ダンジョンのある世界で賢く健やかに生きる方法(R18版) (子供の子)
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第1話:出会い

ノクターンノベルズで削除されたR18版の投稿になります。
削除されたところまでの投稿になりますので、途中で更新が途絶えます。
ご迷惑をおかけして申し訳ないのですが、あらかじめご了承いただけると助かります。
全年齢版としてカクヨムにも投稿されていますが、そちらは完結まで走る予定です。


0.

 

 世界中に<ダンジョン>と呼ばれる不思議な建物が出現し始めて10年が経った。

 俺こと皆城(みなしろ) 悠真(ゆうま)が初めて()()を目撃した時は小学生の時である。

 

 大人になったら、自分もいつかダンジョンを冒険する時が来ると思っていた。

 非日常が始まると思い込んでいた。

 

 が、人間というものは案外順応性が高いものらしい。

 10年も経てばダンジョンはすっかり生活の一部と認識され、今ではダンジョン産の果物や野菜が売っていたり、同じくダンジョン産の便利なグッズが販売されていたりする。

 

 今でも最前線でダンジョンを攻略している人は存在するし、不幸な事故によって人が亡くなったりもしているが、多くの一般人にとっては遠い話だった。

 

 と言うのも、日本でダンジョンを最前線で冒険しようとなると、ダンジョン攻略を目標として掲げている企業に勤めないといけないからだ。

 いや、絶対にそうしないといけないわけではないけれども、現実的に考えてそうする他ないというのが正しいか。

 

 そしてそれらの企業に入る為に必要なものは高い身体能力、優れたIQに膨大な量の各種基礎知識。

 そりゃそうだ。

 ダンジョンの最前線では簡単に人が死んでしまうのだから。

 言ってしまえば戦地となんら変わりない。

 攻略済みのダンジョンならば誰でも立ち入ることが出来るし、場所によってはダンジョンの低階層をレジャー施設として運用していたりもするので、関係ない人にとっては本当に関係ないことなのだが。

 

 ちなみにダンジョンを攻略している企業には、基本的に15歳から応募できる。

 何故かは知らないが、若い方がダンジョン攻略をしていく上で有利だからだ。

 ダンジョンを探索する者は徐々に身体能力が人間離れしていく。

 巷ではレベルアップとかなんとか言われているが、本当のところどうなのかは未だ確認できていない。

 実際、若い方が身体能力が上がりやすいという実験結果は出ているので、何かしらのダンジョン不思議パワーが働いていることは間違いないのだろう。

 

 ちなみに俺は現在22歳。

 当然、7年前にとある企業の試験を受けた。

 しかし落ちた。

 完膚無きまでに不合格だった。

 その後も何度も挑戦したが駄目だった。

 

 だからもうダンジョンを攻略するという夢は諦めて、多くの人々と同じように生活の一部、便利なモノを排出する謎多き施設として受け入れよう――そう思っていた矢先のことである。

 

 あんな事件が起きたのは。

 

 

 

1.

 

 

「多分、今日のも駄目なんだろうなぁ」

 

 梅雨特有のじめじめとした空気を感じながら、俺自身もどんよりとした空気をかもしだす。

 

 面接帰り。

 この三ヶ月くらいでで一生分の自己紹介をしたのではないかと思う。

 世の中は今、10年前に突如現れたダンジョンによる高度経済成長で大盛りあがりしている。

 

 しかしそれはあくまで消費者側か、雇い主側の都合だ。

 割を食っているのは労働者である。

 ダンジョンによって世の中にもたらされた恩恵は大きい。

 

 なにか例をあげろと言われれば、まず矢面にあげられるのはエネルギー問題だろう。

 200年か300年も経てば全ての資源を使い尽くすと言われていた時代はもう終わったのだ。

 ダンジョンの魔物が遺す魔石と呼ばれる高密度のエネルギー鉱物により電気もガスも必要なくなり、大勢の失業者が出た。

 

 しかし消費者からすれば電気やガスよりも圧倒的に安い代替エネルギーが出てきているので何も困らない。

 そして金持ちは魔石エネルギーに莫大な投資をして更に大金持ちとなる。

 

 割を食うのは労働者とはそういう意味である。

 同じような問題が他でも――例えば食料だったり水産資源だったり――いくつも起きているが、正直これに関しては誰が悪いという訳でもない。

 

 強いて言えば突然出てきたダンジョンが悪い。

 

 10年前にはみんなにとって憧れの的だったダンジョンも、今では一部の人間からは疎まれる存在というわけだ。

 かく言う俺もダンジョンの存在を今では鬱陶しく思っている訳だが。

 

 解雇された労働者たちがその後何をするかと言えばもちろん他の職を探すのだが、そのお陰で新卒ブランドが最近ではなかなか通じなくなっているのだ。

 

 そりゃそうだ。

 今はどの会社にとっても大事な時期。

 即戦力になる社会人経験者よりもついこの間まで学生だった若者を優先する理由がない。

 もう5年もすればそれが落ち着いて、今度は新卒をどこも喉から手が出るほど欲しがる時代が来ると言っている専門家もいるが……

 

「それじゃもう遅いんだよな」

 

 今日も望み薄だが、1%でも可能性が残っているのならやるしかない。

 

 気持ちをなんとか奮い立たせ、下を向き気味だった視線を上げるのと同時に――

 

「――は?」

 

 俺は落ちた。

 

 面接に、という比喩ではない。

 物理的な落下である。

 

 さっきまで確実に大都会のど真ん中、みんなが普段信頼して歩いているアスファルトの上に立っていたはずなのに。

 そこには足場がなく、俺は落ちていた。

 

「――うっそだろ」

 

 心臓が縮み上がるような感覚。

 全身の汗腺と言う汗腺から冷や汗が吹き出ているのではないだろうか。

 

 しかし地獄に仏と言うべきか、その自由落下は体感2秒程度で終わった。

 もしかしたらもっと短いかもしれないし、長いかもしれない。

 どさ、と地面に着地……もとい落下した俺は、ぱっと上を見る。

 

 しかしそこには落ちてきたはずの穴など存在しないで、無機質な岩の天井があるだけだった。

 そして目の前にはまるで俺を誘うかのように続く道があった。

 

 何へ誘うのかって?

 決まっている。

 ()だ。

 

2.

 

 心臓が早鐘のように鳴っている。

 

 ――俺はこの現象を知っている。

 同じくこんな目にあって()()した、最初のダンジョン制覇者であるアメリカ人のドキュメンタリーを何度も何度もテレビで見ているからだ。

 

 10年前、世界中にダンジョンが突如として出現した。

 今までに何人もの探索者が挑み、いくつかのダンジョンは既に攻略されているのだが――未攻略のダンジョンは一向に減る気配がない。

 

 それは何故か。

 

 ()()()()()()()()()()()()()いるからだ。

 

 とは言っても年に多くてもギリギリ二桁行くか行かないかくらいの数。

 それが世界中に散らばるわけで、言ってしまえばダンジョンの出現に巻き込まれる可能性は宝くじに当たるより遥かに低い確率だ。

 

 そして俺はたまたま運悪く、そのダンジョンの出現に巻き込まれた。

 ……ということなのだろう。

 

「……死んだかな、俺」

 

 ダンジョンの出現に巻き込まれる人間は宝くじに当たるよりも低い確率とは言え、やはり年に数人は出る。

 そしてそれに巻き込まれた不幸な人々は唯一の例外を除いてそのまま行方不明か、変わり果てた姿で発見されているのだ。

 

 だからこそ10年前、世界中に数百個のダンジョンが同時に出現し、それに巻き込まれた数万人の中で唯一生還した、特殊部隊に所属していたアメリカ人は未だに崇められているという訳だ。

 

 ……そんな彼も3年程前にダンジョンで命を落としているが。

 

「入り口が発見されるまで粘ればなんとかなる……かもしれないけど」

 

 入り口が発見されて、誰かが攻略を始めて、俺のいる地点までたどり着くことができれば或いは生き残ることが出来るかもしれない。

 

 しかしそれは無理だろう。

 俺は特殊部隊の人間じゃない。

 その上素手だ。

 もし万が一モンスターをうまく凌ぐことが出来たとしても餓死して終わり。

 

 今でこそダンジョンは攻略法が確立され、専用の武器や防具も入手出来る。

 が、そんなものを普段から持ち歩いているのはよほどの変人だ。

 というかその手の武器や防具は免許を持っていないと逮捕されるし。

 

 もちろん俺がそんな都合のいい武器を持っているはずもなく、唯一持っている辛うじて武器になりそうなものはボールペンとシャーペンである。

 ……人が相手だとしてもちょっとした怪我を負わせられる程度だ。

 俺が少年漫画に出てくる、舌で人を突き殺したり自分で投げた柱に乗って移動できるような殺し屋だったらまだしも、こちとらなんの取り柄もない天下無敵のザ・凡人である。

 

 それに特殊部隊の彼が運良く生き延びたのは、培った戦闘技術や隠密行動のイロハのお陰と言うよりは、ダンジョン内で偶然見つけた<スキルブック>によるものが大きいと言われている。

 

 スキルブックとはそれを読んだ者に特殊な力を与える本だ。

 ダンジョン内のどこかに一つだけ存在していると言われている。

 特殊な力と言っても火を吹けるようになったり肌が鉄のように硬くなったりと様々なのだが。

 

 しかし攻略済みのダンジョンでさえ未だに<スキルブック>が発見されていない例もあったりするので結局のところは謎ばかりだ。

 

 ちなみにスキルブックは一度使用すると燃えてなくなるので特殊な力を何人にも配ったりすることは出来ない。

 

 ちなみに最初の生還者はパワーが途轍もないことになるというシンプルかつ強力な能力だったらしい。

 

 ……まあ彼が生き残ったのがスキルのお陰だとしてところで、もし万が一俺が同じ能力を運良く<スキルブック>を見つけて入手したとしても、生き残ることは出来ないだろうけども。

 彼は手に入れた魔法のようなスキルに加えて特殊部隊として培った現実的なスキルも持っていたから生き残ったのだ。

 

「よりにもよってダンジョンで……俺は死ぬのか」

 

 ダンジョンにはモンスターと呼ばれる凶悪な()が出現する。

 明らかにゴブリンにしか見えないゴブリンやどう見てもオークにしか見えないオークがいたりと、ダンジョンが実は人間の手によって造られたものではないかという説を提唱する者がいるが……まあそれは今はさほど関係ない話か。

 

 ゴブリンだろうがオークだろうが普通の人間よりは圧倒的に力も強いし、皮膚も硬いらしい。

 どう考えてもペンで勝てる相手じゃない。

 もしうっかり遭遇(エンカウント)したらその時点で即終了だ。

 

 一応道は続いている。

 というか、まるでこちらへ来いと言わんばかりの綺麗な一本道だ。

 ここで朽ち果てたくなければ進むしかない。

 

「……一応、武器になりそうな石くらいは持っていくか」

 

 心細いので頻繁に独り言を呟きつつ、少し壁にめり込んでいるが手頃な大きさの石をぼこっ、と取り出すと――

 

 ゴゴゴゴゴゴ――と重い地響きと共にそこに()()()()と入り口のようなものが出現した。

 

「……は?」

 

 恐る恐る中を覗き込むと広さは四畳ほど、天井の高さは3メートル程度の空間がそこにはあり、更にその中央には石膏のようなもので出来た台座と――

 

 ――その上に鎮座する本があった。

 俺は高鳴る心臓と昂ぶる気持ちを抑えるように、小声で呟いた。

 

「……スキルブックだ」

 

 ドキュメンタリーで見たままの空間に、見たままの台座。

 あれはかなり正確に再現されていたものらしい。

 

 俺は惹かれるように本に近づいていって、手に取った。

 さほど分厚くはない。

 精々が市役所で配られるパンフレット程度だ。

 

 こんなもので本当にスキルが? と思う反面、体はほとんど自動的にページをめくっていた。

 

 ――言語は理解出来ない。

 日本語ではないことは間違いないし、アルファベットでもない。

 しかし内容は何故か一目で理解出来た。

 

 

 ――授かる力は召喚術(サモン)

 精霊を呼び出し、共に戦う。

 

 

 本が青白い炎に包まれる。

 熱さを感じる間もないままに本は完全に消えてしまった。

 灰にすらならないので、今の炎は普通のものではないのだろう。

 

 しかしそんなことも気にならないまま、俺は呟いていた。

 

「……召喚《サモン》」

 

 魔法陣のようなものが地面に浮き出て、光の粒のようなものがその上に出現する。

 それは徐々に形を取っていって――やがて、それは人の姿になった。

 

 真っ白く長い髪を二つに括り――俗に言うツインテールというやつ――、透き通るような白い肌を持つ女性。

 

 身にまとっているのは純白のワンピースのような服で、周りの岩肌に全く似つかわしくない儚さのようなものが見て取れる。

 

 そしてつり上がった気の強そうな青い瞳は俺をまっすぐ見ていた。

 

 息の詰まるような美人だ。

 いや、美人などという言葉で言い表すことが適切なのかということすら考えてしまう程の圧倒的な美しさ。

 人の言葉で形容することさえ烏滸がましいと感じてしまうような神秘的な存在だとさえ感じる。

 

 

 そしてその真っ白い美女はしばらく俺を見つめていたかと思うと、ぽつりと呟いた。

 

「――なるほど、()()そうね」

 

 ……普通で悪かったな。



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第2話:ピンチ!

1.

 

 

「あんたがあたし()主人(マスター)? 存外普通そうだけど……選ばれたってことは素質はあるはずよね」

 

「……普通で悪かったな」

 

「反応も普通ね」

 

 つまらなそうに少女は言った。

 

 ぐっ。

 何なんだ。

 なんかもっと神秘的な感じだと思っていたのに俗っぽいじゃないか。

 

「……にしてもここはどこなのよ。あんたこんな狭いところで修行してたの?」

 

 うんざりしたような表情で彼女は言った。

 

「……は? 修行?」

 

 何をトンチンカンなことを言っているのだろうか。

 俺はダンジョンの出現に巻き込まれただけだぞ。

 

「だってそうでしょ。修行も無しにこのあたしを呼び出せる訳が……ってここもしかしてスキルブックの部屋?」

 

「ん? あ、ああ……スキルブックをここで拾って、召喚術で精霊を呼んだら君が……出てきたんだ」

 

「……そうなの。にわかには信じがたいけど、とにかく見た目通りの人間って訳じゃなさそうね」

 

「で……精霊さんはなにが出来るんだ? 俺を生きてここから出してくれるのか?」

 

「精霊は種族を指す言葉よ。あたしにはスノウホワイトって名前があるの」

 

「じゃあ、スノウ。君は何が出来るんだ」

 

「スノウ……まあいいわ、あんたは主人(マスター)なんだし。とりあえず状況がよく分からないから――ちょっと失礼」

 

 そう言ってスノウが俺にすいっと近づいて、顔をゆっくり寄せてきた。

 

 え、スノウさん?

 流石に出会ったばかりでそういうのはちょっと早いんじゃないですかね?

 あ、でも受け入れちゃう。だって美少女だもの。

 目を瞑って待ち構えていると、額にぴと、と何か冷たいものが触れた。

 

「んえ?」

 

 目を開くと、スノウの恐ろしく整った顔が目の前にあった。

 

「どわぁ!」

 

 思わず後ろへ飛び退いてしまう。

 それで分かったが、どうやら彼女は自らの額を俺の額と合わせたようだ。

 

「何を期待してんだか。今のはあんたの記憶を読んだのよ」

 

「記憶を……? そんなことが出来るのか」

 

「一応仮契約とは言えあんたが主人(マスター)だからね。リンクが結ばれてる相手とならそれくらいは容易いわ……で、あんたがぼーっと歩いてるところにダンジョンの出現に巻き込まれて今の状況に陥ってるってことが分かったわ」

 

「ぼーっと歩いてて悪かったな」

 

「ま、いいわ。とりあえずここから脱出しましょう」

 

 言って、スノウはワンピースの裾をひらりと翻して歩き始めた。

 

「ちょ、ちょっと。脱出するったって、俺は戦えないぞ」

 

「知ってるわよ、あんたの記憶を見たんだし。普通の人間がどれくらいひ弱なのかは理解しているつもりよ」

 

「どこまで記憶を見たかは知らないが、ダンジョンに何の準備もしないで入って生還した奴はいないんだ。君も……武器を持っているようには見えないし」

 

「ここへ至る経緯くらいだから安心しなさい。ダンジョンについては元々知識として持ってるわ。武器に関して言えば……少なくともあたしは武器を必要としないスタイルだから心配無用よ」

 

「武器を必要としないって……」

 

 そこまで聞いてようやくピンと来た。

 そうか、スノウは召喚術で呼び出した精霊だ。

 

 

 ――授かった力は召喚術(サモン)

 精霊を呼び出し、共に戦う。

 

 

 当然戦えるに決まっている。

 ……俺は戦えないが。

 

 つかつかとどんどん前へ進んでいく、後ろ姿も綺麗なスノウへ声をかける。

 

「……ちなみに、本当に出られるのか? モンスターとか多分出てくるんだよな」

 

「ボス級にばったり出くわしたりしなければよっぽど平気よ」

 

「ボスに出くわしたら?」

 

「二人とも死ぬわ。あっさりと」

 

 ぞっとするようなことをさらりと言ってくれる。

 しかし一本道とは言え迷いなく歩いていくな。

 とか思っていたらスノウが立ち止まる。

 

「別れ道ね。主人(マスター)、どっちへ行く?」

 

「そのマスターってのやめないか? なんだかむずむずする」

 

「それじゃあ悠真。どっちへ行くの」

 

 いきなり呼び捨てかよ。と思ったがよく考えてみなくても俺も呼び捨てしてた。

 でも主人(マスター)って呼ぶくらいだから一応主従関係にあるはずなんだけど……

 

「こういう時は右って漫画で学んだ」

 

「連載再開するといいわね」

 

 知ってんの!?

 精霊って意外と俗っぽいのだろうか……

 

 結局右を選んで進んでいったのだが――途中でスノウがふいに通路の左側へ寄った。

 何かと思って右側を見ると、そこにはゴブリンの……氷像らしきものが四つあった。

 

「……なんだこりゃ。氷像か?」

 

 だとしたら相当リアルだが。

 

「さっきまで生きていたものよ。あたしが凍らせたの」

 

「えっ」

 

 普通に歩いているだけでスノウが何かをしたような仕草は見せなかったのだが。

 呼吸をするようにモンスターを氷漬けに出来るということだろうか。

 スノウホワイト。

 確かに名前からして氷っぽい能力を使いそうではあるよな。

 

「…………」

 

「…………」

 

「……スノウはダンジョンに来たことあるのか?」

 

 沈黙に耐えられず質問する。

 迷いなく歩いていく様子や、ゴブリンの対処からして慣れているのではないかと思ったのだ。

 

「何度かあるわ。攻略したことも。こことは違う世界のだけど」

 

「違う世界って……精霊が住む世界的な?」

 

「そんなものね」

 

「こっちの世界じゃダンジョンを攻略した人は英雄として崇められるんだ。ちなみに人類の最高攻略数の記録は2つ」

 

「それじゃあ半年もあればあんたが記録を塗り替えるわね」

 

「……俺が? まっさかあ。普通の凡人だよ、俺は」

 

「あたし達がついてるのよ。ダンジョンの1つや2つ、よほど高難度のところに挑まなければ簡単に攻略出来るわ」

 

「……そういえば、最初もあたし()って言ってたよな。精霊ってスノウ以外にもいるのか?」

 

「そりゃいるわよ」

 

「みんな君みたいな美少女なのか?」

 

「……はあ?」

 

 スノウは立ち止まってこちらを振り向いた。

 険のある表情をしている。

 ……かと思ったが、よく見ると頬が少し赤く染まっている。

 

 どうやら恥ずかしがっているようだ。

 

「なんだ、可愛らしいところもあるじゃないか」

 

「ばっかみたい。あんたってばかなのね」

 

 そう言ってスノウはまた前を向いて歩き出した。

 後ろからでも見えるのでわかるが、耳まで赤くなっている。

 

 某有名ハンター漫画を知っていたり、俺の言葉に照れたり精霊と言ってもあまり俺と――人間と変わらないようだ。

 

 それからしばらく歩くと、突然スノウが歩みを止めた。

 前を見てみるが、少なくとも別れ道があるようには見えない。

 

「どうし――」

 

「止まって」

 

 スノウがハンドジェスチャー付きで静止を促してきた。

 先程までとは打って変わってひりつくような緊張感がスノウの全身から流れ出ている。

 

 一体、なにが――

 

「右側を選んだのは失敗だったようね」

 

 

2.

 

 

 轟音と共に()()()()()()()()()

 先程まで通路だったところが大きく広がり、大きな空間になった。

 

 俺が昔通っていた小学校の運動場くらいの広さはあるんじゃないか。

 

「な、なんだ!? なにが起きてるんだ!?」

 

「ボスよ。このダンジョンの」

 

 スノウが見据える先には――巨人がいた。

 いや、厳密にはあれは人ではない。

 人型の彫像のようなものだ。

 

 ゴーレム。

 各地のダンジョンで確認されているモンスターだ。

 しかしあそこまで大きいのは聞いたことも見たこともない。

 5メートルはあるように見える。

 

「ボスに会ったら――どうなるんだっけ?」

 

「二人とも死ぬわ。戦えばの話だけど」

 

 戦えばの……?

 

「来た道を戻ろう!!」

 

「ボスに出会った時点で来た道は塞がれてるわ」

 

 その言葉に弾かれるように振り向くが、スノウの言った通り来た道はなくなっていた。

 石の壁になっている。

 恐らくその壁をぶち抜いたところで、向こう側に通路はないのだろう。

 

「安心しなさい。ちゃんと逃げる方法はあるわ」

 

「そうか、なら――」

 

あんただけ(・・・・・)はね。あたしが時間を稼ぐから逃げなさい」

 

 ――そんな。

 

「逃げるなら一緒にだろ!!」

 

「どちらかが時間を稼ぐしかないわ。あんたは戦えない。誰でもわかる理屈でしょ。あのゴーレムの先――通路が続いてるのが見えるでしょ。あの先は出口よ。さっさと脱出しなさい」

 

「スノウはどうなる」

 

「あたしは精霊よ。死の概念はあんた達とは違うわ」

 

「また会えるのか」

 

「それは不可能でしょうね」

 

「だったら……!」

 

「あんたは召喚術師よ。そしてあたしは使い魔の精霊。どちらが生き残るべきか、わかるでしょ」

 

 ゴーレムは動き出していた。

 見た目の重厚さに反して凄まじいスピードだ。

 

「はっ!!」

 

 スノウが両手を前に突き出すと、巨大な氷の盾が現れた。

 

 ガギンッ!!

 

 硬質な音が響いてゴーレムの突進が停まった。

 その激突した部分からゴーレムの体が凍りついていく――が。

 その巨体が少し身じろぎする度に、まるで薄氷のように氷が剥がれていってしまう。

 道中で見たゴブリンの氷像はどう見ても内部まで完全に凍りついていたが、アレほどの巨体となるとそうはいかないようだ。

 

「早く行きなさい。もって数分よ」

 

 先程までと変わらぬ声音でスノウは言う。

 

 だが、わかる。

 かなり無理をしていることが。

 俺に心配させまいと平然としているフリをしているんだ。

 

「生きて――あんたは希望(・・)なんだから」

 

 

 ――世界が違う。

 全くの別物だ。

 

 俺がいたところで何の役にも立たない。

 

 逃げよう。

 そうだ、俺は召喚術師。

 

 スノウも言っていたじゃないか。

 他の精霊を召喚することも出来ると。

 彼女はここで終わりかもしれないが、死の概念も違うと言っていた。

 

 会えないからと言ってそれがなんだ。

 どうせまだ出会ってほんの数時間だ。

 

 逃げよう。

 逃げるんだ。

 俺だけでも。

 それがベストだろう?

 

 走り出す。

 一歩目でこけた。

 しかしすぐに立ち上がって、また走る。

 出口に向かって。

 ゴーレムはこちらを気にするような素振りを見せたが、スノウが目の辺りを凍てつかせた。

 

 それに怒ったのか、ゴーレムがズン、と一歩前に進もうとする。

 巨大な氷の盾が既にひび割れていて、今にも完全に砕け散るだろう。

 

 でも間に合う。

 俺が出口に辿り着く方が先だ。

 

 生き残れる。

 

 

 俺だけ。

 

 

「くっそッッッッたれがああああああ!!!!」

 

 

 俺だけ逃げるのがベスト!?

 違うだろ!!

 

 二人で逃げるのがベストに決まってる!!

 

 自分でも驚くほどの速度で俺の体はゴーレムに向かって走り出していた。

 そのままの勢いで――

 

 膝だ!!

 膝カックンの要領で後ろからぶちかませば、隙くらいは出来るはず!!

 

 ドッ、と肩からぶつかる。

 凄まじい衝撃と、脳が揺れたのか視界がチカチカと光る。

 

 ゴーレムは――まるで堪えていなかった。

 膝カックンとか言ったけど、こんな岩で出来たような化け物だ。

 見た目は人間でも関節の構造が同じとは限らないよな。

 

 どこか冷静に考えている間に、ゴーレムの俺の体ほどもある巨大な掌が迫っていた。

 

 

 ゴギンッ

 

 

 先程、俺が自分でぶつかっていったものとは次元の違う衝撃。

 痛みは感じなかった。

 しかし人間の体で、絶対に傷ついてはいけないところがボロボロになったのだろうということがなんとなく分かった。

 

 大きく吹き飛ばされた体は壁に叩きつけられる。

 その拍子に崩れた岩が俺の体の上に落ちてくるが、それを重いとさえ感じない。

 

「悠真!!」

 

 遠く聞こえた叫ぶような悲鳴。

 

 スノウ。

 君ならきっと、足手まといである俺がいなくなれば逃げられるだろう。

 俺の逃げる時間はもう稼がないでいい。

 

 自分だけでも助かる未来を選択してくれ。

 

 そうして俺の意識は途切れた。

 

 

3.

 

 

「――え?」

 

 目が覚めた(・・・・・)

 ガバッと体を起こす。

 痛みさえ感じない。

 

 死さえ覚悟したのに、生きているどころか怪我の痕跡が一切ない。

 

 そして俺にもたれかかるようにして眠っている白い少女に気づく。

 スノウだ。

 

 な、なんだこれは。

 どういう状況だ……?

 

「ん……」

 

 俺が身動ぎしたからだろう、スノウが目を覚ましたようだ。

 

「悠真!」

 

 俺が起きているのに気づくと勢いよく起き上がる。

 

「良かった、上手く治せたみたいね」

 

「治すって……君が? ボスは?」

 

 スノウが黙ってとある方向を指差す。

 そこには広い空間と、その中央に立ち尽くすゴーレムの姿があった。

 

 どうやら倒したというわけではなさそうだが……

 どういう状況なんだ?

 

「……あんたが吹き飛ばされた先が運良く安息地だったのよ。こんな偶然、初めてだわ。絶対に死んだと思ってた」

 

 安息地。

 モンスターが寄り付かない、ダンジョン内に点在するセーフエリアだ。

 ……あのボスが出た時に地形が変化したが故に、ちょうど俺が吹き飛ばされた先に安息地があったということか。

 

 地形変化で生まれた壁に隠れて見えていなかったところに俺という弾丸が突っ込んだところでそれが露呈したと。

 ……幸運にも程があるだろ。

 

「……ごめん。逃げなくて」

 

「それについての説教は後でたっぷりするわ。今はこの状況を切り抜けることが先よ」

 

「切り抜けるって……」

 

 安息地は小さな部屋のようになっていた。

 しかし入り口はゴーレムが俺を吹き飛ばして破壊した壁のみ。

 

 つまりそこから出ればまたゴーレムに補足される。

 さっきと同じ状況に逆戻りだ。

 

「……二人でダッシュしたらなんとかなったりしないか?」

 

「確かにそれなら僅かな可能性で、二人とも生き残れるかもしれないわね」

 

「それしかないだろう」

 

「いいえ、あんたは絶対に死んじゃ駄目なのよ」

 

「……スノウだけ置いて逃げるなんてしないぞ」

 

「分かってるわよ。……安息地にいる今なら……1つだけ、確実に二人が助かる方法があるわ」

 

「なんだ、その方法は。俺は何をすればいい? 何でもする」

 

 スノウは何故か顔を赤らめた。

 そして俺をキッと睨みつける。

 

 な、なんで?

 

「本契約をするのよ。そうすればあんたの魔力の許す限り、あたしが本当の力を使える。普通の人間なら一秒ももたないでガス欠だろうけど、あんたは魔力が多いみたいだからあのゴーレムを倒すくらいは出来るはずよ」

 

「……本契約? ……そんなのでいいんなら、幾らでもしてやる! 今すぐしよう、本契約! どうやってやるんだ!?」

 

「……精霊と人間が本契約する場合、人体から錬成出来る最も濃い魔力を含んだモノを丹田付近に吸収するの。それで主従契約が正式に結ばれるわ」

 

「……なんだそりゃ。つまりどうすればいいんだ?」

 

「つ、つつつつつまり」

 

 何故か顔を真っ赤にしたスノウがもはやヤケクソとでも言わんばかりに叫んだ

 

 

 

「セックスして、中出しして貰わないといけないのよ!!」



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第3話:本契約

1.

 

 

「せ、セックス……!?」

 

「……分かったら早くあたしを抱きなさい。言っておくけどあたしは初めてだし、リードとかは出来ないから。あんたにそういうのは任せるから」

 

「いや、俺だって初めてなんですけど!?」

 

 今まで全くそういうのには縁がなかった。

 

「だとしてもそれしか方法がないの。選択肢はないわ。二人とも生き残る為には」

 

「……マジかよ」

 

 まさか今日会ったばかりの女の子とこんなことになるなんて。

 しかもテレビでも見ないレベルの超絶美少女だ。

 

 しかしここで躊躇っていても仕方のないことだろう。

 今はまだ平気だが、やがて空腹や疲労が溜まっていって、どんどん勝ちの目はなくなっていく訳で。

 

「……本当に良いんだな。ちんこを凍らせたりしないでくれよ」

 

「善処するわ」

 

「いや善処とかじゃなくて絶対やめてくれ。マジで。これは冗談とかじゃなく」

 

「わ、分かったわよ。ちょっとした冗談よ」

 

 俺の迫真さに若干引き気味のスノウが頷いたところで、俺は一つ深呼吸をした。

 そしてズボンとパンツを脱いでちんこを露出させる。

 スノウがいる空間だからかそもそもそうなのかは分からないが、デリケートな部分がひんやりとした外気に晒されて体が震える。

 

 スノウは俺のちんこを頬を赤く染めながらもまじまじと見つめる。

 

「こ、こんなのが入るの……? でも聞いてたのと違うわ。もっと硬いものじゃないの? ふにゃふにゃじゃない」

 

「……これは通常状態で臨戦態勢に入ってないんだ。そうならないと挿れるのは無理だと思う。ちょっと状況に頭が追い付いてなくてな」

 

 俺の相棒はまだ元気になっていなかった。

 仕方ないだろう。

 だって童貞だもの。

 据え膳なのは分かっていてもなんかまだ理解が追いつかないんだよ。

 

「り、臨戦態勢にはどうやったらなるの。気合い入れなさいよ」

 

「気合いとかでどうこうなる問題じゃないんだが」

 

「じゃあどうするのよ」

 

「胸とか……見たりすると元気になるかも」

 

「……………………」

 

「……あの、スノウさん?」

 

「…………分かってるわ。これは本契約に必要なこと。必要なことだから仕方のないこと。やるしかないのよ、スノウ。気合い入れなさい」

 

 自分に言い聞かせるようにぶつぶつと呟いた後、ガシッとワンピースの襟部分に手をかけて……しかしそこで動きが停まった。

 湯気でも出てくるんじゃないかと思う程真っ赤になっている。

 

「う、うう……」

 

 そしてゆっくり、ゆっくりとスノウの白い肌の露出部分が増えていった。

 やがて柔らかな膨らみの上の方が見えてきて、俺の目が益々釘付けになる。

 

「そんなじっくり見るなっ」

 

「そ、そうは言われても……そう、これは必要なことなんだ。だから見るしかないんだ」

 

「ううー……!」

 

 じりじりと肌面積が増えていき、やがてスノウのおっぱいの全容が明らかになった。

 ゆったりしていた服だったのでわかりにくかったが、意外と大きい。

 カップ数とかは全く分からないのでなんとも言えないが、多分平均以上はあるのではないだろうか。

 しかし大きさより何より、その形の美しさに目を奪われた。

 

 もちろん俺だって健全な男子だ。

 AVやエロ漫画を見たりする。

 その経験からして、スノウのおっぱいはかなり形が良い。

 それに乳首はまるで穢れを知らないであろう綺麗な淡桃色。

 

 ほんの少し上向きにつんと主張する乳首はまるでここを触るのですと主張しているようにさえ感じる。

 

「な、何か言いなさいよ……」

 

「……綺麗だね、とか?」

 

「最悪……」

 

 無茶振りにも程がないだろうか。

 しかし見ているだけでも我が息子はかなり元気になっていた。

 が、そろそろ童貞故のブレーキが壊れ始めていた俺はゆっくりと手を伸ばして、おっぱいに触れた。

 

「……ん」

 

 スノウが小さく呻く。

 とんでもなく柔らかい。

 肌の質感が違いすぎる。

 突き詰めればただの脂肪の塊なはずなのに何故男はこんなにおっぱいに惹かれるのか。

 

 その理由が今分かった。

 おっぱいは気持ちいいのだ。

 触るだけで。

 これはとんでもない発見だ。

 ノーベル賞ものかもしれない。

 

「見るだけじゃなかったの」

 

「触らないとフルパワーになれない」

 

「適当ばっかり……」

 

 口では怒っているような素振りを見せるが、本気で嫌がってはいない。

 そもそも先程俺のマイサンを見た時点で聞いてたのと違う、と言っていた。

 精霊と人間の差はあるとは言え、恐らくある程度の知識はあるのだろう。

 その上でしている行為なのだから今更止められることもない。

 

 と、そこまで腹を括ってしまえば後は簡単だった。

 こんな超絶美少女の据え膳だ。

 一度ブレーキが壊れてしまえばもう止まれる訳がない。

 

 恐る恐る触るだけだったおっぱいを意を決して掌全体で包み込むように揉み始める。

 俺は少し掌が大きめな方なのだが、それでちょうど目一杯手を広げて全体を揉める程度の大きさ。

 

 貧乳好きや巨乳好きと言った派閥争いはくだらないことだと俺は今知った。

 おっぱいはそこにあるだけでそれ以上でもそれ以下でもないのだ。

 大きさなど些末な問題である、と。

 

「んっ……」

 

 しばらく胸をモミモミしているとスノウが甘ったるい声を発した。

 まさか感じているのか?

 素人の拙い愛撫で?

 それともリップサービス……と思ってスノウの顔を見てみるが、先程までただ堪えるような感じだった表情が明らかに変わっていた。

 どこか男に媚びるような、縋り付くような――そんな表情。

 

 先程から主張の強くなってきていた乳首の周りを円を描くように触ってみる。

 

「んっ……く……」

 

 声を押し殺そうとしたのか、スノウは指を唇に当てた。

 どうやら本当に感じているようだ。

 少し楽しくなってきて円を描く速度を上げつつもその頂点には触れないでいると、スノウがじろっと俺を睨みつけた。

 

 ……とは言え、通常の状態の凍てつくような視線ではなく、どこか甘いものの混じった、熱を感じる視線だが。

 

「んっ……わざとやってるでしょ、あんた」

 

「何がだ?」

 

「何がって……ひゃんっ」

 

 眉根を寄せたタイミングを見計らって、乳首の頂点を軽く指で弾いてやる。

 しかし快感を産む刺激には程遠かったようで、改めて俺をジト目で見た。

 

「……分かってるでしょ。あんまり調子に乗ってると――」

 

 スノウが俺の腕を掴むと、そこがひんやりと冷え始めた。

 流石に凍死させられては敵わないので、先程まで敢えて焦らしていた乳首にも触り始める。

 

「んっ……く……乳首……さわられて……」

 

 先程よりも明らかに声を抑えるのが大変なスノウ。

 色っぽい苦悶の表情を浮かべ身悶えている姿は正直見ているだけでも射精してしまいそうな程のエロさがある。

 

 下半身に手を伸ばすと、そこは既に濡れていた。

 

「んくっ」

 

 手についた液体の感触にスノウの顔を見てみると、こちらをじろっと睨みつけてきた。

 

 どうやら睨みつけるのがスノウにとってのオーソドックスなコミュニケーションの取り方のようだ。

 しかし全く怖くない。

 だって顔真っ赤だし。

 

「もうびしょびしょだな」

 

「……汗よ」

 

 流石にそれは無理があるだろう。

 どこがどういう器官なのかは童貞故分からないので適当にショーツの上からなぞっていって、反応を確かめる。

 

「ちょ、ん……その触り方……やらしいわよ……!」

 

 くい、くい、と腰が逃げそうになるのをもう片方の手で押さえつける。

 その度にやはり俺を悔しそうに睨んでくるのだが、それももはや劣情を更に強めるだけの素材としかなっていなかった。

 

「ひゃうんっ!?」

 

 途中、何かの突起に少し指が引っかかった。

 そのタイミングで今までにない強さでスノウの腰が跳ねる。

 それに声も明らかに驚いていた。

 

 ……今のがクリトリスというやつだろうか。

 

「ま、まって悠真。め、目がこ、怖いわよ」

 

「気の所為だ」

 

 クリトリスは直接触ると慣れてないうちは痛いと聞いたことがある。

 なのでショーツのクロッチの上からなぞるようにしてやる。

 

「ゆ、悠真! そこだめ、そこだめなのっ」

 

 何度も往復して触っていくうちにスノウが俺の腕を握る力が強まっていく。

 

「き、きちゃう。なにかきちゃうからっ、待って、お願いっ、待って!」

 

「そのままいくんだっ」

 

「ん――うううう――――!!」

 

 ぷし、とショーツごしに液体が手にかかった。

 大きな声こそあげなかったが明らかに絶頂した証拠だろう。

 

 現にスノウは脱力した様子で、俺を睨む元気も今はないようだ。

 

 だが――

 これで終わりではない。

 

 

 

2.

 

 

 

 そもそも何故俺たちがこんなことをしているのか。

 中出ししなければ終わらないのだから、ここまではただの前戯だ。

 

「スノウ、分かってると思うけど――」

 

「……こ、ここからが本番なんでしょ……あたしだって覚悟は出来てるわ」

 

 強がるスノウの上にゆっくりと覆いかぶさる。

 最初出会った時は戸惑いしかなかった。

 しかし僅かな時間ながらここまで時間を共にしてきて、見た目相応の可愛らしいところや人間らしさが見えてきて、非常にチョロいことながら既に俺はスノウに惹かれ始めていた。

 

 いや……というよりも半ば一目惚れのようなものか。

 

 あまりにも神秘的で美しい存在。

 それが手の届くところにいる。

 なんという非日常的な光景なのだろうか。

 

「は、早く挿れなさいよっ!!」

 

 俺に覆い被さられるような形で下にいるスノウが、色白な頬を染めてやけくそ気味に叫んだ。

 どうやら焦らされるのはあまりお好みでないようだ。

 

「なるべく痛くないようにする」

 

「……そんなの気にしてる場合じゃないでしょ。あたしたちの命がかかってるの。それにそもそも、精霊には膜とかないから……人間よりはよっぽど痛くないわ」

 

「分かったよ」

 

 確かに膜がないのならそれが引きちぎれる痛みというものはないだろう。

 しかし彼女は初めてだと言っていた。

 十分に濡れているとは言え、それでも中に異物を一度も受け入れたことのない状態だ。

 無理に突き動かしたりすれば肉が裂けてしまう可能性もある。

 

 とエロ漫画で学んだ。

 

 既に覚悟を決めたのか、目を強く瞑っているスノウへキスをする。

 

「――ん」

 

 寄せられていた眉根が少し緩んだ。

 その隙に、俺はちんこを膣内へと挿れる。

 

「んあああッ!」

 

 ほんの少しだけ挿れるつもりだったのに、まるで迎え入れるかのように奥まで一気に持っていかれた。

 強い衝撃が走ったのだろう。

 艶のある悲鳴をスノウがあげる。

 

 ぎゅ、と背中に回された両腕が俺の体を引き寄せた。

 未知の感覚――未知の快感に流されないよう、何かに縋り付きたいのだろう。

 

「ん、く……ちょ、っと待って……! これ、やば……お腹の中が……全部、きもちぃ……!」

 

 気持ちいい、と頑なに言わなかった彼女が素直にそう言ってしまう程の快感のようだ。

 しかしそれを耐えている動きなのかなんなのか、膣内は明らかに動きを促すように蠢いていた。

 言葉とは裏腹に体は素直だというものなのかもしれない。

 

「ごめん、無理だ。我慢なんてできない」

 

「ん、はぁ、く……い――くぅ……!」

 

 まだ挿れて僅かな時間しか経っていないし、そもそもスノウを気遣ってあまり動けていない。

 しかしそれでも快感は強すぎたようで、スノウは二度目の絶頂を迎えた。

 そしてその絶頂と同時に膣内は強くちんこを締め付け、まるで子種を搾り取ろうとしているような動きをする。

 

 魔性だ。

 こんなものが女体に備わっているなんて。

 

 最初はゆっくりやるつもりだったが、もう我慢が出来なかった。

 腰の動きを早くしていく。

 

 ぱちゅ、ばちゅ、と淫靡な水音がリズミカルに響く。

 

「ひっ!? きゅ、きゅうに早くしないれ、ま、まっれ、ちょっとゆっくり――」

 

 快楽に呂律の回っていないスノウが言い切る前に――

 

「ぐっ……出る……!」

 

 どびゅ!!

 

 俺も限界を迎えてしまった。

 もしこれが膣内でなければ5メートルは飛んだのではないかと思うほど勢いよく出た射精はスノウの子宮を白く塗りつぶしていく。

 

「あ、あついぃ、でてりゅ……中に……あついのがぁ……」

 

 役目を果たしたちんこを膣から引き抜くと、ごぷ……と彼女の中に収まりきらなかった分の白濁液が溢れ出ていた。

 

「あ……」

 

 名残惜しそうな声をスノウが出す。

 疲れきった美少女が股から精子を垂れ流しているというなんともエロい様相を呈しているが、まさか自分からあんな量の精子が出るとは。

 

 スノウはどこか胡乱な目をして俺を見つめた。

 完全に快楽に蕩けているようで、今度はスノウから俺にキスをしてきた。

 

 最初のものとは違って、もう少しゆっくりとした、余韻を楽しむようなキスだ。

 海外映画なんかで見る舌を入れた激しいものではなく、ただ互いの唇が触れ合っているだけの優しい接吻。

 

 しばらくその状態が続いて、また息子が元気になってきただろうかという頃にようやく長いキスが終わった。

 

「……これで<本契約>が完了したわ。後はあのボスモンスターを倒して帰るだけ」

 

 まるで先程までの痴態がなかったかのようにしっかりとした口調で言うスノウ。

 しかし完全にそうは出来なかったようで、頬はまだ紅潮していた。

 それがどこか面白くて、俺は苦笑する。

 

「ああ、頼むよ」

 

「……なにわらってるのよ」

 

 可愛らしくむくれたスノウが俺の脇腹を小突く。

 セックス……もとい本契約前の絶望的な雰囲気は既になくなっていた。

 

 そしてその後すぐ、俺は精霊の――スノウの本領を目の当たりにすることになる。



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第4話:精霊の本領

1.

 

 

「さあ、行くわよ」

 

 <本契約>と言う名のセックスを終え、5分ほど休憩した後にスノウは立ち上がった。

 先程まであれほど淫れていたというのに関わらず既にその体には活力が満ち溢れている。

 しかし俺の目には元気になったようにしか見えず、先程までと比べて何か状況が好転しているようには見えない。

 

「本当に勝てるのか?」

 

「見ていれば分かるわ」

 

 そう言って無造作に、先程まで逃げの一手を打つ以外に抵抗する手段を持ち得なかった強大なボス――ゴーレムのいる間へと足を踏み入れるスノウ。

 

 危ない、と言う前にゴーレムは動き出そうとしていて、ゴーレムが動き出す前に()()()()()()()()なっていた。

 

「あら、加減を()()間違えたわね」

 

 ――少し?

 この惨状が少し加減を間違えた結果だと言ったのか、この娘は。

 

 安息地であるこの部屋まで伝わってくる途轍もない冷気。

 しかしそれを不思議と寒さと感じることは無い。

 

 ただ――美しい。

 

 そう感じた。

 

「眠りなさい」

 

 スノウが頭上に右手を掲げると、そこに巨大な氷柱が一瞬で生成される。

 先はどんな巨大な獣でも一撃で仕留められそうな程に鋭利に尖っている。

 それが音もなく高速で打ち出され、完全に凍りついたゴーレムを粉々に砕くまでの一連の動作はほんの5秒もかからなかった。

 

 キラキラとダイヤモンドダストが舞い散る中、澄まし顔ではあるが微妙に口の端を歪めたスノウがこちらを振り向いた。

 

「ま、こんなもんね」

 

 なんとなくスノウの扱い方が分かってきた俺は苦笑する。

 要するに褒めて欲しいのだろう。

 

「思っていた以上に凄いよ」

 

「ふふん、そうでしょう。でもまだまだ本気じゃないわよ」

 

 俺の言葉に満足げに頷いたスノウは指をパチン、と鳴らすと先ほどまで凍りついていた部屋から嘘のように冷気が消え失せる。

 氷は残ったままなのに、まったく寒くない。

 

 まるで魔法だ。

 ――いや、本当に魔法なのだろう。

 

 精霊の使う魔法。

 <本契約>する前と後とでここまで出力に差が出るとは。

 

 しかもこれで本気じゃないと言っている。

 

「本気を出したらどうなるんだ? 地球温暖化でも解決するのか?」

 

「一週間もあれば氷河期にだって出来るわよ」

 

「……流石に冗談だよな?」

 

「さあ、どうかしらね」

 

 くす、とスノウが笑った。

 今まで見た中で一番可愛らしい笑みだったが、話している内容が物騒すぎる。

 

 ……とりあえず、今後スノウを怒らせるのだけはやめよう。

 

 

2.

