知られることのない話 (まるイワ)
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魔法少女ストーリー
近くて遠くて、出会わない人




ほんへでは拾わない設定なので初投稿です。





 

 

 

 

「ねー、見てみこれー。ね!」

 

「あー?」

 

 

休日。今日も先輩の家に集まった私達だったけど、何をするわけでもなく、のんべんだらりして過ごしてた。

 

そんな時、マジ子のやつが無駄にはしゃぎながら、自分のスマホの画面を見せてきた。そこに映ってたものったら…

 

 

「なんですこれ。赤ちゃんですけど」

 

「まさか…マジ子ちゃん、の…?」

 

「えー!んなわきゃないじゃーん!」

 

 

カワイイっしょ〜?なんてニヤニヤしながら、赤ちゃんの画像を更に見せびらかす。まぁ、なぁ。可愛いは可愛いだろ、そりゃあ。

 

 

「で、それはなに。出所さんは?」

 

「親戚!の、子供!去年産まれたんだけど、一歳になった記念にサツエーしたシャシン、見せてもらったんだって。おかーさんがメールで言ってる」

 

「へー」

 

 

は〜。産まれたてのバブちゃんかぁ。その親戚の人も、我が子が可愛いだろうなぁ。

 

この写真の子は両親からの愛情を受けて、親子の思い出を重ねながら育つんだなって思うと、なんか羨ましいっつーか。色々思い出してこう…ね。

 

 

(いや、今はやめとこ)

 

 

軽く首を横に振って、気分をリセットする。めでたい話題の時に、こんな気持ちになるもんじゃない。

 

 

「なんか、良いですわね。こういうの」

 

「こういうのって?」

 

「こうして何かあれば近況を伝え合って、温かい気持ちになって…。赤の他人の私ですらそうなるのですから、マジ子さんのお母様ともなれば尚更」

 

「そういうもんですかねぇ」

 

 

頬杖ついて、チビが言う。まぁ 学生の身じゃ理解しづらいよなぁ、そういうのって。かくいう私も、親戚に対してどうこうなんて気持ちは全然だし。

 

自分が楽しかったり面白かったり、それが一番大事って年頃ってことなんかな。今はまだ。

 

 

「あ、そーだ!シンセキって言えばさー」

 

「うん?」

 

「実はカミハマにも居るんだよね、アタシの親戚」

 

「へー。てことはなに、こっち来てから会ったりとかしたわけ?」

 

「んーん。どこに住んでるか分かんないから…」

 

 

え、なにそれ。住所が分からんってことか?

 

 

「その親戚の方がお引越しをして、そのまま…とか?」

 

「や、それがさー。何年か前までちゃんと親子ソロって暮らしてたみたいなんだけど、なんかいきなり…」

 

「親子ね。子供の歳は?」

 

「今は10…2、3とか、そのくらいかも。キレーなキンパツでさ!サイゴに会った時は、ウシさんのぬいぐるみダイジそうにしてて」

 

「牛」

 

「家族でボクジョー…だったかな。そこに行った時に買ってもらったやつなんだって!」

 

 

宝物…ってやつか。子供らしいじゃん?まぁ、それはそれとしてさ。

 

 

「で?結局、その親戚、今はどうしてんだよ?聞く限りじゃ、お子さんはまだ中学に上がったばっかくらいだろ?」

 

「住所が分からないのでしたら、マジ子さんのご家族にでも尋ねるとか…」

 

「や、だから!マジで分かんないんだって!アタシのお母さんともたまにレンラク取り合ってたはずなのに、ほんと、なんかいきなりさ…」

 

「ふーん…」

 

「まだカミハマに居るんだったら、会ってみたいんだけどな〜。顔見たらゼッタイ分かると思うし!」

 

 

『そーいや、チームに入る前に一回だけイッショに遊んだ、ヨーヘイやってるっていう魔法少女がその子にマジ似てたんだよね!タニンの皿煮?ってやつだろーけどさー』

 

マジ子のやつは、そうやって話を締め括った。なんつーか、元気だといいよな。住所不明なのも、変な理由じゃなきゃいいけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あのさ、みんなのシンセキってどーなん?話してたら、なんかマジで聞いてみたくなっちゃった!」

 

「んー?」

 

 

マジ子の話を聞いてから、少し経った後。年長さんの作った、いわゆる3時のおやつってやつを堪能したところで、マジ子が切り出した。

 

 

「そう面白いエピソードがあるわけでもないのですが…」

 

「いーの!アタシが聞きたいから。センパイのとこってどんな感じ?」

 

「私の親戚、ですか…」

 

 

先輩は閉じた口元に人差し指を添える仕草をしてから、また口を開く。

 

 

「その…香春グループって、ご存知ですわよね?」

 

「さぁ」

 

「知らないです」

 

「ハル…ハルマキ?」

 

「おバカさん達…」

 

 

先輩の顰めっ面。失礼だな。なんだよお前、グループだかを一つ知らないくらいで。

 

 

「あ…知ってる、と、思う。あれだよね?すっごい、有名な、その…お金持ち?」

 

「流石年長さん。ええ、そうです。この神浜でも有数の一大グループ。分かりやすく言えば、スーパーセレブといったところでしょうか」

 

「ふーん…そういや、先輩も金持ちの家だもんな。冷食とか食ってばっかだから忘れてたわ」

 

「…ま、いいでしょう。事実ですものね」

 

 

今は年長さんの美味い飯ばっか食ってるけど、時たまあの味が恋しくなるんだよな。それはともかくとして。

 

 

「で、そのグループが親戚ってことなんです?」

 

「ええ。そこの御令嬢が、私と歳も近くて。通っていらっしゃるのは、聖リリアンナなのですが」

 

「へー、マジで超お嬢様じゃないですか。すっげー」

 

「おチビさん貴女、せめてスマホの画面からは目を離して…」

 

「その…どういう、人。なの?お嬢様…」

 

「あ、はい。それはもう、所作や言動から育ちの良さが窺い知れる立派な方で…」

 

 

『年に一度くらいはお会いする機会もありますし、なによりあの知名度でしょう?マジ子さんのように安否を気にする…ということもありませんわね』

 

先輩の話は、そんな感じで締められた。話をしている時の先輩は、ちょっと嬉しそうな顔をしてた気がする。

 

 

 

 

「じゃ、次は年長さん!聞かして聞かして〜!」

 

「あ、うん…。いい、けど…」

 

 

マジ子が体を左右に揺らしながら、話をせがんでる。ちょっとうざったい動き。

 

私はといえば、ただ話を聞いてるのも暇になってきたから、チビのやってるスマホゲームの画面を眺めてた。

 

 

「えと、私…実は、全然会ったこと、ない…」

 

「シンセキ?一回も?」

 

「あ、その…一回、だけ。子供が居て、その子…すごい小さい頃、に…」

 

 

あー、そういうパターンね。先輩ともマジ子とも違う、交流が極端に少ないやつか。

 

 

「でも、その。住んでる、から…ここ。神浜、に」

 

「あら。でしたら、お会いしに出向いたりとか…?」

 

「ん…。休みの日に、一回。話も、した。…お子さん、会えなかった…けど」

 

「あら、それは…」

 

 

『出掛けていて会えなかった』って、年長さんは続けた。

 

どうもその家の子供、最近は休日の外出が増えて、平日には帰りが遅くなることもあるらしい。工匠学舎に通ってるんだそうだけど…。部活動かなにかかね。

 

 

「その、プログラム…とか。あと、ロボット…とか。そういうの、好きなんだって。一緒に住んでる、おじいさん…にも。懐いてて」

 

「ハイテクじいちゃんっ子かぁ〜。アタマよさそ〜!チョークールなテンサイだね!マジで!」

 

「どーですかねー。案外根暗でオタク気質な陰キャかもしれませんよー」

 

「もう…。失礼ですわよっ」

 

「うん…。良い子、だよ。絶対。会ったこと、ないけど。きっと…」

 

 

『あんまり、オープンな子じゃないみたい…だから。会ったの、あの子がまだ赤ちゃんの頃…だったし。覚えて、ない…だろう、から』

 

子供の方には会わないのかって聞いたら返ってきた、年長さんの答えがそれだった。年長さんは、ちょっと寂しそうだったけどね。

 

 

 

 

「じゃ、次はおチビちゃんのばーん!」

 

「んー?」

 

「ちょ、もー!マジでゲームばっかやってないでさー!」

 

 

マジ子、先輩、年長さんときて、どうやら次はチビのターンらしい。や、本人まだゲーム弄ってるんだけど。

 

 

「ふー。しゃーなしですね。いいですよ、ちょうどデイリー消化のハシゴも、イベ周回も終わりましたし」

 

 

息を吐き出したチビはスマホをスリープモードにして、自分の親戚について語った。

 

 

「蛇の宮ってとこがあって」

 

「それ、街の名前ですか?」

 

「まぁ、そんなようなもんです」

 

「…っ」

 

 

おっと、蛇の宮。蛇の宮と来たか。生まれ故郷の名前を出されて、ちょっと吹き出しそうになったのを抑えた。

 

 

「私の親戚の一家が、そこに住んでて」

 

「うん…」

 

「住んでるんですよ。はい」

 

「………え、終わり!?」

 

「はい」

 

「マジで!?」

 

 

潔いなこの小学生…。まぁ 語るべき思い出も碌に無いってんなら、なんも言えないけどさあ。

 

 

「ま、それは冗談として。そこのお宅の人とはあんまり会ったことないんですよね。親戚の集まりに参加してはいたんでしょうけど、気付かなくて」

 

「お前はその集まりで、ゲームも漫画もアニメも無いもんだから、シャイガールなフリして縮こまってたと」

 

「………」

 

 

図星か…。や、まぁ…。用意された菓子の飲み食いくらいしかすることないかもだしな。話に花を咲かせるのは大体が大人達だから。私にも覚えがある。

 

 

「…あ、でも」

 

「ん。なになに?」

 

「1…か2回くらいでしたかね。珍しく蛇の宮に集まった時に、会ったことがある人が居て」

 

「若い人?」

 

「はい。歳上のお姉さんなんですけど、なんか気まずそうにしてて。母親から、私の面倒見るように頼まれた時も嫌そうで…」

 

「あー…」

 

 

歳下の扱いってどうしたらいいか分かんねんだよな。特にチビみたいなのは。こいつがメンバーになった時期のことを思い出す。

 

 

「で、まぁその人の部屋に渋々通されるわけじゃないですか。そしたらその後、特に会話も無くですね」

 

「うわぁ…」

 

「ただ、貸してもらったゲームは楽しかったです」

 

「ゲームって」

 

「一人用のゲーム機を貸してもらって、それぞれ独りで遊びました。ゲームが好きだったみたいで、ハードもソフトも部屋中にいっぱい…」

 

 

そりゃあ…なんとも残念というか、「えぇ…」みたいな…。

 

 

「時々私の方チラチラ見てた辺り、本当は二人でやりたかったのかな〜なんて、今になって思ったりしますねえ」

 

 

『お互い住んでる場所が遠いし、あのお姉さん個人の連絡先も知りませんからね。確かめようもありませんよ』

 

 

チビはそう言ってた。そのゲーム好きの親戚のことは、特にどうとも思ってなさそうに。いつ会うかも分からない人間のことだ。そんなもんかもな…。

 

 

 

 

 

 

「んじゃ、最後ね!赤ちん、どーぞ!」

 

「私ぃ〜?」

 

「赤ちんだけ聞かないわけにはいかないっしょ〜!ほーら、マジで答えちゃってって!」

 

「ん〜…」

 

 

皆の親戚話を聞いてたら、なんだかんだでもう夕方だ。

 

解散の時間も近いし、私には語れるようなエピソードなんてないし、このまま…なんて思ったけど、そうもいかないらしい。

 

いやぁ、でもなぁ…。んん〜……。

 

 

「あれ、どったの?聞かせてよ。赤ちんの親戚のこと」

 

「………知らねー」

 

「えー?」

 

「知らねーの。ねーよ、親戚の思い出なんて!」

 

 

話を強引に打ち切って、立ち上がる。ちょうど催してたのもあって、花摘みにでも行くことにした。

 

 

「あー!ちょっと!この人逃げる気ですよ!」

 

「ずーるーいー!赤ちんずーるーいー!」

 

「あー、はいはい。うるせーうるせー」

 

 

お子様二人の講義の声は適当にあしらって、リビングを出た。

廊下を歩く最中、考える。

 

 

(本当に無いんだよなぁ…。親戚の話)

 

 

なんでかってそりゃあ、私が幼過ぎて記憶がぼんやりしまくってるのもある。でも、それだけじゃないんだ。

 

 

(私の幼少期は…)

 

 

親を…、大好きだったお母さんを失って、ひたすら塞ぎ込んでた時間だったんだ。傷ってやつだよ。

 

そこに触れるようなこと、自分から話したいわけないだろ?

 

 

(…や、待てよ?一つだけ…)

 

 

目的地を示すドアの前に立ったところで、思い出した。私の、親戚のエピソード。話すことはしないだろうけど、挙げるとすればこれかなっていうもの。

 

 

「あれは…葬式…?」

 

 

葬式。そう、確か葬式だった。お母さんの。

 

お母さんを失った直後だったのもあって、私は人目も憚らずにそりゃあもうビービー泣いてた。

 

心配してくれた人もいたはずなのに、とにかく悲しくて、それを泣き叫んで形にすることしか知らなかった当時の私には、気付くことなんて出来なかったんだろうな。

 

 

(でも、一人だけ気付けた…はず)

 

 

「泣かないで」って、すっごいか細い声だった。それだけはよく覚えてる。

 

後は、親。親…のはずだ。親に大事そうに抱っこされてた…ような。髪は黒…?黒…だよな?

 

正直親戚かどうかも確証はないんだけど、自分とこの子供も連れて葬儀に出てくるってことはまぁ、親戚なんじゃないのかなぁ…。

 

 

「だーめだ。思い出せね…」

 

 

涙やら鼻水やらで視界もはっきりしなかったし、チラッと顔向けて、またすぐ塞ぎ込んじゃったしなぁ…。

 

 

「ん〜…子供の名前、聞かされた気がするんだけどなぁ。なんつったか…」

 

 

結局それは思い出せないまま、用を足す為に、私はドアを開けた。

 

 

 

 

 






『なんだっけかなぁ…なんかこう、カッコいい名前だったんだよ!こう………「燃え上がれー!!」みたいな!』




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プロローグ:幾度目かってほどでもない魔女
0-1 魔法少女




アニレコ2期が始まるので初投稿です。


 

 

 

 

神浜市。九つの区画から成る、人口300万人以上を誇る新興都市。人も、建物も、自然も、歴史も、この都会には詰まっている。

 

テーマパーク、海岸、大型量販店、そして各種催し物もあるから、遊びやデートにはうってつけ。美術館や昔のお城、美味しい料理が食べられるお店だって沢山あって、観光にもピッタリ。だがそんな大きな街で日夜、人知れず戦い続けている者達が在った。

 

魔法少女。自らの願いと引き換えに、魔女なる怪物と戦う使命を課される、特異な力を持つ少女達。彼女達という存在は、この大きな街の、決して見えない部分の、その象徴だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁっ…はぁっ…!」

 

 

この世のものとは思えない、不気味な景色の中を私は走る。何故ってそりゃ、魔女から逃げるため。

 

 

「くっそ!なんでこう…!」

 

 

愚痴をぶー垂れながら後ろを振り返ると、こっちに少しずつ追い付いてくる魔女が見える。いやぁ、なんでかなぁ…。もうちょっとこう、華麗に、見事に、カッコよく決めるはずが。

 

 

ザリザリ…!ザリ!

 

 

「あ、ちょ、こら…ぶっ!」

 

 

砂同士が擦れたような鳴き声を上げながら、魔女が砂を投げて、しかも竜巻まで放ってきた。いつまでも距離が空いたままだからって焦れたのか。いや、当たってないし別にいいけど…。問題はそこじゃない。

 

 

「!」

 

 

目を腕で覆う。やられた。攻撃は外れたけど、地面の砂が勢い良く舞い上がって、自分がどこを走っていたのか分からなくなってしまった。目を守らなきゃならないから、視界が狭まる。風の音がするってことは、周囲をあの竜巻が固めているに違いない。足止められたぞ、クソ!

 

 

ザリ!ザリ!

 

 

やがてかなり近くから聴こえてきた、魔女の声。風は止んで、舞う砂もマシになって、すぐに声のする方を見る。すると居た。私に影を落とす、大きな姿。

 

 

「あー…」

 

 

間抜けな声が出て、近い分よく見えるなぁなんて場違いな感想を抱く。砂で出来た身体、腕、顔。なんか刺さってるスコップはオシャレか何か?でもそれなんか子供っぽくない?

 

そんな馬鹿みたいなこと考えてる内に、魔女は御自慢のデカい腕を振りかぶっていた。あーあー、何だかんだしぶとく生き残ってきた私も、今度ばかりはお陀仏かぁって思った。けど…

 

 

「死ねるわけねーよなぁ……こんなんでさぁ!!」

 

 

腹から声出して、得物に魔力を込めつつ思い切り打ち込む。魔女の腕と私の得物がぶつかる。魔女と魔法少女、似てるような違うような二つの力が激突して、私の目の前が白く染まった。

 



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0-2 ピンチと先輩

 

 

 

 

意識が覚醒する。そうなったってことは、今まで気絶でもしていたってことなのか。まだ少し寝ボケ気味な脳みそを奮い立たせて、あれやこれや思い出そうとする。…そうだよ、魔女と戦ってたんだ。そんで…、私と魔女の攻撃がぶつかって…。

 

 

(とにかく起きなきゃな…!)

 

 

何はともあれ確認だ。状況を把握しなきゃいかん。そう思って身体を起こしていくけど、なんだか妙に重さを感じて、少しだけ手間取った。ざぁーっと音を立てて、積もった砂が落ちる。重さの原因はこれか。私の上に、随分砂が乗っていた。

 

 

「………」

 

 

あの時お互いの攻撃がぶつかって、その衝撃で吹っ飛ばされて、その辺の砂を引っ被ったんだろう。体は少し痛むけど、その程度で済んだのは魔法少女様様と言うべきなのか。

 

服や髪についた砂を払って、地面に立つ。結界を見渡す。魔女は居なかった。

 

 

(逃げた?…無いか。仕留めたと思い込んで、どっか行っちまったかな)

 

 

それとも…

 

 

(あの人の方に行った…?)

 

 

だとしたらマズい。使い魔を引き付けてもらってて、ただでさえ手一杯のはず。そこに親玉なんて来ちまったら…。戻らなきゃ。そう思って走り出した時だった。

 

ドバァッと盛大に吹き上がる地面の砂が、私の行く手を塞いだ。何だよと思ってよく見れば、さっきの魔女がそこに居た。

 

 

ザリ…ザリ…!

 

 

見つけたぞとでも言いたげだ。私が姿を見せるのを待ってたんだな。というか、その巨体を隠せるだけの深さがあるのか、この地面は。いや、当たり前か。結界は棲家で、魔女は創造主。自宅くらい、自分の都合の良いように作る。

 

 

(心配が杞憂に終わったのは良しとして)

 

 

いや、良かない。さっきのカチ合いで魔力を使い過ぎた。倒せるならと思って多めに込めたのにこれだよ。チラッとソウルジェムを確認すると、案の定濁っていた。

 

 

「やるしかないか」

 

 

静かに呟いて、気持ちを切り替える。まぁ、やるっつっても倒すってわけじゃない。そもそも、さっきのぶつかり合いで目立った傷も付けられていない時点で、私一人で勝てる相手じゃないのはハッキリしてる。無理をしてでも、味方に合流するんだ。二人ならまだどうにか出来る。はず。

 

魔女が次々放ってくる砂をどうにか避けながら、魔女の横側を通り抜けようと走る。地面の砂が舞い上がるけど、どうせ私を隠してはくれない。気にせず走った。

 

 

「んっ!」

 

 

逃げようとしたのが分かったのか、魔女が私の進路を塞ぐように腕を振り下ろした。何とか踏み止まる。当たらずに済んだぞ、バカめ!

 

内心小馬鹿にしながら、降ろされた腕に飛び乗る。勝った。これは勝った。そう確信して、脚に力を込めて勢い良く飛ぶと同時に、まんまと出し抜かれた、お間抜けな魔女様の御尊顔でも拝んでやろうと、頭を後ろに向けたその瞬間、顔に何かぶつかった。

 

「んぶぇ」なんてアホ丸出しな声を出しながら、自身が落下する感覚を覚える。次の瞬間には柔いんだか硬いんだかな感触。地面に落ちたんだ。ダメージはあるけど、無事っちゃ無事だ。良かったよ、砂だらけの結界で。

 

 

「んん"……何だっつーのほんと…」

 

 

呻き声を上げながら立ち上がる。いや、原因は分かってる。ぶつかって来たのは多分顔だ。でも魔女のじゃない。あの瞬間、私は見た。奴の肩の辺りだ。目を凝らして、さっき飛び乗った腕から肩へと視線を移す。

 

やっぱり居た。魔女と同じく砂で出来た、芋虫のような体躯。使い魔だ。奴が狙い澄ましたみたいに、私の顔にあのジャリジャリしたドタマをすっ飛ばしやがったんだ。

 

 

(過ぎたことは仕方ねえ。魔力は取っときたかったけど、一発ブチ込んでその隙に…!)

 

 

そう思って得物を構えるけど、魔女の方が早く動いて、砂で腕ごと弾かれた。これってもしかしなくても…

 

 

「詰んだかな」

 

 

冷や汗を流して後ずさる。魔女は私に再び武器を構えさせまいと、威圧するみたいに砂を巻き上げ始める。ついでに使い魔も魔女から下りて、こっちににじり寄ってくる。体を軽くクネらせて、心なしか嬉しそう。よかったな!

 

 

「良いわけないじゃん!!」

 

 

半ばヤケになって天に吠えても、誰も応えるわけがない。あーダメ。もう死ぬ。死んじゃう。魔女は攻撃体制に入ってるし、使い魔は嬉しさのあまりか、奇妙な小躍りを始めている。何だアイツは…

 

そうして諦めの境地に完全に至ろうとした時、私と魔女の間に何か割り込んできた。洒落たデザインのフレームと、嵌め込まれた硝子。そしてその中に灯る明かり。カンテラだ。しかも見覚えのあるやつ。

 

これから起きることを察して、腕で顔を庇う。次の瞬間カンテラは勢い良く爆ぜて、中に詰まった魔力があちこちに散らばる。あろうことか私の方にも飛んできて、その熱を伝えて来た。

 

 

「あっつ…!や、あつ、熱い!!」

 

 

堪らず勢いよく後ろに転がって、服や髪が燃えていないか確認する。とりあえず問題無いこと、命拾いしたことに対して深く溜め息を吐いた、その直後。

 

 

「生きてますこと?」

 

「死んでるように見える?」

 

「そうなってたかもしれませんでしょ」

 

「…ああそうだよ」

 

 

軽口を言い合って、話しかけて来たやつの方を見る。ここに来たってことは、使い魔は倒すなり撒くなりしたってことか。

 

灰色がかった紫色の髪。ふわふわ波打ったロングヘアーを、右サイドで結んである髪型。フード付きのマントを纏って、パープル系のカラーで統一されてる衣装は、コスプレなんかじゃない。魔法少女の証だ。

 

フリルが使われたゆったりめの衣装だけど、魔法少女って言葉のイメージに反して派手じゃない。でも似合ってるんだよね。

 

 

神浜に来て1年くらい。今やすっかり見慣れた顔が、そこにはあった。私が「先輩」と呼ぶ、魔法少女の姿が。

 

 



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0-3 ダメダメな私達

 

 

 

 

「つーかさ」

 

「はい」

 

「さっき使い魔にぶつけられたんすけど」

 

「あらそうなの」

 

「引き付けるっつったなぁ!あんたなぁ!?」

 

「道中のものならともかく、魔女の近くに居るやつをどうこう出来るわけがないでしょう」

 

 

正論だ。何か言い返そうとしたけど、この場所に来る前、先輩に「なーに、すぐ倒してやるって!待っとけ!」とか自信たっぷりに言っといてこのザマなもんだから、何も言えない。滅茶苦茶に恥ずかしくなって、唸るだけで終わった。顔が熱い。

 

先輩はそんな私を見て色々と察したのか、それ以上特に何も言ってこない。でも、口元のニヨニヨとした笑みを隠しきれてない。この女…。

 

 

「ま、でも…」

 

「うん?」

 

「…助かった。ちょっと心配もしてた。……ありがと」

 

 

目を逸らしながら感謝する。癪だけど助けてもらったんだし、礼は言わないと。多分顔すっげ赤いよなぁ…小声気味にもなっちゃったし、大丈夫かな。そう思っていると、先輩が軽く噴き出した。

 

 

「なに」

 

「あなた結構ちゃんとしてますわよね、そういうとこ」

 

「あー?」

 

 

苦笑いを浮かべながら言う先輩。いいだろ、ちゃんとしてたって。大事だろ。何故さっきからこうも顔から火が出そうな目に遭わなきゃならないんだ。

 

 

「とにかく!合流出来たんだから、さっさと魔女倒すんだよ」

 

「ん。ですわね」

 

 

いい加減に話を打ち切って、魔女の方を見る。さっきの不意打ちで使い魔は倒され、魔女の体勢は崩れた。今しかない!

 

 

「先輩!」

 

「よろしくてよ!」

 

 

それぞれが自分の武器を構えて、一気に魔女へ向けて駆け出す。追い詰められた時、魔力を使わせてもらえなかったのが逆に良かった。これで終いにする!

 

気合いも充分に私は自分の得物、パイルに魔力を込める。後は先輩の攻撃と一緒に、魔女の身体にこれをぶち当てるだけ。行ったれぇ!!

 

私のパンチに少し遅れて、パイルに込められた魔力が、衝撃と共に撃ち込まれた。

 

 

 

 

 

………いきなり私の目の前に飛び込んできた、先輩の尻に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーもー!つっかれましたわねぇ!」

 

「そっすねー」

 

 

すっかり夕暮れに染まった景色の中、変身を解いて、制服姿で帰路に着く私達。先輩の言葉に適当に答えつつ、少し後ろに下がって彼女のケツを盗み見ると、腫れているような気がしないでもなかった。私のこの胸に抱いた罪悪感が、そう感じさせるのかもしれない。

 

 

「魔女も取り逃してしまいましたし!」

 

「ピンッピンしてたな…」

 

 

結局あの後、尻をパイルでぶっ叩かれた先輩は、痛え痛えと叫びながら吹っ飛んで、魔女に激突。一応は魔女に一撃食らわせることが出来たけど、直後にヤツは元気良く逃げていった。次こそ同時攻撃を受けたらタダじゃ済まないと判断したのかも。

 

 

「貴女にも責任あるんですのよ」

 

「それ言ったら、いきなり目の前に降ってきたあんたも悪いだろ…」

 

 

ジトっとした目でこっちを見る先輩。でも私が言ったように、この人が変なことしなきゃ上手くいったんじゃないの…?

 

 

「そもそもなんであんなことしたんだよ。私と被らない位置なんて幾らでもあったろ」

 

「貴女が地なら、私は宙からと思って飛んだのですけど、その…直前で砂に足を取られて、上手く跳べずに…」

 

「えー……」

 

 

なんだそりゃ…確かにあの結界は地面まで砂だらけだったけど、魔法少女の脚力に影響する程じゃないだろ。何だその情けない話は。……や、待て。

 

先輩が来るまで、あの魔女はやたらめったら砂を撒き散らしていた。竜巻だって繰り出してきたんだから、風の影響を受けた砂があちこちで積もって、塊になってるってこともあるかも。そしてそうさせたのは、私が魔女を倒せなかったからで…

 

待て。待て待て。私と先輩で5:5だと思っていた責任の比率が、まさかの6:4…いや、最悪7:3くらいかもしれないなんてことは…!

 

 

「ま…、結局お互い悪いのですし、責任だって半々ですわね」

 

「えっ……あ、はい!そうっすねぇ!半々!半々…」

 

「なんですのこの人…」

 

 

先輩が半々だって言うんだから、それに便乗させてもらう。痛み分け万歳。平等万歳。半分こにして分かち合う。なんて素晴らしいことなんだ。

 

 

「なぁんか腹減ったなー」

 

「じゃ、何か食べてから帰りましょっか」

 

「その前に浄化しなきゃだな」

 

「手持ちのグリーフシードも心許ないですわねー…」

 

 

これ以上この話題は続けまいと、さっきから感じてた空腹感を口にしてみる。先輩も同じだったのか話に乗ってきて、この後の予定について話し合う。魔女を逃した悔しさも、いまいち連携が取れない残念さも、今は忘れよう。

 

学校に行って、二人で魔女と戦って、言い合いになって、一緒にご飯食べて…でも未だに一つになりきれなくて。

成り行きで組んだ私達だけど、私にとっても、先輩にとっても、そんな毎日が当たり前になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

後に人伝で知ったことだけど、私達が今回逃した魔女は紆余曲折の末、宝崎から来た魔法少女が、神浜の魔法少女と一緒に倒したらしい。これが実力の差か…

 

 



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第1章:はじまるかもしれない赤さん
1-1 彼女の朝


 

 

 

 

自分は今、夢を見ている。それを自覚したのは初めてだった。珍しいこともあるんだな。

 

 

『無事ですか?貴女、見ない顔ですわね。この街の方?』

 

『んだよあんた…違ったらどうだってんだよ』

 

 

これは先輩と初めて会った日のこと。思えばこの時も魔女に苦戦してたっけな。そんで先輩に助けてもらった。

 

 

『あら、貴女この前の。奇遇ですこと』

 

 

流石夢と言うべきか、急に場面が変わった。何日か後にまた先輩に会った時だ。この日は早く神浜に慣れようとして、あちこちブラついてた。この時、前に助けてもらったことに感謝した。そしたら…

 

 

『……意外と律儀』

 

 

こう言われた。大事だろ、お礼は。この後も何回か一緒に戦ったり、ばったり遭遇したりがあって、自然と交流も増えてったんだよな。で、ある時、いっそ組んでみないかって提案されて、OKして…。

 

そんなこともあったなーなんて浸ってると、また急に別の場面になった。…これは今まで、何度か夢に見たことがある。秋の日なのか、紅葉が舞ってる。空はどこまでも青くて、良い天気。でも私は、この景色が嫌いだった。

 

 

『大丈夫…。大丈夫だからね…だって…』

 

 

苦しそうな、でも何処か芯の強さを感じさせる声が聞こえた。親子らしき二人が倒れてる。母親は血を吐いていて、娘はそんな母親を見て泣いてる。夢だからなのか、娘に語りかけている言葉を、上手く聴き取れない。

 

母親が娘の頭を撫でる。死にそうだってのに、娘へ向ける顔はとても穏やかで、優しい。この人が自分の子供を心底愛してるんだなってことが、よく分かる。

 

 

『お母さんは…あなたのこと、ずーっと…』

 

 

最後まで微笑んだまま、やがて女性は目を閉じて動かなくなった。それを見て、胸の奥が酷く締め付けられる。だから嫌なんだ、この光景を見るのは。あの時自分に力があればって、悲しくて悔しくて仕方なくなるから。

 

母親は文字通り私のお母さんで、娘は幼い頃の私。この場面はつまり、そういうこと。私のお母さんが、亡くなった時のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

目が覚めた。夢のせいで、気分は最悪。こんな気持ちで朝を過ごすのかと思うと、憂鬱でならない。それでも学校には行かなきゃならないんだからと、身支度の為に起きる。

 

まずはスマホを手に取って、ホーム画面へ。メッセージが届いていた。

 

 

「…」

 

 

送り主の名前を見て、また少し嫌な気分になる。その人は何も悪くないのに。結局返信をする気にはなれなくて、メッセージを一瞥するだけで終わり。いつものことだ。晴れない気分のまま、私は制服を手に取った。

 



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1-2 ひとつ屋根の下



ここから少しの間先輩視点なので初投稿です。


 

 

 

 

『本日は気温も丁度良く、とても過ごし易い一日となっており…』

 

 

何となく流している天気予報を適当に眺めながら、食卓にて食後のお茶を飲む。早く起きたお陰で、朝の時間にこんなにも余裕が出来ている。なんて素晴らしいこと。

 

 

「あの子、まだ起きてきませんのね」

 

 

小さく呟いてみる。いつもは大体私より少し後くらいに姿を見せますのに、今日はなんだか違うみたい。まぁ、昨日あれだけ馬鹿やってお互い疲れたのですから、致し方ないことかも…

 

 

(決して1人だけの朝食が寂しかったとか、何処か味気ないような気がしたとか、そういうことではありませんわ。えぇ、決して!)

 

 

大体、彼女とは大して仲が良いというわけでもないのだし。ご飯くらい一人で平気に決まってるでしょう、幼い子供じゃないのですから!

 

 

「……はよ」

 

 

そうやって私が一人で内心荒ぶっている中、彼女は起きてきた。一人じゃなくなって、私の心が少し嬉しさを感じている気がするのは、まぁ気のせいとして。

 

まだ眠そうな目をしてるけれど、彼女の姿は今日も変わらない。大東学院に通うことを示す黒い制服に、セミロングというには少し短く、ボブというには少し長い、中途半端な黒い髪。気の強そうな赤い色の瞳は、彼女の粗暴な性格を表していると言えるかもしれない。

 

顔自体はむしろ可愛らしいのだから、もっと角の取れた、マイルドな人当たりになってほしいなと思うところではありますわね。

 

 

「遅くてよ。昨日のことで疲れちゃいましたの?赤さん」

 

 

私が決めた、彼女のあだ名を口にする。『あだ名で呼び合えば、ちっとは仲良くなれるかもしんないし』とは、この子の弁。実際仲良くなれたのかは、よく分からない。

 

 

「別に…。いただきます」

 

「そう」

 

 

短く答えて、食卓に着いて、朝食を食べ始める赤さん。何だか元気が無いように思える。嫌な夢でも見たとか?だとしたらお気の毒。

 

 

「つーかさ、やっぱ赤さんはねえよ。赤ちゃんみたいだろ」

 

「何よ。だって貴女、変身した時の衣装が真っ赤じゃありませんの。だから赤さん。分かり易いというのは良いことですわよ」

 

「センスがねーの、センスが」

 

「じゃあ貴女の『先輩』は!」

 

「あんたの方が歳上なんだから先輩だろ」

 

「発想が安直…」

 

 

もう何度似たようなやり取りをしたのか。でもこんな言い合いをする割にあだ名が一向に変わらないということは、本当はもうそれでいいやって思ってるってことなんでしょうね。それでも少し納得いかないから、取り敢えず口に出してみてるだけで。

 

 

「ごちそうさま」

 

「お皿は水張っておいてくださいね」

 

 

食事を済ませた赤さんは、「帰ってきたら洗いますから」と続けた私に返事を返さず、食器を下げるとそのまま歯を磨きに行った。話は聞いていたようで、食器には水が張られていた。

 

 

 

 

 

 

そろそろ家を出る頃合いになった。赤さんと二人して玄関に向かい、靴を履いて外に出る。しっかりと施錠して、家の敷地を出るまで歩いたら、そこからは別行動。

 

 

「じゃ、放課後に調整屋で落ち合いましょ」

 

「ん。じゃね」

 

 

投げやりに手を振って、赤さんは自分の学校へと向かった。私も登校しませんと。そう思い歩き出した。あの子は大東。私は水名。住んでる家は同じでも、向かう場所は正反対だった。

 

 

 

 

 

 

昼休み。外に出て、登校の際に買った昼食をいただく。嗚呼…私も赤さんも、料理が出来ないばかりにこんな…。朝は冷凍食品のおかずと市販のバターロール。昼はコンビニで買ったもの。夜は外食か店屋物。

 

お金ばかり持っているから、食べ物が買えなくなるということはありませんが、水名女学園に通う、うら若き乙女がこれでは…。

 

 

(……三食きちんと食べられるんだから、ありがたいことですわね)

 

 

そう思うことにして、思考を切り替える。赤さんは今何をしているのか。そういえば、大東学院ではどのように過ごしているのか、聞いたことはなかった。わざわざ聞くこともないかもだけれど、気にならないと言えば嘘になる。

 

というかまず、私の家で暮らしていることだって、よく分からない。組んで戦うようになって、魔女退治ついでに赤さんが私の家に出入りすることが増えて、そうしたらある日いきなりあの子が言った。「ここに置いてくれ」って。

 

確かに私の家は一人暮らしをするには広過ぎて、はっきり言って持て余してはいましたが、流石に理由くらいは知りたかった。結局、話してはくれませんでしたが。

 

私が「自分のお家があるでしょう」と返すと、渋い顔で黙りこくってしまった辺り、家には帰りたくないということなんでしょうけど…。

 

 

(流石に踏み込めないですわよね…)

 

 

そう結論付けたところで、昼食を摂り終える。午後からの授業に備える為に、校舎へ戻った。

 

 



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1-3 二人の放課後

 

 

 

 

授業も終わり、放課後になった。予定通り調整屋へ向かうことにする。側から見れば、部活動の一つもせずにさっさと帰宅する、青春を捨てているようなやつだと思われているかも。

 

一時は箏曲部なんて、何か優雅でお嬢様っぽいし、良いのでは?なんて考えたこともあった。でも、部長になった同級生が、後輩への指導やら何やらで忙しそうにしているのを見て、ド素人の私が入って迷惑かけるのもなぁと断念した。今ではいい思い出。

 

何故か自害しようとしている変な生徒を尻目に、学校を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「神浜ミレナ座」という文字が目に入る。調整屋の拠点である建物。外観は寂れていて、改めて見ても、人なんて出入りしているようには見えない。扉を開け、中に入った。

 

青く照らされた室内が、私を迎える。部屋の中に鎮座しているソファに、赤さんは座っていた。先に来ていたらしい。水名の方が圧倒的に調整屋には近いはずなのに、なんてお早いこと。まさかサボっただなんてことは…

 

 

「おっすー」

 

「お待たせしましたわ」

 

「ん。あ、そういやさ、渡しちゃったんだけど」

 

「構いませんわよ」

 

 

調整の対価として、グリーフシードを、ということでしょう。問題無い。そもそもここを待ち合わせ場所に指定したのだから、調整はしてもらうつもりでしたし。まぁ、残量に余裕があるわけではないのですが。

 

 

「強くなりまして?」

 

「いやぁ…よく分かんね」

 

「でしょうね」

 

 

調整は何回か受けているけれど、私も赤さんも、自分の魔力が強化されている実感をあまり得られていない。調整屋さんに話したことはないのですけれどね…。

 

 

「今は誰か調整を受けてらっしゃる?」

 

「一人ね。私は知らない人」

 

 

ここで取り引きされている品を間近で眺めながら、赤さんと話す。これらも魔力の強化に使うんだろうか。色取り取りの、大小様々な宝石。中には、鍵や何かの羽、不思議なマークの書いてある、綿のようなものまで。何でしょうねこれ…。

 

 

「はいお終い。それじゃあ、また来てねぇ」

 

 

そんな事を考えていると、聞き慣れて久しい声がした。どうやら、どなたかの調整が終わったらしい。振り返ると調整屋さん、そして部屋の出口に向かう、知らない女の子の姿が見えた。栄総合学園の制服を着ている。画材道具らしきものも見えた。絵を描く人なのでしょうか。

 

 

「あら。新しく、お客様がいらしてたのねぇ。貴女も調整する?」

 

「あ、はい。先約等が特にありませんのでしたら、是非」

 

「はぁい。じゃあ一名様、ごあんな〜い♪」

 

 

調整屋さんが良いと言うので、私もなけなしのグリーフシードを渡し、調整を受けることにする。赤さんにはもう少し待っててもらいましょう。

 

 

 

 

 

 

「はい、これでお終い。楽にして大丈夫よぉ」

 

 

少し経って、調整が終わったことを告げられる。貴重な時間を割いてもらったのだから、お礼を言いませんとね。

 

 

「ありがとうございます、調整屋さん」

 

「いいのよぉ、お仕事なんだから。どう?魔力の方は」

 

「ええまぁ、はい。調子はよろしいかと」

 

「そう!なら良かったわぁ」

 

 

嘘をついた。いいんです。私が感じられないだけで、実際はモリモリと魔力が強まっているのかもしれませんでしょう!

 

 

「そういえば、赤ちゃん、だったかしらぁ?上手くやってる?」

 

「赤ちゃんて…。はぁ…まぁ、それなりに?」

 

「これからも2人で戦うなら、コネクトもどんどん使っていくといいわよぉ」

 

「コネクト、ですか…」

 

 

一度説明は受けた。自分と仲間の魔力を合わせ、様々な力を発揮させる戦い方。性質は個々人で様々、かつ強力らしいけれど、噛み合わないことが多々ある私達では、上手くいく気はしませんわね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

調整屋を出て、我が家へと歩を進める。今日という日も、すっかり夕暮れ時。

 

 

「あ、先輩。そういや昨日、冷凍庫チェックしたらさぁ、冷食なくなりそうだったぞ」

 

「……そのことなんですが、赤さん」

 

 

昼間のことを思い出してしまった…。私の嘆きを訴えた所でどうにかなるとは思えないが、一応切り出してみる。

 

 

「何。まさか、疲れたから買いに行くのメンドいって?朝飯、パンだけになんぞ」

 

「いや、そうではなく」

 

「じゃ、金が勿体ないとか?そりゃ金って大事だけど、冷食買うくらいで、金持ちのお嬢様がそんなみみっちいことさぁ…」

 

「………」

 

 

はいぃ?人の気も知らないで……あーもう、いいですわよ。知るもんですか。毎日食えて、生きられるのなら、日々の食事が出来合いでも何の問題も無いのですわ!上等でしょう!

 

 

「何言ってますの。買って帰ろうと提案するところでしたのよ!」

 

「そうか。あ、じゃあさ、私あれ食べたい。肉団子の中にマヨ入ってるやつ。甘辛いタレがまた良くてさ」

 

「あぁ、あれ。いいですわねぇ!じゃあ私は小さいイカの天ぷらを…」

 

そう言い掛けた時、魔力の反応を感じ取った。赤さんと顔を合わせる。間違いない。魔女が近くにいる。しかも随分と慌ただしく反応が移動している。これは…。

 

「先輩!」

 

「わかってます!」

 

 

魔女は恐らく逃走中。しかも手負いの可能性大。でしたら好都合。グリーフシード、補充させて頂きますわよ!

 

冷食のことは一旦忘れて、魔女の反応を追いかけた。

 

 





マギレコ本編の出来事

・第1章【はじまりのいろは】開始。いろはが神浜に来訪。


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1-4 追いかけて、追い詰めて



ここからまた赤さん視点なので初投稿です。


 

 

 

 

魔女を追いかけて、ついに何処かの路地裏に追い詰めた。何処だよここ。中央区あたり…?いや、それは何でもいい。いいんだけどさ…

 

 

「あ"ぁ……!はぁ…はぁ…!」

 

「うげぇぇ…何、で!こんな…疲れなきゃならねんだ…!」

 

 

魔女が速過ぎた。最初こそ割と近くに居た筈なのに、もの凄い勢いで離された。先輩の見立てだと、手負いの可能性が高いらしい。だとすりゃ、生き死にかかってんだもん。そこを追ってきた奴らが居るなら、全力で逃げるよな…。

 

 

「はぁ…ようやくちょっと落ち着きましたわ。また逃げられちゃ堪りません。ちゃちゃっと退治しましょ」

 

「あいよ…」

 

 

返事して、変身して、結界へと侵入する。結界に描かれていた紋章のようなものを見て、「何処かで見たような…」って先輩が呟いてた。

 

 

 

 

結界の中に降り立って、すぐに魔女の元に向かう。今回の結界は中々にファンシーというか、少女趣味というか。そんな感想も程々に、向かってくる使い魔を蹴散らして進む。

 

 

「この前の魔女の結界と違って、使い魔の数は多くはありません!適当に相手するくらいでもよろしいですわ!」

 

「そんなに魔力も使えないし…なっと!」

 

 

飛びかかってきた、紙で出来たような使い魔に、魔力を込めたゲンコツをくれてやる。私のパイルは、威力はあっても使い勝手が悪くて、こういう時には殴る蹴るに頼らざるを得ない。使うタイミングが大事だ。

 

 

(でも今日は今んとこ上手くやれてる。こういう時の先輩、頼りになるよなぁ)

 

 

先輩が司令塔として、ある程度方針を決めながら戦うのが私達のやり方。つっても、作戦や連携がピッタリハマったことなんて、片手で数えられる程度だったけど。割と長いこと一緒に戦ってるのに、肝心なところでダメになる。

 

それはきっとお互いに、相手を理解してないから。普段上っ面だけは仲良く出来てても、本当に深い部分では、相手を突っぱねちまってるからだと思う。相手に踏み込ませなかったり、自分から遠慮とか躊躇とかして退いたり…。

 

そう考えると私、先輩のこと、何も知らないんだな…。

 

 

「あのさー!先輩!」

 

「はい!」

 

 

追ってくる使い魔に向けて、先輩が放ったカンテラが爆発する音を聴きながら、話しかける。

 

 

「これよく考えたらマズくねえ?」

 

「えっ」

 

「魔女が手負いかもってことはさー、戦って追い詰めてた奴らが居たかもってこったろ?そいつらからしたら私ら…」

 

「あっ…。だ、大丈夫ですわよ!だいぶ追いかけましたけど、私達の他に、何かを追っているように見える魔法少女なんて、影も形も無かったじゃありませんの!」

 

「でも居るかもしんないだろ。魔女倒して結界出て、そこで偶然鉢合わせとかしたらさぁ…腹いせで、とか…」

 

「ていうか今そんな話いたしますぅ!?」

 

 

自分の頭に過った考えから目を背けて、代わりに適当な話題を出しちまったけど、先輩には刺さったらしい。その辺のこと、ちゃんと考えてたんだろうなぁ…必死に走ってたら忘れたってだけで。

 

 

 

 

 

 

使い魔を程々に倒しながら走り続けて、結界の最深部らしい場所へと到達した。魔女の姿もよく見える。

 

 

「居ますわね」

 

「ボロボロだな。先輩の予想、大当たりってことかね」

 

 

やはり既にダメージを受けているらしい。兎みたいに見えるその魔女は、立派な長い耳がヘタれてて、肌は薄汚れて、着こなした服やリボンは破れたり解れたり…。見てて可哀想なくらいだ。体育座りしながら泣いてるし…

 

そんな魔女の周りを、鳥のような使い魔が何体か囲んで、ちょっかいをかけている。道中でも度々倒したけど、何なんだあれ。ホベーだのミャンだの、よく分からん言葉を喋るしさ。この兎みたいな魔女の手下ってわけでもなさそうだけど。

 

 

「いや、今はどうでもいいか…」

 

「赤さん、魔女は動く様子を見せません。私の攻撃で、魔女の逃げ場を無くしましょう」

 

「その後は」

 

「出し惜しみして逃げられるのは避けたいですから、連携にて一気に仕留めるのが一番かと」

 

「わかった。じゃあそれね」

 

「追い詰められているのです。パニックになって反撃してくるということも…」

 

「そん時ゃそん時よ」

 

 

要するにその場合のことはノープラン。でもあれこれ想定し始めたら終わらないだろ。いいんだよこれで。

 

 

「…分かりました。ではっ!」

 

 

先輩が懐からカンテラを何個か取り出して、魔女に向かって投げる。やがて魔女の周囲で爆発して、飛び散る魔力の光で、魔女が見えなくなった。

 

 

「うし!」

 

 

今の攻撃で、奴は不意を突かれたはずだ。その隙を狙って、一気に接近する。ただ、問題はさっき話してた反撃のこと。カンテラ爆弾で倒せてるんなら、それはそれで良いんだけど…。

 

そんな風に思ってる時に限って、危険ってのはやってくる。魔力の残滓を切り裂いて、魔女の耳が、私の顔に向かって伸びてきた。

 

 

「ぬぐっ!」

 

 

咄嗟に顔を逸らす。頭に軽く擦れはしたものの、直撃は避けられた。後方に飛んで距離を離そうとしたけど、その場でケツから倒れ込んじまった。よっぽど攻撃の勢いが強かったらしい。

 

 

「!」

 

 

煙のように漂う残滓が散って、魔女が姿を現す。両腕をしきりに動かして、かなり慌ててるように見える。そんな中で私の姿を発見したもんだから、更に動きが忙しなくなる。無理もないけどさ。

 

でも現状ピンチなのは私の方。こんなになるまで追い詰められてるなら、次はヤケになって暴れ回るなんてことも…!

 

そう思った次の瞬間には、私のすぐ近くまで、魔女の両耳が伸ばされていた。

 

 





マギレコ本編の出来事

・いろはが結界内でかえでと出会う。二人で結界から撤退した。


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1-5 暴れ兎

 

 

 

 

避けられない。そう悟って腹を括った。直後に私を、とてつもない衝撃が襲う……はずだったんだけど。

 

 

「…………あ?」

 

 

柔い。すごい柔い。むにゅーんって音がするくらいソフトな感触。なにこれ。困惑しながら、こんな素敵な耳をお持ちな方のほうを見ると、顔がバックリと割れていた。なにあれ。何か見えてるけど、まさか中身なのか?

 

 

「赤さん!」

 

「先輩」

 

 

後ろから呼びかけられて振り返る。こっちに駆けつけて来た先輩を見て、そういえばと思い出す。どうして魔女の耳があんなに柔らかかったのか、納得がいった。固有魔法だ。

 

先輩の固有魔法は「軟化」。名前の通り、対象を柔らかくする。攻撃には向かないけど、こういう時には便利だ。先輩が、魔女にその魔法を使ったんだな。

 

 

「はぁ…。何とか間に合いましたわ…」

 

「正直ダメかと思った。…ありがと」

 

「いえ、それはいいんですけど」

 

「あ?」

 

「いえ、ですから、そろそろ軟化が」

 

 

言われてすぐに立ち上がって、体に触れっぱなしの耳に、力いっぱいの蹴りをくれてやった。痛がった魔女が怯んで、隙が出来た。

 

 

「今か!?」

 

「あ、ちょっと赤さん!連携は!」

 

チャンスと思って、魔女の懐に飛び込む。今なら当たる。そう確信して、パイルに思いっ切り魔力を込める。もらったぞ!

 

「!」

 

 

そう思ってブチ込んだ渾身の一撃だったけど、魔女のやつは嘘みたいな反応速度を見せて、両腕を交差させて防いだ。流石に腕にはダメージが入ったようだけど、それじゃ意味がない。

 

 

「マジでか…。って!やば…!」

 

 

防がれるなんて思ってなくて、少しショックを受ける。だから、敵の目の前で一瞬でも隙を作っちまった。それを見逃す魔女様じゃない。駄々っ子みたいに、両腕をブンブン叩き付けてくる。

 

 

「痛いたいたいたい!いった…ちょ、いった…ぐっほ…!!」

 

 

かと思いきや、お次は見事なボディブロー。頭を守っていて、ボディがガラ空きなのがいけなかった。完全に体勢が崩れた私に、魔女は締めのアッパーを放った。

 

 

「ぶっ…!!」

 

 

良いのを貰っちまった。成す術無しでぶっ飛んで、地面に叩きつけられる。くっそ、思っくそしくじった…!

 

 

「赤さん!大丈…げぇっへっ!」

 

 

先輩が私のところに来ようとするのを、手伝ってあげるとばかりに魔女が繰り出した、見事なヘッドバット。横っ腹に思いっきり食らって、私の傍にすっ飛んできた先輩。女の子が出しちゃいけない声だったぞ、今の…。

 

 

「う……ぐっ…」

 

「あっ…か、さん…」

 

 

んなことよりも、ヤバい。これは本当に。魔女を倒すどころか、こっちが殺される…!情けないし悔しいけど、今度はこっちが逃げるしか…。

 

でも奴はそんなこと許してくれないらしい。両耳を大きくのばして、私達を滅多撃ちにする。

 

 

「っ……!!づっ…ぁ…!」

 

「…っ……ぅ…!っ……」

 

 

絶え間なく痛みが襲って来る。魔女の耳が激しく打ち付ける中で、言葉にもならない呻き声しか上げられなくなった私達は、ただそれを受け入れるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どれくらい時間が経ったんだろう。気付けば、魔女の攻撃は止んでた。私も先輩も、幸い生きてはいるみたいだ。でも意識は朦朧としてるし、身体も倒れたまま全然動いてくれない。それでも何とか頭を持ち上げて、魔女を探す。

 

見つけた。魔女は私達っていう外敵をボッコボコにして一安心らしい。さっきまでのパニクった様子は何処へやら、悠々と逃走に入ろうとしているところだった。

 

それを見て、「あぁ、また上手くいかなかった」なんて感想が浮かんでくる。何でなんだ…。相手が反撃してくるのは想定してたし、慢心だって…まぁ、少しはしてたかもしんないけど。

 

 

(そういや、一人で突っ走っちゃったんだよなぁ……)

 

 

耳を蹴って、魔女の懐に突っ込んだ時だ。あれがそもそも間違ってたんだよな…。先輩が連携するって言ったのに聞かないで、倒せると思っていきがって、突っ走って…。何やってんだ私は。ちゃんと先輩の言うこと聞いてりゃあ…。

 

…いや、そうしたってダメだったと思う。結局、最後には崩れてたと思う。今までほとんどそうだったんだから、そう考えずにはいられない。それはやっぱり、私と先輩が、お互いを信じ切れてないから。

 

上辺だけ。何となく仲良くしてるつもり。一緒の家に住んでて、一緒にご飯も食べて。会話はするし、買い物にも二人で行く。でもこいつが何なのか知らないし、私のことは知って貰わなくていい。そんな、形だけのコンビだから……。

 

そんなやつらが一緒に戦ったって、長いこと続くわけなかったのかなぁ。そう思いながら、持ち上げた頭を下ろして、目を閉じた。

 

 





マギレコ本編の出来事

・いろはがかえでから話を聞き、結界を追跡。誘い込まれて、逆に結界に捕らわれた。


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1-6 私と貴女で決めたこと



ひとまずこれで書き溜めは尽きたので初投稿です。


 

 

 

 

(いや。いやいやいやいや。ちがうだろ。そうじゃねえだろ。)

 

 

自分にそう言い聞かせて、全身を無理矢理に再起動させようとする。私の腕、私の脚、私の体だ。だったらさっさと動くんだよ!

 

 

(確かに私と先輩ってバラバラだけど、それでも生き残ってきたし…。まぁ、お互いミスだって何回もやらかしてきたけどさ…)

 

 

何とか動いたけど、ガクガクと震えてしまう手脚。辛い。苦しい。やめてしまいたい。隣を見ると、先輩も頑張って立ち上がろうとしていた。多分私と同じで、すっごいしんどいんだろうな。

 

 

(そもそも、仲良しこよしが出来ないから何だってんだよ。出来なきゃ組んじゃいけませんってか?そんなわけ…)

 

 

何くそと思って四肢に精一杯力を込める。立とうとする。でもダメだ。どうしても足りない。あと少し、あと少し何か、私達を奮い立たせてくれるものがあれば…!

 

 

(でも他のチームの子って皆仲良さそうだったしなぁ…連携もばっちりっていうか…。しかも強かったし…。私達とは違うよなぁ…)

 

 

その「何か」を探さなきゃならないのに、浮かんでくるのはチームがどうのという話。そんなこと考えてる場合じゃないのに、そこから頭を切り替えられない。そんなレベルまで追い詰められてるってことなのか。

 

 

(それじゃあ、なにか。仲良しなんて域にも達してない私達は、一生このままだってか。魔女は満足に狩れない。狩れてもどうせおこぼれが大半で、最後にはどっかで野垂れ死に。それが関の山だってか?)

 

 

終いには「ルミナスも出来ないやつらにゃ無理無理」なんて、見えない誰かにそう言われてる気がして、だんだん腹が立ってきた。いや、ルミナスってなんだ。どっから湧いたワードなんだ。

 

 

「ふざ、けんな……」

 

 

思わずそう呟いたら、なんか力が漲ってきた気がする。そしたら何かもっと腹が立ってきて、思いっきり叫んでやりたくなった。

 

 

『ふざけんなああああああああああ!!!』

 

 

私も先輩も、そうやって叫んで一気に立ち上がった。ついさっきまで指の一本すら動かせなかったはずなのに、怒りのパワーってのは大したもんだよ。鼻だの口だのから血が出ているのも、気にならない。

 

 

「せぇんぱあああああああああい!!!」

 

 

湧き上がる衝動をそのままに、相方のあだ名を叫びながら、魔女の元へ全速全開で走る。身体が動いたとはいえ限界には違いないけど、幸い魔女は私達の大声に驚いて、足を止めている。今度こそ決めなきゃいけない。それしか考えられなかった。

 

 

「ぬあああああああああああああぃ!!!」

 

 

先輩も、普段の言動や態度が嘘みたいな咆哮を上げた。あの人の方を振り向かずに、パイルを地面に向ける。残った魔力のほとんどを注ぎ込んで、そのまま打ち込んだ。

 

 

「っ!!」

 

 

地面に叩きつけられた魔力の衝撃波が、その反動で私の体を空中に浮かせた。無意識に体が、何かを蹴るような体勢を取り始める。脚が、振り抜かれる。

 

その瞬間、私の脚の位置にドンピシャで、先輩のカンテラが降ってきた。

 

 

「くったばりゃあああああああああああ!!!」

 

 

締まらない叫び声で気合を入れつつ、今出せる最大の力でカンテラを蹴り飛ばした。魔女に向かって一直線にすっ飛んで行きながら、カンテラに込められた魔力が、今にもはち切れそうなくらい膨れ上がる。

 

許容量を超えたのか、カンテラの外装にヒビが入って、魔力の光が漏れ出す。魔女はそれを見てようやく危機を察したみたいで、慌てて逃げ出そうとする。今更遅いんだよ!!

 

背を向けた魔女にぶち当たって、カンテラが派手に大爆発を起こした。離れているはずのこっちにまで風と熱が伝わってくるような気がして、顔をしかめた。

 

 

「ふっ…!っ…!!」

 

 

地面に着地する。ただでさえボロクソなところに更に衝撃を加えたもんだから、脚が酷く痛んだ。言葉にならない。ほんと、締まらないなぁもう…。内心ボヤく私を他所に、魔女の結界は崩れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「何とか終わりましたわね…。はぁぁぁぁぁぁぁぁ………」

 

 

先輩がすっげえデカい溜息を吐きながら、ぎこちない足取りで私の方に歩いてきた。お互いに変身を解く。

 

 

「おつかれ…」

 

「お互いに、ね。…そういえば、あんなやり方もありますのね。ちょっと驚き」

 

「あ、わかる。私もぶっつけ本番で上手くいくとは思わんくてさ」

 

 

魔女に着弾したカンテラが起こした、あの大爆発。先輩が使う武器は、普通ならあんな威力は出ない。だから使ったんだ。私の固有魔法を。

 

 

「『乗算』…でしたっけ。それによって、カンテラに込められた私の魔力を、更に大きくした」

 

「そんな何回も使えるわけじゃないのがアレだけどな…」

 

 

魔力に乗算を使った場合、増えた分の魔力は減らない。それでも固有魔法を使うにはもちろん魔力が必要だし、おまけに乗算をかける対象によって、消費される魔力が違うときてる。パイルだってそれなりに魔力を込めなきゃ動かないんだから、我ながら使いづらいよなぁって思う。

 

 

「貴女、あまり使いませんわよね」

 

「自分の元々の魔力が増えるわけじゃないし…。使った分、ソウルジェムの濁りが早まること考えたら、頼ってばっかなのもどうなのって思うし」

 

 

話しながら、路地裏を二人で調べる。ポツンとグリーフシードが落ちてるのを見つけた。よかった、ちゃんと倒せたんだな。

 

 

「…お使いになったら?」

 

「え、グリーフシード?」

 

「私も貴女も、滅茶苦茶にボロボロですもの…。ソウルジェムだってきっと相当濁ってますわよ」

 

「んー…」

 

 

それもそうか。お互いこんな死にそうになって魔女を倒して、その結果が実質実入り0。しかもまた私のせいで。そんな現実に内心へこんで、無言でグリーフシードをソウルジェムに押し当てる。程々に浄化して、先輩にグリーフシードをパスした。

 

こんな窮地に陥らなきゃ息が合わないなんて…。命が幾つあっても足りないって、こういうことなんだろうな。

 

 

「…あの、さ」

 

「?なんですの」

 

「あの…えー…その……ごめんなさい!」

 

 

素直に謝った。言いづらいって思ったけど、今日のは久しぶりに洒落にならないミスだった。こればっかりは、殴られても仕方ないって思う。

 

 

「………はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」

 

 

私の謝罪を聞いてすぐ、先輩は本日二度目のデカい溜息を吐く。まぁ、当然だと思う。

 

 

「あのですねぇ、赤さん」

 

「うん」

 

「貴女が私の言うこと聞かなかったことなんて、今までに何回あったと思ってますの」

 

「はい…」

 

 

半分どころか全部当たってる。耳が痛い。

 

 

「そりゃ、今回は本当に死んでしまうかと思いましたけど!あの子、また勝手にって思いましたけど!」

 

 

本音だ。間違いなく。自分がやらかしたという事実をこうして突きつけられることが、こんなにも恥ずかしくて、罪悪感に塗れたものだったなんて、私知らなかったよ…。

 

 

「……ですけれど、終わってみればこうやって二人とも生きていて、貴女は変に意地張らないで、素直に謝ってくれました。それでいいじゃありませんの」

 

「先輩…」

 

 

天使だ。天使がいらっしゃる。私の過ちを正すだけではなく、許しまで下さった。なんてこった。私は天からの使いと組んでいたってのか。

 

 

「その代わり、帰りの荷物は全部持って下さいね」

 

「は?いや、何だ、いきな……あ、冷食…」

 

「そういうことです。頼みますわね」

 

「あぁ…うん…」

 

 

天使様は厳しかった。やっぱり具体的なお咎めは無しとはいかないらしい。しゃーない。これも自分の撒いた種。受け入れなきゃな。……ん?

 

 

「ねぇ…先輩」

 

「なんですの?早く帰りますわよ。私もうお腹ぺこぺこで…」

 

「魔女はもう倒しちゃったからいいけど、結局、他の魔法少女が追ってたかもってのは…」

 

「へ?あっ……」

 

 

気付いたらしい。もう間もなく夜になろうって中で、私と先輩は無言で見つめあった。すごい渋い顔しながら。

 

 

「………帰るか」

 

「ですわね………」

 

 

二人して考えないことにした。どっちからともなく歩き出して、ゾンビかよってくらいフラフラになりながら帰宅した、私と先輩だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チーム作るか」

 

「異議無し」

 

 

家に着いて、制服も脱がないまま、とても年頃の女子がするべきではない体勢でリビングのソファーに沈んだ私達は、本格的にチーム結成を決めた。

 

決して、二人だと万が一報復があった時にどうにか出来ないから、メンバーを増やしたいとかではない。決して。

 

 





マギレコ本編の出来事

・いろはが結界でモキュ発見。使い魔の群れにやられて気絶。公園で目を覚まして、ももこと出会った。


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第2章:うわさの絶叫ロール…?
2-1 チーム結成に際して




アニレコ2期1話のゲーム版プロローグの使い方にたまげたので初投稿です。





 

 

 

バカバカしい死闘から数日。今日の晩飯は出前にしようってんで、先輩のお気に入りの店に電話した。それなりに待てば、私達と歳が近そうな店員さんが料理を届けてくれて、それは私達二人の空きっ腹に収まっていく。

 

 

「〜♪」

 

 

先輩が軽快に炒飯を口に運ぶ。何か嬉しそう。私も同じように炒飯を食べはするけど、あんな風に笑顔にはなれない。

 

 

「あら、どうかしまして赤さん。何だかいつもより倍増しでシケたような顔して」

 

「あれ、喧嘩売られてんのかこれ?…ま、いいや。」

 

「そうですよ、折角の美味しいご飯。細かいことなんて気にしちゃ、不味くなりますわ」

 

 

煽ったかもとは思ってんのか…。つーか、美味しいご飯ね…美味しい…。

 

 

「なぁ」

 

「も?」

 

「食いながら返事しなくていいから…。美味いか?」

 

「んぐっ…はい、美味しいですけど」

 

「そうなんだ…」

 

 

不思議そうな顔する先輩。いや、不味くはないんだけどなぁ…。なんつーのかな…可もなく不可もなくっていうか。そうだなぁ…言葉にするなら…

 

 

「50点」

 

「料理が?」

 

「そう。50点」

 

 

味の好みは人それぞれなのは分かるし、先輩には悪いと思ったけど、そんなニコニコ顔になるような味でもないと思ったのも事実。はっきり言わせてもらった。

 

 

「なぁに言ってますのよ!」

 

 

あ、怒らせたかな。

 

 

「それが良いんですわよ!」

 

 

良いんだ…。この、どう足掻いても100に届かない、半分な味が…。

 

 

「良くもない、悪くもない。美味しいかと聞かれたらNO。でも不味いかと言われたら否。100にも0にもなり切れない、50点」

 

「そんな摩訶不思議な料理が毎回食べられるんですから、それはクセになろうというものですわ」

 

「わからない…この人のことが…」

 

 

B級映画ばかりを好んで見る人も居るって聞くけど、この人のこれも、それと同じようなもんなのか…?いや、それは失礼か。映画にも、愛好家にも…。

 

軽く溜息を吐いて、晩飯に集中する。何処まで行っても50点な味わいのまま、腹が満たされていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご馳走様」

 

「はい、ご馳走様でした」

 

 

しばらくして、晩飯は終わりを告げた。食卓には、皿だけしか残ってない。文字通り完食だ。

 

 

「食べ終わった直後で悪いんですが、赤さん」

 

 

先輩が話しかけてくる。出される話題には、まぁ予想はついた。

 

 

「なに。あぁ、この間の魔女を狙ってたやつらが居て、獲物を取られた礼をしに来るかもっていう…」

 

「それはもういいっ」

 

 

不機嫌そうな顔で怒られた。結局、私達のそんな不安は、いつまで経っても現実になることはなかったけど、お陰でこの数日間は、少し用心しながら過ごしてた。

 

 

「そうじゃなくて、チーム結成のことでしょう!」

 

「分かってますって」

 

「んもー…」

 

 

結成するって決めた時から、特に何も話し合ってなかったし、いい頃合いだな。とりあえずは…

 

 

「人数を増やすということでよろしいですか?」

 

「うん。やっぱそこかなって」

 

「この間みたいなことが、またあっては困りますものね…」

 

「あれは私が悪いってのもあるから…」

 

 

もういい加減にあんな真似はしないようにって思ってはいるけど、絶対しないって自信もない。考えたかないけど、人が多ければ、そんな時にフォローもしやすいだろうし。

 

 

「単純に手数が増えるってのもあるしな」

 

「ええ。それで、人員を増やすのはいいんですけれど、それはどうやって」

 

「んー…。まぁ、声掛けるしかねえだろなぁ…」

 

「魔法少女に話しかけることが出来る場所、といいますと…」

 

 

学校か、もしくは調整屋とか?ただ、学校っつっても、自分の通ってるとこくらいしか無理だろうけど。調整屋にしても、基本的に待ちの姿勢になるから、あまり得策とは言えない気が。調整屋さんも困るだろ。

 

 

「魔女の結界で助けに入るとか?」

 

「やっぱそれだよな…。ピンチに割って入れば恩も売れるし」

 

「言い方なんとかなりませんのそれ…?」

 

 

部活動、生徒会活動、バイト等々で帰宅時間は変わりそうだけど、どの学校も、放課後になる時間にそこまで違いはない…かも。だったら、そこからは魔法少女を発見するのは難しくはないはず。

 

 

「じゃ、やってみっか。とりあえず3〜4日くらいで」

 

「ええ」

 

 

方針が決まった。どうなるかは分からんけど、動かなきゃ始まらないんだし、せめて前向きに考えておくか。

 

そう思った時、懐にしまってあるスマホから音が鳴った。メッセージかなにか来たらしい。しかも今の音は、あの人からの連絡に対して設定したもの。ってことは…

 

 

「…………」

 

 

見る気になれない。あの人がどうとかじゃない。私の気持ちの問題。嫌ったら嫌。

 

 

「…連絡かなにかですか?確認いたしませんの?」

 

「いいよ、別に…。知らん」

 

「そういう言い方なくてよ、貴女。何か大事な用かもしれませんし、お返事の一つも」

 

「あーうるさいうるさい。関係ねーってあんたにゃ」

 

「なんですのそれ。そりゃそうでしょうけど、それにしたって…」

 

「風呂洗ってくる」

 

「ちょっと、赤さん」

 

 

先輩の言葉から逃げて、風呂場に行く。浴槽は洗われて綺麗になっていくのに対して、私の心はモヤモヤとしたもので曇ってしまった。

 

その後は私も先輩もいつも通りに過ごして、いつも通りに眠った。風呂上がりにリビングであれこれ駄弁りもしたけど、やっぱりっていうか、お互い気まずい雰囲気になっちまった。

 

先輩は、メッセージのことを、追求してこなかった。

 





マギレコ本編の出来事

・第2章【うわさの絶交ルール】開始。いろはがうわさの情報を聞きに、調整屋を訪れた。


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2-2 結果発表

 

 

 

 

勧誘するって決めてから、少し日にちが経った。その頃には気まずさだってとっくに消えて、またいつも通り。今日は勧誘の成果を含めて、家で話し合い。

 

 

「さて…誰かチームにお誘いすると決めて、行動に移したわけですが」

 

「まぁ、プラン自体は上手くいったよな。結界で戦ってる子に助太刀して、その後に声かけて」

 

「でも、肝心の結果が…」

 

「……」

 

 

押し黙るしかない。そうなんだよなぁ…そこがなぁ…。

 

 

「だーれも首、縦に振ってくれなかったな…。てか、既にチーム組んでる子がほとんどだったし」

 

「ええ。第一皆さん、私達が助けに入るまでもないくらい強かったですし…」

 

 

しかも見るからに仲良いし。そこに、「私達のチームに入りませんか」っつって、初対面のやつが二人も擦り寄って来たら、そりゃNOとしか言わねえだろ…。割り込む余地がねえんだよそもそも!

 

 

『すいません。アタシら、もうチーム組んじゃってて』

 

 

ある時に出会った3人組には、代表らしき人にこう言われた。シンプルに断られたとあっちゃ、それ以上はどうしようもない。挨拶して引き上げた。「あちし」なんて、珍しい一人称の子が居たのが、印象に残った。

 

 

『うーん…ごめんね、せっかく声掛けてくれたのに。でも、こればっかりは…』

 

『はい。私達の一存で決めちゃいけないと思いますから…』

 

 

ある時に遭遇した二人組は、こう言ってた。ていうか、普段は四人組らしい。リーダーへ紹介しようかとも言ってくれたけど、時間を取らせるのも気が引けて、勧誘はこっちから白紙にさせてもらった。…そういや二人の内、緑髪の子の方は、いつだったか、花屋かどっかで見かけたような…?

 

 

『おぉー!まさかの新メンバー加入!?ユニット結成かぁー!?』

 

『違うでしょ…。ごめん、この子の言ってることは気にしないで…』

 

 

ある時に誘った二人は、何か…一人だけやたら元気だった。漫才がどうだの言ってて、何か盛大に勘違いしてたのは間違いない。もう一人の、物静かな雰囲気の子曰く、別にチームってわけではないらしいけど。こっちが困惑させられて、勧誘どころじゃなかったな…。

 

 

他にも色んな子、色んなチームに会った。やっぱ神浜ってとにかく人が多いから、その分魔法少女も多いんだなぁってのが、改めて分かった。まぁ、チームメンバーは、一人として増えなかったんだけどさ…。

 

 

「…何かもう、結果が察せられるからアレなんですけど、その…学校での声かけは」

 

「うん…。はい…」

 

「そうですか…。私の方も同様の結果でしたわよ…」

 

 

ですよねー。私の方は、東のボスって呼ばれる凄い魔法少女に会いに行った。上級生だっていうから少し緊張したけど、実際は結構話せる人だった。こんな人が仲間になってくれたら心強いだろうなって、思ったんだけど…

 

 

(普段はバイトで忙しいみたいだしなー)

 

 

授業が終われば帰るだけの私達とは違う。こっちの都合に合わせて下さいなんて言えないし。その後、他にも何人か魔法少女を見つけて話してはみたけど、良い返事は貰えなかった。

 

 

「先輩は?ダメだったっつっても、話しかけてはみたんだろ」

 

「ええ。先輩、後輩、中等部の子…まぁ色々と」

 

 

ひのふのと指折り数える先輩。聞けば、モデルをやってる人、家が道場をやってる人、美術館でアルバイトしてる人、キノコの人、生徒会役員で、カジノのディーラーの衣装が似合いそうな人…等々。

 

…いや、待ってくれよ。キノコ?キノコってなんだ。それは人を端的に表す言葉として正しいのか?そっちもだけど、生徒会の役員がディーラーの衣装って…。詳しく聞けば、本人は優しく丁寧な物腰で、お嬢様って感じの人らしい。

 

 

「そんな人に、ギャンブルの世界の衣装なんて似合うわけないだろ…。あんたの勝手なイメージだよ、それは」

 

「それは私も思いましたけど…。でも何でか、そう思ってしまったんですわよね」

 

 

「慣れないことをしたせいで、疲れてしまったからかもしれません」なんて言いながら、肩を揉む先輩。慣れないってのは同感。私も先輩も、特に社交的ってわけじゃないしなぁ。

 

 

 

 

 

 

「しかし、これで振り出しかぁ…」

 

「次の手を考えるべきかもしれませんわね」

 

 

つっても、すぐには何も思い付かないぞ。頼れる伝手があれば、まだ違ったのかな。

 

 

「先輩、誰か居ないのかぁ?魔法少女の友達とか」

 

「そういう貴女こそ。仲の良い方に頼んでみるとか出来ませんの?」

 

「居ねーよ、そんなやつ。つーか、今まで友達なんて出来たことないし」

 

「自信満々に言うことじゃなくてよ…」

 

「うるさいな…。で、あんたは?一人くらい居るだろ」

 

「………」

 

 

頭を抱えて黙った。居ないのか…。私より長くこの街に住んでて、学生生活も長いだろうに…。

 

 

「一人ぼっちの、哀れで可哀想な先輩のことはともかくとして」

 

「突っ込みませんわよ、私は」

 

 

ノリが悪いこと。まぁ、それはいい。

 

 

「最悪、今まで通り、二人でやっていくことも考えなきゃならんかも。もちろん、他の勧誘の仕方も考えてみたいけど」

 

「それは…はい。でも、最後にもう一日だけ、今の方法でやってみません?それでダメなら、スッパリ切り替えましょ」

 

「だな」

 

 

そう決めて、今回の話し合いはお開き。望み薄かもしれないけど、決めた以上は、やれるだけやってみたいと思った。

 

 





マギレコ本編の出来事

・絶交宣言をしたレナとかえでが何日も仲直りしない中、ももこが痺れを切らし始める。


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2-3 栄区にて



アニレコ2期2話で貴重なブチギレやっちゃんが見られたので初投稿です。


 

 

 

 

翌日。学校が終わって、予め決めてた集合場所に急いだ。家からも近いってことで、栄区で活動することになってる。こういう時、大東通いだと少し不便。

 

 

「ごめん、待たせた!」

 

「赤さん」

 

 

先に来てた先輩に声をかけた。よく見ると口元に食べカスか何かついてる。愛用の買い物袋も持ってるし、買い食いでもしたか。

 

 

「いきなりで申し訳ありませんが、近くに魔法少女の反応があります。早速行きましょ。時間がありません」

 

「わかってる」

 

 

言われて、走り出す先輩についていく。ただでさえ放課後で、日が暮れる時間も近い。一分一秒でも惜しいからな。

 

 

「それと、これ」

 

 

先輩が走りながら、小さい紙に包まれたものを私にくれる。暖かくて柔らかくて、美味しそうな香りがする。肉まんだこれ。

 

 

「これは」

 

「さっきコンビニで買いましたの。小腹が空いてるのでしたら、食べておいて」

 

「……ありがと」

 

 

自分の分だけじゃなかったのか。私のことも考えてくれてる。そう思うと少し嬉しくなったけど、何かむず痒い。とりあえずお礼は言っておく。

 

何かお返ししなきゃって思って、先輩には何がいいか考える。これは単に、義理とか礼儀とかそういうのであって、先輩に何かしてやりたいとか、お返しすることで、自分が感じた嬉しさを彼女と共有できたらとか、そういうことじゃない。ないったらない。

 

 

(大体、優しさとかそんなん、私には似合わないんだっつーの…)

 

 

照れ臭くなって、自分の素直な気持ちに、また蓋をしてしまった。「今はそんな場合じゃないだろ」って自分に言い聞かせて、魔女の元に急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「助けてくれてありがとう。チームには入ってあげられないけど…。とにかく、ありがとうね!」

 

 

そう言って手を振りながら去っていく、さっきまで一緒に、魔女と戦っていた女の子。私達も小さく手を振って、彼女を見送った。

 

 

「またダメでしたわね…」

 

「やっぱ無理なんかね。私達が幾らやっても」

 

 

思わず溜息が出た。あれから、戦ってる魔法少女を見つけて、戦いが終われば話して、勧誘してってのを繰り返した。でも結果は相変わらず。

 

ここまで上手くいかないと、なんかもう私達だからダメで、私達だから失敗するんじゃ…とか、そんな風に思っちまう。

 

いや、ダメだな、こんなネガティブなこと考えちゃ。人間、失敗続きだと、腐っていくもんなんだなってのがわかる。成功した経験が無いって、結構辛いんだなぁ。

 

 

「自分一人でやってみたい、か」

 

「良く言えばチャレンジャー。悪く言えば無謀…ですかね」

 

 

去っていった女の子のことを話す。神浜の魔女や使い魔は、他の街のそれよりも強いって聞いたことがある。だから神浜の魔法少女には、チームを組んで、多人数で戦っている子が多い。

 

今まで勧誘した人達が、既にチームを組んでいるって子ばっかりだったのも、考えてみれば当然のことだった。でもそんな中で、一人の力でどこまでやれるのか試したいって、あの子は考えているみたい。

 

 

(ベテラン達みたいに強くなるのか、魔女にやられちまうのか…)

 

 

所詮は一時的に共闘しただけの、お互いに見も知らない他人同士。でもせめて、彼女の無事くらいは祈っておこうと思った。

 

 

「どうする。もう夕暮れも近いぞ。切り上げるか?」

 

「いえ…あと一回。あともう一回だけ!それで本当に最後にしましょう」

 

 

先輩が、少し焦った顔をしながらそう言う。気持ちはわかる。折角戦力を増やすチャンスなのに、それを掴めないで、時間だけが過ぎてく。何日かっていう時間を費やしたんだから、それを無駄にして終わりたくないって思う。

 

 

「分かった。じゃ、改めて魔法少女の反応を…」

 

「…!いえ、大丈夫です!」

 

 

先輩が、何かに気付いたみたいに頭を動かす。私にも分かった。結構近くに、魔法少女が居る。

 

 

「しかも魔女の反応と重なってますわね…。急ぎましょう!」

 

「これが最後だ。何が何でも加入してもらうくらいで行かねえとな…!」

 

 

それこそ、恩を売って揺さぶってでも。我ながら嫌なヤツだって思うけど、最後に一回くらいはやってみてもいいだろ。私の印象は悪くなるだろうけど。

 

反応がある方角に向けて、急いで脚を動かす。にしても、栄区だけでもこんなに魔女が出るなんてなぁ。神浜っていう街がどういう所かってのを、また一つ思い知った気がした。

 

 





マギレコ本編の出来事

・いろはが二人の仲直りを手伝うことを決める。鉢合わせ作戦開始。


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2-4 逃げてきた誰か

 

 

 

 

魔女と魔法少女の反応を追って走った、私と先輩。目的地に着いてみれば、やはりというか、デカい建物の裏手とかいう、人気の無い場所だ。しかも薄暗い。

 

 

「見つけましたわよ!」

 

 

程なくして、先輩が結界を見つけた。チーム結成の為にも、既に戦ってる人には死なれちゃ困る。変身して、すぐに結界に突入した。

 

 

 

周りの景色が、現実ではあり得ないような、不気味なものに変わったのを確認すると、二人して辺りを見渡す。

 

 

「当然だけど、魔法少女も魔女も居ねえな」

 

「既に魔女が居る、奥の方へ行ったのかもしれません。私達もすぐに追って…」

 

 

先輩がそう言いかけた時だ。

 

 

「…?なんか聞こえねえか」

 

「そういえば、何かこう…微かに」

 

 

しかも気のせいか、段々と音量が大きくなってきてるような。声っていうか、地響きっていうか…。

 

 

「!」

 

「先輩!」

 

 

気のせいじゃない。先輩と一緒に、結界の奥の方を見る。複数の魔力の反応が、こっちに向かってるのを感じた。何か来る!

 

そう思って、反応を感じる方向を注視してると、何か見えて来た。……いや、ちょっと待て。あれは…

 

 

 

 

「たぁぁぁすぅぅぅけぇぇぇてぇぇぇぇえ!!」

 

 

 

 

そう叫びながら、半泣きでこっちに逃げてくる魔法少女と、その後ろから迫る、振り子みたいな頭をした魔女と、一本足の使い魔達の姿が、そこにはあった。

 

 

『えぇー…?』

 

 

先輩とハモった。ついでに言えば、表情だって全く同じだったに違いない。

 

 

「いや、ほんと、ふざけんなよマジで…!」

 

 

思わず愚痴る私。こっちに来るのはいい。逃げるのも別にいい。だからっつってお前、あんな大勢引き連れて来ることねえだろ!

 

 

「赤さん、落ち着いて…!」

 

「だってよぉ、見ろよあれ!魔女だけなら兎も角、使い魔までワラワラ居んだぞ!あれ絶対ろくに倒さないで奥まで行ったろ!」

 

 

魔女を倒すことしか考えてなくて、道中の使い魔は全部スルーしてたに違いない。で、逃げてる時にそいつらが、追ってくる魔女と、お付きの使い魔達に合流して…。

 

 

「冗談じゃない。こんなん私達まで危ないだろ」

 

「ピンチはチャンスですわよ、赤さん。ここを乗り切って、必ず勧誘のチャンスを手に入れるんです!」

 

「つってもどうやって…」

 

「前に、私と赤さんでやった攻撃がありますでしょ。あれをもっと強力にすれば、魔女も使い魔も、一気に倒せるかと」

 

 

あの死にそうになった時のやつか…。あの時は何かもう色々とヤケクソだったっつーか、とにかく魔女をぶっ潰すってことしか考えてなかったし…。

 

 

「でも、今度はあんな行き当たりばったりなやり方しません。いいですこと?赤さんは、彼方に座す魔女様御一行に向けて、武器を構えて!ほら!」

 

 

ケツを叩かれた。急かされたから、すぐに右腕を突き出して、パイルを構えて、魔力を込める。お嬢様のやり方じゃないだろ、ケツしばきは…。

 

 

「後は、私がカンテラを」

 

 

懐から幾つかカンテラを取り出す。あの兎の魔女の時と同じようなことをやろうってんだから、この後どうするかは、すぐにピンと来た。

 

 

「行きますわよ!」

 

「オッケー…!」

 

 

つっても、このままじゃこっちに向かって来る、あの魔法少女にまで当たる。すぐに大きい声で呼び掛けた。

 

 

「避けろォ!!」

 

 

その直後にカンテラが、構えたパイルの真正面に放られる。「乗算」も発動させて、迷わず杭を打ち込んだ。

 

衝撃波に叩かれたカンテラが、高速で魔女達に向かって飛んでいく。パイルから打ち出された魔力が「乗算」で上乗せされて、それが更にカンテラに詰まった、先輩の魔力と混ざり合う。

 

カンテラ達は崩壊寸前になりながら、やがて着弾して、あの時みたいに大爆発した。しかも今度は複数回。爆発で煙みたいになった魔力の残滓が、結界内の空高くまで上っていた。

 

 





マギレコ本編の出来事

・いろはがゲームセンターでレナを発見。かえでも現れて、レナに謝ろうとするも、レナは逃げていってしまった。


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2-5 三人目

 

 

 

 

結界が消えた。グリーフシードも落ちてるし、無事に魔女は倒されたらしい。変身を解いて、リラックスする。

 

 

「ほんとにやれちゃうとはね」

 

「前は一発だけでしたけど、今回は数発ですからね。おかしくはありませんわ」

 

「そういうもんか…」

 

 

前は手負いの魔女だから一発で倒せたんであって、あの時と全く同じことをやっても、さっきの魔女を倒せたかは分からない。そう考えると、数をブチ込んだのは正解だったのか。実際、魔女も使い魔も根こそぎ倒せたわけだし。

 

 

「でも、やっぱ魔力食うなぁ。何回も使える技じゃないわ、あれ…」

 

「それよりも赤さん」

 

「ん?」

 

「あの魔法少女は…」

 

「え、大丈夫だろ。私、避けろっつったし」

 

 

我ながら結構デカい声が出たと思ったし、あの魔法少女も、聴こえなかったってこたぁないだろ…ないよな?

 

 

「……………」

 

「あの……赤さん…?」

 

 

どうしよ…自信無くなってきた。物事に絶対は無いって言うし、実は私の大声はあの子には聴こえてなくて、あえなくあの爆発に巻き込まれたとか…?

 

 

「……やっべーこれ…」

 

「赤さぁん!?」

 

 

思わず頭を抱えて呟いた。そりゃ先輩も不安そうな声出すよ。

 

 

「やべーって。どうするこれ…!だって下手したら私達、人殺…」

 

「なになに、アタシの話?」

 

「あ、うん。お前の……」

 

「……はい?」

 

 

私が慌てそうになる中で、まるで何もなかったみたいに姿を見せた、知らない誰か。もとい、さっき逃げてた魔法少女。いつの間にか、すぐそばに居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー!も、マジヤバかったよさっき。ありがとねー」

 

「いや、違くて」

 

「え、助けてくれたんじゃないの?」

 

「ええ、まぁ…そうなんですけど…」

 

 

助けた魔法少女と話す。とりあえず無事でよかったけど、どうやって助かったのかくらいは知りたいところ。

 

 

「あ、やっぱそうなんじゃん!じゃ、ありがとうだね」

 

「や、だから…」

 

 

こっちの話を聞け。どうも、ペースが乱されるような感覚がある。やりづらいやつかも。

 

 

「あの…申し訳ないんですが私達、貴女が私達の攻撃を避けたところを見ていなくて…」

 

「あー。実はねー……固有魔法で何とかしちゃいました!」

 

「そうですの…」

 

 

一々元気がいい。その固有魔法が何なのかを特に聞きにいかない辺り、先輩も、こいつの相手は面倒かもって思ってるのかな。

 

 

「アタシだけじゃ無理ゲーって思ったからさー。ほんっと助かった!マジ命の恩人!」

 

「いえ、別にそんな」

 

「いやいや、ここまでして貰ったんだもん。こりゃあ、なんかお返ししなきゃならんでしょ。ってーことで!なんかない?」

 

「え、本当ですか?なら私達のチームに」

 

「先輩、ストップ」

 

 

迷いなく勧誘しようとする先輩を引き寄せて、助けた子に背を向ける。

 

 

「あれはねーだろ、あれは」

 

「でも、彼女、なんでもするって」

 

「言ってねーよ」

 

 

小声で話しながら突っ込む。聞き間違えたにしても、どんだけ切羽詰まってるんだ…。いや、その通りなんだけど…。

 

 

「別に、チームに誘うこと自体はいいんだよ。でもあいつは…なんつーか」

 

「…言いたいことはわかりますわ」

 

 

少し話してみて分かった。あいつは陽の者。何かと明るいし、元気もいい。多分、友達も多いだろうし、人当たりもよさそうだ。

 

黄色っぽい髪色。毛先が露骨に外側にカールした、ボリュームのあるツインテール。目も大きめでキラキラさせやがって。上半身側が白、下半身側が茶色で構成された制服は…確か栄の学校だったかな。

 

なんていうか色んな意味で、見るからにどっちかっていうと陰寄りな、私達とは違う。

 

 

「だからと言って、選り好みできる状況じゃなくてよ。赤さん、慣れですわよ慣れ。淀んだ所に、新しい風を吹き込むくらいの気持ちでなきゃ」

 

「淀んでるのか、私達。……分かったよ」

 

 

まぁ、言ってることはごもっとも。先輩の言う通りにしよう。内緒話は終わりにした。

 

 

「どったん?」

 

「や、なんでもない。待たせて悪い」

 

「それで、あの…お返しの話なんですが」

 

「あ、うんうん!」

 

「私達、チームを作ろうと思ってるんです。だから、よろしければ、あなたにも加入していただきたくて」

 

 

先輩がはっきり言った。後は目の前のこいつ次第だけど、どうかな…。恩返しがしたいっつっても、「他のことにして」なんて言われたらそれまでだし。

 

 

「チーム?もちOK!いいよー!」

 

 

いや、いいんかい。

 

 

「もうちょっと考えてもいいぞ」

 

「だって楽しそうじゃん!」

 

「あぁ、そう…」

 

 

すっげえあっさり決まった。問題が解決したんだから、いいと言えばいいんだけどさぁ…。

 

 

「では、これで晴れてチーム結成ですわね」

 

「マジぃ?おっしゃー!やったるぞー!」

 

「なんか素直に喜べねーんだけど」

 

 

こうしてめでたく、私達のチームが出来た。思ってたのと違うけど、まぁ現実ってそんなもんだろ…。

 

 

 

 

「あ、そうだ!ね、ね!」

 

「はい?」

 

 

私が理想と現実のギャップに苦しんでるところに、陽の者が唐突に声を上げた。

 

 

「チームになったんだから、皆で自己紹介しないと!」

 

「はぁ…。えっと、先輩って呼ばれてます」

 

「赤さん」

 

「へー!それってあだ名?」

 

「まぁ、うん」

 

「いいじゃあん、なんかマジで仲良しっぽい!じゃあアタシも、あだ名で呼んでもらおっかなぁー」

 

 

実際はそこまで仲良しでもないんだけど…。まぁいいや。

 

 

「別にいいけど…なんて?」

 

「マジ子!なにかとマジマジ言うからって、友達にそう呼ばれてんだー。これからよろしくー!」

 

 

 

 

 

 

こうして、二人だけだった私達に、三人目…もとい、マジ子っていう、新しいメンバーが加わった。

 

 





マギレコ本編の出来事

・レナを追って、いろはとかえでも外へ。かえでがレナの変身を見破り、レナに謝った。ウワサ結界が出現し、かえでがウワサに拐われてしまった。


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2-6 うわさを求めて

 

 

 

 

私は叫んでいる。しかも転がりながら。おまけに定期的に。今だってそう。

 

 

「5000兆くらい石くれえええええ!!」

 

 

側から見れば、気が狂ってしまったと思われても仕方ない光景。私自身 なんでこんなことやってんだって、もう何回思ったか。

 

 

「だぁっ。…はぁ…はぁ…どうだ?」

 

 

成果を、先輩とマジ子に聞いてみる。何度目だ、これも…。

 

 

「んー…ダメです。なにも起こらないですわね」

 

「マジかー。でもまだ時間あるし、頑張っていこ、赤ちん!」

 

「………」

 

 

ほんと、何でこんなことになったんだ…。いや、発端は分かってる。あの時の話だ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『二人はさぁ、「絶叫ロール」っていう うわさ、知ってる?』

 

 

チームが結成された直後、とりあえず今日は帰ろうってことになって、帰路につき始めたところで、マジ子が言い出した。

 

 

『うわさだぁ?』

 

『存じませんけど…』

 

 

それを聞いたマジ子は、やけに得意げな顔して話しだした。

 

 

『じゃー教えたげる!この神浜にはねー、色んなウワサ話があって、「絶叫ロール」ってのは、その中の一つなの。私も色んな友達から聞いたんだー』

 

『ふーん。それはどんな』

 

 

正直興味は持てないけど、暇潰しくらいにはなるか。そう思って聞いてみることにした。

 

 

『えっとね、確かー…。なんかこう…言ってぇ、そんでなんか、それをなんかしたら…マジ怖いの出るー!みたいな…。マジやべー!みたいな?』

 

『全然わかんねえ…』

 

『不明瞭にも程がありますわね…』

 

『あれー?っかしいなー。何回か聞いた話なんだけどなー……なんで?』

 

 

知らねえよ。ていうか何回か聞いてるんなら、うろ覚えくらいには留まってたっていいんじゃねえのか。この分だと、『絶叫ロール』って名前も合ってるか怪しくねえか?

 

 

『まぁとにかく、そのような話があると。それで、そのうわさが何か?』

 

『あ、うん。アタシさー、今日は元々、そのウワサのこと調べようと思ってたんだー!でもガッコー終わって、チョーサの為にそのへんブラついてた時に、魔女の反応ビンビン来てさ』

 

 

で、それがさっきの結界での追いかけっこに繋がると。

 

 

『元々、アタシ一人で調べるのもなんかなーって思ってたんだ。ね、二人とも一緒に来てくんない?』

 

『え。いや、それは…』

 

『一人で行けよ。もう夕方だし』

 

『えー!お願い、赤ちん!』

 

 

赤ちんてなんだ。また妙ちきりんな呼び方しやがって。元の赤さんも大概だけど。

 

 

『チームでしょー!じゃあ、何事も皆でやらないとじゃん!』

 

『別にチームだからって、あれもこれも一緒になってやるわけじゃないだろ…』

 

『え、そうなの?マジで!?』

 

 

さっきから思ってたけど、こいつもしかして馬鹿なんじゃないのか…。

 

 

『でも、赤さん。さっきの結界では、一歩間違えば、私達の攻撃でマジ子さんは帰らぬ人になっていたかもしれませんし…』

 

 

だからそのお詫びに、調べものに付き合ってやっても バチは当たらないだろって?そんなの…

 

 

『……まぁ、そうか。分かったよ…一緒に行ってやる』

 

『マジ?やったぁ!』

 

『でもさっきも言ったけど、もう夕方だかんな。遅くなんのは嫌だよ』

 

『おっけおっけ。ちょっと調べてみたら、今日はやめにするね!』

 

 

そんなわけで、マジ子のうわさ探しに付き合うことになった、私と先輩だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、栄区から中央区に向かって歩きながら、私達なりにうわさを調べた。

 

…その、「私達なりに」ってのが、まぁ、私が今もやらされてる、絶叫ローリングなんだけど。命名はマジ子。

 

 

「なぁ…!ほんとにやり方合ってんのかよこれぇ!」

 

 

流石に何度も派手に動いたもんだから、疲れも出てきた。何回やっても特に何も起きないから、ちょっとイラついてきて、語気が強くなる。

 

 

「ですが、件のうわさとやらの情報が名前くらいしかありませんし…。そこから考えるしかありませんわよ」

 

「ごめん赤ちん…。アタシが、話覚えてないくらいバカだから…」

 

 

アホみたいに叫びながらゴロゴロ転がってる私を見て申し訳なく思ったのか、マジ子が困ったような顔で謝る。急にそんな態度になられると、怒るに怒れない。

 

 

「……いいよ。そもそも、じゃんけんに負けた私が悪いんだし」

 

「うん…」

 

「お二人とも。もう大分いい時間ですわ。しかも、もう完全に中央区にまで来ています。そろそろ終わりにしましょう」

 

「ん、わかった。あ、じゃあ、ちょっと休んでかない?海の見えるとこで」

 

「海ったら…海浜公園?」

 

「赤さんは特に疲れているでしょうし、丁度いいですわね。夕陽を見ながら、ちょっとゆっくりしましょうか。また少し歩きますけど」

 

「いいよ、それで…。休めるならさ」

 

 

マジ子が提案した調べものは終わりを告げて、後にはひたすら疲労感だけが残った。結局、うわさってのは何だったんだ…。

 

 





絶叫ロールは言わずもがな絶交ルールの聞き間違いなので失踪します。


マギレコ本編の出来事

・レナが単身、何処かへ行く。いろは は ももこと合流し、かえでを捜索中。


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2-7 一休み



本編ではそろそろ絶交階段との戦いが近いので初投稿です。





 

南凪区にある、海がよく見える場所。それが海浜公園。イベントが開かれることもあるみたいだけど、今は時期じゃない。三人揃って公園まで歩いて、私は着くなり適当な場所に腰を下ろした。

 

 

「……………」

 

 

溜息すら出てこない。体育座りのまま、夕陽の光が反射する海を見つめて、ボーッとする。

 

 

「赤ちーん!」

 

 

元気な声。振り向くと、マジ子が飲み物を持って、先輩と一緒に歩いてくるのが見えた。

 

 

「はい、お待たせー。シュワシュワだったよね?」

 

「ん。あんがと」

 

「いーの。付き合わせちゃったから、お詫び!」

 

「そーかい…」

 

 

隣に座ってくるマジ子から、缶ジュースをもらう。炭酸飲料なのは、私のオーダー。すぐに飲み口を開けて、グイッと呷る。炭酸の刺激が、疲れを和らげてくれた気がした。

 

 

「ぷふー……」

 

「いい飲みっぷり。喉、乾いてたんですわね」

 

「お陰様で」

 

 

でも、こんなに疲れるまでやっても、うわさとやらのことは何も分からなかったんだよな…。なんか癪だ。

 

 

「アタシも飲もーっと。んっ……っ……ぷひー」

 

 

自分用に買った飲み物を、マジ子が飲む。無駄に幸せそうな顔しやがって。

 

 

「今日はありがとね、赤ちん!先輩も!」

 

「なんだよいきなり。そりゃ、手伝いはしたけど」

 

「結局、マジ子さんが求めた結果は出ていないみたいですしね…」

 

「んーん!いーの、そんなこと。二人がアタシをチームに誘ってくれて、うわさ調べも手伝ってくれて…それだけで、マジで嬉しかったから!」

 

 

ニッコニコでそう言うマジ子。本音なんだろうな。こっちはまだ、こいつの上澄みすら知らないけど、本人の言葉で、心からそう言われたんなら、悪い気はしない。

 

そう思いながら立ち上がって、海の方へ少しだけ近付いた。思いっきり、息を吸い込む。

 

 

「馬鹿やろおおおおおおお!!」

 

 

海に向かって、思いっきりそう叫んだ。

 

 

「なになに、いきなりどしたの赤ちん?」

 

「海に馬鹿野郎って…。また月並みですわねぇ」

 

「いいんだよ、馬鹿野郎で」

 

 

叫んで転がってる内に、内心で色々と思うところがあったんだ。羞恥心とか、苛立ちとか、人じゃないものを見る目をしてた通行人達や、こんなことやらせた二人へのあれこれとか。

 

それらとその他諸々を引っくるめたものに対しての、「馬鹿野郎」だ。

 

 

「いいシャウトだったよ、赤ちん!でもさー」

 

「ん?」

 

「やっぱバカヤローよりも、こういう時は、愛を告白する方がよくない?」

 

「んん?」

 

 

え、いきなりなに。愛とか告白とか。何でそうなる。どっから出てきたんだ。

 

 

「だってさー、今、こんなだよ?綺麗な夕陽!海!公園!って感じ。ロマンチックなシチュじゃない?」

 

「何言ってるんだこの馬鹿…」

 

「まぁ、確かに言われてみれば」

 

「先輩!?」

 

 

この女、何を…。あれか。疲れてるんだろ?そうなんだろ?今日も魔女といっぱい戦ったもんなぁ!

 

 

「ちゅーわけで、赤ちん!あの夕陽に向けて、一発どーぞ!」

 

「どーぞじゃねんだよ、この馬鹿!第一、何に対して告白するんだっつーの」

 

「貴女、この前食べたお弁当が美味しくて、リピーターになりそうって言ってましたわよね?ならもうそれでいいでしょ」

 

「雑!」

 

 

何だよ、マジで美味いんだぞ、千秋屋の唐揚げ弁当は!つーか弁当に対して告白って、それただの弁当好きじゃねえかよ…。いや、好きになったのは本当だけど…。

 

 

「ほーら!赤ちん!」

 

「あーもう、アホらし…。分かったよ…それで満足すんだな?」

 

「ん!」

 

 

元気よく頷くマジ子。ほんと、何食って生きてたら、いきなりこんな場所で、唐突に愛を叫ぶとかいう発想が出てくるんだ…。やっぱ馬鹿だこいつは!

 

夕陽の方を向いて、さっきみたいに息を吸う。流石に眩し過ぎるから、目は閉じておいた。半ばヤケクソで、思いっきり叫んだ。

 

 

 

 

 

「好きだあああああああああああ!!」

 

 

 

 

 

千秋屋の唐揚げ弁当がな。ほんと、つくづく何やってんだ、今日の私は…。

 

思いっきり叫んだから、すっきりはした。したけど、それと同時にこう、自分自身への憐れみっていうか、恥ずかしさっていうか…。堪えられなくなって、熱くなった顔を俯かせた。

 

 

 

 

 

 

少しの間そうしていて、もういいやって、顔を上げようとした時だった。

 

 

誰かが急に、私の両肩に手を置いたのが分かった。

 

 

マジ子がまた、申し訳なさから私に謝りに来たのか?それとも、先輩が私を慰めにでも来てくれた?

 

 

どっちでもいい。悪態の一つでも吐いてやろうって、目を開けて、顔を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

知らない美少女が、目の前に居た。

 

 





マギレコ本編の出来事

・レナが合流。3人で建設放棄地へ。レナがかえでに謝った。


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2-8 正体不明


この作品のヒロインみたいな子が本格的に登場するので初投稿です。


 

 

「…………は?」

 

 

頭で理解するのが追い付かなくて、そう言うのが精一杯だった。それくらい唐突で、訳が分からない。

 

女の子だ。知らない誰かが、私の両肩に手を置いて、優しそうに微笑んでる。女の私から見ても、結構な美少女だ。背は私と同じで低めだけど、プロポーションは良くて、美人ってよりも可愛い系。

 

 

「………」

 

 

私を見つめるだけで何も言わない、謎の美少女。よくよく見れば、制服のようなものを着てる。

 

変わったデザインだ。この子に似合っていて、可愛らしいんだけど、現実には中々無さそうっていうか…。何処の学校なんだ?

 

 

「あの…」

 

 

とりあえず、何処の誰なのかくらいは明かしてもらわなきゃならない。そう思って、女の子に話しかけようとした。

 

 

「赤ちん!!」

 

「!」

 

 

マジ子の声だ。ハッとして、背後を振り向くと、少し離れた場所に居た。先輩と二人して、警戒してるような雰囲気を感じる。

 

 

「どうした!」

 

「赤ちん…その子、なんか変だよ!」

 

「赤さんが叫んだ後、急にそこに現れたんです!普通ではありませんわ!」

 

「…!」

 

 

そう言われて、ようやく私も警戒心を抱く。ただの通りすがりで、出来心で悪戯しましたとか、そんな程度だと思い込んでた。でも違う。なら、一体この女の子は…?

 

 

「どぅお!?」

 

 

そう考えてると、いきなり頭に両手を添えられて、強制的に謎の女の子の方を向かされた。彼女は、その可愛らしい顔をむくれさせて、怒ったような表情をしてる。可愛い。いや、可愛いけど、なんで?

 

相手の両手が私の頭から頬に移動して、ガッチリ押さえられる。女の子は切なそうな顔に変わるから、ますます意味が分からない。

 

そう思っていると、女の子がだんだん顔を近付けてきた。え、なにそれ…。なんで目ぇ閉じたの?何する気なの、ねえ。何で顔赤らめてんの?ねぇ!

 

 

「いや、ちょっ……と!離せ!!」

 

 

無性に怖くなって、思わず全力を込めて、女の子を突き飛ばしてしまった。幸い、転んだりはしなかったけど、女の子はすごく悲しそうな顔になってた。申し訳なさがすごい。

 

 

「っ…ごめん、乱暴なことして。でも、あんただって悪いんだからさ。いきなりこんな…」

 

 

女の子に謝ってから、とにかくちゃんと話そうと思って、言葉を続けた。でも、その時…

 

 

「っ!なに!?」

 

「これは…!?」

 

 

何か起こったらしい。後ろに居る二人が声を上げる。私もすぐに気付いて、あちこちを見回した。何だ、これ…。

 

 

「結界か!?でもこれ…なんか…」

 

「うん…。いつものじゃない!」

 

「外の景色が見えていますわ…。魔女の持つ結界とは、なにか違う…!?」

 

 

魔女の結界とは違う。その言葉が、私の中の恐怖を掻き立てた気がした。いや、そもそも何で、いきなりこんなもんが…。魔女の気配も、魔力も、別に感じなかった。怪しいものも、おかしい何かも、何処にも見当たらな…

 

 

「!!」

 

 

気付いた。ある。おかしいもの。不自然なもの。いきなり湧いて出た、唐突なもの。それは、今も私のすぐ近くで、いきなり大きな魔力の反応を示すようになりながらも、そこに在る。

 

 

「……!」

 

 

完全に警戒心を剥き出しにして、そいつの顔を見る。そいつは、優しそうに笑っていた。

 

 

 

女の子の形をした何かが、笑っていた。

 





マギレコ本編の出来事

・ウワサ結界出現。戦闘開始。


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2-9 未知との闘争

 

 

「こいつ…」

 

「赤さん、退いて!」

 

 

正体不明の女の子を睨み付けたまま動かないでいると、いきなり私と彼女の周囲が爆発に包まれた。先輩がカンテラを投げたらしい。

 

魔法少女の身体能力を活かして、後ろに大きく飛ぶ。変身しながら、先輩とマジ子が居る所に着地した。

 

 

「赤ちん!」

 

「悪い、助かった!」

 

「いえ。それよりも、あの女の子を…!」

 

 

魔力の残滓に包まれた眼前を、チーム全員で睨む。反応は消えてないから、先輩の攻撃で倒せてはいない。

 

不気味な相手だ。出し惜しみなんてしてる場合じゃない。念の為に、うわさ調べの時に、ソウルジェムを浄化しておいて助かった。お陰で、魔力が潤沢な状態で戦える。

 

パイルを構える。ありったけの魔力を込めて、いつでも「乗算」を発動しながら放てるように、集中した。

 

 

『……………』

 

 

流石に真剣にならざるを得ないのか、先輩もマジ子も黙っている。それくらい、あの女の子の得体が知れないってことなんだ。

 

 

 

『!!』

 

 

 

相手の魔力反応が、急に動いたのを感じる。私も急いで、反応のある方に、顔とパイルを向けた。

 

 

「居た!」

 

 

上。上空だ。そこに居た。あの女の子が、高く飛び上がって、こっちに迫ろうとしてる。けど…!

 

 

「貰ったぁ!!」

 

 

限界ギリギリまで魔力を込めて、「乗算」まで発動させた、私のパイルの一撃が放たれた。集中しまくってた甲斐があったのか、狙いもドンピシャ。衝撃波は、あの子に当たった。

 

 

 

 

 

でも、「やった」って思ったのも束の間。敢えなく地面に落下したと思ったら、すぐに女の子は立ち上がった。今の一撃なんて、何でもないことだったみたいに…。

 

 

「…!!」

 

 

思わず目を見開いた。耐えられた?私が出せる、最大出力を?あんな…どう見ても、可愛らしい女の子にしか見えない存在に?

 

呆然とする。じゃあどうすればいいんだ。もう魔力はすっからかんで、太刀打ち出来るような術なんて…!

 

 

「!!速っ…!」

 

 

その隙を、女の子は見逃さなかった。すごい速さで、一直線に私に向かってきて、既に至近距離だ。

 

先輩もマジ子も、速さに反応しきれなかったらしい。驚いた顔で、こっちを見てる。

 

私の胸の辺りに、何かを押し当てられたような感触を覚えた。急いで、自分の体に目を向ける。

 

手のひらがあった。私に、優しく押し当てられてる。当てられた手の持ち主に、顔を向けた。切なそうな顔をした女の子が、真っ直ぐに私を見つめてる。直後、重い衝撃が、私を襲った。

 

私の身体は、軽々と吹き飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「がっ…ごほっ…!」

 

 

吹っ飛んでから、地面で少しバウンドして、私の身体は勢いを止めた。何とか息を整えて、私をこんなにしたやつの居る方を見る。

 

女の子は変わらず、悲しいんだか嬉しいんだか分からん顔をしながら、また私のところに来ようとする。すぐに立ち上がりたいけど、まだダメージが残ってるのか、上手くいかない。

 

 

「ああもう、貴女!赤さんに近寄るのはおやめなさいな!」

 

 

女の子を追いながら、先輩がカンテラを投げた。コントロールは完璧で、女の子に当たる。

 

 

「………」

 

 

無言で、不機嫌そうな顔になる女の子。爆弾をモロに食らったのに、傷一つなかった。

 

 

「おらー!赤ちんに手を出すの禁止ー!」

 

 

同じく追ってきたマジ子も、自分の武器を思いっきり投げた。でも結果は先輩と同じ。当たるけど、女の子を不機嫌にさせるだけで終わる。

 

何気に、あいつが戦ってるのは初めて見たな…。つーか、投げたのがアタッシュケースって…。武器になるようなもんなのかそれは…?

 

その後も二人は、何とか私に女の子を向かわせないように、武器を投げ続ける。あの子はダメージを受けてるようには見えないけど、その場から動かなくなった。足止めにはなったらしい。

 

 

「!」

 

 

でも、そんな状況に痺れを切らしたみたいで、機嫌の悪い顔はそのまま、私に背を向けて、二人の方、まずは先輩の所に向かって行った。相変わらず速い…!

 

 

「先輩!マジ子!」

 

 

ようやくマシになってきた体を起こして、二人に向かって思わず叫ぶ。あいつは怖いくらいに強い。戦えば、タダじゃ済まない。何とかやり過ごしてくれれば…!

 

 

「…!確かに速いですが!」

 

 

先輩が、いつもよりかなり大きいカンテラを作り出す。さっきの私と同じで、出来る限り魔力を込めた武器で、一気に勝負を決めるつもりなのか。

 

やがて、女の子が先輩のすぐ側まで迫る。私にやったのと同じ、キツい一発を食らわせるつもりだ。

 

 

「そんなスピードで突っ込んでくれば、避けられませんわよ!」

 

 

先輩がカンテラを投げた。良いタイミング。避けるのが困難な位置まで、あの子を引きつけたんだ。

 

 

「………」

 

「!?うそ…」

 

 

そんな先輩の作戦も、女の子には通じなかった。女の子はカンテラを上手いこと掴んでいて、爆発するのを防いでいた。なんて反応の良さ。

 

女の子はすぐに、カンテラを先輩に投げ返す。

 

 

「そんなっ……!」

 

 

叫び声を上げる暇もなく、先輩は、自分の作った武器の爆発をモロに浴びた。爆風で吹っ飛んで、地面に叩きつけられた先輩の姿が見える。ボロボロになって、苦しそうに呻いてた。

 





マギレコ本編の出来事

・やちよも現れ、戦闘が続く。絶交階段のウワサ登場。


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2-10 完全敗北

 

 

 

先輩が倒された。そこでようやく体が調子を取り戻したけど、メンバーが撃破されてからじゃ何の意味もない。

 

悔しさを感じる私を他所に、女の子は、マジ子に照準を定めていた。私は私で、盾や囮くらいにはなれるかもって思って、マジ子の方へ走った。

 

 

 

 

「おっしゃー!こーい!」

 

 

マジ子の元に向かいながら、あいつの声を聞く。受けて立つ気なのか、あの馬鹿!先輩がどうなったのか、見てなかったのか!?

 

女の子がマジ子に迫って、腕を突き出す。攻撃体勢だ。

 

 

「バカ!逃げろ!」

 

 

走りながら、叫ぶ。

 

 

「だいじょおおおおぶ!マジで!」

 

 

私の声が聞こえたのか、マジ子がまた声を上げる。大丈夫って何がだ。まさか根拠なんて無くて、ただなんとなくそう言ってるだけなんじゃねえだろうな!だってあいつ馬鹿だし…!

 

そうこうしてる間に、女の子の手のひらが、マジ子の体に触れた。やられる…!

 

 

「なんのー!」

 

「はぁ!?」

 

 

目の前の光景に目を見張って、思わず足を止めてしまった。私がもうダメだって思った瞬間、マジ子の全身が水になって、ザバァッと音を立てながら、地面に落ちた。女の子があいつを見失って、首を傾げている。

 

対して、私は合点がいった。そういえば、魔女の結界で私と先輩の合わせ技を避けられたのは、固有魔法のお陰だって言ってた。なら、今見たのが、マジ子の固有魔法。それっぽく言うなら、「液化」とかになるのか。

 

 

「隙ありー!」

 

「!」

 

 

キョロキョロと視線を彷徨わせて、あの馬鹿を探す女の子。ガラ空きになった背後に水が集まって、人の形になる。固有魔法を解いたマジ子が、女の子の首に腕を回して、締め上げた。

 

いきなり背後から襲撃されて、女の子は少し驚いているように見える。顔がいいから、基本的にどんな顔しても絵になるな…。

 

 

「って、そうじゃなくて!おい、マジ子ォ!!」

 

「んぬ〜!赤ちんー!ここは私に任せて逃げてー!」

 

 

ギリギリと音を立てて…はいないけど、とにかく力一杯、女の子の首を締め上げるマジ子。気持ちはまぁ嬉しいけど、残念ながら相手には効いてない。すっげえ涼しい顔で、平然としている。

 

 

「馬鹿!魔法少女三人の攻撃を何発食らっても、平気で動くやつだぞ!そんなことしたって効くわけねえだろ!」

 

「マジでぇ!?あー、でも、考えてみたら…」

 

「!」

 

「ぶへぇっ!?」

 

 

私に言われて、ようやく気付いたって顔をしたマジ子の腹に、女の子が肘鉄を入れた。話す時間はやったぞと言わんばかりに、急に動き出した。

 

 

「!」

 

「えっ?あ!おわあああああ!!」

 

 

ムッとした表情でマジ子に振り返って、両の手のひらを押し当てる。マズいと思ってまた走り出した私だったけど、もう遅い。強力過ぎる攻撃を受けて、マジ子は吹っ飛んだ。

 

 

「マジ子!!」

 

 

やがて地面に叩きつけられたマジ子が、「んー」とか「うー」とか唸りながら、何とか立ち上がろうとしてるのが見える。

 

でも無理だ…実際に一発貰った私には分かる。手のひらを当てられただけなのに、とんでもない威力だったんだ。それを二発も受けたら…。

 

二人を片付けてしまった女の子は、こっちに振り返って、今度こそ、私に狙いを定めた。もう急ぐ必要なんてないのか、ゆっくりとした足取りで、こっちに歩いてくる。

 

 

(クソッ…!何が盾?何が囮?結局足は止まっちまって、そのせいであの馬鹿がやられた!)

 

 

「自分にもまだやれることがあるかも」なんて考えて動いたくせに、現実はこう。少しイレギュラーにぶち当たっただけで、私はこのザマだ。

 

 

「くっ……!」

 

 

悔しさと情けなさ、そして恐ろしさ。色々なものがない混ぜになって、涙が滲んでくる。迫ってくる謎の美少女相手に、なす術を持たない私は、後退りをすることしか出来なかった。

 

やがて、女の子が私のすぐ目の前に来て、両手を私の肩に乗せる。いやに紅潮した、嬉しそうな顔が近付いてくる。

 

何故か攻撃されなかったことよりも、相手への恐怖でいっぱいになってしまった私は、せめてもの抵抗として、目をぎゅっと閉じることしか、出来なかった。

 

真っ暗になった視界の中、心臓がバクバクと、激しく鼓動を鳴らしているのが分かる。

 

 

 

 

 

唐突に、私の口に何か、酷く柔らかい感触が触れた。鼻から入ってくる、ほんのりと甘い香りも、同時に感じていた。

 





・マギレコ本編の出来事

絶交階段を撃破。いろはとももこ達の4人で、レナが仲直りにと用意したプリンを食べた。


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2-11 謎は残ったままで



2章最後の話はマジ子視点な上に申し訳程度のガールズラブ要素があるので初投稿です。


 

 

 

「うー…ぐぐぅ…」

 

 

変な女の子からすっごい攻撃をされちゃって、今もまだ動けないくらい、ダメージを受けちゃってるアタシ。くそー、あっちもこっちもマジ痛い…。

 

 

(そう言えば、先輩は?)

 

 

何とか頭だけ動かして、倒れてる先輩を見る。すんごいボロボロで心配になったけど、あっちも何とか起き上がろうとしてる。マジでよかったぁ、生きてて…。

 

 

「あ……そうだ、赤ちんは…!」

 

 

アタシ達をあっという間にボコした、あの変な子が近くに居ない。じゃあ、今度こそ赤ちんの方に…!

 

 

「あぁ…!」

 

 

頑張って顔を向けたら、思った通り。あの子、赤ちんを狙ってる!

 

赤ちんは赤ちんで、固まっちゃって動かない。アタシ達がやられたから心細くなって、そんで怖くなっちゃったの!?

 

 

「ダメ…!赤ちん、逃げて…!」

 

 

思いっきり叫んだつもりなのに、声がまだ上手く出てくれない。そんくらい、アタシが強い力でボコられたってことなんだね…。

 

とうとう変な子が、赤ちんに触った。顔もどんどん近付けてるように見えるし、何かしようとしてるんだ。ダメ…。赤ちん、動いて!逃げなきゃ…!

 

 

(赤ちんっ!!)

 

 

声を出せなくて、心の中でしか叫べないアタシの目の前で、赤ちんが…赤ちんが、変な子に……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちゅーされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

「はい?」

 

 

なんか、マジで予想外なものを見せられちゃって、アタシも先輩も、気が抜けたみたいな、おマヌケな声が出ちゃった。いや、だって、ちゅーだよ?ちゅー。

 

今までアタシ達相手にあんな大暴れしてた子が、最後に残った赤ちんに寄って行って、したことがちゅー。しかもやけに熱烈な感じがして、見てるアタシも、なんか顔あっつくなっちゃった。

 

そのうち、変な子が赤ちんから顔を離した。自分がされたことが分かったっぽい赤ちんが、すっごい変な顔で、変な子を見つめてる。あ、顔真っ赤にして倒れちゃった。

 

変な子は、マジで嬉しそうな顔してる。満足したんだなぁ。そんで、思い出したみたいにアタシと先輩の方を見た。赤ちんを見てる時と違って、ちょっと怒ってるみたいな顔してる。さっきまで超嬉しそうだったくせにー…。

 

その後すぐに、なんかいきなり消えちゃって、それと一緒に、あの変な結界も無くなった。出てくる時も、いなくなる時もいきなりで、やっぱマジで変な子だよね。

 

 

 

 

 

 

「……いやいや。いやいやいやいや!なんなんですの、あの子はぁ!!」

 

 

変な子が消えてからちょっと経って、先輩が大声出した。なんだかんだで、声出せるくらいには元気になったみたい。アタシも今になって、ようやく体が動くようになった。マジ遅いよー!

 

 

「そーだそーだー!!赤ちんに手ェ出すなら、まずは事務所かマネージャー通せおらー!!」

 

「いや、アイドルか何かじゃないんですから!」

 

 

フルボッコにされて悔しかったから、アタシもなんか叫んでみた。先輩にはツッコまれたけど、ちゅーは大事で、マジで安くないんだよ。女の子同士だったとしても!

