トリガーライブ・スター! (内原戸哲夫)
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1消せないキモチと


ウルトラマントリガー、そしてラブライブ!スーパースター!!の興奮に負け、ついつい書いてしまいました……。
両作ともまだ始まったばかりで二次創作を書くのは余りにも早計であるとは自分自身思っていますが、ただの自己満足と思ってもらって付き合って頂ければ幸いです。

亀更新になること間違いなしですが、楽しんで貰えたら嬉しいです。

それでは早速どうぞ





 

 

───いあ! いあ! いあ! いあ! 

 

 ()の者に捧げる声が聞こえる。青き星に渡りたいと願い続ける神に捧げる祈りの言葉が響く。

 

 老いた星に興味は無い。神が望むのは命溢れる星。彼らは蘇るまで待っていた。そして刻が来た。悠久の刻を経て、神は花を咲かせるだろう。

 

 その果てに待つものが何か等、我らには知る権利も無い──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 アラームが鳴る。少女は手を伸ばし、その発生元であるスマホを取って止めた。身体を起こしてベッドから立ち、カーテンを開ける。眩しい朝陽が、新たな日を祝っているかの様に美しく煌めく。

 

 しかし彼女は、この日が来る事を誰よりも嫌悪していた。重々しい溜め息が口から出る。カーテンを閉じて眼鏡を掛けスマホをまた取り、ベッドに寝転がってリズムゲームのアプリを起動して遊び始めた。

 

 ふと思い浮かぶ過去の事。大好きなものがあった。それがあれば、望む場所に行けると思っていた。そこを経て、みんなを笑顔にしたいと思っていた。出来ると思っていた。昔、今は遠い星にいる友人とした約束と自分の夢果たす一歩になる筈だった。

 

 でも無理だった。何も出来なかった。友人には何も話せていない。彼女の夢は、あの日終わったのだ。

 

 

 

「お姉ちゃーん!」

 

 部屋の外から聞こえてくる妹の声。気持ちの沈んでいる彼女はそれに応えるのが億劫に感じ、何も言わずにまた溜め息を吐く。スマホをソファーに投げ捨てると扉が開けられて妹が顔を覗かせた。

 

「あ、起きてるじゃん。返事してよ!」

 

「んー……」

 

「んーじゃないよ! 早くしないと、初日から遅刻しちゃうよ?」

 

「…………分かってるよ」

 

 ぶっきらぼうにそう言うと妹は去っていく。それから彼女はハンガーに掛けられた高校の制服と、立て掛けられているギターケースを交互に見る。眉間に少し皺を寄せた後、一旦部屋を出て顔を洗い、コンタクトを着けてから髪をセットし、戻ってパジャマを脱ぎ捨て制服を着て、白い大きめのヘッドホンを首に掛けてからまた部屋を出るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 2階から降りると、母と妹、そして兄の3人が、カフェとして使っているスペースにいた。

 

「おはようは?」

 

「おはよう……」

 

 カウンターには朝ご飯が準備されており、彼女は椅子に座ってそれを黙々と急いで食べる。テーブル席に座ってコーヒーを飲んでいた兄はそんな彼女のことを一目見るが、すぐに手元のスマホに目を落とした。

 

「お姉ちゃん、そんなに急いで食べると詰まるよ?」

 

「うるさいなぁ……ごちそうさま」

 

 立ち上がり、扉の方に向かっていく。が、一度逸れて彼女は扉付近の止まり木にいる梟の一種・コノハズクの前に来た。

 

「マンマル、行ってくるね」

 

 部屋での不機嫌顔が嘘の様な笑顔でそう言った後、彼女は扉を開き出ようとする。

 

「かのん」

 

 そんな彼女を、母親が呼び止めた。

 

「似合ってるわよ制服」

 

「っ…………似合ってない!」

 

 澁谷 かのんは、勢い良く出て行くのだった。

 

 

 

 

 

「お姉ちゃん、まだ気にしてるのかなぁ?」

 

「そうねぇ……繊細だから」

 

 彼女の様子見て、母と妹のありあは心配そうな顔をする。数ヶ月前のある出来事がかのんの胸のしこりとなっていた。それが彼女の表情を曇らせているのだ。

 

「まあ、だろうな」

 

「お兄ちゃん?」

 

 兄はかのんが出て行った扉を見つめる。

 

「挫折とか失敗とか、忘れられるもんじゃないだろ。アイツも、ずっとそれ背負って生きてくことになるんだよ」

 

「……お兄ちゃんみたいに?」

 

「…………うっせぇ」

 

 テーブルから立ち、空になったカップをカウンターから母に渡しにいく。その際ありあの頭を少し乱暴に撫でた。

 

「開店準備してくる」

 

「ショウゴ」

 

 店前を掃除する為に箒を持って出ようとした彼の背に母が声を掛ける。

 

「無理しちゃダメよ」

 

「───してねぇよ」

 

 扉を開けて外に出た澁谷 ショウゴ。妹と同じ様に溜め息を吐いた後、アスファルトに散らばった落ち葉を見る。

 

「甘えてるだけだっての」

 

 何かを否定する様に、落ち葉を払うのであった───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 行き交う人の声、走る車のエンジン、モニターから流れる音、街の全ての喧騒を、かのんはヘッドホンから音楽を流して遮断していた。余計な物が何も聴こえない世界。それが本当に心地良かった。

 

 彼女が通った道にあった大きなモニターにはスクールアイドルが映されていた。数十年程前から流行り出したコンテンツであり、学校でそこの生徒がアイドルをするというものだ。今や全国で大会が開催される程大人気となっている。2人組のスクールアイドルのライブ映像が終わり、次に映されたのは地球平和同盟TPUの会見であった。

 

《今から2年、怪獣災害に対応する為新たに設立された特捜チーム、それがGUTS-SELECTです。そして、遂にその拠点となる対怪獣用戦闘艇・ナースデッセイ号が完成しました》

 

 GUTS-SELECTの隊長である辰巳 誠也がそう言うと、モニターに竜の頭部の様な物の付けられたら巨大な戦艦が映された。続いて戦闘機が映される。

 

《そしてこれが、怪獣攻撃及び災害時の救助活動に用いられる遠隔操作可能な多目的無人可変ドローダー・GUTSファルコンです。これらを駆使して、我々GUTS-SELECTが地球の平和と、皆さんの安全を守っていきます》

 

 モニター内からは拍手の音が響き、見ていた人達も感嘆の声を漏らしている。だがそれらもかのんの耳には入って来ていなかった。辺りをキョロキョロとしながら歩くかのん。前を向いてどんどん進んでいると、目の前に2人の女子高生が現れた。

 

「かのんちゃん!」

 

「あ!? お、おはよう!?」

 

 彼女はヘッドホンを外す。2人はかのんと同じ中学で、これから同じ高校(・・・・)に通う友達だ。

 

「春休みあっという間だったねー、あははは……」

 

 作り笑いでそう言う彼女。

 

「そう? 私は早く結ヶ丘に行きたくてうずうずしてたよ!」

 

「私も!」

 

「やっぱり、音楽科受かる子は凄いなぁ! 制服も似合ってる!」

 

 少しだけ上擦ってる声。でもそれを2人に悟られない様にする。

 

「かのんちゃんも、普通科の制服も可愛いし似合ってるよ!」

 

 ───似合ってない。

 そう言いそうになるのを少しだけ唇を噛んで押さえた。

 

「あ、ご、ごめんね!? そんなつもりじゃ……」

 

「ううん、気にしないで。普通科の方が楽だし」

 

 彼女達に悪気は無い。それは分かっている。分かっているからこそより心が苦しくなってしまう。醜い嫉妬が、胸から溢れそうになるからだ。

 

「かのんちゃんが音楽科落ちるだなんて信じられなくて……」

 

「私達、かのんちゃんの歌に憧れてたから……」

 

 かのんは歌が好きだった。いつかこの歌で、世界中のみんなを笑顔にしたいとある時から思う様になっていた。そしてその為にも、都内でも特に有名な音楽に力を入れてる高校・結ヶ丘女子高等学校の音楽科を受験したのだ。

 

 しかし、結果は最悪だった。彼女は課題曲を歌うことが出来ず不合格となり、普通科に通うこととなってしまった。もしあの受験の時、歌うことが出来ていれば……。自分も目の前の2人と同じ、白く可愛い制服を着れただろう。遣る瀬無い気持ちが胸で渦巻く。そんな時、スマホの着信音が鳴った。

 

「あ、ごめんね、何か電話来たみたい! それじゃ、ばいばい!」

 

 急足で2人から離れる。これ以上彼女達と話すのはしんどかったので本当にベストのタイミングだった。スマホを取り液晶を見る。良い時に電話をして来たのは「円淵(まぶち) ダイキ」という名の者だ。

 

「もしもし?」

 

《あ、かのん? おはよう!》

 

 スマホ越しに聞こえてくる元気な男の子の声。彼は小学校の頃からの友人。幼馴染という程では無いが、長い付き合いのある人だ。

 

「おはよう。どうかしたの?」

 

《かのん、今日入学式でしょ? だからおめでとうって言いたくて》

 

「そんなの別にメッセでいいじゃん。わざわざ電話しなくてもさ。そっち確か夜でしょ?」

 

《今は夜の11時だよ。でもこういうのはちゃんと言葉で伝えたいの》

 

 相変わらずだなとかのんは思った。彼は今、時差がある程遠く離れた場所にいるのだ。

 

《改めて結ヶ丘に入学おめでとうかのん》

 

「うん、ありがとねダイキ君」

 

《これで僕達の夢に一歩近付いたね!》

 

 その言葉を聞いて彼女の表情が強張る。実はダイキに対しては、音楽科を落ちて普通科に行くことになったのを伝えていないのだ。

 

「う、うん、そうだね……。ダイキ君ももうすぐ学校だよね?」

 

《こっちの時間で明後日からね。僕もかのんみたいに夢に向かって頑張るよ!》

 

 明るい声が彼女の胸を締め付ける。本当のことを言えば彼にがっかりされるかも知れない……そう思うと嫌で伝えられないでいた。彼は遠く離れた地にいてこちらに来ることは滅多に無い筈。なら、嘘を吐いてもきっとバレないだろう。そう思い罪悪感に囚われながらも彼を騙すしかなかった。

 

《……かのん、何か元気無い?》

 

 ドキッとしてしまった。彼はこういう勘は本当に冴えている。何とかして誤魔化さないと。

 

「だ、大丈夫だよ! ちょっとまだ眠いだけだから!」

 

《もしかして昨日、入学が楽しみで眠れなかったとか?》

 

「そ、そうなんだー!」

 

 どうやら勘違いしてくれた様で助かった。

 

《あっ、あんまり長話するのも迷惑だよね》

 

「大丈夫、今日はありがとうねダイキ君」

 

《うん! かのん、スマイルスマイルだよ!》

 

 通話を終え、かのんは空を見上げる。この空の先の更にその先に彼はいる。心の中で本当のことを伝えていないことを謝りながら、ヘッドホンを付け直して彼女はまた歩き出した。自分の中のもやもやした気持ちを掻き消す様に、かのんは思わず歌を口遊む。その美しい声は、朝の澄んだ空気に溶けて鳴り渡る。歌に釣られたのか小鳥や猫が顔を出して止まる。まるで彼女の周囲だけが楽園になったかの様であった。

 

 そしてその歌を偶然聴いてしまった少女が居たことに、かのんは気付いていなかった……。

 

 

 歌い終え、もやもやとしていた気分が少し晴れたかのんは歩き出す。何でもない時は歌えるのに……そうボヤいた時である。

 

 

 

 

「美麗的聲音……!」

 

「へっ!?」

 

 かのんの眼前に1人の少女が目を輝かせながら現れた。

 

「你唱歌很好聽! 想一起成為學園偶像嗎!? 你的歌一定會讓你成為一個偉大的學園偶像!!」

 

「え、えっ!? 何!? 中国語!?」

 

 捲し立ててくる謎の少女。その勢いにかのんは圧倒されてしまう。少女は更にかのんへと顔を近付けて迫った。

 

「我求求你! 一起成為學園偶像吧! 這絕對很有趣,所以讓我們去做吧!」

 

「顔近いぃぃ!? ニーハオシェイシェイショーロンポー!!」

 

 知ってる中国語を適当に言った後、かのんは少女から一目散に逃げた。だが少女は彼女を追って来る。

 

「請稍等!? 我只想和你一起做學園偶像!」

 

「ひぃぃぃ!? なになに!? 怖いぃぃぃぃ!!」

 

 急に解らない言葉であんな風に話し掛けれれば無理もない。かのんは少女から逃れる為に必死に走るのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 かのんとの通話を終え、円淵 ダイキはスマホを置き、窓から空を見上げた。暗い空には、キラキラと星が輝いている。それから彼は振り返り、部屋にある机の上に置かれているまだ蕾の花へと近付いた。

 

「かのんも頑張ってるから、僕も頑張らなきゃだよね」

 

 未だ咲かない花。それに対して彼は柔かな笑顔で語り掛けた。

 

 

「君の花を咲かせてみせるよ、ルルイエ!」

 

 

 星の浮かぶ暗い空。それが映し出されているドームの外には赤と青の混じった空が広がる。彼が居る場所。それは赤い星・火星の第三居住都市である───

 

 

 

 

 

 

 A.D.2025

 深淵より甦りし邪神が、光の巨人とこの星の光により滅ぼされてから15年後の世界だ───

 

 

 

 

 

 

 

 





内容的には少ないですが第一話目、如何だったでしょうか?
アニメを基準にしてますがコピペになるのを避ける為、描写や台詞を若干変えたり、かのんの心理描写を多めにしたりしてます。

本作ですがウルトラマンティガ本編から15年後の2025年が舞台となってます。ダイナに関してはどうするかギリギリまで迷いましたが、そこまで入れるとより設定が多くなると思い、あくまでも新世代のティガであるトリガーをメインにしたいという考えから今回は泣く泣く外すことにしました。ダイナの物語を決して蔑ろにしたつもりは無く、寧ろ尊重するからこその決断でもあります。
本作はセブンからの平成セブンやウルトラマンからの漫画ULTRAMANの様な、他の作品の世界が無かった世界となっているのです。
細かな年代表は後々公開します。

そしてメインとなるオリキャラは2人。円淵 ダイキと澁谷 ショウゴ。この2人がどう物語に関わっていくか、お楽しみ下さい。
ダイキは火星におり、その時差をどうするか迷った末、火星での時間はグリニッジ標準時と同じとしました。ですので日本とは9時間の時差があります。あと中国語は翻訳したものを使っているので、もしかしたらおかしな所もあるかも知れませんが悪しからず……。もしかなりおかしいところがあったら教えて頂けると嬉しいです。

次回投稿は遅くなり、もっと言うとそれ以降もかなり遅くなると思いますが待って頂けたら幸いです。

それでは皆様の感想や高評価、ここすき等、心よりお待ちしております。





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2光の序章

 

 

 

 

 

 

 広い宇宙を揺蕩う。あの日、光に敗れたソレはただの石像となり広大な宇宙に放り捨てられていた。眠りについたが、それでも光への怨嗟は決して消えない。頭の中で、胸の奥で、黒い邪心の炎が燃え盛り身を焦がす。

 

 殺したい、潰したい、刻みたい、引き裂きたい───愛したい。次々と溢れ出す想いが、動くことの無い身体に染み渡る。これが殺意……これが愛……そうだ、この想いを伝えなければならない。あの光へ、私の中の渇きを。

 

 

 

 

 

───おはよう、カルミラ。

 

 

 

 

 

 声が聴こえた。聴こえてはいけない声だ。そしてそれと同時に、石像の表面に亀裂が出来る。亀裂は次第に広がっていき、やがてその表面が砕け散った。中から現れたのは鈍い銀の身体に金のラインが入った妖艶な女巨人。カルミラと呼ばれた巨人は青い光の鞭を出現させる。言いたいことは無限にある、吐きたい想いが溢れそうになる。彼女はそれら全てをあの光の巨人へ込めて絶叫した──

 

 

 

 

 

「トリガァァァァァァァァァァァァァッ!!!」

 

 

 

 

 

 人では聴き取れない言葉。だがもしも人間が聞いていたのなら今の叫びは、叫びに込められた途方の無い愛と憎しみは通じたであろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 目の前に花がある。赤い星で初めて芽を出した、未だ咲かない花。その蕾から淡い光が放たれていた。

 

 まさか開花するのか?そう思い彼の心は高鳴る。ずっとずっと待ち続けていた時が、今来ようとしているのだ。自然と笑顔になり、それを待つ。

 

 

 

 瞬間、背にどろりとしたモノを感じた。途轍も無い程悪い何か。それが今、自分の背後に存在している。

 

 恐る恐る振り返った。するとそこには……。

 

 

 

 

 

「闇の……巨人……!?」

 

 闇を纏いし漆黒の巨人。溢れ出すその闇は、彼の恐怖を駆り立てる。眼前に立つ圧倒的存在に、彼は言葉を放つことが出来ず兢々としていた。

 

「そうだ……!ルルイエ!?」

 

 振り返り咲こうとしていた花に目を向ける。しかしそこにあった筈の花は無く、代わりに白い衣を纏い、腰の当たり前まで伸びた長い銀髪の人物が立っていた。その顔を彼は何故か認識出来ず、男か女か判らない。

 

 その者の口が動き何かを伝えようとしてくる。しかし声が出ていることは理解出来るが、何を言っているのかが伝わって来なかった。

 

 

 

「君は一体───」

 

 

 

 誰なのか?そう聞こうとした時、闇の巨人の手が彼に迫って来た。黒い手が慄く彼のことを掴もうとして伸びていく。そして────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁぁぁ!?…………あれ……?夢……?」

 

 

 

 ベッドから飛び跳ねる様に起きた円淵 ダイキは周囲を見回す。彼がいるのは自室であり、闇の巨人も銀髪の人物もいない。そういえばと思い花・ルルイエの方を向く。ルルイエはいつも通り、蕾のままであった。

 

「咲いたと思ったけど、やっぱ夢かぁ……」

 

 アレが夢でなかったら彼は悲惨な目に遭っていたかも知れないというのにがっかりした様子で溜め息を吐く。やはりアレは、ただの夢であった様だ……と。

 

 

 

 

 

「おはよう母さん!」

 

「おはようダイキ」

 

 ルルイエをケースの中に入れ、それを持ってリビングへ向かったダイキ。キッチンには母である円淵 礼奈が立っていた。

 

「あれ、母さんもう仕事いくの?」

 

「そうなの。静間会長が遺跡を視察に来るから、その付き添いの為に早めに出るの」

 

「へぇー、大変そうだね」

 

 椅子に座り、テーブルに出されていたパンに齧り付く。

 

「アンタも明日から学校でしょ?これからきっと大変になるわよ」

 

「大丈夫だって。どんな時でも、スマイルスマイル!でやっていくからさ」

 

 笑顔の息子を見て、相変わらずだなと思い彼女も笑った。

 

「今日もバイオパークに行くんでしょ?(まどか)さん達に迷惑かけちゃダメよ?」

 

「わかってるよ」

 

「そう。なら、母さんもう行くわね」

 

 母は荷物を取り、家を出る。それからダイキも朝食を食べて支度をし、ルルイエを抱えて外出。外へ出た彼は空を見上げる。巨大なガラスのドームが天には有り、その先には赤と青の混じった空が拡がっている。ここは第三火星都市。多くの人が生活する、火星の居住区だ。

 

 

 

 

 

 

 

「あーーーっ!?また枯れてるぅ……」

 

 第三バイオパークに着き、そこで育てていた花を見てダイキは嘆いていた。ものの見事に全て枯れてしまっていたのだ。ここで育てられている花や植物は火星で生まれたものであるが、土壌として使われているのは地球の土や火星の土を少し混ぜた物が使われている。火星の土壌だけでは植物は育たず、例え育ったとしてもすぐに枯れてしまうのが殆どであった。そんな中で唯一蕾が生じたのがルルイエだ。そのことを彼はとても喜び、他の花も同じ様に育てられると思って挑戦しているのだが結果は実らないままである。ダイキは溜め息を吐き、分かりやすく落ち込んでいた。

 

「ダイキお兄ちゃん!」

 

「あ、光ちゃん!」

 

 そんな彼に声を掛けて来た少女。彼女は円 光。火星にある全てのバイオパークの総責任者である人の娘であり、世界初の火星で誕生したスターチャイルドなのだ。

 

「もしかして、また?」

 

「うん……やっぱり火星の土壌で花を咲かせるのは無理なのかなぁ……」

 

 落ち込むダイキの背を光が撫でて慰める。彼女とは中学生の時にこのバイオパークで植物を育てることを許可された頃から仲であり、兄妹の様に仲睦まじい関係であった。

 

「うーん、どうだろう。パパも火星産まれの花の土には、地球の土がたくさん混ざってるって言ってたし。そうでもしないと花は咲かないんじゃないかなぁ?」

 

「やっぱりかぁ……」

 

「でも、このままテラフォーミングが進んで大地が地球人と似た成分になれば、いつかは火星にも植物が生えるんじゃない?」

 

 現在小学四年生となった光だが、両親の影響や自身が勤勉なこともあってか火星の事情に精通していた。火星の大気のテラフォーミングは最終段階まで来ており、後三年もすれば気温も地球と変わらない温暖なものとなってドームを無くしても問題無く人間が生活出来る様になると言われている。大地も開発が進められており、地球の土と混ぜる事で植物が繁殖出来る大地を作ろうとしていた。

 

「確かにそうすれば花は咲く。でも、それって本当に火星で咲いた花って言えるのかなって思うんだ。この火星の大地で咲いた花……僕はそれが見たいし、それをみんなに見て笑顔になって欲しいんだ」

 

 変な拘りではあるが、そこだけはどうしても貫きたかった。

 

「ふふっ、パパもママも似た様なこと言ってたな。火星で咲いた花を、未来の子ども達に見てもらいたいって」

 

「え、そうなの!?」

 

「うん!パパとママも頑張ってるから、ダイキお兄ちゃんも夢を叶える為に頑張ってね!」

 

 彼女のその言葉にダイキは明るく返事をした。自分の夢を応援してくれる人がいるのだから諦める訳にはいかない。そんな時、彼はあることを思い付いて勢い良く立ち上がった。

 

「そうだ!」

 

「うわぁ!?ど、どうかした?」

 

「遺跡周辺の土はどうかな!?」

 

「遺跡って、あの火星遺跡?」

 

 今から5年前、第一火星都市が完成してから数ヶ月後、第三火星都市建設予定であった区域で謎の遺跡が発見された。最初は風や隕石の落下などで偶然作られたものではないかと思われたが、その中に入り当時の調査員達は驚愕した。舗装された道、遺跡を支える為の柱、文字や絵が記された石板の数々、どう考えても人の手によって作られたであろう痕跡が大量に見つかったのだ。これは火星にはかつて文明が有ったことの証拠となり、学会を大いに賑わせた。遺跡発見から2年後、万全の準備を行ってから本格的な調査を開始したのだが、未だに遺跡の全貌は分かっていない状態なのだ。

 

「遺跡が有ったっことは、人が居たってことだよね!?なら、きっとその人達も花を育ててた筈!だから遺跡の土ならきっと!」

 

「う、うーん、どうだろう?花を育ててたかは分かんないし、そもそも人かどうかも……。それにそもそも、遺跡の中って入れるの?」

 

「僕の母さん、遺跡調査の責任者だからね。遺跡で働いてる人達には僕少し顔が効くんだ」

 

 にっこりと笑うダイキ。少し不安ではあるが、こうなったら彼は絶対に止まらないだろう。

 

「じゃあ、行ってくるね!あ、ご両親や翼君によろしくね!」

 

 そう言ってダイキはルルイエを抱え、足早に去っていった。

 

「あー、行っちゃったぁ……」

 

「光」

 

 ダイキの背を見送っていると、1人の女性がパーク内に入って来て彼女に声を掛ける。

 

「ママ!」

 

 穏やかな顔をしたこの女性は光の母親であり火星にあるバイオパークの総責任者の妻だ。光は彼女に連れられて今日この第三バイオパークに来ていた。

 

「どうかしたの?」

 

「さっきまでダイキお兄ちゃんが来てたんだ」

 

「ダイキ君が?」

 

「うん。でも、遺跡の方に行っちゃったの。そこの土を貰いに行くんだって」

 

「あはは、相変わらずねぇ……」

 

 苦笑いした後、女性はダイキが出て行ったであろう道を見つめた。

 

「ルルイエ、か………」

 

 彼が花に付けている名前を呟く。その顔は、何か複雑な想いを抱えている様であった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 地球。時はまだ、火星でダイキが謎の夢を見ていた頃。かのんの自宅であるカフェに彼女と、今朝彼女に迫って来た少女が来ていた。少女の名は(タン)可可(クゥクゥ)。上海出身の日系中国人であり、スクールアイドルをやりたいという一心からこの日本に来たとのこと。可可は偶然歌っているかのんを目撃しそれに感動。彼女のことを「素晴らしい声の人」と呼んで一緒にスクールアイドルをやらないかと熱烈に勧誘した。しかし人前では歌うことの出来ないかのんはこれを拒否。更にそこへ別の生徒が乱入し言い合いになるのいう事態もあったが、それでも諦めず可可はかのんに迫り、今はこうしてカフェで改めて話しているのだ。カフェ内には2人の他に、母とありあ、そしてショウゴがいる。

 

「チョコ渡る染みぃ……」

 

「あはは、逆……」

 

「あっち行ってて」

 

