鳴女さんの令和ロック物語 (ディヴァ子)
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鳴女さん、令和の世に立つ

 最近、「鬼滅の刃」を大人買いして一気読みした結果、何故か鳴女さんが気に入ったので投稿しまシタ。息抜きも兼ねての物なノデ、令和の未来くらい先行きが不安デス。


 ――――――あっ、死んだわ、これ。

 

 我が血鬼術「無限城」に鬼殺隊の連中を引きずり込んでの最終決戦。ふとした油断から珠世(たまよ)の腹心である愈史郎(ゆしろう)の術中に嵌まり、無限城の支配権を奪われてしまった。

 当然、そんな事を許す無惨(むざん)様ではなく、最初こそ救出しようとしてくれたものの、鬼殺隊の柱たちによる猛攻に晒されるとアッサリ見限り、頭をパーンしてくれやがった。おかげで私は自分の根城ばかりか、人生からも退場する事と相成った。

 

『……ん?』

 

 そして、見知らぬ土地で目を覚ました。

 何だここは。建物が全部コンクリートとガラスで出来ているどころか、地面の全てがアスファルトだと?

 それに街行く人間共の装いも大分様変わりしている。やたらとチャラチャラしている者もいれば、葬式でもないのに正装をかましている輩もいる。中には「何処の文化だ?」と言いたくなるような奴もいた。

 そもそも、誰も彼もが持っている、あの平たいカラクリは何だろう。耳に当てて話す者もいれば、写真を撮る者、ガラス版を指で弄る者もいる。

 どうやら、色々な機能を持った電話のようだ。何それ、私も欲しい。

 ……というか、周囲の劇的な変化に戸惑っていたけど、現状一番目立ってるのって、私じゃね?

 大正の世でも充分に浮いていたが、今この場においては確実に浮き彫りとなっている。周りを必死に見渡してみても、着物姿の琵琶奏者なんかいねぇよ。

 どうしよう、何か凄く居心地悪いんだけど。長い前髪のせいで一つ目である事がバレていないのが、せめてもの救いか。知れ渡ったら、確実に騒ぎになるからね。

 

「おっ、スッゲェ美人」「まさに大和撫子って感じしてるじゃ~ん♪」

 

 とか何とか考えていたら、如何にも駄目な感じのチャラ男と、思わず右目が疼きそうな雰囲気の痛い男に絡まれた。

 

「やぁ、そこの君、渋谷のど真ん中で、そんな格好してどうしたの~?」「もしかして、誘ってる? なら、ちょっとお茶しな~い?」

 

 いや、何だこいつら。誰が誘い受けだこの野郎。「お茶しない?」とか言ってるけど、絶対ヤる気だろテメェら。

 つーか、ここ渋谷なのか。「最近大分発展してるなー」とは思っていたけど、何時の間にこんな有様に……。

 

「ほら、来なよ!」「俺たちが女の喜びって奴を教えてやんよ!」

 

 ……って、無駄な事を考えてる内に、路地裏へご案内されてた。やっぱ身体目当てなんじゃん。

 ムカつくわー。言動が物凄く元旦那(あのごくつぶし)にそっくりなんですけど。殺して良いよね?

 

『えい』

「ビッ!?」

 

 とりあえず、痛い感じの方から殺してみました。撥で脳天を唐竹割り。汚い花が咲いた。

 うーん、何度やっても心に響くわね、人を殺すのは。私は今生きているんだと実感させてくれる。

 

「へっ……カスパー? えっ、死んだの!? 嘘だろ!? つーか、一つ目!? 人間じゃないってのかよ!? うぁああああああああああ!」

 

 友人(カスパーというらしい)の死にチャラい方が漸く気が付き、腰を抜かす。安心しなよ、お残しはしないし、お前は頚を撥ね飛ばしてやるから。

 よし、まずは素振りを――――――、

 

「ひぃぃいいいいっ! や、止めてくれ! 殺さないでぇえええええっ!」

 

 すると、チャラ男が三つ指着いて命乞いを始めた。無惨様の集会でよく見たなぁ、この光景。

 と言うか、涙と鼻水はもちろん、股間から黄色い液体を垂れ流しにしてやがるよ、この男。ここが夜の路地裏で良かったな。往来の真ん中でそれやったら、ただの生き恥だぞ。

 まぁ、命乞いされたからと言って、聞いてやる筋合いは無いがね。所詮、人間なんぞ曲調を上げる為のカンフル剤でしかないのだから。

 

『よし、殺すかー』

「うひょあああああ! 止めて止めて、お願いしますぅうううう! ……あっ、何なら一緒にウーチューバーやりませんかぁああああ!? ちょうど、そこに転がってるゴミと一緒にやる予定だったんですよぉおおおお!」

『……“ウーチューバー”? 何だそれは?』

 

 というか、友達をゴミ呼ばわりするのはどうなんだ。半天狗みたいな奴だな、こいつ。

 

「えっ、あ、ハイ! ウーチューバーと言うのはですねぇえええええ!」

 

 それから、チャラ男のたどたどしくも分かり易い、ウーチューバーについての解説が成された。

 今の世の中、インターネットなる情報媒体によって全世界と繋がっており、ネット上での人気が現実での収益になり得るらしい。売れっ子作家みたいなものか。それが全国どころか世界規模で名が売れるのだから、そりゃ大金持ちだろうよ。

 さらに、インターネットにはウーチュブという“誰でも作れる映画集”があり、ウーチューバーはそれを自作する者の事を指すという。

 えー、何それ、凄い贅沢。映画ってだけでも凄いのに、映像はカラーで音声付き。それが只で見られるとか、良い時代になった物である。

 ああ、そうそう、チャラ男に確認した所、今は大正から百年以上経っており、「令和」という元号になっているそうな。天皇がお飾りになったり、国会が腐り切っていたりと、世も末な感じ。

 うーむ、これは一から常識を学び直した方が良いかもな。大正が浪漫とか言われてる時点で、全然会話が通じないもん。

 私は奏者として大成したい。無惨様に出会うまではそこそこ名は売れていたけど、所詮宿場町の一奏者としてだし、何より鬼になってからは誰も真面に聞いてくれなかった。無惨様も便利な女としてしか見てくれなかったしね。

 だからこそ、今度こそは自由気儘に弾き語りたい。あわよくば超有名になって、チヤホヤされながらニートしたい。

 幸い、今の私は無惨様の支配からは外れている。彼はおそらく殺されたのだろう。殺意ヤバかったもんなー、鬼殺隊(あいつら)。名が体を表し過ぎて、もはやあいつらが鬼だったわ。

 つまり、今の私は数少ない鬼の生き残りにして、自由の身という事だ。

 ならば、今世では好き勝手に生きるとしよう。今まではやって来なかったが、せっかく便利な情報媒体があるのなら、それを使ってもう一度「(じぶん)」を見詰め直してもいい。詳しく知る事が出来れば、私でも無惨様のような始祖になれるかも。そうなれば、最早誰も私には逆らえず、邪魔される事なく音楽活動が出来るだろう。

 そうと決まれば、

 

『よーし、ならば殺すのは待ってやろう』

「え、マ、マジですか!?」

『その代わり、私が売れるように努力しろ。私の為に働け。良いな?』

「ハ、ハイ……」

 

 そんな感じで、私はこのチャラ男(チャラトミという芸名らしい)を従え、令和の世で返り咲く事を目標に、動き始めるのだった……。




◆鳴女

 鬼舞辻 無惨のお気に入りである女の鬼。本名は不明。無限城という異空間を自由自在に操る能力を持ち、直接的な殺傷力こそ低い物の非常に厄介な存在である。最期は愈史郎と無惨の脳取りゲームの末に、面倒になった無惨の呪いで頭をヒートエンドされて死亡した。
 しかし、何の因果かゲゲゲなあいつの居る平行世界に生前の記憶と能力を保ったまま転生する事となり、好き放題に生き始める。
 人間時代は、賭ケグルイな夫のDVに悩まされる悲劇の奏者――――――と思いきや、一度キレれば平然と人を殺し(しかも最初の殺人が夫の頭をトンカチでケーキ入刀)、それを演奏の華にしてしまう、マジもんのキチ○イ。無惨との出会いも、「今日の一殺」をしようとしたら返り討ちに合う、という何とも言い難いもの。良くこんな奴を鬼(というか部下)にしようとしたな、無惨様。
 この世界では無惨という絶対的なストッパーが居ない為、色々と箍が外れた挙句、文字通りに暴走している。


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鳴女さん、新居を得る

 鳴女さん以外だと零余子と朱紗丸、姉蜘蛛辺りが好きデス。敵ばっかりヤン。


『ここがお前の家か』

「ハ、ハイ……汚い所ですが……」

『掃除しろ』

「はいぃいいいいいいいいいい!」

 

 という事で、私はチャラトミの家に来た。やもめ暮らしが汚い事は分かり切っていたので、まずは掃除をさせる。少しでも私をイラつかせたらゲームオーバーの、無惨式クイックルだ。暴力は全てを解決するって、ハッキリ分かんだね。

 そのおかげなのか何なのか、チャラトミは物の一時間で新築同然の部屋に磨き上げて見せた。凄いなお前。意外と家政婦の才能あるよ。

 それにしても、狭いなぁ。玄関と台所が直結してて、居間(客間兼任)が六畳しかないとは。

 一応、ロフトなる一段高い開けた屋根裏みたいな場所が二畳分くらいある(下は納戸になっている)が、それでもこれは狭いぞ。

 いや、確実に私の人間時代より良い生活してるけど、このチャラい男と一つ屋根の下で暮らすのはちょっとねぇ……。

 

『よし、今日からお前の部屋ここな』

「え、ここ押し入れじゃ……」

『返事は?』

「はい」

 

 さて、部屋割りも決まった事だし、さっそく模様替えをしよう。

 まずは琵琶を置く場所を確保して、布団はロフトの上で、居間には机と座布団を敷いてっと……。

 

『フム、中々の出来栄えだな』

 

 何と言う事でしょう。手狭で圧迫感しかない小さな居間が、あっという間に質素で落ち着いた感じに様変わり。こうしてみると、狭いのは狭いので有りかもな。大体の物が手の届く範囲にあるし、掃除も簡単。プロも(納戸に)いるしね。

 

『おい、チャラ男』

「ハイ! な、何でしょうか!?」

『まずはパソコンとやらの使い方を教えろ。それから“動画”の作り方もだ』

「了解であります!」

 

 身辺整理が出来た所で、私はさっそくチャラトミにパソコン講座を命じた。ウーチューバーの時もそうだが、こいつの説明は案外分かり易い。講師でもやればいいのに……と思ったけど、チャラ過ぎて駄目か。

 まぁ、これからは精々私の為に扱き使わせてもらおう。よろしくねぇ、先生?

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 やぁ、皆!

 俺だよ俺、皆の主役チャラトミさんだよ!

 さっそくだけど、運命って言葉に付いて、皆の意見を聞きたいんだ。

 ――――――友達と大和撫子をナンパしようとしたら、彼女は一つ目の化け物で、友達を殺された上に奴隷にされたんだけど、俺はどうしたらいいんだろう。誰か助けて。

 だが、俺は知っている。こういう時に限って、誰も助けてくれないって事を。

 だから、俺は素直に鳴女とかいうこの化け物に付き従う道を選んだ。逆らっても殺されるだけだし。何より一つ目以外の見た目はド直球で俺の好みだし。

 正直、かなり興奮する。今思うと、一つ目ってのもアバンギャルドな感じがして、逆に良いかもしれない。何時かヤらせてくんないかなぁー。

 ま、それは置いておいて。

 どうもこの鳴女さん、「鬼」という種族であるらしい。もう何百年も生きていて、今はネットアイドルを目指しているんだとか。アグレッシブ過ぎませんかね?

 というか、本人は鬼って言ってるけど、話を聞く限り、俺的には“和風の吸血鬼”って印象なんだよな。だって血を媒介にして増えるし、日光に弱いし。銀や十字架が効くのかは知らないが、少なくとも本人はニンニクが嫌いなようである。商売柄、強い臭いは駄目なんだとか。ただの好き嫌いじゃん。

 それを鳴女さんに伝えてみた所、“なるほど”と納得して、器用にネットを使い調べ始めた。結構適当に教えたのに、よく使い熟せるな。本当に大正時代で知識ストップしてんのか?

 それから、動画についての説明を交えながら、鳴女さんは己の種族に対して仮説を立てていく。曰く「今の自分は支配を逃れた従僕鬼。絶対の安心を得るには、力を高めなければならない」んだとか。現代に蘇って間もないのに、お疲れ様です。

 しかし、ここで人間をオススメすると真っ先に俺が食われるので、俺は代案を用意した。

 

『……「妖怪」だと?』

 

 そう、妖怪だ。目に見えないが、確かに存在する化け物。

 何時だったか、ノリで「のびあがり」とかいう奴の封印を解いたらえらい目に遭ったので、まず間違いなくいる。その類の連中が、今もこの世の何処かに。

 

「鬼は人間しか食えないって話ですけど、あくまで“人間の食い物”が食えないだけなんですよね? 妖怪も人間を喰う、謂わば同類。食うならそっちの方が栄養あるんじゃないんですかね?」

 

 おお、冴えてるぞ、俺。何の根拠もないけど、ファンタジーによくある設定を引っ張り出して、それっぽい説明が出来てる。人間、命が懸れば何だってやれんだね。

 

『フム、確かにその通りかもな。吸血鬼の特性を鑑みれば、食事の質を上げるに越した事はない』

 

 よいよし、上手く矛先が人間以外に向いてくれた。東京でグールみたいな真似されちゃ敵わないよ、いやマジで。

 ともかく、これでヘマさえしなければ、俺の生活は安泰――――――。

 

『よし、まずは自己強化から始めるか。お前詳しそうだし、案内しろ』

「え?」

『そして、良い感じで囮になれ。安心しろ、一応は殺される前に妖怪の方を殺してやるから。間に合わなかったら知らんけど』

「………………」

 

 オーノーッ!

 ――――――こうして、俺の日常は一気に様変わりした挙句、命の危機が付き纏う毎日を送る破目になったのだった。口は災いの元……。




◆チャラトミ

 ゲゲゲ世界の住人にして、鳴女が一番最初に接触した人間。
 名前通りにチャラい上に渋谷のスクランブル交差点のど真ん中で自撮り中継したり、ノリで「のびあがり」の封印を解いたりなど、傍迷惑な行為ばかりしている阿保。まさに“モラルの無い今時の人間”そのもの。
 そんな事ばかりしていた報いなのか、目の前で鳴女に友人(ゴミ)のカスパーを食われた挙句、奴隷生活を強いられるようになる。
 しかし、一つ目である以外、鳴女は結構好みのタイプである為、密かに彼女へ欲情してたりする。


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鳴女さん、夜釣りをする

 鬼滅の刃に登場する妖怪染みた鬼たちの姿を見ていルト、この作品では「妖怪というニッチ」に無惨系の鬼が割り込んだ形で成り立ってるんだろうナァ、とちょこちょこ考えていまシタ。


 おはよう諸君、音川(おとかわ) 鳴女(なきめ)だ。

 今時は苗字が無いのは変らしいので、とりあえず音川という姓を名乗ってみる事にした。何か音柱みたいで嫌だが、妙案が浮かぶ訳でもないので、このまま行くとしよう。どうせ偽名だし適当で良いでしょ。

 そんな事より妖怪である。

 チャラトミ曰く、この世界には物の怪が本当に存在するらしい。そんなの無惨様だけかと思ってたわ。話を聞く限り、栄養価は人間よりも高そうだし、手っ取り早く力を高められそうなので、積極的に狙っていこう。

 さぁ、いざ妖怪ウォッチ――――――と言いたい所だが、今は朝。既に日が昇っている。日光に弱いのは相変わらずのようなので、探索は夜まで待とう。

 とりあえず寝るかー。本来、鬼に睡眠は必要ないけど、暇な時は寝るに限る。寝る子は育つって言うし、起きてるとチャラトミを食べちゃいそうだし。

 

『私は夜まで寝る。お前は今の内に準備を進めろ』

「分かりました!」

 

 という事で、ロフトの布団に横たわり、目を瞑る。

 この部屋は日照権はどうなっているんだと言わんばかりに日差しが入らないので、連れ出されでもしない限り寝首を掻かれる心配はない。

 本当は無限城に避難するのが一番安全なのだが、高が人間とは言え手の内を明かし過ぎるのもアレなので、今は使わないでおく。流石に触られれば気付くので、何の問題も無いしね。

 ついでに、今後ついても考えを纏めよう。

 私たち「鬼」は、チャラトミに言わせれば「吸血鬼」らしい。血を媒介に増殖し、親が死ぬと眷属も死ぬなどと言った特徴が、まさにそうなんだとか。

 うん、確かに納得の答えだ。書物に載っている“地獄の鬼”とは全く違うし。無惨様は吸血鬼だった?

 ま、そんな事はどうでも良い。重要なのは私が“真祖”になれるかどうかである。

 吸血鬼の従僕が自由になる条件は、主が死ぬか下克上を果たす事。私は少なくとも前者の条件は満たしている。

 だが、それだけでは“野良”になっただけで、無敵の存在になったとは言い難い。弱点はそのままであり、何かの間違いで無惨様が復活したら再び支配されてしまう。

 それを回避するには、私自身が真祖となる事だ。全ての始まりとなる事で、自己完結するのである。その為には己の力を高め、無惨様以上の鬼とならなければならない。

 幸い、吸血鬼は同族も食えるし、食えば食う程力が上がる事も分かってる。本質的には無惨様の血が必要なのだが、本人が居ない以上、私の血を濃くするしかないだろう。

 だから、私は妖怪を喰ってやるのだ。人間を餌にする者同士、カロリーが高いに違いない。

 

 ……と、そんなこんなで数時間経過し、夜。

 

「おはようございます、鳴女様ぁ!」

『おはよう』

 

 うーん、良く寝た。ここまで安眠出来たのは久し振りだな。

 ……何も仕掛けて来なかったのは、正直意外だな。覗き見はされたようだけど、触りもしなかった。

 まぁ、もし仮にお触りされたら、慰謝料として命を貰っていたけどね。

 

『それで、目星は付いたのか?』

 

 本当は探知の使い魔でも事足りるが、夜でも明るい今の世の中では悪目立ちする可能性が高く、何より力を使うのが面倒臭い。結構疲れるのよ、アレ。

 だからこそ、こいつを使うのである。木を隠すなら森の中。どんなに頭がアレな奴でも、人である以上、人間社会に紛れ込ませれば、幾らでも誤魔化しが利く。鬼である私には出来ない事だ。

 

「ハイ! 俺の調べによると、この辺りに――――――」

 

 ――――――さぁ、鬼狩りならぬ、妖怪狩りにでも行こうか。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 草木も眠る丑三つ時。

 俺と鳴女さんは、自宅から程近い公園に来ていた。最近ここの池にお化けが出ると言う。何でも人の顔をした魚なんだとか。所謂「人面魚」である。

 

『……魚は食えないと言った筈だが?』

「人食いの妖怪なら別でしょ? ……まぁ、胃が受け付けない可能性もありますけど、逆に食べられれば何人、何十人分の栄養になりますよ」

 

 噂話によれば、池を覗き込む人間を人面で驚かせ、怯んだ隙を突いて食ってしまうらしい。

 それを信じるなら、この人面魚は子供騙しなアレではなく、本物の化け物という事になる。人の血肉が混じった実体のある妖怪であれば、人食いの鬼でも消化出来る筈。出来なくても知らん、それは俺の管轄外だ。だって、人間だもの。

 

『よし、さっそく餌になって来い』

「そうなりますよねー」

 

 チクショウ、分かってはいたけど、嫌な役回りだなぁ。

 でも、やるしかない。ここで逃げても殺される。前門の人面魚、後門の鳴女。嫌過ぎる……。

 

「こ、こんばんは~?」

 

 一先ず例の池を覗き込んでみる。公園のど真ん中にあるだけあって結構広く、ネッシーは無理だがピラルクぐらいなら余裕で棲めそうなくらいに大きい。アオコが張っていてお世辞にも奇麗とは言い難いけど。思わず掃除したくなる。

 

『ウフフフ……』

 

 と、その時。夜でも分かるくらいに緑色になった水面に女の子の顔が浮かび上がった。赤い黒目と銀のショートボブに二本角が特徴の、とびっきりのカワイ子ちゃんである。カスパーが好きそう。

 しかし、そんな感想は次の瞬間吹き飛んだ。

 

『キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!』

 

 一瞬、顔が引っ込んだかと思うと、金切り声を上げながら飛び出して来た。その姿は、頭だけが鬼っ娘に挿げ替わったギャ○ドスという不気味な物。雑コラ過ぎんだろ。

 しかも、よく見ると胴体も魚のそれとは言い難く、人間の手やら足やら胴やらが滅茶苦茶に混じり合った肉塊が数珠繋ぎになっているという、かなりグロい物となっている。クトゥルフ神話辺りに出て来そうだなぁ。

 だが、条件を照らし合わせてみると、こいつが紛れもない妖怪である事が分かる。角の生えた人面を持つ魚――――――和式の「人魚」だ。淡水産だから「髪魚」か。形態的には「神社姫」が一番近い気がするが、とても厄除けしてくれそうもないので、おそらく成長し過ぎただけなのだろう。一体どれ程の人間を食って来たんだか。普通に怖い。

 うーん、カスパーが神話や伝承(そういうこと)に詳しかったせいで、俺までドップリ染まっちまったよ、全く。

 

◆『分類及び種族名称:怪魚超獣=髪魚(はつぎょ)

◆『弱点:頭』

 

 ……って、棒立ちしている場合じゃない。早く逃げなきゃ!

 

「『ゑ?』」

 

 しかし、いざ後退しようとした瞬間、浮遊感に襲われた。

 否、浮いてるんじゃない。落ちている。

 下を見ると、足元が池の一区画ごと開けた襖になっていた。その先は歪な空間。上下左右が滅茶苦茶になった日本式の城内と言った感じで、その歪みの中心には琵琶を弾く鳴女さんが。

 たぶん、これが彼女の妖術なのだろう。空間系の使い手って所か。

 ホント、カスパーのせいで異能や超能力(そっちけい)にも詳しくなっちまったよ。

 というか、今思うとあいつ色んな事に精通してたよなぁ。オカルトの専門家と思いきや、歴史や科学にも詳しかったし。案外、死ぬには惜しい男だったのかも。キャラがアレだから別にいいけど。

 つーか、このままだと俺、落下死するんじゃ、

 

 ――――――べべん!

 

 と思ったら、いつの間にか鳴女さんの傍に座っていた。この空間は彼女の根城であり、自由自在なようだ。

 それじゃあ、髪魚は?

 

『ギャアアアアアアッ!』

 

 すると、目の前にバラバラになった髪魚がボトボトと落ちて来た。まるで見えないピアノ線で刻まれたように、奇麗な輪切りにされている。琵琶の弦でも使ったのだろうか。

 だが、これだけ切り刻まれても死なない辺り、やっぱり化け物である。

 

『なるほど、確かに生物だ。それに藤の花は効かないが、菖蒲の汁は毒になる(・・・・・・・・・)ようだし、私たちと似て非なる存在と見て良いだろう。言うなれば、人を生産者に(・・・・・・)見立てた(・・・・)食物連鎖の一員か(・・・・・・・・)。これは面白い。是非とも味わわせてもらおうか』

 

 それでも、所詮は魚。鬼の敵ではなく、あっという間に平らげられてしまった。食い方が柱の女って感じなんですが……。

 そして、鳴女さんが残る頭を丸呑みにしようとした、その時。

 

「復っ活ぅうううううっ!」

 

 頚の切り口から人間の胴体が生えてきた。




◆髪魚

 人魚の一種で水神の眷属。和式の人魚の仲間なので、頭だけが人間の人面魚形態である。こちらは基本的に淡水に棲んでいて、海の人魚にはある角は無い。たぶん、淡水魚と海水魚の違いみたいな物だろう。別に食べても不老不死にはならないし。
 ちなみに、「神社姫」はアマビエのように「自分の姿を描くと無病息災になる」という特徴がある。とりあえず「姫」という名が付く物の、可愛くはない。


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零余子チャンカワイイヤッター!

家族が増えるよ、やったね鳴女さん!


 私の名は零余子(むかご)。元は下弦の肆だった鬼だ。

 しかし、お気に入りだった下弦の伍である累が討伐され、その八つ当たりとして下弦の鬼を解体する、という意味不明な結論に達した無惨様によって殺されてしまった。酷い話である。ちょっと鬼狩りの柱から全力で逃げようと思ってただけじゃん。心の狭い奴め。

 だが、絶望の淵で死に至り、地獄に堕ちるのを待つばかりだった筈の私は、何故か転生した。遥か未来(・・・・)前世の記憶を持った(・・・・・・・・・)人間の赤子として(・・・・・・・・)

 私は歓喜した。言葉にならない産声を上げてはしゃぎまくった。

 不老不死の鬼では無くなったものの、日の下を歩け、美味しい物を食べられる。家庭は温かで、周囲も優しい人ばかり。何よりあの腐れ外道の陰に怯える必要がない。

 まるで、今までの不幸な人生を取り戻すかのような、幸せな今世だった。

 その後、私は何不自由なくスクスクと育ち、幸福な毎日を過ごして来た。

 しかし、同時に不安もあった。あまりにも幸せ過ぎて、その内とんでもない不幸が来るんじゃないか、と。

 そして、その懸念は現実となる。

 私が十四歳の誕生日を迎えたその日に、大型トラックに撥ね飛ばされた。

 否、そんな生易しい物じゃない。車体の下に引きずり込まれ、アスファルトとタイヤに削られて、見るも無残な生ごみと化した。

 だが、私は死ななかった。挽肉になったその場で、逆再生のように元通りとなったのだ。

 むろん、交差点のど真ん中でそんな事をやらかしたので、多数の人間にスクショされ、あっという間に拡散されてしまった。

 私は混乱し、絶望した。人間に生まれ変わった筈なのに、今度こそ幸せな人生を歩めると思ったのに、どうして。

 その後は最悪の一言だった。

 あれだけ優しかった両親や周りの人々は掌を返すように化け物と蔑み、追い立てた。

 しかも、無修正で動画を上げられたせいで、何処へ行っても顔バレしてしまい、一所に収まる事さえ出来なかった。

 もう、この世に私の居場所は無いのである。これなら地獄に堕ちた方がマシだ。

 だから、私は偶々通り掛かった公園の池に身投げした。盗み聞きした話によると、この池には人を丸呑みにする程の化け物がいると言う。そんな怪物がいるなら、楽に殺してくれるだろう。

 私は涙と渇いた笑みを浮かべながら、池に飛び込んだ。

 案の定、すぐに化け物に見付かり、一口で食べられ、私の二度目の人生は終わりを迎えた――――――筈だった。

 だが、私はまたしても死ねなかった。消化され、吸収されたにも関わらず、私の意思は滅ぶ事なく、逆に怪物の脳髄を乗っ取り、一体化した。顔も懐かしの下弦の鬼時代に戻り、池の底に潜みながら獲物が来るのを待つ日々が始まった。

 嗚呼、何て事だ。せっかく人間として生まれ変わったのに、その結末がこれか。現世だと思っていたこの世界は、実は地獄だったのかもしれない。誰か助けて。

 しかし、仄暗い水の底で己の不幸を嘆きながら過ごして来た私に、更なる不幸が襲い掛かる。

 今日も今日とてチャラい男が晩御飯かと思い、水底から奇襲を仕掛けたら、ある筈の無い無限城に引き込まれ、いる訳が無い鳴女と出遭ってしまったのである。

 だが、身体を切り刻まれ、化け物から分離されたおかげで人の姿を取り戻す事は出来た。

 ついでに、知る前に死んだのに何で鳴女の事を知っていたのかも思い出した。殺される間際に、無惨様の細胞から記憶の一部が流れ込んで来たのだ。意図的か偶然かは不明だが、正直いい迷惑である。

 しかし、復活したのは良いけど、どうしよう。最早真面な社会生活は望めないし、何より目の前のこいつが見逃してくれるとは思えない。チャラ男を部下にしてまで待ち構えていたのだから。

 

『久し振りだな、下弦の肆。……名前は零余子、だったか? 人間として生まれ変わっているとは思わなかったが、一先ずの生還おめでとう。一体何がどうしてそうなったのか、詳しく話してもらおうか?』

 

 とか考えて一人絶望していたら、鳴女にアイアンクローで捕まってしまった。

 ぎゃおおおおおん、痛い痛い痛い痛い、止めて止めてぇえええええええええ!

 

「鳴女さん、とりあえず引き上げません? あんまり道草食ってると夜が明けちゃいますよ?」

『それもそうだな。今日はもう帰るとしよう。貴様にも来てもらうぞ、零余子』

 

 そんな感じで、私は鳴女の自宅(?)にお持ち帰りされた。

 つーか、この人こんなに高圧的だったけ?

 まるで無惨様みたいなんですけどぉ~っ!

 

『おい、今失礼な事を考えなかったか?』

「い、いいえ! 考えてません、考えてません! 滅相もございませんんんんっ!」

『そうか。ならば良い』

 

 ……ここで「私の言葉を否定するのか」とか言って殺さないだけ、まだマシ、なのだろうか?

 いや、違う。この人、たぶん無惨様とは別ベクトルでヤバい奴だ!

 だって、養豚所の豚を見るような目で見下して来てるもん。人間とか鬼とか関係なく、自分以外はどうでも良いって顔だぁ!

 うわぁああああっ、助けて、そこのチャラい人ぉ~!

 

「フッ……!」

 

 サムズアップしてんじゃねぇ!

 というか、何を勝手に人の裸を見てるんだ、この野郎!

 嗚呼、やっぱり私は世界で一番不幸な美少女だぁ~ん!




◆零余子

 下弦の肆を務めていた女鬼。下弦の伍「累」が討伐されて不機嫌極まる無惨に呼び出され、どんな血鬼術を使うのかすら分からない内に物語から退場した。その際のやり取りと絶望顔は必見。少なからず何処ぞの十一人衆が一人を思い出した人もいる筈。あっちと違って食われて死んだけど。
 常日頃から「その辺の人間や鬼狩りの一般隊士は殺すし食べるけど、柱とは戦わずに全力で逃げたい」という、謂わば「楽な仕事でお茶を濁して、美味しい所だけは頂く」事ばかり考えていた模様。思考回路がサイコロステーキ先輩と一緒である。
 むろん、上昇意識の無い者に厳しい無惨が許す筈もなく、見苦しく言い訳しようとする彼女を「私に意見するのか」と一蹴して、血の絨毯にした。南無三宝。零余子は自分が誰の部下なのかもっとよく考えるべきだっただろう。
 余談だが、このパワハラ会議に呼び出された者の殆どが「口先と小手先だけは器用な役立たず」ばっかりだったので、無惨の気持ちも分からんでもない。少しは響凱を見習え。


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鳴女さん、抱き枕を得る

 ※若干グロい描写がありマス。ご注意くだサイ。


 こんばんは、諸君。音川 鳴女だ。

 チャラトミの謎知識と検索能力により、無事に髪魚なる妖怪を食す事が出来た。結構美味かったぞ、あれ。やっぱり人間を食ってる魚は違うな。

 ……正直、食えるかどうかは五分五分だったし、何よりチャラトミの情報は正しいのか怪しかったのだが、その両方が上手く行った。キチンと力も上がっているし、本当にビックリである。ただのチャラ男だと思っていたけど、何者なんだろう、あいつは?

 というか、あんな馬鹿デカい怪魚が近隣の公園に潜んでいた事を、誰も何も思わないのだろうか。都会の人間は本当に無関心だなぁ。誤魔化すのが楽だから別に良いけど。

 それよりも、今は零余子だ。まさか私以外の鬼が、人間として転生しているとは思わなかった。

 さらに、取って食っても死なず、常に再生し続ける不死身の存在。どういう理屈でそうなったのかは知らないが、これ程便利な物は無いだろう。

 

「あぁあああああっ! 痛い痛い、止めてぇえええええっ!」

『煩い奴だな。どうせ生えて来るんだろう? それに、何処までやったらアウトなのか、そもそもどういう体質なのか、知っておいた方がお前の為でもある』

「だからって食べないでくださーい!」

『嫌だね、食べちゃうよ~』

「フレンズになれない~!」

 

 とりあえず、無限城に閉じ込めて、解体ショーに勤しんでみる。

 こいつ、本当に死なないな。切っても潰しても、何なら焼いてみても、壊れた傍から再生していく。下手すると再生力だけなら無惨様を超えてるんじゃなかろうか。こんな有様でも肉体的には人間なので、藤の花も通じないし。

 だが、身体は人間なので、鬼のような力は無い。チャラトミをパンチ一発でぶっ飛ばす程度の腕力はあるようだが、それでも私には遠く及ばない。単に死なないだけの一般人である。

 一応、その凄まじい再生力を活かして、相手を細胞的に乗っ取る事も可能なようだが、それは弱い相手だけであり、私には全く通用しなかった。本体とも言える脳髄を吸収しなければ問題ないだけなのかもしれないが、どちらにしろ脅威にはなり得ないだろう。所詮は元下弦の肆か。

 しかし、その絶妙な弱さのおかげで、私には多数のメリットがある。

 まず、いざという時の非常食が確保出来た事。

 

『お前、今日から私の抱き枕な』

「えっ、何で!?」

『あと、私の目が届く範囲で四肢を再生させるの禁止な。布団が狭くなるし』

「理不尽んんんっ!」

 

 そして、安眠用の抱き枕が手に入った事だ。私、昔から何かを抱いてないと眠れないのよねー。

 その点、こいつの身体は良い。肌はモチモチすべすべで、人間としての温かみがある。何か良い匂いもするし、これ程に抱いていて気持ち良くなれる枕もそうそう無いだろう。

 という事で、今日からお前は達磨女(全裸)だ。再生力は致命傷でない限り調整が利くようなので、必要時以外はずっとこのままでいてもらおう。

 嗚呼、何て充実した生活なんだろうか。自分だけの部屋があり、最高の抱き枕が手に入り、力を上げる方法も分かった。ここまで順調だと逆に心配になって来るが、今は考えないでおく。

 そんな事よりも、音楽活動についてである。生活基盤がある程度出来上がったのだから、そろそろ奏者として名を売り始めたい所。

 その為にも、まずは勉強だな。ネットの傾向から言って、ただ弾き語りするだけでは目立たないだろうし、自分なりの演出を考える必要がある。流行りを追い掛けてるだけじゃ、二番煎じだからな。

 そうと決まれば、動画を見よう。アニメや実写、MADなど、ジャンルを問わず、片っ端から視聴する。

 

「………………」

 

 零余子を抱き枕にしながら、ね。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 やぁ、皆。チャラトミさんだよー。

 今日はとてもお目出たい日だ。家族が増えたよ、やったね鳴女さん!

 ……と、冗談はこれくらいにして。

 鳴女さんに命じられるまま、髪魚を一本釣りした訳だが、何とその死骸から女の子が再生したのである。名前は薬師寺(やくしじ) 零余子(むかご)というらしい。鳴女さんの知り合いみたいだから、どうせ偽名だろうけど。

 だが、肉体的には人間であるらしく、単に再生力が異常なだけなんだとか。その時点で人間辞めてるとか言ってはいけない。確か何かの小説で似たような名前と能力を持ってる奴がいた気がするが、偶然だろうか。

 ――――――で、その意思を持った癌細胞みたいな零余子ちゃんだが、今は鳴女さんの抱き枕になっている。四肢の無い、生まれたままの姿で。

 どうしよう、凄く煽情的なんですけど。鳴女さんも寝る時は裸族になるらしく、異形の女性と身体が欠損した女子が裸で抱き合うとか、物凄く趣味を選ぶ構図となっている。

 ……鳴女さんには零余子ちゃんを「使っていいよ」と言われているが、視線で人を殺しそうな勢いで睨まれるので、止めておく。それに筆を下ろすなら、鳴女さんが良いしね。

 とりあえず、ご馳走様です。正直、見てるだけで抜けます。うっ……ふぅ……。

 

「………………!」

 

 「死ね、この変態がぁ!」という目で見られたような気がするけど、そんなの知らんなぁ。

 何か言いたいなら口に出しなよ。無理だろうけどね。ガタガタ震えるだけでも鳴女さん怒るし、喚き散らしたら死ぬのは零余子の方だ。殺しても死ねないから、終わりもない。

 いやー、実に素晴らしいおかずですわ。これからもよろしくねぇ、零余子ちゃん♪




◆鬼(鬼滅の刃)

 無惨を頂点とした血で血を繋ぐ、真社会性昆虫のような生態の怪物。現世で疫病を齎す「瘟鬼」や地獄で呵責を行う「鬼人」たちとは全くの別系統であり、“血を媒介に増殖する”“殆ど不死身だが日光に弱い”“始祖が滅べば眷属が諸共滅ぶ”など、西洋の吸血鬼を思わせる特徴が多々見られる。その生命力と感染力は凄まじく、妖怪としてのニッチをまるごと奪ってしまう程。唯一無二の獲物が「人間」。他の物は摂取出来ない。
 その正体は、薬学により生まれた人間の突然変異にして新種。ある意味、病気と言ってもいいだろう。
 ちなみに、鬼は瞬きも睡眠も必要ないが、今作の鳴女はきちんと昼間に目を瞑って寝ている。これは「休息」と言うより「進化」の為で、睡眠中に物凄い速さで自分を作り変えている。


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鳴女さん、悪戯に行く

 そう言えば零余子や朱紗丸って何歳で鬼になったんでしょウネ?


 やぁ、諸君。皆大好き(?)鳴女さんだ。

 この時代にやって来て早半月。何だかんだで楽しく人間社会を生きている。

 とりあえず、ウーチュブでは「鳴女さん」名義で活動している。主に琵琶の演奏をしており、他の楽器を使ったり、ゲーム実況をしたりもしている。音楽関連が「鳴女さんの「奏」の呼吸」、実況系が「鳴女さんの「操」の呼吸」で別れているから、観たい方を見てくれると良い。

 ちなみに、今はファンタジーな世界でモンスターを狩るゲームに嵌まっている。筐体共々チャラトミに買って貰った。余談だが、彼と零余子は狩り仲間である。

 ――――――って、おいコラ、ブレス吐くなこの野郎。大人しく部位破壊させろ。上手に焼かれたいのか。

 

『……フム、今日はここまでだな。それでは諸君、また会おう』

 

《ラジャラジャー》《今日も素敵です鳴女様》《流石は操の呼吸の使い手》《奏の呼吸の方も待ってます》《初見ですけど楽しめました》《これからも頑張ってください》

 

 ウムウム、初見さんも常連の諸君も楽しんで頂けたようで何より。再生数はまだまだだが、固定ファンが出来たのは素直に嬉しいな。投げ銭(スパチャ)して貰えるように頑張ろう。

 

「今日も盛況だったみたいっスねー」

 

 と、録画の休憩中なのか、チャラトミが声を掛けて来た。

 こいつは既に単独でチャンネルを持って活動しており、しっかりスパチャも貰えている。一番人気は「チャラトミさんの妖怪講座」だそうだ。お前、本当にチャラい癖に頭は良いよな。

 

『ああ。収益化達成までもう少しだ』

「この短期間でそこまで登録者増やせるのは、素直に凄いと思うっスよ。やっぱり、あの曲……えっと……紅蓮……ラガン?」

『ガンメンじゃなくて華だ華』

 

 まぁ、人気は天元突破したいけどねぇ。

 

「ああ、そうそう、それが受けたんスね。デビュー曲ですもんねー」

『琵琶版もギター版も大人気だったぞ。ここまで人気が出るとは思わなかったがな』

 

 蛇足だが、この曲は昔に無惨様が口遊んでいた鼻歌をモチーフにした物である。色々な趣味を持つ人だったが、音楽の才能まであるのはビックリしたなぁ。

 しかし、イントロしか知らなかった鼻歌を、きちんとした唄に出来たのは、他でもない零余子のおかげだ。どんなに頭をかち割っても死なない彼女が、“何度でも立ち上がる人間の強さ”を連想させてくれたのである。本人は凄い泣き叫んでいたけど。

 そうか、泣く程嬉しかったかぁ。後で可愛がってやろう。

 

『しかし、ここまで人気が出るとなると、せっかくだから歌声を付けたいな』

「……一応言っときますけど、俺かなり音痴っスよ?」

『大丈夫だ、頼む相手は決まっている』

 

 という事で、

 

『ちょっと歌ってみないか?』

「いきなり何を言い出すのよ」

 

 湯船に浮かぶ零余子へ尋ねてみる。

 彼女とはお風呂もご飯も布団も一緒だ。最初は抱き枕にするだけだったが、何度も作曲の糧になって貰っている内に愛着が湧いてきた。普通に可愛い顔してるしな。

 達磨だからスペースも取らないし、何なら世話をする楽しみもある。実に素晴らしい抱き枕である。

 

『ほら、お前のおかげで完成した、あの曲を歌って欲しいんだよ』

「ああ、文字通り私の血と涙の結晶ね……」

『そうだ。お前をイメージして作ったから、是非ともお前の声を吹き込みたいんだよ』

「………………」

 

 しばし、零余子は「マジかこいつ」という表情を浮かべていたが、やがて「どうせ断れないんでしょ」と了承してくれた。

 うんうん、頷いてくれて何より。もし断られたら、とっても上手に焼いてやる所だったぜ。

 

『はい、あーん』「……あーん」

 

 そんな可愛いお前はめいっぱい愛でてあげる。お風呂上がりの零余子ご飯は美味しいだろう?

 

『……さて、お楽しみはこれくらいにしておこう』

「おっ、もしかして“ご飯”っスか?」

『そうだな。頼むぞ、チャラ男wiki』

 

 零余子の餌やりも終わったし、そろそろ私も食事にあり付くとしようか。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

『「座敷童子」だと?』

 

 無表情で首を傾げる鳴女さん。下弦の月をバックにする姿は実にふつくしい。

 さてさて、夜の街からこんばんは、チャラトミさんだよ。

 今、俺たちは、とある呉服屋さんの前にいる。もちろん、鳴女さんの食事の為だ。

 

『座敷童子ってアレだろ? 居ると儲かって、出てくと破産する、有難迷惑な子供妖怪』

「はい、それで合ってるっス」

『そんなのが、ここに居るのか? 都会のど真ん中だぞ?』

「ファンからの情報提供もあったし、間違いないっス」

 

 ここ最近、この呉服屋の売り上げが異常なまでに伸びている。少し前までかなり傾いていたのに。

 さらに、“訪れた買い物客が子供のような人影を見た”という噂も流れている。実際に来店したファンが確かめたから、まず間違いない。確実に居る。

 と言うか、座敷童子は基本的に商家に憑く妖怪だから、都会か田舎かは関係ない。そこに家があれば、何処にでも湧いて出る可能性がある。

 

『ファンの情報なんて当てになるのか?』

「俺のチャンネルでは、“ファンからの情報を基に妖怪の分布図を作ろう”って企画をやってるんスよ。だから、黙っていても常に情報が入って来ます。再生数も増えて一石二鳥っスよ」

『お前、チャラい癖に凄いな』

 

 それは褒めてるんですか、貶してるんですか。

 と言うか、このシステムを立ち上げたのはカスパーだから、本当に凄いのはあいつなんだよなぁ。

 むろん、俺のアレンジも加えられているけどね。将来エンジニアでもやってけそうな気がする。

 

『まぁ、お前の情報は基本的に外れが無いからな。さっそく頂きに行くとしよう』

「了解っス」

 

 そして、俺たちはとっくに営業時間を過ぎているであろう呉服屋にお邪魔した。無限城の座標転移でね。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 こんばんは、零余子です。

 生前は下弦の鬼、今世では不死身の人間、今現在は鳴女の抱き枕やってます。誰か助けてぇ。

 ちなみに、鳴女と拠点の家主であるチャラ男は二人でお出掛けしている。手頃な妖怪をご飯にする為に。前菜代わりに私のお肉を少し食われたのは内緒。再生するから良いけどさ。

 ……で、今の私はお留守番。部屋ではなく、無限城の中で。そこでは手足を生やして良いので、四肢を再生しつつ外の様子を見ている。例の使い魔のおかげで、何時でもライブ配信状態である。

 フム、今回の獲物は座敷童子か。いきなり奥座敷に転移して接敵とか、本当にズルい血鬼術だなぁ。向こうもビックリ仰天してるよ。

 ――――――って言うか、あの座敷童子、朱紗丸(すさまる)ちゃんに似てない?

 確か、十二鬼月に成る事を夢見ていた、鞠使いの女鬼だ。あんまり会話をした事は無いし、割とあっさり死んじゃったから、どんな性格だったかまでは知らないけど。

 ほら、あれよ。名前と顔は知ってるけど、接点の無い同僚、みたいな感じ。

 まぁ、あれが本当に彼女の生まれ変わりなのかは知らないけど、私ばりに運が悪い。腕を増やして鞠をぶん投げるという生前そのまんまの戦法を使ってるけど、たぶん勝ち目は無いでしょうねぇ。

 

『おお、カ○リキーだ。どこかにモンスターボールは無い物か……チラッ』

「俺の股間見ながら言うの止めてもらえます?」

 

 チャラトミの金の玉だからねってか。せめて真面目に戦ってやれよ。

 つーか、鳴女パワーアップしてない?

 無限城に転送して無力化するならまだしも、音速で飛んで来る鞠をキャッチして握り潰すとか、そんなアグレッシブな鬼だったっけ?

 私の記憶では寡黙な仕事人って感じだったんだが……アレか、生まれ変わって弾けたのか。

 あるいは無惨様(・・・・・・・)という最大の(・・・・・・)ストッパーが(・・・・・・)居なくなった影響か(・・・・・・・・・)

 何れにしろロクでも無い。誰かあいつを止めろ。

 

『くっ……だが、ここは私の領域! 家の中で座敷童子に敵うと思うでない!』

『ほほぅ、ならば我が城にご案内しよう。そこでもまだ同じ事が言えるかな?』

 

 そうこうしている内に、朱紗丸ちゃんが転送されてきた。裸の私と目が合う。何とも言えない空気が流れた。

 

「……えっと、久し振り?」

『いや、何の話じゃ……?』

 

 とりあえず、前世の記憶はない模様。記憶以外は不死性ぐらいしか引き継いでいない私とは対照的である。

 さーて、この子はどうなる事やら……。




◆座敷童子

 東北地方を中心に伝承される子供の妖怪。商家の奥座敷などを好んで住み、彼らが家にいる間は栄えるが、出て行くと途端に没落するという。
 正体は所説あるが、口減らしで死んだ子供が守護神化したというのが一般的。
 その為、居るだけで何もしない奴や、そもそも子供の姿ですらない者、幸福どころか呪いを振り撒く「たたりもっけ」という亜種までいる。河童や天狗と同じく、意外と多種多様な連中なのだ。


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鳴女さん、ユニットを組む

 ハッハッハッ、おはよう諸君。ゆるふわ奏者・鳴女さんだ。

 先日はチャラトミwikiの情報により、カイ○キーみたいな座敷童子をゲットした。本当はそのまま無限城でディナーを楽しむ予定だったのだが、零余子が気に入ったようなので、殺さず飼う事にした。

 無限城は全て私の思うがままなので逃げられる心配はないし、“居るだけで幸福になる”という特性の恩恵だけを得られる。まさに良い事尽くめだ。そのおかげなのか、遂にスパチャも解禁されましたよ。わーいわーい。

 ――――――子供サイズとは言え四人は多いし、逃がす訳にもいかないので実質的に無限城で軟禁状態だが、本人は奥座敷なら何処でも良いらしいので、問題は無いだろう。

 ただ、結構な寂しがりみたいなので、誰か追加の人員が欲しいかなぁ。

 ちなみに、ディナーそのものは、その場に居合わせた「たたりもっけ」という妖怪を頂いた。

 チャラトミ曰く「座敷童子の派生妖怪だが、幸福は齎さず祟りしか為さない呪い子」らしい。何でも死んだ乳飲み子が梟に取り憑いて化けて出るのだとか。

 何でそんな輩があの店に居たのかは知らないが、私が乗り込んだ時は丁度縄張り争いをしている時だったらしく、結果的に座敷童子を助けた形になる。

 そう言えば、名前は何て言うんだろう?

 

『丸子じゃ! 朱紗(すさ) 丸子(まるこ)という! 宜しく頼むぞえ!』

 

 ……国民的アニメの主人公とか言ってはいけない。こんな踊るちんちくりんがお気に入りなのか、零余子よ。

 まぁいいさ。これで腹も登録数も満たされたし、いよいよ軌道に乗って来たな。また新たな企画を考えねば。

 

『という事でユニットを組もうと思う』

「どういう事だってばよ」『ぬぅん?』

 

 あれから三日後。無限城にて丸子と手毬唄で遊んでいた零余子が、素っ頓狂な顔でこちらを見て来た。丸子も同様。そこまで驚く事か?

 

『ほら、この前あの曲に歌を入れたろう? 今度はそれに丸子も参加させてみようかと思ってな』

「えっ、この子も歌うの?」

『そのバージョンも有りだが、それよりも丸子には手数を活かして鼓とドラムをやって貰いたい』

「出来る出来ない以前に、そんな物を放映して大丈夫なの?」

『問題ない。無限城であれば、カメラ映りを操作するなど造作もない』

 

 確かにそのまま放映したら単なる放送事故だが、血鬼術でちょちょいと視覚効果を弄れば、猛スピードで楽器を叩いているように見せるくらい簡単な事である。最悪、バ美肉化してもいいだろう。

 ともかく、音の幅を広げたいのだ。流石に琵琶とギターだけってのも芸が無いしな。それに折角居るのだから、丸子にも楽しんでもらいたいじゃないか。

 

『……どうだ、出来るか?』

『出来ない事はない。これでも長く生きておるからのぅ。それに練習する時間は幾らでもあるんじゃろ?』

 

 一応、楽器が出来るのか確認してみたら、叩けるらしい。手毬で鍛えた賜物か。

 よし、そうと決まれば、

 

『ユニット名を決めよう。カルテットを目指しているから、あくまで暫定だがな』

「……例えば?」

『「無惨サマーズ」とか?』

「どうしてそこまで恐ろしい名前を思い付くのよ!」

 

 そうかなぁ、悪くないと思うんだけど。

 

『わしは何でもいいぞえ』

『なら決まりで』

「マジで!? 丸子ちゃん、もうちょっと考えよう!? お願いだから!」

 

 だが断る。これは決定事項だ。私がそうしたいと思ったから、今日から我々は「無惨サマーズ」なんだよ。

 

『それが嫌なら、「童磨(どうま)ズデビル」にするぞ』

「そんなゾー○のパチモンのバッタもんみたいな名前は死んでも御免よ!」

『いや、お前さん死ねないだろうに』

「そういう問題じゃない! 魂が嫌だって叫んでんのよ!」

『童磨、嫌われ過ぎだろ……』

 

 まぁ、私も嫌いだけど。馴れ馴れしいし、ウザい。

 兎にも角にも名前は決まった。後は行動するのみ。

 

『さぁ、さっそくだが、音合わせをするぞ!』『おー!』「いやぁあああああっ!」

 

 私たちの曲作り(たたかい)は、これからだ!

 

「GOOD……」

 

 ……チャラ男の意味不明な台詞が聞こえた気もするが、幻聴だろう。無限城に外の声が貫通する訳ないしね。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 私の名は朱紗(すさ) 丸子(まるこ)。今を時めく座敷童子じゃ。

 生前の記憶は全く無いが、わしの知り合いっぽい零余子の「………………」という何とも言えない表情から察するに、ロクでもない死に方をしたのじゃろう。だから気にしない事にする。良い事無いしの。

 さて、そんなわしじゃが、今は鳴女という鬼の城で世話になっておる。

 以前は豆腐屋の老舗で暮らしとったのだが、そこが断絶してしまったせいで引っ越しを余儀なくされ、次は有名だが落ち目の呉服屋に居座ったのじゃけれど、そこに登場したのが鳴女じゃった。

 鳴女は異空間を創り操る能力を持った鬼で、ある日の夜半に突然奥座敷に現れた。私も座敷童子だから領域では結構強いんじゃが、童子と鬼ではあまりにも地力が違い過ぎたわ。鉄より硬い我が鞠を握り潰すのは無しじゃろ。

 結果、わしは大した抵抗も出来ずに捕らえられ、奴の配下となった。手下と言うより、飼い犬のような感覚のようじゃがな。

 しかし、私としては静かな奥座敷なら何でも良いし、食べ物や遊び相手(零余子)も用意して貰ったから、文句は無いんよ。没落必須の呉服屋には悪いけども。

 さらに、鳴女はうーちゅーばーなる職業に就いており、一緒に楽しまんかと誘うてくれた。鼓やどらむを叩くのは気分が良くなるし、げぇむはやってて面白い。

 その上、私の手毬唄も動画にしてくれた。結構人気があるみたいで、またやってくれと言われたぞえ。

 前世のわしがどんな人間だったかは知らんが、少なくとも今は楽しいから、ずっとこんな日々が続いて欲しいもんじゃな。

 それでは、私は寝る。無限城はどんな寝相でも大丈夫だから良いのう。

 

 ……まぁ、独りで寝るのは、少しだけ寂しいけどね。




◆朱紗丸

 元十二鬼月(笑)の女鬼。実際は無惨にそう煽てられただけで、そこそこ強いだけの一般鬼である。武器は凄まじい強度を誇る鞠(無限湧き)。肉体操作で増やした腕や脚を使い、剛速球で何もかもを破壊する。その威力は建物はおろか、並みの鬼なら肉体を粉々にしてしまう程。
 ベクトル操作の使い手である矢琶羽と組み、変幻自在の死球で炭治郎たちを苦しめたが、珠世の血鬼術で「鬼舞辻」と言わされてしまった事により呪いが発動、身体から生えた「無惨の手」により握り潰され、朝日をトドメに死亡した。憧れの上司に煽てられ、戦わされ、最期はその上司に手を下されて自滅するという、中々に可哀想な鬼。事実、敵である筈の炭治郎にも同情されていた。
 しかし、その魂は別世界へと流れ着き、「朱紗 丸子」という名前の座敷童子となった。今までの記憶は一切残っておらず、ほぼ別人だが、戦闘スタイルと能力は殆ど変化しておらず、大元の鞠を「生涯の宝物」として大切にしている。


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零余子ちゃんの鳴女さん観察記

 実況動画って下手なテレビ番組より面白い気がするんですヨネー。


 とあるひ~♪

 

『よし、そこだ。行けムザン、「めらめらバーン」!』《ブッブ~イ!》

 

《おお、決まった!》《今日も鳴女様のムザンが大活躍だな!》《さすがムザン様! アカザやドウマも凄いけど、やっぱりムザン様が一番だぜ!》

 

『当然だ。このモノクロカラーは伊達じゃない』

 

《そう言えば、色違いの個体(♀)なんだよなぁ、ムザン様》《一発で色違い引き当てるとか、鳴女様の豪運が凄まじい》《他の面子も全員色違いだしな》《むしろ、通常色に出会う方が珍しいくらいかも》《こうなるとどっちが原色なのか分からなくなるよねー》《うんうん》

 

『フッフッフッ、我が家には座敷童子がいるんでね。LUCKにブーストが掛かってるのさ』

 

《座敷童子?》《ああ、よくコラボしてる朱紗丸(すさまる)氏の事か》《確かに座敷童子っぽいけど、マジなん?》《いやいや、まっさかー》《つーか、同居してんの?》《そーいやぁ、零余子氏やチャラトミさんとも結構コラボしてるけど、近所だったりする?》《ならもっとコラボすればいいじゃないか!》《それな》

 

 私こと零余子は、呑気にゲームを楽しむ鳴女の後ろを姿を見て、心の中で溜息を吐いた(本当に吐くとミンチにされるので我慢我慢)。今日は相棒と「Let’s Go!」しているようだ。

 ちなみに、今は手足が生えてます。鳴女が一人で配信している時は自由時間なんです、信じて下さい。一週間の謹慎は止めて下さい、心が死んでしまいます。

 

『ほほぅ、こいつが次のジムリーダーか。名前は……えっ、カツラ? 禿げてるのに? 禿げのカツラって事?』

 

《それギエピーや》《ヅラじゃなくて、植物の「桂」だよ》《ジムリーダーは大抵植物由来の名前になってる》

 

『なるほど。じゃあ、カスミは「カスミソウ」で、タケシは……芥子? つまり、今日もポピーって事?』

 

《たぶんそうだけど、「竹」がメインって事にしておいて》《やめたげてよぉ!》

 

 つーか、鳴女の奴マジで楽しそうにゲームするわね。鬼でなくとも結構いい年した大人の女が。

 というか、ゲームに限らず何事に対しても、以前の彼女からは考えられないくらいに喜怒哀楽がはっきりしている。表情は相変わらず「無」そのものだが。淡々と喜んだり、無表情でブチ切れたりする様は、正直に言って前よりも怖い。

 だが、同時に観ていて面白くもある。だって、本当に子供みたいなはしゃぎ方するんだもの。丸子ちゃんとどっちが子供か分からなくなる時が、稀によくある。ある意味幸せな人よねー。

 たぶん、元々そういう性格なんだろうなぁ。そうじゃなきゃ、ここまで自然体になれないわ。

 

『さて、本日の配信はここまで。次回の「鳴女さんの携帯獣戦記」シリーズを楽しみにしておいてくれ』

 

《了解でーす》《ラジャラジャー》《ブ、ラジャー!》《それはしん○すけや》《バイバイき~ん♪》

 

 と、今日の配信が終わったらしい。なら、次は私で弄ぶ気か?

