ボクという生物は特殊で魔物とも呼べず、人間とも呼べない。所謂、中途半端な存在なのだ。とてもイレギュラーな存在であり、この世界に今までボク以外にこんな存在はいない。見た目は人間と大差はない。
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ここはある国
この国はとても豊かで町を歩いている者は皆、笑顔で溢れている。逆に奇妙と言ってしまいたくなるほどに笑顔で溢れている。
そしてボクの隣には銀髪の少女がいる。道を歩いている人も彼女に目がいってしまう、それほどまでの美貌なのだ。
「それにしてもお主も物好きじゃのう」
「まあね」
「まあ、お主が好きだったらそれで良いんだがな」
ボクの隣を普通に歩いている銀髪の少女は世間で言う吸血鬼。今日は晴天と言っても差し支えのない日だ。吸血鬼が晴天の下で生きていくことはほぼ不可能。
なのにこの隣の銀髪の吸血鬼は何で普通に晴天の下を歩けているのかと言うとそれは簡単で…彼女が魔王と呼ばれるほどの実力を保持しているから。そこら辺は詳しいことは分からない。だけど一つ確かなのはこの吸血鬼は…吸血鬼なのに太陽を克服した。
その吸血鬼の名はルミナス・バレンタイン。
「ルミさんは人間のことをどう思いますか?」
吸血鬼の目線から見ると人間というのは…一体どんな存在なのだろうか。血という名の魂を得るためには人間の存在は無くてならないはずだからね。
「嫌いでもないし、好きでもないのう。少し前までは
冗談だろうと思いながら隣を見るとルミさんの目は本気だった。
「そんなに吸われたらボクもさすがに死んでしまいますよ。それとボクは人間のことが好きなんですよ」
「それはお主に付いてきたから良く分かっておる。だけどお主が何でそこまで人間が好きなんじゃ?」
ルミさんからすれば疑問でならないのだろう。
「それは色々なことがあったんですよ」
「そう言えば、他の魔王たちも随分と活発的に動いているみたいじゃが
「何でボクに聞くんですか?ボクは魔王でもありませんから関係ないと思うのですが」
魔王がどう動こうとボクにとって大きな変化はない。魔王という存在は隣にいるルミさんも含めてかなり強力な力を保持している。それこそ人間がいくら束になったとしても勝てないほどに。
「何を言っておる。お主は
この人はいつになったら『主』というのを辞めてくれるのだろうか。魔王であるルミさんに魔王と呼ばれている何て恐れ多い。
「何を言っていると言いたいのはこっちですよ。ボクはルミさんの主になった覚えはありませんよ。それに年的にもあなたの方が年上ですよね」
「年など関係ない。少なくとも
「そう言われても……」
「魔王たちの動向にも目を光らせて置かないと何を仕出かすか分かったもんじゃないからのう。
ジュラの大森林の近くにはヴェルドラが居たはずなんだけど。村を作っているのか人間なのか魔物なのか、どちらなのか分からない以上は何とも言えないけど…もし、魔物が町を作っているんだとしたらそれは確実にリーダーと呼べる者が存在するはずだ。それに今までヴェルドラの存在がジュラの大森林を守っていたとしてもいい。
「そうなのか……時間が出来たら偵察がてら行ってみるとしますかね」
少し興味もあるしね。
「そうじゃな」
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ジュラテンペスト
「これは……何というか、凄いね」
僕は目の前の光景を見て、正直に思った感想を口にした。ここはジュラの大森林の近くの土地。。ボクの記憶が正しいのであればここは一年近く前まではゴブリンが住んでいたと記憶しているんだけどな。
「そうじゃな。ここまで多くの魔物を統括しているとなるとかなりの力を保有している者がこ奴らの上に存在しているのじゃろうな」
確かにルミさんの言う通りだ。魔物は別に知性がない訳ではないがここまで統一性はない。それに種族も見る限り、バラバラだ。ここまで多様な種族をまとめ上げられる者が存在するとは。
「それじゃあ、中に入ってみましょうか」
「そうじゃな」
ボクとルミさんはなるべく警戒を解かないように中に入っていくことにした。もし、自分たちも強い強力な敵がここの主人の可能性もありますからね。急に襲い掛かられた時のための対処法として。
中に入ってみて改めて感じたけど…この町はそこら辺の国と比べたとしても引けを取らないほどに技術の発展もしていれば食材の味も美味しい。各故、ボクとルミさんも屋台で売っていた『わたがし』と呼ばれているものを買って食べている。見た目は空に浮かんでいる雲のような感じで味はとても甘い。そしてそれがとても美味しい!
ボクの隣で同じ物を食しているルミさんも同じことを思っているようで今まで見たこともないほど満面の笑みを浮かべながら『わたがし』を食べている。こういう一面を見るとルミさんも普通の女の人とあんまり変わらないんだなと思ってしまう。長い年月の間を生きていると…生きていくことへの執着というのが薄れていってしまう。それは生きていくことへの飽きというものが来てしまうから。
だからこういう自分がまだ知らないものを知る事が出来ると生きていくことへの希望というのが少しだけでも湧き出て来るもの。
それはルミさんだけではなくボクにも言えることなんだけどね。
「美味しいね。ルミさん」
「うん!こんな美味しいものを食べるのは初めてだのう!」
とても喜んでくれているようでボクもここに来てよかった。まだここに来たばかりだけど、これだけでもここに来た価値があったかな。
「それなら良かったですよ。もう一つぐらい買いますか?」
ボクの問いかけを聞くとルミさんはまた一段階上の笑顔を浮かべた。最初は勿論、美味しそうに食べていたけど終わりが見えてくると明らかにルミさんの食べる速度が遅くなっていた。
「…うん」
「それなら買いに行きましょうか!」
ルミさんのこんな笑顔を見る事が出来たのだから今日は本当に良い日だね。
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