「むっ。はぁーい」

 

 彼女にクッキーとココアを持って来たありあを下がらせ、かのんは可可に小声で話しかける。

 

「やっぱり私がアイドルって、無理があると思うんだ……」

 

「そんなことないです!スクールアイドルは誰だってなれます!」

 

 その声は母達にも聞こえた様で。

 

「アイドルぅ!?」

 

「アンタがぁ!?」

 

「嘘だろ?」

 

「うるさいなぁ!話聞かないで!」

 

 家族3人に対して聞くなというが、こんな話聞かない訳にはいない。3人は耳を傾ける。

 

 運命を感じたという可可に説得されるが、自分はアイドルなんて柄じゃない。そう言ってなんとか諦めてもらおうとするのだが……。

 

「そんなことないです!かのんさん、すっごくカワイイです!」

 

「可愛いぃ!?」

 

「お姉ちゃんがぁ!?」

 

「眼科行けよ」

 

「だから話聞かないでって!!あとお兄ちゃんは後でブッ飛ばす!!」

 

 物騒なことを言う妹に顔を顰めさせるショウゴ。それから彼女達は2階にあるかのんの部屋にへと上がっていった。これ以上話を聞かれない様にする為だろう。去り際、かのんの軽くショウゴの肩を叩いていった。

 

「痛い」

 

「お兄ちゃんがあんなこと言うからだよ」

 

「そうそう」

 

「アンタらも人のこと言えないからな?」

 

 1人だけ扱いが雑な気がして腑に落ちない。彼女達が使っていたテーブルを片付ける為に布巾を持って歩き出した。テーブルを拭きながら、そういえばかのんが幼馴染以外の友達を連れて来たのは久しぶりだなと思った。受験に失敗し、周りの期待を裏切ってしまったという思いと結ヶ丘女子の音楽科に受かった人への劣等感からか、春休み期間中は中学時代の友人と会うことをしなかった彼女。そんな彼女が入学してすぐ新しい友達を連れて来たのは少し意外で、そして喜ばしくも感じた。

 

「………フフッ」

 

「何笑ってるのお兄ちゃん?もしかして、さっきの子に恋したとか!?」

 

「そうなのショウゴ!?」

 

「張っ倒すぞアンタら」

 

 それからも茶化してくる2人を適当に足らいながらふと天井を見上げる。

 

「お前も───」

 

 俺とは違うよな。

 

 出て来そうになったその言葉を呑み込み、未だニヤニヤしながら弄ってくるありあの顔面に布巾を投げつけるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 火星遺跡。A.D.2020に発見された謎の遺跡であり、三年前から調査が進められているが、その全体は未だ謎だ。発見当初、遺跡は浅い地中に広がっているだけかと思われたが、スキャニングにより逆ピラミッド型になって地中に埋まっていることが判明した。ここには謎の壁画や石板などの出土品が発掘されており、かつて火星には地球の様な文明が有ったことを証明していた。まだ最下層まで調べられてないこの遺跡だが一週間前にある物が見つかり、それを見る為に静間会長が地球から火星に来たのだ。

 

 静間 (しずま) 光圀(みつくに)。世界的複合企業シズマ社の創業者兼社長であり、シズマ財団の会長。10年前、突如発生した時空の歪みより異なる世界からの怪獣や宇宙人が現れる様になった。それにより生態系は大きく破壊され、世界は危機的状況に陥った。事態をどうにかすべく動いたのがシズマ財団の会長である彼だ。財団は怪獣災害への対応や宇宙人による侵略からの防衛、それらの為にTPCへ多大資金を提供し、様々な企業などと強力。それにより新たにTPCを再編成した地球平和同盟TPUが発足することになったのだ。

 

「火星遺跡で新たな発見があったとは……。研究者の血が騒ぐよ」

 

「今回見つかった物は、是非会長に見て貰いたいんです」

 

「ほお、それは楽しみだ」

 

 そんな話をしながら、光圀と礼奈、そして調査チーム達が遺跡に向けて歩いていく。その後ろを息子であるダイキがついて来ていることなど、礼奈は思ってもいなかった。

 

 

 

 遺跡に到着した光圀は驚愕していた。そこにあったのは、巨大な剣の様な形をした石の物体だ。その大きさは20mは超えていると思われる程。

 

「この物体ですが、これまで地球で発見されてきた遺跡にあった石像と同じ成分で構成されていました」

 

「それは本当か!?」

 

「ええ。東北のピラミッド、そして熊本の地下、それらで発見された巨人像と同じなのです」

 

「やはり火星にも、地球と同じ超古代文明があったとは。そしてこの石像、まさに石の神話だな」

 

 世紀の発見と言っても過言では無いことに息を呑む光圀。

 

 一方、隠れながら礼奈達の後を着いて来ていたダイキもその巨大なそれに驚きを隠せないでいた。

 

「すっごい……!?」

 

 当初の目的も忘れてじっと見つめるダイキ。すると突然、物体は亀裂の間から光を放ち始めた。

 

「な、何だ!?」

 

「こんな反応、初めてです!?」

 

 突然のことに驚き同様する光圀、礼奈と調査員達。そしてダイキは……。

 

「これって……!?」

 

 彼の両手が青白く光を放っていた。更にそれと同時に、大きな揺れが発生した。揺れと自分に起こった異変。二つのことに困惑していると彼の頭上の天井が崩れ、岩が落下して来た。

 

「うわああああああ!?」

 

 それに気付きしゃがんで思わず両手を突き出す。そんなことしても潰されてしまいその人生を終えることになるだろう……が、彼を守る様にしてシールドが発生し、岩を弾いてしまった。何が何だか分からずおどおどとしていると、礼奈がダイキに気付いて駆け寄って来た。

 

「ダイキ!?貴方どうしてこんな所に!?」

 

「ご、ごめんさい……遺跡の土が欲しくて……」

 

「一先ず退避しよう。みんな、急いで逃げるんだ!」

 

 光圀の指示を受け、調査隊の皆は急いで遺跡から脱出していく。そして外に辿り着いた時彼らが目にした物は、大地を揺るがす猛獣と、空を切り裂く怪竜であった。

 

「Gooooooooooooooッ!!」

 

「Kyeeeeeeeeeeッ!!」

 

「ゴルザにメルバ……!?何故火星に!?」

 

 15年前、モンゴル高原にて初めて姿を現した超古代怪獣ゴルザ、そしてイースター島より飛び立った超古代竜メルバ。2匹の怪獣がドームの外壁をブチ破り、遺跡に向かって猛進していた───

 

 

 

 

 

 

 




今回はウルトラ要素多めとなりました。
トリガーサイドの話は設定の解説が入ってしまうのでどうしても長くなってしまう……。スパスタサイドが疎かにならない様、頑張って調整していきます。

今回登場した少女・光。ティガ、そしてダイナを観た皆様なら知っているでしょうあのヒカリちゃんです。ならそのあと出て来た母親は……。
こんな感じでティガの原作キャラクター達も登場していくことになります。

そして最後にゴルバー……ではなく、ゴルザとメルバの登場です。何故地球怪獣である筈の2体が現れたのか?それは次回以降で明らかとなる予定です。是非お楽しみに。

それと、今回から「ウルトラマンオーブ」やっていたようなサブタイトルを探せを不定期になるかもですがやっていこうと思います。何処かにウルトラシリーズのサブタイトルが隠れているので、是非探してみて下さい。

それでは皆様の感想や高評価、ここすき等、心よりお待ちしております。


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3繋いだのは

 

 

 

 

 

 火星にてゴルザとメルバが現れた頃、かのんは自室のベッドに身体を沈めていた。歌わないならスクールアイドルになっても構わないと可可に言ったが、彼女からは本当にそれで良いのか聞かれることに。かのんの歌が大好きになった可可はどうしても彼女と一緒に歌いたいのだが、かのんにはそれを決断することが出来なかった……。

 

 スクールアイドルになりたい人が居ないか探すのを手伝うと言ってから可可を見送った後、彼女は幼馴染である嵐 千砂都がバイトをしている移動型のたこ焼き店に行った。そこで彼女にスクールアイドルに興味のある子はいないかと聞いたが、どうやら音楽科にはその様な人は居なさそうだ。それどころかスクールアイドルのことを快く思ってない人も少なからず居るらしい。特に学校を創設した葉月 花の娘である葉月 恋がそうだと。実際に恋は、学校でスクールアイドル勧誘のチラシを配っていた可可に対して厳しい言葉を掛けていた。

 

 ふと、壁に立て掛けてあるギターのケースに目を向ける。可可の力にはなりたいが、自分に出来るのは精々メンバー集め程度。歌えない以上、仲間になるなど不可能だろう。人前でさえ歌えたら……そこまで考えて頭を振る。そもそも可能不可能以前にスクールアイドルなんてなる気は無いんだ。可可には悪いがやっぱりこれ以上関わるのは辞めようかと考える。そうすればこんな変なことも思わずに済む筈だ。そんなこんな思考を巡らせていた時、扉がノックされてから開いた。

 

「お兄ちゃん……」

 

「よう」

 

「入って良いって言ってないけど」

 

 少しムスッとするかのんを無視してショウゴは部屋の中に入り、手に持っていた皿をテーブルに置く。その上にはパンケーキが乗せられていた。

 

「何それ?」

 

「試作だ。食って感想をくれ」

 

「こんな時間に食べたら太りそうなんだけど」

 

「別に誰も気にしねえよ」

 

 失礼なことを言うショウゴの顔に枕を直撃させた後、テーブルの前に移動し、一緒に乗っていたフォークとナイフを使ってパンケーキを食べる。

 

「んっ……美味しい」

 

 パンケーキをどんどん食べ進めるかのん。そんな彼女を見ながら、ショウゴが言葉を投げ掛ける。

 

「やるのか、スクールアイドル?」

 

「えっ?」

 

「誘われてただろ、あの子に」

 

「やらないよ。お兄ちゃんだって知ってるでしょ?私が人前で歌えないの……」

 

 そう返されるとショウゴは何も言えなかった。あの日の夜、自身の不甲斐無さを嘆いてこっそり涙を流してたこと、過去にも彼女は発表会などの場で極度の緊張から歌えず倒れたこと、歌と音楽が大好きで結ヶ丘の音楽科を本気で目指していたこと。彼女の歌に掛けていた想いを知っているから、無理だと思っていることを強く勧めることは出来なかった。

 

「そっか」

 

「クゥクゥちゃんとも、出来るだけ関わらない様にしようかなって思ってる。そうすれば、こんな変な思いもしないでいいだろし……」

 

「それは無理だろ」

 

 彼の言葉に、かのんは目をキョトンとさせる。

 

「お前は目付きが悪い、口が悪い、態度も悪い」

 

「喧嘩売ってる?」

 

「でも、友達を見捨てれるほど腐っちゃいない。どうせすぐに助けに行くに決まってる」

 

「………私、そんなに良い子じゃないよ」

 

「良い子だよ、俺よりはな」

 

 その頭をわしわしと撫でた後、ショウゴは部屋を出て行こうとする。だがその背中にかのんが声を掛けて止めた。

 

「お兄ちゃんも良い人だよ」

 

「俺は違うっての」

 

「そんなことない。こうやって、私のこと心配してくれたじゃん」

 

 どうだかな。振り向いた後そう呟いて、彼は部屋を出る。その時見たかのんの瞳には、確かな光が宿っていた。

 

 それから、自室に戻り一人佇む。そして今見たかのんの光を思い返した。自分には無い、他のみんなが持っている光を。

 

「光……」

 

 追憶するあの日の記憶。眩い幾多もの光が、柱となって天を昇り、あの英雄を救う為に飛び立っていく。一人、また一人、光となるその光景を、彼は幼い妹を抱きながら見ていた。そして妹も、無邪気な笑顔と希望に満ちた声と共に光へと変わる。自分も……そう思い右手を伸ばし────

 

 

 

「ンッ!?グオッ、オエエエェェッ!?ガハッ、ガハッ!?ゲェァァッ!?」

 

 襲い掛かる不快感と嘔吐。ショウゴは伸ばしていた右手を床に着き、晩に食べた物と胃液をカーペットの上に撒き散らした。酸っぱい臭いが、部屋の中に漂っていく。

 

「ハァ……ハァ……臭えな……」

 

 また吐きそうになるのを抑えながら、掃除をする為雑巾を取りに部屋を出るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

####################

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自動防衛システムが起動し、ゴルザとメルバへ砲弾が放たれていく。しかし奴らはそれを物ともせず進み、ゴルザは額から超音波光線を、メルバは目から破壊光弾メルバニックレイを放ち、赤い目をギラギラと輝かせながら砲台を破壊していった。

 

「このままでは……!?」

 

「あ、危ない!」

 

 破壊光弾が遺跡に直撃、大きな揺れと共に一部が崩れて瓦礫が落ちる。

 

「ダイキ、大丈夫!?」

 

「僕は大丈夫だよ、母さん……!」

 

 砲台を全て破壊した2匹が遺跡へと迫る。このままでは不味い……みんながそう思った時、幾つものレーザー光線が、2匹の怪獣に浴びせられた。

 

「あれは!?」

 

「スーパーGUTSマーズ……!来てくれたか!」

 

 

 

 スーパーGUTSマーズ。2013年に旧GUTSを再編成して誕生した特捜チームがスーパーGUTSであり、彼らは様々な怪獣災害や怪事件、宇宙人からの侵略に立ち向かい、被害を最小限に留めてくれた。これまでは日本中心だったこれらの災害だが、2015年に起きた事件をキッカケに日本以外でも怪獣は頻繁に現れる様になり、それに対抗する為、静間財団から支援を受け再編成したTPUは2019年までに各国にスーパーGUTSを配置。そして2021年、日本を守っていたスーパーGUTSのチームを火星防衛担当とし、スーパーGUTSマーズとして改称した。彼らは火星に住む人々を、襲い来る毒牙から守り抜いているのだ。

 

 主力機である3機のガッツイーグルがゴルザとメルバに攻撃を繰り出していく。怪獣達はそれを受けて足を止め、反撃として光線や光弾を発射。3機は散開して回避した。

 

「各機、敵の動きに注意しつつ攻撃を続けろ!奴らをこれ以上先に進ませるな!」

 

「「「「ラジャー!」」」」

 

 β機に乗っている隊長の香田 俊之の命令を受けて動き出す。それを見て、メルバが翼を拡げて飛び上がった。

 

「飛鳥、涼!お前達はメルバを!」

 

「ラジャー!叩き落としてやるぜ!」

 

「調子に乗って墜ちないでよ?」

 

「墜ちるかよ!俺のファインプレー見せてる!」

 

 α機の飛鳥 真、γ機の弓村 涼がメルバへと向かう。マッハ6のスピードで飛ぶメルバであるが、両機ともそれを超えるスピードで迫っていく。

 

「くらえ!」

 

 2機のレーザーがメルバに直撃。体勢を崩したメルバは地面に落下した。起き上がり、2機のガッツイーグルに光弾を放つが、飛鳥と涼の巧な操縦により全て躱されてしまう。そして2機はローリングしながら迫りα機がレーザーを、γ機がミサイルを放った。また直撃を受けた悲鳴を上げながら倒れる。

 

 一方、β機はゴルザの攻撃を躱しながら弧を描く様に動いて熱線を足下に当てる。その威力にゴルザは少しずつ後退していた。

 

「先へは進ませない!」

 

 操縦と攻撃を担当している刈谷 康平がトリガーを押しゴルザを攻撃し続ける。そんな中、解析をしていた中島 努が声を上げた。

 

「奴らは過去に地球に出現したゴルザ、メルバと同種でしょう。しっかし、何故火星に現れたんだ……?」

 

「火星には地球の超古代遺跡と似た物があった。それが関係してるんじゃないか?」

 

「でもこれまでの調査で火星に生命体が居ないことは証明されていて──」

 

「議論は後だ!今はとにかく、奴らを倒すぞ!」

 

 β機は更に激しく攻撃。ゴルザをまた一歩後退させた。

 

 倒れたメルバは立ち上がり翼を拡げる。再び飛び上がり反撃しようと考えているのだ。その時生まれた一瞬の隙を、涼は見逃さなかった。

 

「墜ちなさい!」

 

 冷凍ミサイルを発射。ミサイルはメルバの左の翼に当たり凍り付かせた。それによってバランスを崩したメルバはまた地面に叩き付けられる。

 

「よっしゃ、トドメだ!」

 

 α機が下部ハッチを開きビーム砲を放った。ビームは身体を起き上がらせようとしたメルバの胸元に直撃し猛烈な火花を散らす。その一撃が致命傷になったのだろう、メルバは弱々しい断末魔を上げた後に完全に地に伏して絶命するのであった。

 

「っしゃー!見たか、俺の超ファインプレー!」

 

 喜びガッツポーズをする飛鳥。そんな彼に少し呆れながらも、涼はサムズアップを見せた。

 

 メルバが死んだのを見たゴルザは急遽方向転換し地面を掘り始めた。そのまま逃げるつもりなのだ。

 

「逃がすか!」

 

 ゴルザの上まで行き、β機は爆雷を落とす。凄まじい爆発音が辺りに響いた。

 

「やったか!?」

 

「熱反応無し……逃げられたみたいです」

 

「くそっ!」

 

「まあ、被害を食い止められただけ良しとしよう。各機、着陸して地上の状況確認に当たるぞ」

 

 ゴルザには逃げられてしまったが一先ず危機は去った。スーパーGUTSマーズの面々は被害状況を確認する為にガッツイーグルを着陸させた。

 

 

 

 

 

 多くの怪我人こそいるが重傷者や死者は居らず、被害は最小限に抑えられたと言って良いだろう。しかし、避難所として使っている遺跡探索の為に建てられた拠点内に流れている空気は余り良いものでは無かった。突然の怪獣襲撃による被害は、物理的な破損や負傷よりも、人々の心に暗い影を落としたのだ。ここにいる人達の表情は暗く、重々しいものばかりになっている。

 

「こんな時、僕に何が出来るんだろう……?」

 

 ポツリと呟くダイキ。そして抱えていたケースの中にあるルルイエを見つめる。みんなを笑顔にしたい。でも、今の自分では何も出来ない。ただ無力を感じて唇を噛み締めるしかないのだ。自分自身に、嫌気が差してしまった。

 

「よっ!」

 

「っ、飛鳥さん」

 

 そんな彼に声を掛けたのは飛鳥。2人は以前からの知り合いなのだ。

 

「どうしたよー?暗い顔しちゃってさ」

 

「僕、みんなが悲しそうな顔してるのに何も出来なくて……。何だか、自分が凄く小さく思ってきちゃったんです……」

 

 心情を吐露するダイキ。飛鳥はそれを黙って聞いている。

 

「僕はルルイエを咲かせて、見た人が笑顔になれる様な花にしたかった。みんなが笑顔で居られる世界にしたい。かのんともそう約束したから……。でも、今の僕にはそんな力、何処にも無い……。僕は弱いんだ……」

 

 ダイキは無力を痛感しながら目を伏せる。

 

「本当にそう思うか?」

 

「えっ?」

 

「俺はダイキが弱いだなんて思わないぜ。だって、今も誰かの為を思ってるじゃないか。だからダイキは充分強い」

 

 飛鳥から言われた予想外の言葉に彼は目を丸くした。

 

「どんな時でも、決して諦めない。それが俺のポリシーなんだ。諦めなければ、必ず道は開かれる。前の隊長もよく言ってたし。──だからダイキも諦めるな。本当の戦いは、ここからだぜ」

 

 そう言って笑顔でサムズアップする飛鳥は、ダイキには眩い光に見えた。

 

「飛鳥、ちょっと来て!」

 

「おっ、呼ばれたな。じゃあ、またなダイキ」

 

 去っていく飛鳥。諦めない心……それが大きな力になるだろうか?そう考えていた時、今度は別の人物に声を掛けられた。

 

「君の望む未来は何だ?」

 

 声を掛けたのは光圀だ。

 

「君が望む未来、君の思い描く世界。それはどんなものかな?」

 

 未来──声に出し呟く。彼が望むのは、あの日かのんと約束したのはみんなを笑顔にする花を咲かせ、世界中を人々を笑顔にすること。こんな所で挫ける訳にはいかない。彼女も歌でみんなを笑顔にする為に頑張っているのに、自分が立ち止まる訳にはいかない。約束を果たし夢を叶える為に立ち向かわなくてはならないのだ。

 

「僕の望む未来は、みんなが笑顔で居られる未来です!」

 

 迷わず答える。そんなダイキを見て光圀は少し笑った後、アタッシュケースを開けてその中身を彼に見せた。中には白を基調とした大きな銃、それを入れるホルスター、ベルト、そして薄い青緑色のUSBメモリの様な機械が入れられていた。

 

「なら君は、自分の力でその未来を切り開かなければならない。これはその為に必要になる物だ」

 

 近付いてそれらのアイテムを見る。これを取れば、もう後には引けない。何故かそんな気がしてきた。そこへ母である礼奈が彼らの元にやって来る。

 

「ダイキ」

 

 優しい母の声。

 

「貴方は貴方を信じなさい。貴方自身の運命の光の中で、切り拓ける未来があるのだから」

 

 でも、今は何処か寂しさが混じっている。その瞳には少しだけ涙が滲んでいた。

 

「母さん、スマイルスマイル!」

 

 息子から発せされたいつもの口癖。それは不安を抱えていた彼女の心に光を与える。

 

「ルルイエをお願い」

 

 ルルイエの入ったケースを彼女に渡し、ダイキは銃・GUTSスパークレンスを手に取る。ベルトを巻き、2つのホルスターを付け、最後にブランク状態のGUTSハイパーキーを取った。スパークレンスとキーをそれぞれのホルスターに入れ、彼は突き動かされる様に遺跡へと走り出した。

 

 

 

 同刻である。地面より再びゴルザが現れたのは。

 

「ゴルザが再出現しました!」

 

「何!?」

 

「急いでイーグルに戻るぞ!!」

 

 スーパーGUTSマーズはガッツイーグルで再度ゴルザに立ち向かう為に機体へと向かっていく。一方でゴルザは、まだ処理されていなかったメルバの死体の側に来ていた。

 

「アイツ、何を?」

 

 メルバの側に立ったゴルザ。すると、メルバの肉体が闇となり、そのままゴルザに吸収されていく。そしてゴルザの身体は変化をしていった。メルバの翼が生え、頭部にはメルバの上顎と目と鶏冠、尾もメルバの様な物となる。2体の超古代怪獣が悍ましく融合し、超古代闇怪獣ゴルバーとなり火星に降臨したのだ。

 

 「GooooooooKyeeeeeee!!」

 

 2匹の鳴き声が混じり合った叫びが轟く。3機のガッツイーグルは奴を倒す為に飛び上がり、立ち向かう。それに対して、ゴルバーは光弾と破壊音波を放つのであった。

 

 

 

 ゴルバーが暴れる中、ダイキはあの石像がある所まで来ていた。あの時起こった不思議な現象。ここなら何かあるのではないかと思ったのだ。するとまた石像が光を放ち、それに呼応する様にダイキの手も光った。

 

「これって一体……────ッ!?」

 

 何なのだろう?そう言う前に、突如足下に円形の穴が空いた。突然のことで何が何だか分からないまま、彼は絶叫と共に落ちていく………。

 

「痛ッ!?ううぅ……もしかして、遺跡の最下層?」

 

 地面に叩き付けられたダイキは周りを見ながら、ここが遺跡の最下層ではないかと予想し呟く。そして起き上がり振り向くとそこには、巨大な石像が片膝を突いた状態で鎮座していた。その姿形は今朝、ダイキが夢に見た闇の巨人に似ていた。

 

「や、闇の……!?……いや、違う?」

 

 だが巨人から感じられるのは闇では無い。寧ろ、暖かな光を感じられた。

 

■■■(ああ)……■■■■■(やっと会えた)……」

 

 背後から聞こえた聞き慣れない言語。また振り返ったダイキが見たのは、女性型の明らかに人間では無い存在。奇妙な言語を喋っているが、何故かダイキにはその言葉の意味が理解出来た。そしてその存在の持つ禍々しい闇の力も、彼は感じ取ることが出来ていた。

 

「会いたかったよお……。3000万年の間ずっとねぇ。もう少し感動的な再会を期待したんだけどこの際仕方ない……この想い、受け止めもらおうじゃあないのォッ!!」

 

 その存在・カルミラは光の鞭カルミラウィップで石像を打つ。このままそれを続けられたら、石像は破壊されてしまうだろう。

 

「や、やめろぉ!!」

 

 それを許す訳にはいかないと彼は何故か思った。ダイキは勇気を振り絞ってカルミラの前に立った。

 

「ああァ?何だい人間、邪魔だよ!」

 

「ぐあっ!?」

 

 振われた鞭がダイキの身体を弾き飛ばす。地面を転がるダイキ。頬からは血が出ており、痛みが身体を襲う。だがそれでも彼は諦めず立ち上がり、またカルミラの前に立つ。

 

「チッ、鬱陶しいねぇ」

 

「僕はみんなを……笑顔にしたいんだ!!」

 

 胸に秘めた夢を叫ぶ。眼前にいる彼女は人の笑顔を奪う存在だと直感的に理解した彼は、絶対に彼女に屈する訳にはいかなかった。自分の中の熱い想いを言葉にして、己の心と身体を奮い立たせる。すると次の瞬間、巨人の石像から光が放たれた。

 

「えっ……?」

 

「何だい!?ああああッ!?」

 

 光はカルミラのことを吹き飛ばし遺跡の壁に叩き付けた。それから光はダイキの周りに集まっていき、彼の腰に備えられたGUTSハイパーキーに吸収されていく。キーは紫色に変色し、表面には巨人の絵が描かれた。

 

 それを手にした時、彼の頭の中に明確なビジョンが浮かぶ。

 

「トリガー……そうか、ウルトラマントリガー!」

 

 ウルトラマン。それは過去に人類を闇から救った光の英雄の名。ここに鎮座する巨人も、同じウルトラマンなのだ。GUTSスパークレンスを抜き、ダイキはGUTSハイパーキーのスイッチを押した。

 

───ULTRAMAN TRIGGER!MULTI TYPE!

