Digital_Dream! (睡眠タイム)
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予告(Remake版)

私が以前考えた『バンドリ×デジモン』のクロスネタのRemake版です。

元々前から、バンドリとデジモンのクロスネタを考えていたのですが、私自身、所謂『ネタを考えるのは得意だけど、書くのは苦手な人』で、その為、長編を書ける自信が無いのですが、『このまま放置するのは良くない』のと上記の理由から、『ダイジェスト予告』と言う形で公開したのですが、あれから、以前投稿した物を見た後に幾つか設定を思い付いた反面、前の物と思い付いた設定に矛盾と剥離が出てきてしまった事もあり、今回Remake版を作りました。

そして、今日(8/1)が『8/1計画(お台場メモリアル)』(アニメのデジモンシリーズ全体の記念日)と言う事もあって、今回この作品を投稿する事にしました。




主な変更点は以下の通り


・メインの5人のバンドリキャラのメンバーの一部変更(但し、香澄と有咲はそのまま)。
・上記に伴い、パートナーデジモンの一部変更。
・一部加筆修正。




また、バンドリキャラとの一部に関しては、少し以下の様な設定になっています。




・香澄、有咲、ましろ、紗夜、日菜の5人は、5年前の『デジタルワールドの冒険』が切っ掛けで、本家『バンドリ』と違い、小学生の頃からの友達。
・本家『バンドリ』と違い、香澄は中等部の頃からに在学している(その関係で、ポピパは中等部の頃に結成されている)。
・Morfonicaは本家『ガルパ』と違い、メインストーリー第2章(アニメで言えば2期)の時点で結成&活動してる。




因みに私の作中描写が下手過ぎて、よく分かり難い感じになっていますが、この作品での香澄と有咲のキャラはそれぞれ(決まっている範囲ですが)、


・香澄→『本家『バンドリ』香澄+『V1テイマー』版太一&大輔&ヒカリ』
・有咲→『本家『バンドリ』有咲+光司郎』


を意識して書いています。


RASに関しても、もちろん登場させる予定です。


長々とした文面になりましたが、若し御時間があったら、お手柔らかに御願い致します。


P.S 日菜さんのパートナーデジモンですが、彼女のイメージや紗夜さんとの関係性を意識して考えた結果、急遽別のデジモンになりました…。
この作品を読んでくれた皆様に混乱を与える様な感じになってしまい、本当に申し訳ありませんでした。(2021.9.6)


 

 

私の名前は戸山香澄!

 

 

花咲川女学園に通う高校2年生!

 

 

幼い頃、星の鼓動を聴いて以来、キラキラドキドキするものを探し、そして見つけたのがバンド!

 

 

世界は今、『大ガールズバンド時代』と呼ばれ、ガールズバンドが大流行しているの。

 

 

私も、Gt.のおたえこと花園たえ、Ba.のりみりんこと牛込りみ、そしてとある一件で知り合い、共に同じ共通の経験を持つDr.のさーやこと山吹沙綾、Key.の市ヶ谷有咲の5人で、『Poppin'Party』と言うバンドを組んでるんだ!

 

 

そして私達のポピパ以外にも、色んなバンドが人気を博している。

 

 

 

 

幼馴染5人組で組んだ王道ロックバンド、『Afterglow』

 

 

事務所に所属してるメンバーで組んだアイドルバンド、『Pastel*Palettes』

 

 

1人1人の確かな実力に裏付けされたプロ顔負けの本格派ロックバンド、『Roselia』

 

 

世界を笑顔にすることを目標とした異色のバンド、『ハロー、ハッピーワールド!』

 

 

名門お嬢様学校「月ノ森女子学園」の1年生で結成されたヴァイオリンを交えたシンフォニックな曲を奏でるバンド、『Morfonica』

 

 

 

 

バンドをやってたおかげで、こんなにもたくさんのバンドと出会い、友達も増えて、本当にバンドと出会えて良かった。

 

 

そして、私。

 

 

ううん。

 

 

私を含めた5人の少女達には、もう1つ感謝している事がある。

 

 

それは私達5人にとって、とても大切な存在であり、嘗て一緒に冒険をし、そして再会を約束して別れたパートナーの存在。

 

 

5年の歳月が経った今でも、再会は出来ていないけど、私達5人は、あの日以来、『みんな』の事を忘れた事は無い。

 

 

再会を信じて、私達5人は今日もキラキラドキドキする毎日を過ごしている。

 

 

 

 

そして何時もの様に、ライブハウス『CiRCLE』に集まった私達各6バンドの皆。

 

 

だけど。

 

 

 

 

何時もの日常は、突然壊れた。

 

 

 

 

『キシャアアアアアアアアアッ!!』

『グオオオオオオオオオオオッ!!』

『キャオオオオオオオオオオッ!!』

『シェエエエエエエエエエッ!!』

 

 

 

 

「な、何なのアレ!?」

「大きなクワガタに、緑色の怪獣!?」

「それに真っ黒な鳥さんに緑のヤドカリさんもいるよ!!」

 

 

 

 

でも特に驚いたのは、『あの世界』を冒険した私、有咲、紗夜さん、日菜さん、ましろちゃんの5人。

 

 

「有咲!! 紗夜さん!! 日菜さん!! ましろちゃん!! アレって…」

「嘘だろ…!? なんで『デジモン』がこの世界に!?」

「と、とりあえず皆さんを避難させないと!!」

「皆!! 危ないから逃げて!!」

「透子ちゃん!! つくしちゃん!! 伏せて!!」

 

 

パニックになる他の皆を守る為に、私達5人はそれぞれ行動を起こす。

 

 

「みんな、大丈夫?」

「正直…少しキツイかな?」

「こんな時、アイツ等が今の私達を見たら、何て言うだろうな…」

「でも…だからって…」

「自分達だけ逃げるなんて事をしたら、皆に合わせる顔がないわよ…!!」

 

 

そして無情にも振り下ろされようとする魔の手。

 

 

「「香澄!!」」

「有咲ちゃん!!」

「「「紗夜(さん)(氷川さん)!!」」」

「「日菜ちゃん(さん)!!」」」

「「「「シロ(ましろちゃん)(しろちゃん)(倉田さん)!!」」」」

 

 

誰もが絶望の様子を浮かべていたその時。

 

 

 

 

「メタルキャノン!!」

「シルクスレッド!!」

「ティアーシュート!!」

「コロナフレイム!!」

「ベビーフレイム!!」

 

 

「ドルモン…?」

「ワームモン…?」

「…ルナモン?」

「本当にコロナモンなの…?」

「ハックモン…だよね?」

 

 

「香澄!! 大丈夫!?」

「やっと会えたね…あーちゃん」

「紗夜…随分大きくなったね」

「よう日菜! 元気だったか?」

「久し振りだな、ましろ」

 

 

私達の前に現れ、ピンチを救ったのは、嘗て共に冒険をしたパートナー達。

 

 

 

 

「行くよ! ドルモン!!」

「おっけー! 香澄!!」

 

 

「ワームモン、久し振りで悪いけど、一緒に戦ってくれるか?」

「大丈夫だよ、あーちゃん」

 

 

「ルナモン…貴方の力を貸して!!」

「ええ勿論…。 だって私は紗夜のパートナーだもん!!」

 

 

「コロナモン!! 久し振りに『るんっ』てしていくよー!!」

「おう、せっかくの再会がてら、一発決めてやるぜ!!」

 

 

「お願いハックモン!! 皆を守る為に私に力を貸して!!」

「無論だましろ。私は君の為なら、どんな時だって力になるさ」

 

 

 

 

「ドルモン進化! ドルガモン!!」

「ワームモン進化! スティングモン!!」

「ルナモン進化! レキスモン!!」

「コロナモン進化! ファイラモン!!」

「ハックモン進化! バオハックモン!!」

 

 

 

 

パートナーデジモン達との協力で、現れた敵デジモンを倒した私達5人。

 

 

 

 

「貴女達は一体、戸山さんや紗夜達とどういう関係なの?」

「紗夜先輩!! ルナモンをモフモフさせて下さい!!」

「お、おたえちゃん!?」

「俺達は『デジタルモンスター』、通称『デジモン』って言う生き物で、香澄達のパートナーデジモンなんだ」

『デジタルモンスター?』

「うん。そして、私達5人は昔、ブイモン達と一緒に『デジタルワールド』を冒険した仲間なんです」

「そこから先は、私達と『彼』が話すわ」

「まりなさんに牛込先輩? 如何して此処に?」

 

 

 

 

今回の一件が切っ掛けで後日、私達5人とブイモン達の関係と過去を知った他のガールズバンドの皆。

 

 

 

 

「「「「「大ガールズバンド時代?」」」」」

「「僕達は…ポピパ専属のマスコットデジモンになる!!」」

「ルナモンと言ったわね…貴方も紗夜と同様、Roseliaに全てを懸ける覚悟はあるかしら?」

「紗夜…とってもカッコ良い…」

「俺もテンションが上がってくるぜ~!! 」

「ましろ…これが君の…いや、Morfonicaの音楽…素敵だな」

 

 

 

 

再会への喜び、新たな日常に胸を膨らませながら、キラキラドキドキな音楽を奏でるパートナーデジモンと私達。

 

 

 

 

「●●●●様!! つい先程、私の配下のデジモンを現実世界の方にリアライズさせました!!」

「トヤマ・カスミ…嘗てDegital Wouldを救ったと言うその実力、高みの見物とさせて貰うわ♬」

 

 

 

 

しかしその一方で、デジタルワールドと人間界の境界の壁に起きた異変の影響で、私達の世界に次々とやってくるデジモン達。

 

 

 

 

『グオオオオオオオオオオオオオオ!!』

『ギャオオオオオオオオオオオオッ!!』

『キシャァアアアアアアアアアアッ!!』

『フハハハハ!!』

 

 

「マズイ!! よりにもよって完全体じゃねーか!!」

「……ドルガモンが戦っているのに……パートナーの私が逃げる訳にはいかないよ!」

「私達Roseliaの音楽を汚そうとするのなら…容赦しないわよ…!!」

「よ~し~! そっちがそうくるなら、こっちも同じ土俵でいっちゃうよ~!!」

「自分の為だけに、月ノ森の皆を傷付けた貴方を…私は絶対に許さない!!」

 

 

 

 

そして、その一方で新たな出会いをする人達も…。

 

 

「貴方、若しかしてデジモンね!!」

「わわわわっ!! 一体君は何なの!?」

 

 

笑顔の波状攻撃とそれに振り回される希望…。

 

 

「若しかしてお前…オイラの仲間なのか!?」

(あ~、このデジモンもこころ達と同じタイプだな…)

 

 

邂逅する2匹の熊…。

 

 

「決めた!! 今日から俺はアネゴの子分になるぜ!」

「ちょっ…勝手に決めないでよ!!」

 

 

赤いメッシュと小さな恐竜…。

 

 

「私の事は如何でもいいから、貴女だけでも逃げて!!」

「駄目!! 目の前の傷付いている相手を見捨てて、自分だけ助かろうなんて…そんなの私には出来ないよ!!」

 

 

エゴサーチアイドルと白き聖なる獣。

 

 

「ブイモン。…貴方はRoselia…いえ、私に全てを懸ける覚悟はあるかしら?」

「友希那…うん。僕は…僕自身の全てを懸けるよ!!」

 

 

青薔薇の歌姫と可能性を秘めき青い小竜。

 

 

 

 

これ等の出会いは、双方にどの様な影響を与えるのか?

 

 

 

 

今、ガールズバンドと電脳世界の生命体との物語が、幕を開ける。

 

 

 

 

.




ここまで読んでいただき大変有難う御座いました。

因みに他の3人(紗夜さん、日菜さん、ましろちゃん)に関しても、


・紗夜さん→『デジタルワールドの冒険』の一件で日菜さんと既に和解しており、『Roseliaメインストーリー第1章』開始時の時点では、今の和解後の柔らかな性格になっている&花女でなく羽丘に中等部の頃から通っている。
・日菜さん→同じく『デジタルワールドの冒険』の一件で紗夜さんと既に和解しており、『パスパレメインストーリー第1章』開始時の時点では、本家と比べて若干少しずつ他者への理解と興味を抱き始め、天才ゆえの他者とのズレも変化しつつある。
・ましろちゃん→同じく『デジタルワールドの冒険』の一件で、本家と比べて後ろ向きな性格&人見知りする方が若干改善されている。


と言う感じの設定です。


そしてここからは、少しだけバンドリキャラのパートナーデジモンに関する裏話。


まず香澄に関してですが、最初はRemake前と同様にブイモンに使用と考えていたのですが、ましろちゃんのハックモンを見ていたら、彼女のパートナーデジモンと対になる関係もありかなと考え、ドルモンになりました(因みにそれ以外の候補には、ギルモンやコロナモンも考えていました)。


次にましろちゃんに関しては、最初は『Morfonica』のイメージからモルフォモンを考えていましたが、有咲のワームモンと被ってしまうと理由で没にしてしまい、そこで白繋がりともう1人の主人公と言うイメージでハックモンになったのです。
因みにこの作品でのハックモンの性格のイメージは、『tri.』のハックモンを若干意識しています(勿論、ICVも『tri.』のハックモンをイメージしています)。


それとそして、香澄と有咲とましろちゃんと紗夜さんと日菜さん以外のバンドリメンバーのパートナーデジモンに関する話は、活動報告の方に記載しましたので、若しお時間がありましたら、其方の方も宜しく御願い致します。


最後になりますが、この作品を読んで、少しでも『バンドリ×デジモン』と言う組み合わせに興味を抱いてくれたり、『自分もこのネタで書いてみたい』と言う方がいてくれたのなら、とても嬉しいです。




それでは、之にて失礼致します。




.


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第1部
プロローグ2015


御久し振りです。


以前書いた『バンドリ×デジモン』のプロローグ。


冒頭は過去編メイン(と言っても殆どダイジェスト形式(しかも、若干のネタバレっぽいのも含まれている)になりますが)で、後半は現代パートの話になります。


正直、『下手な文面のプロローグ』と思われるかもしれませんが、以上の事を御理解の上で、お手柔らかに御願い致します。


P.S 日菜さんのパートナーデジモンの変更に伴い、作品の文章の一部を修正&変更。
この作品を読んでくれた皆様に混乱を与える様な感じになってしまい、本当に申し訳ありませんでした。(2021.9.6)


 

これは、とある5人の少女達の冒険の物語。

 

 

舞台はデジモンと言う電脳世界の生命体達が存在するデジタルワールドと呼ばれる世界。

 

 

嘗てこの世界は、とある1体の悪のデジモンの存在によって平和が脅かされていました。

 

 

そんな時、このデジタルワールドに5人の少女達が召喚されてしまいました。

 

 

 

 

1人目は、幼い時に星の鼓動を聴いたと言う少女。

 

 

2人目は、見た目とは裏腹に男勝りな口調と毒舌だけど、本当は素直になれないだけの少女。

 

 

3人目は天才肌の妹にコンプレックスを抱えた双子の姉で、自他共厳しくも、心優しくて思いやりのある少女。

 

 

4人目は双子の妹で、明るく社交的であらゆる分野において圧倒的な才覚を示す天才肌な反面、人の心の機微に鈍く、空気の読めない発言をしたり、直接的すぎる物言いや無自覚に人の心を逆撫でてしまうのが玉に瑕な少女。

 

 

5人目は、少し引っ込み思案だけど、豊かな想像力を持つ白い少女。

 

 

 

 

デジタルワールドを守護するデジモンから、今のデジタルワールドの現状を知った5人は、悪のデジモンの野望を打ち砕く為、それぞれのパートナーデジモン達と共に、冒険の旅を始めました。

 

 

 

 

星の少女と龍の如く強い生命力と秘めたる可能性を持った獣型デジモン。

 

 

金髪の少女と気弱で臆病な性格の昆虫型デジモン。

 

 

双子の姉と月の化身とも言われる哺乳類型デジモン。

 

 

双子の妹と太陽の化身とも言われる正義感が強く純真で無邪気な性格の獣型デジモン。

 

 

引っ込み思案な白い少女と白く輝く冒険好きな小竜型デジモン。

 

 

 

 

5人の少女とそのパートナーデジモンは、全く見た事も聞いた事もない知らない世界に、最初は戸惑い、時に不安になったり衝突し合いながらも、長い冒険の中で、仲間達とお互いに深い信頼関係で結ばれていきました。

 

 

そして、悪のデジモンの首領との最後の戦い。

 

 

 

 

星の少女は黒き鎧を纏った聖騎士。

 

 

金髪の少女はデジタルワールドに5体しか存在しないと言われている勢力の一角を担う昆虫戦士。

 

 

双子の姉は12の神の勢力の一角である月の女神。

 

 

双子の妹は同じく12の神の勢力の一角である太陽神。

 

 

白い少女は白き鎧を身に纏った聖騎士。

 

 

 

 

5人の少女は、最強の姿と化したそれぞれのパートナーデジモンと共に立ち向かいました。

 

 

 

 

しかし悪のデジモンの首領の力は、デジタルワールドに存在する未知の抗体を取り込んだ事で、想像以上の物と化していました。

 

 

 

 

未知の抗体でより強力になった悪のデジモンの首領の『憤怒』の力の前に、一度は絶望の淵にいました。

 

 

 

 

しかし、星の少女と白い少女だけは絶望に屈する事無く、尚もパートナーデジモンと共に立ち向かいました。

 

 

 

 

その時、彼女達の強き想いが奇跡を起こしたのです。

 

 

 

 

黒き鎧を纏った聖騎士は聖なる剣と白い羽を身に纏った『超究極体』と呼ばれる姿。

 

 

白き聖騎士は全身の装甲を刃に変え、より攻撃に特化した姿。

 

 

 

 

2人の聖騎士は聖なる力の全てを使い、激闘の果てに等々悪のデジモンの首領を倒す事に成功しました。

 

 

 

 

こうして、5人の少女達とパートナーデジモン達との活躍で、デジタルワールドに再び平和が訪れたのでした。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

ある場所に10人の影がある。

 

 

「ドルモン…」

「僕も…香澄の事を、絶対に忘れないよ」

 

 

「ワームモン…その…今までありがとな…」

「あーちゃん…此方こそ有難う。向こうでも元気でね…」

 

 

「紗夜…私は、紗夜と出会えて本当に楽しかったよ…」

「ルナモン…貴女の事は決して忘れないわ。 …貴女も元気でいてね」

 

 

「日菜。今度また逢えたら、また日菜と一緒に、デジタルワールドを冒険しような…」

「コロナモン…うん! 約束だよ!」

 

 

「ましろ。君と過ごした冒険の日々は、とても幸せだった。

どうか元気でな…」

「ハックモン…今まで有り難う…」

 

 

 

 

それぞれお互いを見つめ合う5組の顔は、笑顔であるけれど、その目からは涙が流れていた。

 

 

そして5人の少女達は、元の世界に戻るゲートを進んでいく。

 

 

 

 

「香澄~~!! 何時か、また何時か会えたら、その時は、一緒にキラキラでドキドキする物を探そうね~~!!」

 

 

 

 

その時、ドルモンが自身のパートナーである少女に向けて、大声で叫んだ。

 

 

 

 

「…っ…うん!! 約束だよドルモン!!」

 

 

 

 

その少女――戸山香澄は大声で再会の約束を交わす。

 

 

 

 

その言葉を最後に、彼女達の姿はこの世界から消えた。

 

 

 

 

こうして、5人の少女とパートナーデジモン達の冒険の物語は、一旦の幕を閉じた。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

「…んっ…ふあぁ…」

 

 

窓のカーテンから差してきた日光の眩しさで、目を覚ます。

 

 

「…懐かしい夢だったなぁ…」

 

 

その時、私の後ろから声が掛けられた。

 

 

「お~い香澄、起きてるか?」

 

 

声の主は、私のバンド仲間であり、同時にあの冒険を共にした仲間の1人でもある有咲こと市ヶ谷有咲だった。

 

 

「あ、有咲。おはよう~」

 

 

「婆ちゃんが朝食出来たから、呼びに来たんだよ」

 

 

「あぁ、うん。今行くね~」

 

 

そう言えば自己紹介がまだだったね。

 

 

私の名前は戸山香澄。

 

 

花女こと花咲川女学園に通い、この春から高校2年生になる。

 

 

何故私が有咲の家にいるかと言うと、昨日から私は彼女の家に『お泊まり会』と言う形で泊まりに来ているからだ。

 

 

その後、私達は朝食を食べ終えて学校への支度をし、現在登校中の身だ。

 

 

「ねぇ有咲。今日ね…懐かしい夢を見たんだ」

 

 

「夢?」

 

 

「うん…。 ドルモン達の夢…」

 

 

「…そっか、あれからもう『5年』も経つんだよな…」

 

 

「有咲はワームモンの事、忘れてなんか無いよね?」

 

 

「当たり前だろ。 お前や私だけじゃねぇ。 紗夜さんや日菜さん、それにましろだって、あの冒険の事を忘れている人何て1人もいねぇよ」

 

 

「…うん。そうだね」

 

 

そう言って、私は制服のポケットから赤いボディと金色の縁取りの機械…ディーアークを取り出して見つめる。

 

 

 

 

ドルモン。

 

 

 

 

若し願いが叶うのなら。

 

 

 

 

貴方にまた会いたいな。

 

 

 

 

そして、有咲の呼び声に呼び戻された私は再び歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

あの冒険から5年。

 

 

 

 

 

 

5人の少女達は、それぞれの日々を過ごしていた。

 

 

 

 

 

 

しかし、再会の約束は未だ果たされていない。

 

 

 

 

 

 




あの後、設定や展開がまた思い浮かんだ事もあって、少しだけ書きました。


プロローグと言う形式ではありますが、続きを書けた事自体、正直私自身も驚いています…。


一応、物語の展開はある程度考えていますが、いざ文章にするとなると、文章力と表現力の無さ、更に思い浮かんだ設定とキャラのイメージへの剥離や矛盾への不安などで、中々書くのが難しくて進まないと言うのもあります。


前にも仰いましたが、私自身、所謂『ネタを考えるのは得意だけど、書くのは苦手な人』である為、若しかしたらこのままこれっきりになってしまうかもしれないと言う可能性に…。


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第1話 再会2020

お気に入り登録の方、有難う御座います。


続きの方が思い浮かんで、何とか1話を書きました。


本当に自分でも驚きの気持ちの方が強いです。


因みに、今の時間軸はアニメの2期の1話と2話の間位となっています。


また、サブタイトルを見て、『2020』と出ている事に疑問を抱いている方もいるかもしれないので補足で説明すると、今作でのバンドリ世界の年号は、


・アニメ1期→2019年
・アニメ2期&3期→2020年


と言う設定になっています。


それとサブタイトルに関してですが、実は私は特撮好きな一面もあって、サブタイトルは特撮作品関連の様な形式を若干意識した感じにしちゃったりしています。


それと話は変わりますが、新作アニメ『デジモンゴーストゲーム』の情報が解禁されましたね。


特にメインのパートナーデジモンであるガンマモン、アンゴラモン、ジェリーモンに関してですが、若しこの子達をバンドリキャラのパートナーデジモンにするとしたら、私の個人的なイメージでは、


・ガンマモン→ひまり(好物がチョコレート繋がり)
・アンゴラモン→おたえ(ウサギ繋がり)or燐子(アンゴラモンのピアノの音楽を聴くのが好きと言うイメージから)
・ジェリーモン→花音(クラゲ繋がり)


と言う感じですね。


最後に前回の方で行うのを忘れていましたが、デジモン紹介をしておきます。
最初は香澄達5人のパートナーデジモン達についてです。




ドルモン

世代:成長期
タイプ:獣型
属性:データ

香澄のパートナーデジモン。
一人称は『僕』。
額に旧式なインターフェースをもつ為、デジモンが発見される以前の実験用の“プロトタイプデジモン”ではないかと推測されている獣型デジモンで、元々が戦闘種族であるデジモンの性格が特に強く表れており、闘争本能が高く、何にでもよく噛み付きよく吼えるが、一度噛み付いたものには馴れるらしい。
実験の時、デジコア(電脳核)の最も深い部分に隠されたと言われるデータは、伝説の生き物“ドラゴン”の強い生命力のデータであり、強大なデジモンに成長する可能性をもつと言われている。
必殺技は鉄球を口から放つ『メタルキャノン』で、得意技は立ち止まって力を溜めてから放つ方が威力はあるが、突進しながらも鉄球を放つことが出来る「ダッシュメタル」。


ワームモン

世代:成長期
タイプ:幼虫型
属性:フリー

有咲のパートナーで、気弱で臆病な性格の幼虫型デジモン。
有咲の事を『あーちゃん』と呼ぶ(但し、成熟期以降の進化時は『有咲』と呼ぶ)。
古代種族の末裔で特殊なアーマー進化をすることが出来、単体でのワームモンは非力で大型のデジモンには到底敵わないが、デジメンタルの力でアーマー進化することで、信じられないようなパワーを発揮することが出来る。
また、脆弱な幼虫が力強い成虫に成長するように、ワームモンもいつの日かパワー溢れる成熟期へと進化すると言われており、まさに未来への可能性を秘めているデジモンなのである。
必殺技は粘着力の強い網状の糸を吐出し相手の動きを封じこめてしまう「ネバネバネット」と、絹糸のように細いが先端が尖った針の様に硬質な糸を吐出す『シルクスレッド』。


ルナモン イメージCV:南條愛乃さん(代表作『ラブライブ!』絢瀬絵里)

世代:成長期
タイプ:哺乳類型
属性:データ

紗夜のパートナーデジモン。
日菜のコロナモンとは幼馴染の関係である。
一人称は『私』で、チョコレートが好き。
月の観測データと融合して生まれた、うさぎのような姿をした哺乳類型デジモン。
大きな耳でどんな遠くの音も聞き分ける事ができ、臆病だが、なつきやすく寂しがり屋。
必殺技は、一見可愛らしいが、闇の力が込められた爪で引っかく『ルナクロー』と、力を額の触角に集中し、綺麗な水球を敵に放つ『ティアーシュート』。
また、耳をくるくると回し、発生させたシャボンの渦で敵を巻き込む『ロップイヤーリップル』を持つ。


コロナモン イメージCV:赤楚衛二さん(代表作『仮面ライダービルド』万丈龍我/仮面ライダークローズ)

世代:成長期
タイプ:獣型
属性:ワクチン

日菜のパートナーデジモン。
紗夜のルナモンとは幼馴染の関係である。
因みにキャラのモデルは、『仮面ライダービルド』の万丈龍我(仮面ライダークローズ)。
太陽の観測データと融合して生まれた獣型デジモンで、正義感が強く純真で無邪気な性格をしている。
必殺技は、炎の力で熱くなった拳で連続パンチを放つ『コロナックル』と、全身の体力を消耗しつつも、炎の力を額に集中させて敵に放つ火炎弾『コロナフレイム』、そして体全体に炎をまとい、防御または体当たりする『プチプロミネンス』。


ハックモン イメージCV:武内駿輔さん(代表作『遊☆戯☆王VRAINS』鴻上了見/リボルバー)

世代:成長期
タイプ:小竜型
属性:データ

ましろのパートナーデジモン。
一人称は『私』で、性格のイメージは『tri.』のハックモンを若干意識している。
クールホワイトに輝く小竜型デジモン。自由気ままで束縛を厭い、冒険を好む生き方をする。
必殺技は俊敏さを活かした接近戦を得意とし、強靭の爪で相手を切り裂く『フィフスラッシュ』と尻尾をドリルのように回転し突っ込む『ティーンラム』。
また、牽制にも使える『ベビーフレイム』を口から吐く。


 

とある会場。

 

 

そのステージの上に立っているのは、5人の少女達。

 

 

「皆――!! 盛り上がってる――!?」

 

 

ボーカル担当の少女の言葉で、会場から一斉に歓声が沸き上がる。

 

 

「それじゃあLastの1曲、楽しんでいこう!」

 

 

再び、観客の歓声が会場を支配する。

 

 

 

 

「No…てんでダメね」

 

 

 

 

そんな中1人だけ、彼女達に対して、小さな声で否定的な感想を呟く人物がいた。

 

 

ピンク色の髪に、猫耳を彷彿させるヘッドホンを付けた中学生らしき少女は、彼女達の演奏をつまらなさそうに眺めていた。

 

 

『随分と不服そうだね』

 

 

そんな中で聞こえた別の声。

 

 

しかしその声は、この少女にしか聞こえていない。

 

 

「衣装と派手なPerformanceだけに力ばっか入れて、肝心の演奏技術が疎かになっている様じゃ、流行りに乗っかってバンドを始めましたって言うのが見え見えよ」

 

 

“いっその事、この力であの子達をDeleteしてしまおうかしら”と思う自分を抑えながら、会場を後にした。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

「それで、貴方の話は本当なの?」

 

 

『…ああ。 彼女達はかつて、僕の同郷を倒し、世界を救った――言わば『救世主』さ』

 

 

「●●●●様~!」

 

 

そんな2人の会話に割って入る様に1人の少女が現れる。

 

 

「●●●! いきなり吃驚するじゃない!」

 

 

「申し訳御座いません!! でも、マンションのほうにも、●●●●様がいらっしゃらなかったので、此方も心配しましたよ~!!」

 

 

「No, 分かったわ! 分かったから離れなさい!」

 

 

安堵感から抱き付いてくるピンクと水色の派手な配色のツインテールの少女を、ヘッドホンの少女が何とか抑える。

 

 

「●●●●、あんまり●●●を困らせちゃだめだよ」

 

 

ツインテールの少女に続く様に現れた背の高い大人びた雰囲気の黒髪の少女が、ヘッドホンの少女に声を掛ける

 

 

「…全く…帰るわよ●●●、●●●」

 

 

「宜しいのでしょうか? ライブの途中だったのでしょう?」

 

 

「衣装と派手なPerformanceを重視して、肝心の演奏を疎かにしている様なバンドのライブなんて、最後まで聴くだけ時間の無駄だわ」

 

 

ヘッドホンの少女はそのまま立ち去り、ツインテールの少女と黒髪の少女もその後に続くのだった。

 

 

(…今はまだ、本格的に動く時では無い。精々何も知らず、この平和な時間を楽しむがいい)

 

 

次の瞬間、3人の少女の影がほんの一瞬だけ、全く異なる姿と化すも、直ぐに元に戻る。

 

 

その様子を、空の満月だけが見ていた。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

時は現代。

 

 

世間では、少女達による音楽バンド……『ガールズバンド』が圧倒的なまでに人気を博していた。

 

 

人々は今の様子を挙って、『大ガールズバンド時代』と評した。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

4月中旬の水曜日。

 

 

「皆~!! おはよう―――!!」

 

 

「おはよう香澄」

 

 

「おはよう、香澄ちゃん」

 

 

「おはよう、香澄」

 

 

香澄の挨拶に、背の高い黒髪の少女と大人しそうな少女、そして黄色いリボンが特徴のポニーテールの少女が返事を返す。

 

 

「ちょま、ちょっと待てー!」

 

 

その直後に、金髪ツインテールの少女――市ヶ谷有咲が遅れてやって来た。

 

 

「有咲、ビリっけつだ」

 

 

「うるせー!」

 

 

「あははは。 まぁ、取り敢えず学校に行こっか」

 

 

ポニーテールの少女の一声で、彼女達は再び歩き始めた。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

そして放課後。

 

 

「…それにしても、主催ライブか…」

 

 

有咲の住居兼営業店の質屋『流星堂』の敷地内にある蔵に、香澄の呟きが小さく響く。

 

 

香澄は有咲、背の高い黒髪の少女――花園たえ、大人しそうな少女――牛込りみ、そしてポニーテールの少女――山吹沙綾の5人と、中等部の頃から、『Poppin'Party』と言うガールズバンドを組んで活動していた。

 

 

そんな彼女達が高校2年生に進級してから、1週間が経った日の事。

 

 

ひょんな事から知り合った『朝日六花』と言う後輩の少女からの依頼で、彼女がバイトをしている『Galaxy(ギャラクシー)』と言うライブハウスのリニューアルオープン記念ライブへ参加し、其処で同じく参加をしていた知り合いのバンドである『Afterglow』、『ハロー、ハッピーワールド!』、『Roselia』、『Morfonica』と共に、記念ライブを無事成功させた。

 

 

しかしライブ終了後、Roseliaが主催ライブを開催することを発表したことをきっかけに、香澄もPoppin'Partyで主催ライブを開催することを宣言し、そして今に至るのだった。

 

 

「全く…あの場で思いっ切り宣言しちまったけど、何か考えあんのか?」

 

 

「無い!」

 

 

「威張って言うんじゃねぇ!!」

 

 

「はい! オッちゃん達を呼んで、一緒に『花園ランドパーティー』をしよう」

 

 

「それもうライブ関係ねぇだろ!」

 

 

香澄とたえの発言に対し、有咲の容赦無いツッコミが飛んだ。

 

 

「あはは…香澄もだけど、おたえのうさぎ好きもいい勝負になる程の凄さだね…」

 

 

沙綾は苦笑混じりに、目の前のやり取りに対して評価する。

 

 

「あ、あの…」

「どうしたの、りみりん?」

「『主催ライブ』もそうだけど、金曜日の『CiRCLE(サークル)開店1周年記念ライブ』の方もやらないと…」

 

 

『CiRCLE開店1周年記念ライブ』。

 

 

2日後の金曜日は、香澄達がお世話になっているライブハウスーー『CiRCLE』が開店して1周年となる日で、香澄達ポピパの面々も日頃何かと御世話になっている事もあり、恩返しの意味合いを込めて、この記念ライブに参加する事にしたのだった。

 

 

「はっ…そうだった。 『花園ランドパーティー』の事に夢中で忘れてた…」

「おたえ…お前なぁ」

「でも主催ライブの事もそうだけど、今は『CiRCLE』のライブの方に集中しよう」

「そうだね…開店1周年だし、日頃御世話になっているまりなさん達の為にも、絶対に成功させたいもん!!」

 

 

香澄の強い意気込みに、皆が頷いた。

 

 

そしてその後、ポピパの面々は残り時間を徹底的に練習に費やして、その日は解散となったのだった。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

そして2日後の当日の金曜日。

 

 

香澄達は、馴染みのあるライブハウス『CiRCLE』に来ていた。

 

 

ガラン、と扉を開ける音が響く。

 

 

「いらっしゃい。 待ってたよポピパの皆♪」

 

 

「こんにちはまりなさん。ところで他のバンドの皆は?」

 

 

「それなら…」

 

 

「おーい! ポピパの皆ー!」

 

 

『CiRCLE』のオーナーの女性――月島まりなの台詞を遮り、アイスブルーのショートヘアの少女――香澄達の『ポピパ』と同じガールズバンドの1つである『Pastel*Palettes』こと通称『パスパレ』のギター担当――氷川日菜が、香澄達の方に駆け寄って来た。

 

 

「日菜! いきなり割り込んだら駄目じゃない! …ポピパの皆さんもまりなさんも、本当にごめんなさい」

 

 

そして更に日菜の後ろから、彼女の姉――同じくガールズバンドの1つである『Roselia』のギター担当――氷川紗夜が現れ、日菜を窘めると同時に香澄達とまりなに対して、日菜の行動に対しての謝罪をする。

 

 

「あはは…日菜さんは相変わらずですね…」

 

 

更にその背後にいた白髪の少し気弱な少女――香澄達の後輩で、同じくガールズバンドの1つである『Morfonica』のボーカル担当――倉田ましろが苦笑混じりに言葉を発する。

 

 

「日菜さんに紗夜さん! ましろちゃんもこんにちは!」

 

 

香澄が返事を返す。

 

 

「おたえ、りみ、沙綾。 悪ぃけど先に行っててくれねぇか?」

 

 

「了解。 それじゃあ先に行って、準備してるね」

 

 

有咲の言葉を了承した沙綾は、たえやりみを連れて、控え室の方へ向かって言った。

 

 

「…さて、私と日菜。それに香澄に有咲にましろ。こうして5人で集まるのも、久し振りかしら」

 

 

紗夜が砕けた口調で言葉を紡ぐ。

 

 

基本的に紗夜は、実妹である日菜以外に対しては、名字+『さん』付け&敬語で喋るが、今の様にこの5人で一緒にいる時は、この様な砕けた形の口調にしている。

 

 

「そうですね…ここの所、皆それぞれの生活が忙しかったのも、ありますから…」

 

 

「そう言えば私、今日『ドルモン』の夢を見たんですよ」

 

 

「わ、私も実はハックモンの夢を…」

 

 

「あはは。何だか5年前の『あの冒険』が昨日の事みたいに思えるな~」

 

 

「5年…もうそんなに経つのね…」

 

 

そう言って紗夜は、スカートのポケットから、ターコイズブルーの縁取りのディーアークを取り出す。

 

 

それを見た4人も、自身の持つディーアークを取り出した。

 

 

 

 

香澄の持つ赤いボディと金色の縁取りのディーアーク。

 

 

有咲の持つライトグリーンの縁取りのディーアーク。

 

 

日菜の持つライトイエローの縁取りのディーアーク。

 

 

そして、ましろの持つライトブルーのボディと白い縁取りのディーアーク。

 

 

 

 

5人共通の『パートナー』との『絆』の象徴が目の前にあった。

 

 

 

 

「香澄ちゃん、有咲ちゃん、紗夜ちゃん、日菜ちゃん、ましろちゃん」

 

 

その時、事の様子を見守っていたまりなが、声を掛けてくる。

 

 

「今更こんな事を言っても許してくれないかもしれないけど、『あの時』は本当に御免なさい。

本当なら、私達がしっかり『彼ら』と共に管理・守護しなきゃいけなかったのに…結果的に貴女達を巻き込んでしまった」

 

 

「まりなさん…謝らないで下さい。 確かに最初は、分からない事や不安な事だらけで、投げ出したい気持ちになった事もありました。

…でも、『あの冒険』があったから、私達はこうして皆と出会えたんです」

 

 

「そうですよ。私だって香澄やましろ達、それにワームモンと出会わなかったら、ずっとぼっちのままでした」

 

 

「私も日菜も『あの冒険』があったから、こうして和解し、今の私達がいるんです」

 

 

「そうだよ。 誰もまりなさんの所為だなんて思っている人なんて、此処にはいないよ」

 

 

「だから…自分を責めないで下さい」

 

 

「香澄ちゃん…皆…有り難う」

 

 

まりなは静かに感謝を返した。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

その後まりなと別れ、香澄達5人は控え室のドアを開けて中に入ると、其処には既にポピパの面々以外に見知った顔触れの姿があった。

 

 

「おっ、香澄と有咲も来たね!!」

「あっ香澄さんに有咲さん、今日は宜しく御願いしますね」

 

 

香澄達の存在に気が付いた茶髪のギャル風な見た目の少女と眼鏡を掛けた少女――それぞれ紗夜が所属する『Roselia』のベース担当と、日菜が所属する『パスパレ』のドラム担当――今井リサと大和麻弥の2人が声を掛けてくる。

 

 

「リサさん、麻弥さん! 此方こそ、今日は宜しく御願いします!」

 

 

香澄も3人に挨拶を返す。

 

 

「か~すみ~!!」

「か~く~ん!!」

 

 

すると今度は金髪の少女とボーイッシュな少女――同じくガールズバンドの一角である『ハロー、ハッピーワールド!』こと通称『ハロハピ』のボーカル兼リーダーとベース担当である弦巻こころと北沢はぐみが現れる。

 

 

「ハッピー!」

「ラッキー!」

「スマイル…!」

「「「イェーイ!!」」」

 

 

香澄は2人と共に、『ハロハピ』独特の掛け声を取った。

 

 

「…本当に、ウチのこころ達が何時も御世話になっています…」

(奥沢さん…すっかりあの2人の『保護者役』が染み付いてるな…)

 

 

同じく『ハロハピ』メンバーの1人である帽子の少女――奥沢美咲の苦労振りを、有咲は察していた。

 

 

「お~。 あちらの方も相変わらずの勢いですな~」

「みたいだね」

「おやおや~、若しかして蘭も、あの中に一緒に混ざりたいのかな~?」

「なっ…そんなんじゃないし!!」

 

同じく香澄達の様子を見ていたガールズバンドの1つである『Afterglow』のギター担当――青葉モカが、同じく様子を見ていた幼なじみでボーカル担当の少女――美竹蘭を弄り、それに対して蘭は慌てて否定する。

 

 

「遅くなってしまってすみません。 湊さん」

 

 

一方紗夜は、真っ先に自身のバンドメンバーのいる方に向かい、『Roselia』のリーダー兼ボーカル担当の少女――湊友希那に謝罪の言葉を述べる。

 

 

「別に気にして無いわ。 調子の方はどう?」

「問題は無いです」

 

 

「お~い、シロちゃ~ん」

「あっ、七深ちゃん」

 

 

ましろが声のした方に振り向くと、ましろと同じ『Morfonica』のベース担当――広町七深が来るのが見えた。

 

 

「ははは。 七深はシロにべったりだな」

「ううう…。 私、めちゃめちゃ緊張しちゃっているよ~」

 

 

そんなましろと七深の様子を、同じ『Morfonica』のメンバーで、ギター担当の透子とリーダー兼ドラム担当のつくし、そしてバイオリン担当の八潮瑠唯がそれぞれの反応を示しながら、見つめていた。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

「みんなー! 準備は良い? そろそろライブの開始だよー!」

 

 

それから1時間後、まりながライブの開始を告げに現れる。

 

 

「皆、何時も御世話になっている『CiRCLE』やまりなさん達の為にこのライブ、絶対に大成功させよう!!」

 

 

香澄の言葉にRoselia、Afterglow、Pastel*Palette、ハロー、ハッピーワールド!、Morfonicaの面々が頷く。

 

 

「あの輝く景色へ」

「それじゃあ笑顔でっ!」

「いつも通りっ」

「最っ高のステージに!」

「全身全霊で」

「いっくよーっ!」

 

 

そして各バンド達は、それぞれの音楽を自身達のライブで奏でる。

 

 

一見バラバラで個性的な感じに思えるその音楽はとても美しく、会場にいる観客やまりな達『CiRCLE』スタッフの面々の心を幸せと楽しい気持ちで満たしていた。

 

 

こうして、『CiRCLE開店1周年記念ライブ』は文字通りの大成功で幕を下ろしたのだった。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

「皆、今日のライブ御疲れ様! 本当に有難う!」

 

 

ライブを終えて控え室に戻ってきた6バンドの面々に、まりなが労いの言葉を掛けてくる。

 

 

「有難う御座いますまりなさん!! 今日のライブ、私達も本当に楽しかったです!!」

 

 

その後6バンドの面々は、各自ライブの話題で暫しの談笑を繰り広げていた。

 

 

 

 

――ドオォォォォォン!!

 

 

 

 

その時、それは突然起こった。

 

 

『CiRCLE』全体を、巨大な衝撃音と振動が支配する。

 

 

「な、何!? 一体何なの!?」

「若しかして、これも演出の一環なの!?」

「違う…!! こんな演出の予定なんて無いわ!!」

 

 

ガールズバンドの面々からの疑問の声を、まりなは即座に否定する。

 

 

 

 

――グオォォォォォン!!

 

 

 

 

「「「「きゃぁああああああああっ!!」」」」

 

 

 

 

その直後、爆発音と悲鳴が響き渡った。

 

 

 

「!! 外の方からだわ!!」

 

 

 

気付いたまりなが一目散に出口に向かって駆け出し、香澄達もその後に続く。

 

 

そして会場の外を見渡すと、中央辺りに双肩から巨大なツノを生やした緑色の恐竜と、4本の腕を生やした真っ赤なクワガタムシ。

 

 

そして突然の事に混乱し、逃げ惑う観客達の姿があった。

 

 

『キシャアアアアアアアアアッ!!』

『グオオオオオオオオオオオッ!!』

 

 

「な、何なのアレ!?」

「大きなクワガタに、緑色の怪獣!?」

 

 

『キャオオオオオオオオオオッ!!』

『シェエエエエエエエエエッ!!』

 

 

そして更に2体の泣き声に呼応するように、空から真っ黒な燃え盛る翼をもった巨鳥、そして奥から背中に大きな貝殻を背負った緑色の生物が現れた。

 

 

「見て!! 真っ黒な鳥さんに緑のヤドカリさんも出て来たよ!!」

「ふ、ふえぇぇぇ!?」

 

 

存在に気が付いた『パスパレ』のボーカル兼リーダー――丸山彩の声に、『ハロハピ』のドラム担当――松原花音は驚きの声を上げる。

 

 

 

 

誰もが慌てふためく中、香澄、有咲、紗夜、日菜、ましろの5人は人一倍驚きの様子を浮かべていた。

 

 

 

 

「有咲!! 紗夜さん!! 日菜さん!! ましろちゃん!! アレって…」

「嘘だろ…!? なんで『デジモン』がこの世界に!?」

「と、とりあえず皆さんを避難させないと!!」

 

 

その時、緑色の恐竜――タスクモンが逃げ惑う観客達に襲い掛かろうとしていた。

 

 

「「「きゃぁあああああああああっ!!」」」

 

 

それを見た5人とまりなは、動揺する他のガールズバンドを尻目に、真っ先に行動する。

 

 

「止めて――!!」

 

 

そう叫んで、香澄は近くに落ちていた小石をタスクモンに投げつけた。

 

 

そしてその小石は、タスクモンの右手辺りに命中し、タスクモンは視線を香澄の方に向ける。

 

 

「ッ! 皆さんは早く避難してください! ここは私達が何とかします!」

「皆!! 危ないから逃げて!!」

「「「は、はい!」」」

 

 

香澄と日菜の言葉に従って、観客達は『CiRCLE』の中に避難する。

 

 

紗夜も香澄と同様に真っ赤なクワガタムシ――クワガーモンに対し、小石を投げて注意を引き付け、有咲とまりなは観客達を誘導する。

 

 

「凄い…香澄達、あそこまで冷静に対処している」

「それにしても…一体あの生き物達は何なのかしら?」

「戸山さん達は、『デジモン』って呼んでいたわね…」

 

 

他のガールズバンドの面々は、目の前で起こっている状況と香澄達への疑問で、冷静な判断が出来ない状態であった。

 

 

「さぁ、皆さんも早く避難を…っ!!」

 

 

真っ先に他の観客達の避難を終えたましろが、他のガールズバンドの面々を避難させようとしたが、その時緑色の怪獣――モリシェルモンが、硬い貝の中に手足をしまい、回転しながら突進してきた。

 

 

「皆!! 避けて!!」

 

 

ましろの叫びで他のガールズバンドの面々は何とか避けるも、辺りに衝撃が響き渡る。

 

 

「あ、危なかった…」

「何て威力なの…あんなの喰らったりでもしたら一溜りもないわ…」

 

 

その時、今度は黒い巨鳥――セーバードラモンが空中から襲い掛かって来た。

 

 

そして真っ先に気が付いたましろが、セーバードラモンの視覚の先にいた透子とつくしに対して叫ぶ。

 

 

「透子ちゃん!! つくしちゃん!! 伏せて!!」

 

 

2人を庇ったましろに、セーバードラモンの爪が僅かに掠り、彼女の衣装の背部を切り裂く。

 

 

「「「「シロ(ましろちゃん)(しろちゃん)(倉田さん)!!」」」」

 

 

Morfonicaの4人の声が響く。

 

 

「シロ、大丈夫か!?」

「大丈夫…少し掠っただけだから…」

「大丈夫じゃないよ!! 背中から血が出てるよ!!」

 

 

「うわぁっ!」

「くうぅ!」

 

 

その時、タスクモンとクワガーモンの攻撃の衝撃で香澄と紗夜が吹き飛ばされて来た。

 

 

「香澄!!」

「お姉ちゃん!!」

 

 

其処へ有咲と日菜が駆け寄ってくる。

 

 

顔や衣装が汗や泥で汚れ、ボロボロになっている様子を見るに、あの後必死であの2体に抵抗していたのだろう。

 

 

そして視線を向けると、目の前には4体のデジモン達が此方を敵意のある目で睨んでいた。

 

 

「みんな、大丈夫?」

「正直…少しキツイかな?」

 

 

香澄の問い掛けに、日菜が痩せ我慢で答える。

 

 

「こんな時、アイツ等が今の私達を見たら、何て言うだろうな…」

 

 

5人の脳裏に、嘗て共に過ごしたパートナーの姿が映る。

 

 

「でも…だからって…」

「自分達だけ逃げるなんて事をしたら、皆に合わせる顔がないわよ…!!」

 

 

その時、タスクモンの右腕が無情にも振り下ろされた。

 

 

「「香澄!!」」

「有咲ちゃん!!」

「「「紗夜(さん)(氷川さん)!!」」」

「「日菜ちゃん(さん)!!」」」

「「「「シロ(ましろちゃん)(しろちゃん)(倉田さん)!!」」」」

 

 

 

 

『一巻の終わり』

 

 

 

 

この光景を見ていた香澄達5人以外のガールズバンドのメンバーの誰もが、この言葉を脳裏に過らせていた。

 

 

 

 

 

 

「メタルキャノン!!」

「シルクスレッド!!」

「ティアーシュート!!」

「コロナフレイム!!」

「ベビーフレイム!!」

 

 

 

 

 

 

(…ああ、これが所謂『走馬燈』って物なんだね…)

 

 

だが幾ら待っても自分達の体に何の衝撃も無い事に疑問を抱いて、閉じていた目を開くと、見えた光景に思わず声を出す。

 

 

「…え?」

 

 

其処には何故か、右手を抑えるタスクモンの姿。

 

 

だが驚いたのは、それではなかった。

 

 

 

 

香澄達5人の目の前には、小さな5体の生物達の姿があった。

 

 

 

 

紫色の体毛に覆われ、額に赤い三角形の結晶を付けた獣。

 

 

尻尾にリングを付けた緑色の幼虫。

 

 

額に三日月の模様が入った兎。

 

 

全身を真っ赤な体毛に覆われたライオンの子供を彷彿させる見た目の獣。

 

 

赤いマントを身に着けた全身の白い竜。

 

 

 

 

「香澄!! 大丈夫!?」

 

 

 

 

香澄達は、最初は夢を見ているのではないかと言う気持ちだった。

 

 

 

 

何故ならその5体は、彼女達にとってとても大切で、もう二度と逢えないと思っていた存在。

 

 

 

 

「ドルモン…?」

「ワームモン…?」

「…ルナモン?」

「本当にコロナモンなの…?」

「ハックモン…だよね?」

 

 

 

 

香澄達ははっきりと意識が覚醒し、痛みも忘れて5体の下へ駆け寄った。

 

 

「ドルモン!! 本当にドルモン何だよね!?」

「うん!! そうだよ香澄!!」

「……っ、ドルモーン!!」

 

 

香澄の問い掛けに対するドルモンの返答で、改めてドルモンが其処にいる事を実感したのか、目に涙を浮かべ、ドルモンに抱き付いた。

 

 

それは、有咲達も同じだった。

 

 

「ワームモン!!」

「やっと会えたね…あーちゃん」

 

 

「随分大きくなったわね、紗夜」

「久し振りね…ルナモン」

 

 

「よう日菜! 元気だったか?」

「…っ…勿論に決まっているじゃん! コロナモン!」

 

 

「久し振りだな、ましろ」

「ハックモン………」

 

 

 

 

 

 

『ギャオオオオ!!』

 

 

 

 

 

 

その時、怒声に近い叫び声が響き渡る。

 

 

5組はハッと、叫び声のした方に振り向くと、其処には此方を睨み付けるタスクモンの姿があった。

 

 

「…皆」

「そうだな、私達にはやる事があったんだった」

「再会の喜びを楽しむ前に、先ずはあのデジモン達を何とかしないとね」

 

 

香澄達は再度、自分達が置かれている状況を前に、会話を交わす。

 

 

 

 

「「香澄(有咲ちゃん)(紗夜)(日菜ちゃん)(シロちゃん)!!」」

 

 

 

 

その時、今までの状況に漸く落ち着いて来た他のガールズバンドの面々が、声を掛けて来た。

 

 

 

 

「沙綾…りみりん…おたえ…皆…」

「戸山さん…貴女達は一体何者の? あの怪物達やその子達は一体…」

「初めまして! 僕、ドルモン!」

「しゃ…喋りました…」

「湊さん、白金さん、それに皆さん。安心して下さい。この子達は私達のパートナーであり、味方です」

 

 

紗夜が皆を宥めた後、5人は自身のディーアークを取り出し、改めてタスクモン達の方に向ける。

 

 

「タスクモン。 成熟期。 恐竜型デジモン。 ウィルス種。 必殺技は『パンツァーナックル』」

「クワガーモン。 成熟期。昆虫型デジモン。 ウィルス種。 必殺技は『シザーアームズ』」

「モリシェルモン。 成熟期。 軟体型デジモン。 データ種。 必殺技は『パイルシェル』と『マインドフォッグ』」

「セーバードラモン。 成熟期。 巨鳥型デジモン。 ワクチン種。 必殺技は『ブラックセーバー』」

 

 

香澄がタスクモン、有咲がクワガーモン、日菜がモリシェルモン、ましろがセーバードラモンのデータをそれぞれ確認し、前に出る。

 

 

 

 

「行くよ! ドルモン!!」

「おっけー! 香澄!!」

 

 

「ワームモン、久し振りで悪いけど、一緒に戦ってくれるか?」

「大丈夫だよ、あーちゃん」

 

 

「ルナモン…貴方の力を貸して!!」

「ええ勿論…。 だって私は紗夜のパートナーだもん!!」

 

 

「コロナモン!! 久し振りに『るんっ』てしていくよー!!」

「おう、せっかくの再会がてら、一発決めてやるぜ!!」

 

 

「お願いハックモン!! 皆を守る為に私に力を貸して!!」

「無論だましろ。私は君の為なら、どんな時だって力になるさ」

 

 

 

 

――EVOLUTION

 

 

 

 

Dアークの画面にそう表示されると、Dアークが眩い光を放つ。

 

 

その光がドルモン達5匹を包み、5匹達自身が光を放った。

 

 

 

 

「ドルモン進化! ドルガモン!!」

「ワームモン進化! スティングモン!!」

「ルナモン進化! レキスモン!!」

「コロナモン進化! ファイラモン!!」

「ハックモン進化! バオハックモン!!」

 

 

 

 

光の中から現れた5匹はそれぞれ、藍色の体毛を持つ翼を生やした獣竜、人型の形態をした緑の昆虫、両手にグローブを身に着けた兎の獣人、その身に炎を宿した翼の生えた獅子、赤いマントを身に纏い、より成長した白き恐竜へと、その身を変化させていた。

 

 

「見て! 姿が変わったよ!」

「あっ、ウサギさんだー!」

 

 

デジモンの進化を初めて目の当たりにし、『Afterglow』のベース担当である上原ひまりとたえが声を上げる。

 

 

特にたえはレキスモンの姿を見て、自身の好きな物の1つである『兎』と認識し、興奮を抑えきれない状態だった。

 

 

 

 

「「行くぞ(行くよ)皆!!」」

「「「「「「「「ああ(ええ)(うん)(はい)!!」」」」」」」」

 

 

 

 

香澄とドルガモンの掛け声と共に、各自それぞれの相手に向かって行く。

 

 

「ハァアアアー!!」

 

 

バオハックモンがセーバードラモンに攻撃を仕掛けるが、セーバードラモンは直ぐに急上昇して交わした後そこから急降下し、バオハックモンも立ち向かい、激しい激突を起こす。

 

 

そしてそれは一瞬後の事だった。

 

 

「ウオオオオオー!!」

「グェエエエエー!!」

 

 

バオハックモンとの激突で力負けをしたセーバードラモンが吹っ飛ばされ、バランスを崩した。

 

 

「今だよ!! バオハックモン!!」

 

 

ましろの言葉を受け、バオハックモンはセーバードラモンに向かって駆け出し、両手の爪を構える。

 

 

「フィフクロス!!」

 

 

鋭い爪による斬撃で両断されたセーバードラモンは、悲鳴を上げる間も無く、そのままデータの粒子になって消えていった。

 

 

 

 

「ウオオオオ!!」

「フッ!! ハッ!! ムーンナイトキック!!」

 

 

一方此方では、ファイラモンとレキスモンの2体とモリシェルモンの戦闘が行われていた。

 

 

力押しのファイラモンと素早い動きのレキスモンの息の合ったコンビネーション攻撃の前に、モリシェルモンも次第に追い詰められていき、疲弊の色が見られていた。

 

 

「シェエエエエエエエエエッ!!」

 

 

焦ったモリシェルモンは、再び硬い貝の中に手足をしまい、回転しながら突進する。

 

 

「!! 来るわよ!!」

「ああ!!」

 

 

レキスモンの言葉で、ファイラモンも自身の爪に炎を纏って、モリシェルモンに対抗する。

 

 

「ファイラクロー!!」

 

 

そのまま2体の技が、激しく拮抗し合う。

 

 

「グゥウウウウ…!!」

「ファイラモ――ン!!」

「日菜…!! ウオオオオ!! 負ける気がしねぇ!!」

 

 

日菜の呼び声に応える様に、ファイラモンは己の持つ全力でモリシェルモンを拮抗の末に押さえつける。

 

 

「シェエ!?」

「喰らいやがれ!! ファイラボム!!」

「シェエエエエエエエエエ!!」

 

 

そしてそのまま動揺するモリシェルモンに対し、ゼロ距離から無数の火炎弾を喰らわせた。

 

 

唯でさえ威力の高い火炎弾を無数、しかもゼロ距離から喰らったモリシェルモンは、断末魔と共にデータの粒子になって消えたのだった。

 

 

 

 

「キシャアアアアアアアアアッ!!」

「フッ!」

 

 

クワガーモンは4本ある腕で攻撃をしてくるが、スティングモンは紙一重でその攻撃を躱す。

 

 

そしてクワガーモンの懐へ飛び込み、

 

 

「ムーンシューター!!」

 

 

其処にエネルギー弾の連続攻撃を炸裂させる。

 

 

「ギシャァアアアッ!?」

 

 

連続攻撃の痛みに、クワガーモンは堪らず転倒する。

 

 

「ヘルスクイーズ!!」

 

 

スティングモンはその隙を付き、今度は頭部の触角を伸ばし、クワガーモンの体を締め付けた。

 

 

「ギッ…ギュオオオ!?」

 

 

スティングモンの『ヘルスクイーズ』で体力を吸い取られるクワガーモンは、苦痛の声を上げる。

 

 

「ギャオ…ギャオ…」

 

 

数分後に漸く苦痛から解放されたクワガーモンには、かなり疲弊している様子だ。

 

 

「有咲、どうする?」

「止めを刺せ!!…って言いたい処だけど、この状態じゃあ…もう勝負は付いてるし、これ以上はなぁ…」

「有咲ちゃん、これ以上の戦いは私も無用だと思うわ。 だから…」

 

 

そう言って、まりながノートパソコンの開く。

 

 

「分かりましたまりなさん。 スティングモン、クワガーモンをこっちに」

 

 

まりなの考えを察した有咲はスティングモンに指示を出し、スティングモンは指示通りにクワガーモンを運ぶ。

 

 

「それじゃあ行くぞ。 デジタルゲートオープン!!」

 

 

するとまりなのノートパソコンから白い閃光が現れ、それに包まれたクワガーモンはデジタルゲートの中に消えていった。

 

 

 

 

「グオオッ!!」

「行け! ドルガモン!」

「グワァッ!」

 

 

香澄の声に応える様に、ドルガモンはタスクモンに立ち向かう。

 

 

「グオオッ!!」

 

 

そこからタスクモンは、必殺技のパンツァーナックルを喰らわせようとするが、ドルガモンは間一髪急上昇し、その一撃を避ける。

 

 

「ウオオオオ!!」

「グオオッ!!」

 

 

そしてドルガモンはそこから急降下して、全身の力を込めた突進をタスクモンに浴びせ、喰らったタスクモンはそのまま痛みで倒れる。

 

 

「よーし!! 其処だ!!」

「やっちゃえー!!」

 

 

2体の戦いを観戦していた『Afterglow』のドラム担当――宇田川巴と彼女の妹で『Roselia』のドラム担当――宇田川あこが声を上げる。

 

 

「凄い…それに香澄ちゃん達のあの様子、パートナーデジモン達と呼ばれたあの子達と強い信頼関係で結ばれているのが、初めて会う私にも分かるわ」

 

 

同じく観戦していた『パスパレ』のベース担当の金髪の少女――白鷺千聖は、香澄達とドルガモン達夫々のパートナーデジモン達の姿に、双方の強い信頼関係を感じていた。

 

 

そして再び急上昇したドルガモンは、止めの必殺技を放つ。

 

 

「パワーメタル!!」

 

 

ドルガモンの口から放たれた巨大な鉄球がそのままタスクモンに直撃し、そのまま押しつぶされたタスクモンはデータの粒子になって消滅した。

 

 

「…ふう」

 

 

香澄は戦いの終わりを感じて一息つく。

 

 

そして同じく戦いの終わりを確認したドルガモンが地上へ降り、香澄は優しく出迎えた。

 

 

「香澄…」

「ドルガモン…」

 

 

「「「「香澄(ちゃん)(さん)!!」」」」

 

 

その時、同じ様に戦いを終えた有咲達がそれぞれのパートナーデジモン達と共にやって来る。

 

 

「有咲…紗夜さん…日菜さん…ましろちゃん…」

 

 

そして集まった5人は、その様子を見ていた他のガールズバンドの面々を見つめる。

 

 

 

 

「皆に全て話すよ。 私達とドルモンの関係から今までの事を」

 

 

 

 

戦いが終わった辺り一面に、香澄の決意が込められた言葉が、静かに強く反響した。




第1話、之にて終了です。
戦闘シーンって書くのが難しいですね。
私自身、今でも書いた後読み返していて、『ここ何だか表現が可笑しいのでは?』と感じてしまったりしています…。


それと活動報告にも書きましたが、日菜さんのパートナーデジモンはコロナモンに変更になりました(詳しくは活動報告の方で)。


更に作中での日菜のディーアークがライトイエローである理由ですが、実は最初は紗夜さんと同じターコイズブルーにしようと考えてたのですが、それだと紗夜さんと被ってしまうと言う事で没になってしまい、次に考えたのが、『ブルーのボディに赤い縁取りのディーアーク(別名『ビルドカラー)』と言う物ですがこれも自信が無くなって没にしてしまい、最終的に、


『コロナモンとルナモン→太陽と月→日光と月光→サンライト&ムーンライト→ライトイエロー』


と言う連想ゲームの様な形式で決まったのでした。


最後にまた連続ですが、デジモン紹介です。
此方は香澄達5人のパートナーデジモンの成熟期の紹介です。




ドルガモン

世代:成長期
タイプ:獣竜型
属性:データ

香澄のドルモンが進化した成熟期デジモン。
獣と竜“ドラゴン”の資質を持ち、多くのデジモンがその影を見ただけで逃げ出すほどの重量級にして獰猛な獣竜型デジモン。
戦いとなると野性の獣の如くその獰猛性を発揮するが、竜の知性を併せ持ち、普段は非常におとなしい。
額に旧式なインターフェースをもつ為“プロトタイプデジモン”の進化系ではないかと推測されている。
必殺技は大型の鉄球を口から放ち、敵を打ち砕く『パワーメタル』。
得意技は立ち止まって力を溜めてから放つ方が威力はあるが、突進しながらも鉄球を放つことが出来る『キャノンボール』。


スティングモン

世代:成熟期
タイプ:昆虫型
属性:フリー

有咲のワームモンが進化した成熟期デジモン。
人型の形態を持つ、非常に珍しい昆虫型デジモン。
昆虫型デジモン特有の硬い外骨格と素早い動きを持っていて、暗殺者としての能力に長けており、俊敏な身のこなしと的確な判断力で敵の急所を狙い、一撃で敵を沈黙させる攻撃を得意とする。
いたって冷静で知性は高く、クールな性格の持ち主。
必殺技は腕から伸びるパイルで敵を貫く「スパイキングフィニッシュ」。
得意技はエネルギー弾を撃ち出す「ムーンシューター」と触角で敵の体力を吸い取る「ヘルスクイーズ」。


レキスモン

世代:成熟期
タイプ:獣人型
属性:データ

紗夜のルナモンが進化した成熟期デジモン。
驚異的なジャンプ力を身に付け、素早い動きで敵を翻弄する獣人型デジモン。
月の満ち欠けのように、つかみどころのない性格をしてるが、その佇まいはどこか神秘的である。
必殺技は、両手の“ムーングローブ”から発生させた催眠効果のある水の泡を投げつけ、敵を眠らせる『ムーンナイトボム』と、背中の突起から美しい氷の矢を引き抜きいて放つ『ティアーアロー』。
また、空高く跳躍し、急降下キックを繰り出す『ムーンナイトキック』も強力である。


ファイラモン

世代:成熟期
タイプ:獣型
属性:ワクチン

日菜のコロナモンが進化した成熟期デジモン。
“空を翔る獅子”と異名をもつ獣型デジモンで、デジタルワールドのとある遺跡を守護しており、面倒見の良いリーダー的な存在でもある。
必殺技は、全身に炎をまとい、上空より急降下突撃をする『フレイムダイブ』と、炎をまとった強靭な前足で敵を引き裂く『ファイラクロー』。
また、額に全身の力を集中させた火炎爆弾『ファイラボム』を放つ。


バオハックモン

世代:成熟期
タイプ:恐竜型
属性:データ

ましろのハックモンが進化した成熟期デジモン。
ハックモンが厳しい鍛錬を重ね、類い稀なる戦闘センスに磨きがかかり心技体ともに成長を遂げた姿。
高みを目指して鍛錬を続け、強敵とのバトルを通じて培った戦闘経験も蓄積し、戦うほどに進化する戦闘巧者で、成長とともにロイヤルナイツへの志も高まり、自分が成すべき事は誰に言われて決めるのではなく、自分で見て考え決意することを信条としている。
必殺技は全てが強化され、爪で切り裂く『フィフクロス』、尻尾の刃を軸に回転させ突貫する『ティーンブレイド』、迎撃にも使用できる『バーンフレイム』と威力は格段に増した。
さらに両足の斬れ味鋭い刃を生かした『ドラグレスパイカー』で敵を両断する。


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第2話 電脳語り2020

御久し振りです。


タイトルの通り、今回は前回より短い上に、殆ど説明が多い感じの第2話です。


因みに、香澄とましろのDアークは『初期version』と『後期version』の2種類があり、今現在所持しているカラーリングの物は、『後期version』であります。


また、2人の『初期version』のDアークのデザインイメージはそれぞれ、




・香澄→『テイマーズ』初期でタカトが所持していたタイプ(縁取りの色は、ライトレッド)。
・ましろ→同じく『テイマーズ』初期でタカトが所持していたタイプ(縁取りの色は、ライトブルー)。




と言う感じです。


更に少し暴露しますと、実はこの作品、当初は『バンドリ×デジモンテイマーズ』で書く予定でしたが、様々な事情から単純に『バンドリ×デジモン』のクロスになったのでした(今作で香澄達のデジヴァイスがDアークなのはその初期設定の名残で、その時の香澄のパートナーはブイモンでした)


さて、デジモン紹介に関してですが、今回も前書きと後書きの2回に分けて行います。
前書きでは、前回の話で香澄達が戦った4体のデジモン達の紹介です。




タスクモン

世代:成熟期
タイプ:恐竜型
属性:ウィルス

双肩から巨大なツノを生やした超重量級の恐竜型デジモン。
猪突猛進型の性格で、目の前に如何なる障害物があろうと全てを破壊し突き進むところから「パンツァーデジモン」の異名を持つ。
突進系の体当たり技を得意とし、この攻撃の前に撃沈していったデジモンは数知れない。
両腕の星のマークは今までに倒したデジモンの数(星1個で100匹)を表している。
また、双肩のツノは折れることがあってもサメの歯のように、折れたツノが抜け後ろから新しいツノが前に出てくるため、タスクモンのツノを破壊することは無駄なのだ。
必殺技は超弩級のパンチ『パンツァーナックル』。


クワガーモン

世代:成熟期
タイプ:昆虫型
属性:ウィルス

頭部に巨大な鋏を持った昆虫型デジモン。
カブテリモンと同様にファイル島に生息している同種よりはるかに優れた戦闘能力を有している。
強靭なパワーと硬い甲殻に守られており、特に鋏の部分のパワーは超強力で一度敵を挟み込むと、相手が生き絶えるまで締め上げる。
ワクチン属性のカブテリモンとは完全に敵対関係にあり、お互いの間には「闘争」しか存在しない。
必殺技は硬質の物質を簡単に切り裂くことができる『シザーアームズ』。


モリシェルモン

世代:成熟期
タイプ:軟体型
属性:データ

森深い沼地に生息するシェルモンの仲間。
シェルモンとは体色や生息地が異なり、住む場所にあわせて体の色を変えたと考えられており、普段は硬い殻の中にこもっている事が多いが、好戦的なシェルモンと同じく攻撃的な性格で、体も大きく力もあるためモリシェルモンの縄張りに近づき怒らせることは得策ではない。
必殺技は硬い貝の中に手足をしまい、回転しながら突進する『パイルシェル』と、口から幻影を見せる濃霧を噴出する『マインドフォッグ』。


セーバードラモン

世代:成熟期
タイプ:巨鳥型
属性:ワクチン

闇色の炎を纏ったバードラモンの亜種系デジモン。
敵に対しては凶暴なまでに反撃をくり返す気性の荒さで、近寄ることすら難しい。
必殺技は、足のツメで空中から襲う「ブラックセーバー」。


 

翌日。

 

 

東京のとある一角に存在する大住宅。

 

 

此処は、とんでもなく裕福な大富豪一家『弦巻家』ーーその御息女のこころが住む屋敷。

 

 

この家の大広間の一室には、香澄、有咲、紗夜、日菜、ましろ以外の6大ガールズバンドのメンバー全員が揃っている。

 

 

 

 

あの後、再会したパートナーデジモン達と共にタスクモン達を退けた香澄達は、状況を見たまりなに促されて『CiRCLE』を後にして、ライブの打ち上げパーティーをする予定だった『弦巻家』の屋敷に行き、そして今に至るのであった(尚、打ち上げパーティーに関しては、他のメンバー達の様子を見て、ドルモン達との関係の説明も兼ねて翌日する事になった)。

 

 

 

 

「2人共、良く眠れた?」

「うん、何とか…。 おたえちゃんは?」

「全く問題無し。 それよりもあの『ルナモン』をモフモフして、花園ランドの一員にしたい」

「お…おたえちゃん、ある意味逞しいね…」

 

 

「沙綾、たえ、りみ!」

 

 

声の聞こえた方を振り向くと、其処には蘭を筆頭に『Afterglow』の面々が揃っていた。

 

 

「蘭…それにモカ達も…」

「いやはや、昨日はライブだけでなく色んな意味で大変でしたな~」

「私、今でもあの出来事は『夢』何じゃないかなって思っちゃうんだ…」

「アタシもひまりと同意見さ」

「私も…ひまりちゃんと巴ちゃんと同じかな…」

 

 

辺りを見回すと、『Roselia』、『パスパレ』、『ハロハピ』、『モニカ』の面々も、同じバンドのメンバー同士の者もいれば、千聖と花音の様に、異なるバンドのメンバー同士で昨日のデジモンの件で会話を交わす者もいた。

 

 

やがて時計の時間が10時になった時、6大ガールズバンドのメンバー全員とは別の場所で待機していた香澄達5人が、それぞれのパートナーデジモン達と共に大広間に現れた。

 

 

「香澄…有咲…」

 

 

沙綾の呟きを他所に、香澄達が口を開く。

 

 

「皆、待たせちゃってごめんね。約束通り、私達とドルモン達の事について話すよ」

「戸山さん。単刀直入に聞くわ。その子達は何者なの? そして、戸山さんや紗夜達とどういう関係なの?」

 

 

友希那がこの場にいるガールズバンドの仲間達が抱いている疑問を、代表で香澄達とドルモン達に問い掛ける。

 

 

「香澄…此処は僕達が話すよ」

「ドルモン…」

 

 

そしてドルモン達は、友希那達の前に立つ。

 

 

「改めましてですが初めまして。 僕、ドルモンです」

「初めまして…。 ワームモンです」

「私はルナモン」

「そして俺はコロナモン! 宜しくな!」

「私はハックモンだ」

 

 

「そして」

 

 

「「「「「僕(私)(俺)達、デジタルモンスターことデジモン(です)(だぜ)!!」」」」」

 

 

「デジタル…モンスター?」

「デジモン…?」

 

 

彩と蘭が聞きなれない風な感じで反応を返す。

 

 

他の面々も、似たり寄ったりな反応を示していた。

 

 

「私達デジモンは、コンピュータネットワーク上の電脳空間に生息する生命体なのだ」

「えーっと、それって要するにあこ達がプレイしている『NFO』のゲームに登場するモンスター達みたいな存在って事なの?」

「ううん。 確かに『コンピュータの中にいる生命体』と言う意味では似ていると、決められたプログラムだけの行動しかしない『NFO』のモンスターと違って、デジモンは人工知能を持っているから、自分の意志や考え、感情などに従って行動する事が出来るんだ」

 

 

あこの疑問に対して、日菜が分かり易く説明をする。

 

 

「凄いわ!! じゃあドルモン達はコンピューターの世界からやって来た『妖精さん』達なのね!!」

「『ネットワークの世界の住人』…実に儚い存在だね」

「パソコンの世界のデジモン達には、コロッケが好きな子達もいるかな~」

「ふ…ふぇぇ」

「いやそんな単純な物で纏められる存在じゃないと思うのですが…」

 

 

こころと薫とはぐみの3人の発言に、花音は混乱し、美咲は思わずツッコミを入れる。

 

 

「それで…如何して香澄ちゃん達はその『デジモン』達について詳しく知っているの?」

 

 

「はい。私と有咲、そして紗夜さんと日菜さんとましろちゃんの5人は、5年前に『デジタルワールド』に行き、其処でドルモン達と出会って、一緒に冒険したからです」

 

 

「冒険?」

 

 

つぐみが疑問の言葉を零す。

 

 

 

 

「そこから先は、私達と『彼』が話すわ」

 

 

 

 

その時、大広間の扉が開き、其処からまりなと大学生位の女性が入ってくる。

 

 

「お姉ちゃん!?」

「りみ、久し振りだね。 それに香澄ちゃん達も元気そうね」

 

 

その女性ーーりみの姉で、嘗てガールズバンドの1つ『Glitter*Green』のギター&ボーカル担当ーー牛込ゆりの登場にりみは驚く。

何せ、彼女は高校卒業後は、海外の大学へ留学していたので、この場に現れた事に驚きの声が上がるのも無理も無かった。

 

 

「まりなさんに牛込先輩? 如何して此処に?」

 

 

「ゆりちゃんは、私が事情を話したら、「『彼』と一緒に説明の為に同席させてほしい」と言って、海外からゲートを通じて来たのよ」

「あの…お姉ちゃん、『彼』って…?」

「落ち着いてりみ。ちゃんと説明してあげる」

 

 

そして彼女は懐から、香澄達ののディーアークとは異なる形の青色のデジヴァイス――D-3を取り出して翳すと、D-3の画面が光りだし、其処からホログラフィが出現する。

 

 

「えええ!? 何、何なの!?」

 

 

リサが驚愕した様子を見せる。

 

 

『久し振りだな。 テイマーの少女達よ』

 

 

そして現れたのは、稲妻の様な形の青い一本角の青龍の様な見た目のデジモンだった。

 

 

 

 

「「「「「チンロンモン!!」」」」」

 

 

 

 

香澄達はその存在の名前を呼ぶ。

 

 

「香澄達、このデジモンと知り合いなの?」

「確かに知り合いと言えば、知り合いだけど…」

 

 

蘭の問い掛けに、香澄達は若干の苦笑を浮かべる。

 

 

『改めて名乗ろう。 私はチンロンモン。デジタルワールドを守護する存在であり、彼女達を呼んだ存在である』

 

 

「『デジタルワールドを守護する存在』って事は……つまりデジタルワールドの……『神様』と言う事ですか?」

 

 

『『『『『『神様!!?』』』』』』

 

 

チンロンモンの言葉から、その正体を悟った燐子の発言に、香澄達5人と燐子を除いた6大ガールズバンドのメンバーは、驚愕の声を上げる。

 

 

「厳密に言えば少し違うんだけどね…」

 

 

ゆりさんは苦笑する。

 

 

「で…でも、何でお姉ちゃんがそんな凄いデジモンとそんなに親しいの?」

「それは……『彼』が私のパートナーだからよ」

「ゆりさんがですか!?」

「私だけじゃないわ。 グリグリの皆は、香澄ちゃん達より前の――所謂『先代テイマー』なの」

「そして私は、彼と共にデジタルワールドの管理を行うエージェントよ」

 

 

2人の正体を知った香澄達以外のガールズバンドのメンバーは、その事に対して驚きの様子だった。

 

 

『話を戻そう。 全ての始まりは、この世界の時間で言えば5年前の事――平和だったデジタルワールドに『奴』が現れた事が切っ掛けだった』

 

 

「「「「「「『奴』?」」」」」」

 

 

そしてチンロンモンは自身のデジコアの1つを光らせ、其処からの映像を見せる。

 

 

其処に映っていたのは、背中に2枚の黒い翼を生やし、頭には2本の角を生やした恐ろしい形相と容姿をした異形の存在だった。

 

 

「何あれ…」

「若しかして…あれもデジモン何ですか?」

「『奴』の名はデーモン。 『デジタルワールドの完全支配』を目論んだ魔王型デジモンよ」

 

 

千聖とつぐみの疑問にゆりが答える。

 

 

「私は他の3体の仲間達と共に奴と闘ったが、奴の暗黒の力によるデジタルワールドへの悪影響を少しでも抑える為に力を使用した事によって、弱体化していた私達は奴の配下のデジモンによって、全員封印されてしまった」

「そして、私は何とかして彼等の封印を解き、そして奴――デーモンを倒して、再びデジタルワールドを救ってくれる存在を探して、信号を送り続け、そしてそれを聞いた5人の少女達がデジタルワールドにやって来た…」

 

 

チンロンモンとまりなの言葉で察した友希那達が、香澄達5人の方に視線を向ける。

 

 

「うん。 それが私、有咲、紗夜さん、日菜さん、ましろちゃんの5人です」

「そして、私達はそれぞれのパートナーデジモン達と出会い、共に冒険し、そしてデーモンを倒して、再びデジタルワールドの平和を取り戻し、皆とまた再会を約束して、別れたんだ…」

 

 

香澄とましろは、他のガールズバンドのメンバー達の様子に対して答えた。

 

 

その様子から他のガールズバンドの面々には驚きの様子が見られた。

 

 

「…1つ聞いていいかしら?」

 

 

友希那が徐に発言する。

 

 

「戸山さん達は、どうして彼処まで必死だったの?」

 

 

香澄達は元々自分達からデジタルワールドに行った訳では無く、謂わば『巻き込まれた』だけである。

普通なら、不満の1つ2つ、最悪投げ出したくなるだろう。

 

 

友希那はその様な疑問を抱いたからこそ、この様な問い掛けをしたのだった。

 

 

「…確かに、不安は無かったって言ったら嘘になります」

「最初は殆ど人が、『何で自分達がこんな目に遭わなくちゃいけないの?』、『早く元の世界に帰りたい』って、何度も思っていました」

「でも、ルナモン達と出会い、一緒に冒険する内に、彼等も私達と同じ様に、この世界を一生懸命生きている事を理解しました」

「その姿を見ていたら、段々この『デジタルワールド』の全てが、とても大切に思えてきたんだ」

「だから最終的に、私達は自分達でこの道を進む事を決めたんです」

 

 

香澄達は友希那の問いに、強くはっきりと答えた。

 

 

「そうなのね…」

 

 

友希那は、何か納得した様な様子だった。

 

 

「皆…隠しててゴメンね」

「謝らないで香澄ちゃん。 私も友希那ちゃんも、此処にいる皆は、誰も騙された何て思っていないよ」

「寧ろ助けてもらって、御礼を言わないといけない位だよ」

 

 

彩と花音は、香澄達にその旨を伝えた。

 

 

「丸山さん、松原さん。 有り難う御座います」

 

 

紗夜は静かに、感謝の言葉を返した。

 

 

 

 

「所でチンロンモン、何で急に現実世界にデジモンが現れたの?」

 

 

『おそらく考えられるとするなら…何らかの要因でゲートが開いてしまったか…若しくは…』

 

 

「まさか…誰かがゲートを強制的に開けたと言う事ですか?」

 

 

紗夜が『そのまさかの可能性』を言及する。

 

 

『それは分からぬ。 ただはっきり言えるのは、私は今回の一件がこれで終わるとは、どうしても思えぬのだ』

 

 

チンロンモンの言葉に、この場の誰もが驚きの様子を浮かべていた。

 

 

「私やまりなさんも、その点は調査していくわ。 香澄ちゃん達も気を付けてね」

「分かりました」

 

 

香澄達5人は頷いた。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

「…それじゃあ、改めて『CiRCLE(サークル)開店1周年記念ライブ』兼ドルモン達との交流会パーティーを始めるわよ!!」

 

 

こころの発言と同時に、パパパァンというけたたましい音が鳴り響き、クラッカーが乱射される。

 

 

あの後、香澄達は兼ねてより予定した1日遅れの『CiRCLE開店1周年記念ライブ』とルモン達との交流を兼ねたパーティーを行っていた(因みにチンロンモンはあの後、再び去って行き、ゆりはまりなと香澄達からの御厚意に甘えてパーティーに参加している)。

 

 

「紗夜先輩!! ルナモンをモフモフさせて下さい!!」

「うえ~ん!! 紗夜~!!」

「お、おたえちゃん!?」

「花園さん!? コラ、待ちなさい!!」

「おたえ――!! オメーは何やってんだ――!!」

「待ってよあーちゃん~!!」

 

 

「は、初めましてゆりさん! わ、私、『Morfonica』で、ド、ドラムとリーダーを担当してる二葉つくしです! あ、あの『グリグリ』のボーカルをた、担当していたゆ…ゆりさんに出会えて、大変光栄です!」

「ふふっ。 貴女達の事はましろちゃんから聞いているよ。 此方こそ宜しくね」

「は、はい! 喜んで!」

「おお~、私達の事を知ってくれてるなんて、とても嬉しいねぇ」

「はははっ。 ふーすけの奴、緊張して滅茶苦茶噛みまくってるじゃん」

「この人が『グリグリ』のボーカル…映像で見るのに比べて、感じる風格が全然違うわ…」

 

 

「貴方がコロナモンだよね? 初めまして! まん丸お山に彩りを! まるやみゃ…じゃなくて、丸山彩だよ!」

「おお! アンタが日菜の友達だな! 『太陽の貴公子』ことコロナモンとは、俺の事だぜ! こっちこそ宜しくな!」

「ふふっ。 彩ちゃん、コロナモンにすっかり気に入られたみたいだね~」

「『太陽の貴公子』…とってもカッコいいです!!」

「いやはや、何と言うか…彩さんや日菜さん並に個性的なデジモンさんですね…」

(奇遇ね麻弥ちゃん。 私も同じ事を思ったわ)

 

 

(コロナモンって…ライオンの子供みたいな見た目ね…ライオンは猫科…にゃあ~んちゃんのデジモン…悪く無いわね…)

(あはは…あれは十中八九『猫のデジモン』の事を考えているんだろうなぁ…)

「ねぇりんりん! 若しかしてあの『デーモン』って言うデジモンの他にも、『魔王のデジモン』がいたりするのかな?」

「そうだね…きっと、他にもあこちゃんの想像している『魔王のデジモン』もいると思うよ…(ルナモンのあの見た目…今度の新しい衣装を作る時の参考にしようかな…)」

 

 

それぞれ思い思いの様子を過ごす中、香澄とましろは少し離れた所で皆の様子を見ていた。

 

 

「バンドの皆もデジモン達も、楽しそうに過ごしてるね」

「はい…。 正直、不安な気持ちもあったけど、皆がハックモン達を受け入れてくれて良かったです」

「香澄~!」

 

 

すると其処に別行動をしていたドルモンとハックモンの2体がやってくる。

 

 

「ドルモン! 楽しんでる?」

「うん! 僕、とっても楽しいよ!」

「ドルモンの奴、さっきも桃色の少女に抱きつかれていたり、金髪の少女達と変わった掛け声を合わせていたりと、結構な人気者ぶりだったぞ」

 

 

同行していたハックモンの言葉に、香澄達は安堵感を覚えていた。

 

 

「…ドルモン。 ましろちゃん。 ハックモン。 絶対に皆の事を守っていこう」

「「「うん(はい)(あぁ)」」」

 

 

香澄の言葉にドルモン達は頷く。

 

 

 

 

その後、香澄達は何事も無く平和で楽しい一時を十分満喫したのだった。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

――デジタルワールドの何処か

 

 

「ぐわああ!!」

 

 

激しい爆音と衝撃が辺り一面に響き、兎の様な見た目のデジモン――アンティラモンは敵の攻撃で吹っ飛ばされた。

 

 

「くううぅ…」

「…格下の完全体とは言え、流石は『四聖獣』に仕える『デーヴァ』の一体。 此処まで粘るとは、多少は出来る様だな」

 

 

全身の痛みをこらえ、何とか起き上がるアンティラモン。

それを見る背中に羽を生やし、右手に剣を持った相手のデジモンは、その様子に対して多少の嘲りを含めた評価を下す。

 

 

「…何故だ? 正義と平和を愛する聖騎士の一角である筈の汝が、何故この様な蛮行を!?」

「今のデジタルワールドは不安定な状態…無能な『四聖獣』共より、『あの方』の圧倒的な力によるデジタルワールドの統治が遥かに得策だ」

「違う!! それはただの『支配』なり!! 強すぎる力は争いの元だ!!」

「…最早、これ以上の問答は無意味…」

 

 

そう言った相手のデジモンは、右手に持った剣を頭上に上げ、そのまま弧を描き振り下ろす。

 

 

「うああああ!!」

 

 

其処から放たれた無数の刃を浴び、アンティラモンは苦痛の声を上げ、其の侭崩れ落ちた。

 

 

「止めだ…」

 

 

そのまま右手に持った剣を降り下げ様とする敵のデジモン。

 

 

 

 

「Stop!!」

 

 

 

 

その時、辺りに制止の声が響き渡る。

 

 

声のした方を見ると、其処にはピンク色の髪に、猫耳を彷彿させるヘッドホンを付けた中学生らしき少女の姿があった。

 

 

「●●●●? 如何したの急に?」

 

 

すると先程戦っていた相手のデジモンから、先程とは違い、大人びた雰囲気の女性の声が聞こえた。

 

 

「『四聖獣』に仕える『デーヴァ』の一体…その力をここでDeleteするのは、実に惜しいわ」

「お世辞は結構…煮るなり焼くなり止めを刺すなり、汝達の好きにしろ」

「ええ…私の好きにさせてもらうわ…●●●!!」

「はい、●●●●様!!」

 

 

すると少女の横に、2本の杖を持った白いドレスに纏った妖精の姿をしたデジモンが現れる。

 

 

「…何をする気だ?」

「大丈夫。 痛い思いはさせませんよ~」

 

 

そう言ってその妖精デジモンは、右手に所持した虹色の花の杖をアンティラモンに向けると、其処から7色のオーラを浴びせた。

 

 

「う…う…」

 

 

アンティラモンは気力を振り絞って必死で抵抗するが、それも空しく、数秒後に気を失った。

 

 

「貴女のそのPowerは、私達の為に有効に活用させてもらうわ。 今はせいぜいのんびり眠っていなさい…」

 

 

ピンク色の髪の少女は、思惑の込められた不敵な表情でアンティラモンに語り掛けたのだった。

 

 

 

 

一方アンティラモンと少女とのやり取りを見ていた羽付きのデジモンの片割れの人格の少女は、その様子を眺めていた。

 

 

「『デーヴァ』…」

 

 

“確か『神様』と言う意味だっけ”…と、少女は考える。

 

 

「『兎の神様』…か」

 

 

ふと、昔離れ離れになった『幼馴染』の少女の事を思い出す。

 

 

兎が好きな彼女がこのデジモンに会って、大喜びする光景が脳内に浮かび、その様子に微笑ましい気持ちになる。

 

 

 

 

「…『花ちゃん』。 元気にしてるかな?」

 

 

 

 

少女の呟きは誰にも気付かれる事無く、空気に消えていった。




相変わらず下手&雑な表現と思われる点はありますが、読んで頂き有り難う御座います。


当初はまりなさんをチンロンモンのテイマーにすると言う案もあったのですが、『残り3体の四聖獣達のテイマー枠をどうするか』と言う点で悩み、結局没にしてしまいました。


そして最後に登場した面子は、勿論今作に置ける敵勢力の面々ですが、本格的に絡んでくるのはかなり先になります(と言っても、殆ど正体は半分程バレていますが)。
また、会話で分かると思いますが、全員究極体デジモン(但し、猫耳ヘッドホンの少女は少し特殊な形ですが『究極体並の力を持ったデジモン』)の敵です。


モデルのイメージは『アドベンチャー』のダークマスターズ(+アポカリモン)で、ポジションを当てはめると、


猫耳ヘッドホンの少女→アポカリモン
背の高い大人びた雰囲気の黒髪の少女→ピエモン
?→ムゲンドラモン
ツインテールの少女→ピノッキモン
?→メタルシードラモン


と言う感じになっています。


アンティラモンに関しても、少し特殊な形での扱いになりますし、ダークマスターズの立ち位置で出す究極体デジモンも既に決まっており、特に黒髪の少女とツインテールの少女の究極体デジモンは、ある程度正体が分かった人もいるのではないかなと思っています。


最後に前書きの方にも書きましたが、今回登場したデジモンの紹介(+a)をしておきます。
尚、紹介するデジモンの内の2体は今現在本編には登場していませんが、関係者的な立ち位置の意味合いを込めて紹介しておきます(一応分かり易いように、(※)マークが付いています)。




デーモン

世代:究極体
タイプ:魔王型
属性:ウィルス

多くの悪魔型デジモンや堕天使型デジモンを率いる魔王型デジモンで、5年前に香澄達5人が冒険したデジタルワールドを支配しようした存在。
元々はデビモン等と同じく天使型デジモンであり、その中でも特にレベルの高い存在であったが、デジタルワールドの善の存在(恐らくはデジタルワールドを構築した人間)に対して、反逆あるいは猛威を振るったためダークエリア(消去されたデータの墓場)へとデリートされてしまった。
彼等は、いつの日かデジタルワールドを征服し、善の存在への復讐を誓っている。
また、その反逆戦争の時に彼等を率いた、究極体の中でも最強だった「超究極体デジモン」を密かに復活させようと企てている。
必殺技は、超高熱の地獄の業火『フレイムインフェルノ』。
この技を受けると、跡形も無く燃やし尽くされてしまう。


チンロンモン

世代:究極体
タイプ:聖竜型
属性:データ

香澄の所属するバンドである『Poppin'Party』のベース担当、牛込りみの姉であるゆりのパートナーデジモンで、5年前に香澄達をデジタルワールドに呼び寄せた張本人。
デジタルワールドを守護する四聖獣デジモンの1体であり、東方を守護し強烈な雷撃を放つ。
他の四聖獣デジモンと同じく伝説の存在であり、その強さは神にも匹敵すると言われている。
またチンロンモンはホーリードラモン、ゴッドドラモン、メギドラモンと共に四大竜デジモンの1体としても数えられており、もっとも神格化された存在である。
しかし、神のような存在とはいえ、簡単に人間や弱者に協力をするようなものではなく、よほどの事が無い限り味方にすることはできないだろう。
必殺技は天空より激しい雷を落とす、神の怒り『蒼雷(そうらい)』。


アンティラモン(デーヴァVer.)

