもあっさりと俺を斬れる?」

 

ヤミーは訳が分からない様子だった。

 

「刀を振るえば、対象は切断されるだろう?当然の摂理だと思うが?」

 

刀原は再びあっけらかんと言った。

 

「さて、俺は自分の能力を喋ってあげるような優しい奴じゃないし……決着を先延ばしにするとホグワーツ城が崩壊するかもしれんからな。そろそろ……取りに行かせてもらうよ」

 

刀原はそう言って、真一文字に刀を振るう。

 

直後にヤミーの両足がすっぱりと切断され、ヤミーは一瞬だけ宙に浮いたあと落下する。

 

そして間髪入れず……瞬歩で背後を取り、左腕も切断。

 

第0十刃(セロ)である筈の俺が……」

 

ヤミーは瞬く間にこうなった事を、ただ茫然としながらポツリと言った。

 

「俺と君の相性が最悪だった。ただそれだけだよ」

 

刀原はそう言い、ヤミーの首に迫る。

 

「てめぇの、斬魄刀の力はなんだ?」

 

「喋らないと言った筈だが……まあ、いいか。俺の斬魄刀の能力は『切断』だよ」

 

「切断?そ、それだけ……?」

 

「そう。始解の状態だと……ただ単に切れ味抜群の刃になって、飛ぶ斬撃を放つだけ。卍解すれば、その斬れ味と斬撃の速さを極限にまで高める」

 

刀原は斬魄刀を見ながらそう言った。

 

「そして、俺の卍解は五つの形態をとる、これは『斬殲散刃(ざんせんさんじん)』 対象となる敵に『斬った』という結果を、防御力や能力問わず、強制的に対象へと与える。……周囲がヤバいことになるから、飛ぶ斬撃を放てないのが難点。あと、敵味方関係ないから、なるべく味方には離れてもらってる」

 

刀原はそこまで言って、ヤミーの首元に迫る。

 

「んじゃ、さようなら」

 

そして、音もなく首を刎ねた。

 

「ヤミー・リヤルゴ。斬り捨て……御免」

 


 

 

刀原とヤミーの戦闘が終わった時と同じくして、死神たちとホグワーツ内の戦闘も終わった。

 

黒崎対グリムジョーの一戦は……。

 

完現術(フルブリング)という特異な力を持つ者たちや、同期達との修行で力をつけた黒崎に軍配が上がった。

 

グリムジョーが帰刃しても、修行で高められた才能に勝てなかったのだ。

 

しかしそれほどの地力の差がありながら、黒崎はグリムジョーを仕留めることなく、彼の逃走を許した。

 

それは別に、黒崎がチョコラテ(甘ちゃん)という事ではない。

 

武闘派ぞろいの破面の中でも、特に狂犬のグリムジョーがボロボロで帰還することで「死神侮りがたし、ってか和議結んだ方がいいんじゃね?」という面々が出てくることを望んだ故の判断からだ。

 

最終的に、グリムジョーは苦々しくもどこか納得したような顔で撤退していったのだった。

 

また、日番谷対ルピーの戦いは終始一方的な展開で終わった。

 

初手から氷漬けにされてしまったルピーだったが、日番谷がヤミーとの戦いを刀原に任せて戻って来る前にはその氷から脱出していた。

 

そして戻って来た日番谷に帰刃しながら襲い掛かったが……やはり氷雪系最強の氷輪丸には勝てず……凍らされた後、雀部の雷で破壊されて文字通り砕け散った。

 

雑魚ばかりの虚たちに至っては、いつも通りのように阿散井によって殲滅されてしまっている。

 

 

そんな感じで、危なげなく完全勝利を挙げた死神たちとは対照的に……魔法使いたちによる仁義なき戦いが行われたのが、天文台の塔の戦いだった。

 

塔の最上部にはハリーとダンブルドア、それを狙うために塔を半ば占拠した死喰い人。

 

ハリー達を救出し、かつ侵入者を撃退するために死喰い人の防衛線を突破しようとする教授達と騎士団とDAメンバー。

 

最高戦力が瀕死状態だった為に絶体絶命となったハリーとダンブルドアだったが、強力な助っ人として雛森が参戦したことで戦況が変わる。

 

雛森の飛梅の爆破力は、これも同期達の影響で底上げされていたのだ。

 

彼女曰く「卍解出来たら楽だったんですけどね」とのことだが、そんなことをすれば死喰い人たちだけでなく、下手すればハリー達も爆殺されてしまう*1

 

最も……彼らにとっては、始解状態の『飛梅』だけで十分過ぎる脅威だが。

 

彼らで言うところの『ボンバーダ・マキシマ(完全粉砕せよ)』に匹敵する威力の火球が、相手が刀を振ったら発射されるのだ。

 

如何に強固な『プロテゴ・マキシマ(完全防御せよ)』でも、こうも連発されれば防御のしようがなかった。

 

もちろん、濃すぎる強すぎる同期たちの影響を受けている雛森とて、どうしても隙が生じてしまう。

 

そんなか細い隙を突く死喰い人も一応いたが、それを許さないようにカバーに入ったのがハリーだった。

 

刀原よりも鬼道が得意な雛森が、ダンブルドアに結界を張り……その結界が死喰い人が闇雲に放った呪文を完璧に封じたため、後顧の憂いが無くなったハリーが雛森の援護を行うことにしたのだ。

 

結果……ダンブルドアとハリーを襲った死喰い人たちは、二人が黒焦げになり、二人が縛道と魔法で捕縛された。

 

そして雛森は予想以上にハリーが頼もしいことを褒め称え、日番谷はハリーに「雛森を援護してくれたそうだな。礼を言う」と言って、その実力を認めたのだった。

 

 

 

 

破面の面々は撤退した。

死喰い人たちの襲撃は撃退出来た。

 

若き死神たちはその地位に恥じない戦いぶりで、完全勝利を勝利を挙げた。

 

しかし、ホグワーツ側の損害は予想以上に多かった。

 

「ええっと、まず……ビル・ウィーズリーが狼人間のフェンリール・グレイバックに噛まれたと」

 

此度の戦闘も無傷、そして破面の二人を打ち取った刀原は、中庭に設けられた本陣にてそう聞いていた。

 

「うん。最も、変身してなかったから狼人間になることはないだろうって、言ってたけど……」

 

「如何せん、満月になってみないと確実なことは分からないっていう話よ」

 

刀原に聞かれたロンとハーマイオニーは、そう答える。

 

特にロンは気が気でなさそうだった。

 

無理もない。

実に兄であるビルが狼人間になったかもしれないのだ。

 

実は心優しい狼人間がいると理解しつつも、内心では恐怖があった。

 

「あとは?」

 

「生徒たちは破面の襲撃と重なっていたこともあって、戦闘に巻き込まれることはありませんでした。ただ、有志として参加していたDAのメンバーの中には軽い負傷をした者が居ます」

 

雀部がそう報告をする。

 

「ただ……」

 

「ただ?」

 

「だ、ダンブルドア先生が……」

 

ハリーが辛そうにそう言う。

 

「アルバスがどうかしたのか?」

 

「ダンブルドアが重症……まあ外傷はないのですが、瀕死に近い状態です。曰く、あの洞窟内で分霊箱を得るために毒薬を飲み、おまけにその影響でかなり疲弊していたところを……かなりの高等魔法を行使したとのこと」

 

雀部がハリーが言い淀んだ

 

「無理をしたことで悪化したと……?マジか……」

 

ダンブルドアの容体がヤバい。

もしこのまま彼が死ぬような事態になれば……。

 

刀原の頭に最悪のシナリオが浮かび、渋い顔をする。

 

「雛森や井上の治療は?」

 

「現在、織姫ちゃんがしています。しかし……」

 

「あまり効果なしか……」

 

だとすると……治療出来るのは井上以上の腕を持つ人か……。

 

刀原の頭には日本に居る二人の死神が浮かぶが、直ぐに自身に浮かんだ考えを、頭を振って改める。

 

もっとも……その二人の内、一人はよっぽどのことが無い限りあのお方の傍から離れないためあり得ない。

もう一人も瀞霊廷における『最後にして最後の砦』であるため、英国まで来ることは……。

 

「……とにかく、本国に連絡するしかないな。色々と沙汰を……」

 

刀原がそう雀部に言おうとした、まさにその時。

 

「失礼致します。刀原、雀部、両隊長。及び、遣英派遣部隊の方々に緊急伝であります」

 

ロンドンにいる筈の伝令隊の隊員が駆け込んでくる。

 

「そちらも……良い報告では無いみたいだな?」

 

刀原はそう言いながら、やって来た使者の方を向く。

 

「申し上げます。十一番隊隊長鬼厳城剣八殿、戦死との事です。また、九番隊隊長東仙要隊長殿も重傷。隊長職への復帰、及び続行は困難との事です」

 

使者が盛ってきた報告は……隊長のうち一名が戦死し、一名が重傷という信じがたい報告だった。

 

nanndato(なんだと)!?」

honntoudrsuka(本当ですか)!?」

 

その衝撃的な報告に、刀原と雀部は思わずそう答える。

 

戦死した鬼厳城剣八と二人はほぼ面識がなく、周囲の評判も良い訳ではなかった*2が……それでも剣八を名乗るだけあって、そこら辺の敵に遅れを取る程弱くはない筈だ。

 

東仙とも他の隊長格と比べると、二人との関わりは少ないが……それでも二人が幼い頃から目をかけてくれた人であり、隊長格に相応しい実力を有していた。

 

なのに、その二人が負けた。

 

噂の『更木』に。

 

「第一報によりますと、『更木』は鬼巌城隊長、および十一番隊の副隊長を殺害。同隊三席、四席、五席を撃破。その後、援軍として駆け付けた東仙隊長とも交戦、撃破したとのこと。なお、隊長お二人は卍解を使用しております」

 

ってことは、東仙さんの卍解……『清虫終式・閻魔蟋蟀』を破ったってことか。

 

あの卍解を攻略するには、強力な範囲攻撃しかないと思っていたのだが……。

 

実際に演習で戦った時は、俺も雷華もそうやって攻略したし。

 

刀原は考え込むように腕を組みながら、そう思った。

 

「また鬼巌城隊長が『更木』に殺害されたことにより、『剣八』の称号が更木に移ります」

 

「つまり、そいつは『更木剣八』になった訳か」

 

「はい」

 

「「…………」」

 

二人は突然の知らせに黙り込む。

 

「それと……」

「おい将平!直ぐにプラットホームに来い!本国からの援軍が来るってよ!」

 

伝令役が何かを言う前に、阿散井が医務室に駆け込んできた。

 

「……早くねぇ?」

 

刀原が半ばジト目になりながら訊ねる。

 

「今回の襲撃が始まってから、直ぐに雛森が呼んだらしいぜ?万が一があるかもってよ」

 

慎重な雛森らしい判断だな。

だとしても……やっぱ早くね?

 

あんな事があったのに、本国の護りは大丈夫か?

 

刀原はそう思いながら、伝令役を見る。

 

「……分かった。今行くよ」

 

そして伝令役が頭を縦に振ったことを確認すると、日本の大物たちが見せる、相変わらずのフットワークの軽さに半ば引きながら、雀部とハリーを連れて医務室を出たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「誰がいらっしゃるんですか?」

 

ダンブルドアが臥せっている為……彼の名代として出迎えることになったマクゴナガルが、どことなく緊張した顔をしながら隣にいる刀原にそう聞いた。

 

「さあ、分かりかねますが……。多分、朽木隊長かと思います」

 

刀原はそう肩を竦めながら言う。

 

一、二、四、十二は日本防衛の要だったり、立場があったりで簡単に来れる人じゃない。

 

十三は体調の問題、七は容姿の問題があって無理。

 

十一は論外。

 

三、五、十はもう来てる。

 

だから来るとしたら……六、八、九。

 

最も、六にも立場があるし……八も来るのは難しい。

 

故に消去法で九が来ると、刀原は予測していた。

例の知らせを受けるまでは。

 

「朽木隊長とは、どのような方d」

 

「お待ちを……もう来ましたので」

 

マクゴナガルが詳細を聞こうとするが、刀原はそれを制止して空を見上げる。

 

そこには護廷十三隊専用の列車がやって来ていたのだ*3

 

列車は一昨年から存在し、刀原やマクゴナガルが待つホームへと降り立つ。

 

「……貴方が来るんですか……京楽隊長」

 

まずホームに姿を見せたのは、京楽だった。

 

いきなり予想が外れたことに刀原は内心で悔しがりながら、出迎える。

 

「山じいの名代も兼ねてね。でも僕だけじゃない」

 

「え?」

 

京楽は刀原の内心を見透かしたようで、少しニヤッと笑いながら出口から逸れる。

 

「私もいるのですよ?」

 

「ええっ⁉なんでやちっ、ンンッ、卯ノ花隊長も来てるんですか⁉」

 

その声を聞いた刀原が驚愕する。

京楽と共にやって来たのが、卯ノ花だったからだ。

 

「お久しぶりですね刀原隊長。何事も平常心を保たねばなりませんよ?」

 

「いやいやいやいや、無理ですよそれ!いや、もちろん来てくれたのは嬉しいですけど……なんで貴女が出張ってきたんですか⁉向こうの護りは?」

 

「向こうよりも、今はこちらの方が重要だと判断されたからです。今この局面で、遣英派遣部隊を失う訳にはいかないと」

 

卯ノ花はそう真面目そうに答える。

 

「最も、心配は無用だったみたいだけどね」

 

京楽は何処となく安心したような表情を見せながらそう言う。

 

「まあ、立ちながら話すのもあれだ。中に案内してくれるかい?」

 

そして京楽が手を叩きながらそう言うと、刀原は頷いて、とりあえずダンブルドアがいる医務室に一行を連れて行ったのだった。

 

 

 

 

 

*1
ついでに、天文台の塔の最上部も爆破される

*2
余談だが……卯ノ花は刀原に対して、盛んに剣八襲名を薦めていた。

 

卯ノ花が刀原に剣術を教えていたのは、彼女が密かに進めていた『逆剣八計画(自分で強い剣士を作ろう!)』が理由だったのだ。

 

曰く「あんな豚が剣八を名乗るなど烏滸がましい。貴方が襲名してくれれば、私は諸手を上げて歓迎します。というか、襲名なさい。早く、早急に」とのこと。

 

また、七代目剣八である刳屋敷剣八も「初代剣八のお墨付きなら、俺も二つ返事で認めるぜ?何より彼、強えし。俺も始解しねぇとヤバいしな」とのこと。

 

こうして半ば強制的に決定された剣八襲名の話は……刀原が断固拒否し、彼に泣きつかれた山本元柳斎が諌めた事でなんとか消える事になった。

*3
つい先ほどまで、ホグワーツにも刀原達が仮設拠点にしていた列車があった。

 

しかし、戦闘が始まった瞬間に日本に向けて退避させていた。

 

あり得ないとは考えられていたが……虚や破面たちに破壊される可能性や、死喰い人達に鹵獲されることを考えての判断である。

 






まあまあ、そう怒るなよ

COOLに行こうぜ?

な?



お待たせを致しました。

刀原君の卍解です。

卍解『斬滅白刃ノ太刀(ざんめつはくじんのたち)

卍解した瞬間に打刀から、銀の装飾等が付いた太刀に変わります。

能力は『切断』

始解の状態では斬れ味が良く、飛ぶ斬撃を放つだけの刀。

卍解すれば、その斬れ味と斬撃の速さを極限まで高めます。

鋼皮(イエロ)血装(ブルート)も、場合によっては斬魄刀の能力も関係なく、対象を斬ります。

要するに防御不可の刃です。
ただし斬魄刀本体を始めとする武器は、飛ぶ斬撃では斬れません。

斬殲散刃(ざんせんさんじん)』は、対象に『斬った』という結果を強制的に与えます。

飛ぶ斬撃を放ったら周囲も斬れますので、刀原は出さないようにしてます。

他にも弱点は有ります。


この小説で一回も出ること無く、台詞すら与えられずに殺される先代の剣八『鬼巌城』

許せ。
最初の最初からこうなる事が決定してたんだ。

そして……ある程度の台詞こそあったものの、やはりロクな出番もなくいなくなる東仙さん。

許してつかぁさい。
これも決まってた事なんです。

大丈夫、殺しはしません。
復帰も出来ませんけど。


ちなみに……『卯ノ花さんは、ショタ更木と出会ってない』とだけ言っておきます。


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ありがとうございます。
そしてお待ちしております。



では次回は

謎のプリンス編 終幕

次回もお楽しみに。




おまけ。

ダンブルドアどうしよう
スネイプどうしよう

カップ破壊したから、後はロケットとティアラと蛇とーーーだけ。あれ?ロケットもイージーじゃね?ティアラと蛇とーーーの破壊タイミングは決戦の最中だし……

いや、拗らせようと思えば……いくらでも拗らせられるんだが

杖、どうしよう
遺品じゃなくなるな

やっぱ死んでもら……いや、駄目だ

決戦の時のマッチ相手……よし、ここは運命で

「なに、ブツブツ言ってるんだ?」

「あ、刀原君。いや、今後のことを色々とね」

「でも、最終的な話は決まってるんでしょ?」

「あ、ハリー君。そりゃあ勿論。君にはヴォルデモートと一騎討ちしてもらう予定さ!」

「……そこのプロットに『共闘』の二文字が見えるのは、俺様の気のせいか?」

「き、気のせいだよヴォルデモート!」

「違う紙に『V 最終 やっぱ一騎討ち 共闘?』と見えるのも、わし等の気のせいじゃな?」

「き、気のせいですよダンブルドア!」




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死神と謎のプリンス編 終幕



老兵は死なず

されど去らず

ただ未来を託し

見守るのみ。








 

 

ついさっきまで医務室は、先の戦闘で負傷した人々の治療でてんやわんやだった。

 

しかし、今はダンブルドアが井上と雛森の結界内で寝ているだけで、他の者はいなかった。

 

そして刀原とハリーは状況を整理するために、シリウスを始めとする不死鳥の騎士団のメンバーや、ホグワーツの主要な教師たち、DAのメンバー等を集めた。

 

「初見さんがいっぱいだからね。自己紹介からしよう。僕は護廷十三隊 八番隊隊長 京楽春水。隣は四番隊の隊長、卯ノ花烈」

 

京楽はニコニコ顔で、当然の如く英語でそう言った。

 

ハリー達はその佇まいに何処となく、普段の刀原をイメージした。

 

「今回、僕たちが来たのは……まあ援軍が本来の目的なんだけど……。こちらでも状況が変化したし、個別の要件があってのことさ」

 

「……日本の状況が変化?確か、日本は『賊軍』と交戦状態にあると、ショウ達から聞いていますが……。なにか悪いことでもあったんですか?」

 

京楽の言葉にハーマイオニーが反応する。

 

「そう言う君は、もしかしてハーマイオニーちゃんかな?将平君と雷華ちゃんが言う通り、随分と聡明なんだねぇ……」

 

京楽は顔を綻ばせながら言う。

 

「おまけに美人さんだし……もし良かったr「京楽隊長。七緒さんと総隊長に言いつけますよ。「英国で女子学生をナンパしようとした」って」じょ、冗談だよ将平君。ちょっと会話を和ませようとしただけだって」

 

そして何やら不穏なことを言いそうになったが、刀原が釘を刺す。

 

「ハーマイオニーちゃんの推察は、残念ながら正解だ。ホグワーツで戦闘が開始される約三時間前、日本でもちょっとした戦いがあってね。そこで、護廷十三隊の十一番隊の隊長さんが戦死したんだ。おまけに、十一番隊の上位陣が軒並み重傷。更に、援護に入った九番隊の東仙隊長もやられて……こっちは隊長職の続行が困難になるかもしれない」

 

京楽の言葉に、既に知っていた者たち以外は全員驚愕する。

 

特に護廷十三隊の隊長がどれほど強いかを知っている大人たちは、皆信じられないと言った顔だった。

 

「状況は芳しくない。あの戦いで『更木』と渡り合えるのはかなり絞られてしまった。並大抵の手練れじゃ無理。故に、勝てる可能性がある者たちに緊急招集が行われた。その中には将平君と雷華ちゃん、冬獅郎君、一護君が含まれてる」

 

それを聞いたハリー達は、刀原達を「流石だ」と言わんばかりに見た。

 

「さて……じゃあ本題に入らせて貰うよ。まず、刀原隊長を始めとする遣英救援部隊の面々は日本へ緊急帰国すること。理由は今後の対応を協議するためと、下がった戦力を補充するため。ちなみに……交代要員は、鳳橋君と愛川君」

 

京楽はさっきまで見せていた飄々とした表情を変え、真面目な顔でそう通達する。

 

「次に、ハリー・ポッター君」

 

「ぼ、僕ですか?」

 

「そう、君。正直言って、君の価値はこれ以上に無いほど増している。ヴォルデモート打倒に向けてね。日本は、君を保護する準備がある。決戦に備える為にも……日本に来ないかい?」

 

京楽はそうハリーに話す。

 

簡単に言えば『決戦まで日本に亡命しないか?』ということだ。

 

「でも……僕だけじゃ」

 

「もちろん君だけってわけじゃない。ハーマイオニーちゃんやロン君とか、君の友達たち全員を保護するつもりだよ?奴らに捕まって、人質にされたら目も当てられないからね。将平君の友達でもあるんだ、悪いようにはしない」

 

「…………」

 

「それに、言いにくいけど……ダンブルドアがこの感じじゃねぇ」

 

京楽がそう言えば、全員の目は自然とダンブルドアに集まる。

 

そのダンブルドアは、卯ノ花が直々にダンブルドアを診察していた。

 

「……まず、ここではどうにも出来ないことは確かです」

 

診察を終えた卯ノ花が、滅多に見せない渋い顔でそう言った。

 

「刀原隊長。ダンブルドアは今年度の初頭時点で呪いに罹っていたそうですね」

 

「ええ。でも、僕の卍解で除去出来たはず……」

 

「はい、その除去は完璧でした。しかし……飲んだ毒薬で、その呪いがぶり返してます。おまけに相当な無理を重ねたことも、悪化に繋がっています。……このままでは……」

 

卯ノ花の言葉に、死神以外の全員が息を飲む。

 

「まさか、そんな馬鹿な」

 

誰がそう言ったのかは分からない。

 

しかし心境は同じだろう。

 

「このままでは……。という事は、何か策があるのですか?」

 

刀原が、内心で渦巻く嫌な予感をねじ伏せながらそう聞く。

 

手遅れであるならば、卯ノ花はそういうはずだから。

 

その思いは正解だった。

 

「ええ。このままでは……ダンブルドアは遠からず死にます。しかし日本へ連れていき……そこで治療を施せば治ると思います」

 

卯ノ花はそう断言する。

 

その瞬間、安堵の声が全員の口から洩れた。

 

「そりゃあ良かった。しかし、問題もあるね。ダンブルドアが英国を離れるという事は、英国がヴォルデモートの草刈り場になるかもしれないってことだよ」

 

ダンブルドアが助かると聞いて、気を抜いたら……駄目だよ。

 

そう続けた京楽に、ハリー達はハッとした表情になる。

 

「……そ、そういう訳には……いきません」

 

そう弱弱しくか細い声で言ったのは、ダンブルドアだった。

 

「おや、起きたのですか」

「ダンブルドア先生!」

 

「いま、私がここを離れては……京楽殿が指摘した様に……なります。離れる訳にはいk「煩いですよ。病人は黙ってなさいな」

 

ダンブルドアはあくまでも居座りを続ける意思を見せるが、そんな馬鹿な真似を許す卯ノ花ではない。

 

卯ノ花が刀原に仕込んだ笑ってない微笑みを見せながら容赦なく言うと、ダンブルドアは沈黙するしかなかった。

 

そしてハリー達は、「ああ、ショウの師匠だったよこの人」と思い知った*1

 

 

 

「さて、ダンブルドアはここを離れる……。しょうがないことだけどね?そして、英国に安全な場所は……これからもっと少なくなる。それは君にとってもだ……。悪いことは言わない、こっちに避難しに来なさい。お友達を連れてさ」

 

京楽は諭すようにそう言った。

 

そしてハリーは、その誘いに乗った方が良いような気がしていた。

 

ハーマイオニーやロンたちのこともある。

 

少なくともダンブルドアが復帰するまでは、日本にいた方が安全だろう。

 

でも。

 

ハリーはポケットの中にある『スリザリンのロケット』の()()を感じ取る。

 

あれだけ苦労したのに、偽物だった。

じゃあ、本物は何処に?

 

京楽達がやって来るまでの少ない時間の中、ロケットの中身を確かめたハリーは、ロケットの中にメモを見つけた。

 

ーーーーーー

 

『闇の帝王へ

 

あなたがこれを読むころには、私はとうに死んでいるでしょう。

 

しかし、私があなたの秘密を発見したことを知ってほしいのです。

 

本当の分霊箱は私が盗みました。

できるだけ早く破壊するつもりです。

 

死に直面する私が望むのは、あなたが手ごわい相手にまみえたそのときに、もう一度死ぬべき存在となることです。

 

R・A・B 』

 

ーーーーーー

 

このR・A・Bが何者なのかは分からない。

 

後でシリウス達に聞くつもりだ。

僕だけじゃ分かりようがないからだ。

 

……ダンブルドアが倒れた今、誰が分霊箱を破壊するんだ?

 

例のあの人が恐れる人が居なくなる……じゃあ誰が、例のあの人を止める?

 

誰が、あいつを倒す?

 

……。

 

「……どうだい?」

 

京楽がそう聞いてくる。

 

ハーマイオニーやロン、シリウスにリーマス、マクゴナガル先生にスネイプ。

 

そして、ショウとライカ。

 

全員の視線を感じる。

 

 

 

「……確かに、その方が安全かもしれませんね」

 

「話が分かる子だ。じゃあ「でも」……でも?」

 

「僕は行きません」

 

ハリーは宣言した。

 

行かないと。

 

「ダンブルドア先生が動けない今、誰かが……誰かが、ヴォルデモートに対抗しなくちゃいけない。それが出来るのは……多分、僕だけです」

 

続けてハリーは、そうきっぱりと言った。

 

「大きな口を開くねぇ。でもさ……別に君じゃなくてもいいんじゃない?それに、君はまだ未熟だ。ヴォルデモートは、君が勝てるような相手じゃない」

 

「……分かっています」

 

「分かっているのなら、尚更だよ。それとも……将平君たちがいるから大丈夫だ、とでも思ってんの?」

 

京楽の目、雰囲気、それらが厳しいものになる。

 

あの刀原をして、「日本でも屈指の『誤魔化し』が効かない人。洞察力を持つ人」と称するだけの威圧感があった。

 

「そんなことは、欠片も思ってません」

 

「じゃあ何故だい?何故、君が戦うんだい?」

 

「それが、僕の使命だからです」

 

「このまま挑めば……君、死ぬよ?」

 

「それでも、僕は戦います。それに……死ぬなら、その前に一矢報います」

 

体が重いと感じても、京楽から目を逸らしたくなっても、ハリーは京楽の目を見ながらそう言った。

 

「では……ここで死ぬか?」

 

そう肝が冷える声で、刀原が言う。

そして、杖で呪文を放った。

 

去年までのハリーなら、あっさりと伸される速さ。

それは、刀原がいま出せる最速の早打ちだった。

 

だが、ハリーはそれを防いで見せた。

 

「……威勢だけじゃ、ないみたいだねぇ」

 

京楽は手を叩きながら褒める。

 

「本気で打ち込んだが……防がれたか。防げなかったら、そのまま日本へ連れていく予定だったが……しくじった。ある程度の強さを、保障しちまった」

 

渾身の早打ちを防がれた刀原だったが、どこか嬉しそうにそう言った。

 

「嫌な役、引き受けさせちゃったね。ごめんよ将平君。ハリー君も、すまなかった。彼を責めないでね。僕が指示したことだ」

 

京楽はハリーにそう言った。

 

「しかし……多分ヴォルデモートは、魔法を使う彼よりも強いよ。防ぐので精一杯じゃ駄目だ。……使命と言ったね。何故そこまで言い切れる?予言にあったからかい?両親の仇だからかい?それだけじゃ、理由としてはまだ弱いね」

 

京楽はまるで見定めるように言う。

 

その眼力にハリーは飲み込まれるような感覚を味わい、目を逸らしたくなった。

 

しかし目を逸らしたら駄目だと思い、しっかりと見据える。

 

「さあ、何故だい?」

 

京楽はそう迫る。

 

何故か、それはハリーがいつも考えていたことだった。

 

何故、僕なのか。

何故、そうなのか。

 

何故、何故、何故。

 

そしてそれを刀原達にぶつけた。

吐き出した。

 

「赤ん坊の時に襲われ、一度は消えた敵が再び復活する。それは予言で言われていたことで……やがて二人は対峙する。予言を聞いたヴォルデモートが自分を襲った時に、そう決まったんだよ。もう運命としか言えねぇと思うけどな」

 

「嘆いても、何も始まりません。疑問に思うだけ無駄です。だったら、そういうものだと受け止めて、備えるしかありませんよ」

 

刀原と雀部がそう言っていたのを思い出す。

 

「僕の運命だからです」

 

ハリーはそう答える。

 

正直、まだ完全な納得はしていない。

 

でも……。

 

「これだけ深く関わって、色んな人に支えてもらって……投げ出すなんてしたくないです」

 

ハリーの言葉に、京楽は少しだけニヤリと笑い、そして頷く。

 

「そこまで覚悟が決まってるんじゃあ……おじさんからはもう、何も言えないなぁ。それに、これ以上は野暮ってもんだ」

 

さっきまでの威圧感が嘘のように霧散し、京楽はいつもの飄々とした表情に戻った。

 

 

 

ハリーめ、本気の早打ちを防ぐだけじゃ飽き足らず、マジモードの京楽さん相手に啖呵を切りやがった。

 

そして、この瞬間に覚悟を決めやがった。

今までふやっとしてたのに……。

 

しかし、京楽さんも意地が悪い。

ハリーに覚悟を固めさせた。

 

もちろん下地はあったけど。

 

甘い道を提示して、その先の道は厳しいことをまざまざと見せて……。

 

それでもハリーは……ヴォルデモートとの対決の道を進むか。

 

立派になったな。

 

 

 

「さてと。ハリー君には振られちゃったし、時間もないし。そろそろ僕たちは出発しなくちゃね」

 

ハリーの覚悟を確認出来たことに満足した京楽は、この場を締めるようにそう言う。

 

「じゃあ、少しだけ時間を下さい。私としょう君の荷物はグリフィンドール寮にありますから」

 

京楽の言葉を聞いた雀部が、少し慌てたようにそう言う。

 

「その必要は有りませんよ?」

 

それを静止したのは卯ノ花。

 

「既にあなた達の荷物は回収してあります。いつでも出発出来ますよ?」

 

どうやら既に手を打っていたようだった。

 

「流石は卯ノ花隊長、手が早い。じゃあ戻るとしようか……日本へ」

 

まとめるように手を叩きながら京楽はそう言った。

 

「ショウ……」

 

ハリーが心配そうに言う。

 

「もう会えない訳じゃない。そんな顔すんな」

 

ハリーの心情を察した刀原が、宥めるように言う。

 

「みんなをよろしくな」

 

「……うん」

 

そして二人は固く握手をして最低限の別れを交わし、死神たちの一行は医務室を後にする。

 

そして死神達を乗せた列車はふわりと空中に浮き、出発したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

すっかり夜になったイギリス上空に、空飛ぶ列車が走っている。

 

その列車には、ベッドに伏したままのダンブルドアも乗っている

 

今は一両貸し切りの上で、卯ノ花や雛森、井上からの治療を受けていた。

 

「これからヴォルデモートはどう動くのか……将平君の意見が聞きたいねぇ」

 

刀原の正面の座席に座っている京楽が、徐に聞いてくる。

 

ダンブルドアが日本に行く……その影響は、決して小さい物では無いからだ。

 

「……ダンブルドアが危険なのは今でしょうね。僕でしたら……弱っている今を狙って、襲い掛かります。厄介な死神たちもまとめて屠れるまたとない好機……そう思っていると思いますよ」

 

刀原はそう、あっけらかんと言う。

 

「多分、もうすぐドーバー海峡(イギリス国境)です。国際問題にしないためにも、奴らが襲い掛かるとしたら……今」

 

そしてそう断言した時、緊急を告げる車内放送が流れた。

 

「当列車の周辺に、死喰い人と思われる一団が接近してきました!」

 

それは刀原の推察通り、死喰い人達が列車を襲撃しようとしているとの報告だった。

 

「流石、読み通りだねぇ」

 

京楽は朗らかに拍手しながらそう褒める。

 

その顔には心配と言った表情など皆無だった。

 

「……蹴散らしてきます」

「車内はお任せします」

 

そんな緊張感の無い京楽に溜息(この人は……)を吐きながら、刀原と雀部は列車のドアを開けて、列車の屋根に身を躍らせた。

 

 

 

既に列車は完全に包囲されていた。

 

夜だと言うのに何処か目立つ空飛ぶ黒い煙が列車の周りを走っている。

 

このままでは、自衛手段が無い列車はあっという間に落とされてしまうだろう。

 

しかし、それはこの二人をどうにかした後の話だ。

 

「雷鳴響け『雷霆』」

「一閃煌めき両断せよ『神殲斬刀』」

 

そして、死喰い人達にこの二人をどうにか出来る戦力はなかった。

 

 

 

空は雲に覆われ、辺りは更に暗くなる。

 

