ありふれた世界に鋼鉄軍団を放り込む?よろしい、ならば戦争だ (リン・オルタナティブ)
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プロローグ〜奈落編
#1 転生、そして第二の人生も波乱の幕開け


 ありふれた職業で世界最強とアイアンマンのクロスオーバーがなさそうでしたので、つくりました。後悔はありません。
 駄文ですが、お許しください。
 あとこのシリーズ、時折アンケートを行いますが、気長に参加してみてくださいっ!


 アイアンレギオン___天才発明家たるトニー・スタークが製作したアイアンマンスーツ、マーク8からマーク41までで構成された鋼鉄の軍団だ。

 私はそれを見たとき、途轍もない興奮と製作者たるトニーを称賛し、敬意を評した。

 様々な状況に備えられて開発・製作されたスーツ達に、私は心躍った。その中でも私が好きだったのは__マーク38とマーク40だ。

 マーク38とマーク40にはそれぞれイゴール、ショットガンと名付けられており、マーク38(イゴール)は100トンまでの重量物の運搬に、マーク40(ショットガン)はマッハ5以上の速度で飛行・高速戦闘に適したスーツだ。

 分離飛行ができるマーク41(ボーンズ)も好きだが、やはりこの2つが私の最推しのスーツだ。

 その後、次々と爆発していくレギオンのスーツ達を見て、儚さがあると思いつつも、少し残念な思いをしたのも、いい思い出だ。

 

 そんな私_____白鷺(しらさぎ)甲菜(こうな)は現在、真っ白い空間にいます。........なんで?

 

『......目を覚ましましたか?』

 

 私の後ろに立つなぁ!......と言う冗談はさておき、後ろから声をかけられたので振り返ってみると、そこにはなんとロリっ娘が!可愛い......もう死んでもいいや。

 

『貴方は先程死んだばかりですよ......』

 

 そうかそうか死んだのか〜........ゑ?私死んだの?

 

『はい。前後の記憶が曖昧でしょう。ですので.....私が代わりに説明しましょう_______』

 


 

 フィリアと名乗った少女は、甲菜へ静かに語り始めた。

 

『貴方は上から落ちてきた鉄パイプの下で見上げていた少女を助けるために、命を落としました______』

 

 甲菜はその一言を聞き、死ぬ間際のことを思い出した。

 その出来事はスローモーションのように、甲菜からは見えた。バラバラに落ちてくる鉄パイプの群れ。その下には、無防備で上を見上げる幼い少女の姿が。

 本来なら走っても届かない。間に合う筈もない距離だった。だが、甲菜は誰かに背中を押されたように感じた、優しく、しかし力強い感覚だ。

 気付けは甲菜は走り、少女の上に覆い被さっていた。幾つもの鉄パイプが彼女に当たり、その一本が遂に彼女の頭部に直撃した。

 

「_______私が守った、その少女は?」

『ご安心ください。貴方が覆い被さったことで、軽症で済んだようです』

「そう.......なら良かった」

 

 甲菜は少女の安否がわかると、安堵の表情を浮かべていた。まるで、子を守り通した親のような、そんな顔をしていた。

 

『後悔は.....ないのですか?』

 

 フィリアからそう問いかけられると、甲菜はうーんと数秒考えると、首を横に振った。

 

『何故、ですか?』

「.......ヒーローらしい事が、出来たのかなって」

 

 そこで言葉を切ると、ただ_____と言葉を濁し、甲菜は苦笑しつつも言葉を続けた。

 

「もう少しだけ、アイアンマンに触れてたかったな.....ってね」

『アイアンマン.....ですか』

 

 フィリアは少し沈黙すると甲菜へこんな提案をしてきた。

 

『では、アイアンマンのスーツを特典に、転生しましょうか?』

 

 目を点にした甲菜へフィリアは再び説明を始める。

 少女は元々死ぬ筈のなかったのだが、フィリアの上司に当たる人(?)が間違えたらしく死ぬ運命だったらしいが、甲菜が割って入ったことで関係ない人を殺してしまった。その罪滅ぼしをしたい______と言うのが転生理由だった。勿論、上司はこの転生案に異論を示さず、許可してくれたようだ。

 

「え、スーツって......なんでもいいんですか?」

『はい。それくらいなら、お安い御用です』

 

 えっへんと胸を張るフィリアを尻目に、甲菜は思考する。

 

「(え〜......ここは無難に最強格のマーク85辺りがいいのかな?いやでもそれじゃあなんかつまらないなぁ______)」

 

 そんな葛藤の末、甲菜が選んだスーツは_______

 

『アイアンレギオンに、マーク43、マーク44、そしてマーク5......これだけでいいのですか?』

 

 フィリアは甲菜の回答に驚きを含んだ声色で問いかけてきた。どうやらフィリアはもう少し多いスーツを望むのかと思っていたらしい。

 

「まぁ......後はJ.A.R.V.I.S.やF.R.I.D.A.Y.のようなサポートAIが欲しいくらいですね」

 

 これだけ_____そう言われると付け足したくなるのがこの女、白鷺甲菜だ。

 特典を決定したその後、甲菜は転生先についてフィリアに聞いてみたが、

 

『ふふっ、お楽しみです』

 

 笑顔で流されてしまった。果たして何処に行くのか、甲菜は今から楽しみだった。

 

『それでは、これより転生させます』

 

 フィリアの言葉に、甲菜はコクリと首を縦に振り、深呼吸をした。

 深呼吸には特にこれと言った意味合いはないが、甲菜にとっては新たな覚悟を決める儀式のようなものだ。過去を切り捨て、今を生きる。

 

『最後に......御一つ、聞きたいことがありました』

 

 魔法陣を展開し終えたフィリアがそう話しかけてくる。第二の人生を、などというテンプレな事を告げるのかと思っていたが、

 

Who are you?(貴方は何者ですか?)

 

 彼女が放った言葉に甲菜は苦笑し、いつもトニー・スタークが返してた名言を残して、第二の人生へ旅立った。

 

 

 

 

 I'm iron man(私がアイアンマンだ)。そう言葉を紡いで______

 


 

 転生し第二の人生を謳歌するために生まれてから15年____高校生になって少ししたある日、突如として第2のカバンとして使っていたサイドバッグがマーク5になっていました。どうも、甲菜です。フィリアさんや.....もう少し節度を。

 

〘それは今日、トータスへ転移する日だからではないのでしょうか〙

「まぁ.....それもそっか。教えてくれてありがと、Rex(レックス)

〘想定の範囲内の質問でした〙

 

 サポートAI【Rex】へその一言は余計だと言いつつ、私はイヤホンを片耳に突っ込み家を出る。

 Rexは14歳になって、前世の記憶や知識を得た際に受け取った人工知能....AIだ。

 その完成度は、F.R.I.D.A.Y.と同等、またはそれを凌駕していた。神様ってスゲェ......などど思ったのは、ここだけの話だ。

 

〘今日の登校時間は10分39秒66。昨日の登校時間よりも25秒24遅くなっています〙

「はいはいわかってるよ。今は少し疲労してるの」

〘マスターのストレス値を計測中____〙

「やります!学校がんばりますからっ!」

 

 ストレス値なんて測られたらたまったもんじゃない。私はRexへそう言いながら自分の教室内へ足を踏み入れる。嫉妬や侮蔑の視線を受けるが、所詮はその程度。沢山の視線を軽く受け流しつつ自分の机へと向かう。

 スーツケースを机の横に置きリュックを椅子の背もたれに掛けると、私はすぐさまある席へ足を運ぶ。

 

「......一人で細々と生きる人生より、もっと人とコミュニケーションをとったらどうだい?親友」

「甲菜さん。おはよう」

 

 声をかけたのは、ありふれた外見をした少年。彼こそ小さい頃からの大親友、南雲ハジメだ。やはり普通の人と話すのも、悪くないっ!

 

〘マスターは普通が好きでしたね〙

 

 よせやい、褒めても何も出ないぞ?

 心の中でRexにそう言ってから、私はハジメへあるものを渡す。カバーをして大事そうに使われている形跡のあるそれは言わずもがな、ラノベだ。

 

「あ、ちゃんと読んでくれたんだ」

「ハジメは私のことをなんだと思ってるの?」

 

 アイアンマン等のMCU系列のモノが好きだったが、私はそれ以外に手を出していたと否定はできない。

 例えばそう、某死に戻り系異世界アニメからロボットアニメまで様々。

 そんなこんなで幼い頃からハジメとの付き合いは長く、時折アニメやMCUについてよく話していた仲だ。

 ただ小学校3年生の時に家の都合で引っ越してしまいハジメとは別れたが、覚えていてくれたのが私としては嬉しい。

 

 

「二人でなんの事を話してるの?」

「あ、白崎さん」

 

 

 私達に近づいて来てそう声をかけてくるのは、一人の少女。名は白崎(しらさき)香織(かおり)。校内でかなり有名な2大女神の一人だ。何故クラスの嫌われ者であるハジメや私へ話しかけてくるのか、理由は不明。

 え、なんで私が嫌われてるかって?頭が良すぎて逆に嫌われてるのさっ!

 

「やぁ香織さん。元気そうでなりより」

「おはよう甲菜さん。でも上から目線はダメだと思うよ」

「まぁ、その辺は善処はするよ」

 

 白崎の言葉を適当にあしらうと、私はリュックから引っ張り出して持ってきたノートパソコンを開き、画面を立ち上げる。開く画面は勿論、アイアンマン関連の戦闘データだ。

 

「Rex、この間ダウンロードしたマーク5の戦闘データを、スーツにアップロードしといてくれない?」

〘了解しました。マーク5のリパルサーレイの調整、それに合わせてマスターのアークリアクターとの最適化(フィッティング)を併用して行います〙

「ありがとRex。その作業どのくらい掛かりそう?」

〘遅くても昼前には終了する予定です。終わり次第通達します〙

「わかった。アークリアクターとの最適化(フィッティング)は少しだけでいいからね。スーツを着てから本格的に調整するから」

〘承知しました〙

 

 サラサラと流れる私の言葉に二人を除いて誰も理解することができず、目が点になる事態となった。

 二人と言ったが、一人はハジメだが、もう一人と言うのは___、

 

「またやってるの?そろそろ諦めたと思ってたわよ」

「雫、一言声をかけてもいいんじゃない?あと、私は夢を叶えたいだけだよ」

 

 私へ声をかけてきたのは2大女神のもう一人、八重樫(やえがし)(しずく)。彼女とは幼馴染というわけではないが、仲は良い。小学校3年生で転校した先の小学校で知り合い、私が当時作成していたマーク5の戦闘データに興味を持ってたため、それ以来アイアンマンに関して詳しく語り合える唯一の友人だ。

 

「それにしては、結構大掛かりじゃない」

「私も頑張ったほうだよ。携帯化するのは大変なんだからね?」

「勿論わかってるわよ。ただ前も言ったけど、リパルサーだけじゃあ敵は倒せないわ」

「いいじゃないか。マーク5はあくまでも試作品。これからが正念場だよ」

「そうね。その時は私にも見せてね」

「お安い御用だよ」

 