 

 

「はぁぁぁぁぁ……。まぁ、一先ずは全員生きてるようですし、それを喜びましょうか…」

 

「でも先輩、全然嬉しそうじゃないね」

 

「そりゃそうですわよ…。概ねいつもと同じ一日が終わるかと思ったら、最後の最後であんな…」

 

「また死ぬかと思いましたわよ…」なんて言いながら、ヨロヨロって立ち上がる先輩。それを見て、アタシも頑張って立った。赤ちんの無事も、確かめなきゃね。

 

 

アタシ達が側まで来ても、未だに赤い顔してダウンしてる赤ちんの身体を、先輩と協力して起こしてから、アタシが背負った。そのまま、二人が住んでる家までおんぶ。アタシが家に帰る頃には、すっかり夜になっちゃってた。

 

変な子とか、変な結界とか、あと、うわさのこととか…とにかく、色んな謎が残りっぱになっちゃったけど、赤ちんと先輩っていう仲間も出来たし、これからのアタシの毎日が、マジで楽しくなるといいなーって、そう思った。

 

 

 

 

 

 

次の日、ガッコー帰りに先輩達の家に行ったら、赤ちんにお礼を言われた。元気で安心したけど、心配になっちゃって、「ちゅーされたけど大丈夫だった?」って聞いた。

 

赤ちんはまた顔真っ赤にして、アタシに言った。「うるせーバカ!」って。なんか可愛かった。

 





マギレコ本編の出来事

・レナが病院に潜入。公園で成果を報告中に、プリンを食べた全員が腹を下した。


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第3章:神浜うわさファイト
3-1 ほんの少し近付いて



気付けばマギレコ4周年が近いので初投稿です。


 

 

「………?」

 

 

自室の扉が開く音が微かに聞こえて、目が覚めた。部屋は暗い。どうやら、まだまだ夜は明けていないみたい。

 

睡眠欲という原始的なものにどうにか抗いながら、部屋の出入り口がある方を見る。ドアは開いていて、誰か立っている。誰かと言っても、この家に住んでいる人間なんて、私と、後もう一人しかいないのだけれど。

 

 

「どーかしまして、赤さん…」

 

 

眠気からか、少しふにゃふにゃした声音で話しかけた。良かった。照明でも点灯していようものなら、恐らくだらしなくなっているであろう顔を、見られていたかもしれない。

 

 

「………」

 

「………」

 

 

お互いに何も言わない。多分この子は今、葛藤してる。というか、恥ずかしくて言い出せないとか、そんな感じ。こういう時の彼女は大抵そう。

 

 

「……一緒に寝ていいか」

 

「……」

 

 

私は何も言わないで、ベッドにスペースを空けて、掛け布団をめくった。おずおずとした態度で、赤さんが寝床に入ってくる。私は、赤さんに背を向けた体勢になった。多分、彼女もそうしてる。

 

 

「……ごめん」

 

「いえ…」

 

 

ややあって、謝られた。特に気にはしないけど、ここ最近の彼女はずっとこう。夜遅くに私の部屋に来て、一緒に寝て起きている。

 

 

(あんな目に遭えば、まぁ無理もないのでしょうか…)

 

 

原因はなんとなく分かる。前に海浜公園で経験した、あの謎の少女との戦いだ。謎の結界。圧倒的な強さ。完敗を喫した私達…。あの存在に恐怖を抱いてしまって、一人では夜を明かせなくなったとしても、致し方ないこと。

 

 

(しかも赤さんの場合は、アレもありますものねー…)

 

 

最後にあの謎の女の子がやらかしていった、赤さんへの情熱的なキス。あんなことされたら、良くも悪くも印象には残るでしょう。初めてなら尚更。

 

要は傷付いてしまったのかも。あの戦いが色んな意味で彼女に深い爪跡を残して、それで心がまいってしまったから、赤さんは今、こんなことをしてるのでは…。

 

 

(でも、私にはどうすることも……)

 

 

ただでさえ微妙な距離感の同居人に、自分が一体何をしてやれるっていうのか。少しモヤっとした気持ちのまま、目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

「先輩は…」

 

「ん…?」

 

 

言葉も無くなって、もう寝たのかと思った矢先に、話しかけてきた赤さん。私も、いい加減に寝直したいんですけど…。

 

 

「その……さ。何で、魔法少女になったの」

 

 

何で。何で、ですか。んー…。教えるのは構わない。構わないけれど。

 

 

「どうして?」

 

「……」

 

 

あまり大きな声を出したくないこともあって、静かに問いかけた。こんな突っ込んだこと、今まで聞いてこなかったから、素直に気になった。

 

 

「…わかんない」

 

「ん?」

 

「なんか…なんか、わかんないけど…急にそんな気になったっつーか…」

 

 

はっきりした理由は無い、と。いや、もしかしたら、上手く言葉に出来ないだけなのかもしれない。それくらい複雑だから、「わからない」と言うしかないのでしょうか。

 

 

「いや、別に言いたくなかったら…あれだけど…」

 

「いいですわよ、教えても」

 

「え…」

 

「でも交換条件。私にも、貴女になにか質問させて」

 

「………」

 

 

だんまり。あのね、折角少し踏み入ることが出来たのに、ここまで来て尻込みなんて許しませんわよ。

 

 

「自分だけ近寄って、相手には近付いて欲しくないなんて、ズルいですわよ」

 

「……わかった…」

 

 

駄目かなって思ったけど、勇気を出してくれたらしい。まるで背を押したような、お尻を叩いたような、そんな気分。

 

 

「はい。じゃあ…なんで魔法少女に、ですね」

 

「ん…」

 

「面白くもない話ですけど…私、両親が厳しくて」

 

「うん…」

 

 

話し始める、私の事情。側から見れば、下らないかもしれないけれど。

 

 

「何をしても、褒めてなんてくれなかった。結果を出せても、出せなくても、待ってたのは厳しい言葉だけ。でもそれだけ、私に期待をかけてくれていたのかなって…まぁ、何となくわかってましたけど」

 

「……」

 

「でも、そんなことが何年も続くんですもの。だから私、両親には優しくなって欲しかった。賞を取れたら褒めてほしい…良い成績が残せたら、一緒に笑い合ってほしい…そんな風に思ってた」

 

「そんな時に、あのキュゥべえに出会って、契約しました。私に優しくなって欲しいって、そう願って…」

 

「……そっか」

 

「ええ……」

 

 

まだ続きはあるけれど、これ以上は、私の傷に触れることになる。話したくない。少なくとも、今は。

 

 

「じゃあ、私が聞く番」

 

「え、あ……うん」

 

 

だから、強引に話を切り替えた。少し、申し訳なく思う。

 

 

「赤さんは……どうして、お家に帰らないんですの?」

 

「…邪魔だった?」

 

「違うの。ただ、理由が知りたいだけ」

 

「そう…」

 

 

別に追い出す気は無い。というか、この広めな家で一人になっちゃうと、ほら。私がアレですし。

 

 

「つまんねえ話だぞ」

 

「構いません」

 

「笑わない?」

 

「決して」

 

 

つまらないというなら、私の話も同じでしょうから。

 

 

「………親」

 

「うん」

 

「親が…嫌で。…でも、親は悪くなくてさ。私が、その…一方的に嫌がってる」

 

「そう」

 

「だから、帰りたくないっつーか…」

 

 

思わぬ共通点。お互い、親のことで苦い思いをしてる。それが分かっただけでも、こうして二人、踏み込んでみた甲斐があったのかしらね。

 

 

「なるほど、わかりました。…ありがとう、話してくれて」

 

「…別に」

 

「じゃ…そろそろ寝ましょ。朝、起きられなくなっちゃう」

 

「ん…」

 

 

声量の小さな会話も終わりを告げて、今度こそお互い無言になる。赤さんも眠くなっていたのか、すぐに穏やかな寝息が聞こえてくる。

 

 

 

少しだけ心が近付いたような気がして、そのことに嬉しさのような何かを感じながら、私も眠った。

 





マギレコ本編の出来事

・第3章【神浜うわさファイル】開始前。


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3-2 マジ子のこと

 

 

先輩の部屋で寝て、少しお互いのことがわかった。その後は普段通り。眠ったら夜が明けて、いつも通り朝を過ごして、私も先輩も、学校に行った。

 

らしくないことしてるんじゃないかって、思う。一緒に寝てるのもそうだけど、自分のこと話したり、先輩に対して踏み込んだり。何でそんなことする気になったのか、自分でもわかんない。あの海浜公園での戦いが影響してるのかもとは、何となく思うけど。

 

 

(自分のことなのにな…)

 

 

休み時間だってのに、自分の机に突っ伏しながら、考えごと。答えは出そうにないけど。

 

結局、昼飯を食うのも忘れて、ああでもない こうでもないって考えまくって、気が付いたらホームルームが終わってた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後になって、大東学院の校門へ。今日は参京区に集まる予定になってるから、さっさと向かうことにする。

 

 

「あ。赤たんだぁ」

 

「ん…。ミィさんじゃん」

 

 

名前を呼ばれた。声のした方を向けば、見知った顔。綺麗な銀の髪に、特徴的な髪型。明らかに歳下なのが分かる、幼い雰囲気と、小さな背丈。

 

本人が自分のことをミィって呼ぶから、私も許可を貰って、ミィさんって呼んでる。一応本名も聞いてるけど、呼び方は変えてない。名字から考えると、調整屋さんの関係者なのかも。

 

休み時間、校内をブラついてる時にたまたま会って、それからは時々こうやって話す。私が魔法少女だってのは知らない…はず。

 

 

「帰るの?」

 

「待ち合わせ。参京で」

 

「そっか。友達と遊びに行くんだぁ」

 

「みたいなもんかね。友達…ではねえかも」

 

 

チームではあるけど、別に仲良しでもないと思う。特にマジ子のやつは、知り合って間もないわけだしな。

 

 

「そうなの?」

 

「そうなの。えっと…わりぃ、そろそろ行くわ」

 

 

こうして話してるのもいいんだけど、予定がある以上、校内に長居も出来ない。ミィさんには悪いけど、無理くりに話を切り上げる。

 

 

「あ、そっか。待ち合わせだもんね。ごめん」

 

「いいって。気にしないで」

 

「うん!じゃーねー、赤たん!」

 

 

元気に手を振るミィさんに、私も振って返す。今度こそ、学校を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

参京区にある、とある中華料理屋。今日はそこに、チームで集まっての夕飯。先輩の提案で、マジ子の歓迎会も兼ねることになった。

 

 

「えー、では…マジ子さんの加入と、チーム結成を祝って」

 

「イエーイ!かんぱーい!」

 

「騒ぐなって」

 

 

乾杯の音頭すらグダグダなのを他所に、各々が頼んだ料理を食べ始める。私は炒飯と餃子。味は相変わらず50点。

 

 

「つか今更だけど、何でまたここ?」

 

「お嫌?」

 

「嫌じゃねーけどさぁ…。もっとあるだろ、美味いとこっつーか」

 

 

例えば北養区にある洋食屋では、すっげえ美味いオムライスが食べられるって聞くし。たまにはそういうのをさぁ…。

 

 

「ここも充分に美味しいですわよ。私的には、『神浜うまさファイブ』に堂々のランクインを果たしてますわ」

 

「勝手にわけわかんねーランキング作るな」

 

「んー…ま、美味いっちゃ美味いよね。不味いっちゃ不味いけど」

 

 

言い方…。でもそうだよなぁ。やっぱどっちつかずなんだよ。とりあえず腹は膨れるんだけど。

 

 

「ってーかさ、アタシ、こうやって友達と一緒に帰りにご飯食べんの初めて。マジで新鮮」

 

「友達じゃねーけどな」

 

「マジ子さん、社交的に見えますし、遊びに行くお友達くらい居そうですけど」

 

「いやー、友達は居んだけどさー。こうやって、帰りに色々するような感じじゃないってーか」

 

 

お友達にも、自分の予定だ都合だってのはあるんだしな。こいつの通う栄総合は、芸術とか芸能に力を入れてるって聞くし、真剣に打ち込んでる人も多いんだろ。

 

 

「休みの日とか一緒にって思うんだけどさー、中々……ん。あ、ごめん、なんか来た」

 

 

話してる途中で、マジ子のスマホが鳴ったらしい。何処からか取り出して弄り出す。

 

 

「姉ちゃんからだった。んもー、一々うっさいんだから…」

 

 

用は済んだらしい。スマホをスリープさせて、愚痴りだす。

 

 

「姉ちゃん居んの?」

 

「そー。ここの区に住んでて、アタシも世話んなってんだー」

 

「へえ。ちなみに、ご実家は?」

 

「見滝原!」

 

 

他の街かよ。てことはマジ子の姉ちゃんは、結構長いことマジ子の面倒を見てるってことになる。大変そうだな…。

 

 

「姉ちゃんはさー、いっつも私に勉強しろとか、もっと将来のこと考えろとか言ってさー。マジで面倒くさいの」

 

「心配してくれてるんですわよ、マジ子さんのこと」

 

「そーかなぁ…。大体、先のことより今を大切にしてさ、遊んだり楽しんだりする方が、マジで大事じゃない?アタシまだ高一なんだしさー!」

 

 

要するに、先送りってことかそれ…?やっぱり馬鹿だこいつ。将来に明確なビジョンを持ってない私が言うことじゃねえかもだけど…。

 

 

「あのー…ちなみにマジ子さん、成績の方は…?」

 

「んぇ?成績?やー、もう全然!バカだもんアタシ!」

 

「あ、そうですか…」

 

「あ!そういや数学の宿題あったんだ、ヤベー…!でも、どうせ分かんないからいっかぁ」

 

「………」

 

 

チームメンバーのバカさ加減に、流石の先輩も絶句。また年頃の女の子にあるまじき顔してるよ…。

 

その後は何故か「勉強で悩んでるの?なら、文武両道で最強な、この私にお任せだー!」なんて言いながら店員さんが絡んできたりして、もう滅茶苦茶。

 

騒がしい中で残った飯を食いながら、そういや、マジ子の抱えてる事情も、家族絡みなんだよなって気付いた。

 

 

 

保護者に心配かけるだけかけて、自分は好き勝手。私とマジ子の嫌な共通点が見えて、残りの炒飯が不味くなったように感じた。

 





マギレコ本編の出来事

・第3章【神浜うわさファイル】開始。みたまに勧められ、いろはが水名女学園で、神社の噂について聞き込み。


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3-3 勉強NG


マギレコが無事4周年を迎えたので初投稿です。


 

「ふんっ!!」

 

 

パイルの一撃をブチ当てると、魔女がよろけた。「乗算」は使ってなくても、これくらいは出来る。

 

 

「赤さん、退避!」

 

 

後ろから先輩の声が聞こえてきたから、後方に飛んでからしゃがむ。私の頭上をカンテラが通過して、魔女に当たって爆発を起こす。

 

 

「マジ子さん、詰めを!」

 

「おっしゃー!!」

 

 

カンテラと同じように、私の後ろからアタッシュケースが飛んでいく。それを追いかけるように、マジ子が魔女に向かって走っていった。

 

ケースが魔女の顔らしき部分にヒットして、ヤツは仰反った。痛みを感じてるのか、魔女はまるで、赤ちゃんが泣いているような鳴き声をあげる。当たって跳ね返ったアタッシュケースを、マジ子が空中に大きく飛んで掴んだ。

 

 

「これでどぉだぁ!!」

 

 

掴んだ武器を、落下しながら思いっきり振り下ろした。見てくれはどうあれ、魔力が込められた渾身の一撃を受けた魔女は、私達の連続攻撃に耐えられずに、その身体を破裂させるみたいに消滅した。

 

 

 

 

 

 

結界が消えて、変身を解く。グリーフシードもちゃんと落ちてた。

 

 

「いやー上手くいったね!アタシ達、れんけーバッチリじゃん!」

 

「そこまで強くはなかったのが幸いでしたわね。使い魔が成長して、魔女に成り立ての個体だったとかでしょうか…」

 

 

確かにすんなり倒せた。攻撃も問題無く当たって、魔女はダメージを受けて…。今まで戦った魔女の強さを考えると、先輩の予想は間違ってないのかな。でも…

 

 

「今回は楽に終わったけど、いつまでもこんなラッキー続かねえよなぁ絶対」

 

「ええ。空き時間が出来たら、また特訓しときましょうか」

 

「お?マジかぁ」

 

 

マジだよ。この街で戦って生き残っていくなら、もっと練度を高めていかなきゃいけない。マジ子のやつはバッチリなんて言ってたけど、私達の連携が高いレベルにあるとは思えないし。

 

 

(…まぁ、特訓つってもあれだけど…)

 

 

あの海浜公園での戦いを反省して、もっと息を合わせようってことで始めたのが、まさかのチーム全員での料理やお菓子作り。更にはゲーセンでのダンスゲームやら、街に繰り出してのカラオケやら…。

 

いやこれ、ただ単に遊んでるだけなんじゃ…。しかも、食い物作りに関しては結果が…。

 

 

「赤さん、今失礼なこと考えたでしょう」

 

「別に…」

 

「嘘おっしゃい、顔に出てましたわよ!何ですの。いいじゃありませんか、特訓ついでに遊んだり美味しいもの食べたりできて!」

 

 

遊んでるって自覚はあるのか…。いや、いいんだけどさ別に。なんならさっきの戦いは、動き自体はスムーズだったし、成果も少しは出てるのかもしんないよ。でもさ。

 

 

「ゲームとカラオケはまだいいよ。私に可愛い曲ばっか歌わせるのは腹立つけど。でも飯と菓子はなんか、こう…ダメだろあれは」

 

「確かに毎回、見た目は魔女に関する何かかと勘違いするような異様なブツが出来上がりますけど…」

 

「ほらぁ!」

 

 

分かってんじゃないか。素人なりに丁寧に作ってるつもりだろうに、本当になんであんなもんが出来るんだよ。

 

 

「何がほらぁですの!大丈夫ですわよ、まだ素人の域とはいえ、そこそこ回数をこなしてますわ。なら、少しくらい良くなって…」

 

「いやぁ、マジ不味かったよ毎回。ぶっちゃけ無理。材料無駄じゃね?」

 

「んな!マジ子さんまで!」

 

 

普段は大体笑顔なマジ子が、真顔でド直球ストレート。ほら見ろ、それくらい酷いんだってば。

 

 

「そもそも!三人で作ってますのよ。なにを私だけに責任があるかのように言うんですの、貴女達!」

 

「私は何も変なことしてないよ。あんたが変にアレンジ加えようとするのが悪いんだろ」

 

「アタシ、前のお菓子作りで、先輩が材料の量めっちゃ増やして作ろうとしてたの見たよ」

 

 

決まりだな。食い物系特訓の失敗は先輩のせい。お陰で私もマジ子も、随分な体験をしたもんだ。これは責任の一つでも取ってもらわにゃあ…

 

 

「知ってますわよ、赤さん。貴女が毎回味見した後、勝手に調味料をあれこれ追加してること」

 

 

……………。

 

 

「マジ子さんも、買ってきた材料をつまみ食いしたり、火の調整サボって漫画読んだりしてますわよね?」

 

「…………マジかぁ」

 

 

痛いところを突かれてしまった。バレてないと思ってても、やっぱそうはいかないってことなのか…。

 

 

「あ、そうだ。アタシ最近さぁ、下着を」

 

「話題逸らすの雑ですわよ。見なさい、私だけじゃないでしょう。チーム全体の責任ですわよこれは」

 

「………わかった。悪かったよ」

 

「よろしい」

 

 

観念して謝る。ていうか、私達は水名区まで足運んでまで何を言い合ってんだか…。本来は別の用事で来たのに。

 

 

「てかさー、本とか動画とかちゃんと見てんのに、なんでお手本通りにならないんかな。もしかして先輩も赤ちんも、アタシと同じでバカなんかな」

 

「それはないから」

 

 

そうだ。水名に行きたいって言ったのは、本来こいつだ。このバカの発言が発端だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し前の時間、私達は某飲食店に集まっていた。先日 参京で飯を食った時に、マジ子の成績を察して愕然とした先輩の発案だった。今からでも何とかしようってことらしい。

 

店員さん達には申し訳なく思いつつも、席に着いて、教科書やノートを広げる。マジ子のことは先輩に任せて、私は私で勉強を始めることにした。

 

 

「えー、前に習ったやつは…戊辰戦争とかだったかな…」

 

 

歴史の教科書をパラパラ捲る。私だって魔法少女の前に一人の学生なんだから、本分を全うしてもバチは当たらない。その内テストだってあるんだし。

 

 

(そんな成績良いわけじゃねーけど)

 

 

内心ボヤきながら、まずは復習と思って、教科書とノートとの睨めっこを始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねー、もう疲れたー。アタシ マジ破裂しそう…」

 

「貴女の奇天烈な頭脳に私も参ってきてますけど、もう少しだけ続けましょうよ。ね?」

 

「えぇー…」

 

 

勉強を始めてからしばらく経ったところで、マジ子からギブアップ宣言。途中で色々摘みながら頑張ってたけど、もう無理らしい。

 

 

「ほら、次ですわよ。いいですか?この問題は、たすき掛けを使って」

 

「タスキガケってなにー…?リレーのアンカーとかのアレ?」

 

「あ、そこから…」

 

 

予想できてはいたけど、マジ子のやつに勉強を教えるのは中々に厳しそう。頑張れ先輩。私は中学生だから、高校生の勉強なんて手伝えないんだ。

 

 

「では、因数分解などは…」

 

「なにそれー…バラしてなんかあんの…?」

 

「いえ、ですからね?そういうやり方というものが」

 

「あーっ!もういいってマジで!わかんな過ぎて脳みそパーンってなるよもー!」

 

 

ついに爆発した。流石にこいつも人間だし、我慢の限界ってのはあったみたいだ。

 

 

「先輩、今日はここらでいいんじゃない?」

 

「ですが」

 

「今日始めたばっかだろ?一気に詰め込むこともないって」

 

 

マジ子を助けるわけじゃないけど、勉強会のお開きを提案してみる。私もそろそろこの辺にしときたいと思ってたところだし、丁度いい。

 

 

「…それもそうですわね。私、少し性急だったかもしれませんわ」

 

「じゃー…ベンキョー終わり?」

 

「ええ、店員さん達にも迷惑でしょうし。すみませんマジ子さん。慣れないことをさせて」

 

「っ…だはぁぁぁ〜…!つかれた…」

 

 

消耗したのがよくわかる声を出しながら、テーブルにベチャッと突っ伏したマジ子。私も、勉強道具を片付ける。

 

 

「お疲れさん」

 

「ほんとだよ…。これ以上ベンキョーするって言われたら、先輩の家マジで全部水にしてやろうかと思った…」

 

「サラッと恐ろしいこと言うのやめてもらっていいです?」

 

 

そこまでするんかい。どんだけ勉強嫌いなんだこいつは。

 

 

「はぁ…。それで、この後どうします?今日は解散しますか?」

 

「まぁ、それでも全然」

 

「はいはい!じゃ、水名区!水名いこ水名!」

 

 

今まで萎れてたクセに、マジ子がガバッと顔と手を上げて主張してきた。まさに水を得た魚。

 

 

「水名!ねぇ水名!ゴーしよ、ゴー。水名ゴー!ゴー水名!」

 

「いやうるっさいなもう!分かったっつーの」

 

 

すっかり元のマジ子だ。喧しくて、元気で、馬鹿で。ちょっと安心し……いや、やっぱうるさいわ。

 

 

「あの、何故そこまで水名に?」

 

「んふふー…そりゃーもちろん、うわさだよ!」

 

「うわさぁ?」

 

 

それってあれか。この間の絶叫ロールみたいな…。でも、どうせまた碌に覚えてないんだろ?

 

 

「あー、その顔。赤ちんどうせ、アタシがバカだから聞いた話覚えてないって思ってるんでしょ〜」

 

 

やたらニヤニヤしながら聞いてくる。なんだよ。そりゃそう思うだろ。

 

 

「ブブゥー!残念でしたぁー!今回はちゃんとメモ取ってたから忘れてませぇ〜ん☆」

 

 

両手の人差し指をバツの字みたいに交差させながらそう言う。ムカつく。まぁ、話を忘れても大丈夫なようにしといたのは偉いよ。進歩してる。よくやったな。

 

でも、それはそれとして今の「ブブゥー!以下略」は気に入らなかったから、後日覚えとけよお前。

 

 

「メモですか。素晴らしいですわ、マジ子さん。貴女の珍妙な頭脳に、そのような知恵が備わっていただなんて!」

 

「あれ、アタシ ディスられてね?ま、いいや!じゃー発表しまっす!聞いたうわさの内容はー…」

 

 

この後私達は、マジ子からうわさの内容を聞いてから水名区に向かった。聞いてから思ったけど、やっぱあの絶叫ロールって、本当は全然違う名前のうわさだったんじゃねえかな…。

 

まぁそれは置いといて、そのうわさの内容ってのが、こんな感じだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アラもう聞いた? 誰から聞いた?

口寄せ神社のそのウワサ

 

家族?恋人?赤の他人?

心の底からアイタイのなら

こちらの神様にお任せを!

 

絵馬にその人の名前を書いて

行儀良くちゃーんとお参りすれば

アイタイ人に逢わせてくれる

 

だけどだけどもゴヨージン!

幸せすぎて帰れないって

水名区の人の間ではもっぱらのウワサ

 

キャーコワイ!

 





マギレコ本編の出来事

・いろはが鶴乃と一緒に、水名で神社のうわさを調べ始める。鶴乃は神社を片っ端から巡り、いろは は水名区に伝わる昔話を調べることに。いろはのデジタル音痴っぷりが炸裂。


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3-4 お参りに向けて


今更ですが赤さんのパイルは先の尖ったやつじゃなくてビッグオーのサドン・インパクトみたいなやつを想像してもらえたらいいので初投稿です。


 

 

騒々しくて不毛な言い合いもそこそこに、本来の用を済ませる為に、水名区の中を雁首揃えて歩く私達。一応は調査の為に来たはずなのに、魔女と戦うことになる辺り、流石は神浜市ってところか。

 

うわさとかいう、胡散臭いものの為に街中を行くのは、これが二度目。今回は前と違って、ちゃんと目的地は決めてたはず。

 

 

「水名神社行くんだっけか?」

 

「ええ。マジ子さんが得た情報から考えてみて、まずはあそこかなと」

 

「神社のうわさだもんねー。しかも内容も面白そーだしさ!」

 

 

内容……会いたい人に会えるっていうやつか。うわさはうわさでも、世間一般で囁かれるようなそれとは、ちょっと質が違う気がする。

 

なんていうか、「真偽は置いといても、まぁ有り得るかも?」って感じのしない、少し突飛で胡散臭くて、都市伝説とか七不思議とか、そっちの方が近いような。魔法少女が言うのもなんだけどさ。

 

 

「今度はちゃんと当たりだと思うんだよねー。ちゃんと聞いてたし、前のやつより色んな人から聞いた話だし!」

 

「と言っても、やっぱりうわさの域は出ませんのでしょ?」

 

「でもさー、ホントじゃなかったら、うわさがここまで広まるってことないんじゃない?」

 

「それはあるかもしれませんが…」

 

 

うわさ…うわさかぁ。今更だけど、本音を言えば、調べるのは気乗りしないんだよなぁ…。何でかってのは…まぁほら、アレだよ。

 

 

「実は危険な何かに繋がってる、とかだったらなぁ…。嫌だぞ私は」

 

「あれ。赤ちん、なんかビビってる?」

 

「…まぁ、何となく察しは付きますけれど」

 

 

…さぁ、何のことだか。知らんなぁそんなの。私には思い当たるフシなんて無いし、いやぁ全く存じ上げませんよ、ええ。

 

 

「あ、わかった。またあの変な子出てこないか不安なんでしょ」

 

「変な子だぁ?誰だよそれ、自己紹介かなにか?やめてくれって。ただでさえ、私の周りは変なやつばっかで」

 

「あら、あれはもしや海浜公園の子では」

 

 

おっと先輩、その手はくわないぞ。こっちの反応を見て遊ぼうとでもしたのか。残念だけど、そんな安い手に引っ掛かる私じゃないんだよなぁ。

 

 

「あ、赤ちん今ビクってなった」

 

「涼しい顔してるつもりでしょうけど、顔がちょっと強張ってますわよ」

 

「……………」

 

 

引っ掛かる私じゃ…

 

 

「まぁ、もちろん嘘なんですけど」

 

「ふぅぅぅぅぅ…」

 

「すっごい安心したような溜息ですわね…」

 

 

……………はい。

 

 

「なぁんだー。やっぱ怖いんじゃん?」

 

「ばっかお前、違うから。そんなんじゃないから。私はただなぁ…」

 

「やっぱちゅーされたから?」

 

「お前ぇ!」

 

「あぁ…赤さん、乱暴は…」

 

 

人が気にしないようにしてることをよぉ!思い出すだけで恥ずかしいわ、あの子の意図が読めずに不気味だわで、思わずマジ子に掴みかかった。

 

 

「大丈夫だよ赤ちん!ほら、女の子!女の子同士だからさ。ノーカン!ノーカン!」

 

「そういうことじゃないんだっつーの!」

 

「じゃあ、アタシ達みんなボコられちゃったの気にしてるとか?」

 

「っ…それは…」

 

「あの子、よくわかんない内に消えちゃったからアレだけど、あのまま戦ってたらアタシ達、全員死んじゃってたかもだし…」

 

「…………」

 

 

それは本当にそう。あの女の子が出てきてから消えるまで、徹頭徹尾わからないことだらけで、しかも私達は、揃って打ちのめされた。生きて帰って来られたのが、今でも不思議でならない。

 

カッとなった頭と心が急速に冷えて、マジ子から手を離した。

 

 

「……それも、あるけど」

 

「うん…?」

 

「お前の言う通り、その……死ぬかもとか、キ…されたこととか、色々あんだけどさ…」

 

「うん」

 

「それだけじゃなくて…あの…お前らがさ……」

 

 

そこまで言って、完全に言葉に詰まる。言えない。どうしても、この後に続く言葉を、口に出来ない。目の前で首を傾げるマジ子から目を背けて、二人から逃げるみたいに、一人で神社に向けてズカズカ歩き出してしまった。

 

 

「あ。赤ちん?」

 

「マジ子さん、そっとしてあげましょ」

 

「え、でも」

 

「あの子、この前の戦いのことで、ちょっとナーバスになってるのかもって思いますの。ですから、ね?」

 

「それってなんか冷たくない?仲間が困ってんだよ?」

 

「だからと言って、無理に話を聞き出すのもよろしくないかと…。仮に聞けたって、何かしてあげられるとはとても…」

 

「そりゃあ、そーかもだけど…。でもさぁ」

 

 

後ろから聞こえてくる、二人の話し声。二人共、私を気遣ってくれてるのが分かる。先輩もマジ子も、ちゃんと他人への優しさを持ってるんだ。

 

そんな二人が、もしあの海浜公園での戦いで命を落としていたら?うわさを調べる中で、またあの謎の女の子に出くわして、襲われたら?

 

そんなことを考え出すと、途端にうわさってものに関わるのが怖くなった。また同じことが起こるかもっていう不安が、私の中から消えてくれない。数日前からずっとこうだ。

 

そんな不安や恐怖を感じるのと同時に、何故か先輩やマジ子の事を、何かと気にするようにもなっちまった。私にはそれがわからない。

 

 

(何で……こんな気持ちになるんだろ……)

 

 

二人に何かあったらって思うと何だか落ち着かないし、二人と過ごす時間のことも、大事にしなくちゃって思っちまう。

 

 

(先輩と一緒に寝るのも、特訓に付き合うのも、そういう気持ちが根っこにあるから……だと、思う。多分…)

 

 

さっき言葉に詰まったのは、つまりはそういう気持ちを口にしようとしたからなんだけど、結果は言えず終い。自分が感じているこの気持ちを、上手く言葉に出来る自信が無かったから。

 

そして何より、らしくないことを口にしようとする自分自身に、戸惑ってしまったから。

 

 

(これじゃまるで、私が二人のこと大事に思ってるみたいじゃねえかよ…)

 

 

そういうのはもっとこう、友達とか家族とか、そういう関係を築いた人に対して抱く感情なんじゃないのか。私達はそんなんじゃないんだから、こんな気持ちになるわけがないんだよ。ないのに…。

 

 

(二人と積極的に過ごすようになったから、こうなったとか?)

 

 

具体的には、マジ子がチームに入ってからか。あいつはやたらと遊びたがるし、私と先輩がそれに付き合わされるのも、今やいつもの事だし。だったら、皆で居る時間だって、自然と増える。

 

 

(そうやって毎日過ごしてる内に、情が移ったってか?冗談…)

 

 

今まで付かず離れずでやって来といて、少し近付いた途端にそれか。もしそうなら、私はとんでもなくチョロいやつってことになるのか…?

 

 

(そんなわけねえだろ…。私、そんなガードのユルい人間じゃない……はずだし)

 

「………さん」

 

(…でも、一昨日先輩と一緒に寝た時にあれこれ話したのは、なんつーか…悪くない気分だったよな…)

 

「……かさん」

 

(あーもう!結局何なんだよこれ…!自分の事なのに、意味がわかんな…)

 

「ちょっと!赤さん!」

 

「!?」

 

 

先輩に強く呼びかけられて、ハッとする。いつの間にか考え事にどっぷりで、周りが見えなくなってしまってたらしい。振り返れば、私よりも少し遠くに、先輩とマジ子の姿があった。

 

 

「赤ちーん、もう水名神社着いたよ!通り過ぎちゃってる!」

 

「あ?……あ、ほんとだ」

 

「ボケーっとしてないの!ほら、戻って来なさいな!」

 

 

二人に合流する為に、小走りで引き返す。まだ色々と腑に落ちないままだけど、今まで考えてたことは、とりあえず頭の片隅に押しやった。

 

 

 

 

 

 

 

 

水名神社の内側に入ると、まさしく和って感じの景色が、私達の目の前に広がった。私は暇潰しか散策くらいでしか来たことはないけど、結構広い場所だってのは、嫌でも印象に残ってる。

 

 

「やっぱ広いよねーここ。アタシ、何回か初詣に来たことあるよ」

 

「神浜に住んでる人は大抵この神社に来ますわよね。私もそうですし」

 

「人多そうで嫌だな…。私はやめとこ」

 

「えー、何で!元旦に来ようよ皆で!」

 

「面倒だろ。人混みとか」

 

「えー…」

 

 

マジ子を適当にあしらって、お参り、もとい、調査の為に準備する。うわさに対する不安は消えないけど、調査すること自体、チーム全体でそうするって決めたことだし、今更私だけ止めるなんて言わない。全員で、改めてうわさの内容を確認していくことにした。

 

 

「まずは絵馬に名前を書く必要がありますわね。私、買ってきます」

 

 

そう言って、先輩は一人で歩いていった。神社のことには詳しくないけど、絵馬くらい売ってるだろ。

 

 

「ねー、赤ちん。アタシ、ちゃんとしたお参りの仕方とかわかんないよ」

 

「あー?毎年来てんだろ?」

 

「姉ちゃんの真似してるだけだったからねー」

 

「お前…。まぁ、こういうのってどっかにやり方書いてあるもんじゃねえかな。大丈夫だろ」

 

 

実は私も、その辺をしっかり覚えてるわけじゃないのは内緒だけど。その後もマジ子とあれこれ話しながら、先輩を待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お待たせしました」

 

 

買い物を終えたみたいで、先輩が戻ってきた。なんか、抱えている絵馬の数が多いように見える。三つでいいはずなのに。

 

 

「あれ、なんか六つあるよ?」

 

「ほんとだ。こんなに要るか?」

 

「保険ですかね。書き損じるとダメとかだったら困りますし」

 

「あー」

 

 

納得して、絵馬を受け取る。まずはこいつに、会いたい人の名前を書く必要があるらしい。会いたい人…会いたい人か…。

 

 

「誰でもいいんかなー?」

 

「会いたい人であるなら、まぁ…。マジ子さん、居ますの?そういう方は」

 

「んー…。友達は連絡取ればいいし、お父さんとお母さんは地元帰ればいいしなー…」

 

「複数人は無効かもしれませんし、一人に絞った方がいいと思いますわよ……と、書けましたわ」

 

「マジかー。うーん……よし、決めた!えーっと…」

 

 

先輩もマジ子も、誰にするか決めたらしく、絵馬に書き込んでいってる。私はどうなのかというと、書きかけで少し手が止まってしまってるところだった。

 

別に、書き込む名前を誰のものにするかで悩んでるとか、そういうことじゃない。なんなら、会いたい人って聞いた時に、いの一番に浮かんだ顔と名前があったくらいだし。

 

 

(でも…)

 

 

本当にそれでいいのかって思う。真偽も分からないうわさなのに、会いたいからってだけで、私にとって一番大切な人の名前を絵馬に書いてしまうのが、果たして正しいのか…?

 

 

(本当はもう、二度と会えないのに……)

 

 

その名前を書いしまったら、きっと私は傷付く。うわさに期待してるわけじゃないけど、調査の結果がどうなっても、それは避けられないと思う。

 

 

「赤さん、書けまして?」

 

「そろそろお参りしよー!」

 

「ん…わかった。ちょっと待って、今書く」

 

 

二人に急かされて、手早く絵馬に名前を書く。そうだった。まだ調べものは始まったばっかりだし、この段階で時間をかけても仕方ないんだ。すぐに名前を書き終えて、三人で拝殿に向かった。

 

 

 

結局、書きかけの名前は塗り潰して、別の名前を書いた。自分で自分の心を傷付ける勇気が、私には無かったから。

 





マギレコ本編の出来事

・いろはがスタンプラリーを開始。ただの町おこしではと困惑するが、何がうわさに繋がっているか分からないからと奮起した。


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3-5 もっと調べよう



無料ガチャで☆4をいっぱい凸できたのが嬉しいので初投稿です。


 

 

拝殿のある場所まで来た。うわさの調査は、ここからが本番。少し緊張してきたかも。

 

 

「えーと、参拝のやり方は…あぁ、書いてあるな」

 

「マジで?よかったー。アタシだけ出来なかったら恥ずいし」

 

「作法やマナーっていうのは、覚えておいて損はありませんわよ。それよりお二人共、準備はよろしいですわね?」

 

「ん。もーマジでバッチリ!ペコペコ、パンパン、ペコって感じで!」

 

 

サムズアップするマジ子。ペコとかパンとか、擬音だらけで何のこっちゃと思ったけど、要するに二礼、二拍手、一礼のことを言いたいのか。

 

 

「よろしい。では…」

 

 

先輩のその言葉を皮切りに、三人揃って作法の通り、二礼、二拍手、一礼。これで参拝は済んだけど、何が起こるかわからない。思わず身構えた。

 

 

「………」

 

「………」

 

「………」

 

 

全員が黙ったまま、静かな時間が過ぎていく。特に何か変化したとは感じないけど、これはどうなんだ…?

 

 

「…何か起きまして?」

 

「んーん。なんもないよー」

 

「うわさの内容通りなら、自分の会いたい人が出てくるんだよな?」

 

 

絵馬に書かれた名前の人物に会わせてくれるっていう内容だったはずだけど、幾ら周りを見回してみても、参拝する前と全く同じ景色が広がってるだけ。それらしい人の姿は無い。

 

 

「なんかダメだったのかなぁ?」

 

「絵馬に名前は書きましたし、参拝のやり方も、間違っていたとは思えませんけれど…」

 

「んー……」

 

 

私の書いた絵馬には塗り潰しがあったけど、それがこの状況と関係してるとは考えにくい。三人一纏めにされてるわけでもないんだろうから、仮に私だけがアウトでも、先輩とマジ子には影響は無いと思う。ならこれは…

 

 

「うわさは嘘っぱちだったってことか?」

 

「もしくは場所が違うか、ですわね」

 

「あー、確かに水名神社とは一言も言われてないんだよな…」

 

 

うーん…。この後も調査を続けるなら、かなり面倒そうだなぁこれ…。

 

 

「なぁ、どうするよ。もう神社をしらみ潰しに巡るくらいしか思いつかないんだけど…」

 

「この神浜の、ですかぁ…?広過ぎますわよ。せめて水名区に絞らなきゃ」

 

「やっぱそうなるわなー…」

 

 

流石に全部はダルいし、この歳で神社巡りってのもシブ過ぎる。先輩の言う通り、やるなら範囲を限定しなきゃ、時間が幾らあっても足りない。

 

 

「マジ子、どうすんだ。続けんのか、調査は」

 

 

更なる調査の為に出来ることはあれど、とりあえずは言い出しっぺの意向を聞くことにする。そもそも一番調べたがってるのはマジ子なんだし。

 

 

「んー……」

 

 

返ってきたのは生返事。何やらスマホを弄っていて、こっちの話はあまり聞いてない様子。この野郎…。

 

 

「おーい。どうしますかって!」

 

「んにゃあ〜?」

 

 

むにーっとほっぺを軽く摘んで、意識をこっちに向けさせる。人と話す時はスマホから目を離しなさいこんちくしょう。

 

 

「てか、めっちゃほっぺ柔っこいなお前。もちもちじゃん」

 

「マジで?やったー」

 

「これあれか、スキンケアってやつ?」

 

「そだよ。やっぱこういうのを毎日頑張って、キレーにならなきゃさ!」

 

 

へぇ。こいつ馬鹿だけど、マメなとこもあるんだな。何つーか、年頃の女の子って感じ。私がファッションとか美容とか、そういうのに無頓着過ぎるだけなのかもだけど。…って、そうじゃなくてさ。

 

 

「うわさはどうすんだ。まだ調べる?」

 

「あ、うん。もち調べるよー。その為にスマホ見てたんだし」

 

「あぁ、成る程。地図かなにかで神社の場所を?」

 

「そーそー!」

 

 

そういうことか。考えたな、マジ子のやつ。これは案外、馬鹿の烙印を取り消す日も近いか…?

 

 

「でもアタシ、よく考えたら地図の見かた全然わかんなくてさー。マジでどうすっかなーって!」

 

「………」

 

 

うん…その日は大分遠そうだな。むしろ一生来ないかも。

 

 

「あぁもう…。仕方ありません。地図は私の方で見ますわ」

 

「マジか。ありがと先輩」

 

「といっても、流石に神浜全域を調査するには時間が足りませんし、範囲は水名区のみとさせて頂きます。よろしい?」

 

「しゃーないよね。うん、おっけ!」

 

 

というわけで、調査は続行することに決定。時間を無駄にするわけにもいかないってことで、すぐに水名神社を出て、別の神社を目指すことにした。

 

 

 

 

 

 

その後私達は時間の許す限り、水名区の神社を調べた。神社まで歩いて、先輩が絵馬を買って、名前を書いて、参拝して…。

 

結果自体は空振りばっかりで少しうんざりだけど、それでも一度やると決めた私達は、普段の締まらなさが嘘みたいに、真剣にうわさを調べていった。

 

 

 

「あ。ねえ、あれ美味しそうじゃない?」

 

「んー?あー。そういや、前になんかで紹介されてんの見たかもな」

 

「買ってみます?」

 

「あ!じゃあ先輩の奢りでー!」

 

「え、ちょっと!」

 

「ベンキョー会の時いろいろ食べたせいでお金ないんだよね…。明日返すからさ、マジお願い!」

 

「んもう…。今回だけですわよ」

 

 

 

真剣に調べていった。

 

 

 

「およ?もしかして常連さん?」

 

「あら、店員さん?」

 

「どしたの、こんなところで。しかも三人揃って」

 

「え…。えーっとほら、アレですわ!私達、実は神社巡りが趣味でして!何ていうんですの、ホラ。侘び寂びと言いますか…!」

 

「そ、そうなんだ…?」

 

「ごまかしちゃったね…」

 

「『うわさを確かめる為に神社を回ってます』なんて言えないだろ…。暇人かと思われるかもだし…」

 

「そこぉ!およしなさいな、ヒソヒソと話すのは!では店員さん、私達はこれで失礼致しますね」

 

「ほえ?あ、うん!また万々歳に食べに来てねー!ふんふん!」

 

 

 

真剣に調べ……

 

 

 

「ここが先輩のガッコー?」

 

「ええ。水名女学園ですわね」

 

「はえー…なんかお嬢様っぽい感じ…」

 

「で、赤さん。こちらが」

 

「あのぅ、声をかけられたからつい来ちゃいましたけど、皆さんは一体…」

 

「……どうです?」

 

「あー、確かに。何か似合いそうだな…カジノとか、ディーラーの衣装とか…。バニーガールも行けるんじゃない?」

 

「おっぱいもおっきめだし、セクシーなの絶対似合うよね」

 

「え、い、いえそんな…!私がカジノとかバニーとかだなんて、そういった事は決して…!というかあの、おっ…とかセクシーとか、私のような者がそんな…」

 

「だいじょぶ?なんかすっごいアワアワしてるけど」

 

「え?えぇ、はい…。あぁいえ、決して大丈夫ではありませんけども」

 

「なんか…ごめんなさい。困るよな、好き勝手言われて」

 

「それは正直…はい。というか、私てっきり趣味がバレたのかと…」

 

「ご趣味がなにか?」

 

「あ!いえ、その、何でもないんです…何でも」

 

「はぁ…」

 

 

 

真剣………?

 

 

 

「ここが水名城ですわ。ここにまつわる昔話があったりもしますのよ」

 

「へー。アタシ、こういうの修学旅行くらいでしか見たことなかったなー」

 

「夕陽に照らされたお城というのも、またオツなものですわねぇ」

 

 

……………。

 

 

「いや、神社は!?」

 

「赤ちん、それマジ今更過ぎじゃね」

 

「途中からただの観光みたいになってましたわね……」

 

 

こうして私達のうわさ調べは、終いには目的をすっかり見失うというグダグダっぷりを披露して終了した。時間が無駄になっただけじゃないのかこれ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロクに結果も出せないまま日が暮れて、最後にはうわさの調査を切り上げた私達。今は帰宅する為に、水名の駅へと向かっている。あちこち歩いて少し疲れたし、今日は乗り物に頼らせてもらおう。

 

 

「はぁー…。もう夜になっちまったよ」

 

「めっちゃお腹空いたねー」

 

「結局、うわさの真偽は分からず終いですわね…」

 

「それは途中から遊んでたからだろ…」

 

「そうなんですけど…」

 

 

まぁでも、そうしたくなる気持ちも分かる。神社を何ヵ所も巡ってる内に、どうせまた何も起こらないで終わりじゃないのかって空気になってたもんなぁ。やることも、絵馬に名前書いてお参りするだけだし…。

 

 

「二人ともゴメン…ってか、ありがとね。またアタシのワガママに付き合ってくれて」

 

「いえ…。まぁいいですわ、こういうのも。皆でこんな時間まで遊び歩くってこと、経験ありませんでしたし」

 

「…………」

 

 

マジ子の感謝に答える先輩の言葉を聞いて、私は不思議な気分になる。自分も、彼女と同じようなことを考えてる。疲れたとか馬鹿らしいとか思う一方で、悪くないって、そう思ってる自分がいる。

 

調査の結果はアレでも、二人と一緒に居られたことに、なんかこう、満足感にも似てる何かを感じてる気がする。少しむず痒い言い方をするなら、心が暖かくなるとでも言うのか。

 

 

(嬉しい…のか?私。んー…よく分かんね…)

 

 

そんなことを考えながら歩いてると、数時間前に見た建物の姿が目に入ってきた。

 

 

「あ、水名神社…」

 

「本当。何だかんだで、また戻って来ちゃいましたわね」

 

 

最初の目的地の姿が、そこにはあった。思えば、この神社に来る道中も、一人でああだこうだ考えたっけ。

 

あの時感じた気持ち、今感じている気持ち。どうも今の私には、その二つが、一つの元となる何かに繋がっているように思えてならなかった。

 

 

(でもなぁ……)

 

 

そこまで考えて、また新しい不安が生まれる。もし私が、このよく分からない気持ちの正体に気付いてしまったらどうなるんだろうって。

 

そしたら、今までの自分が壊されて、私は私でなくなっちまうんじゃないかって…。そんな馬鹿な話があるわけないのに、何でかそう感じる。

 

次から次へと湧いて出た、よく分からないものに振り回される。それが窮屈だって感じ始めた、その時だった。

 

 

「あー!!」

 

「うぉっ」

 

「え、何ですのいきなり大声出して」

 

 

思考をぶった切って、いきなり叫び出したマジ子を見る。何やらニンマリとしてるけど、何なんだよ一体…。

 

 

「アタシさー、マジ良いこと思いついたわ」

 

「はぁ…?」

 

「………」

 

 

あーもう…嫌な予感がする。この馬鹿のことだから、また変なこと考えついたに違いない。聞きたくないなぁ…。でも言うなっつっても言うよなぁ…。そういう顔だもん…。

 

 

 

 

 

 

「入ってみよーよ!夜の水名神社!」

 

 

 

 

 

 

 

うん………。やっぱり馬鹿だよ、こいつはさ…。

 





マギレコ本編の出来事

・いろはがスタンプを最後まで押し終えるも、用紙を本当に完成させるには用紙A、Bの2枚が必要になることを知り、困惑する。そこへ同じくスタンプラリー中のやちよが現れ、互いの用紙がAとBであると判明。

・いろは「慌ててまひぇん!」

・やちよの案内で、共に水名神社へ。イベントの締めとして、互いの印象を伝え合った。神社を出ると既に夜になっており、やちよは帰宅。いろは は 鶴乃と合流。ほんの少し距離が縮んだいろやちだった。


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3-6 夜の神社が見せるもの


明日のマギアデイが楽しみなので初投稿です。


 

 

「えー…っとぉ…」

 

「?どしたの先輩」

 

「その…マジ子さん?聞き間違いでしょうか。何かこう、随分と非常識な物言いを…。念の為、もう一度聞かせていただいても?」

 

「え、だから入ろうって」

 

「何処に?」

 

「神社」

 

「いつ」

 

「今から!」

 

「んんんんんんんん!」

 

 

先輩が眉間にシワ寄せてすごい唸り方してる。気持ちは分かるし、聞き間違いであって欲しかったよ、私も…。

 

 

「あのですね、マジ子さん。わかってます?夜ですよ?他所の建物ですわよ?」

 

「うん」

 

「しかもほら、見えますわよね?門が閉まってます」

 

「だね」

 

「じゃあもう入れないってことです。また開いてる時にお越し下さいって言ってるんですよ」

 

「やだなー先輩。幾らアタシがバカでも、そんくらい分かるって」

 

「じゃ、なんで入ろうなんて言うんです」

 

「セーシュンの1ページ…みたいな?」

 

「チッ」

 

 

やたらキリッとした顔で訳のわからんことを宣うマジ子。先輩は理解し難くて仕方ないのか、目を手で覆いながら天を仰いでる。何かイラッと来たのか、舌打ちまでしてるし。

 

 

「あのな。もし誰かに見られでもしたらどうすんだ。補導とかされるかもしんねえんだぞ」

 

「マジで?ケーサツの人来る?」

 

「そうかもって言ってんの」

 

「そしたら逃げよーよ。追いかけっことかになっても、それはそれでセーシュンの思い出になるじゃん?」

 

「私はそんなロックな青春いらねーんだよ」

 

「えー…」

 

 

むくれたって無駄だぞ。第一、私達は今、制服を着てる。そんなことになれば、家族に話が行くだけじゃない。最悪、各々の通う学校のイメージに影響を及ぼす原因にもなりかねない。

 

 

「じゃあ、うわさ!うわさ調べってことでもダメ?」

 

「や、まず夜の神社に無断で入るのがダメなんだっつーの…」

 

 

そもそも、調査はとっくに終わっただろ。別に続けてもいいかとは思ってるけど、それは今日これからじゃなくたっていいし…。

 

 

「第一、水名神社で成果なんて出なかったじゃねえか」

 

「今はいけるかもしんないじゃん?」

 

「馬鹿。昼間はダメだけど夜はOKですなんて、そんな都合良くなぁ…」

 

「………いえ、意外と的を射ているかもしれません」

 

 

呆れているところに、先輩からの思いがけない言葉。ちょっとだけ、空気が変わった気がした。

 

 

「あ?そりゃまた、何で」

 

「結論から言ってしまえば、そういう考え方も出来るよねってことなんですが」

 

「いいよ」

 

「わかりました。では話しますけど……うわさの内容を思い出して下さい」

 

 

内容…。絵馬に名前書いて、ちゃんとお参りして、そしたら会いたい人に会えるってやつだな。

 

 

「それとマジ子が言ったこととの関係は?」

 

「書いてあるのは、人に会うための手順のみ。他には何もありませんわ」

 

「……それって」

 

「ええ」

 

 

先輩の言わんとしてることが分かった。人に会う方法。書いてあるのはそれだけだ。幸せ過ぎてどうこうは今は置いといて、例えば服装とか時間帯とか、そういう細かいことに関しては、何も指定されてない。てことはだ。

 

 

「参拝するのは何時でもいいのかもしれないし、身なりにも特に決まりは無いのかもしれない。逆に、その両方、もしくは片方には特定の条件が指定されているのかもしれない。それだけの話ですわ」

 

 

要するに単なる推測。先輩の言った通り、そういう考え方も出来るって話。特に決められてないから、どうとでも捉えられるっていう。もしかしたらただの屁理屈かも。

 

 

「でもそう考えると…」

 

「ええ。検証してみる価値も…まぁ無いとは言えないと思います」

 

 

本音を言えば面倒だし、馬鹿馬鹿しいって切り捨てて帰るのは簡単。でもそれは、調べるのを私から放棄するってこと。言い出しっぺこそマジ子だけど、調査に付き合うって決めたのは自分で、そして今、目の前には調査対象がある。なら…

 

 

「門が閉まってるのはどうする」

 

「あら、いいんですの?さっきまで難色示してましたのに」

 

「お互いにな。…気が変わった。そんだけだよ」

 

「そう」

 

 

さっきはさっき。今は今だ。腹が決まった以上、見つからない内にさっさと済ませるしかないだろ。

 

 

「なんかよくわかんないけど、調べるのオッケーってこと?」

 

「ええ。マジ子さんのお陰でそうなりましてよ」

 

「え、マジで?」

 

「マジです。もしかしたら貴女天才かも」

 

「ほんと?テストで100点取れる!?」

 

「あ、いえ、それは…」

 

「え、ひど」

 

 

こうして、私達は調査の為、再度水名神社を訪れることになった。夜に、しかも無断で。なんて悪い子だ。良い子になったつもりもないけどさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神社の中に入って、人が居ないか警戒する。見渡す限り、人影らしきものはない。一先ずは安心か。

 

閉まった門をどうするかに関しては、シンプルに飛び越えて中に入ることで解決した。忘れそうになることもあるけど、魔法少女になった私達は、身体能力が飛躍的に上がってる。この程度は容易い。

 

 

「ほあー。これが夜の神社…」

 

「昼間とはまた違った趣がありますわね」

 

「ねー!雰囲気あるよこれぇ」

 

「何でもいいけど、調べるなら早くするぞ」

 

 

神社に人が残ってないとも限らないんだし、さっさとやることやっちまわないと。なるべく静かに、それでいて迅速にだ。

 

 

「絵馬ってどうなん?昼に書いてったやつあるからオッケー?」

 

「無効になっている可能性も否定できません。昼間買った予備に、改めて書きましょ」

 

「ん。おっけ」

 

 

先輩とマジ子が、サラサラと淀みなく名前を書いていく。私はというと、昼間の時と同じで、どうするか迷ってしまっていた。

 

他の神社を巡っている時は、成果が出ずに投げやりになってたのもあって適当な名前を書いていたけど、今は違う。もしかしたら調査に進展があるかもしれないんだ。

 

 

「…………」

 

 

もちろん、このうわさ自体が眉唾物だってことは、依然として変わらない。でもそれと同時に、ガセだと言い切ることが出来ないのも、私の気持ちとしてあった。

 

だから迷っちまう。私にとって、一番大切な人の名前を書くべきなのか、そうするべきではないのか。うわさは嘘だと思うし、本当かもって思う。大切な人に会いたいけど、会いたくない。そんな相反する気持ちが、私を余計に迷わせてる。

 

 

「赤さん?」

 

「もしかして、また迷ってる?」

 

 

筆を動かす様子もない私を見かねて、二人が声をかけてくる。クソ、これも昼間と同じじゃんかよ…。

 

 

「書くよ。書くから…!」

 

 

意気地の無い自分にイラついて、少しだけ語気が強くなった。昼とは違う意味で長居はしたくないんだから、さっさと決めて書けよ、私。

 

 

(ビビるな。結果がどうでも、少し心が痛くなるだけ…。本当に会えても、そうじゃなくても、後でちょっとの間ヘコむだけなんだからさ…!)

 

 

そう思いながら、絵馬に名前を書き終える。最初の参拝で塗り潰してしまった名前を、今度はちゃんとフルネームで書いた。

 

 

「ごめん。さっさとお参りしよう」

 

 

急いで三人分の絵馬を奉納して、拝殿に向かう。何度も繰り返したお陰で、最早ガイドなんて不要になってしまった参拝を、誰からともなく行った。

 

二礼、二拍手。そして最後の一礼をする中で、私は目を閉じて、考えごとに耽ってしまった。

 

 

(あぁ……よかったのかなぁ…書いちゃって…)

 

 

絵馬に書いた名前のことだ。思い切ってそうしたこととはいえ、やっぱりそれなりに後悔とか不安ってものはあるわけで。

 

 

(なんかもう、ヤケで書いたみたいなとこあったもんなぁ…。自分で自分に言い聞かせて、虚勢張っちまっただけなんじゃねえのか…?)

 

 

心が傷付く覚悟が出来たフリして、勢いであんな…あーもうやだ…。つって、もう書いちゃったんだからアレだけどさぁ…。

 

 

「はぁ…もういいや…」

 

 

いつまでもウジウジしてたって仕方ないんだ。参拝は終わった。そんで、今回もどうせ何も起こってないに決まってる。今度こそ今日は解散だ。帰ろ帰ろ。ついでに、皆でなんか食ってこうか。

 

 

「あのさー、この後晩飯…」

 

 

そう言いながら、顔を上げる私。参拝する前と何も変わらない、夜の暗さに彩られた神社内の光景が広がってるんだなって、そう思ってた。

 

 

「…………え、なにこれ」

 

 

でも私の目の前に広がったのは、想像していたものと、全く違うものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………」

 

 

思考がフリーズする。だって神社なんだもん。いや、何言ってんだ私は。

 

 

「なんで、夕方…?」

 

 

そう、夕方だ。神社は神社。参拝前と何も変わらない。問題は夜じゃないこと。さっきの参拝で、何か起きたのは明白だった。

 

 

(っ!そうだ、先輩は!マジ子は!?)

 

 

何とか頭を再起動。二人が居ないことに気付いて、思わず辺りをキョロキョロと、忙しなく見渡す。だけど、周りには人っ子一人見当たらない。完全に私一人だ。

 

 

(これ…どういうことなんだ…?)

 

 

素直に考えたら、うわさが本当で、何かが起きたからこうなったってことなんだろうけど…。

 

 

(もしくは、偶然魔女が通り掛かって、私達を結界に取り込んで幻覚でも見せてるとか…?)

 

 

んー……考えても分からない。仮に魔女が何か仕掛けてきているとしても、いつまでも襲ってこないのが解せない。私を孤立させることは成功してるわけだし、各個撃破を狙ってるなら今しかないと思うんだけど…。

 

そうやって、うんうんと唸りながら頭をこねくり回している時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしたの、そんな声出して。何か悩みごと?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

声が聞こえた。多分、後ろから。私はその声を聞いた時、今まで思考していたことの全てが吹っ飛んで、頭が真っ白になった。

 

 

(今の声……!)

 

 

最後に聞いたのは、もう何年前になるんだろう。その時の私は幼かったけど、それでも、今聞こえてきた声とその主の事を、今の今まで忘れたことはないし、忘れられるわけがない。ないけど…

 

 

(いや…でも、そんな……!そうだよ、私の聞き間違い…幻聴ってことも…!)

 

 

そうだ。今更あの声が聞こえてくるはずがないんだ。だって…だってもう…!

 

 

「もう…折角久しぶりに会えたんだよ。ほーら、顔見せて?」

 

「っ…!」

 

 

そんなわけないんだって、必死にそう考えてる最中に、また声が聞こえてきた。その声を耳にして、今度こそ思い知らされた。聞き間違いなんかじゃない。居るんだ。私の背後に。

 

そう確信した途端、感情が暴れ出して、今にも私の体を突き破って溢れ出しそうになるような感覚に陥る。もう辛抱堪らなくて、私は勢いよく振り返った。

 

 

「!!」

 

 

そうすると、居た。声の主が。私が頭に思い浮かべていたものと、寸分違わない姿で。驚きで、声が出ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

幼かったあの日、私が失ったもの。もう、戻ることはない存在。もう、二度と会うことは出来ない人。私の中の眩しい思い出で、私に残された癒えない傷跡が、今、私の目の前に在る。

 

 

 

 

 

 

 

 

私のお母さんが、目の前にいる。

 

 





マギレコ本編の出来事

・いろはが駅で鶴乃と合流。互いに成果を報告し合うが、うわさに繋がるようなものはなし。明日も手伝うと申し出る中、鶴乃に疲労を見抜かれた。


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3-7 嘘偽りの待ち人


副反応が割と軽いもので済んで一安心なので初投稿です。


 

 

「お母…さん……?」

 

 

夕陽が照らす中、自分の目の前に居る人に、なんとか呼びかける。未だに驚きが尾を引いてるからか、上手く声を出せなかった。

 

 

「ふふっ。はーい、お母さんです」

 

 

そんな私を、まるで包み込むように優しく微笑みかけて、返事をしてくれた。こうして面と向かいながら声を聞くと、本当に目の前にお母さんが居るんだって分かる。

 

 

「っ……」

 

 

ヤバい。何がヤバいって、今にも涙が溢れ出しそうなのが。まだ目の前に居るお母さんが何なのかも分かってないのに。本物かも疑わしい、得体の知れない何かだって、頭じゃ理解してるのに。

 

なのに、どうしようもなく安心しちまって、しかも嬉しさまで感じてる自分が居る。どうしようもないくらい、そうなんだって分かっちまう。

 

 

「あれ。どうしたの?なんか、辛そうだよ?」

 

「いや、その…違うから。そういうんじゃなくてさ…」

 

「違わないの。お母さん、分かるんだからね、ちゃんと」

 

「や、だから……えと……」

 

 

見抜かれてる。強がりで違うって否定してみても、私の気持ちを見破ってくる。私のこと、よく見てるんだ。それはやっぱり、母親だからなのかな…。

 

 

「いいの。隠さなくても。ほら、何かしんどいことあるなら、話してみて?こっち来てさ」

 

「……いいよ、別に…。その、だって、本物かどうかも、わからんし…」

 

「んー?お母さんがってこと?」

 

「だってそうじゃん。お母さんは、本当なら今はその……もう……」

 

 

記憶と感情を揺さぶられ続けながら、何とか理性的に考えようとする。そうだよ。私のお母さんは、あの日確かに死んだ。命を落として、帰らぬ人になったんだ。だから今こうやって、私の目の前に現れるってのはおかしいだろ…?

 

 

「それって、そんなに大事かな?」

 

「………」

 

「確かに、お母さんは死んじゃったよね。あの日に、あなたを庇って」

 

「……うん」

 

「でも、それでもこうやってまた会えたよ。すっごく不思議だし、理屈なんて分からない。でも、いいんじゃないかな?それで」

 

「そう…かなぁ」

 

「うん。説明のつかない奇跡みたいなことだって、この世界にはあると思うんだ、お母さんは」

 

 

私と話しながら、お母さんの方から近付いてくる。相手に警戒心なんて抱かせないような、柔和な笑顔を浮かべながら。

 

 

「だから、細かいことなんて気にしなくていいの。この場所で、あなたとお母さんはまた会えた。それだけで充分。ね?」

 

「………うん」

 

 

すぐ近くまで来たお母さんが、小さい子供に諭すみたいに語りかけてくる。細かいこと、か。そうかもしれない。魔法少女とか魔女とか、普通ならあり得ないような世界で生きてるんだし、今起きてる現象に疑問を持つ方がおかしいのかも…。

 

 

「それで?」

 

「うん?」

 

「結局、私の可愛い可愛い一人娘は、何を抱え込んでるのかなーって」

 

「あ…」

 

「話してみる気になった?」

 

 

そういや、そんな話をしてたんだったか。

 

 

「ううん。つか、別に悩みとか辛いとか、そういうんじゃないから」

 

「あ、そうなの?」

 

「うん。あれ、あの……泣きそう、だったから」

 

「それは、お母さんに会えて?」

 

「会えたのもそうだし…声聞けたし、話せたし。そしたらさ…」

 

 

それは今だってそう。我慢してるけど、少し油断したら目に涙が溜まりそうになる。

 

 

「いいよ」

 

「?」

 

「だから、ほら。我慢しないで、泣いたっていいんだから。お母さんに抱き着いて、目一杯さ」

 

 

両腕を広げて、そう言ってくれる。母親の懐に抱き着いて、わんわん声をあげて泣く。小さい頃に腐るほどやったことだ。記憶が思い起こされて、それが酷く懐かしく感じられて、一層泣きそうになる。でも…

 

 

「いや…いいっ」

 

「え、なんでさ?遠慮しなくていいよ?」

 

「私だって、あの頃よりは子供じゃなくなったんだよ。少しは強くなったってとこ、見せとかないとさ」

 

 

でなきゃ、いつまでもピーピー泣いてばっかりの、弱虫なチビっ子のままだと思われちまう。幾らお母さん相手だからって、それはなんか…癪だ。

 

 

「もー。強がっちゃって」

 

「…んなことないよ。これが普通なの、今の私は」

 

「んー、そっかぁ」

 

「そうなの」

 

「ふふ。じゃあさ、そんな今のあなたのこと、お母さん、聞きたいな」

 

「えー?何それ」

 

「だって気になるもん。学校ではどうかなーとか、友達出来たのかなーとかさ。ね、いいでしょ?」

 

「えー、面倒くせー…」

 

 

そう言いつつも、悪い気はしてない。多分、私は今笑ってると思う。お母さんと話せてることが、本当に嬉しくて。

 

 

「会えなかった分、いっぱい話そうね、お母さんと」

 

「うん。私も……そうしたい」

 

 

ちょっと照れ臭かったけど、本音を素直に口にした。せっかく会えたんだもんな。話したいことは、話しておかないと。

 

 

(そういや、あの二人はどうなったんだろう。……いや。今は別にいいか、そんなこと…)

 

 

ふと、先輩とマジ子のことが思い浮かんだけど、すぐに頭の片隅に追いやってしまった。今はただ、お母さんとの時間を大切にしたい。何よりも尊くて幸せな、この時間を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

うわさを調べる為に、夜の神社でお参りをしていたはずが、気付けば何故か夕方のような景色になっていた。それだけじゃなく、一緒に居たはずの、赤さんとマジ子さんが見当たらない。一体何処へ行ってしまったのか。

 

でもそれよりも、もっと驚くべきことが、今の私にはあった。先程、チームメイト達の姿を探していたところに、いきなり現れたのだ。神浜から離れた地で暮らしているはずの、私の両親が。何やら向こうから話しかけて来たので、とりあえず応じてはいるけれど…。

 

 

「どうしたんだ。折角、久しぶりに親子水入らずなんだぞ。もっと楽にしなさい」

 

「いえ、その…大丈夫です。充分にリラックスしておりますわよ、お父様」

 

「ん、そうか。でもそれにしては、何か態度が硬くないか?」

 

「まぁまぁ貴方。この子が言うんですから、きっと本当に大丈夫なんでしょう」

 

「む…。それなら、まぁいいか」

 

「ええ、よろしいのですわお父様。ええ…」

 

「?」

 

 

今でもたまに連絡を取り合う相手なのだから、今更直にあったくらいで緊張なんかしない。ただ、今の私は少し戸惑っているから、少々よそよそしい態度になってしまってるだけ。

 

 

(お父様もお母様も、なにか様子がおかしいですわね…。いえ、というよりも、これではまるで…)

 

「そういえば、どうだ、学校の方は。成績を落としたりはしていないか?」

 

「え?あ、あぁ…成績、ですか」

 

 

考えごとをしているところに、お父様が問いかけてくる。いけない。少し反応が遅れてしまった。

 

 

「ええと、特に問題はありませんわ。難しい内容の授業もたまにはありますけど、分からないまま放置するようなことはしていませんから」

 

「ん、そうか。それなら何よりだ」

 

「ただ、勉強というのは、私だけが勤しんでいるものではありませんから、その…学年内や校内で上位に食い込む結果を残せているというわけではなくて」

 

「それは、例えば定期考査とか、そういうもののこと?」

 

「はい…。先生からは、変わらず良い成績だと、お褒めの言葉を頂いてますけれど」

 

「なら、問題はないだろう。良い成績を維持できているのなら、特に言うことは無い。」

 

「はぁ…」

 

「とはいっても、成績上位者になれるような結果を残せるなら、それに越したことはないからな。単に良い点を取ったからと慢心せず、これからも励むように」

 

「それは……はい…」

 

「本当は貴女に習い事の一つでもさせたかったのだけど…。でも、勉強に集中したいからって、貴女は言っていたものね。頑張りなさい」

 

「あぁ…。そんなことも、ありましたわね…」

 

 

少し懐かしい。確か、高等部に上がる少し前のことだったか。

 

 

「……ん?」

 

 

と、そこまで考えて、何か違和感を覚えた。

 

 

(その頃は、私はもう願いを叶えて、魔法少女になった後だったはず…)

 

 

それで、願いの影響で優しくなった両親は、私のお願いを聞き入れてくれた。お願いというか、実は適当に理由をでっち上げて言ったことなんだけれど。

 

幾らやっても褒めてもらえないのなら、習い事なんてもうやりたくない。うんざりだって、そんな幼稚なことを思って。

 

 

(でも、何故その時のことを、お母様は知っているのでしょう)

 

 

いや、知っていること自体はおかしくはない。おかしいのは、接し方。さっきから感じていたことだけど、お父様もお母様も、私への態度や言動がまるで、私が魔法少女になる前のそれみたいだから。

 

私の願いの影響を受ける前の両親が、影響を受けた後にあった出来事を話題に出している。何だこのチグハグな様子は。

 

 

(一応、今起こっている現象自体は、うわさの内容と一致しますが…)

 

 

確かに両親の名前を書きはしたものの、私は人柄や性格までは指定していない。そんなことが出来るのかもわからないのだし。

 

……そりゃあ、出来ればもう一度くらい、契約する前の両親に会ってみたいなぁとは思ったけど。

 

 

(まさか、うわさが私の心理を汲み取ったとか…?)

 

 

そんな都合の良いことがあるのだろうか。それに、この推測は些か強引なのでは。だって、それではまるで、うわさというもの自体が意思を持っているかのような…。

 

それとも、そういった細かい要素を含めて、「会いたい人に会わせる」ということなのか…。それでも、それをどうやって…という疑問は残るけれど。

 

 

「ちょっと、どうしたの?さっきから難しい顔をして」

 

「一言も喋らずに、黙ってばかりじゃないか。もしかして、先程の成績の話に、何か思うところでもあるのか?」

 

「あ、いえ、その。何でもありませんわ。そうではなくてですね…」

 

 

もっと色々と考えなきゃいけないはずのに、両親への対応をせざるを得なくなって、その時間も取れなくしまった。

 

投げかけられる言葉は厳しさを感じさせるものばかりなのに、それに不思議と安心を覚えてしまう私だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んでさーぁ?そこで赤ちんが言うわけ。アタシはすっげえバカだからムリだーって。ヒドくなぁい?」

 

「そうかい。まぁ、あんたもそういうとこあるからね。相変わらず両親もお姉ちゃんも困らせてんじゃないのかい?」

 

「んーなことないってー!…ない、と思うよ、うん」

 

 

お参りした時は夜だったはずなのに、いつの間にか夕方になってた。最近はお日様が登るのも、沈むのも早いんだね。お参りしてる間に朝になって、そんで夕方になったってことだもん。

 

 

「あ!てかさ、今夕方ってことは、知らん間にガッコー終わってたってことじゃん!ヤベー、サボっちゃったよ…!」

 

「なんだ、そんなことかい」

 

「そんなことじゃないってー!メッチャ怒られんじゃん、先生にも、姉ちゃんにもさー!どんだけばーちゃんと話してたんだよアタシ!」

 

 

最初は赤ちんも先輩も居ないから、ヤベー、どうすっぺって思ってたけど、なんか遠くに住んでるはずのばーちゃんがいきなり出てきたから、嬉しくなってさっきからずっと話してた。

 

なんで嬉しかったかっつーと、アタシが絵馬に書いた名前が、ばーちゃんの名前だったから。ってことはさ、うわさは本当だったってことじゃん!マジヤベー!

 

あ、もちろん、メッチャ久しぶりにばーちゃんに会えたのも嬉しいんだけど。

 

 

「だからさ、気にしなくていいんだって、そんなこと。だってあんた、これからずっとここに居るんだから」

 

「はへ?」

 

 

ばーちゃんがなんか変なこと言い出した。なんだろ。ギャグなんかな?

 

 

「それ、神社で暮らすってこと?いやーばーちゃん、それはちょっとムリだって」

 

「なんでさ?」

 

「つーかさ、神社ったって、もう住んでる人居るわけじゃん?その人がオッケーしないでしょー」

 

 

ばーちゃんと一緒に居られるのはいいけど、お坊さんとか巫女さんとか、その辺にメーワクかけらんないもんね。

 

 

「長い休み来たら遊びに行くからさ、とりあえずそれで勘弁してくんない?ばーちゃんも自分ちの方がいいよね?」

 

「何言ってんだい。ここより良い場所なんてあるわけないだろ。だから、あんたもここで…」

 

「あ、つかさー」

 

「?なんだい」

 

「や、ばーちゃんって、ぶっちゃけニセモノじゃん?だから、ここに住むもクソもないっつーか」

 

「………は?」

 

 

ばーちゃんが驚いてる。流石にいきなりすぎたかなー、言うの。でも、さっき話しはじめた時から、ずーっと感じてたことなんだもん。ちゃんと言わなきゃダメだよね。

 

 

「なんだい、いきなり…。そんなわけないだろ。それとも婆ちゃんの顔、忘れたってのかい」

 

「そゆんじゃなくてー…。でもさ、なんかわかったんだって!イキリョー?とかゲンエー?とかっていうのかわかんないけど、『あー、これホンモノのばーちゃんじゃないんだなー』って」

 

「そ、そんないい加減なもんでかい…」

 

 

ばーちゃん…いや、ニセモノなんだから、ニセばーちゃんだ。ニセばーちゃんはそう言うけど、だってマジでそうだなってカクシンしたんだもん。ショーコはなんも無いけど、これはマジだと思う。

 

 

「っちゅーワケだから…!」

 

「えっ」

 

 

アタシは魔法少女に変身して、武器のアタッシュケースを思いっきり振りかぶった。ニセばーちゃんが、いきなりのことでビックリしてる。

 

 

「え、あの、ちょっと!なに!何するつもりなんだい、あんた!」

 

「しゃらーっぷ!アタシをダマそーとする、悪ーいニセモノにはオシオキだぁー!」

 

「だっ!騙すなんて、馬鹿言うんじゃないよ!大体、私が偽物だっていう証拠はあんのかい!?」

 

「あー、それ聞いちゃう?ショーコ…ショーコかぁー…」

 

 

いやー、そこつっつかれちゃったかー。ないんだよねぇ、残念ながら。

 

 

「んー……」

 

「ほら見な。無いんだろ、そんなもん!だったら今すぐこんな悪ふざけはやめて、ずっとここに…」

 

「よーい、っしょ!!」

 

「ぶぅっ」

 

 

ニセばーちゃんが何か言ってる気がしたけど、それを気にしないで、アタシはケースを思いっきり振り抜いた。顔にモロにブチ当たって、ニセモノはカラダごとグルグル回ってブッ飛んで、地面にベチャってなった。

 

 

「う…うぅ…。あ……あんたァ……なんで…」

 

「はえ?」

 

 

倒したと思ったけど、意外とガンジョーみたい。ゾンビみたいに這ったまま、ニセモノが話しかけてきた。

 

 

「こんな酷いことして…!証拠は、無いんじゃなかったのかい……。なのに…何で、こんな…!」

 

「ショーコ?うん。ないよ、そんなん」

 

「だったら、何で…どうして…」

 

「ショーコはないよ。ショーコはね」

 

「だから!どういうことなんだいそりゃ……!あんたには、代わりに信用できる何かがあったとでも言うんかい!」

 

「おっ。ふっふーん…!実はそーなんだよねぇー」

 

「……!」

 

 

ニセモノが目をカッと開いて、すんごい驚いてる。そりゃそーだよね。アタシをダマそうとしたのに、それをあっさり見破られたんだもん。そーなっちゃうのも、まぁ仕方ないよ。

 

 

「それは……それはなんだい…!?確かな証拠も、証明も無いのに信じられるものだって…?一体なんだってんだい!!」

 

 

むー。そこまで必死に聞かれちゃー仕方ない。教えてあげようかな。メイドさんのおみやげってやつだね!聞いておどろけよー!

 

 

「んなの決まってるじゃん。それはー…」

 

「それはァ……!?」

 

「それはああああああ!」

 

「そ…それはァァァ……!?」

 

 

タメるのと同時に、前に何かで見た、カッコいいポーズをうろ覚えでキメながら、目線はニセモノに。顔は自分じゃ見えないけど、まぁキリッと!そんで、今だー!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勘」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アタシのコンシンの一言を聞いたニセモノが、口をあんぐり開けて、ボーゼンとしてる。いやあ、自分で言うのもなんだけど、カンペキにキマったもんね。ああなっちゃうのもトーゼンなのかも。

 

そしたらニセモノが体をフラッとさせて、次のシュンカンにはスゥーっとスケるみたいにして消えちゃった。

 

最後に、「なんなんだいこのバカは…」とか言ってる気がしたけど、よく聞こえなかった。

 

 

「んー……どうすっかなー、これから」

 

 

うわさが本当なのはわかったけど、肝心の、「会える人」ってのはニセモノだった。ちょっとザンネンだけど、そのことを赤ちんと先輩にも言ってあげなきゃ。二人も絵馬に名前書いてお参りしたんだから、アタシと同じようなことになってると思うし。

 

 

「でも、まわりに誰もいないんだよねー…。マジでどーやって見つけたら…」

 

 

何とかなんないかなって思って、もっかいまわりを見てみた。そしたら…

 

 

「あれ…赤ちん?」

 

 

さっきまでだーれもいなかったのに、いつの間にか赤ちんが遠くで地面に座ってて、誰かと話してる。しかも、すごく楽しそうに。

 

 

(赤ちん、笑ってる…)

 

 

赤ちんのあんな顔、初めて見た。アタシ達といる時は、いっつもキホンぶすーっとした顔のままなのに…。

 

 

「って、そんなバーイじゃないじゃん!赤ちん助けなきゃ!」

 

 

このままじゃ赤ちんがニセモノにダマされて、アタシみたいに神社に住めって言われちゃう。そんなのダメだよ!

 

チームの一員として仲間を助ける為に、アタシは赤ちんのところへ走った。

 





マギレコ本編の出来事

・いろはが鶴乃と別れて、電車で帰宅。電車内から外を見ていると、ビルの上に神社があるのを発見。そんな中、いろはのソウルジェムは、更に濁りを増していた。


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3-8 夕暮れの中


アニレコ2期も無事に最終回なので初投稿です。


 

 

「学校で友達は?できたの?」

 

「いやぁ、別に…。全然だよ、全然」

 

「あら。ダメだよ、そんな寂しいこと言ってぇ」

 

「なぁんでよ。いいじゃん別にさ」

 

 

夕陽が照らす神社の中で、笑いながら話す私達。内容はさして重要なものでもないけど、とにかく話題が尽きなくて、黙ってる時間の方が少ないくらい。

 

自分の口からもどんどん言葉が飛び出してくるから、私ってこんな饒舌だったかなぁって、自分でも不思議に思う。

 

もうどれくらいこうしてるんだろう。何秒か、何分か、それとも何時間か。時間というものを忘れそうになるくらい、私はお母さんと話すのを楽しんでる。

 

夕陽が眩しいとか、直接地面に座ってるから服が汚れるかもとか、そんなことだって、今は気にならない。

 

 

「あははは…。いやー、楽しいね。ただ話してるだけなのに」

 

「ん…。私も、そうだなって」

 

「ねー。やっぱりさ、家族との時間って特別なんだよ」

 

 

そう。楽しい。楽しくて、特別。気を許しているから。自分に近しい人だから。大切だから。

 

だから話すだけでも楽しいし、なんか安心するんだと思う。こんなに穏やかな気持ちになれるんだから、きっとそうなんだよな。

 

 

「…こんな、さ」

 

「うん?」

 

「こんな時間がさ。ずーっと、続けばいいのになーって」

 

 

だからつい、そんなことを言っちまった。この時間が、お母さんと話して笑い合っていられるこの瞬間が、何よりも幸せで、尊いものだって感じられたから。

 

 

「でも無理だよなぁ、そんなの。わかってるんだけど」

 

 

そうだよ。そんなことは出来ない。幾ら嬉しいったって、こんなのいつまでも続くわけがない。だって、お母さんはもう故人なんだ。死んだ人が生きてる人とこうやって会うのは、本来ありえないこと。

 

この現象が何の仕業であるにしても、一生このままだとか、これからは神社で何時でも会えるようになっただとか、そんな都合の良いことはなくて、タイムリミットみたいなものが必ずあるはず。そう思うと、なんか寂しいな…。

 

 

「なぁんだ、そんなこと」

 

「なんだってなんだよ。大事だろ。だってこんな機会、もう二度と…」

 

「じゃあ、一緒に居ようよ」

 

「は?」

 

 

しんみりしてる私に、お母さんがそんなことを言い出す。一緒に居る?それって、これからずっとってこと?そんなのどうやって…

 

 

「大丈夫だよ、難しいこと考えなくて。だって一緒なんだよ?ずっと一緒に居て、ずっとお話できて、ずっと幸せなんだから」

 

「え、いや」

 

「お母さんと居るの、嫌?」

 

「そんなわけないじゃん。でもさ?流石に」

 

「じゃあ、いいんだね」

 

「や、だから…」

 

 

それをどうするのかを具体的に教えてもらいたいのに、何かいきなり押しが強くなってきて、ちょっと困惑する。

 

 

「お母さんはもう死んでんだから、つまりその…幽霊的なアレなわけだろ?だったら、いつまでもこの世に留まってられるわけじゃ」

 

「いいの、そんなことは。ここでなら大丈夫なんだから」

 

 

え、そうなの?なんかサラッと私のタイムリミット説がブチ壊されたんだけど。てか、それはそれで、なんで水名神社ならOKなのかが分からない。

 

 

「ね?だからいいでしょ?一緒に居よ?ね?」

 

 

より一層押しが強まった気がするお母さんが、私の手をガシッと握ってきた。…えーっと、なんかおかしくないかこれ…。

 

 

「え、あ、やー…あのー、お母さん?」

 

「ね?」

 

「あーのー…ですからね、ホラ。とりあえず一旦落ち着い」

 

「ね??」

 

「おち」

 

「ね!?」

 

「……………」

 

 

あれ、なんか怖いんだけど。どんどん語気も強くなってきてる感じするし…。こんな人だったっけ、私のお母さんって…?

 

 

「返答無し…ってことは、OKってことだね!沈黙は肯定!」

 

「え、は?いやいやいやいや!」

 

 

とうとうこっちの意思はお構いなしの強硬ときた。マズい…!なんかわからんけどとにかくマズい気がする…!

 

 

「一名様、ごあんなーい!ずーっと、ずーっと、一緒に居ようねぇ」

 

「いや、居たいは居たいけども!でもなんかダメだから!これはなんか…!ちょ、誰かー!誰かー!!」

 

 

ここに来て本能が警鐘を鳴らしまくり、思わず助けを求めちまった。情けないとは思ったけど、そんなこと言ってられないくらいヤバい何かが、私を待ち受けている気がしたから。

 

でも幾ら叫んだって、周りに誰も居ないのはとっくの昔に分かってること。万事休すってやつか…!?

 

 

 

「はああああああい!!誰かでえええええっす!!」

 

 

 

そうやって私が諦めかけた時、聞こえるはずのない声が聞こえてきた。そんな。人っ子一人いなかったはずなのに、なんでいきなり?

 

そう思いつつ声のした方に顔を向けると、こっちに走ってくる人間を見つけた。マジ子だ。声からしてわかってはいたんだけど、まぁ、案の定あのバカだった。

 

 

「マジ子!なんでお前…!」

 

「ぬおー!!赤ちんをー……離せええええい!!」

 

 

私の質問を他所に、すごい勢いでダッシュしてきたマジ子は、次の瞬間には跳躍。その動きを目で追った先に見えたのは、マジ子の膝で思いっきり顔をひしゃげさせたお母さんの姿。

 

 

「え」

 

 

いきなりのことでたった一言しか出てこなかった私を置き去りして、マジ子の膝蹴りを浴びたお母さんは、それはもう綺麗に吹っ飛んで、それから透けるようにして消えちまった。

 

 

……………………。

 

 

「え、あ……え、えええええええええええ!?」

 

 

目の前で起こったことにやっと理解が追いついて、私は叫んだ。まともな言葉にすらなってないけど。

 

 

「えええええ…いや、お前これ……ええ…?」

 

「ふいー。キキイッパツ…!って感じ?」

 

「……………」

 

 

私の隣に立つマジ子を見る。自分じゃわかんないけど、今の私は呆然としてるに違いない。開いた口が塞がらないってのはこういうことか…。

 

 

「大丈夫、赤ちん?あのニセモノに変なことされてない?」

 

 

そう言いながら、私の身体をあちこちペタペタ触ってくる。どうやってここにとか、ニセモノとかなんとか、聞きたいことは色々あるけど、とりあえず差し当たっては…

 

 

「ん、だいじょぶそう。よかったー何もなくて」

 

「………」

 

「あ、てかさ。赤ちんてマジでぺったんこなんだねー。もっといっぱいご飯食べた方が」

 

「ぬっ!!」

 

「ぃぶぇっ」

 

「おめーの全身ぺったんこにしてやろうか おらぁ!!」

 

 

マジ子の腹を思いっきりブン殴ってやった。助けに来てくれたことには感謝してるよ。でも、いきなり人の親にとんでもない暴行を働いてくれたんだから、これくらいされたって文句は言えねえよなぁ!?

 

 

「うぇ〜…あがぢんヒドい〜…」

 

「変身してんだからマシだろが!つーかな!どうしてくれんだよお前よぉ!人の母親にあんな!!」

 

「おあああああ!ちょ、赤ちん!赤ちん!落ち着いてってマジで!」

 

 

言いながら、続いてマジ子の肩を掴んで思いっきり揺さぶる。あんなことしたのは何か理由でもあるのか知らんけど、事と次第によってはほんと許さんぞお前!

 

 

「うええええええ…。ちょ…マジ聞いてって赤ちん…!」

 

「あ?」

 

「だからー…ニセモノなんだってあれ!」

 

「偽物だぁ?」

 

 

マジ子の言葉を聞いて、揺さぶるのをやめる。そういやそんなこと言ってよな。つまり、お前が吹っ飛ばした私のお母さんは本物ではない何かで、だからあんなことしても問題は無かったってか?

 

 

「証拠は」

 

「えー、またショーコ…?まぁ、いっか。えっとねー、まずアタシ、さっきさー」

 

 

それから私は、マジ子が体験したことを一部始終聞いた。お参りしたらいきなり一人になってたこと、夕方になっていたこと、遠くに住んでる祖母が、何故かいきなり現れたこと、等々…。

 

 

「………」

 

「んで、ニセばーちゃんが消えたら、赤ちんが誰かと話してんのが見えるようになったの。いきなりね」

 

「そうか…」

 

 

今聞いた話を踏まえて、考えてみる。なるほど。今も存命で、かつ神浜に住んでない人が唐突に現れて…。そう考えると、偽物ってのも納得できるかも。

 

個人的な用で神浜に来たんだとしても、連絡くらいは入れそうなもんだし、孫に対してのサプライズで…とかも考えられるけど、それなら神社じゃなくて、こいつの自宅に来るだろうしなぁ…。で、終いには…

 

 

「神社にずっと、か…」

 

「うん。赤ちんもやっぱ言われた?」

 

「ああ…」

 

 

私もマジ子も、ここに居ろってしきりに言われたり、迫られたりしたのは同じ。しかもお婆さんは、自分の住まいよりもこの場所を選んだような発言をしたらしい。んー…ますます偽物っぽい。

 

というか、ここまで来たらもう間違いないかもしれない。

 

 

「偽物、かぁ……」

 

 

フゥーっと深く長く息を吐く。完全に冷静さを取り戻したのと同時に、残念なような悲しいような、なんというか、ある種の諦めみたいな気持ちでいっぱいになる。

 

 

(そうだよなぁ…。そんなことあるわけないんだよなぁ…)

 

 

当たり前だ。死んだ人は、死んだ人。生き返ったりはしない。存在しないし、目に見えることも、喋ることもない。そりゃそうだろ。

 

 

「っ…」

 

 

なんて、傷付いた自分を必死に誤魔化そうとしてみるけど、まぁ無駄だった。絵馬に名前を書いたのは自分だし、何にせよ傷付くだろうなって分かってもいたはずなんだけど、それでも辛いものは辛い。

 

 

「赤ちん、なんか泣きそう?だいじょぶ?」

 

「…いや、何でもない」

 

「ほんと?ちょっと休んでもいいよ?」

 

「バカ。んなことしてる間に、また何かあったらヤベえだろ」

 

 

もう、この事態を単なる噂話の産物として片付けることは出来ない。明らかに異常なことが起きていて、それは確かに私達に牙を剥いてきてるんだから、どうにかしなくちゃならない。

 

 

「とりあえず、今すぐ先輩と合流する」

 

「あ、マジか。でもどうすんの?アタシの時は、ニセモノ倒したら赤ちんに会えたけど…」

 

「それが正解ってことなんだろ」

 

「?どゆこと?」

 

 

頭に?を浮かべてそうなマジ子の背後を、私は指で指し示してやる。そしたら気付いたみたいで、「マジで?」って顔になる。マジなんだよなぁ。

 

 

「えー…。あー!」

 

「どうも」

 

「ほんとだ、せんぱぁい!」

 

「マジ子さん、無事で何よりで…ちょ、強い強い!抱きつく力強いですから」

 

 

恐る恐る振り返って、本当に先輩が居ると分かるや否や、嬉しいからか、思いっきり抱きついたマジ子。合流するとは言ったものの、実際にはもう合流してましたっていう。

 

 

「もー、居るんなら声かけてくれたらいいじゃーん」

 

「すいません。でも、お二人共、お話中でしたから」

 

「そりゃどーも。で?大丈夫だったわけ?」

 

「大丈夫だから今ここに居るんでしょう」

 

「そりゃそうか」

 

 

少しだけ笑う。正直に言えばそれなりに心配してたから、こうしてまた会えて安心したかも。絶対口には出してやらないけど。

 

 

「んー、てか先輩、アタシ達のとこに来れたってことは、やっぱ倒したの?」

 

「偽物ですか?ええ、もうパパッと」

 

「おー…。アタシはばーちゃんのニセモノだったんだけど、先輩はどうだったん?」

 

「ま、隠すことでもありませんか。両親ですわよ。私の」

 

 

先輩も家族の名前を書いたのか。チーム全員、揃いも揃って家族愛に溢れてるようで何より。まぁでも、離れて暮らしてるんだから、会いたくもなるよな。私の場合は、特殊とかいうレベルじゃないけど…。

 

 

「辛くなかったの?見てくれは両親そのものなわけだろ」

 

「それは、まぁ。気が引けるところはありましたけど」

 

 

だよなぁ?

 

 

「でも、話してる内になんか変な方向に話題が行きまして。やれ、一緒にずっとここに居ようだの、そうすることで幸せになれるだの…」

 

「あ、それは私もそうだったな」

 

「アタシもー。やっぱみんな一緒なんだね」

 

「あら、本当?で、まぁ、それは拒否したんですけど、そこからあまりにしつこくなって。最後には生気の無い顔で「ずっと一緒にここに居よう」としか言わなくなりましたわね」

 

「うへぇ…」

 

「もう面倒くさくて仕方がないので、思い切って爆破してきました」

 

 

そうですか…。思い切りがいいんだか、適当なんだか…。

 

 

「本物だったらどうしようとか、思わなかったわけ?」

 

「もちろん、それも考えました。ですけど、明らかに異常なんですもの。だったらもういっそ、本物ではないと判断しても問題ないかと思いまして。それに……」

 

「?」

 

「結果的には、私の判断は正しかったってことになるのかしらね」

 

 

先輩がいきなり私達に背中を向けて、辺りを見回す。私達も釣られて、同じように周囲に目を向ける。そしたら…

 

 

「っ!…なんだこれ。いつの間に…」

 

「さっきまでアタシ達以外、居なかったよね…?」

 

 

マジ子の言う通り、私達以外は誰も居なかった、夕暮れの神社の内部。その至る所に、今は人がたくさん居た。いつの間にか、私達が気付かない内に。

 

老若男女、たくさんの人達が、あちこちに倒れていた。

 





マギレコ本編の出来事

・第一部 第3章三話 終了後〜第3章四話 開始前


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3-9 絵馬ージェンシー



ハロウィンイベが復刻するので初投稿です。





 

 

 

知らない間に、神社の至る所に人の姿が増えていた。何故か倒れてる人ばっかりだけど。

 

 

「たぶん、私達が話している間に、ポツポツと増えていたのでしょうかね」

 

「どういうこったよ、これ。だいたい、何で私達だけ…」

 

「えーっと…とりま、どうにかしなきゃ!怪我とかしてるかもしんないし!」

 

 

マジ子の言う通り。流石に倒れてる人を放置しておくわけにもいかないし、傷を負っている人が居たら大変だ。近くに寄って、一人一人確認してみる。

 

 

「外傷らしきものは、どなたにも特に見られませんわね」

 

「だな…でも、なんか…」

 

 

倒れてるにしてはなんかこう…やけにリラックスしてるように見えるっていうか…。どいつもこいつもなんつーか、なぁ。

 

 

「どっちかってーと、なんか寝てるみたいだよね?」

 

 

そう。たぶんこの人達は皆、気絶したりとかで倒れてるわけじゃない。よく見れば、主にお腹の辺りが規則的に膨らんだり萎んだりしてる。マジ子の言う通り、寝てるってことだ。

 

 

「つっても変だよな。睡眠にしたって、そんないつまでも寝てらんねえよ。起きる人が居てもいいはずだろ」

 

「………幸せ過ぎて、帰れなくなる」

 

「ん?どゆこと、それ?」

 

「うわさの内容にあったでしょう。『だけどだけどもゴヨージン!幸せ過ぎて…』って」

 

「あー、そういやそーだっけ」

 

「するってーと、なにか。まさか、倒れてる人達って、全員…」

 

「ええ。おそらく、帰れなくなってしまったんでしょう。名前を書いて、参拝をして、会いたい人に会えて、それがすごく幸せで…」

 

 

なるほど。どうりで誰も彼も、やたらと幸せそうな顔してるわけだ。大方、今も各々が絵馬に書いた名前の人物と一緒に、楽しい時間を過ごしてるに違いない。ただし、夢の中で。

 

 

「現れた人物がしきりに一緒に居ようと言ってくるのも、この状態に持っていく為なのでしょうね。承諾してしまえば、眠りから醒めなくなる」

 

「ひぇー…。ソッコーぶっ飛ばしといてよかったーアタシ…」

 

「なるほどね。…で、どうするこれから。つか、どうなるんだ、私達は」

 

 

ご丁寧に用意された偽物もぶっ潰しちまって、お陰でおねんねもしてない。マジ子が聞いてきた噂話には、その場合、どうなるのかは書かれてないし…。

 

 

「さぁ…私には何も。ですが、少なくない人がこうして、噂話という名の何かに囚われているのです。それはなんとかしなくてはいけません」

 

「んじゃあ…時間かかりそーだけど、一人ずつ運ぶとか?」

 

「ええ。ただ、住所などは分かりませんから、公園のベンチなどに寝かせておくくらいしか…」

 

「まぁ、生きてはいるみたいだし、最悪ちょっと風邪ひくくらいで済むだろ…」

 

「うし!じゃー、いっちょ頑張って…」

 

 

話は纏まって、とりあえず自分の近くに居る人から運ぼうと、体を起こそうと手をかけた、その時だった。

 

 

「!?え、あれ!?え?」

 

「何なんだよ…またいきなりこんな…」

 

「…………」

 

 

辺りにたくさん居た人達が、まるで最初から居なかったように消えちまって、また私達だけになった。しかもそれだけじゃなくて、夕方だったはずなのに、真っ暗になってる。夜に変わったのか…?

 

 

「えー、どゆことこれ!?さっきまで夕方だったじゃん!人もいっぱい居たのに…!あ!めっちゃ早く夜になったのかな!?それで、皆起きて帰ったとか!?」

 

「なわけねーだろ…落ち着けバカ。先輩、これって」

 

「夜になった…というか、戻ってきた…?いいえ。追い出された、といったところでしょうか…」

 

 

要するに、あの夕方の神社は現実の空間ではないもので、私達はそこから吐き出されたんじゃないか、ってことか。

 

 

「そーなん?でも、なんでいきなりそうなったの?アタシ達、別になんもしてないよね?」

 

「何処まで言っても推測ですから、はっきりとしたことは言えませんが…」

 

「いいって。まず聞かせて」

 

「そうですか?では」

 

 

先輩が、話そうとする。

 

 

「!?待って、先輩!」

 

 

でもその途端に、それは起こった。私達の周囲が何かに覆われて、塗り変わっていく。

 

 

「え…マジで!?ねぇ、これ、あの時の…!」

 

「普通ではない…けれども外が見える…間違いありませんわね…!」

 

 

忘れもしない。あの結界だ。あの日、海浜公園で戦った、謎の女の子。あの子が展開した結界と、同じもの。今回はもしかしたら、この神社の敷地全体が覆われてるのかもしれない。

 

 

「赤さん、変身!」

 

「分かってる!」

 

 

即座に魔法少女に変身して武器を構えるけど、私は酷く不安になった。この結界が張られているってことは、そういうことなのか。また、あの女の子が、私達の前に…?

 

そう思っていた私だったけど、次の瞬間には、その考えは、幸か不幸か否定されることになる。

 

 

「!?」

 

「わあああ!なんかいっぱい出てきたんだけど!」

 

「あの女の子ではない…!?ですが、これは…」

 

 

そこら中から雨後の筍かよって感じで出てきた、例の女の子とは違う、何か。見た目はなんか絵馬みたいだけど、派手な飾りをして、フワフワ漂ってて…。まるで、生きてるみたいだ。

 

そしてそれは、あれよあれよって間に増えていって、気付けば私達は、完全に囲まれちまっていた。

 

何があってもいいように、全員で密集して、背中を預けあう。とりあえず、これで背後を突かれることはない。

 

 

「使い魔…に見えますけれど」

 

「でも、なんか違うよ…。魔力とか」

 

「わからん結界に、わからん何かかぁ…」

 

 

視線は逸らさないまま、話す。

 

 

「…この使い魔のような何かが、うわさに関わっているのだとしたら、納得がいくかもしれません。あの夕方の空間から追い出された理由が」

 

「えーと…それってつまり、どゆこと!?」

 

 

話を理解できてないらしいマジ子が、先輩に聞く。

 

 

「怒りを買ったんですわよ。何故、神社の噂話という形で神浜に広まっているのかは分かりませんが、この絵馬のような奴等にはきっと、何か目的があるんです。その為に人を集め、異空間に閉じ込めて、眠らせる」

 

「…なら、それに抗って偽物を倒して、しかも捕らえた獲物まで逃がそうとする私達は、敵だってことか」

 

「そういうことですわね…!」

 

 

あー…調査を始めたばっかりの時に漏らした不安が、まさかこうして的中するなんて。こんなことなら、うわさの調査なんてしない方がよかったか…?

 

絵馬モドキ共が一斉にこっちに向かってくるのを見て、私はそう思った。

 

 

「っ!あぁ、もう…!」

 

「とりあえず一発っ…!」

 

 

構えたパイルに魔力を込める。何にせよ、こんなところでやられるわけにはいかない。少しでも数が減ってくれればって祈りながら、杭を打ち込んで、衝撃派を撃ち出す。そしたら目の前の絵馬モドキが数体吹き飛んで、思いの外あっさり消滅した。

 

私のパイルは、杭打ちの時に発生する衝撃波を、砲弾みたいに飛ばすことも出来る。でもそれは遠くまで届く代わり、直に当てるよりも威力は低くなる。それでも倒せたってことは、ヤツらの耐久力はそれほどでもないのか?

 

 

「この絵馬、案外なんとかなるかも…!」

 

「ならないよー!アタシの武器じゃ無理ぃ!」

 

「まぁ、アタッシュケースではね!ふっ!」

 

 

チラッと見ると、先輩もマジ子も、自分の武器で応戦してる。先輩は爆弾だから、一度に何体か巻き込めて楽そうだけど、マジ子のやつはひーこら言いながら、必死こいてケースを投げてる。そりゃそうなるか…。

 

 

「鬱陶しいですわねぇ…!このまま数で圧倒されるのは困ります。なら!」

 

 

チマチマ倒してるのが焦れったくなったのか、先輩がカンテラを巨大化させた。海浜公園の時に見たやつよりも、ちょっと大きい。

 

 

「うへぇ!でっか!」

 

「爆風に気を付けて下さいな!」

 

 

先輩は両腕で抱えたカンテラを、自分の目の前にワラワラと集まるモドキ達に向けて、力一杯に投げる。カンテラ爆弾は奴らに無事当たったようで、次の瞬間にはデカい爆発が起きた。

 

 

「うぁ…!っく…」

 

 

熱と風がこっちにまで届いて、思わず顔をしかめる。だけど、これで結構数を減らせたはず。煙も大量に出て、辺りも見えづらくなった。そしてそれは、まだ残ってる絵馬モドキ達も同じこと。

 

 

「今です!走って!」

 

「えー!?でも、なんも見えないじゃん!」

 

「おバカ!私が爆弾を投げた方向なら、敵は幾らか減っているでしょ!」

 

「じゃ、アイツらと偶然会っちゃったら!?」

 

「グーパンチでもくれておやんなさいな!」

 

「うっそぉ〜…!」

 

 

「ほら、早く!」って先輩に急かされて、3人揃って走り出す。先輩が先導してくれて、私とマジ子は見失わないように付いていく。

 

 

「ぶっ!」

 

「赤さん!?何か!?」

 

「いや、別に!」

 

「そう!」

 

 

本当は顔面にモドキがぶつかって来たんだけど、今はそれよりも敵さんから距離を離す方が大事だ。

 

つーか、なんだろうなこれ。モサッとしたような、それでいてスベスベしてるような…。飾りっぽい部分が顔に当たってるんだと思うんだけど、何で出来てるんだこいつら。

 

 

「っ!止まって!」

 

「おっ…つぉ」

 

 

そのうちに煙から抜けて、神社の入り口が目に入る。偶然だけど、文字通り逃げ道に向かって走ってたらしい。

 

 

「………んっ」

 

 

もういいだろって思って、未だに私の顔にベッタリな絵馬(仮)を掴む。無造作に地面に投げ捨ててやると、カンッと木製の物体がぶつかった時のような音がして、絵馬っぽい何かは消滅した。

 

貼り付いてる間もしきりにワサワサ動きやがってさ。くすぐったいんだよこの野郎。

 

 

「あー…!なんとかなったぁん…」

 

「もう、情けない声を出さないの」

 

「だぁってさぁ〜…。てかさ、これ入り口まで来てんだったら、アタシ達逃げられるってことじゃね!?じゃ、今すぐ逃げた方が…!」

 

「いけません」

 

「なんでぇ!」

 

「この結界の規模も出口も分かりませんし、出られるかがまず不明ですわよ。囚われた方々も、出来ればどうにか致しませんと…」

 

「じゃ、どーするの?」

 

「逃げる気はないってんなら、まぁ倒すしかないよなぁ。全部」

 

「そっかぁー…」

 

 

マジ子のやつはげんなりしてるけど、私は元々逃げる気はなかった。先輩が言うように、捕まってる人達のこともある。でもそれ以上に、腹が立ってるからだ。

 

だってそうだろ。どんな手品なのか知らんけど、偽物なんか出して、人様を騙しやがってさ。大事な人に会いたいと思う気持ちを弄んで、食い物にして…。私の奥底にある一番大事な思い出を、土足で踏み躙りやがって!

 

絵馬にお母さんの名前を書くって決めたのは自分だろってのは、この際無視だ無視。八つ当たりかもしれないとか、そんなこと知るか。とにかくあの絵馬モドキ共をブチのめしてやらないと、私の気が済まないんだよ!

 

 

「じゃ、どうする!前みたいに、乗算とカンテラ合わせて一気に行くか!」

 

「え、どしたの赤ちん…。なんか怖」

 

「別に!」

 

「それもいいんですが、今は3人居るのです。ここは一つ、より確実な方法で行きましょう」

 

「ふぅん?」

 

「一人増えるのですから、その分魔力の量だって増しますわよ。威力も然りです」

 

「なるほどね」

 

「煙はいつまでも目眩ししてはくれませんから、早速説明致しますわよ。お二人共、よく聞いてください」

 

 

先輩が話す。私達全員の力を合わせて、残った敵を根こそぎブチのめす為の、その作戦を。

 

 

「んー…理屈は分かったけど、大丈夫かな。ぶっつけ本番な要素多いし」

 

「それは、まぁ」

 

「いやいや、大丈夫でしょこれ!マジいけるって!」

 

「何でそう思う」

 

「いけるって思ったから!」

 

「…アホがよ」

 

 

要するにただの勘かよ。でも、そうやってやたら自信満々に言われちゃあ、なんか本当に大丈夫な気がするから不思議で、少しだけ笑っちまった。

 

 

 

 

 

 

先輩が立てた作戦の準備を急いで進めている内に、煙が完全に晴れた。小娘共を見失っていただろう絵馬モドキ達も、すぐに私達の姿を見つけたみたいだ。

 

先輩の攻撃は効果覿面だったらしくて、かなりの数が減ってるように見えた。それでもまだ多いって言えるくらい残ってるけど、関係ない。次で終わりだから。

 

 

「先輩!」

 

「分かってます!マジ子さん、やってしまって!」

 

「おうさぁ!いっきまあああああす!!」

 

 

言われて、マジ子がアタッシュケースを投げる。目一杯力を込めて、モドキ達が密集する、その頭上に向けて。

 

モドキ達はそれに気を取られたのか、飛んでいくアタッシュケースに、一斉に視線を向けた…ような気がする。目なんてあるのか知らんけど。

 

 

「マジ子さん、今!」

 

「しゃあっ!開けー!」

 

 

先輩の合図を受けて、マジ子が叫ぶ。そしたらアタッシュケースのロックが外れて、蓋が開いた。中からザバッと音を立てて、水が飛び出してくる。

 

 

「そんでー…これで、おしまいっ!」

 

 

マジ子がそう言うと、絵馬モドキ達の頭上に撒き散らされたはずの水が纏まり始めて、形を成していく。水はあっという間に一滴残らず何処かに行って、代わりに大量の爆弾が、ヤツらに降り注いだ。先輩が使う、カンテラ型のそれが。

 

爆弾は次々爆発して、呆けていたモドキ共を焼いていく。一つ一つは小さくても、あれだけの量を食らえば、まず無事じゃいられない。チェックメイトってやつかな。

 

 

「よっしゃー!どうだこんにゃろー!」

 

「上手く行きましたわね…。何よりですわ」

 

「マジで何とかなっちまうなんてなぁ…。大したもんだよ、ほんと」

 

 

これが先輩の作戦。三人の固有魔法や魔力を合わせた、範囲攻撃。こうして結果を見せられると、数が多い相手には有効だってのが、嫌でもわかる。

 

まずは先輩が、少しずつ魔力を込めた、小さいカンテラを大量に作る。それらに私が「乗算」をかけて、威力を強化。次にマジ子がカンテラを全部「液化」して、アタッシュケースに流し込む。

 

後はさっき見た通り。マジ子が敵の頭上にケースを投げて、ロックを解除。飛び出してきた水は、「液化」が解除されてカンテラに戻る。で、爆発。「液化」の時にマジ子の魔力もカンテラに注がれてるから、威力も増してるってことらしい。

 

 

「や、アタシもビックリしたー。先輩のバクダンまで水にできると思わんかったし」

 

「マジ子さんは、自分の武器や魔法について知らなさ過ぎです」

 

「ケースの開閉も、水になったものも、任意のタイミングで元に戻せるって分かっただけよかったけどさぁ…」

 

「あはは…それは、うん。ごめぇん…」

 

 

苦笑いするマジ子。今回は上手くいったからいいけど、叶うならぶっつけ本番はこれっきりにしてほしいところ。

 

 

「で、作戦はどうにか成功したわけですけど」

 

「とりあえずスカッとはした。今ので全部倒せてりゃあいいんだけどなぁ…」

 

「結界解けてないもんねー…。ちょっと残っちゃったのかなぁ?」

 

 

なんて言ってる内に、魔力の残りカスで出来た煙が晴れてきた。爆心地がどうなったのか、段々と露わになってくる。さぁ、モドキ達はどうなった…?

 

 

 

「煙もほぼ晴れましたわね。さ、あの絵馬のような………………あれ?」

 

 

「どったの先輩………ん?…んん!?」

 

 

「あぁ…?え。いや、なんだあれ…!?」

 

 

 

敵はあいつら。結界の主もあいつら。だからこの後どうするかは、煙が晴れた時に、あいつらが居るか居ないかで決めればいい。

 

そんな風に考えていたからなのか。

 

 

「いやいやいやいや…冗談だろ…」

 

 

目の前で起きたことに、少しの間脳みそが追いつかなかった。

 

 

「なんでー!?あいつら倒したじゃん!」

 

「えぇ…。絵馬は居なくなってますわね。絵馬は」

 

 

さっきまで居た絵馬モドキとは比較にならないような、デカい魔力。それも、魔女のものとは違う、異質な感覚。

 

 

「なぁんかさ…こんなんばっかだな、お参りしてから…!」

 

「今日はサプライズが沢山ですわ…。些かパターンですけどね…!」

 

「こんなサプライズいらないよー!もぉー!」

 

 

冷や汗が顔を伝ってるし、心臓はヤバいくらいにドクドクいってるし、マジ子に至っては涙をちょちょぎらせてる。それが、目の前にいるヤツの恐ろしさを、端的に表してるんだと思った。

 

 

 

満を辞して姿を現したそれ。こいつがボスで、モドキ達の首領で、結界の主人。

 

 

 

 

怪物としか表現できない何かが、現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アラもう聞いた?誰から聞いた?

 

マチビト馬のそのウワサ

 

神社を支えるその神は、ファンシーでナイスなジェントル馬ン!

 

皆の願いを叶えるために、会いたい人に会わせてくれる粋なヤツ!

 

だけど残念、それは幻覚。気付いて否定しちゃったら、ジェントル馬ンがギャングスターに変わっちゃうって、水名区の人の間ではもっぱらのウワサ!

 

カッテスギー!

 

 





マギレコ本編の出来事

・第一部 第3章三話 終了後〜第3章四話 開始前


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3-10 攻略不能



ハロウィンイベをやる時間が上手いこと取れないので初投稿です。





 

 

絵馬モドキ達を倒した。そう思って安心しかけた私達に冷や水ぶっかけるみたいに、突然姿を現した謎の怪物。変な見た目とデカい魔力が相まって、かなり不気味だ。

 

 

「うわー…なんかおっかない感じ…」

 

「ええ。魔力もとても大きい。それに、顔……顔…?はにこやかですが、ただならない雰囲気です。騙されないようにしなくては…」

 

 

先輩もマジ子も、目の前にいるやつのヤバさを感じてるらしい。会話してるのに、目は相手から離してないのが、その証拠。

 

 

「これさ、やっぱアイツがボスってこと?」

 

「あの絵馬みたいなやつの、ってことですか」

 

「ま、そうなんだろ…。トサカにキてんだよ、自分のシマで好き勝手されて…」

 

 

少なくともモドキと無関係ってことはないだろうな。こんな厄ネタみたいなのが偶然通りかかったもんですなんて、そんなことあってたまるか。

 

 

「いやいや、何言ってんの赤ちん」

 

「え」

 

「トサカなんてあるわけないじゃん。馬にさぁ」

 

「は?」

 

 

マジ子がこっちを向く。馬…?いや、なんでいきなり馬?何言ってんだこのバカ…。

 

 

「馬なわけねーだろ。よく見ろお前、あれはあの…あーっと…ほら、あの…」

 

「や、どう見ても馬じゃん、ほら!」

 

 

いや、指さされても馬に見えないもんは見えないって。耳はなんかカエルっぽいし、脚の代わりに車輪みたいなの付いてるし…。

 

 

「ほらってお前…。第一、あんなドギツいカラーの馬なんていねえだろ」

 

「バケモンなんだから、普通の色なんてしてないっしょ」

 

「何だそれ。大体、馬要素どこよ。口元の紐っぽいのはまだそれっぽいかもだけど」

 

「馬だよ!ねー、馬だよねー」

 

「ウン、ボクウマダヨ-」

 

「ほらぁ!」

 

「何が!先輩も悪ノリしなくていいんだっつーの!」

 

 

喋らないから、馬がどうだのなんてどうでもいいんだろうなって思ってたらこれだよ。時々変なところでボケかましてくるんだよね、先輩って…。基本、常識人っぽいのに。

 

 

「つーか、どうでもいいんだよ、アイツが馬かどうかってのは!それよりこの状況を…」

 

 

敵が目の前に居るんだから、漫才みたいなことやってる場合じゃないんだ。こうやってバカやってる間に、ヤツが何か仕掛けてきたら…!

 

そんなふうに焦りを覚えながら、ヤツの方を見た。

 

 

「………あれ」

 

「んー?」

 

「えー…っと?」

 

 

三人揃って素っ頓狂な声を出す。そりゃそうだ。奴さんはてっきり、そっちのけにされて、キレるなり呆れるなりしてるもんだと思ってたのに、微動だにしてない。それどころか…

 

 

「あれさ、寝てんのかな…」

 

「そう…なんでしょうか。鼻ちょうちんまで出してますし」

 

 

戦うのかと思ったら、自分をほったらかしでワーワー言い合いだもんなぁ。そうなっても仕方ない…のか?

 

終いには鼻ちょうちんが本体を離れて、フヨフヨ漂い始める。空気の流れとか多分そういうのに乗ったのか、こっちに近付いてきた。

 

 

「あーあー…。こんなになるまで放ったらかしちまって」

 

「何となく、申し訳なさを覚えなくもないですわね…」

 

「でも、これって逃げるチャンスじゃん?ムリして戦わなくてもよくない?」

 

「それはさ、捕まってる人達が…っと」

 

 

話し合ってる間に、鼻ちょうちんが私達のすぐ近くまで来てたから避ける。危険は無さそうっつっても、鼻っぽい場所から出てきたもんだからなぁ。汚いかもだし…

 

なんて、油断しきってたのがいけなかったのか。

 

 

「っ!?ぐぁっ…!」

 

「だあっ!なに!?」

 

 

何かが破裂するような音が鳴ったのと同時に、体に激しい衝撃が襲ってきて、軽く宙に浮きながら後退させられる。すぐに着地して、どうにか体勢を整える。

 

 

「何だってんだよ、今の…!」

 

「鼻ちょうちんです!あれが破裂して、こちらにダメージを…!」

 

「うっそぉ!マジでぇ!?」

 

 

そんなアホな…。いくらワケの分からん敵だからって、攻撃方法まで妙ちきりんにしなくても…。

 

ていうか、攻撃なのかこれ。だってアイツは今寝てるんじゃ…

 

 

「!お二人共、見てください!」

 

 

先輩に言われて、敵の方を見る。ヤツは車輪をギャリギャリ回転させてて、今にもこっちに突撃してきそうに見えた。

 

 

「アイツ、寝てたんじゃないの!?」

 

「その認識がそもそも迂闊だったのかもしれませんわ…!相手は人じゃない。魔女と同じく、怪物なんですから!」

 

 

アイツは別に寝てなんかないし、あの鼻ちょうちんは、いつまでもこっちが仕掛けてこないのをいい事に、ヤツがブッ放してきた攻撃ってことか…。クソ…!私達は何回バカやってピンチになれば気が済むんだよ!

 

 

「っ!いけない、突っ込んで来ますわよ!」

 

「あぁもう、次から次に!」

 

 

怪物はさっきよりも車輪を勢い良く回して、ついにこっちに突進してきた。内心で毒づく暇もくれないらしい。

 

 

「うわ、マジじゃん!ヤッバ…!」

 

「皆さん、これを!」

 

「グリーフシード!?」

 

「このままじゃ保ちませんわ。さぁ、散って!」

 

 

先輩にグリーフシードを持たされた、私とマジ子。その後は言う通りにして、全員がバラバラの方向に退避した。そのすぐ後に怪物が通り過ぎていったから、結構ギリギリだったのかも。

 

 

「もうやるしかありませんわね…。回復して、攻撃しましょう!」

 

「うー…わかったぁ!」

 

 

渡されたグリーフシードで、濁りを取り除く。なんかものすごい浄化されてる気がしたけど、考えてみれば、さっきは偽物関係でちょっと荒れたし、モドキ達に大技も撃ったしで、実はかなり危なかったのかも知れない。

 

 

「よーし。ジョーカ終わった…ってか、アイツまたチョーチン膨らましてる!」

 

 

マジ子の言う通り、怪物はこっちに顔を向けて、鼻ちょうちんをプクーッとさせてる。速度は遅めだけど、威力は充分ってのはさっきのでよく分かってる。二度は食らいたくない。

 

 

「マジ子、ケース!」

 

「へぇ!?」

 

「ケース投げて、ちょうちんにぶつけろ!」

 

「あ、そっか!よーし…」

 

 

マジ子が急いで武器を構える。怪物は攻撃の準備が完了したみたいで、充分膨らんだ鼻ちょうちんを放ってきた。

 

 

「ヤバい、マジ子!」

 

「おっけ!おー…りゃあっ!」

 

 

マジ子が投げたアタッシュケースが、怪物の攻撃とぶつかる。やっぱり威力は相当のものらしくて、ちょうちんは割れたけど、同時にマジ子のケースも消滅した。

 

 

「先輩、私もやるか!?」

 

「今の攻撃は恐らく連射がきかない。なら、今がチャンスです!」

 

「よし!」

 

 

魔力をパイルに通して、起動させる。怪物は遠距離攻撃じゃ埒が開かないって思ったのか、また車輪を動かして突進してきてる。しかも御丁寧に、私の方に向かって。

 

 

「赤ちん!ヤバくない!?」

 

「いいんだよ、これで!」

 

 

確かに、こっちに勢いよく向かって来てるのは危機感を感じる。でも、私にだってパイルがある。吹っ飛ばすとか転倒とかまではいかなくても、足を止めるくらいは…!

 

 

「オラァ!!」

 

 

程々に引きつけたところで、パイルを打ち込む。私の武器は衝撃波を飛ばすことで、一応遠距離にも対応できる。直に当てるより威力は落ちるけど、それでも食らえば無事じゃいられないはず。

 

衝撃波は怪物に真っ直ぐ向かっていって、そのまま直撃。これで勢いを削げれば…

 

 

「!?マジかよ…!」

 

 

私の願望は裏切られて、怪物は無傷のまま。何もなかったみたいに、勢いを落とさないで突撃して来る。

 

 

「チッ…!」

 

 

だから急いで体を動かして避けたけど、完全にとはいかなかった。

 

 

「ぐっ…!づぁ…っ!」

 

 

少し引っ掛けちまったのが災いして、体勢を崩した体が、地面に強く打ち付けられた。マズい、この隙は致命的…!

 

倒れた体を急いで起こしたけど、相手もチャンスを見逃すような馬鹿じゃない。既に私の目の前まで接近していて、そのカエルの手足みたいな形の耳で、私を横殴りにしようとしてた。

 

 

「くっそ!」

 

 

もう避けられないなら、せめてダメージは…!そう思って、防御の姿勢を取った。攻撃が、私に当たる。

 

 

「っ……!」

 

 

でも、クリーンヒットしたはずの一撃は、私にダメージを与えなかった。ちょっとした衝撃はあったけど、それだけ。怪物の耳はめちゃくちゃ柔っこかった。

 

 

「赤さん、退避して!」

 

「!」

 

 

先輩の声が聞こえてきて、私は急いで立ち上がる。首を傾げる怪物を尻目にして、思いっきり距離を離す為にジャンプ。直後に、怪物の周囲で爆発が起きて、ヤツが煙で覆い隠される。

 

無事に地面に着地して、怪物から離れられたところに、先輩とマジ子が合流してきた。

 

 

「赤さん、無事ですか!」

 

「何とか…」

 

「先輩が魔法使ったんだって!柔らかくするやつ!」

 

「前も似たようなことあったし、なんかすぐ分かったわ。ありがと」

 

「間に合って何よりですわ…はぁぁぁぁぁぁ…」

 

 

先輩は随分肝を冷やしてたみたいで、安心したのか、深い溜息を吐いた。「軟化」の固有魔法に、また助けられちまったなぁ…。

 

 

「てかさ、どーしよー…。見てたけど、赤ちんの攻撃、きいてなかったよね?」

 

「一番高い火力を持つ赤さんでダメだったとなると、これは絶望的ですわね…」

 

 

二人が神妙な顔になる。そうなんだよなぁ…。あの野郎、ピンピンしてやがった。これ以上ってなると…

 

 

「また、あの合体技やる?」

 

「いえ、準備の時間を確保できません。それに、あれは各々の魔力を大きく使います」

 

「いざって時に困る、か…」

 

 

通用するかもわかんないしなぁ。その時に何も出来ないのはヤバすぎる。

 

 

「最悪、その……言いにくいんですが…。逃走も視野に入れるべきかな…と…」

 

「それって…」

 

「ええ。囚われている人達を放置して、逃げるってことです…」

 

「………」

 

 

言われて、言葉に詰まる。でも、先輩の気持ちもなんとなく分かる。分かっちまう。

 

ここまで来て全滅なんてことになったら、助けられるものも助けられない。悔しくないって言ったら嘘になるし、出来るなら諦めたくないなって思うけど、仕方ないのか…。

 

 

「でも、それはあくまで最終手段です。とにかくまずは、赤さん単体よりも更に高い火力をぶつけますわよ!」

 

「え。でも合体技の時間ないって」

 

「それは三人での話です。私と赤さんの二人でやるなら、すぐ済みますわ」

 

「なるほどね。あれなら、確かに」

 

「じゃあ、アタシなにしたら…」

 

「それは考えてありますわ。セーフティというか、予防線というか…とにかく大事なことです」

 

「ほんと?」

 

 

そう聞かれて、先輩が「ええ」って答えたところで、怪物を覆っていた煙が散った。耳を振り回して、強引に吹っ飛ばしたのか。

 

 

「時間切れですわね…。早速始めますわよ!」

 

「あいよ!」

 

 

パイルを構えて、怪物を真っ直ぐ見る。ヤツは今度こそって感じで車輪をガンガンにブン回して、すごい速さでこっちに突っこんできてた。

 

 

「赤さん!」

 

「いつでも!」

 

 

先輩が、カンテラを放る。パイルと重なった瞬間に「乗算」をキッチリ発動させて、杭を打ち込んだ。

 

衝撃波に叩かれたカンテラ爆弾は勢い良く飛んでいって、その中で魔力が膨れ上がってく。もう何度も見た光景だ。

 

一直線に飛んでった爆弾は、こっちに向かってくる怪物に直撃。デカい爆発が起こった。

 

 

「さ、ここからです。マジ子さん!」

 

「うん。アタシ、なんでもやるよ!」

 

 

どうやら、先輩の言うセーフティってのを実行する時が来たらしい。何をする気かは知らないけど、先輩のやることだ。ここは信じてもいいって、素直にそう思えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その怪物は、ウワサと呼ばれる存在だった。己の母であり、創造主である少女に、「マチビト馬のウワサ」という名前と体、そして役割と力を与えられ、やがて水名という地の神社での仕事を任された。

 

詳しいことはよくわからないし、ウワサとしての本能に逆らうことも出来ないが、それでも自分の仕事さえ果たしていれば、外の世界を堪能できる。創造主達の役にだって立てる。そんな毎日を、マチビト馬は気に入っていた。

 

だがある日、そんな穏やかな日常を乱す者達が現れる。黙って見ていれば、なんと、用意した偽物を打ち消し、その上、今まで夢の世界に誘った人間達まで、勝手に解放しようとしているではないか。

 

どうやら創造主である少女と同じで、魔法少女のようだが、それはそれ。ウワサの内容に反してもらっては困るから、終いには自らが現れてみせて、少女達を追いつめていった。

 

少女らには抵抗されたが、魔法少女の攻撃に耐性を持つように作られたウワサである以上、何をされても堪えはしない。巨大な魔力を帯びた爆弾のようなものをぶつけられて、煙で視界を奪われたのは鬱陶しいが、攻撃自体は痛くも痒くもない。

 

度々上手く躱されはしたが、それもここまで。今度こそ排除させてもらおう。そう思って煙を突っ切り、魔法少女達の眼前へと迫ったと確信する。ようやく追いつめたと、マチビト馬は思った。

 

 

 

だがしかし、マチビト馬の前に三人の少女の姿はなく、見慣れた神社の景色が映るのみ。

 

いつの間にか地面に広がっていた水溜りが、首を傾げるマチビト馬の姿を映すばかりだった。

 





マギレコ本編の出来事

・第一部 第3章三話 終了後〜第3章四話 開始前


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3-11 再びの彼女



今日も頑張ってキモチ戦を終えたので初投稿です。





 

 

怪物が私達を見失って、その辺をキョロキョロ見回したり、首を捻ったりしてるのが見える。そりゃそうだろうな。魔力は感じるのに、その魔力の元が見当たらないんじゃあね。

 

油断できない状況なのは変わらないんだけど、それでも、してやったりって気分。

 

 

『おー。見てよ。すっげ探してるよ、アタシ達のこと』

 

『どうやら、上手くいったようですわね。よかった』

 

『とりあえずはって感じかな…』

 

 

ひとまず一息つけた。問題は、ここからどうするかって話だけど。ていうか、今の私達の状態で、何かをどうこう出来るもんなのかな。

 

 

『なんていうか…不思議だなぁ』

 

『この状態が、ですか?』

 

『だよねー。アタシもわけわかんないよ』

 

『や、お前の魔法だろ…』

 

『だって、こんなんなるって思ってなかったしさー』

 

 

私達は今、マジ子のやつの固有魔法で、水になっている。

 

自分って存在が全身丸ごと形を失って、透明になって。でも意識ははっきりしてるし、一緒に水になった二人のことも、ちゃんと感じられるし…。上手く言えないけど、不思議な感覚だと思う。

 

 

『てか、水になっちゃうと喋れないんだよね。フベン…』

 

『テレパシーで会話が出来るのは助かりますわね。こういう時だと』

 

 

お互いに姿は見えないのに、一緒に居るって分かる。そばに居るって感じじゃない。自分と相手が重なってるっていうか、一つになってるっていうか。なんだろう、混ざってる感じ?

 

 

『………』

 

『どうしました。黙っちゃって』

 

『いやぁ、これさ…』

 

『んん?』

 

『元に戻ったら、三人がぐっちゃぐちゃに融合してるとかっていうのは…』

 

『………』

 

『えー……』

 

 

二人共、すごい顔してる。いや、見えないけど。でも絶対そんな顔してる。しょうがないだろ、そう考えちゃったものは…。

 

 

『…それはこう…何とかしますわよ』

 

『マジか。さっすが先輩』

 

『マジ子さんが』

 

『あ、アタシなんだ…』

 

 

いやまぁ、魔法使ってる本人なら何とかなるだろ。自分だけ先に元に戻してみるとかさ…。

 

 

『んんっ。とりあえず、その話は後で。それよりも、これからのことです』

 

『いつまでもこのまんまって訳にもいかないもんなぁ…』

 

『魔力も減ってってるんだよねー。ゴメン、アタシ一人ならケッコー長く水ってられるんだけど…』

 

 

水ってるとかいう謎の表現は置いとくとして、ずっとこのままでいて、怪物っていう嵐が過ぎ去るのを待つ…ってのは出来ないわけだ。どうしたもんか。

 

 

『魔法を解いて戦うってのは…』

 

『出来ると思います?』

 

『いや…』

 

 

私と先輩の十八番を食らわせてやっても、あの怪物は何ともなってなかった。結構な威力の出る攻撃のはずなのに、それすら通じないってのをこうして分からせられるのは、割とショック。

 

 

『じゃあ、その……やっぱ、ダメなの…?』

 

『……ええ』

 

『逃げるしかない、かぁ……。はぁ…』

 

 

思わず溜息。囚われた人達が居て、その人達を助けられそうなのに、それが出来ない。見捨てて、自分達はスタコラってことだもんな。

 

悔しいっていうか、やり切れないっていうか…。どうしてもモヤモヤしちまうよ、それは。

 

 

『仕方ない…って言うつもりはありませんが、私達の攻撃があの化物に通じないのは事実ですもの…。私自身 納得は出来ませんが、他に出来ることは、何も……』

 

『うぅー………なんか悔しー!』

 

『負け…か』

 

 

我ながら、まさしくそうだと思う。怪物に追い詰められて、こうして魔法でヤツを騙すことしか出来ない。挙げ句の果てに他に打つ手は無くて、何とか逃げおおせるしかないときてる。これが負けじゃなくてなんなんだか…。ほんと情けないよ、私達…。

 

 

『反省は後でたっぷり致しましょう。とにかく、今は逃げるんです。この神社から』

 

『ぬー…。わかった…』

 

『でもさ、先輩。逃げるのはいいけど、どうすんの。動けんのか?今の私達』

 

『それは…どうです?マジ子さん』

 

『水ってるのがアタシ一人ならともかく、三人分だとどうだかわかんないけど…』

 

『そう。なら、実践といきましょう。このまま逃げるんです』

 

『え、マジ?』

 

『マジです。さ、早く!神社の出口へ!』

 

『マジかぁ…。でも、わかった!じゃあいきまーす!』

 

 

無駄に元気よく答えたマジ子に身を任せて、水になったままの、私達の逃走が始まった。

 

 

『よいしょおー!』

 

 

自分の身体が流れて、音もなく引っぱられていく感覚を覚える。怪物が少しずつ遠ざかり始めて、景色も流れてく。確かに移動してるらしい。どういう理屈なんだろう、これ。

 

 

『んぬー…ゴメン二人とも。やっぱちょっと重い感じする』

 

『それでも、順調に出口には向かってますわ。結界から出られるのかはまだ分かりませんが…』

 

『まぁ、それはそっから考えるしか……あれ』

 

『?どうかしまして、赤さん』

 

『いや…なんか…見てるなーって』

 

『え、本当で………うわぁ…』

 

 

さっきまで私達を探して、首やら顔やらあっちこっちに向けて忙しなかった怪物が、今度はこっちをジーッと見つめてる。これは…怪しまれてる…?