 

 

「狭いわねー」

 

「狭くて悪かったな。一人暮らしだから困らないんだよ」

 

 そのままだと超目立つスノウに取り敢えず俺の上着のパーカーを貸してすっぽりと被って貰った上で、家まで帰ってきたのだが。

 部屋へ入るなり開口一番スノウは部屋の広さに文句を言った。

 天下無敵のワンルームである。

 家賃7万円。

 ベッドとデスクを置いたらもうラジオ体操も出来ないくらいの広さ。

 

 躊躇いなくベッドに腰掛けたスノウに密かにドギマギしていると、スノウが口を開いた。

 

「大学生なの?」

 

「そうだよ……というか精霊なのにやけにこの世界のことに精通してるよな」

 

 某ハンター漫画のことも知ってたし。

 さらりと大学生と言うワードも出てきて驚いた。

 

「あたしたち精霊は主人(マスター)に召喚されるまでは世界の至るところを彷徨ってるのよ。目には見えないだけで」

 

「へえ、おばけみたいな感じなのか」

 

「似たようなものね」

 

 一瞬口に出した後に失言だったかと思ったが、どうやら概念的には近いものらしい。

 

「それに本契約後はわざわざ接触しなくてもあんたの記憶から一般常識を引っ張ってこられるから、社会に溶け込むのもそう難しくないわ」

 

「え、俺の記憶とか覗けるの?」

 

「そういう契約にもなってるのよ。ただ、あんたの過去の体験をあたしも知っているとかそういう事ではないわ。あくまで行動倫理だったり一般常識の範疇を知ることが出来るだけ」

 

「……なんか随分と俺に都合のいい気がするな」

 

「そうしないと主人(マスター)の負担になってしまうでしょう? 都合が良くて当然なのよ」

 

 ……なるほど。

 そう言われてみればそうな気もする。

 しかしスノウが現代日本に馴染めるかと言うと微妙なラインだよな。

 

 なにせ美貌が浮世離れしすぎている。

 

 そのとんでもない美少女が俺のこの狭い部屋にいるという状況がなんだかもう、頭がおかしくなりそうだ。

 これは据え膳か? 据え膳なのか?

 

「あ」

 

 思考が変な方向へ行きかける寸前でとあることを思い出した。

 

「なんとなく普通に帰ってきちゃったけどダンジョン管理局に連絡しないとな」

 

 ダンジョン管理局とは日本の民間企業のことだ。

 現在日本にある全てのダンジョンを管理しているということになっている。

 創設者は日本で最初にダンジョンを攻略した人間らしいが、その全てが謎に包まれている。

 ただ最初の攻略者、という情報しかないのだ。

 

 別に新たにダンジョンを発見したからと言って報告する義務はないのだが、基本的にダンジョン絡みのことはダンジョン管理局に通報・報告することになっているというのが暗黙の了解である。

 

 日本にいるほとんどの探索者はダンジョン管理局の社員……というか所属しているような形になっているしな。

 

「……しかしどう言ったもんかな」

 

「何がよ」

 

「ダンジョンの発生に運悪く巻き込まれましたが、運良くスキルブックを見つけたので攻略して出てきました」

 

「それがどうしたの?」

 

「すんなり信じられると思うか?」

 

「すんなりとは行かないでしょうね」

 

「だよなぁ……大学生にとって今が一番大事な時期なのは分かるだろ?」

 

 主に就職関連のことで。

 今日だけでも面接を二つぶっちしているのだ。

 ダンジョンに巻き込まれてなんやかんや有耶無耶になっているが。

 これ以上貴重な時間を浪費したくない。

 すんなりと信じて貰えないということは調査やら捜査やらで時間が潰れるということだ。

 

「あんたバカぁ?」

 

 ツンデレ(?)キャラからその言葉が出てくると色々と危ない気がするのだが、本人的には意図したところではないらしく本気で呆れた表情をしている。

 

「あんたは召喚術師なのよ。世界でも有数のスキル持ち。探索者以外の何になるつもりなワケ? ありのまま報告してそのまま探索者になればいいでしょ」

 

 ……ごもっともだった。

 確かにそうするのがベストだよな、どう考えても。

 

「何度も探索者になる為のテストで落とされてるから、完全に選択肢から消えていたよ」

 

「あれだけの体験をしておいてそれで済ませられるって、あんた意外と大物なのかもしれないわね」

 

「それほどでも」

 

「褒めてないわ」

 

 ジト目になるスノウ。

 

「それじゃ早速連絡するか……あ」

 

「どうしたのよ」

 

「ダンジョン管理局ってアレでも一応ホワイト企業なんだよ」

 

「それが?」

 

「18時で窓口が閉まってる」

 

「あー……」

 

 

 恐らくその気になれば24時間繋がる電話番号もあるのだろうが、俺としても幾つか整理しておきたいことがあるのと、スノウも話しておきたいことがあると言い出したので結局諸々の手続きは明日行うことになった。

 

 

3.

 

 

「それで、話しておきたいことって?」

 

「他の精霊の召喚についてよ」

 

「そういえば、スノウ以外にも精霊はいるんだよな。戦力的にもガンガン召喚していった方がいいのか?」

 

 思い浮かべているのはソシャゲの数々だ。

 現在パーティメンバーはスノウと戦力にならない俺のみ。

 他に戦力になる精霊がいれば高難度のダンジョンの攻略も容易になるのではないだろうかという考えだ。

 

 ……でもよく考えたら、スノウの強さからして最初からレベル99の勇者がパーティにいるようなものではないだろうか。

 使うのは魔法だから魔法使いか。いや、どっちでも良いのだけれども。

 とにかくこれ以上の戦力が必要になることがあるのかどうか疑問なところである。

 

「しばらくは増やさなくていいわ。というより、増やさない方がいいわ」

 

「……なんで?」

 

「あまりこういうことは言いたくないけど」

 

 スノウが恥ずかしげに俯いた。

 え、もしかして俺と二人きりがいいとかそういう事言いだしちゃう?

 

「あたしの燃費があまり良くないのよ」

 

「…………」

 

 分かってましたけどね。

 それにしても、燃費と来たか。

 

「……パーティコスト的な話?」

 

 先程思い浮かべたソシャゲからの連想だが、どうやらそれは正しかったようでスノウは頷いた。

 

「あんたの魔力はかなり多いわ。予想以上に。普通なら何人精霊を呼び出しても問題程度には。けど、その多い魔力があだになってるのよ」

 

「……多いと嬉しいことじゃないのか?」

 

 俺の魔力が多いとか少ないとかはスノウからしか聞いたことがないので良く分かっていないのだが。

 というか魔力とかって単語、初めて日常会話の中で聞いたし。

 今まではゲームくらいでしか聞いたことなかったよ。

 

「基本的にはね。けど、膨大な魔力で召喚術を使うお陰であたしのような強力な精霊を呼び出せてしまうの」

 

「それも嬉しいことじゃないのか?」

 

「パーティコストが100あっても、コスト60のメンバー二人を同時に運用するのは無理でしょ?」

 

「なるほど」

 

 スノウクラスの精霊を二人分賄うのは流石に無理なのか。

 

「もしかしたら可能かもしれないけど。正直、あんたの魔力がどれくらいあるのか正確に測れないのよ」

 

「そりゃまたなんで」

 

「……長く受肉してなかった影響かも。でももしキャパオーバーを起こしたらあんたの魔力が追いつくまではあたし達はまともに戦えない。そうなったら探索者になったとしても何の役にも立たないニートよ」

 

 言っていることは酷いが理解は出来る。

 

「その魔力はどうやって増やすんだ?」

 

「二種類あるわ」

 

「ほう」

 

「一つはダンジョンで体を慣らす(・・・)こと」

 

「慣らす?」

 

「あたしが魔力を使えばそれだけ魔力は鍛えられるわ。イメージは筋トレみたいな感じ」

 

「なるほど」

 

 分かりやすいな。

 それにスノウの魔法はダンジョンの外で使えるようなものじゃない。

 本当に地球が氷河期になってしまう。

 となるとやはりダンジョンへ行って……レベリングを行うようなイメージかな。

 

「もう一つは?」

 

 二つあると言っていたのだからもう一つあるのだろう。

 

「……それは追々話すわ。どちらにせよいずれ必要になることだし」

 

 何故かスノウは言葉を濁した。

 

 ……まあ、今話さないということはすぐに情報共有しないとどうこうなるみたいな内容ではなさそうだが。

 

 そんなことを考えていると、俺の腹がぐうと鳴った。

 そういえば昼から何も食っていない。

 しかもあんな経験をしたせいで余計に腹が減っている気がする。

 

「精霊って何か飯食ったりするのか?」

 

「受肉する前は必要なかった……というかそもそも食べられなかったけど、今は食べられるしお腹も減るわ」

 

「それじゃなんか作るか」

 

「あんた料理できるの?」

 

「並の一人暮らし男子大学生程度にはな」

 

 チャーハンだったり野菜炒めだったり比較的簡単なものは大抵自分で作っている気がする。

 あんまり大食らいな方でもないが一度に大量に作って2日3日に渡って食べることもままあるので、スノウの分も作ることに何も問題はないし。

 

「それじゃあお言葉に甘えるわ」

 

「あいよ」

 

 

 冷蔵庫の中身を見ると、ハムと卵しかなかった。

 あと昨日余分に炊いておいて今日の昼食と夕食用に取っておいた白飯。

 

 ……これはオムライスだな。

 後で買い物にも行かねば。

 

 台所でハムを刻んでいると、なんだか妙に視線を感じたので顔を上げる。

 するとスノウを目があった。

 

「なんだ?」

 

「あんなことがあったのにあんた落ち着いてるのね。今もかなり特殊な状況じゃないの?」

 

「……んまあ、言われてみればな」

 

 ハムを刻む作業に戻りつつ答える。

 ダンジョンの誕生に巻き込まれ、スキルブックを使って美少女を召喚し、死にかけて、セックスして、ダンジョンを攻略した上でその美少女を自宅に連れ込んで何故か食事を作っている。

 

「色々ありすぎて感覚が麻痺してるのかもなあ」

 

「なるほど、大物かバカかの二択ね」

 

「前者であることを祈るよ」

 

 フライパンに油をひいて熱する。

 そこでふと疑問が生じた。

 

「スノウって温かいご飯とか温かい風呂とかに入れるのか?」

 

 イメージするのは温かい風呂に入ってのぼせるスノウだったのだが、当の本人は何を言ってるの、という表情を浮かべる。

 

「日常生活に支障は出ないわ。そんなこと言ったら炎熱系の精霊は受肉した時点で大火事よ」

 

「確かに」

 

「まあ、あんたにとっての肌寒いくらいの温度が丁度良いとか、お風呂の温度も42度よりは39度くらいが良いとか、その程度の人間にもある好みの差くらいは出るかもしれないわね」

 

「なるほど。湯船に浸かるのも問題ないのか」

 

「スケベ」

 

「何故に!?」

 

 しかし風呂を連想している時点で裸も連想していることには違いなかったので強く否定は出来なかったのだった。

 

 

 しばらくしてオムライスが出来上がり、どういう反応をするかとケチャップでハートマークを描いたものをお出しする。

 

 何か突っ込みがあるかと思って期待していたのだが、黙って俺の分と取り替えられた。

 適当なボケには食いついてくれないらしい。

 

「ん……美味しい!」

 

 オムライスを一口頬張ったスノウが目を輝かせた。

 おお……そんな素直に反応してくれるとは。

 しかし実はオムライスにはちょっとした自信があったのだ。

 

 というのも、俺自身割とオムライスが好きなのもあるが、作るのも簡単な上に必要な材料も少なく、洗い物もあまり出ないので結構作る頻度が高いのだ。

 それで色々自分でも調べながらやっているのでちょっとした店くらいのクオリティはあると自負している。

 

「こんなに美味しいもの久しぶりに食べたわ」

 

「受肉する前は食べることも出来なかったって言ってたけど、全く食べたことがないワケでもないのか」

 

「あたしの生まれた世界では普通にご飯も食べてたわ。基本的には空中に満ちた魔力を摂取するだけでも生命維持は出来たけど」

 

「へー……異世界って凄いな」

 

「この世界じゃ大気を漂う魔力って言うのはないのよね。もっと大勢が魔力を目覚めさせればそういう世界にもなるんだろうけど……にしても本当に美味しいわねこれ。悠真にこんな特技があったなんて驚きだわ。唯一他人にも誇れるものね」

 

「何故唯一だと決めつけるのか」

 

 事実だった。

 

「そういえば、さっきの話的に考えてこの部屋にはお風呂もあるのよね?」

 

「ああ、あるよ」

 

 家賃の割に結構大きめなのがある。

 足を伸ばして湯船につかれるのは良いことだ。

 

「入りたいわ」

 

「へいへい」

 

 一応俺が主従の主側なんだよな?

 とか思いつつ、俺は風呂の準備もすることにしたのだった。



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第5話:インスタントコーヒー

1.

 

 

「いいお湯だったわ~」

 

 ほくほく顔でスノウが風呂から出てくる。

 

「長かったな」

 

「だって気持ちいいんだもん」

 

 当然のように一番風呂を頂いたスノウは(別に一番風呂に拘りとかないからどうでもいいのだが)一時間半ほどお風呂を満喫していた。

 

 俺が用意しておいたジャージを着ているが流石にブカブカだな。

 身長も俺とスノウとで10センチ以上差があるのだから当たり前の話だが。

 

 ズボンの裾は折り曲げてあるが、腕は片手で折るのが難しかったのか気にしていないのかそのままなので萌え袖みたいになっている。

 

 超絶美少女が俺のジャージを着て俺の部屋にいるという状況。

 というかそもそも全裸でうちの風呂に入っているという状況の時点で正直頭がおかしくなりそうだったのだが、つい数時間前まで童貞だった者にこの刺激は強すぎるのではないだろうか。

 

 しかしそのムラムラを解消させられるようなイベントはその後起きることなく、就寝時間になる。

 と、そのタイミングで困ったことが発生した。

 

 一人暮らしの部屋なので当然ベッドは一つしかないのだ。

 

「俺は床で寝るからスノウはベッドで寝なよ」

 

 あわよくばベッドで二人で寝ようと言い出してくれないかな言い出してくれ言い出せ頼む言い出すんだ!! と心の中で念じながら出した提案は「あら、いいの? ありがと」という全く含みのない受け入れの言葉であえなく目論見が外れてしまった。

 

 とは言え自分で言いだしたことなので今更どうすることも出来ずに忸怩たる思いを抱えつつも俺は床で眠りについた。

 

 翌朝、とある事件が起きることなど知りもせずに。

 

 

2.

 

 

「体バッキバキだな……」

 

 床でなんて寝たせいであちこちが痛い。

 今日、布団を買おうそうしよう。

 

 洗面台からはドライヤーの音が聞こえる。

 スノウが身支度を整えているのだ。

 今日はダンジョン管理局に行く。

 面接の予定も当然あったが、折を見てキャンセルの電話をしないとな……

 まさか当日になってキャンセルなんて非常識なこと、自分ですることになるとは思っていなかった。

 

 とは仕方ないことなので俺にはどうも出来ないのだが。

 

 それに、正直なところワクワクしていないとは言えない。

 元々俺は探索者になりたかったのだ。

 そのために体を鍛えたり様々な知識を積極的に取り入れていたのだから。

 

 結果は適正無しで探索者になれなかったとは言え、その道が偶然もう一度開かれたとなれば――男の子だもの、ワクワクするよねという話である。

 

 ちなみに俺が今何をしているかと言えば、朝食を作っている。

 食パンをフライパンで焼いているのだが、これがまた少し加減を間違えると黒焦げになってしまうので難しいのだ。

 しかしトースターよりも均一に焼けるのでオススメである。

 慣れない内は様子見しつつやれば大失敗もそうはしないだろう。

 

 焼き上がったパンを更に移し、今度は目玉焼きを作る。

 卵を落としてしばらく待った後に少量の水を加え蓋をする。

 そのまま半熟まで蒸す。

 目玉焼きが出来上がるまでに冷凍してあるウインナーを6本出しておく。

 最後にこいつを焼けばトーストに目玉焼き、そしてウインナーと言うオーソドックスな朝食の出来上がりである。

 

 

 しばらくして丁度食卓に食事とコーヒーを並べた辺りでスノウが部屋の方へ戻ってきた。

 

「美味しそう。こういう朝食、憧れてたのよ」

 

「そりゃ良かった」

 

 座ったスノウが申し訳なさそうに伏し目がちに、

 

「昨日といい今日といい、食事の用意を任せっきりね。申し訳ないわ」

 

「別にいいよ。飯作るの嫌いじゃないし」

 

 それに誰かの為に作るというのもこれまでにない経験で新鮮だ。

 と、スノウがテーブルの上のとあるものに目を奪われていた。

 なんだろうと思って視線の先を辿ってみれば、先程淹れたアイスコーヒーだ。

 とは言え豆から挽くのではなくただのインスタントなのだが。

 

「どうかしたか?」

 

「コーヒーって飲んだことないのだけど、苦いということだけは知ってるのよ」

 

「あー、そういうこと。一応牛乳あるけど」

 

「……いえ、飲んでみるわ。何事も挑戦だもの」

 

 苦いものはあまり得意ではないのだろうか。

 どこか緊張した面持ちでコーヒーカップを持って、

 

「……いただきます」

 

 昨日、本契約後にボスのゴーレムの部屋へ赴く際よりもよっぽど張り詰めた空気を醸し出しながらスノウがコーヒーに口をつけた。

 

「どうだ? やっぱりミルク追加するか?」

 

「……いえ、割と平気。むしろ美味しい……かも?」

 

「おお、イケるクチか」

 

「とりあえず苦手って訳ではなさそうね」

 

 

 その後も特に何事もなく食事が進んでいき、俺の方が先に食べ終わったのでスノウが食べ終わるのをぼけっと眺めながら待っていたのだが……

 

「んっ……はっ……」

 

 なんだかスノウの様子がおかしい。

 苦しそうというか……

 なんというか、色っぽい……?

 

 ……いかん、朝からなんかむらむらしてきたぞ。

 

 俺が悶々とする気持ちを気合いで抑えている間にスノウも全てを食べ終わり、最後に半分ほど残っていたコーヒーを飲み干した。

 

「……っ!」

 

 ガチャン、と強くコーヒーカップが置かれる。

 というか、ほとんどテーブルに突っ伏すようにしてスノウが脱力している。

 

「スノウ!?」

 

 慌ててスノウを抱き起こす。

 女の子特有の柔らかな感触、そして仄かに高い体温――

 そしてとろんと潤んだ瞳。

 

「……悠真ぁ」

 

「――え?」

 

 何かが起きている、と気づくのは口に柔らかい感触のものが押し当てられてからだった。

 冷気を操る精霊なのに俺よりも体温が高いのか、温かく柔らかい舌が口の中にまで侵入してくる。

 本当に俺の口の中にある舌と同じものなのだろうかと疑いたくなる程柔らかく、なんとなく甘い味までするような気さえする。

 

 さっきまでコーヒー飲んでたのに全然コーヒーの匂いとかしないな、なんてことをうっすらと考えるがすぐにその思考は押し寄せる興奮の波に飲まれて消えた。

 

 部屋の狭さの都合上、テーブルのすぐ近くはベッドだ。

 そこへスノウを押し倒す。

 抵抗する素振りは見せない。

 

 ただじっと、切なげな――期待するような目で俺を見るばかりだ。

 心臓が痛い程に高鳴っている。

 

「……きて」

 

 消え入りそうな声でそう誘われてしまえば、もう止まることは出来ない。

 自分のジャージだ。脱がせることなんて簡単である。いやそもそもジャージなんて脱ぐ脱がないの話になれば防御力は相当低い部類だろうどうかしてるぞ俺。

 

 まだ混乱する頭だったが、体は既に本能に従っていてズボンを脱がせていた。

 

 昨日はじっくりと見ることがなかったが、今日はそれ(・・)に魅入ってしまう。

 毛ひとつ生えていない無毛の大地。というか丘。

 その中央にはまるで男など知らないと言わんばかりの一本筋である。

 

 精霊としての特性なのかそれともスノウが特殊なのか、肉体の全てが究極と言っていいほどに美を極めているように感じる。

 

 というか、ズボンを脱がせたらいきなりおまんこだった訳だが、何故ノーパンなのだろう。

 と考えたところで特に昨日その類を用意した覚えがないことに思い当たる。

 流石にパンティ用意しろと俺に言うことも出来ないし、召喚時に着ていたものは洗濯中だしで苦渋の決断だったのだろう。

 

 俺は一晩中ノーパンで寝ていた美少女に手も出さずにいたのか。こんな至近距離にいたのに。

 聖人君子かなにかかな。

 結局今手を出そうとしてるけど。

 

「あっ……んっ……」

 

 ふと思い立ってジャージ越しに胸を触る。

 それだけでスノウが艶めかしい嬌声を発してまた頭が沸騰しそうになるがぐっと堪える。流石に獣の如くがっつくのは違うだろう俺よ。

 ……昨日洗濯した中にブラジャーの類はなかった。

 そもそもエッチした際に気づかなかったのは迂闊だったのだが、まあ何を言いたいかと言えば当然の如く今もノーブラだということ。

 

 普段使っているジャージ(近所のスポーツショップに三着セットで売っていた安物)なはずなのに今だけは世界で一番高い服よりも価値があると断言出来る。

 

 ダンジョン管理局へ行く前にスノウの服や下着を購入しよう。

 そう密かに決意していると、当のスノウがじぃっと俺を見つめていた。

 

「……はやくきてよぉ、ゆーまぁ……」

 

「……!」

 

 酔っ払っている――ような状態だろうか。

 その上で発情している。

 そんな感じだ。

 

 既にガチガチに勃起していたちんこをまんこに当てがうと、スノウが自分で腰を動かして挿入させてきた。

 

「うっ……」

 

 スノウも受け入れ準備は万端だったようで、昨日初めて挿入した時より更に汁っけが多く、更に艶かしく蠢く膣内に思わず呻いてしまう。

 

「はっ、んんんんんん!!」

 

 入れただけでスノウは絶頂したようだ。

 それに快楽もかなり強いようで、無意識にだろうが俺の背中に爪を立てている。

 痛みは感じない――それよりもスノウが感じてくれているという事実が嬉しい。

 

 腰をそのまま動かすと、スノウは快楽に蕩けた表情のまま、

 

「んぁ、ふああ、んくぃ……はぁ、中ぁ、えぐれてぇ……、きもちぃ、きもちぃよぅ、ゆーまぁ♡」

 

 決して速いペースのピストンではない。

 しかしそれでもスノウは完全に感じていた。

 元々濡れそぼっていた肉穴からはもはや小便でも漏らしたのではないかと言う程の愛液が流れでている。

 

 出かける前にシーツを洗濯していかなければならないだろう。

 

「ゆーまの、あつい……奥までぇ……ゆーまのがあたしの奥こつんこつんって叩いてるのぉ♡」

 

 やはり酩酊状態というのが正しいのだろう。

 まるで幼児退行したかのように自身の状態を実況するスノウに、しかし更に興奮は激しいものになる。

 素面の彼女ではまるで考えられない言動。

 

「あたしも、あついぃ……ぁ、身体、あついのぉ、ゆーまぁ♡」

 

 スノウの身体が火照って、真っ白い肌に桃色の上気となって現れる。

 口からは涎を垂らし、目は焦点が定まっていない。

 

「んっ♡ あ、ふあ、うんんん、あああっ! ぅ、ぁ、うごくの、もっと、はやく、つよくしてぇ♡」

 

 言われた通り、腰の前後の動きを早く、強くしていく。

 ゴツン、ゴツン、とスノウの一番奥を叩いている。

 その度にぷるぷると美しく美味しそうな胸が揺れて堪らない。

 

 今なら雪見だいふくを一つくれと言われてブチ切れる人の気持ちが分かる。

 これは二つ揃っていて初めて尊いものなのだ。

 

 俺自身の思考もなんとなくおかしくなってきたところで、限界が訪れ始めた。

 

「ああっ! んぁっ、それ、すきぃ、奥までいっきにずんってぇ、すきなの、もっと、もっとちょうだいっ」

 

 ぎゅ、と膣の締め付けが強くなる。

 しかし痛いという訳ではない。

 先程までは様子見だったのだとでも言わんばかりに気持ちよさが一気に倍増する。

 

「あ、い、いっちゃいそう、ゆーま、どうしよう、いっちゃいそうなのっ!」

 

「いけっ! 俺と同時にいくんだ!」

 

「ゆーまもはやくっ、も、むり、がまん、むりぃぃぃぃ♡」

 

「俺も――もう無理だっ!」

 

 ずん、と最も置くまで突き挿れてそこで全てを解き放つ。

 

「んん――やぁあああああああああああ!!」

 

 俺がお隣さんだったら間違いなく壁ドンしているだろうという声量で嬌声をあげるスノウ。

 普段は美しい顔だが、今はその見る影もないほどだらしなく弛緩しきっている。

 しかしそれがまた滅茶苦茶エロい。

 

 膣内に入れたままのちんこが再び力を取り戻す。

 

「あっ……♡ またおっきくなったぁ♡」

 

 スノウが俺を嬉しそうに見る。

 前触れなく始まった肉欲開放の儀式は、その後2時間も続いたのだった。

 

 

3.

 

 

「原因は……たぶんコーヒーよ」

 

「コーヒー?」

 

 スノウの変貌から2時間後。

 ようやくお互い我に帰り(俺は我慢が出来なかっただけで正気ではあったが)、身なりをある程度整えてからスノウが口を開いた。

 

「コーヒーを飲んだ時くらいから何か身体が熱くなってきて……最後に全部飲み干してからはなんというか……自制が効かなくなったわ。一生の不覚よっ」

 

「いやでも、めっちゃ可愛かったからいいと思います」

 

 ぱこーん、とスノウの膣から溢れ出た精液を処理したが為に空になってしまったティッシュの箱を投げられた。

 

「精霊の体質に合わないとかそういう話なのかな」

 

「……多分そうよ。或いは救済措置の一種かもしれないわ」

 

「救済措置?」

 

「……主人(マスター)の魔力を増やす為には精霊と身体を交えるという手段もあるの。昨日言わなかった、二つある内のもうひとつの方よ」

 

「……マジ?」

 

「残念ながら、マジよ」

 

 残念どころかめっちゃラッキーなのでは。

 つまりスノウとセックスすればする程俺の魔力が多くなるということで。

 それが恥ずかしかったから昨日は言わなかったのか。

 

「それで、日常的に摂取するコーヒーで発情してしまうのが救済措置にあたる可能性がある、と」

 

「あくまでも可能性。そういうのがあるとは今まで聞いたことなかったし……でもあり得るわ。主人(マスター)のレベルアップは直接あたしたち精霊の強さにも直結するもの。お互い内気なパートナーになっちゃったりしたら、絶対勝てないダンジョンなんかに行きあった時に大変でしょ。多分主人(マスター)によってそのスイッチみたいなのは違うんだろうけど」

 

「なるほど」

 

 俺の場合はそれがコーヒーなのかもしれないということか。

 インスタントコーヒー、切らさないようにしよう。



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第6話:力業

1.

 

 

 朝っぱらからちょっとした(?)イレギュラーはあったが、とりあえずコーヒーには気をつけましょうということで改めて出かけることになった。

 のだが、直にダンジョン管理局へ行くのではなく先にデパートへ寄っていく。

 

「それじゃ俺はここで待ってるから、とりあえずここでまず下着とか買ってきてくれ」

 

 冷静に考えないでも服が一種類しかないのは不便すぎる。

 

 ということでまず一種類しかないと一番困るであろう下着を買ってもらうことにした。

 

 軍資金は5万。

 奮発しすぎかとも思ったが、一から揃えるということを考えればむしろ少ないくらいかもしれない。

 というか女性の服装に関しての相場なんてわからん。

 

 俺は自分がズボラだということもあって季節の変わり目ごとに2万くらいで済んでしまうし。

 なんなら昨年のものをそのまま着ることにして1円もかけないこともあるくらいだ。

 

 そんなことを考えながらデパートの中にあるランジェリーショップの前に仁王立ちしていると、それはそれで人目を惹くことに気づいたので近くにある休憩スポットで座って待っていた。

 

 しばらくスマホで適当に女性服の相場を調べていると、

 

「なんで店の前で待ってないのよ」

 

 スノウが紙袋を持ってふんすと仁王立ちしていた。

 

「男が女性用下着売ってる店の前で立ってたら悪目立ちするだろ」

「あー……それは確かに。なんか悠真って童貞っぽいし」

「どどど童貞ちゃうわ」

「知ってるわよそんなこと」

 

 なんか機嫌いいな、スノウ。

 言動は全くご機嫌なそれではないのだが、どことなく浮かれているような気がする。

 やはり女性だからか、ショッピングが好きなのかもしれない。

 

 次にやってきたアパレルショップでも俺はどこか別の場所で待っていようとすると、

 

「あんたも一緒に選びなさいよ」

 

 と無茶振りをされた。

 

「実はこう見えても俺は女子のお洒落に疎い」

「こう見えてもなにもそんなこと見れば分かるわよ……でもあたしの感性よりは信用できるんじゃない? この世界の人間なんだし」

 

 それを言われるとあまりに定義が広すぎて絶対俺勝てないじゃん。

 仕方ないので店の中まで着いていくと、奥にいた女の店員さんがこっちをロックオンした。

 かと思えばササササッと逃げる間もなく近寄ってくる。

 

 

「お客様、本日はどのようなものをお探しですか!?」

 

 

 スノウをキラキラと輝く目で見つめている。

 その瞳には「超絶逸材。絶対逃スナ」と書いてあるように見えた。

 

 スノウがちらりとこちらを見る。

 完全に丸投げしやがったこいつ。

 

「あー……あまり目立たないような感じの、落ち着いた服装がいいんですけど」

 

「ここまでお綺麗ですと無粋な装飾のついた服はむしろ邪道ですからねっ。ささっ、奥へ奥へ。オススメのものがたくさんありますのでっ!!」

 

 などと分かっているのだか分かっていないのだかよく分かっていない返事が返ってきて、あっと言う間にスノウは奥へ連れていかれてしまった。

 

 終始助けを求めるような目をしていたが、許せスノウ。

 俺には無理だ。

 だって昨日まで童貞だったんだもの。

 

 それにこういうのは素直に店員さんに頼った方がいい、みたいなこと書いてあったし。

 さっき相場を調べつつついでに調べたので間違いない。

 G○○gle先生は嘘をつかないのだ。

 

 男性用の服もあるのでなんとなく見て回っていると、

 

「あ、おーい。彼氏さーん、彼女さんの姿見てあげてくださーい」

 

 声をかけられたのでそちらを見てみると、先程スノウを拉致していった店員さんがこちらへ向かって手を振っていた。

 彼氏彼女の関係ではないのだが、それを訂正する意味も特にないので店員さんの後をついていくと試着室の前へ到着する。

 

 そしてシャッとカーテンが開くと、そこには先程までのワンピース姿とは比べものにならない程お洒落な格好をしているスノウがいた。

 

「おお……」

 

 女ものの服の名称とかには疎いので詳しくは分からないが、白を基調としたゆったりとした服と長く綺麗な脚を隠してしまっているものの清潔感を醸し出すこちらも白いロングスカート。

 確かに過度な装飾だったりはないのだが、そういうのとは違う意味でかなり目立つのではないだろうか。

 

 そしてスノウはと言えば結構まんざらでもないようだった。

 自分でも納得のいく出来なのだろう。

 

 うっかり天使が降臨してきたと思ってしまっても仕方がない程似合っている。

 

「うんうん、いい反応しますねえ彼氏さん。では次の服もどうぞ~」

 

 シャッとカーテンが閉まって中で着替えて、再び開く。

 その繰り返しを5回程見た後で、店員さんは揉み手をしながらこちらへすり寄ってきた。

 

 なんかやだなぁその揉み手。

 

「で、どれにしますか彼氏さん」

 

 ロングのスカートや丈の短いもの、パンツスタイルもあったがそちらも短いものや長いものと別れていたり当然トップスも全てセンスの良いものであった訳で、どれが好みかと問われても正直俺は答えられない。

 

「あたしはどれでも構わないわよ。悠真のセンスに任せるわ」

 

 期待するような眼差しで俺を見るスノウに聞こえないように小声で店員さんに聞く。

 

「……全部と言ったら幾らになりますか」

「これくらいですかね」

 

 既に俺が全てと言うことを予想していたのか、いつの間にか持っていた電卓の表示を見せてきた。

 うっ……5万を余裕で超えてやがる。

 ……ATMは下の階にあったよな。

 

「下ろしてきます」

 

 パチーン、と何故か店員とハイタッチさせられた。

 

「毎度ありぃー!」

 

 

 

2.

 

 

「なんだか悪いわね、まさか全部だなんて」

「いや……俺の好きでやってることだからいいよ」

 

 スノウは口では申し訳無さそうに言っているが満面の笑みだった。

 正直その笑顔を見れただけでも合計で8万ほど使った甲斐があると言うものだ。

 しかしバイトの数増やさないとなあ。

 最近は就活であまりバイト出来てなかったし。

 

 今スノウが着ているのは最初の試着で見たゆったりした白い服に白いロングスカートというものなのだが、やはりかなり注目を集めていた。

 人で溢れるデパートの中ではもちろん、外を歩いていても道行く人々が振り返る振り返る。

 

 一旦うちへ帰って荷物を置いてからまた外出しようかとも迷ったが、このまま行った方が近いのでダンジョン管理局へは直で向かうことにしたのだ。

 

 お陰ででかい紙袋を両手に提げているが、道行く人々にはどういう二人組みに見えているのだろう。

 

 女王と従僕とかかな。

 

 しばらく歩いていると、曲がり角をちょうど曲がったタイミングで真正面に巨大なビルが映った。

 

「あれがダンジョン管理局だ」

「へー……何階なの?」

「全部だ」

「全部?」

「あのビル全部ダンジョン管理局だよ」

「はー……儲かってるのねえ」

 

 この世界の常識は知っていると言っていたが、本当に常識的な部分しか知らないのだろう。

 新鮮な様子で普通に驚いていた。

 しかし俺は何度も来ているので特に驚きも感慨もない。

 わざわざ選んでダンジョン管理局の近くで一人暮らししていたのだから。

 

 しかしビルの入り口の自動ドアが開いた辺りでふととあることに考えが至った。

 

「そういやアポ取ってくるべきだったかな」

 

 ダンジョンクリアしてきました!

 なんて急に言ってくる二人組、まず信用されない気がする。

 

「大丈夫よ。あたしに考えがあるから。スマートに解決してみせるわよ」

 

 しかしスノウは平然と言い放った。

 なんという心強さだろうか。

 

 ツカツカと俺より速いペースで受付へ歩いていったスノウは、どこに隠し持っていたのか()()()()()を取り出して言った。

 

「ダンジョンを攻略してきたわ。一番偉い奴を出しなさい」

 

 

 何がスマートだよ。

 ぐうの音も出ないほどの力技だよ。



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第7話:カフェインパニック

1.

 

 魔石とは。

 基本的に形は定まっておらず、赤紫色に発光する。

 ダンジョンのモンスターを倒すと出現する、昨今の世界においてはエネルギー源としてとても重宝されている特殊な鉱石だ。

 

 将来的にはほんの1グラムの魔石からでも大都市で使用される一日の電力を賄うことさえ出来るとまで言われているとんでもない物質である。

 

 富裕層の中にはダイヤ以上に価値のある鉱石として、自らの財力を示すステータス代わりに身に着けている人もいる。

 そして現在、これまでに確認された魔石の中で最も大きなものは成人女性の拳程度の大きさだった。

 日本で発見されたその魔石は5億ドルでアメリカが買い取っている。

 当時まだ魔石自体がかなり珍しいものとされていたとは言え破格の値段である。

 

 先程スノウが取り出した魔石はそれに負けずとも劣らない大きさ。

 そんなものがごろりと出てくれば大混乱が起きるに決まっている。

 

 それもここはダンジョン管理局。

 誰よりも魔石の価値というものを正しく理解している人々の集まりだ。

 

 ほんの5分後、俺たちは客間へ通されていた。

 アポ無しで特攻してきた若者二人へのもてなしとしては異例も異例だろう。

 

 まるでとんでもない大物を相手にしているかのようにぷるぷると小動物のように震える女性社員が恐る恐る置いていった(本当に申し訳ないと思う)コーヒーをスノウは忌々しげに睨んでいる。

 

「何故コーヒーはここまで浸透しているのかしら」

「さあな……」

「オレンジジュースの方がよほど美味しいわよ」

 

 そういえばさっきデパートの自販機で買ってあげたな。

 美味さの種類がコーヒーとジュースでは違うのでなんとも言えないが、俺もこういう場合に出てきて嬉しいのはオレンジジュースの方かもしれない。

 

 恐らくそのうち来るであろう偉い人をそわそわしながら待っていると、ちょいちょいとスノウが肩とつついてきた。

 

「悠真、このダンジョン管理局って信用できるの?」

「信用できるかって……そりゃどういう意図での質問だ?」

 

 社会的な信用ならこの上ない程に得ていると思うが。

 

「機密を話したとして、それを絶対に漏らさない秘匿性がどれくらいあるのか。それとダンジョン攻略にどの程度役に立つのか」

「前者に関しては俺は思いっきり外部の人間だから知らないけど……後者に関しては少なくとも日本ではトップクラスだな」

 

 ダンジョン攻略を掲げている会社や組織というものは幾つもある。

 その中で絶大な人気と力、知名度を誇るのがダンジョン管理局だ。

 なにせ創設者が日本初のダンジョン攻略者で、スキル所持者(スキルホルダー)も23名所属している。

 

 他の会社や組織では一人入ればそれだけで花形になるレベルのスキルホルダーが23名だ。

 文字通り桁が違う。

 

「スノウってダンジョン攻略にかなり意欲的だよな。何か理由があるのか?」

「さあ、なんででしょうね」

「……ふぅん?」

「…………」

「……どうした?」

 

 スノウが俺を意外そうに見つめている。

 

「詳しく聞こうと思わないのね」

「んーまあ、話せない理由があるとかそういうことだろ? 多分だけどさ」

「あんたお人好しねー……」

 

 何故か呆れたようなジト目で俺を見てくるスノウ。

 と。

 

 

 コンコン、と扉がノックされる。

 「どうぞ」と中から声をかけると髪をオールバックにきっちりとセットした壮年の男性が入ってきた。

 40、いや、30台半ばくらいだろうか。

 口元にはヒゲを生やし、目つきは鋭い。

 

 どこかで見た顔のような……

 

 慌てて俺が立ち上がって挨拶をしようとすると、隣に座っていたスノウがそれを制した。

 

 それをどう見たか男性は立ったままダンディな声で挨拶してくる。

 

「ダンジョン管理局本部局長をしている柳枝(やなぎ) 利光(としみつ)です。よろしく」

「なっ……!」

 

 ――柳枝 利光。

 存在以外全てが謎に包まれている最初のダンジョン攻略者……のパーティメンバーだった人だ。

 確か年齢は35歳くらい。

 ダンジョン管理局に勤めていたのか。

 しかしそれも自然な流れと言えば自然な流れではあるのか。

 

 ダンジョン管理局は幹部の情報がほとんど外部に漏れていないということもあり、少し驚いたな。

 

「君は皆城(みなしろ) 悠真君だね」

 

 柳枝さんが俺の方を向く。

 特に敵意を感じるという程でもないが、その鋭い視線に少したじろいでしまう。

 

「……何故俺の名前を?」

「過去、君がテストを受けに来た時のデータと照合させて貰った。失礼な話でもあるが、君たちの信ぴょう性を確かめる為でもあった。許してほしい」

「あ、いえ、構いませんけど……」

 

 別に渡した情報を外部に漏らすとかならともかく、本人確認のための照合で使うくらいならなんてことない。普通のことだ。

 

「……だがお隣の女性に関しては、我々の方では確認出来なかった。魔石を持っているのはそちらの方だと聞いている」

 

 ちらりと柳枝さんがお隣の女性ことスノウの方を見る。

 それに対してスノウは尊大に脚を組んだ。

 

「スノウホワイトよ」

 

 な、なんでちょっと威圧的なんだ。

 大丈夫なんだろうな?

 名前を聞いた柳枝さんが確かめるように聞いてくる。

 

「……それはコードネームか何か、かな?」

「どう思うかはそちらの勝手ね」

「なるほど、失礼した。それでは皆城君に、スノウホワイト君。君達は特大サイズの魔石を持っている。それをここへ持ち込んで私を呼び出し、何をする――何をさせるつもりなのかな。そもそも魔石が本物かどうかも確かめたいものだが」

 

 柳枝さんが先程までの鋭い目つきは嘘だったかのようににっこり笑いながら席についた。

 正直俺も何をするのかスノウから聞いていないので何も答えられずにいると、スノウが不意に右手を前に出した。

 

 その手の上には大きな魔石が乗っている。

 ……今、俺の見間違いでなければ何もない虚空から魔石が出てこなかったか?

 

「本物かどうか確かめる?」

 

 そんな言葉と共に魔石を目の当たりにした柳枝さんは、しばし気圧されるように黙っていたものの、首を横に振った。

 

「……いいや、この濃密なエネルギーは間違いなく魔石だ。どこでこれを手に入れたか、聞いていいかな」

「まずは無礼を侘びて貰ってからね」

 

 何故終始喧嘩腰なのだろう。

 怖いんだけど。

 一触即発ってこういうことを言うんじゃないの?

 スノウさん、ちょっと落ち着いてくれない?

 

 柳枝さんはピクリと眉を動かす。

 

「……無礼と言われても、心当たりはないが」

「この建物へ入った瞬間、魔法的な感知をされたわ。一番偉い奴を呼び出したんだもの。知らないとは言わせないわよ」

 

 ……魔法的な感知?

 一体何を言っているのだろう。

 

 しかし柳枝さんの方には心当たりがあったようで、表情が激変していた。

 明らかに驚いたような――そして多分に警戒を含むような表情でスノウを見ていた。

 

「……君は一体何者なんだ」

 

 柳枝さんは戦慄しているようだが、俺は何がなにやらわかっていない。

 ただひとつわかることは、俺がここにいるのは場違いだということである。

 

「ご想像にお任せするわ」

「……」

 

 態度の大きいスノウに、柳枝さんは怒るでもなくじっとその真意を見抜くかのようにスノウを見つめる。

 しかしどれだけ視線を注がれようとスノウ自身はどこ吹く風である。

 やがて根比べに負けたのか、柳枝さんが頭を下げた。

 

「まずは君の言う通り、非礼を詫びよう。確かに我々は君の言うところの――魔法的な感知システムを取り入れている。この建物へ入ったものの魔力を計測する為のものだ。ダンジョンに入ったことのない……つまり非覚醒状態の魔力量も計測できる」

 

 魔力の計測……?

 ……そんな話、初めて聞いたぞ。

 少なくとも公表されている情報にはないはずだ。

 

 何年も試験を受ける為にここへ訪れ、様々なことを調べた俺が言うのだから間違いない。

 それに柳枝さんから当たり前のように<魔力>という言葉が出てきたのも驚きだ。

 

 スノウが言っているだけで、一般的に使われる単語だとは思いもしなかった。

 

 ダンジョンへ入ると非覚醒状態から目覚める、というのもスノウから聞いた話と一致している。

 

「魔力の存在が常識的(・・・)に知られていないこの世界でそこまでするということは、あんた達ダンジョン管理局は魔力が何なのかを知っている訳ね」

「……そういう君はどこかの組織に属しているのかい? 魔力の存在をはっきり知っているのはごく一部のトップ探索者だけのはずだが」

「それだけ聞ければ十分よ。魔力も知らない組織と手を組むつもりはなかったから」

 

 スノウはゴン、と魔石を机に置いた。

 

「あたしも無礼な態度を詫びるわ。これはその詫びの品だと思って頂戴。もちろん、それだけではないけど」

「…………」

 

 机に無造作に置かれた魔石を柳枝さんは訝しげに見る。

 時価で数十億は下らない鉱石だ。

 それをここまで無造作に扱う胆力に驚いているのだろう。

 それに今の言葉に間違いがなければ――

 

「それを我々に譲って頂けると?」

「もちろん完全にタダとは言えない。条件が3つあるわ」

 

 スノウの言葉に柳枝さんが姿勢を正すように椅子に掛け直した。

 

「条件か。何かな」

「まず1つ。あたし達に広い家を用意して。監視はつけないようにね」

「……もし監視をつけたら?」

 

 試すように聞いてくる柳枝さんに、スノウはすっぱりと答える。

 

「その監視人の命の保証はしないわ」

「……肝に銘じておこう」

 

 命の保証って……

 ぞっとしないことを言う。

 しかし実際、スノウがその気になれば人間のひとりや二人、簡単に命を奪うことが出来るだろう。

 それもゴブリンやゴーレムを凍らせていたようにすれば、そんなことができる人間なんて普通いないのだから要するに証拠も残らないわけで。

 

「2つ目。あたし達の求める情報を全て包み隠さずに全て渡しなさい」

「それは……私の一存では決めかねるな」

 

 柳枝さんが苦々しげな表情で言う。

 本来ならばこの場で無理と即答したいくらいの案件なのだろうな。

 

「幾らでも持ち帰って吟味すればいいわ。そして3つ目。悠真を攻略者として雇って」

「……君ではなく?」

「あたしは悠真が召喚した精霊よ」

「…………どう見ても普通の人間にしか見えないが」

 

 困惑したように柳枝さんは言う。

 

 でしょうね。

 俺にもそう見えるもん。

 

これ(・・)が普通の人間に見えてるようじゃ、そもそもこの話を考え直さないといけなさそうね」

 

 これ、と言いつつ俺を親指で指し示すスノウ。

 スノウさんや、僕はモノ扱いですか?

 

「…………」

 

 スノウの言葉に柳枝さんは俺をじっと見つめる。

 しかし俺自身も何が何やらわかっていないので微妙な表情を浮かべるしかない。

 

「……すまない。私にはどうにも普通の人間にしか見えない」

「あらそう。じゃあヒントをあげるわ。魔力よ」

 

 魔力?

 俺は首をかしげる。

 柳枝さんはそんな俺をじっと見つめる。

 おっさんが男を熱く見つめるこの空間は一体なんなのだろう。

 

「……魔力がない……という意味で特別だということか?」

 

 えっ。

 俺って魔力ないの?

