三ノ輪金太郎は勇者である (てんぱまん)
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始まりの春

結城友奈は勇者である 外伝(ゆうきゆうなはゆうしゃである がいでん) 

 

エピローグ

 

「おーい金太郎、早く起きないと学校遅れるぞ~」

「分かってるよ~兄ちゃん」

いつもの朝が始まった。彼の朝はいつもこうだ。いつもギリギリまで寝てギリギリで家を出る...その前に一つ、毎朝することがある。毎日のルーティーンだ。それは記憶に全く残っていない姉への言葉だ。彼はいつも姉の写真に向かって言う。

 

「姉ちゃん、今日も行ってきます!」

 

 

 

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  ①讃州中学勇者部

 

「お~い今日も遅刻かよぉ、毎日待たせないでよ~」

 

「ごめん、ごめん、ほら行こ!」

 

金太郎を待っていた少年は難波涼。金太郎とは小学生からの幼なじみである。

 

「みんなおっはよー!」

 

「なんとか間に合った~!」

 

二人は滑り込むようにして教室に入り込んだ。

 

「おいおい金と涼!今日も遅いじゃねぇかよ!」

 

「そうですよ。もっと余裕を持ってください」

 

この二人は須藤祐成と古波蔵瞬。この四人は中一から同じクラスの仲良し同士で、同じ部員仲間でもある。時間はあっという間に経ち、放課後、部活の時間になった。

 

「さぁ~て、今日も楽しい楽しい部活動の時間が始まりますよ~!」

 

「ホント、この時だけ瞬は性格変わるよなぁ...」

 

「まぁ、そこが瞬の良いところだよな....!」

 

祐成と金が瞬について語る。彼らが入部している部活名は勇者部。変わった名前だが、やる内容はボランティアと似ている。何事にも勇んで行動するを目標に、日々彼らは活動に励んでいた。現在の勇者部は彼らの四名だけ。先輩も後輩もいない。しかし、部の信頼は他部活と比べても群を抜いている。部室の壁には毎年部員全員で撮影する写真が飾ってある。勇者部が誕生した当時から今まで。ずらーっと並んでいる。部室内は決して広いとは言えないが四人で活動するには十分の広さであった。

 

「さぁ~て、本日の依頼は~...........」

 

『........依頼は....?』

 

中々言わない瞬に、一同は固唾を飲んで部活内容を聞く。

 

「........子猫の........お世話で~す!」

 

...部室内に一瞬、沈黙が流れる。

 

「さんざん焦らしといてそれかよ!?」

 

「いつもと同じじゃねぇーか!」

 

「瞬らしいよ~」

 

金と祐成とは逆に、穏やかな涼。涼はいつもそうだ。こんな感じにフワフワしている。こんな涼がいるおかげで部活に活気が溢れているのも事実だが。部室内は今日も笑い声で溢れている。金はこんな日々がずっと続くと思っていた。この日までは...

 

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 ②大赦からの使者 

 

俺の家系は大赦の中でも力を持っている家柄らしい。俺には兄ちゃんと姉ちゃんがいて、姉ちゃんのことは全く覚えていない。姉ちゃんは11歳という若さで亡くなったという。11歳というとまだ小学生だ。俺が中学生に入学するときに誰にも言わないという約束で姉ちゃんがなぜ死んでしまったのか家族から理由を聞いた。最初は信じられなかった。勇者なんて初めて聞くし、神樹様なんてものも俺が物心ついたときにはもう存在しなかったからね。でも大赦という機関の存在、真面目に話す家族の目を見て、信じた。そして自分の中だけで姉ちゃんのことを誇りに思った。仲間、家族、世界のために捨て身の覚悟で敵に挑んだこと。とても怖かっただろうと思った。

 

俺は姉ちゃんに似ていると言われるときもあれば真反対の部分もあると言われる。一番よく言われるのは顔だ。確かに自分でも姉ちゃんの写真を見て自分と似ているとよく思う。次に性格だ。明るい所、友達が多く、どの人に対しても大切に思う所が瓜二つだという。逆に、すぐ熱くなってしまう姉ちゃんとは違い、俺は冷静に判断できる....と兄ちゃんから言われた。

 

俺は時々思う。一度で良いから姉ちゃんにあってみたい、と。

 

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今日はいつもと違かった。いつも来るはずの時間に担任が来ないのだ。ちょっとしてから学年主任が教室に入ってきた。クラスはただごとじゃないぞ、とか、何かしでかしたのか?とか騒ぎ始めた。

 

「はーい、静かに静かに」

 

学年主任が手をたたいて生徒たちを黙らせる。

 

「突然だが、今日から君たちの担任が変わることになった」

 

いきなりの出来事にまたしてもクラスがざわつき始める。

 

「君たちの担任は別の仕事に就くことに決定したんだ。ということで新しい担任の先生を紹介する!どうぞ入ってきてください」

 

そう言われ、扉を開けて入ってきたのは黒い長髪の美しい女性であった。

そして彼女は教卓の前に立って一礼し、こう言った。

 

「今日から皆さんの担任になります。東郷美森です。よろしくおねがいします」

 

 

 

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「朝は驚いたよなぁ~いきなり担任が変わるなんてよー」

 

「そうですね。担当は社会なんだとか」

 

「女の先生で社会は珍しいよねぇ?」

 

今日の部室はあたらしい担任の先生の話で持ちきりだ。

 

「どうした?金、さっきから全然喋らないじゃんか~」

 

いつもと違う金太郎に対し、涼が気にかけてきた。

 

「いや...なんかね...どこかで見たことがあるような感じがしてさ........」

 

コンコン、ガラッ

 

すると急にノックがし、部室のドアが開いた。部活の時間に訪ねてくる人なんて珍しいからみんな驚いて扉の方を向いた。

 

「勇者部の部室...懐かしいわね...」

 

『と、東郷先生!?」』

 

みんなで声を合わせて驚く。

 

「どうも、今日からこの勇者部の顧問になります。東郷美森です!」

 

「あっー!どこかで見たと思ったら初代勇者部の!!」

 

金太郎が指をさして叫ぶ。

 

「ホントだ!てかこの写真の頃と見た目ほとんど変わらない...!」

 

祐成は写真と実物を交互に見てそう言った。

 

「...いきなりいらっしゃっていきなり顧問だなんて....どういうことですか?」

 

瞬が単刀直入に聞く。

 

「実は...みんなに大切なお話があるの...落ち着いて聞いて欲しいの...今日から君たちは...」

 

-----っ!

 

勇者部四人の端末から聞いたこともないアラームが鳴り響く。

 

「なんだこれ!?樹海化警報って...?」

 

「怖い...なにが起きるんだ...」

 

祐成と涼が戸惑っている。

 

「みんな見てください!窓の外!」

 

瞬が外を指差す。鳥が空中でピタリと止まっている。本来あるはずの風や他教室の音も全く聞こえない。

 

「...っ!遅かったか...!」

 

「なんですって...?東郷先生?」

 

金が東郷の言葉について詳しく聞こうとしたとき...

 

「うわうわうわっ!!なんか変な光がこっちに来るーー!」

 

祐成が叫んだ。

 

「これから...なにが始まろうとしているんだ...!」

 

金太郎たちはなにも知らないまま、とんでもない地獄に放り込まれることになる。

 

 

 

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 ③初陣 

 

次に金たちが目を開けたときには見たこともない景色が広がっていた。あたり一面樹木のようなもので、建物ひとつも見られない。

 

「なんだ...これ...!俺たち死んじまったのか...?ここは天国なのか!?」

 

祐成が頭を抱えてパニックになる。

 

「空が星空のようだ....太陽もありません...なのに夜とは思えないほど明るい。ここが地球なのかどうかさえも疑ってしまいますね...」

 

落ち着いた雰囲気で瞬がこの状況を分析しようとしていた。

 

「ど、どどどどうしよう...!帰れなかったりしないよね...?!」

 

涼も祐成同様、パニックになっている。

 

「みんな...端末を見て!」

 

金太郎がそれぞれの端末を見るように促す。そこにはこの現象と彼らがしなければならないことなどの説明が書いてあった。

 

「何だよ...俺らはバーテックス?とかいう怪物を倒さなきゃ元の世界に帰れないのか...?」

 

「しかも...あの奥のでかい虹色の木にバーテックスがたどり着いたら...世界が滅びる...とか...」

 

「そ、そんなの...いきなりすぎる...」

 

「特別な訓練とかもしてないのに...」

 

突然すぎることに四人とも戸惑いは隠しきれない。

 

「こ、こんなの無理に決まってる!ほ、他にも人がいるかもしれないし俺たちはじっとしてよう!」

 

祐成が現実逃避をし始めた。もっとも、このような出来事が現実とは到底思えないのだが。

 

「俺は...やるぜ...」

 

金太郎が静かにそういった。

 

「ここには俺たち四人しかいないって書いてあるし。それになによりも....家族が...友達が...世界の人たちが全員絶望してなくなるなんてそんなこと許せるかよ...!そんなことになるんだったら...俺一人がバーテックスとやらを倒してやる...!」

 

金太郎はそう言ってスマホを握りしめる。その手は恐怖でひどく震えていた。

 

「それに...これは...一族の『運命』だろうしな...」

 

しかし、そんな状況でも金太郎は覚悟を決めていた。

 

「さすが金だ...よし、俺もやるよ!」

 

涼も声をあげる。

 

「そんな怪物なんかに俺たちの日常が壊されてたまるかってんだ!俺は...どんなに傷ついたとしても戦ってやるぜ~!」

 

涼は強い正義感をもっている。それがこの覚悟に繋がったのだ。

 

「しょうがないですね...僕もやりますよ...!この素晴らしい世界の為、友の為...この命...お国に捧げよう!」

 

瞬は極度の愛国者である。

 

「お、お前たち正気か...!?なにも訓練とか受けてないんだぞっ!!死ぬかもしれないんだぞ...怖くないのか...?」

 

祐成は覚悟が決められないようであった。

 

すると、奥に方にかなりの大きさの怪物が見える。あれがバーテックスなのであろう。最初だからか、一体だけのようだった。

 

「見ろよ...きっとバーテックスはあいつのことだ...俺らの学校の大きさの二、三倍はあるぞ...あんなものに...勝てっこない!みんなで逃げよう!ねっ...?」

 

祐成が弱気になるのは珍しいことであった。しかし、金太郎たちは...

 

「それでも...やるしかない...やらないより何かやった方が後悔しないで済む...!それに...俺らはもう...覚悟はできるんだ...!」

 

そう言った途端、三人の端末が光り始めた。

 

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三人の体が光に包まれる。そして、その光がなくなった時には....

 

「おぉ~!かっけー!!」

 

「これが....俗に言う『勇者服』というものでしょうか....?」

 

「俺たち、ホントのホントにあの伝説の勇者になったんだね~!」

 

それぞれ三者三様の勇者服であり、全体的に見て金は赤、涼は黒、瞬は水色をベースとした勇者服だった。武器も三人とも違った。

 

「俺の武器は柄が長い斧だ~!木こりになった気分~!」

 

「僕の武器は...ブーメラン...?」

 

「俺は...見たこともないデカい銃だな...」

 

金は遠距離、涼は近距離、瞬は中距離のそれぞれバランスのとれた武器である。

 

「....よし、行くぞっ!」

 

金の掛け声で三人が一気にバーテックスの元へと走っていく。

 

「あいつら....ゲーム感覚でやりやがって....!どうなっても知らねーからな....!」

 

祐成は下を向いて三人を見送った。

 

「す、すごい...!なんて早さだ...!」

 

「跳躍力も圧倒的に上がっています!あのバーテックスよりすごく高く飛べる!いや~今の我が国にこれほどの技術力があるとは...」

 

「二人とも!まずは俺から仕掛けてみる!」

 

金がバーテックスに向かって何発か光の弾を撃つ。

見事命中。初めてこの武器を扱うにしても、相手の的が大きいため、あてるのは簡単だった。攻撃をくらったバーテックスは進むのをやめ、その場で停止する。

 

「やった!効いてるぞ!よ~し...次は俺だっ!」

 

涼が距離を一気につめて精一杯斧を振りかざす。その一振りでバーテックスの触手の一部が切断された。

 

「やった!どうだっ!」

 

「決して油断しないでください!!涼は一旦距離をとってください!次は僕がやります!」

 

瞬が投げたブーメランはバーテックスに直撃。大きな傷をつけた。

 

「一気に片を付けてやる!」

 

涼がとどめを刺そうと距離をつめ、斧の連撃を放とうとする。しかし...

 

「涼気をつけろーー!!なんかバーテックスの体が光っているぞー!!」

 

「あれは....何か仕掛けてきますっ!」

 

警告は遅かった。涼はもろにバーテックスの攻撃を受けてしまう。

 

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「うわぁぁぁぁぁー!!涼ーーー!!」

 

金が絶望の表情で叫ぶ。

 

「だ、大丈夫~...なんとか...」

 

しかし、涼は傷一つない状態で立っていた。

 

「金、見てください。涼の隣になにやら浮いています。」

 

「?...あれは...動物か...?」

 

「こ、この子が...俺の...ことを...守ってくれたみたい...」

 

涼が苦しそうに答える。

 

「どうやらあれが僕たちのことを守ってくれるという『精霊』ですね...なんともさっきから非現実的なことが起こりすぎです...」

 

「ご、ごめん...俺は...もう...戦えそうにない...」

 

涼は気を失って倒れてしまった。いくら精霊のバリアがあってもバーテックスの攻撃をもろに受けてしまったのだ。その体へのダメージは大きかった。

 

「...っ!涼...!わかった、後は俺たちに...」

 

「うわぁぁ!」

 

後ろから叫び声を聞き、後ろを振り向くと、さっき切断した触手とは逆の触手で瞬が捕らえられていた。涼に気を取られすぎてしまったのだ。

 

「瞬!!今助けるぞ!」

 

金は触手を狙って撃つが、バーテックスは光線を金の方に撃ってきて触手を狙い撃つ暇がない。

 

(クソっ!こんな初めての戦いでここまで追いつめられるなんて...)

 

そのときであった。瞬を捕らえていた触手が人参を切るかのように縦に切断されたのだ。

 

----

 

「ったく...これだから信用ならねぇぜ...俺を不安にさせやがってよ...」

 

「...!!祐成っ!!」

 

そこにいたのは祐成であった。本来ならば一本だけで戦うはずの武器であるレイピアを二本持っていた。

 

「しょうがねぇなぁ~...本物の戦い方っていうのを...見せてやるよ!!」

 

祐成は鋭い剣さばきでバーテックスの体を切り刻む。

 

「すごい....!....いや、祐成だけに手柄も取られてたまるかっ!俺たちもやるぞ!」

 

「はいっ!」

 

金たちは三人で協力しながらバーテックスと戦い、

 

「今です!金!」

 

「よ~し!とどめだぁっ!」

 

「行けっ!金!」

 

自分の身長の四分の三はあるであろう長さの銃二丁をバーテックスに向ける。そして金が全身に力を込めると、銃は炎をあげ、彼の魂のごとく燃え上がる。

 

「くらえぇぇぇっーー!!」

 

二丁の銃が合体して放たれた一本の太い光線はバーテックスを貫き、御霊も同時に破壊した。

 

「勝った...のか...?」

 

三人は手を取り合って喜び合った。

 

「勝った!勝ったんだ!あの怪物に!!」

 

「僕たちの大勝利です!!」

 

「初めてにしてはよく戦えたな!俺たち!」

 

一人では無理だった。仲間がいたからこそ、この戦いは勝つことができた。仲間の素晴らしさ、大切さを金はこのとき改めて実感したのだった。

 

樹海か解けていく。三人は同じことを考えていた。東郷美森という存在について...

 

 

 

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 ④勇者の歴史 

 

気がついたときには金たちは部室に立っていた。

 

「...!良かった...!初めてにして無事にお役目を果たすことができたのね...!」

 

東郷が歓喜する。

 

「...これを見ても無事と言えますか...?」

 

金は部室の床に倒れている涼を見る。

 

「バーテックスにやられたのね...でも大丈夫。これぐらいならすぐに目を覚ますわ」

 

「詳しく説明させてもらいもしょうか...?」

 

金が東郷を睨みつける。

 

「もちろん...。最初はそのつもりでこの部室に来たんだから...」

 

東郷はバーテックスとの戦いの歴史について話し始めた。

 

「今から約300年以上前のこと...地球に突如、バーテックスが現れ、人々を襲った...。そのバーテックスを倒すため、土地神様に選ばれた四人の少女がバーテックスと戦ったの...。彼女たちのおかげでこの世界は約300年間平和を取り戻した...」

 

「それで...僕たちが選ばれたんですか...?」

 

祐成が口を挟む。

 

「いや、その前に二回侵攻があったのよ...一回目は新世紀298年...三人の勇者が選ばれた。一人は...私...」

 

三人に衝撃が走る。

 

「東郷先生は....先代勇者....!?」

 

東郷は話を続ける。

 

「二回目は新世紀300年...この年は大変だったわ...最初は四人で...それから五人、最終的には六人で戦った...」

 

「そこまで詳しいということは...東郷さんは二回目も勇者に選ばれたってことですか...」

 

金が緊張した雰囲気で聞く。

 

「そうよ...。そして...勇者に選ばれたからには...過酷な宿命を背負わなければならない...!」

 

三人は真面目な顔で東郷の話に聞き入る。

 

「まず、300年前の勇者たちは四人のうち三人が戦いで命を落としたわ...そして...私が初めて勇者として戦ったときも...大切な友達を一人失い...もう一人の友達も体のほとんどの機能を失った。そして私も記憶と足を...」

 

「?それじゃあなんで今は立ててるんですか?この話をしてる時点で記憶もありますし...」

 

瞬が矛盾点を聞く。

 

「それは二回目の侵攻に打ち勝ったとき、神樹様が私たちの機能を補ってくれたからなの。だから二回目の侵攻の時も私の仲間たちはいろいろな体の機能を失ったわ...最終的に神樹様はいなくなって世界はまた平和を取り戻した...かと思った。けど...」

 

「神樹様は復活し、またしてもバーテックスの侵攻が始まった...と…」

 

「その通りよ...。さらに今回の侵攻について違う点は今まで少女だけが神樹様に選ばれていたのに今回は...少年が選ばれた...」

 

「東郷先生が知っていることについてもっと教えてください!」

 

長い話が苦手な祐成も興味を示しているようだった。

 

「...つまり、勇者になった僕たちは体の機能を失う覚悟...いや、命の覚悟が必要ってことですね...?」

 

金がおそるおそる聞く。

 

「ええ。...そういうことよ...」

 

「俺は元からその覚悟で勇者になりましたから。俺は大丈夫です!」

 

「僕もこの美しい国と国民のためなら、この命を捧げる覚悟ですっ!」

 

「お、俺も.......最初は嫌でしたけど....金たちが戦って傷ついていく姿を見て....耐えられなかったんで....覚悟を決めました!」

 

「祐成....お前にもちゃんとした正義の心が....」

 

金が涙目になる。

 

「はいはい、今はそういうのいいからー」

 

祐成が金のボケを流す。

 

「ですから、東郷先生、僕の姉ちゃんのことについて詳しく教えてください....!」

 

「やっぱり....あなたは知ってたのね....」

 

それを聞いた三人が驚く。

 

「ちょっと待て、金....お前の姉ちゃんのことって....」

 

「それってつまり....」

 

祐成と瞬は驚きを隠せない。

 

「そうだ....。家族に内緒にしてくれって言われてたから二人にも言ってなかったけど....俺の姉ちゃんは勇者だった」

 

「本当にいいのね?金....」

 

「はい....東郷先生。東郷先生の友達が亡くなったって聞いてピンときました。年代的にもピッタリだし....。友達だった東郷先生からみた姉ちゃんの印象も聞きたいし。」

 

「わかったわ....。銀はね....とても明るくて、ムードメーカーで一緒にいてとても楽しかった....すぐにバーテックスに突っ込んじゃうような性格で、よく私たちを心配させていたわ....」

 

「金とは大違いだな....」

 

またしても祐成が口を挟む。

 

「別れは突然やってきたわ....あれは....遠足の帰り道だった....」

 

部室は重苦しい空気に包まれる。

 

「私たちの頃はバーテックスを追い払うことしかできないくらい勇者システムが未熟でね....精霊のバリアも無く....ほとんど生身の体で戦っているようなものだった....三体のバーテックスを追い払うべく、私たちは三人で協力して戦ったんだけど....油断した隙を攻撃されて、私たち二人は一撃で動けなくなってしまった...でも銀だけは攻撃を上手く防いでいてね........私たちを安全な場所まで運んでくれて........ぅぅ........」

 

昔のことを語っているうちに苦しくなったのか、東郷は涙を流し始める。

 

「東郷先生....少しずつでいいですから....あまり無理はしないでください。」

 

金は東郷に近寄って彼女の背中をさする。

 

「銀は一人で....三体のバーテックスに立ち向かっていったわ....最後に聞いた一言は........満面の笑顔で言った........ぅぅぅ........『またね』だった........」

 

いきなり吹いた風が窓を揺らす。ガタガタと窓が揺れる音以外、部室内に音はなかった。

 

「銀は見事にたった一人で........三体のバーテックスを追い払った........さっきも言った通りこのときの勇者システムは未完成で一体を三人で相手するくらいだったから....」

 

金はやはり姉ちゃんはすごいと感じていた。強化された勇者システムで戦った自分たちでも三人でやっと一体倒せたくらいなのに....

 

「銀のおかげで勇者システムが見直しされて....満開と…精霊が誕生したわ....銀のおかげで....!私たちはこの世界を守れた....!銀がいなかったら今のこの世界はないわっ!」

 

(姉ちゃんは俺が想像していた以上の人物だった....小学生でここまでのことは常人ならまずできない....!)

 

全員涙目になっている。部室内はいつもの楽しい笑い声とは違い、一人の嗚咽音が寂しく、寂しく、響いていた。

 

 

 

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 ⑤完成型コーチ

 

あの話東郷の話から少し時間がたった。外は夕日が綺麗に輝いている。涼を保健室に運んでベットに寝かし、部室に戻って瞬が四人にお茶を出した。

 

「それから、もう一つみんなに言うことがあるわ」

 

落ち着いた東郷が再び話を始める。東郷が部室のドアをあけると赤ジャージの白ラインが入った服を来ている女性が入ってきた。

 

「新しい勇者諸君!こんにちは!私の名前は三好夏凜!」

 

またしてもいきなりの出来事に三人はポカンとする。

 

「明日からみんなの勇者としてのコーチになるわ!よろしく!」

 

「勇者としてのコーチ、ですか....?」

 

金が目を点にしながら聞く。

 

「そうよ!あなたたち何も鍛錬もしないでこれからの戦いに挑むつもり?それは無理でしょ?だ か ら、コーチ!」

 

「この夏凜ちゃんも勇者だったのよ」

 

「東郷!『勇者』じゃなくて『完成型勇者』!」

 

二人が楽しそうに話している。

 

「ということで、明日の朝6時学校の校門の前に来なさい!」

 

「えぇー!明日ですかぁ?!明日は休みですよぉ!?」

 

祐成がたまったもんじゃないと驚く。

 

「な~に言ってるの!バーテックスはいつ攻めてくるのかわからないのよ!」

 

三人とも何も言い返せなかった。

 

「それじゃ、決まりね」

 

夏凜はそそくさと部室から出て行ってしまった。

 

「ふふふ....相変わらずね、夏凜ちゃん。」

 

うれしそうに笑う東郷。それを横目に、三人は勝手に決められて呆然とする。

 

「明日から頑張りましょう!瞬さん!祐成さん!金!」

 

「りょ、了解しました!」

 

「は~い....」

 

「はいっ!(なんで俺だけ呼び捨て....)」

 

 

 

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学校からの帰り道、三人は同じ下校ルートを帰っていた。あの後も東郷からいろいろ話を聞いた。勇者のお役目は他の人には言ってはいけないこと、夏凜がやたら強調していた完成型勇者のこと、量産型の防人という存在がいたことなど、この日だけでは覚えきれないほど教えてもらった。『満開』というものについては今話すべきではないと言われたが。

 

「すっかり暗くなっちゃったな~」

 

「明日も早いですから早く寝ないといけませんね」

 

「せっかく明日はみんなと遊ぼうとおもってたのに~...」

 

「また今度遊べばいいだろ?」

 

まだ機嫌が悪い祐成を金が説得する。

 

「涼は大丈夫ですかね....この時間になっても目をさましませんでしたけど....」

 

「俺も心配だけど....東郷先生が大丈夫って言ってたし、信じよう!」

 

東郷がまた涼にも勇者のことについて話すらしい。やがて三人は手を振り合って別れ、それぞれの家と帰って行った。

 

 

 

(第二話に続く)




いろいろと誤字脱字、表現がおかしいところがあるかもしれませんがどうか広い目で見てください....


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勇者として

 

 ⑥鍛練 

 

三人は朝早くに中学校の校門の前に立っていた。

「みんな~....おはよう....」

「....!!おぉーー!涼!もう大丈夫なのか?!」

金が真っ先に駆け寄る。

「金たちが帰った後、すぐに目が覚めたんだけどさ、あぁ、体はもう大丈夫なんだけど東郷先生に勇者のことについて夜中まで話されて....寝不足だよ~」

瞬も祐成も苦笑いしているが、どこかうれしそうであった。

「みんな!おはよう!」

「東郷先生!おはようございます!」

四人そろって挨拶する。東郷は全く眠そうな雰囲気を出していなかった。

「多分夏凜ちゃん、もうすぐ来ると思うわ」

「諸君っ!おはよう!」

金たちが後ろを振り向くと朝日を背にして仁王立ちする夏凜が立っていた。

「か、夏凜さん....?おはようございます」

「声が小さーい!あと、わたしのことは『夏凜コーチ』とお呼びなさい!」

「はっ、はいっ!夏凜コーチ!」

四人は気をつけをして夏凜に挨拶する。

「よろしい。では私についてきなさい。」

夏凜は海へ向かっていき、砂浜に着いた。

「じゃあみんな頑張ってね~」

東郷はそう言い残してどこかに行ってしまった。

「ここは大赦の敷地内よ。ここならどれだけ暴れても一般人には聞こえないし、しごき放題....」

四人の顔が青ざめる。

「か、夏凜コーチ、それで今日やる鍛練の内容は....?」

涼が恐る恐る聞く。

「そうね....まずはウォーミングアップとして体操してからざっと一時間走り込みね」

「えぇーー!」

四人で声を合わせて叫ぶ。

「なによ、最初のうちは軽くしておかないとケガするわ。それとももっときつい方がいい?」

「いやいや、充分ですぅ!ていうか充分すぎですっ!」

祐成は勘弁してくれという感じでツッコむ。(これからどうなっちまうんだ....?)金は不安でたまらなかった。

 

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(僕たちはあの後、腹筋、腕立て、タイヤ引き、それぞれの武器にあった部位の筋肉強化などを嫌というほどやらされ、あっという間に時間は流れ、体はヘトヘトになってしまった)

「うーん....今日は初めてだからこのくらいにしときますか....」

「こ、このくらいって....夏凜コーチ....きつすぎますよぉ....」

「こらっ祐成!弱音を吐かない!まだやらせるわよ!」

「ひいぃぃ~!すみませんでした~」

「夏凜コーチも....ぼ、僕たちと....同じメニューをやったはずなのに全然ばててない....さすが元完成型勇者....」

瞬が夏凜を尊敬した目でみる。

「そうでしょ?完成型勇者はただ一人....この三好夏凛だけなんだから!」

夏凛が鼻を高くする。

「夏凛コーチも....このくらいで気分をよくするなんて....『チョロい!』ですね....」

金が夏凛をいじる。

「な、なによー!バカにしてるのー!」

夏凛の反応を見て四人は笑う。

「よーし!これから頑張るぞ~!」

金が立ち上がった。

「俺だって~!」

「僕も....これしきのこと....我が国の軍隊に比べればチョロいもんです!」

「あぁ~!こうなったらやってやら~!」

「そのいきよ!みんな!これくらいでバテてたらこれからの戦いで生き残れないからね。どんどんハードル上げていくわよー!」

「おー!!」

五人で拳を突き上げる。夕日が砂浜に立つ五人を照らしていた。

 

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 ⑦歓迎会! 

 

今日は午前中で授業が終わり、部室でお弁当を食べていた。

「さて、昼ご飯も済んだことだし、今日の活動内容をお願いします!部長!」

「いいでしょう、祐成くん。今日の活動内容は........東郷先生の歓迎会で~す!!」

「わ~~!♪」

祐成、金、涼が拍手で盛り上げる。

「えっ?私?」

東郷はきょとんとしている。

「そうですよ!いろいろバタバタしてましたし」

「改めまして!古波蔵 瞬です!」

「須藤 祐成ですっ!」

「難波 涼で~す!」

「三ノ輪...金太郎です!」

「........!みんな....よろしく!東郷美森よ!」

「よ~し!自己紹介も済んだし、それじゃあさっさく行きましょー!」

祐成は真っ先に部室を出て行ってしまった。

「それで....どこに行くの?」

東郷が聞き、瞬がすかさず答える。

「僕たちの行きつけのボーリング場とカラオケボックスです!」

 

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「よっしゃ~!ストライク!」

金が両手でガッツポーズをする。

「金はボーリング得意だからね~」

「でも....東郷先生もすごいよ....」

東郷と金は今のところ三連続ストライクである。

「もう....プロの戦いですよ、これは....周りの人も集まってきてますし....」

三人が辺りを見回すと二人の戦いを見る人だかりができている。

「やりますねぇ....東郷先生....」

「金もやるじゃない....」

「うおぉぉぉ~!バチバチだ~!」

祐成が興奮している。

「どうなるんだ....この勝負....」

三人は前かがみになって二人の勝負を見守る。

-

-

-

「くっそーー!!悔ちい悔ちいぃー!!」

金が駄々っ子のように足をバタバタさせている。

「東郷先生....結局全部ストライク....」

「もう....プロも顔負けです....」

祐成と瞬が引き気味に言う。

「でも....ひさしぶりに熱くなれたわ!良い勝負をありがとう....!」

「えぇ....でも次は負けませんよっ!」

二人は熱い握手を交わす。

「ライバル登場だね~!金!」

涼がうれしそうに金と絡む。

「次はカラオケね!行きましょう!」

東郷がさっさと歩き出す。

「いつの間にか東郷先生が前を歩いてる....ちょっと待って~!僕たちがいつも行ってるカラオケボックスどこにあるか知ってるんですかぁ~!」

金はそう言いながらみんなで東郷のもとへ駆け寄って行った。

 

_________________________

 

「な、なんで僕達の行きつけのカラオケボックスが分かったんですか!?」

金が驚いて東郷に聞く。

「この辺でカラオケボックスと言ったらここが王道だからね♪」

金たちはカラオケボックスへと入り、それぞれの十八番を歌い始める。

~♪~♪

(はっ!この曲は!)

「私が入れた曲!」 「僕が入れた曲!」

東郷と瞬が同時にそう言って立ち上がる。

「この二人、どこか似ているって思ってたけど趣味まで一緒とは....!」

「ってことは....面倒くさくなるなぁ....」

金と祐成が顔を見合わせながら話す。

「もしかして....東郷先生も....!!」

「もしかして瞬くん....!!」

二人はキラキラした目で見つめ合い、手を取り合う。

「東郷先生....」 「瞬くん.....」

『一緒に歌いましょーー!!』

((やっぱりこうなった~!))

金、祐成、涼が考えていたことは全く同じであった。金と祐成と涼は慣れているかのように姿勢良く立ち、敬礼する。楽しい時間はあっという間に過ぎていった。

-

-

-

帰り道

「東郷先生と瞬、すっかり意気投合しちゃったなぁ....」

「うん、さっきから二人でずっと盛り上がってるよ....」

「仲良くなるのは何よりだよ~」

涼は依然、呑気である。

それぞれの帰り道が別になる交差点まで来た。なんだかんだあっけど楽しかった。ここにいる全員、そう思っていた。金は東郷の方を振り向き、

「今日は........楽しかったですね!」

と、満面の笑みで言った。

「え........」

東郷の頬に光る筋が一つ。金の笑顔を見て、東郷はある昔の親友の笑顔を思い出していた。それはとても似ていたのだ。

五人は手を振りあって、そのまま家へと帰っていった。

 

_________________________

 

 ⑧恒例

 

初めての戦いから一ヶ月が経過していた。あれから何も進展がない。俺たちは二回目の侵攻に備えて鍛練は怠っていない。もう六月の半ばだ。雨の日も増えていた。

学校での休み時間

「ひゃぁっ!!」

金が女々しい声をあげる。

「あっははは!やっぱりくすぐったときの金の反応は面白いねぇ!」

金の後ろには祐成が立っていた。祐成が金のわき腹をつついたのだ。

「ゆ~う~せ~い~....!」

「うわわっ!くるぞくるぞ!」

「こらぁ!待たんかい!」

全速力で逃げる祐成を金が追いかける。

「相変わらずこりないよなぁ....祐成も....」

涼は呆れた目で遠くからその様子をみていた。

「もはやあれは恒例となっていますからね....あぁぁ...この問題分からない...」

瞬は数学の問題を解きながら答える。

「瞬も休み時間に中谷先生から特別にもらってる応用問題を解くのも恒例になってるよねぇ...まぁ俺はそんな難しい問題さっぱりだけど!」

「あなたも一応学年十位圏内じゃないですか...」

「一位の人に言われてもねぇ...あっ、またあの二人廊下走ってたから怒られてる」

-

放課後

「あっ、東郷先生!こんにちは!」

部室に入ってきた東郷に四人はあいさつをする。このときの東郷の表情はいつになく固かった。そしてその表情を見て...金たちは察した。金が口を開く。

「ついに来たんですね...?神託が...」

 

_________________________

 

 ⑨軍勢

 

「ついに来たんですね...?神託が...」

「えぇ...そうよ...今さっきね」

「いつバーテックスは来るんですか!」

祐成が声を荒くして聞く。

「いきなりだけど...今日の夕方...」

四人に衝撃が走る。

「今日の夕方って...あと二、三時間しかないじゃないですか!!」

涼が汗をかきながら言う。

「でも...いつ来ても良いように...準備してきたろ...?」

金が小声でみんなに向かって言った。

「俺は...もう準備できてる!」

鋭い目をした金が言った。

「しばらく侵攻がなかったから...数が多いそうよ...」

東郷が低いトーンで神託を詳しく教える。

「あぁ~!!もう!こうなったらブチのめすしかねぇ!」

祐成が叫んだ。このときにはもう、勇者部全員真っ直ぐな目をしていた。

(さすが...俺の信用できる大切な友達たちだ...)

金はこのわずかな時間で心を決めた仲間たちに対してこう思っていた。彼らの端末が不気味に鳴り始める。眩しい光が校舎へと向かってくる。金が気合いを入れるため、叫ぶ。

「いくぞっ!俺らの...二回目の戦いへ!!」

 

_________________________

 

「うわぁ~...ちっこいのがいっぱいいるよ~」

涼が気持ち悪そうに言う。

「奥に大型バーテックスが二体いますね...」

「この前は一体三人がかりだったけど、今の俺たちは一味違うぜ!」

瞬と祐成は張り切っている。

「よし!まずは目の前のちっこいのから倒していくぞ!」

金がみんなの気合いを入れ直すと、四人は一斉に端末を起動し、変身する。それぞれ個々に散らばり、無数の星屑を倒していく。

「はっはー!こいつらよえーぞ!余裕だぜぃ☆!」

祐成は二本のレイピアで串刺しにし、切り刻んでいく。しかし、倒しても倒しても星屑は沸いてくる。

「くっそー!何体いるんだこれ...!」

金が息を切らしながら言う。

「こうやって....無限に沸いて来やがって.......僕はこういうちんたらちんたらするヤツとか....終わりが見えない作業は大嫌いなんですよっ....!!」

(はっ!瞬がキレ始めてきている!)

そう早くも感じ取った祐成は金たちに後ろに下がるように誘導する。

「どうした!?祐成!」

「瞬がキレてきてるんだ....あいつは何でも効率化して物事をこなすから終わりが見えないような作業をやるとどうも機嫌が悪くなる....まぁあいつはいつも効率化してから物事に取り組むから滅多にそんなことないんだけどな....」

....!!