「駆けよ雷霆」

 

雀部がそう剣を振るえば、列車の周囲を雷が駆け巡り、必死に回避や逃亡を図ろうとする死喰い人を正確に焼き焦がしていた。

 

では、雀部を直接狙おうとすればどうか。

 

そんな勇者(痴れ者)の呪文は、刀原に阻まれる。

その直後には、防御不可の斬撃のプレゼントが返礼として贈られてくる。

 

上空にいては殺される(BBQにされる)だけだ。

 

この時点で軍事的に言えば壊滅(部隊の五割がやられた)状態となっていた襲撃部隊の面々はそう判断し、なんとか列車の屋根に降り立つことに成功する。

 

あとは、死神に向かって呪文を打つだけ。

 

刀原の目の前に降り立った死喰い人もそう思ったのか、杖をムチのようにしならせて紫の炎を出してくる。

 

「その呪文、見覚えがある。アントニン・ドロホフだな?」

 

それを容易く防いだ刀原が、確かめるように言う。

 

「トーハラか……」

 

ドロホフは苦々しそうに言う。

 

甘く腑抜けた騎士団とは違い、全く容赦がない刀原。

 

死喰い人の間では、彼は既に特記戦力扱いだった。

 

「降伏を勧めるが?」

「貴様がな」

 

刀原とドロホフの一騎打ちが始まった。

 

 

 

雀部はドロホフ以外の死喰い人を殲滅(BBQに)していた。

 

既に数を二、三人へと減らしていた死喰い人が、彼女が降らす落雷を防げる筈がなかったのだ。

 

むしろ列車の屋根に下りたことで、雀部にとっては当てやすくなったと言えた。

 

刀原とドロホフの決闘は、刀原の圧倒的優勢で進んでいた。

 

ドロホフは必死に呪文を放つが、刀原の斬魄刀によって全て防がれてしまう。

 

そして返す刀で飛んでくる呪文を防ぎ、時々やって来る即死確定の斬撃を必死の形相で躱していた。

 

ドロホフは幸運だった。

 

刀原が呪文で片を付けたいと思ってなければ、開戦直後に斬り捨てられていた筈だった。

 

しかし、彼の幸運もこれまでだった。

 

「逸れて下さい!しょう君!」

 

「んな!?」

 

雀部の声が響き、刀原が少しだけ後ろを向く。

 

そこには、斬魄刀を構える雀部の姿があった。

 

「『雷公砲閃撃』!」

 

雀部が斬魄刀を前に突き出すと、極太の雷の光線が放たれる。

 

事前通告受けた刀原は、それを難なく躱した。

 

しかし……射線上にいたアントニン・ドロホフは、言語の壁もあって何の対策も出来なかった。

 

「プ、プロテゴ・マk(最大のまm)……」

 

それでも何とか防御呪文を張ろうとしたが、間に合わずに直撃し……。

 

……アントニン・ドロホフは跡形もなく消え去った。

 

「さすがだな」

 

刀原はそう雀部を褒めながら刀を納める。

 

「ふふ、ありがとうございます。でも、これは前座ですね」

 

「さすがに、気づいてたよな」

 

照れながらも警戒するように雀部がそう言えば、刀原はニヤリと笑った。

 

「ええ、来ますね」

 

そして雀部がそう言いながら目線をやると……そこにはその名の通りに不気味な闇が飛翔していた。

 

「ここは俺がやる。雷華は中へ」

 

「……分かりました、任せます」

 

雀部はそう言って瞬歩で消える。

 

その間に、闇が降り立つ。

 

「一人で俺様に挑むか。無謀かそれとも蛮勇か?」

 

ヴォルデモート卿が現れたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

英国を、欧州を揺るがす史上最強の闇の魔法使い。

 

その名はヴォルデモート。

 

押しも引きもされない、世界最高峰の魔法使いだろう。

 

不気味なまでに白い肌。

鼻は削げたように無く、頭皮にも何も無く。

 

手には白い杖を持ち、身に纏う黒いローブが風で靡いている。

 

対するは……。

 

次の日本魔法界と護廷十三隊を担う、若き死神。

 

その名は刀原将平。

 

山本元柳斎をして「成長すれば、わしを超える死神になる」と言わしめる実力と才を持つ。

 

黒い死覇装の下には白いシャツ。

ネクタイは赤と金。

 

右手には杖、左手には斬魄刀を持ち……袖付きの白い隊長羽織を、マントの様に羽織っている。

 

約一年前にも対峙し、交戦もした二人だったが……面と向かって対峙するのは初めてだった。

 

「あの時は挨拶してませんでしたね。初めてまして、そしてこんばんはヴォルデモート卿。護廷十三隊三番隊隊長、刀原将平です」

 

「ほう」

 

刀原が少し頭を下げながら和やかにそう言えば、ヴォルデモートは感心したような表情を見せる。

 

「日本人は礼儀正しいと聞いていたが、真だったか。噂に聞く日本の死神よ。俺様は礼儀には礼儀で返す……。俺様がヴォルデモート卿だ」

 

ヴォルデモートはそう言って、余裕たっぷりにお辞儀をする。

 

「貴様が、トーハラか。ホグワーツや魔法省に多大な影響を持つ……。去年にはベラを殺し、俺様をダンブルドアと共に阻んだ……。貴様の実力、話には聞いていたぞ?」

 

ヴォルデモートは赤い目を光らせながら、忌々しそうにそう言う。

 

「お褒めのお言葉、ありがとうございます。良い噂ばかりで安心しましたよ」

 

刀原はあっけらかんとそう言った。

 

「トーハラよ、我が右腕となれ。甘いダンブルドアとは違い、貴様は敵に容赦せんし、殺すのにも躊躇せん。頭も良い。その実力、我が右腕にふさわしい」

 

ヴォルデモートはそう言って、手を伸ばす。

 

だが、そんな戯れ言に刀原は乗らない。

 

「折角のスカウトですが、謹んでお断りします。僕の剣と命はそんなふざけたことに使うつもりはありません。僕の命は日本と護廷の為にあるので」

 

「そうか、それは残念だ」

 

刀原の返答を聞いたヴォルデモートはそう言ったが、その表情は全く残念そうになかった。

 

「では、ダンブルドアを差し出せ。そうすればこの列車は見逃しても良い」

 

「生憎と、かの御仁は乗っておりません。ホグワーツに居られるのでは?」

 

「あくまでもシラを切ると言うのか」

 

「居ないと言っています」

 

「そうか。では強引に調べるとするか」

 

「そうですか……。ではヴォルデモート卿、パスはお持ちですか?」

 

「生憎とそんな物は持っていないな」

 

「パスをお持ちではない……。では申し訳ないのですが、即刻の降車を。この列車には外交特権が適用されてますからね。今なら許可無く乗車したことは……見逃しましょう」

 

「見逃す……だと?この俺様をか?」

 

「ええ、今なら五体満足でお見逃し致します。何ならお土産も付けますよ?緑茶なんて如何です?随分寒そうですから……暖まりますよ」

 

ヴォルデモートは、自身がおちょくられていることに気が付いた。

 

顔色悪いですよ?季節の変わり目ですから、体調の崩すなんてよくあること……お気をつけて、などと抜かしてさえいる。

 

「…………」

「…………」

 

この沈黙をもって、紳士(交渉)の時間は終了した。

 

「ダンブルドアを差し出せ」

「知らねぇな」

 

「では俺様自らが検分する」

「お呼びじゃねぇ、失せろ」

 

「断る」

「そうか」

 

「交渉は決裂だな?」

「ええ、残念です」

 

「「では死ね」」

 

刀原とヴォルデモートは、同時に己の杖を抜いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1

 

ハリー達を散々戦慄させた刀原の『有無を言わせない笑ってない笑み』を彼に仕込んだのは、もちろん卯ノ花である。

 

そして当然……刀原よりもめっちゃ怖い。

 

中には、数年前にルーピンの授業で見たボガート・卯ノ花を思い出した者もいた。

 






君の覚悟

しかと受け取ったよ。



慎重な協議の結果、ダンブルドアには日本に行ってもらいます。

死んでもらうことも考えましたが……まあ、生きてもらいます。


そしてアントニン・ドロホフには消えてもらいます。

こいつ結構強いので……。


刀原vsヴォルデモート。
卍解はしません。

ここで仕留めはしません。

空気読んでくれよ?刀原君。




感想、ご意見、評価、お気に入り登録。
ありがとうございます。
そしてお待ちしております。



では次回は

死神と死の秘宝編 開始となります。

次回もお楽しみに。




おまけ

ヴォルデモートにとっての特記戦力

実感した。
ーーー
アルバス・ダンブルドア
刀原将平
ーーー

抹殺対象
ーーー
ハリー・ポッター
ーーー

多分ヤバい
ーーー
ヤマモトシゲクニ
ウノハナレツ
アイゼンソウスケ
ーーー

あんまり関わりたくない
ーーー
護廷十三隊の隊長の皆さん
ーーー



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死神と死の秘宝編
死神、要請する。七人?のポッター作戦




死は飛翔する

死は形を成す

貴様の前には何がある?

貴様の死神がいる。







 

 

ダンブルドアは老いた。

 

それは本人が痛いほど分かっていたことだった。

それを彼は、魔法省のアトリウムでの一戦で再認識してしまう。

 

ダンブルドアが老いた。

 

それをヴォルデモートは気付かなかった。

 

いや、認識出来なかった。

 

闇の帝王にとってダンブルドアは高い壁であると同時に、恐るべき策士であったからだ。

 

それに、実感出来なかったともいえる。

 

おそらく彼にそうはっきり(「老いたなダンブルドア」)と言えるのは、全盛期の彼と戦った『前の世代の闇の魔法使い(グリンデルバルド)』か、彼よりも強大な魔法使いだった『極東の魔術師(刀原の祖父)』ぐらいだろう。

 

ヴォルデモートはダンブルドアの全盛期を知らない。

 

その伝説は、例え老いたとしても健在だった。

 

その、目の上のたん瘤であるダンブルドアが……何があったのかは知らないが重傷だという。

 

そのうえで、なんと日本に行くと言う。

 

ヴォルデモートは、その報告を聞いた瞬間……内心で盛大にガッツポーズ(勝ったぞぉおおお!)した。

 

色めきだった。

 

そして……万難を排して日本へと向かう列車を襲撃し、ダンブルドアの殺害*1を命じた。

 

 

だが、蓋を開けてみればこのざまだ。

 

たった二人の死神によって死喰い人達は殲滅され、古参のドロホフもあっさりやられてしまったのだ。

 

しかし、千載一遇のこの時を逃すわけにはいかない。

 

小癪にも自身を小馬鹿にしてきたトーハラを殺し、目的を達成するのだ。

 

 

 

 

 

 

 

列車の屋根の上で火花が弾けている。

 

日本の若き死神である刀原と、欧州の闇の帝王であるヴォルデモートが、お互い殺意マシマシ(死にさらせぇえええ)で呪文をぶつけているからだ。

 

暫くして、ヴォルデモートが杖をねじ上げる。

その隙をつき、刀原が接近しようとする。

 

接近されてしまえば、ヴォルデモートに勝ち目はなくなる。

 

それを分かっているヴォルデモートは、直後に悪霊の火を放つ。

 

炎の蛇と化したその業火に、刀原はほんの少しだけ戸惑う。

 

しかし。

 

「一閃煌めき両断せよ『神殲斬刀』!」

 

刀原は左手で逆手に抜刀し、上に斬り上げて斬撃を飛ばし、業火を霧散させる。

 

「その程度の火力で、どうにか出来るとでも?」

 

流刃若火(元柳斎)の火力に比べたら……。

 

刀原は余裕たっぷりの笑みでそう言った。

 

一方のヴォルデモート、こちらは余裕などなかった。

 

魔法というジャンルで言えば……圧倒的とはいかないまでも、必ず勝てる。

 

だがほぼ未経験の鬼道と、去年の戦いでその厄介さを味わった斬魄刀は、世界最高峰の魔法使いであるヴォルデモートに最大級の警戒をさせていた。

 

捕縛呪文(インカーセラス)とは格が違い、おまけに種類も豊富で、呪文などで解くことができない『縛道』。

 

何よりも威力が段違いで、完全防御呪文(プロテゴ・マキシマ)を使ってようやくなんとか被害軽微で済む『破道』

 

刀原が持つ……雷も氷も炎も出さないが、そのかわりに防御不可の斬撃を放ってくる凶悪な『斬魄刀』

 

そして何よりも不遜な態度を普段からしている彼を慎重に足らしめているのが、刀原が出している霊圧と殺気だった。

 

恐怖の象徴であるヴォルデモート。

 

当然、殺意を向けられたことはある。

しかし、それらの根底には恐怖があった。

 

好戦的な目を向けられたこともある。

しかし、それらにも怯えの目はあった。

 

少なくとも記憶には無い。

 

手ごわかったダンブルドアにも、殺意はなかった。

 

だが、目の前のこいつ(刀原)はどうだ。

 

恐怖?怯え?

そんなもの、一切感じられない。

 

殺意、殺気?

ありありだ。

 

そして……全身に纏わりつくような、この重さ。

 

おそらく、これが『レイアツ(霊圧)』だろう。

 

少なくとも、二年前まで学生だった青年が出していいものではない。

 

飛んできた斬撃を姿くらましで回避しながら、ヴォルデモートは苦虫を嚙み潰した。

 

そして……。

 

こんなヤバい存在を生み出した日本に、彼の師匠だという日本の最高戦力達に内心で恐怖した。

 

意訳すると。

 

やっぱあいつらやべーじゃん(オージャパニーズクレイジー)』である。

 

 

 

ヴォルデモートが日本の戦力を再認識したところで、戦況は特に変わらない。

 

呪文を連射しようとも、刀原はそれを防ぎつつ接近しようとする。

姿くらましで距離を取れば、斬撃が飛んでくる。

 

悪霊の火を始めとした闇の魔術も、切断の能力の前では無力だった。

 

時間(タイムリミット)も迫っている。

 

ドーバー海峡を渡られてしまえば、国際問題を避ける為にヴォルデモートは手を引かざる得ないからだ。

 

故に……。

 

ヴォルデモートは決着を早めるため、賭けに出た。

 

まず爆破呪文を放ち、爆煙で目くらましをする。

 

そして姿晦ましをし、刀原の背後を取った。

 

「『アバダ・ケダブラ(息絶えよ)』!」

 

本来は行われない、近距離で放つ死の呪文。

 

勝った……。

 

ヴォルデモートは勝利を確信した。

 

しかし。

 

「縛道の六十三『鎖条鎖縛』」

 

勝利の愉悦に浸る前に、太い鎖がヴォルデモートの体の自由を奪った。

 

「くっ……!」

 

嵌められた。

 

ヴォルデモートは瞬時にそれを悟った。

 

呪文を防がれないように至近距離まで接近してくることを、刀原は読んでいたのだ。

 

そしてヴォルデモートが鎖条鎖縛を解こうとする隙を、刀原は逃がさない。

 

「千手の(はて) 届かざる闇の御手(みて) 映らざる天の射手(いて) 光を落とす道 火種を煽る風 集いて惑うな 我が指を見よ 光弾・八身・九条・天経・疾宝・大輪・灰色の砲塔 弓引く彼方 皎皎(こうこう)として消ゆ」

 

唱えている間に、無数ともいえる数の光の矢が刀原の背後に現れる。

 

「おのれ!」

(おせ)ぇ!」

 

ヴォルデモートが何とかしようとするが、もう遅い。

 

「破道の九十一『千手皎天汰炮(せんじゅこうてんたいほう)』!」

 

光の矢は吸い込まれるようにヴォルデモートに向かい、その全てが着弾する。

 

爆音の後に爆煙が立ち込め、ヴォルデモートと思しきものが力なく落下していった。

 

刀原は戦果(死亡確認)をせずに列車に乗り込み、近くにあった通信マイクを手に取る。

 

「引き離せ!」

 

刀原の言葉を受けた機関士は、機関車の全速を発揮させる。

 

そして一行を乗せた列車は、あっという間に夜空の彼方に消えた。

 

 

 

「お、おのれぇ……トーハラめ……」

 

とある森にて、焼けただれた男が力なく呻いていた。

 

鬼道の中でも屈指の破壊力を持つ、千手皎天汰炮。

 

刀原が本気(完全詠唱)で放ったそれは、ヴォルデモートを討ち取ってもおかしくはなかった。

 

しかし、彼は間一髪で防御呪文を張ることに成功した。

 

これが完全防御呪文であれば、まだマシだったかもしれないが……彼が出来たのは防御呪文だった。

 

そしてそのツケは痛打で帰って来る。

 

完全詠唱された九十番台の破道は凄まじい威力を持ち、ヴォルデモートの容易く防御を貫いたのだ。

 

まあ、死ぬことはなかったが……重傷にはなった。

 

黒いローブは爛れ、両手は大火傷。

顔にも火傷が見られ、移動は這う事しかできない。

 

当然ながら列車を追いかけたり、攻撃を行うことなど不可能で……むしろ落下死しないようにするので精一杯だった。

 

「恐るべし、護廷十三隊」

 

ヴォルデモートは、日本だけは手を出さない方が良いと確信した。

 

……もう手遅れなのだが。

 

 

 

 

 

 

死神たちとダンブルドアを乗せた列車は、無事に日本へと着いた。

 

ダンブルドアは直ぐに四番隊隊舎に移送され、直ちに治療が開始された。

 

刀原を除く派遣組は、一日の休息の後に、戦線に加わることになった。

 

そして刀原は……各所への報告だった。

 

元柳斎へ(護廷十三隊総隊長)藍染へ(マホウトコロ校長)市丸へ(日本魔法省大臣)……。

 

米国魔法評議会へ、星十字騎士団へ。

ハリー達への手紙、不死鳥の騎士団へ。

 

他にも沢山。

 

上がって来る報告書もある。

 

日本魔法省外務部がヴォルデモート関連の事案でてんてこ舞いのため、外交が出来る刀原にお鉢が回って来たのだ。

 

「だあぁああああああ!」

 

刀原は数日間、机に突っ伏すことになる。

 

「お主もようやく分かったようじゃな」

「辛いよねぇ、書類」

「トンズラ、したくなるやろ?」

 

誰とは言わないが……そう言ってきた隊長たちに刀原は思わず頷いてしまった。

 

 

 

そんな感じで、刀原が書類に泣いている頃……。

 

護廷十三隊と星十字騎士団の連合軍と、賊軍との戦いは佳境を迎えていた。

 

賊軍の数的主力は、没落貴族の私兵たちと滅却師が連れてきた聖兵(ゾルダード)

 

他に注意すべきなのは……。

 

死神だと『更木剣八』『班目』『綾瀬川』

 

滅却師だと『F』『I』『K』『L』『O』『S』『U』『R』『Q』*2

 

そして綱彌代時灘。

 

対するこちら側は……。

 

護廷十三隊の隊長たち。

 

星十字騎士団の聖章騎士

 

など、相応の戦力が未だ健在だった。

 

それに、日本には隠された最終にして最強の『零番隊』が存在している。

 

このままじりじりと押しつぶすか。

それとも、いっそ決戦を仕掛けるか。

 

それを近々行う予定の合同会議にて、決定するつもりだ。

 

そして合同会議開催に合わせる形で、聖章騎士の主力も来日する予定となっていた。

 

刀原はその日程調整で忙しかった。

 

 


 

 

刀原が己の仕事で忙しかった頃……。

 

英国では、情勢が更に悪化していた。

 

ダンブルドアは不在。

 

英国魔法省は、膿をまだ完全に出し切れてない。

 

不死鳥の騎士団もリーダー(ダンブルドア)不在のため、その穴埋めで動きが鈍くなっている。

 

ホグワーツの教授陣もそれは同じ。

 

子供たちは不安な日々が続く。

 

良くも悪くもダンブルドアという強大な実力者に、英国魔法界がおんぶにだっこ(頼りっぱなし)だったことが理由だった。

 

そして、それは英国以外の欧州魔法界もだった。

 

グリンデルバルドが敗北して、五十年。

 

何処か平和ボケしていたのは、何も英国魔法省だけではなかったのだ。

 

グリンデルバルドを倒したダンブルドア。

叡智と知略を兼ね備えた賢人。

 

数年前に刀原やMACUSA(米国魔法議会)の議長が懸念していた通り……欧州の魔法界は『最後はダンブルドアが何とかするでしょ』という甘い認識があったのだ。

 

そんな中で駆け巡る『ダンブルドア不在』の一報。

 

英国魔法省が戦略的重要情報(パニックを防ぐ為)として隠匿し、重要人物たち(各魔法省の大臣)以外には伏せられた急報。

 

それは、欧州中の魔法界に冷や汗と危機感と混沌をもたらすには十分な悲報だった。

 

危機感からヴォルデモートへの宣戦布告を考える者

 

これに乗じて栄誉や権力を得ようとする者たち(ハイエナ)

 

英国への影響を更に強めようと画策する者たち(自称戦略家)

 

混乱に乗じて政権を倒そうとする者たち(馬鹿)

 

誰も幸せにならない混乱と不安が、欧州中へ広がっていった。

 

ただ一つ言えるのが、『死亡した』という訃報だった場合、この程度では済まされなかっただろうと言う事だけだ。

 

まあ、兎にも角にも……このしわ寄せが、ただでさえ混乱の中にある英国魔法省へ向かうことになったのは当然の摂理と言えた。

 

ドンドンやって来るフクロウ。

 

日増しに増える吠えメール。

 

国内の事でいっぱいのスクリムジョールにとって、それは『それどころじゃねぇんだよ!(意訳)』だった。

 

そのため……イギリス(マグル)首相に対しての外交的顧問として、()()魔法省に残っていたファッジに全てを放り投げた。

 

『前任の魔法大臣だろ。これも何とかしろ』という事だ。

 

ファッジは泣いた。

 

 

 

 

 

 

英国、いや欧州中の魔法界がパニクっていた頃。

 

ハリーにも問題が訪れていた。

 

成人問題である。

 

ハリーが特に居たくもない、良い思い出も無いダーズリー家にいたのは、ひとえにそれが自身の守りに直結しており、その維持のためだ。

 

しかしその守りも成人になるまでであり、ハリーが十七歳になった瞬間、守りは消えてしまう。

 

現在、騎士団はハリーが十七歳になる前に、ダーズリー家から移動させようと計画している。

 

そしてマッドアイやシリウスは、無理なのは百も承知の上で、刀原に参戦を要請した。

 

『事情はこちらも把握している。

 

だがすまん、無理。

俺は行けない。

 

幸運を祈ってる。

 

護廷十三隊 三番隊隊長 刀原将平』

 

刀原から送られてきた手紙には、こう書かれていた。

 

「まあ、しょうがなかろう。それに、最初から彼頼みの策など、たかが知れてる」

 

刀原の返信を予想していたマッドアイはそう言い放ち、シリウスもそれに頷いた。

 

元より、彼は来ないつもりで策を考えていたのだ。

 

腹をくくるしかない。

 

自分たちの最後の希望を生き残らせるべく、騎士団は策を練った。

 

 


 

 

「ふむ……」

 

刀原は悩んでいた。

 

ハリーを移動する必要性はあるし、護衛の一人として参戦したい。

 

しかし、自身の立場がそれを許さない。

それに、とても忙しいのだ。

 

「どうします?」

 

気持ちは同じな雀部が聞いてくる。

 

「騎士団の面々だけでも大丈夫だと思うが……」

 

刀原はそこまで言って、紙を取り出す。

 

そしてある二人に手紙を書いた。

 

「え、本気ですか?」

 

「保険だよ。保険」

 

 


 

 

ハリーの移動に際し、騎士団はある作戦を立てた。

 

それは、ハリー本人とその影武者を含む七人のハリーを用意し、ダーズリー家から一斉に出発するというものだった。

 

「だ、ダメだ!僕の代わりなんて、絶対にダメだ!」

 

ハリーはその作戦に断固反対した。

 

当然だ。

 

ポリジュース薬で変身し、影武者役となるハーマイオニーやロン、フレッド・ジョージ、フラーが死ぬかもしれないからだ*3

 

ハリーとしては、認める訳にはいかなかった。

 

だが、騎士団はそんな健気な抵抗など予想していた。

 

「安心しろポッター。今ここにいるのは騎士団だけだが、日本からの援軍も来ている」

 

マッドアイはそう言う。

 

「でも……」

 

「喧しいぞポッター。既に作戦の根回しは済んだのだ」

 

「そうだ。僕たちはもう覚悟を決めているんだぞ」

 

渋るハリーにそう言ったのは、なんとスネイプとマルフォイだった。

 

「セブルス?お前は参加しないはずでは……?」

 

リーマスが少し驚いた様子で聞く。

 

「我輩が死喰い人達に作戦をリークした。今宵、ポッターを移動させるとな。そして、ポッターを七人にしているとも」

 

スネイプは少し呆れた様子で、そう言った。

 

二重スパイとして死喰い人側にいる彼だからこそ、出来ることだ。

 

「敵にリークした訳は?」

 

マッドアイが問い詰めるように言う。

 

『別に本当の日付を言わなくても良かったでは?』と言いたいのだ。

 

「情報は、ある程度正しい方が信憑性を増す。それに、いつ来るか分からないなら、もういると分かった方が良いだろう……とね」

 

「ちなみに七人になっているとリークした理由は、その数に信憑性を持たせる為です。そして僕が七人目の影武者となり、ポッターを八人目にする。これで死喰い人達は本物が分かりづらくなります」

 

マルフォイが自身の箒を持って、そう言い放つ。

 

「だがなぁ……」

 

ハグリッドとの護衛役争奪戦に勝利したシリウスが、しかめっ面で言う。

 

「彼は、ここで死喰い人の数を更に減らすつもりのようだ。曰く「わざわざ隠密機動とあの人を派遣するんだからね」とのことでね」

 

シリウスの顔に渋々ながら賛同……と言った顔をしながらも、呆れたようにスネイプは言う。

 

そしてここにいる全員が、スネイプとマルフォイの裏にいる黒幕の正体を察した。

 

スパイから九割正しい情報を得た敵は、騎士団側を奇襲出来ると思っている。

 

だが、それは誤りで……。

 

騎士団はその奇襲を知っており、想定外の援軍をもって奇襲してきた死喰い人を可能な範囲で撃破する。

 

しかも七人の筈のポッターは八人になっており、本物はバレにくい低空を飛んで悠々と安全圏まで移動する。

 

つまり、防衛戦を攻勢に変えるのだ。

 

こんな策を考えそうな奴を……ハリー達は一人しか知らない。

 

「という事で。ではマルフォイ。ポッターから髪を頂戴したまえ」

 

「分かりました」

「アイタッ!」

 

こうして、七人改め八人のポッター作戦は開始された。

 

 

 

影武者のポッターと護衛役がツーマンセルを組み、箒やセストラルに跨って空へと繰り出す。

 

そしてそれを大きく包囲する形で、援軍として派遣されてきた日本の闇祓いや隠密機動が少数なれど護衛する。

 

肝心のハリー(本物)は、シリウスが操縦するサイドカー付きのバイクに乗っている。

 

最も、こちらは空を飛ばずに人気も車も碌にない道路を走っていたが。

 

「だ、大丈夫かな……みんな」

 

ハリーは心配な表情をしながらそう呟いた。

 

作戦開始からまだ三分しか経ってないのに、ハリーは三回もそう言っていた。

 

「大丈夫さ」

 

シリウスはそう励ますように言う。

 

そう言われたハリーだが、やはり心配そうに周囲を見渡している。

 

呪文どころか死喰い人の影すら見えないのだが、それはその分影武者の方に行っているという事だからだ。

 

「シリウス……」

 

ハリーがそう何かを言いかけた時。

 

「ハリー・ポッターだな?刀原や京楽が言うほどの覇気は感じられんが」

 

という女性の声が聞こえてきた。

 

「な」

「え」

 

いきなり聞こえてきたそれに驚愕する二人。

直ぐに聞こえてきた方を向く。

 

するとそこには……。

 

かなりのスピードを出している筈のバイクに並走している、小柄で華奢な女性がいた。

 

黒髪は短く、黄色い布を腰に巻き、斬魄刀は数年前までの刀原のやつ並みに小振り。

 

死覇装の上には袖なしの隊長羽織。

 

と言っても彼女は隊長ではなく……あくまでも日本魔法省の部長としての羽織だが。

 

「えっと、ショウの要請で来てくださった方ですか?」

 

ハリーは「もうそれしかないだろう、そうであってくれ」と思いながら恐る恐る聞いた。

 

「ほう、察しが良いな。その通り、刀原の要請で来た者だ。最も、私は隠密機動でも、二番隊の者でもないのだがな」

 

女性は息も切らさず、恐ろしい速度で並走しながら言う。

 

「日本魔法省情報捜査部 部長 砕蜂だ」

 

女性……砕蜂は表情を一つ変えずにそう名乗った。

 

 

「共にこのまま……と行きたいが、私も付きっきりで護衛する訳にはいかない。そら、見てみろ」

 

砕蜂は淡々とそう指し示す。

 

その先には、バイクの存在に漸く気が付いた数名の死喰い人がいた。

 

「気づかれたか」

 

「ものの数ではない」

 

シリウスが苦々しそうに言うが、砕蜂は吐き捨てるようにそう言う。

 

「私が蹴散らす。お前たちはそのまま突き進め。このスピードで行けば、約十分後には違う者が直掩につく手筈だ」

 

そう言って、砕蜂は瞬歩で消えたように移動する。

 

そして死喰い人の元へと一気に辿り着き、蹴り技であっという間に蹴散らしてしまった。

 

ハリーとシリウスはそのスピードのまま、一気に駆け抜けた。

 

 

 

「このままいけば、目的地だ」

 

必死の形相で運転しながら、シリウスが言う。

 

ハリーはそれを聞き流しながら、後ろに付いてくる三名の死喰い人を迎撃する。

 

砕蜂と別れて数分後に、新手が現れたのだ。

 

もっとも、シリウスの巧みなハンドル捌きによって、ハリーにもバイクにも当たってない。

 

ただ、それはハリーも同じであり、追ってくる死喰い人に呪文を当てられないでいた。

 

カーチェイスを繰り広げるハリー達と死喰い人。

 

彼らはそのスピードのあまり、砕蜂が言っていた『次の助っ人』が待機している地点を過ぎていたことに気が付かなかった。

 

「おいおい、もうドンパチしてるじゃねぇか!」

 

陽気な男性の声が、死喰い人に向けて失神呪文を打ち込んでいるハリーに聞こえてくる。

 

「え?」

 

ハリーが声の方向へ振り向くと……そこにはシリウスのバイクに後ろ向きで座り、ハリーに向けて「よっ」とでも言っているようなジェスチャーをした男性の死神がいた。

 

見た目こそ若いが、死覇装の上に袖なしの隊長羽織を着用している。

 

「日本魔法省 魔法執行部部長の黒崎一心だ。刀原君の要請でな。君を守りに来たぜ」

 

一心はニヤッと不敵な笑みを見せながらそう言った。

 

「あ、ありがとうごz「おっと、礼はいらねぇよ。俺の息子が少し世話になったらしいからな。守るのは当然だぜ」

 

ハリーの礼を遮って一心はそう言った。

 

その言葉に『そういえば……イチゴが、父親は執行部の部長さんだって言ってたな』とハリーは思い出す。

 

「さあて……シリウスって言ったっけ?五秒だけ、真っ直ぐに走ってくれねぇか?」

 

飛んでくる呪文を捌きながら一心はそう気楽な感じで言う。

 

「別に大丈夫だが、何をするんだ?」

 

当然ながらシリウスはそう聞く。

 

今まで呪文に当たってないのは、このジグザグ走行が大きい筈だからだ。

 

「なあに、あいつらを一掃するだけぜ」

 

一心はあっけらかんと言う。

 

『ショウといい、この人といい、実力のある死神は全員こうなのか』

 

ハリーとシリウスは、その『さも当然』と思っているような発言にそう思った。

 

「……では、行くぞ」

 

シリウスはそう言い、ハンドルを握り直す。

 

「いつでもいいぜ」

 

一心はバイクのシートに立ち、抜刀する

 

五秒。

バイクは真っ直ぐ進む。

 

死喰い人達はチャンスだと思い、ほぼ並列になって一斉に呪文を放とうとする。

 

だが、それこそが一心の狙いだった。

 

「燃えろ『剡月』!」

 

一心が持つ斬魄刀が炎を纏う。

 

死喰い人達に動揺が走る。

 

しかし、もう手遅れ。

 

「月牙…天衝!」

 

ハリーが見慣れた(刀原が放つ)飛ぶ斬撃とはまた違う斬撃が、未だ動揺の渦にいた死喰い人達に襲いかかった。

 

当然ながら死喰い人達は、ロクな防御や回避も出来なかった。

 

文字通り吹き飛ばされ、撃退されてしまうのだった。

 

「ま、ざっとこんなもんだろ」

 

一心は斬魄刀を納めながら、ハリーにそう言った。

 

 

 

 

 

 

砕蜂や一心といった実力者の援護もあって、ハリーとシリウスは危なげなく目的地である『隠れ穴』へと辿り着いた。

 

作戦の直前に空へ飛ばしたヘドウィグ、カバンやファイアボルトなどの荷物も無事であり、ハリーの移動は成功と言えた。

 

そしてハーマイオニーやロン、フレッド・ジョージ、フラーやマルフォイといったハリーの影武者たち、リーマスやキングズリー、スネイプなどの護衛役も無事に集合出来た。

 

だが、何も失われなかった訳ではない。

 

日本から派遣された面々の中には、重傷を負った者や戦死した者が少なからずいたからだ。

 

そして何よりの痛手は、マッドアイの戦死だった。

 

彼は影武者役のマンダンガス・フレッチャーと、ツーマンセルを組んでいたのだが……。

 

ソーフィン・ロウルが死の呪文を乱射し出したことに恐怖したマンダンガス(チキン野郎)が、姿くらましで逃げ出(敵前逃亡)したのだ。

 

思わず叱責するマッドアイ(「待て、マンダンガス!」)

 

しかし、乱戦の中でその隙は致命的だった。

 

死喰い人の誰かが放った死の呪文が顔面に直撃し、マッドアイは箒から転落していったのだ。

 

マッドアイの遺体は、その日の夜には見つからなかったが……翌日には捜索を手伝っていた隠密機動によって発見され、隠れ穴にて葬儀が行われた。

 

「そう、ですか……。ご苦労様でした」

 

帰国した一心と砕蜂から速報を受け取った刀原は、歴戦の闇祓いの死を悼んだ。

 

 

 

 

 

 

 

*1
ついでに……()()()()自身の野望達成を妨害している日本の死神の排除

*2
このうち『Q』は既に死亡

*3
あと、ついでに発案者のマンダンガス・フレッチャーも






死を越えて行け

立ち止まるな

心せよ

油断大敵




刀原vsヴォルデモートは必ずやるつもりでした。

なお、ヴォルデモートにとって刀原は相性最悪に近いです。

接近されたら終わり、斬撃は防げない。

まあ、流刃若火とか氷輪丸とかも防げませんけど……。

頑張れヴォルデモート。
刀原君はまだ序の口の方だぞ。


夜一さんが二番隊にいる影響で出番がない砕蜂さん。

残念ながらバラガンと戦う相手は貴女ではないので、ここで登場していただきました。

ちなみに、一心さんを出したのはアニメを見たからです。


それと……ありがとうマッドアイ。
運命です。


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そしてお待ちしております。



では次回は

結婚式と陥落

次回もお楽しみに。





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死神、会議をする。結婚と陥落と



彼らこそ最後の希望

故に託す

この身を対価に。








 

『親愛なるハリーへ

 

無事か?