 スノウはなんか俺にはたくさん魔力がある、みたいなこと言ってたのに。

 

「何言ってんの?」

 

 当のスノウは意味がわからない、という様子で眉をひそめていた。

 

「どう見たってあるじゃない、魔力。あたしが今まで見てきた人間の中で一番豊富な魔力よ。ぶっちぎりで」

 

 その言葉に柳枝さんはもう一度俺の顔を見る。

 そんなに俺の顔ばかり見ていても楽しくないと思うのだが。

 

「……冗談はよしたまえ。計測器はエラーを表示した。ダンジョンへ入場していない、つまり潜在魔力でも計測できる計測器だ。エラーは全く魔力を持っていない者にしか出ない表示。だからこそ彼は何度試験を受けても合格させられなかったのだぞ」

「え……」

 

 俺が何度試験を受けても不合格になっていた理由ってそんなのだったのか。

 適正無しが毎回の結果だったが、まさかそんな隠し要素があったなんて。

 確かに合格基準に達しているのに何故だろう、とは思っていたけど。

 

「計測器ってのがどんなものかは知らないけど、普通の機械で測ろうとしても測りきれるような量じゃないわよ、悠真の魔力は」

「君からは膨大な魔力を測定出来た。それに私でも感じることが出来る。だが皆城君にはそれがない。機械ばかりに頼っているわけでは――」

 

 柳枝さんの言葉をスノウが遮る。

 

「違うわね。多すぎて感じられていないだけよ。魔力が浸透していない弊害なのかしら。少し感知する範囲を広げてみなさい」

「……私はあまりそういう器用なことは出来ないのだが――」

 

 柳枝さんは目を閉じて集中し始めた。

 正直、俺は会話にイマイチついていけていないのだが今はどういう流れなのだろうか。

 俺、このまま普通にしてていいのかな。

 しばらくすると、柳枝さんの額に汗が浮かび始めた。

 心なしか顔も青ざめている。

 

「――バカな」

 

 柳枝さんが俺を見る目は、まるで檻から出た虎と遭遇した時のようなものだった。

 

「なんだ、この魔力は……本当にこの青年が……?」

「そういうことよ。普通の尺度では測れないわ」

 

 柳枝さんの身体が震え始める。

 何がどうなっているのだろう。

 

「……スノウ、何が起きてるんだ?」

 

 小声でそう聞くと、そっけない答えが返ってきた。

 

「あんたは黙ってふんぞり返ってなさい」

「……へーい」

 

 しばらく柳枝さんは苦悶の表情を浮かべた後、俺とスノウを交互に見た。

 

「……すまない。私の認識違いだったようだ」

「ま、仕方ないわ。それくらい規格外だもの、悠真は」

 

 俺の話をしているっぽいが俺は蚊帳の外である。

 そろそろ拗ねようかな、なんて思っていると、柳枝さんが落ち着かない様子ながらも口を開いた。

 

「……一週間……いや3日以内に結論を出す。それまで待っていてくれないか」

 

 その答えに満足したかのようにスノウは頷いた。

 

「構わないわよ。最後に1つ。あたし達を取り込んでおくメリットは単なる戦力だけじゃないわ。それだけは言っておいてあげる」

「……肝に銘じておこう」

 

 こうしてダンジョン管理局での交渉は幕を閉じたのだった。

 

 

2.

 

 

「なんかやけに攻撃的だったな?」

 

 家に着いて荷物を整理している途中で、ずっと気になっていたことを聞いてみる。

 スノウは普段からツンケンしているが、ああいった態度を取るような子だとは思えない。

 何かしらの狙いがあってのことなのだろう。

 

「ある程度つっついて情報を引き出したかったのよ。あの人には申し訳ないことしたわ」

 

「柳枝さんな。あの人、とんでもない大物なんだぞ」

 

「でも、実りある話し合いではあったわ」

 

「そうなのか?」

 

 一方的に条件を突きつけて帰ってきただけのような気もするが。

 

「優秀な組織ね。あそこは大成するかもしれないわね」

 

「大成するって……もう大成功してるぞ、あの会社は」

 

「それ以上によ。ダンジョン攻略の鍵にもなり得る。そう感じたからあそこまで強気に出たの」

 

「スノウはダンジョンを攻略したいんだよな?」

 

「当たり前でしょ。あたしの精霊としての仕事だもの」

 

「ならもっと友好的にいった方が良かったんじゃないか? 求める情報を全て寄越せとか……流石に魔石でもたらされる利益の範疇を超えてるぞ」

 

「いえ、あれで良いのよ。敵ではない、でも味方でもないくらいの距離感が必要だったから。だからちょっとした無理を言ったのよ」

 

「……その言い方だと、最初からあの要求が通るとは思っていなかったって聞こえるけど」

 

「そうよ。全ての情報を開示するなんて絶対に拒否するに決まってるもの。本命はあたしとあんたの居住地の提供。多分、あっちも折衷案としてそこを持ってくるでしょうから、組織には属さないけど協力関係にはある。これくらいでいいの」

 

「……それじゃあ俺たちは個人で攻略を進めていくのか?」

 

「そうなるわね。ダンジョン管理局はあたし達無しでも攻略を進められる。あたし達も個人で進められるだけの力がある。それなら共同で攻略していくメリットはほとんどないわ」

 

 そう聞くとそれも一つの真理な気もするな。

 あのゴーレムを凍りつかせた時の力を見るに、中途半端な助力なむしろスノウにとっては邪魔になりそうな気もするし。

 

「それで、悠真。相談が一つあるのだけど」

 

「相談?」

 

「魔石の販売ルートに心当たりはない?」

 

「……今あるのはダンジョン管理局に渡すんじゃないのか?」

 

「今あるのはどうでもいいの。これから手に入るものよ。今持っているもの以上の大きさの魔石だって簡単にこれからは簡単に手に入るわよ」

 

「…………」

 

 また難しいことを言い出すな。

 そりゃ、小さなものだったらどうとでも売れる。

 しかし拳大かそれ以上のものともなればだいぶルートは限られるだろう。

 

「ダンジョン管理局に直接売りに行くってのは?」

 

「継続的に買い取ってくれるならそれでもいいけど、流石にそのうち渋り始めるわよ」

 

 一体この子はどれだけ魔石を売るつもりなのだろう。

 今やダンジョン管理局はT○Y○TAに匹敵するかそれ以上の規模を誇る会社だぞ。

 

「……個人でやろうとすると難しいかもなあ」

 

「どういうこと?」

 

 生活に必要な常識しか知らないスノウは首をかしげる。

 

「まず信用がない。魔石が本物だという保証があれば人々は欲しがるだろうけど、それを証明する手段がないんだ。それこそダンジョン管理局やその他ダンジョン攻略を目標に掲げている企業でもないとね」

 

「……そういえばこの世界の人間は誰もが魔力覚醒している訳ではなかったわね。確かにそれは厄介な問題だわ」

 

「けどスノウが世間的に目立つことを恐れないなら手段はある」

 

「どういうこと?」

 

「この世界にはインターネットがある。情報を発信する手段は腐るほどある。そこでスノウの容姿と実力をもってすれば、世間の注目はあっという間に集まる。その上で幾つかの魔石をダンジョン管理局なりに売って、俺たちの集める魔石が本物であることをアピールする。そうすれば他の企業や組織もこの魔石が本物なことを理解するだろうから、買い手もつきやすくなる」

 

「それってすごく目立つわよね……」

 

「正直、そういうことをやらなくてもスノウレベルの美少女だとすぐに注目を浴びることになる」

 

「褒めてるの? それ」

 

「まあ褒めてるっちゃ褒めてるな。今日ちょっと街を歩いただけでも相当注目を浴びたろ? それくらい綺麗な白い髪もまずいないし、お前ほど整った容姿は人類にはそういない。プロポーションも文句無し。俺がテレビのスカウントマンだったら間違いなく声をかけてる」

 

「ふーん」

 

 あらそうなの。まあ興味ないけどね。みたいなことを言わんばかりの態度で適当な相槌を打つスノウだが、顔が明らかにニヤけていた。

 満更でもない様子が見え見えである。

 普通ならそこまで目立つことによるデメリット――例えばヤバイ奴にストーカーされるとかの問題もつきまとったりするのだが、スノウの力があればむしろ危険なのはストーカー側だろう。

 

「まあ悪くはない手ではあるわね。考えてあげてもいいわ」

 

 恐らくこの手を使うことになるのだろう。

 

 しかし魔石の販売ルートはこれでなんとかなる目処が立ったとして、動画を作るなり生放送するなり、何かしらの手段を使ってメッセージを送り出すとなるとそういうのに慣れた人材が欲しくなるな。

 ……あいつならそういうの詳しそうだな。

 

 とある大学の同期を思い浮かべる。

 

「ま、とりあえずはダンジョン管理局の返答待ちだな」

 

「そう遠くはない内に返事は来ると思うわよ。情報の開示まで全部飲んでくれたら一番楽なんだけど」

 

「そういやさっき個人でやるって言ってたけど、もしダンジョン管理局が俺を雇うことに積極的だったらどうするんだ?」

 

「そうなったら普通に断るわよ」

 

「……最初からその条件は入れなければ良かったんじゃないか?」

 

 正直、居住区の提供と情報の開示だけでも十分スノウのやりたいことは出来ていたのではないだろうか。

 

「……あんたが侮られてるのが気に食わなかったのよ」

 

「へ?」

 

「気づかなかった? あの柳枝って人の態度で。明らかにあたしには警戒してたけど、あんたには全く気を払ってなかった」

 

「……いや、俺は正直分からなかったけど」

 

「長く戦いの場に身を置いていればわかるようになるわ。あっちの練度が低いせいであんたの実力が見えていないだけなのに、ああいう態度を取られるのは腹が立つの」

 

「つまり俺の為にあんなことを言い出してくれたってことか?」

 

「べ、別にあんたの為じゃないわ」

 

 めっちゃツンデレみたいなこと言い出したぞ。

 

「あたしの主人(マスター)であるあんたが侮られるってことはあたしが侮られるってことでもあるの。だからよっ」

 

「一応、礼は言っておくよ」

 

「一応、その礼は受け取っておいてあげるわ」

 

 素直じゃないなあ。

 

「そういえばこの近所にダンジョンはあるの?」

 

「新宿にあるよ。ここからなら電車を経由して20分くらいで着く」

 

 現在日本には大小合わせて53個のダンジョンがあると言われている。

 森の中や山の中に出現して、そのまま未発見のものもある可能性は高いと言われているので厳密にはもう少しあるのだろう。

 

 どこの国だったかまでは忘れたが、湖の中に出現した例もあるので海の中にさえあるかもしれないというのはなかなか、夢の広がるようなぞっとするような話でもあるが。

 

「今から出かけるか?」

 

 ダンジョンへ入るには別に特別な資格とかは必要ない。

 ただ満年齢が15歳以上であれば……あれ、ちょっと待てよ。

 

「スノウって身元を保証出来るものはないよな」

 

「そんなものある訳ないでしょ?」

 

「身分証明書か何かで年齢を提示しないとダンジョンには入れないんだよ。いや、法的な縛りはないんだけど間違いなく揉める」

 

「…………」

 

 流石のスノウもこの状況は考えていなかったようだ。

 

「……そのうちダンジョン管理局から連絡来るだろうから、その時に相談してみようか」

 

「……そうして貰えると助かるわ」

 

 しかしそうなると今日はやることがなくなるな。

 面接……は今更いいし、バイト……も急には入れない。

 そもそも魔石を売って一儲けしようとしている時にバイトなんて行ってもなあという気持ちがある。

 取らぬ狸の皮算用でもあるが、魔石を手に入れる算段はついているのだから問題ないだろう。

 

 とりあえずどうせ暇だし、スノウを軸にネットで色々展開していくことを見据えて、そういうのに詳しい奴に連絡しておこう。

 

 スマホで文字を打ちつつ、何とは無しに冷蔵庫からエナジードリンクを取り出して飲んでいると、スノウが興味津々な目でこちらを見ていた。

 

「それってエナジードリンクよね」

 

「そうだけど?」

 

「みんな美味しそうに飲んでたからずっと気になってたのよ」

 

「美味しいかどうかは人による。少なくともあまり身体に良いもんではないな。カフェイン配合で目が冴えるような気がするとか、そんなレベルの話だよ」

 

「どれだけ身体に悪いものを食べようと直接の影響はないわ。それこそ今朝のコーヒーみたいに特殊な条件でもないと」

 

「そういうものなのか」

 

 便利だなあ精霊って。

 そこまで行くと食っても太らないとかそういう話になってきそうだ。

 

 ……しかしそう言われても驚きはないな。

 

 冷蔵庫からエナドリを取り出し、スノウに放って寄越す。

 

「人によるって言っていた意味が分かったわ。正直あたしはそんなに好きじゃ――」

 

「だろ? 俺も特別好きな味って訳じゃないんだよ。半分中毒みたいなもんだから、やめないといけないのは分かってるんだが……スノウ?」

 

 スノウの様子がおかしい。

 顔を真っ赤にして、目を潤ませている。

 

「ゆう……ま……これ……」

 

 息も荒く、発汗も見られる。

 しかし体調が悪いという訳ではなさそうで――

 今朝も見た症状だ。

 明らかに発情している。

 

 何故?

 コーヒーは飲んでいないはずだ。

 

 ……待てよ。

 

「もしかして……カフェインか?」

 

 ……カフェインって色んな飲み物に含まれてるイメージだけど。

 結構厄介なトリガーなんじゃないのか、これ。

 

 今後どうそれを避けていくか考えようとしたが、その思考は打ち切られてしまう。

 いつの間にかすぐ近くまで来ていたスノウが俺の服の袖を掴んだからだ。

 

「あついの――ゆうまぁ」

 

 とろんと蕩けた声としなだれかかってくる柔らかい身体。

 後で考えよっと。



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第8話:間の悪さ

1.

 

 

 エナドリで――恐らくはカフェインのせいで発情状態になってしまったスノウ相手に俺があたふたしていると、焦れったいとでも言わんばかりにスノウは俺の前に屈み込み、ズボンのベルトに手をかけた。

 

「あ、ちょ、待――」

 

 有無を言わさずにベルトを外され、脱がされる。

 

「大きくなってる……♡」

 

 普段の様子とあまりに違いすぎる積極性に脳を直接揺さぶられるような衝動が襲いかかる。

 白魚のような指が俺のちんこに触れる。

 どす黒くグロテスクなちんこに、白くほっそりとした美しい指がアンバランスに、淫靡に映る。

 身体がもう熱くなっているが、まだ指までにはその熱が伝播していないのか、ひんやりと指を感じる。

 

 うっとりとちんこを眺めるスノウの手が数回、上下に動く頃にはもうこれ以上ない程に屹立していた。

 

「ん……すごい……つよいにおい」

 

 スノウの綺麗すぎる顔が俺のちんこの真横にある。

 風呂にはちゃんと入っているものの、それでも決して清潔とは言えないものがだ。

 真っ白なキャンバスに衝動的に黒で線を描いてしまった時のように、取り返しのつかない何かを踏み越えそうになる。

 

「ゆーまの……におい」

 

 うっとりした様子でそんなことを言われてしまえば、もはや彼女の頭を掴んで喉の奥まで突っ込んでしまわないように自らを制御する他ない。

 およそ穢れを知らないようなスノウの身体に、自分のものが――自分のものの匂いが取り込まれている。

 そう考えるだけで、恐るべき背徳的な感情が身のうちに湧き上がってくる。

 

「ん……ちゅ……」

 

 スノウの唇がちんこに触れる。

 それだけでびくん、と棒が跳ねてしまう。

 

「んふっ」

 

 まるでそれを愛おしい我が子を愛でるかのように慈しむ目で眺めるスノウ。

 

「れろ、ん……」

 

 遠慮しているのか、それともただの味見なのか。

 舌の先がちんこを淡く撫でる。

 

「ぐっ……」

 

 凄まじい感触だ。

 今のだけで射精してしまえたらどれだけ楽だったか。

 もはや暴発寸前まで行っているような気がする。

 

「ん……ちゅう、えろ……れろ……はむ……」

 

 どうやら味見はお気に召したようで、そこからは躊躇なく竿の敏感な部分を舌と唇が愛撫していく。

 先程まで普通に会話していた口が舌が、今は俺のちんこに夢中になっている。

 その事実だけでも頭がどうにかなってしまいそうだった。

 

 飴を大事に舐める幼児のよう慎重に舐められたり嵌まれたりしているお陰で少しずつ、少しずつ劣情が高められていく。

 

「っ……これ、やばっ……」

 

「我慢できないの?」

 

 スノウが挑発的な笑みを浮かべて俺を見る。

 既に先走りを始めた我慢汁を、舌が舐め取っていく。

 既にちんこはぬらぬらとテカっているが、それがスノウの唾液によるものなのか自らの先走り液によるものなのかすら定かでない。

 

 とんでもないテクニック――というよりは、俺が状況の特殊さに過敏になっているだけなのだろう。

 しかしまるで脳に直接刺激を与えられているかのような快楽に、もはや理性は弾け飛びそうになっている。

 

「あっ……ぐ……っ」

 

 俺の方も限界が近いと感じたのか、スノウの手の動きがやにわに早くなる。

 先も言った通り、決してスノウの手練手管が優れている訳ではない。

 ただ彼女ほどの美少女が跪いて自分のものを一生懸命扱いているという事実だけですぐにでも達してしまいそうになる。

 

「くっ……」

 

 もう限界だ――そう思った瞬間。

 まるでそれを感じ取ったかのようにスノウが動きを止めた。

 

「……まだ、だーめ」

 

 ふっ、と鈴口に息を吹きかけられ、変な声が出そうになる。

 そんな俺を悪戯ぞうな笑みで見たあと、スノウはベッドの上に、スカートをたくし上げながら四つん這いになった。

 

 新しく購入したばかりのショーツは既に愛液で浸され、濡れている部分は色の変化を一目で分かってしまう程だ。

 

 ショーツは脱がずに、指で股間の部分だけを露出させたスノウがこちらへ顔だけを向ける。

 

「きて……もう準備できてるの」

 

 当然、我慢など出来るはずもなく。

 

「くっ……!」

 

 スノウの腰を荒々しく掴んで、そのまま挿入する。

 真っ白い尻が肉のぶつかるタイミングでぷるんと艶かしく揺れた。

 スレンダーな体型に見えるスノウだが、決して痩せすぎている訳ではない。

 肉の付くべきところにはしっかりと付いている。

 そういう点まで含めて理想の身体といえるだろう。

 

「あっ、ん……ふ、中ぁ、きてるぅ……!」

 

 びくびく、と身体を震わせるスノウ。

 挿入しただけで達したのだ。

 俺にはお預けを食らわせておいていい度胸である。

 

「あっ♡ あっ♡ あっ♡ おく、いっぱい、すき♡ すきなの♡ すきぃ♡ ゆーまぁ、いっぱいちょうだい、いっぱい♡」

 

 まるで貪るかのようにガツガツと腰を動かしていると、すぐに俺も限界が来た。

 一番奥に突っ込んだタイミングでどぴゅっ!! と精を放つ。

 

 ……当然のように中出ししてしまったが大丈夫だろうか。

 一発出したことによって賢者となった俺の脳裏に過るのは常識的な心配だったが、そんな心配を他所にスノウはいつの間にかそのままベッドに突っ伏して寝ていた。

 

 ……身体くらい拭いてから寝ないと風邪引くぞ。

 

 

 俺の心配を他所に数十分後にスノウは目を覚ました。

 ある程度綺麗にされている格好や股間の辺りを確認すると、顔を真っ赤にして俺を見る。

 

「その……なんといえばいいか分からないんだけど……ごめん?」

 

「いや……こちらこそ……ありがとう?」

 

 妙な挨拶をした後に、俺は既に中身を捨てた後のエナドリの缶をスノウの前にこん、と置く。

 

「コーヒーとエナドリの共通点はカフェインだ」

 

「カフェインって……目を覚ますっていうやつよね」

 

「ああ」

 

 その他にも鎮痛作用だったり疲労回復作用があったりすると言われている。

 だからエナドリにも多く含まれているのだが。

 

「これがまた色んなものに含まれているんだ。紅茶とか緑茶とか。さっきのコーヒーとエナドリは特別多い方だから他の比較的少ないものでどうなるかは分からないが」

 

「…………色々調べていくしかないわね」

 

「え?」

 

「だってそうでしょう!」

 

 バン! とスノウは強く机を叩く。

 

「せっかく受肉して色々楽しめると思ったのに! どうせならこっちから克服してやるわ!!」

 

「お、おう……頑張れよ」

 

「あんたも付き合うのよ!」

 

「ええ……」

 

 いやこの場合の付き合うってつまり突き合うってことじゃないのか?

 そうでなら吝かでないが、そこまで考えての発言なのだろうか。

 勢いに任せただけな気もしないでもないが。

 

 

 

2.

 

 

 

「今日はもう出前でいいか……」

 

 スノウが風呂に入っている間、ぼんやりとテレビを見ていた俺は夕食を作るのが面倒臭くなっていた。

 今日はあちこち歩き回ったしセックスもしたしで疲れた。

 ていうか冷蔵庫の中身が何もない。

 出かけたついでに買っておくべきだったか。

 

 1枚頼むとMサイズ1枚無料のピザ屋があったので、明日の分も込みでそこで4枚頼む。

 ピザはラップで巻いて冷凍しておけば後で焼けばちゃんと美味しくなるのだ。

 スマホをポイと投げてベッドに寝転がる。

 ちなみにシーツは取り替え済みである。

 そういえば布団買うのも忘れてた。

 

 色々あると頭からすっぽ抜けるなメモ取る癖をつけるべきかもしれない。

 なんとなくだが、これから忙しくなりそうな気もするしな。

 

 ポポン、とメッセージアプリの通知音が鳴る。

 誰だろうと思い、スマホを手にとって見てみると、先程ネットであれやこれややる上で詳しい奴……で思い浮かんだとある知り合いにメッセージを送っていたのだった。

 その返事が来たようだ。

 

 というか、内容を送信中にスノウに襲われた(?)お陰で文章が若干変だな。

 

『ちょっと相談があるんだが』

『お前ってネットとかパソコンとかそういうの詳しいよな』

『手伝ってほしいことがあ?????』

 

 手伝ってほしいことがあ?????

 って。

 なんで俺から頼んでおいてちょっと鬱陶しい疑問形なんだ。

 ちなみにそのことについては特に突っ込みもなく、返事は『詳しい話は後で聞く』、だそうだ。

 忙しいのかな。

 

 あいつもボケ殺しというか……どちらかと言えば淡々とボケ続けるタイプでツッコミではないからな。

 俺の誤字を見たところでなんとも思わないのだろう。

 よっぽど面白いことを言わなければあいつは笑わないのだ。

 

 そもそも感情の起伏が薄いタイプというのもあるが。

 

「……にしても、昨日今日で色々ありすぎだな」

 

 というか主に昨日の続きみたいなものだが。

 冷静に話を整理しようと思うと、まるで現実味が沸かない。

 実はスノウなんて精霊はいなくて、俺はただ就活をサボって現実逃避しているだけだと言われても納得出来る。

 

 そうだとしたらそこまで妄想を広げた俺がヤバすぎる奴になってしまうが。

 

 しかし風呂場から聞こえてくるシャワーの音と、シーツを洗っている洗濯機の音がこれは現実だと告げている訳で。

 

「大変な事になっちまったなぁ、オイ」

 

 まるで他人事かのように呟いているとピンポーン、とチャイムの音が鳴った。

 

 ……ピザが届くにしては早すぎないか?

 焼き立てのやつじゃなくて出来合いのものを持ってきたのかな。

 できれば焼き立てが良かったなぁ、なんて考えながら財布を握りしめて玄関へ向かい、扉を開けるとそこには配達員ではなく――身長の低い女子が立っていた。

 

 ショートカットで、いつも眠そうな目をしている。

 身長は140センチ程度でかなり小柄だが、これでも大学生だ。

 

「失礼なことを考えてる顔」

 

「……いや、そんなことはないけど。なんでここにいるんだ、知佳(ちか)

 

 こいつは永見(ながみ) 知佳(ちか)

 大学の同期で、四年の付き合いがある。

 実はさっき連絡したネットに詳しい奴なのだが。

 

「……インターネットかPCのトラブルなんでしょ? すぐに解決しないと大変」

 

「だからってお前こんな夜に男の家に来ていいのかよ」

 

「そんな度胸ないでしょ?」

 

 小首を傾げる知佳。

 こ、こいつ。

 俺だって男なんだぞ。

 

「…………」

 

 まあ……無いが。

 しかし知佳は見た目こそ幼いが割と目を引く美少女でもある。

 人形みたいで可愛いと他の女子大生にハグされているのを目撃したことがあるくらいだ。アレ程自分の性別が男であることを呪った日はない。

 

 追い返すのも申し訳ないがスノウと鉢合わせするのもなんか厄介な誤解を生みそうな気もする。

 

「まあ入れ」

 

「お邪魔する。悠真の家に来るの久しぶり」

 

 とりあえず、知佳の見た目のこともあるので一旦中に入って貰う。

 ご近所さんに見られてみろ。下手すりゃ犯罪を疑われる。

 

「やっぱり何か失礼なことを考えてる気配」

 

「気の所為だ……で、相談したいことってのは別にトラブルがあったとかじゃなくてだな」

 

 とりあえず誤解を解いて早く帰って貰おう。

 スノウが出てきたら大変なことになる。

 

 ……あれ、よく考えてみればどの道スノウのことは説明しないといけないんだから隠そうとする必要はないのか。

 

「誰か来てるの?」

 

 目ざとく(耳ざとく?)シャワーの音を聞きつけたようで、知佳がそちらへ視線を向けたちょうどそのタイミングで。

 バスタオルを身体に巻き付けたスノウがこちらに顔だけ出して(しっかり身体の方も見えてはいるが)、

 

「ボディーシャンプー切れてるわよ。どこにある……の……」

 

 と言い放った。

 スノウは知佳を見つけるのと同時にフリーズ。

 

 知佳の方は表情こそ変わらないものの、どういう訳かどす黒いようなオーラのようなものが出ているような気がする。

 

 あれ、やっぱり面倒なことになる?

 というかタイミングと出てきかたが悪すぎない? スノウさんや。



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第9話:どうしてこうなった

1.

 

 

「なるほど、大体事情は把握した」

 

 ピザを食べながら、いつもの眠そうな目で知佳(ちか)が言う。

 あれから昨日のこと今日のこと、スノウのことを一部隠しつつ(主に性行為を既に3回済ませてること)説明し終わり、これからやろうとしていることで力が必要だという話をした。

 

「とりあえず実際にスノウホワイトがそこにいる上に、コレ(・・)を見せられたら全部悠真の妄想という線は消える」

 

 コレ、と知佳が持ち上げるグラスは先程まで麦茶が入っていたのだが、スノウの力によって一瞬で凍てつかされていた。

 種も仕掛けもなく、目の前でこんなことをされれば流石に信じざるを得ないだろう。

 

「スノウでいいわよ。あたしも知佳って呼ぶし」

 

 スノウは意外とフランクな様子だ。

 俺や柳枝(やなぎ)さん相手みたいに高圧的な態度で行くのかと思ったが、今の所は普通に接している。

 

「じゃあ、スノウはさっきの悠真の話……動画とかで発信していくのは了承してるの」

 

「まあ……別に構わないわよ。それが一番良いって言うんなら」

 

 嘘つけ絶対満更でもないだろ。

 

「法の抜け道を使ってもいいならベストは他に幾らでもあるけど」

 

「それは無しの方向で頼む」

 

 しれっと知佳は恐ろしいことを言う。

 ネットに詳しいだのPCに強いだのふんわりとした言い方をしていたが、その詳しい強い度合いが普通とはかけ離れているのだ。

 

 webサイトの設計やプログラムの開発から、ハッキングやクラッキングまで。噂では闇サイトの運営もしているとかしていないとか。

 その気になればダンジョン管理局の機密だって盗めると豪語しているのは恐らくフカシではないのだろう。

 今の所本人に法を侵すつもりはなさそうなのでとりあえずは安心しているが。

 

 動画やなんかも依頼を受ければ作ると言っていたのを昔ちらりと聞いたので声をかけたのだ。

 

「確かに、スノウの容姿なら上手くプロデュースすれば一週間もあれば登録者数500万人くらいは行く」

 

「一週間で? 嘘だろ?」

 

「ほんと。海外まで取り込もうと思ってるなら、とりあえず英語字幕だけ付けてもその3倍くらいは余裕」

 

 とんでもない大言壮語だ……と笑って流すことは出来ない。

 スノウは本当にそれほどまでの美少女だ。

 

「よく分からないけどそれって凄いの?」

 

 動画サイト事情に詳しくないスノウが首を傾げているが、ド素人が一週間で登録者数500万人は凄いとかの話じゃない。

 もはや事件だ。ネットニュースに上がるレベルだと思う。

 

「魔石なんて売らなくても収益だけで一生暮らしていける。まあ、悠真達の言う通りなら魔石の方が遥かに稼げるけど」

 

「ちょっとした信用を得られれば良いくらいのつもりでいたけど……そこまでお前が言うならマジでとんでもないことになるんだろうな……で、引き受けてくれるのか?」

 

「構わない」

 

「助かる。報酬は……どうしようかな。とりあえず収益が出るか魔石が売却出来るかまでは待って欲しいけど」

 

「別に、適当でいい。お金には困ってない」

 

「そりゃ駄目だ。友人間だからと言って金の問題はちゃんとしないと」

 

 この世は金がすべてとまでは言わない。

 だがほとんどは金だ。

 誰かがそう言ってた。

 

「全部でいいんじゃない?」

 

 スノウが口を挟む。

 

「その……動画? で収益が得られるんでしょう? そのお金は全部知佳にあげればいいわ」

 

「あー、それでいいかもな。主目的は動画で稼ぐことじゃないし」

 

 魔石を売ることがメインの目的だ。

 動画はただの知名度と信頼を得る為のツール。

 それを知佳が主導してやってくれると言うなら、収益は知佳に渡すのが道理だろう。

 

「多分すごい額になる」

 

 流石に知佳が困惑したような雰囲気を出している。

 知佳には色々丸投げするのだから当然だと思うが。

 

「待って。流石に全部は受け取れない。最低でも折半」

 

「折半か……まあ、それで知佳が納得するなら良いんじゃないか。全部欲しければいつでも言ってくれ」

 

 変なところで遠慮するんだな。

 元々自分でも稼いでいるんだから、ある程度纏まった金は見慣れているだろうに。

 

「というか、悠真」

 

「なんだ?」

 

「動画での収益もそうだけど魔石を売ったりするのなら、会社を作った方がいい」

 

「……会社を作る?」

 

 何を言っているんだろうこのチミっ子は。

 冗談を言うようなタイミングだろうか、今って。

 

「冗談でもなんでもなく、本気で。経理だったり法律の問題はプロを雇えばいい。法人と個人じゃ信用度が全然違う。大きな額が動くのなら尚更」

 

「……そういうもんなのか」

 

 多分知佳が言うんだったらそうなんだろう。

 多分。

 いや、俺もその辺りの知識が全くない訳ではないが、実際に個人事業主として稼いでいる知佳には明らかに知識でも経験でも劣るからな。

 

「そういうもん。という訳で会社を作る。社長は悠真。社員はスノウと私」

 

「えっ、俺?」

 

「私は当事者じゃない」

 

 と知佳はあっさり言うし。

 

「あたしはそんなのやれないわよ。やるなら悠真がやって」

 

 スノウは俺に丸投げするし。

 

「ということで、社長就任おめでとう」

 

 ……マジで?

 

 

2.

 

 

 あまりに何もしていないスノウがそれを気に病んで(別にいいっちゃいいのだが)皿洗いを自らやっている間にもう少し知佳と話を詰める。

 

「事務所はダンジョン管理局から貰う家にする」

 

「そんなの出来るのか? 住むところだぞ?」

 

「問題ない。むしろ3人しかいない会社で事務所を借りるのは非効率」

 

「確かに」

 

 なんとなく会社と言うとどこかのビルの一角を借りたりしてそこを事務所にするようなイメージがあるが、俺を社長とした実質3人の小規模な会社だ。

 そんなことしても無駄にコストがかかるだけか。

 

「あと、形態は株式会社にする。出資をするお金は……」

 

「あると思うか?」

 

「じゃあ私がする。資本金は……大体1000万もあればいいと思う」

 

「そんなに持ってんの!?」

 

 稼いでいることは知っていたが、ちょっと想定よりもだいぶ多かった。

 しかもポンと出せるってことはもっと持ってるよな……

 

「ていうか良いのかよ、そんなに」

 

「間違いなく元は取れるから平気。手続きとかはどうするの。私がしても良いけど」

 

「流石にそれは俺がやるよ。そこまで任せっきりなのは気が引ける」

 

「別に良いのに。悠真に世話焼くのは好きだし」

 

「なんだそりゃ、お前は俺のオカンか」

 

 俺が苦笑しながら言うと、知佳がずいっと俺に身体を近づけてきた。

 ふわりとバニラのような香りが漂う。

 俺がそれにドキッとするより先に、小さな手が俺の太ももに触れた。

 

「お、おいおい、セクハラか? 出資者の余裕だな」

 

 何の冗談にしろ、ここでドギマギしたら俺の負けだと思い誤魔化そうとするが――

 

「そう、セクハラ。1000万円分は身体で払って貰う」

 

 耳元で囁かれる。

 知佳は元々気だるげで決して声を張る方ではないのだが、それが更に小さな声で、それもくすぐるような距離感で言われると背徳感……というかなんかヤバイ。

 ASMRというやつが一番近いのだろうか。

 

「スノウとの距離感。気づいてないと思った?」

 

「な、何がですかね」

 

 何故か敬語になってしまう俺に、知佳が耳元でくすりと笑う。

 背中がぞわぞわする。

 

「何回したの?」

 

「何のことでしょうか」

 

 

「何回、したの?」

 

「……3回です」

 

「昨日と今日で?」

 

 知佳は俺のズボンのファスナーを下ろし、既に大きくなり始めていたモノを下着の上から触ってくる。

 や、やばい。

 少し触れられた時点でほとんどもう制御が効かなくなっている。

 立ち上がって逃げようとすると、耳をぺろんと舐められて脱力してしまった。

 

 一体何が起きているのか誰か俺に説明して欲しい。

 切実に。

 

「元気」

 

 社会の窓から既にフルパワー状態になったちんぽが屹立していた。

 

「ば、バレるぞ、スノウに」

 

「食器を洗うのに手間取ってる。それにあそこからじゃ見えない」

 

 スノウの長く白い指とは違う、知佳の小さな手が俺のちんぽを握る。

 ひんやりとした感触に思わず腰が引けてしまう。

 

「……普通こんな大きいものなの?」

 

 両手で握っても尚余る肉棒に少し目を丸くする知佳。

 

「し、知るか、他の奴のなんて見たことない」

 

「私も」

 

 知佳は妖しげな笑みを浮かべる。

 

「こんな風になるんだ、男の人って。硬いし、熱い。挿入(はい)るかな、こんな大きいの」

 

 しゅに、しゅにっ、と知佳の手が上下運動を始める。

 ちんまい癖に醸し出している妖艶な雰囲気とは違い、手慣れてはいないようですごく気持ち良い訳ではない。

 しかし大学の知り合いがこんなことをしているという、現実的な中での非現実感とでも言う特殊な状況に興奮はどんどん増していく。

 

「気持ちいい?」

 

「……っ」

 

 耳元で囁かれて、背筋がぞくぞくとする。

 こいつ、こんなエロい声してたのか。

 いや声がエロいってなんだ意味わからんぞ。

 しかし実際にエロいのだから仕方ないだろう。

 

「気持ちよさそうな顔。かわいい、悠真」

 

 年齢は同い年とは言え――見た目は小さな女の子だ。

 そんな子が俺のグロテスクなちんぽを握って、薄っすらと笑いかけながら耳元で囁いている。

 

 もはやカオスだ。

 

「こういうのも気持ちいいって聞いた」

 

 右手は亀頭をくすぐり始め、左手は玉を揉みほぐすように動きを変える。

 腰が浮いてしまいそうな快楽が襲いかかる。

 ま、まずい。我慢しないと知佳を襲ってしまう。

 いやこれ我慢しなくてもいいんじゃないか流石に。

 ここまで挑発されて手を出さない方がむしろ恥をかかせるんじゃないかこれは据え膳なのかどうなのか。

 

「どんどん硬くなってる……♡」

 

 フルパワーだと思っていた俺のブツはまだ上があったようだ。

 確かに硬さも大きさも先程より増している。

 そのうち全身を支配されるのではないだろうかとかバカなことまで考え始める。

 

 や、っば、これはヤバい……!

 

 知佳も段々と興奮してきたのか、耳元に熱い吐息がかかる。

 その温度が俺の脳にまで侵食してくるような錯覚さえ覚える。

 熱に浮かされ、そのまま知佳を押し倒したくなる。

 

「実は今日、ちょっと期待してたり」

 

「……なにを……」

 

「悠真が一人だと思ってたから。ちょうど近くにいたし」

 

「おま……」

 

「じょーだん」

 

 ――やばい。

 見た目は可愛らしい少女だ。

 気軽に連絡出来るくらいには仲も良かった。

 

 知佳にこんな一面があるとは。

 

「悠真以外にはこんなことしない」

 

 再び耳元で囁かれる。

 

「悠真だけ」

 

 俺にだけ。

 その言葉で更に頭が欲情で支配される。

 

 やっ……ば、い……!

 

「ん……」

 

 俺の様子から何かを察したのか、知佳が俺のことを一瞬見つめたかと思うと、ガバッと頭を伏せた。

 

 ちゅぶ、ずりゅりゅりゅりゅりゅ!

 

 一気にちんぽが知佳の口の中……いや、喉の奥まで行く。

 

「んぇ……んっ……んんんんんんん!!」

 

 ぎゅっ、と収縮する喉に搾り取られるように知佳の口の中へと射精する。

 膣内射精(なかだし)とはまた別の気持ちよさだ。

 知佳の小さな背中が震え、ごくん、ごくん、と自分の精が小さな胃の中へ入っていくのがわかる。

 思わず知佳の小さな頭を股間に押さえつけてしまう。

 

 しばらくして、

 

「ん……っぷあ……っ」

 

 知佳が顔をあげる。

 かなり大量に出たお陰か、少し口の端から垂れていた。

 流石に喉の奥まで突っ込んで若干えずいていたということもあり、涙目にもなっている。

 それがまた、堪らなくエロかった。

 

 口の端を拭って、それを見せつけるようにして知佳が舐め取る。

 

「苦い……それに苦しかった」

 

「ご、ごめん」

 

 何故俺が謝る羽目になっているのだろう。

 一度射精して冷静さを取り戻した頭の片隅でそんなことを考えるが、それで考えても唐突に始まった知佳による淫事が一体何だったのかさっぱり分からなかった。

 

 ちょうどそのタイミングで、台所から聞こえる水の流れる音が止まった。

 知佳が俺からすいっと離れていくのをなんとなく名残惜しく思いながらも、俺もちんぽをズボンにしまってファスナーをあげる。

 

 

「皿洗いって意外と難しいのね……あら、どうしたの? 二人とも」

 

 俺たちの間に流れる微妙な雰囲気にスノウが首を傾げる。

 

 どうしたのかは……俺が一番知りたい。



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第10話:衝動

1.

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 月も出ていないので街灯の明かりのみが光源の薄暗い夜道を知佳と二人で歩く。

 あの後、流石にあの狭い空間に泊まって貰う訳にもいかないので送り届けることになったのだが。

 既に家を出て数百メートルは歩いているものの、その間二人の間に全く会話は無かった。

 

 先程まで火照っていた身体が夜風でいい感じに冷えているので既に頭は冴えているのだが……それでも先程の状況は異常だったとしかいう感想しか出てこない。

 

「……さっきのは」

 

 知佳がぽつりと呟く。

 

「忘れて」

 

 無茶を言いやがる。

 

「正直、どうかしてた」

 

「それを言うなら俺もだ。お互いどうかしてた」

 

 本気で拒否しようと思えば出来たはずだ。

 しかししなかった。

 それがあの淫事に繋がった。

 

「その……」

 

「ん?」

 

「本当は嫌だったりした?」

 

「……それはない。お前は友達だと思っていたが……可愛いとは思ってたし」

 

 うん、それは本心だ。

 何故俺のような凡人オブ凡人と付き合いがあるのだろうと思っていたくらいには。

 

「もしかしてロリコン?」

 

「断じて違う」

 

 あくまでも知佳の実年齢は俺と同じ22である。

 合法ロリだ。

 というか普段ロリとか言ったらキレるくせにこういう時だけ言うなよ。

 

「……あ」

 

 知佳が不意に何かに気づいたように、ふらりと道を逸れる。

 何かと思って視線だけで追うと、そこには近所に住んでいた俺も知らない、小さな公園があった。

 

 最近はこういう小さい公園も減ってきたな。

 

「これある公園、地味に珍しい」

 

 そう言う知佳が見ているのは回転ジャングルジムだ。

 何年か前にこれで事故が起きたとかで問題になってたな。

 

 いや、とは言っても、

 

「はは、わざわざ立ち寄る程珍しいか?」

 

 見た目の幼さと言っていることが妙にマッチしてどこか面白く感じてしまう。

 

「ううん、ただの方便」

 

「方便、って……」

 

 知佳は俺の手を取って、公園の隅へと引っ張っていこうとする。

 何故だか今更それにドギマギしながらなんとなく着いていくと、くるりと振り向いた知佳の顔が――薄暗い中でもわかるほど赤くなっていた。

 

「このまま帰りたくない」

 

 知佳はそう言ってデニムのパンツを脱ぐ。

 下には見た目の幼さにそぐわない、模様とかがこう……どことなく淫猥さを滲ませるような、俗に言う大人の下着を身に着けていた。

 

「今日を逃したら二度とない気がするから」

 

 ようやく落ち着きを取り戻してきた理性が再びどこかへ旅立とうとしているのを感じる。

 

「嫌なら……逃げて」

 

 逃げてってお前……

 そんな捨てられそうな子猫みたいな表情されて、逃げられる訳ないだろ……!

 

「――今更後悔するなよ」

 

「あっ――♡ んっっ……」

 

 知佳の小さな身体を抱きしめ、唇を貪るようにキスをする。

 バニラのような甘い香りが脳髄まで直接浸透してくるような感触。

 小さく柔らかい舌が俺の口の中にまで入ってきた。

 

「ん……くちゅ……れろ……」

 

 こちらから始めたのに、既に主導権を握られそうな程情熱的に、そしてねちっこく口内を舌が行き来する。

 それを阻止する為に舌を絡め取って、結果的に互いの唾液が延々と交換される羽目になる。

 

 服の上から胸に触れると、知佳から送られてくる吐息の量が増えた。

 見た目相応のサイズしかないのでお世辞にも大きいとは言えない。

 しかしそんなに小さくとも明らかに男の身体にはあり得ない柔らかさをしていた。

 小さくてもおっぱいはおっぱいなのか。

 これは大発見ではないだろうか。

 

 掌の方が遥かに大きいので、揉むと言うよりは触れると言った感じだ。

 指先でなぞってみたり、乳首をつねってみたり。

 そうする度に知佳が小さく呻く。

 

「んっ……あっっ……ひぃぅ……」

 

 2分ほどはそうしていただろうか。

 呼吸が苦しくなって口を離すと、どうやら知佳は俺よりも限界が近かったようで、酸欠なのか朦朧とした――しかし明らかに発情している顔で俺を見つめていた。

 

 いつもは眠たげな目なのに、今日はその中にハートマークが浮いているような錯覚さえ覚える。

 先程一発抜いたはずなのに既に痛いほどに勃起しているちんぽを、ベルトを外すことすらもどかしく思いながらも露出させる。

 

「――う」

 

 今なんとなくで忘れそうになっていたが、ここ、外なんだよな。

 しかも公園。

 そこを行く道に誰か通ればすぐに見られてしまう位置だ。

 

「……きもちーでしょ。外での露出」

 

 うっとりした様子で言う。

 

「……お前まさか経験があるんじゃないだろうな」

 

「実は悠真の前でノーパンだったことが……10回くらい」

 

 思ってたよりずっと多かった。

 しかしそれに気づかない俺もアホなのかもしれない。

 というか、いつも眠たげな目をしていて、性欲なんて無いようなものだと思っていたが――ド変態じゃねえか。

 

 身長差がありすぎて普通には挿れらそうにない。

 

「あっ……」

 

 仕方がないので知佳の両脚を持って持ち上げた。

 俗に言う、駅弁というスタイルになるのだろうか。

 

「こ、これ、やばい。悠真」

 

 ぎゅっと抱きついてきながら、知佳はうっとりと陶酔する。

 

「匂いも、熱さも、鼓動も、全部感じてる。すごくえっち」

 

 確かに、互いの心音さえ聞こえてしまうような距離感だ。

 しかしそれをゆったりと感じている余裕はもう俺にはない。

 

「挿れるぞ」

 

 入るのだろうか。

 一瞬、そんな考えが脳裏をよぎったがもう止まれはしない。

 

 先程まで体勢の都合上ちんぽの上に乗っていた穴に、今度は直接先をあてがう。

 

「んっ……」

 

 既に分かってはいたが、もうこれ以上ないほどの愛液が溢れ返っている。

 潤滑油という面では申し分ないが――

 

 ぎちっ、と先端が知佳の中へと侵入しようとする。

 流石に痛みを感じるのか、俺に抱きつく力が強まった。

 

「一気に、きて」

 

「後悔するなよ……!」

 

 耳元でそう囁かれ、ゆっくりと奥まで突きこむ。

 狭い……!

 なんて狭さだ。

 ちんぽ一本でいっぱいいっぱい……いや、むしろキャパオーバーしているのではないかと思うほどの締め付けだ。

 

 しかしそれがまた程よく強い刺激を与えてくるのだからタチが悪い。

 

「あっ……! ぐぅ……いっ……」

 

 結合部からは破瓜の血が流れる。

 知佳は僅かに眉を顰めるが、すぐにどこか妖しげな笑みを浮かべた。

 

「ね……初めてだった……でしょ」

 

「そこは別に疑ってねーよ……大丈夫なのか?」

 

「だい……じょーぶ……」

 

 じゃなさそうだな。

 しばらく痛みが収まるまでこのままでいてやろう。

 お互いの心音と体温を感じながら、そのままで1分ほど経っただろうか。

 

 何もしないでも密着しているだけでどこか幸福感を覚えてしまう辺り、人間って不思議な生き物だな。

 

「なんか、くすぐったくなってきた……かも」

 

「動いても大丈夫そうか?」

 

「……大丈夫、だと思う」

 

 最近まで鍛えていたということもあってか、知佳の身体は全く重さを感じない。

 少し腕を動かすだけで上下させられてしまう。

 自分で動くよりも楽かもしれないくらいだ。

 なので知佳の身体を少し上に動かして、ゆっくり下に下ろす。

 

「あっ……あっあっあっ」

 

 知佳が何か切羽詰まったような声を出すので慌てて動きを止める。

 

「ど、どうした。大丈夫か」

 

「な、なんで……初めてなのに」

 

 しまった、急ぎすぎたか?

