生きているなら呪霊だって殺してみせるし、誰であろうと救ってみせる (皐月の王)
しおりを挟む

原作前
望まれた才女


乙骨憂太の声優がシンジ君と一緒と知って驚いた人です!聞いたらイメージ通りで凄かった


「生まれたのか!土御門家相伝の"術式"と"眼"持つ者が!」

 

男は喜んでいた。今から数えて百何十年ぶりに生まれた相伝の術式を持つ人物。

 

「これで土御門家は……我らが引き継いできた歴史が再び動き始め、誇りを引き継がせるのだ」

 

土御門、安倍晴明の子孫たちはこれで事態が好転する。過去の栄華がまた戻る、呪術界にまた君臨出来ると今は形骸化した家は、その子に(いの)った

 

数世代ぶりに"術式"と"眼"を引き継いで産まれた孫を己が思惑と欲望のために……

 

 

―――――――――――

 

"術式"と"眼"を相伝した子が産まれて十三年が経った。その子は今、本家を継ぐ為に厳しい修練に励んで……

 

(こんなのに何の意味があるんだろう……はぁ、つまらない)

 

いるとは言いがたかった。厳しい修練は行っているが、意味を見いだせず、家を継ぐという事には無頓着であった。それでも手は抜かず、早朝からの体術鍛錬を行ない今まさに終わりの時間を終えようとしていた。朝四時から六時半までの二時間半を鍛錬を終え、肩で息をしながら呼吸を整えている最中だ。

 

「今日はここまでです、彩華お嬢様。タオルです、これで汗を拭いてください」

 

「ありがとうございます。では、私は少し休ませて貰います」

 

土御門彩華(つちみかどあやか)。土御門家の"術式"と"眼"の両方を持って生まれた少女であり、次の土御門家の当主候補である。毎日の鍛錬に追われ、期待を寄せられ、嫌になりそうな日々を送っている。呪力量は歴代土御門家当主の中でも上位に君臨するほどの物を持っている才能がある側の人間である。しかし、それは期待が更に重くなるのと同義である、家を継ぐことに興味が無い彼女にとっては鬱陶しいと思うのは日常である。そんな彩華は自室に戻り寝転がる。

 

「はぁ……朝弱いのに無理やり起こしてくれて……」

 

早朝からの鍛錬は何年経とうとも彩華にとっては辛いものだ。彼女は低血圧であり、朝が弱く、冬は一段と弱くなる。しかし、そんなもの知ったことないと毎日鍛錬を強いられる。その甲斐があって呪術師としての腕前はかなりのものになっているが……

 

「こっちは……普通の生活がしたいのに」

 

ふと漏れる本音。学校へ行く度に最近の話題や放課後の話や部活の話、どれもこれも彩華にとっては羨ましいと思える光景だ。普通への憧れ、実家の期待と圧力にため息しか出ない。

 

「何が両方持って生まれた希望の子だよ。こんな眼、欲しくも無いのに」

 

"浄眼" 土御門家相伝の"眼の力"であり、人の意識や呪力等を視覚化することが出来る眼である。ただし、五条家の"六眼"のように、術式を見破る力は無いし、呪力を視覚化と言っても一定以上の呪力が無いと視認することが出来ないと"六眼"の劣化のような目の力だ。ないよりマシと言われたらそれまでなのだが。

 

「私は家の歴史も、当主様の思いもどうでもいいのに」

 

だけど演じなければならない。それが今の彩華の生きる道である。別に彩華は呪術が嫌いな訳では無い。家の押しつけが嫌いなのだ。

 

彩華は身体を起こして、風呂場に足を運ぶ。鍛錬の汗を拭った程度では満足出来ないため汗を流しに風呂場に足を運んだ。これ以上遅くなれば、朝食を食べずに行かないと行けなくなる。

 

それは避けたいと言う気持ちで手早く済ませる。髪を洗い、身体を洗い、鏡を見る。肩まで伸びた綺麗な黒髪、青と黒が混ざった瞳が鏡に映っていた。

 

「……はぁ、とりあえず早く出よ」

 

鏡を見て溜息をつき、身体や髪を拭き、下着を着用し、制服に袖を通して、髪を再度乾かすためにドライヤーをかけて整えてから居間に行く。時刻は七時半、朝食が並べられていて家族が座っていた。

 

「来たか、彩華。修練に励んでいるようで何よりだ」

 

「何れは土御門家の当主となるのはお前だ。努努それを忘れることなく、なお一層励めよ」

 

「私も貴女が成長すれば肩の荷がおりまするの。頑張ってくださいね彩華さん」

 

「はい、お父様、お母様、当主様」

 

彩華は深々と頭を下げて朝食を摂り始める。

 

(浄眼でどんなことを考えているかなんて見たくもない)

 

おおよその考えている事は十数年も一緒なら分かるというもの。この家の中では猫をかぶるしかない。そうしている間にも薄味の料理が並ぶ。美味しいという言葉は思い浮かぶが、彩華にとっては薄味は好きじゃないのだ。慣れ親しんだ味といえばそうなのだが、彩華は薄味より少し濃いめの方が好きなのだ。食べ終わり、世話人が作ってくれたお弁当を鞄の中に入れ靴を履く。

 

「彩華お嬢様、車の準備ができております。お乗り下さい」

 

「ありがとうございます、いつも助かります」

 

女性の世話人が車のドアを開けて乗れるようにしてくれている。そして車は家を出て学校に向かう。彩華は外の景色を眺める。ちらほら呪霊も視界に映るが、見過ごしてもいいほどのものである。気にすることないと溜息をつきをつく。

 

「彩華お嬢様、今宵お勤めがあります。下校時間になりましたらお迎えに上がります」

 

「……呪術高専の人達の仕事のはずでは?無理やり……という訳では無いですよね?」

 

「はい、向こうからの依頼でございます。人手が少ないためにです」

 

彩華は運転席の方を見向きをせずに小さく「分かりました」と答えた。

 

京都の中学校の近くに車を停めさせ、彩華はそこから歩いていく。この時、この時間だけは彩華は呪術と自分を切り離すことが出来る時間である。それは同時に、彩華の騒がしい日常の幕開けを告げるものでもある。

 

「おっはよー!彩ちゃん!」

 

「うおっわっ!?朱桜(すおう)!?危ないでしょ!?急に抱きついてきたら!!!」

 

彩華に抱きついてきたのは小学校からの同級生である朱桜と言う少女である。友達が少ない彩華の、胸を張って友人と言える人物である。

 

「ねぇねぇ!昨日のテレビ見た?」

 

「見たかったんだけどね……お父さんもお母さんも見せてくれないんだよね。ほら、私の家厳しいからね」

 

「そう言えばそうだね……すっごい厳しいもんね……」

 

思い出したのか震えている朱桜。苦笑いをする彩華。ここでは彩華は猫をかぶる必要性はあまり無い。自分が自分で入れる数少ない場なのだ。

 

そんなこんなで時間が過ぎ、昼休みに入る。彩華と朱桜は教室でお弁当を食べていた。おかず交換が行われ、朱桜から貰った卵焼きを美味しそうに食べいる彩華。

 

「それでなんだけど、彩華。今日、肝試しに行かない?」

 

「肝試し?何でまた急に?」

 

朱桜が頬をかきながら言う。

 

「実は美香ちゃんたちが肝試しに彩華ちゃんを誘おうと言い出してね。一度でもいいから一緒に遊びたいらしいの」

 

彩華は思わず固まる。遊びたいと言うのは分かった。しかし、それでなぜ肝試しなのだろうかと

 

「何で肝試しかと言うとね」

 

「心読まないで?」

 

「元々肝試しに行く予定だったんだけど、ほら、彩ちゃんって他の人とほとんど話さないじゃん?」

 

グサッ!

 

悪気の無い言葉が彩華の心に突き刺さる。彩華は高嶺の花として居る。それだけだけなら、彩華の人柄を知れば一定数の友人はできるはず何だが……。ある日不良に絡まれている生徒を助けるために、その不良を完膚無きまで叩きのめしてしまった。そのため憧れられている反面、畏れられても居る。この出来事で家から怒られたのは言うまでもない。

 

「ど、どうせ私には朱桜以外の友達なんて居ませんよーだ」

 

「わっ!ごめん!そういうつもりじゃなくて!」

 

身振り手振りで朱桜は彩華を励ます。彩華は嘘泣きをして見せたが、話の先を促す。

 

「それで、話の続きは?」

 

「うん、それでせっかくだから誘ってみようとなったの。でも、家の事で忙しいよね?習い事大変そうだもんね」

 

「……うん、そうだね。それはそれとして、何処に行くつもりなの?その肝試し」

 

彩華は肝試しの場所を聞いてみる。朱桜は町外れにある廃病院だと教えてくれた。

 

「美香ちゃんたち霊感あるらしいよ、私も霊感あればなぁ」

 

「見てみたいの?」

 

「怖いもの見たさかな!」

 

「何それ……」

 

二人は笑いながら昼休みを過ごす。放課後になると彩華はまた明日と別れを告げて、家の車に乗り込む。乗り込むと同時に笑顔は失せ、凛とした表情になる。

 

家に帰るまで一言も漏らさず帰るまでがいつも通りなのだが

 

「今回のお勤めの場所は何処かしら?」

 

「……珍しいですね、お嬢様が自らお聞きするのは」

 

運転手の世話人は驚いたように言うが、彩華は気にすることなく

 

「いえ、気になっていたので。教えくださいますか?」

 

「申し訳ございません。私も今日がその日だとしか伺っておりません。御当主様からお聞きください」

 

「分かりました。ありがとうございます」

 

彩華は会話を打ち切りながらも言い知れぬ不安に煽られていた。こんなにも胸騒ぎするのは初めてではなかろうかと言うくらいに。

 

そして自宅に着き、自室に荷物を下ろして着替える。どうせ夕食を食べたらお勤めだろうからと。呪具の短刀を二本持ち、動きやすい和服に着替える。黒を基調とし、所々紺色が入った和服だ。