大丈夫か?

 

そちらの情勢が日増しに悪化していることは、報告を受けている。

 

隠れ穴に行っているし、ハーマイオニーやロン、シリウスやリーマスとかも一緒だから、大丈夫だとは思うんだが……。

 

警戒と用心を怠るなよ?

 

 

マッドアイの件は、一心さんや砕蜂さんから報告を受けた。

 

戦争だから犠牲はやむを得ない……とは言わないが、まあ、悔しいところがあるよな。

 

荷物が無事であれば、花が同封してある筈だ。

 

二つある内の一つを、出来ればマッドアイの墓に手向けて欲しい。

 

俺と雷華の代わりにな。

 

 

でだ。

 

 

ビルとフラーの結婚式は聞いた。

 

こんな情勢下だからこそ、おめでたい話は良いこと。

 

もちろん行きたいのだが……。

 

この手紙が来てることから察していると思うが、残念ながら俺も雀部も行けない。

 

丁度その日に、護廷十三隊と星十字騎士団との合同会議が行われる予定なんだよ……。

 

英国方面担当として、絶対に参加しないといけない。

 

同封している花束や品々と『結婚おめでとう』の言葉を、これもまた俺たちの代わりに渡して伝えてくれ。

 

あ、あとご祝儀も同封しているのでな。

そちらも頼む。

 

 

ちなみに、俺は今年ホグワーツに行けない。

というか、雷華や冬獅郎も行けない。

 

如何せんこっちに本腰を入れなくちゃならないんでね。

 

でも、こっちのことは心配すんな。

 

ハリーは己の職務を全うしてくれ。

 

……日本での戦いが終わり次第、そちらに殴り込むつもりだ。

 

もちろん、ほぼ総戦力でな!

 

クックック、あの夜は取り逃がしたが……次は必ず叩っ切ってくれる。

 

悔いるがいいヴォルデモート。

俺たちに喧嘩売ったことをな!

 

 

ハリーは分霊箱探し……と言っても、ロケットと髪飾りの二つだが……捜索を行うんだろ?

 

俺の勘が当たっていれば、一つはホグワーツ内にある筈だ。

 

ハリーが今年ホグワーツに行くかどうかは知らないが……行かないのであれば、行く面々にそれとなく捜索を依頼すると良いだろうな。

 

それと、他の捜索も決して無理はしないこと。

 

有事の際には、これも同封している黒くて細長い紙がある筈だから、それをちぎれ。

 

そうすりゃ、あっという間に日本への旅が始まるから。

 

そうそう、ハーマイオニーやロン、騎士団の面々によろしく言っといてくれよ?

 

では、次の再会を楽しみにしてる。

 

 

君の友人 刀原将平』

 

 

ーーーーーー

 

 

こんなご時世だというのに、いやこんなご時世だからこそ……必要なんだろう。

 

一週間前だ言うのに早くも結婚式の準備を始めた女性陣を横目に、ハリーは刀原から来た手紙と同封されていた荷物を確認していた。

 

『マッドアイへ、哀悼と感謝を込めて』と書かれたカード付きの花束。

 

『祝 結婚おめでとう。二人の道に幸多からんことを。護廷十三隊三番隊隊長 刀原将平 五番隊隊長 雀部雷華』と書かれた分厚い封筒と花束。

 

そして『使い時を誤るなよ?』のメッセージと共に入っていた、黒く細長い紙。

 

ハリーは手紙に書かれている内容に色んな反応をしながら、ビルとフラーの元に向かった。

 

 

「まあ、素敵な花ね」

「ハリー、その花と箱は?」

 

「ショウとライカからだよ。行けないから代わりに渡してくれって」

 

結婚式の準備に余念がないビルとフラーに、ハリーは刀原から送られてきた品を渡した。

 

黄色と白の花で構成された花束はハリーの目から見ても美しく、結婚式の会場に飾るにはピッタリだった。

 

そして……一緒に贈られてきた品々もだが……如何にも最高級の物だった。

 

また分厚い封筒(ご祝儀)中身(金額)について、ハリーは最後まで知らないが、ビル曰く「とんでもなかった」フラー曰く「ショウ達って、実は貴族なのかしら?」と言っているのを聞いた。

 

なお、そうなった理由は……刀原たちの参考相手が相手だったためである*1

 

「とんでもない」

「本当にいいのかしら」

 

ビルとフラーは箱の蓋を開ける度にそう言いあっていたあと、達観したような顔で頷き「ありがとう、ショウにお礼を言ってくれ。僕たちも後で書くからさ」と言ったのだった。

 

 


 

 

新郎新婦が善意の爆弾を受け取っている頃。

 

日本の瀞霊廷では日米合同会議に向けて、着々と準備が進んでいた。

 

取り仕切るのは三番隊(刀原)

 

日本魔法省外務部が英国や欧州方面で手一杯のため、護廷十三隊の外交担当である刀原にお鉢が回って来ていた。

 

そして、その刀原は……。

 

「日本へようこそ。ユーグラム・ハッシュヴァルト団長殿」

 

「お出迎え、痛み入ります」

 

遂に来日した『星十字騎士団』の団長であり最高位(グランドマスター)、ユーグラム・ハッシュヴァルトを出迎えていた。

 

「ああ、やっと着いたか」

「いやはや、中々に遠いですね」

「全くだ。老骨には堪えるよ」

「そんな歳でもねぇだろ」

「そうですよ」

「んなことより腹減った」

 

そしてハッシュヴァルトに続いて出てきたのは、星十字騎士団の隊長格と言える聖章騎士(ヴェルトリッヒ)のメンバー。

 

米国防衛の要である彼らが出張って来たことからも、この合同会議が重要なものであることが伺える。

 

しっかし自由だな、どいつもこいつも……。

まあ、バンビから容易く想像出来たが。

 

刀原は「こいつらは爆撃お転婆娘と同類」と判断した。

 

そして、刀原が内心で呆れていることを察したハッシュヴァルトは咳払いをし、全員を名乗らせた。

 

「アスキン・ナックルヴァールだ。う~ん、君とは……うん、戦いたくないな」

 

「キルゲ・オピーです。私も、貴方と戦うのは避けたいですねぇ」

 

「ロバート・アキュトロン。ふむ、中々に手ごわそうだ」

 

「キャンディス・キャットニップだ。バンビが言ってたヤベー奴ってお前か」

 

「ミニーニャ・マカロンです。バンビエッタちゃんから話は聞いてます」

 

「リルトット・ランパードだ。……なんか飯ねぇか?」

 

なんなんだこいつら。

 

飄々とした物腰だが、実は冷静かつ慎重に行動するタイプ。

 

紳士を気取っているが、中身は多分変人で狂人。

 

なんかどっかで聞いたことのある声。

でも多分まとも。

 

ヤベー奴?話は聞いてる?

バンビの奴……こいつらに何を吹き込んだんだ?

 

飯なら用意してもらうから、後でな。

 

刀原のなんとも言えない表情を察したハッシュヴァルトは、申し訳なさそうな表情をする。

 

きっとこの人は、日々胃痛と戦っているのかもしれねぇな……。

 

刀原は深い頷き(ご苦労様です……。)で返した。

 

ーーーーーー

 

「なあ、腹減った」

 

「後でって言ったろ?」

 

「今欲しいんだよ」

 

「ったく。ちょっと待ってろ、確か……ほれ、飴玉でいいならやるよ」

 

「お、サンキュ。お前、良い奴だな。気に入ったぜ」

 

ーーーーーー

 

「あの、英国に親戚とか居ます?」

 

「いや、いないが……」

 

「では、魔法薬学の教授とか?」

 

「いや、そうではないが……。ああ、イルヴァーモー二ーで教鞭を取ったことはあるがね」

 

「教授って言葉が妙にしっくりくるな……新宿、アーチャー、ダディ……う、頭が」

 

「だ、大丈夫かね?」

 

ーーーーーー

 

「ヤベー奴とは聞いてたが、イケメンじゃねぇか」

 

「バンビエッタちゃん、まさか嘘ついた?」

 

「……あいつ、貴女たちになんて言ってたんだ?」

 

「「『あたしの爆撃を弾いたヤバい奴』」」

 

「……確かに弾いたけど」

 

「やっぱお前、ヤベー奴だわ」

「バンビエッタちゃんは正しかった」

 

「え?」

 

ーーーーーー

 

「俺の見立てじゃ……致命的なまでに相性最悪だぜ」

 

「同感ですねぇ。閉じ込めようとした瞬間、それごとぶった切られる気がしてなりません」

 

「いやいや、別に戦いにきた訳じゃないでしょ?」

 

「だから俺は安心して、この旨いカフェオレを飲めるんじゃねぇか」

 

「そうですとも。この紅茶を堪能できるのも、そのおかげ」

 

ーーーーーー

 

やっぱ濃い面子だった。

 

まあ、とにもかくにも……。

史上初めてとなる合同会議は始まったのだった。

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、突然のこと……ではなかった。

 

一部の知恵者は予測していたことだった。

覚悟していたことだった。

 

覚悟していたことだったのだ。

 

だが……極一部の者達を除いて……誰もが来てほしくないと思っていたことだった。

 

 

何が起こったのか、順に見ていこう。

 

 

ーーーーーー

 

その時、英国魔法省では一日の業務が終了しており……残っている者は残業か所用がある者しかいなかった。

 

警備が手薄になる時間だった。

そこを狙われたのだ。

 

魔法大臣スクリムジョールは、つい先日の戦いでマッドアイが戦死したという一報にやるせない気持ちを抱きながら、まだ残っている仕事を片付けようとしていた。

 

しかし、警備部からの襲撃の一報を受ける。

 

彼はまず、残っている職員に脱出を命じた。

そして帰宅済みの職員にこの一報を通達、多くの心ある者たちが事前の決め事に沿って移動を開始する。

 

自身は、機密資料などのヴォルデモートの手に渡ってはいけない書類を近くの暖炉に全て放り込む。

 

そしてそれを終えると、少しでも時間を稼ぐためにヴォルデモートに戦いを挑んだ。

 

しかし、相手はあのヴォルデモート。

 

数週間前に受けたダメージが回復しきっていないとはいえ、規格外な実力は健在。

 

奮戦虚しく、捕らえられてしまったのだった。

 

「私は……知らん」

 

スクリムジョールは息を荒くしながら、言う。

 

「知らんわけあるまい?貴様は魔法大臣だろう……?ならば、知っている筈だ。小僧の居場所を吐け!『クルーシオ(苦しめ)』!」

 

ヴォルデモートはハリーの居場所を何としても知るべく、スクリムジョールに『磔の呪文』を掛けていた。

 

しかし、スクリムジョールは吐かない。

 

既に状況は最悪。

自らの命は風前の灯。

 

だが、彼は既に己の職務をほぼ達成していると考えていた。

 

後は……『選ばし者』と『極東の死神』に任せ、自分は何も言わずにこの世から去る。

 

スクリムジョールの覚悟は、既に決まっていた。

 

「貴様の手を……彼らは分かっていた……今に後悔するだろう」

 

後は、頼んだ。

 

スクリムジョールはそう思い、緑の閃光を受けた。

 

ーーーーーー

 

その時、ビルとフラーの結婚式は大賑わいだった。

 

既に一定の儀式は終了しており、会場はパーティーに変わっていた。

 

モリーは終始泣き、アーサーは終始笑顔。

 

チャーリーやパーシー、フレッド・ジョージ、ロンやジニーたちはビルに対し歓声を上げていた。

 

フラーとの縁で来ていたクラムや、戦いが終わったら結婚を考えているというセドリックとチョウも来ていた。

 

シリウスなどは双子やルーナと交じって、宴を盛り上げていた。

 

ハーマイオニーも笑っている。

 

この光景を、ハリーは噛みしめていた。

 

ここ最近は思い詰めているような表情をしていたリーマスは、トンクスと共に幸せそうに笑っている。

 

実は……去年の夏ぐらいから、リーマスとトンクスは良い仲になっていた。

 

両者はお互いに両想いの関係だったが、リーマスの体質(狼人間)などが話を拗らせる。

 

約十三歳という年齢の差。

リーマスの体質故の差別、貧困。

 

リーマスは「自分は彼女に相応しくない」と考え、自ら危険な任務に行ってしまう。

 

トンクスはというと、自分が原因で死の道に進んでいることに絶望し、塞ぎ込むようになってしまう。

 

しかも、その影響で七変化の能力が使用できなくなり、性格も別人のようになってしまった。

 

このままでは誰もハッピーになれない。

 

しかし、あることがきっかけで二人は接近する。

 

ビルがグレイバックに噛まれ、人狼の影響が出るだろうと予想されても、フラーの想いは変わらなかったのだ。

 

トンクスはこれに勇気づけられ、リーマスに再度告白。

 

リーマスはその場ではまた断っていたが、親友であり盟友でもあるシリウスが拳を振るい(「ばっかやろーが!」)「お前はいつまで、そんなふわふわした問題に囚われてるんだ!いい加減、彼女を見てあげろ!」と説得をした。

 

目撃したハリー曰く「何処かで見た魂の説得(物理)」と言った説得だったが……多分功を奏し、二人は結ばれたのだ。

 

このような経緯もあって、二人は幸せそうだった。

 

他にも、色んな人に会えた。

 

ショウとライカが来れなかったのは、本当に残念だったけれど。

 

ハリーがそのように平和を噛みしめていた時、青白い何かが空から降って来た。

 

ハリーはそれが守護霊(パトローナス)だと直ぐに分かった。

 

そして、大きな不安と嫌な予感に襲われた。

それは正解だった。

 

「魔法省が陥落した。スクリムジョールは死んだ。連中がそっちに向かっている。警戒を……」

 

キングズリーの声だ。

 

魔法省が……陥落⁉

 

さっきまで浮かれていた会場は大パニックになった。

 

「ハリー!逃げろ!」

 

シリウスが叫ぶ。

 

「「ハリー!」」

 

ハーマイオニーとロンが叫ぶ。

ハリーは二人と合流する。

 

直後、死喰い人達が会場に乱入する。

 

「行け!行くんだ!」

「我々のことは気にするな!」

 

シリウスとリーマスの言葉を背に、三人は姿晦ましをした。

 

ーーーーーー

 

運命の一報が届いたその時、日本では日米合同会議の真っ最中……では無かった。

 

日本とイギリスとの時差は八時間。

 

その為、例えばイギリスの二十一時に騒動が起きた場合……それが即座に日本に伝わったとしたら、その時日本は朝の五時なのだ。

 

それに起こった事が起こった事。

 

その情報の精査や、そもそも現地が報告するのに最低でも一時間は経過する。

 

これでもし国際フクロウ便でも使おうものなら、時間は更にかかる。

 

もっとも、情報の発信者は英国魔法省に駐在していた日本魔法省の外務部の人間であり、彼らは日本魔法省へ国際電話という形で発信したが。

 

兎にも角にも……。

 

「一大事にございます!」

 

「ふぁああ、おはよう。どうしたの?襲撃?」

 

「英国魔法省、陥落とのことです!」

 

「な、なんだと⁉」

 

刀原が第一報に触れたのは、朝の六時だった。

 

 

 

「詳細は?」

 

「現地の情報によりますと……。ロンドンにある英国魔法省が、ヴォルデモート率いる連中の襲撃にあったとこのこと。また、具体的な死者等は不明ですが……英国魔法大臣、ルーファス・スクリムジョール殿は亡くなったとのこと」

 

「うむむ……」

 

「予想自体はしていたけど……こりゃあ、えらいことになったね」

 

朝の八時だというのに開かれた緊急会議は、重苦しい雰囲気に包まれていた。

 

日本を代表する知恵者……刀原、京楽、浦原、藍染にとって、英国魔法省の陥落はありえる話として考えられていた。

 

しかし、まさかここまで早いとは思わなかった。

 

「しかし……どちらにしても今は動けないのでは?我々は賊軍の相手をしなくてはいけませんから……」

 

「左様、今は向こうの出方を伺うしかあるまい」

 

卯ノ花の言う通り、護廷十三隊たちは賊軍という敵がいる。

 

油断ならぬ敵であるが故に、英国へ主力を送る訳にはいかない。

 

だから元柳斎の言う通り、向こうの出方を伺うしかない。

 

なんの結論が出ないまま時間は過ぎ……二時間も経てば、続報が次々とやって来る。

 

「英国魔法大臣の後任はパイアス・シックネスとのこと」

 

「英国魔法省から『国内情勢悪化に伴い、今後の派遣は取り止めるよう』とのこと」

 

どうやら英国の新政権は、ヴォルデモートの傀儡になったらしい。

 

「おそらくホグワーツへの派遣は切られるね。それどころか、手出し無用と言われかねない」

 

「新大臣はヴォルデモートの息がかかった者だと考えられます」

 

そう言った京楽と藍染の指摘が当たった証拠だった。

 

「不干渉の原則を盾にされては……アタシらだけじゃなく、各国も手出し出来なくなるっす」

 

「そうやって各国が手出し出来ない状況を利用して……ヴォルデモートは内部の敵対者達、ハリーや不死鳥の騎士団を殲滅する腹かと。そうすればヴォルデモートの打倒はめんどくさくなります」

 

護廷十三隊の知恵担当達が頭を捻る。

 

「英国に関する例の備えは?」

 

「首尾が上手く言っていれば、今頃準備をしてるとは思います……。せやけど、如何せん昨日の今日の話なんで、時間がかかると思います」

 

元柳斎の問いに市丸は言う。

 

「問題はハリー少年だね。ダンブルドアがこちらにいる以上、ヴォルデモートは絶対に彼を消したい筈だ」

 

「彼とてそう簡単にやられるような実力ではありません。初動さえ間違えていなければ、姿を隠せるだけの準備はあります」

 

浮竹が心配そうに言えば、雀部が多分大丈夫だと思うと言う。

 

彼にはハーマイオニーを始めとした頼れる友がいるし、シリウスやリーマスと言った大人たちも付いてる。

 

そう易々とやられるような奴じゃない。

 

「おめおめと構えていれば、いずれ英国が蹂躙されてしまう。そうなれば世界の危機。出来るだけ早急に動くべきだと、私は思う」

 

「白哉の意見にに賛成じゃ。破面の連中のこともある。手が出せるのは、わしらだけじゃろう」

 

「そうは言うがな四楓院隊長、賊軍のこともある。日本を疎かには出来ぬ」

 

「狛村隊長の言う通りです。ですが、我らが動かなくてはならないのも事実……。ここは外部の動きも聞いてみては?」

 

「それもそうだねぇ……ハッシュヴァルト殿、米国の動きは?」

 

「米国もかなり混乱しているとの報告です。それと……米国魔法議会は、とりあえず静観の構えとのこと。向こうから派遣に関する要請が無い以上、魔法議会や我らは動けません」

 

「そうだよね……」

 

会議は進むが、結論は出ない。

 

 

 

 

「…………よし」

 

考えをまとめていた刀原が決心したかのように頷き、前に出る。

 

「皆様方。ここはやはり、賊軍を先に仕留めるべきです。賊軍と決戦をし、これを撃破。その後、最小限の者を日本に残したうえで欧州に移動。主力でもってヴォルデモートと破面を倒す。これしかないかと」

 

刀原がそう言えば、多くの者が頷く。

 

「彼らが決戦に乗ると思うかい?」

 

浮竹が聞く。

 

「奴らの主導者は腐った貴族です。奴らはプライドだけはいっちょ前なので、挑発すれば必ず乗ってくると思います」

 

「乗って来るじゃろうな……じゃが、入念な下準備が必要じゃ」

 

「こちらの準備も考えると、決戦は十二月あたりになるかと」

 

「そのくらいじゃろうな」

 

夜一が刀原の答えに頷きながら考える。

 

「英国はどうする?その間にハリー少年等がやられてしまうのでは?」

 

「ハリー達や不死鳥の騎士団も、そう簡単に倒れるような人達ではありません。例の組織が発足すれば、ですが……」

 

狛村の問いに刀原は多分大丈夫だと答えつつ、市丸の方をちらりと向く。

 

「それについては問題あらへんで。さっき、僕のとこに連絡があってな。最終調整に入ったらしいわ。正式発足は二週間後らしいけどな」

 

「それは良かった」

 

市丸は側にいる松本から貰った紙を見ながら言う。

 

「例の組織?」

「なんだそれは?」

 

詳細を知らされていない者達が疑問する。

 

「いやぁ……本当はこうならないで欲しいとは思っていたんだけどね?僕たちはこの事態をある程度、予測していたのさ」

 

京楽は腕を袖にいれながら言う。

 

「そこでアタシらは……英国魔法省と仏国魔法省と連携して、こうなった時の為の組織を構想してたんす」

 

「京楽隊長、浦原隊長、私、市丸大臣、刀原隊長、そしてダンブルドアとスクリムジョール大臣で考えたのです。フランスはダンケルクに、ある組織を作った方が良いとね」

 

「お陰で外務部はてんてこ舞いやったけどな」

 

浦原、藍染、市丸が順に言っていく。

 

「この事態を考えて作った?まさかそれって……」

 

雀部が答えを察する。

 

「そう……『亡命政権(自由英国魔法省)』だよ」

 

刀原はしたり顔でそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
流石の刀原達も、結婚式に参列したことはなかった。

 

しかし、だからと言って下手な物を送っては、二人の沽券やメンツに関わる。

 

そのため、それなりの格を持っており……結婚している人物や、その手の話に詳しそうな人に話を聞くことにしたのだ。

 

花や贈る品に関しては、四楓院家や朽木家御用達の店を紹介してもらい、見繕ってもらった。

 

ご祝儀を幾ら出せばいいのかに関しても、結婚している朽木白哉や、経験豊富な京楽などに聞いた。

 

二人は失念していた。

 

参考にした人は、いずれも上級貴族だったり五大貴族だったことを。

 

彼らの金銭感覚は麻痺していた(常識ではない)ことを。

 

また、刀原も雀部も隊長職に就いている以上……金銭的余裕があったからだ。

 

「喜んでもらえただろうか?」

「多分、大丈夫だと思いますけど」

 

なお、この数年後。

 

ハリーたちの結婚式で、二人は再び色んな意味でやらかすことになる。






戦争に勝つために備えるなんて

みんなやってること

負けたら死ぬ

死なない為に頑張るなんて当たり前でしょ。



この小説もいよいよ最終章。

ハッピーエンドを迎えるべく突き進みます。


アンケートにご協力頂き、ありがとうございました。

刀原参加ルートが想像以上に多かったので……どうしようかと、まだ悩んでます。

と言うか……。

既にカップ破壊してグリンゴッツ行く必要無いし……そもそも旅を行う必要あるのか!?

うーん……刀原君、君やりすぎ。


この小説でも映画でもいまいち影が薄いですが……原作では、ルーピンとトンクスの仲はかなり拗れます。

ハリー側だと分かりづらいですが、狼人間は迫害されますので。
そして漸くくっついたと思った矢先……。

でも大丈夫。

君達を倒す敵は、既に逝ってるからね☆


アニメで動く零番隊、マジカッコ良かったです。
この小説でも出番の検討を……。

でも親衛隊、テメーらはダメだ。

ホグワーツが滅茶苦茶になるだろうが!
絶対に英国には行くなよ!

絶対だぞ!フリじゃないぞ!

あとユーハー、オメーもな。
間違っても「この隙に……」とか思うなよ。



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ありがとうございます。
そしてお待ちしております。



では次回は

亡命とロケット

次回もお楽しみに。




おまけ

で、ロケットどうすんの?
カエルは既に死んでるぜ?

殺さなきゃ良かったか……?
でも殺りたかった。





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死神、外交をする。亡命とロケット



既に死んでいる私は

最後まで罪と向き合い

そして精算する

屍になろうとも。







 

 

時は第二次世界大戦の最中。

 

ナチスドイツによって本国を奪われてしまったフランスやオランダといった国々は、連合国側で一番近くにあるイギリスに『亡命政府』を作り、本国奪還を目指した。

 

一度でも第二次世界大戦を調べたことのある者であれば、『自由フランス』とか『亡命政権』とかを見聞きしたことと思う。

 

え、何故こんな歴史の(眠くなるような)話をしたかって?

 

かつて本国をナチスに取られたフランスがイギリスに亡命政府を作ったように……政権をヴォルデモートに支配されてしまった英国魔法省が、ブリテン島の玄関口となっている仏国のダンケルクに亡命政権を作ったからだ。

 

 

 

京楽、藍染、浦原、刀原は、ダンブルドアが英国から……『一時的(亡命)』か『永遠に(死亡)』かは置いといて……いなくなることになった場合、英国魔法省が陥落する可能性はかなり高いと考えていた。

 

そしてそれはダンブルドアや、英国魔法省が如何に腐っているかを知っているスクリムジョールも、内心で考えていたことだった。

 

ーーーーーー

 

少なくともさ……。

馬鹿打倒へのヒントだの備えだの、分かりやすく用意しとけや。

 

自分がいなくなった時に……「後はよろしく!頑張ってね!」的な感じで投げたまんまにする気か?

 

は?バレたらマズイから?

 

それであいつらが分かんなかったら、ダメだろうが。

 

自分がどれだけでかい存在か分かってんのか?

 

ああん?

 

ーーーーーー

 

言い訳はいらん。

 

様は頭を下げたくないんだろ?

 

先の大戦では手ぇ結んだくせに。

こっちからは嫌だってか?

 

んな道理が通るか。

ちゃちなプライドなんて捨ててしまえ。

 

英国が取られたら世界の危機なんだぞ?

状況分かってんのか?

 

ああん?

 

ーーーーーー

 

言っておきますがね……。

 

ヴォルデモートが英国を制覇した後、次の標的は間違いなく貴方々です。

 

ドーバー渡れば直ぐですからね。

 

アルデンヌの森を突破された時の(フランス侵攻→一ヶ月で陥落)ようにならなければいいですけど。

 

ねぇ?

 

そこのところ……分かってます?

 

ーーーーーー

 

実際にこういったやり取りが……あったかどうかは定かではないが……。

 

交渉役としてダンブルドアと英国魔法省と現地の仏国魔法省を説き伏せ、日本魔法省外務部と協力して樹立の用意を整えた刀原の苦労は半端なかった。

 

そしてその苦労は、形となって報われる。

 

「例のあの人によって、英国魔法省は支配されました。新大臣こそ前魔法執行部部長のパイアス・シックネスですが、彼が例のあの人の傀儡である事は明白であります。よって、不当に奪われた政権を奪還すべく、我々は『自由英国魔法省』の設立を、ここに宣言するものであります」

 

フランスのダンケルクにてそう宣言したのは、バーテミウス・クラウチだった。

 

例のあの人の勢力と長年に渡り戦ってきた彼ならば、亡命政権を引っ張っていけると多くの人々に支持されたからだ。

 

もっとも、彼にとってはこれが祖国や恩のある人達に対する最後の奉公と考えていたが。

 

兎にも角にも。

 

『亡命政権』は正式に発足し、ドーバーを越えて逃げてくる魔法使いたちの受け皿になることに成功したのだった。

 

 

 

 

 

 

「お久しぶりになりますな、トーハラ殿」

 

「とりあえず無事に発足出来て良かったですね、クラウチ臨時魔法大臣」

 

亡命政権が発足してから一週間後。

 

刀原は仏国にて、クラウチとの会談に臨んだ。

 

日米合同会議が一通り終わったので、急いでフランスへとやって来たのだ。

 

「クーデターは円滑に、ほぼ沈黙に近いうちで行われました。前大臣が膿を出していなければ、我々は全く気が付かなかったでしょう。事を早急に知らせた当直の警備員と前大臣のおかげです」

 

クラウチはくたびれた様子を隠せずに言う。

 

「無論、貴国の働きも非常に大きい。貴方々が調整を手伝ってくれなければ、この状況は成しえなかった。改めて、深い感謝を」

 

クラウチはそう言って頭を下げる。

 

「我々日本にしても、英国魔法省が乗っ取られ続けることは好ましくない。……全ては平和のためです。日本魔法省外務部部長 痣城双也*1殿もそうおっしゃっていましたよ」

 

刀原がニコリと笑いながら言えば、クラウチは再度「ありがとうございます」と言って顔を上げる。

 

「では早速ではありますが……英国の情勢を、教えていただけますでしょうか」

 

そしてこの刀原の言葉をもって、会談は本格的にスタートした。

 

 

 

「まず、毎年ホグワーツに派遣していた遣英救援部隊に関してですが……ロンドンからは断られました」

 

「やはりですか、まあそうでしょうな」

 

「こちらはどうですか?」

 

「本音で言えば是非にと言いたいのですが……ホグワーツの実権も向こうに行ってしまった以上……申し訳ないのですが、慎重にならざるえません」

 

「左様ですか」

 

「ええ……。ただ、我々と不死鳥の騎士団との繋がりは未だ健在です。先日、ウィーズリー家の方々がいらっしゃいましてな。もっとも、夫妻とパーシー殿だけですが」

 

「ああ、なるほど」

 

ってことは……。

結婚したばかりのビル、ルーマニアのチャーリー、ダイアゴン横丁で店を構えている双子、多分ハリーといるロン、学校に行くであろうジニーは来てないと。

 

「そして、不死鳥の騎士団との会談で決定したことがあります」

 

「決定したこと?」

 

「反攻は、ハリー・ポッターが動いてから……と」

 

「なるほど……では我々はそれまで待ちですか」

 

「申し訳ないのですが、そのようになります」

 

クラウチは申し訳なさそうに言うが、刀原は内心でガッツポーズをしていた。

 

直ぐに反攻作戦を始めるとなった場合、こちらが定めたタイムスケジュールが大幅に狂ってしまうからだ。

 

「分かりました。それと……ホグワーツに関してはどうなっていますか?

