もしもワンダショがポケモンの世界にいったら?If Wonder's go to the Pokémon world (GAOまる)
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もしもワンダショがポケモンのセカイに行ったら?

初投稿です。ハーメルンの使い方が分からず奮闘中です。
みなさんが少しでも笑顔になってくれると嬉しいです。

プロセカとポケモンのクロスオーバー作品です。苦手な方はすみません。
また腐要素や闇もありません。そう言うのが好きな方申し訳ないです。

前書きは以上です。それでは作品をお楽しみください!


ん... ここは... どこだ? 

俺たちは... 確かセカイで次のショーの練習をしていたんだ。

そうだ...リハーサルをして、流石に疲れて休憩をとっていたんだ。そうしたら、まだまだ体力が有り余っていたのか一人で走って行ったえむが、どこから持ってきたのか大きな箱を持ってきて...

 

そうだ...開けたんだ。箱を...そして4人で中を覗いたら...

白い光に包まれて...

だんだんと意識がハッキリとしてきた。

 

ーーーッ! 少し痛む上体を起こして辺りを見回す。そこはワンダーランドのセカイとはかけ離れた、緑に包まれた森だった。

一体どうしてこんなところに?

 

………ッハ!!みんなはっ?!素早く辺りを見回す。心配だ。みんなは無事なのか?!  

 

すると自分の死角、真後ろから「…うーん」と声がする。後ろを振り返るとこの景色には似合わない煌びやかな桃髪が見える。

よかった…。えむだ…。安堵の息が出る。いやえむだけじゃない。奥の方に寧々や類もいる。俺はすぐさま駆け寄ると3人の体を見る。よし、大きな怪我はないようだ。

とりあえずみんなを一ヶ所に集めて目が覚めるまで待とう。

よいしょとえむを持ち上げる。すごく軽かった。

逆に類は重かった。寝起きにこれはキツい...

 

大きな木のふもとにみんなを寝かせた。これでひとまずは大丈夫だろう。よし次だ、問題が起きたら1つ1つ冷静に対処、ショーでアクシデントが起こったときと変わらない。1つ解決したら次の問題だ。さっきからずっと目に入れないようにしてきた。触れないようにしてきた。目の端にチラチラと映る、得体の知れない生物、こいつについて考えよう。

 

 

さて、一体なんなんだこいつは、水色の蛙?のような身体の上に大きなハスの葉を乗せている。見れば見るほど不思議だ。少なくとも俺たちの住む世界にはいない…ハズだよな?

だが不思議と忌避感はない。きっとワンダーランドのセカイでの経験があるからだろう。あそこの喋るぬいぐるみと一緒だと思えば怖くはなかった。問題はこいつが俺たちを襲う敵かどうかだ。スボースボーとまぬけな声で鳴いているあたり、敵意はないと思うが...するとそいつはプヒャーと俺に向かって水をはいてきた。

 

え?

 

水をはいた?身体に水を溜め込んでいるわけじゃないことははきだす水の量でわかった。どう考えてもこいつの身体に収まる量じゃない。冷たい水を頭からかぶったはずなのに、俺の頭はオーバーヒートを起こしたみたいにまとまらなくなった。

 

あぁ…ダメだ…また意識が…よくわからないことの連続で流石の俺も体力の限界がきてしまった。俺はみんなが寝ている木のもとへのけぞると、目の前のまぬけそうに笑う生物をおぼろげに見つめながら、深い眠りに落ちていった。

 

 

 

 

ーーー2時間後ーーー

 

「ーーん! ーーくん! 司くん!!」…俺を呼ぶ声がする。

目を開けると、眩しい夕暮れの日差しとともに心配そうに俺を見つめる3人の姿が見えた。いや、待て、よく見ると視界の端にもう1人、いや、もう1匹の姿が見えた。

 

 

 

「づがさぐぅーーん!!よがった!やっと目が覚めたんだね!」

「もう…心配させないでよ…でも本当によかった…」

「ふふ、主役は遅れてやってくるってわけかい。それにしては遅すぎるんじゃないかな?」

スボッスボボボッ!ハスハッス!!

 

おいおいそんなにいっぺんに喋られては誰が何を言っているか分からんではないか。っておい!!

 

しれっと紛れ込んでいたがお前!なんで平然と3人と一緒なんだ!俺が凝視していることにいち早く気づいた類が言う。

「あぁこの子かい?不思議な見た目だろう。でも襲ったりしないから安心してほしい。」

 

すると横からえむが出てきて…

「はいはーい!私見たんだ!その子ね!私たちのために頭についてるハスの葉を使って水を集めてくれたんだよ!」

 

そうか…お前、あの後そこまでしてくれていたのか…。ありがとなと頭を撫でる。(正確にはハスの葉だがすごく喜んでいるからよしとしよう)

そして今、断言する。こいつは敵ではない。

 

頭を撫でながら、振り返り言う

「お前たちも、悪かったな。長い時間寝てしまったせいでもう夕方になってしまった。ここがどんなセカイかもわからないのに…本当にすまなかった。」俺は申し訳なさそうに言う。

 

すると類が言った

「気にしないでよ司くん。実は司くんが寝ている間に一人一人交代で司くんを見守りながらこのセカイを調査していたんだ。だからもう僕たちはこのセカイのことを結構知っているのさ。」

 

さも普段と変わらぬ声で言うので驚いてしまったが、

やれやれ本当にうちの団員たちは頼りになる。普通そんなに冷静に行動できないぞ?

おっと、驚いている暇はない。俺はそんな素晴らしい団員をまとめ上げる座長なのだ。ふっと息をはき、声高々に言う。

 

「よし!では教えてくれ!このセカイのことを!」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ポケモン?!」

「そう、ポケットモンスター、縮めてポケモン。その子たちはそういう生き物らしい」

下を見る。俺の足元にすりすりと頬擦りしているこいつはポケモンというのか…。

「そしてポケモンにはとても多くの種がいるらしい。司くん。ちょっとスマホを出してくれるかい?」

「スマホ?そうか!ここがセカイなら当然スマホもあるのか!」

俺はポケットからスマホを取り出す。しかしそこにはセカイに出入りするあの音楽アプリはなく、代わりにおかしなアプリが入っていた。

「ポケモン…図鑑…?」開いてみるとカメラアプリのようだった。俺はアプリの指示に従いながら足元のこいつを撮った。 

すると…

[ハスボー!うきくさポケモン!みず・くさタイプ!綺麗な水を探して歩く!長い時間水を飲まないと頭の葉っぱが枯れてしまう!]とこいつの写真とともに大音量で音が流れた。

 

「うわっ!ととっ」思わずスマホを落としてしまうところだった。だが、そうか!こいつはハスボーというのか!しゃがんで頭を今一度撫でる。無邪気な笑顔が弾けた。こちらの胸が弾む。

 

「驚いただろう司くん。この子だけじゃない。他にもたくさんのポケモンをこの森の奥の街に行くまでに見つけたんだ」

差し出された類のスマホを覗き込む、番号順に並べられたそれらはどれも現実世界では見たこともないものばかりだった。

 

「あぁ!本当に興味深いよ!目に映るもの全てが未知だ!この子たちの生態は知れば知るほど面白いんだよ!」

興奮気味に類は言う、お前、このセカイを楽しんでないか?

ふっと類がいつもの調子を取り戻すと冷静に言う。

「それでね、司くん、このセカイではどうやらこのポケモンたちをモンスターボールというもので捕まえることができるらしい。そしてここでは老若男女、あらゆる人がポケモンを一体は捕獲しているんだよ。と、いってもペットというわけじゃない。ともに育つ家族、高め合う友人、相棒、といった感じかな。捕まえたポケモンとの間には絆が芽生えて、言うことを聞いてくれたり、ときにはお互いのポケモンでバトル!…なーんかもするみたいだね」

 

…なるほどな。少しづつだがこのセカイがわかってきた。

ならばポケモンはこのセカイにおける重要な護身の一つ…ではないか?ん?待てよ?

