緊急出動!てぇてぇを守れ! (フユガスキ)
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百合を嗜むのが紳士の務め、間に挟まる者には天誅を

3期は偶々。


「お、来たぞ」

 

「あぁ、やべぇな」

 

 俺の近くにいるヤツらが、小声で喋ったのを皮切りに、バラバラにダベっていたクラス内のヒトらは同じ話題をそれぞれ小声で喋りはじめた。

 まあ、いくら小声と言えども、クラス中が纏まって喋れば流石に聞こえてくる。

 

 配信者の登場だ、と。

 

 そんな、クラス全員が注目する――否、盗み見するような視線を集めるドアから、俺は堂々と登校する。

 だが、残念なことに、この注視の対象は俺ではない。俺の後ろに位置する少女。彼女こそがクラス内、むしろ世界中を湧かせる注目の的である。

 

「Ahoy!」

 

「あほい!」

 

 元気よく挨拶を出した先頭は、赤色のツインテールを揺らし、オッドアイの黄色い方を瞑った宝鐘マリンである。

 相変わらずのぶりっ子加減だろう。正直かわいい。思わず皆の返事に乗ってしまっていた。

 

「こんぬいー」

 

「こんぬいー」

 

 次にクラスに入ってきたのは金髪のエルフ。学校内では、容姿の美しさNO.2を飾る不知火フレアである。

 やはり今日も日焼けしている。日焼けのエルフってダークエルフだと思われがちだが、彼女は気高き王族のエルフである。尚、庶民派なので割と全員との仲がいい。仲がいいと挨拶をするのは普通だろう。

 

「こ、こんまっするぅ」

 

「こんまっする!」

 

 若干、最後の方のボリュームが小さくなりながら、どこまでもデカい胸……大胸筋を揺らしてそそくさと入ってくるのは白銀ノエルである。

 流石に脳筋と言えど、クラス中の目線には耐えられない模様だ。団員を筆頭に騎士団かのような快活で野太い挨拶が響いた。

 

「こんるっ!!」

 

「こんるしー」

 

 どこか照れ気味にされど巨大な声で、舌を噛みながら挨拶したのは、潤羽るしあである。

 このクラス内でも最も小さな体躯に秘められた破壊とネクロマンスの能力は、永久機関と言っても過言ではないだろう。あれには流石の俺も少し小さめな挨拶をせざるを得ない。

 

 そして、最後の刺客。いたずら好きのコミュ障兎、兎田ぺこら。彼女の挨拶は、一言で表すとそう……一言で表せない、だ。

 彼女にはレパートリーが存在する。主に使われるのは二つ。通称アーモンドと、通称カンメイである。

 

 何故、彼女の挨拶に「通称」がつくのか、何故アーモンドなのか。それは……

 

「あれー?ぺこらー?」

 

 先程まで後ろについてきていたのであろう兎がドアから入って来ず、自称船長がドアから首を出して廊下を見ると、すぐに見つけたのか引きずるようにして廊下から体育座りの兎を教室内に連れ込んだ。

 

「あ、あっ、う」

 

 普通なら固唾をのんで見守るような場面だが、この学校は違う。視界の横にぺこらを入れながら、何気ないように和気藹々とそれぞれが適当に話している。

 そう、無理に挨拶する必要はない。ただ、挨拶をしてくれると嬉しいというだけで、ぺこらが嫌ならしなくていい。だから、挨拶をしに行くことはしない。

 

 だが、挨拶をしやすい環境にすることはできる。それで挨拶されなくても、それはそれでいい。

 

 ぺこらはクラスメイトを見渡し、船長、フレア、脳筋騎士、るしあをちょっと泣き目になりながら見て、覚悟を決めたかのように深呼吸した。

 

「……こんぺここんぺここんぺこ〜、どおもどおも!」

 

「アーモンド!」

 

 統制された返事を返し、完全に縮こまってしまった兎の逃げ足の速さに感心させられながら、今日も今日とて彼女らに目を光らせる。バレないように。

 

 まぁ、そろそろ、お前どこ目線だよ、という言葉が聞こえそうな気がするので、毎日恒例の自己紹介コーナーといこう。

 俺の名前は片桐カタル。学校での優等生である。だから委員会に入っている。

 その内容は、彼女らのてぇてぇを守ること!意図的な干渉は許さない。てぇてぇが全てだ!

 

 なんで、こんなことになったんだろう…(回想フラグ

 

――――――

 

「いや、可愛いって思ってたけど、配信者だったんだ!」

 

「やべぇな、まじ、やべぇな」

 

 この頃の俺は有頂天だった。この学校に入学当初、2年前からの推しが同じ学校の、しかも同じ学年になれたのだ。嬉しくて天界に昇るような思いだった。

 更に同時期、彼女らは急激に配信者として一躍有名になり、世界を魅了するルーキーとしてその存在を知らしめ始めた頃だった。

 

 そして、幸運に幸運が重なり、俺はついに大罪を犯そうとしてしまった。

 てぇてぇを壊そうとしたのだ。

 

 だって仕方ないだろう。チャンネルの登録者数が500人の世代から応援してるのだ。感極まって何かしらの関係を作りたくなってしまうだろう。

 そこで止めてくれたのが、今所属している委員会。風紀委員だ。

 

 風紀委員とは名ばかりで、基本的に問題の起きない本校では必要のない存在になっていたが、彼女らを守ることによって存在意義を見出し、委員会としての活動を開始した。

 また、問題が起きないため活動がなく、時間に余裕のある委員会なのでオタクの連中がこぞって入っていたのも一因だろう。彼ら彼女らにとっても、あの配信者達は大切な存在である。

 

「君もこの委員会に向いていそうだ。どうだ?参入する気はあるか?」

 

 正直、嬉しい申し出だった。仕事内容は知らなかったが、こうして俺の行動を阻止してくれたのだから、彼女らとの関係が強いのかもしれない、と予想できた。

 まぁ、妄想だったのだが。

 

「いやでも、演説とかあるんですよね?」

 

 だが、残念ながら俺はあまり人前で喋れる人間じゃない。別に彼女らはこれからも見れるわけだし、それだけでもいいと思っていた。

 

「いやいや、あれは生徒会の人たちだけだ。俺らには関係ない。適当に書類書いて推薦すれば、成績が目立って悪くない限り採用されるはずだ」

 

 何という好条件。あぁ、神様、ついに俺は報われた。と、昔の俺は思っていた。あぁ、本当にあれは騙されていた。今なら即効断る自信がある。

 

「……お願いします」

 

「あぁ、体格も良さそうだし、歓迎だ」

 

「え?」

 

「いや、なんでもないよ」

 

 今、体格も良さそう、といったか?いや、ひょろひょろだが?

 

――――――

 

 こんなことがあり、委員会に入ってからは筋トレして、体力もつけて、髪も一ヶ月に一回切るようにして、持ち前の観察眼を用いて、てぇてぇを壊すものを未然に防ぎ、いつの間にか学校中が風紀委員を怖がって、てぇてぇを壊さなくなった。嬉しいことだ。

 

「はいー、ぺこらっちょの負けー」

 

「ぺこーらにもう一回やらせろ!」

 

「無理ですぅ!もう時間ですぅ!」

 

「クッ、あれはノエノエの妨害がなければっ」

 

「そんなの関係ありませんー!何ならるしあがね、マジやばかった」

 

「え、いや、何なのかわからないのです。るしあ、ワカラナイ」

 

「いやいや、あれで分からないはないぺこでしょ」

 

「るしあは適当にやって2位だった……?」

 

「あ、うん、いやぁー!本気でやってたら1位行けちゃったなぁ!フレアにも勝てたなー!」

 

「かかって来な」

 

「かかって来なwww」「FA↑FA↑FA↑FA↑FA↑FA↑」

 

「フレアかっこいー!かっこいーよーフレア!」

 

「えー、ノエルも3位だったじゃん。おめでとう、ノエル」

 

「ありがとーフレアー!今度は一緒のチームでやろうね」

 

「ねー」

 

 おー。考え事していたら、いつの間にか盛り上がっているではないか。因みにやっていたゲームは七並べらしい。あれって一人でやるものじゃなかったのか。

 

 さて、そろそろ俺も一限目の準備をするか。ええと、確か、数学Iで次が化学か。どちらも教室が同じだし、今日はラッキー。

 

「あの」

 

「え?」

 

 なんてことを思っていると、ふと聞き覚えしかない高い声がとても近くでした。

 

「……なんでしょう。兎田さん」

 

 不味い。なんで俺のところに…?風紀委員の職権濫用などと思われたら、現在の均衡が崩れてしまう。すぐに離れなければ。

 でも、態と離れるのは、それはそれで不味い。俺がぺこらが嫌いだから、皆にぺこら達をハブらせた。と思われたら最悪だ。

 

「あの……化学の教科書を貸してほしくて……ぺこ…」

 

 貸していいのか?どうせなら差し上げたいが、それを受けるような性格じゃないだろう。

 まぁ、でも、これで俺は、化学の教科書を持っていない、と言えばすんなりとこの緊急イベントを回避することができる。勝ったなガハハ。

 

「いや、しつれーかも知れねーけど……なんか、同じ匂いがするぺこ……」

 

 いや、逆だ。ここで断ったら、ぺこらが幸せになれない。この兎は俺に話しかけるので全勇気を使ったんだろう。そういう性格だ。

 

 長い耳を申し訳なさそうに折り曲げながら、俺の答えを待っている。こういう時、さっさと渡したほうが気が楽なのは分かるが、できないことはできない。

 畜生。風紀委員と兎田の幸せと、どっちを取るべきだろうか。

 

「あの、俺ので良かったら貸しますよ?」

 

 横からモブA(仮)がぺこらに化学の教科書を渡し、ぺこらはそれを受け取って行ってしまった。

 

……ふぅ、いや、助かった。今回の件は大目に見てやろう。モブA(仮)、ありがとう。



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てぇてぇとは唯一の永久機関である

 さて、俺は今、毎日恒例の風紀委員会に参加している。この会議では彼女らホロライバーが自然体で過ごせているかの確認と、より良い生活を送れるような案を出す場である。

 とはいったものの、実のところこの会議はホロライブのためではなく、自分たち学生のためのものである。

 

 それというのも、現時点で彼女らそれぞれにとって限りなく良い学園生活を送れていると自負しているため、これ以上を目指すよりも、現状を破壊せずに更に加えて自分たちのより良い生活を考えるべきだと結論を出した。

 そのため、生徒用に意見箱を設置し、その意見に添えるように議論するのが今回の会議である。

 

「えー、意見箱で最も多い意見は……相も変わらず"もっとホロライブと仲良くなりたい"でした」

 

「はぁ……何度送られても受理しかねる意見なのだ。だが、そろそろ皆も我慢の限界だろう」

 

「えぇ、最近でもちょっとずつ仕事量も増えてますし、何なら野兎が教科書を貸していました」

 

 意見箱を開くのは風紀委員の天空(あまそら)エリアである。彼女は天空をアマゾラと読まれると少しキレる。

 そんな彼女は俺が所属する前から風紀委員として活動をしている天界のヒトである。

 

 そして、もう一人同じく活動しているのは早波(さは)ハルである。発音は《さわ》である。

 彼は元々港に住んでいて、そこから引っ越してここに入学したらしい。

 

「ふむ、だがしかしなぁ。そうなると今の制度から大きく外れたものにしなくてはならない」

 

「確かに、そう思うのはわからなくないですが、後方腕組みだけが、ファンとしての見方ではないと思いますよ」

 

 嗚呼、始まるのか……。そう、俺は察してしまった。

 これは俺が風紀委員に入りたくない理由であり、どうしようもない価値観の相違――喧嘩である。

 

 この風紀委員は基本的には一心同体。どこまでいっても1ファンとしての域を出ないようにしている。だからファン同士の喧嘩はさせないし、目立ちたがり屋の連中やアンチの連中の言葉はホロライブに聞こえないように遠ざけさせている。

 それでもヒトなので、ファンの推しの違いから始まり、解釈や求めるものに違いがあり、喧嘩を止められないこともある。

 

 それは風紀委員にも当てはまり、特にそこだけは互いに相容れない二人は、いつも会議の度に喧嘩を繰り広げる。

 

「いいや、自然体の彼女らこそが至高であり、全ての失敗も成功も見守るのがファンの務めだろう。ファンの指図で動く彼女らを見たいわけではないだろう?」

 

「そんなことはありません。関係性というものは何れにしても軋轢を生じ、瓦解し、離別してしまいます。それを望まないのなら、こちら側からのサポートが必要なはずです」

 

「いや、それすらも彼女らは乗り越えて、また仲直りをするだろう。むしろ、そういう望まない環境でも見守り続けて応援することこそが関係をより強固にするのだ」

 

「そんなことはありません。一度でも隙間ができてしまえばそこを埋めるのは容易ではありません。ヒトは関わり合って生きているのですから、メンバー以外の誰かから力を借りても、理に適っています」

 

 はぁ、面倒くさい。本当にこのヒトたちには、こんな痴話喧嘩に付き合わされる人間の身にもなって欲しい。これで会議の大半を使うのだから、勘弁してほしい。はぁ…。

 

「……じゃあ、俺、見回りに行ってきます」

 

「全く、何もわかってないな。あの可愛さに触れるのがどれほど罪深いことか分からないのか」

 

「それだから、頭が硬いと言っているのです。おだてあげすぎても、それはプレッシャーになります。それに失敗に対して何も言われずに見られるだけというのは、プレッシャーを超えて一種の恐怖です。そんなものを与え続けて恥ずかしくないのですか」

 

 まぁ、一時間ぐらいで戻ってくるか……。

 

――――――

 

「マジ、アイツらチョーシ、ノッてるよな」

 

「ちょっとカワイイからってね」

 

 この学校には珍しいタイプのテンプレのモブ達を横目に、心の中でアニメの素晴らしさを語るとしよう。

 

 ああいう、インスタだけやってるような連中にはきっと分からない世界がここにはある。あのように、一々全てを批判的に見てる奴には見えない世界がここにはある。

 アニメに始まりオタクの集う場所とは永久機関である。可愛いキャラ、濃い設定、カッコいいシーン、少ない文字数…etc。全てが視聴者、読者の需要に合わせた供給である。

 そして、オタクは供給に対して多くの需要を新たに開拓し、新たな供給を生産者がする。とても素晴らしい世界だ。

 

 しかし、ここでオタクがいるから生産者が生きていけると、オタク達は驕らない。

 彼ら彼女らは俺たちを生かしてくれる救世主である。だから、生産者側が疲れてしまうのは分かるし、それに対して兎や角言わない。それが民度である。

 

 つまり、オタクは聖人君子である。それが分からないうちは、民度が高まることはないだろう。

 

 他にも例を挙げよう、例えば数人で話すとき、オタクは喋らずに話を聞いて、会話を求められたときにも遠慮してるだろう。

 例えば、団体で何かに誘われるとき、自分はそこに行けるようなヒトではないと言って、断るだろう。

 

 やはり、オタクは聖人君子である。QED.