 

そして、夕食を食べ終え、当主にお勤めの場所を聞く。それを聞いた彩華は顔を青くした

 

「い、今なんと申しましたか……今回のお勤めの場所は……」

 

「聞こえぬかったのか?町外れにある廃病院と言ったのだ。高専からの依頼でな。手が足りぬらしい、恐らく呪霊がいるだろうが、今のお前にはいい相手かもしれぬ。廃病院の呪霊を祓って来い。その位容易いだろう?」

 

廃病院の呪霊と言うのは珍しくなく、高専が巡回して呪霊を溜らないように祓っているが、今回の廃病院はまだそれが行われていない。未知数ということだ。そんな所に彩華の友人が肝試しに行くと聞いている。彩華の体温は奪われるように感じると共に、

 

「っ―――!!!」

 

部屋を飛び出した。すぐさま靴を履き、外で待つ世話人のところに向かいながら

 

「車出して早く!」

 

「お勤めですk―――」

 

「いいから早く出して!!!」

 

普段見られない形相、必死な様子を見て世話人はエンジンをかけ、車を直ぐに出す準備を整える。

 

「お勤めの場所は……」

 

「分かるでしょ!急いでよ!!!」

 

「承知しました……!」

 

車は彩華の叫びに応じるように家を飛び出し廃病院に向かう。

 

「お願い……無事でいて……朱桜、みんな…!」

 

祈るように呟いて




感想、お気に入り登録お願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

紅き彩りを以て華は散る

肝試しの舞台に選ばれた廃病院では、女子生徒達の悲鳴が木霊していた。楽しいという感情から来るものではなく、心の底からの恐怖、迫る死から必死に逃げているのだ。異形の怪物から

 

「▪️▼▪️▼⚫!!!」

 

「なんなのアレ!!!あの化け物は!!!」

 

「あんなのいるなんて聞いてないよ!!!」

 

「足を止めないで!!!急いで逃げないと!!!」

 

美香を含む三人と朱桜は院内を走っていた。廃病院に入り肝試しに興じていた。しかし、雰囲気が変わり、異形の怪物が姿を表した。固まる美香達だったが、朱桜が声を出して逃げるように叫んだため、すぐさま逃げに移ることが出来た。しかし、如何に走ろうとも廃病院から出れずに二十分間ほぼ走りっぱなしとなっていた。

そんな中、朱桜が転けてしまう。

 

「朱桜!!!」

 

「「朱桜ちゃん!!!」」

 

美香と他2人が朱桜が転けたことに気づき直ぐに駆け寄ろうとするが、朱桜のすぐ近くには異形の怪物が迫っていた。

 

「私の……事は、いいから!逃げて……!」

 

息も絶え絶えで朱桜は言う。心臓は限界まで動いて胸が痛いし、足は限界まで動かした。体力はもう走るだけの力を残し切れていない。

 

「何言ってるのよ!私が誘ってこうなっている以上、私が見捨てることはしないわ!二人は先に行きなさい、私は朱桜と必ず追いつくわ!」

 

美香は朱桜に肩を貸し、立ち上がらせて他二人に指示を飛ばす。「だけど…」と言い淀む二人に

 

「私が約束を違えたことがあると!?」

 

「「は、はいぃ!!!」」

 

二人の女の子は走り出す。美香の言葉を信じて生き残るためになりふり構わず走り出す。それを見届けた美香は朱桜と共に歩き出すが

 

「きゃあ!?」

 

「っ!?」

 

異形の怪物の腕に捕まってしまう。二人は引き離され、強く握られる。ミシミシと嫌な音を立てながら激痛が体を巡る。意識すらも飛びそうなほどの激痛、走馬灯が駆け巡る。

 

遊んだことや、怒られた事、共に笑った事や、驚いたこと、嬉しかったことなどが鮮明に巡る。そんな中、彩華の事を思い出す。最後の会話が肝試しについての事だ。まだ、いっぱい話したいことや遊びに行きたい所があると思う。

 

(いやだ……死にたくないよ……いやだよぉ……)

 

朱桜は涙を流していた。そんなのお構い無しに、異形の怪物は朱桜を自身の口元まで運ぶ。

 

「朱桜!!」

 

美香は朱桜の名を叫ぶ。これから起きる事柄が容易に想像で来たからだ。その通りになれば目も当てられない光景になるだろう。異形の怪物は朱桜を喰らうべく、掴んでいる手を離した。

 

朱桜の体は、重力に逆らうこと無く口の中に落ちて、異形の怪物に食われる運命だった。現在進行形でそうなろうとしていた。しかし、朱桜の体は怪物の胃の中に落ちること無く静止していた。

 

「え?」

 

「『縫』」

 

第三者の声が二人の耳に届く。それと同時に朱桜の体は引っ張られる。体には青白い糸の様なものが巻きついていた。後ろに引っ張られるのと同時に、人影が入れ違いに異形の怪物に向かって飛び出す。黒い外套と黒い髪を靡かせ飛び出す。その人影は、両手に短刀を持ち切りかかる。怪物は空いた手で掴もうとするが、一本の短刀に薙ぎ払われた。すかさず、人影は怪物に飛びかかり、二本の短刀で怪物を縦に切り裂く。鮮やかな手さばきだった、怪物はそのまま絶命し姿を消す。捕まっていた美香も怪物が殺られた事により解放される。月明かりがその人影を照らし出す。

 

見覚えのある黒い髪に、青黒い瞳。見覚えのない和服に身を包み、短刀を持つ少女がそこにはいた。本来いるはずの無い人物。

 

「さ、彩ちゃん……?」

 

「彩華……さん?」

 

「危機一髪、って所だったね?朱桜、美香さん」

 

土御門彩華がその場に居たのだ。

 

――――――――――――――――

 

「これに懲りたらこういう所に来るのは……控えてよ。分かった?」

 

「「はい……分かりました……」」

 

彩華は歩きながらに説教をしていた。彩華が到着して"浄眼"を頼りに人の思念を探していたら、二人を発見したと言う事だ。発見したらしたで、朱桜と美香は二級クラスの呪霊に喰われそうになっていた。何とか間に合ったが、彩華が居なければ死んでいただろう。そうなれば、彩華は自分を呪い、土御門家を呪っていただろう。しかし、何とか無事に二人を救出する事に成功したのだ。

 

「そ、それで……彩ちゃんはどうしてここに?だって家の用事で来れないって……」

 

朱桜が前を歩く彩華に問いを投げる。美香もそれは気になっていた。朱桜から「家の用事があるから来れない」と聞いていたからだ。いざ蓋を開けてみると、現代にはそぐわない服装を身にまとい、銃刀法違反を犯し、怪物を……呪霊という存在を祓った特異な存在だ。朱桜と言う共通の友人を持つ者として、彩華とも仲良くありたいと思った。だから親交を深めるべく美香は今回、肝試しを企画した。

 

そして今に至る。美香の疑問は、彩華がどういう存在かというものだ。朱桜の質問に彩華は答える。

 

「これが家の用事。こういう如何にもという所に足を運んで、呪霊を祓ったり、あとは家での鍛錬かな。厳しくて毎日嫌になるけど……」

 

なんて無いふうに言う。彩華はここで誤魔化すより、ある程度話した方が良いと考えていた。下手に誤魔化して混乱させるよりも良いと。

 

「そうなんだなんかカッコイイね!!!」

 

朱桜はそんなのお構い無しに目を輝かせていた。美香も彩華もずっこけそうになる。

 

「聞いていた?朱桜、彩華さんは……」

 

「人知れず悪霊退散する陰陽師的なことをしているんだよね!カッコイイじゃん!!!カッコイイよね美香ちゃん!」

 

自分がさっき死にそうになった筈なのに能天気というのか、アドレナリンが出すぎてハイになっているのか分からない。彩華と美香は溜息をつき苦笑いをうかべる。

 

「散々怖い目にあったと言うのになんと言うか、相変わらずね」

 

「本当に、私ならそんな言葉浮かばないよ」

 

彩華は二人と話しながら、廃病院の呪霊を祓って行く。さっきは短刀を使っていたが今は呪力で体を強化し、呪力を纏った体術で祓っている。人に見せるようなものでは無いが、だからと言って別行動する方が危険になる。先の二人には護符を渡してあるから下級の呪霊なら近寄ることも出来ないようにしているため、彩華は朱桜と美香に着いている。一階から五階までの確認を終え、最後は屋上となっている。

 

(ここまで来て、最大で二級クラスが一体だけ……。拍子抜けと言えば拍子抜けだけど、皆が無事でよかった。死人が出ていたら、当主を呪っていたかもしれない……けど、)

 

物騒な事を考えながら、彩華は揺れていた。内心でそう考えていても、呪術師の土御門彩華として考えた時、果たしてこの二人を守る事を優先すべきか、呪術師として任務を優先すべきかと……。

 

考えるなと否定しても、積み上げてきたものがお勤めを優先させようとする。この時の自分ほど嫌いになると、内心彩華はため息をついていた。

 

廃病院の探索は一階から五階までの確認を終え、最後は屋上となっている。

 

「ここが最後の場所なんだよね?」

 

「そうだよ、スリリングな肝試し大会も終わり。今日のことは正直に言うと忘れて欲しいよ」

 

「私はそうする。軽い気持ちで誘ったら死にそうになったなんて嫌だし」

 

屋上を確認すると、さっきまでとは異なり、呪霊の姿は見られない。クリアと言っても差し支えないだろうと思う。

 

「異常なし、祓うのも祓ったし帰ろう…」

 

振り向き、朱桜と美香に言おうとした瞬間。二人の足元の床が歪み手の形のようなものになろうとしていた。さらに後ろの床はあきらかに別の形へと変貌を遂げようとしていた。

 

「っ!」

 

彩華の体は動いていた。頭で考えるより先に、体が二人を助けようと動いていた。二人に手を伸ばして腕を掴み、後ろに逃がすように投げる。二人は理解できないような表情を浮かべるが、彩華は短く端的に言う

 

「逃げて」

 

直後、手は彩華を捉えた。土煙を巻き上げながら屋上の一角が崩壊する。

 

「彩ちゃん!……っ!」

 

土煙が晴れて見えた光景は、大きな呪霊に掴まれて身動き出来ない彩華の姿だった。瓦礫の破片が頭部に当たったのか、頭からは出血している。

 

「この……!『縫』!?」

 

彩華が術式を使おうとしたタイミングで呪霊は彩華を壁に叩きつける。

 

「がっ……!」

 

そのまま開け天井に向けて投げ、其れを追いかけ、追撃をし屋上に叩きつける。

 

ドゴォオオン!!