「じゃあ俺たちは今すごく危険な状況じゃないかー!どうするんだ!今いきなり野生のポケモンに襲われでもしたら対処のしようがないぞ!」

 

「あぁそれについては大丈夫、ほら」

 

類が指を指す。その方向から大量の荷物を持ってこっちに走ってくるえむと寧々がいた。そういえば、途中からいなかったな。

ドサっと荷物を置くと

「類くんに頼まれたもの、街でぜーんぶ買ってきたよ!」と元気まんまんにいう、一方寧々は息を切らしながら、

「えむ…ハァ…ハァ、足…速すぎでしょ…」と嘆いている。

類は荷物を一つ一つ確認しながら

「うん、テントに食料、バックも買ってきているね。注文どおりだ。そして…これだ。司くん!えむくん!寧々も」と俺たちに何か投げつけた。これは…スプレー缶?「それを吹きかけて」という類の声のもと俺たちは自分にスプレーを吹きかける。するとさっきまで足元にいたハスボーがそそくさとどこかに行ってしまった。あぁ…せっかく友達になれたと思ったのに…俺はシュンとする。類が申し訳なさそうに言う。

「ごめんね…これはむしよけスプレーといって、野生のポケモンが嫌がる成分が入っているんだ。でも今夜僕たちが安全に過ごすには、これしか方法がないんだよ。どうか許してほしい」

むぅ……まぁ3人の安全のためならば仕方ないか、今度またあいつに会えたらちゃんと謝ろう。

 

夜が過ぎていく。買ってきた食料を食べ、火を囲みながら俺たちは今後について話し合った。

「さて、どうしようか?」類が言う。

「どうしようも何も、音楽アプリが消えてるなら元のセカイに変えれないんだし、帰る方法を探すのが1番でしょ。」と寧々が続く。

「ねぇねぇ、私思うんだけどさ!ほんとーに音楽アプリは消えちゃったのかな?隠れてるだけじゃないのかな?」

「隠れてる…そうだねぇ、このセカイで何か条件を満たせば、アプリが元の場所に戻ってくる…なんてこともあり得るかもねぇ」あーだこーだと議論が進む。

「「「司(くん)はどうしたい?!」」」と遂に俺の番がきた。

俺は…。「俺は…ショーがしたいな…」ボソッと声が出た。

ハッとする。しまった!俺は何を言っているんだ。こんな危機的状況だというのに…。ほらみろ、みんなポカンとしているじゃないか。すると突然、3人が一斉に笑い出した。

「つつつつ司くんっ!それサイコーだよっ!」

「ほんとう、あんたってば超がつくほどのショーバカね」

「ふふっそういえば僕らはリハーサルしかしていないしね」

3人が一斉に頷く。決まり!このセカイでショーをしよう!えむの声にみなが続く。やれやれ、やはりこうなるのだ、結局どこにいっても俺たちが最後に行き着く場所はショーらしい。

ふっとにやけながら思う。ならばここは座長として一言いっておかねばなるまいな。

「よーし!お前たち!我がワンダーランズ×ショウタイムはどこにいったってやることは変わらん!たとえここが摩訶不思議なセカイだとしても俺たちはここでしかできない最高のショーをするのみだ!そのためにはまずこのセカイのことを知らねばなるまい!だからこそ明日はみんなでポケモンを捕まえにいくぞー!」

みんなの目が輝きだす。焚き火のせいではないだろう。

こんなセカイでも4人で入ればなんでもできる気がしてくるのだ。

 

 

えむが大声で言う「よーし!みんなあれやろう!あれ!」

「あぁ、あれかい?」「異世界に来てまであれやるの?」

「あぁ!いいだろう」「痛っちょっと司、もうちょっと離れてよ」「む、すまない。こうか?」「よーし!みんな準備はいい?それじゃあ行くよー!!せーの!!」

 

 

 

「「「「わんだほーーーーい!!!!」」」」

 

 

 




閲覧ありがとうございました!実はpixivの方に第二話があがっています。見たい方はどうぞ。
拙い文章ではありますが、学生の頭を絞り出して書きました。
たのしんでいただけたなら幸いです。
ではまた次の話で会いましょう。


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もしもワンダショがポケモンのセカイで朝を迎えるなら?

ポケモンとプロセカのクロスオーバー作品になります。シリーズものとなってますので、前回を見てない方はぜひ見てからご覧ください。






2本目です!1話を見ていない方は見てからの方がわかりやすいと思います!日常回みたいになってしまいました。ポケモン要素が少なくてごめんなさい!次からは4人別々の視点になります。見づらかったらすみません。司達がどんなポケモンを捕まえるのか、楽しみにしていてください!!



一晩たち、俺は無事に朝を迎えた。しかしテントで眠るなんていつ以来だろうか。妹の咲希が体調を崩してからは、家族全員でキャンプなどした覚えがなかった。慣れない寝床だからか腰が痛い… テントからのそっと顔をだす。まだみんな起きていないようだ。差し込む朝日がいやに綺麗で、改めてこのセカイを実感する。

 

さて…料理当番は俺だ。(昨日の話し合いの結果、家事は当番制になったが、あれだけ眠り込んでみんなに迷惑をかけてしまったので、料理は俺が立候補したのだ。)

痛む腰を持ち上げてテントから出る、体をぐんと伸ばして料理の準備に向かった。

 

昨日の残った薪を集め火をつける。パチパチと燃える薪の音を目覚ましに、えむ達が買ってきた食料を漁る。今朝はトーストとベーコンエッグにしようか。材料を取り出していくと箱の隅に変な木の実を見つけた。

 

なんだこれ?

 

まさか、えむのやつ店に置いてあるものを手当たり次第買ったわけじゃないだろうな!?

持っている木の実をじっと見つめる。

これもこのセカイ特有のものだろうか?青色のその実からは芳醇な甘い香りがする。

俺は恐る恐るカリッとかじった。ーーッ!うまい!

 

口いっぱいに広がる甘味、ミックスジュースみたいな味がする!

これは…あいつらにも食べてほしいな…。

今日の朝食にもう一品が加わった。さっそく調理にかかろう。

ジュージューとベーコンを焼く。表面に少し焦げ目がついたら卵を入れる。

 

ん?というかこれはなんの肉と卵なんだ?ふと疑問が走る。

このセカイには司達の知っている動物はおろか、嫌いな虫すらいなかった。なればこそ、豚や鶏がいるはずはない。ではこの肉などは…ポケモン?ということになるのであろう。類はポケモンを友や家族と言っていた。そんなポケモンたちを食べなくてはいけないのか…。

少し罪悪感を覚える。しかし、これがこのセカイの理のようなものなのであろう。ならば俺たちはそれに順応するしかない。

「美味しく作って、キチンと食べるからな。」俺は完成した照り輝くベーコンエッグにペコリと頭を下げた。

 

トーストを焼き終え、さっき食べた実を使って即席のサラダも作った、今日の昼用のみんなのお弁当も作り終えた俺はみんなを起こしにいく。

「お前たち、朝だぞ!朝食もできている。起きろ!」と声を張る。まったくまるで母親じゃないか。

 

するとのそのそと3人が外に出てきた。いつも元気なえむも朝には弱いのか、とぼとぼ歩いている。寧々は髪が爆発しているし、類に至ってはテントごとこっちに向かってくる。

どうやってるんだそれ。

「司く〜ん、おあょーう…」「司…おはよう…」「つかっ!zzz…おはょzzzz…」

「お前ら!朝ぐらいシャキッとしろ!ほらこれで顔を洗え!」

水の入った桶を差し出す。

 

 

