だから俺は○○じゃねえって! (ガウチョ)
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ヒロアカ編
緑谷出久with転生者


続くかわかりません


パンパンと(はた)きながら、道端に落ちていた何かの爆発に巻き込まれたようなノートを拾い上げる。

 

パラパラとそのノートを読んでみると特徴を捉えたヒーローの絵とそのヒーローの能力や考察等が書かれていた。

 

 

「面白い少年だ……」

 

 

そう、このノートの持ち主はとても面白い少年だ。

 

個性という超能力を誰しもが持つ世界で無個性としてその少年は生まれた。

 

無個性故に蔑まれ、少年の生涯の目標とした世界は個性がなければなれないという現実に打ちのめされる。

 

しかしあの事件の時、()()()()に飛び出すことが出来たのはあの少年だけだった。

 

あそこには個性を持った大人がいた。プロと呼ばれる集団もいた。誰もが彼より助けられる可能性があったのに、あの時は少年の背中だけが見えていた。

 

そして今、少年よりも前にいなかったプロと呼ばれる集団が彼を叱っている。

 

なんという事だろうか。助けに行かなかったプロが助けにいった一般人を叱っているなんて……。

 

彼等の説教が終わり、少年は家路に帰っていく。

 

俺は少年を追いかけようと思ったが、この後に少年は憧れの存在にヒーローとしての力を貰うことになり、しかしその力は強大すぎる諸刃の剣だということを思い出す。

 

あの少年の……緑谷出久君の将来の為にもなにか自分にできることはないだろうか?

 

 

「あの時とは違って開発環境が揃えやすいが、平和だしあまり危険な物を作るつもりはなかったんだが……やってみますかねぇ…どんでん返しってやつを」

 

 

俺は神様から科学力限界突破と資源変換という能力を貰って北斗の拳という漫画の世界に似た世界に転生した転生者。

 

その時に色々やらかしたせいでその世界で死んだ後に転生出来ずに別の世界に放浪することになった者である。

 

ニヤリと笑う今の俺は上下が青いジャージに便所サンダルスタイルなので周りから白い目で見られているが知ったこっちゃない。

 

早速善は急げと近くに止めてた改造セグウェイに乗り込んで俺は自宅に帰るのだった。

 

 

 

 

 

side 緑谷出久

 

 

オールマイトから言われた課題…雄英の入試がある10ヶ月後までに力を受け入れる身体(うつわ)を作るために海浜公園に流れ着くゴミを掃除して水平線を取り戻すことを始めて一週間……あちこち体が悲鳴をあげていた日々に、僕はその人に出会った。

 

 

「おお!見つけたぞ少年!」

 

 

今日も海浜公園のゴミ掃除に向かっていた時、ひょろりと背の高いお兄さんが僕に向かって親しげに話しかけてきた……だ、誰なんだろう。

 

 

「最近ネットに上がっていた海浜公園のゴミ掃除をやっている二人組の片割れの少年だな……もう一人のガリガリの人はどこかな?」

 

「あ!オー…… ガリガリですけど健康なんですあの人は!」

 

「そうなの? まあ良いさ、俺が会いたかったのは君なんだから」

 

「え? それはどういう……「これ、君のだろう?」――それ!」

 

 

ボロボロのそれは勝っちゃんを助けようとしたときに失くしたあのノートだった。

 

 

「いいノートだ。夢がこれでもかと詰まってて書いた人間の人柄の良さが良くわかる」

 

 

おそらく中身を見てそういう感想を言ってくれたんだろうけど…恥ずかしすぎる!

 

 

「だがこれの制作者はある特徴がある……君は無個性だね?」

 

 

だけどスルリと放たれたその言葉に僕の胸は締め付けられた。

 

 

「……なんでそんな事わかるんですか?」

 

「ここにはプロヒーローの情報やヴィランに対抗するための方法が書かれているが、そこに自分の個性を使った打開策が書いてなかった。自分の個性でこうするというプランがね? ここまで書き込んでいる人間が自分の個性での対処方法を書かないのはおかしいだろう? …となると()()()()()()()()()()()という結論にいくわけだ」

 

 

その言葉に僕は一瞬お兄さんの顔が見れなかった。

 

またあの顔を見るのか……蔑む眼差し、無理だと罵倒される言葉の暴力を……。

 

 

「勿体ないな、君は」

 

「はい?」

 

 

あまりにも想定してなかった言葉に僕は顔を顔を上げた。

 

そこには有り余る情熱が放射されるんじゃないかと思う位の何かを目に宿したお兄さんが此方を見ている。

 

「ヒーローとして最も大切な事がわかってるのに個性がない()()で夢を閉ざされるなんて勿体ないじゃないか……だから」

 

 

ガシリと両肩をお兄さんに掴まれ、そして肩からわけが解らないくらいの力……情熱が伝わってくる。

 

 

「俺に君の夢を手伝わせてくれないか?」

 

 

その日、僕は自分の人生が決定的に変わる瞬間をもう一度経験した。

 

一回目はオールマイトにヒーローとして認められた時。

 

そして二回目は……後に《個性主義社会を破壊した男》と呼ばれる彼……神代(かみしろ)  表悟(ひょうご)さんに夢のお手伝いを申し込まれた時だった。




この作品で出てくるオリ主は北斗の拳という殺伐とした世界で生活していた影響で若干思想が物騒であり、相手がやるなら此方もやるよと、結構平気で外道行為が出来る人に進化しています。


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まずは足場を固めよ

続いちゃった


「八木さん……このスケジュールはあんまりだよ」

 

 

緑谷出久はさっき出会った神代表悟という名の青年が知らないとはいえオールマイトにダメ出しをしている事にハラハラしていた。

 

 

「自分では結構自信作だと思ってるんだけど」

 

「いやいや、こんな免許を取った日にドラッグカーに乗せるようなスケジュールはまずいって」

 

「ううむ……そう言われると危険と思っちゃうけど、めっちゃハードなスケジュールでも時間がカツカツなんだよね」

 

 

事の初めは一時間前……出久と一緒に海浜公園に来た表悟はトゥルーフォームのオールマイトと遭遇。

 

オールマイトは自分の正体を明かす事は難しいので本名の八木俊典(やぎ としのり)と名乗り、本名を知って密かにテンションの上がった出久をほっておいて表悟とオールマイトは情報交換を行った。

 

表悟からは出久の夢の助けになるということを。

 

オールマイトからは出久が非常に珍しいケースで個性に目覚めた為、その強力すぎる力をコントロールさせるためのトレーニングの指導をしていると説明した。

 

十代半ばに目覚めた本人がコントロール出来ない個性など聞いたことないと表悟は訝しげに二人を見たが、出久とオールマイトは背中にタップリ冷や汗を出しながら何とか取り繕ったバックボーンを納得させた。

 

因みに原作で事の経緯を知っているので、完全に知らないふりである。

 

そして出久の強力な個性のコントロールを実現するためのトレーニングスケジュールを見た表悟が言った一言が冒頭の台詞であった。

 

 

「ならば君はどうスケジュールを組むんだい?」

 

「身体を作るのはわかるけど、能力のコントロールは並行してやらないと駄目だ」

 

 

オールマイトの問いに表悟は答える

 

 

「小さい頃にとっくに目覚めてたのならともかく、出久君は個性を使い初めの一年生だ。本番前に一秒でも長く個性を使う感覚に慣れないと全く歯が立たないね。なにせ相手は雄英を目指してきた子達で個性の試用期間は10年を越える、出久君から見ればベテラン揃いだ」

 

「うーむ……的確な正論過ぎてぐうの音もでないな!」

 

 

二人の会話を聞いていた出久は自分が挑もうとしている壁の高さに肩にズッシリと重石が乗るような感覚があった。

 

 

「まあ身体作りは俺が何とかしましょう……能力のコントロールは八木さんにお願いしますよ」

 

「緑谷少年の体が試験前に壊れないかい?」

 

 

オールマイトの驚く声に出久も同意する。たった一週間だが身体の悲鳴は深刻なレベルなのだ。

 

 

「要は個性に耐えるための筋肉と運動能力の向上だろう? ならば俺が最適のトレーニング用の機材やら何やらを揃えればいい。それに俺は()()()だから個性のコントロールとかそういうのは分からないし、そこら辺は八木さんがお願いしますね……俺は準備のために帰ります!」

 

 

表悟は出久の家の住所を聞くと「週末の休みは家にいるんだよ」と言い残して海浜公園に無人でやって来たセグウェイに乗り込んで颯爽と帰っていってしまう。

 

 

「なんとなく彼が緑谷少年を助けたい気持ちがわかったよ」

 

 

オールマイトの言葉に出久も納得できた。

 

彼は見つけたんだろう、同じ無個性でも夢を追いかける人間を見つけ、そしてそれを応援したくなったんだと。

 

だが自分は裏技のような方法で個性を手に入れてしまった。

 

ワン・フォー・オール……個性を譲渡する個性を。

 

それでも彼は笑っていた。自分が応援する人が求めた者じゃなくなっても彼には問題がなかった。

 

それだけの期待を出久は生まれて初めて貰った。

 

 

「オールマイト……僕は表悟さんの期待に応えたいです」

 

「……任せとけ!」

 

 

(彼という存在が緑谷少年の大きな心の支えの一つになりそうだ……私も頑張らないとな!)

 

やる気に満ち溢れる二人……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが……その二人の考えは大きな勘違いをしている。

 

彼にとって個性が有るか無いか()()で力を貸すわけではないのだ。

 

彼は少しだけ先を知っている……あの優しい心の少年が両腕をボロボロにし、一般生活に支障がでかねない程の怪我をすることを。

 

不器用だけど立派な大人が、嫌悪感しかわかない悪党に嘲笑され、心と身体をズタズタにされながらも戦って燃え尽きることを。

 

表悟は知っている……個性が無くとも戦い続けたヒーローと、そしてヒーロー達が使っていた()()を……。

 

彼は前の世界でこう呼ばれていた……機械工学の天才にして鬼才と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

表悟に家にいてくれと言われた週末。出久が家に居るとお昼頃にインターホンが鳴った。

 

 

「出久~、悪いけど出てくれる~?」

 

「は、は~い!」

 

 

出久がいそいそとドアを開けると

 

 

「よっ!出久君、遊びに来たよ」

 

「あ、表悟さんおはようございます」

 

「おはようさん!早速だが君の身体作りを短縮するための秘密兵器も持ってきたんだよ」

 

「あのー……その後ろの凄く大きい段ボールですか?」

 

「そうだよ」

 

「……もしかして出久のお友達?」

 

 

玄関で息子が親しげに話すなんて珍しいと、出久の母親である緑谷引子は様子を見に行くと、明らかに息子より年上そうな青年が親しげに話している。

 

 

「ん? もしかして出久君のお母さんですか? 初めまして、俺は出久君の……友達でいいかい?「は、はい」――友達の神代って言います」

 

「そ、そうなんですか?」

 

「すいませんがお邪魔しても?」

 

「え、ええ構いませんよ」

 

 

お茶菓子あったかしら……出久のお母さんはリビングに急いで戻っていくのを出久と表悟は見送ると。

 

 

「さーて……まずは荷物を運ぼうか出久君」

 

「え?」

 

 

出久は表悟の言葉に驚いて玄関から出ると、そこには明らかに冷蔵庫が入っててもおかしくない大きなダンボールがいくつもあるのだった。




オールマイトはグラントリノという無茶苦茶な爺さんに師事を受けていた影響なのかトレーニング方法が若干脳筋気味です。

何でジャンプ作品の師匠ポジの人って無茶苦茶な人ばっかなんでしょうね。


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何かを早く変えたいなら投資を惜しまない事だ

勢いで書いてます


「そ、それって……ゼログラビトン6じゃない?」

 

「お母さん何その名前」

 

 

リビングに代表が手早く組み立てていたマッサージチェアの様なゴツい機械を見た引子の言葉に出久は困惑した。

 

 

「ゼログラビトン6よ! 貴方知らないの!? 座ってるだけで三ヶ月で10キロも痩せて体脂肪も15%落ちたって実績のある最新ダイエットグッズよ……完全予約注文で一台百万円以上するのに予約が一年待ちの商品なの!」

 

「ひゃ、百万円以上!?」

 

 

出久にとってはダイエット効果よりもその値段に驚いた。

 

 

「お母さん、これは一般用のゼログラビトン6ではなくて、プロスポーツ選手やモデルの体型維持に使われるハイエンドモデルですからお値段税込三百万円ですよ」

 

「ひ、ひえ~!」

 

 

ドン引きの引子をほっといて組み立てが終わったらしく、そのゴツい機械についたタブレットを手早く操作する代表

 

 

「あ、あのー……この商品のお支払は?」

 

 

自分達にはこんな高額商品を買うお金も伝もないのに目の前のこれは誰が払うのか怖くなった引子に代表は。

 

 

「元々これは()()()()なので俺は社割がつきますからお気になさらず使ってください。これは謂わば俺の出久君への先行投資です」

 

「社割?」

 

「先行投資?」

 

 

引子は社割に食い付き、出久は先行投資に食いついた。

 

 

「あのヘドロ事件に俺は偶々居合わせましてね。出久君の勇気ある行動に感銘を受けまして……ちょっとお手伝いしたくなったものなんです」

 

 

これ名刺ですと代表は引子に一枚の金属のカードを渡す。

 

そこに書かれていたのはこのゼログラビトン6を作った機械産業メーカーであるBig Dipperという名前。

 

そして代表の本名である神代表悟という名前と役職にはCEOという三文字の英語が連なっている。

 

 

「い、出久ー!」

 

 

それを見た引子は代表をリビングに置き去りにし、出久を引き連れて出久の部屋に引き連れていく。

 

 

「あなたとんでもない人と友達になったわね!」

 

「と、とんでもない人って……代表さんってそんな凄い人なの?」

 

 

出久の言葉に引子はため息を吐くとこう言った。

 

 

「いい出久……簡単にいうけどあの人はスッゴい大企業の最高経営責任者なのよ。もうハッキリ言ってこんな一般家庭で電気屋さんみたいに家電の組み立てをさせていい人じゃないんだから!……取り敢えずお母さんちょっとお使い行ってくるからあの代表さんの相手していてね!」

 

 

お茶菓子なに買えばいいのかしら……などとブツブツ言いながら引子は家から出ていって買い物に向かっていってしまう。

 

結局恐る恐る出久はリビングに戻ると代表は持ってきたものを全部開封して組み立て終わっていた。

 

 

「お? 話は終わったかい?」

 

「あ、はい……あのー……代表さんって凄い会社の社長なんですか?」

 

「ああ、代表って皆に呼ばせたいが為に会社を作ったんだけどね。随分と大きくなっちゃって……今は殆どの仕事を部下に任せてるよ」

 

「そ、そうなんですね」

 

「よし……まあ取り敢えずは持ってきたものを説明するよ」

 

 

そう言って代表はリビングに並べられた機械を説明していく。

 

 

ゼログラビトン6ハイエンドモデル

見た目は大きな高級マッサージチェア

内蔵された低周波と高周波、さらに特殊な流体金属を使ったマッサージにより身体中の筋肉疲労やコリを改善する。そして遠赤外線と流体金属から放たれる電磁パルスによって脂肪を燃焼しながら身体中の筋肉を収縮させ、寝ながら筋トレやダイエットが出来るというすぐれものである。

 

ザ・フィジカル

見た目は大きなタブレット付きのゴツい体重計

乗るだけで体重・体脂肪・血糖値・体内に貯蓄されてる栄養素・血中酸素量・血管内の栄養状態等々身体の色んな事を調べてくれる便利な体重計である。

 

そして各種トレーニング器具がリビングに綺麗に並べられていた。

 

 

「す、凄い……」

 

「他にも各種プロテインにBCAAとクレアチンのサプリメントも揃えたよ……出久君には後でそれらを摂取するタイミングや栄養指導を聞いてもらうからね」

 

「これが身体作りの短縮に繋がるんですか?」

 

「ああ、適切なタイミングで筋肉に必要な栄養を必要な量投与するということは馬鹿に出来ない効果として身体に現れるさ……10ヶ月しかないから色々やらないとね」

 

 

そして代表はお茶菓子を買って帰って来た引子と出久を交えて簡単な栄養指導を行い、置いていく機械やトレーニング器具、無くなっていく栄養食品は全て自分が負担するのでドンドン使ってくれと頼んだ後、残ったダンボールを抱えて帰っていくのだった。

 

 

「出久……代表さんって嵐みたいな人ね」

 

「うん……」

 

 

部屋のインテリアを殆ど動かさずに綺麗にトレーニング器具や機械を置いていき、お茶菓子を食べながら説明する代表を見送った後で二人はそう呟いたそうな。

 

こうして緑谷少年の肉体()改造が始まったのであった。



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魔改造&魔改造

ストックはありません。


緑谷出久の肉体改造計画開始から三ヶ月……今日もいつものように海浜公園のゴミ掃除に精を出している出久の姿を携帯のカメラで撮るオールマイトがポツリと呟いた。

 

 

「緑谷少年……」

 

「はい?」

 

「君明らかに身体がでかくなってるよね!?」

 

 

そこには原作の10ヶ月後には及ばないが7割程度は仕上がり、そして何故か身長が伸びた出久の姿があった。

 

 

「そうなんです! この前身長を計ったら170センチあったんですよ! ビックリしました!」

 

(言いたいことはそこではないんだけどね!)

 

 

オールマイトは心の中でツッコンだ。

 

たった三ヶ月で予定された身体作りは相当進み、それに比例するように海浜公園のゴミ掃除のスピードがどんどん上がっていって目標の半分近くは消化されていた。

 

(このままいけば半年……下手したら五ヶ月で想定したレベルまで身体作りが終わる……アメイジングすぎるぞ少年!)

 

オールマイトの心中はともかくせっせと運ぶ出久の前にこの身体作りのもう一人の協力者が現れた。

 

 

「今日も頑張ってるね出久君」

 

「あ、代表さん!おはようございます」

 

 

代表の姿を見て笑顔で挨拶する出久。

 

(なんか明らかに代表君のほうが慕われてる気がする……)

 

オールマイトがちょっとモヤッとしているが、出久からすれば憧れの大スターなオールマイトにはやや遠慮してしまいちょっと歩み寄れてないとこがあるが、代表の場合は世界的企業のトップと言われてもピンときておらず、何かと自分の世話をしてくれる年上のお兄さんという立場で定着していたのである。

 

 

「うーん……身体の状態を見る限りは後二ヶ月位で個性のトレーニングも始められるかな?」

 

「そうなんですか!? うわー楽しみだなぁ」

 

「まあ八木さんはプログラムが早く終わったら助っ人を呼ぶって言ってたけど誰なんだろうね?」

 

「ええと……肉体強化系の第一人者って言ってましたけど……」

 

 

そこは詳しく言えない出久。そして二人がワイワイやってるのを見て、寂しくなったオールマイトが

 

 

「私も混ざる!」

 

 

二人の会話に入っていくのだった。

 

 

 

 

 

そして更に二ヶ月経過し、約半分の月日で原作レベルの身体を手に入れ、原作以上の身長になった出久。

 

そして出久の前に二人の人物。

 

区画一杯のゴミが綺麗に処理された海浜公園にはマッスルフォームとなったオールマイトと代表が初対面?ゆえに挨拶をしていた。

 

 

「八木くんの要望で緑谷少年を少しの間見るヒーローのオールマイトだ! よろしくな代表君!」

 

 

出久とオールマイトが悩んだ末に思い付いたのが、オールマイトがフォームを切り替えての一人二役作戦だった

 

 

「なにやってるんですか八木さん」

 

 

だが即行でばれた。

 

 

「えーーー!!!」

 

「何故わかった!!!」

 

 

これでうまくいくと思っていた二人の反応に代表が呆れる。

 

 

「いや声一緒だし、出久君の事()()()()って言ってるし俺のことも代表君なんて役職に君付けしちゃってバレバレですって」

 

「おうジーザス! ケアレスミスだった!」

 

 

こりゃやっちゃったぜ☆HAHAHA!と笑うオールマイト

 

 

 

「それに……」

 

 

さらに代表真面目な顔でオールマイトの腹部を見ると

 

 

「そんな怪我してる人間が二人いると思えませんよ」

 

 

その目線の先にあるものを知っているかのような代表の顔つきにオールマイトの顔に緊張が走った。

 

 

「俺は()()人体に詳しくてね。幾つかの臓器が機能不全、更に肺も半分近く機能してない位はわかっていましたよ」

 

「うーん……こりゃあ見誤っていたのは私のほうか」

 

 

オールマイトはマッスルフォームからトゥルーフォームに戻り、代表を見据えると。

 

 

「この事は秘密にしてくれると助かる……今のヒーロー社会で私がこんな状態だと知られると、とても不味いことが起こる可能性があるんだ」

 

 

そう言ったオールマイト……代表はため息をつくと。

 

 

「水くさいですよ八木さん……平和の象徴のピンチなんて言いませんし、どうやら貴方の事を何とかしないと出久君の訓練に支障が出そうだ」

 

「……それはどういう意味だい?」

 