世代:完全体
タイプ:聖獣型
属性:データ

「デーヴァ(十二神)デジモン」の1体で、兎に似た姿の完全体デジモン。
四聖獣デジモンであるチンロンモンの配下で、優の心の持ち主。
小さな物が好きで、深い優しさをもって接しているため、それらを踏み躙ろうとする物が現われると性格は一変し、両手を切れ味鋭い斧に変化させた宝斧(パオフー)で戦う。
一度切れると周りに敵の姿が無くなるまでは納まらない。
必殺技は、自身を軸に竜巻のように回転し、両手の宝斧で周囲の物を切断する『アシパトラヴァナ』。


(※)ミヒラモン

世代:完全体
タイプ:聖獣型
属性:データ

「デーヴァ(十二神)デジモン」の1体で、虎に似た姿の完全体デジモン。
四聖獣デジモンであるチンロンモンの配下で、デーヴァいちの荒くれ者だが、地の利を読んだ戦術が得意な策略家でもある。
地を駆ければ風より速く、二枚の翼で天を駆ければ音より速い凄まじい行動力で敵を追い詰める。
戦闘においては鋭い牙と爪で敵を切り裂き、尻尾を八角棒の三節棍に変化させた宝棒(パオバン)を使いこなす。
必殺技は宝棒を地面に叩きつけて周囲に衝撃波を起こす『ヴィモーハナ』。


(※)マジラモン

世代:完全体
タイプ:聖獣型
属性:データ

「デーヴァ(十二神)デジモン」の1体で、竜に似た姿の完全体デジモン。
四聖獣デジモンであるチンロンモンの配下で、非常に計算高く自分の得にならないと指一本動かすのもいやがる。
ただし、それが自分に有利になると分かれば、何を置いても首を突っ込みたがる。
あらゆる物に値段をつける癖があり、様々な事柄を金額で表現する。
戦闘時には、尻尾や髭、髪を変化させた宝矢(パオスー)で相手を射抜く(ちなみに一本の宝矢は五千元)。
必殺技は天に呼んだ光の渦の中心に消え、108本の輝く宝矢を放って大量の敵を一瞬にして葬る「ヴェーダカ」で、五十四万元分の破壊力を持つ。




用語解説


デーヴァ

干支をモデルとした12体の完全体デジモン。
四聖獣に仕えており、四聖獣1体につき3体の部下がいる。
名前の由来はサンスクリット語で神を意味する「デーヴァ」。
因みに余談だが、『デジモンテイマーズ』では、四聖獣の1体であるスーツェーモンがデータの残骸から作り出した存在と言う設定の為、全てのデーヴァがスーツェーモンの部下として登場している(その為上記の理由から、このデーヴァは戦力を増やすために揃えた『偽物』ではないかと考察されている。)。


それと個人的な質問なのですが、『若しバンドリキャラ達をデーヴァのポジションに当てはめるとしたら』、皆さんはどの様に考えますか?


因みに私が現状思い付いているのが、


・アンティラモン→おたえ
・チャツラモン→紗夜さん
・ヴァジラモン→イヴさん


と言う感じです。


それでは、之にて失礼致します。


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第3話 星のカリスマ2020

タイトルの如く、香澄のメイン回です。


以前の話の前書きでも言いましたが、私は特撮作品が好きな事もあって、この作品のサブタイトルも様々な特撮関連の要素を意識した感じになっています。


その為サブタイトルは各バンドのメイン回に合わせて、表記を変えたりしています。


基本的に、通常面や今回みたいなポピパ(若しくはポピパメンバー)のメイン回は、『○○○○年号』形式のサブタイトルになると、考えておいてもらって大丈夫です。


 

 

チュン…チュン。

 

 

「う…う~ん」

 

 

日曜日。

 

 

小鳥の囀りを聞いた香澄が目を覚ます。

 

 

「……あれ? ドルモン? ドルモ~ン?」

 

 

隣で寝ていたドルモンの姿がいない事に気付き、香澄は意識をはっきりさせて行く。

 

 

「ドルモン!? 何処にいるのドルモン!?」

 

 

香澄は机の下やクローゼットの中など、自分の部屋のあらゆる所を探すも、何処にもドルモンの姿は無かった。

 

 

(…若しかして、今までドルモンと一緒にいたと思っていたのは、私の『夢』だったのかな?)

 

 

一瞬そんな考えがふと過り、香澄はそのまま下のリビングへと向かう。

 

 

 

 

「ドルモーーン!!」

 

 

 

 

「美味しい! お母さん、このご飯とっても美味しいよ!」

「ふふ。 好きだけ食べていいわよ」

「もうお母さん…気前いいんだから…」

「…あれ?」

 

 

リビングにやってきた香澄が、目の前の光景に間の抜けた声を出す。

 

 

「あら香澄、おはよう。 朝御飯もう出来てるから、良かったら食べちゃいなさい」

「あ…うん」

 

 

母のに促され、香澄は席に付く。

 

 

「それにしても随分変わった動物ね…」

「お姉ちゃん、この子一体何処から拾って来たの?」

「え…え~と…」

 

 

香澄は自身の母である香織と妹の明日香の2人からの問い掛けに、如何答えたら良いのか目を白黒させながら困っていた。

 

 

「ふふっ…いいわよ」

 

 

あまりにもあっけなく了承されたことで、香澄は呆気に取られる。

 

 

「お母さん…そんなに簡単に了承しちゃったけど…いいの?」

「香澄…若しかして、『元居た場所に返して来なさい』って言われると思ってるの?」

「ふぇ!? あの…その…」

「安心しなさい。 家は特にペット禁止なんて事は無いわよ。 …そりゃ確かに、貴女がいきなりこの子を連れて来た事やこの子が人間の言葉を喋る事には吃驚したわ。 …けど」

 

 

香織は唐突にドルモンの頭を撫でながら、言葉を続ける。

 

 

「この子の目や貴女の事を楽しそうに喋る様子を見ていたら、とても悪い子には見えないし…何より、貴女の事を心の底から信頼しているのが分かるわ」

「お母さん…」

「それによく見れば、結構可愛いじゃない。 こんなに可愛い子なら、追い出す所か逆に大歓迎よ♪」

 

 

この言葉を聞いた香澄は、昨日の弦巻家のパーティーの時も、ひまりやこころなどと言った他のガールズバンドの面々達からも結構な人気者ぶりだったと言うハックモンの言葉を思い出していた。

 

 

「それに明日香だって…さっきまでずっとこの子の事をモフモフしていたのよ」

「ちょ…お母さんってば!」

 

 

香織の暴露に顔を赤らめる様子を見せる明日香の姿に、香澄は温かい眼差しを向ける。

 

 

何はともあれ、香澄は母からの了承を得た事に安堵するのだった。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

「…もう、いなくなっちゃってびっくりしちゃったもん」

『ごめん。 香澄が気持ち良さそうに眠ってたから、起こすのも悪いかなぁって…』

「あはは…香澄もドルモンも大変だったね…」

「うんうん。 ドルちゃんのモフモフはひーちゃんやつぐもメロメロでしたからな~」

 

 

その後朝食を食べ終えて、ドルモンと一緒(因みにその際には、まりなが新しく追加した格納機能を使用してDアーク内部にドルモンを格納した)に商店街の方に出掛けた香澄は、途中でりみとばったり出会い、其の侭沙綾の家兼商店街のパン屋である『やまぶきベーカリー』に向かい、沙綾とパンを買いに先に来店したモカに出会い、上記の会話に至るのだった。

 

 

「そう言えば、ドルモンもそうだけどおたえちゃんも昨日は結構大変だったね…」

「「あぁ…」」

 

 

りみの言葉に、香澄と沙綾は思い出した様に言葉を合わせた。

 

 

昨日のパーティーの際、たえは紗夜のルナモンに対してかなり夢中な様子で、度々自身のウサギ達の楽園である『花園ランド』の一員にしようと、追いかけていたのだった(尚その際、有咲と紗夜の2人からもこっぴどく叱られた)。

 

 

「おたえの兎好きは、天下一品級の物ですな~」

「その後、『じゃあ紗夜さんも一緒に『花園ランド』の一員になりませんか?』って誘う程だったのを見ると、よっぽどルナモンに夢中になっちゃったんだね…」

「紗夜さん達…これからも苦労しそうだね…」

 

 

その会話を聞き、香澄は『若し今後ルナモンが進化したら、進化した姿を見る度に、おたえのルナモンへの関心が高まるんだろうなぁ~』と内心思っていた。

 

 

「そう言えば、香澄はこの後どうするの?」

「う~ん、今日は特に予定は何も無いなぁ…」

「あ、それじゃあ、ドルモンにこの商店街を案内するのはどうかな?」

「確かに…ドルモンは此処に来るのは初めてだし…とっても良いかも!」

「それじゃあ…って言いたいけど、私はまだ家の店番があるから、無理何だよね…」

「それじゃあ、私が一緒に付いていくね」

「モカちゃんも今日はこれと言って予定は特に無いから、御一緒してもいい~?」

「勿論だよ! りみりん、沙綾! 有り難う!」

 

 

香澄は改めて、2人に感謝の言葉を述べるのだった。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

その後、りみと沙綾からの提案を受け、香澄はドルモンに商店街の案内を兼ねて、りみとモカと共に(尚、沙綾は店番担当の為、別れた)商店街を散策した後、現在近くの公園で休憩をしていた(因みにドルモンは現在、Dアーク内部から外に出されている)。

 

 

「如何だった、ドルモン?」

『うん! 色んなお店や人達に出会えて、とても楽しかったよ』

「おお~。 その様な感想を聞くと、案内した甲斐があって、此方も嬉しいですな~」

「ドルモンが楽しめて良かったね、香澄ちゃん」

「りみりんもモカも有り難う!」

 

 

香澄は改めて、2人に感謝の言葉を申し上げた。

 

 

平和で和やかな一時が、香澄達の間を流れた。

 

 

そして――――香澄が何気なく空を見上げた瞬間だった。

 

 

 

 

「!! 2人共避けて!!」

 

 

 

 

香澄のいきなりの叫び声に、りみとモカは咄嗟に香澄と共に避けると、先程彼女達がいた場所に激しい爆音と砂塵が舞い上がった。

 

 

「おお?」

「な、何今の!?」

 

 

りみとモカの2人が、突然の事に戸惑いを見せた後、香澄に合わせて視線を空の方に向ける。

 

 

「キキキキキキッ!!」

 

 

其処には、尾の部分にガトリング砲を付けた蛾の様な見た目の異形の姿があった。

 

 

「あれって…デジモン?」

 

 

その見た目から、3人は相手がデジモンである事に気付き、3人と異形の間にドルモンが割って入り、3人を守る様に相手の異形を威嚇していた。

 

 

「モスモン。 アーマー体。 昆虫型デジモン。 必殺技は『モルフォンガトリング』…」

 

 

香澄は自身のDアークで、相手のデジモンの情報を調べる。

 

 

すると、モスモンは再び尾のガトリング砲を動かそうとしていた。

 

 

「ッ!! メタルキャノン!!」

 

 

咄嗟にドルモンは牽制の為に口から鉄球を放つが、モスモンは空中へ飛んで躱す。

 

 

「キキャアアア――!!」

 

 

邪魔された事に怒ったモスモンは、再度尾のガトリング砲を今度は香澄達の方に向けて、そのまま大量の弾丸を放った。

 

 

「香澄―――!!」

 

 

ドルモンは香澄達のいる方へ向かってダッシュする。

 

 

「うああああ――!! ダッシュメタル!!」

 

 

ドルモンも負けずと口から大量の小さな鉄球を吐き出す。

 

 

小さな鉄球はモスモンの放った弾丸に命中して爆炎を起こすが、それでも打ち漏らした数発の弾丸が香澄達に降り注ごうとしていた。

 

 

 

 

「危な――――い!!」

 

 

 

 

咄嗟にドルモンは全身の力を込めてジャンプし、香澄達と数発の弾丸の間に割って入った。

 

 

――ドドドド

 

 

「うわああああ!!」

 

 

其の侭数発の弾丸はドルモンに全て命中し、ドルモンはそのまま叫び声を上げて倒れた。

 

 

「ドルモン!!」

 

 

香澄は直ぐにドルモンの下へ駆け寄った。

 

 

「ドルモン! ねぇしっかりして! ドルモン!」

 

 

香澄はドルモンに必死で呼び掛ける。

 

 

「ん…香澄…」

 

 

すると香澄の呼び掛けに、ドルモンが痛みを堪えながら応じた。

 

 

「! ドルモン! 大丈夫!?」

「心配…しないで…。 少し…掠っただけだから…」

「ドルモン…」

 

 

そしてドルモンは何とか起き上がり、再びモスモンを見据える。

 

 

「香澄…僕を進化させて…」

「…でも、その体で進化したら…」

「確かに体への負担は大きいよ…。 でも…僕にとっては…香澄達を守れない事の方が…何十倍苦しいよ…」

 

 

ドルモンの言葉を聞いた香澄は、暫くの間長考した後、言葉を発した。

 

 

「分かったよドルモン。 …でも無茶はしないでね…」

「うん…」

 

 

 

 

――EVOLUTION

 

 

 

 

Dアークの画面にそう表示されると、Dアークが眩い光を放ち、そのままドルモンを包み、光を放った。

 

 

「ドルモン進化!」

「キキャア――!!」

 

 

するとモスモンはさせるかと言わんばかりに、尾のガトリング砲から無数の弾丸を放ってきた。

 

 

そしてモスモンの目の前で、激しい爆音と砂塵が舞い上がった。

 

 

「キキキ…」

 

 

目の前の状況を見て、自身の勝利を確信し、不敵な笑みを浮かべるモスモン。

 

 

 

 

「キャノンボール!!」

 

 

 

 

だが次の瞬間、叫び声と共に突然出現した鉄球の直撃を喰らい、モスモンは大きく吹き飛ばされた。

 

 

「ギッ…ギッ…」

 

 

突然の状況に混乱するモスモンの前に、藍色の体毛を持つ翼を生やした獣竜――ドルガモンが現れる。

 

 

「ギギッ!? ギギャアア!!」

 

 

モスモンは目の前の相手が、先程止めを刺した筈のドルモンが進化した姿である事に気付き、憎悪の感情を込めて尾のガトリング砲から無数の弾丸を、再度ドルガモンに向けて放つ。

 

 

「グルアアアアアア――!!」

 

 

しかしドルガモンは野性の獣の如く大きな叫び声を上げながら、真正面から無数の弾丸を物ともせずに突っ込んでいた。

 

 

「ギギッ!?」

 

 

モスモンはその様子を見て、更に尾のガトリング砲から無数の弾丸を放つも、ドルガモンは尚も苦しむ様子を見せずに突っ込んで来る。

 

 

「ギギ…ギギ…」

「キャノンボール!!」

「ギギャアアアア!!」

 

 

そのままドルガモンは動揺して動きを止めたモスモンに対して、口から放った鉄球を炸裂させ、諸に喰らったモスモンは大きく吹っ飛ばされた。

 

 

「ギギ…ギギ…」

「グルルルル…!!」

「ギッ!! ギギーー!!」

 

 

モスモンは今のドルガモンの姿から、底知れぬ恐怖と勝てない事を本能的に理解し、逃走を図った。

 

 

勿論ドルガモンは見逃す気など無く、口の中に自身のエネルギーを込める。

 

 

 

 

「パワーメタル!!」

 

 

 

 

そのままそのエネルギーを大型の鉄球に変えて、モスモンに向けて放つ。

 

 

「――――」

 

 

そのまま大型の鉄球の直撃を浴びたモスモンは悲鳴を上げる間もなく、データの粒子になって消滅した。

 

 

戦いの終わりを確認したドルガモンは地上へ降りると直ぐに光に包まれ、ドルモンの姿へと退化した。

 

 

「ッ!! ドルモン!!」

 

 

香澄達は直ぐにドルモンの傍に駆け寄る。

 

 

「ドルモン!! しっかりしてドルモン!! 死んじゃやだよ!! ドルモーーン!!」

 

 

香澄は必死にドルモンに呼びかける。

 

 

「か…香澄…」

「ドルモン…?」

「体力…結構使っちゃって…喉も渇いちゃったし…お腹も空いちゃったよ」

 

 

ドルモンは途切れ途切れの状態で、香澄に言葉を返した。

 

 

「ドルモン…っ、良かった…っ、良かったよ~!!」

 

 

香澄は大泣きしながら、ドルモンの無事な様子に安堵するのだった。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

「…あれが、あいつ等の実力か…」

 

 

公園から少し離れたの木の影から先程迄の一部始終を見ていた人影が呟く。

 

 

『俺としちゃあ暇潰しには丁度いい見世物だったがな』

 

 

そんな中で聞こえた別の声。

 

 

しかしその声は、この人影にしか聞こえていない。

 

 

「今日は随分大人しいじゃねーか…」

『まぁ、このところ殆ど『雑魚掃除』ばっかしかしてねーからな。 …でも、あいつ等に関しては、さっきの戦いを見てたら気が変ったわ。 …『潰し甲斐がある』ってな』

「だからって、今戦おうなんて考えるんじゃねぇぞ。 ●●●●の奴からも緊く言われてんだからな」

『へいへい。 了解しましたよ~っと』

 

 

そんな会話を交わしながら、その人影は香澄達に気付かれない様にそっと立ち去ったのだった。




個人的に、『戦闘描写に力を入れて書いた反面、日常パートが少し駆け足兼雑な感じになっていたのでは?』と言う感じに思える今回の話…。


最後の人物に関しては、徹底的なまでに正体を暈しましたが、殆どの人は正体は分かっちゃっているかもしれませんね…。


最後は何時も通り、今回登場したデジモン(+a)の紹介になります。
尚、紹介するデジモンの内の1体は今現在本編には登場していませんが、関係者的な立ち位置の意味合いを込めて紹介しておきます(一応分かり易いように、(※)マークが付いています)。




モスモン

世代:アーマー体
タイプ:昆虫型
属性:フリー

パタモンが『知識のデジメンタル』の力でによって進化したアーマー体の昆虫型デジモン。
クネモン大量発生のときに出現する幻のデジモンの一体で、中でもモスモンは気性が荒く、攻撃的な習性を持つ。
羽に含まれる燐粉は火薬としての成分が含まれており、この燐粉を浴びせて敵を威嚇することがある。
尾に生えているガトリング砲から放つ必殺技『モルフォンガトリング』は秒間100発もの弾丸を放つことができ、この砲撃から逃れられるすべはない。
また打ち出される弾丸は燐粉でできており、体内深くに食い込んで爆裂するため、モスモンとのバトルに敗れたデジモンは見るも無残な姿になるだろう。


(※)クネモン

世代:成長期
タイプ:幼虫型
属性:ウィルス

全身にイナズマの模様が入った幼虫型デジモン。
デジモンの中でも非常に特異な存在の虫型デジモンの子供で、その進化形態は依然不明だが、クネモンの発見でカブテリモン以外の昆虫型デジモンの存在がいずれ明らかになりそうだと言われている。
顔と思われる部分にあるイナズマの模様は目にあたる器官なのかは解明されていないが、感情によって形を変えるところから、恐らく目ではないかと言われている。
性格は結構イジワル。
必殺技は、硬い嘴から吐き出される電気を帯びた糸『エレクトリックスレッド』で、この糸に絡まると強烈な電撃で気絶してしまう。




用語解説


デジメンタル

デジタルワールド初期『古代デジタルワールド期』に栄えた古代種デジモンが行った擬似進化「アーマー進化」と呼ばれる進化に必要なアイテムの総称。
本来進化するためにはそれなりの戦闘経験を必要とし、また環境によって進化先が左右されるが、「アーマー進化」は古代種及びそのデータを受け継ぐ末裔ならば経験が有ろうと無かろうと進化可能で、進化先も決定されており、その為古代種デジモンと共に「アーマー進化」は繁栄した。

しかし、自身の力ではなく道具に頼った進化は危険視され、一時代を築いた古代種デジモンと共に時の流れの中に消えていき、最終的に一部の物のみだけが残される事となった。


知識のデジメンタル

属性:鋼

黄土色の卵型のデジメンタル。
昆虫のデータを秘めており、進化先は全て昆虫型デジモンとなる。


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第4章 白蝶の歌姫、白き竜と共に。

タイトルの如く、Morfonica兼ましろメイン回の話です。


普通ならRoseliaのメイン回(アニメ2期の2話)になりますが、今作でのモニカの設定の関係もあり、この話を書きました。


また前にも書きましたが、サブタイトルは各バンドのメイン回に合わせて、表記を変えたりしており、モニカ(若しくはモニカメンバー)のメイン回は、基本的に(余程の事が無い限りは)、今回の様な形式で書くと思っていて下さい。


因みに、何故モニカのサブタイトルの表記をこの作品風にしたのかと言うと、単純に『2020年繋がり』で選んだからです。






 

 

此処は、ましろ達Morfonicaの面々が通っている月ノ森女子学園。

 

 

創立100年の由緒ある中高一貫の名門お嬢様学校である。

 

 

月曜日の朝と言う事もあり、校門前はこの学園の生徒達の姿がちらほら見られる。

 

 

「倉田さん、広町さん。 御機嫌よう」

「御機嫌よう…」

「御機嫌よう…うぅ…この休み明けの学校への憂鬱さは、何時になっても辛い物だねぇ…しろちゃん」

「あはは…そうだね」

 

 

七深の発言に対し、ましろはどう返答すればよいのか分からず、苦笑と相槌で返す。

 

 

「ふむ……ここがましろの通っている学校か……」

 

 

ましろのDアーク内部からその様子を伺っていたハックモンは、興味深々に呟く。

 

 

「お~い、シロ! 七深~!」

「ちょ、ちょっと待ってよ! 透子ちゃ~ん!」

 

 

すると後ろから、2人の姿に気が付いた透子とそれを追い掛けるつくし、そして瑠唯の3人がやって来る。

 

 

「透子ちゃん。 それにつくしちゃんに瑠唯も、御機嫌よう」

「御機嫌よう~」

「倉田さん、広町さん。 御機嫌よう」

 

 

自分達の学校で、何時も見慣れた風景。

 

 

 

 

「ねぇ、聞いた? 昨日の事?」

 

 

 

 

その時、唐突に聞こえた声に5人が一斉にその方へ視線を向ける。

 

 

「何々、何かあったの?」

「昨日、近くの公園の方で、物凄い衝撃と大きな音がしたんだって!」

「何それ~?」

「他の人達の話だと、その直前まで銃弾が飛び交う様な音や気味の悪い声も聞こえたって話もあるんだって」

「そう言えば、金曜日にも『CiRCLE』の辺りで怪物騒ぎがあったそうよ」

「何でも、緑色の恐竜と羽の生えた竜が戦っていたんだって」

「私の友達にも『CiRCLE』に行ったって子がいるんだけど、その子が見たのは、黒い鳥と白い恐竜だったっんだって!」

「ここの所、随分物騒な事が起こるよね…」

「若しかして…ここの所目撃された怪物達って…宇宙人が送り込んだ侵略用の怪物なのかな?」

「まっさか~」

 

 

それを聞いていたモニカの面々の中で、真っ先に透子が反応を見せた。

 

 

「うわぁ…随分広まっちゃっているなぁ…」

「透子ちゃん! そりゃあ、あれだけの騒ぎになっちゃったからね…」

「しろちゃん…大丈夫?」

「うん…」

 

 

七深の呼び掛けに、ましろは一言だけ返す。

 

 

「そろそろ行きましょう。 これ以上あんな噂話を聞いていても、此方にとっても時間の無駄な上に、倉田さんも可哀想だわ」

 

 

瑠唯の言葉に賛同する様に、モニカの面々はその場を後にし、それぞれ自分達のクラスへと向かって行った。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

昼休みになり、5人は学校の庭園で昼食を取りながら、会話を交わしていた。

 

 

「…皆、今朝はごめんね…」

「気にしないで倉田さん。 ハックモンが悪いデジモンじゃ無い事は、あの時助けられた私達自身、良く理解しているわ」

「心配するなましろ。 私もドルモン達も、この人間界でのデジモン達の脅威からましろ達を守る為に戦うと決めた時から、今朝の生徒達の様な事情を知らない者達から、否定的な反応を返されるのは、ある程度理解はしていたから、別に気にしてはいないさ」

「瑠唯さん…ハックモン…本当に有難う…」

 

 

ましろは瑠唯とハックモンの言葉に対し、改めて礼を述べる。

 

 

「ねぇねぇ、見ていて思ったけど、しろちゃんのデジヴァイスの色って、何だかモニカの衣装みたいだよね」

「そう言われて見ると、確かにそんな感じがするよな」

 

 

七深と透子の言葉を聞いたましろは、自身のDアークの見る。

 

 

確かにMorfonicaの衣装は白と青系の色の物が多い事もあり、彼女も2人の発言に対して、一理あると内心で思う。

 

 

「私とましろ…ううん、私達や香澄とドルモン達にとって、デジヴァイスは『人間とパートナーデジモンの絆』の象徴だ。 でも2人の言葉を聞くと、確かに私もこのデジヴァイスの色が、モニカの『絆』の象徴と言う意味合いに思えてくるよ」

 

 

ハックモンも納得の表情で、2人の言葉に対して肯定的な様子で話す。

 

 

「おおっ! つまりあたし達5人は、所謂『運命に導かれて集まった者達』って訳か!」

「もう透子ちゃんったら…直ぐ調子に乗るんだから…」

 

 

つくしが透子に対してツッコミを入れ、瑠唯は何時もと変わらない無表情で見つめ、七深は微笑ましく見つめる。

 

 

「ましろ…モニカのメンバーは、本当に良い人達だな」

「うん…私も皆に出会えて良かったって思うよ」

 

 

“こんな平和でありふれた日が、ずっと続いていてくれたら良いな”

 

 

ましろとハックモンは今のこの一時を過ごしながら、そんな想いを抱いていた。

 

 

 

 

――ドォォオオン

 

 

 

 

突然、辺り一面を爆発音が響き渡る。

 

 

「な、何!? 今の音!?」

 

 

「「「キャアアアアア――!!」」」

 

 

「! 向こうの方だ!」

 

 

ハックモンの声を聞き、5人は悲鳴の聞こえた方へ向かう。

 

 

「キキャアアア――!!」

 

 

そして悲鳴の発生元であるグラウンドに着くと、其処には手に巨大な棍棒を持った深緑の小柄な鬼と慌てて逃げる女子生徒達の姿があった。

 

 

「おお~。 鬼さんだね~」

「いやいや!! あれどう見てもデジモンじゃん!」

 

 

七深に対して、透子のツッコミが炸裂する。

 

 

「皆!! 危険だから早く逃げて!!」

「う、うん…!」

 

 

ましろの言葉を聞いて、残りの生徒達も慌てて逃げる。

 

 

「ハックモン!」

「ああ!」

 

 

そして他の生徒達がいなくなったのを確認したましろは、直ぐにハックモンをリアライズし、自身のDアークで相手のデジモンの情報を調べる。

 

 

「シャーマモン。 成長期。 鬼人型。 ウィルス種。 必殺技は『シャーマハンマー』…」

 

 

するとシャーマモンは、手に棍棒を持ち、此方へ襲い掛かって来た。

 

 

「キキャアアア――!!」

「させるか!」

 

 

それに対してハックモンは、ましろ達の前に出て、両手の強靭な爪でその攻撃を受け止める。

 

 

「クウゥゥゥ…!!」

「ギギギギギギ…!!」

 

 

やがて拮抗の末に、2体は一旦互いに距離を離す。

 

 

「ベビーフレイム!」

「ギギャッ!」

 

 

その際、ハックモンは口から小型の火球を放ち、突然の不意打ちを喰らったシャーマモンは、思わず苦痛の声を上げる。

 

 

「良し! 決まった!」

 

 

その様子を見ていた透子が声を上げる。

 

 

「攻めさせてもらうぞ!」

 

 

シャーマモンに接近したハックモンは、其処から両手の爪での連続攻撃を浴びせる。

 

 

「ギギ……」

 

 

シャーマモンの口から苦痛の声が漏れる。

 

 

「ベビーフレイム!」

「ケキャアア!」

 

 

そして至近距離から放たれたハックモンの口からの火球によって、シャーマモンは吹っ飛ばされた。

 

 

「もう勝負は付いている。 大人しくデジタルワールドへ帰るんだ」

 

 

もうこれ以上の戦闘は無意味である事を悟り、ハックモンはシャーマモンを説得する。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

『おやおや…随分あっさりした戦いだね…』

「まぁ…正直成長期のデジモンを送り込んだ所で、Battleの結果何てある程度、想像していたけど」

 

 

誰もいない月ノ森の校舎の屋上。

 

 

其処から先程の戦闘を観察していたヘッドホンの少女は、彼女自身の中の『もう1つの存在』に対して、さも当然の如く言葉を返す。

 

 

『だけど…僕達もこのまま黙ってこの戦闘を見ている気はさらさら無いのさ」

「そうよ。 今こそ『これ』の能力の性能を試す絶好のChanceなんだから♪」

 

 

そう言って、少女は懐から取り出した機械……黒いボディと水色の縁取りのDアークを取り出し、それを頭上に掲げた。

 

 

 

 

――DARKNESS EVOLUTION

 

 

 

 

そして頭上に掲げたDアークからの光は、そのままシャーマモンの下へと向かって行った。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

「! 皆! あれ見て!」

 

 

七深の声で上を見ると、見た事も無い光が現れ、そのままシャーマモンに向かって行く。

 

 

「グギャアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

 

光に包まれたシャーマモンは、大きな雄叫びと共に光に包まれる。

 

 

やがて光が消えると其処にいたのは、背中に巨大な骨を背負った金色の猿人だった。

 

 

「ギギャアアアアアアアアア――!!」

 

 

「な、何なの急に!?」

「進化しただと…!?」

 

 

ましろは直ぐに自身のDアークで、相手のデジモンを確認する。

 

 

「ハヌモン。 成熟期。 獣人型。 ワクチン種。 必殺技は『如意ボーン』と『怒髪天(どはつてん)』…」

 

 

その時、ハヌモンは一瞬の内にハックモンとの距離を詰め、そのまま背中に背負っていた骨を使って、ハックモンを殴り飛ばした。

 

 

「グウゥ!!」

「ハックモン!!」

 

 

そしてハヌモンはそのまま、ゆっくりとましろ達の方へと近付いて来る。

 

 

「ど、どうしよう!?」

「あぅ…流石の広町もこれは不味いと思うなぁ…」

「落ち着きなさい。 仮に若し逃げようとしたら、間違い無く直ぐ捕まってあのデジモンの餌食になるのが目に見えるわ」

「何で瑠唯はこんな状況でも平然としてられるんだよ!?」

 

 

危機的状況の中でも、動揺する様子を見せない瑠唯に対して、透子のツッコミが入る。

 

 

(…確かに瑠唯さんの言う通りだ。 今この場から逃げたりしたら、相手は確実に私を追い掛けるだけでなく、周りにも被害が出ちゃう…それに)

 

 

ハックモンが飛ばされた方向に視線を向けるましろ。

 

 

 

 

(ハックモンを見捨てる何て…絶対に出来ない!)

 

 

 

 

暫くして、一陣の風が吹き抜ける。

 

 

「ギギャアアア――!!」

 

 

ハヌモンが叫び声と共に飛びかかり、他の4人が『これまでか…』と言う思いで目を瞑る。

 

 

 

 

「ハックモ――――ン!!」

 

 

 

 

ましろの声が大きく響く。

 

 

 

 

――ドコンッ!!

 

 

 

 

辺りに衝撃音が響く。

 

 

「んっ…」

 

 

暫くして、自分達の身に何も異変が無い事に気付き、ましろ以外の4人が目を開ける。

 

 

「ギギャア!!」

 

 

其処には、自分達とは逆に攻撃を受けて悲鳴を上げたハヌモンと、攻撃をしたと思われる白き恐竜――バオハックモンがいた。

 

 

「行くよ、バオハックモン」

 

 

ましろの呼び掛けに、バオハックモンは静かに頷く。

 

 

「ギギギ――!!」

 

 

ハヌモンが手に持った骨を伸ばして攻撃する。

 

 

しかしバオハックモンは難無く躱し、その様子を見て更に苛立ったハヌモンは骨の伸縮による連続攻撃を繰り出すも、対するバオハックモンはそれを最小限の動きで全て躱す。

 

 

「凄い…」

「ええ。 回避する際の動きに全く無駄が無いわ…」

 

 

その様子を見ていた七深と瑠唯がバオハックモンの戦う姿に対し、感嘆とした様子で呟く。

 

 

「ギギャアア――!!」

 

 

等々怒りが最高潮に達したハヌモンは、伸縮させた骨を上に振り上げ、其処からバオハックモンに振り下ろそうとする。

 

 

「フィフクロス!!」

 

 

しかしバオハックモンは、それを両手の爪で切り裂いて破壊する。

 

 

「ギギ!? ギ…ギギャアアアア!!」

 

 

ハヌモンは破壊された自身の骨を手に取り、驚愕の様子で見た後、やけくそ気味に全身の金属質の体毛をバオハックモンに向けて打ち出す。

 

 

「一気に決めるぞ」

 

 

其の侭バオハックモンは金属質の体毛の攻撃も気にせず、一気に駆け出す。

 

 

「「ドラグレスバイカー!!」」

 

 

バオハックモンの両足からの斬れ味鋭い刃がハヌモンの体を両断する。

 

 

「ギギギ…」

「…御免なさい。 でも、私は貴女の事を決して忘れないから。 だから…ゆっくり眠って下さい」

 

 

2人は理解していた。

 

 

シャーマモンーーハヌモンは確かに人に害を与えた。

 

 

でも彼もまた、望んでもいないのに無理矢理進化させられて暴れさせられたりされた『被害者』でもあったのだと。

 

 

そのままハヌモンはデータの粒子となって消えていき、ましろとバオハックモンはそれを静観するのだった。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

「…●●●●。 随分と上機嫌だね」

 

 

とある一室で、『もう1つの存在』の声がヘッドホンの少女の耳に響く。

 

 

「Yes. このデジヴァイスの『デジモンへの強制進化』能力のExperimentは、概ねではあるけど成功したわ。 それに比べれば、今回の『損失』なんて寧ろ安い物よ」

 

 

ヘッドホンの少女の余裕な感じの台詞が返される。

 

 

「此方の準備と力は着実に拡大しているけど、焦りと油断は禁物だよ。 『戦い』も…『音楽』もね」

「…of course. 現状の戦力で『四聖獣』達に挑むのが自殺行為な事位、十分承知しているわ…。 今の私達の課題は3つ。 あの『兎の神様』の戦力としての使い方。最後の1枠のでの『究極体クラスの強さのデジモン』…そして、『最強のギタリスト』よ。 …若しこの『最強の音楽と最強の勢力』が完成すれば…ふふっ、全世界の人間達とデジタルワールドの全てのデジモン達が私達の下に跪く光景が目に浮かんでくるわ」

「そうだね●●●●。 人間にデジモン。 僕はこの世に生きる全ての生命に対して愛おしく、そして幸せになってほしいと思っている。 だからこそ『そんな世界』を作る為に…●●●●、君の力が必要なんだ」

「…そうね。 『大ガールズバンド時代』と『デジタルワールド』。 この2つに私達が以下に絶対的且つ崇高な存在か、思い知らせてあげるわ。 アハハハハハ…!!」

(フフフ…実に素晴らしい。 僕の目的が叶うその時まで、音楽を奏で続けてるんだね。 小さくて可愛い哀れなお人形さん(●●●●))

 

 

 

 

『もう1つの存在』の内心に秘めた賞賛と嘲笑の混じった本音の思いに気付かないまま、少女の笑い声が一室に響くのだった。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

数日後。

 

 

「皆、用意は良い?」

「私は何時でも大丈夫よ」

「あたしも大丈夫だよ♪」

「広町の方もOKだよ~」

 

 

つくしの問い掛けに対して、瑠唯、透子、七深の3人が順番に答える。

 

 

「シロちゃんの方は?」

「うん…。 何とか大丈夫だよ」

 

 

ましろもつくしの問い掛けに返事を返すが、ライブ本番と言う事もあって、緊張しているのがDアーク越しのハックモンにも分かった。

 

 

「ましろ。 正直、私は音楽の事に関してはあまり詳しくないから上手くは言えないが…大切なのは、『どんな時も自分を信じて、全力でやる』と言う事だと思う」

「…うん、そうだね」

「私は君のパートナーだ。 ましろが決めた道を全力を持って支えたいんだ」

「有難う、ハックモン」

 

 

そして5人はステージに上がる。

 

 

ステージを見渡すましろは、観客達の中に香澄と有咲、そして氷川姉妹の姿を見付ける。

 

 

(香澄さん…。 有咲さん…。 紗夜さん…。 日菜さん…。 見ていて下さい、私の…ううん、私達『Morfonicaの全力』を!)

 

 

そして、マイクを持った透子の台詞でMCが始まる。

 

 

「皆さん、ごきげんよー!。 あたし達、Morfonicaで~す!!」

「ど、どうも…ご機嫌よう…」

「あはは。 ふーすけ、滅茶苦茶緊張してんじゃん!」

「しょ…しょうがないじゃん! こんなに大在の人達に囲まれているんだもん!」

「ごめんごめん。 それじゃ、ボーカル担当のシロからも一言宜しく!」

 

 

そう言って、透子はマイクをましろに手渡した。

 

 

「こんにちは。 ボーカル担当の倉田ましろです。 ライブを始める前に、皆さんにお話ししておきたい事があります。 実は私はこのライブの数日前に、昔離れ離れになってしまった『大切な友達』と再会をしました。 その友達は事情があってこの場に姿を現していませんが、私の想いがその子に届く様に全力で歌いたいと思います」

 

 

そしてライブが開始される。

 

 

(ましろ…これがMorfonicaの音楽…君の想いが強く心に伝わってくるよ)

 

 

Dアークの内部空間越しからましろ達Morfonicaの面々が奏でる音楽を聴き、ハックモンは笑顔を浮かべる。

 

 

「香澄。 今のましろ、何だかとってもいい笑顔をしてるね」

「うん。 音楽や演奏からも、Morfonicaの全力、そしてましろちゃんのハックモンへの強い想いが伝わるのが私にも分かるよ」

 

 

一方で、ライブを観戦している香澄とDアーク内部のドルモンも、Morfonicaのライブで感じた事を語り合う。

 

 

 

 

こうして晴天の空の下を背景に、ましろ達Morfonicaのライブは大盛況に終わったのだった。




最近、この作品を書いてる&見返してる時に、『若し他の方さんが『バンドリ×デジモンのクロス作品』を書くとしたら、どの様な感じの作品を書くのだろうか?』と言う事を、よく考えてしまう時があります。


また私自身、所謂『書くのは苦手なのに、ネタや設定を考えたりしてしまう人』で、ここ最近特によく考える作品のネタ(箇条書きの形になりますが)だと、




・『D4DJ×デジモンテイマーズ』
・『アサルトリリィ×デジモンセイバーズ』
・『バンドリ×ゴーカイジャー』
・『『バンドリ』&『スタァライト』&『D4DJ』&『アサルトリリィ』&『ラブライブ!』シリーズのキャラ達で、『スーパー戦隊最強バトル!!』的な感じの話(因みに主人公(『スーパー戦隊最強バトル!!』で言う『変わり者チーム』のポジション)はそれぞれ、戸山香澄(『バンドリ』代表)、巴珠緒(『スタァライト』代表)、松山ダリア(『D4DJ』代表)、丹羽灯莉(『アサルトリリィ』代表)、近江彼方(『ラブライブ!』シリーズ代表)と言う感じで、各作品から1人ずつ選んでいます)』




などがあります。


勿論、現状私が『頭の中で考えたネタや設定』と言う形の状態なので、『あぁ、そんなネタを考えているのか~』程度の間隔で見てくれてもいいですし、若し気に入ったネタがありましたら、正直御自由に使用しても構いません(勿論、設定に関しても使用する方の自由に変更してもいいです)。


さて最後は何時も通り、今回登場したデジモンの紹介になります。




シャーマモン

世代:成長期
タイプ:鬼人型
属性:ウィルス

神の意思を聞き、一族に伝えるのが役目のデジモン。
儀式中は不思議なダンスを踊り続け、テンションが最高点に達すると、神の御告げが聞けると言い、一族に重要な事もこの儀式で占う。
必殺技は、儀式で使う大きなこん棒を敵の頭に叩きつける『シャーマハンマー』。


ハヌモン

世代:成熟期
タイプ:獣人型
属性:ワクチン

黄金色の体毛を生やし、背中に巨大な骨を背負った猿のような姿をした伝説の獣人型デジモン。
中央アジアのネットワーク圏で多数の目撃例は報告されていたが、その存在を裏付ける証拠が見つかっておらず、その数も非常に希少で悪質なコンピュータウィルスなどを撃退する能力に優れている為、一部の人間たちにとっては幻のデジモンと言われていた。
また、雲か煙のようなものに乗り、ネットワーク内を高速で駆け巡るという噂もある。
得意技は背中に背負った伸びる骨で相手を攻撃する『如意ボーン』
必殺技は金属質の体毛を、更に硬化させて打ち出す『怒髪天(どはつてん)』。


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第5話 夕日の恐竜

最新話です。


タイトルからも分かる通り、Afterglowのメイン回です。


実は蘭に関しては、パートナーデジモンは決まっていたのですが、Dアークの色の方で少し苦労していました…。


因みに分かりづらいですが、アフグロ(若しくはアフグロメンバー)のメイン回の形式は『555』風のサブタイトルを意識しており、基本的に(余程の事が無い限りは)、今回の様な形式で書くと思っていて下さい。


P.S 最近、『若しバンドリの7バンドのイメージをデジモンに例えたら?』と言うの考えていました。


因みに私の中のイメージだと、


・ポピパ→ガンマモン
・Roselia→ララモン
・アフグロ→アグモン(セイバーズ版)
・パスパレ→プロットモン
・ハロハピ→ベアモン
・RAS→インプモン
・モニカ→モルフォモン


と言う感じです(因みにポピパはブイモン、モニカはハックモンも候補に挙がっていました)。


 

 

とある公園。

 

 

頭部の髪の片方に赤いメッシュを施した少女――ガールズバンドの1つ『Afterglow』のボーカル担当の美竹蘭とそれに対峙する小柄の黄色い恐竜、そしてその様子をパンの入った袋を持って見守るモカ。

 

 

今この場所は、緊張した空気に支配されていた。

 

 

「何だお前! 片方だけ真っ赤なんて変な頭しやがって!」

「はぁ? トカゲみたいな顔したアンタに言われたくないんですけど!」

「この顔は生まれ付きだ! それに、俺には「アグモン」って言うちゃんとした名前があるんだぞ!」

「お~、白熱してますな~」

「って言うかモカ! アンタは一体どっちの味方なの!?」

 

 

モカのマイペース且つ呑気な発言に対し、蘭がツッコミを入れる。

 

 

「ゴチャゴチャ五月蝿えな! 女だからって容赦しねぇぞ!」

「…っ、アンタこそ、モカに手を出す様な事をしたら承知しないから!」

 

 

蘭とアグモンの間を、一陣の風が吹き抜けた。

 

 

「行くぞ!! ウオオオオオ――!!」

 

 

アグモンが駆け出すと同時に、右腕を振りかざしてくる。

 

 

「…っ」

 

 

これが若し巴だったら、逆に殴り返しそうな気がするが、残念な事に彼女は偉そうに啖呵を切ってしまった反面、腕っ節に関してはそこまで強くは無い。

 

 

でも、若し自分がこの場から逃げたら今度はモカに被害が来るかもしれないと思うと、彼女の中に『逃げる』と言う選択をする考えは無かった。

 

 

蘭は目を瞑りながら、そんな事を考える。

 

 

 

 

「ロップイヤーリップル!!」

「な、何だ!? ウワァァァ!」

 

 

 

 

突然、聞き覚えのある声とアグモンの驚きと悲鳴の混ざった声が耳に入り、蘭は目を開ける。

 

 

 

 

「痛ててて…! いきなり何すん…!」

「ティアーシュート!」

「だべしっ!?」

 

 

 

 

目を開けると、今度は綺麗な水球がアグモンの顔面に直撃し、アグモンは間抜けな声を上げてその場に崩れ落ちた。

 

 

 

 

「ルナモン、もういいですよ」

「分かったわ」

 

 

 

 

蘭は声の聞こえた方向へ振り向く。

 

 

 

 

「全く…幾ら青葉さんに危害が及ばない様にする為とはいえ、無防備でデジモンに挑むのは危険ですよ、美竹さん」

 

 

 

 

其処にいたのは、アイスブルーの髪をした冷静な雰囲気の少女――紗夜と彼女のパートナーであるルナモンだった。

 

 

「紗夜さん…如何して此処に?」

「羽沢さんの喫茶店に向かう道中、貴女達の罵声が聞こえて来たから、唯事ではないと察して、急いでルナモンと共に駆け付けたと言う訳です。 それにしても…美竹さん達は、如何して此処に?」

 

 

紗夜は気絶したアグモンを一目した後、蘭に問い掛ける。

 

 

「それは…」

 

 

そして蘭はこの状態になるまでの経緯を説明する。

 

 

話によると、蘭は次のライブの為の新曲の作詞が終わった為、リラックスがてら出掛けている道中に偶々モカと出会い、そのままこの公園に立ち寄った。

この公園は蘭達Afterglowのメンバー達にとって、幼少期の頃よく遊んだ事もあって、ついモカと会話が弾んでしまって話している最中、近くの茂みから物音がしたので見てみると、そこからアグモンが現れ、冒頭の所に発展したとの事だった。

 

 

「成程…以前似た様な事をした私自身も偉そうに言える立場ではありませんが…若し私達が来なかったら、最悪の場合、大怪我の可能性だってあるんですよ」

「うっ…すみませんでした」

 

 

紗夜からの正論の指摘に、蘭は素直に謝罪する。

 

 

そしてそのまま紗夜とルナモンは、再び気絶したアグモンの方へ向き直る。

 

 

「それにしても紗夜…蘭の話を聞く限りだと、偶然ゲートを通ってこの公園に来たらしいけど…」

「ええ。 今は気絶してるからいいけれど、かと言ってこのまま放置しておく訳にもいかないわね」

 

 

そう言って紗夜はスカートの中から、自身の所持する縁取りのディーアークを取り出すと、それをアグモンに向ける。

 

 

すると彼女のディーアークから、眩い光が放たれ、そのままアグモンはディーアークの中へ吸い込まれていった。

 

 

「おぉ~。 中々便利ですなぁ~」

「ルナモン。 アグモンの見張りを御願いね」

「分かったわ」

 

 

そしてルナモンも、ディーアークの中へ吸い込まれていく。

 

 

その後、蘭達3人は『CiRCLE』の方に向かうもまりなが不在だった事もあり、紗夜自身の当初の予定だったつぐみの喫茶店に向かい、彼女に事情を説明するのだった。

 

 

「それでその子が、蘭ちゃん達が出会ったデジモンさんなの?」

「うん…。 それでそいつがあたしのメッシュを『変な髪』とか言って来たから……」

 

 

紗夜のDアークの内部でルナモンと共にいるアグモンは、先程から画面越しにじーっと此方を見ている。

 

 

「いや~、それにしてもさっきの公園での蘭の姿、つぐにも見せたかったね~」

「モカ!!」

「あはは…」

 

 

蘭とモカのやり取りに、つぐみは苦笑を漏らす。

 

 

「…所で紗夜さん。 アグモンは一体、どうなっちゃうんでしょうか?」

「そうですね…。 状況の様子から見ても、まだ被害は出た様子はありませんから、倒さずに『ゲートを開いてデジタルワールドに帰す』。 …今の所はこれが最適の方法だと、私とルナモンは思います」

「そうですか…」

 

 

その時、自身のスマホが音を鳴らしているのに気付いた蘭がスマホを見ると、ひまりからの電話だったので、直ぐに電話に出る。

 

 

「もしもしひまり?」

『蘭!? 良かった~!』

「どうしたの急に? って言うか今バイトじゃなかった?」

『それが…』

 

 

--ドオォォン

 

 

突然、スマホ越しから大きな音が響き、そのまま連絡が途絶えた。

 

 

「ひまり!? ひまり!」

 

 

呼び掛けに何の応答を示さないのを見た蘭は、直ぐにスマホをポケットに仕舞い、そのまま駆け出す。

 

 

「「蘭(ちゃん)!」」

『紗夜! 私達も!』

「ええ。 さっきの電話の上原さんの様子に大きな音…ただ事じゃないわね…!」

 

 

そう言って、つぐみの方を向く。

 

 

「羽沢さん! これ、コーヒーの代金です!」

 

 

そしてつぐみに自分の飲んだコーヒーの代金を支払うと、そのまま蘭の後を追うのだった。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

蘭達がつぐみの喫茶店にいた頃と時を同じくして、『Afterglow』の残りのメンバーであるひまりと巴は、近くのファーストフード店でバイトの最中であった。

 

 

「そう言えば、巴とバイトのシフトが被るのって、久し振りだよね」

「そう言えば、最後に一緒のシフトだったのって、2週間位前だったな」

 

 

そんな他愛も無い軽い会話を交わしながらも、2人は業務をこなしていく。

 

 

学生生活に時たまのバイトをしながら過ごす日常。

 

 

一見、何処にでも見られる『何時も通り』のありふれた日常。

 

 

でも、Afterglowの面々にとって、『何時も通りの日常』とは、とても大切な宝物の様な物だ。

 

 

だから、彼女達は今日もその『何時も通りの日常』を、精一杯生きていく。

 

 

 

 

――ドオォォン

 

 

 

 

突然、巨大な音と振動が襲う。

 

 

「な、何だ!?」

「若しかして地震!?」

「大丈夫!? ひまりちゃん! 巴ちゃん!」

 

 

突然の事に戸惑う2人に、客として来ていたまりなが声を掛ける。

 

 

「まりなさん! アタシもひまりも何とか大丈夫です!」

「2人共、外に行くわよ!」

 

 

そのまま3人は、他の客達と共に外に出る。

 

 

「ブモオオオオオ!!」

 

 

外に出ると其処には、左手が機械化されている2足歩行の牛の様な見た目の異形の存在が、唸り声を上げて立っていた。

 

 

「フハハ! 暴れろ! 暴れまくって、お前の恐ろしさを人間共に思い知らせてやるのだ!」

 

 

その右隣には、真っ赤な体と右手に三つ又の鎗を持った悪魔を彷彿させる見た目の異形の姿があった。

 

 

「あれはデジモン!?」

 

 

まりなが相手の正体に気付いて叫ぶ。

 

 

「ん? 何だ女? 私達の事を知っているのか?」

 

 

悪魔の姿のデジモンが3人の存在に気付いて近付いて来る。

 

 

「名前がまだだったな。 私の名前はブギーモン。 そして後ろの方はミノタルモン。 以後お見知りおきを」

「この騒ぎはテメーらの仕業か! 一体何が目的何だ!?」

「お~怖い怖い。 目的…? そんな物、我々の力で、人間界を戦慄と恐怖で蹂躙する為に決まっているではないか。 今まではゲートを適当に開いていただけだったが、今回は『あのお方』の命で、私自らがこうしてやって来たのだ」

 

 

巴からの問い掛けに、ブギーモンは若干煽りつつも返答する。

 

 

「『ゲートを適当に開いていた』…って、じゃあ今までデジモン達がこの世界に現れていたのも貴方の仕業だったのね!?」

 

 

ブギーモンの言葉から察したまりなが、声を上げる。

 

 

「フフフ…勿論。 全ては私達の主である『あのお方』の目的を成就する為の第1歩として、この人間界を先程申した通り、戦慄と恐怖で蹂躙し尽くしてやるのだ! 行け! ミノタルモン!」

「ブモオオオオオ!!」

 

 

ブギーモンに命じられたミノタルモンは、『デモンズアーム』を装備した自身の左手を、3人に向かって振り下ろす。

 

 

「巴ちゃん! ひまりちゃん!」

 

 

まりなは咄嗟に2人を連れて、その場から離れる。

 

 

――ドゴオオオン!!

 

 

ミノタルモンの左手の『デモンズアーム』が、先程まりな達がいた所に命中し、その衝撃で地面に激しい亀裂を起こす。

 

 

「あ…あ…」

「な…何つぅ破壊力だよ…」

 

 

その様子を見たひまりと巴は、驚愕の様子をで見ている。

 

 

「ブモオオオオオオオ!!」

 

 

ミノタルモンは避けられた事への怒りから、更に大きな唸り声を上げて、此方に近付いて来る。

 

 

 

 

「ティアーシュート!」

 

 

 

 

その時、ミノタルモンの顔面に綺麗な水球が命中する。

 

 

「巴! ひまり!」

「まりなさん!」

 

 

3人が後ろを振り向くと、其処へ蘭と紗夜とルナモン、そしてその後にモカとつぐみの2人が此方に駆け付けて来るのが見えた。

 

 

「蘭! それに紗夜さんにルナモン!」

「モカにつぐも…! た、助かったぁ~」

「紗夜ちゃん!」

「まりなさんも、無事で良かったです」

 

 

3人の無事を確認した紗夜とルナモンは、改めて視線をブギーモン達の方に向ける。

 

 

「…ルナモンを連れた水色の女…成程、お前達が『あのお方』の言っていた5人の内の1人か…」

「紗夜ちゃん気を付けて! あのデジモンはゲートを開いて、この人間界を征服しようとしているの!』

 

 

まりなは先程ブギーモンから聞いた話を、簡略して紗夜に説明する。

 

 

「成程…どうやら貴方には、色々と聞かなければいけない事が色々あるみたいね…」

「ほざけ! 幾らお前達でも、『2対1』のこの状況で、どうにかなると思っているのか!?」

『だったら、俺も加勢するぜ!』

 

 

その時、紗夜のDアークの内部越しで双方の会話を聞いていたアグモンが、勝手に彼女のDアークから飛び出して来た。

 

 

「なっ…貴方!?」

「えぇ!? 何あの子!?」

 

 

突然出現したアグモンに、紗夜と初めて会うひまりは、驚きの声を上げる。

 

 

「何だお前は? 関係無い奴はすっこんでいろ!」

「嫌なこった! 俺はお前みたいなヘラヘラしながら平気で『弱い者虐め』をする奴、大っ嫌いだ!」

 

 

アグモンはブギーモンの言葉に真っ向から反論する。

 

 

「アンタ…どうして…」

「『負ける』って思ってるのか? でも例え状況が悪かったとしても、俺は目の前で困っている奴を見捨てる何て事、絶対したくねぇんだ!」

 

 

蘭の問い掛けに、アグモンは堂々とした様子で返答した。

 

 

「…っ、あぁ…もう!」

 

 

蘭は半端ヤケクソ気味にアグモンの下に駆け寄る。

 

 

「美竹さん…」

「お前…」

 

 

アグモンと紗夜は、蘭の突然の行動に驚く。

 

 

「ちょっとそこの全身唐辛子みたいなアンタと図体のデカい牛!」

「なっ…全身唐辛子だと!?」

「あたしはひまり達を本気で傷付け様としたアンタ達を絶対許さない!」

 

 

蘭の宣言的な発言に、アグモンは笑みを浮かべる。

 

 

「ヘヘヘ…お前、結構度胸あるじゃん」

「アンタが目の前で困っている奴を見捨てる何て事しない様に、アタシだって友達をこんな目に遭わされて黙っていられる訳ないよ! だから……アンタの力を貸して!」

「…ヘヘ…良いぜ、お前のその話、乗った!」

「それと…あたしには、『赤メッシュ』でも『お前』でも無くて、『美竹蘭』って言うちゃんと名前があるの!」

「『蘭』…いい名前だな…!」

 

 

出会ってまだ間もないのに、蘭とアグモンはまるでずっと前から一緒にいるかの様な雰囲気を他の『Afterglow』のメンバーは感じ取っていた。

 

 

その時、蘭とアグモンの目の前に白い光の球体が出現する。

 

 

「! 蘭ちゃん! それを手に取るのよ!」

 

 

まりなの言葉に従い、蘭は白い光の球体――緋色の縁取りのDアーク――を手に取る。

 

 

「これって…デジヴァイス?」

「あれって…香澄ちゃんや紗夜さん達が持っていた物だよね?」

「って言う事は、あの黄色い恐竜が蘭のパートナーって言う事?」

 

 

Dアークを手にした蘭、そしてその様子を見ていたつぐみとひまりが、それぞれ反応する。

 

 

「美竹さん…いえ、蘭さん。 そしてアグモン」

 

 

すると様子を静観していた紗夜が、蘭に語り掛ける。

 

 

「それを手にしたと言う事は、貴女達はこれから先、デジモン達との戦いに巻き込まれる事になります。 その覚悟はありますか?」

「…正直、『怖くないか?』と聞かれたら、『怖い』と思っています。 …でも、それ以上に、モカやひまり、巴やつぐみ達と『何時も通りの日常』を過ごせなくなるのは、もっと嫌なんです! だからあたしは、モカ達や皆で過ごす『何時も通りの日常』を守りたい!」

 

 

紗夜の問い掛けに、蘭は正直な胸の内の想いをはっきり宣言する。

 

 

「…それが貴女の答えなのね…蘭さん…共に戦いましょう」

「…っ、はい!」

 

 

その答えに納得した様子を見せた紗夜の言葉は、蘭とアグモンへの信頼が強く感じられた。

 

 

「ハハハ…そこまで行ってくるのなら、こっちも容赦はしませんよ!!」

「ブモオオオオオオオ!!」

 

 

ブギーモンとミノタルモンの言葉を聞き、2人は改めて自身のパートナーと共に対峙する。

 

 

「ミノタルモン。 成熟期。 獣人型デジモン。 ウィルス種。 必殺技は『ダークサイドクェイク』」

「ブギーモン。 成熟期。 魔人型デジモン。 ウィルス種。 必殺技は『デスクラッシュ』」

 

 

蘭と紗夜はDアークで2体のデータをそれぞれ確認する。

 

 

「行くわよルナモン!」

「ええ!」

 

 

「アグモン!」

「何時でも行けるぜ!」

 

 

 

 

――EVOLUTION

 

 

 

 

Dアークの画面にそう表示されると、Dアークが眩い光を放ち、2体を包み込んだ。

 

 

「アグモン進化!」

 

 

そのまま巨大化し、頭部の甲殻や体も全身凶器の様に発達し、より攻撃的よりな恐竜へと姿を変えていく。

 

 

「ジオグレイモン!!」

 

 

「ルナモン進化!! レキスモン!!」

 

 

一方ルナモンも両手にグローブを身に着けた兎の獣人――レキスモンへと進化する。

 

 

「凄い…これがアグモンの進化…」

「おぉ~。 大きくなったねぇ~」

 

 

蘭とモカはアグモンの進化した姿を、驚嘆の様子で見る。

 

 

「キエエエ!!」

 

 

そこからブギーモンが、武器の三つ叉の鎗を持って襲いかかる。

 

 

「ハアアアァァ!!」

 

 

一方のレキスモンも跳躍して、グローブを付いた拳で対抗する。

 

 

暫くの拮抗を繰り返した後、双方は距離を置いた。

 

 

「蘭さん! ブギーモンは私とレキスモンが引き受けます! 其方の方は任せました!」

「分かりました!」

 

 

するとミノタルモンが、左手の『デモンズアーム』を振り上げて襲って来る。

 

 

「ブモオオオ!!」

「ウオオオオ!」

 

 

しかし、ジオグレイモンが猛烈な突進を浴びせ、ミノタルモンは大きく吹っ飛ばされる。

 

 

「お前の相手は俺だ!」

「…ッ! ブモオオオオオオ!」

 

 

激高したミノタルモンは再度襲いかかり、ジオグレイモンも負けじと対抗する。

 

 

「ブモオオ…!!」

「オオオオ…!!」

 

 

(ジオグレイモン…)

 

 

蘭や他のアフグロの面々にまりなも、両者の拮抗を固唾を飲んで見る。

 

 

「オオオオオオ!!」

 

 

拮抗を制したのはジオグレイモンだった。

 

 

ジオグレイモンはミノタルモンの懐に一気に入ると、そのまま自身の頭を潜り込ませ、そこから一気に力を込めて、頑丈な頭部でミノタルモンを投げ飛ばした。

 

 

「ブモオオオ!?」

「今がチャンスだ!」

 

 

巴が叫ぶ。

 

 

「行っけえええええええ――!!」

 

 

「メガフレイム!!」

 

 

蘭の声を聞き、ジオグレイモンは口の中に溜めたエネルギーを、巨大な炎の球体にして放つ。

 

 

「ブオッ!? ブモオオオオオ――!!」

 

 

それを浴びたミノタルモンは、炎に包まれながら断末魔と共にデータの塵と化して消えていった。

 

 

「やったぜ!」

「ウィナ~、蘭&ジオグレイモン~」

 

 

巴とモカから、安堵の声が上がった

 

 

「ミノタルモン!!」

 

 

その様子を見ていたブギーモンは、信じられない様子で見ていた。

 

 

「ムーンナイトキック!!」

「グオッ…!」

 

 

その隙を付いて、レキスモンが強力なキックが炸裂し、ブギーモンの口から苦悶の声が漏れる。

 

 

「チッ…! 此処は分が悪い…!」

 

 

そう言ってブギーモンは右手を翳すと、そこから黒いトンネルを彷彿させる空間――ゲートが現れる。

 

 

「逃がさないわ!」

「邪魔をするな!」

 

 

ブギーモンはそう吐き捨て、自身の武器の鎗を投げつけた。

 

 

「クッ!」

 

 

咄嗟に拳で弾くレキスモンだが、ブギーモンはその隙にゲートへと逃げ込む。

 

 

それを確認すると、ゲートは役目を終えたかの如く消滅した。

 

 

「レキスモン!」

「紗夜…御免なさい。 逃げられちゃった…」

「気にする事無いわ。 貴女もお疲れ様」

 

 

紗夜はレキスモンに労いの言葉を掛けながら、アフグロの面々とまりながいる方へと目を向ける。

 

 

「決めた!! 今日から俺はアネゴの子分になるぜ!」

「ちょっ…勝手に決めないでよ!!」

「おぉ~、蘭にも等々そんな立場にまで成長したんですなぁ~」

「番長な蘭…何か良いかも…!」

「って、モカもひまりも何納得してんの!?」

「ははは。 何だかあこに振り回されてる時を思い出しちまうなぁ」

「ふふふ…」

「もーっ! 巴もつぐみも笑わないでよ!」

 

 

彼女達とアグモンのやり取りに見守るまりなと同様、紗夜と退化したルナモンも穏やかな眼差しで見守るのだった。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

「蘭~。 こっちこっち~」

「ちょっとモカ、気を付けなよ」

 

 

数日後。

 

 

あたしとモカは、ライブに向けての練習の為、『』に向かっていた。

 

 

『蘭達のライブかぁ…すっげー楽しみだなぁ…』

 

 

所持している緋色のDアークの内部にいるアグモンの楽しそうに想像する様子が、あたしにも分かった。

 

 

あたし達の過ごす『何時も通り』に加わった『新しい色』。

 

 

「…何だか、悪くないかも」

「おぉ、今の蘭何だかとってもエモイですなぁ~」

「変な事言ってないで、さっさと行こう」

 

 

あたし達が過ごす『何時も通り』。

 

 

あたしはそんな日々、そして共に過ごすモカ達をこれからも守りたい。

 

 

内心でそんな決意を抱きながら、改めて『何時も通り』の日常の幸せを、充分に享受した。




と言う訳で、蘭が新たなテイマーになりました。


因みに、蘭のDアークの色に関してですが、これは蘭の『代名詞』である『赤』の他に、Afterglowの『代名詞』である『夕日』とアフグロの楽曲の1つである『Scarlet Sky』を意識した物になっています。


それと話は変わりますが、以前から行っていた『他のバンドリキャラへのパートナーデジモンを付ける』かと言うアンケートですが、結果は、


アンケートA

1位 今井リサ(4票)
2位 山吹沙綾・宇田川あこ(3票)
3位 白金燐子・白鷺千聖(2票)
4位 花園たえ・八潮瑠唯(1票)


アンケートB

1位 寧ろ、6バンド全員。(3票)
2位 いっその事、あっちゃん(戸山明日香)。(2票)
3位 Poppin'Party・Roselia(1票)


と言う結果(2021.11.14の時点)になりました。


そして、この2つのアンケートを参考&思い付いた要素を基に私なりに考えた結果、改めてアンケートを取る事にします。


内容としては、『2つのアンケートに票が入れられていた以下のメンバー7人(沙綾・リサ・あこ・燐子・千聖・瑠唯・明日香)の中から投票し、最終的に『1番投票数が多かったキャラ』と『2番目に投票数が多かったキャラ』の2人に、パートナーデジモンを付ける』と言う物です。


おたえが入っていない事に関して疑問を抱いている方に説明しますが、彼女に関してはRASのメンバー達と同様に『特殊な形』で、デジモンと深く関わらせる予定です(更に言いますと、実はそれに関する伏線(?)も、既に作中で登場させています)。


それと7人のパートナーデジモンに関しては、私自身も一応考えていますが、若し『彼女にはこの子がいい!」』、『このキャラのパートナーデジモンはこれがしっくりくる』と思う物がありましたら、活動報告の『Digital_Dream!(思い付きネタ(Remake版予告)) 後書き追記(若干のネタバレ(?)有り)』の方に、御自由にコメントを送って下さい。


最後は何時も通り、今回登場したデジモンの紹介しておきます。
それと名前の隣にイメージCVが書いてあるデジモンは、『この作品での私が考えるイメージCV』と言う意味です。




アグモン(2006アニメ(『デジモンセイバーズ』)版) イメージCV:松岡禎丞さん(代表作『ソードアート・オンライン』シリーズ キリト/桐ヶ谷和人、『鬼滅の刃』嘴平伊之助、『五等分の花嫁』シリーズ 上杉風太郎)

世代:成長期
タイプ:恐竜型
属性:ワクチン

今作における蘭のパートナーデジモン。
腕に赤い革ベルトを巻いた特殊なアグモンで、その成長は従来の進化とは異なるのではないかと推測されている。
まだ成長途中で力は弱いが、両手足には硬く鋭い爪が生えており、戦闘においても威力を発揮する。
必殺技は、口から火炎の息を吐き、敵を攻撃する『ベビーフレイム』。
また、『ベビーフレイム』を口内で溜めてから一気に吐き出す『ベビーバーナー』も威力抜群である。


ジオグレイモン

世代:成熟期
タイプ:恐竜型
属性:ワクチン

蘭のアグモンが進化した成熟期デジモン。
グレイモンの亜種と推測される特殊なデジモンで、頭部の甲殻や体も全身凶器の様に発達し、より攻撃的な姿となっている。
必殺技の『メガフレイム』は口から超高熱火炎を吐き出し全てを焼き払う。
また、『メガフレイム』を口内で極限まで高め爆発的な威力を持つ『メガバースト』を放つ。
さらに、巨大な角で突進して敵を粉砕する『ホーンインパルス』も強力な攻撃である。


ブギーモン イメージCV:日野聡さん(代表作『遊☆戯☆王ZEXAL』真月零/ベクター、『鬼滅の刃』煉 獄杏寿郎、『五等分の花嫁』シリーズ 上杉勇也、『オーバーロード』シリーズ モモンガ/アインズ・ウール・ゴウン)

世代:成熟期
タイプ:魔人型
属性:ウィルス

人間界とデジタルワールドの支配を企む謎の勢力の手下のブキミな魔人型デジモン。体には邪悪な呪文のイレズミが多数きざまれており、その数だけ呪文が使えるらしい。
まっ正面から戦おうとせず、いつも暗がりで敵を待ち伏せ、突然襲い掛かる卑怯者。必殺技は、右手に持った三つ又のヤリで敵を突き刺す『デスクラッシュ』。


ミノタルモン

世代:成熟期
タイプ:獣人型
属性:ウィルス

強力なダークサイドのパワーを持った暗黒デジモン。
動きは速くないが、きわめて頑丈な皮膚を持つため、並みの攻撃ではビクともしない。
必殺技は左手の「デモンアーム」で大地震を起こす『ダークサイドクェイク』。
かなりの広範囲の敵に衝撃を与えるこの攻撃には、どんなに離れていようと逃れることは出来ない。


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第6話 蒼月と赤陽

お待たせしました。


Roseliaメイン回です。


Roselia編は2話構成になっており、今回は紗夜さんメインの話です。


因みに、Roselia(若しくはRoseliaメンバー)のメイン回は基本的に(余程の事が無い限りは)、今回の様な形式で書くと思っていて下さい(アフグロと大して変わりが無いと思われますが、これは元ネタの特撮作品のサブタイトルが、『555』と似た様な感じの物になっている為です)。


それと個人的な話になりますが、アンケートの投票メンバー7人のパートナーデジモンは私自身も考えてはいるのですが、現状では


・沙綾・リサ・あこ→一応決まっている。
・千聖さん→候補が複数ある。
・りんりん・瑠唯さん・あっちゃん→全く決まっていない。


と言う感じです。


特にりんりんに関しては、パートナーデジモンだけでなく進化ルートの方も定まっていないと言う事もあって、苦労しています…。


 

 

時と場所は少し遡る。

 

 

「申し訳御座いませんでした、●●●●様」

 

 

ブギーモンは、自身の主である『存在』に対して、謝罪の言葉ともに跪く。

 

 

「まさか連れて行ったミノタルモンが、パートナー関係を結んだばかりの人間とデジモンにやられるなど…」

「…それだけデジモンと人間との『絆』は厄介な物だと言う事か…」

 

 

ブギーモンの報告を聞いたその『存在』は、警戒心を更に強めていた。

 

 

「もういい…今更過ぎた事を責めた所で、時間の無駄だ。 もう下がっていい。 …それと、もう元の姿に戻ってもいいよ、ブギーモン」

「御意」

 

 

その言葉と共に、ブギーモンの姿が全身の黒く妖しい光と共に姿を変える。

 

 

そこにいたのは、頭部に2本の角、背中に赤い翼を生やし、顔の部分に巨大な単眼を宿した白い悪魔の様な姿のデジモンだった。

 

 

そしてそのデジモンは、直ぐに姿を消した。

 

 

(『大ガールズバンド時代』…●●●●からある程度は聞かされて、最初は『人間達の流行りの文化』と言う認識しかなかったけど…嘗ての5人の少女達がそれぞれの形で活動している事といい、新しくテイマーとなった少女がガールズバンドの関係者だった事といい…『ガールズバンド』と言うのは、デジモン達を惹き付ける何かを持っているのか?)