 

「……フッ」

 

「あ?何笑って、え、うわキモっ」

 

「え、ヤバ、ちょキモ過ぎ」

 

 そんな捨て台詞を吐いてモブ達はどこかに行ってしまった。

 まぁ、それなりに鍛えてるしな。喧嘩を売る相手を選んだのだろう。いい判断だ。

 

 それはさておき、早速ホロメンを探さないとな。風紀委員会がある時は風紀委員の目がないと思って、関わろうとする輩が必ず出てくるのだ。

 

「ししろんのジュースとねねのジュース交換しよーよ!」

 

「やだよ。私、炭酸苦手だし」

 

 この声は…!獅白ぼたんと、桃鈴ねね、だ。獅白の方はいいとして、桃鈴の方は人前だと他人目を気にするタイプなので、少々離れたほうがいい。

 俺は彼女らにバレないように物陰に隠れて、彼女らがどこかに行くのを待つことにする。

 

「えー、じゃあ、頂戴!」

 

「んー。……?」

 

 会話が止まった……?気づかれたか?いや、十中八九気づかれただろう。

 どうする?俺はどうすればいい?風紀委員の掟、学校の均衡のためには、俺とホロメンは関わってはいけないのだ。

……畜生、万事休すか。

 

「……向こうから、ジンギスカンにできそうな羊の匂いが」

 

「鼻が効くのって、犬じゃなかったっけ」

 

「ねねちゃん、走るよ」

 

「え、ちょっと待って、うわっ」

 

 どうやら、俺がバレたわけではなく、匂いに吊られたらしい。助かった…。

 というか、別に物陰に隠れる必要性なかったのではないだろうか。走って通りすぎれば、怪しくないしこの場から逃げれたし。

 

 そう思っていると、獅白が走りながら一瞬だけ振り向いて、こちらに目線を合わせた。

 

「え」

 

 やっぱりバレてた!というか、バッチリ顔を見られてしまった。

 

「やっちまった……やっちまったぁ!」

 

 これだから、風紀委員なんて入りたくなかったんだよ。嗚呼、責任なんて背負いたくない……。俺はただ見てるだけで、満たされていたはずなんだ。だのに、なんでこんな、ホロメンにバレないようにホロメンを守る、なんてことをしなくてはならないんだ。

 

 俺はただのオタクだ。しかもただの人間だ。ちょっと鍛えていようが、周りから優等生と言われていようが、根は変わらない。オタクである。オタク人生の中に学生の時間を捻じりこませているだけの人間である。

 そんな俺にこんな風紀委員なんて向いていない。

 

「……帰ろ」

 

 まだ、色々喧嘩してるだろうけど、もう何回目かの辞意を示しに行こう。

 

――――――

 

「ギャーギャー!」

 

「キーキー!!」

 

 未だフルスロットルに言葉のキャッチボールをしている風紀委員の先輩達に委員を辞する意を表明する。

 

「いや、受理しかねる。お前がいなくなったら、誰が議題を纏めるのだ」

 

「そのとおりです。貴方がいなくなったら、この男が天に召されてしまいます。ぶっころです。そんなことしたら契約違反になってしまうので、貴方は必要です」

 

 この先輩達、頼りねぇ。つーか、血の気が多すぎだろ、エリアさん。

 

「それでも――」

 

「いや、待て待て。今日は焼き肉を奢ってやろう。話はその時に聞いてやろう。うん、そうだな。心のケアは大切だもんな」

 

「じゃあ、私からは、将来を占ってあげましょう。きっといいこともありますよ?」

 

……はぁ、今回も無理か。どうせ、焼き肉に行ったら、うるせぇ、もっと食え、とか言われて、結局この件は先延ばしにされるし、占いに関しては一日後しか出てこないし。

 

「そんなチンケな安い占いなんかで心のケアができるわけ無いだろ」

 

「焼き肉なんて、どうせ食い放題なんでしょう。それだって千円ぐらいなんだから、対して変わらないでしょう」

 

「焼き肉を舐めてもらっちゃ困るね。人間はまだこの歳じゃ酒が飲めないのは仕方ないとして、それがなくても十分に楽しめるものだぞ」

 

「あぁ、成る程。海には肉がないですからね。だから、肉というだけで喜ぶのですね。可哀想に。それよりも、天界にしかない占いの方が人間にとっては希少価値が高く、魅力的に見えるものです」

 

 嗚呼、面倒くさい。帰りたい……。



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ガチ恋勢の反乱

 世の中には様々な考え方が存在する。ハル先輩のような後方腕組み、他にも杞憂民や指示厨。エリア先輩のような単推しや箱推しなどなど。

 その中にガチ恋勢と呼ばれる民もいる。彼らはホロライブの魅力に魅了され、人生を捧げる覚悟を決めた猛者のことを言う。

 

 唐突にこんな話が切り出されても困ると思うので、端的に説明しよう。

 俺ら風紀委員が焼き肉屋に向かう途中、所謂ガチ恋勢の過激派の十数人による現体制への抗議デモに出会ってしまった。

 抗議デモと知っていれば近づかなかったのだが、夜道だったこともあり看板に何と書いてあるのか分からず、声はホロライブについてだと判断したため、エリア先輩が近づいてしまったのだ。相手側からすれば、敵である風紀委員が注意しに来たと思っても仕方ないだろう。

 

「ホロメンとの会話の必要性を認めろ!」

 

「今度、話し合いの場を設けさせて頂きます」

 

「ホロメンだって学生だ!一部の学生のみ待遇が違うのは、この学校の校則に反する!」

 

「今後、風紀委員として、その件に関して検討して参ります」

 

 風紀委員の注意喚起に対して即刻撤廃!恋愛自由!を謳うガチ恋勢に適当な対応して、逃げるように学校を後にした。エリア先輩、対応に慣れすぎだろ。

 

「エリア先輩、話し合いの場ってマジですか?」

 

「えぇ、今のままでは埒が明きませんからね。ここで一旦、外の意見に耳を貸すのも有効な手段です」

 

「そんな簡単に決められたら困る。委員の予定は基本的にホロメンの安全を確保することだ。他に時間を割けない」

 

「それは、片桐に任せればいいでしょう。私達は次の会議に彼らを呼ぶだけです」

 

「え、ちょ、俺だけで見回りするんですか!?」

 

「なるほどな。いい案だ。よし、片桐に一任しよう」

 

「ちょ、ハル先輩、マジで?」

 

 いや、いやいやいや、もう俺はしたくない。ただでさえ、今日の隠密行動がバレたのだ。またバレるかもしれない。

 だが、会議に参加したいわけでもない。この先輩達と一緒にいたら、胃がいくつあっても足りないだろう。

 

「………………はぁ、分かりました」

 

「よぉし、今日の焼き肉は旨くなりそうだな!」

 

 こういうのって、何て言うんだっただろうか。セクハラ?パワハラ?まぁ、ハラスメントだろうな……。知らんけど。

 

 そして、ヤキニククイーンという名の焼き肉店に入ると、ハル先輩が予約していたのか席に案内された。

 先に言っていたように、俺の分は奢りとなり、三名分の食い放題を買った。

 

「食え食え。もっと食え。これなんてよく焼けてるぞ」

 

「え、まだ生焼け……」

 

「食え食え」

 

 韓国海苔を食べまくってるエリア先輩を片目に、俺の皿には生焼けの肉が並んでいき、俺はちょっと焦げてるぐらいが好きなんですよね〜、などと言って網に戻してから食べた。

 

「そうだ。片桐、将来を占ってあげよう」

 

「はぁ、ありがとうございます」

 

 エリア先輩の占える将来は、最長で一日後のことを指す。それまでに起きる事が分かるそうだ。例えば、前にやってもらった時は、明日の夜は男の性欲を一人で満たしている、だとか言っていた。もちろんした。

 だから、これはどちらかというと、未来予知というものだろう。便利なものである。

 

「明日は……む、ラミィと話している?どういうこと?」

 

 え、ラミィって、雪花ラミィのことだろうか。いや、確実にそうだろう。そうじゃなければ、エリア先輩が反応するわけない。

 

「どこですか?いつ、会いますか?」

 

「それよりも、ホロメンと関係性はないんだな?」

 

「ないです。ハル先輩」

 

「ん、じゃあ、日時は昼休憩時だ。教室内で話しかけられている」

 

 つまり、違う教室なのに、わざわざ俺と話す用事があったということだ。思い当たる節は……獅白に目をつけられたことか。

 

「じゃあ、風紀委員の部屋で弁当を食べるので、鍵開けといてください」

 

「おう」

 

――――――

 

 次の日、俺は無駄に食わされた焼き肉で胃もたれしつつ、適当な薬を飲んで学校へと歩を進めた。

 

「今日は、なるべく気をつけて行動しないとな。というか、むしろホロメン全員が知ってる可能性もあるわけか。……はぁ」

 

 エリア先輩に注意されたのは昼、つまり、それまでに会うホロメンは俺の昨日のことを知らない可能性がある。

 だから、船長、団長、フレア、るしあ、ぺこら、には知られてないのだろう。

 

「止まりな」

 

「―――ッ」

 

 この声は獅白?なぜ?未来予知で言われてないぞ。

 いや、ここは至って冷静に対処しなければならない。不自然なくこの場から逃げれるよう模索しなければ。

 

「なんでしょう。獅白さん」

 

「昨日のこと、まさか忘れてないですよね?」

 

「何のことですか」

 

 流石にギャングタウンの血は濃いか。プレッシャーが凄まじい。俺より小さいのに迫力は大きい。

 

「はぁ……まあいいです。けど、まさか、ねねちゃんじゃなくて私だとは思いませんでしたよ。てっきりねねちゃんをストーカーしてると思ってましたから」

 

「別にストーカーしてませんが」

 

「ほら、昨日のこと覚えているって言ってるようなものですよ」

 

 む、鋭いな。このまま会話の主導権を握られると、逃げ出せない可能性があるので、ちょっと話題を変えようか。

 

「……俺の住所はこの近くです。たまたま、登校ルートが被ってしまっただけじゃないですか?」

 

「知ってますよ。定期考査の結果も優秀でよく目にした名前でしたし、偶に帰り際に見かけますし。でも、こっちは割と遠回りのはずです。こっちにわざわざ来る用事は、昨日のことを考えて一つしかないんですよ」

 

 なるほど。確かに疑われても仕方がない。というか、俺の家知ってるのかよ。

 まぁ、それはさておき、残念ながらこちらの道を選ぶ理由は他にもある。それは、最も近い道はホロメンがよく通っているのだ。俺はなるべくホロメンから離れたほうがいいので、結果的にこの道をよく使うのだ。

 

 だが、これは話せない。話してしまえば、風紀委員のやってることが、水の泡である。

 

「なるほど、それで俺を心配してくれたんですね」

 

「そう、ストーカー……え?」

 

 おお、ししろんの困惑顔なんて珍しい。今日の俺はツイてるな。まぁ、声をかけられた時点で、大凶なのだが。

 

「昨日のような人気のない場所に独りで座っていたり、登校ルートが人気のない道だから、俺が何かしらのイジメを受けていて、こうせざるを得ないと思ったんですよね。でも、大丈夫です。俺がちょっと人ゴミに酔いやすいだけなので、はい」

 

 まくしたてるように喋って、相手の良心と俺のパッションの相乗効果を利用してこの場を収めようとしてみたが、どうだろうか。中々良くできたと思う。

 

「それよりも、ちょっと学校でやることを思い出したので、先に失礼します」

 

「え、あ、うん」

 

 よし、逃げるべ。



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そこらの変態と一緒にするな、こちとら紳士だぞ

 ししろんから逃げて数分後、無事学校に到着した俺は風紀委員会室の鍵を職員室で受け取り、その足で委員会室の鍵を開けそこにある椅子に座った。

 椅子の背もたれに体を預け一息つく。

 

「……はぁ」

 

 登校中にししろんに会ってしまった。それがどれだけ重要で危険性の高いものか、エリア先輩ならわかるはずだ。

 俺ら風紀委員が徹底している「ホロメンの自然体を守る」という規則。これは校則ではない。故に、ただのお願いに過ぎない。けれど、学校全体がこのルールに則るのは、皆がホロメンは自然体の方がいいと思っているための同調圧力である。もとい善意である。そもそも、ホロメンと関わりたい、とほとんどのヒトが願っているのだ。それを無理に止めているのだから、俺達がホロライブと関わってしまえばこの均衡が崩れることは火を見るよりも明らかである。

 もちろん、関わったところで自然体でなくなる、なんてことはないかもしれないが、可能性が少しでもあるなら全くない方を選ぶ。

 

 そういう性質の規則のため、風紀委員がホロメンと関わらないことが必要不可欠である。それなのに、俺はししろんと登校途中で出会ってしまった。これが知れ渡れば、規則が無効化されてしまうだろう。

 

 しかも、この活動をホロメンは知らない。当たり前だ。知っていたら自然体とは程遠い姿になる。

 それに、活動内容自体はほぼストーカーに近いものがある。というかストーカーである。学校内のみと言えど、意図してホロメンを見ているのだから、ストーカーと呼ばずして何になろう。

 そのため、風紀委員がホロメンと関わってしまえば、職権濫用と思われてしまっても仕方がない。

 

「……そう思うと、マジメにキモくね?」

 

「そんな君に!じゃじゃーん五円玉と紐!」

 

 どこから入ってきたのか状況の掴めないまま、若干テンション高めなハル先輩が紐の一端を五円玉で吊るしたものを振り子にして俺の目の前に持ってきた。

 揺れる五円玉を目で追っていると、その奥のハル先輩がぼやけて揺れ始め、揺れる二つの物体を眺めていると……

 

「キモく、ない。ストーカー、キモく、ない……」

 

「その通りだ。なんかちょっと違ったが、その通りだ」

 

――――――

 

 うぅ…なんか、頭痛い。まるで、考え事に途中で蓋をされたような催眠にでも罹った感覚だ。

 だが、まぁ、今日も一日、百合に挟まろうとする変態に、紳士的な鉄槌を下してやろう。

 

「ぺ↑ーこぺこぺこ、まっ、幸運兎ってわ〜け!」

 

「でも、ぺこらっちょ3位だよね」

 

「いーの!世の中、負けない奴が勝つぺこなんだよ!」

 

「ほら、早く終わらせないと、授業始まっちゃうよ」

 

「るしあ~、早く取りな~」

 

「じゃあ、大人しくカード渡しな、マリン」

 

 今日はどうやら、ババ抜きをやっているらしい。今は船長とるしあによる一騎打ちの状態で、一抜けが団長で、次点にフレアのようだ。

 船長はるしあに見えないようにスペードの10を前に出し、心理戦に持ち込んだ。

 

「はい、ババあげるよ」

 

「いや、マリンからババアは取れないからw こっち貰うねw」

 

「はあ?るーちゃん、いやいや、るーちゃん。あーあ、やっちゃったね。うわーライン超えたワー。ライン超えダワー」

 

「ドロー!!はい、勝ったぁ!」

 

「残念でしたぁw ざまぁw るしあの考えなんてお見通しなんだワ!」

 

「クッ……いやいや、まぁ、まぁね。ここは一旦冷静にね、うん」

 

「早く引かせな〜。るしあの考えなんてスケスケだから。王国建てちゃってるから」

 

「王、国……?何それ?」

 

 るしあが船長に質問したタイミングで鐘が鳴り、授業の時間を知らせた。俺は次が体育のため早めに移動しなければならない。

 船長がフレアにテニヌって最近だよね!?と訊き、最近、ではないんじゃない?と返されているのを後にして、俺は離れたところにある運動場へと向かった。

 

 

 

 さて、どうやら今日も授業はゲームをするらしい。ゲームといっても半分デスゲームみたいなものだが。

 ルールとしては、2チームに分かれて相手陣地にある5本のポールを相手より多く時間内に折れば勝利らしい。それ以外は何をしてもいいが、両陣地外に出ると失格となる。

 

 これはゲームなので勝ち負けが結果として出る。そのため、張り切る者、気怠げな者、楽しむ者などが存在する

 だが、俺にとってはこの勝負の勝ち負けはどうだっていい。俺が最も優先するのは、てぇてぇやカワイイを近くで見ることであり、次が風紀委員の仕事である。勝負の行方なぞ眼中にない。

 とはいえ、ゲーム自体には興味があるし、風紀委員の仕事とも重なるので真剣に取り組む他ないだろう。

 

 その理由は、この度のチーム分けは、SMOK(スバル、ミオ、おかゆ、ころね)率いるチームと、ホ口ライブ(さくらみこ、すいせい、フレア、ポルカ)率いるチームの対決である。こいつはアツい死合いになりそうだッッッ!

