End Of The GATE ーBio Organic Weaponー (食卓の英雄)
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プロローグ(前)〜特地に潜む〜

C(orona)-ウイルスの注射(ワクチン)を打ってピアーズになったので初投稿です。

追記:作中で年代は示されてなかったんですね…。これは失態


――20XX年、8月某日。後に『銀座事件』と呼ばれるそれは、日本において戦後最大の死者数を更新した慎ましい事件だ。

 

 銀座に突如出現した『門』より訪れた異世界からの侵略者。鎧を纏った人間や絵物語の様なモンスター達の軍勢により、抵抗する術を持たない、数多くの一般市民が犠牲となった。

 多少の時間はかかったが、警察や自衛隊の尽力により敵軍勢は壊滅。兵の1割を捕虜とし、この事件は終息を迎えた。

 

 その後、門の向こうに広がる世界(特地と命名される)に膨大な資源が存在する可能性を知った日本政府は自衛隊を派遣。大規模な陣を築き上げ、門の奪還に動いた特地軍と交戦。技術レベルの違いにより、ほぼ一方的な殺戮に近い形で撃退に成功した。

 

 一先ずの安全が確保され、特地調査の為の部隊が編成されている頃。都内某所、捕虜となった特地民が収容されているこの場にて、2人の男が話し合っていた。

 

「それで?何だ、捕虜が怯えてるだって?」

「はい、それも異常なまでに…」

 

 相談を持ちかけられた男は、部下である青年の言葉を聞き、タバコを吹かす。

 

「アホか、そりゃあ当然だろうよ。言葉も分からない、いつでも自分たちを殺せる様な奴らに捕まっちまってんだからよぉ。日本が捕虜を殺さないからって向こうのお国がそうとは限らんだろ。そんなこと、誰だって、小学生だって分かるさ。さっさと仕事に戻れ」

「いえ、自分は過去に他国の捕虜、安全性の確認もならない場を見たことがありますが、彼らはその、何というか…違うんです」

 

 オドオドと、何か探しものでもしているかのように言葉を捻り出す青年に、「はあ…」とため息をつく。

 

「………言ってみろ」

「はっ!銀座事件の資料映像を拝見した所、彼らはその…恐慌している様な顔つきでした。既に傷を負っている兵士や、翼の欠けた龍もおり、汚れだってただの行軍では説明が付かないほどでして…」

「成程ねぇ…。お前の考えは分かった。…だがそれもこちらへ攻め入る前に何らかの軍隊、或いはあの豚頭みたいな生物にでも出くわしたんじゃあ無いのか?向こうの事情や勢力圏が分からない以上、詳しい事は言えんが、あり得ん話じゃない。そうだろ?」

 

 口から紫煙を吹き出し、些か心配し過ぎな部下を宥める様に言う。そう言われると、青年も何も言えず「失礼しました」と言い残して退室した。

 退室した直後、青年は再び答えの出ない問答を繰り返す。

 

(確かに、葉山さんの言うとおりに、俺の杞憂かも知れない。こちらの常識がどれほど通じるかどうか…。だが、あれは…あの顔は、死に怯えるだけじゃあないはずだ。…それに、民間人が撮影した資料。門から出てきてすぐの兵士の顔には色濃い恐怖が染み付いていた)

 

 コツコツと響く硬質な足音は鳴り止まない。

 

(敵地のど真ん中に来たと思ったから?いや、それは侵攻してきた事から、向こうも分かっている筈…。そして、何故、一般市民だとみるや安心した顔を見せた…?……ダメだ、分からない)

 

 相手から見れば、こちらの人間が戦闘能力を持たないとは分からないのでは…?第一、自衛隊が到着後、死者が出る戦場においても、攻撃方法以外で動揺しなかった兵士達がその程度で恐れるのだろうか…?これではまるで…理屈の通じる相手と出会った事に安堵している様な……。

 

「いや、やっぱり考えすぎか?……俺の悪い癖だ」

 

 未だ燻る不安を無理矢理飲み込み、調査結果を待ち遠しく思う。願わくば、この違和感が杞憂である事を信じて――。

 

 

 

 

 

 時を同じくして、特地――帝国領土某所。

 ろくに整備されていない道なき道をゆく複数の影。彼らはみな一様に自衛隊の迷彩服に身を通し、防弾ガラスのヘルメットを着用していた。

 

『おいカメレオン。何故こんな辺鄙な場所へ逸れる』

『まあ待てフロッグ、主要な道や付近の街へは近づけないのは分かってるだろ?』

 

 しかし、彼らの口から紡がれる言語は日本語ではない。

 

『バカにしてんのかフォックス!そんくらい知ってる!ジャパンの軍隊が調査に乗り出すからだろ!?』

『そうだ。奴らによると、明日明後日には偵察部隊が派遣されるらしい。俺達が見つかったら物量差で押し潰される』

『ああ、正直あの監視の中潜り込めたのだって奇跡だ。裏切り者に感謝するんだな』

 

 彼らは、ある人物の手引きにより、日本に入国し、自衛隊に紛れて特地へと潜入したのである。最も、これを手引きした者は別件でしょっぴかれているが、まだ気づかれる様子は無い。

 特地調査部隊等と銘をうってはいるが、その実国籍もバラバラの雇われの傭兵集団である。この部隊の派遣に関わっていない国の人間を混ぜることで、撹乱し責任逃れをなす為だ。

 

『…にしても、装備はもうちっとどうにかならなかったのかねぇ?』

『我慢しろ。我々の主武装があるに越したことはないが、潜入の為だ』

 