 

『さて、本日の配信も終わった事だし……今からお宝鑑定団を始めたいと思います!』

 

 なーんて思ってたら、まーた意味不明な事を言い出した。今度は何をやろうってのよ。

 

『おっ、何かするのかえ?』

『ああ。お前を呉服屋から連れ出した時、ついでに骨董品も持って来たんだが、これがまた多くてな。せっかくだから整理して売りに出そうかと思って』

 

 おい、それ普通に窃盗だろうが。

 

「………………」

『何だ零余子、何か言いたそうだな?』

「……いや、それって泥棒じゃない?」

『盗んだんじゃない。拝借しただけさ、永遠にな』

「やっぱり泥棒じゃん! ただの空き巣だからね、それ!」

『失礼な。あの呉服屋は倒産確定だし、どうせ売られるのなら、将来性のある私の軍資金になって貰った方が、骨董品も喜ぶってものだろう。呉服屋の財産は私の物、私の金は私の物だ』

 

 清々しいまでのジャイアニズムだな。ここまで開き直れるのは、逆に凄いと思う。全く痺れず憧れないけど。

 

『そもそも、あの呉服屋の店主、趣味とは言え、やたらめったら骨董品を買い込み過ぎなんだよ。パッと見でも贋作が混じってたし、遅かれ早かれ首が回らなくなったんじゃあないかな』

 

 実はあの主人、商才なかったりする?

 

「それで、どんなラインナップなんすか?」

 

 すると、ここでチャラ男も参戦。自分の配信が終わったので、暇になったらしい。こいつもこいつで見た目詐欺よねー。無駄に頭良いし、機転も利く。本当に何でこんなチャラい見た目なんだろう。絶対損してるって。顔だけは良いんだからさ、もっと落ち着きを持とうよ。

 

『んーと、壺に皿……掛け軸……刀まであるな。見境なさ過ぎだろ』

 

 そして、無限城に並べられる、骨董品の山、山、山。陶器や絵画ならまだ分かるが、明らかに刃のある真剣まで集めるなよ……。

 

「見た所、半数は贋作っスね。特に壺のパチモンぶりが凄い。これで「フム……良い……!」とか言ってるようだったら、マジで嗤っちゃいますねー」

『お前マジで凄いな』

 

 鑑定まで出来るのかよ、お前。今度からチャラ男先生って呼ぶわ。

 

「でも、逆に刀は殆どが本気の名刀ですね。そこの一本なんか、たぶん妖刀の類っスよ」

「これの事?」

 

 彼の凄さに感心していた私は、うっかりチャラ男先生の指差した刀を手に取ってしまった。

 

 これが、いけなかった。

 

「はぅ……!?」

 

 何か頭の中で「ギャーン」って音がしたかと思うと、私の意識はそこでプッツリと途絶えた。




◆「Let’s Go! ピカチュウ」&「Let’s Go! イーブイ」

 「ポケットモンスター ピカチュウ版」のリメイク版。所謂「第七世代」のソフトであり、「ポケモンGO」と連動したシステムを採用している為、一部を除いて野生のポケモンとのバトルが無く、ボールで捕まえるだけである。他にも「あく」「はがね」「フェアリー」が追加されていたり、幻の№152&153のポケモンがいたりと、大筋こそ変わらないものの、結構違う部分が多い。何よりピカチュウに加えてイーブイが相棒枠に抜擢されたのが大きいだろう(アニメの影響?)。
 ちなみに、鳴女さんの手持ちは以下の通り(全員色違い)。

・ムザン→イーブイ(♀)
・コクシボウ→リザードン(♂)
・ドウマ→ルージュラ(♂←世界が認めたバグ)
・アカザ→サンドパン(♂)
・ギョッコ→アズマオウ(♂)
・ギュウタロウ→カブトプス(♂)


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鳴女さん、真剣勝負をする

 無惨様の言う通りじゃないケド、縁壱さんって規格外の化け物ですヨネー。本人はシャイな良い人なノニ……。


「あっ、ちょ……零余子ちゃん、それ手に取ったら……あーあ、やっちゃったよー」

 

 チャラトミの制止も空しく、妖刀だという日本刀を手に取ってしまった零余子の目が裏返り、別人のような雰囲気を纏い始める。

 ……やぁやぁ、諸君。今日の配信を終えたばかりの、鳴女さんだ。

 用事も済んだし、前々から片付けたかった案件を皆でやろうとしたら、零余子が面倒事を起こしやがった。どう見ても妖刀に意識を乗っ取られてます、本当にありがとうございました。馬鹿なんじゃないかな。阿保可愛いのは魅力だけど、流石に今回のは無いわ。唐突にトラブルをメイクするんじゃないよ。

 

『うっしゃぁあああああああっ!』

 

 零余子(OS:妖刀)がガッツポーズを取った。割と大きな雪見大福が二つ、ブルンと揺れる。久々の肉体が喜ばしいようである。子供(ガキ)か。

 

『えーっと、ハイテンションな所を悪いが、えーっと……「ジャッカル松本」?』

《いや、誰だよそれ!? ワタシは「村正」! 由緒正しき妖刀だ!》

『村正で由緒正しきとか言われてもな……』

 

 村正は江戸初期で大流行した刀剣。大体皆持ってたし、斬殺事件が起きれば凶器は必然的に村正、というくらいには普及していた。

 だから、実際には妖刀でも何でもない。単にこの村正が人を斬り過ぎて自力で妖刀になっただけだろう。それはそれで凄いけどね。

 

《黙れ黙れ黙れぇい! せっかく便利な身体を手に入れたんだ、貴様で試し斬りしてくれるわぁっ!》

 

 と、零余子(村正)が構えを取った。零余子は剣技に関しては素人だった筈だが、中々どうして、様になっている。

 おそらく、刀自身の記憶を基に、身体をコントロールしているのだろう。どれ程辻斬りしているのかは知らないが、千人斬ってからが一人前と言うし、案外と万人斬りぐらいは達成しているかも。

 まぁいい、斬りに来るなら殺すまでだ。どうせ器は零余子である。どんなに殺しても死なないから、躊躇なくバラバラに出来る。

 

《てぃゃおおおおぅっ!》

 

 零余子(村正)が流転するように円を描きながら斬り掛かって来る。

 ……何か、どっかで見た事ある技だな。

 

『フン!』

 

 しかし、見切れぬ程ではないし、このまま脳天から一刀両断してやろう、チョップでな!

 

《「幻日虹(げんにちこう)」!》

『何っ、残像だと!?』

 

 だが、私がかち割ったのは質量を持った残像だったようで、見事にスカってしまった。

 

《「飛輪陽炎(ひりんかげろう)」!》

 

 さらに、陽炎の如く前後感覚が分かり難い斬撃を放って来る。凄いなこいつ。妖刀とは言え、ただの日本刀で私の手を斬り飛ばしたぞ。

 しかし、幾ら斬った所で鬼である私には無意味――――――、

 

『………………っ!?』

 

 再生、出来ない!?

 いや、何時もよりは遅いが、出来てはいる。切り口に掛かった力で再生が阻害されているのだ。おいおい、日輪刀でもないのに、鬼の身体を切り刻んだ上に再生力まで抑えるなんて、そんなの有りか。

 ……否、もしかして、これは!?

 

《ハッハッハッハッ! 気付いたようだなぁ! ワタシは純粋な隕鉄を使用した流星刀でもあるのだ! そして、この剣技が貴様ら鬼に特効なのは知れてるんだよぉ!》

『マジかぁ……』

 

 流星刀って、日輪刀よりヤバいじゃん。

 しかも、無惨様のトラウマ技である「日の呼吸」を使い熟しているだと!?

 零余子本人が知っている訳が無いので、前世の死に際に流れ込んだという無惨様の記憶を再現しているのか。そんな見稽古みたいな真似出来るのかよ。

 

『……裸で大立ち回りとか、恥ずかしくないのか!』

《いや、それはお前のせいだろうが!》

 

 失礼な、零余子だって喜んでいたぞ(たぶん)!

 

『ドラァッ!』

《馬鹿め! 本気で当たると思っているのかぁ!》

『フゥンッ!』

《ぬっ!?》

 

 私は猛烈な勢いで斬り掛かって来る零余子(村正)の足を払い、宙に浮かべた。空中なら逃げられまい。

 

《「斜陽転身(しゃようてんしん)」!》

『危なっ!?』

 

 だが、日の呼吸は怪物・縁壱の編み出した退魔の剣技。人としての常識を軽く超えて来た。そう言えば、この技で猗窩座(あかざ)も殺られたんだっけか(正確には負けを悟ったらしいが)。頭突きで動きを止めて無ければ、今頃は頚チョンパだな。

 それにしても、一刀毎に技の練度が上がっているような気がする。学習し、強くなっているのか。よく見ると、身体に痣が浮かんでるし。零余子は寿命とか無さそうだから、実質デメリット無しの完全強化状態じゃん。

 

《その通り! ワタシは一度戦った相手には、絶対に、絶対に、絶ぇ~~~~~~~~ッ対に、負けんのだァ!》

『ぬぉおおおおお!?』

 

 そして、再び繰り出される、日の呼吸による絶死の剣技。拾弐の型を連結させた無限ループ、「拾参ノ型」が襲い掛かって来た。流石にあの化け物の完全再現は無理らしく一巡りで終わったが、それだけで充分。

 

 私は身体をバラバラに焼き切られ、頚を撥ね飛ばされた。

 

「鳴女さん!?」『鳴女ぇ!?』

 

 驚き叫ぶチャラトミと丸子。

 

《取ったぞ!》

 

 勝利を確信する零余子(村正)。

 

『……いいや、取られたんだ』

 

 だが、それは甘い。甘い甘い。何故なら今からとっておきの新技というのを見せてやるのだから。

 

《ま、まさか、頚の弱点を克服しているだとォ!?》

 

 空中でビシャリと元通りになった私に、零余子(村正)が目を見開いた。お前の記憶では信じ難い光景だわな。

 

『当然だ。私が何時までも鬼の常識に囚われていると思うな』

 

 私がどれだけ零余子を食って来たと思う。気合いを入れれば、お茶の子さいさいよ。

 それに、これくらいで驚いて貰っては困る。

 

 ――――――べべん!

 

《にゃにぃ~!?》

 

 琵琶の音が響き、零余子(村正)の手首を切り離した。刃の切れ味を持った(・・・・・・・・・)襖に断ち切られて(・・・・・・・・)。衝撃で握っていた右手も吹っ飛んだし、刀だけになっては最早どうしようもあるまい。

 

《び、琵琶を持ってもいないのに、どうして……!?》

『何時から手に持っていないと弾けないと言った?』

 

 私の玄上ちゃん(琵琶の名前)には、私の血肉が染み込んでいる。普段はきちんと弾いているが、別に触れて無くとも勝手に動いてくれるのよ。つまりは気分次第である。

 

《そ、それに、この切れ味は!?》

『私の好きな漫画に、物体を刃物に変える能力を持った妖怪が出て来てな。それを参考にさせて貰ったよ』

 

 前々から、私の血鬼術は殺傷力が低い事を自覚していた。ならば、持たせてやればいい。無限城は私の思うがままなのだから。その発想が無かったというだけの事よ。

 

『さてと……』

《ヒィッ! ま、待て、話せば分かる!》

 

 操る身体を失い、いよいよ詰んでしまった村正が、典型的な命乞いを抜かし始める。

 しかし、この鳴女、容赦しない。そもそも、命を取りに来たのだから、殺されても文句は言えんだろうに。

 

『よーし、折るかー』

《待て待て待ってぇ! ワタシはこれでも長生きしているし、貴女の欲しい物の怪の情報もタンマリ渡せますよぉ!》

『フム、確かにそれは魅力的だな』

《そ、それじゃあ――――――》

『だが断る』

《何故ゆえにぃ!?》

『助かると思った所を叩き落してこそ、絶望は深まるだろう?』

 

 と言うか、妖怪の知識ならチャラトミwikiで事足りるしな。ロートルの自慢話なんぞ、何の役にも立たん。

 

『それに、私は私を傷付ける者を絶対に、絶対に、絶ぇ~~~~~~~~ッ対に、許さない。お前は億死に値する』

《万の万倍許されないの!?》

『当たり前だ』

《当たり前なんだ!?》

 

 それじゃあ、そろそろ行きますかー。

 

《よ、弱い者苛め、良くない》

『私の身体をバラバラにしておいて何を言う。命乞いなど……無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッ!』

《ギアッチョォオオオオオオオオオオオオオオオオァッ!》

 

 こうして、自称妖刀である村正は、私の無駄無駄ラッシュを左右の側面から受け、塵と消えた。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

「……はにゃん!?」

 

 わ、私は一体何を……!?

 えっと、ここは無限城、私は零余子。間違いない。

 

『………………』

 

 だが、鳴女が滅茶苦茶怒っているのは何でだ?

 

『零余子、バイバーイ♪』

「えっ、どういう事!?」

「……一応、やり過ぎないようには言っといたスから」

『私は何をされるの!?』

 

 さらに、丸子ちゃんには何故か六本腕でバイバイされ、チャラ男先生には可哀想な物を見る目で肩を叩かれた。

 

『さぁ、覚悟の用意は出来ているか?』

 

 そして、指先から刀を爪のように生やし、キリキリと研ぎ合わせながら歩み寄る鳴女。一体、何時の間にそんな技を――――――というか、ま、待って……ちょっと待って!

 

「な、何だか知らないけど、話せば分かる! 弱い者苛め、良くない!」

『痣者が何を言うか。話し合いなど無意味だ。私は最初から、お前の失敗(ヘマ)を許す気は、無いのさ。……オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!』

「ペッシィイイイイイイイイイイッ!」

 

 こうして、私は千の肉になった。

 ちなみに、今日の晩御飯は自家製サイコロステーキである。それ私ィイイイッ!




◆日の呼吸

 無惨決戦兵器として時代が生み出した人外魔境「継国 縁壱」の編み出した、鬼滅の剣技。「透き通る世界」への入り口であり、鬼殺隊の使う「呼吸」の始祖。太陽の力を宿した呼吸によって繰り出される十二の技を、君が死ぬまで無限ループさせるという恐ろしい必殺技だが、負荷が凄過ぎて常人どころか鬼にも不可能な、実質的に縁壱の専用技である。後世には「ヒノカミ神楽」という形で伝わっていた。ただし、こちらは十二の技を個別に覚える初心者向けの伝え方で、最高でも一巡するのみであり、延々と繰り返したりはしない。それでもやり過ぎると死ぬ。
 今作では無惨が存在しない為に影も形も無いが、大正末期に同じような技を使う剣士が鬼退治をした逸話が残っている。


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鳴女さん、ママ活する

 皆さんは友情と愛情、どっちが欲しいでスカ? 私はお金が欲しいデス。


 フハハハハハ、おはよう諸君! 今日も元気溌剌、鳴女さんだ!

 前回の妖刀騒ぎから数日。丸子を仲間に据えたユニットで活動を始めたのだが、それが大いに受けたおかげで、日に万額を稼ぐ程の人気を得られた。大変喜ばしい事である。

 座敷童子のブーストを加味したとしても、驚異的な数字と言えよう。機材も充実し、血鬼術や身体能力の成長も目覚ましい。拠点は相変わらず手狭だが、広過ぎても結局は扱いに困るので、今は考えないでおく。三つ子の魂は百まで続くように、貧乏性は早々治らんのよ。

 ちなみに、ユニット名はチャラトミの提案で「鬼導隊(きどうたい)」になった。“鬼が導く音楽隊”みたいな意味が込められているらしい。ポエムやなぁ。

 個人的には「無惨サマーズ」のままでも良いかと思ったのだが、あれ以降も零余子が全力で食い下がってきたので、仕方なく変えてやった。うーむ、解せぬ。

 まぁ、それはそれとして、

 

『今日は「第一回:丸子ちゃんを考える会」を始めようと思う』

 

 無限城のど真ん中で、私は会議を開いた。参加者は当事者である丸子と零余子、それからチャラトミ。八時じゃないが、全員集合だ。

 

「何よ、その小学校の学級会みたいな議題ヴァー」

 

 ……よし、零余子ハンバーグは放っておいて、会議を進めよう。

 

『知っての通り、丸子は無限城に一人で常駐している。それはとても寂しい事だ』

「誰のせいバァーッ!」

 

 誰か零余子印のソーセージを冷蔵庫に仕舞っといて。

 

『そこで、そろそろ彼女の遊び相手を探しに行こうと思う』

『おお、わしのお願いを聞いてくれるのかえ!?』

『お前は色々と貢献しているからな。報酬を与えるのは当然だ。何処かの元貴族と一緒にされては困る』

「だったら私もォオオオオン!」

 

 とりあえず、零余子の叩きでも突き出しにしようか。

 

「えっと、零余子ちゃんじゃ駄目なんスか?」

『零余子は私の抱き枕だからな。手放せん』

「今はサンドバックみたいですけど……」

『兼用だ』

 

 後ろで「酷い話だ」という台詞が聞こえたので、望み通りにしてやった。零余子サンドって完全に食べ物だよなぁ。

 つーか、お前は少し反省しろ。大分やらかしたんだからな、前回。

 

「そうなると、人間じゃ駄目っスよね?」

『ああ。常駐して遊び相手になって貰う予定だからな』

 

 人間は弱い。すぐに死ぬ。簡単に裏切る。世界の中心は自分じゃないと気が済まない。一人じゃ大した事は出来ない癖に。今の世の中、そんな奴らばっかりだ。寝言は寝て言え。

 

「じゃあ、妖怪を勧誘するとして――――――どんなのが良いんスかね?」

『そこなんだよなぁ……』

 

 初めは同じ童子系の妖怪なら良いかと思ったが、奴らは本能レベルで縄張り争いをしてしまう為、全く以て適していない。子供はすぐ喧嘩するからね、仕方ないね。

 

『それを何とかするのが、お前の役目だ』

「また凄い無茶振りして来ますねー」

 

 だが、そこで投げ出さない辺り、流石はチャラトミである。チャラい癖に。

 

「……そもそも、丸子ちゃんは本当に遊び相手が欲しいんっスかね?」

『『はぁ?』』

 

 ふと呟いたチャラトミに、思わず間抜けな声が出る。丸子も同様だ。

 

『何じゃお主、私が耄碌しているとでも思っているのか!?』

「いや、年は食ってるでしょ、座敷童子なんだから。だからこそ違和感があるんスよ」

『んん~!?』

 

 すっかりメダパニ状態の丸子。無理もない。それくらい、チャラトミの発言は意味不明だった。働かせ過ぎて頭がおかしくなったか?

 しかし、次にチャラトミの放った言葉に、私は衝撃を受ける事になる。

 

「だって、座敷童子は派生も含めて“親に捨てられた子供”がなる妖怪なんスよ? “寂しさ”と“恨めしさ”の違いはあれど、本当に欲しいのは“親の愛”だと思うんスよねー」

 

 座敷童子は子供にしか見えないと言われている。それこそ遊び相手になってくれる、とも。

 だが、彼らが恩恵を齎すのは家――――――つまりは大人に対してだ。まるで、「もっと構って」「自分を見て」「頑張ったから褒めて」と言わんばかりに。

 

 子供が、親に甘えるように。

 

 そして、大人がそれを当たり前に感じ、見向きも感謝もしなくなった時、座敷童子は出て行くのである。“また捨てるのか”と……。

 ウムム、これは目から鱗滝だわ――――――って、何か嫌だなそれ。私は何を言ってるんだ?

 ま、それくらい驚いたって事で一つ。信じられるか、これあのチャラ男なんだぜ?

 

『………………!』

 

 丸子が固まる。とっくの昔に忘れ去った、何かを思い出しているのかもしれない。

 そう言えば、彼女が普通の遊びに使う鞠は“生涯の宝物(たいせつなもの)”なのだとか。

 つーかさ、

 

『お前、本当にチャラ男なのか?』

「いや、別にチャラ男のつもりは無いんですけど……」

『嘘だッ!』

「何でぇ!?」

 

 だったら、その見た目を何とかしろ。

 しかし、親の愛かぁ……全然分からん。借金の片に売られそうになったから、撥で八つ裂きにした(非力だったから殺せなかったけど、再起不能(リタイア)にはしたった)記憶しかないんだけど。玄上ちゃんや演奏用の着物も、その時の戦利品だし。

 だけどまぁ、子供はそういう物なのだろう。友情より愛情の方が欲しいのは、むしろ普通の事なのかも。微塵も理解出来んが。

 

『そうなると、“親役”が必要になるのか?』

 

 何処の下弦の伍かな?

 

『……流石にロクデナシは嫌じゃぞ?』

『安心しろ、私も普通に嫌だわ』

 

 それはあの旦那役だけで充分だ。

 

「だけど、そんな都合の良い妖怪いる訳――――――」

「いますよ。そういう都合の良い奴が、ね……」

 

 疑問を呈す零余子に、チャラトミがしたり顔で答える。凄いぞチャラトミwiki。

 

「一先ず、これを見て下さい」

 

 という事で、例の「チャラトミの妖怪講座」の「妖怪分布図(最新)」を皆で見てみる。そこには中々面白い情報が書かれていた。

 

「……どうスかね?」

『フム、良いだろう。今宵の獲物(・・・・・)はこいつで決まりだな』

 

 本当に便利な男だよ、お前は。

 

 ――――――さぁ、行こう。(トラツグミ)の鳴く頃に。




◆この世界の漫画事情

 大抵は存在しているが、物によっては「影も形もない」「漫画は無いがキャラクターのみが実在する」「どちらも存在する」の3パターンに分かれている。
 「ゲゲゲの鬼太郎」は「どちらも存在する」パターンであり、基本的に6期のアニメをベースにしているが、1~5期の要素や漫画のみの要素などがミックスされた独自の歴史を辿っている(6期第1話が令和から開始されている、地獄童子がいる、妖怪四十七士の概念があるetc)。
 「鬼滅の刃」は「どちらも存在しない」扱いで、ワニ先生は別のタイトルで連載し大成している。その為、鳴女さんは完全な異物である。
 しかし……。


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犬山まなと猫娘

 まなとユメコのどちらが良いかと言われレバ、私は祐子ちゃん(第4期の人間サイドの女子)が一番良いデス。飴とかあげタイ。


 東京都調布市の、とある中学校。

 朝のHR前のざわついた教室では、今日も様々な噂話が飛び交っている。こんな風に(・・・・・)

 

「ねぇねぇ、まなー、あの噂、知ってるー?」

 

 一人の女生徒――――――桃山(ももやま) (みやび)が、すぐ近くに座る別の女生徒に話し掛ける。

 女生徒の名前は犬山(いぬやま) 真名(まな)。ウェーブの掛かった茶髪とクリクリとした瞳が子犬のように可愛らしい、今時の十三歳(サーティーン)

 だが、彼女には誰にも言えない……というより、言っても信じてもらえない秘密がある。

 それは、この世ならざる者たちとの関り。ゲゲゲの森に住まう妖怪たちとの関係だ。特に鬼太郎や、その仲間たちとは結構仲良くさせて貰っている。

 少し前までは「妖怪なんてお伽話」程度にしか思っていなかったが、吸血木事件を引き起こした「のびあがり」との接触を機に、次々とお化け騒動に巻き込まれ、やがて「分からない事だらけだけど、だからこそ分かりたい」と考えるようになった。それに伴い妖怪たちの姿も認識出来るようになり、ますます関わる機会が増えている。本当に、色々あった。

 だから、真名はこの手の話にも積極的に首を突っ込むようにしている。分からないモノを知り、正しい付き合い方を学ぶ為に。

 

「……どんな噂?」

「ほら、最近子供が誘拐される事件が続いてるじゃない? テレビじゃ何も言ってないけど、攫われた親たちが「鳥を見た」って言ってるらしいよ」

「フーン……」

 

 まさか鳥に攫われた訳でもあるまいに。

 以前の自分ならそう考え、聞き流す所だが、今は違う。

 

(ちょっとねこ姉さんに相談してみようかな)

 

 何だか知らないけど、第六感がそう言っている。だから、次の休み時間にでもLINEしよう。真名はより詳しい話を聞きつつ、そう思った。

 と、その時。

 

「皆、おはよう♪」

「あ、藤花(とうか)さん! おはよう!」「おはようございまーす!」「今日も奇麗ね~♪」

 

 クラスのアイドル、茜雲(あかねぐも) 藤花(とうか)が教室に入ってきた。途端に幾人もの生徒が挨拶を返し、にこやかに出迎える。誰にでも優しく、柔らかな雰囲気が人気の秘訣である。

 

「まったく、今日も大人気です事……」

 

 まぁ、それを快く思わない人間も一定数いるのだが。

 しかし、藤花は気にしない。真名も気にしない。世の中には「気に食わない」という手前勝手な理由で嫌う馬鹿がそれなりにいる事を分かっているからだ。そういう輩は無視するに限る。

 そんな事より、今は妖怪である。雅曰く、被害はこの近辺に集中しているらしい。それはつまり、調布市に“ナニカ”がいるという事だ。またしても(・・・・・)

 ――――――今まで気付いていなかっただけなのかもしれないが、流石に多過ぎるような気もする。まるで、何かに引き寄せられるかのように。

 

(……いや、今は余計な事を考えてる場合じゃないわね)

 

 真名はHRの鐘が鳴ったのをこれ幸いと切り替えた。幾ら考えた所で分からない物は分からないので、今は出来る事に集中すべきだろう。

 そう、HRを眠らずに乗り切る為の心構え、とか。

 

「……それじゃあ、今夜ね」「分かったわ。お願いね」

 

 そんな真名の寝耳に、水面のように静かで小さな会話が入って来る。そっと目を向ければ、藤花と誰かが約束事をしているようだった。今夜に一体、何をしようというのか。

 

(そう言えば、被害は何時も夜に起きているのよね……)

 

 ようするに、そういう事(・・・・・)なのかもしれない。

 真名は放課後、二人の後を付ける事にした。

 

(そうと決まれば、まずはねこ姉さんに連絡ね)

 

 さらに、休み時間まで待つのが惜しくなったのか、HR中にLINEを送った。何だかんだで、彼女も立派に不真面目である。

 しかし、真名は今宵、酷く後悔し、恐怖する事となる。

 

 ……何故、自分たちならどうにか出来る、などと考えたのかを。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 放課後、逢魔ヶ時。

 

「………………」

 

 真名は藤花と名前も覚えていないクラスメイト(♀)の後を付けていた。

 

(何処に行くんだろう……)

 

 ここは調布市でもかなり外れの方で、女生徒二人で夜歩きするには少々危ない場所だ。現れるのが不審者ならまだしも(それも良くないが)、妖怪の類だったら一溜りも無い。少なくとも一人は(・・・・・・・・)

 

『まな』「ひゃいっ!?」

 

 と、後ろから肩を叩かれ、真名は変な声を上げた。

 

「な、何だ、ねこ姉さんかぁ……」

 

 振り向いた先にいたのは、彼女の憧れの存在である猫娘だった。

 紫色の髪をシニョンに纏め、リボンで結わいでいる女の子らしいヘアスタイルに、まさしくお姉さんという顔立ちをした、可愛らしさと美しさを両立させた、素晴らしい相貌。高身長にくびれた腰、きめ細やかな肌と、モデル顔負けのスタイリッシュな体形。白いシャツにフレアのミニスカートという乙女チックな格好をしているのに、これでもかと見せ付けられる生足のせいで、妙に艶めかしい。赤いチョーカーとアンクレットが良い味を出している。

 そんな絵から飛び出して来たような彼女だが、その正体は猫の半妖怪であり、猫由来の高い身体能力を持ち、並みの妖怪なら軽くあしらえる。めっちゃ強いのに、素敵で、綺麗で、すっごくかっこいい。それが猫娘なのである。

 

「――――――って言うか、驚かさないで下さいよー」

 

 幸い先行く二人には気付かれていないようだが、危ない所だった。

 

『……突っ走り過ぎ』

「あたっ!」

 

 だが、猫娘の返事はデコピンだった。地味に痛い。

 しかし、それは自分を心配しての事であって、真名もそれが分かっているので、「はぁい」と涙目ながらも素直に謝った。二人の仲の良さが窺える。……若干良過ぎるようにも思えるが、気にしたら負け。

 

『それで、あの子がそうなの?』

「はい。藤花さんって言います」

 

 猫娘が藤花を睨め付けながら言い、真名が同意しつつ詳細を話す。

 雅によれば、藤花は男女問わず気に入った子を見付けると、決められた日に夜間デートに向かうらしく、出掛けた生徒は二度と帰って来ないとか。

 

『思いっきり妖しいわね』

「そうですね」

 

 むしろ、何で誰も気にしていないのかがさっぱり分からない。もしかすると、敵は認識を誤魔化す能力があるのかもしれない。

 何れにしろ、藤花が妖怪と通じているのは間違いなさそうだ。

 

『……建物に入るわ』

 

 それから尾行する事、数十分。藤花たちは、鬱蒼とした竹林の中にポツンと佇む、古びた屋敷に入って行った。一昔前は大地主だった事が窺える豪華さだが、今ではすっかり荒れ果て、朽ちている。庭に咲き誇る曼殊沙華も何故か真っ青で、不気味だった。

 

「何この臭い……」

 

 しかも、屋敷の庭に一歩踏み入れた瞬間から漂い、充満している強烈な臭いが鼻を突く。

 それは砂糖菓子すら及びもつかない程に甘く――――――腐った死体のような臭いだった。

 

「『………………』」

 

 二人共、もはや喋る事すら億劫になり、唯々冷や汗を垂らしながら、屋敷の中へと歩を進める。腐った床は気を付けていてもギシギシと音が鳴り、今にも踏み抜いてしまいそうである。

 

「キャッ……!」『まな!』

 

 とか何とか言っていたら、本当に床が抜けてしまった。間一髪で猫娘が真名の手を掴み、事なきを得る。

 だがしかし、

 

「ひっ……!」『これは……!』

 

 露わになった床下の有様に、真名と猫娘は血の気が引いた。

 真名と同い年くらいの、小柄な人間――――――その死体が、捩じくれ、絡み合い、腐り果てている。殆どは白骨化しているが、中には死んで間もないのか、生乾きの腐乱死体もあった。湧き出る蛆が腐汁の中で蠢き、生命力をばら撒いている。

 

「うっ……ぐぅ……!」

 

 真名は思わず吐きそうになるが、こんな所でリバースしたらそれこそ止まりそうも無いので、我慢した。猫娘も酷い臭いに顔を顰めている。

 とても妖怪の所業(・・・・・・・・)とは思えない(・・・・・・)。何故なら、妖怪であれば死体を残しておく筈がないからだ。

 かと言って、人間業とも思えない。何せ死体が宿り木のようにギチギチに絡んでいるのである。人力ではまず不可能だろう。

 では、一体誰の……何の仕業なのか。その答えが、この先にある。

 知りたいけど、分かりたくない、そんな物が。

 

「……ぃい……気持ち良い!」

 

 ふと、屋敷の奥から妙に色っぽい声が聞こえてくる。進んでみると、奥座敷から妖しい光が漏れ、声も漏れていた。

 そして、そっと襖の間から覗いた二人の目に飛び込んで来たのは、

 

「ああ♪ 好きです、大好きですぅ♪ 藤花さぁああああん♪」

「ええ、私もよ、里子さん♪」

『ウフフフフ……♪』

 

 あられもない姿で絡み合う藤花と里子(クラスメイト)、それを愛おしそうに見下ろす美しく妖しい女性であった。




◆犬山 まな

 漢字で書くと「真名」。前世・血筋・体質と、色々な宿命を背負わされた、結構可哀想な生い立ちの女の子。その上、今作では更なる業を背負わされた。
 しかし、本人は天真爛漫(でも少し強か)な女子中学生でしかない。鬼太郎と出会って以来「分からないモノとも分かり合いたい」と考えるようになり、気難しい鬼太郎やお姉さまな猫娘とも宜しくやっている。好奇心が旺盛で行動力もある為、常日頃から様々なトラブルに巻き込まれ、周囲を振り回していく。
 男っ気がまるでなく、妖怪にしかモテない疑惑がある。
 ついでに、猫娘に対して友情や憧れを超えた何かを抱いている可能性も指摘されている。


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姑獲鳥の鳴く頃に

 ※若干悪趣味な描写がありマス。ご注意くだサイ。


「ね、ねこ姉さん、これは……?」

『み、見ちゃ駄目よ、まな……!』

 

 そう言いつつ、じっくりとっぷり観てしまう真名と猫娘。

 だが、無理もないだろう。母親と思しき人物に見下ろされる中で、喘ぎ声を上げ、潮を噴きながら、若い美空の少女たちがナメクジよりも濃密に交接しているのだから。ここまで異常だと、逆に興味が湧く。

 しかし、お楽しみ(意味深)は長続きしなかった。

 

「ああ、逝くぅうううううう!」

 

 絶頂に達した里子が、そのまま昇天したのだ。直前まで絡んでいた、藤花のだいしゅきホールドで背骨と肋骨を粉砕骨折(バキバキ)にされて。

 

「はい、お母さんも♪」

『ありがとう、良い子ね』

 

 さらに、藤花は里子の死体を両手で頭上に掲げると、とんでもない馬鹿力で雑巾のように捩じり、絞った血を女性と共に啜り始めた。凄まじいゴアっぷりだが、何故だかとても煽情的で艶美な絵面である。

 

(こいつら、吸血鬼なの!?)

 

 そのあまりにあんまりな藤花たちの姿に、猫娘がドン引きする。

 だが、藤花の匂いは間違いなく人間であり、妖気は微塵も感じられなかった。おそらく、あの妖しい女性によって肉体の箍が外されているのだろう。

 

「嗚呼、お母さん、お母さぁん♪」『よしよし、偉いわよ、藤花』

(甘えてる……親子みたいに……!)

 

 何なんだ、この二人は。ほんの数十秒前はあれだけ異常な事をしていた癖に、今は普通に母子の如く抱き合っている。見ていて非常に気持ちが悪い。反吐が出る。

 

(……そう言えば、真名が随分静かね?)

 

 てっきり怯え震えているかと思ったのだが、真名はただ静かに猫娘を見詰めているだけだった。

 

「ねこ、姉さん……」

(いや、違う! 何かに中てられてる!)

 

 しかし、濁った瞳と紅潮した顔から、すぐに正気を失っている事が分かった。雰囲気は流石に無いとして、原因はこの甘ったるい腐臭か。今気付いたが、匂いの元は奥座敷(ここ)だ。

 という事は、これはあの女性の妖術という事になる。

 

「ねこ姉さぁん♪」

(マ、マズい……!)

 

 驚いている間に組み伏せられてしまった。これでは振り払えない。

 

『あらあら、お客さんかしら?』「そうみたいね、お母さん」

 

 その上、倒れた時の音で、藤花と女性に気付かれてしまった。誰が触れた訳でもないのに襖がピシャリと開き、両者が面会する。片や裸で抱き合う血塗れの母子、片や今にもおっぱじめそうな少女と妖女。何とも混沌とした状況である。

 

『な、何なのよ、アンタたち! この子に何をしたのよ!?』「ねこ姉さん、私、もう……」

 

 真名の良いように服を少しずつ脱がされるという締まらない恰好で、猫娘が叫ぶ。もはや羞恥しかない。

 

『私が誰かって? 私は姑獲鳥(うぶめ)よ。そして、藤花(このこ)は私の愛しい一人娘……』

 

 すると、女性の身体が背中から裏返り、獣の耳と蟲のような瞳の無い丸い眼玉を持つ、巨大な怪鳥へと変じた。それまで以上の甘美な腐臭を垂れ流しながら。

 

◆『分類及び種族名称:死産怪鳥=姑獲鳥』

◆『弱点:炎』

 

『グヴェェェイァアアアアアッ!』

 

 そして、愛娘である藤花をくっ付けたまま、恐ろしい金切り声を上げて襲い掛かってきた。

 

『くっ……まな、もっと強く、しっかりと抱き締めて!』「はい、ねこ姉さん♪」

 

 猫娘は妖気を解放し、真名にギュッと抱き締められつつ、跳びはねる。思った以上に強い力でガッチリと組み付かれていたので、いっその事もっとキチンと抱いて貰った方が安定する、と判断した結果である。抱き締める力が強まった時に、猫娘の口から「あっ……♪」という甘い声が零れたのは内緒だ。

 

『ギャァヴォオオオオッ!』『くぅっ!』「「はぁん♪」」

 

 屋敷とは言え、狭くて古ぼけた奥座敷でそんな真似をしたので、たちまち屋根を突き抜け、夜闇の中へ躍り出る。双方共に腹に女子を抱えているという奇妙な格好だが、姑獲鳥も猫娘も至極大真面目である。お腹の二人は知らないが。

 

『何なのよ、本当に……!』

『ウフフフ、私はただ、娘の望みを叶えているだけよ』

 

 猫娘が目を光らせ、爪を伸ばして威嚇するも、姑獲鳥は何でもないように答える。

 

『娘の望みですって?』

『ええ、そうよ。この子はとても可哀想な子なの』

 

 さらに、異形である筈なのに、人間態時の笑みが想像出来てしまう程に嬉々として、己と娘の生い立ちを語り出した。

 

『この子はねぇ、自分と同世代の同性しか愛せないの。しかも、殺す事でしか愛情表現が出来ない、哀れな子供よ。だから、ワタシが引き取り、育てているの。今までは可愛がる事だけしか眼中に無かったけど、こんな面白い子が(・・・・・・・・)育ったらどうなるのか(・・・・・・・・・・)、という楽しみに目覚めちゃってねぇ♪』

『な、何を言っているのよ、アンタ……!?』

 

 姑獲鳥の発言に、絶句する猫娘。何を言っているのか、一から十まで分からない。姑獲鳥は死産した女のお化けだと言われているが、何処まで業を積み重ねると、これ程までに腐り果てるのだろうか。全く理解出来ないし、したくもない。

 最早、元が人間だったかどうかなど関係ない……こいつは、存在してはいけない生き物だ。

 

『……お邪魔だったかな? なら、お詫びに一曲弾いてやろうか?』

「そういうレベルじゃないと思うっスけど……」

 

 だが、猫娘が姑獲鳥を八つ裂きにしようと、牙や爪を鋭くしたその瞬間――――――“それら”は現れた。




◆猫娘

 ゲゲゲの鬼太郎における“妖怪側のヒロイン”。
 半妖だったり完全な妖怪だったり逆に気病を患った人間だったりと、出自がぬらりひょんばりにあやふやだが、とある一件で寝子(人間)のように地獄に留まらなかった所を見るに、6期の彼女は少なくとも半妖以上ではあると思われる。
 何れにしろ「鬼太郎の幼馴染」という側面は変わらず、鈍感系主人公の鬼太郎にヤキモキしているのはどの世界線でも一緒。6期は“彼女”が出来掛けているのは内緒。
 6期の猫娘は戦闘能力が高く、過去作ならあっさり無力化されそうな相手にも善戦するどころか致命傷を与えるレベルまで上昇している。等身が伸びたおかげだろうか。
 ねずみ男とは天敵同士だが、実は一番理解し合っている間柄でもある。まなとは、その……お察しください。


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野生の裏ボスが現れた!

 たブン、姑獲鳥にとっては死ぬよりキツい結末を迎える事になりそうデス。


 琵琶を持った着物姿の大和撫子にチャラい男という、中々に異色の組み合わせ。

 しかも、よく見ると女の方は単眼の異形。チャラい奴は人間のようだが、そんなのと一緒にいる時点で真面ではあるまい。

 しかし、一番驚くべきは、その出現方法だろう。

 突如、中空に襖が現れたかと思うと、中から男女の異色ペアが出て来た。何を言ってるか分からねーと思うが、猫娘たちにも分からない。実に異彩を放つ連中である。溢れ出る妖気も凄まじい。

 

 “野生の裏ボスが現れた”。

 

 まさにそんな感じなのだ、あの女は。

 

『な、何よ、あんたは!』「答えなさいよ!」

『おい、Wikipedia、こいつで間違いないか?』

「最早チャラ男ですらないですね。……ええ、間違いなく、こいつが姑獲鳥っス」

 

 姑獲鳥たちもそれを感じ取り、抱っこを止めて威嚇態勢に入ったのだが、琵琶の女は軽く無視。チャラ男に事実確認を始めた。その有様は、獲物を前にした狩人。姑獲鳥に対して何の脅威も感じていない事が明白だった。

 そして、それは紛れもない事実であった。

 

『グヴェエエイヴァアアアッ!』「死ねぇええええっ!」

『煩いぞ鴨が』

『ガッ……!?』「きゃっ!?」

 

 襲い来る姑獲鳥と藤花を、振り向きもせずに無力化する琵琶の女。藤花は伸びる髪で縛り上げ、姑獲鳥は四つの鋭利な襖(・・・・)で五等分にしたのだ。

 

(嘘でしょ……!?)

 

 猫娘は驚愕した。

 さっき接触したから分かるが、姑獲鳥の羽毛は肌触りの良さに反して、鋼鉄のように硬い。真面に引っ掻いたら、自分の爪でも刃こぼれするだろう。

 だから、相手の目を狙って攻撃しようとしたのだが、まさかそれを絹ごし豆腐のように切断してしまうとは。恐ろしい殺傷力である。

 その上、髪も自由自在に操れるとなると、近付く事すらままなるまい。接近戦オンリーの猫娘にとって、相性が悪過ぎる。

 

「……あ、あれ? ねこ姉さん!? 私は一体何を……!?」

『おはよう、まな。さっきはお楽しみだったわね』

「何の話ですか!?」

 

 一応、姑獲鳥が瀕死の重傷を負ったおかげで真名に掛かった妖術も解かれたが、喜んでばかりもいられない。

 

『嬉しや嬉しや。こやつが、約束の母か』『ヒッ……!?』

 

 まず姑獲鳥が新たに出現した襖の中に引きずり込まれて退場。奥に六本腕の座敷童子が居たような気がするが、速過ぎて確認出来なかった。

 

『とりあえず、小腹でも満たすか』「え、あ……ちょ、待っ……!」

 

 さらに、姑獲鳥の加護を失い、ただの人に戻った藤花が女の胸元に運ばれる。

 

「い、いや! 誰か助け……ぎゃああああああああああああああ!」

『おいおい、殺人鬼が助けては無いだろ。むしろ、私にハグされて死ねる事を感謝して敬え』

 

 そして、母親が子供を抱きしめるようにして食い尽くした。血の一滴すら残さずに。

 

『……うーん、妖怪の味を知った後だと、やっぱり人間って薄味に感じるな』

「まぁ、言って一人分ですからねー」

『まったくだ。何人、何十人殺していても、所詮は一個人。実に薄っぺらな、下らない人生の歩みを感じさせてくれるよ』

 

 しかも、問答無用で食った相手を、これでもかと扱き下ろす。賞味期限が切れたスーパーの半額豆腐をそのまま食べたような感想だった。

 これで確信出来た。この女は人も妖怪も関係なく、命を何とも思っていない。食われた事実よりも琵琶の女にハグされた事を羨ましがる、連れのチャラ男も同類だろう。

 

「な、何て事を……!」

 

 これには真名もドン引き。常日頃から妖怪とも分かり合えると思っている彼女だが、この女はどうにも理解し難いようだ。ここまで見境の無い奴は流石に初めてだから仕方あるまい。

 だが、そんな物はまだ序の口だった。

 

『何だ、食った事を怒ってるのか? それとも味の品評が低過ぎたか? 自分を殺そうとした相手だろうに、お優しい事だ。だが、安心しろ。こんな薄味な奴でも、生まれた意味はある。こんな風にな(・・・・・・)。……ペッ!』

 

 と、琵琶の女が口から何かを吐き出す。

 

『うぅぅぅ……』

 

 それは藤花――――――の頭を持つ蜘蛛だった。大きさはタランチュラ程度だが、頭部(及び胸部)が人間なので、非常に薄気味悪い。

 

『私は一体……何よコレ!? どうなってるの!? いやぁあああああっ!』

 

 さらに、藤花としての意思はしっかりと残っているようで、己の変化に戸惑い、泣き叫んでいる。

 

『お前は今日から部屋の害虫駆除係だ。精々よく働け。うっかり潰されないようにな』

『そ、そんな……嫌よ! これからずっと虫を食って生きろって言うの!? だ、誰か助けて! 助けてまなさん! ……ぁああああああああああっ!』

 

 しかし、そんなの知った事じゃないとばかりに、琵琶の女はべべんと藤花蜘蛛を襖にしまい込む。彼女が陽の目を見る機会は、もうあるまい。

 

「あ、悪魔だ……!」

 

 それらの光景をまじまじと見せられた真名は、血の気の引いた顔で言った。未だに見た事は無いが、きっとこんな輩なのだろう。姑獲鳥や藤花の所業など、児戯に等しい。

 こいつこそ、本当の悪魔だ。

 

『悪魔と言うより鬼なんだがね。とりあえず、お褒めに預かり光栄だ。……そんな事より、とても美味しそうねぇ、お嬢ちゃん?』

「ひぅ……っ!?」

 

 すると、琵琶の女が標的を真名に変えた。今までの無表情が嘘のような、凄惨な笑みを浮かべている。

 

『こんな所で“稀血”に出会えるなんて、今日は実に素晴らしい日だ』

『シャアアアアアッ!』

 

 真名には手を出させ無い、と飛び掛かる猫娘だったが、

 

『引っ込んでろ野良猫。私はこの子とお話しがしたいんだよ』

『がっ!?』

 

 女が琵琶を奏でた瞬間、真空の刃が無数に放たれ、猫娘の身体を切り刻んだ。全身から血が噴き出し、至る所が曲がってはいけない方向に曲がっている。刃だけでなく、衝撃波も打ち出していたようである。

 

『あ……ぁ……ま、な……』

「ね、ねこ姉さん! そんな……そんなぁ……!」

 

 たったの一撃。それだけで憧れの猫娘が虫の息だ。真名をかつてない絶望が襲い掛かった。

 

『さて、ちょっとお話をしようか、お嬢ちゃん』「………………!」

 

 そんな真名の傍に、琵琶の女がしゃがみ込む。どうやら目線を合わせて話してくれるようだが、一方通行になるであろう事は想像に難くない。

 

『君はねぇ、とても貴重な人材なんだよ。……人材と言うより、食材かな?』

「し、食材!?」

『そう、稀血という特殊な血液型の持ち主でね。たった一人でも何十、何百人分の栄養価があるのさ。特に君は、億人単位の濃度を誇る、“稀に見る稀血”なんだよ』

「………………!」

 

 今明かされる、衝撃の真実。

 目玉おやじには「偶然力」という“妖怪に近い体質”を持っているとは言われていたが、その原因が自分の血液だとは。元々治せるものではないとは思っていたが、これで確定されたと言っていいだろう。

 だが、それを今知った所で意味はなく、むしろ処刑宣告をされたに近い。何せ相手は人も妖怪も食ってしまう、とんでもない悪食なのだから。

 

『さっきのは味気なさ過ぎたからね。ここらで美味しいディナーにあり付きたい訳よ。だから、ねぇ?』

「い、いや……!」

 

 そして、話は終わりだとばかりに、琵琶女の唇が迫る。まるで、キスを求める乙女のように。

 

「鳴女さん!」『………………!』

 

 しかし、いい所で邪魔が入った。上空から無数の光弾が降り注いだのである。




◆姑獲鳥(鬼滅の刃)

 柱になる前の不死川 実弥が、先輩格にして友人の粂野 匡近と共に赴いた古屋敷で出会った、下弦の壱の女鬼。
 一見すると弱った子供を世話する慈愛に満ちた聖母のように思えるが、実際は面倒を見る振りをして虐待し、あまつさえそれを「看病」と称して周囲の心配と同情を得る事に快感を覚える、所謂「代理ミュンヒハウゼン症候群」を患った精神疾患者。人間時代も鬼になってからも、その本質は一切合切変わらない。
 “鬼になった母親を自ら手に掛けた”トラウマを持っている実弥を篭絡し、食ってしまおうとしたが、匡近の捨て身の策で術を破られて逆上、匡近を殺したものの、それに激怒した実弥に頚チョンパされて死亡した。これにより実弥は風柱となった。姑獲鳥の後釜にはトーマス(魘夢)が就任している。
 その後、何故か鬼太郎のいる世界で種族としての姑獲鳥の一個体となり、藤花という面白い玩具で遊んでいたが、何時までもそんな身勝手さが許される程、世の中は甘く無かった。


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運命の戦い

 6期の鬼太郎ッテ、弱くはないけど強くもない感じがするんですヨネー。斜に構えた小僧というか何といウカ……。


『………………?』

 

 素早い動きで回避した琵琶の女が空を見上げると、そこには一反の木綿に跨る、不思議な少年の姿が。

 短めの茶髪で片目を隠したのっぺり顔をした、身長・体格共に小学生くらいの子供サイズだが、歴戦の勇士らしく、かなり鍛え上げられている。服装は紺色の学童服に縞柄(黄色と黒の二色)のちゃんちゃんこを羽織り、下駄を履いているなど、何処か昭和臭い格好をしている。学校では田中 ゲタ吉とか名乗ってそう。

 

『――――――何だぁ、あの主人公面した野郎は?』

「いや、面も何も主人公ですからね? 彼がかの有名な「鬼太郎」っスよ」

『ほほぅ、あいつが……シンセサイザーの』

「あんた俗世に染まり過ぎだろ。そっちじゃなくて、妖怪の方」

『ああ、幽霊族の方か』

「はい。ちなみに、これが今分かる彼のスペックですね」

『なるほどなるほど』

 

 そう、彼こそは幽霊族の末裔にして妖怪退治の専門家――――――ゲゲゲの鬼太郎その人だ(チャラ男wiki参照)。猫娘たちの危機を感じて、文字通りかっ飛んで来たのである。

 

『……遅れて済まない』

「き、鬼太郎!」「き……た……ろ……ぅ……!」

『一反木綿、まなと猫娘を頼む』『合点承知の助!』

 

 さらに、まなと猫娘を空飛ぶ布切れ妖怪「一反木綿」に任せて退避させ、自分は琵琶の女と対峙する。その瞳には明確な敵意がありありと浮かび上がっていた。自分の大切な仲間を傷付けられた怒りからであろう。

 まぁ、琵琶の人は、それくらいで怯むような女ではないのだが。今までもっとヤバい連中に付き纏われていたからね、仕方ないね。

 

『自己紹介は要らないようだな』

『ああ。代わりに私の紹介をしてやろう』

『必要ないね! 「髪の毛針」!』

 

 そして、鬼太郎はさっきまでとは打って変わって無表情に戻った琵琶の女に、問答無用で髪の毛針を放つ。妖気を宿した髪の毛を針のようにして発射する技で、特別強力な技でもないが、それでもコンクリートブロックを粉砕する威力はある。真面に食らえば、並みの妖怪では一溜りもない。

 

 ――――――べべん!

 

 だが、そんな針の筵も、琵琶の衝撃波によって一つ残らず薙ぎ払われてしまった。

 

『まぁ、そう言うなよ。自分を負かした相手の名前くらい、知っておきたいだろう?』

『うるさい! 「リモコン下駄」!』

 

 しかし、鬼太郎も負けじとリモコン下駄を射出する。この下駄は彼の念力によって自在に宙を舞い敵を打倒する、牽制技である髪の毛針よりも殺傷力の高い飛び道具だ。

 

『フン!』『なっ!?』

 

 だが、それさえも琵琶の女には通用しなかった。

 というか、衝撃波で防ぐどころか裏拳で殴り砕かれた。そこらの妖怪とは、根本的に肉体強度が段違いのようである。

 

『この……「体内電気」!』

 

 こうなっては仕方ないと、必殺技の一つを切る。敵に髪の毛を伸ばして巻き付け、雷級の電撃を浴びせるのだ。

 しかし、これも大したダメージにはならず、指先から伸びたで刀で髪を切断され、中止させられてしまう。感電している筈なのに、どうして動けるのか理由が知りたい。髪の毛をアースにでもしたのだろうか。

 

『「霊毛ちゃんちゃんこ」!』

 

 ならば、これでどうだと、先祖の霊毛を編み込んだちゃんちゃんこを伸ばし、琵琶女の顔面を覆い尽くす。これにより敵は窒息し、その上で霊力を吸い取られて消滅する……筈なのだが、

 

『ドラァッ!』『がはっ!?』

 

 琵琶の女は弱る素振りさえ見せず、ちゃんちゃんこをムンズと掴み、力いっぱい鬼太郎を投げ飛ばし、地面へ叩き付けた。リモコン下駄の時といい、とんでもない馬鹿力だ。

 

『くぅぅ……「指鉄砲」!』

 

 それでも鬼太郎は諦めない。目隠しされている今の内にと、指鉄砲を放つ。霊力を光弾として発射する技であり、さっきの不意打ちで使った連射式の時とは違い、チャージした上での大玉である。思わず「霊丸!」と叫びたくなる有様だ。

 

 ――――――べん!

 

『何っ……ぐわっ!』

 

 だが、とっておきの必殺技も、襖の転移攻撃であっさりと跳ね返されてしまった。どんな攻撃も当たらなければ意味は無い。

 

『……はぁっ!』

『ほ~う、やるねぇ』

 

 しかし、鬼太郎は咄嗟に霊毛ちゃんちゃんこを引き戻し、自らの手に巻き付け、返ってきた指鉄砲の光弾を受け止めて吸収――――――霊力を宿した光の剣に変えた。

 さらに、そのまま琵琶女に叩き込もうと猛進する。飛び道具が充てにならない以上、直接身体に刻み込むしかない。

 

『てぁっ!』

『ぬぅうん!』

『ぐぼぁっ!?』

 

 だが、琵琶の女は渾身の一撃をフワリと受け流し、合気道の要領でカウンターの拳と蹴りを殆ど同時に叩き込んだ。赤紫色のエフェクトが痛々しく重たい。これには鬼太郎も思わずダウン。立ち上がる事さえ出来ない瀕死のダメージを負った。

 

『ぐっ……くそっ……!』

『弱いな。所詮は再生力と地力頼みの喧嘩殺法か。今までの相手が相手だから仕方ないとは言え、対人戦闘という物を全く考慮していない。そんな事だから、こうして足元を掬われるんだよ』

 

 そんな彼を冷徹に見下ろし、琵琶の女が罵倒する。

 しかし、何も言えない。鬼太郎は今まで妖怪という異形の怪物を相手取ってきた。亜人型の者も多くいたが、大抵は野生の猿を思わせる獣染みた戦い方をする奴らばかりだった。

 妖怪にとって人間はスナック感覚のご飯であり、相手をするにしても身体スペックのみで事足りてしまう。それ故の弊害である。

 かと言って妖怪同士では妖術合戦になりがちで、やはり真面な技術のぶつけ合いにはなり難い。生存競争に「技を磨いて高め合う」暇など無いのだから。

 だので、強大な妖力と人間としての体術を併せ持った琵琶の女を相手にするのは、例え鬼太郎であっても分が悪かった。

 

「そろそろ帰りましょうよー」

『そうだな。稀血を逃すのは惜しいが、あの子は特別だ(・・・・・・・)。何れ機会はある。それに、煮ても焼いても切っても伸しても食えない奴を相手にするのも面倒だ。今日はもう帰るとしよう。それじゃ、バイバイキ~ン☆♪』

 

 そして、止めを刺そうとして、あるいは欲をかいて食べてしまい、ビックリ仰天な逆転劇に繋がる事もなく、琵琶の女は襖で転移して去って行った。完全に勝ち逃げだ。黒死牟(こくしぼう)がブチ切れそう。

 

『くそっ……!』

 

 結局、名前を聞く事どころか相手にすらされず、鬼太郎はここ最近は無かった、苦い敗北を味わう破目になった。

 雀の囀りと、キジバトのくぐもった鳴き声が、夜明けを告げる……。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

『……ここは!?』

 

 すっかり身体を再生し終え、美女の姿に戻った姑獲鳥が目を覚ます。

 見た事もない部屋。上下左右奥行きがあべこべな、あり得ない空間。

 

『おお、目を覚ましたか。なら、遊ぼう♪ 丸子と鞠で遊ぼう♪ ……朝も昼も夜も、永遠に♪』

 

 さらに、その一角で手招きする、座敷童子が一人。

 

『あ……ぁ……!』

 

 その瞬間、姑獲鳥は理解した。ここは地獄だと。

 屋敷の中では座敷童子に敵わない。運命率を操作され、都合の良い結果に導かれてしまうからである。

 そして、ここはあの琵琶女が用いる異空間。自分は二重に閉じ込められている。誰も可愛がれず、誰にも同情されない。全ては座敷童子と琵琶女の思うがまま。

 何も自分の思い通りに出来ないなんて、こんな生き地獄があるだろうか。

 

『いやぁあああああああああああああああああああああ!』

 

 無限城では、姑獲鳥の悲鳴は誰にも聞こえない。




◆鬼太郎

 フルネームは「墓場 鬼太郎」。世間的には「ゲゲゲの鬼太郎」で通している。妖怪退治の専門家として有名だが、人間に少し思う所があるだけで、別に人間の味方という訳ではない。悪人には容赦がないどころか、下手な妖怪より恐ろしい事をやってのける。こいつこそ本当の悪魔なんじゃねぇのって感じ。
 その正体は、かつて世界の覇権を握っていたという妖怪の一族「幽霊族」の末裔。凄まじい生命力が最大の特徴で、切っても焼いても潰しても溶かしても食われても死なず、ほぼ必ず復活する。むしろ、食ったら敵の死亡フラグである。
 時期や年代によって性格が違っており、6期の頃は非常にニヒルでリアリスト(実際には斜に構えた子供って感じだが)。その為、人間への対応は歴代で一番冷たく、真名にも初めは辛く当たっていたが、その一生懸命さと天真爛漫な心に影響を受け、後に和解した。
 ……ちなみに、今作中では鳴女に負けてしまったが、ここで彼が駆け付けなかった場合、名無しが完全体になる事は無かったものの、その代わりにヤトノカミもビックリな邪神が誕生する所だったので、ファインプレーではある。今回は初見だった事も大きいが、鳴女の進化速度が異常だっただけ。


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零余子ちゃんのゲーム実況

 こんにちは、零余子です。決して零余子印のサイコロステーキではありません。

 

 ……とまぁ、ご挨拶はこれくらいにするとして。

 つい先日、無限城の住人が増えた。鳴女曰く「丸子の母親役」らしいが、どう見ても元下弦の壱なんだよなぁ。名前も姑獲鳥だし。こんな奴(代理ミュンヒハウゼン症候群)を母親に宛がうのはどうかと思うのだが。

 

『さぁ、次はメンコをしよう!』

『えっと、そろそろ寝た方が……』

『えー、もっと遊ぶのー!』

『……ええ、分かったわ。好きにして頂戴な』

『わーいわーい!』

『………………』

 

 まぁ、無限城と丸子ちゃんの能力に囲われた状況では、何も出来ないだろうけどね。逃げられないし、逆らえない。何一つ自由は無く、飽きられたら文字通り終わりなので、常に“丸子ちゃんにとっての甘えられる相手”を演じざるを得ない。加虐趣味のあいつにとっては多大なストレスだろう。ざまぁ見ろって感じ。

 ちなみに、無限城の主は何をしているのかと言うと、

 

《久し振りだな、AMS諸君! この傷の痛み、貴様らにも味わわせてやろう!》

『それはこっちのセリフだ。ここで決着を付けてやる。閣下の名は私が貰おう!』

 

《お、ラスボス戦か》《滅茶苦茶ノリノリで草》《鳴女閣下!》《でも、この超ハイスコア状態で勝てるのか?》《鳴女閣下なら大丈夫だ!》《総統閣下してるしな!》

 

 ……何だかなぁ。

 確かにガンシューティングゲームは盛り上がる物だけど、あそこまでマジになれるもんかね。鬼ならハイスコア叩き出すくらい余裕だろうに。

 とても鬼太郎を圧倒した女とは思えない、お気楽さだ。

 ――――――そう、何とこの女、かの有名な妖怪界のエース、ゲゲゲの鬼太郎をコテンパンに伸したのである。

 それも内臓破裂と肋骨及び脊椎の粉砕骨折という、普通だったら即死レベルの重体に追い込むくらいのフルボッコだ。あの静かなる仕事人が、こんな化け物みたいな仕置人になるとはなぁ……。

 まぁ、瀕死の重体程度なら、すぐに復活してしまうのが鬼太郎なのだけれど。噂によると溶かされたり食われたりしても死なないらしいので、こいつも大概化け物である。もう嫌だ、この世界。

 ……それにしても、あんなに目立つ真似して、大丈夫なんだろうか?