 

 

『あの…ヤバくねーかこれ』

 

『いえ…でもほら、バレてしまったのかは、まだ何とも…』

 

『だってさぁ…魔力の反応は無くなんねーんだぞ。それが動いてるんだったら、反応を追いかければ…』

 

『………』

 

 

一緒に戦う中、固有魔法で水になるマジ子を何度か見て、分かったことだ。自分を水にしても、魔力の反応が消えるわけじゃない。そんでそれは、自分以外の魔法少女を水にしても同じなんだろうな。

 

怪物がそれに気付いたわけじゃないだろうけど、魔力を発してる水溜りが移動してるのを発見すれば、怪しむのは当たり前だよな…。

 

 

『あ、うわ、ちょ、こっち来た。マジこっち来たんだけど、ねぇ!』

 

 

車輪をゴロゴロ動かして、怪物が近づいてきた。マジ子が怖がったのか、こっちの移動速度も上がったけど、向こうの方が早い。すぐに追い付かれた。

 

 

『うーわー…。見てる。すっげこっち見てるよ。これ絶対ぇバレただろ…!見て、あの真っ黒な目…』

 

『いや、まだ!まだ分かりませんから!何か変な水溜りあるなーこんな場所でレアだなーって思ってるだけですから!』

 

『何もない場所に水溜りがいきなり湧いた時点でおかしいってわかるだろ、アホ先輩!』

 

『アホ…!?』

 

 

アホ先輩っていうかアホ輩だよ。アホパイだアホパイ。デカいの二つブラ下げてんだから丁度いいだろ。パイだけに。

 

つーか何がレアだよ。ボケてる場合じゃねーんだよ!

 

 

『あっ!ちょっとマジでヤバい!叩いてきた!バシャバシャしてきたって!』

 

 

私と先輩がバカやってると、怪物が両方の耳を使って、水になった私達をベンベンと叩いてきた。飛沫が飛び散る。これ、マジでいよいよマズいぞ…!

 

 

『おい、どうすんだこれ!』

 

『あれ、あのー…!だいじょーぶだよ赤ちん!こーやって攻撃されても、痛くないから!』

 

『それは分かりますけど、だからってこのままじゃ…!』

 

『えーっと……とにかく逃げよ!逃げるっきゃないって!』

 

 

言って、更に出口へ急ぐ私達。もうバレたようなもんだけど、ここまで来たら、何が何でも逃げるしかないか…!

 

 

『っ!おい!』

 

『今度は何です!』

 

『止まったんだよ!』

 

 

怪物は、いきなりその場に停止して、追いかけてくるのをやめた。まさかここにきて追跡をやめました、なんてことはないと思うけど…。

 

 

『あ!アイツまたフーセン膨らましてる!』

 

 

いや、案の定かよ くそったれ!

 

 

『落ち着いて下さいな!鼻ちょうちんと言っても、一発だけならまだ何とか…!』

 

『……先輩、あれ見てみ』

 

『あれ……って…。……えぇー、ちょっと…』

 

 

先輩がそう言いたくなるのも無理ない。一発でも結構痛かったのに、今度はそれを複数飛ばして来た。もう確定だろこれ。バレたんだよ、水に化けてんのが。

 

……いや、待てよ。

 

 

『とりあえず攻撃は大丈夫なんじゃないの?だって、水になってりゃ無敵状態なんだろ?』

 

 

何だよ、慌てて損したなぁ。ピンチは継続中だけど、これなら打開策を練る時間も…

 

 

『あー、それか…や、ゴメン赤ちん』

 

『あ?何が』

 

『アタシ、やったことあるから分かるんだけどさ、これ、水っぽいもんにはカンショーされるっつーか…』

 

『………ん?』

 

『だからね?こーやって水になってても、川とかに入ったら冷たいってなるし、お湯とか混ざったらアッツいとかそういう…』

 

『…えー……っと……』

 

 

つまりあれか。鼻ちょうちんってのもまぁ水っぽいもんではあるから、普通に干渉はされるかもとかそういう……ってぇ!

 

 

『いやお前ぇ!それ早く言…!』

 

 

ツッコミの言葉をくれてやろうとしたけど、次の瞬間には、怪物の放った鼻ちょうちんが一斉に破裂した。水溜りになった私達にちょうちんが接触した瞬間、攻撃性を持ったヤツの魔力が、滝みたいに流れ込んでくる。

 

衝撃と痛みに掻き乱されたと思ったら、気付けば元の姿に戻って、地べたを這いつくばってた。先輩はもちろん、マジ子もアレには耐えられなかったらしい。だから液化を維持できなかったんだ。

 

 

「うっ、がっ…。ってぇ…!」

 

「お二人、とも…逃げっ…あっ…」

 

「あぅ…いだい〜……げほっ」

 

 

一気にブチのめされちまった。あちこち痛くて仕方ない。それでも、私はまだ逃げようとする。倒れた体をどうにか起こして、そのまま立とうと踏ん張る。

 

 

「……………!」

 

 

だけど、そんなことさせるわけねえだろってばかりに、私達の前に立ちはだかってくる怪物。余裕綽綽なのか、何もしないでこっちを見下ろしてるばかり。

 

 

「っ……だあああああああああ!!」

 

 

それがとにかく気に食わなかった。だからパイルを起動して、イラつきを吐き捨てるみたいに思いっきり叫びながら、ブチかました。

 

残った魔力をありったけ込めた甲斐もあって、さっきパイルを打ち込んだ時よりも威力が出たらしい。怪物の身体に、大穴が空いた。

 

空いた途端に、塞がった。

 

 

「………」

 

 

あぁ、なるほどね。こんなんじゃ攻撃なんて通じないわけだ。頭ではそう考えて、でも口は動かなかった。はっきりとした結果を見せられて、気力も元気も、急激に萎んじまったから。

 

 

「っ……!ぁ………」

 

 

攻撃が終わって、そのままボケッと突っ立ってたもんだから、怪物から反撃を貰った。ふざけた見た目の耳に、頭を横から叩かれて、地面に赤い斑模様が出来た。

 

鉄みたいな臭いがし始めた。何かが顔を伝ってるのも分かる。多分、血が出たんだ。当たりどころが悪かったのかな。

 

怪物が、今度は両方の耳を振りかぶってるのが見える。だけど、避けるとか防ぐとか、そんなことすらもう私には出来ない。

 

単純にそうするだけの体力がもう無いのか、それとも、もう無理かもっていう諦めがそうさせてるのか。

 

どっちにしろ、今の私に出来ることは、自分に向かって勢いよく迫ってくる怪物の両耳を、受け入れることだけ。そう思った。

 

 

 

 

 

 

 

「………?」

 

 

なのに、怪物はどっちの耳も、いきなりビタッと止めた。何でだ。私を更にボコボコにしてやるんじゃないのか。

 

 

怪物の意味不明な行動を見せられて、頭に?を浮かべる私の前に何かが降って来たのは、その時だった。

 

 

 

「…………あ?」

 

 

 

いきなり何だよって顔を顰めたのも束の間。降ってきた何かを見て、私の頭は少し混乱した。はっきり言って、訳が分からなかった。

 

 

 

「…………」

 

 

 

間違いない。あの時の女の子だ。私達が海浜公園で散々な目に遭わされた、あの謎の美少女が、今、私の目の前に出てきてる。

 

 

 

 

私に背を向けたまま、両腕を目一杯横に広げてる姿は、まるで、怪物から私を守ろうとしてるみたいだった。

 

 

 





マギレコ本編の出来事

・第一部 第3章三話 終了後〜第3章四話 開始前


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3-12 決着は苦味たっぷり



昴かずみが実装されて嬉しいので初投稿です。





 

 

 

「あの子、あの時の…!何でっ…?」

 

「もしかして、また赤ちんのこと…。っ…」

 

 

思いがけない乱入者登場に困惑してると、先輩とマジ子の声が聞こえて、ハッとした。全く喋らないから不安だったけど、どうにか無事だったらしい。

 

見ると、まだ怪物の攻撃によるダメージが残ってるらしくて、地面に倒れたままだった。しゃがんで、声をかける。

 

 

「っ!二人共、だいじょぶか?怪我とかは…!」

 

「大丈夫なら、今頃這いつくばってませんわよ…」

 

「生きてるからいいけどさー…うー、痛いよぉ…」

 

 

返事が返ってきて、安心した。顔も私の方に向けられてるし、意識もはっきりしてる。私みたいに血が出てるってことも無さそうだ。

 

 

「で…どうなってますの、状況は。何故、あの女の子が…」

 

「アタシらのこと、守ってくれてんのかな…?あぁ…アタシらってか、赤ちんかも…」

 

 

二人の言葉を聞いて、顔をあの女の子の方に向ける。相変わらず、私達を怪物から庇う様にして立っているのが見えるだけだけど。

 

 

「さぁね…。わからんて、私にも」

 

 

ほんと、何がどうして、何の因果があればこんなことになるんだか。あの子には前に三人揃ってボコボコにされたっつーのに、今度は私達を助けに来たみたいに見えるってんだから。

 

あれか。昨日の敵は今日の友とか、そういうの?いやぁ、そんなわけ…。

 

 

「何にしても、気が抜けないんじゃない?まださ…」

 

「…………」

 

 

特に何も返してはこないけど、先輩も同意見らしい。神妙な顔をしてる。

 

二人の無事を確認出来たのは良いことだけど、だからって、目の前の脅威が取り除かれたわけじゃない。私はすぐに、女の子と怪物に視線を戻した。

 

 

「…………」

 

 

女の子は何も喋らない。ワケの分からん化物の前に立ってるっていうのに、さっきから一歩も退かないでいる。

 

特に怖がったり強がったりしてるような雰囲気も無いし、それどころか、時々首を横に振ったりしてる。私達を襲っちゃダメだって、怪物に知らせてるのか…?

 

 

(まさか、マジでアタシ達を守ろうとしてるってのか…)

 

 

確かにアイツの馬鹿げた強さなら、あの出鱈目な怪物をどうにか出来るのかもしれない。でも、そうすることで女の子に何の得があるっていうんだか。

 

…いや、少なくとも守る意味はあるのかも。それは別に、良いものではないかもだけど。例えば、「こいつらは私の獲物だ」的な…。

 

もしくは、「こいつら」じゃなくて、私個人が標的だから、とか。だってあの子、海浜公園の時も妙に私に迫って来たし…。つーか、手籠にされたようなもんでしょうよアレは…。

 

 

(あーもう…あんま思い出したくないことを…)

 

 

ちょっとげんなりした。まぁ、それはいいよこの際…。結局 私達はどうなるんだ、これから。状況はさっきから動かないし、どう判断したらいいんだか。

 

 

(あの子は首ブンブンしてるし、バケモンはそれ見て首傾げてばっかだし…。とにかく何でもいいから動きがあれば……。っ!?)

 

 

私のそんな願望が天にでも届いたのか、すぐに状況に変化が生まれた。

 

 

「ひゃっ…」

 

「ぅわっ…。なになにぃ!?」

 

 

女の子が、もの凄い量の魔力を勢い良く放出し始めて、それがこっちにも伝わってくる。ピリッとした強い圧みたいなのが伝わってきて、思わず顔を顰めた。

 

 

(なんだ、いきなり…!威嚇か何かか…!?)

 

 

これには流石に怪物もビックリしたらしい。少し後ずさったのが見えた。

 

 

(怯んだ?もしかしたらこのまま…)

 

 

本当に何とかしちまうのか?してくれるならありがたいはありがたいけど…。

 

他人任せなんて情けない話。けど、それでもようやく活路が開けそうなんだ。出来るなら、このままどうにか…!

 

 

「ぶがっ…!」

 

「何です!?魔力がっ…うぐ…」

 

 

そんな甘えた考えは許さんって感じで、魔力による圧力が、更に強まったのを感じた。潰されてぺちゃんこになるんじゃないかって思うレベル。しかも、息苦しさも感じるようになってきた。

 

女の子の放出する魔力がそうさせてるんじゃない。いや、原因の一つではあるんだけど、それだけじゃない。

 

怪物だ。ヤツが、女の子に対抗して魔力を放出し始めて、魔力同士がぶつかったからだと思う。それで押し合い圧し合いしてるんだ。

 

怪物が出した魔力の量も、女の子のそれに負けず劣らずだ。デカい魔力同士がぶつかり合えば、周囲にも相応の影響が出るってことなんだろ。現に今出てるし…!

 

 

『おい、先輩!先輩!』

 

『聴こえてますわよ!なに!?』

 

 

声を上手く出せる自信が無くて、テレパシーで話しかけた。返事が返ってくる。

 

 

『どうすんだ!何とかなりそうって思ったけど、これじゃ…!』

 

『分かってます!…怪物に、あの女の子。どちらも私達にとっては危険ですが…』

 

『でもさ、今は大丈夫なんじゃない!?あの変な子、アタシ達のこと守ろうとしてくれてんでしょ!』

 

『どうでしょうね…。ですが、あの怪物と対立しているのは事実なんでしょう。でしたら…!』

 

『敵の敵は味方ってか…!?』

 

『そういうことですわ……っね!!』

 

 

先輩がそう言った次の瞬間、状況が動いた。その変化は怪物にとっては想定外で、女の子からすれば好機だったと思う。

 

怪物はそれに驚いたっていうか、混乱したのか、放出してた魔力を引っ込めちまったらしい。圧迫感が弱まった。

 

 

「!」

 

 

その隙を、あの女の子は見逃さなかったみたい。あの子の出す魔力の勢いが、爆発的に増した。

 

 

「だぁーっ!ちょっとっ…!!」

 

「なんて魔力を…!こんなの、耐えられな…!」

 

 

魔力自体が発する光で視界を埋め尽くされて、思わず両腕で顔を庇う。バカみたいに激しい力の流れを全身で感じながら、何かが割れるような、崩れるような音を、私は聞いたような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………?」

 

 

ちょっとだけ長い間、そうしてたと思う。私はギュッと目を閉じてて、片膝を付いてた。要するに、さっきまでと同じ体勢のまま。

 

気付いたら、さっきまで嫌ってくらい感じてた魔力の反応が、さっぱり無くなってた。顔を庇っていた腕を下ろして、おっかなびっくり目を開けた。

 

 

「神社…」

 

 

そう、神社だ。神浜市の水名区にある、水名神社。その景色だ。暗いのは、今が夜だから。

 

今の今まで魔力がぶつかり合ったりで滅茶苦茶だったはずなのに、今はそれが、嘘だったみたいに静まり返ってる。

 

で、私の目の前には、女の子の背中。怪物は、どこにも居なかった。

 

 

(……あの時)

 

 

謎の女の子が、魔力の勢いを強める直前のことだった。私は見た。体勢を崩して、盛大によろけた怪物と、その原因を。

 

 

(地面が、沈んでた)

 

 

怪物の足元が不自然にへこんでた。それがヤツの不意を打つことになって、隙が生まれたんだと思う。

 

何でって思ったけど、すぐに思い当たった。先輩がやってくれたんだ。あの人が固有魔法で、怪物が立ってた場所の地面を、フニャフニャに柔らかくした。

 

 

「っ!そうだ、先輩…マジ子も…」

 

 

後ろを振り返ると、倒れたままの二人が居る。すぐに無事を確かめたくて、膝立ちのままで近寄った。

 

 

「おい。先輩、マジ子。おいって」

 

 

呼びかけて、肩の辺りを軽く叩いてると、二人共唸って、その後に目を覚ました。よかった。何とか生きてるみたい。

 

 

「うぅん…赤さん?」

 

「おう」

 

「どーなったんー…。なんか、あの変な子が魔力をバーンッってやったけど…」

 

「あれでどうにかしたんだろ。あのバケモンも、変な結界も、どっか行っちゃった」

 

「マジか…」

 

 

マジだよ。一旦二人から目を離して、女の子の方を見る。私が聞いた、何かが壊れるような音。あれは気のせいじゃなくて、実際にあの子が、あの変な結界を壊した音だったんだろうな。バカみたいにデカい魔力で、無理矢理に。

 

 

「とりあえずさ、助かったんだよ私ら…。んで、それは先輩が『軟化』を使ってくれたから…っと」

 

「いや、それは…。私もこう、必死で…。んん…」

 

「その必死さに助けられたんだからさ。まぁ、なんだろ。ありがと」

 

「………はい」

 

 

言いながら二人に向き直って、体を起こすのを手伝う。まだ少しダメージが残ってるかもだし、立たせるのはやめといた。

 

 

「はぁ…ありがと、赤ちん」

 

「私も、ありがとうございます」

 

「ん」

 

 

二人から感謝の言葉を受け取ってから、のっそり立ち上がる。そのまま、女の子の方に向かって歩き出した。

 

 

「赤さん…?」

 

「危ないってのは分かってんだけどさ、一応助けて貰ったんだし…。一言あってもいいかなって」

 

 

本当は話しかけたくないけどな。ホントに。マジで。別にビビッてるわけじゃねーし。ねえったらねえ。

 

 

「赤ちん、気ぃ付けてね」

 

「わかってる」

 

 

女の子に近付く。間近まで行くのは危ないかもだから、間隔は空けておく。

 

 

「………あの、さ」

 

 

恐る恐るで、話しかける。女の子が、こっちに振り返った。

 

 

「っ……」

 

 

思わず身構えそうになったけど、踏みとどまる。ピンチを救ってもらった礼をしようってんだから、変な態度は良くない。

 

 

「……………」

 

 

女の子は何も言わない。初めて会った時と同じだ。やたら可愛い顔で、ニコニコした表情。赤くなったほっぺた。

 

私がもし男子だったら、コロッといってたんじゃないかなって感じの美少女だ。

 

 

「えーっとー、そのー…さ…」

 

「…………」

 

 

なんか、上手く言葉が出てこない。前の戦いが軽いトラウマにでもなってるからなのか、得体の知れない相手に話しかけて、緊張してるからなのか。

 

 

「あの、なんつーか、ホラ……あー…ありがとな」

 

「?」

 

 

何とか言えたけど、言われた本人はキョトンとしてる。「なんで?」って顔だ。

 

 

「その…あんたとは、前に派手にやり合ったけど、今回はさ、助けてくれたから。だから、ありがとうって」

 

「!」

 

 

私が説明して納得がいったのか、女の子はちょっと驚いたような顔になって、直後に笑顔になった。こっちの感謝の気持ちが伝わったのかもしれない。

 

 

「まぁ、ホントに助けてくれたのかってのは、正直分かんないけど…。ほら、あんた、何でか喋らないから……って」

 

 

なんか照れ臭くなって、誤魔化すみたいに喋り出したとこで、異変に気付く。

 

 

「あーのー…」

 

「…………」

 

 

話しかけてみる。女の子は嬉しそうな顔のままだ。

 

 

「えーっ……と……なんか、さ」

 

「…………」

 

 

話しかける。女の子はニコニコしてるし、ほっぺがほんのりと赤くなってる。

 

 

「………近付いてきてない?」

 

「!!」

 

 

話しかけた。目の前には頬を赤くして、目も潤ませてる女の子。

 

嫌な予感がしたけど、時既に遅し。とびっきり嬉しそうな笑顔を浮かべた女の子が、私に飛びついてきた。しかもそのまま首に腕を回されて、逃げ道を塞がれる。

 

女の子を支えきれなくて、私が地面に尻餅をつくのと、女の子が私に二度目の熱烈なキスを寄越したのは、ほぼ同時だった。

 

 

「んン!?んー!んー!!」

 

「…………」

 

 

びっくりするやら、痛いやら、恥ずかしいやら…。色んな気持ちをごっちゃにしながら、とりあえず女の子の背中を思いっきり手で叩く。今すぐやめてくれ…!

 

でも女の子は全く堪えてないみたいで、お構いなしにブチューッとしてくる。

 

 

「うわぁ〜……すっごい」

 

「またですか、赤さん…」

 

 

後ろから、先輩とマジ子の声。いや、またですか赤さんってなんだよ。私がそういう趣味持ってるみたいな言い方すんのはやめろ!

 

 

「んー…!んんんんん……!ぷへぁっ!やめろって…!」

 

 

目一杯腕に力を入れて、どうにか女の子を引き剥がす。こんにゃろ…ちょっと舌入れて来やがった…!

 

ハァハァって肩で息しながら、キスしてきた当人の顔を見てやると、不満そうにほっぺを膨らませてた。いや、そんな顔されてもさ…。

 

 

「赤ちーん、頑張れー」

 

「女の子同士はノーカウントって話もありますわよー。ふぁーいとっ」

 

「ノーカンって何!?つーか面白がってるだろお前ら!」

 

 

他人事だと思いやがってよぉ…。

 

 

「…………はぁ…。分かったよ…」

 

「?」

 

 

溜息を吐きながら、女の子を見る。まだ不満そうな顔だ。

 

 

「あんたが命の恩人なのは事実だしね。いいよ、その…………ちゅーしても」

 

「!」

 

 

そう言われた途端、パァッと明るい顔になった女の子。あーもー、恥ずかしいって、こんなこと言うの…。

 

 

「でも!一回。一回だけ!もう夜だし、私達も疲れてる。帰りたいんだよ」

 

「…………」

 

「だから、私達が帰るのを見逃してくれるなら、その……一回だけ…いいから」

 

「!!」

 

 

首をすごい勢いで縦にブンブン。それでいいんだ…。つか、そこまで嬉しいの…?

 

 

「…………」

 

「っ………」

 

 

OKが出たからには、早速致したいらしい。尻もちついた私に乗り掛かったまま、両手を私のほっぺに添える。今までとは違って、優しい手つきだ。

 

女の子が優しく微笑んだまま、顔を近付けてくる。腹を括って、目を閉じた。

 

 

「んむ……」

 

 

そしたらすぐに、唇に柔らかい感触が襲ってきた。キスされてる。これで三度目かぁ…。

 

 

(んんんんー……恥ずかしい。めっちゃ恥ずかしいってこれ……)

 

 

どんだけ初心なんだ私はって、我ながら呆れるけど、恥ずかしいもんは恥ずかしいんだ。顔は熱いし、心臓はうるさいし…。

 

 

(でも………)

 

 

でも何でだろう。今回のキスは、今までとは違う感じがした。なんつーか、包まれてるっていうか、安心するっつーか…。

 

一応は合意の上だからなのかな…。いやいや、そんなバカな…。だってホラ、女同士だよ?

 

…だけどなぁ…。なんか気持ちいいしなぁ…。暖かいし、柔っこいし、唇をはむはむって軽く食んでくるのも、結構悪くないかもっていうか…。

 

 

「………?」

 

 

未知の感覚を味わってボケッとしてる内に、柔い感触は口から離れていった。女の子は、満足したみたい。

 

目を開ける。すごく嬉しそうな笑顔の、女の子が見えた。

 

女の子が私の体からどいて、立つ。私も、同じように立ち上がった。

 

 

「もう、いいの…?」

 

 

何でそんなこと聞いたのか、自分自身でも分からなかった。ただの確認であって、私がもっと、あの感覚を味わっていたいから とかじゃ断じてない…と、思いたい。

 

 

「…………」

 

 

女の子はゆっくり頷いて、それから、空気に溶け込むみたいに消えていった。最後まで、微笑んだまま。

 

こうして怪物も、女の子も居なくなった。後に残ったのは、夜の神社の景色と、ボロクソになった魔法少女が三人だけ。

 

 

『……………』

 

 

後ろに振り返って、先輩とマジ子を見る。色々と言いたいことがあるはずなのに、皆が皆、黙ったまま。

 

二つの嵐が一気に過ぎていって、完全に気が抜けたんだろうな。体はあちこち痛むし、アホみたいに疲れてるし。私に至っては、大分恥ずかしいことにもなってさ…。何だったんだよ、マジで…。

 

悲鳴を上げる体に鞭打って、二人に近付く。私と同じように疲れ切ってるであろう顔でこっちを見上げてくるチームメンバー達に向かって、私は言った。

 

 

「…………帰ろ」

 

「………ええ」

 

「うん………」

 

 

二人に手を貸して、どうにか立たせる。私も含めて皆フラフラだったから、お互いに体を支え合って帰ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……結局、捕まった人達はそのまんまか…」

 

「仕方ありませんわ…。悔しいですし、納得もいきませんけど…」

 

「うん…。アタシ達じゃ、あのバケモノに勝てないんだよね…」

 

「はぁ………」

 

 

溜息が出る。そりゃそうだ。終わってみれば全員傷だらけ。しかも人は助けられないで、謎は残ったままってんじゃあ…。

 

 

「…はい」

 

「ん?グリーフシード?」

 

「マジ子さんも」

 

「あ、うん…」

 

 

先輩から渡された。そういえば、浄化は戦ってる時に一回だけしかしてなかったっけ…。

 

 

「色々と話したいことも、話すべきこともありますわよね。でも、今日はもう休みましょう……」

 

「……………」

 

「何もかも明日です。明日…」

 

 

濁ったソウルジェムを浄化しつつも、苦い気持ちを抱えながら、私達は帰宅した。

 

 

 

あの女の子とキスをした時に感じていた気持ちや、生き残れたことから来る安堵は、すっかり心の隅に追いやられて、無力感と後悔と悲しさが、私を満たしていた。

 

 

 

 





マギレコ本編の出来事

・第一部 第3章三話 終了後〜第3章四話 開始前


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3-13 束の間の日



先輩のイメージ画像が活動報告にて見られるので初投稿です。





 

 

 

水名神社で、世にも奇妙なという表現では済まされない出来事を経験した、その翌日。私達は、とあるお店へ買い物へ来ていた。そして今、私と赤さんは会計を済ませたところ。

 

 

「買い忘れとかありません?」

 

「んー…ちっと待て」

 

 

赤さんが、事前にスマホに書き込んでいたメモと、買い物袋に入っている品物とを交互に見ながら、確認を取っている。少し買い過ぎたでしょうか。

 

でも、今日はお得もお得なポイント10倍デーなのですから、いつもより多めにもなろうというものです。

 

 

「マジ子さん、まだ戻りませんのね」

 

「本いっぱい買うっつってたし、まぁ選んでんだろ。色々」

 

 

栄総合の後輩に勧められたものも一緒に買いたいって言ってましたわね。マジカルきりんだか、かりんだかいうやつ。

 

買い物を終えたら一階に集合と言ってあるけど、未だに姿が見えないってことは、赤さんの言う通りなのかも。少し、待たされることになりそう。

 

 

「ただ待ってんのもなんだよな。あれ食べる?」

 

「あれって」

 

 

買い物袋をガサゴソ漁って、赤さんは買ったものを取り出す。私に差し出されたそれからは、食欲をそそる、良い香りがしている。

 

 

「あら、いけない人。買い食いなんて」

 

「いつもやってる」

 

「それもそうですわね」

 

 

一応形だけ注意してから、差し出されたものを受け取る。でも、これも赤さんの言う通り。買い食いなんてもう何度もしてきたのだから、今更というやつですわよね。

 

お嬢様学校に通っている娘が言うことではありませんけれど、でも、小腹が空いているのです。それを堂々と自分の金で買った品物で満たす事を、誰が咎められるというのでしょう。

 

 

「買えてよかったよな、コロッケ」

 

「ええ。ラッキーでしたわね」

 

 

このお店には、今まで何度か食料を買いに来たことがあるけれど、なんと言ってもお惣菜が美味しいのだ。特にコロッケは人気で、すぐに売り切れることも珍しくない。

 

私達が入店した途端にタイムセールが始まったものだから、それはもう慌てて売り場まで走って、何とか人数分確保した。マジ子さんはさっさと書籍の売り場まで行ってしまったけど。

 

 

「じゃ、いただきます」

 

「んむ」

 

 

赤さんと二人して、コロッケをいただく。出来てからそこまで時間が経っていないのか、暖かくて、サクサク、ホクホクで…。嗚呼、食欲が満たされていくのを感じます…。

 

なんて浸ってる間に、コロッケを食べ終わってしまった。まだ足りないなと思うけれど、夕食はこれからだ。我慢しましょう。

 

 

「ごちそうさまでした。やっぱり美味しいですわね、ここのは」

 

「ん。なんか、今日のは特別美味いって感じ」

 

「赤さんのが出来立てだったとか?」

 

「そうじゃなくて、なんつーかさ…んーと…」

 

「はい」

 

 

言い淀む赤さん。腕を組んで、ちょっと恥ずかしそうな顔をしてる。

 

 

「あれよ。日常の味がする…っつーかぁ」

 

「日常の味」

 

「ん…。なんか、『あぁ、自分はここに帰ってこられたんだなー』みたいな?」

 

「はぁ」

 

「安心したんだよね、なんかさ。だって、ほら。私達、昨日は」

 

「あぁ…」

 

 

赤さんの言わんとしていることが分かった。成る程。あんなことを経験したのだから、そんな風にも感じるでしょう。つまりは、生を実感したということなのかもしれません。

 

無理もないでしょう。昨日の戦い、下手をすれば私達は今頃、この世を去っていたかもしれないのですから。

 

 

「ほんと、何だったんだろうな。アレ……」

 

「んー………」

 

 

唸りながら、昨日のことを振り返る。うわさ。そしてその影に隠れた、魔女とは違う怪物達…。何故か私達を助けた、あの謎の女の子…。

 

 

「自然発生したものなのか、それとも人為的な何かなのか。はっきりした所は分かりません。ですが…」

 

「うん」

 

「私には、全て繋がっているように感じられるのです。噂話から始まり、あの怪物や女の子、妙な結界のことまで」

 

「それって?」

 

 

それはどういうことで、そう思う根拠は何かって聞いているのでしょう。もちろん、私なりの理由はありますとも。

 

 

「色々とありますけど…まずは結界ですかね。あの怪物達の時も、女の子の時も、あの妙な結界が展開されたという点は同じです。ただの偶然とは思えませんわ」

 

「それは私も思った。…ってことはさ」

 

「ええ。同類である可能性が高いでしょうね。信じ難いことではありますけど…」

 

 

でも、お仲間だというのなら、あの女の子が私達を助けたことへの謎が、益々深まる。獲物の取り合いだとか、ただ単に両者の仲が良くないからとか、推測だけなら幾らでもできますけどね…。

 

 

「それと、考えてもみて下さい。今回の噂話にしても、何かおかしいですわよ」

 

「うわさって、そういうもんじゃないの?ちょっと信じられない感じの…」

 

「幸せ過ぎて、帰って来られなくなるんですわよ?無事に戻って来た人が居ないのであれば、どうしてうわさになんてなるんです」

 

「あー、成る程ね。帰ろうとしても、偽物が逃してくれないだろうしなぁ」

 

「加えて、時刻が夜という、隠れた条件まである。これで自然にうわさとして広まりましたというのは、少々無理がありませんか?」

 

「んー…………」

 

 

火のないところに煙は立たぬとも言います。今回のうわさを広めることは一般人には不可能だと考えるなら、あの怪物達を、ひいては うわさそのものを操っている者が居ると考えるのが自然かも。

 

 

「二度あることは三度ある。もしかしたら、今後もああいう存在と関わることになるのかもしれませんわよ」

 

「えー…。私は魔女だけでたくさんなんだけどなぁ…」

 

 

だいぶげんなりしている。うわさの内容にせよ怪物の強さにせよ、厄介極まりないのだから、その気持ちも分かる。しかも赤さんは、どうやらあの女の子に執着されているようですから、尚更でしょうね。

 

 

「先輩みたいに、偽物っても、家族を躊躇無しで爆破しちゃうような、ぶっといハートの持ち主なら平気だろうけどさー…」

 

「あ、ちょっと。どういうことですのそれ!まるで私が冷血な人間みたいに…」

 

「赤ちん、せんぱーい!お待たせー!」

 

 

なんて失礼な。一言物申してやろうと思った矢先に、マジ子さんの明るい声が聞こえた。姿を探すと、こっちに向かって来ているのを見つけた。

 

 

「やー、ごめーん。待っちゃったん?」

 

「少し。でも、気にしてませんわよ」

 

「ホント?よかったー。も、気になるのいっぱいあってさー。選ぶのチョー迷った!マジきりの他にもさ、デカゴンボールとか、初恋はミルキーウェイとかー」

 

「あー分かったって。とりあえずこれ食って落ち着け」

 

「ん!コロッケ?くれるん?やったー!」

 

 

赤さんが渡したコロッケに、早速かぶりつくマジ子さん。昨日の今日だっていうのに、全くお元気な人。

 

全員が買い物を終えて揃ったのだから、もうこの店に居る必要はない。嬉しそうにコロッケを頬張るマジ子さんを伴って、私達は帰路に着くことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

店を出て、我が家に向けて歩を進める。この後はもう解散することになっているけれど、途中までは一緒に帰りたいとマジ子さんが言うから、そうしている。

 

 

「家帰ったら読むの?漫画」

 

「まーねー。とりあえずマジきりは早く読んでみて、後輩にカンソー聞かせてあげるんだー」

 

「仲が良さそうで何よりですわね。……あら、電話?」

 

 

ポケットにしまってあるスマホが震えて、誰かから連絡が来たことを報せてくる。

 

 

「出たら?気にしないし」

 

「どうも。………あ」

 

 

お言葉に甘えて、電話に出ようとする。画面に表示された名前は、とても身近なものだった。

 

 

「…はい、私です」

 

『おお。よかった、出てくれて』

 

 

つい昨日、聞いた声。あれは偽物だったし、声色も少し厳しい感じだったけど。

 

 

「少々、お久しぶりですかね。お父様」

 

『そうだな。連絡はしようと思っていたんだけど、あれこれと仕事が重なって…』

 

「いえ、いいのです。お父様が多忙なのは知っていますもの。仕方のないことですわ」

 

『本当か?いやぁ、そう言って貰えるとありがたい。やっぱり、優しい子だね』

 

「っ………」

 

 

優しい声色と、朗らかな雰囲気で、父はそう言う。こうやって話していると、私がしでかしてしまったことを、改めて思い知らされる。自分が、両親を変えてしまったのだと。

 

昨日、変わる前の両親と話したからなのでしょうか。本物の親の声を聞くと、胸の奥が、やけに締め付けられる。

 

 

「そんなことありませんわ。普通です。普通」

 

『そうかなぁ。あ、それよりどうだ?一人暮らしの方は。不便なこととか…』

 

「ええ。満足しています。それに、その…」

 

『ん?』

 

「今は、一人暮らしではなくて。一人、住まわせてますわ。えっと、事情があって」

 

『ほう』

 

「あ、女の子…私より歳下の子ですから。その、危ないことなどはないかな、と…」

 

『…………』

 

「それに、もう一人、他校の知り合いも出来まして。今はその方も含めて、三人で過ごす時間も増えたんです」

 

 

いずれは話さなきゃならないことだから、思い切って打ち明けてみた。でも、どうなんでしょう。親としては、やっぱり心配だったりとか…

 

 

『そうか…!いやぁよかった。寂しい思いをさせているかと思ったけど、それなら安心だな。その歳下の子にしても、色々とあるんだろう。仲良くしてあげなさい』

 

「………ええ」

 

 

杞憂だった。まぁ、そうなりますわよね。何せ、私に優しいんですから…。私が、そうなるようにしてしまったんだから。

 

 

「え、なになに。アタシらの話してる?」

 

「あー…まぁ、そうですけど」

 

『ん?もしかして、今も一緒に居るのか?他の二人とも』

 

「それは…はい」

 

『それは丁度いいな。娘の大切な友人なんだ。ここは一つ、父親として挨拶でも』

 

「や、別に友達ってわけでは…。まぁ、いいですわ。わかりました」

 

 

「はい」と、マジ子さんに自分のスマホを渡す。お父様が挨拶したがっていると話すと、彼女は喜んで通話を変わった。

 

 

「はーい、もしもしー!アタシ、マジ子って言いまーす!先輩と仲良くやらしてもらっててぇ」

 

『あ、これはどうも。娘がお世話になっております。あの子の父として、お礼を言わせて頂きたく…』

 

「いやいやぁ、そんな!むしろこっちがメンドー見てもらってばっかなんすよー。この間なんてぇ…」

 

 

マジ子さんと父の話が弾んでいる。これが以前の父だったなら、こうは行かなかったんでしょうね。

 

そう考えたところで、昨日の神社のことを思い出す。あの夕暮れの景色の中で、偽りの両親と話した時のことを。

 

 

 

 

 

 

 

『なに?一人、お前の家に住まわせている?』

 

『ええ、まぁ…。そういうことになりまして』

 

『そんなことをして…。危険な人だったらどうするの』

 

『それはあまり心配ないかと…。同じ学生の身ですし』

 

『学生?だからといって、詳しい理由も話さず、他人の家に居座ろうとするなんて、怪しいだろう。不良というやつじゃないのか?』

 

『聞いてる限り、口や態度も悪いみたいですし、育ちが良くないんですよ、きっと。ねぇ、そんな人と付き合うって、悪いことよ』

 

『……確かに、お行儀の良い子とは言えませんけど、何もそこまで…。私の家に住んでいるのだって、きっと本人なりのワケが…!』

 

『さっき話題に出した他校の知り合いとやらも、どうやらクセの強い人物みたいだな。そういうものはお前に悪影響だ。友達付き合いをするにしても、相手はよく選んでから…』

 

『っ…………!』

 

 

 

 

 

 

赤さんのことも、マジ子さんのことも、何も知りもしないくせに、よくもまぁ好き勝手に次々と仰って。

 

二人のことを何も知らないのは、私も同じ。だけど、彼女達を悪く言われるのは、親だとしても心外だ。私から少し話を聞いただけのクセに、まるで彼女らの全てを分かったような物言いをして。

 

友達…なのかは分からないけれど、少なくとも私達はチームで、仲間なのだ。それを貶されたのなら、腹だって立つ。

 

 

(で、終いには壊れた機械みたいに、「ここでずっと一緒に居よう」ばかり言うようになって…)

 

 

両親が、もう戻らない過去の性格で現れて、しかもそんなことになったのであれば、最早それを本物だと思うことは出来ない。変身して、溜まった怒りを発散させるつもりで、偽物達を爆破してやった。

 

赤さん達には適当に話して済ませたことだったけど、それが真実だった。

 

 

「……………」

 

「どったの。なんか顔しかめてるけど」

 

「どうもしませんっ」

 

「?そう…」

 

 

赤さんは、さっき店で私が偽物をサクッと倒したみたいに言っていたけど、そんなことはない。だってそうでしょう。私の家族ですわよ?

 

偽物だからって、両親の姿をしているものを自分の手でやっつけて、何も思わないわけがないでしょう。その事に対する罪悪感だって、ちゃんとあったのですから。二人を悪く言われて苛立ったのは事実だけど、それはそれ。

 

だけど、それを言葉にしたりしない。私個人のことだもの。わざわざ言うようなものじゃない。

 

あの子達を貶されて腹が立ったのも、口には出してやらない。私にとって、チームメイト達が大きな存在になってきてる気がして、何やら照れ臭いから。

 

 

 

 

自分のスマホがマジ子さんから赤さんに渡ったのを見ながら、私はそんなことを考えていた。

 

 

 





マギレコ本編の出来事

・鶴乃と別行動を取り、途中で出会ったやちよと一緒に魔女を追い、とある店へ辿り着いたいろは。撃破することに成功し、店を去ろうとするも、タイムセールスタート。ポイント10倍デー。

買い物を手伝ってほしいと頼むやちよは、タイムセールという言葉から、口寄せ神社のうわさには、時間帯も関係しているのではと閃く。今すぐ水名神社に向かおうといろはに提案されるものの、やちよには考えがあるらしく、決行は明日ということになった。



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第4章:ウワサの追い人
4-1 あの子の内側




ハロウィンイベ開催中なので初投稿です。





 

 

 

『……………』

 

 

神社で私達が大変な思いをしてから、数日が経った。で、今は先輩ん家に集まって、料理。私達流の、チームワーク強化の為の特訓を兼ねたもの。

 

料理が完成したから、皆でいただきますして食べてみた。でも私達三人とも、シーンとして何も言わないまま。いやぁ…まぁ、そうなるよなぁ…。

 

 

「……なんか言いなさいな、貴女達」

 

「言うことねーんだもん…」

 

「何回目なんだろね、これ…」

 

 

今までに何回か、こうやって皆で飯を作ったことはあった。でも、いつも結果は同じ。今回もそうだった。だから感想も変わらない。

 

 

「美味しくない…」

 

「ええ…。びっっくりするくらい不味いですわね…」

 

「マジでさー、先輩の好きな、あのお店で食べた方がマシだよねー…」

 

 

つまり50点以下だと。まぁ、あの店の料理って普通に食べられるもんね。飛び抜けて美味しいわけじゃないにしても、真っ当に食えはするんだから大したもんだよ。

 

比べて、私達の作る料理はダメだ。他人に食わせようもんなら、殴られても文句言えないと思う。

 

 

「そもそも、失敗するのっておかしくありません?カレーですわよ、カレー」

 

「つっても、トマト使ったやつだろ。普通に作ればいいのに、ちょっと変わったやつにしようとしてさぁ」

 

「水が要らないっていうんであれば、確かめてみたくもなるじゃありませんの!」

 

「つってこのカレー、動画と違ってスゲー水っぽかったんだけど。ぜってー途中で水足したよなぁ!?」

 

「それはマジ子さんがやったんです!」

 

「だってさー、なんかほんとに出来るか分かんなくて、不安だったんだもん…。焦げやすいとか言ってたし」

 

「そこは信じなさいな!経験者が動画で実演してるんですから!」

 

「仲間でもない、しかも画面の向こうの他人なんて信じらんないよ、マジで…」

 

「なんかいきなり暗くなるのやめてもらえる?」

 

 

あーでもない こーでもないって、言い合いになる。無理もないかな。食事ってのは本来、心っていうか、体っていうか、そういうのが満たされる時間なはずなのに、肝心の飯が不味いんじゃあね…。

 

 

「はぁ……。やめましょうか、こんな不毛なのは。食事の質は何としても改善するとして、とりあえず、このカレーは食べてしまいましょ」

 

「不味いのに?」

 

「作っちゃったんですもの。残さず食べなければ…」

 

「うえー…」

 

「一応きっちり三人分になるようによそったから、鍋には残ってないのが救いかな…」

 

「てかさ、アタシが水入れただけじゃなくないこれ?赤ちんはチョコとかケチャップとか足してたし、先輩は使うトマトの数増やしてたし…」

 

「ちょ、もー!いいですからそういうのは!」

 

 

結局、その後も騒がしくしながら、夕飯を食べた。ほんと、いつになったらまともな飯が食えるようになるんだか…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、お話なんですけど」

 

「あい」

 

「うん」

 

 

そりゃあもう不味い食事で腹だけが満たされた、その後。皿を洗う先輩に、ちょっと大きい声で話しかけられる。

 

 

「うわさのこと、調べませんか」

 

「はぁ?」

 

「うわさって、前の神社のやつみたいな?」

 

「ええ、まぁ。それと、絶叫ロールでしたっけ」

 

 

あれは、マジ子のやつの聞き間違いってことも充分あり得るけどな。…ていうか、またうわさかぁ…。

 

 

「関わりたくないけどなぁ…。できればさ」

 

「また、あんなとんでもないの出てきたら困るもんねー…」

 

 

スマホを弄りながら、マジ子が言う。でも、適当に話を聞いてるってわけじゃなさそう。

 

 

「何してんの」

 

「ウワサ話調べてんの。神浜の」

 

 

いや、何してんだお前。

 

 

「あのさ、お前 今、困るっつったよね?じゃあ何で調べてんの?バカかよ。あ、バカだったわそういや」

 

「えー、ひど。だってさー、気にならない?うわさ」

 

「ならない」

 

「ヤバい目にはあったけどさー、あんなんばっかってことないって。次はだいじょぶだいじょぶ」

 

「だからってなー、お前…。わざわざ自分から危ないもんに首突っ込んで…」

 

 

負う必要のないリスクなんて、そのまま遠ざけとけばいいんだって。魔女相手でもないんだから、私達が危険な目に遭わなくたって…。

 

 

「ぶー」

 

「…なに」

 

 

むくれたマジ子が、不満そうにこっちを睨んでる。

 

 

「ビビり」

 

「は?」

 

「赤ちん、怖がりさん!」

 

「お!?」

 

「ぺったんこ!ドひんにゅー!」

 

「ひんっ…」

 

 

何つったお前!ビビってるだぁ?私が?冗談!乳がどうとかは何とでも言ってくれていいけどさ!

 

 

「私が、うわさとかいうのにビビるわけねーだろ!自分から怪我しに行くようなことすんのは、バカのすることじゃねえのかっつってんの。分かったか、デカ乳」

 

「でかちち…」

 

「いや、むしろバカ乳」

 

「ばかちち!」

 

 

うん。自分でも何言ってんのかよく分かんない。でも、デカいもん、マジ子のおっぱい。で、こいつはバカだからバカ乳。ピッタリ。

 

 

「そんなこと言ったら先輩もでっかいじゃん!この間、一緒にお風呂入った時に見たけどさー、アタシよりおっきかったよ!」

 

「知ってるよ。私も何回か見たことあるし」

 

 

先輩が風呂から上がるのを待つのが面倒な時もあるから、そういう時は一緒に入ってる。先輩も、構わないって言ってくれたから。

 

 

「何の話をしてるんですか、貴女達は…」

 

「お、先輩 皿洗い終わったんだ。やー、先輩のおっぱいデッカいねーって」

 

「知ってますわよ!やめていただけます?人の身体についてあれこれと…」

 

 

ちょっと顔を赤くした先輩が、台所から戻ってきた。洗い物は終わったらしい。

 

 

「胸だの乳だのは置いといてですね、赤さん」

 

「なに」

 

「気乗りしないのは分かります。私も、出来ることなら、積極的に関わるべきではないと思いますし」

 

「だよなぁ?」

 

「ええ。ですが、赤さん。この、怪しさに満ちたものをこのまま放置しておくというのも、それはそれで危険だと思いませんか?」

 

「…………」

 

 

まぁ、一理ある。私達だけがどうこうなるってんならまだしも、一般の人にまで危害が及んだりするかもだし…。ていうか、前の神社のうわさがそうだったんだよな…。

 

結局、捕われた人達を助けられなかったのを思い出して、モヤッとする。この神浜に、まだいっぱいあるかもしれないんだよな。ああいう、危ない噂話が…。

 

 

「知らねーよ、そんなの。…って言えたら、よかったんだけどなぁ」

 

「では…」

 

「でも、だからって、危ないことになんのは嫌だろ。私だけじゃなくて…ほら。二人も、そんなことになったらさ…」

 

 

先輩とマジ子を、チラッと見る。

 

 

「んー…赤ちんさ」

 

「あ?」

 

「心配してくれてるん?アタシ達のこと」

 

「あ、そうなんですの?」

 

「……ちげーよ、バカ」

 

 

なんか図星を突かれた気分になって、目を逸らす。照れ臭い気がするのも、顔がほんのちょっと熱いのも、きっと気のせい。

 

 

「とにかく、うわさの出所というか、根元というか、それを突き止めようと思うんです。ダメですか?」

 

「それって、前の神社のこと、引っ掛かってるから?眠ってた人達、置いてきちゃったこと」

 

「それもあります。ですが、決して一般人を守るという一心で、そうしようと思ったのではありません」

 

「じゃ、何で?」

 

「何よりも、チーム全員の身を守る為でもあります。私達は知らなさ過ぎるんですわよ。うわさのこと。その発信源のこと…」

 

 

発信源、ね。そういや前に言ってたっけ。うわさ意図的に広めてるやつが居るかもって。

 

 

「少しでも明らかにすることが出来れば、今後の対応や対策を、具体的に決めることも出来るでしょう。また未知の怪物に遭遇するかもというリスクは当然ありますが、やってみる価値はあるかと」

 

「んー……」

 

「アタシはやるよー。危ないのとか痛いのとかはヤだけど、赤ちんも先輩も居てくれるし」

 

 

サラッと私も頭数に入れられてる。まだやるって言ってないんだけど…。あーもう…。

 

 

「……わかった。やる。やるよ」

 

「おっ、マジかぁ」

 

「では、決まりということで」

 

 

うわさと、その元について、詳しく調べることが決まった。嫌だって突っぱねることも出来たはずなのに、私はそうしなかった。二人だけで調査に行かせて、何かあったらって思ったら、モヤモヤしたから。

 

 

「じゃーさ、さっそく明日から…」

 

 

そうマジ子が切り出したところで、スマホの通知音が響いた。私のじゃない。先輩のでもない。ってことは…。

 

 

「あ、アタシのか。……あー、姉ちゃんからだ。ゴメン、もう帰んなきゃ」

 

「あら。まぁ、もういい時間ですものね。」

 

 

料理やら話やらで、それなりに時間が経ってたらしい。外に目を向けると、もう夜だった。身支度を整えたマジ子を見送りに、玄関まで移動する。

 

 

「ほんとさー。マジで空気読めないんだから、姉ちゃんも」

 

 

靴を履きながら、マジ子が話す。

 

 

「この間だって、先輩に勉強見てもらってること話したら、嬉しそーな顔してさー。『じゃあ、家では私が勉強見てあげるー』とか言って…」

 

「気にかけてくれてるんですわ。大事な妹さんで、家族なんですもの」

 

「そっかなー…」

 

 

家族…。家族かぁ。先輩もマジ子も家族が居て、ぶつくさ言いながらでも、本人なりに向き合ってるんだよなぁ。親から逃げて、違う家で寝泊まりしてる私とは違う。

 

前に、先輩の親と電話で話した時に、親父さんが言っていたことを思い出す。

 

 

『本当なら毎日でも電話をかけて、あの子と話がしたいけど、中々時間が取れない』

 

『私達両親と離ればなれで、寂しい時もきっとあると思う。そういう時は、一緒に住んでいる君が支えてあげてほしい』

 

 

支えるとは言っても、そういう寂しさなんてのを、私が埋めてやることなんて出来るのか。家族と会えないことで生まれた寂しさなら、それをどうにかしてやれるのって、家族だけなんじゃ…。

 

私にも、家族が居なくなって出来た穴があるから、何となくそう思うのかも。凄く大きい穴。埋まる日なんて来ないんじゃないかってくらいの、大きくて、深くて、暗いやつが、心の奥に。

 

そこまで考えて、疑問が湧いた。その穴が出来たのは、私がお母さんを失って、もう二度と、お母さんに会えなくなったから。会えないから埋まらないってことは、つまり、私って…

 

 

 

「私………寂しいのかな?」

 

 

 

ポロッと、口に出してみる。

 

 

「え……なんです、赤さん?」

 

「寂しいって?」

 

 

二人が反応してくる。そりゃあ、そうなるよな。ワケ分かんねーもん。いきなり、寂しいとかって。

 

 

「や、何でもない。忘れて」

 

「それなら、まぁいいですけど…」

 

「ん。なんか分かんないけど…じゃ、アタシ帰るねー」

 

 

適当に誤魔化したところで、マジ子がドアを開けて、外に出た。

 

 

「あんま姉ちゃんに心配かけんなよ。面倒見てくれてんだから」

 

「お姉さんも喜んでくれているようですし、これからも続けましょうね、勉強会」

 

「あー、うん。まー…そだね。じゃ、また明日ねー!」

 

 

元気に別れの挨拶をして、マジ子は自宅に帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

 

赤ちんと先輩にバイバイして、アタシは、家に帰ってる途中。電車を使った方がハヤいのはわかってるけど、今はテクテク歩きたいキブンだった。遅くなるから、姉ちゃんには怒られるかもね。

 

先輩達の家から帰るチョクゼンに、二人から言われたことを、アタシは思い出す。

 

メンドー見てくれてるから心配かけるな。

 

喜んでくれてるから、これからもベンキョーしよう。

 

 

(わかってるよ…)

 

 

姉ちゃんがどんなキモチなのか。なんでアタシに細かく色々言ってくるのかなんて、アタシはよく分かってる。心配してくれてるんだってことも。

 

姉ちゃんはガクセーの時から頭良くて、働くようになってからも、上手くいってるみたい。時々、すごく疲れてたり、イライラしたりして帰ってくることもあるけど。

 

シャカイはすっごい大変だって、何回か話してくれたことがある。ユーシューな姉ちゃんでもそう思うんだから、バカなアタシにとっては、その何倍も大変なところなんだろうなぁ。

 

 

(だから、姉ちゃんはアタシのこと、心配してるんだよね…)

 

 

アタシは勉強が嫌いで、毎日毎日、遊んでばっかり。おかげでセーセキはヒドいもんだし、その他にも色々…。ほら、アタシ、バカだし。

 

だから、アタシがバカなまんまソツギョーして、その後でとんでもなく苦労するんじゃないかって、姉ちゃんはそれが不安なんだと思う。

 

 

(姉ちゃんの気持ちはわかるよ。でもさー…。でも……)

 

 

そう思ってくれるのはすっごい嬉しい。ありがとーって思う。でもアタシにとっては、遊ぶのだって大事で、ホントに楽しくて…。特に今は、赤ちんと先輩にも会えたし、チームにもなれたし、ヨケーに…。

 

 

(なんか、キュークツだなー…)

 

 

タメ息が出た。色んな気持ちでギューギューに押されてるみたいな感じ。自由になりたいって思ってケーヤクしたのに、これじゃ全然だよ。

 

願いを叶えてもらった時は、あー、これで色んなことから自由になれたんだーって思った。誰にも邪魔されないし、自分のやりたいこと、思いっきりやれるんだって。

 

でも、ジッサイはこう。アタシは今もガッコーに行ってるし、姉ちゃんの言うことも、シブシブ聞いてる。まぁそれは、アタシが自分から、そうやって縛られに行ってるからなんだけど。

 

だって、よくよく考えたら、自由ってなに?って思ったんだもん。言うこと聞かないで好き勝手すること?ガッコーをサボること?なりたいショクギョーでガンバること?

 

うん。確かに自由だと思う。それっぽいと思う。

 

でもさー、それって別に、願いを叶えてもらって、魔法少女にならなくたって、出来ることじゃん。何言われたって、自分の好きにすればいいってことじゃん。

 

そこまで考えて、アタシは気付いちゃった。つまり、アタシは元々自由だったんだって。

 

 

(なのに、自由になりたいなんてお願いしてさー…。ホント、バカだなー。アタシ)

 

 

勿論、全部ブン投げて、自分の好きにするってのも考えた。でも、そうやったら姉ちゃんとか、お母さん、お父さん、友達、センセー…。とにかく色んな人が心配したり、メーワクになったりすんのかなーって思ったら、なんだか悲しくなった。

 

そんなのダメだよねって思って、だからアタシは、今まで通りに過ごしてる。ガッコー行って、友達と遊んで、姉ちゃんの言うこと聞いて…。

 

でも、今のまんまでもダメだって、アタシは思ってる。バカなまんまじゃ、結局、家族は心配するから。

 

キラいなベンキョーを、先輩に見てもらいながらガンバってるのは、そういうこと。

 

 

 

 

「ダメだって、分かってるよ。アタシ……」

 

 

 

 

口に出してみたけど、聞く人は居なかった。そう言った、アタシ以外には。

 

 

 





マギレコ本編の出来事

・みかづき荘で、引っ越しのことについて話す いろやち。寮の部屋は空いておらず、次の日曜までに決めなきゃならないと話すいろは。22と書いてある紙が突然降ってきたことに気付いたやちよは、いろはが何かに巻き込まれた可能性があることを、本人に告げた。



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4-2 休日の朝っぱらから



燦が実装されて嬉しいので初投稿です。





 

 

 

「んんー………」

 

 

意識が覚醒する。何となく低く唸ってみた。起きたばっかだから、声量は全然無いけど。

 

私は今、ベッドの中。上質な素材の布団に包まれて、そりゃあもうぬくぬく。でもこれは、自分の部屋のベッドじゃない。それは私が一番分かってる。

 

 

「……………」

 

 

せっかく自分の部屋を貰ったってのに、これじゃ意味無いよなぁ。まぁ、あの部屋で寝てはいないってだけで、使ってはいる分まだマシなのか。

 

要するに私は、未だに先輩と一緒に寝てるってこと。前よりは、あの謎の女の子がアレだとかはなくなったんだけど、何か……ね。ビビってるわけじゃない。断じて。

 

 

「……………」

 

 

半端に目を開く。でも、薄暗くて何が何だか。布団の中に潜っちゃってるのかもしれない。浮上しなきゃと思って、起きたばっかりで上手く力が行き渡らない身体を、モゾモゾ動かす。そしたら、自分が何かに密着してるのが分かった。

 

 

(やわっこいなー。特に顔の辺りとか。いい匂いもするし…)

 

 

何だろう。清潔感のあるっていうか、甘いような感じの香り。シャンプーっぽい…ってか、女の子って感じ?

 

 

(………あー……)

 

 

理解した。あーはいはい。それなら確かに柔らかいし、良い匂いもするわな。何より温いもん。体温で。

 

自分の置かれてる状況が分かったところで、今度こそ布団から顔を出そうとして動く。体を密着させてたものからは、少し離れた上で。

 

 

「ん……」

 

 

モソモソ動いて、とうとう布団から顔を出した。少し息苦しかったのも解消されて、いい感じ。だった。

 

そこまでは良かったんだよ。でも次の瞬間には、ちょっとげんなり。何でかって、布団から顔を出したら、目が合ったからだよ。この部屋の主と。

 

 

「………………」

 

「………………」

 

 

お互いに見つめ合って、でも何も言わないまま時間が流れていく。向こうもちょうど寝起きだったのか、寝ぼけ眼でボヤーッとした感じ。

 

私はそんな彼女に、3回くらい瞬きをしてから、軽く溜息を吐いて、顔をちょっとだけ顰めて言ってやった。

 

 

「あのさぁー……」

 

「起きてすぐの一言がそれってどういうことですの貴女」

 

 

カーテンが日差しを遮って、少し暗い部屋の中で迎えた朝。先輩のツッコミは、寝起きでも冴え渡っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ベッドから起きて、部屋に戻って着替えて、一階のリビングに下りる。今日は休日だから、わざわざ制服に着替えることもない…と、思ったんだけど…。

 

 

「なんで休みなのに制服着てるわけさ、私達は」

 

 

朝飯のバターロールをもしゃもしゃ食べながら、先輩に聞く。登校日じゃないのに制服って、なんか窮屈でなぁ。

 

 

「何処を調査しても、問題の無いようにしなくてはいけないでしょう。妙な噂のある場所が、例えば会社のあるビルだったり、学校内だったりした日にはどうしますか」

 

「だから私服じゃダメだって?」

 

「そう。制服なら、そういった場に入ったとしても、不審者と見なされることはないと思います。多分」

 

「私服姿の女の子が複数人でゾロゾロ来るよりは、まぁ印象は良いか…」

 

 

納得したところで、朝飯に集中する。インスタントのポタージュを啜ると、腹に暖かい感覚が広がって心地良い。

 

 

「そういえば」

 

「ん?」

 

「なんか、甘えんぼな感じでしたわね」

 

「何が。つか、誰が?」

 

「貴女。夜中にちょっと目が覚めたんですけど、そしたら赤さんが既にこう、ひしっと…」

 

「あー」

 

 

ベッドでの話か。寝相かなんかで偶然そうなったんでしょ。私は甘えたなんかじゃないし、寂しいわけでもないし。嘘じゃない。本当だぞ!

 

 

「まぁ、人間色々ですものね。人肌恋しくなる時だってありますわよ」

 

「ちげーよ、バーカ」

 

「あら、悪いお口」

 

 

軽口を叩き合いながら、朝食を済ませていく。いつもなら、休みの日は各々好きに過ごすから、こうやって揃って朝飯を食べることなんてない。だから、ちょっと変な感じ。

 

飯を食べ終わって、身支度を整えた私達は、外へ出た。予定じゃ、今日は一日中うわさの調査ってことになってる。今回はまず、最初に集まる場所を決めておいたから、そこへ向かう。

 

 

「くぁ…」

 

「欠伸。まだおねむです?」

 

「普段はさ、こんな早く起きないし。休日は」

 

「もう少し遅いですものね、お互いに」

 

 

歩きながら話す。昨日はそこまで夜更かししたつもりはないんだけどなぁ。日付が変わる頃くらいには寝たし。まぁ、慣れないことしたからってことなのかな。

 

 

「ですが、こうでもしなければ、一日の間に長く調査することは出来ませんわ。我慢なさって」

 

「ま、しゃーねーな」

 

 

こうすることは、既に決まってたこと。今更それに対して、声を荒げて文句言うような困ったちゃんになったつもりはない。

 

目指すのは中央区。ちゃっちゃと行こうってことで、少し歩く速度を早めて、駅に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

電車にちょっとの間揺られて、中央区に到着。そこから更に歩いて、待ち合わせ場所の喫茶店へ。事前に店の場所は調べておいたし、迷わないように地図も確認しておいたから、問題なく辿り着いた。

 

 

「あー!せんぱーい、赤ちーん!おっすー!」

 

「デケーの、声が」

 

「お元気でよろしいかと」

 

 

マジ子のやつ、どうやら先に来てたらしい。私達を呼ぶデカい声の元を探ると、オープンテラスの席に陣取ってるのを見つけた。すぐに入店して、私達もその席に座る。

 

 

「おはよ!や、アタシ、待ちきれなくてさー。めっちゃ早く来ちゃってたんだー。」

 

「それはまた…。じゃあ、お待たせしてしまいましたかね」

 

「んーん、だいじょぶ。ドーガ見たりしてたから。あ、二人も見る?さゆさゆのやつ」

 

「や、いいから」

 

 

マジ子がスマホを取り出して、私達に何かを見せようとしたのを止める。つか、さゆさゆって何よ?

 

 

「えー、マジで可愛いのに。刀剣愛ドルのさゆさゆ」

 

「なんて?」

 

「確か、神浜でアイドルをやっている方ですわよ。私、学校で何度か見かけたことがあります」

 

「マジで!話したりした?」

 

「流石にそこまでは。ファンというわけでもないので」

 

「そっかぁー。あ、じゃあさ。今度みんなで、さゆさゆの曲聴いてみる?国宝ハイエンドとか、結構アガるしさー」

 

 

アイドルの話をする二人を、頬杖ついて眺める。私はそこんとこに疎いから、話に入れないんだよなー。服とかもそうだけど。

 

 

「もうその辺にしとけ。時間なくなるって」

 

「あ、そっか。調べんだよね」

 

「ええ。じゃあ、その話をしましょうか」

 

 

目的を忘れたんじゃ、こうやって朝っぱらから集まった意味が無い。適当なところで声をかけて、本題に入った。

 

 

「今日は予定していた通り、うわさ及び、その発信源の調査を行います。出来ることなら、神浜全域を調べるのが望ましいですわね」

 

「ってことは」

 

「今回は、バラバラになって動いてみようと思います。そして最後には集まって、成果を報告し合う。そう考えてますわ」

 

 

全員が固まって調べるよりも、散ってそれぞれが情報を仕入れてこようってことか。いいんじゃないかな。

 

 

「ハイ!たいちょー!」

 

「ん。どうぞ、マジ子さん」

 

 

マジ子が勢い良く挙手。隊長ってのは、先輩のことか。まぁ、間違っちゃいないかも。

 

 

「オヤツは何円までですか!」

 

 

遠足じゃねーんだよ、このバカ。

 

 

「………まぁ、お小遣いの許す限りは」

 

「マジか!やったー」

 

 

律儀に答えなくてもいいと思うよ、先輩…。

 

なんか不安だなぁ。こいつ、まともに調査なんてしてくるのか…?水名に行った時みたいに、最後には遊んでばっかになるんじゃ…。

 

 

「先輩、マジ子に付いてやったら?」

 

「え、赤さん?」

 

「なんかやらかしそうでアレだし。じゃあ、誰かが見てやった方がいいだろ」

 

「それは…なんとなく分かりますけど」

 

「ん?どゆこと?」

 

 

私に言われて、先輩がマジ子をチラッと見る。いまいち話を理解できてないのか、マジ子のやつは頭に?を浮かべてるけど。

 

 

「でも、いいんですの?貴女だけ一人ですわよ?」

 

「いいよ。たまには、そんな時間も欲しいから」

 

「ええ…?いや、赤さんがそれでいいならいいんですけど…」

 

「ね、ね!なに?ねー、二人ともなんの話してんの?」

 

「お前が頼りになるから、先輩を助けてやってくれってこと」

 

「え、マジで!?アタシ頼りになる!?役に立つ!?」

 

「あーなるなる。すっごいなる。なりすぎて死にそう」

 

「え〜…?マジかぁ…」

 

 

明らかに適当に答えたのが丸分かりなのに、言われた本人は嬉しそうにニヤニヤしてる。お前、いいんか それで…。

 

 

「じゃあ、これで決まりですかね。早速始めましょうか」

 

「ん。なら、こっからは別行動ってことでオッケー?」

 

「え、あ、はい。そうなりますかね?」

 

「そっか。じゃ、私行くわ。とりあえず、大東辺りから調べてみる」

 

 

調査開始ってことになったから、席を立つ。調べる区が被っても困るし、行き先は言っておく。

 

 

「え、なんか食べてかないの?」

 

「朝飯は食ったし、スイーツだコーヒーだって気分でもないから」

 

「気を付けて下さいね?東に行くんですから、特に」

 

「その東にある学校に通ってんだよ。大丈夫だって」

 

「それと、連絡は入れて下さいね。お昼には、一旦集まろうと思ってますから」

 

「はいよ」

 

「後は、魔女。一人になるんですから、決して無茶しないように。誰かと協力して倒して下さいね」

 

「へーへー」

 

「それから、えーと…あ、ハンカチとティッシュ。それと、怪しい人に付いていっては」

 

「あーもう、分かりましたよって!」

 

 

いや、親かよ。それも小さい子供の。もう中三なの、私は。そんなこと一々言ってもらわなくたって分かってんだって、もー…。

 

煩わしくなって、さっさと席を離れる。そのまま二人に背中を向けて、店の出口を目指そうとしたところで、私は足を止めた。

 

 

「………………」

 

 

これから、私は一人になる。不安なわけじゃない。仮に何かあっても、先輩に言われた通り 無茶をするつもりはないし、本当にいざとなったら、潔く二人に合流しようって考えてもいる。

 

問題は、先輩とマジ子だ。幾ら二人だっつっても、うわさを調べる以上は、何があるか分かんないわけだし。それこそ、また怪物が現れでもしたら、今度こそ終わりかもしれないわけで…。

 

そう考えたら、こう…一言、声を掛けておくべきかなって思った。注意喚起っていうか。

 

 

「っ………」

 

 

そうしようと思って振り返ったけど、そこで私は迷っちまった。二人は高校生。私より歳上なんだ。だったら、危険な状況になれば分かるだろうし、何より先輩が付いてるからなぁ。だから、なんか…。

 

 

「んー………」

 

「赤さん、どうしました?」

 

「なんか忘れもの?」

 

 

考えてばっかで、何も言えないでいる私を不思議がったのか、先輩とマジ子が話しかけてきた。ジーッと見てくるもんだから、益々言いづらい。そりゃ見るだろうけども。

 

 

「あー…えー、あの…」

 

「はい」

 

「………いや、やっぱいい」

 

 

散々言い淀んで、結局折れた。気軽に「そっちも気を付けろ」とかなんとか言うだけで終わりだろ。なのに、何でそれが出来ないんだ私は。

 

もういいやって諦めて、今度こそ店を出ようと、踵を返した。

 

 

「赤さん!」

 

「……………」

 

 

そしたら、ちょっと大きい声で、先輩に呼ばれた。顔だけを後ろに向ける。

 

 

「そういうとこですわよ、貴女」

 

 

ちょっと怒ったような顔の先輩に、そんなことを言われた。そういうとこってなんだ。何がしたいのか、はっきりしない態度だったのは確かだけどさ。

 

 

 

先輩の言葉の意味を理解できないまま、私は店を出た。目指すは大東区。とにかく調査は始まったんだから、今はそっちに集中することにした。

 

 





マギレコ本編の出来事

・朝起きると、枕元に紙がいっぱいで驚いたいろは。急いでみかづき荘を訪れ、やちよに助けを求める。やちよ は いろはから話を聞き、参京区を二手に分かれて調べることに。また紙が降ってきて、そこには10と書かれていた。


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4-3 赤さんは見た



足フェチの真っ黄ウスが実装されたので初投稿です。





 

 

 

大東区。神浜市の東側に位置してる区で、近くには工匠区がある。私の通ってる大東学院も、ここ。まぁ、読んで字の如くだし。

 

人の集まる神浜市らしく、住宅やらなんやらが所狭しって感じで建ってる。まだこの街に来たばっかりの頃は、学校の場所を確認するついでにブラついたりしたっけなぁ。

 

ただ、あんまり良い話は聞かない所でもある。それは、神浜って土地に住んでる人なら、誰でも知ってることだと思うけど。

 

 

(どっから手ぇ付けっかなー)

 

 

人から話を聞くのは当然なんだけど、休みの日の朝ってことで、通行人はそんなに多くない。居てもスーツ姿だったり、制服を着てたりする。休日出勤とか、部活とかなのかなぁ。

 

 

(あえて、全く人気の無い場所に行ってみるとか?)

 

 

謎の女の子と、神社の怪物。あいつらが出てきた時には、周りには私達以外誰も居なかった。噂話の発信源とやらが存在するとして、そいつはもしかしたら、怪物は人目の付かない場所に置いておきたいのかもしれない。目的は分からないけど。

 

いやー、でもなぁ。夜の神社はともかく、海浜公園なんて誰でも来る所なんだし、ちょっと苦しいか…?

 

 

「頭だけ動かしてもしゃーなしだな」

 

 

行きがけにコンビニで買った紙パックのジュースを飲み干したところで、私は足早に歩みを進める。目指すのは、一際 人気の無いところ。

 

特に具体的な場所を決めてるわけじゃないけど、こう…あわよくば、発信源を見つけるなり、出くわすなり出来るかもしれないし。

 

まぁ、その……なんだろう。つまりは、ほぼノープランだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はい、特に何もありませんでしたー。

 

 

「いやぁ、うん…分かってたことだよなぁ…」

 

 

路地裏でボソッと独り言。何か言ってくれる人なんて居るわけもなく、私の言葉は、薄暗い空間に溶けていった。

 

何箇所か人の居ない場所を探ってはみたけど、特に何も無し。たまーに使い魔に遭遇したから、それはサクッと倒させてもらったけど、それくらいだった。

 

 

(やっぱ人に話、聞くべきだったよなぁ…)

 

 

誰にでも用事ってもんがあるんだから、拒否られたり、苦い顔の一つもされたりはしたかもしれない。でも、少なくともこうして無駄足を踏むよりは、有意義な調査になったと思う。

 

私って人は、ガラは悪いクセに、どうしてこういう時は妙にチキンなのか。我ながら情けない。

 

 

「次、どうすっかなー」

 

 

クラスメイトが話してた、観覧車の見える草原まで足を伸ばしてみようか。私は行ったことないし、探検も兼ねて。

 

それか、まやかし町って呼ばれてる場所に行ってみるのもいいかも。理由も無しにそんな通称…俗称?どっちでもいいけど、そんな名前が付くわけないんだし、調べる価値はありそう。

 

 

(でも、こっからはちょっと遠いか…)

 

 

まだ朝だっつっても、移動すればその分時間は経つ。限りあるものを大事に使うんなら、あんまり大東区に居座るのもよくないか。

 

 

「とりあえず、こっからは出るかぁ」

 

 

いつまでも暗い場所に居ると、なんか気分まで落ちてくるような、そうでないような。ま、とりあえず仕切り直しかな。

 

そうやって、路地裏の出口まで歩いてきた私だったけど、突然、魔女の反応を感じ取って、立ち止まった。

 

 

(っ!魔女か!?)

 

 

だけど、そう思った次の瞬間には、反応は既に遠ざかってた。どうも、ちょうど私の目の前を通り過ぎていったらしい。

 

 

「無視するわけにもな…!」

 

 

グリーフシードのこともあるから、ここは追いかけて…と思ったら、今度は足音と話し声が聞こえてきた。しかも、魔力の反応がある。それも複数。ってことは、魔法少女のチームか?

 

私は咄嗟に後ずさって、屈んで身を隠した。一般人ならともかく、魔法少女相手なら、こう…色々と面倒な部分もあるかもだし。

 

 

『魔女の位置は!』

 

『真っ直ぐ逃げてる!』

 

『じゃあ、二手に分かれよう。そうやって追い込む!…いいですか?』

 

『うん。いいと思う』

 

 

話してる魔法少女達の様子を、路地裏の少し奥から伺う。話に集中してるからか、私に気付いてはいないみたい。体を低くしてるのと、路地裏の暗さにも助けられたかな。

 

 

(四人組…。見たことないやつらだけど、大東の魔法少女なんかな)

 

 

この地区で活動してるってことは、そうなのか。もしくはパトロールとか?にしたって、こんな朝からかよ。

 

 

『じゃあ、散開!連絡は細かく取り合って!』

 

『そっちも気ぃ付けて!ホラ、行くよ!』

 

『わかった…』

 

 

その内に魔法少女達は二手に分かれて、何処かに行っちまった。誰も居なくなったところで、今度こそ路地裏から出る。太陽の光が眩しい。

 

 

「……………」

 

 

魔女が逃げてった方を見つめて、考える。自分はあくまで調査中。でも、相手は魔女。魔法少女が倒すべき相手。

 

でも、その魔女を追う魔法少女達が居るのが分かったんだから、任せても別に問題は無いと思う。万が一の事を考えて、あの子達に協力するって選択肢もあるけど、グリーフシードの所有権で揉めるかもってのもあるし。

 

 

(…噂話を知らないか、聞かせてもらうってことも出来るかな)

 

 

それはそれで、私が変な目で見られる可能性もあるけど。でもまぁ、その時は必要経費だとでも思って、我慢するしかないか…。あれだ。聞くは一時の恥って言うじゃない。

 

 

(ぜってー意味違うよ…)

 

 

こんなんじゃ、マジ子のことを言えない。自分にちょっと呆れながら、魔女と魔法少女達を追いかけることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここか…」

 

 

反応を追いかけて少しの間走った結果、公園に辿り着いた。見知らぬ四人組は、魔女を上手いこと ここに追い込んだらしい。私が移動してる最中にはもう、魔女の反応が動くことはなくなってた。

 

 

(反応はあるのに、特に何も見当たらない。…ってことは)

 

 

もう少しだけ注意深く反応を探って、公園内をうろうろ。そしたら思った通り、結界を見つけた。魔法少女の魔力もはっきり感じる。さっきの子達が戦ってるんだ。

 

 

(んー…特に苦戦してる感じはしないかな…)

 

 

魔女の反応がどんどん弱ってきてる。こりゃ、結界が消滅するのも時間の問題かな。一応私も助太刀にと思ったけど、必要無さそう。

 

 

(ま、いいわな)

 

 

それならそれで、話を聞かせてもらう方向でいくだけだから。反応を追ってきた風に装って、出来る限り友好的な態度で接する。多少怪しまれても、そこは何とかゴリ押すしかない。

 

一先ずプランは決定したけど、そうすると、私がここに居るのはまずい。魔女が倒されない内に、急いで公園から離れる。

 

幸い、近くには建物だらけで、外壁で身を隠しながら様子を伺うには打ってつけだった。

 

 

(…………)

 

 

公園から一番近い建物まで移動して、壁を背にしながら公園を覗く。結界のある場所を注視して、四人組の魔法少女が出てくるのを待つ。

 

 

(お?)

 

 

そうしてる内に、魔女の反応はどんどん弱くなっていって、終いには結界が消滅した。それと同時に人影が四つ現れたのを見て、私は、魔女が倒されたんだってのを理解した。

 

 

『ふぅ…。終わったぁ』

 

『つっかれたぁー…。でも、なんかあんまり強くなかったよね?』

 

『ねー。私、ちょっと拍子抜けかも。あ、グリーフシードはっと…』

 

『…』

 

 

一仕事終えて、変身を解いた魔法少女達が喋ってる。話を聞く限り、魔女はそんなでもなかったみたい。四人がかりなのもあって、楽勝だったんだろうな。

 

 

『あったあった。ねー、リーダー。このグリーフシード、どうしよっか』

 

『あ、うん。使ってもいいけど…。誰か、ソウルジェム危ない人居る?』

 

『私は別にだいじょぶだよー』

 

『あたしもー。リーダーは?』

 

『私も、使う程じゃないかな…』

 

『そっちはどう?ちょっと見してみ?』

 

『…』

 

 

サクッと倒せてすぐに終わったから、グリーフシードはそんなに濁ってないってことなのかな。結構なことじゃない。

 

とりあえず、あの子達のお陰で魔女は倒されて、戦闘は終わったんだ。なら、今こそ作戦を決行する時ってことだな。

 

 

(おし、行くぞー…。せーの、ね。せーので行くぞ、せーので…)

 

 

多人数の中に突っ込んでいくってことで、ちょっと緊張する。二回ほど深呼吸。

 

 

(大丈夫、簡単だって。ちょーっと、急いで走ってきたフリしながら割り込んでくだけだから…)

 

 

駆け出す準備はOK。後は思い切って建物から離れて、再び公園へGOするのみ。

 

 

(じゃ、やるぞー…。せー……の!)

 

 

作戦スタート。私は勢い良く駆け出した。

 

 

『あれ!?なんか、この人のだけやたら濁ってるじゃん!』

 

『え、うっそ、見して見して!』

 

『マジだって、ホラ!』

 

(!?)

 

 

その直後に突然大声が聞こえて、ズザッと音を立てながら、足を止めた。あの、作戦始まったばっかりなんですけど…。何事かと思って、再度、四人組の会話に耳を傾ける。

 

 

『あー、マジじゃん。すっげー濁ってる』

 

『…』

 

『ね、リーダー。もしかしてあたしらさー、またお節介焼かれた?』

 

『あー、そういやこの人、さっきもやたら魔女引き付けたりしてたかも。つか、ボコってたのもほぼこの人じゃなかった?』

 

『あー…言われてみれば、なんか…』

 

『使い魔も魔女も弱っちいなーって思ったけど、それってこの人がめっちゃ戦って、弱らせてたからなんじゃ…』

 

『それだよ絶対!魔女にトドメ差したのもこの人だもん!』

 

『…はぁぁぁぁぁ……また、このパターンかぁ……』

 

『…………』

 

 

んん…?何か、空気悪くなってきたような…。リーダーって呼ばれてる子に至っては、今にでもキレそうな雰囲気だし…。

 

 

『あの。私、言いましたよね?』

 

『うん…』

 

『貴女が率先して戦ってばかりだと、私達が経験を積めないからやめてって、言いましたよね!?』

 

『………うん』

 

『や、うん じゃなくてさ』

 

『まーたこの流れ〜?もう何回目よ?』

 

 

案の定、リーダーの子が怒り出した。しかも、他のメンバー二人も一緒になって、残りの一人を責め始めてる。揉め事になっちまったかぁ…。これじゃ、話なんて聞けないかも…。

 

 

『分かってたんなら、なんで言う通りにしてくれなかったんですか!』

 

『……心配だった』

 

『は?』

 

『私がやれば、三人が危ない目に遭うことないって、思ったから…』

 

『だから、それがお節介だってんじゃん』

 

『………』

 

『最年長だからってさー、なんか過保護っぽいんだよね。いっつもさ』

 

『…………』

 

 

三人から責められてる魔法少女はどうも、チームの中で一番の年長らしい。そう言われれば、雰囲気も大人っぽいし、背も一番高いな…。

 

 

『貴女が私達を心配して、色々と気を遣ってくれてるのは分かりますし、感謝もしてます。敵を攻撃することに集中し過ぎて、貴女が積極的に前に出ていることに気付かなかった私達にも、非はあるかもしれません。でも…』

 

『………』

 

『でも、毎回毎回こんなんじゃ、私達、いつまで経っても強くなれないじゃないですか!普通の人達を、魔女や使い魔から守るのが、魔法少女の使命なのに!』

 

『………』

 

『その為に私達、強くならなきゃいけないのに…』

 

『………』

 

『なのに貴女が、そうやっていっつもいっつも、一人でやっつけて…!』

 

『たった一人におんぶに抱っこじゃ、チームの意味、無いじゃないですか!』

 

『………』

 

 

あぁ…。リーダーさん、爆発しちゃったよ…。年長さんも言われっぱなしで、黙っちゃってるし…。

 

要するにあの四人組は、年長さんによるワンマンチームになっちゃってて、リーダーさんとしては、それがすっげえ嫌だったって話なのかね。

 

 

『ぶっちゃけさー、あたしらもそれ、気になってたっつーか』

 

『わかる。優しいんだけどさぁ、こっちを気にかけすぎって感じで、なんか…』

 

『………』

 

『…二人もこう言ってます。お節介をし過ぎるんですよ、貴女は』

 

『………そっか』

 

『……今まではずっと、この人はこういう人だからって、私達もなんとか我慢してきました。でも…』

 

『…?』

 

『でも、もう限界かもしれません』

 

 

ん。あれ、なんか不味くないかこれ。

 

本人にそのつもりはなかったとはいえ、年長さんは言うなれば、チームの和を乱してたってことで、それはリーダーさんだけじゃなくて、他のメンバーも不満に思ってたことで…。

 

で、その不満が限界を突破して盛大に爆発した今、次にやることったら…

 

 

『貴女には、チームから抜けてもらいます』

 

(あぁ……)

 

 

…当然、和を乱す原因の排除。要するに、クビにするってことだ。

 

 

(そりゃあ、そうなるか…)

 

 

なんてこったよ。私はただ、噂話を調べる為に、あの子達に話を聞こうと思っただけ。なのにまさか、一人の魔法少女が今まさに、チームから追放されるところを目撃することになるなんて…。

 

 

『……………』

 

 

チームのリーダーから直々にクビを宣告された年長さんは、何も言わない。こうなるって薄々分かってたのか、それとも、ショックが大き過ぎて、何も言えないのか…。

 

 

『…ごめんなさい。でも、私は…』

 

『大丈夫……。私も、ごめんなさい』

 

『…………』

 

『…………』

 

 

リーダーさんと年長さんが、お互いに謝った。その後は一言も無しで、お互い、気まずそうにしてばっかり。

 

でも、私には何となく分かった。今のごめんなさいで、年長さんは三人と別れて、チームから完全に切り離されてしまったんだってことを。

 

 

『じゃあ…私達、その…行きます』

 

『ん…』

 

『なってみせますから。私達。神浜の平和を守れる、立派な魔法少女に…』

 

『………頑張って』

 

『今まで、ありがとうございました。……行こう、二人とも』

 

『え、あ、うん…』

 

『えっとー、あの……じゃあね』

 

『……………』

 

 

リーダーさんと他のメンバー達は、年長さんに最後の別れの言葉を告げて、公園から去っていった。残されたのは、独りになっちまった魔法少女と、それを見つめる私だけ。

 

 

『……………………』

 

 

しばらく三人を見送ってた様子の年長さんは、その内ゆっくりと動き出して、公園に設置されたベンチに、静かに座った。

 

 

『……………………………はぁ』

 

 

少し項垂れて、短い溜息。あれは、ショックを受けてるってことでいいのか…?

 

 

「はぁぁぁ……」

 

 

私も溜息を吐く。どうにも気まずい現場を見ちまったけど、一応、作戦を再開できる状況にはなったわけだ。話しかけに行くか…?

 

 

(でもなぁ…傷心してるかもしれないよな、あの人…)

 

 

悲しいこと、辛いことがあって、だからこそ放っておいてほしい時ってのは、誰にでもある。あの年長さんは今、丁度そんな気分なんじゃ…?

 

 

(……でも、こういう時って、誰かに話してみるだけでも、結構楽になるっていうよな…)

 

 

そう考えてから、私は今度こそ、公園に向かって歩き出す。

 

うわさに関する情報を集める。その目的を忘れたわけじゃない。あくまでも、ついで。調査のついでとして、あの人の話を聞いてみようって、そう思っただけ。

 

同じ魔法少女の私がただ話を聞いて、それであの人が勝手に楽になってくれたら、他の話もしやすくなるかもって、そう考えてるだけ。

 

 

 

私には、優しさとかそういうの、似合わないんだから。

 

 

 

 

公園の中に入る。放心してるのか、ベンチに座って微動だにしない魔法少女に向かって、私は話しかけた。

 

 

 

 





マギレコ本編の出来事

・給水屋が居た場所にて、フェリシアと再会したいろは。話をしていると、9と書いた紙が落ちてくる。紙のこと、うわさのことを一緒に調べないかと提案するも、フェリシアは興味が無いとバッサリ斬り捨て、去っていこうとする。引き止めるいろはに対し、フェリシアは何らかの形での報酬を要求。

いろはがフェリシアにご飯を作ってあげることを報酬として、二人の契約が成立した。



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4-4 ご機嫌マジ子



クリスマスイベが復刻するので初投稿です。





 

 

 

「んー…や、特にそういうのは聞かないかなぁ」

 

「そっかー。すんません、変なこと聞いちゃって」

 

「それはいいけど、なに。流行ってるの?なんか、噂話が」

 

「ん。ちょっとチガうんだけど、まぁそんな感じすかね」

 

「ふーん。じゃあ、もう行くね」

 

「ありがとございましたー!」

 

 

どっかに向かって歩いてく大人の人に、アタシは頭を下げて、お礼をする。なんか用事あったかもなのに、チョーサに協力してくれたんだもん。ありがとーってしなきゃ。

 

その辺歩いてる人に声かけて、うわさのことを聞いてみる。赤ちんと分かれて、新西区に来たアタシと先輩は、そーやってジョーホーを集めはじめた。

 

 

「どうです、そちらは」

 

「先輩。あんね、また空振りだった」

 

「そうですか。こちらも同じくです」

 

 

先輩に声かけられた。さっきまで誰かに話を聞いてたと思ったけど、それは終わったみたい。お互いに、セイカを軽くホーコク。

 

 

「むーん…。なんか、意外と皆知らないんだねー。そこそこ聞きこみしてんのに」

 

「まだ朝の時間帯で、人通りが少ないっていうのもありますからね。続けていけば、何かしら引っ掛かりはすると思うのですけど…」

 

 

ぬ。それもそっか。まだまだ始まったばっかだもんね。よーし、そんなら、もっとガンバってかないとだ、アタシ!

 

 

「うーっし!そんじゃ、どんどん聞いてっかー!」

 

「まぁお元気。なんていうか、張り切りますわね。さっきから」

 

「そりゃーそうでしょ!なんつったってさー…」

 

「つったって?」

 

 

先輩が、ちょっと不思議そうにしてる。多分、アタシがさっきの喫茶店を出てから今まで、なんか嬉しそーにしてるのを分かってるんだと思う。いやー、タイドに出ちゃってたかぁ。出ちゃってた系かぁー。んふふー…

 

 

「だってさ、赤ちんが褒めてくれたんだよ?アタシのことさ、頼りになるーって!」

 

「え。あー、あれですか」

 

「いつもさ、オマエはバカだーみたいなことしか言わない、あの赤ちんがだよ?やー、アタシ嬉しくってさーホント!」

 

「ん、んー…?頼り…っていうか、アレはまぁ…うーん…」

 

「ニクマレグチってんだっけ?赤ちんもさー、普段はそんなん言うけど、実は心ん中じゃ、こう、マジで信じてくれてんのかなー…みたいなね!?」

 

「えーと、マジ子さん?あれは別にそういうのじゃなくてですねっていうか、そのぅ…」

 

「んふふふぅ〜…。頼りになる…頼りに…あー…!」

 

「あ、ダメこれ。聞いてませんわこの子…」

 

 

仲間に当てにしてもらえるって、結構嬉しいんだね。アタシ、知らなかったなぁ。あーもー、顔ニヤけちゃってマジヤバい。なんてーか、ヤバいを超えたヤバいヤツだこれ。

 

 

「んー、ガゼンやる気出てきたなー!んじゃ、ここらで もいっちょ、聞き込みをー…!」

 

「あの、それは結構なんですが、滾らせ過ぎて、やり過ぎることがないようにしていただけますと…」

 

 

歩いてる人が誰かいないか、首も顔も目も動かしまくって探す。先輩がなんか言ってる気もするけど、イヨクがマジでドバドバあふれてる今のアタシは、誰にも止めらんないよー!

 

 

「お、さっそくはっけぇーん!あの、すんませーーん!」

 

「いや、マジ子さん!ちょっと!」

 

 

ちょうど良く人を見つけたから、迷わず声をかけて、その人に近付くアタシ。向こうからしたら、いきなり知らないJKに話しかけられてワケわかんないと思うけど、ごめん!すぐ終わるから!

 

 

「なんかー、この辺で変わった事とかあります?あ、この辺ってか、神浜で?」

 

「はぁ?いや、変わったって…?なに、事件とか?」

 

「あー、なんつーかそのー…うわさ?みたいな。アヤしいっていうか」

 

「えー、何それ…。や、聞いたことないけど」

 

「ないすかー。そっかぁ」

 

「ていうかあの、え、何なの。いきなり話しかけてきて…」

 

「ただのJKっす!あ、でも今は探偵気分?」

 

「あ、そう…。つーか、もう行っていい?用事あんの」

 

「あ、そうなんすね。はい!ありがとうございましたー!ごキョーリョクにカンシャしますっ!」

 

 

ズビシッとケイレイして、感謝の言葉を伝えた。そしたら、変なモノでも見たみたいな目で見られちゃったけど、でも、こういうの大事だよね。

 

話しかけた知らない誰かさんがどこかに歩いていくのを、アタシは見送った。

 

 

「んー、ダメかぁ」

 

「マジ子さん。貴女ねー…」

 

「先輩?」

 

 

アタシの横に並んだ先輩が、はぁってため息ついてる。なんで?って思ってると、先輩がジトーってした目でアタシを見てきた。

 

 

「あのですね?いきなりあんな元気モリモリな態度で話しかけにいっちゃ、そりゃ相手も困惑しますわよ」

 

「モリモリて」

 

「お黙んなさい。とにかくですね、噂話のことを尋ねるにしても、直球勝負で質問するのはよろしくないかと」

 

「えー、そっかなぁ」

 

 

うわさのこと聞きたいんだから、はっきり聞いた方がいいんじゃないの?うー……先輩のリクツって、よく分かんないかも。

 

 

「例えば、学校の課題の一環でそういうものを調べてるとか、そういう建前を用意したりして…」

 

「ウソつくってこと?」

 

「嘘も方便と言います。少しでもスムーズに話が進むのであれば、それも有りですわよ」

 

「おじょーさまガッコーの人が、うさんクサいもん調べるの?カダイで?」

 

「……まぁ、聖リリアンナよりはあり得るんじゃないですか」

 

「そーなの?」

 

「知りません」

 

 

ええー?なんか、先輩がなげやり。ま、いっか。せっかくチューイとアドバイスしてくれたんだし、とりあえず、今度はもっと工夫してみよ!

 

 

「じゃ、気ぃ取り直して。どんどん聞いていきますかー!」

 

(大丈夫なんですかね、ほんとに…)

 

「お、いたいた!すいませーん、ちょっと聞かせてもらいたいことあるんですけどー!」

 

 

先輩からは色々言われちゃったけど、それでもアタシのネツイはまだまだ治まってない。チョーサはこれからだよ。

 

ってことで、アタシ達はちょっとずつイドーしながら、色んな人に話を聞いてった。

 

 

「あのー、この街のうわさってなんか知りません?」

 

「はぁ…噂?聞いたことはないですけど…なんで?」

 

「いやぁね、あまり大きい声じゃあ言えねえんですが…。オジキのメーレーでしてね…」

 

「はい?」

 

 

まず、スーツ姿の女の人に聞いてみた。

 

その後はなんか話してる内に、「足を洗った方がいい」とかってシンパイされちゃって終わったけど、どーいうことなんだろ。前にヒマつぶしに見た、ゴクドー映画のマネしてみたのがいけなかったんかな?

 

 

「うわさ話とか、怪しいワダイって聞いたことない?話してくれたらさ、アレ、あのー……なんかする!」

 

「えぇ…なんだこの人…。てか、なんかって何だよ…」

 

「えー………。ジュースあげる、とか?」

 

「なんだこの人…」

 

 

次は、運動部のアサレンに行くっていう、中学生くらいの男子に聞いた。

 

うわさのことを話してはくれたけど、アタシ達が知りたいやつとはちがって、センセーがクロいことやってるとか、クラスのダレとダレがデキてるかもとか、そんなん。

 

思ってたのじゃなかったけど、話を聞かせてくれのはジジツだから、ヤクソク通りジュース一本奢った。男の子はクビかしげてばっかだったけど。

 

 

「ヘーイ、そこの銀髪っぽいカノジョー!」

 

「へっ?あ、あの…私、ですか…?」

 

「うん!マジでキュートなキミだよ、キミ!」

 

「え、キュー…?よく、わかりません…はい…」

 

「そう?あ、それよかさ、聞きたいことあって」

 

「あ…は、はい…。なん、ですか?」

 

「えっとね?ガッコーのケンキュー?カダイ?でさー、調べてることなんだけど」

 

「学校…。あ…そういえば制服、ですね…。栄の…」

 

「あ、知ってる?そーそー!アタシ、栄総合なんだー!」

 

 

何回目かに話しかけたのは、ちょっと年下っぽい女の子。引っ込みジアンで口ベタな感じだったけど、そこがなんかカワイイなって思った。新西のイチリツダイフゾク?に通ってるんだって。

 

ちょっと用事ができちゃって、それで朝から出てきたって言うから、引きとめてゴメンって謝った。てか、おしゃべりに夢中で、うわさのこと聞くの忘れてた。ダメじゃん、アタシ!

 

 

そのあとも、ガンバって何人かに話を聞かせてもらったけど、うわさのジョーホーはサッパリ手に入らなかった。ウマくいかないなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でさー?けっきょく、なーんもセイカがなかったんだよねー」

 

 

ヘヤの中に置いてあるソファーに、ベターっと寝っころがりながら、アタシはグチる。

 

 

「まぁ。それは…大変だったわねぇ」

 

「そーそー。せっかく先輩から、チョーサのゴクイも教えてもらったのにさー!」

 

「極意?」

 

 

このヘヤの持ち主の人が、アタシのグチを聞いてくれる。アタシは好き勝手にソファーに寝っころがってるのに、それに怒ったりしない。これがオトナのヨユーってやつか…。

 

 

「単なる助言みたいなものですって…。というかですね、マジ子さん」

 

「んー?」

 

 

グデーっとしてる私に、先輩が話しかけてくる。なんか、ツカれてるような顔して。

 

 

「心配でチラチラと見てましたけど、あれは…」

 

「あれって?」

 

「なんかヤの付く方々みたいな喋り方とか、古いナンパみたいなやり方とか…」

 

「そのまんま聞くのは良くないかもって言われたから。ダメだった?」

 

「ダメって言いますか…。いや……なんかもう、何でもよろしいですわ…」

 

「?そう?」

 

「ええ…。私のアドバイスが間違っていたのかもしれませんし…」

 

 

えー、そっかなぁ…。アタシはなるほどって思ったんだけど…。でも、先輩がそう思うならそうなのかな。

 

 

「てかさー、チョーセイ屋さんもゴメンね。いきなり来ちゃって」

 

「あらぁ、いいのよぉ。朝早くで、まだ誰も来る時間帯じゃないから」

 

 

そう言ってくれる、ヘヤの持ち主さん。てか、チョーセイ屋さん。

 

あんまりにうわさのことが分かんないもんだから、アタシと先輩は、とりあえずチョーセイ屋さんを頼ってみることにした。新西に居るんだし、ちょうどいいってことで。

 

先輩が言うには、聞くのはフツーの人じゃなくてもいいし、なんなら魔法少女どうしなら、変な話もしやすいんだって。

 

 

「にしても、うわさ…そしてその影に隠れた、謎の怪物…ねぇ」

 

「ええ。信じてはもらえないかもしれませんが…」

 

「でもホントだよ?アタシら、マジで大変なことになったんだから」

 

「そうねぇ。ちょーっと、眉唾な話かもしれないけどぉ」

 

 

色っぽくほほえみながら、チョーセイ屋さんが言う。あー、やっぱそっかぁ…。魔女じゃないテキが居るかも、なんて言われても、そりゃ困るよね…。

 

 

「でも、あり得ない話じゃないかもねぇ」

 

「え」

 

「ここ最近、確かによく聞くようになった気がするのよねぇ。怪しげな噂話」

 

「マジか!」

 

「ええ。怪物がどうとかっていうのは、よく分からないけど」

 

「おー…」

 

 

意外なとこで、チョーサがシンテンした。スゴい。チョーセイ屋さんって、そーいうことも知ってるんだ。タダモノじゃないなって、前から思ってたけど…。

 

 

「それ、詳しく聞かせて頂いても?」

 

「いいけどぉ…。私も、そこまで深く知ってるわけじゃないわよぉ?調整屋に来た子同士が話してるのが、たまたま耳に入ってきたりとか、そんな感じだから」

 

「構いません。今は、情報が少しでも欲しいですから」

 

「そう。じゃあ、話すけどぉ」

 

「うんうん」

 

 

チョーセイ屋さんが話しだす。先輩は聞きながらメモを取ってて、ときどきシツモンしたりしてる。アタシはそんなキヨーなことできないから、せめて話をシンケンに聞くことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、そうだわぁ!」

 

 

話をはじめてから少ししたとこで、チョーセイ屋さんがそう言った。

 

 

「なんです?」

 

「ただお話しするだけなのもなんだし、お茶請けのスイーツでも用意するわねぇ」

 

「お、マジで?お菓子?」

 

「えぇ…。いや、そんな。ただでさえ押し掛けて来た身なのに、御馳走にまでなるというのは…」

 

「いいのよぉ、気にしなくて!ちょおっと、待っててねぇ」

 

 

言ってから、チョーセイ屋さんは奥に引っこんでった。ちょっと申しわけない気持ちもあるけど、スイーツを食べさせてもらえるのはうれしい。ラッキーって感じ!

 

 

 

 

「はぁい!お待たせぇ」

 

 

 

 

すっごくニコニコした顔でチョーセイ屋さんが戻ってきて、アタシ達の前に、オシャレな皿に乗ったスイーツが出てきた。めっちゃドギツい色したやつが。

 

なんかすっごい どすピンクだなーって思って聞いてみたら、作りおきしてあった、チョーセイ屋さんの手づくりのパンケーキなんだって。ほえー…こーいうアレンジもできるんだなー、パンケーキって。

 

なんかスゴいねーって言いながら先輩の方を見ると、先輩はなんでかメッチャ青い顔しながら、スイーツとチョーセイ屋さんをコウゴに見まくってた。ヘンなの。

 

 

 

 

 

アタシはそんなのおかまい無しで、チョーセイ屋さんお手製パンケーキを、ちょっと多めに口の中に放りこんだ。

 

 

 

 

 

 






マギレコ本編の出来事

・参京区でうわさを調べるやちよは、使い魔のような何かがうわさを広めているのを目撃する。そこへ杏子が現れ、使い魔らしき何かへ接触するも、それは姿を消してしまった。

やちよは杏子に接触し、うわさについて一通り説明。一緒に調べないかと提案するが、杏子には断られる。去っていく杏子を見て嘆息しながらも、調査を続行することにした。



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4-5 赤き者への罰



復刻イベ後半が開始されたので初投稿です。





 

 

 

「なるほど。じゃ、アレすか。組んでからは割と短いっていうか…」

 

「ん…。多分、半年もいってない」

 

「あー…それは…」

 

 

隣に座る年長さんが話して、私がそれを聞いて、相槌を打つ。ただ、こういうのって、生まれてから今まで経験したことなんてないからなぁ…。上手いことやれてるかどうか、いまいち自信が…。

 

 

「…でも、楽しかった」

 

「あ、そうなんすね。じゃあ、まぁ、少しはよかったんじゃ」

 

「私だけ、かも。楽しかったの…」

 

「ん、んー……まぁ、うん。それは、ね?んん…」

 

「…………」

 

「あのー………はい」

 

「ん………」

 

 

これだもの…。まさか、ただ話を聞くってのが、こんなに難しいと思わなかった。なんつーか、私の相槌って下手過ぎない?てか、これ相槌になってんの?

 

 

(この人も困ってないかなーこれ…。話聞くっつっといて何だこいつ、みたいな…)

 

 

ちょっと前、もう一回公園に入った私は、ベンチに座る年長さんに話しかけた。幸い、警戒心とか不信感とかを持たれることはなくて、ちょっと不思議そうにされたくらい。

 

「自分も魔法少女なんですけど、偶然揉めてるとこ見かけちゃってー」なんて白々しいことブッこいて、どうにか詳しい話を聞かせてもらおうとする。そしたら年長さんはちょっと考えてたけど、最終的にはOKが貰えた。貰えたんだけど…

 

 

(聞く側の私がこんなんじゃあなぁ…)

 

 

別に他人と話すのが苦手ってわけでもないのに、上手くいかない。おかしいなぁ。ただ話を聞くだけなのが、こんなに難しいもんかな。

 

あれかな。ショッキングな出来事があった直後の人を相手にしてるからってのもあるのか。そんで、私が遠慮がちになっちゃって、上手くいかないとか…?

 

 

(先輩とかマジ子とかも、沈んでる時ってあったけど、そういう時って基本触れないし、本人が話さない内は放っとくからなー…)

 

 

でも、そういうやり方が出来るのはこう…知己っていうか、付き合いのある仲みたいな感じだからであって、初対面の年長さん相手にやることじゃないと思うし…。くそ、難しいな。

 

 

「あの……大丈夫?」

 

「え」

 

「難しそうな顔、してるから…」

 

「あ…。あぁー。や、別にそんな。何も無いっすから。はい…」

 

「そう…?」

 

「はい…」

 

 

顔に出ちゃってたか…。ダメだな。こんなんじゃ、いつまで経っても噂話について聞き出すとこまで行けねえや。私からも話題を出していくくらいでなきゃダメか…!

 

 

「…えーと、あのー。つか、アレっすね?さっきの子達も、ちょっと酷いってか」

 

「…?」

 

「リーダーっぽい子は、『助けてもらってばっかで成長できない』とかなんとか言ってましたけど、にしたってホラ、助けてもらったのも事実なんだから」

 

「……」

 

「だったら、あんなキツくあたることなくないすか?」

 

「…そう、かな」

 

「そっすよ。他のメンバーにしたって、『余計なことしやがって』みたいに言ってさ。なんか、感じ悪いっつーのか…」

 

「………」

 

 

とりあえず、年長さんを追い出して、どっか行っちゃった三人のことを話してみた。話題がそれくらいしか見つからなかったってのもあるけど、私自身、あの人らの態度とか言葉に、思うとこが無かったわけじゃないし。

 

上昇志向があるのは結構。でも、強くなれないのを、年長さん一人の所為にするのはどうなんだ。誰かがヘマしたり、言い合いになることなんてしょっちゅうなチームに居る身で言うのもなんだけど、それは良くないって。

 

 

「えっと……ダメ」

 

「え」

 

「ダメ。そんなこと、言っちゃ…」

 

「あ、はい…」

 

 

ダメって言われた。流石に、初対面のクセに口が過ぎたかな…。側から見てたに過ぎない私からしたらアレでも、年長さんにとっては仲間だった人達だもんなぁ。そりゃ良い気はしないか…。

 

 

「すんません……その、生意気言って」

 

「ん……。でも、ありがとう」

 

「ありがとって…。どうして?」

 

「…慰めて、くれたのかなって。私のこと」

 

「あー…別に、そんなんじゃ…。や、ほんと…」

 

「………そっか」

 

「…………」

 

「…………」

 

 

注意されたかと思ったら、今度は感謝されちまった。私には目的があって、その為にあんたに近付いただけで…。なのに、礼なんて言われちゃあ、なんていうか……罪悪感。

 

 

「私が、悪いんだと思うから」

 

「うぇ?」

 

 

やべ、変な声出た。いきなり沈黙破ってくるんだもん、この人。

 

 

「あの子達、言ってたよね…。過保護って」

 

「それは……はい」

 

「昔っから、そう。何でもしてあげたくなって…。仲、良い人には」

 

「あー…」

 

 

そういうことか。年長者だからって、義務感やら使命感やらに駆られてたんじゃない。単に年長さんが、そういう性分の人ってことなんだ。

 

 

「…それ、組んだ時からずっと?」

 

「ん…。今まで、ずっと」

 

 

私の質問に、年長さんが短く答える。

 

 

「やめようって、思った。でも…」

 

「どうしても心配だった?」

 

「ん…。苦戦、してたし。初めて会った時も」

 

「ああ、なるほど。それが縁で組んだんすね」

 

「そう。そこから仲良くなって、大事になってって…」

 

 

だから、余計に世話を焼くようになっちまったと。で、それが何日、何週、何ヶ月って続くもんだから、リーダーさん達は、とうとう嫌気が差したって感じか。

 

 

「だからって、言い方ってのがあると思うんすけど…。あんなハッキリ言います?邪魔だから抜けろとかって…」

 

「リーダー、すごく真面目だから…。多分、直球勝負しなきゃって、思ってた」

 

「真面目」

 

「ん…。しかも、頑張り屋さん。今日、張り切ってた。朝からパトロールして、経験積むって」

 

 

そりゃまた、ご苦労な。魔女にしろ使い魔にしろ、活発になるのは主に日が傾いてからなのに、わざわざ朝からってのは相当だな。まぁ、さっき遭遇したんだし、居ないわけじゃないんだろうけど。

 

 

「でも、いいんすか。これで」

 

「何回言われてもやめなかったの、私だから…」

 

「…そっすか」

 

「立派に…なれると思う。私が、居なくても」

 

「………」

 

「でも…寂しいかな。もう、してあげられないから。何にも…」

 

 

そう言って、年長さんは顔を俯かせた。表情はさっきから変わらないけど、やっぱ、内心じゃ凹んでんのかな…。

 

 

「楽しかった。あと、嬉しかった。チーム組むの、初めてだったから」

 

「うん……」

 

「皆で、遊んだりした…。ご飯食べたり、たまにお泊まり会とか、したり……」

 

「………」

 

「……何で、こうなっちゃったのかな。…ダメだな、私……」

 

「………………」

 

 

私の推測は当たったらしい。でも、それくらい好きだったんだよな。チームのことも、チームメイトのことも。だから、すっげえ辛くなって…。

 

 

(これ…やめた方がいいよな。もう…)

 

 

私が甘かったんだ。色々ブチ撒けて楽になってもらって、そのまま調査に協力してもらおうなんてさ。

 

思い入れが深い程、失くした時のショックも大きい。そんなデカい気持ち、その場で吐き出し切れるわけないのに。一人で傷に向き合う時間も、整理する時間も必要なのに。

 

自分は母親を失って、それを嫌ってくらい思い知ってる身なのに、それを忘れちまって…。悪い奴だ、私…。

 

 

「………ん」

 

「………?」

 

 

私はベンチから立ち上がって、年長さんにグリーフシードを渡す。私はもう、この作戦を続行する気にはなれない。なら、すぐにここから立ち去った方がいいんだ。

 

でもその前に、謝罪の意味も込めて、何かしてやりたかった。その為のグリーフシードだ。

 

 

「それ、いつか使って下さい」

 

「え、でも…」

 

「辛いこと話させちゃって、すんませんでした」

 

 

年長さんに頭を下げてから、背中を向ける。そのまま、公園の出口に向かって歩き出した。

 

 

「あ……。あの、待って…」

 

「………」

 

「えっと……ありがとう。話、聞いてくれて……」

 

「………」

 

「あと、グリーフシードも…」

 

 

またお礼を言われちまって、思わず足が止まった。やめてよ、そんなの。私は別に、純粋な気持ちで近付いたわけじゃないんだから。

 

感謝されてるはずなのに、なんか、すごい悪いことしてる気分になる。いや、むしろこの気持ちが、私への罰なのか…。

 

 

「あんたさ、良い人だよ」

 

「…?」

 

「だけど、あいつらとは合わなかった。そんだけだって。あんたは悪くない」

 

「……」

 

「もし、またチーム組みたいとかだったらさ。探しなよ。あんたに合う人」

 

「……できるかな、私…」

 

「できるよ。私みたいなのでも組めてるんだから、あんたなら…」

 

「………………」

 

 

背中は年長さんに向けたまま、私はそう話した。無責任かもしれないけど、何か言ってやれたらって、思ったから。

 

 

「………………………あの」

 

「なに」

 

「貴女は、どうするの。これから…」

 

「それは、どうして?」

 

「えっと……知りたい、から…」

 

「そう…」

 

 

ちょっとの沈黙の後に、質問。それに答えるのは、全然構わない。年長さんに色々話させちゃったことに比べりゃあ、だいぶ安いし。

 

 

「どうする、かぁ。どうすっかなぁー…。とりあえず、学校とか行ってみようかな…」

 

「学校」

 

「そう。大東学院。まぁ今日は休日だけど、誰かしら居るんじゃない。部活とかで」

 

「そっか…」

 

 

答えながら、次の目的地を決める。今回の作戦は失敗したけど、それで調査が終わったわけじゃない。なら、とっとと次の行動を起こさなくちゃダメだよな。

 

 

「まぁ…そういうわけだからさ。私、もう行くよ。いきなり来て、勝手なこといっぱい言って、ごめ…」

 

 

そう言いながら、後ろを振り向く。これで、私と年長さんの話は終わり。最後に、ちゃんと顔を見ながら謝ろうって振り向いたら、案の定年長さんの姿が見えた。

 

 

うん……。見えたんだけど……

 

 

 

「…………」

 

「……………あのー……?」

 

 

 

や、近いな!?

 

なんか、いつの間にかメッチャ近いとこに居るんだけど…。相変わらずの無表情で、こっちを見下ろしてる。

 

てか、さっきはお互い座ってたから分からなかったけど、この人こんな背ぇ高いんかよ。いや、私が小さ過ぎるのか…?

 

 

「えっと……なに…いや。なん、すか…?」

 

「……………」

 

 

まだ何か用事があるのかと思って、聞いてみる。心なしか圧力を感じて、おっかなびっくりになっちまった。

 

そしたら私の手を年長さんが握ってきたもんだから、ちょっとビクッとした。や、今度は何だよ…!?

 

 

「駐車場、行こ」

 

「は?」

 

 

はい?駐車場?うん、待って。どゆこと、さっきから。ねぇ、とりあえず説明とか、こう…ね?しよ?して?して下さい。

 

 

「行こ」

 

「お"っ」

 

 

うわ、また変な声出た。でも、しょうがないんだって。だって、年長さんが有無を言わさず引っ張ってくんだもん。私を!

 

 

「あ、ちょ、ね、ねぇ!ちょ、待って!待って下さい!あの、一旦!一旦!一旦落ち着きましょうよ、一旦!ね!?」

 

 

私の懇願も空しく、ズンズン、ズンズンと道を進みまくる。いや、つーか強っ!力強っ、この人!

 

 

「あ、そうだ」

 

「はい!?」

 

「話し方、無理して、丁寧語っぽくしなくても…。貴女の、普段通りでいいから」

 

「丁寧語ぉ!?」

 

「途中から口調、変わってた。そっち、素なのかなって」

 

 

あ、そういやぁそうだったような…。別に、無理してたって訳でもないんだけどな。歳上相手なんだしさ…。いや、そんなことはどうでもいいんだってば!

 

 

「だからね?何で駐車場とか、何で近かったのとか、その辺の説明をさ!」

 

「それに、その方が私、嬉しいから…」

 

「あ、そうですかぁー!じゃ遠慮なくタメ口でっつーかそうじゃなくて、だからぁー!」

 

 

言葉が聞き届けられることはなく、私は只々、歳上の女性に引っ張られていった。

 

 

 

 

 

 

あぁ…そっかぁ…。今、分かったぞ。

 

私は理解した。これだ。これなんだと。

 

この、側から見れば如何にも珍妙で滑稽な絵面。これに叩き込まれたことこそが、私という者へ下された、本当の罰なんだと…。

 

 

 






マギレコ本編の出来事

・フェリシアにうわさのことを説明するも、信じてもらえない いろは。「もぅー…」と可愛くむくれる。やちよと合流しようと考えた矢先、魔女の反応を感知したフェリシアは、走り出して行ってしまった。

いろはも後を追い、フェリシアと共に魔女の結界へ。豹変した様子で使い魔を蹴散らすフェリシアに困惑しながらも、結界の奥へ進んだ。



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4-6 お人好し



神浜聖女が2人に増えたので初投稿です。





 

 

 

「噂ねー。私は知らないかなぁ、そういうの」

 

「あ、そうなの」

 

「まぁ、神浜全体に流れてるって意味なら、大東の悪評もそうだろうけどさぁ…」

 

「へー」

 

 

同級生の話に、相槌をうつ。まぁ、それも噂話だよな。でも、そういうのじゃなくて。

 

 

「へーじゃなくてさ。大東にある学校に通ってんだから、そういう話は聞いたことあるでしょ?」

 

「東のこと、悪く言われてるって?そりゃね」

 

 

東のことっつーか、東に住んでる人も込みでって感じだよな。あること無いこと、好き勝手言われてるっていうか。

 

私も、放課後に別の区で遊んでたら変な目で見られたり、「東の人だ」なんて、嫌そうな顔で言われたりした経験あるし。

 

 

「じゃ、私もう行くわ。悪かったよ、時間取らせて」

 

「ん、別に。てかさー、あんた西の人なんだよね?先生が言ってたよ」

 

「転校の自己紹介の時な。しかも勝手にゲロった。まぁいいや。それが?」

 

「東で噂話なんて聞いてどうすんの?まさか、向こうで言いふらす気?」

 

「ねーよ。そんなんする程ヒマじゃねーの」

 

「えー。ほんとかぁ?」

 

「西と東で色々あんのは知ってるけど、私には関係ねーの。実家が新西にあるったって、元々市外から来てんだからさ」

 

「そうだったっけ…」

 

「そうだよ」

 

 

諸用でたまたま来ていた同級生に背中を向けて、私は歩き出す。目指すのは、エントランス。

 

私は今、学校に来ていた。一年前から母校になった、大東学院に。

 

 

 

 

 

 

(結局、大した話は聞けなかったなぁ。空振りかぁ)

 

 

靴を履き替えて、校舎の外に出てから、内心で愚痴る。何かあるかと思って来てみたけど、収穫は無し。

 

先生方やら、部活で来てた生徒やらに話を聞いてみても、返ってくるのはお目当てのものとは特に関係無さそうな話。さっきの同級生みたいに、そもそも噂話なんて知らないって人も居た。

 

終いには、「適当にブラついてる暇があるなら、勉強の一つでもしろ」なんてお小言も貰っちまって。

 

 

(時間の使い方、間違ったかなー)

 

 

学校に来たのをちょっと後悔したところで、校門から出た。これで学校からはおさらば。次はどうしようかって、背伸びしながら思案。

 

そんな私の耳に、どっかからか、車の走る音が聞こえて来る。音のする方に顔を向けると、こっちに一台向かって来てるのが見えた。

 

その車は徐々にスピードを落として、私の目の前に止まった。黒い車だ。しかもオープンカー。イカしてるよな。

 

 

「なんか居ねーと思ったらさ」

 

 

私から、車の運転手に一言。別に車自体には驚かないし、私の前に停まった事も、不思議には思わない。だって、これに乗って学校まで来たんだし。

 

 

「…ゴメン、待った?」

 

 

そう宣うのは、運転手。さっき私を公園から駐車場までグイグイ引っ張ってきて、この車に放り込んだ張本人。要するに、年長さん。

 

 

「乗って」

 

「…あいよ」

 

 

促されて、助手席に乗り込む。ドアが閉まって、直後に車は発進した。次の行き先はまだ決めてないし、さっきの駐車場にでも戻るのかな。

 

流れてく景色をボーッと眺めながら、何でこんなことになったのかを、簡単に思い出す。

 

 

 

 

 

 

『ん…。着いた』

 

『ほんとに駐車場まで連れてくるし…。何だよもう…』

 

『鍵は…。うん、ある』

 

『…これ、あんたの車?屋根無いけど』

 

『親が、持ってるやつ。借りた。その…神浜に住むの、決まった時に』

 

『あんたも市外から来たんかよ。今はなに、一人暮らしか?』

 

『まぁ、うん。じゃあ、行こ。乗って』

 

『は?』

 

『乗って』

 

『…………』

 

『乗って』

 

 

運転席に座って、なんか知らんけど、グラサン掛けだした年長さんがそう言った。

 

駐車場までズルズル引き摺られて、そしたらお次は黒塗りのオープンカーに乗れと来た。

 

聞けば、大東学院まで連れて行ってくれるって言うから、私は渋々乗車した。早い足が手に入るのは、まぁ悪い話じゃなかったってのもあるし。

 

 

 

 

 

 

『…んで。何であんた、こんなことするわけ。いい加減、聞かせてもらえる?』

 

『ん……。お礼』

 

『あ?』

 

『私の話、聞いてくれた。元気付けようとしてくれたから…。だからお礼、したい…』

 

『礼ぃ?あんなんで?つーか違うから。私には目的があっただけで、別にあんたが可哀想だから慰めようとかってんじゃ…』

 

『知ってる』

 

『はい?』

 

『普通、放っとく…。あんな場面見たら。面倒だし。だから…』

 

『だから、ただの義理人情で近付いてきたんじゃないんだろうなって?』

 

『ん…』

 

 

学校に向かう最中に、こんな風に話もした。

 

私が「なら、何でお礼なんてしたがるんだ」って聞いたら、「それでも、嬉しかったから」なんて言ってた。

 

私の目論見をあっさり看破しといて、そんなこと言うんだもん。なんつーか、お人好しって、この人みたいな人間のことを言うのかなって。

 

 

 

 

 

 

 

「…考えごと?」

 

「ん」

 

 

あぁ、こんなだったなって思い出してるところに、年長さんから声が掛かった。

 

向こうからしたら、駐車場に戻って来てからも黙ったまんまだから、気になったんかな。

 

 

「別に。あんた、お人好しだなーって」

 

「……そう、かな?」

 

「そうでしょ」

 

 

じゃなきゃ、今こうやって、私の手伝いなんてしてないって。普通、さっきの公園でハイ、さよならってなるんじゃないのか。

 

 

「でも…貴女も、そうだと思う」

 

「何が」

 

「お人好し」

 

「はあ?私が?無いって」

 

「私のこと、拒まないでくれてる。さっきの子……リーダー達みたいに、突き放すこと、出来たのに」

 

「や、それはさ…」

 

 

追放されたばっかで凹んでたんだから、そこに私が追い打ちかけるようなことは、なんかなぁ。

 

幾ら知り合ったばっかりの人が相手だからって、そこまでするのは流石に酷いって。

 

 

「ん…。それより、どうだったの。学校」

 

「え」

 

「噂話、調べるとかって…」

 

「あ、あー、うん。それね」

 

 

私が言い淀んでるのを気にしたのか、年長さんから話題を変えてくれた。もしかして、気ぃ遣われた…?

 

 

「まぁ、空振りかなって。だから、次どうしようかなって考えてる」

 

「そっか」

 

「ん」

 

 

時計を見る限り、それなりに時間も経った。なら、もっと人が多くなる場所で聞き込みでもしてみるか。なんなら、大東区での調査は切り上げるのも有りかな。

 

 

「あ」

 

「…どしたの?」

 

 

思い出した。ちょっと調べてみたい場所、あったんだよな。年長さんに会うまでは徒歩だったけど、今は車って、便利なものがある。なら、行くのに時間はかからないかも。

 

 

「ねえ」

 

「ん」

 

「本当にいいんだよね。手伝ってもらって」

 

 

年長さんに確認する。向こうの方が乗り気なんだから、難色を示すことはないと思うけど、一応聞いておく。

 

 

「あ、うん…。お礼、したいから…」

 

「そう。じゃあ、遠慮なく」

 

 

OKが出た。決まりだな。じゃあ、次に行く場所は…。

 

 

「うん。どこ、行く…?」

 

「西町。まやかし町っつった方が分かりやすいかな」

 

「ん…。わかった」

 

 

私から行き先を聞いて、年長さんが車を動かした。もう一回駐車場から出て、目的地まで車を走らせてくれる。

 

 

「あ…そう。これ…」

 

 

運転しながら、私にビニール袋を差し出してくる。受け取って中を見てみると、飲み物、お菓子、肉まん、サンドイッチ…色々入ってた。

 

 

「あ、さっき学校行ってた時、居なかったのって」

 

「うん。買いに行ってた。それ…」

 

「ええ…」

 

 

や、あの。初対面よ?

 

お礼の一環なのか知らんけど、何もここまでしなくてもさ…。買ってきたってことは、金使ったってことだろ…?

 

 

「あ、気にしなくていい。その…お金は」

 

「いやいやいや、流石にさ」

 

「私が、したくてそうしたから。だから、大丈夫…」

 

「………」

 

 

いいのかなぁ…。いや、公園で話を聞いた時から、年長さんがこういうことをしたがる人なんだってのは、もう分かってるんだけどさ。

 

なら、特に気にしないで、ありがたく頂いておくのが一番良いのか。でもなぁ。私が納得しないし…。それなら…

 

 

「ん」

 

「……?」

 

 

包み紙から肉まんを取り出して、年長さんに渡す。半分に割ったやつを、だけど。

 

 

「あの…」

 

「飲み物は2本あるからいい。でも、食い物は半分にする」

 

「えっと、いいんだよ?全部、食べても…」

 

「あんたが自分の金で買ったんだよ。なら、あんたが食ったっていいだろ」

 

「………」

 

 

私が全部貰うのは納得いかないから、年長さんと半々ってことにさせてもらう。

 

正直これでも釈然としないけど、年長さんの気持ちを無碍にするのも悪いし、落とし所としてはこんなもんだろ。

 

 

「わかった。じゃあ…いただきます」

 

「ん。いただきます」

 

 

納得してもらえたところで、2人して肉まんを頬張る。コンビニらしいジャンクな味が広がるけど、これが時々恋しくなるんだから不思議だよな。

 

 

「ふふ…」

 

「あん?なに、どしたの」

 

「うん。やっぱり、優しいんだなって。貴女」

 

「だからー、違うってんじゃん。こうやって半分したのは、奢ってもらってばっかなのが性に合わないからで…」

「うん」

 

「第一さ、私、昼に一旦集まる約束してるから。多分その時に飯も食うだろうし、その時のことも考えてだなー」

 

「うん、うん…。そうなんだよね?」

 

「絶対分かってないよ、この人…」

 

 

くそー、こっちのことを見透かしたような態度しやがって。表情あんま変わってないように見えるけど、なんか嬉しそうなのバレバレなんだからな!

 

 

「もー……ん?」

 

 

ぶつくさ言ってたら、懐にしまってあったスマホが震えた。着信があったらしい。

 

 

「はいはいー?なんですかぁーっと」

 

 

見ると、メッセージが一通。差出人はマジ子だった。しかも画像付き。

 

 

(何だぁ?まさか、重要な手掛かりでも見つけたとか…)

 

 

少しだけ期待しながら、メッセージを開く。画像が貼り付けられてるだけで、文章は皆無。あいつにしては大人しいメッセだ。

 

 

「…………や、なんだこれ?」

 

 

なら画像の方によっぽどインパクトがあるのかと思ったけど、写ってるのは笑顔のマジ子と、やたらドギツいピンク色の何かが乗った皿。

 

自撮りか、これ。てか、このピンクいのは何よ。フォークが刺さってる辺り、食いもんなのかこれ?