 彼らの装備は、一部装甲は改造されているが、銃火器は特地に派遣されている自衛隊の個人携行火器である64式小銃だ。その分、持ち込んだ弾薬は多いが、不満を解消する程ではなかった様だ。

 

『…待て、集落らしきものが見えてきた。音は控えろ』

『『『了解』』』

 

 叢の影から双眼鏡を除き、その集落の様子を伺う。火器を持ち込んでるとはいえ、友好的な関係を築き、極めて平和的な手段を用いて、利権を手に入れる事が目的である。

 

『……ハズレか。こりゃ廃村だ』

 

 チームのリーダーたる人物が呟く。パッと見は、まるで何もない集落かの様に思えるが、よく見れば道に木桶や農具が散乱し、開け放たれたままの扉には、赤黒いナニカが付着している。

 

『気を付けろ。何かから逃げた跡はあるが、血痕を確認した。周囲に敵性体の可能性アリ』

『ギンザの時みたいなクリーチャーか?』

『…いや、分からん。野盗や身内のいざこざの線も考えられるが、どちらにせよ友好的とは言い難い』

 

 フロッグが神妙な顔つきで尋ねるが、それすらも曖昧だ。ここは異世界。現地での常識も、イレギュラーも、基礎が無ければ判断も推測も出来やしない。

 

『班を二つに分ける。リザード、スネイク、サラマンダー、ニュートは周囲の警戒。後は俺と共に集落の調査だ』

『了解』

 

 陣形を保ちながら、慎重に歩を進める。集落の中央付近まで移動したが、それまでに動く気配はない。寂れた雰囲気を醸し出す集落は、明るい時間帯であっても中々不気味に映ることだろう。

 

 外から見たとおり、田舎の農村と言った様子で、厩の様な建物も確認できた。

 近くの家へ入ると、どうやら準備する暇も無いまま逃げたらしく、作りかけの料理や荷物等がそのままに残っている。

 

『これは…ハーブか?現地特有のものかもしれん。回収しておけ』

『はっ』

 

 幾つかの家宅を捜索するが、食料や日用品以外は中々見かけない。一応、こちらの人体に有害かの調査は必要だが、向こうの兵士の体構造は人と変わりない。心配するほどのものでもないだろう。

 

『メモ紙すらないか…となると、識字率は期待したほどでもないか…』

『リーダー、ヒューラーもこっちでよかったのか?』

『今の奴はフロッグだ。どうした、お前が口を挟むとは珍しい』

『…アイツの性格を知らない訳じゃないでしょう。アイツ、手に入れたモンとかは報告しないし、何より現地民とトラブルになる可能性がある。アイツに言っても「そうなったらバレない様に始末するから大丈夫だ」とか吹聴していやがった』

 

 憤る部下を尻目に、リーダーと呼ばれた彼は淡々と答える。

 

『安心しろ。奴は平時にこそ問題を起こすが分別がつかないガキじゃない。だがまあ、その心配も無用だ。むしろ収穫が少ないであろうここだからこそ、奴をこっちに移した訳だからな…』

 

 

 丁度その頃、フロッグとアリゲーターのネームを持つ彼らは、少し奥に建つ、他よりも幾分か立派な建物へと踏み入った。

 

『この家だけ造りが違うな…村長とかそういうタイプの家か?もし俺がここの長だったらこんなダサい改築なんてしないね。でっけぇワンルームに必要なモンは揃えて、そう、3階建てがいいかな?庭も作ってそこで虎なんて飼うのも良いかもしれねぇ、娯楽設備やらコレクションルームも拵えてだな…』

『フロッグ!任務中だぞ!』

『はいはい分かってるよアリゲーター。ただのジョークだろジョーク。そんなんで一々ピリピリカリカリしてるからオマエはまだチェリーのまんまなんだよ』

『なっ!?お前、言わせておけば』

 

 生真面目と軽薄。そこだけを見ればこの二人の相性は良くないようにも見えるが、お互い仕事には全力を尽くすもので、その点に関しては認め合っていた。

 

 ガタンッ

 

 故にだろう。顔を赤くして怒るアリゲーターと、その反応を笑い飛ばすフロッグの顔が一転。先程までの雰囲気が嘘の様に消え、真面目な顔つきで頷く。

 

『おい、誰かいるのか?』

 

 携帯していた64式小銃のセーフティを解除し、物音のした方向へと向ける。

 

『おい、返事をしろ!撃ち殺されてぇのか!』

『待てフロッグ!何かも分からんうちにやるんじゃない!』

 

 アリゲーターが宥めるも、フロッグは進んでいく。

 

『おい!答えやがれ!』

『ああクソッ、先走るな』

 

 突入した先、乾燥し固められた地面に藁が敷き詰められ、木の柵で囲われた内には、白い羽根が散りばめられている。ここは鶏小屋らしい。

 

「コケッ」

『何だ鶏か…』

 

 耳に届いた間抜けな鳴き声に銃を下げた。が、その後ろ、柱の裏から一人の人物が現れる。その人物はこちらを見ると、フラフラと覚束ない足取りで向かってくる。

 

『おい、止まれ!』

『フロッグ!交渉が先だ!俺が相手するからお前はリーダーに連絡しろ』

 

 そう言うと、アリゲーターはナイフ片手に警戒しながらも、身振り手振りを交えながら意思疎通を計る。

 

〈あー、テステス。リーダー、第一村人を発見した。アリゲーターが交渉中、外見上はホモ・サピエンスと相違ナシ。服装は質素だが所謂貧民とかとは『ぬおぁ!?』っアリゲーター!〉