顔を洗い少しサッパリした俺たちは朝食をとる。

 「「「「いただきます(!!)(…)(zzz)」」」」

えむはすっかり目が覚めたのか、トーストにむしゃぶりつく。

「むぐっ!むぐぐぐぐむ!むーむーぐ!?」

「食いながら喋るな。」俺は寧々の髪を梳かしながら言う。

「…これぐらいでいいか?寧々?」

「ん…いい感じ…ありがと、司」寝起きだからなのか俺が髪を触っても何も言わない。自分から梳かしてと頼んできたのは予想外だったが、咲希で経験しておいてよかった。

 

「むぐっ!プハァッ!司くん凄いねー!とってもおいしい!特にこのサラダ!すっごく甘〜くておいしい!」

「はむっ、あ…ほんとだ。おいしい…。」

「どれどれ…うん。おいしいね。これは…初めて見るものだね?さしずめ、このセカイのフルーツってところかな?」

冷静に分析を始める。さっきまでテントつむりだったお前の姿は忘れないからな。だが、作ったものを褒められるのは嬉しいものだ。

朝に似合わない賑やかさが静かな森に響く。この賑やかさが俺たちワンダーランズ×ショウタイムだ。

   「「「「ごちそうさまでした!!!!」」」」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

身支度を終えた俺たちは早速、今日の目的にとりかかる。

「よし!昨日言った通り、今日はポケモンをゲットするぞ!類!」類は箱に手をかける。

「うん。これだね。はい、みんなそれぞれ10個づつ持って。」

類が渡してきたのは小さなボールだった。卓球の球みたいだ。

「真ん中のボタンを押してごらん」類の指示に従うと、ボンっとボールが野球ボールぐらいのサイズになった。

えむも寧々も不思議そうにしている。あっこらえむ。お手玉をするな! えむを押さえつける俺を尻目に類が言う。

「そのボールをポケモンに当てるとゲットできるみたいだね。」

ほぅ案外簡単なんだな。これなら1人でもできそうだ。

すると俺の腕からプハッと顔を出したえむが目を輝かせながら言う。

「はいはーい!わたしいいこと思いついちゃった!」

     「「「いいこと?」」」

「そう!今からね、4人バラバラにポケモンをゲットしてきて、集まって見せ合いっこするのはどうかな?!すっごくすっごくわんだほい!じゃない?」

 

なるほど確かに面白そうだ。だが…ほら見てみろえむ、あの寧々の顔をすっごく嫌そうだぞ。

「えぇ…それって危険じゃないの?4人一緒の方が安全じゃない?」寧々の意見はもっともだ。だがしかし…キラキラとした目で見つめるえむを見ると断りづらくなってくる。愛すべき妹をもつ兄にとってあの目で見つめられるのはズルい…

 

寧々は困ってる俺を見て、は〜とため息すると

「もう…本当に司はえむに甘いんだから。まぁいいや、いいよ。やってあげる。そのかわり今日の夜ご飯にグレープフルーツつけて」と渋々了承してくれた。

「寧々…あぁ!まかせておけ!とびっきりのを作るぞ!」寧々との約束だ。俺のとっておきデザートを作ってやろう。

「楽しみにしてるから」寧々はくすりと笑った。

「よし、話しはまとまったね。じゃあ各々最低限の荷物をもって、そうだねぇ…17時までにはここに帰ってくることにしようか。」類が再び話しだす

「そうだな、えむ?暗くなる前に帰ってくるんだぞ?」

「はーい!」

「うん、それじゃあみんな、スマホを出して。」

俺たちはスマホを取り出すそういえば、ポケモン図鑑を、見たとき以来だ。

「危なくなったらすぐに連絡をすること、それからわからないことがあったら、スマホを見ればだいたいなんとかなるよ。」

俺はスマホを見た。そう言われてみるとスマホにはポケモン図鑑だけじゃない。さまざまなアプリが入っていた。

地図アプリ、道具の使い方アプリ、木の実図鑑…他にも色々だ。

そうか…類がやたらこのセカイについて詳しいと思ったら…

「こいつを使ってたのか…」

「機械いじりは僕の十八番だからねぇ…でもおかげで助かっただろう?」確かに…こいつがなければ俺たちはどうすればいいかもわからなかった。だとすればうまくできすぎてないか、まるで俺たちのためのセカイのような気がしてくる。だが今はそんなことを考える必要はない。

 

「…ふむ、それもそうだな。よし、連絡の仕方もわかったし、そろそろ出発するか!」

「楽しみだなぁ!みんなどんなポケモンをゲットするのかな?!」

「あんまり怖くないやつにしよう…」

「ふふっ空を飛ぶポケモンがいれば演出の幅が広がりそうだね。」

 

「ようし!ではみな一度解散だ!17時にまた己がパートナー1匹を連れて、またここに集合!では行くぞー!!」

 

「「「「おーーーー!!!!」」」」

 

そうして俺たちは東西南北、それぞれに歩き出した。ここから先は未知の世界だ、どんなポケモンがいるんだろう?

少しワクワクしている自分がいる。ようし!あいつらをあっと言わせるポケモンをゲットしてみせるぞ!!

 

 

 

 

ズンズンと茂みの奥を進んでいく。

ガサゴソと俺の後に続く音と隙間から見える怪しげに光る眼光に、

 

 

 

 

俺はまだ気づいていなかった。




閲覧ありがとうございました。次からは4人別々で物語が進みます!
最初はえむちゃんです。基本的にpixivの方に1話先を上げてからこちらにあげるので先が見たい方はpixivの方をよろしくお願いします!


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もしもワンダショがポケモンをゲットするなら?(えむ編)

ポケモンとプロセカのクロスオーバー作品になります。シリーズものとなってますので、前回を見てない方はぜひ見てからご覧ください。



今回から視点が変わります。見にくかったらすみません。(私や俺などの一人称ではなく、三人称になってます。急に文体を変更してしまいごめんなさい。)


いよいよポケモンゲットします!登場させるポケモンが一癖二癖あるやつばっかで、物語を作るのが楽しいです!


えむの場合

 

るんるるーん♪

陽気な歌声とともにステップの足音が響く。みんなと分かれてから既に30分経過している。だがえむの足は疲れなど微塵も感じさせないほど軽やかだ。

いつもなら学校に行っている時間だ。学校ももちろん楽しいが、えむの抑えきれない好奇心はそれどころではなかった。

 

「あーっ!真っ赤な鳥さん!わんだほーーい!!」

「うわーー!お花が歩いてるー!!お花さん!わんだほーい!」

 

道ゆく全てのポケモンにオリジナルの挨拶を披露する。当然通じるわけもなく、その全てがびっくりして逃げて行ってしまう。

 

「あー!?み、みんなー!ちょっと待ってよー!」

(どうしよう…みんな逃げて行っちゃうよ…)

これじゃあ司くんたちとの約束が果たせない。

今日の17時、それまでにポケモンを一匹ゲットしなくちゃいけないのに…

 

しょぼしょぼと歩く。途中で見かけたポケモンたちもえむの姿を見るたびたちまち逃げ出してしまった。

どうすればなかよしになれるんだろう?

試行錯誤しても、いいアイディアは出てこない。

 

(司くんだったら何か思いつくのかな…)

ふっと彼の顔が頭に浮かぶ。キラキラな夕焼け色の目が、ニコリとわたしを見つめている。このセカイに来てもその目は少しも変わっていない。わたしの大好きな色だ。

そんなことを思いながら空を見上げる。太陽の色が彼の色と重なって、見守られてるみたいだ。胸が温かくなる。

 

 

その刹那、

 

ぶわっ!!

 

 

と、何かが空をよぎった。それはとても美しい、金色の、

そうまさしく、つい先程まで頭を埋め尽くしていた彼の色に、瓜二つであった。

 

運命の出会いだと、そう感じた。だって初めて彼を見たときと、同じ気持ちになったから。

 

気づいたら駆け出していた。枝葉が刺さる。でもそんなもの、気にもならなかった。

わたしの真上を照らす、さんさんの太陽が

「がんばれ!」と言ってくれているかのように、わたしの背中を押してくれた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

どれくらい走っただろうか、

さすがのえむの体力にも少し疲れが見えてきた。

だが依然としてあの金色の鳥は大空を悠々と飛んでいる。

(負けるもんか!)