 

 

彼は内心、『ガールズバンド』への疑念、興味、警戒の3つが混ざった心境で、先程ブギーモンがいた場所を見ながら、思考に耽るのだった。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

場所は変わって、氷川家の2階の紗夜の自室。

 

 

其処では、紗夜とルナモンが窓越しから満月を眺めていた。

 

 

「綺麗な満月ね…」

「ええ…とっても気持ち良いわ」

「こうしていると、デジタルワールドにいた時の夜を思い出すわね」

 

 

元々、月の観測データと融合して生まれたルナモンにとって、月は自身の生みの親の様な存在である為、とても喜んでいるのが紗夜には分かり、またルナモン自身も紗夜自身の声色に込められた喜びの感情を感じ取っていた。

 

 

「紗夜もライブの方、お疲れ様」

「有り難う…ルナモン」

「…それにしても紗夜、香澄達の事は…」

 

 

ルナモンが言及したのは、今日のライブ終了時でのポピパとRoseliaの会話の事だった。

 

 

今回のRoseliaの主催ライブでは、ポピパの面々が主催ライブの参考の為に、Roseliaのメンバーで唯1人花女に通っている燐子からの誘いを受ける形でゲストバンドとして参加していた。

 

 

ライブ自体は大盛況に終わったのだが、問題はその後だった。

 

 

“でも…、同じ事…、出来るかなって…。”

“同じ事…”

“でも! 私達も絶対ライブします! いつか、頑張ってRoseliaの皆さんみたいに!”

 

 

ライブ終了後、Roseliaの主催ライブの圧倒的な凄さの前に、香澄は不安な心境も見せつつも直ぐに前向きな姿勢で決意を述べる。

 

 

“その努力に、意味はあるの? Poppin'Party、あなた達、主催ライブする覚悟が足りていない。”

 

 

しかしそんな彼女達を前に、友希那は厳しい指摘を下ろしたのだった。

 

 

紗夜のディーアークの通してその様子を見ていたルナモン自身、『仲間』として困っている香澄達の事を、何とか助けてあげたいと言う気持ちから、つい言及したのだった。

 

 

「ルナモン、貴女の気持ちも分かるわ。 でも、これは香澄達Poppin' Partyの『問題』。 彼女達の道は最終的に彼女達自身が決める事よ」

「紗夜…」

「それに、湊さんは口では厳しく言っているけど、あれは湊さんなりに香澄達の事を思って言っているのよ」

 

 

ルナモン自身、紗夜を通してRoseliaのメンバーになってまだ日が浅い事もあって少し誤解しているが、紗夜はRoseliaの活動を通して、友希那の音楽に懸ける想いや姿勢を見ていたからこそ、あの厳しい指摘の中に、彼女なりの香澄達への優しさが込められているのが分かった。

 

 

「私達に出来るのは、香澄達を信じて見守る事だけ。 それに香澄があんな事で簡単に諦める程の子じゃないのは、デジタルワールドで一緒に冒険した貴女だって知っているでしょ?」

「…そうね。 ポピパの皆もきっと自分達なりの『答え』を見付けるに違いないわね…」

 

 

そして再度、夜空の満月を見上げる。

 

 

其処から放たれる月光は、まるで安心感を与えるかの如く、2人を強く優しく照らすのだった。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

「おはよう御座います。 そこの貴女、ネクタイが曲がっていますよ」

「す、すみません…」

 

 

数日後、その日の紗夜は朝早くから羽丘の校門前に立って風紀委員の仕事の一貫である『挨拶運動』を行っており、その際に登校して来た生徒の見出し並みのチェックも平行して行い、その際1人の羽丘生徒のネクタイの乱れに気付き、それを直していた所だった。

 

 

『うわぁ…紗夜、気合い入ってる…』

 

 

ディーアークの内部からその様子を見るルナモンは、紗夜の気の入り様に興味心身だった。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

『美味え―――!!』

「あはは! コロナモン、すっかりそのカップラーメンの虜になっちゃってるね~」

 

 

昼休みの生徒会室。

 

 

ディーアークの内部空間で、自身の愛用食である『プロテインラーメン』のカップ麺を美味しそうに食べる様子を見ながら、日菜の楽しむ声が響く。

 

 

「コロナモン、カップ麺が好きな貴女の気持ちも分かるけど、ジャンクフードばかり食べていると、栄養的に良くないわよ」

『何だよ! 紗夜だってこの間のライブの打ち上げの時、ファミレスでポテトを3箱平らげてたって聞いたぞ~』

「なっ…!? 何処からそんな情報を……!?」

(御免なさい紗夜……)

 

 

うっかりその事をコロナモンに話してしまった情報元のルナモンは、内心紗夜への謝罪をしつつ、下手なとばっちりを回避する為、黙々と食事をする。

 

 

「それにしても、まさか蘭ちゃんがテイマーになるなんてね~」

「えぇ…あれは、私もかなり驚いたわ…」

 

 

日菜の予想外だと思いながら、妙に楽しさを含んだ発言に、紗夜も自身の気持ちを吐露する。

 

 

「ねぇねぇお姉ちゃん。蘭ちゃんの事を考えたらさ、今後もガールズバンドのメンバーから、あたし達や香澄ちゃん達みたいにパートナーデジモンを持つ子達も出てきたりするじゃないかな~?」

「それは…」

 

 

紗夜自身、口では言い淀んでいるが、嘗てデジタルワールドを冒険した自分達5人が、こうして『ガールズバンドのメンバー』として再び集まった事もあって、日菜の発言も強ち否定出来ないと言う気持ちがあった。

 

 

「…お姉ちゃん、若しかして『ガールズバンドの皆を巻き込んでしまって、申し訳無い』って、思っている?」

「…っ! …日菜、貴女…」

「『あたしはお姉ちゃんと血を分けた実の妹だよ』って言うのもあるけど、それに、今のお姉ちゃんの様子を見たら、何を考えているのか何て、ある程度分かっちゃうよ」

「…それなら、貴女にも分かるでしょう。 私の考えている『最悪な想像』を…」

 

 

紗夜はまりなから聞いたブギーモンの話と実際に戦った時の様子から、考えていた事があった。

 

 

「あの時、ブギーモンはまりなさん達に対して言っていたのよ」

 

 

“今まではゲートを適当に開いていただけだったが、今回は『あのお方』の命で、私自らがこうしてやって来たのだ”

 

 

「あの台詞から見て、ブギーモンの背後には間違い無く『大きな存在』がいる。 …彼奴が忠実に従っている事やゲートを容易に開ける事を考えても、その『大きな存在』は間違いなく『究極体』クラスの強さを持っているのは明白よ…」

「それだけじゃないわ…。 私も戦っていて感じていたんだけど彼奴…本気を出していなかった様に思えたのよ…。 何と言うか…敢えて成熟期の姿で現れたって感じなの…」

「んだよ~。 相手が究極体で来るんなら、こっちも究極体で対抗すりゃいいじゃねぇか!」

 

 

コロナモンの『やられたらやり返す』的な発言に、紗夜とルナモンは思わず呆れ半分に溜め息を吐いた。

 

 

「そう言う単純な問題じゃないわ。 私達5人の場合だったらまだしも、美竹さんはテイマーになってまだ少ししか経っていないのよ。 それに私達だって、四六時中他のガールズバンドの皆と一緒に居られる訳じゃないの」

 

 

例えば若しパートナーデジモンがいるメンバーが誰もいない状態で、他のガールズバンドがデジモンに襲われる様な状況が起こったなら。

 

 

そう考えると、紗夜自身がネガティブな事を思ってしまうのも無理も無いのだった。

 

 

「…確かにお姉ちゃんの考えもある程度、理解は出来るよ。 でも、あたしはガルパの皆を守りたいな」

「…日菜」

「確かにあたし達は、『デジタルワールドを冒険してデーモンを倒して、平和を取り戻したよ』…でもだからって、別に特別な力を使える様になった訳でも、神様みたいに偉くなった訳でも無いよ。 あの戦争だって、多くのデジモン達が犠牲になって、その中には私達が仲良くなったデジモンだっていた」

 

 

紗夜の脳裏に、今まで出会ったデジモン達の姿が浮かぶ。

 

 

「正直、拒絶されてもしょうがないのに…それでもパスパレの皆やつぐちゃんは、私とコロナモンを巻き込まれる前と変わらない姿勢で接してくれた。 その時あたしは、『皆の事を守りたい』って強く思ったんだ」

「日菜だけじゃねぇよ。 俺だって、日菜達や彼奴等との毎日が一緒に過ごす内に、すっげえ楽しいって思える様になったんだ。 だから、俺も守りたいんだ。 彼奴等の事を」

 

 

日菜とコロナモンの言葉を聞いた紗夜は、優しそうな表情を浮かべた。

 

 

「日菜…コロナモン…御免なさい。 私、『守る』って言っておきながら、結局は自分勝手な思い込みや罪悪感を理由に、放棄しようとしていたわ…本当に最低ね…」

「そんな事無い。 紗夜は優しいわ。 だって紗夜は、何時も皆の事を考えて、それでこうやって悩みながらも前に進んで来たじゃない」

「ルナモン…」

「辛い事や困っている事があったら、1人で抱え込まないで。 だって私は、紗夜のパートナーだもん。 どんな時だって私は紗夜の味方でいるわ」

「…有り難う、ルナモン」

「…さっ! 辛気臭い話は此処までにして、ほらこれも食えよ!」

 

 

そう言ってコロナモンは、紗夜とルナモンに自身が保存している『プロテインラーメン ~ビタミンCたっぷりversion~』を差し出す。

 

 

「いえ…これ以上食べると眠くなりそうだから、止めておくわ」

「私も紗夜と同じく…」

「オイ! 其処は普通貰って食べるのが、『テンプレ』じゃねぇのかよ!?」

「アハハ! 何だかコントみたい!」

 

 

一部始終を見た日菜が楽しそうに笑う。

 

 

その後、時計の針が昼休み終了の5分前である事に気付いた紗夜が慌てるも、その際に日菜から『もうこの時間なら間に合わなさそうだから、5限はこのまま此処でサボっちゃおうよ♪』と提案され、紗夜自身も渋々『…今回だけよ』と了承し、そのまま2人は自分達のパートナーデジモンと共に、5限終了のチャイムが鳴るまで、生徒会室で静かな一時を過ごすのだった。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

「アアアアアア!! もう信じられない!! 何が『プロデューサーなんて必要ないわ』よ!!」

 

 

とあるマンションの一室。

 

 

其処で猫耳を彷彿させるヘッドホンを付けた少女が、怒りを露わに叫んでいた。

 

 

「チュチュ様~!! 落ち着いて下さい~!!」

「あんな屈辱的な思いを受けて、このまま黙ってなんていられる訳無いでしょ!!」

 

 

その傍らでピンクと水色の派手な配色のツインテールの少女が、ヘッドホンの少女――珠手ちゆ(通称チュチュ)を必死で宥めようとしている。

 

 

(おやおや…チュチュ、先程から随分荒れているね。 パレオ…君の苦労も察するよ)

 

 

『謎の影』――――●●●●は、内心そう思いつつチュチュと―彼女のお供兼キーボード担当のツインテールの少女――鳰原令王那(れおな)(通称パレオ)のやり取りを見ていた。

 

 

やがて気の済むまで吠えまくり、ある程度の落ち着きを取り戻したチュチュは、言葉を再び発した。

 

 

「フフフ…! いいわよ。 私の『プロデュース』を蔑ろにしたら、どの様なOutcomeになるのか、思い知らせてあげるわ…!」

『そうだねチュチュ。 私達はいずれデジタルワールドと人間界、双方の頂点に立つ存在だ。 あの様な愚かな振る舞いをした報いは、ちゃんと与えないといけないね』

 

 

●●●●の言葉に更に気を良くしたチュチュは、満足そうな笑みを浮かべる。

 

 

『――●●●●』

『御意』

 

 

●●●●の呼び声に応じた巨大な単眼の悪魔姿のデジモンが姿を現す。

 

 

「●●●●。 私の『プロデュース』をTrashと評価したあのRoseliaの奴らに、相応の制裁を与えて来るのよ!」

「ハッ。 畏まりました」

 

 

チュチュの怒りの籠もった様子から発せられた命令に、悪魔姿のデジモンは顔色1つ変えずに了承の意を示す。

 

 

「チュチュ様! その一件、このパレオも力をお貸しします!」

 

 

すると側で話を聞いていたパレオも志願者の如く、割り込んで来た。

 

 

「No. 唯でさえ、此方は戦力的もまだまだ乏しい状態よ。 特にあなたは私達の貴重な戦力の一角。 幾ら究極体の力があるとはいえ、若し今の状況で『あの5人』を相手にしたら、今後にも影響が出るわ」

「ううう…ではせめて、私の配下の者をそちらの方に加勢させても宜しいでしょうか?」

『ハハハ。 チュチュ、彼女は本当に君想いの良い存在じゃないか』

「……Yes,I get it. パレオ、貴女の加勢、感謝するわよ」

「有り難う御座います! チュチュ様!」

「フフフ…制裁を受けたRoselia…いいえ、ミナト・ユキナの惨めで無様な様子が楽しみでしょうがないわ…アハハハハハ!!」

 

 

チュチュの怪しげな笑い声が響いた。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

此処は近くの公園の茂みの中。

 

 

不意にパチパチ…と言う音が小さく鳴る。

 

 

次の瞬間、其処に小さな白い光の渦が発生し、中から丸い物体が現れる。

 

 

そして白い光の渦は、まるで役目を終えたかの如く、徐々に小さくなっていき、そのまま消滅した。

 

 

誰も人がいない夜の時間帯の公園での出来事。

 

 

その様子を夜空に輝く星と月だけが、静かに見守っていた。




Roselia編で紗夜さんメインと言いつつも、殆どさよひなメイン(しかもRoselia要素は序盤のみ)&戦闘が一切無い今回の話…。


そして、等々RASのメンバーの名前を出す事が出来ました…。


作中の会話で察している方も多いですが、敢えて説明すると白い悪魔姿のデジモンは、ブギーモンの究極体です。
但しブギーモン自身は四天王枠では無く、チュチュ様の背後にいる存在の『従者』的な立ち位置です。


後、最後の件は次の話に関わるフラグです。


それと今回はデジモン紹介の方はお休みになります。


アンケートの方に関しては、次回の話までの締め切りとなっております。
其方の方も、何卒宜しくお願い致します。


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第7話 青薔薇乱舞

遅くなってしまいましたが、明けましておめでとう御座います。


大変お待たせ致しました。


Roselia編、後編になります。


リアルでの忙しさ&構成の苦労で、かなり遅くなってしまいました…。


それでは皆様、今年も何卒宜しく御願い致します。


P.S 最近この作品を書いている傍ら、『バンドリ×ゴーカイジャー』のクロスを考えています…。
因みに現状の時点で決まっているのが、各2作品の時間軸(+その他の細かい設定)のみで一応としては、


・バンドリ→アニメ2期の1話(但し、Morfonicaの扱いは今の所未定)。
・ゴーカイジャー→『テン・ゴーカイジャー』後(ゴーカイチェンジは、キラメイジャーまで可能)
・敵側の設定と話の展開の関係で、『仮面ライダー』の要素が若干絡む。


と言う感じです。


 

 

「ハァ…ハァ…もう何なのよ…!!」

 

 

誰もいない夜道の中を、1人の少女の今の現状に対するうんざりした声が響く。

 

 

友達4人と一緒にガールズバンドの活動をしていた彼女は、ボーカルを担当していた。

 

 

活動して、まだ2、3ヶ月程しか経っていないが、それでもお客さんからの評判もそこそこあったし、本格的に活動を広げ始めた矢先にこの事態だ。

 

 

「さおり…胡桃…」

 

 

既に犠牲になったベース担当とキーボード担当のメンバーの事が脳裏に浮かぶ。

 

 

「舞と一葉…大丈夫かな?」

 

 

同時にはぐれてしまったギター担当とドラム担当のメンバーの少女の名前を呟きながら、辺りを見回す。

 

 

「……ふぅ……何とか逃げ切れたみたいね…」

 

 

 

 

「何から逃げ切れたって?」

 

 

 

 

突如聞こえて来た声に、背筋がゾクッとしながらも、少女は声の聞こえた方を向き、『ヒッ…』と小さく。

 

 

 

 

「見ぃ~付けた~♬」

 

 

 

 

目の前にいたのは、真っ赤な体と右手に三つ又の鎗を持った悪魔――ブギーモンの姿だった。

 

 

「あ…あ…」

「可哀想に……今や君はもう独りぼっち。 しかし安心したまえ。 君も他の4人と同様に仲良く裁きを受けるのだ♪」

 

 

その言葉と同時に、ブギーモンの背後から巨大な影が現れる。

 

 

彼女はブギーモンの今の発言で、途中で別れた2人も既に犠牲になってしまった事を悟ってしまい、次は自分が同じ目に遭う恐怖で言葉が上手く出なかった。

 

 

「やれ!」

 

 

ブギーモンの命令を合図に、巨大な影の目が光り、緑色の光線が彼女に向けて照射された。

 

 

「キャアアアアアアア――!!」

 

 

少女の悲鳴が轟く。

 

 

それから数分後、光の照射が終了すると、其処にいたのは、先程の光線を浴びて、石像と化した少女だった。

 

 

「ハハハ! 見事なまでに良い姿になったではないか!」

 

 

ブギーモンは上機嫌に言って、石像と化した少女を所々撫で回した。

 

 

ブギーモンがこのガールズバンドを狙った理由は、単純に言えば『実験』だった。

 

 

無論、最終的な目的はRoseliaなのだが、念には念を入れて、『実験』と言う形で襲ったのである。

 

 

その時、ブギーモンの背後にいる黒い影の隣に、新たな黒い影が現れる。

 

 

「フフフ…。 さて…次は等々、本命に仕掛ける時だな。 お前達も油断はするなよ」

 

 

ブギーモンの言葉に、背後の2体の黒い影が無言で頷く。

 

 

そしてそのまま、3体はその場から姿を消す。

 

 

石像と化した少女だけが、何の反応のせず、静かにその様子を見ていた。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

「ニャ~♡」

「ミィ~♡」

「ふふふ。 喧嘩しないで仲良く食べるのよ」

 

 

とある公園のスペースの一角。

 

 

友希那はそこに住んでいる猫達に餌を与えながら、それを食べる猫達の様子を優しそうな表情で見ながらも、内心ではこの前出会ったチュチュの事について、考え込んでいた。

 

 

(…それにしても、あの子…)

 

 

“何でダメなの!? 私のプロデュースで最強のバンドになれるのに!”

 

 

あの時見せた必死そうな様子や表情から、友希那自身も彼女の音楽への強い情熱を感じていた。

 

 

勿論友希那自身は、『プロデューサー』と言う存在自体を完全に否定しているつもりは無い。

 

 

けれど彼女にとっての『Roseliaの音楽』とは、自分達自身の力で創造し、奏でていく物だと考えている。

 

 

(誰かに命令されて創った曲を、ただ演奏し、歌うだけの音楽なんて、そんなの『Roseliaの音楽』何かじゃない)

 

 

友希那の『Roselia』、そして『音楽』に懸ける決意は相当な物だった。

 

 

「ニィ~♪」

 

 

その時、一匹の猫の鳴き声が友希那の耳に届いたので、声の聞こえた方を向くと其処には1匹の猫が茂みの中で何かを触ったり転がしているのが見えた。

 

 

気になった友希那は、其処に近付いて猫が先程から弄っている物の正体を見て呟く。

 

 

「卵…?」

 

 

其処にあったのは、全体が青一色の卵だった。

 

 

「何なのかしらこの卵?」

 

 

無論、猫の卵では無いのは分かる。

 

 

しかし、こんな色の卵を友希那は今まで見た事が無かった。

 

 

(若しかして、私の知らない新種のにゃーんちゃんかしら?)

 

 

実際、『CiRCLE開店1周年記念ライブ』の一件でデジモンの存在を認知した友希那は、デジモンと言う未知の存在がいるのだから、自身の知らない新種の猫が存在しても可笑しくは無いと考えた。

 

 

若しこの場に他の誰かがいたら、間違い無くツッコミを入れられそうな状況ではあるが、残念な事に今この場には、猫を除いて友希那1人しかいない。

 

 

「ミャ~」

 

 

不意の鳴き声に足下を見ると、先程卵を弄っていた猫が、心配そうな様子で此方を見ていた。

 

 

「大丈夫。 この卵は、私が持ち帰るから、あなた達は安心して、この場所で過ごしていいのよ」

 

 

友希那は猫達の頭を撫でながら語り掛け、その後は拾った卵と共に、自宅へと帰路するのだった。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

ヴーヴーヴー

 

 

「んっ…」

 

 

あの後、自室で作曲作業をキリの良い所で終わらせベッドに入って就寝した友希那は、翌朝になって自身のスマートフォンのバイブ音で、朧気ながらも意識が覚醒する。

 

 

ゴソゴソ

 

 

その時、彼女はふと自身の胴回りに違和感を感じた。

 

 

「んぅ…リサ…? 止めなさい…」

 

 

友希那は最初、リサがてっきり自身悪戯で胴回りを触っているのかと思った。

 

 

ゴソゴソ

 

 

しかし、相手は友希那の制止を無視して尚も胴回りを触り続けていたので、流石にこれはリサではないと気付き、それによって友希那もはっきりと意識を覚醒した。

 

 

(…落ち着きなさい。 相手はたった1人よ)

 

 

そして数秒後、友希那は意を決して、行動を起こした。

 

 

「いい加減にしなさい! このド変態野郎!」

 

 

そう叫んで、布団を思いっ切り目繰り上げた。

 

 

「…は?」

 

 

布団を目繰り上げて見た目の前の光景に、友希那は思わず間抜けな声を出した。

 

 

「zzz…zzz…」

 

 

其処には、頭に2本の青い触角を生やした奇妙な青い体色の生物が、呑気にスヤスヤと眠っていたのだった。

 

 

「んっ…フャアアア…」

 

 

やがてその生物は、目を覚ますと友希那を見て喋る。

 

 

「おはよ(・ω・)」

「おはよう…」

 

 

2人の間を、暫しの沈黙が流れる。

 

 

「いや誰よ!!?」

 

 

我に返った友希那はツッコミ返した。

 

 

「友希那!? 一体どうし……た……の……?」

 

 

其処へ丁度友希那を起こしに来たリサが部屋に入って来て、目の前の光景をポカンとした様子で見る。

 

 

「おはよ(・ω・)」

 

 

一方、青い体色の生物はリサの状況を意に介さず、呑気に挨拶する。

 

 

やがてリサはズガズガと友希那の下に行き、そのまま肩を掴んで深刻な様子で問い掛ける。

 

 

「友希那答えて。 相手は誰? どんな汚い手で孕ませられたの?」

「落ち着きなさいリサ。 私だって、何が何だか分からないのよ…」

 

 

ベッドに座る青い体色の生物を尻目に、リサを何とか宥めて数秒後、何とか落ち着いたリサと共に友希那は、ベッドの上の青い体色の生物に向き合い、会話をする。

 

 

「あなたは誰?」

「ボク、チビモン」

「チビモン…あなた一体どうやって私の部屋に侵入したのかしら?」

「え~、ボクをこの部屋に入れたのは友希那じゃん」

「は?」

 

 

その直後に背後から聞こえるリサの色々と喚く声を無視して、友希那は暫し、思考の海へ落ちた。

 

 

そして数秒後、何かに気付いた様子でチビモンを見る。

 

 

「あなた若しかして、昨日の卵から生まれたの?」

「うん! 友希那が温めながら一緒に寝ていて、気が付いたらこうして生まれたんだよ♪」

 

 

チビモンは嬉しそうな様子で友希那に言った。

 

 

「フフフ…友希那を孕ませたクズ野郎…アンタみたいなこの世における『癌細胞』は、『敗者に相応しいエンディング』をプレゼントするよ…フフフ…」

「ねえねぇ友希那。 何であの人は、さっきから怖そうな顔でブツブツ言っているの?」

「チビモン、見ちゃいけないわ」

 

 

そう言って友希那はチビモンの視界を遮った。

 

 

その後、友希那は30分位の時間を掛けて、どうにかリサを正気に戻すのだった。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

「なる程。 恐らく湊さんが公園で拾ったのは、デジタマですね」

 

 

友希那の話を聞いた紗夜が納得した様子で言う。

 

 

あの後、友希那は来週のライブに向けての練習の為、リサと共にCiRCLEに来ていた(因みにチビモンは、ぬいぐるみのフリをさせて同行させた)。

 

 

そしてその後、既に来ていた紗夜達とまりなに事情を説明し、今に至るのだった。

 

 

「「「「デジタマ?」」」」

「その名の通り、デジモンの卵よ。 基本的にデジモンは皆、このデジタマから生まれて成長し、死んだらデジタマに戻ってまた生まれるの…」

「それって…所謂『輪廻転生』と言う物かしら?」

 

 

まりなの言葉を聞いた友希那は、先程から紗夜のルナモンと戯れるチビモンを見ながら問い掛ける。

 

 

「その様な物だと考えても構いません」

「それにしてもチビモンのあの様子、すっかり打ち解けてるみたいだね」

 

 

リサの視線の先を見ると、そこにはチビモンとルナモンの2体が仲良く交流を深めていた。

 

 

「ボク、チビモン!」

「私はルナモンよ。 宜しくね、チビモン!」

「うん! ルナモンのお姉ちゃん!」

 

 

その瞬間、ルナモンは自身の身体中に、稲妻が走り渡る程の衝撃を感じた。

 

 

「…ねぇチビモン。 今のもう一度、言ってみてくれないかしら?」

「? どうしたのお姉ちゃん?」

「はううぅぅ!!」

 

 

チビモンの愛くるしい様子は、ルナモンにとって心をときめかせる物があるらしい。

 

 

「フッフッフ…お姉ちゃん…いいわ…! 今の内にこの子には、KKL(賢い可愛いルナモン)の魅力をたっぷり理解させるわ…」

「ねぇ、ルナモンは何をさっきからブツブツ言っているの?」

「あこ。 あれは見ちゃいけないものだよ」

(リサ…貴女も『注意出来る立場』じゃないでしょ…)

(『燐子お姉ちゃん』…とってもいいな…あこちゃん、若しあこちゃんが私の妹になりたいのなら、私は何時でも歓迎するよ…)

(何でかしら…今の白金さん…ルナモンと同じく…とんでもない方にトリップしている様な気が…)

 

 

その後、各自は正気に戻って練習を開始するのだった。

 

 

「わぁああ…皆、音楽がとっても上手だぁ…」

「フフフ…そうでしょう。 紗夜達の音楽は正に『天からの舞い降りた』と言う表現がしっくりくる位、凄い物なのよ!」

「ルナモン…貴女が威張って言う事じゃないでしょ…」

「あはは…そう言われると逆に反応に困っちゃうなぁ…」

「でも…不思議と悪い気もしないわね…」

「きゃ〜♪」

 

そう言って友希那はチビモンの頭を撫でる。

 

 

「あれ? チビモンの体が光ってるよ」

 

 

あこの言う通り、チビモンは体を光り輝かせ

、次の瞬間には一回り大きい青色の小竜へと姿を変えていた。

 

 

「何? 何が起こったの?」

「チビモンが進化したみたいね…」

 

 

そして紗夜は自身のDアークを取り出して情報を調べる。

 

 

「ブイモン。 成長期。フリー種。 小竜型デジモン。 必殺技は『ブイモンヘッド』と『ブンブンパンチ』」

「へへへ。 改めて宜しく、友希那。 …友希那? 如何したの友希那?」

 

 

ブイモンの呼び掛けに友希那は全く反応しない。

 

 

「如何やら、混乱してフリーズしちゃったみたいですね…」

「わーん! 友希那----! 死なないでよ----!」

「勝手に湊さんを殺さないで下さい…」

 

 

フリーズした友希那を如何にか正気に戻した後、5人は再び練習を行い、その後は各々解散となった。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

そして、ライブ当日。

 

 

友希那達Roseliaの面々は、会場の控え室にて最後の調整を行っていた。

 

 

「皆、準備はいいかしら?」

「アタシは何時でもOKだよ♪」

「あこの方も、問題無しです!! 今回のライブも絶対に成功ね、りんりん!!」

「うん。そうだね…あこちゃん」

 

 

リサとあこと燐子がそれぞれの会話を交わす。

 

 

「湊さん」

 

 

不意に紗夜が友希那に呼び掛ける。

 

 

「若しもの時は、私とルナモンが皆さんを守ります。 だから…」

「紗夜」

 

 

紗夜の言葉を遮り、友希那が言葉を発する。

 

 

「貴女の気持ちは確かに有り難いわ。 でも、1人で抱え込もうと何てしないで。 貴女は『テイマー』でもあるけど、同時に『Roselia』のメンバーなのだから」

「湊さん…有り難う御座います」

 

 

そしてRoseliaのライブが開始した。

 

 

『CiRCLE(サークル)開店1周年記念ライブ』の時よりも、よりレベルアップした圧倒的な友希那の歌唱力と紗夜達各楽器担当の演奏力、そしてこれら2つの要素が絡まって奏でられる音楽が、観客達を魅了し、会場を熱狂の渦に巻き込み、今回のライブも見事大成功に収めたのだった。

 

 

「皆、今日のライブでの応援、有り難う。 私達Roseliaは、これからも頂点を目指し、私達の音楽を極み続けるわ」

 

 

友希那のマイク越しでの決意表明に、観客達の歓声の声が上がった。

 

 

 

 

「ハハハ…。 それでは、此処からは我々のステージだ」

 

 

 

 

突然、謎の声が響き渡る。

 

 

「!! 皆避けて!!」

 

 

Dアークの中のルナモンの声を聞いた5人は慌てて移動すると、先程の場所に何かが突き刺さった。

 

 

「な、何!?」

 

 

リサの疑問の声に応じる様に天井から現れたのは、覆面を被り、植物の葉を身に纏った忍者の様な見た目の異形だった。

 

 

「ハハハ、そう簡単にやられてしまっては格好悪いから、仕方がないか!」

 

 

そしてその異形の背後から、ブギーモンが現れる。

 

 

「「ブギーモン!」」

「紗夜さん、アイツを知っているんですか?」

「そう言えば、其処の彼女以外は、会うのが初めてだったな。 私はブギーモン。 去るお方達の為、この人間界の侵略を実行する者だ」

 

 

するとただ事では無いと理解した観客達の歓声が、一気に悲鳴に変わった。

 

 

「皆さん、逃げて下さい!!」

「皆逃げて――!!」

 

 

紗夜とあこの呼び掛けに応じる様に、観客達は一気に会場の出口へと駆け出し、それから数分後には、会場はRoselia5人とブギーモン達しか残っていないと言う状況になった。

 

 

「ルナモン!」

「ええ!」

 

 

紗夜は自身のDアークからルナモンをリアライズし、同時に相手の忍者デジモンの情報を調べる。

 

 

「シュリモン。 アーマー体。 突然変異型デジモン。 必殺技は『草薙』と『紅葉おろし』…」

「紗夜! 私を進化させて!」

「分かったわ!」

 

 

 

 

――EVOLUTION

 

 

 

 

「ルナモン進化!! レキスモン!!」

 

 

Dアークの光を浴びて、ルナモンはレキスモンへの進化を完了する。

 

 

「…参る…!」

 

 

そう言うや否やシュリモンは自身の右手を伸ばし、その先の手裏剣を回転させて攻撃をして来た。

 

 

「ティアーアロー!」

 

 

咄嗟に攻撃を回避して、そのままレキスモンは攻撃を仕掛けるが、シュリモンは空いた左手の手裏剣を回転させてレキスモンが放った氷の矢を切り裂き、そのままレキスモンに襲い掛かるも、レキスモンも再度回避し、両者は互いに距離を取った。

 

 

「ハハハ…! 絶好のチャンスとは、正にこの事! やれ!」

 

 

その言葉を合図にRoseliaの5人の背後から緑色の光が現れる。

 

 

「! 危ない!」

 

 

その時、紗夜のDアークからブイモンがリアライズし、咄嗟に全身の力を込めて、友希那と紗夜に体当たりをし、2人は乱暴な形ではあるが、その場から離れる。

 

 

「ペトラファイヤー!!」

 

 

その直後に、緑色の光が残りの3人に向かって命中する。

 

 

「「「キャアアアアアアアアア!!」」」

 

 

そして光線をそのまま浴びたリサ達は、その数秒後には3人揃って物言わぬ石像と化してしまった。

 

 

「リサ! あこ!」

「白金さん!」

「チッ! 逃げられたか!」

 

 

すると先程緑色の光が発射された場所から、白い体色の鶏を様な見た目のデジモンが現れた。

 

 

「あれは…コカトリモン!」

「ペトラファイヤー!」

「避けて下さい!」

 

 

紗夜の言葉で友希那とブイモンは回避する。

 

 

「紗夜!」

「逃がしはしない…!」

 

 

レキスモンは紗夜達の方へ向かおうとするも、シュリモンの妨害で思う様に動けない状況だった。

 

 

「ハハハ! 中々良いでは無いか! しかし、このまま唯普通に石にしただけでは詰まらん。 少しだけ手を加えさせて貰おう。 ルビーアイ!」

 

 

そう言ってブギーモンは自身の目を紅く光らせると、リサ達の石像のライブ衣装が粉々に砕け散り、3人は一糸まとわぬ裸婦像へと変わってしまった。

 

 

「リサ! あこ! 燐子!」

「ハハハ! お前達2人も仲良くこの3人と同じく素っ裸の石像にして、『あのお方達』への献上品にしてやろう!」

「この下衆デジモン…!」

 

 

「ウワアアアーーーー!!」

 

 

その時、ブイモンが両腕をグルグル振り回しながらブギーモンに突撃してきた。

 

 

「…随分元気が良い物だなと…」

 

 

しかしブイモンの奮闘も空しく、片手で止められてしまう。

 

 

「友希那を……Roseliaの皆を……虐めるなああああ――――!!」

 

 

するとブイモンの動きを抑えていた筈のブギーモンの片手が徐々に押され始めた。

 

 

「何…?」

「ウワアアアアア―――!!」

 

 

そこからブイモンはブギーモンの顔面に、思い切り力を込めた渾身の頭突きを浴びせた。

 

 

「ガフッ!?」

 

 

ブギーモンはそのまま地面に崩れ落ちる。

 

 

「ハァ…ハァ…」

「チッ…貴様、余程死にたい様だなぁ…!? コカトリモン! このクソ生意気なチビを八つ裂きにしてしまえ!!」

「クェエエエエエ!!」

 

 

コカトリモンの攻撃の手がブイモンに迫ろうとする。

 

 

「危ない!」

 

 

其処へ友希那が駆け付け、ブイモンを抱えて間一髪の所でコカトリモンの攻撃を回避した。

 

 

「友希那…大丈夫?」

「それはこっちの台詞よ! 何であんな無茶を…」

「俺…友希那やRoseliaの皆が好きだから…だから守りたかった…」

「ブイモン…貴方」

 

 

そして意を決し、友希那はコカトリモンの前に立った。

 

 

「そこの鶏野郎! これ以上Roseliaの皆やブイモンを傷付けるのなら、私がシメるわよ!」

 

 

友希那の声が強く響き渡った。

 

 

その時、友希那とブイモンの目の前にに白い光の球体が出現する。

 

 

「これは…」

 

 

友希那は白い光の球体――菫色の縁取りのDアークを手に取る。

 

 

「やはりそうでしたか…」

 

 

紗夜は確信していたのか、納得した様子で2人を見ていた。

 

 

Dアークを手にした友希那は、ブイモンに向かい合って問い掛ける。

 

 

「ブイモン。…貴方はRoselia…いえ、私に全てを懸ける覚悟はあるかしら?」

「友希那…うん。俺は…俺自身の全てを友希那に懸けるよ!!」

 

 

そして友希那はブイモン、隣に立った紗夜はレキスモンと共にブギーモン達の方に向かい合って対峙する。

 

 

「よくも私達のステージを…ここまで滅茶苦茶にしてくれたわね…!」

「Roseliaの音楽を…これ以上アンタ達に汚させはしないわ!!」

「チッ……そこまで言うなら徹底的なまでに地獄へ突き落としてやろう! コカトリモン! シュリモン!」

「クェエエエエエエ!!」

「御意」

 

 

ブギーモンの命令されたコカトリモンとシュリモンの2体が襲い掛かる。

 

 

「行くわよブイモン!」

「うん!」

 

 

 

 

――EVOLUTION

 

 

 

 

「ブイモン進化!!」

 

 

Dアークの光を浴びたブイモンは、その身を鋭い牙や爪を持ったより大きな青い体色の竜へと変えていった。

 

 

「ブイドラモン!」

 

 

「ブイモン…それが貴方の決意なのね…」

「ブイドラモン。 成熟期。 幻竜型デジモン。 ワクチン種。 必殺技は『ブイブレスアロー』」

 

 

友希那はブイドラモンの姿にブイモン自身の強い決意を感じ取り、紗夜はDアークでブイドラモンの情報を調べる。

 

 

「進化したからと言って調子に乗るなよ!」

「ブイドラモン! シュリモンは私が引き受けるわ!」

「分かった!」

「湊さん、私達は今井さん達を」

「ええ」

 

 

そして2体は各自の相手と戦闘を開始する。

 

 

「紅葉おろし!」

「ムーンナイトボム!」

 

 

シュリモンが右手を伸ばし、その先の手裏剣を回転させて攻撃を仕掛けるが、レキスモンは両手のグローブから発生させた水の泡を投げつけて、その隙に空中へジャンプする。

 

 

「ムーンナイトキック…」

「甘いわ!」

 

 

其処から急降下のキックを繰り出そうとするも、先にシュリモンが伸ばした左手に捕まってしまい、その勢いで地面に叩き付けられてしまう。

 

 

「グッ…!」

「最早これまでだな。 大人しくこの『草薙』の錆になるがよい…!」

 

 

シュリモンは右手で背中の大手裏剣の『草薙』を持って此方に近付いて来る。

 

 

両者の間を緊迫とした空気が流れる。

 

 

「止めだ!」

 

 

シュリモンが『草薙』を振り下ろそうとした瞬間、レキスモンは両手をシュリモンに向けた。

 

 

「!?」

「この距離なら、防ぎ様が無いでしょ!」

 

 

そしてそのままグローブから発生させた水の泡を、シュリモンの顔面に向けて放った。

 

 

「ぐっ…!」

「ハアアアア!!」

「グアッ!」

 

 

そして更にシュリモンの顔面に強烈な拳の一撃をお見舞いし、拘束の緩んだ左手から脱出する。

 

 

「今度はこっちが止めを刺す番よ! ティアーアロー!」

 

 

即座に背中の突起から美しい氷の矢を引き抜き、シュリモンに放つ。

 

 

「グオオ!! 無…無念!!」

 

 

全身を氷の矢で射抜かれたシュリモンは、そのままデータの塵と化して消えていった。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

「ウオオオオオ――!」

「クェエエエエ――!」

 

 

一方、ブイドラモンはコカトリモンと激しいぶつかり合いを繰り広げていた。

 

 

「ペトラファイヤー!」

「ウオッ!」

 

 

咄嗟に左に避けるも、運悪く左腕に命中し、その部分が石化してしまう。

 

 

「クェエ……」

「それなら、これでも喰らえ!」

「クェエブ!?」

 

 

それを好機と見たコカトリモンは、再度ペトラファイヤーを放とうとするが、ブイドラモンの石化した左腕に顔面を殴られた事で、攻撃を中断してしまう。

 

 

「ヘヘヘ…良い物手に入れちゃったぜ…! オラオラオラオラオラオラ!」

「クェ! ギャブ! クェデブ! クェラバ! クェブフォ!」

 

 

そのままブイドラモンは石化した左腕による連続攻撃をコカトリモンに叩き込んだ。

 

 

「クェ…クェエエエ…」

 

 

数分後、其処には連続攻撃を浴びて瀕死に近い状態のコカトリモンがいた。

 

 

「くっ……これは不味い!」

 

 

状況の不利を悟ったブギーモンは、ゲートを開いて逃亡した。

 

 

「ブイドラモン!」

「行くぞ! ブイブレスアロー!」

 

 

ブイドラモンの口から、光輝く矢の形の光線が放たれた。

 

 

「クェエエエエエエ―!」

 

 

直撃を受けたコカトリモンは、断末魔と共にデータの塵と化して消えていった。

 

 

「やりましたね、湊さん」

「ええ」

 

 

コカトリモンが倒された事により、石像と化していたリサ達も元の姿に戻った。

 

 

「あ…」

「元に戻った!」

「友希那~! 紗夜~!」

 

 

3人の姿を見た友希那と紗夜だったが直ぐに視線を逸らし、元に戻ったブイモンとルナモンも目を隠す。

 

 

「どうしたの?」

「いえ…その…目のやり場に困るので…」

 

 

紗夜の言葉にリサ達は自分の体に視線を移すと、見慣れた自身の裸が目に映っていた。

 

 

「「「イヤアアアアアアア(キャアアアアアアア)(ウワアアアアアアア)――!!」」」

 

 

数秒後、3人の悲鳴が会場の跡地に響いた。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

「はぁ…この前は酷い目にあった~」

「でも、私達以外誰もいなかったじゃない」

「友希那や紗夜は無事だったからいいけど、アタシとあこと燐子はあの後帰る時、必死だったんだからね!」

 

 

それから数日後、友希那はブイモンやリサと共に『CiRCLE』へと向かっていた。

 

 

『ヘヘヘ…』

「ブイモン…随分嬉しそうな顔しているわね…」

『俺は友希那のパートナーでもあるけど、同時に友希那のファンだよ。 だって友希那の歌っている姿、とっても格好良いんだもん』

「……有り難う、ブイモン」

(今の友希那の笑顔、何だか小さい頃を思い出しちゃうな~)

 

 

2人の様子を見ながら、リサは内心そんな事を考えながら、微笑ましく見ていた。

 

 

暫くして、不意に友希那の足が止まる。

 

 

「友希那?」

「…にゃーんちゃん…」

「へ?」

 

 

リサが友希那の視線の先を見ると、其処には黒いフードを身に纏い、背中に鞄を背負った黒猫がいた。

 

 

しかしその黒猫――ブラックテイルモン(Uver.)は友希那達を気にも止めずにそのまま歩いて行った。

 

 

「…行くわよ、ブイモン」

『え?』

「あのにゃーんちゃ…黒猫は間違い無くデジモンよ…見失う前にモフモフ…何とかするわよ(そしてできる事なら、あの子をRoseliaの新メンバーに……)」

 

 

そう言うと友希那は駆け出した。

 

 

「ちょっと友希那!? 待ってよ友希那ってば~!」

 

 

暫くして我に返ったリサも、暴走する友希那を止める為に慌てて駆け出すのだった。

 

 

 

 

尚、友希那とリサが『CiRCLE』に到着し、そこから紗夜の説教を受けるのは予定時間から20分程過ぎた後の事であった(因みにブラックテイルモン(Uver.)はあの後見失ってしまい、友希那が更に落ち込む要因になったのは言うまでもない)。




Roselia編、之にて終了です。


前回と違って、Roselia要素、そして友希那とブイモンの関係を丁寧に描きました。


因みに最後に登場したブラックテイルモン(Uver.)は、RASの面々とは特に関係の無い唯のモブデジモンです。


そして、アンケートの結果ですが、


1位 沙綾・リサ(4票)
2位 あこ・千聖・瑠唯・明日香(2票)


と言う結果から、同着1位だった沙綾とリサの2人に、パートナーデジモンを付ける事になりました。
2人のパートナーデジモンが何になり、そしてどの様な形でパートナー関係を築いていくかはまだ秘密です。


それでは何時も通り、今回登場したデジモンの紹介しておきます。
尚、紹介するデジモンの内の1体は今現在本編には登場していませんが、関係性的な立ち位置の意味合いを込めて紹介しておきます(一応分かり易いように、(※)マークが付いています)。




チビモン

レベル:幼年期Ⅱ
タイプ:幼竜型

ブイモンの幼年期である幼竜型デジモン。
幼年期のデジモンには珍しく胴体と両手足を持っており、小さな両手で物をつかみ、両足でぴょんぴょん跳ねながら移動することができる。
非常に食べ盛りで、特に甘いものが大好き。また寝ることが非常に好きで、目を離すとすぐに寝てしまう。
必殺技はぴょんぴょん跳ねながら相手に体当たりをする『ホップアタック』。


ブイモン

レベル:成長期
タイプ:小竜型
属性:フリー

今作における友希那のパートナーデジモン。
一人称は『俺』(但し、チビモン時は『ボク』)。
新たに発見された新種デジモン。
デジタルワールドの創世記に繁栄した種族の生き残りで、デジメンタルを用いて“擬似進化”である「アーマー進化」をすることが出来、中でもブイモンは優れた戦闘種族であり、秘めた力を持っており、アーマー進化で爆発的な能力を発揮する。
性格的にはやんちゃでいたずら好きだが、正義感の強い一面も持っている。
得意技は両腕をグルグル振り回し、相手を殴る『ブンブンパンチ』。
必殺技は強烈な頭突きで相手を倒す『ブイモンヘッド』。


ブイドラモン

レベル:成熟期
タイプ:幻竜型
属性:ワクチン

友希那のブイモンが進化した成熟期デジモン。
広大なデジタルワールドでも、フォルダ大陸にしか存在しないと言われている幻の古代種デジモン。
その存在は非常に貴重であり、フォルダ大陸でも滅多に出会うことは無い。
また、ブイドラモンを手なずける事ができたデジモンテイマーも1人しかいないと言われている。
胸にある「V」型の模様からブイドラモンと呼ばれるようになったこと以外その生態系はナゾであるが、何故か犬に間違えられる。
成熟期の中でも並外れた攻撃力の持ち主であるが、窮地に立たされると完全体をも凌ぐパワーを発揮する。
必殺技は口から吐き出す高熱の熱線『ブイブレスアロー』。


シュリモン

世代:アーマー体
タイプ:突然変異型
属性:フリー

ホークモンが純真のデジメンタルでアーマー進化した突然変異型デジモン。
“純真のデジメンタル”は“草木”の属性を持っており、このデジメンタルを身に付けたものは自然に同化する能力をもち、木の葉が舞うごとく風にかくれ、敵の死角よりあらわれて的確な攻撃を叩き込む。
その姿は、まさに忍者といえる。
得意技は伸びる手足の先の手裏剣を回転させ敵を攻撃する『紅葉おろし』、必殺技は、背中の大手裏剣を空中高くから敵に投げつける『草薙』(『草薙』と『紅葉おろし』は手裏剣の名前でもある)。


コカトリモン

世代:成熟期
タイプ:巨鳥型
属性:データ

2本の脚が巨大に発達した巨鳥型デジモン。
地上での生活を長く続けていたため、空を飛ぶ事ができず、地上に適した体に進化した。
そのために体も巨大になり、脚力も凄まじく発達した。
羽の部分は完全に退化しており、戦闘の際に尻尾と共に大きく広げて敵を威嚇する。性質は荒く獰猛だが、その巨体を維持するために、エネルギーの消費が激しいバトルは苦手。
必殺技は『ペトラファイアー』。
この攻撃を受けると炭化するのではなく、体が石化してしまう恐ろしい技。


ブラックテイルモン Uver.

世代:成熟期
タイプ:魔獣型
属性:ウィルス

デジタルワールドに近年大量に流れ込んできた宅配便のデータをブラックテイルモンが吸収したことで変化した姿で、意地の悪い性格はまったく無くなり、頼まれた配達物をどんな日でも献身的にしっかりお届けする。
背中の配達バッグは保温保冷なんでも最適な状態を保つことができ、またブラックテイルモンにしか開閉できないため機密データでも安心だ。
配達の邪魔をするデジモンには得意技の『ネコパンチ』や、振り下ろした配達バッグの角でぶつける『バコーニャ』で排除する。
『バコーニャ』で敵に大ダメージを与えても配達バッグは中身も無傷でとても丈夫だ。


(※)ブラックテイルモン

世代:成熟期
タイプ:魔獣型
属性:ウィルス

真っ黒な毛なみが印象的な、ウィルス種のテイルモン。
完全なる悪の申し子で、ブキミな闇を渡り歩いて生きている。
テイルモンの変種であるブラックテイルモンが生まれるのは非常に稀で、その個体数は少ないと言われている。
また、性格は意地悪でプライドが高く、弱いものいじめが大好きな困ったデジモンである。
基本的には堕天使型のデジモンへ進化する暗黒系デジモン。
必殺技は、テイルモンと同じく『ネコパンチ』。


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第8話 希望と恐竜と笑顔の新テイマー

皆様、大変お待たせ致しました。


満を持してのハロハピ編です。
ハロハピ編もRoselia編と同様、2話構成になっています。


それと御報告ですが、有咲のワームモンのイメージCVが決まりました。
此方がそのイメージCVです。


ワームモン:花江夏樹さん(代表作『鬼滅の刃』竈門炭治郎、『東京喰種トーキョーグール』金木研/佐々木琲世、『錆喰いビスコ』猫柳ミロ)


因みにハロハピ(若しくはハロハピメンバー)のメイン回のサブタイトルの形式は、基本的に(余程の事が無い限りは)、今回の様な形式で書くと思っていて下さい。


 

 

「ふえぇ…此処は何処なの~?」

 

 

とある場所。

 

 

誰もいないこの場所で、不意に何者かの声が聞こえる。

 

 

「とにかく、何とかして元の世界に戻らないと…」

 

 

そう呟きながら、その声の主は再び、姿を消した。

 

 

 

 

  

 

 

 

 

「さぁ皆! 今日も『笑顔パトロール隊』、出動よ!!」

 

 

商店街の一角に、こころの元気な一声が響き渡る。

 

 

「あぁ…こころ。 今日も笑顔が輝いていて、とても儚いね…」

「えへへ。 はぐみも沢山の笑顔を見付けられる様に、頑張ってパトロールするよ!」

 

 

薫とはぐみも何時も変わらない様子で、こころに応える。

 

 

「市ヶ谷さんにワームモン、それに二葉さんも…本当にごめん…」

「いや、そんな別に…。 むしろ奥沢さんもあの3人のテンションに付いていける辺り、ある意味尊敬するよ…」

(あーちゃん…何だか何時も以上に疲れた様子だな…。 よし、今日は何時も以上に僕がしっかり支えよう!)

「い、いえ…ハロハピの皆さんの普段の様子や活動を、この様な形で体験出来る何て…私にとってもいい経験です!」

「あはは…つくしちゃんもそう畏まらなくていいよ……」

 

 

花音もそんなつくしの様子に優しく対応する。

 

 

因みに何故有咲とつくしがこの場にいるのかと言うと、2人で話込んでいた時に偶々道に迷っていた花音に出会い、彼女をハロハピメンバーの下に送った所、そのままこころの勢いに押され、『特別隊員』と言う形で、参加したからである。

 

 

その後7人(+1匹)は、商店街を始め様々な場所をパトロールしながら、現在広場の方で休憩を取るのだった。

 

 

「ん~、今日も沢山の笑顔が見れて良かったわ!」

「うん! はぐみ達も嬉しくて、最高の気持ちだよ!」

「『笑顔』…それは生きとし生ける者達誰もが持つ『宝物』…あぁ…とても儚いね…」

「全くあの3人ったら…市ヶ谷さん達、大丈夫?」

「あ…あぁ…な…何とか…」

『あーちゃん大丈夫!? 何処か怪我でもしたの? お腹が空いたの?』

「落ち着けワームモン……私はもう小学生じゃねぇから……安心しろ……」

「ふふふ…ワームモン、何だか有咲ちゃんの保護者みたいだね…」

「これが…ハロハピの活動…」

 

 

各自はそれぞれの会話に花を咲かせながら、休憩を過ごしていた。

 

 

カサカサ……。

 

 

「あら? 何かしら?」

 

 

その時、近くの草むらで何かが動く音を聞いたこころが音のした所に近付いた。

 

 

「はぁ~、少し疲れたから休もう…」

 

 

そこにいたのは、オレンジ色の長い耳をした哺乳類の様な見た目の生物だった。

 

 

「どうかしたの?」

「ふぇ!?」

 

 

突然現れたこころの存在に、パタモンは思わず驚いた様子を見せた。

 

 

「その姿……貴方、若しかしてデジモンさんね!!」

「わわわわっ!! 一体君は何なの!?」

 

 

パタモン自身、いきなり現れたこころの存在、そして何故デジモンの事を知っているのかと言う疑問など……様々な要素を前に、脳内が混乱している状態だった。

 

 

「こころ――!」

 

 

すると其処に美咲を筆頭にした他のハロハピの面々、更に後ろから有咲とワームモンとつくしの3人がやって来た。

 

 

「美咲! 見て見て! 此処にデジモンさんがいるわ!」

 

 

そう言って、こころは皆にパタモンを紹介する。

 

 

「何……何なの……?」

「この子がこころんの見付けたデジモンさん? とっても可愛いね!」

「おやおや…若しかして迷子になってしまったのかな?」

「ちょっとちょっと…その子が困っていますよ…」

「ふぇぇ……」

 

 

こころに加え、現れた見知らぬ人間達に遭遇した事もあってパタモンは更に混乱していた。

 

 

「あのデジモンは…?」

「あれはパタモンだよ」

「パタモン?」

「ああ。 私達もデジタルワールドを冒険していた時に会った事があってな……」

 

 

つくしの問い掛けにワームモンと有咲が丁寧に答える。

 

 

特に有咲に関しては、デジタルワールドを旅していた時の事を思い出していて、少し懐かしむ様子を見せていた。

 

 

「そう言えば、あなたの名前は?」

「パ…パタモンです…」

「パタモンね! あたしこころ! そしてこっちにいるのは、美咲にはぐみ、それに薫に花音よ」

「ど…どうも…」

「宜しくね、パタモン!」

「あぁ…儚いねぇ…」

「よ…宜しくね…」

「う…うん…」

「それと彼処にいるのは、有咲とワームモンとつくしよ」

「こ、こんにちは…」

「こんにちは。 ワームモンです」

「こっちこそ宜しくな」

 

 

パタモンに簡単な自己紹介をした後、こころが問い掛ける。

 

 

「ところでパタモンは、どうしてこの公園にいたのかしら?」

「うん…。僕がデジモンワールドを飛んでいた時に、急に目の前に真っ黒な丸い形の穴が現れて…気が付いたらこの場所にいたの…」

「あーちゃん、『真っ黒な丸い形の穴』って…」

「間違い無く『デジモンゲート』だな」

 

 

話を聞いた有咲とワームモンは、『真っ黒な丸い形の穴』の正体とパタモンの状況を代々察した。

 

 

(一体デジタルワールドで何が起きているんだ…?)

 

 

有咲は内心で疑問の様子を見せていた。

 

 

――ドオオォン!!

 

 

「ふぇ!?」

「な、何!?」

 

 

突然の地響きに花音と美咲が困惑した様子を見せると、不意に周りが暗くなったので上を見上げると其処には、巨大な青い体色の恐竜の姿がいた。

 

 

「「「「キャアアアア((ウワアアアア))――!!」」」」

「凄いわ! 今度は恐竜さんが出て来たわ!」

「あぁ…今日は何て儚い急展開が続く日何だろうか…」

「おーい恐竜さーん! どうしたのー?」

 

 

突然現れた青い恐竜に対して、花音と美咲とパタモンは悲鳴を上げ、こころと薫とはぐみ(美咲曰わく『ハロハピの3バカ』)の3人は、それぞれ何時もの様に個性的な反応を見せていた(最も薫に関しては、若干青ざめた様子を見せているが)。

 

 

「アイツは……!」

 

 

有咲は自身のDアークで、相手のの情報を調べる。

 

 

「アロモン。 アーマー体。 恐竜型。 必殺技は超高熱の熱風を吐き出す『ディノバースト』…!」

「ハロハピの皆さーん! 早く逃げましょう!」

 

 

つくしは状況を見て、慌ててこころ達に呼び掛ける。

 

 

「貴方もデジモンさんね! そんなに怖い顔をしてたら良くないわ! ほら、笑顔になりましょう♪」

「ちょっとこころ!?」

「「こころちゃん(先輩)!?」」

 

 

しかし、こころはアロモンの攻撃的な姿勢も意に介さずに尚も語り掛け、その様子に美咲と花音とつくしは、唖然とした様子を見せていた。

 

 

「ギャオオオオオ――――!!」

 

 

しかしアロモンは叫び声を上げながら巨大な顎を開き、こころに迫ろうとした。

 

 

誰もが最悪の光景を想像し、目を瞑る。

 

 

 

 

「ムーンシューター!」

 

 

 

 

次の瞬間、一発の光弾がアロモンに命中した。

 

 

「グオオオ…!」

「大丈夫か?」

 

 

ハロハピの声の聞こえた方向を振り向くと、其処にはスティングモンの姿があった。

 

 

「ま…間に合った…」

 

 

有咲の口から焦りと安堵の混じった様子の声が出た。

 

 

「グオオオオオ――!!」

 

 

アロモンは先程のスティングモンの一撃に余程御立腹だったらしく、一層怒りの籠った様子で雄叫びを叫んだ。

 

 

「スティングモン!」

「ああ。 ムーン…!」

 

 

「ダメよ!!」

 

 

その時、こころが両者の真ん中に立ち塞がった。

 

 

「「「「「こころ(ちゃん)(こころん)(先輩)!?」」」」」

 

 

こころの突然の行動にハロハピのメンバーとつくしが驚愕の声を上げた。

 

 

「弦巻さん…」

「この子はまだ何も悪い事はしていないわ!! 幾らデジモンだからって、見た目だけで判断して攻撃するなんて……そんなのとっても可哀想よ!!」

 

 

そう言ってこころは再度アロモンの方を向く。

 

 

「大丈夫よ。 此処には貴方を傷付けようとする物や人は存在しないわ。 だから落ち着いて頂戴…」

「グオオオオオ――!!」

 

 

しかしこころの言葉に意を介さず、アロモンは口から超高熱の熱風を吐き出した。

 

 

「「「「「こころ(ちゃん)(こころん)(先輩)!!」」」」」

 

 

ハロハピの面々とつくしは目の前の光景に叫び声を上げ、こころを庇おうとスティングモンが飛び出そうとする。

 

 

 

 

「ウワアアアアアア―――!!」

 

 

 

 

その時、小さな何かが誰よりも一早くこころの下に向かって行き、彼女に向かって体当たりをした。

 

 

それによって、アロモンが放った熱風は当たる事無く通り過ぎた。

 

 

「あれは…」

「ハァ…ハァ…」

 

 

有咲が視線を向けた先には、パタモンとこころの姿があった。

 

 

「パタモン…大丈…」

 

 

「馬鹿!」

 

 

突然、こころの言葉を遮ってパタモンが怒鳴った。

 

 

「馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!! どうしてあんな危険な事したの!? 一歩間に合わなかったら死んでいたかもしれないんだよ!」

 

 

こころは突然怒鳴りだしたパタモンを、ただ茫然とした様子で見ていた。

 

 

「まだほんの少ししか経っていないけど……それでも僕はこの世界で初めて出来た『友達』が危険な目に遭うのは嫌なんだよ!」

 

 

2人の間を沈黙した空気が流れる。

 

 

「パタモン」

 

 

暫くしてこころが口を開く。

 

 

そしてパタモン自身も、不意に温もりを感じる。

 

 

「ごめんなさい。 そして……有り難う」

 

 

 

 

「ギャオオオ――!」

 

 

 

 

大声の聞こえた方を向くと、アロモンが先程以上に怒りの籠もった雄叫びを上げながら、此方を睨み付けていた。

 

 

「そうだったわ。 この子を笑顔にしないとね」

「こころ……」

「勿論、私1人だけじゃないわ。 ……パタモン、若しあなたさえ良ければ……アタシと一緒に、世界に笑顔を届ける冒険をしないかしら?」

「こころ……僕はまだ『世界に笑顔を届ける』って言うのが良く分からない部分もあるけど……それでも僕は……こころの願いを……一緒に叶えて行きたい!」

 

 

パタモンはこころの問い掛けに、自分の正直な想いをはっきりと答える。

 

 

「……有り難う、パタモン。 一緒に世界に笑顔を届けましょう!」

「うん!」

 

 

その時、こころとパタモンの目の前に、白い光の球体が出現し、こころが手を伸ばして取ると、白い光の球体は――レモンイエローの縁取りのDアークへと変化したのだった。

 

 

「あれって…デジヴァイス?」

「それじゃあ、パタモンがこころんのパートナーって事?」

「ふ…ふえぇ…」

「人間とパートナーデジモンの絆の象徴である『デジヴァイス』……あぁ、儚いね……」

 

 

美咲を筆頭にハロハピメンバーは目の前の光景に対し、それぞれ思い思いの反応を見せる。

 

 

「弦巻さん。 1つ聞いていいか?」

 

 

すると様子を見ていた有咲がスティングモンと共に近付き、こころに問い掛ける。

 

 

「弦巻さんは、デジモン達に対してもハロハピのライブの時の様に『笑顔を届ける』と言う主旨を言ったよな?

私達人間の様に、デジモン達だって全員が私のワームモンや弦巻さんのパタモンみたいな穏やかな奴だけじゃねえ。 中には今のアロモンやこの前の『記念ライブ』の時の奴等みたいに凶暴な性格の奴だっている。

そんな奴らを前にしても弦巻さんは、『デジモン達に笑顔を届けたい』と思っているのか?」

「有咲……確かに貴女の言っている事も全く理解出来ない訳でも無いわ。 ……でも、見た目や姿だけで『悪いデジモン』って決める偏見的な考え方、アタシには出来ないわ。 アタシは……『デジモンの皆にも笑顔を届けたい』。 例え周りから何百回も何千回も嘲笑されたり、裏切られ様としても……この考えや想いを捨てる気は無いわ」

 

 

こころは優しい雰囲気を出しつつも、普段の様子からは考えられ無い程、真剣な眼差しで有咲の問い掛けに答える。

 

 

「……それが弦巻さんの決意か……」

 

 

有咲は納得した様子を見せる。

 

 

「グオオオオオオ――!」

 

 

叫び声の方向を向くと、アロモンが先程と変わらず攻撃的な様子で此方を見ていた。

 

 

「弦巻さん。 他の皆は私とスティングモンに任せて、思う様に動いてくれ」

「分かったわ有咲」

 

 

そして、こころはパタモンと共にアロモンの前に立つ。

 

 

「行くわよパタモン!」

「任せてこころ!」

 

 

 

 

――EVOLUTION

 

 

 

 

「パタモン進化!!」

 

 

Dアークからの光を浴びたパタモンは、その身を変化させる。

 

 

哺乳類の様な姿から人型に変化し、やがて光が消滅すると、其処には背中に光り輝く6枚の翼を生やし、神々しいまでの純白の衣を身に纏った天使がいた。

 

 

「エンジェモン!」

 

 

「まぁ! パタモンは天使さんだったのね!」

「ははは…。 アンタの臆さず堂々といられるその姿勢には、見ているこっちも改めて感服させられちゃうよ…」

「エンジェモン。 成熟期。 天使型。 ワクチン種。 必殺技は『ヘブンズナックル』…」

 

 

エンジェモンの姿を見たこころはまるで新しい玩具を見付けた子供の様に燥ぎ、美咲はそんなこころの様子に半分呆れた様な様子を見せ、有咲は自身のディーアークでエンジェモンの情報を調べる。

 

 

「グオオオオオオ――!」

「フッ!」

 

 

アロモンは頭部を前に倒して水平の姿勢を取り、そのまま突進をしてくるが、エンジェモンはこころを抱き抱えてそのまま同じく有咲とつくしを抱えたスティングモンと共に、空中へと回避し、そのまま美咲達のいる所に着地し、こころを下ろした。

 

 

「大丈夫だった、こころ?」

「ええ。 平気よ」

 

 

こころの安全を確認したエンジェモンは、そのまま再度アロモンに向き合う。

 

 

「グオオオオオオ――!」

 

 

するとアロモンは口から超高熱の熱風『ディノバースト』を吐き出す。

 

 

「こころには指一本触れさせはしない! ゴッドタイフーン!」

 

 

エンジェモンは自身の持っている『ホーリーロッド』の中央部を握ってプロペラ状に高速回転させ、其処から金色の竜巻を発生させてアロモンの熱風を相殺した。

 

 

「グォ!? グゥ…」

 

 

アロモンはその様子を見て動揺し、動きが少し鈍ってしまう。

 

 

「ハァアアアーー!」

 

 

エンジェモンはそこから瞬時にアロモンに近付き、『ホーリーロッド』による突きの連続攻撃を浴びせる。

 

 

「グオオ…」

「行くぞ…」

 

 

頃合いを見たエンジェモンは自身の拳に聖なる力を集める。

 

 

「ヘブンズナックル!!」

「グオオオオオオ――!」

 

 

そしてエンジェモンは黄金に輝く拳から強力な聖なる光束を放ち、それを喰らったアロモンは苦痛の声を上げながら吹っ飛ばされた。

 

 

「グウゥ……」

「まだやると言うのなら、今度は容赦しない」

 

 

そう言ってエンジェモンは再度拳に聖なる力を集め様とする。

 

 

 

 

「待って!!」

 

 

 

 

その時、こころが制止の声を上げる。

 

 

 

 

「こころ?」

「この子は何も悪くないわ。 いきなり知らない場所に来てしまって、興奮していただけなのよ。 だから倒すなんて可哀想よ」

「…分かった」

 

 

するとエンジェモンは両手に聖なる力を集めて、そのまま斜め上に揚げた。

 

 

「ホーリーレクト!」

 

 

そして其処からアロモンに右の手のひらを前に突き出して、先程集めた聖なる力を浴びせる。

 

 

「グウウウゥ…グオ?」

 

 

すると聖なる力を浴びたアロモンは、先程と違い大人しい様子でキョトンとした様子を見せていた。

 

 

「凄い…さっきまであんなに凶暴だったのに、今はあんなに大人しくなっている」

「あの光…優しくてとっても温かい」

「とても儚いね…」

「はぐみもあの光を見てたら、何だか元気になって来たよ!」

 

 

先程エンジェモンの放った聖なる力を見たハロハピの面々は、思い思いの言葉を発する。

 

 

「有咲先輩…私、今の様子を見てたら、ハロハピの『世界を笑顔に』って言うコンセプトに懸ける弦巻さんの強い想いが、少しだけ分かった様な気がします…」

「あーちゃん…僕も感じたよ。 あの子の強い想い…」

「そっか…御疲れ様、ワームモン」

 

 

つくしもポツリと呟き、有咲も退化したワームモンを抱き抱え、優しく頭を撫でた。

 

 

 

 

その後アロモンは弦巻家の黒服達と事情を知ったまりなさんの協力によって、『CiRCLE』の電脳空間に作られたデジモンの保護施設に送り届けられたのだった。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

「さぁみんな、今日のライブも皆に笑顔を届けられる様に頑張りましょう!」

 

 

数日後。

 

 

ハロハピの面々は幼稚園のイベントにゲストライブの為に参加していた。

 

 

「あぁ…今日は最高に儚い程の気持ち良い日だね…」

「えへへ。 はぐみも一生懸命頑張って行くよ!」

「ふ…ふぇぇ」

「花音さん、落ち着いて下さい」

 

 

こころの掛け声に、他の4人もそれぞれの反応を返す。

 

 

「それじゃあ、行くわよ!!」

「「「「ああ(((うん)))!!」

 

 

そして5人はステージへと向かって行った。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

「これがハロハピのライブか……」

 

 

ステージ裏の目立たない所からこころ達のライブを見ていたパタモンが呟く。

 

 

パタモン自身、ガールズバンドに関してはまだまだ分からない事だらけである。

 

 

「…皆、とっても楽しそう」

 

 

けれど、こころ達のライブを見ている幼稚園の子達の笑顔を見ていて、自分も楽しそうな気持ちになっているのが分かる。

 

 

(こころ……出会ってまだ少ししか経っていないけど……これから宜しくね)

 

 

パタモンは内心そう呟きながら、ライブを観賞するのだった。

 

 

 

 

その頃、幼稚園のグラウンドの草木の茂みの中から、こっそりハロハピのライブを見ている小さな影があった。

 

 

(彼奴…)

 

 

その小さな影の視点はステージ――厳密に言えば、ステージに立つピンク色の熊――ミッシェルを見ていた。

 

 

(デジモンなのに、人間と一緒に音楽をやっている…。 きっと良い人間に出会ったんだな…。 決めた。 オイラもあの人間達とコミュニケーションを取ろう)

 

 

その決心すると、その小さな影は周りに気付かれない様にその場を後に去って行くのだった。




以上、ハロハピ編前編でした。


因みにこころとエンジェモンの戦闘のイメージは『ウルトラマンコスモス』を意識した感じになっていて、これはこの作品を書く時から決めていました(元々こころにパートナーデジモンを付けるのを考えた時に、『こころって、絶対に無暗矢鱈にデジモンを殺傷はしないだろうな』と言う考えがあったので)。
その為、こころとパタモンの戦いは『コスモス』同様、余程の事(具体的には、相手が同情の余地が無い程凶悪&邪悪な場合・相手をこらしめて戦意喪失させる為)が無い限りは、基本的は『デジモンをむやみやたらと殺傷せず鎮める』と言う感じです。


作中での有咲のこころに対しての問い掛けのやり取りは、元々私自身がこの作品においてのこころの考えに対しての疑問を有咲に代弁させた感じの意味合いも含まれています。


それでは何時も通り、今回登場したデジモンの紹介しておきます。
尚、紹介するデジモンの内の1体は今現在本編には登場していませんが、関係性的な立ち位置の意味合いを込めて紹介しておきます(一応分かり易いように、(※)マークが付いています)。




パタモン イメージCV:照井春佳さん(代表作『勇者であるシリーズ』 結城友奈・高嶋友奈・赤嶺友奈・芙蓉・リリエンソール・友奈、『未確認で進行形』夜ノ森小紅、『アイドルマスターシンデレラガールズ』櫻井桃華)

レベル:成長期
タイプ:哺乳類型
属性:データ

今作におけるこころのパートナーデジモン。
ハロハピにおいては美咲と同様ツッコミ役かつ苦労人ポジでもある。
大きな耳が特徴的な哺乳類型デジモンで、この大きな羽を使って空を飛ぶことができるが、時速1kmのスピードしか出ないため、歩いたほうが断然に早いと言われている。
しかし、必死になって飛んでいる姿が可愛いので人気は高い(本人は納得していないらしい)。
とても素直な性格で教えた事はよく守り、ホーリーリングを身に着けなくても、秘められた聖なる力を発揮することが出来、古代種デジモンの遺伝子を受け継いでいるらしい。
必殺技は空気を吸い込んで一気に空気弾を吐き出す『エアショット』と大きな両耳で敵を叩く『ハネビンタ』。


エンジェモン

世代:成熟期
タイプ:天使型
属性:ワクチン

こころのパタモンの成熟期。
光り輝く6枚の翼と、神々しいまでの純白の衣を身に纏った天使デジモン。
完全なる善の存在であり、幸福をもたらすデジモンと呼ばれているが、悪に対しては非常に冷徹で完全に相手が消滅するまで、攻撃を止めることはない。
デジタルワールドが幾度となく危機に見舞われた時、同種属のデジモンを率いて降臨したと伝えられており、ダークサイドに引き込まれたデビモンも、もともとは同種族であった。
必殺技は黄金に輝く拳で相手を攻撃する『ヘブンズナックル』


アロモン

世代:アーマー体
タイプ:恐竜型
属性:フリー

ホークモンが勇気のデジメンタルでアーマー進化した恐竜型デジモン。
恐竜型デジモンの中でもとりわけ凶暴で、同じ恐竜型のティラノモンとは敵対関係にある。
強靭な脚力を持っており、頭部を前に倒して水平の姿勢をとることで、猛スピードで走り抜けることができるのもアロモンの特徴である。
必殺技は、超高熱の熱風を吐き出す『ディノバースト』。


(※)アロモン(X抗体)

世代:成熟期
タイプ:恐竜型
属性:データ

■X抗体によるアロモンのデジコアへの影響
脚力がさらに発達し、大型のデジモンではあるが、小型デジモン並の俊敏性を身に付けている。
走るスピードも増したが、この大型のアロモンが飛翔し、飛び掛って敵を捕らえる姿を見たデジモンも多いと言われている。
閃光の如く瞬間的に口から放つ超高熱の熱風『ディノフラッシュ』という新たな必殺技を身に付けたのは、自らの俊敏な体に適応した結果である。


オリジナル設定解説

・ホーリーレクト

こころのエンジェモンが使用する本作のオリジナル技。
両手を斜め上に揚げた後、右の手のひらを前に突き出して放つ聖なる力の光で相手の感情を静めて大人しくさせる効果を持つ。
技のモデルは、『コスモス』のルナモードの技である『フルムーンレクト』。


P.S 活動報告の方に、私自身が考えた『思い付きネタ』を投稿しましたので、其方の方も宜しく御願い致します。


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第9話 熊とミミックと常識人な新テイマー

更新が遅くなってしまって、本当に申し訳ありませんでした。
美咲がメインのハロハピ編、後編になります。
サブタイトルで登場するデジモンが丸分かりな点は……御手柔らかに御願い致します。


そう言えば、春アニメが始まってもう一ヶ月が経ちますね。
因みに私が今期で見ている(&見た)アニメ(&関連系のTV番組)は、


・『バンドリ 5周年記念アニメ』
・『アニガサキ(2期)』
・『ヒーラー・ガール』
・『RPG不動産』
・『骸骨騎士様、只今異世界へお出掛け中』
・『まちカドまぞく 2丁目』
・『D4DJ マ・マ・マ・Merm4id!』


と言った感じです(これら以外だと『ULTRAMAN シーズン2』が気になっているのですが『Netflix』を契約していない為、全く見れないと言う状況です)……。


それと活動報告の方でまた思い付きネタを投稿しましたので、若し御時間がありましたら、其方の方も何卒宜しく御願い致します。


 

 

「皆~! 今日も元気かな~?」

 

 

ある日の商店街。

 

 

1匹のピンクの熊が愛嬌のある声で呼び掛ける。

 

 

「ミッシェルだ!」

「ミッシェル~! 握手して~!」

 

 

ミッシェルと呼ばれるピンクの熊の声に反応した子供達が、続々と寄って来る。

 

 

「は~い! 皆順番に握手してあげるから仲良くしてね~!」

 

 

そう言って、ミッシェルは優しく丁寧な姿勢で、子供達と握手をしていった。

 

 

「あ、あの…ミッシェルさん!」

 

 

唐突に声を掛けられたので、後ろを振り向くと、其処にはましろ、そして彼女の隣には眼鏡を掛けた大人しそうな見た目の少女――朝日六花(通称ロック)の姿があった。

 

 

「…やぁ! 君も僕と握手をしたいのかな?」

 

 

ミッシェル――もといミッシェルに扮している美咲は直ぐに気を取り直して、何時も通りの様な形式でましろに応対する。

 

 

「はい! 宜しく御願いします!」

 

 

ましろは嬉しそうな様子でミッシェルとの握手会に参加する。

 

 

『この商店街におけるミッシェルの『人気者』ぶりの大きさには……本当に驚かされるな……』

 

 

ましろのDアークの中にいるハックモンは商店街のミッシェルの人気者ぶりの大きさに驚きの様子を見せながら、ましろとミッシェル(美咲)のやり取りを見ていた。

 

 

その後も商店街でのミッシェルとの『握手会』のイベントは、特に問題も無く無事に成功に終わったのであった。

 

 

だが美咲自身、全く気付いていなかった。

 

 

 

 

イベントの時から、自分の事を見ている小さな影がいた事を――――。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

「ふぅ……いやぁ、本当に子供って元気だよなぁ~」

 

 

イベント終了後、美咲は控え室で1人呟く。

 

 

(そう言えばこの子(ミッシェル)とも……出会ってもう1年も経つんだよな…)

 

 

今思い返して見れば、本当に驚きの連続だった。

 

 

去年の1年生の春、『高額料金』と言う項目に惹かれ、そこから軽い気持ちでこの着ぐるみバイトを受け、そこからこころに出会い、半ば強引な形でハロハピに加入した。

 

 

初めは、こころを筆頭にした各メンバーの破天荒な言動などに気苦労の毎日で滅入る事が多かったけど、今では気苦労が絶えないながらも、逆そんな毎日が不思議と楽しいと思える自分がいる。

 

 

若しあの時、このバイトを受けなかったら、自分の高校生ライフは、今とは360º違った物になっていたのかもしれない。

 

 

美咲はそう思いながら、この一年間を振り返っていた。

 

 

 

 

「おーい。 おい、聞こえるか?」

 

 

 

 

不意に美咲しかいない控え室に、見知らぬ声が響く。

 

 

美咲が声のした方向を振り向く。

 

 

「よっ」

 

 

其処にいたのは、後ろ向きに帽子を被った黒い熊だった。

 

 

「ウェアアアア!?」

 

 

美咲は思わず素っ頓狂な声を上げた。

 

 

「なぁ……」

「な…何でしょうか?」

 

 

美咲は思わず身構える。

 

 

「お前……」

 

 

2匹の熊の間に、沈黙が流れた。

 

 

「若しかしてお前…オイラの仲間なのか?」

「はい!?」

「その見た目……オイラには分かるぞ。 お前もオイラと同じでこの世界に迷い込んじゃったクチ何だろ? いやぁ、この世界に来て早二週間、オイラ嬉しくって……嬉しくって……ウッウッウッウ(つд`)」

(あ――……若干ベクトルの違いはあるけど……このデジモン、こころ達と同じタイプの雰囲気を感じるなぁ……)

 

 

美咲自身、相手の正体がデジモンである事と同時に、こころやはぐみに似た雰囲気の物を内心で感じ取っていた。

 

 

「大丈夫ですか!?」

 

 

その時控え室のドアが開き、ましろがハックモンとロックを連れて入ってきた。

 

 

「倉田さん…。 ハックモンに朝日さんも…」

「何だお前ら? 話の途中の割り込みは良くないんだぞ!」

「ひぃ!? あの熊さん、本物な上に人の言葉を喋っておる!? ましろちゃんの白い恐竜さんと言い、『東京』って魔境か何ぞなの!?」

 

 

混乱するロックをよそに、ましろは自身のディーアークで相手の情報を調べる。

 

 

「ベアモン。 成長期。 獣型。 ワクチン種。 必殺技は『小熊正拳突き』…」

「邪魔するなら容赦しないぞ! 小熊正拳突き!」

 

 

ましろたちを敵と認識したベアモンは、自身の拳を打ち込もうと飛び掛かって来る。

 

 

「危ない! フィフスラッシュ!」

 

 

ハックモンが咄嗟に自身の強靭の爪による攻撃をベアモンの拳にぶつける。

 

 

数秒の拮抗の後、両社はいったん距離を取った。

 

 

「お前中々やるな! 次は…「スト――ップ!」何だよ急に?」

「いや此処控え室だから! こんな所で暴れたら迷惑が掛かるでしょ!」

「美咲の言う通りだ。 此処で私達が争っても何の意味も無い」

「…分かったよ。 ごめん」

 

 

美咲とハックモンの言葉を聞いたベアモンは直ぐに落ち着きを見せ、謝罪の言葉を述べた。

 

 

「ふぅ…良かった~」

 

 

ましろもその様子を見て、安堵の声を出す。

 

 

「あははは……熊や恐竜が普通におる辺り……やっぱ東京って……岐阜よりも進歩しておるんだなぁ……」

 

 

後ろを振り返ると、ロックが先程から光景による衝撃に脳内がパニックになっているのか、混乱した様子を見せていた。

 

 

「これ…説明しないといけないよね…」

「その様だな…」

 

 

ましろとハックモンは互いに顔を見合わせて呟いた。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

「デジモン……そんな生き物がいる何て……しかも、ここの所の怪獣騒ぎもその『デジモン』達の仕業……」

 

 

あの後、如何にか落ち着いたロックは、ましろとハックモンからデジモンの事に関して説明をされ、状況を理解した。

 

 

「まぁ、あたしもついこの間まで全く知らなかったから、朝日さんがそんな気持ちを抱くのも分かるよ……」

 

 

美咲(勿論、ミッシェルの格好は解いている)も今のロックの様子にデジモンと出会ったばかりの頃の自分を重ね合わせたのか、同意の姿勢を見せる。

 

 

「そうそう。 オイラだって人間界に来た頃は、右も左も全く分からない状態で苦労したもんよ」

「アンタは何しれっと会話に混ざってんのさ……」

「まぁまぁ、『同じ釜の飯を食った熊』だし、其処は目を瞑ってよ」

「いや、あたし達出会ってまだ1時間しか経ってないし、それ以前に同じ釜の飯も食べてないから!」

 

 

美咲のツッコミが、普通に会話に混ざるベアモンに入る。

 

 

「ハックモン……どう思う?」

「ふむ……今の所、見た感じでは悪意は感じられ無いが……」

「そうだよね……。 それにしても……」

「ああ……」

 

 

『行くわよ美咲!』

『ちょっ……待ってよこころ!』

 

 

((妙なデジャヴを感じるのは、気のせいなの(かな)(だろうか)……?))

