色んな奴らが剣と盾の伝説のある地方に襲来するそうです (砂原凜太郎)
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それぞれの襲来

 アローラ地方 ウラウラ島 ラナキラマウンテン頂上。

 ここには、アローラ地方最強のポケモントレーナーを決める戦い。ポケモンリーグがある。

 人々に選ばれた四天王。それを突破したトレーナーは、現最強ともいえるトレーナー、チャンピオンに挑むことになっている。

 今、そのチャンピオンに、一人の青年が挑もうとしていた。

 

 チャンピオンの玉座に座るのは、アローラにおける異変を、伝説のポケモン、ルナアーラと共に解決した少女、ムーン。

 挑むのは、彼女のライバルの一人。金髪で、赤い爪痕にファスナーの付いた黒い服を身に纏った青年。グラジオ。

 

「今日こそチャンピオンの座、奪わせてもらうぞ、ムーン!!」

「望むところ!!行くよグラジオ!!」

 

 グラジオのメガアブソルとムーンのルナアーラが相打ちで倒れ、残るポケモンは互いに一体。グラジオは幼少のころから、ムーンは旅を始めた時から共にいる、最強のパートナー。切り札を繰り出す。

 

「来い、聖獣シルヴァディ!!」

「行くよ、ジュナイパー!!」

 

 グラジオが繰り出したのは、四足歩行の生物であり、水掻きと獣の脚を持つ、合成獣(キメラ)の様な人口ポケモン、シルヴァディ。

 ムーンの切り札は、緑の木の葉のフードを被った、フクロウの様なポケモン。ジュナイパー。

 そして、この二体のポケモンが場に出た時、二人が一番初めに使う技は決まっている。

 

「行くぞ、オレ達のゼンリョク!!」

「いっくよ~、私達のゼンリョク!!」

 

 グラジオの右腕に光る、黒のZリング。ムーンの右手に輝く、白のZリング。そのリングにはまったクリスタルが、共鳴する。

 そして、技の発動の儀式とも取れるポーズを決める。グラジオは両手を使い、大きく体で『Z』の文字を体現する。

 ムーンは顔を両手で隠すようなポーズをとり、低い体勢からおどろおどろしい動きで上半身を上げ、驚かすように両手を広げる。

 お互いが放つ、ゼンリョクの切り札。Z技。お互いに、これで決める。と言う意識がみなぎった。

 

「行くよ、ジュナイパー、【シャドーアローストライク】ッ!!」

 

 ジュナイパーの周囲に、無数の矢が出現する。飛び上がったジュナイパーは、矢と共に鋭く突っ込んでいく。

 

 対するシルヴァディにも力がみなぎり、目が輝いた。シルヴァディは、かつてタイプ:フルと言うコードネームの元、専用のディスクを使う事でどんなタイプにもなれるポケモン。しかし、現在ディスクフォルダーに、その核となるディスクは入っていない。即ち、今のタイプは通常のノーマルタイプ。この状態では、シルヴァディのタイプにより技のタイプが変化するシルヴァディのブレイククローは、ゴーストタイプを持つジュナイパーには通用しない。しかし、彼のZ技はその属性の概念を通り越し、ジュナイパーに大ダメージを与える。

 

「属性の概念を超越しろッ!!シルヴァディ、【マルチブレイクレボリューション】ッ!!」

 

 無数の属性の爪が、ジュナイパーの矢を砕いていく。

 そして、無数の攻撃が消えた時、またジュナイパーの矢も尽きた。

 自らが矢と化すように突っ込んでいくジュナイパー。シルヴァディも、残った自身の爪で対応する。

 

「オオォォォッ!!」

「はあぁぁぁッ!!」

 

 爪と矢が拮抗する。闇のオーラと全属性のオーラがぶつかり合い、けたたましい煙を上げた。

 そして、煙が晴れた時……。

 

「フッ……何も、無いな……。」

 

 フィールドに倒れ伏していたのは、シルヴァディだった。ムーンのジュナイパーは、全身傷だらけでボロボロになりながらも、これがチャンピオンの相棒の力だと言わんばかりにその眼でグラジオを見据えている。

 それを見たグラジオは、自らの負けを悟り、全てを出し尽くしたかのように、脱力した。放った言葉は、己への自嘲だったのかもしれない。

 

「さすがだねグラジオ。ボクがここまで追い込まれたのは久しぶりだよ~。」

 

 一方ムーンは、バトルが終わったと分かった瞬間、そう砕けた態度で、グラジオに接する。

 

「フン。いくら追いつめても、負けては意味が無い。」

 

 一方グラジオは、自らをあざ笑うかのようにそう言った。

 

「そんな事ないよ。グラジオのゼンリョクの技は、それこそどんなトレーナーの技にも及ばないと思うよ?」

「お前にも、か?」

「うん。今回は運が良かっただけ。ジュナイパーは、シルヴァディとモクローだった時から戦ってるんだもん。弱点を心得てただけだよ。」

「逆に、オマエのポケモンの弱点をオレが付けたためしはない。オレもシルヴァディも、まだまだ未熟だ。」

「そっか。それじゃぁ、次の挑戦を楽しみにしてるよ。グラジオ。」

 

 グラジオに、ムーンはそう言った。

 

「その事なんだがな、」

 

 しかし、グラジオは、ムーンの顔を真剣な顔つきで見る。

 

「どうかしたの?」

 

 ムーンが問いかければ、グラジオは覚悟を決めたようにこう言った。

 

「しばらく、オマエには挑戦しない。いや、出来ないんだ。」

「え?」

 

 ムーンがその言葉を聞いて、三秒間放心。理解するのに五秒。冗談じゃないと分かるのに二秒。たっぷり十秒固まって、

 

「ええええええぇぇぇ!?」

 

 特大の声を上げて驚いた。

 

「どどどどど、どういうこと!?もうリーグに来ないの?もしかして、ウルトラビーストこのことで?」

 

 アローラに未曾有の大災害を巻き起こした、ウルトラビースト達。グラジオ、ハウ、ムーンと、島を守るカプ四神、ポケモン協会とエーテル財団が協力し、そのすべての捕獲に成功した彼ら。

 現在ウルトラビースト達は、謎のUBネクロズマを除いて、グラジオの手持ちとなっているのだ。

 

「いや、そういう訳(ウルトラビースト関連)じゃない。オマエには一から話しておく。」

 

 そう言うと、グラジオはムーンに向きなおった。

 

「リーリエの進境は聞いてるな?」

「うん。カント―でジムバッジを集めながら、確かポケモンマフィア退治に協力してるんだっけ?」

「ああ。中々に頑張っているそうだな。あと、今回の話なんだが、実はお前に話があって来た。ポケモンバトルはそのついでだ。」

「用事?グラジオがいなくなるのと関係あるの?」

「ああ。しばらく、他の地方に修行に出ようと思う。」

 

 大真面目な顔で、そう言った。

 

「え!?リーリエだけじゃなくて、グラジオも行っちゃうの!?」

「ああ。」

「行先は?」

「……止めないんだな。」

「え?」

「止めるものだと思っていた。オマエならな。」

 

 そう言うグラジオに、ムーンは明るい笑みを見せた。

 

「う~ん。そうだね……、確かに寂しい。グラジオがいなくなるのも、しばらくはバトルも出来ないのも。けどさ……キミが選んだ道なら、止めないよ。」

「そうか……俺はガラル地方に行く。今度は、そこのチャンピオンになって戻ってくるさ。」

「そっか。チャンピオングラジオとの対決、楽しみにしてるよ!!」

 

 そう言う彼女を、フッと、いつもより優しそうな笑みを浮かべ、グラジオは手を振って、チャンピオンの間を去って行った。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ホウエン地方 天空の塔

 

 ホウエンの片隅にある、古塔。その頂上には、一人の少女がいた。黒と赤の服、灰色の街灯に身を包んだ彼女は、ホウエンの海。そのずっと奥を見ていた。

 

 一陣の風が、彼女のフードを持ち上げ、素顔を露わにする。

 

「……予感がする。」

 

 ぽつり、と、そう呟いた彼女。ふと立ち上がり、塔を下りて行く。

 数階降りたところにある壁画。そこには、禍々しい巨龍の様なポケモンが描かれていた。彼女の持つレックウザに似て非なるポケモン。その名は……

 

「ムゲンダイナ……【ブラックナイト】が訪れる……か……。これは行くしかないかな~。」

 

 そう呟き、マントを翻した。

 

「ゴニョ……。」

「ん?どうしたシガナ?寂しいのか?」

 

 ふと話しかけて来た、ぬいぐるみの様な愛くるしいポケモン。彼女の持つ囁きポケモンゴニョニョだ。

 シガナという愛称をつけ、彼女はかわいがっている。

 

「大丈夫。また戻ってこようよ、ここにはね。」

 

 再び屋上に戻って来た彼女は、シガナを肩に乗せ、塔を飛び降りた。

 

「ニョ~~!!」

 

 悲鳴を上げるシガナ。

 

「頼むよ、ボーマンダ!!」

 

 落ちていく彼女のその言葉と共に投擲されたモンスターボールからは、赤い翼持った水色のドラゴンの様なポケモン。

 ドラゴンポケモンボーマンダが降臨した。

 彼女が脚に装着したアイテム、メガアンクレットに着けられた、輝く石に触れれば、ボーマンダの首輪に付いた石と反応し、光に包まれたボーマンダの姿が変わった。

 翼は繋がり三日月のような形にになり、より飛行に特化した姿へと変貌する。

 ボーマンダはシガナと少女を回収し、飛び立った。

 