 雫と私の会話は殆どが専門用語を交えてあるため、どんな奴が___機械に詳しい人じゃないと頭が痛くなる内容だろう。

 チャイムが鳴ったため、雫との会話を切り上げハジメの机から撤退する。変な奴が何か喚いていたが、その時の私の思考はマーク43、及びアイアンレギオンの方に向いていたのだった。

 

◆◇◆◇◆

 

 4時限目が終了し、時間はお昼真っ只中。

 私はハジメの席に即席でつくってきた弁当を広げていた。ただ、ハジメの席まで椅子を移動するのは面倒くさい。まぁ、このくらいならコラテラルダメージの範囲内だ。うん。

 

〘マスターの弁当は即席というより、作り置きの弁当なのでは.....?〙

「それを言ってはいけないよRex」

 

 Rexに釘をさしつつ、手に持つ箸を止めることなく口へ運ぶ。うん。卵焼きが甘くていいぞ〜。

 

「あ、そういえばハジメ。そろそろ____」

「考えておくよ」

 

 言葉を遮られて少し悲しい気がする。いや、悲しいのか。

 ハジメを見ながらしみじみとそう思っていると、足元に青白い光を発しながら教室の床一面に魔法陣が展開される。

 客観的に見れば美しいの一言だが、主観的に見たら異常事態といっても過言ではないだろう。

 

「皆さん外に出てください!」

 

 愛ちゃん先生__愛子先生からの指示で皆が鞄を取りに行こうとしている中、私は椅子と一緒に持ってきていたマーク5が変形しているスーツケースの取手を掴む。事実マーク5だけトータスに持って行ければ問題はないと思っているのは、アイアンマンを過信している証拠なのかな。

 

〘マーク5は試作機。安全は保証しきれません〙

「わかっているとも。だからこそリパルサーの改良をお願いしたでしょ?あと、転移後できればスキャンをお願い」

〘承知しました〙

 

 Rexの警告に肯定しつつ転移後の行動を指示した直後光は一層強くなり、私の視界は純白に塗りつぶされた。

 数十秒後に光が収まると、教室には椅子や机などは残っていたがそこにいた人の姿や彼らの鞄などはなかった。否、一人の鞄のみが残っていたが、手がかりとなるものは一つもなかった。

 

 この事件は、白昼に起きた集団神隠しとして世間を大きく騒がせることとなる_____。



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#2 アイアンレギオン+αは、流石に過剰戦力過ぎたかな?

 私の視界がやっと収まると、そこは教会の内部にある祭壇だった。教会というよりかは、神殿に近い構造をしているだろうか。

 周囲を見回すと、目を合わせたくはないが、クラスメイトたちの姿がある。愛ちゃん先生も転移しているようだ。

 

「......Rex、生きてる?」

〘はい。少しの間、マスターとのリンクが途切れていましたが、先程復旧しました。ただちにマスターの身体、及び現在いる人工物にスキャンをかけますか?〙

「えぇ、できれば早急に。終わり次第ディスプレイに」

〘了解しました〙

 

 Rexに指示を下すと、私は制服の内ポケットから眼鏡を取り出し装着する。

 この眼鏡、一見するとただの眼鏡なのだが、正体はRexと最適化(フィッティング)された一種のアシストインターフェイス。眼鏡のレンズはアイアンマンスーツと同じモノを使用しているため、割と見やすい。Rexのほうでスキャンしたデータを眼鏡へアップロードすることでスーツを着ているときとほぼ同じ作業ができるようになっている。因みに眼鏡型ディスプレイのインジケーターは青色だったりする。

 

「スーツは?」

〘マスターの隣にあります〙

 

 Rexに言われて右側をちらりと見ると、スーツケースが確かにあった。案外転移するときの規制って緩いね。

 

〘そこが誤算を生んだのでしょうかね〙

「だといいね」

 

 Rexとそんな話をしていると、気づけばクラスメイトと愛ちゃん先生が移動し始めていた。いつの間に教皇が来てたのかな。

 

〘先程スキャンした際に目の前にいましたが〙

「あ、ごめん。Rexの話のほうが面白かったから聞いてなかった」

〘...........はぁ〙

 

 え、今Rex溜め息ついたよね。そろそろ疲れてきたの?

 

〘マスターはもう少し人を煽る癖を直してください〙

「いや、Rexは機械だよね?人だとしてもAIだよね」

〘.......スキャン結果を削除します〙

「いやごめんなさい許してください今それをやられると後々困ります、はい」

 

 やっぱりAIって恐ろしいね。感情がないのがこんなに厄介なんだね。私はつくづくそう思った。

 

◆◇◆◇◆

 

「改めて、ようこそトータスへ。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いております、イシュタル・ランゴバルトと申す者。以後、よろしくお願いしますぞ」

 

 イシュタルと名乗った男に案内されたのは、長くて大きなテーブルが幾つも並んだ大広間らしき部屋。

 私達が全員着席した絶妙なタイミングでメイドさん達がカートを押して入ってくると、クラスメイト達にドリンクを配り始める。

 

「あ、他の場所では変なのモノは飲まないと決めてるので」

〘マスターの味覚を理解できる方はハジメ様と雫様しかいないですね〙

「まぁそうだね。Rex、いつものお願い」

〘畏まりました〙

 

 メイドさんから渡された飲み物をスキャンしつつ丁重にお断りして、スーツケースから中に何か入ったタンブラーを取り出す。中には濃い緑色の毒々しい色をした液体が入っている。........正直飲みたくない。

 

〘マスターが飲みたいと言いましたので、責任持って飲んでください〙

「うむむ.......冗談言っただけなのに」

 

 Rexへ怨嗟の声を漏らしつつタンブラーを傾けて口に液体を流し込む。確かこれ、クロロフィルドリンクだっけ?

 

〘はい。マスターがトニー・スタークが摂取していたものと同じものを飲みたいと所望しましたので〙

「........うん、案の定不味いね。でもそこがいい」

〘私には理解不能です〙

 

 Rexとそんな日常の会話をしていると、さっきから何やら騒がしい。何かあったのか。

 

〘マスターは聞いてないと思いましたので、代わりに録音しておきました。後で確認してください〙

 

 全く話を聞く気ない私の代わりに、どうやらRexがイシュタルの言葉を録音していたらしい。本当に頼れる相棒だよRexは。

 Rexを褒めちぎっている間に、周囲に目を向け状況を確認する。クラスメイト達はパニック状態。ハジメは顎に手を当て某名探偵アニメの如く何かを考えているようだ。こりゃカオス。

 そんな感想を抱いていると、不意にドンッ!とテーブルを叩く音が聞こえる。私がそちらに目を向けると、音を出した正体が明らかになった。

 彼の名は天之河(あまのがわ)光輝(こうき)。容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能の完璧超人。正義感と善意の塊のような性格が特徴だが、その完璧っぷりのせいで自分の正しさを疑うことを知らないうえに、自分にとって不都合な事態を他人のせいにして自分の行いを正当化する___所謂“ご都合解釈”を起こす悪癖があるのだ。

 

「皆!ここでイシュタルさんに文句を言っても何も変わらない!」

 

 彼のカリスマはクラスに浸透しているからこそできる芸当なのだろう。静かになっていく空間で私は次に光輝の言うであろう言葉、そして演説を想定し、あることを実行するためにRexと綿密な打ち合わせを行い、そして___。

 


 

 

「_____俺たちならできる!なんとかなるさ!」

「「「「おおおっ!!」」」」

 

 演説が終わり、光輝が信頼するメンバーが賛同したことで流れが決まったようだ。光輝が拳を突き上げ高らかに叫んだのを筆頭に私やハジメ、雫など一部の人達を除いたクラスメイト達はヒーロー願望を刺激されたのか雄叫びをあげる。

 そんな最中____パチパチと静かに、だが大きな音で拍手が響いた。

 クラスメイト達は訝しみながら雄叫びを止め、その音のした方向に顔を向ける。

 

「感動的だね、光輝くん」

 

 拍手を止め、そう声を放つのは異色な人影。

 銀髪にも見える白髪にハーフアップの髪型。暗闇のような黒い瞳。顔立ちはスッキリしつつ、どこか凛々しい雰囲気と、クラスの中でも特に浮いた見た目をしている少女。

 

「甲菜___」

 

 雫が何かを言おうとする前に少女___白鷺甲菜は今の雰囲気を完璧に壊す言葉を口にした。

 

「いい演説に根拠、鼓舞の仕方だった。だが残念だけど、()()()()()()()()()()()()。」

「.........は?」

 

 甲菜に真っ向から否定され、光輝は一言口にする。いや、口から言葉が漏れた、の方が正しいだろう。

 

「おい白鷺!どういうことだ!」

「そうよ甲菜さん!光輝くんにそれは____」

 

 光輝の親友・相棒でもある坂上(さかがみ)龍太郎(りゅうたろう)や香織の言葉を遮るように甲菜は言葉を続ける。

 

「皆はヒーローに関して真面目に考えたことはある?憧れたことはあっても、考えたことは、ないよね?」

 

 その言葉にクラスメイトの大半は視線を背けた。完全に図星のようだ。だが____、

 

「ヒーローはいつも悪に勝つじゃないか!」

 

 まだわからない人もいた。食って掛かってきたのは光輝だった。まだメンタルが残っていたのか、甲菜はこう思いつつ、更に畳み掛ける。

 

「___皆ハッピーエンドが好きでしょ。違う?」

 

 その一言に視線を下に向けたままのクラスメイト達は頷く。雫とハジメがこちらに視線を送ってくるが、甲菜は大丈夫だと言うために一つ頷き、そして続ける。

 

「でもいつもそうは行かない。ハッピーエンドの裏には必ず犠牲がついてくるの」

「犠牲なんて出させない!俺が皆を守___」

「じゃあ詳しく教えて。どのくらい守れる?今、この状況で」

「なっ!?」

 

 光輝がそう驚いた直後、甲菜ははぁ、と溜め息を付いた。そして言葉を続けようとしたが、第三者により止められる。

 

〘マスター〙

 

 止めたのはRexだった。いきなり無機質な声が響いたことに光輝やクラスメイトだけでなく、イシュタル達も驚いていた。

 

「........Rex」

〘今は堪えてください。マスターらしくありません〙

「.......そうだね。いつもの私じゃないよね」

 

 Rexの言葉に肯定した甲菜は深呼吸を一つすると、光輝に言葉を投げかける。

 

「結論から言ったら、もう少し考えて物事に対応しろってことだから」

 

 ただそれだけ。その一言を付け足すように口にすると甲菜は目を瞑る。どうやら寝るようだ。

 

「おい!まだ話は___」

「あ、そうそう」

 

 光輝が甲菜に詰め寄ろうとしたとき、目を開けた甲菜は再び光輝へ声をかける。

 

「皆が戦争に参加することを私は止めないよ。止める義理もないからね。ただ____」

 

 そのあとの言葉を聞いたその場の人達は内心震え上がった。背筋が凍るといえば、いいのだろう。

 

「ハジメや雫に何か手を出したときは......わかってるよね?」

 

 その言葉には必ずやるという意思が篭められているのが、ハジメからでもヒシヒシと感じられた。

 

「(甲菜がここまで怒ることなんて......)」

 

 ハジメがそんなことを思ってるなど、当の本人は全く気づくことなく、甲菜はイシュタルの方を向き、今後の流れの説明をするように促していた。

 


 

 どうも。光輝の無鉄砲発言にキレてトニーのセリフを借りながら説教しました。甲菜です。

 いや〜。久しぶりにキレたね。いつ以来だったかな?

