四季島湊士の奇妙な事件簿 (朱色のフリーター)
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果てに消えたライダー
目を覚ます、いつも通りの朝だ。特に変わったことは何もない。Tシャツとパンツ一丁でベッドに潜り込むことも、サイドテーブルに大量のエナドリの缶が置いてある事も何ら変わりのない朝である。
「ぁ……?」
ふと携帯で現在の時刻を確認する。時刻は朝の6:30を回ったところだ。
「ぁー…………」
重い体を気合いで起こし、洗面所へと向かう。
歯を磨きながら携帯で今日の予定をチェックする。
「あー…………特に無し……と……めんどい事はみんなあいつに投げればいいしな…………」
歯を磨き終えた俺はその足で自室に戻ると白のカッターシャツと紺色のスラックスに履き替える。
そしてまた洗面所へと向かい髪をオールバックにセットして1階の事務所へと降りていく。
「うい…………おはようさん…………」
事務所には既に先客がいた。
「5分の遅刻ですね……いい加減早起きできるようになったらどうですか?先生?」
「うるせぇやい…………朝弱いのは遺伝子レベルで決まってんだよォ…………」
青い髪をツインテールにして都会のキャリアウーマンみたいな格好をした少女がいつも通りの言葉をかけてくる。俺はそれを適当に返し、自分の席へと付く。
「取り敢えず……今日も特にやる事ねぇよな……」
「そうですね、今日も予定は入ってませんね。どうします?」
少女はPCを操作しながらそう答える。予定は愚か任務だあーだこーだも入ってこないうちの弱小チームじゃぁやることがないのは当たり前の事だ。
「ま、12時くらいに適当に見回りでもして帰りに飯でも食って帰るか。早瀬も行くだろ?」
「全く…………いい加減お金の管理をちゃんとしたらどうですか?まぁ……確かにある程度の端数はあるので大丈夫だと思いますけど……」
そう言って少女ー早瀬は手帳を取り出して目を落とす。
最近、早瀬はこのチームの財政を管理するようになった。まぁ……元はといや俺の金遣いが荒いのが原因だけどな……
「こまけェこたァいいんだよ……俺の奢りなんだからつべこべ抜かさずにありがたく付いてこい。」
俺はそう言って早瀬の頭をワシワシと撫でる。サラサラとした早瀬の髪は永遠に撫でていられるほどに心地よいのだ。だから暇さえあればこうやって撫でてる。本人も特に嫌がらねぇしなw
「ちょっともう……!わかりました…………だけど高いところはダメですからね?ただでさえ火の車なんですから……大体先生は……ウンヌンカンヌン」
「あーわかったわかった!取り敢えず、俺は仕事に戻るからお前はシャワーでも浴びてこい……」
「ちょっと、聞いてるんですか!?……もう!」
こうなったら2時間程アリガタイセッキョウを食らうことになるからな……それだけは勘弁願いたい。もう耳にメンダコが出来ちまったよ。
「さて…………シャーレ…………業務開始だな……!」
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「特に異常なかったな……」
「そうですね…………平和です。」
時刻は13時を回ったとこだろうか……管轄内の見回りを済ました俺たちは2人並んで駅前の歩道を歩いていた。
「なぁ早瀬〜飯どうする?何食いたい?」
俺は携帯に今日の業務連絡を下書きしながら隣を歩く早瀬にそう問いかける
「そうですね…………蕎麦とかどうでしょう?」
「ああ〜いいなそれ。今日も蒸し暑いしな……てか、早瀬お前そんな厚着で暑くないん?」
「全然暑くないですよ?こう見えてこの服中に小さい扇風機が付いてて結構涼しいんです。」
そう言って早瀬はその場でクルリとターンする。それによって青い髪が陽の光を反射して綺麗に輝く。
「ほんと…………可愛いよな…………」
思わず俺はそう声に出してしまう。面と向かって言うことが出来ない分、何気ない早瀬の仕草が妙に可愛く見えてしょうがない。
「何かいいました?先生?」
「いや?なんも言ってねぇぞ?よっしゃ、今日は早瀬の要望通り蕎麦でも食いに行くか!」
「はい、それじゃいつものアソコへレッツゴーです!」
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「はぁー食った食った…………」
「そうですね、蕎麦美味しかったですね」
2人して行きつけの定食屋へ行って蕎麦を食べた俺達は2人並んで事務所への道を歩いている。
「にしても、あそこの大将には困ったもんだ……何遍言ってもカップル扱いされちまう……ボケが始まってんのかねぇ?」
「あはは…………まぁ、悪い気はしないですけどね。」