 

ポカンとするオールマイトとハッと何かに気づく出久。

 

 

「確か代表さんの会社って最近()()()()()()の開発もしてるんでしたっけ?」

 

「市販品の販売は開始していないけど、臨床試験も終わっていて後は政府の許可待ちの()()()()()のがあるよ」

 

 

オールマイトはその話を理解した。

 

 

「まさか……私を治せるのかい?」

 

「再生医療装置の中にクローニング技術を使って対象の遺伝子から作った人工臓器を生み出す……政府の許可も降りてないし、まだ世に出回ってない社外秘のやつだけど……八木さん、いやオールマイト……あんたの体……俺に任せてみないか?」

 

 

それは平和の象徴が完全復活する兆しだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか……そんな医療装置が開発されたのか……」

 

 

そして最も深い闇の中でその機械を求めてやまない個性と悪意を煮詰めたような人間が一人存在していた。

 

だがその男は理解していない。

 

作った人間も、護っているものも、個性程度でどうにかなるような奴等ではないということを。



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環境が変わった気がするのは自分が変わったからだ

感想欄読んでて思い付きました。


その学年のあるクラスには大変珍しい少年がいた。

 

緑谷出久という少年は誰しもが個性という超能力を持って生まれてくる昨今、足の小指に関節がある個性が発現しない人間の特徴を持っていた。

 

無個性……それは思春期の少年少女にとって明確な“持たざる者”であり、落ちこぼれとしてみる格好の指標であった。

 

出久がそれすら笑い飛ばし、周りに溶け込むコミュニケーション能力があれば、厚く友情を育んでくれる友がいれば話は変わっていたのかもしれない。

 

だが彼は内向的で、“運悪く”下に見た人間を害する事を躊躇わない幼馴染も存在したせいか、中学三年までは暗い汚泥の中を進むような日々だった。

 

数ヵ月前のあの日までは……。

 

 

この学校は弁当持参の為、お昼時になれば教室で仲のいいグループがお弁当を広げて仲良く食べる時間。

 

シャカシャカシャカシャカ……

 

 

シェイカーというプラスチックの入れ物に、水と何かの粉を入れてひたすら振って混ぜている出久の姿があった。

 

これをご飯時に最初にやり始めた時はクラスのお調子者がからかい混じりに取り上げたり、しまいにはわざと中身をぶちまけられたりしていたが、今は誰も出久に構わなかった。

 

怖いのだ、単純に。

 

ヘドロ事件というセンセーショナルな事件の後から彼の見た目と雰囲気に徐々に大きな変化が現れ始める。

 

典型的なもやしっ子だった体は今や運動系の部活に入っている生徒すら貧相に見えるほど逞しい肉体になり。

 

何処かおどおどしていた雰囲気がすっかり鳴りを潜め、今ではその身体に相応しい風格が出始めていた。

 

子供というか精神的に幼い人間は分かりやすいものだ、弱いものは馬鹿にされ、強いものにはへりくだる。

 

無個性と馬鹿にした少年は、今や純粋な身体能力で自分達個性持ちを叩きのめせる能力を手に入れつつある。

 

そのように思ったクラスのほぼ全員と、担任の先生ですら腫れ物のように出久を扱っている。半ば公然に虐められた弱者が見てわかる程巨大で鋭利な牙を手に入れつつあることに恐怖して。

 

そして当の出久といえば、人生でこれ程充実している時があっただろうかと、疑問に思う程充実していた。

 

明確な目標があり、人生で最も尊敬している人間に師事し、そして目標達成の為にこれでもかと心を砕いてくれる人がいる。

 

認めて貰うために幾つもの挑戦を乗り越え、小さな承認欲求と成功体験を積み重ねた出久の心は徐々に自信と余裕をつけていく。

 

日々成長する身体と共に周りへの劣等感が消えていき、気がつけば自分はいじめられっ子というポジションを脱却していた。

 

あの日からがむしゃらに頑張っていたら、勝手に周りの環境が変わっていた事に出久は苦笑しかなかっだが、それならそれでいいと日々を過ごしている。

 

そしてそんな出久を面白くなさそうに見ているクラスメイトが一人。

 

爆豪勝己……緑谷出久の幼馴染である。

 

彼等の関係性を一言で言うなら強者と弱者、いじめっ子といじめられっ子であった。

 

幼い頃にあったある出来事が彼が出久に辛く当たる原因となっているが、ヘドロ事件の時の出久の行動に更に嫌悪感を募らせ、今では関わることすら避けるようになっていく。

 

好きの反対は無関心といったところだろうか。

 

だが爆豪にとって出久は段々無関心ではすませられない存在になっていく。

 

通常の学校生活において個性を使うことは禁止されているので、体育の身体測定は生徒の個性を使わない身体能力が如実に現れるのだが。

 

 

ピッ!

 

 

「……おいおい……6.2秒だと」

 

 

体育を受け持つ先生は出久の出した50メートル走のタイムに仰天した。

 

基本的に15歳前後の男子の平均タイムというのは大体8秒前半から7秒後半で、これが陸上や運動系の部活をしているなら7秒を切るか切らないかまで速くなる。

 

しかし何の部活も入っていない帰宅部の生徒が6秒前半で走ったのだ。

 

 

「おい緑谷……お前陸上の十種競技でも目指しているのか? 最近凄い記録が出てるぞ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「走り方も綺麗なフォームだったし……誰かに教えて貰ってるのか?」

 

「はい、実はトレーニングとか肉体操作にとても詳しい人と知り合いになったんです」

 

「ほーう……体もでかくなってるのに敏捷性を失わないように効率的なトレーニングをさせて貰ってるようだな……お前最近授業中に水と一緒に何か飲んでるだろ? プロテインか?」

 

「いいえ……BCAAとアミノ酸の粉末です」

 

 

出久の言葉に体育の先生の目付きが変わる。実は彼は筋トレマニアとして有名なのだ。

 

 

「BCAAとアミノ酸!! ……どこのメーカーだ? 他には何使ってるんだ?」

 

「知り合いの人に指定された奴を時間通り飲んでるだけなんで僕はそこまで詳しくはないんです!」

 

「なんだそうなのか……しかしBCAAもアミノ酸も安くないだろうにご家族の負担になってないか?」

 

「いえ、全部その知り合いから貰ってます」

 

「う、羨ましすぎる」

 

 

先生の言葉に出久は苦笑しながら

 

 

「僕も雄英に入りたいとはいえ、ちょっと期待が重いなって感じるときがあります」

 

「そうか……頑張れよ緑谷! 俺は応援してるからな」

 

 

そう言って記録に戻る先生を見送る出久を見る爆豪のイライラは止まらない。

 

(6.2?……あのデクが俺の記録に迫って来てるだと?)

 

ヘドロ事件以前なら出久の記録は8秒を切るか切らないかの記録だったと記憶している爆豪

 

(進化している……弱いくせに夢だけ語るクソナードが、本当に雄英に入るために己を高め続けている)

 

爆豪の背中にヒヤリと何かが走った。

 

それは恐怖だったのか武者震いだったのか……。

 

 

「……チッ!」

 

 

それを知るのは爆豪のみであった。



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まずは力に慣れよ

個性の鍛え方ってあれだよね


「さーて……今日から出久君には個性のトレーニングを始めたいと思うんだけど……何だか顔色悪いけど大丈夫?」

 

 

今日の朝ついに海浜公園のゴミ掃除が終わって、出久はオールマイトに個性を譲渡された。

 

雄英の試験まで後()()()……残り五ヶ月で周りと十年程のハンデがある個性の使用経験を埋めなくてはならない。

 

出久はオールマイトから譲渡されたアレを摂取して既に三時間ほど……今日は代表から誘われたある場所に集合していた。

 

 

「だ、大丈夫です……でもこんな場所が使えるなんて……」

 

 

出久の自宅から車で一時間ほどの少し奥まった郊外。

 

ミザールスペースというプロヒーロー達が己の個性の鍛練などに使う倉庫のような大型施設に集合した出久と代表とオールマイト。

 

 

「ねえ代表君……ここって貸し切りが無理な施設じゃなかった?」

 

オールマイトも何回も使ったことのある、ここはプロヒーローのライセンスがあれば利用可能な施設で、使用料金が安い代わりに貸し切りが出来ず、いつもだったら結構な数のプロヒーローが己を磨く為に鍛練に励んでいたりする場所である。

 

耐熱性、対電性が高く、噂ではナンバー2ヒーローのエンデヴァーの全力の火炎すら焦げ一つ出来ない頑強さを備えているといわれる場所ゆえに、暴れるに丁度いいとプロヒーローに人気の施設なのだが、今日は人っ子一人いない。

 

 

「いや、ここ誰が出資して作られたか知らないんですか?」

 

 

代表が指差した所にはミザールスペースというお洒落な文体で書かれた下に、小さく提供企業Big Dipperの文字が。

 

 

「今日は施設のメンテナンスということで休館()()()()()

 

「「CEOって凄い!」」

 

 

ビックリする出久とオールマイトだった。

 

 

「さて……八木さんに出久君の個性のトレーニングをお願いしようと思いましたが、まだその体に下手に負担はかけられないということで計画は変更します」

 

「HAHAHA! 面目ない……」

 

「い、いやオールマイトは殆ど付きっきりで身体作りを手伝ってくれましたから!」

 

「優しいなあ緑谷少年は」

 

 

出久のフォローに顔だけマッスルフォームにして感動の涙を流すオールマイト。

 

 

「いや出久君もあんな殺人的メニューを良くこなしたよね」

 

「いえいえ、代表さんのあのグラビトン6とかプロテインとかのお陰ですよ……あれがなかったら身体が持ちませんでした」

 

「そりゃ良かった。仕事があって中々参加出来なかったけど溜まってたやつは全部片付けたし、暫くは手伝いが出来るからよろしくね」

 

「はい、よろしくお願いします!」

 

 

元気良く挨拶する出久にニコニコ笑う代表

 

 

「さて、今日ここに集まってもらったのは他でもない……出久君の個性トレーニングと並行してオールマイトにこちらで作った装備の性能試験をしてほしかったんだ」

 

代表がポケットから出したリモコンのボタンをピッと押すと

 

 

ガコン!ウイーーーーン………ガシャン!

 

 

施設の床が開閉し、そこから数十点は装備がくっついた長さ十メートル程のウェポンラックが三列もせり上がって来た。

 

 

「「何これー!!」」

 

 

男の子が大好きそうなギミックとゴツい装備がてんこ盛りな状況にテンションの爆上がりの少年と大人。

 

 

「さて……それじゃ出久君のトレーニングと装備の性能試験を始めようか」

 

 

その日、ミザールスペースにはしゃぐ少年とおおはしゃぎの大人の声が聞こえたそうな。

 

そして一週間後……。

 

 

「ほっほっほっほっほ……」

 

 

中学校での出久の生活態度に大きな変化があった。

 

 

「ねえ……また緑谷お手玉してるよ」

 

「ついに受験でおかしくなったのかよ」

 

「おい、関わんないほうがいいぞ」

 

 

出久は学校の休憩時間や暇な時にテニスボールぐらいの金属の光沢をした三個の玉をジャグリングするようになった。

 

クラスメイトはその光景に嘲笑する者や、不気味に見る者がいたが

 

 

「おい緑谷! 頭がおかしくなってお手玉かよ!」

 

 

流石にこれにクラスのお調子者が食いついて、その玉の一つを空中でキャッチすると

 

(え? 重っ!)

 

自分が想像した数十倍は重い玉にそれを取り落とし、自分の足先に落としてしまった。

 

ガッ!

 

 

「いってぇぇ!」

 

 

足の甲に当たって揉んどりうつお調子者にギョッとするクラスメイト達。

 

 

「危ないよ、これ一個3キロするから」

 

 

転がらない様にお洒落なデザインの滑り止め模様のついたそのお調子者の落とした球をひょいと拾う出久。

 

彼がそれを一メートル程手首の反動だけで投げていたのを見ていたクラスメイトは戦慄する。

 

(どんな筋力してるんだよ……)

 

(普通のテニスボールみたいにやってたよね?)

 

(もし邪魔して周りに飛んできたら……)

 

さっきのお調子者はビビったのか出久から離れ、半泣きになりながら自分の席についたのを見たクラスメイト達は、今の出久の邪魔はしないでおこうと胸中で思ったのだった。

 

因みにお調子者の足の甲にはごくごく小さなヒビが入ったそうだ。

 

そしてこの金属球……勿論只の球ではない。

 

今は練習期間としてその機能は解放されていないが、この金属球は機能が作動するとジャグリングしている一定時間毎に()()なる機能が搭載されており、最大で7キロまで増大するように出来ている。

 

7キロとは男子の砲丸投げの球の重さほどあり、そんなものをジャグリングするなんて正気の沙汰ではないのだが、そこで出久の個性の出番というわけなのである。

 

ワン・フォー・オールは人外の肉体強化を促す個性。

 

その一%でも引き出せればこの球の最大負荷のジャグリングを普通に行えると代表は考えた。

 

ゆえにまずは0から100ではなく、0から1を引き出す訓練の為のトレーニングとしてこの球のジャグリングを課したのだった。

 

更に代表は身体が破壊されずに高い%出力のワン・フォー・オールの使い方を考察。

 

そして出た結論が負荷を段階的に高めること、そして高めた状態を維持すること、そしてその状態から段階的に負荷を軽くしていくこと。

 

オールマイトの使うスマッシュ系統は瞬間的に個性を使うために使用は控え、代表が出したトレーニングの結論は。

 

 

「個性を使いながら限界ギリギリの筋トレ漬けで感覚を覚え込ませるか」

 

 

 

 

そして代表は筋肉の事を調べすぎて若干脳筋に侵され始めていた。




結局筋トレが一番(ニッコリ)


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成長する少年と成長する必要のなかった少年

ストックはないです


個性のトレーニングを初めて二ヶ月……出久の体はまた変化が始まっていた。

 

 

「ほっほっほっほっほ………」

 

 

今日も出久は食後のジャグリングをしているが、既に時間経過によって金属球の重さは7キロに増加し、ジャグリングする球は五つに増えている。

 

体つきは二ヶ月で更に筋肉が増えて体がでかくなり、手首は太い血管が軽く浮き出るほどに、そして身長は更に伸びて175センチ程に増加していた。

 

そう……この時点で出久は爆豪の身長を抜かしてしまったのだ。

 

それに気付いた爆豪は内心で腸が煮えくり返っている。

 

見下ろしていた人間に物理的に見下ろされるということは、思春期真っ盛りの少年とっては中々の衝撃である。

 

そしてクラスメイトからは内心で若干みみっちい男と言われている爆豪が我慢できるわけでもなく。

 

 

「おいデク……最近テメェ調子に乗ってんじゃねえかァ…? 無個性が身体を鍛えてれば雄英に入れるとでも思ってるのかよぉ!?」

 

 

ジャグリングを終えて、一息ついていた出久の胸ぐらを左手で掴み、右手の汗腺のニトロを爆発させながら凄む爆豪……だが。

 

ガシッ!

 

 

「なっ!はな……せぇぇ!!」

 

 

出久に左手首を掴まれ、爆豪が反射的に手を引こうとするが。

 

 

(う、動かねぇ!……それに掴まれただけで手首の汗腺を絞められて(・・・・・)個性がうまく発動しねえ!?)

 

 

「なめんなクソナードがぁぁ!」

 

 

掴まれていない右手の汗腺が開き、ニトロを送り込んだ爆豪はそのまま出久の顔に目掛けて放とうとする。

 

それを見たクラスメイトは流石にそこまでやる爆豪に唖然として動けず、下手すると大事件に発展しそうになった瞬間。

 

 

バシッ!

 

 

「あぁぁ!」

 

 

出久は正確に放たれた右の掌底を左手で右手首を掴み阻止。

 

今、二人の体勢は出久が爆豪の両手首を掴んで向かい合う形になった。

 

 

「かっちゃん……学校内は個性の使用は禁止だよ」

 

 

ギチリと手首を握る力が増し、爆豪は手首からの痛みに冷や汗をかく。

 

そして彼の生まれもった天性の戦闘センスが出久の腹に膝を叩き込むことを導きだした。

 

流石の身体能力で爆豪の膝蹴りは出久の腹に綺麗に入るが。

 

 

(…かてえゴムみてえな!)バッチーーーーーン!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……起きたか爆豪」

 

「……何で俺はここで寝てんだ?」

 

 

爆豪が目を覚ますと目の前にはクラスの担任がおり、自分は保健室で寝かされている。

 

 

「個性を明確に人に向かって使用……お前みたいな強い個性の生徒の場合、相手の怪我によっては停学または数ヵ月の自宅学習と内申が絶望的になってもおかしくはないんだぞ?」

 

「……なあ?何で俺はここで寝てんだよ?」

 

「後で親御さんに来てもらうことになる……幸い()()()の緑谷が怪我一つ無くお前を無力化したし、緑谷本人が()()()()()してしまったので寛大な処置をお願いしますと言っていてな。お前は今回だけお咎め無しだよ」

 

「なんで……何で俺はここに……」

 

「いい加減にしろ爆豪、まだ分かってないのか?お前は緑谷に顔をはられて気絶させられたんだ。とにかく後でお前の親御さんと一緒に緑谷の所に謝りに行くからな」

 

 

お前には期待していたんだがな……そう言って保健室から出ていく先生を見送った爆豪は

 

(気絶させられた?……あのデクに張り手一発で?)

 

その後の爆豪の記憶は曖昧だ。

 

起きたのは五限目の半ばだったが、結局放課後に母親の光己が学校に現れても放心したまま、光己が自分の頭を出久に向かって下げさせて、光己自身も頭を下げていたのが視界に入っているのだけやけに鮮明に覚えている。

 

目の前の出久は光己に恐縮し、反射的に爆豪に手が出てしまった事を詫びていて。

 

 

「結局かっちゃんを上手く止めれなかった自分が悪いんです」

 

 

と言った出久に光己はホッとすると同時に、少し見ない間に見た目も心も大きく成長した息子の幼馴染に感心していた。

 

結局勝己は光己に連れられるように家路につき、ボーッと何をするわけでもなく椅子に座る勝己に光己はこう言った。

 

 

「ダサいわね、あんた」

 

「…………ぁあ?」

 

「あの子はあんたが思っている以上に本気で雄英を目指してるのよ……ノリや冗談であんな身体作れるもんですか」

 

 

家族だからこそ真っ直ぐと伝わってくる母親の気持ちに勝己は。

 

 

「……んなこたわかってる」

 

 

そう、わかっていた。あの内向的でフワフワして無個性なのに馬鹿みたいにヒーローになりたいとはしゃいで、ろくに目線も合わせなかったクソナードが、いつの間にか誰もが無個性だと馬鹿に出来ない程に身体と心を鍛え上げ、磨き始めた。

 

手首を掴まれた時、出久が自分を見る目が爆豪が忘れられずにいた。

 

真っ直ぐと、こちらを見定める目……敵意ではなく友好的でもなく、誇りを持って相対すると決めた漢の本気の眼差し。

 

 

「ひよってたのは俺のほうってか……クソだせえじゃねえか」

 

 

それに自分は応えようとしなかった、気のせいだと適当に脅しつけて、マウントを取ろうとした挙げ句のこのザマである。

 

 

「……ババアちょっと散歩してくる」

 

「はいはい、夜ご飯が冷めないうちに帰ってくんのよ」

 

 

ガチャリと家を出ていく勝己に光己はまだまだうちの息子も男の子だねぇ……と、呟いた。

 

その後の事は爆豪勝己の名誉のために割愛するが、真っ赤にした目元を見せないようにコソコソと帰って来た勝己はテーブルに準備された夜ご飯を温め直し、さっさと飯を食うと寝た。

 

そしてその日以降学校内での爆豪勝己と緑谷出久の衝突は起こらず、学校は概ね平和といえる日々が送られる運びとなった。




これも一つのアオハルですね


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大人げない大人

すいません今回もストックないです。


「私が完全復活した!」

 

 

雄英の受験まであと一ヶ月……出久のトレーニングに隠れるようにオールマイトの身体の無くなっていた臓器の移植が全て完了し、遂にオールマイトの身体が完全復活と相成った。

 

 

「やりましたね!オールマイト!」

 

「ああ! これで緑谷少年の個性トレーニングに私も協力出来るからね! あと一ヶ月だけどみっちりやっちゃうから!」

 

「はい! よろしくお願いします」

 

「あとはちょっと残念なお知らせだけどね……私は昔のような戦闘が出来なくなるだろう」

 

「……はい、それはお聞きしました」

 

 

オールマイトの持っていた個性のワン・フォー・オールは個性を譲渡する個性である。力の継承という強力なメリットがあるが、勿論幾つかのデメリットがある。

 

その中の一つに譲渡した人間はその力が無くなるということがあげられる。

 

 

「今の私は個性の残りカスを使っているに過ぎない……いつかはそれも消え、私は無個性に近い存在になるだろうね」

 

「オールマイト……」

 

「……ま、それも暫くは後だし、それに今の私には()()もあるから大丈夫さ」

 