金たちは遠くから瞬を見て、瞬の目は何もかも破壊する怪物に見えるほど恐ろしく見えた。遠くからでもその剣幕は伝わってくる。

「あそこまでの瞬は俺も初めて見る!!これは....かなりやばいぞっ!」

金たちはさらに瞬から距離をとる。

プツンッ、

「この古波蔵 瞬....堪忍袋の緒が切れたりぃーー!!」

 

_________________________

 

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁ........!!」

瞬が全身に力を込める。それに反応して瞬の体が水色に光りだし、持っているブーメランが巨大化した。

「僕の怒りの全力を....くらいやがれぇぇぇーー!!」

そう言うと、瞬はその場で勢いよく回り始める。たちまち風が起こり始め、竜巻が起こる。そのまま瞬は上空へと高くジャンプした。瞬を軸とした竜巻はさらに大きくなり、その竜巻は大型バーテックスがすっぽり入ってしまうほどの大きさだった。竜巻は星屑をどんどん吸い込んでいき、瞬の竜巻によって目に見えなくなるほどバラバラに、細かくされていく。

「うわぁぁ~!なんて風だぁぁ~!」

「俺たちも飲み込まれちゃうよ~!」

「みんな~!耐えろぉ~!」

だいぶ遠く離れた勇者に変身した金たちでさえも飲み込まれてしまいそうなほどの竜巻であった。

「見ろっ!瞬の竜巻でちっこいバーテックスどもを一匹残らず一掃したぞ!」

「恐るべし....!瞬の切り札....!」

祐成が竜巻を指差し、涼が瞬の本当の強さを実感している。

「まだまだ....これで終わりじゃないですよ....!!」

瞬はそう叫び、持っている二つのブーメランを一体の大型バーテックスの方へと投げる。瞬が投げた巨大なブーメランは依然、大きな竜巻となったまま大型バーテックスに迫る。大型バーテックスは竜巻に向かって攻撃するが、大型バーテックスの身長よりも二倍は大きい竜巻はびくともしなかった。瞬が作り出した竜巻はそのまま一体の大型バーテックスを飲み込み、一瞬のうちに御霊ごとバラバラに切り刻んでしまった。やがて、竜巻が消え、小さくなったブーメランが瞬の元へと返ってくる。

「はぁ....はぁ....はぁ....どうだ....思い知ったか....」

瞬はすっかりバテながらも大型バーテックスがいた方向を睨みつける。

「瞬ーー!」

金たちが瞬の元へ駆け寄ってきた。瞬は尻餅をついて樹海に座っている。

「はぁ....はぁ....僕は....もう....疲れちゃいました....あともう一体は頼めますか....?」

瞬がすっかり疲れきった顔で金の顔を見る。金はしゃがみこんで瞬の顔を見て言った。

「当たり前だぁ。俺たち三人に任せときなっ!!」

 

_________________________

 

祐成と涼はもう一体の大型バーテックスとの距離を詰める。

「うわっ!なんか針みたいなもんをいっぱい飛ばしてきたよ~!」

「な~に!こんなもんはじき返せ!!」

祐成と涼は突っ込むスピードを落とさずに針を個々の武器ではじいた。二人はうまく攻撃を避けながら確実にダメージを与えていく。

「これが二人で攻める強みだ!バーテックスはどちらかを攻撃しようとしても違う方向から攻撃を食らう!その繰り返しさ!」

祐成が金が考えた作戦を自分が考えたかのように得意気に話す。大型バーテックスはしびれを切らしたのか、針をやたらめったらてきとうに撃ち始めた。

「おっーとっと!やっと自分の状況を理解したかぁ♪金ー!出番だよ~!」

「ああ!!」

涼の合図を聞き、遠くから金が射撃する。

「よっしゃ!どうだ!」

バーテックスの動きは鈍くなっている。

「涼!今だー!とどめを刺せー!!」

「任せといて!金ー!」

今度は金の合図を聞き、涼が全身に力を込める。

「うおぉぉぉぉぉぉぉーー!!」

涼の体は黒く光りだし、斧が超巨大化する。

「真っ二つぅーー!!」

涼は思いっきり振り上げた斧を精一杯縦に振る。大型バーテックスは伐採される木のように一瞬で真っ二つにされた。すかさず金が銃で御霊を撃つ。

「終わった............?」

祐成が呟く。

『やったぁぁ~~~!!』

全員で喜びの声をあげて抱き合う。

「見たか見たか~!俺たちの力!」

「はぁはぁ....鍛練の成果が....しっかり出し切れていました....」

「はぁ....はぁ....すごいよ~!....僕たち!....」

「しかもみんなほとんど無傷だぜ!!」

樹海には四人の笑い声が響いていた。

「あのさ、俺、決めたことがあるんだ!」

「何を....金....?」

「俺、みんなとならなんでもできると思う!どんなことが起ころうと....絶対....!だから....俺、これからいっぱいいっぱい鍛練して....」

金はここで一旦言うのをやめた。

「なんだよ~焦らすなよ~」

祐成が急かす。

「だから俺........姉ちゃんを超える....勇者になる!」

 

(第三話に続く)




本作でいう『切り札』は勇者通常状態時に放つ必殺技のようなものです。『乃木若葉は勇者である』で登場する『切り札』や『結城友奈は勇者である』にて登場する『満開』とは別の力です。
また、本作では新たな進化を遂げたバーテックスが現れ、12星座がモデルとなっているバーテックスの他に様々なオリジナルバーテックスが登場しますのでご了承ください。


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姉の秘密

結城友奈は勇者である 三ノ輪金太郎の章

著 きょーせい (第二章第十話~第十二話)

 

 

 ⑩ニューフェイス 

 

二回目の侵攻があった翌日、授業が終わりと金たちは部室にやってきた。

「あら、遅かったじゃない。」

「あれ?!夏凜コーチ!?珍しいですね....!部室にいるなんて」

祐成が驚いて話す。

「ま、まぁ一応勇者部のOBかつ外部コーチだし....?たまには....来たって良いじゃない!」

夏凜は頬を赤らめて言う。

「別にダメなんて言ってないですよ....」

金は本当は今までずっと来たかったんだろうなと思いながら言った。

「むしろ嬉しいです~」

涼は明るい笑顔で言う。

「僕たちが教室を出るだいぶ前に東郷先生は教室を出てったのに、まだ来てないんですか?」

「そうね....まだ来てないわよ」

瞬はそう夏凜に聞いてから顔色を悪くする。

「まさか....また神託....?」

瞬の不吉な考察を聞いて祐成は

「いや~二日連続はないだろ~」

という。

「いや、それ完全なフラグだから....」

「夏凜コーチに先につっこまれた....!!さすが完成型先代勇者っ!!」

「それは関係ないと思うよ~金~」

そう仲良く五人で盛り上がっていると、、、

ガラッ!!

急に部室のドアが勢い良く開く。

「やっと来ましたか~!東郷先生........ってあれ?」

金がそう言いながら部室のドアの方へ走っていく。しかし、そこにいたのは東郷ではない別の女性だった。

「わあぁぁ~~~!本当にミノさんそっくりだ~!」

部室のドアを開けた女性はそう言っていきなり金を抱きしめる。

「うわわっ!!い、いきなりな、ななななな何するんですかぁぁ~!」

金が頬を赤らめて叫ぶ。他の四人も頬を赤らめ、驚いていた。

「あぁ~!ごめんなさい、つい~」

「と、とととところで....だ、だだだだだ誰なんですかっ!いきなりっ!!」

金は抱きつかれたせいで胸の鼓動を高ぶらせながら聞く。

「フッフッフッ~私はね~....」

 

_________________________

 

ガラッ!!

またしても扉が開く。

「あら、そのっち。もう着いてたのね」

「ただいま到着しました~!」

「えっ、東郷先生の知り合いですか?!てっきりヤバ目の不審者かと....」

「金、この人はね、私たちと同じ先代勇者なのよ!」

「みんな~改めましてこんにちは~乃木園子で~す!」

「乃木園子っ!?」

瞬がやたらオーバーに驚く。

「乃木といったら初代勇者の....!」

涼がそう言い、園子の近くへと歩いていく。

「そこじゃないでしょう!!涼!!」

瞬がやたら興奮気味で大声をだし、涼と金を突き飛ばして園子の手を握る。

「僕っ!あなたの大ファンで!あなたの小説にはいつも心打たれて....今放送中の先生原作のドラマも観てますぅ!!会えて光栄ですっ!園子先生~!!」

『えぇぇ~~!?』

他の三人にも衝撃が走る。

「あの視聴率10%後半越えは当たり前の!?」

「あの今話題のドラマの原作者!?」

金と涼がそう言って目を見開いて驚く。

「あのドラマだけではありません!他にもいろいろな名作を....史上最年少でベストセラーを獲得し、今とても注目されている作家さんですっ!」

「いや~誉めすぎだよ~」

「いやいや!これくらいではまだまだ足りません!他にも....」

「は~い、瞬!それくらいにね~」

祐成が瞬の首根っこをつかんで園子から離す。

「でも、なんで急に勇者部に....?」

「フッフッフッ~それはね~....金太郎くんに会いたかったからだよ~!!」

またしても園子は金に抱きつく。

「ふぁぁ~!や、ややややめてくださいぃ~!」

金はまた頬が赤くなる。

「う~ん....あのときのミノさんよりはでかいけど~....ミノさんの弟だから、リトルミノさんで良いかな~?」

「........はい?」

「そのっちはね、あだ名を必ずつけるのよ」

園子のことをよく分かりきっているかのような話し方で東郷が言う。

「ま、まぁいいですけど........と、ととととにかく離れてください~!い、いいいいつまでくっついてるんですかぁ~!」

 

_________________________

 

園子がやっと金から離れ、涼、瞬、祐成がそれぞれ自己紹介をした。

「う~ん....難波 涼くんは....なんばーだね!古波蔵 瞬くんはぐらさん!須藤 祐成くんはゆうくんだね!」

「えっ!?俺、数字!?」

「園子先生にあだ名をつけてもらえるなんて........!!光栄ですっ!」

「俺のあだ名は....素直に気に入ったかも....」

三人とも別々の反応をする。

「瞬に限っては発音変えたらサングラスじゃねーか....」

金が小声でツッコむ。すると夏凜が、

「金!ツッコミはもっと大きい声で言うもんよ!」

「夏凜さんはツッコミにかける思いが強いですね....」

「そりゃあ、ツッコミがちゃんとやんなきゃ成立しないからねっ」

そんな二人の会話をよそに、瞬は園子に質問責めしていた。

「ぜひ、いろいろと聞かせてください!この小説の物語はどのようにして思いつかれたのでしょうか?我々読者をここまで引き込ませるような文をどうやって書いておられるのでしょうか!?えっと....他にも他にも....」

「質問が多すぎだよ~、ぐらさん。ゆっくりゆっくり一つずつ........むにゃ....」

「えっ、寝てる?」

「ありゃ完全に寝てるな」

寝てることに気づかずに質問を続ける瞬を見ながら涼と祐成はそのおもしろい光景を楽しんでいた。

「ほら、そのっち、起きて!」

東郷が園子の体を揺らし、起こす。

「はっ!また寝てた~」

「えぇ~~!!寝てたんですかぁ!」

「あぁ~今ぐらさんが持ってるその小説ね~今度映画化....あっ、まだ言っちゃいけないんだった~」

「えっ!!映画化!?映画化されるんですね!?僕もこの小説の先の読めない展開が好きで....」

「あれはまだ続きそうですね....」

「そうね....」

金と夏凜も二人の会話を見て話していた。金が祐成と涼を押して園子と瞬の会話に混ざる。そのとき、東郷は金たちの楽しそうな様子を暗い表情で眺めていた。その東郷を不審に思いながらも夏凜は静かに窓の外を見た。

 

_________________________

 

 ⑪秘密 

 

この話は約一ヶ月前のことである。東郷が金たちを夏凜と共に大赦の敷地内の砂浜へ連れていき、東郷は、彼らを夏凜に任せて大赦の本部へ向かった。そこで東郷はある人物と話をしていた。

「今回の件は色々とありがとうございます」

「良いのよ、東郷。逆にもっとしてやりたいくらいよ」

「それで....本題に入るのですが....」

東郷ともう一人の人物は顔色を変える。

「本当に....金たち現勇者は....バーテックスを根絶できないのでしょうか........?」

東郷の質問に対し、

「えぇ....100%根絶できない、とまでは言えないけど....今の勇者システムでは........かなり難しいわ....」

「100%ではない....と言うと....?」

「勇者システムは武器の強化や満開システムの強化をいくらでも上げることができる....けど....その膨大なパワーに...とても人間は耐えきれないわ....」

「そんなっ........!」

東郷はうつむき、悲しみの表情を浮かべる。

「でも....!バーテックスの侵攻を何年かの間止めることはできる....!これから天の神が送り込んでくるバーテックスを全員倒せば....」

「....!でもそれじゃあ....また侵攻が来るってことですよね....?その何年後かにまた苦しい思いをしなくちゃならない子たちを生み出してしまうということですよね!?」

東郷が興奮気味で質問する。

「........でも....そうしなきゃ....あの子たちは!」

そこまで言って、ある人物は口を動かすのをやめる。

「すみません....少し興奮しすぎました....」

「いや....私も言い過ぎたわ....」

しばし沈黙が流れる。

 

_________________________

 

 

神世紀299年....二人の少女を勇者部に誘い、現在にまで続く勇者部を作った人物がいた。彼女は大赦の人間であり、バーテックスと戦うという大事なお役目を担っていた。そして当時の勇者部員たちでバーテックスを見事に退けたのだ。彼女はその功績を認められ、大人になってから大赦に正式に入り、いきなり高い位についた。大赦の中には彼女のおかげで今の世界があると言っている人もいる。彼女の名は........犬吠埼 風である。

「また話をしましょう....時間があるときに来ます....ありがとうございました、風先輩」

「うん........お互い頑張りましょうね....」

そう言って二人は別れた。金の端末は姉の銀、現勇者部コーチの夏凜が使っていた端末をアップデートしたものだ。四月あたりに金が使っていた端末を特殊な電波で意図的に壊し、大赦の力によって金はこの端末を手に入れた。銀や夏凜は近距離の武器であったのに対し、なぜ金は遠距離なのかというと、東郷がそう頼んだからだそうだ。他の勇者の端末も特殊な電波で同じようにして壊し、新しく大赦が作った端末を買わせたのだ。もっとも、金たちの誰も勇者システムについて疑問を抱かないが。

 最初に銀の弟である金が勇者に選ばれた時、東郷と園子はひどく悲しんだ。あんなに銀が可愛がっていた弟が自分たちみたいな苦しい目に会うなんてとても心が耐えられないと思ったからであった。また、銀のようなことになるのではないかという不吉なことも考えてしまった。しかし、東郷が巫女の才能がまだあるということが分かり、園子たちと共に先代勇者として次の勇者を支えるという結論に至った。そして、園子と東郷は歴代勇者の墓へ行き、銀とあるやくそくをした。

『私たちが....金を守るからね!!』

 

_________________________

 

勇者システムは改良に改良を重ね、精霊によるバリアの強化と武器の強化、勇者の身体能力の向上などに成功し、以前の勇者よりもずっと能力は上だ。しかし、バーテックスの短期間での成長はとてもめざましく、新型のバーテックスの登場や、繁殖のスピード、強さなどが大幅に上がっている。今現在もそうだ。そして....パワーアップした勇者システムでもその進化しているバーテックスを滅ぼすことは困難であった....

-

-

-

そして現在に至る。

「みんな!ちょっと聞いてほしいの....」

園子と楽しそうに話す四人は会話をやめて東郷の方を向く。

「なんですか?東郷先生」

きょとんとした顔で金が聞いた。園子と夏凜は表情がかたくなり、東郷の方を向く。。暗い顔をしたまま東郷は言った。

「みんなに....来て欲しい場所があるの....」

 

_________________________

 

 ⑫戦いの歴史 

 

東郷は翌日の部活の時間、勇者部メンバーと園子、夏凜を連れてある場所に向かう。

「学校からだいぶ遠くまで来たね~....」

「ああ....ここら辺俺んちの近くだぞ?」

「そうか、金と涼は家がこっちの方でしたね。」

「毎朝こんな長距離を行ったり来たりしてるのか....バスでどんだけ時間かかった....?」

四人はそんなことを話していると東郷が四人の様子を見て呟く。

「みんな....着いたわ....」

「東郷さん....ここって....」

金が東郷の方を向いて言った。

「そう....大橋よ...!」

「すごい...!僕、生で初めて見ました...」

「俺もだ....」

瞬と祐成は初めて実物で見る巨大な大橋に圧巻される。

「私が一回目の侵攻の時....そのっちと....銀と一緒にここを守ってたの....それが新世紀298年の戦いであり....私たちのお役目だった....」

「え........でも....粉々に壊れてますよ....?」

「ちょっと、祐成!」

瞬が祐成を制止する。

「いいんだよ~今、この世界があるってことは大丈夫だったってことなんだから~」

園子は気にしないでいいという感じで笑顔になる。

「大丈夫ですか....?金....」

瞬は壊れた大橋をずっと見つめている金を心配する。

「あ、あぁ....ちょっとボーッとしてただけ!」

金はみんなの方を向いて笑って見せた。

「大丈夫よ....金。前も言った通り銀がいたおかげで私たちは勝てたんだから....」

「だから、大丈夫ですって!」

そう言いながら金はまた笑って見せる。無理して作った作り笑顔を。金はどこか罪悪感を感じていたのだ。二人はこうは言っているけど二人の体の機能と、大切な時間を奪われたのだ。姉ちゃんが死んだことにより、満開システムと精霊が実装された。満開が無かったら勝てなかったと言っていた。けど........金がいろいろと考えていると涼が背中をさすってきた。

「金....大丈夫....?

「ありがとう....涼。大丈夫!」

と本当の笑顔を見せて言う。

「もう一カ所....連れて行きたい場所があるわ....!」

東郷が真剣な眼差しで言う。

「そこは....歴代勇者たちが眠る場所....」

四人は唾を飲み込む。重苦しい空気であった。東郷、園子、夏凜が歩き始め、四人もその後を追って歩き始める。

 

_______________________

 

「ここが、歴代勇者と巫女たちが眠る墓地よ...」

金たちは伝説の人物たちの名前が刻まれている墓を見て、なかなか声を出せなかった。

「こ、ここが.........」

涼と瞬と祐成は墓石に刻まれている名前を見て回る。

「乃木若葉....初代の勇者で、この世界に約300年間平和をもたらしてくださった方....」

涼が乃木若葉と刻まれた墓石を見てそう呟いた。

「っ!?古波蔵 棗....!?」

瞬が驚く。そう刻まれている墓石をしゃがんで掴んだ。

「その人は....沖縄の勇者だったらしいわよ....沖縄の人たちを船に乗せて遠い四国まで運んだんだとか....」

夏凜が瞬の方を向いて言った。

「そんな話...家族からも聞いたこと無い....自分でも珍しい名字だとは思っていたけど僕はこの人の子孫....?いや、まさかな....」

その場に立っていた金はいきなりある墓石の方へと走り出す。そしてそこに刻まれている名前を呟いた。

「三ノ輪........銀....!」

東郷と園子は墓石の前に座り込んで見ている金に近づき、同じようにしゃがんだ。

「私たちもね....たまに来るんだ~....こっちは元気だよ~そっちは~?って....」

「金が勇者に選ばれたときも....二人で報告に来たのよ....」

金は目を見開いて墓石の字をじっと見つめる。

「俺....当たり前ですけど、まったく姉ちゃんの記憶がないんです.....姉ちゃんが俺にどう接してくれたのかも、姉ちゃんがどんな声をしていたのかも....なにも知らないんです。」

東郷と園子はそんな金を優しく見守りながら話を真剣に聞く。すると、金はなにかを決心したかのように表情を変える。

「姉ちゃん....世界を守ってくれてありがとう....次は....俺たちが守る番だっ....!あの時姉ちゃんが俺たちを守ってくれたみたいに....そして、俺がバーテックスを絶滅させてやるっ!それで....俺は姉ちゃんを超えるんだ!!」

そこには強い意志があった。この言葉を聞いた東郷は目を強く閉じ、うつむくことしかできなかった。ここで風と話した内容をみんなに伝えようとしていたことはとても言えなかった。

 

(第四話に続く)



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強大な敵

 

 ⑬巨大バーテックス 

 

歴代勇者たちの墓地からの帰り道。金たちはバスに乗って学校に戻っていた。

「いや~もうすっかり日が暮れる時間ですね~....」

涼が後ろの東郷にそう話しかける。

「そうねぇ....見て....綺麗な夕日....」

一同は窓の外に輝く夕日を見る。

「フフフ....ゆうくん、すっかり寝ちゃってるよ~」

「あんたがまだ寝てないのが不思議だけどね....」

祐成の頬を指で突っついている園子に夏凜がツッコミを入れる。

「ずいぶん遠くまで来ましたからね~僕もヘトヘトですよ~」

金も祐成を見ながら後ろの夏凜と園子に言った。

「さて....帰ったら課題を進めて....今日の出来事を....うわっ!」

瞬がこの後の予定を立てていたとき、バスが急停車する。金たちは前の座席に叩きつけられた。

「痛てて....みんな大丈夫か?」

金が最初に立ち上がってみんなに聞く。

「ええ....私たちは大丈夫よ....」

東郷がそう言い、東郷も園子も夏凜も立ち上がる。

「俺たちも....なんとか~....」

涼がそう言って瞬と一緒に立つ。祐成も寝起きの顔でなにが起こったのか分からないという感じでゆっくり立った。

「良かった....みんな無事ね....」

東郷はそう言うと真っ先に運転席に行く。

「やっぱり....みんな!お役目よ....!」

「えっ!!でも....神託来てませんよね!?二回目の侵攻からまだ二日しか経ってませんし!」

四人は驚き、金が聞く。

「ええ。....来てないわ....こんなことがあるなんて....」

「も~う!一日遠出して疲れきってるっていうのにバーテックスは鬼畜だなっ!!」

祐成が怒ってそう叫ぶ。

「さっさと片付ければ済む話だよ~祐成~」

「いや、笑顔でそんな怖いこと言うなよ....」

涼の言葉に祐成がツッコミを入れる。警報が鳴り響き始めた。

「くそっ。せっかく遠足気分で楽しかったのに!帰り道で来るなんて!」

金の言葉に東郷と園子は反応した。七人はバスの窓を開けてそこから出る。

「しょうがない....いっちょぶちかますか!」

金が自分の両頬を叩いて気合いを入れる。

「みんな....!気をつけてね....!」

「無理はしちゃだめだよ~」

東郷と園子は金たちに呼びかける。すると金はにっこり笑ってこう言った。

「心配はいりませんよ!さっき涼が言った通り、さっさと終わらせてきちゃいますから!」

東郷と園子は金の顔と発言を聞いて思わず口が動かなくなる。その様子を見た夏凜が変わりに鼓舞をする。

「日々の鍛錬の成果、みせてやりなさい!」

『はいっ!!』

四人は元気な声で答える。眩しい光に包まれる。

 

_________________________

 

「なんだ........あの大きさ....!」

四人の勇者たちは絶句していた。大型バーテックスとは比にならないくらいの大きさのバーテックスが二体も攻めてきていたからであった。

「とりあえず....俺が仕掛けてみる!」

金は巨大バーテックスの方へと跳び、距離を保ちながら光の弾を打ち込む。

「よし!当たった!........えっ....!!」

「全く効いてないですよ....!」

「金のエイムは完璧だったのに~」

「みんな!まだ近づくなよ!俺の銃でヤツの弱点を探す!」

金はやたらめったらバーテックスの体を撃つ。全弾命中で正確に当たったが、バーテックスは何事もなかったかのように進み続ける。

「クソっ!あいつ無敵か!攻撃をなにも通さないし、弱点も一向に見つからない!」

「もしかしたら....直接の打撃は効くかもしれないぜ!!」

そう言って祐成はバーテックスとの距離を一気に縮める。

「俺の剣がお前の体を穴だらけにしてやる!くらえーー!俺の目にもとまらぬ連続の突きをーー!」

祐成がレイピアを使って高速でバーテックスを突く。が、

「こ、こいつ....固すぎる....!俺の剣が弾かれるなんて....こいつら無防備なのに....!」

「だったら....これならどうだ~!」

涼が高くジャンプし、斧を思いっきり振り下ろす。

ガッキーンッ!

派手な音を出してバーテックスに渾身の一撃を食らわせた。

「へっへっへっ~!どうだ~!」

しかし、バーテックスの体には一切傷がついていない。

「!?そんな....結構強めに振り下ろしたのに~!」

「気をつけてください!何か仕掛けてきますよ!」

突如、巨大なバーテックスは強風を起こした。近くにいた涼と祐成は吹き飛ばされる。

『うわああぁぁぁぁ~~!』

「二人とも!大丈夫か!?」

金が二人に呼びかける。

「ああ!風ごときでやられてたまるかってんだ!」

「うまく着地できたよ~!金~!」

金は取りあえずほっとため息をつく。

「さて....どうしするか....近距離の武器も効かないとすると恐らく....瞬のブーメランも効かない....さすがに切り札は効くだろうけど....あの巨大なバーテックスは二体いる....あいつらの攻撃方法もまだ分からないし....」

「金、僕に考えがあります。....取りあえずあいつらのことは巨大バーテックスと呼びましょう」

「瞬、それで....考えっていうのは....?」

「あの固い体を壊す力が必要........そこで金、バズーカは出せますか?」

 

_________________________

 

金たちは巨大バーテックスから一旦逃げ、岩影に隠れて作戦会議をしていた。

「さっ!バズーカを出してみてください!」

「そんな無茶な!」

「僕たちの武器は好きなように出したりしまえたりできます。まだ出していないだけできっと飛び道具の一つであるバズーカだって出せますよ!」

「そ、そんなこと言われたって~...」

「一応バズーカも銃の一種だろ?」

祐成も二人の会話に割って入る。

「ふんばればきっと出せるよ~。金~」

涼にも促される。

「りょ、涼が言うなら....頑張ってみる!」

「何で僕じゃダメなんですか!」 「何で俺じゃダメなんだよ!」

「わ~めずらし~金が二人にツッコまれてる~」

そんな会話をよそに金は集中する。

「う~~~ん........!!バズーカ........バズーカ........!」

「金~!目を開けてよ~!」

「えっ....?あっ!バズーカが出てる!」

「やった!やっぱり僕の考えは間違っていませんでした!」

「しかもバズーカだから太いし、でかい!」

「これなら....行けるかも....!」

しかし、バズーカには高威力である代わりに弱点があった。いつも金が使っている銃よりも射程距離が短いということと、弾をいちいちこめなくてはならず、こめるのにも時間がかかるということであった。

「いつも使ってる銃は無制限に撃てるからな~....」

「どうやら....チャンスは少ないようですね....」

「大丈夫だ!俺たちがサポートすればいいし、的もあんなにでかいんだ!」

祐成が瞬と涼を交互に見て言う。

「そうだね~祐成~!じゃあ三人で攻めるからバーテックスに隙ができたらズドーン!ってやっちゃってよ~!金~!」

「僕はブーメランで距離を取りながら戦えるので僕の合図を見たら撃ってください!」

「わかった、。よし、みんな行くぞっ!!」

四人は岩影から出て先ほどの一体目の巨大バーテックスの元へ突っ込んでいく。

「こっちだぜ!巨大バーテックスさんよっ!」

巨大バーテックスの体からでかいカッターのようなものが出てくる。それを祐成に思いっきり飛ばしてきた。

「それがお前の攻撃かっ!来いっ!」

祐成がレイピアで迎え撃つ。しかし、カッターはあまりにもでかすぎる上、威力も高かった。しかもレイピアはこういうのに向いていない。レイピアは軽く、しなるのだ。だからこそいつもの連撃を放つことができる。

「うぅ........なんて........力だ....」

そこに涼が駆けつける。

「もうっ.....いきなり........無理しすぎだよ........!」

そう言って涼も加勢するが、二人がかりでもきつかった。

「ぅぅぅ........」 「ぐぬぬぬぬ............」

そこに瞬もやってくる。

「ちょっと!なにやってるんですか........!」

瞬は二つのブーメランを手に握ってナイフのように扱い、三人でとても大きいカッターを迎え撃つ。

「三人で一気に力を出しますよ........!せーのっ........今ですっ!」

『はあああああああぁぁぁーー!』

見事、カッターを跳ね返すことに成功する。しかし、このカッターは合計で四つもあるのだ。次々に飛んでくる。

「みんな~~!なんとか避けて~!!」

三人は別々の方向へジャンプする。

「よっしゃ!これくらい........よっと!あたらないよ~!俺は~!」

涼はカッターをうまくよけ、バーテックスの近くへ迫る。

ギギギキッ!ガガガガガガガッ!

「ぬおおおおお~!なんのこれしき~!」

瞬はブーメランで飛んできたカッターを後ろに受け流し、火花が散る。

「みんな~~!大丈夫~?」

「僕は大丈夫です~!」

祐成の返事はなかった。

「........くっ....!二人で行くよ~!!」

涼は枯れそうな声でそう叫ぶ。涼と瞬はそのまま攻め込み、二人は一緒に叫びながら渾身の一撃を放つ。

『うおおおおおおおおおっ!く~ら~え~~~!!』

巨大バーテックスは一瞬ひるんだ。巨大バーテックスの武器であるカッターももうすべて飛ばしてしまっていて、巨大バーテックスを守ものはなにもない。

「今ですっ!!金っー!!」

瞬も枯れそうな声で精一杯そう叫んだ。

「任せろっ!今、地獄に送ってやるっ!!」

カチャ、ドンッ!!

バズーカが発射され、巨大バーテックスのど真ん中にヒット。大きな爆発を起こした。巨大バーテックスの中心に大きな穴がポッカリあけた。

 

_________________________

 

「................やった....!作戦成功だーー!!」

穴をあけられた巨大バーテックスはまたしても強風を起こす。近くにいた瞬と涼がまたしても吹き飛ばされる。

「わああああぁぁぁ~!またぁ~!」

涼は二回目だったので簡単に着地した。瞬は金にキャッチされる。

「あいつ....一回俺たちとの距離をとって回復する時間を稼ぐつもりかっ....!」

巨大バーテックスに開いた穴が閉まっていく。

「させない~!」

「せっかくここまで頑張ったんですから....!」

瞬と涼はまたバーテックスに近づいていく。カッターが巨大バーテックスの元へと戻ってきた。

「....っ!やばい!気をつけろよ!」

涼は素早い身のこなしでカッターを避ける。

「おりゃぁっ!穴は埋めさせない!」

閉じかけていた穴を再び涼が斧でこじ開ける。

バシュッ!

瞬間、穴の中に鋭い光線が入り、巨大バーテックスの体を貫く。

「!!」

驚いた涼は後ろを振り向く。するとそこには、

「思ったんだよ....バズーカが出せるならよォ....狙撃銃も出せるんじゃないかってね....」

金が涼からだいぶ離れた場所で狙撃銃を持って構え、そう言った。巨大バーテックスから大型バーテックスよりも数倍でかい御霊が飛び出す。金が一撃で勝負を決めたのだ。

「さすが.......なんて強さだ........金も....狙撃銃も....!」

金は御霊も冷静に狙い、弾をこめ、正確に撃ち抜く。

「ナイス連携プレイです!二人とも!!」

「ふぅ........これで....残り一体....!」

 

_________________________

 

「まずいです!僕たちが一体目の巨大バーテックスと戦っている間にもう一体がだいぶ神樹様に近づいています!」

瞬が二人にそう伝える。三人は大急ぎでもう一体の元へと向かう。

「俺たちはまだ...一人も切り札を使ってない....さっきみたいに巨大バーテックスの隙を作る時間はないし....」

「いきなり切り札をぶつけるしかない....ってことですか....わかりました!それなら僕の切り札が向いています!」

ある程度近づくと瞬はブーメランを構える。

「はあぁぁぁぁぁぁぁ........!」

瞬は全身に力をこめ、瞬の体が水色に光り始める。そして瞬はその場で回り始めた。

「くらえっ!!必殺奥義っ!!」

瞬は回転しながらブーメランをなげつける。ブーメランも同じように回転しながら大きな竜巻となって巨大バーテックスの方へと向かっていく。

「前はあんなに大きく見えた瞬の竜巻が........小さく見える....!」

金はそうつぶやいた。切り札を使って体力が切れた瞬はその場に座り込む。そして、巨大バーテックスに竜巻が突っ込む。

瞬間、

竜巻が一瞬のうちに消えた。

「はぁ........はぁ........なんだって....!?僕の全力の必殺奥義が........!」

「いや、でもダメージはうけてるみたいだよ~....」

涼は瞬を支えて言った。巨大バーテックスの周りには大きな岩が浮いている。

「あいつ....大きな岩を自ら生み出して自由に操れるみたいだな....」

金がそう言い、何発か巨大バーテックスに撃ち込む。予想通り、巨大バーテックスは浮いている岩を操って防いだ。巨大バーテックスの周りに岩が集まり始め、二つの大きな岩が作られる。それを金がいる方向、瞬と涼がいる方向にそれぞれ飛ばしてきた。

「くるぞっ!涼!!」

(クソっ!こんなことしてる場合に瞬がせっかく与えた傷を回復されてしまう....!)

岩がどんどん三人に近づいてくる。

 

_________________________

 

三人はなんとか岩自体は避けることができた。しかし....

「うわぁぁぁぁーー!なんて....衝撃だ....!」

岩が樹海に衝突した瞬間、爆風が起きたのだ。金は樹海の壁に打ちつけられる。

「....はぁ....はぁ....精霊がいて良かった....涼たちは真反対の方向に飛ばされちゃったか....」

涼から金に電話がかかってくる。

「大丈夫!?金~?」

「ああ!なんとかな。そっちは?」

「こっちも大丈夫だよ~それでね、俺ピッカーンと作戦、思いついたんだ!」

「え!?なんだ?」

「まず俺が~........っ!金!!なんか音がすごいよ!何か来るっ!!」

涼にそう言われ、身構える。

(これは....地震....?地響きがすごいぞ....!)

次の瞬間、地面から尖った大きな岩が次々に突き出てきた。

「うわぁぁぁぁーー!こんなことまでできるのかー!?」

金は間一髪で避けるが、バランスを崩し、倒れてしまう。あともう少しズレていたら体を貫かれていた。まだまだ鋭い岩が地面から突き出してくる。

「ぬおおおぉぉぉぉ~~!!根性~!!」

金は倒れたまま岩を銃で破壊する。すぐに立ち上がり、とりあえず上に高くジャンプした。

(なんとか一回逃げられ........はっ!)

高く飛んだのは間違いであった。周りに身を隠すものがない以上、巨大バーテックスの格好の的。

(まずい....!!)

そう思ったときにはもう遅かった。金は巨大バーテックスが飛ばした巨大な岩の攻撃をまともにくらってしまう。

---

---

---

さらに巨大バーテックスは自分の周りに岩の壁を作り出し、盾にする。

「これじゃっ........攻撃ができない....!」

涼は絶望しているかのような声でそう呟く。死角に隠れていた涼と瞬は、すぐ近くに見える神樹を見て焦っていた。

 

_________________________

 

「もしもし!もしもし!金!!ダメだ....繋がらない....」

「はぁ....はぁ....まさか........金は、」

「そんなわけないよ!金に限って....そんなこと....!」

涼の体は震えている。それは恐怖の震えであった。

「はぁ........はぁ........とりあえず........この状況を打破するには....どうするか....考えましょう....」

「そんなことしてる時間はないよ!早く....早く倒さなきゃ....!」

「涼!焦りすぎてもダメです!」

「焦らないでいられるかよ!もう神樹様はあんなに近い位置にいるんだ!世界が....滅びるかもしれないんだぞっ!!」

(まずい....涼は金のことばかり考えて完全に自分を見失っている....!このままじゃ....本当に世界が....!)

「とりあえず....やるしかない!」

涼は岩の壁へと高くジャンプする。

「うおおおおぉぉぉぉぉ~~!!」

涼の体が黒く光り始め、斧が巨大化する。

「こんな岩っ!!二つに叩き割ってやる~~!!」

涼は切り札で見事に岩の壁を破壊することに成功する。しかし....

「はぁ....はぁ....はぁ....」

切り札の体への影響はとても大きい。今の涼にはもう巨大バーテックスの攻撃を避ける体力はない。巨大バーテックスは岩の塊を涼めがけて発射する。瞬は何とかしようと今出せる力を精一杯出してブーメランを投げる。その時、岩は涼にあたる直前で粉々に散る。

「っ!あれは!!」

瞬が目を見開いて一点を見つめる。

「はぁ......はぁ......なんとか....間に合ったか....」

涼も瞬が見つめている一点を見る。

「あ........!金........!良かったです....」

瞬は優しく笑ってそう呟く。一方涼はその金の姿を見て安堵と悲しみが混じった涙を流していた。なぜなら、、、

「はぁ.......はぁ....金っ!そ、その傷の量....!」

金は傷だらけだった。勇者服は破れ、様々なところから流血している。両腕をだらんと下げ、目も片目を閉じている。立っているのもやっとだ、そのような感じだった。

「あれくらいでやられる........三ノ輪金太郎じゃ....ない!!」

金はそのまま切り札の構えをとる。金の体は真っ赤に明るく光る。

「涼....!よくやったな....!はぁ........はぁ....おかげで切り札をあいつにぶち込むことができる!!終わりだぁぁぁーー!!巨大バーテックスっーー!!」

金が放った赤く、太い光の線は巨大バーテックスにヒットする。

「うおおおおぉぉぉぉぉーー!!」

-

-

-

「っ!!やられて........ない....!?」

瞬は絶望してそう言った。そして、自分の目を疑った。

「そ、そ....ん........な........」

金はその場で力尽き、倒れてしまった。巨大バーテックスはまた岩を集め始める。瞬と涼は完全に絶望する。戦意などもう、どこにもなかった。二人は殺される覚悟だけができていた。

 

_________________________

 

「も、もう........無理だ....」

瞬も涼も一歩も動けなかった。絶望した顔で迫ってくる岩を見ることしかできなかった。二人は思った。

(みなさん....ごめんなさい....ここまでです........)

しかし、そこに白い影が一つ。またしても岩が粉々に破壊される。

「いや~!すっかり遅くなっちまったなぁ。すまん、すまん!」

「っ!!祐成!?」

「いやぁさ、あのカッターに足やられちまってさー、ここまで来るのに時間かかっちまった!........よく耐えてくれた........お前たちたった三人で.....!...あそこまでダメージを与えてくれてりゃあ俺一人で行ける!」

瞬は祐成の足を見て絶句する。もちろん、傷は足だけではないが、足の傷は特にひどかった。

(こ、この左足の出血の量........早くなんとかしなきゃ........祐成の足が........壊死してしまう....!)

「じゃ、ちょくら行ってくる!」

巨大バーテックスは岩を飛ばして祐成に近づかれないように抵抗するが、祐成は右足だけを器用に使ってそれを避ける。

「見せてやるよぉ!!俺が初めて使う切り札をなぁ!」

祐成の体が白く光り始める。

祐成の周りにレイピアが大量に現れる。

「これが俺の切り札だ!この計二十本のレイピアで切り刻む!もちろん、こんなちっこいままじゃないぜ!」

祐成が持っているレイピアも合わせ、すべてのレイピアが巨大化する。

「よくも........俺の大切な友達を傷つけてくれたなっ!!お前は........全身穴だらけの刑だっ!!」

二十本のレイピアが巨大バーテックスの体を次々に貫く。さらにまたなんども突き刺し、跡形もなく切り刻んでしまった。

バーテックスを倒した祐成は着地し、

「はぁ.......はぁ........主役は後から登場するって........言う........も........ん........な........」

祐成はそう言ってそのまま倒れこむ。祐成も限界が近かったのだ。足の出血が多く、めまいがしたまま戦っていた。涼も金が倒れたショックで表情がないまま座っている。瞬は仲間たちが血だらけで倒れている地獄絵図を見ながらも自分がしっかりしなくては、と立ち上がる。やがてそのまま、樹海が解けていく。瞬はある一つの疑問が頭に浮かんでいた。

 

(第五話に続く)



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夢と日常

 

 ⑭夢 

 

(ぅぅ........うん....?ここは....どこだ....?どっかから赤ちゃんの泣き声が聞こえる....)

金が目を開けたとき、そこは不思議な空間が広がっていた。

(なんだここ....。そ、そうだ!巨大バーテックスは?!もしかして俺....死んじゃった....?)

(おい、お前は歳が離れていても、この銀様の弟だろう?)

金は目を疑った。目の前には毎日見ている顔があったのだ。毎日見ているが、一度も会ったことも、話したこともない人物が....

(この顔は....姉ちゃん....?しかも俺、姉ちゃんの膝の上に寝てる....!?)

(だから泣くなって。泣いていいのは、母ちゃんに預けたお年玉が帰ってこないと悟ったときだけだゾ)

(はぁ!?泣いてないし!?)

そう答えたつもりだが、銀には聞こえていないようだった。

(ほ~ら、よい子だ、マイブラザ♪おー泣き止んだ!エラいぞ、エラいぞ、マイブラザ♪)

(姉ちゃん!聞こえないのか....?気づいてくれ!ずっと会いたかったんだ!もう俺は中学二年生だ!)

金は手をじたばた動かす。

(!?手がやけに短いぞ!?もしかして....この赤ちゃんの泣き声は俺が出してるのか!?)

(甘えん坊な弟め。大きくなったら舎弟にしてコキ使っちゃうからな、ニヒヒ!)

(そんな冗談言って....俺は舎弟になんかならないぞ!)

(へうっ!?もうこんな時間!?まず~い!遅刻遅刻!)

(あっ!待ってくれっ!姉ちゃんっ!行かないで!聞きたいこととか話したいこととかたくさんあるんだ!!)

すると、不意に銀の足が急に止まる。なんだかその場の雰囲気がさっきとはまるで別だ。金は急に空気が変わったことに驚き、思わず姉を止めるのをやめる。

(お前は....まだここには来ちゃ行けない....)

(えっ........?今なんて....?)

その瞬間、光に包まれる。

(うわぁっ!!待って、姉ちゃーーん!!)

「はっ!!」

金が目を開けるとそこは病院のベッドだった。

「あっ........金........!?良かった、良かったよ~~~!!」

ベッドの横に座っていた涼が金に抱きつく。

(夢....だったのか....)