 人気の無い場所だったから、当事者以外の目撃者はいないとして、鬼太郎ファミリーに目を付けられるのは良くない気がする。チャラ男先生曰く「妖怪界の任侠」らしいからね。日本(シマ)を荒らす輩は妖怪も人間も関係なくカチコミするとか。妖怪退治の専門家なんじゃないのかよ。やってる事がなまはげと大差ないんだよ。

 一応、その辺りは鳴女も考えて……無さそうだなぁ。「負け犬の遠吠えなんか興味無い。関心があるのは味だけだ」とか言いそうだもんね。自分以外の知的生命体を食材としてしか見てなさそうだし。

 ま、考えても仕方ないか。なるようになるでしょ。

 そんな事より、私は自分の配信をしないと。今日はソロでゲーム実況するんだよ。

 

「……あーあー、皆さんこんばんは。零余子のゲーム実況、始まるよー」

 

《こんばんわんこソバ》《今日も相変わらず気怠そうで草》《零余子はご飯のお供、異論は認めない》《何の話やw》《零余子の話に決まってるじゃないか!》《※零余子は地上部に形成される栄養繁殖器官の事です》《何それ美味しそう》《実際、結構美味いよ》《零余子入りのご飯がまた良いんだ、これが》

 

 クソッ、毎回馬鹿にしやがって!

 ご飯ネタはもう良いんだよ。何だ、「こんばんわんこソバ」って。日々の鬱憤をぼやかして呟いていたら、いつの間にかリスナーから「私=ご飯(またはオカズ)」みたいな扱いを受けるようになってしまった。解せぬ。

 だが、リスナーはお客様だ。多少の事には目を瞑ってやろう。女性実況者の宿命みたいなもんだからね、これ。

 余談だが、今回プレイするのは、小さな悪夢の世界を黄色いレインコートを着た小人ちゃんが探索する、ホラーアクションゲーム。不思議な世界観と不気味な演出が上手く組み合わさった良作との前情報があったので、ちょっとワクワクしている。こういう曖昧で幻想的な雰囲気って好きなのよ、不思議の国のアリスみたいで。個人的に大工とセイウチの話がお気に入りです。

 

「えっと、ここはこれを掴んで登ればいいのかな? ……よしよし、順調順調……って、わぁああああっ! 奥行きィイイイイイッ!」

 

《あーあ、やっちゃった》《流石は零余子や》《常に落ちが付く有能な女》《芸人だなぁ》《まぁ、あるあるだよね、奥行き感のズレ》《最大の敵は奥行きだからな、このゲーム》《言うて死にゲーやし》《落ちてこその零余子やし》《それな》

 

 チクショウ、嗤いやがって!

 判定がシビアなんだよ、このゲーム!

 あと、やっぱり奥行きが一番キッツいィィィッ!

 ……そんなこんなで、意外と難しい操作に四苦八苦しつつも、監獄→隠れ家→台所→ゲストエリアとクリアしていく。

 

「――――――って、嘘でしょ!? おま、それは……やめたげてよぉ! ……ああー」

 

《遂にやっちゃったかー》《皆のトラウマ》《トンガリコーン美味しかった?》《トモダチはゴチソウなんだよ!》《それガ○ートや》

 

 さらに、マジで夢に出て来そうな食事シーンを途中に挟みつつ、遂にラスボス戦へ。ラーじゃないけど、鏡で現実を6回くらい見せ付けてくれるわ!

 

ラスボス(こっち)も食うのかよぉおおおおおっ!」

 

《やったぜ!》《検食のお時間だぁ!》《まるで零余子のようだ!》《でも、中身婆さんらしいよ》《←ネタバレやめい》

 

 クッソタレが、何で私は悪食に縁があるんだよぉおおおっ!

 ああん、もう駄目ぇ……私の精神は272回は死んだ……もう、疲れたよ……何だかとっても眠いんだ……パトリック……いや、それ違う、コーラサワーや……。

 

「――――――はい、クリアです。もう駄目みたいなんで、今日はここまでにします。それでは、この動画を少しでも良いと思った方は、評価や登録をして頂けると幸いです。ではでは……」

 

《お疲れー》《いやー、零余子のホラゲー実況は良いなぁ》《尊い》《尊い》《お前ら絶対尊いの意味分かってないだろw》《またね、零余子ちゃ~ん♪》

 

 ともかく、私はやり遂げた。主人公の少女が妙に鳴女臭い事もあって、かなり疲労はした物の、クリアしたったよ。ざまぁ見ろ、バン○イめ!

 ……はぁ、マジで疲れたから寝よ。今日はもう配信予定は無いし、鳴女の方もそろそろ終わりそうだし。

 それじゃあ、今日の私は明日の私に任せて、お休みなさい……。

 

 

 

「……はにゃん?」

 

 そして、私は謎の場所で目を覚ました。




◆零余子の実況チャンネル

 正式タイトルは「おクスリ零余子の実況シリーズ」。リスナーからの挨拶は「おはよう食」「こんにちハンペン」「こんばんわんこソバ」の三種類。全部悪乗りから定着した。
 主にRPGやSTGをやっているが、一番人気はホラゲーの実況動画。本人がヘタレでビビりな上にマウントを取りたがるので、突拍子もない事を言い出したり、奇想天外な行動に出たりと、混沌とした内容がウケている様子。特に絶叫が素晴らしく、凄まじいとの事。
 他にも雑談配信や鳴女たちとのコラボ動画を上げたりしているので、皆も一度は登録しよう(笑)。


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不思議の夢の零余子

 シックスちゃんの可愛さと理不尽さは異常だと思うンダ。


 枯れた木々と岩肌が何処までも広がる、不毛の土地。常に霧が掛かっており、一寸先は白い闇である。

 

「……あー、これ夢だわ。明晰夢って奴ね!」

 

 私はそう思う事にした。何故なら有り得ないからだ。

 無限城は鳴女のテリトリーであり、そこには座敷童子の丸子ちゃんまでいる。全ては彼女らの思うがままで、閉じ込められたが最後、二度と陽の目は拝めないだろう。元下弦の壱のように。

 仮に寝てる間にチャラ男先生の部屋へ移動していたとしても、鳴女が外敵の侵入を許す筈がない。彼女が健在である限り、あの手狭な部屋は安全地帯である。

 まぁ、私を一番傷物にしているのは、その鳴女なのだが。

 まぁまぁ、そんな事はどうでも良い。分かり切っている事に悩んでも仕方ないだろう。

 それより、ここが夢の中だというなら、探検しない手はない。どうせ何時かは目覚めるんだし、それまではこの夢幻の大地を冒険するとしよう。さっきの実況で「不思議の国のアリスが好き」とか心の中で呟いてたけど、まさか自分がワンダーランドに入場するとは思わなかった。

 さーて、この先にどんなワクワクが待ってるのかな~?

 

「何もないね……」

 

 五分くらいブラブラして気付いた。ついさっき、自分で不毛の大地って言ってたじゃん。荒野にはイース○ウッドしかいないんだよ。

 というか、いるならサイン欲しい。「零余子ちゃんへ、愛を込めて」って書いて。

 私、あの人のビジュアル好きなのよねー。漢らしさとイケメンぶりが絶妙にミックスされているというか、単純にお嫁さんにして欲しいと思った。鳴女に頼めば鬼にして貰えるかもしれないし、何の問題も無いよね?

 つーか、いい加減何かあって欲しいんだけど。イベントの一つや二つ、起こってくれないとつまらないよー。

 

「いや、待てよ」

 

 ここが夢の中だというのなら、強く思い描けば反映されるんじゃないのか?

 よしよし、そうと決まれば――――――、

 

「いざ行かん、不思議の国へ!」

 

 アリス・イン・ワンダーランドだっ!

 

「おおー」

 

 すると、枯れ木ばかりだった不毛な大地が、奇妙な場所が点在する鬱蒼とした七色の森へ早変わり。海や山に昼と夜が同じ領域に同居し、動物が人のようにお喋りして、草花が楽しそうに歌う。物が意思を持って動いたりもしていた。

 まさに不思議の国。お伽話の世界である。

 そうだよ、私は昔から、何なら鬼になる前から、こういう夢いっぱいの世界を探検したかったんだよ!

 ウフフフ、まずは何処から行こうかな~?

 

『ぴきゅぅ~』「……ん?」

 

 何か目の前を通って行ったな。気のせいでなければ、つい最近君の姿を見た事があるぞ?

 

『ぴきっ!』「ノームだぁ♪」

 

 間違いない、このトンガリコーンは小さな悪夢のノームくんだ!

 可愛いなぁ。悪戯好きなだけで何の害も無いし、すぐに懐いてくれる。まるでピク○ンみたいね。私だけに付いて来て良いのよ~?

 

「よ~しよし」『ぴきー?』

 

 ゲームよろしく、後ろから抱っこしてみる。

 

『ぴきゅきゅっ♪』

 

 思った通り、懐いてくれた。私と一緒にピョンピョンしてくれるんじゃ~♪

 でも、何で不思議の国のアリスにノームがインしてるんだろう?

 さっきまで実況してたから、世界観がごっちゃになったのかも。雰囲気が似てたからね。

 

「……あれ?」

 

 という事は、この先に待ち構えているのって、ドードー提督とかチェシャ猫みたいな可愛い系のキャラクターじゃなくて、管理人やゲストとかの化け物系だったりする?

 いきなり行きたくなくなったんだけど。何で夢の中に来てまで食べられなきゃいけないんだよ!

 

『ぴきっ!』

 

 だけど、ノームが行こうって言ってるんだ……進むしかないじゃな~い♪

 ま、これ夢だもんな。死ぬ事は無いだろうし、そもそも私、死ねないし。今更と言えば今更なのよねー。

 そうと決まれば、地底じゃないけど、GO! GO! GO!

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

「……この人は、本当に何かやらかさないと気が済まないんスかね?」

 

 もう三日もスヤスヤと眠る零余子ちゃんの姿に、俺は思わず溜め息を吐いた。

 ……はーい皆、チャラトミさんだよ~♪

 さっそくだけど、この寝坊助をどうにかして欲しいんだ。例のゲーム実況から今日まで、三日三晩眠り続けている。下の世話が大変だったわ。ベッドを汚すし、鳴女さん怒るし、「お前これ食え」とか言ってくるし。抱き枕が使えなくて癇癪を起した鳴女さんを宥めすかすのは苦労したぜ。

 それにしても、流石に眠り過ぎだろ。これには鳴女さんも大人しくなった。どう考えてもおかしいからね。丸子ちゃんも心配している。

 

『鳴女ー、零余子はまだ寝てるのかえ?』

『ああ。手足を食っても反応しないし。これじゃあ、抱いて寝る以外使い道が無いじゃないか』

『つまらんのー。いっそ頭をもいでみたらどうかの?』

『もうやったよ』

 

 ……訂正。単に愛想が尽き始めているだけだった。これはマズいんじゃないかな?

 

『おい、チャラwi(ウィ)。どう思うよ、これ?』

「いや、そんなチェケラみたいな略し方されても……」

 

 まーた、そうやって無茶振りするー。

 しかし、考えない訳にもいかないしなぁ。ここで考えるのを止めたら、零余子ちゃんが宇宙に投棄されちゃうし、夜のオカズを無くすのは俺も嫌だ。何とかしないと。

 

「――――――思うに、これは夢に囚われてるんじゃないかと」

『夢に囚われる?』

「はい。意外と多いんすよ、夢に干渉する妖怪って」

 

 夢は無防備である。魂が肉体から切り離され、剥き出しの精神がドリームランドを彷徨っている状態なので、心を守る物が何もない。干渉されたが最後、好き放題食い放題ないのだ。

 だので、夢の世界を狩場にする妖怪は、かなり多い。日本だけでも獏や枕返しがいるし、海外には夢魔という小悪魔がいる。人の夢は、妖怪にとってもドリームランドなのである。

 

『なら、お前ちょっと連れ戻して来い』

「いや、どうやってスか」

『そこの姑獲鳥に頼めばいい。そいつ、人を夢の世界に連れて行く能力を持ってるからな』

「ほへー」『………………』

 

 ちょっと特別感のある個体だとは思っていたけど、そんな能力まであるのか、この人。確かに良い夢(意味深)を見せてくれそうではあるけど。

 

「それじゃあ、一丁お願いします」『はいはい、横になってねー』

 

 さらに、その艶めかしい脚で膝枕までしてくれる!

 まさに夢心地だわ。良い匂いもするし。クンカクンカするだけで微睡める。何て心地良いんだ。

 嗚呼、ずっとこうしていたい……。

 

『今晩中に連れ戻せよ。じゃないと、お前と零余子を活造りにしてやるからな』

 

 早く連れ戻さなきゃ!




◆リトルナイトメア

 正式名称は「LITTLE NIGHTMARES-リトルナイトメア-」。胃袋の名を持つ巨大な船「モウ」の中を、黄色いレインコートを羽織った少女「シックス」が探索する、ホラーアクションゲーム。基本的に右へ進む横スクロールだが、キッチリと奥行きもあり、目測を誤ると落下死する(ある意味最大の死因)。操作も意外と難しく、「初見でそれは無理やろ」というフィールドギミックや敵も満載で、死んで覚えるしかないデスルーラ的なゲームである。
 様々な謎が随所に散りばめられており、製作者が明確な答えを用意していないのも相俟って、考察のし甲斐があるのが最大の特徴。モウの住人やお客様もさる事ながら、主人公であるシックスが一番謎だらけで不気味だったりする。マスコットキャラのノームだけが唯一の癒しだ。別のゲームに出て来る処刑人に似ている気がするのは内緒。「2」もあるよ!


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零余子ちゃん、大ピンチ!

 ストレートなタイトルでスガ、これ以上言い様が無いのでこうなりまシタ。


 はーい、皆おはよう食。まだ目覚めの時じゃないけど、零余子ちゃんだよー。

 と言うかね、正直今は挨拶している場合じゃないんだわ。

 

「うひゃああああああ!」『ぴきゅきゅ~♪』

『グヴォァッ!』『ホワァッ!』『ノォオン!』『ハァァアアアッ!』

 

 だって、モウの住人とゲストの皆様に追い掛けられてるんだもの。居るとは思ってたけど、勢揃いするなよ。まるで、何処かの大運動会みたいじゃないか。あと、ノームが楽しそうなのが、そこ傍となくムカつく。

 

《デデデ~ンデデデ~ンデデデデデ~ン♪》

「しまった、余計な事を考えちゃったぁっ!」

 

 お前らの相手は迷子の七五三さん(二十代)だろぉ!

 マズいマズい、どうするどうする!?

 最早、夢を楽しんでいる暇はない。こんな悪夢の世界、さっさと抜け出すに限る。

 だが、一体どうやって乗り切れば……、

 

「――――――そうだ!」

 

 ここが夢の世界なら、失くした物も取り戻せる筈。私が呼び出すのは、これだ!

 

『うっしゃあああああっ!』

 

 鳴女やチャラ男先生から伝え聞いた、あの妖刀。これさえあれば、どんな化け物も膾切りよ。痣者舐めんじゃねぇ! 食らえ、ヒノカミ神楽ぁっ!

 

『ハァ……ハァ……ふぅ」

 

 危ない所だった。透き通る世界のおかげで、ほぼ一方的に殲滅出来たけど、見たくもない中身まで確認出来てしまった。とりあえず、無理すんなよ婆とだけ言っておく。

 つーか、自分の夢で殺されるとか、洒落にならねぇんだよ、チクショウめぇーっ!

 

『きゃっきゃっきゃ♪』

 

 楽しそうだね。

 

「それにしても、これからどうしたもんか……」

 

 一先ず、状況を整理しよう。

 ここは夢の世界であり、私はそれを夢と認識出来ているから、ある程度コントロール出来る。

 だが、一度生み出した物は無くならず、襲われれば殺されてしまうかもしれない。夢で死ぬと現実でも死ぬとかいう俗信があるけど、もし本当にそうだとしたら、今の状況はかなり危険である。

 そもそも、ここが自分の夢とも限らない。夢の世界は集合的無意識の産物だという話もあるし、誰かの夢に飛び込んでしまった可能性がある。だから微妙に不自由なのかも。

 ともかく、早く脱出しないとヤバい。人の夢に閉じ込められるなんて、それこそ悪夢だ。私の夢は私だけの物なんだよ!

 

『……さい! 止めて下さい!』

「うん?」『ぴきゅ?』

 

 森の奥から、声が聞こえる。可愛らしい女の子の声である。台詞から察するに、誰かに襲われているらしい。

 正直、自分の事で手一杯だから無視を決め込みたいけど、夢の中では何が幸いするか分からないので、とりあえず助けよう。

 

『良いよ、君! 実に良い! もっと見たい、調べたい! 君、ボクと一緒に来ておくれよ!』『嫌ぁ! わたしはずっとここに居るのぉ!』

「うーわー」『ぴーきゃー』

 

 ズンズン進んだ先に待っていたのは、継ぎ接ぎだらけの死体を思わせるマッドサイエンティストが、シニョンで着物というキュートな幼女に迫る、事案しかない光景だった。何しとんねん。

 

「止めんか」『ぐはぁっ!』

 

 一先ず、一線を越える前にドロップキックを食らわせる。見た目より重量はあったが、それでも超強化状態である私の敵ではなかった。科学者なら、大人しく引き籠ってろよ。

 

『い、いきなり何をするんだ! このボクの優秀な頭脳に傷が付いたらどうする! ボクはヴィクター・フランケンシュタインだぞぉ!』

「黙れ、ロリコンめ」

 

 こんな可愛い女の子に鼻の下を伸ばして手を出すような奴に慈悲は無いんだよ。

 それにしても、フランケンシュタインか。

 確かに頭に螺子刺さってるし、継ぎ接ぎだし、完全に動く死体だけど、ヴィクター・フランケンシュタインは制作者であって、怪物自体に名前は無いんじゃなかったっけ。創造主を殺した時に名前まで乗っ取った、とか?

 何れにしろ、生みの親と同様にイカレてるようだし、手を唇と舌に変えて幼女の味を確かめるような奴だから、ぶっ殺し確定だな。死ね、変態!

 

『うぅぅぅ……あァァァんまりだァアアアアアっ! HEEWYYYYY!』

 

 すると、ヴィクターが突然、大声を上げて泣き出した。マジもんのギャン泣きだ。柱の男かお前は。家に柱の女みたいなの居るから、そんなに驚かないけど。

 

『怒る! ……ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』

「うぇえええっ!?」『ぴきゃーっ!?』

 

 だが、奴は弾けた。

 スッキリするどころか、筋肉モリモリマッチョマンの変態になった。見た目は完全に色違いのハ○クである。どういう事だってばよ!?

 

『そいつは大泣きすると、フランケンシュタインの怪物としての本性を現わすの! とんでもなく我が強くて夢見がちだから、わたしの力も通じないし……ともかく、気を付けて!』

 

 と、シニョンの幼女からナイスな助言が。お前、見た目幼女だけど実は相当年月重ねてるだろ。冷静に解説しやがって、このロリ婆め!

 つーか、何をどう気を付ければ良いんだよォ~!?

 

『――――――「円舞一閃(えんぶいっせん)」、「幻日虹(げんにちこう)」「碧羅の天(へきらのてん)」、「灼骨炎陽(しゃっこつえんよう)」、「日暈の龍(にちうんのりゅう)頭舞い(かぶりまい)」、「輝輝恩光(ききおんこう)」!』

『ガヴォオオオオオオッ!』

 

 ともかく、迎撃しないと話にならないので、次々とヒノカミ神楽を叩き込んでいく。

 しかし、ヴィクターは元々死体で継ぎ接ぎだからか、斬った傍から再生し、巨体に見合ったパワーでどんどん攻めて来る。その姿はまさしくバーサーカーだ。ドロー、モンスターカード!

 ヤバいヤバいヤバい、このままじゃ押し負ける!

 殺されても死なないけど、その分色々とアカン事をされてしまうかもしれない。くっころは勘弁なんだよぉ!

 

『うぉおおおおっ、私の純潔は絶対に、絶対に、絶ぇ~~~~~~~~ッ対に、渡さないんだよぉおおおっ!』

『グヴォオオオオオオッ!』

 

 火事場の馬鹿力なのか、全身に痣が浮かんだ状態で日の呼吸・拾参の型を食らわせたら、ようやく大人しくなった。三千世界どころか万世極楽を教えてやったぜ!

 

『ヨグモォオオオッ! お前は絶対にゆ゛る゛さ゛ん゛!』

 

 だが、許されなかった。瞬く間に再生した上に若干の理性まで取り戻してしまった。これもゴル○ムの仕業か。全部ドン・サ○ザンドって奴のせいなんだッ!

 

『行くぞ、ゲッターぁああああああっ!』

 

 しかも、まさかのブラックゲッター(チェンゲ版)を召喚、自らパイロットを務める始末。どうしてこうなった。

 

『この幼女は素晴らしい! どんな夢も皆みんな叶えてくれる! まさしく“あの子”へのプレゼントに相応しい! 初めは潜入調査などという使いっパシリにされた事に腹が立ったが、“あの子”の夢を叶える為なら話は別だ! どんな事をしてでも手に入れてやるぞ! 愛でLOVEだぁ!』

 

 そして、意味不明な事を口走りつつ、スパイク付きの鉄拳を振り下ろして来た。

 

「だ、誰か助けてぇえええええ!」『ぴっきゃーっ!』

 

 悪夢の世界では、私の悲鳴は誰にも聞こえない……かと思われた、その時。

 

 ――――――ガキィイイン!

 

「ゑ?」『ぴ?』

 

 何かがブラックゲッターの拳を受け止める。火花を散らす、赤鬼のようなそれは、

 

『何ッ、ゲッター1だとぉ!?』

 

 世界最後の日からやって来た、ゲッター1だった。




◆ヴィクター・フランケンシュタイン

 メアリー・シェリーの小説「フランケンシュタイン」に登場するマッドサイエンティスト。“新たな生命体”を創る事に固執しており、継ぎ接ぎの死体に「サンダー・ボルト」を発動して蘇生させたが、最後はその怪物に殺されてしまった。後年では、この名無しの怪物が「フランケンシュタイン」と呼ばれるようになった。
 6期の彼は西洋妖怪の一員であり、創造主の名前と人格を完全に乗っ取った存在である。その為、大泣きする事をスイッチとして怪物の本性を現わす能力が有る。
 アニメでは真名に一目惚れしていたが、今作の彼には既に“花嫁”がいるので、恋愛対象としては眼中に無い(研究対象にはするかもしれないが)。


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零余子ちゃんと愉快な仲間たち?

 チェンジ・ゲッター! ……結局、ブラックゲッターが一番強くてカッコいいんだヨネ!


《転移完了! 零余子ちゃんは下がってて!》『ドワォ!?』

 

 さらに、ブラックゲッターの腕を振り払い、見事なチョッピングライトを決めたパイロットは、まさかまさかのチャラ男だった。マジかよ。何だか分からないけど、ピンチに颯爽と駆け付けるなんて、ちょっとカッコいいじゃない!

 

「ど、どうしてここに!?」

《鳴女さんの命令だよ! 姑獲鳥さんの力で夢に干渉したんだ!》

「なるほど!」

《俺としても、夜のオカズは大切にしたいからね!》

「死ね、この変態!」

 

 結局お前も食べ物(意味深)として見てんのかよ!

 どうして私の周りには、ロクな奴がいないんだぁ!

 

『ぴきゅぃー』

 

 嗚呼、君だけが私の癒しだわー。

 ともかく、ここでボサッとしている場合じゃない。可哀想だから、シニョンの女の子も一緒に退避しよう。特別だぞん♪

 

《男なら、やっぱりゲッターだよなぁ!》

 

 そう言って、ブラックゲッターと対峙するゲッター1(inチャラ男先生)。いや、知るかよ。

 

『ほざくなぁ! 「ゲッタートマホーク」!』

 

 肩パットからトマホークを生成し、怒り心頭で襲い掛かるブラックゲッター。

 

『ヴォラァッ!』《ぬぅっ!》

 

 ゲッター1も同じトマホークを手に取って、ブラックゲッターの袈裟斬りからの横薙ぎを防ぐ。

 しかし、刃を交えるのに夢中になり過ぎたせいで、左腕のブレードを防げず、トマホークを切り払われる。これはチャンスとばかりに、ブラックゲッターはそのまま一刀両断にしようとしたが、

 

《「オープンゲット」!》

 

 ゲッター1が三機の戦闘機(ゲットマシン)に分離し、致命的な一打を回避した。

 そして、空中で再び合体し、ゲッター1に戻った。その手には二丁のマシンガンが。

 

『逃がすか! 「ゲッタービーム」!』

 

 対するブラックゲッターはマントを翻しつつ、内部でゲッター線を乱反射させ、拡散式のゲッタービームとして放った。分散しているので威力は低下しているが、そもそもブラックゲッターはゲッターG並みのパワーがある為、普通に腹から撃つのと変わらない破壊力を有している。

 

《チィッ!》

 

 そんな物を喰らったらアウトなので、ゲッター1はマシンガンで正確に撃ち抜く事で当たる前に暴発させて対抗した。流石チャラ男先生、ガンシューティングが上手過ぎる。

 

『グヴォオオオオオッ!』《はぁあああああっ!》

 

 さらに、空中を飛び交い、マシンガンやマグナムをガンガンぶっ放し、最後はハジキをかなぐり捨てて殴り合う。こうなると有利なのはスパイク&ブレードを持つブラックゲッターである。

 

《「オープンゲット」! そして……ヴェッタァアアアアヴィイイイイム!》『ヴォオオオオッ!?』

 

 だが、分離機構を持たないブラックゲッターと違い、ゲッター1はオープンゲットからの不意打ちが出来る。背後に回り込んで、零距離からの腹式ゲッタービームで止めだ!

 

『このボクが、こんな所でぇえええええっ!』

 

 そして、赤紫色のエネルギーを巻き散らしながら、ブラックゲッターは爆ぜた。ゲッター1、大勝利である。消える直前に何か迸ったように見えたが、気にしたら負けだろう。

 

《さ、早く帰るよ。じゃないと俺たち鳴女さんに刺身にされるよ》

「マジかぁ!」

 

 アカン、早く帰らないと。

 

『ぴきゅー』『………………』

「バイバイ。短い間だったけど、楽しかったよ」

 

 私はゲッター1の掌から、こちらを寂しそうに見上げるノームとシニョン幼女に手を振った。大丈夫、また何時か会えるさ。目が覚めても、夢は消えないのだから。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

「――――――って、思ってたんだけどなぁ!」

『ぴきー♪』『狭い部屋ねー』

 

 ようやく目を覚ました零余子ちゃんが、何故か付いて来たトンガリ頭(手乗りサイズ)とシニョンの幼女(五歳児?)に文句を垂れている。出会った時と相対比が変わってるけど、仕様なのかな?

 ……やぁやぁ、俺だよ、チャラトミさんだよ。

 三日振りだというのに元気一杯の零余子ちゃんには、本当に呆れちゃうね。普通、そんだけ寝たら逆に疲れると思うんだけど。

 さらに、光の粒子が集まるように召喚された、夢の世界の住人たち。

 零余子ちゃん曰く、トンガリ頭の方はノームという種族の一体らしく、シニョンの女の子については全く知らないが夢を実現する能力が有るんだとか。またとんでもない奴を引っ張ってきたねぇ。

 ちなみに、あの継ぎ接ぎ野郎はヴィクター・フランケンシュタインと名乗ったそうだ。名無しの怪物が名実共に創造主の存在を食ってしまった、という所か。何れにしろ、夢の中で死んだのだから、現実でもくたばっているだろう。気にしても仕方あるまい。

 まぁ、それはそれとして、

 

『ハーイ、こっち向いて。そこでアヘ顔ダブルピースな』

「いィィィやァァァああああっ!」「うーん、この……」

 

 恒例の鳴女さんによる折檻のお時間である。今回は俺と零余子ちゃんによる男女盛り(裸)だ。彼女はともかく、俺にはご褒美でしか無いような気もするが、労ってくれているのだろうか。その素直じゃない所もまた可愛いなぁ。今度は鳴女さんとヤらせてね~♪

 こうして、俺たちの夜は更けていった。零余子の悲痛な叫びを枕に、ね。

 

 ――――――いや、別に彼女とヤってませんからね(オカズにはしたけど)?

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 日本の何処か、闇の狭間にて。

 

『……おはよう、ヴィクター』

『おはよう、ベア子ちゃん♪』

 

 二人の怪人が、目覚めの挨拶と抱擁を交わした。それはまるで、恋人同士のように……。




◆真(チェンジ!!)ゲッターロボ 世界最後の日

 不朽の名作「ゲッターロボ」シリーズのOVA第一弾。
 ゲッター線を餌に異形進化を繰り返す怪物インベーダーの魔の手から、地球を守れゲッター!
 ――――――という感じの内容なのだが、監督のせいなのか何なのか、「何故インベーダーが……まるで意味が分からんぞ!? 俺に分かるように説明しろ!」→「そう、この時代は! 忍びが天下を取った江戸時代じゃあ!」みたいな状態であり、真面に説明する気が一切ない。
 そもそも、第1話のタイトルが「復活!! 悪の要塞 早乙女研究所」である。
 たぶん、TV版から来た視聴者は精神が虚無る事だろう。真ドラゴンが登場する度に「出たなゲッタードラゴン!」って言いたくなるくらいに。
 しかし、独特のセリフ回しとセル画とは思えない芸の細かさ、ブラックゲッターのカッコ良さに初代ゲッターチーム(開発者一同)のキャラクター、真ドラゴンの最終形態(笑)の姿など魅力的な所も満載で、根強い人気がある。根が深いと言うより、闇が深い感じだが。


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???の無限なる新生活

 一体誰視点なんでしょウネー。


 やぁ、こんにちは。

 ぼくはキッド。皆には、そう呼ばれていた。

 少し前までは人間だったけど、今はただのマスコット。あのお婆さんの趣味らしいね、この姿。

 しかし、ぼくは死んでしまった。あの地獄のような船の中で。ぼくは“あの子”の助けになれたのだろうか。

 だが、全ては過ぎ去った出来事。結果を知る方法は、もう無い。

 そして、ぼくは不思議な森で目を覚ました。枯れ木ばかりの不毛な大地。誰もいないし、何も無い。夢も希望も、何もかも。

 しかし、“あの人”が来た瞬間、全てが変わった。枯れ木は潤い色付いて、草花は歌い、動物は立って歩きだす。とても楽しそうな世界だった。

 さらに、“あの人”が思い描く通りに風景や住人の姿が書き換わり、次々と騒動が巻き起こる。何て楽しい人なんだろうか。着物姿は誰かを思い出して嫌だけど、もっとずっと見ていたいと思ったんだ。

 だが、何事にも別れがある。ちょっとアレな科学者と一悶着あった後、その時が来た。寂しそうな笑顔で手を振る“あの人”に、ぼくも手を振り返す。

 

 ……そして、ぼくは何故か“あの人”と居候する事になった。

 

 何を言っているのかって?

 うん、ぼくにも分からない。一度死んで、目を覚まして、また別の世界にやって来た。

 ここは何処なんだろう?

 あの船のゲストエリアのように和風だが、上も下も右も左もあべこべで、重力も一定ではない。誰も何もかもが、好き勝手に着地している。ある種の異空間みたいだけど、詳しい事はさっぱりだ。

 まぁ、良いや。ぼくも結局は姿が変わったままだし、次があるのかも分からない。それでも“あの人”と一緒なら、何処でだって楽しくやって行けるだろう。

 というか、実際に面白い。今日はそんな“あの人”や、その周囲を取り巻く人々の様子を見てみようかと思う。

 さっそく、まずは“あの人”――――――零余子さん、なんだけど、

 

「えっと、印を消して……ぬっ!? ……へ、えへへ……わ、分かってるもんね! どうせ、一回目は死ぬんでしょ!? 良い臀部しやがって……いくら決めポーズ取ったからって、私はぁあああっ!? ちょ、いや、それはアスリート……ぱぉおおおおおおん! アニバーサリィーッ!」

 

《はっはっはっはっ!》《まぁ、最初は死ぬよね》《伝統だもんね》《ぴえんは超えられなかったか》《パワーアップしとったなぁ》《つーか、アニバーサリーって何だよ》《意味☆不明》

 

 ……何の記念日なんだろう?

 相変わらずよく分らない人である。何時もゲームをしてるか歌ってるし、外に出る気配は微塵も無い。引き籠りかな?

 あと、何で裸なのかなぁ。あの森ではちゃんと着てたのに。そういう趣味なんだろうか。

 しかし、何故か彼女の近くにいるとホッとするというか、親近感が湧くというか、魂に刻まれた何かを感じるというか……ともかく、零余子さんの傍に居たいという気持ちに嘘は無い。ホントだよ。服は着て欲しいけど。これでも男の子なんだよ、ぼくも。

 ただこの人、言動や仕草が見た目よりずっと幼くて、思わずさんじゃなくて“ちゃん”付けしたくなっちゃうんだよねー。正直、デッカイ妹にしか見えないです、ハイ。間違いなく年上の筈なのに……。

 そんな零余子さんだが、その人柄のおかげか周囲に色々な人がいる。

 

『あんたがたどこさ』『ひごさ』『ひごどこさ』『くまもとさ』『くまもとどこさ』『せんばさ』

 

 仲良く鞠付きをしている二人は、丸子ちゃんと夢子(ゆめこ)ちゃん(←本名ではないらしいよ)。丸子ちゃんは座敷童子で、夢子ちゃんはぼくと一緒に来た“夢繰りの少女”。どちらも着物姿で鞠遊びが好きなので、何時も二人で謡って踊っている。

 傍らには姑獲鳥さんという奇麗な女性(ひと)が居て、ずっと丸子ちゃんたちを見守っている。とても慈愛に満ちた笑みを浮かべているけど、微妙に頬がヒク付いているのは何でだろう?

 さて、次はちょっと“外”に出てみようか。

 この異空間は「無限城」という名前らしく、特定の襖を開けると別の狭い部屋に行ける。その部屋は現実世界の一部――――――曰く付きの格安アパートの一室、なんだとか。都会の駅近で家賃2万5千円って、逆に怖いよね。

 

「鳴女さん、シャワーまだかなぁ?」

 

 このチャラチャラしている人が、ここの世帯主。零余子さんには「チャラ男先生」、他の皆には「チャラ男」とか「チャラトミ」とか呼ばれているけど、本名は知らない。無理して聞く気は無いから、別に良いけどね。

 このチャラトミさんも、零余子さんと同じくゲームをしている事が多く、解説動画を撮っている場合もある。意外と生活力があるみたいで、家事全般を殆ど一人で熟している。これが「主夫」って奴だろうか。

 

『あ、ノームくん。お散歩かしら?』

 

 おっと、藤花さんだ。

 元は人間だったらしいけど、今はぼくと同じ手乗りサイズになっている。しかも、頭が人間で胴体は蜘蛛という、人面蜘蛛の状態。主な役目は害虫駆除で、毎日嫌そうに食べている。

 そもそも、変えられた事自体が嫌みたいだけどね。気持ちは分かるけど、その内慣れるよ、きっと。

 ちなみに、この子は基本的に部屋から出してはもらえない。無限城への立ち入りも禁止されている。無限城から出られない丸子ちゃんたちとは逆の扱いだ。

 

『ねぇねぇ、聞いてよ。この前さぁ……』

 

 藤花ちゃんは、ぼくによく愚痴を言う。他の人だと告げ口されると思っているのだろう。ぼくがロクに喋れないのも都合が良いのかもしれない。内容が“自分が如何に不幸で可哀想なのか”って感じなので、同情は全く出来ないけど。蜘蛛に変えられたのは別として、後は自業自得じゃん。黙っとくけどね。

 

『……ふぅ、良い湯だった。あの入浴剤は当たりだな』

 

 と、お風呂場の方から一つ目の鬼女が現れる。彼女が無限城の主にして、ここを牛耳っている鳴女さんである。ある意味全ての元凶と言えるかもしれない。

 異空間を生み出す能力の他に、琵琶で音を操ったり、衝撃波を生み出したりと、かなり多彩なスキルを持っている。まだ見た事は無いけど、肉弾戦もかなり強いんだとか。

 まさに全ての頂点って感じだ。仮にあのお婆さんと戦っても圧倒出来るだろう。それくらい凄いオーラを纏っている。

 以上が零余子さんの周りにいる人々だ。家族とも友達とも言えないが、少なくとも仲間ではある、そんな間柄である。

 ぼくは、零余子さんと家族になりたいなー。

 

『ぴきゅきゅ♪』

「あ、おかえり。一緒に動画でも見る?」

 

 さぁ、今日も零余子さんと遊ぶぞ~♪




◆ランナウェイ・キッド

 リトルナイトメアのDLC――――――謂わば外伝作品の主人公。おそらくはシックスと同じく、人間の子供。
 何の特徴もない地味な男の子だが行動力はピカイチで、誰に言われるでもなく、船からの脱出を目指す。その度胸と(シックスとは違って)優しい性格からか、ノームにも人気。実は本編にも出演しており、シックスとも何度か遭遇している。
 しかし、船の奥でモウの支配者:レディの秘密を知ってしまい……。

 シックスが能動的トラウマの担当なら、こっちは受動的なトラウマ担当である。可哀想過ぎるだろ、この子。


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鳴女さん、久々に主人公する

※鳴女さんはこの物語の主人公デス。


 やぁ、諸君。何時でも何処でもアルカイックスマイル(無)の鳴女さんだ。

 何か久々に主人公をした気がするなぁ。最初はチャラトミと私だけだったのに、何時の間にか随分と賑やかになったものだ。主に零余子のせいで。

 あいつ、色んな所でフラグを立てては魑魅魍魎を引っ張り込んで来るからな。幾らお仕置きしても治らないし、最近は天然物だと諦めている。結果的にプラスになっているから、別に良いんだけど。

 

『そんな事より、一狩り行こうぜ!』

「それはモンハン的な意味ですか?」

『食事的な意味に決まっているだろう』

「ですよねー」

 

 言うまでも無かろうが。

 さぁ、チャラトミwikiの出番だぞ!

 

「――――――で、今晩のメニューは、どんな物をご所望で?」

 

 こいつも大分染まって来たな。

 だが、それで良い。順応性の高さこそ、生物として優れている証なのだから。

 

『そうだな……何かこう、ガツンと食いたい気分だ』

「深夜のドカ食いは太りますよ?」

『人間と一緒にするな。それに、私は元々夜行性だよ』

 

 琵琶の演奏も、基本的に夜の街でやってたからな。そういう意味では、鬼になってからも生活スタイルは変わってないのかもしれない。殺す→弾くの間に“食う”が挟まっただけで。

 

「ドカ食いするとなると、ある程度の大きさか数が要るっスよね。うーん、河童は流石に居ないだろうし……」

 

 チャラトミがうんうん唸っている。今までは一点物だったからね、しょうがないね。だけど、お前なら解決出来ると信じているぞ。

 

「……じゃあ、“化け狸”とかどうっスか?」

『狸か……』

 

 仕事の関係上、臭みが有る物は食べる機会が殆ど無かったけど、逆に新規開拓するチャンスか?

 とある漫画で読んで以来、ジビエ調理を食べてみたかったんだよねー。蛙とか蛇は微妙だけど、獣肉は普通に美味しそうだし。穴熊が意外とイケるんだっけ?

 

『でも、化け狸の本場って四国じゃなかったか?』

 

 しかし、私が食べるのは妖狸であって、そこらの畜生ではない。有名処の偽汽車の狸はとっくに死んでるし、狸囃子や竹切狸も今はもう居ないだろう。それなら稲荷狐を探した方が早い気がするんだけど。

 

「所がどっこい、今は居るんですよ。……地下深くにね」

 

 チャラトミが、ニヤリと笑って真下を指差した。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 チィーッス、皆のチャラトミさんだよ。

 今日は久方振りの鳴女さんとデートだ。零余子ちゃんが来てから、猛烈な勢いで住人が増えたからね。大半は無限城住まいで、残るは手乗りサイズだから、圧迫感は無いけどね。

 ああ、そうそう。俺のプライベートスペースは相変わらずロフト下の物置なんだけど、隣の部屋との間に不自然なデッドスペースがある事が分かったから、拡張したんだ。広さにして四畳程。隙間なくセメントが敷き詰められていて、五体分くらいの人骨が出てきたけど、今更その程度じゃビビらないぜ。鳴女さんがふりかけにして食っちゃったし(主食はもちろん零余子印のステーキ)。

 ちなみに、掘削作業は何と藤花ちゃんが担当した。彼女は口や糸疣から溶解液を分泌する能力があり、石灰質を吸収して内外の骨格を強化しているらしい。

 そう、あの見た目で藤花ちゃんは内骨格を持っているのである。

 だので、サイズに反して案外と重たいのだ。密度が高いのだろう。試しにトンカチで叩いたら「カン!」って音がしたし、相当硬いみたいだね。今なら拳銃程度なら弾き返せるんじゃなかろうか。

 それでも藤花ちゃんと空間の相対比が大き過ぎるので、出来上がるまで一週間は掛かった。化学反応で物を溶かすには、相応量の液体が必要なんだよー。充分凄いけどね。

 そんなこんなで、俺にも真面な部屋が手に入った。窓も取り付けたし、床材や壁材も持ち寄ったから、少し狭い事を除けば文句の無い出来栄えである。元の居場所は物置兼出入口であり、藤花ちゃんの住処ともなっている。お疲れ様です。

 ……話を戻そう。

 俺たちは今、東京都葛飾区亀有に在る「見性寺」という曹洞宗のお寺に来ている。ここには偽汽車の狸を祀る「貉塚(むじなづか)」があるのだが――――――実はごく最近に、地下へ通じる空洞が出来た。

 そう、八百八狸の築いた地下帝国への抜け道である。

 筆頭(ボス)刑部狸(ぎょうぶだぬき)や妖怪獣の蛟龍(こうりゅう)は鬼太郎の活躍で完全に死滅したが、部下の化け狸たちは石化した状態(おそらく自分で化けた)で生き埋めにされている。

 つまり、雑魚敵がわんさか今も閉じ込められているのだ。鳴女さんにとっては、まさに入れ食いである。……美味しいかどうかは別として。

 

『フン!』

 

 という事で、鳴女さんに一発お願いした。人力で掘り起こすのは無理があるからね。指向性を持たせた音波で破砕して貰いましたとも。

 あ、寺の住職や近隣住民は、姑獲鳥さんのお香を借りて深い眠りに着いてるから、バレる心配は無いよー。

 

『よし、穴も開いた事だし行くとするか』「了解でーす」

 

 ポッカリと開いた奈落の洞穴に、俺と鳴女さんは何の躊躇も無く足を踏み入れた。狸が出ようが蛇が出ようが、本物の鬼である彼女に敵は居ない。

 

 ……この時は、そう思ってたんだけどねぇ。




◆刑部狸と八百八狸

 ゲゲゲの鬼太郎に登場するオリジナルの狸軍団。
 伝承の隠神刑部狸は義理と忠義に厚い漢なのだが、この刑部狸は第三帝国の某チョビヒゲ並みの野心家である。何せ目標が日本制圧と狸至上主義の独裁国家の設立であり、人間の女をメイドとして侍らせ、男はソーセージにして食ってしまおうと考えるなど、残虐非道な性格をしている。凄まじい神通力と妖術を持っていて、鬼太郎も正面からは手も足も出なかった。
 部下の化け狸たちは精々腕っぷしが強いくらいで取り立てて個性は無いが、知性と統率力に優れており、封印が解かれてからはあっという間に国会議事堂を制圧してしまった。
 また、妖怪獣や大鯰と言った巨大で不死身の生物兵器まで有しており、彼らには核ミサイルも通じないので、人間では天地が引っくり返っても勝ち目がない。
 まぁ、刑部狸たちを封印したのは天海 上人という高僧だったりするのだが。昔の日本には、錦田小十郎景竜みたいなバグ人間が沢山いたのだろう。


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鳴女さん、狸料理に舌鼓を打つ

 鳴女さんのあの目を見タラ、絶対に誰かは考えると思うンダ。


『うぬぬぬ……』『何だ、どうなった?』『刑部様が復活されたのか?』

 

 おうおう、居るね居るねぇ、化け狸共が。寝起きなのか知らんけど、ちょいとボケが入っているようだな。

 やぁやぁ、諸君。ディナーが良く似合う胸の大きいイイ女、鳴女さんだ。

 さっそくだけど、頂くとしよう。

 

『えい』

『『『ぎゃあああああっ!』』』

 

 一瞬で三匹の狸を頸チョンパして、まずは頭、それから胴体を丸齧りにする。

 

「お味の程は?」

『とりあえず、一杯やりたくなる味だな』

 

 例えるなら、コンビニのおつまみって感じ。高級料亭の豪かさや、手料理の味わい深さは無いが、何となくお酒と一緒にカゴに入れたくなる、みたいな。

 まぁ、不味くはない。取り立てて美味しくもないけど。ドカ食いするにはピッタリだが、途中で飽きそうではある。味付けを変える調味料が欲しい所だ。

 

「なら、零余子ちゃんでも呼びます?」

 

 チャラトミが提案して来た。こいつから見ても零余子は食材扱いのようである。少し可哀想な気がしてきた。

 

『いや、今は配信中の筈だからよしておこう』

 

 配信とは、謂わば最先端の創作活動。それを邪魔する程、私は野暮ではない。

 だので、零余子に限らず、配信の予定が入っている奴は連れ歩かないようにしている。今日はチャラトミが空いていたから引っ張って来ただけだ。便利だからってのもあるけど。

 

『その代わり冷蔵庫の零余子食品を使う』

「結局零余子ちゃん食うんじゃないスか」

 

 べべんっと零余子印のワイン(血)とふりかけ(骨)を呼び寄せた私に、チャラトミが突っ込む。一部だから良いんだよ。ついでに藤花印のオイル(溶解液)も取り寄せておく。

 これだけあれば、幾ら食べても飽きないでしょー。

 

「俺のは使わないんスか?」

『お前のは貴重品だからな』

 

 それは最後に取っておく。大味な奴に使いたい所だな。

 

『……という訳でそーい』『『ぐあああああっ!』』

 

 そんな感じで、背後から飛び掛かって来た二匹の化け狸を処刑する。岩に化けて不意打ちするつもりだったんだろうが、妖気駄々洩れなんだよ。エコーロケーションもしているからバレバレである。

 

『おりゃー』『ぎょぇええええっ!』

 

 さらに、地面に同化してやり過ごそうとしていた化け狸を一匹、爪刀で一突きにする。妖気を隠すのは上手いが、臭いがなぁ。緊張で汗を流してたら意味ないと思うんだ。

 

『おのれぇ!』『貴様ぁ!』『死ねぇ!』

『お前らが死ね』

『『『ずばぁあああっ!』』』

 

 そして、化け狸としてのアイデンティティーをかなぐり捨てて、真正面から襲って来た連中を音波でミンチ肉にした。血が零れないように中身だけシェイクしたった。

 

『そろそろ調理もしようか』

 

 それから、キッチンと洞窟を繋げっぱなしにする事で、料理を出来るようにする。ハンバーグとソーセージでも作るとしよう。

 

「はいはい」

 

 むろん、チャラトミがな!

 うーむ、炊事洗濯掃除も出来るとか、こいつ本当に主夫だなぁ。あの駄目亭主とは比べ物にならない。色々と便利だし、本当に旦那にしちまうか?

 ……いや、結婚はもう良いかなー。あの頃は独り身だと面倒事が多かったからしただけだし。このままが一番だろう、お互いに。

 

「はい、零余子食品と藤花食品を組み合わせたケチャップにソース」

『おう、ご苦労だ』

 

 ……ちょっと迷って来たな。籍だけでも入れとく?

 

『つーか、お前は何を食べてんの?』

「狸肉入りの麻婆豆腐っスね。流石にそのまんまは無理なんで。臭みはあるけど、山椒を強めれば案外イケるっスよ。鳴女さんも食べます?」

 

 そう言って、自分の分までしれっと作るチャラトミ。ちょっと覗いてみたら、元が化け狸とは思えない、実に美味しそうな見た目の麻婆豆腐が出来上がっていた。

 

『美味い……』

 

 化け狸の妖気が溶け出し、零余子や藤花の血肉で煮込まれている為か、普通に食べられた。味覚や消化器官の改造を施して来た甲斐があるという物である。

 ――――――どうしよう、マジで婿取りする?

 旦那を掴むなら胃袋掴めって言うけど、逆もまた然りだな。ガッチリ鷲掴みされちゃってる気がする。こいつ、本気で料理上手いんだよ。人食い鬼の味覚に合わせて調理出来る人材なんて、早々居ないぞ。

 うん、少なくとも食材候補からは外すかな。食べてしまうには勿体無い。

 

『ふぅ……』

「賢者タイム?」

『阿保か。まだまだ満足出来ねぇよ』

 

 美味しいチャラトミ食堂の料理を平らげ、次の食材を探す。まだ腹二分目くらいだからな。もっと食べるぞ~♪

 

『こ、こいつ……!』『何て残虐なの!』『化け物めぇ!』

 

 怯え、隠れ、逃げ惑う雑魚共をどんどん食材に変えて進んだ先の広間に、色物な狸が三匹居た。タキシード、着物、法被と褌って、どういう組み合わせなんだよ。

 つーか、散々人間相手に好き勝手やってたお前らが言うな。

 

「おっ、こいつら八百八狸の幹部三兄弟っスよ。タキシード姿が「団一郎」、着物姿が「団二郎」、法被に褌が「団三郎」っス。かの有名な「団三郎狸」の子孫ですね」

 

 さらに、ここに来てチャラトミwikiにより知りたくもない事実が判明。一匹オカマなのかよ……食欲無くすなぁ。

 

『うぉおおおっ、死ねぇ!』『ウザい』

 

 と、団一郎が刃仕込みのシルクハットを投擲して来たので、普通に切り捨てた。こいつはクセェ、ゲロ以下の臭いがプンプンするぜ。

 

『キェエエエッ!』『うるぁあああっ!』

 

 続いて、団二郎が簪と鉈で、団三郎が棍棒で殴り掛かって来る。

 

『フン、トゥッ!』

『『ギャォオオオッ!』』

 

 もちろん、襖ラッシュで細切れにしてやった。弱いなぁ。これで幹部とか笑える。

 

『お前もだ』

『させるかぁ!』

 

 ただし、団一郎はそこそこやるらしく、身体を膨張させて巨大化した上、一部を金属に変換する事で刃を防いだ。

 

『食らいやがれぇえええっ!』

 

 そして、場所が場所なのか、小振りな機関車に化けて突進して来た。

 なるほど、そんな使い方もあるのか。幅を利かせる事で襖に取り込まれるのを防ぐとは、中々考えてるじゃないか。

 

『お前が食らえ。今必殺の目からビーム!』『ごばぁああああっ!』

 

 だが、無意味だ。私の目から放たれた破壊光線によって、団一郎の偽汽車は木端微塵になった。

 ……実際はビームではなく、体内電気の電磁力による高温高圧で体液を飛ばしているので、正確にはレールガンなのだが、何時かは本当のビームを撃ちたいと思っている。

 さてさて、たぶんこれで化け狸は品切れだろうし、チャラトミに料理をさせて――――――、

 

『ガァヴォオオオッ!』

 

 と、団一郎のミンチが散らばる地面から、鎧武者のような怪人が現れた。




◆偽汽車

 鉄道が普及した明治時代に全国区で発生した怪奇現象。棲み処を荒らされた動物妖怪たちが引き起こした物で、狐や狢の場合もあるが、殆どは狸の仕業である。
 見た目こそ汽車だが、所詮は似せただけの虚仮威しなので、勇気を出した運転手により轢殺される個体が多かった。命を賭した彼らの抵抗も、人間の科学力には勝てなかったのだ。
 ちなみに団一郎の偽汽車は、小さいが側だけはきちんと金属に変えている(血中の鉄分を使用している)為、相応の威力があるものの、鬼太郎の体内電気をパクって目からビームを習得した鳴女さんの敵ではなかった。


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鳴女さん、強敵に遭う

 鳴女さん、今回は割とピンチだッタリ。


『……何だこいつ?』

 

 非常にコメントし難い。見た目はさっきの通りなのだが、真紅の鎧を着た武者と言うより、鎧自体が動き出したように見える。着地の衝撃からして、中身はギッチギチなのだろうが……。

 こいつは一体何だ?

 

「おそらく、「槐の邪神」ですね」

 

 すると、チャラトミwikiから情報が。「邪神」ってお前、何それ大物っぽいんですけど。

 

『どんな妖怪なんだ?』

「主に槐の根元にある祠に棲んでいる妖怪で、通りすがる人間から有り金を巻き上げる習性があるっス」

『ただのチンピラじゃねぇか』

 

 滅茶苦茶に小物だった。

 つーか、妖怪のお前が人様の金を巻き上げて何に使うんだよ。

 

「ちなみに、正体は育ち過ぎたカブトムシです」

『面影が一つも無いだろ』

 

 いや、まぁ細かい部分に面影は有るけどさ、そういう問題じゃないと思うんだよ。兜しか合ってないじゃん。

 

「いやー、でも侮れないっスよ。見た目通りに鋼鉄の身体を持っていて、金属を吸収して強化する能力がありますから。あと火を噴けます」

『それは生物なのか? 器物の間違いじゃないのか?』

 

 しかし、チャラトミの言う通り、油断出来ない相手なのは確かである。

 おそらく、昔は集めた銭を吸収していたのだろうが、今はもっと強力な合金がそこら中にある。それらを吸収・強化しているのだとしたら……。

 

◆『分類及び種族名称:鉄鋼愧(てっこうき)=槐の邪神』

◆『弱点:左目の眼帯部』

 

 というか、何で火を噴くんだ貴様。金属と関係ないやろ。

 

『グヴァオオオッ!』『ズワォ!?』

 

 クソッ、マジで噴いて来やがった。火炎放射というより、火山の噴火に近い爆発力だ。アレか、内部に溶けた金属でも仕込んでやがるのか?

 

『ゴァアアアアッ!』『速いっ!?』

 

 さらに、鈍重な見た目に反して、身体をスピンさせて襲い掛かって来た。忍者ロボみたいな事しやがって。刀を高速回転させるとか、普通に危ないわ。

 うーむ、食べる所が無い奴を相手にするのは嫌だが、歯向かうというなら仕方ない。ボッコボコにして進ぜよう。

 

『ドラァッ!』

 

 という事で、私は赤紫色の妖気を纏った鉄拳を叩き込んだのだが、

 

 ――――――ゴシャッ!

 

『………………!』

 

 嫌な音がして、拳が砕け、腕の骨が折れた。

 

『一本くらい何よ!』

 

 残った方で爪刀を形成し、斬り付けたものの、こちらもパキンと砕け散る。

 ……久々だよ、こんな痛みはぁ!

 

『ぶっ殺してやる!』『ゴヴァアアアォッ!』

 

 そして、完全にトサカに来た私は、腕を再生しつつ、槐の邪神に襲い掛かった。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 やぁ、俺だよ、チャラトミさんだよ……と、挨拶をしている場合じゃない。

 ヤバいヤバいヤバい、こいつはヤバいぞ!