 

〘その頃はいませんでしたので、記録に残っていません〙

「いや、Rexは気にしなくていいよ。問題は__」

〘光輝という男ですね?〙

「そうだね......」

 

 あの説教から、光輝はずっと私のことを目の敵にしてるのか、睨んでくるんですよ、はい。何?私に親でも殺された?

 

〘真っ向から否定されたのが気に食わないのでは?〙

「多分、いや絶対そうだよね」

 

 Rexに警戒しておくように言いつつ、私は周囲を見回す。

 あの後、イシュタルと共にハイリヒ王国と呼ばれる国へ移動したが、王国へ到着するとそのまま王宮へ向かい、現国王のエリヒド・S・B・ハイリヒへ謁見した。

 ありふれの原作を知っている私としては、生で見ると気持ち悪さが倍増したよ。

 だがやはりこれで判明したことは、国王よりも教皇の方が権力が上だということ。そして国を動かしているのは神(仮)のエヒトだと言うことだ。

 そして晩餐会で特に変化はなかったが、警戒すぎてクロロフィルドリンクを飲んでたが故に、料理は少ししか手を付けられなかった。その後王宮内に一人一室ずつ与えられ、今に至るのだ。

 

「さてRex、始めようか」

〘はい。転移時にスキャンしたマスターの身体と人口建造物に関してですが____〙

 

 そこから始まったRexの説明は、下手をするとある疑惑が浮上するかもしれない、とんでもないことが判明したのだ。

 

「____魔力の循環効率が良すぎるって?」

〘はい。先程の晩餐会でハジメ様と雫様をスキャンしマスターのデータを照合したのですが、明らかな差ができています〙

 

 Rexの説明を私なりに要約したらこうだ。

 まず私の体内で流れる魔力の流れが滑らか且つ繊細になっている。さらに魔力の質が明らかに違うことがわかっている。そして、その元凶は_____、

 

「___()()()()()()()()

〘その可能性が高いと思われます〙

 

 私はRexに指摘され、胸の真ん中にそっと指先を触れさせる。Yシャツの下には下着とシャツが重ねられているにも関わらず、胸の真ん中が淡い水色に光っていた。

 このアークリアクターは、私が頼んだ転生特典に入ってなかったが、フィリアさんがどうやらおまけしてくれたらしい。それも新元素たる“ヴィブラニウム”でつくられた新型のアークリアクターだった。

 

「生活に支障が出ない程度に隠してきたけど、この世界に来たら話は別だね」

〘と、言うことは?〙

「えぇ、明日お披露目するよ____マーク5をね」

 

 その日の晩は寝ることを忘れ、Rexと二人でマーク5の最終調整に入った。

 

「リパルサーはどう?」

〘数回でしたら、飛べるかと〙

「オッケー、アークリアクターとの最適化(フィッティング)、最終調整に入るよ」

〘了解。情報が足りませんが、マーク6以降のアークリアクターの稼働記録をもとに最終調整に入ります〙

 

 その部屋の前を通った人達は皆一様に首を傾げ、その場を後にした。結局その会話は、朝日が登るまで続いた。

 

◆◇◆◇◆

 

 翌日、二日目となる今日は戦闘経験のない私たちの為に、訓練と座学が始まるようだ。といっても、私の場合はRexとマーク5があるから、ある程度の戦闘ならこなせる。あとは___、

 

〘地球で鍛えたアイアンマン流格闘術、ですね〙

「そうだね。まともに動けると思うけどね」

 

 指導教官の名はメルド・ロンギス。なんでもこのハイルヒ王国の騎士団長なのだとか。豪胆な性格はなんだか父親を見ているような気持ちになった。

 そんなメルドから受け取ったのは、薄っぺらい金属のプレート。なにこれ。

 

〘スキャンして見ましたが、恐らくアーティファクトの一種のようです〙

「アーティファクト?アーティファクトって、あの?」

〘メルド騎士団長から説明があると思われます〙

 

 Rexの言葉通り、プレートに関しての説明がメルドさんから始まった。

 プレートは自分のステータスを客観的に見せてくれるアーティファクトとのこと。若干私のスーツと性能似てない?

 

〘アーティファクトより、スーツの方が高性能です〙

 

 わかったからと、拗ねたRexの機嫌を直しながら私は話を聞き続ける。

 ステータスプレートには魔法陣が描かれており、その魔法陣に血をつけると使えるようになるらしい。比較的お手軽に使えるアーティファクトよりのようだ。

 

〘ステータスを確認し次第マーク5を展開しますか?〙

「すぐには展開しないよ。あくまで模擬戦をすると言われたら、いつでも展開できるようにはしておいて」

〘了解しました〙

 

 Rexがマーク5を起動、待機させてる間、私は躊躇なく針を指へと刺す。思ったよりも深かったようで、血が流れ始める。数滴プレートに垂らすと、傷口を止血し簡易的な処置を施すと、プレートに浮き上がってきた文字に目を通す。

 

=====================================

名前:白鷺(しらさぎ)甲菜(こうな)

性別:女   レベル:1

天職:θψΑξφψιχ

筋力:πΘφκφωΘι

体力:πζψαφ⊄να

耐性:ψζθφωιυπ

敏捷:πΗνθκςτη

魔力:ςπνΟΤπΣυ

魔耐:πκΘμωΗΔω

 

技能:驪シ驩?サ榊屮(■■■■■■■■)、言語理解、環境適応

======================================

 

 ..........あれ?バグってる?私のプレートだけ整備不良?

 

〘いえ、マスターのプレートは正常です〙

「だ、だよね」

 

 現実逃避してみようと目をそらし、また見てみるが、結果は同じ。文字化けしていた。

 

「う〜ん、ハジメにも見てもらった方がいいよね?」

〘雫様にも見てもらいましょう〙

「りょ〜かい」

 

 私はプレートを持ったままハジメの方へ歩み寄り、声をかける。

 

「どうだい?親友」

「あ、甲菜」

 

 ハジメのステータスをチラリと覗いてみると、ありふれたステータスに天職は錬成師という、これまたありふれたステータス構成をしていた。しかも、ハジメのステータスがオール10だったのだ。疑いたくもなる。

 

「オール10......?」

「あはは、そういう甲菜はどうなの?」

 

 そういうハジメに私はプレートを見せる。

 

「その.......ドンマイ」

「言わないで、そのセリフだけは言わないで」

 

 親友たるハジメに当然の反応をされ、心が折れそうだ......。

 そんなことを話していると、雫もやってきて私のステータスを見たのだが、反応は苦笑という、微々たるものだった。

 因みに雫の天職は剣士。八重樫流としては非常にマッチした天職だろう。

 となると、私の天職って......まさかね。

 

〘恐らくアイアンマンかと〙

 

 ____現実逃避してたのに、言ってくるRexに悪意を感じるのは私だけだろうか。

 そんなことを思っていると、再び騒がしくなってくる。そちらの方を見ると、いつものいじめが行われていた。........この世界でもやることは変わらないよね。

 

〘そうですね〙

 

 Rexの同意を聞くと、スーツケースを持ち上げ、雫へ一言告げる。

 

「雫、悪いけど一暴れしてくる」

「えっ?えっ!?甲菜!?」

 

 雫の静止を振り切り、私は三歩の助走をすると、軽く跳躍する。それだけで、たったそれだけで人間の何倍もの高さを滞空する。

 目標はハジメの右隣、丁度空いているところだ。

 いじめていた奴ら__光輝や他のクラスメイト、更にはメルドさんたちも驚愕からか目を見開いていた。

 着地すると、あたかも鉄同士がぶつかったようなガンッ!という音が響く。

 

「お空の上からこんにちは、ってね」

「こ、甲菜!?」

 

 正体がわかったハジメは驚いていたが、光輝は憎悪の視線を向けてきた。明らかに私を敵視しているようだ。穏健派とも呼べる人達を除いたクラスメイトからの視線をもろともせず、私はあることを光輝に提案する。

 

「決闘しない?私と光輝、1対1をね」

 


 

「決闘だって?」

「えぇ、そっちの方が都合がいいでしょ?叩き潰したいとか思ってたのでしょうし、どう?」

 

 甲菜から飛び出た言葉に周囲はざわめいた。それもそのはず、150cmの甲菜が、190cmの光輝に喧嘩を売ったのだ。

 だがその売り言葉も甲菜の算段__詳しく言うとRexの提案したプランの中に入っているものだったが、光輝にはそんなことを考える様子すらなく、すぐに了承した。

 止めようとしてくるメルドに光輝は、

 

「大丈夫ですよ。少し懲らしめるだけですから」

 

 などと爽やかに言う始末。

 殆どのクラスメイトは光輝が勝つと思っているようだが、甲菜にはそんなプレッシャーなどはなく、むしろ笑みを浮かべていた。

 

「なんで剣を取らないんだ!」

「え?ハンデだけど」

 

 真剣な顔でそういう光輝に対して、至って自然体を崩さない甲菜。余裕に見えるのは明らかに後者なのだが、やはり光輝のカリスマは眼を見張るものだった。すぐに光輝を応援する声が聞こえ始める。

 やはりメルドが止めようとしてくるのだが、今度は甲菜が手で制する。甲菜の笑顔は純粋な笑みで、どんな戦いなるのか、待ち構えているようにハジメや雫は感じた。

 

「うーん、やっぱり気が変わった」

「何を言ってるんだ!」

 

 甲菜はそう言うと光輝の前で何かを地面に置く、それは、学校に持ってきていたスーツケースだった。

 

「そんなのが武器になるか!」

「こうする.......のっ!」

 

 足先を突っ込むとスーツケースが勝手に開かれ、何かが出てくるその何かに手を突っ込むと甲菜はそれを胸元まで持ってくると腕を思いっきり伸ばす。

 ガキンッ!という軽めの音を皮切りに、カチンカチンと金属音が響き続け、脚部、腕部と装甲が包んでいき、最終的には赤と銀色で塗装されたアーマーが完成したのだ。

 あまりに唐突な変身に周囲は二度目の驚愕に包まれた。自分達がバカにしていた人が強そうな見た目に変化したから。当然な反応だろう。だが、

 

「くっ!卑怯な幻術を使うのか!」

「____は?」

 

 光輝の頭ではご都合解釈が起きそんな発言をしたのだが、甲菜の中ではプチンと何かが切れた感覚がした。

 

「.......Rex」

〘はい〙

「.....叩き潰すよ」

〘了解しました〙

 

 静かにそう言うと甲菜は歩き始める。勿論、向かう先には光輝が。

 

「うおぉぉぉぉ!」

 

 光輝が甲菜に接近し、剣を振り上げる。このまま振れば刃は甲菜の頭を直撃するコース。クラスメイトは確信していた。光輝が絶対勝つ、鉄仮面なんかバターのように切れるのだと。そう思ってたからこそ、カキンという軽い音と共に剣が弾かれた時、皆が目を疑った。ここは異世界ではないのかと。

 

「......バッカらしいね」

 

 呆れた声と共に甲菜が手のひらから繰り出したのは、非殺傷性のリパルサービーム。

 そのビームが無防備になった光輝の体の中心に命中すると、2メートルほど吹っ飛び、紙切れのように地面へ転がった。宙に舞い上がった剣は光輝の近くに落ち、情けない音を立てたのだった。




 今後もマーク5は登場予定なんですが、今回は挨拶及びお披露目しました。

さて、アンケを取りたいと思います。
良ければ参加してみてくださいっ!