「ニョ~……。」

「ゴメンってシガナ。もうしないよ。」

 

 驚いて目を回すシガナを撫で、少女は笑った。

 

「さ~てと、ムゲンダイナ、このヒガナ様がいくからには、首を洗って待ってろよ~。」

 

 不敵に笑った少女は、そう言い、ガラルへと向けて飛び去って行った。

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 イッシュ地方 とある町の一軒家

 

 自然豊かなイッシュ地方。とある町の一軒家。その二回には、かわいくデフォルメされた看板がかかった部屋がある。

 

 [エイプリルのへや]

 

 クレヨンでそう書かれた看板には、かわいいフォッコのイラストが描かれている。

 一軒家の中でも広々とした一室。かわいいもので埋め尽くされたそこには、髪を無造作に伸ばした少女がいた。

 パジャマに身を包んだ彼女はそのすみれ色の瞳でテレビを眺めている。彼女がエイプリルなのだろう。

 そんな彼女が、普通の人と違う点があるとすれば、両足が義足な事だろう。コンプレックスがあるのか、その表情は何処となく暗い。

 

「レディース&、ジェントルマン!!」

 

 テレビには、【中継 ガラル地方】の文字が映っている。画面の中央に映る浅黒い肌の、恰幅のいい男が、そう声を上げている。

 

「今宵は無敗のチャンピオン、ダンデのエキシビションマッチをお届けしましょう!!」

 

 その言葉と共に、巨大なバトルフィールドに煙が立ち上る。

 その煙の中から、褐色肌の、マントを羽織り、黒のユニフォームを身に纏った男性が現れる。

 彼こそが、ガラル地方のチャンピオンにして、十年間無敗の記録を保持する最強のポケモントレーナー。チャンピオン、ダンデだ。

 隣には、その相棒、リザードンが現れる。

 

 歓声を上げる観客に、彼はマントをひるがえし、脚を肩幅に広げ、グッ、と踏みしめる。

 そして、右手をまっすぐ上にあげ、親指、人差し指、中指の身を挙げた独特のポーズを取った。

 彼のキメポーズであり、人呼んで、『リザードンポーズ』。

 それを見た少女は、ダンデを応援するように右手の形を作り、掲げる。しかし、その目は悲しそうだった。

 

「フォー……。」

「あ、フォッコ……。」

 

 ベッドの上に居た、彼女の相棒フォッコ。フォッコの心配そうな声に、彼女は無理やり笑みを作り、対応する。

 

「大丈夫。ワタシは大丈夫だから。この通り、元気だよ。」

 

 そんな様子を見て、フォッコは心配そうに鳴く。

 

「大丈夫、元気、元気だから……。」

 

 そして、試合に向きなおる。試合では、ダンデと、ガラルジムリーダーの中で最強と言われるキバナが戦っていた。

 

「そろそろポケモンリーグが始まる……。あそこに出れば……」

「フォッ!!」

 

 そんな言葉をこぼした彼女に、フォッコは元気づけるように鳴いた。

 

「そうだね……私も、変わらないと……。」

 

 暗い決意と共に言ったその言葉に、フォッコはまた心配そうに鳴いた。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 二日後、そこには、見違えるように変わったエイプリルがいた。

 短くカットした髪にメイク、露出高めな服を身に包み、アタッシュケースを持っている。

 

「本当に行くの?大丈夫?」

 

 彼女の母親らしき人物が、心配そうに言う。

 

「問題ないよお義母さん!!義肢も調子いいし。」

 

 明るく笑った彼女は、そう言ってその場で足踏みして見せる。

 

「それじゃぁね!!」

 

 そして、相棒のフォッコと共に、空港に向け走って行った。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 アローラ発イッシュ経由ガラル便の飛行機内。アイマスクを着け、くつろぐグラジオは、頭の中で思考を巡らせる。

 

「(ガラルのチャンピオンリーグに出場するには、有力者の推薦状が必要だ……。まずは推薦状を手に入れる。なって見せるさ、無敗を下し、新たな王者に!!)」

 

 そして、より決意を固くする中、

 

『当機は間もなくガラル地方に着陸します、シートベルトをおしめになって……』

 

 と、アナウンスが流れる。

 アイマスクを外したグラジオが窓を見れば、そこにはガラル地方が見えていた。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 濃霧で覆われた森。人気のない場所に、ボーマンダから飛び降りたヒガナが着陸する。

 そのままボーマンダをボールに戻した彼女は、フードで顔を隠した。

 

「(さてと……まずは情報収集と行こうかな。脅威を止める戦力、協力者も必要だ。ブラックナイトが自然に発生する確率は限りなく少なくて、人為的なもののはずだから、なるべく目立たないように……。)」

 

 そして、ここが何処か、周りを見て確認しようとした時、

 

「あれ?こんな所に……人?」

「なぁ、こんな所で何してるんだ?」

 

 そこには、二人の人間がいた。褐色肌の青年と白い肌の少女だ。

 

「(ヤバッ……!!)」

 

 余りにも序盤からのミスに、焦るヒガナだった。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「着いた―!!」

 

 ガラルに付いたエイプリル。開口一番に、そう言い大きく腕を広げる。

 

「さ~てと、まずは何処にいこっかな~。ッてキャア!?」

「うわッ!?」

 

 空港を出て、歩み始めた彼女。しかし、角を曲がった瞬間、紫のコートを着た、白い髪の青年に激突した。

 

 倒れる二人。

 

「「あっ……、」」

 

 そして、偶然にも目が合ってしまった。

 

「そ、その……ゴメンねッ、ワタシの不注意で……、」

「やれやれ、まったく気を付けてくださいよ……ってあなた……。」

 

 ふと、義足に目がいく彼。

 

「え、ああ……その……。」

「その足では立ち上がるのも大変でしょう。まぁその……ぼくも不注意だったわけですし……何ならホテルまで送りましょう。」

 

 エイプリルを立ち上がらせる青年。一瞬この脚のせいかな?と思いかけたエイプリルだが、彼の瞳には、蔑み、憐れみといった感情は無かった。



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グラジオと、竜の推薦状

 グラジオは今、何時もの黒を基調とした服の姿で、通路を歩いていた。そして、広いスタジアムへと出る。そこで待っていたのは、

 

「よっ、待ってたぜ、オレサマに挑戦状をもらいに来た、アローラからのチャレンジャー、グラジオ。」

 

 ガラルトップジムリーダーであり、【無敗のダンデ】の居ない地方なら、チャンピオンにもなれるだろうとも言われている、【最強の二番手】キバナと、彼の弟子でもある、ジムトレーナーたちだ。

 

「ルールを確認させてもらうぞ、キバナ。オレはそこに居る三人のジムトレーナーにダブルバトルで勝てばいい。そうすれば、」

「ああ。このオレサマの推薦状はオマエの物だよ。」

 

 キバナは、手に持つ推薦状をちらつかせる。

 

「言っとくが、今年のチャレンジは厳しくしてるんだ。ダンデの奴が、二人の奴に推薦状を書くからな。」

「対抗意識、という訳か。」

 

 グラジオがそう言えばキバナはニッ、と笑い、

 

「そういう事。さぁ、推薦状チャレンジ、開幕だぜ!!」

 

 高らかに宣言した。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「ポリゴンZ、“はかいこうせん”!!」

「バクガメス!!」

 

 グラジオのポリゴンZの放った“はかいこうせん”が、バクガメスを吹き飛ばした。

 

「これで、二人突破だな。」

 

 ポリゴンZをボールに戻し、グラジオはそうキバナに言う。

 

「なかなかやるじゃねぇか。けどな、最後の一人はそう簡単にはいかねぇぜ!!ヒトミ!!」

 

 キバナが呼ぶと、最後の一人、女性トレーナーのヒトミが前に出た。

 

「最後の相手はお前か。」

「ええ。けど、リョウタとレナみたいにはいかないわよ!!」

「フン。そう来なくてはな!!」

 

 グラジオとヒトミが、ボールを向けあう。

 

「準備はいいか?じゃあ行くぜ、グラジオVSヒトミ。いざ、」

 

 そう言い、キバナが腕を上げる。

 

「「ポケモンバトル!!」」

 

 

 

       グラジオ/

           /ヒトミ

 

 

 

 

「行くぞ、マニューラ、フシギバナ!!」

 

 グラジオの先発は、ドラゴンタイプに有利な氷タイプの技で、初手の切り札ヌメルゴンを見事に沈めて見せた、素早さの高いアタッカー、マニューラと、草タイプのポケモンで、グラジオのパーティー1の鉄壁さを誇る、フシギバナ。典型的な、アタッカーとディフェンダーに分かれた堅実なパーティーだ。

 

「行きなさい、キュウコン、ドラミドロ!!」

「キュウコンだと!?」

 

 しかし、次の瞬間、ヒトミの繰り出したポケモンに驚かされる。ヒトミが繰り出したのは、毒とドラゴンの複合タイプを持つドラミドロと、九つの尻尾を持つ、キュウコン。ただのキュウコンならば、グラジオもここまで驚かなかっただろう。現に、彼女の一人前のトレーナー、レナも、【ひでり】の特性を持ったキュウコンを繰り出していた。しかし、いま彼の眼の前に居るのは、水色の体毛を持つ、アローラで生まれた【リージョンフォルム】のキュウコン。そのタイプは驚きの、ドラゴンが苦手な二大タイプ。氷とフェアリー。

 

「【あめふらし】のぺリッパ―に【ひでり】のキュウコン。このジムは、【初動で天候を変えてくるポケモン】と、【その天候で有利になるドラゴンポケモン】を使ったコンビネーションが得意なジムだとは思っていたが、」