 まさか、鳴女さんの拳が砕かれるとは思わなかった。分かっていた事とは言え、痛いのが嫌だからって防御力に極振りし過ぎだろ。あの槐の邪神、ニューZくらいの超合金で出来てそうである。

 本来は伝承通りの小物にして俗物妖怪なのだが、最近の金属事情のせいで、とんでもない強敵になってしまっている。貫通ダメージも受けていない事を鑑みるに、衝撃を外に逃がす能力までありそうだ。

 さらに、ファイヤーと言うよりボルケーノな火炎攻撃。炎が赤いので温度はバーナーよりも低そうだが、液体は気体よりも熱を伝え易いので、こっちの方が厄介である。半分はプラズマ化している事を考えても非常に危険だ。

 だが、一番の脅威はその重量だろう。ゴリラ並みのパワーを持つ鳴女さんが殴っても微動だにしなかった事から、相当な重さに違いない。相手が直立二足歩行をする場合、かなりのハンデになる。

 

『ガァヴォオオオッ!』『ぐっ……!』

 

 と、言うが早いか、槐の邪神が体当たりをかます。鳴女さんもガードするが、耐え切れずに吹っ飛ばされる。骨の折れる音や袋が破裂する音が聞こえた。衝撃が貫通して中身がかき混ぜられたのだろう。

 いやいやいや、本気で強敵だぞ、こいつ。ただのチンピラ妖怪の癖にぃーっ!

 

『ゴヴァアアアッ!』『ぐぁっ!』

 

 そして、再びのボルケーノ(またの名をカブトムシファイヤー)。鳴女さんの半身が焼け落ちた。燃えるだけでなく纏わり付くの、本当に厄介だなぁ!

 

『ガァヴォオオオッ!』『………………っ!』

 

 さらに、間髪入れず大回転魔弾を繰り出す。再生途中で攻撃されたので、鳴女さんはロクに耐えられず、細切れにされた。明らかにダメージレースで負けている。鳴女さんにも限界はあるし、このままでは――――――クソッ、マズいぞ……これは本当に、ひょっとしてしまうのか!?

 ヤバいヤバいヤバい、どうする、どうすれば良い……!?

 

「――――――そうだ!」

 

 溶岩を噴出している事を鑑みるに、外部装甲の耐熱性は相当な物だが、熱に強いからと言って化学反応にも強いとは限らない。

 今、俺の手元には藤花ちゃんの溶解液がある。効くかどうかは不明だが、少なくともセメントは泡を立てて溶けるぐらいだから、何かしらの反応はあるだろう。

 鳴女さんがピンチなんだ、今使わずして何時使う!

 

「頼む……頼むから通じてくれ!」

 

 いや、効かなかったら切れるからな、大マジで!

 

「よし……っ!」

 

 狙うは左目の眼帯らしき部分。鳴女さんの動きに対して真っ先に反応しているのがあそこだから、おそらくはセンサーの役割を果たしていると思われる。精密な場所はそのまま弱点となり得る筈である。

 

「おらぁあああっ!」

 

 俺は投げた。鳴女さんを甚振る事に夢中となっている、槐の邪神目掛けて。

 

『ガァヴォァッ!?』

 

 すると、藤花印のオイル瓶は見事に槐の邪神の眼帯部にヒット。大ダメージという訳ではなさそうだが、大きな隙は生み出せた。

 しかし、実際は悪手だったのかもしれない。何せ、槐の邪神が怒り心頭な様子で、俺を睨み付けて来たのだから。

 あっ……これはマズいんじゃ――――――、

 

『グァヴォオルァアアアアアッ!』

 

 槐の邪神が三度のボルケーノを噴射する。小規模な火砕流が、俺目掛けて迫って来た。

 

 ――――――あれ? これ……俺……死、




◆槐の邪神

 名前通り、槐の木の近くに潜んでいる邪神。信仰を失った社や祠を乗っ取り、あたかも自分が主のように振舞う横着者。
 そして、通りすがりの旅人からカツアゲを行う。もうこの時点で、こいつの小物振りが分かるだろう。正体は甲虫系の虫けらだし。
 伝承ではマジもんの天罰覿面を喰らって死んでしまう雑魚妖怪だが、金属を吸収する能力が有る為、様々なレアメタルや合金に溢れる現代社会に適応し、非常に厄介な存在となっている。あと、何故か火を噴く。虫の癖に。
 ちなみに、鳴女さんたちの出遭った槐の邪神は、超合金ニューZ級の装甲と溶岩魔人クラスの攻撃力、ソール11遊星主の忍者並みのスピードを持つトンデモ個体であり、物理攻撃は一切受け付けず、特殊攻撃に対しても耐性が高い。


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鳴女さん、思い知る

 鳴女さんは総統閣下していマス。


『ガルヴァァアッ!』

 

 「汚物は消毒した!」とばかりに、槐の邪神が嬉しそうに雄叫びを上げる。

 

『………………』

 

 そして、私の足元に転がって来た、この黒焦げの物は何だ?

 周りを見渡してみても、チャラトミは居ない。何処に行った?

 ――――――いや、分かっている。理解はしているんだ。ただの人間が、例え上手く反応したとしても、掠っただけで火達磨になる事ぐらい、私にも分かる。

 

『………………ッ!』

 

 もちろん、無惨様のように血を与えてみても、結果は同じ。動かないし、起き上がりもしない。

 だが、理解と納得は別物である。

 

『……おい』

 

 何を勝手に殺している?

 私の物は全部私の物だ。それを奪って、どうなるかも分からんのか、貴様は。

 

『ゴヴァアアヴゥ!』

 

 しかし、この鉄鉱石頭は、相も変わらず私を殺す事しか考えていない。異常なまでの執着心である。元が守銭奴だからな。狙った獲物は絶対に逃がさないのだろう。

 

『ハーッ……!』

 

 もういい、分かった。結局、お前()全部欲しいんだろう?

 

 ――――――ならば、死ねぇっ!

 

『ドラララララララァッ!』

 

 私は妖気を纏った拳を連打した。どれだけ砕け、へしゃげようと構わない。一発殴って再生する間に、進化し続けてやる!

 

『グヴゥゥウウウッ!』『チッ……!』

 

 だが、やはり通じない。衝撃も妖気の貫通弾も、全て足元から地面へ逃がされている。

 

『ゴヴァアアアッ!』

 

 さらに、再び大回転魔弾を仕掛けて来る槐の邪神。

 

『オラァッ!』『ガヴォッ!?』

 

 私は強化した動体視力で、刀の横面を殴り付ける。槐の邪神が空中で一瞬だけ制止した。

 ……やはりな。足から逃がしてるって事は、接地してないと効果が無いと言っているような物だ。

 つまり、奴を空中に止めた状態で拳を叩き込めば、貫通ダメージを与えられる。尤も、それが決定打になるとは限らないが。

 

『ガヴァアアアォッ!』

 

 すると、大回転魔弾は無意味と悟ったか、ボルケーノで視界を塞ぎ、体当たりして来た。耐熱性と防御力任せのゴリ押しだが、私にとっては充分に脅威である。

 何せ、幾ら耐熱性を上げても、冷えた溶岩に拘束されて動けなくなるからな!

 これなら、焼かれる方がマシだ、チクショウが!

 

『グァヴォルァアアアアッ!』『………………!』

 

 完全に身動きが取れなくなった私に、赤熱化した槐の邪神が猛然と迫る。この一撃でケリを付けるつもりらしい。

 

 ――――――ちくしょう……!

 

 と、その時。

 

《グルァアアアアッ!》

 

 いよいよ年貢の納め時かと諦め掛けた私の前に真っ黒な何かが現れ、物凄い力で槐の邪神を食い止めた。

 それは、漆黒の粘液が人の形を成した、怪物だった。体格は筋骨隆々の3メートル。吊り上がった昆虫のような白い眼に、鋭い牙が並ぶ裂けた口など、その顔立ちは怪獣染みている。胸元の蜘蛛のようなマークが印象的だ。

 いや……あの、何と言うかね?

 

『……チャラトミか!?』

《We are VENOM!》

『何でだよ!』

《冗談ですよ、鳴女さん》

 

 ――――――この声、間違いない。中身はチャラトミである。

 

『何でヴェノムなんだよ!』

《ほら、男はやっぱりダークヒーローに憧れるもんなんスよ》

 

 まるで意味が分からんぞ!?

 

《鳴女さん、そんな事より、今は!》『ああっ!』

 

 詳しい事は後で聞くとして、今は害虫退治が優先だな!

 

《ギャオオオオオオッ!》『グァヴォォォッ!?』

 

 ヴェノム(チャラトミ)が渾身の力で槐の邪神を持ち上げる。所謂パワーリフトだ。どんな筋力してるんだ、お前は。

 

『ハァアアアアアアッ!』

 

 そして、すかさず私が拳を叩き込む。一発ではない、五発だ。同じ場所へ殆ど同時に連打を当てる事で、分厚い鎧の奥底まで妖気を浸透させ、爆裂させるのである。

 

『グォレンダァアアアアアッ!』『グルォォオッ!』

 

 今の今まで微動だにしなかった槐の邪神が、面白いくらいに吹っ飛び、岩盤にめり込む。よく見ると、拳の当たった胸部の装甲が凹んでいた。今度こそダメージ判定があったのだ。

 しかし、それでも槐の邪神は倒れない。というか、あれだけやって凹むだけとか、ふざけてやがる。

 そんな貴様には、こいつをプレゼントだ!

 

『死ねぇっ!』

 

 私の目からビームが槐の邪神の眼帯部に直撃した。液体の伝導率の高さは、お前が証明済みだからなぁ!

 

『ガルァヴォオオオオッ!』

《鳴女さん!》『ドワォ!?』

 

 だが、顔半分をグズグズに溶かされたのにも関わらず、槐の邪神は弱るどころか火砕流を吐いて反撃して来た。ダメージよりも優先すべき殺意があるらしい。チャラトミが何十枚もの粘膜の盾を張ってくれなければ、危なかった。

 ……表面を焼くだけでは駄目だ。分子レベルで崩壊させてやる!

 

『ドラァッ!』

 

 私は体液から酸素を分離、極限まで微小化し、それを粒子ビームとして発射した。マイクロ化した酸素は接触した分子の結合を破壊し、その後元の大きさに戻りつつオゾンとなって周囲の全てを腐食させる。

 これには、さしもの槐の邪神も耐性は持ちようが無く、胸部装甲が完全に融解した。

 

『……ォオオオォオオッ!』

《このっ!》『ぐぅ……!』

 

 それでも、槐の邪神は反撃する。私が死ぬまで、殺すのを止めない。

 

『いい加減しつこいぞ! そろそろ死ねよやぁっ!』

 

 しかし、これ以上は耐えられまい。トドメだぁ!

 

『ガァヴォォオルァアアアア……ォォ……ォ……!』

 

 最後の破壊光線が直撃し……ようやく、槐の邪神は倒れた。

 さらに、グズグズと溶け崩れ、完全に沈黙する。しぶと過ぎるぞ、この野郎……!

 

『――――――ハァッ!』

 

 息が上がり、眩暈もする。気持ち悪い。妖気を使い過ぎた。体液もかなり減っている。このままではマズい。

 早く、何か食べないと……!

 

 ――――――べべん!

 

 私は最後の力を振り絞って、無限城に転移した。

 

「ちょ……ちょっと、何事よ!?」『ぴきゃー!』

 

 配信を終えたらしい零余子(とノーム)が駆け寄って来た。おーし、丁度良いぞぉ!

 

『零余子ぉ!』

「な、何よ!?」

『食わせろぉおおお!』

「何でだぁああああ!」

《俺にもだぁあああ!》

「何でだぁああああ!?」

 

 そして、「つーか、誰だぁ!?」という言葉を残して、零余子の頭以外の全てが、私とチャラトミの腹に収まりましたとさ。チャンチャン♪




◆ヴェノム

 宇宙から来た寄生物体「シンビオート」が、人間と一体化した状態の名称。
 最初の宿主がスパイダーマンだった事、次の宿主がボディービルをやっていた事が重なり、“漆黒でマッシブなスパイダーマン風の化け物”という容姿が基本形態となる。
 シンビオートが蠢く粘菌状の生物な為、割と自由に姿を変えられる。もちろん、蜘蛛の巣も張れる。スパイダーマン涙目である。
 作品によって出自がハッキリしないが、その辺はご愛敬。大人の都合って奴だ。
 初めこそ単なる悪役だったが、後々ダークヒーローとしてキャラクターを確立させ、絶大な人気を誇るようになる。


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鳴女さん、夜の一時

 夏ももうすぐ終わりでスネー。


 やぁ、諸君。芹沢博士に真っ向から喧嘩を売りに行くスタイルの、鳴女さんだ。

 前回は深夜のコンビニ飯を買いに行くノリで化け狸料理を食べに穴場(洞窟)へ向かったのだが、通りすがりのチンピラ妖怪のせいで、まさかの大ピンチに陥ってしまった。おかげで色々成長出来たから結果オーライだけど、そういう事じゃないんだなぁ……。

 つーかさ、

 

『結局、お前は何処でどうやってシンビオートと一体化して来たんだ?』

 

 私はカルビを焼きながら、チャラトミ(ヴェノム)に尋ねた。ジュージュー。

 

《別にシンビオートは見付けてませんよ。そもそも、あの時は“俺たち”とか言っちゃいましたけど、別にもう一人の俺とかは居ません。単にヴェノムに(・・・・・)変身する能力(・・・・・・)を得ただけです》

 

 チャラトミがハツを引っくり返しつつ答える。ジュワジュワ。

 

『どういう事だ?』

《端的に言ってしまうなら、“同じ釜の飯を食い過ぎた”って感じですね》

『同じ釜の飯……ああ、そういう事か』

 

 何となーく分かった。

 おっと、ホルモンも育てておこう。内臓系は時間が掛かるからね。パチパチ。

 

『つまり、それがお前の(・・・・・・)血鬼術なんだな(・・・・・・・)?』

 

 ようするに、そういう事である。鬼殺隊にも似たような奴が居たしな。

 よし、カルビは回収して、ホルモンの様子を見つつ、次はハラミでも焼くか。ジュワァアアッ!

 

《はい。俺もちょくちょく零余子食品や藤花オイルを使った料理を食べてましたし、鳴女さんの血を貰ったのがトリガーとなって、能力が固定化したんでしょう。言うなれば、“不死身の鬼蜘蛛”って所っスかね?》

 

 ハツを皿に乗せ、新たにランプを焼き始めるチャラトミ。パチチチチ。

 そう、実はこいつ、こっそりとカニバリズムをやらかしている。“私と同じ物を食べたい”という願いからしたらしいが、思い切った事をしたものだ。零余子肉は美味しいが、食い過ぎると身体が乗っ取られるので、かなり危険な行為である。藤花オイルに関しても、配分を間違えると硫酸を一気飲みするような物であり、普通はやらない。

 だが、チャラトミは大分イカレている。私のような悪鬼羅刹とここまで上手く付き合って来れるような奴が、正気な訳がないだろう。初めから人間性を疑うような発言ばかりしていたが、私と関係を持つ事で、より悪化したようだ。

 さらに、前回の死に際で私の血を受け入れた結果、今まで溜まっていた零余子や藤花の血肉と反応して一つとなり、チャラトミを守る盾としての機能を果たすようになった。彼の不足を補う能力と言ってもいい。

 詳細は本人にも分からないみたいだけど。

 つまり、ヴェノムを構成する黒い流動体はあくまで彼の一部であり、シンビオートのような意思がある訳ではなく、むしろ血鬼術に近い物である。もしくは「パワーを持った(ヴィジョン)」だ。

 しかし、シンビオートと同じで燃費が悪く、腹が空くとチャラトミ自身を侵食し始めるらしいので、完全な同一体とも言い難い。ある程度コントロールの利く癌細胞みたいな感じだろうか。その内マジで「俺たち」になっちゃうかも。

 ……内心、零余子の事を散々“動く癌細胞”呼ばわりしていたこいつが、自分の癌細胞で身を守るようになるとは、何とも皮肉である。文字通りに。

 

《別に、俺だけを守る為じゃないっスよ》

『そうかい』

 

 嬉しい事を言ってくれるね。

 

『まぁ、絶好調なようで何より……あ、それ焦げるぞ』

《おっと、あざ~す》

「――――――って、コラァッ!」

《『おや、生首が何か言っているぞ』》

「お前らがそうしたんだろうがーっ!」

 

 随分と元気が良いねぇ、何か良い事でもあったのかい?

 

「もういい加減にしてよ。本人の目の前で焼肉するとか、気が狂ってるわよ」

《『今更?』》

「今更だろうと何だろうと、何回だって言ってやるわよ!」

 

 もぐもぐもぐもぐ。

 

「言ってる傍から食うな!」

《『あむほまも』》

「呑み込んでから言えや!」

 

 まったく、しょうがないなぁ。通算で8零余子は食べたから、そろそろ勘弁してやるか。

 

『……そう言えば、槐の邪神は何であんな所に居たんだろうな?』

 

 食器を重ねつつ、チャラトミに聞いてみる。

 

《単に休眠してたんじゃないスかね? 甲虫が居るなら、何処にでも発生し得るのが槐の邪神ですから》

 

 触手を器用に使い、食器と七輪を全部持ち上げながら、チャラトミが答えた。

 ……嫌だなぁ、その設定。あんなのがそこら中に眠ってるとか、マジで御免被るんだけど。人殺しは大好きだが、自分が殺されるのは絶対にお断りだ。

 やっぱり、まだまだ力不足だな、私も。前回の戦いで実感出来た。これからは破壊力に焦点を当てて強化するとしよう。食べる妖怪も多少は吟味した方が良いかもしれない。あんまり厳密にする気は無いけどね。

 力不足と言えば、鬼太郎は今頃は何してるんだろう。案外、強化合宿とかしてたりして。

 

『まぁいいさ。食事も済んだし、寝るとしようか』

《そうっスねー》

 

 ちなみに、お風呂にはもう入りました。今回の焼肉は風呂上りのおつまみです(笑)。

 

「……まったく、好き勝手にして」『ぴきゃー』

 

 と、達磨モードに再生した零余子がブツブツと呟く。そんな彼女を必死に慰めているノームが何か可愛い。

 だが、私は待ったを掛ける。

 

『いや、お前は来なくていい。ノームと遊んでろ。もしくは一緒にお寝んねしてな』《………………》

 

 夜はまだまだこれからである。




◆無限城

 上下左右があべこべな異空間。鳴女の旋律に合わせて自在に姿を変え、襖により現実世界と行き来する。この空間は鳴女の力その物であり、彼女が死ぬと諸共消える運命である。
 本来の殺傷力は高くないが、今作では鳴女が色々と超進化している為、刃仕込みの襖に襲われたり、刺出しの壁に迫られたりと、イ○ディー・ジョーンズもビックリな攻撃力を有している。


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鬼太郎の家族会議

 一方その頃、鬼太郎さんハ……。


 ここはゲゲゲの森。

 そして、その奥深くにある、立ち枯れた木の上に建てられた、茅葺屋根の家。通称「ゲゲゲハウス」。

 もちろん、鬼太郎と目玉おやじの住処である事は間違いないのだが、今ここにはそれ以外の妖怪――――――猫娘、砂掛け婆、児泣き爺、一反木綿など、所謂「鬼太郎ファミリー」が一堂に会している。ぬりかべはデカ過ぎるし重たいので、窓の外から参加。何故かねずみ男もいるが、気にしてはいけない。

 さらに、特別ゲストの真名も交えた、報告会及び対策会議の始まりだ。

 

『さて、今回皆に集まって貰ったのは、他でもない……例の琵琶女についてじゃ』

 

 むろん、議題の中心は琵琶の女についてである。

 素性は一切不明だが、高い知性と摩訶不思議な妖術を使い、正面からでも鬼太郎を戦闘不能に出来る凄まじい怪力を誇る、恐ろしい妖怪だ。

 

『急な呼び出しじゃったから、詳しい話は分からんのだが、そこまでの相手だったのかの?』

 

 と、まずは砂掛け婆が話を振る。大抵の場合、目玉のおやじや鬼太郎が議題を上げ、砂掛け婆が議会を進めるのが通例になっている。今回もそんな出だしだった。

 

『……正直、単純な破壊力だけなら、以前戦った妖怪獣の方が上だ』

 

 妖怪獣……否、蛟龍(こうりゅう)とは、狗神刑部狸が率いる八百八狸が使役する大妖怪の事であり、ビルをも見下ろす巨体と全てを薙ぎ払う強大な妖術を使うのが特徴である。刑部狸たちは蛟龍が持つ凄まじい力を利用する事で四国全土をテリトリーとし、遂には日本全土を乗っ取ろうと画策、行動を起こした。

 それ自体は鬼太郎たちの活躍で鎮圧されたが、力の根源である要石が人間にしか破壊不可能だったのも相俟って、真名無しでは勝ちえない壮絶な戦いになったものだ。

 なので、被害を鑑みれば、琵琶の女が齎した物は無いに等しく、地力に関しても蛟龍の方が断然上である。大きさが違うから当たり前なのだが。

 

『でも、危険性は琵琶の女の方が遥かに高い』

 

 しかし、鬼太郎は蛟龍よりも琵琶女の方が危険だと説く。

 琵琶の女は蛟龍のようなどうしようもなさは無い。大きさも人間程度で、攻撃が通じない訳でもない。少なくとも指鉄砲は効き目がありそうだった。防ぐのではなく避けたという時点で、有効打になり得ると言っているような物だからだ。通じるとも言ってないけど。

 だが、持っている能力はどれも厄介であり、おまけに体術まで会得している。力が及ばずとも、技術で往なされてしまうのだ。真面な対人戦の経験が殆どない鬼太郎やその仲間たちでは、肉弾戦に持ち込んだとしても軽くあしらわれてしまうだろう。

 これが今までの十把一絡げの妖怪たちとは一線を画す部分である。

 

『それに、奴は……異常だ。妖怪らしく人間を襲うでもなく、かと言って人間らしいとも言い難い。まなの言葉を借りる訳じゃないが、あいつは「悪魔」だ』

 

 あそこまで命を何とも思っていない奴はそうそういない。真名が震え上がって完全に拒絶するなど、はっきり言って異常事態だ。

 それ程までに、あの琵琶女は恐ろしい存在なのである。

 

『たぶん、今のままじゃ、誰が挑んでも勝てない』

『むぅ……』

 

 鬼太郎の言葉に、一同が押し黙る。何時もお手上げする真名でさえ、今回は何も言えなかった。それはそうだろう。猫娘が一撃で糸の切れたマリオネットにされ、駆け付けた鬼太郎でさえ中身をシェイクされて倒れ伏した相手なのだから。

 

『……って言うかよぉ、お前ら何であいつの事を「琵琶の女」って言ってんの? 「鳴女」ってきちんとした名前があるんだから、そっちで呼べば良いだろ。色々と紛らわしいし』

 

 すると、そこでねずみ男が何でもないように驚きの発言をした。

 

『何じゃ、ねずみ男! あやつの知り合いだったのか!?』

『この裏切り者! 何時もの事だけど!』『あっぶな!』

 

 もちろん、無用な混乱を招いたのは言うまでもない。目玉のおやじが憤慨し、すっかり元気になった猫娘が八つ裂きにしようと襲い掛かった。

 

『ちげぇよ! ……ああ、そうか。お前ら動画なんて見ないもんな』

『動画じゃと?』

『そうそう。鳴女って奴、ネット上じゃ結構な有名人だぜ? つーか、それこそ猫娘やまなちゃんが知ってるもんだと思ってたけど……?』

『「あっ……!」』

 

 と、ねずみ男の指摘で猫娘と真名がハッとする。

 

『どういう事なんだい、猫娘、まな?』

「あー、えっとねぇ……」『すっかり忘れてたけど、あの鳴女とかいう女、ネットに動画を投稿してるのよ。ほら、これ見て』

 

 そう言って、猫娘は自分のスマフォを操作し、ウーチュブのとある動画チャンネルを開いた。

 

『……っ、間違いない、こいつだ!』

 

 そこには、実にイキイキと琵琶を奏でる鳴女の姿があった。他にも可愛らしい少女や座敷童子と思しき幼女とコラボしている動画もある。かなり手広くやっているようだ。

 

『――――――いや、お前ら情報に疎過ぎるだろ。こんな目立つ奴に気付かなかったのかぁ?』

『「『『『『『………………』』』』』」』『ぬり~』

 

 ねずみ男がジト目で見ると、全員がサッと顔を逸らした。確かに彼の言う通りだ。知恵袋の目玉のおやじも、文明の利器が相手では役に立たない。

 

『……う~む、あまり実況動画は見ないからのぅ』『父さん!?』

 

 否、単に動画の視聴傾向が違うだけだった。意外とミーハーなんですよ、この目玉人。

 

『と、ともかく、この鳴女に対抗するには、今の僕ではあまりに力不足だ。具体的に言うと、技量が圧倒的に不足している。そこでなんだけど――――――』

 

 鬼太郎がコホンと咳払いをして、弛緩した空気を戻しつつ、新たな提案を上げる。

 

『し、正気か、鬼太郎!?』『そんな事をしたら、このゲゲゲの森にも災いを齎すぞ!?』『何考えてんのよ、鬼太郎!』

 

 だが、その内容は他の皆には受け入れ難い物だった。口々に鬼太郎へ文句を垂れる面々。

 

『もう決めた事だ』

 

 しかし、鬼太郎の意思は固かった。こうなったら、もう誰にも止められない。

 

『……当てはあんのかよ? “出す方”じゃなくて、“止める方”だぞ?』

 

 すると、唯一文句一つなく聞いていたねずみ男が、片目を瞑り、如何にも呆れたような顔で尋ねた。

 

『それは――――――』

 

 言い淀む鬼太郎。こういう微妙に頭の足りない所が、彼のアイデンティティーである。

 

『しょうがねえなぁ。……ギャラは高いぜぇ?』

 

 そして、それを上手く悪知恵で補ってくれるのが、ねずみ男という半妖だ。ビビビっと髭を揺らしつつ電話を掛け始める。

 

『……ありがとう、ねずみ男』

 

 そんな彼の姿に、鬼太郎は久方振りに軟らかい笑みを浮かべた。やはり、持つべき物は友達である。




◆ゲゲゲの森

 鬼太郎とその仲間たちが住まう、「隠れ里」の一種。人間と仲が良い輩が多い為か、電波が届いたり、横丁があったりする。基本的に人間は立ち入れないが、気に入られれば招かれる事も。
 そして、最奥の泉の畔に、我らが鬼太郎の家「ゲゲゲハウス」が立っている。
 流されたり、焼かれたり、戦わされたりと、割と不憫な目に遭う事も多いが、ゲゲゲハウスは今日も静かに佇んでいる。
 ちなみに、あの世とこの世の境にある為か、住民の機嫌を損ねると地獄流しにされるので注意。


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鬼太郎の武者修行①

 今回は懐かしい連中が出て来まスヨー。


 ここは日本の何処か。断崖絶壁の谷底にポッカリと存在する、外界から隔絶された陸の孤島。常に菖蒲の花が咲き乱れる、この世とは思えない景色が広がっている。

 そんな浮世離れした場所に、幾つかの影があった。一つは鬼太郎。もう一つはねずみ男。

 

『……どういうつもりだ、鬼太郎?』『オレたちの封印を解くなんて、どういう風の吹き回しだぁ?』『………………』

 

 それに対峙するは、大小三人の妖怪たち。

 如何にも不機嫌な顔で睨み付けるのは、「ラクシャサ」。青く不利乱れた髪の毛と巨大な頭が特徴で、そこから丸太のように頑強な手足が生えている、サイコジ○ニーみたいな体形の妖怪だ。インド出身なので、額に宝石、手足に金の輪、腰に赤い布という僧侶染みた格好をしている。大中小の中を担当。

 鬼の形相ながら何処か愛嬌もある赤ら顔は、「天邪鬼」。強靭な赤い皮膚と山のように盛り上がった筋肉が自慢の怪力無双であり、5メートルはあろうかという巨体を誇る、角の無い鬼である。腰蓑一着だけだが、彼の筋力の前では下手な装備は枷にしかならないだろう。大中小の大を担当。

 特に何のコメントもしなかったのは、「手の目」。目を閉じた黒髪の少年という風貌だが、掌にギョロッとした目玉があるのが特徴だ。恰好も数珠を下げた旅の僧と言った感じで、かなり地味である。大中小の小を担当。

 彼らは皆、過去に一度は鬼太郎と対峙し、封印された者たちだ。つまりは敵である。

 だからこそ、分からない。こんな地獄のような場所に敵妖怪と面を突き合わせるなど、殺してくれと言っているような物だ。

 

『――――――どうもこうもねぇさ。こいつは単に、お前らと戦いたいだけだよ』

 

 すると、何処からともなく現れた、蒼い行脚僧の恰好をした男が不敵に告げる。頭頂部の一本角と閉じられた額の第三の眼が、只者ではない雰囲気を漂わせる。

 

『誰だ、貴様は?』

『俺かい? 俺は蒼坊主。鬼太郎(こいつ)の兄貴分さ』

 

 彼の名は蒼坊主。日本全土を巡礼しつつ、行く先々で悪い妖怪を封印している退魔師である。その実力は折り紙付きだ。方向音痴だけど。

 

『……退魔師が何の用だ?』

 

 姿恰好と滲み出る強者の風格から、彼が退魔師だと見抜いたラクシャサが、訝し気に訊ねる。退魔師と鬼太郎が兄弟分なのは置いておくとしても、自分たちの封印を解いた理由が分からない。そんな事をして、一体何の得があるのか。

 

『俺はただの後始末さ。用があるのは鬼太郎の方だ』

 

 だが、蒼坊主は取り合わない。あくまで事後処理の為にいるだけだと。

 ならば、鬼太郎の目的とは?

 

『……お前たちと、手合わせを願いたい』

『何だと?』

『いや、手合わせなんて生温いな。殺しに来てくれ。……で、僕が負ければ、自由にしてやる。蒼兄さんには手を出させないさ』

『………………!』

 

 つまり、ちょっと殺し合いをしてもらいます、という事である。何処のバトル・ロワイ○ルだ。

 

『ヴァッハッハッハッ! 面白れぇじゃねぇか!』

 

 今までの鬼太郎からは考えられない台詞に、天邪鬼が豪放に笑いながら前に出る。最初は自分から、と言わんばかりに。

 

『どういうつもりかは知らねぇが、良い度胸だ。立ち塞がると言うなら、潰すまで。オレはもう閉じ込められないぞ。……前にも言ったな。オレは誰からも自由だぁあああああっ!』

『……来いっ!』

 

 さらに、余計な詮索は一切せず、真正面から突っ込んでいく。彼は出会った時からそうだった。捻くれ者だが、自分を嘘偽りなくぶつけて来る。言葉の上でも、物理的にも。

 シンプル・イズ・ザ・ベスト。「力尽く」という単純明快な遣り方が、天邪鬼のポリシーである。

 

『ドラァッ!』『くっ……!』

 

 野太い腕が岩を砕き、大地を揺らし、文字通り鬼太郎に手も足も出させない。髪の毛針は歯が立たず、ちゃんちゃんこは掴み取られ、リモコン下駄(修復済み)は払い除けられる。以前戦った時もそうだった。

 

『フフッ……!』

 

 しかし、今宵の鬼太郎は一味違う。

 

『何がおかしい!』

『いや、ふと思っただけだよ。……“あの女”は砕いたのに、お前は払い除けるのが精一杯なんだってな』

 

 敗北の味を知った彼は、実にムカつく悪ガキだった。

 

『言ったな、小僧! なら、オレ様の本当の恐ろしさを見せてやる!』

『見せられる物なら見せてみろ、脳筋野郎!』

 

 そして、指鉄砲やオカリナ剣を織り交ぜながら、必死に食らい付く。時には本当に噛み付き、食い下がったりもした。その荒々しい戦い方は、まさに狂犬だ。

 

(良いぞ、鬼太郎。今はそれで良い)

 

 そんな彼の有様を見て、蒼坊主が満足そうに呟く。

 

(お前は忘れてしまった。我武者羅な正義感を。勝つ為なら何でもして、勝つまで戦い続ける力強さを。……ユメコちゃんと共にいた、あの頃を思い出せ!)

 

 蒼坊主は知っている。昔の彼を。天童(てんどう) ユメコと共にあった頃の姿を。

 あの頃の鬼太郎は、明確な正義感と意志を持って戦っていた。弱きを助け、傲慢な強きを挫く。そこに妖怪も人間も関係ない。きちんと向き合い、正面からぶつかっていた。

 だが、時が経ち、人の闇に触れ続ける内に、彼は人間と距離を置くようになった。色々と理由はあるが、単純に嫌気が差したのだろう。ユメコと死に別れてしまったのも大きい。今の鬼太郎は、まるで世捨て人である。

 だから、この武者修行で思い出して欲しい。ヤンチャだった頃のお前は、もっとずっと輝いていたぞっ!

 

『ウォアアアアアアッ!』『はぁあああああっ!』

 

 ――――――鬼太郎と天邪鬼の死合は続く。




◆天邪鬼

 「捻くれ者」の代表選手的な存在。四天王像が踏み付けにしているアレ。
 簡易な読心術と凄まじい怪力を誇り、かつては鬼太郎でさえ手も足も出なかった。自由奔放な性格で、己の邪魔立てする物を一切許さない。祖先は、完全無欠の読心術に捻くれた心、神すら投げ飛ばす超力を持つ、暴虐の女神「天探女(アメノサグメ)」。
 鬼太郎の世界観では“燻製肉が大好物の怪力無双な妖怪”として描かれており、特に第4期の彼は小賢しい読心術など使わず、腕っぷしだけで鬼太郎を完全に無力化した、とんでもない奴である。「オレは誰からも自由だぁ!」とは彼の信条だが、どこら辺が捻くれ者なのか怪しくなってくるのは気のせい。


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鬼太郎の武者修行②

 初めて大人の猫娘を見てから十数年、まさか本当に大人のお姉さんになってしまうとはナァ……。


 それから、戦い続ける事しばし。

 

『ぬぐぉ……こ、こんな……ものぉ……っ!』

 

 遂に、天邪鬼が倒れた。

 腹に焼け爛れたような切り傷があり、そこへ突き刺された髪の毛槍が海栗の如く内臓を食い破っていた。それでも死なない。倒れて気絶しただけだ。

 

『ハァ……ハァ……ッ!』

 

 それに鬼太郎の方も無事ではない。左の膝から下が引き千切れており、もう一本の髪の毛槍を支えにやっと立っている状態である。右腕は雑巾を絞ったように捩じくれ、右の頬肉が抉れて奥歯と舌が見えている。腹にも穴が開き、内臓が零れ落ちていた。

 これ程のダメージを受けなければ、天邪鬼を倒す事が出来なかった。今の彼は(・・・・)その程度(・・・・)という事だ(・・・・・)

 

『足りない……もっとだ……ッ!』

 

 こんな物では、あの化け物は殺せない。

 髪の毛針やリモコン下駄はもちろん、体内電気も霊毛ちゃんちゃんこも通じない。指鉄砲なら掠り傷を付けられるかもしれないが、あの再生力の前では無意味である。

 そもそも、肉弾戦ではパワーでもタクティクスでも劣っている。手足が千切れる程度で怯んでいては、真面に組み合う事すら不可能だろう。

 だからこそ、まず鬼太郎は天邪鬼との戦いを選んだ。“捨て身の戦い”という物を学び、“絶対に負けない”という執念を思い出す為に。

 次はラクシャサだ。

 筋力こそ天邪鬼に劣るが、武芸に秀で、髪の毛を操り、どんな攻撃にも一切怯まないというタフネスさが、最大の特徴である。

 

『どうするよ、鬼太郎。少し休憩するか?』

 

 しかし、誰がどう見ても、鬼太郎は戦える状態ではない。それどころか、今すぐ妖怪病院に連れて行った方が良いくらいだ。

 

『……いいや、このまま行くよ』

 

 だが、鬼太郎は戦闘継続を固辞した。その眼は手負いの蛇よりも爛々と輝いている。

 

『はぁああああああああああっ!』

 

 さらに、妖力を全開にして再生力を高め、手足を生やし、腹の傷を塞いでしまった。

 ただし、大分無理をしたのか、息切れを通り越して過呼吸になっており、体力は回復するどころか更に減ってしまった。ここまで来ると、普通なら妖怪ですら倒れるだろう。

 しかし、鬼太郎は倒れない。霊毛ちゃんちゃんこを左腕に巻き付け、右手に髪の毛槍を持ち替え、ラクシャサを睨み付ける。

 

『フハハハハハハハハッ!』

 

 そんな彼を見て、ラクシャサが実に嬉しそうに笑う。

 

『素晴らしい闘志だ。その純粋無垢な敵意、称賛に値する!』

『へぇ、お前さんが鬼太郎を褒めるたぁね』

 

 と、蒼坊主が茶々を入れた。

 

『……当然だ。敵への殺意は戦いの礼儀。安っぽい正義を語るなど言語道断。以前の奴は腑抜けで、最近のこいつは腰抜けだった。しかし、今のこ奴は違う。すぐにでもこの俺を殺そうと燃え上がっている。それこそ、悪鬼羅刹のようにな』

 

 それに対して、ラクシャサが鼻を鳴らしながら答える。

 

『ならば、それに応えるのみ! 行くぞ、鬼太郎! 妖怪は人間を苦しめてこそ、人間界にての存在理由がある! 妖怪同士もまた然り! 今の貴様は王道だ、鬼太郎!』

『黙れ外道! 地獄で僕に封じられたお仲間に泣き付いて来るといい!』

 

 そして、ラクシャサと鬼太郎の戦いが始まる。

 

『ヌゥウウン!』

 

 まずはラクシャサの攻撃。髪の毛を振り乱し、幾つもの刀剣に変えて斬り掛かる。

 

『舐めるなぁ!』『何ッ!』

 

 だが、鬼太郎はそれを避けようともせず、勢いのまま突っ込んで来た。当然、身体はバラバラになるが、それらを念力で操り、斬撃の壁を掻い潜って、再び一つに戻る。

 

『はぁあああっ!』

 

 さらに、驚き開いたラクシャサの口に左腕を叩き込む。巻いてあるちゃんちゃんこを体内に送り込み、内部から殺してしまおうという算段である。

 

『甘い!』

 

 しかし、そこは元八部鬼衆が一柱。即座に狙いを読み取り、素早く腕を掴んで地面へ叩き付けた。そこへ間髪入れず刀剣で串刺しにして縫い付ける。

 

『うぉおおおっ!』『何だとぉ!?』

 

 だが、鬼太郎はそれを逆に利用し、何でも溶かす胃液を解放する事で拘束を解き、ついでにラクシャサ本体も溶かし食ってしまおうとした。それ自体はラクシャサが機敏に飛び退いたので失敗したが、おかげで反撃のチャンスをもぎ取った。

 

『てりゃあああああっ!』

 

 まずは髪の毛槍を投擲。ラクシャサがそれを受け止めたのを見計らってリモコン下駄を飛ばし、槍を押し出す事で彼の眉間を貫いた。

 しかし、鬼太郎はまだ止まらない。生物は簡単には死なないし、ましてや相手は妖怪だ。その程度で動けなくなるような軟な敵ではないのである。

 

『うぉおおおおおおお!』『ぐぬぅうううううっ!?』

 

 鬼太郎は髪の毛槍にオカリナロープを巻き付け、体内電気を発揮。数億ボルトの電圧を掛け、その隙に接近し、オカリナを打ち石代わりに全力で槍を押し込む。切っ先がラクシャサの頭を貫通した。

 

『地獄へ落ちろぉおおおおっ!』

『ぐわぁああああああああっ!』

 

 そして、残った左手でラクシャサの右目を突き刺し、全妖力を込めて指鉄砲を連射。彼の頭を爆砕した。誰がどう見ても決着は付いただろう。流石のラクシャサも、頭部を粉々にされては暫くは再起不能である。

 

『ハーッ……ハァーッ……ぐふっ!』

 

 しかし、目標を完全に沈黙させた所で鬼太郎にも限界が訪れ、まるで糸の切れた人形のようにドサリと倒れ伏す――――――直前に、蒼坊主がフワリと受け止める。お姫様をそうするように。

 

『お疲れさん。一先ず、今日はもう休みな』

 

 ……その手には、天邪鬼とラクシャサの描かれた札が握られていた。




◆ラクシャサ

 インド神話に登場する人食い鬼の一族。仏教では悪鬼羅刹と呼ばれている。同じルーツを持つ夜叉(ヤクシャ)は親類であり、同僚であり、ライバルでもある。
 主な役割は人を苦しめ、痛め付け、絶望させる事。大義名分こそ様々だが、何処へ宗旨替えしても、その本質は全く変わらない。まさに悪鬼に相応しい所業だが、神聖な儀式をぶち壊しにして喜ぶような一面も。ヒャッハー!
 アニメでは4期に登場。夜叉と近しいからか、同じく髪の毛を武器に使う。これが非常に強力で、“相手の大切な人に化けて不意打ちする”という搦め手に加え、鬼太郎の霊毛ちゃんちゃんこすらバラバラにしてしまうパワーを持っている。インド行者の円陣で弱体化していなければ、鬼太郎は仲間諸共殺されていたかもしれない。
 「妖怪は人間を苦しめてこそ、人間界にての存在理由がある」という心情を持つ武断派で、趣味の悪い搦め手を使う悪辣さ、鬼太郎を真正面から叩きのめす力強さも相俟って、たった1話のゲストとは思えないインパクトを残した。


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鬼太郎の武者修行③、そして……

 今回出て来た手の目さんは特殊個体デ、人間だった頃の姿を色濃く残していマス。その容姿はまさシク……。


『これは、儂の“不戦勝”という事で良いのかのう?』

 

 すると、ここぞとばかりに手の目が提案をしてきた。掌の目玉に矢印が浮かび上がり、倒れ伏す鬼太郎を見据え、捉えている。何時でも殺れるぞ、という合図だ。

 

『ああ。今回の契約は、あくまでお前ら三人を(・・・・・・)倒したら(・・・・)鬼太郎の勝ち(・・・・・・)、だからな。休憩を挟まずに挑み続けた、こいつ自身の落ち度だ。……けどよぉ、約束は約束だ(・・・・・・)。その事は忘れるなよ?』

 

 だが、蒼坊主は特に反抗も引き止めもせず、何なら振り向きさえしないで、淡々と告げた。

 今回、蒼坊主は妖怪たちと以下のような契約を交わした。

 

①三人は鬼太郎と戦い、勝てたら解放するが、負ければ再び封印する。勝利条件は相手を戦闘不能にする事。

②鬼太郎は三人全員を倒したら勝ちであり、負けた場合は如何なる理由があっても今後は手出しをしない事。

③ただし、人を取って食うような真似をした場合、②の約定は破棄される。

 

 つまり、手の目は完全な不戦勝である。

 休憩時間が記載されていないので、幾らでも取り様はあるのだが、それを断って続け様に勝負を挑んだのは、鬼太郎自身だ。不退転の覚悟で臨んだ故の失言だろうが、蒼坊主の言う通り、彼の落ち度である。手の目に文句を付ける事は出来ない。

 しかし、手の目も完璧な勝ち逃げとは言えない。人を襲った場合、②の約定が破棄され、再び討伐の対象となるのだ。否、今度はワイルドになった鬼太郎によって地獄へ落とされるだろう。

 ……妖怪の約束事は悪魔との契約と同じく、解釈の余地を多く残している方が拘束力が強くなる。話は単純な方が分かり易い。ラクシャサ、天邪鬼、手の目(特殊個体)と言った凶悪で強力な妖怪を縛り付けるには、③の条件を緩めるしか無かったのである。“取って食う”とは、“直接手を下したら”という意味でしかないのだから。

 

『分かっておる。あの粗野な連中と一緒にするでない』

 

 それを手の目も分かっているのか、ニヤリと笑い、立ち去って行った。

 

『――――――まぁ、当てはあるしのぅ』

 

 不穏な言葉を残して。

 

『……何だよ、負けちまったのかよ、鬼太郎』

 

 と、陰から様子を見ていたねずみ男が、やれやれという顔で出て来た。

 

『言うじゃねぇかよ。戦いが始まったら、真っ先に隠れてた割には』

『知るかよ。オレっちは平和主義者なんだ。そもそもオレは斡旋しただけなんだから、戦う筋合いがねぇだろ』

『確かに』

『ま、それこそ悪さしたら、鬼太郎が何とかするって事で』

『……だな』

 

 窘められても毛程も気にしない彼の言動に、蒼坊主が楽しそうに笑う。何だかんだ言って、ねずみ男が鬼太郎を信頼しているのは、分かっているからだ。“発破を掛けられる友人”というのは人生の貴重な財産である。

 

『とりあえず、今は休ませてやろうや。どうせ、監視は鴉天狗警察に任せときゃ良いし。それに、まだ会わせる奴がいるんだろう?』

『おうよ。たぶん、ビックリするぞ、鬼太郎も』

『お前も良い性格してんなぁ……』

 

 そんなこんなで、蒼坊主とねずみ男の会話は続く。鬼太郎が再び目を覚ます、その時まで。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 所変わって、千葉県某所――――――夢の国。

 

「ねこ姉さん、次はあそこに行きましょう!」『はいはい、分かったから、少し落ち着きなさい』

 

 真名は猫娘と共にいた。

 何故二人が、二人っきりで、夢の国で遊んでいるかと言うと、護衛の為だ。情報を統合し、鳴女は夜にしか外を出歩けない事が判明した為、猫娘が真名の家に上がり込む形でガードしている。流石に人気の多い所で事は起こさないだろう、という判断である。

 だが、一番の理由は鬼太郎が武者修行に出掛けているからだ。

 鬼太郎は数日前から、ねずみ男が呼び寄せた蒼坊主と共に、「奈落の谷」と呼ばれる秘境へ旅立った。行き方は彼らしか知らないし、特訓が終わるまでは戻らない。付いて行こうとしたら見事に断られた。

 ようするに二人は今、非常に暇なのである。応援する事も出来ないとなれば、手持ち無沙汰にもなるだろう。相変わらず女心の分からない男だ、鬼太郎は。

 一応、鬼太郎も彼なりに心配しての行動なのだが、ここは危険でも連れて行くべきだったと、世の淑女は思う事だろう。暗に足手纏いだと言われて置いて行かれる方としては、面白くも何ともない。

 なので、真名に誘われる形で、猫娘は夢の国へ来ていた。鼠が治めるランドに猫の半妖が訪れるのはどうかと思うが、気にしたら負け。

 

「……ねこ姉さん、ひょっとして余計なお世話でしたか?」

 

 休憩所で座っていると、真名が申し訳なさそうな顔で猫娘に尋ねた。

 

『そんな事無いわよ。まなと二人で出掛けるのは久々だしね』

 

 猫娘は取り繕うように、笑みで返した。

 鬼太郎を心配する(ついでに不満も持っている)猫娘を気遣い、少しでも鬱憤を晴らそうとしてくれている真名に対して、素っ気無い態度を取っては失礼だ。自分も命を狙われているだろうに……優しい子である。

 

『……それじゃ、次はあっちに行きましょうか』「は~い♪」

 

 こうして、二人のデートは更に盛り上がりを見せる――――――と思われた、その時。

 

『久し振りじゃのぅ、六部(むつべ)。封印されとったと聞いたが?』

『ツキの目が回って来たのじゃ。それより、お前そこ儂の豆腐屋を出たそうじゃないか』

『仕方ないじゃろう、まさか断絶するとは思わんかったし。……言っとくけど、わしから出た訳じゃないぞぇ?』

『分かっておる。どうせロクでも無い理由で絶えたのだろう。今は鳴女とかいう輩の家におるんじゃったか?』

『家というより城――――――いや、異空間じゃな。“本体”は今もそこにおるでな。結構便利じゃぞ?』

『ほほぅ、儂も見てみたいのう』

 

 何か聞き捨てならない台詞と、見逃せない姿が通りすがった気がした。振り向けば、何時ぞやの座敷童子と、似たような格好の地味な男の妖怪が。

 

「ね、ねこ姉さん、あれって……」

『見なかった事に――――――は、出来ないわよねぇ……』

 

 真名と猫娘は、渋々と後を付ける事にした。




◆手の目

 鳥山石燕の「画図百鬼夜行」に登場する妖怪。文字通り手に目がある化け物で、野盗に殺された盲人が化けて出たモノだという。江戸時代の怪談集「諸国百物語」にも親戚っぽい何かが出ている(こっちは盲目ではないが)。
 ゲゲゲの鬼太郎では原作漫画から登場する古株の敵。原作では「通りすがりのサラリーマンを操って強盗殺人させる」という完全な悪役で、後のアニメシリーズでも大体同じような役回りだが、第3期の彼だけは別で、“人間の都合で地獄の餓鬼を自分の住処に放り込まれて諸共封印され、それに怒って暴れたら駆け付けた鬼太郎にぶっ殺される”、普通に可哀想な被害者である。ついでに言うと、棲処に湧く「命の泉」という霊水を餓鬼に狙われ、人間側にも奪われそうになってたりする。
 一応、「人間の生き血をワインにしてやる!」と宣う妖怪らしい残虐さも見せたものの、そもそも飢えた狼の群れみたいな連中を家に投げ込まれた上で閉じ込められたら、それくらい言いたくもなるだろう。泥棒被害にもあってるし。血涙を流し過ぎて貧血になったのかもしれない。
 だが、そんな理屈は、一度こうだと決めたら聞く耳を全く持たず、割と手段も択ばない3期の鬼太郎さんには、1ミリも聞き入れてもらえなかった。それで良いのか正義の味方。


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丸子、でーとするの巻

 ……タイトルに他意は無いでスヨー?


 キャハハハ、わしじゃよわし、座敷童子の丸子じゃよ~♪

 今日は久方振りに封印を解かれた、六部(むつべ)とでーとじゃ♪

 あ、六部というのは、今わしの目の前で零余子印のわいんを飲んでおる、この“手の目”の事じゃ。ふるねーむは矢琶羽(やはば) 六部(むつべ)という。以前世話になっていた「矢琶羽豆腐」の跡取り息子だった(・・・)男じゃ。

 六部との出会いは、大分昔――――――大正時代の話じゃ。彼は盲目ながら手先が器用で、豆腐作りの上手い男じゃった。家に上がり込んで来たわしとも遊んでくれる、良い男じゃったよ。

 しかし、ある晩、突如押し入って来た、正体不明の化け物に殺されてしまった。両親が用事で遅くまで出掛けていた日に起きた、哀しい出来事じゃ。

 その後、両親は嘆き悲しんだものの、何時までも泣いてはいられないと、何処からか養子を迎えたのじゃが、こいつがまた、どうしようもない男でなぁ。とにかく女癖が悪く、夜な夜な抜け出しては何処ぞの女と遊んどった。

 そんな屑男だが、仕事だけは出来る奴であり、おかげで両親も強く言えず、済し崩し的に跡取りとなった。

 さらに、夜遊びばかりしていた成果なのか、後継ぎにも恵まれ、何だかんだでそやつの一族が矢琶羽豆腐を取り仕切るようになっていった。

 ……正直、わたしとしては、六部が殺された時点で家を出ても良かった。屑野郎は元より、彼を忘れようとする六部の両親が許せなかった。

 だが、今わの際に六部から店を頼まれてしまったから、しょうがなく見守る事にしたんじゃ。彼を助けられなかった負い目もあったしの。

 しかし、屑の子孫は穀潰しじゃった。わしがどんなに頑張って店を盛り上げようと力を使っても、稼いだ傍から金を使いよる。先祖と同じく女と酒に溺れておった。これには後に手の目となって蘇った六部も苦笑いしとったよ。

 それでも見捨てず、我慢に我慢を重ねて、陰から支え続けた。六部がやらかし過ぎて、退魔師に封じられてからも、長い間ずっと……。

 だが、駄目男は何処まで行っても駄目糞野郎じゃった。

 何と奴の末裔が、火遊びのし過ぎで殺されてしまったんじゃ。十六人の女から滅多刺しにされて息絶える光景は、流石のわたしも絶句したわ。何しとるんじゃい。

 結果、お家は断絶。せっかく守って来た店も潰れてしまった。それからは皆の知るような顛末じゃよ。

 ――――――うん、もう矢琶羽豆腐関連の話はよそう。飯が不味くなるし、気分も悪くなる。

 それよりも、六部じゃよ、む・つ・べ♪

 彼は化け物に殺された後、無念を晴らすべく、盲人のなる妖怪「手の目」となった。文字通り手に目がある怪異で、それを使った妖術を使うのが特徴じゃ。

 大抵は催眠術や目晦ましなど、“目を光らせて”発動する補助技が殆どじゃが、中には目玉を弾丸のように飛ばしたり、敵を撃ち貫く怪光線を放つ者など、攻撃的な技を習得する場合もある。

 そして、無念の度合いが段違いだった六部は、殊更に特異な能力を得た。“周囲に生じる力の向きを自在に操る”という物で、色々と応用の利く妖術じゃ。目玉の矢印がその証。本人にしか見えない「紅潔(こうけつ)の矢」なる力場が全てを引っ張るのじゃとか。

 凄いのう、かっこいいのう、一方通行って呼ぼうかのう♪

 しかし、そんな強くてかっこいい能力を得た六部じゃったが、時は既に遅かった。己の仇は誰とも知らぬ者に討たれ、とっくの昔に死んでおった。

 捌け口を失くした彼は荒れに荒れ、人を取って食って殺しまくり、既に活動を始めていた鬼太郎や、蒼坊主という退魔師に見付かって討伐・封印されてしまい、それっきり会う事はなかった。

 

 ……寂しかったわよ、本当に。

 

『そう言えば、本体のある無限城という異空間は、安全なのか?』

 

 と、わいんを飲み干した六部が、わたしの心配をしてくれる。相変わらず身内には優しい奴じゃのう。大好きじゃ♪

 

『問題ない。城の主は正真正銘の化け物じゃからのう』

 

 わしら座敷童子は、己の分身を作る能力が有る。亜種であるたたりもっけや呵責童子もそれは変わらない。

 ただし、それは謂わば肉体の予備であり、魂の宿っていない肉人形じゃ。だから自意識は持ち合わせておらず、幽体離脱の要領で取り憑く事で、初めて動かす事が可能となる。

 だが、その間は本体が無防備になるので、本体を見捨てなければ助からないなど余程の理由がある場合か、安全が確保されていない限りは使わない事にしておる。

 今は無限城に囚われている形なので、安全ではあるが逃げられない状態であり、外界にはこうして分身に憑依して出歩いとるのじゃ。魂が分割で本体にも残っておるから、見捨てる訳にもいかんし。鳴女も上手い事考えよるのー。

 

『それはそうと、そろそろ飯を食わんか? わいんばかりでは飽きるじゃろ?』

『そうでも無いが……何か注文でもするのかの?』

 

 流石は零余子印。あの潔癖で味に煩い六部をも唸らせるとは。……ちょっと嫉妬しちゃうわ。

 

『いいや、弁当を持って来たぞぇ』

『ほーう、お前の手作りかのう?』

『いや、ちゃらとみの手作りじゃ』

『そこはお前が作っておけよ……』

 

 「主夫かそいつは」と呆れる六部じゃが、気持ちは分かるぞえ。悔しいが、あやつに料理の腕で敵う奴は、我が家には一人もおらん。何時かは超えてみたいが、少なくとも今ではない。

 じゃから、今回は涙を呑んでちゃらとみ弁当で手を打った。六部にはやっぱり美味しい物を食べて貰いたいんじゃよ、悔しいけどぉ~!

 

『『美味い』』

 

 うーん、何だかなぁ……美味しいんだけど、心が嬉しくない。遠い空の向こうで、ちゃらとみが白い歯を光らせながら笑顔を浮かべているような気がする。

 どうしよう、凄くぶん殴りたいんだけど。

 でも、今はあいつも化け物だしのぅ……。

 ――――――うん、今度はちゃんと手作りしよっと。

 

『ふぅ……』『ごちそうさま』

 

 さぁ、腹も満たされたし、でーとの続きじゃあ!