 

 悲鳴が上がり、顔を上げればアリゲーターの両腕に男がしがみつき、腕を抑えたままマウントを取るかのように押し倒していた。その男の顔は明らかに正気では無い。血走った目は虚ろで、カチカチと歯を噛み合わせて意味のないうめき声を上げ、唾液を撒き散らしている。

 

『クソッ、何しやがるテメェ!』

 

 即座に蹴り飛ばし、左胸に4発。倒れた対象を中心に赤い液体が零れ出る。

 

『おい!何で殺した!』

『お前が襲われてたからだろ!正当防衛ってヤツだ!』

『だが!……いや、いい。悪かった。一人くらいどうって事無いよな…』

 

 少し弱気になり過ぎてたか、と心中でため息をつくと、無線からリーダーの声がする。 

 

〈おい、何があった!応答しろ!〉

〈あー、こちらフロッグ。現地民と接触したが、相手は錯乱状態に陥り、こちらに襲いかかってきたのでこれを射殺した〉

〈そうか、念の為病原菌を持ち込んでいないか確認する。探索は切り上げだ。合流するぞ〉

〈了解〉

 

『おい、聞いてただろアリゲーター。集合の…後ろだっ!』

 

 アリゲーターは咄嗟に顔を庇い、カメレオンは急いで引き金に手をかけるも、唸り声を上げながら飛びかかった男はそのまま露出している腕部へと噛み付いた。

 

『ぐあっ…!糞っ、離せ!』

 

 噛まれた左腕がミチミチと嫌な音を立てて血を吹き出す中、ナイフで滅多刺しにする。口が離れた所を蹴り飛ばし、倒れた所を止めとばかりに頭に発砲。

 

『ハァ、ハア……やったか?』

 

 今度こそ、男は完全に沈黙し、そこには凄惨な死体が出来上がっていた。

 

『このイカレ野郎が!クソッ、肉まで持ってかれた!』

 

 アリゲーターの顔には脂汗が浮かび、筋繊維の見える赤ピンクの腕に布を巻き付けている。

 

『何なんだコイツ、明らかに普通じゃない。俺は確かに心臓に4発撃った。それだけじゃなく、ナイフで刺しても怯みもしない。…こんなの、まるで―――』

 

 

 

――死体が動いている様だ。

 

 

 

 その日、自衛隊は、特地調査のため1部隊12名から成る偵察隊6個、深部偵察部隊の創設が決まった。




ゲートなのに原作キャラが一回も出ないのは許して

B.O.W.しか出さないとは言ったが、B.O.W.から感染させられた場合は普通にイレギュラーミュータントになります


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プロローグ(後)〜未だ名もなき T-ウイルス〜

今回も自衛隊が登場しなかった…!というか傭兵をバイオハザードの犠牲にしたかった!


 フロッグとアリゲーターは、指示された通り、当初の集合予定地であった中央の広場へと辿り着いた。その場にはリーダーを含め、共に集落探索へと当たったメンバーが集っていた。

 その中の一人であるフォックスがこちらに気づくと、アリゲーターの傷を見て驚く。

 

『アリゲーター、その傷はどうした?』

『報告した後に、射殺したと思った現地民に噛みちぎられた…!救急キットをくれ』

『手伝いはいるか?』

『いや、いい。そのくらい一人で出来る』

 

 そのやり取りを傍目に、周囲の警戒をしている中、フロッグはリーダーへと自らの見解を話していた。

 

『…成程、ソイツは死兵より酷かったか』

『酷いなんてもんじゃねぇ、最悪だ。獣みてぇな唸り声で噛み付く上に、心臓に鉛玉をブチ込まれた上にナイフで刺しまくってもノーリアクションだ!不気味ったらありゃしねぇ…人間味って奴が欠片も感じられなかったぜ』

 

 怒り混じりに吐き散らすフロッグだが、躍起になっている訳ではない。口に出しながら情報を整理しているのだ。

 

『…おい、リーダーよ。村中にあったハーブってセンはないか?』

『ああ、今俺も思い至った。聞いた所、確認できただけでも錯乱、痛覚麻痺、凶暴性の発露、生存欲求の損失か…。まともな生物じゃ無いことは確かだ。となると、何か理由がある筈だ』

『それが、あのハーブってとこか…』

 

 収集品であるソレをケースの外から一瞥する。

 

『ああ、だが断言は出来んひょっとしたら狂犬病の様な物かも知れない。こちらの病も、動植物も未知のものが多いからな…』

『狂犬病だと!?ならアリゲーターの奴はどうなる!?』

『落ち着け、あくまであり得るという話だ。これでより一層現地民と交渉する必要性が出来た…それだけだ』

 

 そう言うと、彼はハーブを直し、撤退命令を下す。彼らはテキパキと準備を完了し、そのまま警戒中のメンバーにも連絡を取る。

 

〈こちらレックス、集落の調査は概ね完了した。こちらと合流しろ。撤退だ〉

 

 無線機へと語りかけるが、返事は無い。代わりに、何かが遠くで動く様な音がした。

 

〈どうした、応答しろ!〉

 

 二度言っても、期待した応答は得られない。

 

『総員警戒!外の奴らに何かあった!』

 

 同時、彼らは円を描く様に陣取り、周囲を見渡す。勿論、即座に発砲出来る様にして。

 すると、村の外周部から血塗れの人々―数にして30程―が幽鬼の様にゆらゆらと体を揺らしながら向かってきていた。

 肉や骨が露出していたり、片腕が千切れた痕のある者までがいた。

 