 

 

美咲とベアモンの様子を見ていたましろとハックモンは、妙なデジャヴを感じていた。

 

 

「それにしても、ベアモンは?」

「そうだね……取り敢えず……」

「オイラ、美咲ん家行くよ!」

 

 

ましろの言葉が終わらない内に、ベアモンは即答で美咲の所に行く事を告げる。

 

 

「ちょっ……いきなりそんな事言われても……」

「そんな寂しい事言わないでくれよ~……。 『袖摺り合うも多生の熊』って言うじゃないか~……」

 

 

ベアモンは寂しそうな感じで、美咲に訴え掛ける。

 

 

「ええ……」

「大丈夫。 オイラの『熊力(くまりょく)』に誓って、迷惑は掛けないからなぁ~」

「いや『熊力』って何!? ……はぁ~、分かったよ。 但し絶対に家では大人しくしている事! これだけは守ってよ!」

「応! オイラの『熊力』に掛けて守るぜ!」

 

 

美咲はツッコミを入れつつ、ベアモンのうるうるとした表情を見て、溜め息を吐きつつも了承するのだった。

 

 

「えっ……でも、若し美咲さんに何かあったら……」

「いやぁ……この子、見た感じ悪い子じゃなさそうだし……それに……いや、何でもないよ」

 

 

美咲は何か言い掛け様としてが、直ぐに止めた。

 

 

「美咲さん?」

「大丈夫だよ倉田さん」

「……分かりました。 そう言うのでしたら、美咲さんにお任せします」

 

 

美咲の様子を見て、ましろの方も彼女にベアモンの事を任せる事を決めた。

 

 

「それじゃあ、美咲の家へ……レッツゴーだ!」

 

 

ベアモンは楽しげな様子で歩き出した。

 

 

「ちょっと! あたしの家はあっちだから! あーもうっ!」

 

 

美咲は慌ててベアモンを追い掛けて行った。

 

 

「ましろ。 私達もそろそろ家に帰ろう」

「うん……そうだね。 ロックちゃん、それじゃあまたね」

「えっ、う…うん」

 

 

そしてましろとハックモンも、ロックに別れを告げて帰路に向かった。

 

 

(『デジモン』…か)

 

 

ロックはましろとハックモンの姿を暫く眺めながら、内心で『デジモン』の事に付いて考えていたのだった。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

「はぁ~、漸く落ち着いてきた…」

「大丈夫美咲? 蜂蜜でも食べるかい?」

「いや……今は蜂蜜は……ちょっと……」

「あはは…美咲ちゃん、相当疲れているみたいだね…」

「昨日ベアモンが家に来てから、色々と賑やかだった物でして……」

 

 

美咲の様子を見ていた花音が、彼女の苦労を察して苦笑いを浮かべている。

 

 

「ハックモン……」

『ましろ、私も今同じ事を考えていた処だ』

 

 

一方でましろとハックモンは何かを察した様子で、美咲とベアモンのやり取りを見ていた。

 

 

「何と言うか……ベアモンは約束した通り大人しくしていたんですけど……あたしが『ミッシェルの友達』って紹介した所為もあって、妹と弟がかなり喜んでしまって……その後、『ベアモンと一緒に寝たい!』と言われたりして、結構な賑わいだったんです……」

「オイラ、ミッシェルの人気振りが、昨日の様子で全身に染み付いちまう程理解したよ……」

 

 

口で苦労した風な事を言いつつも、ベアモン自身の表情は満更そんな様子も無く、寧ろ楽しそうであった。

 

 

 

 

『! 皆避けるんだ!』

 

 

 

 

その時何かに気付いたハックモンの鋭い声が響き、皆が慌てて移動すると、先程まで居座っていたベンチに紫色の光線が命中し、ベンチを破壊した。

 

 

「ふえぇぇぇ!?」

「ちょっと、何なのいきなり!?」

「! 見て下さい!」

 

 

花音と美咲は突然の事に混乱しながらも、ましろの言葉で光線の来た方向を見る。

 

 

「ミミッ……ミミミ……」

 

 

其処には左腕に銃を装備し、目をギョロギョロと動かしている檻の様な見た目の異形の姿があった。

 

 

「あれって…若しかしてデジモン?」

 

 

美咲が相手の正体に気付き、ましろは自身のディーアークで相手のデジモンの情報を調べる。

 

 

「ミミックモン。 成熟期。 突然変異型デジモン。 ウィルス種。 必殺技は『ヒンダーマイアズマ』と『デッドショット』……」

「ミミミ……」

「くっ…ベビーフレイム!」

 

 

するとミミックモンは再び左腕の銃――『デッドショット』から光線を放つも、ハックモンは咄嗟に口から火球を放って相殺する。

 

 

「ティーンラム!」

 

 

そして即座に尻尾をドリルのように回転させて、ミミックモンに突っ込む。

 

 

「ミミミ――!!」

 

 

するとミミックモンは、ハックモンに対して霧を吐き出した。

 

 

「グアア…!!」

「ハックモン!」

 

 

ミミックモンの霧を真正面から受けたハックモンは、苦痛の声を挙げながらその場に倒れた。

 

 

「ミミミ……トモダチ……ミミミ」

 

 

ミミックモンはそのままハックモンの方へと近付いて行く。

 

 

 

 

「小熊正拳突き!」

「ミミッ……!」

 

 

 

 

その時、小さな影がミミックモンに一撃を浴びせ、そのままミミックモンは吹っ飛ばされた。

 

 

「今のは…?」

「大丈夫か?」

 

 

小さな影の正体であるベアモンが声を掛ける。

 

 

「ミミミミ! ミミミミ!」

「止めろ! これ以上やるなら、オイラが相手になってやるぞ!」

「ミミミ――!」

 

 

ミミックモンは再度左腕の銃から光線を放ってくるが、ベアモンはそれを避けるとダッシュでミミックモンに近付いて行く。

 

 

「ミミ……」

「同じ手は喰わないぞ!」

「ミッ……!」

「エエェェイ!」

「ミミミミ―!」

 

 

そして再び『ヒンダーマイアズマ』を放とうとするミミックモンに対し、片手で砂を掛けて視界を塞ぎ、其処に体当たりを浴びせて吹っ飛ばした。

 

 

「見たか! オイラの『熊力』!」

「す、凄い……」

「……初めての戦闘とは言え……成熟期のデジモン相手に彼処まで戦える何て……」

 

 

ベアモンの戦いぶりを見ていたましろとハックモンは、その様子に驚いていた。

 

 

「ミミッ……!」

 

 

その時、ミミックモンの動きに気付いた美咲がベアモンの下に駆け出す。

 

 

「ミミ――!」

「! 危ない!」

 

 

美咲はそのままベアモンを抱きしめ、ミミックモンの攻撃を間一髪で回避した。

 

 

「美咲!」

「ま……間に合った……ウッ!」

「美咲ちゃん、血が……!」

 

 

美咲の左袖の肩の部分から少量の血が出ている事に気付いた花音が声を挙げる。

 

 

「美咲……」

「大丈夫……。 少し掠っただけだから……」

「何で……何でこんな無茶を!」

 

 

ベアモンの問い掛けに、美咲は暫くして答える。

 

 

「…似ているんだ」

「へっ?」

「アンタを見ているとね……あたしの大切な子の事が頭に浮かぶんだ」

「大切な子……?」

「無邪気で好奇心旺盛でいつも目をキラキラ輝かせていて……だけど人の事を良く見ていてね……。 特にあたしの事何か……ほぼ的確に言い当てていて、その度にドキッとしていた」

「美咲さん……」

「美咲ちゃん……」

 

 

ましろと花音は美咲の言っている『大切な子』が誰なのか察し、ハックモンと共に静かに見守っていた。

 

 

「…最初は無理矢理付き合わされて…はっきり言って内心迷惑って思っていたけど、一緒に過ごしていく内に…花音さんやはぐみや薫さん、他のガールズバンドの皆と出会って、当たり前の毎日が不思議と楽しいと思える様になって…その子に感謝しているんだ」

 

 

美咲の話をベアモンは黙って聞いている。

 

 

「そして…その子がこの前今みたいにデジモンに襲われそうになった時に言ったんだ」

 

 

『確かに貴女の言っている事も全く理解出来ない訳でも無いわ。 ……でも、見た目や姿だけで『悪いデジモン』って決める偏見的な考え方、アタシには出来ないわ。 アタシは……『デジモンの皆にも笑顔を届けたい』。 例え周りから何百回も何千回も嘲笑されたり、裏切られ様としても……この考えや想いを捨てる気は無いわ』

 

 

「それを聞いた時のその子の様子を見たら…あたしもその子の想いを一緒に叶えたいって、内心思ったんだ…ははは、あたしって変なのかな?」

「……そんな事ない。 オイラ、美咲と出会ってまだ短いけど、美咲がとっても優しくて、誰かの笑顔の為に一生懸命になれる奴だって言うのが充分伝わっているよ。 だから……オイラも美咲と一緒に、『その子の想い』を叶える手伝いをさせてよ!」

「ベアモン……」

 

 

その時、美咲とベアモンの目の前に白い光の球体が出現した。

 

 

「これは……」

 

 

美咲が白い光の球体に手を伸ばすと、その光の球体は――マドンナブルーのボディとマゼンタの縁取りのディーアークへと変化した。

 

 

「あれって、こころちゃんの時と同じ……。 それじゃあ、ベアモンが美咲ちゃんのパートナー……」

 

 

 

 

「ミミミミ――!」

 

 

 

 

叫び声を聞いた美咲とベアモンが振り返ると、ミミックモンが興奮した様子で此方を睨んでいた。

 

 

「……行くよベアモン!」

「うん! オイラ達の熊力、アイツに見せてやろう!」

 

 

 

 

――EVOLUTION

 

 

 

 

「ベアモン進化!!」

 

 

Dアークからの光を浴びたベアモンは、その身を変化させる。

 

 

小柄だった体格は一回り大柄な物となり、光が消滅すると、其処には鋭い爪と牙を生やした精悍な顔付きのグリズリーの様な見た目のデジモンがいた。

 

 

「グリズモン!」

 

 

「これがベアモンの進化した姿…」

「グリズモン。 成熟期。 獣型。 ワクチン種。 必殺技は敵の攻撃の力を利用して、逆に急所をついて一撃で倒す大技『当身返し』……」

 

 

花音はグリズモンの姿を感嘆し、ましろは自身のディーアークでグリズモンの情報を調べる。

 

「乗って、美咲!」

「うん!」

「ミミミ――!」

「フッ!」

 

ミミックモンは左腕の『デッドショット』から光線を放つが、グリズモンは美咲を自身の背中の上に乗せると素早く回避し、そのまま安全な場所に美咲を降ろした。

 

 

「ミミ―!」

 

 

するとミミックモンは、霧を吐き出してきた。

 

 

「グリズモン!」

「ああ!」

 

 

美咲の言葉でグリズモンはジャンプして、ミミックモンの霧を回避した。

 

 

「凄い……美咲ちゃんとグリズモン、息がぴったり合ってる……」

「はい……出会ってまだ短いけど、美咲さんもグリズモンもお互いに深く信頼し合っている様子が強く伝わって来ます……」

 

 

花音とましろは、美咲とグリズモンの様子を見ながら呟く。

 

 

「ミミミ―――!」

 

 

ミミックモンは等々自棄を起こし、そのままグリズモンの方へ向かって行き、自身の右手を振り下ろそうとする。

 

 

「フッ!」

「ミミッ!?」

「当身返し!」

「ミミ―――!」

 

 

グリズモンはミミックモンの右手の攻撃を受け止めるとその力を利用して、逆にミミックモンの急所に大技を炸裂させて吹っ飛ばした。

 

 

そしてその様子を見たグリズモンは、ベアモンの姿に退化した。

 

 

「ベアモン!」

「やったな美咲!」

「うん……」

「美咲(ちゃん)(さん)!」

 

 

其処へ花音達が駆け付け、美咲達はミミックモンの方を見る。

 

 

「ミッ…ミッ…サミシイ……トモダチ……ホシイ……」

「あのデジモン……若しかして『友達』が欲しかったのかな?」

 

 

ミミックモンの様子を見た花音が呟き、美咲達も事情を察する。

 

 

「よし……」

「ベアモン?」

「お~い、ミミックモン!」

 

 

するとベアモンは徐にミミックモンに近付き、美咲も後を追う。

 

そしてベアモンはミミックモンに声を掛けた。

 

 

「ミミ?」

「お前の事情や気持ちは良く分かったよ。 けど、だからってあんな乱暴なやり方はダメだよ」

「ミミ……」

「もう2度とあんな事しないって約束出来る?」

「ミ……ミミッ!」

「よし! じゃあ、はい!」

「ミミ?」

「今日からオイラと美咲は、お前の『友達』だ! これはその『誓いの握手』だ!」

「ミミ!」

 

 

それを聞いたミミックモンは自身の右手で、差し出されたベアモンの手と握手した。

 

 

「ほら、美咲も……」

「もうっ……はい」

 

 

そして美咲も同じ様に手を差し出し、ミミックモンと握手を交わす。

 

 

「ミミミ!」

「ミミックモン……あんなに喜んでいる」

「あぁ……先程まで敵対していたのが、嘘の様みたいだ……」

 

 

ましろとハックモンは思い思いにその様子を見ていた。

 

 

 

 

そしてその後、ミミックモンは『CiRCLE』の電脳空間に作られたデジモンの保護施設に送り届けられたのだった。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

「さぁ、ハロハピ作戦会議よ!」

「あぁ! オイラの熊力、ハロハピのライブを盛り上がる作戦に喜んで力になるよ!」

 

 

弦巻家の一室にこころとベアモンの声が響く。

 

 

「こころとベアモン、すっかり意気投合してるね……」

「うん……何だかこころが2人に増えたみたい……」

「あははは……(こっちは逆に美咲ちゃんが2人になった感じがするなぁ)」

 

 

花音は美咲とパタモンを見ながら、苦笑いを浮かべた。

 

 

後日、美咲はこころ達3人にベアモンの事を紹介した。

 

 

特にこころはベアモンと意気投合し、美咲は内心『3馬鹿が4馬鹿になった』と思った。

 

 

(でも……不思議と悪く無いな……それに)

 

 

美咲はこころ達の方を眺めながら思う。

 

 

(……やっぱり……あたし、こころの事が……)

 

 

少し前からこころに抱いていた『密かな想い』を自覚する。

 

 

(まぁ……今は焦ってもしょうがないか……)

 

 

「美咲――!」

 

 

こころの声を聞いた美咲は、その意識を再び『ハロハピ作戦会議』の方に向けるのだった。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

「……はぁ~……」

 

 

此処はライブハウス『Galaxy』。

 

 

其処でバイトをしているロックは、カウンターの席に座って物思いに耽っていた。

 

 

(ましろちゃん……凄かったなぁ……)

 

 

あの時の様子を見たロックはましろが一瞬、自分が知っているましろとは別人に思えた。

 

 

そして彼女とハックモンの関係見た事と過去を聞いて、両者の深い関係を知った。

 

 

「デジモン……か」

「どうしたんだよ?」

「はひぃ!?」

 

 

突然聞こえた声に後ろを振り返ると、其処にはスケバン風の威圧的な外見をした金髪の少女――――この『Galaxy』のオーナーの娘である佐藤ますき(通称マスキング)がいた。

 

 

「ますきさん……」

「悪りぃ。 さっきからブツブツ言っている姿が気になっちまってな」

「いえ……此方こそすみません」

「調子悪いんなら、今日は休むか?」

「い、いえ! 何でもありません! と、取り敢えず掃除をして来ま――す!」

 

 

そう言ってロックはその場を離れた。

 

 

『アイツ…デジモンの事知っていたな』

 

 

不意にますきに別の声が語り掛け、彼女は懐から声の発信源である機械――――黒いボディと金色の縁取りのディーアークを取り出した。

 

 

「如何するつもりだよ?」

「……暫くは様子を見るしかねぇな……チュチュ達には、一応後で伝えておくわ……」

「……分かった」

 

 

その言葉を最後に、ますきは自身のDアークを再び懐に仕舞った。

 

 

(ロック……若しかしたら……いや、今は考えても仕方が無いか……)

 

 

そう思いながら、ますきはドラムの準備に取り掛かったのだった。




と言う訳でハロハピ編、之にて終了です。

因みに美咲のディーアークのカラーリングの色はそれぞれ、


・マドンナブルー→美咲のイメージカラー
・マゼンタ→ミッシェルのイメージカラー


を意識した物になっています。

そして今回の話でロックが漸く登場しました…。
先に申し上げますと、今作では『本家バンドリ』と違って、ロックのRASへの合流が若干早くなります。
そして色々フラグの様な物(?)がありましたが、これも今後の展開の伏線です。


それでは何時も通り、今回登場したデジモンの紹介しておきます。




ベアモン イメージCV:内山夕実さん(代表作『勇者であるシリーズ』犬吠埼風、『デジモンユニバース アプリモンスターズ』新海ハル、『きんいろモザイク』猪熊陽子、『魔法科高校の劣等生シリーズ』千葉エリカ)

レベル:成長期
タイプ:獣型
属性:ワクチン

今作における美咲のパートナーデジモン。
一人称は『オイラ』で『熊力(くまりょく)』と言う言葉が口癖。
ハロハピにおいてはこころやはぐみ、薫の3人に負けず劣らずの個性的な存在になっており、その様子は作中で美咲からも『3馬鹿が4馬鹿になった』と評されている。
因みに美咲に関しては、『『ミッシェル』の方が本来の姿で、美咲の姿はこの人間界で生きていく為に姿を変えている』と言う風に解釈している(ベアモン曰く『人間の姿になれるデジモンの話を聞いた事があるから』との事)。
また、美咲との関係の様子を周りから『姉弟(姉=美咲、弟=ベアモン)みたい』と評されている(尚、(中身的な意味で)デジャブ(&『美咲は妹なのでは?』と言うツッコミ)を感じるのは気のせいです)。

後ろ向きに被った帽子がトレードマークの小熊の姿をした獣型デジモン。
ちょっと臆病なところがあるが他のデジモンとすぐに仲良しになる。
しかし、一旦戦いが始まると、どんな攻撃を受けても戦い続ける並外れた体力と根性を持っており、とても頼りになる存在で、その体に秘めた格闘能力はとても強く、特にパンチの破壊力で自分のコブシを痛めないように革のベルトを巻いているほどである。
必殺技は相手の懐に飛び込み正拳突きを思いっ切り打ち込む『小熊正拳突き』。


グリズモン

レベル:成熟期
タイプ:獣型
属性:ワクチン

美咲のベアモンの成熟期。
明らかに大きな体、殺傷能力を秘めた牙と爪、見た目は凶暴だが正々堂々とした武闘家の精神を持った獣型デジモン。
体の割に素早く敵の攻撃を避けたり、受け流すなど、攻撃に頼らない抜群の格闘センスを持っている。
決してグリズモンから争いを起こすことは無いが、ひとたび怒らせると二足で立ち上がり重量級の前足「熊爪」を殴り落す。
この一撃だけで殆どのデジモンが致命傷を負うほどのパワーの持ち主でもあり、この「熊爪」を真似てワルもんざえもんが「ベアクロー」を装備しているらしい。
必殺技は敵の攻撃の力を利用して、逆に急所をついて一撃で倒す大技『当身返し』。


ミミックモン

レベル:成熟期
タイプ:突然変異型
属性:ウィルス

端末を守るためのセキュリティソフトが突然変異したと考えられている成熟期デジモン。
テリトリーに侵入したウィルス種をトラップのように捕らえて取り込んだ結果、自身の属性もウィルスになった。
体内には多くのデジモンが封印されており、檻から出ている腕や角はすべて別のデジモンに由来しており、メイン装備である左腕の武器「デッドショット」も封印したデジモンからロードしたものだが、データが圧縮されているため威力が格段に落ちてしまった。
必殺技は檻から放つ霧で敵の体の自由を奪う「ヒンダーマイアズマ」で、この技で動けなくなったデジモンの多くが、ミミックモンの体内に取り込まれている。




P.S 因みに私は美咲役の黒沢ともよさんは『ゆゆゆ』の樹ちゃんで知った身で、バンドリにハマり始めた最初の頃に美咲の声を聴いた時は、樹ちゃんの時と全く声や雰囲気が違っていて驚いた事があります。


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ドン10話 ねこかあいどる

満を持してのパスパレ編です。

改めて見ると初めての長編なのもそうですが、此処まで書けた事に、自分も驚きです……。

彩さんのパートナーに関してですが、実はこの小説を書く際に、『あるデジモン』の存在を見た時、『この子、彩さんのイメージ似合うな』と思ったのが、彼女のパートナーデジモンが決まった理由でもあります(因みにそのデジモンも、かなり後に登場します)。

それと今回の話では、私自身が前からやりたいと思っていた事の1つをやった部分もあります。

そして、パスパレ((若しくはパスパレメンバー)のメイン回は、今回みたいなサブタイトルになりますので、その点を御理解下さい(因みに初期段階のサブタイトルは、『We're アイドル!!』と言う物でした)。


 

 

時は少し戻り、友希那がテイマーになった日の夜の事。

 

 

「アアアアア―――!! もう何てBadな事なのよ――!!」

 

 

マンションの一室にチュチュのイライラした叫び声が響き渡る。

 

 

「折角Roseliaの連中共に報復する予定だったのに、肝心の目的も果たせずに返り討ち……おまけにあのミナト・ユキナまでテイマーになったですって……!?

本っ当にBad過ぎて叫びたくもなるわよーー!!」

「チュチュ様~!」

「チュチュ……気持ちは分かるけど、そんな大声出したって、現実は変わらないよ…」

「グググ…」

 

 

パレオと黒い長髪と長身が特徴の少女の言葉に、チュチュは反論出来ずに口を噛み締めていた。

 

 

「所でチュチュ。 お前ここ数日、作曲の傍ら何かしていた様だけど、一体何やってたんだよ?」

 

 

先程から黙って様子を見ていたますきが、思い出したかの様にチュチュに問い掛ける。

 

 

「…まぁ、丁度完成もしていた処だし、貴女達にも見せてあげるわ」

 

 

そう言ってチュチュは自身のノートパソコンを立ち上げ、3人に画面を見せた。

 

 

「キヒャヒャヒャ――!!」

 

 

其処に映っていたのは、頭部に無数の茸を生やしたナメクジを女性の様な感じにした見た目のデジモンがいた。

 

 

「何だよ…この茸と蛞蝓(なめくじ)をごっちゃにした奴は…」

「この子はモルスクモン。 私が創り出した『オリジナルデジモン』の第1号よ!」

「「「『オリジナルデジモン』?」」」

 

 

チュチュの『オリジナルデジモン』と言う発言に3人が疑問の声を上げる。

 

 

「Yes. 前々から私は考え、そして気付いたの……『Originality』が無いと言う事に!」

「チュチュ…ごめん、言っている事が全く分からないんだけど……」

「これまで私達が送り込んだ配下のデジモン達は、全員トヤマ・カスミ達5人の冒険者組からして見れば、今までデジタルワールドの冒険で出会った子達ばかりだし、尚且つミナト・ユキナやミタケ・ランなどついこの間テイマーになった子達は、冒険者組や各自所持しているこのデジヴァイスを通じて、此方のデジモン達のPersonal Dataを知る事が出来た……」

 

 

そう言ってチュチュは徐にポケットから、自身の所持するディーアークを取り出す。

 

 

「But、彼女達――特に『あの5人』も今までデジタルワールドで会った事の無いデジモンを登場させる何て、早々出来る訳が無い……。 ならこっちがそう言うデジモンを『作ってしまえばいい』……そう考えたの」

「成程……確かにそれは一理ありますね…」

 

 

チュチュの言葉に、パレオが納得した様子を見せる。

 

 

「元々デジモン達は、名前の如く様々なDataから生まれた生命体……。 だからこそ、私自身もプロデューサーとしての血が騒いでしまってね…。 息抜きの傍らで、実験を重ねた結果、こうして今その第1号を完成に成功したのよ」

 

 

チュチュは自信に満ちた様子で、モルスクモンをアピールしていた。

 

 

「何となくは分かったのですが……」

「何よ?」

「うん……どうしてその……こんなゲテ……個性的なデザインのデジモンなのかな?」

(レイヤ……お前今明らかに『ゲテモノ』って言おうとしたよな?)

「も、文句言わないでよ! 初めての事だったし、これでも結構苦労したのよ!(言えない……失敗続きで、つい自棄を起こして適当に『キノコ』と『蛞蝓』のDataを組み込んだら、あっさり完成した何て……)」

 

 

チュチュは内心そう思いながら、何とかメンバー達を落ち着かせて話を再開する。

 

 

「と、ともかく、次はこの子を送り込むわよ!」

「ゲヒャ!」

「さぁ私のオリジナルデジモン。 存分に暴れ、この世界に私達RASの凄さを伝えてくるのよ!」

「ゲヒャヒャ――!」

 

 

「ねぇ……ますき」ボソ

「奇遇だなレイ……」ボソ

(正直、……今回のデジモンに対して、不安しか感じないんだけど……)

(とは言ってもなぁ……それにさっきのチュチュ……思いっ切り目が泳いでいたよな……)

 

 

最終的にレイヤとますきは、『今回は様子を見守る』と言う形で結論付けながら、モルスクモンとチュチュを見るのだった。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

「それじゃあ、休憩に入りま――す!」

 

 

とある某所。

 

 

其処には多くの人間が集まり、何かの作業をしていた。

 

 

「はぁ~…凄く緊張した~」

「あはは。 あたしは特に緊張しなかったなぁ~。 寧ろ今の時点で安定して撮影が進んでいる方が珍しいなぁって感じかな?」

「まぁ、パスパレが結成されてもう1年も経ちますし、今日の事だって、きっと皆さんの成長した結果の表れだと、ジブンは思います」

「日々精進。 これもブシドーの一貫です!」

「皆、この調子で後半の撮影も頑張りましょう」

「「「「うん(はーい)(はいッス)(ハイ)!」」」」

 

 

その作業のメインであるPastel*Palettesの面々は、上記の会話を交わしながら、休憩に入った。

 

 

この日パスパレの5人は、仕事の関係で少し遠くにある自然溢れる広場にやって来ており、今は前半部分の撮影が終わった所であった。

 

 

「うめ―――!」

「はい! 正に日本のソウルフードと呼ぶ程、お米は偉大だと思います!」

「あはは。 イヴちゃん、すっかりコロナモンと意気投合してて何だか「るんっ♪」ってするなぁ!」

「でも皆さんで一緒に食べる御飯って、何時も以上に美味しく感じられますから、ジブンも大好きですよ」

 

 

日菜の隣でコロナモンがお握りを頬張りながら叫び、それに同調するイヴを見た日菜とも楽しそうな様子で見ている。

 

 

「それにしても……私達がコロナモン……デジモン達と知り合ってもう1ヶ月が経つんだよね」

「そうね、彩ちゃん」

「それにしても千聖ちゃん、この間の『アレ』は結構大変だったね~」

「……えぇ。 今までの人生の中で、全精神力を使ったのは……あれが初めてよ」

 

 

日菜の言葉を聞いた千聖は、諦めと疲れが混ざり合った様な表情で回想した。

 

 

 

 

『ウヘヘ……。 ねぇねぇお姉ちゃん。 俺、この世界に来て偶々見掛けた時から、お姉さんのファンだったんだ…。 だから俺とデートしない?』

『イヤアアアアア――!!』

 

 

数日前、久し振りのオフの日だった事もあって、馴染みの場所である『羽沢珈琲店』へお茶をしに行く道中、千聖は自分に馴れ馴れしい様子の声が気になって振り返ると、ギョロ目と剥き出しの歯が特徴の蛞蝓の様なデジモン――ヌメモンが自分にナンパを仕掛けに来ており、千聖自身もヌメモンへの生理的な嫌悪感から、必死になって逃げたのである(尚、ヌメモンはその後、偶々散歩中の日菜とコロナモンの手で気絶させられ、最終的に『CiRCLE』の電脳空間に作られたデジモンの保護施設に送り届けられた)。

 

 

 

 

「そ……それはとんだ災難でしたね……」

「えぇ……デジモンって……あんな変なのもいるのね……」

「まぁ、ヌメモンは綺麗な女の子には、滅法弱いからなぁ~」

「……千聖、お家に帰る」

「早まっちゃ駄目だよ千聖ちゃん!?」

 

 

千聖の軽いキャラ崩壊を前に、彩は慌てた様子で引き止めた。

 

 

「安心して千聖ちゃん。 若し何か合ったら、あたしとコロナモンが何とかするから♪」

「日菜の言う通りだぜ千聖! 『太陽の貴公子』と言われた俺が、パスパレの事をカッコ良く守って見せるぜ!」

「……本当に?」

 

 

千聖がウルウルとした様子で日菜とコロナモンを見る。

 

 

「ああ任せろ! 俺のこの『太陽の拳』の前には、どんな奴にも負けはしねぇし、あらゆる女のハートもイチコロにしちまうんだぜ~!」

「それで『太陽の貴公子』なのね……」

「あ―! その目全く信じてねぇな! 俺が本気で進化すればなぁ、どんな女も目ん玉ハートマークにしちまう程のカッコいい姿になるんだぞ~!」

((((コロナモンの本気の進化……))))

 

 

 

 

『ハッハッハ! さぁ子猫ちゃん達! この私が来たからには、『太陽の貴公子』の名に賭けて君達を守ってみせるよ!』

『『『『『キャー! コロナモン様!』』』』』

『ハッハッハッハッハッハ………!』

 

 

 

 

((((何だか物凄く『薫さん(薫)』の雰囲気を感じる……))))

 

 

彩達4人の脳裏に、薫の様な性格のコロナモンが浮かんでいた。

 

 

バキッ

 

 

「ひっ? な、何なの?」

「向こうの草むらから聞こえましたね……」

「もしや『不審者』ですか!?」

「取り敢えず見てこよーぜ!」

「アタシも行くよ、コロナモン!」

「ちょっと、日菜ちゃん!」

 

 

そして、コロナモンと日菜、慌てる彩を筆頭に全員で音のした方に近付いて行った。

 

 

「誰だ!?」

 

 

そう言って、コロナモンが草むらを勢いよく掻き分けると、其処には折れた小枝、その近くに金色の首輪を付けた白い獣が、傷だらけの状態で倒れていた。

 

「あれは……プロットモンだ!」

「えっ? だ、大丈夫?」

 

 

それを見た彩が真っ先に駆け寄り、無事の安否を確認する。

 

 

「うっ……」

「見た所、かなり弱っているみたいですね……」

「取り敢えず、ロケ用の車まで運んだ方がいいね」

「早く急ぎましょう!」

「コロナモン、何か感じる?」

「……いや……今の所、俺とプロットモン以外、特にデジモンの気配は感じられねぇ……」

「そっか……私達も行くよ」

 

 

日菜とコロナモンは、そのまま先に行った彩達の後を追って駆け出した。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

「うっ……うん?」

「あっ、気が付いた?」

 

 

プロットモンが意識を取り戻した事に彩が気が付く。

 

 

「貴女は……?」

「そう言えば、まだ名前を言って無かったね。 私は丸山彩。 それに日菜ちゃんとコロナモン、千聖ちゃんに麻弥ちゃんにイヴちゃんだよ」

「此処は……何処なの?」

「此処は達が使っているロケ用のキャンピングカーの中で、貴女は近くの草むらの中で倒れていて、それを私達が見付けて此処まで運んで来たのよ」

 

 

千聖がプロットモンに、今までの状況を説明する。

 

 

「そうだったのね……。 助けてくれて有り難う」

 

 

そう言ってプロットモンは、キャンピングカーの扉の方へと向かおうとする。

 

 

「あ、駄目だよ! その体じゃあ……」

「助けてくれた事には感謝するわ。 ……でも、貴女達を危険に晒す訳にはいかないわ」

「でも……「ウオオオオ!」な、何!?」

 

 

彩が再度プロットモンに声を掛けようとした時、突然それを遮る様に叫び声が響き、彩達は直ぐにキャンピングカーの外へ出る。

 

 

「ウオオオオ!」

「ヘハハハハ!」

「ワーイ!」

 

 

パスパレの面々の前に広がっていたのは、異様な光景だった。

 

 

ある者は大声を上げながら他のスタッフと殴り合いをし、他の者も地面に座ってヘラヘラ笑っていたり寝転がっていたりと、現場は正に『阿鼻叫喚』とも言う有様だった。

 

 

「な……何なのこれ?」

「早く止めましょう!」

「止めて下さい皆さん!」

 

 

千聖はその光景を唖然と見ており、麻弥とイヴはスタッフ達を止めようと必死に動いていた。

 

 

「この様子……『アイツ』が等々此処まで来たのね……!」

「「「「『アイツ』?」」」」

「ゲヒャヒャヒャ!」

 

 

その時、不気味な声が響き渡ってきたので、彩と千聖、日菜とコロナモンが声の聞こえた方を向くと、其処にはこの騒ぎの元凶であるモルスクモンが姿を現した。

 

 

「あれってデジモン!?」

「あら~? まだ残っていたのね~。 アンタ達もアタシの力の餌食にしてあげるわ!」

「この状況……貴女の仕業ね!」

「御名答。 アタシはモルスクモン。 そう言う訳で……クレイジースポワシャワー!」

 

 

そしてモルスクモンは頭部から大量の紫色の飽子を放ち、麻弥とイヴに浴びせる。

 

 

「「ワアアァ(キャアア)!!」」

「麻弥ちゃん! イヴちゃん!」

 

 

紫色の飽子を浴びた麻弥とイヴは暫くすると、彩達の方に近付いて来た。

 

 

「麻弥ちゃん……? イヴちゃん……?」

 

 

彩が2人に恐る恐る声を掛ける。

 

 

「! 危ない!」

「ブシドー!」

「わっ!」

 

 

何かに気が付いたプロットモンが叫ぶと同時に、イヴが手に持っていた木の棒を叫び声と共に振り上げ、彩は間一髪で避けた。

 

 

「フヘヘヘヘヘ……」

「ブシブシブシ……」

 

 

目の前の2人はまるで壊れたラジカセの如く同じ言葉を繰り返し呟きながら、不気味な様子で近付いて来た。

 

 

「麻弥ちゃん!? イヴちゃん!? 一体どうしちゃったの!?」

「お、おお……2人共、物凄ぇ表情をしてやがる……。 まるで仮○ライ○ーの怪人みてーだ……」

「う~ん……あれって絶対、アイドルがファンに見せちゃ駄目な奴だね」

「日菜ちゃんもコロナモンも呑気な事を言ってる場合じゃ無いでしょ!」

 

 

千聖が思わず日菜とコロナモンの様子に対し、ツッコミを入れる。

 

 

「フヘヘ――――!!」

「ブシド――――!!」

 

 

そして麻弥とイヴの2人が、彩とプロットモンに襲いかかった。

 

 

「わーっ!」

 

 

彩は咄嗟にプロットモンを抱き締め、その儘逃げ出した。

 

 

「フヘヘヘヘヘ……」

「ブシブシブシ……」

「待った――!」

 

 

彩達の後を追おうとする麻弥とイヴを日菜が両手を広げて足止めした。

 

 

「フヘヘ―――!!」

「ブシド――――!!」

「2人には悪いけど、此処で足止めさせてもらうよ!」

 

 

麻弥とイヴは標的を日菜に変えて再度襲い掛かるが、日菜は最低限の動きで2人の攻撃を躱す。

 

 

「ゲヒャヒャヒャ! それじゃあ、アタシはあの子達を追うわ!」

 

 

モルスクモンはそう言って麻弥とイヴにその場を任せ、彩とプロットモンを追った。

 

 

「日菜ちゃん! あのデジモンが!」

「コロナモン!」

「任せろ!」

 

 

日菜の指示を受けて、コロナモンもモルスクモンの後を追って行った。

 

 

「……さて、彩ちゃん達の事を考えて、速攻で何とかしないとね!」

 

 

コロナモンの姿が茂みの奥へと消えていくのを見届けた日菜は、再び麻弥とイヴを如何にかするべく行動するのだった。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

「ハァ……ハァ……」

「待ちなさ――い!」

 

 

あれから彩はプロットモンを抱き締めて、モルスクモンから逃げていた。

 

 

「あっ……!」

 

 

だが等々疲れによって、足が縺れて転んでしまう。

 

 

「あ痛たた……あ、御免ねプロットモン。 大丈夫だった?」

「それはこっちの台詞よ!」

 

 

プロットモンが彩の言葉に思わず声を上げる。

 

 

「サディスティックディソリューション!!」

 

 

するとモルスクモンが、頭部に生やした茸からカラフルな配色の液体を放射して来た。

 

 

それに気付いた彩とプロットモンは何とか回避する。

 

 

「わっ!」

 

 

しかし回避の際に、液体の僅かな一滴が彩の衣装の袖の部分に掛かり、そこに穴が開く。

 

 

「フフフ……。 気を付けないとヨーグルトになっちゃうわよ」

 

 

モルスクモンは、嘲笑の意を込めた忠告を彩達に放った。

 

 

「パピーハウリング!」

 

 

プロットモンは口から超高音の鳴き声を放った。

 

 

「ハッ!」

 

 

しかしモルスクモンはその攻撃を、全く意に介さない様子で振り払い、更に片腕をゴムの様に伸ばしてプロットモンに巻き付け、そのまま締め上げた。

 

 

「ウウウ……!」

「プロットモン!」

「アハハ! このまま絞め殺してあげるわ!」

 

 

モルスクモンはプロットモンが苦しむ姿を見て、上機嫌な様子を浮かべている。

 

 

 

 

「プチプロミネンス!」

 

 

 

 

その時モルスクモンの背後から真っ赤に燃えた丸い物が現れ、そのまま体当たりを炸裂させた。

 

 

「ガハッ…!」

 

 

力が緩んだ隙を付いてプロットモンも、モルスクモンの腕から脱出した。

 

 

「大丈夫か!?」

「コロナモン!」

「日菜に言われて、俺だけ先にこっちに向かう様に言われて来たんだよ]

「フフフ……パートナーを置いて来て、態々こっちに来るなんて……愚策としか思えないわね……」

「日菜はこの程度で苦労する程軟じゃねーよ。 俺は自分でも頭良くねーって自覚してっから、『馬鹿』呼ばわりされても構わねぇ。 でもなぁ、日菜の事を悪く言うのだけは許さねえぞ!」

 

 

コロナモンは、啖呵を切って返した。

 

 

「ほざくんじゃないわよ!」

 

 

モルスクモンは、再度自身の片腕を伸ばしてくるも、コロナモンとプロットモンは、その攻撃を交わす。

 

 

「コロナックル!」

 

 

コロナモンは炎を纏った自身の拳で殴りかかろうとする。

 

 

「甘い!」

「グハッ!」

 

 

しかしモルスクモンは、右のもう片方の腕を伸ばしてコロナモンを弾き返した。

 

 

「パピーハウリング!」

「だから無駄って言ってるでしょ!」

 

 

其処へプロットモンが再度超高音の鳴き声を放つも、モルスクモンはまた振り払う。

 

 

「くぅ……」

 

 

するとプロットモンは足から崩れる様に倒れる。

 

 

ある程度回復したとは言え、それでもまだ治った訳では無く、逆に此処まで堪えられた事の方が奇跡だったのだ。

 

 

それを好機と見たモルスクモンは、先程コロナモンを弾き飛ばした右腕を伸ばして、プロットモンを彩のいる所に弾き飛ばした。

 

 

「アアア!」

「プロットモン!」

 

 

彩はプロットモンに駆け寄る。

 

 

「彩……貴女だけでも逃げて……」

「えっ?」

「私は大丈夫……それに無関係な貴女をこれ以上巻き込む訳には……」

「ウフフ……嬲り殺しにしてあげるわ……」

 

 

モルスクモンは再び片腕を鞭の様に伸ばし、プロットモンは目を瞑った。

 

 

 

 

「キャアアアア!」

 

 

 

 

その時悲鳴が響き渡る。

 

 

プロットモンは自身に何の痛みが無い事を疑問に抱いて目を開き、茫然とした。

 

 

「ううう……」

 

 

其処にいたのは、苦痛に表情を浮かべる彩の姿だった。

 

 

それて同時に、先程の悲鳴が彩が自分を庇ってモルスクモンの攻撃を受けた事による物だと悟った。

 

 

「どうして……」

「アハハ……そっちがその気なら、先ずはアンタから始末してあげるわ!」

 

 

それを見たモルスクモンは、今度はもう片方の腕を伸ばして、今度は左右順番に連続に振り回して攻撃をするも、彩は痛みを堪えてプロットモンを庇い、背中越しにその攻撃を受け続けた。

 

 

「何をやっているの……? 止めて! そんな事をしたら貴女が死んでしまうわ!」

「……出来る訳無いよ」

「どうして……?」

「私は……皆に夢を与える様なアイドルになりたい。

若し今此処で貴女を見捨てて逃げたら……一生後悔するし、夢だって叶えられない。

……目の前の傷付いている相手を見捨てて……自分だけ助かろうする何て……そんなの私には出来る訳無いよ!!」

「彩……」

 

 

プロットモンは彩の言葉とその姿勢に衝撃を受けた様子を見せた。

 

 

「感動的な話ね~! だけど……今から死ぬ貴女が語ったってそんなの無意味なのよ!」

 

 

そしてモルスクモンの『トドメの一撃』とも言える攻撃が降り降ろされそうになり、彩とプロットモンは目を瞑った。

 

 

その時、双方の間を割る様に眩い光が現れた。

 

 

「な、何!? キヒャアアア!!」

 

 

眩い光の前にモルスクモンはそのまま吹っ飛ばされる。

 

 

「彩! その光を掴め!」

 

 

コロナモンの声を聞いた彩が言われるままに目の前の光を掴むと、彼女の手にはチェリーピンクの縁取りのディーアークがあった。

 

 

「これは日菜ちゃんの物と同じ物……」

「キヒャアアア――!!」

 

 

奇声の方を向くと、モルスクモンが此方を睨み付けていた。

 

 

「彩!」

 

 

プロットモンの声を聞き、彩は頷いた。

 

 

 

 

――EVOLUTION

 

 

 

 

彩のディーアークの画面にそう表示されると、ディーアークが眩い光を放ち、プロットモンを包み込んだ。

 

 

「プロットモン進化!」

 

 

光に包まれたプロットモンは二足歩行になり、尻尾が長く伸び始め、そして光が収まると其処には尻尾に金色のリングを付けた一匹の猫がいた。

 

 

「テイルモン!」

「これが……プロットモンの進化した姿……」

 

 

彩はその様子を見て、ポツリと呟く。

 

 

「進化したからって、調子に乗るんじゃないわよ!!

サディスティックディソリューション!!」

 

 

モルスクモンは頭部に生やした茸からカラフルな配色の液体を再度放射したが、テイルモンは身軽な動きで回避した。

 

 

「チッ……素早しっこいわね」

「ネコパンチ!」

 

 

テイルモンがモルスクモンに対して自身の拳による一撃を放つも、モルスクモンは両腕をクロスして受け止めた。

 

 

「良い一撃ね……」

「クッ……」

「……でも悲しいけどパワー不足なのよね~!!」

「ウワァ!!」

 

 

モルスクモンは両腕に力を込め、テイルモンを逆に押し返した。

 

 

「テイルモン!!」

「さて……今度こそアンタ達を仲良くヨーグルトにしてあげるわ……」

 

 

モルスクモンはゆっくりと此方に近付いて来る。

 

 

「サディスティック……「ファイラボム!」ゲヒャア!?」

 

 

その時横から現れた火炎弾によって、モルスクモンは大きく吹っ飛ばされた。

 

 

「お待たせ2人共!!」

 

 

彩とテイルモンが火炎弾の放たれた方向を向くと、其処には日菜とファイラモンの姿があった。

 

 

「日菜ちゃん! ファイラモン!」

「助かったわ……有り難う」

 

 

安堵の様子を浮かべたテイルモンは、そのまま崩れ落ちた。

 

 

「テイルモン!」

「大丈夫。 少し力が抜けちゃっただけよ……」

「良く此処まで頑張ったね。 彩ちゃんを守ってくれて有り難う」

「此処から先は俺達に任せてくれ」

 

 

日菜とファイラモンが視線を向けた先には、先程吹っ飛ばされたモルスクモンが起き上がる様子があった。

 

 

「クソオオ……! アンタ達良くもやってくれたわね……!」

「モルスクモン! 此処から先は私達のステージだよ!」

「お前が馬鹿にした俺と日菜の絆と力、見せてやるぜ!」

「ほざきなさい!」

 

 

モルスクモンは再度、頭部に生やした茸からカラフルな配色の液体を放射して来た。

 

 

「ファイラモン!」

「あぁ! ファイラボム!」

 

 

ファイラモンは火炎弾を放って相殺し、それによって煙が辺り一面に広がる。

 

 

「クッ……何処にいるの?」

「ファイラモン!」

 

 

モルスクモンは上を向くと其処には全身に炎を纏い、此方に急降下するファイラモンの姿があった。

 

 

「なっ!?」

「フレイムダイブ!」

「ゲヒャアアア!!」

 

 

ファイラモンの攻撃でモルスクモンは再び吹き飛ばされる。

 

 

「つ……強い……」

 

 

その様子を見た彩はポツリと呟く。

 

 

「見たか! これがテメーの馬鹿にした日菜と俺の力だ!」

「……キヒャアア……おのれええええ――!!」

 

 

憎悪の籠もった叫び声を挙げながら、モルスクモンは此方に向かって突撃して来る。

 

 

「ファイラモン!」

「あぁ! 一気に決めるぜ!」

 

 

ファイラモンは自身の前足に炎を纏って駆け出す。

 

 

「ファイラクロー!!」

 

 

そしてそのまま炎を纏った前足でモルスクモンの胴体を引き裂きながら、胴体を貫いた。

 

 

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」

 

 

胴体を貫かれ、中心部に風穴を空けたモルスクモンはそのまま全身を炎で燃やされながらデータの粒子と化して消滅していった。

 

 

「うっ……」

「彩ちゃん!?」

 

 

そして安心感によって彩も全身の力が抜けてしまい、そのまま倒れた。

 

 

「日菜! 2人の様子は!?」

「大丈夫。 気を失っているだけだよ」

「そっか……。 しっかし無茶したもんだぜ。 あの時アイツの攻撃を直接体で受ける何て……」

「でも私も彩ちゃんと同じ立場だったら、同じ事をしていたと思う。 ……だから彩ちゃんの気持ち、とっても分かるもん」

(日菜も充分『良い意味』で変わったな……。 最初の頃のお前が懐かしく思えてくるぜ)

「さて……千聖ちゃん達も心配しているし、そろそろ戻ろっか!」

「あぁ、そうだな!」

 

 

日菜の言葉を受けたファイラモンは2人と1匹を自身の背中に乗せ、千聖達のいる場所へと戻って行った。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

「ふぅ……」

「彩、お疲れ様」

 

 

数日後。

 

 

事務所でパスパレメンバー達とレッスンをしていた彩は休憩時間になった事もあって一息付き、ディーアークの中のテイルモンはそんな彼女に労いの言葉を掛ける。

 

 

「私はアイドルの事は素人だから上手く言えないけど……今日のレッスンでの動き、とても良かったと思うわ」

「はい。 ジブンも彩さんの今日のレッスンでの動きは、目を見張る物を感じました」

「えへへ……有り難うテイルモン、麻弥ちゃん」

 

 

彩はディーアークの中のテイルモンと麻弥に感謝の言葉を述べる。

 

 

「彩ちゃん。 何か雰囲気が変わったわね」

「そうかな?」

「ハイ! ワタシも雰囲気が少し変わった様に思えます」

「そう言われても特にピンとこないかなぁ……。 あ、でも」

「どうかしたの?」

 

 

千聖が彩の言葉に疑問の声を挙げる。

 

 

「私ね、テイルモンと出会って『皆に夢を与える様なアイドルになりたい』って言う自分の目標に付いて改めて考えて決めたの。

『私の活動を通じて、人やデジモンさん達に『この世界は誰もが自由で優しい世界何だよ』って思える夢を与えるアイドルになりたい」

 

 

彩は自身の中に抱いた想いを語った。

 

 

「……人やデジモン達に『この世界は誰もが自由で優しい世界だ』って思える夢を与える、か」

「えっ……と? 変かな?」

「そんな事無いわ。 とっても良い夢よ」

「うん! 言葉の1つ1つに彩ちゃんの想いが込められてる感じが、『るんっ』てする!」

「俺も彩の夢に賛成だぜ!」

「テイルモン……日菜ちゃん……コロナモン……」

 

 

彩は3名の言葉に目を潤ませた。

 

 

「何だかジブン……とっても感動しました」

「はい。 ワタシもアヤさんの夢を全力で応援したいです!」

「私自身、自分の今までの芸能活動の事もあって、否定的で冷めた目線で生きてきたけど、今の彩ちゃんの言葉を聞いていたら、不思議と『そんな夢を皆に知ってほしい』って思えてくるわ」

 

 

千聖達3人も彩の言葉から、彼女の成長を感じていた。

 

 

「……それじゃあ、そろそろ練習を再開しよっか!」

「「「「うん(ええ)(はいッス)(ハイ)!!」」」」

 

 

彩の言葉で、パスパレの面々は練習を再開した。

 

 

因みに練習の様子を偶々見た事務所のマネージャーは、『この時の彼女達の見せた笑顔は、まるで億単位の価値がある宝石が唯の石ころに思えてしまう程の輝きを感じる』と内心思ったそうだった。




パスパレ編を読んで頂き、有り難う御座います。

お気付きの方もいると思いますが、今回登場したモルスクモンは私自身が考えたオリジナルデジモンで御座います。

実は私は元々、様々な二時創作を書く傍ら、『仮面ライダー』のオリジナル怪人やオリジナルデジモンを考えていたりしており、この作品を書く際に、『オリジナルデジモン出しても有りかな』と思い、今回登場させました。

勿論、モルスクモン以外のオリジナルデジモンも若しかしたら登場する可能性があるかもしれません(?)ので、その点を御理解下さい。


それでは何時も通りのデジモン解説(尚、今回は少し長いです)。
それと名前の隣にイメージCVが書いてあるデジモンは、『この作品での私が考えるイメージCV』と言う意味です。


プロットモン イメージCV:楠木ともりさん(代表作『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』優木せつ菜、『少女☆歌劇 レヴュースタァライト -Re LIVE-』巴珠緒、『プロジェクトセカイ』宵崎奏、『プリマドール』鴉羽)

レベル:成長期
タイプ:哺乳類型
属性:ワクチン

今作における彩のパートナーデジモンで、垂れ耳が特徴的な神聖系デジモンの子供。まだ幼いため、その神聖的な力を発揮することができず、自らの使命にも気づいていない為、性質的には不安定で、善にも悪にもなりえてしまう。
しかし、神聖系デジモンとして生まれたプロットモンはいつの日か「ウィルスバスターズ」としての使命に目覚める時が来るだろう。
また、プロットモンはデジモン研究者達により生み出された試験的なデジモンであり、人間の身近にいるペットを模倣して作られたため、現実の動物に近い姿をしている。
必殺技の『パピーハウリング』は超高音の鳴き声で、敵を金縛りにしてしまう。


テイルモン

レベル:成熟期
タイプ:聖獣型
属性:ワクチン

プロットモンが進化した姿。
好奇心がとっても旺盛でイタズラ好き。体は小さいが貴重な神聖系のデジモンであり、見た目にそぐわない実力を持っていて、神聖系の証であるホーリーリングを尻尾につけているが、このホーリーリングが外れてしまうと、パワーダウンしてしまい本来の力を発揮できなくなる。
身を守るために、サーベルレオモンのデータをコピーした長い爪をつけている。
必殺技は長い爪を使って相手を攻撃する『ネコパンチ』と、鋭い眼光で敵を操る『キャッツ・アイ』。この眼光を受けた者は、自分自身を攻撃してしまう。


ヌメモン

レベル:成熟期
タイプ:軟体型
属性:ウィルス

ナメクジのような体を持った軟体型デジモン。
暗くてジメジメした環境を好み、攻撃力も知性も無い。どんなデジモンも育て方を間違えるとヌメモンになってしまうが、実は隠された秘密があるらしい・・・。外敵から身を守るため、自分のウ〇チを投げつける『ウ〇チ投げ』と言う最低の攻撃をする。


モルスクモン イメージCV:相良茉優さん(代表作『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』中須かすみ、『プラオレ!〜PRIDE OF ORANGE〜』水沢彩佳、『てっぺんっ!!!!!!!!!!!!!!!』清鶴かな)

世代:成熟期
属性:ウィルス
種族:軟体型
得意技:ソフトプレッシャー・クレイジースポワシャワー
必殺技:サディスティックディソリューション
モチーフ:ナメクジ、キノコ、アイドル

今作オリジナルデジモン。
作中がチュチュが失敗続きで、つい自棄を起こして適当に『キノコ』と『蛞蝓』のDataを組み込んだら、あっさり完成したと言う設定だが、本来はマッシュモンが軟体動物のデータを取り込んだ事によって進化したデジモンである。
小さな隙間さえあればどんな所にも侵入できる軟体を持ち、性格もマッシュモンの時以上に陰険な物と化している。
女性っぽい見た目になった理由に関しては今の所不明だが、一説には軟体動物のデータが何かしらの影響を与えたのではないかと言う考えが有力視されている。
得意技は、自身の軟体をゴムの様に伸ばして相手を締め付ける『ソフトプレッシャー』と、頭部の茸から相手の精神を狂わせる紫色の飽子を放つ『クレイジースポワシャワー』。
必殺技は、頭部に生やした茸からカラフルな配色の液体を放射して相手を溶かしてしまう『サディスティックディソリューション』。

余談
名前の由来は、英語で軟体動物を意味する『Mollusk(モルスク)』から。
尚、初期設定では『ゲルマッシュモン』と言う名前の完全体デジモンになる予定だった(作中での『パワー不足』発言は、この初期設定の名残りである)。


因みにこのモルスクモンは、裏(&デザイン)モチーフである特撮作品の敵キャラをモチーフにしています。
若し御時間がありましたら、何のキャラがモチーフなのか当てて見て下さい(一つだけヒントを上げると、仮面ライダーの敵怪人です)。


それでは、之にて失礼致します。


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第11話 嫉妬の大号令

久し振りのアフグロ編です。

ここでこの小説のアグモンのイメージCVに関する裏話ですが、実は最初は『セイバーズ』と同じCVにしようと考えていましたが、『鬼滅の刃』の伊之助の動画を見た時に『この声良いな』と思って松岡禎丞さんの声で脳内再生したら、納得する程似合っていた為、こうして今に至るのでした(因みに私の中で松岡さんの代表作は、『SAO』のキリトのイメージが強いです(松岡さんを知った切欠が『SAO』だったので)。
また、私が蘭役の佐倉綾音さんを知った切っ掛けは意外と思うかもしれませんが、『ラブライブ!』だったりします。

そして今月の1日は、『デジモンアドベンチャー』の作中にて太一達選ばれし子供達がデジタルワールドへ連れて行かれ、初めてパートナーであるデジモンに出会った日であり、同時に私がこの作品を投稿し始めて丁度1年の日でもあります。
正直自分でも此処まで続けて来られた事に対して、驚きと書き続けて良かったと言う気持ちで胸がいっぱいです。


これから更新速度は相変わらずな状態でありますが、この作品を何卒宜しく御願い致します。


PS それと前回登場したモルスクモンの裏モチーフに関してですが、モチーフは『初代仮面ライダー』のナメクジキノコです。


 

 

「ズルい!」

 

 

ある日の昼休みの事。

 

 

蘭達Afterglowの面々が、自身達の通う羽丘女子学園の屋上で何時も通り昼食を食べていた時、突然ひまりが叫んだ。

 

 

「ひまりちゃん?」

「どうしたんだよひまり?」

「アグモンだよ! アグモン!」

 

 

巴とつぐみの問い掛けに、ひまりがアグモンの名前を挙げて答える。

 

 

「アグモン……アンタまさかひまりに何かちょっかい掛けたんじゃ……」

『違うよ! 俺、ひまりに何にもしてねーよ!』

 

 

蘭の問い掛けに、アグモンは慌てディーアークの画面越しから身の潔白を叫ぶ。

 

 

「蘭にはアグモンがいてズルい!」

「へっ?」

 

 

突然今度は自分の名前が出て来たので、蘭はつい変な声を出してしまう。

 

 

「だって……他のバンドの子達とパートナーデジモン達の様子を見てたら、羨ましいんだもん……」

 

 

ひまりの言葉に蘭達4人は考える。

 

 

ポピパには、香澄と有咲。

 

 

Roseliaには、友希那と紗夜。

 

 

パスパレには彩と日菜。

 

 

ハロハピにはこころと美咲。

 

 

モニカにはましろ。

 

 

そしてアフグロには蘭。

 

 

確かに自分達の知り合いのガールズバンドで、これだけパートナーデジモンを持つメンバーがいると言うのもある意味不思議と言えるだろう。

 

 

「つまり……ひーちゃんは、蘭や香澄達みたいに自分もパートナーデジモンが欲しいって事~?」

 

 

ひまりの発言から、彼女の言いたい事を察したモカが確認する様に問いかける。

 

 

「そうだよ! 蘭や香澄達だけにパートナーデジモンがいるのって、何だか不公平何だもん!」

「いや…いきなりそんな事言われても……アタシだって分からないよ」

 

 

蘭とアグモンにとっては、ひまりの発言は『無茶苦茶』な物である。

 

 

そもそも香澄、有咲、紗夜、日菜、ましろの5人は特殊な事情からパートナーデジモンと出会い、逆に蘭、友希那、彩、こころ、美咲の5人はひょんな偶然からパートナーデジモンと出会った形。

 

 

全員最初から『今のひまり』と同様、『パートナーデジモンが欲しいと願った』からパートナーデジモンを得た訳では無いのである。

 

 

更に言えば、蘭を含め香澄達パートナーデジモンがいるメンバーは、『ガールズバンドのメンバー』であると言う点を除けば、基本的に何処にでもいる『普通の女子高生』なのである。

 

 

その為、蘭やアグモンにとっても、いきなり『パートナーデジモンが欲しい』と言われても、無理難題な相談であった。

 

 

「あはは…ひまりちゃん、蘭ちゃんも困っているよ…」

「そう言うつぐだって、最初に紗夜さんのルナモンや日菜先輩のコロナモンに会った時、滅茶苦茶キラキラした目で見ていたよな……」

「もう~、巴ちゃ~ん///」

 

 

つぐみは巴の発言に、顔を赤らめた。

 

 

『所でモカはさっきから何描いてんだ?』

 

 

アグモンはモカの動作に疑問を抱き、問い掛ける。

 

 

「じゃ~ん。 出来ました~」

 

 

暫くして、モカが描いていた物を蘭達に見せる。

 

 

「モカ……何これ?」

「フッフッフ……ひーちゃんのデジモンを考えてみたのだよ蘭君」

 

 

モカの書いたスイーツをゆるキャラ風にした感じのキャラの絵を見た蘭の問いに、モカは科学者の様な口調で答える。

 

 

「「「「『ひまり(私)(ちゃん)のパートナーデジモン?」」」」』

「その名もスイーツひ~ちゃんモン。 必殺技は全身の力で相手にのし掛かる『ひ~ちゃんえいえいおープレス』だよ~」

「も――っ! モカってば――!」

 

 

顔を真っ赤にしたひまりの怒声が屋上に響いた。

 

 

「あはは……でも、こうしてアグモンと一緒に過ごしてから、私も『デジモン』が、自分の生活の中ですっかり『当たり前の存在』になっちゃっている様に思えるかな……」

「確かにつぐの言う通りですな~」

「…………」

「ひまり? どうしたんだ?」

「えっ? いやっ……何でも無いよ」

 

 

巴の言葉に、ひまりは慌てた様子で返答した。

 

 

「皆。 もう直ぐチャイム鳴りそうだし、そろそろ戻ろう」

 

 

その後、蘭の言葉でAfterglowの面々は急いで片付け、そのまま教室へと戻って行った。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

「はぁ~……」

 

 

数日後、メンバー達の各用事の関係で練習が休みの中、1人用事が無かったひまりは歩きながら溜め息を吐いた。

 

 

「どうしたら、私にもパートナーデジモンが出来るんだろう?」

 

 

数日前の昼休みの屋上での会話後、ひまりは紗夜や日菜を始め、パートナーデジモンを持っている他のガールズバンドのメンバーにも、同じ様な事を聞いてみるも、殆ど返答に困った様子を見せると言う結果だった。

 

 

「あれ? ひまりちゃん?」

 

 

不意に後ろを振り向くと、其処にはりみの姿があった。

 

 

「りみ? どうして此処に?」

「今日は練習が休みだったから、少し近くのお店に用事があって、それを終わらせた所だよ……ひまりちゃんはどうして此処に?」

「う……うわ~ん、りみ~! 話を聞いてよ~!」

「ひゃあ! ひ、ひまりちゃん!?」

 

 

突然泣きついてきたひまりの姿に、りみは戸惑うばかりだった。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

「そっか……そんな事があったんだ……」

 

 

あの後2人は近くの広場のベンチで、飲み物を片手に会話をしていた。

 

 

「だって……蘭や友希那先輩にこころに美咲に彩先輩、それに香澄やましろに有咲に紗夜先輩と日菜先輩……これだけガールズバンドのメンバーにパートナーデジモンを持っている子が沢山いるのを見たら……何だか仲間外れにされちゃった気持ちになっちゃったんだもん……」

 

 

ひまりは寂しそうな様子で、りみに現状の事に対しての心境を吐露する。

 

 

「うん……つまりひまりちゃんは、自分にもパートナーデジモンが欲しいって事何だよね?」

「駄目なの?」

「ひまりちゃんの気持ちは分かるんだけど……ただ……」

「ただ……何?」

「何だろう……今のひまりちゃんの話を聞いていると……私には『パートナーデジモンが欲しい』と言うより……『蘭ちゃんのアグモンへの嫉妬』に聞こえちゃったんだ……」

「へっ? 嫉妬?」

 

 

ひまりは今のりみの意外な発言に対して、疑問の声を上げる。

 

 

「うん……私が思うんだけど……ひまりちゃん、本当は『寂しかったんじゃないかな』?」

「『寂しい』?」

「私ね、Afterglowの皆の何時もやり取りやライブを見ていると、皆本当に『何時も通り』って言うのを大切にしているんだなって思うの……。 でも『デジモン』と関わって、そして蘭ちゃんがアグモンと出会ってパートナーになったりと色んな事があって……ひまりちゃんは『今まで過ごした何時も通りの日々』が変わってしまうのが嫌だったんじゃないかな?」

 

 

ひまりはその言葉を聞いて、ここの所の自分達の様子を振り返る。

 

 

『蘭~! 俺にもその玉子焼き1つくれよ~!』

『ちょっ……いきなり出てこないで!』

『ははっ。 何だか2人共兄妹みたいだな』

『トモちんの言うですな~。 蘭が妹でアグモンはお兄さんって感じかな~?』

『いや今の状況見たら、普通逆でしょ!?』

『いや~、何だか蘭は妹みたいな雰囲気がするんだよな~』

『うんうん。 モカちゃん、何だかこの前読んだ漫画の『四葉』を思い出しちゃったよ~』

『いや『四葉』って何!? アタシってクローバーか何かとそっくりなの!?』

『蘭ちゃんが妹……悪くないかも……』

『つぐみ、どうしたんだ?』

『な、何でも無いよ! ねっ、ひまりちゃん。 ……ひまりちゃん?』

『うぇ……何?』

『さっきからボーってしているけど大丈夫?』

『あ、ううん。 ごめん! 蘭がクローバーって話だったよね!』

『ひーちゃん……保健室で休む?』

『大丈夫かひまり?』

『大丈夫! 大丈夫だからね! 風太郎!』

『いや、誰だよ風太郎って……』

 

 

言われて見れば、確かにここ最近の自分は何処か『寂しさ』を感じる事が多いと思っていた。

 

 

特にアグモンと蘭のやり取りを見ていると、『寂しさ』に加え『別の感情』を感じてしまう。

 

 

「…あっ」

 

 

でも今のりみの言葉で、ひまりは自覚した。

 

 

いや、寧ろ本当は気付いていた。

 

 

けど、ずっと気付かない振りをしていた。

 

 

「そっか……私、寂しかったんだ……」

 

 

ひまりがポツリと呟く。

 

 

彼女にとって、Afterglowの面々と過ごす『何時も通りの日常』は掛け替えのない『大切な物』だった。

 

 

でも『デジモン』と知り合い、そして一番大切な幼なじみでもあった蘭が『パートナーデジモン』を得た姿を見た時、初めは全く気にして何かいなかったのに、暫く経って急に彼女との間が見えない壁で隔たれた様な物を感じる様になってしまった。

 

 

自分が欲しかったのは、蘭を始めとしたAfterglowの面々と過ごす『何時も通りのありふれた日常』。

 

 

『パートナーデジモンが欲しい』と言うのは結局建前でしか無かったのだと、ひまりはこの時自覚した。

 

 

 

 

「グオオオオ――!!」

 

 

 

 

その時大声と共に、2人に向かって鋭い何かが飛んできた。

 

 

それに気付いた2人はベンチから移動すると、その直後に飛んできた何かによって、ベンチが跡形も無く破壊された。

 

 

「な、何今の!?」

 

 

ひまりが突然の事に動揺していると、重い足音を響かせながら先程の攻撃を行ったであろう存在―――背中に無数の刃を刃を生やした四足歩行の恐竜が現れた。

 

 

「あれってデジモン!?」

「逃げようひまりちゃん!」

 

 

2人は慌てて逃げ出し、それを見た恐竜は彼女達の方へと足を進めて行った。

 

 

「グオオオオオ――!!」

 

 

すると相手の方も逃げるひまり達に向けて、背中に生えた無数の刃を再度飛ばしてきた。

 

 

「危ない!」

 

 

咄嗟にりみを抱き締めて、横に交わすも左腕と左足の方を僅かに掠る。

 

 

「くうぅ……!」

「ひまりちゃん!」

「だ、大丈夫……! こんなの……掠り傷だよ……」

 

 

心配するりみに安心させようと、ひまりは痛みを我慢し、作り笑いではあるが自身が無事である事の意思を見せる。

 

 

「グルル……!」

 

 

相手のデジモンは嘲笑の様子を浮かべてながら、一歩ずつゆっくりと此方へ近付いてくる。

 

 

「りみ……今すぐ私を置いて逃げて……」

「え? でも……」

「このままじゃ、2人共あのデジモンの餌食に去れちゃう……。 だったら、無事なりみだけでも逃げて……!」

 

 

そんな会話をしている内に、等々近くまで来ていた相手のデジモンは、2人を捕食しようと口を開けた。

 

 

2人は思わず目を閉じた。

 

 

 

 

「メタルキャノン!!」

「ベビーフレイム!!」

 

 

 

 

その時、突如聞き覚えのある声が耳に届き、その次に苦痛の様子を含んだ声が聞こえた。

 

 

2人は目を開けると、其処には苦痛な様子の相手デジモンと見知った2体の姿があった。

 

 

「大丈夫か?」

「アグモン……それにドルモンも……?」

「ひまり――!」

「りみりん――!」

 

 

声の方に視線を向けると、蘭と香澄の2人が此方に近付いてくるのが見えた。

 

 

「蘭……香澄……」

「2人共、大丈夫?」

「私は大丈夫だけど……ひまりちゃんが……!」

 

 

蘭と香澄が来た事の安心感からか、ひまりは再度ぶり返した痛みに表情を引きつらせた。

 

 

「ひまり! その傷……」

「大丈夫……。 ただの掠り傷だから、落ち着いて……」

 

 

ひまりの言葉を聞いても、蘭の表情は曇ったままだった。

 

 

「グオオオ!!」

 

 

唸り声の方を向くと、先程のドルモンとアグモンの攻撃から態勢を立て直した恐竜型デジモンが、此方を睨み付けていた。

 

 

「ステゴモン。 アーマー体。 剣竜型。 必殺技は『シェルニードルレイン』」

 

 

香澄が自身のディーアークで相手デジモンの情報を調べる。

 

 

「香澄!」

「うん!」

「待って!」

 

 

香澄とドルモンが進化の準備をしようとした時、蘭が2人を制止する。

 

 

「蘭ちゃん?」

「このデジモンは、アタシに任せて」

「蘭……」

「香澄、ドルモン、ゴメン。 でもこれは、アタシの手で片付け無いといけないって思ったの……」

「……分かった。 ドルモン」

「うん」

 

 

香澄とドルモンは、蘭とアグモンにその場を譲る様に下がった。

 

 

「行くよアグモン!」

「よっしゃ―――!」

 

 

 

 

――EVOLUTION

 

 

 

 

「アグモン進化!」

 

 

ディーアークから放たれた光を浴びたアグモンはそのまま巨大化し、頭部の甲殻や体も全身凶器の様に発達し、より攻撃的よりな恐竜へと姿を変えていく。

 

 

「ジオグレイモン!!」

 

 

そしてジオグレイモンは、そのままステゴモンの方へ向かって行く。

 

 

「さ、私達も!」

 

 

香澄の言葉を受けて、3人はドルモンと共に避難する。

 

 

(蘭……)

 

 

避難したひまりの目の前では、ジオグレイモンがステゴモンと激しいぶつかり合いを行っていた。

 

 

その側では、蘭がジオグレイモンに時折声を掛けながら、2体の戦闘を見ていた。

 

 

その時、ひまりの脳裏に過去の記憶が過った。

 

 

 

 

『お前のあたま、へんないろしてんな!』

『おれたちがキレイにしてやるよ!』

『やだ! やめてよ!』

 

 

幼い頃、ひまりは自身の髪の事で一部の子供から苛められたのが原因で、このピンクの髪の毛にコンプレックスを抱いていた。

 

 

何時もは巴が追い払ってくれたけど、この日は巴はおろか、モカやつぐみをいない為、調子に乗った悪ガキ達が、何時も以上にしつこく苛めて来ていた。

 

 

『やめて!』

 

 

その時大きな声が聞こえたので、振り返ると其処には蘭の姿があった。

 

 

『らんちゃん……』

『なんだぁおまえ?』

『ひまりちゃんを……いじめるな!!』

 

 

 

 

(あ……)

 

 

ひまりはその瞬間、自分の中の真っ暗な気持ちが急に真っ白に晴れていくのを感じた。

 

 

 

 

『ひまりちゃん……だいじょうぶ?』

『ごめんねらんちゃん……わたしがこんなへんないろのかみなんかしているから……』

『そんなこといわないで。 ひまりちゃんのかみ……わたしはすきだよ』

 

 

 

 

(何だ……答えは最初っから目の前にあったんじゃん……)

 

 

 

 

蘭はあの頃から全く変わっていなかった。

 

 

Afterglowのボーカルであろうがアグモンのテイマーであろうが、そんなの全然関係無い。

 

 

人見知りで口数が少なくて、気が強く負けず嫌いでよく周りから誤解されがちだけど、とっても友達想いの優しい少女。

 

 

それが上原ひまりの知る『美竹蘭』なのだと、ひまりはその事を痛感していた。

 

 

「香澄! ひまりが泣いているよ!」

「えっ!? 大丈夫ひまりちゃん!」

「ううん……大丈夫、大丈夫だから……」

 

 

一方でジオグレイモンとステゴモンの戦いも、決着が付きそうな状態だった。

 

 

ジオグレイモンはまだある程度の余裕を見せるのに対し、ステゴモンは既に息がかなり上がっていた。

 

 

「ジオグレイモン!」

「あぁ!」

 

 

ジオグレイモンの口の中に炎が溜まっていく。

 

 

「グオオオオオ!!」

 

 

ステゴモンは邪魔をしようと、必死に此方に向かって来た。

 

 

「メガ……バースト!!」

 

 

そしてジオグレイモンは、口の中に溜め込んだ炎を一気に放射した。

 

 

「グオオオオ!?」

 

 

炎に飲み込まれたステゴモンは、そのままデータの塵と化して消滅していった。

 

 

やがてジオグレイモンはアグモンの姿に退化した。

 

 

「お疲れアグモン」

「あぁ」

「らーーーん!」

 

 

ひまりが蘭とアグモンの所へ向かって来た。

 

 

「ひ、ひまり?」

「御免ね蘭~! 私、蘭の事誤解しちゃってて!」

「落ち着いてひまり、取り敢えず怪我の方を……」

 

 

その後、ひまりの事を何とか落ち着け、怪我の手当ての為に4人はひまりの家へと向かったのだった。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

数日後。

 

 

ライブハウス『CIRCLE』の一室にて、Afterglowの面々が演奏する激しい音楽が、丁度フェードアウトを迎えた。

 

 

「よっしゃ! 今の所、良い感じだったな!」

「うん! 何だか今日は、皆とのリズムがぴったりだったなって思えたよ!」

「モカちゃんも何だか何時も以上に、自分の想いを込めた演奏が出来たよ~」

 

 

巴達3人の様子を見ていた蘭とひまりも、満足した様子を浮かべていた。

 

 

「この調子なら、今度の商店街のお祭りのライブも、上手く行きそうだね!」

「うん。 でも油断は禁物。 次も今の調子で行ける様に、私達も頑張ろう」

「……そうだね」

 

 

其処へ他の3人が、近付いて来た。

 

 

「ひまりちゃん、怪我の方は大丈夫?」

「大丈夫! 少し切っちゃったけど、日常生活には支障は無いって、お医者さんも言っていたし!」

「そっか……でも無理はしないでね」

「分かってるって! あっ、そうだ蘭!」

「えっ、どうかした?」

「この後、モールに行かない? 新しい服を買おうと思っているの!」

「別に良いけど…」

「あっそうだ! せっかくだから、アグモンにも見て貰おうよ!」

『俺も? 服の事何か全く分かんねーけどいいのか?』

「良いの良いの! 昼休みの時の謝罪やこの前助けて貰った事のお礼もしたいって思っていたから!」

『……分かった! 無粋だけど、俺もお供するよ』

「うん!」

 

 

暫く様子を見ていたモカがポツリと呟く。

 

 

「ひーちゃん、何だか今日は何時も以上にアグモンに積極的に絡んでいるね~」

「でも今のひまり、何だか憑き物が落ちた感じがしていて、良い表情をしてるってアタシは思うけどな」

「うん。 私も巴ちゃんと同じ事を思ってたよ」

 

 

3人の見詰める先には、Afterglowの代名詞と言える『何時も通り』の日常の風景があった。

 

 

『蘭~、俺腹が減ったよ~!』

「アグモン……アンタね……」

「フッフッフ……それじゃあアグモンには、私のお気に入りのお店にも連れて行くよ!」

『本当かひまり!?』

 

 

それを聞いたアグモンは、蘭のディーアークから出て来た。

 

 

「ちょっ、勝手に出て来ないでよ!」

「あらら? 蘭、若しかして妬いてる?」

「なっ……べ、別に妬いてないし!」

「お~。 やきもちを焼く蘭もエモいですなぁ~」

「モカ――!」

 

 

蘭の大声が響く。

 

 

(こうしていると、今の『何時も通り』も悪くないなぁ)

 

 

数日前のステゴモンの一件が今の吹っ切れの要因なのだろうと、ひまりは内心考えていた。

 

 

「如何したんだひまり?」

「…ううん、何でもないよ! それじゃあ片付けて行こっか!」

「おお!」

(私にも何時か蘭みたいにパートナーデジモンが出来たら、こんな関係が築けたらいいな~)

 

 

そんな事を思いながら、ひまりは片付けに取り掛かったのだった。




そう言えば最近気付いたのですが、『02』の最終回でタケルが『デジモンは君がいてほしいと思った時に、君の所に現れるよ』と発言していましたが、歴代の『デジモンシリーズ』のパートナーデジモン持ちのキャラ達って、殆どが偶然な形(及びに特殊な事情)でパートナーデジモンと出会っているので、タケルの上記の台詞と矛盾しちゃっているんですよね……(私の知る限り、上記の台詞に該当する形でパートナーデジモンを得たキャラは、『テイマーズ』のタカトと博和とケンタの位でしょうか?)。
特にタカトに関しては、最終的に自分でオリジナルのデジモン(ギルモン)を考えてパートナーデジモンにした件を見ていると、本当に『デジモンへの愛が深い子何だな』と思います……。


それと話は変わりますが、この話を書いている時にふと『バンドリ×五等分の花嫁』のコラボネタと言うのを少し考えていました。
因みに私は『五等分の花嫁』は『D4DJ』のコラボイベントで知った者で、今年のコラボイベントの一件もネットの情報で知りました。


私の中で『若しAfterglowメンバーを中野姉妹に例えた場合の組み合わせ』のイメージは、


・一花×巴(『長女』繋がり)
・二乃×ひまり(『ピンク』繋がり)
・三玖×モカ(『青』と『パン』繋がり)
・四葉×蘭(お察し下さい)
・五月×つぐみ(『5』繋がり)


と言う感じです。


またガルパversionのイメージだと、


・一花×千聖(『女優』繋がり)
・二乃×リサ(『料理上手』繋がり)
・三玖×イヴ(『歴女』繋がり)
・四葉×はぐみ(『明るい活発系キャラ』&『運動神経抜群』繋がり)
・五月×ひまり(『大食いキャラ』繋がり)


と言う感じです(因みに、風太郎は紗夜さんです)。


それとネットで調べたのですが、アニメ2期のOPである『五等分のカタチ』をましろがカバーしていると言うのに何だか不思議な物を感じますね……(本家は蘭とこころなので)。


これは個人的な質問になるのですが、皆さんが個人的に『五等分の花嫁』のメイン6人(風太郎&中野姉妹)のポジションにバンドリキャラを当てはめるのならどの様な感じになりますか?
若し御時間&『私の中のイメージはこんな感じ』と言うのがありましたら、活動報告の『作品に関しての御報告』と言う所に送って下さい(勿論、同じく活動報告に記載した『バンドリキャラのパートナーデジモン』、『バンドリ戦隊』、『DJライダー』の方にも『私の中のイメージはこんな感じ』と言うのがありましたら、其方の方も宜しく御願い致します)。


それでは何時も通りのデジモン解説です。
尚、今回紹介するデジモンの内の1体は今現在本編には登場していませんが、関係性的な立ち位置の意味合いを込めて紹介しておきます(一応分かり易いように、(※)マークが付いています)。




ステゴモン

レベル:アーマー体
タイプ: 剣竜型
属性:フリー

パタモンが「友情のデジメンタル」のパワーによって進化したアーマー体の剣竜型デジモン。
背中に無数のブレードを持ち、背中のブレードは敵からの攻撃を防ぐのと同時に反撃を行うためのもので、ステゴモンの意思で好きな方向へ動かすことができる。
また、尻尾についているトゲで攻撃を行うこともあるが、基本的には敵の攻撃を受け、ブレードで撃退するのがほとんどだと言われている。必殺技は背中のブレードを上空に打ち上げ敵に降り注ぐ『シェルニードルレイン』。
降り注ぐブレードを避けきれるデジモンはそうそうはいないが、攻撃をすべて回避されてしまうと、ステゴモンはブレードを失い丸裸も同然になってしまうので滅多に使うことはないようだ。


(※)バイオステゴモン

レベル:バイオハイブリッド体(アーマー体)
タイプ: 剣竜型
属性:フリー

『デジモンセイバーズ』に登場した個体で、超生物学者の倉田明宏が捕らえたデジモンたちを使った実験によって開発した『バイオデジモン』の1体。
倉田がDNAにデジモンのデータを融合させた3人組の1人、イワンがハイパーバイオエボリューションの掛け声で進化する。
原種と違い、頭の部分が赤く、試験管のようなものが刺さっている点が特徴で、必殺技は原種同様シェルニードルレインだが、使用後にブレードを回収して再装填しなければならなかった原種と違い自動的にブレードが装填されるため弾切れを気にすることなく連射が可能となっている。
また防御力も高く、『セイバーズ』の作中では完全体のマッハガオガモンの拳を跳ね除けていた(究極体に匹敵するチィリンモンの技でようやくまともなダメージが入っている)。
因みに登場したのは原種より後であるが、実はアニメで最初に登場したのは、此方が先である(原種のステゴモンのアニメでの初登場は、『デジモンアドベンチャー:』(通称『アドコロ』))。




さて次回の話ですが、一応サブタイトルだけが決まっているので発表します。
次回、『第12話 Route BLUE』。
どんな話になるのかはまだ秘密です(最も誰がメインになるのかは、サブタイトルの意味(と言うより元ネタ)に気付けば直ぐ分かってしまうのですが)。


それでは、之にて失礼致します。


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第12話 Route BLUE

遅くなって申し訳有りません……。
久しぶりの投稿です。

今回のサブタイトルの元ネタはとあるアニメ作品のEDなのですが、私がこの曲を聴いた感想を一言で言うなら、『今回のメインキャラのキャラソンって言っても、絶対違和感無いと思う』と言う物です。

そう言えば以前、公式でポピパのキャラソンを出していましたが、個人的にポピパ以外の6バンドのキャラソンも出してもいいのではないかなと個人的に思っています……。

後、以前パスパレ回で登場したオリデジのモルスクモンがマッシュモンに関係したデジモンと言う事を書きましたが、何の偶然なのか『ゴスゲ』にも登場した新デジモンのシャンブルモンもマッシュモンに関係があるのを知った時はかなり驚きました……。


 

 

「行け! ダークリザモン!」

「ヴオオオオオ!!」

「行くわよブイモン!」

「あぁ!」

 

 

とある日の事。

 

 

友希那はブイモンやリサと共に『CIRCLE』に向かう途中、ブギーモン達の襲撃を受けていた。

 

 

 

 

――EVOLUTION

 

 

 

 

「ブイモン進化! ブイドラモン!」

 

 

そして進化したブイドラモンとブギーモンの命令を受けたダークリザモンの戦闘が開始される。

 

 

「友希那……」

 

 

リサは心配な様子で見ている。

 

 

「とどめよ。 ブイドラモン!」

「ブイブレスアロー!!」

「ルヴオオオオ!?」

 

 

ブイドラモンの口から放たれた超高熱の熱線による直撃を受けたダークリザモンは、そのままデータの粒子となって消滅した。

 

 

「チッ……覚えていろ!」

 

 

ブギーモンは捨て台詞を吐いて撤退して行った。

 

 

ブギーモンの撤退を見届けた後、ブイドラモンはブイモンの姿に退化した。

 

 

「大丈夫? 友希那」

「この程度、大した事じゃないわ」

「友希那!」

 

 

リサは直ぐに友希那とブイモンの元に駆け寄った。

 

 

「ご免なさいリサ。 紗夜達に連絡をしてから行くわ」

「で、でも……」

「次のライブの事を考えたら、休んで何かいられないわ。 ブイモンの方は大丈夫かしら?」

「俺は大丈夫だけど……」

「なら行くわよ。 ブイモン、有り難う。 ゆっくり休んで頂戴」

 

 

そう言って友希那は、ブイモンを自身のディーアークへ戻し、紗夜達への連絡を済ませた後、再び『CIRCLE』への道を歩いて行った。

 

 

「あっ……待ってよ友希那!」

 

 

その後にリサも慌てて友希那を追い掛ける。

 

 

(友希那……)

 

 

胸中に不安を抱いたまま、リサは友希那の事を見つめていた。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

『CIRCLE』のスタジオの一室において、音楽がフェードアウトする。

 

 

「はぁ~、緊張した~」

「大丈夫? あこちゃん?」

「うん。 今まで心に溜まった物が一気にドバーッて解放されちゃったって感じかな?」

 

 

燐子の問い掛けに、あこが自身の感じた物を話す。

 

 

「湊さん……」

「紗夜、お疲れ様。 今日の演奏、良い具合だったわ」

「はい……」

「どうしたのかしら?」

「……失礼を承知の上でお訪ねしますが……湊さん、少し痩せましたか?」

 

 

友希那には紗夜の言葉の意味が一瞬理解出来ず、きょとんとした様子を見せた。

 

 

「……そうかしら?」

「はい。 食事や睡眠の方は大丈夫ですか?」

「失礼ね。 紗夜には私がそんな人間に見えるのかしら?」

「そう言う訳では無いのですが……」

「なら何?」

『友希那……焦って無い?』

「焦る? 私が?」

 

 

紗夜のディーアーク内部のルナモンからの問い掛けに、友希那は疑問で返す。

 

 

「はい……今の湊さんからはその……焦燥感を感じるんです。 ライブの時期が近いと言うのもありますが……それとはまた『別の意味』から来てる様に思えます」

「……」

 

 

紗夜からの指摘に、友希那は沈黙を見せる。

 

 

「友希那……そうなの?」

「……別にリサには関係無いわ」

「え……?」

 

 

友希那の言葉にリサは戸惑いの様子で問い掛けた。

 

 

「何で……何でそんな事を言うの? 私……友希那が困っているのなら力になりたいって思っているのに……」

「……リサの気持ちは正直嬉しいわ。 でも……これに関しては貴女を巻き込む訳にはいかないの……」

 

 

そう言うと友希那は、ドアを開けて部屋を出て行った。

 

 

「待ってよ友希那!」

 

 

リサの声だけが虚しく部屋に響き、あこと燐子も目の前で起きたやり取りにただ戸惑っている。

 

 

『どうするの? 紗夜……』

「宇田川さん、白金さん。 今井さんの事を頼みます。 湊さんは私が……」

「分かりました」

 

 

そう言って紗夜は友希那を追って部屋を出て行った。

 

 

「湊さん」

 

 

部屋を出て直ぐの所で友希那を見つけた紗夜が声を掛ける。

 

 

「紗夜……」

 

 

それから暫く2人は何かを話し合った後、部屋に戻ってくるも、その後の練習での演奏は不安定な面が目立つ形と言う結果で終わりを迎え、そのまま解散となった。

 

 

「紗夜!」

 

 

自宅へ帰ろうとする紗夜とルナモンをリサが呼び止めた。

 

 

「何ですか今井さん?」

「さっき友希那と何を話していたの?」

「……申し訳ありません。 これに関しては私達の口からは言う事は出来ません」

「そう……何だ……」

「でもこれだけは言わせて下さい。 湊さんは貴女の事を常に大切に想っています」

「私も紗夜や友希那達と一緒に会話の場にいたけど、友希那が語ってた想いに嘘や偽りは感じられなかったわ」

「では、これで失礼します」

 

 

そう言い、紗夜とルナモンは立ち去って行った。

 

 

「友希那……」

 

 

リサの小さな呟きだけが、空気中に虚しく消えていった。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

「はぁ……」

 

 

休日のある日、特にする事も無く歩くリサの口から溜め息が零れる。

 

 

友希那はRoseliaのリーダー&ボーカルとして活動する傍らに加え、紗夜や香澄達と共にデジモン関連の事件の対処も行っている。

 

 

リサ自身も、出来るなら友希那の事を支えたかった。

 

 

だがRoseliaの活動と違い、デジモンの事となれば危険性が付き物であり、そうなれば無防備なリサは足手纏いにしかならないと言うのが実情であった。

 

 

(アタシ……一体どうしたらいいんだろう?)