決して目を離さないように追いかける。

 

次の瞬間、一点を見つめていた視界は大空から大きく下降した。

どうやら目の前にある木の枝に止まったようだ。

 

(ようし!今のうちだ!)

すかさずスマホをかざす。パシャリとその瞬間をカメラに収めた。

 

[チルット!わたどりポケモン!ノーマル・ひこうタイプ!

真綿のような翼は空気を含んで、ふわふわの触り心地!

こまめな手入れを欠かさない!]

 

待ってましたと言わんばかりに意気揚々と語り出した。

(チルット…あの子、チルットって言うんだ…)

初めて知った相手の情報にえむは喜ぶ。

 

(あれ?) だがその相手を見た瞬間、疑問が走る。

(図鑑の写真と…色が違う…)

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

色が違う。そうなのだ。図鑑の写真ではチルットは青色なのだ。

(じゃあ、あの子は一体…)

そう考えていると、枝木に止まっているチルットが鳴き出した。

見た目に反して大きな声をだす。驚いて見上げるとどうやら他のチルットが来たらしい。鳴き声を交わしている。

ということはあの子も間違いなくチルットなのだろう。

(一緒に眠りたいのかな… ………あ!!)

微笑ましく見ていると、次の瞬間、なんと後からやってきた2匹のチルットが金色のあの子をつつきはじめたのだ。

 

(なんで?!あの子は同じ仲間じゃーーーー)

 

そこまで考えたところでえむは察した。

(そうか…みんなと色が違うから…仲間として見てもらえないんだ…)

 

思えばあんなに小さいポケモンが親もおらず、1匹だけで飛んでいたのがそもそもおかしかったのだ。

きっと生まれたときからみんなと色が違うあの子は、誰にも頼ることができずに1匹だけで生きてきたのだろう。

 

(あ!!)

 

激しい攻撃を受けたチルットはぐらりとバランスを崩し、枝から落ちてしまった。

 

(大変!救けに行かなくちゃ!)

木のふもとに大きな湖が見えた。底に沈んでしまったら救いようがない。全速力で駆け出す。3分、いや2分あればあの木のふもとへは行ける。先のことなど考えずに足を進めた。

 

もしかしたら嫌われてしまうかもしれない。いきなりやってきた少女に怯えてしまうかもしれない。さっきみたいに逃げられてしまうかもしれない。

(でも… それでも……!!)

たとえどうなってもあの子を救けたかった。ひとりぼっちがどれだけ寂しいかは、自分が痛いほどわかっていたから。

 

脚を早める。視野が狭まる。グングンと進む。前に、前に、前に、進んでいった。その先に、その子はいた。湖の脇でぐったりとしている。急いで駆けつけようとしたその瞬間、湖の中から大きな影が、

 

    ザバァアアアン!!

 

と、飛び出してきた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

そのポケモンは突如、水の中から這い上がり、チルットの前に立ちはだかる。図鑑を確認している余裕はない。その表情は明らかに怒りを表していたからだ。

 

(どうして…?!)

なぜ怒っているのか最初は分からなかった。だがその疑問はすぐ解決した。踏んでいるのだ。落ちたチルットの下、無惨にも散らばったその子のものであろう木の実の山を。

 

餌場をめちゃくちゃにされたその子は、今にもチルットを攻撃しそうな勢いだ。当然、木から落ちたチルットに逃げる体力はない。

 

(救ける! …でも…)

どうやって?

間に入ったって、あの子の怒りは収まらないだろう。

かといって撃退するほどの力はえむにはない。それに傷つけたくはなかった。あの子は餌場を荒らされただけなのだから。

 

頭をフル回転させる。ぐるぐるとめぐる思考の渦に飲み込まれそうになる。

 

そのとき、

 

ーーーー!!

 

鳴き声が聞こえた。

 

間違いなく、あの子だ。言葉など通じるはずもない。

 

だが、確かに聞こえた。「たすけて!!」

 

孤独だったあの子がはじめて出した本気の言葉。

鼓動が響くえむの体に、その声が響く。

 

スパンッと渦の中から光が見える。

これだ…これ以外の方法はもう思いつかない。

 

えむはポケットから取り出したそれをおもいっきり投げた。

力いっぱい投げたそれは、風に乗り速さをまし、

カシュッと今まさに攻撃をしようとしているその子にあたる。

 

あたりに静寂が流れる。ポトっと地に落ちたそれは3回ほどゆれ、カチッと音をだした。

 

ゲットした…ゲットしたのだ。初めての経験に胸が少し弾む。

そして。次にえむに湧き上がったのは安堵だった。

 

チルットに駆け寄り、ボールを拾う。ぎゅっと握りしめポケットに入れると、倒れているその子を持ち上げた。

空を飛んでいたときには見えなかったが、身体中に小さな傷が無数にある。

(ずっと1人で… 耐えてきたんだね…)

いたいけなその子の姿に目が潤む。思わず抱く手に力が入る。

強く抱きすぎたのか、チルットは目を覚ましてしまった。

 

心の中で謝りながらえむは、言葉を発する。今まで生きてきた中で一番優しい声がでた。

 

「あなたは…ずっと1人だったんだね…、私もね…大好きなおじいちゃんが死んじゃってからはね、ずっとひとりぼっちだったの。

何をしても心から楽しめなくて、ご飯もあんまり美味しくなかった。ひとりぼっちって辛いんじゃなくて、痛いんだよね。心がギュウッてなって、締め付けられるみたいになるんだ。」

 

えむにとってあの時間はなによりも嫌な苦痛だった。あの時間を思い出すだけで心が沈んでいく。だが…

えむの顔はパッと笑顔になる。

 

「でもね、そんなときにやってきてくれたの!暗い世界からわたしを引っ張り上げてくれた、白馬に乗った王子様みたいな人が!

その人がね、サイッコーにわんだほいな世界にわたしを連れて行ってくれたの!」

 

あの出会いはえむにとって奇跡だった。彼との出会いがなければえむは今もあの苦痛の中にいただろう。

 

「その人はね、わたしの太陽なの!あたりをパッと照らしてくれて、いろんなものをわたしに見せてくれたの!」

 

チルットは逃げだすことなくえむの話を聞いている。

今しかない。言うんだ、自分の本心を、きっと伝わるはずだから。

 

「ねぇチルット…わたしはあなたの太陽になりたい…。彼に救ってもらったわたしが、今度はあなたを救いたい。……いい……かな?」

 

返事を待つ、胸がバクバクする。怖い、目を逸らしたくなる。

だが決して視線を外さずにまっすぐに見つめた。

 

コクンとチルットの身体が前に傾く。全身を使ったイエスのサインに思わず涙が溢れてきた。

 

「わたしのこと…信じてくれる…?」

 

チルットはふわふわの羽をえむの頬に当てる。涙を拭いてくれたのだろう、ふわりとした感触がえむの顔を包む。

 

えむはおもむろにポケットからボールを取り出すと、抱きしめているチルットに優しく当てた。

 

ヒュウンとボールの中に入り、カチッと音がした。

 

ーーー〜〜〜〜〜〜!!!!嬉しさが弾ける。堪えていた身体から、込み上げてくる気持ちを抑えることなどしたくなかった。

 

「わ、わ、わんだほ〜〜〜〜〜〜い!!!」

 

両手を空にあげジャンプする。疲れは消えていた。

着地するとえむは引き返し、帰り道をスキップで駆け出した。

 

早く帰ってチルットを治療してあげなくちゃ。怒っていたポケモンとも仲直りさせてあげよう。

(これからは…1人じゃないよ!)