金はさっきの出来事が気になってしょうがなかった。

 

_________________________

 

 ⑮苦しみを糧に

 

「東郷先生~!園子先生~!金が目を覚ましましたよ~!」

涼が病室から廊下に向かって叫ぶと、二人は猛ダッシュで金の病室に入ってきた。

「金....!金っ!良かった....本当に良かった....」

「無茶しないでって言ったのに~....心配かけすぎだよ~....」

二人とも大泣きして金に抱きつく。

「もう、二人まで....恥ずかしいですよぉ!」

「だって....だって....」

「リトルミノさん....二日も目を覚まさなかったんだよ~....」

「えっ!?そんなにですか!?」

「俺と東郷先生と園子先生の三人でかわりばんこでお世話してたんだよ~」

「三人とも....ご迷惑おかけました....」

「リトルミノさんが生きててくれればそれでいいんだよ~」

園子が微笑んで言う。金は周りを見渡す。

「そういえば....瞬と祐成は....?」

「あの二人は今散歩中よ。祐成くんも....いろいろあったし....あっ....みんながお役目から帰ってきてすぐに神託があったの....もうみんなには言ったんだけど...今回のバーテックスは強力だったからしばらく侵攻はこないらしいわ。1ヶ月から2ヶ月くらい」

「そうですか...僕も久しぶりに外の空気を吸いたいです!連れてってくれませんか?」

「いいアイデアだね、リトルミノさん~行こう行こう~!」

「みんなでレッツゴーだよ~金~!」

「涼と園子先生って喋り方だけ似てるな.....」

 

_________________________

 

金は車椅子に乗り、涼に押してもらいながら東郷と園子と共に病院の庭に行った。そこには、丁度散歩から戻ってきた祐成と瞬がいた。祐成も車椅子に乗っており、瞬が押している。

「おお~!やっと起きたか~金!」

「祐成も元気そうだな!」

「祐成の左足はひどいケガでした....もう少しで切断だったんですから....」

「えっ....!?そんなひどかったのか....」

「まぁ、結果的に足は残ったからいいんだよ!俺は今日からリハビリなんだ。お前の方が全身ケガしてて大変だろ?」

金は左半身に岩による攻撃を受け、包帯だらけの身体になっていた。左目もケガをして包帯を巻かれているため、今は右目だけである。

「まぁ....確かに今もまだ左半身の感覚はないけどな....でもすぐに治るさ!」

「昔の私みたいだよ~....」

園子がそう呟く。この声は誰にも聞こえていないようだった。

「まだ祐成くんのリハビリまで時間があるし、みんなでここでお話しましょうか!」

「賛成だよ~!わっしー!」

明るい雰囲気に包まれる。みんな笑顔であった。

「みんな無事で本当に良かったです....戻ってきたときにはどうするばいいか全くわからなかった....これも....東郷先生たちがいてくれたおかげですね....」

瞬が誰にも聞こえない声で少し涙を流しながら言った。この庭で過ごした時間はいつもの日常の風景であった。

 

_________________________

 

その日の夜

「はぁ........はぁ........くっ........うっ........おっと!」

「危ない!....もうやめてください!何時間やってるんですか!休憩も大切です!」

リハビリ中にバランスを崩して倒れそうになった祐成を瞬が支える。

「いや....まだだ....早くっ....治さないとな....」

「東郷先生が言ってたでしょう!まだ次の侵攻まで1ヶ月から2ヶ月はあるんですから!」

「いや、ダメだ!体がなまっちまう!せっかくあそこまで鍛錬して強くなったっていうのに....無駄になっちまう....!」

「良い心がけじゃない」

遠くに夏凜が立っていた。

「でも....夏凜コーチっ!」

瞬が夏凜を説得しようとするが

「でもね....無茶しすぎてもっと退院するのが遅くなったらその方が大変よ。さすがにもう....やめなさい....!これは私からのコーチ命令よ」

「........分かりました........夏凜コーチが言うなら........」

祐成は残念そうに返事をし、車椅子に乗って病室に戻る。

「あ、待ってください祐成~!」

瞬は祐成の後をついて行く。夏凜はただ、二人の後ろ姿だけを見ていた。

金太郎の病室

「金~りんご食べる~?」

「........」

「お~い金~?」

「ああ、ごめんごめん!やっぱり左耳聞こえにくいみたいだ。岩当てられたときにやっちまったみたいだな」

金は笑って答える。

(本当はすごく苦しいはずなのに....俺を元気づけようとしてるんだな....)

「りんご食べる~?」

「うん、じゃあいただこうかな」

「わかったよ~」

涼は慣れた手つきでりんごの皮を剥き始めた。

「飲み物、買ってきたわ」

東郷が金の病室に入ってきた。

「東郷先生!仕事はいいんですか?ずっと俺の面倒でろくにできてないでしょう?」

「な~に言ってるのよ、金。仕事よりも金が大切だし仕事ももうとっくに終わっているわ♪」

((この人一体いつやったんだ....まさにオールマイティーって感じ....))

涼も金も東郷という存在にまた驚くのであった。

 

_________________________

 

 ⑯三人の夢 

 

「もうこんな時間だ~!もう帰らなきゃ~」

涼は帰る支度をする。外は真っ暗だ。

「本当はこんな夜遅くまでいちゃダメなんだから...家が近いからって。明日は早く帰れよ!」

「わかった、わかったよ~金~じゃあ、またね~」

涼は病室を出て行く。病室には東郷と金。二人きりである。

「ごめ~ん!遅くなった~やっと良いところまで描き終わったから来たよ~」

「園子先生!疲れているだろうに....」

「リトルミノさんの為なら火の中水の中だよ~!」

東郷と園子と金....。三人での楽しい時間が流れる。すると金は急に何かを思い出したかのように話し始めた。

「あ、そういえば....俺、不思議な夢を見たんですよ。まだ意識が戻っていないときに....」

「どんな夢だったのかしら?」

「姉ちゃんに会いました」

二人は驚いた。

「え~!リトルミノさんもミノさんに会ったの~!?夢の中で~!?」

「えっ!経験あるんですか?」

「そのっちと私で同じ夢を見たのよ」

「ミノさんが私たちと一緒の中学の制服を着てお話する夢だったんよ~」

「楽しかったわ....」

「驚きました....!二人も夢の中で姉ちゃんに会ってるなんて....」

「最後にね~ミノさんが『いつかまた巡り会える』って言ってね~....『またね』ってみんなで言って....目が覚めたの~....」

「『またね』って....姉ちゃんが東郷先生たちに最後に言った言葉....」(そういえばさっき涼も言ってたなぁ....)

「........それで金の夢の内容は?」

「俺は....赤ちゃんになってました....姉ちゃんの膝に寝てて、俺をあやしてました。舎弟にしてやる、とか冗談も言ってました」

「その夢、本当のことだよ~リトルミノさんのことすごい可愛がってたんだから~」

「金の記憶のどこかに銀との生活の記憶があるのかもしれないわね」

「園子先生が今言ったことは兄ちゃんからもよく聞きます。不思議な出来事は....この後なんです...」

「やっぱり異変は夢の最後だったのね?」

「俺、気のせいかもしれないんですけど聞いたんです。『お前は....まだここに来ちゃ行けない』って....」

しばらくの間、沈黙が流れる。

「....きっと姉ちゃんが....俺を救ってくれたんだと思います....あそこで姉ちゃんが向こうの世界に行くのを止めてくれたんだ....」

「私たちはずっと....ミノさんに迷惑をかけすぎだね~....」

金はあの夢をもう一度よく思い出す。(今思えば、遅刻遅刻とか言って俺から離れて外に行こうとしてたけど....俺があの後を追っていたら....)

 

_________________________

 

 ⑰静かな部活 

 

「それじゃあ、今日も勇者部頑張りましょー!☆」

「お~!」

・ ・ ・

「二人だけじゃ盛り上がらないですね....」

「金と祐成はしばらく入院だからね~....」

「へいへいへ~い!乃木さんちの園子が来たよ~!」

「園子先生....!良かったです!二人だけでは寂しかったもので....園子先生がいれば百人力です....!!」

「園子先生がいればテンション上がるね~!」

「それでぐらさん~今日の依頼は何~?」

「今日は地域清掃ですっ!と言いたいところですが....6月も後半に入って今日も雨なので....老人ホームのお手伝いです!」

「よ~し、任せてよ~!元勇者部の力を見せつけちゃうよ~」

「もちろん私も行くわよ!」

いつの間にか部室のドアの前に夏凜が立っていた。

「いつ入ったんですか!?」

涼が驚く。

「そんなのいつだっていいじゃない。とにかく行くわよ、老人ホーム!」

「その話聞いてたってことはだいぶ前からいましたね....」

涼は夏凜らしいなと思いながら、四人は傘をさして歩き始めた。

「そういえばわっしーは~?」

「東郷先生なら先に老人ホームに行きましたよ、園子先生っ!」

「どうやらツッコミは私だけみたいだから頑張らないとね....」

「夏凜コーチ嬉しそうです~」

「別に喜んでないわよ!!」

そんなことを話しているうちにあっという間に老人ホームに着いた。

 

_________________________

 

「みなさん久しぶりです!」

「あら~瞬くん、涼くん、お久しぶりね~」

「ホント、いつぶりかねぇ....あれ、金太郎くんと祐成くんは?」

「あぁ~あの二人は今ケガをしちゃって....入院中なんですよ...」

「まぁ!大変ねぇ...同じ時期に入院だなんて...」

「入院ってことはだいぶひどいケガなんじゃないか?」

「トメさん、はじめさん!大丈夫ですよ!そんなことより他のお話しましょうよ!」

「涼と瞬、ここに何度か来てるみたいね...接し方も慣れてるわ....」

「そうだね~。すごいよ~....あっ、わっしー!」

「二人も来てくれたのね。これから涼くんがちょっとした芸を見せてくれるらしいわよ」

瞬と涼のまわりにお年寄りが集まっている。

「さぁさぁ!今回もこの時間がやってきましたぁ!難波 涼によるマジックショーで~す!」

瞬がそう叫び、大きな拍手が起きる。

「えっ!?なんばーマジックできるの~!?」

園子の目がキラキラ輝いている。いかにもマジシャンという格好に着替えた涼が出てきた。

「涼くんの手品は一流らしいわよ!」

「へぇ....お手並み拝見といこうじゃない....」

「レディース&ジェントルメン!難波 涼です!今回も楽しいマジックをお見せしま~す!それでは早速....そこの女性の方!前へ来てください!」

夏凜が涼に指名される。

「えっ?私?」

「そうだよ~ほら~」

夏凜は園子に背中を押され、前に立った。そして涼は目隠しをお年寄りの一人にやってもらう。

「このトランプの中から一枚好きなカードを選んでください」

机の上にシャッフルされてバラバラに置かれたトランプがある。

「そうね....これにするわ!」

「それではそのカードを観客のみなさんに見せてください!....みなさん....そのカードがなんのカードか覚えましたね?」

一同は大きく頷く。

「分かりました....それでは夏凜さん!俺の胸ポケットの中に入っているカードを見てください」

「えっ?まさか....」

そのポケットに入っていたカードはスペードの6であった。

パチパチパチパチパチパチ

部屋中から拍手が鳴り響く。

「や、やるじゃない....」

涼は目隠しをとり、

「まだまだこれからですよ....夏凜コーチ~....ふっふっふっ....」

「なんか....いつもの涼とは人が違うわね....」

 

_________________________

 

「夏凜コーチの手のひらの中にあったはずの五百円玉が....いつの間にか園子先生のポケットにワープしてま~す!」

「はぁ!?なに言ってんのよ、私はまだ五百円玉を....って、ない!?」

「わ~!五百円玉入れてなかったのに入ってる~!」

パチパチパチパチパチパチ

またしても大きな拍手が起きる。

「タネも仕掛けもわからないわ....」

「当たり前ですよ!夏凜コーチ!タネも仕掛けもないんですから~!........今回のマジックショーは以上で~す!ありがとうごさいました~!」

「プロマジシャンRyoに拍手~!」

瞬がそう言うと涼は別の部屋に入っていった。

「この催しの唯一の悪いところは僕が外来語を無理に言わなくてはいけないところです....それさえなければ...」

マジックショーが終わった後、瞬は一人でそう嘆いていた。

「全部のマジックがどういう仕組みなのか全くわからなかったわ....」

夏凜は肩をおろす。

「さすがね。涼くん」

そのあとも老人ホームの手伝いをし、お礼をもらって外に出た。

「まだ雨降ってますね....」

「まだまだ梅雨だものね....けどまぁ、いろいろとツッコミ疲れたわ....」

「帰ったらみんなでお礼の品をいただきましょう」

「賛成だよ~!わっしー!!」

五人は学校へ足を進める。雨の勢いは変わらず、強いままだった。

「祐成と金もいたらな~........」

涼の呟きは雨の音でかき消された。

 

_________________________

 

 ⑱神官 

 

巨大バーテックスとの戦いから1ヶ月以上が経過した。7月も後半に入り、もうすぐで夏休みだ。精霊のご加護もあってか、金と祐成の回復はとても速く、最近退院することができた。

「久しぶりの部室だ~!」

「やっともどってこれたぜ!」

「二人とも退院おめでとう~!ずっと二人のこと待ってたよ~」

「無事に退院できて本当に良かったです!」

夏凜と園子も部室に入ってきた。

「わぁ~!!二人とも退院おめでとう~!!」

園子が二人に抱きつく。

「これからなまったその体、ビシバシ鍛えてやるから覚悟しときなさい!」

「はいっ!任せといてくださいよ!」

「やっと体を鍛えられる....!....てか園子先生っ!いつまでくっついてるんすか!」

「そ、そそそそそうですよ~!恥ずかしいです~!」

「ゆうくんよりもリトルミノさんは恥ずかしがり屋さんだね~」

「夏凜コーチ、園子先生、今日も東郷先生は遅れるんですか~?」

涼が二人に聞く。

「今日はね~....初代の勇者部部長が来るんよ~!!」

「今は大赦で大きな権力を持ってるわ」

(初代勇者部部長で今は大赦のエリート....!一体どんな人なんだ....?)

金は早く会ってみたいと思った。

「相当すごい人なんだろうな....」

「そうですね。緊張してきました....」

瞬と祐成も顔が強張る。

「あんまり期待しすぎない方がいいわよ....」

夏凜がそう呟いたとき、部室のドアが開いた。

「みんなに紹介するわ。私たちと一緒に勇者をやっていて、勇者部部長だった犬吠埼 風さんよ。今は大赦にいるわ」

東郷に紹介された犬吠埼 風という人物は大赦の服、面、帽子をしており、表情も何も分からなかった。

「大赦の人って面被ってて表情分からないから怖いよな....」

祐成が小声でそう言ったのと同時に犬吠埼 風は面をとった。

「どうも~!!犬吠埼 風です!!初代勇者部部長で、頼れる、モテる、できる女っ!!よろしくぅ!!」

あまりにも急なハイテンションの自己紹介により、部室は静まり返る。

 

_________________________

 

「えっ、ちょっと何この空気?」

固まったままの四人は風をじっと見つめる。

「この子たちの想像してたイメージとかけ離れすぎてびっくりしてるのよ」

「えっ....そうなの?夏凜?」

「美しい....」

祐成がそっと呟く。

「あっ、やっぱり分かる!?この犬吠埼風の美しさがっ!さすが現勇者じゃないの!」

「祐成って....年上がタイプだったんですか....?」

「十五歳も離れてるのに....まさか....熟女好き....うぐっ!?」

そこまで言って金は祐成に腹をど突かれる。

「そう言う意味じゃないんだなぁ....金さんよ~....女優さんとかに通じる美しさってことよぉ....」

「ご、ごめんなさいぃぃ....祐成さん....もう言いません....」

金は腹をさすりながら謝る。

「創作意欲が~!....」

「園子先生でも許しませんよ....?」

「ひっ....分かったんよ~....」

「そのっちまで押されるとは....なかなかの剣幕ね....こほん!それより....今日風先輩は遊びに来ただけじゃないのよ!」

東郷がそう言い、東郷に注目が集まる。風は大赦の面を被った。

「これから....聞いてほしいことがあるわ....」

「テンションの切り替えは大赦の面なんだ....じゃなくて、一体なんですか....?」

さっきまでの和やかな雰囲気とは一転、皆、緊張した顔になる。

 

_________________________

 

「まず....あなたたちにまだ話していないことの説明をするわ....なぜ今までは無垢な少女が勇者に選ばれてきたのに今回は少年なのか....それは今の神樹様が昔の神樹様とは別個体だからってことが分かった」

「昔の神樹様とは違う神樹様....」

「そう。見た目とかはほとんど同じなんだけどね。所々違うところがあるわ。私たちの頃は何人か勇者候補がいたんだけど....今の神樹様が選んだ勇者候補はあなた達四人だけだった....」

「四人だけって....!?僕たちがあのとき勇者のお役目を断ってたらどうしてたんですか!?」

瞬は前のめりになって風に聞く。

「神樹様は....あなた達が必ず勇者になることを見越してたみたい....勇者になることを断ることはないだろうって....」

「すべては....神樹様の思い通りってことか....なんか神樹様の手のひらで踊らせれてる感じだな」

祐成は嫌そうにそう言った。

「ほんの少しだけ気になってたんですけど~....なんで普通の端末で僕達は変身できたんですか~?特に何も特別なことはしてなかったのに~」

「涼くんいい質問ね。それも話すつもりだったわ。あと、それに対しては謝らなくちゃならない」

風は四人に頭を下げる。

「新学期に入る前、四人とも前使ってた端末が壊れたでしょ?」

「あ~そういえば~」

「ほとんど同じタイミングでしたね....」

「水の中落としたりしてたからな~...」

「もしかして...?」

「そう.......大赦が作った不思議な電波を使ってわざと壊したのよ....そして、勇者システムが組み込まれた端末をあなた達に買わせた....本当にごめんなさい....」

「いやぁ、端末があればいいんですよ!あれば!」

祐成が明るく答える。

「四月から僕達が勇者になることは決まっていたんですね....」

金はそう呟く。

「いろいろ手続きが遅くなっちゃってね....初陣の前に勇者のことについて伝えられなかったけど....」

東郷が申し訳なさそうに答える。

「端末のことなんだけど....金太郎くん以外のは全部新しい端末よ。知ってるだろうけど私たちの頃よりも精霊のバリアも攻撃力も各段にあがってるわ」

「俺....以外....?」

金は風の言葉に違和感を覚える。

「そう....金太郎くんの端末は....昔夏凜が使ってた端末....そして....あなたのお姉さんも使っていた端末をアップデートして新しくしたものよ」

「えっ....!?」

金は驚きが隠せなかった。憧れの姉ちゃんと、今ではプロのコーチである夏凜が使っていた端末。

(これを....姉ちゃんも....夏凜コーチも使ってたのか....!)

「あなたのお姉さんの武器は二丁の大きな斧、夏凜は二本の刀だったのよ....その端末は近距離の武器が出るようになっていた....」

「じゃあなんで俺の武器は....?」

「私が頼んだの」

東郷が話に割って入る。

「銀のことがあってからね....銀の大切な弟までに危険な前衛を任せたくなかった....銀だって....あなたも守るために戦ったんだから....だから私が遠距離型の武器にしてくれって頼んだの....それがあなたの武器の秘密よ....」

少し沈黙が流れる。

「私からの話は以上よ....」

そう言って風は面をとった。

「さぁ~て!今日はこの二人が退院したってことで!夏凜の家でお泊まり退院おめでとう会を開きましょう~!」

「テンションの切り替えどうなってるんだ!?」

金が驚いてツッコむ。

「ちょっと!何勝手に決めてんのよ!........良いけど」

「じゃあ決まりね~!さっそく行くわよ~!」

『わ~い!やったやった~!』

涼と園子は同時に喜ぶ。

「夏凜コーチの家どんななんだろ?」

「そうですね、祐成。楽しみです!」

東郷は隠れて誰かに電話をかける。

「まぁ、とりあえず今を楽しめばいいか!」

金はそう言ってみんなと部室を出る。



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強くなるために

 

 ⑲退院祝賀会 

 

「改めまして!金、祐成....退院おめでとう~!!」

涼がそう大声で言うとクラッカーをみんなで一斉に鳴らす。

「みんな、ありがとうございます!こんなに早く退院できたのは皆さんのおかげです!」

「さぁ~て、今日は楽しむぞ~!」

金はみんなにお礼を言い、祐成はさっそくパーティーを始めようとする。

「そうよそうよ!祐成くん!今日はオールでパーティーよ~!」

風がそう言ってコップを持つ。

「みんな~!乾杯ー!」

『乾杯ー!』

みんな揃って一気に飲みほした。

「ぷはぁ~....一日勉強した後の炭酸は身にしみるね~」

「なんばー、おじさんくさいんよ~」

「いや~それにしても今ここには初代勇者部と現勇者部が大集合している....なんだか感動しちゃいますね。」

金がそう言うと東郷がいきなり立ち上がる。

「それは違うわ!金!大集合とはまだいえない....勇者部に欠かせない『アノ人』がまだいないんだからっ!」

「わぁ....国のことについて話す東郷先生のテンションだ....」

「まさか....来るの!?」

「まさかまさか~?!」

「来るのね....?」

初代勇者部の四人が顔を見合わせる。

「ちょっとちょっと~!誰なんですかー!」

金がそう言うと

ピンポーン

「丁度来たわ~!!入って良いわよ~」

「だからここは私の家だっつうの!........別に良いけど」

家の扉が開く。すると一人の女性が入ってきた。

「紹介するわ!私の一番の親友であり、勇者の伝説はこの人なしでは語れない!」

「みんなー!はじめまして!讃州中学勇者部OB、結城友奈ですっ!よろしくね!」

「確か....勇者の適性値がトップで世界を救ったのも何度かあるんですよね....?本物....?」

瞬が興味深そうに友奈を見つめる。

「私が今日呼んだのよ!やっぱり友奈ちゃんはいつ紹介しようか迷ってて....ちょうど風先輩が退院パーティーをやるって言って、このタイミングしかないと思ったの!友奈ちゃんはね、優しくて、思いやりがあって、可愛くて....」

「東郷はもう無視していいわよ....」

友奈のことについて話すのが止まらない東郷を夏凜はほっとくように促す。

「あぁ、だいたい部活中もああなるときがあるんで僕達も対処には慣れてますから大丈夫ですよ」

祐成がそう答える。

「友奈も来たし、パーティー続けましょ!」

風がそう言って友奈のコップに炭酸を注ぐ。

「ありがとうございます、風先輩!そう言えば会うの久しぶりですね?」

「そうね~最後にあったのはいつだったかしら?」

楽しそうにしている勇者部のみんなを見て、金と涼はこの光景について話す。

「勇者部ってみんな明るくて元気で本当に良い部活だな」

「そうだね~、金~。最高だよ~」

長い夜はまだ始まったばかりである。

 

_________________________

 

「これで終わりよ!」

「ふふふ....残念だったわね、夏凜....それはババよ....!」

「なっ....」

「夏凜コーチと風さんのババ抜き一騎打ち!すんごい激アツです!」

「どっちが勝つんですかね~?」

「こっちだぁー!!これで勝ちよ!」

「ふっ....風、それはババよ....」

「そ、そんな~....」

「まだまだ終わらないんよ~!」

「みんな~お風呂空いたよ~!」

「あれ?東郷先生と友奈さんなんで二人で出てきたんですか?」

「そんなの決まってるじゃない、金。一緒に入ってきたからよ」

「えぇ~!!銭湯ならともかく一人暮らし用の家の風呂で二人!?」

「東郷さんが久しぶりに入ろうって言ってね、楽しかったね~!」

「そうね!友奈ちゃん!」

「二人とも....二十代後半ですよね....?」

金は引き気味に聞く。

「友情に年齢など関係ないわっ!ねー!友奈ちゃん!」

「うんっ!」

「もうこれは友情の域を越えてる....」

「じゃあ次は僕が入ってもいいですか?」

「いいよ~」

瞬の問い園子が答える。

「うわぁっ!負けたぁ!」

「今回は私の勝ちね!風!」

「ぐぬぬ....夏凜!次は覚悟しておきなさい....!」

「望むところよ!」

「じゃあ次は何しようか~?」

「園子先生っ!王様ゲームなんてどうでしょうか?!」

「いいね~なんばー!」

---

---

---

「一番が四番に五秒間熱いハグを!」

『えぇ~~!?』

金と涼が驚く。

「なんでいつも園子先生は王様を引き当てるんだ!?しかも毎回命令が恥ずかしいことばっかり!」

「ほら~早く早く~!創作意欲が込み上げるんよ~」

「一番と四番は金と涼ね....」

金と涼は少しずつ近づく。

「金........!」 「涼........!」

「何かいけないものを見ている気がするわ....」

「風先輩、そこを気にしたらダメですよ」

「1~........2~............」

「園子先生っ!数えるの遅いですよっ!」

「恥ずかしいから早くしてください~」

二人は目をつぶり、顔を赤くしながら抱き合ってる。

「はぁ~やっと終わった....」

金と涼は背中をあわせて座り込む。

「それはOKなのね....」

「須藤祐成、ただいま風呂から帰還しました!」

「お風呂出るの結構早いですね....ちゃんと洗ったんですか?」

「当たり前だろぉっ!!だいたい瞬が長すぎるんだろ?一体何分入ってたんだよ!」

「祐成に見られなかっただけよかったか....」

「そうだね~すぐ言うもんね~」

「ん、何かあったのか?」

「大ありだよ~!聞いて聞いて、祐成くんっ!」

『園子先生っ!!』

二人が園子を睨みつける。

「ごめんごめん!言わないんよ~....」

「ええっ!気になりますよ~」

「祐成....この世には知らない方がいいこともあるんです....」

瞬が祐成をなだめる。

 

_________________________

 

「みんなお風呂入ったし!そろそろ寝ますか!」

風がそう言ってみんなで布団を出し始める。

「ちょっと待ったーー!!」

「どうしたのよ?夏凜」

「まさか....男子たちと同部屋で寝るつもり....?」

「そうだけど....」

「いやいや!別に永遠の愛を誓ったわけでもないのになんで異性と一緒に寝なきゃなんないのよ!しかも....思春期真っ只中なんだし!」

「夏凜....あんたそんなこと気にしてるようじゃダメよ!」

「夏凜コーチ....俺たちがそんな変なことやるとでも思ってるんですか....?」

「そうですよ~....ガッカリです....」

「そんな感じに思われていたなんて....」

金と涼と瞬は肩をおろしてそう言った。すると一人、祐成が

「しちゃうかも........」

その小声の一言を聞いた六人の冷たい視線が一斉に祐成に向く。

「え、ちょっとやだなぁ!冗談に決まってるじゃないですかぁ!」

「東郷さーん、さっきからみんなは何を言ってるの?」

「友奈ちゃん....今は耳をふさいでおきなさい....」

「祐成くんは隣の部屋で寝てくれるかしら?」

風は光りのない目でそう言い、祐成の布団を持ち上げる。

「ちょっと!?冗談ですってば!俺がそんなことするわけないでしょう?!涼と瞬も何とか言ってくれよ!」

「祐成~....今の発言で完全に祐成のイメージがだだ下がりだよ~....」

「嘘にも限度がありますよ....」

二人は感情のない表情で答える。

「ふ、二人まで....!金~お前は俺の仲間だよな?」

「............最っ低!!」

金は祐成の方を振り向き、軽蔑する目でそういった。

「そ、そんなぁ~........あんなこと言うんじゃなかった....」

「....しょうがないからあとの三人は一緒に寝てもいいわ....けどあんたは....さっさと隣の部屋に行きなさい!!この変態野郎っ!」

祐成は夏凜に隣の部屋にぶち込まれる。

 

_________________________

 

金はなかなか寝つくことができず、窓の外に目をやっていた。

「金太郎くんっ!寝れないの?」

後ろを振り向くと友奈が起きていた。

「あっ、すみません。起こしちゃいましたか」

「いやいや大丈夫だよ~........何か悩み事でもあるの?」

「えっ!?どうしてそれを....」

「なにか浮かない顔してるからさ~」

「........さすが友奈さんですね....今日初めて会ったのに....」

「私でいいなら相談に乗るよ!悩んだら相談!」

そう言って友奈は金の隣に座る。

「........涼とかより東郷先生に詳しい友奈さんに相談した方がいいですね........俺....たまに考えちゃうんですよ....東郷先生たちは本当に姉ちゃんを大切に思っているのかって....だって....その....姉ちゃんが死んじゃったせいで....二人は....体の機能を失って....二年間もつらい思いをしたんですから....しかも....小学六年生という歳で....」

金はまだ話を続ける。

「少しくらい....なんていうか....恨みをもってるんじゃないかって....」

「そんなことないよ」

友奈は断言する。

「絶対にそんなことない。東郷さんね、たまに銀ちゃんのこと話してくれるんだ....とても楽しそうにね....話しながら泣いちゃうことだってある....二人は本当に銀ちゃんに感謝してるんだよ....それと同時に守れなかったことを悔やんでる....銀ちゃんがいたからこそ東郷さんたちは世界を守ることができた....今も東郷さんと園子ちゃんは銀ちゃんがすごく可愛がってたあなたを....大切にしてるし....守ってる....だから、東郷さんと園子ちゃんが銀ちゃんを恨んでるなんてありえないよ!!」

友奈の真剣な目を見て、金は心をうたれる。

「本当........ですか........?」

「うんっ!!私を信じてっ!」

「........!ありがとうございます!おかげでスッキリしました!」

金は微笑んでそう答えた。

その話を布団の中でこっそり聞いていた涼は布団の中に潜り込む。

 

_________________________

 

 ⑳対人戦 

 

夏休みが始まり、金たちは鍛練に励んでいた。

「夏だからといって鍛練の厳しさは変わらないのか....」

「ほら変態!弱音を吐かない!鍛練に季節も何も関係ないわ!」

「俺いつまで変態って呼ばれなきゃならないんだ~........」

「それは完全に自分のせいだよ~」

涼が遠くから言う。

「しょうがないわね....一回休憩よ!」

金は一気に水を飲み干すとすぐにまた銃を出し、鍛練を始めた。

(目をつぶってても....敵の気配を感じとって、....撃つ!)

金は目をつぶりながら自分の周りの的をすべて撃ち抜く。

「やるじゃない....金!」

「もうあいつ人間やめてるぜ....」

「俺も負けていられない~!」

涼はそういうと斧の素振りを始める。

「せいっ!やあっ!とりゃ!」

「みんな元気だなー....」

祐成は座り込んで鍛練にうちこむ三人の姿をみていた。すると夏凜が手をたたいて四人を呼ぶ。

「なんですか?」

「みんな鍛練にもすっかり慣れたし....そろそろ次のステップに移るわ」

「次のステップですか~?」

「そう....あんたたち同士で........戦ってみなさい!!」

『えぇ~~~!!』

「そんな!危険ですよ!もしこれで怪我なんてしたら....」

「そうよ、危険よ。だから戦いにも鍛練にもある程度慣れた今だからこそ言ったの。昔の勇者システムはバーテックス以外に危害を加えたり精神が不安定だったりすると変身できなくなるんだけど....神樹様が変わってしまったのが原因でそこらへんの機能もなくなっちゃったみたいだし。それで....やる?やらない?」

「俺はやりたいです!!」

金が一歩前に出て言った。

「俺もやりたいですよ。今の実力は四人の中でどれくらいなのか確かめたいですし!」

祐成が余裕のある顔で言った。

「鍛練の成果を見せつける~!」

涼もガッツポーズをして言う。

「みんな........分かりました....やるからにはこの古波蔵 瞬....容赦しませんよ!」

「決まりね!ルールは相手の首もとに自分の武器を寸止めで勝利よ!寸止めしない限り、武器がふっとばされようが勝負は続く、それでいいわねっ!」

『はいっ!』

「じゃあまずは瞬と変態から!」

「よっしゃ!かかってきな!」

「こんな脳筋には負けませんよ....!」

 

_________________________

 

「始めっ!」

夏凜の合図がかかった瞬間、二人はいきなり距離を詰める。

「はああああぁぁぁぁぁ!!」

「うおおおおぉぉぉぉぉ!!」

お互いの武器が激しくぶつかり合い、金属音が鳴り響く。

「中距離型の武器のくせに近づいてくるなんてちょっと驚いたぜ!」

「ブーメランはただ投げるだけの武器だと思わないでください。こんな使い方だってあるんですから!」

「けどなぁ!近距離戦はこっちの方が有利だぜっ!」

祐成がすばやい突きを瞬に食らわせる。

「瞬が押されてるぞ!」

「どっちもがんばれ~」

「ぬうぅ....さすが....防ぐのが精一杯と言ったところか....」

「まだまだだぜ、瞬!覚悟しやがれ!」

祐成はもう一本レイピアを取り出し、二本で攻める。

「俺の最強の突きを........くらいなっ!!」

「くっ........!」

瞬は一回後ろに飛び、距離をとる。

「そうすると思ったぜ!」

祐成はそう言って瞬に向かってレイピアを一本投げる。

(何っ!?読まれた...!?)

瞬はとっさにレイピアをブーメランではじく。そのせいで瞬は次の行動が一歩遅れてしまう。祐成は果敢に攻め、瞬の方向へジャンプした。瞬は祐成に向かって一本ブーメランを投げるが、防がれてしまう。

「終わりだっ!」

祐成は瞬を蹴って地面に叩き落とし、瞬の上に馬乗りになって瞬の首もとにレイピアをつきつける。

「なにが脳筋だ!実際これで俺の方が強いって分かったろ!」

「.......」

「俺の動きに驚きすぎて声も出ないかぁ~?」

「........祐成の悪いところは....そうやってすぐに油断してしまうところです....」

祐成の後ろからブーメランが飛んでくる。

「!?何っ!?」

祐成はなんとかしてそれを弾くが、逆に瞬に倒され、馬乗りにされて元々持っていたもう一本の方のブーメランをつきつけられる。

「今飛んできたのはさっきあなたが防いだブーメランですよ。これで分かりましたね........?」

「クソっ!........マジかよ........!」

「勝者、古波蔵 瞬!!」

夏凜がそう言うと金と涼が二人に駆け寄る。

「二人ともすごい戦いだったよ~!!」

「思わず見とれちゃったよ....!」

「今の俺の勝ちでよかったでしょ~....」

「全く祐成は....諦めが悪いですね....」

「次っ!金と涼よ!」

『はいっ!』

二人は砂浜の真ん中に立つ。

 

_________________________

 

「これ....圧倒的に涼が不利じゃないか?涼の斧は俺の武器みたいにすばやく動かせないから隙が大きいし、相手は遠距離型だ........大丈夫かなぁ....」

「そうとも限りませんよ。金の方だって遠くから攻撃できても近づいて銃を首もとにつきつけなくちゃいけないんですから....それ相応のリスクがあります」

「それじゃあ....始めっ!」

夏凜の合図とともに第二回戦が始まった。

「二人ともその場で動かないな....」

「お互い相手の行動を見計らっているんですよ」

「........」

「........」

しばらく砂浜は海の波の音だけ聞こえていた。

「........ふっ!」

金がようやく瞬に向かって一発放つ。瞬はそれを斧の側面で防いだ。

「大切な親友と戦うって言うのは....なんとも複雑な気持ちだけれど....ようやく決心がついたよ!」

「ふふふ....金も全く同じこと考えてたんだね~」

「えっ!それで二人とも動かなかったんですか!?」

「だけど....もう違うよ~!」

瞬は思いっきり砂浜の地面を蹴り、金との距離を詰める。

「ぬうう........やはりそう来るかっ........!」

金も近づかれまいと後ろに飛び退く。金はそのまま空中で二丁の銃を使い、連射するがすべて防がれてしまった。

「.......!こんなに至近距離なのにすべて防がれるなんて....!」

「まだまだ!俺の力はこんなもんじゃないんだぜ~!」

涼は斧の真ん中あたりを両手で持ち、高速でプロペラのように回し始める。

「こんな使い方だってあるんだよ~!柄が長い斧だからできることさ~!!」

涼はそのまま近づき、金を斬りにかかる。

(まずい....!)

金は銃の大きさを利用してガードしようとするが、高速で回転した斧は凄まじい破壊力を持ち........

バキンッ!!

二丁の銃が派手な音をたてて真っ二つに割れる。

「!?じゅ、銃がっ....!」

金の顔が青ざめる。

「涼、危ないやつだぜ!もし金がまともに食らってたら今頃....」

祐成は体を震わせる。

「涼は....金の強さを信じて本気で斬りにかかったんです....あそこまで近づかれたら金もああするしかないだろうと考えたのでしょう....まずは金が使い慣れているあの銃から破壊して攻める....それが涼の作戦ですっ!」

二人は砂浜に降り立つ。

「驚いたよ....涼....ここで新技を見せてくるとは....」

「俺だって本気で勝ちに行ってるからね~!」

「でも........銃が破壊されたからってまだ戦いは終わってないぞ!」

「そんなの百も承知だよ!勝負はまだまだこれからだよ~!」

 

_________________________

 

「狙撃銃を使うには距離が近すぎる....バズーカは威力が高いから使えない....これって金、大ピンチじゃないか!?」

「そうでもないようですよ、祐成....金は銃を破壊されたことには驚いたみたいですが....今ではもう余裕の表情です」

「しょうがないなぁ!じゃあ俺もまだ見せてない秘策を披露しますか!」

金は両手を前に構えると金の両手に拳銃が現れる。

「これはよぉ....いつもの銃よりは威力は低いが....こっちの方が連射のスピードが早いんだ....コンパクトで動きやすいしな....」

「へぇ~....まだそんなもの隠してたなんてね....」

金は涼めがけ、正確に連射する。それに対し、涼はさっきのように斧をプロペラのように回して防ぐ。

「連射のスピードがあがったところで変わらないよ!」

「どうやらそうみたいだな....なら....これならどうだっ!」

金は涼の足元に向かって連射し、砂ぼこりを起こす。

「砂浜だからできることですね....周りの環境を考えた良い戦法です!」

「瞬....完全に実況者だな....」

「俺の目標は姉ちゃんを超えることだっ!だから....この勝負勝たせてもらうよっ!」

「............ぬぅ........こんな目くらましっ!通用しないよっ!」

涼は大きく斧を振り回し、砂ぼこりを振り払う。

「何っ!?こんなに早く砂ぼこりを消し去るなんて....!?」

金はこの間に涼に急接近していたが、予想よりも早くに砂ぼこりがかき消されてしまい、動揺する。中途半端な距離で止まってしまった。

「惜しかったね!拳銃は小さいからこの距離じゃ僕の首には届かない!けど俺の斧は長いから....!」

涼は金の首を切り落とすのではないのかと思うくらいの勢いで金の首めがけて斧を振る。

「まだだっ!まだ勝ったと思うなぁぁぁぁ!」

金は拳銃を銃口が長い狙撃銃へと変化させる。

「うおおおおおおおお~!!」

「うおおおおおおおおー!!」

同時。同時に両者の武器が首もとにつきつけられた。

「こ、これは....どっちだ....?」

「はぁ....はぁ....」 「はぁ....はぁ....」

二人は夏凜の判定が出るまでにらみ合っている。

「........この試合........ドロー!引き分けよ!」

「........」 「........」

二人の手から武器が消える。

「良い戦いだったぜ....!涼!」

「ひやひやしたよ~!」

二人はそう言って握手をする。

「す、すごかったなぁ....てか涼が金をマジで殺しにいってたように見えたのは俺だけか?」

「感動しました....!二人に比べれば僕もまだまだですねっ....!」

「みんな鍛練の成果がちゃんと出てるじゃない!確実に強くなってるわ!」

「珍しい~!夏凜コーチが誉めた~!」

「次は誰と戦うんですっ?」

「金、そうすぐに戦おうとしないの!今日はここまでよ!」

「は、は~い........」

「はぁ~....今日は特に疲れたなぁ~....早く帰ろうぜ」

祐成が変身を解除し、真っ先に歩き始める。

(もっと....強くならなくちゃ....)