◆矢琶羽

 朱紗丸と同時期に登場した、男の鬼。こっちも無惨に煽てられただけの、自称:十二鬼月。妖怪「手の目」の如く、矢印の描かれた眼球が掌に在り、ここを開閉する事で血鬼術が発動する。能力はベクトル操作で、自分(または見破る能力持ち)にしか見えない「紅潔の矢」という矢印を放ち、触れた物体をその方向へ強制的に移動させる。かなり応用の利くスキルで、攻撃だけでなく追跡にも使われた。
 無惨の命令で、出会ったばかりとは思えないくらい相性の良い朱紗丸と共に炭治郎たちを襲ったが、兪史郎の機転で分断され、最期は自分の能力を逆用される形で炭治郎に討伐された。確かに強い事は強いのだが、後の本物の十二鬼月と比べるとやはり見劣りする。
 ただ、成長すれば一方通行さん並みの脅威になった可能性も否めない。能力の自由度はこっちの方が上っぽいし。
 その後、朱紗丸とほぼ同時期(こっちの方が僅かに後)にゲゲゲ世界へ転生、矢琶羽豆腐の跡取り息子「六部(むつべ)」として生を受けたが、元服前に謎の化け物に襲われ、食い殺されてしまった。その無念により妖怪「手の目」として蘇ったものの、仇はとっくに討伐されており、やり場のない怒りを周囲にぶつけまくった結果、鬼太郎と蒼坊主に見付かってしまい、封印された。
 彼を襲った化け物は“人の血肉を好んで食らう人間そっくりの姿をした鬼”だったらしいが、暗がりでの事だったので詳細は不明である。
 ちなみに、今も昔も潔癖症で、令和の現在は消毒セットを常に携帯している。よくそんなんで豆腐作れたな。


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トリプル・コンタクト

???:『このロリコンどもめ!』


((何か普通にデートしてる……))

 

 バッタリ出会った二人の妖怪をストーキングしていた真名と猫娘だったが、あまりに普通のお付き合いっぷりに毒気を抜かれてしまった。食べている物やファッションは別として、口出しすべき所は何も無い。むしろ野暮であろう。あの鳴女の仲間とは思えない信じ難い光景だが、目の前の現実が全てだ。

 

『六部は何時もそれを持ち歩いているのかえ?』

『当然じゃ。誰とも知らん奴が使った物に腰掛ける趣味はない』

『相変わらずの潔癖症じゃのう』

 

 ……消毒液とポケットティッシュを常に持ち歩き、事ある毎にせっせと消毒するのは置いておくとして。

 

「どうしましょう、ねこ姉さん?」

『うーん、どうしたら良いかな?』

「私たちも普通にデートします?」

『君は一体何を言ってるのかな?』

 

 普通は同性同士でデートはしない。人はそれを百合と言う。良いぞもっとやれ。

 しかし、本当にどうしたものか。向こうが何かしない限り、こちらからは手出し出来ない。そんな事をしたら、自分たちが悪役である。

 

(いや、そもそも事を起こすのを期待しちゃダメでしょ、アタシ)

 

 というか、後を付け回している時点で充分にアウトなので、猫娘は張り込みを止める事にした。何が哀しくて、仲の良いカップルを女二人でストーキングしなければならないのか。人の恋路は、好きにさせたらええやん。

 

『……もう止めにしましょう。虚しくなってくるし』

「えーっ、あの二人が今日何処まで行っちゃうのか、見ないんですか!?」

『野次馬根性丸出しね。馬に蹴られたくなかったら止めなさい』

「ちぇ~。なら、あの二人の事を忘れられるくらい、目一杯遊びましょう!」

『はいはい、分かった分かった』

 

 今時女子の真名は多少ごねたものの、最後は渋々了承した。他人の恋より、自分の愛(?)を優先したようだ。

 ――――――だが、そうは問屋が卸さないのが宿命であり、真名クォリティーである。

 

「おや~?」

 

 踵を返して己のデートを再開しようとした真名の視界に、不思議な二人組が映る。

 

『いや~、割と面白かったねぇ、「スマグラーズ・ラン」』

 

 一人は継ぎ接ぎの肌に頭の螺子が特徴的な、マッドサイエンティスト風の少年。身長は真名と然程変わらない程度しかなく、年頃も同じくらいだと思われる。

 

『そうね。個人的には「TIEファイター」の方にも乗ってみたかったけど』

 

 もう一人は薄紫色の髪をツインテールにした、赤い瞳の可愛らしい女の子。身長は鬼太郎と同じで、彼とは逆に右目側を髪で隠している。胸はあまりない。何故か耳が悪魔のように尖っている。

 服装としては、ゴスロリ風の裾がギザギザしたワンピースを着こなし、パーティーに使うレースの手袋を嵌め、withガーターベルトなソックスとヒールを履いている。何れも闇のような漆黒だ。

 一応、二人揃って人型だが、遠目からでも分かる。こいつら人間じゃない。おそらく、両方共に妖怪である。

 

『ベア子ちゃんは相変わらず帝国派だねぇ。結構ブラックだと思うんだけど、あの組織』

『それ言ったら、レジスタンスの方がノワールブラックシュバルツだと思うけどねぇ?』

『いや、黒すぎでしょ。気持ちは分かるけどね。名誉しか貰えないし、割とよく死ぬし』

『そう言うヴィクターは何処が良いのよ?』

『惑星カミーノでずっと研究をしていたい』

『凄く分かり易いマッドサイエンティスト』

『それ程でもある!』

『それでこそよね♪』

 

 名前は男の子がヴィクターで、女の子がベア子というらしい。

 こっちもこっちでデート中らしく、今はミレニアム・ファルコンに乗って来た帰り道のようだ。次は舞台裏の映像でも観に行くのだろう。滅茶苦茶満喫してますね。

 

『どうしたの、まな?』

「いや、あの、あれ……」

『うん?』

 

 と、ここで猫娘も二人の存在に気付く。

 

『『おっ?』』

『『あっ!』』

 

 さらに、食事を済ませ、席を立った丸子と六部もバッタリ遭遇。ヴィクターとベア子も反応を見せる。

 今ここに、三組のカップルが一堂に会した。一つだけ百合色だけど。

 

((今すぐ立ち去りたい……!))

 

 たぶん、この中では一番の最弱組である猫娘と真名は早々に逃げ出したくなった。

 しかし、そうは行かないのが世の中の常。

 

『アンタたち、猫娘と犬山 まな、よね?』

「「な、何故バレた!?」」

『お父様とヴィクターから聞いてた』

 

 しっかりとベア子に素性がバレていた。猫娘に限らず、鬼太郎ファミリーは有名処だから仕方ない。

 

『そして、そっちは鳴女の所の座敷童子だね!』

『初対面の筈じゃが、何で知っとるんじゃ~?』

『動画で見た。スパチャもした』

『ご視聴ありがとうございます』

 

 ついでに丸子の素性も筒抜けになっていた。鳴女一家は売れっ子ウーチューバーだからしゃーない。

 

((このまま何事もなく解散してくんないかなー))

 

 猫娘と真名は空を見上げながら、心の中でボソリと呟いた。

 いやー、無理ですねぇ。




◆ベア子

 西洋妖怪の総大将「バックベアード」の一人娘……という設定の二次創作キャラ。世界中のロリコンどもを撲滅する為に活動しているらしい。
 今作の彼女はヴィクター・フランケンシュタインと健全(?)にお付き合い中。割と親日家で、ロリコン以外の日本文化を受け入れている。愛称をベア子にしているのもその証。
 ちなみに、今作におけるベア子のフルネームは「ベアトリス=バックアップ・コアソウルズ」。製造番号は「Bb-8」。


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真名のまなわんリポート

 バトルしようゼッ!


 皆さん、こんにちは。真名(まな)です。初めましての人は、改めましてよろしくお願いします。

 本日は例のランドでねこ姉さんとデートを楽しんでいたのですが、何故か妖怪のカップルに二組も出遭ってしまい、現在私たちを間に挟んでメンチを切っております。誰か助けて。

 

『……一人のファンとして、あまり傷付けたくはないけど、仕方ないわね』

『そうだね、仕事をしよう。……ハァアアアアアアアア!』

 

 すると、ベア子&ヴィクターの西洋組が戦闘態勢に入りました。ベア子ちゃんは紫色のオーラを纏い、ヴィクターくんは進撃しそうな奇行種に変身しましたよ。怖っ!

 

『フム、やるしかないようじゃな』

『うー、りすなーさんとやり合うのは嫌なんじゃがのー』

 

 それを見た六部&丸子の東洋組も臨戦態勢を取りました。丸子ちゃんは上着をはだけて腕を六本に増やすという分かり易い形態になりましたが、六部くんは特に変わっていません。地味です。

 というか、何故彼らは争うのでしょう。東洋と西洋の違いはあれど、同じ妖怪なのに……。

 いや、妖怪同士だからかもしれません。生き物は同じ種類の生き物に縄張りを渡そうとはしませんから。悲しいですね。

 ――――――まぁ、単に今すぐ自分の住処に帰れって意味でしか無いんですけどねー。

 

『ヴォオオオッ!』

 

 まず仕掛けたのは、ヴィクターくんでした。その巨体に見合った突進を繰り出します。科学とは一体。

 

『ぬぅううんっ!』

 

 彼の相手をするのは、まさかの丸子ちゃんでした。確かに見た目がカイリキーだから違和感はありませんが、そこは男の子の出番だと思うのですが……。

 いいえ、もしかしたら、ベア子ちゃんの方が厄介な能力を持っているのかもしれません。オーラ出てますし。

 

『アナタがワタシの相手なの? ……丁度良いわ。やっぱり、丸子ちゃんに直接手を下すのは嫌だったからね!』

 

 それどころか、黒くてモヤモヤした妖気弾を放ちました。

 

『舐めるでないわ。飛び道具で儂に挑む事の愚かさを教えてやろう』

 

 ですが、六部くんも負けていません。彼の掌にある目が閉じると、何故かベア子ちゃんの妖気弾が偏向し、彼女自身に跳ね返って行きました。

 どうやら、六部くんにはベクトル操作の能力が有るようです。一方通行さんとお呼びしても?

 

『ええ、是非とも教えて欲しいわ』

 

 しかし、ベア子ちゃんもベア子ちゃんで、普通に殴って妖気弾の軌道をズラしました。手のオーラが強まった所を見るに、彼女は妖気を纏って戦うのが得意なようです。

 さらに、噴き出す妖気で周囲の重力を歪め、空まで飛び始めました。六部くんも重力の方向を微調整して、後を追います。何かこっちだけドラ○ンボールしてますね。

 

「ね、ねこ姉さん、どうしましょう?」

『帰りましょうか』

「全力で逃げようとしますね、ねこ姉さん」

『だって、関わったら絶対にロクな事になりそうにないんだもの』

 

 気持ちは分かりますが、ここで踵を返すのはマズいでしょう、鬼太郎サイドとして。

 

『……まぁ、冗談は程々にして、避難誘導をしましょうか。参戦するにしろ撤退するにしろ、こうも人が多くちゃやりにくいからね』

「おお、流石ねこ姉さん!」

 

 逃げるという選択肢は絶対に外さないんですね!

 ただ、人がいっぱいだと戦い難いのは事実です。押し合いへし合い我先にと逃げ出すような輩は正直死んでも良いと思いますが、我が子を守ろうと必死になっている家族連れとかを巻き込むのは可哀想ですしね。

 

『ヴォラアアアッ!』『うぐっ!』

「きゃあああっ!?」

 

 と、丸子ちゃんが私のすぐ傍まで吹っ飛んできました。どうやらヴィクターくんにパワー負けしたようです。手数は上でも地力が劣っているみたいですね。女の子ですからね、仕方ないです。

 

『よくもやってくれたのう! これはお返しじゃあ!』『グヴォオオオッ!?』

「わきゃーっ!」

 

 いいえ、全然仕方なくありませんでした。何と丸子ちゃん、鞠を無限湧きさせながら、ヴィクターくんに一方的なドッチボールをし始めたのです。一発一発が身体を抉るデッドボールです。それでもすぐに再生しちゃうヴィクターくんが凄いのは分かったから、あっちでやって下さーい!

 

『まな!』「ねこ姉さん!」

 

 よ、良かった、ねこ姉さんが御姫様抱っこをして離脱してくれました。ヒャッホウ!

 

『アハハハハハハ!』『ぬぅ、やるではないか!』

「『ギャーッ!?』」

 

 ですが、退避した先に妖気弾の雨あられが降って来ました。ベクトル操作が間に合わないように、ベア子ちゃんがグミ撃ちしているようです。これだけ連打されても被弾していない六部くんは凄いですが、頼むから向こうでやって!

 

『ほらほら、もっとワタシを楽しませなさいよ!』

『……舐めるなよ、小娘がぁ!』

 

 しかし、二人は話を聞いてくれません。ベア子ちゃんに煽られた六部くんが、天を仰ぐように頭上へ光を集め、無数のビームを放ちました。

 しかも、このビーム攻撃、折れ線グラフのようにホーミングしながらベア子ちゃんを射抜こうとしていますよ。六部くんのベクトル操作は射程距離が長いようです。

 

『ガヴッ!』

 

 ですが、ベア子ちゃんは避けるのが面倒になったのか、ある程度引き寄せると、何とガッツリ食べてしまいました。暴食のベア子ちゃん!

 

『ハァアアアッ!』

 

 そして、今度はチャージした妖気をビームとして撃ち出しました。どう見てもあの波です、本当にありがとうございました。

 

『シャアアアッ!』

 

 しかし、六部くんも掌が前になるよう腕を十字に組んで、同じく収束したビームを発射しました。彼は光の国が出身地なのかもしれません。

 

「きゃうぅーっ!」『まな!』

 

 さらに、正面からぶつかり合った光線が大爆発。凄まじい閃光と熱を放って来ました。ねこ姉さんが庇ってくれなかったら、丸焼きになっていたかも……。

 ああもう、誰か何とかして下さーい!

 そう思った、その時。

 

《虚ろな器……》「………………!」

 

 突然、瘴気のような物が集まって人の形を成し、黒いローブを纏い帽子被った、不気味な仮面の男となりました。




◆名無し

 アニメの第6期で初登場した怪人。愛の虚しさを演説しそうな重みのある声が特徴。
 呪術に長けているようで、様々な強豪妖怪たちの封印を解き、それらを利用して真名に呪いを植え付けるなど、物語の黒幕として暗躍している。幽霊染みた見た目の通り実体が無いらしく、大抵の攻撃はすり抜けてしまう。
 その正体は……。


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ニャニャニャのバトルガール

 バトルガールが通うハイスクールが存在するらシイ。


 アタシ、猫娘。猫又と人間の合いの子なの。

 そして、鬼太郎のパートナーでもある……幼馴染とか、戦友止まり、だけどね。昔は「僕が貰ってやる!」とか言ってくれた時もあったけど、ユメコ(あのこ)が死んだ頃から大分変っちゃったわ、彼……。

 だが、奈落の谷へ行く時の鬼太郎は、何かが違った。帰ってくる頃には、かなり様変わりしている、と思う。

 ……嗚呼、こんな事を考えてしまうくらい、アタシは今とても混乱しているのね。この場に居ない彼を頼った所で仕方ないし、そんな調子ではまなを守る事も出来ないでしょうに。

 

《虚ろな器虚ろな器……五つ揃うのは何時の日か……》

 

 そう、例えばこいつから、とかね。

 

『………………!』「ねこ姉さん!?」

 

 アタシは迷わず、まなの前に立った。

 こいつが何なのかは分からないが、只者ではない事は感じ取れる。確実にヤバい奴である。声が良い仕事してますもの。勝てる気がしない。

 それでも、アタシは退かないわよ。鳴女の時に見せた無様な姿は、二度と晒さないわ。

 こんなアタシを、姉さんと呼んで慕ってくれる、まなを守る為に!

 

『――――――おーい、丸子。せっかく用意してやったのに忘れてるぞー、ゴム』

《ばぶぅふ》

「『ゑ?』」

 

 と、我ながら悲壮感のある覚悟を持って構えたのだが、突如現れた襖が仮面の男を跳ね返して、中からもっとヤバい奴が現れた。ついでに向こうから『わざと置いて行ったんじゃー!』という声が聞こえた気がする。

 オマエ、初日からゴム(それ)が必要って、爛れ過ぎじゃない!? 妖怪とは言え、子供に何を勧めてんだ!

 いや、しかし、今はそんな事を言っている場合じゃない。何てタイミングで現れるんだ、鳴女の奴……!

 

《うぅぅ……誰ぞ……?》

『いや、お前こそ誰だ?』

 

 おい、幾ら何でも、それは無いだろう。飛び出して来たのはオマエなんだよ。

 

《邪魔を……!》

『邪魔なのはお前だ』

《オオオォォ……!》

 

 だが、理不尽そのものな鳴女に、仮面の男の事情など知った事ではなかった。口から火砕流のような炎を吐いて、あっという間に仮面の男を火達磨にしてしまった。

 何時の間にそんな技を習得したのかも気になるが、どう見ても実体の無い幽霊みたいな奴にダメージを与えられるとか、そんなの有りかと言いたい。妖気でも混ぜているのだろうか?

 

《うぅぅぅ……ぁああああっ!》

 

 そんなこんなで、仮面の男は赤ん坊のように叫びながら消え去った。これで死んだのかどうかは分からないが、少なくとも撤退はしたものと思われる。結局、彼は一体何をしに来たんだろう?

 しかし、仮面の男が消えた所で、安心は全く出来ない。中ボスの代わりに裏ボスが現れたような物だからね。

 

『フーム、転移先を間違えたか。こんなランドの中心で花火をする破目になるとは。せっかく丸子が告白した辺りで背後から「チィーッス、保護者でーす」とか言ってやろうかと思ってたのに』

 

 鳴女が若干眩しそうに周囲を見渡しつつ、悪魔的な発言をしている。羞恥で泣くぞ、丸子が。

 え、というか、ちょっと待って!?

 

「『太陽はっ!?』」

『え、眩しいよ?』

「『知ってるよ、この世の誰もが!』」

 

 そんなの、お天道様が一番分かってるわ!

 

『私が何時までも日ノ本を歩けないとでも思っていたのか?』

 

 無表情なのにドヤってるのがよく分かる顔で宣う鳴女。とてもムカつく。

 それはつまり……どうしよう、勝てる気じゃなくて、生きて帰れる気がしないんだけど。

 ――――――いや、いや、違う、そうじゃない。誰が相手かどうかは関係ない。鬼太郎がこれまでそうして来たように、まなは……まなだけは、アタシが守る!

 

『フゥゥゥ……ッ!』

『何だ、邪魔だぞ野良猫。私はそこのお嬢ちゃんに用があるんだよ。一緒に食事がしたいんだ』

 

 アタシの威嚇など気にも留めず、悍ましい笑みを浮かべながら、鳴女が近付いて来る。言っている事が完全に変態な件について。一緒にって言うけど、アンタがしたいだけでしょ。

 

「ね、ねこ姉さん……!」『大丈夫、今度は守ってみせるから……!』

 

 それしか言えないのが悔しい。鬼太郎から戦力外通告される訳だ。

 でも、だけど、アタシは――――――、

 

『………………!』

 

 すると、上空から何かが飛んで来て、鳴女を後退させた。あれは、

 

『リモコン下駄!?』「という事は!?」

 

 まなと殆ど同時に空を見上げる。そこには、今一番見たかった彼の姿が。

 

『済まない、遅くなった!』

「『鬼太郎!』」

 

 力強い声で言いながら、アタシたちと鳴女の間に着地する鬼太郎。ここに彼がいるという事は、修行は終わったのだろうか。

 いいえ、言わなくても分かるわ。

 だって、前は砕かれていたリモコン下駄で、鳴女を下がらせたんだもの。これで弱い訳がない。

 

『……久し振りだなぁ、鬼太郎』

『そして初めましてだな、鳴女』

 

 互いに妖気を迸らせながら対峙する、鳴女と鬼太郎。両者共に以前とは全く違う雰囲気を纏っていた。覇気が違う、と言ってもいい。まだ一年も経ってないのに。

 

『わざわざこんなランドまで飛んで来るとは、またお仕置きされたいのかい?』

『まさか。そっちこそ、せっかく日光浴が出来るようになったのに、奈落の底(じごく)へ叩き落されるとは、可哀想だな』

 

 ……鬼太郎、ちょっとやさぐれた?

 

『じゃあ死ね』

 

 彼の態度が気に食わなかったのか、鳴女が琵琶を退避させ(動けたの!?)、両手の指先から刀を生やして構える。アダマンチウム製だろうか。

 

『お前が死ね』

 

 対する鬼太郎は、霊毛ちゃんちゃんこを棒状に纏めると、両端から霊力の光刃を形成、棒術の体勢を取った。平和を愛する騎士が暗黒卿に転職しちゃった。やっぱりグレてるよね?

 

『『………………!』』

 

 そして、殺る気満々の二人は大地を蹴り、宙を舞い、火花を散らせて激突した。




◆シスの暗黒卿

 調和を重んじるジェダイの騎士と対立する、フォースのダークサイドを操る者たち。
 暗黒面に触れて粋がっているだけのダーク・ジェダイと違い、きちんとした教義を掲げ、己の技を磨く「真面目な悪役」である。
 所謂「必要悪」のような物で、感情のまま暴れるような馬鹿ではなく、理性的に暴力を振るえてこそ、理想のシスと言える。ようするにフォースのバランスを保つ為の暴力装置である。
 とは言え、攻撃的な事に変わりはなく、フォースライトニングやフォースチョークなど、ジェダイじゃ絶対に思い付かない技も平然と使う。
 ついでに言えば、理想通りの暴力装置になれる者は早々おらず、一ヶ所に集まるとたちまち同士討ちを始めてしまうので、「二人の掟」が定められたりもした。
 ちなみに、ダースは「Dark Lord of the Sith(シスの暗黒卿)」の略なので、うっかり「ダース・ヴェイダー卿」とか言っちゃうと、元アナキンに締め上げられるので注意。


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宿命の戦い①

 鳴女さんVS鬼太郎、二戦目開始!


『………………』

 

 鳴女が左から指刃を振るう。鬼太郎はそれを受け払い、鳴女の右からの突きを首振りで躱し、左から袈裟に切り付けて反撃。

 だが、鳴女も上体を逸らして避け、右脚で蹴りを放つ。鬼太郎はちゃんちゃんこの部分で受け弾いて、次なる左右からの連続斬りも光刃捌きで跳ね返し、膝蹴りを鳴女の腹に入れて動きを止め、頭で顎を突き上げ、間を取った所でミドルキックを左から見舞って更に引き離し、最後にドロップキックを放って完全に突き放した。

 

 ――――――べべん!

 

 追撃を許すまいと鳴女が鬼太郎の足元に襖を召喚。

 

『フゥン!』

 

 しかし、開かれる前に鬼太郎が右手の指先から電撃を放ち、雁字搦めにして無理矢理押さえつける。これは体内電気の威力を上げ放電させた物であり、妖気を多分に含んでいる為、疑似的に霊毛ちゃんちゃんこでの拘束を再現している状態である。こうなると襖は開閉不可能で、一時的に鬼太郎の支配下にすら置かれる。

 

『ハァッ!』

 

 さらに、鬼太郎は電撃をさながらマジックハンドの如く操り、襖を目の前に浮かび上げると、妖気の波導を衝撃波としてぶつける事で、フリスビーのように発射した。

 

『………………!』

 

 だが、鳴女は少し驚きはしたものの、すぐさま切り替え、口から火砕流の炎を吐き出して襖を爆砕し、更には目から微小化酸素粒子光線を鬼太郎へプレゼントする。この間、約一秒。普通は避けるどころか反応すら出来ないが、鬼太郎は“嫌な予感”を覚えて咄嗟に行動、見事に躱した。

 しかし、鳴女の攻撃は続いている。視線を合わせるように、目からビームで鬼太郎を追撃する。進攻先のあらゆる物体が分子破壊されて溶けて行き――――――、

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 ほぼ同時刻、都内某所。

 

「総理! 今回発覚した密会について、何か一言!」「総理、ちゃんと答えて下さい!」「国民が見て、聞いてるんですよ!? 国の代表として、言うべき事があるんじゃあないですかぁ!?」「前回の政権奪取事件についても詳しくお願いします!」「総理!」「総理!」「総理!」「大統領……あ、間違えた、総理!」

 

 スーツにネクタイを締めた偉そうな男たちと歩く、ちょっとお年を召した一人の女性が記者に囲まれ、質問攻めにあっていた。

 彼女の名は大空(おおぞら) つばめ。現在の内閣総理大臣だ。

 だが、今の支持率はかなり悪い。はっきり言って崖っぷちである。原因は多々あるが、やはり刑部狸率いる八百八狸による日本政権の乗っ取り事件だろう。あれは本当に痛かった。何せ妖怪とは言え、狸に負けたのだから。

 そして、今回発覚してしまった政府与党幹部との密会事件。議論の内容は「妖怪との今後について」という至って真面目な物だったのだが、幾ら摩訶不思議な存在に関する事とは言え、裏でコソコソとやってしまったのがマズかった。公平性という意味で、野党や野次馬に突かれるのも仕方無い。

 仕方は無いが……、

 

(……もう疲れたわ。アイドルを目指していた、あの頃に戻りたい)

 

 ハイエナのような報道陣の喧騒に晒される中、つばめは現実を逃避し始めていた。

 彼女は“美空 ひばりの再来”とも謳われた天才歌手、大空(おおぞら) ひばりの一人娘だ。プライド高く自分にも厳しく接する母親を恨めしく思っていなかったと言えば嘘になるが、同時に大舞台でスポットライトに照らされ多くのファンから喝采を浴びる彼女の事を、つばめは誇りに思っていた。

 しかし、ひばりは突如現れた凶暴な妖怪「水神」の最初の犠牲者として、自分の目の前で溶かされてしまい、妻を失ったショックでやさぐれてしまった父親の暴力に晒されるようになる。

 さらに、その父親も後に妖怪に殺されてしまい、とうとう天涯孤独の身になってしまった。

 その後は父親の友人である元総理大臣に引き取られ、政治についての手解きを受けつつも、“母親のようになりたい”という想いから、周囲の揶揄や反対を押し切ってアイドルを目指すようになる。

 だが、才能こそあったものの、ある意味政治より厳しい芸能業界で勝ち残る事が出来ず、養父との約束である「アイドルでも政治でも日本一を目指す」という誓いを果たす為、泣く泣く夢を諦め、政治の世界に足を踏み入れる。

 そうして長年努力を重ね、ようやく念願叶って総理大臣にまで上り詰めたというのに、

 

(この有様か。本当に、無様な物ね……)

 

 結構年が行っているつばめだが、更に老け込んでしまったような気さえする。それ程までに、彼女は人生に疲れ果てていたのである。

 

「あっ……」

 

 そうやって上の空になっていたのがいけなかったのか、それとも思わず流した涙のせいか、左目のコンタクトレンズが落ちてしまった。

 そして、慌てて腰を屈め、何とか見付けて立ち上がった時、

 

「……え?」

 

 報道陣も、役に立たない取り巻きの議員も、皆纏めて上半身を失くしていた。

 

「え、え、え……!?」

 

 周囲を見渡してみれば、幾つものビルや通行人の背丈が短くなっており、例外なくドロドロに溶けていた。まるで、水神に消化されてしまった、母ひばりのように。

 スマフォで状況を確認してみれば、あのランドを起点として亀戸駅から東京駅が扇状に壊滅してしまっているとの事。ついでに、夕方から開かれる議会の為に集まっていた政府関係者が軒並みお釈迦になったらしい。

 

「えっと……つばめちゃん、大勝利?」

 

 まるで意味が分からないので、とりあえずガッツポーズを取ってみる、つばめなのであった。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 そして、視点は某ランドへ戻り、宿命の戦いへ。

 

『ハッ!』『………………ッ!』

 

 やりたい放題に溶かしまくっている鳴女の顎と目を、鬼太郎のリモコン下駄が跳ね上げて、ビームを中断させた。

 さらに、光刃の一方を引っ込め、逆側へ妖力を一転集中させる事で、光る大剣を形成。回復したばかりの鳴女に猛然と襲い掛かった。

 

『チッ……!』

 

 鳴女もそれに応じる形で指剣を収納、手そのものを大型の柳葉刀へ変換し、応戦。鬼太郎が放った地面スレスレからの振り上げをシフトウェイトで躱し、物凄い速さで斬撃を放つ。

 だが、鬼太郎は大剣を器用に動かして、鳴女の反撃を全て防ぎ切り、上段から叩き付けるように振り下ろした。鳴女は柳葉刀をクロスさせて、どうにか受け止める。

 

 ――――――べべん!

 

 そして、鍔迫り合いになった瞬間を狙って、再度襖を足元に召喚。自分諸共、無限城の夢幻回廊へ落とした。

 しかし、その程度で止まる鬼太郎でも、好き勝手にさせる鳴女でもない。互いに周囲の壁や柱を操り、四方八方から襲わせ、隙を突いて相手を殺そうと躍起になる。刃の襖や槍の手摺、畳の手裏剣が飛び交い、鬼太郎の薙ぎが、鳴女の回転斬りが、蹴りが、拳が、電撃が、ビームが、光弾が、火砕流が、あらゆる物を破壊しながら、二人を深い深い奈落の闇と送り出す。

 さらに、闇へ突入する事しばらく、突如として眩い閃光が鬼太郎と鳴女を包み、

 

『『………………!』』

 

 無数の残骸と共に、二人は雲より高い上空へ投げ出された。




◆大空 つばめ

 アニメ「墓場鬼太郎」で水神に溶かされちゃった歌手。モデルはむろん美空ひばりで、漫画では“大空 ひばり”だったが、流石に一文字違いはヤバかったのか、名前がつばめに変更された。だから何だって話だが。
 本作では「大空 ひばりの一人娘にして6期の女性総理役」として登場。6期では妖怪に振り回されているのに誰も味方をしてくれない可哀想な彼女だが、こっちの世界では幼少期のトラウマまで背負わされてしまった。挫折に挫折を重ねながらも遂に頂点へ登り詰めたというのに、あまりにあんまりである。


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宿命の戦い②

 一方その頃、丸子たち居残り組ハ……。


『鬼太郎……』

 

 アッという間に何処かへ行ってしまった鬼太郎に想いを馳せる猫娘。

 彼は本当に凄い。この短期間で、あの鳴女と互角に戦える程にパワーアップした。自分はまだ一つ(・・・・・・・)しか妖術を獲得(・・・・・・・)していない(・・・・・)というのに(・・・・・)

 いや、今は止そう。嫉妬している場合ではない。鳴女という最大の脅威が離れただけで、状況は全く良くなっていないのだから。

 

『ヴォルァアアッ!』『きゃあああっ!』

 

 というか、更に悪化した。丸子の攻撃がヴィクターに通じなくなり、捕まってしまったのである。

 たぶん、耐え忍んでいる間に丸子の手の内を調べ尽くし、再生に乗じて己の身体を改造していたのだろう。実際、背丈や体格が二回りくらい大きくなっている。身長差が三倍もあれば、そりゃあ勝てない。

 ちなみに、捕獲方法はまさかの鯖折り。痛そう。

 

『……子供相手に、何やってんのよ、アンタは!』『グォオオオオッ!?』

 

 と、見かねた猫娘が、新技をお見舞いした。

 

『ヌゥゥ……火を噴くとは、味な真似を!』

『これでも猫又の血が半分入ってるからね』

 

 そう、この火炎放射こそが、猫娘の新しい妖術。

 亜種に火車や五徳猫がいるように、猫又を含む化け猫は火を操る事が出来る。油などの燃料を体内に溜め込み、静電気を利用して着火、息に乗せて放射するのだ。形式としては、弱火のガスバーナーである。

 むろん、威力は鳴女の足元にも及ばない。気体の方が高温にし易いが、纏わり付く事が出来ない分、熱伝導率は液体よりも悪いのだ。

 だが、この技は猫娘の努力が結実したもの。半妖という大きなハンデを背負いつつも、鬼太郎に追いつき肩を並べていたいという、彼女の健気な願いが叶ったのである。

 もちろん、付け焼刃も同然の妖術では大したダメージにはならず、精々怯ませる事しか出来ないが、丸子は解放された。

 

『ありがとうなのじゃ!』

『……良いのよ』

 

 ここで「どうして助けた?」とか言い出さない辺り、丸子は素直な子だ。デートの時から思っていたが、やっぱり毒気が抜かれる。

 

『フン! それがどうしたというのだ! 二対一になろうと、結果は変わらん!』

 

 しかし、頭数を増やして勝てる相手かと言うとそうでもない。個々の戦闘能力では、猫娘と丸子に勝ち目は無いだろう。

 

『『それはどうかな?』』

 

 だが、二人は不敵に笑い返した。

 猫娘も丸子も、日本妖怪だからこそ分かっている。この組み合わせは、単純な足し算ではないという事を。

 

『舐めるなぁあああっ!』

 

 ヴィクターが巨体に見合わぬ瞬発力で殴り掛かって来る。

 

『シャアアアア!』

『……ズワォッ!?』

 

 しかし、“何故か”途中で躓いてしまい、そこに上手く猫娘が滑り込んで、炎のパンチをカウンターとしてヒットさせた。“運良く”体勢的に力が抜けている部分へ、クリティカルに。

 さらに、“偶然にも”寸断され漏電していた配線の上にヴィクターが倒れたので、猫娘はすかさず燃料を吹き掛け、彼を火達磨にした。

 

『こ、これは……!』

『気付いたみたいじゃのう』

『でも、もう遅い!』

 

 そして、対策を講じられる前に、丸子と二人で上空へ投げ飛ばした。

 そこでも“不幸”がヴィクターを襲う。“突発的に”発生した火災旋風によって高速で回転しながら巻き上げられ、ベア子と六部の間に“運悪く”入ってしまい、両者の妖気弾と光線に挟み撃ちされ、大ダメージを受ける。

 さらに、弱って元に戻ったタイミングでランドのベーカリーコーナーへ落下、舞い上がった多量の小麦粉に引火し、粉塵爆発を起こした。まさに“踏んだり蹴ったり”である。

 

『……誰かと組んだ座敷童子に、真正面から挑むのが間違いなのよ』

 

 そんな可哀想な目に遭ったヴィクターに、猫娘が吐き捨てる。

 そう、座敷童子は家の外では大幅に戦力がダウンしてしまうが、コンビを組んだ場合は例外だ。“限定的な空間の運命率を操作する”という条件を、誰かに委託する事で外界でも発揮出来るのである。

 頭数の関係上、六部と別々に戦わなければならなかった為、真価を発揮出来ずにいたが、猫娘が手を貸してくれた事で発動条件を満たせた。こうなると“物語の主人公”でも無ければ、良いようにあしらわれてしまう。

 これで一先ずヴィクターとの対戦は終わった――――――のだが、それはもう一方の戦いには火に油だった。

 

『ヴィクター……!』

 

 ヴィクターが負けた事、その一端を自分が担ってしまった事に、ベア子の堪忍袋の緒が切れる。

 

『アリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリ、アリーヴェテルチィィィッ!』

『ぐわぁっ!』

 

 激おこぷんぷん丸となったベア子は、反射されるのもお構いなしで(というか妖気のオーラで全て防いだ)、とんでもない量の妖気弾をグミ撃ちし、遂に六部に致命的なダメージを与えた。

 

『うぐっ……!』『くぅっ……!』

 

 これには座敷童子の運命操作も追い付かず、二人も纏めてダウン。西洋妖怪の大統領が一人娘というアイデンティティーは主人公に匹敵するくらいに強かったらしい。

 

『よくも丸子を……許さんぞぉっ!』

 

 だが、丸子まで傷付けてしまったのが仇となり、怒りが瀕死の六部を奮い立たせた。周囲に発生した光と熱を全て集め、最高の破壊力を溜め込んでいく。

 

『――――――無駄な事を。今楽にしてあげる』

 

 しかし、それがどうしたと言わんばかりに、ベア子も妖気を全開にする。溢れ出ていたオーラが凝縮され、彼女の掌に収まった。

 

『はぁあああああっ!』『フン!』

 

 そして、L字に組んで放たれた六部の破壊光線と、投げ捨てるように撃ち出されたベア子の妖気弾が激突した。

 

『………………!』

 

 その瞬間、ベア子の妖気弾が一気に膨張し、黒い太陽となった。その形はまさしくバックベアード。六部のビームをドンドン呑み込み、押し込んでいく。

 

『六部!』

 

 だが、押し込まれる前に目を覚ました丸子が六部に抱き着き、己の運気を注ぎ込む。

 

『……くぁあああああっ!』

 

 さらに、ズタボロの身体に無理を押して立ち上がった猫娘も加わり、妖気を譲渡した事で光線の威力が飛躍的に上昇。逆にベア子の黒い太陽を押し返し始めた。

 

『フフフ……キャハハハハハハハハハハ!』

 

 しかし、ベア子が狂笑しながら駄目押しの妖気弾を次々と追加。黒い太陽を更に膨張させ、潰しに掛かって来た。どうにか拮抗はしているが、このままでは六部たちが押し負けるだろう。その暁には、ここが更地になるに違いない。

 

「ね、ねこ姉さん……ど、どうしよう!? 何とかしなくちゃ!」

 

 そんなランド最後の日と言わんばかりの光景を前に、真名は何か手は無いかと、焦っていた。

 だが、運が良いだけの一般人である真名に出来る事が有る筈もない。己の無力に絶望し、打ちひしがれる。

 

「――――――ええぇい、ままよ!」

 

 ……何て事は無く、もうどうしたら良いか分からなくなった真名は、考える事を止めて走り出した。こういう時は、無心で動くに限る。

 そうすれば、運命が味方してくれる事を、真名は経験的に分かっていた。

 だから、

 

①威勢よく走ったはいいものの、コードに引っ掛かって派手に転ぶ。

②その衝撃で接続先の物が取れて吹っ飛び、閉鎖され今はもう動ない筈のゴーカートを直撃し、暴走させる。

③誰にも止められないゴーカートが、今までの憂さを晴らすようにスペースマウンテンの会場へ突入。

④自爆して装置を無理矢理に起動させ、スペースマウンテンのコースターを暴走特急へ変貌させる。

⑤戦いの余波でレールの一部が壊れていたので、コースターは勢いのまま弾丸の如くコースアウト。

⑥妖気弾を追加しようとしていたベア子に直撃、一時的に動きを止める。

 

 という事が起こっても不思議ではない。そんな馬鹿なー。

 

『今よ!』

 

 こういう時にやらかす子だと信じていた猫娘が、六部と丸子に合図を送る。

 

『『『ハァアアアアアアアアッ!』』』

 

 そして、全身全霊全妖力を掛けた、最後の一押しを発揮。追加の妖気を得られず、少しずつ相殺されていた黒い太陽が砕け散った。

 

『なっ……うぁあああああっ!?』

 

 完全に隙を突かれたベア子は、それでも何とか妖気弾を数発撃って反撃するも、今更その程度で止まるような勢いではない。

 

『……ベ、ベア子ちゃん!』『ヴィクター!?』

 

 ギリギリで気絶から覚醒したヴィクターが割り込み盾になるも、無駄無駄無駄である。

 

『『ぐがぁああああああああああああああ!』』

 

 咄嗟に張った二人分の妖気バリアも一瞬で叩き割られ、ベア子とヴィクターは光の奔流に呑み込まれた。

 

『……おのれ、日本妖怪がぁあああああっ!』

 

 世界が元の明るさを取り戻した時、そこに西洋妖怪たちの姿は無かった。

 

『はぁ……た、助かったぁ……』

 

 それを確認した猫娘が腰を抜かすと、他の皆もへたり込み、ランドは一先ず静かになった。

 

 後は、鬼太郎と鳴女の宿命の対決が残るのみ……。




◆偶然力

 真名が持つ不思議な力。まさに“運任せ”といった感じの曖昧な発動条件こそ難点だが、一度でも許してしまうと座敷童子もビックリなピタ○ラスイッチが起動し、直接・間接を問わず敵を全力で殺しに掛かる。真名が直接手を下す訳ではないのがミソ。
 はっきり言って完全な不意打ちであり、殺気もクソも無いので防ぐのはまず不可能。というか、運命を操作して“絶対に防げない形”で相手を死に追いやる。仮に躱したとしても、それは次なるトドメのお膳立てでしかない。
 最初の犠牲者は「のびあがり」。文字通り「真名が空き瓶を踏んだだけなのに」自身の弱点が露呈してしまい、鬼太郎に跡形も無くぶっ殺された。


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宿命の戦い③

??????:「スゲェ……あの二人、落ちながら戦ってる……!」


 遥かなる空の彼方で。

 

『てぁっ!』『………………!』

 

 鬼太郎と鳴女が刃を交える。一刀毎に朱色と紫色が混じり合った美しい花火が上がり、稲妻のような爆音が轟く。大剣と双剣という、男の子なら誰もが手に汗握る戦いが、白昼堂々、成層圏よりもずっと高い天界で繰り広げられる。オゾンより上でも問題なかった。

 

『はぁっ!』

 

 何度目かの剣戟を終えた所で、鬼太郎が蹴りを放つ。リモコン下駄で加速させた、ヘビー級のミドルキックだ。

 しかし、鳴女はそれを肘で防ぎ、もう片方の柳葉刀で鬼太郎の足を切り裂いた。

 

『がっ、ぐっ、げっ……うぐぁっ!』

 

 さらに、肘を梃子にして鬼太郎のバランスを崩し、無理矢理人中を晒させた所へ妖気を纏った破壊拳を三連打、もう一つオマケに裏拳で顎を跳ね上げ、最後は宙返りからの踵落としでフィニッシュ。溶けた鉄ですっかり塗り固められた襖だった残骸の上へ叩き落し、自らもそこへ着地した。

 

『ふぅ……!』『………………』

 

 そして、お互いに切っ先を向け、改めて対峙する。雲の下は、まだ見えない。

 

『ハッ!』『………………!』

 

 先制攻撃を仕掛けたのは鬼太郎。髪の毛を針ではなく小さな槍として纏め上げた、十二発の貫通弾である。素早い鳴女には体軸ズラしで躱されたが、その隙を突いて一気に接近、破竹の勢いで斬り掛かる。

 

『………………ッ!』

 

 袈裟斬りを躱し損ねた鳴女の脇腹が裂けた。赤黒い血が噴き出し、千切れた内臓が零れ落ちる。

 

『はぁあああっ……うぐぁっ!?』

 

 だが、これはチャンスと見て襲い掛かる鬼太郎を、鳴女はサマーソルトキックで迎撃、逆に決戦のバトルフィールドから追放した。

 しかし、鬼太郎も大人しく退場する気は無く、近くに飛来していた残骸にオカリナロープを巻き付け、まるでスパイダー○ンのような空中ブランコ振りで帰還。鳴女の眼球に重い膝蹴りを食らわせた。

 さらに、鳴女が「目がぁ!」と怯んでいる間に、大剣を輪刀に変形させ、フラフープの如く華麗に振り回し、右乳房を切り落として、左大腿部を二枚に卸した後、体内電気を放出して落雷級のダメージを与えた。

 だが、鳴女は恐ろしい速度で自己再生し、妖気を体内で爆発させ、鋭い切れ味を持った衝撃波として放ち、鬼太郎をズタズタにした。

 

 ――――――べんっ!

 

 そして、琵琶の爆音波で自らを超高速で吹っ飛ばすという、とんでもないやり方で斬り掛かる。それも一発や二発ではない。

 

 べん! べん! べん! べん! べん! べんべんべんべんべんべんべんべんべんべんべんべんべんべん、べべん!

 

 まるで鼓を打つようなノリで、四方八方から一気に20コンボを繰り出したベン!

 

『ぐっ……!』

 

 鬼太郎は再生に集中する事で何とか耐えていたが、このままでは反撃出来ないまま、嬲り殺しにされてしまう。何だかんだで地上も近い。

 

 ――――――べん!

 

(……今だ!)

 

 そこで、鬼太郎は防ぐのも耐えるのも諦め、

 

『てやぁっ!』『……がっ!?』

 

 タイミングを見計らって自分の腹に大剣を突っ込み、背後から飛んで来た鳴女の脳天を串刺しにした。

 さらに、自らの傷口に連射式の指鉄砲を撃ち込む事で、胃液と光弾の雨あられを食らわせる。これには流石の鳴女も動きを止めざるを得ず、鬼太郎は体勢を立て直した。

 

『『ドワォッ!?』』

 

 ちょうど、その時に鉄板襖が着地。全てを切断する物騒な回転板となって滑走し始める。何十もの車や建物が犠牲となり、それ以上の人数がミンチとなった。

 

『はぁあああっ!』『………………!』

 

 それでも鬼太郎と鳴女は戦い続ける。相手の息の根を止める、その時まで。

 

『うぁっ!?』『ぬぉっ!?』

 

 と、徐々に失速していた鉄板襖が桜田門に引っ掛かり、投げ出された二人は二重橋の対岸へそれぞれ着地した。

 

『『おおおおおおおおおっ!』』

 

 そして、すぐさま起き上り、最後の一閃を同時に放つ。一瞬の静寂。

 

『ぐっ……!』

 

 膝を折ったのは鬼太郎だった。右腕以外全てを切り飛ばされたので、崩れ落ちたと言う方が正しい。

 

『うぐぉ……ぉ……っ!』

 

 しかし、鳴女の方も胴体を上下に両断されており、こちらもグチャリと零れ落ちた。

 さらに、完全に克服し切っていなかったのか、傷口が陽光焼けを起こし始めている。致命傷だったのは、鳴女の方だった。

 

《鳴女さん!》『………………』

 

 だが、全身が気化してしまう前に、上野方面から突っ走って来たチャラトミヴェノムが彼女を優しく包み込み、そのまま何処かへと跳び去って行った。何の用事でそっちに行ってたのかは不明だけど、よく間に合ったね。

 

『……仕留めそこなったか』

 

 悔しそうに歯を食いしばる鬼太郎。

 しかし、チャラトミの助太刀が無ければ、確実に鳴女は死んでいた。それだけ強くなれたのだと、今はそう思うしかないだろう。

 

「『鬼太郎!』」『鬼太郎ど~ん!』

 

 そして、粗方の事が片付いた猫娘たちが一反木綿に乗って駆け付け、1ミリも動けない鬼太郎を回収。

 こうして、偶然に偶然が重なって始まってしまった宿命の戦いは、“痛み分け”という形で決着した。




◆落ちながら戦ってる

 数ある空中戦の中でも、飛べない奴らによる熱いバトル。高所から叩き付けられるという恐怖も何のその、自分が死ぬ前に相手を殺してやると言わんばかりの激しい戦いが約束されている、素晴らしい展開である。大抵は問題なく着地するか、叩き付けられても生きているパターンが多いが、気にしてはいけない。
 ちなみに、初めてこの言葉を呟いたのは、ある意味伝説的なアニメ「MUSASHI-GUN道-」が主人公の子分、ニンジャ太郎。気持ちは良く分かるが、驚いている場合か。あのじいさんは今まさに落ちてるんだよ!


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戦いの後、それから……

 弩シリアスかつ激重な展開、ハッジマルヨ~♪


 宿命の戦いより、しばし後の事。

 

『鬼太郎……何なのよ、それ……!?』「あ……ぅ……っ!?」

 

 戦いの傷を癒し、ゲゲゲハウスで鬼太郎に再会した猫娘と真名だったが、彼の顔を見た二人は言葉を失った。普段は髪の毛で隠されている、本来なら瞼がある筈のそこは、肉がゴッソリと削げ落ち、眼窩が露出している。

 そう、左目周辺が白骨化しているのだ。

 さらに、よく見ると一部の毛髪が白くなっている。病気も何にもない妖怪が白髪を持つなど、最初から白毛でもない限り有り得ない事である。

 その筈なのに、どうしてこんな……?

 

特訓の代償さ(・・・・・・)。天邪鬼たちとの手合わせの後、僕は久し振りに“地獄童子”に会った。そこからは文字通り地獄を見た(・・・・・)のさ』

『地獄を見た?』

『そう。僕は地獄童子、と言うよりは閻魔大王と契約して、一日だけ「無間地獄」に落ちてきた。他の亡者と同じようにね』

『何よそれ……』

 

 鬼太郎は淡々と語っているが、全然意味が分からない。

 無間地獄(別名「阿鼻地獄」)は八大地獄の最下層で、他の七つ――――――等活(とうかつ)黒縄(こくじょう)衆合(しゅうごう)叫喚(きょうかん)大叫喚(だいきょうかん)焦熱(しょうねつ)大焦熱(だいしょうねつ)の責め苦を全て課せられる阿鼻叫喚の地獄であり、落ちるだけでも二千年は掛かると言われている。

 だが、鬼太郎はそれを一日だけ体験して来たと言う。それも亡者と同じルートを通って。

 二千年を一日って、そんな馬鹿な話があるだろうか?

 

『それは“体感時間”だよ。実際は二年で落ちる。つまり、無間地獄に落ちる亡者は、二千年分の苦痛を、たった二年で味わう事になるのさ』

 

 ようするに、通常の二千倍の速さで魂が摩耗するのだ。

 まるで「精神と時の部屋」のような仕様だが、あちらが神の修行場なのに対して、無間地獄(こちら)は亡者を拷問する為の監獄であり、負担の掛かり具合が天と地程に違う。そこに慈悲は全く無い。

 落ちるだけで二千年分の苦しみを味わい、落ちた後はこの世の終わりまで殺され続ける。それが無間地獄である。

 その凄まじい精神的な苦痛は、半永久的に生き続ける妖怪の魂すら無に還し、最強の生命力を持つ幽霊族の命でさえ歪めてしまう。

 その結果が、今の鬼太郎だ。魂が死に始め、白骨化しているのが(・・・・・・・・・)デフォルトになっている(・・・・・・・・・・・)。二千年分を二年に、二年を一日にまで圧縮すれば当然である。

 何せ730000年分の負荷が、一気に圧し掛かったのだから……。

 

『何よ、それは……』「………………」

 

 鬼太郎から告げられた残酷な事実に、猫娘が泣き崩れる。真名は沈黙しているが、それは唇から血が出る程に歯を食いしばっているからだ。

 

『……僕はそろそろ修行に戻るよ』

 

 しかし、現実は更に非情だった。修行はまだ、終わっていないのである。

 

『どういう事よ!? もう終わったんじゃないの!?』

『いいや。閻魔大王と契約した日数は七日間だ。後六日残っている』

 

 つまり、鬼太郎は合計で5110000年分、魂を摩耗させるという事だ。

 

『そんな……そんなぁ……っ!』

 

 これには、猫娘も号泣するしかなかった。真名の前だとか、もはや言っていられない。何百万年なんて、そんな負荷が掛かったら、鬼太郎の魂は完全に死んでしまう。妖怪は魂さえ無事なら蘇るが、砕ければ消滅してしまえば、二度と生き返らない。

 例え、どうにか生き延びたとしても、確実に後遺症が出る。人並みしか余命が無くなるかもしれないし、永久に枯れ木のように動かなくなるかもしれない。何れにしろ、無事な彼の姿は、二度と拝めないだろう。

 そんなのは、

 

『……嫌よ! どうしてそこまでするの!? 何でそんなに死に急いでまで、強くなろうとするのよ!』

『あの女が強過ぎるからだ。ここまでやっても奴を殺しきる事が出来なかった。魂を削って手に入れた強さを、あいつは平然と超えて来ている。……命を捨ててでも挑まなければ、奴には勝てない』

 

 だが、猫娘の慟哭を前にしても、鬼太郎は小動もしなかった。既に覚悟が完了している。相討ちになってでも、鳴女を討伐する心積りである。

 こうなったら、止めても無駄だろう。ここで再起不能にでもしなければ、彼は絶対に止まらない。最後の最期まで。

 それだけ鳴女を危険視している、という事だ。

 確かにその通りではある。鬼太郎が死ぬ思いで手にした力も、鳴女を仕留めるには至らなかった。進化のスピードが異常なのである。

 加えて、鳴女は一人だけでは無い。仲間がいる。彼女程ではないが、仲間たちも充分に異常だ。特にチャラトミ。

 一騎当千の実力と、百人力の仲間が揃う、闇の主人公。それが鳴女だ。

 力に付け過ぎは無いし、むしろ全く足りない。

 だからこそ、鬼太郎は妥協せず、命を懸けて修行をしているのである。

 

『――――――何処までアタシを置き去りにすれば、気が済むのよ……!』

 

 しかし、理解と納得は別物。頭で分かっていても、認められない事はあるのだ。

 

『……済まない。軽蔑してくれても、怨んでくれてもいい。それでも、僕は行くよ。地獄童子と……“ユメコちゃん”が待っているんだ』

 

 だが、鬼太郎は猫娘に目をくれる事は無かった。背中でのみ語り、振り返らず出て行った。

 

「………………」

 

 続いて、彼を止めるどころか言葉を発しさえしなかった真名も、黙ったままで去っていく。恨みにも似た、ドロリとした決意を秘めて。

 

『……いいわよ……いいわよ……相手にしてくれなくたって』

 

 最後に残された猫娘も、血の涙を流しながらゲゲゲハウスの暖簾を潜る。

 

 そして、誰も居なくなった。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 その後、三人はそれぞれの道を歩む。

 

『――――――悪いな、猫娘。だけど、行くしかない。“大逆の四将”が逃がされたとあってはね。……さて、よろしく頼むよ、地獄童子』

『……死ぬなよ』

『そんなつもりはないさ。……今は、ね』

 

 一人は旧き同胞との契約を果たす為に無間の地獄へと舞い戻り、

 

「……“エロイムエッサイム、我は求め訴えたり”」

『おやおや、千年ぶりだね、犬神家の一族よ。いや、今は犬山か。……それで、今更ボクに何の用だい?』

「“天国に至る方法”を知りたいの。かつて、貴方がそうしたように」

 

 一人は古い実家の物置に眠っていた摩訶不思議な異本で天使のような悪魔を呼び出し、

 

『……この試練を乗り越えた時、お前の望む力を得られよう。だが、これに挑んだが最後、お前は地獄以上の苦しみを受ける事になるぞ?』

『それがどうしたって言うの。鬼太郎はもっと苦しんでいるわ。これくらい乗り越えられなきゃ、アタシは一生彼の横に立てない!』

『ククク、愛か。まぁ、それも良かろう。ならば、行くといい……』

 

 一人は何処かの魔窟で“妖怪王へと至る試練”を受けようとしていた。

 

 それぞれの歩む道が、この物語にどのような結末を導くのか、それはまだ誰にも分からない……。




◆悪魔くん

 「世界を平和にする為に悪魔の力を借りよう」とか考えちゃう、今時の小学五年生。ファウスト校長先生曰く「一万年に一人の天才児」。一歩間違えれば新世界の神と大差ない所業だが、彼は至って良い子です。専用アイテムは悪魔を使役する力を持つ魔笛「ソロモンの笛」(ファウスト校長からの贈り物)。
 悪魔くんに味方する者は「白悪魔」、敵対するのは「黒悪魔」と言い、人間に悪さをするのは後者で、それらを退治しつつ理想郷を目指すのが、悪魔くんの目的である。最後の敵は人間とか言ってはいけない。
 ちなみに、皆が良く知る“玉ねぎ頭”の悪魔くんは「埋れ木 真吾」という少年で、実は先代が二人いる(二人共、何処か鬼太郎に似ている)。


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箒星の彼方で

 一方その頃、西洋妖怪ハ……。


 この世でもあの世でもない、無数の彗星が飛び交う宇宙を思わせる亜空間。

 その中に揺然と浮かぶ、巨大な土星型の円盤――――――超時空要塞「ブリガドーン」の内部にて。

 

『ハァ……ハァッ……!』

 

 ベアトリス=バックアップ・コアソウルズことベア子が、右上半身と頭部しか残っていないヴィクターを抱きかかえながら、ブリガドーンの中心部にある玉座の間を目指して直走っていた。自身も左腕が吹き飛び、腹部から夥しい量の血と臓物が零れ落ち、全身が火傷塗れという酷い有様であったが、そんな事などどうでも良いとばかりに進み続ける。

 

『――――――ベアトリス様!? その御姿は一体……!?』

 

 すると、玉座の間に通じる一本道に差し掛かった所で、バックベアード軍の最高司令官、魔女のアデルと接触。当然、何がどうしてそうなったのか聞かれたが、

 

『ワタシの事はどうでも良いぃいいいっ! 早く彼を父上の所へぇえええっ! ワタしノ魔りョクが、サイ生をソ害してイル――――――げぶはぁっ!』

 

 ベア子は自分の事など一切省みず、“自分の強い魔力に中てられてヴィクターが身体を再生出来ない状態にある”事だけを伝え、アデルに彼を託すと、滝のように吐血して気絶した。

 

『何て事……衛生兵! 早くベアトリス様を! 緊急搬送だ! ヴィクターは私がベアード様の下へ連れて行く!』

『『『『了解了解(ラジャラジャ)』』』』

 

 それを見たアデルは、即座に錬金生物(ホムンクルス)の医療班へベア子を託し、自身はヴィクターを主であるバックベアードの下へ運ぶ。

 

(まさか、ベアトリス様とヴィクターが、ここまでの深手を負うとは……!)

 

 長い廊下を進みながら、アデルは思う。

 ヴィクター・フランケンシュタインを含む三人衆は、何れも不死身に近い生命力を持ち、ベア子に至ってはそれを遥かに超える魔力と不死性を有する、“死なずの一人軍隊(ワンマンアーミー)”だった筈である。

 しかし、急な帰還を果たしたベア子とヴィクターは死に体だった。特にヴィクターは心肺が停止し、最早死んでいると言ってもいい。一応、ベア子の魔力を浴び過ぎて再生出来ないだけらしいが、助かるかどうかは微妙だ。

 

(確か、二人は日本へ先行調査に向かっていた筈……)

 

 実際には調査と銘打った単なるデートだが、そこは言いっ子無しだろう。

 問題は平和ボケした極東の島国に、ベア子たちに重傷を負わせる程の戦力があるという事実である。これは「ブリガドーン計画」は中止……いや、延期した方が良いのではないか。自身の胸に秘める決意を抜きにしても危険過ぎる。

 

(――――――進言するだけしてみよう)

 

 あのバックベアードが簡単に諦めるとは思わないが、事はそういう問題でもない。ベアード軍の進退が掛かっている。

 

『……ベアード様、お忙しい所、失礼致します』

 

 アデルは息を飲みつつ、玉座の間の扉のベルを鳴らした。

 

『入れ』

 

 たった一言。それだけで重厚な魔力が、扉越しにもアデルへ圧し掛かる。震える手を落ち着かせながら扉のロックを解除して進み入れば、そこには悪魔の如き単眼を持つ黒い太陽が。

 彼こそが西洋妖怪の総大将にしてベアード軍の皇帝「バックベアード」だ。

 

『ベアード様、無礼を承知でお願いしたく――――――』

『良い。分かっている。まずはそやつの治療からだ』

 

 言うが早いか、ベアードは念力でヴィクターを自分の近くへ運び、彼の再生力を邪魔しているベア子の残存魔力を取り除き、代わりに自身の魔力を純粋なエネルギーとして与え、瞬く間に傷を癒した。

 

『……無から有は生み出せない。あくまで私の細胞とエネルギーで補った仮初の物だ。助かるかどうかはそやつ次第だ。……下がって良し』

『………………』

 

 まるで神の如き力を発揮し、全てを一瞬でやり終えたベアードは、ヴィクターを運んで下がるよう言い付けたが、アデルは動かない。

 

『「ブリガドーン計画」は中止も延期もせんぞ。むしろ早める事にした』

『………………!?』

 

 だが、彼女の心中などお見通しだと言わんばかりに、ベアードが告げる。表情こそ保ったが、アデルの首筋を冷たい汗が伝った。

 しかし、それでも言わねばならない。何せ最愛の妹の命が懸っているのだ。ここで退くなど、見殺しにするのと同じである。

 

『……お言葉ながら、ベアトリス様も重傷を負っております。彼女とヴィクターをここまで痛め付けるような連中が居るようでは、危険過ぎます』

『確かにそうだな。ベア子の視界を(・・・・・・・)借りて観察させて(・・・・・・・・)もらったが(・・・・・)、あれらは異常だ。敵対するのは得策ではないかもしれん』

『それでは――――――』

『だが、私は先日“夢”を見た』

『夢、ですか……?』

 

 突然何を言い出すのだろう?