ポケットに向かって話しかける。

 

夕日の光に包まれて、ポケットの中の2つのボールはキラキラと輝いていた。




後書きです!実はえむちゃんに何を捕まえさせるかは、決めていました。チルットでしたねー、正解した人はいるのでしょうか?
こういう予想ってほんとに楽しいですよね!私も(なにがええかなー)と迷いに迷って書きました!そしてもう1匹、最初は捕まえさせる気はなかったのですが、シナリオを作っていくにつれいたら面白くなる!と思って急遽追加しました。あえて名前を伏せましたが、次の司くんの目線で、えむちゃんがなにを捕まえたのかわかります!予想しながら、楽しんでください!
(ヒントはみずタイプ!   …当たり前ですねw)


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もしもワンダショがポケモンをゲットするなら?(司編)

ポケモンとプロセカのクロスオーバー作品です。シリーズですので、前回をご覧になってない方はぜひ、そちらをご覧になってからご覧ください。

投稿頻度が遅くなってしまいすみません!次はもっと早く書けるように頑張ります。

追記 ジャックポットサッドガールの2DMV、最高でした!


司の場合

 

 

意気揚々と駆け出した司は、森の中で彷徨っていた。

そう、完全な迷子である。

 

(どうして…こうなった……どこだここはぁぁぁぁ!!)

 

地図アプリも圏外になっている。相当森の奥深くまで来たようだ。これでは連絡も取れない。

だが司は迷った理由は分かっていた。いや、決して自分が方向音痴だとかそういうことではない。もっと直接的で、もっと恐ろしい理由…そう、奴らだ。

 

司は目の前にうごめくそのポケモンたちを見る。アリアドス、デンチュラ、マルヤクデ…いや名前などどうでもいい。

問題はそのポケモンたちが、司がもっとも嫌いな形をしているということ。そう、司は追いかけてくる彼らから逃げに逃げて、こうして森の奥に迷い込んだのだ。そして、追いつかれた。

彼らはその巨体に見合わず足が速かったのだ。

ポケモンたちは、でかい。司の生活を脅かすあの小さな悪魔たちが、何倍もの大きさになり、司の目の前にいま立ち構えている。

 

 

(いやまてまて…彼らはポケモンだぞ…いくら俺の大嫌いなあやつらの姿をしているとはいえ…。よし、落ち着いてもう一度見るんだ。)

追い詰められた司は現実逃避に走る。

 

目を瞑り、深呼吸をし、脳裏に彼を思い浮かべる。そう、司の足によちよちと寄り添ってきた、愛くるしい彼の姿を。

(そうだ…、敵意はないんだ。愛情をもって接すれば…!!)

 

勢いよく目を開けた。      

 

 

が、

 

 

無理だった。彼らの眼光は、ちょうどよく玩具を見つけた子供のように、怪しげに揺らめいていた。

 

ーーーヒュッ  声にならない悲鳴が溢れた。

 

目の前の怪物が持ち前の鋭い爪を振り上げている。切り裂かれたらひとたまりもないであろう。

シュッと降りかかる。風を切り、司めがけて飛んでくる。

  

司は横に転がり避けた。降りかかった爪が地面に突き刺さる。間一髪だった。 

 

虫ポケモンたちは、目の前の玩具が反抗したことに怒りの声を発している。すぐさま爪を引き抜き、再び司に近づいてきた。

 

だが司にはもう抵抗する気力も体力もない。あの回避は司にとって最後の抵抗だった。司は自らの終わりを悟り始める。

(こんなにあっさり…終わるのか…)

このセカイはどこか安全が保証されているのかと思っていた。

みんなには注意していたが、実際に自分が危険な目に遭うとは思っていなかった。

(すまない…みんな…約束…守れなくて……)

未練ならたくさんあるはずだ。だがいざ実際に死に直面すると、直前にしたみんなとの約束しか頭に流れてこなかった。

 

ごめん、とそれだけを復唱しながら、意識は闇へ落ちていく。

 

視界が…ぼやけていく。朦朧とした司の目に映ったのは、おぞましい虫ポケモンたち………と、それに立ち向かう1匹のポケモンの姿だった。今にも虫たちに攻撃しようとしている。

 

(あれは…俺を……助けて………)

 

 

 

司の意識はそこで途切れた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

ーーーッハ!!

意識が戻った。あたりを見回しても、もう虫ポケモンたちはいない。そしてあの司を助けてくれたポケモンも姿を消していた。

ふと地面を見ると、ぼこぼこになっており、焼け跡や爪痕が残っていた。きっとあの子が必死に戦ってくれたんだろう。

 

(お礼を言えなかったな。)

 

姿形もわからないが、あの子は間違いなく司の命の恩人だ。

 

「ありがとう!!見知らぬポケモン!!この恩は決して忘れないからな!」

司は誰もいない虚空に向かって叫ぶ。

 

届いているかはわからない。それでも伝えたかった。

見ず知らずの司を勇敢にたすけてくれた。小さな青い勇者に。

 

…返事はない。それでいい。感謝の声に飛びつく勇者はいない。

 

だから次、また会えたら…今度はもう一度ちゃんと伝える。

「ありがとう」と、そして…

 

「俺と一緒に来てくれないか」と。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ポケモン探しを再開した司は、ずんずんともと来た道を戻りながら、あたりを見回す。

 

司の求めるポケモン、それは強いポケモンだ。

なにを隠そう、実は虫ポケモンに追われる前、司は森の中でポケモンバトルをするトレーナーたちを見ていたのだ。

 

茂みから隠れてこっそり見ただけだが、それでも凄かった。

豪快に繰り出される技の数々、華麗に避けるポケモンたち、そして、ポケモンとピッタリ息のあったトレーナー。

 

それはまるで小さなショーのようで、司は子供に戻ったように魅入っていた。

 

自分もあの場に立ちたい!

 

そう思うのはもはや必然である。

やるならばやはり勝ちたいものである、だから、司は誰にも負けない、強力なポケモンを探しているのだ。

 

森の中を慎重に歩く。目を凝らすとやはりたくさんのポケモンがいる。だが…トランセル…ピジョン…キレイハナ…なかなかこれだというものが見つからない。昔から感覚でものを選んでいた司にとって、自分の感覚に当てはまらないものはなかなかゲットしようという気にはなれなかった。

 

だからこそさっきの出会いは運命のようなものを感じたのだ。

 

またしばらく歩いていくと、目の前を大きな湖が覆った。

(こんなところ、来た道にあったか?)

急いで虫ポケモンたちから逃げるときに通り過ぎてしまったのだろうか?なんにせよ幸運だ。強いみずポケモンが見つかるかもしれない。奥の方は霧がかっているが手前の方はまだ見える。ぐるりと見回すとたくさんのポケモンが見えた。ここなら見つかるかもしれない。

 

湖の麓でちびちびとウパーと遊んでいると。ザブンと音がした。

ウパーを逃して上を見る。窪んだ岸の上にポケモンが這い上がったようだ。

 

司はすかさずそのポケモンをカメラに納める。

[ニョロゾ!おたまポケモン!みずタイプ!お腹の渦はずっとみていると眠くなる!子守唄がわりに子供を寝付かせるのにも使う!]

 

(ニョロゾか…)

力強いフォルム、猛々しい表情、司の脳内ピースがピタリとはまる。…(少し怒りすぎな気もするが、元気があるのはいいことだ。)

 

(よし、こいつにしよう。)

司はスッと投球フォームに入る。思えば野球など中学の体育ぶりだ。自然と手に力が入る。

(フフフ…見せてやろう!昔、授業中に皆の表情を凍りつかせた魔球、その名もペガサスストライクを!!)

 

「どおぉおりゃああぁああ!!」

グインと腕をふり、放たれたボールは美しい弧を描く。

(キマッた…)自慢のカッコいいポーズをとる。

入射角、スピード、全て文句なしだ、これは当たる!

 

「さぁ、ニョロゾ!俺のポケモンにーーー」

 

ザッバァアアアァーーーン!!!

