ミストレの兄 (主義)
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1話

ボクには弟が存在する。今はある学校で寮生活をしているため会うことは少なくなってきたが…幼い頃はよく「お兄さま~」とボクの後を追ってきていた。今では絶対にそんなことを弟は言ってこないだろうけどね。

弟は容姿も美形で初めて彼を見る人は女子だと思ってしまう事も少ないらしい。まあ、その気持ちも分からなくもない。すぐ隣で弟のことを見ていたボクも弟は可愛いと思ったりした。それぐらいの弟は容姿端麗なのだ。

 

 

 

 

 

 

これは人づてから聞いた事だけど…少し口が悪いらしい。ボクと話す時は緊張しているのか、とても丁寧で畏まっている感じがする話し方をする。ボクたちが生まれた『カルス家』は普通の家庭より上流階級の家庭に近かったために話し方とかもそれなりに直された。そのせいかボクも弟もとても丁寧な口調になった。

 

 

さすがに兄弟で話す時はそんな畏まった言葉を使わなくても良いとボクは思うけど…弟はほとんどボクに対しても畏まったような口調を使っていた。両親に対しては砕けた口調だったのに……ボクって怖がられているのかなと思ってしまったほどだ。

 

 

 

 

 

ボクとしては口調が悪い弟のことが想像出来ないので…一度でいいから聞いてみたいものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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オレには一人だけ兄がいる。尊敬しているし、憧れている。オレが唯一越したくても越せない者。軍人として兄は働いているため滅多に会う機会は少ないが今でも尊敬の対象であることは変わりない。

 

 

兄として一人の男として兄のことは……好きだ。こんなことは兄の前では絶対に言えないが…オレは兄のことは物心が付いた頃には一人の男として好きだ。こんなカミングアウトをされたら一生兄は口を聞いてくれなくなるだろうから絶対に言わないけどな。

 

 

 

 

 

最近は面と向かって会っていないから近い内に二人で会いたい。

 

 

 

 

 

オレが王牙学園に入った理由の中で一番大きいのは…兄の隣を歩けるように。兄はいつでもオレの数十歩先を歩いている。それは年の差もあるかもしれないがそれでもオレは兄の隣で歩けるようにしたい。兄は百年に一度と呼ばれるほどの天才だからオレなんかがどんな努力をしたところで絶対に追いつけないのは本能では分かっている。だが何も努力をすることなく、諦めるのだけは絶対にしたくない。

 

 

 

 

オレが顔を磨いたのも少しでも兄の気を引くため。兄は生まれつきの美少年だからオレがいくら顔を磨いたとしても天然には勝てないだろうがな。

 

いつか自信もって兄の隣を歩けるようにオレは努力を諦めない。



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第2話

多くの人間にとってミストレーネ・カルスは憧れであったりする。容姿端麗、文武両道の彼を憧れない方が無理な話なのだろう。女子のファンも多くてファンクラブが出来るほどだ。

 

本人も顔を傷つけられるのは死んでも嫌なようで全力でガードをする。どんな時でも余裕そうな笑みを浮かべたりして…真面目さがあんまり伺えない彼がここ最近は嘘のように大人しくて訓練にも真面目に取り込んでいる。それは教官たちにとって勿論、嬉しいことだが…同級生の者たちからすれば何があったのだろうと心配になってしまう。

 

 

そして特にバダップ・スリード、エスカ・バメルはミストレーネ・カルスと話すことが多いためか……心配している素振りが見て取れる。だが彼らは話す事が出来ないでいる。

 

 

 

 

何故、ミストレーネ・カルスが急にこんな風になったのかを説明するには一週間前に振り返ることが必要になる。

 

 

 

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一週間前

 

 

 

その日、ミストレはいつものように学校に行き帰宅していた。家に着きいつものように玄関に入っていくとそこには普段ないはずの靴が置かれていた。その靴はある人物のもの。あの人はこだわりがあるようで靴はいつも同じ物を履いている。オレは駆け足でリビングに向かうとオレが想像していた人物がソファーに座っていた。

 

 

 

「おかえり、ミストレーネ」

 

 

 

そこには爽やかな笑みを浮かべながらオレに声を掛ける青年の姿があった。オレはその青年の事を知っている。だってオレが憧れている人物なんだから。

 

 

「…た、ただいま、兄さん」

 

 

少し緊張してしまっていつものようには返事が出来なかった。今日、帰って来るなんて聞いてないんだけど。兄さんは軍人だからあんまり家に帰って来ることはない。だから帰ってくる前には絶対に一報からある。だけど今回はそんな話を聞いていない。

 

 

 

そしてそんな事を考えている間にも兄さんはソファーから立ち上がり、オレの目の前に来た。そして当たり前のようにオレの頭に手を置いて優しく撫でた。

 

 

「随分と見ない間に大きくなったね」

 

 

 

兄さんに撫でられると何でか分からないけど…とても落ち着く。昔からそうされていたかもしれないけど、母さん、父さんに撫でられても何か満足できなかった。だけど兄さんに撫でられると満足できるんだよな。他の人にはこんな気持ち分からないだろうし、分からなくても良いんじゃないかと考えている。

 

 

「…そうかな、そんなに変わっていないんじゃないかな」

 

 

 

「ボクはたまにしか帰ってこないからかもしれないね。ミストレーネと会うのも二年振りぐらいだしね」

 

 

 

「………本当はもっと一緒に過ごしたい…兄さんは軍人として忙しいから仕方ないですよ」

 

 

学校の奴らがこんな喋り方をするオレを見たら驚くだろうな。オレがこんな丁寧に近い言葉を使うのは家族だけだからな。

 

 

 

「だけどこれからはもう少し頻繁に帰って来れるようにしたいと思っているよ」

 

 

 

「それで……兄さんは何で今日帰って来たんですか?」

 

 

軍人に長期休暇というのはあんまりない。それに兄さんほど優秀な軍人ともなると仕事は絶えない。それに今まで兄さんはかなりの年数軍人として働いているのを見てきた。だけど一度たりとも正月とかでもなければ帰って来る事はなかった。だけど今の季節、時期は別にそういう季節でも時期でもない。

 

 

 

「…ああ、そうだね。今回はミストレーネに伝えたい事があって少し時間を作って会いに来たんだ」

 

 

 

「オレに?兄さんが」

 

 

 

「うん。王牙学園から要請があってね。来週からボクが君たちの訓練の指導をする事になったんだ」

 

 

 

「………え、兄さんが!!」

 

 

 

「そうなんだ。どうやら講師に呼ぶならボクが良いという名指しだったみたいでね」

 

 

兄さんがうちの学園に…来る。もし、教師からオレが授業を真面目に受けていないと知られたら兄さんに失望されるかもしれない。失望されたらオレは終わりだ。兄さんから失望の眼差しで見られたら待っているのは地獄だ。

 

 

時は戻り、現在。こういう事があったが故にミストレは授業を真面目に受けるようになったのだ。

 

 

 

 

 

そして今日は兄さんがこの学園に来る日。今日までの一週間の間は真面目な生徒としてのミストレーネ・カルスを作り上げてきた。これで少しは安心できる。自分の席に座りながらそんな事を考えていると担任の教師が入って来た。教師は全員が机に座っているのを確認してから話し始めた。

 

 

 

「今日は皆さんに紹介して置かなければいけない人がいます。では入って来てください」

 

 

そして入口からスーツに身を包んだ兄さんが入って来た。



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