『オイオイ何だアイツら、何処から現れやがった!』

『あの傷で動くのか!?下半身が無い奴までいるぞ!?』

『イカレ野郎の仲間かっ!』

 

 現れた存在に動揺が広がり硬直する中、レックスだけが真っ先に射撃。放たれた弾丸は寸分違わず頭に吸い込まれ、先頭の一体が崩れ落ちた。

 

『落ち着け、頭部を狙うんだ。距離は充分、動きものろい。恐れる必要は無い』

 

 そのいつもと変わらない姿勢に気を取り直した彼らの蹂躙劇が始まった。

 サプレッサー付きの銃身が火を吹くたび、醜悪な影は次々と崩れ落ち、交戦時間にして僅か1分でそのいずれもが地に伏した。

 

『何だ……全然大したこと無かったな』

『ああ、拍子抜けだ』

 

 斃れた彼らの死体を足蹴にし、脈を確かめる。完全に停止しており、起き上がる予兆も無い。呆気なく終わった戦闘に安堵の息をもらす者達。だが、それに疑問を抱く者が一人。

 

(莫迦な、この程度の脅威にリザード達はやられたのか…?いや、絶対にあり得ん。咄嗟の遭遇にしても、余程油断でもしていない限り、対処は充分に可能な筈だ…。…つまりは)

 

――戦闘は終わっていない!

 

 そう叫ぼうとした瞬間、広場の中央にある物が投げ込まれた。 

 

『な…ニュート!?』

 

 それは彼らの仲間の一人であるニュート。その上半身が、べちゃりと生々しい音を立てた。

 

『オーマイガー!クソッどこのどいつだ!』

 

 言うが早いか、ソイツは現れた。

 肥大した脳と口だけの顔に、長過ぎる舌。皮を剥がれた様な体に、巨大な爪を併せ持つ異形。家の屋根に陣取るソイツは最も近くにいたカメレオンへと舌を射出する。

 

『うっ、ぬわぁぁぁっ!?』

 

 足を貫かれ、そのまま持ち上げられる。

 

『この野郎!』

『待て!撃つな!撃たないでくれ!』

『くっ…』

 

 咄嗟に狙いをつけるも、射線上に盾のようにカメレオンを動かされる為に躊躇してしまう。

 

『回り込め!』

 

 数人が側面へと回り込もうとするが時すでに遅し。

 

『待てっ、嫌っ待て!待て待て嫌だあぁぁぁっ!!?』

『ああっ!畜生が!』

 

 脳味噌を撒き散らして死んだ仲間の仇討ちだとばかりに銃撃を開始するが、ネコ科動物を想起させる三次元的な動きにより照準

をつけることすら難しい。

 

『がっ』

 

 その結果、翻弄される余りに味方に誤射。胸に数発程埋まっており、手を施さないとこのまま死亡することは明らかだろう。

 だが、状況はそれを許してくれない。

 

『このっ、バケモンがぁぁっ!』

 

 また一人。銃弾の雨をその身に受けながら猛進するそれにスライスされて絶命。

 運悪く着地先にいたメンバーはそのままはらわたを引きずり出された。

 

 大立ち回りを演じたリッカーだったが、無傷という訳にいかない。身体は着実に傷ついていく。

 

『くたばれ!』

 

 トドメを刺そうと近づいたメンバーの首が飛んだ。

 物陰から飛び出したのは爬虫類と人間の中間の様な生物。とある製薬企業により開発された高い戦闘能力を誇る生体兵器。名前をハンター。

 首を刈ったハンターに続き、もう一匹が現れる。その爪には血濡れた隊服が張り付いている。

 

『新手だ!気をつけろ!チッ、もう俺達3人しか残ってないぞ…!』

『あ…あぁ…』

『何を言ってるアリゲーター!気でもくぅぅがぁっ…!?』

 

 フロッグの首に激痛が走る。噛み付いているのは他でもないアリゲーターだ。

 

『ファック!何しやがる!』

 

 振り返り際に押し返し、深く傷ついた首元に手を当てる。

 たたらを踏んで後退したアリゲーターの口元には、今しがた噛みちぎったばかりの肉片が垂れ下がり、アリゲーターはそらをクチャクチャと咀嚼する。その目から理性の光を感じる事は出来ない。

 

『おい、アリゲーター…?……マジ、かよ…』

「ゔぉああぁあ……」

『何でだオイ…治療にハーブを使ったのか…?』

 

 目の前の光景が信じられないとばかりに目を見開くが、迫りくる現実を否が応でも認識させられる。

 

『……おい、待て、嘘だろ…まさか、そんな…オイ、噛まれたのが駄目だって、事か…?巫山戯んなよ…!おい、おいっ…!オレもじゃねぇかよ!!』

 

 アリゲーターは答えない。ただ呻き声を上げるだけだ。

 

『クソックソッ…!何でだクソが!感染症か?ああクソッ!どうすりゃいい…!』

『落ち着け、今は目の前の脅威に集中しろ』

『落ち着けだと!?あんなバケモンになっちまうんだぞ!』

 

 レックスはハンドガンでアリゲーターだったそれを撃ち殺し、「仕方ないか」と呟いてあるポーチを投げ渡した。

 

『これは…』

『抗ウイルス薬が入っている。先に調査した自衛隊から買い取った物だ。奴らも一枚岩ではない。…出来る限り使用は避けたがったが、どうしてもというのなら許そう』

 

 それを聞いた途端、フロッグの顔に安堵の表情が浮かぶ。

 