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#3 非戦闘用のスーツでも、戦闘に転用したら....脅威だね

皆さん!アンケートへのご参加、ありがとうございました!

結果は13票を獲得したイゴールに決定しました!!
ロミオもいい勝負していたんですがねぇ。惜しくもイゴールへ出番を譲りました。

こんな調子でアンケートを度々実施いたしますで、第二回アンケートを行う際は、よろしくおねがいします!


 ヤバい、普通にオーバーキル過ぎた。甲菜です。光輝が動かないところを見ると、気絶したのだろうか。

 

「う〜ん、少し強すぎたかな」

〘新型アークリアクターの出力が強すぎましたね〙

「レギオンや43の時はこのくらいでいいんだけどねぇ」

〘ハートブレイカーなどは特に消費しますので、気を付けないといけません〙

 

 私はRexとさっきの戦闘の分析とアークリアクターの出力、そしてそれに当たってトニーが実際運用していた時のスーツの考察を行っていた。

 倒れた光輝には興味などないため、私はさっさとマーク5を片付けちゃいますか。

 

「光輝!」

 

 坂上が駆け寄って光輝を起こしているが、当分起きることはないだろうね。

 などと思いながらマーク5をスーツへ変形させると、私はハジメの方へ近寄る。余程マーク5を見れたのが嬉しかったのか、ハジメは目をキラキラさせていた。

 

「マーク5なんていつの間に作ってたの!?」

「形は出来てたんだけど、如何せんデータが足りなくて、収集してたの」

 

 そんなことを話していると、私へ怒りや憎しみが篭められた視線が刺さる。.....正直言うと、言葉で表現しない人達に発言権はないと思うよRex。

 

〘マスターの言葉に同意します〙

「じゃあ親友、後で図書館で会おう」

 

 そう言うと私はその場を後にする。

 途中雫とすれ違うと、ハジメと同じ旨を伝え、私は一足先に大図書館へ向かった。

 

「どうするRex、二人に真実を話す?」

〘マスターのスキャン結果は、開示した方がよろしいかと〙

「オッケー」

 

 その言葉を最後に、私は目を瞑り精神を内側へと集中させる。瞑想と、己の中で流れる魔力を見ようと思ったからだが、飽きてしまったため精神統一を切り上げる。

 結局Rexと今後のスーツについて話すことにした。

 

「それで、アイアンレギオンについては?」

〘はい。マスターの推しだとフィリア様より伺ったマーク38イゴール、マーク40ショットガン、その他にはマーク17ハートブレイカー、マーク25ストライカー、マーク32ロミオ、マーク41ボーンズ、以上が現状装着・または起動が可能な機体です〙

「カサノヴァは?」

〘現在ロールアウトされていますが〙

「潜入用として一応調整はしておいて」

〘承知しました〙

 

 現状使えるスーツを聞いた私は大図書館の扉が開いたのを確認すると、手を上げて迎え入れる。

 さぁ、計画は始まったばかりだ。気合を篭め直さないとね。

 

 


 

 

「本当に、無事で良かったわ」

「まさか、たかが剣一つにスーツが遅れを取るとでも?」

「それこそまさかよ」

 

 甲菜は開口一番、心配だったのか声をかけてきた雫へ言葉を返す。

 大図書館の一角にあった机にいた甲菜をみつけたハジメは甲菜の対面に座り、遅れてハジメの隣に雫が座ったタイミングで甲菜は藍色のイヤホンを二人に一つずつ流す。

 

「これは......?」

「私がつけているのと同型のイヤホン。つけてもらわないと話が進まないから、一旦つけてみて」

 

 疑問を持つハジメ達へ右耳を指さしながら促す甲菜。

 ハジメと雫は話を聞くためにイヤホンを右耳へつけた。ノイズが少しだけなると、ノイズは収まり、甲菜の声がイヤホンから流れる。

 

「じゃあ自己紹介してもらうよ......Rex」

〘はいマスター〙

 

 イヤホンから甲菜声とは違う無機質な女性の声が流れ、二人は少しだけ驚いたような素振りをする。単純に驚いたのではなく、聞き覚えのある声だったからだ。

 

「もしかして、甲菜が説教を始めようとした時に止めた人?」

〘そのとおりです〙

 

 ハジメの質問に滑らかな回答をした女性へ、雫は昔、甲菜甲菜から紹介されたAIだと思い出し、声をかける。

 

「貴方って、Rex?」

 

 雫の問いかけとハジメのえっという顔から数秒後、その女性からの答えが帰ってきた。

 

〘お久しぶりです、雫様。覚えていてくださり、ありがとうございます〙

「いいわよこれくらい。それに、Rexの声って、甲菜とまた違う声だから、わかりやすかったわ」

〘左様ですか〙

 

 雫とRexが知り合いだったことを初めて知ったハジメは混乱したため、甲菜へ小声で話しかけた。

 

「甲菜、八重樫さんとこの女性って知り合いなの?」

「うん、昔会った時にアイアンマンのことを詳しく興味を持ってくれたから、紹介したの」

「え?じゃあ僕は?」

「勿論覚えてるよ。ただその時はまだRexは完成してなかったの」

 

 ハジメと甲菜がそんな話をしていると、いつの間に雫と会話を終えていたのか、Rexの方からハジメへコンタクトを取ってきた。

 

〘はじめましてハジメ様〙

「え!?は、はじめまして!僕は南雲ハジメです」

〘マスターからハジメ様に関してのお話は詳しく伺っています。私はRex、マスターのサポート兼スーツのオペレーターを行うAIです。以後よろしくおねがいします〙

 

 最初は驚きで言葉が続かなかったハジメだったが、Rexと名乗った女性AIの個性豊かなところ、そしてアニメのことを知っている点で自然と会話が弾んだのだった。

 

「それで、二人を集めた訳なんだけど」

 

 自己紹介を終え、甲菜は二人へ本題の話へと話題を移した。二人は興味津々な様子で甲菜の話に耳を傾けた。

 

「____というのが、二人を呼んだ理由なの」

「よくわかったわ、確かに甲菜が信用をおいてるのは、私か南雲君だものね」

「そうだよね。それにしても甲菜、魔力の循環効率がいいと、なんのメリットがあるの?」

「それに関しては___」

〘私の方からご説明致します〙

 

 ハジメの質問に答えようとした甲菜の言葉を引く継ぐようにRexからの解説が始まる。途中甲菜からの補足が入りながら、解説が終了すると、二人は納得しつつも席の背もたれに身を預ける。

 

「なるほどね。なんとなく理解したわ」

「ハジメには後々分かりやすいように資料見せるね」

「うん。ありがとう甲菜」

 

 その日は解散となり、雫は光輝の様子を見に行くといい離脱し、甲菜はハジメを部屋まで送るためにハジメについてきていた。始めハジメは大丈夫だと言っていたが、甲菜の説得とRexの提案で、ハジメの方が折れたのだった。

 

「そういえば、甲菜」

「ん?いきなりどうしたの親友」

 

 ハジメと甲菜は幼い頃からの知り合いで、時折互いの家に泊まり込むこともしばしば、そのためお互いのプライバシーなど存在するはずもなく____、

 

「甲菜って、恋人とかいたっけ?」

「ブフォ!?」

 

 二人きりになって恥ずかしさがなくなったのか、ハジメがそんなことを聞いてきたため、甲菜は口に含んで飲もうとしていたクロロフィルドリンクを吹き出してしまった。

 

「だ、大丈夫!?」

「も、問題ないよハジメ」

「昔の喋り方に戻ってるよ!?」

 

 昔の喋り方に戻っていることに驚いたハジメに気づいたのか、甲菜は咳を一つして話を戻した。

 

「んで、親友は私に恋人がいるかって言ってたよね?」

「うん」

 

 ハジメの答えを再確認した甲菜は一呼吸置き、目を瞑って2秒ほど沈黙すると、口から言葉を発した。

 

「いるわけないじゃん。()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「そっか、いないのか____うん?」

 

 サラッと言われた告白に頷いた後首を傾げたハジメだったが、Rexの無慈悲な録音しましたという宣告を聞いたことで、事実だということが判明したのだった。

 


 

 どうも......。ハジメに私が恋心を抱いていることがバレました。甲菜です。

 私は大きく伸びをすると、そのまま天蓋付きのベッドに飛び込んだ。

 現在の時間帯は夜。ハジメを部屋に送ったあの後食事に出ることなく一人部屋に居続けているのだった。

 

〘そろそろ立ち直ってはどうですか?〙

 

 そう言われても立ち直ることができないのが私甲菜です。

 なんでハジメに好意を抱いてたかって?理由はいたってシンプル。彼が私に優しく接してくれてたからだよ。

 私の親は発明家で世界中を飛び回るため、家を何日も空ける時がある。その時ハジメの家に居候していたのさ。部屋はだって?ハジメと一緒に決まってるじゃないか。

 彼と話している時、心の中が落ち着くのと同時にふとこう思ったことがあった。この人になら、背中を預けられる。そんな気がしたのだ。

 

〘まさしくトニー・スタークとスティーブ・ロジャース、ですね〙

「それを言ったらいつの日か別れるじゃん」

〘そうならないように努力してください〙

「他力本願?」

〘いえ。その時はハジメ様とマスターを全力でサポート致します〙

「その時はよろしくね」

〘本調子に戻ったようで、何よりです〙

 

 体を横にしたまま目を瞑った私だったが、ふと何を思ったのか言葉が無意識に口から漏れた。

 

「ハジメに何をあげたら喜ぶんだろ......」

〘スーツでも送ってみましょうか?〙

「いやいやまさか、この世界で1からつくるって___」

 