「そうか?こんな三十路手前のおっさんと今をときめく学生さんがカップルとか俺捕まっちまうぜ?」
俺は苦笑いを浮かべ そう返す。早瀬のその言葉の真意に気が付かぬまま……
「あれ…………?事務所前に誰かいません?」
突如として早瀬が前を指さす。そこには白いワンピースをきた女性が事務所前の玄関で立っていた
「ほんとだな…………ちょいと声かけてみっか……」
そう言って俺はその女性に声をかける。
「どうしたんだ?なんか困り事かい?」
するとその女性はこちらを見ていきなり泣き崩れる。
「あぁーっと……えーっと…………」
「ちょっと!何泣かせてるんですか!?先生それでも大人ですか!?」
そう言って背後から早瀬のゲンコツを食らう。
「だぁっ!?い、いや俺なんもしてねぇって!」
「うるさい!言い訳は無用です!」
そう言って早瀬は女性の横に立ち、声をかける
「取り敢えず、中でお話聞かせて貰っても大丈夫ですか?」
すると女性は小さな声で「はい」と応えると早瀬と共に中へと入っていった。
「俺なんもしてねぇのに…………不幸だ…………」
俺はそうつぶやくと早瀬の後を追い中へと入っていく
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「取り敢えず……話を聞かせて貰えないか?」
俺は女性と面向かって座るとそう問いかける。
「はい、お茶お持ちしましたよ。」
すると早瀬が湯のみにお茶を入れて持ってくる。
「…………ある人を探して欲しいんです。」
女性は、お茶を少し飲むとそう言葉を紡いだ。
「人探し…………ねぇ…………詳しく頼んだ。」
どうやら、今回初の依頼は一筋縄ではいかないみたいだ……
ユウカちゃん可愛いよね(大事なことなので2回言いました)
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果てに消えたライダー 後編
お待たせいたしました。第2話でごぜぇます
いつも通り駄文でござるのでオユルシヲ
「そんで……その探し人ってのはどんなやつなんだ?」
俺は、女性の顔を見てそう問いかける。うちに依頼持ちかけてくるんだ、並々ならねぇ事情があるんだろうけど、かといってこっちで勝手に二つ返事をするわけにゃ行かねぇ……ガセだったり、トラップだったりすっからな……
「彼は……ツーリング仲間でした……ついひと月前まで2人で海沿いや山道を流していた仲です…………そして2週間前に、ロングツーリングしようと約束して以来、音信不通になりました…………彼が行きそうなところや知ってそうなところは探してみたのですが……なんの進展もなく……それどころか、彼の知り合いすらも彼の事を忘れていたんです……」
そう言って彼女はまた声を押し殺して泣き始める。俺はこんなだから気の利いた言葉なんてかけられやしない。取り敢えず……
「わかった……その依頼受けるぜ。」
俺にはその一言しか言えなかった。まぁ、なんせ不器用な人間なんでね、あんまカッコつけるとボロが出そうで嫌なんよなw
「……ありがとうございます。これ……少ないですが依頼料なのでお納め下さい……」
そう言って彼女はパンパンに膨れた茶封筒を
差し出してくる。多分パッと見100万位は入ってるだろう。
まぁ、受け取らねぇんだがな。
「要らねぇよそんな金。その金は自分への投資に回しな。」
俺はそう言うとその茶封筒を彼女へと突き返した。
「ちょっと!気でも狂ったわけ!?なんで貰わないのよ!」
隣で早瀬がなんかほざいてるが、聞く耳なんざありゃしねぇ……困って助けを求めてきてんのに、そんなやつから金を取ろうなんざ下衆のする事だぜ。
「五月蝿ぇよ……俺が受け取らねぇって言ったら受け取らねぇんだよ。なんでかって?その理由くらい考えやがれ。そんなんだからいつまで経ってもお子ちゃま扱いされんだよ早瀬。」
「なっ…………!?も、もう知らないですからね!?自分で何とかしてくださいよ!この先生のバカ!」
そう言って早瀬は事務所を飛び出して行った…………まぁ、どうせ2時間も経たずに帰ってくるだろ。
「さ、アンタも早く帰んなァ…………この辺は夜になると治安が悪くなるからよォ…………」
俺はそう彼女に言うと手元の煙草に火をつける。
「あ……ありがとうございます……よろしくお願いします……!」
そう言い残すと彼女は足早に事務所を去っていった…………
「にしても……なんか妙に引っかかるんよなぁ…………」
依頼人が帰った後、俺はベランダに出てタバコを吹かしていた……
「あの依頼人…………なんか絶対裏がある…………」
俺の第六感がそう告げている。この事件…………どうやら簡単には終わらなさそうだぜ…………?