 もう少しゆっくりやるべきだったか。

 

「なんでこんな、気持ちいいの」

 

 ……どうやら俺の危惧は余計なお世話だったようだ。

 

「身体……おちんちんに……串刺しにされてるのに……」

 

 耳元でおちんちんとか言わないで欲しい。

 それこそおちんちんに悪い。

 

「あっ……♡ まだ大きくなってる……♡」

 

 なんだろう、今まで全くそんなこと思ったこともないのに、何故かさっきから知佳の声がエロく感じて堪らない。

 俺って声フェチだったのかもしれない。

 今まで知らなかった性癖が開けた。

 

「じゃあもっと動かすぞ」

 

「いいよ……いっぱい」

 

 返事を待つ前に、俺は既に知佳の身体を揺すり始めていた。

 

「あっ、んっ、これ、つよ、ゆーま、つよ、い、ちょ、っと」

 

 まるで羽のように軽い知佳の身体を、上下上下と何度も揺さぶる。

 そしてその一突きごとに知佳の声はどんどん甘く、そして大きくなっていく。

 

「分かってるのか、ここは外だぞ」

 

「わか、ってる♡、でも、それも、きもち♡、いいから、ほんとに、やば♡、い……♡」

 

 元々狭い膣内が絶頂の為の拍動を始める。

 ぎゅ、ぎゅ、と不規則に締め付けてくるせいで、ちょうど膣内を行き来しているタイミングに合うととんでもない快感が襲いかかってくる。

 

「やば――」

 

 もう射精()る。

 流石に膣内はまずい――

 反射的に腰を引こうとすると、まるでタイミングを見計らったかのように知佳の脚が俺の身体に巻き付いてきた。

 そしてそのまま強く引き寄せられ、ずん、と最も奥へ到達したタイミングで――

 

「あ――私も、い……くぅぅうぅうぅ!!」

 

 先程出したばかりだというのに自分でも引くほど気持ちよく大量に射精してしまった。

 同級生の膣内に。

 生射精。

 

「だい……じょうぶ。生理来てないから」

 

「嘘だろ!?」

 

「う・そ――んちゅ」

 

 にや、と悪戯そうな笑みを浮かべた知佳が俺に再びキスをしてくる。

 しかし先程の濃厚なそれとは違い、すぐに離れた。

 

「今日は安全日だから、大丈夫」

 

「……もし出来たら責任は取る」

 

「期待してる……んっ……」

 

 知佳が自分で体勢を変えて、抱っこしている状態から脱却する。

 そして自分の股から垂れてくる精液をちらっと眺めて、俺の方を向いた。

 

「やっちゃったね」

 

「……だな」

 

 なんというか、まさかこんなことになるなんて思いもしなかった。

 俺昨日まで童貞だったんだけど。

 

 

「ね……悠真」

 

「どうした」

 

 黙々とズボンを履き直している最中に知佳が話しかけてくる。

 

「私たちの関係ってなに? 恋人?」

 

「ん……んー……」

 

 恋人関係……に発展してしまって良いのだろうか。

 俺はこれからもスノウや他の精霊と交わることがあるだろう。

 それは恋人にとっては裏切りになるのではないだろうか。

 

「スノウとのこと気にしてる?」

 

「まあ……」

 

 本契約のことだったり魔力を増やす手段のことだったり……まあカフェインのこととかも別に話してはいないので、知佳の中では今の所ただ俺とスノウがそういう関係にあるいう認識しかないだろう。

 

 流石にそれはフェアじゃない。

 なのでざっくりと話すことにした。

 こんな関係になった以上、今更隠すことでもないだろうということで。

 

「なるほど。つまりセックスは必要不可欠」

 

「まあ……今の所はそういうことになってる」

 

「別に私は気にしなかったり」

 

「……そうなのか?」

 

「うん、特に。独占欲はそんなに強くない」

 

 ……そうなのか。

 意外とあっさりしてるんだな。

 正直俺は……独占欲は割と強い方な気がしているが。

 

「心配しなくても、私は悠真一筋」

 

「え」

 

「悠真がそうでなくても」

 

「う゛っ」

 

「冗談」

 

 くすっと知佳が笑う。

 どうやら気にしていないのは本当なようだが。

 

「とは言っても、悠真は気にするみたいだし」

 

「まあ……気にしないと言ったら嘘になる」

 

「折衷案。私と悠真はセフレ以上恋人未満のビジネスパートナー」

 

「ん……うん?」

 

「それなら気にしないでいいでしょ?」

 

 うん……まあ……そうなる……のか……?

 よく分からなくなってきたぞ。

 

「どうせ悠真のことだし」

 

 身なりを整えた知佳が立ち上がる。

 

「そのうちこういう状況にも慣れて、性欲の獣みたくなる」

 

「…………」

 

 正直否定は出来ない。だがそれは俺でなくとも健全な男性ならみんなそうなると思うんだ。

 こういうこと言えば言う程なんだか自分がすごく駄目な奴のような気がしてくるなあ。

 

 しかし知佳の言う通り、この状況に流されることになるだろう自分のことを考えるとあまり悩んでいても仕方のない気もするのだった。

 

 

2.

 

 

「ただまー……」

 

「遅かったわね」

 

 テレビを見ていたスノウがこちらを振り向く。

 すっかりこの世界に順応しているなあ。

 

 ……知佳との関係、言っておくべきだよなあ。

 

「ちょっと大事な話がある」

 

「? なによ」

 

 

 かくかくしかじか。

 事情を説明した後、スノウは呆れたような表情を浮かべた。

 

「なんだ、そんなことなの」

 

「そんなことって……」

 

「知佳があんたのこと好きなのはなんとなく分かってたし」

 

「……そうなの?」

 

「でなけりゃこんな夜に男の家に来る訳ないでしょ」

 

「…………」

 

 ……確かに。

 

「そもそもあんた達の常識じゃハーレムって許されないみたいだけど、別にそれはあたしには関係ないし」

 

「…………」

 

 ……確かに。

 

「むしろあたしのいた世界ではそっちが常識だったわよ」

 

「さいですか」

 

 ということで、知佳の言っていたいずれこの状況にも順応するという話は意外と早く訪れることなのかもしれなかった。



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第11話:交渉の結果

1.

 

 

『郊外にはなってしまうが、君たちの望む居住地を提供しよう。名義は君で良いのかな』

 

 翌日。

 朝の9時頃に柳枝(やなぎ)さんから電話がかかってきた。

 スノウに対応させると喧嘩になりそうなので(理由あっての喧嘩腰だったのは分かっているが、それでも穏便にいきたい)俺が話す。

 

「はい。ありがとうございます」

 

『そして情報提供の件は……また怒らせたくないのでストレートに言ってしまうが、君たちの有用性(・・・)が具体的に示された時に再協議する事になった』

 

「別に怒りませんよ」

 

 思わず苦笑してしまう。

 むしろ妥当な判断だろう。

 どうやら柳枝さんの中のスノウはよほど狂犬なようだ。

 

『それから君を弊社で雇うという話も同じく……だ』

 

「そっちに関しては問題ありませんから、ご迷惑おかけしました」

 

『……? どういうことだ?』

 

「実はこちらで会社を立ち上げることになったんです。主な事業内容は魔石の販売」

 

 少し電話の向こうで考えるような雰囲気があり、しばらくして、

 

『なるほど、考えたな』

 

 と返答が返ってきた。

 

「なのでダンジョン管理局とは懇意にしたいんですよ」

 

『それはこちらとしても願ってもない話だ。件の魔石だが、居住地の提供だけではとても釣り合いが取れない。差額を支払いたいのだが、口座を教えては貰えまいか』

 

 ん……

 確かにどう少なく見積もっても数十億はするサイズの魔石だ。

 広いという条件付きとは言え、家一軒で全て使い切るなんてことはないだろう。

 しかし今から少し難しいというかややこしいことを頼むので、それでチャラということにならないかな。

 

「実はスノウの戸籍を取得して欲しいんです」

 

 再び、電話の向こうで考え込むような気配。

 

『……精霊というのが本当なら、確かに我々に頼むのが妥当だろうな。見ない例ではあるが。いや疑っている訳ではないぞ』

 

「分かってます。荒唐無稽な話でもありますから。……報酬は魔石の差額分ということで如何でしょう」

 

『正直、それでも余るくらいだぞ』

 

「それはご迷惑おかけしたので、こちらからの気持ちということで」

 

『承知した。スノウホワイトくんの戸籍の件はこちらでなんとかしよう。……君たちの立ち上げる会社だが、上層部にこの件は情報共有しても構わないか?』

 

「もちろん。お得意様になって頂ければ幸いです」

 

『……ところで、数キロ西へ離れたところで攻略された小規模なダンジョンが発見された。出口付近が氷漬けになっているのだが、あれが君たちの攻略したものという認識で良いのかな?』

 

「はい、それです。あれがスノウの力ですよ」

 

『途轍もないな……。君たちを敵に回すのは得策ではなさそうだ』

 

 …………。

 ……。

 

 それから少し世間話をした後、電話を切る。

 ……柳枝さんというか、ダンジョン管理局全体なのだろうが、相当スノウを警戒しているようだった。

 

 そういう意味では例の強気な態度も上手くいっているのかもしれない。

 或いは態度など関係なく、魔力を測定するだのしないだのの機械で測定した結果の警戒かもしれないが。

 

 俺も一時は探索者を目指していた関係上、スキル所持者(スキルホルダー)がどの程度の人智を超えた力を持っているかは、公開されている範囲では把握している。

 そしてその把握している知識から鑑みると、スノウの力は明らかに飛び抜けている。

 

 もちろん全てを公開している訳ではないのだろうが、それでもかなり上位の方にはなるのではないだろうか。

 

 

「電話終わった?」

 

 台所で朝食の洗い物をしていたスノウが話しかけてくる。

 

「ああ、住むところは提供してくれるみたいだ」

 

「他の二件は?」

 

「今後次第ってとこだな。俺がダンジョン管理局に入るって話は断りを入れておいたけど」

 

「大体予想通りね。情報の件は普通に突っぱねられると思ってたから、むしろ上々よ」

 

「だな」

 

 一考の余地ありの時点で相当あちらも譲歩していることがわかる。

 それも昨日の今日だからな。

 相当大急ぎで決められたことなのだろう。

 

「そうと決まれば引っ越しの準備しないとな」

 

 とは言っても引越し先にも持っていきたいものはあまりないので(家電くらいだろうか)、ほとんどのものは処分することになりそうだ。

 軽トラでもレンタルすれば下手すりゃ荷物の全てを自分たちで持っていけるくらいではないだろうか。

 

 大抵の家電は一人でも持ち運べるだろうし。

 

「……そういえば、あんたって割といい身体してるけどトレーニングとかしないのね」

 

「してたってのが正しい表現だな。最近はもうめっきりだよ。体脂肪率も増えたんじゃないかな」

 

 一昔前は5%とかだったのだが。

 最近ではもう二桁はあるだろうな。

 

「ダンジョン攻略するなら鍛え直した方がいいと思うわよ。あまり関係ない話でもあるけど」

 

「ま、直接俺が戦う訳じゃないとは言え、動いた方がいいに越したことはないか」

 

「そういう話じゃなくて、あんたはもう魔力が開放されてるからこっちの世界の常識とはかけ離れた身体能力になってるのよ」

 

「……そうなの?」

 

 ダンジョンに行くことで潜在的な魔力が開放される。

 そしてその魔力の量がどうやら多いことまで聞いていたが、それに付随して身体能力が上がるという話は初めて聞いた。

 

 ……が、確かに特殊な装備を身に着けているとは言え、攻略組の身体能力はとんでもないと言われているからなあ。

 本気ならば陸上の世界記録だって塗り替えてしまえるとさえ言われている程に。

 

 ダンジョン管理局に雇われている探索者の上位層なんかは100メートルを三秒で走る事さえ出来るとも噂されているくらいだ。

 

 実際どうかは知らんけど。

 

 ……そういえば、昨日知佳とした時に駅弁スタイルだったが、異様に軽く感じたな。

 そもそも彼女の体重が軽いというのはあるだろうが、それにしたってだ。

 大体元の力の2倍くらいにはなっているのかもしれない。

 それにしては力に目覚めたアメコミのヒーローみたいにドアノブを壊しちゃったりしないけど。

 魔力という特殊なパワーアップなお陰でその辺りは勝手に身体が調整してくれているのだろうか。

 

「今なら林檎だって握りつぶせたりしてな」

 

「勿体ないでしょ」

 

 スノウが呆れた表情を浮かべる。

 突っ込むところそこですか。

 

「実際には林檎どころか卵も冷蔵庫にはもうないんだけどな」

 

 朝はトースト派なので最悪パンさえあればなんとかなるが、昼食や夕食もまたそうなるのかと言われると些か寂しいものがある。

 

「買い物行かないとな。スノウは留守番しててくれ」

 

「あたしも行くわよ。荷物持ちくらいは出来るし」

 

「……着いてくるのは構わないけど、荷物持ちは絵面が最悪だからやめてくれ」

 

「そう? 別にあたしは気にしないわよ」

 

「俺が気にするの!」

 

 超絶美少女、それも白い髪で滅茶苦茶目立つのだ。

 それに冴えない一般人の俺が並んで歩いている上に荷物まで持たせている。

 一体何が起きているのかと無用な注目を集めまくるに決まってる。

 

 荷物を持っていなくても目立つ?

 そんなことは分かっているさ。

 その光景を少し想像して、俺は溜め息をつくのだった。

 

 

 

2.side柳枝

 

 

「はー……」

 

 電話を切った後、柳枝は息を深く吐いた。

 魔石の販売を主力にした会社の設立。

 その話を聞いての反応である。

 

(……やはり多少上の反対を押し切ってでも取り込んでおくべきだったかもしれないな)

 

 

 10年程前、日本にダンジョンが出現した際、とある才能に溢れる人物に着いていくことで柳枝はダンジョンの攻略を成し遂げたパーティの一員となった。

 当時のことは今でも思い出す。

 彼女(・・)を一目見た時に思い知る絶対的な才能の差。

 

 柳枝はそれをあの二人組にも感じていた。

 特にスノウホワイトという少女はもちろんのこと、皆城(みなしろ) 悠真(ゆうま)という青年。

 

 過去に何度もダンジョン管理局の試験を受けに来ている。

 身体能力に問題は無し。判断能力にも問題は無し。

 筆記試験も問題なくパスしていた。

 

 しかし、ダンジョンを攻略する上で最も重要な魔力が皆城悠真には全くない……とされていた。

 事実、昨日訪れてきた際も機械は悠真の魔力を検知しなかった。

 

 死亡率の高い最前線で5年以上活躍してきた、この世界では歴戦と称して良い程熟達した柳枝でさえ、悠真の開放された魔力の全容を掴むことは出来なかった。

 

 総量だけで言えば今まで見てきたどの探索者よりも多い。

 それも、ずば抜けて。

 それを本人は自覚していないという事実が空恐ろしい。

 

(あの量を完璧に制御しているということだからな……)

 

 魔力の開放による力の暴走。

 魔力の扱いが未熟なものほど、力加減が分からずに周囲のものを破壊してしまったりする。

 

(あの量ならば少なく見積もっても10倍以上(・・・・)の力にはなっているはずだ)

 

 完璧な魔力制御と言える。

 本来ならばあの青年はなんとしてでも身内に引き入れるべきだった。

 しかし上層部である老人共のせいでその機を逃した。

 実際は柳枝が知らないだけで、スノウの思惑からすれば元々悠真を引き入れるという未来は有り得なかった訳ではあるのだが。

 

あのお転婆(・・・・・)は何をしているんだか……)

 

 柳枝が思い浮かべる人物はダンジョン管理局の創立者(トップ)

 そして日本で初めてダンジョンを攻略した人物である。

 とある理由により名も姿も明かされていないその存在に憧れてダンジョン管理局を訪れる者も多い中、当の本人は社長である責務をほとんど放棄している。

 

(デスクワークよりもダンジョン攻略が楽しいのは認めるが……)

 

 死の危険がある中であまり軽々にダンジョンに赴いて貰っては困ると柳枝は何度も忠告しているのだが聞く気配がない。

 しかしあんなのでもトップはトップ。

 上層部にいる老人共も創立者の言葉には逆らえまい。

 

(一目見れば間違いなく気に入ると思うのだがな)

 

 そしてその気に入った勢いで無理やり身内として引き込んでくれていただろうというのが柳枝の目論見だ。

 しかしそれももう手遅れだ。

 会社を設立する際にこちらから投資してある程度運営権を握るという手もある。

 しかしそれは断られてしまえば終わりな上に、あまりにも手段として露骨過ぎる。

 強大過ぎる力に会社の乗っ取りを恐れた上層部はそれすらも拒否する可能性がある。

 

(しかしタダであれほどの逸材を手放すのは惜しい)

 

 柳枝は常識人だった。

 故に保守的な上層部の思惑と己の気持ちとである程度折り合いをつけることが出来る。

 考え抜いた結果、とある結論に至った。

 

(ウチから人材を派遣しよう)

 

 会社を設立するとなれば人材が必要になるはずだ。

 もちろんダンジョンを攻略する――つまり魔石を手に入れる為の戦力は既に不要だろう。

 しかし法人運営していく上では専門的な知識を持つ者が必ず必要になる。

 何もスパイをしろと言っている訳ではない。

 ただ露骨過ぎない程度に恩を売る。

 となれば、こちらから派遣するのは若い人材……新入社員の中から選抜した方が良いだろう。

 

(経理の知識、それから会社を運営していく上での障害や避けるべき事柄を学ぶ為の上昇意欲がある者が好ましいだろうな)

 

 早速柳枝は社員たちの情報に目を通し始めるのだった。

 

 苦労人・柳枝の受難は続く。



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第12話:押しかけウーマン

1.

 

 

「広い家とは言ったけど、まさかここまで広いとは思ってなかったわね……」

 

 引っ越し作業が終わり、一息ついたタイミングでスノウがしみじみと呟く。

 結局あの後うちにはダンジョン管理局が手配してくれた引越し業者がやってきてあれこれ荷物を運んでくれたり、更には引っ越しの役所的な手続きまでほとんど済ませてくれている状態となっていた。

 比喩的に表現すれば後は名前を書いて判子を押すだけで引っ越し完了みたいな至れり尽くせりだ。

 

 まだ中をちゃんと見ている中ではないので具体的にどれくらい広いのかは分からないが、数字だけの情報で言えば250坪近くあるらしいのでかなり広いことが分かると思う。

 正直嫌がらせでこんなに広くしたのではないだろうかと疑ってしまう程広い。

 ……というかスノウの脅しが強く効きすぎたのだろうか。

 或いはあの魔石に釣り合うだけのものを用意しようと思ったのだろうか。

 

 家の中はしっかり管理が行き届いているようで綺麗なものだ。

 中庭にはプールまである。

 どんな金持ちだよ。

 広さもそうだけどプールがある時点で物凄い金持ちみたいな印象を受けるな。

 部屋の数もちゃんとは数えていないが、適当に数えただけでも10部屋近くある。

 

「それだけ魔石には価値があるってことだな」

 

「そういえばエネルギー資源としても活用しているって言ってたわね」

 

 いや、厳密には俺達(・・)……もっと細かく言えばスノウにそこまでの価値を感じているのだろう。

 引っ越しのアレコレに関しても、こちらに恩を売っておくという考えかな。

 別にそんな腹の探りあいみたいなことしてくれなくても、ダンジョン管理局をどうこうしようとは考えていないので良き取引相手として居てくれるだけでも相当助かるのだが。

 

 しかも家電等は元々備え付けのものがあった上にそちらの方が元々持っていたものよりも性能が良かったので、結局俺たちはほとんど何も用意しなかった事になる。

 楽で良いけどね。

 あまり恩を売られすぎてもそれを返済出来るかはわかりませんからね、柳枝(やなぎ)さん。

 

 メッセージアプリで位置情報を知佳(ちか)に送っておく。

 ここが事務所という扱いになるからな。

 

「…………」

 

 なにやらスノウが目を輝かせつつそわそわしている。

 見て回りたいんだろうな。

 気持ちはめっちゃ分かる。

 だって超広いんだもん。

 これ大人が本気出してかくれんぼとかしたら多分半日くらいは隠れてられると思う。

 しかし自分から言い出すのは恥ずかしいのだろう。

 仕方ない、助け舟を出してやるか。

 

「中、探検するか?」

 

「そこまで言うなら付き合ってあげるわ! 悠真は子どもっぽいわね!」

 

 とスノウは明らかに嬉しそうに言うのだった。

 別にそこまで言ってないし子どもっぽいのはどっちだ、と突っ込むのは野暮だろうのでやめておいた。

 

 

2.

 

 

「これは……書斎か」

 

「本とか置いておく場所よね?」

 

「だな」

 

 壁に本棚が直接設置されているような感じだ。

 その真ん中に高級そうな木製のデスクがある。

 うーむ、金持ちぃって感じ。

 流石に本棚に本は入っていないが、ここは多分会社としての取引書とかが置かれることになるんだろうな。

 

 既に幾つかの部屋を見て回ったが、本を日焼けから守る為なのか薄暗く、俺好みの雰囲気だ。

 意外と共感してくれる人は多いのだが、俺狭くて暗いところが好きなんだよな。

 なんというか落ち着くというか。

 

「あたし、こういうところ好きなのよね~」

 

 と言いつつとてとてとスノウはデスクの下へ潜り込んでいった。

 そうそう、そういう狭いところ良いんだよな。

 しかし本当、見た目はお姉さんって感じなのに無邪気だな。

 ダンジョン管理局で壮年の男性を恐喝していた彼女と同一人物だとは思えない。

 

 しかしそれは置いといてもスノウとは意外と趣味が合うらしい。

 俺みたいな地味人間しかこういうところは好まないと思っていたが。

 

「あんたも入りたいの? それっ」

 

「え? おわっ」

 

 羨ましそうに見ているのに気づいたのか、突っ立っていた俺の手を引っ張るスノウ。

 不意打ちだったのでそのままスノウの方へ倒れ込んでしまう。

 狭い、とは言っても大きめのデスクだ。

 二人分が入っても尚多少余るスペースはあるが……

 

 この密着感はやばい!

 スノウの吐息が、身体の温もりが。

 肌で感じられる程近くにある。

 あと柔らかい。

 女の子って全身が柔らかいんだよな。

 体脂肪率が多いというよりはそもそも男と肌の質感からして違う感じ。

 

 そしてしばらくするとスノウも今の状況に気づいたのか、ぎゅんっ、と顔を赤くした。

 

「っっ~~~~!!」

 

 おお、なんと素早い赤面なのだろう。

 元の肌が白いので赤というよりはピンクだけど。

 お互い恥ずかしい思いをしたということでそろそろ離しては頂けないでしょうかね。

 ムラムラしてきて襲ってしまいそうになるので。

 

「ちょ、ちょうどいい機会だわ!」

 

 スノウは手を離すどころか更に俺にぐいっと近づいてきた。

 同じシャンプーにコンディショナー、ボディーソープを使っている上に洗剤や柔軟剤も同じものだ。

 なのに何故か異様に良い香りがするような気がする。

 ちなみにどれも柑橘系の香りで統一しているのはただの俺の趣味である。

 

「慣れておくのよ、お互いに!」

 

「慣れるとは」

 

魔力を増やす手段(・・・・・・・・)よ!」

 

 つまりセックスですね。

 迂遠なそれとは言え、ほぼセックスのお誘いに乗らない訳にも行かない。

 スノウの身体を抱きかかえてマウントポジションを取る。

 魔力が開放された事によって力が強くなっているからだろう。こんな狭い空間でもいとも簡単に体勢を変えることが出来てしまった。

 

「……な、なかなか強引じゃない」

 

 急にやる気になった俺に戸惑うような様子を見せるが、まだ自分の優位は崩れていないと思っているのだろう。

 しかし実際は違う。緊張しているのかこわばる肩にそっと触れる。

 

「ここまで据え膳されちゃ我慢出来る訳ないだろ」

 

 スノウの口を貪る。

 

「んっ……んちゅ……んむっ……」

 

 と、自分から舌を絡めてきた。

 どうやら俺だけが興奮している訳ではないらしい。

 下に手をやると、既に湿り気を帯びていた。

 

「もう濡れてるのか」

 

「そ、それはっ」

 

 否定するようなことを言おうと思ったのか、一瞬口ごもり、

 

「円滑に進める為よ。魔力の増強を」

 

「てっきり今までのことを思い出して期待してたんだと思ったけどな」

 

「そんなことな――あんっ、ん、ちょっと、いましゃべってたでしょ」

 

 何か言おうとしたタイミングでまんこを刺激してやる。

 既に濡れそぼっているので前戯は必要なさそうだが、少しは変化が欲しいよな。

 

「え、ちょ、なにすんの――」

 

 スノウの身体を抱えて再び体勢を変える。

 薄暗い上にデスクの下なのでほとんど見えはしないが、無毛な上に先日まで処女だったということもあり綺麗なまんこである。

 これからは無修正モノをわざわざ探し出すまでもなく本物を見られるような生活が続くと考えると、とんでもないところまで来たなと実感が湧く。

 それもどんな女優より容姿スタイル共に優れた存在なのだから、世の男性達がこんな生活を知ったら俺は背中を刺されかねない。

 

「そ、そんなにまじまじみるなぁ……!」

 

 スノウが消え入りそうな声で抗議してくる。

 

「じゃあ見るのは終わりだ」

 

 ぺろ、と太ももまで溢れた愛液を舐め取る。

 

「んへぇ!?」

 

 気持ちよさ、というよりはくすぐったさが勝っているのだろう。

 変な声をあげて身体を震わせるスノウ。

 

「あんたなにして――んひゃ!?」

 

 無視して愛液を舐め取り続ける。

 味は……意外とほとんどしないんだな。

 精霊だからか、そもそも人によるのかまでは分からないが。

 

 しかしなんというか、エロい感じの匂いはする。

 俺の語彙力が乏しくて申し訳ない話ではあるのだが、こう本能をくすぐってくる感じというか。フェロモンとかいうやつが影響しているのか、ただ俺がエロいだけなのかまでは分からない。

 

「ちょ、くすぐった、ん、悠真、あんた、後で、おぼえ、おぼえておきなさ、いよ!」

 

 スノウがそんなことを言いながら俺の頭を引き離そうとするが、魔力開放によりパワー系になった俺には通用しない。

 しかし言っている事は怖いので忘れるまで善がらせよう。

 

 太ももからぺろぺろと舐め取っていくので、当然俺の舌は核心(・・)へと近づいていく訳だ。

 それに気づき始めたスノウが、

 

「ちょっと待ちなさい、まさかあんた、ねえ、それはきたないわよ、やめなさいって!」

 

「スノウに汚いところなんてないさ。というか、精霊はトイレに行かないんだろ?」

 

 これがアイドルにありがちなそういう設定という訳ではなく本当に必要ないらしいのだ。

 そもそも人間とは根本的に身体の仕組みが違うらしい。

 食べたものはそのまま身体に吸収されるようだ。

 だからカフェインを摂取した時もあんなに急速に効果が現れたのだろう。

 

「そ、そそそれはそうだけど常識的に! 常識的によ!!」

 

「お前がそれを語るか」

 

 思わず笑いそうになってしまうが、クンニは俺の夢の一つ(冗談にしても我ながら安い夢だ)だったので止まることはない。

 

 ぺろ、とちょうど周り(・・)を舐める。

 

「んあっ!?」

 

 先程までのくすぐったがっているだけとの反応とは違い、明らかに悦びを含む声。

 しかしまだ快感が完全に勝っている訳ではないのだろう。

 俺はそのまま周りを舐め続ける。

 

「ちょ、っと、悠真、ほん、とに、ゆるさないん、だからぁ……!」

 

 スノウの怒りの言葉を無視して周りを舐め続ける。

 ひたすらに舐め続ける。

 もうこれでもかという程に舐め続けること、恐らく10分ほど。

 

「……ゆう、ま、いいかげん、やめ、んっ、やめなさ、あっ、んぁ、いってえぇ……♡」

 

 言葉ではまだ反抗しているものの、態度と声音は完全に堕ちる寸前まで行っていた。

 まだ直接まんこは舐めずに全部周りを焦らしていただけなのだが、まさかここまでなるとは。

 まだ反抗的に俺を睨もうとしてはいるようだが、既に身体に力は入らないのか、涙目で俺を見つめているだけになっている。

 

「分かった、もうやめるよ」

 

 そう言いながら俺はスノウの体勢を変えた。

 脚を広げ、ちんぽを膣口にあてる。

 

「ゆ、悠真……? うそよね、今挿れたらあたし、おかしくな――る、ぅ♡」

 

 喋っている途中で奥まで挿入する。

 散々ふやかしてやったお陰か、今までとはまた違った膣内の感触にすぐに暴発してしまいそうになる。

 しかしスノウはそれも同じようで、しかしそちらは我慢出来ずに絶頂している。

 ぎゅ、と俺の身体に脚がしがみついてきているのは無意識か分かっていてやっているのか。

 どのみち俺が射精するまで離れることはない。

 

 スノウの膣内(なか)を堪能するのはこれで四度目だが、全く飽きる様子がない。どころかどんどん膣内の動きが熟達していって気持ちよくなってさえいるように感じる。

 

「中、だめっ♡ あついの、おかしくなるの、ゆーま、待って、おねがいっ……♡」

 

 考えてみればカフェインで興奮状態になっていない中では最初の本契約を除けば初めてか。

 それにしてはかなり善がっているが、元々敏感体質なのだろう。

 それともカフェインはあくまでスイッチなだけであって、あれで炙り出されるのが本性なのか。

 

 そのままだとすぐに射精してしまいそうになるので、一旦一番奥でピストンはやめてグリグリと捏ねるように子宮口を刺激する。

 

「あっ、あっ♡ あっ、それ、やば、すき、奥、ぐりぐりされるの、すきなの♡」

 

 言葉では駄目だのヤバイだの言っている割にスノウの脚は俺の腰をどんどん前へ押し出そうとしている。

 なるほど、そちらがそう来るのならこちらにも考えはある。

 奥まで達していると思って加減していた(・・・・・・)が、まだこちらには余っているのだ。

 

 ぐい、とちんぽ全部を無理やり突っ込む。

 

「あ゛っ、い、お、ぐま、でぇ――♡」

 

 膣がぎゅっと強く閉まる。

 流石に刺激が強すぎただろうか。

 しかし意外と奥まで入るものだな。

 今度から開発してみようか。

 

 腰を引いて、しばらくの間スノウが呼吸を整えるのを待つ。

 ふと悪戯心が芽生えた。

 知佳にああして言葉責めまがいのことをされてあそこまで興奮したのだから、女性であるとは言えスノウにもその技術の応用は聞くのではないかと。

 

「にしても、スノウは淫乱だな」

 

「なっ、は、なに、をいって……」

 

 よほど衝撃的だったのか一気に正気らしきものを取り戻す。

 そのタイミングで最奥まで、いや、その更に奥まで突っ込む。

 

「ぅ……か……ひゅ――♡」

 

 浮上しかけた意識がまた一気に底まで沈む。

 普段の見目麗しい姿からは想像も出来ない程に淫れている。

 こんな姿を見られると認識したら、怒り狂うかもしれないな。

 

「おくぅ、まで、ぜんぶ、ゆーまの、おちんちんがぁ……♡」

 

 ……どうやら今の所はそんな心配もなさそうだが。

 そしてスノウの反応を楽しんでいる間にも俺自身の限界が訪れる。

 

「ぐっ……出るぞ……!」

 

「ん――ああああああ゛っ♡ああああああん――♡♡♡」

 

 俺と同時に、スノウの際限まで高まった興奮がそのまま絶頂まで上り詰める。

 今までよりももっと奥に、スノウの身体の中心近くに射精しているような充足感。

 無限に続くかと思われた射精も流石に10秒も経てば収まる。

 

「あ……♡ あっ……ん……♡」

 

 ……スノウは半分意識を失ったような感じになっているが、俺のちんぽがまだ収まりつかない。

 どうしよう、寝てる間に動いたら流石に怒るかなあ。

 

 なんて考えていると、ピン……ポーン、となんだか控えめな印象を受けるチャイムの鳴らし方で来客がやってきた。

 

 ……なんだろう、業者かな。

 何か忘れ物とか。

 それとも知佳か?

 さっき位置情報送ったもんな。

 

 とりあえずスノウの身体を抱きかかえて移動し、リビングのソファに寝かせる。

 まだ元気な息子を無理やりズボンの中に押し留めて、ちょっとこんもりしているような気がするのは前屈みで誤魔化そう。

 

 ちょっと普通より長く待たせてしまっているのでチャイムカメラで応答する前に直で出よう。

 そう思って扉を開けると、業者でも知佳でもない、一人の女性が立っていた。

 

 知佳程ではないが、小柄で可愛らしい女性だ。

 少しくせっ毛なのか、ショートで栗色の髪が内側に跳ねている。

 なんというか小動物っぽい。

 タイトスーツを着てはいるのだが、かなり大きめの……スノウの2回りくらい大きい胸の主張が激しい。

 こんな女性がオフィスにいたら大変だろうな、と思いつつもそんな様子はおくびも出さずに対応する。

 

「……どちら様で?」

 

「あ、あの、皆城(みなしろ) 悠真(ゆうま)さんでしょうかっ!」

 

「はあ……」

 

 何故俺の名前を知っているのだろう、と疑問に思う間もなく、その小動物っぽい女性はぴょこんとお辞儀をしながらとんでもないことを口走った。

 

「ふ、ふつつつかものですが末永くよろしくお願いします!!」

 

 ……えー……?

 結局どちら様なの……?

 

 あと、「つ」が一つ多いからね?



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第13話:有能来る

1.

 

 

 

「お、緒方(おがた) 綾乃(あやの)です。23歳です!」

 

 突如来訪した栗色髪のスーツの女性。

 変なことを口走ってはいたが、俺の名前を知っている以上は何かあることには違いない。

 立ち話もなんなのでということでとりあえずこの豪邸には客室なるものがあるのでそこへ通し、適当なお茶を淹れてきて話を聞くことにした。

 ……のだが。

 

「ダンジョン管理局から派遣されてきました!」

 

「あー……そういうことね」

 

 ダンジョン管理局の社員か。

 となると、この人ちょっと抜けてそうな見た目……というか雰囲気があるけど、相当なエリートだぞ。

 プライベートは駄目駄目だけど仕事は出来るタイプみたいな感じだろうか。

 

 などと失礼極まりないことを考えていることはおくびにも出さず、

 

皆城(みなしろ) 悠真(ゆうま)です」

 

「あっあの、敬語じゃなくていいです社長(・・)! 私のこともどうか綾乃と呼んでください! もしくは社員Cと!」

 

 この人の中での<社長>ってどういうポジションなんだろう。

 しかも社員Cって。

 Aじゃないあたりにそこはかとない卑屈さを感じる。

 

「……じゃあ、綾乃さんで。俺のことを知ってて、<社長>と呼ぶってことは柳枝さんからもう話は聞いてるんだ?」

 

「はい、力になってこいと!」

 

 恩を売るプロジェクトの一環ということか。

 ダンジョン管理局が……柳枝(やなぎ)さんがわざわざ送り込んでくるということは、社員の中でも特に優秀な人なのかな。

 

「何が出来るんだ?」

 

「あ、えと、入社してから1年は経理部門にいたのでその知識と、法学部出身でそちらも多少は……」

 

「ほう」

 

 適格に必要な人材を送り込んできた感じか。

 しかも経理部門にいた法学部出身。

 一度で二度美味しい感じじゃないか。

 ……正直微妙な人だったらこれ以上恩を売られても返しきれないのでということでお帰り願うところだったが、これ程になると普通に手放すのは惜しいな。

 そこまで含めて柳枝さんの戦略か。

 しかし色々と昨日の今日でやってくるあたり、あの人自身も相当優秀かつ苦労人なのだろうな。

 心中お察しします。

 

「良ければ手伝ってもらいたいんだけど……一応聞いておくけど、企業スパイ的な感じではないよね。情報漏えいは困るんだけど」

 

「ままままさか滅相もない! 絶対違うので殺さないでくださいぃ……」

 

「いや殺さないから。そんな野蛮な会社じゃないから」

 

 綾乃は既に涙目でぷるぷる震えていた。

 うーむ小動物。

 少しイジメたくなるくらい弱っちいぞ。

 しかし柳枝さんから何を聞かされて来たのか。

 終始怯えているな。

 怖いのは俺じゃなくてスノウホワイトっていうお姉さんなのに。

 少し緊張を解してもらいたいな。

 そういえばスノウが食べたいからと買ったクッキーがあったな。

 お茶だけ出してお茶請けを出すのを忘れていた。

 

「ちょっとお菓子あるから取ってくる」

 

「えっ!? 良いんです社長、そんなのは社員Dの私に任せてください! ぷわっ」

 

 Cより降格しとるやんけ。

 そう突っ込むより先に綾乃は立ち上がり、先程までぷるぷるしてたせいか足がもつれて転んだ。

 しかもこちら側に。

 避ける訳にはいかないので受け止めようとしたのだが、あろうことか綾乃は踏ん張る為に出した足を俺に引っ掛け、それでいい感じに体勢を崩されてしまい俺ごと巻き込んでの転倒になってしまった。

 

 魔力開放で身体能力の上がった俺を転がすとはやりおるわ。

 

「あいてて……」

 

 綾乃の顔が目の前にある。

 そしてちょうど首のちょい下辺りに暴力的に柔らかいなにかが当たっている。

 いや何かというかもう言っちゃうけどおっぱいが当たっている。

 これもしかしてセクハラになりますかね。

 

「す、すみません社長!」

 

 既に涙目になっている(というかもう半泣きと言っていいくらいだ)綾乃は両手を突っ張って立ち上がろうとするが、それも手を滑らせてしまい再び俺の上へ落ちてくる。

 ふにょん、と我を失いかねない柔らかさも再び俺の上でバウンドする。

 

 あわあわしている綾乃を抱き起こすのは簡単だ。

 しかしそれをしないでこの状況を楽しむのも一興だろう。

 

 とか考えていると客室の扉がバーン! と開かれた。

 そこに立っているのは顔を真っ赤にしたスノウホワイト御前。

 

「悠真! こんなところにいたのね! あんなことしてタダで済むと思って――」

 

 OK。

 状況を整理しよう。

 俺は先程スノウと交わった。

 それでちょっとだけ意地悪をした。

 だからスノウは不機嫌だ。

 そして綾乃が俺の上でおっぱいを押し付けながら転がっている。

 しかも半泣き。

 

 そしてスノウの顔が般若のようになっていく。

 

 おやおや。

 スノウホワイトくん、君は本当にタイミングが悪いね?

 

 

2.

 

 

 状況を理解した俺の華麗なる超速ジャンピング土下座により事なきを得た後、あれやこれやと事情を説明するとようやくスノウは納得してくれた。

 話している間ずっと冷気が漂ってきていたので本当に怖かった。

 本当に。

 

「事情は把握したわ。綾乃、もしこのセクハラ大魔王が何かしてきたらすぐにあたしに言うのよ。股間を凍らせて封印するから」

 

 やめてください。

 綾乃もこくこくと頷くな。

 いやスノウ怖いからしょうがないけどさ。

 あとセクハラ大魔王て。

 誘ってきたのは君からだからね!?

 と言うのは心に秘めておいて。

 

 

「そういえば、スノウホワイトさんの戸籍の件ですが、既に完了したと伝えてくれと言われています」

 

「早いな」

 

 流石はダンジョン管理局。

 家や人材の斡旋と言い、会社の力がずば抜けて高い。

 海外の会社や政府を含めてもトップレベルと言われるだけはある。

 

 そして綾乃が鞄から取り出したのは……パスポートか?

 

「これで身分が証明出来るので、ダンジョンにも入れます」

 

「至れり尽くせりだな」

 

 戸籍が欲しい理由も分かっていたのか。

 しかしこういうのは役所の仕事なはずなのにここまで即座にこなせるのは……やっぱりある程度そっち方面にも介入してるんだろうな。

 噂では聞いていたが、実際にそれが行われているのを見ると会社としての規模にぞっとするものがある。

 

「そういえば派遣されてきたって言っても、どういう感じになるんだ? 給料とか出勤の仕方とか」

 

「給料は管理局から出ます。出勤は拒否さえされなければ基本的にはこちらにと……」

 

「なるほどね」

 

 そうなると派遣というよりはあちらの処理では別部署みたいな扱いになるのだろうか。

 ……そこまでズブズブになるとちょっとやりすぎな感じはあるな。

 

「給料はこっちが出すよ。柳枝さんには俺が話しておく」

 

「えっ、ですが……」

 

「もちろん管理局からも支払われるんだったらそれも受け取ってくれていい。あくまでも俺からの気持ちだと思って」

 

 これくらいの距離感は示しておいた方が良いだろう。

 体裁的にも、体面的にも。

 あと給料を払うという名目があればこっちも仕事を頼むのに遠慮しなくていいし。

 

「それで……あの、私は今から何をすれば良いんでしょうか?」

 

 何を……って言ってもなあ。

 そもそもまだ会社は設立されていないので仕事も何もないのだけれど。

 あ、そこから頼めばいいのか。

 

「会社設立の為の細かい書類の用意とか頼んでいいかな」

 

「は、はい! そういうの得意ですから!」

 

 得意不得意とかあるのか?

 しかしどのみち何も分かっていない俺がやるよりは確実だろう。

 

 と言う訳でまだ設立されてもいない会社に新たな社員が増えたのだった。

 小動物系法務部兼経理担当。

 

 待てよ。

 知佳はネット関係のあれこれを担当してくれるし、スノウは稼ぎ頭だ。

 ……俺は?

 

 己のアイデンティティについて考え始めたタイミングで、ピンポーン、とチャイムが鳴る。

 それと同時にメッセージアプリに新着メッセージが。

 

知佳:来たよ♡

 

 ハート、じゃねえよ。

 しかしタイミング的にもばっちりか。

 顔合わせだけ済ませて貰おう。

 

 

 という訳で我が社の社員4名が全員集まった形となったのだが。

 

「その……知佳さん……あまり見つめられると……その……」

 

 自己紹介が終わった後、知佳が綾乃をロックオンしていた。

 普段と変わらぬ眠たげな目だが、見ようによっては捕食者のそれに見えるのだけど気の所為かな。

 あと綾乃の小動物感がそれを強めている。

 今にも捕食されそうだ。

 

「容姿良し、スタイル良し、庇護欲もそそる」

 

 知佳がぽつりと言う。

 何の分析?

 

「スノウ一人でも十分だと思ってたけど、綾乃も使おう」

 

 完全に何かを思いついた表情の知佳。

 使うとは一体。

 

「最初はスノウ一人でいい。けどどれだけスノウの容姿が優れていても新規を取り込めなくなるタイミングは絶対に来る。そのタイミングで綾乃を投入すれば万事解決」

 

「……なるほど」

 

 つまりPR用の動画のことを言っていたのか。

 美人は3日で慣れるなんて言うが、実際スノウの見た目は3年でも30年でも眺めていられるレベルではあれども純粋に好みのタイプでないとか、目についてもそこまで惹かれないという人もいるにはいるだろう。

 100人中100人が振り向く美女でも、それが1万、10万、100万となっていけばそうではなくなる。

 スノウが刺さらなかった層に綾乃をプロデュースする、ということか。

 

 確かにどちらも美人だが、どちらかと言えばスノウは綺麗系で高嶺の花感がある。

 対して綾乃は可愛い系で身近な可愛さがある。

 タイプは真逆と言ってもいい。

 

 理解していないスノウと綾乃を放っておいて、俺と知佳はがっちり手を組んだ。

 

「完璧な作戦だな」

 

「私に任せて」

 

 自分の預かり知らぬところで動画出演が決まった哀れな綾乃よ。

 アーメン。

 しかしそういうのも含めて一応柳枝さんに連絡はしておいた方が良いだろうな。

 

「とりあえず今日は仕事とかのことは考えなくていいから、女性陣で親交を深めておいて。俺はちょっと電話してくる」

 

「分かったわ」

 

「おっけー」

 

 

 

3.

 

 

 俺は部屋を出てスマホを取り出す。

 早速部屋の中では女子3人で盛り上がっているようだ。

 柳枝さんにコールをかけると、一回目で着信に出てくれた。

 マメな人だなあ。

 

「お疲れ様です、皆城です」

 

『お疲れ様。緒方君は既にそちらにいるかね』

 

「ええ、彼女のような人材を求めていました。ありがとうございます」

 

『それは良かった。彼女の給料はこちらで払う。君たちは気にしなくて良い』

 

「いえ、こちらでお支払いしますよ。流石にそこまでして頂いたら悪いですし。その上でそちらも彼女に給料を出すのは止めませんが」

 

『……そうか。ではそう認識しておこう』

 

「あと、緒方さんをうちのPRに使ってもいいですか?」

 

『PRに? そちらで好きなようにしてくれて構いはしないが……』

 

「そうですか。実は動画を出そうと思ってるんです。スノウを映して、知名度を上げる為に」

 

『なるほど、確かに彼女の容姿は注目を集めるだろうな。それに緒方君も?』

 

「最初の内はスノウだけですが、いずれは」

 

『承知した。問題はない』

 

 懐が深いな。

 それにダンジョン管理局の宣伝にもなると考えているのだろう。

 綾乃も綾乃で企業務めなのが信じられないほど可愛らしいからな。

 アイドルでも十分に食っていけるだろう。

 本人の性格的にあり得ない仮定ではあるが。

 

『ところで、君から連絡があったら話しておきたいことがあったのだが、時間はまだ大丈夫かね』

 

「? ええ、大丈夫ですが」

 

 柳枝さんから話?