 

 

リサは内心抱えた自身の悩みへの答えを見つけられない儘、トボトボとした様子で歩いた。

 

 

暫くして自身の現在地が何処なのか気になって辺りを見渡したリサは、とある場所を見て表情を変えた。

 

 

(此処……)

 

 

そしてリサは何かに導かれる様に、その場所へ足を進めて行く。

 

 

やがて暫く歩いたリサは、其処で目に入った光景を見て足を止めた。

 

 

「やっぱり……」

 

 

其処は、リサと友希那が幼少期の頃によく来ていた場所だった。

 

 

(懐かしいなぁ……。 此処でアタシと友希那、それに友希那のお父さんと一緒に音楽のセッションをしたんだっけ)

 

 

リサの脳裏に幼少期の頃の思い出が浮かんでくる。

 

 

(あの頃の友希那は唯純粋に音楽が好きな女の子で、アタシもそんな友希那の隣で一緒に音楽をするのが好きだったんだよね)

 

 

しかし父の一件を切欠に、友希那は変わってしまった。

 

 

『自身が愛した父の音楽を周囲に認めさせる』

 

 

友希那はその為に大好きな『音楽』を『復讐の道具』として利用した。

 

 

 

 

“『そう言えば聞いた? あのバンド解散したんだって』”

“『そうなんだ~。 あのバンドって急に音楽の雰囲気が変わってから、何だかダサくなっちゃったもんね――』”

“『あんなゴミみたいな音楽しか作れないなんて……きっとあのバンドの人達、表向きはカッコ良く振る舞っているけど、裏では素行の悪い事していたんだろうね』”

“『それってヤバい薬とか!?』”

“『いーや、きっと売春とかでしょ! だってこの間、そのバンドのプロデューサーやマネージャーが売春で捕まったってニュースで言ってたし……』”

 

 

 

 

中学の頃、友希那のお父さんのバンドが解散してから暫くして、友希那にとって『バンドを解散に追い込んだ元凶』とも言える人達が警察に逮捕された事もあって、友希那のお父さんは『自身の音楽を否定される』だけでなく、『犯罪者』の汚名を着せられると言う不幸も味わった。

 

 

幸い『犯罪者』の汚名は濡れ衣だった為に直ぐ晴れたけど、友希那自身の目的は『自身が愛した父の音楽を認めさせる』では無く『お父さんの全てを否定し、挙句に泥塗れの汚名を着せたこの世界への復讐』へと大きく広がっていった。

 

 

常に交流のあったアタシは、友希那の『この世界に対する憎悪』が痛い程分かっていたのに、結局逃げてしまった。

 

 

だからRoseliaに加入した時、アタシは友希那の全てを理解し、分かち合える『存在』になろうと強く誓った。

 

 

でもここの所、ブイモンや紗夜達と一緒にデジモン達の脅威に立ち向かう友希那の姿とこの前言われた言葉で、私の中にあった不安と寂しさはより強くなっていった。

 

 

 

 

「見つけたわ!」

 

 

 

 

その時背後から知らない声が聞こえたので振り返る。

 

 

「アナタね! ここの所この公園で悪さをしているのは!」

 

 

其処には頭に葉っぱを生やした埴輪みたいな表情をした見た事も無い生き物が中に浮かびながら此方を見ていた。

 

 

「待って! 公園で悪さって……」

「惚けないで! 此処の公園の植物を傷付けたり燃やしたりする何て、アンタ以外誰がやるって言うのよ!」

 

 

ピンク色の生物の言葉を聞いて周りを見ると、確かに所々に焦げ付いた所や刃物で鋭く切り裂かれた様な後が見られた。

 

 

「いやアタシ知らないよ! そもそも彼処までの事、アタシ1人で出来ると思う?」

「うっ……た、確かに言われて見れば……」

「若し良かったらアタシも犯人探しを手伝うよ! そうすればお互いに納得するでしょ?」

「……分かったわ。 でも私はまだ貴女を完全に信じた訳じゃないから。 其処は忘れないでね」

「分かっているよ。 ……そう言えばまだ名前を言ってなかったね。 アタシはリサ。 貴女は?」

「……ララモン」

「そっか……宜しくねララモン!」

 

 

リサの様子にララモンは、まだ戸惑うばかりであった。

 

 

 

 

「キキィィィ――――!」

 

 

 

 

その時、辺りに甲高い鳴き声が響いた。

 

 

「な、何!?」

「! 危ない!」

 

 

ララモンが咄嗟に突き飛ばし、それと同時にリサのいた所に大きく抉られた痕跡が出来る。

 

 

「大丈夫?」

「あ、有り難う……」

「キキィ――!」

 

 

声の方向を向くと、其処には両手に白い翼を生やした女性の様な見た目の異形がいた。

 

 

「いけない! ハーピモンよ!」

「ハーピモンって……デジモン!?」

「キキィ――!」

 

 

ハーピモンは再び風を操って真空刃を作り出し、リサとララモンに向けて放った。

 

 

「「キャアアア――!」」

 

 

リサとララモンは何とか回避するも、真空刃の衝撃の余波で吹っ飛ばされてしまう。

 

 

ハーピモンはそれを面白く思ったのか、リサ達に向けて集中的に攻撃を行いだした。

 

 

「ナッツシュート!」

「キキャア――!!」

 

 

ララモンは咄嗟に反撃するも、ハーピモンは真空刃でララモンが放った固い木の実を、まるで豆腐を切るかの如く切断して相殺した。

 

 

「ダメ……全然効いてないわ……」

「ど……どうしよう……?」

「キキャア――!」

 

そんなリサ達を見たハーピモンは再度、彼女達に襲い掛かって来る。

 

 

もう駄目だと思った2人は目を閉じる。

 

 

 

 

「ブイブレスアロー!」

 

 

 

 

その時両者の間を光線が走り、ハーピモンは少し下がった。

 

 

「今の……「リサ!」ッ!」

 

 

声の方向を見ると、其処には此方に来る友希那とブイドラモンの姿があった。

 

 

「友希那……」

「大丈夫リサ?」

「う、うん……。 何とか」

 

 

そして友希那達が視線を向けた先には、殺気立った様子で此方を見るハーピモンの姿があった。

 

 

「ハーピモン。 アーマー体。 幻獣型デジモン。 必殺技は『ウィンドシーカー』……」

「キキャア――!」

「ブイドラモン!」

「あぁ!」

 

 

ハーピモンが此方へ突進してくるも、ブイドラモンがそれを受け止める。

 

 

「キキキキキキ……!」

「くうううぅ……!」

 

 

やがてこれ以上の拮抗は無意味と悟ったのか、ハーピモンは体勢を変えてブイドラモンに蹴りを喰らわせて脱出し、距離を取った。

 

 

(相手は空中戦が得意。 飛行能力を持たない此方には不利だわ。 何とか地上戦に持ち込まないと……)

(友希那……)

 

 

友希那はハーピモンの特徴を冷静に観察しながら策を練る一方、リサはララモンと共にそんな彼女を心配な様子で見ている。

 

 

「グオッ!?」

 

 

その時横から赤い炎が飛んできて、命中したブイドラモンは苦悶の声を上げる。

 

 

「ブイドラモン!」

「友希那! あれ!」

 

 

友希那がリサの声を聞き、赤い炎が飛んで来た方を見ると、其処には全身を炎に包んだ赤い山椒魚の様な見た目の異形がいた。

 

 

「サラマンダモン。 アーマー体。 両生類型。 ウィルス種。 必殺技は『ヒートブレス』と『バックドラフト』……」

 

 

友希那は自身のディーアークで相手の情報を確認する。

 

 

「ハーピモンの真空刃とサラマンダモンの炎……此処の公園を荒らしていたのは、コイツらだったのね……」

 

 

ララモンは2体のデジモンの攻撃から、公園荒らしの真実を悟った。

 

 

「ガアアア――!」

「クッ!」

「キキィ――!」

「グアア!」

 

 

サラマンダモンは再び口から灼熱の炎を吐き出し、ブイドラモンは何とか回避するが、その直後にハーピモンの放った。

 

 

「「ブイドラモン!」」

「大丈夫だ……!」

 

 

そう言ってブイドラモンは態勢を整え直し、再度2体の方に向かって行く。

 

 

「……リサ、貴女はその子を連れて逃げなさい」

「友希那!?」

 

 

リサは友希那の発言に戸惑う。

 

 

「リサ。 貴女にはこれまで沢山助けられて来たわ。 小さい頃、そしてRoseliaの事に関しても……」

「友希那……」

「……でも同時に沢山迷惑を掛けて傷付けてしまったわ。 あの時も……」

 

 

“『ペトラファイヤー!!』”

“『キャアアアアアアアアア!!』”

 

 

「……石になった貴女の姿を見てデジモンとの戦いの危険を知って、貴女を巻き込ませたく無いと思ったわ。 だから、紗夜にしか話さなかったのよ」

 

 

友希那の言葉に、リサは息を飲んだ。

 

 

「私自身……不器用なのは分かっているわ。 でも……リサが傷付く姿を見るのは……もっと辛いの」

「そう……だったんだ……」

 

 

友希那は例え仲が険悪になったとしても、リサの事を守りたかった。

 

 

 

 

“『湊さんは貴女の事を常に大切に想っています』”

“『私も紗夜や友希那達と一緒に会話の場にいたけど、友希那が語ってた想いに嘘や偽りは感じられなかったわ』”

 

 

 

リサは紗夜とルナモンが言った言葉の意味が漸く理解した。

 

 

「グオオ!」

「! ブイドラモン!」

 

 

友希那はブイドラモンの元へと駆け出した。

 

 

「くうぅ……」

「ブイドラモン! 大丈夫?」

「言っただろ……こんな痛み……クッ……大した事無いさ……っ! 友希那!」

 

 

その時ハーピモンが友希那に対して攻撃の構えを見せていた。

 

 

(もう駄目ね……)

 

 

友希那は動きを止めた。

 

 

 

 

「止めて――!」

 

 

 

 

その時ハーピモンの体に小さな石が当たる。

 

 

友希那とブイドラモンが声の聞こえた方を向くと、其処にはリサの姿があった。

 

 

「これ以上友希那達を傷付けるんなら、アタシが相手になってやるんだから!」

 

 

そう言ってリサはハーピモンに対して、地面に落ちている小石を投げ付け始める。

 

 

「止めてリサ! 危険よ!」

「リサ! クッ!」

 

 

ブイドラモンは何とかリサの下に向かおうとするが、サラマンダモンの妨害もあって動けなかった。

 

 

「キキャア――!」

 

 

そしてハーピモンの方も、狙いをリサに対して攻撃態勢に入る。

 

 

「ナッツシュート!」

 

 

だが今度は無数の固い木の実が降り注ぎ、ハーピモンは咄嗟に自身の羽の生えた腕で防御する。

 

 

「今の……」

「大丈夫!?」

 

 

リサが振り向くと、其処にはララモンの姿があった。

 

 

「どうして……」

「ハーピモンは力は強くは無いけど、獰猛なデジモンなの! あのままだったら八つ裂きにされてる所よ! ……それと」

 

 

不思議そうな様子のリサを前に、ララモンは一拍置いて言う。

 

 

「……さっきは疑ってしまって御免なさい。 貴女のブイドラモンのテイマーを心配する様子を見てたら……悪い人に思えなくて……それにこのまま誤解したままなのも嫌だったから……」

 

 

そんなリサはララモンを優しく抱き締める。

 

 

「有り難うララモン……」

「リサ!」

 

 

其処へ友希那が駆け付ける。

 

 

「リサ! 何て無茶を……。 此処は私に任せて貴女は……」

 

 

次の瞬間、乾いた音と痛みが友希那の頬を走った。

 

 

リサの方を見ると、リサは目尻に涙を浮かべながら此方を睨んでいた。

 

 

「リサ「バカ!」」

 

 

友希那の言葉を遮り、リサは叫ぶ。

 

 

「バカバカバカ! 友希那のバカ!」

「リサ……」

「如何して友希那は1人で何でも無理して抱え込もうとするの!? ……アタシ……『迷惑』だ何て言った? アタシは自分の意思で友希那の側にいるって決めたの!」

「……」

「“リサが傷付く姿を見るのはもっと辛い”って言ったよね? アタシにとっては友希那に若しもの事があったらって考えたら、そっちの方が辛いの! ……アタシが……友希那を想う気持ちを甘く見ないで!」

「リサ……」

 

 

そしてリサは友希那を優しく抱き締めた。

 

 

「友希那……貴女が背負っている物……アタシにも背負わせてよ……。 その為ならアタシは……汚れたって傷付いたっていいから」

「……有り難うリサ……ご免なさい」

 

 

 

 

「キキャア!」

 

 

 

 

2人は叫び声の方を向く。

 

 

「行こう友希那!」

「でも……貴女「私に任せて!」」

 

 

その時、ララモンがリサの隣に現れる。

 

 

「リサには指一本たりともアイツらに触れさせないわ!」

 

 

その様子を見たハーピモンとサラマンダモンは嘲笑の様子を浮かべた。

 

 

「笑うな! リサは……相手の事を理解し思いやれる優しい女の子よ! アンタ達みたいな下品で乱暴な奴ら、リサの足下所か、全身にすら及んでないわよ!」

「ララモン……」

「私はこの子の……パートナーだもん!」

 

 

その時リサの目の前に眩い光が現れ、彼女が目の前の光を掴むと、光はカーマインの縁取りのディーアークへと変わった。

 

 

「これ……友希那や紗夜の物と同じ……」

 

 

不意に悪寒を感じて視線を向くと、ハーピモンとサラマンダモンが先程と違い、殺気立った様子で此方を睨み付けていた。

 

 

「リサ。 改めて聞くわ。 デジモン達との戦いは危険な物よ。 これから先、今の状況以上に危険な状況に遭う事だってあるわ。 貴女はそれでも私達と一緒の道を行く勇気はある?」

「……何当たり前の事を聞いているの。 そんなの既に決めているよ」

「私はリサのパートナーよ! リサは私が守ってみせるもん!」

「……貴女達の想い、しっかりと感じたわ」

 

 

友希那がブイドラモンの方を見ると、ブイドラモンもリサとララモンの想いに対して、肯定を示す様に頷いた。

 

 

「キキャアア――!」

「キュオオオ!」

 

 

友希那達が振り向くと、ハーピモンとサラマンダモンが叫び声を上げていた。

 

 

「行くわよ皆!」

「ああ!」

「ララモン! 準備は出来てる?」

「うん!」

 

 

 

 

――EVOLUTION

 

 

 

 

「ララモン進化!」

 

 

ディーアークから放たれた光に包まれたララモンが姿を変えていく。

 

 

小さな肉体は大きくなり、そして光が収まると、太い尻尾と背中に葉を付けたヒマワリの様な姿をしたデジモンへと変わっていた。

 

 

「サンフラウモン!」

「ララモン……」

「サンフラウモン。 成熟期。 植物型デジモン。 データ種。 必殺技は『サンシャインビーム』と『スマイリービンタ』、『カクタステイル』……」

 

 

リサはサンフラウモンの姿に呆然とし、友希那はディーアークでサンフラウモンのデータを調べる。

 

 

「此処からは私も参戦するわ、ブイドラモン」

「サンフラウモン……あぁ、共に戦おう……!」

 

 

2体はハーピモンとサラマンダモンに視線を向ける。

 

 

「ブイドラモン、ハーピモンは私が引き受けたわ」

「分かった。 行くぞ!」

 

 

そしてブイドラモンとサンフラウモンはそれぞれの相手へと向かって行った。

 

 

「ウオオオオ――!」

 

 

ブイドラモンは駆け出す。

 

 

サラマンダモンは口から炎を吐いて攻撃するも防戦一方だった先程と違い、ブイドラモンは怯む事無く向かって行く。

 

 

「マグナムパンチ!」

「ギュル!?」

 

 

ブイドラモンの拳がサラマンダモンの顔面に直撃し、サラマンダモンは大きく吹っ飛ばされる。

 

 

「さて……こっからは俺とお前のタイマン勝負と行こうぜ」

「ギュ……ギュアアアー!」

「ブイブレスアロー!」

 

 

サラマンダモンは再度口から灼熱の炎を吐き出すが、ブイドラモンは口から放った高熱の熱線でそれを打ち消し、両者の間に煙が湧き上がった。

 

 

「キキ――ッ!」

「クッ……!」

 

 

一方では、ハーピモンが放った真空刃をサンフラウモンが両手をクロスして防ぐ。

 

 

「ハアアァァ―――!」

 

 

サンフラウモンは自身の尻尾を伸ばすも、ハーピモンは距離を取る様に空中に回避する。

 

 

「やっぱり空を飛べる分、あっちの方が有利みたいだね……」

 

 

リサは空中のハーピモンを見て呟く。

 

 

「リサ、大丈夫よ」

「サンフラウモン?」

「飛行能力はアイツだけの『専売特許』じゃない……今から見せてあげるわ」

 

 

そう言ってサンフラウモンは背中の葉をパタパタと少しずつ動かし、次の瞬間、空中へと舞い上がって行った。

 

 

「え……えええええっ!?」

 

 

リサ自身、背中の葉を単なる飾りだと思っていた為、まさかサンフラウモンが空を飛べるとは思っておらず、驚きの声を上げた。

 

 

「キキャア!?」

「お返しよ! スマイリービンタ!」

 

 

リサと同じ様に驚愕して動きを止めたハーピモンに対し、サンフラウモンは両手で往復ビンタをお見舞いした。

 

 

「キキャ! キキャ! キキャ!」

「ヤアア……ハアア――!」

「キキャイイ――!」

 

 

最後に全力の籠もった右手のビンタを顔面に受けたハーピモンは、バランスを崩して地面に墜落して行く。

 

 

「キュルル!?」

 

 

そこには先程の煙に紛れて逃走を図ろうとするサラマンダモンの姿があったが、突然墜ちてきたハーピモンに気付くも避ける事も出来ず墜落したハーピモンの下敷きになる。

 

 

「見つけたぞ!」

 

 

しかもその時丁度煙が晴れた事もあって、ブイドラモンに見つかってしまう。

 

 

「キキィ……!」

「キュキュ……!」

「カクタステイル!」

 

 

サンフラウモンは尻尾の様に生えた茎を振り回してトゲを放ち、2体の動きを封じた。

 

 

「キキャア!?」

「キュル!?」

「サンフラウモン!」

「ええ!」

「ブイブレス……」

「サンシャイン……」

 

 

「アロー(ビーム)!!」

 

 

ブイドラモンの熱線とサンフラウモンの光線による同時攻撃がハーピモンとサラマンダモンの2体に炸裂する。

 

 

「キキャアア―――!?」

「キュルルオオォォ!?」

 

 

そのまま2体は苦痛の叫び声と共に、データの粒子となって消えていった。

 

 

「ふぅ……」

「リサ、大丈夫?」

「うん、何とかね。 ララモンもお疲れ様」

 

 

リサは進化が解けて此方に来たララモンに労いの言葉を掛ける。

 

 

「くっ……」

「ブイモン!? 大丈夫!?」

「結構キツいけど……何とか生きてるよ」

「友希那!」

「私は大丈夫……ただブイモンの方が……」

「それなら私に任せて!」

「ララモン?」

「友希那とリサは少し耳を塞いで。 ブイモン。 ちょっと我慢してね。 シング・ア・ソング!」

 

 

ララモンはブイモンに対し、優しく歌い出す。

 

 

「ん……んぅ」

 

 

数分後、ブイモンは静かに眠りに付いた。

 

 

「ララモン。 一体何をしたの?」

「ブイモンに私の歌を聞かせて眠らせたのよ。 後はゆっくり休めば大丈夫よ」

「有難う、ララモン」

 

 

そして友希那はリサに向き合い、自身の右手に持つ菫色の縁取りのディーアークを掲げ、それを見たリサも右手に持ったカーマインの縁取りのディーアークを掲げて重ね合わせる。

 

 

そんな2人の姿を太陽の光が祝福する様に照らしていた。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

「おっ待たせ~!」

 

 

数日後。

 

 

人が行き交うショッピングモールの広場に友希那とリサがいた。

 

 

リサからの誘いを受けた友希那は、気分転換とこの前のお詫びを兼ねて、今日は彼女と共に外出をしていたのであった。

 

 

「ゴメンね友希那」

「いえ。 私もついさっき来たばかりよ」

「それじゃあ行こっか!」

「待ってリサ」

 

 

そう言って歩き出そうとしたリサを友希那が呼び止める。

 

 

「友希那?」

「今日着ているその服……とても素敵で似合っているわ」

「っ……あ、有り難う友希那……(友希那が……アタシのファッション見て『似合っている』って言ってくれた……!)」

 

 

リサは照れ臭そうな様子を見せながらも、内心嬉しさとドキドキを抑えられない様子だった。

 

 

「それじゃあ行きましょうか」

「あっ、あのさ!」

 

 

数秒程意識がトリップしていたリサは気を取り直し、友希那を呼び止めた。

 

 

「リサ?」

「もし良かったなら……アタシと手を繋いでくれないかな……?」

 

 

リサは自身の右手を差し出して言う。

 

 

2人の間を沈黙が支配する。

 

 

(やっぱり……そんな都合良く行かないよね……)

 

 

リサが顔を伏せながら内心そう思い掛けた時、右手に柔らかい感触が走る。

 

 

振り向くと其処には自身の右手を左手で優しく握る友希那の姿があった。

 

 

「友希那……」

「さぁ、行きましょう」

「! うん!」

 

 

そして2人は共に歩き出した。

 

 

『はあああ! 良かったわねリサ!』

『ララモン……何だか嬉しそうだね……』

『ブイモンはあれを見て何とも思わないの!?』

『いや……2人が仲良し何だなぁ~っとは思うけど……』

『リサ! 私、リサの幸せの為なら全力でバックアップするわ!』

『ララモンが燃えている……』

 

 

ディーアークの中の2体の会話を余所に、リサと友希那は会話をする。

 

 

「友希那、この喫茶店行ってみない?」

「! 『黒猫亭』……?」

「うん! 此処、可愛い黒猫がいるし、偶に小さなコンサートをやっていたりするから、アタシも気になっていたんだけど……どうかな?」

「(黒いにゃ~んちゃん……)……そうね。 偶には変わった所に行くのも悪く無いわ」

「有り難う友希那! じゃあ行ってみようか!」

 

 

そして2人は目的地に向けて再び歩き出した。

 

 

(友希那……可愛い)

 

 

リサは口では冷静でいながらも内心そわそわした様子を隠しきれない友希那を微笑ましい気持ちで見ている。

 

 

(……友希那の言う通り、これから先も楽しい事だけじゃ無く、辛い事や悲しい事もあるかもしれない。 でも、例えどんな事があってもアタシは友希那の手を絶対に離したりはしないよ。 だから友希那。 一緒にこの道を歩いていこう)

 

 

リサは内心そう想いながら、友希那と共に歩いて行った。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

「皆さん、本日は黒猫亭へようこそ!」

 

 

桃色のショートヘアの少女が、開口一番に口を開く。

 

 

「まだこの歌謡ショーを初めたばかりではありますが、皆さんを私達の歌や踊りで楽しませていきたいと思います。 それではお聞き下さい!」

 

 

そして音楽が流れ出した。

 

 

「へぇ、結構良い感じじゃん」

『あっ、次の曲よ』

(さっきから思ってたけど……あのピンクの子と司会の蒼い髪の女の人、何だかララモンとリサにそっくりな物を感じる……)

 

 

リサとパートナーデジモン達は、思い思いの様子で楽しんでいる。

 

 

(にゃ~んちゃんも可愛い……それに料理も美味しいし、歌も踊りも素敵……こういうのも良いわね)

 

 

友希那も満足そうにショーを鑑賞中、幾つか本人も納得のいく歌詞が浮かんで手帳に書き込む中、ふと手を止めて歌詞を見返す。

 

 

(この歌詞……何だか『Roseliaの曲』と言うより『リサの曲』と言う感じね……)

 

 

ふと視線をリサの方に向けた友希那は思う。

 

 

(そう言えば前にリサは、Roseliaの為に作詞に挑戦してたわね……。 Roseliaの各メンバーの曲……思い切って作ってみようかしら)

 

 

そんな事を内心で考えながら、友希那は手帳を閉じ、再びショーを鑑賞し始めた。

 

 

 

 

その後暫くして、珍しく緊張気味な様子でリサに何かの紙を渡す友希那とそれを見たリサが嬉しそうな様子で友希那に抱き着く姿が目撃される事になったのは、また別の話である。




と言う訳で、今回のメインであるリサ姉にもパートナーが出来ました。

因みに私の中でのイメージだと、今回サブタイトルに使われた曲は『リサ姉のキャラソン&この回のED』と意味で付けました。

また、おまけの件で登場した『黒猫亭』の面々は、『本家作品』では無く、あくまで『バンドリ世界にいるそっくりさん』と言う設定です。


それでは今回も何時も通りのデジモン解説です。




ララモン イメージCV:和氣あず未さん(代表作『ブレンド・S』桜ノ宮苺香・『ウマ娘 プリティーダービー』スペシャルウィーク・『東京リベンジャーズ』橘日向・『プリマドール』灰桜・『少女☆歌劇 レヴュースタァライト -Re LIVE-』音無いちえ)


レベル:成長期
タイプ:植物型
属性:データ


今作におけるリサのパートナーデジモン。
つぼみの様な姿をした植物型デジモンで、頭部の葉っぱを回転させてふわふわ飛び、無表情だが愛嬌がある。
口から固い木の実を放つ必殺技『ナッツシュート』は、意外と狙いは正確である。
また、葉っぱを目一杯回転させて敵に突撃する『ララスクリュー』と、敵を心地良い歌で眠らせる『シング・ア・ソング』をもつ。


サンフラウモン


レベル:成熟期
タイプ:植物型
属性:データ


リサのララモンが進化したヒマワリの様な姿をした植物型デジモン。
太陽の光を浴びるととても元気になり、攻撃力もアップする。
また、天気の良い日は背中の葉をパタパタさせて飛ぶこともある。
必殺技は、花びら全体から放つ太陽光線『サンシャインビーム』と、笑顔で敵をビンタする『スマイリービンタ』。尚、その笑顔は不気味だと恐れられている。
また、尻尾のような茎を振り回しトゲを放つ『カクタステイル』をもつ。


ダークリザモン


レベル:成熟期
タイプ:邪竜型
属性:ウィルス


冒頭に登場。
静かに燃える闇の炎で全身をおおったデジモンで、性格はクール。
必殺技は、闇の炎で敵の精神を焼きつくす『ドレッドファイア』。


ハーピモン


世代:アーマー体
タイプ:幻獣型
属性:フリー


ホークモンが光のデジメンタルのパワーによって進化したアーマー体の幻獣型デジモン。
翼の腕と女性の上半身を持っており、データベース(遺跡)から貴重なデータ(秘宝)を奪うところから「かすめ取る者(ハーピーの原義)」と呼ばれる盗賊デジモンであり、力はさほど強くないが、疾風のごとく現れては、その大きな鉤爪で宝を奪って攻撃する。
必殺技は風を操り、真空刃を発生させる『ウィンドシーカー』と音波で攻撃する「サイレントシンフォニー」。
因みに公式でも上半身が女性と明言されているが、アニメ作品では何故か男性寄りの性格や声で登場することが多い。
また、元々は『デジモンウェブドット絵コンテスト』の入賞作品デジモンの1体である。


サラマンダモン


世代:アーマー体
タイプ:両生類型
属性:ウィルス


勇気のデジメンタルでアーマー進化した両生類型デジモン。
炎をまとうサンショウウオのような姿で、見た目通りノンビリしているが、一度怒らせると体の炎をさらに燃え上がらせて襲い掛かってくる。
得意技は口から灼熱の炎を吐き出す『ヒートブレス』、必殺技は空気中の酸素を集めてキョーレツな爆発を起こす『バックドラフト』。
因みに余談であるが、モデルはサンショウウオなのにアニメ版ではヤモリの様に壁や天井を這う姿で描かれている事が多い(最も名前の由来であるサラマンダーは、トカゲの幻獣なのであながち間違いでも無いのだが)。




ここ最近は『bleach 千年血戦篇』や『D4DJ』の新ユニット&アニメ2期の情報、更に『相棒』と『科捜研の女』の新シリーズ、そして『ハリケンジャー』と『アバレンジャー』の20周年記念Vシネマ製作決定だったりと、目が離せない情報に驚きと興奮が混ざった状態が日々続いています……。
因みにララモンのイメージCVの和氣あず未さんですが、私は『スタリラ』が切っ掛けで和氣さんの事を知った身です。


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第13章 海月とペンギンと青い迷宮心(ラビリンスハート)

皆さん、明けましておめでとう御座います。
久し振り&新年最初の投稿です。


タイトルでお察しの方もいる通り、今回は花音さんのメイン回になります。


先に言っておきますが、私は花音さんの事は嫌いではありません(ここ重要です)。


ただ、今回の話はCP描写が少し強く描かれている上に、その関係で花音さん&みさかのん推しの方には少しきつい&花音さんのキャラに違和感に感じる点があるかもしれないのに加え、Lastの件は賛否両論になるかもしれません。


以上の事を理解した上で読んで下さい。


 

 

「ふぇぇ……」

 

 

ある日の事。

 

 

目的地の店に用事があって出掛けた花音は、予定よりも早く用事が住んでしまった事もあって辺りを散策するも、自身の癖である方向音痴によって道に迷っていた。

 

 

「あれ? 花音さん?」

 

 

声の方に振り向くと其処にいたのは、ましろとハックモンだった。

 

 

「ましろちゃん、ハックモン……」

「若しかして……道に迷ってしまったのか?」

「う……うん……そ、そうです……//」

 

 

ハックモンからの問い掛けに花音は、少し恥ずかしさと気まずさが混ざった表情で返答した。

 

 

「若し良ければ、私達と一緒に行動しませんか?」

「あ、有り難う……ましろちゃん」

 

 

花音はましろからの申し出を迷う事無く受け入れ、2人は共に行動し始めた。

 

 

(そう言えば……花音さんとこんな風に二人きりって初めてかも)

 

 

ましろ自身の花音に対する印象は、『ガールズバンドの先輩』と言う物である。

 

 

ましろの記憶する限り、花音とはそもそも所属するバンド、通っている学校や学年などあらゆる面が違っている事もあって、今まで交流をする事などあまりなかった為、逆に新鮮に感じられた。

 

 

「ましろ? どうかしたのか?」

 

 

ハックモンの呼び掛けに、ましろは我に返る。

 

 

「ううん、ごめんね。 少し考え事していたの」

「そうか……」

「ふふっ……ましろちゃんとハックモン、本当に仲良し何だね」

「はい。 彼とはデジタルワールドに行った時からの仲ですから……」

「あぁ……こうして人間界で再び一緒に過ごしていると……ましろのこんなに大きく成長した姿を見れて、私も嬉しく思うんだ」

 

 

ましろとハックモンの脳裏に、デジタルワールドの時の事が思い浮かばれる。

 

 

初めて会った時の事。

状況が分からず戸惑うましろを慰めた時の事。

初めて進化し、敵を倒した事。

初めて友達になったデジモン達の事。

その友達の死に泣いた時の事。

デーモンとの最後の戦いの時の事。

 

 

 

 

そして――別れた時の事。

 

 

 

 

「楽しい事や悲しい事、辛い事も沢山会ったけど……でもあの冒険があったからこそ……今の私達が在るんです。 私だけじゃない。 香澄さんや有咲さん、紗夜さんや日菜さんも……皆自分達のパートナーには、返しきれない程沢山の物を貰ったんです。 だから……例えどんな事があっても……ハックモン達を信じて味方でいようって、再会した日の夜に5人で誓い合ったんです」

(ましろちゃん……見た目に反して、芯が強いんだな)

 

 

花音はましろの言葉と姿勢から、彼女の内心に秘められた強い想いを感じ、息を呑んだ。

 

 

 

 

「うわあああ――!」

 

 

 

 

「! あっちだ!」

「行こうましろ!」

「ふえぇ!? 待って~!」

 

 

突然の悲鳴を聞いたましろとハックモンは駆け出し、花音も慌てて追い掛けた。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

「止めて! 痛いよ!」

「コイツは面白ぇ! オラァ!」

 

 

ましろ達の目の前に飛び込んで来たのは、紫色のペンギンとそれを面白がって乱暴する長い耳と鋭い爪を持つ紫色の獣の姿だった。

 

 

「止めろ!」

 

 

其処へ両者の姿を見たましろとハックモンが割り込んで来る。

 

 

「何だテメェらは?」

「どうしてこんな酷い事をするの!?」

「これ以上乱暴を行うなら、私が相手をするぞ」

「五月蝿ぇ! このガジモン様に指図するってんなら、痛い目に味併せてやるぜ!」

 

 

そう言って紫色の獣――ガジモンはハックモンに襲い掛かる。

 

 

しかしハックモンはその攻撃を最低限の動きで交わす。

 

 

「何!?」

「フィフスラッシュ!」

「グアアアー!」

 

 

ハックモンの前足の爪による強烈な一撃を浴びたガジモンが吹っ飛ばされる。

 

 

「手加減はした。 まだやるのなら、お前が納得するまで何回でも相手をしてもいいぞ?」

「お……覚えてろ~!」

 

 

ガジモンは情け無い声を出して逃走して行った。

 

 

「ふぅ……」

「ハックモン、お疲れ様」

 

 

ましろがハックモンを労う。

 

 

「大丈夫?」

 

 

一方花音は紫色のペンギンに声を掛けて無事を確認するが、相手は警戒している為か怖がっている様子だった。

 

 

「大丈夫だよ……。 何もしないから、少し落ち着いてね?」

「……うん」

 

 

花音の言葉と姿勢を受け、紫色のペンギンは警戒心を解き、彼女が差し出した手を取って起き上がった。

 

 

「あ……有り難う……」

 

 

紫色のペンギンはお礼を述べた。

 

 

「花音さん!」

「ましろちゃん、ハックモン。 この子の方は特に大きな怪我とかは無いから、大丈夫だよ」

「そうですか……」

「本当に……助けてくれて有り難う……」

「気にしないでいいよ。 私は松原花音。 そしてこっちが、倉田ましろちゃんとハックモンだよ」

「宜しくね」

「ハックモンだ。 此方こそ宜しく頼む」

「ぼ、僕……ペンモンです……」

 

 

紫色のペンギン――ペンモンも自己紹介をする。

 

 

「ふふっ……宜しくね、ペンモン」

「う、うん……」

 

 

一方でましろは自身のディーアークでペンモンを調べる。

 

 

「ペンモン。 成長期。 鳥型。 ワクチン種。 必殺技は『無限ビンタ』」

「それでペンモン。 君はこれからどうする?」

「ボ、ボクは……」

 

 

ハックモンの問い掛けに、ペンモンはしどろもどろとした様子を見せた。

 

 

「あ、あの……若し良かったら……私の家で良いかな?」

「花音先輩?」

「こんな状態のこの子をこのまま此処に放置する何て、私には出来ないよ」

「そう言えばましろ。 今日は確か『CIRCLE』が休みではなかったか?」

 

 

ハックモンの言葉でましろはこの前、まりなから自身の用事の関係で『CIRCLE』が休みになるのを聞かされた事、そして今日がその日である事を思い出した。

 

 

「……分かりました。 花音先輩、御迷惑をかけて本当に済みません……」

「ううん。 これは私が決めた事だから、ましろちゃんが謝る事何て無いよ。 それじゃあ行こっか」

「うん……」

 

 

花音はペンモンを抱き締めるとそのまま自宅の方へと歩いて行き、ましろとハックモンも静かに見送った。

 

 

 

 

だが双方は全く気付いていなかった。

 

 

 

 

先程から自分達の様子を別方向から観察している存在がいた事に。

 

 

 

 

「……なる程。 あの強さなら『あの方』が『救世主』と評するのも納得ですね……」

 

 

観察している存在の正体である少女――パレオは自身の懐から小さな機械――黒いボディとパステルピンクの縁取りのディーアークを取り出し、先程の光景に対して一言呟く。

 

 

「では『先程の子』にアプローチを掛けましょうか」

 

 

そう言うとパレオは、こっそりとその場を離れたのだった。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

翌日、花音はペンモンと共に近くの広場に来ていた。

 

 

「ふぇぇ……ごめんねペンモン……私が方向音痴なばっかりに迷惑を欠けちゃって……」

「そんな……。 花音といて迷惑何て……そんな事全然思って無いよ」

「……有り難うペンモン」

 

 

花音はペンモンの言葉を聞き、安心した様子を見せる。

 

 

「ボク……花音みたいな優しくて良い人間に会えて良かったんだ」

 

 

元々デジモンワールドの小さな集落で過ごしてた事。

 

 

ある時目の前に、急に大きな黒い穴が現れ、気が付けば人間界にいた事。

 

 

最初に出会った人間はペンモンの姿を見て、『水族館から脱走したペンギン』と思って保健所に通報され、慌てて逃げ出した事。

 

 

そこからペンモンはポツポツと今まで自身に起きた出来事を話し出した。

 

 

「……とっても大変な目に遭ったんだね……」

「ボク……人間界ってとっても怖い所って思っていたの……。 でも花音やましろ、ハックモン達と出会って見たら……少しだけど『人間の事を信じてもいいかな』って思えたんだ……。 有り難う花音」

「そんな……私は別にそんな褒められ様子な人間じゃないよ……」

「花音……?」

 

 

花音の脳裏に、ふと数日前の会話が浮かび上がる。

 

 

 

“『美咲! こっちよ~!』”

“『早く早く!』”

“『うわ~ん! 置いてかないでよこころ~!』”

“『ちょ……ちょっと待ってよ! 2人共!』”

“『美咲ちゃん、大変そうだね……』”

“『えぇ……何だかこころが2人になった感じですね……この間だってこころと出掛けた先でデジモンに遭遇したんですけど……こころ、いきなり最初の時みたいに『そんな怖い顔をしないで、あなたも笑顔になりましょう♪』って歌ったりしてたら、相手のデジモンも一緒に歌ったり踊ったりし始めたんですよ……』”

 

 

花音自身、美咲が口ではそんな呆れた言い方をしつつも、その様子からは悪感情など全く感じて無いのが分かった。

 

 

(こころちゃんと美咲ちゃん、何だか楽しそう……)

 

 

元々ハロハピ結成時の頃から仲が良かったこころと美咲だったが、ここ最近はその距離がより一層と近くなっている様だと花音は思っていた。

 

 

(やっぱり『あの子達』と出会った事も大きかったのかな? それに……)

 

 

脳裏に浮かぶのは2人のパートナーの存在、そしてあの時の美咲の姿。

 

 

 

 

“「アンタを見ているとね……あたしの大切な子の事が頭に浮かぶんだ」”

“「無邪気で好奇心旺盛でいつも目をキラキラ輝かせていて……だけど人の事を良く見ていてね……。 特にあたしの事何か……ほぼ的確に言い当てていて、その度にドキッとしていた」”

“「…最初は無理矢理付き合わされて…はっきり言って内心迷惑って思っていたけど、一緒に過ごしていく内に…花音さんやはぐみや薫さん、他のガールズバンドの皆と出会って、当たり前の毎日が不思議と楽しいと思える様になって…その子に感謝しているんだ」”

“「それを聞いた時のその子の様子を見たら…あたしもその子の想いを一緒に叶えたいって、内心思ったんだ……」”

 

 

 

 

(美咲ちゃんはそこまでこころちゃんの事を……)

 

 

花音にとっての美咲の印象は、この一年で大きく変化していた。

 

 

最初の頃は自分を変える切っ掛けを与えてくれたこころの存在が大きく占めており、美咲に対しては『同じ学校兼バンドの後輩メンバー』と言う印象であったが、この1年間でハロハピの活動を始めた様々な形で一緒の時間を過ごす中で美咲の人柄や内面を知っていく内に、彼女の中で美咲の存在が大きな物となっていっていた。

 

 

だからこそあの言葉を聞いた時、花音は内心で敗北感を感じてしまった。

 

 

(私はどうやっても、美咲ちゃんの隣に立てないんだね……)

 

 

そして2人がパートナーデジモンを得た事が切っ掛けで、花音自身はこころと美咲との間に距離を感じる様になってしまっていた。

 

 

あの時花音がペンモンを自宅に保護したのも、ペンモンを放って置けなかった以外に、少しでもこころや美咲達に近付きたかったと言うのも少なからずあったのだった。

 

 

しかしペンモンと一緒に過ごしている内に気持ちが落ち着いてきた花音は自身の中の邪な思いに自覚すると、同時にペンモンを保護と言う形で利用してしまった事への罪悪感に苦しんでいた。

 

 

「私ね、少し前から気になっている子達がいてね……。 その子達との遠くなっちゃった距離を少しでも縮めたい為にあなたを利用したの。 だから……私は感謝なんてされる資格なんて無いの……」

 

 

花音は俯きながら、自身の胸中を吐露した。

 

 

「花音」

 

 

不意に知らない感触に気付き、花音に視線を向けると、自身に手を当て此方を見るペンモンの姿があった。

 

 

「そんな暗い顔をしないで。 ボクは利用された何て少しも思って何かいないよ」

「ペンモン……?」

「例え若しそうだったとしても、花音がボクを助けてくれた事に変わりは無いもん。 ……それに花音は自分から悪いって素直に認めてこうやって謝ったんだよね? そんな花音を悪い人だなんて、ボクは全く思わないもん!」

「……有り難う」

 

 

ペンモンの言葉に、花音は自身の中の閊えていた物が優しく落ちる様に感じていた。

 

 

 

 

「ブラストコフィン!」

 

 

 

 

その時突然叫び声が聞こえ、花音とペンモンの周りを衝撃と爆音が襲った。

 

 

「キャア――!」

「花音!」

「だ、大丈夫……」

 

 

花音は自身の無事をペンモンに伝え、何とか落ち着かせた。

 

 

 

 

「今のは態と外してやったんだ。 思い知ったか?」

 

 

 

 

煙が晴れ、唐突に聞こえた声の方を向くと、其処には此方を嘲笑の様子で見る一匹の狼がいた。

 

 

「フフフ……今度は直接当ててやるよ」

「デジモン!?」

「彼奴はファングモンだよ!」

 

 

花音とペンモンは警戒した様子を見せる。

 

 

「オイオイ……警戒してんのを承知で言わせてもらうが、俺はお前達とは初対面って訳でも無いんだがなぁ?」

「ボク達は君の事何て全く知らないよ!」

「はぁ~……この前虐めてやった奴の顔を忘れる何て、随分お気楽な頭してるとしか思えねえなぁ……」

 

 

花音はその言葉でハッと何かに気付いた様子を見せる。

 

 

「貴方若しかして……この間のカジモン?」

「漸く気付きやがったか……。 あの時は邪魔が入っちまったが、お前らをボコボコにしがてら貰った『この力』を試す事にしたって訳だ」

 

 

ファングモンはそう言って、一歩ずつ近付いて来る。

 

 

「ふ……ふぇぇ……」

「さ……下がって! 花音!」

 

 

ペンモンは花音の手から抜けて、彼女とファングモンの間に立つ。

 

 

「何だ? やるのか?」

「か……花音は……ボクが守る! ワアアアア!」

 

 

ペンモンは叫び声を上げながら、ファングモンに向かって行く。

 

 

「フンッ!」

「ふぎゃう……!」

 

 

しかしペンモンの懸命の抵抗は、ファングモンの右足の一振りで呆気なく振り払われてしまう。

 

 

「ま…まだまだだ――!」

「しつけーぞ!」

「あうっ……!」

 

 

尚も食らい付こうとするペンモンをファングモンは再度振り払う。

 

 

「どうしよう……このままじゃペンモンが……」

 

 

花音の心配した通り、相変わらず無傷のファングモンに対し、ペンモンの体はボロ雑巾の如く傷だらけになっており、最早立っているのがやっと言う状態だった。

 

 

「ううっ……まだ……ま……アウッ!」

 

 

ペンモンは再度立ち上がろうとするも直ぐに崩れ落ちてしまう。

 

 

「っ! ああもう! 正直面倒臭くなってきたぜ! そんなに死にてぇんなら、楽にしてやるよ!」

 

 

そう言ってファングモンは止めを刺そうと攻撃の態勢に移ろうとする。

 

 

 

 

コトッ……コロコロ

 

 

 

 

「? 何だ?」

「ふえぇ!」

 

 

不意に聞こえた音にファングモンは視線を向けると、其処にはペンモンを守ろうとして、花音が必死に石を投げていた。

 

 

しかし懸命な努力も虚しく、彼女の投げた石はファングモンに届く前に失速して緩やかに落ちて行くだけであった。

 

 

「ブハハハ! コイツは傑作だわ! 攻撃がちっともこっちに届いてねぇ! これならチビ共の方がまだマシな攻撃が出来るぞ! お前もこんなヘッポコで青瓢箪な女が相方何てとことんダメなデジモンだなぁ~?」

 

 

ファングモンはペンモンに対し、嘲笑を浮かべながら侮蔑の言葉を吐き捨てる。

 

 

「ダメ! これ以上ペンモンを苛めないで~!」

 

 

しかし花音の投げた石は、先程と変わらずな状態であった。

 

 

「……其処まで痛い目に会いてぇんなら……その通りにしてやるよ!」

 

 

ファングモンは標的を花音に切り替え、口にエネルギーを溜め始めた。

 

 

「花音!」

「ブラストコフィン!」

 

 

ファングモンの口から衝撃波が放たれ、それを見てペンモンは全身の力を振り絞って花音の下へと駆け出した。

 

 

「止めろおおお―――!!」

 

 

すんでの所でペンモンは花音を押し出す。

 

 

「ウアッ……!」

 

 

押し飛ばされた花音の目に、自身を庇って衝撃波に貫かれたペンモンの姿が映った。

 

 

「ペンモン!」

 

 

駆け寄った花音はペンモンに必死に呼び掛ける。

 

 

「ペンモン! しっかりしてペンモン!」

「女ァ……! 心配しなくてもテメェも直ぐにソイツの後を追わせてやるよ!」

 

 

ファングモンはゆっくりと花音とペンモンの下へ近付いて行く。

 

 

 

 

「バーンフレイム!」

 

 

 

 

その時、横から大きな火球が飛んでいき、ファングモンは咄嗟に回避する。

 

 

「花音さ――ん!」

「ましろちゃん!」

 

 

其処へましろがバオハックモンと共に駆け付けて来る。

 

 

「大丈夫ですか?」

「私は大丈夫! でもペンモンが!」

 

 

花音は泣きながらペンモンの事を伝える。

 

 

「っ……こんなにボロボロになって……」

「チッ……前の時と言い、今回も良いタイミングで邪魔しやがって……」

「……言いたい事はそれだけ?」

 

 

一言だけ言ってましろは立ち上がり、ファングモンを見据えた。

 

 

「あなたは……そうやって自分が気に入らないと思った相手をただ傷付けて苦しませる事に対して……何とも思わないの?」

「ハハハ! 随分間抜けな事を聞くなぁ? アイツが嫌い! アイツが気に食わない! アイツより有利な立場に成りたい! 『戦い』ってモンはそうやって始まるんだろうが!?」

「……バオハックモン」

「……あぁ。 ペンモンの悲しみと悔しさ。 私達が代わって晴らしてやろう!」

「ほざけ!」

「バーンフレイム!」

 

 

ファングモンの衝撃波に対し、バオハックモンも口からの大きな火球を放って相殺し、両者の視界を白い煙が覆う。

 

 

「バオハックモン!」

 

 

ましろの声を受け、バオハックモンは静かに目を閉じる。

 

 

「馬鹿が! 噛み千切ってやるぜ!」

「それは……どうかな?」

 

 

次の瞬間、体に鋭利な物が刺さった様な音がなる。

 

 

「フフフフ……! ……? ウォッ……!?」

 

 

してやったと言う表情を浮かべたファングモンの顔が、急に苦しみに満ちた物に変わる。

 

 

「あっ……」

 

 

花音の口から小さな声が漏れる。

 

 

 

 

其処にはギリギリでファングモンの攻撃を躱し、そのボディに片方の鋭い爪によるカウンターを浴びせたバオハックモンの姿があった。

 

 

 

 

「ガァ……何だ……と!?」

「例え視界が悪くて目を瞑ったても、貴様の殺気と腐った性根の雰囲気が嫌でも感じられるからな……。 ……フィフクロス!!」

「グア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」

 

 

其処から一気に力を込めた爪による斬撃で両断されたファングモンは、その身をデータの粒子に変えて消滅していった。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

「アラアラ~……せっかく『無駄遣いせぬよう励みなさい』って注意もした上で進化させてあげたのに残念ですね~……」

 

 

公園の上空。

 

 

2本の杖を所持し、白いドレスに纏った妖精の姿をした存在が、先程の様子を見ながら呟いた。

 

 

「……まぁ、所詮はチンピラデジモン。 期待何てしてなかったんですけど」

 

 

その時ふと自身のスマホが着信音を鳴らしているのに気付く。

 

 

この姿でスマホを弄る姿は些かシュールに見えるが、そんな事を気にせず妖精は右手に所持してた杖を消し、スマホを手に取る。

 

 

「もしもし……あっ、ハイ。 ……了解しました~♪ ……さて、今日は特売日ですから急ぎませんと!」

 

 

会話を終えた妖精は、自身の今日の目的と仕える『主』からの急な用事を果たす為、急いでその場から去って行った。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

「ペンモン……死なないでペンモン……」

「か……花音……」

 

 

花音は泣きながらペンモンに呼び掛け、ペンモンは朧気な様子で彼女に見る。

 

 

一方でましろとハックモンは悲しそうな様子で2人を黙ったまま見守っている。

 

 

2人はこの時点で、ペンモンの命が尽きようとしているのに気付いていた。

 

 

そしてそれを示す様にペンモンの体は少しずつデータの粒子へと変わっていっていた。

 

 

「泣かないで花音……花音は笑顔の方が似合っているから……」

「でも……!」

「ましろとハックモン……2人は……花音、そしてボクの想いを守ってくれた……本当に有り難う」

「ペンモン……」

 

 

ましろとハックモンはただペンモンの言葉を聞く。

 

 

「花音……ごめんね。 花音のライブを見る……約束……守れなく……なっちゃった……」

「そんな事気にしないで! 私待っているよ! ペンモンの事、何時までも待っているから!」

「あ……り……が……とう」

「嫌ぁ……嫌だよペンモン……!」

 

 

その言葉を最後に、ペンモンはデータの粒子となって消えていき、花音も堪えきれず、その場に泣き崩れた。

 

 

「ペンモン……ペンモン……」

「……! ましろ!」

 

 

ハックモンが何か気付いて声を上げる。

 

 

するとペンモンのデータの粒子が集まって淡い光を放ち、やがて光が収まると其処には白い水玉模様の入った青紫色の卵が現れた。

 

 

「これ……」

「デジタマです、花音さん」

「ペンモンは……デジタマからまたやり直すんだ」

「ペンモン……」

 

 

ましろとハックモンの言葉を聞き、花音は優しくペンモンのデジタマを温もりを感じる様に優しく抱き締める。

 

 

その姿をましろとハックモンは、優しく見守っていた。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

「ペンモン、今日はとっても良い天気だね」

 

 

数日後。

 

 

公園のベンチにペンモンのデジタマを抱えた花音の姿があった。

 

 

あの後、ペンモンの卵はましろとハックモンとまりなの3人で話し合い、花音に一任すると言う結論になった(因みにその際、一緒にいる事を考慮して花音のスマホを少し改良し、ましろ達のディーアークにもある格納機能を付けた)。

 

 

「あっ……」

 

 

青空を見る花音の目に1つの雲が映る。

 

 

他の雲と比べ、少しだけ小さいその雲は何処かペンモンの姿にそっくりだと花音には思えた。

 

 

(ペンモン……私は頑張るよ。 『ハロー、ハッピーワールド!』の一員として……。 世界中に笑顔を届ける為に……)

 

 

花音はペンモンのデジタマに視線を向ける。

 

 

(あなたに逢えるのはまだ少し先かもしれないけど……その時が来たら、ハロハピの音楽を聴かせてあげるからね)

 

 

心中で語りながら、花音はペンモンのデジタマを優しく撫でる。

 

 

 

 

『うん。 約束だよ花音!』

 

 

 

 

その時花音は自身の耳に、ペンモンの声が聞こえた様に感じていた。




此処まで有り難う御座います。

因みにペンモンのデジタマの件は当初は入れる予定は無かったのですが、


・『花音さんが余りにも報われなさ過ぎる』
・『仮に生存させたとしてもパートナーデジモンを付けるバンドリキャラが既に決まってるのに、これ以上増やすのは扱いに困る上に、言った本人(私)が約束を破っている点から見ても、如何な物か』


と言う理由から、悩んだ末にギリギリグレーゾーンと言う形になる様に纏めた感じです。


また今回の話は、


・『パートナーデジモンがいないバンドリキャラを主人公にしたデジモンとの交流回』
・読んでいる人達に、『パートナーデジモンを付けるバンドリキャラが既に決まっているのは承知だけど、作中の描写を見てると『もうこれパートナー関係成立でも良いと思う』』と思わせる事。


を意識して書きました(その反面、戦闘シーンが消化試合的な物になってしまいましたが……)。


『パートナーデジモンがいないバンドリキャラを主人公にしたデジモンとの交流回』は今後も通常回(ガルパ風に言うならイベントストーリー)的な形で書いていく予定を考えているので、その事も御理解御願い致します。


それでは今回も登場したデジモンの解説になります。




・ガジモン


レベル:成長期
タイプ:哺乳類型
属性:ウィルス


鋭くて大きな爪を生やしている哺乳類型デジモン。
哺乳類型では珍しく2足歩行をするタイプで、恐らく前足を腕のように使用するうちに前足の爪が進化し、2足歩行をするようになったと思われる。
前足の爪は攻撃する際にも非常に有利だが、意外にも穴掘りに向いており、いつも落とし穴を掘っては、他のデジモンが穴に落ちるのを楽しんでいるイジワルな性格である。
必殺技はガス状の毒息を吐き出す『パラライズブレス』。


・ファングモン


レベル:成熟期
タイプ:魔獣型
属性:データ


森の奥深くに住み、迷い込んだものを餌食にする不気味な狼ような姿をした魔獣型デジモン。
数々の童話に登場する悪しき狼のデータがデジモン化したとも言われ、一度狙いを付けた獲物は決して逃すことなく、時には親しい者の姿にまで化けて近づくことがある。
犬狼系デジモンの中では異端の存在であり、ガルルモンが光の存在であるとすれば、ファングモンは闇の存在であると言われている。
得意技は鋭い身のこなしで、敵から武器やアイテムを盗み取る『スナイプスティール』。
必殺技は破壊の衝撃波『ブラストコフィン』。


・ペンモン イメージCV:小原好美さん(代表作『スター☆トゥインクルプリキュア』羽衣ララ/キュアミルキー、『かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~』藤原千花、『まちカドまぞく』吉田優子/シャミ子)


レベル:成長期
タイプ:鳥型
属性:ワクチン


南極基地のコンピューターから発見された、ペンギンに似た鳥型デジモン。
氷に覆われた地域で生息するため、暑さに弱いのが欠点だが、人懐こい性格で後ろについてはピョコピョコと歩く。
また羽は退化しており、飛ぶことが出来ず歩く速度も遅いが、腹ばいになって氷の上を滑ることで時速60km以上のスピードで移動できる上に、水の中でも小さな羽を利用して器用に泳ぐこともできる。
必殺技の『無限ビンタ』は相手に気づかれないように近づいて両手でホッペタを猛烈な勢いで叩く技だ。


因みに若し花音さんのパートナーになった場合の進化ルートは、


ペンモン→オルカモン→テティスモン→マリンエンジェモン


と言うある意味ツッコミ所満載な感じの物になる予定でした。


当初は、


ペンモン→ルカモン→マーメイモン→マリンエンジェモン


と言う風に考えてましたが、ルカモンとマーメイモンに関しては、


・『活躍の場が水中戦に制限されてしまう』
・『無理に話の中に水中戦を入れると、逆に『露骨すぎる』と思われてしまう&違和感を感じるかもしれない』


と言う理由で、『水陸両方で活躍できる水棲生物モチーフのデジモン』と言う条件を元に選びました(最もテティスモンに関しては、花音さんのパートナーデジモンの候補にジェリーモンを考えていた名残りと言うのもありますが)。


それでは、之にて失礼致します。


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第14話 発酵恐竜2020

久し振りのポピパ&満を持して残りの1人である沙綾のメイン回です。

因みに今作のテイマー達の関係はそれぞれ、


・初代テイマー組(Glitter*Green)
・2代目テイマー組(香澄、有咲、紗夜、日菜、ましろ)
・3代目テイマー組(沙綾、友希那、リサ、蘭、彩、こころ、美咲)


と言う感じになっています。

因みに主人公&リーダーのポジションは、


・初代テイマー組→ゆりさん
・2代目テイマー組→香澄(&この物語の主人公(これに関しては、今詳しく書くと長くなるので省略します))


と言う感じですが、3代目テイマー組に関しては、はっきり言えば特には決めていません(これに関しては、私が好きな特撮作品の1つである『ダイレンジャー』のコンセプトの1つである『全員が主人公』と言うのを意識して書いていた為です)。

それと作中の幼年期デジモンの台詞に関しては、書いていて楽しかったのもあって、作者の私のお遊び&小ネタ的な意味(?)も含めて、色々入れて見ました。
特に何かある訳ではありませんが、若し良かったら読む傍らや暇潰しに何のネタ(但し、一部の奴は少しアレンジしています)か当てて見て下さい(中には知らないネタもあるかもしれませんが、その時は申し訳御座いません)。


 

 

賑やかな雰囲気と明るい声が響き渡る。

 

 

「さぁ、しょーたいむだ!」

「ものがたりのけつまつはおれがきめる!」

「フハハ、返り討ちしてやろう!」

「ドルモン! 怪我させ無い様に気を付けてね!」

 

 

「しっぽ――!」

「それはわたしのおいなりさんだ」

「ちょっと待て!? そんな言葉何処で覚えたんだ!?」

「有咲……変態だ」

「誰が変態だーー!!」

「わーい!」

「まって~!」

「あ~っ! 其処は危ないから駄目だよ~!」

 

 

「あまーーい」

「ふふふっ……チョコレートが口に付いてるよ」

「沙綾ちゃん、とっても上手だね」

「この子達を見てると、紗南や純が小っちゃかった時の事を思い出しちゃってね……」

「皆御免ね……。 いきなりこんな事に巻き込んじゃって……」

「大丈夫ですよまりなさん。 皆可愛いから、誰も気に何かしてませんよ」

「元凶の1人のオメーが偉そうに言うな!」

 

 

『CIRCLE』の近くの広場の一角で、香澄達ポピパの面々は今、幼年期のデジモン達の御世話をしていた。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

事の発端は2時間前に遡る。

 

 

「こんにちはーー!!」

 

 

その日香澄達はバンド練習の為、『CIRCLE』を訪れていた。

 

 

「あ、皆……」

「? どうしたんですかまりなさん?」

「実はね……」

 

 

そしてまりなに案内されて、『CIRCLE』の一室に案内された香澄達が見たのは、赤や青、水玉模様や四角模様など様々な配色や模様が施されたデジタマだった。

 

 

「コレってデジタマじゃねーか……」

「「「デジタマ?」」」

「文字通りデジモンの卵の事だよ。 基本的にデジモンは皆、このデジタマから生まれて成長し、死んだらデジタマに戻ってまた生まれるんだ……」

 

 

ワームモンはデジタマの事を知らない沙綾達に簡単に説明をする。

 

 

「一体何があったんですか?」

「それがね……」

 

 

まりなの説明によると、彼女が『CIRCLE』の開店準備をしている際、ふと何かしらの気配を感じて空を見ると、空が割れ、其処からこのデジタマ達が落ちて来たのだと言う。

 

 

「私もこれだけのデジタマが現れた事もあって、もう大変だったの……」

「あ~、お疲れ様です……」

「あれ、そう言えば香澄とおたえは?」

「あ、あれ……」

 

 

りみが声の先に有咲達が視線を向ける。

 

 

 

 

「わ――っ! 見てみてドルモン! このデジタマ、星の模様が入っているよ!」

「そうだね。 よしよし、元気に生まれるんだよ」

「ウサギのデジモンのデジタマはこの中にあるかな?」

 

 

 

 

其処には香澄とドルモンとたえが、室内のデジタマを片っ端から触り始めていた。

 

 

 

 

「ちょっ……オメーら何やってんだ!」

「あっ……デジタマが」

 

 

そして数分後、『CIRCLE』の一室に大音量の泣き声が響き渡った。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

「で、オメーら何か言う事はあるか?」

「「「申し訳有りません……」」」

「あ、あーちゃん……抑えて抑えて……」

 

 

数分後。

 

 

有咲がドスを利かせた声で問い掛け、頭にたんこぶを作った香澄達は涙を浮かべて返事を返す。

 

 

「……ったく……さて、問題は……コイツらの方だな……」

「あわわわわ……」

「あはははは……」

 

 

 

 

「こんにちはー」「おっす」「おいっす」「こにゃにゃちわー」「にーはお」「ごはんー」「おなかすいたー」「ぴらふくいてー」「コレクッテモイイカナ」「おねえちゃんにまかせなさい」「ちのちゃんとられるー」「あそぼー」「ごろごろー」「まんまるー」「はなげしんけんおうぎ」「にっこにこにー」「らぶあろーしゅーと」「ぶっぶぶーですわ」「すやぴー」「ヒトリダケナンテエラベナイヨー」「きたえてますから」「わたしのせいだ」「こぶ~」「ばんかい」「あーにゃ、ぴーなっつすき」「はっぴーあらうんど」「ぴきぴーきー」「なんだばしゃー」「ことーしことーし」「まかんこうさっぽうー」「きえんざ―ん」「まるまるもりもり」「おっぱいきーんし」「てぃろふぃなーれ」「ねらいうつぜ」「だぶすたくそおやじ。 きみはでんじぐりーんとなって、べーだーいちぞくとたたかうのだ」「てんにかがやくいつつぼし」「ぶるーえんじぇるりさ」

 

 

 

 

有咲達は目の前にいるデジタマから孵化して無邪気にはしゃぐ沢山の幼年期デジモン達に視線を向けながら、揃って困った様子を浮かべるのだった。

 

 

そしてその後まりなと話し合った結果、今日は『CIRCLE』を臨時休業にし、ポピパの面々も練習を休んで、幼年期デジモン達の御世話をする事になったのだった。

 

 

 

 

「あ痛あああ――!!」

 

 

 

 

突如聞こえてきた悲鳴に、沙綾の意識が引き戻される。

 

 

「わ―――! ドルモ―――ン!」

 

 

悲鳴の方向を見ると、其処には全身が真っ赤な色をした四足型のデジモンに尻尾を噛み付かれて悲鳴を上げるドルモンと慌てる香澄の姿があった。

 

 

「あわわ……ど、どうしよう……」

「……りみ、この子をお願い!」

 

 

沙綾はりみに世話をしていた幼年期のデジモンの事を頼むと、直ぐに香澄達の方に向かって行った。

 

 

「コ――ラ――!」

「さーや! 御願い手伝って!」

「痛い!熱い!痛い!熱い!」

 

 

そして数分後、2人はドルモンの尻尾に噛み付いていた真っ赤なデジモンを何とか引き離したのだった。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

「駄目だよ……ドルモンの尻尾に噛み付いたり何かしちゃ……」

「は~い」

「ドルモン、大丈夫?」

「ギギモン怖いギギモン怖いギギモン怖いギギモン怖い……」

 

 

ドルモンは尻尾を噛まれた事がよっぽどトラウマになっているのか、その元凶であるギギモンへの恐怖心をまるで壊れたラジカセの如く繰り返していた。

 

 

「ごろごろ~」

 

 

沙綾は複雑な様子を浮かべる一方、ギギモンは呑気に沙綾の膝で転がっていた。

 

 

「もう……。 香澄、ドルモンの方は?」

「うん……ドルモン……さっきからずっとこんな調子なの……」

 

 

香澄は少し困った様子でドルモンを見ている。

 

 

「何か……本当にゴメンね」

「それにしても……そいつ沙綾に物凄く懐いているな……」

「うん! さーや、とってもおいしそうなにおいがするんだもん!」

 

 

ギギモンは嬉しそうに有咲の問い掛けに応える。

 

 

「分かる! 私も初めてさーやと会った時、『パンの匂いがする』って思ったんだもん!」

「ふふっ、懐かしい。 あの時は私も『変わった子』って思ってたなぁ」

 

 

香澄と沙綾は、懐かしさに思いを馳せながら出会った頃の事を語り合っていた。

 

 

「パン? さーやパンつくるの?」

「うん。 家がパン屋をやっているからね……」

「ギギモン、さーやのパン食べたい! 食べたい!」

「もう……じゃあ今度来た時に持って来てあげるからね」

「わーい!」

 

 

ギギモンは喜んだ様子で沙綾の膝の上でコロコロ転がった。

 

 

「さーや! かすみもさーやのパンたべたい!」

「香澄の奴、何やってんだ?」

「ギギモンの真似じゃないかな?」

 

 

だが香澄の必死のアピールは、ギギモンとのやり取りに集中する沙綾にはすっかり無視されてしまい、香澄は目に小さな涙を浮かべながら見ているのだった。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

「皆、今日は有り難う!」

「おいおたえ。 そろそろ帰……「嫌だ! ピョンモンを花園ランドに連れて行くって決めたもん!」子供かお前は!」

「……つ、疲れた……」

「ワームモン……お疲れ様」

「さーや! やくそくだよ! さーや!」

「分かっているよ、ギギモン」

「うぅ……さーや、何か冷たい……」

「よしよし香澄ちゃん」

「うわーん! りみりーーん!」

 

 

その後終了時間を迎えたポピパの面々はそれぞれ色んな反応を見せながら、『CIRCLE』を後にしたのだった。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

その夜、沙綾は家の自室でギギモンとの約束の件について考えていた。

 

 

「さて……どんなパンにしようかな?」

 

 

ギギモンの性格的に『ベーカリー』の自家製パンなら種類は気にしない様子であるけど、食べ物を作る立場である以上、出来ればギギモンにただ『食べて貰う』だけでなく、『喜んで貰いたい』と言う思いが沙綾を突き動かす要因になっていると同時にどんなパンをプレゼントするか悩ませる要因にもなってしまっていた。

 

 

「ん? 待って……若しかしてこれならイケるかも。 ……よし、こうなったら『当たって砕けろ』だね」

 

 

やがてアイディアを思い付いた沙綾は即座に自身のノートにレシピ案を書き出していくのであった。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

「沙綾ちゃん、その袋は?」

「これ? これはギギモンへのプレゼント。 私なりに精一杯考えて作ったんだ」

「ほほう~。 袋越しからでも良い匂いが漂ってきますなぁ~」

「はわわ……」

 

 

それから数日が経って『CIRCLE』に向かう道中、りみの問い掛けに沙綾が答える。

 

 

今日は香澄と有咲が私用、たえがバイトと言う事もあって、沙綾とりみ、そして事情を聞いて興味を抱いて付いて来たモカとロックの4人のみで『CIRCLE』に行く事になったのだった。

 

 

「モカ……一応言っておくけど、これはモカの物じゃないから、食べよう何て考えないでね」

「いえす、あいあむ~」

 

 

漫才の様なやり取りをしながら数分後に、沙綾達は『CIRCLE』に辿り着いた。

 

 

「こんに……「さーや~!!」……キャ!」

 

 

『CIRCLE』に入って声を掛けようとした沙綾に『真っ赤な何か』がぶつかって来た。

 

 

「もう誰なの……」

 

 

視線を向けた沙綾の言葉が止まる。

 

 

「さーや~、会いたかったよ~」

 

 

彼女の目の前には、先程ぶつかって来た物の正体であると思われる真っ赤な体色の『恐竜の子供』と言う表現がしっくりくる様な生物がいた。

 

「……本物の」

「あ、あなた一体……」

「さーや、忘れちゃったの? 昨日膝枕してくれたりパンの事約束してくれたのに……」

 

 

赤い恐竜の語る言葉を聞いてピンときた沙綾は、恐る恐る問い掛ける。

 

 

「あなた若しかして……ギギモン?」

「うん! 今はギルモンだよ!」

 

 

ギルモンは沙綾の問い掛けに『正解』だと答える様に、嬉しそうに答える。

 

 

「大丈夫沙綾ちゃん!?」

 

 

其処へタイミング良くまりなが現れ、ギルモンも沙綾から離れる。

 

 

「まりなさん……」

「本当にごめんね……。 ギルモン、いきなり走っちゃダメだよ」

「ごめんなさい……」

「あのまりなさん……これって……」

 

 

沙綾に尋ねられてまりなが語り出した話によると、彼女が何時も通り『CIRCLE』に着いて早々、何やら黒い影が見えたので気になって見るとその正体がギルモンで、本人曰わく『朝起きたら今の姿になっていた』との事だった。

 

 

「本当に最初見た時は驚いたわよ……。」

「そ、そうですか……」

「? さーや、それ何」

「あっ、そっか。 今準備するね」

 

 

そう言って沙綾とギルモン達は、『CIRCLE』内の客席のテーブルに移動した。

 

 

「はい。 これはギルモンへのプレゼントだよ」

 

 

沙綾は持っていた紙袋を開け、中の物を取り出してギルモンに与えた。

 

 

「わあぁ……。 このパン、ギルモンの顔している……」

 

 

彼女がギルモンにプレゼントした物ーーーーそれは、ギルモンの顔そっくりに焼かれたパンであった。

 

 

「名付けて『ギルモンパン』! さぁ、食べて見て」

「うん!」

 

 

沙綾に促され、ギルモンは『ギルモンパン』を食べた。

 

 

「! 美味しい! さーや! ギルモンパン美味しいよ!」

「良かった~。 味とか特に何も言われなかったから、一応シンプルに甘めにしといたんだけど、そう言って貰えると作った甲斐があるよ」

 

 

沙綾はギルモンの喜ぶ姿を優しい眼差しで見付め、りみ達もそれを微笑ましい様子で見ていた。

 

 

 

 

ドゴオオオ--ン!!

