ありふれない雷帝は異世界では最強です (外の神様)
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設定やら
設定
ほんへで出てないことやらが書かれるのでネタバレ注意
本作主人公の雷帝様。
純粋な人間ではあるが、身体能力は人外のそれそのものであり、作中では文字通りの最強。
視力が低く、戦闘時以外は基本的に魔力で形作った眼鏡を着用している。戦闘時は能力のお陰で視力は上がるので眼鏡は外す。
神装器使いと呼ばれる者の一人でもあり、共通として、異世界から異世界へと渡る術を持ち合わせている。
こちらも神装器使いの共通として、力に制限がかかっており、基本的に弱体化した状態となっており、本当の意味での本気などは出せない。
また、力が制限されている状態では、不老であるが不死ではないため、殺そうと思えば殺せる。(毒とか呪いとそう言った類のものは神装器使い達には通じない)
戦闘力は元の世界でもトップクラスのものであり、自身で編み出した我流の格闘術と雷属性の術を用いて闘う。上述に弱体化状態であれば殺そうと思えば殺せるとあるが、ガイは相手の行動を未来予知のレベルで先読みができるため、基本的に攻撃に当たることはない。これは特殊な能力などではなく、長年戦い培ってきた技術と勘のようなものである。なお、当たったところで存在強度がとてつもなく高いので基本格下の攻撃は通らない。
ダメージを与えたいならまず、弱体化ガイと同格以上になる必要がある。
本人は気づいていないが、とある理由により神性を有している。
作中でガイが出した人名。
出るかは未定なガイの嫁。
東雲という苗字は京香側のもの。
ガイと同じく神装器使い、こちらも同じく世界を渡る術を持ち合わせている。
直接的な戦闘力はそこまで高くなく、後方で味方の支援などを得意としている。一応護身術程度のものをガイから教わっている。
よく変な物を作り出し、夫であるガイを実験台にしたりと、マッドサイエンティスト気質な面も持ち合わせている。
神装器
武具だったり、生物だったり、玩具だったりと、様々な形状の物があり、その全てに強さの程度はあれ自我が存在する。
神装器と契約した者は、人智を超える力を手に入れることができ、神すらも簡単に屠る事も可能になる。
いつ、どこで、誰がなんのために造られたのか一切不明であり、いろんな世界に存在する。
自我があると上述にあるが、明確に意思疎通が可能なのはそこまで多くなく、殆どが会話などはできない。
ガイと京香が契約している神装器は最上位の存在で、明確に意思疎通が可能な上に、人型への変身など様々なことが可能になっている。
またなんかあったら増やすかも
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異世界トータス
雷帝、奈落にて目覚める
ここは暗い奈落の底。
凶悪な魔物が徘徊するこの奈落で、1人の男が硬く冷たい地面に倒れ伏している。
どうやら意識はなく、目覚める気配もない。
そんな動かない獲物を魔物がほっとくわけもなく、熊型の魔物がそれに気付き、近づいてくる。
一歩、二歩と距離は縮まり、ついには男を見下ろす形になる距離まで接近し、念には念を…そのようなことを思考する頭があるのかわからないが、熊型の魔物はその凶悪な爪を男目掛けて振り下ろす。
この男の物語はここで終わりか…そう思われた瞬間、この階層全体に雷が走る…
発生源は地に倒れている男からだった、至近距離で強力な電撃を浴びた熊型の魔物は黒焦げとなり、男が倒れてる方向とは真逆の後ろに倒れこむ。
男の方はというと、頭に手を当てながらゆっくりとその場で立ち上がる。
「ッ…ここは?何が、あった?頭がボーッとしやがる」
覚醒したばかりだからか、視界は霞、足元もおぼつかない様子。
そんな状態ではあるが、ここがどこなのかを把握するため男は周りをぐるっと見渡す。
男はこの場所がどこかの洞窟内だと把握すると、どうしてこんな場所にいるのかと記憶を遡る。
(確か…京香の実験だかなんかに付き合ってて…そんで、突然足元が光ったんだっけか…んで気がついたらここに…)