 

 

「…?わっからんなぁー」

 

「なんか、あったの?」

 

「いや?何かチームメイトから写メ送られて来たんだけど…。よく分かんない」

 

「そっか」

 

「ん」

 

 

なんか写真のマジ子がやたら青い顔してた気がするけど、まぁ気のせいだろ。

 

笑顔がやけに引き攣ってた気がしなくもないけど、写真うつりが悪かったとか、そんなんだろうし。そんなことよりも調査だ調査。

 

 

 

変な写メのことはすぐに頭の隅に追いやってから、年長さんの運転に身を任せて、目的のまやかし町に向かった。道中、年長さんが買ってきたものを、2人で分けて食べながら。

 

 

 






マギレコ本編の出来事

・魔女に逃げられて怒るフェリシアを、「ご飯、作らないよ!?」と一喝してクールダウンさせたいろは。謝るフェリシアに先程の豹変ぶりについて問うも、誤魔化すように仲間との合流を急かされた。



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4-7 バカ共の昼



ミラーズランキングを頑張って消化してるので初投稿です。





 

 

 

車のエンジン音と、時々交わされる会話をBGMにすること数分。やってきました大東は西町。通称、まやかし町。

 

何をまやかすのかは知らんけども、車を下りて町の空気を直に感じてみると、何とも言えない奇妙な感覚に襲われたような気がした。

 

街並みは他の区とさして変わらないはずなのに、どこか不穏っつーか、独特の怪しさがあるっつーか。とにかく、他とは雰囲気が違った。

 

ここなら、今までとは違う情報を手に入れることも出来るかも。なんて期待してみたところで、私は聞き込みを始めた。日も高くなってきて、人もそれなりに見かけるようになってきた。何かいい話が聞けたらいいけど。

 

 

 

 

 

 

「へえ。じゃあ、その『キリサキさん』ってのは、今はもう噂話としては廃れてるってことすか?」

 

「多分ね。俺が友達から聞いたのも、もうだいぶ前の話だから」

 

「そうすか…。あの、最後に聞いてもいいすかね」

 

「うん。なに?」

 

「その、キリサキさんを実際に見てみようと思ったりってのは…」

 

「俺が?ないない。場所は東じゃないみたいだったし、その為にわざわざ他の区に行かないよ」

 

「はぁ…」

 

「第一、会ったら斬られるって話だし。嫌だよ、そんな自殺行為みたいなことすんの」

 

「それは…まぁ、そうすね」

 

 

道行く人を呼び止めて、何か噂を知らないか聞いてみる。それを何回か繰り返して、今は私服の男の人から話を聞いてた。

 

休日だし、何処か遊びにでも行くのかもしれないと思ったから、出来るだけ手短にって心掛けて。

 

 

「でしょ。やー、しかしまぁ変わった噂話だよね。『アラもう聞いた?』とかって、なんか芝居掛かったっていうかさ」

 

「なるほど…。あ、じゃあ あの、これでお終いっす。ありがとうございました。お話」

 

「あ、そう?じゃ、はい。そんじゃ」

 

「お手数お掛けしましたー」

 

 

どっかに向かって去ってく男の人にお礼を言って、軽く頭を下げる。いきなり話しかけられた上に「噂話を知らないか」なんて聞かれて、そりゃもうワケ分かんなかっただろうなぁ。

 

でも、こっちにもそうする事情があるんだ。その辺は、生きてりゃそういうこともあるってことで納得してもらおう。

 

 

「…どう?今の、話」

 

「どうかな。当たりかもしんねえ。まぁ、今はもう古い情報になっちゃってるっぽいけど」

 

「そう」

 

 

年長さんに聞かれて、そう答えた。この人もまた律儀だよな。車で待っててもいいのに、私に付いて来て、ずっと隣に居るんだもん。

 

まぁ、そんなら、手持ち無沙汰にしとくのもなんだと思って、話を聞いてる間にメモをとってもらってたんだけども。お願いしたら快諾だった。

 

 

「てか、メモしてくれんのはありがたいんだけど」

 

「?うん…」

 

「別に、一緒に来なくてもよかったのに」

 

「え…。だって、心配だし」

 

「何が」

 

 

メモするくらいなら、私一人でも出来たぞ。ちょっとだけ大変だったかもしんないっつったら、それはそうだけど。

 

 

「トラブル、起きないかなって…。口、ちょっと悪いから。貴女…」

 

「あ、そういう…」

 

「それに、背、小さいし…。悪い人とか居たら、狙われるかなって…」

 

「そんなあんた、幼稚園児じゃねんだから…」

 

 

ほんとにメモ係をさせてよかったのか気になったから、聞いてみたらこれだよ。元チームメイトの人達も、こんな感じの接し方をされてたんかね。

 

あの人らの気持ち、今なら少しだけ分からんでもないかな。ちょっとだけ鬱陶しい感じ。

 

 

「ん…ごめん。それで、どう…?まだ聞いてみる?」

 

「ん?んー…」

 

 

続けるか聞かれる。うん、続けるは続ける。でも、この町ではどうかな。

 

 

「それなりに話は聞いたし、何のかんの昼も近付いて来たんだよな」

 

「じゃあ、やめる?」

 

「この町…っつーか、大東はこんくらいでいいかな。後は集合の連絡来るまで、他の区で調べようかなって」

 

「ん…。わかった」

 

 

話も纏まったところで、二人揃って、車を停めてある場所まで戻る。そのまま乗り込んで、大東区を出る為に発進した。

 

その後は他の区に移って、情報収集を続けた。途中で海浜公園に寄ったりもしてみたけど、やっぱりっていうか、特に変わったことは無し。

 

そうこうしてる内に昼も間近になって、先輩から集合の連絡。案の定 昼飯を兼ねるみたいで、北養区にある洋食屋が指定されてた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えーと、ウォールナッツ…。ん。ここだな」

 

 

車から下りて、集合場所を確認する。連絡してきた時に聞いた話だと、先輩達の方が近い場所に居たらしい。なら、もう来てるかも。

 

 

「あの……いいの?私も、ほんとに…?」

 

 

一緒に車から下りた年長さんが、申し訳なさそうにしながら私に聞いてくる。そうなるよな。私が年長さんの立場でも、そう聞くよ。

 

 

「調べもん手伝ってもらって、しかも金使わせた上に、運転までしてもらったんだよ?これくらいバチ当たんないって」

 

「…そう、かな」

 

 

そうだよ。集合場所にまで送る義理も無いだろうにさ。

 

これで貸し借り0に出来る…かは分かんないけど、それでもお返しくらいしないとな。

 

 

「ま、一緒に食ってやってよ。その方が私も納得するし。てか、一人連れてくって、チームの人に言っちゃってるからさ」

 

「そっか…。それなら、うん。じゃあ…」

 

「それに、金払うの私じゃないし。誘ったところで痛くも痒くもねーの。やったぜ」

 

「あぁ…悪い子っ…」

 

 

年長さんが何か言ってるけど、そんなこたぁ知らん。あー腹減った腹減った。美味いもん食ってチャージせにゃあ。

 

この空きっ腹に何をブチ込んでやろうかって考えながら、店の中に入った。

 

 

「お客様ですね。いらっしゃいませ!ウォールナッツへようこそ!」

 

「あ、はい。ども…」

 

 

店の奥から誰かやってきて、私達を元気にお出迎え。やたら元気だから、ちっとびっくり。料理人みたいな恰好だし、まさかシェフの人かなにか?

 

いやぁでも、なんか小さいしなぁ…。多分、私とそんなに歳違わないと思うんだけど。

 

 

「?どうかしましたか?まなかに何か?」

 

「あぁ、や、いえ。別に」

 

「そうですか?」

 

 

いや、やめよう。余計な詮索なんて。あれだよ。店の制服着て、店員として家の手伝いをしてるだけなんだ、きっと。まさかこの子が、客に出す料理を作ってるなんてことは…。

 

 

「二名様でよろしいですか?」

 

「あー、えっと、違くて。待ち合わせを」

 

「あ、なるほど」

 

「先輩っぽい人とバカっぽい人なんですけど。来てます?」

 

「先…え、なんです?バ…?」

 

 

やっべ、ストレート過ぎたわ。

 

ここは北養区。いつも行くファミレスやバーガーショップとは違う。

 

あの超セレブ学校、聖リリアンナがある区に建てられた店なんだし、単なる洋食屋ってことはあるまい。だから、ちょっと緊張してんのかも。

 

 

「あーっと……違うんです。そうじゃなくて」

 

「はぁ…」

 

「あのー、アレ。水名の先輩と、栄総合のバカです」

 

「大して変わってないじゃないですか…」

 

 

あれ、おかしいな…。ちゃんと分かりやすく説明するつもりが。しくったかなって、視線で後ろの年長さんに助けを求めるけど、気まずそうにこっちを見下ろしてるだけ。

 

やらかしたか…私…。とりあえず謝っとかないとだな、店員さんに…。

 

 

「あの…すいません、ほんとに。ちょっと混乱して…」

 

「それは、はい。まぁ、大丈夫です。それで、お客様のことですけど」

 

「はい…」

 

「来店されてますよ、多分。水名女学園と、栄総合学園の方なんですよね?」

 

「そっす」

 

「先程、来たんですよ。ほら、あちらのお席に」

 

 

店員さんが、そう言って手で指し示した方を見る。そしたら居た。制服を着た、二人組の女子が。

 

先輩とマジ子だ。間違いない。ないんだけど…

 

 

「あちらのお客様で間違いありませんか?」

 

「あぁ、はい。まぁ…そっすね…」

 

「それは何よりです。では、同じお席に」

 

「あの、店員さん」

 

「はい?」

 

「なんか、一心不乱に飯かっ喰らってるように見えるんすけど…」

 

 

私らが来るのを待ってたんなら、こっちが来店した時に気付いてもよさそうなのに。少なくとも、マジ子は声の一つも出すかと思ったんだけどなぁ。

 

それを忘れるくらい、あいつらが飯に没頭するってのは珍しい気が。

 

 

「何やら、フラフラーっとした様子で来店されてましたよ。よっぽどお腹が空いていたんでしょうか」

 

「はぁ…」

 

「まぁでも、あんなに夢中になってしまうのも致し方ないことです!何せ、ウォールナッツ自慢のオムライスですから!」

 

「オムライス」

 

「はい!おかわりまでしていただいて!」

 

 

へえ。そんなレベルで美味いのか、ここのやつ。それ聞いたら、ちょっと興味出てきた。

 

 

「えっと…。頼んで、みる?私達も…」

 

「あー、あんたもそう思った?じゃ、食べてみよっか」

 

「ん…」

 

「おや。オムライスをご注文ですか?分かりました!では、お席に座ってお待ち下さい!」

 

 

店員さんは、そう言ってお店の奥に引っ込んでいった。多分、厨房があるんだろ。にしても私達の会話、ちゃっかり聞いてたんだな。耳ざとい子。

 

 

「……行こっか?席」

 

「ん。私から紹介するよ。あんたのこと」

 

「うん。お願い…」

 

 

情報の共有もしなきゃだけど、とりあえず今は飯だ。なんか騒がしくなりそうだけど、まぁ、たまには悪くないだろ。

 

二人して先輩達の座る席に向かいながら、私はそう思った。

 

 

 

 

 

 

「わり。遅くなったかな」

 

 

先輩達に近付いて、声をかけた。でも二人とも、私の声には耳を貸さないで、ひたすら飯を口に運んでばっかり。

 

モリモリ。ガツガツ。ムシャムシャ。

 

なんか、そんな音が聞こえてきそうなレベル。こんな積極的に食うやつらだったっけ…?

 

 

「おーい、聞けって。来たぞ、私は」

 

 

ちょっと声量上げて、もう一回呼び掛けた。飯に夢中になるのはいいけど、せめて返事くらいはしてもらわんと。

 

そしたら次の瞬間、先輩とマジ子が、手元にあるグラスを掴んだ。中にある水を、二人同時に勢いよく呷っていく。

 

そうして空になったグラスをテーブルに置いたと思ったら、ヌルッとした動きで私の方を向いてくる。正直キモかった。

 

 

「……………」

 

「……………」

 

 

何か見てる。私を。チームメイト二人が、ジーッと。

 

 

「………なんだよ」

 

 

見るのはまぁいいよ、別に。ただ、なに。そのジトッとした目線は。あれか。もしかして結構待ったとか?

 

おかわりもしてるくらいだから、そうなのかも。それで拗ねてるのかな。いや、ガキかよあんたら…。

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ………」

 

 

先輩の深い溜息。今度はなんだ。

 

 

 

「ご覧なさい、マジ子さん。来ましたわよ、それはそれは薄情な裏切り者が…」

 

「来ちゃったねー…。マジでギルティなやつ」

 

 

 

はい?裏切りって何が。それ私のこと?身に覚えが無いんですけど。つか、いきなり何だこいつら。

 

 

「すっとぼけた顔をして…。無駄ですわよ、今更取り繕っても」

 

「いや…あの、ほんと分かんないんだけど…」

 

「うっそマジ!?赤ちん、それヒドくない!?」

 

「えぇ〜……?」

 

「…よく、分かんないけど…。なんかしたんなら、謝らなきゃ…」

 

 

二人からは責められるわ、後ろに控えた年長さんには諭されるわ…。どうしろってんだか…。

 

 

「んなこと言われたってさぁ…。心当たりなんてなんも…」

 

「んまぁ!ではまさか、あのSOSは見ていないと!?」

 

「SOSだぁ?」

 

「未曾有のバイオ兵器の餌食となり、息も絶え絶えの中、マジ子さんが必死の思いで送ったメッセージですのに!」

 

「も、マジでヤバヤバのヤバだったんだからー!マヂ死んだってアレ!」

 

「や、生きてんじゃん…」

 

「いーの!ヒユヒョーゲン?ってやつなの!ほんと赤ちんは もー!」

 

 

や、めっちゃ怒るじゃんこいつら…。つーか何よ?バイオ兵器だのメッセージだの…。調査サボって映画でも見てきたんかよ、お前ら。

 

……ん?いや、ちょっと待って。メッセージ?メッセージったら…

 

 

「あの…メッセージ…もしかしたら」

 

 

年長さんも気付いたみたい。そうだ。まさか、まやかし町に行く時に送られてきた、あの写メ…?

 

 

「………あぁー……」

 

「『あぁ』?今『あぁ』って言いましたわね!?聞きましたわよ!やっぱり見ていたんじゃありませんの!」

 

「いや、違うんだって。あのさ?マジ子がなんか食ってるなーくらいにしか思わんくて」

 

「言い訳は結構!普段からどこか中途半端に冷めたような子だとは思ってましたけど、とうとう本性を現しましたわね!このクソガキがぁーっ!」

 

「赤ちんサイテー!バカ!柄パン女ー!」

 

 

おいちょっと待て何で私が履いてる下着知ってんだっつーかンだとコラ言わせておけばよぉ!

 

 

「人聞きがわりぃんだよテメーら!つーか大体なー!」

 

「あの…やめよ。ここ、お店……」

 

 

 

ギャーギャー。あーだこーだ。やいのやいの。

 

 

 

見事にヒートアップした私達の罵り合いは、料理を持ってきた店員さんに叱られるまで続いた。

 

歳下らしき彼女の一喝で我に帰った私達は、一気に消沈。只管に平謝りすることで、どうにか許しを得ることに成功。

 

店員さんの寛大な御心と、一緒に謝ってくれた年長さんには感謝しかない。いや、ほんとに…。

 

 

 

 

 

 

 

「なんか…すみませんでした…。本当に口汚くなってしまって…」

 

「いや、うん…。私も言い過ぎたから…」

 

「アタシも…。ゴメン赤ちん…」

 

「うん…。もうやめてね、人のパンツ見るの…」

 

「うん…。でも赤ちん、この前リビングに脱ぎっぱで」

 

「やめてね……」

 

「うん……」

 

 

 

 

申し訳なさと羞恥心と、その他諸々でない混ぜになった心のまま、洋食店・ウォールナッツ。その特製オムライスを一口。

 

 

 

 

 

めっちゃ美味かった……。

 

 

 

 

 





マギレコ本編の出来事

・万々歳に集合したいろは達。いろはが、やちよからフェリシアの悪評を聞く。鶴乃曰く、「やちよはババアじゃないよ!ギリ未成年だよ!」

・やちよの決定で、二組に分かれて調査を再開。聞き込みを面倒臭がるばかりか、うわさに対し楽観的なフェリシア。いろは は ジュースを交換条件にして、調査の手伝いを頼んだ。

昨日取り逃したらしい魔女の魔力を察知したフェリシアは、何処かへ走り出す。ジュース買わないよという呼びかけも、「魔女がいんだから、そんなのどうでもいいんだよ!」と一蹴された。いろは 怒りの「もーーーーーー!!」炸裂。



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4-8 危機。ついでに羽根



クッソ長いほんへとマジ子のイメージ(活動報告にて)を読者の皆様へのクリスマスプレゼントとさせて頂きたいので初投稿です。





 

 

 

夕陽が微かに差し込む、薄暗い高架下。私とマジ子さんはそこに居た。

 

もう、日も随分傾いてしまった。ボチボチ捜査を切り上げて、撤収するか否かを検討してもいい頃合いでしょう。本当ならば。

 

でも、今はダメ。そう出来ない理由がある。何故かっていったらそれは、先程から私達の目の前に立ち塞がる人達のせい。

 

それも、見るからに怪しくて、得体の知れない方々の。

 

 

「とにかく!危ない目に遭いたくなきゃあ、邪魔しようなんて思わないことね!」

 

 

怪しさ満点集団の、リーダーらしき人物がそう言う。顔は羽織っているローブで隠れてよく見えませんが、恐らくは自信たっぷりな表情をしていることでしょう。

 

 

 

 

「そう…私達、『マギウスの翼』の邪魔は!」

 

 

 

 

更に言う。しかも今度は、自分達のチーム、又は所属する組織の名前のようなものまで、声高に。

 

 

(ここに来て、重要な手がかりを掴むだなんて…。しかし…!)

 

 

嗚呼、なんてこと。こうなると分かっていれば、最初から全員で行動していたのに。先のことなんて分からなくて当たり前だけど、それでも私は、そう思わずには居られなかった。

 

昼食を済ませた後、また二手に分かれるなどという決定を下さなければ、こんな…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…って感じ。私が聞いたのは、これくらいかな』

 

『そうですか…。このメモを見る限り、お目当ての情報はほとんど無いように思えますわね…』

 

『それなんだよなぁー』

 

 

数時間前。北養区のレストランに集まった、私達チームの面々。

 

午前中に色々あって、それが原因で言い合いになった結果、店員さんに怒られるということにはなったけれど、それは今は置いておきましょう。

 

赤さんを車で送ってくれたという方も交え、昼食をとった。興味を持ったマジ子さんが、積極的に話しかけていたのを覚えている。

 

聞けば彼女は、新西の市立大学に通う大学生。赤さんと出会ったのは なんと、所属していたチームから追放された直後なんだとか…。そんなショッキングな…。

 

 

(その時に色々あって、お礼として赤さんに同行してくれているみたいですが…)

 

 

曰く、「話を聞いてくれたから」「親身になって励ましてくれたから」だそうで。当の赤さんは、そんなことはしていないとでも言いたげな態度でしたけど。

 

しかし、だからと言って調査に同行したり、食べ物を奢ったりというのは、些か大袈裟な気も…。

 

この大学生さん。お人好しというか、なんというか…。良い人なんでしょうね、要するに。

 

 

 

その後は軽い自己紹介を済ませて、食事を続けながら、大学生さんとの交流を行った。魔法少女同士でしか出来ない話から、趣味や好物等、取り留めのない話題まで、色々と。

 

そうしている内に、自然と調査の成果を報告する方向に話が進んで、そこに大学生さんも同席してもらうことになった。

 

赤さんがお世話になったのだからというのもあるけれど、神浜に住んでいる以上、彼女が怪しげなうわさへと踏み入る可能性も、無いとは言い切れない。

 

そうであれば、会話に参加出来ないまでも、聞いておくだけで損はないはずですから。

 

 

 

 

 

 

 

各々が得た情報を改めて整理して、有力なものがないか確かめた。ですがやはりというか、大抵がお目当てとは何の関係も無さそうなものばかり。

 

赤さんが聞いたらしい「キリサキさん」という噂話は気になったけれど、目ぼしいものはそれくらいだった。

 

 

『チョーセイ屋さんにも聞いてみたけど、あんま知らなかったみたいだしねー』

 

 

有益な情報が無かったわけではないけれど、調整屋さんの話も、俗っぽいものが多かったように思う。

 

BiBiのトップモデルは実は食い意地が張っているだとか、調整屋付近に魔女や使い魔が出ると、それらを退治する勇者様が現れるだとか…。

 

 

『でもさ、中にはあったんだろ?怪しいの』

 

 

私が書いたメモを読みながら、赤さんが聞いてきた。

 

 

『ええ。それに書いてあると思いますけど、絶交した後に仲直りすると怪物に攫われるとか、そういう話もあったらしいです』

 

『怪物かぁ。当たりかもだけど、過去形ってことは』

 

『はい。赤さんの聞いた「キリサキさん」同様、今ではほとんど聞かなくなったうわさだそうです』

 

『うーん…』

 

『「入れ替わり通り」、「幸せスズラン」といった噂話も聞けたんですが…』

 

『それも前に流行ってたやつで、今はゼンゼンなんだってー』

 

『私とマジ子さんが午前中に集めた情報は、こんなものですわね…。んー………』

 

 

情報の確認を終えたところで、私は考えた。一見すれば、あまり成果を得られたようには思えない。

 

広まる過程で形を変えた話もあるでしょうし、関係無い話であると、一概に切って捨てることは出来ないかもしれませんが。

 

でも、幾つか気になる話があったのは事実なのだから、一先ず余計なものは省き、それらのみに注目してみれば…。

 

 

『……………』

 

『…なんかさ』

 

『はい』

 

『キャッチーっていうんかなぁ、こういうの』

 

『それは』

 

『「当たり」かもしれないやつ』

 

『………ええ』

 

 

どうやら、赤さんも気付いたらしかった。

 

 

『キリサキさん、入れ替わり通り、幸せスズラン…』

 

『メモ見てると分かるけどさ、どれも変な伝わり方してんだよな』

 

『「アラもう聞いた?誰から聞いた?」ってやつですわね』

 

『うわさの内容は違っても、それから始まるのは共通してる』

 

『ええ。それに、覚えてます?前にマジ子さんの発案で調べることになった、神社の噂話。そういえば、アレも確か…』

 

 

そう言ってから、赤さんと二人でマジ子さんを見たら、大学生さんに変顔を披露して遊んでいた。

 

話に入れなくて暇にでもなったんでしょうが、だからって何してますのあの子は。大学生さんは真顔でしたけど、ちょっと困った雰囲気出してましたわよ。

 

 

『ま、変顔バカは置いておくとして』

 

『ん?アタシのこと?なになに?』

 

『なんでもありませんわ。とにかく、決まってこういった形で広まっているうわさが複数あるというのは、明らかに不自然です』

 

『前、言ってたな。意図的に広めてるやつが居るかもって』

 

『その可能性はかなり増したと思っているんですが、どうです?』

 

『かもなぁ…。もう廃れた話ばっかみたいだけど、あの神社の化物みたいなのが潜んでたうわさもあったのかなぁ』

 

 

その可能性も高い。仮にそうだとするのなら、神社で眠っていた人達のように、うわさの被害に遭ってしまった方々も、確実に居たはずで…。

 

 

『…いつまでも、こうしてはいられませんわね』

 

『ん。調査再開?』

 

『ええ。次は、今現在流行っている噂話に絞って調べてみましょう。それらしいものを広めている人を知らないかも、聞いてみるんです』

 

『そういうことね。りょーかい』

 

 

赤さんと同時に椅子から立ち上がって、身支度を整えた。この街の影、その奥に潜んでいるなにか。その実態に、少しでも近付かなくてはなるまい。

 

街の安全、ひいては、私達の安全の為にも。

 

 

『あれ、もう行くん?』

 

『ん…。そうみたい』

 

 

少し遅れて席を離れたマジ子さんと大学生さんを尻目に、レジにてお代を清算。お店の外に出た。

 

 

 

 

 

『さ。これから、改めて調査ですわね』

 

『また分かれる?』

 

『ええ。組み合わせは、先程と同じでいいでしょう。どちらに行きますの?』

 

『じゃ、栄にでも行ってみっか』

 

『そう。では、私達は南凪に』

 

 

午後になって、人通りもかなり増えたことが予想される。なら、また同じ区を調べるということもあるでしょう。

 

互いに行き先が被ってしまわないよう、行き先は告げておいた。

 

 

『うし。じゃ、行こ。運転よろしく』

 

『ん…。任せて』

 

 

そう言って、赤さんと大学生さんは、車に乗り込んだ。赤さんは助手席。当たり前だけど。

 

 

『気ぃつけてねー、二人とも!』

 

『赤さん。これ以上、この方に迷惑かけるんじゃありませんわよ』

 

『あんたらも、今度は変なもん食わねーようにな』

 

『あっ!全くもー、この子は……。あの、すみません。赤さんのこと、よろしくお願いします』

 

 

運転席の大学生さんに、私は頭を下げた。赤さんの口や態度が悪いことへの謝罪という意味も、あったかもしれません。

 

 

『うん。大丈夫…。手助け、するから』

 

 

快く承諾してくれた大学生さん。本来なら付き合う義理も無いでしょうに…。

 

 

『…………』

 

『赤ちん。アタシからのメッセはアレだったけどさ、何かあったら、すぐにレンラクして。ね?』

 

『………………あのさ』

 

『んぬ?え、どした?』

 

『…あの……えー……』

 

『?』

 

『また、調べんだからさ。つーことは、ほら。何かあるかもってーか……』

 

『???』

 

『だからー……』

 

 

赤さんはそこから少しの間、私とマジ子さんに何か言いたそうに、「あー」とか「ぬー」とか唸ってた。

 

でも結局は「やっぱいい」なんて言って、そのまま大学生さんに車を出させて、行ってしまった。さっきの発言通り、栄区に向かったんでしょう。きっと。

 

 

『………』

 

『ねー、先輩』

 

 

二人の乗る車が去っていった方向を見つめていた私に、マジ子さんが声を掛けてきた。

 

 

『なんだったんだろね、赤ちん』

 

『さぁ…。私には何も…』

 

『そっかー…』

 

 

嘘を吐いた。赤さんが何を言い淀んでいたのか、私には分かっていた。なんとなく。

 

それが、曲がりなりにも一年を一緒に過ごしてきた賜物なのかは知らないけれど。

 

何にしても、素直に口にしてくれればいいのにと思う。

 

そうしてくれたなら、私もマジ子さんも、きっと嬉しいと感じられるのに。そうすれば私達、もっとお互いに近付いて…。

 

 

『いえ……。やめましょう』

 

『?先輩?』

 

『なんでも。では、行きましょうか、私達も』

 

『あ、うん。よーし!昼からもがんばるぞー、アタシ!』

 

 

時間は有限。深みに嵌まっていきそうな考えごとを打ち切って、マジ子さんと南凪区へ向かった。決して小さくはないしこりを、胸に秘めたままで…。

 

 

 

 

 

そうして、午後もあちこちで調査を続けた私達でしたが、残念ながら結果は振るわず。日はどんどんと落ちていき、とうとう夕暮れ時になってしまった。

 

あちこち歩いて疲労も溜まったし、この辺りが潮時なのでは。

 

そうマジ子さんと話しながら、中央区の高架下に入った時だった。今、私達の目の前に居る、怪しい連中が現れたのは。

 

 

 

『ようやく見つけたわよ、アンタたち!』

 

『あちこち移動して、見つけるのに苦労したんだからね!』

 

『全く!よくもまぁ、うわさのことを嗅ぎ回ってチョロチョロと!』

 

『あれ、そういえばなんか一人少なくない?』

 

『あの、大丈夫?もし迷子とかだったら探すの手伝うけど…』

 

 

 

何者なのかとこちらが訪ねる暇も無く、ベラベラと捲し立ててきた。それも、ローブを羽織った五人組の内、真ん中に陣取るたった一人だけが。

 

他の四人は、それを見て戸惑っているように思えた。一方的な会話を止めるべきか、迷っていたんでしょうか。

 

 

 

 

そうして話は現在に戻るわけだけども、この真ん中の方。今さっき思いっきり口に出していた。自分達の素性に繋がりかねないことを。

 

ここに来て、重要な情報を得られたのはいい。いいんですが。

 

ローブで体や顔を隠し、個性を消しているのだから、「マギウスの翼」とやらには守秘義務のようなものが存在しているのでは?いいんです?色々とバラしてしまったのは。

 

 

「ちょ、隊長!隊長!」

 

「ん!何よ」

 

「ダメですって、ウチらのことバラしたら!」

 

「え?……あっ」

 

「ちょ、もー…!『あっ』じゃないですって!教官にも散々言われたじゃないすか!」

 

「あと口調も!それも直せって何回も言われたでしょ!?」

 

「そうだったぁ!どうしよ、また怒られるじゃないこれ…!」

 

 

何やら騒ぎ出す、ローブ五人組。というか、やっぱり不味かったんですね、今までの発言。

 

 

「なんか変な人達だねー。あの人ら」

 

「貴女も負けてませんわよ。えーと、スマホスマホ…」

 

 

マジ子さんを茶化しつつ、スマホを取り出す。

 

今のところ実害が無いとはいえ、相手は見るからに不審者。それも五人。こちらより多い。

 

しかも、今も真ん中でパニクってる方の発言が正しいのであれば、あのローブ達は私達を探して動いていたということになる。

 

なら万が一に備えて、こちらもチーム全員揃っておかなければ。

 

 

「………出ませんわね」

 

「電源切ってんのかなぁ?」

 

「もう一度かけてみますね」

 

 

この状況なら、メッセージよりこっちのほうが早いかと考えて電話したけれど、赤さんは出ない。どうしたものでしょう。

 

魔法少女なのだから、テレパシーを使うという手もありますが、赤さん達の居る場所によっては、遠過ぎて通じないでしょうし…。

 

 

「んー……やはり出ませんわね。もしかしたら、バッテリーが切れたという可能性も」

 

『なんだぁ!!』

 

「うわっ」

 

「あ、出たじゃん」

 

 

不意打ち気味に、スピーカーから聞こえてきた怒鳴り声。思わず顔を顰めてしまった。

 

 

「ちょっと、なんですの赤さん。いきなりそんな大声を出して。腹が立っているのか知りませんが、もう少し穏やかに」

 

『今それどころじゃねんだっつーの!おい年長さん!もっとスピード出ねーの!?』

 

「ん?ちょっとお待ちなさい。貴女達、今なにやってますの?スピードってなんです」

 

 

余裕が無く、必死そうにしている赤さんの声。それが気になって、スピーカーに耳をそば立ててみる。

 

車のエンジン音。赤さんと、あの大学生さんの、余裕が感じられない声。それに加えて、何かが激しくぶつかり合っているような…。

 

 

『だぁっ!!おい、先輩!聞いてる!?先輩って!』

 

「あっ…!もう!聞こえてますから、だからそんな怒鳴らないで優しく…!」

 

『先輩!大東!デカい観覧車のあるとこ!見りゃわかるから、そこに来い!』

 

「は!?や、あの、何をそんないきなり!」

 

『出たんだよあいつが!私達だけじゃ無理!マジ子もちゃんと連れて来い!急いで!!』

 

「赤さん!?ちょっと!赤さんってば!」

 

 

終始スピーカーに大音量を叩きつけてきた赤さんに対し、詳細な説明を求めることは許されず、電話は切れてしまった。

 

スマホの画面をそのままにしつつ、私はただ、唖然とすることしか出来ないでいた。

 

 

「ねぇ…。先輩……」

 

「マジ子さん…」

 

「赤ちん、どうしたの…?なんか、アイツが出たーとかって…」

 

 

不安そうな表情になりながら、マジ子さんが私に聞いてくる。

 

詳しいことを聞けずに電話が切れてしまったから、向こうで何が起こっているのかは分からない。

 

赤さんの言葉や、電話の向こうから聞こえてきた諸々の情報を整理する必要はありますが、恐らくは…

 

 

「多分、また出てきたんだと思います。あの、謎の女の子が」

 

「あー、あの変な子!え、それめっちゃヤバくない!?」

 

「ヤバいです」

 

 

「出たんだよあいつが」という発言から考えつく存在といったら、あの少女か魔女くらいだと思う。

 

特に前者が脅威的なことは、私達全員が身をもって知っていること。三人でもこっ酷くやられてしまった相手なのだから、二人では尚更どうしようも…。

 

 

「こうしてはいられませんわね。マジ子さん、行きますわよ」

 

「ん!赤ちんのとこだよね」

 

「ええ。場所は大東区。少し遠いですが、急ぎましょう」

 

 

行き先は決まった。ローブの方々に聞きたいことは色々とありますが、今はそんな場合ではない。未だにワーワーと騒がしい人達に向かって、私とマジ子さんは言う。

 

 

「あのー!すみません!私達もう行きますねー!」

 

「脅されて仕方なく喋りましたーとかで誤魔化して…いやぁでも、それはそれで……ってハイ!?」

 

「ごめーん!キューヨーができちゃったからー、アタシ達行くねー!」

 

「え、なに、急用!?そうなの!?いや、ちょっと待ちなさいよ!こっちは色々喋っちゃったんだから、このまま逃すとマズくて!」

 

「ごきげん……っよう!」

 

 

問答無用。こっちは急いでいるのです。変身した私は、ローブ達に向かってカンテラを投げ付けた。魔力をそれなりに込めたから、大きさもそこそこ。

 

 

「え、ちょっと!いきなりそんな!あーーーー!!」

 

 

地面に着弾し、爆発。魔力による爆煙が、私達とローブの子達を隔てた。

 

 

「今です、マジ子さん!」

 

「オッケー!」

 

 

変身したマジ子さんが、私の手を握る。彼女の固有魔法で私達は水となり、バシャっと音を立てて地面に落ちた。

 

 

『行きましょう!これは途中まででよろしいです。後は走ります!』

 

『りょーかい!待ってろー、赤ちん達!』

 

 

今の爆発で人が集まってくるかもしれないのを考えると、あの方達には申し訳ないことをしたと思う。

 

ですが、こちらとて事情があるのです。どうか分かっていただきたい。

 

「マギウスの翼」とは何なのか。なぜうわさのことを知っている風だったのか。それも、今は後回し。

 

 

 

 

(お願い…。なんとか持ち堪えて…!)

 

 

 

 

赤さんと大学生さんの無事を切に願いながら、私達は大東へと急いだ。

 

 

 

 





マギレコ本編の出来事

・参京院の地下水路を進むいろは達と、そこに現れた杏子。争いは避けられないと判断した黒羽根が立ち塞がるも、撃破する。
「魔法少女の解放とは何を意味するのか、あなたには分かるはず」と訴えかけられるやちよだったが、「うわさに頼ってまで救われたくはない」と、自身の考えを口にする。杏子といろはに急かされ、先へ進んだ。



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4-9 変わりたい彼女



新年最初の初投稿です。




※活動報告「オリキャラ達のあれこれ①」に、主人公のイメージ絵の修正版を追加してみました




 

 

 

昼飯を食い終わって、午後からの調査に乗り出した私達。私は午前中と変わらず、年長さんと一緒に行動してた。

 

あちこち移動して、話を聞いて、怪しそうな場所を調べて…。でも結局、碌に結果も出せないまま日は暮れていって、とうとう夕方。

 

多分次が最後になるかなって考えながら、参京区へ車を走らせて貰った。

 

 

そしたら調査中、魔女の反応を感じたもんだから、私と年長さんは調査を中断。魔女を追いかけて、無事に発見。結界に突入して、魔女との戦闘に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!」

 

 

魔女が繰り出してきた攻撃を、上体を逸らしてどうにか躱す。早いな。中々に威力もありそう。

 

なんせトゲトゲの蔦と、括り付けられたドデカい鋏。当たれば痛くて、タダでは済まない。だったら遠慮させていただきたいってもんだろ。

 

 

「このやろ!」

 

 

魔力を込めて、パイルから衝撃波を何発か撃ち出す。魔力はそう込めてないから、デカいダメージにはならないだろうな。でも、それで充分。

 

 

『〜!!』

 

 

私の攻撃が命中して、怯んだ魔女が鳴き声を上げる。いつ聞いてもこの世のもんじゃないよなぁ…。怪獣かよ。

 

それはどうでもいいとして、今のでヤツの動きは止まった。狙い通りだ。なら、今 仕掛ける!

 

 

「よし…!」

 

 

魔女に向かって駆け出す。奴さんが体勢を立て直す前に、一気に決めるぞ!

 

 

「このまま……なぁ!?」

 

 

そう思ったのに、いきなり足が動かなくなって、勢い余ってつんのめる。そのまま地面に倒れちまって、ズザーッと全身でダイナミックにスライディング。痛えよクソが。

 

なんだよって振り返って足の方を見てみたら、使い魔が二匹、私の足にひしっとしがみ付いてた。

 

この、白い頭部に髭が生えたような使い魔はどっからか湧いたのか、はたまた魔女が身の危険を感じて呼び出したのか、そんなことは知らねー。知らないが。

 

 

「これ、ヤバいか…!?」

 

 

問題は使い魔じゃなくて、何故か後ろからこっちに飛んで来てる鋏。荊棘が伸びてるってことは、魔女が操ってるもの。あれ多分、私が躱したやつだな…。

 

なるほどね…。魔女のやつは、これを狙ってたってわけか。チャンスを前にして注意力が鈍ったところに、不意を突いて動きを封じる。んで、そこをバッサリいく、と。

 

 

(単純な手をさぁ。私はそれに引っかかっちまったわけだけど…!)

 

 

足を動かして、使い魔を引き剥がす。それから急いで立ち上がるけど、魔女様ご自慢のクソデカ鋏は、すぐそこまで迫って来てた。

 

 

「っ…!」

 

 

パイルは間に合わない。構えられても、魔力を込めてる時間が無い。

 

すぐ目の前に、刃を目一杯開いた鋏の姿。今の私にとっちゃ、死神の鎌と同じか。やられるな、このままじゃ。

 

 

 

でもそれは、私が一人だったらの話。

 

 

 

「ふっ!」

 

 

 

掛け声と一緒に年長さんが突っ込んで来て、鋏に強烈な衝撃を与えた。私にしがみ付いてた使い魔達も巻き込んで。

 

魔女のやつは私を真っ二つに出来ると思っただろうが、残念。鋏の進路は大きく逸れて、あらぬ方向にすっ飛んでいった。

 

 

「…………」

 

「…あの……大丈夫…?」

 

 

少し呆ける私に、年長さんが一言。

 

私の不注意の為に、この人に尻拭いなんてさせちまった。情けない話だなぁ、もう。

 

 

「…わり。助かった」

 

「ん…よかった。………え、と」

 

「ん?」

 

「あの…怖かった…?ハサミ…」

 

 

遠慮がちにそう聞かれる。怖いぃ?私が?ねーよ。

 

そりゃ、鋏がどっか行ってちっとは安堵くらいしたかもしんねーけど、別に「やっべえええ、来てくれなきゃ死んでたわ。超怖かった」とか思ってねーし。

 

 

「馬鹿言うんじゃないよ。私に怖いもんなんてないの。魔女の攻撃なんて今更だし」

 

「そう…?」

 

「大体さ、世話焼きなのと一緒に戦ってるって分かってんだから、助けにくるだろうなって想像付くし」

 

「でも…なんか、ちょっと悪いし…顔色」

 

「………うるさいよ」

 

 

バレてるじゃねーかオイ。

 

あぁ、そうだよ。ぶっちゃけめっちゃピンチだったし、なんなら真っ二つになった自分のビジョンが見えちまったんだよ。これ、死んだかなってさ。

 

 

でも、それを口に出したりはしないし、するべきじゃないと思う。

 

だって、恥ずかしいことだろ。自分の感じた不安だの恐怖だの、そんなことを人に打ち明けるって。自分から弱さを晒してるみたいじゃん。

 

ていうか、どうでもいいんだよ別に。今、そんなことはさ。大事なのは…

 

 

「それよか魔女だよ魔女!これでこっちは二人なんだから、今度こそ仕留めんの!」

 

「ん。じゃあ…貴女、突っ込んで。サポートする」

 

「頼むわ。じゃ、行くぞ!」

 

「うん」

 

 

二人同時に走り出す。目指すのは勿論魔女。あの野郎、私をビビらせた代償を払わせてやる…!

 

 

「…!」

 

 

そう思って走る私に向かって、荊棘の蔦や使い魔達が襲いかかってくる。ここで一気に来るのか。向こうも本格的にこっちを潰すつもりらしい。

 

 

「めんどくせえ!」

 

 

道をこじ開ける為にパイルを構えようとしたけど、その前に年長さんが前に出て、使い魔や蔦を得物で弾き飛ばしていった。

 

 

「私、やるから。走って!」

 

「わかってる!」

 

 

年長さんを先頭にして突き進む。邪魔なものはこの人が全て捌いてくれるから、私は魔女だけに集中できた。

 

サポートするって言っただけあって、流石の仕事っぷり。曲がりなりにもチーム戦をやってた人だから、こういうのも得意なのか?

 

 

「…やっ!」

 

 

気合いの入った声と同時に、一閃。魔力の乗った年長さんの一撃が敵を散らして、ついに道が開いた。

 

魔女は疲れたか、観念したか。いずれにしろ、攻撃も、使い魔の群れも止んだ。走り続けたおかげで、標的はもう目の前。だったら…!

 

 

「今だよ!」

 

「言われなくても!」

 

 

前に出て、年長を追い抜いて、魔女のところへ急ぐ。すれ違う時に見た年長さんの体は、細かい傷でいっぱいで。

 

それを見て、心が痛んだ気がした。私を補助する為っつっても、相手の攻撃を何度も受け止めてるんだ。傷だって出来ちまうよな…。

 

 

「なぁー!」

 

「なにー?」

 

 

だったら、私はそれに報いる義務がある。その義務はもちろん、あの魔女をブッ倒すこと。

 

 

「あんたの武器さー!」

 

「武器がー?」

 

 

パイルに魔力を流し込んで、起動させる。「乗算」も発動させた。後はこれを、魔女にブチ込むだけ。

 

だがそこで、魔女が動きを見せる。あのデカい鋏が二本、私に迫ってくる。動きが早い。多分、事前に仕込んでたんだろうな。

 

攻撃が止んだと思わせて、確実に殺せる距離まで引き付ける気だったか。やるじゃん。

 

 

 

でも、ダメ。

 

 

 

私をぶった斬ろうとした二本の鋏は、私の後ろから飛んできた、同じく二本の物体に、大きく弾かれる。

 

鋏を弾いたそれらは落ちてきて、内一本を私が掴んだ。それ自体に「乗算」の魔法をかけて、上に投げた。

 

 

「なんでワイパーなのー!」

 

「知らなーい!」

 

 

投げたワイパーを、ジャンプした年長さんが掴む。「乗算」で長さが増したそれを、落下しつつ袈裟懸けに、魔女へ振り下ろしたのが見えた。

 

 

「そう、です、かあーっとぉ!!」

 

 

それと同時に、私も魔女へ肉薄。身体をブン殴って、そのまま杭打ち。溜めた魔力を直接叩きつけてやった。

 

年長さんの袈裟斬りと、私のパイル。その二つをモロに食らって、魔女は消滅していった。やたらグロテスクな中身を、盛大に撒き散らしながら。

 

 

 

 

 

 

 

結界が消滅して、元の景色が戻ってくる。変身を解いて、グリーフシードを回収。手持ちのものを使って、ソウルジェムを浄化することも忘れない。

 

 

「はい。まだ使えるから」

 

「ん……。ありがとう」

 

 

浄化する年長さんを眺めつつ、グッと体を伸ばす。多めに魔力使ったのもあって、ちっと疲れたな…。

 

 

「はぁぁぁぁ………。……あのさ、ありがと」

 

「?なに…?」

 

「さっき。助けられまくった」

 

「あぁ…。うん、いいの。私が、そうしなきゃって…したことだから…」

 

 

鋏のこととか、攻撃を捌いてくれたのとかもそうだけど、この人、終始私に合わせて動いてた感じするし。

 

私をほっといて、年長さんが一人で倒しちゃうことだって出来たはずなのに。

 

 

「てかさー。前のチームじゃ、あんたがちゃちゃっと倒してばっかだったんでしょ?何で私に合わせてくれたのさ?」

 

「えっと…。尊重…してあげた方が、いいのかなって。戦うって気持ち…」

 

「尊重」

 

「私、ほら…言われたから。過保護過ぎて、成長…出来ないって…」

 

「あぁ…」

 

 

公園で怒鳴られてたあれか…。やべ。辛いこと思い出させたか…?

 

 

「だから、せめて一緒に戦って…助けようって、思った…。本当は心配だけど……私、頑張って、変わろうって…」

 

「………そっか」

 

「ん……」

 

「あのー……なんか、ごめん。なさい」

 

「あ、いいの。それは。全然……。うん…」

 

 

うわぁ、微妙な雰囲気になっちゃったよ…。てか、無理してたんだな。私に合わせてたのは…。

 

でも、そっか。年長さん、今からでもやり方を変えようとしてるんだ。なんつーか、良いことじゃないかな。それは。

 

 

「まぁ、その…。大丈夫だよ。あんた、合わせるの上手かったもん。すぐ慣れるから」

 

「……ほんと?」

 

「ほんと。初めてであれは凄いんじゃねえかな。なんならホラ、私ばっか合わせてもらって、だらしねえっつーか」

 

「………」

 

「私も、そういうの直さなきゃならないんだろうし…。だから、頑張ろうよ。お互いさ」

 

「うん……」

 

 

年長さんが今度、どういうチームに入るのか。もしくは入らずに、その場その場で誰かと協力していく形になるのか、それは分からない。

 

でも、報われてほしいと思った。大好きな人達に尽くして、突き放されて、傷付いて。それでも、前に進む為に変わろうとする、この人の気持ちが。

 

 

「あーあ。なんか疲れたなぁ。結局大した成果も無いしさぁ…。も、帰るか。夕方だし」

 

「ん…。そう、しよっか?」

 

「おー。あ、そうだ。なんか喉乾かん?奢るわ」

 

「え、いいよ…。お金、出すよ…?」

 

「いーんだってそんなん。午前中に色々飲み食いさせてもらったんだから。今度は私の番」

 

「えー……」

 

 

えーじゃない。借りっぱなしは嫌なんだよ。年長さんとしては納得行かないだろうけど、ここはきっちり返させてもらう。

 

 

飲み物が買える場所を探して歩きながら、ああだこうだって話す。夕陽の眩しさを感じながら、二人で参京区の中を歩いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んー?」

 

「ん。どしたの…?」

 

「や、なんか変わったのあるなーって」

 

「変わったの」

 

「ほら、あれ」

 

 

飲み物を探して年長さんと のそのそ歩く私の視界に、それは飛び込んできた。声を掛けてきた年長さんにも、指を差して示してやる。

 

 

私も今じゃすっかり神浜に馴染んだつもりだったけど、参京区であんなのは見たことがなかった。もしかして、最近になって出てきたのか?

 

 

 

 

 

 

キリッと冷えた幸せの水

 

フクロウ印の吸水屋さん

 

疲れた人のために無料で提供中

 

 

 

 

 

 

あんなことまで書いちゃって。水ったってタダじゃないだろうに。

 

変なの。伊達や酔狂、もしくは詐欺でやってるとしてもね。

 

 

 

でも、丁度いい。こっちは飲み物を探してたんだし、水でも全然あり。

 

あの吸水屋さんとやらが悪どいものなのかどうかは、直に接してから考えりゃいいだろ。

 

 

 

警戒心を内に秘めつつ、年長さんと二人、吸水屋へと近付いていった。

 

 

 






今回の話、及び本編の出来事は前話より前の時間軸ということになってしまい申し訳ないので失踪します。



マギレコ本編の出来事

・マギウスの翼に味方したフェリシアが、いろはの説得で再び仲間に。彼女の案内で参京院教育学園へやってきた一行は、ウワサを倒す為、学園から行けるという地下水路へ進む。
いろは や フェリシアが飲んだ水がもたらす不幸へのタイムリミットは、残り1時間と少しに迫っていた。



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4-10 未知は三度



土曜に更新できなかったので初投稿です。





 

 

 

夕暮れ時の参京区。魔女と戦ってお疲れの私達が見つけたのは、フクロウ印の給水屋とかいう怪しいやつ。

 

飲み物を探してたわけだし、ちょうどいいっつったらそうだけど、無料で水を配るってのは何か変。実態を確かめる為に、年長さんと一緒に近付いた。

 

マジでタダならそれに越したことないけど、どうなんだか…?

 

 

「あのー」

 

「おや、お客さんかな?」

 

「ん。まぁ…そんな感じすかね。飲みもん探してて」

 

「それはちょうどよかったね。いらっしゃい、お嬢ちゃん達。疲れた体と乾いた喉を潤す幸せの水だよ」

 

「はあ…」

 

「早速、一杯いかがかな?」

 

 

ぬう。話した感じ、店主のおっちゃんは普通だ。特に悪そうな感じはしない。

 

つっても、この人も人間だものなぁ。腹の中でも胸の内でも、何を考えてるかは分からんわけで。

 

 

(もう少し踏み込んでみるか…)

 

 

年長さんにアイコンタクト。幸い、こっちの言いたいことは察してくれたみたい。軽く頷いてくれた。よし、そんじゃあ…

 

 

「んと、飲む前に一ついいすか?」

 

「ん?はいはい、どうしたのかな?」

 

「失礼だと思うんすけど、なんで水なんすか?」

 

 

質問開始。いきなりズバッと「詐欺か?」なんて聞くのもマズいから、ちょっと遠回しに。やんわりと。

 

 

「なんでって」

 

「だってホラ、水飲みたいなら水道水でもいいわけだし。わざわざこうやって売るのは珍しいってーか…」

 

「それに、無料でっていうの…割に合わないと思う…」

 

「だから、なんかあるんじゃないかなって」

 

「あぁ、なるほどね。うーん、そうか…」

 

 

私達の言葉を聞いて、おっちゃんは困ったような顔になった。

 

これで裏も何も無くて、ただ善意でやってるだけなら、それは悪いことしちまったなって思う。

 

でも、自分が飲むもんなんだ。安全だっていう保証くらいは欲しい。

 

 

「こればっかりは信用問題だからなぁ……。よし。なら、こうしようか」

 

「はい?」

 

「この水を、まずおじさんが飲む。そしたら、少しは安心できるんじゃないかな」

 

 

おっちゃんはそう言うと、早速水を一杯、自分で飲んでいく。水はあっという間に減っていって、全部おっちゃんの胃袋に収まったみたい。

 

「ぷはあ」って息を吐いたその顔は、そりゃあもうご機嫌だった。

 

 

「うーん、美味しい!やっぱり、うちの水は最高だね」

 

「………」

 

「ほら、どうだい?おじさん、なんともないよ」

 

「うーん……」

 

 

「どう思う?」って、年長さんの方を見る。んー、微妙な顔。いや、表情全然変わんねーけど。

 

この人全然顔に出ないけど、何ていうか、雰囲気とか仕草で分かるんだよな。

 

 

(少なくとも、危ないもんは入ってない…のか?)

 

 

おっちゃんは平気そうな顔してるけど、それは私達を欺く為の演技って可能性も…。遅効性の毒か何か混ぜてて、私達に水飲ませた後、自分は解毒剤でも飲むとかさ。

 

そもそも劇物を入れた水を無料で売る目的って何よって話だけど、それはあれよ。えーと……テロ?

 

 

(…なんて、流石にねーよなぁ。そんなん…)

 

 

我ながら、流石に考え過ぎ。あんまり疑り深いと、おっちゃんにも失礼だよな。

 

魔女の口づけでも受けてりゃあそこまでするかもしれないけど、そんな状態には見えないし。

 

 

「うん、分かった。じゃあその…いいすか?水、貰っても」

 

「お、飲むかい?」

 

「あー…はい。その、ほんとすんませんでした。疑っちゃって」

 

「その…私も、すみません」

 

「なぁに、こうしてうちの水を飲んで貰えるんだし、気にしなくていいよ。ちょっと戸惑っちゃったけどね」

 

 

こりゃあ特に問題無いかもって判断したから、水を貰うことにする。疑ったことに対して謝罪したけど、おっちゃんは許してくれた。ありがてえ。

 

 

「はい、どうぞ。冷えてて美味しいよー」

 

「ども…」

 

「…どうもです」

 

 

水の入った容器を受け取る。おっちゃんの言う通り、よく冷えてるなぁ。夕陽の光が反射してるのもあって、なんか良い感じ。

 

 

「じゃあ…」

 

「うん。飲も」

 

 

思えば、水一杯飲むだけなのに、なんか大袈裟だったかな。喉乾いてんのは年長さんも同じなのに、変に待たせることにもなっちまったし。

 

まぁ、こうして飲み物にありつけるんだし、それはもういいか。おっちゃんありがとう。無料様々。ロハ万歳。

 

そうしてとうとう、干上がった喉が潤いで満たされて、私達は存分に満足感を味わう……

 

 

 

 

はずだった。

 

 

 

 

「あっ!ちょ、水…!」

 

 

私が水を飲もうとしたら、いきなり横から手が伸びてきて、私の手首をガシッと掴んだ。

 

私はそれにビックリして、つい容器を離しちまって。お陰で水は、見事に地面にブチ撒けられた。

 

 

「おぉい、ちょっとぉ…。いきなり何だよ、誰だか知んねーけど…!」

 

 

せっかくタダで貰ったもんを台無しにされたんだ。文句の一つでも言ってやらにゃあ気が済まねーぞコラ。

 

手が伸びて来たのは、年長さんの居る隣とは逆方向。まずはこんなことをやらかす輩の面を拝んでやらねば。

 

そう思って、眉間に皺を寄せたまま、私を掴む手の主の方を見た。

 

 

 

「!!」

 

 

 

顔を見た瞬間、心臓が、大きく跳ねる。

 

それと同時に覚えた、すごい早さで血の気が引いていく感覚。

 

水を台無しにされた怒りとか、喉に感じてた渇きとか、全部忘れちまって。

 

反射的に手を振り払いつつ、すぐにそいつから距離を取った。そりゃそうだろ。

 

 

 

何せ相手が、あの謎の女の子だってんだから。

 

 

 

「…またあんたかよ」

 

「………」

 

 

何でここに居るのかとか、どっから湧いたんだよとか、言いたいことは色々ある。でも、それはこの際どうでもいい。それよりもだ。

 

もう、今日はこのまま終わる流れだっただろ。特になんも起きないで合流して、そのまま解散。それでよかったろ。なのにさ…!

 

 

「………」

 

「こんな時に出て来て…!」

 

 

会うのはこれで3度目くらいか。出来れば、もう会いたくなかったのに。

 

 

「…あの、どしたの。その子と、なにか…?」

 

 

私の様子が気になったのか、年長さんが聞いてくる。そういや、この人は初対面だったな。こいつとは…。

 

 

「えーと…。喧嘩か何かかな?事情は分からないけど、とにかく一旦落ち着いて…」

 

 

給水屋のおっちゃんも、声を掛けてきた。そうだ。この場には一般人だって居る。もし、ここで戦いにでもなったら、色々と危険が…。

 

だったら…!

 

 

「年長さん、走って!」

 

 

女の子に背中を向ける。そのまま年長さんの手を取って、走り出した。

 

 

「わ、わ…!え、ちょっと、なに…?なに!?」

 

「いいから!こっから離れんだよ!」

 

「えぇ…?」

 

「説明は後でするから!とにかく、車まで戻るぞ!」

 

「あ…うん。わかった…。わかんないけど…」

 

 

無理くりに年長さんを納得させる。今大事なのは、ここからすぐに離れること。急で悪いけど、勘弁してもらおう。

 

 

「おっちゃーん!水ありがとなー!!」

 

 

あの女の子に邪魔されて飲めなかったっつっても、水を貰ったことには変わりない。遠ざかってる中でも聞こえることを願って、精一杯声を張り上げた。

 

 

これで後は、女の子をどうにかするだけ。この往来で相手をするのはマズいし、とりあえず逃げだ。

 

すぐ後ろにあの子が居るかもって不安になりながら、二人で車の所まで走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見えた、駐車場」

 

「よし…!あの女の子は……居ないな」

 

 

参京区の中を少しの間駆けて、どうにか車を停めた駐車場を視界に捉えた。後ろを振り返って、あの子が居ないことを確認。少し怖かったけど、撒けたみたいで何より。

 

 

「それで、どうするの?これから…」

 

「んー。とりあえず、先輩達と合流できたらなって思うけど…」

 

 

つっても、事前に決めてた場所じゃマズいよなぁ…。もう駐車場も近いし、急いで代わりの場所を決めないと。先輩達にはメッセージで知らせておけばいいか。

 

でもまぁ、どっちにしろ…

 

 

「次でお別れかな」

 

「え…」

 

「ここまで付き合ってくれて、感謝してる。でもダメだよ。あいつが出て来ちまったから」

 

「そんな。でも」

 

「あいつさ、なんか知らないけど、私のこと狙ってるみたい。そのことに、年長さんまで巻き込むのは違うかなって」

 

 

先輩とマジ子は当事者だけど、この人は今日、偶然知り合っただけ。本来なら調査に付き合う必要だって無かったんだから。だから、次まで。

 

 

「次の目的地で下ろしてもらったら、それで終わり。あんたは帰んなよ」

 

「だけど、私…!」

 

「いいの。だって、あんた無関係だよ?忘れちまえばいいって。こんなやつらのこと」

 

「…そうかも、しれない。それでも、私は」

 

「!?待って!」

 

 

まだ付き合おうとして食い下がる年長さんとの会話は、いきなり打ち切られた。っていうより、打ち切らざるを得なかった。

 

走りながら話す私達の頭上に影が差したと思ったら、目の前にあの女の子が着地して、道を塞いだからだ。

 

 

「あっ」

 

「追い付かれちまったのか…!」

 

 

くそ…。思ってたよりずっと早いぞ、こいつ!ていうか、それよりもヤバいのが…

 

 

「どうすんだこれ…。車まで行けねーぞ!」

 

「…………」

 

 

わざわざ私達を飛び越えてきたのは、こうする為か。この野郎、こっちの嫌がることを…!

 

 

「…………」

 

 

ゆっくりこっちに近付いてくる女の子。なんか知らんけど、不機嫌そうに剥れやがって。そりゃこっちがしたい顔なんだよ。

 

 

「くっそ…。もう腹括るか…!?」

 

 

どの道、あの変な結界を展開されれば、簡単には逃げられなくなるんだ。

 

だったらいっそ、大怪我も覚悟で突破して、どうにか車に辿り着くしかないのかも…。

 

そう考えて身構えた私だけど、それを制するみたいにして、年長さんが前に出た。

 

 

「………」

 

「え、おい。年長さん?いいんだって!これは私の」

 

「大丈夫」

 

「何が!」

 

「逃げられる、から。車、使える」

 

「はあ?」

 

 

「どうやって?」なんて私が言う前に、変身する年長さん。そしてその傍らには、何故か車が鎮座してた。この人の持ってる車とよく似た、オープンカーが。

 

 

「乗って」

 

「え、いやこれどういう」

 

 

いきなりのことで少し困惑する私だったけど、それを無視した年長さんに掴まれて、車の後部座席に放り込まれる。シートにボフッと突っ込んで、間抜けな声が出た。

 

それから間もなくエンジンがかかって、車が動き出した。察するに、年長さんも手早く運転席に乗り込んだらしい。

 

シートから体を起こした私が見たのは、車を避ける女の子の姿。そしてそれは、あっという間に遠くなって、そのうち見えなくなっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

段々と日が落ちていく神浜の街中を、私達の乗った車が駆けていく。

 

あの後すぐに、何処に行くかって話になったから、とりあえず大東区を指定させてもらった。

 

合流地点にするには遠過ぎてアレだけど、そんだけ離れれば、あの女の子も流石に諦めるはず。

 

 

「じゃあ、武器なんだ。この車」

 

「ん…。車の一部だけ出したりも、出来る…」

 

「あー、だからワイパーね」

 

「うん…」

 

 

段々落ち着いてきて、こうやって話す余裕も出てきたから、この車のことを質問してたところだった。にしても、武器とな。この車が。

 

何ていうかそれ、魔法少女の使う武器として正しいの?私のパイルとか、マジ子のアタッシュケースも大概だけどさ…。

 

 

「私も、ちょっと…いいかな」

 

「ん?」

 

「その…質問」

 

 

なるほど。さっきは私が聞いたんだから、次は年長さんの番ってわけだ。別に構わない。大東まではまだ時間がかかるだろうし。それに…

 

 

「ぶっちゃけもう、あの女の子も撒いたようなもんだろうしなぁ。いいよ。話して」

 

「ん…。じゃあ、聞くけど」

 

「うん」

 

 

あの子が如何にデタラメでも、流石に車に追い付くのは無理でしょ。そう、気を緩めてたのがいけなかったのか。

 

 

「!?」

 

「だあああ!ちょ、なに…!?」

 

 

話してるところに何か降ってきて、ボンネットに激突。そのせいで年長さんの運転が乱れて、車が左右にフラついた。それに引っ張られて、私の体も揺らされる。

 

 

「おい、嘘だろ……!」

 

 

グワングワンに振り回される中で、私は見ちまった。車に降ってきたものの正体を。ほんと、嘘みたいな光景。

 

あの謎の女の子だ。こうして目の当たりにした今でも信じられないけど、あの子が車に追い付いてきて、それでボンネットに…!

 

 

「や、バカかよお前ぇ!?瞬間移動でも出来るってのか!」

 

「っ!危ない!」

 

 

年長さんが叫んだ直後、女の子はフロントガラスを超えて、私に飛びかかってきた。

 

身の危険を感じて、私は変身。伸びてきた両腕を掴んで、強引に女の子を持ち上げる。

 

 

「!」

 

「どっか行けこんにゃろおおおお!!」

 

 

思いっきり叫んでから、目一杯力を込めて、車外へブン投げる。やたらと激しい心臓の鼓動を感じながら、シートにドカッと沈む。

 

女の子がどうなったか確認することは、敢えてしなかった。走行中の車から放られたんだ。幾らあいつが滅茶苦茶でも、タダで済むわけが…

 

 

「!」

 

「や、済むのかよぉ!?」

 

 

本来なら今頃車の遥か後ろに転がって、モザイク無しではお見せ出来ない絵面になっているはず。

 

それなのにどういうわけか、女の子はまた車に追い付いて、飛び乗ってきた。

 

まともに車内に入ってこられたら終わりだ。私は瞬時にそう悟って、相手の胴体に思いっきり蹴りをブチ込んでやる。女の子はまた吹っ飛んで、車のずっと後ろに消えていった。

 

 

「年長さん、ワイパー貸せ!」

 

「え!?」

 

「多分あいつ、また来る。この状況でパイルは無理!」

 

「ん、分かった!」

 

 

取り付けられたワイパーをバキッと外して、こっちに寄越した年長さん。問題ないのかそれ?って思ったけど、それよりも深刻な問題が今降りかかって来てるんだ。良しとする。

 

 

「てかさぁ!今の私達って、車から人突き落としてるように見えるわけだよなぁ!?側からは!」

 

「……あ!」

 

「このまま公道走ってたらヤバくねー!?」

 

「あー……うん…」

 

 

私も、今気付いたことだ。幸い、今は周りに他の車は居ないとはいえ、これはよろしくないんじゃあ…。

 

 

「…………がんばろ!」

 

「オイィ!?」

 

 

この野郎、匙投げやがった!おい、大学生にもなった女だろうがお前は!

 

 

「…あーもう!今度は何だよ!?」

 

 

年長さんの返答に愕然としてる中、スマホに着信。先輩からだった。通話なんかしてる場合じゃないって思う反面、丁度良かったとも思う。

 

しめたぞ。これで何とか救援を頼むことが出来れば…!

 

 

「なんだぁ!!」

 

 

「応答」をタップして、スピーカーに向かって話す。非常時で余裕が無いのもあって、叫んでるみたいなデカい声になっちまった。

 

 

『うわっ』

 

『あ、出たじゃん』

 

 

先輩とマジ子の声。当たり前だけど、二人一緒に居るらしい。つーか、何の用があってかけてきたんだあの人。

 

 

「っ!来た!後ろ!」

 

「あ!?」

 

 

年長さんがまた叫ぶ。その通りに後ろを向けば、また車に飛び付いてくる女の子が目に飛び込んできた。

 

しかも、それだけじゃない。奴さん、痺れを切らしたか、ついに実力行使に出ることにしたらしい。私にチョップを振り下ろしてくる。

 

 

「ぐっ!」

 

 

借りたワイパーを構えて、チョップを受け止める。衝撃が腕に伝わって、すんごいビリビリきた。海浜公園の時と変わらない、アホみたいに強い力。

 

 

『ちょっと、なんですの赤さん。いきなりそんな大声を出して。腹が立っているのか知りませんが、もう少し穏やかに』

 

 

シートに放ったスマホから、先輩の声。仕方ないことだけど、こっちの状況も知らないで好き勝手…!

 

 

「今それどころじゃねんだっつーの!おい年長さん!もっとスピード出ねーの!?」

 

『ん?ちょっとお待ちなさい。貴女達、今なにやってますの?スピードってなんです』

 

 

チョップ、パンチ、張り手…。女の子が次々に繰り出してくる攻撃を、痺れる腕とワイパーで何とか捌きながら、ダメ元でスピードアップ出来ないか聞いた。

 

 

「ゴメン!これ以上は…!」

 

「ちぃ…!」

 

 

やっぱりダメか…。いつまでも、こんな不安定で逃げ場の無い場所で戦うのは、幾らなんでも厳しい。早いとこどうにかしないと…!

 

どっか…!どっかないのか!人が居なくて、広くて、それでいてチーム全員が集まれそうな、分かりやすい場所は!

 

 

(あ…)

 

 

そこまで考えて、思い付いた。ある。あるじゃん、そんな場所。しかも、都合よく大東区だ。

 

そこに着くまで、どうにか凌ぐ必要はある。けど、あの場所なら…!

 

 

「!」

 

 

どうにか光明を見出したかもしれないその瞬間も、女の子の攻撃は止まらない。手刀による強烈な一撃を、どうにか逸らす。

 

 

「だぁっ!!おい、先輩!聞いてる!?先輩って!」

 

『あっ…!もう!聞こえてますから、だからそんな怒鳴らないで優しく…!』

 

 

腕を弾かれてガラ空きになった女の子のドタマに、すかさずの裏拳。車から落ちていったのを見て、シートのスマホを手に取った。

 

 

「先輩!大東!デカい観覧車のあるとこ!見りゃわかるから、そこに来い!」

 

 

きっとまたすぐに、あの子は襲ってくる。懇切丁寧に説明してる時間は無いから、簡潔に伝える。

 

 

『は!?や、あの、何をそんないきなり!』

 

「出たんだよあいつが!私達だけじゃ無理!マジ子もちゃんと連れて来い!急いで!!」

 

『赤さん!?ちょっと!赤さんってば!』

 

 

私を呼ぶ先輩の声がスマホから流れてくるのを聞きながら、通話を切る。出しておいても仕方ないから、懐に仕舞った。

 

 

「どう、だった…?」

 

「とりあえず、伝えることは伝えといた」

 

「そう」

 

「うん。で、後は……っ!」

 

 

ワイパーを握って、左に向けて思いっきり薙ぐ。さっきから何度も味わってきた衝撃が、また腕に伝わってきて、顔を顰めた。

 

左の方を睨み付けてやると、手刀でワイパーと切り結ぶ、あの女の子の姿が。

 

 

「目的地まで、どうにか保たせるしかねーってことよ…!」

 

 

この短時間とはいえ、何度かやり合った。撃退してからまた襲ってくるまでの時間も、魔力のパターンも、何となく掴んでる。

 

だったら、後は私次第。合流に成功するか、ここでボロクソになって終わるか。

 

 

「つーわけでさー、運転よろしく…!」

 

「ん…。東の、観覧車のとこ…。任せて…!」

 

 

 

正直言うと、だいぶ消耗させられてる。腕は痺れまくってるし、息も切れてきた。

 

 

 

でも、関係ない。やるんだ。死ぬ気で凌いで、気合いで保たせろ。出来なきゃ、私に明日はねえ。

 

 

 

 

沈む太陽の光に照らされて、一路大東へ走る車の中。

 

 

自分で自分を奮い立たせた私は、今まさに、最大の敵と戦わなければならなかった。

 

 

 

 






マギレコ本編の出来事

・[4-8 危機。ついでに羽根]にて書いたものと同じである為割愛。


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4-11 奮闘



ひたすら雪かきをしたので初投稿です。





 

 

 

「観覧車は!!」

 

「もう近い!あと少し!」

 

「そう…っかい!」

 

 

女の子の攻撃をまた一つ かろうじて逸らしながら、年長さんからの返答に応じる。くそ、腕痛い…!

 

先輩達からの電話に出て、救援に来るように頼んだ私達。

 

その後、必死の思いで攻撃を凌ぎ続けてたんだけど、ようやく目的の場所が間近まで迫ったらしい。

 

でも、最後まで気は抜けない。この車を下りる前に、こっちがどうにかされちゃあ意味無いんだから。

 

 

「このまま突っ込む!」

 

「いいよ!」

 

「車、揺れるかも!掴まってて!」

 

「馬鹿!」

 

 

そんな余裕あるわけないだろ。

 

あの女の子の攻撃は段々激しさを増してきて、今となってはもう、両腕を使わなきゃ対応出来ない。

 

車が飛ぼうが跳ねようが好きにしろ。下りて戦えるようになることが何より重要なんだから、この際なるようになれだ。

 

 

「いくよ!」

 

 

年長さんが声掛けした後、エンジンの音が大きくなって、車がスピードを上げる。道路から外れて、広い草原の中に突っ込んだ。

 

 

「!」

 

「どぉ…!」

 

 

ガタガタ揺れて、体勢を崩しそうになる。道路みたいに整った場所じゃないんだから、そりゃそうだ。

 

 

「…!」

 

「やべっ…」

 

 

そんな中でも、女の子は私を逃がすつもりはないみたい。器用にバランスを取りながら、手刀を横薙ぎに振るってきた。こんな不安定な足場でよくやる…!

 

どうする。今はバランスを取るので手一杯になっちまって、防御が間に合うかは…。だったら!

 

 

「ブレーキ!!」

 

「!?うん!」

 

 

私が叫んだ途端、車がスピードを急激に落として、無理くりに停止した。その影響で体が大きく揺らされるけど、それは女の子も同じはず。

 

私がそう思った通り、私にチョップをブチ込もうとしてくれやがった目の前のこんちくしょうは、今度こそ体勢を崩した。

 

攻撃は揺れでキャンセルされて不発。なら!

 

 

「チャンス!」

 

「!?」

 

 

女の子の腕を、私の両腕でしっかり掴む。道路を走ってる時にもやったことだ。

 

その後にやることも同じ。力一杯、車外にブン投げる。女の子は空中に放り出されて、車から離れてく。

 

 

「車、止まったんだからさぁ!」

 

 

パイルを生成して、女の子に照準を合わせていく。

 

車が走ってる時は、足場が不安定だわ場所も狭いわで使えなかったけど、今ならいける。

 

しかも相手は空中に居て、身動きも碌に取れないはず。だったら当たる!

 

 

「おらぁっ!!」

 

 

パイルに魔力を流して、杭を打ち込む。魔力が衝撃波として撃ち出されて、女の子に見事命中。

 

そのままブッ飛んでいって、やがて草原に落ちてった。それでもまだ少し勢いが止まらなくて、草やら土煙やら巻き上げてる。

 

それを眺めながら、私は車から下りた。軽く溜息が出る。ああもう、ようやく抜け出せたよ…。

 

 

「あ…えと、大丈夫…?」

 

「どうだかなぁ…」

 

 

年長さんも運転席から下りてきて、私を気遣ってくれた。やー…大丈夫っちゃ大丈夫かなぁ。流石に疲れたけどさ。

 

 

「とりま、腕はほんと疲れたかな。痺れて。あー、あと魔力もそれなりに」

 

「それ…ダメじゃない…?グリーフシード、あるよ?」

 

 

そう言って、私に寄越す。曰く、「まだちょっと使えるから」だそうな。あー、これあれか。参京で魔女と戦った時の…。

 

受け取って、ソウルジェムを浄化する。うーん。グリーフシード、かなり穢れを帯びてる。限界だなぁこれは。

 

 

「ありがと。後は調整の対価にでもしときなよ」

 

「ん…。それで、あの。傷とかは…」

 

「それはいいよ別に。つーか、大して怪我もしてないし」

 

「血、出てるのに…?」

 

 

バレた。つーか、見りゃ分かっちゃうよね。

 

攻撃を凌げてたっても、完璧にとはいかなかったからなぁ。特に腕への負担がヤバくて、どうしても対応が追い付かない場面とかざらだったもん。

 

根性で直撃だけは避けられてたけど、それでも当たるもんは当たった。お陰であちこち傷だらけ。あの女の子の方が何倍も強いっていう、何よりの証だな。

 

 

「ばっかお前、違うから。これはアレ。化粧だからね」

 

 

でも、馬鹿正直に「怪我しました。痛いです」なんていうのも恥ずかしくて、無意味に誤魔化してみたり。

 

 

「…血化粧?」

 

 

上手いこと言ったつもりかオイ。

 

 

「後で、ちゃんとしてあげる…。えっと…消毒」

 

「そう…」

 

 

そりゃあどうも。いや、それよりもだよ。今はもっと大事なことがある。

 

 

「………来ないな」

 

「あ…女の子?」

 

 

吹っ飛ばしてやったっつっても、ただそれだけ。あの子はダメージなんてほぼ受けてないはず。

 

最初の戦いが三対一だったにも関わらず、結果があれだったんだもん。そう思うのも致し方なしでしょうよ。

 

 

「なんだっけ…。お昼、話してたよね。うわさ?とかって…」

 

「そう。胡散臭い噂話の裏に居たわけ。変な怪物がさ」

 

「あの子も、そうなの…?」

 

「私達はそう考えてるんだけど…」

 

 

だからこそおかしい。こっちの攻撃が通じないくらい頑丈で、パワーもダンチな存在。

 

すぐにでも立ち上がって、こっちに襲い掛かって来てもおかしくなさそうなもんなのになぁ。さっきのパイルはあの子と距離を離すことだけ考えて撃ったから、「乗算」も使ってないし…。

 

 

(まさかだけど、今度こそ諦めて帰ってくれた なんてことは…)

 

 

本当にそうならありがたいんだけどなぁ。けど、それはない。現にまだ、あの女の子の魔力を感じてるわけで。

 

さっきまであんな至近距離で大立ち回りやらかしてたせいかなぁ。なんかこう、心なしか魔力の反応もすごく近くに感じるっつーか…

 

 

 

「ごっ……!?」

 

 

 

なんて考えてる中、唐突に背中に走った、痛みと衝撃。

 

肺の中の空気が、ゴハッと吐き出される。何が起こったのかは分からないけど、自分の体が風を切って飛んでいってるのだけは確かだった。

 

 

「あっ…!く…っ」

 

 

そこに再びの衝撃で、地面に落ちたことが分かった。草原の緑が、視界にこれでもかってくらい映ってる。

 

勢いを殺し切れずに滑って行こうとする体を、両腕を使って無理矢理に起こす。一瞬逆立ちみたいな体勢になった後、両脚で地面に着地。何とか体勢を整えた。

 

 

(くっそ…!何だってんだよ!)

 

 

ダメージに顔を顰めながら、自分が今まで立ってたであろう場所に目をやる。

 

相変わらずブスッとした顔のままの女の子と、大層驚いてるように見える年長さんの姿が見えた。

 

 

(おい、嘘だろ。いつの間に後ろに居たんだよ!?)

 

 

年長さんと話してはいたけど、あの子が飛んでった場所から目を離してはいなかったのに。なのにどうして…。

 

 

「まさか、マジで瞬間移動…?」

 

 

走行中の車に追い付いてくるなんて、そういう力でも持ってなきゃ あり得ないだろって思ったし、私も叫んだけどさぁ…。

 

 

(今まで隠してたってことかよ…)

 

 

これが、俗に言う舐めプってやつか…?って私が考えてる間に、女の子はこっちに向かって駆け出してくる。

 

それを見た年長さんが慌てて後を追ってるけど、女の子の方が早い。追い付くのは無理か。

 

 

(あーもう!慎重に戦おうと思ってたのに、いきなり直撃受けちまって…!)

 

 

体力は大きく削られて、背中に負ったダメージもまだ残ってる。マズいって…!

 

それでも、ただ黙ってやられるつもりもない。せめて足止めにでもなればと思って、パイルを構えた。

 

 

「!」

 

 

だけど、私がパイルを撃ち込もうとする直前、女の子の後ろから突然何か伸びて来て、彼女の動きを封じた。両腕両脚に巻き付いて、これ以上進ませないようにしてる。

 

女の子を封じるものは、よく見ると鎖。それがどこから伸びて来てるのかを確かめてみると、鎖を引っ張りながら踏ん張ってる年長さんが見えた。

 

 

「年長さんか!?にしてもこれ…」

 

 

鎖なんて使えたのかあの人。いやでも、あの人の武器って車だよな。その一部なら個別に切り離して使えるって話だけど、鎖なんて車には…

 

 

「あ、チェーン!?」

 

 

気付いた。や、まぁ、車に使われるもんではあるけど…。

 

でもあれ、確か冬道用のもんじゃなかった?まさか、一部ならってそういう意味か。一般的に車に使用される部品やパーツなら可とかそういう…?

 

 

(いや、有りなのかそれ…?しかも車のチェーンにしては長いし…)

 

 

いや、それは今はいい。また年長さんに助けられて、私はピンチを免れた。それに比べりゃあ些細なこと。

 

 

「っ……!」

 

「うぐっ……力…!強いっ…!」

 

 

そんなチェーンを使った妨害も、あの女の子が相手じゃ長く保たないみたい。

 

四肢に巻き付いてるはずのチェーンを、それを握る年長さんごと強引に引きずって、女の子はまた前進し始めてた。馬鹿力め…!

 

 

「…」

 

 

女の子はそのまま、チェーンに縛られた腕をぎこちなく動かして、私に手のひらを向けてくる。

 

 

「今度は何だ…?」

 

 

身構えながらおっかなびっくり見てると、その手に魔力が集まって、球みたいな塊が出来あがって。

 

女の子はそれを、私に向かって撃って来た。

 

 

「!?うあっ…!」

 

 

魔力球が、私のすぐ近くに着弾。地面が抉れて、草やら土やら舞い上がる。

 

動きを阻害されながらの発射だったから、狙いが上手く定まらなかったのか。直撃しなかっただけマシったって、この威力は…!

 

 

(また新しい技かよ!あの野郎、どんだけ…)

 

「あっ!」

 

 

年長さんの、驚いた声。急いで目を向けて見えたのは、女の子が年長さんを投げているところだった。御自慢の怪力で、チェーンごと年長さんを引っ張ったに違いない。

 

 

「わあああ……!っと…!」

 

 

こっちに向かって、年長さんが投げられてくる。よろけながらでも なんとか着地に成功して、私に駆け寄ってきた。

 

 

「はぁ…っ。ごめん。貴女が攻撃されたの見て 力、緩んじゃった…」

 

「謝んなって」

 

 

この人がチェーン巻いてくれなきゃ、今頃私はもっとボロクソになってたかもしれないんだからさ。

 

それに、結果的にはこうやって合流も出来たんだもん。これで正解ってことにしとこうよ。

 

 

「あの子…強い、ね」

 

「なー…」

 

「それに、なんか…不機嫌みたい」

 

「んー…」

 

「貴女、なんか…しちゃった?」

 

「こっちが聞きてーんだよなぁ…」

 

 

四肢に巻き付いたチェーンを豪快に引きちぎるのを見ながら、軽く話す。こっちガン見しながらやってんのが最高にCOOLだよ馬鹿野郎。

 

年長さんも言ってるけど、なんで参京で会った時からあんな不機嫌なんだ…。

 

 

「つか、ここまで助けてもらっといてなんだけどさ」

 

「?うん」

 

「マジでさ、これ以上付き合う必要無いよ?駐車場のとこでも言ったけど、あんた無関係だし」

 

「………」

 

 

この場所に送ってきて貰っただけでも充分だものな。

 

道中で武器も貸してもらったりしたけど、年長さんはあくまで善意の協力者。戦力に数えるべきじゃないんだ。

 

……つってもなぁ。

 

 

「言っても無駄かもなー…。あんたには」

 

「ん。分かってきたね。その…私の、こと」

 

「はぁぁぁー…」

 

 

返ってきた回答に溜息。知ってた。この人、控えめな態度に見えて結構頑固っつーか。何言っても退かないんだろうな、こういう時の年長さんって。

 

 

「………」

 

 

なぁんか嬉しそうにしてるし。なんだよ、ニヤついて。表情変わんねーけど。

 

 

「まぁ、うん…。いいやもう…。そんじゃ、その。まぁ……なんだ」

 

 

言いながら、パイルに魔力を込めて、女の子に向ける。あの子もチェーンを排除し終わったみたいだし、丁度いい。

 

 

「最後まで付き合ってもらおうか…なっ!!」

 

 

杭打ちを作動させて、衝撃波を飛ばす。それを見た女の子は、最小限の動きで躱そうとしてた。

 

馬鹿め。誰があんたに当てるなんて言ったんだ。

 

 

「!」

 

 

女の子の、ちょっと驚いたような顔。その直後に、地面が捲れて、土が盛大に舞い上がる。

 

私が狙ったのは、女の子の近くの地面。さっきの魔力球のお返しだ。勿論、それだけが目的じゃないけど。

 

舞い上がった土は、ちょっとした目眩しになってくれるはず。この隙に!

 

 

「年長さん、行って!」

 

「わかった!」

 

 

女の子の所へ突撃するように、年長さんに頼む。本人が一緒に戦う気満々なんだから、ここからは頭数に入れさせて貰おう。

 

年長さんに追従して、私も女の子に向けて突っ込んだ。

 

 

「はっ!」

 

「!」

 

 

ワイパーを生成した年長さんが、女の子へ一閃。それをすかさず手刀で受け止めて、二人は鍔迫り合いの形になる。

 

 

「…!」

 

「…っ」

 

 

女の子はその状況を嫌ったのか、空いた片手で年長さんのボディを狙う。年長さんは身を引いて、その一撃を回避した。

 

 

「そこ!」

 

「これもだ!」

 

 

年長さんはそこから更に退いて、両手にハンドルを生成。フリスビーみたいに投げ付けた。私も、使い過ぎない程度に魔力を込めて、パイルから衝撃波を撃つ。

 

 

「っ!」

 

 

女の子はハンドルを平手で一気に叩き落として、衝撃波は蹴りで相殺。多分、脚に魔力を込めたんだ。

 

その後、両手に魔力を集中。さっき私に撃った魔力球を、今度は複数個作り出して発射してきた。

 

 

「私の後ろに!」

 

「あいよ!」

 

 

年長さんに言われて、彼女の背後に隠れる。直後、年長さんは車のタイヤを二つ生成。それを盾に魔力球を弾きながら、女の子に再度接近した。

 

 

『ぬんっ!』

 

「っ!」

 

 

二つのタイヤを女の子に押し付けて、私と年長さんで思いっきり蹴り飛ばす。タイヤごと吹っ飛んだあの子に向けて、パイルを構えた。

 

 

「もってけぇ!」

 

 

杭を打ち込んで、もう一丁の衝撃波。流石に最大出力とはいかないけど、それでもタイヤをブチ抜いて、女の子に直撃。あの子は地面を転がっていった。

 

ここまでやれば流石に…とも思う。でも、相手が相手だ。ここから更に畳み掛ける!

 

 

「年長さん!」

 

「うん!」

 

 

女の子を追撃する為に、走る。あの子も起き上がってきて、魔力球をブッ放しながら、私達の方に駆けてきた。

 

 

「づっ!痛ってえこれ…!」

 

「っ…!我慢!止まらないで!」

 

「分かってる!」

 

 

年長さんがまたタイヤを作って盾にしてくれるけど、数が多くて防ぎきれてない。魔力球があちこちに当たってすっげえ痛いけど、ここで足を止めるわけにはいかなかった。

 

 

「!!」

 

 

そのままお互いに近付いて、とうとう近接攻撃の間合いに入る。女の子は手刀を構えて、鋭い突きを繰り出してきた。

 

 

「今度は、これ!」

 

 

年長さんが、車のドアを生成。それで突きを防ぐけど、威力が強過ぎたらしい。ドアは真ん中からへし折れて、突き破られて出来た隙間から、女の子の指が見えてた。

 

 

「今!」

 

 

だけど年長さんはすぐ横に回り込んで、チェーンで女の子を拘束。そのまま、真上に放り投げた。

 

 

「決めて!!」

 

「オッケェ!!」

 

 

落ちてくる女の子の真下に陣取って、パイルに魔力を込める。今度は全力。正真正銘、最大出力だ。勿論「乗算」も付けてある。

 

チェーンの拘束で、女の子はグルグル巻き。さっきみたいに引き千切ってる時間だって、もう無いはず。だったら、貰うぞ!

 

 

 

 

 

「これでっ…!どぉだあああああああ!!」

 

 

 

 

 

構えたパイルの先端に女の子が落ちてきて、ドスッとした重みが伝わってきたのと同時。私は杭打ちを作動させて、パイルに溜めた魔力を一気に解放した。

 

 

 

 

 

固有魔法で強力になった衝撃波が自分の周囲にも伝わって、空気がビリビリって震えてるのが分かる。

 

 

 

 

 

 

余波を浴びてしなる草達と、巻き上がる土埃。そして衝撃波で砕け散ったチェーンの欠片だけが、私の視界を支配していた。

 

 

 

 





マギレコ本編の出来事

・天音姉妹が発動させたドッペルに追い詰められた いろやち。この力は解放の証であると説く姉妹の話を遮り、尚もウワサの撃破に向かおうとするやちよに対し、天音姉妹は控えていた黒羽根達と共に道を塞ぐ。タイムリミットは、残り30分まで迫っていた。




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4-12 カッコつけ



木属性はあまり育成が進んでいないので初投稿です。





 

 

 

空気の震えは止んだ。草のしなりも無くなったし、土埃も晴れてく。砕けたチェーンの破片が、私の周りにいっぱい落ちてるのが見える。

 

 

(………)

 

 

とりあえずはあの女の子に、私が今出来る限りの、とびっきりの一撃をくれてやった。でも、果たしてどうなったのか。

 

年長さんと一緒になって攻撃もしたんだから、少しは良い感じにダメージ入ってくれててもいいんじゃないの?

 

って、思ったんだけどなぁ…。

 

 

「………」

 

「やっぱそうなるんかよ…!」

 

 

女の子は未だに、パイルの先端にのし掛かったまま。でも、それだけだ。

 

見上げて面を拝んでやれば、ジトーッとした目で私を見てる。どう見ても今しがた、馬鹿デカい衝撃波でブチ抜かれたやつがする顔じゃない。

 

流石に全く効いてないとは思いたくはないけど、何にせよまともなダメージなんて通ってねーわこれ。クソがよ…!

 

 

「えっと…どうする…!?」

 

「なんとかするしかねーの!」

 

 

年長さんが困惑してる。まさか、無傷で耐えられるなんて思ってなかったんだろうなぁ。

 

この人は初めて戦うから無理もないことだけど、メチャクチャなんだよこいつ。この女の子のご同類っぽい神社の怪物に至っちゃ、自己再生までしてやがった。

 

 

「しゃあねえ!年長さん、悪いけど引き剥がして…!」

 

「〜!!」

 

「!?なにっ…」

 

 

年長さんに手を貸してもらおうとしたら、女の子がムッとした顔で、パイルに力を加えだした。

 

嫌な音を立てて、パイルにヒビが入ってく。結構頑丈なはずのボディに、女の子の両手がめり込んだ。

 

魔女の攻撃でも傷つくこと無かったのに、こんな簡単に破損するってマジか…。

 

 

「っ!!」

 

「うぁ!」

 

「あぐっ…!」

 

 

少し呆気に取られた隙を突くみたいに、女の子が全身から魔力を放出する。それをモロに浴びせられて、私達は吹っ飛ばされた。

 

二人して地べたに転がされて、距離が開く。幾ら離れられたっつっても、こんなダメージ負いながらじゃ、あんまり意味無い。

 

 

「くっそ、いいとこ入った…!げぇっほ…」

 

「うっ……けほ」

 

 

ゲホゲホ言って片膝つく私達に、女の子がゆったり近付いてくる。舐めやがって…。もう勝負は着いたとでも思ってんのか。

 

あっちゅー間に一転攻勢された私達に出来ることは、料理されるのを大人しくまってることだけだとでも?

 

 

「ざっけんなっつーの…!」

 

 

認めてやるわけねーだろうが、そんなのを。

 

……つっても、これといって策だのなんだのがあるわけじゃないんだよなぁ…。パイルも壊されたし…。

 

あーもう、腹の立つ話だなぁオイ!

 

 

「えいっ!」

 

「!」

 

 

私の頭上をタイヤ二つが飛んで、女の子に激突。それでもやっぱり、あの子は微動だにしない。

 

 

「ね、ね」

 

「あによ」

 

 

年長さんが、自分のすぐ後ろに寄ってきたのを感じる。今のタイヤ、こうする隙をなんとか作る為だったのかな。

 

 

「何か、思いついた?」

 

「打開策?ねーよ」

 

 

ここで意地張ってる余裕は無い。素直に言わせてもらおうじゃないの。

 

 

「じゃあ、さ!」

 

「ん」

 

「コネクト!…しよ…?」

 

 

焦ったような声色で、そう提案される。

 

コネクト。

 

…コネクトォ!?

 

コネクトと来たかぁ〜……そうかい……。

 

 

「それよりも先にさ」

 

「…うん」

 

「アレ、どうにかした方がよくない?」

 

 

アレってのは要するに、今まさに目の前で女の子が振りかぶってる、タイヤのことだった。

 

 

「ダメージは入らないわ逆に利用されるわってどういうことよお前…」

 

「や、そんなこと言ってないで……あっ」

 

「あ」

 

 

言ってる間に、すっ飛んできて間近に迫るタイヤ。や、速くない?どんだけ力入れて投げたんだよ。

 

めっちゃ容赦しねえじゃんあいつっていうかそうじゃなくて!

 

 

(避けらんねえ!?)

 

 

回避は間に合わない。せめて防御して、ダメージを落とさないと…!

 

 

「大丈夫」

 

 

腕で自分の身を庇おうとした瞬間に聞こえたその言葉と、手のひらに感じる体温。手を握られたんだ。

 

「大丈夫」に対しての「何が」を口にする暇も無しに、二つのタイヤは私達の居る場所に、その猛スピードを落とさないまま殺到。

 

 

 

…で、そのまま通り抜けてった。何故か。

 

 

 

「あ?」

 

 

や、なんで?直撃コースだったと思うんだけど…。

 

 

「自分の体、見て」

 

「体」

 

 

視線を下に向けて、自分自身を見る。

 

 

「え、待って。なにこれ…」

 

 

線。線だ。自分の体が、一本の線みたいになってる。どういうこっちゃ。

 

ちょっとだけパニクッちまって、全身をもっとよく確認しようとするけど、なんか体が上手く動かない。首すらまともに回せないんですけど…!?

 

 

「あ…ダメ。下手に動かない方が、いい…」

 

「え、そうなん…?」

 

「この状態で無理に動くと…その…」

 

「その…?」

 

「折れる」

 

「折れる!?」

 

「…のかな…?」

 

「聞かれてもさ…」

 

 

テキトーこいてんじゃないよ。つーか、何か知った風だな年長さん。じゃ、私が今こうなってんのはこの人の仕業ってこと?

 

 

「あ、大丈夫…。今、戻すから」

 

 

戻すって…。

 

 

「わ、戻っ…たぁっ…!」

 

 

一本線みたいになってた体が、いきなり元の姿を取り戻す。バランス崩して、地面に尻餅。痛ってえ、ケツが…!

 

 

「ゴメン。びっくり、したね…?」

 

「したよ。あぁ、本当にね」

 

 

年長さんが私の視界に入ってきて、手を差し出してくる。手を取って立ち上がる時に、悪態を吐いたのはご愛嬌。そういうことにしとけ。

 

 

「あれ、固有魔法。私の」

 

「へえ?」

 

「ん…。ぺたんこにするの。色んなもの」

 

「ぺたんこ…」

 

 

さしずめ「平面化」ってとこか。

 

成る程。さっきまでの私は、線になってたわけじゃない。縦に薄っぺらくなってたってわけか。

 

側面から見れば多分、平面になった横向きの私が見えてたはず。

 

 

「まぁ、なにさ。…助けられちまった。ありがと」

 

「ん…よかった」

 

 

とりあえず、年長さんに礼は言っておく。確かにビックリはさせられたけど、それはそれだから。

 

 

「じゃあ、このまましよっか」

 

「んあ?」

 

 

何の話?

 

次の瞬間、迸る魔力の光。私達の握られた手から発してるそれを見て、私はすぐ理解した。

 

自分と誰かの魔力が混ざって、一つになる感覚。これは…

 

 

「コネクトかぁ!?」

 

「ん。時間、ないから」

 

「そりゃお前、そうだろうけど…!」

 

 

年長さんの言う「時間」ってのが何を指してるのか、私には分かってた。

 

女の子が魔力を凝縮して、デカい塊にしてるのが見えてるから。

 

私達が何かしでかそうとしてるのを悟ったか。

 

でも。でもだよ。

 

 

「あの、今更言うのもアレだけど、私コネクトは…!」

 

「じゃあ、お願い…!」

 

「聞けってオイ!」

 

 

当然みたいに私が攻撃することになってる。や、年長さんは本来関係ない人なんだから、私がやるのが筋と言えばそうかもだけどさぁ!

 

 

「あーもー!!」

 

 

ギミックを作動させて、パイルを腕から外す。新しいのを生成すると、壊れた方は光になって消滅した。

 

女の子が、魔力塊をいつブッ放してくるか分からない。すぐにパイルを構えて、起動する。

 

 

ここまではいい。問題はここから。

 

 

最後まで伝えることは出来なかったけど、コネクトをするに当たって、私には問題があった。

 

 

(私、コネクト苦手なんだよおおお…!)

 

 

魔法少女が集団で戦うことの多い神浜に置いて、非常に有効だって言われてるもの。他の魔法少女と魔力を合わせて、もっと強い力を発揮するやり方。

 

私はそれが、冗談みたいに下手くそだった。

 

でも今は、それを言い訳にしてる余裕は無いみたい。

 

 

「こうなりゃ自棄だ…!どうなっても文句言うなよ!」

 

 

やぶれかぶれ気味に、混ぜ合わせた魔力を全身に行き渡らせていく。私のものじゃない何かが、自分の中に広がってく感覚。

 

これだ。異物が、自分の奥底にまで染みてくようなこの感覚がどうしても受け入れられなくて、私のコネクトは上手く行った試しが無い。

 

 

(う〜……っ!このまま、パイルに…!)

 

 

それでも、今はやってみせるしかない。大丈夫だ。混ざり物があるからっつって、半分は私の魔力でもあるんだ。それなら、やれないことは…

 

 

(っ…!ダメ!)

 

 

無理矢理に受け入れたものを、強引に攻撃に転化しようとしたのがいけなかったのか。

 

パイルに魔力をありったけ流し込もうとしたところで堪えられなくなって、制御を手放しちまった。

 

 

「魔力がぁっ…!」

 

 

コネクトで強力になった魔力が、コントロールを失ったことで暴走を始める。

 

パイルのあちこちから勢いよく噴き出してきて、私を盛大に振り回した。

 

 

「わあああああああ!!」

 

「え!ちょっと!?」

 

 

上下に、左右に、前後に、フラフラ。ちょ、無理!無理ですこれぇ!!

 

 

(こんな状態で撃ち込んだら、どうなるかわかんねーぞ!?)

 

 

このまま攻撃に移らないで、魔力が散っていくのを待つって手もある。でもそれだと女の子の攻撃が…!

 

 

(くっそぉ…。ワンチャンこれ見て怯んだりしてくんねーかな…!)

 

 

チラッと女の子を見るも、あの子は構えを解いてない。顔も変わらず仏頂面で、動じてる様子は微塵もない。ダメですか、そうですか…。

 

 

「っ!」

 

「あ、ちょっとぉ!?」

 

 

しかもタイミング悪く、充分にチャージが終わったらしい魔力塊を発射してきやがった。やめてくんねーかなぁ!?

 

 

「うおおおおー!!来るんじゃねえええええ!!」

 

 

いたいけな少女である私の心からの叫びは非情にも無視されて、当たればすっげえ痛そうな魔力塊が、グングン迫ってくる。

 

なんかあったよな、ああいうの。そうだなぁ…確かマジ子に貸してもらった、デカゴンボールとかいう漫画で…

 

 

「馬鹿アアアアアアアアア!!」

 

 

それは、私をこんな状況に追い込んだ、女の子や年長さんに対しての訴えなのか。

 

はたまた、こんな時に漫画のことなんて考えて現実逃避に走った、自分への戒めなのか。

 

なんかもう色々と追い詰められてキャパオーバーしちまった私は、気付けばパイルを思っくそブチ込んでいた。

 

 

「ぶっへえええええええ!!」

 

 

年頃の女学生が発するものとは到底思えない、クッソ汚い叫び声。私だって嘘だと思いたかったわ、こんなん…。

 

でも、しゃーねえじゃん!ただでさえ暴走してた魔力を撃ち出したらこうなったんだって!

 

もうなんか吹き荒れてんの!顔面に台風 直で浴びてるみたいになってんだよ!目なんて碌に開けらんないって、こんなの…!

 

 

「どあああああああああ!!」

 

 

こんなもん打ち込まなきゃよかったって後悔したところで、デカい爆発が起きた。爆風を浴びた私は、後ろに大きくふっとばされる。

 

私の攻撃と、女の子の魔力塊。二つの魔力がぶつかって拮抗した結果が、今の爆発なのか。

 

 

「だっ…!っ…!うぇぇ…っ」

 

「あっ……大丈夫!?…じゃない、よね…」

 

 

地べたをバウンドしまくって、ようやく止まる。痛みと衝撃が辛いけど、少しは半狂乱になった頭が冷えた。

 

慌てて駆け寄って来たらしい年長さんの声を聞き流しながら、ヨロヨロ立ち上がる。

 

 

「あの…今のって…」

 

「私、すっげー苦手。コネクト」

 

「あっ……そう、なんだ…」

 

「なんか失敗すんの。毎回」

 

「………」

 

 

年長さんに、端的に説明する。ほんと、なんでなんだろうなぁ…。年長さんとマジ子でやる分には問題ないのにさ…。

 

 

「だから、やんない。私は」

 

「……ごめん、なさい…」

 

「いいって。あんた悪くないし」

 

 

年長さんが言ってた通り、さっきは時間が無かったし。事前にコネクトのことを話しておかなかった、私も悪いんだから。

 

 

「でさ、ちょっと質問なんだけど」

 

「え…あ、うん。なに…?」

 

 

爆煙を裂いて、あの女の子が飛び出してくるのが見える。あの激しい爆発を浴びたのは同じなのに、随分綺麗な身なりだこと…。

 

 

「あの子自体を平べったくするとかは…」

 

「……自分以外の人間とか、大きいものは、ちょっと…。魔力、使い過ぎちゃう」

 

「そう…」

 

「自分と繋がってたら、楽だけど…。そしたら、ぺたんこ。私も…」

 

 

申し訳なさそうに、首を横に振る。そっかぁ…。それじゃあ無理だな。ま、そう上手くは行かないってことか。

 

 

「じゃ、これ」

 

「わっ……なに?」

 

「それ、預ける」

 

 

一旦変身を解除して、年長さんに自分のスマホを渡す。困惑したような雰囲気。それはそうだよね。

 

 

「車でさ、迎えに行ってくんない?あの二人のこと」

 

「え……」

 

「連絡先、交換してないでしょ」

 

「そう、だけど…!」

 

「あいつらもこっちに向かってるだろうしさ。連絡取り合いながらだったら、合流もすぐだよ」

 

「でも、一人になっちゃったら!」

 

 

私の言ってることは理解できても、納得は出来ないみたい。あの女の子も近付いて来てるし、早いとこOKしてもらいたいんだけど。

 

でも、当たり前か…。ここまで二人で戦っても押されっぱなしだったのに、自分からサシでやるような状況作りに行くなんて、まぁ自殺行為だもんな。

 

 

「…その辺は大丈夫なんだなぁ、これが」

 

「大丈夫、って」

 

「戦ってる内にさー。気付いたことあんだよね、私」

 

「それは」

 

「教えない。あれよ。秘策ってやつ?」

 

「…」

 

「あいつ、なにかと私に執着してるっぽいしさ。だからこそやりやすい作戦っつーか」

 

「………」

 

「とにかくさ、それがありゃ、私一人でもなんとかなるかもしんないわけよ」

 

「…………」

 

「だから、ね。行って」

 

「………………」

 

 

喋る私を、無言で見つめてくる年長さん。心なしか、眉間に皺が寄ってるようにも見える。

 

 

「……………」

 

「……………」

 

「………絶対、戻ってくるからっ。二人、連れて」

 

 

私のスマホを仕舞って、年長さんが車を生成する。

 

女の子の草を踏み締める音が、はっきり聞こえるようになってきた。近い。

 

 

「絶対…絶対、連れてくるから。だから、耐えて…!」

 

「………」

 

「無事でいて…!絶対。絶対、だよ…!死んじゃ…!」

 

「死なない。死なないから。行けって」

 

「……………っ!」

 

 

大袈裟だなーなんて思いながら、運転席に飛び乗る年長さんを眺める。

 

そのまますぐにエンジンをかけて、車が発進する。

 

スピードを出して草原をあっという間に駆けていくのを見送りながら、また魔法少女の姿に変身した。

 

 

「………」

 

「……よぉ。おまたせ」

 

 

振り返れば、あの謎の女の子。心境の変化でもあったのか知らないけど、不機嫌そうだった顔が、少し穏やかになってるように感じた。

 

 

「…なぁ」

 

「………」

 

 

さて、年長さんには秘策だのなんだの宣ったわけだけども。

 

 

「わかんねーヤツだよなぁ。あんたもさ」

 

「……?」

 

 

無いんだよなー…そんなもん…。

 

ああでも言わなきゃ、私のお願い聞いてくれないかもって思ったから。

 

戦ってて分かったことがあるってのは、まぁ嘘ではないんだけども。

 

 

「攻撃はしてくるけどさ。あんた、なんていうか…敵意?みたいなのが無いっつーか…」

 

「………」

 

 

年長さん、見てたなぁ。私のこと。ジーッと。

 

バレてたね、ありゃ。嘘吐いてること。

 

 

「私達を倒そう、殺そうって感じじゃなくて。拗ねてるとか、駄々捏ねてるとか、そんなようなやつ」

 

「………」

 

「まぁ、その…。ただの勘なんだけどさ…」

 

 

それでも最後には車を出して行ってくれたってことは、信じてもらえたってことでいいのかな…。

 

 

「しかも、この前の神社では助けてくれるんだもん。…ほんと……わかんない」

 

「………」

 

 

もしそうなら、私に今出来ることは、一つだけ。

 

 

「…わかんないけど、さ。私、そういうのに呑まれたくないって思うし……」

 

 

凌いで、生き残る。そうすれば、年長さんが二人を連れて来てくれる。

 

それを待って、足掻いてみる。

 

 

「だから、さ。やるよ。私」

 

「………?」

 

「あんたと戦う。」

 

 

深呼吸して、腹を決める。本日三つ目のパイルを生成して、構えた。

 

 

 

「勝負!!」

 

 

 

パイルに魔力を流して、女の子に仕掛ける。

 

ここまでくれば多分、後もう少し。堪えてみせるんだ。必ず…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………それで。なにやってるんですの、貴女」

 

「うわ〜、赤ちんやらしいんだぁ」

 

「るっせ、バカ…」

 

「〜♪」

 

「ええ……」

 

 

 

はい、負けました。

 

 

 

あの後、気合も充分に女の子と戦った私だけど、結果は惨敗。

 

劣る実力に、疲れた体と、消耗した魔力。

 

そんなんでほぼ無傷の相手に太刀打ちできるわけもなく、そりゃあもうあっさり蹴散らされて終了。

 

 

抵抗する力の残ってなかった私は、女の子に押し倒されるわ、馬乗りになられるわ…。

 

挙句の果てには抱きしめられるし、何度もキスされるし…。

 

情けない話、気を良くしたらしい女の子に、されるがままになってるしかなかった。

 

 

「大学生さんの話じゃ、秘策があるとかなんとか言ってたって聞きましたけど?」

 

「今イチャイチャしてるのがそれなん?」

 

「違う、と思う……」

 

「…………」

 

 

めっちゃ恥ずかしい。年長さんはちゃんと二人を連れて来てくれたのに、私はこんな…。

 

なんかさぁ、すっげえ小物臭え感じしないか自分。あーもう、今すぐ自室に帰ってベッドで枕抱えながらジタバタしたい…!

 

 

「あのー、とりあえず動けないんで。ちょ、助けてもらっていいすか…」

 

「えー」

 

「別にいいんじゃありませんの?そちらの方も幸せそうですし」

 

「えと、そういう幸せも…ある…かも?」

 

「おめーらよぉ!!」

 

 

他人事だと思いやがってこいつら!

 

てか、年長さんはともかく、先輩とマジ子は曲がりなりにもチームメイトじゃないんかよ!?

 

 

「〜♡」

 

「アーッ!あ、ちょ!舐めた!こいつ首筋舐めた!ちょ、やめ…!」

 

「まぁ、情熱的」

 

「言ってねーでなんとかさ…!ひやぁぁ!吸ってる、吸ってる!キスマーク付けてるってこいつ!ちょ、マジで助けて…!」

 

 

 

 

 

駆け付けてくれた仲間達に、とんでもない痴態を晒す私。

 

我ながら情けなさ過ぎて、もうすぐ沈んで行こうとしてる夕陽と空模様が、やけに目に染みた。

 

 

 

 

 

生きるか死ぬかの、文字通り死闘を演じてみせるはずだったのになぁ…。

 

どうしてこんな間抜けな空気になったんだ……。

 

 

 

 

 





マギレコ本編の出来事

・残り時間20分。ウワサ本体を目指して水路を進む いろは、フェリシア、杏子の3人。結界が展開され、進路が合っていることに安堵したのも束の間。次々と不幸が襲いかかり、更にはミザリーオウルのウワサまで姿を現した。


・制限時間、残り1分。自分の攻撃がミザリーリュトンに通じず、焦るフェリシア。もうどうしていいのか分からず、全力でリュトンをいろは達の方へとかっ飛ばす。いろは はフェリシアと杏子に、「そいつを貫け!」「もう時間がねえ。一発勝負だ!」と、後を任された。



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4-13 イチャイチャ?



湯国市はおっかないので初投稿です。





 

 

 

「あー、なんか白けましたわねー。帰りますかもう」

 

「ちょっとぉ!」

 

 

や、助けてってば…。頭ぽりぽり掻いてんじゃないよ。

 

 

「どーにかしてよ、この子…。私の力だけじゃ無理だって」

 

「そんなこと言われましても…」

 

 

渋々って感じで女の子に近付いて、先輩は女の子の身体に触ろうとする。

 

 

「!」

 

「おわっ」

 

「〜!」

 

「あー、やっぱり…。これですもの」

 

 

でも女の子はそれを警戒したのか、ちょっと険しい顔で視線を返して、先輩を威嚇してるように見えた。

 

でも、それと同時に私に抱き付く必要ある?

 

 

「赤さん、ダメですわこれ。なんかもうオーラ出てます、オーラ」

 

「えぇ〜…?」

 

「なんか分かるかもそれ。こう、マジで渡さーん!みたいな?」

 

 

先輩がスススーッと離れてく。渡さんってなにを。誰をよ。

 

 

「内心すっとぼけてそうだから言って差し上げますけどね。そりゃ貴女に決まってるでしょう」

 

「じゃなきゃ、そこまでやらない…よ?」

 

「………」

 

 

ぐぅ。いやまぁ、分かってたけどさ…。最初に会った時も、いきなりブチュッとしようとしてたもん。

 

この子からはこう…私に対する何か、ベタつくようなもの感じるっていうか。

 

 

「貴女がどうにかするしかありませんわよ」

 

「つったって…」

 

「でもさー、前は話せてなかった?」

 

「神社の時か…」

 

 

会話できてたのかなぁ、アレは…。

 

いや、こっちの言葉が伝わってはいたのか。だから帰ってくれた。…その為の条件はまぁ、うん。

 

 

「………」

 

「?」

 

 

見つめ合う、私と女の子。首傾げてるけど、私の視線に何か期待してるのか、ほっぺが赤い。

 

目もなんか濡れてる感じ。熱に浮かされてるっていうのか。

 

 

「えーと…」

 

「…?」

 

「とりあえず、ちょっとどいてもらって…」

 

「〜!」

 

 

イヤイヤって、首を横にブンブン。そっか、嫌かぁ…。

 

だけど、私だっていつまでも馬乗りになられてるのはほら、困るから。

 

やっぱ人が乗っかってるのは重いし。人じゃないだろうけど。

 

 

「そこをこう…なんとか」

 

「!」

 

「頼むって…。別に、あんたに対してキレてるとかじゃないからさ」

 

「〜!」

 

「あぁ、いやちょっ…そんな顔しなくても…」

 

 

涙目になるくらい離れたくないのか…。そんなことある?

 

…ありそう。この子に限っては。

 

 

「どいてくんないや…。どうしたもんかなこれ…」

 

「あの時は確か、キスさせて帰ってもらいましたわね」

 

「お?じゃ、やっちゃうかぁー?今回も」

 

「速攻思い出させてくるのやめてくんない」

 

 

折角見ないふりしてた手だってのによぉ!

 

 

「なんですか。どうせ私達がここに来るまでチュッチュしてたんでしょう」

 

「チュッチュて」

 

「しけこんでたんでしょう」

 

「この子が一方的だったの」

 

「助平」

 

「なんで!」

 

「やーだぁー、もぉー!やーらーしーいー!赤ちん、やーらーしーいー!」

 

 

くっそ…ブチのめしてやりてえこいつら!

 

 

「大体ね。貴女はファーストキスがどうのと気にするような乙女チックな人間でもないのでしょうから、唇くらい幾らでもくれてやればよろしいでしょう」

 

「幾らなんでも失礼過ぎるだろあんた…」

 

「乙女ならトランクスを下着にしたりしません」

 

「うるせーんだよ!」

 

 

ほんと、やけに弄ってくるな今日なぁ!?あーもう、わかったよ…!

 

 

「そうすりゃいいんだろ…!」

 

「マジぃ!?ヘーイ、キース!キース!」

 

「それ以上茶化すと勉強時間倍にするからな」

 

「マジごめんなさい」

 

「教えるの私じゃないですか…」

 

 

外野をどうにか静かにさせて、改めて女の子に向き合う。涙目ではなくなったけど、不安そうにしてるのは変わらない。

 

不機嫌だったり笑顔だったり…。そんで、今はこの表情でしょ。顔の忙しいやつ。

 

どんな気分かわかりやすいのは、嫌いではないけど。

 

 

「………なぁ」

 

「………?」

 

「もう、日も沈むしさ。そろそろ腹も減ってきそうだし。…その、帰りたいわけさ」

 

「………」

 

「離してほしいんだよね、私のこと」

 

「〜!」

 

 

またイヤイヤ。やっぱりそうなるかぁ…ただ頼むだけじゃ。

 

 

「…またしていいから。あの……ちゅーって」

 

「………」

 

 

あ、ピクッとした。釣れたか?

 

 

「…………〜!」

 

「ええ〜…」

 

 

嫌なんかい。ていうより、それだけじゃ足りないって感じなのかな。案外欲張りか、この子…?

 

 

「……分かった。じゃ、こうしよ」

 

「?」

 

「会いに来ていいよ。好きな時に」

 

「!」

 

 

一瞬驚いたような顔して、次の瞬間にはニッコニコの笑顔になる。よかった。これならなんとかなりそう。

 

 

「ただし!暴力は無し。戦うのも無し。OK?」

 

「〜♪」

 

「あと、無理矢理迫ってくるのもダメ。それが守れるなら」

 

「〜!!」

 

「あ!?ちょ、ばっ…!む〜!」

 

 

こっちの出す条件をちゃんと聞いてもらいたいのに、そんなのお構いなし。

 

もう嬉しくて堪んねえみたいな顔したと思ったら、ガバッと覆いかぶさって来て、そのままガッツリとキスされた。

 

ただでさえ先輩達が来るまでの間にしまくってたのに、飽きたりしないのかなぁ…。

 

 

「むっ…んぅ…んんー……んっ…」

 

「………」

 

「うひゃー……なんか…」

 

「うん…すごい、ね…」

 

「リップ音っていうんですかね…?それも相まってこう、生々しさが…」

 

 

なんかコソコソ話してるし…。つーか、何が悲しくてこんな場面をチームの奴らに晒さなきゃならないんだよ。

 

あーもう、恥ずかしいって。顔あっつ…。

 

 

「ぷぁ…」

 

「………」

 

 

私の唇やら口内やらを好き放題にして今度こそ満足したのか、女の子がようやく唇を離してくれた。うわぁ、すっげー満足そう…。

 

 

「………」

 

「………♪」

 

 

馬乗りになった女の子が私から離れて、草原の上に座った。

 

とりあえず、解放されて一安心。上体を起こして、楽な体勢を取る。軽く溜息が出た。

 

 

「はぁ…」

 

「?」

 

「あー、や、うん。なんでもない…」

 

「………」

 

「じゃあ…とりあえず、連絡先教えとかないと」

 

「?」

 

 

自分の発言には責任持たないと。会いに来ていいって言っちゃったのは私だし。

 

そう思って連絡先のことを話したんだけど、女の子はその意味がよく分かってないみたいだった。

 

 

「や、会いに来るには必要だろ。今日は多分、偶然会っちまっただけなんだし」

 

「……」

 

「私の番号とか教えるからさ、会うなら連絡してから…あーでも、あんたってスマホとか持ってんのか…?」

 

 

人間かどうかも怪しいんだもんなぁ。下手すりゃ、そういう端末の存在すら知らないって可能性も…。

 

 

「………」

 

 

首を横に振る女の子。あー…持ってなかったかぁ。

 

 

「そっかぁ…。じゃ、どうすっかなぁ…。またいきなり出てきて襲われるのは…」

 

「………」

 

 

また横にフルフルってする。否定の意思表示。何に対してだろう。もう襲い掛かったりしないよってこと?それとも…

 

 

「え、なに。もしかして、要らないの?連絡先…」

 

「………」

 

 

今度は首を縦に振る。要らない。要らないと来たか。

 

 

「つってもなぁ…。じゃあどうやって…」

 

「………」

 

「あ、じゃあ紙に書いて渡すか…。年長さん、悪いんだけど私のスマホと、なんか書くもの…」

 

「………♪」

 

「あ……」

 

 

連絡先をどうにか教えようとしたけど、そうする前に女の子は消えちゃった。

 

神社の時と同じように、空気に溶けてくみたいな感じで、スーッと。

 

 

「……なんなんだよ」

 

 

出てくる時も、居なくなる時もいきなり。せめて、何か一言あってもいいのになぁ。喋れるのか知らんけど。

 

どうすんだろ…。私の連絡先、知らないままなのに。

 

 

「…よかったんですの?あんな約束して」

 

「かえって、危ない…かも?」

 

「え、赤ちん危ないの?」

 

「………貞操?」

 

「提訴?」

 

「黙ってろ、このバカ…」

 

 

つーかマジ子お前、よく知ってんな、提訴なんて言葉。勉強の成果かなにか?

 

まるで嵐が去っていったみたいに静かになった草原をぼんやり眺めながら、立ち上がる。ずっと同じ体勢で寝っ転がってた身体を、思いっきり伸ばした。

 

 

「あぁー…」

 

「えと…お疲れ、様…」

 

「ほんとな。疲れたぁ…」

 

「車で走ってる時も戦ってたんしょ?マジヤバいよねそれ」

 

「んー…」

 

 

そっちよか、あの女の子に好き勝手されてた時間の方がよっぽど…

 

 

「え、どうしたんです。いきなり頭なんて抱えて…」

 

「んぬぁ〜………!」

 

 

女の子にされたことを思い出して、悶絶。もー!また恥ずかしくなってきたじゃねーかよ!

 

 

(あの子もなぁ…。なんか妙に熱っぽいっつーか…!)

 

 

いまさっきの長いキスだってそう。必死にがっついてる感じがあったんだけど、それはこう、気持ちが溢れてそうなった的な。

 

とにかく欲しがってるように思えて、で、唇とか舌が持った熱と一緒に、それが伝わってきたっつーかさ…。

 

でも、なんで私なんだ。あの子にとって私は、そこまでのことをしたくなるような人間ってことなのか?そんな馬鹿な…。

 

 

(あー……!ほんっとに分かんない…!)

 

 

それ以上にもっと分かんないのは、自分自身の気持ち。

 

押し倒されて、抱きしめられて、涎でベッチャベチャにされて…。

 

でも、その…良かったっていうか…。いや、良かったってなんだよ!

 

 

(あてられちまったのか…?あの子の熱に…)

 

 

なんて言ったらいいのかな…。あの子の体重を感じたり、ねちっこくキスされてたりしたらこう…変な気持ちになってきて、それで…。

 

 

(はぁ……。おかしくなっちまったのかなぁ、私…)

 

 

こんなの、普通じゃない。人として変じゃんか。

 

たかだか15年しか生きてない小娘でも、それくらいは分かる。

 

分かってるはずなのに。それなのに…。

 

 

「いいやもう……。ほら、帰ろ…」

 

「いいんですか?なんかよくわかりませんけど…」

 

「うん…」

 

 

最近になって、自分のことが分からなくなることが増えた。それがどうしてなのかを考えて、結局答えが出ずに辟易することも。今回だって、それと似たようなもん。

 

でも、疲れた体と頭で考えたって、碌な結論が出るわけもない。そもそも出せるとも思えないし。

 

なんにせよ、今日はもう休もう。女の子との連絡手段のこととか、考えることは他にも…

 

 

 

 

 

 

 

「よーやく見つけたわよっ!アンタ達ぃー!!」

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

「えっ…なに?」

 

 

もう引き上げようって考えてたところに響いてきた、誰かの大声。

 

声のした方に振り向くと、何やら妙ちきりんな格好の集団が、こっちにドタドタ走ってくるのが見えた。

 

先頭の白いローブ一人と、後ろに居る黒いローブが四人。五人組だ。

 

 

「あ”ぁー…!!はぁー…はぁー…!よ…やく…追い付いたっ…!げえっほげっほ…!!」

 

「隊…ちょ…。とりあえず落ち着いて…けほっ…」

 

「えーと…」

 

「誰?」

 

 

ようやく見つけたとか言ってたけど、私達のことを探してたのか?

 

てか、どいつもこいつもやたら疲弊してるように見えるんだけど、大丈夫?めっちゃぜーぜー言ってる。

 

 

「あー!先輩、この人達!」

 

「ええ。前に会った方々ですわね」

 

「えっと。知ってる、の…?」

 

「なんか絡まれまして。ほら、赤さんに電話をかけたでしょう。その時まさに」

 

「あー」

 

「ご覧の通り、向こうの方が数が多いですから、万が一に備えてこちらに合流してもらおうかと思ったのですが…」

 

 

逆に私に呼び出し食らったと。成る程ね。何の用だって思ってたけど、そんなことが…。

 

 

「そんで?なんなん、コイツらは」

 

「それが、色々と聞く前に赤さんから応援を頼まれたものですから。詳しいことは」

 

「爆弾でドカーン!ってやって、逃げてきたの!」

 

「そうなん?」

 

 

まだ息を整えてる、リーダーっぽいやつに聞いてみた。

 

 

「はぁ…はぁ…え、私?…ええ、まぁ…そうね」

 

「あの…大丈夫?皆疲れてる、けど…」

 

「あぁ、うん。それは…。やっと落ち着いてきたわ…」

 

 

他のやつらも同じらしい。息を整えながら、リーダーっぽいやつの後ろに控えてた。

 

 

「ふぅー…ふぅー…。よし!もう大丈夫!」

 

「そっか。でさ、あんたら結局どういう人達よ」

 

「ん!まぁ待ちなさい!その辺をあれこれ説明する為にわざわざ探し回ったんだからね!ホントに!」

 

 

日を改めましょうってことで帰ってもよさそうなもんなのに、わざわざそんなことしてたんだ。それは、なんていうか…

 

 

「…ご苦労様?」

 

「?ええ、ありがとう!」

 

「はぁ…」

 

「とりあえず、自己紹介ね!いい?よーく覚えときなさい!私達は」

 

「『マギウスの翼』というらしいです。お名前」

 

「ちょっと!!」

 

 

へー、マギウスの翼ねぇ。チーム名かなんかなのかな。ローブは専用のコスチュームとか?

 

 

「あの。先程は失礼致しました。事情があったものですから」

 

「でも、今はもうだいじょーぶだよー!なんか、アタシ達に用事あるんだよね?」

 

「……ええ」

 

「それなら、とりあえずどっか移動しない?飯時も近いし、なんか飲み食いしながらとか…」

 

「…いいわ。ここで済ませるから」

 

「あ、そう?」

 

「ええ、ええ…」

 

 

言いながら、リーダーっぽいのが片手を挙げる。なにしてんの?

 

 

「済ませるわ。すぐにでも……っね!!」

 

「っ!?」

 

 

そのまま挙げた手をビッと下ろしたと思ったら、後ろに控えたやつらが、あちこちに跳んで散っていく。

 

何事だって思って目で追うと、奴等がまるで、私達全員を囲むような配置に就いてるのが確認できた。え、マジでこれどういう…

 

 

「拘っ束!!」

 

『了解!』

 

 

リーダーっぽい…もうリーダーってことでいいわ。リーダーのやつが声を張り上げて命令を下すと、他のメンバーが揃ってそれに応じた。

 

 

「なんだぁ!」

 

「わ、わ…!ちょ、どゆことぉ!?」

 

 

黒いローブの下から鎖みたいなものが勢いよく伸びてきて、私達に纏わりつくみたいな軌道を見せてくる。

 

不意を打たれた私達はそれに対応出来ずに、全員纏めて縛り上げられちまった。お互いの体が必要以上に密着して、割と苦しいことになってる。

 

 

「よーし、全員そのまま待機!しっかり動けなくしときなさい!」

 

 

頭に?を浮かべっぱなしな私達。

 

それを他所に、縛るよう命令を出した張本人が、メンバーに指示を出しながら近付いてきた。

 

 

「ちょっと、どういうことですの貴女!」

 

「いきなり何すんのさー!こーいうのシツレーって言うんじゃないのー!?」

 

「アンタらの問答無用の爆弾だって、充分失礼だったでしょうが!」

 

 

あ、うん。それはそう。

 

 

「大体ねー、甘いのよアンタ達は!こーんな怪しい身なりのやつらが堂々と近付いてきて、ゆっくりお話しましょうなんてのを馬鹿正直に信じるなんてね!」

 

「隊長、自分で怪しいって言っちゃうのは…」

 

「しゃらーっぷ!!」

 

 

自覚はあるんだ…。じゃ、やめりゃあいいのに、その格好…。

 

 

「質問に答えなさいな!突然こんな不躾な真似をして。何かこうするに足る理由があると言うのなら、きちんとした説明を…!」

 

「抵抗されても困るもの。こっちも手荒な真似をする気は無いけど、保険よ保険!」

 

「抵抗…?あの…この子達、別にそんな…。私も…」

 

「あぁ、そうだわ!自己紹介よ。忘れてたわね!」

 

 

年長さんの言葉を無視して、リーダーの白ローブは続ける。

 

 

「この街で何も知らずにのうのうと生きる、無知も極まるアンタ達に、改めて教えてあげる!耳かっぽじ…るのは痛そうだから、心に刻み付けるつもりで聞きなさい!」

 

 

ビシッと人差し指を私達に突き付けながら、やたらと自信満々なその声を張り上げて、堂々と私達に名乗った。

 

 

 

 

 

 

 

「私達は、『マギウスの翼』!この神浜市において、全ての魔法少女をその宿命からの解放に導くという、崇高にして!気高き使命を持つ者達よ!!」

 

 

 

 

 

 





マギレコ本編の出来事

・ミザリーリュトンのウワサを撃破。ウワサからの祝福の言葉を受け取り、やちよ、鶴乃と合流。抵抗を続けるつもりの天音姉妹を止めようとするやちよの言葉に同調しながら現れたのは、やちよの古馴染であるみふゆだった。


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4-14 休日の終わり



フォークロアの面々の過去がキツ過ぎて辛いので初投稿です。





 

 

 

「カイホー…?」

 

「何のこと…?それに、宿命って」

 

 

私も、白ローブに言われたことを反芻する。なんか若干馬鹿にされた気がしないでもないけど、それは今はいい。

 

解放。宿命からの解放。「全ての魔法少女を〜」とか言ってたな。魔法少女の宿命ってなんだ。

 

 

「いまいちピンと来ませんけど…それは例えば、魔女との戦いのことだったりですの?」

 

 

あー、なるほど。

 

確かにこっちは命張ってるわけだし、それに対して疲れとか億劫さとか感じる時もある。私生活の中にそれをねじ込んでる訳だからな。

 

にしたって、宿命なんて御大層な言い方する程なのそれ?