 

轟音を立て、再び舞台は屋上に戻る。彩華はフラつきながらも立ち上がる。

 

(痛い……痛い……全身が痛いな。頭も打って回らないし……。多少呪力で体を守ったから動くには問題ない……かぁ。問題は相手かぁ……)

 

頭を振りながら呪霊の方を見る。ざっと準一級か一級かもしれないと。流石に辛いものがあると愚痴を零したくなる。勝てなくは無いが、楽な戦いにならないし、こっちはそこそこダメージを受けてしまっている。

 

(とりあえず、術式も使って祓わない……と……)

 

呪霊を見て思考が途切れる。呪霊は朱桜と美香を拘束して、取り込もうとしていたのだ。それを見た彩華は短刀を抜刀し走り出した……が

 

「クルナ……コイツラ……コロス」

 

呪霊が脅しをかけてきた。思わず足を止め、睨みつける。

 

「彩ちゃん!」

 

「彩華さん!」

 

「朱桜!美香さん!」

 

彩華は拳を強く握る。自分の考えが甘かったと。先に二人を世話人の所に送っていれば、こんな事にならなかったと。

 

(考えが甘かった……!)

 

「コイツラ……タスケタイカ……?」

 

呪霊が話しかけて来たことに彩華は驚く。しかし、今はそれどころでは無い。

 

「当たり前でしょ!その二人は私の友人!助けたいに決まっているわ!」

 

呪霊が下卑た笑いを浮かべながらに言う。

 

「タスケタイナラ……ソノ刃ヲ、オマエノ首二、突キタテロ」

 

刃、それは彩華が持つ短刀を指す事だろう。そして首に突き立てろ時た……つまり、二人を助けたくば自害しろと言うことだろう。

 

「こんな奴の言うこと聞く必要は無いわ!」

 

「そうだよ彩ちゃん!こんな奴やっつけちゃえ!!」

 

呪霊は取り込む力を強めるのと同時に、拘束している部位に口を出し噛み付く。その痛みに悲鳴をあげる二人。

 

「朱桜!美香!」

 

「二人ガドウナッテモ…イイノカ?薄情ダナ!?」

 

どうすればいいかを考える彩華。二人を見捨てるか、自分を死なすか……。後のこと考えるなら、今ここで目の前の呪霊を祓う方が正解だ。他の術師の被害だってここで祓えば抑えられる。術師の被害だけじゃない、これから他にも目の前の呪霊に殺される非術師も出るはず。そう考えれば、目の前の二人の犠牲で呪霊が祓えるなら良い方だ。

 

(……しか無いよね。死にたくないしなぁ……)

 

彩華は短刀を持ち構える。

 

「ひぐ……あっ……!お願い彩ちゃん…!私だってどうなるか事くらい分かるよ……だから……!」

 

「あっ……ぐぅ!!私だって死にたくないけど、私達二人に構わなければ倒せるよね?なら敵討ちは任せるわ!」

 

二人はにへらと無理やり恐怖を押さえ込んだ、涙を流した笑みを浮かべて言う。しかし彩華には

 

(本当は死にたくないし、怖いし、泣き叫びたい気持ちでいっぱいなくせに……)

 

二人の本当の思いを見ていた。浄眼はそういう物も見える。そして彩華は確認する。

 

「条件を呑めばいいんだよね?」

 

「アァ、拘束ヲ解イテ、解放シテヤル……」

 

それを聞いて彩華は――――

 

(賭けるしかない……かぁ。死にたくないなぁ……。でも、二人の犠牲を出すくらいなら……私の責でもあるし、賭けるしか無いよね)

 

決めた。

 

短刀を自身の首に突き立てる。躊躇なく持っていく。

 

(二人の傷になるだろうなぁ。私だって嫌だもん。自分のために命を張られるのは……)

 

「彩ちゃんダメ!やめて!!!」

 

「彩華さん!」

 

二人は必死に叫び彩華を止めようとする。彩華は二人に"笑顔"を向けて

 

「ごめんね?巻き込んじゃって……。今回の事は悪い夢とでも思ってよ。じゃあ、バイバイ」

 

なんて無い風に別れを告げて、自身の首に短刀を突き刺した。

 

「ぐっ…ぎっ……が……」

 

苦悶の声を漏らし鮮血が飛び散る。刃は首を通り、月明かりに照らされて深紅の華が咲く。

 

「あ……が…――――」

 

鉄の臭いがする紅き"彩り"を以て"華"は散った。

 

刃は引き抜かれもう一度華が咲く。そして茎が折れるように倒れ、屋上に紅き色で彩った。

 




次回もお楽しみに、どうなるかは……これからです!

お気に入り登録、感想お願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

死を見て目覚める

もうすぐ原作の時間軸に行けるぞー


「……」

 

彩華は自ら喉を刺した。それにより、屋上で自身の血の海に横たわり死を待つだけになった。否、もう、死の瀬戸際だ。思い返すことも無く、ただ途切れそうな意識の中、賭けに出ていた。

 

「う……そ……そんな……彩ちゃん……」

 

「――――彩華さん?」

 

彩華の自害を目の前で見た二人は、体の熱が抜けて行くのを感じ、目の前の光景を受け入れきれないでいた。それだけではなく、朱桜の心は砕ける寸前まで追い詰められていた。小学校からの付き合いのある友人、親友と言っても差し支えの無い友人が……目の前で自分達の為に命を絶った。

 

自分が死に追いやった。自分が足を引っ張り、助けるために死んでしまった。その事実が、目の前の光景が朱桜を蝕んでいく。

 

「わ……私の……せいだ……そんな……いやだよぉ…ねぇ、彩ちゃん……起きてよ……」

 

「イイ顔ダナァ……絶望二沈ンダイイ顔ダ……」

 

呪霊は二人を取り込むのを途中で止めながら、死体を近くで見せつけるように移動している。

 

「貴方趣味が悪いわよ!友達の死を見せつけるなんて!!!」

 

美香は自身を取り込もうとする呪霊に向かって叫ぶ。自身に迫る死の恐怖より、友人を絶望させようとする、友人の親友の死を辱める。それに対する怒りの方が勝ったのだ。しかし、何も持たない人間。いくら呪霊に対して吠えようとも何も変わらない。いや、刺激してしまうだけだった。

 

「イクラ吠エヨウトモ変ワラン。貴様ラヲトリコンデ、糧二シヨウ……ソウカ、マダチカクニイルノカ」

 

呪霊は何かに気づいたのか、二人を解放する。

 

「何のつもりよ……!」

 

解放された二人の体は、噛み付かれたことにより、呪われていた。軽い呪いではなく、確実に蝕み脅かす呪いである。そんな状態で解放されても、逃げ遂せるとは到底思えない。しかし、どんな思惑があろうとも、この期を逃す事は許されないと美香は思った。自分達の為に命を絶った恩人に報いるためにも。

 

「早く逃げるわよ!」

 

朱桜を無理矢理立たせてその場を去る。朱桜の様子はもう折れかけてる。もしかしたらこれから先立ち直れるか分からないような様子でもあった。そんな朱桜に

 

「今はここから生き延びる!!!彩華さんの思いを無駄にしない為にも!今ここで私達が死ねば、あの人の死は無駄になるわよ!そんなの1番しては行けないことよ!!!」

 

美香は大きな声で言う。美香だって辛い気持ちでいっぱいである。傷や目の前で起こった悲劇、自分が肝試しに行こうなんて言わなければ起こらなかった事柄ばかりだ。だからこそ、彩華の思いを、朱桜を死なす訳にも自分が諦めるわけにもいかないのだ。

 

その言葉を聞いた朱桜は大粒の涙を流しながら、逃げるために足を動かす。

 

「ごめん……ごめんない……!彩ちゃん…!絶対に逃げ切るから……!」

 

「ええ!そうよ!私達は逃げないと行けないのよ!」

 

この場だけでもいい、少しの時間だけでもいいと美香は心の中で思った。生きる活力、逃げるための気力さえ戻れば……。

 

必死に逃げる。幸いなことに道中、呪霊と遭遇することは無かった。それもそのはず、屋上行くまでに、彩華が祓っていたのだから、帰りは安全に帰れるというものだ。

 

何とか廃病院の出口に辿り着き、脱出することにはできた。しかし、まだ少しの森を抜けなければならない。それでも、二人は肩を貸しながら確実に廃病院から離れて行っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――しかし、絶望はそう容易く覆ることは無い――――――

 

「……嘘……」

 

「あっ……あああ……!!そんな!いや!いやぁああああ!!!」

 

屋上の呪霊が地上に居て、先に逃げた二人の少女を………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

暗い暗い空間。ただの暗い空間では無く、水で満たされているような感覚に陥るような感覚。

 

感じるはずのない感覚。そんな中でただただ沈んでいく感覚に支配される。

 

(失敗した……?どうだろう……分かんないや……暗いし、寒いし、力が入らないし……寂しいなぁ……けど)

 

そんな思いを抱きながら沈んでいく。しかし、このまま終わりにしていいのかと自分に聞く。

 

体は動かず、感覚も消え失せた中で少女は、

 

(失敗で……終われない……何のために部の悪い賭けに出た?必ず何とかするため……だから全力で挑んでるんでしょ!!)

