竜騎士から竜騎手にジョブチェンジした (むろふし)
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ドラゴン、飛ぶ

古都ジョーバケイ。

魔王領と人間領の境にあり、防衛の要であるこの古都には竜を駆る騎士、竜騎士がいた。

竜騎士は幼い頃より竜と共に生活するところから訓練が始まる。

人竜一体のその力は正しく一騎当千、羽ばたく竜の速さは目にも止まらぬほどでその吐息は魔族の骨まで溶かす。

その力は優れた竜騎士が乗る事で何倍にも増す、人々は竜騎士を誇りに思い、憧れ、魔族は竜騎士とその竜を恐れた。

 

これまでも魔族の侵攻を食い止めて来た竜騎士たちはまさに人々にとっての英雄だった…。

 

 

だが……。

 

 

 

それは突然の事だった。

光の巫女と名乗る少女が現れ、事態は一変した。

これまで防御に徹するしかなかった人間軍に反撃の時がやってきたのだ。

 

「これより、勇者召喚の儀式を行う」

 

人間王チェスター2世は光の巫女に教えられた術を用いて異世界より勇者を召喚。

異世界より召喚された少年、ユウキ・イーバッカは野生の竜たちの王、竜帝アイロビニスを調伏した、

イーバッカとアイロビニス率いる野生の竜たちと竜騎士たちの猛攻についには魔王も倒れた。

 

「勇者ユウキ・イーバッカよ、そなたはこの国…いや、この世界の恩人じゃ。この恩は忘れぬ。さぁ皆の者、今日は平和を祝う宴じゃ。存分に食べ、飲み、騒ぐが良い!」

 

人間王チェスター2世の号令は世界全土に広まり、行われた平和の宴は一週間続いた。

人々は皆、勇者ユウキ・イーバッカと竜帝アイロビニスの偉業を、人間と魔族の戦いの歴史を永遠に語り続けるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

物語ならこれでハッピーエンドだったが、これは物語ではない。

勇者は元の世界に戻った、世界には平和が戻った、だが人間の生活は続いていく。

 

召喚の儀式で異世界より呼び出された勇者ユウキ・イーバッカ。

たった一日で偉大な竜帝を乗りこなし、野生の竜たちと共に三日で魔王を討伐した偉大なる勇者。

その勇者も既におらず、竜帝と野生の竜たちも今では元魔王領にて平和に生息している。

 

だが竜騎士たちの竜は今もこの国で生息している。

竜騎士の竜を飼育する為には莫大な資金を必要とする、その資金は全て国民の税金から支払われていた。

 

魔王が滅び、魔族も大人しくなった今、竜騎士の存在は国民にとって負担以外の何物でもなかった。

国の文官たちは竜騎士たちの竜を平民の仕事の手伝いや馬車代りに使う案を出したのだが…。

 

 

これを竜騎士たちが断固拒否した。

竜が竜騎士以外に従う事を拒んだ事もあるが、何よりも竜騎士たちが勇者召喚前に魔族と命懸けで戦い続けて来た我々の竜をそんな雑事に使うとは何事かと怒り、平和な時代に竜騎士の存在は税金の無駄遣いと考える極端な文官たちと意見がぶつかり合い、やがてお互いを罵りあい、家に火をつけあう騒動にまで発展する始末。

 

チェスター2世は頭を抱えていた。

竜騎士の存在がなければ人間は滅んでいた、その竜騎士の苦労を癒したい気持ちもある…。

竜騎士の存在が人々の生活に負担をかけているという文官たちの言い分も分かる…。

チェスター2世は、どうするべきか悩んでいた…。

 

 

そこへ再び光の巫女が現れチェスター2世に助言する…。

それを聞いたチェスター2世は立ち上がり、それぞれの年の竜騎士長を呼び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

古都ジョーバケイの竜騎士長トゥーワ家の若き当主リッチー・トゥーワがチェスター2世に呼び出されたのは日が沈み掛けた頃だった、愛竜ピィドに乗り王都に一番乗りしたリッチーは謁見の間へと急いだ。

 

 

そこで王に聞かされた話は予想外の言葉だった。

 

「は…竜騎手?」

 

「うむ。魔王が討伐されてこの国は平和になった。今、竜騎士の存続の為に光の巫女はこう助言してくれた……」

 

 

途中からリッチーは王の声が聞こえなくなった。

トゥーワ家は代々竜騎士を輩出する家系であり、竜騎士たちを率いる長である。

リッチーの父も祖父も曽祖父も竜騎士だ、己の竜に乗り魔族と戦い、この国を守ってきた英雄だ。

リッチーもまた父たちのように竜騎士になる為にこれまで厳しい訓練に耐えて来た、誘惑に耐えて訓練に訓練を積み重ね、幾多の死線を乗り越えて生きて来た。

 

全てはこの国の平和を守る為に。

 

だが時代は竜騎士を求めていなかった。

むしろ金の無駄遣い言われる始末、挙句の果てには騎士ではなく、騎手になれ?

戦士ではなく、お手伝いさんに格落ちだと?我が主は何を仰っているのだ?

 

 

「聞いているのかトゥーワ卿」

「は、はっ、何でございましょう陛下」

「卿の竜、衝撃の異名を持つピィドを競翔竜として、その竜騎手を卿で登録しておいたので此度の竜搭祭に向けて調整に入りたまへ」

「は? お待ちください陛下、きょうしょうりゅう? りゅうとうさい? 一体何の話でございますか?」

「ふむぅ…聞いておらんかったのか卿…よかろう、もう一度は無そう、光の巫女はこう仰った…」

 

光の巫女の話は竜騎士がこの時代に生き残る唯一の策だった。

竜搭祭とはどの竜が一番速いかを競う祭りで、一番速い竜には最速の栄誉と特別賞金が授与されるという光の巫女推進のお祭りである。

 

各都市で一番早いとされる竜と竜騎士を集め、王都にて競翔させる。

平和になった世界で真新しい行事がない中、これは国民も楽しめるし竜騎士と竜の地位向上の為に使える話だった。

 

一年に一度行われる予定で、既に開催日は決まっているらしい。

 

 

「というわけで、古都ジョーバケイ代表は君だ。頼んだぞ竜騎手トゥーワよ」

 

「………は」

 

 

 

 

 

 

つづかない



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