 アデルは正真正銘、心の底から首を傾げ、疑問を呈したものの、バックベアードが次に放った言葉に戦慄した。

 

『……「来訪者」の夢だ。今までは断片的だったが、今回の物はかなりハッキリしていた。奴の復活が近い。日本の地獄に任せてなどおけるか。だからこそ、我が盟友を(・・・・・)送り出したのだ(・・・・・・・)

『来訪者……!』

 

 それは大正末期に突如現れた、世界の最後を告げる者。

 当時、日本妖怪は大陸妖怪(「チー」率いる中国妖怪軍)の侵攻を受けており、その混乱に乗じて諸共滅ぼそうとしていたのだが、いざ三つ巴の戦いに臨もうとした時に来訪者が出現。三軍は壊滅状態へ陥り、一時的に共闘。現場に馳せ参じた伝説の剣豪の力を借りて、何とか来訪者を封じた後、ベアード軍は日本から完全に撤退……というより敗走し、長い雌伏の時を強いられる事となった。

 病魔に侵される前の鬼太郎の父親、白面銀毛九尾の狐であるチー、西洋妖怪の総大将バックベアードの三者が揃っていながら手も足も出なかった、本当の怪物――――――来訪者。

 その復活が近いとあっては、アデルも口を噤むしかなかった。

 もはや、妹がどうこうですらない。世界最後の日が間近なのだ。

 

(それでも、私は……!)

 

 どうしても妹を諦めきれないアデル。ブリガドーン計画が発動してしまえば、妹は……アニエスは死ぬ。たった一人残された肉親が、この世からもあの世からも、存在そのものが消えてしまう。

 

『……アデル。お前にチャンスをやろう』

『えっ……?』

 

 と、内心で葛藤に揺れるアデルに、ベアードが温かくも底冷えする声で提案をする。

 

『こいつを生かして連れて来い。さすれば、お前の妹を候補から外してやろう』

 

 さらに、魔力を中空に固めて創り上げた映像を見せた。そこに映っていたのは、

 

『名前は「朱紗(すさ) 丸子(まるこ)」。力そのものは大した事は無いが、面白い星の巡り合わせをしているようだからな。こいつなら、アニエスの代わりも務まるかもしれん』

『………………!』

 

 ベア子とヴィクターを瀕死へ追い込むのに一役買った、座敷童子。この少女を連れてくれば、アニエスは見逃される。

 

『承知致しました。すぐにでも日本へ向かいます』

『精々励むと良い。妹の命が惜しいならばな』

『……はい』

 

 何もかも見透かされている。

 だが、出来る事は何もない。丸子を生贄に捧げる以外は。

 アデルは恐怖に苛まれながらも気丈に振舞い、ヴィクターを抱えて、今度こそ玉座の間を後にした。

 

『――――――さて、死ぬとは思えんが、ベア子の様子でも見に行くとするか』

 

 それを確認したベアードは、普段は誰にも見せる事のない人型の姿を取り、娘の下へ転移する。

 

『お前も見ているのだろう、慎吾(シンゴ)よ……』

 

 消え入る前に虚空へ呟きながら。




◆バックベアード

 西洋妖怪の総大将(もしくは大統領)を務める大妖怪。無数の触手が生えた黒いボールに眼を描けば、それがベアード様です。光化学スモッグがその正体と言われているが、考えたのは水木先生なのでもう確かめようがない。悲しい話である。
 原作では微妙に小物臭さが拭えない奴だったが、アニメでは評価が爆上がりし、「どう足掻いても絶望」なボスキャラクターとなった。その知名度と人気具合は、2期(実質的な1期の続編)を除けば、全てのシリーズに登場している程。
 視線を媒介にした強力な妖術を操り、肉体強度も半端じゃないという、「素で強い」を地で行くお方。その分かなり傲慢な面も見受けられ、それが仇となる事もあった(特に6期)。あとロリコンが許せない。
 ちなみに、本作では病気になる前の目玉おやじと一戦交えていたりする。あの頃おやじは強かった(byバックベアード)。


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ある日見た夢

 100年後の君たちヘ……。


『ヴァアアアアアッ!』

 

 燃え盛る帝都で、毛先が赤み掛かった少年が、凄まじい雄叫びを上げている。

 背丈はバックベアードどころかチーの人間形態時よりも低く、爪や牙が鋭い事を除けば姿形は人間と大差ない。

 しかし、その強さは折り紙付きである。儂もチーも敗北した。儂は魂を歪められる程の致命傷を負い、チーは半ば殺生石になり掛けている。

 

『私は消えぬぞ……我らが宿願の為に……!』

 

 バックベアードはまだ戦えているが、間もなく人型を維持出来なくなるだろう。

 そもそも、少年の発する破壊的な邪気を、妖気の壁で防ぐのが精一杯の様子だ。勝ち目がまるで無い。儂と互角の戦いを演じた、あのバックベアードが防戦一方とは信じ難い光景である。

 だが、それが事実。これが現実。もはや絶望しかなかった。

 ……結局、儂は誰も守れなかった。共に戦った仲間は死に絶え、最愛の妻たる岩子も深手を負っている。身重ながらに儂らを支えようと、前線に付いて来てしまったのが災いした。お腹の子共々、もう長くはないだろう。

 それはチーやバックベアードも同じ事。中国妖怪は全滅し、ベアード軍の空中要塞「ブリガドーン」も陥落した。無事な者は一人もおらず、動いているのは儂ら三人だけ。

 これが絶望と言わずして、何と言うのか。長らく日本を陰から支え、他国の妖怪たちによる侵略から日ノ本を守り続けた、その結末がこれとは……。

 人間を真似る気は無かったが、思わず思ってしまう。神も仏もいないとはこの事か、と。あのいけ好かない男もせせら笑っているに違いない。生きていればの話だが。

 嗚呼、マズい。視界がぼやけて来た。身体に力が全く入らない。

 

 ――――――死ぬのか、儂は……こんな所、で……。

 

 そして、意識諸共に絶望の淵へ落ちようとした、その時。

 

『グヴウゥゥゥッ!』

 

 突如、少年が邪気の放出を止めた。

 さらに、何処からともなく振るわれた、大地を切り裂くような斬撃。少年は素早い身の熟しで躱し、死の刃が飛んで来た方向を睨み付ける。

 

「……とうとうこの日が来たか」

 

 この日、少年が初めて“回避”を行う程のそれを放ったのは、一人の剣豪であった。儂と変わらぬ背丈だが、正真正銘の人間であり、見た目だけなら時代に取り残された武家の青年でしかない。

 しかし、その身に宿る力は凄まじく、何より背負った“想い”の数がとてつもない。

 儂には見える。顔に炎の痣を持つその青年に寄り添う、無数の魂が。一人は彼の妻なのだろう。他は志を同じくした仲間だった者たちと言ったところか。

 おそらく、青年も戦ってきたのだ。儂の知らぬ所で、少年の眷属たちと。多くの仲間を失い、愛する者を亡くしても、立ち止まる事無く進み続け、ここまでやって来た。全ての敵を蹴散らして。

 

『ムザァアアアアアアアアン!』

 

 そんな青年の姿を見て、少年が誰かの名を叫ぶ。

 

「それが誰かは分からぬが、君にとっては許せぬ相手なのだろう」

 

 だが、青年の名前という訳でもなく、勘違いをしているらしい。

 

「しかし、私は君を討つ。我が妻うたの為、散っていった仲間の為」

《大丈夫、わたしは何時もあなたと共にありますよ》

《……頼む、今度こそアイツを死なせてやってくれ》

《俺からもお願いします》《お兄ちゃんを救って下さい》《済まねぇ、オレの迷いのせいで》《それは言いっ子無しよ》《……これで終わりにしよう》

 

 背後の守護霊たちと共に、青年が刀を構える。

 

『グルルル……』

 

 その姿に触発されたのか、少年も初めて武器を持った。己の骨を蛇腹の剣に変えたのである。

 

「行くぞ! 我ら、鬼滅の刃の下に!」

『ノヴァアアアアアアアアアアアッ!』

 

 そして、青年と少年が正面から刃を交え――――――、

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

『……ハッ!』

 

 儂は目を覚ました。じっと手を見る。何時もの小さな手だ。周囲を見渡す。相も変わらず、何もかもが大きい。儂から見ればの話だが。

 この目玉に胴体が生えた小人の姿になってから、早数十年。実に無力で情けない有様であるが、これもまた世界最後の日を生き延びた証。誇りこそすれ、卑下する物ではない。そんな事をしては彼に失礼だろう。

 人の身でありながら、儂ら妖怪を含む全てを業を背負って来訪者と戦い、命と引き換えに奴を封じた、あの日の青年に対して。

 彼には感謝しかない。全ての命を救い、未来へ繋いでくれた。おかげで儂の息子も生きている。

 しかし、ここ数日でハッキリと見るようになった悪夢が、激動の時代を伝えている。世界最後の日の再来が近い事を。鳴女の出現は、その予兆だったのかもしれない。

 

『目を覚ましたか、おやじ殿。……親子共々無理をし過ぎじゃ。見ている方は生きた心地がせんよ』

 

 と、調べ物を手伝ってくれていた、砂掛け婆が苦言を呈して来た。

 彼女もあの日が来るまでは若く美しい姿を保っていたのだが、来訪者の呪いのような邪気に中てられ、老化を抑える事が出来なくなってしまった。魂が歪み、死が近しくなってしまったのである。

 いや、砂掛けだけではない。子泣きも塗り壁も一反木綿も、あの日を境にして急激に弱ってしまった。生き残れただけで儲け物だが、それでも申し訳なく思う。今もそうだ。

 

『済まんのぅ。……悪いが、もう少しだけ付き合ってくれ』

 

 だが、止める訳にはいかない。今も息子が命を削っているのだから。

 

『分かった分かった。もう何も言わんわい』

 

 不貞腐れつつも手伝ってくれる砂掛けには、本当に感謝しか無いのう。子泣きは……見なかった事にするか。

 ともかく、何としても今日中に、この妖怪図書館で何らかの“手掛かり”を見付けなくては。

 

 ――――――来訪者を完全に殺す為の方法を。

 

 それが、今は何の力もない儂なりの、息子への協力じゃよ。




◆目玉おやじ

 妖怪界の名門「幽霊族」の末裔。彼はその中でも王族に当たる血筋で、相応しい実力とルックスを持ち合わせた完璧超人だったが、後に“身体が腐っていく不治の病”を患い、アイデンティティーである目玉以外の全てを失った。それでも生きている辺り、幽霊族のしぶとさが窺える。
 今作では来訪者との戦いによる後遺症でこの姿となった。人型のバックベアードと、鳴女VS鬼太郎を超える激闘を繰り広げる強さを持っていたが、来訪者には勝てなかった。
 ちなみに、知識欲が殊更強い為か、割とミーハーである。スマフォもパソコンも使えるぞ!


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目覚めた悪夢

そう言えば何で6期はチーが出なかったんでしょウネ? 妖怪反物の話、結構好きなんでスガ。


『指鉄砲!』『しゃらくさい!』

 

 わたしは今、幽霊族の末裔と戦っている。それも王族の者である。日本妖怪の頂点とでも言うべき相手に様子見などしていられる訳がない。初めから妖狐形態だ。

 

『フハハハハ、そんな狐にばかり構っている場合か!?』

『くっ……!』『ウヌゥ……!』

 

 さらに、この場にはもう一人の敵がいる。西洋妖怪の大統領を自称する、バックベアードである。こちらも既に黒い太陽のような姿から、一つ目で黒紫色の逞しい肉体をした人型の形態を取っている。これが奴の本気の姿だ。

 日本妖怪、大陸妖怪、西洋妖怪。三人の妖怪王たちが、極東の島国を巡って争っている。

 帝都はもはや焼野原。人間たちは恐れ戦き、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。遅れた者がどうなったのかは言うまでもないだろう。部下の妖怪たちも、それぞれの役目を果たす為に散っていて、手を貸す余裕はない。

 つまり、王たちの、王たちによる、王たちだけの頂上決戦である。善も悪も関係ない、勝った者が正義だ。

 しかし、わたしは負けるつもりなど無い。殺生石と化し、地獄に魂を囚われた姉を助ける。その為に、わざわざこんな僻地までやって来たのである。わたし自身も封印されていたせいで、相当な時間が経ってしまった。

 だが、愚かな人間共が勝手に始めた戦争により、世界中に陰の気が満ち溢れたおかげで、日本へ攻め入る事自体は割と簡単だった。文明開化によって人の出入りが増えたのも影響しているだろう。

 しかし、その混乱に乗じて西洋妖怪までもがやって来た。彗星が関連しているとの事だが、詳細は不明だ。何にせよいい迷惑である。

 わたしはただ姉を救いたいだけだというのに。

 

慎吾(シンゴ)!』

 

 と、包囲網を抜け出したらしい、別の幽霊族の女が現れた。王の証たる黄色と黒の縞模様が施された装飾品を身に付けていない事を鑑みるに、おそらく奴は分家筋の戦士だと思われる。少なくとも雑魚ではあるまい。

 

『助太刀なんてさせないわよ!』

 

 だが、こちらの部下も一人駆け付けてきた。名は明美(ミンメイ)。見目麗しい中華美人という出で立ちだが、その正体は画皮という人食い鬼。絵を実体化させる能力が有り、その力によって常に人の姿を取っている。本来の姿(空飛ぶ鬼瓦みたいな生首)が嫌いだからだ。

 まぁ、飛行能力を考慮しても、的がデカ過ぎる上に手足が使えないので、自由度という意味では人型の方が戦い易いのだろう。特に幽霊族のような達人の域に達した者を相手に獣のように襲い掛かっても、往なされるだけである。

 

『来なよ、不美人(ブサイク)!』『何ですってぇえええっ!』

 

 幽霊族の女戦士と明美が刃を交える。一方は霊力の剣、一方は血生臭い墨の柳葉刀だ。

 

『フン、ちょこまかと……纏めて薙ぎ払ってくれる! 来い、ブリガドーン!』《攻撃開始》

 

 すると、自分だけ助太刀がいないのが気に食わなかったのか、バックベアードが満月のような形をした空中要塞「ブリガドーン」を動かし、全てを消し飛ばそうとする。強力な魔女の魂を核に起動するというだけあって内包する魔力は凄まじく、それを一点に収束して放つ主砲は容易に大地を抉る威力がある。事実、そのせいで我が軍の半数が吹き飛び、帝都は阿鼻叫喚の地獄絵図になった。あれをこの場で撃たれる訳にはいかない。

 

《――――――帝都上空に時空の歪みが発生!》

 

 しかし、主砲が撃たれる前に、更なる異常事態が発生した。

 

『な、何だ、あれは!?』

 

 ブリガドーンの通信を傍受したバックベアードが空を見上げ、呆けている。

 だが、これ幸いと攻めるには至らない。何故なら、わたしも天を仰いで絶句してしまったからだ。

 

『空が割れた!?』

 

 幽霊族の王が“それ”を見て驚愕した。

 そう、空が割れたのである。まるで鏡のように。絵画の世界でもなければ有り得そうもない、その異様な光景に誰も彼もが動けずにいた。

 そして、破れた世界の向こう側から、凄まじい邪気が渦を巻いて放出され、やがて一人の少年を形作る。

 毛先が赤く、全身に炎を思わせる痣を持つ事以外は何の変哲もない、小柄な日本男児。

 ただし、かなり珍妙な格好をしており、黒い詰襟に様々な装飾品を付けている。左肩に猪頭の毛皮を当て、頚から竹筒と孤蝶の首飾りを下げ、腰に色取り取りの布切れ(おそらく羽織だった物)を巻き付け、耳に太陽を描いた耳飾りと、統一感が全く無い。

 まるで、思い出の品をごぞって取り付けたようだ。

 武器の類は無い。精々、爪や牙が鋭いくらいである。

 しかし、わたしには――――――否、この場にいる全員が感じている。

 

 あれは、ヤバい!

 

『フゥゥゥ……』

 

 思わず耳を塞ぎたくなる怪電波のような邪気を振り撒きながら着陸した少年が、我々をゆっくりと一瞥すると、

 

『コクシボウ……ドウマ……アカザ……ナキメ……』

 

 誰とも分からぬ者の名を呟き、

 

『ムザァアアアアアン! ドコダァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!』

 

 悍ましい雄叫びを上げたかと思うと、

 

『ヴォオアアアアアアアアアッ!』

『なっ……ぐぁっ!』

 

 瞬きする間に懐へ飛び込んできて、わたしの腹を殴り付けた。

 

『がっ……!』

 

 たったそれだけで致命傷だった。拳に込められた邪気が身体を蝕み、腐らせていく。どうにか殺生石の秘術で全身に至るのは食い止めたが、わたしはもう駄目だろう。

 そこからはまさしく地獄絵図だった。どいつもこいつも、幽霊族の王やバックベアードでさえ、倒れていく。

 

 ――――――嗚呼、姉さん……助けられず、申し訳ない。役立たずな、不出来な弟を許してくれ……。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

『起きなさい、チー』

『はっ!?』

 

 そして、わたしは目を覚ました。完全に殺生石と化してから何時振りかは分からぬが、再びこの世に生を受ける事が出来た。妖狐の姿でこそないが、人型は取れている。

 いや、それはどうでもいい。そんな事よりも、今は!

 

『ね、姉さん!?』

『久し振りね、チー。おはようのキスでもしてあげましょうか?』

 

 妖艶に笑う、美しい姿。間違い、姉さんだ!

 

『一体どうやって……』

『さぁね。いけ好かないあいつが頑張ったんじゃないの?』

 

 詳細は不明だが、誰かが地獄から彼女を逃がしたようだ。ならば、他の三将も逃げた事だろう。これはいい。

 

『さーて、さっそくだけど、あたしと一緒に天下を取ってくれないかしら?』

『喜んで!』

 

 さぁ、始めようか。我ら妖狐族による国盗り物語を……。




◆チー

 かの有名な白面金毛九尾の狐の弟にして、中国妖怪を束ねる長。普段は若干胡散臭い中国オヤジの姿を取っているが、その正体は姉と同じく莫大な妖気を持った、白面銀毛九尾の狐である。
 妖怪を反物にしてしまう丸薬を作ったり、言葉巧みに人間たちへ反物を売り込み洗脳して部下にするなど、今までの木端妖怪など足元にも及ばぬ知性を見せ付け、いざとなれば妖狐としての力をフルに発揮して敵を纏めて殲滅するなど、文武両道っぷりを視聴者に印象付けた。特に3期の彼は軍事力が飛び抜けて凄まじく、攻め入られた日本妖怪たちは「気分は元寇」であった事だろう。
 本作では交戦する前に殺生石になっていた為、鬼太郎とはまだ接触していない。おやじとはガチでやり合ったが。


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鳴女さん、湯治する

 ちょっと秘境で休憩。


 ドンタコヤッホーイ♪

 やぁ、諸君。皆の偶像の歌姫(アイドル)、鳴女さんだ。またしても久々になってしまったような気がするが、主人公をやっていくぞ。

 ……とは言え、今日は特に何かする気は無い。休憩だよ休憩。あれだけ落ちながら戦ったんだから、少しくらい良いだろう。危うく昇天し掛けたし。

 そんな感じで、私は今温泉に来ている。人里離れた山奥にある、秘湯中の秘湯である。

 まぁ、この私に掛かれば、距離など問題ではないのだがね。使い魔の目玉っちたちが頑張って見付けました。

 目的は当然ながら湯治だ。この温泉、龍脈の真上にあるのか、やたらと気に満ち溢れており、浸かっているだけで力が漲って来る。まさか、この世に本物の回復の泉的な場所があるとは思わなったが、探してみるもんだね。

 

『ふぅ……』

「良い湯ですねー」

 

 ちなみに、人目に付かない秘湯なので、当たり前のように混浴である。ヤッタネ!

 

『それにしても、今回は参ったわねー』

「そうっスねぇ。鳴女さん、シャインス○ークしそうでしたしね」

『そうだったか、とは言わねぇよ?』

 

 理解したら死ぬ系じゃん。ゲッターはクトゥルフとも仲良く出来るかもしれない。もしくは同属嫌悪して殺し愛しちゃうかも。

 ……って、そんな事はどうでも良いんだよ。

 

『鬼太郎の奴、馬鹿みたいに強くなってたなぁ……』

 

 ついこの間までは私にボッコボコにされてた癖に。一体どんな裏技使ったんだろう。

 

「でも、代償はあったんでしょう?」

『ああ。左目周辺が白骨化してたな』

 

 お化けは病気も何も無いんじゃなかったっけ?

 

「たぶん、「精神と時の部屋」みたいな物でも使ったんじゃないですか?」

『え、あれ実際に有るの?』

 

 何それ、私も欲しい。チートはイカンでしょー。

 

「いや、鳴女さんも充分チートだと思いますけど。何だかんだで鬼太郎もボロボロだったじゃないっスか」

『そうかなぁ~?』

 

 私は真っ当に動画投稿してるだけなんだが。皆、どうして私を殺そうとしてくるんだろう。まるで意味が分からないんですけど。

 

「……そう言えば、何か「大逆の四将」とか言うのが、地獄から抜け出したみたいっスよ」

『何だ、そのナントカ四天王みたいなキャラクターは。雑魚なの?』

「そんな訳無いでしょう。古代から現在に至る中で、トップ4に入る極悪妖怪たちの事ですよ。やらかし過ぎて地獄が直接動いたらしいですね」

『で、地獄に収監されていると?』

「未来永劫にね」

 

 うーん、それは退屈そう。ネットが繋がってれば別だけど、地獄じゃなぁ……。

 

『ちなみに、ラインナップは?』

「鵺、黒坊主、伊吹丸、玉藻の前、の四体です」

『割と大物が出て来たな』

 

 黒坊主と伊吹丸ってのはよく分からんけど、鵺と玉藻の前は知ってるぜ。日本版の合成獣(キメラ)と九尾の狐の事だろ。

 ……封神演義の妲己、良いキャラしてたなー。ライバルでラスボスでヒロインとか、てんこ盛り過ぎなのよん♡

 

「ただし、黒坊主と伊吹丸に関しては情報が錯綜していて、若干眉唾物ですね。伝承に出て来る本人なのか、そもそも地上まで逃げ延びたのかも不明です。鵺と玉藻の前に関しては本物でしょう。特に玉藻の前――――――というか、白面金毛九尾の狐が誰かと一緒にいるのが地上で目撃されてますからね」

『……前々から思ってたけど、どうやってそこまで正確に分かるんだ? ネットの書き込みだけじゃ無理があるよな?』

「企業秘密です♪」

『可愛く言うなよ』

 

 ある意味お前が一番のチートキャラだよ。あくまでも血鬼術みたいな物(・・・・・・・・)というだけで、身体は人間だからか、陽光に完全な耐性あるし。ズルいぞコラ。

 ――――――まぁ、彼のおかげで(・・・・・・)私も少しずつ陽光を(・・・・・・・・・)克服し始めてるから(・・・・・・・・・)、良いんだけどね、別に。

 

『それで……どういう問題があるんだ?』

「そりゃあ、色々と悪さをするんでしょうよ。地獄の指名手配犯みたいな物ですし。この中では玉藻の前が一番ヤバいんじゃないですかねー。元が華陽太后で、妲己ですし」

『三国伝来とはよく言った物だよなぁ……』

 

 インド、中国、日本と、バカンス気分で国を傾けて来たんだから、とんでもない話だよな。最後は蝉に化けてやり過ごそうとしたけど、水面に正体がバレバレに映ってたせいで殺されるという、中々面白いやられ方をした訳だが。殺生石になった後は玄翁で叩き割られるし。真面な死に方を出来んのか、お前は。

 

「そう言えば彼女、弟がいるらしいですよ。チーっていう、白面銀毛九尾の狐です。たぶん、地上で落ち合ってたのって、コイツなんじゃないですかねー」

『フーム、割と面倒そうな話だな、それ』

 

 姉が姉なら、弟も弟だろうし、組んだらロクな事にならない気がする。

 

「他にも、伊吹丸っぽい奴が鬼道衆の里を滅ぼしたり、鵺らしき妖怪が京都でコソコソ何かしてたり、かなり賑やかになって来ましたよ。黒坊主についてはよく分からないけど、今の所は静かみたいですね」

『なぁにそれぇ……』

 

 超面倒臭い事になってるじゃん。誰だよ、そいつら逃がした奴。

 

「それで、鳴女さんはどうします?」

 

 と、チャラトミが零余子印の血酒(零余子の血を日本酒に混ぜた物)をお猪口に注いで渡して来た。今日の夜に乾杯、という事だろう。喜んで受けようじゃないか。

 

『……そうだな』

 

 私はクイッと一気に煽った後、チャラトミに注ぎ返してやる。ウム、良い呑みっぷりだ。

 ならば、しっかりと応えてやらねばなるまい。

 

『いっその事、どれかに接触してみるかな。中立を受け入れるような連中でもないだろうしね。……そいつらを逃がした奴も気になるし』

「ま、そうなりますか」

『ウフフフ、そうだよ』

 

 だから、今夜は寝かせないぞん♪




◆秘境の温泉

 地下に野太い光脈筋が流れている温泉。妖怪やそれに纏わる職業の人たちが、よく訪れる場所の一つ。鬼太郎だって来るし、花子さんだって来る。
 浸かるだけで力が漲る回復の泉(温)であり、濾して寝かせると光る酒に早変わりする。これもやっぱり回復アイテムで、またの名をエリクサー(made in JAPAN)と言う。
 ちなみに、ここでの殺生沙汰は禁物であり、破ると生死を司るヌシ様(巨人サイズ)の天罰を喰らう。とりあえず、生きろ。
 温泉に入る時は、ちゃんとルールを守ろうね。


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零余子ちゃんの悪夢再び

 ※実際のカード名とは一切関係ありまセン。


 やぁ、こんばんわんこソバ。零余子だよー。ミ○じゃないよー。

 さてさて、早速だけどサービスシーンね。湯煙の向こうで疲れを癒す、水も滴るイイ女。つまり私である。

 ……えっ、何時もサービスしてるから、あまり意味がない、もっと過剰にしろ?

 それはミ○トさんの仕事だ。だらしのない大人の女代表だよね、あの人。深夜アニメとは言え、あそこまでヤッちゃって良いんだろうか。確実に加持さんと次元連結システムONしてただろ。見せ場こそ少ないものの、絶対に創聖のアレよりエロかった。異論は認める。

 そんでもって、外出禁止令の出ている私が何故ゆえに温泉に来ているのかと言うと、単純に鳴女の付き添いである。

 毎度お馴染み、怪我した鳴女が帰って来る→私を食べて回復する、みたいな流れを汲んだのだが、今回は殊更酷かったらしく、傷が治り切らなかったので、前々から目を付けていたらしい、この山奥の秘湯までやって来たのだ。

 もちろん、無限城のワープ能力である。本当に便利よねぇ、この血鬼術。最近はお風呂や洗濯機にトイレまで設置され、益々便利になった。もうここだけで生活出来るんじゃないの?

 ちなみに、当の鳴女は少し離れた所でチャラ男先生と混浴している。何だか難しい話をしているようだが、半分は単なるイチャコラだろう。リア充爆発しろ。

 まぁ、そんなこんなで、私は――――――否、私たち(・・・)は秘湯へ旅行に来ている。

 そう、オマケがいるのだ。それも割とたくさん。

 

『ぴきー』

 

 まずは最近私と相棒化しているノームくん。今日も可愛い三角頭のマスコットである。

 

『良い湯ねぇ……』

 

 さらに、無限城の掃除係、藤花。何時も通りの人面蜘蛛だ。この所、良質な金属を吸収し過ぎたせいか、身体がメタル化している。槐の邪神かお前は。

 本来は私と同じく出入り禁止の身だが、流石にちょっと可哀想に思ったので、鳴女にお願いして連れて来たのである。

 ……姑獲鳥はどうしたかって?

 むろん、留守番だとも。今頃は夢子とよろしくやっている事だろう。ざまぁ無い。私、あいつ嫌いなんだよねー。

 ――――――で、ここからが問題なのだが、

 

「「………………」」

 

 非常に無口な、ノームくんと殆ど同じサイズの、男女の小人。

 男の子は暗色系のシャツとジーンズに茶色のロングコートを纏い、素顔を穴あきのゴミ袋を帽子代わりにして隠している。

 女の子は黒っぽいセーターとハーフパンツの上から黄色のレインコートを羽織っている。こちらも陰りで素顔が見え難い。

 

 どう見ても、シックスとモノです、本当にありがとうございました。

 

 何がどうしてこうなったのか。まだ鳴女にも話していない、その理由を説明するには、少し時を遡る事になる……。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 数日前、無限城にて。

 

《よし、オレのターン! オレは「真紅の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)」を特殊召喚し、攻撃!》

「ウフフフ、掛ったなアホが! お前の攻撃したこのカードは、「ダイス・ポット」! 出目は私が「6」でお前が「5」! 6000のダメージを受けるがいいわ!」

《イワァアアアアアク!》

 

 以前より企画していた「リモートデュエル」をやってみたのだが、中々の接戦を繰り広げた上で、地雷的なバーンで仕留めたった。

 

《クソーッ、「リフレクト・ネイチャー」は卑怯だぜ。おかげで「黒炎弾」が使えないだけじゃなくて、「ダイス・ポット」の効果もデメリットが殆ど消えちまうじゃん》

「それもまた戦略よ。アンタもギャンブル好きなら、少しは考えてやりなさいな」

《ちぇ~、また説教かよ。でも、今度は負けないからな!》

「何時でもいらっしゃいな。ちなみに、これ二日後くらいに動画として投稿するから」

《そうか、楽しみにしてるぜ!》

「自分の負け試合をたっぷりと楽しむがいい!」

《うっせーぞ! 良いんだよ、復習にはなるからな。それじゃ、あばよ!》

「アバ茶~♪」

 

 まったく、あいつもまだまだ甘いわね。座敷童子の加護が付いた、この私にギャンブルで挑もうなんて、一万光年早いのよ……って、それは距離だわ。

 いやー、でもギャンブルが成功すると気持ち良いわね。全国のロクデナシが嵌まるのも、分かる気がするわー。

 まぁ、それはそれとして。

 

「夢子ちゃーん、終わったよー。今日もお願いねー」

『はいはーい』

 

 今宵もまた、夢子ちゃんと夢の世界を冒険しよう。

 最近は鳴女がチャラ男先生と一緒に寝る事が多くなり、その分自由時間が増えたので、せっかくだから暇を持て余しているであろう夢子ちゃんを誘って、ドリームワールドを楽しむのが、この所の日課だ。

 

「ノームくんもおいでー」『ぴきゅー』

 

 もちろん、ノームくんも一緒だよ。一人きりになんてしないからね♪

 えっ、姑獲鳥は誘わないのかって?

 いやぁ、知らない人ですねぇ~。むしろ、孤独になれてホッとしてるんじゃないですかぁ~?

 

「それじゃ、お休みなさい」『ぴき』『ねむねむ……』

 

 という事で、三人揃って夢の世界へ。今回の舞台は、どんな所かな~?

 だが、慣れのせいか、私はこの時スッカリ忘れていた。シニョンが可愛らしい幼女の夢子ちゃんが、本当は老獪なロリババアだという事を。

 

「こ、ここは、まさか……!?」『ぴきゅ?』

 

 霞み掛かった、罠だらけの黒い森。そこら中に犠牲者やその遺留品が転がっており、森全体が不気味な程に静まり返っている。

 そして、すぐ傍にある古めかしい箱型テレビ。

 

「ここ、ハンターの森だぁ!」『ぴきゃー』

 

 しかも、夢子ちゃん居ねぇし!

 さては、自分だけ安全圏から高みの見物をするつもりだな!

 チクショウ、どうしてこうなったぁ!




◆リトルナイトメア2

 正式名称は「LITTLE NIGHTMARES Ⅱ -リトルナイトメア2-」。リトルナイトメアの続編にして前日譚(諸説あり)。電波塔から発せられる怪電波によって何もかもが歪んでしまったディストピアを、紙袋を被った少年「モノ」が「シックス」と共に駆け抜ける、ホラーアクションゲーム。前作と同じく基本的に右スクロールだが、やっぱり奥行きという罠がある。物理的な罠もわんさかあり、相変わらずデスルーラを強要してくる難易度高めのゲームである。
 本作最大の特徴は、前作主人公であるシックスとコーププレイを楽しめる所であり、あらすじを読まずに始めたプレイヤーは、とある場所にて色々な意味で胸がドキドキしてくる事だろう。前作の事を思うと手を繋ぐのも怖い。
 今作も前作と同じく謎が散りばめられており、それらを自分なりに解釈して楽しめるのも魅力の一つ。今回はマスコットのノームが不在かと思いきや……?
 あと、モノが不憫でなりません。どうしてああなった。


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零余子ちゃんVSレアなハンター

????:「今回のハンターはレアだぜ!」


「……って、絶望してる場合じゃないわね」『ぴきゅ!』

 

 しかし、何時までも呆けている場合ではない。ここがハンターの森ならば、いずれは遭遇する筈である。そうなったらお終いだ。今の私はノームくんたちとほぼ同じサイズだからね

 

「いや、大丈夫じゃないかしら?」

 

 だが、よく考えると不思議の森に迷い込んだ時もレディ一派を妖刀で迎撃出来たし、今回もワンチャン行けるのではなかろうか。

 

「――――――って、今の私丸腰じゃん!」

 

 何故か今回に限って妖刀が召喚出来ないし。呼ぼうとしても、謎の力で妨害されるのだ。

 そこまでやるのか、夢子ちゃん。“チートは使わせない”という強い意志を感じる。やめちくれー。

 一応、痣を浮かべて身体能力をブーストする事は可能だが、この大きさでボスキャラ相手に徒手空拳で勝つのは無理があるだろう。小人がどんなにパワーアップしても、巨人には敵わないのですよ。

 そうと決まれば、スニーキングである。万が一にも見付からないよう、ゆっくりこっそり歩を進めよう。小枝を踏んでエンカウントとか笑えないし。その前にトラバサミを踏まないよう気を付けなくちゃ。

 

『ウォオオオオッ!』

 

 と、ノームくんと協力しつつ、不気味な山小屋に辿り着いた辺りで、ハンターの声が聞こえて来た。

 えっ、何で……まだ家に入ってないのに!?

 

「あっ……」『ぴき……』

 

 何かおかしいと思い、家を回り込んで裏口の方へ向かうと、二人の小人がハンターに狙撃されているのが見えた。

 おいおいおい、あれってモノとシックスじゃん!

 という事は、私は二人の逃避行よりも後からやって来たのか。何で私たちまでテレビから出て来たのかは知らんけど。

 しかし、どうしたものか。私は結末を知ってるし、手助けした所で結果は変わらないだろう。モノは自らの殻に閉じこもり、シックスは見失った己を取り戻しに暴食を繰り返すだけ。救いなんて無い。

 

『ぴききー』

 

 だけど、ノームくんが助けてあげてって言ってるんだ……!

 

「ああっ、もう、しょうがないなぁっ!」

『ムォオオッ!?』

 

 突如背後から飛び出した私の姿に、ハンターが一瞬だけ気を取られる。

 だが、それで充分だ。その隙にモノとシックスは無事に逃げ果せたし、何よりハンターの標的がこちらに変わった。もはや二人を追う事は無いだろう。

 何せ、活きの良い獲物が、目の前にいるのだから。

 ――――――さぁ、どう出る?

 正面切って勝つのは体格差的に不可能だが、猟銃を躱す事ぐらいは出来るし、振り切れる自信もある。後はゲームのように、逃げた先で別の猟銃を使ってハンティングしてやるまでだ。

 

『フウォオオオッ!』

 

 しかし、ハンターは銃口を私に向ける事は無く、それどころか猟銃を何か別の物に変形させる。

 

「「決闘ディスク」!?」

 

 それはどう見ても決闘に使うアレだった。何でやねん。

 ……しまった、さっきまでリモートで決闘していたせいで頭が決闘脳になって、夢がごっちゃになったのか!?

 まぁ、猟銃で殺り合うより数倍はマシである。ならば、こちらもカードで応えよう、

 

「……って、だから私、丸腰じゃん!」

 

 ディスクどころかカードも持ってねぇよ!

 ど、どうしよう、カードが無くちゃ、決闘もクソも――――――、

 

『ぴきーっ!』

 

 すると、ノームくんが空を見上げるよう手を引いてくる。こんな時に何を……?

 

 ――――――ザシュッ!

 

「ズワォッ!?」

 

 見上げた瞬間、空から妖刀「村正」が降って来た。律儀に私と同じサイズに縮んでいる。

 さらに、柄の縁頭には、やたらとメカメカしい空のカードケースが括り付けられていた。

 

「おい、もしかして、これ……」

 

 試しに触れてみると、村正は禍々しい決闘ディスクに、カードケースには現実で私が持っているデッキの一つが召喚される。決闘ディスクって、盾じゃなかったっけ?

 ま、まぁいいや。デッキが揃い、ディスクも有り、敵が対峙しているというのなら、やる事は一つ。

 

「決闘だぁああああっ!」『ムォオオオオオッ!』

 

 そして、私とハンターの決闘が始まった。

 

《さぁ、闇のゲームの始まりだぁ!》

「テメェ、降りて来いこのヤロウ!」

 

 さらに、空に映る歌舞伎役者みたいなメイクを施した、夢子ちゃんのドアップ。お前、それは化粧が下手過ぎるだろう。

 とにかく、決闘だよ決闘!

 

「運命のダイスロール!」

 

 まずは先攻・後攻、決めるべし。私は「6」、ハンターは「5」。先攻は譲ってやるぜぇ!

 

『フォオオオッ!』

 

 そして、相手のメインフェイズ1。ハンターが繰り出したのは、

 

「「エクゾディアの右腕」!?」

 

 まさかのエクゾディアパーツだった。それはハンター違いだろ。レアになっちゃったよ。

 つーか、「予想GUY」でリクルートしたって事は、ビートダウン系の【エクゾディア】か!?

 一体どういうチョイスなんだよ!

 

『ファアアォッ!』

 

 さらに、「ジェスター・コンフィー」と「黒き森のウィッチ」を場に出し、「ウィッチ」を「聖魔の乙女(マギストス・メイデン)アルテミス」に変換する事で「召喚神エクゾディア」をサーチしてから、デッキの「究極召喚神エクゾディオス」をコストに「マジシャンズ・ソウルズ」を展開。

 その後「右腕」と「メイデン」を「魔界の警邏課デスポリス」に変え、「魔術師の再演」を発動して「右腕」を蘇生し、「ソウルズ」で「再演」をコストに「魔術師の右手」をサーチ。

 そして、「右腕」を「リンクリボー」に変換してから、「リンクリ」「警邏」「ソウルズ」をコストにして「ライトロード・ドミニオン キュリオス」をリンク召喚し、「Emトリック・クラウン」を墓地送り&1000LPで自己再生した後、デッキトップを3枚墓地へ送った。その中に「闇・道化師のペーテン」が混じっていたのか、別の「ペーテン」をリクルート。

 さらに、「ペーテン」と「コンフィー」で「トロイメア・フェニックス」をリンク召喚し、それから「キュリオス」と「クラウン」を素材に「トロイメア・グリフォン」を「フェニックス」と相互リンク状態で召喚して、「右手」をコストに墓地の「魔神火炎砲」をセットした上で1ドローし、それを伏せた所でようやくハンターはターンを終了した。

 

 ……って、回し過ぎだろ!?

 

 先攻1ターン目から完封殺する気満々じゃん。ビートダウンとは言え、【エクゾディア】で「トロイメア」を相互リンク状態で展開するな!

 こんな状況でどう戦えば良いんだ!? もっと腕にシルバーとか言ったら殺す!

 

「……私のターン、ドロー!」

 

 だが、相手は泣いても笑っても容赦はしてくれない。決闘には勝者と敗者しかいない。デッド・オア・アライブなんだよ!

 

『ぴきゅー』

 

 それに、私の肩には文字通りノームくんの命が懸っている。必ず勝ってみせる。ギャンブラーを舐めるなよ。

 やぁあああってやるぜぇえええっ!

 

「私は「融合派兵」を発動し、「時の魔術師」を特殊召喚!」

 

 まずはこのデッキの切り札、「時の魔術師」をリクルート。

 

『ムモォオオオッ!』

 

 当然、相手は「魔神火炎砲」で妨害しようとしてくる。

 しかし、それは甘いぞ!

 

「ならば、それにチェーン発動、「超融合」! 「時の魔術師」と「トロイメア・グリフォン」を素材に、「時の魔導士」を融合召喚!」

 

 私は「魔神火炎砲」の効果にチェーンして、「時の魔導士」を「超融合」した。これで「魔神火炎砲」はバウンズ効果を使えず、「グリフォン」は消え去り、「フェニックス」は耐性を失った。今がチャンスだ。

 

「行くぞ! 「セカンド・チャンス」を出してから、「時の魔導士」の効果を発動、「タイム・ルーレット」! ……成功だ! 「タイム・ソーサリー」! 1950のダメージを受けろ!」

『ムォオオオオッ!』

 

 さっそく、「時の魔導士」の効果で「フェニックス」を葬り、1950のダメージをハンターに与える。

 

「まだだ! 墓地の「時の魔導士」と「百年竜(ハンドレッド・ドラゴン)」を「円融魔術(マジカライズ・フュージョン)」して、「ミュステリオンの竜冠」を融合召喚! ダイレクトアタック!」

『ブムァアアアッ!』

 

 そして、「円融魔術」で呼び出した「ミュステリオンの竜冠」でダイレクトアタックを決めてやった。

 

「……これで終わりだ! 「簡易融合」を発動! 1000LPを支払い、もう1体の「時の魔導士」を召喚! 当然、成功! 「タイム・ソーサリー」!」

『グギャアアアォォッ!』

 

 さらに、「簡易融合」した2枚目の「時の魔導士」で「タイム・ソーサリー」を食らわせ、勝負を決めた。後攻1ターンKILLだぜぇ!

 

『ァ……ォ……』

 

 LPを失ったハンターは、どす黒い血を吐きながら倒れ、それきり動かなくなった。闇のゲームの敗者に待っているのは、「死」である。

 

「ほへぇ……」

 

 ヤバい、腰が抜けた。もはや夢子に文句を言う気も起きない。当の本人はテレビを消すようにフェードアウトしてしまったので、元より抗議のしようが無いけどね。

 それより、これからどうするかなぁ?

 

『ぴきゅきゅー』「……だよねー」

 

 ――――――ゲーム的にも、先に進むしかないよねぇ?




◆ハンター

 リトルナイトメア2において、死の森で狩りを続ける猟師。獲物は人間の子供(小人)。ズタ袋で顔を隠しており、片目しか見えていない為、索敵能力は若干低いが、狙撃力自体は高い。元は獲物である小人たちと同じ存在だったかのような描写があるが、詳細は不明。自宅に家族の剥製を作っている、執拗に小さな物を追い掛けるなど、何処か“寂しがりな子供”のような一面もある。
 森で出遭ったシックスを捕らえ、剥製作りをしていた所に、モノが自宅へ侵入。しつこいぐらいに猟銃で追撃し続けたが、最期は予備の猟銃で自分が撃ち殺された。同じ最初のボスである「1」の「管理人」よりはしつこくないので、まだマシな方である。
 零余子の小さな悪夢では、彼女が寝る前に動画撮りをしていた影響で、何故かレアなハンターになってしまった。
 使用デッキは、ビートダウン軸の【エクゾディア】。パーツの「低レベルの通常モンスター」と、派生モンスターの「高レベルかつ守備力0の闇属性:魔法使い族モンスター」という特性を生かし、序盤に「トロイメア」系モンスターと「魔神火炎砲」でロックを決め、準備が整い次第「超弩級砲塔列車」系統で砲撃する、案外とパワフルなデッキ……の筈だったが、零余子のコイントス軸の【ギャンブル】に後攻1ターンKILLされた。
 所詮はハンターの中でも最弱の男か……。


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零余子ちゃんVSン熱血指導ティーチャー

????:「エンジョイデュエル!」
零余子:「嘘吐けぇ」


 そして、私は仕方なくシックスとモノの後を追った訳だが、

 

「もう学校に入ったのか……」

 

 二人の足はかなり早く、既に第二ステージ「学校」へ突入していた。

 このステージは「いじめっこ」がそこかしこに蔓延り、「ティーチャー」が首を長くして待っている、社会の牢獄。入学したが最後、二度と卒業出来ない、公共施設としては問題しかない場所だ。

 つーか、汚いなここ。全体的に年季が入っていて黴臭いし、いじめっこがティーチャーの目を盗んで散らかしまくってるから、そこら中ゴミだらけである。ハンターの森とは別方向で歪んでるよなぁ、ここ。

 いや、今はそんな事よりもシックスたちだ。

 幸い、二人が先に行っているおかげで、パズル要素は大体解決しているから、迷いなく進める。

 

『ウ~ヒャォ~ッ!』『ギャーギャーッ!』

「うーわー」

 

 まぁ、見付からないかどうかは別だが。ホーム・ア○ーンなポイントは跳んで躱せるけど、この脳味噌空っぽ軍団は馬鹿みたいにいるから、シックスとモノが通過していたとしても、無限に湧いて来る。なるべくしてなった奴らは、幾らでもいるのである。

 

「オラオラオラァッ!」

『バッ!』『ギャッ!』

 

 とは言え、普通に勝てるが。シックスに素手で殺されるような連中に押し負ける筈が無いだろ。

 

「あっ……!」『ピキィ!?』

『クワァッ!』

 

 そんなこんなで、脳足りんの群れを粉々にしつつ、何も学べない校舎を突き進んでいると、授業の準備をしていたティーチャーとバッタリ遭遇。相変わらず気持ち悪いビジュアルしてますね。ノームくんも怖くて固まってるよ……。

 

『クケェーッ!』

 

 さらに、当たり前のようにティーチング定規セット(黒板用の取っ手が付いている定規類)を決闘ディスクに変形させ、決闘を挑んで来た。首をゆらゆらと伸ばしながら。だからキモイって!

 

《君は、生き延びる事が出来るか?》

「墜ちろカトンボ!」

 

 もちろん、隈取夢子ちゃんも覗き見。うわー、スッゲェ殴りたい。

 ま、それは後でだ。今は決闘が先である。話し合いなんて必要ない。何でも決闘で解決すれば良いんだよ!

 

「運命のダイスロール!」『キィッ!』

 

 ダイスの結果は私が「6」でティーチャーが「1」。お前、運悪過ぎるだろ。

 とりあえず、先攻は私ね。ハンターの時は後攻だったからさ。

 ちなみに、同じデッキは使えないらしく、今回は別の物を使用している。

 

「メインフェイズ! モンスター1体とカードを1枚セットし、1000LPを払って「サモン・ダイス」を発動! ダイスロール、「5」! 出でよ、「ゴッドオーガス」! 効果発動! 出目は「3・3・4」! カードを2枚ドロー! 更に3枚伏せてから、ターンエンド!」

 

 まずはT配置をしてから、このデッキの切り札の一つ、「ゴッドオーガス」を特殊召喚。手札を補充しつつ、場を整えてからターンを明け渡した。先攻は攻撃出来ないからね。

 さぁ、お前のターンだぞ!

 

「あ、ドローフェイズで「出たら目」を発動するね」『………………』

 

 このデッキの要だからね、これ。

 ……だが、こいつ何を使ってくるんだろう?

 定規繋がりで「ブンボーグ」を使うのか、もしくはン熱血指導でもしてくるのか。ろくろ首みたいだから、「魔妖」という可能性も――――――、

 

『キィィィッ!』

 

 しかし、ティーチャーが繰り出したのは、「ブンボーグ」でも「熱血指導」でも「魔妖」でもなく、

 

「「ギミック・パペット-ハンプティ・ダンプティ」だと!?」

 

 「ギミック・パペット」だった。ン熱血指導じゃなくてファンサービスとは。造形的にはドクターが使いそうだけど、あえてこっちが「ギミック・パペット」を使用する辺り、ティーチャーが児童をどう見ているのかがよく分かる。所詮、熱血教師だったのは過去の話か。今はもう児童をいびって愉しむだけの老害だ。

 そんなクソ婆は、この私が退職させてやる!

 

「でも、ちょっとくらい遠慮してくれませんかねぇ!」

 

 「ハンプティ・ダンプティ」から「シザー・アーム」を出したって事は、「ギガンテス・ドール」出す気満々じゃん。させるかぁ!

 

「リバース罠発動、「無差別崩壊」! 出目は「2・3」! 消えろ、人形共!」

 

 「無差別崩壊」の効果で、全力で阻止する!

 

『クァアアッ!』「何ィ!?」

 

 だが、そっちは囮だったらしく、まずは「ビスク・ドール」が登場し、追加で「ネクロ・ドール」が暴走召喚され、「ネクロ・ドール」と「ビスク・ドール」でオーバーレイ・ネットワークを構築、「No.15 ギミック・パペット-ジャイアントキラー」がエクシーズ召喚された。

 そして、増えた「ゴッドオーガス」を砲撃して、2体を破壊。

 さらに、「RUM-アージェント・カオス・フォース」で「CNo.15 ギミック・パペット-シリアルキラー」にカオス・エクシーズ・チェンジ。最後の「ゴッドオーガス」を殺しに掛かって来た。

 

「……リバース罠発動、「リフレクト・ネイチャー」! 「ゴッドオーガス」の恨みを受けろ!」

 

 しかし、ただ破壊されるのも癪なので、「リフレクト・ネイチャー」で反射ダメージを与えてやった。

 

『キィィイイイイイッ!』

 

 私の反撃により確信した勝利の誇りに傷が付いたのか、ティーチャーが「ネクロ・ドール」2体で「No.40 ギミック・パペット-ヘブンズ・ストリングス」をエクシーズ召喚し「アージェント・カオス・フォース」を再発動、「CNo.40 ギミック・パペット-デビルズ・ストリングス」へカオス・エクシーズ・チェンさせ、怒り任せに「シリアルキラー」と「デビルズ・ストリングス」で殴り掛かって来た。

 ――――――そういう所が素人だってんだよなぁ。

 幾らカードパワーが高くとも、使用者が馬鹿では、その力を活かせない。教師として失格である。

 

「……ぶち抜かれるのは、お前のLPだ! 殺れ、「ダイス・ポット」!」『レロレロレロレロレロ!』

 

 サイコロ軸のバーン型【ギャンブル】を相手に、「出たら目」を真っ先に破壊せず、リバースモンスターへ攻撃を仕掛けるなんて、ド素人もいい所なんだよ!

 結果はもちろん、私が「6」でティーチャーが「1」。さっきのダメージも相俟って、一撃で彼女のLPは吹き飛んだ。あんだけ派手に展開した癖に、ハンターどころか凡骨より手応え無いな、こいつ。

 さて、罰ゲームとして、レロレロと便所掃除でもしてもらおうか。

 

『キヒヒヒ』『ギャーギャー!』『ケキャーッ!』

 

 いや、その必要も無いわね。陰からコソコソと様子を窺っていたいじめっこたちが、敗北し倒れ伏したティーチャーに駆け寄る。

 むろん、助ける為などではない。

 

『ギァアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!』

「誰にも慕われない教師は、哀れね。さようなら」『ぴきゅー』

 

 そして、今までの恨みを晴らさんと襲い掛かるいじめっこたちに嬲り殺されるティーチャーをバックに、私たちは学校を卒業した。

 さぁ、次は病院ね。やだなぁ……。




◆ティーチャー

 リトルナイトメア2の第二ステージ「学校」の支配者。年季の入った女教師であり、何処ぞの校長先生のように首を長く伸ばせる。男女差別が激しい上に児童をいびる事が大好きという、どうしようもない人物であり、互いの信頼関係は無いに等しい。「いじめっこ」も頭空っぽのなるべくしてなった馬鹿だから、どっちもどっちだが。「ベリーリトルナイトメア」を見る限り、シンマン(ノッポ男)と何らかの関りがあるようだが、やっぱり詳細は不明。プリテンダーにでも聞いてみて。
 今作での使用デッキは純正の【ギミック・パペット】。そこはドクターが使えよと言いたい所だが、もしかしたら彼の所から逃げて来たマネキンを使っているのかもしれない。
 だが、ファンサービスを出来る程の腕は無いらしく、零余子のサイコロ軸バーン【ギャンブル】の地雷を踏みまくり、あっさりと敗北した。
 本編では追撃しないだけで倒される描写は無いが、こちらでは闇のゲームをしたばかりに、今までの報いを受ける破目になった。


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零余子ちゃんと大罪の二人

 モノって心なしかシックスより貧弱な気がしまセン?


「うわっ、酷い雨だ」『ぴきー』

 

 ――――――で、ボコボコに歪んだダクトを抜けて、いざ外に出てみれば、凄まじい土砂降りだった。建物は歪んでるし、そこら中がゴミだらけの穴だらけだしで、非常に歩き難い。

 分かってはいたけど、これは堪える。本当に小汚いな、怪電波街(ペイルシティ)は……。

 

「ノームくんは、私の服の中に隠れててねー」『きゃっきゃっ♪』

 

 まぁ、最初からレインコートを着ている私には何の問題も無いがな。学校を出る前に空へ注文したら、ハラリと落ちて来ましたよ。今回私、裸のままだったからね。その辺の布切れで誤魔化してたけど、いい加減に寒いし、恥ずかしい。

 一応、シックスと間違えられないように、赤い物を選んだ……のは良いけど、何か殺し屋みたいだな。good-bye(グッバイ)交渉人。流石に雨の中、傘を差さずに踊る気はありません。

 それはそれとして、シックスたちは何処まで進んだんだろうか。「病院」に突入したかな?

 

「おお……」『ぴきー』

 

 と思ったら、意外とすぐそこに居た。丁度シックスが廃屋でアイデンティティーの黄色いレインコートを着用している場面である。ここプレイヤーとしてはビックリだよね、色んな意味で。

 さて、作中の名シーンを拝んだ事だし、顔合わせと行こうかね。

 

「やぁやぁ、お二人さん。さっき振り」『ぴきゅー』

「………………!」「………………」

 

 私が声を掛けると、モノはあからさまに警戒し、シックスは振り向きもしなかった。

 うーん、温度差が凄いな。モノが“物語の主人公を気取っている”のに対して、シックスは“歪んだヒロイン兼もう一人の主人公”だからね。

 互いに噛み合ってるようで、何処かズレている。手を繋いでいるのに、きちんと向き合っていない。

 ……これじゃあ、あの結果も仕方ないわよね。

 ま、どう思われても良いさ。私は私とノームくんの為に動くまで。この悪夢の街から脱出するには、物語を終わらせるしかない。例えどんな結末が待っていようと。

 それには、この二人と付かず離れずの距離を保って、行動を共にするのが一番である。

 だが、実行するにはモノをどうにかしなくてはならない。こうも警戒されちゃあね。分からせる(・・・・・)必要がある(・・・・・)

 

「ぐっ……!」「甘いよ、坊ちゃん」

 

 勢い任せに殴り掛かって来たモノを、一瞬で制圧。力を抑圧した君じゃ、私には勝てないよ。シックスにも勝てないけど。というか、彼が素手で勝てる奴はいるんだろうか……。

 

「――――――とまぁ、私はそれなりにやれる。そして、私はさっさとこの街を抜け出したい。一緒に居た方が、便利だと思うよ?」

「………………」

 

 モノには言うまでも無いので、シックスに尋ねてみる。答えは沈黙だった。なら、勝手に了承と見做そう。

 

「それじゃあ、しばらくの間だけ、よろしく」

「「………………」」

 

 何も言ってくれなーい。いいよ、もう……。

 そんな感じで、私たちは服屋だったと思われる廃屋を抜け、ドクターの待つ第三ステージ「病院」へ裏窓から突入する。

 ここはドクターが天井を這い回り、闇の中では彼の患者たちが救いを求めて彷徨っている、学校に負けず劣らずに不気味な場所だ。患者が光で固まるという特性上、物凄く暗くて超絶に見難いのが特徴である。

 というか、私懐中電灯持ってないんだけど。

 いやでも、モノだって途中でライトを拾うんだし、私も適当に何か回収して使うか。ともかく進もう。

 

「「「ごくごくごく」」」『ぴきゅん』

 

 自販機で喉を潤してからね。ゲームではシステム的に飲めなかったけど、この世界では普通にイケるよ!