 

 

「まぁ、それもそうと言えばそうかしら?でも違う。NOよ、NO」

 

「あ、そう。じゃ、正解聞かせてもらえる?」

 

 

適当に流して、続きを促す。妙に勿体つけられても面倒だし。

 

まどろっこしいのも、焦れったいのも嫌いなんだよ。違うならさっさと答えを教えて貰おうじゃん。

 

 

「いいわよ。じゃ、教えるけど」

 

 

いいんだ…。

 

 

「隊長!それよりも本題に…」

 

「え?………あ、あぁー!うん!そうね。そう!本題よ本題!」

 

「もー、忘れないで下さいよ!」

 

「ずっと動き止めてるのもキツいんですからねー」

 

「言うって!今言うから!」

 

 

話そうとした白ローブを、黒ローブ達が遮る。

 

いや、先に話すことがあったんなら、まずそれを話しなさいよ。こっちの聞きたい話が流れちゃっただろ…。

 

 

「ホンダイってなに?魚?」

 

「おバカねー、アンタ!どーしても話したいことがあるってことよ!」

 

「へー。じゃー、なに?カシウスの士のヨージって」

 

「マギウス。マギウスの翼ね。OK?じゃ、本題ね」

 

 

マジ子のバカっぷりも軽くあしらって、小さく咳払いをしながら、白ローブは続けた。

 

 

「はっきりと言わせてもらうわね。アンタ達、これ以上うわさに手を出すのはやめてちょうだい」

 

「あん?」

 

「うわさって」

 

「だから!アンタ達、前から何かと嗅ぎ回ってたでしょう!それをやめなさいって!」

 

 

それが本題なのか。それを言い渡す為に、私達の所まで。

 

発言からして、白ローブの言う「うわさ」ってのは勿論、私達が散々情報を探し回ったもののことだろ。でも、どうしてこいつらはそれを知ってるんだ。

 

 

「…そういえば貴女達、中央区でもうわさのことを言ってましたわね。邪魔をするなとも」

 

「?そうね。それが?」

 

「うわさを探るという行為が貴女達にとって不都合なのだとするなら、うわさと近しい関係にある可能性が高い」

 

「ふうん?」

 

「うわさに潜む怪物を利用して何か企んでいるか…。それとも、まさかあれらを生み出したのは、貴女達なのか…」

 

「…………」

 

「図星です?その沈黙」

 

 

先輩の推測を聞いた白ローブの表情が、ちょっと硬くなったように見えた。

 

フードからチラッと見える目が細くなって、奴は深い溜息を吐く。

 

 

「なによ、お利口じゃない!そう。解放の為に必要なのよ。うわさは」

 

「やはり…」

 

「あんなバケモンが出てくる様な噂話がか。冗談キツいって」

 

「よかったわね?冗談なら」

 

「一般人だって巻き込んで」

 

「救われなきゃだもの。人知れず絶望してる女の子達の為に、少しくらい災難を被ってくれたっていいじゃない」

 

 

「どうしても抵抗はあるけどね」なんて続ける。良心は普通にあるんだな。

 

それなのに他人をそんな、生贄みたいに考えて。正気でそんなことやる奴らか…。

 

 

「んー…!なんか分かんないけど、人にメーワクかけてるってこと、それ?」

 

「耳が痛い…。でもまぁ、うん。そういうことになるわよね?」

 

「よくない…と、思う。ないの?他の、やり方…」

 

「言われても困るわよ。そうするのが良いって、マギウスが言うんだもの」

 

「マギウス…?」

 

 

マギウスって。それはお前ら、愉快なローブ5人組のチーム名のことじゃないのか。

 

なのに、なんだ「言う」って。変だぞ。

 

 

「とぉにかく!!これ以上うわさのことでウロチョロされて、万が一消されでもしたら困るの!手を引きなさい!」

 

「いや…」

 

「嫌だと言ったら」

 

 

白ローブがそう言いながら、私達に向かって手をかざすと、何処からか剣みたいな武器が出てきた。それも数本。

 

それをそのまま、こっちに突き付けてくる。

 

 

「ちょーっと、痛い目見るかしら!」

 

「………」

 

 

こいつ…こっちが縛られてるからって。なにドヤってんだよ。イラつく顔だ。

 

 

「言っても、無理だと思うけどね。うわさを消すなんて!」

 

「あ?」

 

「うわさに関わって、でもボッコボコにされて逃げ帰るような、弱っちいアンタ達じゃね!」

 

「なんだとコラ」

 

「最近邪魔になってきた連中には西のベテランが付いてるけど、そっちにはそういうの居ないみたいだしね」

 

「聞けよオイ」

 

 

聞き捨てならねーんだが?そんな如何にも没個性ですって感じの量産タイプみてーな衣装着てる奴らに弱っちいとか言われたくねーんだけど。

 

だったらテメーらも戦ってみりゃいいだろ、あの化物共と。絶対ぇヒーヒー言うから。

 

 

「ま、いいのよそれは」

 

「よくねーんだけど?」

 

「で、どう?お返事の方は。悪いこと言わないから、首は縦に振っとくのがいいわよ!」

 

「だから聞けよ。あーもう、お前…!」

 

「NO」

 

「えっ…。先輩?」

 

 

妙に人の話を聞かない白ローブに軽くキレそうになった時に聞こえてきた、否定を表す言葉。

 

私が口に出した通り、それは先輩が言ったものだった。

 

 

「んんー…?聞こえなかったわね。今、なんて?」

 

「『NO』と言いました。耳が遠くていらっしゃるの?まだお若いのに。可哀想」

 

「ほぉぉぉぉぉん!?」

 

「え…煽っちゃうの、そこで…?」

 

 

年長さんに同意。

 

私やマジ子にはたまに冗談でそういうことする人ではあるんだけど、基本的に他人への態度とか対応には配慮してるイメージあるし…。

 

 

「あのね、状況分かってる?そっちは動けない!こっちはその気になれば、命を奪うことだって出来る!分かったら、言葉には気を付けて…」

 

「それが意気地無しのすることだというのが、お分かりにならない!」

 

「なんてぇ!?」

 

「自信に溢れたその顔と態度が、私達を縛り付けたという安心から出たものではなく、単にそういう気質の女だからというのであれば、ハナから拘束などしなければよかったでしょうね!」

 

「それは保険だって…!」

 

「ほら!対等な状況で話すことを恐れるから、みみっちい考えを持つ!言葉だけで穏便に終わらせてみせる気概が無い。腰抜けですわ、貴女!」

 

「ッッ……!アンタねえッ…!!」

 

 

や、どしたぁ!?そこまで言う人だったか、あんた!?

 

そりゃあ私だってちょっと腹立ってきてたけど、だからってこっちの生き死にを握られてるのも事実だろ。下手に刺激したら…!

 

 

「いぃぃわよぉぉぉ!?そんなに言うならねぇ!血の一滴も流させてあげるわよ!」

 

「そうしますか?」

 

「え、マジで?ちょちょちょ、先輩!ヤバいって…!」

 

「えっと、落ち着こ?どっちも…。ね?」

 

 

ほらぁ、言わんこっちゃない!怒らせ過ぎだって!

 

白ローブはこっちの静止の声なんて聞こえてないのか、今にも私達を攻撃しようとしてる。なんとなく沸点低そうだなぁこいつって思ってたらこれだよ!

 

 

「満足なんでしょっ!これでっ!!」

 

 

怒り心頭の奴さんはついに、その構えてた腕を勢い良く振り下ろす。そしたら次の瞬間、私達の目の前で静止してた剣状の武器が動き出して、突っ込んで来た。

 

 

「おぁぁー!?」

 

「マジ子さん!魔法を!」

 

「え!?あ、はいー!!」

 

 

果たして、私達を傷付けるはずだった剣数本は、身体に刺さりながらもダメージを与えることは出来ずに、辺りに水滴を撒き散らしながら通り過ぎてった。

 

私達四人の全身が水に変わって、そのままザバッと地面に落ちる。

 

マジ子の固有魔法が発動したってことを、私はそうなってからようやく理解した。纏めて縛られて全員が密着した状態だったから、四人とも水になったんだ。

 

 

「えっ!?隊長!奴らが消えて…!」

 

「拘束、解けちゃいましたよー!?」

 

「落ち着きなさい!これは固有魔法でしょ!消えたんじゃないんだから落ち着いて…!」

 

「隙有りですわよ!」

 

 

動揺する、マギウスのやつら。そこを突いて、先輩は次の一手を手早く仕掛けに入る。

 

固有魔法が解除されて、私達の体が、元の姿に戻った。

 

 

「差し上げますわ!」

 

「なにを…!うあっ…!」

 

 

先輩が、その場でジャンプしながら回転。両手には幾つかのカンテラ。

 

それをあちこちにバラ撒いたことで、私達の周囲で爆発が起きて、煙が立ち込める。器用なことするなこの人…。

 

 

「今です!大学生さん!」

 

「ん!え、なに…?」

 

「車が武器なんですわよね!乗せてください、全員!」

 

「えっ…!?う、うん。わかった」

 

 

言われるままに年長さんが車を生成して、私達はそれに乗れって急かされる。

 

さっきから何か先輩の押しが強くて困惑するけど、この人は私達のチームの司令塔だ。取り敢えず指示には従って、車に乗り込んだ。

 

 

「このまま突っ込んで下さい!白ローブが居た方向に!」

 

「え、それ、その…轢き殺…!?」

 

「実力があるなら避けるでしょう!そうでないなら、アレはへなちょこ!!」

 

「や、言い方さ!?」

 

 

え、ほんとなにさっきから!?キレてる?キレてるんですか?ねえ!

 

 

「さ、行ってくださいまし!」

 

「お、おっけえ…!」

 

 

車にエンジンがかかって、前進。そのままスピードを上げていって、未だに残る爆煙に向かって突き進んでいく。

 

 

「最大戦速!!」

 

「艦船じゃねーんだよ!?」

 

 

なんかもう、ただ単にボケかましてるようにしか見えねーんだけど。この人、勢いで喋ってるんじゃないの…?

 

 

「隊長ー!辺りが見えないです!どうしますー!?」

 

「とにかく、煙の範囲から逃れるのよ!視界を確保して、それから一旦集合を…」

 

 

煙の中に突入したところで、仲間に指示を出してる白ローブの声が聞こえてきた。爆発で怯んだままで、その場からは動いてないらしい。

 

これヤバくない?最悪、車の真正面にあいつが位置してるってこと?それだとマジで轢かれるんだけどあの白いの。

 

 

「見つけましたわ!お退きっ、白いの!」

 

「え!ちょっと、なによ!?」

 

 

そんなこと考えてる内に、先輩がとうとう白ローブを視界に捉えたみたい。うわぁ、本当に車の真ん前に出てきたし…。

 

 

「ぬおぉぉぉぉぉぉぉうっ!?」

 

「わぁ…。すごい反り…」

 

 

流石に、隊長って呼ばれてるだけあるらしい。白ローブは車の登場で不意を突かれたであろうにも関わらず、突撃を見事に避けた。

 

めっちゃ背中反って躱してたな…。すっげえ頑張ったんだろうなあれ…。

 

 

「くぅっ…!待ちなさい!」

 

 

こっちが見つけたってことは、向こうに見つかったってこと。私達を逃す気は、やっぱり無いか。

 

体勢を素早く立て直して、こっちを追ってきた。

 

 

「このまま逃すと…!?」

 

「よいしょ…と」

 

 

けど、今現在ノリにノった我らが先輩は、そんな事を許すわけがなかった。

 

デカいカンテラを生成して、持ち上げて構える。後ろに向いてシートにドスッと片脚を沈めたら、準備完了。

 

 

「大サービス」

 

「冗談じゃないわよ!?」

 

 

脚に急ブレーキをかけて、慌てて踵を返そうとする白ローブが見える。

 

無慈悲なことに、先輩はそこに躊躇無くえいやっと、カンテラをブン投げた。

 

 

「え、待って!待っ…!わあああああああああああ!!」

 

 

巻き起こる大爆発と響き渡る悲鳴をバックに、私達を乗せた車は煙を完全に振り切り、マギウスの翼から逃れて、距離を取る事に成功してた。

 

 

「隊長!?え、どうしたんですか隊長ー!?」

 

「ちょ、集合!隊長の魔力探って!とりあえず全員集合ー!」

 

 

部下の黒ローブ達らしき声が聞こえてくる。自分達のヘッドの絶叫聞こえてきたんだもんね。そりゃ心配もするか…。

 

 

「さ、締めましょうか。皆さん、下りて」

 

「おぉう…」

 

 

まだ何かする気なんだ…。まぁ下りるけど…。

 

 

「で、こうします」

 

「わっ」

 

 

さっき白ローブに投げたのよりも大きいカンテラを作って、ドカッと車に乗せる。デカ過ぎてハミ出してるんだけど…。

 

 

「マジ子さん、これを水に」

 

「うん…よくわかんないけど」

 

「で、赤さんは車とこの水に『乗算』を」

 

「はいはい…」

 

 

カンテラが大量の水に変わって、車内がちょっとしたプールになる。私は指示通り、それと車の両方に「乗算」をかけた。

 

 

「あの…これ、どうする、の…?」

 

「それは、これから見ていただければ。最後に、赤さん」

 

「…なに」

 

「『乗算』付きパイルで吹っ飛ばして下さい。この車」

 

「………」

 

 

唖然。それはなにか。この魔力でギッチギチになった車に更に魔力でブーストかけて、ドデカい爆弾として使おうってことかよ。

 

 

「や、幾らなんでもやり過ぎじゃあ」

 

「ん?」

 

「やります…」

 

 

司令塔の言うことは絶対。先輩の謎の圧力に屈した私は、「乗算」付きパイルで衝撃波を発射。それで魔力塗れの車を、吹っ飛ばして送り出した。

 

やがて少し遠くでバカみたいな規模と威力の爆発が起きて、その爆風が、私達の髪や衣装を殴り付けて、はためかせる。

 

チラッと先輩の方を見てみると、すっげえやり切ったような、満足したような笑みを顔に浮かべてた。

 

割と引くわ。聞こえてくる五人分の叫びを聞きながら、そう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、少し質問に答えていただきたいのですが。」

 

「くぅぅぅ…!」

 

 

あの後私達は、車爆弾を食らって地面に伸びてたローブ達を包囲。各々武器を構えながら、質疑応答のお時間となった。

 

あのー、先輩?これもあんたの言う、意気地無しの行いに入るんじゃあ…?

 

 

「ではまず、うわさとはなんです?ただの噂話でないのは明白。何の為に存在しているんですの」

 

「…言ったでしょ。魔法少女の解放の為。私達の目的を達成する為のものよ」

 

「あの怪物は?」

 

「あれも、うわさの一部よ…。うわさを確固たるものにするのと同時に、噂話そのものを守る為に存在する。私達はウワサって呼んでるものよ…」

 

「ウワサ…。うーん…」

 

「マジかぁ…ヤバいじゃん、それ…」

 

 

マジ子がやけに神妙な顔するもんだから、どうしたって聞いてみたら、「どっちも同じ名前じゃん…マジややこし…」だって。

 

いや、分かるけども。分かるけどお前…。

 

 

「うわさが解放に繋がると言いますけど、具体的にどういうことなんですの?」

 

「知らないわよ…。私達はうわさを監視、護衛しろって指示に従ってるだけであって、詳細な情報を知らされてるわけじゃ…」

 

「嘘吐いてます?それ」

 

「違うわよ!私、願いのせいで嘘は吐けないのよ!?聞かれたことには正直に答えちゃうけど、知らないことは知らないとしか言えないんだからね!」

 

「あ、ちょっと隊長!?」

 

「え?あっ!!」

 

「あ、なるほど。そうなんですのね。ふうん…」

 

 

一転して追い詰められて余裕が無くなって来たのか、白ローブがそんな事を言う。

 

え、マジかそれ。じゃあ、こいつに質問するだけで、簡単に情報が…?プライベートな事情を知っちまった罪悪感もあるけど、ここはチャンスか…!

 

 

「じゃあ、さっき言ってたマギウスって?マギウスの翼とは違うのか?」

 

「私達の上司よ、上司…。トップ。マギウスの為に働くのが、私達マギウスの翼。うわさを作ったのだって、マギウスらしいわね。」

 

「マジか!それって、えっと……ソーゾーシュってやつ?」

 

「あの。翼って…五人だけじゃ、ないの…?」

 

「もちろん。いっぱい居るのよ。救われたいって子はね…」

 

 

なるほど…。マギウスの翼ってのは、チームの名前なんかじゃない。もっとデカいもの。組織を指す言葉だったってわけか…。

 

 

「では、そのマギウスの正体はどなたなんです?勿論、ちゃんと本名があるんでしょう?」

 

「それは…ええ、そうよ。まず、ア…」

 

「あの!隊長、ダメです!これ以上、部外者に私達のことを話すのは!」

 

「それはそうよ!そうだけど、でも、私…」

 

「私達が、声張り上げます!隊長の声、消してやりますから!」

 

「そもそも組織の名前とか目的とか、そういうのも基本話しちゃダメってルールなんですからね!」

 

 

あ!くそ、余計な横槍が…!

 

 

「なら、最後に聞かせろ!お前らの本拠地の場所は…!」

 

「それは」

 

「わ、わあああああああああ!!」

 

「うわー!!うわー!!」

 

「ダメー!!ダメでーす!!聞ーかーなーいーでー!!」

 

「わ、うるっせ…!」

 

「……にあるの。…これでいい?」

 

「はー…はー…。う〜…なんとかなった…」

 

 

あぁもう…!遅かった…!もう何聞いても無駄か、これ…?

 

 

「ナイス!ナイスよアンタ達!持つべきものは有能な部下ね!」

 

「でも隊長〜…この状況どうにかしないと、私達の喉が先に…」

 

「そう来たかぁー!」

 

 

…あれ。案外そうでもない?

 

だったら、適当に質問攻めにでもしていけば、後は時間の問題で…

 

 

「いけない!皆さん、避けて!」

 

「へ!?先輩、何言って…!」

 

「赤ちん、上、上!」

 

「上…ッ!?」

 

 

突然の、先輩の警告。マジ子に言われて、空を見る。

 

そしたら、私達目がけて降ってくるものがあることに気付く。そしてそれらは、魔力を帯びたものだった。

 

 

「ッ…!」

 

 

急いで飛び退いたところに、空から来たものが次々刺さっていく。

 

しかも これまた器用に、私達の居た場所にだけ。マギウスの連中は避けてる。どう見てもそう。

 

地面に幾つも突き立ったものを見ると、鎖の付いた刃物や、そこそこの大きさの剣みたいなものだってのが分かった。

 

…オイ、どっかで見たな。これ。

 

 

「全く。何か知らないが、馬鹿みたいに叫んで…。何してる、こんな所で…!」

 

 

武器の次は、数人の人影。どこからか降ってきて、何人かは私達を牽制するみたいに、武器を構えながら様子を伺ってきてる。

 

色は黒ばっかりだけど、身に着けてる衣装は間違いなく、今し方私達に囲まれてた五人組と同じもの。つまりは…

 

 

「こいつらも、マギウスの翼…!」

 

 

チームじゃなく、組織。嘘は吐けないっていう白ローブの言葉は、確かに本当だったんだな。

 

 

「あ、アンタ達…!まさか援軍!?ありが…」

 

「馬鹿を言うな!退くぞ。撤退だ…!」

 

「え!逃げるの?」

 

「ミザリーウォーターが消されたと連絡が入った。それを含め、今後の対応を話し合わなくてはならない」

 

「うっそ!消したのって、例の…?」

 

「そうだ。それに、そろそろ日も暮れる。今日はこれまでだ…!」

 

「……わかったわよ」

 

「…よし。行くぞ」

 

 

何かが消されたとか話し合うとか聞こえてくるけど、よく分からない。退くっつってるってことは、こいつら、逃げる気なのか?

 

 

「おい、待てって。まだ話は…!」

 

「おやめなさい、赤さん」

 

「先輩…。いいの?」

 

「こちらは魔力を大量に使い、数でも劣っている。このまま戦うと、無事では済まないかも」

 

「………」

 

「ある程度の情報を得ることは出来ました。充分です。だから…」

 

「……わかった」

 

 

真剣な顔だ。さっきまで謎の勢いを発揮していた輩と同じ人とは思えない。

 

でも、言うことには従う。それは、先輩が指揮官役だからってのもあるけど、それだけじゃない。

 

これ以上やってもこっちが痛い目見るかもってのが、本当は、私にもなんとなく分かるから。だから、ここまで。

 

 

「無駄に争う必要はない…そちらも同じか。賢明な判断だ」

 

「それはどうも」

 

 

こっちが戦闘の意思を無くしたのを理解したのか、後から来た黒ローブの一人が言う。

 

 

「我々は退かせてもらうが、その前に警告だ。うわさに深入りしても良いことは無いし、マギウスの翼に歯向かうことも、やめた方がいい」

 

「その言葉に、強制力などあって?」

 

「こちらの言葉を聞かなくても、結果は同じこと。片手で数えられる程度の魔法少女が集まったところで、止められない。私達も。マギウスも」

 

「………」

 

「邪魔をしなければ、貴女達だって解放される。魔法少女の、その宿命から…」

 

「さっきも聞いたんだよな、その宿命っての。なんなん。それ」

 

 

溜息を吐いた黒ローブは、私の質問に答えることはないまま、背中を向けて足早に去っていく。おい、無視かこの野郎。

 

 

「ふんだ。命拾いしたわね!でも、覚えておきなさい!目を付けられたのよ、アンタ達は!」

 

「あん?」

 

「マギウスの翼の黒羽根、白羽根…その中でも優れた者だけが選ばれ結成された、五人のスペシャルチーム…。そう!私達、『特務隊』にね!」

 

 

黒ローブの次は白ローブ。帰るなら帰るで、さっさとすりゃあいいのに。お前の部下達見てみろ。すっげー帰りたそうにしてんぞ。

 

つーかなによ、特務隊って。選ばれたとか言ってるけど、要するにエリートってこと?こいつらが?

 

 

「なーんか、ね」

 

「うん。マジで、なんか…」

 

「ちょっと。なによその態度は!そもそもねー!既にある意味、私達の計画に手ぇ貸してるようなもんでしょうよ!そこの赤いアンタは!」

 

「え」

 

「だったらもうちょっと協力して、解放の日まで精々 大人しくしてなさい!」

 

 

ズビシッて、白ローブに指をさされる。え、何それ。名指しかよ。

 

つーか協力?私が、お前らにか。

 

 

「身に覚えがねーんだけど」

 

「でしょうね!でもいいのよ、それで。知らないならそのまま、なんか釈然としない感じでずっと過ごしてりゃいいわ!」

 

「あ、質問いいすか」

 

「それやめて!」

 

 

イラッと来たから、白ローブが勝手にゲロった弱点を突っついてやる。

 

本当に質問してもよかったけど、多分また部下の妨害があるんだろうし、これでいいよもう。

 

 

「おい。何時まで話してる!退くと言ったぞ!」

 

「あー、はいはい!分かってるってば!行くわよ、アンタ達!じゃあね!」

 

「あ、はーい!それじゃっ」

 

「さよならー、皆さん」

 

「あの…そういうことで…」

 

「もう変なことしないでねー」

 

 

焦れたらしい黒ローブの言葉に返事を返して、白ローブと部下の4人は、こうして私達の前から去っていった。

 

全員が一声掛けていくっていう、無駄に律儀な一面を見せながら。

 

 

 

 

 

大人数が来て、そして帰っていった、観覧車の草原。今はもう、私達四人だけ。さっきまでドンパチやってたのが嘘みたいに、急に静かになった。

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……。あーもー…」

 

「………ふぅー」

 

 

ここまで溜めに溜めた鬱憤を、深ーい溜息に乗せて、一気に吐き出してやる。先輩もそうしなきゃやってられないらしい。当たり前だわな。

 

 

「なんか今日はこう…あれだな」

 

「ええ…。あり過ぎましたわ。色んなこと」

 

「でもさー、よかったじゃん。アタシはちょっとよくわかんなかったんだけど、とりあえず、探してたジョーホーは手に入ったんだよね?」

 

「探してたというか、それよりももっと重要なものといいますか…。でもまぁ、その通りですわね」

 

「また新しい謎が生まれちまったけどなー…」

 

「それも含めての前進です。良しと致しましょ」 

 

 

そんなもんかなぁ。まぁ、いいや。そういうこともあるってことにしとこ。

 

我ながら適当過ぎるとは思うけど、今日は夕方になってからずーっと体力と魔力を使うことになったせいで、とにかく疲れてる。もー、ヘットヘト。これ以上考え事なんて出来るかって話。

 

 

「今度こそ帰るベー、もー。腹減ったわマジで…」

 

「さんせー。てかさー!スマホ見たっけ、もう夜になりそうなの。マジあり得んくない?」

 

「暗くなってますものねー。じゃ、歩きながらでも、これを」

 

 

そう言って、先輩は懐からグリーフシードを取り出して、ソウルジェムに当てる。自分のを浄化し終わってから、マジ子に渡した。

 

 

「ん。アタシもジョーカかんりょー!じゃ、次赤ちんね」

 

「あー…。今確認したけど、私の結構濁ってんだよな。その使い差しだけじゃ…」

 

「じゃあ、はい」

 

 

困ってると、年長さんもグリーフシードを出してきて、すぐに私のソウルジェムに当てがった。

 

穢れみるみる吸われていって、後少しで元通りってとこまで綺麗になる。

 

 

「後は、ほら。そっちのグリーフシードで」

 

「ありがと。…でも、それ」

 

「ん…。公園で会った時、貴女がくれたの」

 

 

やっぱり。いつか使ってくれってことで、私がお詫びとして渡したやつだ。

 

 

「いいの?使っちゃって。もっとこう、なんか…」

 

「いいの。今使うべきだって、思ったから。だから…」

 

「……そっか」

 

「うん」

 

 

そう言われちゃあ、私からは何も言えない。年長さんにあげた時点で、どうするか、何時使うのかっていうのは、彼女の自由。

 

この人がこの使い方で納得してるって言うなら、それでいいんだよな。きっと。

 

少しだけ残った容量で自分のジェムを浄化した年長さんは、なんだか満足してるように見えた。

 

 

「さ。では、帰りましょうか」

 

「はいよー。早いとこメシだメシー」

 

「あ、じゃあさ。また3人でなんか作る?」

 

『却下』

 

 

先輩とハモった。ふざけんじゃないよ全く。

 

今日という日の空きっ腹に料理下手三人衆のクソ不味いものをブチ込まれでもしたら、流石に私も泣き喚く自信がある。

 

 

「じゃーどうすんのー?また冷食ー?」

 

「んー…お腹はそれでも満たされるでしょうけど、もっとこう、美味しいものが食べたいですわよねー」

 

「外食でもするかぁ?つか、お前も一緒に食うの?」

 

「え、なにそれー。いーじゃん、赤ちんのケチぃ」

 

「ダメっつってるわけじゃねーの。つか、だったらさー」

 

 

あーでもない、こーでもない。いつもは適当にパッと決めることも多いのに、こんな時に限って、晩飯をどうするかが定まらなかった。

 

 

「……あの」

 

 

そこに投げかけられた、一つの言葉。そして、一つの提案。

 

「良ければ、私が手料理を振る舞いたい」

 

あれこれと話してる内に、最早食欲を満たして、腹がいっぱいになれば何でもいいという身も蓋もない考えに至りかけていた私達は、満場一致で、年長さんのその一言に乗った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うめえええええええ……!超うめえええええ………ッ!!」

 

「染み渡る…。ティーンエイジャーの空きっ腹に極上の味わいが染み渡り、全身が歓喜に震えているのが分かりますわ…!」

 

「や、マジでウマいってこれぇ…。やべ、ウマ過ぎて泣けてきた…」

 

「そう、なの?でも、よかった…。お口に、合って…」

 

「もうね、ヤバいこれ。これに比べりゃ、アタシ達の作ったモンなんてゴミクズだよ!その辺の石ころ以下だよ!」

 

「え。あの…そこまで…?」

 

 

 

 

現在、先輩の家。私達は、年長さんの作った至高とも言うべき美味しさの手料理を、存分に味わっている最中だった。

 

 

年長さんは、私達が晩飯のメニューに困っていたのを気にしてくれて、おまけに駐車場に車を取りに行くついでにと、晩飯に使う食材まで買ってきてくれた。

 

 

しかも先輩の家までは、武器の車を生成して乗せていってくれたっていう、それはもう本当にありがたい話だってある。

 

 

だが、肝心なのはそこじゃない。先輩の家にやって来た年長さんが、買ってきた材料を使って作ってくれた、その手料理。それなんだ。

 

 

 

 

美味い。めっちゃ美味い。涙ちょちょ切れる程美味い。

 

 

 

 

今まで食べてた冷食だのコンビニ弁当だのの味が一気に霞んで、遥か彼方にブッ飛んでもう帰ってこない。それくらいに美味いんだ。

 

 

 

一心不乱に晩飯を胃袋にかき込みながら、思う。

 

 

・一緒に戦った。

・戦力として申し分ない。寧ろ頼りになる。

・少し構い過ぎるが、人間性には問題無し。

・うわさの事も知っているし、私達の目的、事情も理解している。

・現在フリー

・料理上手

 

 

 

 

 

 

『採用ォォォォォォォォォオ!!!』

 

 

 

「え、えぇ……?」

 

 

 

 

 

 

三人の馬鹿、もとい私達が、上がりまくったそのテンションのまま、勧誘(のつもり)の一言を声高に叫ぶのと、空になった皿を差し出して年長さんにおかわりをねだったのは、ピッタリ同じタイミングだった。

 

 

 

 

 

今日のメニューはトマトカレー。水は要らない。酸味と辛味が絶妙にマッチした、味わい深いその一品。

 

 

私達が以前、同じものを作って盛大に失敗したということなんて、とっくに忘れてしまっていた。

 

 

 

 

 





マギレコ本編の出来事

・ミザリーウォーターを撃破した、その帰り道。心配するいろはの説得の末に、フェリシアがチームに加入。みかづき荘に住み、万々歳を手伝うということになった。


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4-15 四人へと



ドッペルVer.にたまげたので初投稿です。





 

 

 

 

小さい頃から、人と触れ合うのが好きだった。

 

近付いて、話して、一緒になって遊んで。そうしたら、その人のことを好きになっていって。

 

好きな人と居られるのが嬉しくて、笑い合えると楽しくて。

 

そういう人達には、なんでもしてあげたい。自分の中にいつの間にか、そんな気持ちが芽生えていた。

 

明確な理由とかそういうのは、多分無い。自分がそうしたいって思った。ただ、それだけ。

 

「気配り上手だね」「親切だね」って、大人達は褒めてくれた。

 

友達も家族も「ありがとう」って笑ってくれて、私も、それがとっても嬉しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えー、では。年長さんのチーム加入を祝いまして」

 

「かーんぱーい!」

 

「ん」

 

「うん…かんぱい…」

 

 

マジ子ちゃんの一言で、私達の持つグラスがカチンッと、軽くぶつかる。

 

私がチームの一員になったから、今日はその歓迎会をしたいってことで、こうして先輩ちゃんの家に、改めてお呼ばれした。

 

 

「ね、ね!食べていい?いいんだよね、これ!」

 

「うん…。いっぱい、召し上がれ…」

 

「っしゃー!いただきまっす!」

 

 

私の返事を聞いたマジ子ちゃんが、テーブルの上に並んだ料理に、ウキウキと箸を伸ばしていく。楽しそうだなぁ。

 

乾杯する前から、こう、「待ちきれないっ!」って感じでジィ〜っと見てたもんね。なら、たくさん食べてほしいな。

 

 

「あまり急いで、あれこれと口に詰め込まないようにしなさいね」

 

「んも?もももー。んもも、んも」

 

「既にめいっぱい食べてますし…」

 

「あ。焦らなくて、いいからね。喉、詰まっちゃったら…危ないし」

 

「むもー」

 

「一応流し込めるように、注いでおくね。飲み物…」

 

「んぬっ!」

 

 

食べ物を口いっぱいに頬張って膨らんだ顔のまま、マジ子ちゃん、サムズアップ。なんだろう。美味しいってこと?それとも飲み物注いだの、良かったのかな…?

 

 

「つーかさ、よかったん?年長さん、今回の主役みたいなもんだけど」

 

「お料理、作ってもらっちゃいましたものね…。頼んでしまった私達も私達ですが…」

 

「うん。それは、全然」

 

 

主役が料理しちゃいけないなんてこと、無いはずだし。

 

それに、手料理を食べてくれるのは嬉しいから。

 

 

「そうなんですか?」

 

「ん。こういうの、やったことない。あんまり。だから、楽しい」

 

「なるほど…。でも、ありがとうございます。美味しいですわ、どのお料理も」

 

「なー。この唐揚げとか良いよこれ。千秋屋のやつとはまた違った感じで」

 

「そっか。好きなだけ食べて。赤ちゃんも、先輩ちゃんも…」

 

「先輩ちゃん…」

 

 

私に名前を呼ばれて、先輩ちゃんが渋い顔になっちゃった。あれ…。何か、いけなかったかな…?そう呼んでって言われたから、そうしてみたんだけど…。

 

 

「嫌、だった?名前…」

 

「あぁ、いえ。違いますわ。単に複雑なんです」

 

「複雑」

 

「年長さんは一番の歳上ですし、呼び方を統一するという意味でも丁度良かったんですわ。私はほら、貴女より歳下ですから…」

 

「あー…」

 

 

そっか。呼ばれたくないけど、我慢してるってわけじゃないんだね。それならよかった。

 

 

「先輩はいいだろ、それで。私なんて赤ちゃんだぞ」

 

 

お皿に取った料理をもぐもぐしながらそう言うのは、赤ちゃん。私が今のところ、チーム内で一番交流のある相手。交流って言うには、随分荒っぽい時間だったけど。

 

うーん…。それは私も思ってた。赤ちゃんはもう中学3年生みたいだし、この子からすれば、子供以下って言われてるみたいで、不快なのかな…。

 

 

「調整屋さんにもそう呼ばれてるし、別にいいんだけどさ。いや、ほんとは良くねーけど」

 

「マジ子さんみたいに、学友の方に付けてもらうって手もありますけど」

 

「居ねーだろ。私も、あんたも」

 

「………」

 

 

あ、前からそう呼ばれてはいるんだ。ていうか二人共、学校にお友達居ないの…?聞いちゃってよかったのかな…。

 

 

「あ、でも…」

 

「ん?」

 

「三人は、お友達…だよね。仲良しだし、あだ名で呼び合ってるし…」

 

 

ちなみに、私のあだ名は「年長さん」。赤ちゃんがそう呼んでたのを、そのまま使うことになったみたい。実際私が最年長だから、丁度いいかも。

 

まぁ、それは置いといて。

 

この子達、前に北養のお店で喧嘩もしてたけど、それも仲の良い証拠っていうか。やっぱりチームってだけあるよね。

 

…って思ったんだけど。

 

 

「んぐ…。ん!そりゃーもうね!マジでマブだからアタシら!ちょー仲良し!」

 

「ん〜……?友…いや、どうなんでしょうか…。でも、私としては割と…」

 

「………。友達じゃねーよ、別に…」

 

 

…あれー!?

 

見事にバラバラなんだけど…。え、友達なの?違うの?どっち…?

 

 

「あだ名で呼び合ってるのに…!?」

 

「アタシ、その辺よくわかんないんだけど…」

 

「赤さんが言ったんですわよ。その方がいいって」

 

「なんで…?」

 

「さぁ…」

 

 

先輩ちゃん、マジ子ちゃんと一緒になって、赤ちゃんの方を見る。三人分の視線を受けて、気まずそう。

 

ちょっと眉間に皺を寄せて目を逸らしてるのは多分、私達の言わんとしてることが分かってるから。

 

 

「…それは、お前……アレよ」

 

「アレ」

 

「コードネーム…みたいな…」

 

「当時、私が聞いた言葉と違うような気がするのですが…」

 

「幻聴でも聞いたんでしょ」

 

「や、目の前で話してたでしょう…」

 

 

何でかはわからないけど、はぐらかされちゃった。言いたくないことなのかな…?

 

気にはなるけど、話してもらえない以上は会話が進むわけもなく。

 

結局、その話はすぐに流れて、次の話題に移っていった。

 

取り留めのない話をしながら、料理でお腹を満たしていく。揚げ物、卵焼き、汁物、サラダ…。私が張り切って沢山作っちゃった、それらで。

 

うーん…。こうやって見てると、どう見ても友達同士にしか見えないんだけどなぁ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぷふー、食べたぁ〜…」

 

「やー、どれも美味かったよなぁ」

 

「ふふふ…。よかった。お口に合って」

 

 

リビングで寛ぐ赤ちゃん達からの嬉しい感想を聞きながら、お皿を洗う。

 

本当にいっぱいあったはずなのに、残さず食べてくれた。作った身としては、本当に嬉しく思う。

 

 

「あの…。なにも、洗い物までなさらなくても。お客様なんですのよ?」

 

「ありがとう。でも、したいの。私が…」

 

「そうですの?いやでも、うぅ〜ん…」

 

 

申し訳なさそうにしながら、先輩ちゃんが洗い物を拭いて、仕舞ってくれる。それもやるよって言ったんだけど、流石にそこまではって。

 

 

「終わったら、デザート食べよっか。冷やしてあるから」

 

「え。もしかして、ここに来た時、冷蔵庫貸してって仰っていたのは」

 

「うん。作った。家で」

 

「デザートあんの?マジかー!やったね」

 

「そこまでするかぁ?客ってさ…」

 

 

そこはほら、手土産とかって思ってくれたら…。にしてはやり過ぎかな?

 

皿洗いを終えて、用意したデザートをつつきながら、四人でまた色々とお喋りした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅー…」

 

 

お風呂に入って、歯を磨いて、それからベッドに入る。何度も使ってきた掛け布団に、今日もまた包まれながら、目を閉じる。

 

 

(楽しかったなぁ。今日…)

 

 

歓迎会も終わって自宅に帰ってきた私は、眠っちゃう前に、昼間のことを思い返す。

 

この前、皆で一緒に戦った日。あの日の晩、私は三人に手料理を振る舞った。晩御飯を何にするか、難儀してたみたいだったから。

 

そしたらなんかこう…気に入られちゃって。カレーを食べ終わる頃には、チームに入ってくれって、必死にお願いされちゃった。

 

 

(採用ー!なんて大声出すんだもん。びっくりしたなぁ…。ふふ)

 

 

それでチーム入りを快諾しちゃう、私も私なんだろうけど。

 

 

(デザート食べてる時、色々聞かれたなぁ)

 

 

マジ子ちゃんが、「質問ターイム!」って。

 

北養で一緒にお昼食べた時もそれなりに話はしたけど、あの時は初対面だったし、改めて私のことが知りたいってことで。

 

年齢とか趣味嗜好とかから始まって、出身地とか、家族構成とか、まぁ色々。

 

昔は喜怒哀楽がすぐ顔に出る子供で、しかも泣き虫だったって話したら、意外そうな顔をされた。まぁ、そうだよね…。

 

 

(家族かー…)

 

 

私が生まれ育ったのは、宝崎市っていう場所。神浜からちょっと離れた、別の街。

 

そこで両親、お兄ちゃん、お姉ちゃんと一緒に暮らしてた。で、高校生になる頃にこっち来て寮に入って、免許取ったら、お父さんがお古の車を譲ってくれて…。

 

 

(最近、あんまり連絡取れてないや)

 

 

顔を見せに行くことも、そんなには。

 

便りが無いのは寧ろ良いことらしいけど、無さ過ぎるのも、きっと問題。近々、電話入れなきゃね。

 

上二人はもう何年か前に仕事に就いたし、実家からも出てるから、会える機会も少ないんだけど。

 

 

(二人がちゃんと一人暮らし出来るか心配で、様子見に行こうとしたっけ…)

 

 

でも、「構い過ぎ」って煙たがられちゃって、しかも「絶対来るな」って念押しまでされた。二人共そうだった。

 

それで、何日かの間 凹んじゃったんだよね。

 

お兄ちゃんもお姉ちゃんも、悪気は無かったのは分かってる。どっちも、一人の時間を大切にする人だったし。だけど、ショックでつい…。

 

 

(心揺れ動き過ぎだよ。魔法少女になる前の私…)

 

 

いつからそんなだったのかな。多分、結構昔から。小さい子供の頃からだった気がする。

 

 

(そういう心の弱さが嫌で、魔法少女になったんだよね)

 

 

幼稚園や、小学校低学年の頃は、まだよかった。大人も、友達も、家族も、「親切だ」とか「優しい」とか言ってくれて、最後には「ありがとう」って、笑顔になってくれて。

 

それを嬉しいって感じた私は、幾つになっても、そういう生き方を止めなかった。

 

好きな人達の助けになれる。そうすることで、私だけじゃない。相手だって、きっと嬉しい気持ちになってくれるはず。

 

それは、良いことなんだって、そう、思ってた。

 

 

(…………)

 

 

でも、違う。違ったんだ。現実っていうのは。

 

 

人間、年月が経てば、背丈だけが大きくなるってものじゃない。

 

学校に通い始めて、その生活の中で芽生えて育っていく、人格。自意識。段々と複雑になっていく、精神の構造。

 

 

その中には、自分のことは自分でやりたい。自身の手綱は、己が握っていたい。そういう、自立心のはしりのようなものを抱く人だって、居ると思う。

 

つまり、私の周りには、そういうしっかり者が多かった。ただ、それだけのこと。

 

 

(そうだよ。それだけ。それだけだから…)

 

 

時が流れて、進級する度に増えていく。私がその人の為に何かしてあげたいって思っても、やんわりと。時にはキッパリと断られる事が。

 

親切が過ぎる。あまりに構い過ぎ。そう判断されたのか、嫌そうな顔をされることもあった。苛立った声で、静止をかけられることも。

 

それは学友だけじゃない。兄や姉だって段々とそうなっていったし、時には両親にも言われちゃった。「気持ちは嬉しいけど、ちょっとお節介だよ」って。

 

 

 

最初はお互い笑顔になれたはずの「親切」は、いつの間にか、「余計なお世話」に変わってしまっていた。

 

 

 

それを恨んでるわけじゃない。ただ、理解できてしまったから。私の生き方は下手をすれば、人をダメにしてしまうかもしれないんだって。

 

 

好きな人達から突き付けられた、ハッキリとした拒絶の意思。

 

昔から傷付きやすくて、精神的に脆い私には、耐え難いことだった。

 

幼い頃からの生き方を否定されたような感覚に陥ってしまったから、尚更。

 

 

(そういうの全部、嫌になっちゃったんだよ)

 

 

だから契約した。ある日、悩んで悩んで泣きそうになってる私のところに現れた、キュゥべえと。

 

 

『傷付いたら、顔に出ちゃう…。そういう弱い私のこと、嫌なの…。だから、それを無くして…!』

 

 

拒まれて、傷付いて、でも生き方を変えられないままの私は、願った。

 

 

『どんなことを言われても…。どんなことがあっても…。簡単に動じたりしない、強い自分をちょうだい!』

 

 

そうして、手に入れた。何を言われても、感じても、容易には揺れたりしない精神を。

 

そうして、失った。今まで豊かに変化させてきた顔の、その表情を。

 

 

何も思わないわけじゃない。感じないわけじゃない。

 

でも、確かに私の心はあまり動かなくなって、顔に至っては、感情を表す為に表情筋を使う機会なんて、ほぼ無くなってしまった。

 

「平面化」の固有魔法は、波立つことも、起伏に富むこともない私の心を、端的に表したものなのかもしれない。

 

 

(これで…ちょっとは変わるって、思った…)

 

 

そんなわけない。生き方を変えない為に願ったんだから、何も変わらない。今の、私の顔と同じ。

 

結局私は、今現在も要らない世話を焼く厄介者で、それが誰かを苛立たせていく。

 

 

『たった一人におんぶに抱っこじゃ、チームの意味、無いじゃないですか!』

 

 

だから、チームを組んでたあの子達にもウザがられたし、追放なんてところまで行ったんだ。

 

 

(結局、悪かったのかな…。私が、全部…)

 

 

人を好きになっても、「なんでもしてあげたい」なんて思わなきゃよかった。

 

生き方なんて、無理矢理変えちゃえばよかった。

 

私なんて、居なければよかった。

 

 

「………!」

 

 

飛び出してきた、自己否定。酷く悲しくなってきて、閉じた瞼から涙が滲み出てくるのを感じる。

 

いけない。夜になると、悪いことばかり考えちゃう。

 

 

(違うもん。この生き方で良かったことだって、あったんだもん…!)

 

 

嫌がられるようになっていったのも、追放されたのも事実。だけど、家族や友達と一緒に笑っていられた時のことだって、確かにあった過去なんだから。

 

仲間に捨てられた私を、新しい仲間として受け入れてくれた人達が、今まさに、この神浜の中に居るんだもん!

 

 

 

『前も言ったけど、あの人達とはたまたま合わなかっただけ。昔周りに居た人達だってそう。それだけなんだよ』

 

 

公園で沈んでる私に話しかけてくれて、そこから関係が始まった、赤ちゃん。私の恩人。

 

 

『私達と年長さんの相性はどうなのか。それは、これから確かめ合っていきましょう。時間は沢山ありますわ』

 

 

あの日のお昼時にレストランで出会った、チームの纏め役、先輩ちゃん。私の話を、とっても親身になって聞いてくれた。

 

 

『だーいじょぶだって!こーやって、一緒に仲良く ごはんもデザートも食べたんだよ?アタシ的には、ネンチョーさんはとっくに親友だから!』

 

 

マジ子ちゃんはその…。ちょっぴりおバカさんだけど、新入りの私にも好意的に接してくれて、親友って、言ってくれて…。

 

 

『これから一緒に過ごす中で、きっと私、もっと好きになる。皆のこと、もっと。だから…』

 

 

だから、今よりも、一々構うようになる。

 

そうしたら三人とも、私のことがウザったくなるかも。追い出したくなるかも。

 

魔法少女になった経緯を話す中でそう漏らしても、あの子達の主張は変わらなかった。

 

 

『つーか、抜けられたらすっげえ困るって。また不味い飯食うことになっちゃうんだって…!』

 

 

なんて、切実なことも言われちゃって。

 

 

 

「ありがと。皆…」

 

 

色んなことを思い出してる内に、眠くなってきた。うとうととして寝ちゃいそうになる中で、小さく呟く。

 

 

この先どうなるかなんて、今は分からない。最悪、明日にでも気が変わって、あの子達はまた、三人のチームに戻るのかもしれない。

 

 

それでも、私は今、嬉しいって思っているから。

 

チームに入れてくれたこと。私のご飯を食べてくれたこと。「年長さん」ってあだ名をくれたこと。年齢も過去も気にしないで、気軽に接してくれること。

 

 

 

そして何より、好きにならせてくれることが、とっても嬉しい。

 

 

 

 

あの日 貴女達と出会って、私は確かに、救われたから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーもう!悔しいわねー!」

 

「隊長」

 

「あいつら、今度会ったら目にもの見せてやるんだから!」

 

「隊長ー?」

 

「大体、なぁにが意気地無しよ!腰抜けよ!せっかく皆が動いてくれたのをそんな風に言われちゃ、まるで私だけじゃなくて、あの子達までヘボいみたいじゃない!」

 

「隊長ってば!」

 

「なによ!」

 

 

マギウス、そしてマギウスの翼の、その拠点。ホテルフェントホープ。

 

日が沈み、内部も暗くなった建物の、その片隅にて憤る白羽根が一人と、そんな彼女に話しかける、黒羽根が四人。

 

白羽根は今、先日してやられた魔法少女四人組に対し、怒りを吐き捨てている最中だった。

 

 

「まーだ怒ってるんですかぁ?」

 

「まだってなによ!腹立たないのアンタら!」

 

「そりゃ、それなりに思うところはありますよ」

 

「でも、それ以上に隊長が一人で怒ってるじゃないですかぁ」

 

「大人になりましょ。大人に」

 

「えぇー!?」

 

 

この五人は、いつもこんな調子。熱くなりやすい白羽根を、部下の黒羽根達が適度に諌める。

 

メンバーの仲は良好だが、隊長の威厳はそれほどでも無い。そんなチームだった。

 

 

「隊長も言ってましたけど、あの赤い服の子、アレが憑いてるんでしょ?ならこっちにとっては得じゃないですか」

 

「相手に詳細さえ教えなければ、問題ないっすよ。監視の任務もそこそこサボれるかもですし」

 

「アンタらねー…」

 

「それよりも隊長。次の指令、来てるんですよね?早く教えてくださいよー」

 

「あーはいはい。わかった!わかりました!んもー…」

 

 

「あいつらは端っことはいえ、ウワサの情報を掴んだっていうのに…」呑気な部下達に対してそう呆れながらも、上から通達された次の任を報せる。

 

 

「えーと、次はね。これよ!」

 

「ん。なんです、これ」

 

「苗…ですかー?なんかの」

 

「カイワレだっけ。あれみたいで可愛い…」

 

 

白羽根が渡され、預かってきたものを黒羽根達が眺め、感想を口にする。

 

 

「これを設置して来いって!」

 

「これだけですか?」

 

「まだ同じのが幾つかあるの。他のチームと手分けして、指定の場所に埋めてくるらしいわね」

 

「へー…」

 

「ま、特務隊だからって、特別な任務ばっかりをやるわけじゃない。こうやって、他チームと協力することも大切ってことよ!」

 

 

むふーっと息を吐き、得意げに語る白羽根。それを見た黒羽根達は互いに見合って、テレパシーでの会話を始める。

 

 

『まーた言ってるよ。特務隊…』

 

『好きっすねー、隊長も。実際は特務隊どころか、落第生の集まりだってのに』

 

『でも、仕方ないですよね…。私達、あんまりマギウスって組織に順応できなかったんですもん』

 

『実力も無いしねー。他のチームからも舐められてるしさ』

 

『特務隊って名前自体、私達の扱いに困ったみふゆさんが、咄嗟に付けたやつだし…。』

 

『監視を任されたウワサも、適当に作った余り物って聞いたっすよ』

 

『はぁぁぁ……』

 

 

黒羽根の一人が、溜息を吐く。自分達があまりにへっぽこであると、改めて思い知らされたからだ。

 

今でも思い出せる。自分達、羽根の面倒を見てくれている人物、梓みふゆが苦し紛れに、我らが隊長へ放った言葉を。

 

 

『えーと…そ、そうです!特務隊!貴女達のチームは、数多くの羽根達の中から集められた精鋭!スペシャルなんですよ!』

 

『だからこそ、他の羽根でも出来るようなことを任せられることはない。特別なんです、貴女達のこなす任務は!わ、わぁ〜。すごいですねぇ〜!』

 

『だから、決して!決して、仕事が任せられないほど問題があるというわけでは、ないんですよ…?』

 

 

誰がどう見ても、嘘を言っている。こちらを傷付けない為の、せめてもの優しさ。

 

だがなんと、彼女らの隊長はそれを馬鹿正直に受け取り、特務隊という名前に彼女なりの誇りを持つに至ったのだ。

 

 

『未だに信じてんだよなぁー、あの人…』

 

『でも、悪い人じゃないんですよね』

 

『そう。憎めないっていうかー』

 

『馬鹿っすけどね。私達に負けず劣らず』

 

 

そもそも白羽根としての衣装だって、数が足りずに、黒羽根の衣装を白く塗っただけのもの。そういうところも、他の白羽根と比べて遥かに残念である所以。

 

だが、自分達よりも実力があり、色々と難儀でクセはあるが、害のある人ではない。羽根である時も、プライベートでも、自分達との付き合いを大事にしてくれる。

 

黒羽根四人組としては、マギウスの翼のルール的にはアレだが好感の持てる人物であると判断し、現在まで至っていた。

 

 

「さ!次の仕事も決まったし、今日はもう帰りましょ!ほーら、何やってんのアンタ達!行くわよ!」

 

「え、あ、はい!」

 

「あーちょっと。待ってくださいよー」

 

 

白羽根に声をかけられたことでテレパシーは打ち切られ、四人はそれぞれ、歩を進める隊長の背中を追いかけた。

 

 

「帰りにご飯食べていきましょっか」

 

「お!いいですねー」

 

「あの…私この間、いいお店を見つけて…」

 

「じゃあ、その店で隊長の奢りとか!」

 

「あぁっ…!ごめんなさい、私今、手持ちそんなに無かったわ…」

 

「ちょ、隊長ー!」

 

「ファミレス!ファミレス行きましょ!割り勘よ割り勘!」

 

「はいはい…」

 

 

組織に定められた決まりもへったくれもない、それでいてイマイチ締まらない話で盛り上がりつつ、拠点の出口を目指す少女達。

 

 

 

落ちこぼれで、ぽんこつで、だけど元気だけはあって。

 

 

 

救われたいと願い、羽根となった先で出会った彼女達の、次の戦いが始まろうとしていた。

 

 

 

 

 





マギレコ本編の出来事

・第一部 第4章 終了後


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第5章:ひとりぼっちとカイワレ
5-1 心労の始まり




近々キモチ戦がやってくるので初投稿です。





 

 

 

 

「………」

 

 

深夜。草木も眠るなんとやら。先輩もマジ子も年長さんも、今頃はぐっすりおねんねだろうな。

 

でも、私は寝付くことが出来なくて、こうして起きてる。体温で温くなったシーツの上で、時々寝返りをうちながら。

 

 

「……………はぁ」

 

 

なんとなく寝転がってるのをやめて、ベッドの上に座り込んだ。隣接した壁に作られた窓から光が漏れて、シーツを照らしてる。

 

夜風にでも当たろうと思って、窓を開けた。

 

 

「……………」

 

 

膝立ちになりながら、桟に腕を掛ける。空を見上げれば、そこそこ大きいお月様。夜にしては明るいと思ったけど、どうりで。

 

目線を下げて、外の景色を眺める。もう夜遅いのに、遠くの方ではまだ建物に明かりが付いてるや。流石都会。

 

 

「はぁ………」

 

 

溜息を吐く私を、そよ風が撫でる。真冬みたいに冷たくもない。真夏みたいに暑くもない。丁度良くて、心地良い感じ。

 

まぁでも、だからってそんなの、今の私には何の慰めにもならないんだけど。

 

 

「…っとにもー……」

 

 

あーもう。本当なら私も、今はグースカこいてるとこだってのに。

 

私はなにも、寝る前にゲームをやり過ぎたり、動画を見過ぎたりで目が冴えてこうなってるとかじゃない。ちゃんと理由がある。

 

原因は、とある一言。昼間に仲間から言われた言葉が発端だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日中、私達は先輩の家に集まってた。

 

その時年長さんが、「あの時質問できなかったことを改めて聞きたい」って言ってきた。最初はなんのこっちゃと思ったけど、すぐに理解できた。あの時のアレだ。

 

年長さんと会った日の、あの謎の女の子との車上での戦い。あそこら辺の時だ。そういや、何か聞きたがってたもんなぁ。

 

あの時私は、質問したがる年長さんにOKを出した。今更撤回するようなことでもないし、改めて聞いてみることにする。

 

 

『あの…。どうして嘘、吐くの?』

 

 

…なるほど。それが年長さんの、私への質問。

 

 

『………あ?』

 

 

何故嘘を?や、嘘ってなんだ。それがあの時聞きたかったこと?私、そんなことしたっけかな…。

 

 

『え、なになにそれ!赤ちんウソつきなの!?悪い人!』

 

『ちげーわバカ!そんなわけねーだろ』

 

 

マジ子のやつ、言うに事欠いて。失礼な。誰が悪人だと、このバカ。

 

 

『あ!違うの。そうじゃ、なくて…』

 

『えー…。じゃ、なんなんよ』

 

『その、人に、じゃなくて…自分に…っていうか』

 

『自分だぁー?』

 

 

益々分からない。纏めると、私がどうして自分に対して嘘吐きなの?ってことになるんだけど。

 

そういう生き方をしてるってのか。私が?冗談!

 

 

『別に私、そんなんで今までやってきたつもりはさぁ…』

 

『あーでも、なんとなく分かりますわね』

 

『え』

 

『そういうとこありますもの。貴女』

 

 

先輩までそんなこと言い出すし…。堪ったもんじゃない。

 

 

『マジ?赤ちんそうなん?』

 

『だから違うって…』

 

 

悪ふざけでやったりとかはあるけど、常日頃から嘘ばっかりみたいな人間になったつもりはないよ。自分に対しても、他人に対しても。

 

 

『マジ子さん。この子、たまにどもることあるでしょう』

 

『あーあーあー!分かる。マジで分かる。なんかたまにねー!』

 

『えっと。それって、あれとかも…?私と初めて会った日の、お昼の…。北養で…』

 

『あぁ。そうでしたわね、あの時も。なんなら、あの日は朝からも…』

 

『?そだっけ?』

 

『喫茶店に集まったでしょう。あの時にこう、なんか態度が』

 

『あ!もしかしてさー、一人で行くっつって店出てこうとして…』

 

『それです』

 

『ちょ、待って。待てって』

 

 

私を置いてけぼりにして話さないでくんない。自分達だけ分かった風なのやめろって!

 

 

『あの、どういうことなんだよ結局。はっきり言え、はっきり。私にも分かるように!』

 

『や、むしろ貴女が一番分かってることだと思うんですけれど』

 

『だから、何が!』

 

『マジか、赤ちん…』

 

『えぇ…!?』

 

 

焦れったくて、ちょっと語気が強くなる。しゃあないじゃん。分かんないもんは分かんないよ。

 

 

『そうですか…。じゃあ、言いますけど』

 

『おぉ』

 

『その…。素直じゃないですわよね。赤さんって』

 

『…………はい?』

 

 

先輩からの言葉を聞いて、頭に浮かぶ疑問符。

 

あれ、おかしいな。はっきりした答えを聞いたはずなのに、疑問が晴れないんだけど。

 

なんて?素直じゃない?え、なにそれ。私が?

 

 

『え、待って。どういうことよそれ』

 

 

私は自分に対して嘘吐きで、それは素直じゃないからだって?そういうこと?

 

 

『や、ないないないない。正直。正直者だから、私。ていうか嘘吐きと素直じゃないって大して意味変わんないでしょ』

 

『ね、赤ちゃん』

 

『あ?』

 

『えと……ありがと。私に、あの時、話しかけてくれて』

 

『は?なんだ急に…』

 

 

今その話する?もう終わったでしょ。何日か前に。

 

 

『私、嬉しかったよ。気持ちっていうか、気遣い…みたいな…』

 

『だから、あれは違うって。私は目的があるから近付いたの。別に励ますつもりも無けりゃ、あんたに対しての優しさやらもあったわけじゃ』

 

『ほら』

 

『なにが「ほら」なの先輩は!?』

 

 

いや、ほんとに。今のが何の証明になったってんだ。

 

 

『なんか、ね』

 

『赤ちん、なんかマジでアレだよ。えーっと…』

 

『言い訳がましいんですわよね。誤魔化してるっていうか』

 

『そー!それな!』

 

『なぁっ!?』

 

 

ギクッ。や、ギクッてなんだ私。

 

いや、違う。ほんとに違うんだって。私別に、そんなつもりじゃ…

 

 

『以前、神社のうわさを調べようとした時もそうでしたわよ。何か言いかけて、一人で先に行ってしまったり』

 

『や、あれは…!』

 

『あの時は無理に追求することもないかと思ってそっとしておきましたけど、いい機会ですわ』

 

『あ、てかさー。それより前に、ホンネぽろっと漏らしてたよね?マズいゴハン作った時』

 

『えっ…』

 

『あぁ、そういえば…。確か、私達に危険が降り掛かるのではないかと、気にかけるような言葉を』

 

『ねー。ゴマカしちゃったよね、あれも』

 

『…………』

 

 

おい、なんだ。なんだオイそれは。何言ってんの。何言ってんだお前らは!

 

つーかよく覚えてんなぁ!?そんな前のこと!

 

 

『私と会った時のこと、二人に話した時も…否定してた。「自分はなにもしてない」って…』

 

『あったよねー、そんなのも。ケンソンすることないのにさー』

 

『話聞くだけなら誰でもできるだろ。なにかした内に入るか、あんなもん』

 

『前も言いましたわよね、私。そういうとこですわよ、貴女』

 

『ぬぐぅ…………』

 

 

くそ、何故か分からんけど、反論出来なくなってきた…。

 

なんだ。なんなんだろうこの感覚は。好き勝手言われて嫌なのに。どうにか否を突き付けてやりたいのに。

 

さっきからなんだ。この、図星を突かれてるような気分…。

 

 

『ね。口では違うって、自分に嘘、ついてる。私、そう思う…』

 

『そーゆーことかぁ。なんでだろね?』

 

『それはほら。きっとアレですわ』

 

『うん』

 

 

…あれ、なんだろう。嫌な予感がする。このまま行ったら、なんか…

 

 

『赤ちゃん、多分いっつもそうなんだと思う…。自分の気持ち、つい隠しちゃう、みたいな…』

 

『隠せているかは怪しいですけどね。赤さんって案外、声色とか態度とか表情とか、そういう所に出やすいですから』

 

『おー、先輩すげー。マジで1年付き合ってるだけあるよ』

 

 

このままじゃ私の、こう…奥底の何かが揺さぶられちまう何かが起こるような…!

 

 

『ヨーするに、照れ屋さんってこと?赤ちん』

 

『そういう側面もあるから、隠したり誤魔化したりするのではと思います。彼女はこう、本質というか、根っこみたいなところが…』

 

『うん…。うん。私も多分、同じこと考えてる』

 

『ええ。きっと、赤さんって』

 

 

おい、待て!今すぐその口閉じて…!

 

 

 

 

『本当は良い人なんだと思います。口では悪ぶってますが、心根は情に厚くて、他人に対して思いやりを持つことの出来る、そういう人』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

 

あの時の、先輩のあの一言を聞かされた時に感じた、衝撃。身体へのものじゃない。

 

言葉が出せなかった。頭が空っぽになった。酷く揺さぶられた。自分の奥深く。そこに沈んでるはずの、何かが。

 

最初は頭が働かなかったけど、先輩に言われたことを何度も反芻してる内に、思考も精神も落ち着いてきて。

 

 

『あ、じゃあさ。赤ちんがよく「友達じゃねー」みたいに言うのも』

 

『本心とは違う…ってこと、かな』

 

『そうなると あだ名の件といい、赤さんってもしかして、私達のことかなり好…』

 

『うにゃあーーーーーーーーー!!!』

 

 

そこにこんな会話ブチ込まれたもんだから、私はとうとう我慢出来ずに奇声を上げて、爆速で自室に直行。三人の声も一切無視して、引きこもってた。

 

熱くなった顔、胸の内側を支配する羞恥心、違う違うって呻く口と、ベッドの上でジタバタ激しく動く身体。

 

その内に疲れて寝ちゃったみたいで、気付いた時には外は暗くなってた。

 

 

「はぁ………」

 

 

その後はいつも通り風呂に入って、風呂上がりのアイスを食べて、歯を磨いて…。

 

でも、先輩と顔を合わせるのが気まずいから、時間はかなりズラした。

 

居間も廊下も真っ暗な中に下りていって風呂に向かうのは、ちょっとだけ怖じゃねえや緊張感があったな。

 

 

 

「……………なにが…」

 

 

 

『本当は良い人なんだと思います』

 

先輩のその一言をまた思い出しながら、外の景色を見つめる。自然と、眉間に皺が寄っていった。

 

 

「なにが良い人だ…。なにが…!」

 

 

窓の桟に乗せた腕を片方、軽く叩きつける。両手に力が入って、キツく握り締められてく。

 

 

(私に優しさなんてない…!思いやりも、情も、そんなもの、なんにもっ……!!)

 

 

顔が俯いていって、神浜の街並みも、月が眩しい夜空も見えなくなる。

 

 

(私達はただのチーム!単なる協力関係!それだけだろ…。それだけなんだよ…!)

 

 

とうとう目蓋まで閉じて、真っ暗。なにも見えなくなる。感じるのはもう、吹いてくる風の感触だけ。

 

 

(もう捨てただろ…。もうやめただろ…!誓ったんだ、自分に!)

 

 

とうとうその風すら嫌になったから、窓を閉じて、カーテンも閉める。荒っぽい手つきになっちまったのは、仕方ないことなのか。

 

 

「もう、人を好きになんてならないって…!!」

 

 

口に出したのは、再確認。自分が自分に定めたことを、今また思い出す為に。

 

 

(……本当に出来るのかな、そんなこと)

 

 

それなのに、言った側から脳裏に湧いた、弱気な言葉。情けないこと抜かすな、私。

 

ベッドにボスッと倒れ込む。枕元に置いたスマホをなんとなく手に取って、スリープを解除した。

 

 

「…………………」

 

 

ホーム画面に表示される、メッセージの着信を報せるマーク。

 

何時間か前に来たものだけど、その時から開いてすらいない。送り主の名前を見ただけで、嫌な気持ちになったから。

 

またこうやって送ってくるんだろうな、あの人は。懲りずに 今日も、明日も、明後日も。

 

 

(会いたいな……)

 

 

勿論、あの人にって意味じゃない。

 

夜っていう、深くて静かな世界が、私の心を脆くさせたからなのか。

 

それとも、昼間のことが尾を引いて、私が弱ってしまってるからなのか。

 

 

 

「お母さん………」

 

 

 

口にすると、酷く切なくなってきちまった。

 

もういい。不貞寝しちゃおう。

 

スマホをスリープさせて、元の位置に。そのまま寝返りをうって、窓側に背を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「♪」

 

「は?」

 

 

そしたら、なんか居た。目に飛び込んできた。美少女が。

 

 

「…………♪」

 

 

ニコニコ楽しそうな顔で、私をジーッと見つめてる。自分と同じような体勢で、ベッドに寝っ転がりながら。

 

可愛らしい顔立ち。カーテンから漏れる月光のお陰で分かる、空色の綺麗な瞳と、同じ色彩をした髪の毛。

 

そしていつも変わらない、どこの学校のものかも分からない、制服みたいな衣装。

 

 

 

要するに、まぁ、なんだろう。あの、謎の女の子だった。

 

 

 

「………う」

 

「?」

 

「うおおおおおおおおおお!?」

 

 

 

夜中で近所迷惑になるかも。そんなことも考えられずに、私は絶叫。すぐに体を起こして、後ずさった。すぐ壁にぶつかったけど。

 

 

「え、お前、なん…!?なんで居んのお前!?」

 

「……?」

 

「そりゃ、何時でも会いに来いって言ったけどさぁ!」

 

 

結局連絡先、渡さなかったよなぁ!?私!どうやって突き止めたんだよ、ここを!

 

 

「ていうか、なんでこんな夜中!?や、その前にどっから入ったのさ…」

 

「………」

 

 

玄関は先輩が鍵をかけただろうし、窓は私が居たから、来たら分かる。

 

あの馬鹿力で無理矢理ブチ破ろうもんなら、私達にバレるだろうし。マジで何処からどうやって…。

 

……いや、この際それはいい。それよりも…

 

 

「………♪」

 

「あの…なんか既視感が…」

 

 

身を起こした女の子が、四つん這いになる。

 

そのままベッドを軋ませながら、こっちに にじり寄って来た。

 

どっからこの子が来たかよりも、それが問題だった。少なくとも、今の私にとっては。

 

 

「あのー、やめよ?もう夜遅いから。私も寝たいから。ね?学校あるからさ。寝坊したら困るから…」

 

「………♪」

 

「ほっぺ赤くしないで?目もさ、ほら、そんなうるうるさせないで?ね?日中。日中ならいいから。だから、また日を改めて…!」

 

「〜!!」

 

 

私の懇願染みた静止も虚しく、女の子がガバッと飛び掛かってくる。体重を乗せて押し倒そうとしてくるのを、なんとか押し留めることに成功した。

 

 

「〜!〜!!」

 

「ちょ、やめ!やめろって!ダメだから!今はほんとダメだからマジで!!」

 

 

ギシギシ、ガタガタ、ドッタンバッタン。あの手この手で私を好きにしようとする女の子と押し合い圧し合いしたせいで、大きい音が鳴る。

 

 

「〜!!」

 

「あー!やめ…!首筋はマジでさ!あっ…」

 

 

……まぁ、実際はとっくにパワー負けしてる私の、無駄な抵抗みたいな感じになってるんだけどもさ。

 

 

「こんの…!こいつ、マジで離…」

 

「もぅー…なんですの赤さん、こんな時間に…。騒がしいにも限度が……」

 

 

そうしてたらいきなり部屋のドアが開いて、ふにゃふにゃした声の先輩が注意してくる。あーやっべ。流石にうるさくし過ぎたか…

 

って、そうじゃねーって!

 

 

「ちょうど良かった!先輩、この子引き剥がして…!」

 

「……………」

 

「えーっと……先輩?」

 

 

ジトーッとした視線。あの、ちょっと?私、困ってるんだけど…。

 

叩き起こしちゃったのは悪いと思うけど、言うなれば不法侵入されてるわけなんだから、ここは同じ屋根の下に住んでいる者同士、協力して…!

 

 

「………ほどほどになさって下さいまし」

 

「せんぱぁい!?」

 

 

おい、ドア閉めて自室に戻りやがったぞ!

 

観覧車草原の時といい、ふざけやがってあの女ァ!!

 

 

「〜♪」

 

「あっ…!?バカ!寝巻き脱がすのはマズいって!やめろ!ほんとにやめろそれ!そこまでは流石に…!」

 

 

 

その直後、情けない悲鳴が、自室に響き渡っていった。勿論、この私のやつ。

 

 

 

この後は結局、寝ることも休むことも出来ずに、女の子に抱き枕にされたままで、夜は更けていった。

 

 

 

誤解の無いように言っておくと、小さな良い子達にはお見せ出来ないような何かが繰り広げられたとか、そういうわけじゃない。

 

 

 

朝までの添い寝を条件に私を襲うのをやめるように言ったら、なんとか上手くいった。それだけ。

 

ていうか、襲うのは無しって前に言った気がするんだけどなぁ…。

 

 

 

 

抱き枕に関しては許可した覚えはないけど、なんかもう心身共に疲れて色々面倒になってきたから、好きにさせることに。

 

 

 

女の子の身体の柔らかさと、漂ってくる甘い香り。その二つを嫌という程堪能したまま、朝を迎えることになっちまった。

 

 

 

 

 





マギレコ本編の出来事

・第一部 第5章 開始前


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5-2 お名前は?



土曜更新が出来ないことが続いて悔しいので初投稿です。





 

 

 

 

「で?赤ちん、ずーっと引っ付かれてるわけ?」

 

「見たらわかるだろ…」

 

「〜♪」

 

 

日が昇って、学校に行って、放課後が来て。

 

今日も皆で話そうってことになったから、また先輩の家にチーム全員で集まった。

 

…問題は、なんで謎の子まで同席してるのかってことなんだけど。

 

 

「本当にびっくりしましたわよ。夜に部屋に行ったら普通に居るんですもの」

 

「嘘つけ…」

 

 

サクッと流して部屋に帰ったくせに…。

 

 

「朝 リビングに下りてきた時なんて、腕に女の子をくっ付けたままなんですもの。バカップルじゃないんですから」

 

「好きであんなことさせてたわけじゃないんだよなぁ…」

 

 

寝不足だわ気力も萎みっぱなしだわで、もう抵抗したり諭したりするのも面倒だったんだよ。

 

朝飯の時も離してくれないし、ガン見してくるしで窮屈だから、適当にバターロールだけ食って済ませたし…。

 

 

「その…。大変、だった…ね?」

 

「んー…。まぁ…」

 

「あげる。これ…」

 

「どーも…」

 

 

おやつに用意したクッキーを年長さんがくれて、それを口に放り込む。所々に紛れたチョコチップが、いい味出してる。

 

自分の分を寄越してくれたのは、この人なりの労いか。

 

 

「よくわかんないんだよなー、こいつも…」

 

「?」

 

 

言いながら、さっきからずーっと私の左腕にしがみ付いたままの女の子に目をやる。私と目が合って、不思議そうな顔で首を傾げた。

 

 

「と言いますと?」

 

「いやさ、登校してね?校門前まで来たのはいいんだけどさ」

 

「それ…そのままだとダメ、だよね?」

 

「うん。だから、『ここまで』って言ったんだけど、イヤイヤってして」

 

「マジかー。どうしたのそれ?」

 

「…………」

 

「…あの、赤さん?」

 

 

言い辛い…。多分これ、いい顔されないだろうし…。

 

 

「えーっと…あの。アレ。アレと引き換えで、帰ってもらったっていうか…」

 

「アレって」

 

「だからー、うん…あー、っと……」

 

「ん……?」

 

「…………………………ちゅー」

 

「うわぁ…」

 

 

ほらぁ!!だから言いたくなかったんだって!来ると思ったわ、「うわぁ…」って!うるせーなぁもう!

 

 

「ま、ここを深掘りしてしまうと話が逸れるので、置いておくとして」

 

「あー、うん。そうして…」

 

「前は嫌がってる風だったのに、今じゃ自分からそういう提案をしている辺り、段々とそっちの気に染まっていってそうな赤さんは置いておくとして」

 

「ぶっころすぞ!!」

 

 

失礼だなぁ あんたは!したくてしたわけじゃねえって言ってんだろ!

 

 

「今度は口じゃねー!デコだよデコ!人から見えないとこで!」

 

 

流石に毎回ぶちゅぶちゅされるのも色々と保たないから、なんとかそれで妥協してもらった。色々は色々。別にやらしい意味じゃない。本当だぞ!

 

それでも不満そうだったけど、なんとか聞き入れてもらえたんだから上々だろ。

 

 

「聞いてないけどね!」

 

「あ?」

 

「赤ちんが隠れてデコちゅーしたっての、ベツに誰も聞いてないけどね!」

 

「……………」

 

 

イラッ。

 

 

「イタいたいたいたいたいたい!引っ張らんで!」

 

 

全く、ここぞってばっかりに…。むにーっと引っ張ったマジ子のほっぺから、手を離してやった。

 

 

「うへー、イタい…。んでさー、そっからどうなったん?」

 

「ん。まぁ、いつも通り消えてったんだけどさ。スーッと」

 

「じゃあ、学校はちゃんといつも通りに…?」

 

「いや、なんかその後もなにかと出てきた…」

 

「えぇ……」

 

 

うん。私もえぇってなったわ…。なんかどっかから出てくるんだよね、いきなり…。湧いて出るっつーか。

 

休み時間、飯時、花摘み、掃除の時間、放課後…もー色んなとこで。授業中に出なかっただけマシか…?

 

 

「何人かに見られたりもしたしなぁ…」

 

「あー、それは…」

 

 

人の集まるところで出てくることがなかったのは、まぁ助かったけども…。

 

 

『む。隣の人物は誰だ。見たことのない制服だな…。他校の生徒であれば、然るべき所からの許可が必要であると思うが』

 

 

東のボスには思いっきり怪しまれてたなぁ…。「サボり癖の酷い友人が勝手に会いにきちゃった」ってことにして、人気の無いとこまで逃げて…。

 

 

『その人、うちの制服じゃないですよね?あ、見学かなにかなのかな?』

 

 

後輩の子はそんなでもなかったか…。あんまり良くないけど、口止め料として登校する途中で買ったミニドーナツ(6個入)をあげた。割と強引に。

 

「妹、弟達のおやつにしますね!ありがとうございます!」なんて言われちまって。家族思いなんだな。

 

 

『あ、あの…大丈夫なの…?その子、怒ってるけど…』

 

 

放課後に、デコを晒してる気の弱そうな子が持ち物を落としたのが見えたから、拾って渡そうとした時のこと。

 

なんか知らんけど、また出てきた女の子が私の身体を引っ張って、デコの子から遠ざけようとしてきた。

 

事情を説明してみたら離してくれたけど、なんだったんだアレ…。

 

 

と、まぁ、こんな感じで色々と。

 

教師に本格的に知れ渡るとマズいと思って、放課後になったら一目散に下校したけど、大丈夫かな。悪い噂とか、立ってないといいんだけど…。

 

 

「噂……うわさかぁ…」

 

「?どったん、いきなり」

 

「いや、こいつのこと」

 

「この子とうわさって…あぁ」

 

「うん。人間じゃないのかなって」

 

 

噂って単語で思い出した。

 

こっちに直接的に害を加えてくることは無くなったけど、私達は確かに、この女の子と戦ってきた。圧倒的な強さと、大きい魔力。魔女ともまた違う、その存在…。

 

 

「この子さー。やっぱり、あれなんかな?」

 

「ウワサ……だっけ」

 

「すさまじい力。最初に会った時に展開した結界。魔法少女とも、魔女とも違う異質な魔力…。間違いなさそうですが…」

 

「で、そのウワサを意図的にバラ撒いて管理してるのが」

 

「…マギウスの翼」

 

 

そう。先日出会って一悶着あった、あのローブを着た五人組。奴らはそう名乗ってた。

 

今日集まったのは、その辺のことを話し合う為だったんだよな。

 

 

「解放するって、言ってた。魔法少女のこと…」

 

「しゅくめーがどうの、みたいな?」

 

「魔女との戦いのことを指しているというわけでは、なさそうでしたわね」

 

「ほんとのとこを聞けりゃあよかったんだけどなぁ」

 

 

黒ローブに邪魔されちまったからなぁ。あの白ローブはなんかアホっぽいのに、手下がそれをフォローするように動くから、面倒くさかった。

 

特務隊とか言ってたっけ。そういや。

 

 

「ですが、彼女らはあくまで手足に過ぎない。マギウスと呼ばれる、トップに君臨する者の」

 

「マギウスねー…」

 

 

「宿命からの解放」なんて御大層なこと言っちゃあいるけど、その為にこの神浜のあちこちに、ウワサなんて危ねーもんポンポン散らしやがって。

 

あのローブ達も、そんな非常識なことやらかす奴等の下に集まって、それでいいんかよ。

 

 

「あいつら、五人だけじゃなかったよな。後から何人か来て…」

 

「去り際の言葉から考えるに、あれが全員ということでもなさそうですわね」

 

「じゃあ、多いってこと?もっと…」

 

「それこそ、私達程度、吹いて飛ばされるような戦力差である可能性が高いでしょうね」

 

「マジで!?やっべー…」

 

 

なんちゃらが消されたとか、他にも邪魔してくる集団が居るみたいな話もしてたけど、それが私達に有利に働くかは分からない。

 

私達はこれから、奴らに対してどうするべきなのか。

 

 

「あいつらのお達し通り、邪魔しないで知らんぷりでもする?」

 

「赤ちゃん、それは…」

 

「メーワクかけてんでしょ?よくないってゼッタイ!」

 

「だからって、真正面からぶつかって勝てる相手じゃなさそうだろ。ウワサにだって負け続きなんだぞ、私ら」

 

「そりゃーそーだけどー…」

 

 

「むぅ〜」って口をとんがらせて、マジ子は納得してなさそうな顔をする。言っといてなんだけど、その気持ちは、まぁ分かる。

 

でも、勝算があるか分からないのも事実だしなぁ…。だったら、無理して戦いに行く必要もないかもって思うけど、うーん…。

 

 

「皆さんの仰ること、全てに一理ありますわ。特にウワサは、放置しておくには危険。ですが、あれらは強力。『深入りしてもいい事はない』とも言っていましたわね」

 

「んー……」

 

「でも 関わってしまった以上、ここでお終いというのも、座りが悪い。私はそう思っています」

 

「じゃ、どーすんの?やっぱり戦う?」

 

「大丈夫、かな…私達…」

 

 

年長さんが、不安そうにする。そりゃそうか。

 

考えてみれば、私達が今までやってきたのは、魔女っていう怪物達との戦い。仮にマギウスの翼とこれからバチバチやりあうってんなら、当然 対人戦をやることになるわけで…。

 

この前の戦い、不意を打たれたっつっても、私達が特務隊の奴らに一旦は押さえられたのは事実。

 

息の合った動きだったし、ローブのやつらも、かなりの頭数を揃えてそうだ。加えてウワサっていう強力な戦力もあるし、アドは明らかに向こうが握ってる。

 

 

「あぁ、いえ。そうは言ってませんわ。私、まずは知りたいと思ってますの。詳しく」

 

「あ、そう…なの?」

 

「詳しくってなにー?」

 

「お話は聞いたと言っても、やはり肝心なところは不明瞭なように感じましたので。まずはウワサのことから始めて、そこからこう、徐々に」

 

「つっても、どうすんのさ。また調査でもするか?」

 

「何言ってますの。居ますわよ。私達の身近に」

 

 

それは、ウワサがってこと?そんなの……

 

 

『あ』

 

「そうです」

 

「?」

 

 

三人一緒に気付いて、私に引っ付く女の子に目を向ける。

 

また首傾げてるよ。てか、そういや今の今までずっと私の隣に居たんだよな…。話にも入れないのに、よく飽きなかったね。

 

 

「今まで何度か話してきた通り、その子はウワサである可能性が非常に高い。でしたら、彼女の素性を探るのがよろしいのではないかと」

 

「先輩さ、こいつがウワサだっつっても、だったら、くっ付いてる噂話があるはずだろ?なら結局、それを見つけなきゃいけないんじゃ」

 

「多分、その為の…だと思う。マギウスの、翼」

 

「へ?なに、マジどゆこと?」

 

 

…あぁ、成る程ね。ウワサの元締めは、マギウス。そしてマギウスの翼。

 

ウワサとローブの総数は知らないけど、やつらはウワサの管理の為に色々とやってて、その為にローブ共っていう人員を動かしてて…。

 

 

「だったら、こいつを管理なり監視なりしてるローブも居るかも知れない…ってことか」

 

「ええ。それならば、この子の周囲にマギウスの翼が姿を見せることもあるでしょうから」

 

「そこで、聞いてみる…直接」

 

「ですわ」

 

 

そういうこと。今までみたいにチマチマ調べるより、その方が早い。餅は餅屋ってな。

 

 

「あの子達、そんなカンタンに教えてくれっかなー?この間の子達もワーワーさわいじゃって、ウマく行かなかったよ?」

 

「その時はまぁ…最悪、戦いになるかもですけれど」

 

「つまり?」

 

「力尽くです。決まってるでしょう」

 

「あ、そう…」

 

 

「私達には止められないと言い切るくらいには大人数なのでしょうから、下部組織の構成員を数名ノした程度で、全面戦争に発展する事もないでしょう」って、先輩が言う。

 

うん、なんだろう。前の特務隊との戦いといい、妙に過激な瞬間あるな?

 

 

「ですから、赤さん」

 

「え、あ、はい?」

 

「その子のこと、お願いしますね」

 

「は?」

 

 

なんて?

 

 

「その子を訪ねて翼の方々が現れた時、私達も近くに居られれば動きやすい。ですから」

 

「……繋ぎ止めとけって?」

 

「貴女を好いてますもの」

 

「すっ……」

 

「胸キュンですわ」

 

「うるせーよ!」

 

 

おい、冗談じゃねーぞ。それってつまり、なるべく一緒に居ろとかそういうことじゃん!ただでさえ神出鬼没で困ってんのにさぁ!

 

普段は引っ込んでてもらうことも出来そうっちゃ出来そうだけど、それは…!

 

 

「あの、私、学校でこいつにかなりしたんだけど。その……ちゅーを?」

 

「はぁ」

 

「それも毎回だよ…。見つからないように隠れててとか、何か頼む度に。対価で…」

 

「えぇ…?」

 

 

だって、そうしないと言うこと聞いてくんなかったんだもん…。学校でデコの子に落とし物渡す時とかもさ…。

 

 

「まぁ、例によって口にではねーけど…」

 

「あ、じゃあさ、あだ名付けない?あだ名!なんかモニュモニュ言ってる赤ちんはほっといて」

 

 

一言余計だわ、このバカ。つか、なによ。あだ名?

 

 

「よく分かんないけど、これから赤ちんと一緒に居るんでしょ?同じ家に住むんなら、あった方がよくない?」

 

「ん…。何時迄も『あの子』とか、『謎の子』とかじゃ…」

 

「まぁ、確かにそうですわね。些か不便だと思いますし」

 

 

んー……。それはそうかぁ。つーか、一緒に住むのは確定なんだ…。はぁ…。

 

 

「あだ名ねー…。名前が聞けりゃあそっから考えてもいいけど、こいつ喋らないしな…」

 

「外見等の印象から付けてもいいでしょう。私も赤さんも、そんな感じですし」

 

「…………」

 

 

歳上だから先輩。赤い衣装だから赤。口癖がマジだからマジ子。最年長だから年長さん…。

 

まぁ、分かりやすいに越したことないか。先輩の案、採用。

 

うーん、印象。こいつの印象か…。

 

 

「じゃあ、ラブちゃんとか!」

 

「あ?」

 

「赤ちんにゾッコンで、胸キュンなわけじゃん?アイだよアイ!だから、ラブ!」

 

「却下」

 

 

由来が恥ずかし過ぎる…。そんな直球じゃなくていいだろ。

 

 

「ウワサさん、というのは」

 

「うわさとウワサで被ってるし、これ以上ややこしくなっても…」

 

 

そのシンプルさは悪くないんだけどね。もうちょっと、こう…。

 

 

「ソラ…とかは。ほら、髪とか、眼とか…」

 

「んー…。んん〜…?」

 

 

あぁ、なるほど。いい感じかも。でもこう、なんだろう。私としちゃあ、もう一捻りあっても。

 

 

「意外と難しいな…」

 

「赤さんはなにかあります?」

 

「私か…。んー…」

 

 

ううん…いざ聞かれると困るな…。

 

どっかにヒントが転がってないかと思って、スマホで検索。とりあえず、一番いい線行ってた『ソラ』を元に何か…

 

 

「あ」

 

「お?なんか良いの来た?」

 

 

幸いなことに、検索をかけて出た結果の一つから、私は答えを得ることが出来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先輩さ、なんであの観覧車の時あんな乱暴だったの?ぶっちゃけ私、怖かったんだけど」

 

「それなー!アタシ、マジで先輩がおかしくなったんかなって!」

 

「あぁ…。あれは単なる挑発です。ストレスの発散も兼ねての」

 

「えと、溜まってた…の?」

 

「あの日は本当に疲れましたもの。珍しく救援要請が来たかと思えば、待っていたのは美少女とイチャつくお馬鹿さん。そんな間抜けな光景を見せられれば、苛立ちも溜まるというものでしょう」

 

「馬っ…!や、私 悪くないよなぁ!?」

 

「ローブの方々の態度や、こちらを馬鹿にしたような物言いに腹が立ったというのもありましたけどね」

 

 

 

「あの白い衣装の方も、ああいうのに乗ってきやすいタチな気がしましたし」って、先輩は続けた。

 

 

陽が傾いて、そろそろ夕焼け模様になりそうな景色の中を、私達は歩く。適当にあれやこれや喋りながら。

 

 

チームでの話し合いも、ひと段落した時だった。年長さんが、晩飯の買い出しに行きたいって言い出したのは。

 

折角チームで集まったんだから、また自分の手料理を一緒に食べてほしい。そう希望して。

 

 

そしたらマジ子のやつが、「なら皆で一緒にいこー!」とか言い出して。荷物持ち一人居ればいいだろって言っても、駄々こねて聞かねーの。子供か。

 

正直面倒だったけど、まぁ、時刻が時刻。パトロールも兼ねてってことにすればいいかってことで、自分を納得させた。

 

 

「そんでねー、その時赤ちんさー」

 

「だぁ!やめろお前、あん時のアレはー!」

 

「ふふ…」

 

 

で、目的地に向かって中央区を移動する私達は、こうして絶賛駄弁り中。

 

話題を振るのは、大体マジ子の仕事。よくもまぁ、次から次に出てくるよ。

 

 

「っ!っ!」

 

「ん?なにさ?」

 

「〜!」

 

 

皆と話してる私の腕が、グイッと引っ張られる。今この場に、そんなことする奴は一人だけ。

 

そいつに向かって話しかけてみるけど、相変わらず喋らないから、目的が分かりづらい。

 

 

「また呼んでほしいんじゃありませんの?」

 

「え、また?何回目よこれで…」

 

「そんだけウレしかったんだって!」

 

「ん…。呼んで、あげよ?」

 

「………そうなん?」

 

 

三人がそんなふうに言うから、腕にしがみ付いて歩く本人に確認。満面の笑顔になりながら、首を縦にブンブン振った。そうですか…。

 

 

「わかった。わかったから。もー…」

 

「〜♪」

 

 

嬉しそうにしちゃってさ。そんな大層なもんかな、お前に付けたのは。

 

 

 

 

「とりあえず、腕抱き寄せるのやめて。手ェ握るくらいなら、まぁ、いいから。ね。『シー』」

 

「〜!!」

 

「聞いてないし…」

 

 

 

 

私が付けたあだ名で呼ばれて、そりゃあもう幸せそうにはしゃぐ彼女を見ながら、思う。

 

 

 

「シー」。私が名付けた、この子を示す言葉。

 

 

 

ソラ。空。空の色。水色って呼ばれることもある、明るい青色。英語ならシアンとか、まぁその辺。

 

 

シアンの頭文字はC。その青を表す単語のCを、そのまま片仮名にして、シー。

 

 

あの子の髪の毛も、瞳も、青いから。だから、Cyanのシー。海の方のSeaと被るけど、どっちも青いもんだ。丁度いい。

 

 

 

自分でも思った。適当だって。先輩からも呆れられた。「誰かに付ける名前がそれなの?」って。

 

 

 

だけど、それでいいと思った。私に名前を呼ばれた シーが、馬鹿みたいに喜んでたから。

 

 

 

 

その名前が嬉しいって、好きだってなってくれたんなら、別に良いかなって。私には、素直にそう思えたから。

 

 

 

 

 





マギレコ本編の出来事

・みかづき荘に越してきて日が経ち、ようやく部屋の片付けが終わったいろは。今までに得た情報が脳裏をよぎり、ういがマギウスの翼に関わっているかもしれないと、不安になってしまう。
その直後、部屋にやちよが訪れ、夕飯の買い物に出ると話す。自分もちょっとした用があるからと、付いて行くことにした いろはだった。


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5-3 逃走少女



タルトイベ復刻&新イベ開催の予告が来たので初投稿です。





 

 

 

 

「おい、あいつら来てるか!?」

 

「確認するまでもないですわ!」

 

 

あぁそうかい。確かに、後ろから足音聞こえるもんな。今の私達と同じように、走ってるやつが。

 

 

(私らは飯の買い物に来ただけだろうが、くそ…!)

 

 

あーもう、面倒だな…!疲れるったらない。どうしてこんなことする羽目になったんだ。

 

 

(そんなもん、お前…)

 

 

チラッと隣に視線を移して、私よりほんの少しだけ遅れて走る、小さい背丈のそいつを見る。

 

そう、こいつだ。この、ついさっき知り合ったばっかりのチビっ子。こいつとの出会いが、この状況を作った原因だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雁首揃えて、買い物しに出てきた私達。取るに足らない雑談を肴に道中を消化しながら、目的地ももうすぐってとこまで来た。

 

 

「今日はなに作んのー?」

 

「ん…実は、決めてないの。これっていうの」

 

「マジぃ?」

 

「マジ…」

 

 

ちょっと申し訳なさそうな年長さん。別に気にすることもないのになぁ。

 

 

「とりあえず、考える。お店、行ってから」

 

「そっかー。あ、でもさ!ねんちょーさんのご飯ってなんでもおいしーよね!じゃーいっか!」

 

「そう…?」

 

「そー!」

 

 

まぁ、うん。それは同意。これまで何回か飯作ってくれたんだけど、どれもうめーことうめーこと。

 

なんかもう、今までの冷食生活に満足してた自分が、とんだピエロに思えてくる。本当に…。

 

 

「…お前も食う?」

 

「?」

 

「飯だよ、晩飯」

 

「………?」

 

 

シーに聞いてみたけど、返ってきたのは変なリアクション。あれ、なんだこれ…。こっちの言葉が伝わってないってわけじゃなさそうだけど。

 

いや、そもそも飯を知らないとか…?人間ではないんだろうし、おかしかないか…。

 

 

「?」

 

「ん。なんでもない」

 

 

ちょっと考え込んだ私を不思議に感じたのか、シーが制服を引っ張ってくる。軽く流しておいた。

 

飯を食わないならそれでいい。その分食費も浮くし。

 

…別に、一緒に食えなくて少し残念だなとか、そんなこと思ってない。

 

 

「着いた。ここ」

 

 

年長さんが、すぐ間近にある店を指差す。目的の場所に着いたらしい。

 

中央区に食材なんて買いに来たことなかったから、少し新鮮だな。

 

 

「つーか、人通り多いなー」

 

「近いから。ご飯の時間」

 

「んー…。魔女が活発化する時間を考えたら、少し危ないかもしれませんわね」

 

「だいじょーぶ!アタシたち居るんだから!」

 

「疲れてんだよなぁ。出来りゃあなんも無いほうがな…」

 

 

魔法少女としてどうなのって感じだけど、その前に人間だし。

 

特に今日はシー絡みで精神的にも、ちょっとね。つーわけで。

 

 

「何も起こりませんよーに。お願い神様」

 

 

細やかな願いを込めてそう呟いた、その直後。

 

 

「うっ」

 

「わぷっ」

 

 

前の方から何か突っ込んできて、私の隙だらけな体にダイブ。軽く呻き声が出ちまった。

 

てか、「わぷっ」って。どう考えても人の声。じゃあ今し方、私に一発かましてくれやがったのは…

 

 

「………子供?」

 

「うぅ…。すいません。前を見てなくて…」

 

 

私やシーよりも低い背丈。学校の制服は着てるけど、中高生には見えない。下校してからの帰宅途中なのか、鞄を手に提げてる。

 

 

「赤ちん、だいじょぶだった?」

 

「まぁ、それは…」

 

「〜!」

 

「わっ…なんですかこの人」

 

「あーもう、シー。やめろって」

 

 

私に危害を加えたって判断したのか、シーがチビっ子に食ってかかろうとするから、それを抑える。

 

こんな往来で面倒起こそうとしないの。余計疲れるだろ。

 

 

「あの…本当にすみませんでした。私、悪気があったわけじゃなくて…」

 

「大丈夫。気にしなくてもよろしいですわよ。このお姉さん慣れてますから、こういうのは」

 

「そうなんですか…」

 

 

適当なこと言うのやめてもらっていい?知らないチビっ子も真に受けてるじゃねーか。

 

 

「って、あの、そうじゃないんです…!私 急いでて…!」

 

「はぁ」

 

 

チビっ子が焦りだす。まぁ、わざとじゃないってんならそれでいい。私から特になにか言うことがあるわけでもないし。

 

「次から気を付けな」って、道を開けてやろうとした。

 

 

 

 

「見つけたぁー!くぉーらぁ!待ちなさいってんでしょーが!!」

 

 

 

 

そこに聞こえてきた、誰かの大声。

 

 

「ぴっ!」

 

「おっ?え、ちょ、なになになに」

 

 

それを聞いて、ビクッとしたチビっ子。後ろを振り返る動きに合わせて、私達の視線も、同じ方向に動いた。

 

 

「コラー!ちっこいのー!人のもんはちゃんと返しなさいよー!」

 

「ま、待ってぇ〜…!」

 

「あーもー、足痛いっすよ〜…」

 

 

見ると、遠くの方から誰かが走ってくるのが見える。人数は五人。

 

先頭のやつが声張り上げて走ってるもんだから、他の通行人がびっくりして道を開けてる。

 

 

「なんだありゃ」

 

「えっと、私、あの変な人達に追われてて」

 

「変て」

 

「しつこく追いかけてきて、困ってます…」

 

「ふーん…」

 

 

なんでそうなったかは知らないけど、大変だな。複数人で一人をってのは、なんか穏やかじゃない感じがする。

 

 

(イジメかなんかかな。でもなぁー…)

 

 

言っちゃあ悪いけど、私達には何の関係も無いんだよな。仲裁するって手もあるけど、事情によっちゃあ私らにはどうしようもないだろうし。

 

後ろめたい感覚はあるけど、ここはこのチビっ子が無事に逃げおおせるのを願って、このまま行かせてやるのが一番なんじゃ…。

 

 

「はーい。じゃ、アタシらと一緒に買いもんしよーねー」

 

「え」

 

 

なんて考えてる間に、マジ子のやつがチビっ子の手を握って、二人して店の中に入っていった。

 

一瞬呆けてそれを見送った私達だったけど、慌てて後を追う。

 

 

「あ!隊長、子供がお店の中に!」

 

「しかも、一緒に入ってったのって…」

 

「分かってるわよ!この前のやつらじゃない!まさか、性懲りも無く私達の邪魔を…!」

 

「や、ただの偶然ですよ流石に…」

 

 

チビっ子を追いかけてきたやつらがなんかゴチャゴチャ言ってるけど、距離が遠くてよく聞こえなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねー、おやつ買っていー?」

 

「んー…。あんまり沢山は…」

 

「や、ちげーだろ。どうでもいいんだよ菓子は」

 

「えー!」

 

 

人の多い店の中を、私達とチビっ子とで連れ立って歩く。肉、野菜、魚、調味料、その他諸々、手に取って吟味しながら、年長さんがカートに入れていく。

 

買い物は年長さんや先輩に任せて、手持ち無沙汰な私は、マジ子に話しかけた。

 

 

「なに考えてんだ お前。その子、引っ張って来ちまって…」

 

「赤ちんもシーちゃんぶら下げてんじゃん。似たよーなもんだって」

 

「違うと思いますけど…」

 

「え、あれー!?」

 

 

ちげーだろって言おうとしたところに、まさかのチビっ子からの発言。碌に説明も無いまんま買い物に付き合わされてんだから、この子も困るよな。

 

 

「ごめんなー。このおねーちゃん、バカだから」

 

「はぁ…」

 

「や、だってさー!かわいそーじゃん、なんか。こんなちっちゃい子、皆で追っかけて!」

 

「そりゃまぁ、そうだけどなぁ」

 

「助けてあげたかったの!アタシだって、ちゃんとおねーさんがデキるってとこ、マジで見しちゃるから!」

 

「おねーさん」

 

 

歳上らしく振る舞いたかったってか。マジ子には姉ちゃんが居るから、そう思う時もあるって感じなんかね。

 

そんなに良い立場でもないんだけどな。姉だの兄だのって。

 

 

「じゃ、どうするよ。もし、さっきのやつらが店ん中入ってきたら」

 

「…………」

 

「おい?」

 

「…………頑張る!」

 

「おい」

 

 

特に考えてないんかい!

 

これは出せねーな。頼りになる歳上感…。

 

 

「後は、何か買いますか?」

 

「んー。とりあえず、これくらいで…」

 

「では、お会計に」

 

 

おっと。そうこうしてる間に、買い物は終わりそう。カートを覗くと、肉が多めに入ってる。今日は肉料理か?

 

 

「じゃあ、レジ…行ってくる」

 

「マジ子さん。買ったものを袋に入れるの、手伝ってくださいます?」

 

「あいあーい。あ、でもこの子は…」

 

「赤さんに任せればよろしいでしょう。シーさんとイチャついてて、暇そうですし」

 

「あーはいはい。そーですねー。はぁ…」

 

 

もう今日は一々ツッコんでやらねえ。いいから早く金払ってこいって。

 

 

「じゃ、出口付近で待ってるか」

 

「あ、はい…」

 

 

レジに向かった三人と別れて、チビっ子とシーと一緒に歩きだす。

 

 

「手は?」

 

「いいですっ」

 

「あ、そう…」

 

 

マジ子とは繋いだまんまだったのにな。もしかしてあいつに気を遣ったとか?

 

 

(んなわけないか)

 

 

下手に離れないで、私らと居た方が安全。さっきはそう判断したからとか、そんなんだろ。この子は追われてる身なんだし。

 

 

何故かまた不機嫌になりだしたシーを宥めながら、三人で出口付近に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

…で、会計を済ませた面子と合流して、その後 何事もなく帰宅…とはいかなかったわけで。

 

薄々そんな気はしてたけど、店を出たところで、チビっ子の追手達が襲来。どうも、店の近くに待機して張ってたらしい。

 

そりゃそうだよなぁって思いつつ、そのままチビっ子を連れて、私達は逃走開始。どうにか先輩の家に逃げ帰ろうってことになっちまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんで、今現在。私達は、追手五人組に追い付かれそうになってる。

 

最初はそこそこの人混みが奴らの動きを阻害してくれてたんだけど、中央区から離れてくにつれて、段々と人の数も減ってきて、それで…。

 

そもそもこっちは荷物抱えてんだから、それに気ぃ遣ってちゃんと走れないんだよ。

 

 

「あーもー!なんでこーなんのー!?」

 

「いいから走りなさいな!もっと早く!」

 

「あの…!食べ物があるからいけないんじゃ…!」

 

「だからって、捨てられませんわよ!勿体ないでしょう!」

 

「ん…!成し遂げる。逃げるのも、食材を持ち帰るのも…!」

 

 

そんな意気込むことでもないだろ。そりゃあこっちは金払って買ってるんだから、無駄にするのは嫌だけども。

 

 

「ほらー!もうパンピーは遮っちゃくれないのよ!大人しく止まんなさーい!」

 

「隊長、私らもパンピーです!」

 

「そりゃそうねー!」

 

 

追手達も、こっちが不利なのを理解してるみたい。若干漫才染みてるやり取りなのは置いといて。

 

てか、隊長ってなんだ隊長って。あいつらも私達と同じで、あだ名で呼び合ってんのか?

 

 

「えーい、焦れったいわね!アンタ達!幸い、もう人は居ないわ!変身よ!」

 

「えっ」

 

「いやー、それは流石に…」

 

「サクッと用件済ませば問題無いわよ!いいから早く!」

 

 

「変身」。その言葉が気に掛かって、チラチラって後ろを見る。走りながら何度か振り返ってる辺り、先輩達も同じらしい。

 

そんな私達に答えを突き付けるみたいに、追手の五人が一瞬だけ、光に包まれる。

 

そうして光が収まった時、やつらの姿は変わってた。それも、見覚えのある、白と黒のローブみたいな衣装に。

 

 

「っ!お前ら、まさか!」

 

「なによ!ようやく気付いたの!ニブいやつらねー!」

 

 

思えば、何処か既視感があると思ってた。一番やる気を出して追ってくるやつの口調も、その後から付いてくるやつらの態度も。

 

そんで、納得がいった。どうして、そこまで歳が離れてもなさそうなやつを隊長なんて呼んでるのかってのも。

 

 

「あー!あんたら!『テセウスの暗さ』じゃん!」

 

「マ・ギ・ウ・ス!マギウスの翼よ!」

 

「そう、それー!」

 

 

マギウスの翼。マギウスって呼ばれてるトップに従って、解放とかいう名目で、この街にウワサなんて危ないもんをバラ撒く、テロリスト擬き。

 

しかも今私達を追いかけてきてるのは、前に観覧車草原で出会って一悶着あった、特務隊とやらだ。

 

 

(や、確かに探してたっちゃあ探してたんだけどさぁ!)

 

 

だからって、なにもこんな時じゃなくていいだろ!こちとら、今日はもう帰って飯食おうってんだぞ!

 

 

「チッ…。めんどくせぇ…!」

 

「お互い様よ、そんなの!二人、やつらの前方に回り込む!」

 

『了解!』

 

「あ、こいつら!」

 

 

白ローブが命令を出して、部下の内二人がジャンプ。私達の頭上を通り過ぎて着地。

 

そのせいで進路を塞がれて、私達は足を止めざるを得なかった。

 

 

「ふふーん!押さえたわよ!前と同じね!」

 

「ぬー…。やられましたわね…」

 

「ぬあー…!こっちもさっさと変身しちゃえばよかったー!」

 

 

こっちがローブ共の素顔を、さっきまで知らなかったってのが痛かったな…。私達は追手が普通の人間だと思い込んで、人の居ない場所まで来ても変身することが出来なかった。

 

素性を隠すのは有効だってのがよく分かったよ、クソったれ。

 

 

「さ!いつ人が来るか分からないし、率直に言いましょっか」

 

「………」

 

「そこのチビっ子!返しなさいよね!私達から盗ったものを!」

 

「うー…」

 

「教わらなかったの。人のものを盗ったらいけませんって!」

 

 

盗ったものだぁ?つまりこの子は、それが原因でこいつらに追われてたってことか。

 

 

「どーせ碌なもんじゃねーんだろ」

 

「失礼ねー!とても重要なものよ!私達の理想を叶える為の!」

 

「そもそも、構成員の風貌からして怪しげな組織が、幼い子供を盗人呼ばわりするというのはこう、些か…」

 

「怪しげってなによ!崇高だっつってんでしょ!つーかアンタ、前もそんな感じで煽ってきたわよね!?」

 

「あの程度の挑発に乗ってきた貴女が悪いのでは…?」

 

「ぬぐっ…!言い返せない…!」

 

 

先輩の見立て通り、熱しやすいやつだ。いっそこのままグダグダやって、状況打開までの時間を稼ぐのもいいかな。でもなぁ。こっちが保つかどうか…。腹もだいぶ減ってきたし。

 

 

(こんな時に限って、打開してくれそうなやつは何故か居ないのがさぁ)

 

 

内心そう呟いて、いつの間にか自由になってた片腕を見る。

 

店を出てせっせか走ってる時もシーはしがみ付いてたはずなのに、なんかいつの間にか居なくなってたんだよな。わけの分からんやつだよ、本当に。

 

 

(いっそ今、シーのこと聞いてみんのもありかなぁ?)

 

 

そう考えはしたけど、難しいかとも思う。

 

ウワサに関する情報はやつらにとっても重要なもんだろうし、聞いてもまた部下の妨害が入るかも…。

 

先輩が言ってた、戦闘になってでも吐かせるって手も、変身すら隙になる現状じゃ無理くさい。うーん、どうしたら…。

 

 

「あーもう!それで?どうなのよチビっこいの!返すの?返すでしょ?返しなさい!人来たら困るからホラ!早く!」

 

 

焦りながら、チビっ子にやたら催促する白ローブ。

 

気持ちは分かる。今は幸い誰も通ったりしてないけど、ここ別に路地裏とか、そういう人が来なさそうな場所ってわけじゃないし…。

 

 

 

 

 

「………うるさいです」

 

 

 

 

 

ん?今なにかボソッと…?

 

 

「ん!なんて?チビっ子!」

 

「うるさいって言いました。白い変な人」

 

「変っ…!?」

 

 

ここに来て、ハキハキと声を出して喋りだすチビっ子。今までずっと静かにしててからのこの発言だから、正直ギョッとした。

 

 

「さっきからチビ、チビ、チビって。それしか言えないんですか?語彙力クソ雑魚ウーマンですか、貴女」

 

「え…ちょっと待って、いきなり口悪いじゃない、アンタ…」

 

「だからなんですか。大体、安直なんですよ。私が小学生で背も低いからって、チビとか豆とか粒とか…!」

 

「待って?言ってない。言ってないから、豆も粒も」

 

 

……………。

 

 

「そもそもですよ?貴女達が返せって言ってるものだって、私が帰り道で偶然拾ったものです。そこに貴女達が来て、訳が分からないでいる私に碌な説明も無いまま、返せ返せって…」

 

「いや、でもー、その…ね?私達、あれと同じものを幾つか運搬しててー、それで一つ落としちゃったっていうか…」

 

「そんなに大事なものなら、最大限注意を払って、絶対に落とさないように運ぶべきなんですよ。正直困っちゃいます。そっちの不手際をこっちが悪いみたいに」

 

「すいません…」

 

 

あ、あれー!?

 

や、どした急にお前!?可愛いナリしてめっちゃネチネチ言うじゃん、この子…。まさかキレた?キレたのか?

 

自分より歳上の、それも複数人に追い回されて、その上別の集団に連れ回された挙句のこの状況だもんなぁ…。

 

天下のチビっ子様と言えど、流石に腹に据えかねたとかそういう…?

 

 

「とにかくですね、私今、ちょっと怒ってるんです」

 

「え、はい…」

 

「だから帰る前に、ちょっとだけ八つ当たりしちゃいます」

 

「え」

 

「ごめんなさい」

 

 

そう言った次の瞬間、チビっ子の全身が眩しく発光した。おいおいマジかよ、この光って…!

 

 

「うっそ!マジでぇ!?」

 

「この子、まさか…!」

 

 

やがて光が収まって、チビっ子の姿が露わになる。

 

一般的な服装とは大きく掛け離れた、一見コスプレにしか見えない、その衣装。

 

普通の人ならともかく、私達みたいな奴らにはとっくに見慣れたそれが、示す答えは…。

 

 

「お前、魔法少女だったのかよぉ!?」

 

 

腹も鳴りだす夕暮れ時に、ボディにボスっと突撃食らって出会ったあの子は魔法少女。

 

なんてこったよ。イベント目白押しじゃんね、今日。全く嬉しくねーけど。

 

何も起きませんよーにってお願いしただろ、神様。あれか。普段信仰もクソもない小娘風情が、調子のいいことを抜かすなってことか。

 

 

「行きますよ」

 

「え、待って待って!ちょ、待っ!落ち着いて…!」

 

 

歳上の静止の声をあっさり無視して、チビっ子魔法少女、跳躍。「トンッ」ていう軽い音とは裏腹に、かなりの速度で白ローブの懐に突っ込んだ。

 

 

「えいっ」

 

 

反応が遅れた白ローブの土手っ腹に、チビっ子の飛び蹴りが見事に炸裂。細い身体をしていても、そこは魔法少女。勢いの乗った、重い一撃だった。

 

 

「ぐっふ……。ゔぅ″え″え″え″え″え″え″え″……!」

 

 

白ローブが、青い顔で地面にぶっ倒れる。口から涎も垂らしちまって、マジで辛そう。

 

 

「た、隊長ぉぉぉ!だいじょぶですかぁ!?」

 

「うひゃ〜、痛そぉ…」

 

「いやもう、ほんと…ダメそう…。ダメこれ…」

 

 

これには流石に、敵ながら哀れみを覚えずにはいられないっつーか…。部下達も引いてんぞ。

 

 

「ど、どーしましょ…。隊長がぁ」

 

「とりあえず、えーとっ……!お、大人しくしてー!」

 

 

黒ローブの一人が、チビっ子に向けて鎖を伸ばす。以前 私達にやったみたいに、あの子を拘束するつもりなんだろう。

 

不意打ち気味とはいえ、自分達の指揮官をあっさりノされたことに、危機感を覚えたか。

 

 

「はっ」

 

「っ!?」

 

 

だけど、チビっ子の方はそれをものともしてない。

 

振り向き様に腕を振るった瞬間、黒ローブの鎖はその繋がりを断たれて、もう遠くの相手には届かないくらいの短さにされちまった。

 

 

「ええええ……。マジスゲー。切れちゃったよ、鎖…」

 

「私、見えた…。袖。服の袖だった」

 

「なるほど…。あの衣服そのものが、彼女の武器ということ…」

 

 

うへぇ。なんか無駄に長い袖だと思ったら…。よく斬れる服て。危ねーだろそれ。

 

 

「わああああ…!切られたぁ!切られたって、私の鎖!」

 

「待て、落ち着けって!……んー…。これ、旗色悪くねっすか…?」

 

「隊長はあっという間にノビたし、数でも劣っちゃってますもんね…」

 

「か、帰る…?」

 

「うん。そうするしか…」

 

 

黒ローブ達が話し合って、帰る方向に意見が纏まりかける。これ以上やり合うのはマズいって判断したのかな。

 

それがいい。人の怒りってのは恐ろしいもんだし。例え、か弱い女の子のものであっても。

 

 

「あれ。帰っちゃうんですか。私としては、まだ少し発散し足りないような感じで」

 

「え、あっ…た、退却!退却ゥー!!」

 

「すみませんでしたー!!」

 

「じゃ、そういうことっすから。私らこの辺で…!」

 

 

チビっ子の恐ろしい言葉を聞いて、ローブ達は完全に撤退を決定。未だにグロッキーな白ローブをサッと回収して、各々散って去っていった。

 

 

『……………』

 

 

一気に静かになった、さっきまでのバトルフィールド。

 

チビっ子が変身を解いて元の制服姿に戻るのを、私達のチームの誰も、一言も発しないまま見守った。

 

 

「ふー…。やりすぎちゃったかな…」

 

 

チビっ子が、ポソッと呟く。うん、まぁ…。インパクトはあったよ、とりあえず。

 

あの蹴りにはぶっちゃけ引いたけど、そこはその…。追い回した翼のやつらも悪かったってことで…。

 

 

「あの、すみませんでした。私…」

 

「へ?あ、え、あ、うん?なんで?」

 

「ちょっと怒っちゃって、勝手なこと…。皆さん、私が巻き込んじゃったようなものなのに」

 

「いえ、別に…」

 

 

申し訳なさそうに、シュンとするチビっ子。さっきの戦いぶりや口の苛烈さはどこ行ったんだってくらい、気弱そうな雰囲気。

 

「お相手の顔も割れましたし」って話す先輩の顔は、気まずそうだった。うん。気持ちは分かるよ、なんとなく。

 

 

「というかですね、あのー…」

 

「?はい」

 

「体を動かしてお疲れのところ申し訳ないのですが、少しお話というか、追われることになった経緯等、詳しくお伺いしたいのですけども…」

 

「いいですけど、でも…」

 

「でも?」

 

「もう暗いです…。お父さんとお母さん、心配しちゃうかも」

 

 

あー…。うん。そうだよな。さっき確か、小学生とかって言ってたもん。この時間にはとっくに家に帰ってるか。だったら…。

 

 

「ねね、お家は?」

 

「え。工匠区ですけど…」

 

「あら、東にお住まいですのね」

 

「…なら、どうだっていうんですか」

 

 

先輩の一言を聞いて、ムッとした顔になる。ん…なんかヤバいか…?

 

 

「いえ、その…。てっきり、南辺りにお住まいなのかと」

 

「南」

 

「ほら、制服が」

 

「あー、そういうことですか。すいません、喧嘩腰になっちゃって…」

 

「いえ…。こちらこそ、誤解を招きかねない発言を…」

 

 

二人して、お互いに謝る。

 

んー…。なんだろう。結構地雷を抱えてるっつーか、気難しい子なのかなぁ。

 

 

「まぁ、とりあえずさ。諸々の話は道中にしようじゃん?」

 

「道中って…」

 

「家まで送るってこと。頼むわ、年長さん」

 

「ん…車、出すね」

 

 

年長さんがサクッと変身を完了して、車を生成する。

 

流石にこれにはびっくりって顔のチビっ子を一緒に乗せて、車は発進。その後は工匠区にあるっていう家に着くまで、全員で色々と話しながら過ごした。

 

 

実家は工匠区だとか、南凪自由学園初等部所属の、小学六年生だとか。

 

両親と自身の三人家族で、神浜生まれの神浜育ちで、とか。まぁ色々。

 

魔法少女になったのは、何ヶ月か前のこと。

 

実は夕方の買い物の時から、私達が揃って自分と同じ指輪をしてるもんだから、もしかして…って思ってはいたらしい。

 

 

ちょっとした事で怒りっぽくなるのが悩みで、さっきいきなり口が悪くなったのもそのせいなんだとか。うん…納得。

 

 

 

自分に迫ってきた五人組はなんだったのか。彼女らが名乗った、マギウスの翼とは。私達が何故、やつらと関わりを持っているのか。

 

その辺りのことはまた後日、詳しく説明することを約束して、チビっ子と連絡先を交換。自宅まで無事に送り届けた後、私達も先輩の家に戻った。

 

 

 

 

買い物に付き添うだけだったはずが、訳有りの女の子と出会っちまって、何故かバタバタ走らされて。

 

こんなことはこれっきりにしてもらいたい。心の底からそう願って、美味い飯を空きっ腹にブチ込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日からしばらく、お世話になります!」

 

 

 

「や、貴女、お家は…?」

 

 

 

「家出です!」

 

 

 

 

それが、翌日になって早速先輩の家にやって来たチビっ子の、やけに堂々と放った台詞だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

えぇ………。

 

 

 

 

 

 

 

 





マギレコ本編の出来事

・料理中のやちよといろは。玉ねぎを剥くのをサボるフェリシア、アイスを持参して現れた鶴乃も交えて、夕飯作りは進む。そんな光景を眺めるいろはは、自分達がまるで家族みたいだと、笑顔を浮かべた。


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5-4 二人



アニレコ最終章の放送日時が決まったので初投稿です。





 

 

 

 

「はぁーあ……」

 

 

暗い自室で溜息吐いて、ベッドに座り込む。年長さんの飯も、いつもの風呂も良かったけど、それだけじゃ今日の疲労なんて取れやしない。

 

特務隊のやつら、無駄に走らせてくれてさ。朝起きて筋肉痛にでもなってたらどうしてくれんだオイ。

 

 

(いっそ寝ちまうかー、もう)

 

 

時計を見れば、日にちを跨ぐのはまだ先。学生だって、まだ起きて色々とやっててもおかしくない時間。でもなぁ、こう…。

 

 

「また、いきなり出てくるかもって考えたらなぁ…」

 

 

誰がって聞かれたら、もちろんシーのことなんだけど。

 

このまま寝て、前みたいに出てこられるとさ。ほら、何されるかわからんし…。

 

 

(聞きたいこともあるけど…)

 

 

けど、どうだろう。あいつのことだもん。こんな二人きりになれる空間じゃ、こっちの話なんて聞かないで飛びかかってくるんじゃ…

 

 

「……やめよ…」

 

 

そもそも、シーのことは未だに何もわからないまんま。知ってそうなやつらにだって、結局は聞けず終いだったろ。考えたってなんにもならないよ。

 

ボスッとベッドに倒れて、片腕で顔を軽く覆う。狭くなった視界に、天井が映った。

 

 

(…ほんとに寝るかな。今日は)

 

 

先延ばしにするみたいでよくないけど、シーのやつが姿を見せない。居ないやつと話をすることは出来ないだろ。

 

 

(目、閉じてれば、そのうち眠く…)

 

 

これ以上起きてる理由も、特にない。学生でも社会人でも、早寝早起きをして、義務を果たさなくちゃあな。

 

 

 

「…♪」

 

 

「…………えー」

 

 

 

なんて 心にもないこと考えてたら、ここ最近ですっかり見慣れた顔が、目に飛び込んでくる。

 

ボヤーッと見てた天井は、そいつに隠された。

 

 

「まーた、いきなり出てきて…」

 

 

噂、もとい、ウワサをすれば影ってか。

 

腕をどけて、閉じかけてた目をちゃんと開く。目を合わせた。私のすぐ隣に座り込んで、嬉しそうに私を見下ろす、シーのやつと。

 

 

「……………」

 

「♪」

 

 

お互いに無言で、ただジッと見つめ合う。まぁこいつの場合は、喋ったとこ見たことないっていうアレなんだけど。

 

 

「……お前さー」

 

「?」

 

「なんで居なくなった?」

 

「………?」

 

「夕方。今日の」

 

 

私から切り出して、シーに聞く。あの時お前が居れば、特務隊のやつらの包囲なんて屁でもなかったのに。強いじゃん、お前。

 

 

「……………」

 

 

最初こそ私の質問に首を傾げてたけど、その内に顔が曇ってきて、気付けばなんか、しょんぼりした雰囲気に。

 

…私、なんか傷付けるようなこと言っちゃったか…?

 

 

「あっ、そうか…」

 

 

気付く。そうだ。こいつがウワサなら、マギウス側は味方みたいなもん。だったら、手出しするわけにもいかないか…。

 

や、まぁ…あくまで私の推測に過ぎないわけだから、全然違う理由かもしれないんだけど。

 

 

「……………」

 

「あー、えっと…」

 

「…………」

 

「あの、ほら、違うから。居なくなったのが悪いとかってんじゃなくて」

 

 

申し訳なさそうに、こっちをチラチラ見てくるシー。そうやって困り顔を見せられると、なんか落ち着かない。

 

別に私は、あの時居なくなったのを怒ったり、責めたりしてるわけじゃない。ただ単に気になったから、こうやって聞いてみただけで。

 

 

「…………?」

 

「うん。大丈夫だから。どうもしないから」

 

「………」

 

 

まだ不安そうにしてたけど、私の言葉を聞いて、少しは安心できたらしい。暗い顔はどっかに行って、いつも浮かべてる笑顔が戻ってきた。

 

 

「…………♪」

 

「わっ。もー…」

 

 

いきなり、シーに抱きつかれる。気を良くしたのか、随分嬉しそう。頬擦りまでしちゃってさ。

 

まぁ、今までみたいに、いきなり襲われてピンクい展開になるよりはずっとマシか…。

 

 

「あーはいはい。嬉しいのかー」

 

 

気まぐれに、頭に手を置いて、ぽんぽんってする。そしたら抱きつく力が強くなって、ちょっとだけ苦しくなった。

 

ぬぐぅ…。迂闊だったか。

 

 

「〜♪」

 

「あっ、ちょっと…」

 

 

少し窮屈に思ってるところに、シーがもそもそ動いて、顔を寄せてくる。

 

あー、これもしかして…って勘付いた時には既に遅くて、私は何度目かになるキスで、口を塞がれた。

 

 

「ん…。んんー…」

 

「…………」

 

「ふぅ…む…」

 

 

激しくぶつかってくる、熱に浮かされたようなのとは違う。今日はゆったりとした、優しいやつ。そう感じる。

 

神社の時といい東の時といい、こいつは情とか欲とか、そういうのをダイレクトに押し付けてくるみたいなキスをするやつだったのに。どうしたんだろう。

 

 

(…いやいやいや、なにクソ真面目に考えてるんだ私…)

 

 

なにをお前、シーとするキスがどうのこうのって。

 

ちげーだろ。流されるんじゃなくて、抗わなきゃだよ。恥ずかしいのは変わんねーんだから!

 

 

「ん…」

 

「…?」

 

 

両肩を掴んで、軽く力を込めて押す。幸い抵抗されることもなく、私とシーの唇を離すことができた。

 

 

「?……?」

 

「…うん、ごめん。でも、ちょっと聞いてほしい」

 

「………」

 

 

お楽しみを中断されて、「どうして?」って言いたそうな顔のシー。私がお願いすると、不満そうにしながらだけど、とりあえず首を縦に振ってくれた。

 

私の言葉なんて無視して続行ってこともあったから、ちょっと意外。

 

 

「その……さ」

 

「…………?」

 

「お前が、あの…。私をどう思ってるかっていうのは、分かんないけど」

 

「…………」

 

「よくないって、思う。こういうの」

 

「!?」

 

 

目の前の可愛い子は、私の話を聞いてショックを受けたらしい。納得いかないのか、私の寝巻きをクイクイ引っ張ってくる。

 

そうなるよな。だけどこれも全部、私が最後にはされるがままになって来たのがいけない。

 

このままじゃダメ。そう思う。だからシーには悪いけど、ここはきっぱり言わせてもらおう。

 

 

「や、その……」

 

「?」

 

「違うんじゃないかって。こうやって、やたら、その………するのは」

 

「………」

 

 

うん。ちょっと詰まっちゃったけど、言いたいことは言えてる。こっからだ。

 

 

「だって、ほら。こういうのは、大事じゃん?えーっと……ムードとか」

 

「………?」

 

「別に、お前とすんのが…えー…アレとかってんじゃなくて。えっと…。困るだろ?慣れとかさ」

 

「?」

 

「そんなお前、会う度にやたらめったらぶちゅーっとしてたんじゃさ、その、…飽きちゃうかもだろ?」

 

「…………!」

 

 

ん、んんー……?まぁ、うん。言いたいこととはちょっと違うことが混じったけど、まぁ少しくらいなら。

 

シーのやつもハッとした顔になってるし、こっからいい感じに落とし所を…

 

 

「だから、するならさ。一番良い時にしようよ。シーだけじゃない。私もさ」

 

「………」

 

「そうしてもいいって、二人が思った、その時にすればいいよ。…今日みたいに、優しく。多分、それでいいと思うから。ね?」

 

「………」

 

「いっぱいしすぎて、何も感じなくなってからするキスって。そんなの嫌だろ?シーだって」

 

「…!」

 

「大事にしようよ。その…二人のことなんだから」

 

「〜!!」

 

 

すっごい目ぇキラキラさせてる。私の話、良いなって思ってくれたのかな。

 

とにかくこれで、私の負担も少しは減るんじゃないかなって思う。学校で出てきちゃうこととか、まだ問題も残ってるけど、その辺りも追々どうにかしていけたらいいな。

 

いやー、なんにせよ良かった。これで何の憂いも無く今日という日を終えられ………

 

 

終えられ………………

 

 

 

 

(いや、良くねーよ!?)

 

 

 

 

なんだ、「一番良い時にしよう」って!「二人のことなんだから」ってなに!?

 

これ以外の発言も大概だったけど、なんでキスはするって方向で纏まったの!?恋人同士の会話じゃねーんだよ!?

 

私はキスばっかりなのが嫌で、それをどうにか止められないかと思って話を切り出したはずなのに…。

 

 

(何処のどいつだよ、こんな妙ちきりんな発言したのは!)

 

 

 

………私だわ。

 

 

あ、あれぇ〜………?おかしいな、こんなはずじゃ…。言葉に詰まっても、途中まで上手くいってたのに…。

 

 

(もしかして私、実は話すの下手くそか…?)

 

「?」

 

「…いや、なんでもないから。うん…。や、なくねーけど…」

 

「……?」

 

 

だからって、「さっきまでの話は無し。やっぱりキスは禁止。やめよう」なんて言おうもんなら、シーが何やらかすか分からないし…。

 

 

「あーあー……。今日はいいやもう!」

 

 

もう知らん。なるようになれだ。寝るんだ、私は。全部ブン投げちゃる。そんな日だってあるだろ?あるんだよ!

