イヴの右腕 (主義)
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執行官ナンバー2《皇帝》

ボクの名前はアデル=フィーベル。『フィーベル家』の長男。

 

 

 

 

ボクが帝国宮廷魔導士団特務分室に勤めるようになってからそれなりに年月が過ぎた。この仕事にも慣れてきたと言っても良いかもしれない。帝国宮廷魔導士団特務分室室長補佐、執行官ナンバー2《皇帝》として活動し始めて色々なことがあった。イヴさんの補佐をするのはとても疲れるけど、やりがいは普通の仕事より大きいと思う。

 

 

 

 

 

一つ気がかりなのは妹だけかな。妹とはもうニ年近く会っていないから忘れられているかもね。でも、ニ年もすれば人は見た目も心も成長していたりするから…一度は見てみたいけどね。だけどこの仕事は忙しくてあんまり休みが取れないし、休みが取れても妹のところに会いに行くかは分からないしね。

 

 

休みでも仕事仲間と過ごすことが多いからな。妹のことは心配だけど…あっちにはルミアが付いているから大丈夫だろうしね。それにそろそろ『零』が教師になるとも聞いてるし、僕が心配する必要性はないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

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室長室

 

 

 

この部屋は室長であるイヴさんの部屋と言ってしまってもいい。部屋はとても広く…一人の人間の部屋にしては広い。それは室長という役職がどれほどに権威があるのかが象徴していると言っても良いかもしれない。

 

 

 

 

「イヴさん」

 

 

 

ボクはいかにも高級そうなデスクで書類の仕事に勤しんでいる赤毛の少女に声を掛けた。

 

 

 

 

 

「何だ?」

 

 

 

 

「そろそろ休まれたらどうでしょうか?後の仕事は僕の方で片づけておきますので…室長に倒れられては困りますから」

 

 

イヴさんは頑固な人だから…自分の口から辛いなんて絶対に口に出さない。

 

 

 

 

「私がこの程度で倒れると?」

 

 

 

 

「いいえ、ですがあなたは最近ぐっすり寝たのはいつですか?僕が知っている限り、イヴさんが自宅に帰ったのは着替えを持ってきに帰った一回だけだったと思いますが」

 

 

 

 

 

「…う……まあ、それは君の言う通りだけど…私は丈夫だから大丈夫だ!それは一番近くで私を見ている君が一番分かっていると思うんだけど」

 

 

 

 

 

「それでもちゃんと休んでください!これは副室長ではなく…アデスとして言わせてもらいます」

 

 

 

 

イヴさんはお世辞にも部下の言葉を素直に聞くようなタイプじゃないのは二年近く仕えているか分かっている。だけど彼女がこの国に取って絶対に必要な人材であることは言うまでもない。実力も確かなものであることはボクが知っている。それに実力は彼女の部下なら全員が分かっていると思うけどね。

 

 

 

 

 

「あなたは休んでください。大人しく婚約者の言う事は従ってください」

 

 

 

 

「……それは言わない約束でしょ…アデル」

 

 

 

 

 

「でも、そう言わないとイヴさんは休んでくれないでしょ?」

 

 

 

 

 

「だって私は疲れてないもの」

 

 

 

 

 

「はぁ…倒れてからじゃ遅いんですよ」

 

 

 

彼女が頑固なのは…婚約者として最初に会った時から変わっていない。彼女を怖いという人も居るみたいだけどボクから見れば彼女は無理して怖くあろうとしているように見える。彼女は若い。部下の中には彼女より年上の人間の方が多いのは仕方のないこと。だから彼女はそういう人たちに舐められないように怖くあろうとしている。普段の彼女を知っているボクからすれば……普段とは真逆だなと思ってしまったりする。

 

 

 

 

「心配性だわ。アデルは」

 

 

 

 

 

「心配にもなりますよ。あなたは一か月前に大丈夫、大丈夫と言って倒れたんですから。今日はイヴさんがなんと言っても休んでもらいます」

 

 

 

 

それから十分ぐらい言い合いは続いて最終的にはイブさんが折れる形となった。

 

 



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執行官ナンバー0《愚者》

グレン=レーダス。ボクはこの男と知り合ってからまだ数年しか経過していないが彼の実力は少なくとも買っている。今はもう帝国宮廷魔導士団特務分を辞めてしまっているがまだ関係は続いている。彼が執行官ナンバー3《女帝》を失って引きこもり生活を送るようになった後も一か月に一度ぐらいの頻度で彼に会いに行っていた。イヴさんには「そんなに気に掛ける必要があるの?」と言われたけど、ボクには彼を気に掛ける必要がある。それはイブさんも知らないようだが彼とは切っても切れないような縁があったりする。

 

 

そして彼は最近、引きこもりを止めて帝国魔術学院に非常勤講師として勤めるようになったらしい。彼が働く決意をした理由は何なのか分からないが働くようになったのならばそれが一番だ。ずっと引きこもりの生活を送ったとしても彼は一歩を踏み出せない。執行官ナンバー3《女帝》が死んでから人と関わる事を拒絶するようになった彼が非常勤講師としてでも、学院に勤めるようになるとすればそれは一歩を踏み出す。もう一度、魔術と関わる一歩を……。

 

 

 

 

 

 

「君がもう一度、魔術と関わるとは個人的には意外だったよ」

 

目の前に座っている人物…グレン=レーダスに言うと彼は少し時間が経ってから答えた。

 

 

「…やりたくねぇよ。だけどセリカの奴が脅してきやがって」

 

セリカさんなら確かにやりかねないな。あの人とは何度か顔を合わせたことはあるけど不気味な人だったということだけ記憶している。

 

 

「まあ、そんな感じだとは薄々思ってたよ。君が自らの意志で魔術と関わるなんてことをするとは思っていなかったからね」

 

 

「…さようですか……それで今日は何ようだ?」

 

 

「ああ、そうだったね。今年から妹が帝国魔術学院に通う事になっているはずだから、よろしくと言っておこうと思ってね」

 

 

「オレはお前の妹だからって贔屓したりしねぇぞ。それにオレが学園でまともに仕事していると思うか?」

 

 

「まあ、そうは思わないけど……でも、君のことだから彼女たちと真摯に向かう時がいずれ来るとボクは思っている。だからその時のために言っておこうと思ってね、それに少なくともボクの妹は君のことを気に入ると思っているから」

 

 

 

妹とは二年近くあっていないけど…それまでの彼女ならボクは知っている。彼女は非常に正義感が強く、悪を許さない性格をしている。そこは良いのだけど…正義感の強さは反発を生むことも少なくないと思う。妹はそれぐらいじゃへこたれないし、ルミアも近くに居るんだから大丈夫とは思うがやっぱり保険はしておいた方が良いだろう。

 

 

「気に入るだと……そんなことねぇと思うけどな。オレとしてはお前がそんなに妹想いだとは思いもしなかったが」

 

 

「そうかい…妹のことを気に掛けるのは兄として普通のことですよ」

 

 

「…そうかい……そう言えば、お前の苗字、オレは知らない。だからお前の妹もオレは分からないんだが」

 

こいつには知らせてなかったか。だけどバレるのも時間の問題だろう。

 

 

「大丈夫だよ。いずれ分かる…」

 

その後も少し会話をしてボクと彼は別れた。



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