 

突如湖から飛び上がる黒い影、美しい弧はそれによって阻まれた。茫然としている司の前で3回ボールが揺れる。顔を上げるとニョロゾはもういなかった。

 

「な、な、なんだそれはぁぁぁあ!」 

司はボールを手に取り、ゲットしたポケモンをだす。

 

ピチピチと跳ねるそれにカメラを向ける。

[コイキング!さかなポケモン!みずタイプ!力もスピードもほとんどダメ!セカイで一番弱くて情けないポケモン!]

 

(コイ…キング…セカイで一番弱くて…情けない…)

 

どういうわけか強いポケモンを求めていたら最弱のポケモンを捕まえてしまった…司は落胆する。

 

だが…もう司は気にしないことにした。そう、司は知っている。小さな体でも強敵に立ち向かえる勇気があることを、その内に秘めたパワーを、きっとこいつにもあるはずだ、その強さを。

 

それにこいつ、よく見ると図鑑の写真よりずいぶん大きい。2、いや3まわりは大きいのだ。きっと強くなるだろう。いや、してみせる。

 

司はコイキングを持ち上げると言った。

「よーし!俺とお前、これからともに強くなるぞ!お前も王の名を背負うものなら精一杯俺についてこい!」

コイキングはビチビチと喜ぶ。

 

司はコイキングをボールに戻すと、湖に背を向ける。

これからはこいつと一緒に、強くなるんだ。

決意に満ちた司の目は輝く。

(そしていつかまた…あいつに会えたら…)

その先は決まっている。

 

 

帰ろう、寧々に約束のグレープフルーツのデザートを作らねばならない。ポケモンたちの食事も作らねば。

司は湖の周りにある木の実をもぎとりながら歩を進める。

 

夕焼けが作りだす彼の姿は反射された湖の光と重なり、まさにホンモノのスターそのものだった。




後書きです!
司くんはコイキングを無事ゲットです!ということは…後にどうなるかはもちろんわかりますよねw
そして司くんを助けた謎のポケモンは一体?
ヒントは青いポケモンですね。

そしてえむちゃんがゲットしたもう1匹も判明しましたね!
ニョロゾですね!意外でしたか?進化系を見ると少し納得できますよ。

この作品は、ポケモンを知らない人、プロセカを知らない人、それぞれの架け橋になればいいなと思って書いています。どちらも素晴らしい作品です。手をつけたことがないよという方がこれを機にその作品たちに触れてくれれば、作者としてそれ以上の喜びはございません。

それでは次は類くん編です!お楽しみに〜。


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もしもワンダショがポケモンをゲットするなら?(類編)

ポケモンとプロセカのクロスオーバー作品です。シリーズですので、前回をご覧になってない方はぜひ、そちらをご覧になってからご覧ください。




最近プロセカができていなくて、うぉぉぉぉ!と嘆いています。ストーリーを読まないと、ストーリーが書けんやないか!ということで頑張ってイベスト読みまーす!


類の場合

 

 

カシャッ!

[レディバ!いつつぼしポケモン!むし・ひこうタイプ!臆病で常に群れていないと不安!背中の模様は1匹1匹微妙に違う形!]

 

カシャッ!

[チェリンボ!さくらんぼポケモン!くさタイプ!ーーーーーー]

 

カシャッ!

[ホルビー!あなほりポケモン!ーーーーーーーーーーーーーー]

 

カシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャ!!

 

「ふふふ…はははははっ!!あぁ、なんて…なんて興味深いんだ!知れば知るほどわからなくなってくる!こんな体験は初めてだ!!」

 

類は森の中をカメラ片手に疾走していた。ポケモンを見つけては撮り、見つけては撮り…爆発した彼の好奇心を止める者は今この場にはいない。

 

類は抑圧から解放された獣のように、目を不気味に光らせながらポケモンたちを追いかけた。

 

「ふぅ…だいぶ集まったかな。」

類は図鑑を眺める。すでに50匹以上のポケモンのデータが集まっている。

「ただ…」

類は画面をスワイプする。未だ見たことのないポケモンがまだまだ400匹はいた。

「これは…骨が折れるねぇ」

類は図鑑アプリを閉じ、別のアプリを開いた。

 

パッと画面が変わり、紫と黄色のツートーンの画面が広がる。

……これはみんなには言っていない、類だけの秘密のアプリだった。なぜなら、その眩しいほどの画面の上の方にこう書いてあったのだから。

 

 

【カミシロルイの現実セカイ帰還条件】

 

 

きっとみんなにも同じようなものがあるのだろう。しかもわざわざ名前を変えるということはそれぞれに条件も違うはずだ。

きっとみんないつかは気づくだろうが、このことを自分の口からは言いたくなかった。この条件は、お互いに秘密にするべきだと、心に釘を打たれたような感覚になったからだ。

 

条件は2つ、そのどちらもが手付かずで類は何をすればいいのかわからない。とにかく今は沢山のポケモンを図鑑に登録してみたが、条件画面にたいした進捗は得られなかった。

 

(まぁ…これは今考えても仕方のないことだね、時間制限がないのが唯一の救いかな。とにかく、まだ僕たちはこのセカイのことをほとんど知らない。だからこそまずはひたすら調査だね。)

 

「さて…」

だいぶ自分のことに時間を使ってしまった。そろそろみんなとの約束のポケモンをゲットするとしよう。

類は再び歩きだす。

 

 

(………あ、そうだ1つ言い忘れてた)

「このセカイにも、やっぱりミクやカイトのように、バーチャルシンガーがいるのかな?もしこの声が届いているなら聞いてくれるかい?僕自身、君たち、いや自分たちのためにこの進捗は達成させるつもりだ。ただ、もしこれが原因でみんなが傷つくようなことがあれば…」

 

類は上を見上げて声を放つ。

「その時は…俺は絶対に、君たちを許さないからね。」

 

これは誓いだ。警鐘に見せかけた、自分自身への誓い。彼らの輝き続ける笑顔は、俺が絶対に守る。刻んだ誓いを胸に、類は再び歩き始めた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

だいぶ森の奥まで進んだ。汗が頬から滴り落ちる。辺りに見えるのは木々ばかりだ。かいてもかいても進めない水の中をもがくように、木々の影で薄暗い森の中を進んで行く。

 

「…ふぅ。おや?」

森の奥のさらに奥、いわば最奥とでも言うべきところか、そこから微かに光が漏れ出していた。類は餌を見つけた魚のようにそこへ向かう。そこは神秘的な場所だった。木に囲まれた小さい広場のような場所の中央に石の台座があり、そこへスポットライトのように木漏れ日が差し込んでいる。ポケモンたちもそれを囲んでのんびりと日光浴していた。

 

類は近づき、石の台座を触る。日光を浴びているのに、苔むしていて、ひんやりと冷たい。不思議な感覚だ。

幼少期の頃の記憶が蘇る。好奇心旺盛に、手当たり次第にものを触り、初めての感触に心を躍らせる、そんな記憶。

 

「ここにしようか。」類は重い荷物を下ろす。

このセカイに来てからずっと探していた場所。

自分のショーをポケモンたちに思い切り披露できる、そんな場所。ここならぴったりだ。

 

一礼して、台座に乗る。始めよう。ポケモンたちに送る最高のショーを。

 

「Ladies'and gentlemen!」

 

観客たちがこちらを向く。興味を示している。つかみは上々だ。

 

「今日お送りするのは、一世一代の最高の喜劇!観衆の皆々様は目を輝かせ、瞬きせずにご覧ください!」

 

木々が揺れる。この場所全体が拍手をしてくれているようで嬉しくなる。

 

(さぁ…ここからだ。)

 

類の右手から花がはじける。舞い散る花びらに目を取られている隙に袖からステッキを取り出す。くるくると回し、台座に打ち付けるとその先端から光が漏れ出した。弾けた光が花びらにつき、妖精のように舞い踊るーー幻想的な空間が誕生した。

 

(よしよし、次はロボットたちを出して…おや?)