 

 

「〜♪」

 

「あー?なに、お前も一緒に寝んの?」

 

「……♪」

 

 

不貞腐れながら寝返りをうつ私に合わせて、シーも体勢を整えてくる。どうも、部屋から出て行くつもりはないみたい。

 

 

「……わかった。いいよ」

 

「!」

 

「でも、さっきも言った通り、キスは無し。今はしたくないから」

 

「………」

 

 

残念そう。お前はしたかったんかい。それでも頷いてくれた辺り、私の提案を受け入れてくれたんだなって。

 

 

「んじゃあ、まぁ…。寝ますか」

 

「………」

 

「うわ、ちょ、なに…」

 

 

眠ろうとした私に、シーが両腕を伸ばしてくる。

 

そのまま私は抱き寄せられて、頭部はシーの胸に埋まる形になった。

 

 

「………♪」

 

「…なんなんだよ」

 

 

そういや、前の深夜も抱き枕みたいにされたよな…。そんなことを思い出しつつ、今度こそ寝に入ることにする。

 

段々とやってくる眠気や肉体的な疲労も手伝って、シーのことを振り払う気にはなれなかった。

 

 

(なにやってんだろ……。私……)

 

 

シーから漂ってくる、爽やかなような、甘いようないい香りに包まれながら、思う。

 

 

(シーって、別に仲間でもなんでもないのになー…)

 

 

そう。悪く言えば、シーは餌。マギウスの翼を誘き寄せて、こっちが情報を得る為の。

 

仲良くする必要なんてない。こうやって一緒に過ごしたり、さっきみたいに、二人での過ごし方を話し合ったりする必要もない。

 

ましてや、こいつに付けた名前だって、本当なら要らなくて…。

 

 

(っ………)

 

 

なんでだろう。そこまで考えたら、胸が痛くなった気がした。

 

 

(気のせい………だよね)

 

 

そうだって思いたい。さっきシーに話したことだって、ただ単に、私が考える方向に話を持っていけなかっただけ。

 

シーに情が移っちまったとか、不安そうな顔、悲しそうな顔を見ちゃったから、どうにかしてあげたかったとか、そういうわけじゃない

 

…と、思う。そうであってほしい。

 

 

 

それともまさか、私がシーとするのを望んでるとか…?

 

 

 

(いや、ないない。ないって…!ねーよ、それだけは…!)

 

 

今まであいつと過ごした時間が私を変えちまって、あいつとの時間を気に入っちまって。

 

そんで私は心の底ではそれを望んでるから、だからあんなこと言っちまったのか…?

 

 

(ありえないだろ、そんなの…)

 

 

思考と心がズレて、それが発言に影響する。そんなことあるのかな。

 

理性と知性を持ってるのが人なんだから、だったら、口から出る言葉だって、自分の思うようにコントロール出来るはずじゃないのかよ…。

 

 

(違う…!私は変態じゃない。同じ女の子、それも人間とは違う何かに心惹かれるような変態じゃ…!)

 

 

ノーマルだ。私は普通なんだ。普通。ノーマル。ノーマル。ノーマル。ノーマル…。

 

 

(分からないよ…。掴めない。自分のこと…)

 

 

ただでさえ自分の感情とか心とか、そういうのに振り回されることが増えたのに、今度はこんな…。

 

こんなんじゃあ私、いつか、自分自身のことまで見失う日が来ちまうんじゃないのか。

 

 

(そうなったら、どうしたらいいのかな…)

 

 

いよいよ本格的に眠くなってきたせいか、上手く思考することが出来ない。そんな頭で何か考えたって、まともに答えなんて出るわけなかった。

 

 

(教えてよ。お母さん……)

 

 

返ってくるはずのない答えを、帰ってくるはずのない人に求める。それを最後に、睡魔に身を任せた。

 

 

 

 

上半身を包むシーの体温に、不思議と安心感を覚えながら、深い眠りに落ちていく。

 

 

 

 

 

 

チビっ子がやってきて、家出だと声高に主張する日の、その前日の夜の出来事だった。

 

 

 

 

 





マギレコ本編の出来事

・マギウスの翼との接触を考えるやちよ。みふゆを見つける為にも、危険度の高いうわさを調べなくてはと意気込む鶴乃に対し、うわさファイルにある「電波少女」といううわさのことを話す。あまりアテにはしていないと言うものの、鶴乃の提案を飲み、翌日からもう一度、電波少女を調べてみることに。



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5-5 家出っ子



年長さんのイメージを活動報告に追加したので初投稿です。





 

 

 

 

「じゃあ皆さん、戦ってるってことですか?その、マギウスの翼って人達と」

 

「戦っているといいますか…目を付けられてはいるようですわね」

 

「ふうん…」

 

 

ソファに座るお子様に、あれこれ説明する先輩。

 

私はそれを、何をするんでもなく見てる。ジッと。ボケーっと。

 

 

「ウワサってのも、なんか危なそうです」

 

「何度かやり合いましたけど、未だ全容も知れませんからね」

 

「良からぬ人達なんですねー…。病院送りにしたらよかったかなぁ、あの5人」

 

「物騒!」

 

 

先輩が説明役なのは、教えんのが上手いから。だから任せた。

 

マギウス、ウワサ…。今まで経験したこと纏めて、相手に分かりやすいように整理して話す。私にゃあ出来ない。

 

せめて『がんばれー』って、応援でもしときますか。脳内で。

 

 

(しかし、まー…)

 

 

「この間追い回された時も、万引きかなんかに見せかけてやれば…」

 

「そんな陰湿なやり方あります!?」

 

「お店の中に引き込めばやりやすいですかね」

 

「なんてことを…」

 

 

(発言がなんか…)

 

 

穏やかじゃねーわ。そういや言ってたっけ。口が悪くなるって。

 

本人曰く、キレた時顕著になるらしい。けどこれ、絶対普段から片鱗は見せてるタイプだろ。

 

 

(クセのある小学生だこと)

 

 

大人しそうな見た目しといて、口のよくない怒りんぼ。

 

応援だけじゃ足りないか。労いも併せて送ろうか。当然、口には出さないけども。

 

 

「ね、ね。どうすんのアレ…」

 

「どうするったってなぁ、お前…」

 

 

マジ子が話しかけてくる。どうするってのは勿論、チビッ子のこと。

 

年長さんが迎えに行って、そんでここに来たのはいいけど、開口一番「世話になる」だもん。で、二言目には「家出」だろ?

 

 

「ヤバくない?」

 

「そりゃ、小学生が家出はな…」

 

「ね。昔のアタシみたい」

 

「ふーん?」

 

「姉ちゃんとケンカしちゃってさ。夕方になったらおなか空いて帰ったけど」

 

「それっぽい顛末なのがまた…」

 

 

つって、そんなもんだよな。意気込んで行っても、最後はなんのかんの帰るんだよ。子供の家出は。

 

私は…どうだったかな。したことはなかったはずだけど。家出って発想にも至らないっつーか。

 

不満の無い毎日。文句の無い生活。幸せだった、お母さんとの時間…。

 

 

………………。

 

 

 

「あの…。終わったよ、お掃除。二階の」

 

「ん…。あー、うん。どうも」

 

 

リビングに姿を見せた年長さんに、声をかけられた。考えごとなんてお終いにして、お返事。

 

 

「やってもらってアレだけど、いいのに。掃除とかさ」

 

「やりたいから…。私が」

 

「あんたの家でもないのに」

 

「うん。でも、お邪魔してるから。毎回」

 

 

そーですか。分かってたけど、譲らねーな。性分ってやつね。

 

 

「それで、どうなったの?あの子…」

 

「まだ説明中」

 

「終わりましてよ、今」

 

「あ、そう…」

 

 

なんのかんの話してる間に終わったらしい。チビッ子がソファに座ったまま、私達の方を見てくる。

 

 

「お話は大体わかりました。大変そーですね」

 

「大変…。まぁ、それなりに」

 

「私も目、付けられちゃったんでしょーか」

 

「あー」

 

 

特務隊のやつらボコしたもんな。やつらってか、白ローブ。恨まれてても、おかしかないか。

 

 

「なんか、怖いです。あんな人達がいっぱい居るとか」

 

「………」

 

 

怖…?えー……?

 

や、キレてたろ。全然怖がってなかったじゃん。怖がってる蹴りじゃなかった。あれは。

 

 

「うん、まぁ…。いいわ、それは」

 

「はあ」

 

「なんで家出ー?てか、なんでここ来たん」

 

 

あ、台詞取られた。…それこそいいか。別に。

 

 

「そりゃー、皆さんの連絡先しか知りませんし」

 

「でも、小学生…だし」

 

「いけません?」

 

「うーん…」

 

「それとも『お前は都会の寒空の下に放り出されて、惨めに震えていればいい』って言うんですか。子供に?そんなことあります?」

 

「……………」

 

 

年長さんが、黙って私を見てくる。チビッ子に言われ放題で、思うところがあったのか。

 

心なしかしょんぼりしてるよ。雰囲気が。

 

まぁ、うん……。ね。棘あるもんな。

 

 

「まぁ、その件は後で話すとして」

 

「そうなんですか」

 

「出来ませんわよ、素通りなんて。…それで、年長さん」

 

「ん…。なに?」

 

「少し、運転をお願いしたくて」

 

 

あれ。先輩、どっか出掛けんの?食材は昨日の買い出しのやつまだ残ってるし、必要ないよ?

 

それか、もしかしてパトロール?確かにこの頃、グリーフシードよく使うし、補充するのも大事だね。

 

 

「これから、この子のお宅に行ってきます。私と赤さんで」

 

「は?」

 

 

全然違った。待てって。どういうこってすかそれは。

 

 

「先輩は、まぁ分かるよ。なんで私もさ」

 

 

仮にチビッ子がこの家に居座るっても、責任者ってか、代表みたいなのは先輩だろ。私、要る?

 

 

「彼女の滞在に同意するのなら、私と貴女、家に住む二人の納得が必要でしょ。だから二人でお話を聞くのです」

 

「ふうん…」

 

 

律儀だこと…。別にいいんだけどなぁ、私に聞かなくて。

 

いや、でもなぁ…。親御さんからしたら、娘と一緒に居る人間の素性が知れないってのは…。

 

んー……。顔合わせて、聞いとくべきか。家出の原因くらい。

 

 

「…わかった。行くよ」

 

「よろしい。年長さん、お願いします」

 

「あ、うん…」

 

 

話は纏まった。少し面倒だけど、仕方ない。お宅訪問と行きますか。

 

 

「じゃあ…マジ子ちゃん。ちょっと、行ってくる」

 

「はーい。アタシ、どうする?」

 

「その子とお留守番を。帰りは歩きますので、年長さんが戻ったら、引き続き三人で留守番。よろしい?」

 

「あ、いいの…?迎え、行かなくて…」

 

「ええ。あぁ、そう。台所にお茶菓子を仕舞ってます。お出しして」

 

「お、マジか。はいはーい」

 

 

先輩が指示を出したところで、立ち上がって玄関に向かう。

 

 

「マジ子さぁ」

 

「んー?」

 

「私らの分、残しとけ」

 

 

リビングを出る時にそれだけ言って、私達は家を出た。

 

チビッ子のやつの、どっか他人事な「いってらっしゃーい」を耳に挟みながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん〜……」

 

「……………」

 

「ん〜…んん?んんんん〜…!」

 

「……………」

 

「んぬぅ〜…!」

 

 

うんうん唸るマジ子ちゃん。小さい子は、それとは逆。とっても静かにしたままで、手をスラスラと動かしてる。

 

赤ちゃんと先輩ちゃん。二人を送って戻った私は、二人と一緒に留守番中。

 

最初はおやつ食べてくつろいでたけど、宿題があるからって、小さい子はプリントを取り出した。

 

 

『あっ!アタシもシュクダイ出されてんだったぁ。マジやっべー…』

 

 

マジ子ちゃんはそう言って私をチラッと見てきたけど、首を横に振ることしか出来なかった。

 

手伝ってあげたかったけど…。でもゴメン。先輩ちゃんに、必要以上の手出しは無用って言われてるから…。

 

やらなきゃダメだよって注意してから、嫌そうにプリントに向かうマジ子ちゃんを見守った。

 

お菓子を全部食べちゃわないように、赤ちゃん達の分を、別のお皿に分けながら。

 

 

「ぬあーん…!もーダメ!ゼンゼンわからーん!」

 

「あー…」

 

 

そうして二人が宿題始めて、少し経った頃。マジ子ちゃんがギブアップ。

 

頑張って問題と格闘してたけど、ちょっとダメだったみたい。

 

 

「…大丈夫?答え、ダメだけど、ヒントくらいなら…」

 

「マジぃ…?」

 

「ん、ん…」

 

 

わぁ…。すっごく疲れた顔…。聞いてはいたけど、ほんとに勉強苦手なんだね…。

 

宿題のプリントを見させてもらったけど、進捗は芳しくない。所々書き込んではあるけど、どれも途中で止まって、答えを出すとこまで行ってない。

 

 

「うん。私、分かるから。解けるように、ちょっと教える」

 

「マジかぁ〜…!ありがど〜、ねんちょーさーん!」

 

 

感謝までされちゃった…。直接答えを教えるとか、私が代わりに解くとかじゃないし、これくらいならいいよね…?

 

 

「でもさー、ちょっちきゅーけー!頭ボーンってなる!」

 

「え、でも…」

 

「いーの!ちょっとしたらちゃんとやるから!」

 

「うーん…」

 

「この子もさー、長いことシューチューして疲れてるって、多分!ね?」

 

 

マジ子ちゃんが、小さい子の方を見る。話しかけられた彼女も、顔を上げてマジ子ちゃんを見た。

 

 

「…私ですか」

 

「うん!ヘロヘロでしょ?」

 

「もう終わってますけど…」

 

「マジでぇ!?」

 

「はい、とっくに。貴女がうんうんうるさくしてる時にはもう」

 

「ちょっとだけヒドい!」

 

 

どうも、小さい子はとっくに宿題を終わらせて、スマホでなにかしているらしかった。

 

本人に断ってプリントを見せてもらったけど、ミスは見当たらなかった。成績は良好なのかもしれない。

 

 

「天才かよー。えーっと、リモコン、リモコン…」

 

 

「テレビ見るわテレビー」って、マジ子ちゃんがTVリモコンの電源ボタンを押す。このまま宿題のこと、忘れちゃわないといいけど。

 

 

「んーっと。なにやってっかなー」

 

 

ボタンを押して、番組を切り替えていく。音声が少しだけ聞こえては、違うものに次々変わる。

 

今やってるのはどれもイマイチなのか、マジ子ちゃんの反応は良くない。

 

 

「んー、あんまオモシロそーなのは…。あっ」

 

「ん…?」

 

 

その言葉と一緒に、マジ子ちゃんのリモコン操作が止まる。何だろうって、私もテレビ画面を見てみる。

 

 

「……これ」

 

「うわ、なつかしー。まだやってんだねー、これ」

 

 

懐かしい。私も、まずそう思った。

 

テレビに映っていたのは、アニメーション。オープニング曲と一緒に、番組タイトルが大きく表示されているところ。

 

 

「私が、子供の頃からやってる。これ…」

 

「あ、そーなん!?やー、見てたんだよねー。幼稚園の頃とかさー」

 

「うん…。うん」

 

 

マジ子ちゃんの言うことが、よく分かる。共感できるってこと。

 

小さい頃、見ていた。今、目の前で放送されてるアニメ番組は、まさにそう。まだ続いてたんだなぁって思ったのは、私も同じだった。

 

 

「なんかこれとかさ、キンヨーの夜のとか、見んのがアタりまえー!ってなってなかった?」

 

「うん…。土曜の夕方、日曜の朝と夜とかも…」

 

「ゲツヨーの夜とかもね!わかるぅ〜!」

 

 

そうそう。それで、大きくなる内に、そういうのも見なくなっていって…。

 

 

「やー…なんかフシギだねー。なんつーんだっけこれ。デストルドー?」

 

「ノスタルジー…!ノスタルジーね…?」

 

「それー!」

 

 

びっくりした。難しい言葉知ってるんだね…。いや、意味は分かってないのかな…?

 

 

 

 

「んー。やっぱさー、こう、子供向けって感じだよねー」

 

「ん…?」

 

 

なんとなく、そのままアニメを見続ける。そしたら、マジ子ちゃんがそう言った。

 

 

「お話わかりやすくてさー、キャラも楽しそーにしてて」

 

「うん」

 

「でもこう、私らみたいなトシの子にはちっと物足りない…みたいな?」

 

「あー…」

 

 

成る程。うん、確かに。それはそうかもしれない。好きで見続けてる人も、何処かに居るかもしれないけど。

 

でも、それもある意味自然なことかもしれない。人間、変わるものだから。

 

心も体も大きくなって、そうする内に変わるんだね、色んなこと。ちっちゃな子達に向けたものから、抜け出して。

 

 

 

「そうでもないですよ」

 

 

 

異を唱える声がして、それを喋った人を見る。そこには私達と同じで、TVに目をやる女子小学生が。

 

てっきりまだ、スマホを眺めてるんだと思ってたけど。

 

 

「えー、なに。違うん?」

 

「内容こそ、子供向けなんですけどね。それでもキャラクターの生い立ちとか、重たい要素も意外とあったり」

 

「そーなんだ」

 

「劇場版だと戦…えっと、戦争してるシーンとかありますし。家燃えたりとか」

 

「え、マジ?それ、人 死んじゃうってこと…?」

 

「そこまではないですけど、ガチめなバトルシーンとかやりますよ。劇場作品なんで、作画もいいんです」

 

「へ〜…」

 

 

そうだったんだ。自分が小さい頃見てたアニメに、そんな実態が。見なくなって離れちゃうと、その分知らないことばっかりになるんだなぁ。

 

 

「すごいねー!もしかしてさ、詳しい?」

 

「…………別に」

 

「ほんとー?」

 

「ちょっと知ってるだけですから」

 

 

フイッと顔を逸らす、小さい子。表情こそムスッとした感じだけど、顔がちょっと赤いのを見逃さなかった。

 

あぁ、多分、詳しいんだなって。その反応は、詳しいやつだと思う。多分。

 

ちょっと意外だなって、思った。見た目も雰囲気も大人しそうで、勉強もできて。そういう趣味があるようには見えないから。偏見だね…。

 

 

「ね、ね!もっとイロイロ話して!聞きたい!」

 

「グイグイ来ますね…」

 

「ダメだった?」

 

「いや、そういうわけじゃ…。……じゃあ、まぁ、知ってる範囲で」

 

「うんうん!」

 

 

マジ子ちゃんの熱望に応えて、話し始める小さい子。

 

作品の内容、メインキャラクター、物語の舞台。そういうのを話す内に、ある種の熱が篭ってく、彼女の言葉。

 

放送話数、グッズ展開、原作漫画との差異…。

 

話がコアなものになる頃にはそれなりに打ち解けて、柔らかい顔を少しだけ見せてくれるようになってた。

 

 

 

「じゃあ、あの…。見ますか?劇場版…」

 

「見れんの?」

 

「つい最近、ラインナップに追加されて…」

 

「マジかー。えー、じゃ 皆で見よ!まだ時間あるし!」

 

 

そして気付けば、配信サービスで映画を見ることに。

 

……忘れてないよね?宿題のこと…。

 

 

それを言い出せないまま、立ち上がる。気付けば、お茶菓子と一緒に出した飲み物も空っぽ。

 

映画を見るって話なら、お供になるのが必要だもの。三つのグラスをトレイに乗せて、中身を注ぎにキッチンへ。

 

 

戻った頃にはアニメも終わって、TVは別の番組を映してた。

 

誰も見てない画面を消して、リモコンはテーブルに。急かすマジ子ちゃんの声に応えて、私もソファに腰掛ける。

 

 

小さい子を中心に寄り添って、午後の映画観賞と洒落込む私達だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なにやってんだお前ら…」

 

「あー、お帰りー」

 

 

まだ映画の途中。「三人団子になって…」って呆れる赤ちゃんの、帰宅後 開口一番の一言を、私達は聞いた。

 

 

マジ子ちゃんはやっぱりっていうか、宿題のことは頭からすっぽ抜けていて。

 

 

先輩ちゃんから お小言ちくちくされながら、ひーこら言って問題解くのを、皆で見守ることになっちゃった。

 

 

なんか、ごめんね…?

 

 

 





マギレコ本編の出来事

・いろはの柊家探しの結果は芳しくなく、地図にはバツ印ばかり。そこに鶴乃から電話が来るが、要領を得ない彼女の発言に戸惑う。詳しく聞くと、とにかく中央の電波塔に来てと告げられた。



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5-6 親子の話



黒江ちゃんが実装されるので初投稿です。





 

 

 

 

「はい。じゃ、始めますわよー」

 

「……………」

 

 

各々好きに返事して、いそいそ作業に取り掛かる。私は何も言わないけども。

 

居るのは外で、場所は庭。言わずもがなの、先輩の家。

 

 

「……………」

 

「?」

 

「あー…?なに。気になんの、それ」

 

 

頷くシーがジッと見るのは、スコップだった。両手で使う、ちょっと重たい大きめのやつ。

 

 

「〜」

 

「あ、そう…。まぁ、後でね。後で」

 

「………」

 

 

興味津々らしいけど、とりあえずまだ使わない。やたらと触らないように、私が持って、側に置いとく。

 

 

「どうするんですか、まず」

 

「広めに囲います。レンガでね」

 

「えっと…めり込ませる?」

 

「ええ。頼みます」

 

 

「雑草が伸びてない分マシですわね」とか、色々雑談しながら作業する先輩達。そこに混ざる小さいやつを、私は黙って注視する。

 

 

「……………」

 

 

チビっ子。あの小学生。

 

家出宣言から一日。自分の家には、帰ってない。

 

 

「……なんですか」

 

「いや……」

 

 

こっちの視線に気付いたのか、チビっ子の方も私を見た。目線を逸らして、適当に答える。

 

 

「帰りませんよ。私…」

 

「なんでもねーっつーの…」

 

「帰りませんからね」

 

 

わかったって…。二回も聞かせんな、めんどくせえ。

 

 

「ほら、赤さん。スコップ入れてください。囲いましたので」

 

「あー……。はいはい」

 

「ほったらかしてイチャつきます?隣の方と」

 

「よかったな、今日の私が寛大で」

 

「ありがたいお話ですこと」

 

 

おう、精々ありがたがれ。今日は一々取り合わねーわ。シーを使った弄りにはな。

 

仕方ねーから、ブロックで囲われた庭の地面に、持ったスコップを突き立てる。更に刃を足蹴にしたら、土に深く沈み込む。

 

 

(納得できねーってんだよ。私は…!)

 

 

まったくさ、なんでこんなんなっちまったんだか…。

 

私の愚痴は、こうして庭の土を掘り返してることに対してじゃない。自宅に戻りゃあしなかった、増えた同居人へのもんだから。

 

正直、なんでもよかったよ。最初はさ。でもね…。

 

 

(話、聞いちまったしさ)

 

 

そうなんだよな。そこからだ。気が変わったのは。

 

昨日行った工匠区。先輩と尋ねた、チビッ子の家。そこで聞いてきた話が、私をこんな気分にさせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『趣味の話ですか?あいつの』

 

『ええ…』

 

 

年長さんに送られて、チビっ子の家に行ってきた私達。いきなり知らねえ学生二人がやってきて、あいつの親御さん達は困惑してた。

 

それでも事情を説明したら、じゃあお話をってことで、家の中に入れてもらえて。何があったか早速聞いたら、アニメだ漫画だなんだって…。

 

 

『その…妻が、見つけたんです。掃除で、あの子の部屋に入った時』

 

『そこに置いてあるのが、そうです…』

 

『………』

 

 

私達二人と、テーブルを挟んで対面に居る、親二人。四人共が、カーペットの上に座ってた。

 

チビっ子の母親が視線を向けた、テーブルの隅。先輩が「失礼します」って断って手元に寄せたものは、アニメの情報誌。

 

中身を見せてもらったけど、どこもかしこも、アニメのイラストばっかりで。私の知らない世界だった。

 

 

『他にも、グッズや漫画本、ライトノベル等、色々と見つかって』

 

『それは、娘さんの部屋を探ったと?』

 

『はい…。あの子にも、プライベートがあるんだし、いけないと分かってはいたんですが…』

 

『では、何故』

 

 

質問に、「それは…」って、言葉を濁した父親。喋りづらそうにした彼に、先輩が言った。

 

 

『あの、言いにくいことでしたら、無理には。事情というのがありましょう』

 

 

それでいいって、私も思った。話を聞きに来たっても、無理に聞き出すことでもないし。ましてや、会ったばかりの他人が相手じゃね。

 

 

『…………』

 

『ねえ、ここは…』

 

『うん…。いえ。お話し、しておこうと思います』

 

 

だけど思い切ってくれた両親は、娘に何があったのか、話してくれる気になって。

 

 

『よろしいんですか、本当に。打ち明けづらいのであれば…』

 

『それは…確かにそうなんです。ですが』

 

『お二人には、ご迷惑をかけてしまってますから…。それならせめて、娘が出てった理由だけでも、お話するのが筋だと思って』

 

 

そう言って、話し始めたチビっ子の両親。帰った娘が初めてキレて、家出までいったその理由を。

 

聞き流そうと思ってた。正直、最初の内は。

 

先輩は「二人の納得」とか言ってたけど、ぶっちゃけチビッ子の好きにすりゃいいって、その時はそう思ってたし。

 

先輩がどう判断したって、私がそっちに合わせりゃいいって、考えてた。

 

 

でも、変わった。こんな状況、良くないなって。あの人達の話を聞き終わった時には、そう思ってた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

「赤さん、ちょっと。手が止まってますわよ」

 

「もやしっ子かー?赤ちん」

 

「うるせーの…」

 

 

浸り過ぎて、作業を忘れちまったか。注意も煽りも適当に流して、土にスコップを刺していく。

 

 

「な?こうやって、土にこれ刺して、こう、ボコッと」

 

「?」

 

「私の真似すりゃあいいからさ。ほら、ブスッと」

 

「〜」

 

「うん、すっげー豪快。でも違くてね?」

 

 

シーにやり方を教えるけど、加減ってのを知らないのか、スコップぶち込んだらめっちゃ深く突き刺さった。あのー、柄の先端しか見えてねーんだけど。

 

概ね私のお手本通りにやってんのに、その結果がやたらパワフルじゃねーかよ。

 

 

「まぁ、うん…。いいかな。お前はやんなくて…」

 

「?」

 

 

可愛いね…。首、コテンって傾げるの…。あーもう…。

 

よっこらしょって、深々刺さったスコップのやつを引き抜きながら、先輩に話しかける。

 

 

『先輩。先輩って』

 

『………なんですか。わざわざこんな』

 

 

私からのテレパシーを受け取って、呆れたような顔でこっちを見てくる。しゃーねえじゃんよ。チビっ子の居る場で喋りたくないし。

 

 

『チビっ子のこと。ほんとにいいわけ?』

 

『いいもなにも、暫く家に置くってことになったでしょう』

 

 

そうなんだよなぁ。

 

あいつの親から話を聞いて、帰ってきて。そんで最後には、ここに泊めることになって。

 

だけどなぁ。決まったことだっつってお前、なぁ。

 

 

『あんなに心配してたじゃん。あいつの両親』

 

『ええ。それはもう』

 

 

自分達が娘を怒らせたことの後悔だとか、目の届かない場所に居ることの不安だとか、後はまぁ、あいつの趣味に対しての考えだとか、色々なこと、聞いたけど。

 

私が常に感じてたのは、あの両親の、チビっ子への気持ち。なんつーか、好きなんだなって分かったよ。

 

愛情なんだろ。つまりはさ。

 

……「あの子はあの歳でも聡い子でー」とか、「学校でも成績優秀でー」とか、自慢話も、多少はあった気がするけども。

 

 

『だったら、やっぱ帰らせた方が』

 

『ご両親の話を報せた上で、ですか?』

 

『そうだよ。だからさ…』

 

『まーたこっ酷く言われますわよ。昨日みたいに』

 

『……………』

 

 

言葉に詰まる。痛いところを…。

 

先輩の言ってることは事実で、前日にチビっ子の家から帰った私は、あいつに教えてやろうとした。

 

「お前の両親があんなこと言ったのには訳があって、お前って娘を思ってたからなんだぞ」って。

 

 

だけどチビっ子のやつ、よっぽど腹に据えかねたんだか、私の話は聞こうとしなくて。

 

「聞きたくないです」、「余計なお世話」、「絶対帰らない」、「うるさい」、「バカ」と、まぁ取り付く島がねーっつーのか…。

 

 

『そもそもこういったことは、当人同士で面と向かって語り合うべきものじゃありません?』

 

『それは…』

 

『彼女が向き合う気になったのなら、その時はご両親だって、きっと理由を話すでしょうに』

 

 

分かってる。分かってるけどさ。

 

だって、その……。家族のことじゃん…。

 

 

『………。気にしますのね。やけに』

 

『あ?』

 

『貴女のことじゃありませんのに』

 

『…………』

 

『いいのですけどね。なんでも…』

 

 

ああ、そう…。まぁ、そうだよな。

 

口が悪くて、態度も悪くて。どこか冷めてて、面倒くさがり。それが私ってやつだもんな。らしくねーんだ、こんなのは。

 

我ながら、なんか言い訳みたい。それは誰に対してなのか。何に対してなのか。

 

 

「ふー。まぁ、こんなものですか」

 

「あ、終わりー?」

 

「ええ。続きは明日ということで」

 

 

そんなこと考えてる間に、庭での作業はひとまず終了。これから色々やるらしいけど、今日のところはここまでらしい。

 

 

「つかさー、こんな疲れることしなくても、赤ちんのブキでボーン!ってやっちゃえばよくね?」

 

「庭 吹っ飛ぶわ、バカ」

 

「……………」

 

 

なんかこっちをチラチラ見てくるチビっ子を視界の片隅に入れながら、後片付け。制服が汚れてないかよく確認して、室内へ。

 

その後は解散ってことになって、マジ子と年長さんは帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………」

 

「……………」

 

 

時間は進んで、すっかり夜。で、今は入浴中。

 

この家の風呂はそこそこ広くて、二、三人纏めて入っても、窮屈には感じない。その分掃除にかかる時間も、それなりではあるんだけど。

 

そんな浴室の中に、今日は私以外に一人。

 

要するに、まぁ。風呂で一緒だった。私と、チビっ子は。

 

 

「………………あの」

 

「んー…?」

 

 

話しかけられる。お互い一言も喋らないから、浴室の中は静かで、だからチビっ子の声はよく聞こえた。

 

 

「…すいませんでした」

 

「なにが」

 

「昨日とか、お昼頃とか…。強く当たっちゃって…」

 

「あー…」

 

 

謝ってくれるんだ。私らみたいな年頃なら、「自分は悪くない」なんて、突っ張ったりもしそうなのに。

 

 

「なんか意外」

 

「なんですか、それ…。私にだって、罪悪感くらいありますっ」

 

「ふうん?」

 

「言ったじゃないですか。口の悪さに悩んでるって…。もー…」

 

 

口の辺りまで湯船に浸かって、ブクブク泡立たせるチビっ子。ムスッとした顔。ちょっと拗ねたかな。

 

 

「ぷふー…」

 

 

あ、浮上した、浮上。ブクブクはお終い?

 

 

「……悪いなって、思ってますよ。お父さんにも、お母さんにも…」

 

「じゃ、帰る?」

 

「それとこれとは別ですっ」

 

「えー」

 

 

さっきよりむくれて、またブクブク。さっきより激しくて、ブクってかボコって感じ。ボコボコ。

 

 

「心配してたんだぞー、親御さん。慣れない場所でちゃんと寝られるかな、とか。自分達と喧嘩したこと気にして、落ち込んでないかなー、とか」

 

「そーですかっ」

 

 

「フンッ」って、そっぽ向く。一日経って頭も冷えたかと思ったけど、そう簡単な話じゃないのか。

 

でもなぁ。なんだろう。単に、強がってるだけにも見えるような、ね。

 

 

「大事に思ってるんだって。お前のことさ」

 

「………」

 

 

知り合ったばっかで信頼もクソもないはずなのに、それでも最後には、預ける決心してくれたんだぞ?愛娘を、私達に。

 

 

『あの子の…、思うようにさせてあげて下さい』

 

『正直、とても心配です…。すごく不安で、仕方ない。でも…』

 

 

「でも、私達もいけなかったんですから」って、あの人達はそう言ってた。

 

自分達に今出来るのは、あの子を信じて待つことだから。

 

だから娘を、お願いします。

 

 

ここまで言う人達がさ、好きじゃないわけないんだよ。自分達の、娘のことを。

 

 

(だから、繋がっててほしいって…)

 

 

仲が悪いとかじゃないなら。お互い、気持ちが通ってるなら。一緒がいいじゃん。親子だろ?

 

人生、何が起こるかわからなくて、ある日いきなり、失くすことってあるから。親兄弟も、もしかしたら。

 

そうなった時、ギスったままでお別れなんて、そんなの酷い。想ってるだけ、辛くはなるけど…。

 

 

「だからお前も、家族は大事にした方が」

 

「家族だから、許してやれって言うんです?」

 

「や、違くて…。でも、やっぱりちゃんと」

 

「許せないこともありますよ。家族だって!それだけのことしたんです!私に!」

 

 

チビっ子の、語気が強くなる。私はまた、地雷を踏んじまったらしい。

 

 

「なんですか。私のことばっかり…。大体、貴女はどうなんですか」

 

「どうって」

 

「家族、ちゃんと居るんですよね!」

 

「それは…」

 

「なのに、この家に居るんでしょ。聞きましたもん。先輩さんとは、家族じゃないって」

 

「…………」

 

 

いや、うん…。それは、確かにそうなんだけどさ。でも、それには私なりの理由があって…

 

 

「変ですよ。訳わかんないですよ。この街に家があって、家族も居て。でも、そこから離れてるんでしょ?別の人と住んでるんでしょ?」

 

「ワケがなきゃ、そんなことしません」

 

「別に聞きませんけど、あれですよ。逃げてるって言いませんか、それ!」

 

「だったら、人のこと言えないですよ。バカじゃないですか!?バーカ!バーカ!」

 

 

すっかり頭に血がのぼって、あれこれ捲し立ててくるチビっ子。そんな彼女に、私はとうとう、何も返せなくなった。

 

だって、こいつに今言われたこと全部、その通りだって思っちまったから。

 

 

 

家から逃げた。家族から逃げた。

 

父親からも、あの人からも、そして、あの子からも。

 

何日、何周、何ヶ月…。いつまでも向き合おうとしないで、我儘だけで飛び出した。

 

そんな女が偉そうに、家族がどうだの、親がどうだの、他所の事情に口出しなんて…。

 

 

そうだよな。そんなこと、私が言っていいわけ…

 

 

 

「大体、貴女 無関係でしょ!それを…!」

 

「………………」

 

「あっ………」

 

「…………」

 

「あっ…えっと…。その、すいません…!私、また…」

 

 

思う存分吐き出して、ようやく少し落ち着いたのか、声が小さくなるチビっ子。

 

横で色々謝ってくれてるのに、今の私には、それをまともに耳に入れることは出来なかった。

 

自己嫌悪にどっぷりハマって、他には何も考えられなかったから…。

 

 

「失礼しまーす……って、なんですの。辛気臭い空気で」

 

「あっ…その、実は……って…」

 

「?なんですの。そんな、ジッと…」

 

「お母さんよりおっきい…」

 

「コメントに困りますわよ、それは…」

 

 

こんな二人のやり取りも、私と自分の胸を触って比べて、「え、あの…歳上、ですよね…?私よりも小…」なんて、驚いてるチビっ子のことも。

 

全部が全部、気にならなかった。それくらいには、浸かってた。泥沼みたいな、自分の世界に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………なに?」

 

「…トイレ」

 

「なんて?」

 

「着いてきて下さい…トイレ」

 

 

日付も変わって、時刻は深夜。モヤモヤしたまま寝床に入って数時間。シー共々、お子様に叩き起こされたと思ったらこれだよ。

 

 

「あ、勘違いしないでくださいよ。いつもは行けます。一人で行けます。おトイレくらい…!」

 

「行けよ、じゃあ…」

 

「知らないお家のトイレですよ!?暗いし、二階からじゃちょっと遠いし…!」

 

「うん」

 

「だから…!その、ですねー…!」

 

 

顔赤くして、モジモジ、ユラユラ。なんだってーのよ。

 

 

「うー……!怖いんですよぉ!だから、一緒に来てください!」

 

「えぇー…」

 

 

小学生ったって、六年生だろ お前…。それってつまり、来年 中学生になるんだぞ…?

 

 

「なんですか。小学生舐めてるんですか!?」

 

「いや、別に…。あーもう、やっぱ帰れってお前…」

 

「帰りません!舐めてるんですか!?」

 

 

そこは譲らねーのかよ…。めんどくせーなこいつ…。

 

 

「舐めてるんですか!?」

 

「あーもうわかった。わかったって…」

 

 

ほら行くぞ〜って、仕方ないから着いてこうとする私。でもチビっ子は、私の寝巻きの裾を掴んで引き止める。

 

 

「手も繋いで下さい!舐めてるんですか!?」

 

「や、語彙力!頼んでんの?喧嘩売ってんの?どっちよ!」

 

「〜!」

 

「うわっ。もー、怒るな怒るな…。部屋で待ってろお前は…」

 

 

手をしっかり握ってやると、私に引っ付いてたシーが怒りだす。すぐ戻るからって宥めてみても、全く効果無しだった。

 

 

「あの…、早く…!漏れます!漏れます!」

 

「えー、ちょっと待てってお前…!」

 

「〜!!」

 

「漏れ…漏れ…」

 

「あー、はいはいって!もー…!ほら、シー。これでいいだろ。お前も来い!」

 

 

こんな時間に、掃除するハメになるのは困る。シーの手も握ってやって、両手に花でトイレへGO。

 

や、こんな嬉しくねえ花ある?

 

 

トイレに到着した後は、近くでシーと二人して待機。

 

チビっ子のやつはその間も、「ちゃんと居る?居ますよね!?」ってしつこかった。

 

 

 

最高学年ったって、小学生は小学生。まだまだ子供ってことなのか。風呂で私を凹ませた奴と、同じ人とは思えない。

 

 

 

眠気をどうにか堪えながら、あくびを漏らして、私は待った。

 

 

 

 





マギレコ本編の出来事

作戦が成功し、水名女学園で月夜を捕まえることに成功した、鶴乃とフェリシア。途中で逃走を許すという事態があったものの、偶然居合わせた魔法少女の助力もあり、うわさについて聞き出すことに成功。電波少女が「二葉さな」という女学生であることを知った二人は、「暁美ほむら」と名乗る魔法少女を伴って、いろは達と合流することに。

・結界へと足を踏み入れる いろは、まどか、ほむらの三人は、さなと、ウワサである「アイ」、そしてマギウスの一人であるアリナ・グレイと邂逅する。ドッペルを発動するアリナに圧倒されるいろは達だったが、さなの「アイと別れて結界を出る」という選択の後、アイを撃破し、脱出する。アイの最後の望みを自ら叶えたさなは、いろは達と一緒に行くことを選択した。

・脱出した先のヘリポートにて、黒羽根、天音姉妹、アリナと戦ういろは達。手塩にかけて育てた魔女をフェリシアに潰され怒り狂うアリナだったが、現れたみふゆの説得により、羽根達共々去って行く。マミを探す為、また神浜に来るという まどか、ほむら。その時はまた友達として力を貸すと約束し、二人を見送ったいろは達。さな は やちよの勧めにより、みかづき荘で共に暮らすことに。



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5-7 買い物へ



アニレコ ファイナルシーズンは本日19:00より放送なので初投稿です。





 

 

 

 

「土づくりをしよう。あれこれ植えましょうとは言いましたわ。皆さんも、私も。ですがね」

 

「ん…」

 

「いざ手を付けるとなっても、初心者なのだから判断に困るのです。ね?」

 

「まあ…ね?」

 

 

一応、調べはしましたわよ。慣れない私達はどうすればいいのか。何を育てればいいのか。

 

このゴリゴリのネット社会。情報を得るのはさして難しくはなく、結果としては、収穫があったと言えるでしょう。

 

でもねえ。中々どうして…。

 

 

「肥料はどんなものがいいのか。育てたい植物はなにか。どんな土を好んでいるのか。使うべき道具は…」

 

「あー…」

 

「色々と出てきて私、もう何がなにやらで」

 

 

聞いてはいましたけど、まさか土にも質というものがあるだなんて。酸性とかなんとか…。

 

 

「どうしよ…?あるよ。色々…」

 

 

年長さんが、近くの棚から肥料を取って、しげしげ眺めてる。私も、目についたものを手に取ってみた。

 

液体のもの、錠剤のような形のものと、自分がイメージする肥料とは違うのがよくわかる。特に後者はなんですのこれ。これを土に放るだけで、植物には栄養になるっていうんですか?

 

土は土で、売っている培養土を使うのがいいと、ネットには書いてありましたし…。花を育てるのならば、是非にと。

 

 

(まぁ、それなら多めに買っていって、庭の土に混ぜて使いましょうか)

 

 

本当なら、そうする前に適切な土づくりというのも必要でしょう。培養土も、そうやって使うものではない。きっと。

 

けれど、そこまで本格的にやっていくこともないかと思うのも、また事実。あくまで庭の彩りにでもなればなぁと、それくらいなのですし。

 

 

「ね」

 

「はい?」

 

「聞いて、いい…?」

 

「はあ」

 

 

後は何を購入するのか決めるだけですし、まあ、構いませんけれど。

 

 

「どうして、育てるの。植物…作物?」

 

「んー…」

 

 

なるほど。まぁ、そう思うでしょうね。わざわざ庭の土を掘り返さなくたって、プランターかなにかでいいのですし。

 

なんなら、色々植えて育てようだなんてのも、今回の件に置いては必要のないこと。趣味的と断じてもいい。

 

なら、何故か。

 

 

「なんというか、彩りが欲しくて」

 

「彩り」

 

「ええ。あの家、そこそこ長く使ってますけど、庭も殺風景ですからね。この機会にと」

 

 

私だけが住むなら、別にそのままでもよかったけれど、今は赤さんも居て、小さなお客様も預かっている。シーさんは……うん。毎度、何処から侵入しているのやら。

 

それは置いておくとして、チームを発足してからは我が家に集まることも増えたのですから、リビングから見える景観だって、良くして置きたいというものです。

 

 

「でも、その…怒らない?ご両親、とか…」

 

「咎めもしないでしょう。そういう人達ですもの」

 

「そう?」

 

「………ええ」

 

 

嘘。ちょっと、心が重たくなった気がする。本来なら、きっと怒られたことだろうから。

 

そうならないのは、自分がそんな両親にしてしまったから。こうやってまた、そのことを思い知らされますのね…。

 

まったく、魔法少女というのは、良いのか悪いのか…。

 

 

「…さ。こうして話してると、時間が無くなりますわ。買うもの買って帰りましょ」

 

「あ、うん…。どうする?」

 

「とりあえず培養土と、肥料を幾つか」

 

「種類…」

 

「どちらも買っていきましょ。野菜用も、花用も」

 

 

これだと思うものを取って、カートに入れていく。服を汚さないように、軍手やエプロンも一応買っていきますか。

 

 

「あの…やっぱり出すよ?私も…」

 

「お金ですか?」

 

「ん…。皆の買い物だし」

 

 

ここに来る前、一度遠慮したことですのに。律儀な方。

 

申し出はありがたい。けれど学生の身である以上、彼女も決して懐に余裕があるというわけではないはず。この買い物で出費させるというのも、ね。

 

 

「お気持ちだけ頂きますわ。さ、行きましょ」

 

 

感謝の気持ちを口にして、会計をしにレジへ向かう。年長さんは、それならせめてって、少し重たいカートを持ってくれた。

 

昨日の作業に使ったレンガは、家を探したらたまたまあったものだから助かった。あれも購入するとなったら、今頃はカートがもっと重たかったはずだから。

 

もう一度、お礼をしておいた。

 

 

 

 

会計を終えて、駐車場に戻る。まさか学校から帰って早々に、ホームセンターへ買い物に行く日が来ようとは。人生とは分からないものです。

 

 

「大丈夫、かな。皆」

 

 

車のバックドアを開けて、購入したものを乗せる彼女が言うのは、もしかしなくても彼女らのこと。

 

私達とは別行動を取っている、赤さん達のことでしょう。

 

 

「どうでしょうねー。一応、無茶苦茶しないように言ってはありますけど…」

 

 

あの子達には、植えるものの種や苗の選択と、購入を頼んである。

 

ただ、揃いも揃って初心者なのだから、然るべき場所で話を聞いておくようにと、指示は出しておいた。

 

 

「四人も居るのですし、ちゃんと全員で話し合ってなんとか出来ますわよ」

 

 

シーさんを頭数に入れるのは違う気もしますけど、まあこの際いいでしょう。

 

赤さんとの間に何があったかは知りませんが、以前の戦いが嘘のように穏やかですから。今のところは。

 

 

「ん…。閉めるよ、ドア」

 

「はーい」

 

 

荷物を積み終わって、年長さんがバックドアを閉める。そうなったら、もうこの場所に留まる理由も無い。

 

年長さんは運転席に。私は助手席に。それぞれ乗り込んだ。車が動いて、駐車場から出て行く。

 

 

「皆、なに、買ってくるかな。楽しみだね…」

 

「そうですか?」

 

「ん…」

 

 

前はしなかったから。こういうの。

 

そう言う年長さんの横顔は、嬉しそうにしてる気がして。

 

彼女の言う「前」っていうのは、つまり。

 

 

「どうでしょうねー。赤さん辺りは、『なんでこんなことー』みたいに言ってるかも」

 

「…かも」

 

「ね」

 

 

「前」のことは、傷かもしれない。だから触れずに、話を合わせる。

 

彼女であれば、多分、怒りはしないでしょう。でもそれはそれ。私がそこに立ち入って、果たしていいものであるのか。

 

 

「あ、そういえば…よかったの?あだ名…」

 

「あの、小学生の子の?」

 

「ん…」

 

 

…でも、そうして遠慮がちなのを続けて、それは果たして、真にチームとして纏まってると言えるのかしら。

 

個々の患難辛苦を互いに分かち合うのもまた、チームとしては必要なことなのでは。そんな風に考えてしまう。

 

 

「いいんじゃありませんの?本人がいいと言っていましたもの」

 

「でも、葛藤…してた。すっごい…」

 

「顔も苦々しかったですわね…」

 

 

一緒に居る。集まるし、ご飯も食べるし、戦うし、遊…息を合わせる特訓も、まだ続けてる。

 

でも、それだけだ。

 

つまりは、未だ知らない。お互いのこと。私達は皆そう。なんとなく、何か抱えてるのは知ってる筈なのに。

 

誰も彼も、それを曝け出さない。そして、踏み込みもしないから。

 

 

「…大丈夫、かな。仲良く、してるかな…」

 

「少しでもそうなればと思って、赤さんを一緒に行かせたんですけれど」

 

「やっぱり、納得…してない?赤ちゃん」

 

「ですわね。口にはしませんが」

 

 

和気藹々とする時はあっても、一つに結び付いてはいない。なぁなぁの、ある種寄り合いのような、私達のチーム。

 

果たしてそんな調子のままで、チームに危機が訪れた時、団結することが出来るのか。

 

今までやってきた戦いとは、また違う。この穴だらけのチームが崩れてしまいかねないような、恐ろしい危機が、いつか…。

 

 

(……なんて、そうそう起きませんわよね。そんな大きな出来事は)

 

 

杞憂であれば、それでよろしい。それでも私は、心の何処かで生まれたそんな不安を、忘れてしまうことが出来ずに。

 

だけれど、それを打ち明けることもないままで。

 

そういうものを抱えたまま、年長さんと話していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーもー…!なんでこんなことしなくちゃなんねーん…だっ!!」

 

 

魔力を込めて、使い魔に拳骨。吹っ飛んでいって、そのまま消滅した。

 

八つ当たりって形になったけど、相手は使い魔。悪い魔女様の手下にゃあ、それくらいで丁度いいだろ!

 

 

「しかたないじゃーん!魔女ほっとけないし…っさー!」

 

「そりゃそうだけどなぁ…」

 

 

言いながら、マジ子もアタッシュケースをブン回す。人の手みたいな形の使い魔達が、それを食らって散っていく。

 

分かってんの。魔法少女の仕事は。私が言ってんのは、そういうことじゃないんだよ。

 

 

「でもさー、今日はパパッと終わりそーじゃん。ほら」

 

 

マジ子が顔を向けた先には、一体、また一体って真っ二つになる使い魔の群れ。

 

そこそこの数が居たはずだけど、少し目を離した間に、だいぶ掃除も進んだみたい。

 

 

「マジ、めっちゃ強いねー。あの子…」

 

「…………」

 

 

言ってる間に、寄って集ってた使い魔の、最後の一体が今 斬り捨てられる。

 

それをやった魔法少女。つまりチビっ子のやつは、ふーって短く一息吐いた。

 

よくもまぁ、何も無かったみたいに涼しい顔してさ…。

 

 

「ちょっと、何してるんですか。奥、行きましょうよ」

 

「あー、はいはいって…」

 

「早く帰ってアニメ雑誌が見たいんですよ…!亀さんですか、貴女達!」

 

「いや、本音よ」

 

 

一言多いんだよ、色んな意味で。

 

そこはお前、外で待たせてる被害者の安否とか、土いじりの時間無くなるとか、もっとこう…あるだろ。

 

 

「なんですか!逸ってるんですよ、気持ちが!歳上なら分かってて下さい!」

 

「求めんな、器用さ。そんな生き物じゃねーから歳上は」

 

「だいじょーぶ。今いくからさー、おチビ」

 

「あー!も、だからその名前は…!いや、ん〜……!ぬぁぁぁぁん…!」

 

 

あっちでキレてこっちで唸って。忙しいやつだな この小学生…。

 

 

「そんなにアレなら嫌って言っときゃよかったじゃん…」

 

「ん!何か言いました!?舐めましたか、小学生!」

 

「気に入ったのか、それ…」

 

「割とですね!」

 

 

そうなんだ…。

 

小学生又はチビっ子改め、おチビなんてあだ名が付いた魔法少女のキレ芸に付き合いながら、魔女がお待ちの最深部まで、結界の中を突き進む。

 

 

(ほんとさ、なんでこんなんやってんだ。私…)

 

 

学校帰りでかったるいとこに、買い物に駆り出されてきてさ。

 

そんで道中、バカとシーと、夜中にトイレに付き合わされた、小学六年生女子の相手もしてみせて。

 

挙句の果てには魔女と結界でデートと来たよ。わあ嬉しい。そんなわけねーじゃん。

 

 

 

とっくに用事は済ませたんだから、ほんと、さっさと魔女倒して帰ろ…。

 

 

 

ダレる心を奮い立たせて、私は走った。

 

 

 

 





マギレコ本編の出来事

・第一部 第5章六話 終了後〜第5章七話 開始前




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5-8 本気(マジ)子



まさかのマギレポ版デビほむ実装なので初投稿です。





 

 

 

 

「…で、あそこできりんがああいう台詞を言うからこそ、その後の展開に説得力が出てくるっていうか」

 

「はへ〜!なるほどねぇ〜。よくわかんないけど…」

 

 

チビちゃんと話をしながら、歩く。

 

ガッコー終わって帰ってきて、そんで今日も先輩んとこ集まって。そしたら買い物するっていうから、トーゼン、アタシも付いてこうと思った。

 

でも先輩には、アタシらにはベツのもん買ってきてほしーっておねがいされちゃったから、フタテに別れることになってさ。

 

 

「お前ら、よく飽きねーよな。さっきから…」

 

「えー、だってさー。面白いよ?マジきりトーク!」

 

「あーそうかい…」

 

 

向こうは、先輩と年長さん。で、こっちはアタシと赤ちん、シーちゃん。それから、お泊まりしてるチビちゃんの四人。

 

昨日やった土ほるやつは終わったから、今度はアタシらに買ってきてほしいんだって。タネとか、ナエとか。

 

 

「んー…。赤ちん、なんかゲンキない?」

 

「あー?」

 

「不摂生ですか。それか夜更かしとか」

 

「お前…」

 

 

「だらしないですよ」なんて、チビちゃんに言われて、赤ちんがムッとなる。

 

 

「夜中、泣きベソかいて部屋に来たヤツの台詞か、それが。トイレ付き合って寝不足気味な私へのさ」

 

「なぁ…!誰が泣きベソって!」

 

「事実じゃんよ、え?」

 

「う〜…!」

 

 

そのままニラみ合いする二人。コラ。マジでケンカはめーでしょ!なかよくして!

 

そうやって私がチューサイ?したら、お互いにプイッて、そっぽ向いちゃった。

 

 

「ダメだよー、赤ちん!チビちゃんだって、チームの仲間なんだからー」

 

「私が悪いんかよ…」

 

「すねないの。トシウエさんでしょ!」

 

「言い聞かせられてる…このバカに…」

 

 

トーゼン!今はアタシが一番のネンチョーシャだもん。マジでトーソツ力?を見せてかなきゃ!

 

ところでトーソツ力ってなに?コソコソ写真とるアレ?

 

 

「つーかな、その仲間ってのも違うって思ってるからな。私は」

 

「えー」

 

「預かってるだけなんだから、チームの一員ってこともねーだろ。ん?」

 

 

そんなこと言ってー。決めたじゃん、それー。先輩が、カッテのドがスギてもアレだから…えーっと、なんだっけ…。

 

そう!シキカ?に入ってもらうよーなもんだって!

 

 

「そう決まったんならいいじゃないですか。ねちっこい人ですね」

 

「ん!?」

 

「貴女だけなんじゃないです?そんな不満タラタラなの」

 

「っ……」

 

「言われちったね」

 

 

うるせーよってボヤいて、タメ息ついちゃった赤ちん。ムカッと来たんかなぁ。怒ってそーな顔してる。

 

 

「もー。赤ちん、そーゆー顔してるとさ」

 

「あぁ?」

 

「となり。シーちゃん見てみ?」

 

「あ…」

 

 

アタシに言われて、トナリを見る赤ちん。そこには、もーすっかりアタシらも見なれた、ベッタリ引っ付くシーちゃんが居て。

 

でも、その顔はちょっと暗かった。フアンそー…ってーのかな。そんなん。

 

 

「さっきからそうだったよ。シーちゃん、かなしーんだって。好きな子がそんな怒ってたらさー」

 

「好っ……とかはまぁ、分からんけど。違うと思うんだよなー、これ…」

 

「なにがー?」

 

「こいつ別に、私がキレてるとかに反応してんじゃなくてさ」

 

 

え、そーなん。じゃ、なんで?

 

 

「〜!」

 

「服、ひっぱってるよ。ウデんとこ」

 

「構ってくれないのが嫌なんだろ。多分…」

 

 

あー、そーゆー。

 

 

「〜!〜!」

 

「見ろっ、ほらっ…。不満過ぎてとうとうキスしようとしてきてるよ、コイツっ…!」

 

「わー」

 

 

「3」みたいな口して、むちゅーっとしようとするシーちゃんを、ガンバって押さえる赤ちん。

 

でもシーちゃんってめっちゃ力つよいし、そんなんしても…あ、ほっぺにぶちゅーっとされた。

 

 

「赤ちんはイヤなん、それ?シーちゃんはウレしそうだけど」

 

「…そっちの気はねーもんな、そりゃ」

 

「え」

 

「や、えってなんだお前」

 

 

なんだお前ってなに。アタシてっきり、赤ちんはもう、マジでオチてると思ってたんだけど。

 

だって赤ちんさ、さっき ちゅーってされた時、ちょびっとだけうれしそーに見えたよーな…。

 

 

「やめてくださーい。小さい子供の前でー」

 

「ちげーってんだろお前」

 

「二次ならともかく、三次で百合ん百合んとかキツいですよ。生々しいです」

 

「オタクってのは人の話も聞かなけりゃ差別みてーなことも言うのか、オイ」

 

「ぬっ!?」

 

「おぉん?」

 

 

もー、まーたケンカゴシになるー…。

 

こーゆーの、なんたっけなー。オトナゲない?だっけ。

 

 

「ていうかその、シーさん?でしたっけ?ウワサってやつなんですよね!?」

 

「うん。そーみたいだけど…」

 

「囮として手元に置いてるって聞きましたけど、それならこうして仲良く一緒に出かけるのって変でしょ!ましてや、あだ名を付けることなんて!」

 

「まー、それは…」

 

「挙句の果てには赤い人とイチャイチャして!意味わかんないです。ストックホルム症候群かなにか!?」

 

 

スト…え?なんて?ショーコーグン?ショーコーって、グンジンさんとかのアレ?

 

 

「アレとはちげーと思うけど…。つか、難しいこと知ってんなお前…」

 

「なんですか!小学生舐めてるんですか!」

 

「あーも、わかった。わかったってもー…」

 

 

ガーッと怒りだしたチビちゃんに、赤ちんもタジタジみたい。イヤそーな顔しながら、落ち着かせよーとしてる。

 

 

「つか、いつまでこんなグダグダやってんだ私ら…。花屋に行くって話じゃないん?」

 

「あ、そーそー。」

 

「むー……」

 

「?」

 

 

ムクれるチビちゃんと、お話そのものが分かってなさそーなシーちゃんは、ちっと置いといて。

 

そうなんだよね。タネやら買うっつってもアタシたち、サイバイってマジでルーキーだから、どんなのがいいのか聞きにいけって、先輩にも言われたし。

 

 

「な。ほれ、さっさと行くぞ もー」

 

「そだねー。ほら、チビちゃんも」

 

「…………」

 

 

あれ、ヘンジない。どしたん?

 

 

「私のあだ名ですよね。それ…」

 

「?うん」

 

 

「おチビ」ってのが、買い物に来る前に決めた、この子のあだ名。私達の中じゃマジで小さいから、おチビ。

 

赤ちんに言わせりゃ、コードネームだかなんだか。

 

 

「ええ、分かってます…。了承したのは私自身なことも。そうしたのは、私なりに理由があるからということも…」

 

「チビちゃーん?」

 

「でも…でもですよ…!それに納得したわけじゃないのも、また事実なんですっていうか…!ぬ〜…!」

 

「???」

 

 

え、なに?なんかブツブツ言ってるけど、小さくて聞こえないや。ひとりごと?

 

どーも自分のセカイに行っちゃったみたいだから、万が一ハグれちゃわないよーに、手を繋ぐ。しょーがないなー。

 

ちょっとおねーさんキブンになりながら、皆でお花屋さんまで歩いてった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「買い忘れとかないかー」

 

「たぶんなーい」

 

 

赤ちんの声かけにヘンジして、買い物バッグをゴソゴソ。なんか忘れたもんがないか、カクニンしてみる。

 

ジカンが過ぎてって、もー夕方。アタシたちのヨージは終わって、今はその帰り道だった。

 

 

「色々買ったねー」

 

「マーガレット、コスモス、パンジー…」

 

「ジーパンね、ジーパン」

 

「うるさいですね…」

 

 

チビちゃん、シンラツぅ。まぁ、なにはともあれ助かったなー。花屋のテンインさん、テーネーに教えてくれたし。

 

なんてったっけ、あそこ。たしか、ブロッサムだかなんだか。

 

 

「そういや、赤ちんもなんか買ったんだっけ?」

 

「これな」

 

 

そー言って、手に持ってる赤い花束を見せてくる。赤ちんの魔法少女のイショーみたいに真っ赤な、そのお花。

 

 

「きれーだね。なんていうやつ?」

 

「ゼラニウムだってさ」

 

「ゼラチン?」

 

「バカ」

 

 

また赤ちんにバカって言われた…。知ってるよ。デントーゲーっていうんでしょ、こーゆーの。チガう?

 

 

「なんで買ったんですか?花を愛でるような、淑やかな人でもないのに」

 

「うるせーわ。……いいだろ、なんでも」

 

「えー」

 

 

あ、ゴマかすんだー。ケチんぼ赤ちん!

 

 

「や、花はこの際いいんだよ。ついでなんだから。本命の方がイマイチだったのが問題じゃねーのか」

 

「ホンメーって」

 

「前見せたじゃないですか。私が、マギウスの人達のとこから持ってきたやつ」

 

「だよね」

 

 

うん。元々は、それのショータイを調べるためにハジめたんだよね。ニワほったりしたアレ。

 

 

 

『これが、私があの日拾ったものです』

 

『植物の苗みたいに見えますよね。なんか、カイワレみたいな』

 

『マギウスのことを知った今となっては、持っておくこともないとは思うんですが…』

 

 

 

たしか、チビちゃんはこう言ってた。んで、先輩がそこに待ったかけて、どーゆーもんなのか調べてみよーってなって…。

 

 

「私は気ィ進まねーけどな。悪の秘密結社みてーなやつらが持ってるもんだぞ。碌なもんじゃねー」

 

 

んー……。まぁ、ね。赤ちんのキモチも、マジでわかるけど。

 

 

「また渋る…。皆さんで話し合って決めてたじゃないですか。見てましたよ。多数決でも、貴女だけ反対してたの」

 

「あーはいはい。そーですねー」

 

 

あの変な草みたいなのを調べて、それがウワサとか、似たよーな何かだったら、そのときはポイッてする。

 

そのあとは外に出て、同じものがあったら、見つけてポイする。それが、アタシたちの出したケツロン。

 

 

「…でも、赤い人の言う通り、本題に関することはあまり…」

 

 

そうなんだよねー。

 

 

『お花を育てるのは初めてですか?そうですね…種から育てるってなったら…』

 

 

そうやって、花のことクワしく教えてくれた店員さんも

 

 

『カイワレ…ですか?』

 

『んー…。私よりも、かえでちゃ…えっと、家庭菜園をやってる友達が居るんですけど、その子の方が、多分詳しくて』

 

『でも、今日はお店に来てないから…』

 

 

こうやって、もーしワケなさそーにしてたもんねー…。

 

ケッキョク、それいじょーはなにもなかったから、お買い物して、花屋さんを出て。

 

んで、ついでだからってコンビニとか本屋とか寄って、こうして歩いてんだよね。

 

 

「とりま、そのカイワレ?だっけ。それニワに植えてみて、よーす見るっきゃないかー」

 

 

言いながら、コンビニで買ったおやつをフクロから出して、口にほーりこむ。んー、おいしー。

 

 

「一先ずこれで用事は済んだんですし、帰りましょうよ。私、さっきの本屋で買った雑誌も読みたいですし」

 

「あ。じゃ、一緒に読もー」

 

 

あーでも、その前にタネとか植えたりすんのかなー。そんなふうに考えてた、その時だった。

 

 

 

「やっべ…!」

 

 

 

ボソッと言って、すっごいアセったフンイキでダッシュしだす赤ちん。ほんとトツゼンだったから、びっくりした。多分、チビちゃんも同じだったと思う。

 

 

「え、ちょ!赤ちん!どったのー!?」

 

「!マジ子さん、あそこ!ビルの上!」

 

「へ!?………あー!」

 

 

目の前にいっぱいあるビルの一つをユビさして、チビちゃんが言う。

 

そのほーこーを見てみると、赤ちんがガチダッシュしだしたイミがわかった。

 

 

「ちょ、ヤバいでしょマジで!」

 

「行きましょう、早く!」

 

 

人だ。ビルのおくじょーに人がいて、その人が今、飛びおりた。

 

買ったものは落とさないよーに。でも、先に行った赤ちんに追いつけるよーに、ガンバって走る。

 

そうしてる間にも、飛びおりた人はどんどん落ちてく。ダメ!このままじゃ…!

 

 

「赤ちーん!!」

 

「おらあああああああああ!!」

 

 

赤ちんの、とびっきりのサケび声が聞こえて、タイセーを低くしたのが見える。

 

 

「ぶっふぇぇぇっ!!」

 

「よし!受け止めました!!」

 

 

そのまま思いっきりスライディングかました赤ちんは、カンイッパツで落ちてきた人をキャッチするのに成功。よかったー…。

 

 

「赤ちん、だいじょーぶ!?」

 

「すっごい声出てましたけど…」

 

「肘…肘入った肘…。うぅえ…」

 

 

うわー、イタそー…。でもそれで済んでるんだから、魔法少女ってスゴいよね。

 

 

「幸い、飛び降りたところ、落下しているところは目撃されなかったみたいです。人通りも少なくて助かった…」

 

「うっ…。それより、見ろ。この人…」

 

「あー!口づけ!」

 

 

赤ちんがかかえてる人の、クビのところ。ケーヤクしてから何回も見た、魔女にワルさされたショーコが、そこにあった。

 

 

「…反応、ありました。屋上ですね…」

 

「オクジョー…ってーと」

 

「………」

 

「マジかー…」

 

 

チビちゃんが無言で、アタシらの目の前にあるビルをさす。なんで買い物帰りにーって思うけど、魔法少女として、ムシはできないよね。

 

口づけを受けてた人は、ビルの中にあったベンチにネかせて、アタシたちは魔女をボコしに行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「居たな…」

 

 

あれからアタシたちは、オクジョーまで行って、変身して、ケッカイにトツニュー。

 

使い魔を一人でやっつけながら、どんどん先に進んじゃうチビちゃんをおっかけて、一番オクのカイソーまで走ってく。

 

そしてとーとー、魔女のいるとこまでたどり着いた。

 

 

「なんかフワフワ浮いてますね。アドバルーンみたいな」

 

「なんかウスっぺらいかんじ…」

 

 

カラダがヒラヒラしてるっていうか、ほそっこいっていうか。風とかで飛んでっちゃいそう。

 

あの魔女の周りに幾つかフヨフヨしてるのが、今チビちゃんが言った アドバルーンってやつ?飾りかなんかなのかなぁ。

 

 

「とにかく、あれを倒せば終わりなんです。行きますよ!」

 

「っ!待て!」

 

 

魔女を倒しに行こーとするチビちゃんを、赤ちんが止める。それはなんでかって言うと…

 

 

「うわー、使い魔…」

 

「むー…!数を呼んできて!」

 

 

ケッカイの中にある、タンクのカゲからゾロゾロ。それか、魔女の上からボトボト。

 

あの、手のカタチの使い魔がいっぱい出てきて、魔女のそばに集まってきた。

 

 

「守りを固めてきたか、総攻撃を仕掛ける気か…」

 

「どっちだろうが、あの数はメンドくせえ。マジ子!」

 

「え、なに」

 

 

赤ちんが、アタシに手のひらを向けてくる。どゆこと…?

 

 

「コネクトだよ!一発ブチかまして、減らす!」

 

「でも、たしか赤ちんってコネクトは…」

 

「私がお前にするなら問題ねー!早く!」

 

「お、おー!」

 

 

急かされちゃって、えいやって赤ちんと手を合わせる。赤ちんの魔力がアタシの中にキて、二人の力が一つになったのがわかった。

 

 

「ぬう〜……!」

 

 

アタシのブキ、いつも使ってるアタッシュケースがなんかゴッツくなって、なんかデッカくなる。

 

ちょっとオモいけど…うん。これならイケる!

 

 

「やっちまえ!」

 

「いっっっきまああああああす!!」

 

 

どりゃー!!ってサケんで、ちょーデカいケースをブン投げた。タイホーみたいなイキオいで、魔女のとこまでフッ飛んでく。

 

魔女にはトドかなかったけど、めっちゃいっぱい集まってた使い魔たちは、今のでゴッソリ居なくなった。

 

 

「今ですね!」

 

「っ!おい、待てって!また一人で…!」

 

 

チビちゃんが一人で、魔女のところに つッ走る。赤ちんが止めるのも聞かないで。

 

 

「はっ!」

 

 

減った使い魔たちをキヨーによけながら、チビちゃんはジャンプ。キレ味バツグンのソデが、魔女に当たる。すんごいのけぞった。

 

 

『〜!!』

 

 

魔女が、クルしそうな声を出す。今の一発で体にデッカいキズもついてて、すごくイタそう。

 

 

「よし、このまま…!」

 

 

チビちゃんが、そこからイッキにトドメをさそうとする。でも…

 

 

「バカ!危ねえ!!」

 

「えっ…」

 

 

赤ちんが大声出した、次のシュンカン。

 

チビちゃんの目の前に、ふたつ、おりてきた。

 

ソラの上からアドバルーンが、いきなり。

 

 

「っ!!」

 

 

当たっちゃう。そう思ったけど、チビちゃんは早かった。

 

バルーンに付いてる、黒いギザギザしたやつを、ソデを使ってガード。キンゾクどーしがブツかったような音がして、チビちゃんがフッ飛ぶ。

 

今さっきピューって走ってっちゃったと思ったのに、今度はビューンってもどって来た。

 

 

「このアホ!油断しやがって…!」

 

「アタシてっきり、あのフーセンってアレでゼンブなのかなって思ったけど…」

 

 

魔女の周りにフワフワ浮いてる、あれ。アドバルーンは、サイショ五つくらいだった。はず。タブン。でもそれが、今は七つにふえてて。

 

てことは、ホントは五つじゃなかったんだ。多分、魔女はアタシたちがここに来る前から、フーセンを上に飛ばしといて…。

 

そんで、どっかでスキがデキた時にすぐ突けるよーに、タイキさせといた…の、かな?ヨーイシュートーってやつ?

 

 

「っ…!ちょっと…ちょっとしくじっただけです、こんなの!いつもなら、今頃!」

 

「お前なぁ!」

 

「待って!魔女、動くって!」

 

『!!』

 

 

こんな時にもクチゲンカしよーとするのを止めたくて、魔女のことを知らせる。ハッとして、二人は魔女の方を見た。

 

 

でも、ちょっと遅かったみたい…!

 

 

 

「っ!なんだ…!?」

 

 

赤ちんが、空を見る。

 

 

「なんか、飛んできて…?」

 

 

それを見て、チビちゃんも空を見る。

 

 

「アレって……」

 

 

そしてアタシも、二人に続いてソラを見たトキ。

 

 

「………カギ?」

 

 

飛んできたソレがほっぺに当たって、イヤなイタみがやってきて。なにかがナガれた感じがした。

 

 

 

「わあああああああ!」

 

「いって…!いた!いででででで!!」

 

「クッソ…!あの魔女、残りの使い魔に…!ぬぐっ…」

 

 

 

死ぬほどタイリョーにフッてくる、カギの雨。アタシたちに当たったやつ、当たらなかったやつにカンケーなく、ジメンに落ちて、チャリンチャリン鳴ってうるさい。

 

 

「この鍵、使い魔が持ってるやつだろ!こんな大量に降ってくるような数、残ってたか!?」

 

「知りませんよ!どっかに隠れてたんじゃないですか!?」

 

「あー!?」

 

 

顔をキズつけないようにウデでガードしながら、魔女の居る方をカクニンしてみる。

 

そしたら、チビちゃんの言うとーり。さっきガッツリ倒したはずなのに、まるで元どーりみたいにワラワラだった。

 

 

(どーしよう…!どーしよう!?)

 

 

このままじゃ やられちゃう。カギが変なとこに当たるか、その前に魔女がトドメさしに来るかも。どっちにしてもヤバいって!

 

 

(アタシのバカ!さっさと皆で、水になっとけばよかったのに…!)

 

 

今になって、コーカイする。そーだよ。さっさとコユー魔法使っておいたら、今ごろ、こんなんじゃなかったのに。

 

なんでアタシ、こんなにバカなんだろ…。

 

 

(…………)

 

 

 

まだまだカギはフってキてて、それがあちこちに当たって痛い。コマかいキズがいっぱいデキて、血が出てきてるとこもある。

 

 

「ぐっ…くっそ…!」

 

「っ……うぐ…」

 

 

赤ちんは動けない。チビちゃんも動けない。当たりまえだよね。皆して、おんなじジョーキョーになっちゃってんだもん。

 

 

 

(………アタシが…)

 

 

 

なら、どーするか。

 

 

 

「アタシが……やらなきゃ…!」

 

 

 

二人に聞こえないよーに、ポソッと、ツブやいた。

 

 

「っ!!」

 

 

うずくまってたタイセーをやめる。イキオい良く立って、前にでてやる。ココロのジュンビなんて、いらなかった。

 

 

「!?おいバカ、何やってんだ!」

 

「モロに当たっちゃいますよ…!?」

 

 

後ろから聞こえる、二人の声。バカかぁ。そうだよね。そう、思うよね。

 

アタシも自分で、そう思うよ。

 

カギがビシバシ、降ってくる。なんせ全身に、だもんね。あっという間に、キズだらけ。

 

 

(でもね…)

 

 

カラダがイタい。アザがいっぱい。血もいっぱい。イショーもあちこちヤブけてる。

 

それでも、作る。アタシのブキの、アタッシュケース。

 

 

(今はアタシが、姉ちゃんだから…!)

 

 

持ち手をニギって、フリかぶる。カラダはヒネッて、だけど目だけはしっかり前見て、ブレないよーに。

 

 

(イチバン、歳上…。だから、アタシが!)

 

 

ジュンビカンリョー。ここまで来たら、あとはカンタン。おなかのソコから、思いっきり!

 

 

 

 

「アタシが!二人を守るんだあああああああああ!!」

 

 

 

 

力を目いっぱい込めて、アタッシュケースをブン投げる。使い魔がいくらかショーメツして、ほんの少し、カギのイキオいがおさまった。

 

 

「まだだよ!!」

 

 

カンパツ入れずに、もうイッパツ。また何体か倒されて、カギの雨が弱くなる。

 

 

「まだ!!」

 

 

また投げる。テキが倒れて、カギがへる。

 

 

「まだ!!」

 

 

また投げて、倒れて、へって。

 

 

「まだ!!」

 

 

投げて、倒れて、へって。

 

そして。

 

 

 

「これで、おしまいっ!!」

 

 

 

雨はもう、ほぼ止んでるし。使い魔たちも、ゼンゼン居ない。

 

だけどダメ押し。最後に二つ、ブン投げて。残ったのは、ヒンシの魔女だけ。

 

 

「マジ子、さん…?」

 

「お前…」

 

 

二人が話しかけてくる。カギがフってこなくなって、よーやく顔を上げたかな。どっちもボロボロだろーけど、まぁ、アタシよりはマシ。多分。

 

 

「赤ちん、チビちゃん!だいじょ…!」

 

 

ブジだったのがうれしくて、後ろにフリ返ろーとする。だけど魔女は、それをユルさない。

 

あのキョーアクな、アドバルーン。それを全部、こっちによこした。

 

フーセンの数は、全部で七つ。

 

フワフワしてるからなのかな。動きが全部、バラけてる。

 

 

「だったら…えーっと!」

 

 

アタッシュケースを二個出して、また投げる。バルーンに当てて、キドウをそらす。

 

 

「そんで、後は…!」

 

 

残りは五つ。その中の二つが、後ろの二人を狙ってた。

 

アタッシュケースは、間にあわない。

 

 

「そんなら、こーだぁー!!」

 

 

二人を守るみたいに、ウデを広げる。りょーほー、ガバッと。

 

 

「あっ…!!ぐっ、う………っ!!」

 

 

黒いギザギザが二つ、アタシに刺さった。右カタと、背中。ザックリいかれて、マジでイタい。

 

カギの時よりいっぱい血が出て、イショーがどんどん、赤くなってく。

 

 

「でも……。これで…!」

 

 

つかまえた!

 

 

体に刺さってるギザギザを、ツカむ。ニギりすぎて、手からも血が出た。

 

これで四つ。ニガさないよーに、ガンバッて押さえこむ。

 

 

 

「二人ともー!後はおねがーい!!」

 

 

 

アタシがサケぶと、そこからはすっげー早かった。

 

 

まずは二人が、一緒に走って。

 

残りのフーセン三つまとめて、赤ちんがパイルでズドンして。

 

 

まるハダカになった魔女のところに、チビちゃんが飛んで。

 

りょーほーのソデを一つに合わせて、それで魔女を真っ二つ。

 

 

あっという間に、勝っちゃった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ケッカイが消えて、もとのオクジョー。終わったと思ったらなんか気が抜けて、ペタッてスワりこんじゃった。

 

 

「はぁー…はぁー…はぁー…」

 

 

ぜーぜー、はーはーいってる。息が。マジで初めてかも、こんなん…。

 

すっごく疲れたし、ムチャもいっぱいやっちゃったから、体、イタいよぉ!すっごい…!

 

 

「おい…!」

 

「へ…?」

 

 

なんかもうイロイロしんどいとこに、話しかけてくる赤ちん。やっぱりこの子も、ボロボロだった。

 

 

「このっ……バカ!!無茶苦茶しやがってお前…!」

 

「え〜…?」

 

 

またバカって言うー。しゃーないじゃん。アレしか思いつかんかったんだもん。

 

 

「でも、助かったじゃあん…」

 

「そうですよ…。そうですけど…!」

 

「下手すりゃ死んでただろ!あんなの…」

 

「けど、生きてるもーん…」

 

 

もー。チビちゃんまでブーブー言ってさー。

 

てか、なんだろ。まともにしゃべれないや。やっぱ疲れてんのかなー?

 

 

「わるいの、アタシだけじゃないもんねー」

 

「あ…?」

 

「二人も、わるいもん」

 

「それは…」

 

 

ワザとらしく、ほっぺをプクーってする。アタシに言われて、気まずそーになる二人。ふふーん。コマれコマれー。

 

チビちゃんは、一人でつっ走りすぎ。赤ちんは、ヒツヨーイジョーにツンツンしすぎ。シーちゃんは…。

 

…シーちゃんは…?

 

あれ、そーいや居たっけ。戦うときに…。

 

 

「…………」

 

 

まー、いっか。もう、なんでも。

 

 

「とにかくさー…二人とも。ね?」

 

「………」

 

「………」

 

「今日は、ちょっと……間違っちゃっただけだから…」

 

 

だから次は、仲良くしよーね。

 

 

そう言えたのか、言えなかったのか、分かんないけど。

 

アタシの体が、グラグラ、フラフラ、ユレてって。

 

いつの間にか、ねっ転がってた。

 

 

 

赤ちんとチビちゃんが、上からノゾいて何か言ってくれるけど、クソみたいに眠いアタシには、よく聞こえなくて。

 

 

 

バカな頭も、その内回らなくなってきて。

 

 

 

前から聞いてみたかったこと、一つだけ。

 

なんとなく口に出してみたくて、ガンバって呟いた、その後に。

 

 

 

 

アタシのイシキは、落ちてった。

 

 

 

 





マギレコ本編の出来事

・第一部 第5章六話 終了後〜第5章七話 開始前


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5-9 ちょびっと爆発



あのアニメ版いろはちゃんが実装されるので初投稿です。





 

 

 

 

「………」

 

 

風呂上がり。電気が落ちたリビングで、なんとなくボーッと過ごしてた。ソファに背中を預けながら。

 

外から漏れる月明かりだけが、室内をうっすら照らしてた。

 

 

「……………」

 

 

TVの音も、談笑する住人達の声も、今は無い。仮にここに全員居たって、何も話しゃあしないだろうけど。今日って日には、特に。

 

時計を見れば、そろそろいい時間。このままここに居ても仕方ないから、歯を磨いてから、二階に上がる。

 

リビングから出て行く時に目をやった庭は、何もないままだった。「これだけでも」ってことで植えられた、あのカイワレみたいなもの以外は、なにも。

 

 

 

「………」

 

「………」

 

 

階段を登り切ったところで、知った顔に出くわす。おチビのやつだ。

 

だけどお互い、何も言わない。一瞬目が合ったくらいで、ただすれ違って終わり。

 

 

「……………」

 

 

後ろから、階段を下りる音が聞こえる。またトイレでも行くのか。

 

随分ゆったり下りてるみたいだけど、やっぱ一人で行くのは怖いのかな。

 

でも、それを気にしてやれる余裕が、今の私にはない。後ろを振り返ることもないままで、部屋に戻った。

 

 

「………はぁ」

 

 

部屋の扉を閉め切って、溜息吐いてベッドの淵に座る。ちょっと乱暴にやったせいで、ギシッて音が鳴ったけど。

 

 

「……………」

 

 

自然と顔が俯いて、部屋に敷いたカーペットが目に入る。この家に居座ることになった数日後、先輩と街に出掛けて買ったやつ。

 

普段は部屋を明るい印象にするそれも、日の光やら照明やらがないんじゃあ、その効力を発揮しない。今の私の心だって、多分 動かしてくれない。

 

 

「…っ」

 

 

ボスッっと、ベッドから音がする。私が、グーで叩いた音。

 

 

「………っ!」

 

 

また叩いて、ボスッと鳴る。今度は、もっと大きい音で。

 

そうやって、自分の気が済むまで叩く。ボスボス、ボスボス。自分の中にあるものを、正しく吐き出せないやり方。不健全だと思った。

 

 

「〜!!」

 

 

最後に一発。思いっきり力を込めて、叩いた。だけどまだまだ収まらなくて、そのまま拳を握り込む。それくらい、私の心はささくれ立ってるってこと。

 

どうして、こんな気持ちになる…。

 

いや。原因は分かってるんだ。私のせい。自分のせい。もっと言えば、私とチビの、二人のせい。

 

私達が反発し合って、だからマジ子は傷付いた。結果 私も今こうやって、嫌な気分になっちまってんだ。

 

 

 

『マジ子…?おい、マジ子って。なぁ!』

 

『マジ子さん!マジ子さん!?』

 

 

血塗れのマジ子がフラついて、ブッ倒れた。その時、私もチビもイヤに慌てた声が出たのを、はっきり覚えてる。

 

あの時私達は、一般人に飛び降りをさせた魔女を倒しに、ビルの屋上に行って。…で、まぁ…。結果的に魔女は倒せたんだけど。

 

 

(…けど……。けどさ……!)

 

 

終わってみれば、私達はボロクソ。マジ子のやつに至っちゃあ、私とチビより酷かった。

 

顔も、手も、髪も脚も、何処を見ても傷だらけ。制服だって血が滲みまくってて、痛々しいとかいうもんじゃない。

 

そしてあいつをあんな姿にさせたのは、紛れもなく私達で…

 

 

「くっそ…!」

 

 

握り拳に、力が入る。痛いくらいに、ギリギリッて。

 

言い合ってる時じゃなかった。反発してる場合じゃなかった。幾ら私が、チビのことには納得してないからったって。

 

 

「…………」

 

 

魔法少女の戦いは、どんな時も命がけ。魔女も、使い魔も強いこの街では、尚更。分かってたはずだろ、そんなこと。なのに、こんな。

 

 

(弛んだのか、私が…!)

 

 

チームを組んで、戦って。そうするようになってから、傷付くことってそうそうなくて。

 

だから、なのか。そうやって過ごす内に、慣れが来たか。殺し合いだってこと、魔女も必死だってこと、全部忘れて。

 

「数が居るから大丈夫だろ」「どうせ今日も楽に終わるよな」って、どっかでそう思ってたんじゃないのか?

 

 

「っ…!!」

 

 

手に続いて、歯も食いしばる。歯同士が擦れて、音が鳴った。

 

イライラする。ほんとに。自分がマジで、そんなこと考えてるんじゃないかと思うと。

 

 

『わるいの、アタシだけじゃないもんねー』

 

『二人も、わるいもん』

 

 

 

情けないって、思う。

 

上辺だけでも仲良く出来ない。チビのことへの蟠りを隠すことも出来ないから、不和を呼んだ。

 

その結果、私達はマジ子に何させた?尻拭いだよ。それも二人分。体がズタズタになるオマケ付きで。

 

悔しいって、思う。

 

マジ子の言うことは間違ってなくて、あいつの言う悪かったところを、私は分かっていたはずなのに。チビだって、多分そうだろ。

 

 

そして、なによりも。

 

 

 

「なんで、嫌だって思ってんだ…。私…」

 

 

 

結界の中で私達を庇って、魔女の攻撃を受けたとき。戦いの後で、あいつがパタッと倒れたとき。

 

それを見せられて、私は酷く揺さぶられた。思考が止まって、胸の辺りが締め付けられたみたいになって…。

 

マジ子が怪我したんだって。まさか、このままくたばるんじゃって、そう考えたとき。

 

そんなの嫌だって、思った。ダメだって、すごく思った。どうしてだろう。

 

 

 

(あいつは、ただのチームメイト。戦いなんだから、傷付くのも当たり前…)

 

 

庇ってくれたのも、自分が一番傷付いてまで、突破口を開いたのも。言っちまえば、あいつが勝手にしたことだ。だったら、私がこんな気持ちになる必要なんて…。

 

 

(………………)

 

 

なんて、そう考えられたらよかった。でも、納得いかない。許されない気がしたんだよ。他の誰かじゃない、何者かに。

 

 

「…はぁぁぁぁぁ………」

 

 

深い溜息が出る。中に溜まって、でも何処にも吐き出せないものが、口から溢れてきたみたいに。

 

 

結局、私はどう思ってるんだろう。今回のこと。

 

 

(情けない…)

 

 

間違いない。今日の私、文句無しにダサかった。自分の不満を隠せない。捨てられない。そのせいで…。

 

 

(悔しい…)

 

 

これも、うん。間違いない。

 

チームなら、組んでるんなら。マジ子一人に、無茶をやらせちゃいけなかった。面倒を見させて、要らない大怪我まで負わせて。

 

 

(クッソ腹立つ…!)

 

 

これも。魔女に対してとかってよりも、あんな無様をやらかしちまった、私自身に対して。知らない内に弛みまくった、私のめでたい頭に対して。

 

 

(それから…)

 

 

それから…。なんだろう。思ったこと。ボロボロのあいつを見て、感じたこと…。

 

 

(……………)

 

 

……わからない。この気持ちを、私はどう呼んだらいいのか。罪悪感とか、ショックとか。それっぽいのは、浮かんでくるけど。

 

そもそも、その正体が分かったとして、どうだってーのか…。それを感じたのは、どうしてなのか…。

 

 

「……また、わかんねーのかよ…」

 

 

苛立ちを乗せて、呟く。いい加減にしてくれよ。もう何度目だよ。何回ここにブチ当たった?

 

自分のことだろ。なんで分からない。内側にあって目に見えなくても、感情ってのは私のもんだろ。だったら見せろ。はっきりさせろよ、いい加減。

 

 

私はこんなに、お前に向き合ってるんだろうが。

 

 

「……………」

 

 

なんて、何かに向かってキレてみたって、返事なんか返ってくるとか、そんなわけなくて。

 

結局、何も分からない。知ることも出来ないままじゃねーかよ。私…。

 

 

(……………)

 

 

 

分からない…そうだ、分からないっつったら…

 

 

「あいつ…」

 

 

そういえばって、マジ子に言われたことを思い出す。

 

フラついて、倒れて。それに驚いた私達が、マジ子に近付いて。その時に、あいつが呟いたこと。

 

 

 

 

『ねー、赤ちん…?』

 

『アタシがさー……?…バカって言われんの…ヤだーって、言ったら……』

 

『笑う…?』

 

 

 

 

そう言った後、あいつは気を失った。

 

私とチビはその後軽くパニクッて、どうすりゃいいのかあーだこーだ言い合ってたから、その言葉の意味を考えてる余裕は無かったんだけど。

 

 

「………ヤだ、かぁ」

 

 

あいつがあの時、何を思って私にあんなことを言ったのかは、分からない。

 

でも、あの時のあいつは、きっと真剣だった。おちゃらけであんな質問したんじゃないんだって、そう思う。

 

 

(気にしてたのかな…。あいつ…)

 

 

じゃなきゃ、聞かないか。「笑う?」なんて…。

 

確かに、あいつはバカだと思う。今でも勉強教わってるし、自分でも「アタシ、バカだしなー」みたいに言うし。

 

 

…でも もしかして、それはあいつなりの自虐で、本人は、それを気にしてるんだとしたら…?

 

常日頃、私や皆からバカバカ言われて、それでも笑ってて。だけどその分、裏で傷付いてるんだとしたら…?

 

 

「だから、聞いたの…?」

 

 

そこまで考えて、気付く。

 

私、何回言ってきたっけ…?今までどんだけ、あいつにバカって言ってきて…

 

 

「っ………」

 

 

なんだよ、それ…。つまりなにか。私はマジ子の身よりもずっと前から、心を傷付けてたってこと…?

 

 

「酷すぎんだろ…」

 

 

酷いのは、勿論 私。「なら言えよ」とか、「今までごめん」とか、ただそれだけ言えば済む話なんだけど。

 

だからって、人のコンプレックスをザクザク斬りつけるようなことしてたんだって、分かっちゃあ…。

 

 

「どうすりゃいいんだ…」

 

 

謝罪…そう、謝罪だよ。とにかく詫びなければならない。となれば、どうだ。土下座…土下座か?土下座しかあるまい。

 

このドタマ、神浜の大地にブチ込み、沈みこむくらいの土下座を見せてかなきゃいけねえ。更に、ヤツの好物のタコ焼きと、欲しがってた限定スイーツとやらを自費で買ってきて。

 

そんで…えーっと…。

 

 

「……なぁ、どうするよ。お前なら…」

 

 

答えるはずのないやつに、答えを求めて聞いてみる。

 

つって、どうせまた、質問の意味は分かってないんだろうけど。

 

 

「?」

 

 

後ろを向けば、案の定。最早見慣れた、不思議そうに首を傾げる仕草の女。神出鬼没のシーが、そこに居た。

 

 

「……さっきぶり」

 

「………」

 

「えっと…。ありがと。傷」

 

「?」

 

「治してくれたろ…。さっき」

 

 

とりあえず、礼を言っておく。

 

さっきってのは、夕方のこと。魔女を倒した、その後に起きた話だった。

 

 

 

 

 

 

『っ…どうする、これ…!とりあえず、傷 どうにかしないと…!』

 

『でも、治癒魔法なんて使えないですよね!?』

 

『私はな!』

 

『や、私もですけど…!』

 

 

マジ子が倒れた後、私達は考えた。ビルから出るのは当然として、マジ子の傷はどうすんのかって。

 

私達のはまぁ、最悪放置でも問題ない。けど、マジ子だけはダメ。出来た傷がデカ過ぎた。

 

 

『血も結構出てるし、長いこと放置するとマズいぞ…』

 

『だったら、もう病院しかないですよ…。マジ子さんの家族にも、報せが行ったりするでしょうけど…』

 

『背に腹はってやつね…』

 

 

あんまり事は大きくしたくないんだけど、状況が状況。マジ子の家族や、各所へのカバーストーリーも用意しなきゃで面倒だけど、仕方なかった。

 

 

『決まったんなら、急ぐぞ。救急には私が電話かけるから、お前は荷物全部持て』

 

 

後は先輩達に連絡取って、病院で合流出来るようにして、それから…。

 

そう忙しなくあれこれ考えてる時に、シーのやつは現れて。

 

 

『うわ!ちょっ、いつから居たんですか!?』

 

『つか、どこ行ってたんだよ今まで!』

 

『〜!』

 

 

私達のツッコミもガン無視で、だけど私をまじまじ見たシーは、涙目になって慌てだして…。

 

 

『もがっ!ちょ、やめろって!今じゃれ合ってる場合じゃ…!』

 

『〜!〜!』

 

『や、光ってる!なんか光ってるって!お前まじで何すん…!』

 

 

そんで私の顔をこう、ムギュッと両手で挟み込んできたと思えば、魔力を使い始めてさ。

 

 

『!赤い人の傷が…!』

 

『痛みが引いてく…。お前、これ…』

 

『?』

 

『治癒魔法!?』

 

 

なんで私に使ったんだとか、そもそも何時身につけたんだとか、そんなことはどうでもいい。

 

その時大事だったのは、治癒が使えるやつが居るってこと。ただ、それだけだったんだから。

 

 

『え!なんですかその嫌そうな顔!?』

 

『いや、ちょ…!頼むって!ホントお願い!ヤバいから!一刻を争うから!』

 

『……………』

 

 

………まぁ、ちょっとだけ難航したんだけど。説得とか、そういう方面で。

 

 

『わかった!じゃあホラ、お前の好きなとこにキスでもなんでもしていいから!だから二人のことも治しむぐっ』

 

『〜!』

 

『はっや。食い気味に口に行きましたよこの人…あ、人じゃないのか』

 

 

…………………。

 

……悪いのは私じゃない。私以外に魔法を使いたがらなかった、シーのやつがいけない。そういうことで。

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

「………………」

 

 

まぁ、そんな感じで、マジ子の傷も綺麗さっぱり消えて、私達は無事 帰宅することが出来たんだけども。

 

 

「………」

 

 

それはいい。いいよ。感謝してる。カバーストーリーは要らなかったし、マジ子の家族に、心配かける事もなかった。

 

…でもね。でもだよ。

 

 

「〜」

 

「っ」

 

「〜……?」

 

 

私に触れようとするシーの手を、体を軽く引いて避ける。悲しそうな顔をするのを見てると、申し訳ない気分になるけど…。

 

 

「触るのはいいよ。今日は本当に助かったから。好きにしな」

 

「………」

 

「でもその代わり、一つ答えて。いい?」

 

「〜」

 

 

シーが頷く。それを見て私も、「ん」って、両手を適当に差し出す。一応、お好きにどうぞのサインのつもり。

 

 

「〜♪」

 

「んー…」

 

 

その両手を、寄ってきたシーが、同じく両手でそっと手に取る。

 

私の両の手の甲が、シーの両の手の平で、シーの指で包まれる。まるで、宝物を扱うみたいに、優しい手つきで。

 

 

「………♪」

 

「…………」

 

 

そのまま私の手を顔まで持っていって、ほっぺたに当てがう。幸せそうに微笑んで、頬擦りなんかやってみせて。

 

 

「………」

 

 

そんなシーを見る内に、土下座がどうとか暴走しかけた私の頭も、すっかり冷えて元通り。

 

そろそろ、いいかな。

 

 

「……お前さ」

 

「?」

 

 

私がしたかった、質問。シーのやつに、一つ聞いときたかったこと。

 

 

「なんで……居なくなった?さっき。あの、夕方のとき」

 

「………」

 

 

お互い、真っ直ぐ見つめ合う。シーの目の中に、小さく私が映ってるのが、よく見えた。

 

 

「や、ちがうの。アレよ。責めてるとか、そういうんじゃなくてさ…」

 

「…………」

 

「でもお前、ホラ。強いじゃん。だったらさ、あの時…結界で魔女と戦う時も、居てくれたら…」

 

「…………」

 

「そしたら……」

 

 

そしたら、私らが言い争うこともなくて、無駄にダメージ受けることもなかったワケじゃん?

 

それにさ、ホラ…。

 

 

「えっと……」

 

 

マジ子も、さ。あんなに、ズタボロになることもなくて……

 

 

「だから…」

 

 

……私が今、こんなグチャグチャな気持ちになることだって

 

 

「っ…………」

 

「………」

 

 

 

…どうしてだろう。言葉が、出なくなっていく。今さっき、落ち着いたばっかりだったはずが。

 

伝えたいことは分かってるのに。はっきりしてるはずなのに。

 

なのに、言えない。どうしてだか、つっかえちゃって。口から出てってくれないんだよ。

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

シーは、待っててくれてるのに。私が何も言えないでいる、この瞬間にも、ずーっと。

 

 

「……………」

 

 

それが申し訳なくなって、とうとう顔を俯かせる。両手もシーの顔から離して、ダラッと放り出す。

 

 

「………………」

 

 

いい。もういいよ。やめにする。

 

ごめん。聞きたいって言っといて、何も言えない。ワケの分からんヤツで、ごめん。

 

そう、切り出そうとしたとき。

 

 

「………」

 

「あ………」

 

 

柔らかくて、暖かいものに、私の頭が包まれる。二本の腕と、大きい胸。

 

シーに抱きしめられたんだって、少し遅れて理解した。

 

 

「っ…」

 

「………」

 

 

シーの体温。感触。香り。それらを感じてる内に、なんかすっげえ安心しちゃって。

 

辛いのに、だけど、意味わかんないくらいホッとして。

 

 

「…………」

 

「っ!!」

 

 

終いに、優しく頭を撫でられたら、そしたらなんか、私、もうダメだった。

 

 

「っ……!なんで……っ!」

 

「………」

 

「なんでっ……!なんでぇ……!」

 

 

言いながら、シーの体を叩いていく。グーの形で、何度も、何度も。力は、全く入ってないけど。

 

 

「なんでっ…!!」

 

 

また一度、シーを叩いた。今度は、少しだけ力を込めて。

 

 

「なんで」の、その先。

 

「あの時、居てくれなかったんだよ。」

 

その一言だけ、結局言えずに。

 

 

 

どうして、言えなかったのか。

 

それは多分、言っちまったら、認めることになるからだ。

 

囮のはず。仲間ではないはずのこいつを、当てにしていたってこと。

 

戦いの為に、便利に使う気だったってこと。

 

 

「お前が居れば、楽だったのに」

 

 

そんな情けない考えが、私の中にあったってことを。

 

 

それは、恥だと思うから。だから私は、ちっぽけな意地とプライドで、その言葉だけは飲み込んでみせて。

 

目から溢れて来そうな何かも、必死に抑えて堰き止めた。

 

 

 

シーの胸の中。色んな気持ちがない混ぜで、子供みたいにぐずる私を、部屋に飾ったゼラニウムが、嘲笑って見てる気がした。

 

 

 

 

ほんと…。

 

ダッサいんだからなぁ…。私…

 

 

 

 





マギレコ本編の出来事

・第一部 第5章六話 終了後〜第5章七話 開始前


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5-10 なかよし作戦継続中



ミラーズランキングもそろそろ終了なので初投稿です。





 

 

 

 

朝の日差しで照らされた土に、水の細かい粒が降っていく。どんどん色が濃くなって、たくさん染みて、潤ってく。

 

まだ早い時間で、都会特有の喧騒も遠い、静かで穏やかな時間。経験のないものだったけど、体験すると中々どうして。悪くない時間だなって思う。

 

 

「……………」

 

 

でも、忘れない。昨日から自分に芽生えた、このご立派な罪悪感。こうして水をやりにくるのは、それを紛らわす為かもしれない。

 

実際 効果はあるっぽいのか、こうして庭に来た途端、ストレス、心労、その他諸々、軽くなったような…。土と植物は偉大だなぁ。

 

植えたものがあるんだから、その面倒をみなくちゃっていうのも、まぁ あるけど。

 

 

(けど、ダメだよね…。こんなことになってるんじゃ…)

 

 

そう。本来なら、今頃この庭に、色んな植物が植えられてたはずで。

 

そうならないでカイワレ一つ、ポツンとあるだけってことは、つまり、私達が悪いことをしたからで…。

 

 

(怪我、させちゃったもんね…。マジ子さんに…)

 

 

あの時の私は逸ってて、買った雑誌を、とにかく早く読みたくて仕方なかった。それを邪魔するみたいに出てきた魔女は、ウザったかったのなんのって。

 

だから、とっとと片付けてやる。そう思って先走り過ぎた結果があれ。魔女は倒せたのに、私達は皆傷だらけだった。

 

 

(赤い人と仲良くできなかったのは…どうなんだろ)

 

 

私としては、そこまで今回の件には関係ないって思うけど…でもなぁ。

 

魔女に仕掛ける時、あの人に待ったをかけられたのは分かってた。それに対して、「誰がお前の言うことなんか!」みたいなとこは、まぁ、うん。あったかも。

 

あの静止を素直に聞いていられたら、魔女からの不意打ちも、もっとマシな形で対応できたのかな。もしかしたら、言い争って隙を見せることも無くて…

 

 

「なんとかしなくちゃ…だよね」

 

 

私の我儘でここに置いてもらってるなら、これ以上の迷惑は、かけちゃダメ。

 

何より私にだって、自分の間違いを悔しいって思う気持ちはある。間違いは、正しく直さなきゃ。

 

 

(その為には…)

 

 

次に。自分がやらなきゃいけないこと。それを頭に思い浮かべたところで、お腹に違和感。何か食べたくなってきた。

 

要するに、お腹すいたってこと。

 

 

「作り置き、もらお」

 

 

水やりに使ったジョウロやらなんやら片付けて、家の中に戻ることにした。年長さんが作ってってくれたご飯があるから、それで早めの朝ごはんだ。

 

洗面所で手を洗って、またリビングに行く。誰かが起きてきたとかもなくて、相変わらず私一人。

 

 

「………」

 

 

ちょっと、寂しいかも。

 

なんて内心思いながら、冷蔵庫からおかずを出して、レンジでチン。スープの入ったお鍋も暖める。

 

棚にあったバターロールも、袋ごとテーブルに引っ張ってきた。

 

 

「…いただきます」

 

 

食器も出して、準備完了。いつも家でやってるみたいに、手を合わせてから、ご飯を食べる。

 

 

「………」

 

 

モソモソ、ムグムグ。自分がご飯を食べる音だけ、聞こえてくる。ごくごく小さい音だけど、部屋がシーンとしてるからかな。よく響いてる気がする。

 

 

(……………)

 

 

私の家では違ったなぁ。朝起きたら両親が居て、皆でテーブルを囲んで、話しながらご飯食べて、笑って…。

 

バターロールを食べる手が、止まる。思い出したら、なんか悲しくなってきて、つい。

 

 

「っ…」

 

 

泣きそうになるのを我慢して、バターロールを口に詰める。自分で飛び出したクセに、ホームシックなんて。

 

イラッとくる赤い人。自分の失敗で傷ついたマジ子さん。それに対する罪悪感。昨日は色々あったから、心が疲れちゃったかな…。

 

 

(…ほんとは、会いたいけど…)

 

 

でも、私が怒って飛び出してきちゃったから、なんか帰りづらい。そこそこ日にちも経っちゃってるし…。

 

それもあるけど、なによりも。

 

 

「まだ、許してないもん…」

 

 

あの日、両親が私に言ったこと。それが嫌で、悲しくて、我慢できなかった。それは、今も変わってない…と、思う。

 

 

(許してないよ。…ないけど…)

 

 

…けど、それはそれなのかなって、実は思ってたり。嫌だったのはあくまで言葉で、両親のことを嫌いになったわけじゃないから。

 

会いたいと思うってことは、そういうことでしょ?

 

それに私、勢いのまんまここに来ちゃって、お父さん、お母さんがどうしてあんなこと言ったのか、詳しいことは知らないんだもん。

 

理由があったのかもしれないって、頭の冷えた今は、そう考えてる。

 

 

(とにかく、きっかけがあればなぁ…)

 

 

帰って、ちゃんと話し合わなきゃって分かってる。でも、気まずさで帰りづらい。

 

だから、押して欲しいのかも。少しでいいから、なにかに背中を。言葉でも、行動でも、なんだっていいから。

 

 

(でも、それだけじゃないよね)

 

 

自分の中でグルグル混ざった、色んなもの。それを全部無くしてやらなきゃ、背中を押して貰っても、多分、私 帰れない。

 

そうする為に、必要なもの。私のした間違いを直すのに、必要だと思うもの。今、ちゃんと分かった気がする。

 

 

「ごちそうさまでしたっ」

 

 

手を合わせて、音が鳴る。

 

とりあえず、今日も学校。登校の為の準備をしなきゃ。何をするにも、まずは目の前のことからだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私とチビがやらかしてから何日か経って、今は夜。先輩と二人でリビングに居て、本を読みながら話しかけた。

 

 

「…………先輩」

 

「はい」

 

「…まだ、怒ってる?」

 

「なにに?」

 

「分かってるくせに…」

 

 

マジ子はシーの魔法のお陰で、倒れた翌日にはけろっとしてた。けど、それはそれ。私達のやったことが、なかったことになるわけじゃないし。

 

 

「まぁ、ね。うーん…」

 

「………」

 

「怒っていると言えば、そうですわね」

 

「やっぱり…?」

 

 

そうだよなぁ…。単に買い物に行かせたはずが、戻ってきたら一人、気絶してんだもん。私に背負われてさ。

 

起こったこと、洗いざらい話した時の先輩の顔、ほんと忘れらんないわ…。

 

 

「帰ってきたのを出迎えれば、マジ子さんは気絶してますし」

 

「………」

 

「聞けば、なんでしたっけ?おチビさんとのちょっとした不和で、マジ子さんが大怪我をしたと来て」

 

「っ………」

 

「それを知った年長さんは、挙動不審になりますし…。もー」

 

 

分かってる。表情変わらないのに、なんか体震えまくるわ、目は泳ぎまくるわで、ヤバかったもん…。

 

寝てるマジ子を何度も見たり触ったりして、調べてさ。家まで送るって言い出したのも、あの人だし。

 

そこから暫く、やたら甲斐甲斐しかったんだよな。マジ子に飯食わせたり、身の回りの世話したり。

 

しかも、学校の送り迎えまでしてたとか。それだけ心配だったってことだよな…。

 

 

「庭のことも、その……。ごめん」

 

「お庭?」

 

「本当なら、今頃色々植えてただろ?だから…」

 

「あぁ…」

 

 

「時期的な都合もありますから」って先輩は続けるけど、だからって「ならよかった」とはなんねーよ、私…。

 

 

「というか、ですね。怒ってるは、まぁ怒ってるんですけど」

 

「……うん」

 

「どちらかというと、私、自分が情けなくて」

 

「え…」

 

 

溜息吐いて、項垂れる先輩。どうしてさ。あんたは、私達に買い物を頼んだだけ。そんなふうに思う必要なんて、全くないのに。

 

 

「後悔と言ってもいいかもしれません。人選を間違ったかとか、楽観的過ぎたかとか、いっそ全員で行動すればよかったか、とか…」

 

「それは…」

 

「一応、チームの司令塔ということでやってきてますのに、こういった事態も予想できないなんて。シーさんは別としてもね」

 

「………」

 

「『お前が悪いんだ』って、自分自身に、そう責められている気分になりましたの」

 

 

ただ漠然と、大丈夫でしょって思っていたのね。皆さんのこと。寂しそうな笑顔で、先輩がそう言う。

 

そっか。先輩も、先輩なりに今回の件で悩んでたんだな。まとめ役として、責任も感じてて…。

 

 

「ごめん」

 

「また謝るのね。どうして?」

 

「だって、先輩がそうやって悩んでんのもさ。私らがやらかしたからで…」

 

 

先輩だけじゃない。年長さんだって、あんなに精神的に揺れなくて済んだんだから。

 

 

「悪いと思っているのでしょ?」

 

「当たり前だろ…」

 

「なら、私から言うことはありませんわ」

 

 

そう…なのかなぁ。

 

 

「それに」

 

「…?」

 

「叱責の代わりなら、もう受けているでしょう」

 

「あー…」

 

 

言って、先輩が私の手元をあごで指す。うん…そうなんだよね。いつの間にか話に夢中で、これのこと、すっかり忘れてた。

 

 

「『なかよし作戦』でしたっけ。どうです?その後、成果の程は」

 

「いやー…どうかな…」

 

 

眉間に力入れて、持った本に目を落とす。書いてあるのは活字なのに、内容は漫画的ってか、現実離れしてるってーか…。

 

ライトノベルっていうらしいそれを、私が今読んでるのには、理由があって。

 

 

 

『その…あの時は、ごめん!私らのせいで…』

 

『私も、ごめんなさい…!怪我させちゃって…!』

 

『んー………』

 

 

マジ子が怪我して、その翌日。最初は気まずくて話せなかった私達が、腹を括って謝った時のことだった。

 

 

『んん〜………!ダメー!許しませーん!』

 

『っ……』

 

『そう、ですよね…』

 

 

私らの謝罪に否を突きつけるマジ子。当然だよなって、思った。それだけのこと、したんだって、私も思ってはいたから。

 

まぁ、問題はその後だったんだけど。

 

 

『このままじゃー、マジでチームのソンボーに関わりますっ!ピンチッ!ヘタすりゃみんな おっちぬやーつ!』

 

『だから、アタシ考えました!』

 

『赤ちん、チビちゃん!これから仲良くなんなさーい!「なかよし作戦」ですっ!』

 

『それなら、アタシは二人をユルす!もー、マジでユルしちゃう!』

 

 

 

うん、はい。そういうお達しがあったからってわけで。

 

何言ってんだよこいつって、思わなくはなかったけど、発案者にクソデカい負い目もあるから、断ることも出来なくてなぁ…。

 

つって、具体的にどうすりゃいいって聞いた時に

 

 

『………一緒にアソぶ?とか?』

 

 

って、ノープラン丸出しな回答寄越した時は、流石に言いかけたけどね。バカって。

 

結局は先輩の案、「お互いの趣味を共有してみる」に落ち着いたっていう。

 

 

「つって、なんか、私がチビの趣味に寄ってる感じなんだよな。共有ってーか」

 

「だってまさか、赤さんが無趣味だとは思わないじゃないですか…」

 

 

うるさいな…。自分でも軽くたまげたけどさ。趣味って考えたところで、特に思い当たるもんが無かったことには。

 

一応TV見たり漫画読んだり、動画見たりはするんだけど、特に熱中してもない、一時の暇潰しって感じだし…。

 

だったらまぁ、そりゃ一方に寄るわなって感じで…。

 

 

「初めてだよ、私。ライトノベルとか漫画とか、アニメにこんなガッツリ浸かるのって…」

 

「作戦開始してからすぐ、『じゃあこれ』って、大量に渡されてましたものね」

 

 

家から出てくる時、持ってきたっていうやつをな。しかもお気に入りのやつらしくて、早く読め、見ろって押しがつえーことつえーこと。

 

お陰様でここ数日間、私の頭にゃその手の話や映像が、次々インプットされてってるわけだよ。

 

 

「トンチンカンな部活動、女が集ってくる主人公、やたら露出の多い服の女の子、世界を滅ぼしかねないパワー、忘れ去られた古代の遺産、ループを繰り返す世界…」

 

「濃ゆいワードだらけですわねぇ」

 

 

なー。サブカルの世界に、こんなもんが飛び交ってるとは思わんかった。人間の想像力、創作意欲ってのは大したもんだよ。

 

 

「しかも 作家によっちゃあ固有名詞とか、専門用語とか多くてさぁ。他にも、描写がちょっと分かりづらかったりとか…」

 

「あー…。それはありそうですわね」

 

「癖みたいなもんなのかな。わかんねーこれって思った時は、チビに聞いてんの」

 

 

酷い時には隣に座らせて、逐一解説させたりしてたんだよな。語ってる時のチビはなんつーか、活きてた。活き活きしてたわ。

 

 

「大変なんですのね、その手のものを体感するというのは。……で?」

 

「あ?」

 

「今読んでいるそれは?」

 

「ラノベだよ。死んで異世界に転生したら、なんか動物の耳生えた女が居て、スキルだのステータスだのレベルだの、よくわからんやつ…」

 

「は、はぁ…?」

 

 

私も最初、そんな感じだったよ。初めて見るジャンルだからってのもあったけど、なんか、小説なんだかゲームなんだかって感じで。

 

チビのやつは、「これが今のスタンダードなんですよ」とか言ってたけどなぁ。うーん…。

 

 

「まぁ、暇潰しにもなるからさ。学校に持ってって、休み時間に読んでんだけど」

 

「えー…。人前で読んでいいものなんです?それ」

 

「あー、うん。変な顔されたわ。顔見知りに」

 

「うわー…」

 

 

つってもさー、いつぞやのデコ出しの子に、「それ、本…だよね?どんなの読んでるの?」って聞かれたから、正直に答えただけなんだよなぁ。

 

「え、転…?な、なに…?え、えぇ…?」って、すっげえ困惑してた。私と別れる時まで、ずっと。

 

あれ、絶対そういうのに馴染みの無い人の反応だろ。申し訳なかったわ、なんかさぁ…。

 

 

「………まぁ、それもこれも、ひいてはおチビさんを理解する為に必要なことなのでしょう。頑張って」

 

「や、うん。そうかもだけどさぁ。あいつの家で聞いた話からして…」

 

「お風呂、いただきましたー」

 

 

先輩とあれやこれや話してると、話題の中心がリビングに来た。本人が言った通り、風呂から上がってきたらしい。

 

 

「なに話してたんです?」

 

「色々」

 

「大雑把過ぎです」

 

「色々は色々ですわよ。お二人のやらかしとか、赤さんの読んでる本のこととか」

 

 

女三人寄れば姦しいって言葉があるけど、間違ってはいないみたい。チビっ子一人増えただけなのに、リビングが一気に賑やかになる。

 

 

「つーかさー、やっぱ始まりからしておかしいってこれ。神様の手違いで死にましたーとかって。適当過ぎんだろ、理由が」

 

「わかってないですねー。導入を長ったらしくしたって、読者が飽きるじゃないですか」

 

「んだ、そりゃあ…。大体なー、今読んでる巻のここも、私よく分かんなくて…」

 

「えー、しょうがないですね…。ちょっと見せてくださいよ。……あぁ、これはですねー」

 

「…貴女達、意外と仲良くやれてませんか?」

 

 

今まで私と先輩と、二人だけでやり取りしてたのに、チームを組んで人が増えて、こんな機会も多くなった。

 

大事な話をするわけでもない。魔法少女として、チームとしての会話でもない。普通の、どこにでもあるような会話。

 

ちょっとうるさいなって、思う時もあるけど。

 

 

「あ、お庭って言えば、なんか成長してません?あのカイワレ」

 

「植えたばかりですわよ?まさかぁ」

 

「いや、ほんとなんですって。しかもなんかこう、近付くとストレスが解れてくような…」

 

「あー、それはなんか分かるかもです。こう、スーッと…」

 

「えー、なにそれ。私はなんともねーんだけど…」

 

 

まぁ、悪くねーんじゃねえかな。こういうのも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーもー!全然つかまんないわねぇ、アイツら!」

 

「今回の失態、どうにかして取り返さないとまずいってのに、もー…!」

 

「いいや、やるのよ今度こそ…。頭下げて、とびっきりの秘密兵器も借りたんだもの!絶対!ずぇ〜ったい!とっちめてやるんだからー!!」

 

 

 

マギウス達の本拠地の、フェントホープの片隅で、とある白羽根が吠えている。事情があって、部下は不在。

 

 

たった二回。されど二回。あのバカ共に味わわされた屈辱を、今度こそ払拭してやらねば。そういう気持ちを込めて、宣う。

 

 

気合は充分。汚名返上。名誉挽回。彼女がそれを成す日は近い。

 

 

 

 

……多分。おそらく。きっと。maybe。

 

 

 

 





マギレコ本編の出来事

・第一部 第5章六話 終了後〜第5章七話 開始前


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5-11 秘密兵器



過去最高に更新が送れてしまったので初投稿です。





 

 

 

 

「やっぱり、育ってませんか?」

 

「なにが」

 

 

コントローラーの音が鳴る。カチャカチャ、ポチポチ、忙しなく。さっきからそう。

 

今日は休日。私とチビは少し前から、TVゲームに勤しんでた。勿論、なかよし作戦の一環で。

 

 

「カイワレですよ。昨日話した」

 

「あー」

 

 

一旦手を止めて、庭を見る。私達がえっさほいさ掘り返した土があって、そこにちょこんと生えてるものが、チビが言った、カイワレってやつ。

 

言われてみれば、確かにな。植えた時はもっと細くて、すぐ萎そうな感じだった気がする。

 

それが今じゃどうだ。葉っぱの色艶も良くて、白い部分も太くなってきたような。カイワレって、ああいうもんなのかぁ?

 

 

「ちょっと、手ぇ止めないでくださいよ」

 

「ポーズくらい押しとけって」

 

 

話振られたら、そりゃ見るだろって。軽く舌打ちしてやって、捻った首を元の位置に。一旦止まった手を動かして、またカチャカチャっと音が鳴りだす。

 

 

「やっぱ、なんかあるんですかね」

 

「なに、あの草が?」

 

「ええ。あ、そのアイテム取って下さい」

 

 

あ、終わってないのね、その話。チビとの会話を続けながら、指を動かす。

 

 

「気のせいじゃないと思うんですよね。あれを植えて、ちょっと経ってからですよ。なんかスッキリするようになったの」

 

「それも言ってたな、昨日」

 

「マジ子さんと年長さんにも聞いてみたら、そうだねって答えたって、先輩さん言ってましたよっ…と」

 

「つってもなー。じゃ、なんで私だけそうなってないのかっつーことの説明が…。あーもう、まーた敵に当たったよもう…」

 

 

なるほど。その感覚が気のせいじゃないってんなら、やっぱりあの植物的なもんは、ただもんじゃないってか。私だけなんか違うのは、まぁ置いておくとしても。

 

 

「でも、それっておかしいわけですよ」

 

「うん」

 

「元々は、マギウスの翼が持ってたものじゃないですか。この現象も、救済とかいうのに繋がってるとしたら」

 

「裏感じるよなぁ、なんかな」

 

 

チビが頷く。あいつらが新手のセラピストだってんなら、まだ「新しいね」くらいで済んだんだけどな。そんな上等なもんじゃねーわ、絶対。

 

 

「それなら、やっぱり詳細 知りたいですよ。今のとこ、害はないですけど」

 

「毎日毎日、すくすく育ってんの覗いて、様子見ってのも飽きたしな」

 

「いっそ調べに行きますか…って、ちょっと。体力1しかないじゃないですか!」

 

「そりゃお前、こんな攻撃激しかったら…!……あ」

 

 

私が一言愚痴った直後。コミカルな音が鳴ってから、目の前にある液晶画面に、バーンとデカく表示される、悲劇の8文字。

 

GAME OVER

 

どっか悲しい音楽と一緒に、グテーッとノビてるキャラクター。さっきまで、私が動かしてたやつだ。ボタンを押してスティック倒して、そりゃもうしきりに。

 

 

「なにやってんですか。残機0だったのにー」

 

「素人だってんだろお前よぉ」

 

 

それでもここまでやったんだ。しかも、話しながらだぞ。褒めてもらいたいくらいなんだよなぁ。

 

 

「むー……。で、どうします?続けますか?」

 

「んー………」

 

 

私の目の前でノビてるキャラクターを見て、軽く唸る。まだまだ時間に余裕はあるし、やろうと思えば、まぁやれるけど…。

 

 

「〜」

 

「…………」

 

 

隣をチラ見。そこにはシーが座ってて、私の側で、なんか手をわちゃわちゃ動かしてる。なにさそれ。…や、待てよ…。

 

 

「………」

 

「!」

 

「あー、やっぱり…」

 

 

使ってたコントローラーを、シーにそっと渡してみる。そしたらしきりに指を動かして、カチャカチャ、カチャカチャ、弄くりだす。

 

私の予想した通り。どうもこいつ、私と同じことをしてるみたい。なんだろう。興味でも湧いたとか?

 

 

「シー、やるか?続き…」

 

「〜?」

 

「そこは返してくるんだ…」

 

「?」

 

「や、なんでもない…」

 

 

聞いてみるけど、シーのやつは手を止めて、こっちにコントローラーを渡してきた。や、返せとは言ってないんだけど…。

 

それともあれか。単に私の動きを真似しただけか。ゲームがしたいとかじゃなくて。

 

 

「ま、いいや。チビ、とりあえず休憩。体も固まっちまったし」

 

「そうですか。じゃ」

 

 

私の返事を聞いて、チビがゲーム機に近寄る。電源ボタンをOFFにしたみたいで、TVは真っ黒い画面に戻った。

 

そのままTVの電源も落として、一旦ゲームはお終いにする。

 

 

「っあ″〜……疲れたー。どれ、なんか甘いもんでも…」

 

「〜」

 

「お、くれるん?あー」

 

「〜♪」

 

 

体を伸ばして、テーブルに用意しといたお菓子を取ろうとする。そしたらシーが嬉しそうに持ってきてくれて、せっかくだからそのまま口開けて、その中に放り込んでもらった。

 

 

「まーた二人でイチャイチャする…。私も居るんですけどー?」

 

「なに言ってんだお前。口に菓子入れてもらったくらいでさぁ」

 

「恋人っぽいですし、今の」

 

「は?なにが…」

 

 

…ん。や、待て。口開けて、そこに食いもん入れてもらう。

 

それってあれか。俗に言う、「はい、あーん」とかそういう系の…?語尾にハートかなんかついてそうな、あの「あーん」…?

 

 

「…………」

 

「まさか、意図してなかったとか?なら、恐れ入りますよ…」

 

「うるせーわアホ…」

 

 

どこに恐れる要素あんの。別に恋人だけの特権じゃねーから、「あーん」は。いつ何時、誰にでも開かれてるからね、「あーん」の門戸は。

 

 

「………ところで、ですよ」

 

「あ?」

 

「どうでした。その……触れて」

 

 

触れてって、そりゃあお前…。

 

 

「ここ何日かの話か。アニメだ、漫画だって…」

 

「ゲームもね。ええ。マジ子さんからのお願いで、色々見せて、読ませましたけど」

 

「…………」

 

 

ほんとにな。おかげでほんの少しだけ、そっちの世界に詳しくなった気がするわ。

 

 

「仲、深まったんですかね。私達…」

 

「………………」

 

 

こっちを見ないでクッキーを齧るチビに、聞かれる。深まったか、か。まぁ、そうなるのを目指した作戦なわけだし。

 

仲良くかぁ。仲良く…。んー…。それはさぁ、お前…。

 

 

「わかんねーよ、そんなの」

 

 

愛読書を貸してもらって、好きなアニメも見せてもらって。必要経費だからって、先輩が出してくれた金で、ゲーム機とソフトも、一緒に買いに行ったりしたけど。

 

そうして時間と話題を共有したところで、私が出した答えっつったら、まぁそんなもんだった。

 

 

「…そう、ですか……。分からない…」

 

「ん」

 

 

そう。分からない。分からなかった。

 

けどさ。

 

 

「夢中になる人が居るってのは、理解できた気がするわ」

 

「え……」

 

 

仲がどうとかは分からなくても、それだけは言える。実際に触れてきて、素直に感じたことだから。

 

現実じゃあ、まず ありえないことばっかり。何が起こるか分からなくて、「そんなわけねーじゃん!」ってツッコみたくなることもしばしばだけど。

 

 

「私もさ。見てて、おもしれーってなったりしたから。楽しかったり、じーんときたり。まぁ、色々?」

 

「………」

 

「そういう面白いもんがあるんじゃ、そりゃあ生まれるわけだよなって、思ったわけ。熱狂的なやつらがさ」

 

 

作り物ではあるけども、それは単なる物じゃなくて。なんてーのかな。

 

そこには別の世界、別の誰かの物語が確かにあって。種類も多くて、現実離れしたそれは、見た人の何かを動かしてくれることもある。凄いもんなんだと思うんだ。

 

要するに、素敵だなってこと。

 

 

「だから、その…。怒るよなって」

 

「………」

 

「お前だって、腹立ったよな。そんくらい好きになっちまったもの、やめろとかって言われたらさ」

 

「それは…」

 

「いくら親だからってそんな。なぁ?」

 

 

漫画やアニメ。そういうものは見ちゃいけないって。すぐにやめた方がいいって。そう娘に言っちまったって話を、チビの両親は聞かせてくれた。

 

事情を聞きに行った時の、私と先輩に。

 

 

「………けどさ、チビ。私、思うんだわ」

 

「………」

 

「お前の両親、やっぱなんかあるんじゃないかって」

 

 

だってあの時、あいつの両親は辛そうで、悲しそうだったんだ。自分は正しいことしたぞって思ってる人は、多分、あんな顔しない。

 

 

「理由がさ、あるんだって多分。だから、お互い腰据えてさ。話せば、絶対…!」

 

「赤い人」

 

「っ……」

 

 

出しゃばりだって、分かってる。それでも、あともう一回だけ説得しよう。

 

そう思って切り出してみたけど、チビにデカくてハッキリした声で名前を呼ばれて、制されちまう。

 

少し怒ってるみたいな声色。やっぱり、地雷だったかな…。

 

 

「……ふぅ…。大丈夫。分かってますから。そういうの。私」

 

「あぁ…そうなの?」

 

「はい」

 

 

気まずくなる私に、チビが言う。そうなんだ…。前は、反発して食ってかかってきたのに。ちょっと変わったか、こいつ。

 

 

「ずっと、考えてましたから。これから、どうしたらいいかって」

 

「そっか…。じゃあ お前、もしかして」

 

「その前に、です」

 

 

また遮る。なに。前になによ。

 

 

「ねぇ、赤い人」

 

「……おう」

 

「取り返したいって、思いません?」

 

 

…えーっと…?そう言われても。いまいち要領得ないのはだなぁ、お前…。

 

 

「っていうのは…?」

 

「あぁ、そうだ。そういえば、今日の晩はたこ焼きパーティーでしたよね?」

 

「え、あぁ…?え?…や、まぁ、ね。うん…」

 

 

え、待って。なになに。なによ。何でいきなり話飛んだの。混乱するからやめてくんない。

 

そりゃまぁ、確かにマジ子のリクエストで、今日はタコパをやるんだけども。

 

 

「土産話。酒の肴ってやつが、必要なんじゃあないですか。お酒は言葉のあやだとして」

 

「………えーっとぉー…」

 

「もー。ウワサを調べましょってことです。ゲームしてる時、言ったでしょ」

 

「えぇ〜…」

 

 

や、言ってた。言ってたけども。「いっそ調べに行きますか?」ってさ。それの何が、「取り返す」ってのに繋がるんだか…

 

 

「……あー」

 

「分かりました?」

 

「あぁ、うん。まぁ」

 

 

汚名を雪ぐ…とかってんじゃないけど。ミスを帳消しにしましょってワケね。今の私達、どっか沈んでるから。

 

主に、マジ子に怪我させた件で。

 

 

「罪滅ぼしなんだ?」

 

「マジ子さんは、そういうの 望まないでしょうけど」

 

「それは、まぁ」

 

「でも、私が納得しませんから。仮に、私の抱える問題が解決したって、このままじゃ。しこりが残っちゃいます」

 

 

なるほど。そりゃ、よくねーかもな。納得は優先されるべきだよ。納得いかないんなら、いくようにしなきゃ。そういうもんだ。

 

 

「どう調べるん?」

 

「とっ捕まえて聞きますよ。あの不審者ども」

 

「話すかね」

 

「ぶちのめして吐かせましょ」

 

 

うわー、乱暴。いいの?魔法少女が、そんな野蛮なやり方で。

 

 

「貴女も、溜まってるんじゃないですか。鬱憤とか。さっぱりさせるには丁度いいです」

 

 

………………まぁ、ね?