 

「やべぇよ、あいつらやべぇよっ!」

 

 最初に騒いだのは大空スバルである。四つん這いの獣人が多い中で唯一のアヒル(人間)である。95dbの音を常に出す事ができ、本気を出せば空も飛べる。(ムリ)

 緊急事態に対する応対が早く、割と運動神経もいいのでもしかしたら戦力にならないこともないかもしれない。

 

「だよねぇ。すいちゃんをどうするか、だよねぇー」

 

 落ち着いているようで若干焦っているのは猫又おかゆである。夢は戦場の真ん中でおにぎりを食べることなので、今回でその夢が叶うだろう。

 おにぎり屋さんのおばあちゃんの飼い猫なので、獣人といえど戦闘経験は浅い。もしかすると、総合戦力ではスバルと同格である。

 

「ユビを取れば、銃は撃てないでな」

 

 急に物騒なことを言い出すのは戌神ころねである。都会のパン屋の犬なのに訛りが酷いため、お刺身を作り出せる(?)

 また、ユビを取り雑巾を投げてしばきあげパンチングをかます体力の権化である。そのため、戦力的には頼りになるだろう。因みに、先にユビを渡すのが最近の流行りである。

 

「じゃあ、ウチは後ろで守っとくね」

 

 黒髪だけに隠れたダークホース、大神ミオ。自身が狼の獣人であり、ハトタウロスも戦闘向きの合成獣であるため、スペックだけは抜群だろう。

 更に、観察眼にも優れ、リスクを潰すのが上手いだけに、最後の砦という立ち位置が最も作戦としては効果的だろう。

 

「おいおい、あいつら、ヤっちゃいますか?しゃちょー」

 

 斧を片手に告げるのは、星街すいせいである。例の95dbとは対照的に、今日も小さー……コホン。スイコパスである。

 この学校においては珍しく人間であり、身体能力は他種族と比べれば見劣りする。だが、銃などの扱いに長けており、得物があれば脅威となり得るだろう。

 

「社長、ヤりましょうよ!」

 

 ステゴロなら最強、不知火フレア。彼女はハーフエルフでありながら弓を使わず、むしろ徒手空拳のタイマンなら右に出るものはいないほどである。

 だが、団体戦において近接戦闘は不利なので、後方から支援し近づく敵は倒すという位置づけとなるだろう。

 

「え?あぁ、しゃちょー」

 

 遅れてきたため流れがわかっていないのは、尾丸ポルカである。フェネックの獣人という稀有な存在であるため身体能力は未知数だが、持ち前のポルペラによって三次元的な戦いを可能としている。

 ただ、よく迷子になったり遅れたりするため、気づいたときには単騎特攻で自滅する可能性が高い。目をつけていて損はないだろう。

 

「お、う、うん。き、君たち落ち着きたまえ。うん。……こいつら、血の気が多すぎるんですけどォーーー!!??」

 

 そして、彼女らを纏め上げる(バラバラ)のは、さくらみこ、その人である。電脳桜神社のえりーと巫女であり、ホ口ライブのCEOであり、魔王であり、不知火建設のインターンである。また、ゼロを愛し、全ロスに愛された女でもある。

 そんな彼女だが、腹筋はできない。ゼロ回である。だが、全ロスする分、稼ぐのは得意であり、武器の所持数は群を抜けて多い。これを踏まえると、総力戦として頼りになるのにこれ以上はないだろう。

 

 そしてこの俺は今回はホ口ライブのチームである。……え?あ、要らないですか。そうですか。

 

――こうして争奪戦の火蓋は切られ、血で血を洗う大乱戦となった。

 

「ヒャッハー、燃やせ燃やせー!」

 

「やばいっ、死ぬー!全ロスするー!!」

 

「みこちィーーー!!死ねーー!!」

 

「いやそれ、みこ先輩死んでる」

 

 どうやらあの四人は全員で突撃することに決めたらしい。目の前にいる敵にロケランをぶっ放し、気づかない敵は装甲車で轢きまわる。あれでは近づきたくとも近寄れないだろう。

 因みに俺は、今までの恨み!と多数の敵に襲われ、なかなか先に進めずにいた。

 

「うわあぁぁwww 全員で攻めてきたぁwww」

 

「ころねとミオしゃ、あとは任せたぁぁ!おかゆ、IKZ!!」

 

「オレ、この戦いが終わったら、お”か”ゆ”と結婚するんだ」

 

「それ、死ぬときのセリフゥ!」

 

 うんうん、楽しそうで何よりだ。俺もようやくポールを一本破壊したので、ノルマとしては十分だろう。あとはホロライブを楽しもう。

 

「ん?あ、あれ?」

 

「ここから先は通さないシュバなぁぁ!」

 

「……」モグモグ

 

「じゃあ、みこちゃんはそろそろ飛行機呼ぶから」

 

「よし、じゃ、フレアは私についてきて、ポルカはこのまま突撃、ってあれ?」

 

「ポルカおらんよ。どこ行った?」

 

「おらァァァァァ!!そこの車止まれぇぇ!!」

 

「……」モグモグ

 

 どうやらホ口ライブが一瞬目を離した隙にポルカは装甲車から降りたようだ。そこにはポールに向かう予定のころねがいたため、ユビユビされてXpotatoになっているだろう。

 

「あれ?飛行機呼べない!?潜水艦も呼べない!?なんで!!?」

 

「分かんねぇけど、殺せぇーー!」

 

「ん?星4つ付いてない?」

 

「大空警察だ!観念しろ!」

 

「モグ……ん、ごちそうさまでした」

 

「に、逃げるんだよォ!」

 

「わーwww 逃げろ逃げろ〜ww いや、カオスで草」

 

「ふっ、ここはエリートなみこに任せな。サツとかマジ、よゆーだにぇ!」

 

「みこちぃ、それは無茶だろwww」

 

「自称エリートなの草www」

 

「草にwww生やしてんじゃねぇ!」

 

 現状の位置としては、ミオの守るポールに向かったのが装甲車に乗ったすいちゃんとフレアで、バチバチに戦ってんのはスバルとみこちである。おかゆは一旦、ミオの加勢に行ったようだ。そして、ころねは早くもポール目前まで迫っている。

 ちなみに俺は、何もしていない。

 

「オラあぁぁ!捕まれぇーみこちー!!」

 

「いやぁあぁ!死ぬぅー!スバちゃんPONの絆!PONの絆!」

 

「しらねぇぇーー!!」

 

 やはり、純粋な銃撃戦ではスバルの方に分があるようだ。今のままではみこちが敗れるのも時間の問題だろう。

 

「ハトタウロスーいくよー」

 

「おいおい、フーたん。あいつら、ちょっとチョーシノッてない?」

 

「これはイケませんねぇ。殺るしかないですねぇ」

 

「殺るぞこらぁ!!」

 

「タイマンじゃオラァ!」

 

「うぇぇ!?車から降りてきたー!?」

 

 すいちゃんとフレアは装甲車から降り、ハトタウロスとミオと対峙した。ミオは身体のスペックから考えて、相手は装甲車から銃で攻撃すると考えていたのだろう。車から降りてきた二人に驚きの表情を見せている。

 

「ハトタウロスはすいちゃんが殺るね」

 

「じゃあ、私がミオ先輩ですね」

 

「フレアちゃんが相手、ってコトォ!?」

 

 流石にステゴロなら最強と謳われるだけあって、ミオとほぼ互角の戦いを繰り広げている。すいちゃんの方は、ハトタウロスがいちばんつよいだけあって、攻撃を最小限に受けるのが精一杯のようだ。

 所変わって、スバルとみこちの方に目を向けてみる。

 

「うわぁぁ!!やべぇ!ポンした!おかゆ助け…ってあれ!?おかゆどこ!!?」

 

「ハァ↑ーハッハッハー、いやぁーみこちゃんの時代きちゃー。サツごときが逆らうからこうなるんだよォッ!」キマシタワー

 

「ねぇ!怖いこと言ってる、この人。この人、怖いこと言ってるよ!!」

 

 どうやら、珍しくみこちが全ロスせずにスバルを倒したらしい。シュバァ……と言いながらHPを完全に失ったスバルは観客席へと戻された。ソーセージの王でも敵わないとは流石は魔王といったところか……。これはエリート。

 あ、一応これはゲームなので死にはしません。はい。

 

「ねぇ、こいつマジ、強いんだけど!」

 

「すいちゃん、こっちもヘルプ欲しいんだけど」

 

「いや、ムリ。ホントにヤバい」

 

「ウチらがこのまま行けば勝てるかな」

 

 SMOK側からすれば、確実にポールを一本確保しているので、時間切れまで続けば勝てる見込みがあると判断したのだろう。

 逆にすいちゃんはこのままではマズイと判断したのか、装甲車に乗り込んで一時撤退を図ったようだ。

 だが、そうとは問屋が卸さないらしい。

 

「え、動かない!?このポンコツがよぉ!」

 

「ボクがパンクさせといたんだぁ。中々爪が立たなかったから大変だったよ〜」

 

「あれ、おかゆ?すばぅは?」

 

「勝てそうだったから、大変そうなこっち来たんだけど、あんまり意味なかったねぇ」

 

「マズイっすよ、すいちゃん」

 

「いや、待ってふーたん、たぶん星消えてるから……」

 

 先程から言われている星。この星が何かというと、簡単に言えば警察の警戒度合いである。因みに、右上に見える。

 この星は5段階あり、先までは4つ点灯していたが、今では完全になくなっている。つまり、大空警察がいなくなったことを指している。

 すいちゃんがそう呟くと同時に、死角からなにかデカイものが飛び出してハトタウロスをぶっ飛ばした。

 

「金時、体当たり!」

 

「みこち、ないすぅ!」

 

「いや、ポケモ○かよ!」

 

「ハトタウロスぅ!?」

 

「いや〜、飛んでいったねぇ〜」

 

「おめぇーら、口がワリぃーんだよ!!特に青いの!」

 

「あぁーん?なんだァ、てめェ……」バキッ

 

「ご、ごめんなさい、殴らないで、痛い痛い。HPが、死ぬぅぅ!!」

 

「www」

 

 形勢逆転、だろうか。みこち、フレア、すいちゃん、そしてみこちの式神である金時vsミオ、おかゆ、ハトタウロスvsダ○クライといったラインナップだ。

 

「じゃ、みこと金時でハトタウロスやんで」

 

「私、引き続きミオ先輩やりますね」

 

「じゃ、すいちゃんはおかゆね」

 

「たぶん、フレアはウチの方に来るはずだから、おかゆはすいちゃんで、ハトタウロスがみこちじゃない?」

 

「じゃあ、ミオちゃんとボクが近くにいといて、互いにヘルプだしやすくしようか」

 

「分かった」

 

 始まった第2ラウンドでは、みこちと金時の連携によりハトタウロスを場外にまで少しずつ押し込んでいる。みこちがミスらない限り、後は作業ゲームとなるだろう。

 そして、フレアとすいちゃんの方は、背中合わせになっているミオとおかゆに手を焼いており、個々のステータスからしても、万全でないすいちゃんではおかゆに匹敵しないので、厳しい戦いとなるだろう。

 

「あ、金時ごめ――」

 

 ハトタウロスに対し善戦をしていたみこちは、何故かロケランを取り出し、射線上に入ってきた金時にゼロ距離で爆破させてしまった。このままでは金時だけでなく、みこちも全ロスするだろう。

 だが、そこはみこちと違ってエリートな金時は、自分の実体化を解除し、自分の主人のダメージを極力少なくした。

 

 そして、ハトタウロスは視界の奥から現れた爆発物に対処が間に合わず、クリティカルダメージを負った。

 

 

polpolpolpolpol

 

 

「な、なんの音……?」

 

「この音は……!」

 

 独特な音と共に上空から突如として飛来してきたのは、金色の髪を揺らす小さき獣、その名も――

 

「ポルカおるか?おるよ!」

 

 チュドンッ!!と大袈裟に地割れのSEを上げ、ハトタウロスの顔面に刺さった鋭い蹴りがHPを削りきった!