 

代表はオールマイトの個性が無個性だった出久に譲渡された事を聞き、今後の為にスペシャルな装備をオールマイトに準備していたのだ。

 

 

「その装備は正に人類の切り札……の、ような性能ですから余程の事じゃないと使わせませんからね? いつもの“肉弾戦特化”で我慢してください。出久君は”高機動型“と、はいこれ」

 

 

代表は出久に金属で出来た()()()を渡す。

 

 

「この盾はなんです?」

 

()()()()()()()()で出来た盾だよ。断熱・絶縁・更に()()()()()もほぼ防ぐやつで、君はこれから火を吹いたり電気を出したり対戦車ライフルみたいな威力のパンチやキックをかましてくるヴィランに出会うかも知れないからね。一つぐらいは身を守る何かを持たせたかったんだ」

 

「す、凄い盾なんですね」

 

「まあね。いいかい? その盾は君の着けるスーツの背中部分にくっつくような仕掛けがしてある。走ったり移動したりする時は背中に着けなさい」

 

「わかりました」

 

 

出久は盾を左腕にしっかり固定して、いま着ている高機動型と呼ばれた装備の具合を確かめる。

 

基本的には黒いインナースーツと体の各所を緑色のプロテクターで覆っており、頭部は緑色のウサギの耳みたいな飾りのついたバイザー付きのヘッドギアを装着している。

 

 

高機動型は通称“ゲシュペンストアーマー”。

 

防刃・防弾のインナースーツに搭載された超電磁筋肉繊維がその人間のポテンシャルを数倍に引き上げ、体の各所に装着したプロテクターは銃弾程度では傷一つ着かない硬度があり、特に拳で殴る部分と足周りはアダマンチウムという金属で作られており、ミサイルが当たろうが傷一つ付かない固さを誇る。

 

インナースーツの電力は胸部プロテクターの中心に装着されたアーク・リアクターが供給し、プロテクターもその電力を利用した攻撃や移動が可能となっている。元となったゲシュペンストと違って射撃武器は殆ど装備されてはいない。

 

そして出久用に内部のインナースーツにはワン・フォー・オールを使った際の反動を吸収して外に逃がす身体保護機能が搭載されており、ほぼ出久専用のワンオフ装備となっていた。

 

「この装備はオールマイトから譲渡されたワン・フォー・オールという強すぎる個性をまだ完璧にコントロール出来ない出久君をある程度補助できるよう設計してあるけど、着心地はどうだい?」

 

「……まるで体の一部みたいです」

 

「よろしい、ならば君は頑張ってナンバーワンヒーローにぶつかってくればいい……解放できるワン・フォー・オールの%は?」

 

「やっと反動なく5%、“溜めて使えば一撃だけ20%”です」

 

「なら装備の身体保護機能がちゃんと機能すれば常時10%解放までなら保証できる……だから戦いながら慣らしていきなさい」

 

「はい!」

 

「オールマイトは節約のために個性を使わないとはいえ、肉弾戦特化の装備は戦車を簡単に()()()位の戦闘力は出る……十分に気を付けるんだぞ?」

 

 

こくりと頷く出久。

 

そして肉弾戦特化の装備を着込んだオールマイトとの訓練が始まる。

 

オールマイトの肉弾戦特化装備はあのトリコロールのヒーロースーツから更に、マーベルのアベンジャーズに登場したハルクバスターのようなアーマーを真っ黒に塗装したアーマーに搭乗しており、違いは頭部がゴリラの顔を模している事と、左腕が金属繊維の平たいロープでグルグル巻きになっていること、射撃武器は全てオミットされてるが、その分頑丈性・パワー・スピードは軒並み強化されたゴリッゴリの脳筋仕様になっていることである。

 

 

「それじゃあいくぞ緑谷少年! 今日のために練習した私の“デッドリーコング”で君の力を引き出させて見せる!!」

 

 

デッドリーコングの両拳をガツンガツンとぶつけ合うオールマイトに代表は呆れ顔。

 

 

「いい大人がめっちゃはしゃいで乗ってたけどね……」

 

「でもオールマイトの気持ち……わかります」

 

 

そう言った出久君もウォームアップを始めた。

 

サポートAIによるメディカルチェックと機体の最終確認がされ、胸部アークリアクターが唸りを上げ始める。

 

ついに出久は自分が憧れるナンバーワンヒーローの教えを受けるという事でうかれていた。

 

だがしかし……忘れてはならないのがオールマイトの師匠の存在である。

 

オールマイトの師匠は教育方法が無茶苦茶の一言で、オールマイトにトラウマを植え付けるほどの人物であった。

 

そしてそんな教育を受けた弟子が修行を行えば……。

 

 

黒いメカゴリラと緑の亡霊が激突して()()()()……。

 

 

 

「た、ただいまぁ……」

 

「あ、お帰り出久……ってどうしたの貴方!?」

 

「すいませんお邪魔します」

 

「ああ代表さん! 出久はどうしてこんなボロボロなの!?」

 

「すいませんお母さん説明しますから。取り敢えず出久君をゼログラビトン6に入れちゃいましょう」

 

 

それは殆ど乾ききった雑巾を、限界まで引きちぎりそうなレベルで絞り上げて水を出そうとするような訓練だったと代表は思ったそうな。




緑のウサギっぽいマスクとか戦いかたとか知ったら閃いてしまったんです。

因みにオールマイトのデッドリーコングは声優さん繋がりです。


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主人公をキレッキレにしてみました。

「これどうぞ」

 

「これはどうも有難うございます、おいしそうだ」

 

 

緑谷引子は美味しそうに自分お手製のクッキーを食べる目の前の青年を不思議な心持ちで見ている。

 

代表の神代表悟は世界でも有数の企業の最高経営責任者である。

 

元は資源採掘とリサイクルエネルギーを専門に行っている企業だが、そのノウハウで作られた大型家電や便利道具などが一般には有名であった。

 

そんな大企業の代表がこんな庶民の作ったクッキーをうまそうにパクついている……。

 

(日頃どんな食生活なのかしら……)

 

そんなふうに代表を見ていると、代表も引子をじっと見ていた。

 

 

「あの、なにか?」

 

「いや、引子さんも随分と痩せましたよね?」

 

「気づいてくれてありがとう!もうすっかり一番痩せてた頃まで戻ったの」

 

 

代表の言葉に嬉しそうな顔をする引子。

 

ゼログラビトン6を出久が居ないときに使っていた彼女はすっかり昔の体型を取り戻し、息子に最近お母さん変わったねと言われ、本人が一番凄い変化をしているのになにを言ってるのだろうと引子はその時思ったものだ。

 

 

「これだと周りの奥様方に詮索されそうですね」

 

「そうなのよ……だから近所の古くからの付き合いがある所はアレがあるって言っちゃって、何回か利用してもらったけど……よかった?」

 

「ええ、勿論出久君が居ないときはどうぞご自由にお使いください」

 

「よかった。結構な頻度で友達に使わせちゃったから、代表さんに確認しないといけないと思ってたの」

 

「真面目ですね引子さんは。頻繁に見れない出久君の栄養管理もしっかりしていただいて、本当に頭が下がる思いです」

 

 

ニコニコ笑う代表に、今度は真面目な顔になる引子。

 

 

「それで? なんで今回出久はあんなボロボロになっていたの?」

 

「はい、それなんですけど……」

 

 

代表は今日の事出来事を説明する。

 

 

「……つまり、今日本格的に始まった戦闘訓練で出久が相手との訓練に嬉しすぎて頑張りすぎちゃったってことなの?」

 

「ええ、以前から出久君の身体作りの面倒を見てた方でして。個性が発現した出久君の為に本人が負傷していた身体を元に戻すため、一時離脱してからのコーチングでしたから……お互いに盛り上がってしまった感じですね」

 

「確か代表さんが紹介した人でしたっけ?」

 

「はい、まさか出久君の個性がある程度身体を鍛えないとわかりづらいものだとは俺も思いませんでしたから……紹介した人物も流石に負傷した身体で本格的な個性の訓練は難しいと思ったんでしょう」

 

実は現在出久は既に公的機関に個性が発現したことを提出している。

 

しかし提出した個性は“筋肉量に対して、一定割合の筋力が上乗せされていく”とワン・フォー・オールを譲渡されたとパッと見た感じではわからないようなブースト系統の個性の情報を提出しており、公的に記録された個性名は“筋力強化”と名付けられていた。

 

嘘に真実も混ぜることで嘘だとわかりづらくする……。

 

これはワン・フォー・オールの危険性を危惧していたオールマイトに代表がその秘密を隠すために提案したバックストーリーの為であった。

 

ある日ヘドロ事件の出久の行動に感銘を受けた代表は、まず身体作りの為に専門家を紹介。

 

そして専門家の指導の元、身体を作ったらどうも筋肉量に対しての筋力の出力が大きく、調べると、それが個性だと発覚。

 

そして専門家の人は最近負傷してリハビリ中だったが、負傷した身体では出久の成長に間に合わないとリハビリに集中するため一時離脱。

 

そして今日、満を持して訓練に再会した専門家と出久のプルスウルトラ的なトレーニングのお陰でこうして出久がぼろ雑巾になったと代表は説明したのだ。

 

 

「……出久も身体がほんとに大きくなって、もうちょっと落ち着きが出ると思ったら……中身は全然変わんないわねぇ」

 

「男の子って意外と根っこの部分で変えられない所ってあるもんですよ?」

 

「あら? じゃあ代表さんもそういう所があるのかしら?」

 

「そうですね……俺って結構その場のルールとか最低限は守るんですけど、ふと気がつくとしっちゃかめっちゃかにしてしまう時があるんですよ」

 

 

そう言って代表は何か心当たりがあるかのように苦笑した。

 

その後引子と代表は雑談に花を咲かせてから少しして、緑谷家から代表はお暇していった。

 

それからの出久は毎日毎日ボロボロになりながらオールマイトとの訓練と、代表からマイナーだけど実践的な拳法を教わりながら最後の一ヶ月を過ごす。

 

そして遂に雄英高校の受験日になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「出久~……そろそろ時間でしょ~」

 

「はーい!」

 

 

二日前に代表とオールマイトからの指示で、蓄積されている見えない疲れやダメージを抜くためにタップリ休養した出久は余裕をもって準備をして着替えていた。

 

 

「まさか学ランが着れなくなるとはねえ……ホントに大きくなっちゃって」

 

「いやあ……最後の方の学校とか教室にいづらくていづらくて」

 

 

そう言って苦笑する出久。

 

しっかりとした栄養管理とハードなトレーニング、そしてゼログラビトン6の隠された機能による骨格や骨盤の矯正を続けた結果。

 

顔つきがあまり変わらなかったが出久の身長は180センチの大台に乗り、脱ぐと同級生が引くレベルの筋肉が搭載された身体つきになってしまい、中学三年の冬ごろから今まで着ていた学ランがついに入らなくなり、三学期の辺りから学校の許可を貰って私服で登校していた。

 

一人だけ私服の凄いマッチョがいる教室はお通夜状態に。

 

かつて虐めていた出久がマジで恐ろしくなった一部の生徒は時期的に丁度いいと自宅学習に逃げたものや、誠心誠意謝って関係の修復を図ったものなどが現れる状態まで発展することになった。

 

結局受験日は代表がパパッと出久の身体に合わせたオーダーメイドのスーツとコートを準備したのでこれを着ることになったが。

 

 

「何かいままで中学生だったと思えない迫力だわ……他の受験生の子達は大丈夫かしら?」

 

「そうかなぁ? 雄英を受けるんだからきっと僕より凄い学生ばかりだと思うけど」

 

引子は息子のスーツ姿に周りの受験生が萎縮しないか心配し、若干自分の評価の低い出久は、ずれた事を言っている。

 

 

「そうかしらねえ……まあ貴方も受験頑張りなさい」

 

「うん、いってきます!」

 

 

貴方より凄い生徒ってどんなレベルなの?……と引子は思ったが、そんな他の受験生を心配してしまうほど息子が成長したと思い直し、出久を見送ったのであった。




個性 筋力強化

筋肉量に対して、一定割合の筋力が上乗せされていく個性

例に上げるなら100キロの物を持ち上げる筋肉をつけていると、個性によって一割の筋力の上乗せが行われ、100キロを持ち上げる筋肉で110キロの物が持ち上げられるということである。

これは個性が強くなれば一割から二割、二割から三割の筋力の上乗せに変わっていく可能性がある……と、公的機関に出久は申請している(勿論嘘だが……それを虚偽だと確かめる術がないので調査ができない)


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いざ受験

受験と書くだけで震えが……


「雄英高校試験会場……ついにここまできたか」

 

 

その建物を立ち止まって見上げるに、周りの受験生は何があっても身体がぶつからないようにスッと間合いをとって避けるように試験会場に入っていく。

 

明らかに上等なスーツにコート、柔和な顔つきだが180センチほどある身長と服の上からでもわかる筋肉質の身体つき。

 

冬場の寒さもあって口から出る白い湯気も、彼が吐くと何処か煙さを感じそうな暴力的な気配を放っている。

 

本人としては緊張しながらボーッと立っているだけなのだが、周りで会場に吸い込まれていく同じ年齢の筈の少年少女達はこのヤバイ人誰なんだろうと思いつつも関わり合いになりたくないと決して目線を合わせない。

 

そんな中

 

 

「どけデク……邪魔だろうが」

 

「ん? ああ、かっちゃんおはよう」

 

 

背後から歩いてきた爆豪に注意され、いたって普通に挨拶を返した漢……その名を緑谷出久という

 

 

「聞いたぞ? てめぇ個性に目覚めたそうじゃねえか」

 

「そ、そうなんだよ……身体を鍛えないとわからないって変な個性だよね?」

 

「昔のヒョロガリじゃわかるわけのない個性……今のお前のクソ筋肉なら使いこなせるってわけか」

 

 

嘘の申告の個性の事を言われて若干動揺した出久だが、爆豪のお前はやれるのか? と言わんばかりの真面目な視線に動揺を引っ込める。

 

 

「まだまだ完全ではないけどね……それでも僕は誰よりも鍛えて準備してきた自信はあるよ」

 

「ハッ……だったらお前を何の感慨もなくぶっ飛ばせるって訳だな」

 

「かっちゃん……」

 

 

悪魔の様にギラつく笑いをする爆豪と、その身体のせいで微笑みに凄みのある出久。

 

視線にバチリと火花が弾けそうな視線が交錯し……爆豪が先に視線を切ると会場に入っていった。

 

出久は内心(啖呵切っちゃったよかっちゃんに……)とガクブル状態だが、何とか気持ちを落ち着けて歩き始めた。

 

因みにここで出久は転んでないので女子であるあの子と喋れず、何なら今のやり取りを見ていた周りの人に

 

 

(((同い年なの!? そしてあの人受験生だったの!?)))

 

 

と驚かれていた。

 

そしてさっきカッコつけたのにお互いに隣の席だったと知った出久と爆豪はちょっと気まずくなった。

 

 

 

席に着き、プレゼントマイクの話を聞きながら出久は代表に言われたことを思い出している。

 

 

いいかい?……最後の一ヶ月で使った装備ははっきり言って()()()()()()()()()()()()()()がある……でもそれで合格して、胸を張って雄英に出久君は通えないだろ?

 

 

試験内容は模擬市街地演習場にて仮想敵を倒してポイントを競い合うこと。そしてその中には0ポイントの特殊な敵もいること。

 

 

使うのは手足を保護するグローブとブーツ、あとはあの盾……身体能力と個性と君の努力で合格を目指すんだ。

 

 

プレゼントマイクの説明が終わり、出久は準備をして模擬市街地演習場に現れた。

 

オーダーメイドのスーツだった出久は、コートとジャケットを脱いでワイシャツの袖を捲ってグローブを着けて、調子を確かめる。

 

ギチリとグローブを握り込んで調子を確かめる姿は落ち着いていて、集中している事が伺える。

 

最後に出久は左腕に盾を着け、ゆっくりと目を閉じた。

 

それをこそりと見ている受験生達……。

 

 

「あの人俺らと同じ受験生なんだよな?」

 

「凄い身体つきしてるけど、何の個性なんだろうな?」

 

「高校浪人じゃないの? 同い年に見えねえよ」

 

「でもさっきヘドロ事件の爆豪と話してたぞ?」

 

 

小声で話しているので出久には聞こえなかったが、聞こえていたら顔を真っ赤にしてあたふたしたに違いない。

 

軽い雑談が受験生達の間で始まり緩い空気が生まれ始めたとき。

 

 

「ハイスタートー!」

 

 

プレゼントマイクの声が響き

 

 

カッ!

 

 

目を見開いた出久はプレゼントマイクが動かない受験生達に発破をかけているのを耳にしながら、誰よりも早く演習場に飛び込んでいくのだった。




色々調べてたんです……そしたらスーツ着たマッチョで180センチのめっちゃ格闘出来る人がヒットしたんです。

風間仁と三島一八

もうその二人が頭の中でちらついちゃってどっちかを緑のワカメヘヤーにしたらこの作品の魔改造出久っぽいなって思っちゃった今日この頃。

皆もそのイメージに犯されてどうぞ!


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その力、受け継ぎし者

感想欄で出ていた皆さんがイメージするこの作品の出久君は、どれもありそうな感じでは迷いますよね。

私も感想欄見ながらわかるわ~と納得しちゃいました。


緑谷出久は戦闘訓練を受けながら代表から拳法を学んだが、実は習得できた技らしい技はなかった。

 

何せ時間は一ヶ月、更に出久は喧嘩とか暴力とかそういった経験が皆無に等しく、それを理解していた代表は、身体で()()()()()を破壊するための方法を身に付けさせる前の基礎の基礎を出久に教え込んだ。

 

拳の握り方に殴り方、蹴る為の足と体の使い方

 

防御の仕方と受け身、避け方や重心の置き方や息の入れ方等々……。

 

オールマイトとの戦闘訓練でそれを反復し続ける日々は、出久の中の身体操作能力を飛躍的に向上させる切っ掛けにはなったが、結局出久が一ヶ月で身に付けられた事は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だけだった。

 

 

「ぬんっ! はっ!」

 

 

鋭い踏み込みからの腰の入った正拳突きはロボットである仮想敵の頭を吹き飛ばし、更に背後からの攻撃を流れるように身体を回して盾でさばきながら、そのまま放った蹴りが背後にいた敵の胴体を捉えた。

 

身体に染み付いた動作は正確で、出久の手足から繰り出される一撃は次々と仮想敵を撃破していく。

 

制限時間は既に半分を切った中、出久は移動しながら破壊した仮想敵の数は十五を越えていたが、どうにもやりづらさを感じていた。

 

 

「大丈夫ですか?……キツいなら演習場の端の方に逃げるとあいつらは追ってこないみたいです」

 

「あ、ありがとう」

 

 

唖然とする受験生をそのままに走る出久。

 

仮想敵は比較的簡単に倒せるが、性分ゆえに倒れてる人を見ると助けてしまうので、思ったよりも仮想敵を倒せていない。

 

 

今ので既に三人目……他の受験生も一対一なら仮想敵を倒せても、いきなりの不意打ちや挟み撃ちでやられる人が散見される。

 

(気配を読む訓練とかしなかったのかな?……でもこのままだと僕もポイントが危ない)

 

走り続ける出久はポイントが稼げそうだが避けていた、激戦区になりそうな中央のエリアに移動を開始すると。

 

 

ボーーーーーーーン!!!

 

 

出久がその大きな音が出た方角に見たのは、演習場のビルに()()()()()超巨大ロボットの姿だった。

 

 

 

 

超巨大ロボットが出てくるちょっと前……

 

 

「あの受験生……並の鍛え方をしてないな」

 

「試験開始からずっと走って戦って、誰かを救ってまた走ってる……それなのに殆ど息も切らさず汗もかいてないなんて」

 

「しかしあの戦闘技術は驚嘆に値する」

 

「盾の使い方が玄人のそれだよ、どんな訓練をしたらああも使いこなせるようになるんだ?」

 

(私が訓練した!……言いたい……ああ、言いたい……)

 

 

モニターを見ている試験官達を他所に、顔をムズムズさせて笑うのを我慢するオールマイト。

 

だが真価が問われるのはここからだ。

 

試験官の一人が押したボタンと共に起動するお邪魔ギミックに、モニター越しには逃げ惑う受験生達。

 

そして暫くしてお邪魔ギミックが起こした亀裂に足を取られた受験生の女の子が映っていた。

 

 

 

 

 

 

緑谷出久は0ポイントと言われた超巨大ロボットのお邪魔ギミックが演習場で暴れているのを見ている。

 

その巨大さゆえに足を下ろすだけで演習場の道路をブッ壊し、周囲の建物を破壊していくそれは、正に圧倒的脅威でしかなかった。

 

暴れまわるお邪魔ギミックの周囲から逃げる受験生達の中、出久は幸か不幸か()()を見つけてしまった。

 

 

「いったぁ…」

 

 

破壊された道路に足を取られて転んでいる女の子。

 

顔には疲労が伺え、今すぐ立ち上がって走ることは難しそうな彼女に手を差し伸べる者はいなかった。

 

圧倒的脅威・倒しても0ポイント・メリットは一切無し

 

出久の判断は即断即決だった。

 

 

(限界一杯……ワン・フォー・オール・フルカウル……1()0()()!!)