 

 

「八つ当たりって言わねー?それ」

 

「怪しい組織の一員懲らしめて、その企みを暴こうっていうんですよ?正義はこちらにありますよ」

 

「なにそれ」

 

 

思わず、ちょっと吹き出した。なんか逆に悪役っぽいよ、その台詞。

 

…まぁ、お似合いかもね。今の私達にはさ。なぁ?

 

 

「はぁーあ……。おっけ。乗ったわ」

 

「じゃ、行きますか?」

 

「おう」

 

 

そうと決まりゃあ、善は急げ。休憩時間を切り上げて、三人みんなで玄関へ。お出かけタイムといきますか。

 

 

「シーさん、当てになりますか?」

 

「また居なくなると思うけどなぁ」

 

「間ぁ悪いですよね。ワケ分かんない人ですよ。人じゃないけど」

 

「多分それ本人も気にしてるから。やめてやって」

 

「〜」

 

「あーよしよし…ショボくれんなって…」

 

 

チビと話して、シーをあやして、靴を履く。ドアを開けて、外に出た。

 

 

「案外、シーさんがなんか関わってたりして」

 

「あー?」

 

「赤い人だけスッキリしないの」

 

「まさかー」

 

「ベッタリですもん」

 

「理由になってねーんだよ」

 

 

家の鍵を閉めるのも忘れて、そのまま小走りで敷地を抜け出す。そんで家から離れるにつれ、走る速度は上がっていった。

 

そうして街に繰り出してく私達は、多分、悪い顔をしてたと思う。

 

案の定、気付けばシーは消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまー!……って。あれー?二人とも居なくない?」

 

「入れ違いに、なっちゃった…?」

 

「出掛けたということですか。もー。置き手紙の一つもなければ、鍵も閉めないで!」

 

「まー、なんかあればレンラクくるっしょ!それよりもー…」

 

「?それ、なに…?」

 

「トチューでひろったのー!なんか、似てるなーって!」

 

「似てるって…」

 

「ニワにうえてるやつ!カイワレ?だっけ。それに!」

 

「またいつの間にそんな…。まぁ、確かに似ていますけれど…」

 

「でっしょー!ニワにポツンってしてるからさ。きっと、これでサミしくないよ!」

 

「えっと、植えるの?それ…」

 

「ん!そんでさー。二人が帰ってきたトキに、サプラーイズ!って感じにすんだー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マギウスの翼との接触を目的に、外に出てきた私達。差し当たっては、前にチビと会った場所の辺りに行ってみることにしたんだけど。

 

 

 

「ようやく…!よーーーッッッやく会えたわねぇー!このアンポンタンどもー!!」

 

 

 

まさかの、いきなり大当たり。しかもご丁寧に、特務隊の白いやつじゃん。このやかましい話し方は。

 

 

「って、んん!?よく見たらなによ!二人しか居ないじゃない!他のはどーしたのよ!」

 

「買い物」

 

「そう!休日だものね!不思議じゃないわ!」

 

 

その休日に、お前はそんな怪しいカッコして何してるわけ。もっと有意義な時間の使い方とかなかったんか。

 

 

「そういうオメーはどうしたよ。そっちも取り巻き居ねーじゃん」

 

「今日は返せって言わないんですか?あの植物、もう庭に植えちゃってるんですけど」

 

「ちょ、いっぺんに喋らないで!そこまで器用に出来てないから!」

 

 

そりゃあ悪うござんした。で?どーなの。そこんとこ。

 

 

「今日は訳あって一人よ!人手が足りないからって、うちのメンバー持ってくなんて…まったく、特務隊をなんだと思ってるのかしら!」

 

「ふーん」

 

「あ、でも終わり次第、こっちに合流することになってるからね。そこは安心なのよ!」

 

 

へー。つーことはなにか。こっちがモタついてたら、その内数で負けちまう、と。てかそれ、話してよかったの?

 

 

「それで?えーと、なんだったかしらね…」

 

「あの植物の」

 

「そうそう!それよ!あれから大変だったのよ!?私!」

 

「はぁ…」

 

 

曰く、他の隊の奴らにチクられて、上から怒られた。曰く、反省も兼ねて数日間、炊事をやらされた。曰く、教官から折檻された。曰く。曰く。かくかくしかじか…。

 

 

「でもね!いいのよ!もうそんなことは!あの苗も、取り返そうとは思わないっ!」

 

「あれ。いいんですね」

 

「ええ!思い付いたから。それよりも、もっと野蛮で、もっといいこと!手っ取り早いやり方をね!」

 

 

そう言って、懐からなんか取り出す白ローブ。なんだアレ…?四角くて、緑色で…。

 

 

「見なさい!これはねー!秘密兵器なの!私がエゲツない程頭を下げて、マギウスからお借りしてきたものなのよ!」

 

「組織のトップが直々に…?」

 

「あぁ。だとしたら…」

 

 

ウワサか、それと同じくらい厄介なもんの可能性が高いか…!

 

 

「貸してくれって頼む時、マギウスはなんて言ったと思う?代わりにカレー奢れって、そう言ったのよ!」

 

「その情報いる?」

 

「なによ!私も付き合って同じの食べたのよ!?チキベジよ、チキベジ!美味しかったわ!」

 

「あ、はい。よかったですね…」

 

 

どうでもいいだろ、カレーの話は。なんでいきなり上司とココイチ行った話始めたの?

 

 

「ま、それはいいとしてね。これがなんの為にあるかと言ったら…」

 

「あ?」

 

「こうする為よっ!アンタ達をねー!!」

 

「!?なにっ…」

 

 

白ローブが、持ってた緑の何かを放る。不意打ち気味に投げられたそれは、眩しく光ったかと思ったら、私らを取り込むみたいに広がっていって…

 

 

「んだ、これ…」

 

「結界、ですか…?でも、こんなの」

 

 

ああ。見たことないやつだ。魔女のもんでも、ウワサのもんでもない。この魔力の感じ、むしろ魔法少女の…。

 

 

「!」

 

「赤い人!」

 

「分かってる。居るな」

 

 

ちっと困惑してるところに、慣れ親しんだ、いつもの反応。魔女のもんでもない結界に、どうして居るかは知らねーけど。

 

 

「けど、こりゃあ…」

 

「すごい魔力と、穢れですね…。うー…」

 

 

怖気を感じて、体が軽く震えてくる。

 

こんな感覚、今まで片手で数える程度にしか経験したことがない。嫌な汗が、伝った気がした。

 

反応がある方を見れば、地面から盛り上がってくるみたいにして、魔女が姿を現した。黒くてデカい、手みたいなやつ。白い手も、周りに何本か。

 

 

「さぁ、どうよ!驚いてもらえたのかしらね!」

 

 

結界内でもよく通る声を響かせて、白ローブが現れる。魔女に背中を見せてるってのに、特に焦った様子もない。

 

 

「これが、秘密兵器ってわけ?」

 

「えぇ、そうよ!邪魔してくれるアンタ達のこと、ベシッとブチのめしてやる為のね!」

 

「ふうん…」

 

 

なるほど、確かに。すごい力を感じる魔女だ。言うだけのことはあるかもな。

 

 

「自分でやっても勝てないから、魔女に頼ろうってんだな。腰抜けなのかよ、翼ってのは」

 

「なんとでも言ったらいいじゃない。そんな苦い顔して言っても、説得力なんてないのよねー」

 

「チッ……」

 

 

舌打ち。しっかりバレちまってやんの。だってお前、思わないじゃん。あんなヤバそうなのが来るなんて。

 

 

「……さーて?おしゃべりも、このくらいにしましょうか」

 

 

何か合図するみたいに、白ローブが片手を挙げる。

 

 

「っ!魔女が!」

 

 

そしたらそれに反応したのか、魔女のやつが動き出す。杭みたいなのを持った白い手を、こっちに向かって振りかぶる。

 

 

「魔法少女。そして魔女…。交わらないはずの二つの力が、アンタ達を、今!蹂躙するのよ!精々覚悟することねー!!」

 

 

魔女に続いて、白ローブも戦闘態勢。いつか見せた剣を出して、こっちに向けて構えてきた。

 

 

「マギウスが丹精込めて育て上げた、とびっきり強い魔女の、その一体!存分に恐れ、慄きなさい!やっちゃって!!」

 

 

その言葉と、白ローブが手を振り下ろしたのを合図にして、魔女が攻撃を繰り出してくる。私達は変身して、対応出来るように身構えた。

 

…うん。身構えたんだけど。

 

 

 

「ぐええええええええええ!?」

 

 

 

肝心の魔女の攻撃が、私達まで届かなかった。

 

ていうか、私らじゃなくて、思っくそ白ローブを狙った攻撃だったっていう。

 

無防備なところに強烈な一撃を叩き込まれて、その衝撃で、奴さんは吹っ飛んでいく。

 

地面に叩きつけられて、それっきり動き出すことはなかった。気絶でもしたんだろ。多分。

 

 

「えぇぇぇ…」

 

「まぁ、そうなるかなって、ちょっと思いはしましたけど…」

 

 

自身満々な態度をしてるもんだから、てっきり魔女を制御化にでも置いていて、使役でもしてるのかと思ってたけど、そんなこたぁなかったみたい。

 

え、じゃあなんであの白いの、命令下してますみたいなポーズしてたの…?めっちゃドヤってたのが、クッソ哀れに思えてきたんだけど…。

 

 

「まぁ、いいんじゃないですか…。二対一になりました。よかったですね。有利ですよ」

 

「言うほど有利なのかなぁ、これは…」

 

 

体感的には不利って感じなんだけど…。あの魔女、魔法少女4〜5人分くらい強いんじゃねーの?

 

 

「つっても、逃げ場もねえしなぁ」

 

「そうですよ。出口の場所も分かりませんし」

 

 

しょうがないから、覚悟を決める。

 

まったく、あの白女。自分はさっさとノされちまって、厄介なもんは私達に押し付けやがって。

 

 

 

「…ま、いいやな」

 

「ちょうどいいです。ここらでひとつ、成果を確かめるとしましょう」

 

「それと、鬱憤晴らしもね」

 

 

 

相手は強い。無事じゃあいられないかもしれない。この前以上に、怪我もするかも。

 

でも、チャンスなんだ。

 

 

 

なかよし作戦の成果を示す。

 

私とチビの負い目を無くす。

 

マギウスの翼を捕まえて、ウワサの情報を吐かせる。

 

そして、チビが納得する為に。

 

 

 

それら全部、解決する。ここで、あの魔女を倒せれば。

 

 

そうして、抱えた憂いが全部なくなれば、今夜のたこ焼きパーティーだって、きっと悪くはなくなるから。

 

 

だったら、負けない。ここがいわゆる、正念場だ。

 

 

 

チビと二人。武器を構えて、魔女を見る。

 

広い視界の、その真正面に、捉えていた。

 

 

 

 

 





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5-12 なかよし(笑)パワー炸裂



もうGWも終わりなので初投稿です。





 

 

 

 

「来る!」

 

 

私らのガンつけが気に食わなかったのか知らないけど、魔女はついに、こっちを標的にした。白い腕が一斉に、上空から向かってくる。

 

 

「散れ!」

 

「分かってます!」

 

 

チビは左。私は右。お互い、逆方向に思いっきり飛んで、魔女の攻撃から逃れる。その後すぐに、私達の居た場所に、白い腕が殺到した。

 

地面と空気を伝って、余波みたいなのがビリっとくる。当たってりゃあ どうなってたのか。想像もしたくねーやな、あれは。

 

 

「っ!」

 

 

集ってきた腕を迂回するみたいにして、駆け出す。魔女の本体…黒くて大きい腕みたいなのが見えたところで、パイルを構える。

 

今の攻撃で、白いやつは全部こっちに向けてきたのか、やつはガラ空き。チャンスだ!

 

 

「これでもっ…!?」

 

 

一発ブチ込んでやろうと思って、パイルに魔力を通す。

 

けど その直後、魔女の足元…手元?が盛り上がって、あの白い腕が一本、生えてくる。そのまま間髪入れないで、横薙ぎにして振るってきた。

 

標的は勿論、この私だ。

 

 

「づっ…!!」

 

 

降ってきた腕のスピードからして、回避は不可能。咄嗟にパイルを盾代わりにしたけど、魔女の力は強烈で、受け切ることが出来なかった。

 

そのまま呆気なく吹っ飛ばされて、呻きながら低空飛行することに。

 

 

「っ!やっべ…!」

 

 

飛んでく先に待ち構えてる、別の腕。手に握られた杭の先が、真っ直ぐ私に向けられてる。しっかり追撃をかける気でいやがるな!

 

 

「ふざけんじゃない!!」

 

 

私の命だ。あっさりくれてやると思うな!

 

すぐ近くまで迫った杭に向けて、体を少し捻って、パイルを突き出す。金属同士がぶつかったような、高くて耳障りな音が響いた。

 

そのまま杭打ちして、衝撃波をブッ放す。

 

 

「ぬっ!……っだぁ!」

 

 

超至近距離からの、魔力の一撃。置き攻めを企んでた腕は仰け反って、私も、反動で後退しながら地面に落ちる。少し無理な体勢で撃ったお陰で、上手く着地出来なかった。

 

そうやって出来た隙を、魔女は見逃しちゃあくれない。

 

 

「早いってバカ…!」

 

 

上から振り下ろされてくる、三本の腕。三つの杭。このままじゃヤバいから、急いでパイルに魔力を通す。

 

 

「間に合えよ!?」

 

 

半分祈って、杭打ち決行。無意識に『乗算』も発動してたみたいで、普通に撃つよりも強い衝撃波がブチ撒かれた。

 

間近まで迫ってた腕共が、今の一撃で弾かれてく。なんとか間に合ったか…!

 

 

(構えて撃てなかったせいで、肩痛ぇわ…)

 

 

魔力を多く使っちまったのはよくないけど、『乗算』無しで撃ってたんじゃ、対抗出来たかわからんし。

 

なんにせよ、ヤバい場面は切り抜けた。さっさと体勢立て直して、これから…

 

 

「え」

 

 

手を支えにして立とうとしたら、更に上から腕が来る。またかよ、腕にモテモテだな。わぁい!私嬉しいわ!ざけんなクソが!!

 

 

「のぉぉぉぉぉぉぉぉお!!」

 

 

今度こそ間に合わない。そう悟って叫んだのと、反射的に腕が動いたのは、どっちが早かったのか。

 

とにかく、私は地べたに倒れて、だけど白い腕の握る杭を奇跡的に両手で掴んで、押し留めることに成功してた。杭の切っ先が、ドタマに刺さるギリギリのところで止まってる。

 

魔女の野郎、しっかり仕留めに来やがって…!

 

 

「ぬぐぐぐぐぐぐ…!」

 

 

つーかこの腕、めっちゃ力強ぇ。私も必死で押さえてるけど、杭がジワジワ近付いてきてる。弾かれた腕も、そろそろ復活するかもしんない。

 

どうにか…!どうにかしねえとダメだって!

 

 

「ふぬっ…!離れろ、オラっ…!」

 

 

空いてる足で腕をゲシゲシ蹴りつけるけど、特に堪えた様子もない。それどころか、力が強くなったような気がしてくる。

 

 

(早く…!早く…って!)

 

 

視界の端に、さっき弾いた腕達の姿が映り込む。足掻く私に、無慈悲なタイムアップが告げられたような、そんな気分。

 

押さえる力を緩めれば、脳天ブチ抜かれて御陀仏。このままどうにも出来なけりゃ、他の腕にブチ殺される。

 

あれ、詰んだかこれ。

 

ご名答って言ってるみたいに、腕が三本、更に動く。杭は握ってないみたいだけど、私が食い止めてる腕に向かって、寄ってきてる。

 

 

…おい、待てって。こいつら、まさか!

 

 

(上乗せする気か!?)

 

 

三つの腕を追加で重ねて、都合四本分の腕力で、私をブッ殺すつもりだ。冗談じゃない。今の状態でも力負けしてるのに、そんな滅茶苦茶なことされたら…!

 

 

「やめろってえええええ!!」

 

 

叫んでみても、どうにもならない。今の私は、ただくたばるのを待つだけの、まさに まな板の上の鯉ってやつか。

 

バカ言ってんじゃねーぞコラ。認められるか、そんなもん。

 

内心毒吐いて強がるのを嘲笑うみたいに、白腕四段重ねが、私の目の前で出来上がる。

 

そしてそのまま、上から下に体重をかけるみたいに、思いっきり力を込められて…

 

 

 

「ふんっ!!」

 

 

 

ぶっといやつが自分の頭蓋にズブッと刺さって、無惨な死体の出来上がり。

 

そんな悲惨なビジョンが頭に浮かびかけたけど、そうはならないで済んだ。気合の入った掛け声と一緒に突っ込んできた、チビのお陰で。

 

横から勢いよく飛び蹴りかまして、腕共のバランスを崩してくれた。

 

 

「ん!」

 

「っ!」

 

 

着地したチビが、私に手を差し出してくる。地獄に仏。渡に船。間髪入れずに握り返すと、思いっきり引っ張られた。体が宙に浮いて、地面と腕達から遠ざかる。

 

こういう時、魔法少女は便利だな。力も強いし、ちょっと無理すりゃこうやって、誰かを引っ張りながらでもジャンプが出来る。

 

 

「あ」

 

 

一時的に空を飛んで 距離が開いていく中で、魔女の本体が目に入る。

 

 

「失礼!」

 

「なんです!?」

 

 

攻撃のチャンス。そう考えたから、チビの手を握る右手と、空いた左手を素早く交換。自由になった右腕にパイルを生成して、魔女本体に狙いを付ける。

 

すかさず杭打ち。衝撃波を撃ち出してやったけど、魔女の近くから生えてきた腕に防がれて、ダメージは与えられず終い。

 

何本生えてくんだよ、あの白いのは。苛立ちを舌打ちで吐き出して、地面に着地。

 

 

「…助かった」

 

「いえ」

 

 

まずは、チビに礼を言っておく。あそこであいつが蹴り入れてくれなきゃ、今頃私に命はなかった。マジで命の恩人かも。

 

ま、それはそれとして。

 

 

「もーちっと早く来てくれりゃあさぁ」

 

「こっちはこっちで、白い腕の対応に追われてたんですよ」

 

 

なるほど。よく見るとこいつ、全体的に少し傷がついてる。ダメージの内には入らないだろうけど、割と手こずった証なのかな。

 

 

「…つえーよなぁ、あの魔女」

 

「ええ。なんか、マギウスが育てたとか言ってましたよね?その内の一体だとかって…」

 

「魔法少女が魔女を育てる、ね…」

 

 

全く。恐ろしいことやらかしやがって。本来私らが倒すべきもの、しかも一般人にも手ェ出すような怪物を、大事に大事に育ててますってか。何の為にだ。冗談じゃねえぞ。

 

 

「…ま、それは今はいいわ。どうにかあの魔女倒さねーと」

 

「白い腕が厄介ですよね…。数で押される上に、本体への遠距離攻撃は防御される」

 

「お前の袖は?」

 

「切り傷は出来ました。断ち切るまではいけません」

 

 

手塩にかけて育てられた結果かね。攻撃力も、防御力も中々か……っと

 

 

「また来るな…」

 

「散ると危険ですよ。お互いを守り合って戦いましょう!」

 

「はいよ!」

 

 

こっちを上から押し潰すように繰り出されてきた腕共を、二人で前に飛び込んで躱す。その後パイルで一発ブチ込んでやってから、全速力で本体に向かう。

 

作戦考える暇くらい寄越せよな、クソ!

 

 

「これ!」

 

「あ!?」

 

「私の手持ちです!貸しですよ!」

 

「そりゃどーも!」

 

 

投げて渡されたグリーフシードで、一旦ソウルジェムを浄化する。また世話になるのは癪だけど、さっきは乗算も使っちまったし、正直ありがたい。

 

 

「とにかく、本体まで近づく!それしかないですよ!接近して、大きいの叩き込むんです!」

 

「白い腕はどーすんだ!」

 

「邪魔するんなら、排除しますよ!」

 

「どうやって!」

 

 

お前今さっき、袖じゃ無理だったっつったじゃん。私のパイルも燃費悪いし、排除ったって…。

 

 

「っ!やべぇ!また腕!」

 

 

腕が二本、左側から迫ってくる。おい、ヤベーぞこれ…。ラリアットみてーにしてきてる上に、それを二段重ねにして壁を作ってるから、しゃがんだり跳ねたりで避けることも…!

 

 

「片方の袖じゃダメっていうなら…」

 

「!?なにを…」

 

「両方の袖は、どうですかね!」

 

 

そう言って立ち止まったチビは、両側の袖を一つに合わせる。直後、袖同士がグネグネ絡み合っていって、やがて一つの、長い袖が出来上がる。

 

 

「はっ!」

 

 

その長袖を振り上げて、近付いてくる腕の壁に、思いっきり振り下ろす。袖の刃の一撃を受けた壁は、二本丸ごと叩っ斬られて、動きを止めた。

 

 

「マジかよ…」

 

「上手くいきましたね。でも、結構力を入れないとダメそうです」

 

「え」

 

「しかも、両手を一つに合わせてるような状態なので、取り回し悪いんですよこれ。だからっ…!」

 

 

言いながら、体を捻るチビ。え、なにそれ。なにする気?なんでバット振る前みたいな体勢なの。まさかお前、そのまま振り抜いてくる気じゃ

 

 

「っ………!!」

 

 

予感的中。あのドえらい切れ味の袖を、迷わず私に振ってきやがった。咄嗟にしゃがんで避けられたのは、ほとんど本能のおかげ。

 

 

「だから、守ってくださいね。そしたら、白いのは全部斬ります」

 

「………本体は」

 

「貴女がやってくれるんでしょ?」

 

「…わかったよ」

 

 

溜息吐いて後ろを見ると、白い腕がまた一本、叩っ斬られて転がってた。助けたつもりか。てか、後ろに居るならそう言ってよね…。

 

……まぁ、私もしゃがんだ時、チビの後ろから来てたのを撃っておいたから、お相子っちゃ お相子かな。

 

 

チビが白い腕を始末して、私はカバーに入りつつ、魔女本体に全力で攻撃。そういうふうに決まったから、改めて走りだす。

 

役割分担を決めた効果はあって、戦力で劣る私達でも、なんとか対応することができた。

 

けど…

 

 

「ぐっ…!足に引っ掛けた…!」

 

「しっかりして下さい!まだ近づかないと…!」

 

「分かってるっつの!」

 

 

「なんとか」は、あくまで「なんとか」。完璧にやれてるわけじゃない。上手にできない私らは、穴や隙を突かれっぱなしで。

 

 

「うぅ…」

 

「バカ!なんで庇った!…あぁもう!肩、ザックリいかれちまって…!」

 

「腕を倒すチャンスだったでしょ…!というか ああしなきゃ、貴女だってやられてましたよ!」

 

 

腕を倒せば倒すほど、魔女に近付けば近付くほど、私達は傷付いて。

 

最初に決めた役割なんてとっくに忘れて、とにかくお互い守り合いながら、ただ前を向いて、必死に走った。

 

 

「はぁ…はぁ…!おい、生きてるか!」

 

「一緒に走ってるんですよ。見れば分かるでしょ…!ゴホッ…」

 

「にしちゃあ、具合悪そうだけど?」

 

「貴女こそ。涙目になってないですか?さっき助けたときみたいに!」

 

「あぁ!?」

 

「冗談ですよ!」

 

 

衣装は裂けて、あちこちに血が滲んでる。目に悪そうな色の地面が、血の斑模様で彩られてく。

 

だけど引けない。ここまで来たら、あと一歩。あの白い腕も、片手で足りるくらいの数に減ったんだ。なんとしてでも、叩き込む!

 

 

「これでぇっ!」

 

 

そして今、チビがまた一本、白い腕を斬り捨てた。真っ二つにされて、動かなくなる。これで腕は、あと二本…!

 

 

「ここまで減らせば、もういけます!赤い人、走って!」

 

「でもお前!」

 

「腕は私が押さえます!今行けば勝てる!今やれば、終わるんです!!」

 

「けど!」

 

「早く行け、このバカ!!」

 

「っ…!!」

 

 

このまま行って、果たしていいのか。チビを一人にしていいのか。

 

そういう、後ろ髪を引かれるような気持ちを無理くり振り切って、今自分が出せる全速力で、駆けていく。

 

チビが腕と戦う音が遠ざかって、魔女の本体に近付く。とうとう捉えた。防御に使える白い腕も、今はあいつが押さえてる。

 

 

「って、ことはよぉぉ!!」

 

 

貰ったってことだよ!このクソッタレ魔女!!

 

 

「っ!!」

 

 

魔力を流して、パイルを起動。魔力をたっぷりこめてやって、勿論『乗算』も発動。迷わず、杭を打ち込んだ。

 

 

『〜〜〜!!〜〜!!』

 

 

渾身の一発をモロに食らって、魔女が仰反る。

 

けど、それだけじゃ終わらずに、地面からブチブチ引き剥がされて、倒れ込む。随分タッパがあるやつだから、倒れる音も大きかった。

 

 

「あいつ…!チビは!」

 

 

魔女を倒せたかは知らないけど、一先ずやることやったんだ。あいつの安否を確認する暇くらいは…。肩で息をしながら、急いで背後を振り返る。

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

 

見れば、そこにはチビが居て、荒い息を吐いて突っ立ってた。周りには、バラバラになった、白いなにかを散らかして。

 

 

「…………取り越し苦労ってやつっスか」

 

「…?なにが」

 

「なんでもねーの」

 

 

なんとなく頭をガシガシ掻いて、チビのとこまで歩いていく。向こうもこっちに歩いて来たから、すぐに合流した。

 

 

「倒したんだな」

 

「疲れましたけどね。やったりました」

 

「バラバラだもんなー。お疲れさん」

 

 

魔女のやつにブチ込んでやれたのは、間違いなくチビのお陰。労ってやるのがいいと思った。

 

 

「で?そっちは。倒せました?」

 

「確認はしてねーけどさ」

 

「だったら今から二人で行って、確実にとどめ刺しましょうよ」

 

「そりゃそうだろ、お前。なぁ?」

 

 

詰め甘いなー、もー。なんて言われちまって、ちょっと和やかな雰囲気になる。

 

魔女を倒したわけじゃない。けど、相手は手負いなんだし、後は二人でかかれば、きっと…

 

 

 

『〜〜〜〜〜!!!』

 

 

 

私の、そんな甘えた考えを潰すみたいに、鳴り響いてくる奇妙な音。

 

 

「っ!?…なに!?」

 

「声ですか!?魔女の!」

 

 

ついさっき聞いたような気がするそれは、チビの言う通り。地べたに這いつくばってるはずの、魔女のやつが発してるもの。

 

やっぱり、まだ生きてやがった。緩みかけた気を引き締めて、魔女の居る方に向き直る。

 

 

そこで、私達が見たものは

 

 

「あいつ、また起き上がって」

 

 

不気味な鳴き声を上げながら、ゆらゆら起き上がる魔女の姿と

 

 

「あ、白い、腕……」

 

 

さっきよりも大量になって生えてきた、あの白い腕と

 

 

「っ!!ヤバい、避け…!」

 

 

そしてそれが私達に、一斉に向かってくる光景だった。

 

 

 

 

 

 

 

そこから先は、一瞬だったように感じる。

 

 

呆気に取られた私達は、魔女の動きに対応するのが遅れちまって。

 

襲い掛かって来た腕達に、好き放題にブン殴られて。

 

最後に全身でデコピン食らって、盛大に地面を跳ねて、転がった。

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

ボーッとしながら、思考を巡らす。自分は今、どうなってんだ?確か魔女にボコられて、そんで めっちゃブッ飛ばされて、それから…?

 

 

(そうだ…。それから地べたに寝っ転がされて、そんで少し、ボーッとしてて…)

 

 

落ち着いて整理していくと、段々意識もはっきりしてきた。目を見開いて、四肢に力を入れて、起き上がる。

 

 

「ぐぶっ…!?がっは…!」

 

 

その瞬間に、走る激痛。全身が馬鹿みたいに痛むせいで、立ち上がれないで膝をつく。しかも、口から血まで吐いちまった。

 

ボタボタ、ボタボタ。地面に赤い水が広がって、鏡みたいに自分の面が映り込む。酷い顔だった。

 

 

「ヴッ……げっほ…!うげ…」

 

 

私の近くから、咳き込んだような声がする。なんとか首を動かしてみると、案の定。チビがそこに倒れてた。

 

 

「チ、ビ…」

 

「あか、人…。無事、で…ぶっえぇ…」

 

 

会話も覚束ないままで、チビもゆっくり起き上がる。私と同じように、血を吐いた。

 

 

「わり…油断、しちまっ…」

 

「済んだ、こと、ですよ…。それ、より…けほっ…!」

 

 

チビの言いたいことは、なんとなく分かる。今の私ら、マジでヤバい。今度こそは、ホントのホントに。

 

私もチビも、叩きのめされてこのザマだ。全身痛くてまともに動けず、しかも血だるまですときてる。

 

そんでなんだよ。魔女のやつはまだ生きてて、しかも、さっきより腕も増えてて。なんの冗談なんだよ全く…。

 

 

(魔力だけは、まだあるけど…)

 

 

だからどうしたってんだ。仮にパイルを撃ったところで、あんなに白い腕が生えてちゃ、すぐ防がれて終わるだけ…。

 

 

「…………」

 

「………赤い、人…」

 

 

やれることが、思いつかない。

 

虫の息の、小さな獲物。私達に引導渡してやるために、魔女が大量の腕を振り上げる。私に出来ることったら、せめて、それを睨み付けてやることだけ。

 

 

「赤い…人!赤い人!」

 

 

白い腕達が振りかぶって、そして次々に放り出す。手に握ってた、尖った杭を。

 

「あぁ、そうだよな。持ってるもんなら、投げられたっておかしかないか」

 

そう、頭のどっかで考えながら、凶器の群れが飛んでくるのを、眺めて待って。

 

 

「あー、も…!赤い人ってばー!!」

 

 

やがて私達のところに、雨みたいに降り注ぐ。

 

 

直前、私に飛びついてきたチビのことなんて、特に気にしちゃいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

侵略者が、やってきた。

 

それが、この魔女が、二人に抱いた印象だった。

 

 

この魔女は、それなりに充実した毎日を過ごしていた。

 

魔女自身はもう覚えていないが、ある日マギウスによって捕らえられ、そして目的の為にと飼育されて、現在まで至っている。

 

自分のものでないのは癪だが、それでもこの結界は魔女にとって好都合で、今やすっかり居心地の良い、第二の城と化している。

 

天敵達はやってこず、自分がなにもしなくても、何処からか食事が流れ込む。それを遠慮なく頂くことで、自身はより強くなる。

 

そんな夢のような環境。不満など、何処にあろうものか。

 

 

だが、今日という日に現れたのだ。自分の領土を土足で荒らす、ずうずうしい輩共。魔力を持った、小さき者。間違いない。天敵だ。敵なら、倒さなければならない。

 

だから戦った。戦って、叩きのめしてやった。少しは抵抗したようだが、今の自分の敵ではない。

 

その証に、見ろ。二匹の敵は、無様にも這いつくばっている。なんとも、他愛のないことだ。

 

 

さて、ここまでだ。後はさっくり殺してやれば、自分の世界に平和が戻る。またいつも通りになるのだ。それは、なんて素晴らしいこと。

 

日を追う毎に、出せる量の増えていった、己の白く、美しい腕。それを一斉に振るってやり、奴らに雨を降らせてやった。

 

 

 

鋭く尖った雨も止んで、敵の居た場所を見てやれば、そこには見事な、杭の畑ができている。

 

あの小さな天敵達は、見当たらない。死んで、我が地のシミになったか。魔女は歓喜して震えた。

 

 

だが、同時に不思議でもあった。

 

敵が姿を消したのに、奴ら天敵から感じる力の反応。それが未だ、消えないから。

 

これはおかしい。どういうことか。奴らが死んでくれたのなら、持った力も、また、消えなければ。

 

魔女にはなにも、わからなかった。

 

 

消えたと思った侵略者が、今、再び姿を現したことも。彼女達の手が重なり、そこから眩い閃光が、発せられていることも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私とチビが、手を合わせる。二つの魔力が一つになって、目が眩むくらい、輝いてる。

 

死んだと思った。ダメだと思った。だけど生きてる。生きてなんとか、立ち上がってる。

 

 

(縮小…か)

 

 

今さっきに話してもらった、チビの使う固有魔法。

 

名前の通り、小さくする。自分も、相手も、他のものも。魔女には効かない、維持にも魔力を使う等、制約も多いみたいだけど。

 

とにかく、チビは自分と私にそれを使って、魔女の攻撃を、なんとか凌いでくれたってこと。

 

 

(……情けねー。私…)

 

 

今日だけで、何回助けられた。自分よりも歳下の、しかも小学生の子供に。

 

なにより一番情けないのは、あの時、諦め入ったことだ。

 

魔女が腕を大量に生やして、杭を一斉にブン投げてきた、あの時に。

 

 

(頭、叩かれちまったじゃねーか)

 

 

バカ。チビにそう怒られて、思いっきりシバかれた。

 

最後の最後まで諦めるなとか、アニメや漫画のキャラクター達も、こういう場面で頑張ってたろとか、ここで負けたらムカつくだろとか、色々言ってくれちゃって。

 

なんだそりゃって、呆れちまった。アニメじゃねーし、漫画じゃねーし。最後のやつとか、単に意地になってるだけじゃねーか。

 

 

(でも、それでいい)

 

 

結局、私もそうだから。相手の方が強いだの、こんなの育てたマギウスはヤバいだの、そんなの、今はどうでもいい。

 

やつを倒す。私とチビが抱えたもの、ここで全部清算する。その為なら、なんとしてでも。

 

そういう意地が体を支えて、こうして、どうにか立ってるんだから。

 

 

「チビ」

 

「…はい」

 

「悪かった」

 

「………ん」

 

 

手詰まりになったからって、ボーッと死ぬのを待ってるなんて。勝ってやろうって人間が、そんな態度じゃいかんでしょ。

 

小学生に怒られて、そのことに気付かされるとはね。

 

 

「なぁ」

 

「………」

 

「勝つぞ」

 

「…当然!」

 

 

一つに混ざり合った魔力を、チビの方に流してやる。手詰まりなんて言ったけど、本当はまだあったんだよな。最後の最後。奥の手が。

 

 

「行くぞ!コネクト!」

 

 

神浜の魔法少女に与えられた、この戦術。なかよし作戦の成果を示すには、この上ないやり方じゃねーか。

 

先日マジ子とやったのに、なんで今の今まで思いつかなかったんだか…。

 

 

(や、それはあれだから。チビとやって成功するか分からんかったし、コネクト頼りになっちゃうのも、なんかアレかなってなってただけだし…)

 

 

きっとそうに違いない。魔女に対抗するのに必死で、素で忘れてたとかじゃないはず。バカじゃない。私はバカじゃない…!

 

 

「私も貴女も、もう限界です!ここで決めますよ!」

 

「え、あ、えぇ!?あ、うんお、おおともさぁ!」

 

「?」

 

 

あ、やっべ。変なこと考えてたせいで、変な返事になっちゃった。チビも、変な目で見てくるし…。

 

あぁもう!どうでもいいんだって、それは!

 

 

「これが最後だ!やっちまえぇ!」

 

「叩っ斬ります!この袖でぇー!」

 

 

コネクトが発動したことで、武器の形が変わっていく。袖の周りに刃が生えて、高速で振動し始める。それを一つに束ねたら、まるでデッカいチェーンソー。

 

強そうだけど、これだけじゃちょっと不安かも。だから…。

 

 

「『乗算』!」

 

 

魔力がごっそり無くなる代わりに、チビの武器が強化される。もっと大きく。もっと長く。

 

いける。これがあれば、多分倒せる。

 

けど折角だ。大盤振る舞いと行こうじゃねーか!

 

 

「これで、駄目押し!!」

 

 

減った魔力を更に使って、もう一度『乗算』をかける。無理したせいで少なくない血を吐いたけど、知ったこっちゃねー、そんなもん!

 

 

 

「ぶちかませえええええええええ!!」

 

 

 

「どぅおりゃあああああああああああああ!!!」

 

 

 

気合一閃。チビが一回転して勢い付けて、袖を横に真っ直ぐ振るう。魔力の使い過ぎで倒れたお陰で、私は巻き込まれずに済んだ。

 

 

 

二度の『乗算』をかけられて、長く、大きくなり過ぎた袖。

 

 

遠心力と速度を得たそれが、魔女と腕を、全部纏めてぶった斬る。

 

 

真っ二つになった体から、なんか色々撒き散らして、魔女は消滅していった。

 

 

ざまーみろ。見たか、二人のなかよし(笑)パワー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔女の居なくなった結界に、二人の息遣いだけが響く。

 

終わってみれば、なんだかあっという間だったけど、体の痛みと流れる血の赤が、戦いの苛烈さを物語ってる。

 

でも、まぁ、なんだ。なんにせよ。

 

 

「やってやったか…」

 

「ええ…。勝ったんです。私達…あっ」

 

 

戦い終わって気が抜けたのか、ガクッと膝を折ったチビ。相変わらず、肩で息をしっぱなし。

 

 

「だいじょぶかー…」

 

「…………」

 

 

一応声をかけてやるけど、特に返事は返ってこない。けど、構わない。そのくらい疲れてるだろうから。

 

 

「……………」

 

「……………」

 

 

 

倒れたままで、黙って空を見つめてると、結界が静かに崩れ始めた。

 

魔女が消えたからなのか、流石に暴れ過ぎたからなのか、それは知らない。

 

 

 

「………赤さん」

 

 

「んー……?」

 

 

「私、家に帰ります」

 

 

 

結界がどんどん消えてって、外の景色が見え始める。綺麗な青空を見つめながら、チビがそう言ったのを聞いた。

 

 

 

「………そっか」

 

 

 

 

この後、もう一仕事あるんだよねー。あーめんどくせ。

 

 

 

私の頭は、そういう気持ちでいっぱいだった。

 

 

「赤さん」ってチビが呼んだことには、全く気付かないままで。

 

 

 

 





マギレコ本編の出来事

・第一部 第5章六話 終了後〜第5章七話 開始前


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5-13 尋問☆タイム



おチビのイメージを活動報告に上げてみたので初投稿です。





 

 

 

 

つんつん。

 

 

「ん〜…」

 

 

ぺしぺし。

 

 

「んん〜……ん〜?」

 

 

とんとん、ゆさゆさ。

 

 

「まだよ…まだ硬いわこれ…んぬ〜……」

 

 

イラッ。

 

 

「あ、ちょっと!なに変身して…!」

 

 

オラっ、ズドーン!

 

 

「わああああ!!」

 

 

あ、起きた。おはよークソったれ。

 

 

「え、なに!?なになになに!何が起こったの!?ねえ!」

 

「よう。いい夢見れたかコラ」

 

「あ、アンタ達…。え、なに…。何がどうなってるのこれ。ちょっと私、状況が…」

 

 

んだよ、まだ寝ボケてんのかこいつ。こっちはこいつの為に、散々苦労させられたってのに。

 

 

「あ!?ていうか、なによこれ!ふぬっ!動けないじゃない…!ぬっ!」

 

「あの、縛らせてもらいました。逃げちゃわないように」

 

「えぇ、ひどい!」

 

 

今まで寝こけて、ようやく起きた白ローブが騒ぐ。うるせーなぁ。あんな魔女出してきたおめーの方が酷いだろ…。

 

 

クッソ頑張ってヤバい魔女を倒した私達は、結界が無くなった後も気絶しっぱなしな白ローブを発見。確保した。

 

起こして情報吐かせようにも、私達が居たのは、人通りも近い場所。起きたこいつに騒がれて、人集りが出来ても困る。つーわけで。

 

 

「ていうか、何処なのよここ!私達が居たのって、こんな薄暗くて、人気の無いような場所じゃあ…!」

 

「廃ビルだよ。どっかのな」

 

 

わざわざ。こんな場所まで連れてきたってこと。都会ったって、使ってないか、放棄された場所くらいある。探せば幾らか見つかるんだ。

 

 

「赤さんがおぶってきたんですよ」

 

「そう…。……ありがとう?」

 

「マジかよ、お前…」

 

「…?なにかしら?」

 

「いや…」

 

 

普通言わないから。こういう場合に礼なんて。…ま、いいけどね。なんでも…。

 

 

「あれ!ちょっと待ちなさいよ!」

 

「ん」

 

 

なに。なんだ、今度は。

 

 

「そういえば、あの魔女は!?マギウスから貰ったあれは…。え、どこ行ったのよ!」

 

「何処って、お前」

 

「倒しましたよ」

 

「誰が!」

 

「私ら」

 

「なんで!?」

 

 

なんでってなによ。私らが倒せちゃおかしいんか、オイ。

 

 

「秘密兵器よ!?」

 

「うん」

 

「マギウスからもらったのよ!?」

 

「そう…」

 

「チキベジまで奢ったのよ……?」

 

「それは知らないから…」

 

 

うん、まぁ…お気の毒とは思うけどもね…。

 

 

「う〜…!なんなのよ、もー!ていうか、なんでアンタら、そんなケロッとしてんのよ!」

 

「あ?」

 

「秘密兵器だってんでしょ!もっとボロっちくなってなさいよ!」

 

「あー、それは…」

 

 

言われて、後ろをチラッと振り返る。ちょっと横に移動して、私の後ろに居るのを、見えるようにしてやった。

 

 

「あっ…!アイツ…!」

 

「………」

 

「なにやってんのよアレ…」

 

「さぁ…。私らにもさっぱり」

 

「〜?」

 

 

私達からちょっと離れたところに座って、シーがあれこれ弄ってる。この廃ビルに放棄されてたパイプやらボロ布やらなんだけど、あいつにとっちゃあ珍しいみたい。

 

…シーの力が強過ぎて、金属部品は折れたり ひん曲がったりしてるけど。

 

 

「あいつが治してくれたんだわ」

 

「アレが…!?そんなこと…」

 

「助かりましたよね。私の時は、渋られて困りましたけど」

 

 

マジ子が怪我した時にも使った、シーの治癒魔法。私らがぐったりしてるとこにひょっこり出てきて、今回も治してくれた。

 

チビが私を怪我させたって勘違いしたっぽくて、トラブルになりかけたのは、置いとくとして。

 

 

「クッ…!忘れてたわ…。そうよね。アンタにはアレがくっ付いてるんだった…」

 

「ん?」

 

「でも、なんかおかしいわよ。だって上からの説明には、アレが治癒魔法を使えるなんて一言も…!」

 

「ふーん?」

 

 

私を睨みながら、なんか ぶつくさ喋る白ローブ。てか、うん。ちょっと聞き捨てならないよなぁ?

 

 

「なに。やっぱ知ってんだ?」

 

「え?」

 

「あいつのこと」

 

「は?………あっ!」

 

 

「やっべー」みたいな顔して、目を逸らした。や、遅いし。そのリアクションもよくないだろ。

 

 

「私らさー。今日、外に居るのは理由があって」

 

「…なによ、それは」

 

「探してたわけ。お前らを」

 

「へ……へーえ?そう…」

 

 

そうなんです。そしたら見事に、そっちから出てきてくれたよな。ドえらいもんを引っ張り出してきてくれたのは、アレだったけど。

 

まぁ、ちょうど良かったってやつ。

 

 

「聞きたいことが、あるわけさ」

 

「ふ、ふぅぅぅ〜ん?なぁに、それは。私の趣味?生年月日?あ、それともスリーサイズかしら!あ、申し訳ないんだけど、口座の暗証番号とかは」

 

 

また変身して、パイルを生成。ごちゃごちゃうるせー白ローブのことは無視して、顔の前に突き付けてやった。

 

後ろのシーを顎で指して、話を続ける。

 

 

「あいつのこと、教えてくんない」

 

「っ………」

 

「逃げてもいいよ。鎖だ布だ、ぐるぐる巻きにしてるっても、魔法少女なら外せるだろうし」

 

 

だけど そんときゃあ、ブッ放すのもやむなしかもな。実は脅しで突き付けてるとこもあるから、撃ったとしても当てないけどね。

 

 

「で、どうなん」

 

「ひゃあ!やめて!撃たないで!」

 

「話せよ、じゃあ」

 

「それは…!」

 

 

あーもう、さっさと言えこのやろー。こっちはお前、お前らマギウスの連中には割とイラッと来てるんだぞ。

 

だからアレよ。間違ったらズドンするかもだぞお前。

 

 

「第一、その…アレよ!こんなとこでそんな得物使ったら、崩れるんじゃない!?耐震性とか…!」

 

「そんときゃお前は置いてくからな。安心しろ」

 

「外道よっ!この女ァー!」

 

 

おう、なんとでも言えや。こっちはもうすぐ負債全部精算できるとこまで来てんだよ。すっぱり終わらせて帰るんだよね。

 

それは素晴らしいことだろうが。ん?

 

 

「ふ、ふんだ!なによ!撃つなら撃てばいいじゃないの、えぇ!?」

 

「あー?」

 

「第一ねえ!魔法少女がそんなことされたところで、どうにかなるもんですか!精々、すっげー痛いだけよ!」

 

 

それ、言うほど精々かなぁ。ぬー…。このまま埒が開かないと、本格的にブチ込むことになっちまうかも…

 

 

「あーもー、マジめんどくせぇー!!」

 

「おチビさん!?」

 

 

え、ここでお前がキレんの!?急っ!

 

 

「やり方がヌルいんですよ、赤さん!聞いた話じゃこの人、質問されたら喋っちゃうんでしょ?だったら、それ利用しなきゃ!」

 

「や、それは」

 

「良心に咎められてる場合じゃないですよ。忘れたんですか。今の私達は正義ウーマンなんです。正義ってことは、無敵ってことなんですよ!」

 

 

わけわかんねーこと捲し立てるチビ。あー…。悪いとこ出ちゃったかーこれ…。

 

 

「そこで見ててくださいよ。私がやってやりますから」

 

 

そう言って、変身しながら白ローブに近づく。やる気だな…。ちょっと暴走気味だし、拷問みたいなやり方しないといいけど…。

 

 

「さ、聞かせてもらいますよ。変なことすればスパッといくので、そのつもりで」

 

「うぅ…首筋に当てないで…」

 

「………」

 

 

あのよく斬れる袖を、白いのの首にそっと添える。うぅん…まぁ、大丈夫でしょ…多分。………斬らないよね?

 

 

「じゃあまず…」

 

「ひゃっ…。ちょ、くすぐったいわよ!」

 

「動かないでくださいよぉ。もう忘れたんですか?これ」

 

「っ……う〜…」

 

「うん。いい子です。それじゃあ…」

 

 

ぴったり密着したままで、耳元で質問を始める。うん……なんで耳元に寄るの?なんでちょっと声潜めてんの?

 

 

「あのカイワレ、ありますよね?私が、貴女達から取ってっちゃったの」

 

「え、えぇ…」

 

「あれって、どういうものなんですか?もしかして……ウワサ、だったりとか」

 

「っ…それは……そうよ」

 

「あっ。やっぱりそうなんだ?」

 

 

………んん〜……。ん〜…?

 

 

「それで、どういうウワサです?」

 

「あれは…その…。人の、ストレスとかを吸い取って育つ、みたいな…」

 

「うん、うん」

 

「戦闘能力は持ってないし、吸収量もそんなに多くはないんだけど、その…」

 

「ん?なに?」

 

「っ…いえ、別に…。えっと、だから、数をバラ撒いて、トータルでたくさん吸い上げよう…みたいな…」

 

「ふぅん。そうなんですね…」

 

 

…………………えーっとぉ…。

 

 

「弱点とかって、あるんですかね」

 

「あっ…それは、あの…。二つに、なることで…」

 

「二つ?ん?どういうこと?」

 

「あのカイワレ、近い場所に二本以上あると、枯れちゃうみたいで…。そういうウワサらしいわね…」

 

「そっかぁ〜…。あ、ところでぇ…」

 

「…な、なによ」

 

 

…あのさー、これ……。

 

 

「どしたんですか?さっきからお顔、赤くないです?耳も…」

 

「!い、いや…それは、別に。なんでも…」

 

「あ、もしかして。照れちゃってる…とか?」

 

「なっ!バカ言わないで!そんなわけっ…」

 

「小学生の女の子に耳元で囁かれて、気持ちよくなっちゃったんですかぁ?」

 

「っ……!〜!!」

 

「歳上なのに、恥ずかしいですね。ざぁこ♡ざぁこ♡よわよわお耳〜♡」

 

「ふえぇ…新感覚…」

 

 

や、なんか いかがわしいなぁ!?

 

 

「いや、なに!なんなのこれ!なにやってんだよお前ら。なぁ!」

 

 

耳元で囁いて、相手はなんか赤くなって、終いにはなんか、変な煽りまで入れてんの!んだよ、これ!

 

情報引き出したのはまぁいいよ。気持ちよくなったってなに!?雑魚とか弱弱ってなによ!?

 

 

「アレですよ。最近流行りのASMR音声の真似的な」

 

「知らねーよ!?」

 

 

どっから覚えてきたんだ、そんなもん…。あれ、これチビの両親正しかった説あるか…?

 

 

「AS…なんとかは置いといてな。カイワレのことは聞いただろ!今度は、私の質問に答えろ!」

 

「えぇ…?まだ何かあるのぉ…?」

 

「ちょっと余韻感じてんなよダメ人間!」

 

 

ぽけーっとした顔しやがって。こいつ仮にも、特務隊とかいうのの隊長なんじゃねーのかよ…。

 

 

「あいつだあいつ!シーのこと!」

 

「あぁ…」

 

「結局、あいつはなんなんだ!ウワサなのか!?ウワサだとして、どういうタチのやつなのか!さっさと答えろ!」

 

 

私にとっちゃ、この質問が本命なんだ。暴いたところでどうすりゃいいかは、分かんないけど。けど、いい加減はっきりさせとこうじゃねえかよ。

 

 

「………」

 

「どうなんだ!」

 

「………えっと……」

 

 

黙って、白ローブからの答えを待つ。なんだか私、少し緊張してるような気がする。今から自分は、シーを知るんだって。そのことに対して。

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

お互いに黙って、静かになる。こいつは聞かれりゃ答えるんだし、口を割らないなんてこたぁ…

 

 

 

「……知らないわ」

 

 

「は?」

 

 

 

ついに真実が明かされるのか。そう身構えてた私の耳に飛び込んだのは、そういう拍子抜けな言葉で。

 

 

「おい。んだ、そりゃあ」

 

「だから…知らないって」

 

「なんで!」

 

「知らないからに決まってるでしょ!」

 

「はぁ…!?」

 

 

こいつ、ここまで来てシラを…!

 

……いや、それはありえないのか。嘘をつけないこいつが知らないっていうんなら、それはつまり…。

 

 

「マジで知らねーってことかよ…」

 

「そうよ…。マギウスからウワサの調査を任されたのはいいけれど、詳しい説明もないんだもの!ウワサの居る場所だけ教えられて、定期的に監視しろって!」

 

「えぇー…」

 

「私達もえーってなったわよ。監視っても、姿なんて見えないし。なんか知らない間に、『魔法少女のグループと行動してるから、そいつらもついでに見張っとけ』って言われるし!」

 

「監視してたのに…?」

 

「他の隊がたまたま見かけたらしいわよ…。アンタ達が海浜公園でボコられてるとこ…」

 

 

『だから私ら、警告も兼ねて、アンタら探してたってわけよ』って、続ける。

 

あー。それ、もしかしてあん時か。年長さんに初めて会ったり、観覧車草原で戦ったりした時の…。

 

 

「まぁ、そんくらいよ。うん。知ってることったら…」

 

「…それ知ってるって言わねーだろバカ!」

 

「だから知らないって言ってんでしょバカ!」

 

「や、どっちなんだよ!?」

 

「や、だからぁ!知ってるけど知らない…あれ、知って…?やっべ、ワケ分かんなくなってきた!」

 

「なにしてるんでしょう、この人達…」

 

 

ほんとだよ。つーかどうでもいいからね、そこは。今、必要なことはだなぁ。

 

 

「知らねえならなぁ!聞いてこいお前!」

 

「はぁ!?」

 

「本拠地でもなんでも行って、上に話聞いてこいっつってんの!」

 

「バカ言わないで!私、忘れっぽいんだから!」

 

「メモでもなんでも取りゃあいいだろ!」

 

「そっかぁ、なるほど!天才よアンタ!」

 

「だろぉ!?」

 

 

お互い騒いで、ヒートアップ。大声出して喚いてる内に、自分が何言ってんのか分かんなくなってきちまった。

 

なんかもう、敵ってよりかは友達とくっちゃべってるみたいになってきた、その時。

 

 

「!赤さん、避けて!」

 

「は?いきなりなに…って、うおっ!?」

 

 

突然の、チビからの警告。その直後、私達と白ローブの間に、何か撃ち込まれてきた。驚いて思わず距離を取ったところで、それが刃状の武器が付いた、鎖だってことが分かる。

 

 

「隊長〜!」

 

「無事ですかぁー?」

 

「…!まさかぁ!」

 

 

白ローブの表情が、見るからにパッと明るくなった。この武器、そして聞こえてきた声は、いつか見たこと、聞いたことのあるそれ。まさか…

 

 

「特務隊ー!信じてたわよー!」

 

「やー、探しちゃいましたよ。待ち合わせ場所に居ないんで…」

 

「ごめーん!」

 

 

やっぱりか。チビに押さえられてるこいつとは違う、黒いローブの四人組。部下のやつらが来ちまった。

 

 

「というかねー、遅いのよアンタ達!リーダーのピンチだってのにー!」

 

「勝手に居なくなった人がなんか言ってるよー」

 

「しかも、なんか捕まってるし」

 

「隊長、バカみたいですー」

 

「ばーか。隊長、ばーか」

 

「アンタら、よって集ってねぇ!いいから、早く助けなさーい!」

 

 

『はーい』って返事した黒ローブ達が、私とチビを交互に見てくる。こいつら、やる気か。身構えながら、用心する。

 

 

「て、ことで。返してくれません?うちの隊長」

 

「…嫌だっつったら?」

 

「言ったらアレですけど、こっちが人質取ってるようなものなんですよ?」

 

「やー。そーなんですよねー」

 

 

チビに言われて、呑気に答える黒ローブ。あははーって笑ってるけど、お前らのリーダーだろ?いいんか、そんなやる気なさげで。

 

 

「でも、いいんですか?貴女達、こんなところでちんたらやってて」

 

「……?」

 

「それは、どういう」

 

 

にこやかな顔のまんま、そう続けてくる。いまいちよく分からないって顔してるであろう私達に、黒ローブ達は言った。

 

 

「や、ね?他の隊手伝ってる時にー、私ら見かけたんすよねー」

 

「見た、だぁ?」

 

「あの、はい…。貴女達の仲間の人が、葉っぱを持って歩いてるのを」

 

「しかも、ただの葉じゃないんですよー。知ってますよね?アレですよ、アレ」

 

「カイワレ的な、アレなんだよねー」

 

 

言われた言葉、全部反芻して考える。葉っぱ。仲間が、持って歩いてた。それって、買い物に出てた先輩達のことか。

 

しかもそれは、その辺に生えてるようなもんじゃない。カイワレみたいなやつってことは。それって、まさか。

 

 

「持ってたんですか?アレを。もう一本?」

 

「うん。作戦優先ってことで、そのまま見送ったけどねー」

 

「マジ子辺りがやったのか?でもなぁ…」

 

 

確かに、ウワサを追加で家に持ち込むようなことしたのはアレだけど、白ローブから聞いた話じゃ、増えたら枯れるらしいしなぁ。別に危険があるようには…

 

 

「なーんか、ピンと来てないって顔っすね」

 

「………」

 

「よくないっすよー、そういうの。絡んでるのはウワサなんすよ?何やらかすか、分かったもんじゃないんすから」

 

「…なにが言いてえんだ。お前ら」

 

 

焦らされるのは好きじゃない。言うなら言え。さっさと。それでいて、はっきりな。

 

 

「あのウワサ、二本以上揃えば枯れちゃうんですよ」

 

「知ってる。この白いのから聞いたからな」

 

「あ、そうなんですね…。でも、ですよ?」

 

「私達が聞かされたのは、最後には枯れるってことだけ。枯れるまでに何が起こるか。どうなった末に枯れるのかってのは、知らないんだよねー」

 

「お仲間さん達、今頃どうなってるんすかねー?」

 

 

聞いて、ハッとさせられた。精神的な衝撃を受けて、眉間に段々、力が入ってく。

 

 

「んだよ、それ…!そんじゃあ、あいつら!」

 

「落ち着いて、赤さん!ただの言葉なんですよ?こちらを騙そうとしてる可能性も…!」

 

「嘘を言ってるって証拠も無いけどねー」

 

「………」

 

 

チビの言うことは分かる。こいつらは、私達を上手く引き剥がす為に嘘を吐いてる。そういうことも、あるかもしれない。

 

けど、黒ローブの言うように、嘘って証拠が無いのも事実で…。

 

 

「そんで、どうする?ま、隊長を拉致ったことに関しちゃあ…」

 

「っ!?いって…!」

 

 

黒ローブの一人が、喋りながら小さい魔力塊を飛ばす。肩に当たって、痛みが走った。

 

 

「それで手打ちにしてやっからさ。ここらで終わりにしとこ?な?」

 

「……………」

 

「赤さん……」

 

 

にこにこ笑う黒ローブを、ジトッと睨み付けてやる。自分達が優位なのを分かってるのか、余裕な態度を崩さない。

 

 

「………帰るぞ、チビ」

 

「赤さん!?でも…!」

 

「いいから!」

 

 

変身を解いて、白ローブから遠ざかる。異を唱えるようなチビを制して、人質状態の白ローブを解放させた。

 

制服姿に戻ったチビが、渋々こっちに合流してくる。白ローブはフリーになって、そこに黒ローブ達が集まった。

 

 

「うー…。なんか、納得いきません…」

 

「つったってお前。数で劣るんだし、このままドンパチやらかしたって…」

 

 

まぁ、今はシーが居るんだし、勝てるといえば勝てるだろうけど。けど、今日は既にヤバい魔女と戦った後。これ以上、魔力を消耗するのは避けたい。

 

………なんて、考えちゃあいるけど。

 

今、私の頭を満たしてるのは、危険な目に遭ってるかもしれない、先輩達のことで…。

 

 

「行くぞ!」

 

「あっ!ちょっと、赤さん!んもー!」

 

 

廃ビルを出る為に、走り出す。せめて最後に、もう一回特務隊の奴らを睨んでやったら、「またねー」とか言いながら手を振ってた。

 

くっそ。ムカつくな、ほんと。私を揺さぶってくれた借りは、いつか返してやらなきゃならねえ。

 

 

「早く来い、シー!置いてくぞ!」

 

「〜!?」

 

 

今の今まで遊んでたシーが、私の声に反応する。

 

弄っていたパイプや廃材、金属部品を放り出したか、背後から喧しい音が聞こえてくる。走る私達に、シーはすぐに追い付いてきた。

 

 

「〜!〜!!」

 

「わかった!わかったって!置いてかないから!走りづらい!」

 

 

引っ付いてくるシーを落ち着かせながら、三人で家まで突っ走る。

 

 

「赤さん!先輩さん達、電話に出ません!」

 

「チィッ…!」

 

 

それを聞いて、舌打ちしながら足を早める。

 

 

先輩達のこと。危険が迫ってるかもしれないって聞いた時、どうして私は、あんなに動揺しちまったのか。

 

なんで私、今もあの人達のことで、頭の中がいっぱいなのか。

 

 

胸の内の、その隅っこでそういう疑問が湧いて来たけど、いつも通りの『わからない』。答えなんて、出てくれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふんっ…!あーもう。やっと解放されたわ…」

 

「だいぶぐるぐるに巻かれてましたねー、隊長」

 

「隊長巻きだー」

 

「うっさい。…ま、なによ。助かったわ。ありがとね!」

 

「まぁ、一応チームですから?私達」

 

 

 

「にしても、だいぶ育ってましたねー」

 

「ん?」

 

「アレですよ。あのウワサ」

 

「育ってるってなによ。分かるわけ?」

 

「なんとなく、ですけど。そう感じるっていうか」

 

「へー…。まぁ、確かに 底知れない感じはしたけれど…」

 

「名前、付けてたっぽいですね。そういえば」

 

「あー、そういやなんか呼んでたよね。名前っぽいの…」

 

「ウワサに名前、ねー」

 

 

 

「あ、そうだ!帰りにメモ帳買ってってもいい?可愛いやつ!」

 

「は?や、いきなりですね…」

 

「いいですけど、なんでまた」

 

「アイツらに言われてさー。あのウワサの、詳しいこと聞いてこいって!」

 

「えぇ…マジすか、この人…」

 

「?なによ。おかしい?」

 

「おかしいですよう!だって、その…!あの人達は、その…敵なわけですし…」

 

「けど、知らなきゃモヤモヤするじゃない?アイツらは腹立つけど、未知を理解しようとする姿勢を持つ人は嫌いじゃないわ!」

 

「私らはそんなあんたが理解できねーっつーかさぁ…」

 

 

 

 

「ま。それはそれとしても、よ」

 

「?」

 

「これからもこんな調子で邪魔されちゃあ、いい加減に困るわよね」

 

「それは、まぁ」

 

「今回もポカやらかしたし、叱られちゃいますよねー。マギウスの魔女倒された隊長は、特に」

 

「あっ…!?忘れてたわ…。どうしよう。今度は教官に何されるか…。もしかしたら、マギウスから直々の折檻も…!?」

 

「かもですねー」

 

「ねーじゃないわよ!アンタ達、チーム組んでるクセにリーダーに対する尊敬ってもんが…って!いいの!そんなことは!」

 

「はぁ」

 

「私、今回で理解ったの!このままバチバチ争って、お互いが血を見続けるようなやり方したって、不毛なんじゃないかってことよ!」

 

「じゃ、どうするんですか?」

 

「ここらで一旦、やり方変えましょ!衝突を繰り返すんじゃなくて、こっちを理解してもらうことで、邪魔をやめてもらうって試み!」

 

「具体的には」

 

「マギウスの翼の、行動理念。救済を目指す、その理由!それを知ってもらえれば、あの子達にだってわかるわよ。私達の素晴らしさが!」

 

 

 

「でも、それってつまり、真実を知るってことですよね…?」

 

「ちょっと性急じゃないですか?下手すれば、解放の証を見せちゃうことにも…」

 

「それならそれでいいじゃない。もしかしたら、同志になってくれるかもでしょ?」

 

「うーん…。そう…かなぁ?」

 

 

 

「そうする為には、あいつらの根城を掴まなくちゃね…。ちょっと!」

 

「え、私!?…ですか?」

 

「アンタさっき、あの赤いのに魔力パナしたわよね?」

 

「それは…はい。しましたけど」

 

「それの魔力を追って、あいつらの居場所、突き止めなさい」

 

「えぇ!いや、無茶ですよ…!私、魔力探知はそんなに…。っていうか、普通に考えたら魔力なんて、とっくに散ってて探しようが…」

 

「なに言ってんの!成せばなる!皆でやれば、なんとかなるわよ!」

 

「実質ノープランじゃないですかぁ!」

 

「てか、いつの間にか私達もやることになってるんですけどぉ!?」

 

「そうと決まれば、準備開始よー!」

 

「話聞けって、このアホリーダー!」

 

 

 

 

 

「マギウスの翼、特務隊!私達なりの、『講義』をするわよ!」

 

 

 

 

 





マギレコ本編の出来事

・第一部 第5章六話 終了後〜第5章七話 開始前


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5-14 ひとりぼっちはお終い



ひめな実装記念と更新の大幅な遅れによる謝罪の意を一つに束ね初投稿です。





 

 

 

 

「ねー、昨日さ、アレ見た?」

 

「見たよー。アレ面白かったよね、あの芸人がさー…」

 

 

ふうん。この主人公、意外と度胸あるんだなぁ。第一印象は、ちょっとヘタレっぽい感じだけど…

 

ページを捲る。

 

 

「ねー、テラピチ読んだ?」

 

「うん!可愛いのいっぱいだったー」

 

「あ、やっぱし?あたし、昨日買えなかったー!」

 

 

うん、いいね。ヒロインとの仲も少し深まって…。ちょっとえっちぃハプニングが多いのは、まぁ気になるけど。

 

ページを捲る。

 

 

「宿題やったー?」

 

「あ!私まだやってないや!やっば!」

 

「今日出さなきゃ、先生怒るよー」

 

 

あれ、なんか不穏な雰囲気になってきたなぁ。時間帯も夜に近いし、なんかが主人公達に迫ってきてる感じだし…。

 

ページを捲る。さて、こっからどうなってく…?

 

 

「あの…今、いいかな…ですか?」

 

「?」

 

 

ん。なんだろう。自分の席に誰か近寄ってきて、本を読む手が止まる。目線を上げてみると、そこにはクラスメイト。確か、学級委員をやってる子だったかな。

 

話したことはない。親しくもない。どういう用事なんだろう。予想はつくけど。

 

 

「えっと、宿題の回収で…」

 

「うん」

 

 

あぁ、やっぱりね。それくらいじゃなきゃあ、仲が良いわけでもない私に話しかける理由なんて。

 

 

「はい、これ」

 

「うん。ありがとう。…ございます」

 

「………」

 

 

アニメや漫画が好きな私だけど、だからって、学校のことを疎かにしてるわけじゃない。幸いなことに、成績も良好。もちろん、宿題だってちゃんとやる。

 

で、とっくに済ませておいた宿題のプリントを渡したのはいい。いいけど…。

 

 

「なんで、ちょっと丁寧な感じになるの?」

 

「えーっと……」

 

「うん」

 

「話しかけづらいから…。いっつも静かだし、本読んでるし…」

 

「ふうん」

 

 

まぁ、気持ちは分かる。自分の世界作っちゃってる人っていうのかな。居るもんね。私もそういう奴ってことなんだ。

 

宿題を受け取ると、クラスメイトは離れてった。近寄り難いみたいに言われちゃったけど、私は別に、それに対してなにか思うことはない。

 

さ、彼女の用事は終わったんだから、私も早速、本の続きを…

 

 

「あー、鐘なったー」

 

「次なんだっけ」

 

「体育」

 

 

…と思ったけど、どうも思ったより時間が経ってたみたい。ちょっと残念だけど、読み進めてたところに栞を挟んで、本を閉じた。

 

最近発売された、ラブコメもののライトノベル。表紙のイラストに惹かれたから、なんとなく買ってみたやつだった。

 

 

「えーっと、体操着は…」

 

 

よかった。ちゃんと持ってきてる。体育ってことは、移動して着替えて…。なんだか面倒だなぁ。

 

クラスメイト達の喧騒をBGMにしてた読書は、もう終わり。ここから放課後まで、まだ少しだけ学校の生徒をやっておかなくちゃ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、次ー!」

 

「あー。次私かよー」

 

「がんばれー」

 

「うっせーっつーの」

 

「…………」

 

 

今日の体育は、外での授業。バーを設置して、安全の為の分厚いマットもセットして。要するに、走り高跳び。

 

同級生のキャイキャイとした会話を聞きながら、体育座りで順番を待つ。私の番は、まだ少し先。

 

 

(今頃みんな、なにしてるのかなぁー)

 

 

退屈な待ち時間を、ここ最近で知り合った人達のことを考えて、潰す。

 

何してるって、皆 授業受けてるに決まってるけどね。あ、年長さんは分かんないか。大学生だし。

 

 

(前のタコパ、またやりたいなぁ。や、タコじゃなくても)

 

 

一昨日に皆でやった、タコ焼きパーティーのことを思い出す。料理上手な年長さんが主導で作ってくれたり、上手に作るコツを教えてくれたり…。

 

具もいっぱい揃えてあって、すごく美味しくて、楽しい時間だった。

 

 

「でもなー。あの日はなぁー…」

 

 

ボソッと呟いた私を、近くに座ってたクラスメイトがチラッと見てくるけど、気にしない。

 

そう。タコ焼きが美味しかったのはそりゃあ素敵なんだけど、その前に一悶着あったんだよね。あの時は私も、マズいなって思った。

 

なにがって、そりゃあ。ウワサのこと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『見えた!先輩さんの家です!』

 

『分かってる!』

 

 

あの日。二日前。赤さんと二人で、自分達の中にある、色んなものを晴らしに行った日。

 

強過ぎる魔女と戦って、ボロ雑巾みたいになったり、マギウスの翼の人から極めて平和的に話を聞くことが出来たり、まぁ、色々あったんだけど。

 

先輩達がピンチかもって思った私達は、急いであの廃ビルから退散。三人で先輩さんの家に向かった。

 

 

『…なぁ、これ』

 

『はい。感じますよ。魔力』

 

『〜…』

 

 

家の敷地に入った途端、魔力の反応があったのを覚えてる。それは魔女のやつでも、魔法少女のそれでもなかった。

 

多分、アレがウワサの持ってる魔力の質なんだろうなって。なんか、とにかく異質な感じ。

 

 

『いくぞ…!』

 

 

赤さんが玄関の取手を掴んで、恐る恐るでドアを開けて。それで、三人一緒に家に入った。

 

 

『っ…』

 

 

アレは嫌な空気だった。それなりの期間置いてもらって、すっかり慣れた場所だったのに、全く別の空間に入り込んだような感覚。

 

家の中は嫌に静かで、物音ひとつしなかったのが、不気味さを後押ししてたっていう。

 

 

『先輩!マジ子!居んのか!』

 

『年長さんも!居たら返事してください!』

 

 

大きい声で呼びかけながら、家の中を歩いた。二階に居るのかと思って、階段から声をかけてみたりしたけど、特に返事もなくて。

 

じゃあ、やっぱりリビングに居るのかと思って、そしたら。

 

 

『赤さん…!おチビさん…!』

 

『っ!先輩か!?』

 

『ダメ、です…。こちらへ来ては…!』

 

『は…!?』

 

 

やっぱりっていうか、リビングの方から声が聞こえてきて、それが先輩さんのものなのがわかった。

 

…けど、来るなって言われた理由が分からなくて、赤さんと目を見合わせて。

 

 

『なんか知らねーけど…!』

 

 

「バカ言ってんじゃねーっつーの」なんてボヤきながら、リビングと廊下を隔てるドアまで、ズカズカ歩いてく赤さん。

 

先輩さんが、意味もなく「来るな」なんて言うとは思えない。けど、それ以上の情報が得られないままで、詳細が不明瞭。

 

なにより、こっちに呼びかけてきたあの人の声は、苦しそうだった。なら、やっぱり何かあったのかって、思わずにはいられないでしょ。

 

 

赤さん、シーさんの後ろにくっついてって、ドアの前に立つ。赤さんはこっちに一瞬目配せしてから、ドアノブに手をかけた。

 

 

『っ!』

 

『皆さん!』

 

 

そうして、リビングに突入した、私達が見たもの。

 

それは、ソファに寝そべったり、床の上にペタッと座り込んだりして、ぐったりとしてる皆の姿。そして、部屋いっぱいに展開された、結界のように見える何かだった。

 

後で聞いたけど、アレがウワサの持つ結界らしい。

 

 

『先輩!?おい、どうした、これ…!』

 

『あぁ…、マジ子さん!年長さんも…!』

 

 

当然、そんなことになってる三人を黙って見てることはできないから、近くに寄って状態を確かめる。三人共、特に外傷とかは見られなかったけど、とにかく衰弱してるように見えた。

 

シーさんはまぁ、単に赤さんに引っ付いてたって感じだけど、まぁそれはいい。

 

 

『う…。赤、さん…』

 

『先輩…!おい、大丈夫…ではないか。見りゃ分かる』

 

『お馬鹿…来るなと言ったでしょ…』

 

『あぁ?そんなお前…。なんでさ、それ?』

 

 

リビングまで来たことを、先輩さんに叱られた。理由を赤さんが訪ねるけど、少し荒い呼吸が返ってくるだけ。それだけ弱ってたんだと思う。

 

 

『そうだよぉ…。ここ、来たら…』

 

『吸い、取られる…皆…』

 

 

マジ子さんも年長さんも、そんなこと言うし。ていうか、吸い取られるってなにって、思った。

 

そう、思ってたら。

 

 

『っ!?あっ…?』

 

『!チビ!?』

 

 

なんだか急に力が抜けて、ガクッと膝をついちゃった。立ちあがろうとしても上手くいかなくて、そうしてる間に、もっと力が抜けていって…。

 

 

『うぅ…』

 

『チビ!おい、チビ!どうしたんだって!』

 

『あぁ、やっぱり…』

 

『言わんこっちゃありませんわ…』

 

『あぁ!?』

 

 

どういうことだって食ってかかる赤さんに対して、皆は庭の方を指差すことで答えた。私も頑張って、庭の方に目を向けた。

 

果たしてそこにあったのは、出かける前よりも大幅に大きくなった、あのカイワレ。それも、2本に増えているってオマケ付きだった。

 

 

『あの植物…!』

 

『マジ子さんが…。二人への、サプライズにと…』

 

『でも、いきなり変に…マジ子ちゃんが、もう一本、植えたら…』

 

『なんか、ブワーッて広がったん…。ケッカイ…』

 

『!』

 

 

この急な脱力。もしかして、あのカイワレ…ウワサの影響なのかと思ったけど、案の定だったってこと。

 

マギウスの翼が言ってたこと、間違ってなかったんだ。けど、なんか癪だなぁって。

 

 

『………?あれ…。ちょっと、待ってください』

 

『ん…!』

 

『なんで、平気そうなんですか。赤さん』

 

『あ?……そういえば』

 

 

正確に言えば、シーさんもそう。部屋に入って、ウワサの影響が及ぶ範囲に捕まってしまったんなら、二人にも何かしら変化があったっておかしくなかったのに。

 

 

『…って、いいだろそれは!いや、よかないだろうけど、少なくとも今はさ!』

 

『そうかもですけど…うぅっ!』

 

『!?なんだ!次はどうした!』

 

 

赤さんと話してる間に、脱力感が更に酷くなる。そこまでいってようやく、年長さんの言った「吸い取られる」の意味が分かった気がする。

 

 

『赤さん…!吸ってる…。吸い取ってるんです。カイワレが…!』

 

『なにを!』

 

『元気とか、活力とか、あと、魔力とか…。色々ですよ…!』

 

『…!?』

 

 

確信はなかったけど、きっとそう。なんかこう、自分の中からサーッと抜けてく感覚があった。そしてそれがずっと終わらなくて、結果、どんどん弱っていく。

 

先輩達も同じ状態なんだって、その時悟った。いや、私達が帰宅するよりも前から吸い上げられ続けてるんだから、もっと酷いことになってたのかも。

 

全く。最初はいい感じにスッキリさせてくれる癒し系かと思ってたら、今度は絞れるだけ絞ってくるとか…。そんな悪徳業者みたいな…!

 

 

『チッ…!』

 

 

大きく舌打ちをした赤さんは、リビングの窓に駆け寄ってった。ロックを外して、外に出ようとしたんだと思う。

 

 

『シー!』

 

『?』

 

『何があるかわかんねー!お前も手伝え!』

 

『………』

 

『お仲間だからって、日和ってんなよ!ここに居る以上は働け!』

 

『!』

 

 

赤さんに言われて、シーさんも付いていく。鍵は解除されて、庭に繋がる窓が開かれた。

 

 

『ぬっ!』

 

 

それと同時に、赤さんが怯む。外の空気と一緒に、カイワレ達自身から発せられている魔力が、部屋の中に吹き込まれてきたから。

 

グロッキーになってた私達には、割とキツかったなぁ…。

 

 

『クッソ…!やっぱウワサなんて、ロクなもんじゃねえじゃねーか…!』

 

『〜……』

 

『あーもう、何しょげてんだこんな時に!いいから早いとこ、このカイワレモドキをっ…!?』

 

 

ちょっとだけ揉めながら、カイワレをどうにかしようとした時。二本のカイワレに異変が起きる。

 

 

『おいおいおい……なんだよこりゃ…』

 

 

元々大きくなってたのに、赤さん達が手を下そうとしたのを察知したのか知らないけど、更に長大になり始めた。

 

おどろおどろしいオーラみたいなのも纏いだして、ついには外に居る二人に影が落ちるくらいに成長して…

 

 

『え、や、これデカ過ぎ…』

 

 

呆気に取られる赤さんを他所に、カイワレのオーラ的なやつが膨れ上がっていく。いけない!って思ったけど、その時の私に、動く力なんて残ってなかった。

 

 

『っ……!!』

 

『〜!!』

 

 

危機を察したらしい赤さんが、身構えたのが見えた。シーさんが赤さんを庇うように、前に出たのも。

 

そしてとうとう、カイワレ達の発するオーラ(仮)は限界まで膨らんで、それが全部解き放たれて、赤さんやシーさん、そしてリビングに居る私達を、家ごと蹂躙して、吹き飛ばして………

 

 

『……………あれ?』

 

『〜?』

 

 

………なんてことにはならずに、突然にオーラは霧散。二本の巨大カイワレは、まるで逆再生みたいな速度で萎れて小さくなって、やがて枯れてしまった。

 

それこそ、あのローブの人達の言う通りに。

 

いきなりそうなっちゃったから、赤さんも放心したみたいに固まってる。無理もなかったと思う。リビングからかろうじて眺めてた私も、同じ気持ちだったから。

 

 

 

『………な』

 

『?』

 

『なんだそりゃあ……』

 

 

 

気が抜けたのかバランスを崩して、開いた窓の桟に思いっきり尻餅をつく赤さんの姿を眺めながら、私の身体はだんだんと調子を取り戻していった。

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

「よし!次の人!」

 

 

当時のことを思い出してるところに、何度目かの、先生の声が聞こえてくる。うん。どうやら私の番が来たみたい。

 

立ち上がって、お尻の部分を軽くはたく。頭を切り替えて、授業に集中することにする。

 

走り高跳びの結果は、まぁ、そこそこだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えーっと、連絡、連絡…」

 

 

時間は更に過ぎて、放課後。校舎を後にした私は、スマホを取り出して、先輩さんに連絡を取る。これからそっちの家に行って、合流する旨を伝える。

 

 

「皆、居るかなぁ」

 

 

そう言ってるとすぐに返信が来て、向こうの了解を報せてくる。私以外は、もう集まってるみたい。

 

 

「行く前に、ちょっと本屋覗いてこうかな…」

 

 

お金に余裕があるわけではないから、買ったりはしないけど。まぁ、次に読んでみたいやつを探してみるのも、いいかなと思って。

 

 

「みゃーこせんぱーい!お待たせー!」

 

「おー、来たか。じゃ、早速手伝ってくれー」

 

「おっけおっけ!で、今日 なにやる感じ?」

 

「まったく…。ちゃんと伝えてあったろ。今日はなぁ」

 

 

校門の方から元気に走ってきた、歳の近そうな、元気な女の子。制服からして、新西の市立大附属の人なのかな。

 

その女の子が、白衣を来てる小さい女の子と一緒になって、校舎に向かうのを見送りながら、学校を出た。

 

 

…あの白衣の子、先輩って呼ばれてたけど、まさか、歳上なのかな。

 

うちの制服を着てたけど、初等部で見かけたことはない。もしかしたら、中等部。それか、高等部の人なのかもね。いやはや、人体って不思議だなぁ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

てくてく、てくてく。もうすっかり行き来し慣れた道を、集合場所目指して進む。自分の他には誰も居なくて、私の靴の音だけが鳴り響いてる。

 

 

「あ、そうだ…」

 

 

またスマホを取り出して、親に連絡を入れておくことにする。今日はお父さん、少し遅くなるって言ってたっけ。じゃあ…

 

 

(『皆と集まるから、少し遅くなるかも。晩御飯はちゃんと家で食べるね』……っと)

 

 

一旦止まって、お母さんにメッセージを送る。スマホをしまって、また歩き出した。

 

 

(…数日前の私なら、こんなことしなかったんだろうなぁ)

 

 

頭に血が登って、怒りっぱなしだった私なら、きっとそうだった。我ながら子供だなぁって恥ずかしくなるけど、事実、私は子供だもんね。

 

 

(赤さん達には、感謝しなきゃ)

 

 

我儘な私を家に置いてくれて、皆 フレンドリーに接してくれて。

 

赤さんには酷いことも言っちゃったけど、それでも今は、なんやかんやで仲良くなれた…と、思う。多分。

 

私が最終的に家に帰る決断ができたのも、あの人達のお陰だと思うから。

 

そう決めて帰宅したからこそ、両親の気持ちを、知ることが出来たんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『おかえり』

 

 

それが昨日、ちょっと気まずい心境になりながら帰った私への、両親の言葉だった。

 

あんなことがあって、娘が数日、自分達の目の届かないところに居たって言うのに、いつも通りに出迎えてくれて、笑って抱きしめてくれて。

 

情けないかもしれないけど、両親の温もりが、なんかすごく久しぶりに感じられて、私は少し泣きそうになった。

 

 

 

それからは家出したことを謝って、お母さんの手料理を食べて、お風呂に入って、自分の部屋で寛いで。そして、赤さんやマジ子さんと、メッセージでやりとりしてる時、お父さんに呼ばれた。

 

居間に行くとお母さんも居て、話があるから、聞いてほしいって。なんとなく察しがついてた私は、素直にソファに座って、両親の話を真剣に聞いた。

 

 

『お父さんとお母さんが、あんなことを言ったのは、ちゃんと理由があるんだよ』

 

 

お父さんは、最初にそう言った。赤さんも私にそう話したけど、やっぱりそうだったんだ。頭ごなしに、「やめろ」とか「ダメ」とか、言ってたんじゃないんだね。

 

 

『お父さんとお母さんも、大好きだった。アニメとか、漫画とか…』

 

 

話を聞いていくと、どうも私の両親は、そういうものが好きだったみたい。学生の頃から、お小遣いやバイト代で、一種の、「オタ活」ってものをやってたんだって。

 

二人は違う学校に通っていたけど、そういうことをしてる中で知り合って、仲良くなって。それで、付き合い始めたんだとか。

 

じゃあ、どうして私の時はあんなに怒ったの?って、聞いた。二人共、私と同じような趣味を持ってたのに、何故。当然、疑問に思ったから。

 

 

そしたら、お父さんが言った。「肩身が狭かった」って。

 

クラスの人はみんな、話題の映画やドラマ、ファッション、スポーツに夢中。ゲーム、アニメ、漫画。そういうのを本格的に嗜んでる人は、居なかったんだって。

 

話題に上げてるのを見かけても、一般にも周知されてるような、メジャーな作品の話題。当時自分が熱中してたような、深夜アニメだとか、ライトノベルだとか、そういうのは全然だったらしい。

 

 

…でも、それだけで、あんなに私に怒ったりするものなのかなぁ。

 

言っちゃあなんだけど、それくらいなら、何の問題もない気がする。

 

だって、それってある意味そうじゃない?まず個人の趣味嗜好自体が、千差万別なんだから。アニメ、漫画にしても、コアな作品になればなる程、知る機会は少なそうだもん。

 

そこまでは私も、両親の話がいまいちピンとこなかったんだけど…

 

 

『お父さん、クラスの人から虐められてたみたいなの』

 

 

お母さんのその一言で、少し驚いた。イジメって…。

 

お父さんは、「悪いのはお父さんなんだけどね」って、続けたけど。

 

 

曰く、お父さんは自分の趣味を積極的に人に話すことはしなかったけど、特に隠したりもしてなかったんだって。

 

自分はクラスでは目立たない人間だし、学校でライトノベルを読もうが、お昼休みに教室で、手持ちのお絵描きノートに絵を描いてようが、気にする人は居ないだろって。

 

 

でもある時に、ちょっとやらかしたんだって。

 

 

無遠慮、無配慮な人っていうのは、何処にでも居るんだって話みたい。それも、学生なら尚更って、お父さんは言う。

 

 

要するに、周りにバレちゃったみたい。趣味のこと。

 

休み時間におトイレから帰ったら、自分の席に、勝手にクラスメイトが座ってて。何人かで集まって、駄弁ってたんだって。

 

 

「それ自体は別にいいけど、そろそろ休み時間も終わるし、悪いけど退いてもらおう」

 

そう思って、近付いたら…。

 

 

『皆して、見てた。広げてたんだよ。お父さんの、お絵描きノートとか…』

 

 

声をかけようとした時に見た、自分のノートやノベルを広げて、しげしげとイラストを見るクラスメイト達の姿。それがすごく恥ずかしくて、急いでノートを引ったくった自分を見る、彼らの揶揄うような視線。

 

「今でもよく思い出せる」って、寂しそうな顔をして、お父さんは笑った。

 

 

勝手に席に座られて、勝手に机の中を漁られて、そして勝手に、自分を形作ってるものの一部を覗かれて。

 

お父さんは怒ったけど、件のクラスメイト達は、ヘラヘラ笑いながら、のらりくらり、躱すばっかりで。

 

 

「わざとじゃない」

 

「きまぐれ。なんとなく机の中を見たらあった」

 

「なにマジになってんだよ」

 

「つーかこんなもん、学校に持ってくる方がおかしい」

 

 

自分は本気で怒ってるのに、向こうは真面目に取り合ってくれない。それどころか、もっともらしい正論まで持ち出した。

 

悔しい。悲しい。許せない。そういうのが全部混ざったようになって、始業を報せるチャイムが鳴っても、先生が教室に来ても、お父さんは泣きっぱなしだったらしい。

 

 

『先生が、なにかあったのかって聞いてくれてさ。お父さん、話そうとしたんだけどね…』

 

 

そしたらすかさず、集まってた人達の中の、一人が手を挙げて言ったんだって。「そんな話してても時間の無駄なんで。早く授業始めましょう」って。

 

ただでさえ、色んな気持ちでグチャグチャだったのに、そこで追い討ちをかけられたお父さんは、茫然自失のまま、放課後まで過ごしたらしい。授業だっていうのに、ノートを取ることも出来ないままで。

 

学校が終わって、待ち合わせ場所に会いに行ったら、お父さんが大声で泣き出しちゃって、ビックリした。お母さんは、そう言ってた。

 

 

 

それからの学校生活は、卒業するまで、度々揶揄われて過ごしたらしい。変なあだ名まで付けられて。心休まるのは、家に居る時と、恋人…お母さんと居る時だけ。

 

件のクラスメイト達は、単なるお遊び程度にしか思ってなかっただろうけど。でも、お父さんはきっと、本気だった。

 

本気で嫌だっただろうし、悔しかっただろうし、自分の好きな作品のことまで、バカにされた気分だったんだと思う。

 

勿論、学校に関係の無いものを持ち込んだお父さんだって、いけないと思う。だけど、どうしてだろう。そう言い切ってもいいって、そんな気持ちには、なれなかった。

 

 

『それからは、お母さんと一緒の学校に進学して、卒業して、結婚して…』

 

 

そうして、私が生まれて。

 

その中で、お父さんは遠ざけちゃった。アニメも、漫画も、大好きなものは、全部。

 

何人かのクラスメイト達に笑われて過ごした、その時の記憶。それがトラウマになったお父さんは、持ってたものは全部封をして、家の倉庫の、奥の方にしまっちゃったんだって。そういうのが好きだっていう、自分の気持ちごと。

 

けど、意志の弱い自分には捨て切ることも出来なくて、今でも気になる作品をついチェックしてしまったり、録画して、こっそり別の媒体へ保管してるんだって、ぶっちゃけた。

 

いつまでも、過去のつまらない一幕を引きずりながら、生きてるんだって。

 

 

『お母さんは、学生時代そういうの無かったんだけど…。なんか…なんかね。お父さんの気持ち、分っちゃって』

 

 

だから、お父さんのやり方に合わせることにしたって、お母さんは話した。

 

…理解してくれる人が居ただけでも、お父さんはまだ、良かったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私に、自分と同じ目に遭ってほしくなかった。かぁ…」

 

 

要するに、それが私に怒った理由らしい。私自身に怒ったっていうよりも、私が自分達と同じ趣味を持ってるのを見てしまって、危機感を抱いちゃったのが原因。

 

自分と母さんの可愛い子供が、自分と同じことで悲しんで、泣いて帰ってくるかもと思ったら…。

 

そんなの、きっと耐えられないって、両親は悲しそうにしてた。

 

 

「取るに足らないこと、だよね」

 

 

世の中には、もっともっと悲惨なことがあって。お父さんみたいに、声を上げて怒れるような人ばっかりでもなくて。

 

それに比べれば、なんでもない。学生時代の、ほんの一瞬。一ページ。どこにでもある、単なる苦い思い出。当時お父さんを揶揄っていた人達も、その時のこと、とっくに忘れて生きてるんだと、思う。

 

 

「……………」

 

 

けど、違うんだね。そういうことじゃ、ないんだよ。

 

 

マジになるようなことじゃない。それはあくまで、クラスメイト達の考え。

 

取るに足らない、なんでもないこと。それはあくまで、私の気持ち。

 

 

だけど、お父さんは違う。その時、その瞬間の中において、お父さんだけが、違ったはず。

 

苦しかったと思う。悔しかったと思う。悲しかったと思う。だから怒ったし、だから泣いたんだ。誰よりも、本気だったってこと。

 

だからこそ、私が生まれた時、将来 同じ思いをしないようにって。私が笑顔で楽しく過ごせるようにって、そう、二人で決めて…。

 

 

 

ごめんね、お父さん。ごめんね、お母さん。

 

私を思って、言い聞かせてくれたことなのに。私は怒って、飛び出しちゃって。

 

きっと、辛かったんだよね。お父さんも、お母さんも。好きなものを無理して遠ざけて。そんなお父さんの姿を、お母さんも見続けてきて…。

 

 

両親からの話が終わった時、気付けば私は、声を上げて泣いちゃってた。お父さんとお母さん、二人にしがみ付いて、長い間。

 

両親の想いを理解できたからなのか、同じオタクとして、お父さんの昔話が悲しかったからなのか、それは分からないけど。

 

とにかく、ありがとうって、思った。

 

 

 

 

 

 

「………だけど」

 

 

はぁって息を吐き出して、思う。それはそれ。悪いけど私は、自分の趣味を捨てるつもりも、それが好きだっていう気持ちを押さえ込むつもりもない。

 

話の後は一緒にお風呂に入ったり、幼稚園以来、家族みんなで川の字で眠ったりもしたけども。それとこれとは別かなって。

 

 

「大体、私、学校では ぼっちだしなぁー」

 

 

昼間に学級委員の子から言われたけど、どうも私は近寄り難いらしい。まぁ、確かに世間話とか、友達付き合いとかで話しかけてくる子って、居たことない。

 

ライトノベルとかアニメ雑誌は学校でも読んだりしてるけど、何か言われたこともない。予鈴が鳴れば鞄の中に一々仕舞うから、うっかり見られちゃうってこともないしね。

 

 

「そもそも、バレたからってね…」

 

 

今の時代、そういうサブカルも世間に浸透してきてるんだし。アニメも漫画もライトノベルも、配信サイトが増えたりしてさ。マニアックな作品っても、広告等で触れる機会も、少しは増えたんじゃないかな。

 

 

…まぁ、それでも好き嫌いってのが、人にはある。私の意外かもしれない一面を知って、後ろ指差したり、軽蔑する人も居るかもだけど。

 

 

「それがどーしたってんですかー」

 

 

そんなくらいで捨てちゃうほど、私の「好き」は軽くない。お父さんのような、繊細な心だって持ち合わせちゃあいないんだから。

 

好きなものは好きなんだ。笑わば笑え。好きにしろ。なんとでも言えってんですよ。

 

私は、多分大丈夫。可愛い娘と思うなら、どうか、私を信じてほしいな。お父さんにも。お母さんにも。

 

 

(それに……)

 

 

お父さんに、お母さんっていう理解者が居るように、私にだって、居てくれるから。

 

ありのままの私を分かって、受け入れてくれる人達が。

 

 

赤さん、先輩、マジ子さん、年長さん。

 

シーさんは…どうだろ。

 

 

 

 

(会いたいな…皆に)

 

 

 

 

あの人達のことを考えて、自然に足が早くなる。途中で書店に寄ろうと思ってたけど、それはまたの機会にしよう。

 

 

 

 

 

 

なんだか良い気分で走ってると、ふと、あのカイワレのことを思い出した。

 

私が拾って、皆と出会うきっかけになった、あのウワサ。

 

 

一人で居れば活き活きとして、二人以上に集まれば、膨らんだ末に枯れてしまう。

 

 

「一本だけなら、ストレスや悪感情をいい感じに吸ってくれるが、二本以上になると暴走し、見境なく吸い上げた末に、枯れていく」

 

 

タコパの最中、私達の報告を聞いた先輩さんは、そう推測してみせた。

 

ウワサのシーさんはともかく、赤さんがなんで無事だったのかってのは、結局、謎なままだったけど。

 

 

(一人で居た方がいい。それ以上なら、上手くやれない。かぁ)

 

 

ある意味、同じだったのかもしれない。私と、あのカイワレは。

 

私だって、そうだった。友達は居ないけど、勉強は出来た。運動もそれなり。魔女だって、大抵は一人でなんとか出来て。一人でも何も問題ないじゃんって、何処かで、そう思ってた。

 

そしてある日、あのカイワレを拾っちゃって、赤さん達と出会っちゃって。慣れない集団行動に、見事に振り回されて、ポカやって。

 

 

そう思うと、偶然じゃなかったように思えてくるから不思議だね。私と、ウワサ。一人ぼっちだった奴らが、出会っちゃったのは。

 

 

 

「でも、私には皆が居るから」

 

 

 

だから、もう違う。今の私は、一人じゃない。

 

 

 

今の私は、(仮)とか見習いとか、そういうのは、とっくの昔に外れてるんだ。

 

私だって、魔法少女。チームの一人。もう正式に、皆の仲間になったから。だからね。

 

 

 

 

 

「ひとりぼっちは、もうお終い」

 

 

 

 

 

誰に聞かせるわけでもなく呟いて、一目散に駆けていく。

 

 

 

 

いつの間にか見つかった、私の居場所へと、向かって。

 

 

 

 





マギレコ本編の出来事

・さなをひとりぼっちの最果てから連れ出して、何日か経った頃。ももこ達に事の顛末を話すいろは。ももこ達が三者三様のリアクションを見せたところで、やちよと買い物の約束をしているからと、学校を後にする。

相変わらずやちよとの蟠りが解けないももこは、自分の抱える「隠しごと」を誤魔化すように、かえでとレナにじゃれついていた。


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5-15 親



レナちゃんアニメVer.実装なので初投稿です。





 

 

 

 

「…………困った」

 

「なにが」

 

 

私の呟きに、先輩が反応する。いや、分かってるだろ。知ってて言ってんだろ、それは。こんにゃろー。

 

 

「洗濯物!服だろ!」

 

「でしょうねえ」

 

 

ほらー、やっぱり。遊ぶな。私で。

 

目の前にある洗濯物。畳まれた私の服を、眉間に皺寄せて見つめる。

 

 

「無いんだよ…もう、替えが」

 

「ええ」

 

「しかもパンツの!」

 

「今洗ってますものねぇ」

 

 

そう。絶賛洗濯中。今、こうして目の前に畳まれてるやつは、さっき下ろしてきたやつだ。シャツに、ズボンに、靴下、パーカー…

 

 

「なんで、よりによってパンツだけ…」

 

「今の今まで洗うの忘れてたからでしょう、貴女」

 

「仰る通り。でも、やめてくれるかな」

 

「おバカ」

 

 

なんだとコラ。でも、言い返せないから困る。

 

 

「〜、〜」

 

「ん?」

 

 

後ろから、服を引っ張られる。そっちに向くとシーが居て、私になにか差し出してきた。これは、うん。洗濯物だ。私のやつ。

 

 

「うん…ありがとう。でもこれ…」

 

「?」

 

「や、いいわ…」

 

 

畳んでみたのか知らないけど、見様見真似でやったのかな。団子になってぐっちゃぐちゃ。や、お前…ティッシュじゃないんだから。

 

 

「〜」

 

「まぁ、ありがとう…」

 

「〜♪」

 

 

シーを撫でてやる。いや、しゃーねえだろお前…。別に、悪気があってグシャっとしたんじゃないんだろうし。見ろよ、このキラッキラなおめめを。

 

勢力としては敵側ったって、こんな無邪気なやつを責めるなんてのは、私にはとても…。

 

 

「挙式の際には呼んでくださいね」

 

「しねーわそんなもの」

 

「さ、服。仕舞ってきて」

 

「はいはい…」

 

 

自分で吹っ掛けといてスルーかよ。ほんともー、この人…。いいけどさ。

 

シーが寄越した服を畳みなおしてから、自分の服を纏めて抱えて、二階の部屋へ。

 

今日は休日。穏やかな、午前中の出来事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なに。赤ちん、服ないん?」

 

「まあ」

 

「マジヤバじゃんそれー。あ、もうすぐ勝てそー」

 

「押しましょう押しましょう」

 

 

昼頃。飯を済ませてから、少し経って。

 

今日も今日とてって感じで、先輩の家に、皆で集まる。まぁ、何か目的があって、こうしてるわけじゃないんだけど。

 

見ろホラ。マジ子とチビなんて、ゲームしてるよ、ゲーム。スマホでやるやつ。ソーシャルゲームってやつか。

 

 

「んー。そんならさー。アタシがイッショに見よっか」

 

「なにが」

 

「おヨーフク。赤ちん、ファッションセンスとか無さそーだし?」

 

「うるせーわ、この」

 

 

その通りだけどさ。いいだろ、別にさぁ。オシャレに着飾るとか、そんなん柄じゃないんだって。

 

 

「つーか、あれよ。下着だからな。見えねーやつだから、普段は」

 

「うっそ、マジ?」

 

「不便じゃ、ない…?着替え、無いの…」

 

「まぁ、なぁ…。うーん」

 

 

年長さんにテーブルのお菓子を取ってもらって、ついでに飲み物のおかわりをもらう。果汁100パー、オレンジジュース。

 

紅茶とかも用意してあるんだけど、飲んでるのは先輩かチビくらい。私には分からん味だものなぁ。

 

 

「あー、じゃさ。アタシが選んだげる」

 

「お前がぁ?」

 

「そそ。エロかわいいのチョイスすっから〜」

 

「それは嫌」

 

 

せめて、実用的なのにしてくんない。丈夫だとか、洗濯がしやすいとか…。

 

買いに行くっても、服ってやけに高いんだよな…。少なからず人の手がかかってる一品なんだから、それはそうなんだけど…。

 

 

(家に帰りゃあ、ありはするけど…。でもなぁ……っと、着信…)

 

 

気は進まないけど、最後の手段を使うべきか…。そう考えてたら、スマホが鳴る。つい手に取っちゃったけど、この着信音。またかよ。

 

 

(やっぱりね)

 

 

画面には、あの人からの連絡を報せる文字が表示されてる。今日もいつもとさして変わらない文面なのかと思うと、いい加減うんざりしてきちまう。

 

 

(見るだけ見てはおくけどさ…って。ん?)

 

 

届いたメッセージを開いて、中身を確認。すぐに閉じて、ゴミ箱にでもブチ込んでやると思ったけど、今日はいつもと違ってた。なんだろう。文章が多いな…。

 

 

 

お元気ですか?今日は良い天気です。

せっかくなので、お散歩のついでに、お買い物に出かけようと思います。あの子と一緒に。

 

そういえば、知っているとは思いますが、近々あの子が、誕生日を迎えます。

だからその時は是非、家族みんなで、お祝いできたらなと思っています。

あの子も、あなたのお父さんも、あなたに会いたがっています。もちろん、私だって。

 

無理にとは言いません。顔を出すだけでもいいです。また、あなたに会えたらなと思います。

 

 

 

(………………)

 

 

書いてある文章を読み終えて、メッセージを閉じる。すかさずゴミ箱に放り込んでから、削除。スマホをまたスリープさせる。

 

 

「チャンスだな」

 

「なにがです。あ、マジ子さん バフかけて下さい」

 

「おしゃー!パワーアーップ!」

 

「何ってお前」

 

 

着替えの問題、解決するんだよ。その為のチャンス。

 

会うだ会わんだいうのは、考える必要もない。私の答えは決まりきってるんだから、それはいい。

 

いいとして、さっきの文章から考えると、あの人は今日、出掛けるらしい。それも、あいつと。

 

だったら…

 

 

「わり。外 出るわ」

 

「今からですか?」

 

「えー、下着買いに行くん?なら、アタシも」

 

「家だよ。私の」

 

 

今、自宅に帰れば、あの人達と顔を合わせずに済む。パッと行って、パッと済ませば、なんてこたぁねえだろ。

 

…お父さんには会っちまうかもしんないけど、まぁ、あの人達に会うよりはマシ。嫌いってわけでもないしな。

 

 

「赤ちゃんの、家…」

 

「えとー、赤ちんってガッコ、ダイトーだからー…」

 

「私と一緒ですか?東に家が…」

 

 

そうとなりゃあ、さっさと行って、帰ってくるか。もたもたしてたら鉢合わせしたってのも嫌だしな。

 

 

「…西だよ。新西区」

 

 

立ち上がって、リビングを出る。そしたら当然のことみたいに、シーのやつが付いてきた。

 

 

「…………」

 

「〜?」

 

「…ま、いいか」

 

 

多分、待ってろって言っても聞かないよなぁ。時間の猶予がどれくらいあるか分からない以上、ここでグズられても面倒だし。

 

靴を履いて、外に出る。この家には人が居るんだから、今日は戸締りはいらんだろ。

 

シーがくっ付いて腕を組んでくるのも、もうすっかりいつも通りになっちまったなって、ぼんやり考えながら、家に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

実家に向かって歩いて、少し経って。

 

隣で腕組んでくるシーの柔っこさとか、生き物かどうかもわかんないのに、体温があるって不思議だなって思った私が、つい、シーの頬に手を添えたとか、そんなことはいいとして。

 

それに気を良くしすぎたシーが、往来で白昼堂々マウストゥマウスをかましてきたからクッソ恥ずかしかったとか、そういうのも……まぁ、いいとして。よかないけど。

 

 

「……………」

 

 

目の前にドンと鎮座する家屋を、複雑な心境で見つめる。そんな私が不思議なのか、シーは私を覗き込んで、首を傾げてる。

 

 

「…はぁっ」

 

 

溜息吐いて、腹を括る。たかだか自分の家の敷居を跨ぐだけだってのに、なんでこんなこと。自分が思ってるより、緊張してたりすんのかな。

 

 

「なぁ、シーはここで待って…」

 

「〜」

 

「…うん、まぁ。出来ねーよな。お前は」

 

 

しょうがないから、シーのことも家に上げることにする。ドアノブを引いて、ドアを開けた。

 

 

「ん………」

 

 

久しぶりの、自宅の玄関。少しだけ、物が増えたかな。

 

靴を脱いで、家に上がる。しんとして静かな廊下を歩いて、どんどん奥に進んでく。

 

 

「……………」

 

「〜?」

 

「ん…」

 

 

一番奥の、ドアにネームプレートが掛かった部屋。私の名前が貼っつけられた、私の部屋だ。

 

この部屋に帰ってくるのも、同じく、久しぶり。長らくほっぽっちまってたし、埃とかすごいんだろうなぁ…。

 

 

「………あれ」

 

 

けど、中に入った私を出迎えた自室は、そんな思考に反して、すっげえ綺麗で、整頓されてて。

 

まるで、家を飛び出してったあの日から、時間なんて、然程経ってないように感じられた。

 

 

「……………」

 

「〜」

 

 

机、ベッド、箪笥。形を確かめるみたいに、近寄って指を添えて、ゆっくりとなぞってく。この家具達と離れてたのも、たった一年とかそこらの間だってのに、なんだか随分昔のことみたい。

 

なんだか、少し切ない。かも。

 

 

「〜?」

 

「あ、それ…」

 

 

机をしげしげ眺めてたシーが、卓上の目立つ部分に設置してあるものを手に取る。写真たてだ。

 

そんで、そこに写ってるのは…。

 

 

「お母さん…」

 

 

私の記憶の中にある姿と、全く変わらないお母さん。そのお母さんに抱っこされて、無邪気に笑ってる私。確か、小さい頃に出かけて、その時に撮った物だったはず。

 

神浜に来る前の、昔の記憶。一番楽しくて、一番輝いてたと思う時間の、その一部。それを切り取って、形にして…。

 

 

「…………」

 

「っ!?〜!?」

 

「っ…。なんでもない…。なんでも…」

 

 

もう戻らない。あの時間はとっくに思い出になっちまって、二度と帰ってこないんだって。それを、はっきりした形で、改めて見せられて。

 

それがなんか、すげえ心にキちまった。

 

自分の内側から、なんか登ってくるような感じがして。それが体から…具体的には、目の辺りから溢れそうになったけど。

 

でも、なんとか踏みとどまった。シーにも、心配かけちまったか。

 

 

「…行こう。さっさと…」

 

 

押し入れを開けて、奥からボストンバッグを引っ張り出す。昔、修学旅行用に買ったものだけど、ちゃんとあって助かった。

 

 

「……………」

 

 

箪笥から下着と、ついでに靴下、シャツなんかも多めに放り込んで、バッグを満たす。

 

これで、目的は達成した。これで、もうこの部屋に用はない。そして、この家にも。

 

内側に渦巻いてる気持ちを振り切るみたいに、勢いよく立ち上がる。服を詰めたバッグも忘れずに持って、二人して部屋から退出した。

 

 

「………………………」

 

「?」

 

「ん……。行こっか」

 

 

振り返って、ドアを閉めようとするけども。後ろ髪を引かれるような何かが、私の視線を自室に釘付けちまってる。

 

でも、ダメ。私はここに、居られないから。大切過ぎる思い出と、嫌な今が混ざり合ってる、この場所は。

 

私には、辛過ぎる。

 

だから、閉めた。蓋をするみたいに。まるで、見たくないものから目を背けるみたいにして、ドアを閉めて。そして家を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なにやってんだ。あんたら」

 

 

ドアを開けて、家を出て。最後にもう一回、自宅を見上げて。

 

振り切るみたいに背中を向けた、帰り道。

 

まだ実家の付近ってとこまで歩いたところで、先輩達と会った。しかもご丁寧に、チーム全員連れ立って。

 

 

「…赤さん、その」

 

「それに」

 

 

先輩達と、一緒に居る二人。その二人をはっきり認識することで、私の中に、嫌な気持ちが生まれてくる。生まれてきて、高まってくる。

 

なんで先輩達がここに、とか。まさかつけてきたのかとか、そんな疑問も、どうでもよくなって。

 

眉間に皺が寄っていくのが、はっきり分かった。

 

 

そんな私とは対照的に、目の前に居る人。小さい子供の手を握ってる、女の人は。

 

その顔をみるみる明るくさせて、涙目で嬉しそうに笑って。私のところへ、駆け寄ってきた。

 

 

「あぁ…!あぁ、良かった…!また、会えて…!」

 

 

私に会えて、さぞかし嬉しかったのか。そんなことは知らんけど、その女の人は、私のことを抱きしめた。

 

とっても大事そうに、強く、強く。

 

 

「っ!」

 

 

でもそれが、私のことを、もっと苛立たせて。

 

 

「離して」

 

「え、でも!折角こうやって…」

 

「離してって!」

 

 

抱き付く彼女を振り払って、肩を押して突き放す。少し。いや、結構、力がこもった気がする。

 

 

「あっ…」

 

「会いたくなかった。あんたとは」

 

「っ…!」

 

 

一言 吐き捨てて、早足で傍を通り抜ける。シーのやつが相手に食ってかかりそうになってたけど、視線で制した。

 

 

「…あのっ!」

 

「……………」

 

 

背中を向けて去ってこうとする私に、話しかけてくる。んだよ…。まだなんかあるってのかよ、え?

 

 

「あの!家に…上がったんですか?」

 

「あ?」

 

「入ったんですよね?お家に!一時的にでも、帰ってきてくれたのかなって…!」

 

「だったら、なに?」

 

 

本当なら、帰ってくる気はなかったけどな。なんでって、今みたいなことになるかもしれねーからなんだよ。クソ!

 

 

「なら…。なら!今は、それでいいんです。今は、それで…」

 

「…………」

 

「元気な姿のまま、あの家に戻ってきてくれた。私には、それだけでも」

 

「あーもう…!」

 

 

マジでなんだよ。なにが言いてーんだよ、あんたは…!言うだけ言って、自分だけ理解して、それで満足してんじゃねーぞ。不透明なのは嫌いだっつってんだろ!

 

 

「私が元気で、それで家に寄ってきて。だからなんなの?それがどうしたんだよ、あ?」

 

「っ………」

 

「拘るよなぁ、私に。毎回毎回、定期的にメールも送ってきちゃってさ」

 

「それは!だって…!」

 

「関係ねえだろ、なぁ。一緒にあの家に居たからって。でも、それだけだったろ。何かあったか?今まで!私達の間に!」

 

 

語気が、強くなっていく。それと一緒に、自分の家、自分の部屋で生まれた、あの嫌な気持ちもまた、どんどん強くなってくのを感じた。

 

 

「………子供を」

 

「ん。なんて」

 

「子供を気にかけるのは…当然ですよ」

 

「子供だぁ?」

 

 

そりゃなんだ。私がか?子供?誰の。あんたのか。冗談!

 

 

「バカかよ、それ。あんたの子供って。それは、そこに居るやつのことだろ!」

 

「でも…!でも、子供ですよ!あの人の…。私達の!」

 

「チッ!」

 

 

舌打ち。また、強くなる。広がってく。満ちていく。

 

嫌なもの。激しいもの。熱いものが。

 

 

「だって、そうでしょう?私達…。だって、私達は…!」

 

 

その中で、この人が次に、なんて言おうとしてるのか。それがなんとなく分かっちまった私は、もうダメで。

 

まさしくそれは、火に油。今にも爆発しそうだった、自分の中で膨らむもの。パンパンに張り詰めたそれが、とうとう。

 

 

 

「"家族だ"ってか」

 

 

 

爆発、しちまった。

 

 

 

「そ…そう、です。そうで」

 

「ふざけんじゃねえよ!!」

 

「っ!」

 

 

叫ぶ。溜まったものを、言葉と一緒に、吐き出すようにして。

 

 

「私、何度も言ったよな!?あんたを家族と思ったことなんかねえ。私の家族は、今はもう父親だけだって!!」

 

 

熱くなってく。頭も、心も。冷静さなんて、とっくの昔に無くしてた。

 

 

「紙っぺら一枚!式を挙げたから!同じ家に住んでます!そんなもんで、納得できるわけねえだろ!!」

 

「忘れたんなら、また言ってやる!!いいか!お母さんは死んだんだよ!!私の「家族」は、死んだんだ!!」

 

「お母さんは!あの人だけだ!!私の、お母さんは!!」

 

 

 

「あんたなんか!!母親じゃない!!!」

 

 

 

 

自分の中に渦巻くものの、残りを纏めて叫んでぶつけて、私は走り出す。

 

もう、嫌だった。ここに居たくはなかったから。

 

 

「赤さん!」

 

「うるせえ!!」

 

 

先輩の声も、すれ違い様に切り捨てて。

 

未だに荒れっぱなしの心のまま、全力疾走。何処に行くかは、分からない。

 

 

 

 

 

そのうち疲れて 日も暮れて、先輩の家に帰った時。

 

 

あの場に置いて、一言も発することなく佇んでいた、小さい子供。

 

お父さんと、あいつの間に生まれた子。

 

 

 

つまりは私の弟が、叫ぶ私を、心配するような顔で見てたこと。それをなんでか、思い出した。

 

 

 

 





マギレコ本編の出来事

・第一部 第5章 終了後


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第6章:真実を飾る過酷
6-1 講義のお誘い・特務流




このSSの今後の方針について、活動報告に書いておきましたので初投稿です。





 

 

 

 

マギウス、マギウスの翼の本拠地。ホテル・フェントホープ。特務隊の面々は、今日も今日とて、任務に勤しむ…

 

 

「あー、居た居た!みふゆさーん!」

 

「あら、えーと…。と…特務隊の」

 

「はい!特務隊です!」

 

「どうも…」

 

 

…わけでなく、今日は少し、事情が違った。その為に、彼女ら…というか、リーダーの白羽根は、部下達を引き連れ、纏め役の梓みふゆを探していたのだから。

 

 

「あの、みふゆさん!」

 

「え、はい」

 

「講義なんです!私達!」

 

「え、なん…?ちょっと唐突で…」

 

「あちゃー…」

 

 

自分達、羽根にとっての恩人。かつ、拠り所にしている者も多いみふゆに迫る自分達の隊長の姿を、だいぶ呆れた目で見る、黒羽根達。

 

順序立てて説明するということをしてほしいもんだと、溜息の一つでも吐きたい気分だった。

 

 

「ええと、順を追って説明していただいても…?」

 

「あ、はぁい!勿論!実はですね?」

 

「あー、隊長。隊長が出るまでもないっすよ。私らが代わりに」

 

「そう?悪いわね!」

 

 

『いえ…』と適当に返事をして、事の経緯を説明する、黒羽根達。この人はどうもズレてるというか、そそっかしいというか。

 

とにかくそういう人だから、これ以上変な言動で相手を困らせても困る。そう思って、自分達で説明しようと前に出たのだ。

 

 

「…なるほど。では、その魔法少女のチームの方々に対して、真実を打ち明けようと…」

 

「そういうことみたいですけど…」

 

「平和的に解決しようとするのは素晴らしいと思います。ですが…」

 

「ええ…」

 

 

言われて、自分達のリーダーをチラと見る、黒羽達。だが当の本人は、その視線の意味を察することができず、ニコニコと笑って、首を傾げるだけ。

 

今度こそ、溜息が出た。それも、全員から。

 

 

「私らも、なんか急じゃないかって、言いはしたんですけどね」

 

「真実を知って、解放の証を直に見ちゃえば、ウワサにちょっかい出して危険な目にも遭わない。あわよくば、こっち側に来てくれるかも。そういうことみたいです」

 

「そうですか。相手側のことも、考えてはいるんですね…うーん…」

 

 

みふゆは考える。彼女らが対立している、魔法少女達。話を聞く限りではマギウスにとって、なんら障害にはなり得ない。羽根達と同じ、弱い部類の魔法少女だと言えよう。

 

気が強い、威勢が良い子も居るようだが、そういう人こそ、実は精神的には脆かったりするもの。自分の古馴染のような、強い人には成れていない子かもしれない。

 

そんな少女達に、真実を打ち明け、自らの行く末を思い知らせる。それは、果たして上手くいくのか…?相手の心を、壊してしまうことになりかねないか…?