 

「ハトタウロスぅ?!」

 

 だがしかし、そんな上空から落下しているのだから、当然落下ダメージがポルカに入り、自分のHPも消え去った……。

 

「ポルカ、おらんか?」

 

「ポルカおらん」

 

 ハトタウロスが消えた今、この場の人数からして優勢なのはホ口ライブだろう。

 だが、それはこの場での話でありゲーム全体となれば話は別である。

 

 ミオは何もない空中に向かって大きく振りかぶったかと思えば、瞬間移動してホ口ライブの近くに行きフレアに渾身の一撃を喰らわした。

 そこで咄嗟に反応したすいちゃんは射線上に仲間がいないことを確認した上で、先に買ってあったAK-47を片手にミオに銃撃を送った……が、その弾幕の先にいたミオは幻のように消え、元いた位置へと戻っていた。

 

「次!」

 

 先と同じ要領でまたもやフレアのHPを削り、自身はノーダメの状態をキープしていた。

 そう、これこそミオの能力、【実は幻】。彼女は獣人ではなくケモミミ少女であるし、彼女は神出鬼没な登場を良くする。ただその力は神社に引き寄せられやすく、それに親しい巫女というものは出没先として優秀な場所である。つまり、さくらみこが存在する限りその周辺に出没することが可能である。ただ、欠点としては、みこちから離れるほど出没のロスタイムが多くなる。

 

「ちょ、どーなってんの、これ?!」

 

「ふーたんとすいちゃん、取り敢えずバラけよう!」

 

「イエス!社長!」

 

「ボクもいるよ〜」

 

 残りHPもミリだったフレアは、おかゆの攻撃に呆気なく敗れ、フレアを観客席へと送った。

 その瞬間、タイムアップを告げる鐘がフィールド内に響き渡った。

 

「終わり、か」

 

 一応、仕事はこなしたが、やっぱり疲れるな、これ。



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パンツの色を聞くには早すぎる

 二時限分の実技の授業が終わり、次の生物基礎の授業では、PP天使が消しゴムを破壊し、悪魔(天使)に消しゴムを借りるも、それすらも破壊するのを視界の端に捉え、ニヤける表情筋を全てねじ伏せていたら授業が終わり、四限目の物理基礎では、ときのそらがあくたんに転がるボールに抵抗する力を「じゃあ敵だね」と呟きながら教え、あくたんはそれにビビりながら震える手で文字を書き連ねていた。

 

 

 そして、ついに昼休憩がやってきてしまった。

 この時間はエリア先輩に占ってもらった結果、教室でラミィと対話していることになっているので、それを避けるべく風紀委員会室に向かう手筈になっている。

 しかし、ししろんに登校中にバッタリ出くわしたことから、一抹の不安を抱えつつ委員会室にて焼きそばパンのパッケージを破った。

 

「……お、配信してるのか」

 

 部屋に一人で食べてるだけだと手持ち無沙汰だったのでノートパソコンを立ち上げ、ホロライブのアーカイブを漁っていると、ちょこ先生がゲリラの配信枠を開いていた。

 さてここで、学校にいるはずなのにどうして配信してるのか、という質問だが、答えは簡単である。そういう学校だからだ。これ以上は追求してはいけない……。

 

 この学校の放送機材は主に放送部が管理しているが、防音室などの特殊な部屋は生徒会が管理しているため、生徒の意見を多く取り入れている生徒会が配信ができる機材を貸してほしいと頼めば、放送部は快諾してくれる。そのおかげで、ホロライブも昼に配信が可能なのである。

 

 ただ、問題なのは俺が見ているパソコンは学校のものであり、学業に関係ないとされる動画投稿サイトのようつべは閲覧不可である。もちろん、無理矢理見てもいいのだが、履歴がほぼ見つけられなくなるほどの技術は持ち合わせていないので、このパソコンでようつべを見るのは諦めたほうがいい。

 ならば、どうやって配信を覗いているのかというと、配信に関して学校の風紀に関わるようなことをを云わないか注意する必要があるため、放送部に配信画面自体をこのパソコンを繋げてもらい、実質配信を見ている状態にしているのである。因みにこれをやったのはエリア先輩である。

 

……え?このライブを見たいだけだろって?フッ、推しというのは推せるうちに推すべきだろう。

 

「おじゃましまーす」

 

 2回ノックしてドアノブを捻りドアを押し開けて顔を見せたのは雪花ラミィである。

 俺はちょこ先生の配信を切ることに少し躊躇したものの、音声を切って画面を生徒会への定期報告用紙に変えた。

 

「ど、どうしましょ…しまひ…ました?」

 

「あれ?誰かと話していなかったですか?」

 

「あ、いや、あの、え、あ、はい、えー、文章を読む時喋ってしまうタイプなんで、えぇ」

 

 今度からはイヤホンをしてから、配信を覗こうと決意を新たにし、ラミィに目を向ける。

 雪花ラミィはこの学園におけるホロライバーの一人であり、顔が肝臓である程の酒豪でかつ恐ろしい程の豪運を持ち合わせる一匹の芝刈り機である。ラミィの住まいである人里離れた白銀の大地で芝刈り機を使うのか甚だ疑問だが、だいふくにとっては必要なのだろう。

 

 ラミィがドアに対し直角になっている俺の近くに寄ってきたので、俺は慌ててノートパソコンを閉じ、席を立った。

 

「ん?何か隠してます?」

 

「い、いえ」

 

「そうですか」

 

 皆の衆は俺が今、とてもキョドっていると思うだろうが、実はもっとキョドれる。本当である。

 それというのも、エリア先輩による占いというのは確定事項と不確定事項があり、そのため、先輩は確定事項を先に言う。だから、今回の場合は、「ラミィと昼に話す」ことは確定であり、「教室で話す」ことは不確定である。

 それを知っていたため、事前にラミィが来ることは予期していた。

 

「お邪魔します」

 

 続いて入ってきたのは獅白ぼたんである。これにはさすがの俺も椅子から転げ落ちそうになった。

 いや、エリア先輩の占いでは言及されてなかったし、まさか一日に二回も会うことになるとは思わなかった。

 

「きょ、今日は、どど、ど、どういったご用件で……?」

 

 すげぇ!推しが二人も目の前にいる!やべぇ!と、俺は心の中で叫びつつ、至って冷静にキョドらずに質問すると、二人は一度目を見合わせてから俺の対面にある席に座って話し始めた。

 

「ラミィちゃん、私が言おっか?」

 

「大丈夫、ししろん。自分で言うから」

 

 おっ、なんだ?そんな重たい話題なのか?教室で話せるぐらいだから、大して重たい話題ではないと思っていたのだが。

 

「実は、最近、たぶんストーカーされていて、初めは気のせいかなと思ってたんだけど、昨日ちょっと振り向いたらやっぱりいて、ししろんに相談したらここに来ようって、言ってくれて」

 

「そ、私がここなら相談に乗ってくれるんじゃないかって」

 

 普通に重たい話題である。だが、まぁ、確かに教室でこの話題を出せばストーカーがいることが学校中に知れ渡り、この後のストーカーが増える抑止力になるかもしれない。そう考えると辻褄は合うような気がしなくもない。

 

 まぁ、過ぎたことは置いといて、つまりは、そのストーカーをとっ捕まえて欲しい、ということか。だが、学校の外の話となると、俺には手出しのしようがない。

 

「……残念ながら、それは風紀委員の範疇を超えていますので、然るべきところに、例えば、身内なり頼りになるヒトなりに、相談するといいでしょう」

 

 超えてはならない一線を超えた奴には、自らの手で正気に戻してやりたがったが、一学生にできることなどたかが知れている。どうにも歯がゆいことだ。

 

「あ、いえ、ちらっと見えたのがウチの学生服だったんで、おそらくこの学校の学生だと思います」

 

 お、マジか。この学校ではもはや絶滅したと言っても過言ではないほど、ホロライブ好きを面に出す奴は消え去ったというのに、まだ生き残りがいたとは。これは早急に抹殺しなければ。

 

「そうですか……この学校からそういったヒトが出るというのは、我々風紀委員が仕事を怠っていたことが原因です。申し訳ありません。今後はこのようなことが起きないよう、この件について風紀委員会で話し合い、生徒会と連携して更に満足に学生生活を送れるようして参ります」

 

「い、いや、そこまでして頂かなくても……」

 

「ラミィちゃん。これはそれくらいはするべきことだよ」

 

 いや、まぁ、普通は警察が先だとは思うけど、この学校の性質上、学校に先に情報を流してくれた方が嬉しかったりする。生徒の今後とかもあるし。

 

「それで、無理ならいいんですが、その生徒の特徴は…?」

 

「暗くてよく見えなかったんですけど、尻尾がありました」

 

「尻尾?」

 

 尻尾かぁ……。尻尾なんて獣人でも魚人でも生えてるし、中々特定しづらい。

 

「まぁ、はい、分かりました。今度また見かけたら、風紀委員に来てください」

 

「えっ、と、見つけてくれないんですか?」

 

「申し訳ないのですが、特定してもできることがないので。飽くまで出来るのは相談された回数を学校に提出して、注意喚起を要求することだけです」

 

 心苦しいが、本当にそれしかできない。風紀委員としては。

 だが、まぁ、生徒ではなく1ファンとして特定まではしよう。そこから先は学校の判断に任せるべきである。

 

「ありがとうございます。お願いします」

 

「あ、ラミィちゃん先に行ってて。すぐ行くから」

 

 ししろんはラミィを促して、俺と二人っきりとなった部屋でドアに鍵をかけて席に座る。

 そして、怪しく光るハンドガンを片手に銃口をこちらの額に向け、先程より目を鋭くして俺に問い質した。

 

「……普通、銃を向けられたら手を挙げたり、声を上げたり、少なくとも焦る筈なんだけど、それがないってことはそれなりの心当たりがあると解釈してもいいよね?」

 

「……」

 

 何を言っているのかいまいち理解できないが、下手に発言すると鬼というか獅子を出しそうだな……。

 

「私、今の生活が好きだからできれば壊したくないんだけど、必要なら容赦なく撃つから覚悟しときな」

 

 成る程。二度もストーカー行為で名前のあがる人物なんて怪しい以外の何者でもないからな。そりゃ、警戒もするわけだわ。

 

「ふむ。残念ながら、俺は至って真っ当な人間だから、撃たれる理由がない、と思っている」

 

「……じゃ、私の話はこれだけ。ホントに関係なかったら、串焼き奢ってあげるよ」

 

 マジか。ししろんがラミィの為に調査するとか、ししらみてぇてぇかよ。これは俺の出る幕は無いな。



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虐は良いけど、酷は許さない。

 ししろんが銃をポケットにしまって、ドアから出ていったことを確認し、数拍置いてから溜息を吐いた。

 

「はぁ……殺されるかと思った」

 

 いや、普通に焦ってるんだよなぁ。ただ、それを表に出しないだけで。

 まぁ、それはそうと、ししろんからの警戒とかラミィのストーカーとかよくよく考えてみると、ちょっと困ったことになっている。

 

 まず、俺にししろんが警戒心を強く向けているということは、すなわち俺の近くにいる可能性が高くなるということである。そうなると、勘のいいガキにはすぐにバレて良からぬ噂が立つことになるだろう。ここはそういう学校である。

 それに、ラミィが学生にストーカーされているということは、委員会の第一目標が達成されてないことを指している。俺たちはホロライバーに悠々自適な学園生活を送ってもらっていると自負していたが、ここは緩んだ帯を締め直すべきだろう。

 

「……エリア先輩、俺、大丈夫でしたか」

 

「言葉遣いは問題だらけだったけれど、内容に関しては文句はないですよ」

 

「おい、片桐、何故こいつに聞いたんだ?儂は文系だぞ」

 

 いや、文系だからって文章できるわけじゃないでしょ、というツッコミは飲み込んで、ハル先輩とエリア先輩が徐々に姿を現していく。

 これはハル先輩の能力で、波に変化をつけ光を屈折させた事で透明化し、今はそれを解除している。そのため、触ろうと思えば触れる。

 

「それで……確か、ラミィってハル先輩じゃなかったですか?」

 

「その通りだ。だが、見てる限りストーカーなぞいなかったからな。レーダーに引っかからぬよう、何か謀っているのだろう」

 

「まぁ、早波のは探知の精度、範囲ともに少々使い勝手が悪いですからね。やはり、こんな役立たずではなく、私のような広範囲でかつ高精度の一級品でなければ、まともに仕事も任せられませんね」

 

 ここでいうハル先輩のレーダーとは、これまた自分の能力を活かし、自分から波を出してそこに触れる物の位置が分かるというものだ。

 そして、エリア先輩のものは、三次元の空間における情報を取得し閲覧できる、とかいうエリア先輩の能力の真骨頂である。実はこれの派生として占いをできている。

 

「はっ、何を言うかと思えば、そんなことか。貴様の探知機能は位置が判るだけで、何をするかまで判るわけではなかろう」

 

 ただ、ハル先輩が鼻で笑い飛ばしているように、エリア先輩のレーダーはそのヒトの感情までは読み取れない。そのため、エリア先輩はよく誤って注意することがある。

 逆に、ハル先輩は感情の波を感知して、そのヒトがホロメンにとってどのくらい危険なのかが判るため、総じてどちらも同じくらい優秀である。

 

 まぁ、こんな設定上の固っ苦しい説明は色々と省いて簡潔に言うと、そんな優秀なヒトでないと委員会には入れず、それぞれが尖っているため収集がつきづらいのだ。

 その点俺は、そういう意味で秀でたものはないので、一種のバランサー的なものだろう。

 

「と、いうことで、いい加減この件をどうするか、決めましょう」

 

「そうだな」

 

――――――

 

 焼きそばパンとハンバーガーを食べ終わるくらいの時間話すと、昼休憩が終了してしまいそれぞれの健闘を祈って別れた。

 取り敢えず決まったことは、俺はししろんに警戒されているため作戦には参加せず、先輩二人で事に当たることになった。まぁ、ししろんの警戒を逆手に取って、ラミィとししろんの距離を開け、ストーカーに掛かりやすくし、犯行現場を抑えても良かったのだか、ホロメンを餌にするようで気に食わないという理由で却下された。もちろん、リスクが除けないというのも理由だが。

 それに、今回の件は割と時間との勝負なところがあるので、ちょっと潜伏系は採用が難しい。それというのも、今日は先客がおり、日程を変えることを嫌うエリア先輩はどうしても予定を変えたくないらしい。

 

 じゃあ、ラミィの件はししろんに任せろよ、という言葉があるだろう。最もである。だが、そうすると真っ先に向かうのは事務所になり、そこからはトントン拍子に警察が動き出す。これのどこが問題なのかというと、学生が捕まってしまうことだ。学校の評判が落ちることはもちろん、それよりも生徒が前科を背負うせいで将来が生きづらくなるのが問題である。

 風紀委員会に責任などを負う必要はないが、役割の根本はこれを無くすことにあるので、できる範囲で良い方向に持っていくのが道理だろう。

 

 

 とかなんとか言っていると、次の授業が始まったので教科書とノートを開く。ノートには大円の近くに小円が複数個並べられそれぞれの中心を線で結び正六角形になっており、その下には記号の散りばめられた式が書いてある。この式の題目は魔法陣円運動式。なんとも中二病チックな式だが、魔法物理学における最大効率の理想的な魔法陣の動かし方とかいう真面目なものである。

 まぁ、この世界には魔界とも密接につながってるし、仕方ないね。ちな、俺も使える。

 

「起立、礼」

 

 先生が教卓に着くと同時に号令したのは、この学校の生徒会長、百鬼あやめである。

 お嬢は生徒会長というだけあって、生徒の見本となるような高潔で気高く真面目な……訳ではなく、かわ余でいたずら好きでかわ余で偶にポンコツでかわ余な鬼娘である。

 そんなお嬢だが、思わぬ時に切れ者になるので、ギャップに萌える。所謂、ギャップ萌えである。因みに、魔法物理学はあまり得意としておらず、魔法化学の方が得意としているようだ。

 

「遅れましたぁ、ゴメンなさぁい!」

 