 

 そしてキーをスパークレンスの銃底に装填。

 

───BOOT UP!ZEPERION!

 

 銃身の上部を展開し、ビジョンの中で見た神器と似た形状に変形させた。それを前面にへと突き出す。

 

 その様子を、夢の中で見た白い髪の貌の無い女性が見つめていることに、ダイキは気付いていなかった。

 

「未来を築く、希望の光!」

 

 自分の夢、笑顔の溢れる世界の為。花咲く未来の為。

 

 全ての想いを込めて、彼はその名を叫ぶ───

 

 

 

 

 

「ウルトラマンッ、トリガァーーーーッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

####################

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝。ショウゴは店のテーブルを拭いていた。そんな彼の背後に、学校へ行く準備をしたかのんが立つ。

 

「お兄ちゃん」

 

「何だ?小遣いならやらんぞ」

 

「それは期待してないからいい。………私ね、クゥクゥちゃんのこと手伝う。スクールアイドルやるのは多分無理だけど、メンバー探すくらいなら出来ると思うから」

 

 そう言ってはにかむ彼女を見て、ショウゴも笑った。

 

「そっか。なら、頑張って来い」

 

「うん!じゃあ、行ってきます」

 

 店を出て学校へ向かうかのん。その足取りは昨日より軽い。

 

「あの子のこと、励ましてくれたのね」

 

「アイツが勝手に元気になっただけだ。俺は何もしてないよ」

 

 テーブルを拭く手を動かすショウゴを見て母はクスクスと笑う。彼が照れ隠ししているのに気付いてるのだろう。そんなやり取りをしていた時、ドタドタという足音と共にありあが飛び込んで来た。

 

「た、大変だよ!?」

 

「どうしたのありあ?」

 

「良いからニュース!!テレビ見て!!」

 

 店内スペースにあるテレビを母が点けた。何かと思いながらショウゴもテレビに目を向ける。そこには……。

 

《日本時間21時頃、火星に2体の怪獣が現れました。怪獣は火星遺跡の探索チームを襲いましたがスーパーGUTSマーズにより1体は駆除、もう1体は撃退されました。しかしそのご日本時間深夜1時頃に再び現れてスーパーGUTSマーズと戦い、なんと全ての戦闘機を墜落させてしまいました。万事休すかと思われた現場でしたが、なんと!》

 

 テレビに映される光の巨人。銀をベースしたボディに赤と紫の色が入り、胸には金色に輝くプロテクター、そして胸には青い菱形のクリスタル。

 

 その姿を見て、ショウゴは持っていた布巾を落とした。手が、唇が、そして全身が震える。目を逸らしたいけど逸らせない。それは彼にとって、忘れられない存在に良く似ていたからだ。恐怖か、怒りか、哀しみか。外観からは決して分からない感情が、その表情には浮かんでいた。

 

 震える唇をゆっくりと動かし、彼はその名を呟いた───

 

 

 

 

 

「ウルトラマン……ティガ………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





ショウゴと話し、可可を助ける為に動き出したかのん。そんな彼女にショウゴは光を感じ……。ティガ、ダイナ、そしてその他のウルトラシリーズでも大切にされてきた「光」というワードは、本作でも重要なキーワードとなります。

火星にはゴルザとメルバを倒す為、スーパーGUTSマーズが出動。このチームは小説ダイナ「未来へのゼロドライブ」や映画「ウルトラマンサーガ」に登場したものです。そしてそのメンバーには、あのアスカもいます。本作の世界にはスフィアが登場せず、ダイナの物語に派生しなかった世界線なので彼も普通にこの世界に存在してます。そして彼の言葉はダイキの胸を打つことにに。世界は違っても、彼はやはり熱い心と光を持つ者ということでしょう。
本編ティガ、ダイナに登場したキャラクター達は本編とは違うifの存在という形になり、その為敢えて本編では片仮名表記だった名前を漢字表記にしています。
また、スーパーGUTSマーズは本来の歴史では2027年に発足してますが、こちらでは2021年発足となっています。

スーパーGUTSマーズによって倒されたメルバ。それを吸収してゴルバーが誕生。これは自分がやりたかった展開です。

飛鳥、光圀、そして母の言葉を受けて駆け出したダイキ。そして彼は遂に光を繋ぐ者としてウルトラマントリガーへ変身。その活躍は次回をお楽しみに。

そして前回のサブタイトルを探せの答えですが終盤の光圀の台詞にあった「石の神話」です。これはウルトラマンティガ第2話のタイトルになります。今回も隠れているので是非探してみて下さい。前回より少し難易度が高いかも……?

それでは皆様の感想や高評価、ここすき等、心よりお待ちしております。


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4()キモチ()

 

 

 

 

「スクールアイドルかぁ……」

 

「ごめんねぇ、歌はどうしても苦手で……」

 

「他にやりたいことあるんだ」

 

 かのんはクラスメイトにスクールアイドルに興味が無いかを片っ端から聞き回っていた。しかしななみ、やえ、ここの、それ以外の子達にも断られており前途多難のスタートを切っている。上手く事が運ばないことに溜め息を吐きながらそれを可可に報告。すると彼女の方も似た様な結果であったらしい。どうしたものか……?中庭にある木を囲んで作られたベンチに並んで座り考えるかのんと可可。するととある少女がかのんの目に映り、彼女は立ち上がってその子の元へ駆けた。

 

「あの!?」

 

「………何でしょう?」

 

「同じクラスの平安名 すみれちゃん、だよね?」

 

 美しい金髪と白い肌、エメラルドの瞳が輝いているこの少女の名は平安名 すみれ。自己紹介の時、とても堂々としていたことからかのんも印象に残っていた。可愛い子揃いの結ヶ丘だが、その中でも頭1つ抜き出た美少女だ。彼女がスクールアイドルをやってくれれば百人力だと思ったのだが……。

 

「私を誰だと思っているの!?」

 

 一喝。予想外の迫力にかのんはビビり、その隙にすみれは去ってしまった。

 

「ごめんなさい、かのんさん……」

 

「ううん、大丈夫……!他のクラスや音楽科の子にも聞いてみよう」

 

 すみれに怒鳴られたかのんを見て、可可は申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまう。

 

 それから彼女達は音楽科の人達に声を掛ける為にその校舎に向かった。しかしそこは、あの葉月 恋が見回りをしていた。彼女から目の敵にされてる2人は身を隠しながら進みスカウトを敢行しようとしたが、恋の監視を突破することは叶わず、結局かのん達は普通科ではメンバーを見つけることは出来ず、音楽科では誰にも声を掛けられないまま放課後を迎えることになるのだった……。

 

 夕焼けが空を茜色に染め始める刻。彼女達は肩を落としながら普通科の校舎を出た。進展は無く、特に可可の落胆振りは火を見るより明らか。

 

「明日、また探してみよ?これだけ人が居るんだし、きっと1人くらい興味を持ってくれる人がいるよ」

 

 そう言って可可をかのんは励ますが彼女の表情は複雑なものになっている。人が多いと言っても音楽科の人達に声を掛け難い状況である以上、残すは他のクラスの人達。新設されたばかりで一期生だけの結ヶ丘には自分達より上の学年は居らず先輩に声をということは出来ないので正直言って状況はかなり厳しい。

 

 どうすれば良いかと考えてながら進むかのん。可可の力になる為に、自分に出来ることは何か……。そう考えていた時、背中から可可に呼び止められた。

 

「あの!?かのんさん!!」

 

 振り向くと彼女は何か言い辛そうな表情となりながらも、意を決した様に唇を結びそれを開いた。

 

「やっぱり、かのんさんもスクールアイドルやりませんか!?」

 

「えっ……?」

 

「迷惑かと思って言うかどうか迷ってたのですが……でも、どうしても可可は、かのんさんと一緒にスクールアイドルがしたいです!!」

 

 初めて彼女を見た時から、初めて彼女の歌を聴いた時からそう思っていた。可可はかのんの歌が大好きであり、歌が大好きなかのんと一緒にスクールアイドルになりたかった。彼女ならきっと、みんなに勇気と希望をくれるスクールアイドルになれる筈。可可はそう確信しているのだ。

 

「む、無理無理!私は歌えないし、クゥクゥちゃんの迷惑になる……。それに私よりスクールアイドルに相応しい人なんていっぱいいるよ」

 

「かのんさんだってそうです!スクールアイドルにピッタリの人です!かのんさんの歌、みんなが聴きたいって思っています!」

 

「………私には出来ない。私の歌は、もうお終いなんだから」

 

 結ヶ丘の受験で歌えなかったあの時、もう自分の歌の道は閉ざされたのだと感じていた。どんなに頑張っても、人を前にしたら喉から声は出ない。みんなが大好きだと言ってくれたこの歌声を、誰かに届けることは出来ないのだ。周りのみんなをがっかりさせてしまうのはもう嫌なのだ。昔、ダイキと交わした約束を果たすことも叶わなくなり、歌が大好きだという想いを胸の中に圧し殺していた。

 

 後ろ向きな気持ちで前へと進む。可可の想いに応えることは自分には不可能。今日はもうこのまま帰ろう。そう思った時である……。

 

「応援します!!かのんさんが歌えるようになるまで、絶対諦めないで応援します!!」

 

 可可の必死の叫びが、胸の中の何かを動かしたのは──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

####################

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時を戻す。火星にはゴルバーが現れ猛威を奮っていた。スーパーGUTSマーズが立ち向かっていったのだが、奴はゴルザとメルバの両方の特性を持ち合わせ更に強化されており彼らの攻撃を物ともせず、メルバの目の部分よりパワーアップしたメルバニックレイ、口より超音波光線を放って暴れる。

 

 その脅威的な力の前に、既にβ機とγ機は堕とされてしまった……。

 

「この野郎……!」

 

 飛鳥の乗るα機がジーグを放ちながら突っ込んでいく。攻撃は命中こそしてるがゴルバーには全く通用していない。余裕とばかりに撃たれた部分を軽く手で撫でるゴルバーを見て飛鳥は唇を噛み締める。

 

「舐めやがってぇ……!喰らいやがれ!」

 

 再度攻撃。だがやはり通じない。ヤケクソ気味に叫びながらもう一度突っ込むα機。その機体に、ゴルバーが振り回した尻尾の先端が叩き付けられた。

 

「ぐああああああ!?」

 

 スピンしながら高度を落とし、アルファ機は火星の大地を滑っていくことになる。スーパーGUTSマーズを退けたゴルバーは、火星遺跡に目を向ける。そして超音波光線を遺跡へと放った。奴の目的は遺跡を破壊することなのだ。光線により包まれてた岩が崩れ、中から黄金に輝く逆三角形のピラミッドの外壁が露見する。更にメルバニックレイも放って岩を剥がしていき、ピラミッドの一面が見える様になった。

 

 破壊対象がしっかりと見えたことに興奮したのか咆哮するゴルバー。そして大地を揺らしながらピラミッドへと近付いていく。文字通り自身の手で破壊するつもりなのだろう。意気揚々と奴は迫っていく。だがその時だ。

 

 

 

───ULTRAMAN TRIGGER!MULTI TYPE!

 

 

 ピラミッドの前に光の柱が現れて天にへと昇る。そしてその中から現れたのは、身長50メートルは有るであろう巨人であった。光と共に現れたその眩い存在に、現場にいた全ての物の目が奪われることになる。

 

「あれは……!?」

 

「光の巨人!?」

 

「ティガ、なのか?」

 

「ティガとは違う、新しいウルトラマン……!?」

 

 

 

「ダイキ……」

 

「やはりダイキ君も、光を受け継ぐ者」

 

 自身の変化に少し戸惑いながらも、悠久の時を経て甦った光の巨人・ウルトラマントリガーとなったダイキはゴルバーに構えた。赤と紫のラインに金のプロテクターが胸部や手、足に備えられ胸に青く輝くクリスタルのある姿となった彼に、ゴルバーは吼えた。超古代より続く因縁。倒すべきその相手が眼前にいる。過去の記憶が、刻まれた遺伝子が、奴を殺せと騒いでいた。

 

「Gooooookiiiiiiiii!!」

 

『セアッ!』

 

 踏み出し、因縁の相手にゴルバーは向かう。トリガーもそれに対抗して駆け出した。跳躍しゴルバーの脳天にチョップを叩き込む。その威力に光がスパークし、奴を少し怯ませた。更にキックにパンチと攻めていきゴルバーに反撃の隙を与えない様にする。ゴルバーも負けじと腕を振るい抵抗するが、トリガーはそれを回避しストレートキックを叩き込んで後退させた。

 

「Guuuu……!?Gaaaakeeee!!」

 

 超音波光線とメルバニックレイを同時発射してトリガーを攻撃。彼はそれを後方回転していきながら躱し、止まると同時に手裏剣を飛ばす様に青白い光弾・トリガーハンドスラッシュを連続して放った。光弾はゴルバーの顔面や胸部に当たりダメージを与える。

 

『フッ!』

 

 苦悶の声を漏らしたゴルバーへ追撃を仕掛けようとするトリガー。だがその時、横っ腹に強烈な衝撃が叩き込まれて彼は倒れた。地面をゴロゴロと転がる。彼を突き飛ばしたのは、巨大化したカルミラだ。

 

『アタシに会う為に人間を使うなんて……情熱的じゃあないか……。嬉しいねェェェ!』

 

 起き上がろうとしたトリガー。その瞬間彼の、ダイキの脳裏にまたビジョンが浮かぶ。

 

 天を目指して聳え立つ塔。燃え盛る大地。崩れていく街。塔の前に立つ3人の巨人。真ん中にいるのがカルミラだ。奥にはまた3人の巨人がおり、更に奥には1人佇む巨人の姿がらあった。

 

 突如流れて来た記憶に困惑していたトリガーを、カルミラは蹴り付けて背中から倒れさせる。そしてその腹や胸をヒールの様な足で何度も踏み付けた。恨みを込め、歓喜する様に笑いながら容赦無いカルミラのストンプがトリガーを襲う。何とかして転がって逃れ立ち上がろうとしたのだが、今度はそこにゴルバーが突っ込んで来て猛烈な体当たりを喰らわせて来た。トリガーの身体は宙に浮き、再度地面に叩き付けられる。

 

『グゥ……クッ……!?』

 

『そんなもんかい?もっともっと、情熱的に愛し合おうじゃあないのォ!』

 

 飛び掛かって来たカルミラ。2人は組み合い、絡れ合いながら地面を転がる。マウントを取っては返しを互いに繰り返していき、土に汚れようが構わず戦う。数度転がり合った後に、カルミラが馬乗りとなってトリガーの首を絞めた。ギリギリと強力な握力で生物にとって弱点となり得る場所を攻めながら、更に拳を頬に叩き付けてくる。トリガーの胸に付けられた青い水晶・カラータイマーが赤く点滅し警告音を鳴らす。これは彼の命に危機が迫っているのを報せているのだ。

 

『フフフッ、もっと聞かせてくれよ……苦しみの悲鳴をォ!』

 

───このままじゃ……!?───

 

 殺られてしまう。その思考が頭を過り冷汗が伝う。無理矢理彼を立たせたカルミラ。そしてゴルバーが吼えながら向かって来る。まずいと思った時、何度目かのビジョンが浮かんだ。

 

 (つるぎ)を手に取り、威風堂々と構えるトリガーの姿。その剣は、遺跡で見たあの石像であった。

 

───あの剣……そうか!───

 

 手を伸ばすダイキ。するとトリガーの前に光輝く物が現れ、彼はそれを掴んだ。

 

───CIRCLE ARMS!

 

 超古代からの贈り物、神器サークルアームズである。

 

『ハッ!』

 

『チィッ!』

 

 身体を捻ってカルミラから離れ、回転しながら剣を振るう。カルミラは後方に大きく飛んでそれを躱した。奴が離れた隙に、トリガーは向かって来るゴルバーへと駆け出す。そしてすれ違いざま、剣で一閃。強烈な斬撃がゴルバーの腹部を裂き、血と肉片が飛び散る。

 

「Gooooooo!?」

 

 振り返り、ダイキは手にしている小型化したサークルアームズのスロットにトリガーマルチタイプのGUTSハイパーキーを装填。

 

───MAXIMUM!BOOT UP!MULTI!

 

 そして柄のトリガーを引く。

 

─── ZEPERION!SWORD FINISH!

 

 光がサークルアームズ・マルチソードの刃に収縮していき限界まで達した時、彼はその剣を振るった。光の斬撃が飛ばされてゴルバーを斬る。余波による凄まじい爆発と共に、ゴルバーは大地に倒れた。最早満身創痍であり立つことは叶わないだろう。弱々しい鳴き声が奴から放たれる。

 

『フンッ!』

 

 鞭・カルミラウィップをトリガーに向けて振るうカルミラ。しかし彼はそれを剣を振って弾いた。様々な軌道を描きながら鞭が彼を襲うが、決して怯むこと無く剣で全て対処。そして一歩踏み込んで斬撃を飛ばした。斬撃は彼女にヒットし、数歩後退させることに成功する。

 

『くっ!?おのれェェ!』

 

 少しだけだがカルミラは怯んだ。攻めるなら今がチャンス。トリガーはサークルアームズを地面に突き立て、拳を握り脇を締めて腰に引いた後眼前に伸ばしてクロスし、それを横一文字に開いていく。光が彼のプロテクターや胸に集まっていき、眩い輝きで満ちている。その動きは、かつてのヒーローと同じもの。そしてトリガーは腕をL字に構え、そこから強烈な熱光線を放った。

 

『ハァッ!!』

 

 あのヒーロー・ウルトラマンティガも使用していた最大最強の必殺光線・ゼペリオン光線がカルミラ目掛けて放たれたのだ。

 

『フンッ!』

 

 カルミラは鞭を伸ばしてゴルバーに巻き付ける。そしてその巨体を自身の前まで持って来た。肉盾として利用するつもりなのだ。目論見通り、ゼペリオン光線はゴルバーに直撃する。

 

 凄まじい熱量の光線がゴルバーの肉体を削っていく。奴も何とか耐えようとするが、トリガーは更に力を込めて放った。光線がより太くなり、プロテクターがより強く輝く。それを耐え切ることなど出来る筈も無く、遂にゴルバーは砕け散ってしまった。大爆発し、肉片が辺り散らばる。爆発の余波はカルミラのことを押し退げていく。

 

『ッ!?……やるじゃあないか。このぐらいなきゃ面白味ってもんが無いからねえ』

 

 そう言うと指を鳴らし、彼女は闇に包まれて姿を消す。

 

 火星の地に降臨したウルトラマントリガーは闇の怪獣を撃破し、闇の巨人を退散させることに成功したのであった。

 

 

 

「ダイキ……」

 

 戦いを終えて構えを解き、消失していくトリガーを礼奈は見つめる。背負わされた宿命、そしてこれから待ち受けるであろう運命。鬼が出るか蛇が出るか、予想も出来ない未来が息子の前に立ち塞がっているのだと思うと胸が苦しくなる。せめて自分が代わってあげることが出来たなら……そう思うがそれは決して出来無いのだ。

 

「お母さん」

 

 息子のことを思う彼女の隣りに光圀が並ぶ。

 

「彼の前に立ち塞がった巨人は石板に描かれていた闇の巨人の1体。そして恐らく、他の闇の巨人も復活する可能性が高い。そうなれば、ダイキ君はいつ終わるか分からない戦いを続けていくことになるでしょう……」

「でも、それがあの子の運命。なら私は、見守るしかありません。ダイキが夢見ている未来に辿り着けるその時まで……私は自分の息子を信じていますから」

 

 そんな話をしていると、遠くからダイキが手を振りながらこちらに走って来た。これからの不安は大きく数え切れは程ある。だが今は、笑顔で向かって来る息子に対して優しく手を振り返りすことが、自分の出来る精一杯であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 背後から投げかけられた可可の言葉。それでもかのんは校門に向けて歩いた。本当にこのままで良いのだろうか?自分の歌が大好きだと言ってくれる彼女を、一緒に歌いたいと言ってくれる彼女のことを、置いて行ってしまって良いのだろうか?

 

「本当にこのままで良いの……?」

 

 思わず言葉が漏れる。

 

 あと一歩踏み出せば校門を出ると言う時、かのんは踵を返して駆け出した。

 

 もう嘘は吐きたくない。この想いを誤魔化したくない。がむしゃらに走り、可可の前に立つ。

 

 幼い頃からずっと思っていたことがある。歌が好きで、凄く大好きで、歌っていれば羽が生えた様に何処までも飛んでいける。辛いことも悲しいことも、荒んだ気持ちも力に変えて前に進める。笑顔になることが出来るのだと。

 

「いつか見た未来を諦めたくない。やっぱり私……」

 

 胸の中のキモチを、かのんは全力で叫んだ。

 

「歌が大好きだ!!」

 

 湧き上がる歓喜と感謝の想いが奏でられる。これから訪れるまだ分からない未来。それがどんなものでも彼女は頑張りたいと心が震えていた。高い壁も飛び越えて、信じる未来へと走り出せる筈だ。

 

 ───未来予報ハレルヤ。

 

 彼女は歌う。これまで溜まっていた想いを全て吐き出す様に。その美しい歌声と踊りに1人、また1人と人が引き寄せられて来た。

 

 歌い終えた時、彼女の周りには多くの人が集まっており、賛頌と拍手が起こっていた───

 

「私……歌えた……!!」

 

 今までずっと人前で歌うことが出来なかった彼女。しかし今日この時、遂にかのんは大勢の人の前で緊張すること無く歌い切ることが出来たのだ。

 

 喜びに満ち溢れ、笑顔が咲く。可可も、聴いてくれたみんなも笑顔でかのんを賞賛していた。みんなの賞賛に応える様に照れながら手を振る。そんな時、携帯に着信音が鳴った。相手はダイキだ。

 

 この喜びを彼にも伝えたい。そう思い彼女は通話ボタンを押して携帯を耳に当てる。

 

「もしもしダイキく───」

 

《かのん!?実は大変なんだ!!》

 

 だが、彼女が人前で歌えたことと同じくらいに衝撃的なことが、彼の口から伝えられるのであった……。

 

 

 

 

 

《僕、結ヶ丘に通うことになっちゃった!!》

 

「へ?………ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!??」

 

 

 

 

 ここから始まる物語。その先に何があるのかは分からない。

 

 ただ遠い宇宙の何処かで、誰かが笑った様な気がした。

 

 

 

 

 






ウルトラマントリガー登場!そしてゴルバーを撃破!
戦闘シーンは本編と流れは殆ど同じですが所々変更しています。

かのんが歌えるようになったシーンも一部台詞を変更。とはいえ今回はほぼほぼ本編と同じ流れになってしまいました……。

ラストにて衝撃のことをダイキから告げられたかのん。一体これから、彼女達にはどんな未来が待ち受けているのでしょうか……?

何やらきな臭い物を残しながらも、これにて1話分が終わりました。次回も数回に分けて2話目を書いていきたいと思います。

そして前回のサブタイを探せですが、ダイキの母である礼奈の台詞にあった「運命の光の中で」が正解になります。ウルトラマンダイナ第29話のタイトルです。今回も隠れているので探してみて下さい。

それでは皆様からの感想や高評価、ここすき等、心よりお待ちしております。



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5いざ地球へ

お久しぶりです。
流石に一ヶ月空けるのは不味いと思い書き上げました。

それでは早速どうぞ




 

 

 

 

 

 

 

 石像が宇宙を漂う。醒める事無き眠りの中で追憶するのはかの日の闘争。血が煮え滾り、肉の踊る戦い。破壊の限りを尽くす中で己に向かって来る最高の好敵手。刻み刻まれた拳は、忘れることは出来無い。

 

 せめてもう一度……もう一度だけあの衝動を。

 決して叶わないであろうその想いだけが胸中を支配していた。

 

 

 

 

 

───君の番だよ、ダーゴン。

 

 

 

 

 

 胸の辺りに亀裂が生じる。それはどんどん拡がっていき、やがて全面に至った。そして石は弾け飛び、石像となっていた巨人は解放されて近くの小惑星に落下。大の字で寝転がった。

 黒と鈍い赤い体色。鎧を着込んでいる為、非常に力強い姿をしている。

 

 復活する事は決して無い筈の自分が何故解放されたのか?