どうやら、何かの実験中になんらかの要因で転移してしまったらしい。
そんなこんなで思い起こしているうちに視界は良好に、ふらふらとしていた状態もよくなっていた。
それと同時に、自身の目の前に倒れている黒焦げの魔物に気がつくが、覚醒した時に術かなんかが勝手に発動したんだろうと結論付け、その場から離れるように歩き出した。
「さっきの熊以外にも焦げてはないがぶっ倒れてるのが何体もいるな…このフロア全体に術が…って感じか」
男が覚醒したと同時に放たれた電撃は超が付くほど強力で、このフロアにいる全ての魔物の意識、もしくは命を刈り取るほどだった。
そして、倒れていた場所からある程度進んだところで男は歩みを止めると、その場に膝をつき、地面に手を置いた。
(あいつ程早くはできないが…この場所の全体像を把握しないとな)
男はそのまま目を閉じ、集中し始める。
何をしているかというと、頭の中にマップを作っている感じである。
何がどこにあり、誰がどこにいるかなどをリアルタイムで把握していってる感じだ。
やろうと思えば生きている人間全てがどこにいるか〜とかも簡単に把握できる。
(どうやらここは何百もの階層がある迷宮らしいな…このフロアの生き物は全て止まっているが、下の階層は普通に動いてるな…ずっと上の方には人の団体様が何かやってるみたいだな…あとは同じく下に人が…閉じ込められてんのかこれ?とりあえず1人だけいるな。そんで、上には行けないとなると)
方針が決まったのか、男は目を開け立ち上がる。
「下のデカイ空間を目指すしかないか…多分そこがこの迷宮のゴールだろう」
そういうと、男はこの階層から下に降りるための場所に向かっていくのだった。
初投稿です
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雷帝、奈落を進む
「ここか…」
マップを頭に突っ込んでから数分、階下に続くであろう階段…というよりは凸凹した坂道といった方が正しい、そんな入り口の目の前に着いた。
坂の先は、今あるフロアと違って淡く光っている鉱石はなく、真っ暗闇が続き、不気味な雰囲気を醸し出していた。
まぁ、この程度で怖気付く雷帝様ではない。
なんの躊躇いもなく暗闇の中へと踏み込んでいった。
降りた階層はとにかく暗かった。
地下に作られた迷宮であるのだから当たり前ではあるのだが、先程までいた階層では、薄っすらと光る鉱石が存在しており、先を視認できないほどではなかった。
だが、どうやらこの階層はその鉱石が存在していないらしい。まぁ、見えなくとも頭に叩き込んだマップに、気配をいつでも察知できるようそれなりに警戒はしてる、気配も絶っているし直に視認されない限りは問題ないだろう。
そもそも、こんな真っ暗闇でなんらかの光源を持っていたら恰好の的もいいとこだ。
頭のマップを頼りに暗闇の中をしばらく進むと、通路の奥で何かがギラリと光る。
マップにも何かしらがいると反応あり、気配もする…
警戒しながら進むと、何かも移動し始めた様子。
気配は段々と近づき、その気配が横についた瞬間…ドゴォン!という音をたてながら男の拳が迷宮の壁に叩きつけられた。
叩きつけられた場所には、拳により肉体を貫通させられた体長2メートル程の金眼の灰色のトカゲが絶命していた。
「うわ、竜人と違ってこう、人型じゃないのがデカイとなんかアレだな…」
そう言いながら、ベチャッという音を出しながら拳を引き抜き、拳についた血などを落とす。
結構な勢いで壁を殴りつけたため、迷宮内にそれなりの音が響いた筈だ、その証拠にここに向かって来てる魔物が何体かいる。
もたもたしてるとまたエンカウントだ、そう思いさっさと階下に続く階段の場所へ急いで移動を開始した。
暗闇の中を警戒しながら移動すること数時間、意外と広いせいか階段の場所に着くのにかなり歩いた気がする。
善は急げ、目的の場所に着いたならさっさと降りる、男は躊躇うことなく次の階層へ降りていった。
「これは…」