 廊下の窓をぶち破って教室に入ってきたのは、紫咲シオンである。朝からいないと思っていたら、2シオン遅れてやってきたらしい。

 彼女は魔法少女のような格好をしてるだけあって、魔法の成績は極めて高く、理論においては魔法付加の多次元の変換の可能性を組み立て、特許を取っており、実践レベルでは黒魔法が得意である。

 因みに、この理論のきっかけとなったものは、運動場でシオンの黒魔法の攻撃を自分に付加し、強烈なキック――称して魔雷脚(マジカルイナズマキック)を繰り出したことによる。これはクソガキックと名付けられた。

 

「………」

 

 そして、こんな状況の中目立たないように平静を装っているものの、逆に目立っているのは、湊あくあである。

 彼女は生粋のぼっちであり、そこらへんの陰キャとは格が違う。ぼっちは陰キャの上位互換と胸(最近実っている)を張って言える真のぼっちである。

……おっと、これ以上ぼっちぼっち言っているとあらぬ人を傷つけてしまうかもしれないので、そろそろやめておこう。

 

 また、44.5(最近世界からあくあが減った)ことゲーマーメイドは魔法は得意としておらず、むしろ必要最低限すら覚えていない。この科目を取っているのは、あくまでも魔法の必要となるゲームのためらしい。

 

 そんなこんなで、シオンは割った窓を修復して席に着き、ノートを広げてその上で寝た。いつもの姿勢である。

 先生は流石に常習犯は覚えたらしく、授業をちょっと難しいところまで早送りし、難問をシオンに答えさせようとして、お嬢に起こせと命じた。

 

 だが、お嬢はそんな命令では頑として動かず、黒板の一点を見続けていたため、もう数秒もするとお嬢は変に思った生徒全員の視線を浴びることになるだろう。そうなると結果的にお嬢の後ろにいるあくあも注目されることになる。

 と、判断したのか、あくあはお嬢を突いて、先生に言われてるよ、と蚊の鳴くような声で囁いた。

 

「余、何も聞いとらんかった余」

 

「えぇ……」

 

 小声と言えど、授業においては静寂を破る声であり、あくあにとってはこの一回を言うのが限界である。むしろ、言えただけ随分と勇気をふり絞ったほうだとも言える。

 したがって、あくあは必然的に自分でシオンを起こすしかない状況に陥り、魔法の使えない己を呪った……!魔法なら起こせるのに……!今、奇跡を起こしたいのに……!

 

「あ、シオンちゃん、起きな余」

 

「うぅん……?あ、はぃ」

 

 シオンはなんとも気の抜けた返事をし、眠気眼を擦って態勢を上げ、大きく伸びをした。

 

「ん〜〜ったはぁ。あくあちゃん、今どこ?」

 

「ぅえぇ……えぇと」

 

 あくあは黒板を指差して問題を解くように告げると、シオンは少し考えてすんなりと答えた。

 途中式も説明した上で答えたため、先生的にも時間稼ぎというかレスポンスがちょうど良かったのだろう。先生はその通りと頷いて、上手く説明を噛み砕きながら黒板に書き込む。なるほど、分かりやすい。

 

 あくあはシオンに向かって、先にあてぃしに聞くとか、シオンちゃんあてぃしのこと好き過ぎ〜、と煽り、それに対しシオンは、そんなことでイキるなんて、構ってちゃんじゃん、などと煽り返した。

 

 

 そうこうしていると、終了の鐘が鳴り、お嬢の号令で授業は締めくくられた。残りは数学Aと現代文である。

 数学Aでは天才ヴァンパイアことメルによる独創的で革新的な解法により下々の者では理解の及ばない答案が出来上がり、先生が困り果てているところを高性能(ポンコツ)ロボットことロボ子がエネルギーの残量の半分を使って、問題になっているなら答えがある、と結論づけた。

 そして現代文では、一般の見解とは違った印象を小説から受けたはあちゃまにより、皆、はあちゃまっちゃまになり、ノートの後半は全てはあちゃまっちゃまと書き連ねられていた。はあちゃまっちゃま〜〜〜〜!




はあちゃまっちゃま(ボソッ


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くしゃみは助かるが風邪は患ってほしくない

 放課後、俺は予定通りに校内の見回りに行っていた。尤も、今回は一部屋のみのものだが。

 

「ラミィのかき氷柱はいかがですかー?」

 

「今ならラミィ水のシロップも掛けま――」

 

「こら!ねねちゃん!んなもん、ないからぁー!」

 

 ねねがラミィの自作かき氷に純度100%のラミィ水を掛けようとして、ラミィに止められているようだ。カワイイ。

 

 この部屋は放課後にのみ開放されるだだっ広いホールのようなもので、何かしらの活動に自由に使える場所である。喧嘩でも夜の営みでもゲームでも運動でも、はてにはラミィのように売店すら置くことができる。そのため、学生の青き春を挑戦へとし向けるこの場所は、数多くの生徒が学生を忘れて楽しむことになる。

 ここで問題となるのが、イジメや犯罪といった風紀の乱れるような行いだが、度が過ぎたときに注意できるよう一応風紀委員が要ることになっている。

 

 だが、今年度の生徒の目的はそこではない。ホロライブとの関わりだ。

 この場は風紀委員としての介入は極力控えるように言われている。だから、全生徒が普段は認められていないホロメンとの会話を楽しむ権利が与えられたということである。

 

 これは至って問題視されるべきこと……なんてことはない。

 

 元々、ホロライブと関係を作るというのは、彼女らの自然体が損なわれることに繋がるため、それでは皆不幸になるから関係を作らせなかったのだ。

 だが、今度の場合、自然体が損なわれないでかつ、皆が幸せになれるのである。というのも、この場は自由参加であるため、ホロメンのうちの誰かが自発的にやってきたことになるため、これすなわち、ホロメンが俺らに関わりに来たという話である。無論、ホロライブ内でのみ関わりたいのなら、邪魔しないが。

 

 そして、なんと言っても俺にとっての嬉しいことは、風紀委員という肩書をかなぐり捨ててホロメンと関われることだ。

 今日この場でホロメンがいる箇所は、AZKi、すいちゃん、わためぇ、とその他歌が上手い生徒数人によるライブ会場、フブキとその他大勢によるユルいゲーム大会、ラミィとねねちの売店、そして、別々に適当に歩き回っているすばちょこるなと、ししろんポルカである。

 

 歩き回っているホロメンは、どうやらナンパなどは避けている様子なので、ラミィ水かき氷を食べた後、フブキのゲーム大会に参加しよう。ライブは今度のソロライブまでお預けである。

 そうと決まれば、まずラミィとねねのところへとむかっていった。

 

「かき氷を一つ」

 

「はい、何味にしますか?」

 

「ラミィす……無味で」

 

「え?味いらないんですか?」

 

 最近多いなぁとボヤきながら、ラミィは手動の削り機で削った氷にストローを挿して、はいどうぞ、と手渡してきた。

 俺はラミィの手に触るのは畏れ多くできずに、細心の注意を払ってかき氷を受け取った。やはり、アイドル単体なら下心を持っても、百合ともなってくると触るのは憚られるのである。

 

 そして、かき氷を受け取った俺は、かき氷を勢いよく食べ、脳へのキンキンとしたダメージと煩悩とを戦わせながら、フブキのゲーム大会へと向かった。

 

 フブキはワイフ……ではなくフレンズとしてゲームを盛り上げ、皆が満足行くよう順番を作って遊んでいる。

 

「にゃー…やーらーれーたー……。って狐じゃい!」

 

 猫やんけ、でお馴染みのオタク系フォックス、白上フブキ。彼女は所謂オールラウンダーというもので、割と色んなものを卒なくこなす。

 また、親しい隣人、黒上フブキも彼女の人気の一つであり、彼女を一言でまとめるなら、オタクに優しいオタクである。

 

 オタクは本来、同族嫌悪の世界の生き物であり、寛容や寛大とは正反対の奇異な生物である。お前とか言うなよ、お前、なんて言う言葉はいくらでも生み出される。

 そんな中、オタクの為のオタク、とかいう素晴らしい狐が発見されたのだ。かわい…けしからん!

 

 やはり、ホロライブはどこまでも超えてゆく……。

 そういう、可愛い娘の集まりなので、みんな見ようね!

 

 おっと、話が反れた。

 そういうわけで、適当に参加しても、適切な距離で接してくれるフブキの大会に参加したい所存です。

 

「は?風紀委員来たんだけど……」

 

「見張りか?うぜー」

 

「あれ?なんかおかしいぞ、フブキのとこに行ってないか?」

 

「は?普段あれだけ規制してんのに?」

 

「まじかよ、自分は楽しむのかよ。引くわ」

 

 などなど。様々なアンチコメントが寄せられているが、痛くも痒くもない。なぜかって?ホロライブを前にして、他人を気遣うやつがいるか?そういうことだ。

 多少のお言葉は貰ったものの、やはり注目を集めるのは大会であり、俺もその大会の一参加者に過ぎないのだ。

 

「はーい、今日は終わり終わりー!白上が疲れちゃったから、終わりだよー!おつこーん!おつこんおつこーん!みんな、付き合ってくれてありがとねー、じゃーねー、おつこーん!」

 

 なん、だと……?参加できていない……だと……?

…………………………ふっ、仕方ないか。また今度の機会にでも、ホロメンと遊ぼうか。うん。……はぁ。

 いや、もちろん、残念だが文句は言えまい。彼女らとて最大限頑張ってくれたのだ。一人で数千人を幸せにできるのだから、本当によく楽しませてくれている。

 

 さて、そろそろ、会議も終わった頃だろうし、委員室に行こう。

 

――――――

 

「――兎も角、一部のヒトを特別扱いするなんて間違っているし、そんな権利を風紀委員が与えられているわけじゃないだろ!いい加減にしろ!」

 

「いかにも。間違ってはいないが特別扱いしているわけではない。彼女らに対して不純異性交遊を図っているので、風紀を保つために規制しているに過ぎない」

 

「くっ、そんな証拠はあるのか!」

 

「証拠ではなく、校則です。程度の判断は学校に全て委ねられているので、そちらを確認するといいでしょう。なんなら、校則改変の意見書を提出しては如何ですか?」

 

 まだ続いているのか。っていうか、なんだこの、かませ犬臭あふれる会話は。

 やはり、オタクというのは、あくまで紳士でなければならないだろう。立場を弁えて、最大限にオタクを楽しむのだ。

 

「つまりは、だ。俺達から干渉するのは疑いがあるが、ホロメンから話しかけてもらえるのならば、問題がないわけだな」

 

「いや、そんなことはない。ここは風紀委員であってファンクラブではないからな」

 

「では、これのどこがダメなんだ!?」

 

「貴様が言っているのは、男の娘とTS娘とフタナリって一緒だよね、と同じことだ」

 

「それを同じにするな!……はっ」

 

「そういうことだ」

 

 いや、どういうことだよ。話に関係性がないんだが?

 と、一人ドアの前でツッコミを入れていると、日も暮れて物音のしなくなった廊下でコツコツという音とともにここに近づいてくるのが聞こえた。

 

 件のお祭りの後、普通は全校生徒が帰ることになっており、お祭りの際、教室に残るものはいない。つまり、委員会、部活、生徒会関係か教師の一部、もしくは警備でなければここを通ることはない。

 そして、警備のヒトは巡回するにはまだ早く、可能性があるのは教師と委員だけである。また、お祭りで委員と部員はほぼ全員が参加しており、唯一仕事で学校に残ったのは生徒会だけである。このことから、ここに来る可能性があるのは、顧問か生徒会の誰か――否、生徒会長ことお嬢は個人的に関係がなければ来るはずがなく、副会長は書紀をパシってることから、来るとすれば書紀こと天音かなた、もしくは、生徒会会計である。

 

 つまり、ほぼほぼホロライブ関係者がここに立ち寄る可能性がある。しかも、この会議をホロメンに聞かれるのは非常にマズイ。何がマズイって、ホロライブ関係の話題が問題として委員会で話し合っていると知られるのがマズイのだ。もし知られてしまえば、問題点として挙げられることを意識して、自然な行動ができなくなってしまうかもしれない。それは俺達の活動理念に反する。

 したがって、この会議を今すぐ中止させる必要があるだろう。

 

「大丈夫だ。分かっている」

 

 俺がドアを開けて入ろうとした矢先、ハル先輩が先にドアを開けて静止してきた。

 中を覗いてみれば、既にエリア先輩しか残っていなかった。



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ライン超え発言

「全く。心配性ですね。私が予定に遅れるわけないではないですか」

 

 少し興奮気味にエリア先輩はそう言った。

 

「っていうか、やっぱりそうなんですね」

 

「ええ、もちろんです」

 

 俺の予想は正しかったようだ。

 まず、ここに来る可能性として挙げていたのは、顧問と生徒会書紀、生徒会会計の3人であるが、エリア先輩の存在により、生徒会書紀の天使の可能性が上がるのである。

 それというのも、エリア先輩はかねがね予定に遅れたくないと言っている。この発言はエリア先輩にとって、ホロメンを守るより重要なことがあるということだ。そして、エリア先輩はホロメン単推しであり、対象は天音かなたである。

 

 よって考え得る可能性として、エリア先輩と天音かなたが会う予定がある、と考えられる。

 

「貴様、風紀委員の理念を忘れたか!」

 

「あらあら、こんな機会もないからって嫉妬ですか。ふふっ、可愛いものですね」

 

 余裕、圧倒的余裕!流石、ホロライブは喧嘩すら止めてみせる……!