 

「残念ながら詳細はまだ……」

 

ホグワーツの話題に関しては、まだ情報を得ていないらしい。

 

クラウチがそう言い淀んだ時、ドアがノックされ、人が入って来る。

 

秘書官と思しきその人物は、刀原に向けてお辞儀をした後……クラウチに新聞を渡す。

 

「……ちょうど来ました。ホグワーツの情報です」

 

クラウチはそう言って新聞を渡す。

 

刀原はそれを見て、思わずニヤッと笑ってしまう。

 

『セブルス・スネイプ氏 ホグワーツ校長に就任』

 

新聞にはこう書かれていたからだ。

 

「スネイプは、確か死喰い人……」

 

刀原の笑みを不審に思ったクラウチがそう言うと、刀原は首を振る。

 

「いいえ。彼はこちら側の人間ですよ。ダンブルドアの命で二重スパイをしているんです」

 

ダンブルドアとスネイプだけが知っていたその情報は、今や騎士団の殆どが知ることだった。

 

シリウスやリーマス、マクゴナガルやフリットウィック、ハリーやハーマイオニーに至るまで。

 

多分DAの面々にも『スネイプは味方』と伝わっているかもしれない。

 

ってか、ネビルとジニーとルーナには俺が伝えたし。

 

ハリーはスネイプの見方を大幅に変えたし、複雑だけどその勇気は尊敬に値するとこっそり言っていた。

 

「彼がホグワーツの校長となれば、少なくともホグワーツは安泰です」

 

刀原は、にこやかに言う。

 

しかし、クラウチにはまだ懸念事項があるらしい。

 

「しかし、新たに教授となるカロー兄妹は死喰い人です。彼らが……」

 

「確かにそれは心配ですが、多分問題にはあまりならないかと……」

 

「何故です?」

 

「……ガマガエルという前例があるからです」

 

刀原は何かを察したようにそう言った。

 

何処ぞの誰か(去年ホグワーツで最も忙しかった人)によって鍛え上げられた(魔改造された)者達を筆頭に……あの抗議運動(反アンブリッジキャンペーン)を知っている生徒達が、簡単に屈するとは考えられないのだ。

 

むしろ、「この機に乗じて『悪ガキ大将』の座を奪ってやるぜ!」とか「死喰い人?つまり叩き放題ってことですよね?」とか「第二次ネガキャン祭りの開始だ!ヒャッハー!」とか……やるかもしれない。

 

多分、挙寮一致体制とか作られるんだろうな……。

 

大丈夫かな、スネイプ……多分胃痛の一年になるんだろうな……。

 

「ゲリラ戦法とか……三交代で休みを与えぬ攻めとか……教えなきゃ良かったかな……?」

 

刀原はボソッとそう言った。

 

俺は悪くない。

 

悪いのはあいつらだ。

俺は期待に応えただけだ。

 

ダンブルドア(自分を教授に推薦した奴)ヴォルデモート(そもそもの根本原因)と言うあながち間違ってもいない相手に、刀原は責任転換した。

 

 


 

 

時系列は少しだけ遡る。

 

 

招かれざる客(死喰い人達)の乱入によって、結婚式はめちゃくちゃになった。

 

そして、キングズリーの警告のおかげで窮地を脱したハリーとロン、ハーマイオニーは、ロンドンのトテナム・コート通りに姿現しをした。

 

ハーマイオニー曰く「マグルの町にいた方が比較的安全だと思った」らしいが、何故かハリー達は死喰い人二人の奇襲を受けた。

 

これをなんとか返り討ちにした三人は、次にグリモールド・プレイスに移動する。

 

騎士団の本部だった場所だし、なりよりシリウスがいるかもしれないからだ。

 

三人は誰にも見つからないようにグリモールド・プレイスの玄関に辿り着き、そして入った。

 

中には誰もいなかった。

 

室内は荒らされた後があり、誰かが家探ししたことしか分からない。

 

その晩は三人一緒になって眠った。

 

そして朝になると、家主がやって来る。

 

「ハリー!良かった、無事だったんだな。もしかしたら、ここにいるかもしれないと思ってね……。私の勘も捨てたものじゃないな」

 

シリウスは満面の笑みでハリーを抱きしめ、ハーマイオニー達ともハグをする。

 

「……随分と荒れているな」

 

あまり居たくはないとはいえ、自らの家が荒れていることにしかめっ面をした。

 

「まあいい。さて……お互いの無事を確認したところでだ。ハリー、君は今後どうするつもりだ?」

 

そしてシリウスは真剣な顔でそう言った。

 

 

 

 

ハリーは非常に悩んだ。

 

ショウ達は日本で決戦をすると言っていた。

だからショウ達の力を借りる為にも、動くのはまだ早い。

 

ハリーとしてはその間に分霊箱を探し、出来る限り見つけて破壊しておきたい。

 

幸いにも、場所はある程度把握出来ている。

 

ヴォルデモートの傍にいる蛇。

 

多分髪飾りと思われる分霊箱は、おそらくホグワーツに。

 

そして最後の一つ、ロケットは『R・A・B』が鍵になる。

 

蛇はちょっと無理だとして……。

ホグワーツにあるやつは……ルーナやジニーを通して、今年ホグワーツに行くDAのメンバーに探してもらう手筈になっている。

 

残るはロケット。

これさえ手に入ってしまえば……。

 

問題は『R・A・B』

 

誰だかさっぱり分からない。

 

多分裏切った死喰い人かと思い、マルフォイに聞いてみたが……答えは芳しくなかった。

 

シリウスに聞けば、言えば、必ず事情を聴かれる。

 

それは……。

 

「実を言うとな……。騎士団は、ダンブルドアが君にある使命を与えているのではと考えている。それはおそらく、あの人を倒す鍵になるだろうとも」

 

考えているハリーに対し、シリウスはそう言う。

 

「秘密は守る。私以外に言うなと言うなら、例えリーマスでも言わないと誓おう。どうか……私に打ち明けてくれないか?君の名付け親として、君の力になりたいんだ」

 

シリウスは真っ直ぐ、ハリーを見ていた。

 

その目は、時々ショウやライカが見せていた優しい目……ただ僕の為に言っているのだと分かった。

 

「でも、その……」

 

秘密にしなければ……。

 

ハリーはそこまで思って、ふと思った。

 

今更じゃないか?

 

ハーマイオニーやロン、ショウやライカは、事情を全て知っている。

 

分霊箱と明言こそしていないが、「ヴォルデモートを倒すのに必要な物なんだ」と言って、ネビルだのジニーだのルーナだのマルフォイだのチョウだのに教えているんだ。

 

これで大人……しかもシリウスに教えないなんて、そんな話があるか?

 

いや、無い。

 

万難を排して万事を尽くせ。

それが勝利への道だ。

 

ショウやライカが言っていたことじゃないか!?

 

それに……あんな目をするシリウスに、隠し事なんてしたくない。

 

「……分かった」

 

ハリーは頷く。

 

「……いいのかよハリー?」

 

ロンは言う。

 

「だって、今更じゃないか。正体こそ(分霊箱とは)言ってないけど……ネビルやジニーやルーナとかに、もう教えてるんだ。ショウとかライカには全部言ってるし……それこそ二人にも教えてる。今さらシリウスに内緒にしたって意味ないよ」

 

ハリーは割りきった様に言う。

 

「そうね。秘密を貫いて分かんなかったり、探せなかったりしたら……それこそ本末転倒よ」

 

ハーマイオニーも肯定的に言う。

 

「……話してくれるのかい?」

 

「うん。でも約束して欲しい……誰にも言わないって。教えるのはシリウスだけだ」

 

ハリーが見せたこともない程に慎重な様子に、シリウスはただならぬ事だと察する。

 

「……分かった。ジェームズやリリーとの絆にかけて、死んでも言わないと誓う」

 

そして、真面目な顔でそう言ったのだった。

 

 

 

 

 

 

ハリーから事の詳細を聞いたシリウスは、その内容に驚愕し……そしてハリー達がなぜ秘密にしたがったのかを理解した。

 

ヴォルデモート(頭のイカれた魔法使い)の根幹に関わる内容であり、あまりに非人道的な所業を。

 

ホグワーツが襲われた(天文台の塔の戦いの)あの日……僕とダンブルドアは、その分霊箱を取りに行ったんだ。でも、偽物だったんだ」

 

ハリーは偽物のロケットを見せながらそう言った。

 

「うーん、何処かで見たような気が……」

 

心当たり無い?と言われて手に取ったロケットを観察しながら、シリウスはその『何処か』を思い出す為に唸る。

 

「それと……中にはメッセージもあったんだ」

 

シリウスが頭を悩ましているのを見たハリーは、何かのヒントになればと思い、RABからのメッセージを見せる。

 

「RAB?」

 

メッセージを読み終えたシリウスは、そう言って考え込む。

 

「いや、そんなまさか……だが……」

 

シリウスはそう呟きながらロケットを眺める。

 

「シリウス?」

 

ハリーやハーマイオニーはそう考えこんでいるシリウスに、心配そうに言う。

 

しかし……シリウスはそれに答えずに立ち上がって屋敷を歩き始め、ハリー達は慌ててシリウスを追いかけた。

 

シリウスが立ち止まった場所は、とある一室の扉の前であり……彼は意を決したような顔で部屋を入った。

 

ハリー達はその扉を見て驚いた。

 

扉に書かれていた名前が『レギュラス・アークタルス・ブラック』……RABだったからだ。

 

少しの時を置いて、シリウスは部屋から出てくる。

 

出てきたシリウスは思い悩んだ顔だった。

 

「……クリーチャー!」

 

そして、シリウスはあれだけ忌み嫌っていたクリーチャーという屋敷しもべを呼んだのだった。

 

 

 

ハリーはクリーチャーからRAB……レギュラス・ブラックが行った事を聞いた。

 

自身が愛する屋敷しもべ(クリーチャー)を使い捨ての駒様に扱ったヴォルデモートに失望し……聞いた内容から、クリーチャーが関わったのはヴォルデモートの根本に関わる重大な何か(分霊箱)だと判断したこと。

 

クリーチャーにその場へと案内させ、ダンブルドアと同じ様に毒薬を飲み……そして死んだ事を。

 

「馬鹿な弟だった……だがあいつは、最後に自分の信じる道を選んだんだな」

 

自身が想像していたものとは違う弟の最期に、シリウスは戸惑いを隠せていなかった。

 

「これで頭のイカれた魔法使い殿(ヴォルデモート)は親友の仇であると同時に、血分けた兄弟の仇になった訳だ」

 

それでも気持ちを新たにしたシリウスは……そう固く決心し、クリーチャーに向き直る。

 

「クリーチャー……今まですまなかった。親友と弟の仇を取る為にも…私にレギュラスが手に入れたロケットの在処を教えて欲しい。この通りだ」

 

そう言って頭を下げたシリウスに、クリーチャーも戸惑いを隠せていなかった。

 

しかし、やがてしっかりと頷くと……搾り取る様な声で「申し訳ありませんご主人様。あのロケットは……盗まれてしまいました」と言った。

 

「ぬ、盗まれただと!?それは……もしかしなくとも屋敷が荒らされていることに関係があるな?盗んだ奴は誰だ」

 

「マンダンガスです。マンダンガス・フレッチャー」

 

あ、あいつか……。

 

ハリー達は、あまり想定外とは言えない下手人の正体にそう反応した。

 

「……ではクリーチャー。私達にとっても、そしてレギュラスにとっても大切なロケットを盗んだマンダンガスを捕らえて、ここに連れてきてくれるか?」

 

盗人の正体を予測していたシリウスは、そうクリーチャーに依頼した。

 

メッセージが入っていたブラック家のロケットを『今までの苦労の褒美』として与えた上で。

 

それにクリーチャーは感激し「必ずや盗人めを捕らえてご覧に見せます!」と意気込みながら出ていった。

 

そして見事捕らえることに成功したクリーチャーは、マンダンガスをハリー達の元に引き渡したのだった。

 

 

そして、時系列は戻る……。

 

 


 

 

ハリー達はマンダンガスから受け取った情報に、頭を抱えていた。

 

マンダンガスは既にロケット(本物)を手放して居たのだが……その相手が問題だったのだ。

 

ーーー

 

無料(タダ)でくれてやったんだよゥ」

 

「くれてやった?誰に?」

 

「魔法省の役人だよ。執行部の……ああ、今は大臣になってるんだったか?」

 

「パイアス・シックネスに!?」

 

「名前なんて知らねぇよ」

 

ーーー

 

ハリー達にとって、それは最悪な情報だった。

 

シックネスは、奴ら(ヴォルデモート陣営)の傀儡なのだ。

 

『パイアス、良いロケットだな?見せろ、いや寄越せ……な、これは!?』

 

なんて展開になってたら……ロケットを破壊するどころか、目にすることすら出来なくなる。

 

例えロケットが例のあの馬鹿(ヴォルデモート)に見初められていないとしても……大臣に接触し、ロケットを奪取するなど困難極まる。

 

ってか不可能でしょ。

 

例えポリジュース薬を使っても。

 

頭脳明晰なハーマイオニーやシリウスをもってしても、良い作戦は思い浮かばなかった。

 

いや、正確には思い浮かんではいるのだが……彼がその為に英国へと来てくれるとは思えなかった。

 

だが、神はハリー達を見捨てていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

仏国での会談を終えた刀原の姿は、ロンドンの英国魔法省にあった。

 

実は来なくても支障は無いのだが……やはり一応国家同士のやり取りであるため、仕方なく来ることになったのだ。

 

何度も来ているためにほぼ顔パスになっている受付を終わらせ、刀原は約束の時間までアトリウムを眺めていた。

 

『魔法は力なり』

 

つい最近出来たと思われるその像はマグルの上に魔法族が君臨するかの様な構図で出来ており、新たな新政権《死喰い人》のイカれた思考がありありと示されていた。

 

あと、見ていて恥ずかしくなるぐらい悪趣味だった。

 

一方……刀原の背後に控えている三人の死神は、その像を苦々しい目で見ていた。

 

特に女性の死神は、まるで親の仇の様な目をしていた。

 

過激な交渉(武力行使)をしに来たんじゃない。いくらアレな趣味とは言え、先方の趣味を睨んだら駄目だろう?」

 

刀原がそうやんわり諌めれば、「ごめんなさい」と言ってその目を止めたが。

 

「トーハラ殿、お待たせした」

 

刀原達がそんなやり取りをしていると、銀髪をオールバックの三つ編みにした壮年の男性がやって来てそう言った。

 

「コーバン・ヤックスリー……」

 

刀原の背後に控える黒髪の死神が内心で睨む。

 

シックネスの政権下で法執行部部長になったこの男こそ……スクリムジョールが出しきれなかった膿の一つであり、シックネスに服従の呪文をかけた張本人(死喰い人)なのだ。

 

「いやいや、待ってなどいませんよ。新たに設置されたこの像を、どう報告したものかと思っていましたからね」

 

背後に控える三人の死神を他所に、刀原はいつもの笑みを浮かべながらそう言った。

 

「報告……ですと?」

 

「ええ。いま考えている最初の文言は『噂は本当だった』でしょうかねぇ?パリ、ベルリン、ローマ、ニューヨーク、東京……等々。僕の報告を待っている場所が多くて大変ですよ」

 

刀原はニッコリと嗤う。

 

この像が、()が本当だと言う証拠だ。

各国はそれを知りたがっているし……この像だけで英国魔法省は陥落した(ヴォルデモートの政権になった)と信じる。

 

分かりやすい証拠をありがとう。

 

刀原は暗にそう言っているのだ。

 

「ああ、失礼。時間も無いことですし、新魔法大臣を待たせる訳にもいきませんな。さっそく行きましょう」

 

ヤックスリーはこの瞬間、会談が一方的なものになると思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1

日本魔法省外務部部長 痣城双也。

 

外交が弱いと言われていた日本を外交から強くしようと、隊長職を放り投げてまで外務部に移籍した人物である。

 

ここ最近は米国や近隣諸国との探り合いで忙しく、外交を担わない筈の刀原に欧州方面を任せることを申し訳なく思っているらしい。

 






死に様は、その者を写す鏡

どう生き、どう死ぬか

私はそれを決めた。




刀原が周囲の運命と思考を変えまくった影響が一気に。

そして状況は、どんどん悪くなっていきます。
誰のとは……あえて言いませんが。



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ありがとうございます。
そしてお待ちしております。


では次回は

布告と逃亡

次回もお楽しみに。





おまけ


駄目だなぁヴォルデモート君。
権力の示し方がやり方が下手っぴさ。

そんな像作ったら。

「僕が政権を握ったぞ!」って。

内外に知られちゃうだけ。

隠したいなら、きっちりやらなきゃ。

コツコツ頑張った者に、未来は来るんだよ。


ま、頑張ったとしても……。
君の未来は来ないんだけどね。





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死神、布告する。逃亡



さあ

開戦と行こうじゃないの。








 

お初にお目にかかる。

 

その言葉と共に始まった刀原とシックネスの会談は、一方的にもほどがあった。

 

服従の呪文によって芯がない状態のシックネスに……ファッジ、スクリムジョール、アンブリッジ、ダンブルドア、京楽、藍染といった面々と論戦と腹の探り合いをしてきた刀原の相手は務まらなかったのだ。

 

一応、ヤックスリーはこの状況を半ば想定していた。

 

そしてそれを避ける為、アトリウムで刀原を何とか追い返す魂胆だった。

 

しかし刀原の『他国への報告(チクっちゃうよ?)発言』にどう返せば良いか悩んでいた隙を突かれ、まんまと会談の座に引き摺り込まれてしまったのだった。

 

というか……これは会談なのだろうか?

 

「貴方の後ろにいる方に聞いて……いや、決めて貰ってはいかがです?」

「ハリー・ポッターが怪しい?何故?どうして?確固たる理由がなければ、我々は納得しませんよ?」

 

これはまだ良かった。

 

「アトリウムにあった、あの悪趣味な像は誰のご趣味ですか?いや、指図するつもりは毛頭無いのですが……悪趣味で野蛮でイタい思考にもほどがあるので、止めた方がいいという親切心です」

 

絶対親切心ではない。

 

「そう言えば……ヴォルデモート卿はお元気ですか?この前、日本の列車に無断乗車しようとしてましてね?鉄道を愛する少年心は理解出来なくもないですが、無断で無賃でパスもビザもない状態では乗れないとお断りしたんです」

 

は?

 

「その際『嫌だ!俺様も乗るのだ!」と散々駄々を捏ねられまして……。仕方がないので緑茶と共にお帰り願ったのですよ。まあ、そのお茶を溢して大火傷したらしいですが」

 

貴様!

 

「ん?どうしましたかヤックスリー部長?まさか、あの『思考がイタい例の馬鹿』と何か関係が?」

 

ば、馬鹿だと……い、いや……なんでもない。

 

「そうですか。何やら言いたげな目つきだったので「我が君を侮辱するとは!許せん!」とか支離滅裂なことを言って飛び掛かってくると少し思いましたが……。流石にそんな、蛮族みたいなことしませんよねぇ?」

 

「と、当然だ」

 

「それは良かった。頭のイカれた魔法使いの『イカれた思想』に、魔法省執行部の部長ともあろう方が賛同しているはずありませんよね。当然、反対ですよね?」

 

「も、もちろんだ……」

 

こいつ、我々の立場を分かった上で話して(煽って)きやがる!

 

これが特記戦力の一角、ショーヘイ・トーハラか……。

 

ヤックスリーは、自身が仕える男が警戒する理由を身をもって知った。

 

そして刀原の背後に控えている三人の死神は、ドン引きしていた。

 

ここにくる前には「穏便に、平和的にね」とか言っていたのに、蓋を開けてみたらこんな感じだったのだ。

 

「さて、軽い雑談はこれくらいにして…本題に入りましょうか」

 

刀原は満面の笑みを止め、真顔になりながらそう言った。

 

「我々日本側は、フランスのダンケルクに誕生した『自由英国魔法省』をイギリスの正統な魔法省であると判断し……これを承認することになりました」

 

刀原の言葉に、ヤックスリーは「やはりか」と言う顔をする。

 

この様な声明を出してきた魔法省が、日本が初めてではなかったからだ。

 

ダンケルクに誕生した亡命政権の存在は、ヴォルデモート陣営にとって全くの想定外だった。

 

「まあ、ヴォルデモートの傀儡に成り下がった連中と付き合っていれば、同類だと思われるのでね。そんな屈辱を祖国に味合わせる訳にはいかないし……恥ずかしいですから」

 

「だ、黙れ黙れ!貴様言わせておけば!あの方を侮辱するなn「今なんて言った?」

 

刀原のわざとらしい言葉に、ヤックスリーは遂に我慢出来なくなった。

しかし刀原はその言葉を待っていた。

 

「やはりロンドンはヴォルデモートに支配されていたらしい」

 

刀原はやれやれと言った顔でそう言い、立ち上がる。

 

「では…現時刻をもって、我々日本はロンドンの魔法省との縁を切る。そして、ヴォルデモート陣営に対し……宣戦布告させて頂く」

 

そして堂々とそう宣言した。

 

「手始めに、傀儡となっているシックネスと死喰い人たるヤックスリーを撃破しよう。では三人とも……懲らしめてやりなさい」

 

先の宣言を受けて呆気に取られていたヤックスリーは、刀原の背後にいた三人が杖を抜いた事に気づくのが遅れてしまう。

 

そして瞬く間に吹き飛ばされたヤックスリーは、自分の目を疑ってしまう。

 

刀原の背後にずっと控えていた三人は、死神ではなく……ハリー・ポッターとその仲間達だったのだ。

 

ハリーはシックネスの首に掛けられていたロケットを奪い、退散する。

 

「ではヤックスリー部長殿。君のご主人様によろしく(覚悟しろ)と言っておいてくれたまえ」

 

刀原もそう言って立ち去っていく。

 

「く、クソが!」

 

ヤックスリーは煮え返りそうな頭を何とか我慢し、ハリー達を追いかけ始めた。

 

 

 

「やれやれ、何とか巧くいったな」

 

刀原は作戦通りにいったことに、概ね満足していた。

 

その作戦を知るために、時系列を少しだけ戻そう。

 

ーーー

 

ハリー達は、ロケットを持っている相手が魔法大臣であるシックネスである事実に頭を抱えていた。

 

ヴォルデモート陣営にとっても、最重要護衛対象である彼から、ロケットを奪取する。

 

その難易度は極めて高かった。

 

ハリー達が悩む中、ハーマイオニーが閃く。

 

「ショウなら……外交会談の名目でシックネスに近づけるんじゃないかしら」

 

度々スクリムジョール(前任の魔法大臣)と会談していた刀原なら、シックネスに容易く近づける……!

 

名案に見えたこの案だったが、問題があった。

 

「ショウは忙しいんだ」

 

そう、肝心の刀原がいない。

 

だが、神はハリー達の味方だった。

 

「やっぱここにいたかハリー。無事だったようで良かった……ん?なんだその『救世主来たれり!』みたいな顔は」

 

刀原がシックネス政権との最終交渉(宣戦布告通達)に来たついでに、ハリーが居そうなこの屋敷に来たのだ。

 

「なるほど……だいたい分かった」

 

ハリー達から事の詳細を聞いた刀原は、腕を組ながらそう言う。

考え込んでいる様子で、しきりに頷いたり首を振っているが。

 

「ついて来ても構わん。ただ口出しはすんなよ」

 

やがて脳内で考えがまとまったらしい刀原がそう言う。

 

「ありがとう!でも大丈夫?日本に迷惑がかからない?」

 

ハーマイオニーはそう指摘するが、刀原はカラカラと笑って「心配すんな」と言い放つ。

 

「どうせ決裂する会談だ。上からも好きにやれと言われてるしな」

 

刀原はニヤッとしながらそう言った。

 

ーーー

 

そして時系列は戻る。

 

目論見通り、ロケットの奪取に成功したハリー。

当初の予定通り、宣戦布告をした刀原。

 

両者が立案した作戦は見事に成功した。

 

しかし、最後の最後に計算が狂う。

 

「あれ?追ってこないぞ、あの三つ編み野郎」

 

刀原は首を捻った。

 

ワザと追いつかれるぐらいの速度で逃げてやったというのに、追手がやってこないのだ。

 

「おっかしいな。わざわざあんなに馬鹿に…じゃねぇや、煽って…でもねぇ。事実を述べてやったのに」

 

ヤックスリーは事実陳列罪をした(散々馬鹿にして煽った)刀原の方に行く……というのが、彼らの目論見だった。

 

目論見通りであるにも関わらず、ノコノコとやってきたヤックスリー。

 

それを正当防衛と称して返り討ちにし、ヴォルデモート陣営が政権を奪ったことに対して、ささやかながら花を添える(政権獲得おめでとう!これはお祝いの品だ!)つもりだったのだ。

 

「まさか、ハリーの方に行ったのか?」

 

刀原の勘は当たっていた。

 

ヤックスリーは烈火のように煮えたぎる頭を押さえ、ハリーの方に向かったのだ。

 

まあ、ヤックスリーからすれば……ほぼ確実に負ける相手より、多分勝てそうで手柄になる相手を追いかけるのは当然といえた。

 

「まあ、大丈夫だろう。奴ごときに遅れをとるような鍛え方してからな」

 

刀原は一抹の不安を抱えながらも、大丈夫だろうと思い……魔法省を後にした。

 

 

 

刀原が別ルートで逃走している中。

 

追手からの追撃を何とか捌きながら、ハリー達は入り口へと逃走していた。

 

当初の目論見通りではないが……想定はしていた。

 

あまり積極的に反撃も出来ないため、結局ハリー達は逃げの一手しか出来なかったが……それでも何とか出入口にたどり着くことに成功する。

 

しかし、ここで今までの幸運のツケが回ってくる。

 

ヤックスリーの急接近を許してしまったのだ。

 

ハリー達は、急いで出入口の暖炉へと飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

「あれ?ハリー達は?」

 

「いや、まだ帰ってきてないが」

 

ロンドン魔法省から戻ってきた刀原と屋敷に留まっていたシリウスは、共に首を傾げた。

 

もうとっくの昔に戻ってきてもいいハズのハリー達が、いつまで経っても戻ってこないからだ。

 

「目論見通りにいかなかったとは聞いていたが…。まさか捕まったのでは!?」

 

シリウスの脳裏に最悪のシナリオが浮かぶ。

 

今ここでハリー達が捕まる様なことが起これば、全てが瓦解する。

 

何より……シリウスにとってハリーは息子同然。

絶対に失いたくない。

 

やはり共に行くべきだった。

 

あの子に何かあったら、私はあの世でジェームズに顔向け出来ない……。

 

「落ち着けシリウス」

 

シリウスの悲痛な顔を見た刀原が、静かにそう言う。

 

「あいつらが捕まったのならトップニュースだ。英国中に号外が配られる。だがそれが無いってことは、少なくとも捕まってはいないはずだ」

 

「そ、そうだな」

 

刀原の言葉にシリウスはゆっくりと頷く。

 

その様子を見た刀原が頷き返すと、直後に刀原が持つ伝霊神機が鳴り響く。

 

【どうした?】

 

【見張りの者からの報告です】

 

それは、グリモールド・プレイスの周りに張り付かせている見張りの者からだった。

 

【ハリー・ポッター以下二名、一度はグリモールド・プレイスの玄関前に現れるも、直後に再度姿晦ましした模様。確固たる原因は不明なるも、追手を撒くためと思われます】

 

【再度姿晦ましした?追跡は?】

 

【何せ瞬時の事でしたので……】

 

【そうか…それは、仕方ねぇな。ではすまんが、捜索に当たってくれ。安否だけでも知りたい。期間は一週間。発見出来なかった場合は、中止して帰還せよ】

 

【畏まりました】

 

刀原はそう指示して通話を切る。

 

「いったいなんだったんだい?」

 

通話が日本語だったために内容が理解出来なかったシリウスが、困り果てた顔でそう言った。

 

「ああ……えっとな……」

 

刀原はそうだったと言うような顔をして、シリウスに報告内容を伝えたのだった。

 

 

 

結果から言えば、ハリー達は見つからなかった。

 

隠密機動の不手際とかではない。

 

彼らが、刀原が知らない場所(クィディッチ・ワールドカップ会場跡地)に行ったこと。

 

雀部に仕込まれたハーマイオニーが、いち早く結界を張ったこと。

 

それらが原因である。

 

「申し訳ございません」

 

「大丈夫、大丈夫。貴方達に見つからないって事は、死喰い人達には絶対に見つからないって事だから」

 

隠密機動に、刀原はそう言った。

 

 

 

 

刀原がヴォルデモート陣営に宣戦布告し、ハリー達が意図せず逃亡生活を送り始めた頃。

 

ホグワーツでも仁義なき戦いの幕が上がっていた。

 

ヴォルデモート陣営がロンドン魔法省を掌握した……それは同時に、ホグワーツも掌握したということだ。

 

新たに校長に就任したのはスネイプ。

 

マグル学と闇の魔術に対する防衛術には、死喰い人のカロー兄妹が就任した。

 

そしてホグワーツの支配を事実上命じられた形となったカロー兄妹は、新学期早々に動き出す。

 

まず、都合よい前例(高等尋問官令)があった為……それを利用して各教授たちを事実上無力化した。

 

ある程度予測していた反発すらもなく、各教授達はすんなりとそれを受け入れた。

 

一週間経ったが生徒達も反発してこない。

 

カロー兄妹はホクホクだった。

 

ダンブルドアも刀原も、ポッターもいない。

 

天下は俺たちのもの……。

このホグワーツは俺たちの支配下。

 

そう思っていた時期が、カロー兄妹にもあった。

 

彼らは油断していた。

 

所詮はガキども。

暴力で脅せば大人しくなる。

 

だが、そうではなかった。

彼らは知らなかったのだ。

 

ここ数年の間に、寮の垣根も溝も殆ど無くなっていたこと。

 

上級生から受け継がれる筈の()()()()()が、受け継がれなかったこと。

 

下級生のグリフィンドール生とスリザリン生の中には、列車以来の親友(俺達マブダチマジ卍)という者達もいたこと。

 

故に、兄妹の目論みはあっさりと崩れる。

 

具体的に言えば、あと一週間ぐらいで。

 

 

 

ホグワーツの生徒達は知っていた。

 

ヴォルデモートとかいう会ったこともない良く分からない()()()()()()奴より、かの者の方が完璧で究極で最強で無敵なヤバい奴だと。

 

少なくとも生徒達はそう思っていた*1

 

それだというのに、この期に及んで向こうの陣営に加担するバカはいない。

 

そしてホグワーツの生徒達は学んでいた。

 

バカやクズに学校の支配権を渡すと、ロクなことにならないことを。

 

何せ前例がある。

ガマガエルだ。

 

あのカエルごときで()()だったのだ。

この兄妹が酷い筈がない。

 

事実、兄妹はその信頼を裏切らなかった。

 

生徒達は、二度目を許すつもりはなかった。

 

とりあえず、生徒達は一週間我慢した。

 

そして……生徒達は新学期が始まってから一週間後、有志による合同作戦会議をした。

 

ーーー

 

「あいつらの支配なんて真っ平ごめんだ!」

 

「ダンブルドアもかの者もいないなら、俺らがホグワーツを守るんだ!」

 

「これは抗議だ!」

 

「そうだ!立ち上がるんだ!」

 

「ここで立ち上がらなければ、ホグワーツは末代まで舐められるぞ!」

 

「戦わなければ、生き残れない!」

 

「カロー兄妹許すまじ!相手は死喰い人!慈悲は無い!」

 

「今こそ、生徒の団結と恐ろしさを見せつける時!」

 

「赤も緑も青も黄色も関係ない!これはみんなの問題だ!」

 

「第二次抵抗運動だ!」

 

「カエルの二の舞は許さない!」

 

「リメンバーガマガエル!」

 

「ヒャッハー!」

 

ーーーー

 

ただの決起集会になった。

 

生徒達は、既に有事であると気づいていたのだ。

 

そして、DA軍団出身者や、かの者の教えを受けた者達を筆頭とした組織体を手早く組織すると、諸々の決め事を交わす。

 

ーーーー

 

生徒間での争いは厳禁。

 

寮同士のトラブルも厳禁とし、他の生徒達にも呼掛ける。

 

抜けても良いが、裏切りは厳禁。

 

従来の先生達へは手を出さない。

 

協力しない生徒達にも手を出さない。

 

但し、奴らに協力する生徒はささやかに手を出す。

 

お互いの救援は必ず行う。

 

武装解除、失神、その他抗議的呪文は可。

 

等々。

 

ーーーー

 

組織のリーダーはDA軍団出身者であり、かの者の教えを最も受けた男、ネビル・ロングボトム。

 

副リーダーに、ジニー・ウィーズリー、ルーナ・ラブグッド、アーニー・マクミラン、ダフネ・グリーングラス。

 

組織名は様々な候補……『カロー兄妹叩き出し隊』『リメンバーガマガエル』等々があったが……。

 

ホグワーツ生徒連合抵抗同盟(Hogwarts Student Union Resistance Alliance)となった。

 

そして最後に……『最初の抵抗の狼煙(パーティー開始のお知らせ)』を一週間後に決行することを決めた。

 

なお、誓って記すが……。

 

かの者やその関係者は、一切関わってない。

 

 

 

そして……カロー兄妹がホグワーツにやって来てから二週間後。

 

歓迎パーティー(室内花火大会)が開かれた。

 

なんて事はない。

 

『アンブリッジ先生おめでとうパーティー』と内容は同じだ。

 

失神呪文を放てば五倍、消失呪文を放てば十倍になる花火が、大輪の花を一斉に咲かせただけだ。

 

だが……カロー兄妹はその初動対応に戸惑った。

 

時に五倍になったり十倍になったりするその花火に、カロー兄妹は一日を費やした。

 

その次の日。

 

カロー兄妹の部屋の前に、沼が出現した。

 

どうやっても消せないその沼を、カロー兄妹は毎朝と毎晩に苦労しながら渡ることになる。

 

その後も、カロー兄妹をターゲットとした悪戯(ゲリラ的抗議)は続いた。

 

 

 

「あいつらいったいなんなんだ!」

 

アミカス・カローは机を叩きながら言った。

 

「廊下を歩けば糞爆弾。授業をしても糞爆弾。階段を歩けばグリセオで滑り落ちる。俺の部屋の中には、何故かブービートラップ。挙げ句、飯の中には下剤やら利尿剤!」

 

「私は一時間もトイレに籠る羽目になった!」

 

「なんなんだこの学校は!何時からここは、ゲリラの巣窟になってたんだ!」

 

「おまけに誰がやったかも分からない!何で透明魔法を平然と使えるんだ!」

 

「ガキどもを何人か見せしめにしよう!」

 

後日。

 

罪無き下級生を公開拷問しようとした兄妹は……。

 

黒い煙幕に邪魔されて下級生を奪還され……。

暗闇の中で失神呪文を打たれて失神し……。

 

顔面を落書きされた上に簀巻きにされ……。

オールが無いボートに別々に乗せられ……。

 

当然ながら杖無しで放置されて……。

 

気づいたら湖のど真ん中という展開を迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
品行方正、成績優秀。

規律正しく、礼儀正しく。

他の模範となる。

 

教授達にとって、かの者は完璧な生徒だった。

 

 

曰く、凄い組織の人。

曰く、わしより多分強い。

曰く、ある意味最も頼りになる。

ダンブルドアの話を聞いた感想から、かの者は究極だと思った。

 

 

その剣術に敵は無く。

その頭脳に隙は無く。

頼りになる最後の切り札。

 

かの者を良く知っているハリー達にとって、かの者は最強だった。

 

 

その実力は遺憾無く。

その気配りには敵意無く。

敵に回せば必ずヤられる。

 

かの者を良くは知らないが、その抑止力を知ってる者達にとって、かの者は無敵だった。

 

 

そんな彼らの話を聞いた、かの者をよく知らない下級生は……「よく分かんないけど『完璧で究極で最強で無敵なヤバい人』って事だよね?」という意見でまとまった。

 





子供といえど

侮るべからず。




更新が遅れ、すみません。

最終回までの簡易プロットを、先にまとめたかったので……。

あと。フツーに仕事が……。

言い訳ですね、頑張ります。



運命通り、ハリー達には逃亡生活を過ごして貰います。

見つからない様に頑張ってね。


刀原はいよいよ日本での決戦が行われます。
一話だけで済ませたい。
え、ダメ?
漸く俺の出番だから二話にしろ?