 

 

試験中は()()5()()の解放状態を維持していた個性を出久は今出来る限界一杯まで解放する。

 

グンと加速する景色と、みるみる近づくお邪魔ギミック。

 

そして女の子の上にお邪魔ギミックが足を上げたのが見えた時、出久は左腕の個性の解放を強め、少しずつ身体に慣らしていく。

 

(ワン・フォー・オール・チャージインパクト……4()0()()!)

 

0から100ではなく、1から徐々に解放して力を溜めていき、ワンアクションだけ身体に負担なく出せる常時解放の限界以上の一撃……それがワン・フォー・オール・チャージインパクトである。

 

女の子の前に飛び込んだ出久は、お邪魔ギミックの足を力を溜めた盾を着けた左手で弾き返した。

 

 

 

バギャアアァァァァン!!!

 

 

「えっ?」

 

 

 

そのあまりの衝撃に足がひしゃげてふらつくお邪魔ギミック。

 

それを見て固まる彼女

 

 

「いくぞ!」

 

 

更に溜めてた両足を踏み込みに使い、お邪魔ギミックの顔面?まで出久は高速で飛び上がった。

 

左手と両足の溜めは無くなり、残るは右手だけ……

 

(僕の限界……その一歩先を)

 

限界を越える力、鍛えつづけた筋肉が限界を超えた反動を完璧に押さえつけるために急激にパンプアップし、ワイシャツが弾け飛んだ。

 

 

「50%……スマアアァァァァァァァッシュ!!!」

 

 

それは如何なる状況をも変えうる、あのヒーローの一撃のようだった……

 

 

 

 

「すげえ……何だよあの一撃」

 

「殴った音がここまで聞こえてきたぞ」

 

「増強系だろ?……それでも異常だよあの強化率は」

 

「まるでオールマイトみたいだったな……」

 

「っていうか何で上半身裸なんだ?」

 

 

プレゼントマイクの終了の掛け声を聞いた出久は十数メートルの空中から軽々と着地すると顔を青ざめた。

 

 

「ワイシャツが破けちゃった……これ結構高いんだろうけど代表は許してくれるかなぁ……」

 

 

身体に僅かに付着したワイシャツの残骸を見てため息を吐く出久。

 

 

「あの……」

 

「ん?」

 

 

そして後ろからかけられた声に気がついて振り替えると、此方を見てモジモジしているさっき助けた女の子がいた。

 

 

「あの……さっきはありがとうございました!」

 

「は、はい……」

 

 

頭を下げた彼女は額に汗をかき顔を真っ赤にしながらそれじゃあ!と、そそくさとこの場を離れていく。

 

キュン!

 

(女子と喋っちゃった……)

 

確かに形はどうあれ女子としゃべった出久。

 

だがふと気がつく。

 

弾けとんだワイシャツ。

 

見ればわかる上半身裸のマッチョ。

 

 

 

 

 

……………

 

 

 

 

(う、うわ~~~~~!!!)

 

 

 

 

 

その後の出久は上半身裸状態から上にジャケットとコートで身体を隠しながら、こそこそと帰ることになったのだった。




ワン・フォー・オール・チャージインパクト

この作品のオリジナル技、所謂溜め攻撃である。

実は50%のスマッシュだったが威力は原作位かそれ以上あったりする。

理由は出久君が身体を鍛え上げたおかげで基礎出力が大幅に上がった為で、反動を筋肉で押さえ込んだので腕が犠牲にならずにワイシャツが犠牲になった。


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渡された篝火

今作品最大の原作ブレイクのひとつです。


シャカシャカシャカシャカシャカシャカ………………

 

 

「出久……お母さんには十分粉が混ざってるように見えるけど?」

 

「あ……そうだね」

 

 

意識が半分飛んだ状態でプロテインシェイカーをふっていた出久はそれを飲んだ

 

 

「因みに貴方それ三杯目よ」

 

「え?……あ、あれ? そうだった?」

 

 

出久が雄英の試験から帰って来て一週間……オールマイトや代表とも連絡が取れず、出久はそのモヤモヤを筋トレをして発散する日々を送っていた。

 

特に目標も定めずに延々と高重量のダンベルを上げ下げする日々は、出久の肩周りをまた少し太くする。

 

だが次の日、雄英の封筒から届いた封筒を開けた出久は、深夜にもかかわらずに雄叫びをあげることになった。

 

 

 

緑谷出久……雄英高校合格

 

 

 

「それで……お話とは?」

 

 

すっかり綺麗になった海浜公園でトゥルーフォームのオールマイトから呼び出しがかかった出久。

 

実技の評価はヴィランポイント30ポイント、レスキューポイント46ポイントで総合二位に。

 

原作よりもレスキューポイントが低いのは出久の能力が()()()()のが原因である。

 

人はよりドラマチックなシーンに感動するので、プロヒーロー達の評価が出久の活躍っぷりのせいでお邪魔ギミックを倒したときに()()()()()()()()()という空気が生まれてしまった。

 

それが点数の伸びに繋がらなかったのである。

 

だが一位の爆豪と1ポイント差でも、試験官の中では今期の()()()()()よりもポテンシャルは上かもしれないという評価を得た出久。

 

それがこの世界で大きなバタフライエフェクトになっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「緑谷少年。……実は私ね……ヒーローを引退しようと思っている」

 

 

オールマイトからの一言に出久は一瞬空気が止まった様に錯覚した。

 

 

「な……何で、ですか……オールマイト」

 

 

出久の震える言葉にオールマイトはニッコリ笑った。

 

 

「見つけたからだよ」

 

「見つけた?……な、何をです?」

 

「私の後を任せられる男をさ」

 

 

しっかりと目線が合っているオールマイトと出久。

 

出久は自惚れでも何でもなく、今、自分がオールマイトの後継としてバトンを渡されたことを自覚した。

 

憧れであった。希望であった。生きる上で目指したい頂であった。

 

 

「今後私は雄英高校で君や、君と共に切磋琢磨する雄英生を育てる教師として頑張るつもりだ」

 

「で、でも身体は治ったんですよね!? なのにそんな急に……気持ちの整理がつきません!」

 

「急じゃないさ……5年前に負傷したあの時、あそこで私には引退のチャンスがあった」

 

 

オールマイトは寂しげに笑う

 

 

「しかし私はそれでもやれると……こうしてズルズルと時限爆弾を抱えながらヒーローをやっていた……疲れた……とは口が裂けても言えない状態を何年も続けていた。プライドだったと今では思えるよ」

 

 

オールマイトはふう……とため息をつく

 

 

「ヒーローとしての()()()があるなら今がその時だと私は思っている……私はゆっくり衰え消えていき、そして役目を終える存在だと自分で自分を決めつけていたんだ……でもね、神代君に言われたよ」

 

「……代表に何を言われたんですか?」

 

 

オールマイトは出久に目を合わせてその言葉を言い放つ。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

その言葉に出久の背中に這いずるような悪寒が走った。

 

 

「ヒーローは素晴らしいが、制約でがんじがらめの窮屈な存在さ……人は見捨てない、弱きを挫かない、誰かを助ける為に自分を省みない自己犠牲の精神を持って苦難を退ける高潔な者達……そんな者だけだったら良かったんだけどね」

 

 

ナンバー1ヒーローの独白は続く。

 

 

「名声、金、権力、野心……公的に個性を使いたい者、強すぎる個性ゆえに社会に馴染めない者、人からの限り無い称賛や尊敬の眼差しを受けたい者……プロヒーローだって褒められた理由でやってる人間なんて、案外少ないもんなんだよ」

 

「それは……なんとなくわかります」

 

 

出久はヘドロ事件のプロヒーロー達の対応を思い出した。

 

 

「そして悪意にはヒーローもヴィランも関係がないんだ。善悪じゃなく、人の心の中の闇が悪魔を産み出すことを覚えておいてほしい……」

 

「……はい」

 

 

出久は神妙な気持ちで答えた。これがオールマイトがナンバーワンヒーローとして授ける最後のアドバイスかもしれないから。

 

 

「私の引退が発表された時、私が蓋をした悪意達が吹き出し始めるだろう……そしてそれを止められるのは、君や君が出会う仲間達……そして神代君に掛かってるのかもしれない」

 

「僕と僕が出会う仲間……あと代表ですか?」

 

「ああ、神代君は私から見てとっておきの()()()()()だよ。何て言ったって彼は個性()()でどうにか出来る存在じゃないからね!」

 

「……言えてますね」

 

 

出久は苦笑した、あの人の無茶苦茶っぷりを何度も経験した身としては確かに切り札に成りそうだから。

 

それを見たオールマイトは茶目っ気たっぷりにウインクしながら

 

 

 

 

「それに私は一回でいいから見てみたいんだ……彼の本気って奴をさ!」




一応補足しますとこの作品には一定のノルマみたいなものを考えてまして、原作よりも早い段階でノルマをクリアして完結に持っていこうと思ってます。


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平和の落日

No.1ヒーロー引退する!!

 

 

 

彼の事務所から関係各所に送られた引退を表明する旨が書かれた紙が送られた時、あらゆるメディアやネットでその紙面が連日連夜報道され、世界を駆け巡る。

 

オールマイトの引退……数年前に負った傷が悪化し、個性の使用が肉体に多大な負担を抱えることになり、引退を考えていた事を丁寧な文章で綴られた内容に、それを読み上げるニュースキャスターすら涙した。

 

嘘なんじゃないか?

 

引退詐欺なんじゃないか?

 

または未だ見ぬ巨悪を欺く作戦なんじゃないか?

 

錯綜する情報に、憶測が憶測を呼んで既にオールマイトは死んでいる説なんて話が飛び交う始末。

 

世界中がたった一人の動向に躍起になる中、ついにその渦中のヒーローは記者会見を開くことになり、会見にはあらゆるメディアが引退する平和の象徴の姿をカメラに納めようと集まった。

 

あらゆるメディアが緊急生特番としてオールマイトの引退記者会見を放送する。

 

そして世界は()()平和の象徴の姿を見ることになった。

 

 

 

 

 

「うそだろ……」

 

 

カメラ越しのその姿に、幻なんじゃないかと目視で確認するカメラマンだが、その人物に変化はない。

 

今まで自分達が見ていた彼とは違い、今の立ち姿は亡霊そのものだった。

 

筋骨隆々……世間では画風が違うと言われたナチュラルボーンヒーローはまるで別人のように痩せ細り、立っている姿に全く安心感が感じられない。

 

 

「……この姿だとわからないでしょう」

 

 

そう言った彼は気合いを入れたかと思うと、一瞬で自分達がいつも見ていた大きな身体になっていた。

 

しかし……。

 

 

「……グッ……すまないが時間のようだ」

 

 

それは空気が抜けるように痩せ細った亡霊のような姿に戻っていく。

 

 

本当に重症なのか?

 

 

真実を知りたくて来た記者達も、言葉がない。

 

彼はゆっくりと深呼吸をしながら記者会見用の席に座り、テーブルに置いてあった水を一口飲んだ。

 

 

「あの姿自体が個性の様なものでね、今の体だと数分……力なんてとてもじゃないが発揮出来ない状態さ」

 

 

その言葉を皮切りにオールマイトは今後の自分の事を話していく。

 

数年前から肉体は限界を迎えていたこと。

 

そしてここ数ヵ月でその限界も越え、個性を使うだけで肉体に多大な負担がかかるようになったこと。

 

そしてもう個性を使った戦闘も不可能で、これからは無個性の様に生きていくしかないということを。

 

余りに辛い話であった。平和の象徴が居なくなる……それが現実味を帯びてきていた。

 

オールマイトからの説明が終わると今度は記者達の質問に移行していく。

 

 

 

 

今後貴方は引退後、何をするのか? という問いに。

 

雄英高校の教師として後進の育成に携わることになると答えたオールマイト。

 

ざわつく記者達だがその身体で何を教えるのか? という問いには。

 

実際の訓練には他のプロヒーローと協力して生徒を教えることになる、これ迄長い間プロヒーローとして活動していた経験を、少しでも生徒に伝えることができたらいいと思っていると、答えるオールマイト。

 

こうして質問は多岐にわたり、No.2の事や今後のヒーロー情勢、引退後の結婚の話なんてのも飛び交った。

 

オールマイトは終始穏やかに話し、記者の際どい質問もいつものジョークでさらりとかわす。

 

体が細くなり、存在感が無くなっても彼は彼だと思わせる会見だったが。

 

 

「そろそろ時間なので最後に一言言わせてほしい……」

 

 

オールマイトがそう言って顔を引き締めた。

 

そうなると未だ質問をしたかった記者達も押し黙った。

 

 

「私がヒーローとして過ごした長い時間……後悔することも多かったが、それ以上にやってて良かったと思える瞬間が幾つもあった。危険もあったし、悔しさに帰って涙を流すこともあったんだ……だから、今いるプロヒーローとヒーローを目指したい者達へこの言葉を送りたい」

 

 

オールマイトは気合を入れるとマッスルフォームへ変わる。

 

 

Plus Ultra(更に 向こうへ!)……残念だが私はここまでだ……だから私を超えていけヒーロー……それを私は……グフッ!」

 

 

そこまで言い切ったオールマイトのマッスルフォームが解け、その場で崩れ落ちる。

 

 

「オールマイト!?」

 

「まずい! カメラを止めろ!」

 

「救急車だ!救急車をよべ!」

 

 

それを世界中が見て、平和の象徴が終わったことを嫌でも人々は感じ取った。

 

 

後日各新聞の一面にはオールマイトの写真がデカデカと載っている。

 

 

笑っている彼、亡霊のような彼、いつもの決め台詞を言う彼、そして崩れ落ちた彼も。

 

紙面を彩る彼は多種多様で、その存在を惜しむ声が世界に広がった。

 

世間がオールマイトという偉大な存在を振り返り、彼の作った平和を実感している時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼が蓋をしてきた、悪意が吹き出そうとしている

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最高の演技だったろ?」

 

「意外と俳優もいけますね、オールマイト」




次回 代表がウォームアップを始めたようです。


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人材を発掘せよ!

この話も原作ブレイクです


オールマイトの引退……それは世界に対して多大な影響を与える事になる。

 

彼を見ていた一般人は悲しみ。

 

No.2は物に当たり。

 

ヒーロー殺しは壊れる現実を思い、泣き笑いを起こし。

 

彼を恐れていたヴィランは喜び。

 

そして彼のせいで潜伏していた巨悪的存在は動き出す。

 

最初の変化はイナゴのように木っ端ヴィラン達が蠢き始め……それに強烈なカウンターを叩き込む者達の活動が始動する。

 

 

 

 

 

 

 

オールマイトの引退劇から一週間も過ぎると、まずヴィランによる軽犯罪が多発し、時間と共にその犯罪規模はエスカレートしていく。

 

 

 

 

これもその一つで前方が爆発する現金輸送車、原因はヴィランによる襲撃だった。

 

犯行した人間は四人で二人が個性持ち。

 

爆炎系と電気系、そして無個性ゆえに入手経路は謎だが拳銃で武装しているのが二人。

 

現金輸送車の前輪は爆炎系の個性の攻撃で無くなり横転、横転した車から警備員が悲鳴をあげて逃げていく。

 

犯人達が横転した現金輸送車から現金を盗み出していると、サイレンの音が鳴り響き、複数の制服警官と一人の私服警官が現れた。

 

しかしニヤリと笑い合うヴィランの四人組たち。

 

この世界では警察官というのは犯罪の取り締まりにおいて個性は使うことが出来ず、もし使えば服務規程違反として処罰されるため、個性を使うヴィランに警察官は対抗出来ず、プロヒーローが鎮圧したヴィランの身柄を預かるヴィラン受け取り係と揶揄される不名誉な組織になっていた。

 

 

 

今までは。

 

 

「北村警部! どうやら個性能力者と無個性の混成チームみたいです」

 

「ならば丁度いい、()()()()()()には絶好の相手だな」

 

 

北村 海(きたむら かい)

 

 

凄腕の警察逮捕術の使い手で、新人警官の教導も行う人物。

 

警察内部でも数人しか出来ないヴィランを素手で制圧した経験のある人物である。

 

 

 

事は数か月前……()()()()()から警察側に特殊装備の貸し出しの提案が届いた。

 

それは()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()装備であり、警察関係者は驚きを持ってその装備のスペックデータを貪るように閲覧した。

 

装備自体が高額で特殊なシステムゆえに整備や修復、ヴィラン側の情報漏洩も考慮して販売ではなく貸し出しとされた()()()を見た警察官達はその装備に希望を見る。

 

装備可能な資格を手に出来る者はきっかり100人。

 

そしてその恐ろしい倍率の席を手にいれた装備資格者は警察内部でも身体能力と戦闘技術、そして高い倫理観を持った()()()()()()()()達であった。

 

北村警部は腰につけていた()()()()()された警察バッジをヴィランの四人組に向けた。

 

バッジにはSpecial Police Associationを略したSPAの文字と、その文字の後ろにデザインとして()()()()が描かれている。

 

 

「対ヴィラン戦闘装備、承認申請!」

 

『申請受諾、許可します』

 

「コール!ゲシュペンスト!」

 

 

北村警部の掛け声にバッジに内蔵されたAIが返答し、超小型レーダーがほぼ一瞬で警部の居場所を特定。

 

後方に待機していた大型トレーラーから自動で対ヴィラン戦闘装備が飛行する。

 

高速で飛行してきたその装備は、()()の時間を稼ぐためにスモークディスチャージャーを地面に発射しながら北村警部を後ろから抱き締めるように()()()()()

 

濃密な煙の中で白黒のモノトーンの亡霊という名の切り札が、ウサギの耳の様なバイザーにデザインされたパトランプを光らせながら起動する。

 

唖然とするヴィラン四人組、ヨッシャー!と歓声を上げる制服警官たち。

 

 

「お前達……全員逮捕する!」

 

 

バイザーの奥に隠れたツインアイが、正義を成すため光を灯した。

 

それは緑谷出久が使ったゲシュペンストアーマーのデータを参照し、個性が使えない警察官達のために改良した新装備。

 

名をゲシュペンストアーマーP(police)型

 

見た目は出久の使っていた仮面ライダーっぽいシルエットからほぼ原作の人形機動ロボットに近いシルエットに変わり、無機質な威圧感を周囲に振り撒いていた。

 

 

何が何だか解らないが、とにかくヤバイ!