次の階層に着くと、地面はどこもかしこもタールのように粘着く液体が垂れ落ち、地面は泥沼のようになっている場所だった。足を取られので凄まじく動きにくい。しかも、このタール沼を泳ぎ回ってる存在がいるため、移動をさらにめんどくさくしている。
男は顔をしかめながら、ビチャビチャと音を立てタール沼を進んでいった。
しばらく進み、次の階層へと続く階段前まで到着した。無駄なエンカウントを避けたため、かなり時間をかけてしまった。
次の階層へ進もうとしたその瞬間…背後から何かが男に襲いかかる。気を緩めたつもりはなかったが、気配に気づくことができなかった。
だが、男はすぐに身を屈めたため、何から頭上を通り過ぎそのままタールのない階段の方へとすっ飛んでいった。それに続く形で男は階段を降りていくと、途中でさっきの何かがびちびちと跳ねていた。
「サメ…タールの中を泳ぐサメか…このままにしとくのもなんか可哀想だしな」
そう言いながら男は、サメの尾を掴んではそのまま上の階層の方に思い切りぶん投げた。
数秒後、ドボンという音が聞こえ、どうやら無事にタールの中に落とせたようだ。それを確認するや否や、男は階段を急いで降りていった。
ちなみに電撃バチバチにしたフロアの魔物は数分後には多分復活してる筈なのでハジメさんは予定通り中二病に進化すると思う、知らんけど。
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雷帝、奈落の底へ
男の迷宮攻略は続く。
タールの中を泳ぎ回るサメの階層から更に五十階層は進んだ。迷宮の中では時間感覚がないので、何日?何週間?何ヶ月?どれくらいの時が過ぎたのかはわからない。だが、とてつもない速度で迷宮を進んだのは間違いない。
この階層に辿り着くまでに、数え切れない程の魔物と戦い、その悉くを葬った。階層全体が薄い毒の霧で覆われた場所では虹色に輝く毒カエルに馬鹿でかい蛾と戦った。男に毒の類は一切効かないため、ただただ不快なだけであった。
ある階層では、地下迷宮であるにも関わらずじめじめとした密林地帯で、環境という話であればここが1番不快であった。この階層では体の節毎に分裂をする巨大百足に襲われたりと苦労したが、良いこともあった。トレントの様な樹に擬態した魔物に襲われた際、追い詰めると何とこいつ、頭部をわさわさと振り赤い果実を投げつけてくるのだ。殺傷能力は皆無で、なんとなくそれを食べてみたのだが、まさかこんな場所で、こんな美味い果物に出会えるとは思ってもみなかった。味はリンゴというよりもスイカに近かった。
全部狩り尽くす…というわけには行かず、少し懲らしめて幾つか果実を回収したのちすぐにその階層から次の階層に進んだ。
そんなこんなで階層を進み、現在の五十階層。この迷宮の中間地点であり(男視点では中間)何かが封印されている階層でもある。
次の階層への階段はすでにわかっているが、この目の前にある巨大な扉を開けるかどうかで悩んでいるのだ。
どう見ても洞窟主体の場所で、あり得ない人工物。男が探索している中での初めての変化。無視して進むか、開けるかと男は扉の前で小一時間悩む。
「うし…」
やっと決まったのか男は立ち上がる。
「明らかに封印されているもんを解放する意味なんてねぇからな、さっさと進むに限るな」
そう言いながら男は目の前の扉から離れ、次の階層への階段へと足を進めるのだった。
「はぁはぁはぁ…」
現在、男は開けた場所で戦闘を行なっていた。周りは魔物の血が飛び散り死体が転がっている状態だ。どうしてこんなことになっているかというと──
「流石に多すぎんだろ…どうなってんだ…」
「「「「「「「「「「「「シャァアア!!」」」」」」」」」」」」
二百体近い数の魔物に襲われているからである。
扉のある階層から降りた後、十階層程は何事もなく順調に降りることができた。問題がないのは良いことだが、ビックリするほど何もなかったため、この先で何か起こる…と思いながら現在の階層に降り立った。
まず見えたのは樹海だった。十メートルを超える木々が鬱蒼うっそうと茂っており、空気はどこか湿っぽい。だが、以前通った熱帯林の階層と違い暑くないのが救いだ。