ホグワーツでは仁義無きゲリラ的抗議活動が発生。

子供にやられるのが恥ずかしい上に、粛清対象にされるかもと思い、ご主人に報告出来ないカロー兄妹。

でも、この世から消えるよりかはマシだと思うんだ。
かの者がいたら、ーーされるからね。

しかし、純粋なホグワーツ生を立派なベトコン……じゃない、ゲリラ的抗議活動者にしたかの者……誰だろう?



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ありがとうございます。
そしてお待ちしております。


では次回は

剣八

次回もお楽しみに




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死神、斬り合う。剣八




戦いこそ

我が望み






 

 

外交交渉を終わらせ、英国とハリーに一抹の不安を抱きながら日本に戻ってきた刀原に待っていたのは、溜まっている書類と報告だった。

 

刀原はそれらを裁きながら、三番隊の管轄地域で暴れる賊軍を撃破する。

 

と言っても、大概は副隊長や三席でなんとかなっている為……これといった問題も無かった。

 

日本ではそんな小競り合いを続けながら、十二月を迎えた。

 

 

英国ではハリー達が逃亡生活を送っていた。

 

「分霊箱は身に着けるな」という刀原の助言を聞いていたハリー達はロケットを小瓶の中に厳重封鎖し、慎重な管理を続けている。

 

目下の問題は、破壊方法。

 

ハーマイオニーの調査と刀原の情報から、破壊方法が限られることは既に分かっている。

 

本当はバジリスクの牙があれば良かったのだが……。

 

残念ながら置いてきてしまった為、三人は未だにロケットを破壊できずにいた。

 

しかし、三人の気持ちには余裕があった。

 

来年になれば刀原達が動けるようになる。

 

今すぐは破壊できなくとも、いつかは必ず分霊箱を破壊できる。

 

最後の二個も、ある程度の場所は分かっている。

 

今は雌伏の時だと、三人は分かっていた。

 

自分たちの仕事は、捕まらなければ良いのだと分かっていた。

 

三人は特に何の問題もないまま、十二月を迎えた。

 

 

ヴォルデモート陣営は焦っていた。

 

現在進行系で国際的に孤立しているのはまだ良いのだが……。

 

一番の問題が……いずれ極東から怪物たち(護廷十三隊の皆さん)が乗り込んでくることがほぼ確定したことだ。

 

故に、彼らは何としてもハリー・ポッターとその一味を見つけなければならない。

 

のだが……。

 

ハリー・ポッターとその仲間達は見つからず、不死鳥の騎士団も見つからないか逃げられてしまっているのだ。

 

由々しき事態だった。

ちんたらしてたら、理性ある殺戮集団(刀原とヤベー仲間達)が大挙してやってくる。

 

更に、欧州の各魔法省や米魔法評議会が乗り込んでくるという情報もある。

 

 

幸いにも、ホグワーツの統治は()()()()()()()ことから順調だろうと思われる。

 

ヴォルデモートは下知を飛ばす。

 

とりあえず欧州からの乗り込みを阻止するために……仏、独、伊、西、蘭、露の魔法界にいる過激派の同志(感化された馬鹿達)を支援し、彼らの足元をぐずぐずにしろと。

 

ヴォルデモートはさらなる混乱をまき散らす。

 

混沌と混乱の波に呑まれながら、英国と欧州は十二月を迎えた。

 

 

 

 

 

 

「俺の名はジェローム・ギズバット!聖十字(シュリフト)はR!the『咆哮(Roar)』!俺の声を聞いたが最「シレンシオ(黙れ)ー、ーーーーー、ーー(後、てめぇは死、なに)!?」

 

「『斬払い』」

 

-----ー(ぐわぁあああ)!?」

 

来る十二月。

 

日本の瀞霊廷内では、護廷十三隊と日本魔法省、星十字騎士団からなる連合部隊と『賊軍』との決戦が行われていた。

 

護廷十三隊から参加出来るのは一桁席官以上の者に限られ、日本魔法省も部長や副部長クラス以上の者に限られている。

 

だが、それでも連合部隊の優勢は覆らない。

 

やはり、実力はピンキリだな。

 

『キズバンド』だか『ケツバット』だか良く聞こえなかったが、なんで自分の力を喋るんだ?

 

咆哮ってことは、黙らせれば良いのだろう?

 

この前の異議を唱えてきた奴といい、援護に来た奴らといい……滅却師は悠長だなぁ。

 

何やら五月蠅かったので沈黙呪文で黙らせ、間髪入れずに吹き飛ばした滅却師を思い出しながら、刀原はそう思った。

「さて、周囲はどうだ?」

 

刀原がそう言いながら周囲を見渡す。

 

ーーーーーー

 

「デスクワークで随分と鈍ってんなぁユーゴー。騎士団長サマは大変みたいだなぁ!」

 

「そう言うなら変わってくれバズ」

 

「はっ!嫌なこった。俺はお前に相応しいと思ってるからな」

 

「嬉しい言葉だ友よ。それに、確かに戦場から離れて久しいが……それでも天秤を傾かせることは出来る」

 

「それでこそ俺が認める騎士団長サマだ!」

 

子供の頃から親友だというバズビーとハッシュヴァルトが、軽口を言い合いながら敵を倒していく。

 

ーーーーーー

 

「ぼ、僕のラブが効かない?そんなことが「はっきり言ってキモイです」がぁああああ!?」

 

「さすがライカ!バンビーズの新戦力に相応しいわ!」

 

「電撃を纏って防ぐか。ライカも十分規格外だな」

 

「同じ雷なのに、ライカに負けてますよ」

「同性としても負けてるぞ。情けないなキャンディ」

 

「うるせぇ!」

 

「私は、バンビーズに加盟したつもりは無いのですが……?」

 

バンビーズと雷華が、一緒に戦っている。

 

相手は良く見えないのだが……なんだか見たら気分を著しく害するかもしれない気がしたので、辞めておく。

 

雷華のあの態度だと、多分相手は塵ぐらいしか残らないだろう。

 

ーーーーー

 

「くそ!?」

 

「まさか救護詰所を襲うとは……。本来なら貴方ごときに見せる気は無かったのですが……良いでしょう」

 

雀部長次郎が戦っているのはドリスコール・ベルチ。

 

ここまで少なくない数の隊士を殺害し、あろうことか救護詰所を襲撃したドリスコールを、雀部が許す筈も無かった。

 

「刮目せよ。卍解『黄煌厳霊離宮』」

 

雀部の卍解と共に、黄金にも似た輝きを放つ楕円形の雷雲が発生する。

 

そして雷雲から下に伸びる帯状の雷を斬魄刀に纏わせると、まっすぐドリスコールへと突撃した。

 

「く、クソがぁあああ」

 

まさに黄煌の一閃。

 

その圧倒的な速度と威力に、ドリスコールは何も出来なかった。

 

「あそこでは我が孫娘が戦っている様子……あの子も随分と強くなりましたが、まだまだ負けてはおられませんな」

 

そう離れていない場所で変態を消し炭にした雷を見て、雀部は穏やかに笑った。

 

「私の獲物を取らないで下さい?」

 

直後、出てきた卯ノ花に窘められたが。

 

ーーーーーー

 

カァンという、鉄を打ったような音が響く。

 

パキンという、氷を割ったような音が響く。

 

鋼鉄(Iron)』の力を持つ蒼都と、氷輪丸を持つ日番谷が戦っているからだ。

 

「刀原の奴だったら……苦も無くてめぇをぶった斬れただろうな」

 

蹴りの衝撃を後退することで逃がした日番谷が少し苦い顔でそう言う。

 

自分の初撃は、鋼鉄の皮膚で防がれたが……刀原の斬魄刀なら斬れた筈だと思ったからだ。

 

純粋な斬術では勝てない。

 

日番谷はそれを理解していた。

 

しかし己の強みも、日番谷は理解している。

 

斬術で勝てないなら斬魄刀の……氷輪丸の力を、より高めれば良いだけ。

 

「行くぜ『氷輪丸』」

 

余裕の表情を浮かべる日番谷が、氷輪丸を構える。

 

「君の氷なんて、簡単に砕いてあげるよ」

 

蒼都の表情も、余裕の笑みで変わらない。

 

先ほど氷の壁を割ったように、全ての氷も粉砕出来ると思っているからだ。

 

「そうかよ。でも、俺はもう仕掛け終わったぜ」

 

しかし、相手は氷輪丸(氷雪系最強)

 

「『六衣氷結陣』」

 

「な!?」

 

蒼都は自身を囲むように氷の結晶が仕掛けられている事に気が付く。

 

あわててその場から離れようとするが、もう遅い。

 

「知ってるか?鉄っていうのは、冷気を通しやすいんだぜ?」

 

日番谷のその言葉を聞けることなく、蒼都は氷柱の中に捕らわれた。

 

ーーーーーー

 

「うん、なんか順調みたいだな」

 

軽く見渡しただけでもこれなのだ。

 

ルキアと朽木隊長は……うわ、ホラーと戦ってる。

 

あ、でも千本桜景厳で圧倒してるっぽい。

 

刀原がそう思っている、その時。

 

膨大な霊圧と濃密な殺気が襲いかかってくる。

 

そしてやってきたのは……。

 

ボサボサの長髪。

 

ボロボロの死覇衣。

 

刃こぼれだらけの刀。

 

その姿、怪物か怪獣か。

 

それとも鬼神か。

 

「更木……剣八だな?」

 

刀原の問いに、怪物は高笑いと共に肯定する。

 

なるほど……強ぇな。

 

「一閃煌めき両断せよ『神殲斬刀』」

 

刀原は霊圧を上げ、始解する。

 

怪物はニヤリと笑い、歓声とも聞こえる声を上げ、刀原に斬りかかった。

 

 

 

 

 

 

刀原が更木と戦闘状態に入ったことは、両者の霊圧でもって、周囲に知れ渡った。

 

「あの人と渡り合ってやがる……。何者だあいつ」

 

煌めくスキンヘッドが特徴のヤンキー……班目一角がぽつりと言う。

 

自身が敗北し、その器量を認めた怪物……更木。

 

目の前の男、黒崎をもってしても辛うじて退けることが出来たという怪物。

 

当然だが、黒崎一護とて弱いわけではない。

 

少なくとも、自分と互角以上に戦えてる。

 

だが、そのこいつでも辛うじて。

 

あの剣鬼と渡り合うことが出来るのは……総隊長、初代剣八、七代目剣八ぐらいだろう。

 

班目はそう思っていた。

 

まだまだ俺は弱ぇ。

 

「あ?なんだよいきなり」

 

思っただけのはずだが、どうやら言葉に出てたらしく、一護の野郎がそう言ってくる。

 

「あの人とやりあっているのは誰だろうと思ってな」

 

班目は半ば誤魔化すように言う。

 

「ああ。多分この霊圧は将平の奴だな。あいつなら更木の奴にも勝てると思うぜ」

 

黒崎はケロッとそう言う。

 

自身をボロボロにした怪物を相手しているというのに、心配のかけらも感じられない。

 

信頼ってやつか。

 

「そうかよ。じゃあてめぇは自分の心配をしやがれ!」

 

班目はそう言って自身の霊圧を高める。

 

「卍解『龍紋鬼灯丸』!」

 

班目が持つ斬魄刀が、三つの特殊な形状をした刃が鎖で一連に繋がっている形状に変化する。

 

班目の背後に控える真ん中の刃には龍の紋が彫られており、その姿は威風堂々たるものだった。

 

「来いよ一護!」

 

班目一角の誘いに、黒崎は乗ることにした。

 

「卍解『天鎖斬月』」

 

装いは黒いロングコートを思わせる死覇装に変わり、刀も出刃包丁から漆黒の刀に変わる。

 

「いいぜ!そうこなくっちゃな!」

 

戦闘狂と自負している班目は、黒崎に向かって吶喊した。

 

ーーーーーー

 

疼いてしまいますね……。

 

卯ノ花は表情を変えないように堪えながらそう思った。

 

楽しめそうではなかったが……それでも斬り応えはありそうだった敵を雀部長次郎に取られてしまい、それ以降は救護詰所にやってくる者がいない。

だからと言って、敵を求めて詰所を飛び出すのは……いくら何でもアレだろう。

 

そのあとでやってくるであろう元柳斎の五月蠅い小言は面倒だし。

 

まあ、あの子が劣勢になったら……援軍を口実にして行きますか。

 

ーーーーーー

 

「可哀そうに」

 

この戦いの先導者であり原因でもある綱彌代が、嘲るように言う。

 

「あの怪物は私ですら制御出来ない猛獣でね。可哀そうに。彼はきっと食い散らかされてしまうだろう」

 

息を吐くように出る煽り。

 

確かに盤外戦として、戦略として時にはそれを口にする者も多い。

 

『ハゲ』だの『白玉』だの『ツルピカ』だの『頭も思考も恰好も寒そうな奴』だの『いい歳して恥ずかしい』だの『頭がおかしくてイカれてる魔法使い』だの『アフロをあげたい奴』だのと、ヴォルデモートを散々貶した刀原とて……まあ殆どが本当のことなのだが……盤外戦術の一環で言っているだけなのだ。

 

だが、この男は息を吐くように言う。

当たり前のように。

 

彼らと違うのは……綱彌代が発する言の葉は、悪意と彼自身が持つ邪悪さから来るものだということだ。

 

『邪悪な悪意が人の形をしている』というある人の評価は、大いに正しかった。

 

「君たちもそう思うだろう?」

 

綱彌代がそう言ったのは彼を倒しに来た者。

 

「全く思わないな」

 

藍染は吐き捨てるように言う。

 

「君こそ、彼の力量を履き違えている。あの更木という猛獣は彼によって討伐されるだろう。尤も……彼は殺しはしまいだろうが」

 

そう言った藍染は、ほんの少しだけ笑う。

 

曾祖父と父の跡を継ぎたいと考えている彼は、剣八襲名を嫌がっているから。

 

そして藍染は即座に笑みを消す。

 

「だが私は、君を殺しはしまい……などとは言うまい。私の親友のため、私の贖罪のため……君を斬ろう」

 

自身の前髪を掻き上げると、掛けていた伊達メガネも外し、滅多に抜かない己の刀を抜き放った。

 

「斬る?私を?おいおい、あまり強い言葉を使うなよ。弱く見えるぞ?」

 

綱彌代は嘲笑う。

 

「ふ、これは余裕というものだよ」

 

藍染は余裕たっぷりに言った。

己の中に渦巻く、怒りの業火を隠しながら。

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

強ぇ!

面白れぇ!

 

更木は歓喜の中で剣を振るっていた。

 

一護も、日番谷も、他の奴も、面白れぇ奴だった。

 

だが、物足りなかった。

 

食い足りなかった。

暴れ足りなかった。

斬り足りなかった。

 

満たさなかった。

 

だがこの敵は違う。

 

俺の攻撃で吹き飛ばねぇ。

てか、当たらねぇ。

全部捌くか、避けやがる。

 

こいつの攻撃は俺を傷つける。

てか、普通に斬ってきやがる。

回避もままならねぇ。

 

恐ろしいほど基本に忠実で。

流れるような連続攻撃。

そして隙が微塵もねぇ。

 

だが、それが面白れぇ!

 

 

 

今まで会ったどの剣士とも違うタイプだな。

 

刀原は迫りくる剣の暴風を冷静に捌きながらそう思った。

 

基本なんてねぇ。

一発一発が重い。

だけど案外隙だらけ。

 

奴の剣速も速いが、夜一さんの方が速い。

 

奴の剣の正確さは、卯ノ花さんより劣る。

 

だから……。

 

「ぐおぉお!」

 

奴が放つ片手大上段の攻撃を躱し、こちらの攻撃を浴びせられる。

 

だけど。

 

「まだまだぁ!」

 

倒れない。

斬り斬れない。

立ち上がってくる。

 

「おらぁあああ!」

 

歓喜の声を上げて。

剣速を上げて。

 

まさかこいつ、この戦いで更に成長してるってのか!?

 

「『斬払い』!」

 

強引に距離を取るため、奴を斬り飛ばす。

 

「ぐぉおおお!?」

 

奴は直撃を受けて吹き飛ぶ。

だが。

 

「面白れぇ!この俺を吹き飛ばすなんてなぁ!」

 

多くの敵をノックアウト……時には屠ってきたこの技ですら、効果は薄いらしい。

 

そして。

 

奴が飛び掛かって来た時、悟った。

 

無理やり距離を取るのは失敗したと。

それをやったのは、俺の逃げだと。

 

「うらぁあああ!」

「ーーッ!?」

 

そのツケを、俺は自身の左肩で支払うハメになった。

 

 

 

ようやく斬れた。

斬ってしまった。

 

一度味わってしまった甘美な時間。

 

「しくじった。俺としたことが……」

 

結局こいつも……。

これじゃあ俺は……。

 

「でもまあ、死ぬほどじゃない」

 

そんな俺の思考とは裏腹に、こいつは体制を立て直す。

 

「死んだとでも思ったか?生憎と、俺は一回斬られたぐらいで死ぬような修行はしてねぇんだよ。俺の師匠は、かの『死剣』だぞ?」

 

奴はそう言って傷を治す。

 

「座興はこれまでにしよう」

 

卍解『斬滅白刃太刀』

白刃五ノ太刀(はくじんごのたち)飛翔裂刃(ひしょうれつじん)

 

「来いよ、更木剣八。叩っ斬ってやる」

 

俺はその言葉に、何度目かも数えていない歓喜の声を上げる。

 

卍解したのに見た目が変わってねぇが……そんなのは関係ねぇ。

俺は跳躍し、大上段に切りかかる。

 

直後に見たのは、とんでもねぇ速さでやってきたとんでもねぇ数の斬撃だった。

 

 

 

 

飛翔裂刃(ひしょうれつじん)』は斬撃の卍解。

 

手数を増やし、一対多数戦を想定している。

 

斬撃の切れ味は始解の時と大差はない……。

 

だが、その斬撃の数と速さを上げている。

 

一つ剣を振るえば、三つの斬撃が飛ぶ。

速さも始解とは比べるまでもない。

 

そして張る、攻防一体の斬撃の陣。

 

更木は笑いながら迫ろうとするが、斬撃によって阻まれ、吹き飛び、斬られる。

 

 

しかし、迫る斬撃を弾き、躱し、肉薄してくる。

 

その度に動きが良くなる。

 

だが。

 

「そりゃあああ!」

 

「舐めんなぁあああ!」

 

俺だって隊長だ!

 

あの人達の弟子!

 

あいつらの兄貴分!

 

簡単に斬られるほど、緩い修行はしてねぇ!

 

それにな。

 

「……ふふっ、あはははは!」

 

剣士として、純粋に斬り合うのを楽しみたい!

 

 

 

二人は、お互いが笑っていることに気がつく。

 

「いい笑顔だぜ刀原!」

「まだ行けるだろ更木!」

 

「「ああ!そう来なくちゃな!」」

 

 

 

 

 

 





舞え!踊れ!
叫べ!狂え!

いま、この瞬間を!

剣士として、楽しませて貰う。




一話で終わらす筈が……。

ハリポタだけを楽しみにしてくれている方には申し訳ないのですが、あともう一話だけお付き合いを。


今年も本小説をご愛顧、また読んでいただき、誠にありがとうございました。

いよいよ大詰めですが、来年も宜しくお願いいたします。


では次回は

日本決戦

次回もお楽しみに









溶ける……。

溶けていく……。

……強ぇ。

……届かねぇ。

だけどよ。

段々と動ける様になってるんだ。

眠っていた体が、起きた様に……。

俺は眠っていたのか?

そうか、そうか!

これが戦いか!



なあ更木。

俺はな、今まで満足に斬り合いなんか出来なかった。

強い人は大概味方で。

恩人で、師匠で、同期で。

そりゃあ手加減出来る様な真似も余裕もないけどさ。

でも、命もやり取りでは無かった。

どこか、遠慮があった。

けどよ。
お前に遠慮なんか必要無いだろ?

それに……。

そうか、そうか。

これが剣士の戦いか!










そうだよ剣ちゃん。

だからさ。
もっと楽しむために……。

私の名前を呼んで?




ああ、主が楽しそうに……。

ならば私も、全力で答えるまで。

さあ行きましょう。

万物を斬る力を、今こそ。

解き放ちましょう。





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死神、斬り合う。日本決戦終幕



目覚める

己の力

名を聞き

名を言い

力は更に昇華する。







 

 

溶ける……。

 

溶けていく……。

 

……強ぇ。

 

……届かねぇ。

 

だけどよ。

 

段々と動ける様になってるんだ。

 

眠っていた体が、起きた様に……。

 

俺は眠っていたのか?

 

そうか、そうか!

 

これが戦いか!

 

 

 

なあ更木。

 

俺はな、今まで満足に斬り合いなんか出来なかった。

 

強い人は大概味方で。

 

恩人で、師匠で、同期で。

 

そりゃあ手加減出来る様な真似も余裕もないけどさ。

 

でも、命もやり取りでは無かった。

 

どこか、遠慮があった。

 

けどよ。

お前に遠慮なんか必要無いだろ?

 

それに……。

 

そうか、そうか。

 

これが剣士の戦いか!

 

 

 

その斬魄刀の能力に眼が行きがちになるが……かつては剣の鬼と称された『歴戦の老兵』

 

当時を知る者が見れば「随分と丸くなった」と言うが、まだまだその片鱗を見せることがある『死剣』

 

その二人は『剣士としての狂気』を持ちながら……片やその立場が故にそれを沈め、片やそれをその身に宿しながら押し殺した。

 

だが、それを持っていることに変わりはない。

 

そして、そんな二人の愛弟子が……その『剣士としての狂気』を引き継いでいない訳がなかった。

 

それを自覚出来なかっただけ。

 

そして……トロール、バジリスク、狼人間に吸魂鬼、アヨン、ヤミー、ヴォルデモート。

 

今まで彼と戦ってきた者たちは、いずれも剣士ではなかった。

 

良くも悪くも師匠に恵まれた彼は……剣士として戦う前に倒せてしまう為に、有力な剣士と本気の斬り合いをしてこなかった。

 

尤も、今戦っている者も剣術が優れているという訳ではないが……。

 

それでも互角に戦える剣士であることは間違いない。

 

そして……実戦で斬られるという感触、それを即座に直す回道の技術、敵の剣を容易に弾いて斬り返す剣術、切っても斬り切れない敵。

 

それらが、彼の心の底に眠っていた『剣士としての狂気』を目覚めさせた。

 

そして……それをもって刀原という死神はより高い領域へと至る。

 

元柳斎や卯ノ花など……最上位の死神とも引けを取らない剣術、流刃若火や氷輪丸に対抗できる強力な斬魄刀、瞬神の弟子に恥じない歩法と体術。

 

山本元柳斎重國以降、彼を超える死神はいなかったが……遂に、彼を超えうる若き死神が誕生したのだった。

 

 

 

 

 

 

「剣士としての狂気』を目覚めさせた刀原。

 

ようやくたどり着いた領域(ステージ)が更に跳ね上がる。

 

更木はそれについて行けない。

 

更に斬られ、吹き飛ばされる。

 

だが……。

 

「まだまだぁ!」

 

立ち上がり、刀原に切りかかる。

 

でも、届かない。

 

『神斬払い』

 

「ぐぁあああ!」

 

ステージが跳ね上がり過ぎているのだ。

 

多くの瓦礫でも止まらない更木だったが、大きな建物に衝突して止まる。

 

しかし、頭から血を出し、体は斬り傷だらけの更木は……既に満身創痍だった。

 

つ、強ぇ……。

勝てねぇ……。

 

負ける……?

死ぬ……?

 

この、俺が……?

更木の脳裏に浮かび上がる、敗北の二文字。

 

「…剣八」

 

その時、更木の耳にそう聞こえた。

 

「…更木の剣八」

 

 

「…ようやく、届いたのですね」

 

「私の声が」

 

 

「お前を」

 

「誰よりも長く」

 

「誰よりも近くで」

 

「ずっと見てきた私の声が」

 

いつもなら「誰だ!」だの「うるせぇ!」だの言っていただろうが……そんな気分にならない。

 

「初めまして、更木剣八」

 

「私の名は…………」

 

 

 

 

「……終わったか」

 

刀原は流石にそう思った。

 

渾身の一振りを直撃させたのだ。

手ごたえもあった。

死んではいまいだろうが……それでも確実にノックアウト出来たはず。

 

だが、刀原は警戒を解かなかった。

いや、解けなかった。

 

倒したはずなのだが……また飛び出してくるのではないかと、思わずにはいられないのだ。

 

しかし、まだ各地で戦いが続いているのも事実。

 

後ろ髪を引かれるのを感じながら、刀原は踵を返す。

 

「……呑め『野晒』」

 

それを聞けたのは、幸運だった。

 

 

 

 

 

瓦礫となり果てた建物から霊圧が溢れ出る。

 

そして瞬く間に瓦礫は吹き飛び、霊圧の主……更木剣八は高らかに跳躍する。

 

「呑め『野晒』」

 

更木が持っていた刃毀れだらけの刀が、彼の身の丈を超える巨大な戦斧となる。

 

それは、暴力を超えた何かを感じさせた。

 

「『千刃斬翔』!」

 

その光景に一瞬だけ目を見開くが……刀原は直ぐに斬魄刀を構え直し、幾千もの飛ぶ斬撃を放つ。

 

「おりゃあああ!」

 

更木はそれをもろともせずに弾き飛ばし、斬撃は周囲を斬りながら霧散する。

 

「でやぁあああ!」

 

そして大上段に構えた更木は、落下の勢いのままに巨大な戦斧を唐竹に振り下ろす。

 

並みの死神なら防いだ斬魄刀ごと両断される一撃。

 

 

しかし生憎と、刀原はただの死神ではない。

 

足をどっしり据えて刀を水平に構えた刀原は、そのまま横薙ぎに斬魄刀を振るい、更木を迎え撃つ。

 

「『神薙』」

 

爆音と衝撃、それらが周囲に撒き散らされる。

 

幸いにも巻き込まれた哀れな者(野次馬)はいなかったが……それでも周囲の損害は甚大なものになった。

 

戦斧対太刀の対決は、戦斧が上回る。

 

それは刀原が弱かったからではなく、単純に質量と落下の威力が大きかっただけだ。

 

刀原も最初こそ吹き飛ばされるが、直ぐに身を翻し、地面に着地する。

 

「来いよ。決着つけようぜ」

 

「ああ、行くぜ!」

 

刀原の呼びかけに対し、更木は嬉しそうに答える。

 

これが最後の一撃になるだろうと思いながら。

 

「おおおおおお!」

 

更木は霊圧を上げる。

 

「ぜりゃあああああ!」

 

そして戦斧を横薙ぎに振りながら突進する。

 

刀原は斬魄刀を鞘に納め、瞬歩で加速する。

 

「奥義『瞬神斬刃』」

 

そして更木の目の前に現れ、抜刀する。

 

今度は衝撃も爆音もなかった。

 

そして、速度が勝負の決め手となった。

 

更木から血が吹き出る。

 

「次は、負けねぇ……」

 

そう呟き、ばったりと大の字に倒れた。

 

「俺はもう戦いたくねぇよ」

 

刀原はそう言って、卍解を解いたのだった。

 

 

 

 

更木が倒れた。

 

敗北した。

 

その一報は、瞬く間に戦場を駆け回る。

 

「流石だぜ」

 

班目一角との戦いに勝利した黒崎は、ニカッと笑いながらそういう。

 

「決着がついたのですか……そうですか」

 

連絡を受けた卯ノ花は、何故か少しだけ残念そうにしたあと……ニヤリと微笑んだ。

 

「おお!そうか、良かった!」

「これで一安心だね」

 

浮竹と京楽は安心と喜びが混じった表情でそう言った。

 

「まあ、だろうな」

「勝つと思ってました」

 

日番谷と雀部はケロッとした表情で言う。

 

しかし日番谷の傍にいた雛森は、彼が内心で冷や汗をかいていた事を分かっているし……雀部の傍にいたバンビエッタは、彼女が気が気でない様子だったことを知っていたが。

 

「そうか……分かった」

 

藍染は笑みを浮かべつつ、目の前にある二つの遺体を見て暗い表情をしていた。

 

「相分かった」

 

元柳斎は一報を聞き、満足そうに頷いた。

 

彼はまだ甘い部分があり、少し不安な箇所もあったことは否定しない。

 

だが……更木を打ち倒したこの戦いで、彼は死神として覚醒出来たはず。

 

……少し気になる報告《初代剣八的仕草が見られた》もあったが。

 

まさか……奴の様(初代剣八的思考)になったのではあるまいな……?