 

 フィールドに、雪が降り注ぐ。キュウコンの特性、【ゆきふらし】だ。

 

「竜の苦手な氷まで利用するか!!」

「私の手持ちに、従来のドラゴンパを相手するときの常識は通じないわよ!!」

 

 その言葉を聞き、不味いな。とグラジオは焦る。彼のマニューラは、悪、氷タイプ。フシギバナは、草、毒タイプ。悪タイプはフェアリーに弱く、草タイプは氷タイプに弱い。キュウコン一体で、初動の二匹両方の苦手を掴まれてしまった。さらに、厄介なのはドラミドロの毒技。その毒技で散々前の二人を苦戦させてきたグラジオは、その恐ろしさを一番よく知っている。

 

「見せてあげるわ!!キュウコン、“オーロラベール”、ドラミドロ、“どくどく”!!」

 

 雪の天候に、さらに、光り輝くヴェールがヒトミのポケモンたちを包む。相手の攻撃を軽減する、技、“オーロラベール”だ。さらに、ドラミドロの“どくどく”が、マニューラを毒状態にする。

 

「厄介だな。いやらしい。」

「バトルでそれは褒め言葉よ。」

「フッ、確かにな。だが、負ける気は無いさ。マニューラ、”氷のキバ”、フシギバナ、こちらも”どくどく”だ!!」

「させない、ドラミドロ、”りゅうのはどう”」

「飛び越えろ、マニューラ!!」

「なにッ!?」

 

 ドラミドロが放った”りゅうのはどう”の上を、ハードルを飛び越える様に飛び越えたマニューラはそのまま、素早いスピードで肉薄し、”氷のキバ”を当ててくる。

 

 さらに、キュウコンも毒を受けて苦しそうだ。

 

「そのまま”メタルクロー”!!」

「させない、”ドラゴンテール”!!ついでに、やってくれたわね、キュウコン、”ふぶき”!!」

 

 マニューラの『爪』に、ドラミドロの『尻尾』が対応してぶつかり合う。

 さらに、キュウコンが、放つふぶきが、フシギバナに大ダメージを与える。

 

「フシギバナッ!!」

 

 しかし、フシギバナも、かろうじて今の攻撃を耐えていた。

 

「やるじゃない。キュウコン、もう一度”ふぶき”、ドラミドロ、”りゅうのはどう”」

「マニューラ、”氷のつぶて”だ。そしてフシギバナ、”ベノムショック”!!」

 

 そして、技と技が飛び交う。その結果、

 

「オイオイ、マジかよ!?」

 

 キバナも驚き、客席の手すりから身を乗り出す。

 

「両者全ポケモン戦闘不能!?」

 

 キュウコン、ドラミドロ、マニューラ、フシギバナがそれぞれ、倒れているのだ。

 

「ウソ、ドラミドロはともかく、“オーロラベール”の中で、一発喰らっただけのキュウコンがやられるなんて…………。」

「フッ、覚えておけ、“ベノムショック”は相手が毒状態の時、確定で急所に当たる技だ。オマケで俺のフシギバナの持ち物は【どくのジュエル】一度だけ、毒技の威力を上げる優秀な持ち物だ。オーロラベールがあったとしても、防ぎきれるものじゃぁない。」

 

 そんな事喋っていると、あられが収まり、“オーロラベール”も霧散する。

 

「これで、リセットだ。」

「やるじゃない。でも、フシギバナとマニューラ、エースを失ったアンタとアタシじゃ、また失った物も違うんじゃない?」

「それはどうかな?来い、ルカリオ、ポリゴンZ!!」

 

 繰り出したのは、ルカリオとポリゴンZだ。

 

「ポリゴンZ。コイツも厄介ね。そして四体目はルカリオ。今までは三人ともポリゴンZ、マニューラ、フシギバナだけで倒してきたから。四体目を見るのは初めてね。」

「そうだな。やっぱり、お前は違うよ。こんなにも早く、俺から四体目を引きずり出すとはな。」

「おほめにあずかり光栄。って言えばいいのかしら?行くわよ、バイバニラ、ドラパルド!!」

 

 繰り出したのは、ゴースト、ドラゴンタイプのドラパルドと、同じく氷タイプのバイバニラ。そしてなにより、あられが降り注ぐ。このバイバニラも、特性【ゆきふらし】のようだ。

 

「また【ゆきふらし】か。」

「当然。ついでに行くわよ、“オーロラベール”!!」

「阻止しろ!!ポリゴンZ、“火炎放射”!!」

「させない、ドラパルト、“ドラゴンアロー”!!」

「迎撃しろ、ルカリオ、“グロウパンチ”!!」

 

 と、激しい技の応酬が繰り返される。そして、

 

「そろそろ終わりだ。ルカリオ、インファイト!!」

「しまった、バイバニラ!!」

 

 ポリゴンZに集中し過ぎたバイバニラが、ルカリオの一撃に吹き飛ばされる。

 

「くっ、敵討ちよ、ドラパルド、“ドラゴンアロー”!!」

「“ボーンラッシュ”だ、弾き返せ!!」

「無駄よ!!ドラパルド!!」

 

 一本の長い骨を出現させ、“ドラゴンアロー”を迎撃するが、落しきれずにもろに食らい、吹っ飛ばされる。

 

「続けて“大文字”」

「しまっ、ルカリオ!!」

 

 命中率の低い、“大文字”だが、ふっとばされ、耐性の崩れたルカリオには避けられず、もろに食らって倒れてしまった。

 

「やるな。」

「ノーマルタイプのポリゴンと、格闘タイプのルカリオじゃ、ドラパルと二は相性が悪いでしょ。どっちの攻撃も効かないからね。」

 

 その言葉に、ドラパルとが自慢げにくるくると空中を回る。

 

「ああ。なら、このポケモンはどうだ?来い、マニューラ!!」

「マニューラ!?もう一体!?」

 

 先ほどの腕を組んでいたマニューラとは違い、腕をだらりとたらした構えを取っている。

 

「ならこっちも、ジャラランガ!!」

 

 繰り出したのは、ドラゴンタイプのジャラランガ。

 

「ほう、ジャラランガか。氷タイプ相手に、ジャラランガとは自信家だな。」

「違うわよね?」

 

 しかし、にやりと笑ったヒトミの答えに、グラジオは眉をひそめる。

 

「貴方の性格上、同じポケモンを二体も手持ちに入れる様な真似をするとは思えないわ。つまり、そのポケモンの正体は、ジャラランガ、“ばかぢから”!!」

「不味い、“ナイトバースト”!!」

 

 マニューラから、本来なら覚えない様な技(・・・・・・・・・・・)が放たれる。そして、マニューラに“スケルノイズ”が命中する。そして、煙の中から現れたのは、倒れたゾロアークだった。

 

「ゾロアーク。特性【イリュージョン】で化けてたって訳ね。」

「ほう。初見ではムーンも、驚いていたんだがな。」

 

 感心したようにグラジオがそう言う。

 

「だが、ちゃんと決めさせてもらったぞ。」

「?まさかッ!!」

 

 ヒトミがドラパルトの方を見ると、ドラパルトは倒れていた。

 

「“ナイトバースト”…………届いてたのね。」

「当然だ。」

「成る程ね。最後はこの子よ!!お願い、ユキノオー!!」

 

 そして現れたのは、ユキノオーだ。

 

 一方で、己の相棒であり切り札、シルヴァディのボールを握るグラジオの顔は、笑みを浮かべていた。

 

「(ドラゴンタイプのジムリーダー、キバナ。他の地方だったら、チャンピオンになってたであろうと言われる実力、認めな蹴らばならないな。トップジムリーダーの弟子の実力とやらを!!)」

「来い、シルヴァディ!!」

 

 ボールを投げ、ポーズを決める。

 

「ここからは、本気で行く!!」

「望むところ!!ユキノオー、“ふぶき”!!」

「ポリゴンZ、“はかいこうせん”!!」

「ジャラランガ、“スケルノイズ”!!」

「シルヴァディ、“マルチアタック”!!」

 

 技と技がぶつかり合い、ポリゴンZとユキノオーが吹っ飛ばされる。

 

「ユキノオー!!…………流石ね。リーダーにアレ(・・)は使うなって言われてんだけど…………こうなってくると、こっちも流石に勝ちたくなってきた!!」

 

 そう言い、ジャラランガをボールに戻す。彼女の腕輪からまとわりついた紅い光が、ボールを巨大化させる。

 

「ヒトミにアレ(・・)を使わせるか。流石、と言うべきかな?」

 

 キバナはそう言って、笑みを浮かべた。

 

「行くわよ、ジャラランガ、ダイマックス!!」

 

 そして、巨大化したジャラランガが、フィールドに立つ。

 

「これは!!」

「驚いた?これが、ガラル特有の大技、ダイマックスよ。ぶちかましなさい、ジャラランガ、“ダイドラグーン”!!」

 

 そして、シルヴァディを巻き込んで、巨大な竜巻が発生する。

 

「シルヴァディ!!」

 

 煙の中から現れるシルヴァディ。大ダメージを受けながらも、まだ立っている。

 

「どうよ。この一撃。」

「…………さすがだな。強い。だが、俺もこのままでは終わらないぞ!!」

 

 自慢げに笑うヒトミに、グラジオも笑みで返す。

 

「それはどうかしら?ジャラランガ、もう一発、“ダイドラグーン”!!」

「打ち破れ、シルヴァディ。これが、答えだ!!」

 

 そういい、グラジオはシルヴァディに何かを投擲する。それはシルヴァディの頭部、ディスクホルダーに滑り込んでいく。そして、ダイドラグーンを放った先で、

 