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翌日……俺はやっと帰ってきやがった早瀬を引き連れて聞きこみ調査を開始していた。まぁ……依頼人の言う通り、その探し人に対する情報は何一つ入ってこなかった。まるで、その探し人の事だけすっぽりと抜け落ちているかのように……
「先生!」
公園のベンチでタバコを吹かしていた俺の元へ早瀬が足早に駆けてくる。
「おう、どうだった?なんかいい情報掴めたか?」
俺がそう問いかけると早瀬は胸ポケットから手帳を取り出してそれを読み上げ始めた。
「いえ、やっぱり私の方もなんの成果も得られませんでした……みんな探し人の事だけすっぽり頭から抜け落ちているみたいで……ただ、役に立つかは分からないですけど……
昨日の依頼人の件で…………」
そう言って早瀬は俺へそっと耳打ちをする。はっきりいって髪のいい匂いと女特有の匂いも相まって全然話が入ってこない……
「なるほどねェ…………やっぱりそうか…………」
「え…………?もしかして…………」
俺はタバコの煙を肺に一気に吸い込むとそのタバコを足で揉み消し、徐にベンチから立ち上がった。
「あぁ…………解けたぜ…………この不可解な謎がな……!」
俺の頭の中の仮説と、早瀬の情報が……パズルのピースの如く合致した瞬間だった……
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その日の午後16時…………俺は依頼人を公園へと呼び出した。
「この時間に…………どうされたんですか?」
彼女は、辺りを見回しながらその不穏な空気にいち早く気づいたようだった。
「いや…………苦労したぜ……なんの情報も無い中の人探し……はよォ…………?」
俺は背広の裏ポケットからタバコとZIPPOを取り出すと、咥えて火を付ける。そして煙を吸い込むと、吐き出した煙とともに言葉を紡ぐ。
「いや……情報が無いんじゃねぇ…………
……………………
「街中で聞きこみをしてる中……俺の頭にはどうしても疑問が残っていた。アンタはその身なり……そしてすぐに100万なんて大金を用意できる以上……只者じゃねぇってことが」
俺は彼女に背を向けながら、淡々と言葉を紡いでいく。気配を……語気を決して相手に悟られぬよう……
「そんな中、ふと思ったんだ。アンタ、俺が最初話しかけた時、その場に泣き崩れたよな?その時におれは見ちまったんだよ…………アンタの太ももには、バイク乗ってるやつに必ず着くはずのあれがついてない……ってな。」
「…………あれとは?」
そこで彼女はやっとその口を開く。その言葉には、一切の悲しみすら感じられない…………冷酷な語気だった。
「バイクに乗ってる人は……旋回する時に総じて『ニーグリップ』なるものをする。これは曲がる際にタンクを太ももで挟んでバイクを安定させるためだそうだ。その時……大抵の人は膝あたりに痣が出来るんだよ。あんたの足にはその痣が無かった……」
「けれど、それはできる人とできない人がいるんじゃなくて……?」
彼女は言葉に焦りを浮かべながらも冷静さを保とうとしている。
「あぁ……だから俺もその時点では『なんか可笑しい』としか思わなかったさ。けれど、聞きこみを続けていく中で…………ある事実が判明した。」
俺は、結末を語る前に隣にいる早瀬にそっと目配せをする。この後……俺の予想が正しければ…………
「その話と私の依頼…………どんな関係がおありなのかしら?」
「あるさ、大アリだ…………結論から行こうか?」
俺は、自分の声に深みを持たせるつもりでこう口にした
「あんた……
「…………その根拠は?」
彼女は焦りを隠せていないのか、徐々に語気を荒くしている。
「根拠?それはな…………早瀬、頼んだ。」
俺は隣でスタンバっていたハヤセにバトンをタッチする。
「あなたから教えていただいた探し人の方の名前……こちらのデータベースの方で精査させて頂きました。結果…………」
「………………」
この静寂の中、彼女の息を飲む音だけが聞こえる……
さぁ、こっからがフィナーレだぜ?お嬢様?