 無理だと言おうとした時、私の中で電流が走り、言葉が止まった。形容するならビビッと来た!だろうか。

 

「そうか!1から造ればいいんだ!」

〘いきなり何を言うのですか___〙

「Rex、すぐに設計に取り掛かるよ!すぐに造れなくても、造れる可能性があるじゃないか!」

 

 私は体を起こすとベッドから出て窓際に設置されている机の前にある椅子に腰を下ろすと、すぐに眼鏡型ヘッドディスプレイをかけ、幾つものウィンドウを開く。

 

〘____なるほど、オルクス大迷宮ですか〙

「そういうこと!」

〘ですが100層まで到達しないと__〙

「そこはスーツの見せ所!さぁ、始めるよ!」

 

 私とRexは、再び大規模な大仕事を実行するために、仮想キーボードを打ちひたすら文字を入力し続ける。

 計画名は【Project・HS】またの名を、【ハジメ・雫専用スーツ計画】。ハジメは勿論、雫用にもスーツを造ることが決定した。ただし雫にそれを送れるのは、今からだとまだまだ先のことになりそうだ。

 

「じゃあまず、何をベースにするかだね」

〘はい。現時点では試作品段階で終了したスーツをベースにしたらいいと思われます〙

「うーん、ハジメと雫のスーツに共通して言えることは、まず安全性を確立することだね」

〘えぇ、誰かに悪用されないよう、ハジメ様と雫様のステータスを使った認証システムが必要ですね〙

「あと材質。ヴィブラニウムが使えたらありがたいんだけど。無い物ねだりしても仕方ない」

〘この世界、トータスで最も硬い鉱石と混ぜ合わせれば、途轍もない耐久性を持つスーツが完成すると思われます〙

「なるほど、大図書館に通うって言ってたし、今度ハジメに聞いてみよ」

 

 気づけば深夜に突入し、皆が寝静まっても。私とRexは起き続けていた。クロロフィルドリンクを流し込んで眠気をその圧倒的不味さで吹き飛ばし、作業を継続した。

 あーでもないこーでもない、Rexと私の意見は時々ぶつかり、互いのいいところを取り入れつつ問題を解決していった。そして気がついたときには、既に空は明るくなり始め、日が昇ろうとしていた。

 

「____よし。基本的な設定はこんな感じでいいかな」

〘上出来ですね。デザインや武装に関しては私の方で行っておきます〙

「ありがとRex」

〘これくらいならお安い御用です〙

 

 これで準備は整ったあとは___オルクス大迷宮に挑むだけだ。

 私の心に疲労という二文字はなく、この先挑むことになる迷宮へ、冒険心が掻き立てられるのだった。だがそのあとRexに警告され私は即就寝。1、2時間だけだが、この世界にきて初めての睡眠だった。

 

◆◇◆◇◆

 

 時間は少し___いや、かなり飛びまして、この世界にきて二週間ほどが経過した昨日。相変わらず私は夕食に手を付けることなくクロロフィルドリンクを啜ってた訳だが、夕食後、メルドさんからオルクス大迷宮に行くことを告げられた。そして、今日がそのオルクス大迷宮へ挑む当日なのだ。昨晩は雫の方でも、ハジメの方でも何やらゴタゴタがあったようだが、詮索していない。

 オルクス大迷宮こそが私としては、これ以上ないスーツの見せ場だと思っている。

 

〘張り切っていますね、マスター〙

「当たり前じゃん。どのスーツから使おうかなぁ」

〘.......獲物を見据えた獣のような闘争心ですね〙

 

 Rexの言葉も程々に聞きつつ、私は青色のインジケーターを眺めつつ、戦況を見ていた。

 今現在、私が纏っているスーツはマーク29、ニックネームはフィドラー。マーク25、26同様空気圧ハンマー“ジャッキーハンマー”を搭載し、胸部はマーク17系列の巨大なリパルサーを装備した、軽量化土木工事用でありながら遠近両用の戦闘が可能なスーツだ。非対称って、正義だね。

 

〘次はマスターとハジメ様ですね〙

「プラス雫」

〘左様でした〙

 

 私やハジメ達が出るまもなく、巨大な二足歩行をするネズミ___ラットマンは光輝や他の人達であっさり討伐し終えてしまった。流石はチートステータス。この世界ではバランスブレイカーのようだ。

 

「擬態しているぞ!周りをよーく注意しておけ!」

 

 メルドさんかがそう忠告してきた直後、せり出していた壁が突然褐色に変色し起き上がってきたのだ。

 見た目はカメレオン、だが正体は巨大なゴリラのような体格をした怪物だった。

 

「ロックマウントだ!二本の腕に注意しろ!剛腕だぞ!」

「Rex、残りの敵は?」

〘敵性反応は目の前の一体の他、近くにもう一つ反応があります。恐らく同じ種族かと〙

 

 Rexのスキャンで敵はこの一体だと判明した。もう一体は刺激しなければ問題なさそうだ。

 どうやら光輝達が相手するらしい。しかし鍾乳洞のような造りであるが故に、囲もうにも困難なようだ。一度の攻防のあと、ロックマウントは距離を取り大きく息を吸うと、部屋全体を包む強烈な咆哮を繰り出した。

 光輝達が硬直して動けない間にロックマウントは近くにあった岩を掴み、こちらへ投擲してきた。

 白崎さんらが魔法で迎撃しようと詠唱を開始した瞬間、岩に変化が起こった。

 なんと変色したのだ。岩だと思っていたのは、実はもう一体のロックマウントだったのだ。

 怯えたのか詠唱を止めてしまった白崎さん達に飛びかかってくるもう一体のロックマウントへ対象(ロックオン)マーカーをつけると、私は右手と両足のリパルサーで前線まで飛び、その勢いのまま左腕に装着されたジャッキーハンマーでロックマウントを殴りつける。

 限界まで圧縮された空気は、時に銃弾よりも高い貫通力と威力を見せるもの。ハンマーが命中したロックマウントの頭はまるで水風船のように弾け飛んだ。

 力なく墜落したロックマウントの死骸の前___光輝達の前に着地すると、何者なのかわからないのか光輝やメルドさん達は驚いていたが、ハジメと雫はその正体がわかっていた。なぜなら、甲菜から散々聞かされていたのだ。自然と頭に知識として染み付いていたのだ。

 

「「マーク29(フィドラー)!?」」

 

 二人の驚愕した声に一同が騒然とする中、マーク29、フィドラーを装着した甲菜はそのまま歩み始める。先には__投擲したもう一体のロックマウントが。

 ロックマウントは甲菜に恐怖心を持ったのか回れ右をして全速力で脇目も振らずに逃走を開始した。だが____、

 

「逃がすとでも思ってるのかい?」

 

 そんなちゃちなことで逃がす気がないこの私、白鷺甲菜だ。ジャッキーハンマーを地面に突き刺し固定すると、準備完了。後は胸のリパルサーにエネルギーを貯め.......私はアイアンマンの十八番と言っても過言じゃないあの技を放った。

 

「____ユニビーム」

 

 轟音と共に胸から放たれた高威力のビーム__アイアンマンの必殺技の代名詞たるユニビームは逃げるロックマウントの背中をあっさりと捉え、魔物の心臓部たる魔石ごと貫いた。

 ロックマウントはその巨体を地面へ沈めた。これでこの付近の魔物は討伐しただろう。

 

「ヨシッ!(仕事猫風)間に合ったようでなにより」

〘ロックマウントはある程度知能が回るようですね〙

 

 そう言いつつ私は辺りを見回した。やはりこの辺りの敵は全滅してしまったようだ。もう少しスーツの性能を見てみたかったのが本音だ。

 

「甲菜!」

 

 ハジメが走り寄ってきたのを見ると、相当心配してくれていたようだ。私はフィドラーの左腕に溶接装備されたジャッキーハンマーを振り上げて無事の意を示す。

 その様子に安堵の息を吐きながらも、興奮の余韻はしているようで、装着しているフィドラーを見て少し興奮気味に話しかけてきた。

 そんなハジメを宥めつつ、私の方をさぞ嫌気が差したような、折角の機会を奪われて怒っているのか、憎悪の視線を向けてくるが、今の私にはそんなのお構いなし。

 

「Rex、崩落した場所は?」

〘スキャン結果で二箇所崩落しています〙

 

 ユニビームを撃った反動はどのくらいか確かめる為にRexに崩落した位置をマークさせていたのだが、その2つのうち1つは光源を示すマークがつけられている。

 

「.......あれ、なにかな?キラキラしてる......」

 

 不意に声が聞こえ、白崎さんの指差す方向には、青白く発光する鉱石が壁から露出していた。あれが先程放ったユニビームの反動で崩落した箇所の1つだろう。

 メルドさんの説明によるとあれはグランツ鉱石。宝石の原石のようなものらしい。だがその見た目と希少性から、プロポーズするときに渡す指輪にも使用されるのだという。

 白崎さんを筆頭とした女の子達はその美しさに見惚れていたが、崩した私から見たらただの光る鉱石。感想のかの字もないだろう。

 

〘マスター。貴方はもう少し乙女心を.......〙

「うるさい。私からはよくわからない鉱石にしか見えないよ」

 

 その一言で女子達からは猛烈な怒りの視線が。雫とハジメからは同情の視線を送られた。私はただ感想を述べただけなのに.......。

 そんな最中、私は見逃してしまっていたのだ。

 

「団長!トラップです!!」

 

 その声に反応し私はそっちに視線を合わせる。そこには登り切り、グランツ鉱石に触れようとする檜山(ひやま)大介(だいすけ)の姿があった。

 私はギリッと歯軋りをするとリパルサーを吹かし瞬時に檜山の所まで移動し、右手を伸ばそうとしていた。

 だが時既に遅し、グランツ鉱石に檜山の手が触れた直後鉱石を中心として魔法陣が展開され、部屋全体を覆い尽くした。

 

〘トータス転移時に展開されていた魔法陣と同質のものです〙

「転移魔法!?」

 

 私の叫び声に反応しメルドさんが撤退する指示を出したが、如何せん遅すぎた。

 魔法陣が一層濃く光ったかと思うと、同時に浮遊感にクラスメイトたちは襲われた。尚、私はスーツの重量のおかげで転移による影響は特になかった。

 私達が飛ばされたのは全長100m、幅10m、高さ20m程の巨大な石橋の上だった。縁から下を見てみるが、水が貯まっている様子もなく、真っ暗な穴が口を開いていた。

 

「正しく“奈落”だね」

 

 私がそんなジョークをかましていると、橋の両端に魔法陣が現れる。どうやら二重構造のトラップなのだろう。完全に殺しに来ているらしい。上り階段のある入り口に展開された魔法陣から現れたのは、大量の骸骨型モンスター。そして反対側の魔法陣からは、巨大な魔物が一体現れた。

 10m近くはある大きな巨体に4足歩行をし、兜のような頭部には鬼のような角を有した大型のモンスターだ。

 

「まさか......ベヒモス、なのか」

 

 メルドさんの声を捉えた瞬間、大型モンスター___ベヒモスはロックマウントの比ではない大音量の咆哮を起こしたのを皮切りに、戦闘が始まるのだった。



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#4 ベヒモスの攻撃ってハエみたいなものなのだっけ?