 また恩を売られるタイプの話だろうか。

 これ以上は本当に返せないので辞めて欲しいのだが。

 いや本当に。

 

『うちのお転婆……じゃなく、社長が君に会いたいと言っている』

 

「……社長……って、ダンジョン管理局のですか?」

 

『そうだ』

 

 ダンジョン管理局の社長と言えば、日本で一番最初にダンジョンを攻略した豪傑と言われている人じゃないか。

 しかしその詳細は世間には一切公開されておらず、存在のみ誰もが知っているという特異な人物だ。

 そんな人と俺が会う?

 どころか、あちらから会いたいと言っているだって?

 

 当然、そんなの俺だって会いたいに決まっている。

 俺がダンジョン管理局の探索者になりたかった理由の一つでもあるからだ。

 ダンジョンが出現し世間が混迷していた際、颯爽とダンジョンを攻略したが故に英雄とさえ称される程の存在。

 この現代において英雄と呼ばれる人間に憧れない男の子なんている訳がない。

 ちなみに他の理由としてはお給料が良いからというものがあるが、それは割愛しよう。

 

「もちろん、俺も会いたいです。いつになりますか?」

 

『それが今でもダンジョンにちょくちょく赴いているのでいつになるのかは分からん。今回も君の話を伝えるとぜひとも会ってみたいと言った後、またすぐにダンジョンへ行ってしまった』

 

「あらら……」

 

 どうやら相当な現場主義なようだ。

 あれだけの大企業の社長なんて一生何もしないで食っていけるだろうに、仕事熱心だなあ。

 

『なので次帰ってきたらなんとかして引き止めて連絡する』

 

「お待ちしてます」

 

 ダンジョン管理局の社長。

 日本の英雄。

 まさか会える時が来るなんて。

 楽しみにしておこう。



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第14話:緒方綾乃の秘密

1.

 

 

 

「へー……社員なら誰でも無料で使えるのか」

 

「そうなんです。社員用のドリンクバーみたいなものもあって、それもいつでも飲み放題で」

 

「G○○gleみたいだな」

 

 綾乃がうちへ押しかけ女房が如くやってきた翌日。

 会社設立の手続きを役所へしに行こうと言うことで二人で出かけている。

 道中、ダンジョン管理局の内情について色々聞いていたのだがかなり恵まれた環境のようだな。

 

 色々なものが食べ放題飲み放題だそうだ。

 最高の労働環境ではないだろうか。

 

「私はあまり利用したことないんですけどね」

 

「なんで? 勿体ない」

 

「人混みが苦手で……」

 

「ああ、いるよなそういう人」

 

 俺は比較的平気な方だが、例えば知佳なんかは人混みは駄目だな。

 スノウは別の意味で駄目そうだ。

 目立ちすぎて動くことがままならなさそう。

 ということで知佳とスノウにはお留守番してもらっている。

 なにせ今日は、

 

「……時間的にまだ電車はかなり混むと思うけど、大丈夫か?」

 

「だ、大丈夫です。……多分」

 

 ぐっと気合いを入れるように大きな胸の前でガッツポーズのようなものをする綾乃。

 可愛らしいだけで全く勇ましくは見えないし、更に不安は増すばかりだが……本人が大丈夫と言うのならとりあえず大丈夫なのだろう。

 俺が車を持っていればそれを運転していっても良いのだが、残念ながら原チャすら持っていない。

 移動手段はもっぱら徒歩か電車かだ。

 

「社用車買っても良いかもなあ」

 

「社用車、ですか?」

 

「そうそう。今後もどこかへ行ったりすることはあるだろうから移動手段が必要になるだろうし、その度に人混みに行くのもなんだしさ」

 

 少なくとも今のところ社員が4人いるのだから、4人乗りの車を購入すれば良いだろう。

 あまり車に興味はないので適当に選ぶことになってしまうが、とりあえず後で社用車・オススメとかで検索してみようかな。

 

 ま、それもこれも余裕が出てきたらの話だが。

 魔石を売り始めるようになればある程度はお金にも余裕が出てくるだろう。

 というか早めに稼がないと給料も払えないし。

 

 そんなことを考えつつ歩いていると、遠目に駅が見えてきたが、毎回思う。

 なんで東京はこんなに人が多いのだろうと。

 人混みが特別苦手でもない俺でも、少し躊躇してしまう程度には多いからなあ……

 

 

 

2.

 

 

 

 電車へ乗り込むと案の定、同時に人が雪崩込んできて一気に満員になった。

 

「おっ、おっ、っと、っと」

 

「あっ」

 

 人の流れに押されて壁際まで追いやられる。

 綾乃と離れそうだったので反射的に手を握ってしまった。

 柔らかく小さな手。

 ザ・女の子という感じである。

 というかこれセクハラで訴えられたりしたらヤバイかな俺。

 

「やっぱり凄い人混みだな……」

 

 人混みが苦手だと言っていた綾乃が壁側で、俺が両手を壁についてなるべく人と触れ合わないようにする。

 図らずも壁ドンみたいな格好になってしまった。

 いや、あれって両手でやるものではないんだっけ。

 そもそも語源というか元ネタは全然ロマンチックなものじゃなかった気もする。

 

「あ、あの、ありがとうございます。社長」

 

 綾乃が斜め下からこちらを見上げながらお礼を言ってくる。

 ……さりげない(つもりでやってる)好意に素直に礼を言われると思ったより恥ずかしいもんだな。

 なので誤魔化すことにした。

 

「何のことだかさっぱりだな……それより社長ってやめないか? あと敬語も。なんかこそばゆいし」

 

「それじゃあ……皆城さん?」

 

「悠真でいいよ。俺の方が年下だし」

 

「じゃあ、悠真くんで。敬語は……もう少し慣れたらなくなる、と、思います」

 

「ま、無理はしないでいいよ」

 

 と。

 電車が動き出す拍子に、後ろにいる人たちがこちらへ体重をかけてきた。

 正直堪らえようと思えば堪えられた気もするが、後ろの人たちに少し気を使って俺も前へ進む……のだが。

 

 ふにょん、というかふよん、というかふよえんというか。

 物凄い柔らかさが、昨日も事故で感じてしまったとんでもない暴力的な柔らかさを再び感じることになる。

 

 ……しまった、綾乃の胸の大きさ(・・・・・)を考えてなかった……!

 

 見た目こそ小動物のようだが、その胸はグラビアアイドル顔負けのサイズだ。

 タイトスーツに身を包んでいてもなお一目でかなりのものだと分かる程の重量感。

 綾乃と俺自身の距離は満員電車の中では問題ない程度に離れているつもりではいたのだが、それでも俺の胸に綾乃の胸が当たっている。

 

 これ絶対気づいてるよな。

 綾乃こっち見てるし。

 あわあわしてるし。

 

「その、わざとじゃない。断じて。絶対に。信じて欲しい」

 

「は、はいいぃぃ」

 

 今からでも後ろを押し返そうかと思って少し力を込めると、後ろから思ったよりも反発があった。

 満員電車ってそういうもんだよな……

 仕方ない、この状況を甘んじて受け入れよう。

 断じて!

 胸の柔らかさを堪能したいという訳ではない!

 

 いやほんとに。

 マジで申し訳ないと思うんだけど、これ以上離れようとすると後ろでけが人が出かねない。

 電車から降りたら土下座をすべきかどうか悩んでいると……

 

 綾乃の様子が少しおかしいことに気づいた。

 

 苦しそうというか……

 なんか顔が赤くなっている?

 恥ずかしいからかと思ったが、息も荒い。

 もしかして本当に苦しいのだろうかと思って、流石にまずいと後ろの人たちに心の中で謝りつつ力を込めようとするとむしろ綾乃から俺の方にもたれかかってきた。

 

 ふよん、の感触を更に広く感じることになる。

 

 ……why?

 何が起きてるんだ?

 いや正直さっきまではテンパってた方が俺の中で大きいから利かん坊な利かん棒も静かにしていたのだが、なんというか今の綾乃がなんとなく色っぽく見えるせいでそろそろヤバイかもしれない。

 

 流石に電車の中でそれはまずい。

 捕まる。

 俺の人生が終わる。

 綾乃がちらりと俺を見上げると、その瞳は明らかに蕩けているようで、正直発情しているようにしか見えなくて――

 

 俺は口の中を噛んでいた。

 絶対口内炎になる。

 ここ最近、ちんこの赴くままに欲望を果たしてきたような気がするが流石に精霊でもない、ほぼ初対面の女性に興奮するのはまずい。

 頼む俺の良心よ。

 最後の力を俺にくれ。

 

 やがて、間もなく目標の駅に到着するというアナウンスが流れた。

 

 た、助かった。

 素数を1663まで数えていた甲斐があった。

 少し余裕の出来た俺が視線を下に向けると、不意にあるものが目に入った。

 

 スマホを持った手が、不自然に下の方に伸びていて――綾乃のスカートの中を。

 

 咄嗟にその手を掴む。

 すぐに逃げようとするのを力ずくで抑える。

 

 

「……っ!」

 

 腕の伸びる方向を見ると、眼鏡をかけた、大人しそうな細いおっさんが必死な表情で逃げようとしている。

 そいつを睨みつけ、

 

「おっさん、次の駅で降りような」

 

 こちとらパワー二倍である。

 痣にならない程度の力で確保することなんて容易いのさ。

 

 

 

 

「ったく……」

 

 やはり先程のおっさんは痴漢……綾乃のスカートの中を盗撮していたようだ。

 女性の駅員さんがスマホのデータを確認したところ常習犯だったようなので本当に救いようのない奴である。

 しばらく事情聴取を受け、ようやく開放される頃には二時間程が経っていた。

 

「すみません、トラブルに巻き込んでしまって……」

 

 綾乃がしょんぼりして謝る。

 あまりにも小動物っぽいその姿に、思わず頭を撫でてしまった。

 

「気にすんなって。あんなんあのおっさんが悪いに決まってる」

 

 むしろ気づけて良かったくらいだ。

 

「あ……その……」

 

「あ、悪い。なんかこう、つい」

 

 綾乃が俺の腕を見て何か言いたげだったのですぐに頭から手を離す。

 小動物ぽいからと言って頭を撫でるのは良くないよな。

 

「あいえ、その、嫌とかではなく……なんでもないです」

 

「?」

 

 さっきからずっと顔が赤いんだよな、綾乃。

 

「もしかして体調悪かったりする?」

 

「いえ、むしろ良いくらいと言うか! 平気です! 本当に!」

 

「あ、そう……」

 

 そこまで言うのなら本当に平気なのだろうけど。

 人混みが苦手と言っていたし、それで少し体温が上がっていたのかもしれない。

 帰りはちょっと距離あるけどタクシーにするか。

 そろそろダンジョン行って稼がないといけないな。

 明日か明後日あたり行けないかスノウに相談しよう。

 

「あ、あの、ちょっとお手洗い行ってきてもいいでしょうかっ!」

 

「いいよ、待ってるから」

 

 尿意を我慢してたのか。

 

 

 

3.side綾乃

 

 

 トイレの個室に駆け込み、綾乃は胸を抑えて大きく息を吐いた。

 

「あ~ドキドキしたぁ~~~~!!」

 

 手を握って力強く引っ張っていってくれた腕。

 自分を守る為に身体を張ってくれた胸板。

 頭を撫でられた時の大きな手。

 

(思い出すだけでキュンキュンする……!)

 

 何を隠そう彼女は筋肉フェチだった。

 力強い男性というものに惹かれる質なのである。

 その点、悠真は綾乃にとってほとんどパーフェクトと言っていい存在だった。

 

 筋肉フェチとは言ってもボディービルダーのようなそれが好きなのではない。

 あくまでも日常でささやかな主張をしてくる男性の筋肉に、有り体に言ってエロさを感じる性癖なのだ。

 元々探索者になりたくて身体を鍛えていた上に、力強さという点では悠真の上を行く人類はほとんどいない。それは筋肉とは関係ない部分の話だが。

 

 さりげなくしてくれる心遣いや、痴漢を捕まえた時のキリッとした顔。 

 筋肉フィルターがかかっているせいで色々と美化されている部分もあるが、現状でかなり綾乃は悠真にキていた。

 

 元々男性との会話経験自体が乏しいと言うのもあり、免疫が低い。

 それでなくとも悠真の身体は好みのタイプだ。

 顔も既に彼女の中では美化されているので俳優ばりのイケメンと認識している。

 つまり恋愛経験がゼロの綾乃は道中の様々なものでドキドキとしていたのをほとんど恋と勘違いしているのだ。

 

(それに他の人と違ってやらしい目で見てきたりもしないし……!)

 

 これは勘違いなのだが。

 悠真は既にスノウや知佳との経験を経て、そんじょそこらの刺激程度ならば我慢出来るだけの忍耐力を得ていただけ。

 もしまだ童貞ならギンギンに勃起していただろう。

 しかしそこを耐えきったというのも綾乃にとってはポイントが高かった。

 彼の口内炎との引き換えの好感度の高さである。

 

「んっ……」

 

 悠真のことを思い出して綾乃の指が自然と股間へ向かう。

 周りに人がいたからという理由で自制していた精神は個室へ逃げ込んだことでほとんどタガが外れていた。

 既に濡れ始めていたショーツを脱いで、少しずつ刺激していく。

 

 もし自分の手が、悠真の大きな手だったら。

 身体を強く抱きしめられての愛撫だったら。

 そんな妄想だけで愛液が際限なく垂れてきてしまう。

 

(一回イったらすぐ戻りますから……!)

 

 何も知らないでトイレの外で待っているであろう悠真のことを考えるととんでもない背徳感が彼女を襲う。

 電車の中でもうっかり我慢出来ないで彼にもたれかかってしまった。

 

「あっ……んっ……」

 

 くちゅ、くちゅ、と水音が個室の中で響く。

 外に人がいたら気づいてしまうだろうか。

 一応入ってきた時に全ての個室が空いていることは確認したつもりでも、もしかしたら見落としているかもしれない。

 

 そんなことを考える度にどんどん綾乃の興奮は高まっていく。

 指が触れる程度の強さで陰核を撫で続けていると、絶頂の波が少しずつ狭まってくる。

 

「あ、ん、ふ、はぁ……んっ……♡ んっ……!」

 

 もうすぐ絶頂する――というタイミングで。

 

 

 

「……でさー、この間のデートなんだけどあいつ連絡もなしで遅刻しやがんのー」

「まじ? 最低すぎない?」

「でもちんこはでかいからさー。とりあえず様子見?」

「うっわ下品。最悪ー」

 

 若い女性、二人組だろう。

 トイレへ談笑しながら入ってきた。

 声の聞こえる位置的に、手を洗いに来ただけだろう。

 しかし絶頂寸前でお預けを食らう形になった

 

(早くどこか行ってぇ……!)

 

 しかし綾乃の祈りは実らず、たっぷり5分ほども会話していってから彼女たちはトイレから出ていった。

 流石に今からまた絶頂の波を大きくして、とやっていたら悠真を心配させてしまう。

 

 そう考えた綾乃は火照る身体をどうにかなだめながら、個室から出たのだった。



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第15話:むき出しの本性

1.

 

 

 

「ただまー」

 

 無事に会社設立の為のアレコレが終わり、家に戻ってきた。

 というか俺の調べていたのよりだいぶ早く終わったのは恐らくダンジョン管理局の根回しがあったんだろうなぁ……と思う今日このごろ。

 柳枝(やなぎ)さんがお節介焼きなだけなのかもしれないとさえ思ってきた。

 いや、あの人が主導でやってるのかどうかは知らないけどさ。

 

 ちなみに結局帰りはタクシーだったのだが、何故か終始綾乃からチラチラと視線を感じていた。

 気の所為なのだろうか。

 

 リビングの方へ行くと、何やら知佳がノートパソコンで作業していて、その向かいでスノウが机に突っ伏していた。

 どういう状況なのこれ。

 一体何が起きてるの。

 

「悠真に綾乃、おかえり。ちょうど終わった(・・・・)ところ」

 

 知佳がノートパソコンから目線を離して俺たちの方を向く。

 と、不意に綾乃の方をじぃっと知佳が見つめ始める。

 

「な、なんでしょう……?」

 

 気持ち俺の体の後ろに隠れるように移動した綾乃を見て、知佳の目がきゅぴーん、と光った。ような気がした。

 

「何かあった」

 

「ななな何もないです!」

 

 知佳の断定するような言い方に綾乃が慌てて返す。

 何かあったかと言えばあったはあったが(痴漢騒動のことだ)、それに知佳が気づくことなんてあるだろうか。

 そうだとしたらちょっと勘が鋭すぎないか?

 

「そっちこそ何かったみたいだけど、なんでスノウはへばってるんだ?」

 

「動画撮った」

 

「おお」

 

 それでスノウが突っ伏してるのは恥ずかしくてか。

 道理でちらっと見えてる耳が赤くなってる訳だ。

 ……しかし恥ずかしいって、何をやらせたんだか。

 

「完成してるけど見る?」

 

「ちょ、ちょっと待ちなさい! 百歩譲って綾乃は良いとしても悠真は駄目!」

 

 ビシィッ! と俺を指差してスノウが喚く。

 

「なんでだよ、俺社長だぞ社長」

 

「嫌なものは嫌なのよ!」

 

「スノウ、どのみち公開されれば悠真も見ることになる」

 

「うっ……やっぱりあれ(・・)はやめない? ほら、別にあれ(・・)無しでもいいと思うのよ」

 

 あれ(・・)

 なんだろう、かなり気になるワードである。

 恥ずかしがるような何か……

 はっ! ストリップか! ストリップだな!?

 

「割とノリノリだったのに」

 

「あれは知佳がノせるからでしょー!?」

 

「知佳、BANされるようなのは駄目だ」

 

 俺も知佳を諌める。

 流石にストリップは一発アウトだろう。

 悪名高い企業として名が知れ渡ってしまう。

 

「……? 別にBANとかはされないと思う。悠真はやらしい妄想のし過ぎ」

 

「えっ」

 

 じゃあ他に恥ずかしがるようなことってなんだ。

 知佳がこちらにノートパソコンを向けてきて、ビューワーを起動する。

 

 そこにぱっとスノウが映った。

 

「うーうーうー!」

 

 もはや幼児退行しながら恥ずかしがるスノウを余所に、俺と綾乃、知佳が画面を見つめる。

 

 

 カメラを回した場所はリビングだろう。

 白い壁を背景に、スノウが緊張した面持ちで映っている。

 

『みんな、こんにちは。あたしはスノウホワイト。こう見えてもダンジョンを攻略した実績を持つ探索者よ』

 

 すぐそこにいる人が画面の中にいるのはやや不思議な感覚だが、動画至って普通な感じで始まった。

 敬語を使っていないのは素のスノウを出した方が受けが良いという判断だろう。

 そこから簡単な自己紹介を経て、魔石の実物を見せたり能力を見せたり(・・・・・・・)――って。

 

「これ大丈夫なのか?」

 

「平気。むしろスキル所持者(スキルホルダー)でもないのにダンジョン攻略したなんて言う方がよっぽど嘘っぽい」

 

「まあ、それもそうか」

 

 むしろこういうのを見せた方が話題性はあるだろう。

 そしてスノウが最後に『今回の動画はここまでよ。それじゃあね』と言って終わり……かと思ったが。

 

 画面にパッと『株式会社妖精迷宮事務所へようこそ』というロゴが出てきた。

 

 株式会社妖精迷宮事務所というのは、今朝知佳が考えてきた社名のことだ。

 スノウは精霊だろうとツッコミを入れると、知佳いわく精霊(スピリット)と言うより妖精(フェアリー)と言った方が通りが良いとのことだった。

 

 それはともかく……

 

「こ、これは……」

 

 軽快でポップなメロディと共にスノウが踊っている。

 さながらアニメのEDで踊らされているヒロインのように。

 その踊り自体は10秒くらいの短いもので振り付けも簡単なものだったが……

 滅茶苦茶笑顔で踊ってたぞ。

 あのスノウが。

 どんな魔法を使ったんだ。

 

「ふっ、おだてれば楽勝。意外とチョロい」

 

 知佳がドヤ顔していた。

 

「だからそれは無しでいいでしょ!」

 

 スノウがバシーンと机を叩く。

 どうやら相当恥ずかしいようだ。

 しかし――

 

「駄目」

 

「これは絶対必要だ」

 

 俺も力強く頷く。

 そして知佳とガシッと握手をした。

 

「素晴らしい出来だった。ボーナスは弾もう」

 

「それ程でもある」

 

 しかし、そもそも普通に編集技術が高いな。

 字幕の出し方と言い、カットのタイミングやBGMのセレクトも雰囲気にあっている。

 知佳(こいつ)、本当に多芸だな。

 

「パソコンで出来ることなら大抵何でも出来るんじゃないか……?」

 

 俺の呟きに、知佳はビシッと親指を立てる。

 

「なんでもお任せあれ」

 

 

2.

 

 

 

「まったく……」

 

 よっこいしょっと知佳をベッドに寝かせる。

 すぐにごろんと寝転がって隣で先に寝かせてあったスノウに抱きつき、スノウは寝苦しそうな表情を浮かべているがまあそっちはそっちでなんとかしてくれ。

 

 何がどうなっているかと言うと、あの後会社設立祝いと称してちょっとした飲み会が開催されたのだ。

 各自一度家に帰り、その日のうちにやっておかないといけないようなことは済ませた後なので何の気兼ねもなく飲めた……のは良いのだが。

 食事を取らなくても良く、排泄もしない上に栄養すら必要ないと言っていたスノウだがどうやらアルコールにはカフェインとは別の意味で弱いらしく、一番最初に酔いつぶれた。

 

 そして一人度数の高いアルコールを黙々と飲んでいた知佳もその一時間程後にダウン。

 結局生き残ったのは俺と……

 

「綾乃、寝るならベッドで寝てくれよ」

 

 ふわふわとした様子で黙々とカシューナッツを摘んでいる綾乃に言う。

 この家にはベッドが3つある。

 一つは俺のもの、もう一つはスノウの。

 残りの一つは来客用だ。

 

 知佳は小柄なのでスノウのベッドに放り込んでおいたが、綾乃はそうは行かないので来客用のものを使って貰おうと思ったのだが……

 

「いえいえ~まだ飲めますよ~」

 

 と、本人はどうやら行けるつもりらしい。

 飲んでいるのも3%くらいの薄いものなのでただちにどうこうなるという訳ではなさそうだが、流石に飲みの席で女性と二人きりってちょっと気まずいものがある。

 

 なんせついこの間まで童貞だったのだ。

 俺は先に寝させて貰おうかなあと迷っていると、

 

「ゆーまくん、寝ようとしてますね! だめですよ!」

 

 ぺしぺしと机を叩いて、その後にソファもぺしぺしと叩く。

 要するに自分の隣に来いということだろう。

 絡み酒かあ。

 新しいチューハイの缶を空けて、少し離れた所に座る。

 

 と、ススス、と綾乃の方から寄ってきた。

 しかもぴったりとくっついてくる。

 ふにょん、と腕に柔らかいものが当たっている。

 

 ふー……

 

 落ち着け俺よ。

 曲りなりにもセックスをする理由がある精霊のスノウや、元々知り合いでなし崩し的に行為に至った知佳とは違うんだ。

 相手は社会人。

 それも昨日今日会ったばかりのほぼ初対面。

 幾らアルコールに酔っているからと言って手を出してはいけない。

 鋼の自制心を保つのだ。

 

「ゆーまくんって、ジムとか行ってたんですかあ?」

 

「いや。行ってない」

 

 ぺたぺたと俺の腕を触りながら聞いてくる綾乃。

 勤めて冷静に返そうと努力はしているのだが、果たしてこの努力、本当にする必要があるのだろうか。

 もはやここまで来たら誘ってないか? めっちゃおっぱい当たってるんですけど。

 これ無意識なのか? 女性はおっぱいに神経が通ってないのか?

 絶対気づいてるよな? わざとだよな?

 

「でもすごい……たぁくさん努力したんですよね……?」

 

「ま、まあね」

 

 ずい、と俺の表情を確かめるように顔を近づけてくる。

 大きな垂れ目だ。

 少し潤んでいるように見える髪と同じような薄い色素の瞳に、俺の困惑している顔が映っている。

 

「二人きり……ですよね」

 

 そう言って綾乃は目を閉じて、唇を突き出し――

 

 こりゃ駄目だ。

 我は男なり。

 ここまでされて引いては男が廃るというもの。

 我慢などと無粋な真似は出来ぬ。

 

 ぐい、と綾乃の腰に手を回して、唇を合わせる。

 

「んっ……」

 

 触れた瞬間、微かに声が漏れるが拒否する感じはない。

 どころか、綾乃側からこちらに身体を寄せてくるくらいだ。

 

 まだお互い深く知っている仲という訳ではない。

 そしてこれからも一緒にやっていく仲間だ。

 そういう事を考えてしまうと、今までとはまた種類の違った興奮が押し寄せてくる。

 

 触れるようなキスからお互いの顔が離れ、先程よりも泣きそうな表情になっている綾乃が甘えるように呟く。

 

「もっと……つよくして」

 

「強く……か」

 

 身体のあちこちが柔らかくてあまり強く触れるとそのまま崩れてしまいそうに感じる。

 しかしこんなことをこんな風に言われて自制が効くはずもなく、更に強く抱きしめて、キスもより強く互いの口を押し付けあうものになる。

 

「あっ、ん……ふっ……」

 

 互いの口の中から酸素を奪い合おうとしているような熱烈な接吻。

 まるで海外ドラマのワンシーンのような情熱的なそれに俺も段々と陶酔しかけていると――

 

「んっ……んんんんん!!」

 

 と、綾乃が身体を震わせた。

 

 ……まさか絶頂したのか?

 改めて綾乃の顔を見ると、明らかに脱力している、ストレートに言えば絶頂した直後のような風体だ。

 多少強くしたキスだけで?

 まだ愛撫も何もしていないのに。

 

「もっと……ください……ゆーまくん……♡」

 

 綾乃はうっとりとした表情を浮かべながら俺の手を自分の胸に誘導する。

 今までは自分の胸板で感じていた暴力的なまでの柔らかさを、掌で感じることになる。

 ……ってまてこれ、もしかしてブラしてないんじゃないか?

 シャツ越しとは言え、明らかに感じるべき矯正器具の感触を感じない。

 というか体温をほとんどそのまま感じるような気さえする。

 

「知佳ちゃんを運んでる時に外しちゃいました……私、悪い子でしょう?」

 

 先程までただ甘いだけだった綾乃の声が、どこか蠱惑的なものへと変化している。

 

「だから強くしてください……オシオキしてください……ゆーまくんの手で」

 

 ぎゅう、と流石に強すぎるのではないかという力で俺の手を胸に押し付ける。

 ……段々分かってきたぞ。

 要するに綾乃はマゾなんだ。

 そうとなればこちらとしても遠慮する必要はない。

 

 掌に力を込める。

 普通よりも力が強くなっているとは言え、日常生活で必要な分だけの力を使うのは簡単だ。

 というかそうでないとそれこそ日常生活なんて送れなくなってしまうのだが、今この瞬間ほどその不思議な特性を有り難く思った瞬間はないな。

 

「あっ……♡ オシオキされちゃう……ゆーまくんに……♡」

 

 嬉しそうに目を細める綾乃。

 どうやらまだ余裕があるようだ。

 両手を使って胸を捏ねくり回す。

 少し強めということを意識しながら、恐らく普通では快楽よりも痛みが勝る程度の力加減で。

 

「んっ……あっ……あんっ……」

 

 段々と綾乃の呼吸が荒くなってきた。

 本当にこれくらいで感じるらしい。

 普段ではあり得ないような状況に俺自身の興奮も、官能的な意味とは別で高まっていく。

 

 シャツのボタンを外そうとし――面倒くさくなってぶちっと千切ってしまう。

 

「あっ……!」

 

 一瞬驚いたような表情を見せた綾乃だったが、すぐにその瞳には期待の色が染まりあがった。

 大きな双丘の頂点でほんのりと主張する桜色の乳首をぎゅっと抓る。

 

「んっ……ん」

 

 マゾ気味とは言え流石に痛みは感じるだろうということで弱めに抓ったのだが、明らかに綾乃は少し不満げだった。

 なるほど、これでは足りないと言うか。

 

 ぎり、と強めにねじるようにしてやる。

 

「んあっ……♡ はっ……あ……♡」

 

 明らかに感じているように見える。

 どうやら普通の人に感じる程度の抵抗はなくていいみたいだ。

 むしろ邪魔だと考えるくらいで丁度良いのかもしれない。

 

「あっ、つ、ん、ゆー、ま、くん……!」

 

 先程の蠱惑的な態度はどこへやら、今ではすっかり快楽を享受しているだけの女性……というよりは小娘だ。

 

「いっ……く、ぅぅぅぅ……!」

 

 綾乃が身体を震わせる。

 マゾでもありそして快楽にも弱い体質らしい。

 それに胸も大きいし、全体的に女性らしい体格をしている綾乃。

 どこまでも男を狂わせるような存在だ。

 

「股を開け」

 

 耳元で命令する。

 それだけでぞくっと身体を震わせる綾乃。

 

「はいぃ……♡」

 

 そして従順に命令に従う。

 タイトスカートの奥、むっちりとした白い太ももの間に既に濡れている純白のショーツが目に入る。

 しかし見た目の小動物っぽさに反して、お洒落な刺繍が入っていて生地は普通よりも薄く見える。

 幾つも見比べている訳ではないのではっきりとしたことは分からないのだが、これは勝負パンツというものに分類されるのではないだろうか。

 

 知佳を運んでいる間にブラを外しておいたりと、やっぱり最初からそのつもりだったのだろうか。

 だとしたら度数の弱いお酒をちびちびと飲んでいたのも作戦のうちか……?

  

 ちらりとそんな考えが脳裏をよぎったが、しかし既に性欲に支配された脳みそはそんな細かいことは考えられず、目の前に光景に全てのリソースを割いてしまう。

 

「もうこんなに濡らしているのか」

 

「ごめんなさい……♡ たくさん期待しちゃう淫乱な私にオシオキしてください……♡」

 

 何も命令していないのに自らマゾ発言。

 徹底しているな。

 

「オシオキと言ってもな。何をどうして欲しいんだ?」

 

「そ、それは……」

 

 とは言え、最後の理性が働いているのか。

 流石に直接的な表現は避けたいみたいだ。

 

 だがここまで来てそんなことが許されると思っているのか?

 右手で胸を強めに鷲掴みにする。

 

「あんっ……♡」

 

「何を、どうして欲しい。言え」

 

「……おま……こに、……を……」

 

「聞こえないぞ」

 

「おまんこに、おちんちんを挿れてくだひゃいいぃ!」

 

 綾乃の両手をソファに押さえつける。

 目をぎゅっと瞑って衝撃に耐えようとするのを見計らって、一気に挿入した。

 

「あっ、あああああああ!! いっ、んんんあああああ!!」

 

 狭い膣内を無理やりかき分け進んでいく感触。

 知佳の時にも感じた、膜を突き破るそれも感じた。

 血……は少量だが流れているようだ。

 綾乃自身はと言えば、

 

「あっ……♡ ん……はっ……♡」

 

 挿入の瞬間のとんでもない嬌声に加え、息も絶え絶えと言ったような様子だ。

 マゾとは言え流石に無理しすぎただろうか。

 かと思うと、焦点がすぐに俺の顔に合う。

 

「うごいて、ください。ゆーまくん、膣内(なか)で、おねがいぃ……♡」

 

 ……どうやら破瓜の痛みでさえ快楽に変換されているらしい。

 知佳の様子からしても結構痛いものなのだと思っていたが、綾乃に対する認識を改めなければいけないかもしれない。

 若干のマゾどころか、真性のマゾだ。

 

「いいぞ、分かった。そういうことなら手加減は無しだ……!」

 

 ズン、と力強く腰を動かす。

 どうやら力強いのがお好みなようなので、細かく早いピストンというよりは重く強いそれを意識しながらやる。

 

「あっ……かっ……はっ……♡ ん、ぐ……♡」

 

 まるで可愛くない嬌声を一発一発ごとに上げる綾乃。

 どうやらその一発ごとに軽く絶頂が続いているようで、身体が細かく痙攣している。

 恥も外聞もないようだが、後で我に返った後が大変そうだな。

 

 しかし綾乃自身はマゾだが、その膣内はどうやらそういう訳でもないようだった。

 ちんぽ全体をやわやわと包み込むようでいて、ゆるい訳ではない。

 抜こうとすればぎゅっと膣内が収縮して逃すまいと咥えこんでくるし、逆に突き入れる時は拒むような動きになって全体を刺激してくる。

 男を悦ばせることに特化しているとさえ言っても過言でない。

 

 むしろ今まで通りの早いピストンを繰り返していたらすぐに絶頂してしまっていただろう。

 

 両手を押さえつけているので大きな胸が暴れ放題だ。

 スノウはスタイルは良いが巨乳という訳ではないし、知佳は言わずもがな。

 ぷるぷると揺れる視覚的な楽しさはあったが、このダイナミックに揺れる母性の塊を見ては大は小を兼ねるという言葉にも納得だ。

 かと言って俺は小さな胸も好きなのだが。

 

「ゆーま、くん、もっと、つよく、つよく、して、おねがいっ――♡」

 

 泣きそうな声で綾乃は懇願してくる。

 今でも十分乱暴な部類なのだと思うのだが、これでも足りないらしい。

 

 ならばと確実に逃げられないように両手の拘束を強くして、更にピストンを強く重くする。

 普通に挿れるのでは俺のものは全ては入らないのだが、このピストンでは一回一回、最奥の柔らかい部分を押しつぶすようにしている。

 

「あ゛っ♡ え゛っ♡ お゛っ♡ あ゛、お゛、お゛、お゛っ♡」

 

 声を出そうとして出しているのではなく、勢いに押されて肺から空気が押し出され、それが声帯を通っているだけだというような無様な嬌声をあげる綾乃。

 しかもやはり一発一発絶頂しているようで、体力的には限界が近いのではないだろうか。

 

 かく言う俺も普段と違うピストンだとは言え流石に限界が近い。

 最後の理性が外に出せと言うので動きを少し緩めた瞬間に――

 

 ガタッ、とスノウ達が寝ている寝室の方から音がした。

 後から思えば壁か何かに手が当たった音だったのだろうが、まさか起きてきたのかと思ってしまったこの時の俺はあろうことか綾乃の口を両手で抑えて、しかもそのまま膣内射精(なかだし)してしまった。

 

「んっ――んんんんん――♡」

 

 奥へびたびたと精液が当たっているのが自覚出来る。

 支配的な欲求を満たされたからか、自分でも驚く程気持ちの良い射精だった。

 しばらく余韻に浸っていると、綾乃の口を抑えていた事に気づく。

 

「あっ、悪い」

 

 口から手を離すと、余所には見せられないようなアヘ顔を晒す綾乃がそこにはいた。

 汗だくになって、呼吸も荒く、未だ繋がっている接合部からは一筋の血と大量の白濁液が隙間から溢れ出ている。

 

 エロ漫画くらいでしか見たことのないような光景にちんぽが再び硬くなってくるのを感じる。

 

 綾乃の腕を取って、引っ張りあげる。

 

「あっ……♡ ゆーま、くん……」

 

 俺をうっとりとした顔で見てくる綾乃に、にっこりと笑いかけて――

 裏返した(・・・・)

 挿入したままなのでそれだけでも膣内へ刺激が行ったのか、それともその乱暴な動作に感じたのかは分からないが綾乃がびくんと身体を震わせる。

 

 つまりうつ伏せの状態だ。

 乱れたタイトスカートの裾から丸い尻の下半分が見えている。

 それを全て露出させ、ペチン、と叩いた。

 

「あっ、ん♡」

 

 第二ラウンドスタートだ。



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第16話:株式会社妖精迷宮事務所へようこそ

1.

 

 

 息も絶えだえな綾乃の身体をうつ伏せにソファに押し付け。

 俺は再び抽送を開始する。

 

「ん、あ゛っ……♡」

 

 まだ疲れが抜けていない身体に更に与えられる快楽に、綾乃が控えめな喘ぎをあげる。

 一目見た時は小動物っぽく可愛らしいと思っていた女性を、今は組み敷いた上で犯している。

 その非現実的な支配が俺を大胆にさせる。

 

「こういうのを望んでたんだろ? なあ」

 

「はっ、はいぃぃ♡ ゆーまくんの筋肉を見た時からっ♡ こうされたいと思ってまひたあああ♡」

 

 マジかよ。

 

「このマゾ豚が!!」

 

 バチン、と丸い尻を叩く。

 

「あっ、んあ♡」

 

 赤く痕が残る程の力だったが、それでも綾乃にとっては快感に変換されるらしい。

 背を仰け反らせ、大げさな程に感じてみせる姿に嗜虐心はどんどん煽られる。

 ピストンを止め、本来なら苦しいと言われている最奥をぐりぐりと強く刺激してやる。

 

「あっ、それ、やば、やばいです、ゆーまく、ん゛っ♡ やば♡ それ、駄目ぇ♡」

 

 びくんびくんと身体を震わせながら再び絶頂する綾乃。

 

「駄目? もっとして欲しいの間違いだろう?」

 

「こわいっ、こわいのっ、ゆーまくんから、離れられなくなるっ♡」

 

「安心しろ、離れなくていい。ただしペットとしてな」

 

 実際のペットに首輪をするかのように綾乃の首に手を当てる。

 力は込めていないが、それだけでも効果は十分だったようで、ぷしっ、と愛液が勢いよく飛び出る程に感じている。

 

「駄目にされちゃう♡ ゆーまくんに、私の全部っ♡ 駄目にされちゃうっ♡」

 

 バチン、バチン、と腰と腰がぶつかり合う音が部屋に響き渡る。

 その度に綾乃は嬉しそうに身体を震わせ、嬌声をあげる。

 

「奥まで刻み込んでやる」

 

 うつ伏せになっている綾乃の両手を持って、後ろへ引っ張る。

 無理な体勢にはなるが、今更それで苦痛を感じる綾乃ではないだろう。

 案の定沿った背中がびくびくと震え、先程よりも膣内がキツくちんぽを咥えこんでいる。

 

「これ゛っ、あたっちゃだめなとこ、あたってます、ゆーまく、ん゛っ♡」

 

 体勢が先程までと違うことで、同じ奥でも違う当たり方をしているのだろう。

 俺自身も先程までとは違う感触がちんぽに伝わってきているし、締め付け方も違うように感じる。

 こちらの方がより深くまで入っているように思う。

 

「子宮の゛っ♡、なかに゛っ、きてる゛、きてま゛すっ♡」

 

 ごりっ、ごりっ、と抉るように腰を打ち付ける。

 その度に白い尻が揺れ、背中から見える胸も暴れている。

 短い栗色の小動物を思わせる髪は既に乱れ、汗で肌に張り付いてしまっている。

 女性としての尊厳を全て奪われているかのような格好であるにも関わらず、綾乃はただひたすらに感じていた。

 

「もっと、もっとおかしくしてくださいっ♡ つよく、ゆーまくんをくださいっ♡」 

 

 俺自身も一度射精しているとは言え、頭の中がチカチカするような膨大な快楽に襲われる。

 恐らくシチュエーションも関係してのことだろう。

 誰でも持っていて、しかし普段は抑制している支配欲。

 それを存分に開放しても咎められないこの状況。

 男なら誰でもこうなるのではないだろうか。

 

 膣内(なか)の肉壁はまるでそんな俺を鼓舞するかのように、きゅうきゅうと締め付けながら興奮を高めてきている。

 まるでその姿、身体全てが男を――俺を興奮させる為だけに存在しているようにさえ思う。

 肌に浮かぶ玉のような汗、白い肌が紅潮する様子、むっちりと肉感的な身体。

 それら全てが俺を狂わせる。

 

「んっ゛♡……はぁ……はぁっ……ゆーま、くん……?」

 

 このままではおかしくなると思い、俺は一旦動きを止めた。

 一旦クールダウンしないと戻ってこれなくなるような気さえする。

 破壊的な衝動が、欲望が、歯止めの効かないものになりそうな性と生に忠実な空間。

 

「やだ……やだぁ、止めないで……っ♡ うごいて、おねがいします、ゆーまくん……♡」

 

 首だけでこちらを振り向いて、俺を挑発する綾乃。

 

ご主人さまぁ(・・・・・・)♡」

 

 ぷつん、と俺の中で何かが切れる音がした。

 がしっ、と綾乃の小さな頭をソファに抑えつけて、抽送を再開する。

 

「お前みたいなッ奴にはっ、本当にオシオキが必要みたいだなッ!!」

 

「お゛っ♡ ふーッ、ふーッ♡ ふーッ、ん゛っ、あっ♡」

 

 ぶしゅ、ぶしゅ、と愛液が吹き出して床を濡らす。

 既に水たまりができそうなほど溢れて出ているそれさえも俺を興奮させる為だけのもののように感じる。

 

「ん゛っ、ふーッ、んっ、ふーッ、ふーッ、ふーッ♡」

 

 ソファに抑えつけられているせいでくぐもった呼吸音しか聞こえてこない。

 そう長くはこの状態を続けられないだろう。下手をすれば酸欠で死んでしまうかもしれない。

 しかしそのギリギリの状況にとんでもなく興奮している自分がいることも自覚していた。

 

 もう少し、もう少しだけ――

 

「全部受け止めろッ! ペットにくれてやる!!」

 

 ズン、と何かの壁の間を割って入ったような感覚をちんぽの先端で感じ取る。

 そこへ、先程よりも粘土も高く量も多い精液がどばどばと流し込まれていく。

 

「あ゛っ♡ あ゛っ♡ あ゛っ♡ あ゛っ♡ お゛っ……♡」

 

 びくん、びくん、びくん、と射精の波が来る度に綾乃が身体を震わせる。

 長い射精の後の虚脱感に浸っていると、ふと綾乃の頭を抑えつけたままなことを思い出す。

 

「やべっ」

 

 射精で我に帰った後なので普通に慌てて様子を確認すると、綾乃は人には見せられない表情で気を失っていた。

 呼吸は正常なので、しばらくすれば目を覚ますだろう。

 

 長い間肉壁の中にいたちんぽを久しぶりに外気に晒すと、ぶるりと身体が震えた。

 ごぼっ、と冗談みたいな量の精液が溢れてくる。

 オナニーじゃこんなに出たことはないな……というか下手すりゃ人間の限界を超えてないか、この量。

 

 ……しかし、とんでもないことをしてしまったぞ。

 思いっきり中に出しちゃったし。

 しかも途中でペット扱いまでして、ご主人さまとまで呼ばせてしまった。

 ……だが気持ちよかったのは事実だ。

 それもとんでもなく。

 

 

「見ーちゃった」

 

 抑揚の少ない声が後ろから聞こえ、そのまま背中にのしかかられる。

 その声で振り向かずとも誰なのかは分かる。

 知佳だ。

 

「……お前いつの間に起きてきてたんだ」

 

「綾乃をバックで犯してた時くらい」

 

 つまり見られたらまずいというか気まずい部分は全部見られた訳だ。

 全然気配を感じなかった。

 俺も綾乃に夢中になっていたという事はあるが、こいつそもそもそういうの得意そうだもんな。

 気配を消して背後に回り込む、みたいなの。

 

「綾乃だけずるい」

 

 するりと腕が首に回ってきて、完全に後ろから抱きつかれたような体勢になる。

 

「私のおまんこも、オナホみたいにしてみる?」

 

 くっ……

 こいつの声、本当にずるいだろ。

 耳元で囁かれると正気が飛びそうになる。

 

 しかしこちらとしても挑発されたからにはそれに乗るしかない。

 小さいながらも柔らかい胸を背中にぐりぐりと押し付けられているというのもあり、既に股間は元気を取り戻しつつあった。

 

 

 

2.

 

 

 

 知佳の腕をとっ捕まえて持ち上げる。

 羽に触れているのかと思うほど軽々と俺の前まで持ってきた知佳は、既に下着姿だった。

 

「お前まさか夜這いに起きたんじゃないだろうな」

 

「さーてどうでしょう」

 

 普段の眠たげな目のまま適当にはぐらかされる。

 なるほど、そっちがそのつもりならこちらとしても考えがある。

 オナホみたいにしてみるか、と言われたのだから実際にオナホのように使ってやろう。

 

 もう準備は出来ているようだしな。

 ソファに座って、膝の上に座らせるように知佳も置く。

 体勢としては背面座位というやつだ。

 正面から知佳の下着姿を見たということもあって、既に硬くなりきったちんぽがちょうど知佳の股間の下辺りに当たっている。

 

「反り返って、私のへそに当たりそう」

 

 感心したように知佳が呟く。

 

 この体勢にしたのはオナホ扱いしてやるという決意以外にももう一つ理由がある。

 後ろからならばあの蠱惑的すぎる声で直接耳元に囁かれることはないからだ。

 あれで主導権を握られているようではとてもオナホ扱いなど出来ない。

 

「もう濡れてるんだな。何もしてないのに。俺たちの行為を見ながらオナニーでもしてたか?」

 

「まあね」

 

 少しは恥ずかしがるかと思ったが全然堪えていないようだ。

 鋼のメンタルだなこいつも。

 

「期待していたんなら自分で挿れてみろ。それくらいは出来るだろ」

 

「ん……分かった」

 

 あくまでも淡々とした様子で、ショーツをずらして腰を上げ、壺口をちんぽの先に合わせる。

 そしてゆっくりと腰を下ろし始めた。

 

「んっ……んんっ……!」

 

 言葉では余裕をかましていても、体格差自体は如何ともし難いようだ。

 流石にキツイようでその動きは遅々としたものである。

 しかし既に膣内は濡れそぼっていて、準備は万端。

 更には俺を挑発してきたということに対してのオシオキ(・・・・)も受けて貰わなければならない。

 

 知佳の細い腰を両手で抑えて、一気に下まで下ろす。

 

「んおっ……!?」

 

 どちゅっ、と濡れた音と共に、無理に奥まで突っ込まないとスノウや綾乃の体格でも全部は入り切らなかったちんぽがその全長を腟内に隠すことになった。

 一番下まで下ろした瞬間の無様な喘ぎ声は、今は聞かなかったことにしてやろう。

 

 背後からちらりと見てみれば、薄いお腹に薄っすらとちんぽの形が浮き上がっているように見える。

 

「っ……随分、積極、的……お゛っ♡」

 

「オナホが喋るなよ」

 

 また余裕をかまそうとしていた口を封じる為に、軽く持ち上げてまた落としてやる。

 基本的には知佳の体重のみで行っている抽送だが、しかし軽いとは言え30キロ半ば程度はあるだろう。それに加え俺自身も若干だが揺れ動いて奥まで届きやすいにしている。

 自分の意思に関係なく揺さぶられる様はまさにオナホと言うべきものだ。

 

「綾乃でっ……味をしめた……っ?」

 

「俺は喋るなと言ったはずだが……なっ!」

 

「あ゛っ、ん゛っ♡ お、お゛、ぉ……」

 

 ズドン、と今度は知佳自身の体重に加え、俺も両腕で一気に落とす。

 この余裕綽々な態度をどうにかしてやりたい。

 しかしそう簡単に快楽に負けるような性格はしていないだろうし、一度は落ちてもまた飄々とした態度にいずれ戻るだろう。

 どうにかして何か弱点を握りたいのだが、それが何なのか想像もつかない。

 

 まあ、そういうところが面白くて、

 

「……好きなんだけどな」

 

「へっ?」

 

 ぎゅう、と一気に痛い程に膣内が収縮する。

 考え事をしていた俺はあまりに突然のことに驚いてしまう。

 

「な、なんだ、どうしたんだ?」

 

「なんでもない」

 

 あくまでも平静を装う知佳。

 何かがあった事は間違いないのだが。

 俺が何をしていた時だ?