金はそう思いながら砂浜をあとにする。

 

(第七話に続く)



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新種

 

 21 二人の休日 

 

今日は鍛練もなく、一日中休みの日であった。金と涼はショッピングモールで遊ぶ約束をし、入り口で待ち合わせをしていた。

「あっ!金~!こっち~!」

金を見つけた涼は金に向かって大きく手を振りながら呼ぶ。

「ごめんごめん~!待たせちゃった?」

「いや~全然待ってないよ~今来たとこ~」

「祐成も瞬も来れなくて残念だな」

「しょうがないよ~瞬はみんなで旅行、祐成は実家のうどん屋のお手伝いだし~....」

「まぁ、とりあえず今日は二人で楽しみますか!」

「そうだね~!!」

二人はまず、ゲームセンターへとやってきた。

「よし!エアホッケーやるか!」

「いいね~!負けないよ~!」

目にも止まらぬ早さでパックが動く。二人の戦いを見物する人まで出るくらいだ。

「じ、時間切れか....」

「5対5....また同点だよ~....」

「じゃあ次はリズムゲームだっ!」

「望むところだよ!」

「えっと....二人プレイを選らんでっと....難易度は普通でいいね?」

「いいよ~」

曲が始まると二人の目つきが変わる。

(今度こそ決着を....)

(つける~!!)

「はぁ........どうだっ?!」

「金も俺も両方ともノーミスでパーフェクト....また引き分けだよ~....」

「くっ....俺たちはどうしてもこうなる運命なのかっ........しょうがないな!UFOキャチャーするか!」

「あの人形欲しい~!」

「よ~し!俺が取ってやる!........この辺だっ!........ってあー!....だめか....」

「やっぱりUFOキャチャーって難しいよね~....次は俺が!........よし!引っかかった!........あぁ~!なんで落ちるの~!」

・ ・ ・

「........服、見に行くか」

「そ、そうだね~....」

二人はそそくさとゲームセンターをあとにした。

 

_________________________

 

「ねぇ~金~!似合ってる~?」

「おっ、それもいいけどこっちの色違いもどうだ?」

「さすが金!センスあるよ~」

「へへ....ありがと!」

「金のも見てあげるよ~」

金は自分で選んだ服を持って更衣室に入る。

「どうだ?」

「おお~!かっこいいよ~!金はイケメンだし、すごい輝いて見えるよ~!!」

「さすがにはしゃぎすぎ、誉めすぎ!恥ずかしいだろう....」

「照れてる金も良いね~!」

「やめろって!」

二人は服を何着か買って、フードコートへやってきた。

「見ろよ、涼!新発売のジェラートだって!」

「金はジェラート全般好きだからね~でもそれを食べる前にっ!ご飯でしょ!」

「俺にとってはジェラートがご飯だい!」

「だ~め!ジェラートはデザートにしなさい!」

「は~い....」

「たまには気分転換でラーメンなんてどう~?」

二人は醤油ラーメンを頼んだ。

「ラーメン食べるの久しぶりだなぁ」

金はあっという間にラーメンを食べ終わる。

「よし、食べ終わったぞ!まだ腹には余裕ある!さっそくジェラート買って来るぜい!」

「やれやれ....」

金は両手に新発売のジェラートを持って涼のいる席に戻ってきた。

「見ろよ見ろよ!マンゴー×メロンだぜ!絶対おいしいよなぁ....これ....!」

そして涼もラーメンを食べ終わる。

「じゃあいただこうか~」

「いっただきま~す........う~ん!お~いしい~~~!!」

金はとびきり幸せそうな顔をし、席を立って飛び上がる。

「ほんとだね~おいしいね~」

「俺....本当に....産まれてきて良かった....ぅぅ....ぅぅ....」

「あ~....また泣いちゃったよ~いつも新しいジェラートを食べるたびに泣くんだから~」

「だって....だって....こんなおいしいものを食べて感動せずにいられるか....?」

「そのセリフも何度も聞いたよ~....」

金は一口一口を堪能しながらゆっくり食べてたいらげた。そのあとも金たちは話題の映画を観たり、ボーリングで金が無双したりして休日を楽しんだ。

「いや~もう夕方だな~」

「一日過ぎるの早いね~」

すると突然、金の端末が鳴る。それは東郷からの着信であった。

「?どうしたんだろう....東郷先生....」

金は電話に出る。

「あっ....もしもし?金?」

「どうかしましたか?休みの日にわざわざ電話かけてくるなんて」

「神託が来たの........」

「えっ!?本当ですか!?それで?」

「明日....侵攻があるそうよ....そこにみんないる?」

「涼ならいます。あの....明日のいつ頃か分かりますか?」

「わからないわ....涼くんに伝えといて....祐成くんと瞬くんにはまた電話しておくから....とりあえず明日....部室に集まってちょうだい」

「了解しました!」

そう言って通話は終了する。

「東郷先生なんだって~?」

「明日....侵攻があるらしい....」

「そうかぁ....もうすぐで三回目の侵攻から二カ月だもんね~....」

「俺たちはもうあの時とは違う....成長したんだ....!前みたいにやられてたまるか!」

金は夕日を睨みつけて言った。

 

_________________________

 

金たちは朝早くから部室へ集合する。

「今日のいつ侵攻が来るかわからないから...しばらくここにいてね....」

「夜まで来ない場合もあるってことですか?!」

祐成が驚いて聞く。

「まぁ....そういうことね....」

「そ、そんなぁ....」

「まぁ、夏休み明けの保育園訪問のときに使う道具を作って時間を潰せばいいでしょう」

「それまでにはまだ一カ月以上あるから鍛練してようぜ!」

「おい金!鍛練なんかしたら疲れちゃって戦うどころじゃなくなるだろう!」

「そ、それもそうか....」

東郷は部室を出て職員室に戻る。金たちは保育園に行ったときに披露する出し物を作りはじめる。

「なぁ....東郷先生たちってさ....彼氏とか....いるのかな....」

金のいきなりの発言に部室内が凍りつく。

「い、いきなりどどどどどうしたんですかぁ?!」

瞬が裏がえった声で聞く。

「え~....だってみんな気にならない?」

「まぁ、確かに....結婚しててもいい歳だしね~....」

「僕....こういう話....苦手です....」

「なぁ、前のパーティーでさ、東郷先生たちを見ててすごい仲良いなって思わなかったか?....きっと東郷先生たちはさ、結婚なんかしなくてもずっと幸せなんだよ....ああやって一緒に騒げる仲間がいるだけで....」

・ ・ ・

「な、なんだよ....この沈黙....」

「そんなこと言うなんて....祐成らしくありませんね....」

「前にもその言葉聞いたことがあるような....」

その時、いきなり四人の端末が一斉に鳴り響く。

!!

「来たっ!侵攻だ!」

四人は椅子から立ち上がって窓の外を見る。眩しい光が四人を包み込んだ。

 

_________________________

 

 22 人型バーテックス 

 

「なんだ....この樹海....いつもと違って霧が出てる....!」

「周りが全然見えねぇな....」

「皆さん!バラバラになっちゃいけません!背中合わせになってどの方向から攻撃されても防げるようにしましょう!」

四人は背中を合わせて周囲を警戒する。緊張感が漂う。

その時、自分たちと同じくらいの大きさの黒い影が四人に向かってくる。そして....

!!

涼は黒い影の攻撃を防いだが、黒い影はまた霧の中に姿を消してしまう。

「みんな大丈夫か!?」

「大丈夫だよ....ただ....相手は結構素早いね....」

「今の大きさから考えて....だいぶ小さい敵だと思われます」

「このままじゃこっちが攻撃されてばっかりで仕掛けられない....!早くこの状況をなんとかしなくちゃ!」

「!それなら任せてください!」

瞬が上へ高くジャンプする。

「何やってるんだ瞬!離れると危ないぞ!」

瞬はブーメランを二つ持って空中で回る。すると小さな竜巻が発生する。

「切り札を使わなくてもこれくらいの大きさの竜巻なら作れます!」

「おぉ....!飛ばされそうだ....」

瞬の活躍により、霧が晴れる。

「これでやっといつもの樹海になったな!」

「みんな~!あそこ見て~!人影が!」

三人は涼が指さした方向を見る。そこには四つの人影が見えた。

「俺たちの他にも勇者がいたのか!?そりゃあ心強い!お~い!」

祐成が人影の方に向かう。

「!?ま、待てっ!こいつら人じゃない!」

金の呼びかけにより、祐成はいち早くその本当の存在に気づいて距離をとろうとするが....四つの中の一つに近づかれてしまう。金は高いところに登り、人影の正体を探る。

「こ、こりゃ驚いた....!背格好、姿、武器....俺たちにそっくりだ....けど....全身真っ黒....こんな人間にそっくりなバーテックスもいるのか!?」

四体のバーテックスはそれぞれ似た武器も持つ勇者の元へと向かってきた。

「同じ武器同士で戦おうってか........上等だっ!」

金がそう言ったのを聞き、勇者部一同も戦闘体制に入る。

 

_________________________

 

「目には目を!レイピアにはレイピアだ!」

両者の激しい突き合いが繰り広げられる。

「くっ....なかなかやるな....!なら....俺の....最速スピードだぁぁぁぁぁー!!」

祐成が一気に突きのスピードをあげて攻めるが....

「!?こ、こいつ....俺の突きについてきてやがる!」

なんと祐成の突きのスピードを超えるスピードで突いてきた。

「なんだ.....こいつ........強すぎるっ....!」

祐成はなんとか紙一重でかわす。

「ぬおおっ....!ちっ....少し頬を斬られたか....」

祐成の頬から少し血が垂れる。

「こ、こいつらの攻撃....!精霊のバリアが働かないぞっ!」

金が動揺しながら言う。

「いま撃たれたけど....全く機能しなかった....右足をかすめただけだったから良かったけど....」

「どうやらこいつら....僕たちよりほんの少しだけ強いようですね....僕もちょいと腕を....」

「うん....なかなかやるよ~....」

瞬と涼も歯が立たないようだった。しかし、みんなすり傷程度しかダメージを受けていない。

「そうだ!...あの対人戦のときみたいにすればいいんだよ~!」

「....!そうか、涼!」

いち早く涼の考えていることがわかった金は斧を持つ人型バーテックスの元へと向かう。

「なるほど、そういうことですね....」

「はは~ん....わかったぜ....!」

瞬はレイピアも持つバーテックス、祐成はブーメランを持つバーテックスのもとへと向かう。

「そう!それでいいんだよ~!同じ武器だからって同じ武器同士で戦わなくていいんだよ~今こそあの鍛練の成果を見せるとき!」

「みんな!今度こそ俺たちの強さ、見せつけやろうぜ!」

『おう!』

 

_________________________

 

「瞬よりちょっと強いって聞いたら....無性にやる気が沸いてきたぜ!倒しがいがある!」

瞬に似たバーテックスは祐成目掛けてブーメランを投げる。

「とりあえずこれは弾いとくか....そして....近づいて....斬るっ!」

祐成はレイピアを振るが、もうひとつのブーメランをうまく使われて防がれてしまう。

「なるほど....やるな....」

今度はバーテックスの方から攻撃をしてきた。

「自分から突っ込んでくるとはな....」

祐成はそう言い、向かいうつ。

「なかなかいい感じの振りじゃねぇか....そして........お前はこれが狙いなんだろ....?」

さっき弾いたブーメランが祐成の後ろから飛んでくる。

「前と後ろからの挟み撃ち....前、瞬にやられたようにはいかないんだよ!」

祐成は体を少し傾けてそれを避ける。バーテックスは自分のブーメランを避けられず、バーテックスの首が吹っ飛んだ。

「へへへ....どうだい........そろそろトドメだっ!おりゃおりゃおりゃおりゃおりゃあっ!」

祐成は残ったバーテックスの体を余すことなくレイピアで貫く。バーテックスの体は跡形もなく、消えてしまった。

-

「このバーテックスは....祐成とは違って少しは頭がきくようですね....」

瞬は祐成に似たバーテックスの戦いで苦戦していた。体中切り傷だらけである。

キンッ!キンッ!バキンッ!

ブーメランとレイピアがぶつかり合い、金属音が鳴り響く。

「たぁっ!」

瞬はブーメランを鎌のように扱い、力強く縦に振る。その反動でバーテックスは後ろに下がった。

「ようやく距離をとることができました....それでは....!」

瞬は一気に二つのブーメランをそれぞれ違う方向に投げる。バーテックスはその瞬の行動に困惑する。

「くらいなさいっ!僕の新しい技を!」

バーテックスの左右からブーメランが飛んでくる。バーテックスはそれを二本のレイピアで防ぐが....

「ブーメランは弱そうに見えて実はとても応用がきくんです!それでもう....あなたは両腕を使えません....!無防備状態です!そして....」

瞬はなんともう一本ブーメランを出していた。そして近づく。

「三本目のブーメランで終わりですっ!」

瞬はブーメランを振り下ろし、バーテックスを頭から真っ二つに斬ってしまった。

「本当は祐成との組み手で使う作戦でしたが....あまりにもかかんに攻めてくるから使えませんでした....あとは....涼と金だけですね....」

 

_________________________

 

「あのときは速攻銃を破壊されちゃったけど....今は違う!」

金はうまく間合いをとりながら近づかれないように戦う。しかし、金の攻撃はすべて防がれているように見える。

「くっ....!やっぱりダメか....?」

次の瞬間、驚くべきことが起こる。涼に似たバーテックスは大きな斧をブーメランのように思いっきり投げたのだ。

すごい勢いで回転しながらてんでくる。

「うおおおっ!危ねぇ....!」

金はギリギリしゃがんでかわした。

「まさかあんなことしてくるなんてな....でも、よし!これであいつは無防備に....ってあれ?!」

いつの間にかバーテックスは斧を持っていた。

「そんな....!今投げたはずっ....!あいつは何本でも出せるのか!?」

バーテックスは金に向かってジャンプした。距離をつめてくる。しかし、何を考えたのか金もバーテックスの方にジャンプする。バーテックスは金の行動に少し戸惑いを見せ、攻撃が遅れる。

「へへっ!驚いたろ!まさか遠距離で戦う俺が逆に近づくなんてな!銃もな........近くの方が威力出るんだぜっ!!」

バーテックスは少し行動が遅れたせいで斧を大きく振り上げたままで体ががら空きである。

「お前のその腹にぶち込んでやるっーーーー!!」

金の光線がバーテックスを粉々にする。

-

その頃涼は金に似たバーテックスの光線を斧を振り回して防ぐ。

「鍛練のときみたいにやっつけちゃうよ~!」

涼はバーテックスに向かって野球のバットを振るようにして横の一振り。しかし、避けられてしまっていた。

「よ、避けられた....!....うわぁ!」

涼は射撃により、吹っ飛ばされる。

「ふぅ....直撃しなくて良かった~....」

涼はゆっくり立ち上がる。

「なかなかすばしっこいね~....次こそ外したら今度こそ危ないよ~.......ということで!俺も斧を二本使ったら良い~!」

涼はそう言うと当たり前のように斧をもう一本出す。

「斧二本持ちだと結構重たいから使いこなせるかわからないけど....やってみるしかない~!」

涼は片腕ずつで斧を持ち、回し始める。

「ダブルプロペラ~!」

同じようにバーテックスに斧を振るが、またしても避けられる。バーテックスは涼の後ろに回り込んでいた。

「確かに隙は大きいけどね~....さっきと違うところは二本あるところだよ~!えい~!!」

もう一本の斧をバーテックスの方へぶん投げた。バーテックスの体は上半身と下半身に真っ二つにわかれた。

「なかなか楽しかったよ~」

涼はそう言って体が二つになったバーテックスにとどめを刺す。

-

「お~い!みんな~!」

四人は無事勝利し、合流する。

「ケガは?大丈夫か?」

「全然問題なし!これくらいかすり傷さ!」

「今回は余裕があったよ~」

「みんな!やりましたね!」

四人はそれぞれ笑顔でハイタッチをすると徐々に樹海化が解け始めた。

 

_________________________

 

 23 プールで鍛練? 

 

人型バーテックスの侵攻から一週間後、夏休みも半分を過ぎ、この日四人は夏凜に呼ばれて大赦が所有するプールにやってきた。四人は夏凜の指示通りに更衣室で水着に着替え、プールサイドへやってくる。

「とりあえずプールサイドにいろって言われたけど....」

「どこにいるんだ?」

「みんな、来たわね」

後ろを振り向くといつの間にか夏凜が立っていた。

「今日はいつも頑張ってる俺たちにご褒美ですか!」

「違うわ!今日は泳ぎに泳ぎまくってもらうわよ!」

「ですよね~....そうなりますよね~....」

「でもあんたたちだけじゃつまらないから強力な助っ人を呼んだわ!」

夏凜がそういうと奥から誰かやってくる。

「え!?風さん!!」

「私のよきライバル、風よ!」

「みんな、今日はよろしくね!相手が子供だろうが容赦しないわよ!」

「風さん~泳いでる暇なんてあるんですか~?」

「大赦は勇者を支えるのが仕事よ!これも大切な仕事のうちだわ!」

五人は準備体操をしてからプールに入る。するとジャージを着た東郷もプールサイドへ入ってきた。

「私も見学しに来たわ」

「あっ!東郷!私の人魚のような華麗な泳ぎを見てなさい!」

「風さぁ~ん....」

風の隣のレーンにいる金が風に話しかける。

「どうしたのよ?」

「相手は男四人ですよぉ?体力も違えば筋力も違う。しかも僕たちは数ヶ月の鍛練で鍛えられていますし....悪いですが....そんな俺たちに女性の風さんが勝てるとは思いませんけどねぇ~....」

金は余裕の表情で風を見つめながら言った。

「ほう....言ってくれるじゃない....痛い目見ても知らないわよ....?」

「こ、この二人、やけに燃えてる....」

さらに金は夏凜にも

「夏凜コーチもぉ....なんで一緒に泳がないんですかぁ?コーチなら一緒に泳ぐべきでしょう~?あっ!もしかして風さんに負けるのが怖いんですかぁ~?それとも....本当は泳げないとか....」

「な、なに言ってんのよ!ふざけて煽るのもいい加減にしなさい!そんなに言うんだったら....良いわ!私も一緒に泳いでやるわ!」

「じゃあ私も泳ごうかしら?」

「東郷、あんたはやめときなさい。思春期真っ盛りの男子中学生には刺激が強すぎるわ」

夏凜はそう言い、走って更衣室に向かう。

「フフフ....夏凜コーチ....ちょろい....!」

すべては金の思惑通りに進んでいた。

 

_________________________

 

金たちは水になれるため、プールに入って少し泳ぐ。

「じゃあそろそろやるわよー!」

東郷のかけ声で一同はプールからあがった。ついに個人での競争が始まるのだ。

「では一人ずつ意気込みをどうぞ!」

一番右のレーンにいる夏凜は

「私が泳ぐからにはもちろん、一番をとるわ!完成型コーチの実力を味わいなさい!」

その左の風は

「あら、たまたま言うことが被ったわね~。夏凜にだけは負けたくないわ!もちろんあんたたちにもね!」

そのまた隣の金は

「みなさん強がりすぎですよ....一番はこの俺、三ノ輪金太郎様だっ!」

その隣の涼は

「あまり泳ぐのは得意じゃないけど....できるだけ頑張るよ~!」

「僕も同じです」

涼が言った後すぐに瞬はそう言う。

「現役勇者の力を侮ってはいけませんよ....水泳は自信があるんじゃい!!」

祐成がそう叫ぶ。

「それではみなさん、飛び込み台の上へ!」

6人は飛び込み台に乗る。ルールはクロールで五十メートルを一番先に泳いだ者の勝ち。プールの直径は二十五メートルのため、ターンをする必要がある。

「位置について........よーい、ドン!」

東郷の合図で一斉に飛び込む。半分を泳ぎきった時点でトップ争いは風、夏凜、金、祐成だ。

(なかなかやるな....夏凜コーチも....風さんも....女性にしてここまでの早さとは....だが....この三ノ輪金太郎様の力はこんなものではない!)

祐成は残り十二.五メートルを過ぎたあたりでスピードをあげる。

(優勝はこの俺だ!)

しかし、他の三人はあっという間に祐成を追い上げ、越す。そして三人はラストスパートをかける。

(((あと五メートル....!)))

-

「ぷはぁっ!一位は誰っ!」

夏凜が水から顔をあげて東郷に聞く。

「風先輩と夏凜ちゃんが同着でした」

「やっぱりここでも決着はつけられなかったわね....」

風は悔しげに言う。

「しかし........二位で....」

『えっ....?』

夏凜と風は声を合わせてそう言った。

「一位は........金でーーす!!」

「やったぁぁぁーー!!」

金は勢い良く拳を突き上げる。

「う、嘘でしょ....!?私が....負けたの....!?」

「つ、ついに世代交代の時ってことね....先輩は嬉しいワ....」

「三位は祐成くん!四位は涼くんよ!」

「三人とも速すぎですよ....!」

「全然追いつけなかった~」

「あれ?瞬は?」

瞬は二十五メートル地点にも着けず、十二.五メートル地点でぶくぶく言いながら沈んでいた。

「わぁ~~!!大変だ~!瞬ー!」

みんなで瞬をプールからあげる。

「これだから........水泳は........嫌いなんですよ........ガクッ....」

『瞬ー!』

 

_________________________

 

この後も金たちは休憩をはさみながら何時間か泳いだ。大赦を出た四人は歩きながら話す。

「みんな、夜ご飯はうちで食べないか?」

「おっ、いいね~!祐成の家のうどんはおいしいからな~!」

金たちはうどん屋でもある祐成の家へと入る。

「いらっしゃい、我がホームへ!四名様です!」

祐成は厨房に向かってそう叫び、金たちと同じ席に座る。

「お前は店員なのか?客なのか?」

「今はどっちもさ!あとでちゃんとお金も払うし!」

金のツッコミも含めた質問に祐成はまじめに答える。涼は味噌煮込みうどん、金は肉ぶっかけうどん、祐成は激辛うどん、瞬は大盛り素うどんを頼んだ。

「それにしても....今日は特に疲れましたね~....」

「そうか?俺は楽しかったけどなー」

まだまだ泳げるという感じに金は言う。

「瞬は苦手だもんね~俺もちょっとキツかったよ~」

「そう考えるとまだまだたよな、俺たち。俺たちよりも年上で女性の夏凜コーチたちは全然平気そうだったし」

「あの人たちが元気すぎるだけじゃ....」

すると、机の上に四人がそれぞれ頼んだ料理が並べられる。

「ってことで!これからも俺たち四人、頑張っていこうぜ!いっただっきま~す!」

金は元気よくそう言ってうどんにがっつく。

「まったく....そんなに早く食べて喉につまらせないでくださいよ....?」

こうしてまた一日が終わった。

 

(第八話に続く)



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あのときの思い出

 

 24.夏祭り 

 

ある鍛練からの帰り道。夏休みも残りわずかとなっていた。いつものように四人で帰っていると、涼はバックの中身に手を突っ込み、くしゃくしゃになったポスターを中から出し、広げてみんなに見せる。

「じゃじゃ~ん!見てよ~このポスター!」

涼が見せたポスターは夏祭りのポスターであった。

「明後日開催の夏祭りですか....もうそんな季節ですね....」

「いいね~涼ー!今年もみんなで行こう行こうー!」

「浴衣着て、屋台回って....毎年楽しいんだよな....」

「じゃあ決まりだね~!」

---

--

-

あっという間に時は過ぎ、夏祭り当日がやってくる。

「お~い、みんな~!」

金と涼が待ち合わせ場所にいる祐成と瞬に向かって手を振りながら走ってくる。

「お前ら二人とも遅いぞ!学校来るのもいつもギリギリだし、ここでの待ち合わせでも遅れるつもりか!」

「祐成、まだ集合時間の五分前です。僕たちが早すぎただけですよ」

「それよりみんな....浴衣似合ってるねぇ~!」

「涼も似合ってるぞ!」

「えへへ~そう~?」

「まったく....この二人はまたいちゃいちゃしやがって....ほら、もう行くぞ」

『は~い!』

四人は全員で屋台を回る。焼そばとイカ焼きを買い、行列の出来ている金魚すくいの屋台に並んだ。

「さすが夏祭りの代名詞ともいえる金魚すくい!人気ですね~」

「いやいや、夏祭りの代名詞といったら射的だろ!」

「い~や、綿あめだね!」

「どれでもいいよ~」

四人は楽しそうに話していた。とても幸せな時間。ここにいる誰もがそう思っていた。この時間が永遠に流れれば........

(おっ!あんなところにリンゴ飴の屋台が!ちょうど誰も並んでないしちょっくら買いに行くかな!)

そう思った金は他の三人に何も言わずにリンゴ飴の屋台の方へ行ってしまった。

数分後、金はリンゴ飴を持って金魚すくいの屋台へ向かう。

(確かこの辺にいたはず....あれ、三人とも並んでたのにいないぞ!?さっきまで確かにいたのに!)

金の顔は真っ青になる。

(もしかして俺....はぐれちゃった!?)

 

_________________________

 

「わっしー!あっちの屋台いこ~よ~」

「いいわよ、そのっち」

そう話しているのは東郷と園子だった。二人もここの夏祭りに来ていたのだ。浴衣を着て、二人きりで....

するとそこに

「ん?あれは....東郷先生~園子先生~!」

「あら!金じゃない!一人なの?」

「それがですね....お恥ずかしい話なんですがはぐれちゃいまして....」

「じゃあスマホで連絡しなよ~」

「はっ!そうか、その手があったか....!」

「単純なことに気がつかなかったのね....」

金はスマホを取り出し、何かを打ち込んだ後、東郷と園子に元気よく言った。

「じゃあ東郷先生、園子先生、行きましょうか!」

東郷と園子は思いもしなかった金の答えにきょとんとする。

「え....?涼くんたちはいいの....?」

「花火がうちあがる時にまた会おうって言ったんで!東郷先生たちと屋台を周ってみるのも良いかなって....嫌....ですか?」

「全然そんなことないんよ~!!むしろ嬉しいんよ~!」

「そうよ、金!一緒に周りましょう」

「じゃあほら、早く行きましょうよー!」

金は二人の手を握り、走って二人を引っ張る。

「早いよ~リトルミノさん~!」

「そんなに急がなくてもお祭りは逃げないわよ!」

二人はそんなことを言っていたがとても楽しそうに笑っていた。東郷と園子はこんなことを思っていた。あの時、銀がいたらこんな感じだったのかな........と........

「よ~し、今日はいっぱい楽しむぞ~!!」

金はとても幸せそうな笑顔でそう言う。その顔は二人のズッ友がよく見せた顔にとても似ていた。

 

_________________________

 

「射的では負ける気がしませんよ!」

「私だって!」

東郷と金の一騎打ち。二人は景品に見事に当てるが全く倒れなかった。

「私のアルファー波が効かなかった....」

「なんですか!あの射的!ぼったくりですよ!」

「だいたい夏祭りの射的ってあんなものだよ~」

東郷は怒っている金をなだめながらさっきまで並んでいたができなかった金魚すくいをやりにきた。

「よ~し、取りまくるぞ~!」

「私だって負けないよ~!」

「金魚すくいのコツは....」

-

「一匹も取れなかった....」

「金はすくい方が雑なのよ。もっと斜めから素早く、工夫して....」

「わ、分かってます分かってます、うまくできなかっただけです~....」

金は東郷の話が長くなることを察して誤魔化した。東郷は一匹、園子は金魚を二匹すくえたため、一人一匹ずつもらった。

「園子先生、ありがとうございます!この金魚、大切にします!」

「これくらいお安いご用なんよ~」

「さて♪次はどこ行きましょうか!」

金は体を弾ませながら二人に聞く。とても楽しそうな様子であった。

「あれ....?ちょっと、二人とも!僕の顔をじっと黙って見つめてないで何か案を出してくださいよ!」

「あっごめんごめん。少し....ぼーっとしちゃってたわ!」

「園子先生なら分かりますけど東郷先生まで....もしかして....顔にさっき食べた焼そばの青海苔とかついちゃってます?」

「いえ、ついてないわ!....じゃ、今度はヨーヨー釣りに行きましょうか!」

ヨーヨーは無事みんな一個ずつ取ることができた。金はヨーヨーで遊びながら歩く。

「見て~!わっしー、リトルミノさん~!」

園子が指差した屋台ではいろいろなストラップが売られていた。

「かわいいのがいっぱいあるじゃない!」

「有名なキャラクターとか....色違いもあっておもしろいですね!」

「ねぇねぇ~記念にさ~....三人で何かストラップ買おうよ~」

「おっ、いいですね~!!おそろいにしちゃいますか~?!」

「....」

「....?東郷先生?」

「あっ、何でもないわ!」

「何なんですか~さっきから~!」

「ほ、本当に大丈夫よ!何にする?」

「俺、犬が好きなんですよ!だからこの犬のストラップにしません?犬を見てるだけで癒されるんですよね~....」

「いいね~リトルミノさん~これにしようか~」

「........」

三人は色違いの犬のストラップを買う。三人は笑顔で顔を見合わせた。もうすぐ花火がうちあがる時間である。

 

_________________________

 

「わっしー、リトルミノさん~もうこんな時間だよ~もうすぐ花火があがるよ~」

「そうですね~....あっという間でした....」

「........ねぇ、私たち花火を見るのにとっておきの場所を知ってるんだけどみんなを誘ってそこで見ないかしら?」

「そうなんですか!?ぜひそうさせてください!」

三人は人ごみが少ない森の中に入り、ちょっと歩くと少し開けた場所に出た。

「あっ、そうだ~みんな喉渇いたでしょ?何か飲み物買ってくるよ~」

「いやいや、俺が買ってきますよ!」

「いいんだよ~二人でここで待ってて~」

そう言って園子はもと来た道を戻っていく。金は位置情報を涼に送り、ここにくるように言った。東郷と金は横に並んで空を見上げていた。満天の星空が広がっている。

「花火楽しみですね~」

「........」

「........やっぱり........おかしいですよ、東郷先生。何かあったんなら話してください!勇者部六箇条、でしょう?」

「........そうね」

東郷は空を見たまま話し始めた。

「今日はとても楽しかったわ....三人でわいわいはしゃぎながら屋台を周って....」

金は真剣に東郷の話を聞く。

「....私が小学六年生の時もね....夏祭りに行ったの....」

「そうなんですか。」

「そのっちと二人だけでね....」

金はその言葉の意味を察する。

「だから今日は....あの時銀がいたらこんな感じだったんだろうなってずっと思ってた....」

「....やっぱり、姉ちゃんと俺ってそんなに似てるんですね」

「なんかごめんね....あなたのことを銀じゃないのに銀みたいな感じで言っちゃって....」

「いえいえ!逆に嬉しいです!」

「............ぅぅ........」

「?........東郷先生?」

東郷はいきなり金の方を向いたかと思うと強く金を抱きしめた。

「ちょっ!?東郷先生!?」

「私....私すごい怖かった....!金が三回目の侵攻から戻ってきたとき....血だらけで....傷だらけで....意識もなくて....とても怖かった....!」

「........」

抱きつかた金はいつものように抵抗するのをやめる。

「銀が....死んじゃったときとすごい状況が似ていたの....ちょうど遠足からの帰り道で....夕方で....私もそのっちも胸騒ぎがした....」

「........」

金は東郷に抱きつかれたままただ黙って東郷の話を聞く。

「だから....金が意識を取り戻したとき....すごい安心したわ....でも........それから金がバーテックスとの戦いに行くとき....前よりもずっと....とても怖くなってしまった....あなたは大丈夫だと言うけれど!....私は....心配で....心配で....」

「........」

「私は神樹様を恨んでる!銀はあなたを守るために死んだはずなのに、何で金が勇者に選ばれなくちゃならないのよ!どうして....金までつらい思いをしなくちゃならないのよ....幸せに生きてほしいというのが....私たちの....銀の願いだったのに....」

「........」

「私は毎日が恐ろしいわ....いつ神託が来るのか.......いつ侵攻があるのか........」

「........」

「あなたが遠くに行ってしまいそうで........怖いのよ!!」

すると金は優しく東郷の背中に両手をやり、さすった。

「........東郷先生........言ってくれてありがとうございます....でも.......俺は本当に大丈夫です!遠くになんか行きませんし、ずっと東郷先生のそばにいますよ....!それに....俺には強い仲間がついているんです!そして....あなたもその中の一人です........だから........心配しないでください!!」

「金っ........!」

東郷はしばらく金から離れなかった。金もそれを嫌がらなかった。むしろ優しく受け入れていた。

 

_________________________

 

それから少し後、園子と涼たちは途中で会ったのか一緒にやってきた。

「危ない危ない、ギリギリセーフ!」

涼が両手を横に振る。

「さて、金は東郷先生と一緒に何してたんでしょうかね~?」

「祐成....またそんなこと言ってると誤解を生むゾ」

金はそんなことを言いながらもさっきあった出来事を見られていなくてよかったと思った。

(東郷先生ったら....あんなに強く抱きしめたらアレが.......もっと身長低かったら危なかったな....って何考えてんだ、俺!)

「あっ、見て~ついに始まったよ~!」

園子が空に向かって指を指す。

「わ~本当だ~よく見える~!」

「綺麗ですね~」

一同は花火に魅了される。みんなの目は空に釘付けだ。

「........こんな幸せな日常を........バーテックスなんかに奪わせない....!」

金はそっと呟く。

「そうだな....祭りに来てる人たちみんな幸せそうだった....」

「なおさら負けられないね~!」

「忌々しいヤツらを根絶させましょう!」

「ああ!俺たちの手でな!」

四人は肩を組む。

「ほら、東郷先生も、園子先生も!」

「えっ?私たち?」

「そうですよ~先生たちも仲間じゃないですか~」

四人に促された二人も肩を組んだ。

「また明日から頑張ろうな!」

---

---

---

「はぁ~....また地獄の日々が始まる....眠いし....」

祐成は学校の机に顔をつける。

「宿題をあれほど早く終わらせなさいって言ったのに....やらないから寝不足になるんだ!」

祐成は金からお咎めを受ける。

「金のお説教は長くなりますよー」

「そんなこと言ってないで助けて~瞬~!」

「ダメです!全部あなたのせいなんですから!」

「そんな~....あっ、そうだ!」

祐成は金の背中にそっと回り込み、わき腹をくすぐる。

「ふぁぁっ!ひゃあぁぁ~~」

「うししししし!これやるのも一学期以来だな!そしてやっぱり良い反応だ~....」

「お説教中にやるとは....良い度胸だ........ゆ~う~せ~い~!」

「ひゃはははっ!逃げろ~!」

「コラァッ!待ちなさい!!」

祐成と金は廊下へ走っていってしまった。

「いつもの風景が戻ってきたね~」

 

_________________________

 

 25.満開 

 

学校が始まって一週間が経った。金たちは東郷から放課後に大赦に来るように指示され、指定された会議室のような場所で待っていた。金たちがこの部屋で数分くらい待ったとき、風と東郷が部屋に入ってきた。

「今回....みんなを大赦に呼んだのはお役目について大切な話があるからよ....」

東郷はいきなり本題について話し始める。

「この前....ちょっとだけ話した満開のことについてよ」

『....!』

すると今度は風が話し始める。

「今の勇者システムの満開システムの準備ができた....バーテックスたちもどんどん強くなってるしね....」

「それはつまり........戦いも終盤だと....?」

金が初めて口を開く。

「まだそれについての神託はきてないけど....おそらくそうよ....」

「だから....今日は私から昔の勇者システムと....実装予定の満開システムについて話すわ....」

風はそう言って説明を始めた。

「私たちが勇者だったころの満開システムは.....それはひどいものだった....満開はね....満開ゲージが満タンになることでできる技....満開してる間はとても強くなる。けどね....その代わりに....体の機能の一部を失う...!」

金たちは特に驚かなかった。東郷から少しこの話を聞いていたのもあったし、その覚悟で勇者になったからだ。

「一番ひどいのは...その満開の代償のことを大赦が一切教えなかったこと....」

「え........大赦が...」

「騙されてたってことですか...?」

「そうよ....」

今度は東郷が話の続きを話し始める。

「私たちの頃の満開は....敵を倒したり....ダメージを与えることで満開ゲージをためて満開していたわ....でもあなたたちが実装予定の満開システムは....」

『........』

「最初から満開ゲージが満タンの状態で....やろうと思えば最初から満開できる....けど満開した場合、満開ゲージはゼロになって精霊のご加護は働かなくなる....」

「じゃあ....一度満開したら....生身の状態ってことですか....」

「そうよ、金....私たちの頃の満開システムは何度も満開ゲージをためられて何度も満開できたけど....金たちの場合は....一回しか満開できない....満開ゲージが満タンの状態で敵から攻撃を受けたら精霊のご加護が働く代わり、満開ゲージは減って満開できなくなるわ....」

「強い力を手に入れる代わりに生身の状態で戦うか....攻撃を受けない代わりにいまいち弱い力で戦うか....」

瞬がそう呟く。

「昔の満開システムとの大きな違いはもう一つある....それは........供物を捧げることはない。」

 

満開システムを実装しようと思えば最初からできた。しかし、風たち大赦はそれをしなかった。理由は勇者になってすぐに満開を使いこなすことはできないだろうということ、もう一つは....

「けどね....満開は強力な攻撃を放てる代わりに....体への負担が大きいわ。長時間満開状態で戦うほど変身が解けた後の体力の消耗が激しい....特に気をつけてほしいのはフルパワーで戦い続けることね。これが一番危険だわ....」

「あと満開システムを導入するのと同時に通常状態のステータス、精霊のご加護をパワーアップさせるわ」

「おお!それは嬉しいです!」

祐成が体を乗り出して言う。

「今までは巨大バーテックスと人型バーテックスの攻撃に対して精霊バリアが働かなかったもんね....いやはや、バーテックスの進化って恐ろしい....」

「じゃあみんな....満開システムの導入に賛成ということね....?」

風の質問に四人は静かに頷いた。

「分かったわ....それじゃ、端末を渡してちょうだい。」

四人は風と東郷に端末を渡す。

「ついに....大詰めって感じだな....」

「じゃ、瞬くん以外帰って良いわよ」

「え?僕だけ?」

「何で瞬だけ居残りなんですか!」

祐成は不服を訴える。

「これは個人の話なの....瞬くんが良いって言うなら後で瞬くんから聞いても良いわ」

風は冷たい声で祐成にそう言った。

(大赦の本部にいるときの風さんは別人みたいだなぁ....)