 

 

個性を持っていた二人は直ちに個性を発動。

 

一人は爆炎を、一人は電撃を放つがゲシュペンストアーマーP型の複合装甲には傷一つつかず、残りの二人の銃弾も豆鉄砲と大差はない。

 

そして。

 

 

「歯を食いしばれ……ジェットマグナム!」

 

 

一瞬で加速したゲシュペンストアーマーP型は右手のプロテクターに装着された三本の特殊警棒を起動し、爆炎の個性の男に右ボディブローを腹にぶち当てると同時に三つの衝撃が爆炎の男に襲いかかった。

 

三本の警棒が時間差で衝撃を叩き込むこの兵装は、対象の人間の強度をAIが自動で計算し、()()()()()()()()()()()()()()のダメージを与えるという、スパロボ的にはオートで【てかげん】する一撃である。

 

そしてあまりの苦痛にゲロを吐きながら意識が飛んだ爆炎の男。

 

それにビビるもう一人の個性もちは、いつの間にか間合いに入っていたゲシュペンストアーマーP型の左のジェットマグナムに同じく撃沈する。

 

残るは無個性二人だが、危険と判断して既に逃走を図っている。

 

 

「無駄な事を……ワッパービット!」

 

 

北村警部の音声入力によってゲシュペンストアーマーP型の腰のスカート部分に備え付けられた手錠型遠隔装備のワッパービット計四つが射出される。

 

各種センサーによって三次元的な動きをする空飛ぶ手錠は逃げた無個性の二人の手足に装着されて身動きを封じこんだ。

 

 

「状況終了……こちらに怪我人は無く、敵ヴィランも全員制圧完了か……」

 

『北村警部、装備の脱着をしますか?』

 

「頼む」

 

『了解しました』

 

 

AIの自動音声が答えるとアーマーから空気が抜ける音が響き、胸部装甲が開くと北村警部が飛び出した。

 

 

「おっと……服にはシワ一つない……着心地も問題なし、ホントに大した代物だよこいつは」

 

 

北村警部のバイタルをチェックし、そのままゲシュペンストアーマーP型は空を飛行していく……恐らく自動運転で大型トレーラーに戻るのだろう。

 

そして北村警部の後ろから声がかかった。

 

 

「北村警部!…俺感動しました!…あれが俺達が使う次代の平和の象徴なんですね!」

 

 

今回北村警部に帯同していた制服警官の一人、伊達流星(だて りゅうせい)巡査がキラキラした目でやって来た。

 

北村警部は呆れた顔で。

 

 

「馬鹿言うな流星! あれは支給された中でも()()()()()()()奴だ。百人の資格保有者の中には()()と呼ばれる大災害レベルの個性能力者に対抗できる正真正銘の切り札が有るらしいからな」

 

「あれで性能が一番低い!? 特機なんて何と戦うつもりなんですかね?」

 

「さてな……かつて“超常黎明期”において存在した、【磁力の王】や【災害の創造者】、【悪の帝王】とかと戦うんじゃないか?」

 

「……それってお伽噺の人物っすよ? ナマハゲみたいな人達を例にあげてもピンとこないっすよ北村警部~……」

 

「おいおい……事実は小説よりも奇なりって言うだろうが? 取り敢えず捕まえた奴等を留置所に送ったら飯いくぞ流星! いつものラーメン屋だ」

 

「了解っす!」

 

 

こうした光景が町中で行われ、木っ端ヴィラン達はゴキブリホイホイにかかるように捕まっていく。

 

そして彼等は次々捕まりながら、二度と個性による犯罪が出来ないように、最近警察に支給された個性没収装置に個性を没収されながら刑務所に入っていくのだった。




いつかゲシュペンストアーマーの細かい性能は書きたいと思ってます。


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人材を発掘せよ!2

今回は会話文が非常に多いです。


「市民の警察への反応はかなりよくなったようだな」

 

 

そこは警察内部でも上位の者達が使う会議室の一角。

 

 

「オールマイトが引退するというタイミングでの装備の投入はセンセーショナルゆえに、反対の声を押し流すことが出来たのが良かった」

 

「だがプロヒーローからしたら堪ったものではないだろう? 自分の仕事が奪われると思われそうだ」

 

「だから配備されている数も実際はかなり減らしてヒーローの需要を減らさないように調整しているんだ……このまま需要が無くなってヒーローからヴィランに転向なんてされたら本末転倒だろう」

 

「更に問題は個性没収装置だ……あれは本当に個性の没収なんてしているのか?」

 

「正確には書き換えだという話だな。個性が何らかの理由で変質するのは知ってるだろ?」

 

「確か手の接触型の個性持ちが、ごく稀にだが手を失った後に足の接触型になったり、尻尾を失った異形系の個性持ちの背中から翼が生えたりする現象だったか?」

 

「そうだ。その対象の個性因子を採取し、それをあの装置で()()()()()()()()()()に書き換えて注入すると、その変質現象を利用して個性を書き換えることが出来るらしい……更正すれば採取した因子からまた元の個性因子の細胞を注入して元通りというわけだ」

 

「眉唾物の技術だが、効果はどうなんだ?」

 

「実際に装置を使われた全員が注入された個性に書き換えられていたよ……手のシワが若干増える個性、踵の角質がやや固くなる個性、耳毛がちょっと増える個性とかにな……勿論個性を戻す作業も見たが……確かに個性は戻っていた」

 

「………ほう……凄い技術じゃないか」

 

 

説明を受けていた者は感心した声を出した。

 

 

「同質細胞の注入によって起こる因子の変質現象のせいか、拒否反応もなく異形系の者も異形になる前の身体に戻っていたな……個性を消すのではなく個性の変質を利用した書き換え……肉体の負担を考えた上手いやり方だが、命名を微妙に変えたのは書き換えという部分にあの()のイメージが付くからだろう」

 

「オール・フォー・ワンか? 我々としては生きていてほしくはない人物だがな……」

 

「しかし個性没収装置は民間の反発が凄いことになると思ったら、意外と落ち着いていることに驚きだ」

 

「それもオールマイトの記者会見が効いているよ……頼れる象徴が居ないからこそ厳しい処罰もやむを得ないと世論は納得している」

 

「引退してなお、平和の象徴の威光は衰えずか……」

 

 

この場にいる人間達としては、有り難い話題ではあった。

 

 

「しかし警察官のイメージアップと同時にヴィラン達の隠れ家の通報案件も増えて今現場は大わらわだろ?」

 

「だが現場の声は概ね好評だよ。いつも受け取りだけして帰る現場よりよっぽど遣り甲斐があるってな……それに件の装備の存在がでかい」

 

「ゲシュペンストアーマーか……ありゃあ駄目だな……一度着たら誰でも着たがるし欲しがるだろう」

 

「治安維持という名目で警察組織にだけ貸し出しているのも装備の擁護に一役買っている所があるが」

 

「全てはあのCEOの思惑通りというわけか……」

 

「よせよせ、今あの人にへそを曲げられて見ろ? 下からの突き上げで俺達の居場所が無くなるだけだぞ?」

 

「公安はマークしているのか?」

 

「無理だろう?……昔それでCEOを怒らせて公安のヤバイところの人材を引き抜かれたと聞いたぞ? 今あそこは内部告発で組織の上層部ごと解体されるのを警戒して顔色を伺う日々だそうだ」

 

「いい気味だな。あいつらは個性が使えて此方は駄目ってのが俺は気に食わなかったんだ……だが公安から人材を引き抜くとかどんな手管を使ったのやら」

 

「あのCEOは不気味だが、会社自体はなんら瑕疵がないように見えるのが怖いな……叩けば何か出てきそうだが、そういう探り屋をあそこは相当警戒してるから情報を抜き取るのは相当に難しいと聞くぞ?」

 

「はっきり言ってあのまま善意の協力者として装備の貸し出しをし続けて欲しい所でもあるよ。あの装備の値段を見たか?」

 

「ゲシュペンストアーマーが一機で400億程度だそうだな……性能を考えるなら最新の戦闘機位の値段でも妥当な所だろう」

 

「しかしそんな高額なものポンと100も貸し出すとは……金持ちってのは突き抜けるとすごい感性になるもんだな」

 

「それもオールマイトのお陰らしいぞ? なんでもゲシュペンストアーマーや【アイアンコング】の攻撃モーションや稼働データに協力してもらったお礼だと」

 

「まさに神様仏様オールマイト様か……」

 

「だがゲシュペンストアーマーが400億ならあの化け物みたいな特機はどうなるんだ?」

 

「知らないのか? お値段は原子力空母とトントン位だと」

 

「ひえ~」

 

「それゆえにあの装備を狙う組織は増えると思うが……あの会社には()()()()()()がいるからなぁ……」

 

 

最近の会議は概ね支給された装備と世論の動向に対する対処を話し合うことが多いが、どれも警察にとってはプラスの材料が多く、上層部にとっても気分的に楽な日々が続いていた。

 

 

「後はCEOがヴィランや個性主義勢力に殺されないことを祈るしかないが……」

 

「余計なお世話だろう? あの会社の初めの頃、なんて言われたか忘れたか?」

 

「確か“あらゆる組織の墓場”だったな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

それはとある整備工場の敷地内……警察に配備された例のロボット達を整備している工場であり、今や表の組織も裏の組織も注目する施設。

 

そこは代表が作った会社でも最重要機密が眠る場所でもあった。

 

そしてこの施設から命からがら逃げるもの達……彼等はいわゆる企業スパイでありロボットを奪取、又はデータだけでもいいので盗んでこいと言われたレアな個性を持つ凄腕たちであった。

 

 

「くそが……金に釣られてきたらとんだハズレくじだ!」

 

 

【収納】という物の大きさや重さに関係なく体内に一定量収納できる男は毒づいた。

 

一緒に潜入した【煙化】という強い個性を持つ女が機密がある敷地に入った瞬間、何者かにバラバラにされたのを見て、一目散に逃げたのだ。

 

一瞬だけ見えたシルエットは銀色の髪に銀色の目の女だった。

 

顔の造形は()()()()()よく思い出せないが、恐ろしい敵である。

 

やられた煙化の女は無意識でも煙になれるためおそらく無傷だが、バラバラにされると気絶した状態で元に戻ると聞いている。既に拘束されているにちがいない。

 

此方は複数の組織の同時進行だったが、ここに来る前に偵察系の個性の奴が何人も()()()()()()()()で簀巻きにされていたのを見ている。

 

此方は煙化と収納の個性で切り抜けられたが今自分が逃げられているのも警告のつもりなんだろう。

 

 

“次はない”

 

 

流石は闇の世界でも名が知られる防諜能力を持った会社だ……男は雇い主に改めてここのヤバさを伝えるべくアジトに急ぐのだった。

 

 

 

 

「どうですか首尾は?」

 

「まあまあだね。中を見れそうな奴だけ拘束したけど殺すつもりはないんだろう?」

 

「ええ勿論。殺さなくていいものは殺さないですし、もし殺すのであれば“専門”の者がいますから貴方は道理に沿った行動をしてくれればいいんです」

 

「子供やヒーローにあんだけ心を砕いているのにあんたはそういう所はきっかりしてるんだな」

 

「これでも会社を経営してますからね、勿論貴方達社員にも心を砕きますとも」

 

「いまだに自分が会社員してるなんて実感はないけどなぁ……」

 

「勿論これは時間外労働ですから残業手当の申請をしていって下さいね? 残念ですが個性の使用には手当がつけられないですけどね」

 

「……なんかその言葉、凄く会社員してる気分になったわ」

 

 

そう言って笑う彼女に代表も苦笑しながら「私もです」と答えるのだった。




代表の得意技

使える人材の引き抜き

提供されている装備の内訳

高機動汎用型のゲシュペンストが7割

高出力ハイパワー型のアイアンコングが2割

特機と言われるハイエンドモデルが1割

デットリーコングはそのハイエンドモデルに入ります(特機の中では控えめの性能)

代表が言っていた切り札はそのハイエンドモデルを超えた化け物という名のなにかです。


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バタフライどころじゃないエフェクト

「……やはり今回は粒が揃ってる」

 

雄英高校1ーA組を受け持つ担任教師の相澤消太は今回行われている個性把握テストを見てそう呟いた。

 

雄英は生徒も教師も自由な校風がウリの一つで、教師一人に対する権限が非常に強い。

 

その為担任となった相澤先生は学校に入学した際の色々な行事を合理的判断に基づいて省略し、早速授業を始めることになった。

 

そして始まったのが個性を使った体力テスト。

 

最初に個性が使えると浮かれていた生徒も()()()()()()発破をかけたので真面目に受けているが、そこで目立っている生徒が()()

 

 

「しいいねえええぇぇぇぇ!!」

 

 

汗腺のニトロの爆発を圧縮してコントロールし、ソフトボールで()()()()()をした爆豪勝己

 

そして

 

 

「おおおおぉぉぉぉぉ……」

 

 

見るものが見れば圧倒される筋肉量、ボサボサの緑の髪から覗く目からは熱量を感じるほどの何かが放たれている。

 

瞬間。

 

 

「……だりゃああぁぁぁ!!!!」

 

 

脱力からの緊張で身体中の筋肉がボコリと蠢き、右腕から放たれたボールは空気を引き裂くような音を出して飛んでいく。

 

ピピ……

 

 

「……940メートルだな」

 

「よっしゃああああ!!!!」

 

「むう……届かなかったか……」

 

 

そこには歓喜する爆豪と投げるときに何故か変わっていた顔の画風が元に戻っていく緑谷出久の姿があった。

 

 

「緑谷出久……個性は去年起きたヘドロ事件まで無個性だと診断されており、その後この高校を受けるにあたって肉体改造を進めていると無個性だと思っていた個性が判明。筋肉量に対して、一定割合の筋力が上乗せされていく個性であり、個性の名前は筋力強化……去年から約一年間で身長が15センチ以上伸びて典型的なもやしっ子体型から今の身体にいたる……おい緑谷」

 

「は、はい」

 

「お前のその()()()()()()を教えたのは誰だ?」

 

 

出久は代表に暗記させられた辻褄合わせの話を話した。

 

 

「ええと……神代表悟という人に全面的に協力してもらったんです……トレーニングから食事、栄養管理もやってもらいました」

 

「神代表悟……あのBig Dipperの代表か?……まあ、あの人ならやりかねないな」

 

 

相澤先生の言葉に出久が反応する。

 

 

「相澤先生は代表のこと、何か知っているんですか?」

 

「今は警察のあの装備で有名になったが、元々あそこは資源採掘と先端工学部品の下請けと、実は筋肉トレーニングの合理的な鍛錬法や個性に頼らない自衛術を教える部署を抱えた会社なんだ」

 

「代表無個性ですもんね」

 

「ああ、だからあそこの関連企業にある警備部門の人間は個性がなくても()()()()()のが揃っている……俺も何回地面を転がされたかわからん」

 

「相澤先生はあそこで拳法を習ってたんですか!?」

 

「拳法じゃなくて肉弾戦の技術を磨きにだけどな。お前と違って俺は個性が増強型ではないんだ……ほれ」

 

 

出久は相澤先生と目が合うと常時発動しているワン・フォー・オールが解除されたことに気が付いた。

 

 

「先生ってイレイザーヘッドだったんですね」

 

 

出久と相澤先生の話を聞いていた周りの生徒はコソコソと「そのヒーロー知ってた?」とか「アングラ系で聞いたことある」とか話している。

 

 

「見た感じお前は基礎の基礎だけ教わって技までいってないって所か……まあ俺の個性をくらって身体が萎んだりすることがないってことはその体になるまで努力したことは間違いないだろう」

 

「身体が悲鳴をあげ始めてからが本番だって代表に教わりました」

 

「合理的判断だが頭だけは筋肉に侵されるなよ……俺は脳筋って奴が好きじゃない」

 

 

相澤先生はそう言って他の生徒の測定に戻っていく。

 

 

「ヘッ……どうやらボール投げは俺の完全勝利のようだなぁ」

 

 

するとここぞとばかりに爆豪が出久にマウントを取ってきた。

 

 

「……まあ確かに負けたけど握力では僕のほうが高かったじゃないか。それにしてもいつの間に爆発を圧縮してコントロールする技術なんて身に付けたの?」

 

「てめえがそのクソ筋肉を太くしている間、俺が何もしないでいると思ってんのか?」

 

「なるほど……かっちゃんも努力は怠ってないんだね」

 

「うるせえぞデク!俺はモブとはちげえからな」

 

 

肩を怒らせてズンズン歩く爆豪に

 

((なんかちっちぇえんだよな、あいつ))

 

周りで聞いていた生徒の爆豪のイメージは定着し始めていく。

 

結局総合成績は峰田が最下位。出久が総合二位になり、相澤先生の合理的判断による嘘とわかってびっくりしていたメンバーと出久に負けてキレ散らかす爆豪以外は概ねこのレクリエーションを楽しんだと言えるだろう。

 

 

「どうだい今年の一年は?」

 

 

校庭から職員室に戻る相澤先生にオールマイトがトゥルーフォームで話しかけてくる。

 

相澤先生はオールマイトを見ても淡々と。

 

 

「今年は中々に粒揃いですよ。推薦入学の二人もそうですが、あの同じ中学の緑谷と爆豪はお互いを意識しているせいか、いい鎬の削り方をして伸びそうではありますね。特に緑谷はここ一年周りがどれだけ彼を磨き上げたんだと中学2年時の写真を見てビックリしましたよ」

 

「ああ、ここだけの話にしてほしいが……警察のあの装備の高速戦闘時のモーションパターンに彼は協力しててね」

 

「……見たことあるなと思ったら、動作のフォーム矯正をあのアーマーでしたんですか……随分贅沢な指導を受けていたようだ」

 

「その時に私も()()()()()()()()()()ゲシュペンストアーマーの一つを、私用の装備として融通してくれたんだよ。次の授業から()()使っちゃうから楽しみなんだ!」

 

「……いくら俺が合理的な事が好きでも生徒が可哀想だと思えてきますね……いくら現役の頃の貴方ほどの理不尽さはなくてもアレは生徒からしたら十分な絶望ですよ」

 

「なあに麦は踏まれて強くなるものだよ相澤くん!」

 

 

いい笑顔で言ってくれるなあこの人は……相澤先生はどうにも自分と合わないオールマイトの笑いを聞きながら職員室に戻っていくのだった。




オールマイトがアップを始めたようです。


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原作の1巻終了部分

それなのに大分話書いちゃった……。

いつ終わるのやら


「ふう、やっと終わった」

 

 

出久は何だか濃い一日だった雄英初日を終え、帰り道。

 

 

「貴方も帰る方角が一緒だったのか、緑谷さん」

 

 

(緑谷さん?)

 

 

出久は背後からの声にギョッとして振り返ると、自分と殆ど身長の変わらない眼鏡のクラスメイトがいた。

 

 

「確か飯田くんだったよね?……緑谷さんとかじゃなくて呼び捨てでいいよ」

 

 

初めて教室に入ったときに爆豪と言い合いをしてて名前を知ったクラスメイトで。自分が入ったあとに爆豪がターゲットを此方に移して絡んできたので話せなかったことを覚えている。

 

 

 

「あ、ああすまない……あまり同学年という気がしなくてね。それでは緑谷くんと呼ばせてもらっていいいかい?」

 

「うん、よろしくね」

 

 

内心同級生っぽくないのか自分……と未だに筋肉が成長している180センチのマッチョが黄昏れていると。

 

 

「お二人さーん! 駅まで? まってー!」

 

 

ツッテケテーと更に雄英から女の子が走ってくる。

 

出久はその女の子を見て試験中に上半身裸で対面したことを思い出しちょっぴり赤面した。

 

 

「君は∞女子」

 

(∞女子!!)

 

 

しかし飯田のボール投げで∞を出したゆえの覚え方に戦慄する出久

 

 

「麗日お茶子です! えっと飯田天哉くんに緑谷……デクさんだよね?」

 

「デク……さん?」

 

 

こっちもさん付けにちょっぴり傷つく出久

 

 

「え? だって爆豪って人がデクって呼んでたよね」

 

 

不思議がるお茶子に

 

 

「ああ……あれはかっちゃんが馬鹿にしてつけたあだ名というか……」

 

「つまり蔑称か……」

 

「えーそうなんだ! ごめん!」

 

 

出久の話に簡潔にまとめた飯田にそれを理解して謝るお茶子。

 

 

「でもデクって……「頑張れ!!」って感じで、響きがなんか好きだ私」

 

 

問一

可愛いと思う女の子から馬鹿にされてたあだ名が好きだと言われました。貴方はどうしますか?

 

出久の答え

 

「デクです!!」

 

「緑谷くん!? 浅いぞ!! 蔑称なんだろう!?」

 

 

余りの手のひら返しに飯田が突っ込むが

 

 

「コペルニクス的転回……」

 

「コペ?」

 

 

赤面する顔を隠すマッチョの出久改めデクの言葉を聞き取れなかったお茶子がいるのだった。

 

3人は雑談しながら下校する。

 

生まれてこの方無個性だから馬鹿にされ、中学3年生の時は怖がられたデクとしては初めての友達との登下校だったので内心は凄いウキウキであった。

 

だが侮るなかれ、ここは雄英高校……相澤先生はこう言っていた。

 

雄英は全力で君達に苦難を与え続けると。

 

その言葉の通り、苦難はわりかし早くやってきた。

 

 

 

 

 

次の日

 

 

「さて……皆席に着いてるかな?」

 

 

ついにやって来た午後からのヒーロー基礎学。普通に扉を開けて入ってきたのは、トゥルーフォームにスーツ姿のオールマイトだった。

 

そして初めて見るNo.1ヒーローの変わった姿にクラスの生徒は驚愕した。

 

 

「あれがオールマイト……」

 

「テレビで見た姿とおんなじだ」

 

「でも個性が使えないって話だしどんな授業をするんだろう」

 

 

クラスのザワつきも気にせずオールマイトは話し始める。

 

 

「それじゃあこの時間。ヒーローの素地を作るため、様々な訓練を行うヒーロー基礎学を始めようか……その前に」

 

 

オールマイトがポケットからリモコンを取り出してボタンを押す。

 

 

「君達の個性届と要望に沿ってあつらえた戦闘服(コスチューム)が届いている、」

 

「「「おおお!!!!」」」」

 

「今日のヒーロー基礎学は戦闘訓練……着替えたら順次グラウンド_βに集まるんだ」

 

 

 

こうして1ーAの生徒は更衣室で支給された戦闘服に着替えていくのだった。

 

被服控除。

入学前に個性届と身体情報を提出すると学校専属のサポート会社がコスチュームを用意してくれる素敵なシステムがある。

 

更にこれには続きがあり、自分や協力者によって作られた自前のコスチュームを用意することも可能である。

 

原作ではデクのお母さんの引子が入学祝いで手製のコスチュームを作っていたが、この世界では引子と()()()()が夜なべしながら作った()()コスチュームがデクに支給されていた。

 

 

「こ、これは……」

 

 

コスチュームケースには引子が見せてくれた緑色のジャンプスーツに、代表が用意したグローブにブーツと愛用している丸い盾。

 

そして異彩を放つ()()()()()()()()()が入っている。

 

金属っぽい質感でバックルはアーク・リアクターの入った何かの装置に、側面の腰部分には銃弾のようなシリンダーが左右3本づつ丸型のケースに収納されて合計6本ついていた。

 

コスチュームを着ながら一緒に入っていた冊子を読んでいくデク。

 

 

これを読んでいるということは君にコスチュームが渡ったと思って説明を残しておく。

 

引子さんと一緒に作ったそのジャンプスーツは超電磁繊維とオリハルコンとアダマンチウムの合金で作った特別製で、パワーアシストが無い代わりに君の個性の反動を抑え込む性能がゲシュペンストアーマーのインナースーツより3倍近く良くなっている。

 

グローブとブーツは純粋にアダマンチウム製。そして俺が夜なべして作ったのがそのベルト、名前を【アッセンブル・ドライバー】と言い。大変画期的な装備換装システムなんだが、最初は1番と2番と3番のみ使ってくれ。……というかそれ以外は調整中だ、すまん。

 

あとは君がこれから個性をバンバン使って100%使えるように努力するだけだ。

 

頑張れ!