 考え事をしていた最中で、なんならピストンも止まってしまっていたくらいだ。

 焦らされるのが好き……?

 いや、、そういう訳ではないだろう。それならじわじわと感じていくのではないだろうか。あくまでさっきのは急にきた何か(・・)だ。

 

 そしてふと思い当たる。

 

 さっき、心の中で考えていたことが口に出ていたような気がする。

 ……もしかして。

 

「知佳は可愛いな」

 

「んっ……!?」

 

 耳元で囁くように言う。

 すると明らかに膣内がキツくなった。

 マジかよ。

 こいつ、自分が言葉責めしてきていたくせに言葉責めが好きなのか?

 いや、そうではなく……褒められるのに弱い?

 

「本当に可愛い」

 

「ちょ、っと待って」

 

 ぐりぐりと、もどかしそうに知佳の腰が動き始める。

 

「好きだ、知佳。好き。お前のことが好きなんだ」

 

「だ、から――それ、卑怯っ……♡」

 

 きゅんきゅんと締め付けが強くなってきている。

 意外だ。

 意外過ぎる弱点だ。

 まさか普段あんな飄々としていて、むしろ俺をからかって遊ぶような奴がこんなことに弱いなんて。

 

 しかし、この戦法には俺側への弱点としても機能することに気づいた。

 

 こ、このキツさはまずい……!

 そう、単純に気持ちが良すぎる。

 声をかけるごとにきゅんきゅんとまるで別の生き物かのように脈打つ膣内。

 普段の態度とはかけ離れた反応。

 

 これはもはやチキンレースだ。

 俺が先に陥落するか知佳が先に堕ちるか。

 俺は既に二度も射精している。

 その分では俺の方が有利なはずだ。

 多分。

 きっと。

 

 なので知佳の耳元で愛の言葉を囁きつつ、抽送を再開した。

 

「ゆーま♡、ゆーま♡、ゆーまぁ♡」

 

「知佳っ、知佳、知佳……!」

 

 お互いにどんどん引っ込みがつかなくなって行き、引っ込みがつかなくなったタイミングで――

 

「あっ♡ い、く、ぅぅぅぅうううっ……♡」

 

「ぐっ……!」

 

 知佳を襲った一際強い絶頂の渦に俺自身も飲み込まれ、射精してしまう。

 言葉責めでふやふやにとろけた膣内へ精液が染み込んでいくような感覚。

 知佳の細い背中を抱きすくめて、一滴残らず奥へと吐精しきる。

 

 しかし、先程の綾乃とは違った意味で気持ちの良い射精だった。

 互いに登り詰めていって、限界まで来たところで一気に解き離れたような。

 

 知佳が感じていたのは流石に演技ではなかったようで、すーすーと小さく寝息を立てている。

 酔っていたのもまた事実であるだろうから、体力の限界が来たのだろう。

 

 そして俺もそろそろ限界だ。

 しかし明日になって惨状が広がっているのはあまりにもあんまりなので、気合いで体を動かして色々と片付けたり後処理をしたりする。

 

 そんな中、知佳のノートパソコンが開きっぱなしになっているのに気づいた。

 恐らく酒の肴にでもされていたのであろうスノウのダンス途中で動画停止されている状態になっている。

 

 その左上の方には小さく『株式会社妖精迷宮事務所へようこそ!』というロゴが表示されていた。

 この謎ダンスの名称なのか、それともこの動画自体のタイトルなのかは知らないが、これを見て俺は思うのだった。

 

 果たして「ようこそ」された人がこの惨状を見たらどう思うのだろうか、と。

 

 それと同時に実感もする。

 ……形はどうあれ、今日この日が俺たちの――株式会社妖精迷宮事務所の記念すべき1日目だったのだ。

 一体これからどうなることやら。



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第17話:新宿ダンジョン

1.

 

 

「へえ、こんなものもあるのね」

 

 店内にある防具(・・)武器(・・)を眺めながらスノウが感心したように言う。

 

「取り扱いには免許の取得が必要なんだけどな」

 

 俺の答えに、「まあ平和な国だものね」と納得したように頷いた。

 

 ここはダンジョン管理局直営の攻略用道具専門店。

 剣だの槍だの盾だの簡易的な鎧だの銃だの弓だの、様々な武器が置いてある。

 昨日の『乱痴気騒ぎ』から一夜明け、知佳と綾乃がまだ寝ている間にスノウの提案で軽くダンジョンへ行ってみようということになったのだ。

 

 ダンジョン攻略用の道具……防具や武器なんかは取り扱いにかなり厳しい国家試験をパスする必要がある。

 合格率は2%程度と言われており、高い身体能力に判断力、そして高いモラルが求められる。

 ちなみに俺は17歳の時に受験して合格している上に年1でちゃんと更新しているので取り扱うことが出来る。

 当時は無茶苦茶勉強したのを覚えている。

 お陰で期末試験は散々な結果だった。

 

 ちなみにどういう理屈でそうなっているのかは知らないが(どこの国も国家機密レベルで情報を隠している)、これらの防具や武器はダンジョンに入らないとその機能を発揮しない。

 なので市街地で剣や銃を持ったヤバイ奴が暴れるということは不可能とされている。

 今の所そのような事件も起きていないのでその技術には信頼を置いて良いのだろう。

 

「というか、スノウはどんな武器使うんだ? そもそもいるのか?」

 

「武器どころか防具だって必要ないわ。それもあんたもだけど」

 

「……どういうことだ?」

 

「触れてみたら分かるけど、魔石をエネルギーとして動く魔道具みたいなものね。正直大した性能じゃないわ。あんたやあたしくらい自前で魔力を持ってる人間はただ邪魔になるだけ」

 

 当然のように言うが触れてみてももちろん俺には分からない。

 というか、今の俺の身体ってこの防具より硬いの?

 確かに見た目は中世のアーマーのように見るからに硬そうな感じではなく、RPGとかで言うなら革鎧みたいに簡素な作りではあるが。

 トラックの衝突にも二度までは耐えられるとか書いてあるんだけど。

 そしてこれを大した性能じゃないと言い切ってしまうあたりもぞっとしないな。

 ダンジョンが如何に危険な場所なのかということがよく分かる。

 

「じゃあここで買うものはない感じか?」

 

「いいえ、武器はリーチの問題で持っておいて損はないわ。扱いになれてないものなら邪魔にはなるけど、どうしても邪魔ならその場で捨てればいいだけだし」

 

「それもそうか」

 

 じゃあやっぱり剣かな。

 なんかこういうのって剣が一番かっこいいし。

 あれ、でも実用性的には槍の方が良いんだっけ?

 でも俺そんなの使えないもんなあ。

 と刃物コーナーでうろちょろしていると、スノウが離れたところから、

 

「何してるの。こっちよ、こっち」

 

 ちょいちょいと手招きしていたのでそちらへ向かうと、刃のついていないただの長い棒や、ちょこっと先に棘のようなものが生えている棍棒といった……誤解を恐れずに言うなら野蛮そうな武器のコーナーだった。

 

「……俺もっとかっこいいのを想像してたんだけど」

 

「あんたが真剣を振ったことがあるならそれでもいいけど」

 

 呆れたようにスノウが言う。

 

「どういうこと?」

 

「素人が下手に刃のついた武器なんて振り回してみなさい。良くて自分を斬る。最悪は中途半端に刃が食い込んで隙を晒して、そのまま死ぬ。なんてことも珍しくないわ」

 

「うっ……」

 

 確かにそういう話は聞かなくもないな……

 免許を持ってない人なんかは実際こういう棒を持つと聞くし。

 けど俺は免許持ってるのに……

 いやしかしスノウがこちらの方が良いと言うならそうなのだろう。

 結局、俺は木刀のような形の黒い刀……ではなく棒を選んだ。

 

「あ、じゃあ銃とかどうだ? 弓とか」

 

 刃物と違って自分を傷つけたりする可能性は低そうだ。

 ダンジョン用の銃は実弾ではなく、エネルギー弾のようなものになっているので跳弾の心配もない。

 ということを説明すると、

 

「とりあえず見てみる価値はあるかもしれないわね」

 

 と遠距離系の武器のコーナーへ行くことを許可された。

 しかしつくづく思うのだが、スノウは精霊で俺は主人なんだよな?

 明らかにパワーバランスがスノウの方が上だ。

 下剋上なんて狙えないくらい力に差があるので仕方ないのだが。

 その分夜のベッドでは……へっへっへ。

 

 とかなんとか最低なことを考えていると、スノウがとある銃に注目していた。

 

「なんだ……? 粘着弾? そういえばこんなのが発明されたって、ネットニュースでちょっと前に見たな」

 

「この粘着弾の強度にもよるけど便利そうね。自分や味方に当てたら悲惨そうだけど」

 

 使用例としてすぐそこのテレビに実践している映像が流れている。

 その映像では、猛スピードで突っ込んでくる自動車が粘着弾に絡め取られて停止してしまっていた。

 

「……10万で3発って。高すぎないか流石に」

 

「遠距離の攻撃力自体はあたしがいるから間に合ってるけど、こういう絡め手は幾らあっても困らないわよ」

 

「うーむ」

 

 しかしどこかで何かの役に立ちそうなのも事実だ。

 多少、いやかなり高いが買っておいて損はないだろう。

 その後、結局粘着弾と、邪魔にならない程度のプロテクターを購入した。

 生身の方が硬いとスノウに改めて言われたが、やっぱりあるとないとでは安心感が違うと思うの。

 一応付けておきたいのだ。やっぱり完全生身だと怖いし。

 ちなみに合計で17万円。

 現金で支払い、領収書を『株式会社妖精迷宮事務所』で切っておく。

 ちなみにどうでもいいが、人生で初めて領収書を切ってもらった。

 

 

2.

 

 

 衆目を集めつつ電車を乗り継ぎ、20分ほどで目的のダンジョンへ辿り着く。

 

 <新宿ダンジョン>だ。

 よく言われるリアルに迷子になる新宿駅のことではなく、本当に新宿駅から少し離れたところにダンジョンが出現したのである。

 世界中にダンジョンが同時出現した時に出来たものなので歴史は古い。

 とは言っても10年程度だが。

 10年間誰も攻略出来ていないので難易度は高い方なのではないかと言われている(・・・・・・)

 

 と言うのも、大抵の人は普通のダンジョンを攻略することもかなり稀なことなので、そもそもダンジョン同士の難易度は簡単には比べられないのだ。

 道中の雑魚は誰でも簡単に倒せても、ボスは年単位で戦略を練って訓練し、ようやく討伐するなんてことも珍しい話じゃない。

 それに<新宿ダンジョン>に関してはそもそもボスの目撃情報がない。

 

 それが意味するのは今まで誰も会っていない程奥深くにボス部屋があるか、それともボスを目撃した人は誰一人生還していないかのどちらかだ。

 

「このダンジョンはミルフィーユ型だな。下に降りれば降りるほど敵が強くなってく。一般人がレジャー目的で行けるのは1階までって言われてる。今の所鮮明な地図があるのは7階までで、それより下に行ける人もいるにはいるけど地図が出来る程ではないらしい」

 

 と、ざっくりした情報をスノウに伝えると、「ふーん」と例の7階までの地図を流し見して、

 

「それじゃ、目標は10階にしましょうか。それより先にボス部屋があったらついでに倒していきましょ」

 

 とこともなげに言うのだった。

 

 

「……え……」

 

 <新宿ダンジョン>に立ち入ったスノウは、先程までの余裕の態度を流石に少し崩した様子で目を丸くしていた。

 というのも、<新宿ダンジョン>の中身はほとんど普通の町並みと変わらないのだ。

 どこかに存在する下へ続く階段を降りても同じ。

 どの階層も同じく、普通の町並みのように見える。

 これがリアル新宿ダンジョンこと新宿駅でないだけマシなのかもしれないが。

 

 ちなみに何故こんなことになったのかは今の所解明されていない。

 だがこのようなダンジョンは他にも幾つも確認されているのだ。

 中にはもっと変わり種もあったりするが。

 

「一級以下、二級以上ってとこね」

 

 ざっくりとダンジョンの中を眺めたスノウが呟く。

 

「一級? 二級?」

 

「この世界だとなんて言われてるのかは分からないけど、ダンジョンの難しさを等級で表した場合の尺度の話よ」

 

「いや、そもそもそんなことされてない。このダンジョンは難しいらしい、とか簡単な方かもしれない、とか。それくらいの情報しかないけど」

 

 するとスノウは意外そうな表情を浮かべた。

 

「ふぅん……まあ魔力が存在しない世界だとそんなものなのかしら。あんたも慣れてくれば中に入るだけでそのダンジョンがどれくらいのものか分かると思うわよ。分かりやすい目安もあるけど」

 

「分かりやすい目安?」

 

「そのダンジョンの中身が、出現した場所の影響を受けている見た目の場合は二級以上。大体そう考えていいわ」

 

「ちなみにその等級の難易度をわかりやすく表すと?」

 

「この世界のことにそこまで詳しい訳じゃないから簡単にしか言えないけど……そうね、最初にあんたと出会ったあのダンジョン。あれは四級以上三級以下ってところかしら」

 

 ……確かに道中短かったけど、あの化け物みたいなゴーレムがボスにいて三級以下?

 

「つまり二級以上なこのダンジョンのボスは……」

 

「少なくともあのゴーレムよりは強いでしょうね」

 

 しかしそんなことは関係ないとばかりにスノウは地図を見ながら歩き出す。

 度胸あるなあ……

 いやしかし、本契約後のスノウはあのゴーレムを瞬殺してる訳だから別にあれより強いとしてもそこまで怖くはないのか。

 改めて考えるととんでもない精霊を召喚してしまったのかもしれない。

 

 道中でちらほらと同じくダンジョンへ潜っている人からの視線を受けるが(やはりダンジョン内でもスノウは相当目立つようだ)それすらも意に介さず地図を見ながら突き進んで行く。

 実際、<新宿ダンジョン>の一階なんて一般人でも倒せるレベルのモンスターしか出てこないのだが。

 

 

 地図通りに進むこと1時間。

 俺たちは7階まで到着していた。

 ちなみに、道中でちらほらとモンスターに遭遇はしているのだが全て凍りついていた。

 もしかしてダンジョン攻略超イージーモードなのではないだろうか。

 

「出てくるモンスターが精々ゴブリンやオーク程度なら、一度はあんたも戦っておいた方がいいかもしれないわね」

 

 と、7階の探索中、スノウが唐突にそんなことを言い始めた。

 

「それってマジで言ってる?」

 

「何の為に武器を持ってきたと思ってるのよ」

 

「それはまあ……」

 

 しかしスノウがいる時点で俺の戦力など必要ないのではないだろうか。

 

「慣れておくことは重要よ。危ないと思ったら即助けに入るわ。相手は雑魚だから心配ないと思うけど」

 

 ……念の為説明しておくと、このダンジョンは下へ降りれば降りる程モンスターも強くなる。

 同じゴブリンでも1階と7階のゴブリンでは全然強さが違う。

 ポ○モンで言えば一番最初のジムと三番目のジムくらいは難易度が違うと思う。

 慣れておくのが大事だと言うのなら1階でやるべきだったのではないでしょうか、スノウさん。

 しかし俺は割とかっこつけたい人間だったようで、かっこよく頷いて親指を立てる。

 

「ままままま任せておけ」

 

 全然かっこよくはなかった。

 

「来るわよ」

 

「えっ……」

 

 ふい、とスノウが視線を向けた方向に立派な体格のオークがいた。

 豚のような顔に鈍重そうな身体。

 身長は大体3メートルくらい。

 

「グルルルルルルル……」

 

 オレ、オーク。

 オレ、ツヨイ。

 

 という幻聴が聞こえてきた。

 ちらりとスノウへ視線を送って助けを求めると、街を再現したダンジョンと言うことで、何やら物珍しそうにラーメン屋の看板を見ていた。

 へーちゃんと見てなかったけどそういう細かいところまで再現されてるんだ……じゃなくて!

 

「おいおいおい!!」

 

 オークはぶっとい腕でそのまま殴りつけてくる。

 スノウの方に一瞬気を取られていたお陰で避けることもままならず、せめてプロテクター部分でガードしようと腕を上げると、思惑通りそこにオークのでかい掌が当たった。

 

 のと同時に、ボギィッ、と痛々しい音が響く。

 俺から出た音ではない。

 オークの腕が折れた音だ。

 

「へっ……?」

 

「殴るなり蹴るなり叩くなりしないと勝てないわよー」

 

 スノウの間の抜けた声が聞こえ、奇っ怪な叫び声をあげながら片腕を抑えてのたうち回っているオークを蹴っ飛ばす。

 と。

 ドパン、と蹴った部分が爆ぜて消し飛んだ。

 直後にオークの体全体が光に包まれて消滅し、小さな石……魔石がころんとその場に転がる。

 

「思っていたより楽勝そうじゃない。もっと下の方へ行かないと練習にはならなさそうね」

 

 一部始終を眺めていたスノウは至極当然と言わんばかりの態度で腰に手を当てつつそう言うのだった。

 

 

 

3.side名もなきモブ探索者

 

 

 俺はそれなりに腕の立つ探索者だ。

 ダンジョン管理局にこそ入れなかったものの、他の民間企業で探索者として雇われ、それなりの利益をもたらしている。

 今日も3体ものオークと、2体のゴブリンを狩った。

 正直何度も命の危険は感じたが、それでも敗けることはない。

 そのスリルこそが俺を楽しませてくれる。

 やはり戦いはギリギリであってこそだ。

 

 そういえば今日は何度か氷漬けになっていたオークやゴブリンを見かけたが、あれは一体なんだったんだろうか。

 何か特殊なフィールドボスでも出たか?

 しかしそんな話は聞いたことがない。

 もし出会ったら倒せそうなら戦い、無理そうなら逃げよう。

 ギリギリの戦いは好きだが、あくまでもそれは勝ち目があってこその話だ。

 確実に勝てないモンスターを相手にする程俺も馬鹿じゃない。

 

 俺にだって彼我の戦力くらいは見抜ける。

 一度だけ調子こいて8階に降りた時は、死の香りを濃厚に感じた。

 あそこに長時間いれば俺は死んでいた。

 今じゃ7階のモンスターは誰よりも上手く狩れる自身があるが、8階以降に入れる奴らは人間じゃない……それこそダンジョン管理局に雇われているようなエリートくらいだろう。

 

 ん?

 どこかで話し声が聞こえるな。

 7階まで来る奴は珍しいが。

 今日は他の会社の奴も来る日じゃないはずだぞ。

 

 ……。 

 ……女?

 真っ白い女だ。

 白い服に白い髪、白い肌。

 それにとんでもなく美人だ。

 なんであんな女が?

 

 と、近くに男もいる。

 体格はそれなりに鍛えているもののように見えるが、立ち振舞いは素人そのものだ。

 まさか地図にまかせて、運良くモンスターに遭遇せずにここまで来てしまったのだろうか。

 仕方ない、俺が1階まで案内してやろう。

 ついでにあの白い女の連絡先とかを聞いてもそれは役得というものだ。

 

 って、オーク!?

 しかもあの男、オークの攻撃をあろうことか素手で受けようとしていやがる。

 おい馬鹿、避け――え、オークの腕が……折れてる?

 

 俺は一体何を見ているんだ?

 

 馬鹿、何が起きてるか分からねえがそこから逃げろって!

 そんなお前、ただの蹴りで……蹴りで……

 ……ただの蹴りでオークの体が吹き飛んだ……?

 

 …………。

 今日はもう帰ろう。

 どうやら俺は疲れているみたいだ。

 あんな化け物、いるはずがない。



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第18話:意外な安息所

1.

 

 

「ここからは地図頼りには動けないわ。一度休憩しましょう」

 

 8階へ降りてすぐ。

 スノウが突然立ち止まってそんなことを言い出した。

 

「休憩って言ってもダンジョンの中じゃモンスターがいつ出てくるか分からないだろ?」

 

 交代で見張りを立てながら休むとかそういう話だろうか。

 

「あんたもう忘れたの? ダンジョンには安息地があるでしょ」

 

「あ……」

 

 そういえばそうだ。

 もちろん知識として知ってもいたし、一番最初にスノウと交わった時も安息地だった。

 しかしあの時は運良く――本当に運良く安息地を見つけたが、今回は既に地図もない所まで来ている。

 安息地を探すのも一苦労するのではないだろうか。

 

「まずは探すところからかー」

 

「何言ってるの、ここがそうよ」

 

 そう言って、スノウは自分の後ろの建物を親指でピッと指す。

 なんかこういう何気ない動作が俺よりも男前なのどうにかしてくれないかな。

 

「こういう町並みを再現したダンジョンだと建物が安息地ってことも……ありえる……のか……」

 

 俺の言葉が途中で途切れ途切れになった理由。

 それはこの安息地の建物だ。

 多分、それ(・・)にしては結構規模の大きなものなのだろう。

 派手な外観に派手な装飾灯。

 少し視線を下げれば料金設定が書いてある。

 2時間休憩7700円。

 宿泊11000円。

 流石に相場までは分からないのでそれが安いのか高いのか普通なのかは知らないが、つまるところこの建物はラブホテルだ。

 

 このダンジョンを設計した奴は誰だ。

 素晴らし……じゃなくてけしからんではないか。

 実にけしからん。

 

 どうやらスノウはこれがラブホだと気づいていない様子で(そもそも俺から得ている一般常識の括りにラブホの存在が無いのかもしれない)、俺を見て不思議そうな反応をしている。

 

「……ちなみになんでここが安息地だと分かったんだ?」

 

「魔力の感じで分かるわよ」

 

 俺は分からないが、スノウの感覚頼りで色々やっている今、少なくともその情報は間違いないのだろう。

 8階まで来る人間がそもそも極稀だろうから、このラブホ安息地のことも情報として中々出回ることがないのだろう。

 まあこんなところまでわざわざ無料で使えるラブホだぜやっほーい! とやってくるアホはいないだろうが。

 そもそもここでは一般人が2階以降へ降りること自体が自殺行為だと言われているくらいだし。

 

 まあ、別に?

 ラブホだからと言って俺は何も気まずいとか思わないしどうでも良いんだけどさ。

 

「とりあえず中に入ろうぜ」

 

「なんでちょっとキリッとしてるの? キモイわよ」

 

 ひでえ。

 

 中に入ると、まあ案の定受付に人がいるということはなく、しかし空き部屋は選べるようになっていた。

 元々無人のところなのだろうか。

 いや俺もラブホなんて来たことないから、人伝に聞いた情報しか知らないんだけどさ。

 しかしこれで見る限りちらほら入室しているのは誰かが過去に利用したことがあるということなんだろうな。

 

 大抵こういうのはカードキーか何かで入室管理するだろうから、部屋に入ってしまえば中から出ることは出来るが一度外に出たら入ることは出来ない。

 受付に侵入してキーを探せば開けることは出来るが、そこまでするくらいだったら普通に他の部屋を使うか扉をぶち破った方が手っ取り早いだろう。

 

 というか中、普通に電気ついてるけどどういう原理なんだろうな。

 今までも特に気にしていなかったが、普通に光る看板とかあったし。

 

 ……ダンジョン不思議パワーということで納得しておくか。

 

「空いてる部屋は……っと」

 

 1~3までは埋まっているが、4がなくて5号室が空いているな。

 4が飛んでいるのは不吉な数字だからだろうか。

 芸の細かいことだ。

 ちなみに9もなかった。

 

 内装もラブホ特有の(?)ピンクな空間になっているので、流石にそろそろこの建物の特異性に気づいてきたスノウが怪訝に色々と見回している。

 

「ここは宿泊施設なの?」

 

「まあそんな感じだ」

 

 とりあえず5号室に入ると、扉が閉まるのと同時に電子ロックがかかった。

 ちなみに、扉が空いている部屋は誰も利用したことがない場所で、閉まっていたり破壊されている場所は使用済みなのだろう。

 人が管理している訳じゃないのでいずれ全ての部屋が使用済みになったらどうすればいいのだろうか。

 

 ちなみに内装は大きめのベッドに、その向かいにある大きな鏡。

 それから風呂にトイレと言った具合だ。

 テレビとカラオケ機器もあるが、流石にこれらは見れたり歌えたりはしないだろうな。

 

 なんてことを考えていると、スノウがあるものを見つけた。

 

「こっ、ここ、これって……」

 

 わなわなと震えながら指でつまむように持っているのは、未開封のコンドーム。

 ラブホのことは知らなくてもゴムは知ってるのか。

 というか、ふわふわ漂っていた時期があると言っていたのでその時に見たのかな。

 知識の偏りがあるのは単純に興味を持っていた持っていなかったの問題なのだろう。

 

「な、なんで宿泊施設にこんなものがあるのよ!?」

 

「あースノウ、実はここ、ただの宿泊施設じゃないんだ」

 

「ど、どういうこと……?」

 

「ここはラブホテル。カップルが来て性的な意味でイチャつく場所だ」

 

「……なっ」

 

 しばらくフリーズしていたスノウは、ぎゅん、と赤面する。

 

「だっ、騙したわね!」

 

「別に騙してはない」

 

「入る前に分かってたなら言うのが筋でしょー!?」

 

「それはそう」

 

 けど黙っていたらどんな反応するのかを見たかったのだ。

 まさかゴムで気づくとは思わなかったけど。

 

「確かになんか派手な建物だなとは思ってたし、この大きな鏡も意味わかんない感じだったけど……!」

 

「つまりそういうことなんですね」

 

「このけだものっ」

 

 ぺしーん、とコンドームを投げつけられた。

 未使用とは言えゴムを投げるのはやめろ。

 なんか嫌だから。

 

 ツンツンしているスノウを余所に、俺はシャワーで水が出るかを確かめる。

 うん……出るな。

 流石に飲み水として使用出来るかはちょっと怖くてあれだが、少なくとも肌に付く分には問題なさそうだ。

 一時間歩いて少し汗もかいた気がする。

 

「シャワー浴びてくる」

 

「しゃ、シャワー!? 何するつもりなのよ!?」

 

「いやだからシャワーだって」

 

 そういう(・・・・)施設だと聞いてから明らかに警戒している。

 あわよくばエロい雰囲気になったりしないかなとか思っていたが、どうやら流石にそうはならないらしい。

 

「とりあえず先に浴びるからな」

 

 

 

2.

 

 

 ザーザーと流れる水の音を聞きながら、先程のことを思い出す。

 あのオークの攻撃を受け、蹴飛ばした瞬間のことだ。

 どうやら俺の力は2倍になっている……どころの騒ぎではないようだ。

 3倍、いや4倍くらいはあるかもしれない。

 これはスノウのあの態度も納得出来るな。

 あんたなら余裕でしょ、と言わんばかりの。

 

 しかしいずれ慣れはするのだろうがオークを蹴っ飛ばした瞬間はあまりいい感触ではなかったな。

 現実味もないくらい呆気なかったというのもあって、忌避感とかではないのだが。

 倒したら魔石になるあたりも生物っぽさをあまり感じないし。

 

 ま、これもスノウの言ういずれ慣れるというやつなのだろう。

 頭を洗い終わって、次は身体だ……とうタイミングで、カラカラカラ……と風呂の扉が開いた。

 

「えっ……」

 

 そちらを振り向くと、べたにバスタオルで身体を隠した、全裸のスノウが恥ずかしそうに顔を真っ赤にしつつ、更には俺をにらみつつ入ってきた。

 

 ……何事?

 俺、今から殺されるの?

 ここには水もあるし、スノウの独壇場だろう。

 

 そんなことを考えていると、スノウが。

 

「あ、あんたが先に(・・)入ってるって言うから、後から入ってきたんじゃない!」

 

 とヤケクソみたいに叫ばれた。

 

「え……えー?」

 

 流石に無理がないか……?

 なんだか曲解が生まれているというか、言い訳じみているというか……

 

 ……もしかして。

 

「スノウお前、期待してたりする?」

 

「し、してる訳ないでしょ!? なに言ってんの、ばっかじゃないの!?」

 

 うーん、ツンデレソムリエの俺鑑定では明らかに期待シているという反応だ。

 何度も身体を交えている間にどうやらスノウ自身、セックスにハマっているようだ。

 俺としては好都合な話である。

 

「それじゃせっかくだし背中を流して貰おうかな」

 

「あ、あたしがやるの……?」

 

「二人同時に洗える程のスペースはないからな。そうした方が効率的だろ?」

 

「う……まあ、そうと言えばそうかもしれないわね」

 

 あくまでも仕方なくと言った風で頷いているが、やっぱりこうなることが分かっていて突入してきたな。

 ラブホの知識はなくともこういうプレイ(・・・・・・・)の知識はあるようだ。

 まあ漫画は読んでいたみたいだから、どこかでそういうのも知っていたんだろう。

 

「自分の身体をスポンジ代わりにして洗うんだ。やり方は分かるな?」

 

「くっ……わかりやすく調子に乗ってるわね」

 

 口では怒っているようなことを言いつつもスノウはバスタオルを外し、自分の身体に洗剤を塗りたくっていく。

 や、やばい。

 これ見てるだけでもめっちゃエロいぞ。

 既にちんぽは最大サイズまで勃起していた。

 美人は3日で慣れると言うが……どう考えてもそんなことはないな。

 多分いつまで経っても俺はスノウの裸を見るだけで勃起する。

 

「こ、こっち向いたら殺すから」

 

「それはやめて」

 

 殺すは本当に殺せる力のある者が言うと普通に怖い。

 ちょっとちんぽがしなびてしまった。

 

 しかし直後に背中に当たる柔らかい感触に再び力を取り戻す。

 別にそちらを振り向かずとも鏡がある訳で、それ越しに普通に見えるのだが。

 顔を真っ赤にしたスノウが白い泡で身体を包みつつ、俺の一生懸命奉仕している。

 

 いかん全然触られてる訳でもないのに射精してしまいそうだ。

 シチュエーションがエロすぎる。

 あのスノウが泡プレイだ。

 しかもほぼ自主的に。

 

 ふにふにと背中に当たる感触、その中央にある少し硬い何か(ちくび)

 

「んぅ……ふっ……んっ……」

 

 しかも恐らく無意識だろうが、エロい吐息を出しながら奉仕している訳だ。

 

「背中ばかりでなく、ちゃんと前も洗ってくれないとな」

 

「わ、わかってるわよ」

 

 おずおずと前の方へ回された手が、まずは胸板を。

 次に腹筋を撫でていく。

 気持ちよさよりもくすぐったさが勝つが、やはりこの状況のエロさが俺の息子を元気にさせる。

 

「……あんたって結構鍛えてるのよね」

 

「まあ、な」

 

「綾乃がうっとり見てたのもうなずけるわ」

 

「え゛っ」

 

 そうなの?

 というか気づいてたの?

 

「まだそういう関係(・・・・・・)にはなってないみたいだけど」

 

 すみません、あなたが酔いつぶれていた間になってるんです。

 綾乃が起きてくる前に出かけたのでまだ気づいてないのか。

 スノウの勘の鋭さなら、普通に綾乃の様子を見て気づくのはあり得る。

 

「まあ……うん、気持ちはわかるわ」

 

「スノウも筋肉好きなのか?」

 

「なよっとしてたりぶよぶよだったりするよりは」

 

「それもそうか」

 

 というか途中から洗うと言うよりもほとんど筋肉を触っているだけになっているのでただただくすぐったい。

 泡のあわあわした感触や洗剤のぬめぬめした感触は気持ちが良いが、俺の求めているものはそういうのじゃない。

 もっとあわあわぬめぬめえろえろしている感じが良いんだ。

 

 とか思っていると、俺が何も言わないでもちんぽがやんわりと握られた。

 

「うっ……」

 

 普通の手コキとは違う、洗剤でローションのように滑りがよくなっている状態での手淫。

 しかも体格差のお陰でスノウが俺のちんぽを触る為にはほとんど俺の背中に身体を密着させないといけないのだが、それがまたエロい。

 おっぱいはすごいな。

 手で触ってもエロいし見るだけでもエロいし押し付けてもエロい。

 最強じゃないか。おっぱい。

 

 元々手慣れている方でもない上に体勢が普通と違いすぎるからだろう、正直その行為自体による気持ちよさはほとんどない。

 だがその状況が、シチュエーションがそれだけで射精を促してくる程の脅威となっている。

 これはやばいな。

 射精してしまう前に攻守交代しよう。

 

「よし交代だ。次は俺が洗う」

 

「え、ちょっ」

 

 スノウの両脇を抱えて持ち上げて無理やり位置を変更する。

 既に泡々しているスノウの胸を揉む。

 

「ちょっと、まち、なさい、ってぇ……」

 

 戸惑ったようにしていたスノウも、胸を触られた時点でへにゃ、と身体から力が抜けたようだ。

 少し快楽に弱すぎるような気もするが、今後大丈夫なのだろうか。

 

 それにしても……

 普段も柔らかさがカンストしているが、泡越しに触れることによってその感触のレベルが更に限界突破しているようだ。

 一生触っていられる。

 冗談や比喩でなく。

 

「も、もうそこは十分でしょ……!」

 

 おっと。

 確かに身体を洗うという名目な以上、胸ばかりしていても仕方がない。

 名残惜しいが、本当に名残惜しいが、非常に名残惜しいがおっぱいからは手を離そう。

 

「……いつまで揉んでるのよ」

 

「会社を捨ててスノウの胸を支える仕事に就くよ、俺。お前の負担を減らしたいんだ」

 

「ばっかじゃないの」

 

 冷静なツッコミが入ったところで流石に胸から手を離す。

 では今度はこちらだろう。

 後ろから覆いかぶさるようにして、今度はまんこに触れる。

 

「んっ……」

 

 びくん、と身体を震わせるスノウ。

 鏡には目を閉じて声を出さないようにしている姿が映っている。

 

 ……洗っても洗っても液が出てきていつまで経っても綺麗にならないなあ! というネタをやろうと思っていたのだが、思っていた以上に泡まみれで快楽を堪えるスノウが可愛すぎてそんな茶番を挟んでいる余裕はなさそうだった。

 

 スノウの腕を取って、立ち上がらせる。

 

「え、ちょっと、悠真、ま――んんんぅ!」

 

 ズブブ、と泡だの愛液だのでお互いに準備万端だった結合。

 しかし立ち上がらせてそのまま後ろから挿れたので、普段とは少し違った締まり方をしているように感じる。

 立ちバックというやつだ。

 

 そのままだと体勢と風呂の広さ的に動き辛いものがあるので、スノウの片足だけを持ち上げてピストンを開始する。

 

「んっ、そん、な、急、にっ……!」

 

「悪い、我慢出来なかった」

 

 非難するような事を言うスノウに一応言葉だけで謝っておく。

 本気で非難している訳じゃないことは分かっているからだ。

 実際に膣内は悦びに打ち震えているようにちんぽをきゅうきゅうと締め付けてきている。

 

「ん……くっ……♡」

 

 ずり、と奥を擦るように少し動かすと、それだけでもう軽く絶頂したようだ。

 自分では隠しているつもりだろうが、鏡に全部映ってるんだよな。

 

「もういったのか。本当にスノウはエロいな」

 

「はあ!? ん、ちょっと、動くのずる……いぃ……♡」

 

 ぱちゅ、ぱちゅ、と水のお陰で普段よりも淫猥に響く肌と肌とが触れ合う音に、腰を降る度に飛び散る水に興奮する。

 

 ぐっ、しかし先程まででも既に限界が近かった為、もう出てしまいそうだ。

 

「な、によ、あんただって、もう限界が近そうじゃない……! なかで大きくなってきてる、わよ……っ」

 

「スノウがエロすぎるのが悪い……!」

 

 ぐっ……もう駄目だ。

 

「あっ……出て……るぅ……♡」

 

 勢いの良い射精にスノウが恍惚とした表情を浮かべる。

 こんな顔してるって気づいたら恥ずかしさでちんぽを凍らされかねないぞ。

 

 うーん、元々早漏気味のような気もするが、最近は特にだ。

 しかしこれで終わる程俺のちんぽは弱くない。

 

「へっ? 何する気……っ?」

 

 挿入したままスノウの身体を持ち上げ、湯船に浸かる。

 洗剤とか流してないので湯船が汚れてしまうが、まあどうせ誰かが後片付けする訳でもない。気にしないでいこう。

 

「あっ……♡ ちょっと、入ったままお風呂、なんて、ぇ……♡」

 

 俺の膝の上に乗せるような形で湯船の中に座る。

 水面の揺れに合わせるようにゆらゆらとゆっくり揺さぶってやる。

 先程の快楽を互いに貪りあうようなそれではなく、あくまでもただ挿れているだけ。

 スローセックスというやつだ。

 詳しくは知らないけど。

 

 しかしそのスローな愛撫でもスノウは感じているようで、時折ぴくん、と身体を震わせている。

 男は一度射精したら次まである程度猶予が出来るが、女の人は違うと聞いたことがある。

 女性の絶頂は波のようなもので、一度絶頂しても次の大きな波が来るとかなんとか。

 ただの聞きかじりの知識なのでそれが事実かは知らないが、しかし実際射精というプロセスを踏む必要のない女性の絶頂は男性のそれよりもハードルが低いのだろう。

 恐らくそれが裏目に出て、今もスノウは微弱な快楽を感じ続けている。

 

 しかしそういう理屈の部分は正直どうでもいい。

 スノウの綺麗な背中が、俺の動きに合わせてたまにぴく、と動くのがなんだか不規則な模様の動きを見ているようでなんとなく楽しいのだ。

 もちろん、ずっと膣内に入っている以上、そちらも不規則に動いているので当然気持ちよさもある。

 スローセックスはスローセックスでありかもしれない。

 これが正しいスローセックスかどうかは知らないが。

 

「くっ……♡ ちょっと悠真、いつまでこうしてるつも、りぃ……なのよ……!」

 

「スノウが素直になるまでかな」

 

「はあ!? 素直って……」

 

「まだ抵抗してるみたいだからさ」

 

「くっ……あんたの方が先にへばるか、我慢出来なくなるわよ」

 

「それじゃあ我慢比べと行こうか」

 

 

 そして数十分後。

 

「んっ……♡ あっ……♡ はぁ……っ♡」

 

 スノウは完全に蕩けていた。

 顔を見なくても分かる。

 先程から完全に俺に体重を預けている上に、喋る元気もないようだ。

 

「……ベッドに行くか?」

 

 スノウから音をあげる気がないことを流石に悟った俺がそう聞くと、スノウは弱々しいながらも、こくりと頷くのだった。



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第19話:相場

1.

 

 

 身体を軽く拭いてやって、スノウをベッドに転がす。

 完全に脱力している状態でくたっと萎れている姿を見て、先程からずっとお預けを食らっていた俺の息子は完全に元気になっていた。

 

 そんなスノウに覆いかぶさり、壺口にちんこを触れさせる。

 

「あっ……ゆー……ま……ぁ♡」

 

 媚びるような目と声。

 当然そこから我慢など出来るはずもなく、そのまま挿入する。

 ずっと挿れていた分、完全にふやけた膣内はまるで綿かなにかのように柔らかな刺激をこちらに与えつつも、それでいてちゃんと締め付けてくるというなんともミラクルな状態になっていた。

 

「ん……中……はいって……」

 

 散々膣内で焦らしたということもあって発情している状態ではあるのだが、まだ完全には折れていないようで、安易に嬌声を上げることはないようだ。

 カフェインの影響もあったりしたとは言え、今までがチョロかった分こういう反応は新鮮だ。

 とは言え既に身体は堕ちているので後は内面の問題だけなのだが。

 

「はっ……♡ ん……く……ぅ……」

 

 先程までと同じようにゆっくりと腰を動かす。

 一気に動かしても良いのだが、少し考えがあった。

 スノウの方に余裕をもたせる為にスローペースだ。

 

「っ……ぅ……」

 

 しばらくすのままゆるゆる動かしていると、断続的に微弱な快楽を与えられているとは言え、少しずつ正気を取り戻してきたようだ。

 

「……んっ♡ ……悠真も……疲れてるみたいね……もう終わりにしたら? 中で萎えちゃったら恥ずかしいでしょ?」

 

 敢えて余裕をもたせているとも知らずに俺を挑発してくるスノウ。

 どうやら俺が疲れているから動きをゆっくりにしていると思っているらしい。

 これから自分がどんな目に合わされるのか想像もしていないようだ。

 

「そうだな」

 

「ああああっ……!」

 

 膣内から一旦ちんぽを引っこ抜く。

 膣内をぎゅっと締め付けて逃さないようにされたがそれも無視する。

 少し強めの快楽がスノウへ行ったようだが、すぐに気丈さを取り戻した。

 

「きょ、今日はあたしの勝ちってことね……いつもあんたにはしてやられてばっかだし――って、きゃあっ」

 

 スノウの身体をやや乱暴にひっくり返す。

 仰向けにしや上で、スノウが何か言う前に再び後ろから挿入する。

 今度は一気に奥まで突っ込む。

 

「あっぐぅぅ……っ、な、なにぃ、すんのよぉ……♡」

 

 まだ気づいていないようだ。

 自分の視線の先に鏡があることに。

 先程の風呂にもあったものだが、その時も特に気にしていなかったし、改めて自分の痴態を見せつけられるのは相当堪えるだろう。

 この寝バックの状態なら少し顔を上げれば全てが見える訳で。

 

 後ろからスノウの顔を敢えて乱暴めに掴んで、鏡に正面を向かせる。

 

「ちょ、ちょっと……えっ……?」

 

「これが勝った奴の顔か?」

 

 鏡に映るスノウの表情は完全に快楽に蕩けていた。

 自分のこんな姿を見るのは初めてなのだろう。

 すぐにハッとした表情を浮かべるが、それを見計らって一発奥まで抽送する。

 

「んぐっ……ぅ♡ ……ちょっと、これ、ま――」

 

 鏡から顔を逸らそうとするのを強制的にロックし、自分の痴態を目に焼き付かせる。

 それに抵抗する為にスノウは目を閉じるが、ならばそれに合わせてピストンを早くする。

 

「これ、逆に……音が……ぁ♡ 身体の……感、覚がっ……♡」

 

 目隠しプレイというものがあるくらいだからな。

 既に快楽に蕩けきっている身体ではむしろ逆効果なのだろう。

 結果的に、淫れまくる自分の姿を見るしかない。

 

「いや……いやぁ……こんなの……いや、なのに……っ!」

 

 鏡を見せた辺りから、膣内の締め付けが強くなっている。

 きゅんきゅんと搾り取るような動きを無意識にしている。

 

「もう一度聞かせて貰おうか。誰の勝ちだって?」

 

「んっ……ぐ……こ、の……っ!」

 

 強制的に鏡の方を向かせているせいで、整った顔が流石に歪んでいる。

 それでもなお美しさを感じさせるその姿に俺の方ももちろん興奮する上に、意外と未だに耐えているのもまた面白い。

 すぐに陥落するかと思ったが、ここがダンジョンの中だというプライドもあるのかなかなかに気丈だ。

 抵抗すればするほどこちらにとっては面白いだけなのだが、それはまあ良しとしよう。俺にとっては好都合だ。

 

 ふと、俺はとある法則を思い出した。

 曰く、気の強い女はアナルが弱い。

 これは摂理だ。理だ。

 ソースはエロ漫画。

 しかしそれはともかくとして、排泄の必要のない精霊は腸内洗浄などしないでもアナルを使うことが出来るだろう。

 

 白い尻をぐにっと掻き分けると、小さいピンク色の菊門が見える。

 

「ちょっ、あんた、なにして――」

 

 スノウが文句を言う前に、とりあえず指を突っ込んでみる。

 

「あっ……♡ ちょっと、そこ、違……!」

 

 え……?

 今喘いでた?

 まさか開発の必要もないのだろうか。

 待て待て。

 落ち着いて考えろ。

 そんなに都合のいい話があるか?

 アナルセックスしようと思ってすぐに出来るなんて、流石にファンタジーが過ぎるのではないか。

 

 ……俺の魔力はダンジョンへ行くこととセックスすることで増える。らしい。

 ならば精霊がそのセックスに対して身体の適正があるのは至極当然のことではないのか。

 主人の常識を読み取って自然に世の中に溶け込むことが出来るくらいなのだ。

 アナルをいきなり使えたとしても不自然ではないのかもしれない。

 

 しかしあくまでもこれは俺の仮設だ。

 もしかしたらただ単に膣内に入っているちんぽに反応しただけの可能性もある。

 もう少し試してみようか。

 

 ヒクヒクしているアナルを撫でるように、そして時には指を挿れたりして反応を見る。

 

「ぐっ……ゆーま、あん、た……がっ……そんな変態だとは思わなかったわ……っ♡」

 

 悪態をつくスノウ。

 しかしその表情を鏡越しに見れば明らかだ。

 感じている。

 素晴らしい。

 気の強い女のアナルが弱いというのは真実だったのだ!