 そして今聴こえた声は……。

 

 

 

 

『いつまで寝てるんだいダーゴン?』

 

 そんな彼に声を掛けたのは妖麗戦士カルミラだ。起き上がろうとした彼を蹴りまた転がす。

 彼の名はダーゴン。剛力闘士の異名を持つ者。

 

『おお……! カルミラかァ!?』

 

 幾年ぶりの再会をダーゴンは喜び立ち上がる。雑に扱われたがそれはいつもの事。寧ろ久々の感覚は懐かしく悪くないとさえ思えた。

 そんなダーゴンにカルミラは溜め息を吐く。暑苦しいのは昔から変わらない。

 

『アンタが眠ってる間に、3000万年経っちまったよ』

 

『なんとォ!? 長い時が流れただろうとは思ったがそれ程とは……!』

 

『やれやれ……。良いかいダーゴン、トリガーを見つけたよ』

 

『我が好敵手を!?』

 

 カルミラの言葉に驚き、勢い余って右足で地面を踏み抜く。小惑星全体がその衝撃で揺れた。

 

『そうか……そうかそうか!! 再び我が好敵手と相見(あいまみ)えることが出来るというか!! 何たる僥倖!!』

 

 幾度もぶつかったあの好敵手とまた戦う(殺し合う)……。叶わないと思っていた願望が、永き刻を経て現実のものとなろうとしていることをダーゴンは心奥底から歓喜していた。握り締める拳は、興奮と期待でギリギリと音を鳴らしている。

 3000万年の死闘を思い返し高揚するダーゴンを見てカルミラは細く笑む。後はアイツを見つければ……。

 

『待っていろ、トリガーよ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 やばい……まずい……。

 夜、かのんは自室のソファーに寝転がり焦りで顔を歪ませていた。

 

 可可の想いや、兄のショウゴの言葉を切っ掛けにし、彼女は遂に人前で歌うことが出来た。そしてこれから、可可と共にスクールアイドルになると決意をした。そこまでは良かったのだが、そのすぐ後に予想外の問題が発生する。

 

 なんと友人である円淵 ダイキが地球に戻って来て、しかも結ヶ丘女子高等学校に入学するという電話が掛かってきたのだ。

 

 火星に住んでいる彼が、建設された学校に入学する筈だった彼が、そして何より男子である筈の彼が、何故結ヶ丘に入学することになったのか?

 多分電話で理由の説明は受けたと思うのだが、正直驚いていた為余り頭に入って来ていなかった。

 

 別に帰って来るのが嫌という訳ではない。一緒の学校に通うのだって昔を思い出して嬉しい気持ちにはなる。彼女がこんなに焦っている理由は別の所にある。それは……。

 

「嘘吐いてたのバレちゃうよぉ……」

 

 彼女がダイキに、結ヶ丘の音楽科に合格したと嘘を言っていたこと。彼が学校に来ればこれがバレてしまうからだ。昔、まだ小さな子どもだった頃、かのんは彼とある約束をしていた。かのんは世界中の人々を自分の歌で笑顔にするという夢を、ダイキは世界中の人々を笑顔にする花を咲かせるという夢を、それぞれ叶える為に頑張るという約束だ。

 

 元々結ヶ丘を受験したのも、その夢の為の第一歩であった。結果は不合格であり、彼女は普通科に通うことになってしまったが……。

 

 夢への一歩を踏み外してしまった彼女であったがそれをダイキに伝えることが出来ず、音楽科に合格したという嘘を吐いてしまったのである。彼は火星に住んでいるし当面はバレること無いだろうと思っていたが、結ヶ丘に入学して来るとなれば話は変わってくる。

 

「別のクラスだったらバレない? いや、どうせすぐ分かっちゃうよねぇ……。ちいちゃんから音楽科の制服借りる? ダメダメ! そんな迷惑掛けられない……。うーん、どうしよぉ〜……」

 

 正直に言うのが一番良いのだろうが、そんなことすればダイキを失望させてしまうかも知れない。そう思うとなかなか言い出せないでいた。

 

 結局どうしたら良いか思い付かず、彼女はいつの間にかソファーで眠ってしまうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 一夜明け、東京・ソラフネシティ。2014年に複数の市町村の合併により誕生し、活発な都市開発によって3年後には政令指定都市となったその街の郊外に、TPU総合本部基地が建てられていた。中部地方山間部にあった旧TPC、及びTPU本部基地として利用されたグランドームから本部施設を移動して作られ、2021年に完成した物だ。

 外観はこれでのダイブハンガーやグランドームとは違い一般的な建物、基地施設に近い形の構造ではあるが、内部には過去2つ以上の設備を持つ地球防衛の要となっている。

 

 そしてその基地に、ダイキは静間 光圀会長と共に来ていた。彼にとっては久々の地球であり、青空を見て興奮していた。

 

「うわぁ……!」

 

「どうだね、久しぶりの地球は?」

 

「何だか、ドキドキしてます! これから地球での生活が始まるんですね! 僕、ウルトラマントリガーとして──」

 

「ダイキ君」

 

 「頑張っていきます!」そう言おうとしたのを光圀が止め、彼に耳打ちする。

 

「良いかね? 君がトリガーであることは極力秘密だ。いつ誰が聞いてるかも分からないからね」

 

「は、はい!」

 

 そんな話をした後、2人は施設内に入っていく。そこで彼が見たのは、巨大な戦闘艇であった。

 

「で、でっけぇ!! 何ですかこれ!?」

 

「対怪獣用戦闘艇ナースデッセイ号だよ」

 

 ダイキの質問に答えたのは光圀ではなく別の男性だった。白衣を纏っており、知的な雰囲気が醸し出されている。男性は柔かな笑顔でダイキ達のもとに歩み寄って来た。

 

「紹介しよう。彼は高山博士。量子物理学の権威であり、このナースデッセイ号の開発に関わった天才だ」

 

「初めまして、高山です」

 

「僕、円淵 ダイキです! こんな大きな船作ったなんて、凄いですね!!」

 

「いやいや、僕らが関与したのは浮遊システムぐらいで、殆どは特務3課の人達による頑張りが大きいよ」

 

 謙遜する高山博士だがダイキからしてみたら凄いのは変わりなく、キラキラとした瞳を向けていた。

 

「それに設計したのは、君と同い年くらいの天才少女だよ」

 

「僕と同い年!? そんな凄い子がいるんですねぇ……!」

 

「その内会えるかもね。おっと、僕はこれで。友人と会う約束があるんで」

 

 2人に頭を下げてから高山博士はその場を後にする。

 TPUには凄い技術力を持った人達がいることを、改めて肌で感じたダイキ。そしてこれから彼が入隊するGUTS-SELECTにも優れた人達がいるのだろう。期待と緊張で胸が高鳴る。

 彼は、火星を発つ前に母から贈られた言葉を思い返した。

 

 

 

───ダイキ。どんな時でも、母さんは貴方の味方よ。ずっと貴方のことを想っているわ。辛い事、悲しい事があってもそれだけは忘れないで。ダイキは私の、大切な息子なのだから。

 

 

 

 その言葉と共にされた優しい抱擁。その温もり、そして彼女の何処か嬉しくも苦しそうな表情と涙は決して忘れない。

 

「頑張るよ、母さん」

 

 大切な家族への想いを胸に、彼は一歩前へと踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 ナースデッセイ号内の移動作戦室にダイキは通されていた。そこにはGUTS-SELECTのメンバーが揃っている。

 

「初めまして! 円淵 ダイキです! よろしくお願いします!」

 

「おー! 元気いっぱいだなぁ!」

 

「何か暑苦しそうなのが増えたわね……」

 

 「ガハハッ!」と笑いながら大柄な男性がダイキの隣りに来て肩を組んだ。

 

「元気な若者は大歓迎だぜ! 俺は佐久間 鉄心! このナースデッセイ号のパイロットだ! そしてあっちの頭の硬そうな美人は七瀬 ひまり!」

 

「よろしく、坊や。そっちのゴリラの話はスルーして良いわよ」

 

「誰がゴリラだ!?」

 

 眼鏡をクイっと上げるひまり。その彼女の隣りには、大きな赤い頭部に黄色い眼の明らかに異星人であろう小柄な存在が立っている。

 

「そして俺様が、由緒正しいメトロン星人のマルゥル様だ!」

 

「うわぁ! 可愛い!」

 

「はぁ!? 可愛いだと!? ふざけんな!!」

 

 メトロン星人。メトロン星出身の宇宙人であり、別名幻覚宇宙人と呼ばれる事もある種族。TPUでは余り公表はされていないが、こうやって宇宙人が働いているのも珍しくないのだ。

 

 可愛いと言われたのが気に食わなかったマルゥルはダイキに食い掛かる。そんな彼を鉄心が「まあまあ」と抑え、ひまりが呆れながらそれを見ていた。

 

「私が隊長の辰巳 誠也だ。火星では静間会長を助けてくれたそうだな。感謝する」

 

「い、いえ!? これからよろしくお願いします!」

 

「ああ。だが、敬礼のやり方が良くないな。掌はこう、顎を引いて背筋は伸ばす」

 

 ダイキの変な敬礼を誠也は矯正。

 

「少しずつ覚えていけば良い。それと──」

 

 辰巳隊長が目線を向けた先。そこに居たのは何処か不満そうな顔をして壁に寄り掛かっている少女だ。一度ダイキに目を向けるが、すぐにそれを外す。

 

「こらアユ! ちゃんと挨拶しろ!」

 

 そう鉄心に言われ、少女・アユは渋々ダイキの前に出た。

 

「静間 アユ……」

 

「静間? もしかして会長の?」

 

「彼女は私の娘だよ」

 

「娘!? そうなんだねぇ。けど君なんか暗いよ? ほら、スマイルスマイル!」

 

 アユの前で両人差し指を頬に当て、いつもの口癖を言うダイキ。彼は彼女に笑顔になって欲しいという親切心からそんなことを言ったのだろう。しかしそれは、彼女の神経を逆撫でするだけでしかない。

 

「ウザい」

 

 一蹴。そしてアユは彼の横を通り過ぎて作戦室を出ようとする。それを誠也が止めた。

 

「アユ」

 

「………ナースデッセイ号の最終調整に入ります」

 

 そう言った後、彼女は出て行ってしまった。

 彼女の背中を、ダイキは見送るしかなかった。そんな彼の肩に光圀が手を置く。

 

「彼女は君と同い年で、今年から結ヶ丘女子高等学校に通うことになっている。そして、このナースデッセイ号の設計をしたのも彼女だ」

 

「あの子が!? えっ、ちょっと待って下さい、結ヶ丘って……」

 

「ああ」

 

 光圀は更に言葉を続けた。

 

「君には彼女と共に、結ヶ丘女子高等学校に通ってもらうよ」

 

 光圀にその台詞はダイキを、そして彼が女子校に通うというのを知らなかった隊員達を驚かせることになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ナースデッセイ号内の研究室にユアは居た。

 そこには超古代の石板が管理されており、彼女によって調査されている。繋がれたいくつものケーブル。その先にある装置には、ブランクのGUTSハイパーキーが装填されていた。

 

 机に浮かび上がったキーボードのホログラムを打ち、誠也に伝えた通りナースデッセイ号の最終調整を行うアユ。

 ふと、彼女は机の上に置かれていたある物を見る。

 

 それは、ダイキのGUTSスパークレンスに酷似した石の像であった。

 

「何でアイツが……」

 

 ボソリと呟いたアユ。

 どうしようも無い悔しさを、彼女は奥歯で噛み締めていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「はぁ……」

 

 結局何の解決案も思い付く事なく朝を迎えてしまったかのん。学校に向かうのだが足取りは少し重い。

 

 入学自体は少し先だがダイキが地球に来るのは今日の朝らしく、恐らくもう着いているだろう。そうなると、彼は店に来るかも知れない。そしたら母や妹、そして兄が真実を言ってしまう可能性がある。

 

 どうしたものかと考えるが良い案は浮かばない。

 

「ああーーっ!! どうしたら良いのーーっ!?───きゃっ!?」

 

 背後で何かが衝突した様な大きな音が鳴った。振り返ると、道路で大破した自動車があった。まるで何かに全力でぶつかった様に前面が押し潰されており、フロントガラスも粉々。運転席のエアバッグが作動していて、運転手はどうやら無事らしい。後続の車も止まり、大惨事にはならなかった様だ。

 

 しかし、どうもおかしい。

 そう思っていると、今後は何かにぶつかった様な音がして、自転車通勤中であったのだろうサラリーマンと思われる男性が倒れた。

 

「大丈夫ですか!?」

 

 かのんは男性を起こす為に走って近付いていく。だが………。

 

「痛ッ!?」

 

 彼女は何かにぶつかって転んでしまった。デコを摩りながら身体を起き上がらせて前を見るがそこには何も無い。

 

「ど、どういこと……?」

 

 立ち上がり、手を前に出して恐る恐る進む。すると、手は何かに当たった。

 

「もしかして……見えない、壁?」

 

 何も無いではなく見えないが正解。

 彼女の前には、透明で視認が難しい壁が現れていたのだ。かのん以外の人々も気付いたのか、見えない壁に手を当てたり、それを叩いて出せと叫ぶ者もいる。

 

「何なのよこれ……!?」

 

 まさかの事態に驚いているかのん。一体何故こんな事が?

 その答えは、すぐに背後から現れた。

 

「Kshyyyyyyyyyyyy!!」

 

 咆哮と共に大地を破って姿を見せたのは巨大な一角、大きな爪、そしてしなやかな触手を持つ巨大な生物・怪獣である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ショウゴは昨日の新聞を店のカウンターに座って読んでいた。彼が開いているページに写されているのは火星に現れたウルトラマン。

 

「ティガに似てるけど、違うウルトラマン……」

 

 15年前に姿を消したとされている英雄・ウルトラマンティガ。火星に現れた巨人はそれによく似ている。何か関係があるのだろうかと考え込む。するとそこにありあが降りて来た。

 

「おはようお兄ちゃん。何読んでるの?」

 

「栄光と伝説。それを持つだろう巨人様の記事だよ」

 

 そう言って席から立ち、新聞を丸めて軽くありあの頭を叩く。ありあが吠えるが気にせず彼は住居スペースに入っていった。

 

 栄光。どんな強敵にも諦めず立ち向かい、人類を守り抜いた。

 

 伝説。太古より甦り、その光で闇を撃ち破った。

 

 今度現れた巨人も、きっとそんな風になるのだろう。人々の光に導かれて世界を救うのだろう。

 

超人(ウルトラマン)、か……」

 

 そう呟いた直後である。スマホからアラームが鳴り響き、怪獣出現が知らされたのは───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





ダーゴンの復活、悩むかのん、地球に来たダイキ、GUTS-SELECTメンバーの登場、更に怪獣出現と、全体的に前振りみたいな回になった今回。

本編スパスタではあの後ルンルンだったかのんですが、こちらではそうもいかず……。彼女がどうするのかお楽しみに。

ナースデッセイ号開発に関わった量子物理学の権威である高山博士とその友人………。
ちょっとしたお遊びみたいな所もあるので、余り深くは考えなくて大丈夫です。

GUTS-SELECTメンバーはほぼ原作通りですが1人オリキャラである静間 アユを登場させてます。
本編トリガーのアキト+ユナみたいなキャラです。どちらかと言えばアキト寄りにはなりそうですが。

最後に現れた怪獣。見えない壁、そして爪や触手が特徴的な怪獣と言えば……。
これも次回お楽しみに。

前回のサブタイを探せの答えですが、終盤のかのんの台詞にあった「いつか見た未来」が正解です。
これはウルトラマンガイア第32話のサブタイとなっています。
今回のサブタイを探せですが……かなり難しいと思います。是非探してみて下さい。

スパスタもトリガーもどんどん盛り上がり、更にティガのサブスク解禁と、最近は嬉しいことが多くて楽しいです。本作も頑張っていくので是非よろしくお願いします。

それでは皆様の感想など心よりお待ちしています。




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6剛力飛来

 

 

 

 

 突然の現れた怪獣により、街はパニックとなっていた。巨大な魔の手から逃げようとする人々。しかし、その道は見えない壁により塞がれ閉まっていた。走って逃げた人が見えない壁にぶつかって転び、Uターンしてアクセル全開で走った車も壁に衝突。更にその後ろから別の車がぶつかってしまうという大惨事に。

 

 誰もが見えない壁を叩き、壁の外にいる者達に助けを求める。助けてくれ、ここから出してくれ。そんな叫びとドンドンと壁を叩く音が喧騒となり鳴り渡る。

 

 外の者達は最初どうにかならないかと壁の近くにまで来ていたが、顔を青くしてすぐに踵を返して駆け出していった。巨大な怪獣が、こちらに向かって来ていたからだ。

 外側にいるとはいえ安心など出来る筈も無い。助ける求める人々を見捨て、壁の中にいなかった幸運に感謝しながら逃げていく。

 

「Keyyyyyyyyッ!!」

 

 だが壁の中の者達は逃げることなど出来無い。恐怖で体を震わせ叫ぶ者達に対して、怪獣は口を開け牙を見せつけながら地面を揺らして迫って来た────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

###################

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ポイントSJ-6に怪獣出現!」

 

 アラートと、マルゥルの言葉がナースデッセイ号のドックの中に響く。前面のモニターには、原宿付近で暴れる一本角の生え、鋏の様な爪の間から触手を伸ばし、頭部から背中、尾先までが棘で覆われた怪獣の姿が映された。

 

「あの怪獣……!?」

 

「過去のGUTSのデータに記録があるな。アイツはガギ。本来なら地球には棲息していない外来種だ」

 

「そんな奴が、どうして地球に?」

 

「ガギは過去に卵を孕んだ状態で現れ、遊園地に居た子ども達を餌として与えようとしていたとあります。被害は無く腹部の卵も全て破壊されたとありますが、もしかしたらその時の卵が残っていて、今こうして現れたのかも知れません」

 

 鉄心の疑問にアユが答えた。

 ガギ。別名バリアー怪獣。過去に目視不可のバリアーフィールドを展開して遊園地を閉し、繁殖の為に必要な子ども達を地底へと引き摺り込んで卵を植え付けようとした。バリアーは非常に硬く、光の屈折を利用してビームも弾くことが出来る。

 大暴れしたガギだか最後はティガによって倒され、子ども達も無事救出された。その際の卵が実は産卵されていてそれが孵化したのか、はたまた過去のもの同様地球に飛来して眠っていた別個体なのかは定かでは無いが、厄介な怪獣が現れたことに変わりはない。

 

「七瀬隊員はGUTSファルコンで出撃! 初陣だ、心して掛かる様に」

 

「了解」

 

「静間、円淵の両隊員は現場に向かい近隣住民の避難を指示せよ!」

 

「「ラジャー!」」

 

 辰巳隊長の指示を受けて隊員達は動く。ひまりはモニター前にある席に座り、眼鏡を取ってからVRゴーグルを装着。口角を上げながら、手を操縦のコントローラーとなっている肘掛けの先端にある半球部分に置いた。

 

「さあああああ!! いくよおおおお、ファルコンちゃああああああああんッ!!!」

 

 先程までの落ち着いた雰囲気が嘘の様に絶叫するひまり。そんな彼女の叫びを聞いてダイキは思わず立ち止まってしまった。

 

「え、ひまりさんどうしたの!?」

 

「いつもの事だから気にしなくていい。それより急いで」

 

 ユアから促されたので、凄く気にはなるが司令室より退室する。実はひまりはGUTSファルコンのコントローラーを握ると性格が豹変しテンションが異様に高くなるという変わった性質の持ち主なのだ。何故そんな風になるのか理由は不明。そんな変わった彼女ではあるが、操縦の腕は抜群である。

 

 ひまりの遠隔操作を受け、ナースデッセイ号の下部にドッキングしていたGUTSファルコンのコックピットに相当する部分が青く点灯。GUTSファルコンは切り離され、エンジンを点火して空へと飛翔する。ガギの暴れるポイントへ向けて一直線に進むのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

##################

 

 

 

 

 

 

 

 

「に、逃げないと……!?」

 

 触手を振り回したり、角から光線を放ったりして街を破壊。更に伸ばした触手で人間を捉えて口の中に放り込み丸呑みするガギ。奴は人々を捕食する為に地上に現れたのだ。

 

 そんな恐ろしい怪獣から逃げる為かのんも動き出すのだが、彼女がいるのはバリアーの内側。逃げ場など無い。そこに……。

 

「かのんさあああああんッ!!」

 

 可可が駆け寄って来た。彼女も巻き込まれてしまったらしい。

 

「ぶ、無事で良かったデスぅ……!」

 

「クゥクゥちゃん! クゥクゥちゃんも大丈夫!?」

 

「は、はい! とにかく急いでここから……!」

 

 逃げなければ……。

 そう言おうとした時、大きな音と地響きが鳴る。ガギが、地面を踏み鳴らしながらこちらへと向かって来ていた。その瞳孔の無い瞳が、かのんと可可の2人を中に入れる。雄叫びを上げ、ガギは2人に向かって触手を振るった。

 

「危ない!?」

 

 可可の手を引っ張り走り出して、かのんは触手を回避することに成功。そしてそのままガギから離れる為に走る。

 

 動くものに反応したのか、ガギは彼女達のことを追い掛けて始めた。触手が振われて2人を捉えようし地面を叩く。捕まれば確実に命は無いだろう。

 

「お、追い掛けて来ますううううう!?」

 

「急いで逃げよ!?」

 

 走る、走る、走る、とにかく走る。

 スクールアイドルを始めると決めた次の日に死ぬなんて絶対に嫌だから、彼女達は全力で足を動かしていく。しかし大股で歩くガギによって差は一気に縮まってしまった。

 

 このままでは触手に捕まるか、あの足に踏み潰されてしまう………。そう思った時、上空で大きな音が響いた。ガギは立ち止まり、空を見上げる。

 

「かのんさん、アレは!?」

 

 立ち止まった可可の指差した方をかのんも見る。

 皆の見上げた先にあったのは、青い光線をバリアーに向かって放つGUTSファルコンの姿であった。

 

 

 

 

 

 

 現場に辿り着いたダイキとアユ。2人が辿り着いた場所では、バリアーの内側にいる人達が必死でその壁を叩いている。

 

「どうにかして助けないと……!? 何か方法は無いの!?」

 

 慌てながらアユに対してそう言うダイキだが、彼女はそれを無視しながらGUTSスパークレンスをホルダーから引き抜き、取り出したGUTSハイパーキーをそのマガジンに装填した。

 

───BOOT UP!SHOCK WAVE!

 

 彼女が装填したのは古代怪獣ゴモラのデータから作られ、その力を発揮することが出来るハイパーキー。銃口を斜め上に向け、バリアーにへとゴモラの放つ超振動波を撃った。大きな音が壁の外と内に響きそれを揺らし、壁に張り付いて人々が驚いて後ろに退がる。

 

 しかし壁を破壊する迄には至らなかった。

 

「やっぱり物理的な攻撃では破れないのね」

 

「そんな!? じゃあ、どうすれば……!?」

 

「うるさい、少し黙ってなさい」

 

「でも!?」

 

 このままでは中にいる人達が危ない。そう思い焦るダイキだが、彼とは反対にアユは落ち着いており上空を見上げ、耳元のインカムに手を添える。

 

「七瀬隊員、準備は?」

 

《もちろんオーケーよぉ!》

 

「ではお願いします」

 

 アユからの言葉を受け、ひまりの操るGUTSファルコンは上空でホバリング。そして機体の先端部分より青い光線が見えない壁へと放たれる。すると壁に亀裂が発生して広がっていき、遂には粉々に粉砕してしまった。

 

 ガギの作り出すバリアーには地球の水素とよく似た物質が大量いに含まれているので急激な温度低下に弱い。その為、GUTSファルコンから放たれた液体窒素ビームを受けたことで一気に低下させられ脆くなり破壊されたのだ。

 過去にこれと同じ方法でガギのバリアーは破られている。

 

「す、凄い!」

 

「今のうちに避難誘導するわよ。急いで」

 

「うん!」

 

 バリアーが無くなったことで雪崩の様に駆け出す人々を避難させる為に、アユとダイキは駆け出した。

 

 

 

 

 バリアーを破壊されたガギ。自ら作り出した領域を破壊され侵されて、ガギは怒り心頭に発する。空を飛ぶGUTSファルコンに向かって触手を伸ばし振るった。ファルコンは高速で飛んでそれを回避。旋回して機関砲から弾丸をガギに放つ。怪獣の分厚い皮膚や装甲にも傷を刻むその攻撃は、奴に確かなダメージを与えていった。

 

《フォォォォォ!!》

 

「Keyyyyyyyyyy!!」

 

 痛みを感じ、それ以上に怒りを感じたガギは角から光線を放った。だがそれすらもファルコンは躱してしまう。

 そしてひまりの操作により、GUTSファルコンはより攻撃能力に特化した対怪獣戦用形態のハイパーモードに変形した。二足歩行型のロボットの様な形となり、ビルの間を潜って翻弄しながら腕となっている機関砲から弾丸を、ジェットエンジン部分よりエネルギー砲を放って更にガギを攻めていく。

 

 しかしガギもそう簡単には倒されない。触手を振り回して攻撃を叩き落としながら、咆哮してファルコンへと突進していった。

 

 

 その激闘を避難誘導をしながらダイキは見ていた。人々を守る為に戦うGUTSファルコンの姿は、彼にはとても勇ましいものに見えている。

 自分にもあの機体の様にみんなの笑顔に出来る力が今はあるんだ。なら、それを使わない訳にはいかない。彼は腰のGUTSスパークレンスを引き抜き、光の力を解放する為に駆け出した。

 

「アイツ、何処に行く気……?」

 

 彼のその行動を、アユは見逃さなかった───

 

 

 

 人の居ない所に辿り着いたダイキ。マルチタイプのハイパーキーを取り、スイッチを押して起動させる。

 

───ULTRAMAN TRIGGER!MULTI TYPE!

 

───BOOT UP!ZEPERION!

 

 キーをマガジンに装填し、それから銃身を展開。すると中央に現れた菱形のクリスタルから光が発せられた。

 

「未来を築く、希望の光!