更新遅れました!
第四話、ゆっくりしていってね!

アイアンレギオン、まだまだ活躍するよ!


「Rex!奴に有効打を与えられそうなスーツは?」

〘ベヒモスの攻撃に耐えられるスーツはそんなに多くありません〙

 

 Rexの解説___もといインジケーターに表示されているベヒモスの解析結果を見て甲菜は唸った。

 ベヒモスの頭部にある捻れた二本の角は超高温の熱を纏い赤熱化するため、生半可なスーツで立ち向かっても両断されるか貫かれて死亡するのがオチだ。

 つまるところ___構図的に敵は違えどアイアンマン3の敵アルドリッチ・キリアンとの決戦のようなものだった。

 

「ならどうするの!?」

〘最適なスーツを召喚します。少しの時間だけ、フィドラーで時間を稼いでください〙

「しょ、召喚?一応了解!」

 

 甲菜はRexからの突拍子もない指示に驚きながらも、時間を稼ぐために有効な方法を模索するために周囲を見回す。

 メルドさんらがベヒモスを足止めしている間に退路を確保するため、フィドラーを入口側に向かわせる。案の定戦闘は始まっており、甲菜は上からリパルサーを乱射して骸骨型モンスター__トラウムソルジャーの大群を手あたり次第に攻撃し始める。

 だが甲菜が来ても状況は変わらず、むしろ増え続けているのが現状だった。

 

「くっ!討ち漏らしが!」

 

 Rexが捉えた敵性マーカーの一つがホバリングする甲菜の下を通って転倒したまま動けなくなっていたクラスメイトの一人へ手に持っていた剣を振り上げる。

 

「間に合わない!」

〘問題ありませんマスター〙

 

 Rexの冷静な言葉が聞こえたかと思うと橋の地面の一部が隆起し、剣を振り上げていたトラウムソルジャーの一体が躓かせる。その躓きの波が伝染し、他のトラウムソルジャーを何体もまとめて巻き込むと揃いも揃って奈落の底へと落ちていった。

 

「まさかさっきの地面の隆起って___」

〘はい。ハジメ様の錬成魔法です〙

 

 Rexからそう言われると甲菜は納得がいった。連続して錬成魔法を使うことで滑り台のような地面に改造したのだ。頭を使った頭脳プレイ。非戦闘職だが、うまく使えば戦闘のアシストすら可能だということを見せつけたのだ。

 

「ナイスハジメ!」

 

 甲菜の言葉を聞き下でサムズアップしたあとにベヒモスの方へと走り出した。ハジメを止めようとしたが、甲菜はここで原作を思い出す。今丁度ハジメが殿を受けるところだろうかと。

 

「私達も、合流しないとね、Rex!」

〘はい。ジャッキーハンマーの出力リミッターを解除。フルパワーでいけます〙

「了解。いつも助かるよ」

 

 Rexを褒めつつ甲菜は旋回し、リパルサーを最大近くまで吹かし地面すれすれで加速すると、左のジャッキーハンマーを思いっきり突き出す。だがそれではただの鉄塊だ。ジャッキーハンマーにこっそり細工していた空気圧をハンマー全体に纏わせ、一時的に空気のコーティングをする。

 この行為で甲菜とトラウムソルジャー軍団の全面衝突は風圧と衝突した時の衝撃でトラウムソルジャー軍団が奈落に落ちていくという当たり前のような結果になったのだ。

 

「何ボケっとしてるの!さっさと走る!急いで!」

 

 甲菜の叱責で我に返ったクラスメイト達は我先にと入り口に辿り着き、次々と上り階段を登っていく。

 クラスメイト達が登っている最中、周囲を警戒していた甲菜は再び大咆哮をするベヒモスの姿を捉えた。どうやら最高戦力たる聖絶が破られたようだ。

 

「全く、ハジメ達と合流するよ。Rex!」

〘了解。召喚の手順(サモンプロトコル)を開始します〙

 

 Rexの言葉とともに現れたのは、青白い魔法陣。一見するとただの転移系の魔法陣だが、よく見ると中央にはアイアンマンのシンボルたるアークリアクターがあしらわれている。

 その魔法陣を視認した直後、甲菜の頭の中にある一文が無意識に現れる。

 

「時には歩く前に走ることも必要だね」

 

 トニーの言葉を拝借した甲菜はフィドラーを魔法陣の中へと突っ込ませる。するとフィドラーは解体され、青い粒子へと変換されていく。

 

鋼鉄軍団召喚(サモンプロトコル・アイアンレギオン)コールナンバー、マーク38!」

 

 甲菜がそう叫ぶと、青い粒子は再び再構成され、その姿を表す。非対称だったフィドラーとはまた別で、青とシルバーのカラーリングに、猫背のようでありながらガッチリとした体型を持つスーツに変化した。

 アイアンマンマーク38、固有ニックネーム、イゴール。重量物運搬用のアイアンマンスーツだ。

 

「やらせはしないよ!」

 

 イゴールを纏った甲菜は慣性に従いながら、ベヒモスの方へと滑空する形で飛行し、丁度ベヒモスが角を赤熱化させてハジメ達へと突進を始めたところで着地。中間へと割り込んだ。

 

「甲菜!!」

 

 ハジメの声とベヒモスの突進が同時だった。甲菜はハジメの声に答える形で前に一歩踏み出し、ベヒモスの二本角をガッシリと受け止める。

 受け止めた瞬間途轍もない衝撃が甲菜を遅いイゴールの体が2メートルほど押されたが、踏みとどまった甲菜はベヒモスと拮抗状態の押し合いに縺れ込んだ。

 

◆◇◆◇◆

 

『やらせはしないよ!』

 

 その一言と共に颯爽と言い争いをするハジメと光輝達の前に現れたのは、なんともゴツい外見をした青と銀色に塗装された鉄の塊。___否。ハジメの目は確かに鉄の塊に青く発光する目のような場所が見えた。つまりそれは_____

 

「甲菜!!」

 

 ハジメが甲菜の名を張って叫んだ時ベヒモスが突進を始める。ハジメの目にはゴーレムのような鉄の塊が貫かれるのを幻視してしまったが、実際の結果は違った。鉄塊は腕を伸ばしベヒモスの赤熱化した角を受け止めたのだ。衝撃で2メートルちょっと__ハジメ達の目の前まで押されてしまっていたがなんとか踏みとどまっているようだ。

 

「南雲くん!」

「八重樫さん」

 

 ハジメのところへ雫が近寄ってくる。雫も押し合いをしている鉄塊が甲菜だとわかっているようだ。

 

「八重樫さん、あのスーツって....」

「甲菜で間違いないわね。マーク38イゴール.......甲菜のお気に入りスーツよ」

 

 雫とハジメが話している間にも、戦況は変わりつつあった。ベヒモスの突進する勢いが無くなり始めているのだ。赤熱化していた角も、元の色に戻り始めているようだ。一方でイゴールはというと未だ健在。ずっとベヒモスの角を握り続けているのだ。

 

「よし!コイツが抑えている間に___」

 

 剣を握り直した光輝へ雫が何かを言う前に、目の前の鉄塊__イゴールから鋭い声が響いた。

 

『ゴチャゴチャ言ってないで早く逃げて!退路は確保してるから急いで!』

 

 聞き覚えのある声に光輝は怒りや憎しみの篭った声を出そうとしたが、雫に止められる。

 その間にメルドからの撤退の指示に光輝は聖剣を担いで入口側へと走り始めた。坂上やメルドらも撤退しようとしていたが、その中で二人、撤退しようとしないクラスメイトがいた。

 

「南雲くん!」

「八重樫!」

 

 ハジメと雫だ。二人はそれぞれの戦闘準備を整えイゴールを纏った甲菜の両端に並ぶ。甲菜はベヒモスの角を持ったまま片足でベヒモスの顔面へキックする。キックする際に甲菜の両手は角から離されているため、ベヒモスは奥側へ吹き飛ばされ地響きを起こす。

 

『なんで二人共いるの!?』

「僕達も戦うってことだよ!」

「放っておけるわけ、ないじゃない!」

 

 二人の意思は本気のようだ。甲菜は止めることを諦めると、二人へ的確な指示を出す。二人を死なせないようにするためだ。

 

『ハジメは錬成でベヒモスの地面付近に罠を』

「わかった」

『雫は私のカバーに回って。合図で撤退して』

「わかったわ」

 

 二人からの了承を得られると甲菜はイゴールの拳を握り気合を入れ直した。ここからは何もミスすることは許されない、一発勝負。

 数秒の睨み合いの末、ベヒモスが巨大な咆哮をしながら突進してくるのと、甲菜がイゴールを動かしベヒモスと同じく突進するのが同時だった。甲菜とイゴールがぶつかった瞬間、ハジメと雫が動き始めた。

 


 

 どうも。ベヒモスと押し相撲している甲菜です。って痛い痛い!!ベヒモスの攻撃がガンガン中身に衝撃来てる!うげっ、吐きそう。

 

〘戦闘終了まで、我慢してください〙

 

 クッソぉ!Rexの鬼!悪魔!

 それはそうと、ベヒモスの攻撃って、こんなに貧弱なものだっけ?まるでハエがちょっかい出してるような感覚なんだけど。むしろ鬱陶しい。

 

〘イゴールの装甲が硬すぎるだけです〙

 

 あそっか、この世界だとイゴールのボディのみならず、すべてのアイアンマンスーツは異常な硬さなのか。

 そんなことを思っていると、突然More than on the right arm(右腕に異常が発生した)とインジケーターに表示される。左側を見ると、スーツの3Dモデルの右腕全体が赤く表示されている。何処か損傷したのだろう。

 

「Rex、損傷は?」

〘損傷軽微。戦闘に支障は無いと思われますが、注意してください〙

 

 ベヒモスの顔面に二度目の蹴りを喰らわせたあと、今度は私の方から突撃を開始する。肩に力を込めた渾身のショルダータックル.......のフリをする。

 攻撃されると思ったからなのか、ベヒモスも再び突撃モーションに入る。........かかった!