 

呪術師の成長曲線は必ずしも緩やかでは無い。彩華は死の際で掴む……呪力の核心を。呪力は負の力、肉体を強化することは出来ても再生することは無い。しかし、その負の力同士をかけ合わすことが出来たらどうなるだろう。

 

負の力と負の力を掛け合わせれば正の力へとなる。しかし、言うは易しで行うのは至難の業を反転術式と言う。それ故にそれをできる人物は限られている。少し前の彩華も出来ないでいた。理屈で分かっていても成功した試しなんて今まで一度もなかった。しかし、死の際で呪力の核心を掴むことが出来た今なら……反転術式を使う事が出来る―――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……耳に入るのは水が落ちる音。そして冷たいと感じる体。

 

「……雨……降っているんだ……」

 

反転術式で傷を治すことが出来た彩華は立ち上がる。体は雨に打たれて冷えていて、服は水を吸い重くなっている。それだけではない、出血の影響なのか頭が必要以上に重く痛く感じ、視界は可笑しくなっていた。

 

「何?……この、線と点は……?」

 

見る度に頭が痛み、気分がとても悪く感じた。先程まで感じていた感覚と似ているとも思った。それと同時に大きな呪力を感じ取った。それは地上から発せられていた。

 

「……行かないと」

 

彩華は自身の首を刺した短刀を手に持ち屋上を後にして、地上に向かう。線と点は廃病院の至る所にあり、それは自分の手にも見えた。見る度に、気分が悪くなり、頭が痛くなる。しかし、気にもとめず歩き続け、入口に辿り着き扉から出る。

 

(皆は無事に帰れて……いるといいな……)

 

雨に打たれながら一歩一歩進む。そして大きな呪力を放つ正体の所に辿り着く。

 

「ウソだろ、お前自分で首を刺して死んだはずじゃ?」

 

先程の片言の言葉ではなく、饒舌な喋りで呪霊が言葉を話す。

 

「死にぞこなったってか?なら、キッチリオレの養分にしてやるよ。お前が守りたかった奴らも、今四人目を取り込んでいる最中だがな!」

 

呪霊が体全体を彩華の方に向けると、朱桜の下半身、両腕まで取り込まれていた。外に出ているのは、上半身だけである。

 

「……他の三人は?」

 

「もう取り込み済みだぜ。おかげで、力も増したし、こんなにも饒舌に話せるようになったぜ?ヒーヒャッハハハハ!!!」

 

呪霊は高笑いをする。

 

「泣き叫んで恐怖に怯えて、最っ高に最っ高にヨカッタゼ?」

 

「う……え?彩ちゃん……?」

 

気がついたのか取り込まれそうになっている朱桜が顔を上げる。そして目の前に立つ彩華を見て

 

「そっか……迎えに来たんだ……もうすぐそっちに……」

 

「……私はお化けじゃないよ、朱桜」

 

「え?」

 

朱桜は彩華をまじまじと見る。服装は血で汚れているが、五体満足で立っていた。

 

「よか……た……生きていて……良かったよぉ……!」

 

朱桜は泣きながら喜んだ。彩華の生存を、生きていたことに涙が溢れて止まらなくなっていた。

 

「今助けるから、少し我慢してて」

 

短刀を構えて呪霊と対峙する。

 

「オレに為す術もの無かったオマエが何を言って……!?」

 

次の瞬間には彩華は呪霊に肉薄し、呪霊の腕を短刀で切り落とした。

 

「なすすべ無かったって……誰が、誰に?」

 

軽やかに着地して、穏やかで凛とした声で彩華は質問する。

 

(何だこいつっ!さっきと別人じゃねえか!!)

 

呪霊は攻撃するが、短刀で切り払われ、彩華に攻撃が届かない。

 

「ふっ!」

 

呪力を纏った拳が呪霊に突き刺さる。

 

「アッアアアアアア!!!」

 

それと同時に朱桜が悲鳴を上げる。彩華は手を止め距離を置き

 

「何をしたの?」

 

「なあに、オレがコイツを取り込んでいる時は、コイツにもオレと感覚を共有できるようにできるんでな。そうさせてもらったんだよ」

 

"そうすれば、抵抗出来ないだろ?"と呪霊は嗤う。

 

「オレを祓うという事がどういう事かわかっているんだよなァ!?」

 

「……」

 

彩華は黙り呪霊と朱桜を見据える。相も変わらず視界には黒い線と点が呪霊と朱桜にも見える。頭を振りながらどうするかを考えようとした時

 

「彩ちゃん……お願い……もう、終わりにして……!」

 

泣きながらに朱桜はそう言った。取り込まれている時にも痛みがあり、目の前での三人の死、生きていたとはいえ親友の自害まで見た朱桜。さらにまた、自分が利用されて彩華を危険に晒すと言うのが我慢できなかった。それに、自分が助からないと言うのが何となく理解していた。

 

「朱桜……」

 

彩華は目を瞑り、短刀を地面に落とす。それを見て呪霊はニヤリと笑う。先と一緒なら、これでこの術師も取り込めると、殺せると思った。

 

「分かればいいんだよ呪術――――」

 

しかし、彩華が告げるのは―――

 

「私の術式は《刀圭呪術(とうけいじゅじゅつ)》」

 

目を開き睨みつける。その目は青白く輝いていた。

 

(何だ……あの眼は……お、オレが恐れているというのか……!?)

 

彩華は理解し始めていた。今の自分に見えているモノが何なのか……。それ故に、気分が悪くなるし、頭が割れそうになるのにも理解を示せた。

 

「医術を元とした術式。医術になぞられた特性を持つ……縫い付ける事も、切る事も……」

 

「術式開示……!本気か!?」

 

手をゆっくりと呪霊に向ける。眼を見開き手を動かす。そして……

 

「まだ、生きているのなら……絶対に救ってみせる。私は……もう、迷わない。"刀圭呪術"『切除(セツジョ)』」

 

斬撃が呪霊に襲いかかる。このまま切り刻めば朱桜は痛みに耐えかねて死ぬだろう。しかし、『切除』とは切って除くの意がある。文字通り、呪霊から朱桜を綺麗に切り除いたのだ。傷つけることなく。

 

「なっ!何故だ!何故俺だけに!?」

 

(この眼……頭痛くなるし、気分が悪くなるけど、この線はそういう事なんだ……)

 

彩華は解放された朱桜を抱き留めて言う。

 

「終わりだよ、祓われて(殺されて)無へ堕ちろ呪霊。お前に相応しい最期だ……『(セツ)』」

 

再び斬撃が呪霊を襲い今度こそ祓らわれる。断末魔を上げることを許さず祓った。しかし、まだ終わらない。

 

「彩……ちゃん……」

 

呪霊に襲われて満身創痍の朱桜が居る。いつ死んでもおかしくない状態、いつ消えてもおかしくない命の灯火。だが、まだ生きている。

 

「大丈夫、今の私なら。心配しなくていいよ。今日の事は悪い夢だったんだ。もう、夢の終わりだよ」

 

「う……ん……」

 

彩華が優しく言うと朱桜は眠りに着く。彩華は反転術式を使用し朱桜の体を治した。そして雨が降りしきる空を見て

 

「……三人も……しょう……ちくしょう……!」

 

独り、雨に打たれながら誰にも聞かれることも誰にも見られることも無く涙を流した。

 

 

 

 




《刀圭呪術》
医術の医術を元にした術式。平安から現在にかけての医術の進化で出来ることが増えている術式。
イメージとしてはトラファルガー見たいなことも出来る。

斬撃で敵を切り裂く『切』

縫合、固定、拘束、移動に使える『縫』が今現在使える技



領域展開に関しましては、大絶賛考え中であります!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

親友との別離

廃病院の一件から一週間が経った。女子生徒三人の葬儀も行われ、日常が少しづつだが戻ろうとしていた。のだが、生き残った二人はそう簡単に日常にもどる術が無かった。朱桜は精神的ショックを受け登校出来なくなっていた。食事は取れているらしいが、夜な夜な誰かに謝っているそうだ。

 

彩華の方は……

 

「くっ……ぁぁああ!!!」

 

変質した浄眼に苦しめられていた。彩華が見ている線と点は死の情報である。いつか来る終わりの概念を見るものである。しかし、それを見ると言うことは、世界の脆さ、自分の手で簡単に殺せてしまうと言う状態に"常に"晒されるという事になる。精神的に多大な負担を背負う。さらに、自身の失態で三人の人間が死んだという事実が更に輪をかける。

 

彩華の精神状態は何時自殺しても可笑しくないと言う極めて危ないものとなっている。

 

自害されては溜まったものじゃないと土御門家は地下牢に拘束し、目隠しをして、舌を噛みきらないように布を噛ませて幽閉した。その眼に慣れるか、制御できるまで拘束するのも考えだと思っているのだろう。

 

「はぁ……はぁ……っつう!」

 

目隠し越しにでも線、点は視えている。眠っている時以外は必然的に死の情報を見せられ続けている。

 

(くっそ……気が狂いそう……。こんな眼……!!!)

 

ジャリジャリと鎖が揺れる。彩華が暴れて拘束を解こうとするが、少女の素の力ではどうにもならない。

 

「まだ、己の命の価値が分からんか?」

 

老齢の声が耳に入る。土御門家の現当主にして、彩華の祖父に当たる人物、土御門宗治。

 

「……命の価値なんて……"こんな脆い世界"のどこにあるのですか……?」

 

「……脆い世界だと?お前には何が見えている?」

 

宗治は腰の刀を抜き、彩華の目隠しだけを切り裂く。寸分の狂い無く、彩華を傷つける事無く目隠しだけ切って落とした。

 

そして……死を見る眼と対面する。

 

青白く輝く眼は五条家の六眼を連想させたが、宗治が感じたものは

 

(何だ……!?この眼に見られた時の寒気は……!まるで、首に鎌をかけられている……いや、魂を掴まれている気分じゃ!次の瞬間にも殺されてしまいそうな錯覚すら覚えたわい……!)