 

 

 

 

「ヴオ゛オ゛オ゛オ゛--!!」

「ピャアアア--ン!!」

 

 

突然衝撃音と大きな叫び声と悲鳴が、『CIRCLE』に響く。

 

 

「ヒイィーー!!」

「今のは!?」

「きっと外であの子達に何かあったんだわ!」

 

 

異変に気付いたまりなが外に駆け出したのを見て、沙綾達も彼女の後を追って行った。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

「ヴヴヴヴ……!」

「ピャアアアン!」

「ピィィィ……」

 

 

悲鳴の聞こえた現場に沙綾達が駆け付けると、其処には毒々しい程の紫色の肉体をしたライオンの様な見た目の獣人とそれに怯える幼年期デジモン達の姿があった。

 

 

「あれは……マッドレオモン!」

「マッドレオモン!?」

「かなり凶暴なデジモンよ! 皆逃げて!」

 

 

まりなは大声で呼び掛けるが、幼年期デジモン達は恐怖のあまりに動く事が出来ないでいた。

 

 

「ヴオ゛オ゛オ゛……」

 

 

やがてマッドレオモンは低い唸り声と共に、右腕を大きく振り上げようとした。

 

 

「「「「ピィイイイイイイ!!」」」」

 

 

幼年期デジモンは目を瞑る。

 

 

 

 

「ファイヤーボール!」

 

 

 

 

その時、マッドレオモンの顔に小さな火球が命中する。

 

 

「ヴヴゥ……?」

「今のって……」

 

 

マッドレオモンと沙綾達が火球が飛んで来た方向へ視線を向けると其処には鋭い視線でマッドレオモンを睨み付けるギルモンの姿があった。

 

 

「ギルモン……」

「ヴオ゛オ゛オ゛オ゛---!!」

「グルオオオオ---!」

 

 

そしてマッドレオモンとギルモンはそのまま戦闘を始める。

 

 

マッドレオモンの鋭い爪による攻撃を回避したギルモンは、逆に口から再び火球を吐き出してマッドレオモンに攻撃をする。

 

 

「ヴオ゛オ゛オ゛!」

「グウゥ……!」

 

 

火球はマッドレオモンの顔に当たるが、マッドレオモンはまるで平然とした様子で右腕に殴りかかり、直撃を受けたギルモンは大きく吹っ飛ばされた。

 

 

「グウゥ……グアッ!」

「ギルモン!」

 

 

するとマッドレオモンは右腕でギルモンの首を掴み上げ、そのままゆっくりと締め上げる。

 

 

「グッ……グウゥ」

「ど、どうしよう……!? このままギルモンが……!」

「……止めてぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

「!?」

 

 

りみ達が慌てる中、沙綾はマッドレオモンの方へ駆けて行く。

 

 

「止めてよ! ギルモンが苦しんでいるじゃない! それに此処にはまだ小さいデジモン達だっているんだよ! 如何してこんな酷い事が平気で出来るの!?」

「さ……さーや」

「ヴオ゛オ゛……!」

 

 

しかしマッドレオモンには目障りな存在に思ったのか、今度は空いた右腕の方を彼女に振り上げ様とした。

 

 

「沙綾ちゃん!」

「ギギ……ロックブレイカー!」

 

 

沙綾の危機を目にしたギルモンは、有りっ丈の力を強靭な前爪に込め、自身を拘束しているマッドレオモンの左腕の掌に強力な一撃を浴びせる。

 

 

「ヴオ゛ッ!?」

 

 

突然の不意打ちに苦痛な様子を見せたマッドレオモンは思わず左腕を離し、今度は右足でギルモンを思い切り蹴り飛ばした。

 

 

「ウワアァーー!」

「ギルモン!」

 

 

沙綾は慌ててギルモンの下に駆け寄った。

 

 

「大丈夫ギルモン!?」

「う……ううん」

 

 

幸い命に別状は無い事を知って、沙綾は少し安心する。

 

 

 

 

「ヴヴヴ……!」

 

 

 

 

振り返ると、マッドレオモンが先程よりも殺気立った様子で此方を見ているのが見えた。

 

 

「さーや、逃げて。 ギルモン……戦わないと」

「待って! アイツにはギルモンの攻撃が全く効かなかったんだよ! それに……若しもギルモンに何かあったら……」

 

 

沙綾の脳裏に過ったのは、中学時代の苦い記憶。

 

 

嘗て所属していたバンドのファーストライブの日に母親が倒れてしまい、結局彼女はライブに出られなくなってしまった。

 

 

彼女の目には今のギルモンの姿が、あの時の自分の母の姿と重なって見えていた。

 

 

「さーや……有り難う。 でもギルモン逃げるの出来ない。 さーやの悲しい気持ち分かるよ。 ……でもこのまま逃げたら、今度はさーや達が傷付いちゃう。 ギルモンそんなの嫌だ。 だからギルモン戦う。 さーやや皆を守る為に」

「ギルモン……」

 

 

ギルモンの言葉に沙綾は目を見開いた様子を見せる。

 

 

「ヴヴヴ……!」

「ギルル……!」

 

 

そして沙綾は意を決した様子でギルモンの隣に立つ。

 

 

「だったら……私にも手伝わせて」

「さーや?」

「まだ知り合って短いけれど、私もギルモンともっと一緒にいたい! だから……ギルモンの隣に居させて!」

「……うん!」

「ヴオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ーー!!」

 

 

それと同時に、マッドレオモンが沙綾とギルモンに向かって飛びかかって行った。

 

 

 

 

「「「「沙綾((ちゃん))(先輩!)」」」」

 

 

 

 

その時双方の間に眩い光が現れ、マッドレオモンは思わず両腕で目を覆って、動きを止める。

 

 

「これって……」

 

 

沙綾が目の前の光を掴むと、光はクロムイエローの縁取りのディーアークへと変わった。

 

 

「あれって香澄ちゃん達が持っていたのと同じ……」

「そ、それじゃあ……」

「パートナー成立……だね」

「きっと、沙綾ちゃんの想いがデジヴァイスと言う形で具現化したのね……」

 

 

その様子を見たりみ達はそれぞれ言葉を零す。

 

 

「沙綾……」

「ギルモン……」

 

 

沙綾はギルモンに対して視線を向け、一拍置いて語り掛ける。

 

 

「私は……香澄みたいにカリスマ的な物を持っている訳でも無いし、有咲並に頭が良い訳でも無い。

……2人や他の人と比べたら、まだまだ遠く及ばない所はあるけど……貴方を大切に思う気持ちは誰にも負けないつもりだよ。 こんな私を信じてくれる?」

「ギルモン……難しい事良く分からない。 でも……沙綾と一緒にいたい!」

 

 

沙綾の問い掛けに、ギルモンは自身の真っ直ぐな想いをぶつける。

 

 

 

 

「ヴオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!」

 

 

 

 

沙綾とギルモンは視線をマッドレオモンの方へ向ける。

 

 

「マッドレオモン。 成熟期。 アンデッド型。 ウィルス種類。 必殺技

は『獣王堕拳』と『腐毒爪』……」

 

 

沙綾は自身のディーアークでマッドレオモンの情報を調べて読み上げた。

 

 

「ヴオ゛オ゛!!」

「行こう! ギルモン!」

「うん!」

 

 

 

 

――EVOLUTION

 

 

 

 

ディーアークから放たれた光が、ギルモンを包み込んだ。

 

 

「ギルモン進化!」

 

 

光に包まれたギルモンの姿が変わっていく。

 

 

赤い体はより一層と大きくなり、両肘には鋭い刃が生えてくる。

 

 

「グラウモン!!」

 

 

やがて光が収まってくると、其処には頭部に二本の角を生やした全身真っ赤な恐竜の姿があった。

 

 

「これが……ギルモンの進化……」

「ヴオ゛オ゛オ゛ーー!!」

 

 

グラウモンの姿を見たマッドレオモンは叫び声と共に襲い掛かり、グラウモンの方もそれを全力で受け止めた。

 

 

「グルルルルル……!」

「グオ゛オ゛オ゛オ゛……!」

 

 

両者の拮抗は尚も続き、沙綾やりみ達もそれを固唾を飲んで見ている。

 

 

 

 

「負けないで! グラウモン!」

 

 

 

 

沙綾の必死の想いが込められた叫び声が辺りに響く。

 

 

「グ……オオオオ--!!」

「ヴゥ!? ヴオ゛オ゛!!」

 

 

沙綾の声を聞いたグラウモンは更に力を込め、そのままマッドレオモンを押し返した。

 

 

「グウゥ……! グオ゛オ゛オ゛!!」

 

 

怒り狂ったマッドレオモンは、力を込めた右腕から獅子の顔の形をした『気』を放つ。

 

 

「おお……ライオンが出て来たね~」

「いけない! マッドレオモンの必殺技、『獣王堕拳』だわ!」

「こ、このままじゃ沙綾先輩達が……」

「沙綾ちゃん! グラウモン!」

 

 

りみ達が慌てる中、沙綾とグラウモンは慌てず静かな佇まいで、此方に向かって来る『獣王堕拳』を見付める。

 

 

「グラウモン……」

 

 

沙綾は視線をグラウモンに向ける。

 

 

グラウモンも視線を沙綾に向けて、静かに頷く。

 

 

「……分かった。 私はグラウモンを信じるよ」

 

 

そして視線を再び『獣王堕拳』の方に向け、口の中にエネルギーを溜めていく。

 

 

 

 

「行っけ--!!」

 

 

 

 

沙綾の叫び声を合図に、グラウモンは溜めていたエネルギーを強力な火炎に変えて、爆音と共に吐き出した。

 

 

「エキゾーストフレイム!!」

 

 

グラウモンの吐き出した火炎はそのまま『獣王堕拳』と衝突するも、直ぐに押し返して、そのままマッドレオモンの方へと一直線に向かって行った。

 

 

「ヴオッ!? ヴオ゛オ゛オ゛オ゛----!!」

 

 

驚愕で動きが止まったマッドレオモンはそのまま火炎の直撃を受け、苦痛の叫び声と共にデータの粒子となって消えていった。

 

 

マッドレオモンが完全に消滅したのを見届けると同時に、グラウモンもギルモンの姿へ退化し、そのまま座り込んだ。

 

 

「ギルモン! 大丈夫?」

 

 

沙綾はギルモンの下へ駆け寄り、ギルモンの無事を確かめる。

 

 

「沙綾……」

「何処か痛いの?」

「……減った」

「へ?」

「お腹……減った……」

「は……ははは」

 

 

ギルモンの言葉に沙綾は肩の力が抜け、苦笑いを浮かべていた。

 

 

「沙綾ちゃん!」

 

 

其処へりみ達が駆け寄って来る。

 

 

「大丈夫!?」

「うん。 私もギルモンも何とか平気だよ」

「もうっ! 心配したんだらね!」

「御免ねりみりん……」

 

 

そう言って沙綾は、泣いてるりみを慰める。

 

 

「沙綾ちゃん……」

「まりなさん。 あの子達は?」

「大丈夫。 皆無事よ」

「良かったぁ……」

 

 

沙綾は幼年期デジモン達の無事を聞き、安堵の息を零す。

 

 

 

 

その後沙綾達はまりなと共に、幼年期デジモン達のケアを行うのであった。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

「皆ーー! 今日のライブ、本当に有り難う!」

 

 

数日後、香澄の声と共に観客達の歓声が『CIRCLE』の会場内に湧き上がる。

 

 

「有っ咲~!」

「だーっ! 一々抱きつくんじゃねーー!!」

「有咲……ツンデレ?」

「誰が『ツンデレ』だーー!!」

 

 

控え室に戻って来て早々、香澄が有咲に抱き付き、有咲はそれを全力で拒否しようとする傍らでたえの言葉にツッコミを入れている。

 

 

「今日のライブ、とても大成功だったね。 沙綾ちゃん」

「うん。 そうだね」

『さーや! さーや!』

「ギルモン、良い子にしてた?」

『うん。 ギルモン、ちゃんと待ってたし、さーやもドラム凄かったよ!」

「ふふ……有り難う。ギルモン」

 

 

沙綾はデジヴァイスの中のギルモンに優しく語り掛ける。

 

 

「沙綾ちゃん、何だかギルモンのお母さんみたいだね……」

「ええっ? そ、そうかな?」

「確かに……雰囲気的にそう見えるかも」

 

 

有咲のデジヴァイスの中にいるワームモンも思い当たる部分があったのか、りみの発言に同意の姿勢を見せる。

 

 

「それなら私も……さーやママ~!」

「ひゃあ!?」

 

 

其処へ香澄が沙綾に抱き付いて来る。

 

 

「香~澄~!」

「だって、沙綾はポピパの一員だから、『ポピパのお母さん』って事だもん!」

「あのなぁ……」

「はいはい。 香澄、お疲れ様」

 

 

沙綾はそう言って香澄の頭を優しく撫でる。

 

 

『あ~、ズルい! ギルモンも~!』

 

 

すると沙綾のディーアークからギルモンが勝手に飛び出して来て、沙綾に抱き付く。

 

 

「ちょっ……ちょっと2人共……お、重い……」

「オイィ--! お前ら沙綾からさっさと離れろ--!」

「有咲……お父さんだ……」

「誰が『お父さん』だーー!!」

 

 

有咲のツッコミが控え室内に響いた。

 

 

 

 

(ギルモン……私は戦うよ。 あなたと一緒に大切な人達を守る為に)

 

 

 

 

沙綾は優しさと決意の籠もった視線を香澄と共に抱き付くギルモンに向けながら、内心で語り掛けた。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

「それじゃあ、私はこれで。 お疲れ様でした」

 

 

レイヤは今回のライブでサポートしたバンドの面々に労いの言葉を掛けて、スタジオを後にする。

 

 

「ふぅ……」

 

 

暫く歩いて1人になったタイミングで緊張が解け、一息を吐く。

 

 

「ん……?」

 

 

ふとレイヤの視線が一点に集中する。

 

 

その先にあった建物は、以前レイヤも訪れた事があるライブハウス。

 

 

其処から出て来たのは、ライブを終えたPoppin'Partyの面々。

 

 

レイヤの視線は、その中の1人に向けられていた。

 

 

「花ちゃん……」

 

 

メンバーの中で一際目立つ背の高い黒い長髪の少女。

 

 

レイヤにとって彼女--花園たえは、今の彼女を形作る切欠となった存在。

 

 

「やっと……『あの時の約束』を果たせる時が来た……」

 

 

そしてレイヤはジーンズのポケットに手を入れ、其処から自身の所持している物--黒いボディとヴェネチアンレッドの縁取りのディーアークを取り出して見つめる。

 

 

 

 

「待っててね……花ちゃん」

 

 

 

 

そう小さく呟くと、レイヤはこっそりその場を去って行く。

 

 

その時、彼女の影がほんの一瞬だけ、翼の生えた異形の物と化す。

 

 

 

 

それを見ていたのは、夜空に輝く満月と小さな星々だけだった。




と言う訳で、沙綾のパートナーデジモンはギルモンでした。
実は沙綾のギルモンの進化に関しては、データ種版のグラウモンにしようかと考えてた事があったのは、此処だけの裏話です……。


さて次回の話ですが、実は今、以下の2つの話を執筆中です。


・香澄メイン(&初の完全体登場回)
・通常回


個人的には香澄メインの話を投稿しようと考えているのですが、悲しい事に現状此方が5%、逆に通常回の方が20%進んでいると言う状態で、場合によっては完成した方から先に投稿する予定になるかもしれませんので、その点御理解御願い致します。


では、今回も登場したデジモンの紹介です。
尚、紹介するデジモンの内の2体は本編には登場しませんが、関係性的な立ち位置の意味合いを込めて紹介しておきます(一応分かり易いように、(※)マークが付いています)。




ギルモン イメージCV:野沢雅子さん(代表作『ドラゴンボール』シリーズ(孫悟空、孫悟飯、孫悟天)、『銀河鉄道999』(星野鉄郎)、『ゲゲゲの鬼太郎』シリーズ(鬼太郎(初代&2代目)、目玉おやじ(2代目))

レベル:成長期
タイプ:爬虫類型
属性:ウィルス

今作における沙綾のパートナーであるまだ幼さを残す恐竜のような姿のデジモン。
成長期ではあるが、デジモン本来が持っている“戦う種”としてのポテンシャルは非常に高く、肉食獣のような凶暴性を秘めている。
腹部に描かれたマークは“デジタルハザード”と呼ばれ、コンピュータデータに対して多大なる被害を及ぼす可能性があるものに刻印されるが、この能力も平和的に利用さえすればデジタルワールドの守護者たる存在となりえると言われている。
得意技は強靭な前爪で岩石をも破壊する『ロックブレイカー』、必殺技は強力な火炎弾を吐き出す『ファイアーボール』。


ジャリモン(※)

レベル:幼年期Ⅰ
タイプ:スライム型

個体数が少なく、非常に希少なデジモン。
竜系のデジモンの幼年期は絶対的に数が少なく、そのほとんどが成長する前に捕獲や死滅してしまうと言われており、見た目では分からないが、口の中にはびっしりと細かい牙が生えており、力強い竜系のデジモンに成長することを予見させる。
非力ではあるが、自分より体の大きなものに向かっていく性質をもっており、そのことが生存率の低さの理由にもなっている。
体内が常に高温で『熱気を帯びた泡』で攻撃する。


ギギモン

レベル:幼年期Ⅱ
タイプ:レッサー型

ギルモンの幼年期デジモン。
身体的特徴はトコモンに酷似しており、口の中にも強力な牙が生え揃っている。
しかし、哺乳類系に進化するトコモンとは違い、竜系に進化するギギモンは性格も荒く、小型ながら獰猛であり、見た目に騙されて反撃を受ける大型のデジモンも少なくない。
必殺技は相手に噛み付く『ホットバイト』。
体温が熱く、噛まれたところが火傷すると言われている。


グラウモン

レベル:成熟期
タイプ:魔竜型
属性:ウィルス

「深紅の魔竜」と呼ばれている魔竜型デジモン。
ギルモンの頃にあった幼さは消え、より野性的で凶暴なデジモンへと進化をしている。
また、ウィルス種のデジモンではあるが、テイマーの育て方次第では忠実に従うので、正義のために戦うこともある。
グラウモンの咆哮は大地を揺るがすほどの威力を持っており、戦いの前には攻撃的な唸り声をあげ敵を威嚇する。
得意技は両肘のブレイドにプラズマを発生させ敵を攻撃する『プラズマブレイド』、必殺技は爆音と共に強力な火炎を吐き出す『エキゾーストフレイム』。


ピョンモン

レベル:幼年期Ⅰ
タイプ:スライム型

大きな1つの耳とフサフサな体毛に覆われている幼年期デジモン。
生まれた時から恥ずかしがり屋で、目を見つめるとすぐに顔を伏せてしまう。
しかし懐っこさも持ち、気になるデジモンには体をすりすりして積極的にスキンシップをとる様子も見られている。
ちょっかいを出してくる相手は嫌い、大きな耳でひっぱたく『イヤンタ』で成長期デジモンも吹っ飛ばす威力がある。
同じく、耳に響くような大きな音を出すモノを嫌い、耳を伏せて去っていく。


マッドレオモン

レベル:成熟期(クロスウォーズ)
タイプ:アンデッド型
属性:ウィルス

知能を失い闘争本能を高めた狂戦士。
もともとは獅子型のデジモンだったが改造に改造を重ね、その過程で意識は消失し、命ぜられるままに目の前に立つ者を倒す操り人形となってしまった。
本能のままに行動し考えるということをしないため、罠や仕掛けがあってもお構いなしに突撃してしまう猛進を見せる。
基本的には高パワーであるが、殴る・蹴るといった原始的な攻撃ばかりでパターンは少ない。
ただ、その鋭い爪には猛毒が含まれており、あらゆるものを腐らせてしまうので注意が必要である。
唯一、必殺技らしいといえば獅子の顔の形をした『気』を放つ「獣王堕拳」で、放たれた獅子の顔の気は立ち塞がるものを食いちぎりながら飛んでゆく。


マッドレオモン:アームドモード(※)

レベル:成熟期(クロスウォーズ)
タイプ:アンデッド型
属性:ウィルス

チェンソーとさらなる改造を施したマッドレオモンの『凶器乱舞形態』。
度重なる改造とアンバランスなチェーンソーにより、激しい痛みが常に全身を走り回り、マッドレオモンを暴れさせ、痛みのせいでじっとしていることができないため、目に映るものすべてを敵と認識し攻撃する。
まるで腕を振り払ってチェーンソーを外そうとしているかのようにも見える「The Lion Sleeps Tonight(ライオンは今夜眠っている)」は、生物無生物を問わず切り刻む。
ライオンが「眠むるのは」空腹が満たされた時、すなわち敵を捕食した時。ライオンが眠るためにも敵は倒されなければならない。
破壊衝動が表層化した「Lion Heart(ライオンハート)」は、大地に暴走するチェーンソーを突き立て、地割れを引き起こし敵を飲み込む。引き裂かれ砕かれた大地の様はマッドレオモンアームドの心の現れそのものである。




それでは、之にて失礼致します。


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ドン15話 ちさとのみちもいっぽから

と言う訳で、日常回の方が先に完成してしまったので、此方の方の更新です。

因みに作中でのドラマ監督の千聖さんに対しての台詞は、私自身の『役者とは何か?』と言う問い掛けに対する『自分なりの考え』を『長過ぎない程度で分かり易く纏める事』を意識して書きました。

尚、今回のサブタイトルに関してですが、実は初期構想では『てっかめんのらぶそんぐ』と言う物になる予定だったのは、此処だけの話。


それと今回の話のイメージOP・EDは以下の曲です。


OP:Pastel*Palettes(楽曲は読者の皆様の御想像にお任せします)
ED:『LOVE CRAZY』上坂すみれ


 

 

「私って……汚物みたいな女なのかしら?」

 

 

羽沢珈琲店。

 

 

今其処には酷く重苦しい様子の千聖と彩と花音、それを見守るつぐみとイヴとつくしの姿があった。

 

 

「ち、千聖ちゃん……どうしたの?」

『目が完全に死んでいるわよ……』

「……もう嫌アアアアーー!!」

「千聖ちゃん!?」

「お、落ち着いて下さい!」

「ふええぇぇ!」

 

 

すると千聖は珍しく場を弁えずに叫び出し、彩達はどうにか千聖を落ち着かせ様とした。

 

 

「コホン……少し取り乱しちゃったわね……」

 

 

数分後、如何にか落ち着いた千聖は珈琲を一口飲んだ。

 

 

「あの……千聖先輩。 若しかしてさっきの『汚物みたいな女』って台詞と……関係があるんですか?」

「……その通りよ」

 

 

つぐみが先程の様子に至った原因に付いて問い掛けると、千聖は咳を切った様に語り出した。

 

 

 

 

『ウヘヘ……。 ねぇお姉ちゃん。 俺、この世界に来て偶々見掛けた時から、お姉ちゃんへのファンになっちまっんだ…。 だから俺とデートしない?』

『イヤアアアアア――!!』

 

 

事の発端は彩がテイルモンをパートナーにした日の少し前に起きた『ヌメモンストーカー事件』が切欠だった。

 

 

『千聖ちゃ~ん! オラのお嫁さんになってくれよ~!』

『キャアアアアアーー!』

『千聖ちゃ~ん! オイラの愛、受け取ってくれ~!』

『ヒィイイイイイイーー!』

 

 

ゲレモン、スカモン……それ以降千聖は何故か『汚物系デジモン』との遭遇が多くなってしまっているのが悩みの種となっていたのだった。

 

 

 

 

「それは……災難ですね……」

「もう『災難』なんてレベルじゃないわ……! これは私の……『沽券』的な問題よ!」

「『沽券』……ですか?」

「だって……」

 

 

そう一言切ると、千聖は彩の方を見て叫ぶ。

 

 

「最近彩ちゃんや日菜ちゃんに、私のポテンシャルが奪われている感があるんだもん!」

「ええっ!?」

『ポテンシャル?』

 

 

千聖のカミングアウトに彩は驚きの声を上げ、テイルモンはポカンとした様子を見せる。

 

 

「だって……彩ちゃんと日菜ちゃんは最近その……可愛さと格好良さが目立って来てる様に見えるのよ……」

「そ、そんな事無いよ! 私何て今でも噛んじゃうし、歌詞も間違える事もあるから、千聖ちゃんにはまだまだ遠く及ばないよ!」

「……彩ちゃん。 貴女の謙虚なその姿勢は確かに良い所よ……。 でもね、今の私にとってはそれが……ちょっと苦しいの……」

「え……?」

 

 

千聖の言葉に彩は言葉を止めてしまう。

 

 

「……御免なさい。 先に私の分だけ会計を御願いするわ」

 

 

そう言って千聖は自分の分の料金だけを払うと、そそくさと店を出て行った。

 

 

「千聖ちゃん!」

 

 

彩の叫び声が虚しく店内に響いた。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

「はぁ~。 ダメね。 これから彩ちゃんとどんな顔で向き合えばいいのかしら?」

 

 

彩達と別れた後、気持ちが落ち着いた千聖の脳裏に、数日前の一件が思い出される。

 

 

 

 

『白鷺ぃ……テメェ、女優を舐めてんのか?』

 

 

数日前、新作ドラマの出演者の1人に選ばれた千聖はそのドラマの撮影中に監督から不意に問い詰められていた。

 

 

『そんな……! 私は全力で取り組んでいます!』

『あぁ……。 確かにテメェは全力で取り組んでいるよ。 清楚な面の演技の方(・・・・・・・・・)はな!』

『……如何言う意味ですか?』

『白鷺……今回のテメェの役はどんな感じのキャラだ?』

『……表向きは清楚な感じだけど、内面がド変態で暴走するとそっちの面が強く現れる少女です』

『……ちゃんと設定を覚えていたのと噛まずに言えたのは誉めてやろう。 だがな、テメェは本気の変態の演技がまるで出来ちゃあいねぇんだよ!!』

『なっ……!』

『白鷺、これはあくまで俺なりの考え方だが、『役者』って言うのはな、どんな役に対しても自身の全力を持って演じる物って思うんだよ。 例えそれが、見ている連中から『頭可笑しい』だの『下品』だの『気持ち悪い』だの思われている役だとしてもな』

『……』

『白鷺。 お前が以前インタビューで語ってた『尊敬する女優』と俺は、一緒の撮影で仕事した事があるが、お前の知る彼女は清楚なキャラばっかしか演じてこなかったか? 違うだろ。 時には悪役や下品な感じ、変態役もやっていたが、それでも全力で演技に取り組んでいたぞ』

 

 

千聖は監督の言葉に何も言い返せず、ただ黙っている。

 

 

『はっきり言って、今のお前の変態的な演技からは、心まで『変態一色』に染まっているのが演技から感じられねぇ。 綺麗過ぎて逆に周囲がドン引きする様な物が感じられねぇんだよ』

 

 

監督の言葉が千聖の心に、まるで矢の如く刺さりまくる。

 

 

『テメェの綺麗な感じの演技は確かに凄い。 だが、時には箱の中の物を乱暴に扱う様な演技が周りに良い影響を与える事もあるんだぞ。 取り敢えず今日はもう帰れ。 これ以上撮影は時間の無駄だ』

 

 

そう言って監督は立ち上がって、その場を後にしたのだった。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

(『変態一色』って……どう表現すれば良いのよ)

 

 

千聖は悶々と悩み続けていた。

 

 

白鷺千聖と言う少女にとって、『黄色』と言う色は自身のイメージカラーでもある一方、コンプレックスの1つであった。

 

 

その切欠は子役時代の頃に遡る。

 

 

当時まだ小学生だった千聖は、戦隊物の特撮作品のサポート役の少女キャラの役で出演していた。

 

 

「そっかぁ……千聖ちゃんも『黄色』何だぁ……。 じゃあ、同じイエロー同士頑張ろうな!」

 

 

共演者のイエロー役の役者からそう声を掛けられ、まだ幼く、芸能界の事も詳しく無かった千聖はただ純粋に撮影を頑張ろうとしていた。

 

 

しかし、いざ撮影が始まった途端、彼女のイエロー役の心象は180º変わってしまった。

 

 

イエロー役の彼は普段は好青年だったのが、いざ撮影が始まった途端、まるで設定した役のキャラが現実世界に飛び出したかの如く、見事なまでの変態的な演技を披露して見せたのだ。

 

 

同時の千聖はまだ、子役の経験が演技に慣れていたとは言え、まだ幼かった千聖は彼の変態的な演技に『凄い』よりも寧ろ『怖さ』の方が勝ってしまい、撮影中にも関わらず泣き出してしまったのである。

 

 

更に拍車を掛けたのが、イエロー役の設定である。

 

 

作中での彼はコミカルな性格であり、同時にメンバーの中でコメディリリーフ的な立ち位置でもあった為、大概作中で酷い目に遭うなどの損な役回りをさせられていた。

 

 

その後この彼は、この作品が切欠でブレイクし始め、今では『若手名バイブレイヤー』と認知される程、数多くの作品に出演する俳優となったのだが、それでも千聖にとって彼の変態的な演技と作中の立ち位置が、『自分も『変態』の仲間』・『黄色は不憫』と言う印象を抱かせる一種のトラウマとなっており、それが彼女の『黄色』に対してのコンプレックスの要因でもあった。

 

 

その為千聖は、なるべく周りが自分にそんな変な印象を持たない様に徹底的なまでに努力をしたのである。

 

 

千聖自身、本音を言えば『『可愛さ』と『クール』な感じを合わせ持った女の子』をずっと維持したかった。

 

 

けどそれが綻びを見せる切欠が起きた。

 

 

それが彩と日菜のパートナーであるテイルモンとコロナモン達の存在であった。

 

 

そもそも千聖にとって2人の印象は、『同じパスパレの仲間』と言う物であった。

 

 

しかしパートナーデジモンと出会った&再開してからの彩と日菜の2人の姿が、千聖にとっては『隔たり』と『眩しさ』を感じる物に見えていた。

 

 

テイルモンやコロナモンと一緒にいる時の2人は、それ以前からパスパレにいた時には全く感じたり見た事が無かった雰囲気や表情を見せる事が多くなった。

 

 

『ねぇ! 最近パスパレの彩ちゃんと日菜ちゃん、何だか最近良い意味で変わった感じしない?』

『確かにそうだよね。 最初の頃は2人共ベクトルは違うけど、『コミカル』な印象があったけど、最近はそれぞれ『コミカルさ』に加えて『可愛さ』と『カッコ良さ』にも磨きが掛かった感じがあるよね~!』

『俺さ、最近パスパレの日菜ちゃんにすげぇハマってんだよ』

『意外~。 お前この前までアイドルとかそこまで興味無さそうな感じだったけど?』

『確かにそう言う部分は今でも多少はあるけど、でも日菜ちゃんに関しては『別格』って言うか……時たま見せる『カッコ良さ』が良いって思わせるんだよな~』

 

 

この前の休日、偶々馴染みのショッピングモールに行った先で聞いた他の客の会話は、千聖の心に突き刺さる所が、その中には千聖が到底許容出来ない物があった。

 

 

『なぁ、最近思ったけどさ、『面白さ満載』の千聖ちゃんって……有りじゃないか?』

『何だよ急に。 お前あんなに千聖ちゃんの事推していたのに、浮気か?』

『違えよ! いや……何と言うか、千聖ちゃんって『クールな感じ』をメインに押し出しているじゃん? それも良いんだけど……偶には変わった感じも見たいなぁって思ってさ……』

『例えば?』

『ギャグ漫画並みにコミカルな千聖ちゃんとか! 普段のイメージのギャップも相まって、個人的に有りかなって思うんだよ』

(私は……『笑い物』になる為に、この世界に入ったんじゃ無い!)

 

 

勿論、彼がそんな気持ちで発言したのでは無いのは分かる。

 

 

だが千聖にとっては、今まで築いてきた『白鷺千聖』のイメージを根本的な面から否定された感じがあって、堪らない程嫌だった。

 

 

そして千聖は、逃げる様に早足でその場を去って行った。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

「あれ~、千聖ちゃん?」

 

 

突然声を掛けられたので振り向くと、其処には日菜とコロナモンの姿があった。

 

 

「日菜ちゃん……コロナモン……」

「千聖こそ如何したんだよ、そんな表情して?」

「……そう言う2人は何をしているの?」

「ん~とね~……今日は御姉ちゃんとルナモンがRoseliaの練習でいないから、何か楽しい事探してコロナモンとお散歩!」

「んでその最中に、千聖と出会ったって訳だ!」

「そうなのね……」

「……千聖ちゃん、何か元気無いね」

「そう……かしら?」

「あぁ。 何か何時も違って雰囲気が淀……よど……?」

「『淀んでいる』?」

「そう! そんな感じの顔しているぜ」

「あなた達にもそう見えるのね……」

 

 

そんな千聖の様子を見た日菜は『ん~っ』と何か考え込み、そして何かを思い付いた様にキラキラした様子を見せた。

 

 

「ねぇ! 千聖ちゃんって、この後何にも無いよね?」

「え……えぇ。 そうだけど……」

「じゃあ其処の広場でお話しよ!」

「えぇ…?」

「そうだな! 俺もパスパレ関連でしか千聖と話をした事が無かったから、もっと話をしたいぜ!」

「と言う訳で千聖ちゃん! レッツゴー!」

「ちょ……ちょっと日菜ちゃん!?」

 

 

千聖の言葉を無視して日菜は彼女の手を掴んで、コロナモンと共に駆け出した。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

「はい千聖ちゃん!」

「あ、有り難う……」

 

 

広場に付いた日菜は近くの自販機で買った紅茶の入った小さいペットボトルを千聖に渡し、千聖は渡されたボトルのキャップを開けて一口飲む。

 

 

「落ち着いたか?」

「えぇ……一応は……」

「良い天気だよね~。 御姉ちゃんもお外で一緒に『るんっ♪』ってすれば良いのに……」

 

 

千聖は日菜の『ある物』の事を見て、不意に問い掛ける。

 

 

「日菜ちゃん。 日菜ちゃんのデジヴァイスって……」

「あぁ、これね」

 

 

そう言って日菜はポケットから、自身の持つライトイエローの縁取りのディーアークを取り出した。

 

 

「何と言うか……。 意外な配色ね」

 

 

日菜のディーアークを見た千聖は、そう言葉を零す。

 

 

千聖の中の日菜のイメージは主に、『パスパレのブルー担当』と『姉の紗夜が好きな女の子』と言うのが大きかった。

 

 

その為、不謹慎ながらディーアークの色と氷川日菜のイメージカラーが全く噛み合って無い様な印象を抱いてしまっていた。

 

 

「えぇ、そう?」

「だって日菜ちゃんって、青系のイメージがあるから……」

「私が青系かぁ……」

「確かに出会った頃の日菜何か、デジヴァイスの色の事でワガママや文句言ってた事も多少あったからなぁ……」

 

 

千聖の発言にコロナモンも思い当たる節があったか、過去を振り返る発言をする。

 

 

「まぁ、そう言う事も少しはあったけど、今は私は『黄色』って大好きだよ!」

 

 

日菜の表情からはとても嘘偽りは無く、本音で言っていると千聖は感じられた。

 

 

「……日菜ちゃん。 『黄色』って、不憫とか思った事は無いの?」

「何で?」

「ほら……『黄色』って、グループとかだと、結構『コメディリリーフ』って言うか……『そんな役回り』ばっかさせられるとか、感じない?」

 

 

千聖の問いに日菜は『ん~っ』と考えた後、はっきり答えた。

 

 

「アタシはそう考えた事は無いかな~。 寧ろ逆に『凄い』と思うよ」

「如何してそう思うの?」

「だって『黄色』ってさ、『縛りが無くて、何でも自由になれる』んだもん」

「『何でもなれる』……?」

 

 

そう言って、日菜は空にある太陽を指差す。

 

 

「千聖ちゃん。 太陽って何色だと思う?」

「……バカにしているの? 『赤』に決まっているじゃない」

「確かに千聖ちゃんの答えも間違ってはいないけど……じゃあ100人の人に同じ事を聞いたら、100人全員が『赤』って答えると思う?」

「……それは……」

 

 

千聖は言葉を濁す。

 

 

『太陽は赤い』と言うのは、飽くまで千聖自身の考えであって、100%の正解では無い。

 

 

若しかしたら、同じ様に『赤』と答える人もいれば、『金』や『黄色』、はたまた全く違う考え方をする人だっているかもしれないのだ。

 

 

「それにね……」

「おっ」

 

 

日菜はコロナモンを抱き上げて、頭を撫でる。

 

 

「アタシの名前の漢字って、お日様の『日』が入っているでしょ? それにコロナモンだって『太陽』だし、そう意味では、『黄色』って『アタシ達2人のパーソナルカラー』って思うんだ!」

「『日菜ちゃんとコロナモンのパーソナルカラー』……」

「後黄色には、『サンライトイエロー(山吹色)』と『ムーンライトイエロー』って言うのがあってね、前者が『私とコロナモン』なら、後者は『御姉ちゃんとルナモン』を表しているって事じゃん! そう考えたら、『黄色』って『私と御姉ちゃんのパーソナルカラー』って感じがあって、好きになったんだ!』

 

 

日菜の無邪気な様子から語られる言葉は、千聖にとって考えさせられる物に思えた。

 

 

「私ね、千聖ちゃんの『黄色』って千聖ちゃんらしさのある色に思うの」

「『私らしい』?」

「千聖ちゃんって女優さんでしょ? 『黄色』だって、千聖ちゃんが言った『コメディリリーフ』もあれば、『可愛い』や『力強い』感じもあって、何だか役者さんみたいだよね? 千聖ちゃんは如何して『この世界』に入ろうと思ったの?」

 

 

千聖の脳裏に幼い頃の事が過る。

 

 

小さい頃、偶々見たテレビに映っていた女優の演技。

 

 

彼女の演技を見た千聖は衝撃を受けると同時に思った。

 

 

 

 

『自分もこの人みたいになりたい』

 

 

 

 

その後は、両親に頼んで劇団に入り子役としてデビューをした。

 

 

初めて演じた役は、ほんの短い台詞しか無い脇役だったけど、それでも千聖にとっては『憧れの女優さんと同じ道を歩いている』と言う気持ちが強くて、幼なじみである薫にも自慢する程嬉しかった。

 

 

でも成長するに連れ、幼少期のトラウマに加え、芸能界の黒い一面を知ってしまい、何時しかそんな『演じる事の楽しさ』を忘れ、『あんな下劣なイメージ何て付けられたく無い』と言う思いで演技をしていた。

 

 

冷静に考えれば、普通そう考えるなら、その時点で『芸能界を引退する』と言う方法があった筈。

 

 

でもそれをしなかったのは、千聖自身の心の中に『女優への愛着』が残っていたからだと、日菜とコロナモンとの会話で気付かされた。

 

 

同時に千聖はあの監督が言った言葉の意味を悟っていた。

 

 

(……監督は私に、『演じる役を全力で楽しめ』って言いたかったのね)

 

 

『清楚な面のみで、『変態一色』な感じが全然無い』と言う言い方も、監督自身が千聖が役に全く成りききれていない事を見抜いた上での発言だったのだと、気付かされる。

 

 

「有り難う日菜ちゃん、コロナモン」

「へっ?」

「何だよ急に?」

「ううん。 何でも無いわ」

 

 

千聖は微笑みを浮かべるだけだった。

 

 

 

 

その時、突然日菜達の周りに火花と煙が散る。

 

 

 

 

「キャア!」

「千聖ちゃん、大丈夫!?」

「日菜! あれを!」

 

 

コロナモンの視線の先を見ると、其処には雀蜂を機械化させた様な見た目の異形の姿があった。

 

 

「ジジジジジ……」

「ヒイイっ!? 蜂はイヤアアアアーー!!」

「落ち着いて千聖ちゃん! あれデジモンだから!」

「デジモンでも蜂は嫌なのよーー!!」

 

 

千聖は相手の見た目の怖さにパニックになり、日菜が慌てて諫める。

 

 

「ジジジジ!」

 

 

すると雀蜂の異形は、日菜と千聖の方に下半身に備わった砲身を向ける。

 

 

そこには予めエネルギーを溜めていたのか、先の方が光っていた。

 

 

「ヤベぇ! コロナフレイム!」

 

 

コロナモンは咄嗟に体全体に炎を纏い、そのまま相手の方へジャンプをし、それと同時に相手の方も下半身に備わった砲身から協力なレーザー光線を放ち、両者が激しく衝突した。

 

 

「ウオオオオーー!! 『太陽の貴公子』を舐めんなああああーー!!」

 

 

やがて拮抗の末に、両者の間で爆発と爆炎が起こる。

 

 

「コロナモン!」

 

 

それと同時にコロナモンが空中から落ち、日菜と千聖は慌てて駆け寄る。

 

 

「大丈夫コロナモン!?」

「な……何とか……な。 あのまま……突っ込んでいたら……正直ヤバかったぜ……」

 

 

幸いダメージを受けてはいたが、身に纏った炎がレーザーの勢いを相殺していた為、致命傷を避けたコロナモンは息も絶え絶えになりながらも、無事な反応を見せ、日菜達は安堵する。

 

 

「ジジジジ……!」

 

 

だが直ぐに相手の方を振り向くと、其処には余裕な様で此方を見ている雀蜂の異形の姿があった。

 

 

(さて……如何しよっかな? この様子じゃ、コロナモンを進化させるのはリスクが高いし…… せめて千聖ちゃんだけでも安全な所へ逃がさないと……!)

 

 

日菜は脳内で考える。

 

 

だが相手は此方を待たずに、突撃して来て、日菜達は咄嗟に身構える。

 

 

 

 

「ブシドーーーー!!」

 

 

 

 

その時、雀蜂の異形の方に目掛けて何かが飛んできた。

 

 

「ネコパンチ!」

 

 

そして飛んできた何かは雀蜂の異形の顔を思い切り殴り飛ばし、相手は横へ吹っ飛ばされた。

 

 

「今の……「千聖ちゃ~ん!! 日菜ちゃ~ん!!」

 

 

声の方を振り向くと、其処には彩とイヴ、花音の3人が此方に駆け寄って来た。

 

 

「彩ちゃん! イヴちゃん!」

「ま……間に合った……」

「怪我は有りませんか?」

「何とかね……」

「コロナモンは大丈夫?」

「当ったり前だ! ……アタッ!」

「もう……無理しちゃだめじゃない」

 

 

コロナモンの方も先程来た黒い影の正体であるテイルモンに呆れた様子で接しられる。

 

 

「3人共、如何して此処へ?」

「あの後、私と花音ちゃんも心配になって、つぐみちゃんに頼まれて来たイヴちゃんと3人一緒に千聖ちゃんを探していたの……」

「そしたら凄い音が聞こえたから此処まで来たら、さっきの大きな雀蜂が千聖ちゃん達の方へ突進して来るのが見えたんだ……」

 

 

そして状況を察したテイルモンが3人の中で身体能力が高いイヴに自身を相手の方へ思い切り投げる様に指示をして、了解したイヴが砲丸投げの要領でテイルモンを投げ付け、後はテイルモンが相手に強烈な一撃をお見舞いして今に至る訳であった。

 

 

「千聖ちゃん……あのね「御免なさい!」……え?」

 

 

千聖の突然の謝罪に彩は困惑の様子を見せた。

 

 

「私ね、自己中な思いから、彩ちゃんや日菜ちゃんの『成長する姿』に……少し『嫉妬』してた。 ……そして同時に怖かったの。 周りの彩ちゃんや日菜の評価と自身を比べている内に、『自分のイメージが変わってしまう』って思いが強くなって……それで……」

 

 

その時、不意に千聖は温もりを感じる。

 

 

視線を向けると、彩が自分を抱き締めている事に気付いた。

 

 

「御免ね。 私……千聖ちゃんがそんなに悩んでいるのに、全然知らなかった……」

「彩ちゃん……」

「でもこれだけは信じて。 私『丸山彩』にとって『白鷺千聖』ちゃんは、Pastel*Palettesの大切な仲間であり、同時に最も尊敬する女の子です」

 

 

彩の言葉に千聖は大きく目を見開き、視線を向けると、其処には穏やかな眼差しを向ける彩の姿がいた。

 

 

「……私、怒ると怖いわよ」

「知ってる。 でも、それは私の事を思っての事だよね」

「……絵を描く事と電車の乗り換えが苦手なのよ」

「大丈夫。 私もダンスや歌、トーク何かまだまだ苦手な面があるから」

「……納豆だって苦手なのよ」

「私もたこが苦手だから、お互い様だよ」

「……本当にこんな私なんかでいいの?」

「うん。 どんな千聖ちゃんだって受け入れるよ。 だって、それほど千聖ちゃんの事が大好きなんだもん」

「……やっぱり彩ちゃんには敵わないわね」

 

 

そう言って微笑む千聖の表情は先程と違い、晴れやかな物だった。

 

 

 

 

「ジジジジジ!!」

 

 

 

 

突然激しい唸り声が響き、その方向に視線を向けると、先程の雀蜂の異形が敵意の籠った視線を向けていた。

 

 

「ワスプモン。 成熟期。 サイボーグ型。 ウィルス種。 必殺技は『ターボスティンガー』と『ベアバスター』」

 

 

千聖を自身の後ろに移し、彩は自身のディーアークで相手の情報を調べた後、テイルモンと共にワスプモンに相対する。

 

 

「ジジジ!!」

「テイルモン!!」

「ええ!!」

 

 

その時、彩のディーアークに眩い桃色の光が放たれ、テイルモンを包み込んだ。

 

 

 

 

――DERIVATION EVOLUTION

 

 

 

 

「テイルモン進化!!」

 

 

光に包まれたテイルモンの姿が変わっていく。

 

 

背中に巨大な白い翼が生え、前足首には宝石の装飾が施された鎧が身に付けられ、体も一層と大きくなっていく。

 

 

やがて光が収まると、其処には白い翼を生やした女性のスフィンクスのような姿をしたデジモンがいた。

 

 

「ネフェルティモン!!」

「テイルモンが……」

「進化した……」

「大丈夫、2人共? 怖かったかしら?」

「……そんな事無いよ」

「えぇ。 とっても綺麗よ」

「ネフェルティモン。 アーマー体。 聖獣型。 必殺技は『カースオブクィーン』と『ロゼッタストーン』」

「ジジジ!!」

「下がって2人共!! カースオブクイーン!!」

 

 

ネフェルティモンの姿に脅威と感じたワスプモンは下半身の大口径のレーザー砲からレーザー光線を放ち、それに気づいたネフェルティモンは彩と千聖を下がらせて、額の飾りから赤い光線を放って相殺する。

 

 

「ジジジ……!!」

「逃がさないわ!!」

 

 

するとワスプモンは距離を取る為に飛行し、ネフェルティモンもそれを追って飛行する。

 

 

「ジジ!!」

「ロゼッタストーン!!」

 

 

ワスプモンは再びレーザー光線を放ち、ネフェルティモンも古代碑文の巨石を召喚して放って相殺する。

 

 

「如何やら……威力は互角みたいですね……」

「ふぇぇ……でもこれじゃあ、決着が付かないよぉ……」

「せめてアイツのあのレーザー砲さえ封じりゃあ……」

 

 

2体の戦いを観戦してたイヴと花音とコロナモンが見たままの様子を語る。

 

 

(レーザー砲を封じる……)

 

 

千聖は周りを見渡し、『ある物』に注目する。

 

 

それは、先程の攻撃で粉々に砕けた巨石の残骸だった。

 

 

(あれなら……!)

「千聖ちゃん!!」

 

 

そして千聖は巨石の残骸の下へ駆け寄り、その中のかなり大きめの残骸を持とうとするが、千聖自身とほぼ同じ位の大きさもある為、非力な彼女1人の力では、到底持ち上げるのは不可能であった。

 

 

(御願い…! 動いて!)

「千聖ちゃん!! 私も手伝うよ!!」

「彩ちゃん……」

「困っているなら、私も手伝うよ……」

「有難う……」

「じゃあ行くよ……!」

「「 せーの!!」」

 

 

2人は全身の力を込めて持ち上げる。

 

 

「アヤさん!? チサトさん!?」

「行くよ!!」

「ええ!!」

「「そぉ~……れ!!」」

 

 

2人は其処から一気にワスプモンへ向けて巨石の残骸を投げ付けた。

 

 

「ジジ?!」

 

 

ワスプモンも突然の残骸に動揺して動きが鈍ってしまった事もあって、残骸の直撃を受けた事で発生したレーザー砲のエネルギーの爆発に巻き込まれる。

 

 

「ジ…ジ…ジ…!」

 

 

爆発と煙が収まると、其処には全身がボロボロになったワスプモンの姿があった。

 

 

特に下半身のレーザー砲に関しては損傷が酷く、使い物にならない状態なのは誰の目にも明らかだった。

 

 

「彩ちゃん! 今だよ!」

「ネフェルティモン!!」

「スカーレットストーム!!」

 

 

彩の叫びを聞いたネフェルティモンは、額の飾りからの赤い光線と古代碑文の巨石を召喚しての一斉攻撃をワスプモンにお見舞いする。

 

 

「ジ…ジジ…ジ…ジ!!」

 

 

其の侭全身に一斉攻撃を浴びたワスプモンは、モチーフの如く『蜂の巣』となった後に爆発し、そのまま消滅したのだった。

 

 

「やったね千聖ちゃん……」

「ええ……」

 

 

安堵した2人は其の侭崩れ落ちた。

 

 

「彩!! 千聖!!」

 

 

其処へ進化が解けたテイルモンが駆け寄る。

 

 

「2人共……こんなに泥だらけになる程無茶しちゃって……でも有難う」

 

 

テイルモンは疲れて気を失った2人に優しくお礼を述べたのだった。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

『フフフ……真~秀~(ま~ほ~)ちゃ~ん♡……私の可愛い可愛い真~秀ちゃん♡……貴女は如何してこんなに、魅力的なのかしらぁ~?』

 

 

数日後。

 

 

その日、日菜の提案でお泊まり会をしていたパスパレの5人は千聖が出演したドラマの最新話の初回放送を、千聖の家の大広間のテレビで鑑賞していた。

 

 

『真秀ちゃんはねぇ……私の……母親になってくれるかもしれない女の子なのよ……!』

「あわわわ……千聖さんが……!」

「あはは! 麻弥ちゃん、もうこれで三回も同じ台詞を言っているよ!」

「でも、これ全国で放送されてんだよな……」

(チサトさん……映像越しからでも、凄いオーラを感じます)

「も、もう……皆ったら……」

「だ、大丈夫! 可愛くても変態さんでも私は千聖ちゃんの事、大好きだから!」

「彩ちゃん……それ、恋人を誉めているの? それとも貶しているの?」

 

 

やがてドラマのクライマックスが近付く。

 

 

『貴女死にたいんだって? さぁて、害虫掃除の御時間よ♡』

「千聖の演じる千坂(ちさか)と言う少女、画面越しからでも表情の圧を感じるわ……」

「……これが所謂『千坂スマイル』の誕生だね……」

(日菜ちゃん……後でお説教が必要かしらね?)

(日菜……生きろよ)

 

 

やがてドラマが終わり、メンバー達はそれぞれ思い思いの感想を語り合う。

 

 

「圧巻でした……」

「いやぁ何と言いますか……今までの千聖さんの演技とは、180º異なった感じの演技でしたね……」

「個人的に、絶対今回のドラマの『目玉』になりそうなヤツだと思うぜ……。 『アレ』は」

「うんうん! 結構ハマり役に見えたし、特撮とかだったら、絶対に『悪女』や『悪の女戦士』とか形で出演しそうだよね!」

 

 

その一方で当の本人である千聖は、魂が抜けた様子で顔を逸らしていた。

 

 

『大丈夫、千聖?』

「もうお嫁に行けない……」

「ち、千聖ちゃん! その時は私が責任持って、千聖ちゃんを貰って行くから、元気出して!」

 

 

彩の言葉に、千聖ちゃんは顔を真っ赤にして彼女の方を向いた。

 

 

「……本当に?//」

「うん! だって私は千聖ちゃんの事がそれ程までに好き何だもん!」

「……彩ちゃん。 気持ちは嬉しいんだけど……//」

「向こうの方を見て」

「へ?」

 

 

テイルモンの言われた方へ視線を向けると、其処には此方にニヤニヤした眼差しを向ける日菜とコロナモン、キラキラした眼差しのイヴ、苦笑いの麻弥の姿があった。

 

 

「あわわわわ……//」

「いやぁ、彩ちゃん大胆だね~♡」

「俺、彩の事見直したぜ……」

「天晴れです! アヤさん!」

「////」

 

 

緊張と恥ずかしさから、彩は表情を真っ赤にして倒れた。

 

 

「「彩(ちゃん)!?」」

 

 

千聖とテイルモンは慌てて彩へ駆け寄った。

 

 

「彩ちゃーーん!! 御願い、気をしっかり!!」

「千聖さん落ち着いて下さいッス!!」

 

 

麻弥が必死に千聖を抑える。

 

 

その後5人はそのまま就寝するしたが、翌日千聖が目を覚ますと何故か隣の布団にいた彩が彼女の隣で一緒に寝ている状態になっていて、それを先に早起きして目撃されたイヴと彼女経由で知った日菜とコロナモンと麻弥とテイルモンから、温かい視線を彩と共に送られる事になったのであった。




と言う訳で、此処まで読んでくれて有り難う御座います。

あやちさに関しては、この小説を書く時から既に決めていたCPの1つでした。

少しネタバレになりますが、あやちさ以外に登場させるCPは実は既に決めてあります(尚且つ、作中でもそれっぽい描写も実は少し出て来ています)。
他のバンドリキャラ達の関係が今後如何なるのかは、想像して見て行って下さい。

因みにテイルモンのネフェルティモンの進化は、『デジコロ』の物をイメージした物になっています(その為、進化の表記も『DERIVATION EVOLUTION(派生進化)』と少し特殊な物になっています)。


と言う訳で、今回登場したデジモンの紹介です(尚、ヌメモンに関しては以前紹介したので省略です)。




ネフェルティモン


世代:アーマー体
タイプ:聖獣型
属性:フリー


彩のテイルモンが進化したアーマー体の聖獣型デジモン。
本来はテイルモンが『光のデジメンタル』のパワーによって進化したである。
『光のデジメンタル』は『光』の属性を持っており、このデジメンタルを身に付けたものは強力な光の力で闇を浄化する能力を持てるようになる。
古代種族の末裔でないテイルモンも、体を構成するデータの中に眠っていた特殊能力に目覚めアーマー進化できるようになった。
必殺技は額の飾りから高熱の赤い光線を出す『カースオブクィーン』と、デジ文字が刻まれた古代碑文の巨石を召喚して敵を攻撃する『ロゼッタストーン』。


ゲレモン


レベル:成熟期
タイプ:軟体型
属性:ウィルス


ヌメモンと同種の軟体型デジモン。
攻撃力は低いが、その割に凶暴で誰が相手でも襲い掛かる一方、当然のごとく返り討ちにあうが、すぐに忘れてしまい、その度に何度でも強敵にケンカをしかけるこりないヤツである。
必殺技は、キョーレツなニオイを身体中から撒き散らす『ハイパースメル』。


スカモン


レベル:成熟期
タイプ:ミュータント型
属性:ウィルス


金色に輝くウ○チの形をしたイヤーなデジモン。
コンピュータの画面上にあるゴミ箱に捨てられたデータのカスが集まって突然変異をおこして誕生した。
暗所を好み、データのカスの集まりということで他のデジモンからは嫌がられている所がヌメモンに似ている。
知性や攻撃力は皆無な上に相棒の“チューモン”はネズミのような小型デジモンで戦うことは出来ないが、悪知恵だけは誰にも負けず、いつもスカモンをそそのかしては、悪事を働いている。


チューモン


レベル:成長期
タイプ:獣型
属性:ウィルス


いつもスカモンにワル知恵を入れ込んでいるネズミのようなデジモン。
スカモンとは固い友情で結ばれており(といっても思っているのはチューモンだけかも?)、以前ネットワーク上のトラップ「カーニボア(肉食獣)」に捕獲されそうになっていた所を、たまたま通りかかったスカモンに助けられてからの仲。
基本的には小心者だが、ワル知恵だけは天下一で、危なくなるとスタコラサッサと逃げていく。
必殺技はチーズの形をした爆弾を投げる『チーズ爆弾(ボム)』。誤って食べようとするとトンでもない事になってしまう。


ワスプモン


レベル:成熟期
タイプ:サイボーグ型
属性:ウィルス


謎の“空中秘蜜基地「ローヤルベース」”を守るサイボーグ型デジモン。
頭部の触角パーツは索敵能力が高く、基地に近づくデジモンを警戒して常に周辺をパトロールしており、近づくだけで襲い掛かってくる。
肩の推進器と背中のスタビライザーにより、上下前後左右と、あらゆる方向に急速に移動が可能で、近づいてくる敵をディフェンスして、強力なレーザー砲で追い払ってしまう。
必殺技は大口径のレーザー砲を連射して放つ『ターボスティンガー』と、大型のデジモンをも一撃で仕留めてしまう『ベアバスター』。
尚、この技はエネルギーを溜めてから放つため、素早い敵には当たり難く、主に地上の敵に対して有効である。


裏話
実は当初、『虎』をモチーフにしたデジモンを登場させる予定でしたが、成熟期に『虎』をモチーフにしたデジモンがいなかった為、少し捻って『虎柄風なイメージ』の繋がりで選びました。
因みに何故『虎』だったのかと言えば、


千聖さん→上坂すみれさん→ラムちゃん→虎


と言う連想ゲーム的な形で決めたからです(更に言えば、サブタイトルの初期案であった『てっかめんのらぶそんぐ』もこれに因んだ物だったりします)。


オリジナル技解説


・スカーレットストーム


彩のネフェルティモンが使用する本作のオリジナル技。
『カースオブクィーン』と『ロゼッタストーン』による一斉攻撃で相手を殲滅する。


それでは之にて、失礼致します。


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第16話 完全襲来2020

タイトルの如くです。
さて、以前語った『香澄が主人公』に付いて説明します。

今作の香澄のキャラは大きく分けて『Aタイプ』と『Bタイプ』の2つに別れています。
イメージ&基本的としては、


・香澄(Aタイプ)→主人公タイプ(通常&メイン回(例:第3話)の時)。
・香澄(Bタイプ)→先輩テイマー(メイン回じゃない時&時偶作中で見せる)。


と言う形なのですが、今回の話を含め、今後の展開の事も相まってAとBの2つを混ぜた感じのキャラになっていく事になるかもしれません。


それと、漸く香澄のドルモンのイメージCVが自信を持って『この方だ』と言うのが決まったので、御報告致します。


それが此方です。


ドルモン:鬼頭明里さん(代表作『鬼滅の刃』竈門禰豆子、『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』近江彼方、『安達としまむら』安達桜、『ウマ娘 プリティーダービー』セイウンスカイ、『まちカドまぞく』千代田桃、『英雄王、武を極めるため転生す 〜そして、世界最強の見習い騎士♀〜』イングリス・ユークス、『神無き世界のカミサマ活動』ミタマ)


また、私のドルモンの声のトーンの参考イメージモデルは、


幼年期:近江彼方
ドルモン:ミタマ&千代田桃&セイウンスカイ
成熟期以降:イングリス・ユークス


と言う感じです(更に補足すると、桃とミタマとイングリスに関しては、実はドルモンのイメージCVが鬼頭さんに決まる切欠になったキャラ達だったりします)。

因みに私が鬼頭さんの演じるキャラでお気に入りなのは、『ニジガク』の彼方さんと『あだしま』の安達、『まちカドまぞく』の桃です(特に『あだしま』は鬼頭さんを好きになる切欠となった事もあって、印象深い作品だったりします)。

それでは、最新話の方へどうぞ。


 

 

とある場所。

 

 

其処に置かれた王座に座りながら、チュチュは目を閉じて思考していたが、やがて目を開けて一言声を上げる。

 

 

「ブギーモン」

「ハッ。 如何致しましたか?」

 

 

チュチュの言葉を聞いたブギーモンが彼女の下に現れ、問い掛ける。

 

 

「……完全体の力の解禁をするわ」

「!……はい。 了解しました」

 

 

すると同時にブギーモンの体が禍々しい光の渦に包まれ、暫くして光の渦が収まると、其処には血の様に赤い三つ又の鎗を持った貴族のような恰好をした堕天使がいた。

 

 

「それとブギーモン……いや、フェレスモン。 君にプレゼントを贈るよ」

 

 

チュチュの片割れ的な存在であり、『主』と呼べる影の言葉に呼応する様に、暗闇から黒い影が現れる。

 

 

「この者は……?」

「今回チュチュが久し振りに良い物が作れたみたいでね……君の好きに使いたまえ」

「ハハッ! 有り難き幸せ、感謝致します! では準備が整い次第参ります!」

 

 

そう言って、フェレスモンは黒い影と共にその場を後にするのだった。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

「本当にリアルな夢だったな~! 私も何時かポピパの皆で大きなドームでのライブをしてみたいよ~!」

 

 

ある日の『CIRCLE』のラウンジの一角に香澄、蘭、彩のボーカル組3人が集まっており、香澄が興奮した様子で周りの面々に昨日見た夢を語っている。

 

 

「ドーム、か……。 アタシもモカ達と偶にそんな話をするけど……結構がっつりくるよね」

「私も推しのアイドルユニットのドームライブの映像を見た事があるけど、あの興奮は今でも忘れられ無い程だったよ!」

『テイルモンは一緒に見たんだよね?』

『えぇ。 彩と一緒に見させて貰ったけど、あの興奮は初めて見る私にも素敵な物に見えたわ』

『俺、アイドルとか全く分からないけど、彩とテイルモンの様子を見てると、何となくだけど凄えのが分かるよ』

 

 

香澄の夢の話を聞いた蘭、彩、そして彼女達のパートナーデジモン達もそれぞれのドームライブに対する思い思いの感想を述べていく。

 

 

「そう言えば、今日って確か近くの会場で『ガールズバンドカーニバル』が行われるんだよね」

 

 

彩が思い出した様に呟く。

 

 

『ガールズバンドカーニバル』

 

 

それは、現在人気のあるガールズバンドの事をより多くの人達に知って貰おうとする為のイベントである。

 

 

「ええ。 結構大きなイベントになるみたいだそうです」

「でも私、チケット結局取れなかったんですよ~……」

 

 

香澄は尚も残念な様子で、自身の心情を語る。

 

 

 

 

「戸山さん? それに美竹さんに丸山さんも何を話しているのかしら?」

 

 

 

 

声の方向を向くと其処には友希那の姿があった。

 

 

「あ、友希那先輩!」

「実は今、ドームライブの話をしていた所なんだ!」

「ドームライブ?」

「えぇ。 香澄が昨日、ドームライブの夢を見たって大はしゃぎしていて……」

「戸山さんらしいわね……。 確かに夢を見るのは簡単よ。 でも叶えるには、相当な努力が必要なのも事実よ」

 

 

そう語る友希那の脳裏に、純粋に音楽を楽しんでいた幼少期の頃の自分の姿が浮かぶ。

 

 

「湊さん?」

「……ご免なさい。 少しきつい言い方をしてしまったわ」

 

 

友希那はそう言ってその場を去ろうとする。

 

 

「皆~!」

 

 

其処へ更に現れたのはこころであった。

 

 

「こころん!」

「如何したの突然?」

「話は聞かせて貰ったわ! さっ、行きましょう!」

「ちょ、ちょっと待って! 行くって何処に?」

「勿論……『ガールズバンドカーニバル』を見にドーム会場よ!」

 

 

蘭の問い掛けに、こころはまるで買い物に行くかの様な感覚で応えた。

 

 

「ちょっと待って。 彼処はチケットが必要だから、そう簡単には入れないわよ」

「それなら……ハイ!」

 

 

友希那の問い掛けに、こころは懐から5枚の細長い紙を取り出した。

 

 

「あーっ! 会場のチケット!」

「こころちゃん、そのチケットどうしたの?」

「この間ハロハピ遊園地でライブを行った時に、園長さんが御礼でこのチケットを下さったの!」

 

 

こころは貰った経緯を語る。

 

 

「本当はハロハピの皆で行きたかったんだけど……他の皆が予定もあって、結局私1人だけになっちゃったのよ。 そんな時、今の香澄達の話を聞いたの……。 今此処には5枚のチケット。 そしてこの5人。 数的に丁度合うし、何より折角の園長さんの御厚意を無碍に扱う何て出来ないわ」

「はい! 戸山香澄、こころんと一緒に行きまーす!」

「うん。 私も今日はオフだから大丈夫だよ!」

 

 

こころの発言を聞き、香澄と彩が真っ先に参加の意を示す。

 

 

「蘭と友希那も一緒に行きましょう♪」

 

 

こころは残りの2人にも、無邪気な様子で誘い掛ける。

 

 

「えっ……でも」

『俺も行くーー!』

「ちょっとアグモン!」

「美竹さん」

「湊さん……」

「他のバンドの音楽を聴いて見るのも、参考の1つよ」

「……分かりました。 こころ。その申し出、受け取るよ」

「決まりね!」

「随分物分かりが良いわね、美竹さん」

「勘違いしないで下さい。 切欠を作った園長さんの御厚意を無駄にしたく無いだけです。 そう言う湊さんも、やけにすんなり誘いを受けましたね?」

「私達Roseliaは、常に頂点を目指している。 自分達の技術を磨くのもそうだけど、このイベントも観戦も今後の糧の参考にしようと思っているわ」

『友希那、この間そのイベントに参加する『LyricalCat』って言うグループの事、妙に気にしてたんだよ~』

「ちょっとブイモン」

 

 

その言葉に、蘭は暖かい視線を向ける。

 

 

「意外と可愛いですね」

「如何言う意味よ」

 

 

友希那はジト目で蘭を見るも、蘭は意に介さない様子で対応する。

 

 

「友希那ちゃーん! 蘭ちゃーん! こころちゃんの家の車が来たよー!」

 

 

彩の呼び掛けを聞き、既に他の3人がこの場にいないの気付いた2人は、急いで3人の下に向かって行ったのであった。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

それから数分後、香澄達ボーカル組は『ガールズバンドカーニバル』の会場前に来ていた。

 

 

『わぁ、人が沢山……』

 

 

友希那のディーアークの画面越しからブイモンは、沢山の人の姿を驚きを隠せない様子で見る。

 

 

『こりゃスゲーな! アフグロのライブの時以上の多さだ!』

『それほど皆、このイベントに注目しているのね』

『確かにこんな大きな会場でライブをしたら、その分盛り上がりも大きくなりそうだね』

 

 

他のパートナーデジモン達も、初めて見るドーム会場の大きさとイベントの様子に、それぞれの感想を語り合う。

 

 

「あっち側の列……あれ、何なんだろ?」

「えーっと……グッズ列最後尾……? どうやら物販の列みたいだね」

「ええっ!? グッズ!?」

 

 

彩の言葉を聞き、香澄が大きく反応する。

 

 

『香澄……まさかと思うけど、あの列に並ぶ気じゃないよね?』

「うん! 折角来たんだし、グッズも欲しいもん! と言う訳で……レッツゴー!」

『ちょっと!? 香澄ー!?』

 

 

ドルモンの問い掛けに、香澄は『当たり前だ』と言う様に言って、そのままグッズ列最後尾に向かって行った。

 

 

「香澄ちゃーん!?」

「ねぇ! あれパスパレの彩ちゃんじゃない?」

「本当だわ! それにRoseliaの友希那様もいるわ!」

「Afterglowの蘭ちゃんにハロハピのこころちゃん……人気ガールズバンドのボーカル組が揃いぶみよ!」

 

 

更に今の騒ぎで、香澄以外の4人に観客達が注目し始めた。

 

 

「皆ー! ハッピー! ラッキ……ムグ」

「落ち着いてこころ……!」

『友希那……』

「拙いわね……皆、行くわよ」

「でも、香澄ちゃんが……」

『彩。 気持ちは分かるけど、今は逃げましょう』

「テイルモンの言う通りよ。 それに戸山さんにはドルモンがいるから、若しもの時は何とかなるわ」

「……必ず合流しようね、香澄ちゃん」

(何だろ……このツッコミたいけど突っ込んじゃ行けない状況……)

 

 

そして友希那達は、その場を後にしたのだった。

 

 

 

 

「ふむ……見事に別れてくれたな。 では、始めようか」

 

 

 

 

そして先程の状況を見ていたフェレスモンも、そのまま行動開始した。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

「わ~ん! 如何しようドルモン!」

『香澄……『自業自得』だよ……』

 

 

それから3、40分後、何とか気に入ったグッズの購入を終えた香澄は元の場所に戻るも、友希那達がいない事に気付き、慌てて探している状況だった。

 

 

「だって……気に入ったのが沢山あったんだもん……」

『あはは……。 でも、何だか懐かしいな。 デジタルワールドを冒険してた時も、こんな風に香澄が気になった方へ進んで行って、それでトラブルに巻き込まれる何て事もあったから』

「……ソウダッタケ?」

『香澄。 カタゴトで言っても、僕ちゃんと覚えているからね』

「あうぅ……」

 

 

当時の事を思い出したのか、香澄は恥ずかしそうに顔を隠す。

 

 

『でも、ついこの前のポピパのライブを見た時、僕感動しちゃったんだ。 “あの香澄がこんなに大きくなったんだなぁ”って……』

「ドルモン……」

『香澄。 あの時は結果的に離れ離れになっちゃったけど、こうしてまた僕達はまた会えた。 だから……今度は絶対に離さないからね』

「……うん。 私も絶対に離さないよ」

『……さ、早く友希那達の所へ行こう!』

「うん!」

 

 

そして2人は、再び歩き出そうとした。

 

 

 

 

ドオオオーーン!

 

 

 

 

その時、突然轟音が響く。

 

 

「キャアアアー!」

「! ドルモン!」

 

 

悲鳴を聞いた香澄はドルモンをリアライズさせた。

 

 

「あっちだ!」

 

 

2人は悲鳴の聞こえた方へ駆け出した。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

「ウワアアー!」

「やれ! 暴れるのだ!」

 

 

香澄と既に進化したドルガモンが駆け付けると其処では、貴族のような恰好をした堕天使ーーフェレスモンと彼の命令を受けて暴れる全身が青い炎の様な見た目のデジモンがいた。

 

 

「待って!」

「漸く着ましたか」

「貴方は何者なの!?」

「この姿で会うのは初めてだな。 私はフェレスモン。 最も君達にとっては、ブギーモンと言えば分かり易いかな?」

「その姿……進化したのか?」

「進化? 違うな。 元々持っていた力の一端を少し解放しただけさ」

「フェレスモン。 完全体。 堕天使型デジモン。 ウィルス種。 必殺技は『デーモンズシャウト』と『ブラックスタチュー』」

 

 

そして香澄はもう一体の青いデジモンの情報もディーアークで調べる。

 

 

「ブルーメラモン。 完全体。 火炎型デジモン。 必殺技は『アイスファントム』と『コールドフレイム』……」

「それでは私は用事があるから、失礼させて貰うよ。 ……あぁ、それと」

 

 

去ろうとしたフェレスモンは動きを止めて、香澄達に語る。

 

 

「完全体は私達だけでは無いぞ」

「! まさか!」

 

 

香澄とドルガモンはフェレスモンの言葉の意味を察して、会場の方に視線を向ける。

 

 

「そう言う事さ。 ではな」

「! 待て!」

「アイスファントム!」

 

 

そう言って去ろうとするフェレスモンを追おうとする香澄達だったが、ブルーメラモンの攻撃に気付いて回避する。

 

 

だが代わりに、フェレスモンとの距離はより遠ざかってしまう。

 

 

「ククク……」

「香澄……!」

「そうだね。 まずはこっちを如何にかしないと……!」

「アイスファントム!」

 

 

ブルーメラモンは再度超低温の冷気を放った。

 

 

 

 

「バーンフレイム!」

 

 

 

 

その時、真横から巨大な火球が飛んでいき、ブルーメラモンの冷気を打ち消した。

 

 

「香澄さーん!」

「ましろちゃん! バオハックモン!」

 

 

声の方を向くと、其処にはましろとバオハックモンの姿がいた。

 

 

「此処は私達に任せて下さい!」

「香澄とドルガモンは早く友希那達の方へ!」

「分かった! 香澄!」

 

 

香澄はドルガモンの背に乗って、その場を去る。

 

 

「ウオオ……!」

「フィフクロス!」

 

 

ブルーメラモンが香澄達を攻撃しようとするも、バオハックモンが即座に全身強化した爪による攻撃を炸裂させる。

 

 

「貴様の相手は私達だ」

「バオハックモン! 一気に行くよ」

 

 

それから数分後、巨大な光が放たれた。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

一方、友希那達の方も異変が襲っていた。

 

 

「ウオタアアーー!!」

 

 

突如、叫び声と大きな音と共にステージの後ろの壁が崩れた。

 

 

「何!?」

 

 

すると煙が晴れると同時に、破壊された壁から何かが出て来る。

 

 

それは顔に星形の意匠を施したロボットの様な見た目の異形であった。

 

 

「キャアアアーー!」

「怪物だああーー!」

 

 

観客は直ぐにトラブルを察したのと異形の姿にパニックを起こし、慌てて逃げ出した。

 

 

「デジモン!」

「行くわよ!」

 

 

友希那達は直ぐに相手の正体を察し、ブイモン達をディーアークから出して共にステージに向かった。

 

 

「漸く出て来たか! ひょっ子共!」

「貴女、一体何者なの!?」

「彼はオーレモン。 貴様達を倒す為に参上したのさ」

 

 

それと同時にフェレスモンが姿を現す。

 

 

「お前は誰だ!?」

「記憶力の無い奴め。 お前の相棒の女に『全身唐辛子』と言われたデジモンだよ」

「若しかして……ブギーモン?」

「そうさ! 今は進化してフェレスモンだがね」

 

 

フェレスモンはブギーモンの時と違い、紳士的な言い回しで発言する。

 

 

「如何してこんな事を!?」

「ハッハッハ、愚問だね。 勿論、君達を叩きのめす為さ。♪ 大好きな音楽のイベントで死ねる何て君達も本望だろう?」

「その為に無関係な人達を巻き込んだと言うの……?」

「そうさ。 ついでに言っておくが、君達のお仲間1組は少々厄介だから、先手を打たせて貰ったよ」

 

 

フェレスモンの物言いを聞き、蘭達は己のパートナー達に呼び掛けた。

 

 

「「「「ブイモン(アグモン)(テイルモン)(パタモン)!!」」」」

「行くよ!!」

「「「ああ(ええ)(うん)!!」」」

 

 

 

 

――EVOLUTION(DERIVATION EVOLUTION)

 

 

 

 

「「「「ブイモン(アグモン)(テイルモン)(パタモン)進化!!」」」」

 

 

ブイモン達は一斉に進化する。

 

 

「ブイドラモン!」

「ジオグレイモン!」

「ネフェルティモン!」

「エンジェモン!」

「そんな虚仮威しで勝てるとでも思っているのか?」

「舐めるな! メガフレイム!」

 

 

ジオグレイモンが先制的に、口からの巨大炎の球体を放つ。

 

 

「……フン!」

「何だと……!?」

 

 

だがオーレモンは両手に持った剣の右手の一振りでジオグレイモンの火球を、まるで豆腐を切るかの如く簡単に切り裂いてしまった。

 

 

「エンジェモン!」

「あぁ!」

「「ブイブレスアロー(ヘブンズナックル)!!」」

 

 

次にブイドラモンとエンジェモンが同時に技を放つも、それも通用しなかった。

 

 

「皆離れて!」

 

 

その時ネフェルティモンの叫びを聞いた3体がオーレモンから離れ、それと同時にネフェルティモンが技を放つ。

 

 

「スカーレット……ストーム!!」

 

 

ネフェルティモンの一斉攻撃は真っ直ぐオーレモンの下に向かって直撃し、爆音と爆煙が起こる。

 

 

「……今、何かしたか?」

 

 

そして爆音と爆煙が収まり……其処から無傷のオーレモンが現れた事でブイドラモン達は大きく動揺する。

 

 

「そんな……」

「全く通じていない……」

「おやおや……如何やらこれで終わりみたいですねぇ。 それでは今度は此方の番ですよ、オーレモン!」

「ウオタアアー!!」

 

 

フェレスモンの命を受けたオーレモンは両手に持った剣を振って、斬激波を放つ。

 

 

「グワアアーー!」

「「ワアアアーー!!」」

 

 

斬激波を浴びたネフェルティモン以外の3体は容赦無く吹き飛ばされ、次にオーレモンは2本の剣をクロスさせて光線を放つ。

 

 

「ツインサンダー!」

「! ロゼッタストーン!」

 

 

其処から放たれた光線をネフェルティモンは相殺しようと巨石を放つも、オーレモンの光線は巨石を破壊し、威力を殆ど落とす事無くネフェルティモンに命中し、彼女を撃ち落とした。

 

 

「ウワアアアアー!!」

「テイルモン!!」

 

 

撃墜されたネフェルティモンはそのままテイルモンの姿に戻り、彩は慌てて駆け寄った。

 

 

「しっかりして! テイルモン!」

「彩……。 ご免なさい……」

「貴様……! よくもテイルモンをーー!」

「待つんだエンジェモン!」

 

 

傷付いたテイルモンの姿を見て激昂したエンジェモンが、ブイドラモンの制止を無視してオーレモンに突っ込んで行く。

 

 

「フンッ!」

「グハッ……!」

 

 

しかしオーレモンは逆にエンジェモンの鳩尾に強烈な左腕の拳の一撃を浴びせると、そこから思い切り蹴り飛ばした。

 

 

そして蹴り飛ばしたエンジェモンは、そのままパタモンに退化して気絶した。

 

 

「パタモン!」

「情けないなぁ……。 『パスパレ』と『ハロハピ』の名が泣くぞ」

「メガ……バースト!」

 

 

その時、オーレモンの下に強力な爆炎が放たれたるもオーレモンはパタモンから視線を外す事無く、右手の剣で放たれた爆炎を斬り伏せ、そのまま今度は爆炎が放たれた方に視線を移す。

 

 

「クソッ……」

 

 

其処には悔しげな様子のジオグレイモンの姿があり、オーレモンは呆れた様子で語り掛ける。

 

 

「不意打ちとは良い根性してんなぁ……。 だがな、攻撃って言うのはこうするんだよ! ガトリングパンチャー!」

 

 

オーレモンは剣を捨て、両手首に装備されたガトリングから無数の砲撃を放った。

 

 

「ウワアアアアーー!!」

「ジオグレイモン!」

 

 

蘭の叫びも虚しく、数分後に其処には力尽きて倒れるアグモンの姿があった。

 

 

「やれやれ……ガールズバンドのボーカル共は、どいつもこいつも雑魚ばっかりなのか?」

「落ち着きなさい。 彼女等は言わばテイマーで言えば、まだまだ『あの5人』の『腰巾着』や『金魚のフン』みたいな物です。 それでも完全体の我々を相手に必死にやっているから、そう言うのも酷な物ですよ」

 

 

フェレスモンとオーレモンの会話に、友希那達は愕然とした表情を浮かべていた。

 

 

「完全体……ですって……!?」

「そうですよ~。 姿が変わったりしただけの見掛け倒しだと思いましたか? だとしたら、とんだ見当違いですね。 そんな考え方をする辺り、貴女達『ガールズバンド』の奏でる音楽と言うのも、高がしれますね」

「そうか……。 つまりコイツ等の音楽も、さぞゴミみてぇな雑音て事か! ハッハッハ!」

「……友希那を……Roseliaを……馬鹿にするなあああーー!」

「ブイドラモン!」

 

 

ブイドラモンはオーレモン達に突進して行く。

 

 

「はぁ……芸の無い奴だな。 ガトリングパンチャー!」

「私も加勢しますよ。 デーモンズシャウト!」

 

 

2体の完全体デジモンの攻撃が、無情にもブイドラモンに炸裂した。

 

 

「ブイドラモン!」

 

 

やがて攻撃が収まると、其処には退化したブイモンが力無く倒れていた。

 

 

「そんな……全滅……だなんて」

「これが……完全体の力」

「パワー、耐久力、能力……あらゆる面で私達のデジモンを上回っている……。 これじゃあ、勝ち目が無いよ……」

 

 

蘭とこころと彩の呟きが虚しく響く。

 

 

「さて……次は貴女達の番ですよ」

「パートナー共々、仲良くあの世に送ってやろう」

 

 

友希那達4人は一歩も動けずに、止まったままである。

 

 

「まずは湊友希那さん。 貴女からだ」

「美しい見た目しか取り柄の無い御前が、死ぬ時にどんな表情を浮かべるか見物だな」

 

 

オーレモンは剣の先端を友希那に向ける。

 

 

「死ねえええーー!」

「「「湊さん(友希那ちゃん)(友希那)!!!」」」

 

 

友希那の頭上に、オーレモンの剣が振り下ろされ様とする。

 

 

 

 

「パワーメタル!」

 

 

 

 

その時オーレモンに大型の鉄球が命中し、オーレモンはバランスを崩す。

 

 

「グオッ……!」

「今のは……「皆~!」」

 

 

声の方を4人が向くと其処には、此方に向かってくるドルガモンとその背に乗る香澄の姿があった。

 

 

「「「「戸山さん(香澄)(香澄ちゃん)!!」」」」

「馬鹿な……。 お前達の相手はブルーメラモンに任せた筈……」

「信頼出来る強力な仲間の助けで、此処まで来たんだ!」

 

 

フェレスモンの動揺に、ドルガモンは自信のある返答をすると、そのまま戦闘を開始する。

 

 

「大丈夫?」

「気を付けて香澄……。 アイツ、アグモン達の攻撃が全く通用しなかった……」

 

 

アグモン達を抱えた蘭が香澄に、先程の状況を語る。

 

 

「大丈夫だよ。 事情は既に分かってるから」

 

 

その時、一端距離を取ったドルガモンが香澄達の下に戻る。

 

 

「ほぉ……さっきの4人と比べて、少しはマシな攻撃をする奴がいるじゃないか。 ……成る程、御前達が『あの方々』が警戒している者の1組達か……。 これは張り合いがありそうだな』

 

 

そう言ってオーレモンは両手の剣を構える。

 

 

「戸山さん……。 此処は危険だわ」

「そうだよ。 香澄ちゃんも逃げないと……」

 

 

友希那と彩が香澄に呼び掛ける。

 

 

「……出来ません」

 

 

香澄はそう言ってドルガモンの方に向かって歩みを進め、隣に立つ。

 

 

「ドルガモンが戦っているのに………テイマーの私が逃げるわけにはいかないんです!」

 

 

強き意志を持って友希那達に言い放った。

 

 

「でも、そんな事を言ってる場合じゃ………」

「パートナーを最後まで信じ、パートナーを最後まで支え、共に歩む! それが……本当のデジモンテイマー何です!! 若し此処で逃げたら……私はドルガモンのテイマーとして失格だし、あの冒険の日々を過ごした皆を裏切ってしまう事になるから」

 

 

更なる言葉に秘められた香澄の強い決意と想いに、友希那達は黙るほかなかった。

 

 

「ドルガモン……」

「行こう……香澄」

 

 

 

 

――MATRIX EVOLUTION――

 

 

 

 

その文字が香澄のディーアークの画面に表示され、同時にディーアークが光を放ち、その輝きに呼応してドルガモンも光に包まれた。

 

 

「ドルガモン超進化!」

 

 

光に包まれたドルガモンの姿が変化していく。

 

 

獣竜の姿から徐々に竜人の様な姿に変わると同時に、その身を金色に輝かせ、青いマントをはためかせる。

 

 

やがて光が収まると、其処には黄金の鎧を纏った騎士の様な見た目のデジモンが立っていた。

 

 

 

 

「グレイドモン!!」

 

 

 

 