「ウソ!?何で!?」

 

 シルヴァディは、立っていた。

 

「氷の力は鎧となり、竜の猛撃を打ち破る。特性【ARシステム】!!このディスクによって、自信のタイプをあらゆる種族に変えられる!!」

「冗談きついわ…………けど、だとしても、後一発で、終り…………。」

「悪いがそれは無い。」

 

 しかし、ヒトミの言葉を、グラジオは否定した。

 

「どういう意味?まさか、体力がほぼ満タンに近いジャラランガを、一発で落とせると思ってるの?悪いけど、ダイマックス中のポケモンは、体力が二倍になるのよ。」

「ああ。その二倍の体力を、ここで削る。だから、お前のターンは、もう、来ない!!」

 

 そう言い、両腕をクロスさせる。腕に着けているのは、澄んだ水色のZクリスタル。

 

「海は凍り、炎は陰り、全ては停滞の時の中に」

 

 ポーズを重ねて行く彼の脳裏に思い浮かぶのは、何度も戦った、ムーン(ライバル)の顔。

 

『グラジオのZワザは、誰よりも威力が強いよ?ボクなんか、足元にも及ばないくらい。それで、何度も戦況をひっくり返してきたじゃない?グラジオなら、イケるよ!!』

 

 笑顔でグーサインする彼女の言葉は、彼の背中を押すきっかけになった。

 

「アローラ一の標高を誇る、ラナキラマウンテン。そのラナキラに全て凍てついた、氷の洞窟のように、絶氷の一撃よ、今、竜を墜とせ!!“レイジング・ジオ・フリーズ!!」

 

 放たれるのは、氷のゼンリョクの一撃。それを喰らったジャラランガが、大爆発を起こす。

 

「ジャラランガ、戦闘不能、勝者、チャレンジャーグラジオ!!いや~、最高の一閃だったぜ!!」

 

 みんなが騒然とする中、キバナだけが、拍手喝采で、バトルの終了と両者の健闘をたたえた。




 次回、ヒガナとユウリ達の回ですお楽しみに!!


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ヒガナの失態

 今回は、ヒガナ編となっています。この小説は、【ヒガナ編】 【グラジオ編】 【エイプリル編】の三篇に分かれて語られる作品になっています。


「なるほど!! じゃぁ、ヒガナさんはホウエン地方の調査員なんだな!!」

「ああ…………。まぁ、そんなもんだよ。」

 

 キラキラとしたまぶしい視線の主。褐色肌の少年ホップ君(15歳)に、自分はホウエン地方から来た捜査官(ポケモン委員会に所属しているとは言ってない。)と言ってしまった罪悪感から目をそらす。

 

「これ、メガストーンか?初めて見たぞ!!」

 

 キラキラと目を輝かせ、メガアンクレットを眺めるホップ。それに、

 

「も~、ホップったら。ヒガナさんが困ってるでしょ!!」

 

 と、いさめるように、ホップとヒガナの間に入る少女。ホップの幼なじみ、ユウリだ。

 

「何の調査に来たんですか?」

 

 と、聞いてくる。

 

「ああ。そりゃあ勿論、ダイマックスだよ、ダイマックス。アレはホウエンどころか、ガラル以外のどこの地方にもないからね。」

「へぇ…………珍しいんだ…………。」

 

 フムフム。と言う顔をしてそんな事を言うユウリ。

 

「そう言えば、君達は何でこんな所に迷い込んだんだい?」

 

 と、ヒガナが問いかけると、

 

「ああ、それはだな、かくかくしかじかまるさんかくで」

 

 と、ホップが事情を説明してくれた。曰く、この森は立ち入り禁止だったんだが、ウールーの一匹がどこかに行ってしまったため、危険を承知で探しに来たんだとか。

 しかし、そこでホップは赤、ユウリは蒼い不思議な犬の様なポケモンにポケモンに出会い、気が付いたら倒れていたので、途方に暮れて、辺りをうろうろしていたらしい。その結果、ばったりヒガナとあった様だ。

 

「まぁ、兄貴も俺達の事を探してくれてるだろうし、きっと心配かけてるだろうから早く戻んないといけないんだけど…………」

 

 とホップがきょろきょろと辺りを見回す。

 

「ん? 君、お兄さんがいるの?」

 

 と、ヒガナがホップに問いかけると、彼は顔を輝かせ、

 

「おう、凄いんだぞ!! 俺の兄貴は最強だからな!!」

「へぇ、最強ねぇ。」

 

 かわいいなぁ。と言うようなことを考えながらそう答える。

 

「ほんとにすごいんですよ? ホップのお兄さん。なんてったってあの…………。」

「ッ!? 二人とも伏せろ!!」

「マァガァ!!」

「えっ? きゃあ!?」

「うわぁ!?」

 

 ユウリが何かを言おうとしたところで、唐突にヒガナが血相を変えて二人にそう言った。その瞬間、彼らの頭上ギリギリを、黒い鳥ポケモンが通過した。

 全身を光沢のある翼に包んだ鳥の様なポケモン。

 

「アーマーガァ!?」

「へぇ、ホウエンじゃ見ないポケモンだね。」

 

 ホップがそのポケモン、アーマーガァの名前を言うと、ヒガナは笑みを浮かべて、モンスターボールをを手に取った。

 

「ガァ!!」

 

 対するアーマーガァは、大きく翼を広げて、威嚇するような体制を取って、そのまま凄まじい気負いで突っ込んでくる。

 

「不味い!!『ブレイブバード』!? ヒガナさん避けて!!」

 

 ユウリがそう言うと、ヒガナは自信気な笑顔を見せて、

 

「大丈夫さ。安心しなよ。」

 

 と言って、ヒラリ。と、軽い身のこなしで『ブレイブバード』を躱して見せる。

 

「躱した!?『ブレイブバード』を!?」

「凄いぞ!!」

「ガァ!?」

 

 ホップたちが歓声を上げる中、必殺の攻撃を外したアーマーガァは信じられないと言う顔でこちらを見てくる。

 

「いきなり真正面から特攻仕掛けてくるなんて、想像力が足りないんじゃないの?」

 

 と言ってから、ボールを投げる。

 

「ボーマンタ!!『ドラゴンダイブ』!!」

「ボォマ!!」

 

 そして、お返しとばかりに繰り出したボールから飛び出したボーマンタが、そのまま放った『ドラゴンダイブ』でアーマーガァは吹っ飛んだ。

 

「アーマーガァを一撃で…………。」

「凄い!!流石だぞ!!ヒガナさ」

「待って、まだ来るみたい。」

 

 ホップたちをそう手で制して、ボーマンタと辺りを見回す。そうすると、茂みの中から、煙の様な物が飛んできた。

 

「ッ!!」

 

 ヒガナとボーマンタはそれを飛びのいて躱すと、ホップが、

 

「今の技…………『ワンダースチーム』!!不味いぞ!!」

「え?」

 

 そして、茂みの中から現れたのは、

 

「マ~タドガ~ス」

「マタドガス? 見た目が知ってるのと違うけど…………。」

「リージョンフォルムですよ、ヒガナさん。」

 

 ホウエンに居るマタドガスとは違い、頭から煙突の様な物が生えている。そんなマタドガスのタイプは、

 

「毒と、フェアリー。ドラゴン技が効かないから、大ピンチだぞっ!!」

「問題ないよ。ボーマンタ、『大文字』!!」

「ボォ!!」

「ドギャス!?」

 

 すぐさまボーマンタの『大文字』にぶっ飛ばされて、リタイアとなった。すると、

 

「大丈夫か!?お前たち!!」

「(ん?もしかして、さっきは無しに出て来たホップのお兄さんかな…………って、ゲッ!?)」

 

 と、言う声と共に走って来たポケモンと人に、ヒガナは顔を真っ青にした。

 そこに居たのは、ガラルチャンピオンであり、10年のリーグ無敗記録を築き上げている伝説的レジェンド、ダンデだったからだ。

 

「(ダダダダッダッダダンデ!? 何? 文字通り最強の兄貴だったの!? 想像力じゃおいつかねぇよ!!)」

 

 と、心の中で突っ込んでいるヒガナなんてお構いなしに、ホップたちは、

 

「兄貴!!」

「ダンデさん!!」

 

 と、喜びの声を上げていた。

 

「お前たち…………無事だったのか、良かったぜ。」

 

 と、安堵のため息を付いてから、厳しい顔で、

 

「ユウリ、それにホップ、ここには入るなって言ったよな?」

「ご、ごめんなさい…………。」

「お、俺達、入ってっちゃったウールーが心配で…………。そうだ!! 兄貴!! ウールーは!?」

 

 ホップがそう問いかけると、

 

「安心しろ。ほら。」

「ザァ。」

「…………ぐめぇ。」

 

 ダンデのリザードンが、ウールーを大切に持っていた。

 

「ウールー!!」

「よかった…………!!」

「俺とリザードンが、ちゃんと保護したよ。お前達も、こんなことが起きなきゃ、俺の言いつけを破ったりするつもりはなかったんだろ?」

 

 と、優しい笑みで、

 

「兄貴…………。」

「よくウールーの為にここに飛び込んだ。流石は俺の弟だな。」

「わっ!? あ、兄貴…………止めてくれよ…………!!」

 

 と、ホップの頭をわしゃわしゃとかいて。ユウリの方にも向きなおる。

 

「ユウリもありがとうな。ホップの為に。」

「い、いやそんな…………それに、助けてくれたのはこのヒガナさんだし。」

「ん? そうなのか?」

 

 と、そそくさとこの場を去ろうとしていたヒガナに、ダンデの視線が向けられる。

 