 

己の死を予感した。元の相伝された浄眼なんて比じゃない程の恐怖と初めて対峙する変質した眼。だが、これはより彩華を強くし、術式と組み合わせた時、今まで辿り着かなかった境地に行けるのではないかと。その可能性に思わず笑ってしまった。

 

「ふっ……。出ろ、彩華。貴様の為に用意した物がある」

 

牢屋の扉を開け拘束を解く。彩華は自分の為に用意された物が何なのが気になった。しかし、今まで繋がれて座っていたため、立ち上がろうとすると崩れ落ちてしまう。

 

「秋三、彩華を連れて儂の部屋に来い」

 

「仰せのままに」

 

彩華の体術の先生である秋三と呼ばれる人物が彩華を抱き抱えて運ぶ。

 

「あまり、眠れていないのでは?」

 

「……そんな事は無いです。眠っている時の方が休まりますし」

 

「嘘が下手ですね。眼の下にクマができていますよ。大方救えなかった命に心を痛めていたのでしょうね」

 

図星を疲れたのか彩華は黙りを決め込みそのまま運ばれる。

 

そして、運ばれ辿り着くは当主の部屋。和室で飾り付けは掛軸程度のシンプルな内装となっている。外からは鳥のさえずりや風で草が靡くのが見て和やかな気分になる。しかし、部屋の雰囲気はそんなものを殺す。部屋には当主が座っており、それだけで厳格な雰囲気となる。

 

「来たか……。うむ、秋三は下がっても良い」

 

「はい」

 

そう言うと秋三は彩華をゆっくり部屋に下ろし、退出する。下ろされた彩華は少し嫌な表情を浮かべるが、直ぐに表情を改めて当主の前に正座する。

 

「では、本題に入るとするか、貴様の為に用意した物がこれだ」

 

当主がそう言うと出したのは木箱だった。当主は木箱の蓋を取るとそこにあったのは眼鏡であった。

 

「眼鏡……でございますか?」

 

「呪具のな。この眼鏡は、浄眼等の眼の力を抑える呪具だ。"眼"を持つ者は普段からその力で必要以上に消耗する。それを抑える為にあしらわれた物なんだが、眼を受け継いだものはお前を除き近いのは儂の祖父にあたる。それ故に蔵に寝っていたが、此度の件の折出すことにした」

 

「どうして、今まで出さなかったのですか?」

 

彩華の疑問は最もだ。消耗を抑えるための眼鏡であり、それを今の今まで出さないのはおかしな話である。

 

「何、まだ必要ではないと判断していたまでだ。だが、眼で狂わされて自害するとなれば話は別だ……かけてみろ」

 

当主から手渡された眼鏡を受け取り、彩華は眼鏡をかける。すると視界に映っていた線と点が消えたのだ。

 

「え!?うそ……!」

 

眼鏡を外すと再び線と点が見える。ズキリと頭の痛みも走る。彩華は顔を歪めると再び眼鏡をかけた。

 

「効果はあったみたいだな……?」

 

「ええ、驚きました」

 

「では、もう、馬鹿な真似は止すことだ。お前は自分が思っている以上に命の価値があるのだ。土御門家の命運を、将来を背負っておること努努忘れるな……」

 

「はい、当主様。失礼します」

 

彩華は立ち上がり、部屋を後にする。1週間ぶりの陽の光を見て眩しさで目を瞑る。再び目を開いても、眼鏡をかけているため、線、点は視界に入ることは無かった。久々に心に落ち着きが取り戻せた気がするが、すぐさま朱桜の事が頭によぎる。

 

一般人があんな目に遭って、何も無いはずだと。ましてや、自分が死にかけたり、友人の死を目の前で見たりとまともじゃない。一生に出会うか出会わないかの悲劇を、惨劇を見た。彩華ですら、同じような光景を見たら二日三日は立ち直るのに時間がかかるだろう。そう、呪術師としての彩華ですらかかるのに、日向の一般人である朱桜が立ち直れるとは到底思えない。

 

「……私の術式と、この眼があれば……」

 

彩華は考える。もし可能であれば、朱桜はもう苦しまなくてもいいだろう。その代わりに、思い出の一つを奪うことになるとしても……。

 

彩華は次の日、私服に着替え、世話人を呼び朱桜の家まで送らせた。事前に電話で行くことを、お見舞いに行くことを伝えていた。朱桜の母は彩華ならと言って通してくれることとなった。

 

朱桜の家に着き、上がらせてもらい部屋に向かって歩む。

 

(……今から私がやろうとしている事は……許されない事だろうけど、縛られたまま生きて欲しくはないし)

 

呪術師としての考えでこの場に居る。可哀想だと一般人には重すぎると、しかし

 

(けど、それは……!)

 

友人としての彩華を苦しめる。行おうという行為は……記憶を消すことであるのだから。変質した眼と術式を持ってすれば可能では無いかと思い、今ここに居る。

 

扉の前に立ち、ノックする。

 

「誰?」

 

ドアの向こうから朱桜の声がする。何時もの明るい声ではなく、聞くだけでも分かるように窶れている。

 

「私、彩華よ。少し話いい?」

 

そう言うと、扉が開いた。目にクマを作り、窶れた朱桜がそこに居た。

 

「……入って」

 

「ええ」

 

招き入れられ、部屋に入る彩華。部屋の様子はあまり変化ないが、カーテンは締切って、部屋の電気はつけられていなかった。

 

「もう、大丈夫なの?彩ちゃんは」

 

「まぁ……ね。そう言う朱桜は窶れたわね。寝れて無さそうだし、ご飯も食べれて居ないんじゃないの?」

 

「……うん、眠れてないかな。そう言う彩ちゃんもじゃない?クマがあるよ」

 

「互いに嫌なこと体験しちゃったということだよ」

 

「……そうだね」

 

重い沈黙が場を支配する。そんな沈黙を朱桜がポツリと破る。

 

「……私、怖いんだ。また、怪物が来ないかとか、また死にそうになるんじゃないかとか、また、大切な人が目の前で死ぬんじゃないかと思うと怖くて怖くて、どうしようもないんだよ。美香ちゃんや皆が目の前で……死んでいく光景が……頭から離れなくて……もう嫌で……!」

 

「っ!」

 

彩華は拳を固く握りしめる。自分の無力さを呪う。親友をここまで追い詰めたのは、あの呪霊だけでは無く、間違いなく自分もその一人だと。守りたかった日常、平穏の象徴を自分が壊したのだと。

 

「ねぇ……そんな悪夢、悪い記憶消す?」

 

「え?」

 

突拍子も無い彩華の発言に朱桜は目を丸くする。彩華は朱桜の目を見ながら話す。

 

「私の眼は元から異常だったけど、今回の一件でさらに異常性をましたんだ。それこそ、死を直で見るような感じにね……」

 

「死を……直で?」

 

「うん、それで……私の術式を組み合わせたら、朱桜の忘れたい記憶を消すことだって出来ると思うんだ……やる?」

 

「記憶を……消す……」

 

朱桜は考え込む。そして彩華は内心で選択肢を相手に委ねたことを少し迷う。問答無用でやった方が良かったのでは無いかと、こういう世界に来るべきではない人を引き込んでしまう可能性があるということを躊躇う。また、繰り返すのかと……。

 

「本当は……覚えていないとダメ……なんだと思うだ……けど、ごめん。私、もう……耐えられないんだ……助けて……彩ちゃん……」

 

もう少し早かったら、この選択肢には朱桜は至ら無かったかもしれないが、もう、耐えれる程の精神状態ではなかった。救いの手が伸びればその手を掴むほどに。

 

「……分かった。私が、救って見せる」

 

彩華は眼鏡を外す。そして眼を見開き、限界まで眼の力を使い、朱桜の頭を見る。殺すべきものを見据える。そして、それを取り除くために

術式を使う。しかし、消すのはあの悪夢の日だけではない。もう一切関わらないようにするために

 

「さようなら、私の親友。色んなこと教えてくれて、こんな私に優しくしてくれて……ありがとう」

 

「え?彩……ちゃん…?」

 

「――――――『切除』」

 

―――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彩華は眠った朱桜をベットに寝かし、朱桜の家を後にした。そして、世話人の待つ車に乗り込み家に帰るように指示を出す。

 

 

結論から言えば上手くいった。初めての試みだったが、何とかなった。その代わりに、彩華は凄まじい頭痛に襲われ、気が狂いそうになったが抑え込み、何とかなった。車の後部座席で目を瞑りながら休んでいる。が……

 

「ご苦労様ですお嬢様。……お嬢様?」

 

「……っ。ええ、貴方……も…付き合ってくれて…ありが……とう」

 

世話人は彩華の涙を堪えながらに言う言葉に少し胸を痛めた。十三歳で背負うものでは無いと思ったが家が環境が才能がそれを許さないのだと彼女の強がりを見てそう思った。だから、

 

「少し遠回りをします。私は何も聞かなかったことにしますので」

 

気持ちを共有することは不可能、慰めるなんて以ての外、だから少しでも時間を稼ぐことしか出来ない。後ろから、静かに無く彩華を声を聞きながら車を動かす。

 

 

 

そして時間は流れる

 

 

 

 

 

 

 




感想、お気に入り登録お願いします。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

一級呪術師になるため

2週間遅れたこと誠に申し訳ございません!