 ウルトラマンッ、トリガァァーーーッ!」

 

───ULTRAMAN TRIGGER!MULTI TYPE!

 

 掛け声と共にスパークレンスを天に掲げてトリガーを引くと蓄積されていた光が解き放たれる。

 神秘の巨人ウルトラマントリガーが、今地球に降り立った。

 

 

 

 

「か、かのんさん、アレを!?」

 

 突然立ち上がった光の柱に現場に居た全ての人、中継を見ていた人達、GUTS-SELECTのメンバー、全員が目を見開いた。光の中から現れたのは、火星に現れたあのウルトラマンだったからだ。

 

「あれって、ウルトラマン!?」

 

「ティガ!! ウルトラマンティガが来てくれたんデスヨ!!」

 

 ウルトラマンの登場に歓喜する人々。先程までの恐怖など忘れて皆が立ち止まり歓声を上げていた。可可はそれをティガだと勘違いしている。

 

「Kyyyyyyyyyyyy!!」

 

『シャァッ!』

 

 眼前に出現した者に驚いたガギであったが、自分に対して構えたそれをすぐに敵だと判断し向かっていく。トリガーも対抗する為に駆け出し、まずジャンプキックを叩き込む。数歩退がるガギだったが、大したことは無い。すぐに触手を振るって打ち付けた。

 

 想像よりも重い一撃にトリガーはバランスを崩す。そこ更に角を突き出しての突撃が炸裂。火花を散らしてトリガーは建物を潰しながら後ろに倒れた。

 

『クゥッ………ガアッ!?』

 

 倒れたトリガーの首にガギの触手が絡み付く。そして彼のことを強制的に立ち上がらせ、もう片方の触手を腹部に巻き付けた。どうにかして逃れようとするが、そのパワーから脱出することが出来無い。

 そしてそんなトリガーに向けてガギは角からの赤色光線を放った。完全に捕捉されているトリガーに当たらない筈も無く、光線は彼を苦しめていき、胸のカラータイマーが赤く点滅を始めた。

 

 

 

「そんな……!?」

 

 劣勢なウルトラマンの姿を見て汗を垂らすかのん。可可も彼のピンチに当惑してる様子。

 また、最初はウルトラマンの登場を喜んでいた人々も、苦戦する彼の姿で表情を次第に不安へと変えていった。怪獣を撃ち倒してくれるものだと信じていたウルトラマンが、いい様にやられているのだから無理もないだろう。

 

 

 

 ガギはトリガーを思いっきり放り投げた。彼の身体は地面に叩き付けられ、付近の自動車からセキュリティアラームが鳴り響く。ダメージに苦しみながらも立ち上がり構えるトリガー。そんな彼に対してガギは自動車を踏み潰し、歩道橋を蹴り飛ばしながら接近して来る。

 

──こうなったら……!──

 

 トリガーは腰に引いた腕を前に伸ばした後左右に開く必殺技であるゼペリオン光線を放つつもりなのだ。

 迫るガギへ、逆転の一手としてトリガーはゼペリオン光線を撃った。光線はガギに向かっていき、そして大きな爆発を発生させた。

 

「や、やった!」

 

 これで倒せた。そう思いかのんや可可も拳を握り、トリガーも肩を下ろした。

 しかし………。

 

 

 

 

「Ksyyyyyyyyyyyッ!!」

 

 轟いたのはガギの咆哮。奴は前面にバリアーを展開してゼペリオン光線を防いでしまったのだ。まさかの事態に誰もが衝撃を受けており、トリガーは膝を付く。

 

 そんな彼のことを嘲笑うかの様にガギは吼える。カラータイマーは点滅を早めており、このままではトリガーが危ない。

 そう思われた時だった。

 

 

 

「Kiii…─────ッ!?」

 

『ンッ、デアァァ!?』

 

 上空より黒い何かがガギ目掛けて落下。その衝撃による余波でトリガーは吹き飛びまた倒れる。

 一体何が起きたのか……?

 疑問に思いながら身体を起き上がらせたトリガーが見たのは、地面に出来た大きなクレーター、圧し潰されて五体がバラバラになったガギ、そしてその中心に立つ赤く鎧を纏った巨人であった。

 

■■■■■■■■■■(久しいな、我が好敵手トリガーよォ)!』

 

 発せられる言葉は聞き覚えの無い物。しかしその意味はハッキリと頭の中に入って来ていた。それはあの時、カルミラから言葉を聞かされた際と同じ現象である。

 

 そして更に、ダイキの脳裏にまたあの時と同じビジョンが映る。その中には、今眼前にいる巨人の姿もあった。

 

『我ら、3000万年の刻を経て再び巡り会った!! 今一度、かつての様に男と男の誓いを成そうではないかァ!!』

 

 巨人・ダーゴンが一歩踏み出す。その際ガギの頭を踏み潰して完全に息の根を止めてしまったのだが、彼は気にせず一気に駆け出した。何とか立ち上がったトリガーに、重い拳が叩き込まれる。凄まじい火花が、彼の胸から散った。

 

『グアッ!?』

 

『いくぞォォ!!』

 

 トリガーの肩を掴んで押していき、ビルに叩き付ける。そして左右の拳によるラッシュを、彼に対して容赦無く打ち込んでいった。ただでさえ疲労してた所に強烈な打撃を喰らわせられているのだ。反撃の糸口が見つけられない。

 

『フンッ! フンッ! フンッ!』

 

『グアァァッ、ウウッ!?』

 

『ハァァッ!!』

 

 超パワーの拳を受け、トリガーはビルを突き破って吹っ飛び大の字に倒れた。高速で点滅するカラータイマー。もうこれ以上、彼に戦う力は残っていない。

 トリガーの身体、ゆっくりと光となって消えてしまうのだった。

 

『何!?』

 

 そしてその事に一番驚いていたのがこのダーゴンだ。

 彼はとにかくトリガーと戦いたくて急いでこの地球に来た。彼の姿を見た時、また戦えることを強く喜んで高揚していた。故に彼はトリガーが体力を大きく消費していたことに気付いていなかったのだ。そんな状態であったのだからあれだけ攻めればダウンするのも当然のこと。

 しかしダーゴンはそれに一切気付いていない。彼が消えたことにただ驚き、不完全燃焼になっていた。

 

『もっとだ……もっと戦えトリガァァァァァァッ!!』

 

 足りない、まだ足りない。満たされなかった戦いへの渇望を叫びながら、ダーゴンは姿を消した……───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦いが終わり、痛む身体を押しながら歩くダイキ。

 ガギには歯が立たず、ダーゴンには圧倒された。まさに自身の力不足。力を得た筈なのに、こんなにも簡単に負けるのんて……。己の弱さに奥歯を噛み締めていると、アユが歩み寄って来た。

 

「酷い戦いだったわね」

 

「え、えっ……? 戦いって……?」

 

「惚けなくてもいい」

 

 彼女はダイキのGUTSスパークレンスを取り、その銃身を展開。

 

「変形する変身の為のGUTSスパークレンスは一つだけしか作られていない。これを持っている時点で貴方があの巨人であることは確定なの」

 

「どうしてそれを?」

 

「私が作ったからよ……!」

 

 その語気と視線が強くなる。

 静間財団が主体で超古代の遺跡を調査する中、発見された謎の神器と思われる石像。会長である父の指示を受けて、それを解析し現代のテクノロジーで再現したのがこのGUTSスパークレンスなのだ。これがあれば光の力をその身に宿し、あのウルトラマンティガの様な力を得ることが出来る。アユはその為に必死で研究し開発を成した。

 

「これは……これは私が光を手にする為に作った物なの……! アンタが使う為じゃない! 私が……アイツを……!」

 

 涙の滲むその瞳から怒りや悔しさを感じる。それにより彼女がどれだけトリガーとなりたかったのかをダイキは理解させられた。詳しい理由までは分からないが、余程のものなのだろう。

 

「ごめん……でも、僕は世界中のみんなを笑顔にしたいから!」

 

 彼が戦う理由はみんなを笑顔にする為。その為にもこの力を手放す訳にはいかない。謝罪するダイキだが、アユからしたらそんな理由知ったことでは無い。

 

「ウザい! 第一、あんなにボコボコにされといて、どうやってみんなを笑顔にするのよ!?」

 

「そ、それは……」

 

 アユの言う通り、今のままではあのダーゴンに勝つのは難しく、今後現れるであろう怪獣達にだって勝てるかどうか怪しい。火星でゴルバーを撃破し、やっていけると自信が付いていたが、現実はそう甘くない様だ。

 

 何も言えないでいると、彼に対して声を掛けられた。

 

「ダイキ君!?」

 

 ダイキを呼んだのは、かのんであった。

 

「かのん……!?」

 

 

 

 

 





バリアー怪獣ガギ登場。
今回のガギですが裏設定として雌の個体であり、卵を産む為の養分として人間を襲ったという風になっています。ティガ本編のガギとは少し違ってますね。力は相変わらず強力でありあの厄介なバリアーも健在。しかし性質は過去のものと変わってないので液体窒素によりまた破られることに……。

本作でのGUTSファルコンですが、トリガー本編の物よりも強化されています。理由としてティガ世界の技術に加え、トリガー世界の様に宇宙人達の技術も応用されているからです。その為エネルギー切れも余り起こさず、ビーム兵器も備えています。

ガギにより大ピンチのトリガー。ゼペリオン光線も効かず万事休すの時、ダーゴン襲来。それによってガギは踏み潰されてしまうことに……。もしダーゴンが現れなければ、トリガーはガギに倒されてました。

怪力無双のダーゴンに敗れたダイキ。そしてアユからGUTSスパークレンスの秘密を聞く事に。
光の力を人工的に手にする……これを聞いてとある計画を思い浮かべた方も少なくない筈。あれが本作ではどう関わっていくのか、是非お楽しみに……。

前回のサブタイを探せですが、答えは終盤のショウゴの台詞の中にある「栄光と伝説」です。これはウルトラセブン1999最終章6部作第1弾のタイトルです。意外と解った方も居られる様で驚きました。今回も隠れているので是非探してみて下さい。

次回はダーゴンとのリターンマッチ。トリガーは奴の怪力にどう立ち向かうのか?

感想、高評価、是非お待ちしておりますのでどうぞよろしくお願いします。



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7未来への約束

お待たせしました!



 

 

 

 

 

 

 

「…………これでよし」

 

「ありがとうございます! いてて……!」

 

 ガギ出現、トリガーの登場、そしてダーゴンの飛来。様々なことがあった後、ダイキはかのんの実家である喫茶店に居た。彼の怪我を見たかのんが、治療の為に連れて来たのだ。そこで店を手伝っていたショウゴからダイキは手当を受ける。

 手当が終わり、笑顔で立ち上がってお礼の為に頭を下げたダイキ。その動きが少し傷に響いた。

 

「急に動くからだ」

 

「あはは、つい……」

 

「それにしても驚いたよ。火星から戻って来て、久しぶりに会ったと思ったら怪我してるし、しかもGUTS-SELECTに入隊してたなんて……。オマケに明後日から結ヶ丘に入学するんでしょ? 情報量多くてパンクしそう……」

 

 

「正直、僕もそうなんだ」

 

 少し困った様に笑うダイキ。

 

「あ、あの!」

 

 そこに可可が声を上げた。

 

「結ヶ丘って女子校ですヨネ? 男性の貴方がどうして結ヶ丘に?」

 

「火星であった怪獣事件の時、いろいろあってGUTS-SELECTに入る事になったんだ」

 

「いろいろって、出来ればそこを知りたいんだけど……」

 

「そこはまぁ、いろいろ……」

 

 トリガーに変身したことなど言える筈も無いので適当に笑って誤魔化す。そして火星と怪獣という単語に、ショウゴは少し反応していた。

 

「それで急遽地球で生活することになったんだけど僕一応高校生でしょ? 学校をどうするかって話になった時、結ヶ丘を勧められたんだ。僕をGUTS-SELECTに入れてくれた人がそこの理事長と知り合いらしくてね」

 

「なるほど! 要するにコネ入学というやつデスネ!」

 

「ま、まあ、そうなるね……」

 

 あながち間違っては無いがなかなか胸に刺さる台詞だ。

 

「それに結ヶ丘には僕と同じでGUTS-SELECTのメンバーの子がいるから、その子にいろいろとサポートしてもらえっても言われてるんだ」

 

「へー、そうなんだ。ていうか今更だけど、GUTS-SELECTって高校生でも入隊出来るんだね。私でも入れるかな?」

 

「かのんなら出来るんじゃない?」

 

「駄目デース!!」

 

 バンッとテーブルを叩いて可可が立ち上がった。

 

「かのんさんは可可とスクールアイドルになるんデス!」

 

「スクール……アイドル?」

 

 火星に長いこと住んでいたダイキはスクールアイドルを知らず首を傾げる。

 

「スクールアイドルを知らないんデスか!?」

 

「僕、火星暮らしが長かったから……」

 

「では可可がお教えしましょう! スクールアイドルとは!」

 

「はいはいクゥクゥちゃん落ち着いて!」

 

 暴走しそうな可可をかのんが抑えた。彼女にスクールアイドルを語らせたら日が暮れてしまうから。仲の良さそうな2人のやり取りを見て、ダイキは自然と笑みが溢れた。

 

「はっ! す、すいません、つい……」

 

「大丈夫だよ。えっと……」

 

「あ、自己紹介がまだでしたね。唐 可可と言いマス。かのんさんと同じ、結ヶ丘高校普通科の一年生デス」

 

「僕は円淵 ダイキ。これからよろしくね、クゥクゥさん……ってあれ? 普通科?」

 

 ダイキは彼女の言葉にある疑問を感じる。

 

「そうデスよ」

 

「でも、かのんって音楽科じゃ……───」

 

「わああああああああああ!! ちょ、可可ちゃんちょっと来て!!」

 

 突如大声を出し、かのんは可可の手を取って店内スペースから自身の部屋へと引っ張って行ってしまった。突然のことにポカンとしてしまうダイキ。店内には彼とショウゴ、そしてカウンター席に座ってるありあとその前にいる母が残される。

 アイツ、音楽科落ちたこと言ってないな……。とかのんの様子からショウゴは察した。

 

「どうしたんだろ、かのん……?」

 

「さあ?」

 

 勝手に言うのは野暮だろうと思い、ショウゴは黙って置くことにした。ダイキの前の席に彼は座る。

 

「火星に居たんだってな」

 

「あ、はい」

 

「見たのか、あの巨人……?」

 

「トリガーのことですか?」

 

「トリガー?」

 

 思わず名を言ってしまったダイキ。まだトリガーという名は世間には公表されていないので、彼の口からそれを聞いてショウゴは少し怪訝に思う。

 一方、うっかり言ってしまったダイキもヤバいと思いどうにか誤魔化そうとする。

 

「か、火星にいたTPUの人に教えて貰ったんです! あの巨人、ウルトラマントリガーって名前だそうです!」

 

「そう、なのか……」

 

 彼はGUTS-SELECTの隊員だから知ってたとしても不自然では無いだろうと一応納得。どうやら誤魔化せたみたいだとダイキは内心ホッとした。

 

「……どうだった、そのトリガーは」

 

「そうですね……。何て言ったら良いか難しいんですけど、光を感じました」

 

「光……」

 

「はい! みんなを守ってくれる様な、暖かな光です!」

 

 笑顔でそう言うダイキ。彼は変身したあの時に自分が感じたものをショウゴに伝えたのだ。

 その光という言葉が、ショウゴの胸の中に奇妙で少し不快な感覚を残しているなど彼は知らない……。

 

「そっか……光、か。そういえば名前聞いて無かったな。俺は澁谷 ショウゴ。かのんの兄貴だ」

 

「円淵 ダイキです。かのんとは小さい頃から友達でした! よろしくお願いします!」

 

「まさかアイツに、男友達が居たなんて知らなかったよ。まあ、あんな妹だけど仲良くしてやってくれ」

 

「はい!」

 

 眩しい笑顔をダイキは見せる。それを見て、彼もあの日光になったのだろうかとショウゴは思った。

 

「今からココア入れるから、それ持ってアイツの部屋に行って来な」

 

「ありがとうございます!」

 

「待ってる間、今度はそっちの妹と話してやってくれ」

 

 ショウゴが目線を向けた方に首を回す。そこには妙に瞳を輝かせたありあの姿があった。姉が連れて来た同世代の男の子……姉との関係だったり何なり、気になってしょうがないのだろう。興味津々なありあは立ち上がったショウゴと変わる様にダイキの前の席に座った。

 

「初めまして! 私、澁谷 ありあです! 早速なんですけどお姉ちゃんとの出会いとか関係とかどんな風に想ってるかとかその他いろいろを教えて下さい! 是非!」

 

「え、ええ!?」

 

 凄い勢いで食い付くショウゴはカウンター内に入ってコップを三つ出す。ふと、あることを思い隣りで皿を洗っている母に尋ねた。

 

「なあ、母さん」

 

「んー? どうかした?」

 

「あのダイキって子、母さんは知ってたか?」

 

「私も初めて会ったけどぉ、あの子昔はいろんな子と遊んでいたし、私達の知らない友達が居ても変じゃ無いんじゃない?」

 

「それも、そっか」

 

 ありあに質問攻めされてるダイキに一度目を向けた後、ショウゴはお湯を沸かす為にケトルのスイッチを押すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

#################

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナースデッセイ号内の研究室。そこにある石板を、アユは見つめていた。描かれているのは超古代の記録の一端。

 三体の闇の巨人。神器を掲げ、それに立ち向かう勇士。闇を払う光の巨人。そして祈りを捧げる巫女。彼女はその石板を手で優しく撫でた後、唇を噛み締める。

 

 あの力は、自分が手にする筈だった。光の巨人となり、決して赦せないあの存在を滅す筈だった。そして復活する闇の巨人達を討ち、世界に平和をもたらす筈だった。

 しかし、その力は彼女ではなくあのダイキという青年を選んだ。あんな何も背負ってない様な、ヘラヘラと笑っているだけの男を。

 

 力を得る為に知って来た長年の研究も努力も全てが水の泡となり消えた。

 何故自分じゃないのか?

 どうしてあの男なのか?

 どうしようもない悔しさが、彼女の心を掻き乱していく。

 

「アユ……」

 

 そんな彼女に、部屋に入って来て光圀が声を掛けた。

 

「知ったんだな、トリガーの正体を」

 

「…………はい」

 

「君の気持ちは分かる。だが、ダイキ君をサポートしてくれないか? 彼がウルトラマントリガーとして戦っていくには、君の力が必要なんだ。この世界を、復活する闇から守り抜く為にも」

 

 蘇るであろう闇。

 それを打ち砕くにはトリガーの力が必須。そしてそれが出来るのはダイキだけ。もう彼女に、光を手にする機会は無い。

 

「頼む……!」

 

 頭を下げる光圀。事情を知っているからこそ、この願いがどれだけ彼女にとって屈辱なものかも解っている。だがそれでも、これから起こるであろう厄災に立ち向かう為にはダイキとアユ、二人の協力が必要なのだ。

 

 彼女は何も言わず石板の、勇士が神器を掲げている箇所を見つめる。

 その時、石板と繋がれている装置に装填されていたブランクのハイパーキーが赤く輝いた───

 

 

 

 

 

 

 

 

####################

 

 

 

 

 

 

 

 

「ええーっ!? ダイキさんに音楽科を落ちたことを言ってないーーっ!?」

 

「ちょ、声が大きいよ!?」

 

 叫ぶ可可の口をかのんが塞ぐ。自室にて、彼女は可可に自分が音楽科の受験に落ちて普通科に通っていることを、まだダイキに伝えてないことを話した。そして音楽科に通っているという嘘を吐いてしまったことも……。

 

「ううぅ〜……どうしたらいいんだろうぉ……?」

 

「そんなの簡単デス。正直に伝えたら良いんデスよ」

 

「そ、そうは言ってもぉ……!?」

 

 可可の言う通り、ちゃんと本当のことを言うのが一番だろう。しかしそれを伝えて幻滅されるかも知れないと思うと踏ん切りが着かないでいた。

 

「だったら可可が言いマス!」

 

「い、いや、それは!?」

 

 立ち上がった可可の手をかのんが取る。

 

「何故デスか!? とっとと言った方がかのんさんだって楽になれる筈デース!」

 

「それはそうなんだけどぉ……!」

 

 どうしても言い出すことが出来無いかのん。その後も可可と押し問答していると扉を叩く音が聞こえて来た。

 

「かのん、入ってもいいかな?」

 

「ダ、ダイキ君!?」

 

 扉を叩いたのはダイキだ。かのんは「ど、どうぞ」と言って彼を自室の中に招き入れる。彼の手には三杯のココアが乗せられたトレイが持たれていた。

 

「これ、ショウゴさんがみんなにって」

 

「そう、なんだ。あはは……ありがとね……」

 

 ダイキはトレイをテーブルの上に置く。

 そんな彼を見ているかのんの脇腹を、可可が軽く小突いた。早く本当のことを言えという意味を込めてだろう。

 

「あ、あの!!」

 

 勇気を振り絞り、彼女はダイキに声を掛けた。

 

「どうしたの?」

 

「えっと……そのぉ……」

 

 しかし二の句が継げない。どうしても、真実を言うのを躊躇ってしまう。

 

「じ、実はね!」

 

「うん」

 

「その、実はぁ……」

 

 小声で可可が「頑張るデス」と伝えて来た。早く言わなければずっと引き摺っていくことになってしまう。ちゃんと言わないと、そして謝らないと。頭ではそう思っているのだが……。

 

「こ、今度ダイキ君のお帰りパーティーやろうよ! ちぃちゃんも呼んでさ!」

 

 そうじゃないだろ。と胸の中で自分にツッコミを入れるかのん。可可も呆れた様な目線を向けていた。

 

「ほんと!? 嬉しいなぁ!」

 

 そんな彼女の心中など知らず、ダイキは素直に喜んでいる。彼の見せる純粋な笑顔が、かのんの罪悪感を強くしていた。

 

「かのんさん、ちゃんと言わないとダメデスよ」

 

「分かってるけどぉ……!」

 

「ん? どうかした?」

 

「い、いやー、何でもないよ!?」

 

 結局誤魔化してしまう自分に内心嫌気が差す。このままじゃダメなのに……。少しずつ、かのんの表情は曇っていく。

 

「かのん」

 

 そんな彼女の前に、ダイキは来た。

 

「スマイル、スマイル!」

 

「ダイキ君……?」

 

「せっかく久しぶりに会えたんだから、僕はかのんの笑顔が見たいな。暗い顔してたら楽しくないよ!」

 

 スマイル。それは彼の口癖で信条でもある。どんな時も笑顔を忘れず前へと進む。彼はかのんにもそう在って欲しかったのだ。

 

「……ありがとう、ダイキ君」

 

 自然と表情が柔らかくなり口角が上がる。昔から彼の笑顔は不思議で、見てると自分も笑顔になることが出来た。

 そんな時、ダイキの持つPDIが鳴った。辰巳隊長からの通信だ。

 

「はい、ダイキです!」

 

《今朝の赤い闇の巨人が現れた! 急ぎ現場に向かい、避難誘導に取り掛かれ!》

 

「ラ、ラジャー! ごめんね、かのん、可可ちゃん! 僕、行ってくる!」

 

 立ち上がり、かのんの部屋を飛び出そうとするダイキ。彼がドアノブに手を掛けた時、かのんが「待って!」と声を掛けた。

 

「あの、私ね……ダイキ君に言わなきゃいけないことがあるの。だから、戻って来たら聞いて欲しいな……ちゃんと、伝えるから」

 

 もう逃げない。彼に本当のことをちゃんと伝えるんだ。その想いを込めて彼にそう言ったかのん。そんな彼女の想いが届いたのだろうか、ダイキはまた優しい笑顔を見せた。

 

「うん、分かったよ!」

 

 そして彼は駆け出す。再度現れた闇の巨人・ダーゴンに挑む為に。部屋の窓を開け、走っていくダイキのことをかのんは見送るのであった。

 

「………何だか、告白するみたいデスね」

 

「は、はあ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ずんずんちゃん! ずんずんちゃん!」

 

 陽気なラップを口遊みながらかのんの家に向かう銀色お団子ヘアーの少女が一人。そんな彼女の横をダイキが駆けていく。

 

「あれ? 今のって……」

 

 かのんのカフェから飛び出して来た見覚えの無い少年。その背を彼女・(あらし) 千砂都(ちさと)は何故か見送ってしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

##################

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『出て来いトリガー!! 我と闘え!!』

 

 逢魔が時の街に、ダーゴンが出現。好敵手であるトリガーを誘き出す為に、地面を殴り付けて衝撃波を発生させてビルを破壊し始めた。圧倒的なパワーを持つダーゴンに、人々は恐怖して逃げ惑う。

 

 その現場にダイキは辿り着き、GUTSスパークレンスとハイパーキーを取り出した。

 

「あのパワー、どうすれば……!?」

 

 ダーゴンの怪力に対抗するにはより強いパワーが必要だ。しかし今のダイキではそこまでのパワーを発揮することは出来無い。このままでは前と違ってエネルギーが充分の状態とはいえ、また敗れる可能性も高い……。

 

 それでもやらなければ……!

 ダイキはハイパーキーを起動する為に構えた。

 

「待て」

 

「ッ!? ア、アユちゃん!?」

 

「ちゃんは辞めて。ほら、これ」

 

 ダイキに声を掛けたのはアユだ。彼女は彼に向かって、赤いハイパーキーを投げ渡す。

 

「そのキーの力なら、あの闇の巨人のパワーにも対抗出来る筈よ」

 

「本当!?」

 

「まあ、アンタがちゃんとまともに戦えたらの話にはなるけど」

 

「ありがとう!」

 

「………」

 

 皮肉を言ったの笑顔で礼を言うダイキに少しイラッとする。

 

 力は手に入れた。これでダーゴンにも勝てる!