 

 そもそも、エリア先輩と天音かなたはどちらも狭い天界の住人であり、天界の学園でも顔見知り程度であるらしい。

 ただ、この学園に入るにあたって、生徒会と風紀委員という役職についたデバフのため、数少ない天界出身、という理由で一緒に下校する機会が減ったようだが、それでも時間があるときはこうして親交を深めているようだ。

 

「エリアー?終わったー?」

 

 ノックもせずドアノブを捻り、ドアノブを木っ端微塵に弾けさせて入ってくるのは、キャッチコピーは握力50kg、天音かなたである。

 彼女は頭に手裏剣を携え、中距離も近距離も空中戦も地上戦もできるオールマイティなステータスながら、圧倒的不器用さと不運により±0どころか−に振り切れている。因みに、壁役もこなせることから±0となる。おっと、"壁"であり"0"だなんて言ってないぜ。

 

「ええ、もちろんです。では、帰りましょうか」

 

「うん」

 

 ハル先輩はガーギギギと、意味不明な音を出しながら、ホロメンとそれについていくオタクを見送った。

 そして、しばらくして天界人に声が聞こえなくなったであろう頃に、ちくしょうめぇ!と怒鳴り散らかした。かと思ったら急にしょぼくれて席につき、ボソボソと何かを唱えた。

 

「儂だって、グラもちょっと遠いけどいるし、イナもいるし……。なんなら、漁港に来たマリンに港湾を教えたの儂だし……」

 

 何それ、聞いたことないんだが。

 いつも引き分けで終わる口喧嘩に負けた衝動が大きかったのか、無言で会議に使った資料やまとめを書いたホワイトボードを片付け始めた。

 

 というか、なんで風紀委員が止めないんだよ、という声があるかもしれないが、それにはそれなりの理由がある。

 風紀委員の活動理念における自然とは、端的に言えば変化しないことを指す。だから、極力リスナーからの接触はなくし、不変を保っているのだが、それだと困ったことが起きる。今回の事例がそれに当たる。

 

 もし、エリア先輩が急にPP天使から距離をとったら、彼女はどう思うだろうか。少なくとも、変に思うだろう。自分がなにかしてしまったのではないか、と思うのかもしれない。

 そう考えた際に、今までの関係性を壊した場合、ホロメンが自然な振る舞いができなくなるかもしれないため、これらの関係により接触を図る分には認める方針になっている。

 

 と、いうような意見を最初にエリア先輩が出し、その頃はエリア先輩とPP天使の関係を知らなかったハル先輩が、この方針を可決してしまったらしい。

 今にして思えば、これは今のような状況での柵を排除する布石であったと分かる。そのため、余計に口論で負けた、と思っているようだ。

 

 まぁ、エリア先輩とPP天使が一緒に帰ったのこれでもう十数回目なんだけどね!そろそろ慣れろよ。

 

「なぁ片桐、今日焼き肉行かないか?」

 

「すみません、今日は寿司の気分です」

 

「贅沢だな」

 

「せめて、同族を哀れめよください」

 

――――――

 

 男のむさい話に需要なんて存在しないので、次の日。先日ラミィに相談されたストーカーは、昨日はされなかったらしく、仕事が早いからお礼を、とラミィが感謝を述べてきたが、こちらとしても分かりやすく成果があったわけではなかったので、受け取った上で引き続き調べさせてもらうことにした。仕方ないね。

 ししろんは相変わらず俺を疑っているようだったが、潔白を証明できるわけでもないので、時が何とかしてくれるのを待つつもりだ。というか、事務所の方に相談しなかったのか。良かった。

 

 今日の1限目は化学基礎になっていて、次が数学Iとなっている。

 

「またじゃんけん負けたー!」

 

 オウッオウッオウ、とすすり泣いているのは桃鈴ねねである。

 野菜が苦手なのに罰ゲームでじゃんけんに負けたら野菜を食うチャレンジをし、ことごとく負けているようだ。

 だが、やると決めたらやり通す心根の強さに惹かれるものは多く、歌もダンスも絵も高水準に保っている。実は割とぼっt……。

 

「ねねちゃん泣いちゃったけど、わためぇは悪くないよねぇ?」

 

 伝家の宝刀「わためぇは悪くないよねぇ」を使うのは、角巻わためである。

 立てば脇パイ座れば配信、歩く足音はド·ド·ドこと、歌の上手い羊は、十八番のつのまきジャンケンによりねねちを叩きのめしていた。どうやら、自分も負けたら野菜を食べるらしいが、別になんともならないので、罰ゲームの選択ミスである。

 

「おうおうおう、うちのねねちゃんを泣かせたのはそこのジンギスカンかぁ〜?」

 

 グラサンをかけてショッピングカーに乗って現れたのは百獣の王、獅白ぼたんである。

 激戦地ギャングタウン出身で、わためを何度もジンギスカンにしようとするが、わためもギャングタウン出身なので一筋縄ではいかず、最近自身の店――麺屋ぼたんでわためラーメンを提供した。てぇてぇ。

 また、銃を得意としているが、格ゲーやレース系は得意としておらず、ショッピングカーで苦渋を味わっている。

 

「アハハっ、おもしろーい!」

 

 そして、眼下の者達を面白がっている元お嬢様、赤井はあと、こと、はあちゃま、である。

 みこちの評すように、金髪ツインテ(?)のお嬢様ツンデレキャラという王道中の王道であったが、今は人格の破壊と創造と融合を経て、赤井はあと、は、はあちゃま、へと変化した。

 鳴き声はハアチャマッチャマ~、ハアチャマナウ!、など。

 

 

 化学基礎では、意外と常識人な4人のため特にこれといったてぇてぇがなかったように思われるが、実は水面下において様々なてぇてぇが繰り広げられたいた。俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。

 その後の数学Iでは、遅れて登校してきたぺこらがコソコソとしているところをスバルに見つかり、脱兎の如くトイレに向かうところをるしあに捕まり、一丁(一鳥)お上がりよ!とダジャレの種にされた。

 

 次の古典では、文章をアキロゼがツインテのAIに解読させ、ラミィが早口でノエルに伝え、ノエルはよく分からねぇ!と言って騎士道について熱く語ったので、仕方なくAZKiが現代語訳することになった。

 

 昼休憩前最後の授業は魔法化学であるが、急遽担任がお休みされたらしいので、自習となった。



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コーンはいいけど、アンチにはなるな(戒め)

題名変更します。たぶん。


 自習、それすなわち、多少のお喋りなら許される時間である。勉強に関することであれば、適当な話題でも喋ることが可能だ。逆に言えば、その他の話はあまりよろしくない。

 だが、この時間は風紀委員にとっての修羅場でもあるのだ。

 

 皆の知っての通り、ホロメンはどこかに突出しているせいか、あまり勉強が得意ではないヒトが多い。それこそ、ちょこ先生やぼたんなどなどが普通にできるのだが、生きていけなさそうなほどのヒトもいる。

 だから、この機会にこぞってホロメンに教えようとする輩が後を絶たないのだ。風紀委員もそれを注意できる理由がなければ、教えることを止めるだなんて学校の意向に反する。故に、この場において風紀委員は無力極まりない。

 

 よって、皆、親切心と下心とで教え合い、となるところだが、意外にも教える生徒は少なかったりする。

 それというのも、ホロメンにはコミュ障が多く滞在しているし、コミュ力つよつよでもホロライブ内で勉強を教え合うのが普通だ。一々見ず知らずのヒトに教えを乞う必要はない。故に、リスナーが入り込む余地などないのだ。

 そう、入り込む余地がないのだ。これが、修羅場の原因となる……。

 

 今回自習に変わった魔法化学では、同じクラスなのはラミィとお嬢、シオン、るしあ、メル、トワ様にちょこ先生の7人となっている。

 

「トワワ先輩、大問33の(4)の問題、分からないんですけど」

 

「あーはいはいはいはい、それねそれね。えーと、ちょっと待ってて」

 

「えっ、じゃあ、いいです」

 

「ぉおい!ちょっとぐらい、待てや!」

 

「じゃあ、早く解いてくださいよー」

 

「やっ、もう、うわー、出たぁー。後輩のくせに態度デケェー。マジ、デカイんだけど」

 

「へー、そんなこと言っちゃっていいんすか。へー。……この問題を解ける先輩なら、尊敬できるのになー」

 

「じゃあ解くわ。はよ貸しな」

 

「………解けました?」

 

「イヤムリ、ワカラン」

 

「wwwwww即答www」

 

 後輩に煽られている天使こと悪魔、常闇トワである。

 悪魔であるのにも関わらず、TMT(トワ様・マジ・天使)と評され、いつでも悪魔的所業を心掛けているものの、行動までには移せない天使である。

 また、陰キャと言われれば、五本の指に入るだろうヒトの一人で、多くのエピソードを隠し持っている。因みに髪は紫ツインテ。唯一の悪魔要素。

 

「ふふん、この天才バンパイアに任せなさい!」

 

 魔界の天才BANパイアこと、夜空メル。

 吸血鬼なのに血が苦手だったり、第二形態が存在していたりと、中二病な設定したけど血が怖かった中二みたいな吸血鬼だが、ちゃんと魔界出身である。

 割とPONというより天然なので、ちょっと目が離せないが、ホロ1際どい服を着ているため、目をそらさずを得ない……。因みに髪は金髪ショート。ボブっぽい。第二形態は髪が伸びて、SUPERなサイヤ人3みたいになる。(ならない)

 

「………」

 

 といったやり取りを無言で見守っているのは、癒月ちょこ、である。

 元々こっち側だったというホロメンもいる中で、最もこっち側的な悪魔は、ホロには珍しく大人の余裕を持っている。これらが相まって、ちょこ先生を火種にてぇてぇを作り出し、てぇてぇでしか摂取できない栄養を摂る、地産地消のような効率化を図っている。流石は、元こっち側と豪語するだけある。また、髪はどちらかというと金。紫ではない。

 因みに目覚めの挨拶はア゛ア゛ア゛ア゛ア゛。

 

「気体定数R……?アボガドロ定数……?ま、まあ。こういう問題は前の問題を使うことが多いから、そこから導くんだよ」

 

「え、メル先輩、分かったんですか!?」

 

「ふっふっふー、なんたって天才だから、ね」

 

「すごぉ」

 

 感嘆するラミィに益々鼻を高くして、何でも答えてあげるよ、とメルはその凶暴な胸を反らした。あの、老若男女、むしろ機械までも赤面させた、ホロライブ屈指の最胸を、である。

 それは、ホロライブ内でも目を惹きつけられ、中でも一際目を光らせて羨望の眼差しを向けるのは元祖クソガキとTMTである。

 

「……」

 

「……」

 

 ラミィは結局答えが分からなかったため、今度は、ずっとニコニコとして砂糖を吐き出しているちょこ先生に問題を持っていった。

 

「あらぁ、ラミィ様、わからないの~?」

 

 そうなんですよー、とラミィが答えると、ちょこ先生は至極丁寧に分かりやすく、かつ、舐め回すように教えて差し上げた。

 その妖艶なオトナの魅力に、ハバ卒と天使を卒業できない悪魔は、嫉妬……ではなく、諦観の域へと達した。これが、我々の登れなかった高み!これこそが、まだ目指すことのできる夢と希望の頂上!だと悟った。山だけに。

 

「自分、金髪巨乳という枠組みで、参戦いいっすか!?」

 

 緊急参戦!!異世界から舞い降りたクソガキ、ねねち。クソガキというよりかは、ガキであり、幼児でない。ガキのシンパシー……ガキとガキは惹かれ合う。そう、スタンド使いの如く。惹かれたままに、ねねちは来たのだろう。

 ねねちの、中身に反して成長期の胸が二人に襲いかかるが、今の二人の心の余裕はこの巨乳までもはね返すことが可能だ。まさに、ちゃぶ台返しならぬ、板返し。(違)

 

「なんか、楽しそうなことしてるねぇ」

 

「ほんとだぁ、これは、なんの集まりかなぁ」

 

 青い鳥の(公式)マークを探しに行ったフブキを追いかけて近くを通りかかったフレアとわためぇが、この教室に入り、隠れ巨乳の力を見せつけた。

 これには強固になった二人の理性が挫かれかけたが、二人は苦肉の策として、ちょこ先生に目を向けることによって理性を完全に壊すことで、理性にダメージを負わないようにしている。

 

 二人に意味も分からずプイッと横を向かれたフレアとわためぇは疑問符を辺りに撒き散らしながら、何してるん?と言って近くに座ると、ラミィから、問題の解き方を教えてほしい、とせがまれた。

 そして、たまたま、トワ様の真正面にラミィが位置したため、トワ様はラミィのタニマへと視界が吸い込まれ、ノックダウン。

 

「ふっ、奴は四天王の中でも最弱……」

 

 スバルでさえ、疲れていたとはいえ抗えなかった吸引力に、トワ様のピュアなハートがembarrassedしてしまうのは仕方がなかったのだ、と面構えの違う2期生、紫シオンは後に語った……。

 シオンはもう滅多なことでは、この謎のプライドを挫くことはないだろう。流石のつるぺた度合いである。シオンとトワ様は格が違う……!おっと、目が合いそうになったな。

 

「すいませぇーん。今、うちの子がここに来たと……ってあれ?フレア?あれぇ?どうしてぇ?えぇ…?」

 

 相も変わらず大きなリアクションで登場した新たな金髪きょ……決して貧しくはないのだが、比べてしまうと些か慎ましく感じる。何がとは言わないが。うん。

 ポルカは顎に手を当てて、うーん、と頭をひねるが、結局この集まりがなんの集まりなのか分からず、取り敢えず、ラミィの背中に引っ付いているねねちを引き剥がすことにした。

 

「ほら!帰るよねねちゃん!遊んじゃいけません!」

 

「やだー!ねね、ここに残るー!」

 

「こらっ!めっ!他の人に迷惑でしょ!」

 

「いや、それはポルポルの声が大きいからだよ」

 

「ぅえぇ……?何で今、えぇ?な、何で、何で今、素に戻った……?」

 

 はァっ……?とガンギマって狼狽え、ポルカは自然と一歩身を引いた。

 私が気圧された、だと?何だというのだ、この気は……!まさか、このオーラは、覇気ッ!さすが、まがまがーず、だ。やることがちげぇ……ッッッ!!!とハリウッドもビックリのPerformanceを魅せて、フレアの膝に座った。

 

「どうしたの、ポルちゃん。おーー、よしよしよしよし」

 

「ふえぇ、ぐすんぐすん」

 

「おまるん、退きなー。今はラミィがフレア先輩に教えてもらったんの」

 

「いや、私、魔法分かんないから」

 

「またまたー」

 

―――ガシャン!

 

 突如、大きな物音を放ち、ドアをぶち破って中に入ってきたのは、2つの飛行物体である。

 1つは青い体毛で覆われ羽で空を切っており、もう1つは黄色い体毛のマシンだ。

 

「ナイスサポートだよ、アキちゃん!」

 

「一家に1アキロゼってね!」

 

 白上フブキの公式取得に一役買っているのは、アキロゼこと、アキ·ローゼンタールである。

 空中を漂うツインテールはAI搭載の自由変形アクセサライズエクステーション、通称アイクであり、ハーフエルフで異世界人で女子高生なアキロゼ(好物は麦ジュースと唐揚げ)のツインテールを担っている。

 

 ホロライブにおけるハーフエルフといえば、フレアとラミィ、そしてアキロゼであり、酒飲みといえば、ラミィとノエルとアキロゼであり、異世界人というと、ルーナ姫、ねねち、アキロゼ、(はぁちゃま)である。

 つまり、ホロライブにおける、属性過多の頂点に君臨するのが、ムキロゼことアキロゼである。

 

「ワーワーキャーキャー」

 

 青い鳥が教室中を縦横無尽に駆け、それを追いかけてフブキが飛び跳ねるので教室内は生徒の悲鳴により騒然とした。だが実は、生徒諸君が騒いでいるだけであって、フブキが何かを壊したり、何かにぶつかったりしているわけではない。

 アキロゼのサポートもあり、フブキは鳥の飛ぶ速度より速く、その先へと手を伸ばしたが、鳥は捕まらず、教室の外へと逃げていった。

 

 しかし、まだフブキは諦めない。教室の窓をくぐって、完璧な連携で協力してくれた頼もしい相棒に一言、

 

「アキちゃんありがと!」

 

 そう言って、フブキはスタイリッシュに跳び去り、教室内では騒ぎの音が尾を引いていた……。

 やることを終えたアキロゼは早々に、失礼しましたー、と言ってこの場を去ろうとするが、ラミィに引き止められ、まぁせっかくだし、と残ることにしたようだ。

 

 席も少なくなってきたので、一つの席に二人が腰掛けたり、膝の上に座ったりすると、今まで一貫して干渉しなかったるしあが少し席を詰めて座らなければいけなくなった。

 その時、るしあは気づいた。ここ、巨乳率高いッ!!