 

 

「代表……」

 

 

出久は冊子を閉じてベルトをよく見ると中央のバックルに腰の銃弾状のシリンダーを入れる穴が一つ空いており、シリンダーにも番号が割り振られていた。

 

取り敢えずジャンプスーツに着替え、グローブを着けてブーツを履き、最後に腰にベルトを装着する。

 

冊子には基本は一番のシリンダーを入れろと記載されていたので、デクはバックルの上部にある穴にシリンダーを入れて、入れた状態から飛び出る形になるシリンダーのおしりについていたツマミを捻った。

 

するとベルトが()()する。

 

 

『アッセンブル!モード1!』

 

 

叫ぶ電子音声、そしてデクの疑問を他所にベルトのアーク・リアクターが青く輝くと体を青い光が走って覆い、体の各部位を守るようにプロテクターや肩や腰や胸部にアーマーが装着されていき、最後にはV字の飾りの様なヘルメットが装着された。

 

盾も装備すると色のパターンが違うキャプテン・アメリカにV字アンテナがついたような格好になったデク。

 

 

「凄い……まるで吸い付くように装着してる……」

 

 

軽く体を動かすが全く肉体の動きを邪魔しないそれらは、微細なナノマシンによって動作に最適な形に変形するように出来ている優れものである。

 

ベルト中央部のアーク・リアクターが常時ナノマシンの増殖エネルギーを供給しているので例え換装部分が破壊されても数秒で再構成され、限界を超える際に服が吹っ飛ぶデクには最適の装備と言えた。

 

こうしてクラスの誰よりも遅く着替えが終わったデクは、やや駆け足でグラウンドに向かうのだった。




アッセンブル・ドライバー

ワン・フォー・オールが使いこなせればゲシュペンストアーマーよりパワーが上になるデクの為に代表が作ったサポートアイテム。

肉体保護や免疫に優れ、そして破れた服を直すための1番シリンダー

屋内戦闘や隠密に使える2番シリンダー

屋外戦闘で特に空中戦を意識した3番シリンダー

それ以外は調整中だがどれもフィジカル特化のデクを補助するだけの機能が付いたものばかりであり、デクがどう工夫して使うかで真価が問われる装備である。

ジャンプスーツ改

デクのお母さんの引子が代表にデザインとかを相談し、代表が中身と素材以外はデザイン通りに作ったスーツ。

個性の反動を従来の3倍近い水準で抑え込めるスーツで耐久性にも優れている。

もしデクが無茶して破ってもアッセンブル・ドライバーの1番シリンダーのモードで直るので安心である。


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主人公だけに手を貸すわけじゃない

バンバン強化しようねー


「さて、ヒーローの卵たちは集まったかな?」

 

 

トゥルーフォームのオールマイトが1−Aのクラスメイトの面々を見ていると、デクのコスチュームが目に入った。

 

(わかりやすいなぁ)

 

頭部のV字アンテナのような飾りはマッスルフォーム時の自分の髪型を意識してるのだと察したオールマイト。

 

 

「あ、デクくん……何か凄い迫力あるね!」

 

「あ、ありがとう麗日さ……うおお!!」

 

 

そこには明らかにボディラインが出てるピッチリしたデザインの、青少年には中々に目に毒なスーツをきたお茶子の姿があった。

 

 

「要望はちゃんと書けば良かったよ……パツパツスーツになっちゃった」

 

「ヒーロー科最高」

 

「え、ええ……」

 

 

驚くデクとスッと出てきてサムズアップをして去っていく峰田。

 

峰田としては同士を作ろうとしてデクを見て、やっぱ怖くてクールに去ったのだった。

 

それからオールマイトから説明された授業内容は原作通りの対人戦闘訓練。

 

対戦するメンバーは同じで、対戦成績もだいたい一緒だった。

 

ただ一組、順番と対戦模様が大きく違うのがいた。

 

デク・お茶子ペアと爆豪・飯田ペアである。

 

 

「さーて……今回の締めを()()()()あの二組にした理由はわかるかい?」

 

 

生徒はオールマイトの問に即答する。

 

 

「そりゃあのデク()()がいるからじゃねえの?」

 

 

未だに距離感が掴めてないのでデクをさん付けする切島。

 

 

(さん?)「いいや、それもあるが見てほしいのは緑谷少年と爆豪少年さ」

 

 

一同オールマイトの言葉に疑問符が浮く

 

 

「彼等は個性もそうだが個性の使い方や装備の使い方を見てほしい……個性という()()()()で場を凌ぐのではなく、個性を道具として意識し、持てる装備と合わせながら使うことを君達は覚えていかなければならない……それが次のヒーローの姿になるからね」

 

「次のヒーローの姿?」

 

 

轟の言葉と共に生徒はモニターに注目していく。

 

 

 

 

 

 

「ふう……相手はあのデクくんか……僕達が敵う相手なのだろうか」

 

 

飯田はデクの個性を使った身体能力を見て勝てるのか不安になっていると。

 

 

「おい……クソ眼鏡だったなお前? クソ筋肉は俺が抑える」

 

「クソ眼鏡とは僕の事か?……しかし君はやけにデクくんに突っかかるな……これは訓練だぞ?」

 

「んなこたわかってる……全神経を集中しとけ、クソ筋肉ならとんでもねえ何かを使ってきてもおかしくねえ……」

 

「何かとは?」

 

「さあてな……俺は守るには個性が向いてねえ、だから一番ヤバい奴を潰すのが俺の役目だ……」

 

 

バリーン!

 

 

「こうやってなあぁ!!」

 

 

爆豪は半回転してコスチュームについていた()()を開放する。

 

音のした方に体を向けるとコスチュームに肩や足に付いている()()()から吸い込んだ空気と個性で使うニトロをコスチューム内で合成し、背面に付いた()()()から吐き出した。

 

 

ボッ!

 

 

そして屋上の窓からお茶子を《お姫様抱っこ》したままダイナミックエントリーしたデクは超高速ドロップキックで飛んできた爆豪を見て。

 

 

「ムン!」

 

 

ガキンと左の盾で受け止めつつお茶子をおろした。

 

 

「麗日さんは飯田くんをお願い! 僕はかっちゃんを!」

 

「うん!」

 

「よそ見かデクぁ!」

 

 

ボッ!ボッ!ボッ!とコスチュームに付いた幾つかの噴射口から爆炎を吐きながら小刻みに高速移動する爆豪は左腕の()()()()()()()()()()()()()()爆弾みたいな小手をデクに向けた。

 

 

「ファイア!」

 

 

爆豪はリボルバー内部に入っていた圧縮したガスをニトロと混ぜ、コンクリート程度なら軽々壊せる()()()()()()する。

 

デクは冷静に射線に盾を合わせ、思った以上の衝撃に内心驚きながら盾で防いで爆豪を見すえるデク。

 

 

「やっぱりその装備……代表がデザインしたものだね?」

 

 

確信を持って爆豪に聞くデク、明らかに高性能なコスチューム、そして胸で輝くアーク・リアクターの光。

 

爆豪は若干悔しそうに答えた。

 

 

「……っはん、()()()()()()()にだとよ」

 

「えっ?」

 

「おめえがあいつに出会って変わったように、俺にも変わるチャンスをやらなきゃ不公平だろうと言ったんだあのクソ代表は」

 

 

デクは昔代表が自分に言っていた言葉を思い出した。

 

俺にはそれはもう悪党と呼んで差し支えない友人がいてね。

 

そいつとはもう会えないけど、一緒に色々やってたらその友人は遣り甲斐を見つけて皆から尊敬される人になったんだよ。

 

だからかなぁ……やり直せそうな奴を見ると手を貸したくなるんだ。

 

ひどく懐かしそうに、そして誇らしそうに語るあの代表の顔を思い出す。

 

 

「……代表らしいや」

 

 

デクは微笑み、爆豪はニイと凶暴そうに笑う。

 

 

「あいつに貰ったコレを使いこなせる程度には地獄を見てきた……俺は天才だとあいつはいってたが……少なくとも俺は自覚できる位にはあいつに鼻っ柱をへし折られたぜ?」

 

 

爆豪の纏う空気が代わり、デクはゴクリと唾を飲み込んだ。

 

ヒュココオオォォォ……というジェット戦闘機の様な音が響き、爆豪は脱力した姿勢で立っている気配から尋常ではない戦闘が始まると感じたデクは。

 

 

「麗日さん! 悪いけど援護できそうにない!」

 

「わかった! デクくん頑張って!」

 

「クソ眼鏡! 俺がデクを殺るまで死ぬ気で守れ! そんで巻き込まれんなよ!」

 

「殺るとはなんて口の悪さだ! だが、その言葉は受け取っておこう!」

 

 

デクは精神を集中し、フルカウルの%を装備込みで出来る20まで引き上げる。

 

身体機能が上がっても動体視力や反射神経にはそこまで強化が乗らないのでさっき見た爆豪の高速移動と併用した攻撃は苦手な相手と言える。

 

対して爆豪も高速移動と併用した攻撃が出来ても、デクの守りは固く、一撃をモロに食らえば増強系ではない自分だとそのまま倒される可能性がある。

 

凝縮される空気に周りのお茶子と飯田がのまれる中……ついに二人が激突した。




爆豪コスチューム改

見た目は体の各所に追加アーマーと小型のジェットエンジンみたいな噴射口がついた以外はあまり変わってないが、中身はゴリゴリに改造されたコスチューム

原作デザインの肩や足にあった穴の付いた防具で空気を吸引して酸素を圧縮貯蔵できるようになっており、暴発を懸念して耐爆性能を高めたインナースーツ内で発汗したニトロをそれと混ぜてジェットエンジンの様に背中や足、腰部分に増設された小型の噴射口部分から爆発的に噴射して原作よりも更に高速・高機動で移動できるようになった。

両手の手榴弾みたいな小手は圧縮した空気砲を連射できるようにリボルバーのような機構がつけられ、両方共にためて打つことも可能である。

機能はアーク・リアクターのエネルギー供給で賄っていて、更にスーツ内部には()()を生み出せるようにナノマシンが内蔵され、ナノマシンが自動で空気砲発射部分に金属を生み出して攻撃に転用できるG(ガチで)B(ブッ殺す)モードが搭載されている。

イメージはスパロボよりアルトアイゼン


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ライバルには負けたくない

どうしてこうなったんでしょう。


デクと爆豪の動きをモニターで見ていた生徒達は唖然とした。

 

まず最初、お茶子をお姫様抱っこしたデクに峰田と上鳴がなんだそりゃあ! と喚いていたが一飛びで最上階の窓にダイナミックエントリーすると他の生徒もなんだそりゃあ!と驚いた。

 

 

「私は別にルートは指定していないからね」

 

 

オールマイトの補足に納得する生徒達。

 

でも人一人抱えて最上階までなんて……と、思っていたらヴィラン側の爆豪がすぐさま反応し、爆破を使った高速ドロップキックに、デクが解ってたかのように盾で捌いてお茶子を下ろした。

 

 

「あんな入り方してきた二人にこうも反応できるのかよ」

 

「緑谷さんはそれも織り込み済みだったのか、しっかり盾で守りましたわね」

 

 

才能マンやだやだ……と、呟く上鳴とデクの状況想定能力の高さを評価する八百万。

 

そしてそのまま爆豪が叫びながらデクに高速移動で背後に回りながら空気砲を連射する。

 

 

「……あいつの動き一朝一夕で出来るものじゃない。相当にコスチュームの機能を習熟している」

 

「先に渡して貰って練習したってことか? そんな事しそうな奴には見えなかったけどな」

 

「個性把握テストもそうだったが爆破を圧縮したり、出力を調整していたのを見てるし、意外に繊細な事ができるのかもな」

 

 

轟の指摘に切島がそんな努力タイプか?……と疑問を出すが尾白が補足する。

 

 

「だけどオールマイト先生の言っていた様にどちらも装備の使い方はかなり上手ですわ。爆豪さんはコスチュームの機能、緑谷さんは盾の使い方……そして気になるのはあの装備……手掛けたのは同一人物のようですねオールマイト先生?」

 

「そうだよ八百万くん、二人の装備は現在警察が使ってるゲシュペンストアーマーを作った神代表悟CEOお手製さ」

 

「あの無茶苦茶かっこいいアーマーを作った人が手掛けた特注品って事か!?……羨ましいなぁ」

 

 

切島は羨むが轟は厳しい顔をしている。

 

自分は誰よりも強い個性を持って生まれたと自覚している轟だが、あの二人と見てると胸のザワつきが抑えきれないのだ。

 

 

「二人の装備は自分の個性が持つ弱点を打ち消し、強みを相手に押し付ける様な設計がされている……緑谷少年は接近戦の攻撃力はピカイチだから純粋な防御力と特殊な個性のヴィランや環境での戦闘をサポートできるものを。爆豪少年のは両手からでしか出来なかった爆破移動や、爆破を放つだけの攻撃をコスチュームの機能で補助し、デメリットの発汗しにくい寒さの対策としてコスチューム内部は保温と断熱処理が行われてるのさ」

 

 

オールマイトの説明になるほどと納得する生徒たち。

 

 

(爆豪少年のコスチュームは更に()()()()がとても高くなるモードがあるらしいけど……ここでは言わないほうがいいか)

 

 

オールマイトはそう思案していると四人に動きがあった。

 

デクと爆豪が何か言い合い、タイマンの様な位置取りをし、お茶子と飯田が対峙する格好となった。

 

 

「緑谷さんをほっとけばあのパワーで何もかも捻じ伏せかねないですから、爆豪さんが張り付いて仕事をさせないようにする気のようですわ」

 

「みたいだな……俺ならどちらとも対峙したくねえけど」

 

 

八百万の言葉に上鳴が呻く、そして

 

 

「やるみたいだな」

 

 

モニターの向こうからでも感じる強い気配に誰かが緊張で唾を飲んだとき、事態は動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

(後は時間一杯稼ぐだけ……)

 

 

モニターで見られていた爆豪は頭の中で冷静に残り時間を計算している。

 

彼はみみっちいと原作で言われるほど、態度が粗暴な癖にルールを守ったり世間体を気にする所があった。

 

態度は暴力的だが行動のリスクを理性的に判断できる男

 

 

(なんとしてもかっちゃんを出し抜くか倒していかないと……)

 

 

対してデクは態度は大人しいが、リスクを背負う躊躇いのなさは()()()()()()()()()()()()()で、原作では何度も個性を使って腕をメチャクチャにしてしまう等強調されていた部分である。

 

態度は内向的なのに行動のリスクを本能的に無視できる男

 

 

余りに人として対極的な二人が意識して噛み合ってしまうのも無理はなかったのかもしれない。

 

そしてその二人の衝突はどちらも合図をした訳ではない始まりだった。

 

ゴヒュウ!!

 

スッと上体が下がった状態から真横に爆破移動しながら爆豪は空気砲を連射する。

 

デクは盾で捌いて突っ込もうとするが、爆豪の狙いを理解して爆豪から()()()()()()を潰すように移動した。

 

彼ならそうする、やつなら守る。言葉にせずとも通じ合った戦術が場の雰囲気を加速させる。

 

 

「やってくれる」

 

「俺を捉えきれるかデクゥ!!」

 

 

爆破の移動で空中を駆けながら空気砲を連射する爆豪と、お茶子を守りながら飯田に突っ込むか判断に迷うデク。

 

お茶子もデクの葛藤に気がつくと。

 

 

「デクくん!ある程度場を()()()()! 後は自分で何とかする」

 

「…わかった!」

 

デクはお茶子を守りながらビル地面や柱を殴り壊し、ターゲットを守る飯田の行動範囲を削っていく。

 

だがそれはデクにとっては悪手であった。

 

ボアアァァ!!

 

噴射口の加速は爆破移動と違って段階的な加速を可能とし、正にジェット戦闘機の様に空を飛んでデクに襲いかかる。

 

空気を引き裂くような飛び膝蹴りは盾で受け止められるが、当たる反動すら利用して体を回して踵落としを決める爆豪。

 

 

「ぐ…」

 

 

遠心力がたっぷり乗った一撃だったが、デクは一言漏らしただけで反撃の右ストレートを放った。

 

拳が風を纏って唸りを上げるが、爆豪は当たる前にジェット移動で射程外に逃げている。

 

それから数分間、爆豪の攻撃が当たり、デクが空振る時間が続くが二人の様相は大きく変わっていた。

 

爆豪は余裕そうに笑っているが体中の発汗は進み、見てわかるほど消耗しているが、デクは何度攻撃を食らっても致命的なダメージを防ぐために筋肉を締めて防ぎながら、爆豪とタイミングが()()のを待つように剛腕を振るい続けている。

 

スタミナお化けとセンスの塊と呼ばれる少年も一撃喰らえば行動不能になるとわかる攻撃に神経を削られていき、対して格上との戦闘の経験値を積んできた少年は時間という追い込まれる要因の中落ち着いていた。

 

 

「てめえの攻撃なんざ鈍くて当たらねえなあデク!」

 

 

安い挑発だが、それでも延々続けた高速移動の負担を感じている爆豪には貴重なインターバルだった。

 

しかしそれはデクにも適応される。

 

 

「ふう……そろそろ()()()かっちゃん」

 

 

デクの分析能力は原作でも描写されていたがかなり高く、戦闘の仕方も優等生だ。

 

慣れさえすれば応用もきかせる事が出来る彼は、今の爆豪の動きも見切りつつある。

 

今も賢明に隙を伺うお茶子に決して攻撃が行かないような立ち回りを続けるデクは冷静で、もう下手な攻撃は相打ちの様に合わせられそうなのを爆豪はそのセンスで嗅ぎ取っている。

 

ならば手は限られる。

 

(見せてねえ手札を使うしかねえ……持てよ俺の体!)

 

 

爆豪は使ってなかった必殺技を起動する。

 

コスチュームについた吸気口が唸りを上げ、その攻撃の為の()()の準備をする。

 

それは小手に最大まで貯めたニトロと空気を圧縮し、それを一発に込めてから放つ爆破の拳

 

 

「ターボジェットインパルス……受けてみろやクソ筋肉!」

 

 

爆豪の叫びにデクは背筋が栗立つのを感じてワン・フォー・オールフルカウルの解放率を限界いっぱいまで引き上げ、更にワン・フォー・オールチャージインパクトの準備を始めた。

 

 

『爆豪少年! それは建物を倒壊させかねない危険な攻撃だ。やれば大幅な減点は免れないぞ!』

 

 

「ここなんだオールマイト!……今ここで、俺は俺が納得出来る何かを掴めなきゃ、一生この()()を後悔する!……だから」

 

 

爆豪の背面のジェット機構は噴射のためが進み、そして

 

 

「今ありったけ……全部くらいやがれデクゥゥ!!」

 

 

それは奇跡の様な一撃だった。

 

完璧な姿勢制御と個性の圧縮、そして肉体の限界を超えたそれはビルを()()()()()()にするだけのダメージを与える収束した火と風で生んだ閃光だった。

 

だがそれは相手に対する信頼とも呼べるポテンシャルがあるとわかっていたから放った致死の一撃……だからこそ相手はその信頼に完璧に応えてみせた。

 

 

「オオオオオオオオ!!!!!」

 

 

手の向きから完璧に芯で受け止めた出久は、その熱と衝撃に思考が直ぐに吹っ飛んであっさりと個性を限界以上に使う。

 

だが原作と違って今の彼には個性以外に()()がある。

 

彼は信じている。自分の体を作ってくれた人達と自分が積み上げた筋肉の力を。

 

体の繊維一本まで研ぎ上げるかのような地獄の肉体改造はデクの心の深層に筋肉に対する少なくない信仰を抱かせた。

 

筋肉は自分を裏切らない……自分が未だ使いこなせない不安定な個性ゆえに相棒(筋肉)を信じてやるしかない!