『なんだよリーダー!そんなもんがあるなら先に言ってくれればいいじゃっ…!?』

 

 それを手にしたフロッグは、突如襲い来る背後からの衝撃に、訳のわからないといった表情に変わり――

 

『何を』

 

――3方向からズタズタに引き裂かれた。

 

『…そんなものがある訳ないだろう』

 

 冷徹にそう零すと、フロッグへと集まったクリーチャーに目を向ける。

 

『お前らも終わりだ』

 

 放たれた一発の弾丸が向かった先は、フロッグの抱えたポーチ。僅かに開け放たれた隙間からは、赤い円筒や幾つもの手榴弾が除くことが出来た。

 

『Goodbye』

 

 強烈な閃光と爆音と共に、大きな爆発が生じて3体をゴムボールの様に吹き飛ばした。物の動く気配は、もうない。

 

『フロッグ、騙してすまないとは思うが、納得してくれ』

 

 日頃より吸っているお気に入りの煙草を咥え、年代物のジッポで火を点ける。健康に悪いその煙を思いっきりに口内に溜め、一気に吐き出す。

 しかし、世界は彼に勝利の余韻も仲間を弔う時間も与えてはくれなかった。

 

『……お出ましか』

 

 ゾロゾロと、活性死体の群れが南から現れる。その背後には高速で移動するリッカーの姿を捉え、ハンターは地を駆ける。

 絶望的としかいえない状況だが、彼の目にその色は見られない。むしろ、常時とあまりに変わらない事に、他に人間が居たのなら指摘していた事だろう。

 しっかりと煙を吸いだめし、マガジンを交代して言った 。

 

『攻撃された時点で嬲り殺しに合う上、感染の恐れアリ…か。……コイツは腕の見せ所だな』

 

 彼はいつもと変わらない口調で、一度だけ銃身を撫でた。

 




一番可愛いのはタイラント受付嬢。異論は認める。

因みにこのレックス隊長、地味に0.6ハンク位の強さがあります


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彼らは如何にしてそこへ至ったか

先に言っておくとタイトル詐欺です。


 その日、伊丹耀司は思い出した。仕事に駆られる恐怖を、上層部の命令の屈辱を。

 

(あー、帰りたくねぇ……)

 

 この気怠けな彼の名は伊丹耀司。陸上自衛隊二等陸尉。銀座事件において多数の民間人を救った事により、「二重橋の英雄」と呼ばれている人物。

 此度の特地調査の為に派遣された、深部偵察部隊の第3偵察隊隊長で、彼の率いる第3偵察隊は、人々との交流に重きを置いていた。

 

 実際、特地における初めての調査でも付近の住民と友好的な接触を取れており、彼らの先導する後ろに続くのは炎龍の出現により避難している難民達だ。

 

 その他、炎龍に壊滅状態にされたエルフの里の唯一の生き残り、テュカ・ルナ・マルソーやコダ村に住む魔法使い、レレイ・ラ・レレーナ。そして特地で信仰されている神に仕えている亜神であるロゥリィ・マーキュリーらは自衛隊員の中でも特に印象に残っているだろう。

 

 つい先程、炎龍と呼ばれる未確認飛行生物に遭遇し、これと応戦。避難民の4分の1犠牲を失いながらも、パンツァーファウストにより左腕を奪い炎龍を撤退させた。その後は、住民の幾つかが別れ、その他は行く宛も無い為にそのまま自衛隊駐屯地へと向かう事となった。現在はその小休止という所だ。

 

「伊丹隊長?どうかしたんですか」

 

 小さく漏れたため息に気づいたのか、同じ第3偵察隊の部下である倉田武雄三曹が声をかける。

 

「いや〜、向こうに着いた事を考えるとどうにもな」

 

 苦笑交じりに伊丹が応えた。何の事かと頭を捻れば、難民達の受け入れに関したやり取りが思い出される。受け入れの許可を取らないまま、続けようとする無線すら切断して聞かないフリ。それは当然、無視できるものではない。

 

『どうかした?』

「あー、いや、えっと……これか。『大丈夫だ、問題ない』」

「いやそれ大丈夫じゃないッスから」

 

 特地の言語で話しかけるレレイにたじろぎながらも、何とか意思を伝える事に成功する。コクン、と頷いた事に一事は安堵したが、彼女の手には紙らしき物とインクが握られていた。

 

 何をするのか見ていると、何やら家やヒト、そしてドラゴンの絵や自衛隊と思われる意匠を書き連ねている。

 

「何だこれ」

「家と…ドラゴン?」

 

 意図が読めず首を傾げていると、家には柵や人が描き足され、家にはバツマークをつけ、人の集団は矢印で自衛隊を指し示す。

 

「あ…!これは今の状況って事か!」

「おお、確かに!」

 

 恐らく、家は村、人は難民達を表しているのだろう。納得はしたが、何故それを?という疑問符が湧いた頃に、今まで書かれた村から幾ばくか離れた箇所へ多くの家が描かれ始める。

 今までの進路から見ると、かなりルートを逸れており、周辺の村からも一際離れていた為、気づかなかったのだろう。

 

『恐らく、逃げてない』

「ええと、逃げる、いない…『逃げてない』か!」

「えー、流石に今のこの状況じゃ無理ですよ」

 

 まさかの情報に目を剥くが、今更進路変更しようものなら避難民の内何割かは脱落してしまうだろう。それに、レレイの書いた図を見る限り、炎龍の飛び去った方向に位置していた。

 

「隊長」

「…まあ、祈るしかないか」

 