 

 

(…なんて。私が言えたことじゃあ、ありませんよね…)

 

 

そうだ。自分も今さっき、マギウス…アリナ・グレイと話して、古馴染の居るチームに、真実を知らせる。そう決めたばかりではないか。みふゆは少し、自己嫌悪に陥った。

 

 

「みふゆさん?」

 

「…あぁ、いえ。なんでも。しかし、貴女達も講義とは…。記憶ミュージアムが使えれば、話はより早かったんですけど」

 

「なんです、それ」

 

「他の部隊のやつらが話してるのを聞いたことあるわね!なんか、記憶に影響がどうのって」

 

「ええ。相手になにかを伝える。知ってもらうという点では、とても便利なうわさなんですよ」

 

 

はへぇ〜なんて特務隊の面々が関心してるところに、「ですが、間が悪かったです」と、話を続ける。

 

 

「実は、マギウスからの命がありまして。近いうち、そのうわさがある場所で講義を行う、と」

 

「へぇー、マギウスも講義を。偶然ですね!」

 

「私としては、貴女が講義という名目を出してきたことの方に偶然を感じますけどね…」

 

 

まぁ、それはいいとしてだ。そういうことなら、特務隊のお相手も、一緒に記憶ミュージアムへ放り込むという手もあるかもしれないが…。

 

 

「今回の講義は、相手が相手ですから…。皆さんもご存知ですよね。うわさの精力的な調査、排除を行っているチームが居るというのは」

 

「あー!なんでしたっけ?西のベテランが居るっていう…。えーと…むつみだかなんだか…?」

 

「ななみ。七海やちよですよ隊長」

 

「それよ!」

 

 

そう。みふゆが長きを共に過ごし、今は袂を分つことになってしまった、彼女。そして、彼女を含めた、複数人で構成されたチーム。

 

彼女らに散々損失を出されている自分達にとっては、今回決まった講義は、それを一気に解決するチャンスとなり得るのだ。

 

だから、どんなに小さく些細なものだとしても、イレギュラーになりかねない要素は排除しておくべき。みふゆはそう考える。で、あれば…。

 

 

「…分かりました。特務隊の講義の件、私はやってみていいと思います」

 

「本当ですか?やった!」

 

「ですが!くれぐれも慎重に。相手を無闇に刺激せず、双方落ち着いて、穏便に話を進められるよう配慮しながら…」

 

「分かってますって!特務隊ですから!んもーバッチリ!」

 

(本当でしょうか…)

 

 

この子達…というよりも、この白羽根の子。元気が良いのも、仲間への思いやりを持っているのもよろしいのだが、どうも猪突猛進な感じがするというか、いつでも勢いが良過ぎるのが、少し問題。

 

みふゆが特務隊の講義に関して懸念を感じているのは、そういう部分もあった。また、なにかやらかさないだろうか、と。先日も、アリナから借りた魔女を倒されたと聞いたのだし。

 

もっとも アレは貸した本人曰く、捕獲したはいいが、どう頑張っても自分の気に入るアートにはなれそうにないゴミだから、適当に処分するつもりだった、弱い個体だそうだが。

 

 

「さ!お許しも頂いたことだし。いくわよ!アンタ達!」

 

「ちょ、隊長!」

 

「じゃあ みふゆさん!アタシ達、失礼しますねー!」

 

「あ、はい…」

 

 

自分達の発案を後押しされ、やる気になった白羽根と、それに慌てて付いていく部下の黒羽根達。特務隊とは名ばかりの問題児達を見送りつつ、みふゆは切に願った。

 

 

(どうか、何事もなく、平穏に…。平穏無事におわりますように…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さーて、忙しくなるわねー!」

 

「ほんとにやるんですかぁ…?」

 

「たりまえでしょ!何の為に、あの時 魔力反応追ったと思ってんのよ!」

 

「めちゃくちゃ探し歩いたじゃないですか…」

 

「ほんっっとに、か細い魔力の残滓でしたもん…」

 

「めっちゃ神経使ったー」

 

「でも、その甲斐あって見つかったじゃない!奴らの根城!」

 

「そうですけどぉ」

 

 

先日、お邪魔虫達の一員と、何処かの廃ビルで一悶着あった時のことを話しながら、拠点の中をズンズン進む一行。

 

聞こえる言葉の大半はメンバーからの愚痴ではあるが、リーダーの白羽根にとってはいつものこと。慣れたものだった。

 

 

「で?アンタ!」

 

「え、私?…ですか」

 

「そ!頼んどいたわよね?招待状!」

 

「あー、あれですか…。それはまぁ、はい」

 

「ん!よろしい!」

 

 

招待状というか、まぁお手紙というか。とにかく、そういったものを、あの魔法少女達が集まる家に送っておいた。頑張って、住所や郵便番号も調べて。

 

なんか、お金持ちが住む家みたいな感じだったし、皆と話す時みたいな気軽さがあっちゃいけないかなぁ…なんて思って、畏まった文章を、彼女は頑張って書いてみたりもしたのだ。

 

…非常に慣れない書き方にとんでもなく苦労して完成させた甲斐あって、なんか変な感じになってしまったのは、ご愛嬌。

 

 

「ふふふぅーん…。いよいよ…いよいよだわ。とうとう決着をつける時が来たのよねぇー!私達と、あのアホたれ共の、長きに渡る因縁に!」

 

「言うほど長いすかね?」

 

「いや全然」

 

「遭遇したのも、数える程だしねー」

 

「言葉のあやよ!いいのよ実際の時間は!会えない時間で育まれたものだってあるでしょ!」

 

 

恋人か、夫婦かよ…。内心ツッコミぶっ込んで、それでもリーダーに付いて行く。それが彼女ら、特務隊。はみ出し者の、寄せ集め。

 

 

 

「さ、時間がないわ!具体的なプランを詰めていくわよ!」

 

『えー………』

 

「美味しいスイーツの食べられるお店で、ゆっくりと…ね!」

 

『隊長ぉー!!』

 

 

 

頑張る女の子達の、次の戦いが、今 始動した。

 

 

 

「あ、もちろん割り勘ね」

 

『クソヤロォー!!』

 

 

 

上手く行くかは、遥か空の彼方から見守る、彼女にだって知らないことだ。

 

 

 

 





マギレコ本編の出来事

・自分達と対立するチームみかづき荘への対処を話し合う、みふゆとアリナ。マギウス達は自分達のことを理解してもらおうということで、みかづき荘の面々に対し、「講義」を開くということで一致したらしい。真実を知った上で敵対する やちよだけはどうにかしろと言うアリナに対し、やちよのことをよく知るみふゆは、ちゃんと策を用意していた。



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6-2 赤くささくれ立って



キモチ戦を頑張っているので初投稿です。





 

 

 

 

お母さんが死んでから、お父さんは元気がなくなった。まだ小さい子供だった私は、お母さんを失ったショックで、ずっと泣いてた。

 

お父さん、自分も辛かったはずなのに。毎日泣いてばっかの、私の面倒も見てくれて。

 

それからなんとか、二人で過ごして、精一杯やってきて。

 

年月が過ぎた、とある日のこと。飯を食いに出掛けたら、知らない女の人を紹介されて。それが、お父さんの新しい恋なんだって、分かった。分かっちまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、いいですか?」

 

「……………」

 

 

昼休みに廊下をブラついてる私を、教師が呼び止める。担任だ。私のクラスの。

 

 

「えっと、あなた…なにか、あったの?」

 

「なんすか、なにかって」

 

「連絡、来たから。えっと…親御さんから」

 

「………」

 

 

「親御」。親ね…。担任の言葉を聞いて、自分ってもんの内側が、一気に波立って、荒れていく。

 

先生はただ単に、自分の仕事をしてるだけなんだろうけど。でも、すごくムカついてきたよ。私。

 

 

「すごい心配してたっていうか、よろしくお願いしますー!って、念押しされたんだけど…」

 

「はぁ」

 

「だから、何かあったのかなって。喧嘩したとか、もしかしたら、家出とか…なんて」

 

「………」

 

 

「まさか、へそ曲げた小学生じゃあるまいし。ねぇ?」なんて、目の前の教師は笑う。冗談めかして言ったことなんだろうな。

 

すげーな、先生ってのは。ドンピシャだ。正解だよ。言わんけど。

 

 

「それで」

 

「え?」

 

「あっちが電話してきたから。私になんかあるのかもしれないから。それだから、なんだってんすか」

 

「いや、それはさ?」

 

 

それは?なによ。

 

 

「それは、ほら。なにか良くないことになってるなら、謝るとか、仲直りするとか…」

 

「ふーん」

 

「ふーんて。なぁに、そんな態度で…」

 

「はいはい。すんませんね」

 

 

適当に返事して、担任に背中を向ける。これ以上話をしても、時間の無駄。さっさと離れさせてもらう。

 

 

「あ、ちょっと、話を…!もう…」

 

「………」

 

「人生、いつ何が起こるか分かんないし、親だって何時までも居てくれないんだから!ちゃんと仲直りしなさいね!」

 

「……………」

 

 

もっともらしいこと言ってくれてさ。ああ、そうだろうな。先のことは分からない。親は先に居なくなる。そりゃそうだろーよ。

 

でもね。私はもう、それを経験してるわけ。何年も前に思い知ってんだ。今更それ、指摘するってかよ、私に。

 

そりゃどうも。だったら礼でもくれてやる。

 

 

「チッ!」

 

 

でっけー舌打ち。精々ありがたがってよね。腹ん中ボコボコ煮えたぎってる私から、精一杯の感謝の気持ちだ、クソ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

「それで。今度庭に、別の花を植えようと思って」

 

「いいですわね。ちょうど、時期のものもあることですし」

 

「んー、でももう、けっこうキレーじゃね?カダン」

 

「誰が世話してると思ってんですかぁ」

 

 

いつもの日。いつもの放課後。そしてまた、いつものように我が家に集まる、チームメイト。私が言うのもなんですけれど、他にやることありませんの?貴女がた。

 

まぁ、どっちでもいいんでしょうね。あろうと、無かろうと。ここに集まって、女同士、話せれば。内心そう考えながら、紅茶を飲んだ。

 

 

「そんでさーあ?そん時コボしちゃったの、アタシが!」

 

「そう、なんだ…」

 

「そー!やー、もう、そんで赤ちんがまた怒るわけよ、服にぶっかけちゃったから!ね?」

 

「……………」

 

「あれ。赤ちーん?」

 

 

楽しそうなマジ子さんが話を振るけれど、赤さんは何も反応を示さない。

 

どうも先程から、この場に居るのに、彼女だけ私達と隔絶されているような。そんな雰囲気が感じられている。

 

 

「はぁ…!」

 

「あ、ちょ。どこ行くんさ、赤ちん」

 

「何処でもいいだろ」

 

「あ、トイレ?」

 

「くたばれ!」

 

 

乱暴に吐き捨てて、私達から離れていく。なんでしょう。今のはこう、少し怖かった。いつも言葉の中に含まれているような、暖かみのようなものが感じられない。

 

前までは、乱暴な言葉でさえ、それはあったのに。

 

 

「〜」

 

「あーもう…引っ付くなって…!」

 

「〜!」

 

「やめろって…!うっといなぁ!」

 

 

赤さんを追いかけて、構ってもらおうとするシーさん。見慣れた光景のはずなのに、赤さんは本気で煩わしいと思っている。

 

でなければ この光景、こんなにも気まずさを感じるものになってはいないでしょう。今までずっと、なんだかんだと仲の良さげな雰囲気だったのですから。

 

 

「………なんか」

 

「分かりますよ、年長さん」

 

 

人間、ここまで変わりますか。まだ齢17の私でも、心の動きというものには驚かされるばかり。というか、これ…

 

 

「やっぱり、原因って…」

 

「うん。先日、の…」

 

「でしょうねえ」

 

 

分かっている。分かってはいるのです。だからこそ困る。デリケートですわよ、こんなの。

 

 

「はー…」

 

 

ため息を吐いて、思い出す。幾らか前に起こったこと。赤さんが不機嫌なままになってしまった原因であろう、あの日の出来事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この前のこと。赤さんの下着のストックが尽きてしまったということで、彼女は外へ出て行った。この家ではない、元々住んでいるという家へと。

 

私としては、待とうと思った。コンビニに買い物へ行くのと同じ…ではないにしろ、言ってしまえば、ただ出掛けただけなのですから。

 

 

『ね、ね!追っかけてみない?赤ちん!』

 

 

けど、我がチームの誇る元気印は違ったらしく。私達の注目を集めて、そんなことを言い出した。

 

そんな、わざわざ尾行するようなことをしなくても…。私はそう返したのですけどね。

 

 

『えー、気にならんの?みんな。赤ちんのスジョーとか、スガオとか』

 

『アタシたち、チームじゃん!もっと知ってこーよ、おタガいのことー!』

 

『てか先輩、いっぺん赤ちんのリョーシンにアイサツしとかないとじゃね?えーと…アレ!ホゴシャみたいなもんじゃん?』

 

 

こう言われては、まぁ、一理あるというか。最後のものは、特に。

 

前に何故家に帰らないのかを聞いて以来、踏み込むのは避けて来ましたが、家を預かる者として、そこは通しておくべき筋。

 

だから、結局は皆で追いかけた。遠巻きに、見つからないように。そこそこにゆったりと。

 

 

『こんにちは』

 

 

そうして、新西区に入ってしばらくした辺りで、赤さんがシーさんを伴って、一軒のお宅に入って行ったのを見て。

 

これからどうしようかと話し合おうとしたところで、挨拶されて。そして、あの人達と出会ったのだ。

 

 

『なんだか、大所帯なんですね』

 

『まぁ、はい』

 

『………』

 

 

柔らかい物腰と、穏やかな雰囲気。朗らかな笑みを顔に浮かべた、あの女性。そして彼女に連れられた、一言も発さなかった、小さな男の子と。

 

 

 

そこから少し立ち話をする内に、その女性がどうやら、赤さんの母親だということ。そして、連れていた男の子は、その人の子供……要するに、赤さんの弟さんだということが分かった。

 

 

『オトートくんかぁー…。こんにちは〜。やっほやっほー』

 

『……………』

 

『…隠れちゃった、ね…』

 

『すみません…。この子、少しだけ人見知りで』

 

『あー、いっすよゼンゼンそんな!だいじょぶっす!』

 

 

こんな一幕があったのは、まぁ置いておくとして。

 

 

『それで、その…貴女が…』

 

『ええと、はい。赤さん…じゃない。あの子を、私の家に保護しているというか、住まわせているというか…』

 

『そう、なんですね…。ごめんなさい、ご迷惑をおかけして…!』

 

『いえ、そのような!むしろこちらこそ、娘さんを家に帰すこともせず、ご心配を…』

 

 

私達の用事が、赤さんにあると分かった時の女性の慌てようときたら、それはもう激しいもので。

 

「あの家に入っていった」と、マジ子さんがとある家屋を指差したところから始まり、必死そうな表情で、「黒い髪じゃなかったか」、「背丈が低い子じゃなかったか」等々、赤さんの特徴を次々と挙げて…。

 

 

『でも、よかった…。あの子に、こんなに沢山お友達が出来て…!』

 

『彼女、全然人を寄せ付けないといいますか、いつも独りだったから。私、ずっと心配だったんです…』

 

 

どうにか落ち着かせると、その後はとても安堵して、心底安心したような顔を見せていたのを覚えている。

 

家から出て行った後も連絡は送り続けていたけれど、今まで一度も返事が返ってこなかった為に、尚更に不安だったと言っていた。

 

だからこそ、この前の帰宅が本当に嬉しかったのでしょう。たとえ、止むを得ずという形の、一時的なものだったとしても。

 

 

『あの。本当に心配なのでしたら、私の方から説得して、お家に帰すこともやってみますけど…』

 

 

なんにせよ、赤さんは一度、家族ときちんと話し合う場を持つべきなのでは。そう思って、そういう提案もしてみたけれど…

 

 

『それは……その。難しいと思います…』

 

 

彼女からの返答はこうだった。あんなに必死になるほど、赤さんを心配していたのに。

 

 

『えー、なんで!?家族なんしょ!?一緒に居たほーがよくない?』

 

『私が一緒に居たくても、あの子は…。それに…』

 

 

家族なら というのはともかくとして、未だ庇護の下にあるというなら、そうするべき。学生の身で、寮に入っているだとか、私や年長さんのように、自分から一人暮らしを選んでいるだとか、そういうのではないのであれば。

 

私も、チームの皆さんも、同じような感想を抱いていたはずです。けど、事はそう簡単ではなくて…

 

 

 

『だって、私…。あの子の本当の母親じゃあ、ないですから……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ふぅ…」

 

 

振り返ってみると、改めて 一筋縄ではいかないと感じる。母親は母親でも、まさか義理のお母様だなんて。そりゃあ、溜息の一つ 二つ、出ようというものでしょう。

 

 

「ほんとのお母さんじゃないって、どんな感じなんだろ…」

 

「さぁ…。でも」

 

「ん…?」

 

「赤さんが、家出した私をしきりに説得しようとした理由は、分かった気がします…」

 

「それって?」

 

「自分はもう、血の通った家族を失くしちゃってるから。だから、出来るだけ仲良しで居られるようにとか、そういう」

 

 

「知りませんけどね」っておチビさんは続けるけど、きっと、そうだったと思う。家族の大切さを知っているから、自分のような目に遭ってほしくないから。そんな思いがあったはず。

 

それくらい大事だったのでしょう。大好きだったのでしょう。亡くなってしまった、産みのお母様のこと…。

 

 

「…再婚って…。どうなの、かな」

 

「どう、とは」

 

「どっちか、居なくなって。それで、片方が知らない人になって…。そういうのって、どんな気持ちかなって…」

 

「そりゃー、さー…」

 

「自分達の親がどっちか死んで、残った方が別の人を好きになって…」

 

「もしかしたら、その方が家庭に入ってくるかもしれない。その方との間に、新しい家族が誕生するかもしれない…」

 

『……………』

 

 

それを、赤さんはこれでもかというほど味わっているわけで。そう考えると、言葉が出ない。

 

彼女にも非があることは分かる。辛いだろうけれど、このまま家族から逃げていて、あの子の為になるのか?ということも…。

 

けれど、何故だろう。面と向かって、そういった言葉をかける気にならない。それが正解なのかと、疑問に思って動けない自分が居る。

 

 

「なんとか、ならないのか…な…?」

 

「難しいですよ。そんな…」

 

「あの女の人、いい人だったじゃん?なかよくすんの、そんなムズいかなー…?」

 

「………」

 

 

あの女性と、赤さんの父親と。良い出会い方をしたらしいことは、女性本人の口から聞いている。

 

一緒に居ると気が楽で、たまには揉めることもあるけれど、共に生きていけると、互いに思えるような人だと。

 

心を止められないのが人という生き物の性だというなら、二人してそうやって惹き合う思いも、頭や理性では阻めないのでしょうから。

 

 

(でもそれが、周囲に良い結果をもたらすとは限らない、か…)

 

 

赤さんは、その「周囲」の中に居たと。赤さんだけが反発しているのだから、むしろ、彼女しか居なかったということなのか。やり切れない気持ちを、吐き捨てる場所も無いまま。

 

 

(あの男の子は、大丈夫でしょうけど…)

 

 

あの場に居て、最後まで一言も発することのなかった、小さな男の子。まだ幼い、おチビさんよりも低い年齢の、赤さんの弟。

 

 

『ねえ。お姉ちゃんのこと、好き?』

 

『………』

 

『お姉ちゃんのこと、大事?』

 

『………』

 

『一緒に遊んだり、お話したり…。そういうこと、したいんだ?』

 

『っ………』

 

 

家から出てきて、家族と話して。終いには怒りを爆発させて、赤さんは去って行ってしまった。私の静止も、乱暴に切り捨てて。

 

その後に、弟さんに聞いたのだ。お姉さんのこと。赤さんを、どう思っているかを。思いきりしゃがんで、彼としっかり、目線を合わせて。

 

結果、首の動きだけとはいえ、質問の答えは全て肯定だったのだから、弟さんは赤さんを好く思ってくれているのだ。そう信じたい。

 

だから、彼はきっと大丈夫。

 

 

「………やっぱり、ダメ…!」

 

「うわ、ビックリしたぁ!」

 

「ダメって」

 

「このままって、いうの…。ダメ…!私、どうにかしてみる…!」

 

 

肝心の赤さんは、如何したものか…。悩み始めたところに、年長さんが急に、勢いよく立ち上がる。マジ子さん程ではないけれど、私も少し驚いた。

 

 

「え、なに。何すんの年長さん」

 

「赤ちゃんのとこ…行く。説得、してみる…から…!」

 

「いや、今の赤さんにそんなことしても…あー…」

 

 

やる気になったらしい年長さんに、おチビさんの声は届かず。いやに堂々とした足取りで、リビングを出て行った。

 

 

「いいん?なんか、行っちゃったけど…」

 

「んん…。よくは、まぁ、ないですけど」

 

「そもそも、今日ってまだ本題入ってませんよね?」

 

「ええ…。これについて、話し合おうと思っていましたのに」

 

 

学校から帰宅した時。ポストに届いていた、この 一通の手紙。

 

テーブルに乗ったそれを手に取って眺めながら、内容と、これを送り付けたであろう人物達について、考える。

 

 

「おテガミじゃん。ダレから?」

 

「翼ですわよ、翼。ほら、マギウスの…」

 

「あー…」

 

「しかも、いつもの特務隊」

 

「うわー…。で?どんなやつなんです。中身」

 

 

中身…中身ですか。まぁ、御丁寧に便箋に入っているのですから、それは当然、何かしらが記された紙が入っているわけで。

 

ただ、そこに書かれていたものが問題というか。丁寧なんだか、フランクなんだか。文面がチグハグで、不慣れだったのが丸分かりだった。

 

書き損じた部分が多いのか、黒線や塗り潰しが、そこかしこにありましたし。

 

 

「なぁんか、講義がどうとか書いてありましたけど…」

 

「講義ぃ?」

 

「コーギー?え、ワンちゃんがどしたん?」

 

「おバカさん」

 

 

 

マジ子さんの一言と、リビングに続く廊下から聞こえてくる、怒ったような赤さんの声。

 

ほうら、言わんこっちゃない…。どちらも困ったものですわ。

 

 

そんなふうに呆れかえって、私はまた、溜息を一つ吐き出した。

 

 

 

 





マギレコ本編の出来事

・みかづき荘へと訪問してきたみふゆと、外へ出て 二人だけで話したやちよ。みふゆは去り、みかづき荘へと戻ると、いろは達に心配される。
「もういちど勧誘された」「気分が悪い」と自室へ引っ込んでしまったことで、いろは達が日頃のお返しにと買ったお揃いのコースターは、また日を改めて渡すことに。
やちよ抜きで夕食を摂る中、みふゆは本当にやちよを勧誘しただけなのか…と疑問を抱くいろはだった。


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6-3 講義当日



夏イベ開催中なので初投稿です。





 

 

 

 

お父さんが、また恋をしたこと。それ自体を否定したりしない。だって私の父親の前に、人なわけじゃん。男じゃん。女の人くらい、好きになるよ。

 

でも どうしても、モヤモヤした気持ち、止められなかった。お父さんとあの人が、どんどん仲良くなっていくのを見てると。

 

あの女の人は良い人で、優しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………はぁ」

 

「………」

 

 

夜。自室に篭る私は、もう何回吐き出したかわからないため息を、また一つ吐いて。

 

でも、治まらない。晴れてなんてくれなかった。この内側に抱えっぱなしのモヤモヤも、イライラも。全部。

 

 

「………っ」

 

 

本当は、自分が悪いことしてるって分かってる。誰も彼もに辛くあたっちまってるのは、私だから。

 

だけど、しょうがないじゃんって。腹立ってんだぞって、そういう気持ちのがデカいのも事実で。

 

 

(なんだよっ クソ…!)

 

 

やり切れないから、ベッドに八つ当たりの拳骨。ボスッ ボスッて音が鳴る。何時だったか、前もこんなことしたっけ。そんなどうでもいいこと、考えた。

 

 

「〜」

 

「………んだよ。お前」

 

 

私に思うとこでもあるのか。シーがこっちに寄ってきて、くっ付いてくる。柔らかくて、良い匂い。だからなんだっつー話。

 

 

「やめろよ…」

 

「〜」

 

 

鬱陶しいな。よせって、そんな。離れてよ。

 

 

「〜!」

 

「やぁ…!だから、やめろって…」

 

 

何回も押し返しても、何回もくっ付く。なんだよ。暑苦しいんだってば…。

 

 

「〜…」

 

 

シーのやつ。離れてくれないどころか、そのうち頭まで撫でてきやがる。なんのつもりか知らないけど、それは今の私にはムカつくことで。

 

 

「!!」

 

「〜!?」

 

「やめろってんだろ!え!?」

 

「………」

 

 

だから、無理矢理引っぺがしてやった。思いっきり力入れて、突き放してやったんだ。

 

 

「なんださっきから…。なぁ?」

 

「………」

 

「なにが撫で撫でよ?なんのつもりなんだよ、あ!?」

 

「〜………」

 

「んだよ、その顔さ…!」

 

 

無駄にしんみりした顔しやがってさ…。何がしたいわけ、私に対して。………まさかとは思うけど。

 

 

「なに。同情でもしてるわけ?」

 

「………」

 

「憐れんでんの?それか、慰めてるとか?」

 

「〜!」

 

「や、いいんだわ別に。なんだろうがさ。そんな」

 

 

そう。なんでもいい。ていうか、どうでもいい。イライラし過ぎて、なんもかんも些細なことに思えてきちまう。今の私には。

 

 

「一丁前に真似事ってわけ。人間の。馬鹿らし…」

 

「?」

 

「わかるわけないじゃん。人の気持ち」

 

「……」

 

「人じゃないんだもん、お前。なぁ?」

 

 

そうだよ。お前はウワサ。いくら見てくれが良くたって違うんだよ、私らとは。そんなやつがさ。

 

 

「人でもないやつが、人の心配するってかよ…。バカにすんな…!」

 

「〜!?」

 

「わかんのかよ!人間のこと!私のこと!人のなりしてるだけのお前に!」

 

「〜!〜!」

 

「ほら、またそうやって唸るだけだろ!?やらねーよ、人間なら!」

 

 

別に 分かってほしいとか、そんなんじゃない。慰めとか、励ましとか、そんなのもいらない。余計腹立つだけ。

 

じゃ、こうなるだろ。それなら私だってキレるわそんなん。やめろってのに、そうしないってんならさ。え?おい!?

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

私もシーも、どっちもだんまり。私に散々怒鳴られて、やつの顔はかなり沈んでるように見えた。そういう表情をしてるってこと。

 

 

「〜………」

 

「…わかったろ。キレてんだよ。だから、私のことはほっとい…」

 

「〜!」

 

「だあっ!?」

 

 

流石に懲りたろ。そう思ってた私を押し倒すみたいにして、シーが飛びかかってくる。二人してベッドに勢い良く倒れ込んで、スプリングの軋む音がした。

 

 

「なにすんだっ…!やめろ、どけ…っ!」

 

「〜!〜〜!」

 

「あーもう、馬鹿力!」

 

 

どうにか拘束から抜けようとして 体を捩ったり、思いっきり力入れて、シーを押したり。でもダメ。こいつの方が力が強い。

 

 

「〜!」

 

「ぶえっ」

 

「……………」

 

「…………なんだよ」

 

 

しかもこの女、人をひっくり返すだけじゃない。顔、ガッチリ掴んできやがった。んだよ。ブニッてなってんだよ、ほっぺが。

 

そんでそのまま、ゆっくり顔近づけてきてさ。真っ直ぐ私の目ん玉ガン見しやがって。今度はなに企んで………あぁ。

 

 

「なに。キスでもするって?」

 

「…………」

 

「最近ご無沙汰気味だったもんな。そんでこんなことすんだね?口で反撃できないからって」

 

「…………」

 

 

いいよ。したいならしなよ。すれば満足すんだろうが。あ?

 

どうしたよ。ほら!しなってば!

 

腹が立って、自分以外の誰かがすることなんか、どうでもいいって。そんな風になってる私は、そう思ったんだけど。

 

 

「〜………」

 

「………………あ?」

 

 

でも、来なかった。何回か体験した、あの熱くて、柔らかくて、なんか甘いような感触。あいつの唇が押しつけられる、アレ。

 

それをやらないで、シーはただ私を強く抱きしめるだけだった。いつもの唸り声も無いままで、頭を撫でながら。

 

 

「なんなの…ほんと…」

 

「………」

 

「ほんと……腹立つ…」

 

 

シーの本意だの真意だのも分からないまま、こっちに寄り添うみたいに優しくされて。そんなの気に食わない。イライラするんだよ、こんな。

 

 

「ふざけやがってさ…」

 

 

けど、上からかかる体重と、伝わってくる体温。一定の間隔で、私の頭を撫でてくる手。それらのせいか知らんけど、なんかどんどん眠くなってきた。

 

相変わらず腹は立ったままだけど、それでも身体は正直なのか。気付けば私は寝ちまったみたいで、いつのまにか朝だった。

 

 

あの人の夢を見たせいで、寝覚めは最悪だったけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

休日が訪れた。

 

いつもなら何かと集まってしまう我がチームと言えども、お休みくらいは、各々好きに過ごすのですが。

 

まぁ、今日だけはそうもいかないでしょうね。なにせ…

 

 

「これ、ですわよねぇ」

 

 

テーブルの上にある、一枚の手紙。マギウスの翼の特務隊から届いたそれを手に取って、軽く息を吐く。

 

 

「とりあえず、あのマギウスの人達が言うにはその、講義ですか?それの当日なんですよね?今日」

 

「ええ、まぁ。そう書いてはありましたが」

 

 

だからこうして、わざわざ皆さんには家に集まってもらって待ってるんですけれど…。

 

 

「来ないねー。レンラクもないしさー。もうゴハンも食べちったよ?」

 

「んー…」

 

 

今日のお昼は、豚丼とサラダ、そしてワカメとお豆腐のお味噌汁。勿論、年長さんお手製。とても美味しゅうございました。

 

ま、それはいいとして。

 

 

「来る…の、かな?ほんとに…」

 

「いやまぁ、時間にルーズなだけかもしれませんが」

 

「ちょっと見せてくださいよ、手紙」

 

「いいですけど…」

 

 

はい どうぞって、おチビさんに渡してあげる。受け取った彼女は早速、手紙を読んだけれど。

 

 

「……あえぇ?」

 

 

なんとも形容しがたいリアクション。もうちょっとお上品になさりなさいな、貴女…。

 

 

「なに、書いてあるの…?」

 

「あー、アタシも見たーい!」

 

 

興味を持ったお二人が、おチビさんに寄って一緒に手紙を見始めるけど、結果は同じ。「なんじゃこりゃ」っていうお顔。

 

まぁ、無理もないとは思いますけれど。だって…

 

 

 

 

拝啓

 

暖かいんだか寒いんだかよくわからん候

 

邪魔者共お邪魔虫の皆様に置かれましては ますます調子こいてる絶好調のこととお喜び申し上げます。

 

平素はひとかたならぬご高配?をなんかアレして、すごい感謝じゃねーや厚く御礼申し上げます。知らないけど。

 

さて 早速ではございますが、これまでの鬱憤、屈辱への憤怒の意を込めまして、次の休日、私ども特務隊におまえら皆様方への講義を開催させていただきたく存じます

 

あの、もしアレだったら皆でお迎えに上がりますんで、マジ逃げないでくださいお願いします何でもしますから!

 

敬具

 

 

 

 

……あんな内容ですもの。本当、思い出すだけでうわぁって苦笑い出ますわね、あの手紙…。

 

不慣れなのなら、畏まった内容になんて無理にすることありませんのに、もー…。

 

ぐっちゃぐちゃですわよ、文章。最後なんて、面倒くさくなったのか砕けっぱなしでしたし…。

 

 

「これは…」

 

「バカみたいですね」

 

「バッサリ!」

 

 

まぁ、致し方なしですけども…。せめて時間帯までは指定して頂きたかったところ。

 

 

「とりあえず、いいの、かな?待ってれば…」

 

「ムカえに来てくれるんしょ?車かな?黒ヌりの高いヤツ!」

 

「そんなわけないでしょ。金持ってなさそうですもんあの人ら。そもそも未成年ですよ?リヤカーが精々です。リヤカー」

 

「それもそっかぁー」

 

 

しれっと失礼ですわね貴女方…。いやまぁ、私達と同じような年頃なんですから、金銭面に関しては当然ではありますが…。

 

 

「でも、罠って可能性もありますよね?」

 

「え、そうなん!?」

 

「まぁ、敵対関係ですし。こうやって油断させといて、ここに奇襲をかけてくる気かも…」

 

「え、でも…近所の目、とか…。騒いだら、流石に…」

 

「それはほら。家に来るだけ来て毒ガス撒くとか」

 

「テロリストじゃないんですから…」

 

 

…いや、割とテロ染みてはいるんでしょうか。多かれ少なかれ、一般人にも被害は出ているのでしょうし。

 

しかし、罠ですか…。んー。

 

 

「ねー、どー思う?赤ちん」

 

「……………」

 

「あれ。ねー!赤ちーん?」

 

「……………チッ」

 

 

マジ子さんが意見を求めるけれど、私達から離れたところに座る赤さんは、不機嫌そうに舌打ちをして終わり。何も答えない。

 

話しかけるなという雰囲気をひしひしと感じます。ここ最近の荒れようが、更に酷くなっているような…。

 

 

『ねー…なんか機嫌悪い?』

 

『赤さんですか?見りゃ分かるでしょ』

 

『そーだけどさー』

 

『会話、してくれない…私達と…』

 

『ええ。それに、その…』

 

 

顔を見合わせた私達は、彼女を刺激しないようテレパシーに切り替え、会話続行。少しおっかなびっくりで、赤さんの方をチラッと見る。

 

正確には、赤さんから少し離れて座る…いえ、遠ざけられていると言った方がいいのか。

 

とにかく、そんなシーさんに目を向けた。

 

 

「〜………」

 

「……………」

 

 

赤さんの近くに居るけれど、不機嫌さを隠そうとしない彼女に近付けない。近付けさせてくれない。そんなふうに見える。

 

だってシーさん、目に見えてしょげているんだもの。

 

いつもならペタペタとくっ付いていって、赤さんが満更でもなさそうな感じで、照れ臭そうにして。そんな感じだったのに…。

 

 

『……なんか、ヤな感じ』

 

『それは赤さんが、という?』

 

『んーん。違くて…』

 

 

では、何が嫌なのか。続きを促したけれど、マジ子さんは上手く言葉にできないようだった。

 

けど、私には分かる気がした。赤さんの態度がという話ではない。いや、それもあるけれど。

 

雰囲気と言えばいいのか。空気。私達チームの間に、不穏なものが漂い始めているような。そんな感覚。少し、不安を感じているということ…?

 

 

『まぁ、とりあえず置いておきましょうよ、キレた若者は』

 

『え…チビちゃん若い…一番…』

 

『ん〜…じゃ、さ。とりま、備えとく?』

 

『備え』

 

『だってワンチャンさ、ワナかもなんでしょ?だったらアタシらもー』

 

 

そうやって、マジ子さん達が別の方向へ話題を切り替える中。

 

私は何故だか、赤さんに対して少し、物申したい気分になってしまっていた。「抱えているものがあるのは分かる。けれど、そこまで露骨に態度が悪いのはどうなの」って。

 

何故赤さんの機嫌がより悪くなったのか、私は知りもしないのに。そこまで苛立つくらいなら、一緒に居る私達に、愚痴くらいは吐き出してしまえばいいのにって、そう思ってしまって。

 

 

それが、彼女に抱いた苛立ちなのだということを理解するのは、まだ少し後の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん〜…」

 

「どう?なんか見える〜?」

 

「とりあえず寛いでっけど。お菓子とか食べて」

 

「マジかぁ〜。私らもなんか買ってくりゃよかったかなぁ」

 

「飴ならあるよ?サイダー味」

 

 

神浜市、某邸宅。その周辺に陣取って、遠巻きに様子を伺う、マギウスの翼。その特務隊の面々。

 

一人が双眼鏡で、邸宅の中の様子を確かめつつ、仲間とああでもない こうでもないと話す。

 

時刻は現在、正午の辺り。彼女らは自分達の言う講義を行うべく、敵対する魔法少女のチームの根城へとやってきていた。

 

 

「どう?様子は」

 

「隊長」

 

 

そうして、敵状を遠くから見やる黒羽根達の元へ、リーダーの白羽根がやってくる。何故いつまでも迎えに上がらずにこんなことをしているのかと言ったら、彼女を待っていたからなのだ。

 

 

「我らの邪魔を散々してくれた赤いイレギュラー共は何処?」

 

「あー、はぁ…。あちらの、お宅の中に」

 

「ご苦労。後は私がやるわ」

 

 

現れてそうそう、やる気満々で宣言する白羽根。部下の黒羽根達といえば、「え、なにこの人いきなり」という目で、自分達のリーダーを見つめた。

 

 

「…えーっとぉ。隊長自らが?」

 

「これ以上貴女達に犠牲が出ちゃあ困るものね」

 

「はい?」

 

 

犠牲ってなにさ。いつ、誰がそうなったの?相も変わらずフルメンバーなんすけど。え、なに。この人ついにおかしくなったの?いや、元からだったわ。

 

そんな、呆れつつも冷ややかな視線で、のしのしと勇んで敵地に乗り込むリーダーを見送った。

 

 

「流石だぁ…」

 

 

部下の内、誰かがポロッと漏らした、皮肉だった。

 

 

 

 

中々に立派なお宅へと乗り込んでいった白羽根の、およそ年頃の乙女とは思えない絶叫が聴こえてきたのは、それから間もないことである。

 

 

 

 

 





マギレコ本編の出来事

・講義の会場である記憶ミュージアムが、神浜記録博物館という、既に使われていない施設にあるのではと当たりを付けたいろは達。相変わらず冷たい態度のやちよに対し、行き先だけは伝えて、目的地へ出発。
みかづき荘に一人残ったやちよは、「気をつけてね」と、心配そうに呟いていた。



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6-4 講義開始



ついに第2部が完結するので初投稿です。

マギレコ5周年おめでとう(激遅)


 

 

 

 

正直に言って、私は嫌だった。あの人が家に居るってこと。

 

だって、そうじゃん。いきなり知らない人が出てきてさ、自分の父親とベタベタしてんだよ?ワケわかんねーだろ、そんなのさ。

 

でも、あの人が悪いことしたわけじゃないから。その辺が分かってる私は、何も言わなかった。ただ、ひたすら避け続けただけで。

 

そのうち お父さんとあの人は、結婚した。

 

祝福だのなんだのなんて、私はしなかった。

 

私だけが、しなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの〜………」

 

「……………」

 

「やっぱね?こういうの良くないと思うの、私。ねえ?いきなり縛り上げて複数で取り囲んで、みたいなね。こんな…」

 

「……………」

 

「…なんか言いなさいよ…!」

 

 

テーブルがズラされて、ちょっと広くなった感じのするリビング。その中央に座らされて、しかも縛られてる、白いやつ。

 

ついさっきこいつはこの家を訪ねてきて、そんであっつー間にこのザマ。玄関から引き摺られてきた辺り、マジ子達に盛大に歓迎されたらしい。私は現場を見てないから知らないけど。どうでもいいわ、そんなの。

 

 

「ねー、ちょっとぉ…」

 

「ウンバボー」

 

「もへもへ」

 

「ぷひっぷー」

 

「ちょ、やめてくれる!?奇声とか!怖い!」

 

 

イミフな鳴き声上げながら、白いのの周りをウロチョロしてる先輩達。盆踊りでもやらないような、ふざけた動き。なに、なんか意味あるわけ?その小躍りは。頭もなんだそれ。紙袋かぶって。顔みたいなの描いてんじゃねーぞ。

 

つって、それに関心もなにも無い私は、そのうち目線を外した。あいつらが何しようが知らねーよ、そんなの。

 

 

『ねえ、ちょっと!やっぱり恥ずかしいですわよこれ!?』

 

『なぁんでぇ!キいてるってマギウスの人に!』

 

『怖がってるだけなんですよね。はーもう…』

 

 

第一、聞こえてんだよ。テレパシーで話してんのが。うるせーの。

 

 

「ぬひぬひー」

 

「ぷるとっぷ」

 

「ねーもうほんと不気味だからやめて…。ていうかなに?何目的なのこれ」

 

「いや、マジ子さんが罠かもって言いますので…。こうして対策を」

 

「あの、急に正気に戻るのやめてもらっていい?」

 

「えっ。あ、はい。すみません…」

 

 

そもそも、白いのは何しに来たわけよ。先輩らはなんか、手紙に講義がどうのとか言ってなかったか?知らんけど。

 

つーかなにが講義だよ、アホらし。お勉強をやらせたいなら教壇にでも立ってろ。オメーらに教わることなんて無いっつーに…

 

 

(……あぁ、そっか)

 

 

今の無し。やっぱあるわ、教えてもらうこと。

けど、こいつらアホの羽根共からペラペラ講釈垂れてもらうってのは癪だな?え?

 

主導権はこっちが握って、その上で懇切丁寧…思っくそわかりやすく話してもらわなきゃ。そうだろ。

 

 

「………うっぜ」

 

「〜……」

 

 

さっきからこっちガン見しやがる 鬱陶しいウワサ女に愚痴ってやって、ソファから立ち上がる。

 

あぁ、そうだ。ついでにこいつのことも聞かなくちゃな。そう考えながら、ふん縛られた白いのに近付く。

 

 

「アンタね、縛るにしてもなによこれ。ビニール紐じゃなくてもっとちゃんとした…」

 

「家にあったので…」

 

「あと、その紙袋なに。なんでアンタら皆して被ってんのよ。顔みたいなの描いちゃって…」

 

「さぁ…。おチビさんはガチャ排出率0%だとか、よく分からないことを」

 

「おい」

 

 

ゴチャゴチャ駄弁るやつらに割り込んで、白いのの前に立つ。見下ろす私を、なんだいきなりみたいな顔で見てくる、白いバカ。

 

 

「赤さん?いきなりどうし」

 

「っ!」

 

「ぶっ!!」

 

 

変身して、パイルをアホ面に押し付けてやる。手加減はしてやった。せいぜい感謝しとけ。

 

 

「ちょ、鼻!鼻血出た鼻血…!鼻血が!」

 

「ちょ、赤さん!いきなり何を…!」

 

「進まねーんだよ、話が。このままブッ込まれたくなきゃさっさとしろ」

 

 

ほんと、イライラする。いつまでもチンタラすんなって。

 

 

「あ、あによぅ…」

 

「あんだろ、用事がよ。先にそれ伝えろやマジ」

 

「それは、だって…!ていうか鼻!痛いんですけど顔…!」

 

「あーもう、やめて下さいよ…。私達が悪ノリし過ぎたのは分かりましたから」

 

「その…ね?怖がってる、から…羽根の子…」

 

 

チビと年長さんが止めてくる。なんだよ、こいつヤベーだろみたいな顔しやがって。いいんだぞ私は。このままブッ放しても。

 

面倒くせえなって思って、舌打ち。パイルはどけてやって、とりあえず今、私が一番聞きたいことから喋ってもらうことに…

 

 

「じゃ、もう率直にさぁ。あいつ…シーのこと洗いざらい」

 

『たいちょおおおおおおお!!!』

 

「のぉ!?え、ナニ!?なに、何なのマジ!?」

 

 

…した矢先にこれ。庭に黒ローブ共が雪崩れ込んで来たと思ったら、やたら窓ぶっ叩きやがって。今大事なとこだったろ。空気読めよ、クソ…!

 

先輩が鍵を開けて、ローブが全員家に上がってくる。こっちのQが有耶無耶になっちまって、私のイラつきがまた強くなった。

 

 

「あ…アンタ達いいいいいい!!」

 

「無事っすか隊長ー」

 

「もっと早く来なさいよ、バカタレこの!!」

 

「だって、一人で突撃したの隊長ですし…」

 

「つーか涙目じゃないですかー。気持ち悪っ」

 

 

ローブ達と白いのがなんか話してる。どうでもいいから、早く話戻させてくんねーかな。

 

 

「おい!それよか私の…!」

 

「最初は窓カチ割ろうかと思ったんすけど」

 

「一応調べたらさー、ガラスってたっかいのなんのって。私ら学生っしょ?無理無理ってなってー」

 

「あんまり大っきい音立てたらその、近所迷惑ですし…」

 

「結構現実的なところ気にしますのね貴女方…」

 

 

…けど結局、この後ずっとあーだこーだ喋りまくってて、私が割って入ることなんてできゃあしなかった。

 

こっちが質問する前に白いのは解放されて、じゃあ講義するとこまで案内するからっつって、私らは移動することになっちまって。

 

移動中、私はずっとムカついたままだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん。着いたわね。とーちゃくよ、とーちゃく」

 

「ここって…」

 

「すっげ寂しくね?シーンとしてる」

 

「そういう場所選んだんだから。」

 

 

家を出てからローブ共に先導されて、それなりに長いこと移動させられた。それも変身して、ビルの上だの建物の影だのを集団でゾロゾロ。

 

煩わしいけど、人数多過ぎて年長さんの車は使えねーし…。

 

で、なんだよここ。誰も居ねえ上に、廃屋の中で薄暗いし。そもそも移動する内に街の中心部からはどんどん遠ざかって、人気も無くなってったときてる。

 

話すんのに、こんな陰気な場所選ぶ必要あんのかよ。なんのつもりなんだか。

 

 

「ほら」

 

「あ?」

 

 

私らがあっちゃこっちゃ見渡してるとこに、白いのがなんか投げて寄越した。私らの目の前に落ちたそれは、シート。遠足とかに持ってくアレ。

 

 

「んだよ」

 

「いくら此処が神浜の外れで 人目なんてないってもね、女子が地べたに座るわけにいかないでしょ」

 

「椅子とかは無いけど、良かったら座んなー」

 

「………」

 

「遠慮することないのよ!この為にわざわざ途中で買いに行ったんだから」

 

 

…そういや移動中、なんか待たされた時あったな。話聞く気になんねーし、どうでもよかったけど。

 

マジ子か年長さんに話しかけられた気もする。まぁよく覚えてない。思い出すのも面倒くさい。つか、それよりもさ。

 

 

「あ、なんだったらお菓子でもつまむ?ただ聞いてるのもアレでしょ」

 

「おい…」

 

「買ったもんじゃなくて私達の食べかけだけど、それでも良ければ、まぁ」

 

「おい!それより私の質問…!」

 

「でもほら、チップスみたいに一つの袋に全部入ってるやつじゃなくて、一個一個が包装されてるタイプのやつばっかだから」

 

「〜!!!」

 

 

講義とやらの前に、家で聞きそびれたことを喋ってもらう。そっちが先だ。

 

そう思ったのに、またこれだ。私の発言が遮られて、したい話が出来ない。

 

今まではギリギリ我慢出来てたけど、もう無理だわ。ふざけんなこいつら!!

 

 

「チョコとか飴とかあるけど、どれ」

 

「おい!!!」

 

「うわびっくりしたぁ!……なぁによ、いきなりブチギレて」

 

 

思いっきり大声出して、無理矢理こっちに注意を向けさせる。これでようやく話ができるわ、クソ!

 

 

「私の質問に答えろっつってんの!あいつの…!シーの事ぉ!聞いてこいっつったよなぁ!?」

 

「あー、それ…。はぁぁぁぁ…」

 

「んだよ!」

 

「せっかちねー、アンタも。モテないわよ、急かす女は」

 

「あぁ!?」

 

 

普段なら流してやる、下らない台詞。でも今の私は完全にキレてる。キレてるから、こんなこともするんだよなぁ!!

 

 

「っ!!」

 

「どおおおおお!?」

 

「え!赤さん!?」

 

 

変身して、衝撃波をローブ共の居る方にブチ込んでやる。当ててない。あいつらの頭の上を通り過ぎるコースに撃ったから。

 

 

「ちょっとアンタぁ!危ないじゃない!?」

 

「さっさと話せってんだろ、あ!?次、当てんぞ!!」

 

「ちょ、赤ちんダメだって!なんかヤバいよさっきから!?」

 

「あーもー…。先輩さん、この人置いてきた方がよかったんじゃないです?」

 

「………」

 

 

マジ子が寄ってきて、パイルを下げさせようとする。肩に置かれた手を、体を捻って振り払う。纏わりつくな、鬱陶しい…!

 

 

「大変ねー、あんたらのチーム」

 

「あの、これ以上刺激する前に、本題を話して頂けますこと?」

 

「や、だからまず話せって!私の…!」

 

「あーはいはい、質問でしょ!忘れてないから!後でちゃんと話すから!っとにもー…」

 

「赤さん!……納得はいかないでしょうけど、今は…」

 

「っ………。チッ…!」

 

 

先輩に、割と強い語気で待ったをかけられる。正直邪魔すんなって思うし、言う通り、納得なんて少しもしてねーよ。

 

してねーけど、白いのから私の質問に答える約束は取り付けた。つって口約束だけど、破ったら今度こそ暴力で口を割らせるだけ。簡単じゃねーか。

 

まだ腹の虫が収まらない私は、地べたに座ることもないままで、それでも話を聞いてやることにした。

 

 

「そーね。やたらと焦らすのも時間の無駄だし、単刀直入に行こうかしら」

 

「………」

 

「今回の講義で話すことは、大きく二つ。まずは一つね」

 

 

言いながら、白いのは変身を解く。なんの躊躇もないのは、とっくに面が割れてるからなのか。

 

 

「ソウルジェムのこと」

 

 

指に嵌まった指輪を宝石の形に変えて、白いのがそう言った。

 

首元に手をやって、自分のソウルジェムを触る。先輩達を見れば、各々指輪になったそれを眺めたり、宝石に変化させてみたりしてる。

 

 

「そう、それよ。契約した時に出てきて、持たされる。魔法少女なら皆持ってるやつ」

 

「ん…。これが…なに?」

 

「どこまで知ってる?これのこと」

 

 

聞いてくる。ソウルジェムのことだあ?そんなもんお前。

 

 

「大事なもんなんだろ。私らには」

 

「濁るから、魔女をボコしてグリーフシード使わなきゃいけないって」

 

「浄化しないでいると、その内魔法が使えなくなると聞きましたけど…。キュゥべえから」

 

「ええ、そうね。間違っちゃいない」

 

 

「でも」って、白いのは人差し指を立てる。

 

 

「それだけじゃあ、ないのよねぇ?」

 

 

ドヤ顔で言った。うぜえ。ならさっさと話せや。今度こそ撃つぞ。

 

 

「ソウルジェム。魂。つまり、読んで字の如くなのよ。」

 

「ん〜…?や、どゆこと?」

 

「命なの。これは。魔法少女(わたしたち)のね」

 

 

ソウルジェムは、私達の命。白ローブのその言葉で、場が静まり返る。

 

でも、それは一瞬の間の話。すぐに私らから疑問の声が出てきて、だだっ広い廃屋に音が戻ってくる。

 

 

「………はいぃ?」

 

「命…?命って、その…」

 

「言った通りよ。これが命。私達の核…ある意味で、私達自身」

 

「って言われても。イマイチ飲み込めませんよ、話」

 

 

チビの言う通り。なんだそりゃ。なに、私らをおちょくってるわけ?そんな戯言の為に私の質問先送りにしたってか?

 

おい、いいんだぞ私は。今度こそキツいのやってやったって。言っとっけど まだキレてるからな、私は。

 

 

「ま、そうよね。それが自然な反応。信じらんないわよ」

 

 

「こんな小っこいのに、私達の生き死にが詰まってるなんてね」なんて宣いながら、白ローブは手のひらのソウルジェムを弄ぶ。

 

 

「じゃ、証拠見せたげる」

 

「証拠ぉ?」

 

「そ!じゃ、持ってて。これ!」

 

 

隣に控える黒ローブ達にジェムを預けて、白ローブがこっちに近づいてくる。え、なにやってんだお前。

 

敵対関係って言葉を知らねーのかこいつは。お前、こっち6人…まぁ、実質5人だけど、とにかく多人数なんだぞ?そこに変身もしないで向かって来るか普通!?

 

 

「なーによ、そんな警戒して!大丈夫、ちょっとだけお話しましょ!」

 

「は?」

 

「頭おかしいんです?」

 

「ほんと失礼ねアンタ達は…。ただ単に、お喋りしながらの方が分かりやすいかなって思ったわけ」

 

「はあ…」

 

 

あーそうですか…。まぁいいわ何でも。ようやく話が進むんだったら、そんくらい我慢してやるわもう…

 

 

(ん………?)

 

 

白ローブの後ろに目が行く。ソウルジェムを受け取ってた黒ローブ達が、後ろに下がっていく。……なにやってんの?

 

 

「なに話そうかしら…。そういえば、アンタ達ってみんな違う学校よね?前に会った時、制服バラバラだったし」

 

「あ、うん…。私は、大学…。市立大の」

 

「あー、それで私服。出身とかは?皆この街?」

 

「…知ってどうすんだ、それ」

 

「どうもしないわよ?単なるお喋りって言ったでしょ!疑り深いやつねー!」

 

 

まぁ、別にいいか。危害を加えようって感じじゃないし。黒ローブ達から視線を外して、白ローブの言う お喋りに戻る。

 

 

「で?どうなの生まれは。あ、私はあすなろってとこから越して来たの。まだ小さい頃に、家の都合でね!」

 

「私は神浜ですけど」

 

「アタシ、見滝原!」

 

「えと…宝崎…」

 

「私は湯国市から…」

 

「………」

 

「あんたは?ん?」

 

「………………二木」

 

 

おチビ、マジ子、年長さん、先輩と話していって、最後にちょっと遅れて私が答えた。

 

あんま話したくねーんだよなぁ…生まれ故郷の話は。辛いことも思い出しちまうし…。

 

 

「はぁ〜!見事にバラバラなのねぇ。そんな子達がチーム組んでるんだから、世の中分からないもんね!」

 

「そんな大袈裟な話でもないとは思いますけど…」

 

「大体はこの街で育ってる子ばっかりだものー。羽根にも市外から来た子は居るけど、アンタらみたいな形でチーム組んでるのって割と珍し…」

 

「………?なんだ、おい」

 

 

白いののお喋りな口が、いきなり止まる。今の今までベラベラ小うるさかった癖に、どうした。

 

無駄に嬉しそうだった顔も無表情になっちまって、目もなんつーか、虚?みたいな…

 

 

「………………」

 

「え、おい!?」

 

「は?え、あの…!?」

 

 

様子を見てると、白ローブの体はフラッとバランスを崩す。あっという間に床に倒れたのを見て、私達は揃いも揃って動揺しちまった。

 

 

「え、ちょ…なにいきなり!ビョーキ!?キュービョーってやつ!?」

 

「バカお前!どうせおちょくってんだろ!?私らを…」

 

「あの…お、起きて〜…」

 

「高度なドッキリでも仕掛けてきてるんですかね?」

 

 

年長さんが白ローブを抱き起こしながら、軽く体を揺さぶったり、頬を優しく叩いたりする。

 

それでも白いのは、なんの反応も返してこない。目を開けたまま、力が抜けきった体をぐったりさせてるだけ。

 

 

「単なる悪ふざけならそれで構いませんが、万が一…本当に万が一、唐突に深刻な不調を招いたという可能性も…!」

 

「おい、黒いの!!なんかお前らのリーダーヤバくねーか!?」

 

『…………』

 

 

なんか分かんねーけど、マズいんじゃないのか…?そう思った私達は、遠くに固まる黒ローブ共に届くように、大きめの声で呼び掛けた。

 

なのにあいつら、大して焦った様子も無いまま、こっちを見てるだけ。んだよ、そりゃあ…!

 

 

「なに黙って突っ立ってんだオイ!オメーらの頭だろが!そんな遠くに居ねーでさっさと…!」

 

「あ、大丈夫だよそれー!」

 

「はあ!?なにが!お前ら、この状態の何処が大丈夫って…!」

 

「だからー、大丈夫なんだってー!」

 

「だから、なにが!!」

 

 

不測の事態が起きたかもしれないってのに、奴ら、大丈夫の一点張り。イラついて、大声で聞き返した。

 

 

「本体から離れ過ぎただけっすよー!だから大丈夫ー!」

 

「あぁ!?本体だあ!?」

 

「なにそれー!!」

 

「えぇー……」

 

 

これは本当にドッキリ染みた悪ふざけで、今からその種明かしをしようってことなのか。

 

一瞬そう考えたけど、返ってきたのは意味不明な解答。離れ過ぎた?本体?何のこったよそりゃあ…!呆れたような顔しやがって!

 

 

「もー。話聞いてなかったのー!?」

 

「話ぃ!?」

 

「隊長が言ったでしょー!命なのー!」

 

「命って…」

 

 

それって、ソウルジェムが魔法少女の命だとか言う話か?そりゃ今さっき聞いた話なんだから、忘れようがねーだろうよ。

 

で?それがなんだっつーんだ。あの妙ちきりんな話と、本体とやらから離れ過ぎてこうなったらしい白ローブと、何の関係が…

 

 

(…?)

 

 

………いや、待て。なんか引っ掛かる。

 

白ローブは、ソウルジェムが私達の全てだって言ってた。この小さい石っころが、私達の命だって。

 

その命を、こいつはどうした?

 

 

「……………」

 

「赤さん…?」

 

 

お喋りするって。そうする為に、黒ローブに預けたよな。その後私達のとこに来た。

 

それでその後、なんでか黒ローブのやつらが後ろに下がり始めて………

 

 

………………………。

 

 

 

「っ!!」

 

 

 

分かったかも…いや、分かっちまったかもしれない。いや、でも…まさか、そんなバカみたいなこと…!?

 

 

「あ、なにー?ようやく気付いたのー?察し悪いよー!」

 

 

自分の思い過ごし。杞憂。取り越し苦労。弾かれるみたいに首を動かして黒ローブの方を見た私は、そうに決まってるって、自分に言い聞かせてた。

 

黒ローブの一人が言った言葉は、一瞬でそんな気持ちをブチ壊してくれやがったけど。

 

 

「……………!」

 

「そう。今、アンタが考えてる通りっすよ。大正解」

 

「うん…びっくりしちゃうと思います…仕方ないです」

 

 

動揺と衝撃で、声を出すことを忘れた。そんな私の様子を察した黒ローブから、答え合わせみたいな言葉がブン投げられてきた。

 

 

 

じゃあ……それじゃあ…ソウルジェムってのは、ほんとに……!!

 

 

 

 

「そう。ソウルジェムは命。宝石みたいにキラキラ輝く、私達の魂そのもの」

 

 

 

 

「ざっと100メートル。それ以上離れたら、魂とのリンクが切れちゃうの。だから、そうなる」

 

 

 

 

 

告げられた言葉が、いやによく響く。いつの間にか怒りを忘れて、恐る恐る振り返る。

 

 

 

 

抱き抱えられた白ローブに、命は宿っていなかった。

 

 

 

 





マギレコ本編の出来事

・約束の正午、神浜記録博物館へとやって来たいろは達。ウワサの魔力を感知したことで、場所が当たっていることを確信する。魔法少女の魔力反応も捉えたものの、みふゆやアリナといった、今まで出会ったマギウス側の要人とは違うものであることに戸惑う。やがていろは達の前に姿を現したのは、マギウスの一人 里見灯花。いろはが探し求める少女の一人だった。



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6-5 講義中



第二部が完結したり かごめちゃんが実装間近だったりするので初投稿です。





 

 

 

生活は順調だった。なんの不安もありゃしない。憂いとか焦燥感とか、そんな心を煩わしくするもんなんて、なにも無かったんじゃないかな。

 

少なくとも、あの人とお父さんにとっては。

 

私はだんだん露骨に家族を避けるようになって、話もしない、言葉も聞かない。そんな毎日を送るようになっていった。

 

やがて、あの二人の間に子供が生まれた。男の子。

 

血を分けた、私の弟だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あのー!ちょ、今から隊長そっちに投げますんでー!キャッチしてもらっていーすかねー!」

 

「あ…?」

 

「じゃ、いきまーす!よっ……!」

 

 

遠くでなんか振りかぶった黒ローブが、思いっきり腕を振り抜く。なによ。何投げたんだ。

 

投げたらしい何某かを探して、空中に目を向けてみる。光の反射でキラッと光ったものを見つけて、私はハッとした。

 

 

「ソウルジェム…!」

 

 

マズいと思った。

 

だってお前、命なんだろ!?まだ信じらんねーけど、そう言ってたじゃねーか。どうなるんだ、このまま地面だの壁だのに叩きつけられたりしたら…!

 

 

「くっ…!ぬっ!」

 

「おっ、ナイスキャッチー」

 

「ナイキャー!」

 

「なにがっ…!」

 

 

落下地点なんてよく分かんないまま、白ローブのソウルジェムを必死こいて目で追って、なんとかキャッチ。

 

黒ローブのやつら、ナイスキャッチだのなんだの…。おめーらのヘッドのもんだろうが。洒落にならねーもん投げて取らせて、ゲームのつもりかって…!

 

 

「おい!大事なもん粗末にブン投げて、お前ら…!」

 

「取ると思ったんでー」

 

「だからっつってなぁ!?」

 

 

「でも、ちゃんと取ったでしょ?」なんて、二ヘラっとしながら続ける部下共。白いやつって、やっぱナメられてんじゃねえのか…。

 

 

「それよかー!そろそろ起きるんで、乱暴しないで下さいねー。穏便!穏便にー!」

 

「誰が…!」

 

 

こっちはさっきから ソウルジェムが本体だの命だの、デカい情報ブッ込まれたままだってのに…!

 

 

「ぶっは!ああ…!」

 

「うわビックリしたぁ!」

 

「…!」

 

 

白いやつの声がして、後ろを振り向く。

 

あのボケが何もなかったみたいに体を起こしてて、なんなら体を伸ばしたりなんかしてた。昼寝やってたんじゃねえんだぞコラ。白いのを支えてた年長さんも、口開けて驚いてるし…。

 

 

「んん〜!いやぁー、慣れないわねーこの感覚。なんてーのかしらね?何もない暗い場所からいきなり浮上しました〜的な?ねえ?」

 

「知らねーけど!?」

 

「え、なん…。ちょっと、立て続けに衝撃的なことが起きててアレなんですけど…」

 

「ちょ、イッタン落ち着かね?イッタン!イッタン!」

 

「え〜?」

 

 

えーじゃねんだよ、おい。元はったらお前らが講義するっつったんだろ。なら説明の義務ってのがあんだろうが、あ!?しろ!説明!重要くせえことを話しといてお前!

 

 

「んー。ま、そうねえ。っても、もう分かったんじゃない?今の私を見てたらさ」

 

「……なにが」

 

「なぁによ、察しの悪い…ってわけでもなさそう?説明したんでしょ、あの子達が」

 

「………」

 

 

「そうなんでしょ、アンタ達ー!」「そうでーす」なんてやり取りしながら、白ローブは背中を見せて、黒ローブ達のところに歩いてく。心なしか、余裕綽々って感じのする足取りで。

 

 

「ま、受け入れ難いのは分かるわよ。ソウルジェムが私達の魂で?体と離れ過ぎればダメ、なんて」

 

「要するに、体がただのガワになっちゃったってことだもの。ねえ?この血も骨も肉も、生命には必要だってのにね」

 

「………」

 

 

言いながら白いのは歩くのをやめて、こっちに振り返った。

 

 

「それでもまだ信じられませんって言うなら、次のステップ。ジェムに触るのがいいわ」

 

「触る…?」

 

「宝石にして、ね。あんた達全員が、お互いに」

 

 

そう続ける白いのは、「魔力を込めてやんなさい。軽く叩いてやるくらいの攻撃性で」なんて付け加えて、また背中を見せる。

 

 

「……どうすんだよ…」

 

「どう…しよっか…?」

 

「何の意図があるか分かりませんが、やるだけやってみるしか…」

 

 

乗せられるみたいで癪だけどな。けど、やつらの話の真偽が、それではっきりするってんなら…。

 

……でも、どうするんだ。ソウルジェムの話が真実だって分かったところで、その次は…?

 

 

「では、皆さん私に寄って、ジェムを」

 

『………』

 

 

先輩に言われて、皆集まる。私は変身を解いてから、宝石に変えたソウルジェムを掌に乗せて軽く差し出した。

 

 

「では、私は赤さんのものを…」

 

「…」

 

 

先輩の手が私のジェムに触れてくる。それを皮切りにして、私達も他の誰かのジェムに手を添えた。

 

私は先輩の。マジ子は年長さんので、年長さんはおチビの。おチビはマジ子のやつ。

 

 

「ていうか、アンタ達がこっち来なさいよ!リーダーを歩かせるってどうなの!?」

 

「諦めましょ。隊長もマギウスって組織の中じゃあただの歯車…。下っ端に過ぎないんすから〜」

 

「んぬ"ぅ"ー!!」

 

 

やいのやいの騒いでるローブ達の声も、今は気にならない。私ら皆、どっか神妙な顔付きになって、お互いがお互いの顔を見てる。

 

 

「…じゃあ、いっせーのでお願いしますわ」

 

「ん…」

 

「おっけ」

 

(もし罠やら悪ふざけやらだったら引っ叩いてやる、あいつら…)

 

「では…!」

 

 

腹が決まったところで、先輩が合図を出す。「いっせーの!」って、ちょっと子供っぽいそれと同時に、私は先輩のジェムに、触れた手から魔力を流し込んだ。白いのが言うように、ほんのちょっと攻撃するような塩梅で。

 

…つって、そんなの感覚的なもんだし、このやり方で合ってるのかは…なんて考えてた、次の瞬間。

 

 

「っ!!」

 

「あっ…!?」

 

「ぶっふ…!!」

 

 

激痛だった。全身にいきなり、あり得ないレベルの痛みが襲ってきて、思わず呻いちまう。他の面子も声に出たり顔を顰めたりで、私と同じようなことになってるのが分かる。

 

 

「はっ…!はっ…!」

 

「っ!バカ、お前…!」

 

 

痛みに耐えられなかったか、チビのやつが息を切らして膝をつく。拍子にジェムが手から離れて落下したのを見て、肝が冷えた。

 

けど、チビの一番近くに居た年長さんが咄嗟にキャッチしたのが幸いってやつ。自分もまだキツいだろうに、よくもまぁ…!

 

 

「どしたの?辛そうね、なんか」

 

「貴女ね…!」

 

 

流石に先輩も腹立ったらしい。そういう声と顔で、白ローブを睨んでる。当たり前だわな、そんなの。

 

やっぱ罠だったのかよ。許せねえなぁ!……って思ったんだけど、痛みがまだ尾を引いてるせいなのか、変身できない。これじゃ あのドアホ共シバけねーじゃねえか、クソ!

 

 

「〜!」

 

「っ!やめろ、構うな!」

 

 

苦しそうにしてるのを気にしたのか、シーが私に寄ってきて、治癒魔法をかけようとする。確かにヤバいはヤバいけど、今はこいつに頼る気にならない私は、それを拒否した。

 

 

「けほっ!けほっ…アタシらダマしたの…?ヒドくないマジで…!」

 

「だーから、講義しに来たってんでしょ。バトるなら最初からそうしてるわよ」

 

 

白いのが言う。ああ、そうかよ…!コントみてーなお喋りばっか得意なクセして、もっともらしいこと言いやがってさ。ムカつく…!

 

 

「ぐっ…く…。で!?」

 

「ん?」

 

「これが、なんだって…!?ソウルジェムにちょっとでも刺激があればクソ痛えって、それが!?」

 

「…呆れた。まーだ認めないの?そんなことある?」

 

「ちげーわアホが!こんな痛えんだから、この石っころが私らの本体なのを分かれってこったろ!」

 

「なんだ。じゃ、なに」

 

 

そう。何を意味してるのかなんてのは理解してんだよ。その上で私が言いてえことってのはなぁ。

 

 

「…この痛みが、ソウルジェムが本体だという証明には必ずしもならない。ということはありませんこと?」

 

「う〜痛い…。そうですよ…魔法少女なんて強い力 貰ってるんですから、代償として付けられた弱点って考え方も…」

 

「その…もしかし、たら…さっき倒れたのも、演技かもだし…。えと、魔法使って、仮死状態…みたいな…?」

 

 

やっと痛みが引いてきたらしい皆が、私の代わりに言った。やっぱそう思うか。

 

向こうにとっちゃあ、こっちは敵。さっきの「喧嘩するつもりなら〜」っていうのだって、そりゃ口ではなんとでも喋れる。

 

さっきこいつが死んだみたいにぶっ倒れた時は流石に信じかけたけど、向こうに作戦があって、その為にこっちに嘘ついてる可能性は、まだ否定できねえんだよ。

 

 

「………………」

 

「どう、なの…?」

 

「はああああああぁ〜………」

 

「え、なに…。マジのやつじゃん、タメ息」

 

 

私らの推測を聞いて、長い溜息を吐く白いの。なんだお前その、心底めんどそうな態度は。真面目に聞いてやってんだぞ私ら。

 

 

「オッケー、分かった。分かったわよ。じゃ、もっと証拠見せればいいのね?石みたいなカチカチ頭ちゃん達に」

 

「カチ…」

 

 

いちいち煽らんきゃダメかお前。…いや、いいわもう。今はそこに構ってる時じゃねえんだ。

 

 

「じゃ、補足。ソウルジェムが本体なのは話した通りだけど…アンタ達!」

 

「はーい?」

 

「なんです」

 

 

白いのの合図で、部下達が寄ってくる。しかもあの剣みたいな武器を取り出すから、私達は警戒した。なに。こんどはなにやらかそうって…。

 

 

「ん」

 

「え、なんすか人に刃物向けて…怖っ」

 

「非常識ですよ非常識〜」

 

「ちっげーわよ!貸すから持ってて!一旦!」

 

「はーい」

 

 

部下の一人に、武器を渡した。柄がない剣をどうすんのかと思ったけど、魔力で動かしてる。そういう仕組みらしい。

 

 

「さーて、待たせたわね!これから見せてあげる!私達の言うことが、紛れもない真実だってこと!はい、準備!」

 

「へーい」

 

「…?」

 

 

なんだ。今度はなにする気だ。なんで黒いのは剣構えてんだオイ。私らを斬るってんならまだ分かるけど、なんか白いのに向けられてるように見え…

 

 

「やっちゃって!思いっきりね!」

 

「りょー。よいしょー!」

 

 

そういう、ちょっとした疑問が生まれた途端のことだった。

 

 

「ゔっ…!!」

 

 

白ローブの体から、いきなり何か生えてきた。私にはそれがなんなのか、理解できなくて。

 

 

「……はぇ?」

 

 

唖然としたような年長さんの呟きが聞こえてきて、目の前で白ローブの衣装が赤黒くなってくのを見て、ハッとした。

 

剣だ。白いのが、部下に渡した剣。あれがやつの身体を、後ろから貫いてる。赤黒いのは、当然 血。剣から滴って、もしくは体から流れて、廃墟の床に広がってく。

 

「こふっ」って咳き込んで血を吐く白いのの顔は、刺される前となにも変わってないように見えた。

 

 

「あ…え…」

 

「…!?な、ちょ、あの!…えぇ!?」

 

「え、なに!?え、なになになに!?なに!?なにやってんの!?」

 

 

チームの皆が戸惑ってる。当たり前だろ、そんなの。向こうのリーダーが、部下に自分をブチ抜かせたんだぞ。驚かないやつの方がおかしいまであるだろ。

 

 

「っ!!」

 

「ん!?おい!」

 

 

飛び出したマジ子が、私の声掛けを無視して白ローブに駆け寄る。背中しか見えないけど、慌ててるのはよく分かった。

 

 

「ねえ、ちょ…!マジだいじょぶ!?や、んなわけないか…!あの、電話!キューキュー車で、ビョーインで、とにかくあのー!」

 

「なに、パニクり過ぎでしょアンタ」

 

「やあああああああああああ!?」

 

「ちょ、うるさいうるさい!」

 

 

白いのにいきなり声かけられて、マジ子がすごい勢いで後退り。そりゃそうだろ。なんなら私だってビクッたわ!

 

なんでそんな平気そうなんだよ。おかしいだろ!?血ぃ出てんだぞ、血ぃ!

 

 

「ちょ、ごめん!ごめんて!大丈夫よこれも魔法だから!」

 

 

魔法だあ…?

 

 

「便利なのよ〜魔法少女って!こーんな、普通の人間なら明らかに死んじゃうような傷だって。全然平気。魔力で痛覚を遮断してるからよ!」

 

「ソウルジェムが本体だってのも、ここで活きてくるんすよねー」

 

「そう。そうなんです…!あの、死なないんですよ。ジェムさえ無事なら、魔法少女は」

 

 

ドン引きする私らを置いて、話を続けるローブ達。いや、くっちゃべってくれてるとこ悪ぃけど、入って来ねーんだよ話が!口からなにから血ィ流しといたまま続けねーでくんね!?

 

 

「まぁ、私もここまで思っきし心臓ブッ刺されると思わなかったわよ。酷いわねーもう」

 

「あ、心臓いってるんですね、それ…」

 

「ねー。ほんと、魔法様々っていうか。あ、もういいわよ。抜いてサクッと傷塞いで…」

 

「すんません隊長。もいっちょ いきまーす」

 

「は?アンタ何言っ」

 

 

ちょっと顔青くした先輩の一言も、サクッと流した白いの。とりあえずひっでえデモストはこれで終わりなのか…

 

 

「でぇっ」

 

 

なんて、不覚にも気を抜いた私の目の前で、飛んだ。すっ飛んだ。

 

なにがって、首。白ローブの首が。そりゃもうスポーンって、景気良く。

 

 

『え』

 

 

そりゃ、私ら五人ハモりもする。そんなこと、目の前で起きりゃあ。

 

 

『……………』

 

 

この場に居る、全員の沈黙。首の無い白ローブ。剣を振り抜いた姿勢の黒ローブ。噴水みたいに噴き出す血…

 

 

「………あ」

 

 

降ってきたそれを被ったマジ子が、真っ赤になってこっちに振り返る。息を思いっきり吸い込む挙動をするのを、私は見た。

 

 

「あぁーーーー!!!あーー!!あー!!!あーーーーー!!!!」

 

「わああああああああああああ!!!」

 

 

クッソうるせえ絶叫が耳に届いてから、私もつられて叫んじまう。や、無理!これは無理!流石に!!

 

 

「え、なん…あれ、首、飛ん」

 

「っダメ!見ちゃ…!!」

 

「いや、もう見…うぶっ…!」

 

 

年長さんは咄嗟に、R18Gまっしぐらな光景を見せないようにおチビの目を塞いだみたいだけど、もう遅かったらしい。チビが吐いちまってる。

 

 

「っ…………」

 

 

実はっつったら、私もだいぶこう、込み上げてきてた。どうにか戻さずには済んだけど、口ん中がだいぶこう、酸味、みたいな…。

 

 

「うおああああああああああああ!!!」

 

「あぁ!?」

 

 

先輩がキャラじゃねえ叫び方したと思ったら、なんか蹴っ飛ばした。思いっきり。どうも、足元になんかあったらしい。いや、びっくりした…。そんなドスきいた大声出せたんだ、この人…

 

らしくないアクティブさを見せた先輩の動きにつられて、飛んでったものの方に顔を向ける。

 

 

「ゔお"え"え"ええええええ!!」

 

 

見て後悔した。後悔したし、吐いた。耐えられんてお前…。首はやめろ、首は…!

 

まぁ、うん。首だった。頭部。白ローブのやつ。部下に叩っ斬られた首は、先輩の足元に転がってきてたみたい。そりゃあ蹴っ飛ばすよね…。

 

てか、どうすんのこれ。この床にブチ撒けられたゲロりんは。ゲロりんてなによ。

 

 

「はぁー…!はぁー…!…うぇっ」

 

「おっ…!とぉ。ちょっとー!ぞんざいに扱わないで下さいよ、首〜」

 

「斬り飛ばしといて言えねーだろそれ!」

 

 

蹴っ飛ばされた首をキャッチして、黒ローブが言う。ふざけんじゃねーぞマジで…。講義ってこんな猟奇的なもんじゃねえだろ、なぁ…!

 

 

「よっ…とぉ。じゃ、くっ付けるかぁ」

 

「は…?」

 

「や、流石に喋れないじゃんね、こんなんじゃ。だから、ねえ?」

 

「いえ、あの…でも その方、もう死……うっ」

 

 

先輩はえずいてはっきり言えなかったけど、その通りだろ…。見れば見る程、嫌な感じがヤバい。死んでるってことだろ?これ…。

 

こいつらもこいつら。なにを血迷ってお前、自分らんとこのリーダー 殺っちまってよ…!

 

 

「あ。ちなみにこれ、大丈夫ですんでね」

 

「はぁ?なにが…」

 

「生きてるんだなぁこれ。まだね」

 

「ウッソでしょマジで…」

 

「マジなんよねーこれが。あ、皆手伝ってー」

 

 

黒ローブ共が集まって、首を元の位置に固定しだす。なぁ、ニチャとかグチャとか粘性のある音が鳴って不快過ぎるんだけど…。白ローブの表情が、首飛ぶ前と何も変わってないのが不気味だし…。

 

マジ子もドン引くわそんなん。

 

や、それよりも。

 

 

「嘘つくなよこんな時にまで…。生きてらんねーだろ、それ…」

 

「だからー、ジェムは無事なんだって…じゃ、やりまーす」

 

「苦手なんだけどなぁー治癒魔法」

 

「だから皆で力合わせるんすよ。ほら、せーの!」

 

「………」

 

 

黒ローブ達が魔法を使って、光が照らしてく。ちょっとずつではあるけど、白ローブの体のデカい刺し傷は塞がって、離れた首と胴体も繋がっていった。

 

なんだろう。心なしか、顔色も良くなってるような。

 

 

「……ふー。こんなもん?」

 

「だね。おっつー」

 

「はぁー疲れたぁ…。ほら隊長ー、起きてくださーい」

 

 

黒いのが白いのをつつく。ん、なんだ。今ピクッとしたような…?や、まさか…。

 

 

「………」

 

「あ、起きた起きた!隊長おは」

 

「てめ、ゴミクソがぁー!!」

 

「ぶっへぇ!!」

 

 

……マジかよ、オイ…。生き返りやがった。

 

…………黒いのが殴られてんのはまぁ、当たり前なんじゃないの。知らん…。

 

 

「いった!!グー!グーで殴った!今ぁ!!」

 

「たりめーでしょうが!!なにをよくも、人の首落としてくれてぇ!アンタはぁ!!」

 

「でもこれで信憑性がねぇ!?なりましたよアレに!増したって!」

 

「あっそ、良かったねバーカ!!」

 

 

そうやって子供みてえにギャーギャー喚いてから、吐捨てるみたいな溜め息吐いた白ローブがこっちを向く。まだ眉間に皺が寄ってた。

 

 

「っとにもー…!……んで?いい加減分かった?」

 

「あ…?」

 

「ソウルジェムが本体って話よ。ここまでやれば、もう分かったでしょ」

 

「それは」

 

「あ、ちなみにジェムが壊された時はマジで死ぬからね」

 

「え、待って」

 

 

え、ま、ちょ……え?あの、オイ!

 

お前何つった今、なぁ!?死…!?

 

 

「……赤ちん…」

 

「マジ…うわ赤っ、お前」

 

「ねー、どーゆーことなん…?アタシ、もうワケわかんないよ…!」

 

「…………」

 

 

マジ子が、フラフラした足取りで寄ってくる。私のリアクションに返す余裕もないくらい戸惑って、憔悴してる。

 

ワケわかんないってお前…。そんなの、私だって……。

 

 

「ま、つまりね?纏めると」

 

「魔法少女は魔法が使えて、身体能力も上がったりして、その…凄いんです」

 

「しかも、どんだけ体が損傷しても無問題。心臓やられても、首吹っ飛んでもだいじょーブイ!っす」

 

「だけど、ジェムはダメなんだよねー」

 

「ソウルジェムは本体だから。外に出されて、可視化された魂だから。壊れたら死んじゃう。」

 

「これが、魔法少女の真実。の、一つ。OK?」

 

 

ローブ共五人全員で、今までの話を要約してくる。ご丁寧に白いので始めて、白いので締めやがって…。

 

あぁ、もういいよそれで…。オッケー。オッケーでいい。いいけどさ…。

 

 

「じゃあ、人間じゃ…ない、の?私達…もう…」

 

「ん?」

 

「そうですよ…。だって…だって、死んだのに死なないなんて、そんなの…!」

 

「肉体と魂が一つになったものが人間だって言うなら、まぁ そうなるんじゃない?」

 

「っ……!!」

 

 

魔法少女は、私達はもう人じゃない。そんな体じゃ…命じゃない。

 

無慈悲に、簡単にそう告げられて、拳を強く握り込んじまう。歯だって、噛み締める。

 

それはきっと、私だけじゃない。先輩だって、マジ子だって…年長さんだっておチビだってそう。そうに決まってる。

 

 

じゃなきゃあ、おかしいだろ…!自分がまともじゃないなんて知らされて、平気で居られるなんてこと…!!

 

ムカつくよ…。否定したいのに、そんなわけねえじゃんって、鼻で笑ってやりたいのに。今まで見せられたもの、聞かされたものが、それをさせてくれない。

 

分っちまったんだ。この脳みそと、心で。本当に本当のことだって…!

 

 

 

「でもね!気にすることないわよ!」

 

「魂の所在がどこだろうが、大事なのは心!ハートよハート!」

 

「今までと変わらないこの心がある限り、魔法少女は人なのよ!私はそう思うわね!」

 

 

 

白ローブの気休めみたいな励ましに、意味なんて無かった。

 

声も言葉も、単なる雑音にしか聞こえなくて、私には…私達には響かない。

 

 

 

一気に詰め込まれた真実と、まざまざ見せつけられた、証拠という名のスプラッタ。

 

 

 

そんなもので萎縮して冷え切った、私達の心と、頭には…。

 

 

 

 

 





マギレコ本編の出来事

・灯花と再会するいろは。だが当の灯花はいろはやういのことを覚えておらず、自分にはマギウスとして接してほしいと述べる。
やちよが自分達を助けに行くべきか揺れていることなど知る由もない いろは達は、灯花の講義を受ける中で、ソウルジェムは魔法少女の命そのものであり、自分達は普通の人間ではなくなってしまったのだということを知らされる。



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6-6 小休止



クッッッソ久しぶりのほんへ更新になってしまったので初投稿です。





 

 

 

 

生まれた子供に罪はないんだって、そんなことくらい、私分かってた。や、まあ…親だって別に悪かないけどさ。お父さんも あの人も。

 

弟が生まれた後に、ベビーベッドでグースカこいてるのを見たことがあった。つって、何回か…それこそ、片手で数えられるくらいだけど。

 

「お父さんと、あの人の子供か」って。同じお腹の中から生まれちゃいないのに、血は繋がってるなんて。そんなの、なんか嫌だと思った。そういう子供のことを、私は弟だと思わなきゃいけないのかって。

 

それなら虐めてやることだってできたのに、私はそうしなかった。人畜無害そうな、透き通った目が私を見てたから…かは知らない。なんとなくだった。

 

ほっぺたを軽くつついてやった私の人差し指を握る弟の小さい手は、すごく暖かかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はーいはいホラ!いつまでしょげてんのホラ!」

 

(こいつっ……)

 

 

魔法少女は、ソウルジェムを壊されれば死ぬ。私達の命…魂が、ちみっこい宝石なんかに詰め込まれちまったばっかりに。

 

そんな話をしといて羽根のやつら、それをなんてことないものみたいに。しょげてるってなんだオイ。尻叩いてるつもりなのかよ…!

 

 

「もういいですよ…。私たちみんなこれ以上、まともに話すとか聞くとか、そんなこと」

 

「チビちゃん…。うん…そう、だと思う」

 

 

見ろよ、なあ。チビも…年長さんだって、明らかに弱ってる。

 

しかもそれだけじゃなくて、なんか冷えてるんだよ、空気が。私達のチームだけが。冗談通じない、ガチなやつ。

 

ほんとさ。どうしてくれんだお前ら。

 

 

「なによ、凹んでんの?ダメよアンタら そんな。ちょっとこう、なんていうの?命の形が変わったくらいで!」

 

「いや、それはそもそも貴女達が…」

 

「ん?」

 

「…いえ、いいですわ…」

 

「? そう」

 

 

元はっつったら、ローブ共がこっちのメンタル追い詰めるようなやり方したのが悪いんじゃねえかよ。当の本人…つーか、白ローブはそんなことも分かってなさそうだけどな。そりゃ先輩も投げやりになる。

 

 

「なんにしてもね、まだ聞いてもらわなきゃならないわけ。なんせ本番よこっから」

 

「はぁ……?まだあるんかよ お前…」

 

「そりゃあそうでしょ!言うなればアンタねぇ、今までのはイントロなのよ。さわり、プロローグ、前置き、あらすじ、前座…。食材を切っただけってことでしょ!?あれ、違う?」

 

 

知るかよ…。

 

 

「とにかくね、本題はこっからなんだから。静聴しなさいってのよホラ!」

 

「…………」

 

「…でしたら、すぐにでも話していただけますか」

 

「まだ元気ないんだから。ま、いいわよ。じゃ、早速話すんだけど」

 

「………」

 

「…………んん」

 

 

…。

 

 

「んん〜。やぁ、こぉ〜れ……ッスゥ-.....やーでもなー」

 

 

………?んだよ…。

 

 

「どうすっかなぁやっぱこれ…あ、ねぇ。どう思うこれ」

 

「や、言って下さいよ。言わなきゃあんた、ねえ?」

 

「でもさ〜、どうやってこれ…。知ったらヤバくなるよなぁってさ」

 

 

…………………チッ

 

 

「え、なに。話さないんすか?なんすかさっきから」

 

「なんかこのバカタレが『いや〜迷っちゃって〜』みたいな」

 

「はぁ〜。んもぉほんとこの人さぁ〜」

 

「なによ、そんなアンタ…!誰だって躊躇うでしょこんな。つーかね、しれっとバカタレ呼ばわりして」

 

 

………………………ああもう!!

 

 

「ッ!!」

 

「おえええええい!?」

 

「なぁ!?あっぶね!!」

 

「赤さん…?」

 

 

また変身して、パイルから衝撃波をブチ込んでやる。今度こそ当てるつもりで撃ったのを避けられたけど、そんなことはどうでもよかった。

 

いいだろ別に。また腹立ってきたんだよ、こっちはな!

 

 

「言うのか、言わねーのか!あ!?」

 

「やーもう、やめなさいってもぉ!怪我するでしょ、私達がぁ!」

 

「知らねーわ!で!?言わねーのかって!」

 

「言うって!言うわよ、っとにもー…」

 

 

「やーよねー、キレる若者って」とかなんとか白いのはブー垂れるけど、無視だ無視。私が食ってかかれば話が進まなくなる。何か言いそうになるのを、なんとか抑えた。

 

 

「ま、実のところね。ちょっと酷いのが過ぎるわけなの、次の話は」

 

「え、ひどいん…?さっきのより?」

 

「そうよ。でも、マギウスの翼に居る奴らはみーんな知ってる。勿論、私たちだって。それが加入の条件ってのもあったし」

 

「そそ。メンバーシップオンリーってことっすよ。いや、なんかちょっと違う…?」

 

 

ローブ全員、得意げになってやがる。ムカつくんだよ。今の私には特に効果的だな、えぇ?

 

 

「とにかく、そういう隠れた情報を知りたいというなら、方法は幾つかあるわよね?」

 

「ある日、ある時、偶然知るか」

 

「その、自分も混ざってみるとか…。輪の中に、です」

 

「…………つまり?」

 

 

短く、端的に質問する先輩の、神妙な顔。本当は分かってんだな。やつらがなに言いたいのか。

 

それは、私だって同じなのかもな。当たり前だ。あのアホどもは難しいこと言ってんじゃない。

 

あー………ほんっとイライラする。想像しただけで。

 

 

「いっそ仲間になっちゃえば?って選択肢もあるのよ。そうすれば」

 

「もういい、喋んなお前」

 

「ちょっとなによ赤いの、遮らないの!こっちに来れば、私達の目指す解放のことだってちょっとは──」

 

 

もういいっつったろ。やめろ。

 

 

「や、気持ちは分かるわよ?私達、敵だもの。でもね?ショッキングなことなのよ ほんとに!」

 

「だからこそお互い歩み寄って、仲間意識を持てる関係になってから話すことでほら、ね?真実の痛みを柔らか〜くしてあげられるっていうか」

 

 

や、ウザいって。だからさ、やめ…

 

 

「まぁ、知っても大丈夫っちゃそうなんだけどね?どうにかなっちゃった時の対処も簡単になるに越したことはないし──」

 

 

 

 

「──っとぉ!」

 

 

…………。

 

 

「ヒー、危ない。こういうのって、天丼って言うのかしらね?」

 

「チッ」

 

 

今度こそ、私は撃った。奴らにパイルで、衝撃波を。ほんっっとにムカついて仕方ねえから、直撃コースで。

 

地面の塵が巻き上げられて、空気も押し除けて一直線にブチ込まれたそれは腹立つことに、奴らには届かなかった。

 

白ローブが反応して、武器の剣で衝撃波を叩っ斬ったからだ。

 

 

「当てられると思った?特務隊の、この私達に」

 

 

そう言って白ローブは衣装に纏わりついた埃を叩いて、余裕そうなツラをしやがる。知らねーよ、アホタレ共の肩書きなんてのは!

 

 

「つか、お前なんなんだよさっきから。人様を好き勝手振り回しやがって…」

 

「そうだよぉ…ソウルジェムのこととか、首…とかぁ…」

 

 

弱ったような声で呟くマジ子のやつに、チラッと目を向ける。こいつもいい迷惑だっつーのな。血なんて被せられて、汚えの。

 

で、お次には自分達の仲間になれって?コソコソ隠れて人様に被害ひっ被せるような奴らのかよ?ふざけんじゃねえって。

 

 

「カルト宗教の勧誘なら他所でやっとけ。私さ、いい加減我慢ならねーんだわ」

 

「ん?」

 

「こっちの知りてえことには答えない。お次は私らに人間から外れたって突き付けといて、終いには本題を話すから、お前らの側になれだぁ?」

 

 

ムカっ腹のままローブ共にパイルを突き付けて、私は続ける。ふざけんなコイツらって気持ちを込めて。

 

 

「整理の付かねーやつらにごちゃごちゃ撒くし立てりゃ、思い通りになってくれると思ったかよ。え?冗談じゃねえんだわ、オイ」

 

「なあに、その難癖。じゃ、どうするのよ?」

 

「決まってんだろ!」

 

 

さっきと同じ。当てる気でパイルを起動して、押し込む。ジェムが無事ならいいんだよなあ?

 

 

「ふんっ!」

 

 

けど、撃った衝撃波は当たらなかった。さっきと同じなのは、白ローブも同じ。攻撃を打ち消された。

 

 

「無駄だってば」

 

「………」

 

「で?今のが答えってわけ。ふーん?そういうことする?」

 

 

したけど?したからなんだよ、あ?

 

 

「気に食わねえんだよ、お前ら。いっぺん潰さなきゃ気が済まねえ」

 

「え、バカじゃないの?アンタ、チンピラ?」

 

 

何とでもどうぞ。お前らシバけるならなんだっていい。ワルだろうがゴロツキだろうが、今だけはな。

 

 

「はぁぁぁ〜…。ま、いいわ。その為の、このだだっ広い廃工場なんだし」

 

「あ?」

 

「敵として、今までやりあってきたんだもの。こうなった時のことは考えておかなくちゃあ。ねえ?」

 

「あっそ」

 

 

んだよ。じゃあ最初から殴り合えばよかった。何が講義だ、無駄な時間取らせやがって。

 

 

「でもいいの?本当にバトる方向で」

 

「日和んなチキン」

 

「アンタはよくても、他の奴らはどうなのよ。高みの見物してるってわけにもいかないじゃない」

 

「はぁ…?」

 

 

白ローブにそう聞かれた直後、衣装を後ろから軽く引っ張られる感覚をおぼえる。誰だよって振り返ると、俯いてるマジ子が視界に飛び込んできた。

 

 

「赤ちん…ダメ」

 

「なにが」

 

「ダメ。ダメだよ。だって…だっておかしいじゃん!」

 

 

だから、何がダメなんだって。分かるわけねえだろ、そんな首横に振ったってよ。

 

 

「もうダメだよ。アタシ達…アタシ、なんかもうパンパンだよ!いっぱいいっぱいってか…」

 

「とにかく、今日はもうダメだよ!カエろ?ね!?」

 

「はぁ?お前」

 

「赤さん!…私も賛成です、それは」

 

「なぁっ!」

 

 

マジ子だけじゃない。先輩までそんなこと言い出しやがった。止めんのかよ?何でだ!

 

 

「私達は揺さぶられています!チーム全体がこんな精神状態では、戦えない…。いつもの力なんて、出し切れると思って!?」

 

「私は平気だ!いつも通りだろ!」

 

「違う。と、思う…けど…」

 

「…そもそもあの白い人、なんで余裕そうにしてるんです?」

 

 

年長さんも、チビまでそんなこと言うのか。そんなの、どうせ白ローブが強がってるだけだ。あの手の人間(ただのバカ)がやること、一々気にしてどうすんだよ?

 

 

「仮にこのまま戦闘になった場合、こちらにはおチビさんが居る…。彼女一人いれば制圧は容易なのに」

 

「そんなもん分かってる!勝てるんだろ!?だったら、なんで止めんだって…!」

 

「それなのに、何故相手方は勝負に乗り気なんです?策があるとしか思えませんわ。それも、明確な戦力差を覆す程のもの」

 

「それは!」

 

「赤さん、分かって。相手が同じ人間である以上、魔女を相手にするより厄介な場合だってある。向こうの考えが分からない上、万全とは言い難くなってしまった現状では…」

 

「っ……………」

 

 

ああ、そうかよ。なるほど、そりゃそうだ。

 

正しいよな?先輩。チームを預かる、あんたの判断としちゃあ。そりゃもう理性的でいらっしゃるよ。流石だな。

 

 

「あ、そ。分かったよ」

 

「ほんと?赤ちん、分かってくれたん…?」

 

「あぁ」

 

「そっか。じゃあ…じゃ、皆で早く…!」

 

「帰れよ。お前らはな」

 

「え!?」

 

 

嘘だろみたいな声を出すマジ子を無視して、ローブの奴らに向き直る。そうだよ、こうすりゃいいんだ。

 

 

「なにしてんの赤ちん…?」

 

「戦うんだよ」

 

「でも、分かったって!」

 

「まぁな」

 

 

よーく分かったよ。どうあっても私の思い通りにはさせてくれないってことがな。だったら…

 

 

「チームじゃダメなら、一人でいいわ。私一人、個人的に戦う。文句はねえんだろ」

 

 

もう収まらねえんだよ。自分でも初めてなんだ、こんなにムカついたのは。

 

それを今ここで晴らすことが出来なきゃあ、私の気が済まねえんだ!!

 

 

「ちょ、待って下さい。というか、落ち着いて下さいな!」

 

「うるせえ」

 

「煩くても、なんでもいいんです!冷静に…」

 

「うるさいってんだろ!!」

 

 

いい加減鬱陶しくなって、怒鳴る。声がデカ過ぎたか知らないけど、先輩は顔を顰めるし、他の面子はビクついた。どうでもいいよ、そんなのは。

 

 

「一人でやるっつった!それでいいだろ…。個別行動だよ!しばらく好きにさせてもらう!」

 

「そんな!」

 

「帰れよ、腰抜けは!」

 

「無茶苦茶よ、貴女!」

 

 

そりゃよかったな。悪いけど、これ以上あんたらと話すことはない。なんて言われようが、私はもう知らねえ!

 

 

「………」

 

「話は終わりなの?」

 

「おお」

 

「可哀想よね、アンタのチームも。こんな聞かん坊の面倒見なきゃいけなくて」

 

「馬鹿リーダーのフォローやらされる、そっちの奴らもな」

 

 

言いながら、手持ちのグリーフシードを懐から取り出して、ジェムを浄化する。ブチのめすなら、万全でないといけないよなぁ?

 

 

「ちょ、隊長。ほんとにやるんですかぁ…?」

 

「なんかあの赤い人、やたらキレてますよさっきから…」

 

「大丈夫よ、あいつ一人でやる気みたいだし。…それに、わざわざここら一帯の人払いやってくれた人にも失礼でしょ!」

 

「めっちゃ頭下げてましたよね。そういう魔法持ってる羽根、何人か探し当てて」

 

「季節限定スイーツも奢ったわよ」

 

「ドヤ顔になることじゃないですよう…」

 

 

黒ローブが、白いのに不安そうに話しかけてる。人をチームのお荷物みたいに煽っといて、そっちも微妙に統率取れてねえじゃん。バカか?バカだったわ。

 

 

「…ま、とにかくね。講義再開と行きましょうか」

 

「予定は変更…座学じゃなくて、実践形式よ!」

 

 

そう言ってローブ共が武器を構えるのを見て、私も戦う態勢になる。もう御託は十分。こっからは死ぬ程分かりやすいやり方が出来るってわけだ。

 

いつでもパイルを起動できるように準備しながら、私は目の前の敵に向かって飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(来るなら来なさい、赤いやつ(おバカさん)

 

(魔力を使う機会があるなら、好都合。見せてやるわ、解放の証を!)

 

 

 

(グリーフシードなんていうのは、もう流行りじゃないんだってこともね!)

 

 

 

 





マギレコ本編の出来事

・探し人と再会した いろはだったが、当の灯花からは、自分のこと、ういのことは知らないと断言される。
落ち込む心をなんとか落ち着けた いろは は、鶴乃、フェリシア、さなと共に、ソウルジェムや魔女の正体等、魔法少女の真実を知ってしまうのだった。


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6-7 穢れの貌(かたち)



♢この復刻イベント・ラッシュの目的は…!?





 

 

 

時間が経つごとに、大きくなったものがある。それは弟の背もそうだし、なにより私の嫌な気持ちのことでもあった。

 

お父さん、あの人、そして弟。仲のよろしい家族団欒ってのを見せつけられる度に、それはデカくなっていって。

ついに我慢できなくなった私は、家族と関わるのをやめた。自分から無視してやったってこと。

 

あの人達の中に居て、皆して仲良しなの見てるとさ、蔑ろにされてる気がしたんだよ。死んだお母さんのこと。

 

もうお母さんのことなんかいいんだって。居たことなんて綺麗さっぱり忘れちゃって、新しい気持ちで次に進もうよって感じで。

 

そんなの嫌じゃん。

 

時間なんて大きい流れの中に、お母さんとの思い出が投げられて、消えていくなんてさ。私、嫌だよ。

 

あの団欒の中に居たら、私もいつか、お母さんを思い出に変えちまう気がした。だからもう、関わらないって決めたんだ。

 

故郷の二木から神浜に引っ越すことになっても、それは変わらなかった。

 

 

 

 

 

 

だだ広い廃工場の中に、幾度となく火花が散っていく。硬質な、例えば金属をぶつけ合っているかのような、高い音を響かせながら。

 

それは宙を舞い、地を走る人影達がそうさせていること。二つの相反する者達同士が争う音だった。

 

 

「ふんっ!」

 

「せっ!」

 

 

その様子を、特に何の感想を抱くこともなく、ウワサの少女──シーと名付けられた少女は眺めている。

今もまた、彼女が愛してやまない 赤づくめの少女と、自身の創造主の配下らしい白い魔法少女が、それぞれの得物を打ち付けあったところだ。

 

直後に後方へ下がる白い衣装の少女…白羽根に、赤い魔法少女こと、赤が追いすがる。武器のパイルで殴りかかるも、白羽根の使う剣に軌道を逸らされてしまった。

 

 

「ほら、どうしたの!ぶっ潰すってんでしょ、アンタ!」

 

「チッ…!うざってえなあ!」

 

 

一見互角に見える両者の戦いだが、その実 押されているのは赤の側。二人の着ている衣装が、それをよく表していた。

 

白羽根のローブが舞い上がった土埃による薄汚ればかりなら、赤の真紅のコートには、それに加えて細かい切り傷があちこちに出来ている。

白羽根の剣による攻撃を、回避しきれていない証拠だ。

 

 

「〜………」

 

 

本当なら、愛しの赤が傷付けられていく様なんて、シーには黙って見ていることは出来ない。今すぐにでも割って入り、彼女を虐める奴らなんてブチのめしてやりたいと思っている。

 

しかし、シーはウワサ。ルールの下に作られた、魔法の被造物。母同然の主が記した本能が、味方と定めた者に手を出すことを禁じてしまう。

 

故に面白くない気分のまま、赤の戦いを見ていることしかできないでいた。

 

 

 

 

「やっ…!」

 

「あだっ!ちょ、痛いたいたい!いったいもう!」

 

 

先輩は小さいカンテラを幾つか作り、黒羽根にぶつけた。小さい爆発が連続し、ダメージを与えていく。

 

だが…。

 

 

「ん〜…。なんか、やる気無いすか?」

 

「………」

 

「まぁ、分かるっすけどね。私もぶっちゃけ…ねえ?」

 

 

黒羽根に内心を見抜かれて、何も答えられなくなる。事実、黒羽根の着ているローブには大した傷の一つもできてないのだから、そういう反応にもなるだろう。

 

でもそれは先輩に限った話ではなく、赤を一人にはできないからと戦うことにした他のメンバーも、きっと同じだろう。

この廃工場の中 散り散りになっているにも関わらず、戦いの音というのがあまり聴こえてこないからだ。

 

年長に至っては姿が見当たらない。外にでも出てしまったのかと、先輩は頭の片隅で思考を巡らせた。

 

 

「なんてーのか、大変っすね」

 

「なにが」

 

「や、ね?お互いたった一人に振り回されてさ。そっちの赤い人とか、うちのバカリーダーとか」

 

 

言いながら、黒羽根は離れた場所で戦う二人にチラと目をやる。先輩も同じようにするが、先程から変わらず、口汚く騒ぎながら争う同居人が映るだけだった。

 

赤を心配するのは当然だが、しかし今の彼女が自分達の言葉を冷静に聞き入れてくれるとは思えず。だったら一刻も早く戦いを終わらせて、少しでも落ち着いてくれたら…と思ったから、先輩は助けに入ったのであって。

 

だが結果がこれでは、その行為に意味があったのかどうか、彼女には分からなくなってしまった。

 

 

「うちのリーダー馬鹿だけど、ほっとけないんすよね、なんか。そちらさんだってそうなんでしょ?」

 

「そりゃ…一人にするわけにもいきませんわよ。チームですもの…」

 

「まー、そちらさんの子が荒れてるのはリーダーにも責任ありますよ…っと!」

 

 

不意打ちのように、黒羽根がいきなり鎖付きの刃を投げ放ってくる。掠ってはしまったが、先輩の身にまともに当たることはなかった。

 

 

「いきなりなにを…!」

 

「やる気がないのはともかく、リーダーのプラン手伝わなきゃなんで。助けに入られても困るし、ちょっと遊ばないすか?」

 

「何故私がそんな」

 

「ちゃんと講義も続けますから」

 

「っ………」

 

 

そんなことを言われたって、乗っかってやる義理が先輩らには無い。無視して帰ってしまうこともできるのだ。皆で。

 

だが、赤の存在がそれを躊躇わせた。あんな聞かん坊知らないと、我儘な子供なんて勝手にしろと言えればよかったのに。

 

だが、今の先輩は彼女を預かる身。幾ら今の赤に対して不安だの苛立ちだのを感じていたって、置き去りになんてできるはずはない。何かあれば彼女の家族にだって申し訳が立たないと、そう考えてしまうのだから。

 

 

「じゃ、どっから話しますかねー。グリーフシードについてとかにしましょっか?」

 

「っ…」

 

 

話しながら攻め立ててくるのを捌きながら、先輩はどうにか全員で離脱する為の算段を立て始める。

 

羽根達の講義とやらで明らかになる、更なる真実なんて最早どうでもいい…わけではないけれど。

それでも、今はダメだ。

自分達がもう、ただの人間ではなくなったのだという事実。赤にも先輩達にも、それを受け止める時間が要る。

 

一人血気に逸る赤は納得しないだろうが、4人でタコ殴りにしてでも連れ帰らなくては。

「グリーフシードって、なんか不思議だと思いません?」なんて喋るのを聞き流しながら、先輩は機を待つことに徹した。

 

このままここに居続けて、彼女らの話に耳を傾けてはならないのでは…

そんな、嫌な予感を感じながら。

 

 

 

 

 

 

「不思議だと思わんー?グリーフシードって」

 

「な、なにがさぁ!」

 

 

マギウスの…なんだったか。マジ子にとって羽根達とはそういう認識で、まともに名称を覚えてはいなかった。その内の一人が話し掛けてくるから、とりあえず応えてみているだけ。

 

赤を放っておけず先輩達と一緒に助けに入ったのはよかった。だがそこから黒いローブを羽織ったやつらに邪魔をされて、こうしてバラバラにされたのだから、マジ子としては堪ったものじゃない。

 

コーギー?なんてマジでもういーよ…。アタシは早く、皆でウチに帰りたいだけなのに!

逸り、そして焦り。それがマジ子を、少しだけ投げやりにさせていた。

 

 

「だってさ、グリーフシード使わなきゃ、私らどうなんのー?」

 

「どうって…」

 

「魔力、使えなくなるって聞いてんでしょー?そっちの話聞く限りはさ」

 

 

果たしてそんなことを言っていたかと、マジ子は困惑する。ジェムの話の衝撃が大き過ぎて、頭から吹き飛んでしまったのかもしれない。

 

 

「でもさー、考えてみてよ。なんでそれしかないん?」

 

「…え、あ、なに?」

 

「ちょ、講義なんだから話聞いとけー?…だからー、なんで浄化できんのがグリーフシードしかないのかって!」

 

「それはぁ…!…だって……」

 

「うん?」

 

「………わかんない」

 

 

ただ聞いて流されるのも癪だったので 何か言い返してやろうとしたが、言葉に詰まる。この混乱と彼女のアレな頭脳とが合わさってしまっては、無理のないことだろう。

 

 

「そっかぁ、わかんないかー。まぁその為の講義だからねー。じゃ教えてくんだけ、っど!」

 

「っ!?ねー、ちょ、また投げてくるしブキ!なんなの!」

 

「ご飯で考えてみてよ。ご飯ってあれねー?白飯じゃなくてー!」

 

「聞いてってマジでぇ!!」

 

 

その後もマジ子は黒羽根と戦い、羽根の言うことをただ聞いていることしかできなかった。赤に近付こうとすると武器を放って妨害するので、それをアタッシュケースで叩き落としながら。

 

先輩がテレパシーで集合の合図してくるまで、それは続いた。

 

 

 

 

 

 

「だからねー!?要するにほら、ご飯ってぇ!」

 

「ん」

 

「や、『ん』じゃなくてさ!ホントに聞く気あんのぉ!?」

 

「ん」

 

 

黒羽根の一人が、声を張りながら逃げていく。年長はそれを車で追いかけて、時々ワイパーやライトを生成しては投げる。

まともに狙って傷付ける気が起こらないのは、自分達と同じ人間だからかもしれない。

赤にベッタリなあの少女…シーのような例外はともかくとして。

 

いや…ジェムの真実を聞いた今では、私達もそちら側ということなのかも…と、年長は思わざるを得なかった。

 

人じゃない、人の形をしたなにか。

 

 

「人の食べるもんってな、いっぱいあるわけじゃん!米だの、肉だの、魚だの、フルーツだの…」

 

「………」

 

「なんならお菓子だって、食べ過ぎりゃ 飯はいいやってなるわけっしょ!?じゃ、なんで魔法少女にはないわけ、それぇ!」

 

「ッ……」

 

「よーするにね!そういう風にデザインされてるわけ!仕組みが…っね!!」

 

「っ!」

 

 

ガンッと耳障りな音が鳴り、車体が揺れる。

反射的に顔を背けてしまうが、年長の武器である車は止まっていない。変わらず黒羽根を追いかけた。

 

 

「人間てほら、うまれて生きて…っと、あぶっ…!結婚とかしてさ、うおっ…子供できて、そんで最後には死ぬわけで…しょっ!?」

 

「………」

 

「魔法少女にはさー!無いわけ、そういう…はっ…ちょ、待って疲れてきた…はひーっ」

 

「………」

 

「だっ…!からさ!ひー…私らが最後どうなるかったらね!?そりゃ死ぬは死ぬんだけどー!ぜぇー…!」

 

「ッ!」

 

 

黒羽根の足が止まる。好機だ。もちろん彼女の話は聞いているが、それはそれとしてしまっても まぁいいのだろう。

年長はアクセルを思い切り踏み込み、車のエンジン音を掻き鳴らし 突っ込む。突撃開始だ。

 

 

「え、あ!?いや、ちょ、それ駄ぁっ!!」

 

「…頑張って」

 

「あのさぁ!?」

 

 

流石に黒羽根も迫る車体に気付いて慌てたが、距離と速度を考えれば、もう今からは避けられない。頑張ってと言ったはいいが、年長は不安になってきた。今からでも急ブレーキを掛けるべきか?と。

 

 

「だあっは!」

 

「おー…」

 

 

だが、それは杞憂だったらしい。黒羽根は鈍い音と共にボンネットに乗り上げ、車が少し揺れた。

ちょうどいい。このまま運んでしまおうと、年長は車の進路を廃工場へ向ける。

 

 

「ちょ、あんまスピード出…!じゃなくてあのー、ホラ。だからね!?」

 

「ん…」

 

「そういう生き物にするってのは、ちゃんと意味があるってことでー!聞いてるー!?」

 

 

黒いローブの騒がしいオーディオは、工場の壁をブチ破ると同時に止まった。

思いっきりブレーキを掛けると吹っ飛んでいったが、年長としては まぁこの際別にいいだろうと思っているらしい。

 

 

 

 

 

 

「っで!その意味ってのは!なんなんっ!です!」

 

「あっ痛っ…!だ、だからぁ…!痛っ痛いですよぅ!」

 

 

蹲り、ゲシゲシと己に足蹴にされる黒羽根を見ても、チビにとっては何の慰めにもなりはしない。それどころか、何をコイツらと 余計に怒りが込み上げる。

 

キレる若者をナメるなよクソボケがと言わんばかりの勢いが、今の彼女にはあった。

存分にぶちのめした上で、知っていることを吐かせてやろうという憤りも。

 

 

「だっ…だから!事情があるんです、事情が!私達をこんな…!」

 

「ッ!!」

 

「っう!ゴホッ…!」

 

 

もう一発、思い切り腹へ蹴り込む。黒羽根が咳き込もうが、構うもんか。こいつらは私達を煙に巻いて弄んで、その上嫌な気持ちにさせるようなやつらなんだ。痛い目の10や20くらい!

 

そうやって当たり散らすような攻撃をするチビの様子は、まさしく子供。年相応だと言えるかもしれなかった。

 

 

「はー…はっ…得を…」

 

「はぁ?」

 

「得を、してるんです。そういうやつが居るんですよ!私達を…女の子を、こんな生き物にして!」

 

「生き物ぉ?そんなの」

 

「キュゥべえですよ…あれしか居ないでしょう?」

 

 

キュゥべえ。魔法少女という"力"を自分達に齎した、あの白いもの。

なるほど、人間が描く絵空事の世界とは別の、地球の理の外にある力。一番精通しているのは、魔法少女にする力を持ったアイツだろう。

チビはひとまず納得したので、今度は手を出さず話を聞いた。

 

 

「けど、だからって何です。私達は魔法少女になりましたよ。それはそう。でも全然変わらないです」

 

「あの、その…石ころが本体、ですよ?」

 

「それはビックリですけどね!魂なんてアニメや漫画でも在処は曖昧なことが多い…それが可視化された、言っちゃえばそれだけでしょ」

 

 

「そもそも人間なんて、元々風穴でも空いたら死ぬような全身弱点塗れの生き物でしょうが!」と、チビは続けた。

黒羽根としては些か大雑把に感じたが、まあ言っていることは分かるのだ。成る程、血が上って暴力的になっているようで、その実ショックを上手く処理できているように見える。

 

だが違うのだ。まだ本命の話には至っていない。

それを知った時、果たして…。敵という立場とはいえ少し胸が痛むが、黒羽根としては ここで話をやめるという訳にもいかないのだ。

 

 

「そうですか…で、でもそれに加えて、共食いまでさせられるようになったんじゃ、堪ったもんじゃないですよね…?」

 

「共…魔法少女同士が、戦うってことですか」

 

「ううん。わ、私達魔法少女は、同族を食べて生きてるって…」

 

「?…は、え?いやちょっと言ってることが」

 

「もう、それを食べないと生きられない体なんです」

 

 

チビは虚を突かれた気分になり、眉を顰めていく。

この真っ黒女はいきなり何を言ってるんだ?共食い?同族を?こいつ、魔法少女の話をしているんじゃなかったのか?いつからカニバリズムの話になった。

 

意味不明。頭がイカれてるのかこいつらは?いや、まともな人はそもそも解放がどうのと宣って、こんな怪しい服装で街を駆け回ったりしないものだ。

 

普通に引いたか、恐怖が湧いたか、チビは思わず半歩後ずさった。

 

 

「…キュゥべえが得するって言いましたね。あれが喜ぶんですか?自分の手で超人にした女の子達が、同じ魔法少女に齧り付くのを見て」

 

 

だとしたら変態じゃねえか意味分かんねえよ死ね!

心中で言葉が荒ぶってしまったが、ヤツがあの無表情な顔面の下でそんなことを考えているのかと、そう思えば致し方ないだろう。

 

 

「あ、そうじゃなくて…いやそうではあるというか。うーん、なんて言ったらいいかな…」

 

「………」

 

「……あれ。なんか、怖がってます?」

 

「怖がってるというか──」

 

 

『引いてます、単純に』と言い切る前に轟音が響き、思わず音の鳴った方向へと二人して目をやる。

イカしたエンジン音の車が派手にブレーキをかけ、その拍子になにか黒い塊が吹っ飛んでいくのが見えた。

 

 

「今なにか…」

 

(皆さんっ!!)

 

「ッ!」

 

 

思考を巡らすより前に、頭の中へと言葉が走る。今や聞き慣れた お上品そうな声色。チビ達が先輩と呼ぶ少女による、テレパシーだ。

 

 

(びっくりした…なんです!)

 

(撤退しますわ。赤さんの所へ集まって下さいませ!)

 

(わかったー!けど…)

 

(大丈夫、かな。赤ちゃん)

 

(どうせまだ血ィ上って頭真っ赤っかなんじゃないです?)

 

(全員でブチのめしてでも帰ります!シーさんはどうせ赤さんが居れば着いてきますわよ!)

 

 

なにか、いつもと違う。チビはそう感じた。

 

自分達の司令塔が口汚くなるのは今に始まったことではないが、なんというか、質が違うのだ。言葉が纏う雰囲気とでもいうのか。

こう、なにかを危惧しているような、焦っているような…。

 

チビだけではない。共にテレパシーを受け取ったマジ子も年長も、それを感じ取っていた。

 

 

(…分かりました。この黒い人はなんとかします)

 

 

そうと決まれば、今すぐこの場から離れなくてはならない。だがそれには問題が一つ。

 

 

「あっ!ダ、ダメ…!」

 

「ッ…!チッ」

 

 

黒羽根が飛ばしてきた鎖鎌を、チビは袖で弾く。

自分が仲間の下へ向かおうとすると、武器を振るい阻止してくる。先程からずっとこうだ。

問題とはこれのことで、チビにとっては舌打ちが出てくる程度には鬱陶しかった。

 

しかも少し反応が遅れて、衣装が少し切れてしまっている。

 

 

「やっぱり そのぅ…なんか、調子悪いですよね…?」

 

「は?」

 

「だ、だってあなた、すっごくすっごく強くて、本当は私達全員でかかってもやられちゃうのに。今だって、私の攻撃に反応しきれてないから…」

 

「………」

 

 

黒羽根にもそれは分かっていたようで、おずおずとチビに問いかける。敵同士とはいえ、黒羽根たる彼女のメンタリティは心優しい普通の少女であるのだから、以前のキレがない様子を見れば気になるというもの。

 

そう。この時彼女は純粋な気持ちでそう聞いたのだ。聞いたのだが…

 

 

「黙ってろ全身イカ墨野郎!!」

 

「ぶっふっ!!」

 

 

煽りへの耐性もそこまでなく、生来怒りっぽいチビには黒羽根の言葉はよく効いたらしい。

しかも今は劇物に等しい情報や絵面を頭に叩き込まれたばかりだから尚更。

 

暴言と共に鋭く放たれた蹴りが無防備な黒羽根の顔面へと吸い込まれ、ガツッ!っと鈍い音が鳴る。

反応すらできず、黒羽根は盛大に鼻血を吹き出しながら仰向けに倒された。

 

 

「あばよですよ、マヌケが!」

 

「あ、や!ま、待って…!」

 

 

黒羽根は離脱を阻止しようとするも、出来た隙は大きい。既に腕も武器も届かない距離をチビに空けられている。

『わり、逃げられた!』『こっちもっすー』などとテレパシーが届いている辺り、彼女の仲間達も同様に突破されてしまったのだろう。

 

 

「あ〜も〜…!そもそも私一人じゃあの小さい子に敵わないって言ったのにぃ〜!」

 

 

隊長のバカァ〜!と、温厚な性格に似つかわしくない悪態を吐きながら、一先ずその隊長の下へと駆けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほーら、また貰うわよ!」

 

「チィ!!」

 

 

ガギンッと金属同士がぶつかった後、二人の少女は互いの距離を開く。もう何度こうして得物をかち合わせたのだろう。

少なくともこの二人が、そんな細かいことに脳のリソースを割いていないことは確かだが。

 

 

「アンタもほんっとしぶといのねー…って割には、なーんか息上がってる感じ?さっきからさ」

 

「はーっ はーっ…ほざく、なっ!」

 

「っおぉ」

 

 

赤が左腕で殴りかかるも、白羽根は間一髪で避ける。戦い始めた時からずっとこの調子。余裕そうな声色と態度で攻撃を避けられる。当たっても腕や脚、武器でガードされるのだから、大したダメージにはなっていない

それが赤を余計にイラつかせた。

 

 

「返すわ…よっ!」

 

「ぐっ…!」

 

 

空振りで体勢が崩れ、隙が生まれたのを白羽根は見逃さず、赤に回し蹴りを見舞う。当然、パイルの無い左半身へ。

防御の為に身構えることは叶わず、魔法少女の脚力をモロに受けた赤は、呆気なく地面へ転がされてしまった。

 

 

「チッ!クッソが…!」

 

「アンタの武器は強くてもね、アンタ自身はそれに頼ってるとこがあんのよ。だからこうやって崩されるの」

 

「あぁ!?」

 

「今まで魔女や使い魔と戦って、対魔法少女なんて想像したことなかったんでしょ?しかもアンタは今 一人。東で戦った時とは違うのよ?」

 

「うっせ!だからなんだよ」

 

「そうやって適当に噛み付くことしか出来ないんだからもー…。まあでも?中々やるんじゃないの?エリートの中のエリートたる特務隊隊長のこの私が、まさか講義を披露する暇もないくらい食い下がられるだなんて。そんなの羽根多しと言えども、多分数えるくらいしか───」

 

「ッ!!」

 

 

倒れた体を素早く起こし、流れるように片膝を立たせ、腕の力も使って白羽根へと突っ込む赤。

普通の人間なら不安定になるかもしれない姿勢だが、魔法少女の胆力ならば安定して成し得る。

 

 

「敵の前でベラベラとお前!悠長なんだよ!!」

 

 

不意を突いたはずだ、今度は当たる。確信してパイルを鈍器として振るう赤だったが…

 

 

「なにが!」

 

「!?」

 

 

下から掬い上げるように振るわれた白羽根の剣に、パイルがカチ上げられてしまう。剣が一本だけでは難しかっただろうが、所持しているのは二本。

それらに魔力を集中させて振るえば、大きな武器であろうと弾いてしまえる。彼女はアホだが、腐っても白羽根に選ばれるだけはあるのだ。

 

ただ殴るだけじゃなく 一気にダメージを稼ぐつもりだったのだろうか。パイルの杭打ちが作動し、魔力の波動が上方向へと突き抜けていったのを尻目に、白羽根は更に動くことにした。

 

 

「悠長〜?"強者の余裕"ということでしょうが!」

 

「っ…!」

 

 

目の前のおバカさんは得物が使えず、しかも隙だらけ。おまけに自身はすぐにでも追撃できる状態にある。

ああ なんて恐ろしいの、私のセンス!戦いだって、こんなに上手なんだもの!

よし、じゃあ今度は本格的に痛い目を見てもらおう。いつまでも噛み付くばかりの犬っころには、躾が必要だわ。

 

赤を内心コケにする余裕と共に、迷いも見せず懐へと踏み込む白羽根。赤からすれば、素早く そして力強いものだったに違いない。

 

だが往々にして人の心というものは、優勢である程 慢心には繋がりやすいもので。

 

 

「バカがよ!!」

 

「の°っ」

 

 

白羽根の視界が突如として塞がれ、次の瞬間には顔面にえげつない程の衝撃と痛みが走る。

発音方法など到底わからない呻きを発すると、彼女はローブをはためかせ後方へと派手に吹き飛ばされた。

 

飛び出た鼻血が宙に綺麗なアーチを描いたのも、まあ妥当な結果といったところか。

 

 

「ざまみろ、アホタレ」

 

 

ほんの少しだけ…0.001くらいは溜飲の下がった赤は、打ち捨てられた部品やら機材やらに突っ込んだ白羽根を見つつ吐き捨てる。

 

彼女がやったことと言えば 打ち込まれたパイルの杭を元に戻しただけだったが、不意を打つには役立ったので、本人は良しとした。

 

なお、肘の角度の調整や、そもそも杭が元に戻る時の飛び出る動作を攻撃に使おうと思ったこと自体が赤の咄嗟の判断であり、ほぼ偶然に近かったことは明言しておく。

 

 

「おーい隊長〜!…ってあれ、なんかくたばってんじゃーん」

 

「あーっ しんどいっすよマジ…。お、隊長ついに死んだんすか?」

 

 

パイルの衝撃波で更に追撃をかけようかと考えた赤だが、黒羽根達が集ってきたのを見て思い留まる。なにやら疲れた様子なのを不思議に思ったが、自分の仲間と戦っていたからだということは、周囲に目を向けることなく戦っていた赤には分からないことだった。

 

 

「赤さん!」

 

「あ?」

 

「えと…無事、だった?」

 

 

声のした方へと向けば、先輩を始め、チームの仲間達が集ってきている。

シーは相変わらず少し離れたところにいて、事の成り行きをただ見守っているらしい。

 

 

「んだよ、お前ら…まだ居たんかよ!?」

 

「まだって!置いていけるわけないでしょう!?冷静でない貴女一人だけ!」

 

「そーだよ赤ちん…!ほら!マジもう帰ろ?ね?」

 

 

憔悴した様子のマジ子に懇願され、ぐいぐいと衣装を引かれるが、今の赤には何も響くことはない。

そればかりか「こいつは自分の邪魔をする気か」と、苛立ちを募らせる結果になるだけだった。

 

 

「触んな!ホントお前、しつけえといい加減に…!!」

 

「死んでないわよっ!!」

 

「はぁ!?」

 

 

まるで割り込むように聞こえてきた大声に、赤は思わず反応する。

 

 

「大体アンタらねえ、足止めも出来ないでおめおめ戻ってきといて 態度悪いのよ!もっとこう、ないわけ?傷付いたリーダーに甲斐甲斐しく回復魔法かけるとか!」

 

「や、回復苦手だっつったじゃんよー」

 

「大体無理なんすよ、私らみたいな下っ端が講義とかって。どう説明したもんだかほんっっと分かんないんすから」

 

 

見れば、助け起こされた白羽根が、黒羽根達に食ってかかっている。もう何度も見た、彼女達のバカバカしいやり取りだ。

 

 

「あ"〜いってぇマジで…車はないじゃん車はさぁ…」

 

「た、ただいまです〜…うぅ、痛い…」

 

 

そこへ互いに体を支え合い、足取りの重くなった残りの黒羽根も合流。

白羽根は「おかえり!!」と憤慨を引きずった声色で出迎えたものの、「うわーちょっと、ボロボロじゃないアンタら!」と、すぐに部下の身を案じた。

 

 

「やっぱり無茶だったんですよぅ、私一人であの小さい子止めるなんて…。講義も全然上手くできませんでしたぁ…」

 

「まぁ、うん…悪かったわよ、それは。でも講義のことは良いのよ!何だかんだで、こっちも頃合いだしね!」

 

 

何かしらの準備が整ったことで気を良くし、いつもの調子に戻った白羽根。

鼻の穴の片方を押さえ、詰まった鼻血を鼻息と共にフンスッと吹き出した後、黒羽根達より一歩前に出た。

 

視線の先には当然、赤達5人+1が居る。

 

 

「じゃ、まあアクシデントやら色々とあったけどもね。纏めに入るわよ!」

 

「おめーらが勝手に喋くってたんだろうが…」

 

「アンタ達がこの子らから聞いた通り、私達魔法少女…キュゥべえと契約した人間は、普通の人類とは違う生物になってるわけ!」

 

 

赤は小声で毒吐くも、白羽根は聞こえていないとばかりにお構いなし。

本当に聴こえていないのかもしれないし、もしくは一々取り合う気はないのかもしれない。

 

 

「要点を絞って、まず1つ。契約して魔法少女になった場合、魂が肉体を離れて、ソウルジェムとして可視化される」

 

「身体能力も身体機能も上がるし、結構丈夫になるっすよ。ジェムさえ無事なら欠損とかも平気っす」

 

「まっ、ジェムが肉体から100m以上離れるとリンクが切れて、肉体は動かなくなっちゃうんだけどねー」

 

 

白羽根が語り、黒羽根達が捕捉する。纏めに入るという宣言の通り、翼達は語り始めた。魔法少女という生き物の真実。その核心を。

 

 

「二つ。魔法少女は願いを叶えてもらう代わりに、魔女と戦う使命を背負う。倒した魔女が落とすグリーフシードを使って、ソウルジェムに溜まった穢れを浄化できる」

 

「ジェムってのは魔法を使ったり、精神的にダメになったりすっと汚れてくんだよねぇ。メンドくせーったらないってな」

 

「その、穢れを取って綺麗にするには、グリーフシードが不可欠で、えと…例外はないっていうか…不思議、ですよね?」

 

(………いけない)

 

 

このままここで話を聞いていてはダメだと、先輩は改めて考える。

聞かん坊な同居人が動かないのでつい留まってしまっているが、つい先程 黒羽根と戦っていた時から感じていた悪い予感は、未だ警鐘を鳴らし続けているのだから。

 

 

(皆さん!お手伝いを!)

 

(え!?)

 

(え!?じゃなくて!先輩さんと一緒に赤さんをどうにかしろってことでしょうが!)

 

(ん…連れて、帰らなきゃ)

 

 

年下のチビに叱られるマジ子はなんとも情けないが、彼女とて先程から大きなショックを受けたままなのだ。仲間からの合図に上手く反応できなくても、責められない。

 

 

「ん!?おい、なんだお前ら!」

 

(赤さん、いいですから!とにかく帰りますわよ!今すぐ!!)

 

「何度言わせんだ!お前らだけで帰れって…!」

 

(やぁ!皆で帰んの!マジ言うこと聞いてって!)

 

(っ……!)

 

「いって!誰だよ叩いたのふざけ…ちょ、いてえってマジで!引っ張んな髪ィ!オイ!!」

 

 

向こうにバレないようテレパシーでやり取りしつつ、赤を強引にでも連れてこの場を去る。

先輩と仲間達が下した決断はそれだったが、依然頭に血が上った赤にはそれを察することはできず、声を荒げて抵抗するばかり。

 

そんな状態では、相手にバレるのは当たり前であって。

 

 

「あら、なによ。モゾモゾ、ギャーギャーと。もしかして逃げちゃう気?」

 

「えー、つれないなー。講義もう終わるよー?」

 

 

「そうそう」と呟き、白羽根は懐へと手を入れる。

 

数瞬 ごそごそと弄るような仕草を見せて、「じゃーん」と戯けながら取り出したそれは、自らのソウルジェム。

 

 

「これ、なーんだ」

 

「あぁ?なにって……いやお前それ」

 

「色が…!?」

 

 

白羽根の指と指の間に挟まれたジェムを見て、赤の怒りも、この時ばかりは多少なりに収まりを見せざるを得ない。

 

魂の輝きを表す色鮮やかな煌めきは失せ、黒い靄のようなものがじわじわと溢れ出る、不気味かつおどろおどろしいものとなっていたのだから。

 

 

「え…ちょ、待って!なんでそんな黒いん!?」

 

「穢れの浄化は、ソウルジェムでしか無理だって…あんたら言ってませんでしたっけ!?」

 

「ん…!浄化、した方が…。良かったら、手持ちある、から…!」

 

 

マジ子もチビも、事態を目の当たりにし 危機感を募らせる。

この場に連れてこられた時から、魔法少女やソウルジェムに関する話を聞かされてきているのだから、それも当然。

 

年長に至っては敵とはいえ心配なのか、なけなしのグリーフシードを分けようとする始末。

 

 

「あーあー、気ぃ使われてるでやんの…隊長だいじょぶ?辛そうだけど」

 

「ん…?めちゃくちゃしんどいわよ。まあでも…時が来たわね!」

 

「…おかしい」

 

 

明らかに普通でない状態のジェムに、本人が言う通り、辛そうに見える白羽根自身。

赤から攻撃を貰っていたのは分かるが、明らかにそれだけではなさそうな雰囲気を感じて、先輩は独りごつ。

 

何故だ?何故あの白いやつは、この状況であんなにも落ち着いている?

ソウルジェムが魔法少女には最も大切であることは今までの話で分かっていて、だからこそグリーフシードによるケアは不可欠なのだろうということも、先輩には重々理解できている。

 

では何故、目の前の少女はそうしないのか?このままでは魔法が使えなくなると、キュゥべえから聞いているのだ。そんな愚をわざわざ自分から…

 

しかしそこまで考えて、思い留まった。

 

 

(いや、まさか…違うの?)

 

 

そういえばそうだと、先輩はハッとなる。

魔法が使えなくなるが、それだけではない。白羽根達はそう言っていたのだ。

「間違ってはいない」と、なにか含みを持たせた言い方をしていたことだって思い出した。

 

つまり、そこになにかある。羽根達は、未だその奥に隠された真実を語っていない。

では、それはなんなのか?

 

 

(なにか…なにか、繋がりそうな)

 

 

魔法少女とソウルジェム…そしてグリーフシードと、それを落とす魔女。

浄化しなければ、魔法が使用不能になる。

その使用不能とは、どういった意味か。

 

 

(…………………)

 

 

一時的?あるいは永遠に?

永遠にだとして、それは何故なのか。

魔法を失い、魔法少女ではなくなるから?

それって、人間に戻るということ?

なにを馬鹿な。自分達の魂は既に宝石という形で可視化され、体外へと取り出されているのだ。

 

後から人に帰れるのであれば、皆そうしている。今頃この神浜に、魔法少女が溢れていることなどないだろう。

 

では…では、どうなるというのか?自分自身を黒々と染め上げ、そうした果てに私達は、魔法少女はどう…いや、何に成って…?

 

先輩が考えれば考えるほど、胸中の警鐘は激しく鳴り響き、待ったをかける。

それ以上はダメだ、来るな、求めるなと言わんばかりの嫌な予感が迸る中、しかし彼女は、ついにその真実へと辿り着こうとしていた──のだが。

 

 

「んぐっ、くっ!ん"ぅぅぅぅぅぅぅぅ…!!」

 

 

だが それよりも、状況が動く方が早かった。白羽根は苦悶の表情を浮かべ、やがて彼女のジェムの穢れは、その臨界を超えていく。

 

 

「うっ!?」

 

「っ!な、なんだあっ!?」

 

 

ついに溢れた穢れが波動となって噴き出し、それにより巻き起こされた突風が、赤達を襲う。

腕や手で顔を守ることはできても、突然の異変による動揺は、隠すことは出来なかった。

 

 

「ふぅぅぅぅ…!纏めのぉ!3つ目ぇ!!」

 

「はあ!?まだやんのかよこいつ…!」

 

「いえ、待って…!これは!?」

 

 

ソウルジェムは漆黒の靄のようなものを吐き出し続け、それが渦を巻く。荒ぶる風の中 白羽根のローブは捲れ、とうに素顔が露わになっている。

 

顔からは汗が伝い、顔を顰めた表情からは苦悶が見て取れるというのに、白羽根の瞳には爛々とした光があり、魔力は膨れ上がっていて。

誰がどう見たって、異常だった。

 

しかも、だ。

 

 

「なにか…なにか、出てくる!あの白い人から!?」

 

「え…マジ待って!なんか…なんか、知ってるやつじゃないこれ!?魔力的な…!」

 

 

白羽根の少女の髪…ツインテールとなった部分の毛先が宙へと持ち上がり、みるみると変わっていく。

 

広がり、膨張し、変異し、成型されゆくその姿、そして発せられる魔力の形は、魔法少女にとってとうに慣れたもの。

 

敵であり、害であり、病であり、厄であり

 

 

そして明日の、己自身。

 

 

「…冗談だろ、おい。こりゃあ…こいつはぁ」

 

「この姿形…魔力パターン…どう、考えても…!!」

 

 

これが、真実。

 

 

「ジェムが濁って、穢れきったら…魔法少女はどうなるか!答えは!これよぉ!!」

 

「っ!?」

 

「いけない!皆さん、逃げっ…!!」

 

 

顕現した異形…例えるならジョロウグモのような姿をしたそれが、感情の主に呼応し、魔力の塊を放射する。

まるで蜘蛛の巣のような形の暴風は赤達の声など瞬時に掻き消し、嵐の中へと飲み込んだ。

 

後に残るのは、破壊された工場と、めくり上がった地面のみだった。

 

 

 

「魔法少女は、魔女になる……って、聞こえてないか。っだはぁ〜、しんどっ!」

 

 

 





マギレコ本編の出来事

魔法少女の真実を知ったいろは達は、みふゆから「追体験学習」を持ちかけられる。ウワサの力でみふゆの記憶を垣間見たいろは達は、灯花の講義の内容に嘘偽りがないことを思い知る。
いろはしかしその上でマギウスのやり方を否定するも、鶴乃、フェリシア、さなは洗脳を受け灯花らと去っていき、後から来ていたやちよには、チームの解散を宣言されてしまった。



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