 その後はサクサクと抜け、怪電波イベントを熟しながら、レントゲン撮影でぬいぐるみの中にある鍵を確認。皆で透けてみました(笑)。シックス、尾てい骨長いね。あと、ノームくんのシルエットが……うん、良そうか。

 さらに、鍵を取り出し、腕や脚のマネキンがタップリぶら下がっている気色悪い場所へ入り、走るお手々をあしらいつつ、エレベーターの起動に必要なヒューズの一つ目をゲット。

 

「ほら、行くよ」「………………」

 

 時間が掛かりそうなので、二つ目はモノと二人で取りに行く事にした。どう見てもシックスとペアが良かったようだけど、知らんがな。

 

「「………………」」

 

 会話は無い。お互いに自分と相方の事ばかり考えているからね。

 

「おら、こっちだこっち! そいつは頼りないぞぉ!」「………………(怒)」

 

 ただし、連携は完璧だ。たぶんシックス以上の身体能力を持つ私が患者を引き寄せ、その隙に貧弱なモノがヒューズを回収する。それぞれの役割をきちんと熟せば、こんなにも早く進むんですよ。ここのだるまさんが転んだにはイライラさせられたから、スンゴイ爽快。実に晴れやかな気分だわー。

 それにしても、こいつらもヤバいビジュアルしてるよなぁ。クチビルゲみたいな奴おるし。どういう“治療”を施したらこうなるんですか、ドクター。

 さぁて、患者たちとの握手会や鬼ごっこも乗り越えた事だし、そろそろかな。

 

『ホォォォン!』

 

 エレベーターを降りた先――――――最後のマネキンハンドたちを叩き潰し、突入した闇の中に、そいつは居た。

 芋虫を思わせるパツンパツンのボディを持つ、上だけ禿げてるおっさんが、蜘蛛のように天井を這いずり回っている。彼こそが病院の支配者、「ドクター」である。

 うーん、何時見てもキモイですね。たぶん、貴方がリトルナイトメア2で一番気色悪いボスだと思いますよ。

 そして、出遭ってしまったという事は、始まるのだ……決闘の時間が。

 

『ホギャォン!』

 

 案の定、ドクターは(逆さのまま)患者だったであろうガラクタを決闘ディスクに組み替えて、私を見下ろした。焦点合って無いけどね。

 

「……行って!」

「「………………!」」

 

 とりあえず、二人を先に行かせ、私も村正を決闘ディスクに変形させて対峙する。所謂“後から追い掛ける”って奴だ。

 普通なら死亡フラグだが、私は死なないぞぉ!

 という事で決闘だぁ~!

 

《……楽しい?》

「楽しくねぇよ!」

 

 とにもかくにも、決闘だぁっ!




◆シックスとモノ

 それぞれ「1」と「2」の主人公。ハンターの居る死の森で二人は出会い、ペイルシティの電波塔で永遠に別れた。二人が互いをどう思っていたのかは不明。作中の描写から、「1」のラスボス「レディ」の若かりし姿がシックス、「2」の元凶「シンマン」がモノと考えられるものの、やはり詳細は明かされない。そもそも過去の自分が未来の自分と同時に存在している事になるので、時間を遡行したか、それこそ悪夢の世界の“ナニカ”が本体に取って代わろうとしたのかもしれない。
 何れにしろ、無限の闇に囚われてしまった二人に救いはなく、モノは延々と過去の己に殺され続け、シックスは未来の自分を食ってでも生き残ろうとして本来の彼女を見失った。
 果たして、零余子が見たこの小さな悪夢では、一体どんな過程を経て、あの結末に至ったのだろうか……。


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零余子ちゃんVSドクター・ジャドー診療所

 ドクターなら【ギミック・パペット】を使うと思ッタ? 残念、違ウヨー。


 まずは先攻・後攻、決めるべし!

 

「運命のダイスロール!」『オォォン!』

 

 ダイスの結果は、私が「6」でドクターが「6」……って、ゾロ目だとぉ!?

 クソッ、こうなったらジャンケンだ!

 

「負けた!」『ホッホッホォ!』

 

 普通に負けました。私、何故かジャンケンは弱いんだよねぇ。あと、ムカつくな貴様。ドヤ顔するな、白目を剥いて!

 

『ホォオオン!』

 

 ドクターは先攻を選んだか。

 しかし、こいつは何を使うのかな。ハンターもティーチャーも予想の斜め上を行くようなカテゴリーだったし、彼も額面通りではあるまい。少なくとも【ギミック・パペット】では無いだろう。

 予想では、【お注射天使リリー】か【Heart-eart(ハートランド)】だと思います。私の中でOCG化されてるドクターのイメージって、この二人くらいなんだよねぇ。頼むから【ローズ・ドラゴン】は使わないで欲しい、見た目的に。アキさんだけは穢さないたげてー。嫁を穢して良いのは蟹だけなんよー。

 そんなドクターの使用カードは、

 

『ホホゥッ!』

「最初からカオスMAXだと!?」

 

 まさかの「ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン」だった。市長じゃなくて社長なのかよ!

 しかも、「光の霊堂」を採用しているらしく、「青眼の亜白龍」と「青き眼の賢士」から「青眼の精霊龍」に繋ぎ、「蒼眼の銀龍」を繰り出して、「太古の白石」まで並べて来た。

 その後は「太古の白石」を「転生炎獣アルミラージ」に変換し、エンドフェイズにデッキから「青眼の白龍」を特殊召喚してから、ドクターはターンを終了した。

 銀龍ってお前……Dr.コ○ーってか。いやいやいや。大空 ひばりさーん、あなたの曲ですよー、何とかして下さーい!

 ま、待て、落ち着け、落ち着いて羊を数えるんだ、その内安らかになれる……って、死んじゃう死んじゃう、永眠しちゃう。

 本当に落ち着こう、上を向いて決闘しよう。画角が怖いけど。

 とりあえず、ドクターはターンを終了した。場には「霊堂」が張られ、「カオス・MAX」「銀龍」「白龍」「アルミラージ」が並んでいる。伏せカードはない。手札が「白龍」一枚だけなんだから当たり前だが。

 うーん、どうしたものか。「カオス・MAX」は元々破壊出来ないし、「白龍」は「銀龍」で破壊耐性を得ている。「アルミラージ」を狙っても、さっさと墓地へ逃げられるだろう。中々に鉄壁の布陣である。流石は三番目のボス、一筋縄では行かないか。

 ――――――1ターンで全員倒すのは無理ね。あんまりにも硬過ぎる。かと言って放置するには「カオス・MAX」も「銀龍」も能力が厄介だ。少なくとも、どちらかはこのターンで始末しないと。

 

「私のターン、ドロー!」

 

 よし、良いカードを引いた。畳み掛けるぜ!

 

「メインフェイズ! まずは「宣告者の神巫」を召喚し、「虹光の宣告者」を墓地へ送って、「高等儀式術」をサーチして発動! 「デーモン・ソルジャー」「ハロハロ」「異次元トレーナー」を供物に、現れろ「闇の支配者ゾーク」!」

 

 まずはこのデッキの切り札、「闇の支配者ゾーク」を高等な儀式で召喚。

 

「そして、手札から「デーモンの召喚」を供物に、「高尚儀式術」を発動! 出でよ、「デーモンの降臨」! 更に「宣告者の神巫」と「デーモンの降臨」でオーバーレイ・ネットワークを構築! エクシーズ召喚、「デーモンの超越」! バトルフェイズ、「転生炎獣アルミラージ」を攻撃! 「超雷弾」!」

 

 さらに、「デーモンの召喚」を「デーモンの降臨」→「デーモンの超越」と進化させ、「アルミラージ」を攻撃。当然サクリファイス・エスケープされるが、それは予定通り。メインフェイズ2に移行するのが目的なのだから。

 

「――――――メインフェイズ2で「デーモンの超越」に「天霆號アーゼウス」を重ね、効果を発動! 「アーゼウス」以外の全てを墓地へ送る!」

『ウァアアアッ!?』

 

 そう、これが私の狙い。対象耐性も破壊耐性も、「墓地に送る全体除去」には意味を為さない。消え去るがいい!

 むろん、ゾークも墓地へ行くが、これも想定内。蘇生制限はクリアしてるからね。何時でも蘇りますよ。何処ぞの冥王とは違うんです。

 一先ず、カードを一枚伏せてターンエンド。

 

「さぁ、お前のターンだ!」

『ホォオゥン!』

 

 そして、ドクターのターン。

 

『ホッホォウ!』

「くっ、「トレード・イン」か……」

 

 ここで手札交換を引くとか、ティーチャーと違って、運が良過ぎませんか?

 さらに、「太古の白石」を除外して「カオス・MAX」を回収し再度降臨させ、その後「亜白龍」と「白龍」の2体をコストに「龍の鏡」を発動して「青眼の究極亜竜」まで融合召喚して来た。マ、マジかよ!

 

「リバース罠発動、「デーモンの呼び声」! 手札の「デーモン・ソルジャー」をコストに、蘇れ「ゾーク」!」

 

 このまま攻撃を受けると大ダメージなので、「ゾーク」を一時復活させ肉盾とした。それでも半分近く持って行かれたが。

 ……良かったぁ、焦って先に「呼び声」発動しなくて。最悪、「究極亜竜」で慎重に処理されてたかもしれないしね。

 とは言え、相手の場には対象と破壊に耐性を持った攻撃力4000超えのモンスターが2体。対するこちらは「デーモンの呼び声」が発動しているのみ。

 このドローで何か引かなきゃ負ける……!

 

「ドロー! ……これは」

 

 ヤバい、サイコロやコイントスとは別方向で怖いギャンブルカードが来ちゃったぞ。

 だが、もうやるしかない。奴らを葬り、逆転するには、“コイツ”に任せるしかないんだよぉ!

 

「墓地の「デーモンの降臨」「デーモンの超越」「異次元トレーナー」「宣告者の神巫」の4体を除外し、現れよ「天魔神 ノーレラス」!」

 

 腹を括った私は、このデッキの隠し玉である「天魔神 ノーレラス」を特殊召喚した。一本角が生えた髑髏の顔を持つ悍ましい姿の悪魔が、手札もフィールドも自分自身さえも巻き込んで、墓地の闇へ消えていく。

 そして、たった1枚だけだが、私にドローを許される。墓地以外の全てがリセットされたので、この引き次第ではとんでもない泥仕合が始まるだろう。

 まさに、これが最後の希望。私の命運は、この1枚に懸っている。

 大丈夫だ、自分を信じろ。何時もそうだったでしょ。こんな酷い時にこそ、最悪の時にこそ、「チャンス」というものは訪れる。

 「追いつめられた時」こそ、冷静に物事に対処し、「チャンス」をものにするのよ、零余子!

 

『ぴきゃーん!』

 

 ほら、ノームくんも応援してくれてる。これは勝つるぞぉ!

 

「ドロォオオオオオッ!」

 

 三回転するような勢いで、デッキトップを引く。

 

「――――――よしっ!」

 

 引いたのは、「死者蘇生」だった。よっしゃあ、勝ったぞぉ!

 

「手札から、「死者蘇生」を発動! 我が下に来い、「青眼の究極亜竜」! 「アルティメット・バーン」!」

『ブヴォオオオッ!』

 

 さっそく「究極亜白竜」を蘇生して、ドクターへダイレクトアタック。これでLPがほぼ横並びになった。

 さぁ、今度はお前が賭ける番だぞ!

 

『ホォオオン!』

「くっ……「貪欲な壺」!」

 

 しかし、ドクターも大概に豪運なようで、「貪欲な壺」でドローしやがった。

 

『フォオオオッ!』

「嘘だろ!?」

 

 さらに、「青き眼の威光」で「究極亜竜」の攻撃を封じ、「死者蘇生」で「白龍」を蘇らせてきた。クソッ、社長並みに愛されやがって!

 こうなると「究極亜竜」が邪魔だな。「白龍」は消せるが、攻撃出来ないんじゃ壁にしかならない。レベルが高過ぎて素材に使えないし。

 ならば、このドローで……!

 

「よっしゃ、私も「貪欲な壺」!」

 

 もちろん、カードは鼻から出る!

 

「行くぞ、墓地の「虹光の宣告者」を除外して「執愛のウヴァループ」を特殊召喚! 更に「デーモン・ソルジャー」を召喚し、チューニング! 王者の咆哮、今天地を揺るがす。唯一無二なる覇者の力をその身に刻むがいい! シンクロ召喚! 荒ぶる魂、「レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト」!」

 

 そして、引いたカードで「スカーライト」をシンクロ召喚して、「白龍」を爆殺。500ダメージを与えてから「灼熱のクリムゾン・ヘル・バーニング」を食らわせ、ドクターを火炙りにした。

 

『ォオオォ……オ……』

 

 LPを失い、地に落ちるドクター。闇のゲームで命を焼かれた為、起き上がる事は二度となかった。

 

『『『………………』』』

 

 さらに、そんな彼の遺体を、わらわらと集まって来た患者たちが、神輿を担ぐように運んでいく。一体何処へ連れて行くのだろう。

 だが、私がドクターの末路を知る必要はない。彼がどうなろうと、“私たち”の目指すべきゴールは一つしか無いのだから。

 

「……行こう、ノームくん」『ぴきゅー』

 

 さぁ、そろそろ物語も佳境だ。




◆ドクター

 「リトルナイトメア2」の第三ステージ「病院」の支配者。ムッチムチで白目を剥いた禿げ頭のおっさんが天井を赤ん坊の如く這いずり回るという衝撃的なビジュアルを誇るボスキャラで、その最期もまたインパクト大。とりあえず、シックスの正気を疑ってしまう。
 彼の病院には「患者」という名の生きたマネキンモンスターが蔓延っているのだが、少なくとも「ティーチャー」よりかは「患者」を大事に思っているようで、とある場面で「患者」の一人が危篤になった際は脱兎よりも素早く駆け寄り救命措置を行い、それを実行したであろうモノたちを殺す気かつ死に物狂いで追い掛けて来た。
 そんな彼は、この世界ではまさかの儀式軸【青眼の白龍】を使用。決闘の腕も中々で、零余子に初めてダメージを与えたばかりか、かなりギリギリまで追い詰めた。
 闇のゲームに敗北し息を引き取った彼を、「患者」たちがどうしたのかは、もはや誰にも分からない……。


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零余子ちゃんと運命の白い闇

???:『時よ止まれ!』


「……っ、げほぁっ!」

 

 正規ルートを通るのが面倒だったので、力尽くで壁をぶち抜いて退院した直後、込み上げて来る物があって、私は思い切り血反吐を吹き出した。

 肉体的に死ぬ筈の無い私が吐血とは……これがもしかして、鳴女が言っていた“魂が死ぬ”という奴だろうか。闇のゲームにおけるダメージは、魂に直接傷を付けるらしい。

 魂の傷は、不死身の鬼太郎ですら死を刻む。

 やはり、闇のゲームの敗者に待っているのは「死」である。これは絶対に負けられないわね……。

 

『ぴきゅきゃー!』

「大丈夫だよ。ありがとね」

 

 ノームくんは誰よりも優しいなぁ。

 それにしても、シックスとモノは何処まで進んだのだろうか。ドクターが意外と手強くて、結構時間が掛かってしまった。

 確かこの後は、シンマンにシックスが攫われて、モノは彼女を救出しようとペイルシティを彷徨う事になる筈だが、問題は今どの時点かという事だ。タイミングによっては、未来のモノにして全ての元凶であるシンマンと鉢合わせしてしまう。彼は他のクリーチャーと違い、レディのような超能力持ちなので、正面切って戦っても勝ち目の無い相手だ。

 私としては、退治はモノに任せて、電波塔に入る辺りで合流したい所だが……。

 

「……あれは!」

 

 街を見渡す為、建物の屋上へ移動したのだが、少し離れた場所にある廃電車の中を駆け抜けるモノと、それを追うシンマンの姿が。もうそこまで進んでいたのか!

 どうする……待つべきか?

 

「いや……」

 

 シックスと違って彼は曲がりなりにも一途だし、そこまで嫌いじゃないから、少しくらい手助けしてやるか。ここで見て見ぬ振りをするのもアレだしね。

 

「………………!」

 

 しかし、モノの下へ駆け付けようと、屋根伝いに疾走する私の前に、霊体(スタンド)みたいな物が現れる。

 たぶん、シンマンの仕業だろうな。迫る敵意を感じ取り、足止めの分身を召喚したのだろう。あいつ、空間に干渉する能力があるみたいだからね。

 あくまで、過去の自分(モノ)の相手は今の自分(シンマン)という事か。

 良いだろう。予定調和だし、どうせお前は自分と向き合えない奴だからな。(シンマン)(モノ)に任せるとする。

 なら、私はこの分身体を蹴散らしてやる!

 さぁ、正体を表せ。実像を結んで、私の相手をしろ。何時までもモヤモヤしてるんじゃねぇ!

 

『フン、ドアくらい開けて出ていけ』

「何でDIO様!?」

 

 すると、それに応えるように、分身体はバリバリの存在感を放つ奴になった。どうしてそうなった。

 もしかして、リモート決闘の前に読んでいた第3部のせいか!?

 だが、所詮こいつは夢幻の偽物。本物の彼ではない。影DIOならぬ偽DIOである。遠慮なく粉砕玉砕してくれるわ!

 

《第3部、完!》

「勝手に終わらすな!」

 

 と言うか、チャプターはもう4に移っとるわ。

 ――――――コホン。それでは改めまして、

 

『「決闘!」』

 

 あ、ちゃんと言ってくれた。思えば、この世界で真面に喋る相手は初めてかも。

 

「運命のダイスロール!」

『当然「6」だ!』

「げっ、振り負けた!?」

 

 出目は私が「5」で偽DIOが「6」だった。流石はDIO、偽物でも運命力は健在か。声優同じだもんね。

 あれ、という事はもしかして?

 

『私の先攻。まずは「ヘカテリス」を捨て、「神の居城-ヴァルハラ」をサーチし、発動。更に「テラ・フォーミング」で「光の結界」を呼び出し――――――見せてやろう、我がスタンド「アルカナフォースXXI-THE WORLD」! 当然、正位置!』

「スタンドじゃねぇよ!」

 

 声と姿の時点で来るとは思ってたけど、やっぱり【アルカナフォース】かよ!

 何か、律儀に「THE WORLD」のコアがハートマークになってるしさぁ!

 と、というか、待って、ちょっと待って……このパターンは、もしかして!?

 

『更に、「創造の代行者ヴィーナス」を召喚し、効果を発動! 1500のLPと引き換えに「神聖なる球体」3体を特殊召喚し、時よ止まれ「THE WORLD」!』

「やっぱりかい!」

 

 「DIO」で「アルカナフォース」と来たら、絶対に出て来るわよねぇ。能力的にキング・クリムゾンとか言ってはいけない。

 つーか、言うてる場合か。このままじゃ、私は……!

 

『無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッ!』

「ぐわばぁあああああああああああああああああっ!」

 

 そして、偽DIOの「THE WORLD」による“ずっと俺のターン”が発動した。

 まずは「球体」2体で先攻1ターン目をすっ飛ばし、ダイレクトアタックを決めてから「ヴィーナス」と「球体」で更に1ターンかっとビングして、「神秘の代行者アース」を召喚して「命の代行者ネプチューン」をサーチしてから「ヴィーナス」を蘇らせ、三連打ァを食らわせた後に再スキップ。最後は「THE WORLD」のダイレクトアタックで、私に止めを刺した。

 

『所詮、貴様が私に勝とうなど、無駄無駄無駄なのだ』

「かはっ……」

 

 こうして、私は手も足も出ないまま敗北し、生命活動を停止……死んだのだ。




◆シンマン

 「リアルナイトメア2」の舞台「怪電波街(ペイルシティ)」を支配する大ボス。あくまでラスボスではない。どう見てもスレンダーマンである。
 テレポートやサイコキネシスに加えて、時空を操る超能力が有るようで、周囲の建物すら歪める程の力がある。誰かを探して彷徨う時の旅人らしいが、詳細は不明。過去の自分(モノ)と自分を袖にした女(シックス)を探しているとも取れるが、やはり明確な答えはない。
 今作では直接的な決闘こそしないが、とんでもない分身を召喚して決闘を任せた。


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零余子ちゃんと運命の赤い絲

????:「「R」は「RED」、「D」は―――――」
???:『「DESTINY」!』


 何もない。

 何も見えないし、何も聞こえない。感じられる物が何一つない。

 ……久し振りだなぁ、本当に死ぬのは(・・・・・・・)。前世のパワハラ会議以来か。何度同じ目にあっても、慣れる物じゃないわね。今世は絶対に殺される筈がないと思ってたのに。

 

 ――――――嗚呼、敗けたんだな、私は。

 

 まさか、「THE WORLD」で3ターンスキップKILLされるとは思わなかった。出目で敗けたあの瞬間から、私の運命は決まっていたのか。ちょっと理不尽過ぎませんかね。

 くそぅ、絶対にこの悪夢から抜け出すって決めてたのに、こんな所で躓くとは。私はともかく、取り残されたノームくんはどうなるんだよ。あんな小さくて優しい子が、この不条理な世界で生き延びられる訳がない。

 だから、私が必ず外の世界へ連れて行く、その筈だったのに……チクショウ……。

 

 ………………。

 

「――――――はっ!?」

 

 だが、私は目を覚ました。死の闇から、悪夢の世界へ。一体どうして……!?

 

『きゅ……』

「ノームくん!?」

 

 しかし、すぐに分かってしまった。目の前で腹部から血を流して倒れている、ノームくんの姿を見て。私の唇に付いている血と、舌に残る鉄の味。間違いない。

 そう、彼は自分の命を私に捧げたのである。

 

「そんな……嫌だよ、こんなのって……」

 

 だが、幾ら後悔しても、もう遅い。彼は、このまま死ぬ――――――、

 

「駄目だぁあああああっ!」

 

 そんなの絶対に認めないぞ!

 

「……応えろ、私の細胞! 生かせぇえええええっ!」

 

 私は村正で切腹してから、その傷口へ押し付けるように、ノームくんを抱き締めた。強く強く、命が零れないように、血を交わらせる。肉体だけなら不死身の私なら、ノームくんの傷くらい癒せる筈だ。そう思わないと、やってられない。

 ……これまでの人生で、誰かの為に命を懸けようなど、考えた事も無かった。前世の継母も今世の両親も結局は掌を返したし、周囲の人々も大体同じだった。

 だけど、ノームくんは違う。私の為に、私なんかの命を救う為に、自らの命を差し出した。まるで、お伽話の白い兎だ。ここまで自己犠牲を実行出来る者など、これまでもこれからもいないだろう。

 だから、私は自分の命をあげる。魂を分かち合って、運命共同体になる。

 

『うっ……』「………………!」

 

 私が心の底から願ったからか、奇跡が起きた。ノームくんは傷が塞がったばかりか、人としての姿を取り戻した。

 そう、彼はキッド(かれ)だったのである。薄々そんな感じはしてたけどね。

 さらに、その胸元には私たちにしか見えない、お互いを繋ぐ赤い糸が伸びている。二人で一人になった証拠だ。死がふたりを分かつまで、ずっと一緒である。

 

「行こう!」『うん!』

 

 さぁ、いい加減にこの下らない茶番劇(リトルナイトメア)を終わらせるとしよう。

 モノは恐らく電波塔までの一本道へ到達しているだろうし、魂が五分になったせいで体力が恐ろしく減っているし、色々な意味で時間が無い。早く現実の肉体へ戻らなければ。

 

『また貴様か』

「それはこっちの台詞だ」

 

 まぁ、居ますよねぇ。何気にちょっと向こうでモノがシンマンとタイマンしてるし。いよいよクライマックスって感じだ。

 

『何度やっても無駄だ。最後に勝つのは、このDIOなのだ!』

『「それはどうかな。やってみなくちゃ分からないっ!」』

 

 そう、私はノームくんと二人で一人。運命共同体となった私たちは、無敵だ。負ける気が全然しないぜぇ!

 

『「運命のダイスロール!」』

 

 まずは先攻・後攻、決めるべし。

 

『む……』

「だから言ったでしょう。やってみなくちゃ、分からないってね」

 

 結果は「6」のゾロ目。次はジャンケンである。

 

『ジャンケン……』『ポン!』『何ィ!? チョキだとぉ!?』

 

 ジャンケンに弱い私に代わり、ノームくんがチョキを出して、偽DIOから先攻をもぎ取った。私たちは二人で一人だから、全く問題ないわね、うん。

 しかし、これも仕方のない事。どうせ卑怯な運命力で「THE WORLD」するだろうし、先攻は渡せないなぁ!

 という事で、メインフェイズ!

 

「「闇の誘惑」を発動! カードを2枚引き、「A・O・J D.D.チェッカー」を除外! 更にモンスター1体とカードを1枚セットして、ターンエンド!」

 

 とりあえず、場を整える。消極的と思われるかもしれないが、布石は打った。後は畳み掛けるのみ。

 

『「A(あしたは)O(おはよう)J(ジャンピング)」だと? そんな産廃シリーズを使うとは、勝負を捨てたか?』

「あんたあのギャルゲープレイしたのかよ……」

 

 よっぽど暇だったんだろうなぁ、偽DIOの本体(シンマン)

 

『私のターン! まずは「ヘカテリス」をコストに「神の居城-ヴァルハラ」をサーチして発動し――――――』

 

 その動き……やっぱり握ってたか。信じてたわよ(・・・・・・)

 

「その瞬間、リバース罠発動「闇次元の解放」! 帰還せよ、「D.D.チェッカー」!」

『何ッ、我が「THE WORLD」を封じるだと……!?』

 

 「THE WORLD」を出そうとしていた偽DIOの動きを止める。「D.D.チェッカー」は“光属性モンスターの特殊召喚を封じる”対光化学生命体(ワーム)用偵察機だ。破滅の光にとっても厄介な兵器だろうさ。

 

『だったらこうするまでだ! 出でよ、「アルカナフォースI-THE MAGICIAN」! 当然、正位置! 更に「天空の聖水」で「創造の代行者ヴィーナス」をサーチし、攻撃力を倍加させる!』

 

 だが、偽DIOは焦らず、冷静に「アルカナフォースI-THE MAGICIAN」を召喚し正位置の効果を得て、「聖水」で「ヴィーナス」をサーチする事で元々の攻撃を倍にした。直接殴り倒しに来たか。

 しかし、「MAGICIAN」を通常召喚した以上、このターンは「THE WORLD」を展開する事は出来ない。最低限の役目は果たしたと言える。

 

「……「銃砲撃」を発動!」

『だからどうしたのだ! 消えろ、ガラクタめ! 「アルカナ・マジック」!』

 

 こうして、可愛いホタル型ロボットは破壊され、次元の闇へ追放されたが、

 

「……その瞬間、「デスペラード・リボルバー・ドラゴン」を特殊召喚! 「ロシアン・ルーレット」! 消え失せろ、破滅の使者と神の居城よ!」

『ぬぅ……ターン終了だ!』

 

 おかげで、手札の「デスペラード・リボルバー・ドラゴン」を呼ばせて貰った。結果は、当然大当たり。「MAGICIAN」と「ヴァルハラ」を蜂の巣にしてやった。

 ついでにカードを1枚ドローし、偽DIOのヴィーナスを墓地へ叩き落して、LPに500ダメージを食らわせる。

 つーか、こいつ「THE WORLD」だけじゃなくて、「THE DARK RULER」まで握ってやがった。「DARK RULERだッ!」ってか。やらせねぇよ?

 

『おのれぇ、よくも下衆なダメージを! よくもおのれぇええええっ!』

 

 プークスクスクス、怒ってる怒ってる~♪

 でも、もう遅い。手も足も出ない屈辱を、今度は貴様に味わわせてやる。

 

「私のターン、ドロー! そして、メインフェイズ! 手札を1枚捨て、「D・D・R」を発動! 再び帰還せよ、「D.D.チェッカー」! 更に「融合派兵」で「リボルバー・ドラゴン」をリクルートしてから、「BM-4ボム・スパイダー」を反転召喚し……行くぞ、「デスペラード」「リボルバー・ドラゴン」「D.D.チェッカー」「ボム・スパイダー」でダイレクトアタック!」

 

 そして、私のターンに「デスペラード」「リボルバー」「D.D.チェッカー」の4体を展開し、荒ぶる偽DIOへ直接攻撃を決めた。この時ばかりは、私も悪魔のような顔をしていたかもしれない。

 だが、私に死の恐怖を思い出させてくれた貴様に送る言葉は、たったの一つ。

 

good-bye(グッバイ)運命の白い闇(ディストラクター)!」

 

 そんなに結果(せかい)が気に食わないのなら、二度と夢枕に立つな!

 

『このDIOが……このDIOがぁああああああああああああああ!』

 

 こうして、偽DIOは闇へと還った。

 丁度その時、シンマンもモノに敗北し、心半ばに膝を折り、光に消えた。ざまぁ見さらせ。

 

「かはっ……!」

 

 と、またしても吐血。やはり無理をし過ぎたか。クソッ、モノの奴どんどん先に行きやがって……。

 

『零余子ちゃん』

 

 すると、キッドくんが肩を貸してくれた。自分だって辛いだろうに。そんな事されたら、惚れてしまうやないか。

 

「キッドくん……」

『ノームで良いよ。人間としての僕は、とっくに死んでいるからね』

「なら、ノームズ・キッド・ランナウェイって事で」

『何か不思議とむず痒くなる名前だなぁ……』

 

 そんな感じで、キッドくんは「ノーム」という愛称の「ノームズ・キッド・ランナウェイ」に決定した。

 その後、私たちは互いを支え合いながら、音を頼りに電波塔を彷徨い、遂にモノへ追い付いたのだが、

 

『ウギャゥウウウウッ!』「うぅっ……!」

 

 ビーストモードのシックスに滅茶苦茶殺されそうになってた。本当に情けない奴だなお前は!

 

「……ていやっ!」『オギャゥウウウッ!?』

 

 という事で、モノを締め上げる捩じくれた長い腕にドロップキック。ダメージには繋がらなかったが、驚いたシックスはモノを手放した。

 

『グルルルルル……!』

 

 獲物を取り上げられたシックスが威嚇してくるものの、そんなの知らんなぁ。

 ここは私が見た悪夢の世界。最後に物を言うのは、カード(これ)なんだよ……ってヤバい、そう言えばもうデッキが無いんだった。

 

「………………」

 

 と、ノームくんに肩を借りて立ち上がったモノが、黒い光の塊を差し出してくる。私が受け取ると、それは一つのデッキとなり、村正にセットされた。

 なるほど、これがアンタなりの誠意って訳ね。今一信用ならない私に力を貸してでも、シックスを頼むと。本当に一途よね、君。

 正直、ファンデッキも良い所なデッキ内容だけど、託されたからには、勝ってやるさ。

 

『ウギャアアアヴヴヴッ!』

 

 それを見たシックスも、決闘をする態勢を取る。周囲の残骸や肉壁を強殖装甲して、金色のアンモナイトを思わせる外骨格を形成した。

 さらに、崩れかかった地面を叩き壊して異次元への扉を開き、様々な玩具が飛び交う異空間へと私たちを呑み込む。不思議と見えない足場が存在し、空を歩いているような気分になる。

 そうか、これがお前の決闘のバトルフィールドか。

 ならば、私もそれに応えよう。

 

「決闘!」『ウキャォオオオオッ!』

 

 これでフィナーレだ、シックス!

 決闘開始ィイイイイイイイイイ!

 

【リトルナアイトメアーズ】VS【ザ・シックス・デイ】




◆R・D

 1999年に放映されたロボットアニメ「THE ビッグオー」に登場する殺し屋のアンドロイド。物語のヒロインである「R・ドロシー・ウェインライト」と同型の機体で、まるで赤ずきんのような格好をしており、バケットに入れている拳銃が得物。名前は「赤い運命」を意味している。
 己がメモリーに従い、忌むべき「40年前のメモリー」を思い出した人間を“雨の中差すくらいに当たり前”に次々と殺害し、“神の乗り物”を操る自覚に欠ける主人公の「ロジャー・スミス」を凄まじい顔芸を添えて抹殺しようとしたが、最後はドロシーと共に“勝手に動いた”ビッグオーに殴り潰された。
 決め台詞は『good-bye、交渉人(ネゴシエーター)!』。


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悪しき決闘者たち

いあ! いあ! はすたあ!


 今始まる、赤い少女(むかご)金色の闇(シックス)最終決闘(ラスト・デュエル)。アンティは互いの命という、闇のゲームである。

 

「運命のダイスロール!」『ギィイイイッ!』

 

 まずはダイスによる先攻・後攻の決定戦。

 しかし、出目はお互いに「6」。続くジャンケンも「グー・チョキ・パー」のあいこばかり。

 ならば、これでどうだと行った「あっちむいてほい」により、ようやくシックスの先攻が決定した。何故コイントスをしないのかは置いておこう。

 

『グギィイイイッ!』

 

 という事で、シックスのメインフェイズ。

 まずは「暗黒の招来神」を召喚し、「幻魔皇ラビエル」をサーチ。その後「七精の解門」を発動して「カオス・コア」を、「悪王アフリマ」を捨てて「闇黒世界-シャドウ・ディストピア-」をそれぞれ引っ張って来て、「闇黒世界」を張った。

 そして、「招来神」で「カプシェル」を召喚してから、「招来神」を「リンクリボー」に変換した上で「解門」の(2)の効果により「招来神」を蘇生。

 さらに、今度は「招来神」を「サクリファイス・アニマ」に書き換え、「リンクリボー」「アニマ」「カプシェル」で「ライトロード・ドミニオン キュリオス」をリンク召喚して、2枚目の「七精の解門」を墓地へ送った。

 最後に「カプシェル」の効果で引いた死者蘇生で「混沌の召喚神」を蘇生、リリースする事で手札から「幻魔皇ラビエル」を特殊召喚し、「解門」で「解門」を回収して、「シャドウトークン」を1体呼び出してからターンを終了した。

 1ターンが、とても長い。

 だが、それは最近の決闘ではよくある事。気にせず零余子にターンを移そう。

 

「私のターン、ドロー! 「ダーク・サンクチュアリ」と「エクトプラズマー」を発動! 更に「怨念のキラードール」を召喚し、「手札抹殺」を発動! 手札を2枚捨てカードを2枚ドローする! そして、カードを1枚伏せ、「キラードール」を射出してターンエンド!」

 

 こちらはそこまで長くはないが、非常に嫌らしい布陣を築いた。あえてモンスターゾーンがガラ空きというのが逆に怖い。

 

『ギャヴヴウウッ!』

 

 しかし、翼をもがれた獣(シックス)は恐れない。

 まずは「解門」で「解門」を再度回収し発動。「招来神」をサーチして召喚、最後の「解門」をサーチしてから、それを捨てて「カプシェル」を蘇生し、「カプシェル」と「シャドウトークン」で「見習い魔嬢」をリンク召喚して1ドロー。その後「招来神」で「混沌の召喚神」を追加召喚して、次に墓地の「死者蘇生」と「手札抹殺」を除外して「カクリヨノチザクラ」を特殊召喚し、「魔嬢」「招来神」「混沌」「カクリヨ」の4体で「閉ザサレシ世界ノ冥神(サロス=エレス・クルヌギアス)」を呼び出す。

 そして、零余子が全く動かない事を確認し、伏せカードを“攻撃反応型罠”か“ブラフ”と判断して、「ハーピィの羽根箒」で厄介な永続カードごと一掃、一気に攻めへ転じようとする。

 

「甘いぞシックス! お前が壊したこれは、「ミラーフォース・ランチャー」だ! 底知れぬ絶望の淵へ沈め!」

 

 だが、それもまた零余子の罠であり、セット状態で破壊された事により「ミラーフォース・ランチャー」の効果が起動、自身と共にデッキから「聖なるバリア -ミラーフォース-」をセットした。「羽根箒」も使ってしまったし、これでは攻撃出来ない。

 

『グギギギギ……!』

 

 シックスは「悪夢再び」で「招来神」と「カプシェル」をサルベージしてから、とても悔しそうにターンを終了した。

 

「私のターン、ドロー! スタンバイフェイズで「怨念のキラードール」を蘇生!」

『アギャァアアアアゥ!』

 

 一応、せめてもの嫌がらせとして「冥神」の効果で「キラードール」の蘇生を妨害したのだが、それは囮人形だった。

 

「メインフェイズ! 「相愛のアンブレカム」を召喚し、「ノーマテリア」を蘇生して、チューニング! 名状し難き魔風なる神よ! 闇に蠢く邪悪なる触手をエルダーサインの下に集め、「黄衣の王」として顕現せよ! シンクロ召喚! 「古神(コシン)ハストール」!」

 

 そう、この「黄衣の女王(レディ)」を召喚する為の。

 これぞ【リトルナイトメアーズ】の主人公、レベル4風属性シンクロモンスターの「古神ハストール」だ。モノに託された、シックスを倒す為のデッキに相応しいカードである。

 

「更に手札から「月鏡の盾」を装備し、「閉ザサレシ世界ノ冥神」を攻撃! 「魔境怪風波(ミラーフォース・プル・ストーム)」!」

『ヴギィィイイイイッ!』

 

 さらに、「月鏡の盾」で「邪神アバター」と同じ戦闘能力を得て、「ハストール」は「月鏡」を翳すように黄金の波動を放ち、「冥神」を粉砕、玉砕、大喝采した。スゴイぞー、カッコいいぞー!

 

「さぁ、お前のターンだ! 倒したいんだろう、私を? やれるものならやってみなぁ!」

 

 そして、「ハストール」と一緒に、これでもかと言わんばかりに煽りまくって、零余子はターンを終了した。

 

『ヴギィイイイイッ!』

 

 遠目からでも分かるくらいにピキピキしながら、シックスがドローする。

 しかし、直ぐには動かない。当然だろう。「ハストール」は下手に墓地へ送ると、黄衣に封じていた触手を巻き付けて無力化する上、引き剥がそうとすると洗脳されてしまうのだから。

 だが、「月鏡」を装備したモンスターは戦闘で無敵化するので、どちらにしろ居座られると面倒である。特にシックスのデッキはパワーがある分、メタを張られると失速し易い。

 問題は何を切り捨て、どれを生かすか、だ。

 

『ギャアアアヴヴ!』

 

 シックスは決断した。

 「ハストール」をリリースして「天界蹂躙拳」を回収し、触手が「ラビエル」に絡み付いたのを確認すると、「解門」で最後の「解門」をサルベージしてから発動して、「暗黒の召喚神」をサーチ。

 さらに、「招来神」を召喚して別の「ラビエル」を持って来て、「カプシェル」を召喚しつつ「解門」の蘇生効果を二連打し、「混沌」と「カクリヨ」を並べ、「ラビエル」「カクリヨ」「招来神」「カプシェル」で「鎖龍蛇-スカルデット」をリンク召喚、5枚ドローして3枚デッキに戻した。これで「ハストール」の脅威は無くなった。「月鏡」はデッキボトムに戻った。

 そして、「混沌」の効果で「ラビエル」を特殊召喚し、「クリティウスの牙」で「デストロイ・ドラゴン」を呼び出した。

 その後、「悪夢再び」で「カプシェル」と「カクリヨ」を回収してから、「スカルデット」の効果と自力でそれぞれを特殊召喚し、「魔界の警邏課デスポリス」に変換して、自らを犠牲に「警邏カウンター」をラビエルに乗せる。

 さらに、「デストロイ」で零余子の「ミラフォ」をデストロイして、「ラビエル」「スカルデット」「キュリオス」の4体で一斉攻撃を仕掛けた。

 

「墓地から罠カードを発動! 「光の護封霊剣」! 直接攻撃を封殺する!」

『グヴゥゥゥゥッ!』

 

 しかし、たった1枚のカードで防がれてしまう。「手札抹殺」で姑息に落としておいた、「光の護封霊剣」の墓地効果を使ったのである。

 

「……私のターン、「命削りの宝札」を発動! カードを3枚引き、「サンダーボルト」と「ハーピィの羽根箒」を発動! 「ラビエル」以外の全てを破壊する!」

『ギャァオオオッ!』

 

 その上、次のドローで「ラビエル」を除いた全てを一掃されてしまった。ギリギリで「天界蹂躙拳」だけは回収したが、それだけだ。先にモンスターを破壊されたせいで、「解門」を1枚もサルベージ出来なかった。

 

「更に手札から「ダーク・サンクチュアリ」を発動! ターンエンド!」

 

 しかも、「ダーク・サンクチュアリ」がまたしても出現。これで「天界蹂躙拳」がとんでもないギャンブルカードになってしまった。成功すれば一撃で倒せるが、失敗すればLPが半分以上吹き飛んでしまう。「死者蘇生」や「ハーピィの羽根箒」どころか、デッキにカードが殆ど残っていないシックスにとっては、まさにデッド・オア・アライブである。

 

『ギャギャアアアアッ!』

 

 だが、シックスはあくまで攻める。彼女は欲望に忠実なケダモノなのだ。結果は―――――、

 

「コインは「表」だ!」『ギィイイイッ!』

 

 セルフ4000バーンだった。運命はシックスを選ばなかったのである。

 そして、この失敗がシックスに破滅を齎す。

 

「私のターン、「強欲で金満な壺」を発動! カードを2枚ドローし……「死者蘇生」で「ハストール」を復活させ、「月鏡の盾」を装備して、「ラビエル」を攻撃!」

『ギッ……!』

 

 零余子のマジックコンボにより復活した「ハストール」が、「ラビエル」を討った。

 もはや、シックスに打つ手は無い。伏せカードはブラフであり、デッキも残り僅か。その中にも1枚で逆転出来るようなカードは無い。後は「ハストール」に嬲り殺されるだけ。

 一応、ドロー次第では悪足掻きも出来るが、

 

『………………ッ!』

 

 流れを掴み損ねたシックスに、未来は無かった。「闇黒世界」を無意味に発動し、ターンを終える。

 

「私のターン! 「ゲイシャドウ」を召喚し、「ハストール」と共にダイレクトアタック! 「終点(ファイナル・デスティネーション)」!」

『ヴギャアアアアアアゥゥゥッ!』

 

 そして、今の自分と未来の自分を思わせるモンスター2体の攻撃を受け、シックスは決闘に敗北した。




◆ハスター

 「クトゥルフ神話」に登場する魔の風。初登場時は悪戯好きな風の妖精(一応、放牧の神らしい)という感じだったが、後に「旧支配者」の一柱である事が判明。本来の姿は無数の触手が絡み合った「名状し難いナニカ」で、「ニャルラトホテプ」程ではないが様々な形態に変化する事が出来る。世界中に信者が居たり、褒め称えられると部下の「ビヤーキー」を派遣してくれるなど、邪神の割りには結構人気がある模様。
 「黄衣の王」という姿を取る場合があり、“黄色いローブを纏った白い仮面の人型”という容姿が特徴。もちろん中身は触手三昧である。
 ちなみに、外道で有名な「ニャルラトホテプ」も「黄衣の王」の姿を取る事がある。どっちが先でパクリなのかは、「卵が先か鶏が先か」くらいに意味が無いので注意しよう。たぶん、指摘したらSAN値が直葬されます。いあいあ。


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悪夢の彼方へ

 人の血は鉄の味。人の不幸は蜜の味。人の幸せは甘酸っぱい。
 なら、自分の幸せは?


 ――――――肉塊が蠢き迫り来る、崩壊の廻廊。

 

「………………!」

 

 シックスは走っていた。

 心の底から憔悴し、直走っていた。悪夢の出口である光のゲートへ向かって。

 

「………………」

 

 何だったんだ、あの赤い女は。今も身震いしている。彼女が最後に放った言葉に。

 

「――――――逃がさないぞ。悪夢の果てまで逃げても追い掛けて、地獄を……見せてやるからな……!」

 

 異常者め。

 どうしてそこまで関わろうとする。何故そんなにしつこく迫る。

 

 何で、自由にさせてくれない。

 

 しかし、あの女はもういない。決闘では敗けたが、あいつも力尽きて倒れ、そのまま肉壁に呑まれた。一緒にいた、男の子ごと。モノは……どうしただろうか。

 いや、今はいい。自分が助かる以外の全ては詮無き事である。

 明らかに出遅れていたし、今頃は彼も肉の中だろう。助けに戻る義理も意味も無い。……少しだけ、残念ではあるが。

 そう、何も考えるな。そんな事をしている場合じゃないし、暇もない。早く、あの扉から抜け出さなければ。

 

「………………!」

 

 自由だ。そうすぐ解放される。邪魔者はもういない。

 

「……ハァッ、ハァッ……!」

 

 と、後ろから聞こえてくる誰かの息遣いと足音。一瞬あの女かと思ったが、モノだった。無事だったのか……。

 

「「………………!」」

 

 崩れ落ちる石橋から跳んで来たモノの手を思わず取ってしまう。何故そうしたのかは分からない。やはり見捨てるのは偲びなかった、のだろうか?

 

「………………」「あっ……」

 

 だが、光のゲートをバックに、彼の顔を間近で見たら、気が変わった。無理……これは、無理だ。さようなら。

 

(自由になる。私は自由に――――――)

 

 何処かで見た顔をしたモノが、奈落に落ちるのを見送り、シックスは光のゲートへ飛び込んだ。

 

「カッ……はぁっ!?」

 

 ――――――かと思われた、その時。彼女の腹を一本の刀が貫いた。

 さらに、刃には返しが、柄の縁頭に鎖がそれぞれ付いており、闇の中から引っ張る何かが、奈落の底へ叩き落そうとする。

 

「あ……が……ぐぅうううっ!」

 

 それでも、シックスは耐えた。ゲートの端へ掴まり、必死に食い下がる。飢えた獣のように。死にたくない、と。

 

(嫌だ……嫌だ……わたしは、自由になるんだ! 何者にも縛られない、広い夢の世界で!)

 

 しかし、シックスが踏ん張れば踏ん張る程、彼女は身の破滅を引き寄せてしまう。

 

『……言ったでしょ。“それじゃあまた後で”ってね』

 

 鎖をロープのように使い、遂にご対面したそいつは、あの赤い女だった。

 否、彼女だけではない。脇にはモノを抱えているし、何より女の顔立ちがさっきと微妙に違う。まるで、あの少年と混じり合ったかのようである。

 

(何で……何でぇ……っ!)

 

 殺される。このままでは、自分に自由は無くなる。シックスは一瞬そう思ったが、現実はそんなに甘くなかった。

 

『お前は殺さない。私の血肉を腹に溜めてやる』

「がはっ!?」

 

 胃袋に、甘美な腐肉が流れ込んで来た。血は一瞬で巡り、身体中を支配する。

 シックスは分かってしまった。この血肉は己を縛る首輪であり、これ以外では命を繋ぎ止められなくなったと。

 

『お前は死ねない。空腹に抗える人間はいないし、私がいる限りお前に終わりは来ない。だけど、人間は群れる生き物だ。特に自分を見失った奴にとって、自由とは「死」も同然なんだよ』

「………………!」

『だから、お前は殺さない。外に出たかったんだろう? ……出してやるよ、今すぐに。私たちも一緒に、ね』

「ぐっ……!」

 

 どうしてそこまで。何でそこまでやるんだ。自分が一体何をした。

 あまりに理不尽な結末を齎そうとする赤い女に、シックスは悔恨の籠った眼で睨み付けたが……、

 

『何でって顔してるな? “クソガキに振り回されてイライラしたから”以外の理由なんてないわよ。大人が子供に手を上げる訳なんて、そんなものだ』

「……ぅああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 

 シックスは叫んだ。泣いて、鳴いて、哭き叫んだ。

 それでも、赤い女……零余子は止まらない。シックスをモノと脇に抱き合わせて、光のゲートへ進んで行く。さっきまでは希望の光に見えていたそれは、もはや破滅の光としか思えなかった。

 事実、シックスにとっては絶望でしかない。

 外には出られるが、血の鎖で縛られる。かと言って完全に縛られる訳でもなく、世話をしてくれる気も無い。自由で不自由。放置という名の拷問。ネグレクトだって、もう少しマシだろう。

 そんな中途半端な自由が、未来永劫に続くのだ。こんな悪夢があるだろうか。

 そう、未来(げんじつ)希望(ゆめ)など、無いのです。

 

「嫌だぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁっ!」

 

 幾ら泣いても喚いても、もう遅い。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 こうして、零余子たちは現実世界へ戻って来た。

 シックスとモノは小人のままなのに、ノームはキッド形態と姿を自由に入れ替えられるようになるというミラクルも起こったが、それはそれ。

 

「オラァッ、夢子ぉ! 覚悟は出来てんだろうなぁ!?」

『……いきなり何よ。そっちこそ覚悟は出来てんでしょうね?』

「へ?」

 

 怒り心頭で事の発端である夢子に詰め寄った零余子だったが、何故か逆切れされてしまい、思わず言葉に詰まってしまった。化粧こそしていないものの、怒った顔があの隈取バージョンと同じくらい凶悪である。マヂムリ……。

 

「……ちなみに、どうして?」

『どうして? ちゃんと夢の中で待ってたのに、1時間しても現れなかったのは誰かしら?』

「ゑ?」

『流石に待ちくたびれて起きてみたら、勝手に夢の世界を楽しんでたようだし、仕方ないから丸子ちゃんと遊んでたわよ。中々に楽しい夢だったわ』

「えぇ……」

 

 何それ怖い。零余子は考えるのを止めた。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 日本の、とある深い森の山奥。まるで似付かわしくない、古びた洋館にて。

 

『上手く行きましたか?』

 

 妖艶な女吸血鬼――――――ベアード軍三幹部の一人、カミーラが尋ねる。相手は己の上司であるアデルだ。さっきまで眠っていたのか、眼が心なしかしょぼくれている。可愛い。ギャップ萌えだ。

 

『いいえ、失敗よ。ヴィクターの集めたデータを基に、丸子を夢から分からせて(・・・・・)みようかと思ったけど、当てが外れたわ』

 

 すると、急にシャキッとなったアデルが、とても悔しそうに舌を打った。相変わらず切り替えの早い人である。

 

『……と言うと?』

『干渉しようとしたら、何故か座標をズラされて、別の人間にチャネリングしてしまった。せめてそいつだけでもと思ったけど、失敗したわ』

『………………!』

 

 これにはカミーラも素直に驚いた。

 アデルは自分にとって恩義のある、憧れの上司だ。マッドサイエンティストだった父親に、“初代カーミラの遺骸”の粉末を混ぜたオカルト満載な薬を打ち込まれたせいで吸血鬼として蘇り、一人生き埋めにされて泣いていた所を救ってくれた、命の恩人である。

 そんなアデルでさえ阻害される運命力の持ち主が、この日本にいる。もうそれだけで、腸が煮え繰り返って来た。

 自分を悪夢の底に沈めた、あの隻眼のクソガキを見た時以来の憤怒だ。

 

『大丈夫ですよ、アデル様。今度はワタシも協力します』

『カミーラ……ありがとう』

 

 ああ、その笑顔だ。今では殆ど見られない、その微笑みに惚れたのである。本当に(・・・)とても美味しそうだ(・・・・・・・・・)

 

『それで、如何致しましょう?』

『……こうなっては仕方が無い。直接出向く』

「お供しますよ、何処までも」

 

 そう、地獄の底……悪夢の果てまでだって。何故なら、貴方は希望(さいこう)(ゴチソウ)なのだから。

 

『ウフフフ、そうと決まれば、まずは身を清めなくちゃ♪ ンフフフ、キャハハハハハハッ!』

 

 装備と考えを整える為に部屋を出て行くアデルを見送ったカミーラは、それはそれは楽しそうに服を脱ぎ、真っ赤なワインのような湯に浸かった。

 その顔は、まるで初めて誕生日のケーキを目の前にしたような、はち切れんばかりの満面の笑みだった。




◆カミーラ

 ベアード軍三幹部の一人。ウェーブの掛かった黒髪に赤い瞳を持つ、妖艶な女吸血鬼。ドラキュラ伯爵の恰好をボディコン風にアレンジした服を着ている。無数の蝙蝠に分裂したり、血を吸った相手を眷属化するなど、伝承されるヴァンパイアが持ち得る力は全て備えている。日本妖怪を下等と見做す傲慢さと、可愛い女の子を人形に変えてしまいたいと思う下衆な精神を持つ悪女で、自分の美しさに絶対の自信があり、「おばさん」と言うとメッチャ怒る。
 6期で登場した彼女の詳細な出自は語られなかったが、「初代ドラキュラ」がいるように、カミーラも「初代カーミラ」の血を引く何かだと思われる(カーミラは葛飾北斎ばりに名前をコロコロ変える事で有名)。
 今作では純粋な吸血鬼ではなく、死後に「カーミラの粉末入りの蘇生薬」で転生した存在であり、最終的に生き埋めにされて封印されていた所を、アデルに救われヘッドハンティングされた。その為、自分を封印した“隻眼の少年”を含む日本妖怪を毛嫌いし、アデルに“肉欲”を抱いている。
 ちなみに、彼女を吸血鬼に変えた父親の名前は「ロイ・キュリアン」で、年の離れた「ダニエル」という実兄がおり、彼女自身の本名は「キーエフ・キュリアン」。なるべくしてなったとか言わないで。


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鳴女さん、再会する

 誰と再会するんでしょウネー?


「――――――ごめんなさい」

 

 湯治を終え、無限城で零余子印の苺ミルク(意味深)を飲んでいたら、突然その本体に土下座された。本当に三つ指付いて這いつくばるのが良く似合う女である。

 というか、急にどうした。

 

「この子たちについてなんだけど……これには深い理由がありまして……」

 

 そう言って、スススと差し出された小人が二人。シックスとモノと言うらしい。何でも「リトルナイトメア」というホラーゲームの主人公たちで、またしても見てしまった悪夢から拾ってきた。

 いやいやいや、捨て犬拾ってきたみたいなノリで小人を出すなよ。困ったちゃんだな君は。今更だけど。

 

『……ちゃんと餌はやるんだよ』

 

 とりあえず、最低限度の指示は出した。飼い主の責任だからね。

 

「そりゃあ、もちろん」

 

 すると、任せておけと言わんばかりに、零余子がニタリと笑った。何がそんなに楽しいんだか。シックスがビクッと震えた気がしたが、見なかった事にしよう。あと、ノームに苺ミルク飲ませる時に頬を染めてたのは何でだ。恋でもしたの?

 まぁ、良いさ。無限城(ここ)には風呂もトイレも洗濯機も冷蔵冷凍庫もあるし、生活には事欠かない。それこそ藤花と遊ばせとけ。ちっちゃい物クラブみたいな感じで。

 

「それで、今日はどうするの?」

 

 ふと、零余子が尋ねてくる。抱き枕にするか否かの確認だろう。最近は半々の割合だからな。

 

『今日はいい』

「またイチャコラかよ……」

『イチャコラなんて初々しい真似するかよ。もっとこう、ニュルニュルのウネウネでジュポジュポにヌルヌルな――――――』

「何その生々しい擬音!? 聞きたくないんですけど!」

 

 顔を薬缶より赤くして逃げる零余子。乙女か。

 何だよー、自分から下世話な事を聞いてきた癖にー。へーん、混ぜてやらないよーだ。

 さーてとぉ♪

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 そんなこんなで、ねっとりとした眠りに着いた私だったが、

 

『随分と元気そうだな、鳴女』

 

 何故か夢の中で無惨様と再会した。前々から変わった人だとは思っていたが、まさか私の夢枕に立つとは、中々にいい趣味をしている。寝付いた時からそうだから今も全裸なんだが、男として思う所はないのかねぇ?

 ま、挨拶くらいはしようか。

 

『お久しぶりです、無惨様』

『……別に敬語は必要ないだろう。今は私の部下ではないようだし、何よりその恰好じゃ締まりがなかろう』

 

 そんな事を言われましても。好きで立ち裸ってる訳じゃないし、基本的に寝ている私は全裸待機なんだよ。

 

『一応は恩義がありますので』

 

 そう、彼には鬼にして貰った恩がある。最後に頭をパッカーンしてくれた事は今でもムカつくが、それはそれだ。半永久的な命と人を確実に殺す為の力を貰った事に比べれば、些細なものである。

 

『ならば、丁度良い。恩義を感じているなら、その肉体をよこせ。今すぐにだ』

 

 ただ、こうやってすぐに調子に乗るのが玉に瑕だ。

 

『出来るものなら』

 

 やってみろ、とは敢えて言わなかった。必要が無いからな。

 

『――――――フン。ならば、後付けでも構わん。肉体を用意しろ。この際、年齢は問わん。今のお前なら(・・・・・・)出来るだろう(・・・・・・)?』

 

 それが分かっているのか、無惨様は私を()め付けた。セクハラやぞー。

 

『まぁ、別にそれで良いなら、全く問題ありませんが……』

 

 今まではおやつ代わりに食ってきたが、そろそろ残すべきか?

 

『ですが、何故急にそんな話を?』

 

 そもそも、この人はどの世界線の無惨様なんだろう?

 この世界じゃ無惨様の「む」の字も無いし、かと言って私の知る「無惨様の鬼」が全くいないかというと、そうでもない。チャラトミwiki曰く、大正時代に似たような輩がいて、何処かで聞き覚えのある剣豪っぽいのが退治したそうな。

 その鬼が無惨様じゃないとしたら、そいつは誰で、どうして存在しない無惨様が私の夢枕に立っている?

 

『……私はもうすぐ(・・・・・)解放される(・・・・・)その時に受け皿(・・・・・・・)となる器が必要なのだ(・・・・・・・・・・)

『ようするに今は魂だけで、しかも封印されているような状態だから、解放された時に備えて肉体が欲しいと?』

『その認識で相違ない』

 

 フーン、封じられてたのか。どうりで影も形も無いと思ったよ。

 とは言え、名前すら出て来ないのは流石に不自然な気がする。この人は色々と空回りする人だから、動けば絶対に目を付けられる筈なんだよなぁ……。

 

『おい、貴様。今かなり失礼な事を考えていただろ?』

『あれ? もう読心術は使えない筈では?』

『何年行動を共にしたと思っている。お前が上の空で何を考えているのかなど、手に取るように分かるわ』

『凄いなアンタ』

 

 正直、意外と言うか、他人の事を考える度量があったんですね。

 

『それで、今は何処に居るんです?』

 

 封じられているというのなら、その場所が必ず存在する筈である。

 

『……地上ではない』

 

 え、まさか宇宙とか言わないよね?

 

『地下だ。それも深い深いマグマの中にな……』

『貴方は何時から怪獣王に転職なさったので?』

『今も昔も私は「鬼の始祖」だ、馬鹿者めが!』

 

 いや、だってマグマの中もチャラ☆ヘッチャラなんて、怪獣王か伝説のスーパーサ○ヤ人くらいしか知らないもん。

 

『では、何故そんな所に? 温泉じゃないんですよ?』

『それくらい分かるわ。……とある者の肉体と共に沈んでいる』

『誰ですか、それは?』

『この世界では「来訪者」と呼ばれている存在だ』

 

 あー、例の大正時代に出たっていう「鬼の王」ね。何だってそんな奴と抱き合わせでマグマに浸かってんのよ。ホモなの?