あれから二年の歳月が流れた。土御門彩華は中学校三年生となり、進学について考える時期になった。と言っても、術師なので呪術高専に行くことはほぼ確定しているようなものだ。

 

「あ……っい」

 

季節は現在夏真っ盛り。京都の夏は暑いと言われるだけはあり、気温も余裕の三十度超え、彩華は自室の戸を開けて扇風機をつけて、机に突っ伏していた。

 

「お金あるんだからクーラーの一つや二つ買ってくれてもいいのに……地獄かな?」

 

彩華の部屋にエアコンは無く、暑い日々を扇風機一個で乗り切らないと行けないと言う地獄を過ごしていた。さらにこの時期は呪霊が多く出る季節でもあり、繁忙期とも言われている。実戦経験に事欠かないと言えば聞こえは良いが、要するに猫の手も借りたい状況で彩華も駆り出されているというのだ。

 

「次が……準一級の昇任試験だっけ」

 

彩華は現在二級術師である。二年間の間で昇級し今現在二級呪術師としても活動しているが、実力だけなら一級と言ってもおかしくは無い。それだけの経験を積んできているのだが、色々あって次の任務が準一級になれるかなれないかの試験となっているのだ。

 

「梅雨が明ければ、猛暑、猛暑、猛暑、ああ、嫌になっちゃうよ……呪霊も増えているしね」

 

のだが、当の本人は暑さにやられており、項垂れていた。名家の令嬢、土御門家の姫君、最高傑作とか言われているが、今の彼女からはそう言った要素は皆無である。アイスの棒を口に咥えて暑さをどうにかしたいと考えているのだから

 

「……『ハズレ』ハズレかぁ……よし、準備しようかな」

 

咥えていたアイスの棒をゴミ箱に投げ入れ、手元のタオルで汗を拭う。そして時計を見て溜息をつき、着替える。動きやすい黒の和服に着替えて、家の玄関に出て世話人に

 

「清水寺までお願い、そのあとは連絡があるまで本家で休んでて、一級術師と試験だから」

 

「かしこまりました、お嬢様」

 

車に揺られて三十分位が経った頃に清水寺の駐車場に着く。彩華は車から降り、見送った後に清水寺に向かって歩を進める。

 

(なにかお土産渡した方が良いのかなぁ?でも、遊びじゃないと言われた嫌だしなぁ……。気を使いすぎかな?でもなぁ……嫌だしなぁ)

 

そんな事を考えながら歩を進め清水寺に入る。夏といえど観光客で賑わっており、人混みはある。そんな中から特定の人物……初対面の人間を探すのは一苦労という物だろう。と、思っていたが

 

(あ、あの人かな?聞いていた服装と似てるし、聞いてみようかな)

 

サラリーマンのようなスーツと、独特な形の眼鏡、七三分けの髪型の男性だ。彩華はその人物に近づき目の前に立ち尋ねる。

 

「あの、七海健人さんでしょうか?」

 

「ええ、そうです。そう言う貴女は、土御門彩華さんでよろしいでしょうか?」

 

「はい!私が土御門彩華です!今回よろしくお願いします!」

 

七海が抱いた彩華に対しての第一印象は普通だった。呪術師を出してはいるが、御三家程ではなく、落ちた名家と言われている土御門家の中で、相伝の術式と"眼"を継承して産まれた才女。土御門家と言うと録な話は聞かないことで呪術界では少し有名である。そんな話を聞いていた七海は今回の仕事を受ける際に面倒だと思ったし、その人物も色々とぶっ飛んだ人が来ると思っていたが、良い意味で裏切られた。

 

「はい、よろしくお願いします。件の話は聞いています。今回は一級の仕事が二件あります。この仕事を成し遂げましょう」

 

「分かりました!じゃあ、早速行きましょう!」

 

まず、一件目は廃ホテルで起こる失踪事件について出そうだ。経営者が経営不振で焼身自殺したという話や老婆の霊を見る等の話を聞いたことのある廃ホテル。そこで肝試しのために訪れた人達が行方不明になっているとの事で、呪術師が派遣されたのが呪霊は一級との事で、一級呪術師の七海に白羽の矢が立ち、その次いでに彩華の昇級の件が着いてきたのだ。

 

「肝試し……かぁ。いい思い出が無いんですよね」

 

「何かあったのですか?」

 

今現在二人は補助監督の車で現地に向かっていた。行く場所の情報を聞いた際に彩華が苦々しい表情を浮かべながらに呟いたのだ。七海はそんな表情を浮かべる彩華を気にかけ理由を尋ねた。

 

「二年前の話なんですけど……」

 

語られた話は、二年前の出来事、今の彩華を形成している原点に近しい地点の話。そして、人を三人も死なせた話だ。その話をしている時の彩華は悔しさを目に宿らせていた。片時も忘れることがないと、

 

「と言うことがあったので、肝試しと言うのは自分にとっては、忘れてはいけない呪いなんですよね」

 

思い返すは友達だった少女の事。自信に待つわる記憶を消したその日に彩華は転校した。その後、朱桜がどう過ごしているかは情報に入って来ていない。自ら距離を取り、呪術界から遠ざけたのだ。無駄な可能性もある。寧ろ、近くにいた方が守れた可能性もあるだろうが、その時の彩華にそんな考えは無かった。

 

「大変な思いをしたのですね」

 

七海は彩華の話を聞きそう零した。小学校から中学校に上がって間もないと言うのに、そのような決断を強いられたこと、そしてそんな少女独りに背負わせた土御門家に大人として腹が立った。

 

「そうですね……だからこそ、今の私がここに居る。って奴ですね、七海さんから見ればまだまだ子供でしょうが、私を甘やかさないでください」

 

「と言っても貴女はまだ子供です。呪術師としての覚悟、貴女個人の覚悟はよく分かりましたが、貴女はまだ子供だ。そんなに生き急ぐ必要は無いと思いますよ」

 

「いえ、私はそれでも進まないと行けないんです。止まっては行けないんです」

 

車の中で二人が話していると、目的地の廃ホテルに到着する。

 

「ここです。ここに居る呪霊は並の呪霊では無いのは先程説明した通りです。気を引き締め行きましょう」

 

「はい!」

 

二人の呪術師は廃ホテルに踏み入れる。踏み入れると同時に、雰囲気が一層重くなる。それと同時に低級の呪霊が大量に二人の前に姿を現す。

 

「早速ですね」

 

「ええ、手早く片付けますよ」

 

七海はナタのような武器と取り出し、彩華は短刀を抜刀する。そして、それぞれ呪霊に向かい走り出す。七海のナタ、彩華の短刀は呪霊を一撃で祓って行く。その動きの中で

 

(流石一級術師!呪力操作、体捌きが無駄が無く尋常じゃない!本当にすごい人だ!)

 

彩華は七海の動きを見て、その実力の高さに尊敬した。どれも一級術師を名乗るに相応しいレベルで高められている。たった数体の呪霊を祓うのを見るだけでもそれが分かる。それほどまでに七海の実力派高かった。

 

七海は呪霊を祓いながらも、彩華に意識を向ける。動きを見る、呪力操作を見るのもそうだが、危なくなったらフォローに入れるようにだ。が、彼も彩華が数体の呪霊を祓うの見た時にその心配が無いと知る。低級の呪霊の大半を祓い、一際大きい呪力を放っている部屋の前まで来る

 

「この先に恐らく今回の呪霊はこの先にいます。準備は良いですか?」

 

「はい、何時でも行けます」

 

七海の確認に彩華は頷く。大きく深呼吸をして準備を整えた。

 

七海が扉を開けると、少し開けた所に出た。どうやら宴会場的な場所に出たのだろう。しかし、視線を上に向けると、行方不明になったであろう人達が糸で吊り下げられていた。生きているか死んでいるかなんて分からない状態でグルグル巻にされている。そして、その犯人は大きい蜘蛛のような呪霊だった。その後ろには白い卵のようなものがあった。

 

「げっ!蜘蛛!」

 

彩華が思わず悲鳴を上げたことで蜘蛛の呪霊は七海達に気づき、糸を出して攻撃を仕掛けている。

 

「土御門さん?」

 

「すいません!」

 

「説教は後です。二人で祓います合わせてください」

 

「はいっ!」

 

彩華が返事をすると同時に七海は飛び出す。それを見るのと同時に彩華も走り出す。糸攻撃を掻い潜りながら、呪霊に近づくが!

 

『キシャアアア!!』

 

咆哮のようなものをあげると同時に、卵が割れ大量の小さい蜘蛛の呪霊が飛び出てくる。

 

「くっ!」

 

「ひゃあ!?」

 

一体一体は薙ぎ払えば祓える程度の呪霊だが、数が多く押し戻される。更に

 

「危ない!土御門さん!」

 

本体の蜘蛛の呪霊の脚が彩華を薙ぎ払うべく襲いかかる。彩華は間一髪短刀を間に入れることにより直撃を避けたが、踏ん張りきれずに壁に叩き込まれる。

 

「ぐっ……っつつ……!」

 

壁に激突し苦悶の声を上げながらもすぐ様その場から離れ小さい蜘蛛の呪霊の襲撃を回避する。七海も小さい蜘蛛を祓うのに苦労していた。

 

「七海さん!私が道を作ります!その隙に本体の大きい蜘蛛をお願いします!」

 

「出来ますか?」

 

「できるから言いました!」

 

「分かりました。では、お願いします!」

 

七海がそういうのと同時に彩華は手を小グモ呪霊に向けて術式を発動する

 

「『切』」

 

斬撃が部屋を走り、小グモを蹴散らす。一撃では止まず、二撃、三撃の斬撃が小グモ呪霊を祓う

 

「これが"刀圭呪術"ですか……凄まじい殲滅力ですね!」

 

七海はナタを構え蜘蛛の呪霊に振り下ろす。七海の術式、十劃呪法により蜘蛛の呪霊も足を切断し、顔も切りつける。

 

「これで終わり!七海さん右に避けて下さい!」

 

彩華の言葉を聞き七海は右に避ける。避けたタイミングで最後の斬撃が蜘蛛の呪霊に飛翔し両断する。蜘蛛の呪霊はピクピクと動いたがやがて崩れ落ちて姿を消した。蜘蛛の呪霊がいなくなるのと同時に、小さい蜘蛛の呪霊も姿を完全に消したのであった。こうして一件目の仕事が幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

その眼は穿つ

お久しぶりです。そしてお詫び申し上げます。当作品の主人公土御門彩華の名前の読みを彩華(さいか)から彩華(あやか)に変更致します。

申し訳ないです


一件目の仕事が直ぐに終わり、捕まっていた人たちを救出した七海と彩華は次の場所に向かっていた。

 