男が次の階層への階段に向かっていると、何かがうろついてる気配を察知、急いで草むらに隠れると、ズズンッと地響きが響き渡る。草むらの前に現れたのは巨大な爬虫類の様な魔物。まんま恐竜…しかもティラノサウルスだ。
「べたっちゃべただが…まんますぎないか?と言うか何だあの花」
ティラノサウルスモドキの魔物は、なぜか頭に一輪の可憐な花を生やしていた。
鋭い牙と迸ほとばしる殺気が議論の余地なくこの魔物の強力さを示していたが、ついっと視線を上に向けると向日葵に似た花がふりふりと動く。とてもシュールである。
そんなティラノサウルスは、男を探すかの様に草むらを掻き分ける。見つかって騒がれるのも面倒なため、男は不意打ちでティラノサウルスに術で一撃をお見舞いする。
男は手を手刀の形に変え、手には紫色の雷が迸る。草むらから出たと同時に、ティラノサウルスの首目掛けてそれを振りかぶる。ティラノサウルスの頭はそのまま切断され、ドチャッと音を立てながら地面に落ち、体の方も地響きを立てながら横倒しになった。
そして、頭についてた花もぽとりと地面に落ちた。
「マジでなんなんだ…」
そんなことを呟きながら、男は落ちた花を拾い上げまじまじと見る。この花に何かあるのか?と観察していると、また気配を察知する。今度は十数体の魔物が統率の取れた動きで男を囲み始めた。
それに対し男は、そのうちの一体目掛けて自ら突進していった。
そうして、生い茂った木の枝を払い除け飛び出した先には、体長二メートル強の爬虫類、例えるならラプトル系の恐竜のような魔物がいた。
頭にチューリップの様な花をひらひらと咲かせていた。
「こいつもかよ…流行りか?」
男はシリアスブレイカーな魔物にジト目を向け、有り得ない推測を呟く。
ラプトルは、「花なんて知らんわ!」というかのように殺気を撒き散らしながら低く唸っている。臨戦態勢だ。花はゆらゆら、ふりふりしているが……
「シャァァアア!!」
ラプトルが吼え、こちらに飛びかかってくる。それと同時に男は、ラプトルの頭にある花目掛けてとても威力の弱い雷を放つ。
チューリップの花は雷に撃たれ四散する。ラプトルは一瞬ビクンと痙攣けいれんしたかと思うと、着地を失敗してもんどり打ちながら地面を転がり、樹にぶつかって動きを止めた。シーンと静寂が辺りを包む。男はラプトルと四散して地面に散らばる花びらを交互に見つめる。
「死ん…でないな、生きてるな」
男の見立て通り、ピクピクと痙攣した後、ラプトルはムクッと起き上がり辺りを見渡し始めた。そして、地面に落ちているチューリップを見つけるとノッシノッシと歩み寄り親の敵と言わんばかりに踏みつけ始めた。
「…なんだこいつ」
ラプトルは一通り踏みつけて満足したのか、如何にも「ふぅ~、いい仕事したぜ!」と言わんばかりに天を仰ぎ「キュルルル~!」と鳴き声を上げた。そして、ふと気がついたように男の方へ顔を向けビクッとする。
「いま気づくのかよ…夢中になりすぎだろ」
男はそんなラプトルにツッコミを入れる。ラプトルは暫く硬直したものの、直ぐに姿勢を低くし牙をむき出しにして唸り一気に飛びかかってきた。
男は、拳に力を込めてラプトルの下顎目掛けてぶん殴る。拳はラプトルの頭部を粉砕し、殴られた勢いで上に吹っ飛び、ドチャッと地面に落ち絶命した。
「頭に花…で、取るとあの反応するとなると…」
そんな頭に生えている花について考えていると、包囲網が狭まってきていることに気づき、思考を放棄し、男は自身が有利になれそうな場所を探し移動を開始した。
そんなこんなで時間は進み、現在の魔物数百体に囲まれてる状態に至る。
「クッソ、埒があかねぇ…あんま使いたくなかった手だが…」
男はそう言いながら、襲いかかってくる魔物を捌きながら術を発動する。対象は元凶を除いたこの階層にいる全ての魔物、迷宮内にも関わらず暗雲が立ち込める。
「"天雷"」
暗雲から無数の雷撃が放たれ、この階層にいる全ての魔物へ雷が落ちる。雷に撃たれた魔物は、その悉くが黒焦げになり絶命した。
「あー、つっかれた…そんじゃま、元凶を殺しに行くとするか」
魔物を文字通り殲滅した男は、全ての元凶の元へ向かった。