 

 背中に当たる胸にモヤモヤしつつ、後ろを振り向くと、ラミィから、るしあ先輩も一緒に解いてくださいよ〜、と誘われたので、あ、あぁ、いいよ、解いてあげるよ、と答えた。

 そして、るしあは自分がかっこよく解いて、この与えられた者達を見返してやるんだ、と意気込んだが、自分が使えるのはネクロマンスと物理(耳)攻撃。全くもって解けなかった。屈辱、圧倒的屈辱!

 だが、るしあはめげない。そう、何たって、公式のまな板なのだから!

 

「ア"ア"ァアアアア"ァア"ア!!!」(咆哮)

 

 机を破裂させ、床に亀裂を入れ、生けるものすべての生命活動を停止させる究極の台パンをし、自らのSAN値を通常へと戻した。ただし、他のもののSAN値を削る。見てみろよこの波形、SAN値を削り取る形をしているだろう?

 そして、この悲痛な叫びを聞き取ったホロライブの狂人が、ダッシュでこの場に姿を現した。

 

「はあちゃまっちゃま〜!!」(応戦)

 

 ワールドワイドな破壊力を見せつけた最後の金髪、実はあまりないはあちゃま、参上!

 前触れもなく現れたはあちゃまに、ホロメンは少々混乱するものの、まぁいつも通りか、と慣れている者が会話に切り込んでいった。

 

「はあちゃまっちゃま〜!」(便乗)

 

 フレアとラミィとねねち、それに少し遅れてメルとわためぇがはあちゃまに応え、greetを交わらせた。挨拶は絶対の礼儀だ。古事記にもそう書かれている。

 

 はあちゃまが、ハァッ……!と息を呑んで、Wow, very very big BOSS GODCHAMA!!!!と高揚としていると、その昂りを感知して、かのエロゲの時はお姉さんなベイビー、さくらみこがエリートな力で飛んできた。

 

「んぅー、ここから金髪の香りがしますねぇ……」

 

 ねっとりとしたボイスを聞かせ、舐めるように見回すみこちは、選り取り見取りな金髪の中でも、やはり、はあちゃまに目が止まったようだ。みこちは、金髪ツインテでお嬢様のツンデレ、というキャラが本来は攻略対象らしいが、これはこれでありらしい。

 また、初心者は目を付けた攻略対象には直ぐに話しかけるが、みこちほどともなると、ひと味もふた味も違う。

 

 普通、シュミレーションゲームというものはセーブロードというものがあるが、みこちにとってはそれがないので、選択を間違えるのはなるべく避けたほうがいい。まぁ、普通のものよりイベントが多いので、多少の融通は効くが、それでも選択ミスは致命的である。

 それを理解しているエリートなみこちは、今は離れたところで、話しかけるべきか、話しかけないべきか、を吟味しているようだ。

 

 しかし、かなしいかな。このイベントは、はあちゃまの攻略に一歩近づくイベントではないのだ。

 

 コツコツコツ、と廊下で靴の音が響き、若干焦っているのを感じられるこのリズムは、歴戦の猛者の耳からすると、誰がなんのために歩いているのかが分かるようになる。

 この足音は教室の前で止まり、ガラッとドアを開けて、開口一番に怒鳴り声が聞こえた。

 

 ホロメン達はビクッとして、自習なんだから静かにしろ、と怒る先生に謝ってそれぞれの教室に帰っていき、また、生徒会長であるお嬢と風紀委員である俺は、何のために君たちがいるんだ!?と詰問され、今回の騒ぎについて厳重注意を受けた。

 

 はぁ……やはりこうなってしまったか。

 自習前にも語ったように、自習においての修羅場の原因はホロメンに入り込む余地がない、のである。これは、ホロメンが何をしても、風紀委員からは注意喚起できない、ということを指す。

 そうなると芋づる式に、ホロメンが注意されないのに、他の生徒は注意する、という不平等は納得されないため、自習は風紀委員から制限できないのが現状である。

 

 これに関しては、非常にお腹が痛い。胃に穴が空いている。しかも、生徒会長は、余、何も聞いとらんかった余、と仰っていらっしゃるので、大体の責任は俺に来る。これは仕方ない。

 

 やはり、というか、かねがね提案すべきか迷っていた、ホロメンを風紀委員に入れる、というのを提案してみようか。



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鳩を飛ばして摂取する栄養はウマイカ?

 自主時間も終わり昼休憩となると、購買で買った焼きそばパンとホットドッグと卵カツサンドを手に、委員会室へと歩を進め、流れるようにしてノートパソコンを開いた。因みに食事代は委員会の経費から出している。しかも、委員10%OFFの特権により予算にも優しい。

 今日の昼の配信がないことをチェックし、切り抜きを開いてパンの袋を開けてパンを口の中に詰め込んでいると、コンコンというノックとともに誰かが許可を待たずに室内に入ってきた。

 

「そんな、顔が変形するほど詰めるのなら、栄養ドリンクとかでいいのではないのですか?」

 

 俺に正論パンチを加えたエリア先輩は適当な席に座り、持ってきた苺ジャムパンをむしゃむしゃと食べ始めた。そんなので足りるのか?

 

 切り抜きの中で、相変わらず大喜利の上手い雪民とプロレスするラミィに和んでいると、パンを食べ終わったエリア先輩が、少しいいですか、と話しかけてきた。

 

「例のラミィの件ですが、もう解決したので気にかけなくて問題ありませんよ」

 

「え?」

 

 ラミィの件というと、ストーカーの話だったと思うが、これはまだ犯人がわかっていなかったはずだ。

 だが、エリア先輩が解決したと言っているので、犯人が見つかったということになる。

 

「因みに、誰だったんですか?」

 

「あのバカですよ。校外だというのに、隠れて見守るだなんて……。ただでさえストーカーだというのに、しかも、それで見つかってるのですから、バカもバカですね」

 

 ハル先輩ェ……。それは俺も擁護出来んよ。

 まぁ、これにて一件落着ではあるが、ししろんに誰が犯人なのか聞かれたら、どうしようか。少なくとも今日明日中には聞かれるだろうから、なにか答えを用意しておいたほうが良いだろう。ししろんだし。

 

 会話が途切れたタイミングで、廊下から足音が近づくのが聞こえてきたので、俺はノートパソコンを閉じてパンを一袋分食べきってから、二袋目には手を付けずに、委員会報告書を開き、エリア先輩はパイプ椅子を一席用意した。おそらくししろんの椅子である。

 ドアが軽くノックされ、エリア先輩が入室の許可を出すと、予想通りにししろんが入室してきた。

 

 ししろんはエリア先輩の促されるままに着席し、今日はどうしましたか、といえ問いかけに対し、ラミィちゃんの件で……と話し始めた。

 

「一応、解決したというふうに聞いたんですが、誰だったんですか?」

 

「申し訳ありません。誰か、までは分かっておりません。風紀委員としては、既に放送で注意を呼びかけることで、今後の抑止力になると判断しました。もしよければ、内容を確認なさいますか?」

 

 エリア先輩は棚のファイルの中から、おそらく昨日作ったのであろう文章をししろんに渡し、ししろんは、あ、ありがとうございます、と言って紙に目を通した。

 十数秒後、あ、はい、大丈夫です、と言って、ファイルをエリア先輩に手渡したししろんは、ありがとうございました、と一礼してあっさりと教室に戻っていった。

 

「では、用も済んだので、私は教室に戻りますね」

 

「あ、はい」

 

 よし、切り抜き漁るか。

 

――――――

 

「ぺこら、もう離さないよ……」

 

「いやぺこ!こわいこわいこわい!ぺこ!るーちゃん、怖いペこよ!」

 

「ずっと一緒にいよう、ぺこら……」

 

「離せぺこ!オラ!動け!オラァ!」

 

「えっ?ぺこら……?」

 

「いえぇーい!余裕よ、余裕ぅ!」

 

「なんで、一緒にいてくれないの?るしあのこと嫌いなの……?」

 

「え、る、るーちゃん?」

 

「一緒にいてくれないなら、一緒に死のう?」

 

「イヤァァアァァァ!」バタン

 

「はい、引き分けー」

 

「これで、ずっと一緒だね」

 

「ハァッハァッハァッ、るーちゃん、強すぎるぺこ」

 

 教室に帰るとホロファンが集まって遊んでいた。どうやら、紙相撲で総当たり戦をやっているらしい。

 船長が、紙だからすぐに離せますー、と言って折り紙の力士を剥がすと、あ、マリン……そんなにるしあのこと独り占めしたいの?とるしあがヘラったり、船長とフレアの対戦のときに、団長の脳が破壊されたり、と日々の中に新鮮で純度100%のできたてほやほやなてぇてぇを垣間見え、ついには尊死へと至った。

 

 5限目の始まりを知らせる鐘がなり、それぞれの思い思いに集まっていた生徒が自分の席へとガタガタと戻り、教室に入ってきた先生に挨拶をして授業を始めた。

 先生は、始めにテスト返しするぞー、と言って俺たちの抗議の声をよそに、有内、麻野、と淡々と名前を呼んでいった。

 

 兎田、潤羽、と順々に呼ばれ、ぺこらは無言で手にしたテストを折って机にしまい、るしあはリアクションをせずにテストを二分の一サイズにして机にしまい、不知火、白銀、と呼ばれた二人は互いにテストを見せあって、席に帰る途中でぺこらとるしあの点数も聞き、宝鐘と呼ばれた彼女は、テストを受け取っても点数を見ずに四人のところへ行き、そこでテストを開いて一喜一憂した。今日も仲いいな!

 先生に注意され、騒がしかったクラスが静まり、じゃあ解説をしていくから、ちゃんと聞いとけー、と先生が糺して授業を始めた。

 

――――――

 

 夜、俺は家に帰りホロライブの配信に入り浸りながら、風紀委員の作業をしている。先日から立て続けに割れている窓の修繕費やら、今度の体育祭に必要な施設費やらの報告と予算……つまるところ会計の仕事である。

 元々ホロライブが入学するまでは、仕事量の少なかった風紀委員に会計の仕事の大半が任されていて、それが未だに残っているらしい。まぁ、学校の施設を学生に管理させるな、という話ではあるが。

 

 さて、分からないところは明日に回すとして、ライブを見ることにしよう。

 今日の視聴する配信は21時から誕生日ライブ、22時からは視聴者参加型ゲーム配信にする。22時からの方は複窓して参加させてもらう。

 

 今日の目玉とも言える誕生日ライブ。メンバーとコラボしたり、外部の同業者を呼んだりしてわちゃわちゃと楽しい時間を一時間分過ごす配信である。

 主に歌を歌ったりイベント事をしたりすることが多く、リスナーも楽しめる時間を共有する。とはいえ、昨今の事情や日程調整やらで録画になることがあるものの、それでもステージ上で動くメンバーを見せてくれるのには感謝の念が絶えない。ありがてぇてぇ。

 

 コメントを飛ばして誕生を祝うも、流石にコメントの量が多く、すぐに流れていってしまう。同接の数も数なので仕方ないといえば、仕方ない。

 ただ、21時の他の配信もあるが、そちらの配信に行って鳩を飛ばすのはやめてほしい。同接はライブに流れて多少少なくなるためコメントの流れも遅く、割と目で追えるのだ。そんなコメントを書く暇があるなら、ツイッターか何かで布教か感想でも、どうぞ。



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クラス替え

 ライブを見終わり、参加倍率の高い視聴者参加型ゲームに不参加のまま配信が終わり、ゲリラ歌枠に耳を澄ませながら床についた俺は、歌枠を閉じて寝入った。いい夢が見れるだろう。

 

 夢は見れなかったが、次の朝、ツイッターを確認しつつ学校に到着すると、校門前に人だかりが出来ていた。何かあったのだろうか。そう思って近づいてみると、遠目で少し見づらいが、クラス替えの張り紙だった。

 

「お前、どこ?」

 

「ワイは3組やな」

 

「じゃあ、変わっちまうな」

 

 そんなやり取りがそこら中から聞こえてきた。中には、同じクラスになって喜ぶ者もいるが。というか、モブのくせに、ワイとかいう一人称使うんじゃないよ。

 だがしかし、妙に急なクラス替えである。どういうことだ?それに少し一クラスあたりの人数も減っているようだ。

 

 まぁいいか。今度も俺はホロメンと同じ教室にいるし、委員会の仕事に支障はない。

 取り敢えず、昨日の会計の書類を風紀委員会室に置き、その足で教室に行って荷物を整理し、ホロメンを待つ。今日も挨拶は豪勢にいこう。

 

「はあちゃまっちゃま〜!!」

 

 最初の登場は赤井はあと、はあちゃまである。流石にはあちゃまっちゃまー、と挨拶するのは恥ずかしかったため、クラスメイトはまばらに挨拶をした。

 

「こんトワワー」

 

 次に姿を見せたのは同じくツインテの常闇トワである。トワ様!トワ様!TMT!TMT!と返事をした。

 

「こん――」

 

 線だー!線だ!シオンよ……シオンよ……と挨拶する前から騒ぎ立て、ねえぇぇぇぇ!までがお約束になりつつある紫咲シオン。今日は寝坊しなかったようだ。

 

「こんねねー!」

 

 今日はお団子ヘアではなく、おかっぱにした桃鈴ねねが元気よく登場する。だが、恥ずかしかったのか、隠れるようにして席に座った。ちゃんと挨拶したんだけどなぁ。

 

「こんるしー?」

 

 比べるまでもなく小声で挨拶するのは、潤羽るしあである。目には光が宿っていない。ふぁんでっど達、何とかしてください。

 

「にゃっはろー、にゃっはろー」

 

 今日も滑舌の悪いさくらみこが最後に登校した。後ろで不知建の四人がじゃーねー、と手を振っているので、教室がわからず案内されたのだろう。

 

 ホロメンたちが集まり、よろしくねー、とてぇてぇ環境を作り出している中、スマホに通知が入ってきたので見てみると、どうやらホロライブの新メンバー発表のようだ。またもや、急なことである。

 JPの新メンバーということは5期生の後輩ということになる。そうか、ついにねぽらぼも先輩か……。ENIDを除いて。

 

 名前を確認してそれぞれのアカウントに飛びまくり、最初のツイートを見て回ると、あら不思議、一人凍結されているメンバーがいる。何をやったんだ?

 そう思っていると新たな担任がドアを開け、皆を着席させた。

 

「えー、一応新たなクラスということで、最初の挨拶をしたいところだが、その前に、転入生を紹介する」

 

 転校生?