疲労は無く、続けて二件目に赴いても大丈夫と判断しての移動である。七海と彩華は二件目についての資料に目を通していた。

 

「次は廃村の廃神社ですね」

 

「そのようですね。廃神社と言え数年前までは人が居たところです。ですが、呪霊が居る以上、祓うのが我々の仕事です。気を引き締めて行きましょう」

 

「はい!」

 

その廃神社が数年前までは神社として機能していたが、神主が引退して以降次の神主が就く事無く、廃れて行った神社である。そんな所には、肝試しや心霊スポット、恐怖の対象として見られることもあり、呪いが溜まる。ましてや、信仰されていたと言う過去のものになるとそれを祀っていたものがどう変生しているかと考えれば怖いものだ。手が空いている京都の他の呪術師では埒が明かないという事で、一級呪術師である七海に回ってきたというのだ。

 

「もうすぐ着きます。準備はいいですか?土御門さん」

 

「はい、大丈夫です」

 

麓で車は止まりそこからは徒歩となる。時間は夜の八時。満月が、夜の世界を照らし、夏の割には涼しい風が肌を撫でる。

 

廃村に繋がる道、木々が生い茂った視界の悪い道を歩く。満月の光もこの木々のカーテンの前には遮られて意味をなさない。

 

闇が支配する領域に踏み入れ歩く二人。五分程度歩くと話に上がっていた廃村に到着した。倒壊しかけの木材の住居だったものが点在していたり、草に侵食されたコンクリートの建物もある。そして、それらの影には低級の呪霊がなりを潜めて居た。が、彩華達を視認するや否や襲いかかってくる。

 

「『縫』」

 

襲ってきた呪霊を呪力の糸で拘束し、そのまま絞めあげて切り裂く。

 

「七海さん!」

 

「ええ、手早く祓い、本命まで走り抜けます」

 

低級と言えど数は多い。襲ってくる呪霊と襲ってこない呪霊が居るが、襲って来る呪霊はどれも三級以上の呪霊である。それを二人は一撃で薙ぎ払い、村の外れにある廃神社を目指す。

 

七海は鉈で、彩華は二本の短刀を用いて迫り来る呪霊を切り伏せる。ここまでは、一件目とそう大差は無い。強いて違う所を言うのであれば、

 

「鬱陶しい…なっ!」

 

悪態をつきながら呪霊を祓う彩華。先の廃ホテルは狭い代わりに、数はしれていたし、襲ってくる箇所の目星をつけれていたが、現在は開けた廃村で戦っている。四方八方から呪霊が襲ってくる。

 

少し走っても、すぐさま三〜四体が道を阻み邪魔をする。しかし、際限なく出てくる存在でも無い。廃神社に近づくに連れて襲いかかってくる呪霊は数を減らし、階段に差し掛かる時には阻む呪霊は居なくなっていた。

 

「呪霊が襲って来ない……?この先が今回の本命……それに恐れてこれ以上来ないという事?」

 

「それは分かりません。ですが……」

 

七海は階段の先を見据えて、息を深く吐きながら

 

「一筋縄では行かない可能性があります。土御門さんは後衛をお願いします」

 

「ですが、」

 

「大人で、子供である君を守る義務がある」

 

七海は眼鏡を上げて言う。彩華は静かに"はい"と返事して眼鏡をかけ直す。そして二人は階段を登る。

 

階段の踊り場に到達すると同時に、廃神社の境内から思わず警戒を強めてしまう程の呪力を感じ取る。

 

「…行きましょう」

 

七海は静かに言う。鉈を軽く持ち直し小さく息を吐く。彩華も自身の獲物を一度鞘に戻し、手の感触を確かめて、眼鏡に一度手をかける。

 

(……使わないに越したことはない。アレは……いや、考えない方がいいか)

 

だが、外す事はせずに七海に続いて階段を上がる。進む度に境内に存在する呪霊の呪力がよりはっきりとする。一件目の蜘蛛の呪霊なんて可愛いものだと、ただの呪霊じゃないというのが嫌でもわかると。そして境内に辿り着く。

 

「アレが今回最後の相手という訳ですね」

 

「ええ、そのようですね」

 

境内には龍にも蛇にも見える異形が存在していた。拝殿に巻き付き、彩華達を見下ろしていた。口からは黒紫の霧のようなものを吐いていた。それは場の空気を侵食している。"瘴気"と言い得ている

 

「アレを吸わない様に。詳細は不明ですが、危険なのは確かです」

 

「そうみたいですね……」

 

挟み撃ちの動きを互いに取り、タイミングを合わせたように七海と彩華は呪霊に切りかかる。七海の一撃は呪霊の肉体にダメージを確実に与えた。七海の術式【十劃呪法】は相手の長さを10で線分し、7:3の分割点を弱点と化し、そこに当てた攻撃は、全てクリティカルヒットとなるものである。切断には至らなかったが、手応えはそれなりにあり、呪霊の反応も七海の方を見ていた。彩華の攻撃もダメージを与えたには与えたが、七海程のダメージは与えていない。

 

(意外に硬いね……でも、この程度なら削れる)

 

呪霊は自身の爪を彩華と七海めがけて振り下ろすが、二人は回避をし、攻撃をする。七海は十劃呪法を彩華は刀圭呪術を用いて攻撃をする。手応えがあり、このまま押し切れると思っていたが……

 

(傷が……再生している……呪霊だから不思議は無いけど……それよりも……)

 

手応えはある。しかし、傷つけた所が別のところを攻撃する時には傷は塞がっており、攻めきれ無い状態が続いていた。だが、それは攻撃の速度を早めて術式を使えばどうにでもなる。しかしそれ以上に、彩華と七海が危惧しているのは

 

(傷をつけたところから、黒紫の霧が出てくる。このまま攻撃すると吸わずに何とかするのが難しくなる……!)

 

傷をつければつけるほど、黒紫の霧が支配力を強めて、二人は攻撃の手を緩めるしか無くなるのだ。

 

「先程より霧が濃くなりましたね。そちらは大丈夫ですか土御門さん」

 

「大丈夫です。ですが、このままだとあの呪霊を祓うのは……!」

 

「難しいですね。ですが、出来ない訳では無いです。短期間で仕留めましょう。これ以上時間をかける暇はありません」

 

サングラスをあげて武器を握り直し、彩華はもう一本の短刀を抜き構えて

 

「気を引き締め行きましょう」

 

「はい!」

 

呪霊は拝殿から体を下ろし境内に陣取る。放たれる呪力が強大なものと分かる。しかし、先程より距離的には攻撃は行いやすい。この瞬間に攻めきれないとこちらには勝ち目がない。二人は走り出し攻撃を仕掛ける。しかし、呪霊の方が先に動いた。

 

黒紫の霧が攻撃を仕掛ける前に周囲を渦巻く。それはただ漂うだけだったものが意志を持ったかのように渦巻き、迫り来る二人の退路を断つ。

 

しかし、この攻めで攻め落とすと決めている二人は祓う事に重きを置いている。この程度では止まらない。

 

「ここで祓います!引くことより攻める事に集中してください」

 

「勿論です!」

 

再び二人の攻撃が呪霊に届く。先程より凄まじい連携が呪霊を削る。呪霊を傷つければ黒紫の霧が吹き出すが、吸わないように息を止めて切りつける。このままいけば攻め落とせる。と確信めいたものが芽生えた直後……

 

 

 

 

 

 

 

 

突如風景が変わった。黒紫の霧が支配する神社へと変貌する。廃神社ではなく立派な神社が鎮座し、その空間に呪霊と七海と彩華の存在がある。いや、呪霊一体と呪術師二人しか存在しないのだ。そして、この状況を瞬時に理解する七海。

 

「使えたのですか……領域展開」

 

そう、ここはさっきまで戦っていた呪霊の領域内である。呪霊は黒紫の霧を展開し時間を稼ぎ、猛攻を耐えて領域展開を発動した。呪霊の力が領域内の必中に乗り効果が現れ出す。

 

「っ!?カフッ!?」

 

まずは彩華にその効果が現れた。口の中が鉄の味に染まり、思わず口を抑えるが抑えきれず手から零れる。それは赤黒い鉄の臭いがする……血であった。さらに、

 

「土御門さん!くっ!」

 

七海には別の症状が出る。七海には激しい頭痛と眩暈が襲う。両方をその場で釘付けにするには十分な効力であり、十分なスキを生じさせる。

 

呪霊は大きな体を使い二人を薙ぎ払う。二人は呪力で体を守るが、そんなのお構い無しの一撃はまともに入りダメージを受ける。

 

「ぐっ!」

 

「っ!」

 

領域を展開された時点でこの手の戦いは敗色濃厚。対策と言えば、呪力で攻撃を受ける、領域外へ脱出する、自身も領域を展開すると手段はある。"呪力で攻撃を受ける"は既に実行済みであり、そのためまだあの程度で抑えが聞いている。"自身も領域を展開する"は、七海は領域展開は出来ないし、彩華も領域展開は今は未完成故に出来ない。"領域外へ脱出する"と言うのは、領域は閉じ込める事に特化した結界術としての側面を持つ。そのため内側から壁を壊す事は基本的には不可能であり、また、領域内と外では体積が異なる為、領域の縁を発見する事が困難であり対策とは言えない。領域に入った時点で死がほぼ確定する。

 

薙ぎ払われた彩華は地面を転がり倒れ伏す。彩華は両手を付いて、前を見る。吐血をしたことで気分は最悪である。しかし、さらに気分が下がるのと同時に目元を触り気づく。

 

(眼鏡……外れたか……)

 

目の前に広がるは、死の世界。しばらくぶりの脆き世界である。自然と口元が綻んだ。どんな時でも眼は変わらない。地面には"死"の線と点を映し出す。

 

「ハッハハ……!良いよ……」

 

少し笑い少女はゆらりと立ち上がる。短刀を持ち、青白く輝く目で領域を見据えている。

 