しばらく歩くと、元凶がいるであろう場所に続く縦割れの洞窟を発見した。どうやらこの奥には元凶とともに次の階層への階段もある様だ。そして男は洞窟の中に入る。
しばらく道なりに進んでいると、やがて大きな広間に出た。広間の奥には更に縦割れの道が続いている。あそこが次の階層への階段みたいだ。
男は辺りを探る。すると、奥の縦割れの暗がり何やら気配を感じる。
「そこか…」
男は外の魔物たちを操っていた元凶がいるであろう場所に、それなりに威力のある雷を飛ばす。すると、縦割れの奥から耳をつんざく様な魔物の悲鳴が洞窟内に響き渡る。気配が消えたため、奥に確認しに行くとそこには、元凶である魔物、アルラウネもしくはドリアードが燃え尽きていた。
「案外呆気なかったな…」
そんなことを呟きながら男は、この広間で少し休んでいくことにした。
そして、時は進み…男はついに百層に到達したのだった。
フロアの魔物またしても全滅、エセアルラウネは多分二度と復活しないでしょう。
ハジメさん達、この階層楽々突破。
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雷帝と奈落の終わり
エセアルラウネと恐竜ワールドの階層を移動してから随分経った。現在男は奈落の迷宮、最初の階層から九十九層目。男は次の階層へ続く階段の前にいた。
「いよいよ次で百層か、何も反応がないが…迷宮の最後なんだ、警戒はした方がいいだろうな」
男はそう呟き、最後の階層へと降りていった。
長い螺旋階段を下り、男は最終層である百層目に到着する。その階層は、無数の強大な柱に支えられた広大な空間だった。直径五メートルはある柱が規則正しく一定間隔で並んでいる。柱には螺旋模様と木の蔓が巻きついたような彫刻が彫られており、空間そのものが一種の芸術作品のようだ。
男が足を踏み入れると、全ての柱が淡く輝き始める。柱は男を起点に奥の方へと順次輝いていく。
柱は淡く輝くだけでとくになにもおこらず、男はどんどん奥へと歩みを進める。二百メートル程度進むと行き止まり…ではなく、全長十メートルはある巨大な両開きの扉が有り、これまた美しい彫刻が彫られている。特に、七角形の頂点に描かれた何らかの文様が印象的だ。
「この扉の先が迷宮のゴールって感じだな」
男が最後の柱の間を越えた瞬間、扉と男の間三十メートル程の空間に巨大な魔法陣が現れた。赤黒い光を放ち、脈打つようにドクンドクンと音を響かせる。
「何も起こらないはずないよな…この大きさ、ボスのお出ましか」
魔法陣はより一層輝くと遂に弾けるように光を放った。光が収まった時、そこに現れたのは……
体長三十メートル、六つの頭と長い首、鋭い牙と赤黒い眼の魔物。例えるなら、神話に出てくる怪物ヒュドラだが…ちと首が足りん。
「「「「「「クルゥァァアアン!!」」」」」」
不思議な音色の絶叫をあげながら六対の眼光が侵入者である男を射貫く。身の程知らずな侵入者に裁きを与えようというのか、常人ならそれだけで心臓を止めてしまうかもしれない壮絶な殺気が男に叩きつけられるが、男は平然と流す。
(雷神とあのオカマ並の殺気を放つ奴がいるわけねぇか)
同時に赤い紋様が刻まれた頭がガパッと口を開き火炎放射を放った。それはもう炎の壁というに相応しい規模である。
だが、男はその場を動かずにそのまま炎に呑まれる。そこに間髪いれずに青い紋様と緑の紋様が刻まれた頭が氷の散弾と風刃を打ち込む。これ程の攻撃を受けた男はひとたまりも無いだろう…が、攻撃が止み、土煙が晴れるとそこには、火傷どころか傷一つ負っていない男が立っていた。
「ま、こんなもんか…今度はこっちの番だな」
男はそういうと、手刀の形で構えたと同時に、腕に紫色の稲妻が迸る。
「"紫電一閃"」
男はその場を動かず、腕を無造作に払う。
「!?!!?!?」
何が起こったのかとヒュドラは困惑した、超スピードやそんなものではない…ましてや時を止められた訳でもない。それなのに目の前の男がその場で腕を振るっただけで全ての首が落とされたのだ。
「元がヒュドラだ、まだ首があるんだろうが…復活されると面倒だ」