 

「錬成!」

 

 突撃体勢に入ったベヒモスの前にハジメが錬成を行い地面を脆くさせる。そして雫がベヒモスの横から一閃。ベヒモスが少しだけスピードを緩めたところで、私は右足に力を入れる。たったそれだけで橋にヒビが走り、ガラガラと崩れていく。錬成で脆くさせていたところが最初に崩壊し、止まりきれなかったベヒモスをそのまま奈落へと飲み込んだ。

 

「二人共!撤退して!」

 

 ハジメと雫へそう叫ぶと、私も撤退するために走り始める。にしてもイゴールのパワー、凄いね。力を入れただけなのにヒビが入るって。相当だよね。

 

〘走るのに集中してください〙

「はいはい」

 

 橋の崩落が途中で収まり、私の心に余裕ができたところで何かが横を掠めて着弾する。そっちを見ると、私の目_____ヘッドディスプレイが捉えたのは爆発の余波で吹き飛ぶハジメの姿だった。

 クラスメイト達の声なき悲鳴が響く中、私は咄嗟にイゴールの向きを変え全力で走る。奈落へハジメの身体が落ちる直前に、私の右手はハジメの手を掴んだ。

 

「甲....菜.....!」

「よし、掴んだら後は_____」

 

 ハジメを引き上げようとした瞬間、インジケーターが赤く染まる。警告音が響いたと思ったら右腕に力が入らなくなり始める。

 

「Rex!?」

〘イゴールの損傷拡大。右腕のパワーダウンを確認しました〙

 

 私は急いでハジメの身体を橋へ持ってこようとしたが、イゴールのパワーが落ちるのが早すぎる。

 そしてトドメとなったのが、()()()だった。

 後方___背中から飛んできた光の玉はイゴールの損傷があった右肩に直撃し、火花を散らした。

 

「あっ.....!」

「ハジメぇ!!」

 

 遂に右腕への供給が断たれ、ハジメの右手が離れていく。奈落へ吸い込まれるようにハジメの身体が落ちていくのを、私はただ黙ってみるしかなかった。完全に機能停止してしまった右腕は虚空を掴んだまま止まっていた。

 


 

 どうも。ハジメを救えなかった甲菜です。はぁ........これは修正が必要になってくるね。

 

〘ハジメ様の現状がわからないうえ、奈落はとても危険な可能性があります〙

「そんなこと.....わかってるよ」

 

 Rexの警告を聞きながら私は窓の外に広がる夜空を眺めていた。雲で月明かりが見えない__私の心を表したような空をしていた。

 

「入っていいか?」

 

 二回ドアをノックする音の後、男性の声がドア越しから聞こえる。恐らくメルドさんだろう。

 

「どうぞ」

「少し邪魔するぞ。甲菜」

 

 私はドアの開閉音が聞こえると窓を見つめるのを止め、室内の方を振り返る。メルドさんの顔を見る限り、恐らく、例の件だろうか。

 

「本当に、いいのか?」

 

 メルドさんと話しながら、私は先程の出来事を思い返していた。

 

◆◇◆◇◆

 時間を遡ってハジメの死亡報告をしに行った時の出来事____。

 

「貴方達は__やっぱり私の信用に値しません」

 

 国王や教皇の前で私の声が響いた。それもそのはず、ハジメのしを聞いて、顔を青くした国王や教皇だったが、ハジメの名を聞いて明らかに安堵していたのだ。

 

「な、何をいきなりいうのですか?信用できないとは一体____」

 

 国王が私に問おうとした瞬間、突然教皇と国王の間を何かが通り、轟音を立てて着弾した。一同が驚いて黙っていると、その空間__私の隣から()()が現れた。

 それは鉄製の人形___ゴーレムだろうか。だがそれは明らかにスリムな体型をした人そのもの。それの体はオレンジの上にブルーが吹き付けられた、とんでもなくカラフルな配色をしていた。

 

「ゴ、ゴーレム!?」

 

 教皇が驚いているとそれは再び姿を消すと、国王達は何処へ消えたのかと辺り見回し探そうとしている。絶対捕まえようとしてるでしょあれ。

 

「貴方達じゃ、ディスコを見つけることは不可能ですよ」

 

 私の言葉に教皇達は怒りの視線を向けてくる。侮辱されたのが余程気に食わないのだろう。

 

「貴様...!重大な国家反逆と背信行為を___」

「えぇ、構いませんよ」

 

 私へ牽制してくる騎士の一人の言葉を遮り、おもむろに右手を上げる。すると先程まで消えていたはずのゴーレム___アイアンマンスーツマーク27、ディスコの前面が開かれた状態で現れる。私がその中に入るとスーツはカチャカチャと自動で装着され、あっという間に私の体はディスコの中へと収まった。

 驚く騎士達、そして教皇や国王へ指を指し、私は言葉を続ける。

 

「貴方達が敵になるのでしたら____私は大切なものを守るために貴方達を殺します」

 

◆◇◆◇◆

 

 そのあと色々なゴタゴタがありつつ、私は今から国を去るのだ。後悔もしてないし、する気もない。でも、この国の敵となった私の部屋に来たって、メルドさんはお人好しと言うかなんというか、根はいい人なんだよね。

 

〘そんな人達を殺さないように、精進しましょう〙

「あはは、それもそうだね」

 

 夜風に当たりながら、私はRexの言葉に了承する。ディスプレイ越しから手を見ながらも私はしみじみと思う。しばらくは雫と会えないなぁ。寂しいなぁ。

 

「Rex、マーク5は?」

〘マスターの指示通り、置き手紙と共に雫様の部屋へ置いてきました〙

 

 ヨシッ!(仕事猫風)やっぱりRexは仕事が早いね。

 私が今着ているスーツは、マーク43。マーク42の完成形で、私が使うスーツの中でも一番新しいものだ。

 

〘ハルクバスターもありますが.....〙

 

 それはまだまだ使わないから放っておいて、やっぱり着心地いいね。

 そんなお世辞を言いつつも、私はインジケータを見て、今後の予定をRexと確認する。

 

「Rex、これからの予定を再確認するよ」

〘はい。第一にハジメ様の捜索のため、オルクス大迷宮の奈落へと突入します。その後はハジメ様と合流でき次第地上へ出る算段です〙

 

 大まかな予定を確認したところで、私は両手両足のリパルサーを起動し、地面から少し離れてホバリングする。

 

〘マスターはヒーローになりますか?〙

「なるんじゃない。皆の認識でヒーローになっているの」

 

 Rexの質問に答えた私はリパルサーの出力を上げ、上空へ勢いよく飛び出した。

 加速するたびに発生する強烈なGに耐えつつも、私はある程度___雲の上まで飛んでからオルクス大迷宮の方向へと向かう。

 

「(待っててハジメ、今助けに行くから.....!)」

 

 そんな思いを胸に秘めつつ、私はオルクス大迷宮へとスーツを急がせた。このあと、あんなことになるなど、知る由もなかった____。




補足しておきます。

鋼鉄軍団召喚(サモンプロトコル・アイアンレギオン)
 甲菜のスキル、鋼鉄軍団(アイアンレギオン)を使うために必要なワード。
 その言葉の後に使用したいマークナンバーを叫ぶことで現在使用しているスーツを再構成、そのスーツへ変形させることができます。尚一部例外があるが。

 あとあと、甲菜のステータスを更新しなきゃ......。


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#5 潜り続けてたらもう一週間ってま?

はい。難産でした(ストレート)
再開を願われたので、区切りのいいところで投稿しました…(白目


 どうも。オルクス大迷宮の奈落前に到着しました。甲菜です。う〜ん、深い!

 

〘赤外線センサーにてスキャンを行いましたが、深さは測定不能です〙

 

 デスヨネー。そう簡単に測らせてもくれないか。

 私は心の中で毒づきながら、マーク43の動作チェックを行っていた。

 ミサイルなどの火器系統からスラスター、フラップと言った機能も問題なく作動した。

 問題は、奈落に降りてからの作戦だ。

 ここまでぶっつけ本番で来たが、流石に降りてからは地獄になることは避けられない。つまり、幾らか作戦を作っておかないと、スーツを着ていたとしても最悪死に繋がる可能性もあるのだ。

 

「で、どうするのRex」

作戦手順(スタルジープロトコル)を構築中.......暫くお待ち下さい〙

 

 作戦を練っているRexにちょっかいを出すのも気が引けた為私はその場に腰を下ろし、指で地面をトントンと叩き遊び始める。

 娯楽がない今、やることがこれくらいしかなくなってしまったのだが、ふと地球でのある出来事(ニュース)を思い返していた。

 

◆◇◆◇◆

 

 事はトータスへ転移される少し前───3週間前だろうか。親が海外に行くことになったのだ。その時私は駄々を捏ねたのだが、それを見越していたのかなんなのか、親は私をハジメ一家へ置いて行ったのだ。

 他の人からしたら腹立たしいったらありゃしない。だけど海外に行く直前に、私は母親とある約束を交わしていた。

 

「今度甲菜も私も時間が空いたら、()()()を見せてあげるわ」

「母さんが毎回何してるかわからないけど行ってる場所?」

「そうよ。甲菜も気に入ると思うわ」

「何かはわからないけど、楽しみにしてる」

 

◆◇◆◇◆

 

 母親はあれから帰ってこなかったし、私はトータスに転移してしまったからそんな約束も果たせなくなってるけど、原作では地球に帰れたはず。だからこそ、母親との約束は絶対に守らないと。

 

〘マスター。作戦立案が終了しました〙

 

 私がそんな過去を思い返しながら決意を固めていると、Rexから声をかけられる。作戦構築が終了したらしい。

 作戦は、奈落に降下してハジメの手がかりとなる遺留物を捜索。見つけたらそれを頼りに最短ルートで進むというもの。やはり作戦としては即席であるが、現時点でとれる作戦ではこれが最善策のようだ。

 

「......ちなみにどのくらいかかると思う?」

〘マスターの負担を(かんが)みますと、途中での休憩を加味して最短で4日程。遅ければ1週間はかかる可能性があります〙

 

 ─────あっれぇ?これ、間に合わないのかな?