 

 まずは指一本を慣らそう。

 入り口に指を突っ込んで、かき回すようにして広げていく。

 

「あ゛っ……♡ や゛、め゛っ……♡」

 

 やはり感じているな。

 しかしこれはまだ前座だ。

 本命が入るまでの準備に過ぎない。

 こうなると先に風呂場で抵抗する力がなくなるまで焦らして正解だった。

 普段じゃアナルなんてイジろうものなら速攻で逃げられてしまうだろうからな。

 

「ほら、ケツの穴で感じてる自分の顔をちゃんと見るんだ」

 

 なあなあになっていたのでぐい、と鏡の方を向かせる。

 すぐにスノウの顔が真っ赤に染まりあがり、きゅっと尻穴が閉まった。

 そのタイミングで指の二本目を突っ込む。

 

「~~~~ッ!?」

 

 スノウが衝撃に目を見開く。

 しかしちんぽを挿れている膣内は歓喜に打ち震えていた。

 今はまだスノウ自身の忌避感が勝っているが、快楽に堕ちるのも時間の問題だろう。

 本来アナルの開発はこんなにスムーズに行くものではないとは思う。

 しかし精霊という特殊な身体がそれを可能にしている。

 ビバ・精霊。精霊バンザイ。

 

 更にしばらくしてから三本目を追加する。

 

「くっ……♡ 悠真……あんた、っ、覚えてなさいよ……っ!!」

 

 ふっふっふ。

 そんな動けない状態で凄まれても怖くないのですよ。

 表情も睨みつけようとしているのは分かるのだが、涎を垂らして頬も赤く染まり、目にも力が籠もっていないのでもはや堕ちる寸前の女騎士のようにしか見えない。

 

「……さて」

 

 そろそろ良いのではないだろうか。

 サイズ的には三本ではまだまだ足りはしないが、かと言ってそもそも自由にアナルをいじれるのは指の構造上三本目くらいまでだろう。

 それに今の所順応性はかなり高い。

 なんとかなる……と思う。

 俺は膣内からちんぽを抜いて、今度は菊門にあてがう。

 

「ね、ねえ悠真……? 嘘よね? そんなの入る訳ないわ。わ、分かるでしょ?」

 

 流石に恐怖を感じたのか、スノウの顔が青ざめる。

 ちんぽは愛液と精液、そして先程まで物理的に水で濡れていたということもあって滑りは良い。

 

 ……と。

 そういえばラブホなんだからどこかにローションがあったりするのだろうか。

 と思って少し視線を動かすと、普通にベッドのすぐ傍に置いてあった。

 

「な、なによそれ……」

 

 人肌に温めて使うみたいなことが書いてあるが……スノウのことだし多分平気だろう。

 アナルを広げ、そこに直接垂らしてみる。

 

「っ……!? な、なにしてるの……!? なんなのそれ……!?」

 

「ローションだ」

 

 人肌に温めていなくとも冷たさは感じないらしい。

 流石は氷の精霊。

 

 3分の2くらいをスノウの菊門に流し込んだ後、念の為残りはちんぽにかける。

 普通に思っていたより冷たかった。

 

 しかしこれで準備は完了だ。

 

 改めてちんぽをアナルに当てる。

 

「ね、ねえ悠真。一旦落ち着きましょう? 顔怖いわよ、ほら、ね?」

 

 鏡越しに目が合う。

 珍しく慌てたような表情を浮かべているスノウ。

 そんなレアな姿を見たら逆に止まれる訳がないだろう。

 

 みち、と少しだけ挿入する。

 抵抗感はかなり強い。

 

「あ゛っ……ぐっ……♡」

 

 しかしキツイと感じるのは入り口だけのようで、挿入を進めていくうちに先の方は未知の快感に包まれていく。

 膣とは違って、複雑な動きはしない。

 ただ根本が強く締め付けられていて、全体に渡ってはやわやわと包み込むような感じになっている。

 不思議な感覚だ。

 膣とは違った気持ちよさがある。

 

「深……ぃ……♡ こんな、奥、ぅ……ま、で……♡」

 

 膣内と違い行き当たるべき壁がないのでスムーズに最後まで挿入することが出来た。

 これはこれでたまにつまむ分には良いのかもしれない。

 ……スノウの方もだいぶ感じてくれているみたいだしな。

 

 挿れただけでもだいぶキているようだが、俺のエロ知識によればアナルは抜く時が一番気持ち良いらしい。

 今はまだ一番奥まで挿れただけ。

 つまりここからが本番という訳だ。

 

 ぐっ、とちんぽを引き抜こうとすると、

 

「っ……待、悠真、止まって……!」

 

 根本の辺りにまるで内側に引き戻されるような抵抗を感じた。

 膣内では引き止められるような動きになることはあるが、アナルだとこんな感じになるのか。

 しかしそれで止まる程俺も優しくはない。

 そのまま、力任せにはならない程度に引き抜いていく。

 

「あ゛っ……くっ……い゛っ……ん゛っ……♡」

 

 歯を食いしばって快楽に耐えているスノウに少し悪戯心が湧いた。

 

 パンッ! 

 

「お゛っ……♡」

 

 肉と肉が勢いよくぶつかり合う音。

 必死に俺のちんぽが抜けていかないように耐えている中、方向転換して一気に奥まで突っ込んだのだ。

 絶世の美女から出たとは思えない声と共に、ぶしっ、と潮を噴くスノウ。

 どうやら俺が思っていたよりもかなり不意打ちになったようだ。

 

 そして今度は先程よりも早めに引き抜いていく。

 

「お゛、ほっ、お゛、お゛、お゛っ♡ あ゛っ……ぐっ……♡」

 

 半分ほど抜いたところで、びくんっ、と強くスノウの身体が痙攣した。

 それと同時に痛いほどにちんぽが締め付けられる。

 どうやら絶頂したようだ。

 

 そして再び突っ込むと、そのタイミングでもびくんと身体が痙攣した。

 もはや何をしてもイってしまうような状態になっているのだろう。

 にやりと笑みを浮かべる。

 ならばドロドロになって貰おうじゃないか。

 

 そして、体感では大体2時間後。

 ようやく俺のちんぽが収まったので、一旦スノウから引いて離れる。

 

「あ……ぁ♡ ん……♡」

 

 途中からまたまんこに戻したり、ぶっかけてみたりと色々してみたが……

 

 やばいな、この惨状……

 潮やら精液でシーツはぐしょぐしょになっているし、半分意識を失っているような状態のまま犯していたようなもので、本当にそういう現場に遭遇したみたいになっている。

 

 これは流石に正気を取り戻した時にスノウに殺されるのではないだろうか。

 そう考えた俺はまずスノウの身体を拭き取るところから証拠隠滅を図ろうとするのだが……

 

 拭いている最中にまた催してきてしまって、二発ほど中出ししたのは内緒だ。

 

 

2.

 

 

 しばらくして意識を取り戻したスノウは俺をじろりと睨みつけたものの、そこから俺の命が奪われるような事態には発展しなかった。

 恐らくだがアナルセックス中のあの無様な姿を自分の中で忘れようとしているのだろう。

 顔は真っ赤だったので覚えているは覚えているはずだ。

 

 ただし、

 

「次許可なくあんなことしたら、あんたの股間は凍って二度と使えなくなると思いなさい」

 

 とのお言葉を頂いた。

 流石にアナルセックスまでしたのは調子に乗りすぎたと思っている。

 反省はしていない。後悔もしていない。

 だって気持ちよかったし。

 

 とは言え、結局セックス三昧だったお陰でほとんど休憩は取れていないようなもの。

 持ち込んだ弁当を食べた後に別の部屋で一眠りして、改めてダンジョン内を探索することにした。

 

 

 そして探索を再開してしばらく。10階への階段を見つける。

 ダンジョンの構造自体は普通の町並みになっているのだが、その階段だけは異質だ。

 周りとの景観も何も考えずにズンとそこに存在しているので目立つ目立つ。

 お陰である程度覚えてさえおけば帰り道には迷わずに済むのだが。

 

「一応言っておくと、10階まではともかく、11階に辿り着いた人は今の所報告されてない」

 

「ふぅん……規模的にも10階かそこらでボスだとは思うわよ。そもそも11階は存在しないのかも」

 

 ちなみに8階でも9階でもモンスターには遭遇しているが、どれも俺が倒している。

 とは言え、会っていないところで人知れずスノウが氷漬けにしている奴もいそうだけど。

 ちなみにそれらの魔石は回収しないのかと聞いたら、

 

「小銭集めはしなくていいでしょ」

 

 とのことだった。

 小銭とは言っても倒したの全部集めれば数十万にはなると思うのだが、スノウからすれば小物から取れる小銭ということは間違いないので黙っておいた。

 俺が倒した奴の魔石はこっそり拾ってるけどね。

 

 魔力が多いというのはかなり重要な要素のようだ。

 今の所攻撃を生身で受けても全く怪我もしないし、少し押された程度にしか感じない。

 そう考えるとやはり一撃で死にかけたあのゴーレムがおかしな事になるのだが、ボスとはあんなものなのだろうか。

 そしてそれよりも強いだろうと名言されているこのダンジョンのボスはどれくらい強いのだろうか。

 

 10階へ辿り着き、もう少しだけ中を歩き回ってから帰ろうという段階になった辺りで、不意にスノウが首をひねった。

 

「モンスターの数が多いわね」

 

「え?」

 

 

「この近くでもう20体くらい倒してるわ」

 

「……俺の知らない間にそんなに」

 

 俺は逆にさっきから全然敵に会わないなと思っていたくらいだ。

 数が多すぎるのでスノウが処理していたというだけか。

 

「モンスターが多いと何かあるのか?」

 

「考えられる可能性は二つよ。一つはモンスター部屋が近くにあるということ」

 

「げっ……」

 

 モンスター部屋。

 ダンジョンにて悪名高いトラップの一種である。

 そこに踏み入った瞬間に大量のモンスターがいる部屋にワープさせられるのだ。

 そして大抵の場合はどうしようもなく死ぬ。

 アメリカで人類史上初ダンジョンを攻略した特殊部隊の男性もそれで命を落としている。

 

 とは言え、部屋全体を凍りつかせる事のできるスノウがいればそれで俺たちがどうこうなる可能性は低そうだ。

 

「もう一つの可能性は?」

 

「雑魚を取り巻きにするボスが近くにいる」

 

 ……そっちの方がかなり重要だな。

 しかし、10年間も攻略されていないダンジョンだ。

 こんな簡単にボスに出会えるとは思えない。

 

 ――と。

 

 すぐ脇にあったコンビニの自動ドアが開いた。

 俺たちに反応してのものではない。

 中から何者かが出てくる。

 

 カラン、コロン、カラン、コロン、と時代錯誤な下駄の音。 

 そして同じく時代を感じさせるボロボロの着物。

 腰には二振りの日本刀が提げられている。

 そしてそいつの顔は、無かった(・・・・)

 

「ボスね」

 

 スノウが冷静に呟く。

 ……だよな。

 明らかに今までの雑魚とは格が違う。

 こいつに比べれば俺が先程まで気分良く倒していたオークやゴブリンは最初の村を出てすぐに遭遇するスライムのようなものだ。

 全く心得のない俺でも雰囲気だけでそこまで感じ取ることが出来る。

 

「……おいおい」

 

 どんな世界観だよ。

 石造りのダンジョンでゴーレムがボスなのは理解出来る。

 新宿にあるダンジョンのボスが首なし侍か?

 

「――下がりなさい!」

 

 ぐい、とスノウに背中を引かれる。

 俺の目の前に氷の盾が出現し、しかしそれを貫通した刀が俺の目の前で止まった。

 首なし侍が一息に距離を詰めてきて、俺を突き刺そうとしていたのだと気づくまでにワンテンポの遅れが生じた。

 

 オークやゴブリンの攻撃は痛くも痒くもなかったが、この刀に斬られれば間違いなく大怪我をする。

 それだけは本能が感じ取った。



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第20話:動く人

1.

 

 

 ビシィッ、という何かが張り詰めるような音と共に、辺り一面が一気に凍り付いた。

 そして辺りを静寂が包み込む。

 

「……え」

 

 何かヤバイ奴みたいな登場の仕方しておいて、今ので終わり?

 いやしかし、ゴーレムもそんな感じで瞬殺されていた。

 元々スノウとあのゴーレムの力の差は相当あったのだ。

 それならば先程の首なし侍も、スノウに手も足も出ないでやられるのも納得行く。

 

「――トドメは間に合いそうにないわね。離れるわよ」

 

「えっ」

 

 そう言ってスノウは反対方向に駆け出す。

 トドメ?

 今ので倒したんじゃないのか?

 

 困惑しつつもスノウについて走ると、後ろの方でキンッ、と短い金属音が鳴る。

 しばらくして、辺りの氷がみじん切りになって崩れ落ちた。

 その中から平然と首なし侍が歩いて出てくる。

 

「い、今の……元の場所にずっといたら」

 

「斬撃に巻き込まれてみじん切りね」

 

 平然と言うスノウ。

 あれだけ氷漬けにされても尚動ける上に、斬られれば終わり。

 あれ、もしかしてこれはやばいのでは?

 

「安心しなさい、別に問題はないわ」

 

「問題ないって言ったって、氷の盾は貫かれたし全身を止めても斬られて脱出されるんだぞ」

 

 氷はあくまでも氷だ。

 強度自体は大したことはないのだろう。

 つまり全身を芯まで一気に凍らせるか、ゴーレムにやったように動きを止めた後に更なる攻撃でトドメを指すしかない。

 

「だかららくしょ……」

 

 と、スノウが何かを思いついたようにそこで言葉を止めた。

 

「いえ、刀が厄介だから、悠真、あの刀をボスから取り上げてちょうだい」

 

「はあ!? 無理に決まってるだろそんなの!?」

 

 どう見ても俺がなんとか出来る相手じゃない。

 最初からスノウが全力で当たるべき相手だろう。

 俺に出来ることなんて強いて言えば囮役くらいだ。

 それも絶対嫌だけどなっ!

 

「あんたは魔力のコントロールが上手すぎるのよ」

 

「……は?」

 

 何を言い出すんだこの娘。

 良いから無理難題を突きつけずに早くあのボスを倒して欲しい。

 一刻も早く。

 

「最初から臨戦態勢に入ってれば刀を奪うくらい簡単よ。というかそれくらい出来ないと困るわ」

 

 そう言い捨てると、とんとん、と軽いステップでスノウは俺から離れていってしまった。

 俺も言えたことじゃないが、スノウも大概人外じみた身体能力なようだ。

 

「それじゃよろしく。本当にやばくなったら助けてあげるわ。しょうがないから」

 

「ばっ――」

 

 俺が文句を言おうとするタイミングで、後ろから気配のようなものを感じて咄嗟にその場にしゃがむ。

 ピュゥン、と真上を刀が通り過ぎていった。

 さぁっと血の気が引く感覚。

 や、やっぱり無理だってこんなの。

 背中に取り付けてあった黒い木刀チックな棒を取り外し、構える。

 が、やはりこいつから刀を奪えるというビジョンは全く浮かんでこない。

 

 探索者になる為には何かしらの武術をやっていると有利になる。

 だが俺はその手のものを一切習ってこなかった。

 興味がなかった訳じゃない。

 単に金がなかったのだ。

 もし俺が少しでも剣道なり柔道なり習っていたのだとしたら勝ち筋を見出すことが出来ていたのだろうか。

 

 そんな脈絡もないことを考えていると、首なし侍は再び動き出した。

 顔がない、つまり表情がない、視線もないということでどこを狙っているのか分からないので、狙われている場所を見てから躱す。

 首、胸元、腹、また首。

 

 どこも斬られれば一発で致命傷になり得る場所だ。

 相手はモンスターなので当然だが、全く容赦ない。

 

 くそ、こっちが手を出す隙がない。

 避けているだけで手一杯だ。

 

 ……あれ?

 待てよ。

 最初はあの首なし侍の動きは見えもしなかった。

 スノウに背中を引かれてなければ、そのまま俺は串刺しになっていただろう。

 しかし今は違う。

 

 見てから(・・・・)避けているのだ。

 明らかに余裕が出来ている。

 

 何故だ。

 

 ――魔力のコントロールが上手すぎる。

 

 スノウはそう言っていた。

 これが今の状況と関係するとするならば、それは何を意味するのか。

 最初から臨戦態勢に入っていれば。

 そうも言っていた。

 要は意識の持ちようの話をしているのか?

 

 あの時は戦う気が全くなかった。

 だから避けるどころか見えもしなかった。

 だが今は避けようとしている。

 だから見えるし、避けられる。

 

 つまり――

 

 刀を奪うつもりで戦えば、奪える……のか?

 

 手に持っていた棒を強く握る。

 すると、途端に首なし侍の動きがスローモーションになったように鮮明に見え始めた。

 先程までよりもより余裕を持って躱すことが出来る。

 

 そうか、そういうことだったのか!

 というかなら最初からそう言って欲しかったなあ!

 

 ぶん、と首なし侍の刀が振られ、俺がそれを躱す。

 その瞬間――

 

「ふんっ!!」

 

 持っていた棒で思い切り首なし侍の手の甲を叩いた。

 メギッ、と嫌な音と共に棒の先端が砕けるが、それと同時にその衝撃で首なし侍は刀を離す。

 

 ――やった!

 

 と思ったその瞬間。

 首なし侍の動きがぴたりと止まった。

 

「……へ?」

 

 何事かと思ってよく見てみたら、凍っている(・・・・・)

 完膚無きまでに。見事に。

 確認するまでもなく、体の芯まで凍り付いている。

 

「ほら、刀を取るくらい簡単だったでしょ?」

 

 と、てくてくとこちらにスノウが歩いてきながら言う。

 いやちょっと待てお前。

 

「最初からこれ(・・)が出来るんならわざわざ刀落とさせる必要なかったよな!?」

 

「ないわね」

 

「開きなおりやがった!」

 

「散々あたしの身体を弄んでくれたお返しよ」

 

 くすっと笑って、べー、と舌を突き出してきた。

 ……野郎覚えていやがれ。

 次は泣いて謝るまで犯してやるからな!!

 

 

 

2.

 

 

 

「たで~ま~」

 

「おけーり」

 

 へとへとになりながら家に帰ってきて、リビングへ入ると知佳と綾乃がなにやらパソコンでカタカタとやっていた。

 動画の編集は昨日終わってるはずだし、何をしているのだろうと首をひねる。

 

「何してるんだ?」

 

「対応。コメントとか、打診とかの」

 

 知佳の短い答え。

 

「……?」

 

 何を言っているのだろう。

 何か副業かな。

 

「今朝動画を投稿したんです」

 

 先程まで画面をにらめっこしていた綾乃がこちらを向いて言う。

 目があった途端、ぼっと顔が赤くなったが。

 あの反応からするに、昨日のことはちゃんと覚えているようだ。

 背後からスノウの視線が突き刺さる感覚。

 もうバレましたね、綾乃に手出したの。

 

「……動画ってあの動画? ダンスはちゃんと削ったんでしょうね、知佳」

 

「もちろんそのまま出した」

 

「なーんーでーよー!」

 

「やめへ」

 

 スノウが知佳のほっぺをぶにぶにと弄ぶ。

 傍から見ている分には微笑ましい光景だが、いつの間にあんなに仲良くなっていたのだろう。

 あと俺も知佳のほっぺぶにぶにしたい。

 あいつなんか体中がもちもちしてるんだよな。

 何故だろう。体脂肪率が高いという訳ではないと思うのだが。

 ロリだからだろうか。

 

「それで? その動画へ寄せられたコメントへの対応ってことか。すぐコメントが来るなんて、流石はスノウだな。100件くらいは来たか?」

 

 冗談半分で大きな数字を言うと、綾乃は困ったように眉根を下げて首を横に振った。

 

「いや、冗談だよ。流石に今朝投稿したのが夕方にそんなコメントが来る訳ないってことは分かって――」

 

「いえ、30万件程来てるんです。コメント」

 

「…………は?」

 

 30万?

 そんな馬鹿な。

 30万って100の3000倍だぞ。

 

「今もどんどん増えてます。更新するごとに1000件単位で」

 

「それって多いの?」

 

 やはりこの手の数字に疎いスノウが両手の中でほっぺをぐにられている知佳に問う。

 あいつずっと成されるがままだな。

 

「明日くらいからバズると思ってたから、今日出る数字としてはかなり多い」

 

「バズ……?」

 

 聞き慣れない単語にスノウが更に首を傾げる中、俺は先程聞いた中で気になる単語をピックアップする。

 

「打診てのは?」

 

「簡単に言えばスポンサー契約。美容品とかが主」

 

「……もう来てんのかよ……」

 

 確かにスノウの容姿ならばそういうのが来てもおかしくない。

 というか、俺がそういうのを担当する人だったらまず打診しようと考えるだろう。

 しかし会社である以上は一度会議に通さなければならない訳で、現状で既にオファーが来ているのは異常な速度とも言える。

 

「ちなみにT○itterだともう60万RTくらいされてる。さっき確認したらファンクラブも出来てた」

 

「冗談みたいな展開の早さだな……再生回数自体はどんなもんなんだ?」

 

「あともう少しで4000万回です。アクセスが多すぎてラグが出てるので、現時点でコメントも再生回数ももっと多いかもしれません。昼頃には一回動画サイトのサーバーがダウンしてますし」

 

 感触にハマったのか、スノウに延々とぶにられている知佳の代わりに綾乃が答える。

 

「……なんてこった」

 

 たった一本の動画を巡って動画サイトのサーバーがダウン?

 そんなアホな話があり得るのか。

 いや、あり得るのだろう。

 一体どんな手を使ったんだ。

 幾らスノウの容姿が目立つとは言え、あまりにも早すぎる。

 

「知り合いの伝手を使って拡散してもらったら思ったよりも早く」

 

「なるほどなぁ……」

 

 最初からブーストはかかっていたのか。

 そしてその内容が俺たちの想定以上に受けた結果こうなったと。

 念の為自分のスマホでもチャンネルを確認してみると、既に登録者数が300万人と表示されている。

 これはこれでラグがありそうなのでもっと増えるだろうと考えると、頭の痛くなってくる数字だな。

 

「駄目だ、キリがない」

 

 パタン、と知佳がノートパソコンを閉じる。

 どうやら対応をやめてしまうようだ。

 それを見た綾乃も困惑しつつも手を止める。

 

「良いのか?」

 

「ちょっと落ち着くまではどのみち無理」

 

 まあ、アホみたいにアクセスが増えてる中で対応するのも流れる川の水をバケツ一つで干上がらせようとしているようなものか。

 

「そっちの収穫は?」

 

「新宿ダンジョン? っていうのを攻略してきたわ」

 

 それを聞いた二人がピシッと固まる。

 まあ……

 そういう反応になるよな。

 これに関してはスノウが常識を知らなさ過ぎる。

 

「……一日で1億再生されるって話よりもよっぽど衝撃的」

 

「……大ニュースになりますよ。半年くらいはその話題でもちきりになるようなレベルの」

 

 知佳と綾乃の反応に、スノウはこちらを見た。

 

「そうなの?」

 

「その通り」

 

 あまりにも簡単に――安息地での時間を含めなければほんの3時間ほどで攻略してしまったからわかりにくいが、本来ならもっと時間がかかるしボスに出会ったら即死だろう。

 接敵前にモンスターを凍りつかせることの出来るスノウがいたお陰でほとんど散歩だったが。

 普通ならそんなことは考えられない。

 

「ということで知佳、俺はダンジョン管理局に連絡するからそっちは任せた」

 

「あい。と言っても今は特にやることないけど」

 

 両頬をもちもちされたままの知佳がいつも通りの眠そうな目で返事する。

 マスコットみたいだ。

 

 

3.

 

 

 ワンコールで柳枝(やなぎ)さんは電話に出た。

 

『柳枝だ。どうした、皆城(みなしろ)くん』

 

「驚かないで聞いてください。新宿ダンジョンを攻略しました」

 

『…………』

 

 電話向こうで息を飲んだのが伝わる。

 たっぷりと10秒ほども沈黙を挟んだ後、

 

『……やはり君たちだったか』

 

 と返ってきた。

 あれ、もう察知してるのか。

 流石だな。

 

『実は一時間ほど前、新宿ダンジョンにて全くモンスターが沸かなくなったという報告を受けている。それも数件同時にだ。もしやとは思っていたが……』

 

「そういうことです。言っておきますが、俺はほとんど何もしてません。全部スノウが悪いんです」

 

『いや、別に悪いことではない……ではないのだが、一大事だぞ』

 

「分かってます」

 

『件の動画で公表するのか?』

 

「もう見ました?」

 

『社内ではその話題でもちきりだ。しかしこれが知れたらそちらの話題が上回るだろうな』

 

 でしょうね。

 ダンジョン管理局だし。

 しかも結構近場にあるダンジョンが攻略されたともなればそりゃそうなるだろう。

 

「多分、明日か明後日かに動画で出すことになると思います」

 

『……そうか。まさか会社として始動し始めて二日目でダンジョンを攻略してくるとはな……魔石はどうなった?』

 

「入手しましたよ。前回のものの2倍くらい大きいです」

 

『ダンジョンの規模から考えてもそれくらいだろう……とんでもないことだな。前回のものも合わせて、君達自身でこちらまで持ってきて貰っても構わないだろうか。綾乃君に持たせるにはあまりに高額過ぎるので、危険が伴う可能性があるのでな。査定額はその時に伝える』

 

「分かりました。では、明日の午前中に持っていきます」

 

『分かった。空けておこう』

 

 ぷつ、と電話を切る。

 流石に柳枝さんはスノウのことを知っていたということもあってそこまで驚いてなかったな。

 やはり歴戦の猛者の余裕というものもあるのだろう。

 さて、報告も簡単に済んだし今日は少し夕食を豪華なものにでもしようか。

 

 出前寿司のサイトを開きながら、俺はリビングへ戻るのだった。

 

 

 

 

4.side柳枝

 

 

 携帯電話を置いて、柳枝は溜め息を吐く。

 今すぐに暴れだして全てを破壊したい気分だった。

 柳枝 利光(としみつ)という個人にはそれが可能なだけの力がある。

 そんな柳枝を持ってしても、新宿ダンジョンを攻略せよと言われれば首を横に振るだろう。

 自分と同じだけの実力を持つ者を一個大隊の規模で集め、昼夜問わずに攻略し続ければあるいは可能かもしれない。

 しかしそもそも柳枝程の実力を持つ者はそうはいない上に、そこまでの戦力を投入したとしても半数以上は犠牲になる。

 そんなレベルのダンジョンだ。

 それをたったの二人で、それも恐らく数時間で攻略してきたと言われる。

 

 この10年間、最前線でダンジョンのことに関わってきたという自負は崩れ去ろうとしていた。

 

 悠真の言う通り、柳枝は歴戦の猛者だ。

 しかしそんな彼でもこんな状況は想定すらしていなかった。

 

 自分の理解の及ばぬ何かが起きようとしているのかもしれない。

 そう感じる事しか出来ないのだ。

 

「全く……何故強者というものは弱者の気持ちが理解出来ないのか」

 

 柳枝は頭を抱える。

 もう少し歩幅を合わせて欲しいものだと切に願う。

 

 

「どうした、珍しく荒れているじゃないか、柳枝」

 

 そこへ凛々しいながらもフレンドリーな様子の、女性の声がかけられる。

 その声にぱっと顔を上げた彼は、渋面を浮かべた。

 

「……ようやく帰ってきたか、ダンジョン狂いの小娘が」

 

「私はもう25だぞ? 小娘という歳でもあるまい」

 

 スレンダーな体躯だ。

 黒髪をポニーテールで一つに括り、目つきは鋭い。

 しかし容姿は抜群に整っており、そこらのモデルや女優にも引けを取らないだろう。

 ダンジョン帰りなのだろう、背中には一振りの刀が携えられている。

 

「……15の時から知っているんだ。小娘以外の何者でもない」

 

 10年前――。

 突如現れたダンジョンを攻略する為に集められた精鋭の中で唯一の未成年。

 そして随一の実力を持っていた少女。

 実質当時攻略したダンジョンのボスは彼女が一人で攻略したようなものであり、今もなお伝説として語り継がれている。

 

 本人の気質により目立つのが嫌いだということで世間には情報が徹底的に伏せられているが、今、柳枝の目の前に立つこの女性――

 

 伊敷(いしき) 未菜(みな)こそが、日本で初めてダンジョンを攻略し、その後ダンジョン管理局を設立した豪傑その人であった。

 

「それで? 貴方が荒れているということはよほど楽しいことがあったと見るが」

 

「……喜べ、お前が興味を持っていた化け物(・・・)たちが明日ここを訪れるぞ」

 

 それを聞いた未菜は端正な顔に笑みを浮かべた。

 

「そうか、それは楽しみなことだ」



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第21話:第一人者

1.

 

 

 翌日ダンジョン管理局へ赴くと、以前柳枝(やなぎ)さんと話し合いをした部屋に通された。

 部屋に入った瞬間、なにやらスノウが立ち止まって辺りを見回す。

 

「……どうした?」

 

「妙な気配を感じるわね」

 

「……? 俺は何も感じないけど」

 

 しかしスノウは確実に何かを感じ取っているようで、普段からどちらかと言えばキツめの顔立ちではあるのだが、その上に更に険しい表情を浮かべていた。

 なんなら昨日ダンジョンで首なし侍に遭遇した時よりも警戒しているように感じる。

 

「姿を現さないのなら部屋ごと……いえ、この建物ごと凍らせてもいいわよ」

 

 何者かに向かって警告を発したそのタイミングで――

 

 

「それは困るな」

 

 と、どこからともなく声がしたかと思うと、いつの間にか(・・・・・・)女性がソファに座っていた。

 パンツスタイルのスーツを着用していて、長い脚を組んでいるのだがそれが惚れ惚れしてしまう程にビシッと決まっている。

 長い黒髪をポニーテールに纏め、スノウと近いタイプの怜悧な美人と言うべき容姿。

 目つきはキリッとしていて、スタイルも良い。

 年齢は20代……雰囲気からして俺よりは年上だと思うのだが、見た目はかなり若々しい。

 それに何より――隙がない。

 ように感じる。

 

「すまない、脅かすつもりはなかった。殺気を収めてくれ、スノウホワイトさん」

 

 女性はフッと笑って何も持っていない両の掌をこちらに見せるようにした。

 敵意はない、ということなのだろうが。

 そうしている姿でさえ、とても無防備には見えない。

 例えるならば、鞘に収まってはいるものの、その内実は業物の刀だとでも言うような。

 

「只者じゃないわね。スキル所有者(スキルホルダー)なのは間違いないみたいだけど」

 

 スノウの方は明らかに警戒を解いていない。

 まああんな現れ方をすれば仕方のないことか。

 それと……スキルホルダーって言ったか?

 つまり俺と同じ……?

 

「私のスキルは<気配遮断>だ。それで隠れていたのさ。脅かすつもりはなかったが、驚かせてみたくなってね」

 

 黒髪の女性は肩をすくめる。

 一挙手一投足がいちいち様になっている。

 女性でありながら女性にモテるタイプとはこういう人の事を言うのだろう。

 

「趣味が良いとは言えないわね」

 

「君たちと事を構えるつもりはない。全面的に謝罪しよう。興味はあるが、自分の会社(・・・・・)の利益にならないことは流石にしないさ」

 

 そう言って女性はあっさり頭を下げた。

 その姿ですらやはり様になっている……というのは置いといて。

 今、自分の会社(・・・・・)と言ったか?

 

「私は伊敷(いしき) 未菜(みな)。未熟者ながら、ダンジョン管理局のトップなどと言われている」

 

「……マジか」

 

 ダンジョン管理局トップ。

 つまりそれは10年前、日本で初めてダンジョンを攻略した伝説の存在とでも言うべき人ではないか。

 あまりにも情報が表に出てこないのでもしかしたら実在しないのではないかとさえ言われていたのに、まさか目の前に出てくるなんて。

 いや、そういえば柳枝さんが言っていたな。

 トップが俺たちに興味を持っている、と。

 それで姿を現したのか。

 偽物の可能性はもちろんある。

 だが、なんというか、この人の存在感が本物だと物語っていた。

 

「知ってる人なの?」

 

「いいや、知らないけど知ってる人だ……けど、とりあえず悪人ではない、と思う」

 

「そう」

 

 そう言うとあっさりスノウは警戒を解いた。

 或いは敵意のなさ自体は元々見抜いていたのかもしれないが。

 

皆城(みなしろ) 悠真(ゆうま)君……だったかな?」

 

「え、あっ、はい」

 

 伝説の存在――その上、俺が憧れていた(・・・・・)人でもある。

 そんな人に声をかけられて返事が少し上擦ってしまった。

 スノウがジト目でこちらを見るが、それすらあまり意識出来ないほど緊張してしまう。

 

「柳枝から話は聞いている。<召喚術>のスキルホルダーで、途轍もない魔力を秘めていると」

 

「きょ、恐縮です」

 

「確かに凄まじい魔力だ。それに制御も完璧と言って差し支えない。意識的に力を使うことが出来る所まで成長すれば、君に比肩し得る人間はほとんどいないだろう」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 褒められているのかなんなのかよく分からないがとりあえずお礼を言っておく。

 や、やばい。俺ちゃんと寝癖直してきたっけ。

 変なふうに見えていないだろうか。

 普段俺ってどんな表情してたっけ?

 

 等と内心かなりテンパっていると、脇腹にビシッとスノウの肘鉄が入った。

 

「なにデレデレしてんのよ」

 

「い、いや、デレデレはしてないだろ!?」

 

 そんな俺たちの様子を見て伊敷さんはくすっと笑う。

 

「そしてスノウホワイトさん。氷の精霊だと聞いているが」

 

「お望みなら見せてあげましょうか?」

 

 な、何故ちょっと好戦的なんだ。スノウ。

 落ち着け、どうどう。

 

「遠慮するよ。興味はあるが、この時期に暖房を使う訳にもいかないのでな。実力の方は疑っていないよ。魔力の総量もそうだが、力を使っている私に気づく時点で尋常ではない」

 

「そう。あんたも中々のものね、未菜(みな)。あたしには及ばないけど」

 

「精進するよ」

 

 スノウの挑発じみた答えも伊敷さんは軽く受け流す。

 頼むから喧嘩しないでくれ。

 かたやまだダンジョンの攻略法や対策法が確立していない時期にダンジョンを攻略してしまった伝説の存在。

 かたや一瞬でボスを殲滅するこの出来る精霊。

 そんなの同士がこんなところで喧嘩になったら、まず俺の命がない。

 早く来てくれないかなあ、柳枝さん。

 

 

2.

 

 

 結局柳枝さんが姿を現したのは5分程経った後だった。

 

「すまない、緊急の要件があってな……って、どうしたことだ、この雰囲気は」

 

 スノウが伊敷さんにガンを飛ばし、当の伊敷さんはそれに意に介さずに微小を浮かべながら俺たちを見ている。

 そして俺は小さく萎縮している。

 

「柳枝さん! 魔石持ってきました、魔石!」

 

「あ、ああ……そうだな、話を始めよう」

 

 場の雰囲気を払拭するように俺が敢えて大きな声を出すと、俺の頼むからなんとかしてくれオーラが伝わったのか、すぐに本題に入ってくれるようだった。

 

「昨日、新宿ダンジョンを攻略したとのことだが……その魔石は?」

 

「これよ」

 

 例のごとくスノウが何もない空間から掌に魔石を出す。

 なんでちょっとふよふよ浮いてるのかは分からないけど。

 俺の掌くらいのサイズはあるのでかなり大きい。

 

「ううむ……かなりのサイズだな。今まで発見された中での最大サイズと比較しても遜色ない」

 

 柳枝さんが感嘆するように声を漏らす。

 ダンジョン関連の資料はあれこれ漁ったことのある俺もこれ程のサイズはちょっと記憶には少ない。

 

「君たちはこれを二人で取ってきたという訳か。素晴らしいな」

 

 先程まであまり感情らしい感情を見せてこなかった伊敷さんが乗り出して魔石を眺めている。

 なんだか意外な反応だ。

 こんな雰囲気で結構お金とか好きだったりするのだろうか。

 

「しかももうひとつあるのだろう? 先日発見されたダンジョン跡のものが」

 

「ええ」

 

 ふっ、と音もなくもう一つの魔石が空中に浮かび上がる。

 新宿ダンジョンのものの半分程度しかない大きさとは言え、推定数十億の魔石だ。

 改めて考えると、そんなものがそこに存在しているというだけで息の詰まりそうな価値である。

 

「これも君たち二人で?」

 

「スノウ一人みたいなものです……新宿の方もですけど」

 

 最初のダンジョンに関しては俺は死にかけただけだし、新宿も落とす必要のない刀を落としただけである。

 俺がいなくともスノウはあっさりボスを倒していただろう。

 

「これだけの大きさの魔石を落とす人型のボス相手に傷一つ負わずに武器を奪ったのよ、悠真は」

 

 ふふん、と何故かスノウは自慢げに言った。

 いやだからそれって俺がやらなくとも君一人でなんとかなったよね?

 

「……なんと」

 

「へえ……」

 

 それを聞いた柳枝さんは俺を驚いたように見て、伊敷さんは口元を手で隠すようにして俺を眺めた。

 

 ……薄っすらとだが、笑っているように見えるのは気の所為だろうか。

 

「面白い」

 

 伊敷さんが呟く。

 

「伊敷」

 

 間髪入れずに柳枝さんが伊敷さんを嗜めるように名を呼んだ。

 え……?

 なに?

 今のやり取り。

 

「私ももう大人だぞ。10年前とは違う。分別くらいあるさ」

 

「そうあって欲しいものだがな」

 

 どういう訳か僅かに腰を浮かせていた柳枝さんが改めてソファに深く座り直した。

 心なしか疲れているようにも見える。

 なんだったんだろう……

 

「……それで、2つ目の魔石については、君たちの住まいの提供にかかった費用から天引きして22億程支払おうと思う」

 

「いや、2つ目に関しては色々やって貰ってるんでトントンだって話になりませんでしたっけ?」

 

「そういう事にはなっていたが、君たちはこちらの想定以上に知名度が上がりそうなんでな。体外的な問題もある。それに君たちにこんなことを言うのはどうかと思うが、正直我々の規模からすれば大した金額でもない。受け取ってくれた方が助かる」

 

 後々のトラブル回避というかやつか。

 袖の下を疑われるよりはきっちりしておいた方が楽という話なのだろう。

 ならば受け取らない手はない。

 俺は黙って頷く。

 

「そして2つ目についてだが、一度こちらで預かって本格的に査定しても良いだろうか。流石にこのサイズだとすぐには価値を決められない」

 

「はい、それで問題ないです……よな?」

 

 スノウに確認すると、こくりと頷かれた。

 

「それから、君たちの情報についてだが……既にマスコミが新宿ダンジョンのことを嗅ぎつけて我々の元へ連絡をよこしている。どれくらい伏せて欲しい」

 

「……もしかして緊急の要件って」

 

「そういうことになるな」

 

 じゃあ遅くなったの俺たちのせいなのか。

 スノウと伊敷さんがバチバチやっている中、一人俺を待たせた柳枝さんを密かに恨まなかったと言えば嘘になるのでそれは取り消そう。

 

「スノウが精霊だという辺りだけ伏せて貰えれば、後はなんとでも」

 

 これは昨日のうちに話し合ったことだ。

 これを言い出したのはスノウ自身。

 いずれ明かすことは来るかもしれないが、少なくとも今はその時期ではないとのことだった。

 ちなみに既に綾乃はスノウが精霊なのを知っている。

 もちろん口外は禁止してある。

 

「良いのか?」

 

「所在地なんかは元々伏せてますから、その辺りも考慮して貰えれば。マスコミがこちらに直接押しかけるってことはなるべく避けたいので……それも時間の問題だとは思いますけど」

 

 ぶっちゃけスノウが目立ちすぎる。

 いつまでも隠すのは難しいだろう。

 それまでに防犯や警備のことをなんとかしないといけないな。

 

「分かった。ではそのようにしよう」

 

 その後も今後の方針について少し話し合い、俺たちはダンジョン管理局を去った。

 最後まで伊敷さんがこちらを意味深に見つめていたのは少し気になったが……

 まあ、害意はなさそうなので襲いかかってくるとかはない。

 はずだと思いたい。

 

 ……サイン貰っておけば良かったなあ。

 存在を公表していないからそういうのもないのかな。



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第22話:思わぬ嫉妬

1.

 

 

「もっと硬いのがあればいいんだけどな」

 

 新宿ダンジョンで使っていた武器は先端が折れ、持ち手も握力でぐにゃぐにゃになってしまっていたので新たに武器用の棒を見に来たのだが。

 

「……」

 

 むすっと黙り込んでいるスノウ。

 ……先程ダンジョン管理局を出た後から、ずっと彼女の機嫌が悪い。

 あそこへ行く度に機嫌悪くなってないかなこの子。

 まだ二回しか行ってないけど。

 原因は分かっている。

 伊敷(いしき) 未菜(みな)

 ダンジョン管理局のトップにして日本初のダンジョン攻略者。

 飄々とした態度でスノウをあしらっているように見えたが、最初の悪戯|(?)こそあれどもスノウがあれだけ警戒していた意味もよく分からない。

 少なくとも悪人ではないと思うのだが……

 

「なあスノウ、伊敷さんの何がそんなに気に入らないんだ?」

 

「……別にそういうんじゃないわよ」

 

「嘘つけ」

 

 スノウはじとっと俺を睨む。

 

「あんた本当に気づかなかったの?」

 

「気づかなかったって……何が?」

 

「あれは戦闘狂よ。昔の知り合いによく似たタイプがいたわ。いつ襲いかかってくるか分かったものじゃない」

 

 ……戦闘狂て。

 漫画の世界じゃないんだから。

 

「それでずっと警戒を?」

 

 流石にやりすぎではないかと思う反面、思い当たる節もあった。

 確かに、柳枝(やなぎ)さんがなんとなく挙動不審な気はしていた。

 スノウと同じ理由で気を揉んでいたのだろうか。

 

「<気配遮断>のスキルまで持ってるのよ。警戒しない方がおかしいわ」

 

 そういうものなのか。

 俺としてはダンジョン管理局のトップでもあり、自分が憧れていた存在でもあるということでなんとなくそういう対象から離して置いていたが、たしかに何も知らない人が見たら――或いは柳枝さんのようによく知っている人からしたら警戒して当然だったのかもしれない。

 

「それなのにあんたはへらへらして」

 

「それは正直すまんかった」

 

 事実舞い上がっていたとは思う。

 しかしそれも仕方のないことではないだろうか。

 日本国民なら誰もが存在を知っていながら、正体を知らない――いわばスーパーヒーローのような英雄なのだ。

 それを知れたら誰だってああいう反応になると思う。

 

「まったく……そもそもデレデレしすぎなのよ、あんな正体不明の奴に」

 

「悪かったって」

 

「ふん」

 

 全然機嫌を直してくれる気配がない。

 とりあえず以前と同じものではあるが新しい武器だけ購入して店を出る。

 さて、歩いて帰るかタクシーを呼ぶか……

 

 

「おい、あれってあの動画の子じゃないか?」

「間違いないだろ、あの白い髪」

 

 

 と、後ろの方から若い男二人の話し声が聞こえた。

 ……やべ。

 十分すぎるくらいに話題になっていたのは分かっていたのだから、変装くらいはさせておくべきだったか。

 面倒な事になる前に、スノウの手を取って振り返らずに走り出す。

 

「え、ちょっと、悠真!?」

 

 

 

2.

 

 

 後ろから割と追っかけてくる気配がしたので、大体300メートルくらい走っただろうか。

 途中路地裏に入ったりもしてジグサグと逃げたせいでここがどこなのか全く分からなくなってしまった。

 

「な、なんなのよ急に」

 

 ただ困惑した様子のスノウ。

 俺もそうだが、300メートル走ったくらいじゃ全然疲れないようだ。

 

「あんなところで囲まれたら俺たちじゃどうしようもないぞ」

 

 騒ぎになればただ面倒なだけだ。

 すぐにタクシーを呼んでおけば良かったか。

 

 それともやはり変装くらいはして貰うべきだったか。

 

「いつまで手握ってるのよ」

 

「ん、あ、悪い」

 

 逃げてきたまま考え事をしていたせいで忘れていた。

 すぐに離そうとすると、しかしスノウの方からぎゅっと握り返してきて離れようとしない。

 

「……どうした?」

 

「い、いいことを思いついたわ」

 

 恥ずかしいのか怒っているのかよく分からない表情でスノウが俺の身体を何かのビルの外壁に押し付ける。

 

「な、なんでしょう」

 

 これから何が起きるのか全く分からない俺はもう完全に無抵抗である。

 下手に抵抗して痛いことされたくないという防衛本能が働いている。

 

「あの女に会ってもデレデレしないようにすればいいのよ」

 

「え……」

 

 まだその話?

 と思いきや、スノウは自分から顔を近づけ――キスをしてきた。

 突然のことに思考停止しかけるが、すぐに我に返る。

 いや我に返ったところで何が起きてるかは全然理解出来ないが。

 ほんの10メートル、通路側に抜ければ人が大量に行き来している。

 なにせここは大都会のど真ん中だ。

 車の音が、人々の歩く音が、話し声が。

 どうしても耳に、視界に入る。

 

 しかし拒絶することは出来ない。

 そんなこと出来る訳があるだろうか。

 

 自分の身体が通路側から目隠しになるよう、スノウの肩を掴んで、互いの位置を入れ替える。

 

「誘ってきたのはそっちだからな」

 

「盛っているのはそっちでしょ?」

 

 とことん素直じゃない――というか真意は未だに読めていないが。

 スノウ自身も期待するような表情を浮かべている辺り、とにかくここでシようとしていることは間違いないようだ。

 

「んっ……」

 

 もう一度口吻をすると、スノウから舌を入れてきた。

 すぐそこに人がいるということを理解しているのだろうか。

 それとも他の要因があるのだろうか。

 いつもよりも情熱的な気がする。

 

 ほっそりとした手が俺のズボン越しに股間に触れる。

 

「もう大きくなってるじゃない」

 

 これだけの美人とこれから行為をするというキスをして大きくならない男はインポか聖人かのどちらかだろう。

 

「……積極的だな」

 

アレ(・・)だけしたんだから今更でしょ」

 

 スノウが若干むくれたように言う。

 アレとはダンジョンにあった安息地――ラブホでの事だろう。

 確かにあの時はアレだけした、と言っても良い程互いに淫れていたか。

 元々ワンピースがお気に入りなのか、ワンピース調の服を着ることの多いスノウ。当然のように今日もそうなのだが、その裾をまくりあげて花の柄があしらわれた白いショーツを見せつけてくる。

 

「ほら、舐めなさい」

 

「えっ」

 

「はやく」

 

「……分かったよ」

 

 たくし上げられた裾の下から潜り込むようにしゃがんで、まずは指でクロッチ部分に触れてみる。

 そこは既に微かに湿り気を帯びていた。

 人のこと言えないじゃん。

 

「んっ……誰が触っていいと言ったのかしら」

 

「はい?」

 

「舐めろ、と言ったのよ」

 

 スノウの手が俺の頭を掴み、自らの股間に押し付ける。

 うわ、なんかすげえいい匂いする。

 多分柔軟剤とかの匂いなんだろうけど。

 俺のと同じやつ使ってるはずなのに、なんでここまで差が出るのだろう。

 女体の神秘である。

 

 本来なら屈辱的なことをされているのだろうが、何故かスノウは怒っている(?)っぽいしおとなしく従っておこうとショーツの上から舌でなぞりあげる。

 ……けどいつかやり返すからな。

 絶対。

 

「あっ……♡ なかなか上手じゃない……っ」

 

 ぎゅ、と更に強く押し付けられる。

 もはややけくそ気味にぺろぺろと舐め続けていると、やがて愛液なのか唾液なのかもよく分からない程に口の周りがべとべとになってしまった。

 

「もう十分よ」

 

 自分でやらせておいて我慢出来なくなったのか、俺を立ち上がらせてズボンのファスナーを下げられる。

 既に痛い程勃起していたそれをスノウが取り出し、すぐに挿入させられた。

 立ったままの体勢で、抱きつかれるようにして奥へ奥へと入っていく。

 

「いい、動いちゃ駄目よ。これは躾なんだから」

 

 そう言いながら、俺の手や脚が氷で固定された。

 ……普通そこまでする?