観客席の一番奥、隅の方だろうか、縮こまっている観客がいる。

その目は、体毛で隠れていてよく見えないが雰囲気でわかる。

楽しむことを遠慮しているような…1人きりの孤独な姿が。よく見ると、ほかの観客たちも困ったようにその子を見ている。

「そこの可愛いお客様!どうぞお手をこちらに!ともに踊りましょう!」類は台座を飛び降り、たまらず声をかけた。けして、自分の過去と重なったとかそういうのじゃない。ただ心から自分のショーを楽しんで欲しかった。

 

その観客は、おずおずとこちらを向くと類の横を歩き出した。

類は再び台座に登るとショーを再開する。

(よく見ててね。)目配せをすると、類はロボットをとりだそうとした。

 

その瞬間ーーバチンと音がする。手に痺れが走り、思わず手を離した。ロボットが台座に落ちる。

(ショート?故障か?ありえない、こんなに急に…)

類は振り返る。あの観客が自身の毛を目一杯膨らませていた。

ばちばちと音がしている。この子に原因があることは間違いないようだ。だが、わざとではない。類はずっと人を見てきた。表情なんて見れなくても何を思っているかは、わかる。

 

怯えている。自分のせいでショーを台無しにしてしまったと。心の底から謝っているのが伝わる。

ごめんね、君をそんな顔をさせるために連れてきたんじゃないんだ。僕はただ君にも…楽しんで欲しかったんだ。

 

カツンとステッキを打ち付ける、空気が変わった。もう大丈夫。

君を笑顔にーー、類はロボットの部品を空に投げた。空を舞う部品にあの子の体から電気がほとばしる。やっぱり彼のものだ。

おそらく自分の身体からできる電気をコントロールできないのだろう。彼の前では、機械は使えない。

 

だが、それがどうした。その程度のこと、障害ですらない。

類は腕を大きくふった。部品がさらに空を舞う。撃ち抜くように電気が飛んだ。あの子はブルブルと震え俯いている。

 

「大丈夫、僕を信じて、上を向いてごらん。」

優しく、優しすぎるほどに声をかける。

あの子が恐る恐る顔を上げた。

 

ーーーそれは、大樹だった。大きな大きな木。放出された電気が茂みとなり、類が先ほど振り撒いた光る花弁とあいまって、夢のような輝きを放っている。

 

その子の目は、この場にいる誰よりも輝いていた。目隠しされた顔から涙が落ちている。さっき見た怯えの涙じゃない。綺麗なものを見たときに流れる、美しい宝石のような涙だ。

 

類はしゃがんで語りかける。

「君はショーが大好きなんだね、見ていればわかるよ。でも放電が怖くて近づけなかった。でも、これを見てごらん。君の電気は、個性だよ。欠点なんかじゃない。こんなに綺麗なものを作れる、素晴らしいものなんだ。もっと自分に自信を持っていいんだよ。」

その子の顔がパッと輝いた。これだ、この笑顔が見たかったのだ。

 

「…それでは皆さん!惜しみない協力をしてくれた彼に拍手を!」 

観客たちから拍手が飛び交う。これでもうこの子が放電に怯えることはないだろう。

 

「それではこれにて閉幕です。今日の奇跡は皆様にとって、心に咲き続ける花となるでしょう!それでは、またいつか必ずどこかでお会いしましょう!」

類は台座から降り一礼すると、ステージに背を向け歩きだす。観客たちの拍手の嵐が、類の背中を温かく押した。

 

最奥を出た、あとはまっすぐ帰るだけだ。……あ、

 

忘れていた。ポケモンをゲットしてくる約束だったんだ。

(まぁ帰り道でいいか)

歩く類の背中に衝撃が走る。

思わずよろけて、後ろを振り向くとさっきのポケモンがいた。

鼻息を鳴らしながら自信満々に類を見つめている。

 

「君…ついてきたのかい?」と聞くと、元気の良い鳴き声が聞こえる。どうやらYESのようだ。

類が少し歩くとテクテクと後をついてくる。どうやら本気のようだ。

 

「えっと…じゃあ君、僕と一緒にくるかい?」

その子の目がパッと輝く。そうと決まれば…

類はボールを取り出す。

 

(確か…当てるんだよね……あっ!)

その子は自分の額をコツンとボールに当て自ら中に入った。

 

カチンと音がした。類は胸の奥から湧き上がる喜びに打たれる。

なぜだかわからないが、得もいえない達成感があった。

 

類は捕まえたポケモンをボールからだす。そして図鑑をかざした。

[メリープ!わたげポケモン!でんきタイプ!ふわふわの体毛は静電気が溜まると2倍に膨らむ!触ると感電してしまう!]

 

なるほど…君の名前はメリープか…

「よろしくね、メリープ。」

メリープは元気に鳴く。本来はこれくらい明るい子だったのだろう。類はメリープをボールに戻すと再び森を歩きだす。

 

 

 

そのときーーー<ありがとう>

 

 

言葉が類の頭に流れ込んできた。振り向いてもただ森がざわざわと揺れているだけだ。

 

「まったく、今の声はなんなんだい?本当にこのセカイは僕を退屈させないね。」

 

類は歩く。この声の正体は今はわからなくてもいい。

いつかわかったときに、君にずっと会いたかったと、この子にで合わせてくれてありがとうと、そして僕のショーを見てくれてありがとうと、そう胸を張って言えるから。

 




後書きです。
更新早くしますと言いながら遅くなって申し訳ございません。
類くんに誰をゲットさせるかは決めていたんですが、ストーリーの根幹に関わる部分もあり、考えるのに時間がかかってしまいました。
さて、次回でワンダショメンバー全員がポケモンをゲットしたことになります。実は考えているのはそこまでで、あとは一切ストーリーは考えていませんでした。しかし、今回類くんのお話にあったように、もとのセカイに戻るための条件を追加しました。
まだ何も考えていませんがここから話を膨らませていきたいなと思っています。

それでは次回の寧々ちゃん編でお会いしましょう。
閲覧、誠にありがとうございました。


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もしもワンダショがポケモンをゲットするなら?(寧々編)

ポケモンとプロセカのクロスオーバー作品です。シリーズですので、前回をご覧になってない方はぜひ、そちらをご覧になってからご覧ください。





追記
ワンダショの新しいmv「Glory Steady Go!」
最高すぎました!私の書きたいワンダショ像が全て詰まってます。イベントはまだ読めてないですが、曲だけでこれほどワンダショらしさを感じられるのはすごくいいですよね!


寧々の場合

 

 

暑い…むしむしとした夏の猛暑が容赦なく寧々の体を包む。

最初は軽快だった脚もだんだんと歩幅が小さくなった。

昔から運動ができるというわけではなかったが、2時間越えのショーを演じたりと体力には自信があった…はずなのだが、築き上げてきた自信がぼろぼろと崩れる。まぁ、所詮砂場で作った小さな城みたいな自信だったため、大したショックはないが…。

 

(1人で来たの間違いだったかも。あいつらがいれば暑さも紛れるのに…)

寧々は落ち込んだ。思えばこの時間に1人でいること自体が何年ぶりであった。日中はいつも3人の中の誰かがいて、憂いも忘れるようなバカ騒ぎで気にならなかった暑さがここにきて寧々を蝕んでいる。

 

「はぁ…はぁ…もう…限界…。」

そろそろ木陰で休まなくては、寧々の体から放たれる危険信号がどこからか聞こえるポケモンの声とこだまする。

 

(休めそうな場所…少し開けてるところがいいよね。野生のポケモンは危ないって類も言ってたし。暗すぎず…明るすぎず…そんな場所…どこかにないかな…)

 

寧々は道の脇の茂みに入る。少し怖いが、このまま陽が差している道を歩き続けてもそんな場所は見つからないだろうからだ。

 

森の中は鬱蒼としていて、さすがというべきか先程の道よりもポケモンがたくさん見つかる。寧々は虫などはあまり得意ではないが、不思議と不快感はない。柔らかい見た目をしているからだろうか?まぁ、こんな見た目でもどこかの誰かさんは悲鳴をあげて逃げ出しそうだが。

 

(…でも、それにしても多すぎない?)