 深い傷を負わせた為、無視する可能性もあるが、それ以上に、怒り狂った炎龍により殺戮される事も考えられる。

 

 だが、今行くわけにはいかない。後味の悪さを残しながらも、車を進めることしか出来なかった。

 

 

☣☣☣

 

 

「無事だったか!」

「へ?」

 

 駐屯地へと帰ってきた際に掛けられた言葉は、非難とは程遠い物で、呆けたような声が喉から漏れた。最も、背後の避難民の姿を見るやそれは怒号に変わったのだが…。

 

 

「えー、人道上の配慮から避難民の受け入れを許可する。伊丹二尉は避難民の保護観察を行うように……との事だ」

「え、俺がすか?」

「ああ…それと、狭間陸将がお呼びだ。これは深部偵察部隊全員は強制参加となっている。断ることは出来ない」

「へ?え?」

 

 トントン囃子に進む話に彼らの脳はついていけない。そもそも、難民のくだりすらあまりに簡単に終わらせている。さらには全偵察隊の招集。疲弊した体を引きずる様にしながらも、言われるがままに移動する事となった。

 

「伊丹二尉は、今回の招集について何か知ってるんですか?」

 

 移動中、黒川が話しかけるが、生憎と今着いたばかりで予測すら立てられない。

 

「もしかして難民を連れてきたのが…」

「いや、話聞いた感じだとそっちはあんまりじゃねぇかな?案外すんなりと話通ったし。……俺が面倒見る事になったけど」

「それはしょうがないのでは?」

 

 富田は訝しんだ。

 結局それらしい答えは出なかったが、それも着けば分かると、それほど追求はしなかった。

 

「よう、伊丹」

「柳田二尉…」

 

 その途中、伊丹の目の前に見知った影が現れる。柳田は伊丹達第3偵察隊を見かけると、何か納得がいったとばかりに鼻を鳴らした。

 

「お前さん、ワザとだろ」

「何がです?」

「惚けるなって。定時連絡だけは欠かさなかったお前が、ドラゴンとの戦い以降突然の通信不良。避難民を放り出せと言われると思ったんだろ?」

 

 言葉尻こそ疑わしげだが、明らかに確信している様な姿勢だ。

 

「いやぁ、こっちは異世界だし、電離層とか磁気嵐のせいじゃあないですかね…。あ、ここだ。んじゃあ、失礼しますね!」

 

 作り笑いを見せながら逃げる様に扉の先に姿を消す。他の連々も軽く会釈してから伊丹に続いた。

 そしてこの後、柳田が盛大に悪態をついたのは言うまでもないだろう。

 

 

「伊丹、よく来たな」

 

 部屋内に入ると、狭間陸将から声をかけられる。(呼んだのはアンタでしょうに…)等と心の中でぼやきつつも敬礼。第3偵察隊にと指定された席に着く。

 既に第2偵察隊と第6偵察隊のメンバーや、一部幹部は集合しており、待たされていた彼らの視線が厳しいものとなる。

 

「あはは……」

 

 どうやら簡易的ながらも防音工事は整っており、何やら大事な話だと言うことは分かった。

 

「よし、揃ったか。始めよう」

 

 狭間陸将が声を掛け、一人の自衛官を連れ添って壇上に上がる。記憶が正しければ、あれは何処かの一等陸佐では無かっただろうか。

 しかし、肝心を話し出す前に、この場に招集された自衛官の大半は頭上に疑問符を浮かべていた。

 

「申し訳ありません。質問を宜しいでしょうか?」

 

 手を上げたのは、伊丹達の中では一番ベテランの桑原惣一郎。許可を取り、皆が思っているだろう質問を投げかける。

 

「はっ…先程狭間陸将はこの場に全員が揃ったと仰られましたが、第1、第4第5偵察隊が居ないのは何故でしょうか。私共が受けた指令では、深部偵察部隊は全員が参加との事でしたが…」

 

 そう、明らかに数が足りないのだ。先述の通り、この場には6部隊からなる深部偵察部隊の内半数しかいない。この部隊を集めたいのなら、最初から全偵察隊とは言わないだろう。

 

「皆が抱えているであろう質問をありがとう。桑原陸曹。それが今回の話に関係するのだよ。勿論説明する。…他に質問は?」

「いえ、ありません」

 

 そう言った事で、先程の動揺は鎮まった。それとは別の懸念が上がるが、黙って次の言葉を待つ。

 

「まず、貴官らの未知の領域の調査という指令、ご苦労だった。これまでとは逸脱した地だが、こうして無事に成果を挙げられたことを誇りに思う」

 

 曰く、第2偵察隊は特地特有の植物サンプルの確保、第6偵察隊は新たな簡易前線拠点の設立。我らが第3偵察隊は言わずもがなだ。

 

 しかし、それが本題ではないのは明らかだ。それだけならば、こんな場を設ける必要も無い。険しい顔のまま、狭間陸将の言は続く。

 

「そこで、先の質問にあった、貴官らを除く偵察隊の所在だが――」

 

 

―――三部隊、共に消息を絶っている。

 

 

 強張った顔から発せられた言葉は彼らの肝を潰すには充分たるものだった。

 




時間が無いので後書きはありません!なんか考えたら書くかも


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Not DESU 接触したという恐怖

ブックオフでゲートを5巻上下まで買った。これから読み始めるのと、テスト期間が近く、次まで時間かかるかも。


―――三部隊、共に消息を絶っている。

 

「「「なっ!?」」」

 