「土御門さん?」

 

七海は片膝を着いた状態で驚いた表情を浮かべている。眼の変化もそうだが、纏う雰囲気が変化したことに驚いているのだ。別人と錯覚してしまったからである。だが、その程度の驚きは、次の瞬間起こった出来事で消え去る。彩華は眼を見開き地面の"死"の極点めがけて

 

「……壊れろ」

 

短刀が突き立てられる。そこを中心に領域に罅が入っていき。領域は音を立て崩れ落ちた……。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

一連の報告

数日後、七海は京都での仕事の報告を終え、東京校の廊下を歩いていた。そんな七海に

 

「お疲れサマンサ~!今回の任務苦労したみたいだね七海」

 

軽いノリで声をかけたのは呪術師で最強の男であり、七海の先輩に当たる人物。

 

「はぁ……ええ、まぁ、苦労しましたよ」

 

「そう言えば、お土産無い?京都行ったんでしょ?生八つ橋とかさ」

 

「私は任務で京都に赴いていたんですよ?仮にお土産があったとしても、それは自分用です」

 

「七海のケチ」

 

「普通ですよ、五条さん」

 

五条悟。呪術高専東京校一年担任であり、呪術界御三家・五条家の現当主であり、日本に四人しか居ない特級呪術師の一人である。そして現代における最強の呪術師である。

 

「仕方ありません。せっかくお土産にいただいた物ですが、食べますか?」

 

七海は観念したかのように五条に言う。そのお土産と言うのは、お世話になったということで彩華が和菓子職人に依頼して作って貰った生八つ橋である。

 

「え?いいの!?さっすがーナナミン!」

 

「ひっぱたきますよ?」

 

二人は移動してお茶を用意し、七海はお土産にもらった生八つ橋を出す。

 

「これ、如何にも高そうだね」

 

「お抱えの職人さんが居るそうですよ。その方のお手製らしいです」

 

「流石、土御門家というところかな。うん!美味しい!」

 

五条は七海より先に手に取り生八つ橋を堪能する。七海も生八つ橋を口に運び

 

「美味しいですね」

 

その美味しさに顔が少しほころぶ。湯飲みに入れた緑茶を啜り、生八つ橋を堪能する二人の呪術師。そして話は京都での任務、そして土御門彩華の話となる。

 

「どうだったの?その土御門家の姫君は」

 

「そうですね、いい腕をしてました。一級に上がっても難なく任務をこなせるでしょうし、まだ余力を感じることも出来ました。一級に上がるには十分な実力がありますね」

 

「七海がそこまで言うなら問題無さそうだね。で、気になっていることがあるんだけど」

 

報告書をピラピラと振りながら五条は言う。七海はサングラスを上げて

 

「……二件目の報告書に書いてある。推定特級呪霊の領域を破壊したことですか?」

 

「そう!それ!領域展開は結界術の一種で「閉じ込める』ことに特化している。領域の対処は自分も領域を展開するか、呪力で守るか、領域からの脱出って言うけど、最初の二つ目のやつ以外現実的じゃない」

 

報告書を机の上に置き、生八つ橋を口に運び、お茶のおかわりを入れながら続ける。

 

「そりゃ、自分も領域展開出来れば綱引き状態になるか、押し切れる可能性が生まれる。でも、その子がしたのは、押し合いの末とかじゃないんだよね?報告書見る限り、領域の地面に短刀を突き立てたら領域が崩壊した。彼女の術式はそう言う術式で、『刀圭呪術』はブラフ?」

 

「……いいえ。彼女の術式は情報通り『刀圭呪術』でした。それは確認済みです。……恐らくですが、眼になにかあるのかも知れません」

 

「眼?」

 

五条はお茶を飲む七海の方を向きながら聞く。

 

「彼女の家系なんかそう言う眼あった?」

 

「情報に書いてますよね?"浄眼"というものがあるそうです。人の意識や呪力等を視覚化することが出来る眼と聞いていましたが……あの時のあの眼はそんなモノとは異なると思いましたね」

 

あの時の彩華の事を思い出し、天井を見ながらその時思った感想を吐露する。

 

「"死"を連想しましたね。死ぬかも知れないというものではなく、首に鎌をかけられている感じがしましたね」

 

「七海がそこまで言うなんてね……ビビった?ビビったんでしょ?」

 

「ビビってません」

 

五条は七海を揶揄うが七海はそれを受け流す。五条はつまらなそうに抗議しようとするが、思いついたように立ち上がる。

 

「よーっし、気になることは自分で動いて何とかしてみよう!七海、僕ちょっと京都に行ってくる!」

 

「どうぞご自由に……」

 

五条はスキップをしながら部屋を出ていく。七海はその後ろ姿を見送りながら。

 

(すいません、面倒な方が其方に行きそうです)

 

内心、常識人寄りの彩華に心の中で謝罪をする。そして自分以外誰も居なくなった部屋で、一人で生八つ橋とお茶を啜り、あの時の戦いを思い返す。

 

領域を破壊したことに驚いた。彩華にあんな力があるのかと。しかし、その後も驚きは続く。領域を展開される前は、少しダメージ与える程度だった彩華の斬撃が。領域を破壊後……眼鏡が外れてからは呪霊をバターを切るかのように短刀でバラバラに解体してしまった。強度を嘲笑うかのように容易に切って見せた。短刀を投げたかと思えば、天地を逆さまにした跳躍で短刀と同時に呪霊に迫り、呪霊が弾いたナイフをつかみ、頭部から尻尾まで凄まじい速度で切り裂いて見せた。

 

(アレは……どう見ても人間業じゃない。本当に……そこがしれませんね彼女は)

 

報告書に眼を落としながら彩華の事を考えていた七海だった。

 

 

二日後の京都にて、彩華は家の中にある道場にて、呪力を使わないでの体術の鍛錬を行っていた。相手は秋三であり、獲物無しの純粋な体術での組手である。

 

「ふっ!やぁあああ!!!」

 

「腕、大分上げられましたね。拳の威力も、蹴りの鋭さも、体捌きも、持久力も鍛錬を開始し始めた十年前とは比べ物になりませんね」

 

「何時の時と比べてるんですか……。私だって成長の一つや二つしますよっ!」

 

彩華は秋三の腕をつかみ投げ飛ばす。体格差なんて関係なしに技術と相手の力を利用した投げ飛ばしである。秋三は受身を取り難なく体勢を整える。距離が開いたことで、ゆっくりと出方を伺う二人、そして再び距離が詰めて組手を再会しようとした瞬間。

 

「彩華お嬢様!」

 

使用人の一人が彩華を大声で呼ぶ。その声で彩華と秋三が動きを止める。

 

「どうしたのですか。お嬢様は今鍛錬中……」

 

「大丈夫です秋三さん。私も一息入れたかったので。それでどうしたんですか?」

 

彩華は使用人に用を聞く。

 

「はい!特級呪術師で五条家の現当主・五条悟が用があると来ました!」

 

「……え?」

 

彩華は頭にハテナを浮かべてしばらく停止してから

 

「えええええぇぇぇ!!?」

 

五条悟が来たという情報に悲鳴をあげたのであった。そして、着替えて客室に向かう彩華。内心は緊張していた。

 

(五条悟って言えば五条家の現当主で、最強呪術師じゃない……どうしてそんな人が、呪術師としては落ちぶれたこんな家に来るの!?しかも当主様じゃなくて私にって……。考えるだけで緊張するよ……!)

 

彩華の現在の服装は黒い服にチェック柄のスカートにスパッツを履き、身なりを整える。そして客室の扉を開くと、白髪・長身・白い包帯で目元をおおった人物が座って出された茶菓子とお茶を楽しんでいた。彩華が入ってきたことに気がつき、立ち上がり彩華の方を見て

 

「お、君が土御門彩華ちゃんだね。初めまして僕は五条悟。呪術高専東京校で一年生の担任をしているよ」

 

「初めまして、土御門彩華です。よろしくお願いします」

 

彩華は一礼をして自分に構わず座るように促し、自分も座り、五条と向き合う。

 

「今日はどう言ったご要件で東京から来たんですか?まさか、準一級の話は無かったことにとか……!」

 

「違う違う。僕が来たのは……」

 

五条は身を乗り出して、彩華の眼鏡を取る。

 

「その眼について気になったから、直接見に来たんだ。領域を破壊するに至った眼の力を見るためにね」

 

彩華の視界は通常の視界から、死の線と点が見える世界へと変わる。今にも何もかもが崩れそうな世界に。五条も六眼を用いて彩華の眼を見る。

 

「なるほど、君の眼凄いね。凄まじい呪力だ。君には今、何にが見えているんだい?」

 

彩華は一瞬言うのを躊躇ったが、意を決して言う。

 

「"死"が見えます」

 

「誰かが死ぬ未来かい?それとも寿命とか?」

 

「"物事の終着点"いつか来る終わりだと思います。万物には綻びがある。人間は言うに及ばず、大気にも意志にも、時間にも、呪霊だって例外じゃない。始まりがあるのなら終わりがあるのも当然。私の眼はそんなモノの死が見える。勿論、私の死も、五条さんの纏っているモノも五条自身も」

 

それを聞き五条は冷や汗をかく。想像以上にヤバイ眼を持っていると。そして、それは彼女自身をも苦しめているというのも

 

「OK、ありがとう。知りたいことは知ることが出来たよ。その眼は呪霊を祓うのに必要な戦力の一つになるよ。制御できるようにね。そうしたら少しは楽になると思うよ。んじゃ用が終わったから帰るね!お疲れサマンサー!」

 

「お、お疲れサマンサ……」

 

眼鏡を彩華に返して歩き出す五条。彩華は五条につられてお疲れと言い見送る。

 

「そういえば準一級の件どうなったんだろ……」

 

その事だけが彩華にとっては気がかりであった。




お気に入り登録 感想をお願いします


一級のに上げるか、特級にするかで迷ってます。どうしよう


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。