男はそう言うと、首を全て落とされ動かなくなったヒュドラの胴体に、容赦なく極大の雷を叩き込む。雷を受けたヒュドラの胴体は元からそこになかったかのように跡形もなく消滅した。残ったのは雷が落ち、焼け焦げた床だけだった。
ヒュドラが完全に消滅すると、巨大な扉がゆっくりとひとりでに開き始めた。扉の奥には何もいないことは確認済みなため、男は扉の奥へ進んでいった。
中は広大な空間に住み心地の良さそうな住居が広がっていた。
「まさか、迷宮のゴールが誰かの住処とはな…とりあえずお邪魔するか」
男はそう呟きながら探索を始めた。
その後、ある程度の探索を終え、男は岩壁をそのまま加工したような住居内に歩を進めた。内部は高級ホテルのような設備をしており大変驚かされた。三階建てらしく、二階には書斎や工房らしき部屋があったがどうやら何か条件があるらしく開かなかった。そして、三階は一部屋のみとなっており男は、三階の奥の部屋の扉を開けると、謎の魔法陣とその奥には豪奢な椅子に座った服を着た骸骨が目に入る。男が部屋に入り、魔法陣の中央に辿り着いた瞬間、カッと純白の光が爆ぜ部屋を真っ白に染め上げる。
「なんの光ぃ!?っとネタが古いか」
そんなことを呟きながら男は目を細める。やがて光が収まると、骸骨と同じ服を着た青年が立っていた。
【試練を乗り越えよくたどり着いた。私の名はオスカー・オルクス。この迷宮を創った者だ。反逆者と言えばわかるかな?】
話し始めた彼はオスカー・オルクスというらしい。どうやらこの地下迷宮の創造者のようだ。反逆者、というのはどう言った者なのかはわからないが、何かに対して反逆していたのだろう。
【ああ、質問や愚痴は許して欲しい。これはただの記録映像のようなものでね、生憎君の質問には答えられない。だが、この場所にたどり着いた者に世界の真実を知る者として、我々が何のために戦ったのか……メッセージを残したくてね。このような形を取らせてもらった。どうか聞いて欲しい。……我々は反逆者であって反逆者ではないということを】
このオスカーは話した、この世界では他種族同士での戦争が起こっており、その戦争は初めから神の遊戯として作られたもので、反逆者達はその神を殺し、世界を解放せんと立ち上がったとのこと。
だが反逆を知った神の策略により目論みは破綻してしまう。神は何も知らない人々を煽動し、彼等は反逆者として世界を破滅に導かんとする神敵として追い詰められた。
最後まで残った七人の反逆者…いや、解放者はもはや自分達では神を討つことはできないと判断した。そして、バラバラに大陸の果てに迷宮を創り潜伏することにしたのだと。
そこに試練を用意し、それを突破した強者に自分達の力を譲り、いつの日か神の遊戯を終わらせる者が現れることを願って。
長い話が終わり、オスカーは穏やかに微笑む。
【君が何者で何の目的でここにたどり着いたのかはわからない。君に神殺しを強要するつもりもない。ただ、知っておいて欲しかった。我々が何のために立ち上がったのか。……君に私の力を授ける。ここにあるもの全てを、どのように使うも君の自由だ。だが、願わくば悪しき心を満たすためには振るわないで欲しい。話は以上だ。聞いてくれてありがとう。君のこれからが自由な意志の下にあらんことを】
そう話を締めくくり、オスカーの記録映像はスっと消えた。同時に、魔法陣内にいる男の脳裏に何かが侵入してくる。頭の中を覗かれているような感覚があり、男は嫌な表情をするが、それがとある魔法を刷り込んでいると理解はしているため大人しく待った。
やがて、嫌な感覚と魔法陣の光は収まった。
「こう、直接頭の中に情報を突っ込まれるってのは変な感じだな」
そんなことを呟きながら男は今後どうするかを考える。この世界に男が召喚されたのは間違いなくエヒトと呼ばれる邪神が関わっているだろうと、だからといってこの世界を救う義理もない。この世界が滅びたところで男の世界には一切影響がないのだから。と、男はこの時点ではそう思っていたが、このオスカー・オルクスの住処でとある物を見つけてしまいその考えを全て改めることになる。