「なぁ、君!!」

「ギクッ!?」

「「(ギク?)」」

 

 と、思いっきりビクつくヒガナに、子供たち二人は首をかしげて、

 

「彼らを助けてくれたんだって? 感謝するぜ。」

 

 と言って、近づいてくるダンデに、ヒガナは

 

「(ああもう。これはやるしかない!!)」

 

 と、覚悟を決めて、

 

「いやぁ、まさか、ここに偶然迷い込んで、成り行きで助けた子供がチャンピオンの親族だなんて、すごい偶然もあるもんだよ。驚いたなぁ。」

 

 と、内心冷や汗ダラダラで作り笑顔を浮かべ、ダンデにそう声をかける。

 

「おう。驚いたか!? 公式でもあんまり公言してないからな。」

「ハッハッハ。全く知りませんでしたよ、」

 

 笑顔のダンテと、作り笑顔のヒガナ。第三者から見ればただ笑顔で握手をしている光景なのだが、心の中では一方的にヒガナがビビりまくっている。

 

「じゃぁ、帰るぞ、お前たち。母さんがバーベキューを用意して待ってる。明日は、ジムチャレンジが始まるんだろ?」

 

 と、ホップたちに声をかけ、

 

「せっかくだ、あなたもどうだ!?たしか、ヒガナさん、だったか?」

「い、いや私はこれで…………。」

「行っちゃうのか!?」

「せっかくだから食べていきましょうよ。」

「うぐっ!?」

 

 逃げようとしたヒガナだったが純粋な子供たちの視線に逆らえず…………。

___________________________________________________

 

「それじゃぁみんな!!」

「「「「かんぱ~い!!」」」」

「か、乾杯…………。」

 

 ダンデ一家&ユウリ一家のバーベキューパーティーに参加することとなった。

 

「(ええい、こうなったらもう仕方がない!! もとから協力者は必要だったんだ!! こうなったらチャンピオンの子供たちについて行って、私の協力者にしてやる!!)」

 

 そう決意して、肉のついた串をほおばる。

 

「へぇ、マタドガスとアーマーガアを一撃で………。」

 

 食べながら、ホップたちの話を聞いていたダンデが、そういい目を輝かせる。

 

「(マズイ!!完全に獲物(強そうな奴)を見る目!!)」

「ちょうどいい!!」

「(ま、まさか、ここでバトルをするつもりなのか!?)」

 

 ずかずか近づいてくるダンデに、ヒガナは後ずさりをするが、ぐんぐん距離を詰められ、ガシッ!!と肩をつかまれてしまう。

 

「ホップたちと一緒に、ジムチャレンジに出てみないか?」

「ほえ?」

「え?」

「あ、兄貴!?」

 

 いきなり投下されたダンデの爆弾に、この話に関係している三人が声を上げる。

 

「わ、私が!?」

「ああ。」

「な、なんでだい? 大体チャンピオン、君と私は出会ったばかりで」

「ああ、だが、その出会ったばかりの君に、俺の大事な弟とその友達の命を救われたからな。それに、」

 

 と、言葉を区切って、

 

「ここのリーグ委員長から、他の地方の人間を、チャレンジャーとして出す。という企画を提案されていてね。今年は、急遽来てもらう予定だったトレーナーが病気になってしまって、来年に見送られる予定だったんだが、」

「ちょうど私が現れた、と。」

「ああ、この提案、どうだ?推薦状なら間に合わせる!!」

 

 その言葉に、ヒガナは内心細くえんだ。

 

「(いいね、リーグで勝ち上がれば、自然と名が挙がる、そうすれば、権力者に近づく機会も増える。)」

 

 そう考え、

 

「喜んで受けさせてもらうとも!!」

 

 と、ダンデに笑顔を向けて、喜ぶダンデと握手を交わした。

 

「(ブラックナイト(災厄)は起こさせない。私は、必ずあなたを止めるよ。)」

 

 と、名も知らぬ黒幕に、声をかけた。




 今回短めですみません。次回はエイプリル編です。お楽しみに!!


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少年ビートの憧れ

「へぇ。それじゃぁ、ローズ委員長が、ビート君の憧れなんだ。」

「そういうことになりますね。」

 

 エンジンシティのホテル。エイプリルがぶつかってしまった青年、ビートのに案内されて、自分が予約していたホテルまでたどり着き、ビートの話を聞かせてもらった。

 

「えッ!? じゃぁ、あのリーグに参加するためには推薦状が必要なの!?」

「何も知らなかったんですか…………どうするつもりです? リーグの開会式は明日ですよ?」

 

 呆れた様なビートの声に、エイプリルは……

 

「ど、ど、」

「ど?」

「ど~しよ~?」

「はあ!?」

 

 ビートに涙目でそう言った。

 

「ちょっと!! 僕に聞かれても困りますよ!!」

「でも、ワタシ、ビート君意外に頼れる人知らないよぉ!? ねぇ、推薦状持ってるんでしょ?」

「委員長の推薦状は渡しませんよ!? 渡してたまるものですかっ!?」

 

 胸の前で手を交差させるようにして一歩引くビート。

 

「助けてビートく~ん!!」

「ああもう!! そんな情けない声出さないでくれませんか!? 第一初対面の人間にそんな善意求めないでいただきたい!!」

 

 と、キレるビート。

 

「でも、わざわざその為に来たのに……何もできずに帰るはめになるなんて……そんなの……そんなの……。」

「ちょ、ちょっと!! 目を潤ませないでくださいよ!? そんなに推薦状が欲しいなら…………。」

 

 ピロリロン♪ピロリロン♪

 

「ん?」

 

 ビートが自分のスマホロトムを取り出して通話する。

 

『やぁ、元気にしていますか?』

 

 そこから聞こえてきた声に、ビートは目を見開く。

 

「い、委員長!?」

『はい。私ですよ。ビート君。』

「(この電話の声の人が、ローズさん?)」

 

 確かに、何度かテレビで聞いたことのある声だな……と、考えるエイプリル。

 

「ど、どうされたのですか、突然、僕に電話だなんて……。」

『いえ。少し気になってですね。私、ホテル・ムンナなんて予約したかなぁ、と。』

「へ?」

『私はホテル・ムンナなんて予約した覚えないですから。ほら、それなのに、君の位置情報を調べたらそのホテルにいるので、何をしているのか気になって、ですね。

 せっかく私が推薦したのに素行不良なんてことがあったら』

 

 ようは、こういいたいわけだ。『不純異性交遊なんてしてませんね?』と、

 

「かかかっか勘違いですよ委員長!?」

 

 僕はまだ10代です!! と、ビートに全力で突っ込む。

 

『はっはっは。冗談ですよ。でも、事情を説明していただけますか?』

 

 と、いう質問に、

 

「あ、あの、ローズ委員長!!」

 

 と、エイプリルが声を上げる。

 

『おや? 今の声は……ビート君、まさか本当に女の子を連れ込んで…………。』

「確かに女の子と同じ部屋にいますけど誤解ですッ!!」

 

 全力でビートが声を上げる。

 

「あ、えっと、私、エイプリルって言います!!」

『ふむ。エイプリルさんですか、うちのビートとはどういったご関係で?』

「委員長ッ!?」

 

 顔を真っ赤にしたビートが悲鳴を上げる。

 

「ええ。ちょっとぶつけられてですね…………。」

「貴方も何を言ってるんですかっ!?」

 

 怒鳴るビートに

 

『はっはっは。面白いお嬢さんだ。顔を見せていただけますか?』

 

 スマホロトムの表面には、

 

『Roseさんから、ビデオ通話のお誘いが来ました。許可しますか?』

 

 という言葉が出てくる。Yesの文字をタップすると、画面がアイコンと通話中の文字から、スーツ姿の浅黒い肌の男性の顔がアップになった。

 

「わっ!!」

『おや? ビデオ通話は初めてですか?』

 

 と言う声とともに、口が動く。

 

「すごい…………。」

『その様子だと、初めてのようですね。しかし、なるほど。あなたのような美人さんなら、ビート君が部屋に連れ込むのも無理はないでしょうねぇ。』

「だから違いますって!!」

 

 大慌てで割り込むビート。

 

『はっはっは。重々承知してますよ、ビート君。』

 

 と、ニコニコ顔で言うローズ。

 

『それで、なんで、私に声を上げたのです?』

「はい。その…………」

 

 と、エイプリルは経緯を話した。

 

『ふむ。推薦状が無くて困っている……と。それで?』

「はい!! 推薦状をいただけませんか!?」

「ちょっ!?」

 

 ストレートすぎるエイプリルのお願いに、ビートが固まる。

 

「何言ってるんですか!? 初対面の相手にいきなり!!」

『はっはっは。若いですねぇ。でも、推薦状はそう簡単には…………おや?』

 

 笑顔だったローズの顔が曇る。 ベットに座るエイプリルの足が、目に入ったのだ。

 

『あなた、その脚…………。』

「あ、その……義足なんです…………。昔にいろいろありまして…………。」

『ふむ…………。』

 

 考え込むようなそぶりを見せたローズ。

 

『実は、他の地方のメンバーに柄瑠リーグに参加してもらおう!! と言うプロジェクトがありましてねぇ。』

「えッ?」

「委員長!?」

『いまだ、女性で義足のポケモントレーナーがガラㇽのグラウンドに上がったことはない。』

 

 画面越しだから、届きはしないが、ローズは笑みを浮かべて手を伸ばす。

 

『なってみます? 史上初。』

「いいんですか!?」

「フォーウ!!」

 