 ダイキはハイパーキーを起動させる。

 

───ULTRAMAN TRIGGER!MULTI TYPE!

 

───BOOT UP!ZEPERION!

 

「未来を築く、希望の光ッ!

 ウルトラマン、トリガァァーーーッ!」

 

───ULTRAMAN TRIGGER!MULTI TYPE!

 

 日が沈み、空が黒に染まっていく中、光と共に現れたウルトラマントリガー・マルチタイプ。彼はダーゴンに対して構えた。

 

「激闘の覇者になるのは、どっちかしらね……」

 

 睨み合う二人の巨人を、アユは見つめるのであった。

 

 

 

 

『来たな! 我が好敵手よォ!』

 

 トリガーの出現を喜ぶダーゴン。

 

『勝負だ、闇の巨人!』

 

───ULTRAMAN TRIGGER!POWER TYPE!

 

 ダイキはアユから貰った赤いGUTSハイパーキーのスイッチを押して起動。マルチタイプのハイパーキーを抜いてから、それを新たにGUTSスパークレンスのスロットに装填。

 

───BOOT UP!DERACIUM!

 

「勝利を掴む、剛力の光ッ!

 ウルトラマン、トリガァァーーーッ!」

 

 GUTSスパークレンスを掲げてトリガーを引くと、赤い力の光が解放された。

 

───ULTRAMAN TRIGGER!POWER TYPE!

 

『ンンッ……! ハッ!』

 

 眼前で両腕をクロスさせて力を込めると、額のクリスタルが赤く光る。そしてそれを勢い良く開くと、トリガーの身体が真紅に染まった。全身の筋肉が膨張してマッシブになり、プロテクターや頭部の形も変化。

 強靭な肉体と何者にも負けない剛力。圧倒的な力を持ったウルトラマントリガー・パワータイプにへと彼はタイプチェンジしたのだ。

 

『その姿!? そうだ、それと闘いたかったのだァ!!』

 

 自分と同じく強力なパワーを得た姿となったトリガーを見て歓喜するダーゴン。彼は地面を踏み締めて駆け出し、トリガーもそれに対抗して駆けた。

 

『いくぞォォォッ!!』

 

『シェアァッ!!』

 

 ガッチリと組み合う二人の巨人。その衝突が衝撃を発生させて周囲の建物や自動車などを震わせる。

 

『フンッ!!』

 

 トリガーを押すダーゴン。足が下がって道路が抉れる。だがトリガーは、すぐにダーゴンを押し返した。

 

『何とォ!?』

 

『ハァァッ!!』

 

 強烈なパンチがダーゴンの胸に叩き込まれ火花が散る。更にトリガーは踏み込んでいき、連続でパンチを打ち込んでいった。

 

『ハッ! セアッ! ダァッ!』

 

『グオオオッ!? やるではないかァ!』

 

 ダーゴンも負けじと拳を振るった。

 それからトリガーのパンチをダーゴンが受け止めて逆にパンチを叩き込む、押さえ込もうとしてくるダーゴンを躱してトリガーがキックを叩き込む等、互いに一歩も譲らない肉弾戦が繰り広げられていく。

 

 ストレートパンチを放ったトリガー。だがダーゴンはそれを取り、そのまま一本背負いを決めた。背を地面に叩きつけられた彼のことをダーゴンは踏み付けようとして足を振り上げたが、寸前の所で転がって回避し起き上がる。そしてそこへダーゴンが強烈なタックルを仕掛けた。

 

『グアァァァァッ!?』

 

 吹っ飛ばされ、トリガーはビルを壊しながら倒れてしまう。追撃をする為に向かって来たダーゴン。彼はそれを起き上がりながらのキックで後退させる。

 

 距離が開き、二人は構え合う。トリガーは広げた両腕を左右から上に挙げながらエネルギーを集め、胸の前で光球状にする。そしてそれをダーゴンに向けて投げ付けた。光球は光の奔流となって奴へと突き進む。パワータイプの必殺の一撃・デラシウム光流だ。

 

『ンッ!! グウウゥゥ……ガアアアッ!?』

 

 腕をクロスして防いだダーゴン。しかし完全に防ぎ切れることは出来ず大きく吹き飛んでしまい、そのまま海にへと落ち沈んでいく。トリガーはそれを追って海に飛び込んだ。

 

 

 彼らは海底に立ち、地上と同様拳を打ち合っていた。深い海の底では水圧によって圧し潰されたり、潰れなくても動きが鈍くなったりするものだが、強靭な筋力を持つ彼らは地上と全く変わらない動きで戦っていた。

 

 豪快なキックがダーゴンを蹴り飛ばす。吹っ飛んだダーゴンは海中で回転して体勢を立て直し着地。トリガーは更に奴を追い詰める為にサークルアームズを手にした。

 その時、彼の脳裏にまたビジョンが映った。

 

───そうか……これだ!

 

───POWER CLAW!

 

 手のサークルアームズの刃を二又に開く。闇を裂く牙爪、サークルアームズ・パワークロー。その先端を向けてダーゴンに走り出した。

 

『セアァッ!』

 

『ヌウウゥ!?』

 

 パワークローを振りダーゴンの鎧に火花を散らす。何度も振られる鋭い爪は奴の身体を傷付け追い詰める。

 

『ハァァッ!!』

 

 突き出された爪で鋏の様にダーゴンの身体を挟む。そしてそのまま振り回し、ダーゴンを投げ飛ばした。先程の様に受け身を取ることが出来ず、ダーゴンは海底に叩き付けられた。

 

『ヌゥッ!?』

 

 立ち上がり、エネルギーをチャージして右拳を振り上げる。そしてそれを地面に突き付けて爆煙衝撃波・ファイアビートクラッシャーを放った。衝撃波は海底を破壊しながらトリガーへ向かっていく。

 

───MAXIMUM!BOOT UP!

 

───DERACIUM!CLAW IMPACT!

 

 ハイパーキーを装填しパワークローにエネルギーを溜め、それをダーゴンの拳と同じく地面に突き立てた。デラシウムクローインパクトが、超高熱の衝撃波となってダーゴンの技に対抗して放たれた。

 

 衝突する二つの破壊衝撃波。凄まじい爆発が起こり、海中に衝撃が伝達していき海上では大きな水柱が立った。

 結果は相殺。トリガーとダーゴンは互いに睨み合う。そしてダーゴンが、ふと笑みを溢した。

 

『それでこそ我が好敵手。またいずれ、拳を交えよう』

 

 闇に包まれていくダーゴン。撃破こそ出来なかったがどうにか先の雪辱を、トリガーは果たすことが出来たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

####################

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめん! 実は私、音楽科落ちて普通科に通ってるんだ……」

 

 翌朝。カフェの前で待ち合わせをし、かのんはダイキに本当のことを告げた。

 

「嘘吐いてて、本当にごめんなさい」

 

 頭を下げるかのん。

 嘘吐いていたことを罵られるだろうか?

 音楽科を落ちたことを嘲笑われるだろうか?

 ネガティブなことばかりを考えてしまって恐怖していたが、そんな彼女にダイキは優しく声を掛けた。

 

「顔を上げて、かのん」

 

 彼の表情はいつもと変わらない笑顔だ。

 

「本当のこと言ってくれてありがとう。ずっと抱えさせちゃってたんだね……ごめん」

 

「ダイキ君は悪くないよ! 私が嘘吐いてたのがいけないんだし……」

 

「僕は全然気にしてないよ。それに、音楽科じゃなくてもかのんの歌を聴くことは出来るでしょ」

 

 これから彼女はスクールアイドルとして活動していくのだから、たくさん歌を聴けるのだと彼は思っていた。

 

「あ……それなんだけどちょっと困ったことがあって……」

 

「困ったこと?」

 

「うん。実は、音楽科の生徒会長? みたいな感じの人にスクールアイドルは認めませんって言われてるんだ……」

 

 音楽科の葉月 恋に、結ヶ丘でスクールアイドルをするのは禁止だと言われている彼女達。可可が抗議に言ったが一蹴されており、ダイキが去った後に彼女は退学して別の学校でスクールアイドルをしようだなんてかのんに言ったりもした。

 

「そんなことがあったなんて……」

 

「でも私今日またクゥクゥちゃんと一緒に、葉月さんに抗議しようって思うんだ。このまま引き下がったら、この学校は葉月の思うままになっちゃうし、クゥクゥちゃんのスクールアイドルをやりたいって想いも叶えてあげたい。そして何より、私がスクールアイドルをやりたいから!」

 

 彼女の意思の込められた強い瞳。それを見て、ダイキの胸にも火が灯る。

 

「じゃあ、僕にも手伝わせて! 僕もスクールアイドルをしてるかのんの笑顔を見たいから!」

 

「本当!? でも、大丈夫なの? GUTS-SELECTのことだってあるし……」

 

「大丈夫! どっちもしっかりやっていくから!」

 

 結ヶ丘の生徒として、GUTS-SELECTの隊員として、かのんの親友として、そしてウルトラマントリガーとして。自分に与えられた使命を果たしていくんだとダイキは燃える様な闘志を沸き起こしていく。

 

「そっか……なんかダイキ君らしいね」

 

「へへっ、そうかな?」

 

「うん。じゃあ、これからよろしくね!」

 

 握手する二人。

 朝の陽射しが、新たなる一歩を踏み出した者達のことを祝福する様に降り注いだ───

 

 

 

 

 

 

「なら、早速学校に行こー!」

 

「いや、ダイキ君の入学は明日からでしょ!?」

 

「あ」

 

 

 

 

 

 

 

 

######################

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 買い出しをしていたショウゴ。

 空に轟音が響き、見上げるとそこには巨大な戦闘艇が飛翔していた。

 

 GUTS-SELECTの最大の戦力・ナースデッセイ号が遂に飛び立ったのである。空を高く上がっていくその姿をショウゴは見つめる。朝の青空が、痛いくらいに眩しい。

 

「光……」

 

 ふと、何故か昨日ダイキから聞いた言葉を思い出した。ナースデッセイ号も、そこに乗るGUTS-SELECTの隊員達も、人類を守る希望の光なのだろう。それがどうしようなく彼には眩しくて遠く見える。

 

 届かないモノを見詰める彼のことを、影で見るモノが居たことに、ショウゴは全く気付いていなかった───

 

 

 

 

 

 

 







パワータイプ登場!
そしてかのんのダイキに対するわだかまりが解消された回にもなりました。

パワータイプのハイパーキーを渡したアユ。一先ずは彼がトリガーであることを許容したようですがこれからどうなるのか……。彼女が何故光の巨人の力を欲したのか、それも後々明らかとなります。

サブタイを探せの答えはダーゴンのセリフにあった「男と男の誓い」です。これはウルトラマンレオ第4話のものになります。今回も隠れてますので是非探してみて下さい。

次回もまたよろしくお願いします。
感想や高評価お待ちしています。



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8スクールアイドルへの道


一年以上、長らくお待たせしました……!





 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結ヶ丘女子高等学校普通科の教室。

 そこにいる女生徒達は、教壇に立っている1人の転校生を見て困惑していた。何故なら……。

 

「はじめまして! 僕の名前は円淵 ダイキです!」

 

 それが女子ではなく男子だったから。

 結ヶ丘は女子校。なのに男子が入学して来たとなれば皆驚き困惑するのも無理ないだろう。「実は女の子なのか?」、なんて考えた者もいるが、その姿や声は間違い無く男性のものだ。

 

「円淵さんは火星の学校に入学の予定でしたが、諸事情で急遽地球に来る事になってこの学校に入る事になりました。急に男子が入って来て困惑してる人もいると思います。ですがそれは彼も同じですので、皆さん仲良くしてあげて下さいね」

 

 担任の言葉に皆は少し戸惑いながらも「はい」と応えた。考えてみれば女子校にたった1人の男子という状況はかなり不安なものであろう。出来る限り助けになろうと多くの者は思った。

 しかし、中には男子が入って来たことに不快感を感じている者もいた。男子が嫌だからこの女子校に来た者だっている以上無理もない。

 

 いろいろな思いを込めた目線がダイキに刺さるが、彼は相変わらずのスマイルで立っていた。

 

「それじゃあ円淵君は、静間さんの隣りね」

 

「はい!」

 

 ダイキは進み、空いている静間 アユの隣りの席に座った。

 

「改めてよろしくね」

 

 そう言って彼女に握手を求めて手を伸ばす。だが彼女は鼻を鳴らした後そっぽを向いてしまう。同じGUTS-SELECTの仲間であるアユとは仲良くしたいのだが、彼女は彼に対して余り良い感情を持っていない様だ。

 

 授業が進んでいき昼休みになるとダイキの周りに彼に興味を持った生徒達が集まってきた。質問攻めに合って困っている様子の彼のことを、かのんと可可は離れた所から見ていた。

 

「ダイキさん、大変そうデスネ」

 

「あはは……そうだね……。まあ、女子校に男子が入って来たらああもなるよね……」

 

 助けに行こうにも囲まれているので飛び込むのは難しそう。そう思っているとダイキは何とか包囲を抜け出してかのん達のところにやって来た。

 

「た、助けてよかのん〜……」

 

「ごめんごめん。私もあの中に突っ込んで行くのはちょっと気が引けて……」

 

「何か動物園のパンダの気持ちが分かった様な気がするよ……」

 

「ふむー、何でパンダって日本であんなに人気何ですかネ?」

 

 そんなこんな話していた時、教室の出入り口から「かのんちゃん」と彼女を呼ぶ声が聞こえて来た。振り向くとそこには千砂都の姿が。

 

「おはよう、ちぃちゃん!」

 

「おいっすー! クゥクゥちゃんもおいっすー!」

 

「おいっすーデス!」

 

「そしてぇ〜……!」

 

 千砂都は両手でダイキの左手を掴み、キラキラとした目線を向ける。

 

「円淵君! 君の名字を頂戴!」

 

「ちょ、千砂都!?」

 

 彼女の発言、「名字を下さい」はプロポーズを連想させる様な言葉だ。教室内での爆弾発言にクラスの子達は驚きの声を上げた。

 

「え、どういこと!?」

 

「あの子、音楽科の嵐さんだよね?」

 

「まさか、円淵君の恋人!?」

 

「ち、違うよ!? 千砂都、みんなが誤解する様なこと言わないでよ!?」

 

 慌ただしくなる教室。みんなの誤解を何とか解こうとしてるダイキとニコニコと笑っている千砂都を見ながら、何をやってるんだかと呟いてかのんは苦笑する。

 

「か、かのんさん! 千砂都さんとダイキさんって、本当にお付き合いしてるのデスかぁ!?」

 

「ああ、違うよ」

 

 驚いてる可可に対してかのんは冷静に答えた。

 彼女、嵐 千砂都は丸や円形の物などを好んでいる。ダイキの名字である円淵には「円」の字が入っているので彼女はそれを羨ましがって欲しいと思っているらしい。

 

「な、ナルホドー」

 

「昔っからなんだよね。まあ、楽しそうだからほっといて大丈夫」

 

「僕結構本気で困ってるんだけど!?」

 

「いいじゃん、いいじゃん!」

 

 タジタジになっているダイキのことをかのんは笑う。昔から何も変わってない、相変わらずなそのやり取りには安心感があった。

 そしてその様子を見ていた他の女子達も思わず失笑。何人かは彼への警戒や嫌悪が薄くなった様子である。千砂都にいい様にされてる彼を見て、悪い人物ではないと感じたのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

「んっ……? あれ?」

 

「どーかしました、かのんさん?」

 

「何か、変な感じがしたんだけど……」

 

「変?」

 

「まあ、何でも無いでしょ。気にしないで」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ################

 

 

 

 

 

 

 

 澁谷家が経営するカフェ「se・luz」。3時、つまりは間食の時間が近い事からか客も少しずつ増えて来ており、看板フクロウ(?)であるコノハズクのマンマルに見惚れている客もしばしば見受けられる。そんな店の中で、ショウゴは流し台で食器を洗っていた。

 

 端正な顔立ちをしている彼のことを女性客の何人かはチラチラと見ているが、気にすること無く食器洗いを続けている。

 その時テレビから気になるニュースが流れて来た。ウルトラマントリガーに関するものだ。

 

《約18年前に蘇り地球を救った光の巨人・ウルトラマンティガ。彼に似た巨人が火星に現れ、そして先日地球にも降臨しました》

 

 18年前のティガの過去の戦い、火星でのゴルバー、カルミラ戦と地球でのガギ戦、そしてダーゴン戦の映像が流れた。

 

《本日はTPU情報局総合本部参謀長である入麻 恵さんに来て頂いてます。よろしくお願いします》

 

 KCBのアナウンサーである藤宮 玲子に紹介された入麻は頭を下げる。

 

《この巨人をTPUはウルトラマントリガーと呼称してる様ですが、彼もティガと同様、人類の味方なのでしょうか?》

 

《恐らくそうだと思います。ティガとトリガー、彼らウルトラマンは人類の味方であり、共に時代を守る仲間であると私は考えています。彼らは決して神や救世主では無い。我々と人類と同じ光を持つ存在なのです》

 

《なるほど……。そして光、というと15年前の()()()()()の時の……?》

 

 藤宮アナからの質問に入麻は頷く。

 そして「闇の支配者」という言葉を聞いた時、ショウゴは心臓を掴まれた様な感覚に襲われて洗っていたコップを落としてしまった。ガシャンとコップ割れる音が店内に響き、破片が流しに散らばった。テレビではまだ入麻と藤宮アナの会話が続いているが、もう彼の耳には入って来ない。

 

「ちょっと、大丈夫!?」

 

 母が慌てて客に「すいません」とながら近付いて来た。

 

「す、すまん……」

 

「全く……怪我は無い?」

 

「大丈夫、だ」

 

 手を見るが切り傷などは無い。母が流しの破片を集めていくのを、ショウゴは少し虚な目で見ていた。そんな時、扉が開いて元気の良い声が響き渡った。

 

「お兄さーん! こんにちはー!」

 

 入って来たのは黒髪にピンクのインナーカラー、両サイドを結っており、白い肌にパッチリとした瞳の可愛らしい顔の少女。ピンクを基調とした所謂地雷系の様なファッションに身を包み、愛らしい笑顔を見せながら少女は軽い足取りでカウンターまで来る。

 

 その姿を見て、何処か虚だったショウゴの瞳は厄介な者を見る物に変わった。

 

「南天……」

 

「えへへー、アヤメですよー!」

 

 彼女の名は南天(みそら) アヤメ。ショウゴのことを慕いこの店に足繁く通う常連客だ。彼女は彼の母に挨拶した後カウンターの席、ショウゴの目の前に座る。

 

「あらアヤメちゃん、いらっしゃい」

 

「はい! 来ちゃいました! お兄さん、ココア下さい! 特別甘ぁ〜いやつを、お兄さんが作ってくださいね?」

 

 ニコニコと笑い、首を傾げておねだりでもする様にショウゴに注文したアヤメ。それに対して彼は面倒くさいという態度を滲み出しながら溜め息を吐いた。

 

「むむっ、何ですかその態度はぁ? アヤメはお客様なんですよぉ?」

 

「だったらもっと売上に貢献しろ。お前コスパ最悪なんだよ」

 

 彼女は高頻度で店に来てはカウンターに座り、毎度毎度ショウゴに絡んでくる。注文は大抵ココアかオレンジジュースなどの甘い飲み物、稀にクッキーやパンケーキ。それだけで長時間居座るのでショウゴからしたら溜まったものではない。更に彼女がショウゴのことをほぼ独占していることから、彼目当てで来ている一部女性客からもヘイトを買っている。

 

「えぇ〜!? お兄さんはアヤメが居たら嫌なんですかぁ?」

 

「分かってるじゃないか」

 

「ひーどーいー!」

 

「ふふふ、気にしなくて良いわよアヤメちゃん」

 

 母が笑いアヤメにそう声を掛けた。

 

「わーいっ♪ お兄さんのママ優しい〜♪」

 

「母さん……」

 

 甘やかすなよと言っても、彼女のことを気に入ってる母には暖簾に腕押しだろう。カップを手に取り、彼女の注文したココアを渋々と作り始める。

 

「お兄さんお兄さん! アヤメぇ、今年もまたミスコンにまた出ないかって言われてるんですよぉ〜」

 

 彼女は通っている大学の去年のミスコンで優勝している。そしてショウゴはその大学のOBだ。

 

「好きにしろよ」

 

「もちろん、お兄さんは見に来てくれますよねぇ〜?」

 

「………それやるの秋だろ?」

 

「今から約束してた方が良いじゃないですかぁ〜♪ それにその方が、モチベも上がりますしぃ」

 

「知るかよ……」

 

「とか言いながらぁ、ちゃんと来てくれるのがお兄さんですもんねぇ〜?」

 

「………」

 

 眉間に皺を寄せながら黙るショウゴをアヤメは楽しそうに見る。

 ニコニコと笑いながらそれからも色々な事を話して来た。学校のこと、最近の流行、自分がハマっていること、他愛も無い話題が次から次に彼に投げ掛けられ、ショウゴも少し面倒そうながらもそれらに全て応えていく。

 そうこうしていると、店の扉が開きありあが帰って来た。

 

「ただいまー……げっ」

 

「ありあちゃん、おかえりーっ♪」

 

 アヤメのことを見て苦虫を噛み潰したような表情になるありあ。彼女はアヤメのことが苦手なのだ。因みにかのんも彼女と話すのは少し不得意としている。

 

「ま、またお兄ちゃんにちょっかい出してるんですか!?」

 

「ちょっかいだなんてぇ、そんなとこしてないですよねぇ〜?」

 

 目線を向けられたがショウゴはそっぽを向く。

 

「それにぃ〜、ありあちゃんは将来、アヤメの義妹になるんだしねぇ〜♪」

 

「な、なる訳ないでしょう!? お兄ちゃんは渡しませんよ!!」

 

「えー、もしかしてありあちゃん、ブラコン?」

 

「違います!!!」

 

 ギャーギャーと騒ぐありあ。

 彼女を揶揄って楽しむアヤメ。

 そんな2人を見て母は微笑み、ショウゴは何度目かの溜め息を吐く。この店「se・luz」ではよく見られる光景だ。

 

 彼はエプロンを脱いで適当な所に掛ける。

 

「小麦粉、切れそうだから買出し行ってくる」

 

「あっ、ならアヤメも行きまーすっ♪」

 

「着いて来んな」

 

 そう言ってさっさと外に出た。少し風が吹いて肌寒い。

 先程感じた嫌な感覚は、もう無くなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 #############

 

 

 

 

 

 

 

 

 代々木スクールアイドルフェス。結ヶ丘の地元で開催されるイベントだ。数年前から催されていて多くのスクールアイドルが参加しており、パフォーマンスをして順位を決めるという人気のイベントになっている。

 

 先日、可可とかのんはスクールアイドル部の設立、活動を認可させる為の署名活動を行っていたところを理事長に呼び出された。そこには彼女達の活動を良しとしなかった臨時の生徒会長である葉月 恋もおり、スクールアイドル活動をする条件としてある課題を出される。

 

 それが前述した代々木スクールアイドルフェスで優勝することであった。

 

 結ヶ丘にとって音楽は誇り。故にそれに関するもので中途半端な結果を出す訳にはいかいというのが理事長の言葉だ。スクールアイドルを始めたばかりの彼女達が優勝というのは非常に厳しいが理事長の言う事も一理ある。それにここで引けばこの学校は恋の好きな様に出来るという事になってしまう。彼女達には優勝するという選択肢しかなかった。

 

 かのんと可可はその後、千砂都にダンスを教えてもらうことになった。高いダンススキルを持つ彼女から教われば、未経験の2人でも少しはマシになるだろう。

 その際可可が彼女をスクールアイドルに誘ったが、かのんは無理をさせたくないと言って止めた。

 更にその後、可可が運動神経が悪く体力も無いという事実が発覚。予想外の事にかのんも千砂都も驚いたが、とにかく基礎体力を付けながらダンスのレッスンも進めていくことになり、可可が書き溜めてた歌詞でかのんが曲を作ることも決まった。

 

 何もかもまだ足りてないかのんと可可だが、優勝してスクールアイドル活動を認めされるという目標の為に全力で走り出していた。

 

 

 

「へー、そんなことがあったんだね」

 

 放課後、上記のことをかのんと千砂都から聞かせられたダイキはそう返した。現在彼女達はランニングを終えた後であり、校内のベンチに座っている3人の前には息絶え絶えの可可が倒れ込んでいる。

 

「うん。まあ、まだまだ何だけどね……」

 

「そっかぁー。ねえ、僕もかのん達のスクールアイドル活動、手伝ってもいいかな?」

 

「それって、スクールアイドル部に参加してくれるってことデスかぁ!?」

 

 ダイキからの言葉に可可がバッと起き上がり勢い良く食い付いた。

 

「うん!」

 

「けど、大丈夫なの? ダイキ君、GUTS-SELECTのこともあるのに……」

 

 手伝ってくれるのは凄くありがたいが、GUTS-SELECTとして活動もしている彼にとって更なる負担にならないかと彼女は心配になる。しかしダイキは「大丈夫!」と笑顔を見せた。

 

「辰巳隊長や静間会長からは学校の事を優先して青春を楽しんで来いって言われてるからさ。それに僕は、かのん達が笑顔になれる手伝いなら全力に頑張るよ!」

 

 誰かの笑顔の為にいつでも全力になれる。それが彼の良い所だ。昔から変わらない彼にかのは自然と笑みを溢す。

 そんな2人を、千砂都が少し羨ましそうに見ていた。

 

「よし! じゃあ、練習再開しよ!」

 

「は、はいデスぅ!」

 

 彼が仲間入りしてくれた事でやる気が上昇し、かのんと可可は立ち上がる。まだまだ長い道のりで時間も無いが、可能性は決してゼロではない。

 

「でも、何で葉月さんはスクールアイドルの活動を認めてくれないんだろう?」

 

 ランニングを再開して暫くするとダイキがそう呟いた。

 

「理事長と同じで、結ヶ丘は音楽に関する事は一番じゃなきゃいけないって考えてるからじゃないかな?」

 

「うーん……」

 

 千砂都が走りながら応えるも、彼は何処か納得してない様子だ。

 

「それだけじゃない気がするけど……」

 

「何か他に理由があるとか?」

 

「分からないけど、そんな気がするかな……」

 

 曖昧な考えだが、彼のこういう勘は結構当たる。かのんも千砂都も、もしかしたら葉月 恋には何か別の事情があるのではないかと走りながら少し考えるのであった。

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ…… 我快死了(死にそうです)……!」

 

 その彼女らの十数メートル後ろから、可可が死にそうな顔で追いかけていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ###############

 

 

 

 

 

 

 結ヶ丘の生徒会室。一通りの作業を終えた恋は一息を吐いた。手にしていた書類を机の上に置く。窓から見上げた空は少しだけ朱み掛かっている。

 

 目線をまた机に戻した時、ふとある物が映った。可可達が持って来たスクールアイドル部設立の為の書類。

 

「スクールアイドル……」

 

 書類を手に取りじっと見つめる。その時彼女の脳裏に、ある情景が浮かんだ。

 

 

 

 

 ───恋……。

 

 

 

 穏やかに笑う女性。

 伸ばされる優しい手。

 

 何よりも愛おしい記憶。

 そしてそれが何よりも忌むべき記憶に変わる。

 

 怒号と悲鳴、全てを裂く喧騒。

 朱に沈む大切な手。

 もう笑わない、笑えないその顔を。

 

 

 

 

「スクールアイドルなど……!」

 

 抑えられない感情が湧き上がる。

 持っていた書類は、気付けばくしゃくしゃになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フフフッ……。Excellent(素晴らしい)……!」

 

 闇より彼女を見つめる瞳に、誰も気付く事は無い。

 

 

 

 

 

 







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9闇は消えない

 

 

 

 

 

 

 

 世界は闇に包まれた。

 

 

 

▇▇▇▆▆▅▂▇▆▆▅▂▇▆▇▇▂▂▂!!!