「ドルガモンが……進化したわ……」

「これが……ドルガモンの完全体……」

「この感じ……只者じゃない」

「グレイドモン。 完全体。 戦士型デジモン。 ワクチン種。 必殺技は敵を十字に切り裂く神速の必殺剣『クロスブレード』と、上段より二刀を敵の頭上に叩き落す豪快な剣『グレイドスラッシュ』……」

 

 

他のボーカル組4人は、初めて見るグレイドモンの姿に思い思いの反応を見せる。

 

 

「ハッ! 無駄にキラキラした見た目しやがって! 俺の剣で五体バラバラにしてやる!」

 

 

そう吐き捨ててオーレモンはグレイドモンに切りかかって来る。

 

 

あの剣による一撃を味わった香澄以外のボーカル組4人は目を瞑る。

 

 

そして次の瞬間、切断音が響く。

 

 

「な……何……だと……!?」

 

 

その次に聞こえたのは、オーレモンの驚愕した声だった。

 

 

友希那達4人が目を開けると、其処には自身の武器である双剣『グレイダルファー』を両手に構えたグレイドモンと、驚愕した様子で先の切断された剣の柄を両手に持つオーレモンの姿があった。

 

 

「嘘……あの剣があんな簡単に……」

 

 

彩の口から驚嘆の声が零れる。

 

 

「クソがあああー!」

 

 

そう叫びながら、オーレモンは剣を捨てて、今度は右腕の拳でグレイドモンの顔を殴り付けるも、グレイドモンは回避せずにそれを受ける。

 

 

「クッ……」

 

 

それと同時に香澄が、まるで右頬を殴られたように仰け反り、その際口を切ったのか、口元からうっすら血が流れる。

 

 

「えっ!?」

「香澄!?」

 

 

その瞬間を見た彩や蘭が声を上げる。

 

 

その一方でオーレモンは拳による連続攻撃をグレイドモンに浴びせる。

 

 

「ぐっ………くぅっ……あぐぅ…」

 

 

グレイドモンが攻撃を受けるたび、香澄の身体が仰け反り、ふらつく。

 

 

「……若しかして、グレイドモンの受けたダメージが、戸山さんの身体にも通っているの?」

「その通りですよ、友希那さん」

 

 

香澄の様子を見た友希那の考察を肯定する様に、ましろとハックモンが現れる。

 

 

「ましろ……ハックモン」

「彼女は……ブルーメラモンめ、しくじったな……」

 

 

ましろとハックモンの姿を見た友希那達は先程グレイドモンが言った『信頼出来る強力な仲間』の正体、フェレスモンはブルーメラモンの戦死を悟った。

 

 

「パートナーを完全体まで進化させると………テイマーとデジモンはより一心同体に近くなります………」

 

 

ましろは説明を続ける。

 

 

「そんな……!?」

 

 

蘭が驚愕した様子を見せる。

 

 

「でも…………だからこそ勝てる!!」

 

 

香澄が強き意志を持ってそう言った瞬間、グレイドモンがそれに呼応する様に双剣の片方を持った右腕を振るう。

 

 

「グワアアアーー!!」

 

 

その瞬間、オーレモンの左腕が切り飛ばされた。

 

 

「グウゥ!」

 

 

咄嗟に残った右腕の手首のガトリング砲による攻撃を放とうとするが、それより先にグレイドモンがもう片方の双剣を持った左腕を振るい、オーレモンの右腕を切り飛ばした。

 

 

「ギャアアアー!!」

 

 

オーレモンの苦痛の声が響く。

 

 

 

 

「「(私)(僕)達デジモンとテイマーは……一緒に笑って、一緒に泣いて、時には喧嘩もしながら! 互いを理解して、共に進化して! だからこそ、何よりも強い絆が出来る(の)(んだ)!!」」

 

 

 

 

香澄とグレイドモンの声が重なり合う。

 

 

「おのれええぇーー!」

 

 

その時、フェレスモンが赤い三つ又の鎗を構えて襲い掛かる。

 

 

「クロスブレード!」

 

 

しかしグレイドモンは意にも介さず、神速の必殺剣による一撃をフェレスモンに炸裂させる。

 

 

「グアアアーー!」

 

 

切り飛ばされたフェレスモンは、そのまま出現させたゲートの中に消えて離脱する。

 

 

「グオオ……!」

「行くよ……グレイドモン」

「ああ」

 

 

グレイドモンはグレイダルファーを持って構え、其処にエネルギーを集中させる。

 

 

「ウオオーー!」

 

 

オーレモンは全身の力を振り絞って立ち上がり、そのままグレイドモン目掛けて突進する。

 

 

 

 

「「グレイド……スラッシュ!!」」

 

 

 

 

その瞬間、グレイドモンは上段より両手のグレイダルファーをオーレモンの頭上に豪快に叩き落とす。

 

 

「グオッ……馬鹿……な……」

 

 

強烈な一撃で両断されたオーレモンは、そのままデータの粒子となって静かに消滅したのだった。

 

 

やがてオーレモンが完全に消滅したのを見届けたグレイドモンは、そのままドルモンの姿に退化し、香澄も同時に崩れ落ちた。

 

 

「「「「「香澄(ちゃん)(戸山さん)(さん)!!!!!」」」」」

 

 

そして真っ先にましろとハックモンが、それぞれ香澄とドルモンに駆け寄る。

 

 

「大丈夫ですか? 香澄さん?」

「うん……。 久し振りに完全体の進化をしたから……少し疲れちゃった」

「立てるか? ドルモン?」

「有り難うハックモン。 僕は大丈夫……」

 

 

双方の言葉を聞き、ましろ達は安堵の様子を見せる。

 

 

「ましろちゃん……これからの戦い、きっと厳しくなるよ」

「はい……」

「きっと『あの力』を使う日も、そう遠く無い様に思えるの……。 だから……」

 

 

その時、ましろは優しく香澄を抱き締める。

 

 

「香澄さん。 1人で抱え込ま無いで下さい。 私達の事も頼って下さい」

「……有り難う」

 

 

2人は遠くを見詰めながら思い耽る。

 

 

 

 

その目には、5体の存在のシルエットが映っていた。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

その後、騒ぎの状況も相俟って『ガールズバンドカーニバル』はそのまま中止になってしまい、香澄達6人は帰路を向かっていた。

 

 

「皆御免なさい。 私が迷惑掛けたばっかりに……」

「ううん。 香澄ちゃんは何も悪くないよ。 『グッズも欲しい』って言う香澄ちゃんの気持ち、私も分かるから……」

「あうぅ……ましろちゃ~ん!」

「ええっ!? ど、如何しようハックモン?」

『ましろ、一端落ち着こう』

『ましろ、本当に香澄が御免……』

「香澄とドルモンはとっても仲良しね♪」

 

 

そして香澄達から少し離れて歩く友希那と蘭は、4人のやり取りを見ながら考えていた。

 

 

「『パートナーを最後まで信じ、パートナーを最後まで支え、共に歩む。 それが本当のデジモンテイマー何です』……か」

「如何したんですか湊さん?」

「私がRoseliaの音楽に全てを賭ける覚悟で取り組んでいる様に、戸山さんも『デジモンテイマー』に対して全てを賭ける覚悟で向き合っているのね……」

「……私、あの時『逃げたい』って一瞬思ってしまいました。 でも、香澄のあの時の目や姿勢を見てたら、自分が情けなく思えちゃったんです……」

「美竹さん。 それを言ったら、私も同罪よ。 悔しいけど結局私達、テイマーとしてはまだまだ戸山さんに倉田さん、それに紗夜達を含めた『あの5人』と比べるとまだまだ未熟だったって事ね……」

「……もっと強くなりましょう湊さん」

「……えぇ、そうね」

「友希那さ~ん! 蘭ちゃ~ん!」

 

 

その時、香澄が2人に呼び掛ける。

 

 

「あの! 今、4人で会話していたんですけど、若し宜しければ、これから私達6人で一緒に御食事会をしませんか?」

「香澄……」

「こんな機会、滅多に無いのでつい突然の事になっちゃったんですけど、大丈夫ですか?」

 

 

友希那は蘭は少し呆気に取られた様子を見せるも、直ぐに笑ってしまった。

 

 

「あの……2人共?」

「御免なさい。 食事会の件だけど、参加させて貰うわ」

「アタシも参加するよ」

「有り難う御座います! それじゃあ……」

 

 

そう言って、香澄は2人の真ん中に入って手を繋ぐ。

 

 

「「香澄(戸山さん)!?」」

「エヘヘ……レッツゴー!」

 

 

そう言って、ましろ達の下へ歩き出す。

 

 

最初は戸惑った様子の2人も、直ぐに穏やかな様子を見せ、香澄と共に歩みを進めて行く。

 

 

 

 

6人の穏やかなやり取りを、沈みゆく夕焼けと少しずつ現れた小さな星々だけが、静かに見守っていた。




と言う訳で、此処まで読んでくれて有り難う御座います。

さて此処まで遅れてしまったのは、主に以下の理由が原因です。


①話の展開に悩んでしまい、中々納得する物になるのに苦労した事。
②4月に入って直ぐに、『感染性胃腸炎』を患って、1週間程寝込んでしまっていた。
③今回の話と並行して17話・18話も書いていたら、17話の方が先に完成してしまった事(因みに18話は、現状15%程完成しています)。


特に②に関しては、中々眠れずに酷い睡眠不足なる程の激しい下痢や嘔吐に悩まされて、とても辛かったです……。

因みに作中で香澄とましろの目に映った『5体の存在のシルエット』に関しては、少しネタバレしますと『デジタルワールド編』に入る前に全員登場する予定です。


それでは何時も通りのデジモン解説(尚、今回は少し長いです)。
それとお察しの方もいると思いますが、今回登場したオーレモンは今作オリジナルデジモンです。




グレイドモン


レベル:完全体
タイプ:戦士型
属性:ワクチン


香澄のドルモンの完全体。
その勇猛果敢に先陣を斬る様から“金色の流星”と呼ばれる双剣の戦士型デジモン。
「双剣グレイダルファー」を二刀流で使用する時、その剣技に神速がもたらされるが、自らは制御不能となる呪いの剣で、理性を保ったまま戦うことはできない。
総合力ではさすがに劣るものの、剣技は聖騎士“ロイヤルナイツ”のロードナイトモンをも凌ぐとされ、ロイヤルブルーのマントは数々の戦いの功績に与えられた名誉の証であると言われている。
必殺技は敵を十字に切り裂く神速の必殺剣『クロスブレード』と、上段より二刀を敵の頭上に叩き落す豪快な剣『グレイドスラッシュ』。


フェレスモン


レベル:完全体
タイプ:堕天使型
属性:ウィルス


貴族のような姿の堕天使型デジモン。
人の願い事をかなえる換わりに魂を奪うと言われている。
ブギーモンが出世して進化すると言われているが、詳しい事は未だ不明である。
得意技は、相手を黒い石像に変えてしまう『ブラックスタチュー』、必殺技は、呪いのこもった叫び声で敵を狂わせてしまう『デーモンズシャウト』。


ブルーメラモン


レベル:完全体
タイプ:火炎型
属性:ウィルス


成熟期のメラモンよりも、さらに高熱の炎で燃えている火炎型デジモン。必殺技は超低温の冷気で相手に火傷を負わせる『アイスファントム』。
今作では香澄とドルモンを惹き付ける囮要員でフェレスモンが呼び寄せた存在。
戦闘シーンは(メタ的に言えばネタバレ防止&メイン回で活躍させる為)省略されてしまったが、最期はましろと完全体に進化したハックモンに倒された。


オーレモン


世代:完全体
種族:マシーン型
属性:ワクチン
モチーフ:オーレッド、レッドパンチャー、オーブロッカー、オーレバズーカ


今作オリジナルデジモン(作中ではチュチュが創り出した設定になっている)。
とある軍事用コンピューターのセキュリティーシステムから作られたマシーン型デジモン。
味方に対しては慈愛を持って接する反面、敵と認識した物に対しては情け容赦無く殲滅する。
近中遠全ての戦闘を想定して作られており、近接戦では2対の剣『ツインライザー』を使った剣術と肉弾戦をメインに戦い、中距離及びに遠距離戦では、両腕の手首に装備されたガトリング砲とツインライザーによる斬撃波、胸部に備え付けられているバズーカ砲(作中未登場)による攻撃を行う。
得意技は『ツインライザー』をクロスさせて放つ光線『ツインサンダー』(尚、この技は斬撃波で放つパターンもある)、必殺技は両腕の手首に装備されたガトリング砲による砲撃『ガトリングパンチャー』と胸部に装備されたバズーカ砲から星形の破壊エネルギーを打ち出す『ビッグスターバスター』(但し、作中未登場)。


裏話

元々、初の完全体デジモンの話を作る際、『最初は香澄メイン』で『最初の敵の完全体デジモンはオリデジ』と言うのは、初期の時点で既に決めていました。
また、今回の話を書く際に参考にしたのが『オーレンジャー』の1話だったので、そのオマージュ的な面もあって、各キャラのポジションは、


・香澄&ドルモン→オーレッド
・3代目テイマー組のボーカル組(友希那、蘭、彩、こころ)→レッド以外の初期メンバー(それもあって、今回は戦闘面は終始噛ませ役になってしまいました……(その点は本当に申し訳有りません)。)
・フェレスモン&オーレモン→バラノイア


と言う感じになっています。

また、ましろ&ハックモンとブルーメラモンは、オリジナルの配役です。

因みにオーレモンの性格は、元から決めてたのでは無く単に書いていたらこんな性格と口調になってしまった上にもう1つの必殺技である『ビッグスターバスター』も書いてたら、出す暇が無くなってしまったと言うある意味『話の展開に振り回されて、設定が生かせて無かった面があったキャラ』に……。

後、『オーレンジャー』をモチーフにした理由はそれぞれ、

香澄→『赤い星のリーダー』
ポピパメインのサブタイトルの元ネタ作品→『20』&『時を超えて、現代に現れた戦士がいる』

と言う繋がりで選びました。


さて、最後は久し振り(?)の簡単な予告紹介です。
次回、第17話『昆虫パーソナリティ2020』。


それでは、之にて失礼致します。


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第17話 昆虫パーソナリティ2020

珍しい早めの投稿&何気に初の有咲のメイン回(単に私が書くのを忘れていたと言うのが1番の理由ですが……)。


因みに現状考えている今後の話の展開は、


・2代目テイマー組(完全体編)

・沙綾のメイン回

・文化祭編(アニメ2期7話~9話)


と言う形で書く予定です。


一応これは当初から決めていたのですが、場合によっては一部変更になるかもしれないので、その事を御理解の上で今後の話も宜しく御願い致します。


 

 

「そっか……等々『完全体』まで出やがったか……」

 

 

その日の夜。

 

 

有咲は香澄から、今日の『ガールズバンドカーニバル』での一件をスマホ越しで聞かされていた。

 

 

『紗夜さんと日菜さんとまりなさんには、ましろちゃんが連絡を入れて伝えたから……有咲とワームモンも気を付けて』

「分かった。 そっちも充分休めよ」

 

 

労いの言葉を掛け、有咲はスマホの通話を切った。

 

 

「あーちゃん……」

「あぁ……事態は深刻になってきたな……」

 

 

有咲は香澄からの通話を通して、事態の深刻さを感じとっていた。

 

 

「今までは成熟期やアーマー体だったから心配は無かったけど……これからの戦い、厳しくなって来るぞ」

「うん……そうだね……」

「完全体だけじゃねぇ。 最悪『究極体』までやって来たら……」

 

 

そう語る有咲とワームモンの脳内に最悪の光景が浮かぶ。

 

 

『ホハハハハハ!!』

『『『ウワアアアーー!!』』』

『『グアアアアーー!!』』

『『キャアアアーー!!』』

『『『『『『『(ギルモン)(ブイモン)(ララモン)(アグモン)(テイルモン)(パタモン)(ベアモン)!!』』』』』』』

『次は貴様らだ!!』

『『『『『『『キャアアアアアーー!!』』』』』』』

『ハアアア!!』

『『ウワアアア(キャアアア)ーー!!』』

『『ウワアアア(キャアアア)ーー!!』』

『『『『ウワアアア(キャアアア)ーー!!』』』』

『『『キャアアアーー!!』』』

『『『ウワアアア!!』』』

『『『『キャアアアーー!!』』』』

 

 

敵に容赦無く消されていく3代目テイマー達とそのパートナーデジモン、そしてたえやりみを初めとした他ガールズバンドのメンバー達。

 

 

「あーちゃん……」

「ワームモン……気ぃ引き締めるぞ」

「うん」

 

 

有咲の言葉に、ワームモンは短くも力強く頷く。

 

 

そしてその後は何事も無かったかの様に、2人は何時ものルーティンを過ごしたのだった。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

「ふああぁ~」

「市ヶ谷さん?」

「あっ、すみません燐子先輩……」

「いえ……お疲れ様です」

 

 

翌日、有咲は生徒会室にて午前中から花女の生徒会長である燐子の手伝いを行っていた。

 

 

有咲自身、デジモン関係に加え、ポピパや生徒会の一員としての活動等もあって、忙しい身でもあった。

 

 

「市ヶ谷さん、大丈夫ですか?」

「え?」

 

 

燐子の発言に、有咲は手を止める。

 

 

「いえ……先程から作業の傍らで少し思い悩んでるのが気になったので……」

「あぁ、すいません。 少しだけ考え事を……」

「いえ、全く気にしてはいませんよ。 市ヶ谷さんは決して、仕事に対しては手を抜かずにこなしている事は充分理解しているので……」

 

 

燐子は有咲の様子を咎める事は無く、受け入れる。

 

 

『あーちゃん、あの頃と比べると随分精神的に成長したね』

「そうか?」

『うん。 最初の頃は少し不安定な面があったから……』

「確かにあの時は、私も精神的に参っていたからなぁ……」

 

 

有咲とワームモンの脳裏に出会った頃の記憶が過る。

 

 

香澄達2代目テイマー組の5人の最初の関係は、苦労の連続だった。

 

 

いきなり見知らぬデジタルワールドに飛ばされてしまった挙げ句、世界を救う様に言われてしまった事もあり、戸惑いを隠せなかった。

 

 

有咲は5人の中では戸惑いが大きかった内の1人であり、それも相まってワームモンの関係も、最初はぎこちない物だった。

 

 

そんな彼等の関係を変えたのは、とある一件だった。

 

 

冒険の最中のある時、敵の策略によって2人の中に亀裂が入ってしまった事があった。

 

 

『これがあーちゃんの本当の気持ちなの!?』

『……何だよ。 何とかしなくちゃいけないならしょうがねぇじゃねぇか!!』

『!?』

『大体どいつもこいつも私の気持ちを知らずに勝手何だよ! いきなりこんな訳も分からない所に連れてこられた挙げ句に『世界を救え』何て無茶苦茶な事言われて、おまけに何の考えも無く『何とかなるよ!』何て言いやがって! そんな感じで上手くいったら、最初から苦労何てしねーんだよ!』

 

 

ワームモン自身、今でもあの時の有咲の様子はハッキリと覚えている。

 

 

同時に有咲と『形だけの関係』しか作れなかった自身を悔やんだ。

 

 

だからお互いに真正面からぶつかって、最終的に理解し合った。

 

 

それ以降2人の関係は、少しずつ変わっていった。

 

 

ワームモンが知らない事を有咲が教えたり、有咲が困った時はワームモンがフォローをする。

 

 

こうして『形だけの関係』の2人は、何時しか『本当の意味で支え合う関係』へと変わっていった。

 

 

『あのお祖母ちゃん、如何して僕の事を簡単に受け入れてくれたの?』

 

 

以前、ワームモンは有咲の祖母の万実に自身をすんなり受け入れてくれた理由を聞いた事がある。

 

 

『そうだねぇ……。 強いてあげるなら、『有咲の様子』だね』

『『様子』?』

『小学生の頃、あの子が泣きながら帰って来た事があってね、訪ねたら『大切な子とお別れした』って言ってたの。 失礼な言い方になっちゃうけど、有咲はあんまり友達がいない子だったから、あそこまで悲しむ辺り、よほど大切な友達なんだって思ったの』

 

 

万実はその時の事を懐かしむ様で語った。

 

 

『そしてあの子が貴方を私に紹介した時、最初は驚いたけど、貴方の事に付いて真剣な様子で語る有咲の姿と『あーちゃんを怒らないで下さい!』って必死な貴方を見たら、とても『悪い子』だなんて思えなかったわ』

『お祖母ちゃん……』

『ワームモン。 有咲とこれからも仲良くしてね』

『はい』

 

 

ワームモンは万実の言葉に優しく返答した。

 

 

意識をふと現実に戻すと、燐子が穏やかな様子で見ている。

 

 

「あっ、先輩! さっきから度々すいません……」

「市ヶ谷さんとワームモン、本当にお互い大切に支え合っているなって……」

「と、取り敢えずこの書類、急いで整理しますね!」

「御願いしますね」

 

 

そう言って、慌てて書類を整理する有咲とフォローするワームモンのやり取りを燐子は見て思う。

 

 

(あの2人……何だか私とあこちゃんに似てるなぁ……)

 

 

燐子はそう思いつつ、作業を再開するのであった。

 

 

「これで良し……市ヶ谷さん、今は此処までにしましょう……」

「そうですね。 もう他の生徒達も来そうですし……」

 

 

それから30分後、区切りの良い所で書類の整理を終了させた有咲と燐子は、少しだけ休憩を取る事にした。

 

 

「ふぅ……」

『あーちゃん、お疲れ様』

 

 

一息付く有咲と労うワームモンの姿を、優しく見守る燐子。

 

 

静かな一時が生徒会室に流れていた。

 

 

 

 

「キャアアアアアーー!」

 

 

 

 

突如、空気を切り裂く様な悲鳴が響き渡る。

 

 

「今の声……家庭科の夏木先生……!」

『あーちゃん!』

「市ヶ谷さん!」

 

 

有咲は頷いてワームモンをリアライズさせると、直ぐに悲鳴の方向へ向かって行き、燐子も慌ててその後を追いかけた。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

有咲とワームモンが現場に駆け付けると、其処にいたのは花女の用務員である玉城と言う男性であった。

 

 

先程悲鳴を上げた夏木先生は避難したのか、既に姿が無かった。

 

 

 

「玉城さん!」

「市ヶ谷さん、逃げなさい! 此処は……グワアァ!」

 

 

その時、有咲とワームモンの目の前で玉城は斬撃に切り裂かれ、次の瞬間、その場所には五体バラバラになった彼の無惨な死体が転がった。

 

 

「玉城さん……!」

 

 

有咲は悲痛な様子を浮かべる。

 

 

有咲自身、彼とは其処まで交流は深くは無かったが、彼が学校の皆から慕われる程、人柄の良い人物だった事は知っていたので、突然の死には悔やむ想いがあった。

 

 

「市ヶ谷さん!」

「燐子先輩、来るな!」

 

 

すると突然燐子の方へ目掛けて、複数の鋭い斬撃の刃が飛んでくる。

 

 

「ヒッ……」

 

 

咄嗟の事に燐子は動けず、思わず目を瞑る。

 

 

 

 

「ムーンシューター!!」

 

 

 

 

その時、無数の光弾が複数の斬撃の刃を相殺した。

 

 

暫くして何とも無い事に気付いて燐子が目を開ける。

 

 

「大丈夫か燐子?」

「スティングモン……有り難う御座います」

 

 

燐子は自身を助けた正体であるスティングモンに、御礼を述べた。

 

 

「来るぞスティングモン!」

 

 

有咲の呼び掛けと同時に黒い影が現れて襲い掛かり、スティングモンも両手のパイルを伸ばして応戦し、やがて暫く激突した後、相手は距離を取る為に一旦下がった。

 

 

やがて相手の正体が明らかになり、燐子は呟く。

 

 

「デジモン……?」

 

 

それは全身を桃色の体毛に覆われ、額に菱形の模様と両手が鋭い鎌になっている鼬の様な見た目のデジモンであった。

 

 

「アイツは……」

 

 

有咲は自身のディーアークで、相手の情報を調べる。

 

 

「キュウキモン。 完全体。 妖獣型。 ウィルス種。 必殺技は『ブレイドツイスター』と『三連星』……よりにもよって完全体かよ……!」

 

 

有咲は自身が恐れていた事が現実になった事への理不尽さに、悪態を吐く。

 

 

「キキャアアーー!!」

 

 

キュウキモンは今度は有咲に狙いを定め、彼女の方へと襲い掛かって行った。

 

 

「クッ!」

 

 

スティングモンは急ぎ有咲の元へ戻り、キュウキモンの鎌に自身のパイルを伸ばして応戦する。

 

 

「有咲には指一本触れさせはしない……!」

「キキキキ……!」

 

 

両者の拮抗は続く。

 

 

 

 

「カースオブクィーン!!」

 

 

 

 

その時、突如キュウキモンに目掛けて赤い光線が飛び、気付いたスティングモンは回避し、光線はキュウキモンに命中する。

 

 

「キキャ!!」

「今のは……「有咲ちゃーん!!」彩先輩!」

 

 

声の方を向くと、其処にはネフェルティモンとその背に乗った彩の姿があり、彩はネフェルティモンから降りて直ぐに有咲達の下に駆け寄り、ネフェルティモンは加勢に入った。

 

 

「大丈夫!?」

「私と燐子先輩は何とか……。 でも……」

 

 

有咲の視線の方向に彩とネフェルティモンが目を向けると、彩は驚きの余り腰を抜かしてしまう。

 

 

「ヒッ……あれって……」

「用務員の玉城さんです……。 私達の目の前で……」

 

 

彩は見知った相手の死体を前にショックを受けていた。

 

 

「ウワアアーーッ!」

 

 

衝撃音と声の方を振り向くと、其処にはキュウキモンに倒され、退化したテイルモンの姿があった。

 

 

「テイルモン!」

「彩……ご免なさい……」

「キキャキャキャキャ!!」

 

 

キュウキモンは不気味な声を挙げながら、嘲笑の意を込めた笑い声を挙げた。

 

 

彩とテイルモンと燐子はその笑い声から、破壊と殺戮を楽しむキュウキモンの悪意の気持ちをひしひしと感じ取っていた。

 

 

 

 

「……ってんだよ……」

 

 

 

 

「市ヶ谷さん……?」

 

 

 

 

「何笑ってんだよ!!!!」

 

 

 

 

有咲の大きな怒声が響く。

 

 

彩と燐子はかなり驚いていた。

 

 

2人の知る限り、有咲は確かに大声を出す事はあったが、それは主に周りの言動に対してのツッコミの意味合いによる物が殆どであった。

 

 

だが、今の有咲の姿からは何時ものツッコミの時とは違って、文字通り『本気の怒り』を感じていた。

 

 

「有咲……」

「スティングモン。 私はアイツを絶対に許さない。 だから……力を貸してくれ」

「あぁ。 俺達の力、アイツに見せ付けてやろう」

 

 

スティングモンは静かに頷き、キュウキモンを見る。

 

 

 

 

――MATRIX EVOLUTION――

 

 

 

 

その文字が有咲のディーアークの画面に表示され、同時にDアークが光を放ち、その輝きに呼応してスティングモンも光に包まれた。

 

 

「スティングモン超進化!」

 

 

光に包まれたスティングモンの姿が変化していく。

 

 

全身がプリズムの様な鎧に包まれ、同時に鋭い槍が現れ、それを右手て掴む。

 

 

やがて光が収まると其処には虹色の輝きを放つ昆虫型デジモンの姿があった。

 

 

 

 

「ジュエルビーモン!」

 

 

 

 

「スティングモンが……更に進化しました……」

「ジュエルビーモン。 完全体。 昆虫型デジモン。 ワクチン種。 必殺技は『スパイクバスター』」

 

 

燐子は初めて見る完全体の姿に呆然としており、彩は自身のディーアークでジュエルビーモンの情報を調べる。

 

 

「ジュエルビーモン!」

「キキャアア!」

 

 

有咲の呼び掛けにジュエルビーモンはキュウキモンに仕掛け、一方のキュウキモンも額の菱形模様から青い光線を放つも、ジュエルビーモンは鋭い槍を両手で持ち、そのまま鎗裁きでそれを弾き、そこから強力な突きをキュウキモンに炸裂させ、相手は吹っ飛ばされる。

 

 

「キキャア!」

 

 

そしてジュエルビーモンは、ゆっくりとキュウキモンの下へ進んで行く。

 

 

「キイイィ……キャアアアーー!!」

 

 

キュウキモンはジュエルビーモンの周りを回り始める。

 

 

するとジュエルビーモンを中心に竜巻が起こり始め、徐々に大きな物となっていく。

 

 

そして竜巻の中心にいるジュエルビーモンに無数の真空刃が襲い掛かるも、ジュエルビーモンは落ち着いた様子のまま、全身に身に纏った鎧で防御する。

 

 

「っ!」

 

 

同時に有咲の制服にも少しずつ切り傷が出来始める。

 

 

「え!?」

 

 

その瞬間を見た燐子が声を上げる。

 

 

「大丈夫です燐子先輩……くっ……パートナーを完全体まで進化させると……ッ……テイマーとデジモンは……ぐっ……一心同体に近くなるんです……くうっ……」

 

 

有咲はダメージを受けながら説明を続ける。

 

 

「市ヶ谷さん……」

 

 

燐子はそんな有咲の姿を心配そうな様子で見付める。

 

 

(ジュエルビーモン……耐えてくれよ……!)

 

 

真空刃の攻撃は尚も続くも、ジュエルビーモンは全身の鎧で防御する。

 

 

(まだだ……)

 

 

ジュエルビーモンは『その時』が来るのを静かに待つ。

 

 

「キキャアアアーー!」

 

 

やがて何時までも倒れないジュエルビーモンに業を煮やしたキュウキモンが、直接切り裂こうと右手の鎌を振り下ろし、それがジュエルビーモンの左肩に命中する。

 

 

キュウキモンは手応えを確信し、そのまま切り裂こうとしたその時、ジュエルビーモンが左手でキュウキモンの右腕をガッシリと掴んだ。

 

 

「キッ!?」

「この瞬間を待っていた……!」

 

 

そしてジュエルビーモンは、右手に持った槍でキュウキモンを思い切り貫いた。

 

 

「キキャアアアーー!?」

 

 

突然の激痛に、キュウキモンは大きな悲鳴を上げて苦しむ。

 

 

「行けええぇーー!」

 

 

有咲の叫びを聞き、ジュエルビーモンは右手に力を集中させ、そのまま槍を振るった。

 

 

「スパイク……バスター!!」

 

 

次の瞬間、槍からの衝撃波がキュウキモンを縦真っ二つに両断した。

 

 

「キ……キャ……」

 

 

そのままキュウキモンは小さく短い悲鳴を上げると、そのままデータの粒子となって消滅していった。

 

 

やがてジュエルビーモンも、元のワームモンの姿へと戻る。

 

 

「あーちゃん……」

「ワームモン……お疲れ様」

「うん……」

 

 

ワームモンは静かに返答する。

 

 

敵は確かに倒した。

 

 

しかしだからと言って、亡くなった玉城が生き返る訳では無い。

 

 

不意に何かが当たる。

 

 

「雨……」

 

 

彩が気付くと同時に雨が降り出す。

 

 

「市ヶ谷さ……」

 

 

燐子は声を掛けようとして止まる。

 

 

 

 

何故なら、先程戦闘があった場所を見る有咲の表情が悲痛な様子である事に気付いたから。

 

 

 

 

雨がより一層と強くなり、有咲とワームモンの体を濡らす。

 

 

燐子達にはそれがまるで、泣こうとするのを堪えようとする有咲とワームモンの代わりに空が2人の分も涙を流している様に映った。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

「そう……キュウキモンがDefeatedされたのね……」

 

 

自身の住むマンションの一室にて、チュチュは先程、フェレスモンからの報告を聞いていた。

 

 

『その割には、あまりショックな感じを抱いて無いねぇ?』

「えぇ。 漸く『究極体』の件に解決の目処が付きそうになった上に、『予想外の戦力』が見付かったからね」

「ああ……確かに『彼女』の抱えている闇は、僕も中々興味深かったからね。 でもこれで『ギター』が2人(・・)も入る事になるけど、良いのかい?」

「その点に関しても、手を抜かずに全力で当たるわ。 まぁ……駄目だった方に関しても、『此方の方の戦力』として、RASに利用させて貰う予定よ」

 

 

そう語るチュチュを見ながらも、『もう1人の存在』は隣の巨大なカプセルの中にいる存在にも視線を向け、内心語る。

 

 

(どんな光も何時かは闇に呑まれて消えていく。 僕の本当の目的(・・・・)の成就の為に、君の力も適任者と共に大いに利用させて貰うよ)

 

 

激しさを増した雨音だけが、2人の会話と心情を感じ取っていた。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

「玉城さん。 御久し振りです」

 

 

数日後、有咲と燐子の2人はキュウキモンによって殺害された玉城の墓を訪れていた。

 

 

「玉城さん。 何時も学校の皆さんのより良い生活の為に身を尽くしてくれて、本当に有り難う御座いました」

 

 

燐子はそう言って、持ってきた花束を彼の眠る墓に供え、有咲はその様子を静かに見守る。

 

 

その時、有咲のディーアークからワームモンが現れ、有咲と一緒に墓前に行く。

 

「玉城さん。 私は貴方とは殆ど交流がなかったけど、花女の皆の為に貢献してくれて、有り難う御座いました」

「初めまして玉城さん。 僕、ワームモンと言います。 あーちゃんが御世話になりました。 僕は殆ど交流は無かったけど、それでもあーちゃんや燐子さんの話を聞いて、貴方が学校の皆から親しまれているのかが、良く分かりました。 本当に有り難う御座いました」

 

 

そう言って有咲とワームモンは、共に静かに黙祷をする。

 

 

数分後、黙祷を終えた有咲達は静かにその場を後にした。

 

 

「あの……市ヶ谷さん、ワームモン」

「燐子先輩?」

『如何したの?』

 

 

燐子の呼び掛けに有咲は足を止めた。

 

 

「私自身、対してお役に立てないですけど……2人だけで抱え様としないで下さい」

「燐子先輩……有り難う御座います」

 

 

有咲は静かに礼を返す。

 

 

 

 

5月の日差しだけが、彼女達のやり取りを空から見付めていた。




ここまで読んでくれて有難う御座います。

今回有咲は実質初のメイン回と言う事で、何時も以上に動いて貰っただけで無く、ワームモンとの関係も少しだけ掘り下げて書く事も意識しました。

そして作中でのチュチュ様と黒幕的な存在が語った以下の言葉。


・『究極体』の件の解決の目処
・『予想外の戦力』と称された『彼女』
・『此方の方の戦力』として、RASに利用する
・巨大なカプセルの中にいる存在


これらの要素は、後々『デジタルワールド編』に関わって来ます(最も、読んでいて中にはある程度予想が付いている方もいると思いますが)。

それでは最後に、今回登場したデジモンの紹介です。




ジュエルビーモン


レベル:完全体
タイプ:昆虫型
属性:ワクチン


有咲のワームモンが進化した完全体デジモン。
玉虫のような虹色の輝きを放つ昆虫型デジモンで、見る角度で色がかわるプリズムのようなヨロイは頑丈なだけでなく敵の目をくらませる効果もある。
格闘のエキスパートで、美しい戦いを好む。
必殺技は、右手に持つ槍を光の速さで振るい、衝撃波を起こす『スパイクバスター』。


キュウキモン


レベル:完全体
タイプ:妖獣型
属性:ウィルス


伝説上の妖怪“鎌鼬”のような姿をした妖獣型デジモン。
体中の体毛が鋭い刃で周りのものを見境なく切り裂き、まさに凶器の様な剣獣だ。スピードも速く、つむじ風が起きたと同時に体中を切り裂かれてしまう。
必殺技は、敵を中心に竜巻を起こし、真空の刃で切り刻む『ブレイドツイスター』と、額から菱形の印を撃つ『三連星』。
名前の由来は、四凶(中国神話に登場する悪神)の1体である窮奇(きゅうき、チョンチー)。
これは窮奇が「風神」と見なされていた事や、かつての日本の知識人が「中国にいるものは日本にもいる」と言う考えから窮奇と鎌鼬が同一視された事からだと推測される。


裏話


因みに今作のキュウキモンのキャラのモデルは、『ウルトラマンレオ』のツルク星人を参考にしました。
尚、今回作中で登場した(&言及された)ゲストキャラの用務員である玉城さんと家庭科の夏木先生の出番は、今回限りです。


それでは之にて、失礼致します。


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第18章 才女の受難、白の完全乱舞

久し振りのMorfonica回です。

此処で少しだけ(+改めて)ましろちゃんに関しての説明。

私自身、今作のましろちゃんは


・もう1人の主人公組(分かり易いイメージとしては、『仮面ライダー』で言う2号ライダーのポジション)。
・本家バンドリより精神的な面で成長した感じのましろちゃん。


と言うのを意識して書いています。

因みにトリビア的な話をすると、実は初期設定ではましろちゃんのパートナーは、モニカのイメージ繋がりでモルフォモンにする予定でした……。
しかし、


・有咲のワームモンとキャラが被る。
・進化ルート面で悩んでしまった。


の2点で、最終的にハックモンになってしまったのです(成熟期は兎も角、完全体と究極体は片方のみか、両方採用かで悩みました)……。

因みに私の好きな『2号ライダー』は、


・ナイト(『龍騎』)
・ギャレン(『剣』)
・ガタック(『カブト』)
・ディエンド(&ネオディエンド)(『ディケイド』)
・バロン(『鎧武』)
・ブレイブ(『エグゼイド』)
・ゲイツ(『ジオウ』)
・バイス・ライブ&エビル(『リバイス』)


と言う感じです(『リバイス』に関しては、2号ライダーの基準が複雑な感じで、上記の様な表記になりましたが……)。


それとこれは個人的な疑問(&戯れ言)ですが、皆さんが好きな2号ライダー&ましろちゃんのキャラのイメージにしっくりくる2号ライダーを挙げるなら、何だと思いますか?


 

 

「ふぅ……ったく、深夜の見回りって言うのも厳しい物だよ」

 

 

とある深夜。

 

 

現在、1人の警察官が見回りをしていた。

 

 

「にしても寒いなぁ……。 あそこの公園でコーヒーでも買うか」

 

 

若い警官はそう言ってコーヒーを購入する為、近くの公園にある自販機の前に立ち寄った。

 

 

 

 

怪しい光が此方を見ている事に気付かずに。

 

 

 

 

そして公園の自販機でコーヒーを購入すると、警官は中身を一気に飲み干した。

 

 

「あぁ~……生き返るなぁ……」

 

 

警官は自販機で購入した缶コーヒーを一口飲み、満足な様子で一息付いた。

 

 

トントン

 

 

「? 誰だい急に……?」

 

 

不意に肩を叩かれた感覚を感じた警官は其方に視線を向け、言いかけた言葉を止める。

 

 

 

 

其処には自身の倍の大きさもある黒い影がいた。

 

 

 

 

「ワーッ! か、怪物だーー!」

 

 

すると黒い影は、口から藤色の煙を吐き出した。

 

 

「グエッ! グウウウ……!」

 

 

それを吸い込んだ警官は呻き声と共に苦しみだし、そのまま倒れる。

 

 

そして煙が収まると、其処にはドロドロの液体のみが残されていた。

 

 

「中々強力な物を持っているではないか」

 

 

別の方向から現れた影ーー先程から様子を闇夜に隠れて伺っていたフェレスモンが賞賛の言葉を掛ける。

 

 

「パレオ様と●●●●●様からの伝言。 『期待していますよ』との事だ」

 

 

フェレスモンはそう言って、再び闇夜に姿を消そうとして、思い出した様に動きを止める。

 

 

「それと『彼女の事』だが……『其方は貴方の御自由にお任せします』だそうです」

 

 

伝えたい事を伝え終えたフェレスモンは、再度闇夜に姿を消した。

 

 

そして黒い影も目の前の敵が完全に消えた事を確認すると、再び暗闇の中へ消えていった。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

「……う~ん。 こんな感じかな?」

 

 

七深は悩みながらも、目の前の作業に取り組んでいた。

 

 

現在彼女がいるのは、月ノ森の庭園。

 

 

何故彼女がこの場にいるのかと言うと、美術の授業での課題の写生の為であった。

 

 

「最後はこうして……良し、完成~♪」

 

 

そして5分程経って、七深は等々課題を完成させた。

 

 

「おーい! ななみー!」

「あっ、透子ちゃん!」

 

 

其処へ丁度タイミングを見計らったかの如く透子が駆け寄って来た。

 

 

「ヤバいヤバいヤバい! めっちゃスゴい神作が出来上がっちゃったよ!」

「と、とーこちゃん……お、落ち着いて~」

 

 

透子はまるで珍獣を発見した学者の様に興奮気味に語り、七深はそんな透子を落ち着かせようとする。

 

 

「いやぁゴメンゴメン! でもこれ見てみなって!」

「おぉ……大胆だけど結構上手に描かれているねぇ~。 色使いの方も繊細且つ丁寧だし……広町的にこの校舎の屋根の色は好きだな~」

 

 

七深は自身の見て感じた感想を、透子に伝える。

 

 

「そっか! 実はアタシもこの校舎の屋根は他の所よりも力を入れて描いたんだ~! いやぁ~、同じ部分に注目する辺り、何だかアタシ等、『以心伝心』してるみたいじゃん♪」

「と、透子ちゃん~……痛い、痛いってば~」

 

 

嬉しさのあまり、透子は七深の背中をバシバシ叩き、七深は再び透子を落ち着かせようとした。

 

 

「あはは! ななみの方は如何なった?」

「う、うん。 こっちも今終わった所だけど……」

「本当!? なぁ、若し良かったら、ななみのも見せてよ!」

「……分かった。 はい、これ何だけど……」

 

 

そう言って七深は透子に、完成したデッサンを見せた。

 

 

「は? 何これ? 輪郭がグニャグニャじゃん。 校舎の壁とか、形めっちゃ崩れちゃってるし」

「あはは……。 何だか上手くいかなくて……」

「この花壇? にある白い塊は?」

「それはあそこにある梔子の花だよ。 綺麗だよね~」

「へぇ……。 確かにグニャグニャだけど、何だか見てたらこれはこれでイケてるかも。 ななみの絵も悪くないんじゃね?」

「有難う、透子ちゃん」

 

 

七深は透子に礼の言葉を述べる。

 

 

「……そうだ! 今日は放課後空いてるし、若し良かったら、あたしが絵の描き方を教えるよ!」

「ごめんね。 気持ちは凄く嬉しいけど、今日は予定が……」

「……ああ! 前に行ってたファミレスの『アレ』か! 頑張れよ~、応援しているから!」

「うん」

 

 

それと同時に昼休みの時間を告げるチャイムが流れた。

 

 

「やっと昼休みか! 教室行こうよななみ」

「待って。 まだ片付けが終わってないから」

「それじゃあ、アタシも手伝うよ」

「ふふっ。 有難う」

 

 

そして片付けを終えた2人は、その足で教室に向かっていた。

 

 

 

 

2人が去って、誰も居なくなった庭園。

 

 

 

 

不意にその中の1体が、唐突に動き出した。

 

 

その植物は、先程透子と七深がいた時には見せなかった不気味な口を開いて呟く。

 

 

「『絵の描き方を教える』……か。 七深の絵を外面でしか判断出来ない単細胞な金髪女め。 もう直ぐだ……もう直ぐで俺は生まれ変われる……」

 

 

口の生えた植物は、その儘地面の中へ潜って行く。

 

 

そしてその場には、腕一本が丁度入れる程の小さな穴のみが残されてるだけだった。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

「でさ、この校舎の屋根の所とかもマジ神っぽくね?」

「もう透子ちゃんったら……もうその話、5回位は聞いたよ」

「透子ちゃん……よっぽど嬉しいんだね……」

『何だか彼女の辞書には、『ネガティブ』と言う言葉が無い様に思えるな……』

「嬉しいのは分かるけど、これ以上はしゃぐのはお店にも迷惑よ」

 

 

透子のハイテンションに、ましろ達も様々な反応を示している。

 

 

翌日の放課後。

 

 

現在、彼女達は近くのカフェでティータイムの真っ最中である。

 

 

あの後も透子は他のモニカメンバー達にも、自身のデッサンした絵の事を自慢気に話していた。

 

 

「だってアタシも自分のブランドのデザインのデッサンをする事があるからさ。 この校舎の屋根の所の神がかった描写を見てると、自分の関わっている事の要素を身近に感じちゃって嬉しいんだもん!」

「そう思うなら、普段の学校の授業もそんな感じで受ければ良いのに……」

「ウェ!? い、いやぁ……その点はちょっと……」

「もう……透子ちゃんったら……」

 

 

つくしは呆れた様子を浮かべていた。

 

 

 

 

ズボッ

 

 

 

 

『ん……?』

「如何したのハックモン?」

『今一瞬、何か妙な気配が……』

「若しかして……デジモンかしら?」

『解らない。 本当に一瞬の事だったからな……』

 

 

ましろと瑠唯の問い掛けに、ハックモンは曖昧な返答を返す。

 

 

「分かった! きっとアタシらのファンか何かだよ! ここの所、Morfonicaの名前も徐々に浸透していってるから、きっと私達の姿を見る為にこっそり隠れてたんだよ!」

「もう……透子ちゃんったら……」

(それに若しそうなら、さっきの『ズボッ』って音はどう説明付ける気だったんだろう?)

 

 

透子の発言につくしは呆れ、ましろは内心疑問に思いながら彼女を見る。

 

 

その後5人は喫茶店を出て、それぞれの帰路へ向かって行った。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

(『ファン』……か)

 

 

七深は1人帰り道を歩きながら、先程喫茶店での透子の台詞を思い返していた。

 

 

(そんなの……今まで考えた事無かったなぁ……)

 

 

七深は視線を上に向ける。

 

 

“『広町さんって、本当に何でも出来て良いよね』”

“『『普通』って言うけどさ、貴女の『普通』は私達の『普通』とは違うのよ。 馬鹿にしてるの?』”

“『貴女には、才能が無くて苦しい思いをする人の気持ち何か分かんないわよ』”

 

 

突然脳裏を過った台詞。

 

 

それは、七深が嘗て言われた周囲からの発言。

 

 

 

 

広町七深は一言で言えば、『才能』に愛された少女であった。

 

 

 

 

幼い頃から成績は常に上位な上に、彼女本人もそれを鼻に掛ける様子も無く、人当たりの良い性格だった事もあって周りからも好印象な様子で見られていた。

 

 

特に『絵の才能』に関しては、元々両親の血を強く受け継いだ事もあって、同年代の子達の中では飛び抜けた腕前の持ち主であった。

 

 

 

 

そんな彼女の周囲の関係が変化したのは、中等部の頃の事。

 

 

 

 

ある時母に薦められて、七深は自身の描いた絵を絵画コンクールに出展し、最優秀賞を獲得した。

 

 

此処までならハッピーエンドと捉えられるのが普通なのだが、七深にとってこの一件は不幸への片道キップであった。

 

 

中等部の友人達も、最初の頃は今までと同じ様に七深の絵の才能を褒めてくれていた。

 

 

しかしある日を境に、周りの七深を見る目が変わった。

 

 

『広町さんって、何かズルいよね~』

『本当。 何時も成績上位。 おまけに絵の才能だってピカイチ。 良い御身分よね~』

『あれだけのハイスペックを持っていて、『普通だよ~』って……馬鹿にすんじゃないわよ!』

 

 

ある日の放課後、偶々忘れ物をして教室に戻った七深は、教室に残っていたクラスメイトの話を聞き、激しいショックを受けた。

 

 

『て言うかさ。 広町さんって、そもそも人間なのかしらって思うのよねww』

『あのハイスペックぶりを見てると、あの人実は『人間の皮を被った化け物』何じゃないの?』

『仮に若しだったら、コンクールの件だって、本当に実力で勝ち取ったのかも疑わしいわね』

『御両親の力を使ったか、若しくはお偉いさんを色仕掛けで誑かしたんじゃないの?』

『有り得そうww』

『広町さん、AV女優でもやっていけそうだしww』

 

 

学友達の嫉妬や陰湿な悪意を目の当たりにした七深は結局、そのまま教室に入る事無く自宅に帰って行った。

 

 

この一件を切欠に七深は『普通』と言う事に強い願望を抱く様になった。

 

 

学校生活においても、テストの時は態と中間的な点数になる様にしたり、美術の時も敢えて下手に見える様に描き崩したりと、手を抜いて過ごす様にした。

 

 

若しまた本気を出して、皆が自分の事を恐れる様になってしまったら。

 

 

七深にとって、それは恐怖以外の何物でも無い事であった。

 

 

(大丈夫……私さえ我慢すれば、大丈夫だから……)

 

 

七深は湧き上がる恐怖を抑える様に、早足で自宅までの帰路を歩いて行った。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

「グエッ……オエエエエ……!」

「ンンンーーッ……!」

 

 

夜の広場。

 

 

少女達は苦悶の声と激しい嘔吐をしながら絶命し、そのまま跡形も無く溶けていった。

 

 

「フン。 これは天罰。 七深につまらぬ嫉妬と悪意を抱いた事を公開しながら、あの世で懺悔するんだな」

 

 

黒い影は先程自身が裁いた月ノ森の女子生徒達の姿を、侮蔑の表情で見ながら呟く。

 

 

この月ノ森の女子生徒達は、中等部の頃に七深に対して陰口や悪意をぶつけていた者達であり、この日も広場で七深に対して陰口や悪意を話していた結果、この黒い影の怒りを買い、無惨な死を遂げたのであった。

 

 

「七深……俺の七深……もう直ぐ俺とお前との新しい未来が待っているぞ……!」

 

 

黒い影はそう言うと、再び闇夜の中に消えていった。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

「さて……今日中には作詞を完成させよう……」

 

 

数日後。

 

 

今日が土曜日と言う事もあって、ましろは自分の家の自室にて新曲の歌詞の作成に取り掛かろうとしていた。

 

 

ヴーヴー。

 

 

「ましろ。 スマホが鳴っているぞ」

「有り難うハックモン」

 

 

ましろはハックモンに礼を言って、自分のスマホを手に取ると、つくしからの着信だった。

 

 

「つくしちゃん……?」

 

 

疑問に思いつつ、通話する。

 

 

「もしもし?」

「あっ、ましろちゃん!? 良かったぁ~……それより大変なの!」

「!……何があったの?」

 

 

つくしの言葉で、ましろはただ事で無いのを察し、冷静に問い掛ける。

 

 

「ついさっき、七深ちゃんと透子ちゃんが……変な植物みたいな怪物に浚われて……それで……」

 

 

つくしは余程ショックを受けたのか、先程から喋る声が涙ながらな様子だった。

 

 

「落ち着いてつくしちゃん。 今そっちに向かうから」

「うん……分かった」

 

 

そう言ってつくしは連絡を終え、通話を切った。

 

 

「ハックモン!」

「ああ!」

 

 

母に出掛ける事を伝え、ましろはハックモンと共に家を出て、現場の広場へ向かって行った。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

ましろ達が現場に行くと、其処にはつくしとましろと同じ様に呼ばれた瑠唯、そしてリサとララモンの姿があった。

 

 

「おーい! つくしちゃーーん!」

「! ましろちゃん!」

「御免! 遅くなっちゃった」

「ううん。 私……怖かったよ~」

 

 

つくしは少し落ち着いたのか、何時も様子を見せていた。

 

 

「所でリサとララモンは、如何して此処に?」

「うん。 アタシも出掛けていたら悲鳴が聞こえてきて、こっちに聞こえて来たんだ……」

「残念だけど、私達が来た時には2人は浚われた後だったわ……」

 

 

ハックモンの問い掛けに、リサとララモンは此処に来るまでの様子を語ってた。

 

 

「それで二葉さん。 もう一度、状況を話してくれるかしら?」

「うん……」

 

 

瑠唯に促され、つくしは同時の状況を語り始める。

 

 

 

 

その時つくしは自身の用事を済ませた事もあって、帰路を歩いている道中だった。

 

 

「あれ……? 透子ちゃんと七深ちゃん……?」

 

 

その途中、何やら深刻な様子の透子と七深を見たつくしは、気になってこっそりその後を追った。

 

 

やがて、広場のベンチに座った2人は先程と違って穏やかな様子で会話をしていた。

 

 

つくしは自身の気にし過ぎと今の2人の間に入るのは良くないと考えて、その場を離れたと言う。

 

 

 

 

「キャアアアーー!」

 

 

 

 

しかし離れてから5分程経った後、突然七深の悲鳴が聞こえ、つくしが慌てて戻ると其処で見たのは、地面から現れたと思われる大きな口の付いた植物の様な見た目の化け物に締め付けられる七深と、彼女を解放しようとする透子の姿であった。

 

 

「コラ! ななみを離しやがれ!」

「透子ちゃん! 私はいいから逃げて!」

「馬鹿な事言うなよ! ななみを置いて自分だけ逃げる何て出来るか!」

 

 

すると再び地面が割れ、透子の背後から何かがやって来る。

 

 

「! 透子ちゃん!」

「ワッ!」

 

 

七深の叫び声を聞いた透子は、ギリギリの所でもう1本の触手による攻撃を回避する。

 

 

幸い大怪我は免れたが、着ていた服の左の袖の部分が鋭利な刃物で切られた様な状態になり、透子の素肌が露出していた。

 

 

「キャアア!」

 

 

やがて七深を捕らえた植物と透子を襲った植物は目的を果たしたと言わんばかりに七深を捕らえたまま地面に潜ろうしたが、その時咄嗟に透子がしがみ付き、そのまま2人は地面の中に消えて行ったのであった。

 

 

 

 

「私……怖くて何も出来なかった。 これじゃあ、『Morfonica』のリーダー失格だよ……」

「つくし……怖かったんだね」

「落ち着いて。 二葉さんは何も悪く無いわ」

 

 

リサと瑠唯はつくしを優しく慰める。

 

 

「ハックモン」

「2人を攫った相手……間違い無くデジモンだろうな。 それに……」

 

 

ハックモンは2人を攫った植物の消えた穴を見る。

 

 

「この感じ……私がこの前喫茶店で感じた物と同じだ。 同一の相手と見ていいだろう」

「……早く2人を見付けないと」

「でもどうやって?」

「私に任せてくれ」

 

 

瑠唯の問い掛けにハックモンは穴の方に向かい、そのまま目を閉じる。

 

 

(執着心、独占欲……。 凄い負の感情を感じる……。 否、此処までの強さ……最早『執念』と呼ぶべきか……)

「ハックモン……さっきから目を閉じてるけど、何をしているの?」

「私のハックモン、昔から殺気とか悪意って言うのかな? そう言った悪い雰囲気何かに敏感なんだ」

「つまり……その雰囲気を読み取って、其処から後を追おうとすると言う事かしら?」

「うん」

 

 

つくしと瑠唯の疑問に、ましろは分かり易く説明をする。

 

 

暫くしてハックモンが目を開ける。

 

 

「如何、ハックモン?」

「ああ。 こっちだ!」

「行こう皆!」

 

 

ハックモンとましろの後を追って、つくし達も駆け出した。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

不意に『冷たい何か』が当たる。

 

 

「ん……んんっ」

 

 

それによって七深は意識を取り戻した。

 

 

「此処は……そっか、私……」

 

 

七深はこれまでの事を思い出す。

 

 

 

 

カフェの一件の翌日、自宅のアトリエで透子に中等部の頃に絵画コンクールで最優秀賞を取った絵を見られた事を機に、彼女に自身の過去を話した七深。

 

 

そんな彼女に対して透子は、良いアイディアがあると言って来た。

 

 

その為に2人きりで話がしたいと言う誘いを受け、今日2人は秘密の会議と言う事で先程の広場に来ていた。

 

 

そして5分程たった時、2人は妙な音に気付いた。

 

 

「一体何だよこの音?」

 

 

そして次の瞬間。

 

 

 

 

ボゴオオ!

 

 

 

 

地面から突然現れた触手の様な物が、七深を捕まえた。

 

 

「キャアアアーー!」

「七深!」

 

 

気付いた透子は咄嗟に駆け付け、七深を触手の拘束から解こうとする。

 

 

その最中、拘束されている七深は、再び地面が割れて、透子の背後から何かがやって来るのに気付く。

 

 

「! 透子ちゃん!」

「ワッ!」

 

 

七深の叫び声を聞いた透子は、ギリギリの所でもう1本の触手による攻撃を回避した。

 

 

「透子ちゃん!」

 

 

すると触手達は用が済んだと言う様子に七深を捕まえたまま、元出た穴の中に潜ろうとする。

 

 

「透子ちゃん! 透子ちゃーーん!」

 

 

それを最後に七深の意識は途絶えた。

 

 

 

 

「透子ちゃん……大丈夫かなぁ……ふぇ?」

 

 

そして七深は自身の状況に気付く。

 

 

何故なら今の彼女は手足を植物で縛られている状態で、上から吊されていた。

 

 

「えっ!? 何これ!?」

「漸く目が覚めたか?」

 

 

突然耳に届いた見知らぬ声に、七深の体が固まる。

 

 

やがて奥の方からゆっくりと声の主が現れた。

 

 

「ヒッ……」

 

 

七深は思わず声を漏らす。

 

 

其処に現れたのは、毒々しいまでの紫色の顔と何本もの触手を生やしたカーキ色の身体が特徴の植物の様な異形だった。

 

 

「あぁ…。 こうして直接見て触ると、本物は違うな」

 

 

そう語って植物の異形は、自身の触手で七深を丁重に触るも、七深の中にあったのは生理的な嫌悪感だった。

 

 

「…っ! 透子ちゃんは……透子ちゃんは何処なの!?」

「そんなに会いたいなら会わせてやろう。 最も、少し仕置きをさせてもらったがな」

 

 

七深の必死の問い掛けに、植物の異形は視線で促し、七深も其方に視線を向ける。

 

 

「イヤァァー! 透子ちゃーーん!」

 

 

七深の叫びが響く。

 

 

植物の異形の言った通り、其処には確かに透子の姿はあった。

 

 

だが今の彼女は抵抗したのか、まるでぼろ雑巾の如くボロボロに痛めつけられ、傷や痣だらけな上に軽い出血の後が見られる状態だった。

 

 

また着ていた服も完全に無くなり、上下の下着だけが彼女の身体を守っている有り様となっていた。

 

 

「透子ちゃん! 透子ちゃん! しっかりして!」

「安心しろ。 死んではいないさ。 あっちが勝手に抵抗してきたから、それ相応の対応をしたまでだ」

 

 

植物の異形の異形は侮蔑な視線を透子に向けながら、更に言う。

 

 

「全く馬鹿な女だ。 大人しくしてれば痛い目に遭わずに済んだ物を……。 それとも此奴の体は、胸や尻ばかりに栄養が行って、脳味噌には行き届いてないと言う事か。 だとしたら、とんだ阿婆擦れ女だな」

「透子ちゃんを……透子ちゃんを悪く言わないで!」

「だが安心すると良い七深。 お前は俺と共に1つの存在となり、新世界の頂点に立つ存在となるのだからな……」

 

 

七深は植物の異形の言葉に、困惑とショックの混ざった様子を浮かべていた。

 

 

(何? 『新世界の頂点に立つ存在』って? そんな訳の解らない物何かになる為に、あんな化け物に私の全部をあげるの?)

 

 

“狂っている”

 

 

目の前の植物の異形に対して、七深はそんな印象を抱いていた。

 

 

「恐れる事は無い。 俺は七深の可愛い容姿、才能、声、耳、目、手足、鼻、髪の毛、脳味噌、臓器……全てを受け入れ、受け止める自信を持っている。 ……もう苦しむ事は無い。 七深の事を悪く言う奴は老若男女問わず、俺が抹殺してやるからな……」

 

 

七深は植物の異形の言葉を、呆然とした様子で聞きながら思う。

 

 

(あぁ……これは広町への『罰』なんだな……)

 

 

無意識に自身の才能で、周りの人々を傷付けた『罪』。

 

 

そして『Morfonica』のメンバー達に才能を隠して、のうのうと楽しい日々を過ごしていた事への『罪』。

 

 

七深は今この一時が、自身の犯した『罪』に対する『罰』の執行されるまでのカウントダウンの様に思えていた。

 

 

「さて……お喋りは此処までにして、早速始めよう」

 

 

植物の異形は、自身の触手を七深に少しずつ迫らせて来る。

 

 

 

 

(しろちゃん……つーちゃん……るいるい……そして透子ちゃん……広町は皆とお別れになるみたい)

 

 

 

 

七深は全てを受け入れた様に目を閉じながら、内心でメンバーに対して自身の本心を語る。

 

 

 

 

(でも若し叶うなら……皆ともっと、Morfonicaをやりたかったな)

 

 

 

 

触手が七深の下に刻々と迫ろうとする。

 

 

 

 

「バーンフレイム!」

 

 

 

 

その時突然大きな火球が飛来し、植物の異形は咄嗟に自身の触手で防ぐ。

 

 

「今の……「七深ちゃーーん!」」

 

 

七深が振り向くとその先から、ましろとバオハックモン、そしてリサとサンフラウモンに守られる形でつくしと瑠唯がやって来た。

 

 

「七深ちゃん! 怪我は無い!?」

「私は対した事は無いけど……透子ちゃんが!」

 

 

七深の言葉でましろ達が透子の方に目を向けると、痛めつけられてボロボロの彼女の姿が目に入った。

 

 

「透子ちゃん……」

「2人共! これを透子に!」

 

 

バオハックモンは自身の赤いマントを外してつくしと瑠唯に渡し、透子に掛ける様に言う。

 

 

「己えぇぇ……! 良くも俺の邪魔をしてくれたなあぁ……!」

 

 

そして植物の異形が正体を現した。

 

 

「貴方……ブロッサモン?」

「否、似ているが違う」

 

 

敵の姿を見たましろは5年前の冒険で出会ったデジモンの事を言及するが、バオハックモンは直ぐに否定する。

 

 

何故ならブロッサモンに酷似したそのデジモンは、ましろとバオハックモンの知るブロッサモンと違い、顔色が毒々しい程の紫色、周りの花びらが水色、背中の葉っぱと植物はカーキ色に変色しており、明らかに別のデジモンである事を示していた。

 

 

「唯のブロッサモンじゃねぇ! ダークブロッサモンと呼んで貰おう!」

「ダークブロッサモン……」

「ダークブロッサモン。 完全体。 植物型。 ウィルス種。 必殺技は『スパイラルフラワーⅡ』と『ポイズンブレス』……」

 

 

リサは自身のディーアークでダークブロッサモンのデータを調べる。

 

 

「如何して七深ちゃんを狙ったの!?」

「そんな物、七深が欲しいからに決まってるであろう!」

 

 

そう言ってダークブロッサモンは語り出す。

 

 

ダークブロッサモンは自信の直属の上司によって、この人間界に送られた後、密かに潜伏活動をしていた。

 

 

転機が訪れたのは、ひょんな切欠だった。

 

 

その日、彼は自身のエネルギー補給をし終えていた。

 

 

『何だ?』

 

 

その時騒がしい音に気付き、自身の触手を使ってその騒がしい音の出所を調べさせた。

 

 

“『それでは聴いて下さい』”

 

 

ダークブロッサモンの気付いた音の正体ーーそれは偶々見たMorfonicaのライブだった。

 

 

 

 

そしてその瞬間ーーダークブロッサモンの世界は一瞬で変わった。

 

 

 

 

「その時俺はデジモンとしての生を受けて、生まれて初めて『美しい』と言う感情を抱いた。 音楽もそうだが、中でも一際心を揺さぶったのか、七深の存在だった……」

 

 

周りの観客達の殆どがボーカルのましろの歌声に聴き惚れる中、ダークブロッサモンの心を掴んだのは七深の姿だった。

 

 

ベースを演奏する七深の姿や表情を見たダークブロッサモンにとって、彼女の姿はまるでこの世に舞い降りた人の姿をした『美しい別次元の存在』に映った。

 

 

気付けばダークブロッサモンは触手越しと言う形であれ、七深の存在の虜になると同時に強い感情を抱いた。

 

 

 

 

“『彼女を自分だけの物にしたい』”

 

 

 

 

それと同時に、ダークブロッサモンの脳裏に過去にデジタルワールドで聞いた話が浮かぶ。

 

 

“『嘗てデジタルワールドにいた救世主と呼ばれる人間達は、自身のパートナーデジモンと全てを1つにして得た力で世界を救った』”

 

 

半信半疑に思えたその話も、今は事実と納得したダークブロッサモンは同時に確信した。

 

 

 

 

“『この少女こそが、自身の新たな存在へと導いてくれる』”ーーと。

 

 

 

 

「七深は……七深は俺の物だ……! 俺は七深と全てを1つにし、新たな存在へと生まれ変わる!」

 

 

ダークブロッサモンの告白を聞いたましろ達は戸惑う物、困惑する物と様々な反応を見せた。

 

 

特にましろとバオハックモンに至っては、人一倍戸惑いの様子を浮かべていた。

 

 

「勝手な事言わないでよ! 七深ちゃんは貴方の物じゃない!」

「そっちこそ、七深が内心の気持ちを理解して無い癖に随分上から目線な発言をするでは無いか!」

「七深ちゃんの内心の気持ち……?」

「天才的な才能を持っていて、それを当たり前の如く発揮しただけなのに、まるで化け物を見るかの様に蔑み、離れられていった故に『普通』に固執する事しか出来無かった七深の気持ちを! ……最も其処の金髪女は七深から直接聞かされてたけどな……」

 

 

ましろ達は七深の過去とその苦しみを知り、何とも言えない様子を見せた。

 

 

「だから……御前達を始末し、七深の全てを貰う! スパイラルフラワーⅡ!」

 

 

ダークブロッサモンは同時に触手の先に付いている花を手裏剣のように飛ばして来る。

 

 

「バーンフレイム!」

「カクタステイル!」

 

 

バオハックモンとサンフラウモンは迫り来る花を自身の技で打ち消して行くも、あまりの数の多さに苦戦してしまう。

 

 

その最中、ましろはダークブロッサモンの様子を見て叫んだ。

 

 

「! バオハックモン!」

「ポイズンブレス!」

 

 

バオハックモンが避けると同時にダークブロッサモンの口から紫色の煙が吐き出され、回避し損ねたサンフラウモンは煙の直撃を受けた。

 

 

「ウワアアアーー!」

 

 

サンフラウモンは苦しい声を挙げると、そのままララモンへと退化した。

 

 

「ララモン! ララモン!」

「御免なさい、リサ……」

 

 

リサの呼び掛けに、ララモンは弱々しくも申し訳無さそうに応えた。

 

 

「さて次は御前達だが……その前に」

 

 

ダークブロッサモンはつくし達の方に視線を向け、その意図を察したバオハックモンが駆け出すと同時に、ダークブロッサモンが行動に移した。

 

 

「スパイラルフラワーⅡ!」

「クッ……」

 

 

全力で駆け出したバオハックモンは何とかつくし達の所に立つも、技を出す暇も無く攻撃の直撃を受けた。

 

 

「ウワアアアー!!」

「バオハックモン!」

 

 

遅れて来たましろはバオハックモンに駆け寄って呼び掛ける。

 

 

「フハハ……愚かな奴め」

 

 

ダークブロッサモンはバオハックモンの行動を嘲りながら近付き、ましろ達は身構えるも、ダークブロッサモンは途中で動きを止め、彼女達に言い放つ。

 

 

「チャンスをやろう。 七深を俺に差し出すと言うのなら、見逃してやろう」

「そんな……! 無茶苦茶だよ!」

「なら俺の餌食になるしか道は無いな」

 

 

つくしの反発を、ダークブロッサモンは情け容赦無く一蹴する。

 

 

 

 

「私が行けば、皆を助けてくれるの?」

 

 

 

 

そう言って一歩踏み出したのは、七深本人だった。

 

 

「広町さん、貴女自分が何言ってるか分かっているの?」

「私が行けば皆が助かるんだよね? だったら……」

「駄目だよ七深ちゃん! そんな事したら……!」

「でも! 私の所為で、透子ちゃんやシロちゃんが……! 私……これ以上堪えられないよ」

 

 

七深の叫びにつくしも瑠唯も何も言えない様子を浮かべ、そして七深はダークブロッサモンに問い掛ける。

 

 

「本当に……皆を見逃してくれるんだよね?」

「当然だ。 俺が今言った言葉に嘘は嘘は無い」

「シロちゃん……ハックモン……透子ちゃん……つーちゃん……るいるい……短い期間だったけど……有り難う」

「駄目! 七深ちゃん! 七深ちゃん!」

 

 

つくしの制止を無視して、七深は向かおうとするーー。

 

 

 

 

「行くなよ……七深」

 

 

 

 

その時聞こえた声に、七深は足を止めて振り返る。

 

 

其処には、バオハックモンのマントで身体を隠した透子の姿があった。

 

 

「透子ちゃん……」

「ほぉ……あれだけ痛め付けたのに、まだ立つ力があったのか……」

 

 

透子はゆっくりした足取りで、七深の元へ寄った。

 

 

「七深。 お前は……アタシ達Morfonicaのベースだ。 だから……あんな野郎の所へ何か行かせねぇ」

「透子……ちゃん」

「ハッ! それが如何した! 幾ら七深の一面を知ったからって、所詮「黙れ変態ストーカー植物!」」

 

 

透子はダークブロッサモンの言葉を遮る様に叫ぶ。

 

 

「例え七深が天才だろうが何だろうが、アタシは七深と一緒にMorfonicaをやりたいんだ! これはアタシのワガママで、願い事何だ!!!!」

「透子ちゃん……」

「……如何やら本気で死にたいみたいだな」

「最後にハッキリ言ってやるよ。 『力ずくで振り向かせよう何座、モテねぇ野郎のする事だぜ』」

「なら……死ねえええぇぇーー!!」

 

 

ダークブロッサモンは2人に向けて、再び触手の先に付いている花を手裏剣のように飛ばして来た。

 

 

「透子ちゃん! 七深ちゃん!」

 

 

つくしの悲鳴が響き、透子と七深は目を瞑る。

 

 

 

 

「フィフクロス!!」

 

 

 

 

その時、透子と七深の前に影が現れ、そのまま迫り来る花を全て切り裂いた。

 

 

「何だと!?」

 

 

ダークブロッサモンの驚きの言葉で透子と七深は目を開ける。

 

 

「大丈夫か、2人共?」

「バオハックモン……」

「透子ちゃん! 七深ちゃん!」

「「シロ(しろちゃん)……」」

「己ええぇぇ……!」

 

 

ダークブロッサモンは先程の攻撃を妨害したバオハックモンと2人に駆け寄ったましろの姿を忌々しげに見る。

 

 

「七深ちゃん。 私もつくしちゃんも瑠唯さんも……透子ちゃんと同じだよ。 『Morfonica』のベースは七深ちゃんだけなの。 変わり何ていない。 『Morfonica』は……このメンバーで『Morfonica』何だよ」

「七深。 付き合いの短い私が偉そうに言えた義理では無いが、ハッキリ言おう。 君がいなくなって、悲しむ人の気持ちを考えるんだ! 私もましろ達もそんな事を望んではいない……!」

「透子ちゃん……しろちゃん……バオハックモン」

 

 

ましろとバオハックモンの言葉に、七深は静かに泣き崩れた。

 

 

「クソオオォォ……! 七深は……七深は俺の物だーー!」

 

 

ダークブロッサモンは憤怒と怨みの籠もった言葉を吐き出した。

 

 

「ダークブロッサモン。 貴様はさっき言ったな。『嘗てデジタルワールドにいた救世主と呼ばれる人間は、自身のパートナーデジモンと1つにして得た力で世界を救った』と……」

「それが何だと言うのだ!?」

「そんなに貴方が望むのなら……その一端、見せてあげるよ。 バオハックモン!」

 

 

ましろの叫びにバオハックモンは頷く。

 

 

 

 

――MATRIX EVOLUTION――

 

 

 

 

その文字がましろのディーアークの画面に表示され、同時にディーアークが光を放ち、その輝きに呼応してバオハックモンも光に包まれた。

 

 

 

 

「バオハックモン超進化!」

 

 

 

 

光に包まれたバオハックモンの姿が変化していく。

 

 

 

 

4足歩行から2足歩行と化し、両腕と尻尾に紅の刃が生まれる。

 

 

そして胸にはクリスタルが施され、同時に背中に真紅のマントが施される。

 

 

やがて光が収まると、全身刃の攻撃的なスタイルとなった白い竜人が現れた。

 

 

 

 

「セイバーハックモン!!」

 

 

 

 

「バオハックモンが……また進化した……」

「綺麗……」

「セイバーハックモン。 完全体。 竜人型デジモン。 データ種。 必殺技は跳び蹴りの姿勢から足の刃で敵を突き刺し貫く『レッジストレイド』、マシンガンのように口から炎弾を連射し敵を焼き尽くす『メテオフレイム』、尻尾と両腕に装備された三つの赤い刃で斬りかかる『トライデントセイバー』……」

 

 

セイバーハックモンの姿を初めて見たましろ以外のMorfonicaの4人とリサは、様々な反応を見せる。

 

 

「カッコ付けやがって……喰らえ~!!」

 

 

忌々しげな表情を浮かべながら、ダークブロッサモンは再び触手の先に付いている花を手裏剣のように飛ばして来た。

 

 

「危ない!」

 

 

七深は叫ぶも、セイバーハックモンは両腕と尻尾の赤い刃を振るい、ダークブロッサモンの飛ばした花を全て一蹴した。

 

 

「な……何ぃ!?」

「凄い……さっきまであんなに苦労して裁いてた花が一瞬で……!」

 

 

セイバーハックモンは無言のまま、ゆっくりダークブロッサモンの下へ歩いて行く。

 

 

「クソ! クソ! クソ!」

 

 

ダークブロッサモンはセイバーハックモンに触手の先に付いている花による連続攻撃を浴びせるも、セイバーハックモンは攻撃を受けてるにも関わらずに歩く事を止めない。

 

 

一方ましろの方も、セイバーハックモンにダークブロッサモンの攻撃が当たる度に所々傷付く。

 

 

「何で? 何でましろちゃんが傷付いてるの?」

「これが完全体の力……」

「今井先輩、何か知っていらっしゃるんですか?」

「うん…。 アタシも香澄のを見た事がある友希那から話を聞いただけ何だけど……パートナーを完全体まで進化させると………テイマーとデジモンはより一心同体に近くなるの………」

 

 

リサは友希那から聞いた話を瑠唯達に伝える。

 

 

「しろちゃん……」

「心配しないで七深ちゃん。 私はセイバーハックモンを信じているから」

 

 

ましろは振り返らず、七深に優しく語り掛ける。

 

 

その様子から他の5人はましろとセイバーハックモンの信頼関係の深さと強さを感じていた。

 

 

「クッ……ポイズンブレス!」

 

 

するとダークブロッサモンは、口から猛毒の含まれた紫色の煙を吐き出す。

 

 

「セイバーハックモン!」

「ハアアアーー!!」

 

 

その瞬間、鋭い斬撃が煙を裂いてダークブロッサモンの両方の触手を切り落とした。

 

 

「グワアアアアアアアアー!?」

 

 

ダークブロッサモンの苦痛に満ちた声が響き渡る。

 

 

「トライデント……セイバー!!」

 

 

其処からセイバーハックモンは、尻尾と両腕に装備された三つの赤い刃で一瞬の内にダークブロッサモンの全身を切り裂いた。

 

 

「グワアアアアーー!!」

「メテオフレイム!」

「ギャアアアアアー!!」

 

そして振り返り様にマシンガンのように口から炎弾を連射し、ダークブロッサモンを焼く。

 

 

この瞬間、勝敗は誰の目にも明らかだった。

 

 

「やった! シロとハックモンが勝った!」

「シロちゃん……」

「大丈夫だよ七深ちゃん。 私は無事だから」

 

 

ましろとセイバーハックモンの姿を見た他のMorfonicaの面々とリサとララモンから歓声が上がる。

 

 

「フッ……ハハハハハハ……」

 

 

その時、全身を炎に包まれたダークブロッサモンが不気味に笑う。

 

 

「そうか……お前とそこの白髪の女、『あの話の救世主達』の1組か……!」

「そうだとしたら何だ?」

「救世主として持て囃されて……さぞ良い御身分だなぁ……! 所詮、持っている物を持っている奴等に……持っていない者達の……苦しみや悔しさなど……一生分かる筈もない! お前達……はいずれ……味わうだろう……! 持っていない者達の持つ……闇を……」

 

 

呪詛の様な言葉を吐いたダークブロッサモンは、そのままデータの粒子となって消えた。

 

 

ましろとセイバーハックモンは、静かにダークブロッサモンの消えた後を見ていた。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

「はよー! ごめんごめん、遅くなった!」

「透子ちゃ~ん!」

 

 

一週間後。

 

 

七深の家のアトリエにて、透子の元気な一声が響き、七深が嬉しさのあまり透子に抱き着く。

 

 

「透子ちゃんや七深ちゃんが元気になって良かった……」

「元気なのは良い事だけど……無理はしない様に心掛けなさい」

 

 

つくしも2人の様子に安堵し、瑠唯は無表情ながらも2人を思いやる様に声を掛ける。

 

 

ダークブロッサモンの一件から暫く経った後、七深は透子と共にバイト先のファミレスでましろ達とリサに対して、透子の語った良いアイディア――七深のコンクールの絵をプリントした新作Tシャツを披露した。

 

 

新作Tシャツは4人やパートナーデジモン達からもとても好評であり、その後透子がSNSで発表した事でかなりの反響を呼ぶ事となった。

 

 

その翌日の練習時に、七深は意を決して自身の過去をましろ達に話し、彼女達はそんな七深を知って純粋に褒めて且つ改めて受け入れた事で、Morfonicaの結束は更に深まる事となった(因みに絵の件は、七深本人の希望でMorfonicaの5人とハックモンの秘密と言う事になった)。

 

 

一方ましろは少し離れた所から4人のやり取りを見ながらも、少し浮かない表情をしていた。

 

 

『救世主として持て囃されて……さぞ良い御身分だなぁ……! 所詮、持っている物を持っている奴等に……持っていない者達の……苦しみや悔しさなど……一生分かる筈もない! お前達……はいずれ……味わうだろう……! 持っていない者達の持つ……闇を……』

 

 

ましろの脳裏にダークブロッサモンの言葉が、消えては浮かんでいた。

 

 

ディーアークの画面越しからハックモンも、ましろの様子を気にかけていた。

 

 

彼女達はダークブロッサモンの語った『自身のパートナーデジモンと全てを1つにして得た力』を聞いて、直ぐに『あの力』の事を言っていると同時に気付いてしまっていた。

 

 

それはーー『このデジモンをここまで歪めてしまったのは、自分達を含めた『あの冒険』を共にした5組である』と言う事。

 

 

確かにダークブロッサモンが七深を襲った切欠は偶然的ではあるが、結果的にそれを加速させてしまったのは、自分達の『あの力』の存在である事を考えると、結果的に複雑な感情がましろの心中を支配していた。

 

 

『ましろ』

「ハックモン?」

『ましろは……あのままダークブロッサモンと七深が1つになっても良かったと思っているのかい?』

「……っ! そんな事は無いよ! 七深ちゃんは……大切な『仲間』だから。 見捨てる何て出来ないよ」

『それでいいんだ』

 

 

ハックモンはましろの気持ちを聞き、優しく温かい眼差しを向ける。

 

 

『正直、こんな事を言っても慰めになるかは分からないのは自分でも分かっている。 ……でも、それを承知の上で聞いてほしい。 ましろ、君は本当に心優しい少女だ。 だからこそ、君と私は七深や皆を守る為に奴と戦った』

 

 

ましろはハックモンの言葉を黙って聞いている。

 

 

『ましろ。 私は君に自分の信じる気持ちの儘に歩んでほしいと思っている。 若し悩んだり困ったりするなら……共に探して行こう』

「ハックモン……有り難う」

 

 

ましろは少し落ち着いた様子で、ハックモンに礼を述べる。

 

 

「しろちゃーん! そろそろ練習、再開するよ!」

「うん。 今行くよ」

 

 

ましろは七深達の方に向かう。

 

 

(ましろ……その優しさを忘れないでくれ)

 

 

ハックモンは内心でそんな気持ちを抱きながら、ましろ達の練習風景を見守っていた。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

とある高層マンションの近くの広場のベンチにて、六花は物思いに考えていた。

 

 

(香澄さん……やっぱり凄いなぁ……)

 

 

“『『グレイド……スラッシュ!!』』”

“『グオッ……馬鹿……な……』”

 

 

(それに……ましろちゃん)

 

 

“『セイバーハックモン』”

“『レッジストレイド!!』”

“『グエエエエーー!?』”

 

 

脳裏に浮かんだのは、少し前に行った『ガールズバンドカーニバル』の一件で隠れて見ていたデジモン騒ぎと、それをパートナーデジモンと共に鎮圧する2人の姿。

 

 

その時の姿があの時の六花にとっては、まるで『英雄』の様に見えていた。

 

 

(でも……私にはどうあったってなれない)

 

 

しかし今の六花にとって、2人の姿は『憧れ』であると同時に、『己の惨めさ』を痛感させられる程に、眩しくて手の届かない、遠い存在となっていた。

 

 

(私にも……『あの力』があれば……)

 

 

そして六花の脳裏に、その後に出会った2人の存在が浮かぶ。

 

 

 

 

『貴女がアサヒ・ロッカさんね?』

『あのどちら様ですか?』

『申し遅れました。 私はガールズバンド、『RAISE_A_SUILEN』のプロデューサー、チュチュです。 そして……』

『僕はアンジェロ。 RAISE_A_SUILENのマネージャーを担当しているよ』

『わ、私に一体何の様で……』

『貴女の事は、マスキングから聞いているわ』

『ますきさんから?』

『あぁ。 彼女の話を聞いて、僕もチュチュも君に興味を抱いてね。 こうして声を掛けた訳さ』

『御言葉ですけど……私は其処まで大した腕前の人では無いです。 それじゃあ……』

『トヤマ・カスミとクラタ・マシロ』

 

 

立ち去ろうとした六花の足が止まる。

 

 

『貴女は疑問に思っているでしょう? 何故彼女達が、彼処までに強いのか?』

『……あなた達は香澄さん達の何を知っているんですか?』

『『全て』……と言ったら?』

 

 

チュチュの言葉に六花の瞳が揺れ動く。

 

 

そしてアンジェロは、六花に1枚のメモ用紙を渡す。

 

 

『これ……』

『其処には僕とチュチュの住んでいるマンション、彼女のスマホの電話番号が書いてある』

『本当はもう少しTalkをしたいのだけど、私達にも貴女にもSomething があるし、改めて機会の場を設けて話した方が良いと判断したのよ』

『まぁ、これは強制と言う訳では無いから、興味が無いなら無理に来なくても良い』

 

 

そう言うと、2人は踵を返して六花の下から離れて行き、途中で足を止めて振り返る。

 

 

『最後に少しだけ。 君はもう少し、自分の感情のコントロールの仕方と、自分の意志を徹底的に貫く事を覚えた方が良い』

 

 

アンジェロはそう言って、再びチュチュと共に立ち去って行った。

 

 

 

 

(『自分の感情のコントロールの仕方と、自分の意志を徹底的に貫く事を覚えた方が良い』……か)

 

 

アンジェロの言葉が六花の中で強く反響している。

 

 

やがて意を決した六花は、自分のスマホを取り出して、登録した番号に掛ける。

 

 

『その様子……Answerは見付けたみたいね』

「……はい。 今、チュチュさんのマンション近く前まで来ている所です」

『OK. 丁度部屋には他のMemberも揃っているから、付いたらパレオの案内で此方に来なさい。 待っているわ』

 

 

チュチュの連絡が切れる。

 

 

(私は変わりたい……! このままこんな所で終わりたくない!)