そして三人は会議室を後にする。

「それで....僕に話って....?」

「あなたのご先祖さんに関わる話よ」

「僕の先祖....ですか....?」

「ええ....この話はあなたの家族も知らないだろうし私たちもつい最近突き止めたことよ」

「........」

「瞬くんと........沖縄にいたとされる勇者、古波蔵 棗さんの関係について....」

 

_________________________

 

 26.これからの戦い

 

しばらくしてから瞬は部室に戻ってきた。

「おう、おかえり!瞬!」

「何の話だったの~?....話したくなかったら話さなくていいけど~」

「........なぜ僕が勇者に選ばれたのか....それが分かったとだけ言っておきましょう....」

「....そうか」

三人はそれ以上深堀しなかった。

「それより皆さん、神託がありました。さっき東郷先生に伝えてくれと頼まれたので言います。明後日....侵攻があるそうです」

「全く....神樹様は毎回毎回極端なんだよなぁ....日程が近すぎたり遠すぎたり....」

「端末集めちゃってるけどそれまでには終わるのか?」

「明日の夕方には終わるそうですよ、金。....そして明日中にその儀式を行うそうです」

「了解~!」

-

明日の夕方、金たちは大赦に行き、神聖な服装に着替え、儀式を行う。そこで四人は巫女からアップデートされた端末を受け取った。

『........』

四人は儀式を終えた後、もとの服に着替えて風と東郷のもとに会いに行った。

「....とても緊張しましたよ....なんか....本当にバーテックスとの戦いが終わりそうで....」

祐成には似合わない声のトーンでそう言った。

「正直言うと....バーテックスはこの間にもものすごい進化を遂げてる....人型とか巨大型とか様々な形にね....」

「もしかしたらこれからも新種のバーテックスが出る可能性もあるわ....いくらパワーアップしたからって油断しないようにね....」

「もちろんわかってますよ。俺たちだって痛い目見てるんですから....」

「....そうよね!いらない心配だったわ!」

東郷は笑顔でそう言うが四人にはバレバレであった。

(東郷先生....夏祭りの時にああは言ったけどやっぱり心配なんだな....まぁ当然っちゃ当然なんだけど....)

次の日。

神託通り、五回目の侵攻が来た。

 

(第九話に続く)



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満開の力

 

 27.大軍 

 

「なんだ....この数....!」

「前の軍よりも遙かに多いですね....」

金たちが立っている所に多くの星屑が向かってきている。そしてその奥には巨大バーテックスが四体、山脈のようにそびえ立っていた。

「しかも....三人で精一杯だった巨大バーテックスが四体も~....」

「けどな....今の俺たちは一味違うぜ!」

金はそう言っていつもの銃を取り出す。

「まずは目の前の星屑たちを片付けようか~!」

「満開使ってみるか?」

「いきなりは危険ですよ、祐成。まだ僕たちは満開したことないんですから。とりあえず攻撃が上がった通常状態で星屑たちを倒しましょう」

「OK、瞬。勇者服の見た目は特に変わってないからな~パワーアップした感じはないけど....本当に強くなってるかあいつらで試させてもらうぜ!」

四人は散らばって星屑の群れの中に入る。

「数で攻めてこようが囲まれようがこの祐成様には関係ないっ!」

祐成は見事な剣さばきで星屑を倒していく。

「竜巻で....一掃ですっ!」

「斧を大きくして~........ええ~い!」

「おおっ!みんな暴れてるなぁ!よ~し、俺だって!」

金は持っていた銃を投げ捨てる。

「今回は....こいつでやるぜ!」

金はそういってどこからかマシンガンを取り出した。

ガガガガガガガガッ!

「オラオラ~!一気に倒すぜ~!」

あれほどいた星屑はみるみるうちに減っていき、残りは巨大バーテックスのみとなった。

「いや~余裕だったな~」

「瞬も変わったよな、前はキレてただろうに」

「そういば........人間は成長するもんなんですね....実感しました」

「みんな、ダメージは受けていないだろうな?」

「当たり前だろ?金!」

「まだまだ元気~!」

「よ~し、じゃあそろそろ満開を....」

「待ってください!まずはあのバーテックスたちの攻撃方法がどんなか見極めてからです!」

「そ、そうだな....じゃ、いつも通り俺が仕掛けるぜ!」

金はマシンガンを捨て、またいつもの銃を手に持ち、四体に向かって放つ。攻撃は当然のように防がれた。

「ちっ....あっ、みんな来るぞっ!」

金のかけ声の通り巨大バーテックスたちは一斉に攻撃してきた。

「見たかっ?あいつらの攻撃を!」

「はっきり見たよ~!」

「一番右は青い雷で、その左は炎....」

「そしてそのまた左は紫色の液体を飛ばして、一番左は大きな触手で鋭いパンチをした!」

「........!見ろ、あそこ!」

金たちが立っていた場所が溶け始めている。

「炎による影響でしょうか?」

「それもあるだろうが....あそこは焦げ目がついてない....つまり....あの紫色の液体は溶かす性質があるんじゃないか?」

「ええ~!?毒ってことか?!」

「恐ろしい~....」

「今までの巨大バーテックスの特徴からして.......前に戦った二体が風と岩を操る者だとしたら....この四体は........電気、炎、毒、近距離格闘型ってところか....!」

 

_________________________

 

「よ~し!アツい炎には、アツい赤の俺だっ!」

金はそう言って炎を操る巨大バーテックスの方へと向かおうとする。が、瞬に肩をつかまれて金は足を止める。

「待ってください、金!金はあの毒のバーテックスと戦ってください!」

「えっ?」

「少なくともあの毒のバーテックスと近距離武器を扱う涼と祐成は相性が悪いです。僕の武器もあの毒に触れたら溶けてしまうかもしれませんし....」

「つまり....あの毒の攻撃と相性が良いのは俺の銃だけってことか....」

「そうです」

「....わかった!任せとけ!」

金はそう言うと毒のバーテックスのもとへと向かう。

「さあ、炎のバーテックスよ!あなたの相手は僕がしてあげましょう!」

瞬はブーメランを構えた。

-

「電気....いや、雷のバーテックスさんよぉ....お前の相手はこの俺だっ!」

祐成はそう言って雷のバーテックスに接近する。

「雷も中々速いが....速さなら俺も自信があるぜっ!」

-

「さっきのは鋭いパンチだったね~バーテックスさん~腕(?)も太いしあたったら一溜まりもないわ~」

涼はそう言って高くジャンプをする。

「いきなりこうしてみるのも悪くないと....思うんだよね~!!」

涼はそう言うと力を溜め始め、涼の体が黒く光り始める。

「パワーアップした切り札をくらいなさい~!えい~~~!!」

涼はとびきり大きくなった斧を振りかざし、近距離格闘型巨大バーテックスに振り落とす。

「涼のやつ、いきなり切り札をぶっぱなしやがった....!」

「はぁ....はぁ....確かにパワーアップしてるみたいだね~....少しだけどダメージを負ってるみたいだよ~....それに....切り札を使った後の体力の消耗も少ない気がするよ~....」

それは日々の鍛練の成果でもあったし、勇者システムがアップデートされたのもあった。

「ダメだ....やっぱり通常状態じゃらちがあかない....しょうがねぇなぁ........俺が初めて満開を使うとするか!!」

金はそう言うと一旦巨大バーテックスとの距離をとる。

「本気ですか?!金っ!」

「 満 開 っ ! ! 」

金がそう叫ぶと胸の位置についている水晶の様なものと肩の位置についている満開ゲージが赤く、まばゆい光を放ち始めた。やがて金は全身赤い光に包まれ、すごい速さで上空に浮かんだ。

「うわぁ....なんだ....あれ....すごいきれいだ....」

花びらのようなものが金の周りに散っている。三人には金の後ろに大きな牡丹の花が咲いて見えた。金は後ろの花に照らされる。三人はその姿に魅了された。

「かっこいい........かっこいいよ~....金~....!」

金の後ろには大きな輪が出来ており、その周りを数個のクリスタルのようなものが浮いている。そして前髪と後ろ髪が伸び、後ろ髪は一つに縛ってあった。

金はそっと目を開け、目の前のバーテックスを睨んだ。やがて大きく光っていた牡丹の花と花びらが消える。

「お前を....倒させてもらうぞ....俺は........姉ちゃんを超える!!」

 

_________________________

 

毒のバーテックスは金に向かって毒を放つ。しかし、金はものすごい速さでそれを避けた。

「速いっ....!全然見えなかった....!」

「みんなー、バーテックスの攻撃に気をつけながら俺の戦いっぷりを見てな!」

金はみんなにそう言ってから手をバーテックスの方へかざす。

「くらえっー!」

金の周りに浮いている数個のクリスタルがバーテックスの方に向き、光線を放った。バーテックスの体はそれに貫かれる。

「へへっ!どんなもんだい!」

「すごい....効いてるよ....効いてるよ~!金ー!」

「あの破壊力....!尋常じゃありませんね....」

バーテックスも負けじとたくさんの毒を金目掛けて連続で飛ばす。

「無駄だぜっ!」

金はクリスタルから光線を放って防ぐ。そして、素早い速さで毒を避けながら急接近。

「近くで....どっかーん!だっ!」

金はそう叫ぶと少し力を込め、光線を撃つ。バーテックスはあっという間に体力を消耗したようだった。

「すごいですよ!金っ!こんな一瞬で巨大バーテックスに致命傷を負わせるなんて!」

「よ~し!負けていられないぜ!俺もっ!」

祐成はそう言うと雷のバーテックスから離れる。

「 満 開 っ ! ! 」

祐成の胸の位置にある水晶と太ももの位置についている満開ゲージが白く光り始める。

「じゃあ、俺も~!........満 開 ~ ! ! 」

涼も胸の水晶と腕についている満開ゲージが黒く光る。

「おお....偶然でしょうが白と黒で対比されていますね....この空気を邪魔したくありませんが....僕もそろそろ........

満 開 っ ! ! 」

瞬の胸の水晶もわき腹の位置にある満開ゲージも水色に光り始める。三人並んで満開をした。

「すごい....三人一斉に満開すると....すごい綺麗だな....」

金は少し遠くから三人が満開した様子を見ていた。

「力がみなぎってくる....!!」

「これから一瞬で片づけちゃうよ~!」

「あの時....あなたたち巨大バーテックスにあれほど痛い目に合わされたんですから....今日は覚悟してもらいますよ!」

「みんな乗ってきたな!よぉし、忌々しいバーテックス共よ!俺たちの勇者部魂を....思い知ると良いっ!!」

 

_________________________

 

涼の斧はさらに巨大化し、デザインも少し変わった。瞬は自分の周りに大きなブーメランが十二個、瞬を守るように浮いていた。祐成は蜘蛛に似た大きな機械のような物に乗っている。

「いきますよっ!」

瞬はブーメランに触れずに十二個のブーメランを操る。そして、ブーメランを高速回転させて自分の周りに小さな竜巻を十二個作り出した。

「竜巻という名の鉄壁の守りですっ!さあ、炎のバーテックスよ!攻撃してみなさい!」

炎のバーテックスは大きな火弾を瞬に向かって発射した。しかし、大きな火弾は竜巻に取り込まれてしまう。

「ふふふ....あなたの火弾を取り込んだ竜巻は....炎の竜巻となり、進化しました!....あなたの炎を....あなた自身で味わうといいですっ!ファイヤー....トルネード!」

瞬はそれっぽいことを叫んで炎を取り込んだ竜巻をバーテックスに当てる。

「そして....とどめです!!」

瞬はそう言って自分で二つのブーメランを持つ。するとそのブーメランはさらにまた巨大化する。

「とりゃああああああー!」

巨大化した二つのブーメランは風を切り、バーテックスの体をスライスしてしまった。

「殲....滅....!」

「瞬って........たまに中二病ぽくなるよな....中二だからしかたないか....」

「祐成!人のことは良いから自分の戦いに集中してください!」

「だってよ~こいつ弱すぎて余裕すぎなんだもん」

祐成は蜘蛛の機械に乗り、ものすごい速さで移動しながらバーテックスを切り刻んでいく。

「ほらな!こんな速いスピードで動けるし、バーテックスも全然ついてこれてない。こんなの余裕すぎて寝ながらでも勝てちゃうよ」

祐成はそう言って蜘蛛の機械の上で寝る。それを見た雷のバーテックスは祐成に向かって雷を落とす。しかし、祐成は雷をすっと避け、バーテックスに急接近した。

「だから無駄なんだって。どれだけ足掻いても今の俺には勝てないよ」

そう言った祐成は高くジャンプする。

「六本のレイピア....いや、六本の脚の突きを食らって地獄に落ちなっ!」

祐成はそう叫んで蜘蛛の乗り物でバーテックスに飛び乗り、あっという間にバラバラに切り刻んでしまった。

「満開強すぎるぜ!これならこれからの戦いも安心だな!」

その頃、金は涼の戦いを見ていた。涼はバーテックスの素早い攻撃をさっきから防いでしかいない。金から見たら攻められているようにしか見えなかった。

「涼ー!大丈夫かー!」

「まぁ見ててよ....!金!....よ~し、じゃあそろそろ....」

涼はそう言って高く空へ飛び始める。

「満開って良いよね~!....自由にすっごい速さで飛べるからロケットになった気分~!」

涼はだいぶ高い位置まで飛ぶと、そこで斧を振りかざした。

「俺の全力~!」

涼がそう言うと斧は驚くほど巨大化していく。その巨大化は止まる気配がない。

「おいおい、どこまで大きくなるんだ~!?」

最終的には巨大バーテックスをゆうに超える大きさまで大きくなった。

「くらえぇぇぇぇぇ~~!」

「待てっ!!涼!そんなの振り下ろしたら....」

金の忠告は間に合わなかった。とんでもない勢いで斧が落ちてくる。金にはそれが隕石のように見えた。

「うわあああああああああーー!!俺たちまで死ぬー!!」

 

_________________________

 

「ぅ.......いてて........はっ!!」

金は目を覚ますとそこには驚きの光景が広がっていた。樹海に大きな亀裂が入っており、さっきまでいた近距離格闘型バーテックスが跡形もなく消えていた。金が上空を見上げるとまだ涼は浮いていた。

「あ、あははははは........ちょっとやりすぎちゃったかな?」

「ちょっとどころじゃないわ!」

金が思わずツッコむ。金が後ろを向くと毒のバーテックスはまだ生きていた。

「こいつは生き残ってたか....よし!決めますか!」

金は再び宙を舞う。そして両手を前にかざすと、クリスタルが金の両手の平に光を送り始めた。

「さっきの涼みたいにならないように軽~~くね....」

金はそう言って集めた光をバーテックス目掛けて発射する。毒のバーテックスは金の赤い光りに包まれ、消え去った。

「ふぅ........勝ったな!まさか満開があるだけであの巨大バーテックスをこんなにもいとも簡単に倒せてしまうとは....」

祐成と瞬と涼が金のところへ飛んでやってきた。

「今回もやりましたね!」

「そうだね~これからこの満開が使えると思うととても心強いよ~」

「涼は力出しすぎなんだよ!」

涼は祐成にもツッコまれる。

「えへへ........ごめんごめん。まさかあんなことになるとは思わなくて....」

「でもとりあえず勝ててよかった!」

金がそう言うと樹海化が溶け始めた。

-

「........あれ....?ここ....どこだ?」

戦ってるうちに遠くのところまで来てしまったのだろうか。四人は見たこともない場所に立っていた。

「どうやらここはちょっとした山のようですね。あ!下に僕たちの街が見えますよ!」

瞬がそう言って指差す。

「本当だ~!俺の家見えるかな?」

「ここ........すごい景色だ........綺麗だな....」

金は優しくそう呟いた。ここからちょうど夕日と海と街が見える。それは一言ではとても言い表せないほど綺麗な景色であった。

「たまにここに来ようぜ」

祐成が静かにそういった。

「そうだな....見てるだけで心が自然と落ち着く....今日からここは、俺たちだけの秘密基地だ!」

金は元気よくそう言った。四人は日が沈むギリギリまでここからの風景を見ていた。

 

_________________________

 

 28.忍び寄る影

 

この話は九月の初旬のことである。

「あ~あ....最近はつまんねぇネタばっかしだな....大きな事件とかスキャンダルとか全くねーし....世の中平和すぎんだよ!」

「戸塚さん!ちょっとお話が!」

「おい、芹沢!俺のことは編集長って呼べって言ったよな?俺はもう出世したんだからよ」

戸塚と呼ばれた男は自慢気にそう言った。

「それで....なんだ?面白い内容なんだろうな?」

「はい........たった今情報が入りました....」

芹沢はそう言って戸塚の耳元で話の内容を小声で話す。

「なに....!?本当か?....よし、部屋を移そう。」

戸塚は個室に移動し、話の続きをしろと促す。

「大赦に送り込んだ我が社員が上層部の話から小耳に挟んだようなんですが....やはり戸塚さんの睨んだ通り....新しい勇者が誕生している可能性が....」

「ははっ!やったぞ!ついに掴んだ!ちょうど一年くらい前、神樹が復活したと聞いてもしやと思ったが....」

「あの時、大赦は大丈夫だと誤魔化しているかのように言っていましたが....さすが編集長です!」

「ここまで来るのに大変だったな....我が社員が大赦の信用を得るまで長い時間がかかった....あとは証拠だな!なんとしてでも証拠を得るんだ!」

「分かりました!」

そう言って芹沢は個室から出て行った。

「ふふふ....久しぶりにどでかい良い記事が書けそうだ....わくわくしてきたぞ!」

ここはマスコミ。四国新聞である。

 

(第10話に続く)



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 29.大災害

 

五回目の侵攻の翌日から大雨が降るようになった。九月ということもあったのだが、観測史上最大の台風が毎日のようにやってくるのだ。毎回前の台風を超える勢力で台風が来る。もちろん被害はひどかった。大規模な土砂崩れは何ヶ所で起こっただろうか。洪水もひどく、水が膝まで浸かるところもあった。落雷による停電や竜巻による被害....とんでもないほどのけが人と行方不明者、そして死亡者がでた。もちろん学校は休校。金たちはそんな環境の中、みんなでグループ通話をしていた。

「みんな大丈夫か~?」

「僕の家は今のところなにもないです」

「俺も大丈夫だよ~」

「俺の家は下の店が水に浸かっちまった....二階の自宅にいるけど....怖いよ....」

「祐成....大丈夫だ。いつか必ず雨は止む!」

すると急に目の前が暗くなる。

「うわっ!ついに死んじまったか!?」

「祐成違う!停電だよ!」

「どうやらみんなの家が停電したみたいだね~...」

「........涼のあれが関わっているのでしょうか...」

瞬がぽつりと呟いた。

「やっぱり....そうだよね....。俺が........」

「しょ、しょうがないさ!涼だってまさかあんなことになるなんて思ってなかったんだし!」

「だからって........さっきまでニュース見てたけど....相当ひどいぞ....場合によっちゃ....」

「やめろ!祐成!」

金がそう叫んだ。

「........とりあえず....話の続きは学校が始まってからだ....それまで電話するのはやめよう....」

そう言って金は電話を切った。雨が止んだのはそれから一週間後であった。

 

_________________________

 

 30.勇者失格 

 

やっと学校に登校できるようになった。しかし、外はまだ完全に水がひいていなかった。

「みんな、久しぶりだな!」

金は祐成に元気よく挨拶する。

「おお、金!涼!元気だったか?」

「祐成こそ大丈夫だったのか?」

「ああ、案外大したことなかったぜ!被害もほとんどなかったし!」

「それはよかったです」

突如、後ろから声がする。そこには瞬がずっと前からいたかのように立っていた。

「瞬!いつの間に....!」

「ずっといましたけど....」

瞬は目を細めてふてくされる。それを横目に涼が、

「なんかいつもよりクラスの人数少なくな~い~?」

「言われてみれば........」

確かにクラス内にいる人数は少なかった。大抵この時間にはみんなだいたい登校してきているのに....

「きっとこの雨が原因でこれない人とかもいるんだろ」

祐成がそう言った瞬間、放送が鳴った。どうやら臨時の全校集会を開くそうだ。金たちは体育館へと向かう。そこに集まっている生徒の数はやはりいつもより格段と少ない。金たちは被害の大きさを実感した。そして校長が神妙な面もちで舞台に立ち、話し始めた。

「えー今日皆さんに集まってもらったのは他でもありません。今回の台風による災害により....うちの学校からも被害者、犠牲者が大勢でてしまいました。生徒はもちろん、生徒のご家族....中には教師もです」

体育館内はざわつき始める。金たちは大きなショックを受けた。

(だからこんなに少ないのか....ってことはその分....)

「今から亡くなった方のお名前を読み上げます....」

校長はそう言って紙を広げ、名前を読み始めた。そうするとやがて、大泣きし始める者や、崩れ落ちる者、友達の名前が呼ばれないようにと祈る者もいた。それはまさに地獄絵図。名前を読み上げていく校長もとても苦しそうであった。金は涼を見ると涼は小刻みに震えていた。

そして集会が終わり、各自教室に戻っていく。体育館は悲しみの声であふれていた。そんな中、金は涼に近づいて声をかけた。

「大丈夫か?涼....」

「はぁ....はぁ....お、俺の....俺のせいだ....俺のせいでみんなが.......はぁ....はぁ....はぁ.....」

涼は頭を抱え、絶望の表情で震える。

「涼!落ち着いて!」

金は涼に近寄って背中をさする。

「大丈夫ですか!」

「おい涼!?....なんかやばいぞ....」

瞬と祐成も二人の元へ駆けつける。

「はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ....俺が....俺が....はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ....!」

「涼!しっかりしろ!!」

金が隣で叫んでも涼には聞こえていなかった。涼の呼吸はどんどん速くなっていき、荒くなっていく。

「わああああああああああっーー!!」

やがて涼はそう叫び、背中をさすっていた金を振り払う。そして体育館の出口の方へ走り出した。

「おい待てっ!涼ー!」

しかし、体育館の出口に一つの人影が立っている。その人影は涼の手を掴んで止めた。

『....!東郷先生!』

金たちは涼を止めた人の名を呼ぶ。涼は東郷をにらめつけて叫んだ。

「あああーー!離せっ!離せよ!俺を止めるなっー!」

それでも涼は暴れて外に逃げようとする。

パンッ!

鈍い音が体育館に響く。東郷が涼に平手打ちしたのだ。涼は地面に倒れ込んだ。

「あなたの気持ちもわかるけど....暴れて自分勝手なことをするのはやめなさい!」

金たちはその場から見守る。

「あなたにはこれから....大赦に来てもらうわ....」

「ちょっと待ってください、東郷先生!なんで涼だけなんですか!」

金が遠くから叫んだ。

「.......わかりました」

少し冷静さを取り戻した涼はゆっくりと立ち上がりながらそう答える。

「待って!涼は悪気があったわけじゃない!」

金はあとを追いかけようとするが瞬と祐成に止められる。

「!!....なんでっ!?」

「今は....東郷先生に任せておいた方がいいですよ....」

「ああ....俺たちがいてもかえって邪魔なだけだろうしな....」

 

_________________________

 

放課後。金たちは夏凜と園子と一緒に部室にいた。部室はシーンと静まり返っている。少しすると東郷のみ部室に入ってきた。

「!東郷先生!涼は....?」

祐成が立ち上がり、真っ先に聞く。

「今から涼くんについて話すけど....その前に、あなたたち全員満開したらしいわね....?」

「はい、そうですが....?」

「えっ....全員....!?」

後ろの夏凜が目を見開いて驚く。

「何か問題でも....?」

夏凜の反応が気になった瞬が尋ねるが、

「その話はまた後よ。確認が取りたかっただけだから。今はとりあえず....涼くんの話よ」

東郷が涼の話題に戻すと部室は緊張した空気が流れる。

「涼くんは........勇者をやめることになったわ」

「えっ....」

瞬と祐成は絶句する。

 

ドンッ!

 

今まで黙っていた金が机を思いっきり叩き、顔を下げたまま東郷に聞いた。

「それが....大赦の出した答えですか....?」

「いいえ、違うわ。大赦は今回涼くんが起こしたことについて警告だけで済ませたわ。けど....涼くんは自分から勇者をやめたいと言ってきたの」

「そんなの、大赦が涼に自分からやめるように仕組んだんじゃないんですか!?」

祐成が興奮して聞く。

「いいえ!それは決してないと心から言えるわ!本当に....涼くん自ら言ったのよ...」

「.......涼に会わせてください」

金は静かにそう呟く。

「それはできないわ。今....涼くんは話がとてもできないほど精神が不安定で....」

「それでもいいです。会わせてください」

「でもね....!」

止めようとする東郷に対し、金は彼女の方を向いて強く訴える。

「東郷先生!俺の親友が苦しんでるんですよ....!放っておくことなんてできません!」

「それでも!涼くんは大赦が....!」

「東郷先生なら分かりますよね?....もし涼が友奈さんなら、東郷先生は誰がなんと言おうとすぐに飛んでいくはずです!」

「........!」

「涼のそばにいさせてもらうだけでもいいんですっ!お願いしますっ!」

金は熱意のこもった声で頼み、東郷に向かって頭を下げる。

「........わかったわ....じゃあ、金だけね....」

「!....ありがとうございます!」

そう言って東郷と金はそそくさと部室を出て行った。

「さすが金だ....東郷先生を説得しちまった....」

「さて....僕はあなたに聞きたいことがあります、夏凜コーチ。全員が満開したということを聞いて驚いていましたよね?」

「........」

「園子先生は寝ていますし....話していただきますよ」

 

_________________________

 

コンコン

 

「涼、入るぞ」

金はそう言って東郷に案内された部屋に入る。涼は大赦のある一室に一人ぽつんと座っていた。涼は窓の方をずっと向きながら言った。

「金~悪いけど今は一人にさせてくれないかな~」

いつもの口調だが何か違う。金はすぐに分かった。

「それはできないな」

金は淡々と答える。

「その言葉は嘘だ。親友の俺の目は欺けないぞ?本当は....」

「一人にしてくれって言ってるだろ!!」

「....!!」

話を遮るようにして涼は大声でそう言った。普段はおっとりして大声を滅多に出さないため、金はとても驚いた。すると涼は両耳を強く塞ぎ、体が小刻みに震え始める。

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい........お願いだから許してください許してください許してください許してください許してください....!」

(涼.....?)

「金まで俺を責めるの....?金だけは信じてたのに....金だけは....お願いだよぉ....許してよぉ....ぅぅ....ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい....こんなに謝ってるじゃないか....ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

「おい涼!俺は何も言ってないぞ!」

東郷は涼の精神状態がひどいと言っていたが、金はここまでとは思ってもみなかった。

「........」

恐怖に震える涼に金は少しずつ近づいていく。

「!!なんでこっち来るの....?な、何をするつもりだ....!こんなに、こんなに、こんなに....謝ってるじゃないか!来ないで....近づかないでぇっ!」

涼は絶望した顔で金を見て席を立ち、金から遠ざかる。それでも金は涼に近づくのをやめない。すると金は涼を強く抱きしめた。

「........本当は....こうして欲しかったんだろ...?誰かに寄り添って欲しかったんだろ?一人で戦って...孤独で...誰も助けてくれない....それがつらかったんだろ?....でも大丈夫だ。俺がいる。俺はいつでも涼の味方だ....!」

涼の耳元で金は優しくそう言った。涼の目から涙がこぼれる。

「........ぅぅ....ぁ....ずっと怖かった....耳をどんなにふさいでも聞こえてくるんだ....この災害で死んじゃった人たちが俺を恨む声が....大赦の人たちも....東郷先生もみんな敵に見えて....俺のことを悪く言うのが聞こえた....ぅぅ........ぁぁ........」

「怖かったな....涼....」

「金っ....金っ....!怖かったよ....!恐ろしかったよ....!」

それからさらに涼は話す。

「だから....俺は勇者をやめる....!もともとはこの世界の人たちを守るために勇者になったのに....俺が調子に乗ってあんなことしたせいで....たくさんの人が亡くなってしまった....たくさんの被害を出してしまった....俺は許されないことをしたんだ....人殺しだ....勇者.......失格だ!!」

「........そう思ってるんなら....なおさら勇者になれよ!」

「えっ....?」

金の意外な答えに涼は困惑する。

「自分のせいで大勢の人が亡くなってしまったって思ってるなら勇者にならなきゃダメだ!お前が勇者を辞めれば勇者は三人になる。お前はあんなに強いんだから大きな戦力ダウンだ。三人だけじゃ勝てなくて、負けたとしたらこの世界はバーテックスによって壊されてしまうかもしれない....ってことはだな、またお前は後悔するんだよ!あのとき勇者を続けていればって!戦い続けていればって!」

「........!」

「....それに...亡くなった人たちの家族はまだ生きてるんだ....その人たちが死んでしまったら、それこそ本当に恨まれるぞ....?」

「........ぅぁ........そうだね....金の言う通りだよ....俺はどこまでもバカだ~....ごめんね金....」

涼は金に抱きついたまま大粒の涙を流す。金は涼を優しく抱いたまま涼が満足するまでそうしていた。

 

_________________________

 

 31.満開の秘密 

 

金と涼は二人で部室に戻ってきた。

「....!涼....!お帰りなさい!待ってましたよ....!」

「ったく....遅刻だぞ!」

二人はいつものように涼を出迎えた。

「........二人とも....心配かけてごめんなさい....」

いつものように迎えてくれた二人に感謝し、涼は涙を流しながら頭を下げる。

「それでさ、涼、勇者続けるってよ!」

「........」 「........」

「?どうしたんだよ?そんな顔して....」

勇者という言葉を出した瞬間、祐成と瞬の顔は暗くなったことに金は違和感を覚えた。

「実は....満開のことについて詳しく教えてもらえてなかったことがあったんです....」

「え....?」

瞬の発言に金は首を傾げる。

「あなたたちは東郷と風から一回しか満開できないと聞いたのよね?」

「そうですけど、夏凜コーチ....それが何か?一回の侵攻に一回ですよね?」

「はぁ........やっぱりそこが食い違ってたのね....」

「え....違うんですか....?」

金はまさかと顔が青くなる。

「私たちの頃は一回だけ....樹海化のたびにとかじゃなくて全体で、よ....」

「....!!ってことはもう俺たちは満開もできないし精霊のご加護もつかないんですか!?」

「........」

夏凜は口を開かずに、ただ頷いただけだった。

「........そんな....なんで風さんたちはそこら辺のことをもっと詳しく教えてくれなかったんだ....」

すると部室のドアが開き、偶然にもちょうど風が入ってきた。

「....!風先輩....ちょうど聞きたいことが....」

「私も話すことがあって来たわ」

 

_________________________

 

「どうやらみんなの顔からして....夏凜からあの話を聞いたらしいわね....」

「風....どうするのよ....これはあんたたちのせいじゃないの?あんたたちが金たちに細かく説明しなかったから....」

「....私も説明が足りなかったと思ってる....そこは謝るわ....涼くんから全員満開したって聞いてすぐに伝え忘れてた付け足しの説明しなきゃって思って今日は来たのよ」

「....今来たって....遅いですよ....!」

瞬がそう言って風に近づく。

「プッ........フフフ....アハハハハハハハハ!!」

『!?』

風が急に笑い始めた。

「ど、どうしちゃったんですか....?風さん....」

「まさか風....絶望的な状態になっておかしくなっちゃったの....?」

「フフフハハハハ........ごめんごめん!違うわよ!みんなの真剣な顔を見てるとなんだかおかしくなっちゃって....フフフ....」

「何がおかしいんですか!」

金が腹を立てて怒鳴る。

「........私たち大赦がこの12年間....何もしてないとでも思った?」

「........え....?」

「バーテックス共が進化しているように大赦の技術も大きく進歩した。解釈は金太郎くんたちので合ってるわ....」

「それってつまり....」

「樹海化が起こる度に満開ゲージは満タンまで溜まる....満開ゲージが貯まったままバーテックスに勝利し、樹海化が解ければ現実世界でも精霊があなたたちを守ってくれるし、戦いで満開したらまた樹海化するまで満開ゲージが溜まることはないわ」

「ってことは....前の樹海で満開した今の俺らには精霊バリアがついていないのか....現実世界でのケガとかには気をつけないとなぁ....」

「それでも....。ほっ....とりあえずは良かった~....」

「何で私たちにそんな重要なことちゃんと説明しないのよ!」

夏凜が怒って風を問いただす。

「ごめんって!ついうっかりしてたのよ~東郷にもさっき教えたわ」

「....さ、さっき....!?」

現役勇者たちは腰が抜けたようにそのまま地面に座り込む。

「ど、どうなるかと思いました....」

「寿命が縮んだぜ....」

「でもこのことを知れたおかげでバンバン戦えるぜ!」

「それでも危険だよ~....金~」

「.......あれ~....いつの間にか涼くんが戻ってきてる~....?....ってあれ、にぼっし~!大丈夫~?」

「全く....風は人騒がせで園子はのんきすぎるわ....もう私疲れた....」

「夏凜コーチから初めて疲れたという言葉を聞いた....!」

 

(第十一話に続く)



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受け継がれし国防の精神

 

 32.二代目国防仮面!

 

10月ももう終わろうとしていた頃。金はこの日、珍しく朝早くに起きており、テレビのニュースを観ながら朝食をとっていた。

「朝早く起きるのも悪くないかもな....」

そんな言葉を呟きながら白米を口いっぱいに放り込む。するとテレビから、

「続いてのニュースは、二代目国防仮面と名乗るヒーローが逃亡中だった泥棒を捕まえました。実際の映像がありますのでこちらをご覧ください。なお、この映像は警察が到着した直後の映像です」

アナウンサーがそう言って映像が流れる。

「国を護れと人が呼ぶ!愛を護れと叫んでる!我が名は憂国の戦士、二代目国防仮面!警察のみなさん!人の物を盗んだこの悪党は僕が捕まえました!僕は人が困っているところにできるだけ現れます!恩などいりません。それではまたどこかでお会いしましょう!」

二代目国防仮面と名乗ったその人物はそう言って画面上から消えた。

「ほえ~....国防か....瞬や東郷先生みたいな人が他にもいるんだなぁ....しかもこんな目立つ&勇気のいる行動をして....」

金は若干ひき気味にそう言う。

「続いては今話題の人気歌手....」

話題が切り替わった瞬間に突然テレビが消える。

「あっ!兄ちゃん!消さないでよ!今から俺の好きな歌手さんが出るところだったのに~!」

「金太郎....時計を見ろ」

「でっ....!もうこんな時間!?」

鉄男は金に時間のことだけ伝えるともう外へ出てしまった。

「ちょっと待ってよ、兄ちゃん!....姉ちゃん、今日も行ってきます!」

金は毎日のルーティーンを忘れずに行い、バックを持って外に出た。

-

「なぁなぁ、今日のニュース観たか?二代目国防仮面ってやつ!」

「ああ!観たぞ!すごいよなぁ....あれ....」

「俺も観たよ~感心はしたけどあれをするには勇気もそれなりに必要だよね~....」

涼はあれから少しずつ元気を取り戻していた。が、まだ『完全』とまではいかないようだ。

「あれ?瞬は?」

「それがね....まだ来てないんだ....」

「え!あの瞬が~?休みなのかな~?」

そんな話をしていると突如、勢い良く教室のドアが開いた。

「はぁ....はぁ....何とか間に合いましたね....」

「瞬!今日は珍しく遅かったなぁ....なんかあったのか?」

金が瞬に聞く。

「あ、い、いや、特に何も....ちょ、ちょっと寝過ごしちゃっただけですよぉ!」

「むむむ........なんか怪しい~....」

「何が怪しいって言うんですか!僕だって寝坊くらいするときだってありますよ!」

この日の瞬の荷物はやたら多かった。

_________________________

 

「さぁ、今日も元気よく部活!....と言いたいところですが...今日は僕、用事があるので先に失礼します」

「えっ?用事?今までにそんなことなかっただろう」

「うっ....!い、いやまぁ、東郷先生に呼ばれたんですよ~何の話かわからないですけどね~...」

「東郷先生ならまだ学校にいるんじゃないか?」

「い、いや、でも東郷先生に呼ばれたのは本当ですよ~!そ、それじゃまた~.......」

瞬はいつもより多い荷物を持ってそそくさと部室を出て行った。

「ん~........なんか怪しいね~....」

「今日は九月にやる予定だった保育園訪問の最終的な話し合いだったのに....こんな重要な日に東郷先生も瞬を呼ぶかなぁ?」

「よし!部長の瞬がいないんじゃ話にならない!今日は瞬を尾行するぞ!」

「尾行!?本気で言ってんのか?!金!」

「尾行!おもしろそう~!一回やってみたかったんだよね~」

「じゃあ決まりだな!」

「おい、俺はまだいいとは言ってないぞ!」

なんだかんだ言って金たちは瞬を尾行することになった。瞬は商店街の中に入っていく。金たちはそれを追いかける。

「東郷先生に呼ばれたって言ってたけどどこで待ち合わせなんだろうな?」

「もしかして東郷先生の家かな~?」

「そういえば東郷先生の家ってどこにあるか知らないな。夏凜コーチの家と園子先生の豪邸は知ってるけど....」

三人はそんな話をしながらバレないように瞬のあとをついて行く。金たちは通行人から変な目で見られていた。すると瞬は携帯を手に取り、誰かと電話すると一目散に走り出した。

「うおっ!?なんだ?急に走り出したぞ!」

「祐成、涼、走るぞ!」

-

「はぁ....はぁ....あれ?見失っちゃった~....?」

「クソッ!ここまで来たのに....!」

「いや、まだどこか近くにいるはずだ。探すぞ!」

「そこまで熱心にならなくても~....」

「気になるだろ!涼!」

「いつになくまして熱いね~....金~....」

三人は諦めずに歩き始めた。すると前に人だかりができているのを見つける。

「なんだ?あれは?」

金たちも人混みの中に入っていくとその奥には店に入った強盗ともう一人の人物が対峙していた。

「あ、あれは....!」

祐成が目を見開いてそう言った。その先にいたのは....