よく見るとポケモンの群れも見つけられる。寧々は図鑑をかざしてみた。

[ビッパ!まるねずみポケモン!ノーマルタイプ!いつも大木や石をかじって丈夫な前歯を削っている!水辺に巣を作り暮らす!]

 

(ビッパ…これだけの数がいるってことは近くに巣があるってことだよね…。じゃあそこに行けば水場がある!)

 

思いがけない収穫だ!水場があるならこの暑さを一瞬でもかき消せる。寧々は巣に戻るビッパにこっそりついていった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「うわぁ…!」

そこは疲れ切った寧々の体にとってまさに楽園だった。

涼しげな清流と渓谷から吹く爽やかな風は、寧々にまとわりついていた暑さを滑らかに拭き取り、清々しい自然の衣服を着せてくれる。

寧々は河川に近づき、足を水に入れる。ひんやりとして心地がいい。

(しばらくここで休憩しようかな。)

寧々は岩場に腰掛け、カバンの中から昼食をとりだす。

司が朝作ってくれた木の実をたっぷり使った特製サンドイッチだ。口に運ぶと、さっぱりとした甘味と酸味が広がる。

(これ、私好みの味だ…。それにこっちはとっても甘い、えむの好きな味…、こっちはガッツリしてて、類が好きそう…。)

 

「あいつ、朝からこんなに手の込んでいるものを…。ふふっ

あいつのくせになかなかやるじゃん。」

 

味わってたべろよ!という声が聞こえてくるようで、寧々は手を進める。すると寧々の足にもふりと何かが当たった。

 

「ヒャウン!」

食べるのに夢中だった寧々は思わず変な声をだしてしまった。

…ビッパが足元に乗っている。警戒心ゼロで寧々にお腹をみせている。

「もしかして…分けて欲しいの?」

露骨にビッパが起き上がった。どうやらイェスらしい。

「まったく…図々しいやつ…。」

寧々はサンドイッチをちぎってそばに置く。

するとビッパは飛び跳ねてガツガツと食べ始めた。

 

晴天の下、山々に囲まれた小川の麓で少女と小さな獣がサンドイッチを頬張っている。それはなんとも奇妙な光景であった。

 

ビッパはサンドイッチを食べ終わると、寧々の方を向き歩き始める。少し歩くとまた寧々の方を振り向く。さらに歩くとまた寧々の方を向く。

(これ、なんなの?しかもちょっとドヤ顔だし…。)

 

「ついてきて…欲しいの…?」

ドヤ顔がまた一段と明るくなった。なんだかコロコロと変わる表情が司とえむに似ている。

(体力はもう十分回復してるし、そろそろ行こうかな)

寧々は立ち上がると意気揚々と進むビッパの後をついていく。

「ちょっと、置いていかないでよ」

寧々は少し小走りに、小川の下流の方へ進んでいった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

10分ほど歩いただろうか、目の前に大きな藁束のようなものが見えた。

「わぁ…大きい。これって、あなたたちの巣?」

 

ビッパは頷くと巣の手前に座った。あまりの大きさに天井に目がいってしまうが、巣の前にはたくさんのビッパが座っている。

みんな目を輝かせて、まるでショーを見にきた子供のようだ。

純粋な瞳に吸い込まれるように寧々は巣に近づく。

(なにが起こるかわからないけど、せっかくここまで連れてきてもらったんだし、私も見てみようかな。)

寧々は並ぶビッパの隣に座った。藁の絨毯が敷いてありそびえ立つ舞台もあいまって開放的な劇場のようだった。

ビッパたちの拍手が響く。どうやら始まるようだ、寧々も合わせて拍手をする。

すると巣の向こう側から何かが上ってきた。それは巣を軽々と飛び越え優雅に着地し、一回転を決める。かなりステージに慣れている動きだ。沸き立つ歓声を前にウインクをし、歌い始めた。

 

「ーーーーー♪ ーーー♩! ーーー! ーーーー♪」

 

「すごい…!」

ポケモンが歌うことにも驚いたがそれ以上にこのポケモンは歌がうまかった。

「伸びやかなだけじゃない。ちゃんと感情をのせて歌ってる…。

このレベルになるのにどれだけ練習したんだろう…」

 

寧々だって、心から歌えるようになったのはつい最近だ。過去のトラウマがあったのもそうだが、それ抜きにしてもこのレベルになるまでにだいぶ時間を要した。

聞いていて楽しくなる音、歌っていて楽しくなる音、寧々が目指している音の一つだ。それがまさかここで出会えるとは。

(まずいかも…衝動が…抑えきれない!)

本来ステージの最中に観客が乱入するなどもってのほかだ。

だがそんなルールすら忘れてしまうほど寧々はこの音の虜になった。

(もう…我慢できない!)

寧々は立ち上がると、ステージの上に駆け上がった。驚いているビッパを横目に、そのポケモンと相対する。

「私!草薙寧々!あなたの歌、とってもすごかった!感動した。私も、ショーで歌っているの。もしよければ一緒に歌ってもいい?」

寧々は頭を下げて手を差し出す。頬が紅潮した。思えば自分からデュエットを頼むなど初めてだ。

 

どくどくと打つ心臓の鼓動が指先まで巡り熱くなる。時間がゆっくりに感じた。すると熱かった指先にひんやりとした手が絡んだ。どうやら許可をもらえたようだ。寧々の体温とそのポケモンの体温が混ざり合い、一つになった感覚がした。

 

そこから先は夢のような時間だった。観客のビッパたちの前で、そのポケモンと共に歌い踊った。軽々とした風の妖精が、寧々のポテンシャルをさらに引き出す。それに感化されてさらに歌声に磨きがかかる。互いに互いを高め合っていた。

 

(最後、フィナーレ!)

終わりを惜しみながら寧々はポーズを決める。この一瞬の共演で終わるのがもったいないほど楽しい時間だった。

そしてそれは相手にとっても同じらしい。

惜しみない拍手に包まれる中、今度はそのポケモンが寧々の方に手を差し出した。

空間が切り取られ、静寂が身を包む。互いの鼓動だけが響く中、寧々はこれが運命の決断だと確信していた。

 

おもむろにボールをとりだし、その小さな指先に当てる。

吸い込まれたように、中に入り、3回揺れた。

「これが…ゲット…」

寧々は緊張からの解放でへたり込んでしまった。じわじわと喜びが押し寄せる。両手で大事にボールを抱えステージから降りると、ビッパたちに一礼してその場を立ち去った。

 

少し歩いた先でボールからポケモンを出す。寧々は凛と立つその子にカメラを向けた。

[ツタージャ!くさへびポケモン!くさタイプ!太陽の光を浴びるといつもより素早く動ける!手よりもツルを上手くつかう!]

 

「ツタージャ…ツタージャかぁ…!」

ツタージャは照れ臭そうに寧々を見る。ショーのときとはまるで別人だ。

「ふふっ、これが本当のあなたなんだね。大丈夫、どっちのあなたも素敵だよ。これからよろしく。ツタージャ。」

寧々が差し出した手にツタージャはツルでハイタッチした。

 

このセカイは不思議なセカイだ。でも怖くはない。こんな素敵な友達をこのセカイはくれた。これから何が起きたって、この子がいれば大丈夫。

 

胸に宿った小さな灯りは寧々の心をしっかりと暖めた。

 




後書き 
寧々ちゃん編、閲覧ありがとうございました!寧々ちゃんとツタージャめちゃくちゃ似合ってますよね。これからも2人の成長を見守っていってください。さて、これでワンダショ全員がポケモンをゲットしました。これからどんな物語が幕を開けるのか、楽しみにしててください。
そして作者も大学が忙しくなってきました。投稿ペースも落ちてしまうかもしれません。遅くはなりますが、決して忘れている訳ではないので気長に待ってくれれば幸いです。
それでは、次の話でお会いしましょう。


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