 

 

 

 旧支配者の咆哮が暗黒に響き渡る。人々の希望となる光の戦士は、その邪神の前に敗れ深淵にへと沈んでいった。

 

 避難用のシェルターに集められた人々。誰もが絶望の色に染まり、明日を諦めている。そこにいる幼い妹を抱きしめた少年。混乱の中で両親と逸れ、2人きりとなり施設の隅で震えていた。

 闇への恐怖、親が居ない不安、そして絶望している周囲の雰囲気が更に彼らの心に影を落とす。

 

「………っ!」

 

 妹をぎゅっと抱き締める。

 大丈夫……大丈夫……。周りの絶望にあてられて震えている彼女に、何より自分自身に言い聞かせる様に彼は何度も何度も呟いた。でも、胸から湧き出る根源的な恐怖が彼の震えを加速させる。

 

 そんな時、皆が観ていた避難所のモニターから、たった一つ残された希望である作戦が失敗したという情報が流れた。落胆する大人達。この世界には、遥か超古代に生きた者達の様に滅びるしか道はないのだろう。

 

 

 

 大人の誰もがそう思った時、子ども達はその名を呼ぶ。

 

 

 

 

────ティガ!!

 

 

 

 

 その場にいた子ども達が、そして世界の子ども達が、光となって空を駆ける。まだ希望を信じている少年少女達は、未来を諦めていなかった。

 行く先は一つ。自分達のヒーローの元だ。

 

 抱えていた妹が手を伸ばす。そして彼女も光り輝いていく。表情からは絶望は消え、無垢な笑顔となっていた。

 

 自分も光に……!

 そう思い手を伸ばそうとした時……───

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 握られる心臓。

 掻き混ぜられる脳。

 不協和音が響く耳。

 暗転しノイズが覆う視界。

 不愉快な味が拡散する舌。

 身体の内側を這っていくナニか。

 

 

 

 形容し難い恐怖が自身を包む。狂気に囚われて逃れる事が出来ない。深淵にへと、己の全てが堕ちていく。

 

 嫌だという声も出ない。逃げる為の足も動かない。手も伸びる事はない。

 

 気付けば妹は、光となって飛翔していく。

 待って、行かないで、置いてかないで。そんな思いを吐き出す事だって出来ず、自分は闇に呑まれ───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!?」

 

 澁谷 ショウゴはベッドから跳ねる様に起きる。時刻は午前4時を過ぎた所だ。まだ寒さの残る朝だが、彼の身体中から汗が流れていた

 

 額の汗を袖で拭い、布団を剥いでベッドから降りた。汗を吸って変色した寝巻きとシャツを雑に脱ぎ捨てる。

 それから彼はベッドに腰を下ろした。

 

「………最悪」

 

 あの日の夢。鮮明に、強烈に憶えてしまっているそれはずっと彼を苦しめ続けている。目を向けた方に置かれていた鏡は、隈の酷く(やつ)れた彼の顔を映していた。プラス20歳程、老けてしまった様だ。

 

 頭を軽く振り、脱ぎ捨てた服を取って洗面所へ向かう。シャワーを浴びて汗を洗い流し、メイクで隈を誤魔化さなければ。家族にこれ以上余計な心配を掛けさせない様にする為に、少し震える身体を彼は動かす。

 

 

 

 15年前のあの日光に成れなかった者は、消える事無き狂気の沼から未だに抜け出せずにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 眠る事が出来なかったショウゴは外を出歩いていた。出た時は暗かったが日は少しずつ昇り、歩きながら見上げる空は明るくなってきている。

 

 すぐに目線を落として前を見る。早い時間帯ではあるが既に疎らながら歩いている人もおり、車も走っていた。

 

《次のニュースです。日本時間午前2時頃、アメリカ・オレゴン州のポートランドに怪獣が出現しました。出現したのは岩石怪獣サドラで、現地のTPUが対処し───》

 

 信号で立ち止まった時、隣りに居たサラリーマンが見ていたスマホからそんなニュースが聴こえて来た。

 

 

 2015年の末、とある怪獣が都心に現れた。何の前触れも無く現れ、後に四次元怪獣ブルトンと呼ばれる事になるその怪獣は四次元空間を自在に操るという摩訶不思議な能力を使い、時空間を歪めて多次元宇宙を無理矢理繋ぎ、本来この宇宙には存在しない筈の怪獣や宇宙人が現れた。

 ギャラクシークライシスと名付けられたこの事件は銀河系規模で起きた生態系破壊であり、地球にも大量の別宇宙の地球怪獣が現れて大暴れ。その中にはフィクションの存在であった怪獣までいた。当時のTPC、そしてスーパーGUTSの活躍により被害は最小限に抑えられたが、それでも多数の死傷者、行方不明者が出る最悪の事件となった。

 

 ウルトラマンが消失した2010年以降低下していた怪獣災害はと異星人による侵略行為は増加していき、世界は再び怪獣頻出期と呼ばれる時代に突入。翌年には静間財団の支援によりTPCはTPUとなり、怪獣災害対策、異星人による侵略への対応、宇宙・太陽系内惑星・銀河系内惑星・外宇宙への進出、友好的な他星の住民達との平和的交流・公平な同盟の締結、などなど様々な面に力を入れて、人々を守り地球を発展させていく。

 

 それから約10年。人類は技術を駆使して怪獣や侵略宇宙人と戦いながら更なる発展を目指した。強力な敵によりピンチになった事も多々あったが、それでも諦めずに未来を掴む為に立ち向かう。様々な試練を乗り越えながら未知なる世界へと進むこの時代を、人々はネオフロンティア時代と呼んだ。

 

 

 信号が変わって進むショウゴ。暫く歩いていると、聞き覚えのある声が耳に入った。

 

「響かせましょう! この街に!」

 

 顔を上げると歩道橋の上で朝日に照らされる可可と妹のかのんの姿を見つけた。陽光を背に街を空を見上げる彼女達は、ショウゴにはとても眩しかった。自分とは違う、光を心に宿した姿。

 

「あ、かのんさんのお兄さん!」

 

「え? 本当だ、おーい!」

 

 手を振ってくる2人。それに対して手を軽く上げた後、彼は2人の元へ向かった。

 

「朝練か?」

 

「はい!」

 

「お兄ちゃんは何してたの? 私が家出る前から外に出てたみたいだけど」

 

 起きて窓を開けた時、走っていた可可を見つけてかのんは外に飛び出した。その際ショウゴの靴が無かった事に気付いている。

 

「まあ……散歩だ」

 

「こんな朝早くからデスか?」

 

「お爺ちゃんじゃん」

 

「うるせぇ」

 

 かのんの額を軽く小突く。

 

「そうだ! お兄さんも聴いて下さい! かのんさんの歌を!」

 

 「かのんの歌?」と可可の言葉を復唱して首を傾げた彼に対して彼女は元気良く「はい!」と答えた。一方かのんは少し恥ずかしそうだ。

 

「あのね、今度のライブで可可ちゃんと歌う曲が完成したんだ」

 

「それって、あのハンバーグだの焼きリンゴだのってやつか?」

 

「ち、違うよ!?」

 

 歌える様になり、ダイキとの(わだかま)りも解消された事で彼女の心は軽くなり、その後に陽気なオリジナルソングをギターを鳴らしながら家に響かせていた。自分の好きな物を挙げていくという単純なその歌は、家にいるショウゴの耳にも当然入っている。

 だがそんな歌をライブで使う訳も無く、何のことかイマイチ分かっていない可可を横に、彼女は揶揄ってくるショウゴの胸をポカポカと叩いた。

 

 当然だが大したダメージではない。

 

「まあ……聴かせてくれよ」

 

 彼の言葉に手が止まる。

 見つめてくる兄の瞳からは優しさを感じられた。

 

 ショウゴと可可の2人が見つめる中、かのんは歌う為にスゥ……と息を吸い───

 

 

 

 

 

 その時、背後で轟音が鳴り響く。何かと思い勢い良く振り返った3人の目には、天を突く様なドリルが映されるのだった。

 

 

 

 

 

 

#############

 

 

 

 

 

 

 ナースデッセイ号の中にはGUTS-SELECT各隊員の専用個室が用意されている。待機時などはこれを利用して自由な時間を過ごしており、設備が充実していることからここで数日寝泊りする隊員も少なく無く、中にはここを居住地としている隊員もいる。

 円淵 ダイキもそんな1人。空中要塞であるこのナースデッセイ号だが、専用のスピーダーを利用することで地上にもすぐ降りられる為問題は無い。まあ、降下する時間は決まっているので寝坊は決して出来ないのだが……。と言っても彼は毎日花の世話の為に早起きをしているのでそんな心配も不要だろう。

 

 今日も早起きをして花に霧吹きを掛けているダイキ。その表情は相変わらずの笑顔だ。

 

「フフッ、みんな美味しい〜?」

 

 植物に声を掛けるとよく育つ。1848年に刊行された書籍にてその様な事が言及されている。一世紀以上経っているがそれに対する研究は行われておらず、有り得ないとは言えないがそれを裏付けるデータも無い。結論の出ない事ではあるが、ダイキからしてみればそんな事はどうでも良く、大切な花達に言葉を掛けるのは普通のことだった。

 

 そんな時、艦内に警報音が鳴り響いた。突然の事に困惑したが彼はすぐ様隊員服のジャケットを手に取り、部屋を飛び出して着ながら走った。

 

「何かあったんですか!?」

 

 司令室には既に辰巳隊長、鉄心、ひまり、アユ、マルゥルがいる。

 前面にあるモニターは、今しがた地上に現れた怪獣の姿を映し出していた。

 

「コイツ、グビラか?」

 

「しかし、以前現れたグビラは海中や海辺付近に生息してた筈だが」

 

 深海怪獣グビラ。2016年、神奈川県の相模湾に最初の個体が正式に確認された水棲の怪獣。水中を約マッハ5という驚異的なスピードで泳ぎ、最大の特徴は鼻先にあるドリルだ。これで海底や海辺付近の山、地面などを掘り進み潜ることが出来る。

 過去数度現れた際は海の近くに出現していたのだが、今回のこの個体は周囲に海どころか水も殆ど無い陸地に出現した。

 

「このグビラの姿、きっと陸や地底で生きられる様に進化した同種族かもな!」

 

 鰭状になっていた前足は鋭い爪が有り、モグラの様にシャベル型に変化していて鼻先のドリルと併用して地面を掘り進めるに適した形となっており、過去の個体より体表が若干褐色を帯びゴツゴツとしている。

 

「成る程、オカグビラってことか!」

 

「いや、そのまんまじゃねぇか!?」

 

 鉄心の命名にマルゥルがツッコミを入れる。モニターに映るオカグビラは咆哮し、右前脚を一歩前へ踏み出した。

 

「七瀬隊員、ファルコンで出撃! 静間、円淵の両隊員は地上に降りて避難活動の支援!」

 

「「ラジャー!」」

 

「喜んで」

 

 各隊員がオカグビラに対応する為に動き出す。

 ひまりによって飛ばされたGUTSファルコンは現場に到着し、二つの機関砲から弾丸を放って奴の動きを止めようとする。しかしオカグビラは止まらない。

 

「だったらぁぁぁ!」

 

 ファルコンはハイパーモードに変形。右腕部に該当する機関砲の下からワイヤー付きのアンカーを飛ばしてオカグビラの皮膚に突き刺しそれを引く。

 

「Cuooooooo!!」

 

「止まりなさあああいッ!!」

 

 オカグビラとGUTSファルコン。一匹と一機の力比べが始まった。

 

 

 

 地上に着いたダイキとアユ。ダイキは逃げ惑う人々を避難場所へ誘導しながらオカグビラの様子を見た。奴は先程からひたすら、何かに取り憑かれたかの様に前進しようとしている。

 

「こっちはいいから、アンタはあの怪獣を止めに行きなさい」

 

「う、うん」

 

 オカグビラに妙な違和感を感じながらも、アユにそう言われた彼はGUTSスパークレンスをホルダーから引き抜き駆け出した。

 

 人気の無い場所に着きハイパーキーを手に取る。

 

───ULTRAMAN TRIGGER!MULTI TYPE

 

───BOOT UP!ZEPERION!

 

 マガジンにキーを装填。そして銃を展開してスパークレンスモードにした時、彼の目にとある光景が飛び込んで来た。

 オカグビラの前方。必死に走っているかのんと可可、そしてショウゴの姿だ。

 

「くそ!? 2人とも急げ!」

 

「そ、そんな事言われてもぉ!?」

 

「た、助けてくだサーイ!?」

 

 何故彼女達があんな所に居るのかはダイキには分からない。ただ、急いで助けなければオカグビラに踏み潰されてしまうという事だけは十分に理解出来る。

 

「み、みんな!? ウルトラマンッ、トリガーーーッ!!」

 

───ULTRAMAN TRIGGER!MULTI TYPE

 

『セェアァァッ!!』

 

 ダイキは即座にトリガーへと変身。そして飛び出した勢いそのままに、オカグビラに横から突撃するのであった。

 タックルを受けて吹っ飛び、その先に有ったビルに衝突。更にはその瓦礫が自身の身体に降り掛かり、押し潰されていくオカグビラ。ビルを巻き込んでしまったのは大きな損害だが、あの状況なら仕方が無いだろう。因みにファルコンはトリガーがタックルしたのと同タイミングでアンカーを切り離し、巻き込まれるのを回避した。

 

 起き上がりながら瓦礫を押し除け、オカグビラは原因となったトリガーに目を向ける。一方トリガーも、奴に対して構えた。 

 

「Coooooooohッ!!」

 

『セアッ!』

 

 

 

「ウ、ウルトラマン!?」

 

 背後から聴こえた先程までとは違う轟音に、思わず足を止めて振り返った3人。その先に居たのは怪獣に対して身構えている巨人・ウルトラマントリガーの姿。

 

「助けに来てくれたんだ……!」

 

「流石はウルトラマン! 頑張って下サイ!」

 

 彼の登場を心から喜ぶかのんと可可。

 

「ウルトラマン……トリガー………」

 

 一方ショウゴは、その巨人を少し濁った瞳で見詰めるのであった……。

 

 

 

 

 





ショウゴのトラウマになっている“あの日”。皆さんお分かりでしょうがあの最終決戦です。そこで彼は光になる事が出来ませんでした。
クトゥルフで例えるならSAN値チェック失敗で大量減少からのアイデア成功で発狂、って感じです。

その狂気は未だに彼の心を支配しています。


ギャラクシークライシス。聞いたことある人もいるでしょうが、ほぼそれです。
これによってティガの世界にも様々な怪獣が現れるようになりました。


そしてオカグビラ登場。トリガー本編ではこの前にあの俊敏策士が現れるのですが、奴の本格登場はもう少しお待ちを……。
オカグビラですがオリジナル設定でより陸上や地中での棲息に特化した姿になっています。


次回、トリガーvsオカグビラ。そしてスパスタの物語は3話に入っていきます。どの様になっていくか、是非お楽しみに。


感想、高評価等、お待ちしております。





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10曇りの予兆






 

 

 

 

 

 先に駆け出したのはオカグビラ。強靭な四足で大地を蹴ってトリガーへと突っ込む。彼はそれを正面から受け止めた。

 

『セアッ!──クゥ!?』

 

 だがオカグビラのパワーは強力であり、後ろに押されていく。抵抗してチョップやエルボーを打ち込むが、それでも奴は止まらない。

 

「Caaaaaaa!」

 

『クァ!?』

 

 身体を横に振り、トリガーを払う。倒れてしまったトリガー。そこへ更にオカグビラは上からのしかかった。3万5000トンの重量が一気に襲い掛かり、彼を苦しめる。

 

 苦痛の声を漏らすトリガーへ前脚を叩き付けて攻撃。原種のグビラには無い頑丈な爪が彼のボディを傷付けた。

 必死に足掻くトリガーだが、オカグビラの猛攻撃を止められない。

 

───うう……強い……!?───

 

 ガギ戦の時もそうであったが彼は戦闘に関してはまだまだ素人。時折自分のトリガーとしての肉体やフラッシュバックする謎の記憶が彼に戦いを教えるが、ダイキ自身の戦闘センスは酷いものだった。

 両前脚を大きく上げたオカグビラが、勢い良く全身でのしかかる。

 

 

 

「アイツ、何やってるのよ……」

 

───BOOT UP!THUNDER!

 

 オカグビラに苦戦するトリガーを見て眉を顰めながら、アユは宇宙怪獣エレキングの力が宿されたGUTSハイパーキーをGUTSスパークレンスに装填。そして銃口より閃光を放ちながら雷撃が発射され、オカグビラの横っ腹に着弾。火花が散り不意を突かれてしまったオカグビラは横に倒れ、その隙にトリガーは転がって距離を取る。

 

「しっかりしなさい」

 

───ありがとう、アユ!

 

 立ち上がって再度構えるトリガー。オカグビラも身体を起こし、怒りの咆哮を放った。

 

 睨み合う2体。彼らは同時に駆け出した。

 走りながらトリガーハンドスラッシュを連射。鏃型の青白い光弾がオカグビラへ飛んでいくが、それらを掻い潜りながら奴は進み、鼻先のドリルを高速回転させてジャンプしトリガーへ突っ込んだ。強力なドリルアタックが炸裂し、彼の胸を抉る。

 

 トリガーは苦しみ、オカグビラは滑りながら着地して更にドリルを利用し地面へと潜行。地中を移動して再度トリガーへと迫っていく。

 

 

 オカグビラから必死に逃げてたかのん、可可、ショウゴの3人は橋の上からトリガーと戦いを見ていた。というのも避難所へと向かっている途中ショウゴが立ち止まって戦闘を見つめ始め、かのんと可可は早く逃げようと声を掛けるが彼はトリガーの姿に釘付けになっていた。

 

「お兄ちゃん! 何やってるの!?」

 

「早く逃げないと危ないデスよ!」

 

 2人から催促されるがショウゴは動かない。

 

 地面を泳ぐ様に自在に移動し、飛び出してトリガーへの突撃を繰り返すオカグビラ。その影響で道路は凸凹、ビルが幾つも沈み倒れる。

 

「まるで地の鮫デス……!」

 

 可可が息を呑んでそう呟いた。その動きと獲物を何度も執拗に攻撃する姿には言い得て妙だろう。

 またオカグビラが地面から勢い良く飛び出した。鋭いドリルが、カラータイマーの鳴り始めたトリガーに向けられる。

 

「危ない!?」

 

「ウルトラマン!?」

 

 叫ぶ2人。あの一撃を喰らえばトリガーも只では済まない。しかしオカグビラのドリルが届く事は無かった。寸前で、GUTSファルコンがバルカン砲を連射して撃ち落としたからだ。

 地面に堕ちたオカグビラ。反撃のチャンスは今に於いて他には無い。ファルコンの方を向いて礼をする様に頷いた後、トリガーは立ち上がり両腕を額の前でクロスする。

 

───ULTRAMAN TRIGGER!POWER TYPE!

 

─── BOOT UP!DERACIUM!

 

 GUTSスパークレンスにパワータイプのハイパーキーをセット。そしてスパークレンスを前に突き出した。

 

「勝利を掴む、剛力の光ッ!

 ウルトラマン、トリガーーーッ!!」

 

───ULTRAMAN TRIGGER!POWER TYPE!

 

『ンンッ……ハァッ!』

 

 剛力形態であるパワータイプに変化。そして倒れていたオカグビラに近付き、奴の身体を高々と持ち上げた。マルチタイプでは苦戦したが、パワータイプならこの程度の重量大した重さでは無い。

 

『ハァァッ!』

 

 そのまま投げ飛ばす。地面に叩きつけられたオカグビラは悲痛な叫びを上げた。

 

「Cooooo……ッ!?」

 

 少々可哀想に思ってしまいそうな鳴き声だが、暴れまくった奴に対して同情などして要られない。尻尾を掴み、そのままオカグビラの事をぶん回す。所謂ジャイアントスイングだ。

 この技・ウルトラスウィングで思いっきり投げ飛ばされたオカグビラは地面を転がっていった。

 

 

「す、凄い!」

 

「流石ウルトラマン!」

 

 形勢逆転したトリガーを見てかのんと可可は声を上げる。一方、ショウゴは唯々黙ってその戦いを見つめていた。まるで何かに、取り憑かれたかの様に。

 

 

 体勢を立て直してトリガーに向き直るオカグビラ。拳を握り締めてがっしりと構えている彼に対し、この怪獣は凄まじい怒りを感じた。自身を痛め付けたこの存在を必ず排除しなければならないと。そもそも、何故自分は此処に居るのか……?