時間は少し進み、男が三階の奥の部屋から出て、開かなかった書斎や工房をオルクスの指輪で開けていった。どうやら指輪は迷宮のボスを倒せば全員手に入れれるらしい。まぁ、そうしなければ後から来た者にその意志が伝わらないからな。当たり前である。
書斎にはこの住居の施設設計図などを発見できた。設計図にはどこに何を作るのか、どのような構造にするのかということがメモのように綴つづられていた。どうやら地上への道はあの三階の部屋にある魔法陣が地上に施した魔法陣に直接繋がっているらしい。起動には指輪が必須らしく、迷宮を攻略した者であれば誰でも起動が可能だ。
工房には、生前オスカーが作成したアーティファクトや素材類が保管されているらしい。
ある程度設計図をチェックし終え、他の資料を漁っていると一冊の本を見つける。どうやらオスカーの手記のようだ。かつての仲間、特に中心の七人との何気ない日常について書かれたもののようだ。
その内の一節に、他の六人の迷宮に関することも書かれていた。
「他の六人の迷宮か…帰る前に見て回るのも良さそうだな」
手記によれば、オスカーと同様に六人の〝解放者〟達も迷宮の最深部で攻略者に神代魔法を教授する用意をしているようだ。
しばらく書斎である程度資料を読み終わると、男は工房へと足を運んだ。工房には作りかけの物やほぼ完成品のようなものも散乱していた。
そして、工房には小部屋が幾つもあり、その全てをオルクスの指輪で開くことができた。中には、様々な鉱石や見たこともない作業道具、理論書などが所狭しと保管されていた。
「ほーう、結構あるんだな…ん?あれは…」
鉱石の中で異様な輝きを放つ何かを見つける。鉱石ではなく、何か武具などが砕け欠片となったような物だ。男はその欠片がなんなのか知っているようだった。
「マジかよ…なんでコレがこんな場所にあるんだ…」
男は鉱石に紛れていた欠片を手に取った。
神装器の欠片、一つ手にしただけでも世界をどうこうできるほどの力を秘めている。そんな物がなぜこんなところに…手記には欠片のことなど一切書かれていなかった。だとすればここ最近この世界に飛来したことになる。欠片がもし、エヒトとかいう奴の手に渡れば…
「帰れない理由ができちまった…」
男はそう呟くと欠片をどこからか出した小さな巾着袋にしまい、工房からまた書斎に戻っていった。
書斎に戻った男は、またオスカーの手記を読みながら今後の方針を考えていた。
欠片は何かしら強い力がある場所に引き寄せられる傾向がある、ならこの手記に書いてある他の迷宮にもここと同じく欠片が現れている可能性がある。が、男は迷宮の正確な場所を一切わかっていない上に、手記にも迷宮の名称だけでちゃんとした場所は書かれていなかった。
「他の資料を漁ってみたものの…迷宮の場所をちゃんと記した物はなしか…だが、方針は決まった、まずはここから出てどこか街を探して一時的な活動拠点の確保、そして他の迷宮を探し出し欠片を回収だな」
今後の方針が決まり、男はとりあえず風呂に入ろうと書斎から出て行った。
ハジメさんはそろそろユエと出会ってる頃だと思う。
雷帝様の手にかかればヒュドラ程度はしゅんころでござる。奥の手である銀頭、出番なし。
ちなみに帰ろうと思えば速攻で帰れたけど迷宮攻略という魅力的なものに抗えない男の子なのである。
次回、多分外
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雷帝と大峡谷
ガイが目標を定めてから1日が経過した。すでに、オルクスの隠れ家から出発するための準備は整っており、後は3階にある魔法陣を起動し地上に出るだけ、欠片というこの世界にとっては災い以外呼び込まない物を見つけてしまっては、ゆっくりなどしてはいられないのだが、ガイは魔法陣を起動する前にある細工を施した。
「ここは何かと便利そうだからな、あの日記に書かれていたエヒトとやらに見つかっていないならば、何かあった時用の緊急避難所になるだろ」
そう言いながらガイは迷宮攻略の証である指輪と魔法陣間でいつでもこの場所に跳べるように繋げる。これで何かしらのことが起こっても瞬時にこの場所へ跳び、体勢を立て直せるといった感じだ。