「観念しろ!店の商品を奪った悪党よ!この二代目国防仮面がやってきたからには逃げられないぞ!」

「うおおおお!!国防仮面だ~!こんなところで会えるとは....!」

祐成は目をきらきらさせて二代目国防仮面をみる。

「お前....国防仮面のファンだったのか....?」

「だってかっこいいじゃん!正義の味方って感じで!男心がくすぐられるぜ~!」

「祐成らしいっちゃ祐成らしいね~....」

そんなことをのんきに話していると強盗が二代目国防仮面に向かって叫ぶ。

「へへっ!なめてもらっちゃあ困るな....お前みたいなヒーローを名乗るオタクにゃあ負ける気がしねぇ!逃げ延びてやる!」

「ヒーローでもオタクでもないっ!正義の味方だ!」

「うるせぇ!どうでもいいわ!そこどけぇ!」

強盗は二代目国防仮面に向かってタックルしてきた。

「通さないぞ....!」

国防仮面はどこからか木製のブーメランを2つ出し、向かってくる強盗に対して構えをとった。

「........!あの構え....!」

それを見た金は見覚えのある構えに反応する。

「ははっ!ブーメランなんかで倒そうって言うのか?笑わせてくれるぜぇー!」

「たぁっ!」

一瞬。二代目国防仮面はブーメランを素早く振った。

「うおおおっ!?」

強盗はその場に倒れ込む。強盗自身も何をされたか分からなかった。

「今の一瞬で足と急所をうちました....じゃなくて!足と急所をうったんだ!」

二代目国防仮面は倒れた強盗を縄で縛る。そしてそれを見ていた多くの人が歓声をあげた。

「やっぱりかっこいい~!国防仮面~!!」

祐成は他の人に混ざって歓声をあげる。

「なぁ....涼....あれって....」

「そうだね~瞬だね~敬語使ってないし声も少し変えてたからすぐに気づかなかったけど~」

「国を護れと人が呼ぶ!愛を護れと叫んでる!我が名は憂国の戦士、二代目国防仮面!それではみなさん!またどこかでお会いしましょう!」

そう言ってどこかに走り去ってしまった。

『国防仮面~バンザ~イ!!』

野次馬たちはそう言って二代目国防仮面を見送った。

_________________________

 

「今日は何の用でしょうか?風先輩」

東郷は風に大赦に呼び出されていた。

「東郷....何....これ?」

風が新聞の小さい一面を指差し、東郷に見せる。

「『二代目国防仮面』って....絶対あなたが関わってるわよね....?」

「い、いいえ!わ、私は何も知りません!きっとあのときの私を見て憧れを持った人が真似してるんですよ!」

「そこまで有名にならなかった国防仮面を十二年越しに誰が真似するって言うのよ....正直に言いなさい、東郷....」

「だ、だから私は....」

「東郷!!」

「ひっ!........わかりました....実は....」

-

「なぁ!瞬!昨日国防仮面に会ったんだぜ!俺たちの目の前で強盗を捕まえっちゃってさぁ~!すごいかっこよかったんだよ~!」

「そ、そうなんですか~....僕も見てみたかったです~....」

祐成の勢いに瞬は押される。

「国防仮面は十二年前にもいたらしいぜ。だから二代目なんだろうな。あっそうだ、それで?昨日はどこ行ってたんだ?」

「へっ!?ああ、東郷先生の自宅ですよ~!」

「なんの話をしてたんだ?」

「個人に関することですから祐成には関係ありません!ささ、授業始まりますよ!」

-

今日の放課後。今度は部室自体にすら瞬は来なかった。

「あいつ....今日は何も言わずに部活に来ないなんて....何かあるな....部長のくせに勇者部六箇条を破ってるんじゃないか!」

祐成は頬を膨らませながら怒る。

「きっとあれだな....」

「あれだね~....」

そんな祐成を片目に、金と涼は向き合ってそう小声で言った。

「二人とも!なにのんきに意味わかんないこと言ってるんだ!」

「もしかして....祐成は気づいてないのか?いつも一緒にいるのに?」

「えっ?なんのことだ、金?もしや、なにか瞬のことについて知ってるのか?!」

祐成が金の顔に近づいて問いただしていると金の電話がなる。

「おっ。東郷先生だ」

金は電話に出る。

「みんな、至急私の家に来てちょうだい。私の家で話したいことがあるわ。私の家の位置は部室の机の上にある地図に書いてあるわ。それじゃ、よろしく。今すぐね!」

「ちょっ!?東郷先生!?」

東郷は一方的に伝え、すぐに電話が切れた。

「一体どうしたんだ....」

「本当だ~この地図のここに丸つけてあるよ~」

「って涼!電話の内容聞こえてたのか!?」

「東郷先生は絶対なにか瞬のことについて知っているに違いない!よし、いくぞ!」

祐成は地図を持って部室を出て行こうとする。

「東郷先生....なんか妙に用意周到だな?まるでこうなることがわかっていたかのような....」

金は東郷の行動に不信感を募らせる。

「はっ!もしや....」

金は記憶を巡らせる。

(瞬....いや、あの国防仮面とやらは二代目と言っていた....つまり、初代がいる?瞬は東郷先生ととても仲がいいし、二人とも国への愛がすごい....)

「そういうことか....!」

「金も気づいた~?」

「えっ?」

「十二年前にも国防仮面と名乗る正義の味方がいたんだってさ~髪の長さと声からして女性だったとか....ある日急にいなくなっちゃったみたいだけどね~」

「十二年前....女性....東郷先生が中学二年生だった頃!しかもちょうどお役目を果たしていた頃だ!」

「そう!東郷先生と特徴も合うし、つまり今回の出来事はすべて........」

「涼!そのこといつから気づいてたんだ!?」

「フッフッフ~....内緒だよ~」

そんな会話をしながら金と涼は急ぎ足で東郷の家へと向かう祐成を追う。

_________________________

 

「この地図だと....あの家だな!」

祐成が指を指す。

「ん....ちょっと待って!なんか怪しい人物が~!」

涼がそう言うと東郷の家の前に全身黒ずくめの黒帽子とサングラス、マスクをした黄色の長髪の人物が中を覗いたりうろちょろしていた。

「こ、こういうときは警察....!」

祐成がそう言って端末を手に取る。するとそこに

「人の家の前で何をしている!」

「はっ!この声はもしや....!」

祐成が声のした方向を見る。そこには日に照らされて仁王立ちする人物が一人。

「やっぱり!あれは国防仮面~!!」

「国防仮面かどうか声で気づいたのに瞬だということは気づかないのか....」

金は二代目国防仮面に釘付けの祐成を見てぽつりと呟いた。

「国を護れと人が呼ぶ....愛を護れと叫んでる....憂国の戦士、二代目国防仮面!ここに見参!」

「うほほぉぉぉぉ~!!何度見てもあの名乗りと佇まい....かっけ~~!!」

「ぬ、ぬうう~....なんだ貴様は~!」

「お主....今この家に盗みに入ろうと企んでいたな....?」

「う........逃げろ~!」

「あっ....!こら、待ちなさい!」

全身黒ずくめの人物は二代目国防仮面とは真反対の方向に逃げ出した。逃げた先には金たちがいる。

「うわわ~~!こっち来たぞ~!どうするどうする!?」

祐成は慌てふためく。すると、金たちの目の前に黒い人影が一つ。

「!?へっ!?一体....?」

祐成は戸惑った。

「国防仮面が....二人!?」

「ぬ、ぬうう~....またなんだ貴様は~!」

「国を護れと人が呼ぶ!愛を護れと叫んでる!憂国の戦士、初代国防仮面!ここに見参!」

「しょ、初代~!?」

祐成は驚き、思わず腰を抜かしてその場に尻餅をつく。

「やっぱりな。何かこのシチュエーションおかしいと思ったら....」

「うん、これは東郷先生だね~」

金と涼はジト目で成り行きを見守る。祐成には金と涼の会話はまるで聞こえていなかった。

「観念しなさい!悪党よ!お前にはもう、逃げ道はない!」

初代と二代目は挟み撃ちをする。

「え、ええい~~!強行突破だ~!」

黒ずくめの人物はまた方向を変え、今度は二代目の方へ走る。

「逃がさないぞ!」

二代目はいつの間にか縄を持つとどこからかロープが出てきて黒ずくめの人物の体を縛った。

「な、なんだこれは~!一体どこから~!?」

「フッフッフ....我が縄の呪縛にかかったな....これでもう動けまい!」

「す、すごいっ!!一瞬で捕まえた!ここからでもどうやったか分からなかったぜ!!さすが国防仮面ー!」

「前、瞬にロープマジックを教えて欲しいって言われたのはこれがしたかったからか~」

「それだけじゃないぞ涼。強盗の方も....あの口調....髪色....」

「うん、あれは園子先生だね~」

祐成は二人の国防仮面に近寄る。

「お願いします!サインと、握手してください!」

「ちょっと待ったー!」

国防仮面と交流を交わそうとする祐成を、金は大声で止めた。そして続けてこう言う。

「東郷先生、園子先生、瞬!三人そろってなんでこんなことしてるんですか!」

「えっ....?東郷先生....?園子先生....?瞬....?何言ってるんだ金....?」

「そ、そうよ!東郷なんて人知らないわ!」

「ぼ、僕も初耳です!....じゃなくて....初耳だ!」

祐成は三人を睨めつけ、そして身動きができない黒ずくめの人物に近寄る。

「な、何をするつもりなんよ~!?」

祐成はロープで縛られている黒ずくめの人物の帽子とサングラスとマスクをはぎ取った。

「....!?園子先生....!」

「........あはは~........ついにバレちゃったね~....」

「園子先生....何してるんですか!東郷先生の家に盗みに入ろうだなんて!園子先生の家は立派でお金持ちで困ることなんてなかっただろうに........!ショックです....!」

「祐成ちが~う!そうじゃな~い!」

「えっ?違うの....?」

祐成は涙ぐんだ顔で金の方を向いた。

「まさか....こんな感じでバラさなきゃいけなくなるなんてね....」

「金と涼は....だいぶ前から気づいてたみたいですね....」

二人の国防仮面はそう言って顔を隠していた目のマスクと帽子をとる。

「........えっ....!?そんな....!?」

祐成はこの世の終わりのような顔をして驚く。

「二代目国防仮面は瞬で、初代国防仮面は東郷先生~!?」

「本当はこの後、私たちがバシッとかっこいい感じてバラしてみんなが驚くのを見たかったんだけど....」

「すでにバレていたとは....」

「いや、バレバレですよ....」

「祐成が鈍感なだけです~」

「なんだよお前ら....気づいてたのかよ....」

悲しんでいたかと思ったら祐成はすぐに立ち上がり、

「でも!瞬があんなかっこいい勇気のいることをやっていたなんて尊敬するっ!やっぱりお前はすごいよ~!!」

祐成は瞬の両手を握ってぶんぶん振った。

「あ、ありがとうございま~すぅ~」

両腕を思い切り振られ、瞬はふらふらになる。

「もちろん、これをみせるためだけに私の家に呼んだわけじゃないのよ。みんな、どうぞ中に入って!....ようこそ、東郷家へ!」

(第十二話に続く)



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国防布教!

 

 33. 保育園訪問 

 

金たちは東郷家の和室に入った。園子、東郷、瞬、それから涼、金、祐成の三人ずつで机を挟み、正座で向かい合って座った。

「東郷先生たち....その格好のままやるんですね~....」

「それで....なんですか~....?」

「みんなに頼みがあるの....今日そこで国防仮面による短い劇をやったのは正体を明かしたかっただけじゃない....明日の保育園訪問で国防仮面によるぱふぉーまんすをやりたいと思ったからよ!」

「そうですか........へっ!?国防仮面によるパフォーマンス!?」

「そう、国防体操よ!」

東郷はビシッとガッツポーズしてそう言う。

「国防海藻だか国防体操だかわかりませんがさすがにちょっと....もう時間いっぱいにスケジュール決めちゃってるんですから!」

「俺はいいと思うけどな~....面白そうだし!」

「俺も賛成だぜ!国防仮面たちによるパフォーマンス....男心がくすぐられるぜ....!」

「二人ともよく考えて!今からやってもな........はっ!」

賛成する涼と祐成に対し、金は重要なことに気づく。

(こ、これ....よく考えたらもう半強制だろ!たとえ俺たち三人が反対したとしても....向こうは顧問と部長....!勝てるわけがない....権力の塊だ....!)

「や、やるんだとしたら....なにか本番で削るものは決めてるんですか....?」

金は一度落ち着いて当日の予定をどう変更するのか問う。

「はい。みんなで歌う時間を削ります」

瞬が眼鏡をなおしながら即答した。

「うう........それなら、まぁ....い、いいですよ......」

金は渋々OKすると....

「やったわ!瞬くん!」

「やりましたね!」

「なんだか懐かしいね~....」

向かい側の三人は手を取り合って小さい子どものようにはしゃいで喜んだ。

「そうね、そのっち。あのときはやりすぎだって安芸先生に言われたけど今回は違うわ!だって私が先生、私が顧問だもの!ウフフ....!」

「ただ~し!条件があります!」

そんな三人を制して金が立ち上がりながらそう叫ぶ。

「な、なにかしら....金....?」

「決して俺たちを巻き込まないで三人だけでやってください!」

(ふふ....これなら恥ずかしくてさすがにやめるだろう....)

しかし、金の思惑も虚しく....

「分かったわ!」

東郷は自信ありげにそう言った。

(即答!?確かにあんな事を外でやったから当たり前っちゃあ当たり前か!)

「いい歳してそんなことして恥ずかしくないんですか~?」

(毒舌だがいい質問だぞ!涼!)

「でも........ナレーションだけ金にお願いできるかしら....?」

(涼の質問無視した!?)

「巻き込まないって約束じゃないですか!そ、それは園子先生に頼んでくださいよ!」

「ごめ~ん!明日は出版社との大事な打ち合わせがあるんだ~....」

「そ、そうなんですか....ぐぬぬ....ま、まぁ....ナレーションだけならやってあげても....」

「まぁ!本当!?ありがとう!」

「やっぱり金はそんなこと言ってても結局は優しいですからね!....よし!これで全力で頑張れそうです!」

「と、特別ですよ....!」

「ツンデレの金もいいね~」

「うるさい!涼!」

「やれやれ....本番は明日だっていうのに間に合うのかね~....」

祐成は眠そうにそう呟くのだった。

_________________________

 

ついにやってきた保育園訪問当日。金たちは準備万端....とは言えなかった。

(あぁ~ついに当日がきちゃったぁ~....前日にいきなり『ナレーションやれ』なんてどうかしてるよ~....!........いやいや!大丈夫だ、大丈夫!俺は言われた通りに台本を言えば良いだけだし、あとは音楽を流すだけだ!)

金は心の中でそう思って自分の頬を両手でパシリと叩く。

「燃えるわね!瞬くん!」

「はい!子供たちに国防の素晴らしさを教えてあげましょう!」

(なんで二人はあんなに余裕そうなんだ~!)

「園長先生、お久しぶりです。いつも勇者部一同お世話になっております。今回もよろしくお願いします」

東郷はこの園の園長に丁寧に挨拶する。

「やっぱりここには昔からお世話になってたみたいだね~」

「いや~、見るだけとしては、楽しみだなー!」

「こっちの二人ものんきでいいよな....俺はいきなり仕事が増えたんだから不安で仕方ないってのに....」

「大丈夫だよ~、金~!金ならできる!金ならできる!」

「ぅぅ....涼~!ありがとう~!」

金はそう言って涼に飛びついた。金たちはこの日、園児たちとちょっと外で遊んでから人形劇と国防体操をやる予定であった。

「うっ........はっ........!?」

「どうかしましたか!?東郷先生!」

瞬がやたらオーバーに東郷を心配する。

「よりによってこのタイミングで....神託が....きたわ........」

『えっ!?』

「いつですか!」

「今日の夕方頃....ちょうど保育園訪問が終わる頃かしら....」

「........今日....!」

「じゃあ少なくとも今日の保育園訪問は問題なくできるってことですね!良かった~」

「そうだな、金!せっかくここまで準備してきたのにドタキャンなんてしたくないしな!」

「相変わらず僕たちの考えはポジティブですよ、東郷先生!」

しかし、それでも東郷の顔は明るくならない。

「?そんなに不安ですか~?」

「........違うわって言いたいところだけど....今回のバーテックスは一味違う強さみたい....」

「えっ....?それって....」

「まだ最後の戦いじゃないみたいだけどもう残りわずかって感じね....みんな....気をつけて....!」

『........』

_________________________

 

「さて、次はお兄さん達が三匹の子豚の人形劇をやってくれるみたいですよ~!」

「みんな~!三匹の子豚って知ってるかな~?」

『は~い!!』

「おっ、さすがだね~!それじゃあ早速、三匹の子豚の始まり始まり~!」

(さすが涼だ....いつも通り子供たちの心を鷲掴みだ!そういえば前....たびたびやるこの保育園訪問のおかげで保育士さんになる夢を見つけたって言ってたっけ....)

金は隣で楽しそうに人形劇をやる涼を見て、微笑んだ。

東郷もまた、彼の人形劇を見て感心する。

(なかなかの演技力ね....友奈ちゃんがいた頃と良い勝負だわ....)

-------

人形劇も終盤を迎え、瞬が一人、舞台裏へやってきた。

「そろそろ準備です。東郷先生!」

「........ぁぁ........ぁぁ........」

「東郷先生?どうかしましたか?」

「衣装が....衣装がない....家に置いてきてしまったわ....」

「ええ~~!!なんですって~!!」

瞬は園全体に響きわたるほどの声を出す。

「なに~?今の声~?」

園児の一人が大きめの声でそう言う。

「あ、ははは....きっと狼さんが熱々の鍋に入れられちゃったことに誰かが驚いたんだよ~....」

いくら涼でも苦しい言い訳だった。

(....ったく瞬!何があったって言うんだ!あんなでかい声出して....!)

それでも金たちは人形劇に集中する。 

---

「どうするんですか!?もう僕たちの番来ちゃいますよ!いっそ僕だけでやりましょうか?」

「いいえ....そういうわけにはいかないわ....」

「えっ....じゃあ....」

「家まで取りに行ってくるっ!」

そう言って東郷は園を飛び出してしまった。

「そ、そんな....僕はどうしたら....!ここから東郷先生の家まで走ってどれくらいか....」

すると金たちが舞台裏に帰ってきた。

「おい!なんだよ今の叫び声は........って、まだ着替えてないのか!?東郷先生もいないじゃないか!」

「東郷先生....衣装忘れたって言って家に戻っちゃいました....どうしましょう....」

『ええ~~!!今から戻った~!?』

今度は三人そろって叫んでしまった。

「おっと、やばい....向こうに聞こえる....」

「しょうがない....俺が時間稼ぎするよ~!」

「....!!涼!ありがとうございます!」

涼はどこからか愛用のマジックセットを取り出した。

「いつも持ち歩いてるのか、それ....?」

「ゆうくん....備えあれば憂えなしなんよ~」

「園子先生風に言うなっ!」

「瞬~!いつ東郷先生が来てもいいように着替えておいて~!」

「わかりました!本当に感謝します、涼!」

涼はそのまま再び舞台へ出て行った。祐成と瞬は涼のとんでもない対応力に驚く。

「なんでこんなことに........う........胃が........」

金はまさかのアクシデントで胃を痛め、腹を抱える。

_________________________

 

「あっ、見て!東郷先生来たぞ!」

祐成が窓の外を指差して言った。

「はぁ....はぁ....すぐに着替えるわ!」

「ちょっと!ここで着替えないでください!」

金は東郷を別の部屋に案内する。

「えっ~と....次は....次は....ですね....」

園児たちもマジックに飽きてきており、涼のやる気は削がれていく。もうネタもない。

---

「涼もヤバくなってきた....。まずいな、早く....ってあれ?!瞬いないぞ!」

金があたりを見渡しても舞台裏にいたはずの瞬の姿が消えていた。と、その時舞台上から

「やい!そこの怪しい格好をした男め!」

「わたくしどもが成敗してくれるっ!」

と、聞こえてくる。早急に準備を終わらせてあっという間に舞台に出ていたのだ。

「えっ!?俺、悪者!?」

(ちょっと!国防体操踊るだけって話だったのに全然違うじゃないですか!!........どうナレーションすれば....)

舞台裏の金とマジックを披露していた涼は困惑する。

(くっ....向こうもアドリブだ....だったらこっちもアドリブで....対応するっ!)

「フッフッフッ....実は俺、この子たちの笑顔を奪いに来た怪盗Rなのだ~!」

涼はそう言ってマントを使って口を隠す。

「怪盗Rだって?!」

「そんなことはさせないぞ!」

(涼までこの乗りに乗り出した~!?どうしよう、どうしよう........ちょっ!?東郷先生、瞬、そんな顔でこっち見ないで~!)

東郷と瞬は金に対してアイコンタクトをはかっていた。

(アドリブよ!金!)

(金ならできます!)

(........くそっ!ええ~いっ!やけくそだっ!やってやる、やってやるぞ~!!)

金はそう心に決心すると舞台に飛び出る。

「みんな~!あの人たちは国防仮面と言って、君たちを護ってくるれるヒーロー....じゃなくて正義の味方だ!国防仮面を応援しよう!せーのっ!国防仮面!国防仮面!」

『国防仮面!国防仮面!』

「はっ!みんなの力が伝わってくる....!」

「これなら、勝てる....!」

「くらえ~!トランプ手裏剣~!」

涼はさっきマジックで使ったトランプを手裏剣の如く投げる。

「トランプと手裏剣を組み合わせるなど....」

「言語道断だっ!」

二人は軽やかなステップでそれをかわし、瞬を一瞬のうちにして捕まえた。

「ぐ、ぐえぇ~....やられた~....」

『やった~!勝った~!国防仮面~!』

「国を護れと人が呼ぶ....」

「愛を護れと叫んでる....」

『我らは、憂国の戦士!国防仮面!』

「いまから国防への意識を高めるために、国防体操をみんなで踊りましょう!」

(結局俺のナレーション、これだけか....あんだけ覚えたのに....)

金はそう思いながら音楽を流す。

---~♪

「ふこくきょーへーい!!」

「うわぁ....洗脳されちゃった....」

舞台裏の祐成は巻き込まれなくてよかったと安堵しながら改めて東郷と瞬の恐ろしさを実感していた。

「はぁ....やりきったわね....瞬くん....」

「はい....僕は満足です....」

結局予定よりかなりの時間オーバーになってしまったが園の先生たちはとても喜んでいた。東郷は園長からお菓子のお土産をもらい、みんなで園を出ようとすると、

『お兄さん達~!!また遊びに来てね~!!』

園児たちが金たちに向かって手をめいっぱい振ってお別れをしてくれていた。

「....最終的になんとかなってよかったな、みんな!」

「ああ!」

「そうだね~!」

「はい!」

「楽しかったわ....!」

「みんな~!またねー!........なっ!?」

金も園児たちに手を振り返した時、異変に気づく。園児たちが手を振ったままピタリと止まっていた。

「ここで....このタイミングで来たか....!」

「みんな....本当に気をつけるのよ....」

「........はい....!」

みんな緊張しているようだった。端末が鳴り響き、樹海化が始まる。

 

(第十三話に続く)



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激化する戦い

金太郎たちが扱う満開時の武器の詳しい説明については次の話の後書きで追記しようと思います。


 34.超巨大バーテックス 

 

「なるほど....東郷先生の言ってた意味が分かったぜ....」

「てっきり今までの侵攻を超える敵数なのかと思ったけど~....」

「こういうことだとはな....」

金たちははるか頭上を見上げていた。

「上には上がいるとはこういうことですね....」

まさにその状況は絶望的であった。壁のようにそびえ立つ目の前のバーテックス。その大きさはもはやこの世のどんなものでもたとえようがない。ゆうに巨大バーテックスの大きさを超えていたからだ....。しかし、金たちは全く恐怖していなかった。

「だからと言って....僕たちが負けるわけにはいきません!」

「図体でかいから攻撃も当てやすいしな!」

「でかいだけかもしれないしね~」

「よ~し!俺たち讃州中学勇者部の力を見せつけてやるぜ!みんな、最初から本気でいくぞ!」

『わかった!』

金のかけ声に他の三人は答え、それぞれ動き始めた。

「四人で一体の敵と戦うの何気に初めてじゃな~い~?燃えてきたぁ~!」

「みなさん!くれぐれも攻撃は受けないように。どんな攻撃方法かわかっていませんし、威力も計り知りません!」

「わかってるって!」

「じゃ、行くか!」

祐成と涼が同時に超巨大バーテックスの方へと高くジャンプした。それを見た瞬は二人とは逆に樹海を走り始める。金はジャンプした二人の援護をする。すると超巨大バーテックスは火球による攻撃を仕掛けてきた。

「うわぁぁ!なんて広い攻撃範囲!まるで太陽だな!」

「こんなの避けきれるわけないから....突っ込んでぶち壊すよ~!」

二人はそのまま炎に突撃した。

『うおおおおおおお~!炎を....斬るっ!』

火球に苦戦している二人に、

「援護するぜ!」

金が後ろから銃を数発放って援護する。そして、見事に大きな火球は破壊された。

「よし、このままいくぜ、オラァ!」

「突撃ぃ~!」

涼と祐成はさらに距離をつめる。すると下からも声が聞こえてきた。

「僕は下から....攻めますっ!」

『たあぁぁぁぁぁー!!』

三人は息を合わせて超巨大バーテックスをそれぞれの武器で斬りにかかる。

 

ガッキーンッ!!

 

鈍い金属音がして樹海に響く。彼らの刃は全く通っていなかった。

「か、硬いぃぃ~~....!」

「きょ、強化された勇者システムでもダメですかぁぁ~........!」

その衝撃で三人の手は痺れる。

すると超巨大バーテックスの体から突然強風が発生した。

『あ~~れ~~~~』

「うごっ.....!なんて風の強さ....うわぁぁ~!」

近くにいた涼たちだけでなく、少し遠くにいた金までもが吹っ飛ばされる。

 

 

「ぅぅぅ....みんな、大丈夫か....?」

「な、なんとか~....」

「しかし....あいつ、技のバリエーションが豊富だな....しかも攻撃の強さもピカイチと見た....」

「やはり....あれをやるしかないみたいですね....」

「いや....!待て!全員する必要はまだない....まずは遠距離攻撃ができる俺がして、それから判断してくれ....!」

「わかったよ~金~!」

「 満 開 っ ! ! 」

金の体に光が集まり、空中に大きな牡丹の花を咲かせる。

 

----

 

「何回見ても綺麗だね~....」

「そうだな....『金』太郎って名前のくせに赤が似合うぜ....」

「あぁ~もう!....満開するたびに伸びるこの前髪....邪魔でしょうがないな....!」

「ゲ○ゲの鬼太郎みたいでかっこいいと思うよ~!」

空を飛んでいる金に向かって涼はそう叫んだ。

「そう....?涼がそういうなら....じゃなくて!今は目の前の敵だ!」

超巨大バーテックスはさっきまでとは雰囲気がまるで違う金に対して警戒するようになったのか、攻撃の手を強める。雷、岩、炎、毒....。金はそれらの攻撃を避けたりクリスタルによる狙撃でふせいだりしながら戦う。

「ここから見て気づきましたが....あのバーテックス、これまで僕たちが戦ってきた巨大バーテックスの技をすべて使いこなせるみたいです....しかも、巨大バーテックスが使うよりも高威力で....」

「........そうみたいだね~....」

「うおおおお!これでもくらわせてやるっ!」

金は攻撃を避けながら手のひらを超巨大バーテックスに向け、少し力を込めると金の周りを浮く八個のクリスタルから太い光線が発射された。見事に超巨大バーテックスに命中する。

「やりぃ!!........はっ!」

確かに命中した。....が、バーテックスはまだまだピンピンしていた。

「まぁまぁ力を込めて放ったのに....!そんな....満開でも一人だと厳しいか....?」

_________________________

 

「....!金の攻撃は間違いなく直撃したのに全然効いてないよ~!」

「金っ!大丈夫ですか!」

「ちょっと一人じゃ厳しいかもしれない!みんな....満開だっ!」

「了解っ!その言葉を待ってたぜ!」

「祐成....調子乗りすぎないでくださいよ!満開するからと言っても危険なんですから!」

「わかってるって!」

『 満 開 っ ! ! 』

三人一遍の満開はとても幻想的で見る分にはとても美しかった。三人はすぐに金のもとへ駆けつける。

「よし、みんな!俺は一つ、作戦を思いついた。一回その作戦に乗ってみてくれないか?」

「祐成ならともかく金のなら安心できますね!」

「おい!俺をなんだと思ってるんだ!」

「もちろんだよ~!金~!」

「無視しかされない........」

「まず、あいつの前後左右に一人ずつ回り込んで囲むんだ!そして、一斉に攻撃を放つ!多分距離遠すぎて声は届かないだろうから電話で指示を出す!わかったか?」

「なるほど....別々の方向から攻撃を放てばいくらあの広範囲の攻撃でも怖くないってことですか....!」

「こちらの攻撃が防がれる心配もないってことだね~!」

「そういうことだ!じゃ、俺はあいつの正面から攻撃する!」

「じゃあ祐成様は右側にいくぜ!」

「僕は左側で。」

「俺は後ろだね~!」

「よし、作戦決行だ!」

金の合図で四人はそれぞれの方向へ散らばった。超巨大バーテックスはその不審な行動を見て攻撃をしかけてくる。

「満開状態なら....お前の攻撃は怖くないんだよ!」

祐成はそう言って素早い動きで飛びながら避け、自分の配置についた。

「みんな、聞こえてるか~?」

「大丈夫だよ~!」

「みなさん配置につけたみたいですね」

「それじゃ、早速試してみるぞ!せーのっ........今だっ!」

四人はそれぞれの方向からほとんど同時に攻撃を放った。しかし....

「!?全部防がれた!?」

「こいつ....体の全方向から攻撃を撃てるみたいだ....!」

「しかも....同時にね~....」

「あいつを怒らせたら....樹海も俺らもひとたまりもないな....」

「たあっ!」

その時、瞬が不意打ちを狙って見事、ブーメランの一つを超巨大バーテックスに命中させた。

「おっ!瞬か!」

「満開したことによって生まれたこの大きい九つのブーメランは....僕の意志で自由自在に操れます!油断しましたね....超巨大バーテックスよ!」

超巨大バーテックスはゆっくりと瞬の方向に正面を向いた。

「お前は....憂国の戦士、この二代目国防仮面によって倒されるのだ!」

次の瞬間、超巨大バーテックスは瞬目掛けてとんでもない数の攻撃を放った。

「なっ!?」

その攻撃はとても大きく、瞬には光で作られた津波に見えるほどだった。不意打ちとは思えないほどの強力な不意打ちであった。

_________________________

 

「うわぁぁぁ~........!」

超巨大バーテックスが放った攻撃による影響は金たちのところまで届いていた。凄まじい爆風に満開した金たちでも吹き飛ばされそうになる。

「はぁ....ふぅ....やっと収まったか....はっ!瞬!大丈夫か!」

「瞬!応えてくれ!」

三人は電話で応答を願う。すると....

「はぁ........はぁ........危なかったです....ブーメランが僕の近くになかったら....」

瞬は間一髪残りの八つのブーメランでバリアをつくり、ガードしていた。

「しかし........なんて力だ........うおおっ!?」

超巨大バーテックスは瞬が無事なのを確認すると瞬に向かって容赦なく、次々に攻撃を放つ。

「うおおおっ!........くそっ!ガードするので........精一杯........」

「まずい!瞬が危険だっ!」

金は瞬を救いに瞬のところへ行こうとする。

「待てっ!金。瞬のところには行くな!」

金を制止したのは祐成だった。

「!?なぜだっ?!祐成!このままじゃ........」

「逆に考えろ!今こいつは瞬を集中攻撃しているから俺たちからの方向の攻撃は防ぎきれないかもしれない!つまり....今がチャンスだ!」

「その間にこいつを倒せれば瞬も救える....一石二鳥ってことだね~?」

「その通りだ、涼!」

「....わかった!みんな、放てー!」

金たちはそれぞれの方向からもう一度攻撃を放った。が、それでも....

「なっ!?また防がれた....!?」

「もうさっきみたいに不意打ちは食らわないってか....!しっかりこっちにも意識してやがる....!」

そんな中、瞬は孤独の戦いを続けていた。

「くっ........うおおおおおおお!!負けるかぁー!!」

いつも冷静で物静かな瞬とは違い、雄叫びをあげる。しかし、一瞬。一瞬だけ瞬の動きに隙ができたとき。超巨大バーテックスはそれを見逃さなかった。超巨大バーテックスはそこに鋭い触手によるパンチをうつ。

(はっ!?しまっ....)

瞬はブーメランをすばやく戻し、直撃は避けた。が、力強いパンチは、防いだブーメランごと瞬を遠くに殴り飛ばした。

瞬は樹海の壁にすごい勢いで叩きつけられる。そして瞬はその場から動かなくなり、そのまま満開がとけてしまう。

_________________________

 

「瞬ーー!!」

遠くから瞬が殴り飛ばされた様子を見ていた金はそう叫んだ。

「早く....助けに行かないと....!」

「待て、金!」

また止めたのは祐成だった。

「何でまた止めるんだっ!このままじゃ瞬が....」

「瞬はきっと大丈夫だ!俺は信じてる....!しかもお前が瞬のところに行ったらこいつの思うつぼだ!」

「....じゃあどうすれば....」

金は考える。

(四方向からでもダメ....なおかつ威力が高く、多種多様な攻撃............そうだ....!あとはこの方法しかない!)

「祐成、涼!俺のところに....」

「もういるぜ。」

「こうなったら残りの思いつく作戦はただ一つだよね~」

金が後ろを振り向くとすでに二人がいた。

「ふ、二人とも....!」

「フッ....金、あれだよな?」

「あれだよね~!」

「....ははっ....うん。あれだ!」

『気合いと根性で、力ずくで乗り越える!!』

三人は声を合わせてそういった。

「あははっ!やっぱりそうだよなぁ!それしかないよな!」

「時にはごり押しも必要だよ~!」

「よ~し、みんなぁ!讃州中学勇者部の全力、見せつけてやろうぜ!」

「ああ!」

「任せて~!」

超巨大バーテックスも三人が一つの場所に集まったのを確認すると、エネルギーを溜め始めた。

「あいつも....決めにくるみたいだな....」

「最初は俺が行く!そのあとに三人で攻めてくれっ!」

『了解っ!!』

「はあああああああっ.....!」

金は両手の平を広げて前に構える。金の体と胸の水晶は赤く、赤く輝き始め、周りに浮いているクリスタルは金の両手の平に光を集める。

「これが....俺の....全力だっーーー!!」

金は燃え上がる魂のごとく、エネルギーを放出する。超巨大バーテックスの攻撃とぶつかり合い、樹海に衝撃が走る。

「うおおっ....!!す、すごい....まるでか○はめ波の赤バージョンだ....」

「かっこいいよ~!金~!」

それでも超巨大バーテックスの攻撃の方がおしている。

「く、くそっ....!ぬおおおおおっー!」

「もう十分だよ~!」

「俺たちも加わるぜ!」

涼と祐成の体と胸の水晶もそれぞれの色で光り始める。涼はこの前のようなことにならないように下から上に巨大な斧を振り上げた。祐成は超巨大バーテックスに突っ込み、蜘蛛の鋭い脚を巨大化させ、連撃を放つ。

『うおおおおおおおおおっ~~!!』

「いけぇ~!みんな~!!フルパワーだぁぁぁぁ~!」

やがて樹海を光が包む。

 

---

 

樹海には三人の少年が大の字で寝転がっていた。

「はぁ....はぁ....はぁ....勝った....勝てた....!あいつに!」

「ああ....俺らでしてやったぜ....」

「みんな~....怖かったよ~....」

涼は笑いながら涙を流す。

「涼....泣くなよ....ぅぅ....」

「おいおい、金までかよ....はぁ....はぁ....」

少ししてから三人はよろよろと起き上がり、ある場所を目指す。三人は荒い息づかい以外無言であった。しかし、考えていることは同じであった。

(頼む....瞬....無事であってくれ....!)