 瞬く間に動揺と困惑が広がる。中にはあまりの衝撃に腰を浮かせる者もいた。

 

「…それは機材トラブル、或いはやむを得ない事情があって連絡を控えているという考えはないんでしょうか?」

 

 現にこの男、伊丹も私情を挟んだとはいえ難民の保護という事情はあった。

 その疑問に、ウム…と頷き返し、隣の1佐に何かを指示した。

 

「無論、その可能性も充分にあり得る。…だが、我々の憶測では第4偵察隊はほぼ壊滅状態に近いと見ている。これを聞いてくれ」

 

 用意されたスピーカーからはガタガタと音を立てながら走行する音と共に男たちの会話が聞こえてくる。言語は日本語。それも当然、これは第4偵察隊の一車両の中から送られていた音声なのだから。

 

「これは記録用に配備させていた通信機からの発信だ。この通り、こちらに送られた音声を残すための物だが…問題はこの後だ」

 

〈これが特地の村…。建築物は日本というよりは、中東のスラム街に近いな。高い技術力は期待できないってありましたけど、発想力は結構あるんですね〉

〈村田。流石にそれは侮りすぎだ。地球だってこの位の時期はあった。先に出来たか出来なかったか、だ。発想力自体は変わらんだろう〉

 

 どうやら、この部隊は伊丹達が発見した村とはまた別の村を見つけた様で、規模もこちらが段違いに広いらしい。

 ガチャガチャと音を立てながら降り立つ男たちの声が聞こえる。中には聞き覚えのある声も混じっていた。

 

〈村人は……いた。かなり遠巻きに見てるな〉

〈ふむ、聞き慣れない音に見慣れない集団。そりゃ警戒もするさ〉

〈友好的とも限らん。銀座の兵士みたいな例もある。とにかく、気を抜くな〉

 

 

〈ん?誰か近づいてきたぞ?〉

〈そうだな…村田、対応してくれ〉

〈え、僕ですか?〉

〈お前が一番人当たりがよさそうだからな〉

〈はいはい…。………えーと、『何かご用ですか』〉

 

〈…なんか、あの人おかしくないですか?〉

〈何がだ?〉

〈いや、ほら、視線が定まっていないっていうか…何か変だと思うんですよ〉

〈…気の所為じゃ〉

 

〈てちょっと、何するんですか、止めてください。い、痛っ!まっ止めっ〉

〈どうした!〉

〈あの、新田二尉。この人が腕を握って「Nimepata wa adui!」…えぁ?〉

〈村田!?…離れろっ!〉

 

 衝突音。土嚢を落としたような音と金属音が響き、その先住民が敵意を持っていたと分かる。

 そこからは、続々と現れる村人の喧騒や、パパパと渇いた音の連続。どうやら戦闘になったらしいのだが、何か様子がおかしい。

 

〈嘘だろ…!?7.62mm弾に何で怯まず向かって来れんだよ!?〉

〈明らかに致命傷…いや、即死レベルだぞ…?〉

〈ぐっ!?〉

〈中居!くそっ、気味が悪い〉

 

 戦況は良いとは言えず、寧ろその雰囲気に呑まれかけている。

 翼竜とは違い、銃弾は確りと肉体に欠損を与えている。しかし、この普通じゃない戦い方に根源的な恐怖が芽生えてきていた。

 

〈…!こんな時に弾詰まりかよ〉

〈お…太田一曹!死んだ筈の奴らが…〉

〈莫迦な…頭を破壊しているんだぞ…!?生きてるはずが…〉

 

〈ひっ…〉

〈何だよこれ…!?〉

〈か、顔が…!?〉

〈こ、このっ…バケモンが!〉

 

〈うああぁああああァァっっ!!?〉

〈中居っ!クソッ何処に連れて行くつもりだ!誰か俺に付いてこい!救出に行く!〉

〈私が!〉

〈新田ニ尉!香取!今離れるのは…くそっ〉

 

 

〈……何だ?全員離れていくぞ〉

〈退いたのか…?〉

〈じゃ、じゃあニ尉達の方に行きましょうよ。確か、こっちの家から奥に…〉

 

〈笛出!上だ!〉

 

〈え…〉

〈笛出えぇぇーっっっ!!!〉

〈で、デカい…〉

 

 突如轟音と共に振動が発生し、同時に果実を潰したような水っぽい音が響き渡る。そこからは、阿鼻叫喚と行った様子で、喚き立てる声と連射される銃声。時折起こる悲鳴と不快な破裂音の狂騒曲。

 しかし、招かれざる客の咆哮は鳴り止まず、次第に銃声も小さくなりつつある。

 

〈クソッ…通常火器じゃ拉致が開かない!パンツァーファウストをぺっ…!〉

 

 ぶちゃり。

 

 またしても一人が地面の赤い染みとなり、軽快とは言えない足音が近づき、ドアを開く。

 

〈ハァ…ハァ…っ……クソ!何なんだ一体!あんな奴がいるなんて聞いてないっ。うっ…。みんな、みんな死んじまった。虫を潰すみたいにぷちぷちぷちぷち!畜生……そうだ、パンツァーファウスト…パンツァーファウストがあった筈だ。あれを生物が食らって生きてるはずがねえ…。あ、アイツを倒して、か、帰らないと……!〉

 

〈「ウボァァァアァァァッ!!!」よ、よし。そこから動くなよデカブツが…。…狙いはバッチリ、ガク引きもしない。大丈夫だ、外さなきゃいい。…それだけだろ。…後方の……いるわけ無いか〉

 

〈「Don't be so sure?(それはどうかな?)」っ!?…あっ…かひゅっ…!〉

 