 

 

「大雑把に使うな……こいつはヤワな力じゃ持っていかれる……麗日さんを守るんだ!」

 

 

それは奇跡のような一撃だった。

 

個性が筋繊維一本一本に行き渡り肥大化、デクの体があり得ないほど急速にパンプアップし、ターボジェットインパルスを盾で受け止めていた左手は更に二回りほど肥大化。

 

デクの体がデク自身に応えるように個性の反動を抑えるどころか同調させるようにブーストした。

 

一瞬だけ100%を超えた100%……名付けるならばワン・フォー・オールマッスルオーバーリミット……

 

限界を抑える服の保護機能が限界を迎えて弾け飛びながらデクにかかる負担を肩代わりしつつ、ターボジェットインパルスはデクによってお茶子に何一つダメージを通すことなく防ぎきられたのだった。



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保健室と対戦結果

オリ主が全然出てこない……


『この子は両肩を亜脱臼して肩の靭帯を少し痛めてた。そしてこっちの子は全身の筋肉疲労と軽度の低血糖、後は左手首をちょっと痛めてて、左前腕部にヒビが入ってたよ』

 

 

最初に爆豪、次にデクの診断結果をリカバリーガールがオールマイトに報告している。

 

 

「簡単に記録されてた映像を見たけど、良くもまあ二人共()()()()()()()()()()()と感心したよ……特にあんな破壊力の攻撃を装備という下駄を履いてても受け止めきるなんて、プロでも出来る奴は片手で数え切れる程度だろうね」

 

 

デクのカルテを見ながらリカバリーガールは驚いた顔をしている。

 

 

「爆豪少年の機動攻撃と最後の攻撃は私でも人を庇いながら防げるかどうか……緑谷少年は肉体操作と防御能力という面において、既に私を超えているかもしれません」

 

「全く……あの子とあの()だからこそ防げた攻撃だね……あんな一撃をまともに受けて歪むどころか焦げ一つないなんて、どんな材料を使えばあんな物出来るんだい?」

 

「私も詳しくはないんですが……何でもある()()から採取される鉱石を加工した物らしく、耐熱・耐衝撃に優れ、個性の干渉ですら弾く一品だそうです」

 

「隕石から作った盾……そう言えばあの会社は資源採掘が主な業務だったね」

 

「ええ、彼は気に入った人間には手厚いケアをしてくれますから」

 

「どちらも装備に念入りに装着者を保護する機能や構造がしてあったって話じゃないか?……それに体に何があってもきっちり治す技術もありそうだしね」

 

 

リカバリーガールの言葉にギクリとするオールマイト

 

 

「健康になったあんたの引退なんて誰の入れ知恵かなんてすぐ解るもんさ……警察の装備投入のタイミングが都合良すぎるからね。後継者を見つけたと思わせない為の情報の撹乱なんてらしくないことしてるからバレバレだよ私には」

 

「すみませんリカバリーガール……あまり漏らしたくない情報だったので誰にも告げられなかったんです」

 

「怪我を隠されるよりよっぽどマシさ。それにあんたは人に任せるってことをしないから不安だったんだよ……その点に関しちゃあのCEOは遥かに上手だね。人の使い方と生かし方をわかってる」

 

 

リカバリーガールは二人の少年の診断書をしまった。

 

 

「どちらもなんの後遺症もなく完治してるけど、今日は無理な運動は控えるように二人に言っといておくれよ?」

 

「わかりました」

 

 

オールマイトは深くお辞儀して保健室を退出していった。

 

結局あの訓練結果は爆豪・飯田ペアの勝利となった。

 

亜脱臼しても腕の痛みに耐えながら動ける爆豪と無傷の飯田ペア。

 

急激な筋肉のパンプアップで一瞬だけ極度の低血糖に陥って意識が朦朧として動けなくなったデクに無傷のお茶子。

 

2対1では流石に状況の打開が出来ずに時間一杯使われてしまってデク・お茶子ペアは負けてしまったのだ。

 

そして周りのクラスメイトの反省会としては難しい考察となってしまった。

 

そもそも爆豪の機動力と攻撃力はたとえ相手が二人でも凌げるか難しく、そしてデクも超パワーに防御力、更にスピードも遅いわけではない高フィジカルっぷりを二人がかりで止めるのは難しい。

 

今回はお茶子がデクの行動の足を引っ張る形になってしまったが、あの状態では八百万や轟ですら加勢に入れるかわからないケースとなっていた。

 

 

「ほんとごめんねデクくん……私がもうちょっとうまく動けてたら……」

 

「いや、麗日さんのせいじゃないよ。かっちゃんの挑発に冷静でいられなかった僕が悪いんだ」

 

 

と、謝り合っている二人もいれば。

 

 

「……すまない爆豪くん、結局俺は余り力になれなかったよ」

 

「ハッ! モブが最低限仕事をしたんだ。俺はとやかく言うつもりはねえよ」

 

「君は本当に口が悪いなぁ」

 

「アアァン? んだとコラ!」

 

 

と、罵り合う二人がいた。

 

 

結局あの訓練では轟・爆豪・デクが突出した能力を見せて終わり、その後の反省会ではワイワイと交流が進むことになる。

 

デク自身も周りと若干画風の違う筋骨隆々すぎる体に比べて大人しい態度に、怖くない人なんだと理解されてクラスメイトに受け入れられた。(爆豪は性格が悪いと認知されたが)

 

何だかんだいってこの訓練は成功したと言っていいのだろう。

 

そして皆が教室で騒いでいるのを他所に爆豪は一人教室から出ていく。

 

そしてそれを追いかけるものが一人。

 

 

「かっちゃん!!!」

 

 

校門前、デクに呼ばれた爆豪は振り返った。

 

 

 

 

「今日は負けたよ……でも」

 

 

燃えたぎるような強い目でデクは爆豪をまっすぐ見ている

 

 

「次は負けない!」

 

 

それはデクの中で芽生えた思い、爆豪勝己に負けたくない。

 

 

「1勝1敗だ……お前に顔をはられて気絶してだせえ負け方をした。今日のもモブを利用したギリギリの勝利だった……」

 

 

そこには獲物を定めた獣がこちらを見ていた。

 

 

「次こそは完全な勝利をする!……どんな個性だろうがどんな力だろうが関係ねえ……それまで誰にも負けんなよデク、お前を倒すのは俺だ」

 

 

そう言ってニヤリと笑った爆豪は帰っていった。

 

 

「ズルいやかっちゃん……そう言われたら誰にも負けられないじゃないか」

 

 

デクは力なく微笑みながら教室に戻っていく。

 

 

 

 

 

 

「……勝った、か」

 

 

帰り道、爆豪は勝利を噛み締めていた。

 

デクの張り手で気絶したあの日から、爆豪の胸中に言いしれない不安があった。

 

このまま自分は一生デクの背中を追い続けないといけないのか?

 

自分が虐げ続けていた奴に見下され続けるのか?

 

爆豪勝己には才能があった。だがその才能をゆえに挫折を知らなかった。

 

自分が下だと思えば石ころ程度だと思ってたのに気がつけば見上げる程の巨石に変わっていた。

 

肥大化したプライドが膝を屈することをひたすら拒む日々の中、爆豪は()()()()()に出会うことになる。

 

 

「君が個性を使うなら、俺は道具を作って対抗するかな」

 

 

デクを鍛えたと言ったその男の取り出した道具に爆豪は完全に敗北した。

 

勝てないわけじゃない、だがその一手が生み出せない。

 

 

「君は敗北を知らなくてはならない……君を形作る物を積み上げなくては出久くんには勝てないよ?」

 

 

雄英の試験から毎日その男にボコボコにされて地面を転がされる日々。

 

血と土の味を知った。

 

余りの疲労に動けなくなる限界を知った。

 

個性のコントロールと強化を行い、汗腺を使いすぎてボロボロになることも少なくなかった。

 

初めて装備を使い、操作難易度の高さに体中擦り傷だらけになった。

 

自分の才能とセンスを絞り切るような日々は爆豪にとって未知の連続だった。

 

試行錯誤と実践の連続は、寝ている時すら悪夢となって襲い、夜中に飛び起きた事も一度や二度ではなかった。

 

そして今日、その日々が結実した結果を呼び込んだ。

 

 

「勝ったんだな俺……」

 

 

時に苦難とは人を変えるきっかけになる。それは人をほんの少しだけ弱者に寄り添う事が出来るようにすら。

 

 

「チッ……何だか凄えじゃねえか俺は……まだ追いつけてねえのに嬉しくてたまんねえや……」

 

 

彼は本質はまだまだクズ野郎かもしれない。だがそれでも彼はほんの少し昨日よりクズではなくなったと思われた。



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次の日

今年の雄英は開放的である。

 

最近のマスコミの共通認識であった。

 

 

「君達毎日来てるけど、そんなに代わり映えしないよ?」

 

「いえいえ、やはりオールマイトにこうして対応してもらえるだけでも私達としてはありがたいんですよ。毎日でもほんのちょっとの変化は見逃しませんから!」

 

「そんな朝顔の観察日記じゃないんだから」

 

 

こうして連日オールマイトの姿を追っかけているが、ちゃんと受け答えしてくれる彼にマスコミの人達も笑顔である。

 

 

「……っと、すまないが授業があるんでね、ここでお暇させてくれるかな?」

 

「ああ、もうちょっとお話を!」

 

「これでも教師としての私は一年生なんだ。やることがいっぱいさ!」

 

 

それじゃあ! と学校に向かうオールマイトにアナウンサーがつられて雄英高校の敷地に入った瞬間、勢いよく鳴る警告音とすごい勢いでシェルターみたいな障壁が出来上がった。

 

「ああ、雄英バリアーだな……最近はかなりこちらに譲歩して情報の提供をしてくれるけど、今年は特に敷地内に無断で入ることだけは厳しいからな」

 

「生徒の学習環境に影響が出るし、オールマイトもいるから彼と敵対していた人間や組織を警戒してだろ? それに上からもくれぐれも雄英に無許可の侵入はするなってお達しがきてるからなぁ」

 

「なんでも一度それで上に損害賠償請求が来て、問答無用でかなりの罰金が飛んできたらしいからな」

 

「あのアナウンサー、帰ったら大目玉だな」

 

 

アナウンサーが唖然としてると、相棒のカメラマンの持っていた携帯に電話が鳴り、それに出たカメラマンが顔を真っ青にしてアナウンサーを引きずっていった。

 

 

そして1−Aのホームルームでは。

 

 

「昨日の戦闘訓練お疲れ……Vと成績見させて貰った。あと爆豪」

 

 

相澤先生は爆豪を見ると。

 

 

「いくらなんでも熱くなりすぎだ。訓練で殺し合いしてどうする?……まあ昨日お前は()()()()()()()()に散々絞られたそうだから、俺からは以上だ」

 

「わかってる……」

 

 

今度はデクを見ると

 

 

「あと緑谷……張り合いたい気持ちもわかるが、あそこは訓練なんだからギブアップを選択しても良かった。相方を守れたから良かったものの一歩間違えば大惨事だったぞ?……まあお前の所もきっちり絞られたみたいだから、こちらも以上だ」

 

「はい……」

 

 

爆豪も緑谷も朝からゲッソリとしていた理由がこれだった。

 

装備の損傷度は直ぐにデータとして代表に渡されるので二人の無茶苦茶ぶりがあっさり代表にバレ。

 

親があまり叱った事がない跳ねっ返りの爆豪には代表が一時間ほどミッチリ()()()()をさせながら説教を行い。

 

対してデクは代表が母親の引子に装備をしてなかった場合のデクの負ったダメージと、防御に失敗した場合のお茶子が負う被害をシミュレーションにして説明して怒ることを頼んだ。

 

爆豪も肉体的に辛かったが、デクは母親が説教しながら泣かれて心配されたことが精神的にクリティカルにきて今日まで引きずっていたのだった。

 

昨日は二人共馬鹿をしたり自分を顧みなかったらどうなるか、身を以て体感した一日だったと言えよう。

 

さて、その後に行われたのは原作通りの学級委員長を決めるイベントが行われ、原作通りに推移して飯田が学級委員長を務めることになる。

 

 

そんな中、街では連続強盗殺人犯の“僧坊ヘッドギア”というヴィランが人質をとって暴れていた。

 

プロヒーローのマウントレディやシンリンカムイが戦っていたが、撃退されてしまう……だが。

 

僧坊ヘッドギアの周りに飛んできたスモークディスチャージャーが視界を煙幕で塞いだ瞬間。

 

 

「ヌン!」

 

 

いつの間にかいた警察に支給されたパワータイプの装備であるアイアンコングに乗った警察官が僧坊ヘッドギアの喉に高速の地獄突きをお見舞いする。

 

 

「グフッ!」

 

 

気管が潰されて呼吸困難になった僧坊ヘッドギアは人質の拘束が緩み、アイアンコングはそのまま離れながら人質を取り返した。

 

 

「やれユージ!」

 

「おうよタカ! 究極! ゲシュペンストキック!」

 

「ホギャアー!!」

 

 

その瞬間()()()()()()()ゲシュペンストアーマーP型の高い位置からの高速キックが僧坊ヘッドギアの鍛え込まれた僧帽筋にぶち当たり、余りのダメージに吹っ飛びながら気絶した。

 

それを見たプロヒーロー達は。

 

 

「心強い戦力なんだけど……」

 

「我らは本当に廃業してしまうな……」

 

 

と、ため息をついたのだった。

 

 

 

そして場面を戻して雄英では、相澤先生が今日のヒーロー基礎学は人命救助訓練ということでそれ用の施設に向かうため着替えてからバスに、そしてバスの席わけで仕切っていた飯田が思ってたのと違うタイプの席に落ち込んでいると、デクは隣に座っている蛙吹梅雨という女生徒にいきなり話しかけられた。

 

 

「私思った事を何でも言っちゃうの緑谷ちゃん」

 

「あ、はい! 蛙吹さん!」

 

「梅雨ちゃんと呼んで」

 

 

ちょっと席が狭くて窮屈そうにしていたデクに蛙吹梅雨はニッコリしながら。

 

 

「貴方の“個性”、オールマイトにとってもよく似てるわ」

 

 

デクにとっては背筋が凍るようなセリフを言ったのだった。

 

 

「そ、そうかな? 確かに似た傾向の個性だけど」

 

「いや、梅雨ちゃんの話もわかるぜ。昨日の爆豪とのバトル見てたらそう思われるのもしょうがないだろ……服は弾け飛んでたけどな」

 

 

切島の言葉に赤面するデク、服が弾け飛ぶときに限ってお茶子に思いっきり上半身裸を見られるデクとしては余り触れてほしくない話題だ。

 

 

「しかし増強型のシンプルな“個性”はいいな! 派手で出来る事が多い! 俺の“硬化”は対人じゃつえーけどいかんせん地味なんだよなー」

 

「僕は凄くかっこいいと思うよ! プロにも十分通用する“個性”だよ」

 

 

腕を個性で固くしていく切島を見て、かつて個性を持っていなかったデクにすれば十分いい個性に思えた。

 

 

「プロなー! しかしやっぱヒーローは人気商売みてえなとこあるぜ!?」

 

 

そんなふうにバスの中でワイワイと雑談する生徒達。

 

そしてついた先はスペースヒーロー13号が作った特殊施設である“ウソの災害や事故ルーム”、略してUSJである。

 

そしてそこにいたのは。

 

 

「私がもう先に来ていた!」

 

「昨日ぶりだな爆豪」

 

 

スペースヒーロー13号と共に原作では遅れてきていたオールマイトとあの代表がそこにいたのだった。




なんで代表がいるかって?

原作知識といえば簡単ですが、念の為に何人かスパイを雑魚ヴィランの中に潜り込ませていました。


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ようこそ雄英高校へ

お久しぶりです。


「あ、代表!」

 

「ゲェッ! 代表!」

 

 

デクと爆豪の反応は対極だった。

 

 

「おうおう随分な反応だな爆豪、またいっちょ座ってみるか? もちろん椅子は無いからな?」

 

 

代表は爆豪の肩から腕を回してチョークスリーパーをかけている。

 

 

「あのー……代表って雄英の関係者なんですか?」

 

 

ギブギブとタップしている爆豪をほっといて代表は説明を始めた。

 

 

「あんまり大した関係じゃないけど、このUSJのメンテナンスの一部をうちの会社がやってるから、視察がてら君達の顔を見に来たんだよ」

 

 

クラスメイトは誰だろうこの人と思っていたが、デクとの雑談を聞いてあの会社のCEOだと気が付いた。

 

 

「クラスメイトの皆もはじめまして、Big Dipperの最高経営責任者、ようはCEOやってます神代です……ほいっ」

 

 

もう爆豪が限界そうだったので代表はチョークスリーパーから開放した。

 

 

「まあ、気になるだろうけど13号さんの話を聞いてね。これから授業でしょ?」

 

 

そう言って代表はオールマイトと相澤先生の側に行ってしまう。

 

 

デクは何だか親戚が授業参観に来たような感覚を覚えたが、13号の話を聞くことにした。

 

デクたちが13号の話を聞いている最中。

 

 

「今回は特別に授業を見させていただいて有難うございます」

 

 

代表の感謝に相澤はジロリと睨み

 

 

「うちは自由がウリですから、教師側の許可さえあれば部外者の見学も可能なんで気にしないでください」

 

「それでもですよ相澤先生」

 

「……はあ、その相澤先生ってのは勘弁してください。嘗ての()()達が聞いたら何されるか」

 

 

相澤先生はやりにくい顔をしているが、代表は何かを思い出したのか笑っている。

 

 

「ふふ……君可愛がられてたもんね」

 

「体の良い玩具にされたんですよ……あんな不合理の極みみたいな人達に師事したのが間違いだったんだ」

 

「それはしょうがないよ。うちの会社の警備部門の採用条件は覚えてるだろ?」

 

 

相澤先生はその言葉にうんざりしている。

 

 

「圧倒的な()()()()……よく貴方はあんな人達を雇用しようと思いましたね」

 

「生まれた時代を間違えた人達だけど、気のいい人達じゃないか」

 

 

二人の軽妙な言い合いにオールマイトが加わっていく

 

 

「そういえば君達知り合いだったね、なんか疎外感感じちゃうなぁ」

 

 

オールマイトの言葉に相澤先生は溜息をついた。

 

 

「正確にはこの人の会社の警備部門の人達に俺が戦う術を教えてもらいに行ってたんです。戦闘技術を学ぶならあそこが一番合理的ですから」

 

「でも相澤先生が言っていた採用条件は聞き捨てならないものだけどね」

 

 

オールマイトはそう言ってスッと代表を見据えた。

 

 

「採用条件がそうだからって殺人を勧めているわけじゃないですよ……彼等は()()()()()()()()()()()()()()ですから……それに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を一緒にしちゃいけませんよ?」

 

 

代表はニコニコしている。

 

 

「……君と話しているとたまに、背筋が凍るんだよなぁ」

 

「まあ貴方とは絶対にウマが合わない人達ですよ。会わせる気もありませんし、彼等は彼等でそれなりにヒーローってものに一物抱えてる人間ばかりなんでね」

 

 

オールマイトは両手を上げて降参の意を表し

 

 

「まいったね、この話は止めにしておこう……それにどうやらお客さんのようだ」

 

 

そう言って気を引き締めた。

 

仮令個性が使えなくなったとしても彼が培った感覚は鈍ってはいない。

 

その()()()()()()()が今、オールマイトの体にガンガンと警鐘を鳴らし始めていたのだ。

 

 

ズ…ズズ……

 

 

相澤先生がオールマイトの言葉に周りを見渡した時、USJの中央に作られた噴水の側で黒い粒子が渦を巻き始めるのを視認する。

 

そしてその渦が広がり、誰かの顔が出てきた時

 

 

「一かたまりになって動くな! 13号!! 生徒を守れ」

 

 

相澤先生の怒号が走った。

 

生徒たちが混乱する中、奇しくも命を救える訓練時間に黒い渦から現れた彼等は世間一般ではヴィランという()()だった。

 

 

「13号にイレイザーヘッドですか……そして見た目は大きく変わりましたがオールマイトで間違いないようですね……更にBig DipperのCEOまでいるとは」

 

 

黒い粒子状の闇を纏う異形の人物がそう言っている側で、体中に手を付けた男が、顔を握る手の指の間からオールマイトとを代表を見ると。

 

 

「都合がいいなあ……オールマイト……平和の象徴と虫唾の走る無個性の男が一緒にいるよ」

 

 

そして生徒達は知ることになる。プロヒーローが何と戦い、向き合っているのか……代表が何故あれほどの装備を作ったのか。

 

それは途方も無い悪意……

 

 

 

 

「どうやら、私と君を狙っているようだね」

 

 

だが、悪意も知ることになる。平和の象徴と呼ばれた男の力。

 

 

「まあ私にとっては()()みたいなものですから、」

 

 

そして誰と()()()()をしようとしているかを。




今作での相澤先生は代表の会社の警備部門のやばい奴らに揉まれてかなり戦闘力が高いです。

勿論装備も見た目は一緒ですが中身が大きく違います。


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原作修正力にあまり抗えない

ストックはないです。


「始めまして、我々は(ヴィラン)連合(れんごう)……僭越ながら……この度ヒーローの巣窟である雄英高校に入らせて頂いたのは」

 

 

そう言ってその黒い霧の様な異形の人物はオールマイトを見ると。

 

 

「一線を退いたとはいえ、平和の象徴であるオールマイトに息絶えて頂きたいと思ってのことでして」

 

 

その一言に1−Aの生徒は動揺する。しかし

 

 

「ほう、()()が喋るとは……随分とキナ臭い組織のようですね」

 