 

『――――――そいつは、私の全てを受け継ぐ者だった。しかし、暴走の果てに世界一つを滅ぼしてしまった。支配すべき世界を焼き尽くすなど、愚かの極みだ。こんな事なら、託すのではなかった……』

 

 実に悔しそうに語る無惨様。ようするに人選ミスって事?

 と言うかさ、

 

『……聞きそびれましたけど、力を託して魂だけになっているという事は、やっぱり討滅されたんですね?』

『やっぱりとは何だ、やっぱりとは。……まぁ、その通りだ。だからこそ、才能溢れる奴に、力を託してやったというのに……』

『そんなに凄かったんですか?』

『数十秒で太陽を克服し、数分で私の全盛期を凌駕した上に、次々と新たな血鬼術を生み出した』

『化け物じゃないですか』

 

 何そのチーター。異世界転生した勇者だってもう少し自重するぞ。私だってまだ克服し切ってないのにズルいー。

 でも、そりゃ確かに勿体無いよなぁ。それだけ才能があるんだから、ちゃんと世界を牛耳れば良かったのに。化け物なだけに馬鹿者だったのかな?

 

『まぁ、最後に見た風柱の姿は滑稽で抱腹絶倒したがな。肉親や仲間どころか、自分以外誰一人いなくなったんだからな。クククク……』

『えー、何それ、私も見たい。録画とかしてなかったんですか、無惨様。インスタ映えしそう』

『お前は俗世に染まり易い奴だな、本当に! 鬼の口から「インスタ映え」なんて聞くとは思わなかったぞ!』

『そう言う無惨様だって結構ミーハーだったじゃないですか』

『「多趣味」と言え「多趣味」と。信長だって南蛮渡来の品を好んでたんだから良いだろうが』

 

 つーか、あんた信長とはズッ友だっただろうがよ。御茶会とか乙女チックな事しやがって、ミーハー共め。

 

『フゥ……やはり、力だけでは駄目だな』

 

 と、喋り疲れたのか、無惨様が一度深呼吸してから、真面目なトーンで言った。

 

『そういう意味では、やはりお前に託すべきだったか』

『いやぁ、私などでは無惨様のような自滅芸はとても』

『ぶっ殺すぞ貴様。いいから、真面目に聞け!』

 

 はいはい、分かりましたよ。久々にお話しするのにつれないなぁ。

 

『――――――「来訪者」の復活が迫っている。奴はお前の想像を遥かに絶する化け物だ。何せ、あの忌々しい日の呼吸でさえ掠り傷一つ付けられず、バラバラにしてマグマに沈めた今も、噴火に乗じて舞い戻ろうとしているのだからな』

『もう生物じゃないでしょ、そいつ』

『それはそうだろう。奴は「鬼の王」であり「鬼神」なのだ。生半な力など、振るう事すら許されない。だから――――――』

 

 だから、その時に備えて強くなれ。鬼舞辻の血統を継ぐのはお前だ。

 無惨様は激励とも押し付けとも付かない、臭い台詞を吐いて消えた。

 

『託されても困るんだけどなー』

 

 正直、血統には全然興味ないし。

 だが、無惨様を超える鬼となるのは転生当初からの目標だし、近い未来に訪れるであろう災厄を知り得たのは大きい。事前に準備出来るだけでも、大分違うからね。

 そういう意味では、会えて良かったですよ、無惨様。

 

『とりあえず、もう一発頑張るかー』

 

 私はそう決意して、夢から覚めた。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 ――――――ピンポーン。

 

 しかし、そんな崇高な決起を遮る、インターフォンの音が。誰だ、こんな真昼間に。

 

『今は仕込み中でーす。後にして下さーい』

「ほぅ、勤勉ではないですか。素晴らしい」

 

 適当に返事をしたら、何か盛大に勘違いされた。これバレたら絶対お互いに恥ずかしい奴だよ!

 

『……仕方ないわねぇ。どちら様~?』

 

 誤魔化す意味も兼ねて、私は(もちろん服を着て)玄関の扉を開けた。そこに居たのは、

 

「初めまして、鳴女さん。私はベアード軍の最高司令官「アデル・フォン・アスワング」。こっちはベアード軍三幹部の一人「カミーラ」」『よろしくお願い致しますわ』「……本日は、是非とも交渉したい事が有って参りました。少々お時間を割いては頂けないでしょうか?」

 

 何かスゲェ偉そうな西洋妖怪たちだった。なぁにこれぇ?




◆鬼舞辻 無惨

 「鬼滅の刃」のラスボスにして、全ての「鬼」の始祖。
 平安貴族という勝ち組出身だったものの、生まれた時から死にそうな虚弱体質であり、二十歳までは生きられないと言われていたが、ある日出会ったかかりつけ医の調合した薬が彼の運命を変えた。強靭で朽ちる事のない肉体を手に入れた代償に日の下を歩けぬ人食い鬼となってしまい、今日まで太陽を克服する為に様々な努力を重ねて来た。まるでカー○様である。
 西洋の吸血鬼の如く、血を与えた人間を鬼(というか眷属)に変える力が有り、全ての鬼は無惨と共に在り、彼が死ねば諸共滅ぶ運命にある。
 また、始祖というだけあって戦闘能力も凄まじく、珠世の齎した毒薬で弱体化してもなお、殆どの鬼殺隊士は手も足も出なかった。掠り傷が致命傷って、それは卑怯でしょ。
 特に再生力に関しては異常の一言で、“斬った傍からくっ付くから切断出来ない”“肉片からでも元通りになれる”“治るのを良い事に身体中のあらゆる臓器を武器にする”など、意味不明な業を次々と披露した。もしかしたら、弱体化さえしなければ「輝彩滑刀」とか「血管針」とかも使えたのかもしれない。
 しかし、やはり弱体化した影響は大きく、最期は鬼殺隊の異常なまでの執念に根負けする形で消滅した――――――かに思えたが、最後の最期に己の血肉を主人公に全て与えて「鬼の王」に変貌させるという、スーパー悪足掻きを敢行、鬼殺隊士どころか読者すら唖然とさせた。なぁにこれぇ?
 とは言え、元より誰も信じず信頼もされていない彼が、鬼殺隊の絆を断ち切れる筈も無く、炭治郎が人間へ戻るのと同時に、無間地獄の底へ消えていった。
 しかし、この世界――――――否、“前の世界”では……。


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鳴女さん、会談する

 今回より物語が段々と加速しマス。


 やぁやぁ、諸君。今人気沸騰中のネットアイドル、鳴女さんだよ。

 いやー、世間一般的には、そろそろランチタイムかな?

 だが、そんな真昼間だというのに、来客が二人もいるんだ。それも人間じゃない。魔女と女吸血鬼という、西洋妖怪の組み合わせである。

 しかも、こいつらは結構な身分らしく、「ベアード軍」とかいう軍隊の最高司令官と幹部の一人らしい。チャラトミwiki曰く「バックベアード率いる西洋妖怪軍団」だか何だか。

 バックベアード自体がかなり有名な妖怪みたいで、「西洋妖怪の大統領」なんて呼ばれているそうだ。“大統領”とは、また大層な肩書である。さては米国出身だな?

 ま、それは一先ず置いておいて、

 

『粗茶ですが……』

「あ、どうもありがとうございます」

 

 お茶くらい出すよ、姑獲鳥(メイド)がな。

 そんな感じで、私たちは無限城の大広間で向かい合っている。胡坐も掛けるように大きな卓袱台を挟んでね。座ってるのは私とアデルだけで、他の面子は脇に控えて突っ立ってるけど。

 

『それじゃあ、改めて自己紹介をしようか。私は鳴女。琵琶が趣味の「鬼」だ。で、こっちがチャラトミ。本名は控えさせてもらおう』

「どうも~♪」

 

 ウム、相変わらずチャラい感じで何より。

 

『このチビ助が、我が陣営の食糧事情を一手に担っている、零余子だ。一応は人間だ。実質化け物だけど』

「説明に悪意を感じるんだけど」

『事実だろ』

 

 今では無惨様を遥かに超える不死性を得ておきながら何を言うか。

 

『そんで、こっちのちんちくりんが丸子。見ての通りの座敷童子だ』

『よろしくなのじゃー』

 

 ウムウム、マスコットらしい溌剌とした笑顔がよろしい。

 

「………………」

 

 と、僅かだが、アデルの“興味の視線”が強くなった気がする。私に対する“警戒心の表れ”とはまた別の感情だ。

 ははぁん、なるほどね。本命は丸子(こいつ)か。何がそんなに気になってるのかは知らんがね。

 まぁいい、紹介を続けよう。

 

『その隣が、「手の目」の六部。丸子の彼氏くんね』

『『//////』』

 

 本当に初心だね君ら。もうヤッちゃいなよー。

 

『それから、こいつらは「無限城ちっちゃいものクラブ」。それぞれ、藤花、ノーム、シックス、モノ、夢子だ』

『よろしくお願いします』『ぴきゅー』「「………………」」『何でわたしまでその括り?』

 

 今更だけど、小っちゃい奴増え過ぎだろ。何時の間にこんなに増殖したんだか。

 ちなみに、会長は夢子にしてある。半数が夢の世界(そっちがわ)だからね、しょうがないね。

 

『以上が、今ここに居る全員だ』

 

 とまぁ、一頻り紹介をした訳だが、改めて見渡してみると、とんでもない面子だな。

 鬼だけでも上弦、下弦、(笑)がいるし、小っちゃい連中も半分くらい主人公だし。これ「鳴女一派」として通じるんじゃなかろうか。戦闘員は半分もいなけどね。

 

「ご丁寧にどうもありがとうございます」

 

 全員の顔と名前が一致した所で、アデルが奇麗な所作で頭を下げる。正座も様になっていたし、名前に「フォン」があるからには、ドイツ系の良い所出身なのだろう。貴族なら外国の礼儀も出来て当たり前って事か。

 控えているカミーラの方も身分が高そうだが、アデルとは生まれから主従関係なのかもしれない。そういうのって憧れちゃうよねー。カッコいいと言うか、何と言うか、単純に羨ましい。

 ……ウチの面子、悪友が屯しているだけっぽいからな。

 

『――――――さて、長話は好きじゃないし、そもそもお昼寝時だし、単刀直入に行こう。私に何を求める気だ?』

 

 いきなり最高司令官が幹部を連れ立って来たからには、重要案件なのだろう。流石に動画のファンとかじゃないだろうしなぁ……。

 

「分かりました。それでは、こちらも率直に。……鳴女殿。貴女に「ベアード軍」最高司令官の立場をお譲りしたい」

 

 おっと、これは大きく出たな。それを本人が言うからには、冗談では無いんだろうな。後ろのカミーラは結構驚いているようだけど。

 

『条件は?』

 

 そんな重役を只で譲る訳ないよね。

 そもそも、高がネットアイドルに最高司令官を任せて、「ベアード軍」……ひいてはバックベアードに何の得があるんだ?

 まさかとは思うが、「歌は世界を救う」とか言い出したりしないだろうな。

 

「「日本の地獄」を陥落するのに協力してい頂きたい」

『「日本の地獄」?』

 

 何故にそうなる。それを日本の妖怪に頼むとかどうなの?

 

「――――――鳴女殿は、「来訪者」をご存じでしょうか?」

『ああ。夢枕で聞いたよ』

 

 また「来訪者」か。無惨様の話を聞く限りマジで化け物だけど、古今東西どいつもこいつもビビり過ぎやろ。

 つーか、それが日本の地獄と何の関係があるんだよ?

 

「「来訪者」が噴火に乗じて封印を抜け出そうとしている事も?」

『それも聞いた』

「……ならば、その現象が(・・・・・)日本だけで(・・・・・)起きている事は(・・・・・・・)?」

『いや……?』

 

 そうなんだ。どうなの、チャラトミwiki?

 

「そうですね。確かにそういう傾向の噴火は、日本でしか起きていないようです」

『「………………!」』

 

 チャラトミがスマフォを操作してスラスラと答えるのを見て、アデルたちが目を見開いて驚いた。傍目にはただのチャラ男だからねぇ。これでも参謀役なんですよ、彼は。

 

「……と、とにかく、「来訪者」の“藻掻き”が日本でしか起きていないのは事実です。では、何故日本でしか起きていないのか?」

『日本で封印されたからじゃないの?』

「「来訪者」が封印されているのは下部マントルの中。日本で埋められようが、別の地域で起きないのは変ですよね?」

『それもそうだ』

 

 というか、未だにマントルの中を生きたまま漂っているとか、本当に化け物だなぁ。生物なら死んでおけよ、そこは。

 

『なら、どうしてだ?』

「――――――日本の地獄が、「来訪者」を繋ぎ止めているからですよ」

『はぁ?』

 

 まるで意味不明なんですけど。

 

「日本は狭い。なのに、人口だけはどんどん増えている。子育てはロクにしないのに。幾ら効率良く転生したとしても、最早パンパンなんですよ。無から有は生まれないですからね。……地獄にも、拡張した領土が必要だ」

『それって、もしかして……』

「その通り。地獄を広げ続ける為のエネルギー源として、「来訪者」を利用しているんですよ。資源として見るなら、実質的に永久機関のようなものですからね」

『………………』

 

 今明かされる、衝撃の真実ゥ。

 ――――――頭が悪いというか、頭痛が痛いというか。そりゃ攻められても、あんまり文句は言えんよな。一国だけ水爆を多量に保有しているような物だし。何時爆発するかも分からんようだしね。

 

『……つまり、日本地獄の代わりに、お前らが管理したいと?』

「というよりも、完全に滅ぼすのが目的ですね。利用するにはあまりにもリスクが大き過ぎる。……管理ミスに巻き込まれて死ぬのは、こっちとしても御免なんですよ」

『そりゃそうだわな』

 

 実にアメちゃんが考えそうな暴論だが、確かに地球破壊爆弾ばりにユルユルな管理状態じゃあ、安心は出来んわな。普通に怖いわ。足元に核弾頭が埋まってるよりおっかない。自分ではどうしようもないからね。

 

「鬼太郎ファミリーやぬらりひょん一派と違って愛国心や地獄への忠義がまるで無い、貴女だからこそ頼みたいのです」

『ぶっちゃけたな、お前も』

「率直に話すと申し上げたので」

 

 そういう失礼極まる態度、嫌いじゃないぜ。分かり易くていい。

 

「それで、返事の程は如何に?」

『………………』

 

 そして、私は答えた。




◆ちっちゃいものクラブ

 アニメ「おじゃる丸」に登場する会合。正式名称は「月光町ちっちゃいものクラブ」。おじゃる丸を会長とした、しみったれた愚痴会。他の面子は電ボ(蛍)、公子(ハムスター)、カタピー(エスカルゴ)、トメ&カメ(亀)、貧ちゃん(貧乏神)と、見事に人外ばっかり。彼らに憧れて(そんな要素あるか?)結成された、「月光町ちっちゃいちっちゃいものクラブ」も存在する。
 対する「無限城ちっちゃいものクラブ」は、夢子を会長として、藤花、ノーム、シックス&モノと、魑魅魍魎の類が集合している。ノーム以外の連中は自分の事しか考えていない。主に藤花が話題の起点となる事が多く、ノームやモノが付き合ってあげてる感じ。夢子は基本的に見ているだけである。意外と藤花とシックスは仲が良く、「鏡を見ろ」と言いたくなる関係を築いている。


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鳴女さん、試験をする

 「鬼滅の刃」を読んでてつくづく思ってましたケド、落第=死って普通にヤバいですヨネ?


 べつのひ!

 

「あの、鳴女殿?」『………………』

 

 アデルが何とも微妙な顔をしている。同伴したカミーラもそんな感じである。無理もない。

 

「何故、急にこんな山の中に?」

 

 突然、人里離れた山中に連れて来られたのだから。

 

「というか、ここは何処ですか?」

『ここは「奈落村」。地図に無い廃村さ』

 

 そう、ここは釣りの名所……ではなく、地図に無い村だ。菖蒲の花が一年中咲いている、不思議な谷底にポツンと存在している廃村である。辛うじて形を残している荒ら屋が数軒だけ立つ寂しい場所で、人の気配はまるでない。ほぼ全てが自然へと回帰している。

 

「はぁ……それで、我々にここで何をさせようと?」

 

 まぁ、当然そうなるわな。

 

『――――――“選別試験”だ』

「“選別試験”?」

『ああ。お前は最高司令官なんだろう? ならば、それが譲り受けるに値する立場なのか、試してみたくてな』

「ようするに、私たちの実力を見せて欲しいと?」

『有体に言えばそうなる』

 

 実を言うと、私はアデルの返事を保留にした。“試したい事がある”と。それがこの選別試験だ。

 だって、そうだろう?

 私は弱い奴と取引する気は無いし……何より、嘘吐き(・・・)と真面に話すつもりはハナから無い。

 

『お前たちには、この奈落村で三日三晩過ごしてもらう』

『こ、こんな場所で、ですか?』

 

 如何にも潔癖症っぽいカミーラが、とても嫌そうに尋ねてくる。

 イカンよ、時には泥を啜る覚悟を持たなきゃ。人生、小綺麗に済む事なんて早々無いんだからさ。吸血鬼だろう、お前は。

 

「別に良いじゃないっスか。前にアンタが住んでた場所と大差ないでしょうよ、キーエフ・キュリアンさん」

『なっ……何故その名前を……!?』

 

 しかし、チャラトミが入れてきた横槍に驚いて、それどころでは無くなったようである。

 

『えっ、誰それ?』

「その人の本名ですよ」

『そーなのかー』

 

 私もビックリしたわ。何処の誰情報なんだよ、それは。当たってるみたいだし。

 ま、まぁ、いいや。それより話を進めよう。

 

『お前さん、サバイバルの経験は?』

「修行の一環で崖から突き落とされた事なら」

『スパルタ人か』

 

 流石にそれはスパルタ過ぎる。

 たぶん、こいつのフォンは実力で勝ち取った名前だな。実に良い。

 

『なら、問題は無いな。ここで三日三晩、自給自足で生き残れ。その結果次第で、お前の提案を受け入れるかを考えよう』

「その程度でよろしいので?」

『……油断は大敵だぞ、アデル・フォン・アスワング』

 

 気分はゆるキャンのアデルに、一言物申しておく。

 

『何でわざわざこんな所に連れて来たと思う?』

「……つまり“何かが居る”という事ですね?」

『そういう事だ。菖蒲は魔除けの植物。一部の妖怪……特に蟲系統の怪異が苦手としている。……言いたい事、分かるよな?』

「ええ、とても」

 

 つまりはそういう事だ。ここには“食べ残しておいた妖怪”を放し飼いにしている。餌もしっかり用意した。今頃は立派な“縄張り”を形成している事だろう。一種の“実験場”であり“牧場”でもある。そんな場所だ。

 アデルとカミーラは、今からその最中へ飛び込む。どうなるかは、想像に難くない。

 

「ようするに、そういう意味での(・・・・・・・・)サバイバル(・・・・・)という事ですか」

『そうだ。この廃村に巣食う妖怪共を蹴散らし、生き残れ。なぁに、優しい私は“ゴール”を用意してある。村を抜けた先にある、廃れた神社の鳥居を潜れ。そこに三枚のお札があるから、失くさずに私の下へ持って来い。そうすれば、一日でだってクリアと見做そう』

「何だか肝試しみたいですね」

『否定はしない。私の旧い宿敵(ともだち)の考えた最後の選別式を参考にしつつ、アレンジしたんだよ』

 

 本来の期間は七日間でゴールなど無く、妖怪ではなく鬼が出て来るのだが、そこまで再現する必要はないだろう。一週間も待つなんて、暇でしょうがないし。

 

『まぁ、尻尾を巻いて逃げ出したくなる時もあるだろう。道に迷うのも可愛そうだ。その時の為に、この「メダマッチャくん」を付けてやろう』

 

 さらに、親切極まりない私は、使い魔の一匹をナビゲーターとして付ける事にした。名前は「メダマッチャ」。こっちに来てから四番目に生まれた個体で、今では最古残の一匹である。あの鬼太郎との空中戦からも生還した強者だ(他の参加した50匹の使い魔たちは戦いの余波で全滅した)。これ程頼りになるナビゲーターは居まい。録画に命を懸けてるからな。

 

《よろしくダッチャ!》

 

 しかも、こいつ喋るぞぉ!

 

「語尾に色々問題があるような気がするのですが……」

『……お前、本当にベアード軍の最高司令官なのか?』

 

 実はただのオタクだったりしない?

 

「上司が好きなもので」

『ああ、ベア子か……』

 

 上司の趣味趣向に付き合うとは、君も律儀だねぇ。

 

『と、とにかく、そういう感じだ。……私に捕まるような妖怪に、まさか遅れは取らないよなぁ、最高司令官殿?』

「……その喧嘩、買いますよ」

 

 おうおう、中々気概があるじゃないか。ますます気に入ったわ。だからこそ、まずは実力で示してくれ。そうすれば、見え透いた嘘は許してやる。

 

「――――――言いたい事は分かりました。確かに、口だけでは信用出来ませんよね。ましてや、自分より遥かに劣るような輩と、対等に話すなど言語道断だと」

『そういうこった』

「……では、最後に一つだけ」

『うん?』

 

 すると、さっきとは打って変わって、心の底から疑問符が浮かんでいる表情で、アデルが聞いてきた。

 

「何故、菖蒲が苦手な筈の藤花氏を? 今にも死にそうなんですが?」

『いやー、苦しむかなぁって……』

「……では、行ってきます。付いて来い、カミーラ」『了解ですわ、アデル様』

 

 アデルは聞かなかった事にしたらしい。悪霊どころか、魑魅魍魎の跋扈する廃村に突入して行きましたよ。

 それじゃあ、鳴女さん式“最終選別”、はっじまるよ~♪




◆最終選別

 「鬼殺隊」の入隊試験の事。
 藤の花が一年中咲き乱れる「藤襲山」で七日間もサバイバルするのだが、問題はそこに仕掛けられた罠で、トラバサミとかクレイモアとかそんなレベルではなく、何と(一応は雑魚の)鬼がいっぱいいる。しかも、管理不行届きのせいで異能の鬼が一匹いる。産屋敷ちゃんと仕事しろ。文字通り、落第=死である。
 ちなみに、鬼を沢山倒せばそれでいいという訳ではなく、“どんな方法でも良いから七日間生き延びる”のが条件なので、死んだらまるで意味がない。生き意地汚い鬼共を相手にする以上、自分の身も守れないような奴では務まらない、という事だろう。それがトラウマになっている奴もいるのだが、それは良いのか?
 鳴女式はもっと簡単で、明確なゴールと合格条件が有り、それさえ満たせば三日も待つ必要はない。
 ……ただし、待っているのは、彼女が魔改造を施したガチの生物兵器(=妖怪)だが。


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アデルとカミーラの鳴女式最終選別試験①

 地球上で最も繁栄している生物は昆虫でアル。


 諸君、初めましての人は初めまして、既知の方は改めまして。

 私の名はアデル・フォン・アスワング。ベアード軍の最高司令官を務めている。生まれはフィリピン、育ちはドイツとアメリカ、今はベアード様のお膝下と、我ながら数奇な人生を辿っているな。

 そして、私は今、日本の何処とも分からぬ「奈落村」という僻地に来ている。連れて来た鳴女曰く“地図に無い村”だそうだ。都市伝説とかで良くある系統の話である。

 だが、ここには幽霊の類ではなく、妖怪が居るという。それも鳴女が手を加えたであろう、化け物たちが。

 そんな魑魅魍魎の跋扈する廃村を抜け、寂れた神社から三枚の札を持って来るというのが、今回鳴女から提示された条件だ。

 言うまでもなく、彼女を“こちら側”へ引き込む為の条件である。彼女はこのゲームをクリア出来たら、我々に協力してくれると約束してくれた。道中の活躍にもよる、とも言っていたが。

 ようするに、こちらの実力を示して分からせて(・・・・・)みろ、という事だ。非常に分かり易い。

 

 とても分かり易く、こちらを舐めている。

 

 この廃村に棲み付いている妖怪は、鳴女が敢て食べずに捕獲し、放し飼いにしている者ばかり。番犬どころか家畜以下の存在である。

 その程度なら何とか出来るよね、という挑発が透けて見える。

 しかし、だからこそやる気も出る。ここまで煽られて黙っているようでは、ベアード軍失格だ。

 ……それに、私には“丸子の確保”という重大な任務がある。こんなお遊びで躓く訳にはいかない。鳴女は外部協力者になり得るかもしれないが、あくまで最後は対立する敵同士なのである。

 

『へぇ、貴女使い魔じゃ最古残なの。だからそんなに流暢に喋れるのね』

《そうだッチャ。現存する使い魔は約千体だけど、同期と呼べる一桁台の兄妹はもういないッチャ。一番近い数字でも35番だし……皆、動画撮りの最中に殉職したッチャよ》

『戦場カメラマンみたいな人生を送ってるわね、貴女たち』

 

 だと言うのに、何を仲良くお喋るしているんだ、こいつらは。意気投合してるんじゃないよ。

 

「カミーラ……」

『あっ……す、すみません! ついつい話し込んでしまいました』

「いや、あのねぇ……」

『で、でも、妙な親近感というか、赤の他人のような気がしないんですよ! 何と言うかこう、ベアード様と楽しくお喋り出来ている喜びと言うか……』

 

 必死に言い訳をしているカミーラ。心身共に成長しているが、根本的には初めて出会ったあの頃から何ら変わりないようだ。三つ子の魂百までって言うからな。

 

「………………」

 

 だが、確かに言われて見ると、ベアード様に似ているような気も……ちっちゃいベアード様に角と手足が生えたような姿をしているし。仲良くする?

 ――――――いやいやいや、言ってる場合か。私はお話じゃなくて、お札を剥がしに来たんだよ!

 

「……集落に着いたな」

 

 そうこうしている内に、奈落村の集落跡に到達した。どの家も荒れ果て、蔦が巻いている。私だったら絶対に住みたくないが、逃避行中はこんな物でも有難いと思ったものである。

 しかし、ここに棲み付いているのは人間でも動物でもなく、もっとずっと恐ろしい妖怪だ。鳴女の性格的にロクな奴が居ないだろうから、気を引き締めて行かないと。

 

『……しかし、アデル様。売り言葉に買い言葉で来てしまいましたが、本当に苦戦を強いられるような展開になるでしょうか? 高が極東の島国にいる木端妖怪ですよ?』

 

 と、ゲーム自体には乗り気ではなかったカミーラが、不満を漏らす。

 まぁ、言わんとしている事は分かる。正直、私もこんな辺鄙な場所に閉じ込められている野良妖怪に遅れを取るとは思っていない。

 

「油断は大敵よ、カミーラ。獅子は兎を狩る時も全力で挑む。……それに、見せ付けるには丁度良い」

 

 良質なカメラマンも随伴している事だし、ね?

 

《二人共、あんまり舐めて掛からない方がいいッチャよ? 蟲妖怪は想像の百倍くらいは怖いッチャ》

 

 だが、使い魔のメダマッチャは慎重に忠告して来た。鳴女サイドだから、という理由だけではなさそうである。

 

『どういう事、メダちゃん?』

「メダちゃんって……」

『ああっ、す、すいません!』

 

 頼むよ、おい。

 

《そうねぇ、あたしとカミュちゃんの仲だし、少しだけあたしの経験談を聞かせてあげるッチャ!》

 

 あんたもかい。何なんだお前ら。

 しかし、古残の戦場カメラマンの体験談というのは為になる。文字通りの生き証人だからな。そこに国籍など関係ない。是非とも聞かせて貰おう。

 

《あたしが初めて接触した蟲系の妖怪は「槐の邪神」。伝承では通行人から金品を巻き上げる小物な奴だッチャ》

『「ただのチンピラじゃん」』

 

 何だ、その拭い様の無い小物臭さは。「邪神」の名は飾りなのか。

 

《ところがどっこい、その小物に、鳴女様は一度殺され掛けてるッチャよ》

『「ゑ?」』

 

 だが、メダマッチャから返って来た言葉は、想像を絶する物だった。

 あの鳴女が……鬼太郎とも互角に張り合ったという鳴女が、殺され掛けただと?

 

「俄かには信じ難いな」

《本当の事だッチャ。気持ちは分かるけどね》

『というか、主人の黒歴史をバラしちゃって良いの?』

《あの人は基本オープンだから気にしてないッチャよ》

 

 何それ、器が広過ぎませんかね?

 ……話を戻そうか。

 

「それで、何がどうしてそんな事に?」

《槐の邪神は、年月を重ね鋼鉄の鎧を持つようになったカブトムシだッチャ。昔は小銭を巻き上げて食っていたみたいだけど、今の世の中は良質な合金だらけだッチャ》

『だから、物凄く硬くなったと?』

《個体差は大きいけど、少なくとも10トントラックが衝突したらトラックの方が大破するぐらいのスペックは皆持ってるッチャ》

『「それはヤバくない!?」』

《しかも、何故か口から火砕流みたいな火を噴く上に、短距離なら素早く飛び回れるッチャよ》

『「もうロボットじゃん」』

《だから言ってるッチャ、油断するなって》

 

 うん、日本の生態系舐めてたわ。よくよく考えれば、オオスズメバチとか居るような環境だもんな。そりゃあ魔窟になるに決まっている。

 

《次に遭遇したのは「火間虫入道」ッチャね》

「何だ、そのニートみたいな妖怪は」

《まさにその通りだッチャ。火間虫入道は、穀潰しが生まれ変わった妖怪と言われているッチャよ》

『ニート・オブ・ニートじゃないの』

 

 選ばれしニートって、救いがなさ過ぎるだろ。

 

《だけど、こいつも馬鹿には出来ないッチャ。火間虫入道は元々、中国の「蜚虫(ヒムシ)」って妖怪が適応拡散した種族なんだけど……その正体は、真社会性のゴキブリだッチャ》

『「イヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」』

 

 別の意味で怖過ぎるぅ!

 

《伝承ではあくまで“生まれ変わり”だけど、実際は見捨てられて野垂れ死んだ穀潰しの死体を食って姿をコピーしてるんだッチャよ》

『「その情報はいらない!」』

 

 ちょっと想像しちゃったじゃないの!

 ウェッ、吐きそう……。

 

《しかも、最初こそちっぽけなゴキブリだけど、数を増やすと群体生物として行動するようになって、砕いても砕いても死なない上に、口から何でも溶かす粒子光線とか吐くようになるッチャ。あと飛ぶし》

 

 デスト○イアかな?

 芹沢博士に怒られるぞ。

 

《他にも「常元虫」や「絡新婦」、「疱瘡神」……色々な現場に立ち会ったッチャねぇ》

『「害虫退治の専門家じゃん」』

 

 下手すると、鬼道衆や鬼太郎より妖怪退治をしているのでは?

 良いのか、それで。

 

《……と、さっそくお出ましだッチャ!》

 

 すると、メダマッチャが退避の態勢を取った。流石に駄弁り過ぎたか。

 

『「………………!」』

 

 私たちも戦闘態勢に入ったのだが、

 

『アアァァ……』『オォォォ……』『ヴァァァ!』

『「何でゾンビ!?」』

 

 廃屋の中から這い出て来たのは、まさかのゾンビの群れだった。何故にWhy(フォワイ)!?




◆アデル・フォン・アスワング

 アニメ第6期に登場した、西洋妖怪軍団の最高幹部。種族としては魔女だが、バリバリの魔女っ子なアニエス(妹)と違って、甲冑と軍服で身を固めた、サーチ・アンド・デストロイしそうな見た目をしている。実際、潜在魔力こそアニエスに劣るものの、最高幹部の地位に相応しい実力を持っている。
 表向きはバックベアードに忠誠を誓い、ブリガドーン計画に必要なアルカナの指輪を持ち逃げしたアニエスにも厳しく当たっているが、本心は自らを犠牲にしてでも妹を生かそうとする、不器用な人物である。ツンデレって奴か。
 今作では本編では不明だったミドルネームやラストネームを勝手に設定。フィリピン生まれのドイツ育ちで、今はアメリカ妖怪の傘下に居るという、よく分からない生い立ちを得た。大分スパルタかつサバイバルな人生を送って来たようで、カミーラもその過程で救出した。
 ちなみに、「アスワング」とは英国圏でいう「ヴァンパイア」に相当する。


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アデルとカミーラの鳴女式最終選別試験②

 実は日本にも「ゾンビ」っているんでスヨー。たぶん本場の奴より質が悪いタイプのガネ。


《ゾンビじゃないッチャ。そいつらは「死人憑き」に寄生された動く死体だッチャ》

 

 さらに、空中へ退避したメダマッチャより注釈が入る。浮遊していた時点で分かっていた事だが、飛べるのか。

 というか、動く死体ならゾンビではないのか?

 彊尸(キョンシー)やグール、ワイトと何が違うのだろう?

 ……あと、動く死体の容姿が、どいつもこいつも零余子とよく似ているのは何故なのか。このゾンビ(ゾンビとは言っていない)って、もしかして――――――。

 

《もちろん、素材は零余子だッチャ!》

『配下の扱いに落差が有り過ぎない?』

 

 本当にね。チャラトミや丸子は丁重に扱ってるのに……。

 いや、それよりも今は目の前のビンゾー共だ。誰に似てようが、実はゾンビじゃなかろうが、襲って来ると言うのなら、迎え撃つまで!

 ……でも、直に触るのは嫌だから、魔法剣で!

 

「ハァッ!」

 

 私は一瞬でゾンゾンの群れを駆け抜け、擦れ違い様に全員を切り捨てた。動く死体に後れを取る程、鈍間じゃないのよ。

 

《あっ、そいつらに接近戦は……あーあ、やっちゃった》

 

 しかし、それは間違いだったらしい。メダマッチャがやっちゃったー、という顔をしている。

 

「えっ、それはどういう……ぷぱぁっ!?」

 

 一体何の事だと思ったら、直ぐに答えが分かった。

 

「蛆だぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 

 何と切り掛かったゾビンの中から、大量の蛆が降り掛かって来たのである。

 そう、こいつらの中身は骨以外の全てが蛆の塊だったのだ!

 

《死人憑きは死体に寄生する蠅の妖怪だッチャ。孵化と同時に幼虫のまま無性生殖して、肉を余す事無く食い尽くしてから、数珠繋ぎになって筋肉を代行して動き出すんだッチャよ》

『気持ち悪過ぎない!? 日本妖怪ってそんなのばっかりなの!? ……というか、アデル様ぁ! い、今、お傍に……い、いいい、行きたくないけど……参りまぁあああぁす!』

「本音が漏れてるぞぉおおおおおおお!」

 

 いや、でも、マジでお願い、助けてカミーラぁっ!

 

『「はぁ……はぁ……」』

《だから油断するなって言ったッチャ。蟲妖怪はこういう初見殺しな要素が結構あるから、慎重に行かないと駄目だッチャよ》

『「ハイ、以後気を付けます……」』

 

 その後、物凄く嫌そうな顔のカミーラに蛆を払ってもらい、どうにか一息付けたが、当然ながらメダマッチャから駄目出しを喰らった。言い訳の仕様が全くない。これには画面の向こうにいる鳴女もニッコリだろう。

 クソッ、私はベアード軍の最高司令官なんだぞ……様々な艱難辛苦を乗り越え、軍の実質的なトップに立ったんだぞ……っ!

 そんな私が、こんな無様な姿を衆目に晒すなどぉ……おのれ……謀ったな鳴女ぇえええっ!

 

《ちなみに、鳴女様からは『ノーコメントで』って言伝られたッチャ》

「おのれ鳴き女ぇえええええええっ!」

『お、落ち着いて下さい、アデル様!』

 

 ※しばらくお待ちください。

 

「済まない、カミーラ……幻滅したか?」

『い、いいえ、そんな事は……役得です』

「……何て?」

『アデル様は何時だってアタシの憧れの上司です!』

 

 嘘吐けぇ。

 だが、これで脅威は去った。ビンビンゾンビーはもういない。後はゴールを目指して進むのみ。

 そう、私はやれば出来る子なんだ……ひ、ひとりでできるもん……ね、舞ちゃん!?

 

《ボサッとしてる場合じゃないッチャよ。ほーら、おかわりが来たッチャ》

『「ヴェ!?」』

 

 ま、まさか、またサンゲリアが!?

 

『グヴォオオッ!』『カァルヴァッ!』『キィイイ!』

「あ、普通のモンスターだ」『何か逆に安心しますね』

 

 しかし、廃村の奥にある森から現れたのは、まさしく魑魅魍魎と称すべき化け物たち。牛鬼、濡れ女、太歳、唐獅子、馬頭鬼など、様々な他の妖怪の姿を取っているが、所詮はコケ脅し。気配で分かる。こいつらは死人憑きが化けた偽物である。

 そうと分かれば、

 

『「汚物は消毒だぁ!」』

『ヴギャアアアアアア!』

 

 私たちは魔法攻撃で魑魅魍魎の群れを焼き尽くした。例え中身が蛆のままだったとしても、破れる前に燃やしてしまえば良かろうなのだぁ!

 

『「ヤッタァーッ!」』

 

 嗚呼、こんなに嬉しい事は無い。私たちは、勝った!

 

《その考えは流石に甘いッチャよ》

『「エ、エスパー!?」』

《いや、今のお前らを見たら誰でも分かるッチャ……》

 

 すると、メダマッチャに物凄く呆れられた。何でだよぉ、ちゃんと敵倒したじゃんよぉっ!

 

《蠅は完全変態する昆虫だッチャ。死人憑きの成虫は内骨格を持っているから、厳密には昆虫じゃないけど、成長過程は昆虫の蠅と殆ど同じだッチャよ》

「え……?」『それはどういう――――――』

《動く死体は「幼虫」、さっきの怪物は「蛹」。なら、その先もあって然るべきじゃないかッチャ?》

『「それってつまり……」』

 

 ここからが本番って事?

 

 ―――――――ブゥウウウゥゥンッ!

 

 森の奥から、無数の羽音が聞こえる。蜂や蜻蛉の類ではない。……蠅だ。

 

『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』

『「うわぁ……」』

 

 そして、現れる――――――蠅の翅が生えた零余子の大群。

 なるほど、成虫になると“自分の内骨格”を持つ、という事か。衝撃の展開が続き過ぎて、もはや驚きもしないわ。ドン引きはするけど。

 ……多過ぎだろう、幾ら何でも。一体、何零余子が犠牲になったんだ?

 まぁいい、今楽にしてやる!

 

《馬鹿、下がるッチャ!》

 

 その時、メダマッチャが声を上げた。

 

『「………………っ!」』

 

 ほぼ反射的に飛び退くと、さっきまで立っていた場所が陥没した。倒壊寸前だった廃屋が完全にバラバラとなり、渦潮のようになった地面に呑み込まれていく。

 

『クヴォォオオオオン!』

 

 さらに、その渦中から土砂を間欠泉の如く噴き上げながら、とんでもない怪物が現れた。

 シラミバエを土台に、ツェツェバエやチョウバエにキノコバエなどの蠅類を雑多に組み合わせた、化け物としか言えない異形。体高だけで40メートルを超し、全長は100メートル以上もある巨体。胸部に備えられた零余子顔の卵たちが、どうしようもなく精神を抉る。

 まさに、蠅の邪神とでも言うべき姿だ。蠅の王は知っているが、まさか邪神までいるとは思わなった。世界は広いね、日本は狭いけど。

 ――――――って、考えとる場合かぁっ!

 

『「何コレェエエエ!?」』

《これが死人憑き――――――引いては魍魎の成長し切った姿……彼らの女王たる存在、「蠅声為邪神(サバエナス)」だッチャ!》

 

『クヴヴヴ……キャァアアアアアアアアアアアアッ!』

 

 そして、「奈落村」の女王――――――「蠅声為邪神」が雄叫びを上げた。

 

◆『分類及び種族名称:宇宙大怪獣=蠅声為邪神(サバエナス)

◆『弱点:不明』




◆死人憑き

 文字通り人の死体に取り憑く正体不明の存在。動いていても身体は腐っており、とんでもない臭いや汁に蛆を振り撒く傍迷惑な奴で、その癖に食べ物やお酒を遺族に請求してくる最強のニート。念仏やお祓いも全く通じないので、退治するには完全に死んでしまうまで閉じ込めておくしかない。
 鬼太郎のアニメでは「魍魎」が取り憑いた結果の存在として登場。最初は憑いた身体で動き回るだけだが、その内に仲間を呼び寄せ、近隣の住民にまで取り憑いて行き、最終的に村や町ごと呑み込んでしまう。
 今作での正体は、死体に食い込んだ蛆その物。無性生殖で瞬く間に死体の筋肉や内臓を食い尽くし、自分たちがその代役を務めて動き出す。やがて魑魅魍魎な蛹の形態を経て、人間に近い成虫となる。


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アデルとカミーラの鳴女式最終選別試験③

 悪魔のお耳は地獄イヤーッ!


「こ、こんなの有りか……!」

 

 目の前に聳え立つ、蠅の邪神に言葉を失う。こんなの聞いてなーい!

 

《蠅声為邪神は、遥か太古の昔に存在した邪神の一柱。素戔嗚(スサノオ)率いる神の軍勢に滅ぼされるまで、古代日本を支配していた、正真正銘の怪物だッチャ》

「本当に邪神なのか……!」

 

 太古の邪神と言えば、かつて閻魔大王が封印したという夜刀之邪神(ヤトノカミ)と同類じゃないの!

 

「日本の妖怪は、かつての邪神が零落した存在だと聞いてはいるけど……だからって、何で滅んだ筈の邪神がこんな所に!?」

《確かに、オリジナルの個体はとうの昔に滅び、今はその残滓である死人憑きたちが残るのみだッチャ。……だけど、鳴女様が捕獲して、ここで餌を与え続けてたら、いつの間にか最初の個体が進化したんだッチャよ》

「カブトムシみたいな感覚で邪神を育むなよ!?」

 

 夏休みの思い出にしてはスケールが大き過ぎるわ。鳴女の奴め、何て事をしやがる。

 

「これじゃあ、来訪者が復活する前に日本壊滅でしょうがぁあああああっ!」

『ギゴォォオオオアアアアッ!』

 

 だが、蠅声為邪神は私の嘆きなど聞いてはくれない。問答無用で襲い掛かって来る。サイズ差を考えて!?

 

「くっ……食らいなさい!」

 

 接近戦は100億パーセント無理なので、代わりに鉄硬弾(アイアン・バレット)を食らわせた。周囲の金属を弾丸状に圧縮して撃ち出す、謂わば砂礫砲(ストーン・バレット)岩石砲(ロック・ブラスト)の上位互換である。

 

 ――――――カン! カン! カン! カン! カン! カン! カン!

 

「ふざけるなよ貴様ぁあああっ!?」

 

 しかし、元が蠅とは思えない外骨格に弾かれてしまった。

 いや、マジでふざけるなよ貴様。高射砲(アハト・アハト)の連射を至近距離で浴びたような物だぞ。なのに、何で無傷なんだよ。ちょっとで良いから、掠り傷でも構わないから、ダメージがあってもいいじゃん!

 つーか、それは本当に鋼鉄の塊が当たった音なのかぁ!?

 

『アデル様! このぉおおおお……嘘ぉおおおっ!?』

 

 さらに、見兼ねたカミーラが即座に特大の火炎弾(ファイヤー・ボール)を放ったのだが、蠅声為邪神の表面に妖気の電流が走ったかと思うと、当たる直前に火炎弾を相殺してしまった。

 おそらく、一瞬で魔力の質を見抜き、相反する妖気をぶつける事で無力化したのだろう。ただでさえ硬いのにバリアまで張れるとか、流石は邪神、やる事が違うわね。

 

「飛ぶわよ!」『了解です!』

 

 どう考えても真面に戦って勝てる相手ではないし、このままだと普通に踏み潰されるので、とりあえず空中に退避したのだが、

 

『キャハハハハ……ギィシャアアアアアアアア!』

『「気持ち悪っ!」』

 

 顔面を縦に御開帳した零余子型死人憑きに群がられた。お前ら絶対に出る神話を間違えてるぞ!?

 

「ハァッ!」『タァッ!』

『グギャァアアアアア!』

 

 だが、流石に蠅声為邪神程の脅威ではなく、魔法剣や魔法攻撃で迎撃可能ではある。

 なるほど、普通ならこの段階までに討伐されてしまうから、神の領域には足を踏み入れられないのか。完璧に鳴女のせいじゃん。

 しかし、この数を相手にするのは厳しいぞ……!

 

『ホォォォォォオオオ……ッ!』

『「おかわりを寄こすなぁ!」』

 

 すると、外敵に対する緊急措置なのか、元より備わっている能力なのか、蠅声為邪神が胸部の卵から、幼虫や蛹をすっ飛ばして成虫の群れを追加しやがった。ふざけるなよテメェらぁっ!

 

「カミーラ、使い魔をっ!」『分かりました! 出番よ、お前たち!』

『キャキャキャキャキャ!』

 

 これでは埒が明かないので、カミーラに眷属の魔蝙蝠軍団を召喚して貰い、死人憑きたちの相手をさせる。どれ程持つかは分からないが、この間に本体を叩かないと!

 

『コヴォォォォ……キャァアアアアアアアアアアアッ!』

『「ズワォ!?」』

 

 だが、蠅声為邪神は何と味方諸共、使い魔たちを吹き飛ばしてしまった。頭部の触角が正面で組み合わさったかと思うと、集束したマイクロ波をビームと放ち、薙ぎ払ったのだ。

 ちょ、ちょっと待って……妖力と魔力の違いはあるけど、威力が初代ブリガドーンの主砲並みなんですけど!?

 こんなのに勝ったとか、嘘だろ鳴女ぇ!?

 

「仕方ないわね……」

『……やるおつもりですか?』

「背に腹は代えられん!」

 

 本当なら“その時”まで露見するのは控えたかったが、そうも言っていられない。“最終手段(きりふだ)”を使う。

 

『ハァッ! ……弾けて、混ざれぇ!』

 

 まずはカミーラに、圧縮した魔力を変じた特別な光球を作ってもらう。この球は簡易な満月のような物で、我々夜の一族の力を飛躍的に上昇させる効果がある。

 そして、私にとってはどんなドーピングよりも劇薬だ。

 

『セァアアアアアアアアアアアアッ!』

 

 そう、月の光が私の正体を暴き出す。輝く闇が我が身を怒髪天を衝く程の巨神へと変じさせる。地を見下ろす、血を吸う鬼こそが、我が血族の証である。

 つまり、月光の力で蠅声為邪神サイズに巨大化したのだ。まさに絶好調である!

 さぁ、未だに増え続ける死人憑きはカミーラに任せて、反撃開始だぁ!

 

『グヴォゥヴヴヴヴッ!』

『フヴゥウウウウウッ!』

 

 真っ向から組み合う、私と蠅声為邪神。地力は向こうの方が僅かに上だが、私には今まで培ってきた経験がある。大きさが同じなら、お前みたいな気持ちの悪い化け物、何体も屠って来たわぁ!

 

『キャァヴォオオヴッ!』

 

 蠅声為邪神が、手数に物を言わせた連打を放って来るが、当たらない。

 

『キャアアアアアアッ!』『フゥン!』

 

 さらに、至近距離からのマイクロ波ビームも、魔力を最大限に纏ったクロスガードで防ぎ切る。

 

『ハァアアアッ!』

 

 そして、お返しとばかりに、頭部目掛けて魔力光線をぶちかました。

 

『ゴヴォヴヴヴン!』『くっ……!』

 

 しかし、一発では斃れず、光り輝く触手のような物で反撃してくる。掠っただけでも皮膚が蒸発したので、直撃したら膾切りだろう。

 

『テァアアアッ!』『ガァアヴヴ!』

 

 さらに、隙を突いてもう一度攻撃を仕掛けたが、尚も斃れない。今度は身体の至る所から簡易なマイクロ波ビームを乱れ撃ちにしてきた。カミーラに当たったらどうすんだこの野郎!

 

『いい加減にしろぉっ!』『ガギャォォォ……!』

 

 そして、三度目の正直なのか、蠅声為邪神は三発目でようやく斃れた。限界を迎えた身体は粉々に砕け、塵も残さず消えて無くなる。死人憑きたちも、カミーラと使い魔たちが何とか退治してくれた。

 現代に蘇ってしまった太古の邪神は、今この時ようやく滅びたのである。

 

『――――――はぁっ!」

 

 私も限界を迎えて元通り。今の所、この形態を真面に運用するのは三分間が限度なのよね。

 

『お疲れ様です、アデル様』

 

 と、一仕事を終えたカミーラが労ってくれた。彼女も無事なようだし、これでようやく一安心――――――、

 

「ええ、貴女こそお疲れ様……って、あっ!」

 

 そこで、私はハタと気付いた。

 

『……ど、どうされました?』

「これ、絶対にお札も吹っ飛んだだろぉっ!」

 

 周りを見渡せば、菖蒲なんか一凛も残っていない焼野原。これでお札が無事なら奇跡に近いし、そんな事がある筈ない。

 何てこった、オーマイガーッ!




◆蠅声為邪神

 古代日本に蔓延っていた邪悪な存在の一柱。名前の意味は「蠅のように煩い声で喚く邪悪な存在」。謂わば八岐大蛇や土蜘蛛と同類であり、土着の神だった存在。素戔嗚が率いる神軍に滅ぼされたと言われている。絵では「T字頭の小鬼」のような姿をしているが、それが本当の物かは不明。
 今作では、蠅の合成獣を思わせる姿をしている。蠅の妖怪である死人憑きの最終到達点で、本来は死人憑き⇒魍魎⇒雷鳴蠅⇒蠅声為邪神と変化するのだが、大抵は雷鳴蠅までに討伐される為、復活する事はなかった。
 しかし、鳴女の面白半分の実験により人知れず再臨した……のはいいが、結局は誰にも知られる事なく倒された。
 ただし、高射砲でも焦げ目すら付かない装甲や妖力によるバリアも持ち合わせている他、マイクロ波に変換したビームを撃ち出すなど、その力は邪神と呼ぶに相応しい。


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アデルとカミーラの鳴女式最終選別試験④

 本日にて試験終了(早)!


 ――――――と、その時。

 

『お前さんたちの探している札ってのは、この三枚かい? 山奥の廃神社に納めておいたんだがなぁ……』

『「………………!」』

 

 何処からともなく、青髪の退魔師が現れた。その手には、「天邪鬼」と「ラクシャサ」が描かれた物、白紙の物、計三枚のお札が。

 こ、こいつは、まさか……!?

 

「え、えっと……どちら様でしょうか?」『………………』

 

 一先ず、知らない振りをする。カミーラにも動かないよう指文字を送った。

 

『俺かい? 俺は蒼坊主。流離いの退魔師さ』

『「………………」』

 

 やはりそうか。過去の記録に度々出て来た、鬼太郎の義兄にして戦いの指南役、蒼坊主。まさか、こんな所で、こんなにも消耗した状態で出くわすなんて……!

 

『見た所、アンタらは西洋の妖怪みたいだが、「奈落の谷」で一体何してやがった?』

「「奈落の谷」?」

 

 え、何それ知らないんだけど?

 

『……知らずに来たのか? 呆れた奴らだな。いいかい? 「奈落の谷」ってのは、地獄の亀裂(・・・・・)だ。あってはならない、奈落の綻び。だから(・・・)こうして幾らでも(・・・・・・・・)再生する(・・・・)

「なっ……!?」

 

 蒼坊主が呟いた瞬間、荒野と化した筈の奈落村が、元の姿を取り戻した。菖蒲の花が咲き乱れるのはもちろんの事、塵芥となった廃屋までもがテープの逆再生の如く復活する。この世の物とは思えない、異様な光景だった。

 なるほど、確かに“地獄の綻び”だ。奈落村を含む、この巨大な谷間の全てが次空の裂け目なのか。

 

『そんで、ここは「奈落の谷」の最南端。かつて“盗賊村”とも呼ばれた集落の成れの果てさ。ここには人間どころか、現世の妖怪すら近付かねぇ。そんな場所で、おたくら一体何してたんだい?』

「………………ッ!」

 

 どうしよう、史上最大の肝試しをしてたなんて、口が裂けても言えない……!

 

『――――――まぁ、事情はどうあれ、感謝はしてるさ。「奈落の谷(ここ)」は妖気が乱れ易いし、何より鬼太郎の面倒を見ていた最中とは言え、あんな化け物が息を潜めていたなんて、思いもしなかったぜ。本物の蠅声為邪神なんざ、妖怪図書館の資料でしか見た事ねぇよ、まったく……』

 

 ただ、鳴女が飼っていた蠅声為邪神とその一族の存在は、蒼坊主にとっても想定外だったらしく、何とも言い難い表情を浮かべていた。何か、ウチの協力者(予定)がスイマセン……。

 つーか、ここ鬼太郎の修行場だったのかよぉっ!?

 おのれ、マジで謀ったなぁ、鳴き女ぇえええっ!

 

『だからこそ、問いたい。太古の邪神をも打ち倒す西洋妖怪の二人組が、こんな所で札を探して、一体どうするつもりだったんだい? ……道に迷って間に合わなかった身で手前勝手だとは思うが、場合によっちゃあ生かして帰す訳にはいかねぇなぁ?』

「うぐっ……!」『アデル様、お下がりを……!』

 

 マ、マズい、こんな方向音痴に捕捉されてしまうとは……ッ!

 カミーラも大分草臥れてるし、本格的にヤバいのではないか!?

 

 ――――――べべん!

 

『そういう訳にはいかんなぁ、蒼坊主さん』

 

 まさに絶体絶命というその時に、鳴女が襖を開いて現れた。配下のチャラトミ(ヴェノム)や零余子(痣者)を引き連れて。……藤花たちは居ないようだ、良かった。

 

『……お前さん、鳴女か』

 

 出現と同時に放たれた、怪電波のような妖気を感じ取ったのか、蒼坊主が冷や汗を垂らしながら、錫杖を構えた。

 

『ほぅ、自己紹介の必要は無いようだな。大方、鬼太郎から話でも聞いてたって所か』

 

 だが、鳴女は気にも留めない。まるで、蠅でも見るかのような冷やかさである。

 

『鬼太郎からは瀕死に追い込んだって聞いてるが?』

『そんなもん、湯治したら全快したよ。むしろ、前よりもっと身体が軽いくらいさ。いやー、素晴らしい効能だわ』《また入りに行きます?》『……いや、今度は海に行きたいな。サンオイルでも塗ってくれ』《喜んで♪》

「あんたら、真面目にやれよ……」

 

 さらに、このふざけっぷりだ。内容が完全に世間話である。

 ……そう言えば、ベア子様とヴィクターが丸子たちと交戦した時、鬼太郎に胴を一刀両断されて殺され掛けたんだっけな。

 話を聞く分には、おそらく魂まで傷を付けられた筈なんだけど、例えその温泉がエリクサーだったとしても、湯治だけで回復するのはおかしくないかな!?

 あと、せめて蒼坊主を会話に混ぜてあげて。物凄く真剣な分だけ、可哀想になってくるから。

 というか、逃げて蒼坊主、これ絶対に勝ち目無いから!

 

『フーム、それにしても、まさか鬼太郎とバッティングしちまうとはな。便利だから使って来たけど、やり過ぎた感もあるし、そろそろ別の実験場でも探すかぁ……』

 

 おい、“新しい部屋でも探すかぁ”みたいなノリで、地獄を量産しようとするな。普通に迷惑だろ。

 

『俺がそれを許すとでも思ってんのかい?』

『お前の許可なんぞ必要ない。そして、アデルたち(こいつら)も渡さない。この二人には充分に楽しませて貰ったからな。札は勝手に取られてたようだし、合格としてやろう』

『「………………!」』

 

 しかし、ここでこの混沌過ぎる場に暁光が。

 

「鳴女殿、それはもしや……!?」

『ああ。正式にバックベアードと会談してやろう。細かい事はそれからだな』

「………………ッ!」『やりましたね、アデル様!』

 

 ――――――やった!

 まだ話し合いの段階だが、こちらのテーブルに着いてくれる気になったか!

 明らかに無様を通り越した醜態を面白がったってのが丸分かりで滅茶苦茶腹立つけど、それはそれ、これはこれだ!

 ……ならば、最早この場に用はない。

 

「それでは、日程の調整に入りましょうか」

『そうだな。立ち話も何だし、この場は退散しよう』

 

 そういう事になった。

 

『くっ……!』

 

 黙って見ているしかない、蒼坊主を尻目に。流石に戦力差は覆せないわよねぇ?

 ともかく、やってやったぞ。このまま上手く話しを持って行けば、アニエスは……!

 

「アニエス……」『………………』

 

 そう、私たちの戦いは、これからだッ!




◆奈落の谷

 かつて閻魔大王がヤトノカミを封印した時に出来た戦いの余波であり、千年以上経った今でも残る爪痕である。ここでは地獄から漏れ出る瘴気により妖気が乱れまくっており、基本的に何が潜んでいても、直接五感で確かめない限り発見する事は出来ない。また、妖気と瘴気が混じった結果なのか、永遠に枯れる事の無い菖蒲が咲き乱れ、どんなに焼かれても元の風景に戻ってしまう。
 奈落村はその最南端に位置し、在りし日は「盗品で富を得た蛇神信仰の村」だったのだが、朝廷により討伐される寸前に腹癒せとして復活させたヤトノカミによって諸共滅びた。ポツポツと並ぶ廃屋は数少ない当時の名残だ。
 ちなみに、鬼太郎が修行していたのは最北端で、奈落村からは大分距離があった為、アデルたちが暴れるまで、鳴女が夏休みの宿題をしている事は、物理的に気付きようが無かった。それどころじゃなかっただろうしね。


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