 突如、現場に乱入する第三者(声の低さから男性と思われる)の声。直後、スヒュンッという軽い音と共にピチャピチャと水が垂れ落ちる。ガリガリと装甲を掻き毟った後、最後の自衛官は息絶えた。

 

〈|It appears that God didn't give up on me《どうやら神は俺を見放していなかったようだな》〉

Japanese………I see(日本人………成程)

?Is it wireless(?無線か)

 

 硬い破砕音が鳴り響き、ザーザーと砂嵐と意味不明な電子音を出した所で記録は終了した。

 

「「「………」」」

 

 場に静寂が満ちる。集った者たちはその衝撃から脱することが出来ず、言葉を失っていた。

 まず第一に、十分な装備をした一隊が全滅の憂いにあったという恐怖。そしてそれをほぼ単騎で成したと思われる怪異の存在。 最後に、謎の闖入者。問答無用で自衛隊員を殺害したと見られるその人物は明確な英語を発しており、通信機に気付く前にも話していたため、英語圏の人間だと予測できる。

 

 ようやくまともな思考を取り戻したときには大荒れだ。もとより厳重な警備をして門付近や銀座、ひいては出入国にまで確りと警戒網を張っていた筈だが、今回の案件でそれにも穴があると懸念された。

 

 そしてそれ以上に困惑が強いのは、同じ偵察隊として顔も見合わせていた隊員たちだ。詳しい状況までは把握できなかったが、現場で真っ先にそれらと遭遇する可能性があるのは彼らなのだ。

 当たり前だが、今の通信を聞いて楽観的な者は居ない。それは彼らを自分達と同等以上に思っているからだ。

 第3偵察隊にも不安は伝染しており、居心地の悪い空気が流れ始める。

 

「あの、ちょっと悲観的になりすぎなんじゃないですかね?」

 

 自然、声を上げた伊丹に視線は集中する。一斉に険しい顔を向けられた伊丹は僅かにたじろぐも、狭間陸将が許可する。

 

「おれ…私共は特地という未知の領域の調査に踏み出したばかりのいわば新参者。 故に、そういった脅威に対しては未だ理解しているとは言えません。銃弾をものともしない怪異ならば銀座に出現した飛龍も同じでしょう。 我々第3偵察隊が遭遇したドラゴンも、ロケランレベルじゃなきゃダメージは与えられませんでした。……正直、驚くべきことですが、可能性としては検討されていた内です。 この謎の人物に関しても、早いうちに確認できた事が不幸中の幸いとも言えるんじゃないでしょうか?」

 

 アハハ…と何処か惚けた風に頬を掻く伊丹に毒気を抜かれたのか、強張った表情ではあるものの、心中の言葉を呑み込んだ。

 

「ウム、伊丹の言う通り、あり得ない話ではない。これから本部へと連絡を取り、より一層の警戒と疑わしい人物のピックアップを行う手筈だ。これは後に全体に発令するが、現場で活動するお前達に知ってほしかった、ということだ。今こちらで騒いでもどうにかなるものではないしなあ。 まあ、頭の片隅にでも置いて、それらしき影をみたらよろしく頼む。…それでは解散!」

 

 

 

 

「俺、あんなキャラじゃないんだがなぁ…」

「まあまあ、そんな恥ずかしがることないじゃないですか。自分は結構見直しましたよ。 あんな空気で言うなんて、流石は銀座の英雄と呼ばれるだけありますね。ここぞという時の力が違うっていうか」

「倉田……お前ここでまでからかうか。やめてくれよまじで。そんなの俺には似合わないってーの。第一知ってるだろ?俺のモットーはさ」

「『喰う寝る遊ぶ、その合間にほんのちょっとの人生』ですよね。まあいいじゃないですか、こんな事態じゃなきゃあんな感じの体験も出来ない訳ですし」

 

 その楽観的というべきか、対岸の火事とでも思っているのか、伊丹は一つため息を溢した。

 

「伊丹ニ尉、これから避難民の対応もしましょうか。急な招集で待たせたままですし、困惑していると思います。……この世界の事も聞けるかもしれません」

「ねえクロ、俺疲れてるの。後は他のみんなに任せても…」

「ダメです」

「だよね〜」

 

 がっくりと項垂れ、半ば引き摺るようにしながら歩を進めていった。

 

 

☣☣☣

 

『フン…』

 

 赤いベレー帽を被った金髪の男は、目の前の死体をつまらなそうに見つめ、高機動車を漁り弾薬などの物資を回収している。 彼はこの惨状に対して不憫に思うことも、仄暗い愉悦を抱くこともない。何故なら、それは男にとって当然のことなのだから。

 

『こんなものか……。さて、日本の軍隊か。実戦経験はほぼ無いが、練度は高水準との評価だが…。この地獄はその程度では乗り越えられんぞ?』

 

 嘲るように吐き捨てると、自らの獲物である特徴的なナイフを空に放る。

 

 

――ザンッ

 

 

 振り抜かれたそのナイフは高機動車の装甲をいとも容易く切り裂き、その爪痕を刻み込む。

 

『WELLCOME to Resident Evil』

 

 非常に洗練された肉体を持つ男は、ナイフに刃こぼれ一つ無いのを確認すると、顎から左目に走る傷を撫でながらそう呟いた。




今回からちょっとしたバイオネタを混ぜ込むようにしました。勿論無い話もありますが、もし気付かれたら感想欄にでも感想と共に書いてみてください。
気づいてくれると作者のモチベーションが上がります


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