 顔を輝かせたエイプリルに、ボールから飛び出したフォッコもうれしそうな声を上げる。

 

『ええ。あなたが良ければ、ね。』

「是非!!」

 

 そう言うと、ローズはにっこりとして、

 

『では、この電子契約書にサインを。あ、しっかり内容は確認してくださいよ? 世の中には、君たち子どもを利用する悪い大人なんて言うのが存在しますからね。』

「はい!! えーっと、」

 

 と、フォッコと一緒に、アドレスを教えた自分のスマホロトムに送られた電子契約書を確認するエイプリル。

 

「……よかったんですか? 委員長。開始前日に独断で。」

『いつ推薦状をかかないといけないみたいな規則はありませんよ。ビート君。

 君が唯一のリーグ推薦者と言う肩書を奪われて不満なのはわかりますが、ここは、飲み込んでいただけませんか?』

「……委員長がそうおっしゃるならば。」

『ありがとうございます。物わかりのいい子は助かりますよ。』

「うん!! 大体オッケ!!」

「あ、もうサインを!? あなた本当によく項目を読んだんですよね!?」

 

 こうして、ローズによる、エイプリルの推薦状が、書かれることとなった。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「で、貴方、いったい何体のポケモンを持ってるんです?」

「え? えーっと、フォッコと、この子!!」

「る~。

 そう言って出したのは、ラルトス。

 

「ラルトスですか……。」

「うん!! 男の子だよ。」

「なるほど。それだけのポケモンがあれば、大丈夫でしょうね。」

「改めて、僕はビート。同じローズ委員長の推薦者として、よろしくお願いします。」

「うん。私、エイプリル。よろしくね!!」

 

 そう言い、エイプリルはウィンク。

 

「ええ。ローズ委員長の名を汚さないよう、せいぜい頑張ってくださいね。」

「うん!!」

 

 笑顔で頷くエイプリルだった。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

《後日 エンジンシティ エンジンスタジアム》

「はわわぁ、でっかい!!」

「それはもう、そういう場所ですからね。」

 

 スタジアムの大きさに圧倒されるエイプリルに、ビートは平然と入っていく。

 

「たしか、選手登録するんだよね!!」

「ええ。行きますよ。」

 

 そして、二人は受付に向かった。

 

「推薦状を確認いたしました。では、背番号の登録をお願いします。」

「背番号かぁ……ビート君はなんにした?」

「これです。」

 

 そこに出されたのは、908の文字。

 

「908……キューゼロハチ? 違うな……あっ!! クレバー(賢い)ってこと?」

「ちょっ!? あんまり大きな声で言わないでもらえません!?」

 

 恥ずかしいじゃないですか!! と言うビート。

 

「そういうあなたは何にするんです? 僕の名前を馬鹿にしたんだから、さぞやご立派な名前を付けることでしょうね。」

「え~、私、馬鹿になんてしてないよ?」

「いいから!! 一体どうするんです?」

 

 睨むように問いかけるビート。

 

「う~ん、そうだなぁ。…………あ、これがいいかも!!」

 

 打ち込んだナンバーは315。

 

「315? サイコーのごろ合わせですか?」

「うん。あったり!!」

 

 ブイサインをするエイプリルに、ビートはため息を付く。

 

「え~、何そのため息は、」

「別に。あまりのも子供っぽいなと思ったので。」

「ビート君、やっぱりその性格直した方がいいよ?」

「うるさいですね。何でもいいじゃないですか。」

 

 そっぽを向いてそう言うビート。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「背番号か。」

 

 ビート達が登録を済ませた数分後、グラジオは、背番号に悩んでいた。

 

「……俺には、これがふさわしいか。」

 

 決めた番号は773。相棒、シルヴァディの図鑑番号だ。

 

「切り開くぞ。相棒。」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 そして、さらに数分後、集まったホップたちも、番号を決めていた。

 

「ユウリ!! それにヒガナさん!! もう決めたか!? 俺は決めたぞ!!」

 

 そう言い、ホップが見せてくれた番号は189。

 

「へぇ、【わんぱく】のごろ合わせかい?」

 

 と、意地悪気な笑みとともに問いかけるヒガナ。

 

「ちがうぞ。【ひやく】だぞっ!!」

「そうなんだ!!」

 

 顔を輝かせたユウリが、

 

「じゃあ、私はこれ!!」

 

 そう言い見せた背番号は、110

 

「イトー? 誰の名前だい?」

「本当はファイトって入れたかったんだけど、Fが思いつかなかったから。」

「なるほどね。じゃ、私はこうしよう。」

 

 ヒガナも、番号を打ち込んだ381

 

「『みはり』ってね。」

「Rがどこにもないぞ!!」

「これじゃ『みはい』だね。」

 

 と、笑いあっていた。すると、

 

『まもなく、開会式が始まります。選手の皆様はメインホールから更衣室に向かい、ユニフォームに着替えてください。』

 

 と、アナウンスが響いた。

 

「よし、行くか!!」

「そうだね。」

「頑張るぞぉ!!」

 

 ヒガナたちは、そう言って立ち上がった。



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ターフタウンを目指して

 アニポケにホップ君が登場した!! でもアレはねぇよ運営……アラン、ナンデ


「いやぁ大迫力だったねぇ。」

「やっぱすごかったんだぞ!!」

「私も興奮したぁ。」

 

 そう言って、ガラル地方エンジンシティのスタジアムから出てきたのはヒガナ、ホップ、ユウリの三人だ。

 開会式は、会長であるローズの演説の後、なんと10人のジムリーダーとチャンピオンがそろい踏みで出てきてくれたのだ。

 草タイプジムの『ファイティング・ファーマー』ヤロ―

 水タイプジムの『アクアウェイヴ』ルリナ

 炎タイプジムの『いつまでも燃える男』カブ

 ゴーストタイプジムの『サイレントボーイ』オニオン

 格闘タイプジムの『ガラル空手の申し子』サイトウ

 フェアリータイプジムの『ファンタスティック・シアター』ポプラ

 岩タイプジムの『ハードロック・クラッシャー』マクワ

 氷タイプジムの『ジ・アイス』メロン

 悪タイプジム『哀愁』のネズ

 ドラゴンタイプジムの『ドラゴン・ストーム』キバナ

 

 そしてチャンピオン『無敗』のダンデ。これからのジムバトルで待ち構えているジムリーダーたちに、

 

「お姉さんも年甲斐もなく興奮しちゃったよ。」

 

 と、ヒガナは笑みを浮かべた。

 

「まず目指すのは一番目のジムがある、ターフタウンだよな!!」

 

 スマホロトムのマップを確認してそう言う。

 

「ターフタウン……結構遠いんですね。」

「ジムチャレンジは達成までに数か月かかるって言われてるからね。何せこの広いガラルを動き回るんだ。」

「野宿でも問題ないんだぞ。キャンプセット持ってきたし!!」

 

 と、笑顔でキャンプセットを見せるホップ。

 

「ああ。まずは3番道路を抜けないとね。」

 

 と言ってから、ふと気が付いたように、

 

「そういえば、君たちのポケモンって?」

 

 と、問いかける。

 

「ああ。俺はウールーとヒバニー。それからココガラだぞっ!!」

「確かあのアーマーガァに進化するんだったね。」

 

 と言ってからユウリの方に向き直る。

 

「ユウリ君はどんな感じだい?」

「えっと、メッソンと、この子です。」

 

 そう言ってボールから出したのは、

 

「ヤトウモリかい。アレ? 珍しい色だね。」

「凄いぞユウリ!! 色違いって奴じゃないか!?」

 

 そう声を上げるホップ。そう。ユウリが繰り出したヤトウモリは通常の黒ではなく、体が白いのだ。

 

「えへへ。実は…………。」

 

 どうやら、少し離れた場所で、他のヤトウモリ達にいじめられているところを、メッソンで助けたらしい。

 

「へぇ、そんなことがあったんだね。」

「はい。困ってるみたいだったから助けたくて。」

「さすがだぞユウリ。しっかり周りに気を配っていたんだな!!」

 

 感心するヒガナと興奮するホップ。

 

「ターフタウンまではまだ遠い。しっかりとポケモンを育てていこうじゃないか。私もね。」

 

 ヒガナの持ってきたホウエン地方のポケモン。とくにガラルの図鑑に無いポケモンは公式戦では使うことが出来ない。

 その為行く道でフカマルをダンデにもらっていた。曰く、昔カンムリ雪原と呼ばれる場所に赴いたときに群れからはぐれてしまった子を連れてきたのだと教えてくれた。

 

「荷物の確認も済んだことだし、出発だね。」

「「はい!!」」

 

 元気いっぱいにそう言う二人と共に、ヒガナは歩き出した。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「いやぁ、やっぱり星空はいいものだね。ね、シガナ。」

「ニョ~」

 

 ごろりと道の端に敷いたシートの上に寝っ転がり、上を眺めるヒガナ。よこで同じように横になっているシガナも穏やかな声を出す。

 

「ヒガナさ~ん。カレーで来たぞ!!」

「分かった。今行くよ!!」

 

 そう返して立ち上がる。

 

「今までずっと一人旅……でも、いいものだね。複数人で旅をするってのも。」

 

 そう呟いて。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「さてと、今日はどうするんだっけ、二人とも。」

 

 朝。準備を終えた二人にそう問いかける。

 

「はい!! 今日はガラル鉱山を通るんだぞ!!」

 

 と、手を上げて言うホップ。

 

「正解。そのあと四番道路を抜ける。多分今日中にはターフタウンに着くからね。」

「楽しみだぞ!!」

 

 と、はしゃぐホップ。一方でユウリは、スマホロトムを見ていた。

 