_________________________

 

 

「お兄さん大丈夫~?」

「お外で寝たら風邪引くよ~!」

金たちはもとの世界へ戻ってきていた。傷だらけで戻ってきた彼らを見て、園児たちが駆け寄ってきた。東郷が地面に倒れている瞬に近寄り、体を起こす。

「そんな........瞬くんっ!!」

「....大丈夫です、東郷先生。まだ瞬は息をしています。かろうじて....ですけど....」

祐成が東郷にそう告げる。

「ぅぅ....瞬くんっ....!せっかく....演劇、成功できたのに....」

涼はスマホですぐに救急車を呼んでいた。園児たちの騒ぎを聞き、奥から保育士さんたちがやってくるのが見える。

「とりあえず園の中から出ましょう....このままじゃ騒ぎになります....」

祐成はそう言って瞬を背中に担いだ。東郷と涼は瞬の姿を園児たちから見えないように祐成のあとをついて行った。

金はレンズが割れ、フレームがねじ曲がった瞬の眼鏡を拾う。すると金は後ろから袖を引っ張られた。後ろを向くとそこには、小さい女の子が立っていた。

「ねぇねぇ。あの人って国防仮面でしょ?悪い人に負けちゃったの?」

「え....」

瞬が国防仮面だということがわかっている園児もいたのか....金はそう思った。そして金は一呼吸おいて園児にこう言った。

「....いや、国防仮面は負けてないよ。国防仮面は仲間に敵を倒すチャンスを与えたんだ。国防仮面が倒したみたいなもんさ!国防仮面が....ぅぅ....国防仮面が....勝ったんだよ....」

金は涙をこらえきれなかった。もしこのまま瞬が....。そう考えてしまったのだ。金はすぐに涙を拭いて祐成たちのあとを走って追った。その後、救急車が保育園のそばに来て東郷と瞬を乗せた。東郷は最後に「また連絡するわ。みんなとりあえず今日は家に帰りなさい」とだけ言い残し、行ってしまった。

 

翌日。金たちは朝から部室に集められた。三人で部室にいる間は誰も一言も言葉を発さなかった。やがて東郷が部室にやってくる。

「東郷先生!瞬は....?」

金は立ち上がって東郷に聞く。

「なんとか....一命は取り留めたわ........意識はまだ....戻らないけど....」

「そう....ですか....」

「話はまだこれだけではないわ」

「もしかして....また神託ですか....?」

「ええそうよ。」

「!?もう次の侵攻かよっ....!」

祐成は眉間にしわを寄せて呟いた。すると東郷は、

「祐成くん....それが今回はいつ次の侵攻が来るかという神託じゃないの....」

「え........」

東郷は目を閉じ、心を落ち着かせてから言った。

「残りの侵攻の回数は........あと二回だそうよ....」

 

(第14話に続く)



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最後の日常

35.ハロウィン 

 

 

 

金と涼は両手いっぱいに何かが入ったダンボールを持っていた。そして体をうまく使って部室のドアを開け、机に荷物を置く。

 

「はぁ~....大変だったな....」

 

「金~。後ろ、見てみて~」

 

「ん?なんだ?」

 

金は涼に言われるがまま後ろを向くと祐成が縄に縛られ、吊されていた。しかし、金と涼は特に驚かない。

 

「またやったのか....?祐成....」

 

「祐成も懲りないね~」

 

「ぅぅぅ~....そんなこと言ってないで助けてくれよ~....」

 

「とりあえずどういう課程でそうなったか言ってみろ」

 

金は腰に手を当てて祐成を問いただす。

 

「うっ....この前の社会のテストで....ちょいと低い点数をとってしまいまして....」

 

「確か祐成、前吊られたときもそれが理由だったよね~もうちゃんと勉強しますって言って許してもらえたのにダメだったの~?」

 

「いや~勉強するっていうのは大変なものですなぁ~あははは....」

 

「うん、それは祐成が悪いな!よし、このままでいろ!」

 

「わ~!そんな~!お願いだよ~金ー、涼ー!」

 

「さて、涼。やるとするか!」

 

「そうだね~!頑張ろう~!」

 

「まずい、いつものように無視タイムが始まった!」

 

そこに東郷が入ってくる。

 

「あっ。二人とも荷物運びご苦労様。」

 

「東郷先生~こんにちは~!」

 

「さぁ、明後日までに作業を終わらせますよ~!!」

 

「東郷先生~!もう許してください~!本当にすみませんでした~!あのような点数は二度ととりません~!」

 

「じゃあ私はこっちを縫うわね」

 

『お願いします!』

 

「ダメだ....誰にも俺が見えてない....俺はずっとこのままでいつか餓死するんだ....」

 

_________________________

 

 

 

『こんにちは~!!』

 

「邪魔するわよ」

 

「夏凜ちゃん、そのっち、友奈ちゃん!」

 

「お手伝いしに来たんよ~!」

 

「ひさしぶりに部室に来ました!」

 

園子と友奈が金と涼の二人に挨拶を交わす。

 

「友奈さん!お久しぶりです!」

 

「久しぶりだね、金太郎くん!涼くん!」

 

「わざわざ来てくれて、ありがとうございます~」

 

「.....三人ともよく来てくださいました!東郷先生を説得してください!」

 

まだ吊られたままの祐成が三人に呼びかける。

 

「それで?私たちは何をしたらいいのかしら?」

 

「そうね....涼くんが今やってる作業を手伝ってくれるかしら?」

 

「了解~!」

 

「友奈さんたちも無視!?俺の存在って一体....」

 

祐成が落ち込んでいると、そこに金が近づいてきた。

 

「はっ!金....助けてくれる気になったのか....!俺は信じていたぞ....お前は俺をずっと....ちょっ!?あははははっ!な、何するんだよぉっ!?はははっ!」

 

金は不自由な祐成の体を好きなようにくすぐる。

 

「フフフフ........いつものお返しだ....!」

 

金は小声でそう言うとさらに激しくくすぐる。

 

「あははははっ!はははっ!わ~!やめて、やめて~!あははっ!」

 

「金!作業に集中しなさい!」

 

「ちょっと待ってください東郷先生!今だけはこいつに報いを受ける時間を!祐成には....普段からひどい仕打ちをですね........ぬおっ!?ふあぁっ....!」

 

東郷は金に近づいて金のわき腹をつついてくすぐる。

 

「........こんな風に....?」

 

「シュールな絵ね....祐成をくすぐる金太郎が東郷にくすぐられてる....」

 

夏凜は軽蔑する目で三人を見る。

 

「ちょっとぉ....!東っ....郷....ちぇんちぇいぃ....!ふぁっ、あぁっ!長い....ですぅ....ひゃっあっ!あっ、んっ、ふぁっ、ひゃぁん!あはぁんっ!」

 

「あはははっ!東郷先生すごい....はははっ!....俺はここまでの声を金から出すことはできなかった....プロですね....」

 

祐成は金にくすぐられながらも東郷に尊敬の眼差しを贈る。

 

「なんか見ちゃいけない物を見てる気がするよ~」

 

涼がそう言った途端、金はやがて力が抜けて地面にぺたりと座った。

 

「はぁ....はぁ....もうっ!東郷先生!恥ずかしい声、こんなに出ちゃったじゃないですかぁ!しかも、こんな大勢の前で!」

 

「ごめんね、金。ちょっとやりすぎちゃったわ。ウフフ....」

 

「ウフフじゃないですよぉっ!」

 

「はいはい、そろそろ作業始める!」

 

夏凜がそう言うと、

 

「終わったよー!」

 

と、友奈の元気な声が響く。

 

「さすが友奈さん、早~い!」

 

「じゃあ次、友奈ちゃんと私と涼くんはこっちやりましょうか。夏凜ちゃんとそのっちと金はそっちをお願い」

 

『了解!』

 

「あっ....まだ俺は許されないんですね....」

 

_________________________

 

 

 

「やったー!できたー!」

 

「友奈さん器用ですね~」

 

「こっちもだいたい終わったわ。」

 

「これであとは明後日を待つだけですね!」

 

「さてと....」

 

一段落ついたところで東郷はゆっくり立ち上がると祐成を吊していた縄をほどいた。

 

「........。」

 

「やっと解放されたって言うのに何も言わないね~」

 

「ちょっとやりすぎたかしら?」

 

「いやいや、これくらいしないとダメですよ」

 

金は祐成のことをわかりきっているかのような口調でそう言った。

 

「リトルミノさんは厳しいね~」

 

「さぁ!この明後日配るお菓子を今日のうちに下に運ぶわよ!」

 

「みなさん、もう準備は終わったみたいですね。」

 

『えっ!?』

 

一同はここにいるはずのない聞き覚えのある声を聞き、部室の入り口を見る。そこには少年が壁に手をついて立っていた。

 

「瞬!?」

 

「もう大丈夫なのか!?」

 

「はい、おかげさまで!」

 

「嬉しいよ~!瞬はハロウィン参加できないかと思ってたから~....」

 

「ハロウィンじゃなくてはろえんですけどね」

 

「瞬くん....おかえりなさい....!」

 

「ただいま戻りました....東郷先生....!」

 

前回の侵攻の後、大怪我を負った瞬はしばらくの間入院していたのだ。それで今日、退院して戻ってきたらしい。

 

 

 

 

 

「夏凜コーチ、その荷物は多すぎます。俺が持ちましょう」

 

「わっ!祐成....あんた気を取り戻したのね....別にあんたの助けなんかいらないわ!これくらい私一人で....」

 

夏凜はそう言って中身がパンパンのダンボールを持ち、部室を出る。

 

「ほらね....?完全型コーチを舐めないで....わっ!」

 

夏凜は段差につまづいてバランスを崩す。

 

-

 

ダンボールが大きな音を立てて落ち、中に入っていたお菓子が飛び出る。

 

「ほら....言わんこっちゃない....」

 

祐成は荷物よりも夏凜を優先し、夏凜が転ばないように支えていた。

 

「なっ........!!」

 

夏凜の顔は赤くなる。

 

「やっぱり俺が運びますよ....夏凜コーチじゃ危険です」

 

「は、ははは早く離れなさいよぉっ!」

 

「あっ、すみません....」

 

「す、すみませんじゃないわ!もう!....」

 

祐成は落ちたお菓子をダンボールの中に綺麗に入れ始める。夏凜は無言でそれを手伝い始めた。すべて入れると祐成がダンボールを持とうとする。

 

「半分!........持つわよ....」

 

「夏凜コーチ、大丈夫ですから....」

 

「........いいから貸しなさい....!」

 

「........分かりました。」

 

二人は無事、協力し合って一階まで運び終わる。

 

「........あんたも....良いところあるじゃない....」

 

夏凜は小声で呟いた。

 

「はい?何か言いました?」

 

「........なんでもないわよぉっ!」

 

_________________________

 

 

 

『トリックオアトリート~!』

 

金たちは商店街で昨日まとめたお菓子を街ゆく人に配る。

 

「勇者部の方々かい?毎年頑張ってるね~」

 

「おかげさまで!ありがとうございます」

 

「あなたたちのような人が増えればね~」

 

やがて夕方になり、金たちは部室に戻ってきた。そしてそこで風も合流する。

 

「さ~てみなさん!ここからが本番です!今から勇者部はろえんの会を行いま~す!」

 

『イェーイ!』

 

瞬の合図でハロウィンパーティーが始まる。金たちはそれぞれが作った衣装を着て仮装をした。

 

「俺はドラキュラだ!フッフッフッ....お前の血を吸い取らせてもらうぞ....」

 

「俺は~ミイラです~」

 

「僕は唐傘お化けです....!」

 

「フハハハハハ!俺はフランケンシュタインなり~!」

 

四者四様。金はドラキュラ、涼はミイラ、瞬は唐傘、祐成はフランケンシュタインになった。

 

「フランケンシュタインって見た目そんな感じだったけ~?」

 

「うるせー、涼!実物を見たことないくせに!」

 

「いや、誰でもないだろ....」

 

金のツッコミをよそに、旧勇者部組も仮装を始める。

 

「幽霊だぞ~ヒュ~ドロドロ~」

 

「友奈....あんたは布を被っただけじゃない....」

 

「こっちは吸血鬼だぞ~!」

 

「そのっち、金と被ってるわよ!」

 

「別にこれでいいんよ~!」

 

「俺たちは....二人で一人....!」

 

金と園子はそう言って肩を組んだ。

 

「私は....魔女よ....!」

 

「夏凜には似合わないわね」

 

「なによ、風!じゃああんたはなんだっていうの!」

 

「私は....ってあれ?私の衣装....」

 

「すみません、風先輩のは作ってないです....」

 

瞬がペコリと頭を下げて詫びる。

 

「ガーン....!そんな...!」

 

「てっきり自分で持ってきてるかと....」

 

それを見た夏凜は得意げにこう言った。

 

「フッ....あんたに限ってはなにもないじゃない....」

 

その言葉を聞き、風は機転を利かせる。

 

「じゃ、じゃあ私は....大赦の亡霊なり~!」

 

「今着てる服で誤魔化すなっての!」

 

一方、東郷は

 

「私は....一つ目小僧だぞ~....」

 

「東郷先生はわかってらっしゃる!やっぱりはろえんと言ったら妖怪ですよね!」

 

「その通りだわ!瞬くん!」

 

東郷と瞬は手を取り合う。そしていつものようにこの二人は一同にほっとかれ、

 

「今日は夜まで騒ぐわよー!」

 

風がそう叫び、

 

「やったー!お化けのお祭り騒ぎだー!わっしょいわっしょい!」

 

「わっしょいわっしょい!」

 

と、友奈と祐成はテンションで応えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 36.動く影

 

 

 

これは、10月中旬の話である。

 

 

 

ドンッ!

 

 

 

戸塚が思いっきり机を叩く。

 

「くそっ!あれから全然手がかりが見つからねぇじゃねぇか!一体どこにいるんだ....」

 

それを見た芹沢は同感するように反応する。

 

「大赦が持っている敷地とか思いつく限りは探しましたもんね....あとは....」

 

「ああ....そうだな....最後に残ったあの場所しかない....」

 

「しかし、あの場所は警備が厳重です....もしバレたら....!」

 

「この際だ芹沢!多少強引になっちまうがやるしかない!」

 

「........わかりました!僕たちが必ずやり遂げます!」

 

そう言って芹沢は部屋を出ていった。

 

そして、10月31日。ハロウィンの日。

 

 

 

 

 

戸塚の部屋のドアが勢いよく開く。

 

「なんだ、芹沢!ノックもしないで入ってくるなんて!」

 

「戸塚さん!大スクープですっ!!ついに....ついに例の証拠写真を手に入れました!」

 

「何!?本当かっ!?」

 

芹沢は戸塚にある封筒を渡すと戸塚は無造作に中身の写真を取り出す。そしてそれを舐めるように一枚一枚見まわした。そして....

 

「ハハ........ハハハハハハハ!よくやったぞ、芹沢!この記事は先月の台風より世間の注目を浴びるだろう!今年一番....いや、世紀の大スクープだ!芹沢!今すぐこの記事を完成させろ!11月一番最初の見出しはこれに決定だ!」

 

「わかりました!今すぐ完成させます!」

 

芹沢はそう言うと走って部屋を出ていった。一人になった戸塚は不適な笑みを浮かべ、呟いた。

 

「フフフ....この記事が世に出回れば世界が大混乱....み~

 

んな私の記事を買う....やったぞ....ハハハ....フハハハハハ!」

 

 

 

(第15話に続く)



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崩壊

 

 37.崩壊の始まり 

 

11月1日。金はいつものように学校に間に合う時間ギリギリに目を覚まし、朝食を急いで食べ、涼との待ち合わせ場所に少し遅れて合流し、学校に登校する。学校ではいつものように祐成と瞬に会い、会話をする。そんないつものような日がこの日もくるかと思っていた....。

「なんか今日は特にクラスが騒がしいな」

「なんだろうね~何かあったのかな~?」

「ちょっと俺、聞いてくる」

祐成はそう言うとクラスメートたちが集まっているところに行き、少し話すとクラスメートの一人から新聞を貰って戻ってきた。一人、新聞の内容を見た祐成は、

「み、みんな....大変だ....」

体を震わせながらそう言った。

「祐成どうした.....?」

普通ではない祐成の様子を見た金はおそるおそる尋ねる。

「こ、この記事....見てみろよ....!」

祐成はそう言うと持ってきた新聞を広げて机に置く。

『なっ!?』

一同は青ざめた。その記事には鍛錬にはげむ四人の写真がバッチリ捉えられていた。もちろん、顔は隠されていたが。

「お、おい....なんで....なんでバレたんだっ!?」

「おい、金!落ち着け!あんまり大きな声は出すなよ。」

「あ....祐成ごめん...。」

「でもこれかなりまずいのでは....?このままじゃ世間が大変なことになりますよ。しかも....僕たちが情報を漏らしたとか、大赦から疑われそうです....。」

「それはないだろう....大赦は俺たちを信用しているはず....」

「あと二回だっていうのに....今まで通りに鍛錬できなくなっちゃうんじゃ~....」

四人はそんなことを話していると、教室に東郷が入ってくる。いつもの朝礼が始まるのだ。

「みなさん~!朝礼を始めますから着席してください。」

『は、は~い!』

(東郷先生はまだ知らないのか?)

朝礼が終わると、東郷は最後にこう言った。

「金太郎くんと涼くんと祐成くんと瞬くんはこのあとすぐに勇者部部室に来てください。」

 

_________________________

 

金たちはすぐに部室に集まった。既にそこには東郷もおり、四人が集まったことを確認すると本題に入り、話し始めた。

「もうあなたたちも....話すことはわかっているでしょう?この記事のことよ....」

東郷はそう言って例の記事を見せる。

「はい、さっき見ました。」

金は目を細くして小さな声でそう答えた。

「それで....こんなこと言いたくはないけど、鍛錬の場所をバラしたなんてこと....してないわよね?」

東郷のその問いに金は少し語気を強めて、

「東郷先生....あなた俺たちを疑うって言うんですか。それを聞くってことは俺たちを信用してないってことですよね。」

と、少し睨んで言った。

「ち、違うわ!念のため....念のためよ!」

「念のためだと言われても....少しショックです....」

「金の言うとおりです~....。俺たちがそんなことしても俺たちは何も得することないじゃないですか~」

涼も金に賛同する。

「それにそんな記事が出たからと言って何も変わらないですよ。俺たちがちゃんとお役目を果たせば世界の人たちも安心!ただそれだけのことでしょ?俺たちでバーテックスの野郎どもを絶滅させてやりゃあそれでいいんだよ!」

「珍しく、祐成と同感です。」

祐成と瞬もそう言うが、それでも東郷の顔は暗いままだった。

「そこまで....信用できませんか....。」

「金....違うのよ....。実は....落ち着いて聞いて欲しいことがもう一つあるの....。」

「....この際だから言ってください」

金は機嫌悪そうにそう言う。

「........バーテックスたちはものすごい進化を遂げている....。もちろん勇者システムも私たちのころと比べてとても良いものになったわ....。」

「何が言いたいんですか」

金はずっとイライラしているようだった。

「けど....バーテックスの進化は私たちの思っている以上に早い....そして....今の勇者システムじゃ............バーテックスを絶滅させることはできないの....!」

『えっ........?』

「と、東郷....先生....嘘でしょ?今頃....そんなこと....」

「そうだよ~....今まで絶対に滅ぼしてやろうって....言ってたのに....」

「じゃあ、あと二回ってのは何なんですか....!」

祐成、涼、瞬は突然の真実に困惑する。

「あと二回バーテックスの侵攻を防ぎきればしばらくはバーテックスが攻めてこないということだわ....。」

 

ドンッ!!

 

今まで黙っていた金が机を力一杯叩いた。少しだけ沈黙が流れる。

「そんなの....おかしいじゃないですか....。苦しい思いをしなくちゃならない少年たちがまた未来に生まれなくちゃならないってことですか....?苦しい思いをするのは俺たちで最期にしようって....決めたのに....。これって....おかしいじゃないですか....。話が違うじゃないですか............。はぁ....バーテックスを絶滅できないと知ったのは....いつなんですか....?」

「みんな、本当にごめん....。....最初から.....知っていたの....。私も....風先輩も....。」

「最初....から....?」

金はとても自分を押さえきれなかった。金は東郷の胸ぐらを強く掴み、壁に叩きつける。

「うっ....!」

「ちょっと、金!」

「すまないが今は黙っててくれ、涼。」

「........!」

この声だけでわかった。今、金は最高に怒っている。涼はその金に気圧され、なにも動けなくなってしまった。

「東郷先生....最初から知ってたって....あなたはどういう思いで俺たちを応援してたんですか....?俺たちが必ず絶滅させてやろうって約束したとき、どういう思いでそれを見てたんですかっ!!....ふざけるな....ふざけんなっ!!」

「ごめん....なさい....。熱心に頑張ろうとする金たちを見てたら....。」

「東郷先生、あなた.....勇者だった頃....大赦に騙されたって言ってましたよね?満開で体の一部が失われるということを内緒にされていたんですよね?」

「え....ええ........。」

「あなたは....その時大赦がしたことと変わらないことをしたんですっ!俺たちを....騙したも同然だっ!」

「おい金っ!!やりすぎ....」

「口挟むなっ!黙ってろって言ってんだろ!!」

「ぅ....」

祐成は見たことのない金に気持ちで圧倒される。もう誰も今の彼を止めることはできなかった。

「失望しましたよ....東郷先生....。いや、もうあなたは....俺の先生なんかじゃない....!」

金はそう言うと掴んでいた東郷の胸ぐらを離し、走って部室を出ていった。

「金!!ちょっと待って!」

涼は金を追いかけようしたが、

「涼、今は金一人にしておきましょう....。」

と、瞬に肩をつかまれて止められる。

「....瞬........わかったよ....。」

東郷は地面に手をついて泣き崩れていた。そんな東郷を涼たちはどうすることもできなかった。

_________________________

 

「はぁ....はぁ....はぁっ....」

金は学校を飛び出し、商店街を走っていた。走っている間、街の人たちが例の記事の話をしているのが耳に入る。聞きたくなくても聞こえてくる。金は耐えきれず、ある路地裏に入った。

「はぁ....はぁ....もう....嫌だ....。」

「あの~すみません、三ノ輪金太郎さんですよね?」

「....!」

突然後ろから話しかけられ、金は身構える。

「あ~すみません、驚かせるつもりはなかったんですが....。私、四国新聞の芹沢と申します。良ければ少しお時間いただいてもよろしいでしょうか?」

「....すみません。人違いです。」

金はそう嘘をついてこの場からいち早く去ろうとする。

「三ノ輪銀さんの弟さん....ですよね?」

芹沢のその言葉を聞いた金はピタッと止まり、すぐにふり返る。

「!!なんで....それを....!」

金の反応見た芹沢は安心したのか、人が変わったかのようにいきなり態度を変え、不自然に口角をあげた。

「ふふ....やっぱり反応した~!....僕の目は誤魔化せませんよ?だってこの記事書いたの僕ですもん。」

「....あんたが....!」

金は芹沢に近づこうとする。しかし、金はすぐに足を止めた。

(ダメだダメだ!俺がこのままこいつと話したらこいつの思惑通りになってしまう!今はとりあえず逃げなければ....!)

「すみません。ちょっと忙しいもので。」

「忙しい?フッ....平日に学校にも行かないでよくそんなこと言えますね....。」

「........。」

それでも金は無視して路地裏から出ようとする。すると芹沢は

「....この記事が出ても良いんですかぁ?」

この言葉が気になった金はちらっと後ろを向く。芹沢の手に握られていた記事には驚くべきことが書かれていた。

(なんでっ....こんなこと....!?)

こんなものが世に出回ってしまったら自分どころか家族、友人たちにも迷惑がかかってしまう。金はすぐに頭を地面にこすりつけて土下座をした。

「お、お願い....します....それだけは....それだけはやめてください....!」

「プッ....フフフフフフフ....ハハハハハハハ!滑稽だなっ!ハハハハハハハ!」

急な芹沢の反応に金は驚いた。

(な、なんだこの人....!?)

すると芹沢は金に近づき、見下すように土下座する金を睨んだ。

「........だが....ダメだ。」

芹沢は声のトーンを落としてそう言うと金の腹に鋭い蹴りを入れる。

「ぐはっ!........おげぇ....!」

金は路地裏の壁に激突し、腹を押さえてもがく。

「もう遅いね!編集長には盛りすぎだって言われて却下されたけどすでにネットに拡散させたもんね!キャハハハハハハ!ハハハハハハハ!」

「........そん....な....」

「もっと謝れ!この野郎!俺はお前みたいなやつが嫌いなんだよ!オラっ!オラっ!」

芹沢は寝転がったままの金の腹を何度も何度も思いっきり蹴り続ける。

「ぐっ....!おげっ....!うぐっ....!」

_________________________

 

(耐えろ....今は耐えるんだ....ここでやり返したら俺の負けだ....!みんなに迷惑をかけてしまう....。)

「俺はな....子供の頃に両親を失った....交通事故で俺を助けるためにな....。そのせいで貧乏になっちまった....。周りは俺をきっと助けてくれる....そう思っていたが違かった!友人は俺のことを貧乏だからといってバカにしたりいじめた!先生からも保護者がいないからひどい仕打ちを受けた....!だからよ....お前の姉は死んで....それなのになんでお前んちはのこのこと幸せに暮らしてるんだ....?お前の姉は世界を最後まで守りきれずに死んだっていうのによぉ!何で誰からも責められねぇんだ!オラっ!オラっ!クソがっ!俺の気持ちを思い知れっ!」

(家族が死んだっていうのに....幸せ....だと....?)

「ぐっ....!がっ....!ごほっ、ごほっ....!ぅぅ....うげぇっ!ごはぁっ....!ぁぁ....」

芹沢は蹴るのをやめようとしなかった。金が見た芹沢の目は今までに見たことのない血走った目であった。この前の涼の目よりもひどかった。人間はこんな目もできるのか。そう思った。

「がっ....!ぜぇ....ぜぇ....はぁ....はぁ....ぅぅ....ぁぁ....ぁ....」

「ちっ!あんまり動かなくなってきたな....呼吸も浅くなってきたし....やりすぎたか?」

芹沢は金の胸ぐらを掴み、無理やり金を立たせて顔を近づけ、こう告げた。

「さっきの一瞬じゃあ....記事の内容はよく見えなかっただろうから今から親切に言ってやるよ....!この記事にはな、お前の姉とお前のことがよく書かれてる。お前の姉がこの世界を守りきれずに死んだってことをなっ!そのせいで他の勇者二人が小学六年生という幼い年齢で体の機能を失い、二年もの間苦しんだってなぁ!お前の姉のせいで!し・か・も....この二人はお前の姉を恨んでる、お前の姉のせいで今のような状況になっているって書いてやった!すべて『お前の姉が死んだせいだ』ってなあっ!」

「そんな....嘘を....書いても....無駄....だぞ....。園子先生も....東郷....先生も....そんなことは....思っていない....!」

金はこれだけは言えた。たとえ東郷を先生として認めなくなっても....。だが芹沢は全くうろたえなかった。

「フフ....じゃあ何で俺がこんな情報を持っていると思う?勇者でも大赦の人間でもないこの俺が....。」

「........。」

「ハハハ....それはなぁ....この情報を教えてくれたのは乃木園子だからだよっ!乃木園子がお前の姉を恨んでるって言ったんだぜ!お前の姉のせいであの時、バーテックスを絶滅できなかったって言ったんだぜ!アハハハハハ!キャハハハハハハ!」

「........そんな....嘘だ....嘘だっ!!」

金はこの芹沢の言葉で混乱し、暴れ始める。

「ちっ....!まだそんな大きい声が出たのかよ....声が表に聞こえちまうだろうがっ!」

芹沢はそう言って金の腹を力強く殴る。

「うっ...!......ぁ....ぁ....」

金はゆっくりと地面に倒れる。

「最後にこれだけ言っておく。....お前の姉は....友人につらい思いをさせ....そのせいでバーテックスを絶滅できなかった、『 戦 犯 』なんだよ....!」

金はもう理性を保つことはできなかった。

 

(第16話に続く)




前回の侵攻で満開を使った後、次の侵攻が来るまで満開ゲージは溜まりません。ですので、現実世界では精霊バリアははたらかないという仕組みです。
芹沢の蹴りのダメージが入った理由が気になった方、このような設定がありますのでご了承ください....


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三ノ輪金太郎奪還作戦

 

 38.崩壊 

 

金が学校を飛び出してしばらくした頃、ある路地裏から気絶した記者が発見される。その側にはビリビリに破り捨てられた未発表の記事があったという。

「東郷先生!金が人を殴ったって....本当ですか....!?」

「ええ....本当よ。でもあの記者も記者ね....とんだクズ野郎だったわ。」

涼は東郷に呼ばれ、彼女の家にいた。そこで東郷からその記者が金に向けて言ったことをすべて聞く。

 

話を聞き終えた涼は床の畳を叩いた。

「なんですか....それ....。そんなありもしないことを言うなんて....しかも....そんなに蹴ったり殴るなんてありえない....!」

「もともと大赦に新聞社関係の方たちが潜り込んでいたらしくてね....そこで得た情報らしいわ。そのっちは何も関係ないのに....勝手に名前を使われて.....金も勝手に恨まれて....。」

ネットにばらまかれた記事のせいで三ノ輪家は早くも嫌がらせを受けていた。迷惑電話や手紙、落書き、三ノ輪銀と金の誹謗中傷などが耐えなかった。勇者部に入っていた依頼もほとんどキャンセルされてしまった。

「くっ....!」

涼は東郷の家を飛び出そうとする。

「待ちなさい!涼くん!........何するつもり....?」

「金がこんな目にあってそいつはのんきに病室に寝ているなんて許せません....!それにあった罰を....!」

「そんなことをしても、金は喜ばないわよ!それに、そのことに対する罰はすでに私が済ませておいたわ。....まだこんなもんじゃ足りないくらいだけど。」

「....そうですか...。....くそっ....なんでっ....なんでこんなことに....。金の処分は....どうなるんですか....?」

「........おそらく、一般人に危害を与えたから....勇者の資格は....。学校の対応も厳しいでしょうね。」

「そんな....!もともと向こうが悪いって言うのに....!なんでそうなるんだっ!俺は何もしてやれないのかっ....!」

今こうしてる間にも大赦の役人や祐成、瞬、友奈、夏凜、園子、風が金を探して町中をまわる。それでも金は見つからなかった。完全に姿を消してしまったのだ。

そして、金がいなくなってから一週間が経過する。

_________________________

 

「あなたが....金太郎の担任だったんですね....」

この日、東郷は三ノ輪家を訪れていた。机を挟んで東郷と向かい合うのは一人の若い少年、銀の弟で金太郎の兄の鉄男だった。

「....今回の件について説明するわね、鉄男くん。」

「僕はもう子供じゃないんです。そんな呼び方、する必要はありませんよ。」

「ご、ごめんなさい....三ノ輪さん....。」

東郷は俯いて謝る。昔のできごともあったからか、鉄男の東郷に対する態度は冷たかった。

「実は....金太郎くんは再び現れたバーテックスから人々を守るために戦ってきたんです。あなたのお姉さんと同じように....。」

「....そうですか。」

東郷は驚いた。てっきり鉄男は内緒にしていたことを怒り狂うのではないかと思っていた。

「....だいたい感づいてはいました。あいつのことですし。去年までは帰るのが早かったのに急に帰りが遅くなったり頻繁に出かけたりケガしたり....。おかしいと思っていました。」

「........。」

「金は、きっと大丈夫....そう信じています。今もどこかでのんきしてると思います。あいつ、しぶといやつですからね。」

「三ノ輪さん....」

「東郷さん、僕はあえて金に聞かなかったんです。いや、聞けなかったのかな....。この事実を知るのが怖かったんですよ。姉のこともありますしね....。でも改めてこうやって知れてスッキリしましたよ。ありがとうございます。」

「........。」

弟のことで本当はとても心配なはずなのに、東郷にここまで気遣いのできる鉄男に対して、東郷は感動していた。そして、自分の無力さが憎くて、悔しくてしょうがなかった。

 

-

 

その頃、讃州中学勇者部部室

「....今日も特に依頼は入っていません....」

瞬は悲しそうに静かにそう言った。するとそれを聞いた祐成が、

「それじゃ、することはいつも通りだな!」

と言って立ち上がる。

「金を探すんだね~!....今日こそ見つけるぞ~!全く~....金は隠れるのがうまいんだから....。」

『........。』

無理して明るく振る舞う涼を見て、二人は心配そうな眼差しで涼を見つめる。

 

「ちょっと待ってください。」

瞬がさっさと部室から出ようとする二人を引き止めた。

「金を探す前に....僕から聞いて欲しいことがあります。それはなぜ、運動もろくにできない僕が勇者に選ばれたのかです。」

「おい瞬、悪いけど今話すことじゃ....」

「いや....祐成、聞こう。今くらいしか聞く機会ないと思う。」

涼は祐成にそう言い聞かせ、瞬の方を向いた。そして納得した祐成も瞬の方を向いた。

「....ありがとうございます。........約三百年前、四国から遠く離れた沖縄という地での話です。そこでもバーテックスが現れ、人々を襲ったそうです。しかし、そこには僕たちのような勇者が一人だけ存在していました。」

「たったの....一人だけ、か....キツいな。」

「時間が経つにつれて戦いは厳しくなっていきました....。そこで沖縄の人々はたくさんの生存者がいると噂だった四国に逃亡するという結論に至ります。」

「確か~....沖縄から四国ってすごい遠いよね~?」

「そうです。とんでもない距離です。さらに海を渡る間にもバーテックスは容赦なく攻めてきます。中には沖縄にとどまり、故郷といっしょに運命を共にする人もいたそうです....。たった一人の勇者は、できるだけ多くの人を船に乗せ、出航しました。幾度となく攻めてくるバーテックスに対し、船に乗った人々を守り通して....ついに、四国に到着したんです。」

「すごいな....その勇者....」

祐成が感嘆する。話の締めに、瞬はこう言った。

「そのたった一人の勇者の名は、古波蔵 棗....。」

「えっ....!古波蔵ぁ!?」

「じゃあ瞬って~....その人の子孫ってこと!?」

二人が騒いで驚いているのとは対称的に瞬は落ち着いて答える。

「それについてはどこにも記録は残っていないそうですが....先日、大赦から四国に古波蔵という姓は僕たち一族だけしかいないと告げられました。つまり....その可能性が高いってことです。」

「それが理由で瞬は神樹様に選ばれたってことか....。そんなすごい人が瞬の先祖だなんてな....」

「僕はそれから一層勇者に対する思いが強まりました。そこで、バーテックスを倒すには金がどうしても必要不可欠です。さぁ!探しに行きましょう!今日こそ見つけますよ!!」

「うんっ!」 「ああ!」

三人は今日も、勢いよく部室を飛び出していくのだった。

_________________________

 

涼たちが金を探しに行く三十分前。園子は商店街のはずれで金を探していた。そして、

「あっ!あの後ろ姿....!」

ついに園子は金を見つける。

「リトルミノさ~ん!探したよ~!」

時間帯も相まってちょうど周りには人がいなかった。園子の声に反応した金はゆっくりと後ろを向く。

「....!!リトルミノ....さん....?」

園子は驚愕した。その顔はいつもの優しい表情とはまるで真逆。とても金とは思えないような恐ろしい形相をしていた。全体的にやつれた印象もあった。

「まさかこんなところで会えるとはね....園子先生....。俺も捜していたんですよ....あなたのことを....。」

金の声はいつもの元気のある声ではなく、小さく、こもった声だった。そして睨みつけるように園子を見る。

「そ、そうだったの~?じゃあ帰ろう~みんな心配してるもん。一週間もいなかったんだから....。」

園子は様子がおかしい彼を心配しながらもそう言ってゆっくりと近づく。

「それ以上....近づくな....!」

「えっ....?」

金の顔がさらに険しくなる。尋常ではない緊張感に園子は固唾をのむ。

「あなた....俺にはあのようなこと言っておいて内心ではあんなことを思っていたんですね....。」

「もしかして、あの記者が言ってたこと....?わっしーから全部聞いたよ!それは違う!全部嘘なんだよ!!」

「俺は....もう誰にも騙されない....。」

「リトルミノさん!信じてっ!」

「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ....黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ....うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい....」

金は頭を抱え、そんなことをずっとぶつぶつ言っている。園子は青ざめた。金の心は完全にやられてしまっていた。そこで園子は金との距離をつめ、金の肩を掴み、激しく揺らして訴えた。

「リトルミノさん!しっかりしてっ!」

 

パンッ!

 

が....しかし、金は園子の手をはたくように強く振り払った。

「俺の体に........触るんじゃない!信用してたのに....あなたたちのことは信用してたのにっ....!全部、全部騙されてたっ!何もかも!この一年間!....あなたたちには俺の悲しみがわかると思ってた!姉ちゃんのことを理解してもらえてると思ってた....。俺はお前らに遊ばれていたんだな....。....あっ、そうかぁ....俺があのことを相談したとき....友奈さんも嘘ついてたのかぁ....。」

「ねぇ!リトルミノさん!ねぇってば!」

園子はなんとかして元の金に戻そうとまた彼の体を掴むが、

「黙れっ!俺の体に触れるなって言ってるだろうが!俺を一年間騙してて楽しかったか?ええ?さっさと俺の前から消え失せろっ!お前は俺たち、三ノ輪家の敵だっ!」

そう拒絶され、また手を払われる。園子は驚きと困惑が隠しきれず、ついには混乱して動きが止まってしまった。

「....ぅぅ........」

「二度と俺の目の前に現れるなっ!二度と....その顔を見せるなっ!!」

金はそう言うとそこから走って消えた。園子は彼を追うこともできなかった。がくっと崩れ落ち、地面に手をつく。

「なんでっ....なんでこうなっちゃったの....?神樹様....こんなこと....ひどいよ....ひどすぎるよっ....!」

園子は地面に大粒の涙をこぼして絶望するのであった。

_________________________

 

「あっ!?園子先生!大丈夫ですか!」

やがて金を探しにきた涼が崩れ落ちたままの園子を発見する。

「なにかあったんですか!?」

「リトルミノさんに、会ったの....」

「えっ....!?今はどこにっ....!?」

「でも....あれはリトルミノさんじゃない....。私じゃリトルミノさんを救えない....。お願い....なんばー....!リトルミノさんを....取り返して....!」

「........わかりましたっ!」

涼は園子に金が向かった場所を教えてもらうと、一目散に走り出した。園子が教えてくれた方向に金が行きそうな場所の心当たりがあったのだ。

(あそこだ....あそこしかない!)

現在の勇者システムは精神が不安定でも変身できてしまうらしい。それも神樹様が別個体になったことが理由らしいが....。一刻が争われる。涼が向かったのは以前、バーテックスとの戦いのあとに四人で立っていた、良い景色を見ることができる山であった。

(あっ....!)

涼の予想通り、そこには金がぽつんと立っており、景色を見ている。いつの間にか夕日が出ており、綺麗に海と街を照らしていた。

「探したよ~....金~!」

涼は少し安心し、そう話しかけながら金に近づいた。

「涼....お前まで俺を連れ戻しに来たのか?」

「え....?」

予想しなかった返答に涼は驚いた。金は一切涼と顔を合わせようとせず、輝く夕日を永遠と見たまま話を続ける。

「どうせ、人を殴るなんてことした俺に、優しい言葉をかけて連れ戻そうとしてるんだろ?そして、罰を受けさせるために大赦に送るんだろ?だから来たんだろ?」

「違う....!違うよ!俺は本気で金を心配して....!」

「ほら....言い訳始まった。....涼だけは....涼だけは信用してたのに....!」

「金っ!俺を信じてっ!!」

涼はそう言ってさらに金に近づく。

「こっちに来るなっ!!!」

金は叫んだ。そしてようやく涼の方を振り向く。

「....!!!」

涼は絶句した。長年ずっと一緒にいた涼でさえも見たことのない金の表情。それはこの世のなにもかもを恨んでいるような顔。とてもそれは、人間の顔には見えなかった。

「き........ん........?」

「はぁ....はぁ....涼....俺気づいたんだ....俺は今まであの記者や園子や東郷のようなひどい奴らのために....俺は命を懸けて戦ってきたのかって....こんな世界のために戦ってきたのかって....」

「金....落ち着いて....!」

「姉ちゃんは命を失ってまでこの世界を救ったって言うのに....なんだこの言われようは!!姉ちゃんが命を失った意味がないじゃないか....俺たちも....頑張ってきた意味がないじゃないか....!」

「金っ!!」

涼は走り出し、金を落ち着かせようとして彼に触れようとする。すると金は涼を睨めつけ、すばやく勇者システムを起動させて銃を涼の頭に突きつけた。

「....え.......」

あまりにも信じられない金の行動に、涼の動きはピタリと止まる。そして金は、涼を突き放すかのように静かに発言した。

「涼....さっき近づくなって言ったよな....?お前、これ以上近づくと....................死ぬぞ。」

金の言葉には容赦がなかった。あのまま近づいていたら本当に涼は金に殺されていただろう。金はそう言った後、何事もなかったかのように勇者システムを解除し、山を下りていく。その間に金はぽつりと呟いた。

「俺はもう....限界だ....こんな世界....。」

涼はしばらくその場で立ったまま動けなかった。とても金のあとを追いかけることはできなかった。変わり果てた姿、見たこともない顔、ありえない行動と言動....。自分の親友の急変に、心もなにもかもズタボロだった。やがて涼は膝をつく。

「あんなの....金なんかじゃない....。」

 

(第17話に続く)



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絶望

 

 39. 絶望 

 

例の山で金と出会った涼はみんなに部室に戻るように連絡をした。瞬たちだけでなく、友奈や風などの勇者部OBたちも呼んだ。先ほどの出来事を伝えるために.....。

「今さっき....俺と園子先生は金と会った。....けど....あれは金じゃない....!....怪物だ....!この世のすべてを恨んでいるかのような....鬼のような顔だった....。俺の頭にも....銃を突きつけられた....。」

「私は....『もう二度と顔を見たくない』っていわれたんよ。」

「え....本当に金がそんなことを言ったんですか....?」

「金が人を殴ったって言うのもそもそも信じられないし、この話もとても信じられないな....」

瞬と祐成はいつになく暗い顔をする。

「でも金はあんな精神状態の中でもあの最低な記者以外には人に危害を加えてない....。きっとそれは心の中でわかってるからだと思う。悪いのはすべてバーテックスだってことを....でもね....金は俺と別れるときに言ってたんだ。『もう限界だ....こんな世界』ってね。金が暴れゃうのも....時間の問題かもしれない....。」

「私だわ....こうなったのはすべて私のせい....私が黙ってたからこんなことに....!」

涼の言葉を聞いた東郷は自分を責める。

「いえ、東郷だけの責任じゃないわ....私たち大赦からしっかり説明しておくべきだった....。」

風も東郷と同じように過去の自分を恨むのだった。

 

やっぱりあの時、瞬の制止を振り切って金を止めるべきだったのだろうか。かつて金が俺を助けてくれたときは、東郷先生をなんとか説得して俺に会いに来てくれたみたいだし....。

涼は後悔していた。金は俺を助けてくれたのに俺はなにもできないのか。俺だって金のことを大事に思っているのに....。

「涼くん....もしかして責任感じてるんじゃないかな....?」

「えっ....?」

涼の顔を下からのぞき込むようにして友奈がそうやって言ってきた。

「やっぱりね....涼くんの顔を見てればわかるよ!」

涼は完璧に友奈に見抜かれていた。そして友奈に肩を掴まれてこう言われる。

「涼くんならきっと金太郎くんを救える!金太郎くんだって涼くんを救ったんでしょ?だったら涼くんにも必ずできる。助けたいと思ってるんだよね?大切に、思ってるんだよね?」

「........はいっ!もちろんです!....金は俺を助けてくれた....金がいなかったら今の俺はない....!今度は....俺が金を助ける番だ!!」

涼は熱い眼差しで友奈の顔を見つめ返して言った。それを聞いた友奈は優しく微笑んだ。涼の気持ちを聞いて安心したのか、そのまま何も言わずに涼の肩を放した。

「涼....よく言った!」

「もちろん僕たちも手伝いますからね!」

「........ありがとう....!祐成....瞬....!」

すると突然、いつもの侵攻のときとは少し違う警報音が鳴った。その音は普段以上に不気味であった。

「お、おい....なんだよこの音....!いつもの警報と違うぞ....!」

「見てください。端末の表示もおかしいです....!」

「東郷....これって....!」

それを見ていた風はそう言って東郷の方へ振り返った。

「ええ....。三人とも!覚悟して!いつもとは段違いの数が攻めてくる....!厳しい戦いになると思うわ!」

「そんなっ....!ただでさえ金がいないって言うのに俺たちだけで....!?」

「........それでも....やるしかないよ!」

「祐成、そうですよ!涼の言うとおりです!三人で無事に帰ってきて金を取り戻しましょう!」

「........ああ....わかった!ド根性で勝つ!」

三人は円を作り、それぞれの拳を前につきだして合わせた。

「讃州中学勇者部....ファイトですっ....!」

いつもとは違う不吉な警報音が鳴り響きながら樹海化が始まった。

_________________________

 

「........ぁぁ....すごいな....」

涼たちの目に映っていたのは樹海を埋め尽くすほどのバーテックスだった。こうしている間にどんどん増えているようにも見える。

「おい........あのバーテックスも....あっちのバーテックスも....俺たちが前倒したはずのバーテックスだぞ....!」

「........見たことないバーテックスもいますね....!」

瞬がそう言って端末を見る。

「....星座の名前が書いてあります。いつもとは違う。うわ....マップで見てもヘドが出るような数ですね....。あっ!?見てください!」

瞬は二人に端末を見せて指差した。

「あっ!金がいる....?」

「もうすでに、ひとりで戦ってるんだよ~....」

そう話していると向こうの方から爆発音が聞こえてきた。

 

---

 

「お前らの....お前らのせいでこうなったんだ!....俺の人生も....俺の姉ちゃんの人生も....たくさんの人の人生をぶっ壊した!すべてはお前らのせいだっ!全部、全部、全部、全部、全部!全員俺が倒してやるっ!」

 

---

 

「金のやつ....何やってんだ....!自分の武器が遠距離向きだってのにバーテックスに自分から突っ込んで行ってるぞ....!」

「いつもは後ろで僕らを援護してくれているのに....この数じゃすぐ囲まれて危険ですよ!」

とは言ってもこちらにも数え切れないほどのバーテックスが攻めてきている。

「........!どうすれば....」

迷う涼に対し、祐成が彼の背中を押した。

「ほら、行けよ。今の金を助けられるのはお前だけなんだからさ。ここは俺たち二人に任せとけ!」

「....でもっ!」

「あのままの金だとやられてしまうのも時間の問題です。それでも良いんですか?また後悔することになりますよ。」

そう言って瞬も涼の背中を押した。

「取り戻して来い!涼!また四人でバカみたいにはしゃごうぜ!」

「僕たちは、あなたと金を信じています!」

そう言って二人は、涼を笑顔で送り出した。

「........ありがとう、二人とも!....わかった!行ってくる!」

そうして涼は金のところへ一目散に向かう。

(待っててね....金!君は俺が必ず....!)