 いや、そんな事はどうでも良い。今はとにかく、コイツを自慢のドリルで串刺しにして殺すのみ。

 

「Coooooooooh!!」

 

『フッ! ハァァァァ………セェアァッ!!』

 

 オカグビラは咆哮しながら勢い良く駆け出す。両腕を左右にから上に挙げ、胸の前に超高熱のエネルギーを集めたトリガーは向かって来るオカグビラへ、それをデラシウム光流として放った。光流は大きく開けられたオカグビラの口の中に入る。体内でエネルギーは膨張し、その肉体を粉砕するのであった。

 

 

 

「やった!」

 

「やりました! ウルトラマンが勝ちました!」

 

 かのんと可可はトリガーの勝利を喜び手を合わせる。周りを見れば、多くの人々が彼女達と同じく歓声を上げていた。

 そんな中でショウゴは空へと飛び発つトリガーを見つめている。以前、我が家に来た妹の友人である青年はあの巨人から光を感じたと話してくれた。そして今、確かにその()()()を感じる事が出来た。

 自分なんかとは違う、光というモノを。

 

「───……ちゃん! お兄ちゃん!」

 

 呼び掛ける声が耳に入り横に目を向ける。そこに居たのは心配そうに見つめてくる妹・かのんの姿があった。

 

「お兄ちゃん、大丈夫なの?」

 

「あ、ああ……悪い……」

 

「何だか顔色、良くないデスよ……?」

 

 可可の言う通り、彼の顔は青白くなっていた。まるで何か恐ろしいモノを見たかの様だ。

 

「大丈夫……走って疲れただけだ」

 

「本当に?」

 

「ああ。ほら、一旦家に帰るぞ」

 

 そう言って歩き出すショウゴ。180を超える身長の彼であるが、かのんと可可には去って行くその背が今は酷く小さく見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『やれやれ……危なっかしいじゃあないか、私のトリガー……』

 

『あの程度の相手に苦戦するとは、我が好敵手は何をしているのか……!』

 

 ビルの屋上に立ち、人間と変わらないサイズになっているカルミラとダーゴンはトリガーの戦いを見ていた。  

 自分達の知っている彼ならオカグビラ如き意図も容易く殺せた筈。それなのにあんなにも苦戦していた彼に対し、2人とも思う所があった様だ。カルミラは奥歯を噛み締め、ダーゴンは拳を握る。

 

『それとカルミラ。先の怪獣……』

 

『ええ、間違いない。アイツだねえ』

 

 カルミラは目を細めて爆死し散らばったオカグビラの肉片を見た。そこから僅かながら感じられたのは此処に居ないもう1人の仲間の闇の波動。それに刺激されてオカグビラは暴れていたのだろう。

 

 それから彼女は、変身を解除したダイキに目を向ける。彼は少しフラつきながらも手を振りかのんと可可の所へ向かっていた。

 トリガーに利用されている矮小な人間。彼はそうする事でしかあの忌々しい姿に成れないらしい。何故その様な事になっているのかは分からないが、早急に彼を取り戻し()()()姿()に戻さねば。

 

『行くよダーゴン』

 

 現れた闇のゲートの中にカルミラは入り、ダーゴンもそれに続く。一族の悲願の為に、そしてそれぞれの持つ願望の為に、彼女達は集結しようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

###############

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーーーいっ!」

 

「ダイキさん!」

 

「ダイキ君!」

 

 戦いを終えたダイキはウルトラマンから人の姿となり、戦闘前に見たかのん達の元へ手を振りながら駆け寄って行った。

 

「2人とも大丈夫? ケガは無い?」

 

「はい、大丈夫デス!」

 

「そっか、良かった……。あれ、ショウゴさんも一緒だったよね?」

 

 先程一緒に見かけた筈のショウゴが居ないことを疑問に思うダイキ。

 

「あー……ちょっと用事があるみたいで先に帰ったんだ」

 

「デスデス」

 

 聞かれた2人は、少し困った様な表情を見せながら答える。何となくだが、さっきの彼の事を伝え難いと感じてこの様な回答になってしまった。

 

「そうなんだね」

 

「うん。ダイキ君こそ、大丈夫だったの? GUTS-SELECTの仕事でここに居るだよね?」

 

「大丈夫大丈夫!」

 

 ダイキは胸を張る。実際にはかなり苦戦をした為、大丈夫だったとは言い難いが。

 

「そうだダイキさん! 実はかのんさんが私達の歌を完成させてくれましタ!」

 

「え、本当!?」

 

「はい!」

 

 彼女達がスクールアイドルとして歌う曲。それは可可が今まで書き溜めて来た歌詞やワードを参考にし、かのんが編集し曲を付けて完成させた物。歌詞の中に書かれていた「あきらめないキモチ」。この言葉を何よりも大切にしながら、可可と共に最高の曲にする為に頑張って仕上げたのだ。

 曲の完成は彼女達を応援しているダイキにとっても凄く嬉しい事であった。

 

「せっかくデスのでかのんさん! ここでダイキさんに聴いてもらいまショウ!」

 

「へ?…………へええええ!?」

 

「そうだね! 聴かせてよかのん!」

 

「いや、そんないきなりぃ!?」

 

 ほんの数分前まで怪獣から逃げ回っていたというのに予想外の提案を可可からされて戸惑うかのん。先程のショウゴに対してといい、彼女はどうしても誰かにかのんの歌を聴いてもらいたい様だ。

 

「お願いします、かのんさん!」

 

「かのん、僕からもお願い!」

 

 懇願する2人。嫌な気はしないし、このまま自分に親身になってくれている可可とダイキの望みならそれは応えたいと彼女も思っている。

 「それなら……」と彼女は意を決して息を吸った。

 

「スゥ────……………」

 

「………」

 

「………」

 

 サイレンが鳴る中、この場だけが静かになる。

 

「………………」

 

「………」

 

「………」

 

 歌は始まらない。

 

「………………」

 

「………」

 

「………」

 

 まだ始まらない。

 

「……………あ、あれ……?」

 

「………?」

 

「………かのん?」

 

「ちょ、ちょっと待って……!スゥ──……」

 

 もう一度息を吸うかのん。

 

「………………」

 

「か、かのんさん……?」

 

「もしかして……?」

 

 だがそれでも、歌は始まらない。

 

「ど、どうしよう……!?」

 

 目尻に涙を溜めながら、彼女は2人の方を向く。

 

「また歌えなく、なっちゃったぁ……!?」

 

「「え、えええええええええええ!!??」」

 

 辺りの喧騒を掻き消す程の、大きな叫びが街を包むのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

###############

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 広大な宇宙。そこに大きな黒雲があった。黒雲は電気

纏い、只々宇宙を揺蕩っている。かつては地球の電離層内にあったこの黒雲。それが何故この様な場所にあるのか。その理由は黒雲内に棲息している生物にある。

 

 名は空中棲息生物クリッター。クリオネに似た生物であり、長らく存在の立証されてなかった生物であったが、約18年前に水野 隆治博士によって発見()()()()になる。

 

 クリッターの棲息する黒雲内に食料と言える物は全く存在しない。そんな彼らが生きる為に行っているのが共喰いだ。餌であると認知した物を「トモダチ」と呼び、容赦無く捕食していく恐ろしい生物だ。

 人類の文明が発展したことにより大量の電磁波やマイクロ波が電離層に流れ、その影響によりクリッターは凶暴化し、更にファースト・コンタクト、セカンド・コンタクトを経て人類を「トモダチ」であると認定して旅客機などを襲う様になった。

 

 その後、事態を重く見た当時のTPCは大規模火力を持ってクリッターを掃討する「クリッター作戦」を計画。そして攻撃を決行するが、初撃を回避した後に奴らは大気圏を離脱。地球から宇宙へと飛び去ってしまった。「人間に愛想を尽かした」とも言われたが、彼らの真意は解らないままである。

 

 

 人間という邪魔な存在が無く、彼らは穏やかに暮らしていた。

 

 だがその中に、飛び込んで来る異形の巨人が現れた。巨人は蒼い瞳を輝かせ、その腕から闇を放つ。

 

『貴方達の力、利用させて頂きますよ』

 

 闇がクリッター達を飲み込む。そして苦しむ彼らを無理矢理融合させ、変貌させた。

 赤い瞳、裂けた大きな口、逆三角形の様な身体、鰭状の両腕。恐ろしい怪獣となったクリッター……いや、それは最早クリッターでは無い。

 

 巨人が指を鳴らすと、怪獣は闇に包まれてワープする。着いた場所は小惑星の上。そして瞳に映されたのはかつて自分達が存在していた星、自分が好きだった場所。

 そこへの望郷の念か、それとも自分達を攻撃し追い出した者達への怒りか。怪獣がどんな想いで星を見つめているのかは解らないが、間違い無く感じている事がある。

 

 あの場所に自分達の求めるモノがあるという事だ。それは……。

 

 

 

────ゴチソウ(トモダチ)……!!

 

 

 

 

 歪に飛びながら、闇変形怪獣ガゾートは地球へと向かっていくのであった。

 

 

 

 

 

 






感想、高評価、質問、その他、是非是非お待ちしています。
次回、クーカー結成。


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11クーカー結成


ギリギリ1年経つ前に投稿!
お久しぶりです!!


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「歌えなくなったぁ!?」

 

 怪獣出現の影響で午後からの授業開始となった結ヶ丘の中庭に千砂都の声が響く。数日前に人前で歌う事が出来たのを嬉々と報告して来た幼馴染が、今度は肩を落としながらまた歌えなくなったと言って来たのだから無理もないだろう。目の前には酷く落ち込んだかのんが椅子に腰を下ろしており、その両サイドには可可とダイキが座って彼女のことを励まそうとしていた。

 

「うん……。何でか分かんないけど……」

 

「だ、大丈夫だよかのん!」

 

「そうデスよ! さっきは少し調子が悪かっただけデス!」

 

 彼らにそう声を掛けられるがかのんの表情は浮かない。

 

「前よりも酷くなってるかもぉ……」

 

 更に落ち込むかのん。フェスで1位にならなければならないというのに、これでは出場すら危うい。どうしよう……と頭を抱えていると1人の少女が近寄って来た。

 

 

 

「辞退した方がよろしいのでは?」

 

 葉月 恋である。

 

「申し訳ありませんが話は聞かせてもらいました。その様な状態でフェスに出ても醜態を晒すだけではないでしょうか?」

 

「そ、そんなこと無いデス! きっと本番では、歌える様になってマス!」

 

「現時点で無理なら本番だって危ういのでは?」

 

 淡々とした恋の返しに何も言えなくなるかのんと可可。厳しい言葉ではあるが、彼女が言うことも強ち間違いでは無いからだ。

 

「まだ時間はあるし理事長先生は許可してくれてるんだから、とにかくやれる事をやってみようと思う」

 

 助け舟を出したのは千砂都。

 

「別に問題は無い筈だよね?」

 

 そう言われては恋もこれ以上の文句は言えない。「貴女の練習の邪魔にならなければ良いのですが」とだけ言い残して去ってしまった。

 そんな恋の背中を、ダイキは見つめていた。

 

「ごめんね、みんな……」

 

「気にしないでかのんちゃん」

 

「そうですヨ! 大丈夫デス!」

 

 自分が歌えなくなったことで可可にも千砂都にも、ダイキにも迷惑を掛けてしまっている。自分が情け無く思えて胸の内が重くなっていた。溜め息が出てかのんは更に暗くなる。

 

「ごめん、僕ちょっと行ってくる!」

 

「え、行くって何処に? ダイキ君!?」

 

 千砂都がどうしようかと考えてる中、ダイキは立ち上がり恋が去っていった方向に駆け出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 校内に入ろうとする恋の背をダイキは見つける。

 

「葉月さん!」

 

「ッ、貴方は……」

 

 呼ばれて振り返った恋。彼のことは理事長より頂いた資料で知っている。諸事情により男子でありながらこの結ヶ丘女子高等学校普通科に編入する事になった生徒。そして彼女にとっては忌々しい、スクールアイドル部の活動を支援している生徒でもある。そんな彼が自分に何の様だろうかと彼女は首を傾げた。

 

「僕は円淵 ダイキ。葉月さんに聞きたいことがあるんだ」

 

「……何でしょうか?」

 

「葉月さんは、どうしてスクールアイドルのことが嫌いなの?」

 

 ダイキの言葉に彼女は眉を顰める。

 

「僕もまだよくは知らないんだけどスクールアイドルってさ、みんなのことを笑顔に出来る凄いものだって思うんだ! だから葉月さんにも──!」

 

「必要無いからです」

 

 応援をして欲しい。そう頼もうとしたが彼女は食い入る様に声を放ってそれを言わせなかった。

 

「この学校にスクールアイドルは必要有りません。理由は澁谷さん達にも伝えている筈です」

 

「そんなこと……」

 

「貴方もあの様な事には加担せず、結ヶ丘の生徒として相応しい学生生活を送ることをお勧めします」

 

 そう伝えてから彼女は校内へと入っていく。その背をダイキは見送るしかない。

 彼女がスクールアイドルに対して強い敵意を向ける理由。それは一体何なのか、今の彼には知る由が無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

###############

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 荒尾市。九州の中部、熊本県の北西端にある都市でそこには大きな遊園地があり、更にその近くには大きな建物があった。旧サイテックビルと呼ばれるその建物はかつてはサイテックコーポレーションと呼ばれる宇宙開発企業の保有する施設だったがその企業は既に解体され、現在はとある人物が居住する為だけの物となっている。

 

 そんな場所にアユは来ており、一室にあるソファーに腰を下ろしていた。目の前には壮年の男が椅子に座り、彼女が提出した資料を見つめている。ひとしきり読んだ後、男は資料を机に置いて彼女に穏やかな笑顔を見せる。

 

「相変わらず素晴らしい内容だ。そして本当に光になり、それを完全に制御するシステムを作り出すとは……。昔は僕も天才と言われたが、君はそれ以上だな」

 

「いえ、そんな事は無いです。私が開発したのはあくまでもGUTSハイパーキーに集束させたエネルギーを解放する為の機関。それに……」

 

 彼女の眉間に皺が寄る。本来なら、自分が光になる筈だったのに……。悔しそうな表情を見せるアユに、男は声を掛けた。

 

「光に成るのに、必要なのは何だと思う?」

 

「…………解りません」

 

「僕は、人の正しい心だと考えている」

 

「正しい心……?」

 

 男は優しく笑う。

 

「僕はかつて間違った心で光に成ろうとし、その結果多くの被害を齎した……。人が正しい心を持つこと。それが光に、ウルトラマンに成る為に必要なものだと僕は思っている」

 

「………」

 

「………まあ、僕が言えた事じゃないか」

 

 そう言って自嘲する男に、アユは何も返すことが出来ない。

 ポケットから、今朝完成した青いGUTSハイパーキーを取り出して握る。自分では光に成る事が出来ないのか……?

 悔しい思いが、キーを握る力を強くさせた───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから暫くし、ビルを出て立ち去っていくアユを男は窓から見つめていた。真っ直ぐと伸びている背中ではあるがそこからは怒り、悲しみ、虚しさ、そして無念さが滲み出ている。

 

 思わず出てしまう溜め息。自分では彼女の心にある痼りを除去する事は出来ないだろうと思うと虚しさを感じてしまう。

 

「彼女、大丈夫でしょうか……?」

 

 すると眼鏡を掛けた小太りの男が、部屋に入って来て彼に声を掛けた。この男は彼の事を慕っており、身の回りの世話を焼いている古くからの友人だ。

 

「………どうだろうな」

 

 彼女が抱えているものを彼も知っている。そしてそれが簡単には払拭出来ないものであるという事も。

 

「切っ掛けが有れば或いは……かな。だが、その切っ掛けを作れるのは僕らではないだろう」

 

 男は空を仰ぎ、過去を思い返す。

 

 

 

 

 

 

 

 街に響き渡るリヒャルト・ワグナー作曲の「タンホイザーとヴァルトブルクの歌合戦」と仰々しい演説。そしてそれをバックにして大地に立つ巨人。黄金色に輝きながらその姿を人々に見せつける。

 

 

 

───私は進化した人類だ。愚かなる旧人類は、私に導かれる事だけが生き延びれる道だ。

 

 

 

 自分は神に近付けた。人類などという矮小な存在から進化出来たのだと信じて疑わなかった。決して間違ってなどいない。自分こそが愚かな旧人類を導く光なのだと。

 

 だが、その傲慢が次第に闇へと変わっていく。

 

 少しずつ失われていく光。理解出来なかった。理論は完璧な筈。必要な物も全て揃っていた。鍛え抜いた肉体、揺るがない精神、器となる像、自身を光に変換するシステム、そして光に成る為に必要な神器。

 何の問題も無かった筈。なのに何故……?

 

 拡がり始めた闇が、光を影へと堕とす。

 

 そこに立っていたのは人を導く存在などでは無い。間違った心により邪悪(イーヴィル)となってしまった哀しき巨人であった。

 

 

 

 

 

 過去の大きな誤ちを思い目を伏せる。

 

「正木さん……?」

 

 心配しながら丹後 祐二が、男に声を掛けた。それに対して男は、正木 慶吾は笑みを返す。

 

「信じようじゃないか。彼女ならきっと、我々の様な誤ちは起こさないと」

 

 きっと大丈夫。今はそう信じるしかない。

 彼女の中には光がある。それだけは間違いないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 歌えなくなったかのん。そんな彼女を再び歌える様にする為の作戦は混迷を極めていた。

 

 まずは千砂都が考案したバイト作戦。かのんが歌えなかった原因はプレッシャーであると千砂都は分析した。そこで彼女がバイトしているたこ焼き屋でかのんに働いてもらうことでそのプレッシャーに打ち勝つだけの強さを身につけてもらおうと考えたのだ。

 

 普段喫茶店の手伝いで接客には慣れているが、こう言った不慣れな状況に対応出来れば変われるかも知れないという魂胆もある。

 

「これならきっと、かのんちゃんも歌える様に───!」

 

 だが作る状況と歌う状況というのは別物であり、残念ながらかのんが歌えることは無かった。

 

 

 

 かのんがバイトを頑張っている間、可可とダイキは美味しそうにたこ焼きを頬張っていた。

 

 

 

 

 次に試されたのは可可発案による衣装作戦。可愛い服を着ることによって気分を上げ、歌える様にしようというものだ。とある服飾店に入り、試着室に入れられたかのんは可可から幾つもの服を渡される。

 

「こ、こんな可愛い服似合わないよ!?」

 

「そんなことないデス! かのんさんなら間違い無く似合いマス!」

 

「うんうん! 絶対可愛いよ!」

 

「僕もそう思う! かのん、着てみてよ!」

 

 3人から強く勧められ、彼女は渋々着せ替え人形になる……。

 オレンジのワンピース、ゴスロリ風、イエローの上着に水色のスカート、とにかく様々な衣装を着ていき、その度に3人は大絶賛。スマホで何枚も写真を撮る。

 

「よし、これをサクッとSNSに……」

 

「消して」

 

「大丈夫、ちょっと拡散して“いいね”をたくさん貰うだけだから」

 

「大丈夫じゃない!!」

 

 

 そんなこんなありながらも、結局この作戦も失敗に終わる事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「スマイルスマイルー!」

 

「ス、スマイルぅ……」

 

 最後に行われたのがダイキ考案、その名も「スマイル作戦第一号」。彼曰く、とにかく笑顔になれば自然と歌える様になる筈とのこと。確かにスクールアイドルに笑顔は必須。恥ずかしさを感じながら、かのんは両手の人差し指を頬に当てながらぎこちない笑顔を作っていた。

 

「ほらかのん、もっと笑顔で! スマイルスマイル!」

 

「スマイルスマイル、デスぅ〜!」

 

「スマイルスマイル、マル〜!」

 

 可可と千砂都もノリノリでダイキの真似をしている。かのんも頑張っているのだが、今これをやっているのが原宿の通りという事もあり、多くの人の目に付いて彼女的にはかなり恥ずかしい。実際、4人の行動を見た通行人はクスクスと笑っている。

 

「ぐぅぅ……こ、こんな所じゃなくてもっと人が少ない所でやろうよぉ……」

 

「何言ってるの! スクールアイドルになったらもっともーっとたくさんの人に見られるんだから、これくらい慣れないと!」

 

「ダイキさんの言う通りデス!」

 

「うんうん!」

 

「ううぅ……」

 

 頑張るがやはり恥ずかしさが先行して紅潮し、ぎこちない笑顔になってしまう。

 

「かのん、頑張って! これが出来れば、きっと歌えるよ!」

 

「かのんちゃん!」

 

「かのんさん!」

 

 笑顔で迫る3人。なかなか圧が強い。

 かのんも、それに応える為に頑張って笑顔になり歌おうとするが……。

 

「や、やっぱり無理ぃぃぃぃぃ!?」

 

「え、ちょ、かのん!?」

 

 走り出してしまうかのん。まだ彼女には、ハードルが少し高かった様だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり無理だよぉー! そう簡単に歌えるなら、今まで苦労してないよぉー!」

 

 かのんの部屋にて彼女はベッドに腰を下ろして天井を仰いだ。どれだけ頑張っても歌うことは出来ず彼女の心は少し荒んでいた。

 

「ごめんねぇ、みんなぁ……」

 

「だ、大丈夫デスヨ!」

 

「クゥクゥちゃんは、かのんが歌えたところ見たんだよね?」

 

「はい!かのんさんは歌えました! 可可はそれをこの耳で聴いてこの目で見ました!」」

 

 力を込めてそう言う可可。

 

「偶々だよぉ……」

 

 しかし彼女は偶然だったと言って更に沈む。

 また歌えなくなり、可可達に迷惑をかけてしまう自分に嫌気が差す。

 

「大丈夫デス!」

 

「でも、また歌えなくなったんだよ……」

 

「だったら、今は無理に歌おうとするのはやめまショウ! 本番では、可可が1人で歌いますカラ!」

 

 可可の発言にかのんは思わず「えっ?」と声を漏らした。歌えないのなら無理はせず、今回は一緒にステージに立ってくれるだけで大丈夫。その後でまた歌える様になれば良いと。

 

「クゥクゥちゃん……」

 

「フェスが終わってからまた歌える様になれば大丈夫デス! かのんさんが歌える様になるまで、応援すると可可は約束しましたカラ!」

 

 あの日かのんと交わした約束。それを果たす為にも今は自分が頑張らなければと可可はぐっと拳を握る。彼女の優しさに嬉しくなるが同時に罪悪感も覚えていた。自分がちゃんと歌えていれば……。

 

「そうだ! 可可、皆さんに見せたい物がありマス!」

 

「見せたいもの?」

 

「はい! だから着いて来て下サイ!」

 

「今から!?」

 

「はい!」

 

 そう言う可可に連れられ、かのんと千砂都、ダイキは部屋を出るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 店舗スペースに降りて来たかのん達は1人で店番をしているショウゴと出会う。

 

「何だ、また出掛けるのか?」

 

「うん、ちょっとね」

 

「お兄さん、かのんさんのことお借りしますネ!」

 

 それから「行って来ます」と「お邪魔しました」を言って店を出る4人を適当に手を振って見送るショウゴ。それから彼はテレビを付けた。

 どのチャンネルも、話題にしてるのはウルトラマントリガーのことばかりだ。

 

「まあ……そうなるよな……」

 

 約15年振りに現れたウルトラマン。話題になって当然であろう。唯一ウルトラマンを話題としてない、子ども向けの番組を流していたチャンネルに変えてから洗い物に手を付ける。するとドアベルが鳴り、ショウゴはそちらに目線を向けた。

 

「いらっしゃ……またお前か……」

 

「はぁーい♪アヤメちゃんでーすっ♪」

 

 南天 アヤメ。ショウゴを慕う女子大生であり、かのんやありあからは疎まれてる者。現在母は買い出し、ありあは居らず、かのんも先程出て行ってしまったので今彼女の対応が出来るのはショウゴしかいない。

 面倒な相手の登場。彼の眉間に皺を寄せながら、彼は適当にブラックコーヒーを入れて自身の目の前のカウンター席に座った彼女に出した。

 

「えー! アヤメ、ブラックは飲みませんよぉ〜?」

 

「…………チッ」

 

「わぁーい! 先輩、ありがと♪」

 

 コーヒーを下げてオレンジジュースを出す。それを受け取ったアヤメはニコニコしながら礼を言う。

 

「ごくごく♪う〜ん、美味しいです♪」

 

「それ飲んだら帰れ」

 

「えー!? せっかくだからお話しましょうよぉ〜?」

 

「今更お前と話す事なんざ何もねぇ」

 

「それってぇ、お互い話さなくても心が通じ合ってるってことでぇ、つまりアヤメと先輩はラブラブってことですかぁ? いやーん♪」

 

 彼女の勝手な言い様に溜め息を吐く。溜め息を吐く度に幸せが逃げるというらしいが、それが真実だとしたら自分の不幸は全てこの鬱陶しい後輩の所為だなと心の中で毒吐いた。

 そんな彼の胸の内など気にもせず、アヤメはいろんな事を話して来た。何でこんなにも会話のネタがあるのだろうかと少しだけ感心しながらその言葉に耳を傾ける。

 

「実はアヤメ、また告白されちゃったんですよぉ〜!」

 

「どうでもいいな」

 

「同じ学科の男の子なんですけどぉ、見た目は悪くないしぃ」

 

「なら付き合え」

 

「でもアヤメは先輩一筋ですからぁ〜♪」

 

 多くの幸せがまた逃げ出す。彼女の容姿は非常に整っているのだが、ショウゴからしたらただの鬱陶しい後輩でしかない為そんな事言われても迷惑でしかない。

 

「嬉しいでしょ、先輩?♪」

 

「全然」

 

「またまた〜♪本当はアヤメのこと大好きなクセにぃ〜♪」

 

 最早逃げる幸せも無い。ただただ天を仰ぎ、早い家族の帰りを願うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

#################

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは……!?」

 

「す、凄い……!」

 

 可可に連れられて来た3人が見せられたのは巨大な看板。可愛らしいハートや星、そしてデフォルメされたかのんと可可が描かれたそれには「クーカー」という文字が記されていた。

 

「クーカー、って?」

 

「かのんさんと可可のグループ名デス! かのんさんの“か”と、可可の“く”を合わせてクーカーにしまシタ!」

 

 なるほど、と感心するかのん達。更に可可はダンボールに入った大量のペンライトも出して来た。

 

「ダイキさんと千砂都さんにお願いがあって、このペンライトを可可達を応援してくれる人達に配って欲しいんデス!」

 

「これで2人のことをみんなで応援出来るんだね! 分かった、僕達に任せて!」

 

「私もやるよ!」

 

 ダンボールを受け取るダイキ。そこそこの重さがあり少しだけ蹌踉ける。

 

「これ全部、練習しながら作ったの?」

 

「はい! 可可、こういうのは得意デスから!」

 

「凄いよ、可可ちゃん!」

 

 褒められて嬉しそうな可可。

 一方、かのんはその大きな看板をじっと見詰めていた。苦手な運動やダンスを全力で頑張りながらこんな凄い物まで作ってしまう彼女の情熱は凄まじい。それに比べて自分は歌う事が出来なくなり足を引っ張っている。

 

 何をやっているのだろうと自己嫌悪が加速する。その時……。

 

说谎()!?」

 

 可可の驚いた声が響く。彼女はスマホを見て何か驚いていた。

 

「どうしたの可可ちゃん?」

 

 ショウゴが聞くと、彼女はワナワナと震えながら口を開いた。

 

「………ニパ様が……」

 

「ニパ?」

 

「様?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「サニパ様があああああああああ!?」

 

 

 

 

 どうやら彼女達の受難は、まだまだ終わらなそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






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