「おや、ユウリ君はどうしたんだい? スマホを眺めっぱじゃぁ、って、これは確かに読みたくなる記事だね。」

 

 そこに記されていたのは、このリーグに出た選手の脱落ニュースの記事だった。

 

「この人、たしか地区大会で優勝した一般推薦枠の……。」

「理由は、これって、」

 

 このポケモンリーグでは、選手の棄権がある。ジムリーダーに勝つことが出来ず、諦めて棄権する選手も多い。だが、今回はそれとはわけが違う。

 脱落だ。つまり、

 

「取られたんだね。ダイマックスバンドを。」

 

 トレーナーに敗北して。このポケモンリーグでは、選手同士のバトルも認められている。

 そしてその際、選手同士でアイテムをかけることが出来るのだ。

 というか、選手同士のバトルでは指定されたアイテムなどの中からどれか一つを可決必要がある。

 賭けに勝った際のメリットは大きいが、負けた際の問題があるのであまりやろうとする人間は少ない。

 だが問題なのはそのアイテムの一つに、ダイマックスバンドを賭けて勝負すると言う物があるということだ。

 さらに、ダイマックスバンドをかけたトレーナーが勝利時に得れるポイントは大きいので、ダイマックスバンド以外の物を相手がダイマックスバンドを賭けた時に賭けるには、他の物をいくつか代用する必要がある。

 ダイマックスバンド。それはジムリーダーやチャレンジャーなどの選手だけだ付けるアイテムで、ユニフォームなどの試合に出るための必須アイテムだ。つまり、ダイマックスバンドを奪われることは脱落を意味する。

 

「今年も収集家(コレクター)が出たのかな…………。」

 

 収集家(コレクター)。このルールを利用して選手に掛けバトルを挑み、ダイマックスバンドをコレクションする悪質トレーナーだ。大抵強いジムリーダーにボコボコにお仕置きされて終わるまでがワンセットなのだが、その際にバンドを奪われたトレーナーの悔しさは計り知れない。

 

「何とも言えないぞ……。」

「ともあれ、気を付けないといけないね。さ、ガラル鉱山を進もうか。」

「おう。そうだな!!」

 

 しょげた顔をしていた二人にヒガナはそう言って、三人でガラル鉱山に入って行くのだった。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「まったく。害悪トレーナーには困りますね。」

「ビート君、いつになく毒舌が鋭いね……。」

 

 いらいらしながらそういうビートは、ガラル鉱山で紫のコートを汚しながらごそごそと何かを探していた。

 

「当然です。僕のダイマックスバンド目当てなのでしょうが……まったく。迷惑な奴ですよ。」

「当然の如く返り討ちにしちゃったね……。」

「ええ。あんな害悪トレーナーは…………」

 

 と、ぐちぐち言いながらスコップで岩を叩いている。

 

「まだ言うの……っていうか、ニュースになってるよ? 昨日の話。最初の脱落者だったからって。」

「へぇ、そうなんですか。いい気味ですね。」

「少なくともこっち見て言おうよ……。」

 

 左手の機械に目を落としながらそういうビートにエイプリルはジト目でそう文句を言う。

 

「ええこの作業が終わったら見ますよ。それにしてもこの岩、ただの石ころの癖して壊れない……。」

「岩砕き。覚えるポケモンをゲットしておけばよかったね。」

 

 生憎岩砕き持ちのポケモンはここにはいない。

 

「僕はサイキッカーなんです。エスパー以外のポケモンは使いませんよ。」

「強情ねぇ。それにこんなの、」

 

 ちょっとどいて、とビートをどかしたエイプリルはその義足で、

 

「こうしちゃえば!!」

 

 モーターの駆動音と共に思いっきり蹴飛ばした。

 カッコーン!! という景気のいい音が響いて岩の破片が飛んだ。

 

「いいんじゃない?」

「あ、あ、あ……。」

「え? どうしたのビート君、もしかしてバグった?」

「あなたなんてことしてるんですか!!」

 

 そう叫んで岩の破片をどかしていく。

 

「せっかく出場祝いにと委員長が送ってくれたマクロコスモス社製の最新義手をそんな風に……っていうか、奥のねがいぼしに傷がついたらどうするんですか!? あれはエネルギーの塊ですから下手したら爆発するんですよ!? この鉱山に生き埋めになるつもりですか冗談じゃない!!」

 

 とノンブレスでまくしたてながら岩の破片をどかしていく。そして、

 

「無事だー!!」

 

 と、願い星を掲げた。

 

「よかったじゃん。」

「あなたのせいでこれだけ心配する羽目になったんですけどね!! はい!!」

 

 そう言ってねがいぼしをエイプリルに渡す。

 

「はい。」

 

 そう言ってエイプリルはそれをバックにしまった。

 

「かれこれこの鉱山で何個目? もう十個超えたよ?」

「もう少し……。」

「いや、あらかた取りつくしちゃってるでしょ。夜遅くまで掘ってたんだし。ビート君、昨日何時間寝た?」

「何時間ですかね……作業を終えたのは日付が変わったころだったかと……。」

「ダメじゃん!! ビート君私たちは選手なんだよ!? 冒険優先!! ただでさえオーバーペースでこの鉱山抜けてるんだから……。」

「ちょ、ちょっと放してください。わかったわかりましたこの反応を最後にしますよそれでいいでしょう!!」

 

 と言って最後のねがいぼしを掘り出し、ビート達はターフタウンに向かったのだった。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「よし、ここが出口だね。」

「結構遠かったですね……。」

「疲れたんだぞ~。」

 

 ガラル鉱山。意外と厳しかったその道のりに、ホップとユウリはぐったりとしていた。

 

「いやぁ良い運動になったよ。このタンドンってポケモンもゲットできたしね。」

 

 と、ボールを手の中で転がすヒガナ。

 

「なんでヒガナさんはそんなに余裕そうなんだ? めちゃくちゃへとへとなんだぞ……。」

 

 出口の広くなっている場所にへたり込んで休憩するホップ。

 

「そりゃあ鍛え方が違うからね。」

「さすが捜査員……ホウエン地方ってすごい……。」

 

 ユウリも疲れているみたいだ。すると、

 

「つっかれたぁ!!」

 

 と、悲鳴を上げる声が後ろから。

 

「「「うん?」」」

 

 それを見ると、そこにいたのは白い髪のメガネをかけた少女。ヒトミだ。

 

「そんなに焦る必要ないだろうヒトミ。」

 

 するとその奥から、黒い服に身を包んだ青年、グラジオが現れた。




 ヒトミは今作で見た目がオリジナルになっています。それと、ガラルは広いですから、道路とか鉱山みたいなステージはゲームより長い設定です。


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タツベイVSゼニガメ

 今回のタイトルはポケスペ風です


「ウール―、突進!!」

「ロコン、凍える風!!」

 

 ウール―が突っ込むが、激突する前にロコンの放った冷気の伴う風で吹っ飛ばされる。

 

「あ、ウールー!!」

 

 悲鳴を上げるホップ。壁に叩きつけられたウール―だが、

 

「ぐめぇ!!」

 

 と、まだ行ける!! と言わんばかりに構えなおした。

 

「畳みかけるわよロコン!! 凍える風!!」

「丸くなるだぞ!! ウール―!!」

「ぐめぇ!!」

 

 一気に行かんとばかりにヒトミのロコンが『凍える風』を放った直後、ウール―は体を起用に丸めて、そのもこもこの体毛で肉体を包んでガードした。

 

「うそでしょ!?」

「隙ありだぞウール―、『転がる』攻撃!!」

「反発を利用して!?」

 

 さらに、ふわふわの体毛が『凍える風』で吹き飛ばされて鉱山の壁に当たったのを利用して、壁を転がり下りてロコンに激突する。

 

「キュー⁉」

「そこまで!! ロコン戦闘不能!!」

 

 倒れたロコンに近づいて、目を回しているのを確認したヒガナはそう声を上げた。

 

「私、これでもストームタウンのトップジムトレーナーだったんだけどな……。」

 

 その結果に落ち込むヒトミに、グラジオは、

 

「キュウコンに慣れすぎていたな。『雪降らし』や、お前の得意技である『オーロラベール』を使っての耐久戦法のできない一対一の戦い。不慣れな戦いととっさの判断が生死を分けた。」

 

 と、その様子を見てコメントした。

 

「へぇ、一目でそれが分かるとはね。ずいぶんと経験豊富じゃないか。」

 

 その様子を見たヒガナはそう言ってグラジオを見据える。

 

「(それにしても、あの咄嗟にメイン攻撃技の『体当たり』ではなくあえて最近覚えたばっかりの『転がる』を選んでくるとはね。『転がる』が岩タイプ技だってこと、というかそもそも岩タイプは氷タイプに強いってことすら把握してるか怪しいけど、あの場面での判断、というか直感。流石は最強のチャンプの弟ってところかな。)」

 

 これは凄い実力者に巡り合えたかもしれないぞ。と内心で笑みを浮かべながらグラジオの方を見る。

 

「(確か彼女は前にテレビ番組で紹介されてた『氷ポケモン』と『ドラゴンポケモン』のコンビネーションを得意とする異色のドラゴン使いでストームタウンのドラゴンジムトップジムリーダーのヒトミ。それと旅をしてるってことは、やっぱり、『ドラゴンストーム』の推薦者かな?)」

 