 

水面下で進めている企みの事もあって、それは大いに困る。

 

元柳斎は、少し心配になった。

 

 

 

 

 

 

諸悪の根元である綱彌代は……賊軍云々の話以前から、各方面からのヘイトを集めていた。

 

綱彌代を倒したい……この手で始末したいと思っている人は多かった。

 

親の仇である刀原。

親友の仇である藍染。

 

友だった者として斬ることを望んだ刀原の父。

 

他多数。

 

無論、そこら辺の有象無象では到底勝てないし……人質や屍を増やすだけ。

 

そんな観点から……奴と対峙するのは、感情論も相まって刀原と決まっていた。

 

だが、刀原は更木との戦いで手一杯になってしまう。

 

ここで逃がすわけにはいかない。

 

そう判断した藍染は、後で刀原に小言を言われることを承知の上で、綱彌代と戦った。

 

しかし……崩玉の力を使った綱彌代は、藍染の想定を超える強さを発揮した。

 

また、綱彌代の斬魄刀『艶羅鏡典』の凶悪かつ強力な能力も相まって……藍染は逃がしてしまう一歩手前まで追い詰められてしまう。

 

煽る綱彌代。

彼は勝利を確信する。

 

その余裕もここまでだった。

 

「逃がしは……しない……!綱彌代、時灘。捕えたり」

 

「ぐふっ……!まさか、お前は」

 

逃亡を図ろうとした綱彌代の胸を貫いたのは、刀原の父『将一郎』だった。

 

「死にかけの分際で……!」

 

綱彌代は将一郎を刺す。

ただでさえ弱っていた将一郎に、それは致命傷だった。

 

だが、将一郎は一歩も引かない。

 

「息子が繋いでくれた命を無駄に使うのか?」

 

「俺たちの因縁は……俺たちで、終わらせる……!あの子に、引き継がせはしない」

 

 

「き、貴様!」

 

「貴様には……俺と共に、死んでもらう!惣右介、やれ!」

 

「だが、私は……!君を……!」

 

「将平の……ためだ。あの子にこれ以上、復讐の道を歩かせる訳にはいかない。……お前にしか、頼めない」

 

「……いくらでも恨んでくれ」

 

「それは、俺の言葉だ……」

 

言葉は尽くした。

 

「い、良いのかな?親友を手に掛けることになるぞ?……刀原君にも恨まれるだろう」

 

「その覚悟は、もう出来たさ……」

 

藍染はそう言って霊圧を高める。

 

「……破道の九十九『五龍転滅』」

 

放たれるのは最高峰の鬼道。

迫るのは五つの龍。

 

綱彌代は逃げようと必死になるが、将一郎は最期の力でそれを抑える。

 

「……」

 

将一郎の目に最後に映ったのは。

 

泣きそうな顔の親友(藍染)と……。

 

立派になった息子(更木と派手に斬り合っている刀原)だった。

 

 

 

 

「知らねぇ天井だな」

 

四番隊隊舎にある救護詰所のベッドで目覚めた更木は、柄にもなくそうつぶやいた。

 

身体は包帯だらけ、起き上がろうとしたら激痛。

 

更木自身、刀原に斬られた瞬間「死んだな」と思っていた訳だが……どうやら死に損なったらしい。

 

「なんだ、もう目が覚めたのか。やっぱタフだな」

 

いつから居たのかは分からないが、傍で何かを書いていた刀原が苦い顔でそう言う。

 

「てめぇ、わざと俺を殺さなかったな?」

 

半分恨みを込め、更木は言う。

 

殺す気だったら、普通にサクッと斬られていたんじゃないかと……戦いの最中に思っていたから。

 

「お前に死なれると、色々と面倒くさい事になるんでな」

 

刀原は苦い顔のままそう言った。

 

「剣八の名はてめぇのもんか」

 

更木は少し残念そうに言うが、刀原は首を振ってそれを否定する。

 

「お前に勝てたのは、単純に剣術や斬魄刀、瞬歩の差だと思ってる。それに、最初から(はなっから)襲名するつもりなんてねぇ」

 

刀原は相変わらずの表情で言う。

 

卯ノ花や刳屋敷から盛んに襲名を迫られたが……自分は三番隊の方が良いし、それを目標にしていたのだ。

 

今更それを変えるつもりはない。

 

「そうかよ」

 

更木は少し残念そうにしながらそう言う。

 

刀原が襲名してくれれば、その奪取を名目に、またあの楽しい斬り合いが出来ると思っていたから。

 

「そうそう、はいこれ」

 

更木の内心を察した刀原は、さらに苦い顔をしながら懐から紙を取り出し、更木に渡す。

 

『更木剣八

 

右の者を護廷十三隊十一番隊隊長に任ずる』

 

「俺に負けたんだから、「就任しない」は、通用しないからね?」

 

刀原は睨みながら言う。

 

「はっ、上等じゃねぇか」

 

更木はにやりと笑いながら、それに了承した。

 

 

 

更木が隊長職に就くことを了承したことを確認した刀原は、近くにある安置所に向かった。

 

隊長格や味方として参戦した滅却師に死者はいない。

 

逆にこちらは更木とその一味を倒した上に味方に引き入れ、敵側の滅却師のほぼすべてを倒した。

 

そして、賊軍の総大将……綱彌代も倒すことに成功した。

 

最も、一般隊士には少なからず死傷者を出してしまったし……。

綱彌代を倒す上で、尊い犠牲があった。

 

安置所に着くと、泣き腫らした顔をした刀原の母『慶花』と俯いた藍染がいた。

 

二人の傍には、穏やかな顔の将一郎が静かに横たわっている。

 

「将平……」

 

最愛の夫の頭を撫でていた慶花は、そう言って刀原の方に向き、抱き締める。

 

刀原も抱き締め返す。

 

「……母は、己の不甲斐なさが恥ずかしい。分かっていたのに、行かせてしまった。止められなかった」

 

慶花はそう嘆きながら更に泣く。

 

「そんなことないです。僕がその場にいても、多分、止められなかった筈。それに、更木との戦いに夢中になってましたから……」

 

霊圧を探知していれば……。

少しだけでも奴に目を向けていれば……。

 

例え、その余裕がなかったとしても。

 

刀原は様々な思いを抱きながら、そう言った。

 

「君は更木の対処で精一杯だった。君を責める者は居ない。悪いのは私だ。私が……」

 

「いえ、僕が……奴を斬るべきでした」

 

多分、奴にも勝てた筈だから。

 

藍染の言葉を遮り、刀原はそう言う。

 

そして、改めて父の顔を見る。

 

とても穏やかに、未練なんて感じられず。

安らかな顔だった。

 

「そして、貴方も悪くない」

 

刀原は藍染の方を向き、きっぱりと言う。

 

「僕なんて、実の親が亡くなったのに……奴が死んだ事を、敵が死んだことに安心したんです」

 

そう言った刀原の目には、涙はなかった。

 

その刀原の言葉を、藍染は首を横に振って否定する。

 

「下手にも程がある嘘だ。君とて、慶花君と同じ顔(泣き腫らした顔)をしているじゃないか」

 

刀原は、精一杯の作り笑いをした。

 

 

 

 

 

更木が軍門に下り、綱彌代が敗死した。

滅却師達も倒された。

 

それは『賊軍が敗北した』という事実が確定した何よりの証だった。

 

元柳斎は、堂々たる『勝利宣言』をする。

 

その知らせを受けた者達は、それぞれ様々な反応を見せた。

 

ヴォルデモートは机を叩いた。

そして荒れに荒れた。

 

あまり期待してはいなかったとはいえ、かの『理性ある殺戮集団』に対抗出来るかもしれない連中だったのだ。

 

くそが!

使えん奴だ!

 

ヴォルデモートは机を叩いた(何とかするって言ったじゃん!)

 

一応……置き土産として十刃がいる。

米仏独伊からも過激派が合流している。

巨人だってこちら側だ。

 

だが……。

 

ヴォルデモートは部下を更に増やすことにした。

 

 

 

亡命英国魔法省は歓喜の声に包まれた。

 

あり得ないと思ってはいたが……彼らが億が一の確率で負けてしまった場合、敗北が確定してしまうからだ。

 

「彼らは期待に応えてくれた。今度はこちらの番だ!」

 

士気は上がる一方だった。

 

 

 

「そうか!良かった!」

 

「流石はショウ達だ!」

 

不死鳥の騎士団の隠れ家になっている『貝殻の家』にて、ようやくその一報を受け取ったシリウス達は、喜びを隠さない。

 

ここ最近は良いニュースがなかった為、その喜び様は一塩だった。

 

まだまだ未来はある!

 

シリウスはそう高らかに言った。

 

 

 

ハリー達は、まだ知らない。

 

 

 

賊軍との決戦に勝利した刀原達だったが、その勢いのまま英国に行く事は無い。

 

より準備をしてから行くのだ。

 

「本当に良いんですか?」

 

日本魔法省の一室にて、刀原はそう聞き返す。

 

この一件は、悪い方に転がればとんでもない事態に繋がりかねないと、刀原は思っているからだ。

 

「ええよって言うてるやん。痣城がちゃんと各国に根回ししたし、かのゲストもええって言うてるしな」

 

そんな思考を知ってか知らずか、市丸はケロッとした表情で言う。

 

「まあでも……味方になってくれるんかは……君の話術次第やけどな」

 

「あの人を説き伏せろと?難題すぎやしませんか?」

 

「出来るんは君しかおらんのや。あの人……平三郎さんの孫だってとこ、見せてや」

 

「……分かりましたよ」

 

刀原は渋々の表情でそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

外は灰色の空が覆い、辺りは雪に包まれてる。

 

その寒い空気の中、刀原は歩く。

 

監獄となり果てた山の城は、かつては持っていたであろう絢爛さを過去に捨て去っていた。

 

「ここです」

 

「ありがとうございます」

 

案内していた看守にお礼を言った刀原は、牢獄にいる老人を見据えた。

 

衰えている?これが?

 

確かにヴォルデモートやダンブルドア程ではないが……やはりただならぬ人だ。

 

刀原は『かつて最も危険な闇の魔法使い』として魔法界を恐怖のどん底に陥れたこの人物に、内心で冷や汗をかいた。

 

「珍しい客人だな?日本の死神か」

 

老人はその年齢を感じさせない堂々たる姿勢でそう言った。

 

「ああ、その姿。極東の魔術師に似ている。奴の子か、それとも孫か?」

 

「孫ですよ。ミスター」

 

「ほう、そうか。奴は私が出会った魔法使いの中でも、最強にして最高の二人のうちの一人だった。だが、君も……その佇まい、その雰囲気。奴以上だ」

 

「魔法では、僕はおじいちゃんに勝てませんよ」

 

「ふん、だろうな」

 

老人はさも当然とばかりに言う。

 

「さて、世間話は終わりだ。何用で来た。こんな辺鄙な場所に」

 

「ある人が来ませんでしたか?貴方がかつて持っていた、ある物を訊ねて」

 

「いや、来なかったが?」

 

「そうですか。それは……良かった」

 

「良かっただと?誰が……なるほど、ヴォルデモートか」

 

「流石、その通り。貴方がかつて持っていた『かの杖』のありかを聞きに、ヴォルデモートが来るかもと」

 

「ふん、愚かな。私まで行きついたのであれば、必然的に私の次が誰かぐらい分かる筈だ」

 

「ええ、全く。少し考えれば分かることです。貴方が誰に敗北したか……蛙チョコレートでも分かりますよ」

 

「フハハハ、違いないな。それで?まさかそれだけを聞きに、わざわざやって来た訳ではないだろう。本来の用はなんだ?」

 

「……流石はかの魔法使い。全盛期のダンブルドアと戦った人だ」

 

「世辞は良い。話せ」

 

「……この監獄、出ませんか?」

 

「なに?」

 

「戦力が足りなくなったヴォルデモートが、英国だけじゃなくて仏独伊露西米から馬鹿どもを集めてるんです。なので新旧問わず、手練れが必要なんですよ。魔法使いの手練れがね」

 

「それで私か。だが……私は」

 

「ああ、貴方の過去に関しては気にしないでください。各国に根回しは済んでますし……もしそうなった場合は、我々が責任をもって粛清するとね。それに……もう、そんな気、無いんでしょ?」

 

「……過去の私の行いこそ、正に愚かとしか言いようがない。力に溺れ、まるで王になったかのように……。アルバスが止めてくれなければ、私は……」

 

「そのダンブルドアが、若き英雄が、助けを求めてます」

 

「……」

 

「今度は悪名ではなく……伝説として、名を轟かせてみませんか?」

 

「確かに……私こそが最強の闇の魔法使いであることを証明する機会だろう。ヴォルデモートとかいうヒヨッコに、まだまだ負けてはおれん」

 

「それに立ち会うのではなく、横で、背中を合わせて、戦ってみたくはありませんか?」

 

「……まるでそうしたことがある口ぶりだが?」

 

「英国魔法省のアトリウムで、実際に」

 

「フッ……。だが私が出しゃばれば、世代交代とはいかなくなるかもしれんぞ?」

 

「何を今更。ダンブルドアはまだ現役ですし、うち(日本)には千年前から現役の人がいるんですよ?」

 

「それもそうだったな」

 

老人は笑いながら牢を出る。

 

そしてやって来た看守から杖と服をもらう。

 

そこには往年の、伝説の魔法使いがいた。

 

「一応、仮釈放って形ですけど……働き次第では釈放もあり得ます」

 

「ほう、良いことを聞いた。では、アルバスとの悠々自適な隠居生活を目指すとするか」

 

老人は既に決定済みと言わんばかりにそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 






喜んでこの命を使う

護廷の為

友の為

未来の為に。




お待たせしました。

これにて日本決戦は終了です。

次回からハリポタに戻ります。


覚悟しろよヴォルデモート。


では次回は

戦前

次回もお楽しみに



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選ばれし者、宣言する。 戦前の下準備



東で勝鬨が挙がったのなら

今度は西で挙げる番。







 

 

 

十一月

 

ハリー達の旅は、順調とは言えなかった。

 

ロケットを手に入れた代償として、暖かなグリモールド・プレイスから離れなくてはならなかったし……。

 

手に入れたロケットも、破壊出来ずにいた。

 

ラジオからは辛く悲しいニュースしか流れない。

 

先が見えない。

 

それでも三人は団結して旅を続けた。

 

打倒ヴォルデモートチーム(勇者一行)の参謀役となっていたハーマイオニーは、この忌々しいロケットの破壊方法に日々頭を悩ませていた。

 

やり方は分かっている。

 

彼女はその明晰な頭脳で、分霊箱を破壊するには特別な方法を用いる他ないと分かっていたのだ。

 

バジリスクの毒。

悪霊の火。

 

その性質上*1、バジリスクの毒を吸収しているであろうグリフィンドールの剣。

 

強力な始解を持つ斬魄刀。

卍解した斬魄刀。

九十番台の鬼道。

 

しかし、本当にそれだけなのか……。

 

ハーマイオニーはストレス発散も兼ねて……爆破だの粉砕だの切断だの失神だの、知っているすべての呪文を打ち込んでみた。

 

まあ、駄目だったが……ハーマイオニーやハリー達に焦りはなかった。

 

彼女やハリーの自分たちの兄貴分であり、最も頼りになる人……刀原が必ず破壊出来る。

 

『分霊箱の耐久実験』とかいうイカれてるとしか思えない実験で、実際に破壊した実績がある程だ。

 

だがまあ、欲を言えば……自分たちで破壊したい。

 

自分たちでも出来るんだぞというところを、少しだけでもアピールしたいのだ。

 

 

 

逃避行を続けながら、打倒ヴォルデモートの為に準備をするハリー達。

 

その中には『死の秘宝』なるアイテムの情報があった。

 

ニワトコの杖

甦りの石

透明マント

 

『吟遊詩人ビートル』なる童話本*2に書かれていたこれらは、あくまでも童話の筈だった。

 

しかし、調べれば調べるほど……『それは本当にあるのではないか?』と思わせる何かがあった。

 

理由もある。

 

ハリーは、透明マントの現所有者だからだ。

 

少なくとも彼の父であるジェームズの代から色褪せない透明力。

引き寄せ呪文も効かない。

 

少なくとも……特別な物であることは間違いない。

『死の秘宝』あるいは『それに類する物』が実際にある(おとぎ話ではない)と判断出来る証拠となりえるのだ。

 

だが、三人は……特に現実主義者(リアリスト)であるハーマイオニーは『本当にあるかどうかの確証がない物』を対ヴォルデモートへの切り札にはしなかった。

 

『無い可能性の方が高い』

『そもそも、それを探す時間などないわ』

『だいたい、無かったら探した時間が無駄になるのよ?』

 

見知った笑み(刀原のいつもの笑み)を再現しながらそう言ったハーマイオニーを、ハリーとロンは説得を試みることも出来なかった。

 

そんな感じで、三人は旅を続けたのだった。

 

 

 

 

 

一月になった。

 

三人は相変わらず逃避行を続けている。

 

そして喜ばしいことも起きた。

 

分霊箱の一つ、『スリザリンのロケット』の破壊に成功したのだ。

 

 

ーーーーー

 

 

その夜、ハリーが深夜の見張りをしていると、守護霊の雌鹿が現れた。

 

ハリーはそれを見て、フラフラと雌鹿に近づこうとする。

 

だが雌鹿はフラッとその場から離れ、凍った池に入り、消えてしまう。

 

慌てて凍った池に駆け寄ったハリーは池の底を見て驚く。

 

あれだけ求めたグリフィンドールの剣があったからだ。

 

「『ディフィンド(裂けよ)』」

 

ハリーは即座に池の表面を覆う氷を砕き、衣服を脱ぎ、意を決して池の中に入った。

 

池の中は身を切り割かれるようで、最早『冷たい』を通り越していた。

 

それでもハリーは怯むことなく潜水し、池の底に沈んでいた剣を入手することに成功したのだった。

 

 

 

何も知らないロンとハーマイオニーは、見張りをしていた筈のハリーがいきなり消えたことに困惑していた。

 

何も言わずに消えるなんて!と怒ってもいた。

 

しかし、この寒い夜なのにも関わらず何故かびしょ濡れになって帰ってきたハリーに混乱することとなる。

 

いったいどうしたの!?

 

その当たり前とか言い様のない問いに、ハリーは意気揚々と(ドヤ顔で)グリフィンドールの剣を見ることで返答する。

 

「「……!?」」

 

二人は更に困惑し(宇宙猫と化し)、ハリーが犯した危険行為に叱ることも出来なかった。

 

それでも、混乱の渦に呑まれていたロンとハーマイオニーは立ち直り……三人はその夜の内にロケットを蛇語で開ける。

 

そして、グリフィンドールの剣をロケットに振り下ろしたのだった。

 

 

ーーーーー

 

 

入手経路こそ混沌極まりないが、それでも分霊箱を破壊出来るであろう物を手に入れたことは、大いな進展となった。

 

 

焦る気持ちは無くなり、逆に余裕が出来た。

 

そして、三人を更に喜ばせる出来事が起きる。

 

 

 

 

 

 

ポッターウォッチというラジオがある。

 

不定期に放送され、聞くには合言葉が必要なそのラジオは、不死鳥の騎士団が運営するいわゆる『レジスタンスラジオ(抵抗者たちのラジオ)』だ。

 

ハリー達三人は、親しい人達がやっているこのラジオが楽しみだった。

 

「やったぞハリー!緊急放送のパスワードは『トーハラ』だった!」

 

そうロンが歓声を上げる。

そして三人は聞き洩らすまいと、息を殺しながらラジオに耳を傾けた。

 

緊急のお知らせがあると、以前から告知されていたからだ。

 

『どうも皆さんこんばんは。

ポッターウォッチへようこそ。

司会のリバーです』

 

「リバー……リーは相変わらずみたいね」

 

リバーというコードネームで司会をやっているリー・ジョーダンは、クィディッチの実況をやっていた時のノリで、冗談を交えながら司会をする。

 

「でも、なんだか声が固いよ」

 

さすがに今回の放送では……それも無いらしい。

 

『早速ですが本題に入らせて頂きます。一部の皆さんにはお馴染みのあの方々……ショウことショーヘイ・トーハラとその仲間達、護廷十三隊についてです』

 

リーが言った内容は、ここ最近のハリー達の話題『刀原達は勝ったのか』についてだった。

 

『十二月を目途に決戦をし、賊軍との戦いに終止符を打つ。

そのあとで英国に向かうよ。

 

万難を排して向かってやる。

勝つ可能性、ゼロにしてやる。

首を洗って待ってろよヴォルデモート……。

クックック……震えて眠れ』

 

何やら悪人みたいな言い方だったが……。

ショウはそう言っていた。

 

だが十二月を過ぎた今でも続報はなく、ハリー達は心配していたのだ。

 

「ショウたちなら絶対に勝つ」

「負けるなんて考えられない」

「むしろ私達が心配されてる」

 

でも、万が一……億が一の確率で重症を負っているかもしれない。

 

……一応、一応心配していた。

 

ハリーは固唾を飲んで聞く。

 

『我々が掴んだ公式文、その全文を読まさせて頂きます。

 

《護廷十三隊及び日本魔法省共同発表

 

我々護廷十三隊と日本魔法省は……兼ねてより問題視されていた通称『賊軍』との決戦を行い……。

 

これに勝利したことを発表させて頂く》

 

「や、やった!」

「さすがショウ達だぜ!」

「凄いわ!」

 

テントの中で歓声が上がる。

 

三人が待った勝利の一報だ。

 

ショウがいれば「な?言ったろ?俺たちは絶対勝つって」と言っていただろう。

 

《この戦いに参戦してくれた全ての者達。

援軍として参戦して頂いた星十字騎士団。

 

そして我らの勝利を疑わず、信じてくれた者たちに深い感謝を表す。

 

ありがとう》

 

「私達は信じていたわ」

「ああ」

「一応、心配はしていたけどね」

 

《そして、この場で改めてお伝えする。

 

我々護廷十三隊と日本魔法省は……同盟国たる英国に巣食う者共……。

 

ヴォルデモートなる愚か者に、正式に……宣戦布告させて頂く!

 

覚悟せよヴォルデモート。

我らの敵となった以上、容赦はせぬ!》……以上です』

 

「堂々の宣戦布告ね」

「ショウ達らしいな」

 

『「ロイヤル(キングズリー)、これをどう思います?」

 

「いやあ、もう流石としか言えないな。無論彼らの実力は知っているし、体験もしている。私は対して驚かないが、それでも賞賛の声を惜しむつもりはない」

 

「そして我々にとっては待望の勝利宣言だ。これで勝利がより近づいたからね」

 

ロムルス(ルーピン)もそう思いますか。ゲイリー(シリウス)は?」

 

「個人的には堂々の宣戦布告を注目したい。護廷十三隊という特記戦力集団に宣戦布告されたという事実は、計り知れない影響を及ぼすだろう。奴らの部下からは、逃げ出したり裏切ったりする者が出てくるかもしれないし……奴自身も、今頃はガタガタと震えているかもしれない。それほどの影響力を彼らは持っている」』

 

あの『見た目も頭も寒そうな奴(ヴォルデモート)』がガタガタ震えているのを想像したら、思わず同情してしまうかもな。

 

シリウスのジョークに三人は頷く。

 

待望の勝利宣言と、堂々の宣戦布告。

 

頼もしいことこの上ない。

 

それに、あのショウの師匠方がいるのだ。

例え十刃がいようとも、ヴォルデモートは勝てない。

 

そして最後に流れたショウからの音声メッセージ*3を聴き、三人は大興奮した。

 

勝つ。

この戦いに終止符を。

 

「ヴォル…!んんっ、アイツは僕が倒す!」

 

ヴォルデモートの名前を言うと人攫いがやって来る。

 

そいつら自体は返り討ちに出来る自信があるが、要らない面倒は避けたい。

 

なんとも締まらないが、それでもハリーはそう宣言したのだった。

 

 

 

 

 

 

さて、そう宣言したハリー達だったが、問題が残っていた。

 

いつ決戦を挑むのか。

どこで行うのか。

援軍への連絡方法は。

 

残る分霊箱……多分レイブンクロー髪飾りと蛇をどうやって破壊するのか。

 

そして……このまま勝てるのか。

 

難題だらけだったが故に、ハリー達は遂に行動を始める。

 

ビルとフラーの結婚式にて死の秘宝のエンブレムを持っていた人物……ルーナの父親であるゼノフィリウスに死の秘宝の情報を聞く為、ラブグッド家を訪ねたのだ。

 

兼ねてよりハリーのファンを公言していたゼノフィリウスは、世情が故にザ・クィブラーの発行を中止していた*4が……「信念は変わってない」「私は貴方を応援している」と言いながらハリーと握手を交わし、彼が知りうる全てを伝えた。

 

ーーーーーー

 

「甦りの石と透明マントは歴史に出てくることはなかった。だがニワトコの杖は度々その存在を歴史に晒してきた」

 

「でも、教科書にはどこにも……」

 

「歴代の所有者は自分が持っていると明確には言いふらさなかった。だが悪人エメリックや彼を倒した極悪人エグバード…バーナバス・デベリル、ロクシアスなどと言った闇の魔法使い達は、杖を持っていたと言う自らの手記が残っている」

 

「確認された最後の所有者は…?」

 

「マイキュー・グレゴロビッチ……去年の九月に亡くなったヨーロッパの杖職人が持っていたと言う噂だが……」

 

「噂…ですか」

 

「ああ」

 

「……ありがとう、ラブグッドさん」

 

ーーーーー

 

残念ながら、彼は確たる情報を持ってはいなかった。

 

しかしある可能性が更に上がった事は有益だった。

 

だが、ここで不運が起る。

 

ホグワーツで()()()()()レジスタンス運動を主催している三人の内の一人、ルーナを何とかする為……死喰い人達がわざわざやって来たのだ。

 

気せずして戦場になるラブグッド家。

 

何人かを返り討ちにしながらも、多勢に無勢である為……ハリー達はズルズルと追い詰められていく。

 

「ここを爆破しますから、君達はその隙に逃げなさい。そして……ルーナに…父は勇敢だったと伝えて下さい」

 

我が家と共に爆散(自分諸共敵を爆殺)しようとするゼノフィリウス。

 

そんな覚悟ガンギマリな(薩摩ホグワーツ的な)策は、一人の頼もしい助っ人によって阻止される。

 

「助けに来ました!ハリー・ポッター!」

 

「ど、ドビー⁉︎」

 

そう、自由なしもべ妖精『ドビー』が助けに来てくれたのだ。

 

ドビーの様な屋敷しもべ妖精が使う魔法は、ハリー達が使う西洋魔法(ハリポタ魔法)でも刀原達が使う極東魔法(鬼道)でも無い特別な魔法。

 

故に彼らは姿眩ましが使えないホグワーツでもそれに類する移動手段を持っているし、この様な局面でも問題無く逃げられるのだ。

 

「さあ、私に触れて下さい」

 

ドビーがそう言えば、四人は躊躇うことなく彼の側に向かう。

 

そしてハリー達はラブグッド家から脱出することに成功したのだった。

 

なお……その直後に家にあったエルンペントの角に魔法が着弾し、家は突入していた死喰い人ごと爆破された。

 

 

 

 

 

 

 

「ここは……?」

 

着いたと同時にハリーは一応警戒する。

 

ドビーがマズイ所に連れて行くとは思っていないが、それでも何処に行くのか分から無かったからだ。

 

「大丈夫ですよハリー・ポッター。ここは安全な場所ですから」

 

ドビーは安心させる様にそう言う。

 

「……大丈夫か?」

 

そしてそう言って来た相手を見て、ハリー達は驚く。

 

「び、ビル!フラー!」

 

「ようこそ『貝殻の家』へ」

 

ビルとフラーはにこやかにそう言った。

 

 

 

 

 

 

*1

小鬼(ゴブリン)が作った剣には、錆や腐食から剣を守り、自身を強化する力を吸収するという性質がある。

グリフィンドールの剣は、小鬼(ゴブリン)製であるため、その性質が適応されるのだ。

*2

イソップ童話や日本昔話に近い存在だろう。

 

実際、ロン曰く「魔法使いの子供ならだれで知っている本」とのこと

*3
詳しくはおまけにて

*4
娘たるルーナから忠告を受けていたらしい。

 

「私やハリーの為に、しばらく発行を中止しよう」と。

 

信頼出来る『ある人』がそう勧めてきたとも。

 

愛娘を守るため、自身の信念を歪めないため、彼は発行を中止した






僕らも
いよいよ動き出す時。



本小説で刀原が出て来なかったのは初めて。
今頃何をしているのやら……。

ハリー達が今の今まで大人しく逃亡生活をしていた影響は、微妙に大きいですね。

ゴドリックの谷での一戦が無い為、ハリーの杖が折れてない。
人攫いに見つかる事もなく、マルフォイの館での一戦も無い。
よってハーマイオニーの杖は奪われず、ドビーも死なない。

え、杖職人がいた筈だ?
何処ぞの鎌鼬四席が守りました。



感想、ご意見、評価、お気に入り登録。
ありがとうございます。
そしてお待ちしております。


では次回は

決戦直前

次回もお楽しみに






おまけ



『それとあと、えーっと……三番隊隊長の……ショーヘイ・トーハラの言葉です。

音声データですね。
そのまま流します。

ピッ
《このラジオを聴いている、忠勇なる英国の魔法使い諸君たちよ。

我ら護廷十三隊は、賊軍を鎧袖一触にした。
これで我らの戦いは終わりか?

否!
ほんの前哨戦に過ぎないと判断している!

我らは勇気ある同胞を、友を、決して見捨てないからだ!

我らは近々英国に乗り込む。

そして我が盟友…『選ばれし者』たるハリー・ポッターと共に、ヴォルデモートを叩き潰す!

即ち、ハリーが反撃の狼煙を上げたその時こそ……諸君らも立ち上がる時である!

確かに敵は強い。

認めよう、敵は強い!

現にマッド・アイを始めとする多くの者が、その命を散らした……。
彼らが諸君らにとって、掛け替えの無い友人や家族であった事は否定できない。

だが、どうか思い出して欲しい!

諸君らの肉親は、親戚は、友は…なんの為に戦い、そして、死んだのかを。

それは彼らが、己の信念を曲げず、勇気を示そうとしたからではないのか!?

彼らを亡くした、その怒りも悲しみも…。
彼らが残した、その勇気も信念も…。
決して無駄には出来ない!

勝利こそ…亡くなった全ての人たちへの、最大の慰めとなる。

そしてハリー・ポッター…。
彼こそ、全ての者達にとっての希望だ!

彼の下、鋼の団結を結ぼう!

それに、奴らの同盟者たる賊軍は…我らの刀の錆にもならず、瀞霊廷に消えた。

我ら護廷十三隊への対抗手段の半数を失い、痛烈な打撃を受けたヴォルデモート陣営に、如何ほどの戦力があろうとも…それは形骸である。

敢えて言おう、カスであると!

所詮、暴力と恐怖でしか支配出来ない奴ら如きが…英国征服など、出来よう筈がない。

千年早いか、夢のまた夢なのだ。

そう、断言出来る!


そしてヴォルデモートよ……。
貴様の命運もこれまでだ。

首を洗って待つがいい!

そして、戦場で会うその時まで……。
産まれたての小鹿のように、ガクガク震えながら眠るがいい!

フハハハハハハ!

では勇気ある同胞諸君。
戦場で我らと握手!》

…………だそうです』

「ノリノリね」


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選ばれし者、決断する。決戦前の各方面



ただ静かに
息を殺し

今か今かと
それを待つ

そう……嵐を。








 

 

『貝殻の家』という家は……本来はビルとフラーという新婚の二人が、二人だけで過ごす家の筈だった。

 

しかし、世情がそれを許さなかった。

旧騎士団本部(グリモールド・プレイス)が、もはや危険地帯となったロンドンにある為……『貝殻の家』が騎士団の新たな隠れ家になったのだ。

 

さて、そんな秘密の隠れ家に這う這うの体でやってきたハリーは、久方ぶりの暖かな環境に、心を落ち着かせることになる。

 

いつこの場所がバレて、襲撃されるか……。

暗いニュースがラジオを支配する中、気持ちを保つか。

 

気の休まらない日々を過ごしてきたハリー達は、安全で暖かな生活の有難さを身に染みて知り……それを堪能出来ることに感謝した。

 

 

少し疑問もある。

ハリー達を『貝殻の家』に導いた(運んだ)のは、我らが愛すべきしもべ妖精であるドビーだが……彼は何故この場所を知っていたのだろうか。

 

そして何故ハリーの居場所も知っていたのだろうか。

 

彼曰く……ホグワーツから去った後は()()()の使いをしていたが、ひょんなことからクリーチャーと出会い、その流れでシリウスに会ったらしい。

 

その為、ドビーは貝殻の家を知っていたのだ。

 

そしてハリーに関してだが……シリウスは、自身があげた両面鏡を常に見ていた。

 

だが……今までは森の中だったり自然いっぱいの場所だったりテントの中だったりしたため、さっぱり居場所が分からなかった。

 

それでも、ハリーがラブグッド家で両面鏡を見た際……印刷機やら大量の『クィブラー』やらが見えたことで居場所を判別できた。

 

シリウス達は、彼ら救出の為にドビーの派遣を決定。

ついでにラブグッド氏も救出しようとした。

 

最終的には、見事ハリー達の確保に成功した……という訳だった。

 

 

 

ハリー発見と確保の一報は、瞬く間に騎士団に共有される。

シリウスやルーピン等は真っ先に訪れ、亡き親友の忘れ形見と熱い抱擁を交わした。

 

だが、彼らがハリー達に伝えた情報は決して良い物では無かった。

 

ーーーーーー

 

「英国の連中達だけじゃ無い……。米仏独伊西露など、欧州中から死喰い人の端くれみたいな連中がヴォル、『頭のイカれた魔法使い』の下に集結している」

 

「正直言って、考えたく無い数になっているのは確かだ」

 

ーーーーー

 

シリウスやリーマスは苦い顔でそう言う。

 

戦闘と言うものが原則的に一対一で行われるのは、魔法使いの世界でも同じ事。

 

故に、圧倒的人数で来られると……太刀打ち出来ない。

 

無論、シリウスやハリー達は優れた魔法使いである。

だが、許容範囲は同時に二人までだろう*1

 

故に、一対多数戦が出来る一握りの実力者……。

 

かの者達

 

日本の実力者達(隊長格経験者と副隊長)

 

今世紀最強(ダンブルドア)

 

ダンブルドアの先輩らしい『伝説の魔法使い』*2

 

黒い魔法使い(グリンデルバルド)

 

頭のイカれt、闇の帝王(ヴォルデモート)

 

この規格外な連中が例外なだけだ。

 

そんなただでさえ悪い情報だが……。

それを遥かに越えるヤバい情報をシリウスは語る。

 

ーーーーー

 

「それだけじゃ無い。噂によればだが……グリンデルバルドが何者かによって釈放されたらしい」

 

「ダンブルドアや頭のイカれた魔法使いに匹敵する実力者だ。危険度も高い。尤も、あの人と合流する可能性は低いだろうが……」

 

「だとしてもだ。かつてはあの人と同等に恐れられていた『黒い魔法使い』だ。もし表舞台に出てくる事になれば、最悪な第三勢力((仮称)グリンデルバルド陣営)が爆誕するとこにもなりかねない」

 

「そうなれば由々しき事態だ」

 

ーーーーーー

 

全盛期のダンブルドアと渡り合った『黒い魔法使い』ゲラート・グリンデルバルドが何者かによって釈放されたという情報だ。

 

彼の性格上……ヴォルデモートと手を組んだり、傘下に入ったりはしないだろうが……。

 

それでも、グリンデルバルドがしでかした事を考えれば……警戒しない方がおかしい。

 

英国以外の欧州では……ヴォルデモートとか言う恥ずかしい奴より、グリンデルバルドという悪のカリスマの方が恐怖の対象になっているほど。

 

何者かの正体は不明だが……どうせ良からぬ事を企んでいるに違いない。

 

ダンブルドア不在の現在(いま)、グリンデルバルドが英国に行けない理由も無い。

 

状況は深刻だった。

 

故にハリーは決断を迫られる。

 

 

 

 

 

 

ヴォルデモートは余裕綽々……ではなかった。

 

目の上のたんこぶであるダンブルドアは居ない。

生意気な小僧であるハリー・ポッターは逃亡している。

 

ホグワーツは……抵抗勢力が()()()()跳梁しているらしい。

 

手駒の数は、過去最大人数を数える。

 

だが……。

 

だが、勝てるとは言えない。

 

問題が多いから。

 

 

 

まず杖の問題。

 

小癪なハリー・ポッターの杖に対抗するのに、部下の杖は力不足。

かといって自分の杖(イチイの杖)でも難しい。

 

故に、最強の杖である『ニワトコの杖』を探していたのだが……残念だが何処にあるのか分からん。

 

殺したグレゴロビッチは……盗まれたらしく、それ以上の事は分からないと言っていた……。

 

他の中でも最大の有力候補となるグリンデルバルドは……あろうことか釈放されたらしく行方不明。

 

まあ、グリンデルバルドだった場合……予想が合えば、次はダンブルドアだが。

 

『ニワトコの杖』の捜索は、業腹だが……完全に暗礁へと乗り上げたな。

 

 

 

次に、分霊箱。

 

どうも連中に感づかれているらしい。

 

日記が破壊されているのは間違いない。

あの一件(秘密の部屋事変)は知っている。

 

カップも……刀原とダンブルドアの二人が、直々にレストレンジの金庫を探索したとの情報だ。

 

老い耄れダンブルドアとて節穴では無いだろうし、規格外の象徴とも言うべき刀原が探したのだ。

 

まず間違いなく見つかり、破壊されているだろう。

 

となると……小屋に残されたままの指輪は危険だ*3

 

ロケットは……あの洞窟の知る者は居ないし、あそこの守りは鉄壁だ。

 

ダンブルドアや刀原といえども、盗ることは不可能に等しいはず*4

 

まあ、更に守りを厚くすれば良かろう*5

 

ティアラは……。

 

ナギニも守りを厚くし、俺様と常に行動するとしよう。

 

 

 

そして一番の問題は……極東だ。

 

あの理性ある殺戮集団が大挙してやってくる。

 

刀原一人であのざまだというのに……。

 

千年もの間、極東を守り抜いた伝説的存在……『護廷開祖』山本元柳斎重國。

 

噂に聞く……『死剣』卯ノ花烈。

 

相当な手練れと聞く……藍染惣右介。

 

他……京楽春水、浮竹十四郎、浦原喜助、四楓院夜一、雀部長次郎などの噂に名高い強者達。

 

顎屋敷剣八、平子真子、鳳橋楼十郎、矢胴丸リサといった大陸探題。

 

市丸ギン、黒崎一心、砕蜂、涅マユリといった日本魔法省の面々。

 

刀原の同期……雀部雷華、日番谷冬獅郎、黒崎一護など。

 

綺羅星のごとき……錚々たる面々。

 

それらがやってくるのだ。

 

まあ、圧倒的人数を用意して……。

死の呪文を撃ちまくりながら突撃(決死のバンザイ突撃戦法)させれば……何とかなるかもしれないし……。

 

それを期待して大量の手駒を用意しているのだが……。

 

龍に群がる蟻の様な展開になることが容易に想像出来るな。

 

…………。

 

……………………。

 

………………………………奴らと戦うなど、正直言って考えたくもない。

 

クソが!