 ということは、クラス替えは人数調整ということだろうか。

 学年長に連れられ教室にぞろぞろと5人の転校生が入り、黒板の前に横一列で並んだ。

 

「はい、こちらの5人と他のクラスにも数名ずついるから、適度に慎むように。では、君たちは名前順に空いてる席に座って」

 

 この学校は少々特殊なため転校生が来るのは見慣れているが、その中でも異彩を放つ少女がいる。座った席からして、恐らくはラから始まる名前だ。

 すると先生が、自己紹介を簡潔に1番から、と言うので、自己紹介が始まった。なぜかあるこの自己紹介、そろそろ学校七不思議みたいなものに入ってもいいのではなかろうか。マジ、なくなってほしい。

 それぞれ挨拶していき、遂に件の少女に到達した。

 

「んんっ。……刮目せよ!」

 

 え?

 思わずそちらを見て、少女の言ったとおり刮目した。それも、クラス中が予想にもしなかった言葉に、振り向かざるを得なかった。

 

「吾輩の名は、ラプラス·ダークネスだ!」

 

 ラプラス……?どこかで聞いたことがあるような気がする。確か、ついさっきの記憶だ。どこで見たんだっけ。……あ、思い出した。ホロライブの6期生の一人がそんな名前だったはずだ。凍結してる娘は覚えていたが、他はうろ覚えである。

 

 しかし、そうか。特徴的な二本の角に頭のカラス、そしてあの容姿体型、確かにプロフィール画像にそっくりである。

 

「後のことは幹部に聞け」

 

 それだけ言って座り、自己紹介を終えた。

 

――――――

 

「ここに集まってもらったのは、説明するまでもないだろう。ホロライブの6期生、holoXについてだ」

 

「私は、さほど問題ではないと思いますがね」

 

 一時間目の授業が始まる前の休み時間。俺たちは急遽、人通りの少ない廊下に集まった。holoXに対して、風紀委員としてどう対処するか、を急ごしらえではあるが諮るためである。

 

「そこの天使では話にならん。片桐はどう思う」

 

「直接的な事柄でしか話のできない単細胞には難易度が高いのも至極当然でしょう。懇切丁寧に説明してあげなさい」

 

「そ、そうですね……。個人的には、少し対処を変えたほうがいいと思います」

 

 そう言うと、ハル先輩はドヤ顔をエリア先輩に向け、エリア先輩は自分の天使のわっかをハル先輩の頭につけようとした。わっかを つけると あいてが しぬ。

 エリア先輩の気が済んだのか、自分の頭にわっかを戻して、俺の説明を促した。

 

「はい、おそらくエリア先輩の言わんとするところは、秘密結社なのだから初配信前までの関わりが増えることはない、と言っても過言ではない、ということでしょう」

 

「そうですね」

 

「ですので、その点に関しては問題ないと思います。ですが、今までの枠に収まらないのは、幹部、と呼ばれる方です」

 

 幹部――鷹嶺ルイは総帥のラプラスに頼られる、言わば外交的な役割の人物なのだろう。こういったホロメンは例がないため、対応するルールがない。

 無論、いつものように仕事ができればいいのだが、初配信まではそれもできないため、どうにも手の出しようがない。

 

「いや、それに関しては問題ないだろう」

 

 そう自身のある調子で言ったのはハル先輩だ。

 どうやら、その鷹嶺ルイは、双子キャラにしか興味がなく、その他の有象無象は一定の距離を保ち続けているらしい。それに、なんとホロライブの先輩らに挨拶し回っているらしく、話す暇がないらしい。因みに双子キャラについては、最初の自己紹介で言ったらしい。なくなってほしいとか言って、申し訳ありませんでしたァァ。

 

 ということで、様子を見るという形で結論を出し教室に行くと、ラプラスが複数のホロメンに囲まれていた。

 

「ラプちゃんお行儀いいね」

 

「え、うん」

 

「次の時間は移動だから、時間割これね」

 

「ぁ、ありがとうございます」

 

「この化学のせんせぇは寝ても大丈夫。でも、数Ⅰのせんせぇは寝ると怒られるにぇ。あ、でも、問題は当てられにゃいから、安心だにぇ」

 

「へ、へぇ〜、そうなんすね」

 

 かわいい(かわいい)



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主人公、参上!

 二時間目、他クラスと混合して授業する総合技術という科目でそいつは現れた。

 この転校生イベント、ホロライブ6期生だけでは飽き足らず、我々の最大にして最凶の敵を連れてきたのだ。

 そいつの名はツクノイ。周りからそう呼ばれている。

 

 彼は総合技術の時間に行われる班分けで、なぜかホロメンの集まる班に振り分けられ、しかも彼女らと初対面程度に仲良く話しているのだ。これが羨ま……裁きの鉄槌を下さずにはいられないだろう!

 しかも彼、おそらく彼女らがホロライブメンバーだと分からないどころか、ホロライブそのものを知らない可能性が高い。彼の友達らしき人との会話から盗み聞きして得た情報だ。

 

 許さんぞ!我らが芸人(アイドル)と仲睦まじく会話を弾ませよって!断罪の覚悟はできているかっ!

 

……はっ!なんだ?なぜ俺はこんなにもモブくさいことを口走って……?

 そうか、やはり彼の前では全てがモブとなる。流石は能力【主人公補正】といえよう。ホロライブのメンバーレベルともなるとその効果をほぼ受けないようだが、彼がホロメンの中から一人でもハッピーエンドを迎えたい者を選んだら、ホロメンといえども抗うことはできないだろう。

 

 つまり、風紀委員にとっての難敵。例えるなら、配信という枷のない夏色まつり、限界化した癒月ちょこ、ラインを考えない宝鐘マリン、自覚を持ち始めたロボ子、である。諸君にも、どの程度ヤバいのか分かって頂けただろうか。

 

「さて、来週は実践となるので、本日からは模擬戦を行います。軽くルールを説明するので、しっかりと聞くように」

 

 先生からの説明はこうだ。来週に課外授業で向かう魔界の危険度レベル1〜2程度の、実地での植生の観察及び採取を安全かつ迅速に行うために、ほとんどの場合出会すことになるモンスターを早急に無力化する必要がある。よって、今日は程度を合わせた環境と先生の召喚する個体で模擬戦を行って減点形式の採点をするそうだ。採点基準は、モンスターの怪我具合と環境の破損度合、そして先生の出すお題の達成度である。このうち一つでも9割の点数を取れば合格。もしくは合計で8割である。

 具体的には、一班ごとに森に入って、そこに植えられた課題の植物を採って戻り、道中で現れるモンスターに刺激を与えないようにしつつ、襲われた際もなるべくモンスターにあまり危害を加えずに退ける、のを練習するのである。

 

 最初は例のホロライブ+転校生班らしい。

 

「いいなぁ、俺もホロメンと一緒の班が良かった」

 

「おっしゃ……!我、おかゆちゃんと同じなり!感謝、圧倒的感謝……っ!」

 

 班は全部で6班あり、1班はみこち、あくあ、スバル、るしあ、ルーナ姫、ねねち、そしてツクノイ。あれ?この班、不安しかないぞ?

 2班はおかゆとその他モブ。3班は割愛。4班も割愛。5班はまつり、ミオとその他。6班はぺこらと俺、その他である。

 

「あぁっ!ミオちゃーん!こっち来てーー!」

 

「ねぇぇぇ、スバルが一番心配なの、いや、あくあもねねちもなにかしそうだし、ルーナは……うん、だけど、だけど!スバル的には、みこちが一番なにかしそうだなぁ」

 

「スバちゃんだけじゃ、頼りないよぉー!ミオちゃーん!」

 

「いや、みこちよりかは、ちゃんとやれるが?」

 

「い、いやいや、スバルも、結構やらかすでしょ……?」スーーッ

 

「ぁ、るーなもるーなも、そう、思う、のら。シュバはなんか、なんか、そんな感じ、と思ぅ!」

 

「いや、分からねぇよ!wwwそんな感じ、ってなんだよwww」

 

「るしあ先輩、ねねとおてて繋いで一緒に行ってくれませんかっ!?」

 

「ね、ねねちゃん!?い、いよ、いいよ!おいでおいで。おてて、はい!」

 

「や〜ん、るしあ先輩、おてて可愛い。匂いは〜」クンクン

 

「は、恥ずかしいよ……でも、ずっと一緒だね」

 

「え?う、ぅん」

 

「いいなぁ、るーなもシュバと手ぇ繋ぐ、ぎてぇのら」

 

「え、別にダイジョブです。間に合ってます。それに、手繋いでたら、危ないし、思い出したかのように語尾つけてるんじゃないよ」

 

「ぅぅ、あっ、それだけ、るーなも、所作に、気をつけている、ということ、のら。だから、危なくない、と、思ぅ」

 

「?」

 

「だから、るーなはシュバと手をつなぐことが、できる」

 

「でーきーまーせん!」

 

「ああっ……www」

 

 と言いつつもルーナ姫はスバルの無意識に滑り込み、繊細にかつ流麗な話し合いで自然に手をつなぐことに成功した。しかも恋人つなぎなところが、ポイント高い。

 また、この流れで残ってしまったみこちとあくあは、互いに見つめ合い、シンパシーを感じ取った。だが、コミュ力に欠ける二人がここから発展することはなかった……。

 

「おいこら、ねねちーー!はいそこ、勝手に動かないでー!」

 

「でも、るしあ先輩も動いてまーす」

 

「るしあはいいんです」

 

 抗議の声を上げるも、言われたとおりに大人しくなり、スバルがツクノイに声をかけ、出発の号令をかける。

 おぉ〜、という気の抜けた声と共に1班は先生の作った森に入っていった。

 

 ここから先は俺からは観測できないので、まつりとミオ、おかゆ、ぺこらに他の生徒が過剰に接触してないか、厳しく監査しようと思ったところ、ぺこらは生徒の集団を離れ、俺の近くに座った。

 ここは割とまばらに長椅子が設置されているため、必然的に少人数で屯することが多いのだが、俺の座っている位置はそこよりちょっと離れたところである。似たような位置にぺこらも座っているため、ぺこらが話しかけられることはまずないだろう。よって、ぺこらはあまり注意しなくても大丈夫だろう。

 

「……」

 

 うんうん。皆、いい感じに距離をとっている。というより、ミオとおかゆとまつりの三人の会話を楽しむことができる程度には、関わろうとする奴がいない。いい傾向である。声聞こえてないけど。

 

 そんな調子で1班が帰ってくるまで音楽でも聞いて待っていると、森から人影がポツポツと見えてきた。

 すると、どういうわけか、みこちがツクノイに背負われていた。残っていたホロメンがみこちを取り囲み、怪我でもしたのか、と心配気に聞いていたところ、みこちが足を挫いたようだ。ツクノイめ、役得な奴だ。

 

 取り敢えず、みこちを保健室に連れていくため、そのままツクノイが背負い、スバルが同伴して行った。スバルなら、おそらく大丈夫だろう。

 そのまま授業は続き、ついに俺らの出番となった。不可抗力的にぺこらと話す必要があるので、あくまでも顔を覚えられない程度の会話を心掛けよう。無論、滅多にない会話のチャンスなので、最大限に活用するが。

 

 森を進んでいくと、先生の召喚したモンスターが現れた。まだ距離があるので、穏便に行きたいところではある。

 班長の、かがめ、の指示でなるべく姿勢を低くし、素早くこの場を通り過ぎた。岩や背の高い草木があったことが幸いである。

 一応、一斉に立って逃げ出せるように、列ではなくバラバラに移動しているが、凸凹としているので、その加減によっては曲がりくねって進まなくてはならない。そして、俺は割と前の方にいるため、誰がどこにいるのか俯瞰的に見渡せず、もしかしたらぶつかられることもあるかもしれない。逆もまた然り。

 

「いてっ」

 

 単刀直入に言おう。ぺこらにぶつかられてしまった。本来なら嬉しがってもいい場面であるが、今は話が違う。ぺこらは人見知りなのだ。

 ほら、見る間に顔を赤くして、気まずい空気を何とかしようと目が泳ぎ、偶々今見つけた課題の植物を手に立ち上がり、気恥ずかしさから少し大きな声で、

 

「見っけた!」

 

「ぁ……」

 

 音というのは動物にとって多大な刺激になる。もちろんモンスターも例外ではなく、近くにいたモンスターがこちらに向かって威嚇し、突進してきた。

 班長の離れろ、という声に班員が一斉に駆け出し、近くの岩やら木やらを破壊して来るモンスターを紙一重で避けた。

 

 課題の植物は採取したし、このまま逃げるべきだろう。とはいえ、単純なスピードでは獣に人は勝てない。つまり、多少のダメージを与える必要がある。ダメージは、モンスターに危険だと思わせる程度である。

 

 モンスターの遠吠えと同時に、比較的モンスターに近い3人がガードを張り、他はその後ろに隠れるようにして、モンスターの突進をいなす。

 次に来るのは爪を使った大ぶりの攻撃。獣準拠のモンスターで四足なので、割と攻撃までの余裕がある。その間に後衛による魔法陣――今回は電気でのスタンが目的のものを首を狙い目に放つ。

 バチバチッという音を鳴らし直撃するも、あまり効果はなく、むしろ、更に獰猛さが増した。

 

 モンスターは爪攻撃の他に、殴り書きのような魔法陣で欠陥だらけの魔法を放ち、その規則性のない攻撃に、俺らは防御に徹するしかなかった。

 だが、ぺこらにかかれば偶然は必然で、奇跡は運命である。幸運兎の名は伊達じゃない。二兎追うものは一兎も得ないが、一兎も追えないものは月の兎に変わってお仕置きされるのである。もしくは、獅子は兎を撃つに全力を用いるのならば、兎だって反撃くらい許されるだろう。兎にも角にも、飛べる豚が紳士なら、飛ばす兎はおもしれー女である。

 

「ロケラン発射!ぶっ飛べ!」

 

 ペーコペコペコというSEが聞こえてくるロケットランチャーを使い、ぺこらはモンスターに攻撃を仕掛けた。このロケランは少し特殊で、相手の自我を一定時間奪うという効果がある。非常に強力な武器だ。

 ただ、ぺこらがロケランの存在を忘れたり、しまった場所がわからなくなったりすると使えなくなるので、あまり頼りにならない武器ではある。

 

 こうしてあっさりとクリアしてしまった。半分以上ぺこらのおかげである。流石ホロメンだ。

 だが……

 

「君、自我に対する攻撃は召喚の性質上禁止と伝えたはずだよ」

 

 召喚とは魔法の一種で、生物ではない魔法というものを生物っぽく見せる、というものだ。そこで必要なのが具体的な生態と自我である。自我はここでは自己を認識する作用である。また、副作用的に、魔法が使えるのもこのためである。

 その自我を奪うと召喚された個体は強制的に魔法を解かれて消えてしまうのである。有体にいえば先生の魔法を真っ向から解除したのである。流石ぺこらである。

 

 結局、6班は筆記の追試を放課後に受けることになり、二時間目は終了となった。



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