 『ドラゴンストーム』キバナこのガラル地方のトップジムリーダーであり、八番目のジムを守る関門。そして、その実力は、八番目のジムリーダー

 カロス地方の氷使いウルップやシンオウ地方の電気使いデンジ、ホウエン地方の水使いミクリといった強者たちと比較しても一線を駕すと言われている。

 『他の地方だったらチャンピオンになれる実力』人は彼をそう評価する。だがしかし、その胸に燃えるライバル心か、逃げることは許さないというプライドか、ずっと最強であるダンデに挑み続けるチャレンジャーにして他のチャレンジャーを退ける壁。彼がいるためか四天王を突破しなければならない他の地方のリーグに比べて、トーナメント形式でジムリーダーたちと戦うこの地方の勝負は、チャンピオンへと挑むチャレンジャーの数が少ない。まさに最後の関門なのだ。

 

「(ブラックナイトを発生させようともくろんでるのは有力者に違いない。そして、伝承の通りならムゲンダイナはドラゴンタイプ。ガラルに留まる理由が、ダンデの他にあるとしたら? それか、ダンデに勝てないことに焦って他のポケモンを……いや、それは無いか。でも、)」

 

 容疑者の可能性は十分にある。と怪しんだヒガナ。

 

「(近づいておいて損はないな。)」

 

 と思いながらグラジオに歩いて近づく。

 

「せっかくだ。君もどうだい? 私と。」

 

 そう言ってボールを構える。

 

「なるほど……いいだろう。」

 

 グラジオの方もボールを構えた。

 

「ユウリ君、せっかくだ。審判をお願いできるかな?」

「は、はい!!」

 

 ヒガナがそう言ったら慌ててユウリが配置についた。

 

「そ、それでは、ヒガナさん対グラジオさん!! スタート!!」

 

 そう言ってまっすぐ上げた手を振り下ろす。

 

「それじゃあ行くよ、タツベイ!!」

「出番だ、ゼニガメ!!」

 

 ヒガナのタツベイに対してグラジオが繰り出したのはゼニガメ。キバナから貰っていたポケモンだ。

 

「タツベイ、『竜の息吹』!!」

「迎え撃てゼニガメ、『水鉄砲』!!」

 

 ゼニガメの『水鉄砲』とタツベイの『竜の息吹』がぶつかり合って互いに相殺される。

 

「「『ロケット頭突き』!!」」

 

 ゼニガメは頭を引っ込めて、タツベイは勢いよく頭を向けてから、互いに突進。すさまじい気負いでぶつかり合ってお互いに吹っ飛ぶ。

 

「隙ありだね、『竜の息吹』!!」

 

 空中でタツベイが口にみなぎらせたブレスを放つが、

 

「そこだ、『高速スピン』!!」

「何ッ!!」

 

 ゼニガメはその甲羅に全身を包んで高速回転。それによって『竜の息吹』のダメージを受け流しながら、勢いに身を任せて壁に当たる。

 

「あっ、俺のパクリだぞ!!」

 

 『高速スピン』の勢いで壁を駆け降りる気だと、先ほど同じような技を使ったホップは気が付いた。

 

「いえ、よく見て。」

「え? あッ!!」

 

 ヒトミに言われて目を向けたホップは驚いて声を上げた。そう、ウール―のように垂直の壁を『転がり落ちる』のではない。壁に押し付けられた勢いを利用して、じわじわと床に近づきながら、壁を横に(・・)駆け降りているのだ。

 軽量級のゼニガメがすさまじい勢いで回転していることを利用して、ホップのウール―の『ころがる』よりもさらにスピードを乗せてタツベイに接近する。

 

「まずっ、タツベイ、飛べッ!!」

 

 とっさにタツベイは飛び上がる。

 

「よしっこのまま、『ロケット……」

「何を勘違いしているんだ?」

「えっ?」

 

 グラジオのその言葉に、ヒガナはそちらの方を向く。

 

「まだ、ゼニガメの攻撃は終了していないぞ?」

「なっ!!」

 

 笑みを浮かべたグラジオが指さしたのは、さらに速度を増した回転で突っ込んでくるゼニガメ。

 

「『高速スピン』には、自身の速度を上昇させる効果がある。ほぼ互角だった速度は、これでゼニガメが上だ!! 決めろゼニガメ!!」

 

 その高速スピンが、タツベイを跳ね飛ばした。

 

「タツベイ!!」

「決まったな。」

 

 悲鳴を上げるヒガナ。グラジオがそう言うと、

 

「いや、まだだぞ!!」

 

 と、ホップが声を上げた。

 

「何?」

「ヒガナさんは、すげー強いんだからな!! タツベイは旅を始めたばっかりで俺らと一緒でまだまだ未熟かもだけど、俺は知ってるぞ!!」

 

 |強いトレーナーのポケモンが弱いわけがない《・・・・・・・・

「その目、まさか……!!」

 

 ホップの言葉、そして、ヒガナの目を見たグラジオは目を見開く。ヒガナの目は、ポケモンが敗れた時のその目じゃない。

 

「まだ行ける。そうだろう? タツベイ!!」

 

 そう叫んだヒガナの目は、虎視眈々と、勝ちを狙う物の目だった。吹っ飛ばされた衝撃で起きた爆煙の中から、何かが突っ込んでくる。

 

「ゼニガメ!!」

「ぜ、ゼニガメ戦闘不能!! 勝者、ヒガナさん!!」

 

 避けるようにグラジオは指示を出そうとしたが、ゼニガメはクラり、とよろめいて、そのまま腹にタツベイの『ロケット頭突き』の直撃を食らって、倒れた。

 

「今、何が? 彼のゼニガメならよけられたはず……。」

「『高速スピン』……。」

 

 唖然とするヒトミに、ユウリがそう呟いた。

 

「そうか、あんだけすごい勢いで回転してたんだ、目を回して当然だぞ!!」

「(おまけに、ゼニガメの『高速スピン』は甲羅にこもって(・・・・・・・)行われる。頑丈な甲羅で攻撃をしのげるというメリットがあるが、その視界は甲羅にこもっているせいで塞がれている(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)あの時ゼニガメは連続の『高速スピン』で、平衡感覚を失っていたんだ。超高速の回転に耐え切れなかった。それを見切れなかった俺の落ち度だな……。)すまない。ご苦労だったな、ゼニガメ。」

 

 フッ、と苦笑して、グラジオはゼニガメをボールに戻した。

 

「いやぁ、ヒヤヒヤしたよ。ナイスファイト。」

「そちらこそ。まさか負けるとは思っていなかった。」

 

 こちらもタツベイをボールに戻し、握手を求めてくるヒガナ。それに、そう言いながらグラジオは応じた。

 

「しかし、それだけのテクニック、まさか、他の地方から?」

「よく気が付いたね。私はホウエンの出身さ。そっちこそ、そのテクニックは?」

 

 人懐っこそうな笑みを浮かべたヒガナがそう問いかけると、グラジオもフッ、と笑って、

 

「アローラ仕込みだ。」

 

 と、言った。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「これで決めます!! ミブリム、ダイサイコです!!」

 

 第一のジム、ターフタウンのターフスタジアムでは激闘が繰り広げられていた。赤黒いオーラをまとって巨大化する『ダイマックス』ダイマックスにはダイマックスパワーと呼ばれる力が必要で、それぞれのジムは、パワースポットの存在しない第七の街キルクスタウンを除いてすべてパワースポット上に建設されている。もちろんスタジアムもダイマックスして問題ない巨大さに設計されている。

 そのダイマックスをした両者のポケモンが激闘を繰り広げて、そして、白いふわっとしたくせ毛の青年、ビートのミブリムが放ったエスパーのダイマックス技、『ダイサイコ』が、ジムリーダーのダイマックスポケモン、ワタシラガに直撃して、大爆発が起こる。その奥にいたのは、ダイマックスが切れ、元の大きさに戻ったワタシラガ。

 

「ワタシラガ戦闘不能!!よって勝者、ビート選手!!」

 

 手を高々と上げた審判に、コールは下された。

 

『決まったーッ!! ダイマックス技で互いにフィールドを変えあう激闘を制したのはビート選手!! 見事ターフジム戦クリアです!!』

 

 おめでとうと拍手をするジムリーダーヤロ―。周囲を取り巻く歓声に、ビートは髪をかき上げ、得意げな表情で答えていた。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「ふぅ、楽勝、とは言い難かったですね。」

 

 控室。シャワーを浴びて何時もの紫のコートに着替え、スポーツドリンクを口にするビートはそう呟いた。

 

「ミブリムたちもご苦労でした。」

 

 と、机に置いたボールに声をかけていた。すると、

 

「ビートっくーん!!」

 

 と、控室の扉を勢いよくあけて飛び込んでくる少女がいた。エイプリルだ。

 

「のわっ!? え、エイプリルさん!! 何でそういきなり入ってくるんですか!? ここ男子用控室ですよ!? せっかく最速クリアチャレンジャーとして名が出ているところでスキャンダルとか冗談じゃない!!」

「え~、私はビート君なら別にスキャンダルもいいけどな~。」

「僕は絶対に嫌なんですよ!!」

 

 怒鳴るビートと、ひょうひょうとするエイプリル。

 

「それよりも、次は、貴方のバトルでしょう?」

「うん。ビート君に負けないバトルをしてみせるよ!!」

「へぇ、期待はしてませんけど、楽しみにしておいてあげますよ。」

 

 エイプリルの笑顔に、ビートは自信満々な顔でそう答えた。

 

「うん。待っててね!!」

 

 そう言うと、控室を飛び出していくエイプリル。それを見た彼は、

 

「まったく、皮肉も通じないのですか……。」

 

 と、ため息を付いて、まんざらでもなさそうな顔でスポーツドリンクを飲みほした。

 ちなみに、その様子は思いっきり記者にすっぱ抜かれていた。



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