 

 

それを確認した六花は迷う事無く、チュチュのマンションへと進んで行ったのであった。




久し振りのモニカ編でした……。
正直、今まで書いた話の中では一番文字数が長いです。

因みに作中のダークブロッサモンがましろとハックモン達に言った死に際の呪詛(?)とも呼べる発言。

ネタバレするとましろとハックモン、そして香澄とドルモンはこれを後々この意味を身を持って味わう事となります。

そしてさらっと登場した謎のキャラ・アンジェロ君。
お察しの方もいますが、本編開始時から度々チュチュ様と会話していた存在です。

最も、これは仮の姿。
本当の正体は……だいぶ先になる為、まだ秘密です。
敢えて本当の正体に対する私の感じた印象を述べるなら、『良い意味でも悪い意味でも、『珠手ちゆ』と言うキャラを象徴している存在』です。
2回目ですが、本当の正体はまだ秘密です。
明かされるまでは、皆様なりに予想して見て下さい。


それでは今回登場したデジモンの紹介です。




セイバーハックモン


レベル:完全体
タイプ:竜人型
属性:データ


ましろのハックモンが進化した完全体の竜人型デジモン。

長きに渡る旅路からデジモンとの出会いや別れを繰り返し、いくつもの修羅場を潜り抜けて絶え間なく起こるデジタルワールド内の紛争に武力介入し戦闘停止を求めつつ、被害にあった現地デジモンの救済にあたってきた。

その結果は全て成功とはならず、悲惨な光景を前に流した涙はセイバーハックモンを強くし、次に助けを求むデジモンへ懸命に手を伸ばす。また、両足が刃ながらに2足歩行を可能とし、両腕と尻尾に紅の刃が生まれ、全身刃の攻撃的なスタイルとなり、胸のクリスタルは努力を欠かさず力を磨き上げた証の結晶である。

必殺技は跳び蹴りの姿勢から足の刃で敵を突き刺し貫く『レッジストレイド』、マシンガンのように口から炎弾を連射し敵を焼き尽くす『メテオフレイム』。
尻尾と両腕に装備された三つの赤い刃で斬りかかる『トライデントセイバー』は、クロンデジゾイドを纏った敵であろうと容赦なく割断する。


ダークブロッサモン イメージCV:上田燿司さん(代表作『リコリス・リコイル』吉松シンジ,『BLEACH』二枚屋王悦、『機動戦士ガンダム 水星の魔女』ケナンジ・アベリー)


レベル:完全体
タイプ:植物型
属性:ウイルス


本作オリジナルデジモン(正確にはオリジナル派生デジモン)。
農薬関連のデータや悪質なコンピューターウイルスを取り込んだ事によって全身が紫色に変色したブロッサモンの亜種。
性格はブロッサモンと違ってかなり凶暴になっている。
必殺技は、スパイラルフラワーの強化版『スパイラルフラワーⅡ』と、口から猛毒の息を相手に吐き付ける『ポイズンブレス』。
因み余談ではあるが、今作で登場したオリデジの中では、初めてチュチュが作り出したパターンでは無い個体である。

裏話

このデジモン、実は私が最初に考えたオリデジだったりします。
元々は別な植物系のデジモンを登場させる予定でしたが、偶々自分のパソコンのデータ整理をしている時に、このデジモンの設定データを見付けて見返していたら、『これ、少しリメイクすればイケルかも』と考えた結果、この様な形で登場するに至りました。

尚、如何して今回の敵が植物系デジモンになったのかと言うと、公式のMorfonicaの『ALIVE』のカバーを聴いて、『ALIVE→リコリコ→彼岸花→植物』と言う形で植物系デジモンになったのでした……。

因みに作中でダークブロッサモンによって下着姿にひん剥かれた透子ちゃんの件ですが、元々初期プロットでは全裸になる予定でしたが、『流石にやり過ぎ』と思って下着姿に変更されました。

更に言えば、今作でのダークブロッサモンと七深の関係性のモデルは、『リコリコ』における千束と吉松の関係をイメージして書きました(七深→千束、ダークブロッサモン→吉松)。


それでは之にて、失礼致します。


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第19話 進撃、発酵紅竜2020

満を時しての投稿。
本当はさよひな回になる予定でしたが……話の構成に苦労しまくっている事もあって、急遽沙綾のメイン回になりました……。

因みに何故先に沙綾の完全体を書いたかと言うと、文化祭の話の後、ポピパの出番が暫くの間少なくなるからです……。


それと執筆中に、『It's_MyGO!!!!!』のキャラ達のパートナーデジモンを、個人的に少し考えてみました。
現状、私の中で考えている(はっきり&大雑把含めて)のは、


・燈

ルガモン

進化ルート

ルガモン→ルガルモン→ソルガルモン(ヘルガルモン)→フェンリルガモン


・愛音

パルモン(帰国子女繋がり)

進化ルート

パルモン→トゲモン→リリモン→バンチョーリリモン


・祥子

レナモン

進化ルート

レナモン→キュウビモン→タオモン→サクヤモン


と言う感じです。


若し『It's_MyGO!!!!!』のキャラ達のパートナーデジモンで、『このキャラはこのデジモンが似合いそう』と言うのがありましたら、活動報告の方に御自由にコメントを書いて下さい。


P.S. 前書きを書いていて考えたのですが、『It's_MyGO!!!!!』の本編を見ていると、MyGO!!!!!のキャラ達って、何となく『パートナーデジモンを暗黒進化させてしまいそうなのでは……?』と思ってしまうのは、私だけでしょうか?


 

 

「う……ううん……」

 

 

深夜。

 

 

自室のベッドで眠る沙綾は酷く魘されていた。

 

 

『ギャオオオーー!』

『ウワアアーー!』

『グラウモン!』

『ウワアア(キャアア)ー!!』

『父さん! 母さん! 純! 紗南!』

 

 

やがて爆発が収まる中、目の前の光景が沙綾の視界に飛び込んで来る。

 

 

『あ……あ……』

 

 

それは正に、『地獄』とも呼べる凄惨な物だった。

 

 

原型を留めない程に激しく焼かれた父の遺体。

 

 

上半身が消し飛んだ母の遺体。

 

 

五体バラバラの状態になったり、岩に押し潰され、潰れたトマトの様な状態になった弟と妹の遺体。

 

 

『父さん……母さん……純……紗南』

 

 

沙綾は虚ろな様子で、辺りを散策する。

 

 

『ギルモン……何処……?』

 

 

やがて見慣れた赤い手を見付け、沙綾は駆け寄る。

 

 

『ギルモン! 良かった……! 無事だったんだね……。 起きてよ、ギル……』

 

 

沙綾の言葉が途中で止まる。

 

 

確かギルモンは其処にいた。

 

 

右腕だけの状態(・・・・・・)として。

 

 

沙綾はその場に崩れ落ちる。

 

 

『アア……アアア……アアアアア……』

 

 

彼女の目から、今まで堪えていた涙が止め処無く溢れて来る。

 

 

『ウワアアアアアアアアアアーー!!!!!』

 

 

その瞬間、沙綾の悲痛な絶叫が響き渡った。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

「ハッ!」

 

 

同時に沙綾の意識が覚醒する。

 

 

ベッドから上半身を起こした沙綾は、ふと部屋の時計を見る。

 

 

「まだ2時か……」

 

 

それと同時に喉の渇きを感じた沙綾はベッドから起き上がり、そのまま下のリビングの方へ足を進めた。

 

 

「ふぅ……」

 

 

リビングに付いた沙綾は、冷蔵庫から麦茶の入ったペットボトルを出して、中身をコップに入れてそれを1杯飲み、そのままペットボトルを冷蔵庫に戻した後、再びベッドに入ると一息付いた。

 

 

彼女の脳裏に浮かぶのは、先程見たあの悪夢。

 

 

今の沙綾にはリアリティが強く感じられて、唯の夢として片付けられ無かった。

 

 

ふと沙綾は数日前の事を思い出す。

 

 

沙綾が『ガールズバンドカーニバル』の一件を知ったのは休日明けの月曜日の事であった。

 

 

当事者であった香澄と彼女から話を聞いた有咲から、『完全体』の事を聞かされた沙綾が真っ先に心配したのは香澄の事だった。

 

 

嘗ての経験もあって大した怪我では無かったとは言え、それでも沙綾にとって、高校生になって最初の友達でもあり、同じポピパのメンバーである香澄の怪我は見過ごす事が出来ず、不安な気持ちを抱いてしまっていた。

 

 

更にその数日後には彼女の通う花女で完全体デジモンが出現し、犠牲者も出てしまった。

 

 

有咲も怪我をし、その事を語る有咲とワームモンの悲しみの混じった表情は、今も沙綾の脳裏に焼き付いている。

 

 

「ギルモン……」

 

 

沙綾は自身のディーアークを見て、パートナーの名前を小さく呟く。

 

 

夢で見た右腕だけの状態になったギルモンの姿が脳裏を過る。

 

 

 

 

(私……これから先、皆を守れていけるのかな?)

 

 

 

 

沙綾の内心の問い掛けはそのまま、小さく霧散していった。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

「さーや、疲れてるの?」

 

 

翌朝、何時も通り学校に登校し、午前中の授業を終えた後、昼休みの時間になったので、沙綾は他のポピパのメンバーと共に校内の庭で昼食を食べている最中、前述の言葉を香澄に投げ掛けられる。

 

 

「えっと……如何したの香澄?」

 

 

香澄の発言に沙綾は不思議そうな様子を見せる。

 

 

「だって今日の沙綾、少し難しそうな顔をしている事が多いんだもん」

「そんな風に見えてたの? 今日の私って……」

『僕も少し気になっていたよ』

「御免ね沙綾ちゃん……実は私も香澄ちゃんと同じ事思ってたの」

「若しかして……有咲とおたえも?」

「うん」

「あぁ……何時も違うなぁって言うのが、顔の様子からはっきりと伝わってきたぞ」

『うん。 僕も皆と同じだったんだ……』

 

 

沙綾の問い掛けに香澄達ポピパの面々もパートナーデジモン達も全員、同調する様子で返答する。

 

 

『さーや、何処か痛いの?』

「ううん……。 そう言う訳じゃないの……」

 

 

ディーアークの中のギルモンの問い掛けに、沙綾は空元気な状態であるが受け答えをする。

 

 

「さーやちゃん、無理しちゃだめだよ」

「さーや……有咲の玉子焼き、食べる?」

「いや、何で私の何だよ!?」

「りみ、おたえ、有咲……有り難う」

「さーや」

 

 

沙綾が香澄の方を向くと、香澄は普段と少し違う真剣な様子で見ており、沙綾はそんな香澄の様子に内心戸惑いつつも応じる。

 

 

「若し今さーやが言いたく無いのなら、無理には聞かないよ。 でもこれだけは覚えていて。 さーやは1人じゃないから」

「……香澄、有り難う」

 

 

その後は特に何事も無く学校生活を終えた沙綾は、そのまま自分の何時ものルーティンを過ごし、その日を終えたのだった。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

 

翌日、沙綾はモヤモヤとした気持ちを抱えながら、歩いていた。

 

 

今日は有咲が家の用事でいなくて蔵が使用出来ず、実家のパン屋も両親が親戚への用事で弟と妹を連れて今日から3日程家を空けてしまっている為、こうして沙綾はドラムの練習の為に、『CIRCLE』に向かっていた。

 

 

「こんにちは。 今日は「ワアアア!」……な、何!?」

 

 

『CIRCLE』に到着した沙綾の耳に悲鳴が入ったので、慌て現場に向かう。

 

 

「大丈夫です……か……?」

 

 

現場に駆け付けた沙綾の言葉が途切れ途切れになる。

 

 

「ぷぷぷー」

「ぷぷぷー」

「ぷぷー」

「あわわわ~」

「さよこ~」

「やられた~」

「2人共大丈夫?」

 

 

沙綾の目の前には、沢山の幼年期のデジモン達の泡攻撃を受けて、目を回してる香澄とドルモン、心配するまりなの姿が飛び込んで来た。

 

 

「……! 香澄!」

 

 

一瞬ポカンしてた沙綾だったが、直ぐに気を取り直し、慌てて香澄達の所に向かって行った。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

「もう……吃驚しちゃったよ……」

「「御免なさい……」」

 

 

あの後、香澄とドルモンは沙綾にかなり心配されてしまい、幼年期のデジモン達がお昼寝の時間に入ったタイミングになって、こうしてお互いのパートナーを交えての会話をしていた。

 

 

沙綾は悩みながらも、意を決し香澄に自身が見た悪夢の事を話した。

 

 

「そっか……そんな事があったんだね……」

「……香澄とドルモンは……平気なの?」

「ん~?」

「デジモンと戦う事に対して……怖くは無いの?」

「『怖くない』って言えば、嘘になるかな……。 デジタルワールドを冒険してた時は、トラブルや危険な目に遭う事何て、殆ど日常茶飯事だったから……」

 

 

沙綾の問い掛けに対して、香澄はドルモンの方に視線を向けて語る。

 

 

「でもね……ドルモン達と出会って一緒に冒険してく内に、このデジタルワールドが『第2の故郷』って思える様になってきて……『元の世界に帰りたい』って気持ちが段々、『皆と過ごすこの世界を護りたい』って言う物に変わったんだ……」

「香澄……」

「勿論、今でも『怖い』って思う事はあるよ。 ……でも怖いからって、何もしないまま護れなくて失っちゃう事の方が……もっと辛いんだよ」

 

 

香澄とドルモンの脳裏に、デジタルワールドの冒険の中での戦いの記憶がまるで昨日の事の様に浮かんでくる。

 

 

「だから私とドルモンは闘うよ。 だって……冒険やバンドを通じて出会った皆の事が、とっても好きだから」

 

 

沙綾とギルモンの目には、香澄とドルモンの姿がとても大きく映っていた。

 

 

「……香澄とドルモンは強いね」

「……それは大きな間違いだよ」

「……僕達だって、最初から彼処までの強さを持っていた訳じゃない。 中には救えなかったデジモンだっているよ」

「沙綾。 私は有咲や紗夜さんや日菜さんみたいに頭が良い訳じゃないし、偉そうに上手な事は言えないけど……これだけは言うよ。 大切なのは『自分が如何したいのか』って事だよ」

「『自分が如何したいのか』……」

「覚えている? 去年の文化祭ライブの前に、沙綾の家に泊まった時の事」

 

 

沙綾自身、忘れる訳が無い。

 

 

沙綾にとってそれは、自身がポピパに加入する切っ掛けに関わる思い出なのだから。

 

 

「今更な告白になっちゃうけど……私ね、ポピパをやっている時に沙綾の過去の事を知った時、沙綾を誘う事に迷っちゃってたんだ……」

 

 

香澄からの意外な告白に、沙綾は目を見開く。

 

 

「でもね……。 有咲にその事を話した時、『お前は本当にそれで良いのか?』って真っ直ぐに言われて、そして自分なりに考えて、『私は沙綾と一緒にバンドをやりたい』って決めたの。 だから私は、こうやって一緒にポピパの活動をする未来を手に入れた」

 

 

沙綾は香澄の話をただ黙って聞いている。

 

 

「きっと沙綾にもあるはずだよ。 『自分なりの答え』が」

 

 

沙綾は香澄の言葉を聞いて思案する。

 

 

「香澄ちゃーん! 沙綾ちゃーん! ちょっと手伝ってー!」

「! 行こうさーや!」

「う、うん!」

 

 

香澄達は、まりなの下へ掛けていく。

 

 

(『自分なりの答え』……か)

 

 

沙綾は先程の香澄の言葉が、自身の内心で反響しているのを感じていた。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

翌日、沙綾はカメラを持って出掛けていた。

 

 

このカメラはつい最近になって始めた沙綾の趣味である。

 

 

その為、時々こうして時間を見付けては、街の色々散策しながら気に入った物や風景などを撮るのが、沙綾の日課となっていた。

 

 

「あれは……りみ! 蘭! モカ!」

 

 

道中見知った相手達の姿を見付けた沙綾は、そのまま声を掛けて近付く。

 

 

「あっ、沙綾……」

「チョコォォ……」

「おおぉ……心の女神よおぉ……」

「りみとモカ……何かキャラ崩壊してない?」

 

 

モカの様子の違いが気になった沙綾は、蘭とアグモンに問い掛ける。

 

 

「2人共、沙綾の家のパンが食べられないショックで、昨日からずっとあんな状態なの……」

「あぁ……」

 

 

りみとモカが普段から『山吹ベーカリー』の常連客である事は、沙綾を始めとした山吹家の面々やガールズバンドのメンバー達には周知の事実である為、沙綾は実家のパンが食べられ無い事に落ち込む2人の様子に、半端申し訳無い気持ちの含んだ苦情を浮かべていた。

 

 

「パン~。 パンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパン……」

「チョココロネチョココロネチョココロネチョココロネチョココロネチョココロネ……」

「2人共落ち着いてーー!」

『りみ! それチョココロネじゃねぇよ~!』

 

 

その後沙綾はギルモンや蘭達と協力して、何とかりみとモカを落ち着かせる為に、近くの広場で向かう事になった。

 

 

りみとモカの2人も、道中で沙綾と蘭が可能な限りの範囲で購入した大量のパンやチョココロネを食べる事によって、広場に着いた頃には、大分落ち着いた状態になっていた。

 

 

「有り難う沙綾ちゃ~ん」

「モカちゃん、復活~♪」

「いや、これ位対した事無いよ」

 

 

パンを頬張るりみとモカの姿に、沙綾は安堵の浮かべて見ている。

 

 

「モカ……アンタ本当は前世でパンだったんじゃ無い?」

「まさか……いや、有り得ない話でも無いかも」

 

 

蘭はパンを頬張るモカを見ながら一言呟き、沙綾も一瞬否定しそうになりつつも、モカの普段の様子を見て、ある程度の同意を示す。

 

 

その時ふと、沙綾は気付く。

 

 

(あぁ……そっか。 この日常が私にとっての居場所なんだ)

 

 

実家で焼いたパンを沢山の人に届ける事。

 

 

高校生活の傍ら、香澄達と共にポピパとして活動をする日々。

 

 

そして、ギルモンと一緒に過ごす時間。

 

 

1つ1つは小さい物だけど、自分にとってはどれも掛け替えの無い宝物。

 

 

(私、今過ごすこの時間がーーーーー1番楽しくて、大好き)

 

 

沙綾は内心でその想いを噛み締めながら、持っているカメラのレンズ越しから、りみ達を見ていた。

 

 

 

 

しかし次の瞬間、沙綾の表情が必死な物になる。

 

 

 

 

「危ない!」

 

 

 

 

2人の下に来る黄色いレーザーの存在に気付き、咄嗟に叫ぶ。

 

 

「アグモン!」

「応!」

 

 

咄嗟に駆け出した蘭とアグモンが2人を抱きしめて回避した事により、黄色いレーザーは先程までりみとモカがいた所に命中し、爆発した。

 

 

「りみ! モカ! 蘭! アグモン! 大丈夫!?」

「な、何とか……」

「蘭とアグモンが来たから、こっちも何とか……」

「アタシも大丈夫……」

「俺も生きてるよ……」

 

 

ギルモンをリアライズして駆け付けたの沙綾の呼び掛けに4名は無事を伝える。

 

 

安堵する沙綾と同時に、先程黄色いレーザーが飛んで来た方角から巨大な何かが現れる。

 

 

それは金色の角と紺色の体色の恐竜と見違えんばかりの巨大な体をしたカブトムシであった。

 

 

「ライノカブテリモン。 ハイブリッド体。 昆虫型。 ヴァリアブル。 必殺技は『コンデンサストーム』と『サンダーレーザー』……」

 

 

するとライノカブテリモンは、自身の巨大な角から超高圧電流を空に向けて放ち始める。

 

 

そして放たれた超高圧電流はそのまま、ライノカブテリモンと沙綾達のいる辺り一帯を包み込み、巨大なドームの様な物を精製する。

 

 

「と、閉じ込められちゃった……」

 

 

りみがショックな様子で呟く。

 

 

「蘭!」

 

 

沙綾の言葉に蘭は頷く。

 

 

「ギルモン(アグモン)!」

「うん(あぁ)!」

 

 

 

 

――EVOLUTION

 

 

 

 

「「ギルモン(アグモン)進化!!」」

 

 

 

 

ギルモンとアグモンは、光と共に一斉に進化する。

 

 

「ブイドラモン!」

「ジオグレイモン!」

 

 

進化した2体は、ライノカブテリモンへと向かって行く。

 

 

「プラズマブレイド!」

「ホーンインパルス!」

 

 

それぞれ両肘のブレイドと巨大な角による一撃を浴びせるが、ライノカブテリモンは平然とした様子である。

 

 

するとライノカブテリモンは、角を豪快に振り回して2体を投げ飛ばすと、体内に蓄積した全電気量を一気に解放し、稲妻の嵐を発生させた。

 

 

「「ウワアアアアアアーー!!」」

 

 

稲妻の嵐に巻き込まれた2体は、そのまま地面に墜落する。

 

 

「「グラウモン(ジオグレイモン)!」」

 

 

そしてライノカブテリモンは角に集めた全電気量によるレーザーの如く放った。

 

 

「「グワアアアアーー!」」

 

 

そして煙が晴れると、其処にはグラウモンとダメージを受けて退化したアグモンの姿があった。

 

 

「アグモン! しっかりして、アグモン!」

「すまねぇ……蘭」

 

 

するとライノカブテリモンはそのまま少しずつ此方へ突進して来た。

 

 

「エキゾーストフレイム!」

 

 

グラウモンは爆音と共に強力な火炎を吐き出すも、直撃を受けたにも関わらず、ライノカブテリモンは尚も此方に近付いてくる。

 

 

「クッ……!」

 

 

グラウモンは咄嗟にライノカブテリモンを押さえつけるが、相手の強力な力を前に徐々に押され始める。

 

 

「フンギギギギギ……!」

 

 

しかしグラウモンも沙綾達を守ろうと、自身の力を必死に込め続ける。

 

 

「グラウモン……」

 

 

沙綾は不安そうにグラウモンを見つめている。

 

 

『大切なのは『自分が如何したいのか』って事だよ』

(そうだ……弱気なっちゃ駄目。 此処でグラウモンを信じてあげなきゃ、りみ達を守れないし、何よりグラウモンの想いを裏切っちゃう!)

 

 

沙綾の脳裏に昨日の香澄の台詞が過り、それによって沙綾は気を持ち直し、自身のディーアークを両手で握り締めながら強く願う。

 

 

(グラウモン……。 貴方の痛みや苦しみ、私にも背負わせて!)

 

 

「ウオオオオオオオーー!!」

「グラウモーーーーン!!」

 

 

沙綾とグラウモンの叫び声がリンクし合った。

 

 

 

 

――MATRIX EVOLUTION――

 

 

 

 

その文字が沙綾のディーアークの画面に表示され、同時にディーアークが光を放ち、その輝きに呼応してグラウモンも光に包まれる。

 

 

 

 

「グラウモン超進化!」

 

 

 

 

光に包まれたグラウモンの姿が変化していく。

 

 

 

 

体はより大きく巨大化し、上半身は超金属『クロンデジゾイド』でメタル化されていく。

 

 

両腕は鋭い刃の付いた金属製の物となり、両胸には砲門、両肩には2基のバーニアが備わり、背部の部分から帯の様な金属、『アサルトバランサー』が伸びる。

 

 

やがて光が収まると、其処には鋼の鎧を纏った赤き機械龍の姿が現れた。

 

 

 

 

「メガログラウモン!」

 

 

 

 

「これが……グラウモンの完全体……」

「メガログラウモン。 完全体。 サイボーグ型デジモン。 ウィルス種。 必殺技は両腕の『ペンデュラムブレイド』で敵を切り裂く『ダブルエッジ』と両胸の砲門から放つ『アトミックブラスター』……」

 

 

沙綾達はメガログラウモンを見ながら、各々の反応を見せる。

 

 

「ウオオオオオオーー!」

 

 

メガログラウモンの叫びに呼応する様に両肩の2基のバーニアから火が噴き、そのままライノカブテリモンを押し返して行く。

 

 

「……!」

 

 

ライノカブテリモンは驚きの様子を見せながら押し返され、自身の作り出した超高圧電流のドームを突き抜けて行った。

 

 

そして態勢をライノカブテリモンは、そのままメガログラウモンに向かって突進して行き、メガログラウモンも迎え撃つ。

 

 

激しいぶつかり合いの中で、ライノカブテリモンの巨大な角の一撃が、メガログラウモンのボディに刺さる。

 

 

「クッ……!」

 

 

メガログラウモンの表情が歪む。

 

 

「ウッ……!」

 

 

同時に沙綾も僅かに体勢を崩す。

 

 

「グウゥ……!」

「ウウゥ……!」

 

 

更にライノカブテリモンは角から電撃を放ち、直撃を受けたメガログラウモンは苦痛の声を漏らし、沙綾の体にも痛みと痺れが襲う。

 

 

(これが完全体の力……! 香澄達はこんな痛みを受けながら、戦っていたんだ……!)

 

 

沙綾は心中でその力の大きさに驚きながらも、必死に耐える。

 

 

「沙綾ちゃん……」

 

 

沙綾の様子を、りみが心配な様子で蘭達と共に見ている。

 

 

(私は……ううん、私達は……絶対に守ってみせる!!)

 

 

沙綾はダメージを受けても尚も諦めず耐え、そして行動に出た。

 

 

「行っけーー!」

 

 

沙綾の叫び声を聞いたメガログラウモンは、目を力強く見開く。

 

 

そしてライノカブテリモンの角の一撃が、再び迫ろうとする。

 

 

「ダブルエッジ!」

 

 

しかしメガログラウモンは、両腕の『ペンデュラムブレイド』で、迫り来るライノカブテリモンの角を力強く切り裂いた。

 

 

「ーーーー!!」

 

 

自慢の角を両断されたライノカブテリモンは、苦痛の表情を浮かべる。

 

 

「ウワアアアーー!」

 

 

更にその隙を付いて、メガログラウモンは背部の部分から伸びる『アサルトバランサー』を伸ばし、ライノカブテリモンのがら空きのボディに連続で貫き刺して行く。

 

 

「ーー! ーー! ーー!」

 

 

やがて暫くすると、其処には最早限界の様子を見せるライノカブテリモンの姿がいた。

 

 

「メガログラウモン!」

「一気に決めるぞ……!」

 

 

そしてメガログラウモンの両胸の砲門に紅い光が集まって行く。

 

 

 

 

「「アトミック……ブラスター!!」」

 

 

 

 

沙綾とメガログラウモンの叫び声と同時に、両胸の砲門から真紅の光線が放たれる。

 

 

「ーーーー!!!!」

 

 

直撃を受けたライノカブテリモンは、驚愕の様子を浮かべながら、そのままデータの粒子と化して消滅したのだった。

 

 

ライノカブテリモンの完全な消滅を確認すると、メガログラウモンは退化してギギモンの姿と化す。

 

 

「ギギモーーン!!」

 

 

沙綾は自身の痛みなど気にも止めず、ギギモンに駆け寄って抱き締めた。

 

 

「さーや……ギギモン、みんなまもった……」

「うん……! そうだよ……! 有り難うギギモン……!」

「さーや……だいじょうぶ? ギギモン、ちゃんとここにいるから……」

 

 

ギギモンの言葉を余所に、沙綾はギギモンを抱きながら終始泣いていたのだった。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

「そっか……。 ギルモンも完全体に進化したんだね」

 

 

後日の花女の中庭。

 

 

現在昼休みと言う事もあって、ポピパの面々は昼食を食べている最中であった。

 

 

「うん。 香澄の御陰だよ」

「へっ?」

 

 

沙綾の突然の御礼に、香澄がキョトンとした様子を見せる。

 

 

「あの香澄の言葉が無かったら、私……絶対に折れちゃってた。 だから、有り難う」

 

 

香澄と彼女のディーアークの中にいるドルモンは、優しく微笑み返した。

 

 

「……それにしても」

 

 

チラッと2人は視線を向ける。

 

 

「うまうまだよ~!」

 

 

其処には普段より倍の量のチョココロネを食すりみの姿があった。

 

 

「りみりん、何だかとっても御機嫌だね」

「3日ぶりに、家のチョココロネを食べられたんだからね」

「しかも、その所為か何時もよりもチョココロネの量が多いな……」

『このままだと、体がチョココロネになっちゃうんじゃ無い……?』

 

 

ワームモンの言葉に、香澄達はその様子を想像する。

 

 

『御免ね……。 私、体がチョココロネになっちゃって、もう演奏が無理だから、ポピパを辞めるね』

 

 

香澄は顔を青ざめさせると、『りみり~~ん!!』と叫んでりみに抱き付く。

 

 

「ひゃあ!? か、香澄ちゃん……?」

「例えりみりんがチョココロネになっちゃっても、りみりんはポピパのベースだからね。 だから、早まっちゃ駄目だからね~!」

「えっ……と、取り敢えず落ち着いて……」

 

 

沙綾は苦笑しつつ、見守る。

 

 

(あぁ……皆と過ごすのは、本当に楽しくてーー大好き)

 

 

「さーや~! りみりんが! りみりんが~!」

「ほ~ら、落ち着いた落ち着いた」

「沙綾……お母さんだな」

「沙綾ママ~」

「キャア、おたえも落ち着いて~!」

 

 

ポピパの5人の穏やかで長閑な様子を、他の生徒も優しく見守っていた。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

無数の星が瞬く夜。

 

 

レイヤは1人、夜の帰路を歩いている。

 

 

「もしもし其処の御姉さ~ん?」

 

 

そんな彼女の目の前に現れたのは、茶髪の嫌みな感じのレイヤより少し年上の男を筆頭とした如何にも柄の悪い風貌の3人組の若者だった。

 

 

「何か用かな?」

「へっへっへ……実はアタシら、ちょーっと困った事になっていて……」

「俺等にちょっと金を恵んでくれよ~?」

 

 

茶髪の男の右側の黄色いメッシュを入れた派手な服装の女と左側の短髪の図体のデカい男が、下衆な視線を此方に向けていた。

 

 

「悪いけど、アンタ達に渡す金はこれっぽっちも無いわ。 さっさと消えて」

「そ~言わずにさぁ~、そんなに怒ると綺麗な顔が台無しだよ~♪」

「じゃあさ、金は良いから一発ヤラセてくれよ! 御姉さん、結構スタイル良いしさ!」

 

 

茶髪とデカい短髪の言葉の台詞を無視して、レイヤは改めて言い放つ。

 

 

 

 

「失せろ。 アンタみたいな屑共に渡す物は1つも無い」

 

 

 

 

呆気に取られる3人を無視して、レイヤは立ち去る。

 

 

「……舐めんじゃねぇぞ糞アマァァー!」

「その代わり」

 

 

次の瞬間、無数の何かが貫く音が鳴る。

 

 

 

 

「アンタ達には、これをあげる」

 

 

 

 

そう言ったレイヤの目の前にはーーーー突然空から現れた無数の剣に貫かれた3人の若者達の姿だった。

 

 

 

 

レイヤは、異形の物となった自身の右腕とその手に握られた剣を一瞥して見る。

 

 

『フン……品行の欠片も無い奴らな事だ』

 

 

レイヤの持つディーアークの画面に映る影が、侮蔑の言葉を投げる。

 

 

その瞬間、3人の若者達の全身が灰となって、一斉に地面に崩れ落ちた。

 

 

レイヤは3人の若者達が完全に灰化したのを確認すると、手っ取り早く自宅に戻る為に、己の姿を異形へと変え、夜空に飛び立つ。

 

 

(花ちゃん……若し今の私のこの姿を見たら、如何思うかな? 花ちゃんと一緒に慣れるなら、私、どんな事だってする覚悟は出来てるんだよ……!)

 

 

幼馴染に対しての強い決意を胸に秘め、レイヤは自宅へ向けて、夜空の中を飛び進んで行くのであった。




毎度の事ながら、此処まで読んでくれて有り難う御座います。

少しネタバレ(?)しますと、今作のRASの面々のキャラモチーフの大元の参考は、私の好きな特撮作品の1つである『超獣戦隊ライブマン』に登場する『武装頭脳軍ボルト』だったりしています(最もそれ以外にも参考にしたキャラがいるのですが……)。
因みに、ビアス様役の中田譲治さんは、私の好きな声優さんの1人でもあります。

上記の事もあって、本作のレイヤさんのキャラは一言で言えば、『一見本家バンドリ同様に見えるけど、実はかなりヤバい方向に歪みが掛かっている』と言う認識である事を御理解御願い致します。
因みに作中でのレイヤさんのやった殺害方法のモチーフは、『555』の『使徒再生』です。


それとアフグロファンの皆さん、久々の登場なのに蘭を噛ませ役にしてしまい、本当に申し訳ありません……。
沙綾以外の3代目テイマー組(友希那、リサ、蘭、彩、こころ、美咲)の完全体進化の話は、文化祭編(アニメ2期7話~9話)以降になってしまいます……。


それでは最後に、今回登場したデジモンの紹介です。




メガログラウモン


レベル:完全体
タイプ:サイボーグ型
属性:ウィルス


沙綾のギルモンが進化した「巨大なグラウモン」の名前を持つ、サイボーグ型の完全体デジモン。
その名の通り体は大きく巨大化しており、上半身は超金属“クロンデジゾイド”でメタル化されている。
肩に付いている2基のバーニアで飛行することもでき、対空・対地攻撃の両方が可能であり、有り余るパワーで暴走するのを抑えるために、顎の部分にクツワのような拘束具を着けている。
また背部の部分から帯のように伸びる「アサルトバランサー」は伸縮自在で、敵を貫き刺すこともできる。得意技は両腕の「ペンデュラムブレイド」で敵を切り裂く『ダブルエッジ』。
必殺技は両胸の砲門から原子レベルで敵を破壊する『アトミックブラスター』。




ライノカブテリモン


レベル:ハイブリッド体
タイプ:昆虫型
属性:ヴァリアブル


伝説の十闘士の力の全てを受け継ぎ、未知の能力を得ることで伝説を超えた雷の能力を持つデジモン。
恐竜型と見違えんばかりの巨大な体と重甲殻を持ち、超高圧電流で特殊な磁場を発生させる能力を持ち、その巨大な角を使って自在に操ることが出来る。
突進系の技が得意であるが、実際は敵に触れることなく、その特殊な磁場で敵を突き飛ばしている。
必殺技は角を豪快に振り回して体内に蓄積した全電気量を一気に開放し、敵を稲妻の嵐で巻き込む『コンデンサストーム』と、角に集めた全電気量をレーザーの如く放つ『サンダーレーザー』。


余談

モチーフはカブトムシの一種である『サイカブト』。
何気に本作では初登場のハイブリッド体である。
因みにこのデジモンは、元々作者が今作で登場させたいデジモンの一体だったりします。
尚、ハイブリッド体のデジモンを登場させる際には、『今までアニメや漫画などで、全く登場した事が無い奴』と言う条件を、自ら課しました。




それでは之にて、失礼致します。


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第20話 姉妹の満開

久し振りの投稿。
漸くのさよひな回です。

元々、今作におけるさよひなの設定は、初期の頃から既に決まっていました。

その為、今回の話は2人の関係をより一層深める感じの物になっています。

それもあって何度も書いては書き直しを繰り返した結果、此処まで遅くなってしまいました……。

それでは久し振りの最新話、楽しんで下さい。


 

 

「御姉ちゃ~ん! 早く早く~!」

「日菜、そんなに急かさないの!」

 

 

日菜の陽気な声に、紗夜は注意しつつもその表情は楽しそうな物だった。

 

 

現在2人が来ているのは、東京の都市部から離れたとある山奥。

 

 

何故2人がこんな場所にいるのかは、2日前に遡る。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

「御姉ちゃ~ん!」

 

 

氷川家の紗夜の部屋に突然、日菜が飛び込んで来る。

 

 

「日菜……部屋に入る時はノックをしなさいって、言っているでしょ……」

「それは謝るけど……それよりも大変何だよ!」

「一体何なの……?」

「今日商店街で福引きがあってね。 私も面白そうでやってみたら、これが当たっちゃったの!」

 

 

そう言って日菜が見せて来たのは、2枚のチケットだった。

 

 

「『ペアで行く2泊3日の温泉旅行』……?」

『そっ! しかも1等賞だぜ!?』

「ねっ? 一緒に行こうよ~!」

「随分唐突ね……。 大体、私じゃなくてもパスパレの皆さんや他の人を誘えばいいじゃない……」

「それが彩ちゃんも千聖も御仕事で無理だし、麻弥ちゃんもイヴちゃんも用事や部活の大会に向けての練習があって無理なの……」

「そうは言っても……私にもRoseliaの練習があるから……」

 

 

その時、突然紗夜のスマホが鳴ったので、紗夜は手に取る。

 

 

「湊さん?」

 

 

紗夜は直ぐにRoseliaのグループChatを確認すると、其処には『此処の所、喉の調子が悪くて病院に行ったら、『暫くの安静が必要』と医師に言われた為、少しの間練習を休みにする』と言うメッセージが来ていた。

 

 

「湊さん……」

 

 

紗夜は直ぐに様子を気にしてメッセージを送ると、『今回は少し重くて、完治には短くても4、5日は懸かる』との返信が届いた。

 

 

これによって、Roseliaは実質数日間の活動休止を余儀無くされてしまったと言う事である。

 

 

友希那からは謝罪のメッセージが来ており、紗夜は丁寧に『完治の為に、ゆっくり休んで下さい』と言う主旨のメッセージを送ると直ぐにスマホを置き、ルナモンと相談する。

 

 

『どうするの紗夜?』

「そうね……。 折角だし行ってみようかしら?」

「本当!? やった~!」

 

 

紗夜の言葉を聞き、日菜が大きく喜ぶ。

 

 

「大げさね……」

「だって此処の所、家と学校以外で一緒に居られる時間が無かったんだもん。 嬉しいに決まってるじゃん!」

 

 

紗夜は日菜の言葉で此処最近を振り返って、思い直す。

 

 

『旅行かぁ……楽しみだぜ』

『確かにこの世界に来てから……私達、あんまり遠い所とかに行った事無いもんね』

 

 

コロナモンとルナモンの言う通り、ガールズバンドメンバー達のパートナーデジモン達は、パスパレの芸能活動の関係で遠方のロケなどに同行するコロナモンとテイルモンを除けば、基本的に人間界での行動範囲がこの都内位しか無い者の方が多い。

 

 

ルナモンもその中の1体である為、人間界に来てから、少し遠くの方に行くのが初めてなのもあって、内心嬉しさを隠しきれない様子だった。

 

 

そして翌日、つまり前日に万全な準備を終えた2人と彼女達のパートナーデジモンは、こうして今に至るのであった。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

「それにしても、此処は空気がおいしいわね」

「ええ。 それに都市部と違って、静かで落ち着くわ」

 

 

歩きながら周りの景色を見るルナモンは、この場所の澄んだ空気と心地良い雰囲気を堪能している。

 

 

「……紗夜。 日菜の事……」

「有り難うルナモン。 ……でも良いのよ。 仮に結ばれたとしても、それでハッピーエンドで終わる程、現実は甘くない」

「……確かにそうだけど……でもそれじゃあ、紗夜が可愛そうよ……」

「あの子の幸せの為なら、私はこの位傷付いても構わないわ」

 

 

そう語る紗夜の姿を、ルナモンは切なそうに見ている。

 

 

 

 

氷川紗夜と氷川日菜。

 

 

 

 

この双子の姉妹の関係は少し特殊であり、同時に複雑な物であった。

 

 

 

 

幼い頃から紗夜の事をとても慕っていた日菜は、紗夜が興味を持って始めた物事には殆どと言って良い程に関わっていた。

 

 

しかし『努力型』の紗夜に対し、『天才型』の日菜はその持ち前の才覚で、あっさり紗夜の積み上げてきた物を乗り越えて行った。

 

 

(私が何をやっても、日菜は直ぐに私の築いた物を壊して、一歩先に向かってしまう)

 

 

何時しか紗夜は日菜の天才的な才覚に対して、強烈なコンプレックスと恐怖を抱く様になっていた。

 

 

そしてある日を境に、紗夜は日菜の事を避ける様になり始めた。

 

 

日菜の方も、紗夜が避ける原因が自分である事を知ってからは、姉との接し方に戸惑う様になり、2人の関係はより拗れていった。

 

 

そして2人がデジタルワールドに飛ばされ、それぞれのパートナーデジモンであるムンモンとサンモンーーーー後のルナモンとコロナモンに出会ったのは、そんな時であった。

 

 

日菜は持ち前の明るさで自身の使命を受け入れる一方で、紗夜は冷静さを装いつつも、日菜との関係性に加え、『いきなり見知らぬ世界に連れてこられた挙げ句、世界を救って欲しいと言う無理難題を押し付けられた事』や『元の世界に帰れるのか』と言う不安を抱えていた事もあって、情緒不安定な面を見せる事が度々あった。

 

 

2人はデジタルワールドの冒険に於いても、度々揉めてしまう事もあったが、パートナーデジモンであるコロナモンやルナモン、そして同じ様に出会った香澄達の助けや支えもあって、最終的に和解した。

 

 

その後、デジタルワールドの冒険を終えて戻って来た2人は、まるで今までの空白を埋めるかの様に、今まで以上の仲の良い関係となっていた。

 

 

しかし、その関係に再び変化が訪れたのは、高校生になってからの事だった。

 

 

それは2人が高校1年の時の事。

 

 

その日2人は、日菜の提案で外に出掛けたのだが、その道中で柄の悪い男達に絡まれた。

 

 

その時は何とか撒いたのだが、去り際に男達の1人がこんな言葉を吐き捨てたのだった。

 

 

『うわぁ……君達2人共、姉妹でそんな関係なの? 気持ち悪いわ~』

『女は男に抱かれてナンボってもんだろ!』

 

 

あの時は怒りで気にも止めなかったのだが、男達を撒いた後に気持ちが落ち着いた途端、急に周囲の人間の目線に恐怖を感じてしまい、結局様子を察した日菜と共に、2人は帰宅した。

 

 

その後、日菜がパスパレの一員として芸能界デビューをした際、紗夜も喜んだ反面、過去の一件から不安な面を抱いていた。

 

 

(日菜は良くも悪くも純粋な子。 でも若し私の『この想い』が原因で、日菜が傷付けてしまったら……)

 

 

日菜が良くない輩の悪意に傷付き、壊されてしまう事は、紗夜にとって耐えられなかった。

 

 

だから紗夜は、自身の中の『日菜への想い』を封印しようとした(最も、ルナモンには直ぐにバレてしまったと言うのもあったが)。

 

 

(日菜の幸せな様子は、私にとっての幸せ。 私が今まで傷付けてしまった分、あの子には幸せでいて欲しいの。 その為なら、私は……!)

 

 

「御姉ちゃ~ん! 早く~!」

「え、えぇ!」

 

 

日菜の言葉で我に帰った紗夜は、直ぐに彼女の後を追って掛けていく。

 

 

(紗夜……。 紗夜だって、幸せになっても良いのに……)

 

 

ルナモンも複雑な表情を見せるも、直ぐに気を取り直して駆けて行ったのだった。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

「ようこそ。 当館にお出でいただき、誠に有り難う御座います」

 

 

暫く歩き続けて、漸く目的地である旅館に辿り着いた2人は受付で手続きを済ませると、指定された部屋へ向かう。

 

 

そして部屋に着くと、2人は自分達の荷物を置き、ゆっくり寛いだ。

 

 

「大きい部屋だね! 御姉ちゃん!」

「そうね……」

『如何したんだ紗夜? 調子悪いのか?』

「いえ……何でも無いわ」

 

 

コロナモンからの問い掛けに、紗夜は少し歯切れが悪そうな様子で答える。

 

 

「ねぇ御姉ちゃん! 一緒に温泉入ろう!」

「え、でも……」

「旅行に来て温泉に入ら無い何て損だよ! さぁ行こ~う!」

「ちょ……日菜ってば!」

 

 

紗夜は入浴の道具を準備して、日菜に半ば強引に誘われる形で彼女の後を追った。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

「う~ん。 やっぱり旅行の醍醐味と言えば、温泉だね~!」

「えぇ……そうね」

 

 

日菜の言葉に紗夜も、静かに同調の意を示す。

 

 

(日菜……大きくなったわね)

 

 

紗夜は日菜まじまじと見ながら思う。

 

 

身長は自分より少し低いけれど、タオル越しから覗かせるその裸体は、多少の幼さを残しつつ、全体的にすっかり『女性』としての丸みを帯びた体となっていた。

 

 

「きゃ~御姉ちゃん、エッチ~♪」

「だ、誰が『エッチ』よ!」

 

 

紗夜は自身の中の煩悩を必死に抑えようと、内心で素数を数えた。

 

 

そして気持ちがある程度落ち着いた紗夜は、そのまま温泉に浸かった。

 

 

「ふう……」

 

 

一息付いて紗夜は、天を見る。

 

 

“『でもそれじゃあ、紗夜が可愛そうよ……』”

(……何を弱気になっているのよ。 私は日菜の幸せの為なら、『この想い』を封をするって決めたのに……!)

 

 

紗夜は厳しく自身に言い聞かせる。

 

 

「ねぇ、御姉ちゃん」

「日菜……!」

 

 

 

 

次の瞬間、日菜の唇が紗夜の唇と重なった。

 

 

 

 

やがて唇が離れ、紗夜は突然の事に呆然とし、日菜はゆっくりと口を開く。

 

 

「御免ね御姉ちゃん。 突然こんな事をしちゃって……。 私、本当は気付いていたんだ。 御姉ちゃんが『何かに悩んでいる事』に……」

 

 

日菜は更に言葉を続ける。

 

 

「『私、御姉ちゃんに何か悪い事しちゃったのかな?』、『御姉ちゃんは私の事、本当はもう嫌いになったのかな?』……そんな気持ちを抱きながら、この日まで過ごしていたの……」

「日菜……」

 

 

パートナーデジモン達と再会してから、日菜自身、其処まで思い悩んでいる様子を見せた事がなかった為、紗夜は驚いていた。

 

 

「私……悔しくて、苦しかった。 折角『あの冒険』で御姉ちゃんと仲直り出来たのに……御姉ちゃんの苦しむ姿を助けて上げられない自分が嫌で……ついこんな乱暴な事しちゃった……」

「違うわ日菜! 貴女は……!」

「……本当に御免ね」

 

 

日菜は浴槽から出ると、頭だけ軽くシャンプーで洗い、その場を後にした。

 

 

(日菜……違うの。 貴女は何も悪くない。 悪いのは……私の弱さなの)

 

 

本心を伝えられずにすれ違ってしまった事への後悔を前に、紗夜は静かに涙を流した。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

『日菜、落ち着いたか?』

「まぁ……ある程度はね」

『俺も日菜と一緒に謝る! だから……そんな悲しそうな顔はしないでくれよ……』

 

 

あの後温泉から上がった日菜は、自身のスマホと財布、コロナモンの入ったディーアークと共に、少し遠くの森の中に来ていた。

 

 

「……私、また同じ過ちを繰り返しちゃった」

 

 

日菜は続ける。

 

 

「前の冒険の時も……御姉ちゃんの気持ちを分かっていたのに、ちゃんと向き合わなかった所為で、御姉ちゃんにあんな『残酷な罪』を背負わせてちゃった……」

 

 

日菜の脳裏に、過去の記憶が蘇る。

 

 

『イヤアアアアアアアー!! ルナモン! ルナモーーン!』

 

 

『あの時の紗夜』の悲痛な様子を、日菜は今でもはっきりと覚えている。

 

 

だからこそ、日菜は『あの冒険』で紗夜と和解して移行、『自分とは違う相手や周囲の状況を考えない発言や行動をしてしまう』事を多い自身なりに、『紗夜の気持ちだけは理解し合える様になりたい』と、少しずつ努力を重ねて行った。

 

 

その中で芽生えていった『紗夜への本当の想い』。

 

 

日菜はそれを受け入れ、紗夜に歩み寄ろうとしていた。

 

 

「……結局、私の独り善がりだったのかな?」

『……そんな事言うなよ』

 

 

日菜の言葉に、コロナモンが口を開く。

 

 

『俺は不器用だから上手く説明する事何て出来ねぇけど……でも、これだけははっきり言えるぜ。 日菜、お前はあの時と比べてちゃんと心身共に成長しているぞ』

「コロナモン……」

『確かに姉ちゃんである紗夜と比べりゃ、短い付き合いかもしれねぇけど……日菜の事は大切に想う気持ちは誰にも負けてねぇぞ』

 

 

日菜はコロナモンの言葉に、大きく目を見開いた儘、聞いている。

 

 

『だから日菜。 明るく元気な様子でいてくれよ。 若し崩れそうなら、俺も一緒に支えてやるからよ』

「……有り難う。 コロナモン」

 

 

日菜の言葉にコロナモンも微笑む。

 

 

意を決した日菜が紗夜達の所に戻ろうと一歩踏み出したその時だった。

 

 

 

 

キュオオオ!!

 

 

 

 

「! キャア!?」

 

 

突然、何処からともなく現れた無数の糸の様な物が日菜の体を縛り上げた。

 

 

『何だこの糸!?』

「コロナモン……キャッ!」

 

 

日菜はコロナモンをリアライズしようとしたが、更に飛んできた糸に弾かれ、自身のディーアークを落としてしまう。

 

 

『日菜! 日菜!』

「コロナ……モン……キャアアアーー!!」

『日菜ーー!!』

 

 

コロナモンの叫びも虚しく、無数の糸に拘束された日菜は強力な力に引っ張られ、そのまま森の更に深い所に姿を消したのだった。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

「日菜、いるかしら?」

 

 

温泉から上がった紗夜が部屋に戻るも、其処に日菜の姿は無かった。

 

 

「いないわね……」

『紗夜、探してみましょう』

「でも……私は……」

『……紗夜の気持ちも分かるわ。 でも若し今放置してたら、後悔するよ』

「……そうね。 有り難うルナモン」

 

 

ルナモンの言葉に、紗夜は意を決すると直ぐに着替えを済ませて、日菜の捜索に当たるのであった。

 

 

館内を捜すもいない事を確認した紗夜は旅館の外へ出て、捜索の範囲を広げる。

 

 

「駄目……見付からないよ」

「スマホにも連絡したけど……全く繋がらないわ」

 

 

紗夜とルナモンは途方に暮れた様子を見せる。

 

 

 

 

『ーー! ーー!』

 

 

 

 

「あれ?」

 

 

ルナモンの長い耳が、ピンと立った。

 

 

「ルナモン?」

「今、微かに何か聞こえたわ」

 

 

ルナモンの言葉を信じ、紗夜も黙って耳を傾けた。

 

 

『ーー夜! ーーモン! 紗夜! ルナモン!』

「コロナモンの声だわ……!」

「こっちだわ!」

 

 

ルナモンが声の聞こえる方に先行し、紗夜もその後を追って向かう。

 

 

「あれは……!」

 

 

紗夜とルナモンが見付けたのは、日菜の持つライトイエローの縁取りのディーアークだった。

 

 

「コロナモン! 大丈夫!?」

『! 紗夜! ルナモン!』

 

 

紗夜は日菜のディーアークを起動させ、コロナモンをリアライズさせる。

 

 

「何があったの?」

「済まねぇ……! 日菜が……日菜が攫われた!」

「日菜が……!?」

 

 

紗夜はコロナモンの言葉に、動揺を隠さずに詰め寄る。

 

 

「日菜は……日菜は大丈夫なの!?」

「分からねぇ……! 突然の不意打ちと物凄ぇ不快感に襲われちまって、まともに戦えもしなかった……! 俺が付いていながら、情けねぇぜ……!」

 

 

紗夜はその場に崩れ落ちた。

 

 

「私の所為だわ……。 あの時私があの子の気持ちにちゃんと向き合っていれば……!」

「落ち着いて紗夜! コロナモン。 さっきその相手と遭遇した時、他に変わった様子は感じなかった?」

 

 

ルナモンの言葉にコロナモンは、自身の頭を稼働して思い出す。

 

 

「そう言えば……アイツにあった時、鈴の音がしてたんだよ。 そっから急に物凄ぇ不快感に襲われちまったんだ」

「鈴の音……」

 

 

ルナモンは少し思案した後、紗夜に呼び掛ける。

 

 

「紗夜! ……? 紗夜!」

「日菜……日菜……」

 

 

ルナモンの呼び掛けに何の反応も示さず、紗夜は小さく日菜の名前を呼ぶだけであった。

 

 

「……! ティアーシュート!」

 

 

次の瞬間、意を決したルナモンは紗夜の顔に向けて水球を放つ。

 

 

紗夜は水球で濡れた顔のまま、ルナモンを茫然と見ている。

 

 

「ルナモン……?」

「少しは頭が冷えた? そんな所でポーッとしていたって、日菜が戻って来る訳が無いでしょ。 今日菜を助けられるのは、紗夜だけなのよ!」

「……でも私、あの子の『私への気持ち』……拒絶しちゃって……」

「私は『恋愛』に対しては、あんまり良いアドバイスは出来ない。 けど、これだけはハッキリと言うわ。 紗夜の本当の気持ちは如何なの?」

「私の本当の気持ち……?」

「言っておくけど、『世間体』とかそう言うのは今は無しだからね」

 

 

ルナモンの言葉に紗夜は考える。

 

 

(私にとっての日菜……)

 

 

 

 

紗夜の脳裏に浮かぶのは、今までの人生の中での日菜との思い出。

 

 

それを思い出す度に、露わになっていく『本当の想い』。

 

 

日菜の幸せを想い、ずっと押し殺していた気持ち。

 

 

ふと周りの風景が、黒一色に染まる。

 

 

『御姉ちゃーーん!』

 

 

無数の黒い糸に何重にも拘束される日菜と、彼女に伸びてくる黒い手。

 

 

『……日菜ーー!』

 

 

紗夜は駆け出す。

 

 

そして手に所持していた嘗て扱った事のある武器(ハーケン)を振るい、日菜を拘束していた糸と伸びてくる黒い手を切り裂く。

 

 

『御姉ちゃぁん……』

 

 

一糸纏わぬ姿の日菜を、同じく一糸纏わぬ姿となっていた紗夜は優しく受け止める。

 

 

(私は……もう逃げない……!)

 

 

眩い光が2人を包み込んだ。

 

 

 

 

数分経って、紗夜は口を開いた。

 

 

「私は……日菜の事が……好き……! 『妹』としても、『1人の女性』としても……愛しているわ!」

 

 

紗夜の真剣な眼差しと強い意志の籠もった言葉を、ルナモンはただ黙って見ている。

 

 

「御免なさいルナモン。 そして有り難う。 私はこの気持ちを偽る事はしないわ。 だから、力を貸してくれる?」

「紗夜。 私は紗夜のパートナーデジモンよ。 何時如何なる時も、私は紗夜の傍にいるわ」

 

 

紗夜はルナモンの言葉を受けて立ち上がる。

 

 

「行くわよルナモン!」

「えぇ!」

「あっ! 俺を置いてかないでくれよーー!」

 

 

そのまま3人は駆け出して行った。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

「ん……んうぅ……?」

 

 

日菜は暫くして意識を取り戻した。

 

 

「此処は……?」

 

 

体を思う様に動かせない事に気付き、視線を向けると自身の体が太い糸で何重にも縛られているのに気付いた。

 

 

「これは……」

 

 

その時、重い足音が耳に届いたので、振り向くと其処には、上半身は牛、下半身が蜘蛛の様な見た目の巨大な異形の姿が存在していた。

 

 

(デジモン……!)

 

 

日菜は咄嗟に身構えるが、身動きが取れない上に相棒のコロナモンはディーアークと共に今はこの場にいない為に、日菜は打つ手無しが無い状況であった。

 

 

その時、足に何かが当たる感触を覚え、其方に視線を向けた日菜は息を呑んだ。

 

 

 

 

彼女の足に当たった物ーーーーそれは、頭部の人骨だった。

 

 

 

 

「ルフォフォ……オンナ……ヒサシブリ……!」

 

 

目の前のデジモンの言葉に、日菜は大方の背景を察した。

 

 

恐らくこのデジモンは人間界に来た時から、自分と同じ様に迷い込んだ人間を捕らえて、その身体を貪り尽くしていたのだろう。

 

 

(……何だか、『冒険してた頃』を思い出すなぁ……)

 

 

日菜は内心で呟く。

 

 

日菜自身、デジタルワールドでの冒険と戦いを共に経験した他の4人と同様、『死』に対してはある程度達観している面があった。

 

 

若し今の日菜に心残りしている事があるとすれば、それは唯一つ。

 

 

 

 

(御姉ちゃんと仲直りしたかったな……)

 

 

 

 

最もそれも叶わないだろうと自嘲し、日菜は抵抗を諦めて目を閉じる。

 

 

異形の大きな右手が、日菜に目掛けて伸びようとした。

 

 

 

 

「ティアーアロー!」

 

 

 

 

その時、何処からともなく、美しい氷の矢が飛んできて、敵のボディに命中する。

 

 

「今の……「日菜ーー!」御姉ちゃん!」

 

 

日菜が視線を向けた先には、レキスモンと紗夜、コロナモンが此方に向かってくる姿があった。

 

 

「ヴォオオ……!」

 

 

相手のデジモンは、荒々しいで視線を紗夜達に移す。

 

 

「ギュウキモン。 完全体。 魔獣型デジモン。 ウィルス種。 必殺技は八束染縛(やつかせんばく)に魔塵瓢箪(まじんびょうたん)、千砲土蜘蛛(せんほうつちぐも)……」

 

 

紗夜は自身のディーアークでギュウキモンの情報を調べる。

 

 

「紗夜! 此処は私に任せて日菜を!」

「分かったわ!」

 

 

レキスモンに促され、紗夜とコロナモンは日菜の下へ向かって行く。

 

 

「ヴォオ……「ティアーアロー!」ヴォ!?」

 

 

紗夜とコロナモンを狙おうとしたギュウキモンであったが、即座にレキスモンが氷の矢を放って牽制する。

 

 

「貴方の相手は私よ!」

 

 

レキスモンはそのまま、ギュウキモンと交戦を再開し始める。

 

 

「日菜! 大丈夫!?」

「日菜、少し待ってろよ……!」

 

 

一方日菜の下へ駆け寄った紗夜とコロナモンは、彼女を拘束する何重もの太い糸を協力して解き、日菜を開放する。

 

 

「御姉ちゃん……」

 

 

彼女の無事を確認し、2人は安堵を浮かべる。

 

 

 

 

「キャアアーー!」

 

 

 

 

悲鳴の方を振り向くと、レキスモンが吹っ飛ばされる姿があった。

 

 

「レキスモン!」

「! 日菜!」

「う、うん……!」

 

 

 

 

――EVOLUTION

 

 

 

 

「コロナモン進化! ファイラモン!」

 

 

コロナモンは進化するとレキスモンの下へ加勢に行く。

 

 

「日菜、こっちを向きなさい」

 

 

紗夜の声に日菜の体がビクンと跳ね、彼女は恐る恐る体を向ける。

 

 

そして振り向いた次の瞬間ーー日菜は紗夜に抱き締められていた。

 

 

「御姉……ちゃん?」

「御免なさい。 でも聞いて欲しいの」

 

 

紗夜は続けて語る。

 

 

「正直に言うとこの気持ちを自覚した時、私は怖かったわ。 女の子である事に加えて、実の妹である貴女をそんな目で見てしまって自分が。 それによって周囲から貴女が差別や迫害を受けてしまう事が……とても怖かった。 傷付くのは私だけで充分だし、何より……貴女には幸せになって欲しいと思って、この気持ちをずっと封印するつもりだった。 だからさっきの温泉での貴女の行動にもつい乱暴に対応してしまったの」

 

 

でもね、と紗夜は更に続ける。

 

 

「貴女が行方不明になって……探しても見付からない中で、私の心の中に後悔と同時に堪えられない程、貴女への想いがどんどん強くなっていて……『あぁ。 私はこんなに貴女の事が大事なんだなぁ』って思えた。 日菜、今この場で伝えるわ」

 

 

紗夜は改めて日菜と真正面に向き合い、口を開く。

 

 

 

 

 

 

「私、氷川紗夜は……氷川日菜をこの世の誰よりも愛しています」

 

 

 

 

 

 

日菜は紗夜の言葉に大きく目を見開き、恐る恐る問い掛ける。

 

 

「御姉……ちゃん。 冗談じゃないよね?」

「この状況の中、冗談や嘘でこんな事を言う訳無いでしょ?」

 

 

その言葉に日菜の目から、涙が流れてくる。

 

 

「わた……っ! ……私も、御姉ちゃんが好き……! 愛してる……! これから……も……御姉ちゃんと……一緒にいたい!」

 

 

日菜は涙と嗚咽混じりになりながらも、自身の気持ちを伝える。

 

 

「御免なさい日菜……。 私が臆病だった所為で、貴女には辛い想いをさせてしまったわね……」

「そんな事無いよ……! 御姉ちゃんは私の為を想ってたから、あんな様子だったんでしょ? 御姉ちゃんは……この世で1番大切で……最高の御姉ちゃんだもん!」

 

 

日菜の言葉に、紗夜は目頭が熱くなるのを抑える。

 

 

「ウワアア(キャアア)ー!」

 

 

2人が振り向くと、其処には倒れるファイラモンとレキスモン、そして獰猛な笑みを浮かべるギュウキモンの姿が映った。

 

 

「レキスモン!」

「ファイラモン!」

 

 

するとギュウキモンは標的を紗夜と日菜に定め、右腕を伸ばそうとし、紗夜は日菜を守ろうとする。

 

 

「ティアーアロー!」

「ファイラボム!」

 

 

その時、ギュウキモンの右腕に強い衝撃が走り、視線を向けると其処には辛うじて立っている状態のファイラモンとレキスモンの姿があった。

 

 

「ハァハァ……ハァ……2人の幸せを……壊させはしねぇぞ……!」

「紗夜達は……ハァ……私達が……守るわ!」

「……御姉ちゃん」

「えぇ」

 

 

紗夜と日菜はそれぞれのパートナーの隣に立つ。

 

 

「有り難う2人共。 あなた達のお陰で私は漸く本当の気持ちと向き合い、答えを見付けられたわ」

「ヴォヴォヴォ……!」

「ギュウキモン! 私達の本当の力、見せてあげるよ!」

「ヴォオオオオーー!」

「行くよ、御姉ちゃん!」

「えぇ!」

「やるわよ! ファイラモン!」

「あぁ!」

 

 

 

 

――MATRIX EVOLUTION――

 

 

 

 

その文字が紗夜と日菜のディーアークの画面に表示され、同時にディーアークが光を放ち、その輝きに呼応してファイラモンとレキスモンが光に包まれる。

 

 

 

 

「「ファイラモン(レキスモン)、超進化!」」

 

 

 

 

光に包まれた2体の姿が変化していく。

 

 

 

 

ファイラモンの方は体が一回り大きくなり、威風堂々とした鬣を蓄えた逞しい物へと姿を変えていく。

 

 

そしてレキスモンの方も仮面と甲冑を纏い、左腕に三日月の意匠が施された盾、右手にもハーケンが装備されていく。

 

 

 

 

「フレアモン!」

「クレシェモン!」

 

 

 

 

やがて光が収まると、其処には仲間の為にはどんな困難にも立ち向かう心の強さを持った二足歩行の獣人と、より一層美しくなった見た目の魔人の姿が現れた。

 

 

 

 

「ヴオオオオーー!」

 

 

激昂したギュウキモンは左腕に装備された大筒をぶっ放そうするも、先にそれを察知したフレアモンとクレシェモンはそれぞれのテイマーを守る様に抱き締めながら砲撃を回避すると、即座に空いた穴から外へ脱出する。

 

 

一方ギュウキモンも、直ぐに2体の後を追って這い出てくる。

 

 

「2人は下がって!」

「此処なら、存分に戦えるぜ!」

「ヴオオオオーー!」

 

 

そして戦闘が再開する。

 

 

お互いに完全体と言う事もあってか、そのぶつかり合いは激しく、紗夜と日菜の体にもそれぞれのパートナーの戦闘ダメージが反映されて、傷が付いていく。

 

 

「クッ……! あの巨体に似合わず、随分器用に動く……!」

「悔しいけど……状況は此方の方が不利ね……」

 

 

本領を発揮して戦っているフレアモンとクレシェモンも、一方的な物と化したギュウキモンの攻撃に苦戦を強いられていた。

 

 

「御姉ちゃん……」

(あの一方的な攻撃の絡繰りを如何にかしない限り、此方に勝ち目は無いわ)

 

 

紗夜は冷静に状況を見ながら内心思案し、目を見開く。

 

 

「日菜」

「……!」

 

 

紗夜は日菜に視線を向けると、日菜も紗夜の言いたい事を察して頷いた。

 

 

「「クレシェモン(フレアモン)!」」

 

 

クレシェモン達は紗夜達の方に視線を向けると、2人の目を見て察した。

 

 

「フレアモン!」

「分かった!」

 

 

その隙を付く様に、ギュウキモンが左腕の大筒から攻撃を放つ。

 

 

「紅蓮獣王波!」

 

 

フレアモンは拳に獅子の闘気と火炎を集中させて作った獅子を象ったエネルギー波を放ち、ギュウキモンの攻撃を相殺する。

 

 

それによって発生した煙幕が、互いの姿を隠す。

 

 

「ヴオオ……!」

「喰らえーー!」

 

 

ギュウキモンの真正面から、フレアモンが突撃をしようと現れる。

 

 

ギュウキモンも下半身の口部を開いて対応しようとする。

 

 

 

 

「ダークアーチェリー!」

 

 

 

 

その時、突然反対側から飛んで来た漆黒の矢が、ギュウキモンの右側の角の先にぶら下げた鈴を破壊した。

 

 

「ヴオオ!?」

「紅蓮獣王波!」

 

 

ギュウキモンは突然の事に動きを止め、その隙にフレアモンが獅子を象ったエネルギー波を放ち、もう片方の角の先にぶら下げた鈴を破壊した。

 

 

「ヴオオオオ!?」

「貴方の角の先の鈴は攻撃の時のみ、音を発する。 それによって発生する不協和音が私達の感覚を狂わせていた……。 だから貴方の攻撃を一方的な物にして有利な状況にしていた……」

「これでお前の無敵の絡繰りも使えないな」

「ヴヴヴ……!」

「今度は私達のターンよ!」

「倍返しにさせてもらう!」

「ヴオオオオーー!」

 

 

ギュウキモンは左腕の砲台から砲弾を放つが、先程のギリギリだった時とは違い、フレアモンとクレシェモンも余裕を持って交わす。

 

 

「ルナティックダンス!」

 

 

クレシェモンは舞う様なステップで間合いを詰め、両手に持った武器ーー『ノワ・ルーナ(ラテン語の『新月』)』を使った斬撃をギュウキモンに浴びせる。

 

 

「グオオオオ!? グオオ……!」

 

 

ギュウキモンは体勢を何とか立て直すと、下半身の口部を開いて攻撃をしようする。

 

 

「紅蓮獣王波!」

 

 

しかし、それより先にフレアモンが獅子を象ったエネルギー波を放ち、下半身の口部を封じる。

 

 

「ヴォ……ヴォ……!「こっちよ!」!」

 

 

ギュウキモンが視線を向けると、其処には『ノワ・ルーナ』を1つに組み合わせ、ボウガンのような形態に変化させて構えるクレシェモンの姿があった。

 

 

「アイスアーチェリー!」

「ヴオオオオー!?」

 

 

其処から氷の矢がギュウキモンの眉間を貫通し、ギュウキモンの体を凍結させて、巨大な氷像と化した。

 

 

「フレアモン!」

「止めだ! 清々之……咆哮! ウオオオーー!」

 

 

フレアモンが自身の火炎によって浄化力を込めた衝撃波を、咆哮と共に口部から放つ。

 

 

直撃を受けたギュウキモンは自身の最期を理解する事無く、粉々になって、静かにデータの粒子と化して霧散したのだった。

 

 

ギュウキモンが完全に消滅したのを見たフレアモンとクレシェモンは再び光に包まれ、元のコロナモンとルナモンに戻る。

 

 

「「コロナモーン(ルナモン)!」」

 

 

其処へ紗夜と日菜が駆け寄って来る。

 

 

「つ……疲れた……」

「有り難うコロナモン……」

「ルナモンもお疲れ様」

「紗夜……ボロボロだね」

「それは……お互い様でしょ」

「でも……何だか良い表情してるわ」

「……有り難うルナモン」

「見て御姉ちゃん!」

 

 

日菜の言葉に紗夜とルナモンが空を見上げると、其処には大きくて綺麗な満月が浮かんでいるのが見えた。

 

 

「綺麗ね……」

「うん……」

 

 

満月の神秘的な雰囲気と光が、まるで戦いを終えた紗夜とルナモン、日菜とコロナモンの2組を優しく労る様に照らしていた。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

チュンチュン……チュンチュン

 

 

「んぅ……」

 

 

鳥の囀りと明るい日差しの刺激で、ベッドで眠っていた紗夜の意識が覚醒する。

 

 

「此処は……「御姉ちゃん」?」

 

 

隣を見ると其処には、一糸纏わぬ姿の日菜の姿があった。

 

 

「日菜……?」

 

 

ふと見てみると、自身も日菜と同様に、一糸纏わぬ姿である事に気付く。

 

 

それと同時に、紗夜の脳裏に昨日の記憶が蘇ってくる。

 

 

(そうだわ……。 あの後、旅館に戻った私達は食事を済ませた後、で再び温泉に浸かって……その後、日菜の提案で一緒のベッドに寝て……)

 

 

その後の事を思い出し、紗夜の顔が真っ赤に染まる。

 

 

「アハハ。 御姉ちゃんってば、真っ赤な顔して『るんっ♪』てする程可愛い!」

 

 

日菜の発言に、紗夜は慌て布団を体に掛ける。

 

 

「ふふふ……。 私も御姉ちゃんと思いっ切り『あ~んな事』や『こ~んな事』したりで、結構楽しかったもん!」

「い……言わないで……//」

 

 

紗夜は昨日の夜の様子を更に意識してしまい、恥ずかしさのあまり顔がより一層と紅潮していっていた。

 

 

 

 

「でも、嬉しかったよ」

 

 

 

 

不意に背中越しに温もりを感じて振り返ると、同じく布団に入り込んだ日菜が此方を見ている。

 

 

「私の心や体に、御姉ちゃんの愛情がいっぱい注ぎ込まれていくのが分かって、本当に御姉ちゃんの妹であり、恋人になれて良かったもん」

「日菜……」

「御姉ちゃん。 私はもう、御姉ちゃん無しでは生きていけない。 だから……連れてって。 御姉ちゃんの見ている世界へ。 私、御姉ちゃんやコロナモン達と一緒なら、どんな所にだって付いていくよ」

「……日菜。 この世界は常に残酷よ。 全ての人が私達の関係を認めてくれるとは限らない。 これから先、迫害や差別を受ける事だって、あるかもしれないわ。 それに私だって、結構歪みのある人間よ。 そんな私でも、本当にいいの?」

「覚悟はとっくに出来ているよ。 私はどんな時でも、御姉ちゃんを愛して、信じているよ」

 

 

そう語り終えると、2人はお互いの唇を重ね合わせ、絡み合う

 

 

『私、決めたわ。 紗夜と日菜、2人と2人の幸せの為に、私自身の全てを捧げて守りたい。 コロナモン、貴方は如何?』

『愚問って奴だな。 俺も2人が信じて選んだ道を全力で支えるぜ』

『……コロナモンの口から、『愚問』って言葉が出たのは意外ね……』

『ウォイ!? 其処は普通、格好良い雰囲気で締めるだろ!』

 

 

そんな2体のパートナーデジモンの会話を余所に、紗夜と日菜は暫く甘い時間を過ごしていた。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

そして残りの旅行期間を楽しんだ2人は、丁度今旅館をチェックアウトして、帰路に立っていた。

 

 

「うう~ん、楽しかった~!」

「温泉や旅館の食事に景色……何だか名残惜しいぜ……」

 

 

日菜とコロナモンの様子に、紗夜とルナモンはほっこりとした様子で見ている。

 

 

「あっ! そーだ!」

 

 

すると日菜は紗夜に近付き、左手を差し出し、紗夜は首を傾げる。

 

 

「手だよ手! 恋人繋ぎしよ!」

 

 

その言葉に、紗夜は自身の右手を出し、日菜の左手を掴んだ。

 

 

「えへへ~♪」

「それで日菜、どっちの方向に行くの?」

「東!」

 

 

日菜は即答で答える。

 

 

「……如何してかしら?」

「お日様が昇る方向だから!」

「……分かったわ」

 

 

その時、太陽の日差しが強くなった事に気付き、2人と彼女達のパートナーデジモンは、日差しに視線を向ける。

 

 

 

 

その瞬間、4人の瞳に黄金に輝く人型の『何か』が一瞬だけ写る。

 

 

 

 

「あれは……」

 

 

 

 

しかし次の瞬間には、その『何か』はスーッと消えていった。

 

 

 

 

「御姉ちゃん……今の見た?」

「えぇ……」

「……あれって、『神様』か?」

「でも……綺麗だったなぁ」

 

 

そしてその瞬間、日菜は弾けた。

 

 

「……『るんっ♪』て来た~~!」

「日菜!?」

「行こう御姉ちゃん!」

「ちょ……ちょっと待ちなさ~い!」

 

 

そして2人と2体のパートナーデジモンは、その儘駆け出して行った。

 

 

 

 

その様子を、太陽がまるで2人の幸せな関係と信じる道を突き進む姿を、祝福している様に見ているのだった。




と言う訳でさよひなメイン回、如何でしたでしょうか?

少しだけこの作品の裏話を含めて話すと、実は元々この小説の初期案では、2代目テイマー組のポジションはポピパのメンバーになる予定でした……。
しかしそれだと、他のバンドからパートナーデジモンを付けるキャラを決める際に『偏りが出るな』と思い、香澄と有咲以外の3人は外す事となりました(因みに有咲のパートナーがワームモンだったのは、この初期案の名残りです)。

その後、ポピパ以外の面々のバンドリキャラのパートナーデジモンを考えた時に真っ先に思い付いたのが、ましろちゃんとさよひなの3名だった事もあって、今の形に落ち着く事となりました。

そして今作のさよひなの関係は、2人のパートナーデジモンを決めた時からある程度構想は練っていたので、更に突き詰めた結果が、今回の形と言う訳なのです。


因みに紗夜さんが作中で振るった『嘗て扱った事のある武器(ハーケン)』の正体は、『ルナモンの究極体』の『アレ』です。
そして、最後にさよひな&彼女達のパートナーデジモン達が見た黄金に輝く人型の『何か』の正体……これに関してはまだ秘密です(最も、読者の方の中にはある程度予想している方もおられるかもしれませんが)。


尚、作中での友希那さんの喉の不調の件は、今年の4月に起きた中の人の一件が元ネタです。


そして次回からは前にも言ってた通り、文化祭編(アニメ2期7話~9話)の突入になります。
此処の話からは、様々な展開が起こる予定です。


それでは最後に、今回登場したデジモンの紹介です。




クレシェモン


レベル:完全体
タイプ:魔人型
属性:データ


紗夜のルナモンが進化した完全体の魔人型デジモン。
体が柔軟で流麗な戦闘を得意とし、しなやかな動きで敵を討つと言われ、特に月の光を受けるとその力は倍増すると言われている。
必殺技は、舞うようなステップで敵を幻惑し、間合いを詰め、両手に持った武器“ノワ・ルーナ(ラテン語:新月)”を使った斬撃『ルナティックダンス』。
また、“ノワ・ルーナ”は1つに組み合わせることでボウガンのような形態に変化し、この状態から氷の矢を放つ『アイスアーチェリー』と、闇エネルギーの矢を放つ『ダークアーチェリー』の2つの技を繰り出すことができる。




フレアモン


レベル:完全体
タイプ:獣人型
属性:ワクチン


日菜のコロナモンが進化した完全体の獣人型デジモン。
威風堂々としたたてがみとその存在感により一見怖そうだが、仲間の為にはどんな困難にも立ち向かう心の強さを持っている。
必殺技は、拳に獅子の闘気と火炎を集中させて、獅子を象ったエネルギー波を放つ『紅蓮獣王波(ぐれんじゅうおうは)』と、炎をまとわせた拳と蹴りを、高速連続で敵に叩き込む格闘乱舞『紅・獅子之舞(くれない・ししのまい)』、そして全てを燃やす火炎によって浄化力を込めた衝撃波を、咆哮と共に口部から放ち、敵をデータ分解させる『清々之咆哮(せいせいのほうこう)』。




ギュウキモン


レベル:完全体
タイプ:魔獣型
属性:ウィルス


丑のような上半身と蜘蛛の下半身を持つ魔獣型デジモン。
残忍かつ陰湿な性格で、自分の姿を見た者を何日もかけて追い回し、夜になるたび背後から奇襲を仕掛ける怪異である。
巨体に似合わず、蜘蛛の足を器用に使い音も無く静かに移動する事が出来、攻撃するときのみ、ツノの先にぶら下げた鈴が音を発するため、ギュウキモンを見た者は常に鈴の音に怯えて過ごすことになる。
鈴が放つ不協和音は相手の感覚を狂わせ、ギュウキモンの攻撃を一方的なものにする。
必殺技は下半身の口部から吐き出す蜘蛛の糸で敵を拘束し、猛毒液を吐きかける『八束染縛(やつかせんばく)』と、腹部に備わったシリンダーを投擲し毒ガスを振りまく『魔塵瓢箪(まじんびょうたん)』。
ギュウキモンの接近を察知し遠くに逃げたデジモンは、左腕の武器『千砲土蜘蛛(せんほうつちぐも)』で確実に仕留める。


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