ふざけるな!

何故来る!

来るな!

帰れ!

 

………………。

 

………………………………おのれ。

 

おのれダンブルドア!

 

こうなるよう仕向けたのだろう!

そうに違いない!

 

間違いない!*6

 

…………そりゃあ考えたさ。

 

アイツらに対抗する方法を。

 

霊圧とやらを学び、鬼道とやらを知り、斬魄刀を入手して始解とやらを出来る様になってみようとしたりしたさ。

虚化とか言う、如何にも危険そうな手段に出てみようかとおもったりしたさ。

 

だが……駄目っ……!

 

霊圧なんて分からん。

鬼道など出来る気配無し。

斬魄刀に至っては入手すら出来ない。

手に入れた所で、始解出来る様になる方法も分からない。

 

虚化なんてさっぱりだ。

 

日本の者を捕らえて方法を吐かせようかとも一瞬思ったが……。

そんな事をすれば破滅が早まるだけだろう。

 

打つ手無し。

投了です。

 

大人しく十刃の連中に託す他あるまい。

 

 

……連中に我が命運が掛かっていると思えば、震えるな。

 

まあ、良い。

いや、良くはないが。

 

近いうちに小僧は決戦を挑んでくるに違いない。

そこで小僧とその一味を一網打尽にする。

多分やってくるかもしれないと思いたい護廷十三隊は……十刃に託し、少しでも疲弊させる。

 

いよいよだな。

 

 

 

 

 

 

「いよいよである!」

 

元柳斎は杖を床に打ちながら、高らかにそう言った。

 

賊軍との決戦に勝利した刀原達は、万難を排してヴォルデモートを誅殺するべく、軍議を開くことにしたのだ。

 

「いよいよ我らも英国入りする時が来た。同盟国たる英国に巣食うヴォルデモートとその一味、其奴らと手を組んでいる破面の者共を切り捨てる時が来たのじゃ。英国も欧州も、日本も、日本以外の世界も奴らに渡す訳にはいかんからの。では、刀原……」

 

「はい」

 

元柳斎に促された刀原は、床に世界地図とホグワーツ周辺の地図を敷く。

 

「では、改めまして……本作戦の総大将を拝命しました、三番隊の刀原です」

 

刀原がそう言ってお辞儀をする。

 

もう手慣れたもんすね。

えらい立派になったもんやな。

カッコいいですよ!

 

など茶化す者がいる中、刀原は咳払いする。

 

「山じいみたい」と言われるが。

 

「では、まず初めにですが……ハリー達が不死鳥の騎士団に保護されたという情報です。彼の決断次第ではありますが……彼が決戦を選んだ場合、我らも助太刀に駆け付けねばと考えております」

 

「ヴォルデモートだけならいざ知らず、十刃の面々がいるから尚更だね」

 

刀原と京楽がそう言えば、軍議に参加している者は全員が各々の反応を見せる。

 

「その英国入りですが……全員では向かいません。賊軍の完全掃討が終わってませんから。ここの守りを疎かにも出来ません。その為、日本魔法省と大陸探題にもここの守りをお願い致します」

 

「任せといてや」

 

「心得た。任せてくれ」

 

二つの組織の長である市丸と刳屋敷がそう言って頷く。

 

「護廷十三隊も英国に行く者、日本に残る者とで分けさせて頂きました。既に個別でお願いしております。各位、よろしくお願い致します」

 

既に根回しは済んでいる為……刀原がそう言えば、ほぼ全員が頷く。

だが大人しく頷かない者もいる。

 

「おい刀原!俺はまだ納得してねぇぞ!」

 

誰あろう……(バトルジャンキー更木)である。

 

「ヤッテモータだかバレテモータだか知らねぇが、強いんだろ?十刃も中々手強いって聞いたぜ?なのに何で俺は留守番なんだ!」

 

「現地は日本でも瀞霊廷でもない異国の土地。護廷十三隊並みの歴史を持つホグワーツが、お前によって木っ端微塵になるのは避けたいんだよ。国際問題は面倒だし」

 

「……俺がやりかねねぇって言いてぇのか」

 

「うん。やると思ってる。お前、周囲お構いなく戦うだろ?」

 

更木の訴えに、刀原は真顔で一蹴する。

 

刀原とて更木参戦を考えなかった訳では無い。

 

だが……敵を撃破するついでに、ホグワーツも吹き飛ぶ光景がありありと見えたのだ。

 

本末転倒になるので……。

あと更木が満足出来なかった場合に、こちらに向かって来るの(「つまらねぇ……斬り合おうぜ刀原!」)を避けるために……。

ついでに、その凶悪な面でハリー達が萎縮しない様に……。

 

刀原は更木を留守番させることにしたのだ。

 

「俺は強い奴と戦いてぇ」

 

「じゃあ、国際問題になったらお前一人で全部解決しろよ?英語が出来ないお前が解決出来るといいな?」

 

「うぐ」

 

「あと個人的にお前を信頼してるからこそ、残ってもらいたい。頼む」

 

「……ちっ、しゃーねーな。分かったぜ」

 

最終的に、更木は納得した。

そして刀原は、ホグワーツを救ったのだった。

 

 

 

その後も、刀原は矢継ぎ早に指示を出す。

 

当たり前だが……護廷十三隊は破面の面々を倒すこと。

周囲の被害を最小限に留めること。

 

死喰い人は切っても良いが、ヴォルデモートはハリーの獲物であること。

 

そして…。

 

「破面の面々の内、何人かは見逃す、味方に引き入れる…だと?」

 

刀原の案に、狛村が険しい顔をする。

 

「彼らを味方に出来れば、大きな戦力になります。向こうには穏健派もいますから」

 

刀原はそう言う。

 

「臆したか刀原」

 

元柳斎はそう言って刀原を睨む。

 

刀原の甘さがそう判断したのかと。

 

「違いますよ。今後の為になると考えた上での案です」

 

しかし、刀原はそんな甘い考えを持った訳ではない。

 

「またヴォルデモートみたいな馬鹿が現れた時、破面という勢力が敵に回らず…むしろ友好的だった方が良いかと思いました。僕らが出張らなくて済みますから」

 

「ふむ」

 

「それに、理性ある破面に虚をある程度管轄して貰った方が良いのではと。ゼロには出来ないとは思いますが、それでも頻度を下げることぐらいは出来るかと」

 

刀原の案は、友好関係にある破面に虚を統治させるというもの。

この機に、長年の懸案だった虚問題にある程度の決着を着けたいと考えていたのだ。

 

「受け入れない者は?」

 

元柳斎は頷きながらも、再度睨みながら言う。

 

「斬ります。受け入れないならそれまでです」

 

それに刀原は、はっきりと答える。

 

降伏に固執することはない。

降伏すれば良し、さもなくば切り捨てるまで。

 

刀原はそう言いたいのだ。

 

元柳斎は刀原のその姿勢に感心したかの様に頷く。

 

時には甘く、時に苛烈に。

敵には一切の容赦無く。

 

さりとて、柔軟な発想は忘れない。

 

儂じゃったら皆殺し一択じゃったが……。

素晴らしい成長じゃ。

 

「良かろう。儂は刀原の案に賛同する」

 

元柳斎は思わず溢れそうになる笑みを堪えながら言う。

 

「確かに、成功すれば大きい案だね。僕もそれに賛成だ」

 

京楽もそう言う。

 

二人の重鎮の賛同を得た刀原の案は実行に移される事に決まった。

 

「ありがとうございます。では対英国方面の軍議を終わります。皆さん、抜かり無く」

 

刀原の言葉を最後に、護廷十三隊は動き出した。

 

 

 

 

 

 

「ハリーはこれからどうするんだい?」

 

「ハリー、どうする?」

 

「どうすんだよハリー」

 

シリウス、ハーマイオニー、ロンがそう聞いて来た。

 

日本の決戦が終わり、いよいよ動くか。

それともまだか。

 

そう言いたいのだ。

 

夜、暗い海を見ながら悩むハリーの手元には、シリウスから渡された刀原からの手紙。

 

今朝やってきたと言うその手紙に書かれていたのは……たった一言の言葉。

 

Are you ready?(覚悟は良いか?)

 

ハリーの心は決まっていた。

 

(勿論)

 

ハリーが書いた一文字は消えていった。

 

選ばし者は決断したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
死の呪文を使っていいのなら……。

手段を選ばなければ……。

話は別。

*2

噂によれば…。

 

敵を火薬樽に変身させて敵にぶつけて爆殺したり。

敵からの攻撃をローリングで回避したり。

害悪戦法を普通に運用してきたり。

 

色々とヤバい人だったらしい。

実際、話を聞いたハリー達はドン引きした。

 

だが「シンパシーを感じる」と言い張った『かの者達』は違った。

 

「何それ凄い」

「是非ご教授して欲しいです」

 

数日後、かの者はハリー渾身の武装解除呪文を……「こんな感じかな?」と言いながらローリングで回避した。

 

*3
残念。

既にダンブルドアによって破壊されている

*4
残念。

既に見つかり、破壊されている。

 

なお、ダンブルドアとハリーをもってしても苦戦を強いられた洞窟の守りだが……刀原は難なく攻略出来る。

 

亡者など全部斬れば良いし、湖だって空中を歩いて渡る。

毒薬に関しても何とか出来るだろうが……。

 

「面倒だな。これごと破壊するか」

 

と言って台座ごと完全詠唱黒棺を叩き込んでロケットを破壊する事は、想像しやすいだろう。

多分……いや、絶対する。

 

*5
手遅れ

*6
まあ、その通りなのだが……。

ダンブルドアだって「まさかこうなるとは予想してなかったのじゃ」というのが本音だ。

 

喜ばしいことではあるが、ホグワーツは年を重ねるごとに寮間での諍いは無くなり。

己の企みは、ほぼ水泡に消えた。

 

ハリーは気付かぬ内に、仲間ごと逞しくなり。

なんかついでに強化もされてる。

 

あれれ~おかしいぞ~。

 

なんでこうなった?

わし、何か間違えた?






護廷十三隊の視点から見れば余裕。
問題は十刃の面々が気になるところ。

ハリー側から見れば、人的不利。
でも護廷十三隊が来れば余裕。

ヴォルデモート側から見れば、護廷十三隊がやって来る前にハリー達を倒したい。
でも、倒しても護廷十三隊に負ける可能性大。

さあ、勝敗は如何に?

ま、過程はともかく結果は決まってますが。


感想、ご意見、評価、お気に入り登録。
ありがとうございます。
そしてお待ちしております。


では次回hーーーーー











コチラ極東
コチラ極東
英国応答願ウ

コチラ英国
極東ドウゾ


我ラ共演ノ為 楽屋ニ入ッタ
主演ノ楽屋入リヲ待ツ

共演感謝ス
主演八楽屋ニ入ッタ


英国ヘ
撮影予定日知ラセ

極東へ
撮影予定日五月二日

客入リ人数ノ予想八?

満員御礼ノ予定

了 土産ヲ持ッテ向カウ





いよいよ始まる
大一番

集う
あの城へ



勇敢なる英国の勇士


Harry James Potter

Hermione Jean Granger

Ronald Bilius Weasley

Neville Longbottom

Ginevra Molly Weasley

Luna Lovegood

Minerva Mcgonagall

Sirius Black

Remus Lupin

Severus Snape

ーーーーー ーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーー ーーーーーーーーーーー


死を喰らう者


Lord Voldemort

Death Eaters


極東の戦士


刀原将平

雀部雷華

日番谷冬獅郎

黒崎一護

雛森桃

朽木ルキア

阿散井恋次

井上織姫

卯ノ花烈

朽木白哉

狛村左陣

京楽春水

浮竹十四郎

浦原喜助


破れた面を持つ虚


コヨーテ・スターク

ーーーー・ーーーーーーー

ティア・ハリベル

ウルキオラ・シファー

ーーーー・ーーー

グリムジョー・ジャガージャック




積み重なった物語は

決着の血戦へと至る

いざ死合おう

世界を掛けた一夜だ。



次回

ホグワーツ決戦 開戦

次回もお楽しみに








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幕間『選ばれし者の決意』


その決意は炎の様

その心は漣の様

その勇気は獅子の様。






 

 

漣の音が聞こえる。

 

暗い、漆黒の夜の海だが……ハリーはこの場所が妙に落ち着いた。

 

彼の手元には一通の手紙。

 

どの様な手段で送って来たのかは不明だが……ショウから送られて来たその手紙には、たった一言だけ書かれていた。

 

『Are you ready?』

 

ハリーはこの一言を理解していた。

 

『戦う準備は出来たか?』

『皆を巻き込む覚悟は出来たか?』

 

『こちらは準備出来たぞ』

 

そう言いたいのだ。

 

ハリーは……答えを書くのは簡単だと思っていた。

 

だが……いざ書こうと思ったら、手が震えるのだ。

 

戦いになれば、否が応でも皆を巻き込む。

 

ロンが、ハーマイオニーが。

ネビルが、ジニーが、ルーナが。

シリウスが、ルーピンが。

ショウが、ライカが。

 

みんなが。

自分自身が。

 

死ぬかもしれないのだ。

 

惨たらしく、無惨に、呆気なく……死ぬかもしれない。

拷問も、洗脳もされるかもされない。

 

漣の音が聞こえる。

 

ハリーは胡座をかきながら砂浜に座った。

膝にはグリフィンドールの剣を乗せて。

 

ハリーは目を瞑る。

 

漣の音が聞こえる。

 

静かな夜の砂浜に、漣の音がただ聞こえる。

 

ーーーーーー

 

『良いのかね?スリザリンに入れば、君は偉大になれるのだよ?それでも嫌なのならば……グリフィンドール!』

 

組み分け帽子にグリフィンドールに選ばれた。

 

ショウやロンと共に、トロールを倒した。

 

ロンとハーマイオニーと、ニコラス・フラメルについて調べた。

 

クィデッチの初試合でスニッチをキャッチした。

 

賢者の石を守った。

 

ーーーーーー

 

漣の音が聞こえる。

 

ーーーーーー

 

ドビーと出会った。

 

空飛ぶ車でロンの家に行き、列車を追いかけた。

 

秘密の部屋が開かれた。

 

アラゴグに襲われた。

 

『僕はヴォルデモート卿の過去であり、未来だ』

 

トム・リドルと対峙した。

 

『何してるハリー、下がれ!……そうか、じゃあ、無理して前に出んなよ?』

 

ショウと一緒にバジリスクと戦った。

 

ーーーーーー

 

漣の音が聞こえる。

 

ーーーーーー

 

ライカに出会った。

 

吸魂鬼という生物を知った。

 

ルーピンに出会った。

 

シリウスと、両親の死の原因を知った。

 

『エクペクト・パトローナム!』

 

守護霊で吸魂鬼を追い払った。

 

ーーーーーー

 

漣の音が聞こえる。

 

ーーーーーー

 

魔法学校対抗試合に参加させられた。

 

ドラゴンと戦った。

 

ダンスパーティーでジニーと踊った。

 

水中でロンやフラーの妹を救出した。

 

生垣の迷路に入った。

 

墓場でヴォルデモートが復活した。

 

ーーーーーー

 

漣の音がただ静かに聞こえる。

 

ーーーーーー

 

ダドリーを助けた。

 

裁判で無罪になった。

 

ショウとライカが隊長になった。

 

DAでみんなと訓練……実戦訓練をした。

 

神秘部で死喰い人と戦った。

 

目の前でショウとダンブルドアがヴォルデモートと戦っている。

 

ーーーーーー

 

漣の音が静かに聞こえる。

 

ーーーーーー

 

『ハリー』

 

ロンが呼んでいる。

ハーマイオニーが呼んでいる。

 

『ハリー』

 

ライカが呼んでいる。

シリウスが、ルーピンが呼んでいる。

 

『ハリー』

 

ネビルが、ジニーが、ルーナが呼んでいる。

フレッドとジョージが、セドリックが、チョウが呼んでいる。

 

『ハリー』

 

ハグリッドが呼んでいる。

ホグワーツで出会った生徒達が呼んでいる。

 

『ポッター』

 

マクゴナガル先生が、他の先生達が呼んでいる。

マルフォイが呼んでいる。

 

ーーーーー

 

漣が微かに聞こえる。

 

ーーーーー

 

『ハリー』

 

ダンブルドアが呼んでいる。

 

『ハリー』

 

ショウが呼んでいる。

 

『俺が』

『皆が』

 

『待っているぞ』

 

ーーーーーー

 

ハリーは目を開けた。

 

剣はほんのり暖かい。

 

そして手紙に返事を書いた。

 

たった一文字だけ。

 

『!』

 

手は震えなかった。

 

 

 

 

 






吼える

炎の様に

開く

決意の目を。








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選ばれし者、帰還。ホグワーツ決戦 開戦直前 



いま

あの城に

稲妻光る。








 

 

ヴォルデモートは、荒々しく行ったり来たりしていた。

 

そんな彼の頭の中には、次々とイメージが浮ぶ。

 

自分の宝、守り、そして不死の掟と秘密。

 

知っているのか?

既に発見の為に動いているのか?

 

動いていると見るべきだ。

 

日記が例の事変で既に破壊されているのは知っている。

レストレンジ家の金庫にあったカップも、既に発見されている事は間違いない。

 

ダンブルドアと刀原によってレストレンジの金庫を捜査された時、発見されたことは想像に容易いからだ。

 

それは小僧にも共有されているだろう。

 

しかしだ。

 

もしあの小僧が、ダンブルドアが、刀原が、我が宝を破壊したのなら……。

気づいた筈だ。

感じた筈だ。

 

この偉大なる俺様が、一番大切で尊い俺様自身の魂がが、襲われ傷つけられるのに気づかぬはずが無い。

 

だが……いや、過信すべきでは無い。

 

あの刀原が関わっているのなら……奴なら、この俺様に気づかれる事なく破壊する事だって可能と見るべきだ。

 

奴らを、日本の規格外共を常識で考えてはならん。

 

と言う事は…やはりカップは破壊されていると見るべきだな。

 

となると……問題は他の品々だ。

 

知っておかねばならぬ。

確かめねばならぬ。

 

指輪はどうだ?

俺様があの血筋(ゴーントの血)を持つ者だと知っている者は誰も居ない。

 

あの殺人についても、突き止められる事は無かった。

 

あの小僧がゴーントの小屋に指輪があると、知るはずもない。

 

だが、ダンブルドアは俺様の本名、二番目の姓(マールヴォロ)を知っている。

そこから血筋を逆算することは可能だ。

 

隠し場所として、あの小屋は最も守りが弱い。

 

早急に向かい、存在を確かめると共に……守りを強固する必要がある。

 

ロケットに関しては特に問題無い筈だ。

 

あの守りを突破するなどありえないこと。

そもそもあの洞窟の存在を知っている者もいない。

 

小僧が洞窟を知る事も、守りを突破する事も……出来はしない。

 

だが、ダンブルドアは孤児院を通して俺様の過去の悪戯を知っている可能性があるし、規格外の代名詞である刀原ならば鉄壁の守りを突破出来るかもしれん。

 

こちらも見に行く必要がある。

 

城は、学校にある物はどうだ。

 

ホグワーツのどこに隠したのかを知る者は俺様だけだ。

 

自分だけがあの場所の、最も深い秘密を見抜いたのだ。

 

例え小僧がそれを読んだとしても、網にかからずしてホグズミードに入ることなど不可能。

ましてや学校は尚更だ。

 

尤も……万が一のために、スネイプに「小僧が城に潜入しようとして来るかもしれぬ」と警告しておくのが賢明だろう。

 

理由を話すのは愚かしい事だが。

 

あそこの分霊箱は安全だ。

 

とりあえずはゴーントの小屋を訪れるのだ。

 

無論、ナギニも連れて行く。

 

最早この蛇とは離れるべきではない……。

 

 

 

 

 

ハリーは自分を現実に引き戻し、目を開ける。

 

昼過ぎから海岸で考え事をしていたのに、夕陽は沈みかけ、ハリーは横たわっていた。

 

ロンとハーマイオニーが心配そうに見下ろしている。

 

「『あの人』は知っている。あいつは知ってるんだ。そしてこれから他の分霊箱を確かめに行く。それで、残る二個は……」

 

ハリーは立ち上がりながら、記憶を思い出しながら考えを口に出す。

 

「ホグワーツにある物と蛇だ。そうだと思っていたんだ!ショウの、僕らの考察は正しかった!」

 

「ドンピシャだったって訳ね?」

 

ハリーの言葉に戸惑いつつも、ハーマイオニーは言う。

 

「でも。それってマズイんじゃないか?俺たちにバレた事を確信したのなら、指輪とロケットが無いことに気づいたのなら、ホグワーツにある物も何処かに移してしまうかも」

 

「ロンの言う通りだ。僕らは早急に事を運ぶ必要がある」

 

ロンの言葉に頷きながら、ハリーは頭を回転させる。

 

ホグワーツに入るには相応の準備と覚悟がいる。

 

何より、ヴォルデモートに自分の位置を知られる可能性が大いに跳ね上がる。

 

ショウに、騎士団に連絡する必要もある。

 

「よし、ハーマイオニーは僕と荷物の整理をして。ロンは事情をビルとフラーに伝えて欲しい。ホグワーツに入れば、僕らの位置がバレる可能性が出てくる。そうなったらヴォr『あの人』と決戦になる。僕らだけじゃ勝てない。ショウ達の力が必要だ。日本は遠いから、どうしてもタイムラグがある。連絡は早い方が良い」

 

ハリーの矢継ぎ早の指示に、二人は動き出す。

 

 

 

心配そうなビルとフラーに後を託し、ハリー達は懐かしのホグズミード村に着く。

 

だが、その懐かしさを味わうことは出来なかった。

 

ホグズミード村に『夜鳴き呪文』が掛けられていたからだ。

 

慌てて逃げようとするが、追いつめられるハリー達。

 

それを助けたのはホッグズ・ヘッドの主にしてアルバス・ダンブルドアの実の弟『アバーフォース・ダンブルドア』だった。

 

「何故ノコノコと戻って来たんだ?この馬鹿共め!」

 

バタービールを出しながら、アバーフォースは叱責する様に言った。

 

「この村に、この城に近づくことが如何に危険か……分かってるのか!いったい何のために来た!」

 

「今夜、城に入りたいんです。例のあの人を倒す為に」

 

アバーフォースの言葉にハリーは正面から向き合う。

 

「ダンブルドア先生から、親友から託されたんです」

 

「ッハ!託された……ね。簡単か?楽か?違うだろう。兄が託したのは自殺紛いの任務だ。君の親友の刀原はそれも承知で託したんだろうが、彼は戦士……戦う者だ。思考は我々とは根本的に(頭薩摩ホグワーツだから)違う。命を大事にしろポッター」

 

ハリーの言葉をアバーフォースは一蹴する。

 

「使命、運命、仕事、任務、託された……。言い方はそれぞれある。『我々にはその使命がある!』……だったか。かつてそれを言った者がいた。だがその使命とやらは、いったい誰が『それがある』と保証する?」

 

アバーフォースは、まるで過去にそう言われたことがある様な口調で言う。

 

「青臭い言葉だ。だが……例えば本当にそれがあるとして、君は納得しているのか?いいや、納得していないだろう?お前は真には納得しないまま、中途半端に覚悟を決めて言っているだけだ!」

 

ハリーはその指摘に反論が出来ない。

 

ダンブルドアに、刀原と雀部に、京楽に、ハーマイオニーやロンに啖呵を切ったり宣言していたが……ハリーは自身が『納得していたフリ』をしていただけなんじゃないかと思ってしまったからだ。

 

「俺に嘘を言うのは良い……俺とお前にはロクな繋がりが無いからな。だが周囲はどうだ。お前を信じる者は、お前が全てを受け入れたと思って集まってきている。それを裏切っているんだ。そして何よりも……自分に嘘をつくには愚か者のすることだ。君は愚か者には見えないぞ?ハリー・ポッター」

 

アバーフォースは変わらず、真っ直ぐにハリーを見てくる。

 

「だからもう一度聞く。何のために来た?理由がある筈だ」

 

「あいつを倒すため。それが理由です」

 

アバーフォースの問いを前にしても、ハリーの答えは変わらない。

 

『これだけ深く関わって、色んな人に支えてもらって……今更投げ出すなんてしたくない』

 

約一年前、京楽に言った様に。

 

『俺たちが行くまで、英国は任せた』

 

兄貴分にして全幅の信頼を寄せる親友、刀原に託された様に。

 

『ハリー……わしを信じてくれるかの?』

 

自分を信じてくれたダンブルドアを信じる様に。

 

「僕は戦う。どんな結末になろうとも……。僕にはもう、何年も前から分かっていた事だし、迫られてた事なんです」

 

ハリーの鬼気迫る言葉にアバーフォースは顔を顰める。

 

「あいつを倒す為に、今夜城に入りたんです。協力して頂けませんか?」

 

だが、ハリーは真っ直ぐにアバーフォースを見た。

 

アバーフォースはやがて一つ頷くと、「では頼んだよ」と肖像画の女性に呟いた。

 

女性は……アリアナ・ダンブルドアは微笑み、後ろを向いて歩き出す。

 

「あの、何処に?」

 

「直ぐに分かる」

 

ハーマイオニーの問いに、アバーフォースは先程とは比べ物にならない程落ち着いた声で言った。

 

そしてその言葉の意味は直ぐに分かる。

 

「誰か連れて来たぞ……?」

 

アリアナが誰かを伴って戻って来たのだ。

 

そして着いたと同時に肖像画が開いていき、そこから現れた人物にハリー達は驚く。

 

「君が来るって僕は信じてた!待ってたよハリー!」

 

何処か逞しくなったネビルだったからだ。

 

 

 

 

 

 

「こんな道『忍びの地図』には載ってなかった」

 

製作者や双子ほどでは無いと思っているが……それでも他の生徒よりはホグワーツを地形を把握していると自負していたハリーだが、ホッグズ・ヘッドからホグワーツまでの道は知らなかった。

 

「存在してなかったからね」

 

ネビルはそんなハリーの心情を察してか、フォローする様に言う。

 

「今年度の初めに、七つあった抜け道は全部閉鎖されたんだ。校庭には吸魂鬼がウヨウヨいる」

 

ネビルがそう言えば、ハリー達は内心で冷や汗をかく。

強行突破しようとすれば、大変なことになっていたと思ったからだ。

 

「だけど…まあ、うん。ホグワーツは変わっちゃったよ」

 

だがそれも、歯切れの悪いネビルのこの発言で霧散する。

 

「噂には聞いたけど、カロー兄妹って死喰い人がホグワーツを支配してるんでしょ?」

 

ネビルの言葉が気になったハーマイオニーは、手に入れていた『カロー兄妹は恐怖でホグワーツを支配している』という情報が間違って無かったと確信する。

 

だがネビルは「あ、いや、うん、違うんだ」とバツが悪そうに言う。

 

「えっとね。ほら、その…。もう僕らが一年生の時みたいに、寮間での争いなんて無くなってたでしょ?」

 

「そうだね」

「ええ、仲良くなってたわね」

「ハリーとマルフォイがやめる様に言ってたからな」

 

「でさ。一年前の四、五、六、七年生ってさ……『かの者』の授業を受けてただろ?」

 

「授業……授業か?」

「授業……と言うより……」

「実戦訓練だよなぁ」

 

「そしてさ。ガマガエル……アンブリッジの時に大規模なネガティブキャンペーンをしただろ?」

 

「したね」

「したわね」

「したな」

 

「で……。今年度に入って、ハリーもマルフォイも『かの者』も居ないじゃないか?」

 

「そうだね」

「そうね」

「そうだな」

 

「「「ん?」」」

 

ハリー達はここで重大な事実を認識する。

 

生徒達は寮を問わず、仲が良い。

生徒達の上級生は『かの者』の教えを叩き込まれた。

その上級生は『アンブリッジ・ネガティブキャンペーン』を知っている。

 

そして生徒達のストッパーになるはずの、ハリーもマルフォイもかの者もいない。

 

「「「ちょっと待って、それって……」」」

 

大義名分は完璧。

方法も知っている。

団結する下地もある。

『かの者』に比べたら、カロー兄妹なんて雑魚。

 

そして……止める者はいない。

 

つまり……。

 

生徒達がヒャッハーになる。

 

そのあり様は…ベトコンか、あるいは世紀末(ユワッシャー)か。

 

いずれにしろ……カオスになる。

 

「「「うっわぁ……。」」」

 

ハリー達はドン引きした。

きっとカロー兄妹は地獄を味わっただろう。

 

「ぼ、僕、頑張ったんだよハリー。みんなにやりすぎない様にって言ってたんだ。まあ、一部の生徒は「生温い」「手緩い」って言ったんだけど」

 

「「「頑張った。ネビルは頑張った」」」

 

そして特級戦功を上げたネビルを労った。

 

ネビルは悪くない。

 

悪いのはカロー兄妹(きっかけを作った者)ヴォルデモート(根本的原因)と…。

ダンブルドア(任命責任者)かの者(某護廷十三隊隊長)だ。

 

 

 

そんな話を聞きながら、ハリー達は遂にトンネルの出口に着く。

 

「ちょっとみんなを驚かせようか」

 

ネビルが悪戯っぽく言い、ハリー達を体で隠しながら扉を開けた。

 

「みんな注目!びっくりするぞ!」

 

「アバーフォースの食べ物はもう飽きた。食べられる物にしてくれよ」

 

ネビルの発言に噛みついたのはシェーマス。

他の者もそれに賛同するかの様に頷く。

 

だがそれも、ネビルの背後にいる者を視認するまでだった。

 

「おっどろき!ハリーだ!」

「ハーマイオニー!」

「ロンもいるぞ!」

 

ハリー達を視認したシェーマス達は、万雷の拍手で彼らを迎えたのだった。

 

 

 

「で、どういう作戦だハリー」

 

再会のハグもそこそこに、ネビルはハリーにそう聞く。

 

ハリーが戻って来た時こそ、真の意味で反撃の時間だと思っていたからだ。

 

それは、既にハリーがホグワーツに帰還したという暗号打電『稲妻光る』をポッターラジオでお知らせするほど。

 

「……」

 

ハリーはここで、一瞬考える。

 

分霊箱のことを言うべきかどうかを。

 

だが直ぐにその考えを消し去る。

 

ネビル、ジニー、ルーナは既に、ハリーが『ヴォルデモート討伐の鍵」』を探している事を知っている。

 

隠しても全く意味は無い。

 

「ネビルとジニーとルーナは知っていると思うけど、僕たちは『例のあの人』を倒す鍵を探しているんだ。その鍵って言うのは、それは……」

 

「……分霊箱だろ?ショウが呟いてた」

 

一瞬ハリーが言い淀んだのを見て、ネビルが答えを先に言う。

 

「……うん。例のあの人は不死の為に分霊箱を作ったんだ。だからそれを破壊しない限り、例のあの人は完全には倒せない」

 

ハリーは内心で驚愕しながら肯定する。

 

「一応聞くけど、どうして黙ってたの?」

 

シェーマスがある意味当然の指摘をする。

 