「
そう、探し人に対する情報が何一つない理由……それは
「警察の方で『自殺』として扱われていた…………それをあなたが知らないはずがないですよね……?だって……」
早瀬は淡々とそして冷酷に言葉を続けていく。
「
そう、彼女は所謂資産家の娘…………このキヴォトス内でも有数の財閥でもある企業の次期社長とまで噂された人だった…………しかし、得体の知れない疫病が蔓延りはじめ、その内に段々と経営が悪化していったそうだ。そして多大な借金を作り上げ…………しかしそれを支払う手立てもない……そんな中思いついたのが…………そう
自らの兄を殺す事
多額の保険金を掛けられていた兄を殺せば、その保険金は全て相続人である依頼人に入ってくる。しかし、ただ殺しただけではいずれバレてしまう…………そこで、彼女は一芝居打つことにしたのだ。
「同じ大学内のツーリング仲間として、行方不明ということにすれば……全て上手くいくと」
「………………!」
彼女の目には焦りがモロに出ていた。さながら自分の作戦を見破られて、動揺してるんだろう。
「ただ、アンタはひとつ大失敗を冒した…………」
「それは何よ…………?」
「依頼する所を間違えた所だ。もしここで俺らよりもでかい所に駆け込んでいりゃ、もしくはアンタの思いどおりになったろうな…………けれど、アンタは小さい俺らのとこに来ちまった……俺らは何より地域との繋がりを大事にしてんだよ。街中で困ってる奴がいたら助けるし、小学校のボランティア活動にも参加してる。大手よりコネは少ねぇが、
「……………………っ!」
「まぁ…………精々豚箱の中で己の罪を恨むんだな……悲しき殺人鬼さんよォ?」
俺はこれみよがしにと依頼人を罵る。
「…………クッソが…………!」
その時、彼女はカバンから包丁を取り出すと隣にいた早瀬目掛けて駆け出した。
「バレたら仕方ないのよ!アンタたちもこの場で殺してあげるわ!」
今、早瀬は俺から数メートル離れた距離にいる。この距離なら…………
「早瀬ェ!伏せろォ!」
俺は咄嗟に駆け出し早瀬の前へと躍り出る。
「がァ……っ…………!」
途端、強烈な痛みが背中を襲う。ふと自分の服を見てみると……そこには血で真っ赤に染められていく白のカッターシャツがあった…………
「先生っ!?」
「早……瀬…………!」
俺は背中に包丁をぶっ刺したまま依頼人の鳩尾に拳をキメる。依頼人は細い断末魔を残してその場に気絶し倒れ込んだ。
「大丈夫ですか……!?」
早瀬が俺を心配してそう問いかける。いや……これは幻覚か……もはや声すら聞こえなくなってきた…………
「全然だいじょばない…………悪ぃな…………最後までカッコ悪くてよ…………」
「そんな…………そんな事ないです!」
早瀬は頬に涙を浮かべながらそう返答する。
「ははっ…………最後に…………守れ……たのが…………早瀬……で……よかった…………」
俺は、そう告げるとそこで意識を手放した。
「ちょっと…………冗談ですよね……?いつもみたいにわた頭撫でてくださいよ…………いつもみたいに笑って下さいよ…………!先生………………湊士さん………………!」
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後日談っつか今回のオチ
「あれ………………生きてる…………?」
俺は、見慣れた天井で目を覚ました。そう、そこは俺の家兼事務所である。確か俺……依頼人に刺されてあの後意識途切れたはずじゃ…………
「んぅ………………///」
布団があまりにもモッコリしている…………まさか薄い本みたいな展開に…………?
俺は布団をそっと退ける……するとそこには見慣れた青い髪の少女が気持ち良さそうに寝ていた。
「やべぇ…………一線超えちった?」
俺はそう思い自分の姿を確認する。うん、ちゃんと服着てる。大丈夫だ、問題ない。
改めて早瀬の寝顔を見る……気持ち良さそうに規則正しい寝息を立てながら眠る少女の姿がそこにはあった。
「ははっ、何時も……ありがとな。」
俺はそう言って早瀬の髪を優しく撫でる。まるで海のように深い青の髪は砂浜の如くサラサラとしていて……安らぎを覚えた。
「んぅ………………いい加減…………真面目にやってください……先生…………」
こいつ…………夢の中でも俺の世話か…………はぁ…………でもま…………今回だけは……
「ありがとうな。」
朝の日差しが、今日も部屋の中を優しく照らしていた。
次回
湊士と早瀬が結婚!?
勝
手
に
式
場
予約したのは誰!?
そして早瀬と湊士の子供の行方は!?
次回、「湊士、パパになるってよ」
次回も〜サービスサービス〜☆
なわけあるか
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