---

その場に残った二人はこちらにぞろぞろと向かってくるバーテックスの大群を睨みつけた。

「さて!俺たちはこいつらを倒しますか!」

「ちゃちゃっと済ませちゃいましょう!」

 

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-----

 

-----

 

「うおおおっ!クソがっ!クソがっ!さっさとくたばれぇっ!」

金は完全にバーテックスに囲まれていた。そんな中でも金はがむしゃらに銃を撃って倒し続ける。

「はぁっ....はぁっ....おりゃあっ!....はぁっ....はぁっ....なっ!?しまった....!後ろか!?」

金は攻撃した隙を別のバーテックス狙われる。が、

 

バシュッ!!

 

襲いにきたバーテックスは突然真っ二つに割れて消えた。

「!!....お前は....!」

「全く~....危なっかしい戦いするんだから~」

涼が一振りでそいつを倒したのだ。

「ちっ........貴様....何の用だ?」

「何の用って....こっちにたまたまバーテックスが見えたから倒しに来ただけさ~!」

涼はそう言いながらまた一体のバーテックスに斧を振り下ろして倒す。

「ふん....邪魔なんだよ....」

金はそう呟いて両手の銃を静かにしたに下ろした。それを見たバーテックスはまたしても金を狙う。しかし、金は攻撃を避けようとしなかった。

(えっ、金!?)

涼は金に攻撃しようとしていたバーテックスを切り倒す。

「金....何してるの~....?」

涼はゆっくり金に近づいて尋ねる。

「....そいつは....俺の獲物だ....」

「えっ.....?」

金は涼を睨みつけ、いきなり彼に向かって発砲した。

「うわっ!!」

涼は思わぬ不意打ちに金の攻撃をまともにくらってしまう。

「お前の助けなんてなぁ、いらねぇんだよ!邪魔なだけだ!そこで寝てなっ!!」

金がそうやって罵声を浴びせる。しかし、涼はなんともなかった。ピンピンしている。

「何っ!?」

驚いた金はすばやく飛び退き、涼と距離をとる。

「ふふふ....残念だったね~....精霊のご加護だよ~!この通りどこも怪我してないさ~満開ゲージは減っちゃったけどね~」

「ちっ........フンッ!....もう勝手にしやがれ!」

「分かったよ~!勝手にさせていただきま~す!」

涼は特に金を説得したり呼びかけるようなことはもうしなかった。いつものように一緒にいて、いつものように一緒に戦う。金に寄り添う。ただ、そうするだけであった。

_________________________

 

「とりゃぁっ!」

「はぁっ!」

一方、祐成と瞬は順調にバーテックスを倒していた。一体も通さず、二人でやりくりしていた。

「はぁ....はぁ....祐成....どうします?この戦いは満開の使い時が試されます....。攻撃を受ければ満開ゲージがなくなって使えなくなりますし、早めに満開すれば満開後が大変になると思います....。さすがにこの数は一回の満開じゃ倒しきれそうにないですしね。」

「........俺は満開を使わない。」

「....えっ?....使わない?この数ですよ!使わないでどう勝とうって言うんですか!」

「....そうだな。」

「『そうだな』って....何を考えて....」

すると祐成は瞬の言葉を遮って話し始めた。

「なあ瞬、さすがにこの数だ....満開中に攻撃をすべてかわすことは不可能だろう....。それに、満開中に少しでも攻撃を食らって、怯んだところを狙われたら一貫の終わりだ。」

「そ、それはそうですが....」

「それにな....俺には夢がある。実家を継いでうどん屋になるっていう夢がな....。それだけは譲れねぇ。俺の小さい頃からの目標なんだ。だから....こんなところでくたばってたまるかってんだ!まだこの後にも最後の侵攻があるし、精霊のご加護がある今の姿のまま戦った方が勝機がある!」

「.........あはは....こればかりは祐成の言う通りかもしれませんね....。わかりました....僕も満開はしません!」

「へへっ!そうは言っても気をつけろよぉ?満開ゲージがゼロになれば満開してる時と変わらないってことなんだからな!」

「もちろん....重々承知ですよ!」

瞬と祐成は背中を合わせる。

「よし、それじゃあ戦い再開だっ!」

「はいっ!」

 

---

--

-

 

金と涼が一緒に戦い始めて数時間が経過しようとしていた。少しずつバーテックスの数が減ってきているように感じる。

「はぁっ.....!はぁっ....!クソっ!おらぁ!とりゃっ!....はぁっ....!はぁっ....!」

二人ともかなり体力を消費しており、満開ゲージも残りわずかだ。この二人も瞬と祐成同様、満開を使っていなかった。

「くっ....!....くたばりやがれぇぇぇっ!ふっ....どうだ....!」

金が一体のバーテックスを倒す。しかし、後ろからまたバーテックスがやってくる。金はギリギリでそれに気づいたが、それをかわす体力は残っていなかった。

「はっ!!ぐわあっっ!!」

金がその攻撃を食らい、遂に満開ゲージがゼロになる。

吹っ飛ばされて地面に転がり、自身の満開ゲージを見る。

「や、やばい....やばいぞ....ついになくなっちまった....次攻撃を食らったら俺は........なっ!?あぁっ!?」

金が満開ゲージに気を取られていると、背後にいつの間にか大量のバーテックスが金を狙って攻撃体制に入っていた。もう避けられない、防げない。何をしても間に合わない。青白い光線が一斉に金に向かってくる。金は死を覚悟した。

_________________________

 

瞬間---

 

金の目の前に一つの人影。それは彼の目の前で大の字で立った。彼を守るように、自らの身体を呈して。そして、バーテックスの無数の攻撃が飛んでくる。

 

---

 

---

 

---

 

「....ぅ!....ょう!....涼!」

金の呼びかけで涼は目を覚ます。金を守ったのは涼であった。涼は自分の満開ゲージがゼロギリギリだった状態で金を守ったため、あの量の攻撃をまともに受けた涼は当然、大ダメージを負った。涼の目の前には涙をボロボロ流している金の顔があった。涼は金の手に抱かれ、彼の膝に寝ていた。

「....良かった........無事........みたい....だ....ね....しかも........いつもの........金だ~.......」

涼は傷だらけの顔で微笑み、そう言った。金の手と足に大量の血液が付着する。すべて、涼の血液であった。

「ごめんね........金........お....れ........も....う....だめ........みたい........」

「何言ってんだよっ!涼!!」

金の悲しそうな顔を見ながら、涼自身も涙を流してそれでも笑顔で、一生懸命話す。

「ねぇ........き........ん........楽しかったよね~........カラオケ行ったり........ボウリングしたり........祭りとか........保育園行ったりとか........すごく............楽しかった~........東郷先生たちが来てから........もっと部活が........賑やかに........なった....よね~........とても........充実した........毎日........だった....」

「おい!!しっかりしろ!涼!!」

今にも目を閉じそうな涼を、金は彼が眠らないように激しく彼の体を揺らす。

「ふふふ........瞬と........祐成と........東郷先生たちに........よろしく........ね........」

「だめだ........だめだっ!涼!お前は絶対に俺が死なせないっ!!」

涼は力を振り絞って金の手を握り、こう言った。

「き........ん........最後に言いたいことがあるんだ~........君に会えて........よかった........金のおかげで........俺の人生は........とても....とっても........楽しかったよ....!!........き........ん........は........最後まで........生き残るんだよ......!......あとの........世界は........任せたよ~........俺の........一番の........親友........さ....ん............」

涼はそう言うと、ゆっくり目を閉じ、金の手を握っていた彼の手が、すっと下に落ちる。力が抜けたのが明確に分かった。

「涼....?涼!!おい、涼!!涼っー!!!」

金は何度も彼の名を叫ぶ。何度も激しく彼の体を揺らす。それでも何も返ってこなかった。何も反応がなかった。ただ、ぐらぐら首が動くだけであった。

「おい........涼....!涼ってば....!返事....してくれよ....頼むから........いつもみたいに元気に返事してくれよっ!!」

金の大粒の涙が涼の頬に落ちる。

「ぁぁ........ぅぅ........うわあああああああああああっ!!ああああああああぁぁぁぁぁっ!!うああああああああっ!!」

金は涼の体に顔をこすりつけて泣いた。それでもなにも反応は無かった....。金の悲しみの叫びが樹海に響く。しかし、そんな悲しみなど関係なしにバーテックスたちは容赦なく金に近づいてくる。気配を察知した金は涼をゆっくりと地面に寝かすと、涙を手で拭い、二丁の銃を手に取った。

「はぁっ....!はぁっ....!お前らは絶対許さない....!....俺の親友に指一本でも触れてみろっ!俺がお前たちを死ぬより恐ろしい目に合わせてやるっ!....ここから先は........通さないっ!!」

_________________________

 

---

 

--

 

-

 

「はぁっ........!はぁっ........!くっ....!」

金は涼を背負い、祐成たちがいる方向へと進む。

(さっき........白い光が大きく輝いたのが見えた....あれは間違いなく祐成の光だ....!それから爆発音も聞こえなくなった....つまり、祐成たちは勝ったんだ!あの光の一撃で!早く祐成たちと合流しなきゃ....!きっと祐成と瞬もかなりのダメージを受けているはず....!)

金の体もボロボロになっていた。あの数を一人で相手したのだ。それでも金はペースを落とさずに走る。本来なら、倒れてもおかしくないほどのダメージ量。しかし、金は決して立ち止まらなかった。ここで止まったら何もかも壊れる、そんな気がしたからだ。

「はぁっ....はぁっ....うっ....がはっ!!」

金は血を吐き出す。戦闘中、切り札を何回も放ったからであった。その反動に体が耐えきれず、内臓がぐちゃぐちゃに破壊されていた。

「ぐっ....はぁっ....はぁっ....!ダメだ....まだ倒れるな、こらえろっ!三ノ輪金太郎っ!進め、進むんだ....!」

 

金はやがてら祐成たちが戦っていたと思われる場所に到着する。金は端末を見て、祐成たちの位置へと足を進める。

「ひどい....まるで月面だ....クレーターみたいのが樹海にいっぱいできてる....!こっちの戦いもやっぱりかなり激しかったみたいだな....。おーい!!!祐成ー!瞬ー!どこにいるんだ~!!」

体のそこら中がズキズキと痛む中、金は二人の名を叫び続ける。そして、数多くあるクレーターの中でもとびきり大きなものを見つける。金はそのクレーターの中をおそるおそる覗いた。

「あっ....!祐成!瞬!」

大きなクレーターの真ん中に二人が倒れている。

「大丈夫かっ!?」

金はクレーターを駆け下り、二人に近づく。そこで、ある異変に気づいた。....なにかが、おかしい。

「........えっ....?....嘘....だろ....。」

金はさっきまで走らせていた足を緩め、ゆっくりと歩き始めた。

「....そ....そ....んな....祐成....?瞬....?」

遠くからでは分からなかった。ここまで近づいてやっとわかった。二人が今、どんな状態なのか。

金の目の前に倒れていたのは残酷にも、無惨な姿になった祐成と瞬であった。

「........お....おい....二人とも....」

樹海に祐成のレイピアが一本刺さっている。もう一本は折れて転がっていた。瞬に至っては左足がまるごと無くなっていた。二人ともピクリとも動かず、主に白を基調としていた勇者服は全身、真っ赤に染まっていた。

「........こんな....こんなことって........俺の....せいだ....!俺があの記者の言葉なんかで....おかしくなって....そなせいでみんな....俺を....助けるために........。........みんなで協力して戦っていればこんなことにはならなかったはず....!........俺が....涼と....祐成と....瞬を....。」

金は力が抜けて膝を地面につく。

「........ぁぁ........うわあああああああああああっ!!ああああああああっ!あああああああっ!うわああああああああっ!!あああああぁぁぁぁっ!うわああああぁぁぁ~........!ぁぁぁぁぁ~........!」

悲しみや怒り、後悔。金の様々な感情が混ざった叫びがまた樹海に響く。それ以外に聞こえる音はなにもない。ただただ、この叫びを静寂が包み込むだけなのであった。

 

(第18話に続く)



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独りになった勇者

 40.独りになった勇者 

 

あの戦いから一週間が経過した。しかし今もなお、テレビや新聞などでは勇者の話題ばかりだ。一方、四国新聞は社員の一人がインターネット上で偽の情報を流し、一人の少年に暴行を加えたとしてその社員を解雇、謝罪した。後にその社員は逮捕される。一方、大赦は会見を開き、これまで隠していたことを謝罪。そして現在の状況やなぜこのような事態になったのか、すべて包み隠さず公表した。四人いた勇者が、一人になってしまったということも....。

金は迷惑をかけた人々に謝り、改めて勇者として戦うことを決意する。問題を起こしてしまった金は一般市民に理解してもらうため、慈善活動を行い始めた。だが....なかなかうまくはいかなかった。ネットでのイメージが人々の頭に定着してしまっていたのだ。

 

この日、金は一人で部室にいた。あの侵攻以来、東郷は学校に来なくなってしまっていた。金はストレスの溜まりすぎが原因なのか、鬱状態になりかけていた。彼の目には光がない。以前のような明るい金はいなかった。金は部室の隅にある花瓶に入っている水を変え、三色の花を入れた。

「こんにちは~!今日も来たよ!金太郎くん!」

そう言って部室に入ってくる人物が一人。金は完全に一人というわけでもなかった。あれから毎日、友奈が部室に来てくれる。

「....友奈さん、毎回言ってますけど今の勇者部には一つも依頼が入っていないんです....。何もすることはありませんよ....。せっかく友奈さんたちが築き上げてきた勇者部の信頼も....すべて俺が壊しちゃったんですから....。」

金が小さい声でそういうと、友奈は金に近づいて、

「じゃあ、いつものようにこうするだけだね!」

彼の隣に座った。友奈はただ、毎日毎日金の側にいるだけであった。そんな友奈を気にもせずに、金は端末を取り出してイヤホンを耳につけて音楽を聴き始める。

「ねぇ~ねぇ~、いつも何聴いてるの?」

友奈の問に、金は久しぶりに少し微笑んで言った。

「....この人の曲はですね....聴くととても勇気が沸くんです....。元気が出るんです....。今のような時でも....少しだけ。」

「私も聴いてもいいかな?」

「........どうぞ。」

金はそうとだけ言って片方のイヤホンを友奈に渡した。

「あっ....この曲....」

「友奈さんも知ってますか?まぁ、有名な曲ですもんね。」

「フフフッ....」

「?....なんで笑うんですか?」

「フフッ....なんでもないよ~」

「なんですか~?気になるじゃないですか~」

「なんでもない、なんでもない!」

 

---

 

--

 

-

 

時は経過し、学校が閉まる時間になった。金はいつも帰り際に友奈に預けるものがあった。

「じゃあ今日もこれ....お願いします....」

彼は友奈に花束を三束渡す。

「はは........すみませんね....まだ....勇気出なくて....この事実を....受け止められなくて....。」

金は下を向き、爪をいじりながら言う。

「別に大丈夫だよ、金太郎くんっ!少しずつで大丈夫!」

「........ありがとうございます....それでは....また明日....。」

「じゃあね~!」

友奈は金と別れ、学校を出ると金から預かった花束を持ってある場所へ向かった。

 

 

 

 

三ノ輪家

「お~い、金~!夕飯出来たぞ~」

「ごめん兄ちゃん....俺、食欲ないんだ....。」

「........お前、ここ最近ずっとそうじゃないか。しっかり食べないと体が持たないぞ」

「........。」

「....金、ちょっとこっちに来てくれ。」

鉄男は金を呼ぶと向かい合って座るように促す。

「俺な、今でも姉ちゃんが死んだときのことをはっきりと覚えてるんだ。昨日のことのようにな。」

「........本当に....ごめん....。勇者のことを兄ちゃんにまで内緒にしていて....」

鉄男の話から、金は鉄男の心の中を先読みして謝った。鉄男は弟まで同じお役目で失いたくないと思っている。だから勇者のお役目をやっていること内緒にしていた金太郎に対して怒っているわけがないと思ったからだ。しかし、

「それは大赦の人たちから言われていたんだろ?勇者のことはたとえ家族であっても言っちゃいけないってさ。それはしょうがないさ。」

鉄男の反応は軽いものだった。思っていることを心の内に隠している感じもない。

「........そうだけど....」

金はそれでも謝ろうとするが、

「さっきの話しの続きをするぞ。」

鉄男が強制的に切り上げて話題を元に戻した。

「........うん。」

金は大人しく鉄男に従うことにする。

そして、鉄男が重い口を開けてゆっくりと話し始めた。

「俺な、姉ちゃんの葬式でいっぱい叫んだんだ。なんで死んだのがよりによって俺の姉ちゃんなのかって。今でもときどき夢に出てきたりして思い出すんだよ。....姉ちゃんと一緒に過ごした日々を。」

「........。」

「もちろん、お前が勇者をしていると聞いて怖くないと言ったら嘘になる。お前が姉ちゃんと一緒の運命を辿ることになっちゃうんじゃないかって思ったら体の震えが止まらないさ。俺の大切な兄弟がまた勇者のお役目で死ぬなんて....そんなの絶対嫌だ。........でもな....俺はお前を信じてる。お前ならきっと、一人だとしてもお役目を最後まで果たせるって。」

「........兄ちゃん....」

金はそこでやっとわかった。鉄男は金太郎のことを信じている....。だから鉄男は何も隠していないと感じたのだ。今の鉄男はとても潔かったのだ。

「お前の体は....お前だけのものじゃないんだ。お前のことを大切に思っている人がたくさんいるんだ。そのことを絶対忘れちゃダメだぞ」

「........ごめんよ、兄ちゃん....ありがとう....!わかったよ....!」

 

---

 

夏凜宅

「くっ....!なんで完成型コーチである私が写真を撮られていたことに気づかなかったのかしら....それさえ気づけていればこんなことには....!」

「いや、違うわ。夏凜ちゃん。私が最初に言わなかったからよ、今の勇者システムではバーテックスを根絶できないということを....きっと、あの記者に会わなくても四人はこのことで心が乱れて、似たような結果になっていたと思うわ....。」

東郷は夏凜の家に訪れていた。東郷は金たちの教師として、大赦の巫女として今のこの状況を打破するべく、様々な行動をとっていたのだ。

「........くっ....私たちは....どうすれば良かったのよ....!どうすれば彼らを救えたの....?」

夏凜は険しい表情を見せ、床を殴った。

「きっと....こうなることは私たちがどうやっても避けられなかったと思うわ。これは....勇者になったら避けられない、運命なのよ。」

 

-----

 

二日後。金は学校の帰りに病院へ寄っていた。前回の戦いで金もかなりの負傷をしていたため、通院しているのだ。

金は診察と検査を終えると病院を出ようとしたところで友奈に会う。

「あっ....友奈さん....」

「おっ!偶然だねー!もうすっかり暗くなっちゃったよね~冬は夜が来るのが早いよーうぅ~....寒い....寒い....」

「大丈夫ですか?友奈さん....病院に来たってことは風邪でも引いたんですか....?」

「あぁ~違うよ!私は元気だよ~!....金太郎くんも本当はなんで私が病院に来たのか分かってるんでしょ?」

「........。」

「フフッ....当たっちゃった?」

友奈は微笑みながら上目遣いでそう聞いた。

「全く........友奈さんには敵わないなぁ....。」

金は友奈に聞こえない声でそう言い、

「じゃ、じゃあ俺帰りますね!」

と言い直してすぐにその場から離れようとする。しかし、友奈が病院を出て行こうとする金の手を絶対逃がさないとでも言うように掴んだ。

「そろそろ....会いに行ってあげたら....?」

「でもっ....!俺は....!!」

「金太郎くん....本当はすごく会いたいんでしょ?三人もきっとそう思っているよ!」

「........。」

金は断りきれなかった。完全に心の内を読まれていた。金はそのとき、こういう面がある彼女だからこそ、昔彼女は勇者に選ばれたのだなぁ、と感じた。

そのまま友奈に連れられ、ある病室へと入る。そこには合計六個のベッドがあり、カーテンがしまっている奥のベッドへと向かった。

(........!)

金は緊張しながらそこに近づく。そして友奈がカーテンをゆっくりと開けた。そこには金の大切な友達が横たわっていた。幸せそうな顔で眠っている。

「くっ........ぅぅ........」

金は久しぶりに見た友達の顔を見ると表情を歪め、唇を強く噛んだ。彼の目の前には二つのベッドに二人の少年が横たわっていた。

 

涼と瞬だ。

 

まだ意識は戻っていない。未だに昏睡状態が続いていた。涼と瞬は かろうじて一命を取り留めていたのだ。涼と....瞬は.......。

 

(第19話に続く)



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純白の勇者

 

 41. 純白の勇者、華麗に散る! 

 

------------------------------------------------------------------------------------

 

『これは、涼と金太郎のやりとりが繰り広げられていた中、残りの二人の勇者が世界を守るために行動した、古波蔵 瞬しか知らないもう一つの戦いを描いた物語である。』

 

------------------------------------------------------------------------------------

 

「くっ..........うぅぅ........」

「瞬!大丈夫か!」

「祐成も気をつけてください....あ、あいつの飛ばしてきた毒針が....足に刺さったみたいです....」

「あっ....!本当だ....大丈夫、任せろ!」

祐成はそう言って瞬の左足に刺さっている針をレイピアでとった。これまでの戦いで負ったダメージにより、二人の満開ゲージはもうない。すなわち、精霊バリアは発動せず、ほとんど生身の状態である。祐成と瞬は暴走している金の元へ向かった涼の帰りを待ち続け、ひたすら戦っていた。

「はぁ....はぁ....ありがとう....ございます....」

そんなことをしているうちにバーテックスたちが瞬と祐成を囲む。二人は数時間以上戦っていたがバーテックスは一向に減る気配がない。瞬は足を無理やり動かし、なんとかして立ち上がると、二人は背中を合わせて言った。

「瞬!....まだまだ行けるよな?」

「当たり前です!祐成!」

「よし、行くぞ!」

 

---

 

---

 

---

 

数分後---

「はぁっ....はぁっ....祐成....ちょっと....助けてください....」

「........!大丈夫か!?瞬!!」

祐成は様子がおかしい瞬に駆け寄る。

「さっきから....めまいがして....左足が....うまく....動かないんです....」

「どれ、見せてみろ!」

祐成は瞬のズボンをまくる。

「なっ!?これは....!?」

瞬の左足の股の下からつま先まで紫色に変色していた。

「そ、そんな....!?どうして....!」

祐成は困惑する。

「おそらく....先ほどの毒針の影響です....。しょうが....ないですね....こうなってしまっては....祐成!僕の足を....そのレイピアで....断ってください!」

祐成は一瞬、瞬の言ったことが理解できなかった。が、すぐに我に戻り、

「!?........お前....何言ってんだ!!!俺にそんなこと....」

と叫んだ。が、

「このままだと....僕はこの毒が全身にまわって死ぬでしょう....?それでもいいんですか!生きられるなら、足の一本くらい軽いもんですよ。」

瞬の覚悟はできていた。なぜこんなに早く覚悟を決められるのか。........いや、彼は勇者になったときからすでに覚悟していたのだ。こうなることも、いずれあるだろうということを。

「........くっ....!わかったよ........くそっ....!ぅぅ....ぅ....ごめん....ごめんな....瞬....!うおおおおおおおおおおっ!!」

祐成は瞬が苦しむ時間を少しでも減らすために勢いよくレイピアを縦に振る。そして瞬の左足は赤い血を巻き上げながら空中に吹っ飛んだ。

「ぎゃああああああああああああっ!!!!うわあああああああっ!!!!くっ....うぐぐぐぐぐぐぐ....!!ぁぁぁぁぁ........ぁ....ぁぁぁ........!」

瞬の血が円形の傷口から大量に吹き出し、祐成の体にふりかかる。

「........ぅぅ....瞬...」

祐成は瞬のことを見ることができなかった。ぎゅっと目を閉じる。

「くはぁっ....!くはぁっ....!だ....大丈夫で....す....これくらいの....痛み....へっちゃら....で....す....から....」

そんなわけないはずなのに。普通なら耐えられるはずのない痛みなのに。この言葉を聞いた祐成はバッと目を開き、すばやく瞬の勇者服を破り、足の止血をする。

「死ぬなっ....死ぬなよ!瞬!!」

「はは....これくらいで、大げさですよ....。はぁっ....!はぁっ....!まだ....まだ戦えますよ....!」

瞬はそう言ってブーメランを投げた。

 

---

 

---

 

---

 

また数時間が経過する。

「はぁっ....はぁっ....はぁっ....あと....少し....う゛っ....がっ....!」

バーテックスの数も残りわずか。だが、切り札の多用で体への負担が大きかった祐成は思いっきり血を吐き出した。もう祐成はとっくに限界を越えていた。

「ゆ....う....せ....い....」

今にも途切れそうな、祐成を呼ぶかすれ声が聞こえる。

「....!!瞬!」

もちろん、限界を超えているのは祐成だけではなかった。

「も....もう....僕は....ダメです....体が動かなく....なって....きました....出血量もひどいです....めまいと....吐き気と....こんなに怪我してるのに痛みすら....もう....感じないんです....」

「瞬....!」

祐成は瞬に近づくと、樹海に寝そべっている瞬を抱き上げる。

「ゆ....う....せい....僕....怖い....です....いざ死期が近づいてくると....こんなにも....怖いです....国のためなら....人のためなら....と、思ってきましたが....実際に....体験してみて....死というものは....こんなにも恐ろしい....」

「瞬!!大丈夫だ!しっかりしろ!俺がついてる!お前は一人じゃない!」

「........ずっと....そばにいてくれますか....?」

「ああ....『やくそく』だ....!」

祐成はそう言って瞬の手を握る。瞬は安心したのか、すこし微笑んだ。しかし祐成は....。

「........なんてな。残念だけど....『やくそく』はできない。」

「えっ....なぜですか....!」

「お前は....生き残るからさ!」

祐成はそう言うと瞬を地面に寝かせ、ゆっくり立ち上がり、二本のレイピアを取り出して残りのバーテックスの方へ振り向いた。

 

 

「それって....それってどういう....ことですか....!」

「瞬、お前は生き残るべき人間だ。勇者としても俺よりも強い....俺がここでド根性見せてあいつらを倒して、お前が生き残った方がいいんだ!」

「なにを言っているのか....わかりません....僕の現在の体の状態を伝えたでしょう....?僕はもう....助からないんですよっ....!」

「いや、お前は絶対に助かる!俺がそう断言するっ!」

祐成は謎の自信を持っていた。その気迫に瞬は押され、

「........!仮にそうしたとしましょう....でも....今、祐成は僕だけが生きて帰れるみたいな言い方したじゃないですか....。それは....どういうことですか....?」

「........。」

祐成は黙る。彼は依然、瞬に背を向けたまま残りのバーテックスを睨んでいた。

「....祐成っ!僕を一人にしないでください!!一緒に....一緒に帰りましょう....?」

瞬は今にもなくなりそうな意識をなんとか保ちながら必死に訴える。だが、

「........大丈夫だ....瞬。お前は一人じゃない。じきに涼が金を取り戻して帰ってくるさ!」

「祐成っ....!」

「瞬。....俺はもうとっくに限界を超えてるんだ....残りのバーテックスも中型数体と....さそり座のバーテックスだけ....」

「....!!祐成っ!危ない!」

祐成たちが話をしている間にいきなり中型バーテックスが一斉に飛びかかってきた。

「はあぁぁぁ........おりゃぁっ!」

祐成は切り札を使って中型バーテックスを一掃する。が....

「くっ........はぁっ....はぁっ....はぁっ....うぐっ....おげぇ....ぐはぁっ....」

祐成は地面に両手をつき、口から大量の血を吐き出す。

「祐成....!やめてください....もうこのままだと、あなたの体がもちません!涼たちを待ちましょう!」

「無理だ....もう....時間がない....やるしか....ないっ!!」

「祐成ー!!ダメです!」

「瞬....お前は頭がいい....俺とは真反対だ....このお役目が終わったら...将来きっと、社会の役にたてる....!」

「祐成っ!ダメって言ってるでしょう!!僕が....許しませんよ....!」

瞬は残った右足で精一杯地面を蹴り、祐成に急接近して彼の足を掴んだ。

「離しませんよ....絶対に....離しませんよっ!」

すると祐成はゆっくり振り返り、笑顔で瞬にこう言った。

「瞬。....最後くらい....俺にも良いところ、見せさせてくれよ。」

「........!」

その言葉を聞いた瞬は思わず力を抜いてしまう。そして、それを見逃さなかった祐成はサッと足を引っこ抜き、バーテックスに向かって言った。

「さそり座のバーテックスよ!我が名は須藤 祐成!偉大なる勇者である!これから俺がお前を....地獄に葬ってやるっ!........そして........俺も華麗に、散らせてもらおうっ!」

そうして、祐成はバーテックスに突っ込んで行った。

「ゆ........う....せい........!」

瞬は涙を流す。何もできない自分を恨んだ。目の前でどんどん祐成が傷ついていく。地面にレイピアを突き立てながらも、なんとかして立ち上がり、自分よりも数十倍でかい怪物に向かっていく....。まさに彼は、根性で体を動かしていた。

(........ぅぅ....くっ........ぅぅ........ぁぁ....祐成........)

瞬はもう声すらも出せなくなっていた。目もかすみ始めてよく見えない。

「はぁっ........はぁっ........へへっ....やるじゃ....ねぇか....!けどな!ここでやられるわけにはいかねぇんだよ!お前たちなんかに....世界を滅ぼされてたまるかっーー!!」

祐成が真っ白い光を放つ。まさに、これが祐成の最後の力だった。まるで太陽のように明るく、白かった。

(........ぁぁ........ゆ........う........せ........い............)

そこで瞬の意識はとぶ。

そして、祐成はレイピアを構えて大きく飛んだ。

「これが........最後のチャンス!これが俺の........最後の切り札....うおおおおああああっ!! ド 根 性 っ ー ー ー ! ! ! ! 」

祐成の勇者服の胸にある水晶にひびが入る。辺り一帯は白い光に包まれた。やがて、それは嘘だったかのように消えた。

 

 

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六回目の侵攻から二日後。あれから毎日大雨が降り続いている。この日は多くの人が喪服を着て、葬式場に集まっていた。もちろん、泣いている人ばかりだ。奥には微笑ましい笑顔で写っている少年の写真が多くの花に囲まれ、置かれていた。その下には一つの箱がある。

「なんでっ....!なんで祐成なのよっ!うちの息子は何も悪いことしてないじゃない!....むしろ....とてもいい子だったのに....」

「『将来はおとうさんの店を継いでもっと繁盛させてみせる』とか....生意気なことばっかり言って....まだまだ....あいつの味は全然のくせによ....あいつが一人前になって作る....うどんが食べたかった....。」

そう泣き叫んでいたのは祐成の両親らしかった。式場に来ていた金は後方の席からその様子を静かにみていた。

「ねぇっ!なんとかいいなさいよっ!あんた、大赦の偉い人なんでしょ!ねぇっ!ねぇっ!」

祐成の母が、仮面を被った風の肩を揺らして詰め寄る。

「........申し訳....ございません....」

「........謝って....済むことじゃないでしょ....!」

「ただ....私たちがどうしようとも....もう祐成くんは帰ってきません。もうどうにも....なりません....!」

「ううう........ああああああっ~!わああああっ~!!」

祐成は須藤家の一人息子であったという。両親にとってたったひとりの息子。小さい頃から家業を手伝い、なんにでも熱心に取り組んでいたという....。金には両親がいかに祐成を大切にしていたか痛いほどわかった。金も祐成のことを大切に思っていたから。

 

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やがて祐成との別れの時がやってきた。一人一人、彼が入っている箱に近づき、最後のあいさつをする。夏凜は祐成の眠った顔を見たとたん、流していた涙の量が増える。

「....バカっ........あんたって....ほんとバカよ....なに死んでるのよ......ふざけんじゃないわよっ!....死んだら....もう....どうにもならないじゃない....!....あんた....私たちにうどんをご馳走させるんじゃなかったの....?あんたの家、継ぐんじゃなかったの....?........ほんとに....最期まで........ぅぅ....ぅぅぅぅぅ....!」

次は園子が前に出る。

「ゆうくん。....ゆうくんはいつも....みんなを楽しませてくれてたよね。....本当に....ありがとう....。....私たちみんなで....今の勇者たちを守るって....約束したのに....守れなくて....ごめんね....」

その次は友奈が。

「........祐成くん....みんなを....瞬くんを守るために....頑張ってくれたんだね.....あなたが頑張ったから....瞬くんは助かったよ....祐成くんは....立派な....勇者....だよ....!ぅぅぅ....ぁぁぁ....」

風はみんなの様子を仮面ごしから見ていた。もちろん仮面をつけているから表情は分からない。だが、風の拳は強く、強く握られていた。

「........そんな....なんで....くっ....!....祐成くん....あなたは....元気で....面白くて....常に明るかったわね....ぅぅ....ダメよ....こんなの....私....到底信じられないっ....!こんなの....現実だなんて....思えないっ....!」

東郷はどうしても現実を受け入れらないようだった。友奈が泣き崩れる東郷の背中をさすり、一緒に泣いていた。そして、金の順番がやってくる。

 

 

 

金は箱の中を恐る恐る覗く。

「........あ....」

樹海で見た祐成とは全く違う顔をして目を閉じていた。傷だらけだった顔が綺麗になっている。とても気持ちよさそうに寝ている....金はそう思った。そして、ゆっくりと手を祐成の頬に当てる。

「........あああ........ぁぁ....」

金の体は小刻みに震え始める。金の目から涙がこぼれてくる。祐成の顔は氷ではないのかと思うほど冷たかった。金は祐成が本当に死んだのだと実感する。

「........祐....成.....ごめんな....俺が変になっちゃったから....お前を....死なせるなんてことに....!ごめん....ごめんっ....!........お前は....変わったよな....最初は戦うことさえ怖がってたのに....瞬を救うために....命を懸けた....!すごいよ....祐成は........お前と過ごした毎日は....すごい楽しかったよ....ぅぅぅ....いろいろ俺にちょっかい出してきたりさ....いつもふざけたり....調子乗ったり....なんど怒られても懲りなくて....頭が悪くて....自慢して....態度がでかくて............」

金はもう傷が治ることのない祐成の頬を撫でる。

「でも........祐成は....勇者部の太陽みたいな存在だった....いつも....いるだけで雰囲気を明るくしてくれて....みんなを....照らしてくれていた。........祐成は普段あんなことばっかりしてるけど....本当は人のことを思って行動できる、熱いプライドを持った、正真正銘の勇者だよ。....本当に....ありがとう....君に会えてよかった....!」

金は歯を食いしばって言いたくなかった言葉をはなつ。

「祐成........さようなら....」

金はそういい残すとそこから離れた。

「........ぅぅぅ....ぁぁぁぁ....わあぁぁぁぁ........」

ゆっくりと彼から離れていく。そして静かに泣く。拭いても拭いても出てくる涙を一生懸命手で拭うのであった。

 

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翌日。

祐成の名は歴代勇者と巫女たちが眠る墓地に刻まれる。金はこの場にはいなかった。

東郷と園子は墓標を見つめながら話す。

「まさか....銀の隣に祐成くんが行くことになるなんてね....しかも....今日は銀の誕生日だっていうのに....複雑な気持ちだわ....」

「私たちにとっても....ミノさんにとっても....今日は良い日になるはずだったのに....最悪な日になっちゃったね~....」

「銀....そちらに祐成くんが行くわ....よろしく頼むわね....」

 

金は自分の家から空を見ていた。今でもはっきりと、昨日祐成の頬を触った感覚が蘇る。祐成は遠くに行ってしまったのだ。もう一生会えない....。

これから自分に出来ることは....祐成が守ろうとしたこの世界を、最後まで守ること!お役目を果たすこと!金は再び心に誓う。

 

 

須藤 祐成 死亡

 

(第20話に続く)



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