 

生徒達には分からなかったが、敵の()()に成功した代表の言葉に更に驚愕する生徒達。

 

 

「死体って……そんな事ができるのかい?」

 

 

オールマイトの言葉に代表は

 

 

「出来るというより、()()()()()()んでしょうね。あの黒い霧の様な彼はレアケースのようだ。なんせもう一体の死体はとても喋りそうに思えませんから」

 

 

代表は脳みそが見えている異形のヴィランを指差した。

 

 

「少なくとも二体の死体……体内の個性因子が()()()()形跡がある……バックにいる誰かの心当たりは?」

 

 

続いた代表の言葉にオールマイトの顔が歪んだ。

 

 

()か……」

 

「しかも死体の利用の仕方を見るに、医療関係でも相当の大物が協力してる可能性がありますね……ああいうのは()を熟さないと出来ない類のものだ」

 

「……死体を弄ぶなんて尋常な精神ではないな」

 

「医者とか科学者なんてそんなもんです。私だって()()()()実験は何度も立ち会った事がある……人間のデータを得るためには人間を素材として使わなければ」

 

「……あんまり子供達には聞かせたくない話だね」

 

 

オールマイトの言葉に代表は苦笑する。

 

 

「ま、こういうのは知らなくていい嫌な真実ですから……相澤先生、準備は?」

 

「終わってます」

 

 

相澤先生は首に巻いていた布をほどくと、その中に隠していたゴーグルをかけ、更にオープンフィンガーグローブを付けていた。

 

 

「13号! 生徒たちを守ってくれ! 俺は頭数を減らす!」

 

「相澤先生一人で戦うんですか!」

 

 

デクの言葉に

 

 

「勿論一人じゃないさ……それじゃあお願いします!!」

 

「ああ、任せてくれ」

 

 

代表の一言と共に生徒達の側にまるで最初からそこにいたかのようにモダンスタイルの帽子とスーツを来た男性が立っていた。

 

 

「う、うわ! だ、誰だこの人!」

 

「なに、通りすがりのサラリーマンさ」

 

 

驚く切島にそう答えた男性は一足飛びで先行した相澤先生の側まで飛んでいく。

 

 

「彼は私の護衛の一人で(ウインド)というコードーネームを持った人物です……ま、相澤先生の師匠筋の一人ですね」

 

 

目線はゴーグルで見えないが明らかにウインドを見てビクッとなった相澤先生だが、そのまま何事もなかったかのように共闘してヴィラン達を蹴散らしていく。

 

相澤先生は原作通りの徒手空拳だが明らかにその動きは原作より速く、一撃は重い。

 

 

「個性を消すだけじゃないのかよこいつ!」

 

 

喚く異形タイプのヴィランに布をムチの様にしならせながら叩きつけ、力強い踏み込みからの拳撃は大人一人を容易く吹き飛ばした。

 

 

「戦い方が上手くなったな相澤くん」

 

「……恐縮です」

 

 

気配なく相手に近づいて肩や股関節の骨を外したり顎に正確に打撃を打ち込んで意識を絶っていくウインドに相澤先生は殊更畏まった感じで返事した。

 

 

「妻や涼が寂しがっていたよ……最近顔を出してくれないから元気なのかどうか君の活躍を聞くだけだったからね」

 

「……キャンプがない時に伺います」

 

「つれないなあ」

 

 

瞬く間に蹴散らしていく二人に敵連合も浮足立つ。

 

 

「まさか個性を消す個性を使われる以前に肉弾戦で圧倒されるとは思いませんでしたよ」

 

「……嫌だなプロヒーロー……()()()()じゃ歯が立たないし、あの帽子を被ったおっさんも普通の強さじゃないし……どうする黒霧?」

 

 

黒い異形のヴィランの黒霧は体中に手?を付けた男に顔を向けると

 

 

「余裕を出している場合ではないですね、各個撃破で()()()()()()()()()()

 

 

その瞬間黒霧は瞬きのような短い時間で生徒達の側に現れ、このUSJの各アトラクションに飛ばそうとするが。

 

 

「そんな察知してくださいと云わんばかりの動き、見逃すかよ!」

 

 

化け物じみた反射神経で爆豪が空気砲を黒霧に連射して散開を阻止し、原作より半分以上の生徒の強制転移を阻んだ。

 

しかしそれでも運命力が働いたのか、デクと峰田と蛙吹……そして轟と代表が黒霧の移動に巻き込まれてしまう。

 

 

「うわ、護衛対象をまんまと拐われたな……おっさん」

 

 

体中に手を付けたヴィランの煽りにウインドは涼しい顔で。

 

 

「じゃれついてきた子供に本気になる大人はいないだろう? あの人にとってこれは日常のほんの小さなハプニングに過ぎない……それに」

 

 

手首を捻っただけで木っ端ヴィランの肘と肩の関節を外したウインドはあらかた無力化されつつある敵連合を見回しながら。

 

 

()()()()()()だと何故思うんだい?」

 

「は?」

 

「まさか更に護衛が?……確かに一人だけ送った感覚がありましたが……これは本格的にオールマイト殺害が難しいかもしれませんよ死柄木弔」

 

 

黒霧の言葉に死柄木弔と言われた男は軽く顔をかくと。

 

 

「……生徒ってわかりやすい肉壁もいるのに利用できないとかクソゲーすぎるなぁ……でもまあこちらも()()()()()()が切り札も揃えてるんだ、ゲームを続けようか」

 

 

対して黒霧のワープから逃れた生徒も13号とオールマイトの周りに集まって作戦を練っていた。

 

 

「皆はいるか!! 確認できるか!?」

 

 

飯田の叫びに障子目蔵が自身の個性を使って索敵する。

 

 

「散り散りになっているが、この施設内にいる」

 

「居ないのはデクに峰田に蛙吹と轟だけみたいだ」

 

 

障子の説明に瀬呂が補足すると爆豪が舌打ちした。

 

 

「ついでに代表も拐われたみたいだな……まあ心配するだけ無駄か」

 

「一応君はお世話になった人だろう!?」

 

 

飯田の言葉に爆豪が鼻で笑い

 

 

「ハッキリ言ってあいつは無個性だが、荒事やらしたらオールマイト位じゃないとどうにか出来ると思えねえよ……それよりあのクソ霧野郎が厄介だな」

 

「確かに物理攻撃無効にワープって最悪の個性だぜ、おい!」

 

 

瀬呂の同意を聞いていた13号はオールマイトを見ると

 

 

「どうしますかオールマイト……私としては外の応援を呼んだほうがいいと思いますが」

 

「向こうはこちらを確実に殺るために数々の妨害を行ってここに来ている、下手に動けば誰かをあのヴィランにワープさせられてしまうな……ならばやることは一つ! 協力プレイで打開する!」

 

 

オールマイトが力強く言うと生徒の皆の緊張感が上がった。

 

 

「13号はディフェンス面で指揮をして生徒を守ってくれ! そして爆豪少年は()()()()()を起動してオフェンス面で指揮を取るんだ。出来るかな?」

 

「ふん……完璧にこなしてみせるぜオールマイト」

 

「じゃあオールマイトはどうするんですか?」

 

 

お茶子の質問にオールマイトはニコリと笑うと。

 

 

「私は遊撃かな……こういう時の為の()()()()()を準備していてね……ほら来た」

 

 

そう言ってオールマイトが天井を見た時、天井を破壊しながらオールマイトの側に何かが飛来してくるのだった。




人物紹介

ウインド

通りすがりのサラリーマン……ではなくBig Dipper警備部門の一人

原作のARMSというサイボークとか超能力とかナノマシン兵器とか出て来る世界で生身なのに最強クラスの人物で、主人公の父親である。

このヒロアカ世界でも世に出ない有名な無個性の傭兵だったが、同じ傭兵で無個性の妻の産んだ息子がかなり危険な異形系の個性を持っている事が分かり、自分の伝を使って代表に接触してその息子の個性を何とかしてもらった恩義で代表の会社に働く事になった。

無個性ながら超人じみた戦闘力を誇り、妻と一緒に傭兵の世界では“ヤバい夫婦”として有名だったが、今はBig Dipperの警備部門で代表の護衛をする一人として活動している。

因みに相澤先生はこの夫婦にキャンプと評した山での訓練に参加して地獄を数回見ている。


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そこは地獄の一丁目

ストックはないです


それは金属で作られた()()()()()だった。

 

見る人が見れば“黒いゴリラ顔のハルクバスター”と言われる造形をしているそのアーマーは、周囲に対して圧倒的な存在感を撒き散らしていた。

 

 

「デッドリーコング……アイアンコングと対をなすゲシュペンストアーマーのスペシャルモデルさ」

 

 

オールマイトが手慣れた動作でデッドリーコングに乗り込むと、その鋼の野獣は赤い双眸を光らせた。

 

 

「なんだこれ!」

 

「無茶苦茶カッコいいな!」

 

 

驚く上鳴に目がキラキラの切島。

 

 

「さーて……私が……行く!」

 

 

デッドリーコングが肩をグルグル回した後、背中のブースターから火を吹かせ、相澤先生達の所に文字通りに飛び込んでいく。

 

 

「おい、クソ髪にしょうゆ顔! お前らは俺と一緒にオフェンスだ!」

 

「お前も大差ないだろうが!」

 

「俺は瀬呂な」

 

 

切島と瀬呂は爆豪に文句を入れながら三人一組で警戒を始め。

 

 

「では残りの皆さんは私と一緒にいましょう」

 

 

13号は残りのクラスメイトを集めて防衛に入るのだった。

 

対して土砂ゾーンに移動させられた轟は誰も転移されなかった倒壊ゾーンからも来た木っ端ヴィラン共々纏めて倒しのだが、問題は八百万、上鳴、耳郎が行くはずだった山岳ゾーンにいった代表であった。

 

実は此方にも尾白が行くはずだった火災ゾーンにいた木っ端ヴィラン達が合流していたのだったが、その場所は混沌とした空気を生み出していた。

 

 

「てめえ……裏切るのかよジャン!」

 

 

山岳ゾーンに集まったヴィランたちは仲間だと思ってた二人にほぼ壊滅的な被害を受けることになった。

 

 

「馬鹿か? 元々オレの上司はてめえらとは違うってだけだろうが」

 

 

普通の人間には出せない超高速の肉弾戦で蹴散らす彼はジャン・ジャックモンド。

 

狼化という個性を持って生まれた青年で、代表の会社の警備部門に所属する一人である。

 

 

「ぐう……まさかスパイが紛れ込んでるとは……」

 

「お前ら二流もいいとこの木っ端ヴィランどもが何を言ってんだか」

 

 

周りの木っ端ヴィランがどんどん蹴散らされていく中、もう一人のスパイも代表を守りながら敵を倒していた。

 

 

「まあジャンはチンピラっぽいからな」

 

「そりゃあないぜ姉御」

 

 

コニー・レヴィン……複合した夜行性動物の身体機能が使える個性を有した彼女は、腰に付けたソードオフ・ショットガンを使わずに拳打だけで木っ端ヴィランの鼻を簡単に殴り砕いている。

 

 

「くっそ……此方の襲撃がバレていたって事なのかよ」

 

 

ボコボコにされ、結束バンドで身動きが封じられた奴が毒づくが。

 

 

「いや、一応その敵連合もスパイを警戒して連絡や情報の取り扱いは気を付けてただろうが。だから俺等は代表が狙われた場合の保険として、長期潜伏を目的としたスリーパーとしてお前等の所に潜っていたんだよ。だが3ヶ月でこうも大胆な行動を起こすとはなあ……まあお前等は個性を没収されて臭い飯を食いながら反省するんだな」

 

 

ジャンはそう言ってそいつの頭を殴って気絶させると意識のある木っ端ヴィランは一人もいなくなり、コニーと一緒に代表の元に集まった。

 

 

「いやーご苦労さまですお二人さん」

 

「これで俺等は身元が割れちまったからスパイ家業は終了だな」

 

 

労う代表と慣れないことをしたと言わんばかりのジャン。

 

 

「代表……奴等の潜伏先とその他の協力している組織のリストになります」

 

 

そしてもう一人のスパイだったコニーはそう言って代表に小型のSDカードを渡した。

 

 

「実際動いてるのは二流かチンピラまがいの連中だけですが、やはりバックにかなりの有力者がいるせいか、何人かは場違いな程の実力者もいるようです」

 

「あのオール・フォー・ワンがいる所だから、信者というか後援者として手を貸す人間は少なくないだろうね」

 

「悪党に手を貸す連中か……ろくなもんじゃねえな」

 

 

コニーの報告に補足した代表の話を聞いて嫌な顔をするジャン

 

 

「そういう企業や組織の炙り出しは()()()()()()()に任せればいいさ……我々は()()()()()()()()()()()()()()()()()を最優先目標に動けばいい」

 

「あのイカれ野郎の捕獲ねえ……あいつは常に黒い霧野郎がベッタリだから、逃げたら一瞬で見失うぞ? 殺っちまったほうが早いと思うけどな?」

 

「ジャンの言いたいこともわかるが、今回は前途有望な若者達がいるんだし、クリーンにやろうじゃないか。それじゃ、オールマイトの所に急ごうか」

 

 

こうして代表はスパイだった二人を従えてオールマイト達の所に向かうのだった。

 

そして水難ゾーンに行ったデク・峰田・蛙吹はそこにいた木っ端ヴィランとの戦闘を始めていた。

 

 

『アッセンブル!モード2!』

 

 

蛙吹が峰田を抱えて水中を移動する最中、デクは水の中で腰のアッセンブルドライバーのシリンダーを素早く取り替えてモードを変えていた。

 

その瞬間デクの体についていたベルトから生み出されたアーマー部分が崩れるように消えると、体をピッチリ覆う布状の黒い装束に覆われ、背中から蜘蛛の足のようなアームが生えていき、そのまま水の上に高速で飛び出して()()()()

 

アッセンブルドライバーモード2……狭い屋内やあらゆる場所からの侵入を想定した通称シノビスパイダーモードである。

 

周りの水中にいた木っ端ヴィランも唖然とした顔をして水の上に立ったデクを見ている。

 

デクはデクでユラユラ揺れる水の上を歩ける状態に四苦八苦しつつ、飛ぶように移動しながら水難ゾーンの船に移動する。

 

そこには蛙吹と峰田がいるのだった。




皆川亮二作品はいいキャラが沢山いるから作品を侵食していくぅ……。


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ひよっこ達の力

お久しぶりです。ストックは相変わらずないです。


峰田実にとって緑谷出久という同級生は、クラスメイトの中でも一等にヤバイ奴である。

 

轟や八百万達特待生に負けず劣らずのその強さは、同中でゲスを煮詰めた性格の爆豪との一騎打ちの映像を見た時、自分じゃ勝てるわけがねえよと思ったものである。

 

だがその強さに反して緑谷は強い個性を持った人間()()の自尊心の高さがあるというわけでもない。

 

何処か()()()()()()()()している態度は自信なさげなのに、やる時の覚悟の決めっぷりは峰田からして軽く狂っているとすら感じていた。

 

峰田にとって緑谷出久とはチグハグな人物なのだ。

 

だがそれもこうして自分と肩を並べ、一緒に協力してこの無茶苦茶な状況を共にしている時の頼もしさは尋常ではなかった。

 

 

「蛙吹さん「梅雨ちゃんと呼んで」……梅雨さ…ちゃんの能力は理解したし、峰田君の個性もかなり使い勝手のいい能力だからここを切り抜けるのは楽になりそうだよ」

 

「お、おい緑谷……相手はマジモンのヴィランなんだぞ?……大丈夫なのかよ」

 

 

峰田は自分でもビビっている事を自覚できるこの状況で水中で強みが出せる蛙吹なら兎も角、余裕すら感じる緑谷の態度に恐怖が引っ込む。

 

最初に着ていたジャンプスーツとは違って、蜘蛛みたいな脚が背中から生えた忍者みたいな格好になった緑谷は、いかなる手段か水の上を跳ねながらこの水難ゾーンの船に飛び込んできたときは一瞬誰だかわからず、今は口元を覆っていた布を外して顔を見せている。

 

峰田は蛙吹に運んでもらってここにいるため、自分一人では碌な結果にならないこの現状に引っ込んだ恐怖と共に苛立ちが湧き上がる。

 

ついこないだまで自分は中学生で、いきなり殺されそうになる状況など想像すらできなかったのに、なんでこんな事に……。

 

涙まで出てきた峰田だが。

 

 

「大丈夫……ここにいる誰一人、死なないよ」

 

 

蛙吹と峰田がそう呟いた緑谷の顔を見た時、ゾクリと背中を何かが走った。

 

目の奥から感じる強い眼差し、肌で感じるほど高まる緑谷出久という少年の存在感。

 

 

「いつか僕達はヒーローとして、こういった状況に陥ることは間違いなくあるんだから、慣れないとね」

 

「だからって()なのかよ緑谷!?」

 

 

我慢できずに喚いた峰田に緑谷は苦笑しながら。

 

 

「代表との付き合いは短いけど本当に濃い時間を過ごしたんだ……そんな日々の中で代表が言っていた言葉があってね……()()()()()()()()()()

 

 

デクの言葉に峰田はハッとする。

 

 

「だからその悪意が()迫ってるだけなんだ……梅雨ちゃん、峰田君……勝つために、力を貸してくれる?」

 

「勿論よ、緑谷ちゃん」

 

「……くそう……せめてヤオロッパイに触れたかった」

 

 

蛙吹はニッコリ笑い、峰田は若干欲望に即した愚痴を呟きながら覚悟を決めていく。

 

対して水難ゾーンにいた木っ端ヴィランたちは三人が逃げ込んだ船に攻め込まずに様子を伺っている。

 

 

「おい……どうせガキが三人だけなんだ、ちゃっちゃと殺っちまおうぜ?」

 

 

一人のヴィランがそう言うが、誰も威勢良くは賛同しなかった。

 

彼等は悪党とはいえそのヒエラルキーは底辺に近いところにあり、故に彼等は自分達より強い相手を嗅ぎ分ける力が備わっている場合が多い。

 

そんな彼らがさっき、明確に船の方からヤバイ気配が漂ったのを感じたのである。

 

何か自分達より明らかに強そうな奴がいる……全員が思い描いたのは背中に蜘蛛のような脚を生やした黒装束の子供?である。

 

個性なのか水の上を跳ねながら移動したあの子供?は服の上からでも推察できるほど鍛え込んだ体つきをしており、陸上で相対したら普通に勝てなさそうな雰囲気があった。

 

だが彼等にも彼等なりの悪党としてのプライドがある。それが後ろ指刺される行為でも、それを縁にオールマイト殺害という凶事に呼ばれた()()が逃走を選ばせなかった。

 

それが彼らの今回最大の選択ミスだった。

 

 

「おおりゃああぁぁぁぁ!!!」

 

 

船に逃げた3人の中で一番雑魚そうな子供が頭から丸い何かを此方に大量に投げてくる。

 

ポチャポチャと水面に浮かぶそれ等、しかし木っ端ヴィランたちは触ろうとはしなかった。

 

肉体から生成して使う個性というのは得てして危険な特性が多い。

 

触れば爆発するのは可愛いもので、触れると危険な猛毒が分泌されたり幻覚を生み出すガスを噴射するものも少なからず存在する。

 

または体に融合し、意志とは関係なく操る者もあるので警戒したのだ。

 

だが彼等はその丸い何かに注視して静かに飛び降りた()を見逃した。

 

原作とは違い力のコントロールが行き届いたその一撃は、余力を残して水難ゾーンの湖に軽々と大穴を開けた後、湖の水がその大穴に収束して木っ端ヴィラン達を引き込んでいく。

 

 

「や、やばい!」

 

 

すかさず逃げようと動き出した木っ端ヴィラン達だが、デクたちが撒いた罠の事はすっかり頭から吹き飛んでいた。

 

騒ぎ出す彼等に峰田が投げ入れた丸い玉が引っ付き、そして更に引っ付いた玉がドンドン周りの人間にくっついて木っ端ヴィラン達を一塊にしていく。

 

 

「な、何だこれ!? 全然取れねえぞ!」

 

 

 

 

 

 

峰田の個性である《もぎもぎ》は頭の頭頂部に生える黒い玉をもぎって使う個性である。

 

もぎったそばから生えてくるそれは恐るべき吸着力を持った物体で、峰田の体調次第では一日位は吸着力が持続する。

 

更に峰田自身には吸着せず、触るとプニプニと跳ねるが、もぎりすぎると血が出るというデメリットがある。

 

さっきから水面に浮かんでいた玉はそのもぎもぎの玉であり、木っ端ヴィラン達が集まると同時にその玉も木っ端ヴィラン達の所に集まってきたのだ。

 

それは濡れてなお吸着力は変わらずに木っ端ヴィラン達を一塊にさせようと吸着し続け。

 

 

ボーン!!

 

 

「「「うわあああぁぁぁぁぁ!!!」」」

 

 

収束の反動で巨大な噴水のように立ち昇る水に打ち上げられる様に木っ端ヴィラン達の塊は纏めて宙を舞うのだった。



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