「えっと、それは…」

 

「それはショウが言わなかったからだよ。ショウ言ってたもン。『日本魔法界が永久封印を決定し、ダンブルドアが自ら管理すると判断した本に書かれている物』だって。少なくとも私はそれを聞いて『ヤバイ物』って分かったよ?」

 

ハリーより先んじて、ルーナが言う。

 

そしてそれを聞いた全員の思考は『聞けば分かるヤバイやつじゃん』で統一された。

 

あのショウが…そう言ったって事はそうだ。

内緒なのも無理は無い。

 

「まあ、そのヤバイ分霊箱を僕らは探さなくちゃいけない。ショウと僕らの推測が正しければ、分霊箱は『レイブンクローの髪飾り』だと思う。そして隠し場所は……多分必要の部屋だと思う」

 

ハリーがそう言えば、生徒達はそれぞれの反応を見せつつ活発な議論を始める。

 

「え、ここ?」

 

「でも、それらしい物なんて……」

 

「多分物がいっぱいあるバージョンの部屋じゃないかな?『物の隠し場所に最適な部屋』とか思えば、そういう部屋に入れるんじゃ?」

 

「そういう部屋なら実際にあるよ」

 

「なんなら去年そこで分霊箱を探したわ。物が多すぎて捜索しきれなかったけど」

 

「そもそも『レイブンクローの髪飾り』って数百年も前に失われた筈だろ?品が間違っている可能性も捨てきれない」

 

「確固たる確証が欲しいわよね。でも、目撃証言なんて……無いわよね?あの人が隠した事ですら数十年も前の話だし」

 

「彼女に聞けば?灰色のレディ……ロウェナ・レイブンクローの実の娘『ヘレナ・レイブンクロー』に。『失われた髪飾り』を知ってそうなの、彼女くらいでしょ」

 

「「「「「それだー!」」」」

 

やんややんやと盛り上がる生徒達。

 

三人集まれば文殊の知恵と言うが、これだけの生徒がいるのだ。

画期的なアイデアが出る。

 

「よし、じゃあ早速行動に出よう!『迅速かつ果敢に、されど頭は冷静に行動せよ』かの者からの教えだからね」

 

あらかたの案が出揃った頃を見計らい、ネビルは手慣れた様子でそう指示を飛ばす。

それは彼が憧れる二人の指導者……ハリーや刀原を彷彿とさせる。

 

そしてその指示を受けた生徒も活動を始めようとしたその時だ。

 

「大変だ!全校集会が掛かった!ハリーがホグズミードに来たことが、カロー兄妹に知られたらしい!」

 

部屋の外で連絡係をしていた者がやって来たのだった。

 

ハリーはその言葉を聞いて少し焦る。

 

そして生徒達に声を掛けようとするが……。

 

「くそ!これからって時に!」

「勘の良い奴らだ!」

「これだから死喰い人は」

 

なんか様子がおかしい。

 

「潰すか?」

「潰そう」

「もう一回、湖のど真ん中に放置するか」

「凍えて死ぬかも」

「どうせ死喰い人だ。気にするな」

「それもそうだ」

「待って、ハリーの任務達成が最優先だよ」

「確かにそうだな」

「で、どうする?」

「我らが騒ぎをを起こす」

「その隙にハリー達が分霊箱とやらを探す」

「これだな。これしか無い」

「騒ぎ?パーティーか?」

「花火パーティーか?」

「糞爆弾パーティーか?」

「煙幕パーティーか?」

「やって良いのか?二週間ぶりのパーティーを」

「任せろ。各種の貯蔵は充分だ」

「火薬もな」

「あと二回はパーティー出来るぜ?」

「いや待て、確かにそれも良いが……」

「これはチャンスじゃない?」

「チャンス?どういうことだ?」

「せっかくハリーがいるんだぞ?」

「カロー兄妹を倒す、またとない機会……!」

「この機を逃すな!カロー兄妹を打破しよう!」

「「「「それだ!」」」」

「そしてホグワーツを奪還しよう!」

「「「「それしか無い!」」」」

「パーティーは?」

「なんだ中止か?」

「構わん、やれ」

「「「ふん、任せな!」」」

「よし、全員武器を持て!」

「いよいよ我ら、決起の時!」

「いよいよこの時が来た!」

「ハリーの帰還に応えるのだ!」

「戦わなければ、生き残れない!」

「決めろ!炎のクリティカル!」

「カロー兄妹覚悟せよ!」

「死喰い人死すべし!慈悲は無い!」

「「クリーク!クリーク!」」

「「「「「「クリーク!クリーク!」」」」」」

「「ハリー!ハリー!」」

「「「「「「ハリー!ハリー!」」」」」」

「ではこれより『ハリー帰還おめでとうパーティー』を開催するよ!」

「「「「「ヒャッハー」」」」」

 

僕が組織したDAはこんな連中じゃ無かった。

もうちょっと理性があった。

 

ハリーが何か言うまでも無く……生徒達は勝手に団結し、勝手に武器を取り、勝手に出ていった。

 

妙に統率が取れていた。

 

「凄いよね?僕らの時代じゃ考えられないよ。君のカリスマと、刀原の教えが良いんだろうね」

 

そう言ったのは、ハリーが見たことのない生徒。

さっきの決起の時、さりげなく軌道修正したり纏めてた生徒。

 

「アルバスも良い生徒を持ったよ。みんな思考は違えど……ホグワーツと君を想って行動してる」

 

そう言いながら……その生徒は、姿や格好をコロコロと変えていく。

だが、派手な眼鏡は変わらない。

 

「君は……」

 

「ああ、僕は刀原君に呼ばれて来た者だよ。ホグワーツの生徒を守ってくれって。ただまあ……守る必要は無かったけど」

 

生徒は笑いながら言う。

 

あれは自然発生的に生まれたもので、自分や刀原は一切関与していないとも。

 

「ショウから…?いったい貴方は何者……?」

 

至極当然なハリーの問い。

 

生徒は朗らかに笑う。

 

「僕は何者でもないよ。ただ、レガシー(過去から引き継いだもの)を知っているだけ」

 

ハリーがそれを聞いて瞬きした瞬間、その生徒はいなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






愛すべき学舎
愛すべき後輩

守るべき伝統
守るべき歴史

僕は過去を引き継ぎし者。



書きたいことが多い為、前後編に分けさせて頂きます。

と言っても、後編はあっさりしているはずです……。
え、プロットだと八千字越える予想?


それにしても……ハリポタオールスターVSヴォルデモートになってる気がします。

でも、我らが闇の帝王なら何とかなるはず……だよね?

あ、彼はあくまでも友情出演ですので。



感想、ご意見、評価、お気に入り登録。
ありがとうございます。
そしてお待ちしております。


では次回は
ホグワーツ決戦 開戦 後編
次回もお楽しみに





おまけ


ええっと……。
敵側は……?

ハリー・ポッターと愉快な仲間達
ダンブルドア
ホグワーツの教授陣
ホグワーツ生の皆さん
騎士団の皆さん
セドリック、シリウスも追加
ドラコ・マルフォイ一行

トーハラ
ササキベ
ヒツガヤ
クロサキ
全員ではないが護廷十三隊

………………。

で、こちら側は……?

ヤックスリー
ルックウッド
グレイバック
ラバスタン
ロウル
トラバース
マクネア

……いたな、そんな奴ら
まだ生きてたな……こんな奴ら。

破面は……一部はやる気なし。

あれ、詰んでね?
俺様、終わったんじゃね?

い、いや、そんなこと、ことは……ない!

闇の帝王の底力、見せてくれるわ!


おい作者よ、これ大丈夫?
これ、戦力釣り合ってる?


合ってまーす。
多分。





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死神、現着す。ホグワーツ決戦 開戦直後


普段使えないもの

だからこそ使うのです。







 

 

 

「協力者から緊急伝です!」

 

「なんと?」

 

「はい。

『発 助演者

 宛 共演者

 

 主演ハ楽屋ニ入ッタ

 

 演目:学舎

 

 客入リハ確実

 共演者ハ至急楽屋入リヲサレタシ』

 

それと、DAより『Lightning glows!(稲妻光る!)』との一報。

 

以上です!」

 

「来たか!」

 

伝令からの一報に刀原は色めきだった。

 

不死鳥の騎士団経由で『ハリーがホグワーツに行く』と言う連絡が来たのが約二時間前。

その時…刀原、雀部、日番谷、雛森、黒崎、朽木、は事態急変に備えて、ロンドンにある在英日本大使館にいた。

 

刀原はその連絡が来た時点で、日本に『事態急変、至急来られたし』の一報を送る。

しかしホグワーツで決戦をするという確信が無かった為、ロンドンから動かなかったのだ。

 

だが、もう待つ必要は無い。

 

刀原は雀部達と部屋を出る。

 

「京楽さん達に、ホグワーツに直行するよう伝えてくれ。それと京楽さん達の到着予定時刻は?」

 

「穿界門*1の射程範囲と列車の現在地、それとホグワーツの位置を考えると…早くて後一時間半かと」

 

「分かった。それじゃあ俺たちの方が早いな」

 

刀原は後方支援として来ている日本魔法省のスタッフと話しながら、廊下を歩く。

 

「早いと言っても、私達だってここから三十分は掛かりますよ?」

 

ロンドンからスコットランド(直線距離 約900km)だからな」

 

「穿界門あって、本当に良かったですよね」

 

「技術開発局に感謝だな」

 

「だから最後の最後まで結論を伸ばしたんだろ」

 

「おかげでギリギリかもしれねぇがな」

 

雀部、日番谷、雛森、朽木、黒崎、阿散井も歩きながらボヤく。

そこに戦闘前の緊張感は感じられない。

 

「俺たちが現着するまで開戦の先延ばしと防御を張るようにと、伝えてくれ」

 

城にはマクゴナガル教授を始めとする優秀なホグワーツ教授陣がいるし、既に騎士団のメンバーも現着している筈。

 

多分大丈夫だろうと思いつつ、刀原はそう指示を出す。

 

そんなやりとりをしながら、一同は穿界門の前に着く。

 

「ご武運を」

 

刀原達はその言葉に見送られながら、穿界門の中に入った。

 

 

 

 

 

 

 

「何故このような夜間に集められたのか、不思議に思う者もいよう。聞くところによると先程……ポッターがホグズミードに現れた」

 

ホグワーツの校長となっていたスネイプは、キリキリと痛む胃を隠しながら言った。

 

今年度に入ってからというもの、全校集会はロクなことがないからだ。

 

花火、糞爆弾、黒い煙幕、等々。

 

必ず途中で妨害され、カロー兄妹が酷い目に合う……のはまあ、良いとして。

 

位置的にしょうがない……いやしょうがなくないけど。

自分も巻き添えを食らうのは、勘弁して欲しい……。

 

「さて?もしこの中に、今宵のポッターの動きを知っている者が居れば……今すぐここで名乗り出よ……直ちに」

 

スネイプはそう思いながら、余裕たっぷりに見せかけながらそう言った。

 

脳内で「出る訳無いだろ」と思っていたスネイプの思考は、あっさり崩される。

 

「カロー兄妹!貴様らの専横もこれまでだ!」

「我らが英雄、ハリー・ポッターが帰還したのよ!」

「貴様らの命運も潰えたのだ!」

 

例の生徒達(レジスタンス)が堂々と前に出て来たのだ。

 

ハリー・ポッターが帰還したと言いながら。

 

ば、馬鹿かこいつら。

 

唖然となるスネイプ。

同じく脳が止まったカロー兄妹も唖然とする。

 

「……ここは徹底的に防備を固めたらしいですが……どうやら穴があるようですよ?スネイプ校長代理」

 

こんな感じで出てくるつもりは無かったとばかりに、戸惑いながらハリーも出てくる。

 

そしてそれを合図に大広間に突入するのは……キングズリーやシリウス、リーマスを始めとした不死鳥の騎士団の面々。

 

その光景を見たカロー兄妹も漸く動きだし、ハリーに向けて杖を構える。

スネイプも一応ハリーに杖を向ける。

 

不死鳥の騎士団も杖をカロー兄妹達に向ける。

例の生徒達も、杖や花火や煙幕爆弾を構える。

 

マクゴナガルなどはハリーを庇うように前に出る。

 

「校長代理。……この一年間、大変だったのでは?」

 

そんな中……ハリーは生徒達をチラッと見つつ、ゆっくりとスネイプに近づきながら言う。

 

「胃痛の日々も今宵で終わりです。そろそろ……楽になっては?」

 

スネイプはハリーの戯けたこの言葉に、苦虫を噛み潰したような顔になる。

 

かの者を彷彿とさせる台詞だったから。

 

だが、その言葉が正しいのも事実。

伊達に今まで胃薬のお世話になっていた訳ではない。

 

「そうですな。では……そうしましょうかな?」

 

スネイプはそう言って、体の向きを真後ろに向き直す。

 

戸惑うカロー兄妹。

直後彼らが見たのは……スネイプとハリーが呪文を放ち、それが自分達に向かってくる光景だった。

 

 

 

カロー兄妹を捕らえたハリー達の背に歓声が上がる。

 

だがその傍らで、ハリーの意識は別にあった。

 

薬は透明になり、石の水盆の底にあるはずのロケットが無い……。

 

「ポッター!何故ノコノコと戻って来た!」

 

「そうですとも、それに不死鳥の騎士団まで……」

 

スネイプとマクゴナガルの指摘に、ハリーは意識を戻す。

 

「ヴォルデモートが近づいています。時間がありません。先生、僕はダンブルドアの命令で動いているんです!」

 

ハリーがそう言えば、二人はハッとした表情で背筋を伸ばす。

 

「校長の命令……なるほど」

 

「なるほど、それが理由ですか」

 

納得した素振りを見せる二人。

 

「ではポッター、何が必要なのです?」

「左様、何が必要なのかな?」

 

「時間です。先生、出来るだけ時間が欲しいです」

 

ハリーの言葉に二人は頷く。

 

「なすべき事をなさい。城は私達が守ります」

 

マクゴナガルは強くそう言う。

 

ハリーはそれを聞いてその場を離れようとしたが、それを遮る出来事が起きた。

 

大広間の大扉の前に障子の門が現れたのだ。

 

その如何にも日本的な見た目に大広間が騒めく。

 

そしてその期待は正しかった。

 

「よう、ハリー。いよいよだな」

 

刀原達が現着したのだ。

 

 

 

 

 

 

大広間の天井は暗く、星が瞬いていた。

 

その下の四つの寮テーブルには髪も服もくしゃくしゃな寝起きの生徒と、戦支度のつもりであろう煙幕や糞爆弾を持って完全装備を整えた生徒が座っていた。

 

壇上にはマクゴナガルと刀原。

 

背後には学校にいる教授達や戦いに馳せ参じた不死鳥の騎士団メンバー、そして護廷十三隊の先遣隊が壇場に立っている。

 

「未成年の者はホグワーツから避難を。監督するのはフィルチさんとマダム・ポンフリーです。監督生がそれぞれの寮をまとめて避難の指揮を執り、秩序を保って移動して下さい」

 

マクゴナガルがそう言う、

 

生徒達はその深刻さに『来るべき時が来た(これは演習にあらず)』事を察し、恐怖で震える者や、逆に震え立つ者などがいた。

 

「先生!ここは僕らの学校です!僕らも戦います!」

「そうです先生!私達、逃げるなんて出来ません!」

「我らの意地、ここで見せる時!」

「グリフィンドールの有志達。準備よし!」

「負けるか!スリザリン、避難希望者の選定完了!」

「ハッフルハプも選定完了。穴熊の意地、見せるぞ!」

「レイブンクローも準備よし。避難希望者の護衛は、我らにお任せを」

 

「「参戦準備は出来ています!」」

 

震え立つ生徒達がそう叫ぶ。

避難希望者と思しき者達も、一塊になっている。

 

「せ、先輩。僕らも……」

 

「駄目よ。三年生以下は例外無く避難しなさい」

「四年生も下級生を護衛しつつ避難だ」

「残って良いのは五、六、七年生。事前に決めた通りにな」

 

三年生以下の勇気ある者が名乗り出るが、高学年の者がそれを拒否する。

 

「また我が家で会おう」「帰って来てよね」

「元気でね。パパやママによろしく」「……うん」

「さらば我が友」「……すまない」「気にするな」

 

中には今生の別れとばかりにハグをする兄弟や姉妹、友人もいる。

そこに赤も緑も青も黄色も無かった。

 

この光景を見たマクゴナガルを始めとする教授達は額に手を当て、雀部や日番谷が何とも言えない顔をし、シリウスやルーピンなどは信じられないと言う顔で唖然とした。

 

こいつら本当に学生か?

 

事情を知っている者は、思わずかの者を見てしまう(おい、どうすんだこの状況!)

かの者は何とも言えない顔になっていた(まさかこんなことになるとは……)

 

「……非常に、非常に遺憾な決断ですが……五年生以上の生徒達の参戦を許可します。但し、あくまでもサポートとし、積極的に戦うことは許しません」

 

マクゴナガルは渋々……本当に渋々そうに了承する。

 

「ありがとうございます!」

「教えられた通り、三人一組で行動します!」

「死喰い人には、一人につき三人で相手します!」

 

生徒達はそれに歓喜の声を上げた。

 

本当に分かってるのですか?

あと、そんな事を教えたつもりはありません。

 

マクゴナガルは不安になった。

 

その時だ。

 

『戦いたがっている者がいる様だ……。

戦う事が賢いと、利口だと考えている者もいる様だ。

 

……愚かな事だ』

 

突如としてヴォルデモートの声が響いたのだ。

 

『俺様はホグワーツに敬意を示す。

歴史ある学校を灰燼に帰すことは避けたいのだ。

 

ハリー・ポッターを差し出せ。

さすればホグワーツには手を出さぬ。

 

ハリー・ポッターを差し出せば、お前達は報われる。

 

一時間だけ待ってやろう』

 

その甘言を最後にヴォルデモートの言葉は終わる。

 

「なんだ、一時間もくれるのか。優しいな」

 

「『三分間待ってやる』じゃないんですね」

 

ほぼ全員の顔が強張る中……刀原と雀部は顔色一つ変えずに、そう言った。

 

 

 

「さて諸君、一刻の猶予も無ぇぞ」

 

開戦まであと一時間となった事で生徒達が避難を始め、刀原とハリーは全員を集めて軍議を開いた。

 

「現在この城は『多分まだユニコーンに乗れるあの人』こと、ヴォルデモートが包囲している状況だ。猶予の一時間だって、多分まだ本人が着陣してないからだろう。故に……『虹色のアフロを被ってみて欲しい例のあの人』こと、ヴォルデモートの準備が済み次第……連中は総攻撃をしてくると考えてほしい」

 

刀原が真面目な顔でそう言えば、何人かが頷く。

何人かは笑いを堪える。

 

多分『ユニコーンに乗って、キャッキャウフフしているヴォルデモート』や『虹色のアフロの被り、ノリノリなヴォルデモート』を想像してしまったのだろう。

 

「……護廷十三隊の本隊到着は、早くてあと一時間。その為、敵との会敵を出来るだけ遅らせる必要があります。教授方と不死鳥の騎士団の方々には、最高の防御魔法を張って頂きたいです」

 

「元よりそのつもりです。我々が知りうる限りの防御を施しましょう」

 

雀部の要請に、マクゴナガルやフリットウィックがそう言って頷く。

 

そして各組織ごとに配置などを決めていく。

 

「配置はどうする?」

 

「各員の力量と相性を考えて、均等に振るしかないな。それと、出来るだけツーマンセルで組ませる」

 

「基本中の基本だが、有効的な策だな」

 

 

 

「ミスターロングボトム。それと愉快な仲間達。貴方達にお願いしたい事があります」

 

「なんでしょうかマクゴナガル先生」

「「「なんなりと先生!」」」

 

「学校と禁じられた森の間にある谷。そこに架かっている木製の橋を落として欲しいのです」

 

「え、本当に良いんですか?」

 

「その通りですロングボトム。なんなら爆破なさい」

 

「爆破を?ドカンと?」

 

「ドカンと!」

 

「スッゲェ!」

「マジか!」

「一度やってみたかったんだ!」

「ドカンと行こうぜ!」

 

「でもどうやって綺麗に爆破すれば……?」

「せっかくなら芸術的にやりたい……!」

 

「具体的な爆破方法は、ミスターフィネガンに相談しては?彼は何でもかんでも爆破するのがお得意の様ですから」

 

「話は聞いた。任せろ。あんな橋なんて一発だ」

 

「その勢です。早速向かいなさい」

 

「よし!みんな行くぞ!」

 

「DA工作班!火薬の貯蔵は充分か!」

「充分だ!全部放出するぜ!」

「どうせなら死喰い人を巻き込んで落とそうぜ!」

 

 

「正面の橋は俺と雷華で守る。冬獅郎と桃は、あの爆破魔達と共に。一護は天文台。織姫は大広間。ルキアと恋次は中庭」

 

「他の皆さんは?」

 

「それは現着してからだな」

 

「目標は虚と破面だけか?」

「死喰い人は良いんですか?」

 

「手向かいする者は悉く斬り捨てろ。死喰い人も虚みたいなものだ」

 

「私は治療班ね?」

 

「マダム・ポンフリーは俺が知ってる人の中で最高の癒者だ。だが限度があるからな、頼む」

 

「任せて!」

 

「一護、ルキア、恋次も頼むぞ」

 

「「「おう!」」」

 

 

「ハリー、お前は成すべき事をなせ。分霊箱の破壊は任せたぞ」

 

「ショウも。気をつけて」

 

「ハリー達を日本に招待するまで死なんよ。ハリーこそ、充分に気をつけろ」

 

「うん、分かった」

 

「ハリー……会えて良かった。お前は最高の親友だ」

 

「僕もだよ。ショウ」

 

「ショウ、ハリー。みんな準備出来たぞ」

 

「分かった」

「おう」

 

シリウスの合図を受け、ハリーとショウが壇上に立つ。

 

「これが最後の戦いだ!ヴォルデモートを倒す為、みんなの力を貸して欲しい!」

 

「ヴォルデモートに目にもの見せてやるぞ!皆の武運を祈る!」

 

二人の言葉に大歓声が上がる。

士気は高かった。

 

「では諸君。戦争の時間だ」

 

こうして軍議は終わり、それぞれが持ち場へと移動を始めた。

 

 

 

 

 

 

各員が配置に着いた。

 

「残念ながら『あの人』を何時迄も抑え込む事は出来ませんぞ?」

 

悲痛な顔でフリットウィックが言う。

誰が何と言おうとも、ヴォルデモートが強大な魔法使いである事は否定出来ないからだ。

 

「ですが時間を稼ぐ事は出来ます。今はポッターとトーハラを信じましょう。私は二人を信じますよ?何せ二人はグリフィンドール生ですから」

 

マクゴナガルは自慢の生徒を紹介する様に言う。

 

片や『選ばれし英雄』

片や『マホウトコロ開闢以来最強の死神』

 

一癖も二癖もあるが……彼女にとって、彼らは自慢の生徒なのだ。

 

「確かにそうですな。ここは彼らを信じましょう」

 

フリットウィックもそう言い、移動する。

 

「……なんの話を?」

 

刀原がマクゴナガルの隣に来てそう言えば、マクゴナガルは「これを機に、普段は使えない呪文を使ってみようかと言っていたのですよ」と朗らかに言う。

 

「『ピエールトータム・ロコモーター(全ての石像よ動け)』」

 

そして真後ろに振り向いたマクゴナガルがそう唱えれば、ホグワーツ中の石像に命が吹き込まれる。

 

「ホグワーツが脅かされています。盾として護りなさい。学校への務めを果たすのです!」

 

それらは一斉に動き出し、隊列を成して石橋に陣取る為に向かって行く。

 

「この呪文、一度使ってみたかったんですよ」

 

マクゴナガルが微笑みながら、興奮した様に言う。

楽しそうだった。

 

「僕も完全詠唱で使ってみたい鬼道があります」

 

刀原も楽しそうに言った。

 

ホグワーツ中から、空に向かって呪文が飛んで行く。

 

プロテゴ・マキシマ(最大の守り)

フィアント・デューリ(強化せよ)

レペロ・イニミカム(敵をよけよ)

プロテゴ・トタラム(万全の守り)

プロテゴ・ホリビリス(恐ろしきものから守れ)

サルビオ・ヘクシア(呪いを避けよ)

カーべ・イニミカム(敵を警戒せよ)

 

教授達が、騎士団が、それぞれ出来る限りの防御魔法を掛けていく。

 

半透明のそれは、やがて膜の様にホグワーツを覆い……ホグワーツの守護結界を補強した。

 

準備は整った。

 

 

 

 

 

刀原達が着々と戦備を整えている間、ハリー、ロン、ハーマイオニーの三人は大規模物置と化した必要の部屋にいた。

 

数万もの品数があるこの場所で、ティアラみたいな髪飾りを探すのは……ハッキリ言って無謀だった。

 

「ネビルは兎も角…ジニーもルーナも居ないのは辛いわね」

 

「頭数いるぜ…コリャ…」

 

ロンやハーマイオニーがそう言う。

 

その意見にはハリーも同意だった。

 

あと三人…せめて二人ぐらい来てくれないかな。

 

ハリーがそう思ったその時、思わぬ援軍が現れた。

 

「お困りの様だなぁポッター?この僕が、力を貸してあげようか?」

 

上から目線でそう言ったのは、何とマルフォイ。

亡命先のフランスから、不死鳥の騎士団の第二陣と共に駆けつけたのだ。

 

しかもマルフォイだけではない。

 

ダフネ・グリーングラス。

アストリア・グリーングラス。

パンジー・パーキンソン。

ビンセント・クラッブ。

グレゴリー・ゴイル。

セオドール・ノット。

ブレーズ・ザビニ。

 

ハリー達と一度は出会い、そして一度は必ず争ったスリザリンの面々がやって来たのだ。

 

「来てくれたのは嬉しい。でもマルフォイとダフネ、アストリア以外は良いのか?ヴォルデモートと対立することになるけど」

 

ハリーは当然の疑問を投げる。

 

ヴォルデモートと対立することになるこの行為を何故するのか。

大きな声では言えないが……一部の者を除き、殆どの親が死喰い人なのに。

 

その理由は至極単純。

 

「トーハラやササキベと戦いたくない」

byパーキンソン。

 

「トーハラと戦うよりマシ」

byクラッブ。

 

「トーハラの方が怖い」

byゴイル。

 

「『そうか、残念だ。じゃあ死ね』って言われて死ぬ」

byノット。

 

「トーハラを敵に回したくない」

byザビニ。

 

スリザリンの面々は、迫真迫った顔でそう言う。

 

マルフォイは何度も頷いていた(「分かる、分かるぞ」)

ハリー達は全てを察した顔(「ああ…うん、そう、だよね」)になった。

 

そしてハリーは「じゃあ宜しく」と言った。

 

 

 

 

「ハ、懲りない連中だ……」

 

ヴォルデモートはホグワーツに見下ろしながら、そう吐き捨てた。

 

開戦まであと十分。

彼は最初から約束を守るつもりなど無かった。

 

「我が君……待った方が宜しいのでは……?」

 

死喰い人の一人がオドオドしながら言う。

 

「ちんたらしていれば、極東からあの連中が来る……そんなことも分からんのか!?」

 

ヴォルデモートは死喰い人に対し、そう叱責する。

 

「あの規格外共と言えど、極東から一時間で来れる筈がない。故に短期決戦しかない。トーハラ、ササキベもいない今こそ、小癪な小僧を潰すチャンスなのだ!」

 

ヴォルデモートはそう言い、何気に怖じ気付いている部下達を叱責する。

 

巨人もいる。

部下も数百を数える。

 

規格外が極東から来る前に、ホグワーツにいる者共をすり潰し……遅れてやって来るトーハラ達を迎え撃つ。

 

これしかない!

 

「かかれ」

 

ヴォルデモートは総攻撃の下知を下す。

 

数百人の死喰い人達が一斉に呪文を発射する。

 

それらは弾幕となってホグワーツに迫り……。

補強されたホグワーツの守護結界に当たり始める。

 

「では」

 

「気をつけて」

 

刀原は雀部に見送られながら、石橋を占拠する石像の直上に移動した。

敵の出鼻をへし折るために。

 

 

 

グリフィンドール三人衆とスリザリンの面々で行われた『必要の部屋大捜索会』

 

これだけ人数を動員した捜索は……意外と難航した。

 

めんどくさくなったクラッブやゴイルが「これ、燃やした方が早いだろ」と何処かで聞いた台詞を言うぐらいには難航した。

 

だが。

 

「おい、ポッター」

 

「ああ……これだ」

 

マルフォイとハリーが導かれる様に触った小箱。

 

ハリーがそっと開ける。

 

そこには……レイブンクローの髪飾りがあった。

 

美しかったであろう銀やサファイアの色はくすみ、声無き声が聞こえるかのような雰囲気が漂う。

 

「これは……ショウが言っていた通りだな。途方もなく邪悪で、途徹もない闇の魔術を感じる」

 

スリザリンである故か、マルフォイはこの異質さがハッキリと分かるらしい。

 

「ここで破壊するのはマズイ。必要の部屋を出てから破壊しよう」

 

ハリーとマルフォイは合図の音を出し、彼らは集結し部屋を出る。

 

そして、廊下に出たハリーはグリフィンドールの剣を大上段に構え、マルフォイが投げた髪飾りを断ち切った。

 

 

 

 

 

 

「ーーーーーーーーー!!!」

 

ヴォルデモートは、声にならない絶叫をあげる。

 

髪飾りが破壊されたことが分かったからだ。

 

まさか……まさかまさかまさか!

あり得ない!あり得ない!あり得ない!

 

まさか小僧が、あの部屋を知っていたとは!

あの部屋から見つけるなどあり得ない!

 

焦燥、怒り。

 

それらがヴォルデモートの頭を埋め尽くす。

 

「ーーーーーーー!!!」

 

それは魔力となり、杖の先から放出される。

 

そしてホグワーツの守護結界に衝突し……崩壊させた。

 

 

 

 

 

 

ホグワーツが誇る魔法防壁が……破れた。

 

数百は下らないであろう死喰い人達の総攻撃でもビクともしなかったホグワーツの守りを。

 

ヴォルデモートは一撃で破壊したのだ。

 

「……来るぞ」

 

誰かが、そう言った。

 

そしてその言葉の通り……数百人もの死喰い人と巨人からなる大軍が、押し寄せる。

 

マクゴナガルが命を吹き込んだ石像達が身構える。

 

不死鳥の騎士団が、教授達が、生徒達が、決意を固める。

 

ヴォルデモートは自軍の数を見て、一気にカタがつくだろうと思った。

 

それを……彼が霧散させる。

 

 

 

 

 

 

 

 滲み出す混濁の紋章

 

 

 

 

 不遜なる狂気の器

 

 

 

 

 湧き上がり、否定し

 

 

 

 

 痺れ瞬き、眠りを妨げる

 

 

 

 

 爬行する鉄の王女

 

 

 

 

 絶えず自壊する泥の人形

 

 

 

 

 結合せよ、反発せよ

 

 

 

 

 地に満ち、己の無力を知れ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 破道の九十『黒棺』

 

 

 

 

 

 

突如……黒い重力の奔流が、大軍先端を棺のように囲う。

 

そして……。

 

それは跡形もなく砕け散った。

 

「す、凄まじい……」

 

「なん……だと」

 

敵味方問わず、その光景に圧倒される。

動きを止め、呆然と立ち尽くす。

 

「こんなことが出来るのは、彼しかいない!」

 

誰かが叫ぶ。

 

 

 

「一度やってみたかったんだよねぇ……完全詠唱黒棺」

 

 

 

「開戦の挨拶としては、温かったかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
数年前に開発された『長距離を短時間で移動出来る様になれるゲート』のこと。

 

但し、安全の為に日本魔法界に住む『地獄蝶』という黒い蝶々が必要になり、出入り口も固定しなくてはならない。

 

なお、開かれる時に障子を開ける様な演出がされる。






地に伏し

己の愚かさを知れ

黒き棺に砕かれながら。




ピエールトータム・ロコモーター
私の好きな呪文です。

マクゴナガル教授の台詞
「この呪文、一度使ってみたかったんですよ」
私の好きな台詞です。

この一連の流れは是非映画でご覧ください!
BGMも相まって…マクゴナガル教授、格好良いです。



黒棺の完全詠唱は必須。
ここで使うと最初から決めておりました。
私の好きな鬼道です。


この小説ならではのホグワーツ決戦を書くため、映画や原作を混ぜております。

原作ならでは、映画ならではの良さを味わって頂ければと思います。



感想、ご意見、評価、お気に入り登録。
ありがとうございます。
そしてお待ちしております。



では次回は

死神VS十刃

次回もお楽しみに







おまけ



「開戦の挨拶でもしたらどうです?」

雀部がさらっと言った。
冗談のつもりで言った。

「任せろ」

刀原は真面目な顔で言う。

しかし、内容は真面目ではなかった。

『宣誓!

私たち、護廷十三隊は!

日頃の鍛練の成果を、充分に発揮し。

正々堂々、君たちを殲滅することを誓います!

警告します!

ホグワーツが攻撃を受けた場合、日英魔法安全保証条約を適用し。

攻撃を開始します!』

刀原がソノーラス(響け)を使い、全力で放ったショタボイスは……。

敵味方問わず『!?』となった。

油断してくれる者はいなかったが。

「録音した」
「即刻消せ」






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