逆に探知されたら終わりだが、長いことこの場所がエヒトとか言うやつにバレていないのであれば心配はないだろう。
「さて、久々の地上だ…何があるかわからないが、なるようになれだな」
魔法陣を起動すると、ゆっくりと光に包まれていき、やがて光が視界を満たす。それと同時に空気が変わったことを実感した。あの迷宮の纏わりつくような澱んだものとは違う、新鮮さを感じる。
光が収まり目を開けたガイの視界に写ったものは明るい地上…ではなく。
洞窟であった。
「隠された場所だ、魔法陣通ったら即地上なんてことはないか」
魔法陣を通ればすぐに地上ではないと言うことはある程度予想していたらしく、それ程落胆はしていない様子。そもそも、秘密の隠れ家を野晒しにしておく馬鹿など、どの世界を探しても存在などしないだろう。
出た場所はどうやら、何かしらの光源もなく、真っ暗な洞窟のようではあるが、暗闇程度ガイにとっては何も問題もないため道なりに進むことにした。
進んで行く途中、幾つか封印された扉やトラップがあったが、攻略の証であるオルクスの指輪がその尽くを勝手に解除していった。それ程警戒はしていなかったが、勝手にしてくれるのであれば楽なことこの上ない。
暫く洞窟内を進むと、遂に光を見つける。おそらく外の光だろう。ガイにとっては数ヶ月ぶりの地上の光、他の者であれば数ヶ月もあんな場所にいたら、光を見た瞬間大喜びで光に向かって駆け出したであろうが、ガイに至っては内心やっとか…と無駄に長い洞窟内の通路にうんざりした様子で光へと向かっていった。そして、ガイは遂に地上へと出たのだ。
洞窟を出るとそこは、何処かしらの峡谷、その谷底であった。おそらくここが日記にも記されてあった、【ライセン大峡谷】だとガイは予測する。ならば、この場所には実質二つもの迷宮が存在することになる。
そうなればこのまま迷宮を探すのもいいだろう…と言いたいところだが、探すにしても物資が心許ない。本格的に探すのであればやはり、まずは何処かしらの街へ赴き、物資の補充をしてからである。
そんなこんなを考えていると、ふと思い出す。日記に書いてあったライセン大峡谷の特性。
「確か、魔法が使えないんだっけか…試してみるか」
そう呟くと、いつの間にかガイを取り囲んでいた魔物の一体を視認もせず、いつもと同じ感じで雷撃を放つ。
放たれた雷撃はこの峡谷の魔力を分解する特性により分解…されることはなく、一撃で取り囲んでいた魔物の一体の生命活動を停止させた。どうやら、取り囲んでいた魔物達もこの場所がどういう特性を持っているか理解していたのか、何故分解されずに?と魔物達は困惑している様子だった。
「なるほど、魔力の質の違いか、それとも単純に分解できない量だったのかわからないが、俺にとっては何も問題がないってことだな…なら」
先に喧嘩を売ってきたのはそっちだからなと言わんばかりに、ガイは残った魔物達に殺意を叩きつける。それを感じ取った魔物達は一歩後退る…のではなく踵を返し、我先にと散り散りに逃げ去っていった。
「なんだ、やらんのか…まぁ、魔物にしてはいい判断だな」
ガイは逃げ去る魔物達に追撃などはせず、そのまま逃げるのを見送った。殺してしまった魔物に関しては丁寧に素材を剥ぎ取らせてもらい、後は燃やして大地の肥やしにした。
「さて、西…は確か砂漠だったか?流石に論外だな、だとすると東…ハルツィナ樹海、とか言ったかそっち方面に向かうのが一番だな」
砂漠横断をしてもいいが、流石のガイでも腹が減るしでまともな用意がない今、自殺行為にも程がある。だとすればまだ町なども近くにありそうな樹海側に向かうのが賢明だろう。
「こんな時、アマツの奴がいてくれれば空から楽に行けたんだがな…光に包まれた時あいつも近くに居たよな?何処行ったんだか…」
そんなことをブツクサと垂れながらガイは東側、ハルツィナ樹海目指して歩を進めるのだった。
歩いてればそのうち町に着くでしょ、知らんけど。
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