 確か原作では1週間ぐらいでハジメが変わっちゃったよね?んで、今Rexが提示した作戦通りに行ったら、ハジメを見つけることができるのは最悪1週間後───うん。バッチリ間に合わないね。

 

「Rex、現時点で投入できるスーツの限度は?」

〘現状投入できるスーツの限界値は3。ですが奈落の広さが不透明な以上、3機同時に投入したら危険と判断しました──〙

 

 うーん。やっぱりマーク43単騎で行ったほうが楽っぽいね。私が戦力を確認していたところに、Rexの補足が入る。

 

〘奈落の広さが大きければマスターの訓練にもなるため、3機同時召喚も視野に入れておいてください〙

「アッハイ」

 

 Rexは私の事を虐めるのが好きなのかな。それともなんだ?鬼教官か?Rexの鬼!悪魔!魔王!───あ、Rexは人工知能だった(今更)

 

 そんな冗談もさておき、私は両手両足のリパルサーを使いその場でホバリングを開始する。ディスプレイ内に表示されたインジケーターには、予め優先的に展開できるよう設定した武装がリストアップされていた。

 

 厚さ0.9mのコンクリートを爆破・貫通できるようになったリパルサーは勿論のこと、要塞潜入用ミサイル、対人用小型ミサイル、対アーマー用ミサイル等、兵器としての性能が高い印象をもたせるモノばかり。勿論マーク6では1回しか使えなかった化け物レーザーことお馴染み200ペタワットレーザーも搭載されていた。

 

〘全火器系統・システム、オンライン。マーク43、いつでも可能です〙

「待機中のスーツ2機は?」

〘マーク22ホットロッド、マーク30ブルースティール、共に良好。いつでも召喚可能です〙

「りょーかい」

 

 結局、両腕部に収納可能な実弾式マシンガンを装備したホットロッド(マーク22)と、マーク33の改良発展型でありながら長期活動を可能にしたブルースティール(マーク30)、そして主力として使うマーク43の3機で奈落を攻略することになりました。はい。

 

「それじゃあ........いくよRex!」

〘はい。奈落に突入、降下次第ディスプレイを暗視モードに切り替えます〙

 

 Rexにそう告げられると、ホバリングから体の姿勢を移し奈落へ降下飛行を開始する。

 やがて奈落の底───真のオルクス大迷宮一階層の地面が見えたところで手のリパルサーを前に突き出し逆噴射。同時に背部のフラップを展開し急減速。アイアンマンがアフガンの村で見せた着地をする。

 硬い金属音が響いたが、魔物が近寄って来ないところを見ると居ないらしい。するとディスプレイが暗視画面に切り替わる。Rexが自動で切り替えたのか、レーダーに生命反応がないのを見ると誰かが狩ったあとのようだ。

 

「ハジメは生きてるみたいだね」

〘そのようです〙

「.........少し飛ぶ?」

〘飛行する際は低空飛行を推奨します〙

 

 Rexからの了承を得られたところで低空を維持したまま飛行を開始する。リパルサーの飛行音は隠しきれないため、魔物たちが飛行する私へ視線を向けてくる。

 が、相手にする暇も惜しいので、今は只管(ひたすら)前へ前へ前進し、地下へと潜っていく。

 

「なんとしても、見つけるよ.....ハジメ────」

 


 

 ハジメを見つけ出すために甲菜がオルクス大迷宮にある奈落の底へ向かってから、もうすぐ一週間になろうとしていた。なぜそんなに迷ったのかというと予想通り、甲菜は初めて3機同時に運用したからか気絶してしまったのだ。そして、そのままRexの判断で慎重に捜索を行っていた、という訳だ。

 さらに理由としてあげられるのは自身のスキルたる鋼鉄軍団(アイアンレギオン)や、ステータスが更新されて新たに加わったスキルなどを試し、捜索に使えるモノを探していたからだ。

 

 

=============================================

名前:白鷺(しらさぎ)甲菜(こうな)

性別:女   レベル:8

天職:アイアンマン

筋力:5600×???

体力:6300×???

耐性:16990×???

敏捷:24390×???

魔力:34500×???

魔耐:18940×???

 

技能

 驪シ驩?サ榊屮

 鋼鉄軍団(アイアンレギオン)

 言語理解

 環境適応

 並列思考[+演算]

 思考加速

 生成・製作[+兵器]

 遠隔操作

=============================================

 

 

 スキルの中でも文字化けしたモノに甲菜は相変わらず予想がつけれずにいたが、それは後回し。甲菜は遂に、物語の分岐点となる一週間となる今日、ふと見た夢を思い返し、不思議な気持ちを抱いていた。

 

◆◇◆◇◆

 

 甲菜は目を開けると、視界いっぱいに夕日に染まった空に覆われた湖が広がっている。そして、自分はその上に立っていた。その証拠に足元の水面には波紋が浮かんでいるのがわかる。

 

「不思議な場所だろう?」

 

 足元を見ていると、前の方から声をかけられる。甲菜は訝しみながら俯けていた視線を前に戻すと、そこには一人の男性がいた。無精髭を生やした、懐かしい感じのする男性だ。

 甲菜の口からふと言葉が漏れた。

 

「.......トニー.....?」

「おや、僕のことを知っているのかい?」

 

 甲菜の言葉に男性はキョトンと驚いた顔をして、甲菜へと問いかける。

 

「その....貴方のアイアンレギオンを...」

「あぁ、わかっているよ。フライデーからの情報で君のことは知っているよ。ミス・コウナ」

「フライデーから.....?」

 

 甲菜は彼へ言いかけるが、言葉を遮る形でトニーからそう伝えられる。なんで名前まで知っているのかと甲菜が驚いていると、トニーの隣に先程まではいなかった少女が蜃気楼のようにふと現れた。

 

「お久しぶりです。甲菜さん」

「フィリアさん....!」

 

 一度だけ知り合ったことのある少女...フィリアの元へと駆け寄り彼女と熱いハグを交わした甲菜は改めて景色を見渡し、ある場所を思い出した。

 

「ここって、もしかしてソウルストーンの....」

「正確には、ソウルストーンの能力を擬似的に再現した空間です」

 

 フィリアの説明とトニーの存在から、間違いがないことを確かめた甲菜は一種の感動を覚えた。本物のトニー・スタークに、憧れの存在に会えたこともそうだが、再びフィリアに会えた事が何よりも嬉しかったからだ。

 

「でも、なんでまたいきなり........」

「それに関してはスターク氏から...」

「あ〜...僕から直接説明しなきゃいけないようだね。そうだな────」

 

 その前置きのあと、トニーからあることを告げられた。それは────

 

「世界軸の湾曲?」

「簡単に言えばそうだ。まぁ、詳しくは...」

「ここからは私が説明しますね」

 

 トニーからフィリアへ説明役が代わり、フィリアは甲菜へ説明してくれた。長かったので割愛するが、要約すると。

 

・元々存在する世界線に異分子を放り込むことで発生するのが、世界線の湾曲と呼ばれる現象。

・世界軸の湾曲は転生者が原作に介入する以前から(ひずみ)となって広がっていき、やがて原作から大きく乖離した運命を辿ることになる

 

 という二点がフィリアの話した重要なことだった。いきなり次元間のトラブルの話をされた甲菜だったが、ある程度のことは推察できた。

 これでも彼女は前世でアニメや漫画にどっぷり浸かっていた時期もあったのだ。女の子なのに、という話は野暮である。

 

「つまり...私のいるありふれ時空は既に原作とかけ離れている可能性があるってこと?」

「そう解釈してもらって構いません」

 

 フィリアからの返答を聞き、甲菜の脳裏にはハジメと雫、あの世界でできた友人たちの姿が思い浮かんだ。そして訪れる、蒼い業火。それは終焉を意味しているのか。はたまた別の意味を表しているのか。

 

「....進み続けたものにしかわからない、ね」

 

 フィリアは甲菜の口から零れた言葉に心当たりがあった。というよりも、その世界を救いたいと向かった転生者が結構いたため、フィリアも原作を確認はしていたのだ。

 トニーやフィリアの反応は蚊帳の外で、甲菜は己の心臓に当たるアークリアクターに手を当て、目を閉じる。心を燃やす蒼い炎が形を変えているのがヒシヒシと伝わってくる。

 やがて、一つの形に定まる。それは、今まで甲菜が見てきたロボットアニメ、メカアクション、そのすべてを集結させたアイアンマンスーツ。甲菜が創造し、文面での設定でしか実現できなかった、未知のロボットスーツ。

 

「...フィリアさん、私」

「転生特典の追加、ですか?」

 

 甲菜はコクリと頷いた。ダメ元での話である事を前置きに、甲菜はフィリアへ相談事を話した。

 その話を聞いたフィリアは、むむ...と少し唸った後、甲菜へ問いかける。

 

「一応、上司に話を通してみますけども...。その資料とか、ありますか...?」

「多分...前世のファイルに収められている、はず」

 

 甲菜の言葉を耳にして、フィリアは甲菜の前世からファイルを呼び出しペラペラとページを捲る。やがて、目的のページを見つけると、目を見開いた。そこにあったのは、綿密に設定されたオリジナルのアイアンマンスーツに、構想したであろうイラストの数々が載せられていた。

 トンデモ発想であることをフィリアは自覚しつつも、驚愕した。よくここまで設定をまとめられている、と。

 

「これが没になった...のですか?」

「う〜ん...没というか、これが完成したあと急にやる気が霧散しちゃって。あははは...」

「それは気になるね。どれどれ...」

 

 フィリアの手からスルリとファイルを取ったトニーがそのページを見ると、ほぅ、と小さな言葉を口から漏らした。トニーの目でもはっきりとわかった。それこそ、マーク85に匹敵するほどの戦闘能力と可能性を秘められたスーツであると。

 

「僕のとはまた違って、別のアプローチから攻めたスーツだね。マーク85のナノテクも加えたら、面白いことになりそうだ...」

 

 トニーの口からそんな言葉が発される。それはお世辞というわけもなく、正真正銘の、心からの称賛としての言葉だった。

 

「...よかったですね。スターク氏からのお褒めの言葉ですよ」

「茶化すのはよしてくれよミス・フィリア」

 

 トニーをフィリアがからかっているのを甲菜が苦情気味ながらも笑っていると、自身の手が文字通り消えかかっていることに気づいた。

 

「フィ、フィリアさん!?わ、私の手が消えかけているんですけど...!!」

「...もう時間切れですか。早かったですね」

 

 消えかけている事実を知った甲菜はワタワタとしているが、時間は無慈悲にも進み続ける。手の指先から掌部、そして手首へと...徐々にタイムリミットが迫ってきていた。

 

「安心してください。夢から覚める時間が来ただけです。向こうではきちんと起きれますから」

「...あ、そうか。ここ夢で構成された世界だったね」

 

 フィリアからの言葉に甲菜はホッと安堵の溜息をついた。締まらないオチなのが彼女らしいと言えばそうなのだが。

 

「...それではまた、会えるときに」

「はい。フィリアさんも、お元気で」

 

 最後に挨拶を交わした甲菜は、フィリアとトニーに見送られながら、光の粒となって溶け消えて行くのだった。

 


 

「...本当によろしいんですか?」

「あぁ、彼女なら使いこなせるだろうからね」

 

 甲菜が現実世界へと還った頃、フィリアとトニーはある程度話し、二人は彼女へ転生特典を送る下準備をしていた。

 甲菜が話していたスーツの原型と、トニーの最高傑作となるとあるスーツを2つだ。

 

「...少し過保護すぎたかな?」

「ふふ、いいえ?むしろこのくらいが丁度良いのでは?」

「笑ってるね?ミス・フィリア」

 

 そうして笑っていた二人だが、これからの彼女の世界に起こる歪みを思うと楽観視できる状況でもないことを改めて認識していた。

 

「...しかし、いいのですか?もしも彼女が────」

「彼女の人生さ。善に走ろうと悪に走ろうと、それは彼女自身が決めたことだ」

「そう...ですね」

 

 彼女───甲菜の今後を案じていたフィリアだったが、一方のトニーは断言した。まるで()()()()()のように、親として知っているかのように...。




ここからさらに投稿頻度が落ちる…かもしれないですし逆に早くなるかもしれません。
感想を貰うと(作者が)嬉しくなりますので、(可能な限りで)お待ちしています!


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