 氷のはずなのに何故か冷たくはないという不思議な感覚である。

 

「躾って……」

 

 伊敷さんにデレデレしていたという謂れのな……くもない事へ対する躾ということなのだろう。

 しかしここで抵抗してそれじゃあお預けですとなる方が辛いので、俺はおとなしく頷いておく。

 今は大人しくしていればいいのだ。

 しかし次する時に覚えていろ。

 

「んっ……はっ……」

 

 耳元で吐息を吐きながらスノウが動き出す。

 最近分かったことなのだが、俺は耳が弱いんだ。

 スノウに関しては恐らく無意識なのだろうが、こういうシンプルなのが一番効く。

 こいつは容姿に関してもカンストしているが、声に関しても声優もかくやという程透き通った声質だからな。

 これで演技力があればテレビデビューでも勧めるところだ。

 

 しかし、いつもは自分の好きなように動いているので当然気持ち良いのだが、スノウが主導で動いている今もそれに負けないくらいやはり気持ちが良い。

 外な上に真っ昼間、それもすぐ10メートルも離れたところには人々が往来しているという状況。

 これで興奮しないという方が嘘だろう。

 そしてそれはスノウ自身も同じようで、既に息は荒くなり始めていた。

 

「くっ……はっ……♡ んぁ……」

 

 ぐっちゅ、ぐっちゅ、という水音が必要以上に周囲に響いているような錯覚さえ覚える。

 しばらくして、あるタイミングでスノウが軽く身震いする。

 

「……っ!」

 

 どうやら絶頂したようだ。

 そしてあろうことか、ズルリと膣内からちんぽを引き抜いて、そのまま離れてしまった。

 

「なっ……」

 

「なに捨てられそうな子犬のような表情(かお)をしてるの?」

 

「いや、俺まだいってないだろ」

 

「いつあたしがあんたが射精するまで続けると言ったのかしら」

 

 ショーツも戻し、すっかり元の状態に戻ったスノウが手足を拘束されたままの俺をにやりと笑って見る。

 嘘だろ……?

 ここまで来て?

 

「さあ、行くわよ。あんたでも壊せるくらいの拘束にしてあるから早くそれ外して」

 

 そう言ってスノウは歩き始める。

 言われてから意識的に力を込めると、なるほど確かに簡単に拘束は溶けた。

 そして俺はスノウの肩を少し乱暴に掴む。

 

「待てって」

 

「知佳と関係を持ったことも、綾乃と関係を持ったことも咎めないわ。あの子たちは明確に味方だもの」

 

 うっ……やっぱり綾乃とのこともバレテーラ。

 思わぬところからアッパーを食らったような形になる俺が怯んでいると、

 

「でもあの伊敷って女は駄目よ。少なくともまだ」

 

「ま、まだって別に俺は」

 

 彼女とそういう関係になろうとは思ってない。

 

「どうかしら。ああいうタイプって強い男が好きだったりするから、誘惑されてあっさり引き込まれたりして」

 

「それは……」

 

 絶対無いとは言い切れない悲しき男の性よ。

 仕方がないだろう。

 伊敷さんは伊敷さんで尋常じゃない程の美人だし。

 容姿の傾向で言えばスノウ寄りの近寄りがたい感じの美人だが、どちらかと言えばあちらの方が気さくな気はする。

 

「失礼なこと考えてるわね」

 

「ソノヨウナコトハアリマセンガ」

 

 完全に図星を突かれたので思わず棒読みになってしまった。

 

「今夜までに反省出来てたら、それ(・・)

 

 俺の元気な股間をちらりと見る。

 

「なんとかしてあげるわ。それじゃ、そういうことで」

 

 そしてにっこりと思わず見惚れてしまうような笑みを浮かべると、スノウは再び歩き出すのだった。

 

 ……。

 

 ……今夜、ね。

 よく分かった。

 男に対してのお預けがどのような結果を招くかその身体に教え込んでやろう。



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第23話:反撃の伏線

1.

 

 

「……防犯カメラってこんな種類あるのか」

 

 近所にあるホームセンターの防犯カメラコーナー(まずそんなコーナーがあること自体が割とびっくりだが)に来ていた俺は思わずそう呟いた。

 ダンジョンが出現して、世の中が落ち着くまでは犯罪率が増加していたという話があるのでその時以来防犯カメラを付けるのが流行っていたとは聞いたことがあるが。

 未だに専用のコーナーを設けられる程の根強い人気|(?)があるとは驚きだ。

 

「あるだけでもある程度の抑止力にはなるので、そこまで拘らなくてもいいんですけどね」

 

 一緒に買い物に来ている綾乃があれこれカメラを見ながらそんなことを言う。

 何故綾乃なのかと言うと、スノウだと目立ちすぎるし知佳は根っからの出不精である。

 その上、スノウと知佳は次の動画を撮るらしいので余り物同士で来たという訳だ。

 

「そういえば、動画撮影用のカメラはあるんだな」

 

「スマホのカメラで撮ってるらしいですよ。そのうちちゃんとしたのを買いたいと言ってましたけど」

 

「へえ……」

 

 最近のスマホのカメラって凄いらしいからなあ。

 俺はあまり興味ないし自分で写真を撮ったり動画を撮ったりすることはほとんどないのであまり実感が沸かないが。

 

「なんか見た目ごついの買っとけばいいか? 正直、スノウ程目立っちゃうと防犯カメラ程度で大した効果が出るとも思えないけどな」

 

「まあ……それは否定出来ませんね」

 

 スノウと共にダンジョン管理局から帰ってきて、知佳と綾乃の防犯や警備の話を振るととりあえず出来ることから始めようということで防犯カメラを買いに来たのだ。

 いっそ警備会社と契約すれば良いのではないかと思ったのだが、そこはスノウに何か考えがあるらしく、

 

「あたしに任せておきなさい」

 

 とのことだったのでとりあえず任せることにした。

 あそこまで自信満々に言うということはそれなりの考えがあるのだろう。多分。

 

 にしても、スノウ。

 さっきはよくもコケにしてくれたな。

 こっちは怒りではなく性欲で超サイ○人にでもなれそうな気分だ。

 中途半端なところで止められた挙げ句、帰った後にひとりで処理する暇もなく買い物にきているお陰でずっとムラムラしている。

 流石にそこらでサクッと処理しようなんて気にはなれないので今は我慢するが、普通にスノウを襲うだけでは絶対に物足らないしそれで済ませる気はない。

 とことんやってやるさ。

 

「あの……どうしました?」

 

 俺が黙り込んでいたのを不審に思ったのだろう、綾乃が心配そうに覗き込んでくる。

 その際にどたぷん、と規格外の擬音を鳴らしそうな程柔らかな胸が視界に入り、慌てて目を逸らす。

 今の俺はそういうちょっとした視覚的な刺激にも弱そうだ。

 

「腹痛くてさ。ちょっとトイレ行ってくるから適当にカメラ選んでおいてくれないか」

 

「あ、はい。分かりました」

 

 綾乃にトイレに行くと告げてその場を離れる。

 別にトイレに行きたかった訳ではない。

 適当な理由をつけて綾乃と別行動したかっただけだ。

 このホームセンターはドラッグストアが二階に併設されている。

 さっと行って目当てのものを購入するだけならば怪しまれることもないだろう。

 

 ドラッグストアに入って、心当たりのあるコーナーの辺りをうろついているとすぐにそれは見つけられた。

 今まで意識とかしたことなかったから気づかなかったが、意外と堂々と置いてあるんだな、精力剤って。

 

 マムシ・スッポンエキス……

 バイアグラって売ってないんだな。

 その場で調べてみたが、医者にかからないと貰えないらしい。

 流石にそこまでするのは手間なので、今回はマムシとスッポンくんの効能を信じることにしよう。

 なに、別に直接効果がでなくても気休め程度になればいい。プラシーボ効果というやつだ。多分。

 しかし、高いな。

 このマカのドリンクなんて50mlで1000円するぞ。

 しかし高いということはよく効くということだ。

 俺はそう信じている。

 結局一番高価だったマカのドリンクを購入して、ポケットに忍ばせて綾乃の元へ戻るのだった。

 

 

2.

 

 

 防犯カメラを10個程購入し(家が規格外の広さなのでこれでも少ないかもしれないくらいだ)、自宅兼事務所へ戻ると知佳がノートパソコンで作業をし、スノウがそれを覗き見ているという場面だった。

 

「編集中か?」

 

「いえす。今度の動画からは日本語・英語だけでなく中国語・ポルトガル語の字幕も入れる」

 

「……話せるのか?」

 

「それはのー。有志が何人もいるからその人達にやってもらう」

 

「なるほど」

 

 ちなみに、先程ダンジョン管理局から戻った際にちらっと確認したが既に再生回数は昨日より一桁増えていた。

 しかも最後のダンスだけ切り抜いて動画をアップした人がいるらしく、その再生回数も既に1億回を突破しそうな勢いである。

 正直訳が分からない勢いで広まりつつあるな。

 こりゃ本当に何かしらの対策をしなければ、俺やスノウはともかく知佳や綾乃に危険が及ぶことになりそうだな。

 

「それで、スノウの方の防犯対策ってのはどんなのなんだ?」

 

「これよ」

 

 そう言ってスノウが立ち上がって大体腰のあたりに手をかざすと、そこには氷の狼の像が出来た。

 ……かなり出来は良いが、これが何の役に立つのだろうと思っていたら狼の氷像が不意に動き出してその場に伏せをした。

 

「うそ……」

 

 綾乃が目を丸くして驚いている。

 俺もスノウのやることならそんじょそこらのことは驚かないと思っていたが、まさか氷で……生物? を作り出すことさえ出来るとは。

 

「実際に生きてる訳じゃないわ。今のは作り出す時に伏せをしろという命令を組み込んで作っただけ。侵入者や不審者を襲うという命令をしておけば――」

 

「……氷の番犬の出来上がりという訳か」

 

 こいつを何匹か作って家の各所に配置しておけば安心という事か?

 

「それとこの子が侵入者を感知したらダンジョンの中にいたとしてもあたしにも分かるようになってる。人間の警備を雇うよりも強いし、有能よ」

 

「すごいな」

 

 流石は精霊と言うべきか。

 こんなものまであっさりと作り出せてしまうとは。

 俺が素直に褒めると、ふふん、とスノウは得意そうに笑った。

 可愛いが、それとあのお預け事件とは別だ。

 容赦はしないからな。

 どうやらスノウの方はあれで俺を躾けることが出来たと思い込んでいるらしいので今までとほとんど同じ態度で接してきているのだが、実際は違う。

 男はあのようなやり方で躾けることなど出来ない。

 むしろ、今しがた作り出した狼のようになるだけだ。

 

「ちなみにこの氷像作るの動画にした」

 

「そうなのか? てっきりダンジョンを攻略したって話を動画にするんだと思ってたけど」

 

「しようと思ってたけど悠真が魔石を置いてきちゃうから」

 

「あ」

 

 確かに魔石があれば何よりの証拠となっていたか。

 あんな不思議な光り方をする石なんてそうそうないし、工作を疑う者も現れるだろうが、ダンジョン管理局のお墨付きもある。

 

「悪い」

 

「大丈夫。テレビとかで公開された後に動画にする。それで十分」

 

 タイミング的にはそろそろ速報が流れる頃だとは思うが。

 ちなみに新宿ダンジョンが何者かによって攻略されたという情報自体は既にニュースになっている。

 問題はその何者かが誰か、という話だ。

 

「でもそうなると、スノウさんはますます外を歩きづらくなりますね」

 

「んー、確かにそうね」

 

 綾乃の言葉にスノウも頷く。

 俺は動画にも出ていないし見た目は普通の人間なので注目なんてされるはずもないが、スノウは違う。

 矢面に立っている上に目立つ。

 スノウが目立ったところで彼女自身は何も困らないのだろうが、面倒事はなるべく避けたいだろう。

 

「認識阻害系の魔法を使えばある程度目立ちにくくはなると思うけど、一度バレたら同じだし」

 

「認識阻害系の魔法?」

 

 あまりにも聞き慣れない言葉に綾乃がオウム返しにする。

 

「そこにいるのは認識出来るけど、それが誰なのかはちゃんと見知ってる人や意識してる人じゃないと理解出来ない……大体そんな感じね。道行く人の顔をわざわざ判別しないでしょ? それの発展版よ。王族や皇族がよく使う魔法ね」

 

 王族だの皇族だのがそんな魔法を使っているという話は当然聞いたことがない。

 スノウの元いた世界の話なのだろう。

 というか……

 

「そんな便利な魔法あるなら最初から使えば良かったんじゃ……?」

 

 

 

3.

 

 

 綾乃が定時の午後6時に帰宅し、知佳もゲームのイベントがあるとかで早めに帰った後。

 飯の準備をしようということになり、ある程度買い込んであった食材で俺が適当に食事を作り始める。

 とは言っても所詮は一人暮らし大学生クオリティ。

 野菜炒めレベルにバリエーションが多少加わる程度なので大したことはないのだが、今日はその食事の方ではなく飲み物の方にちょっとした細工というか、仕掛けがある。

 

 というのも、スノウにはカフェインに弱いという明確な弱点があるのだ。

 とは言えコーヒーやエナジードリンク程露骨なものでは警戒されてしまう。

 なので今回用意したのは烏龍茶だ。

 わざわざネットで調べたのである。

 もちろんカフェインの含有量はコーヒーやエナジードリンクに比べれば大したことはない。

 以前ほどの急激な発情には繋がらない可能性が高いと踏んでいる。

 

 なので今回は食後のデザートも用意した。

 チョコレートである。

 それもちょっと前に話題になった高カカオチョコレートというもので、本来のチョコの4倍程度のカフェインが含まれているとかいないとか。

 

 つまり飲み物とチョコのダブルパンチだ。

 

 

「ご馳走様。美味しかったわね」 

 

「お粗末様でした。デザートあるけどどうする?」

 

「デザート?」

 

 食事を食べ終わり、作戦通り食後のデザートと称して俺は高カカオチョコレートを冷蔵庫から出す。

 実は少し味見したのだが、甘いものが比較的得意でない方の俺でも違和感なく食べられるので普通にオススメも出来る。

 ただしカフェインの含有量は普通より多いので子どもの摂取量や、就寝前だったりする時の摂取量には注意とのことだ。

 

「これってチョコよね?」

 

「その通り」

 

「実は興味あったのよ。褒めてあげるわ」

 

「そりゃどうも」

 

 本当に色々なものに興味を示しているな。

 しかしチョコというものは幅広い世代に愛されているので自然なことなのかもしれない。

 

 さて、効果が出るのであればそろそろだとは思うが。

 

「ちょっと食いすぎたな。腹ごなしに散歩でもしてくるわ」

 

「あらそう、いってらっしゃい」

 

 どうやら何も気づいていない様子のスノウがもうひとつチョコを口に放り込みながら手をひらひらと振る。

 帰ってきた頃が楽しみだな。



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第24話:反撃

1.

 

 

 10分ほど外で適当に時間を潰し、調べてみたところ即効性があるらしいマカドリンクを飲んで家に戻ってくると食堂にもリビングにもスノウの姿はなかった。

 どこかへ出かけた痕跡はなかったので家の中にいるのは間違いないのだが。

 しばらく探し回っていると、スノウの寝室の扉が少し開いているのを見つけた。

 耳をそばだててみると、中からは微かに声が聞こえる。

 

 

「…………っ」

 

 

 何かを我慢しているような声だ。

 しかし流石にちゃんとは聞こえないな。

 

 ……いや、微かに聞こえていたはずの声が徐々に鮮明に聞こえてくる。

 もしかして新宿ダンジョンのボスと小競り合いをした際もやった、『意識すると段々見えてくる』現象と同じで聴覚も集中すれば強化出来るのだろうか。

 いや、そうに違いない。

 そう仮定して更に聞くことに集中すると、もはや専用の機械で盗聴しているが如く克明に聞こえるようになった。

 いや、盗聴とかしたことないけど。

 

「……んっ……く……あ……っ♡」

 

 苦しげな声……微かに聞こえる水音に荒い呼吸。

 たまに混じる官能的な短い声。

 間違いない。

 狙い通り、烏龍茶とチョコが功を奏したようだ。

 足りなければもうトレーニングと称してコーヒーを飲ませようかとも思っていたが、どうやらそれは必要ないようだな。

 

「スノウ、こんなところにいたのか」

 

「えっ!? ゆ、悠真!? いつの間に……」

 

「さっき帰ってきたんだよ。そしたらスノウがいなかったからさ」

 

「ちょ、ちょっとね。今日は疲れたから早めに寝ようと思ったのよ」

 

 焦った様子で言い訳をするスノウ。

 

 明らかにベッドの毛布に包まって自慰をしていた彼女だが、しかし俺から見えていない部分な為気づかれていないことを前提に誤魔化すつもりのようだ。

 

 <気配遮断>のスキルを持つ伊敷さんにも気づくほど感覚の鋭敏なスノウだが、俺の存在には声をかけるまで気づかなかったんだな。

 それだけオナニーに専念していたということか、或いは集中することで聴覚や視覚が強化される俺と同じように、そうしていなければ普通なのか。

 まあ今はどうでもいいことか。

 大事なのは今この状況そのものだ。

 

 明らかに発情はしている。

 しかしコーヒーやエナドリの時と違ってまだ理性を保っているのはカフェイン自体が薄かったからか、それともオナニーを見られたかもしれないという羞恥心が勝っているのか。

 

 しかし甘い。

 甘いのだよスノウ。

 見られたかもしれない、ではない。

 俺はこの目で……は見てないけど耳で確認した。

 

「悠真? もう寝たいから出ていって欲しいんだけど」

 

 寝たいから出ていって欲しいのではなく、オナニーしていたのがバレたくないから出ていって欲しいのだろう?

 それに俺は知っている。

 先程の自慰では絶頂まで出来ていないせいで、またその波が収まりきっていないことを。

 ここで簡単に引き下がってはわざわざカフェインを仕込んだ意味がないしな。

 

「俺、実はさ……今日、スノウが不機嫌だったのをずっと気にしてて」

 

 敢えて落ち込んでいる風を装って言う。

 如何にも反省していますというように。

 

「だから何かでスノウに報いることが出来たらって思って」

 

「む、報いるって……?」

 

「俺マッサージ得意なんだよ」

 

 にこっと笑う。

 スノウは状況を察して、さあっと顔を青ざめさせた。

 もちろん逃がすつもりはない。

 

「い、いいわよマッサージなんて。あたしの身体はどこかが凝ったりしないしっ」

 

「でも気持ちは良いかも知れないだろ? 快感は感じられる訳だしさ」

 

「えっ!? あ、ま、まあそうねっ。そうかもしれないわ!」

 

 快感という言葉に過剰反応するスノウ。

 誤魔化したいならもう少し落ち着けばいいのに。

 いや、カフェインでの発情も相まって思考能力が低下しているのかもしれない。

 

「だろ? だからマッサージするよ。ああ、大丈夫。俺は(・・)全く下心とかないから。スノウだってそれは同じだろう?」

 

「と、当然でしょ。全然下心なんてないわ」

 

「ならマッサージも問題ないよな」

 

 俺は再びにっこりと笑う。

 人は仕返しの為ならばここまで演技力を発現させられるものなのか。

 自分の隠れた才能に驚くばかりだ。

 

「そ、それは……」

 

「まあまあ遠慮しないで」

 

「あっ……」

 

 言いながら近づいていって、毛布を引っ剥がす。

 するとなんと毛布の下では未だスノウが自分の股間を弄っていた。

 流石にそれは予想外だったが、すぐに切り替える。

 

「オナニーしてたのか」

 

「ち、ちがうの、これはちがうのよ」

 

 幾らなんでも無理がある否定。

 流石にここまで現行犯で見てしまえばもうどうしようもないだろうと、小芝居を辞めることにする。

 

「実は飲み物とチョコにカフェインが入っていたんだが、その様子じゃ全然気づいてないみたいだな」

 

「なっ……カフェインって……!」

 

「そうその通り。お前にとっては媚薬にも等しい物質だ」

 

 ゆっくりとベッドに乗って、スノウの両腕を拘束する。

 その気になれば逃げられるだろう。

 しかしそうしない。

 なぜならもうスノウは期待し始めてしまっているからだ。

 これから起きる事に対して。

 

「な……なにがマッサージよ……最初からその気満々だったんじゃない!」

 

「それの何が悪い?」

 

 自慰の途中だった為、既に濡れまくっているまんこに触れる。

 

「あっ……」

 

 それだけでびくん、とスノウは身体を軽く震わせた。

 どうやら軽く絶頂したらしい。

 既に自分で限界まで昂ぶらせていた結果だろうが、俺はそれを見て、

 

「まだ触れただけなのにイくのか。とんだ淫乱だな」

 

「あ、あんたのせいでしょっ。カフェインなんて仕込んで……なんのつもりよ!」

 

「昼間のこと」

 

「え……?」

 

「お前に寸止めされたろう、スノウ」

 

「そ、それが何よ」

 

「やり返そうと思って。既に一度は軽くイってるみたいだが、次からは違う。泣いて懇願するまで絶対にイかせない」

 

「な……あっ……くっ……」

 

 指を腟内に挿入する。

 すぐにぎゅっと締め付けてくるので、今までスノウと交わって知った弱いポイントを指で刺激していく。

 つい最近まで童貞だった俺だが、既に3人もの女性と関係を持った上にこの短期間で何度も交わっている。

 それらの経験値に加え、そもそもカフェインの入ったスノウは快楽に弱い。

 簡単に絶頂の直前まで持っていくことが出来る。

 

「あっ……ぐっ……♡」

 

 膣内の動きと、スノウの反応とで絶頂が近いことを察した俺は指の動きを止めた。

 

「なっ……」

 

「言ったよな、やり返すって」

 

 指を止めた俺を不満げに見るスノウに、俺は笑顔で言う。

 そして今度は胸を刺激する。

 

「あっ……♡ はっ……」

 

 びくん、とすぐに快楽を享受する体勢になる。

 流石はカフェインの効果である。

 誰が決めたんだかは知らないが、精霊とのセックスを円滑に進めるために性の弱点を明確に作ってくれた人には感謝だな。

 お陰様で俺のような素人でもこういう事が出来る訳だ。

 そしてすぐに胸でも絶頂しかけるが、それをまた寸止めする。

 

「あっ……くっ……」

 

「どうした、物欲しそうな顔をして」

 

「あ……あんただってどうせ我慢出来ないんでしょ」

 

 スノウは盛り上がる俺の股間をちらちらと見ている。

 しかし、俺は既に覚悟を決めてここに来ているのだ。

 絶対にスノウが音を上げるまで我慢すると。

 

「その手の挑発は俺には通じないからな」

 

 再び股間を刺激して、寸止めする。

 そうしたら今度は胸で。

 また股間で。

 

 

「っ……はー……っ、はー……っ♡」

 

 最初のうちは気丈に振る舞っていたスノウも、その往復を10回ほど繰り返した頃には俺を涙目で睨むだけになっていた。

 しかし流石は精霊と言うべきか。

 俺はもっと早く折れると思っていたのだが、思いの外粘る。

 

 良いだろう。

 こうなったらとことんまで我慢比べだ。

 

 そして30分後。

 

「はー……ふー……っ♡ っ……く……♡」

 

 焦点はあわず、噛み締めた口の端からは涎が垂れ、荒い呼吸ばかりを繰り返し、たまに痙攣するかのように腰や胸を震わせるようになった。

 ダンジョンにあるラブホでも同じような状態まで追い込まれたが、あの時はスローセックス中も甘イキは繰り返していた。

 しかし今回は違う。

 その甘イキですら許さないし、当然本イキなどもっての他だ。

 スノウ自身が折れるまでこの地獄は終わらないのだから。

 

 

 

2.

 

 

 更に焦らしプレイを続けている最中。

 玄関の扉の開く音が聞こえた。

 かなり控えめな音である。

 本来ならば聞こえない程度の音。

 絶頂する直前の様子を見極める為に無意識のうちに五感を研ぎ澄ませてしまっていたようだ。

 侵入者ならばスノウが作った氷の狼が早速襲いかかっているはずだが、その音がしない上にチャイムの音もしなかった。つまり身内の誰か――知佳か綾乃かのどちらかだろう。

 そもそも合鍵を持っているのがその二人だけだし。

 

 だとするならば連絡の一本くらいは入っているはずだと思い、スマホを確認すると綾乃からメッセージが届いていた。

 曰く、忘れ物をしたので取りに行きます、と。

 そこで俺はピーンと閃く。

 綾乃も巻き込んでしまおう、と。

 

 

「悠真くーん? スノウさーん?」

 

 

 電気は点けっぱなしなのに俺たち二人の姿が見えないのを案じてだろう。

 綾乃の声がリビングの方から聞こえる。

 

「えっ、綾乃!?」

 

 意識を朦朧とさせていたスノウがびくりと身体を震わせる。

 知った声が聞こえてからだろう。

 俺は直前に知っていたのでそれに動じずに、声を張り上げた。

 

「綾乃、俺たちはここだー! ちょっと来てくれー!」

 

「ばっ……! 何言って――むぐっ」

 

 焦りから元気を多少取り戻したスノウが取り乱すが、その口を手で抑える。

 流石にスノウの焦る声が聞こえれば綾乃は来なくなるだろうという判断だ。

 そして俺に呼ばれた綾乃がとたとたとこちらに走り寄ってくる音が聞こえる。

 そしてスノウが俺の手を口からどかす前に、扉のところに綾乃が現れた。

 

「悠真くん、どうしまし……え?」

 

 俺とスノウの状況を見てフリーズする綾乃。

 そしてそんな綾乃を魔力で強化された身体を悪用して一瞬でその後ろへ回り込んでお姫様抱っこする俺。

 

「えっ、えっ、えっ? わぷっ」

 

 流石に唐突すぎる展開に戸惑うばかりの綾乃を少し乱暴気味にベッドへ投げ捨てる。

 

「さて……綾乃、お前は俺を手伝え」

 

「はえ!? へ、あ、っ、は、はいっ」

 

 既に頬を染めて俺を見上げている綾乃。

 マゾな事は既に知っていたが、どうやらこういった半分無理やりな感じもお好みなようだ。

 

「ちょっ、綾乃!?」

 

 一瞬で順応した綾乃に驚くスノウ。

 かく言う俺もちょっとびっくりしたが、これで予定していた事よりも面白そうなことができそうだ。

 

 俺はベッドに近づくと、スノウ――ではなく。

 綾乃の服に手をかける。

 一度家に戻ってプライベートな服装に着替えたからだろう。

 いつものスーツ姿とは違って普通の私服だ。

 流石に部屋着ほどカジュアルなものではなさそうだが、普段きっちりした格好をしている(と言っても本人の雰囲気が甘いのでビシッとはしていないが)子の私服ほど興奮するものはないと俺は思う。

 

 そこで思い直し、俺は綾乃に命令する。

 

「服を脱げ」

 

「……っ、はい……♡」

 

 本当にマゾなんだなあ……

 綾乃は俺に強く命令されたのが嬉しいようで、頬を染めながら服を脱いで行く。

 ちなみに個人的な趣味の話になるが、俺は着衣の方が好きだ。

 すぐに全裸にさせるAVの監督は無能だと思っていた。

 だが現実的に考えるとシミになったりシワになったりとしがらみが多いので結局服を脱いで致すのがオーソドックスなのだと最近になって気づいた。

 これが寝間着だったり部屋着だったりする格好だったらさほど気にしないのだが、私服となると多少躊躇する。

 

 ……と関係ない事を考えてしまった。

 俺と、フリーズしたスノウに凝視されながら服を脱いでいく綾乃はそれだけでもう興奮しているようで、呼吸が荒くなり始めている。

 

 そしてしばらくして、下着まで全て脱いだ綾乃が腕でそのたわわな胸と股間部分を隠しながら、ベッドに女の子座りする。

 

「誰が隠して良いと言った?」

 

「っ……はいぃ……♡」

 

 素面のスノウや知佳に同じことを言ったら軽蔑する目から直接暴力が飛んできかねないことでも、綾乃はすんなりと命令を聞く。

 綾乃レベルのマゾとセックスする時は気をつけないと謎の万能感に取り憑かれてしまうかもしれないな。

 まるで自分が王様か皇帝かにでもなったような気分だ。

 

 さて……

 スノウは今から何が起きるのかまだ理解していない様子だった。

 

「ま、まさかあんた、ハーレムを楽しむつもりじゃないでしょうね」

 

 ハッとした様子で慄くスノウ。

 この世界のことには疎いとは言え、性の知識には疎い訳ではないようだ。

 しかしハズレだ。

 今からするのはハーレムプレイではなく、ただの焦らしプレイ(・・・・・・)

 

「お前には何もしないさ」

 

 スノウを無視して、俺は綾乃をベッドに押し倒す。

 

「あっ……♡」

 

 寸止めで堕ちきらないのなら、他人が快楽に溺れる様子を見せつけてやれば良いのだ。



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第25話:ツンデレ堕とし

1.

 

 

「ゆ、悠真……くん……」

 

 期待で溢れた表情をしている癖に、まるで咎めるように俺の名を呼ぶ綾乃。

 体裁を保つ為か、僅かに残った理性の仕業か。

 しかし既に犯される事に対する期待感で身体は出来上がっていた。

 横目でスノウがこちらをしっかり見ていることを確認しつつ、綾乃に体重をかけてのしかかる。

 最近はトレーニングをしていないので筋肉量の都合で多少痩せているかもしれないが、大体俺の体重は75kgから76kg程度だ。

 普通の女の子からすれば相当重い部類だろう。

 そんなのが体重をかけてきているのだから苦しくないはずがない。

 

「ん……はっ……♡ うっ……♡」

 

 しかし綾乃は苦しそうにしながらも恍惚とした表情を浮かべていた。

 痛いのも苦しいのもキツく言われるのも好きなマゾってある意味最強なのではないだろうか。ゲームやったりするとやはり盾役(タンク)になることが多いのかな。

 やや関係ないことを考えつつ、乱暴気味に綾乃の唇を奪う。

 

「んっ!? ぐっ……ん……むっ……♡」

 

 最初こそ驚いたような反応をしていたが、すぐに綾乃は俺を受け入れた。

 舌を口の中に入れると待ってましたとばかりに迎え入れられ、完全に成されるがままになっている。

 一応年齢は23で俺より一つ年上ではあるのだが、本人の見た目や気質の問題で女性というよりは女の子な感じの綾乃。

 知佳は別の意味で女の子と言う感じだが、ともかくそういう存在を無理やり犯そうとしているという状況にちんぽが痛いほどに勃起している。

 元々こちらも我慢に我慢を重ねていたのだ。

 主にスノウのせいで。

 体重をかける=身体を密着させているのでずっと大きめの胸が俺の胸板に当たっていて我慢にも悪かったし、これ以上我慢に我慢に重ねることもないだろう。

 

「ん゛っ♡ んっ……♡」

 

 口吻をしたまま身体は離し、今度は手で胸を強めに揉むと、俺の掌に更にその巨乳を押し付けるかのように身体が跳ね上がった。

 しかしその反応も力ずくで押さえつける。生理的反応を強制的に食い止められた時の苦しさと言ったら筆舌に尽くしがたいものだが、この場合ではそれすらも快楽として享受してしまうのが綾乃なのだろう。

 

「ん……ぐっ……ん゛っ……」

 

 そのまましばらく胸を捏ねたり口内を舌で犯したりしていると、綾乃の抵抗が徐々に強くなってきた。

 呼吸が苦しくなってきたのだろう。

 俺は責める側で、綾乃は受け側。

 それに体格の差から考えてもどちらの方がより長く息が持つかは考えるまでもないだろう。

 しかし俺はそれを敢えて無視した。

 

「んーっ! むっ……ん……ん…………」

 

 しばらく綾乃は俺の胸板を押し返すように抵抗していたのだが、それが弱まってきたくらいのタイミングで口を離す。

 

「ぶはっ……はぁっ……はぁ――……はっ……♡」

 

 脳に酸素が十分に行かない時間が続いた結果、綾乃の意識は朦朧としていた。

 訓練も受けていない一般人が中距離走を無呼吸で走りきったような状態だ。苦しさから開放されてしばらく荒い呼吸を繰り返していた綾乃だったが、やはり表情は恍惚としていた。

 もはやイジメられるという状態ならばなんでも良いのかもしれない。

 俺としても少しギリギリを責めるようなプレイになってしまったが、何故だか綾乃相手だととことんまでやりたくなってしまうのだ。

 

 綾乃の額には玉のような汗が浮いていた。

 意識は朦朧とし、焦点は合わず。しかし口元は緩やかに笑みの形に歪んでいて、身体全体が上気している。

 まだ大した快感は与えていないはずなのだが、既に絶頂を何度も繰り返した後かのような状態。

 汗そのものが女の香りというか、こちらの股間へダイレクトに響いてくるようなフェロモンを放っているせいで俺のちんぽは釘でも打てるんじゃないかと思う程に硬く、更に大きくなっていた。

 

 そのタイミングでスノウの様子を盗み見てみると、まるで食い入るように俺たちの情事を見つめていた。

 

「んっ……くっ……っ……」

 

 開脚し、手は自然に股間に伸びて弄っている。

 もはや隠すつもりもないのか、それともそこまで頭が回っていないのか。

 あちらから懇願してくるのも時間の問題だろう。

 しかしもはやそれは後回しだ。

 今は目の前で男を誘っているメスを犯すのみ。

 綾乃のショーツを剥ぎ取り、

 

「あっ……ぐ……っぅぅぅぅううう!!」

 

 挿れるともなんとも言わずにちんぽをまんこの奥まで突っ込むと、綾乃が歓喜の声をあげて俺の肌に爪を立ててきた。

 度重なるマゾ用のプレイに興奮しきっていたのだろう。

 ただ乱暴に突っ込んだだけだと言うのにそれだけで絶頂したようだ。

 準備万端で濡れそぼっていた膣内(なか)は抵抗を見せずに奥まで肉棒を受け入れた。ぐねぐねうねうねと精を受け入れる為だけの動きをする肉壺に、昼間からずっと我慢していた上に精力剤まで飲んできていた俺もすぐに限界が訪れそうになる。

 だが、ここですぐに絶頂してしまっては格好がつかない。

 ぐっと根本に力を入れるようにして我慢する。

 意識。そう、意識の問題だ。

 それくらいは出来るはずだろう、俺。

 あの恐ろしいボスの刀を落とす事に比べれば、たかだかマゾ女ひとりの肉壷。

 幾らでも我慢出来る。

 

 しかしそれで止まっていてもやはり格好がつかないので、ずん、と荒く奥を突いてやる。

 

「あ゛っ♡ かっ……はっ……♡」

 

 綾乃が目を見開いて喉の奥から絞り出すような嬌声をあげる。

 俺自身の気持ちよさは度外視だ。

 先に綾乃が激しく絶頂すれば示しはつくだろう。

 ズンッ、ズンッ、とまるで奥を掘削するかのような強い杭打ちピストンにベッドが激しくきしむ音を鳴らす。

 

「ん゛っ、あ゛っ♡ はっ、ぐっ♡ い゛っ♡」

 

 その一度ごとにまるで殴られているかのような反応をする綾乃。

 しかし明らかに色の混じっているその声は、それだけの暴力的なピストンにも確実に綾乃の身体は悦んでいるということを如実に語っていた。

 小刻みに何度も小さな絶頂はしているようで、段々とその声自体も掠れて小さくなっていく。

 

膣内(なか)がいいか? 外にするか?」

 

「えっ……」

 

 快楽に溺れていた綾乃が一瞬我に返る。

 しかし俺は動きを止めない。

 

「どっちがいいかと聞いてるんだ!」

 

「あひん♡」

 

 バチン、と綾乃の胸を軽く叩く。

 別に痛くはない程度で叩いたが、もはやそういう行為自体が興奮するのか嬉しそうな声をあげる綾乃。

 

「なっ、中はできちゃいますから――」

 

「なるほど、つまり膣内(なか)が良い訳だ」

 

「ち、ちがっ――あ゛っ♡ ん、ぐううううううううううう♡」

 

 腹にちんぽの形が浮き出る程強く突いたタイミングで、我慢を重ねた精液を全て膣内へ射精する。

 もはや濃すぎて固形になっているのではないかと思うほど大量で気持ちの良い射精。

 

「い゛っ、あ゛、射精()てる、膣内(なか)に、ぜん、ぶ、出て、る、ぅ♡」

 

 マカドリンクの効果もあってか、収まる気配は微塵もない。

 長い射精を全て子宮の中に収めるべき強く奥へ突っ込み続ける。

 

「孕めっ! 俺の子を孕むんだ!!」

 

「は、はいぃ、孕みましゅ♡ ご主人しゃまの、子種ミルク、たくさんくだしゃいぃぃ♡♡♡」

 

「必死に子宮口が吸い付いてきているぞ。このド淫乱が」

 

「ごめんなしゃい♡ ご主人さまのおちんぽで悦ぶ淫乱でごめんなさい♡♡♡ あ゛っ♡ おくっ♡ も、入らにゃいぃぃぃぃ♡」

 

 全てを出し切るのと同じタイミングで、綾乃がぷつんと糸の切れた人形のように意識を失った。

 流石にイジメすぎただろうか。

 しかし本人も申告していた通り悦んでいたからなあ。

 溢れないように強く()をしていたお陰で、一度の射精で少し綾乃の腹がぽっこりと膨れているようにさえ見える。

 精霊を召喚出来るという点以外では俺は俺のことを普通の人間だと思っていたのだが、流石に射精量や持久力が普通ではないことは気づいている。

 もしかしてこれも魔力の影響なのだろうか。

 ちんぽを引き抜くと、ごぼっ、と大量にゼリーのような濃度の精液が溢れ出てきた。

 ……流石にここまで来ると人間の限界を超えていることは自覚出来る。やはり魔力のせいだろうな。

 まあ、そんなことを考えるのは後で良いだろう。

 先程までの行為を食い入るように見つめていたスノウの方へ振り向く。

 当然、ちんぽは全然萎えていない。

 どころか先程よりも硬く大きくなっているのではないだろうか。

 びきびきと血管が浮き上がる浅黒いソレにスノウの目は釘付けになっている。

 気がついているのかいないのか、手はずっと股間を弄っていた。

 

 

2.

 

 

 

「ようスノウ」

 

「なっ……なによっ」

 

 俺が声をかけると、我に返ったように俺をキッと睨みつける。

 いや、睨みつけるつもりだったのだろうが、その目には全く力など籠もっていなかった。

 むしろ男に媚びるメスそのものだ。もし今の様子を絵に描くとすれば、目にはハートマークが浮かんでいるだろう。

 欲情しているのだ。

 明確に俺の肉棒を欲している。

 しかしそれをスノウが口に出すことはない。

 どうやらまだギリギリで理性が勝っているようだ。

 ベッドの上に立ち、俺はゆっくりスノウへ近づいていく。

 

「ちょ、っとなによ。来ないで」

 

 口では拒絶の言葉を放っているものの、身体は全く逃げようとしていない。

 どころか股からあふれる愛液の量は増え、まるでおやつを目の前にした犬のように荒い呼吸を繰り返している。

 

「来ないでったらっ」

 

 しかし既に俺はベッドで座り込むスノウの目の前まで来ていた。

 彼女の美しい顔の前には、グロテスクな程雄々しくそびえ立つ俺の肉棒がある。

 浅黒い色をしたそれは綾乃の愛液と、先程射精した精液でぐちょぐちょになっている。

 月とすっぽん、いや、そう比べることさえ烏滸がましいほど大局的な位置にあるただひたすらに芸術品じみた美しさを誇る顔の前に、ただ肉欲の限りを尽くした本能の権化のような肉棒がある。

 そのあまりにもアンバランスな光景に、すぐにでも突っ込みたいという仄暗い欲求が俺の中に沸々と沸き上がってくる。

 だが、まだ我慢だ。

 スノウから要求してくるまでは。

 

 突きつけられたちんぽから逃げようともしないで、ただ見つめるスノウの頬をぺちん、とちんぽで張った。

 

「え……」

 

 一瞬、何をされたか理解出来なかったスノウが目を丸くする。

 しかしすぐに自分が如何に屈辱的なことをされたか自覚したスノウが食ってかかろうと腰を上げようとする――が。

 既に身体は堕ちていた。

 意思通りに身体は動かず、頬をちんぽで叩かれるという侮辱的な行為にももはや反抗することさえ出来ない。

 

「どうした、欲しいんだろう」

 

 ぺちん、ともう一度スノウの頬を叩く。

 もちろん痛みなど全くないだろう。

 しかしその音だけは静かな部屋に響く。

 ぺちん、ぺちん、と続けて頬を叩く。

 もはや口答えする事もなく、ただスノウは歯を噛み締めて俺を睨みつける……いや、俺に視線で媚びを売ることしか出来ていなかった。

  

「言えば良いんだ。ちんぽが欲しいですってな」

 

「言う……訳、ない……でしょ」

 

 ぺちん、ともう一度頬を叩く。

 

「これが最後のチャンスだぞ。10秒以内に言わないのなら後の性欲は全て綾乃で発散する。お前の目の前でな」

 

「そ、そんな……」

 

「9、8、7」

 

 一秒のカウントごとにぷらぷらとスノウの目の前でちんぽを揺らしてみせる。

 明らかに視線がそれを追っているが、まだ折れないようだ。

 

「6、5、4」

 

 挙げ句には涙目になってまで俺を睨もうとしている。

 しかしそれで躊躇するような段階ではない。

 むしろ俺の股間が元気になるだけだ。

 

「3、2、1」

 

「わ、分かったわ。言う、言えばいいんでしょ!」

 

 カウントを止める。

 目で続きを促すと、悔しそうにスノウは歯噛みした。

 

「……あ、あたしにも……ゆ、悠真のおちん、ちんください。お願いします」

 

 生意気なツンデレ娘が心まで堕ちた瞬間だった。



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第26話:コントロール

1.

 

 

 悔しそうにちんぽをねだるスノウを見て俺は口の端を歪める。

 やはり押して駄目なら引いて見ろということか。

 どれだけ焦らしても我慢を続けていたスノウだったが、綾乃との情事を見せつけることでとうとうその限界がやってきたようだ。

 俺はスノウに改めてちんぽを突きつける。

 

「綺麗にしろ」

 

「……は?」

 

 どうやらやれと言われていることが分からないようで、目を丸くするスノウ。

 このまま待っているとそこらにあるティッシュでバカ正直に拭かれかねないので、言い直すことにした。

 

「舐めて綺麗にしろと言っているんだ」

 

「な……!」

 

 ちんぽには綾乃の愛液と、俺の精液が付着してドロドロだ。

 既にこれで何度も頬を叩かれているのでその液がスノウの顔にも付着しているのだが、それを舐めるとなるとまた別の抵抗があるのだろう。

 しかしそれで許すはずがない。

 

「嫌なら仕方ない。綾乃にやって貰うとしよう」

 

 わざとらしく溜め息をついて後ろを向こうとすると、

 

「ま、待って! ……ください」

 

 スノウが慌てたような声を出す。

 

「な、舐めるわよ……舐めればいいんでしょ」

 

「イヤイヤならしてくれなくていいが」

 

「舐めさせてく、くだ……さい……」

 

 摩擦熱で煙でも上がるのではないだろうかと思うほど強く歯を噛みしめるスノウに若干引きながらも俺はちんぽを突き出す。

 きっと噛んだりはしないはずだ。

 スノウにとってもこれは大事な棒のはず。

 ……だよな?

 

 恐怖により少し萎んだちんぽをスノウがこちらを睨みつけながらちろちろと小さな舌で舐め始める。

 口腔は性器だ、とエロい人が言っていたがなかなか本質を突いていると思う。

 美人の舌ってただ突き出してるだけでも割とエロさを感じるのに、それが俺のちんぽを舐めているのだ。

 それもこちらを睨みつけながら。

 全く怖くはないが、表情だけでもそうだというだけで萎れていたちんぽが元気を取り戻してくる。

 しかし舌先でちろちろされているだけでは気持ちよくはならない。

 

「えっ――んぐっ!?」

 

 俺はスノウの頭を掴んで、喉奥まで一気にちんぽを突っ込んだ。

 先程まで遠慮がちにちんぽを舐めていた舌が、今度は体裁など気にしないでちんぽを押し返そうと必死になっている。

 それが逆に良いアクセントとなって非常に気持ちが良い。

 涙目になったスノウがこちらを睨んで見上げるが、それはこちらにとっては良い調味料にしかならない。

 完全に力を取り戻したちんぽで口腔を犯す。

 

「んぐっ、んえっ、じゅぶっ、んっ」

 

 いい感じに唾液が潤滑油としてちんぽを湿らせている。

 既に肉棒を汚していた愛液と精液はスノウの口の中で綺麗になっているだろう。

 だが、当然綺麗にしただけで終わらせるはずもなく。

 

「じゅぶぅっ、んおっ、ぐっ、お゛っ」

 

 時折歯があたるがそれもまたアクセントとなって興奮を掻き立てる。

 すぐに限界は来た。

 

「んぐっ――んんんんんんんーーーーー!? 」

 

 両手でスノウの頭を抑え、喉奥に射精する。

 どぶっ、どぶっ、どぶっ、と三回ほどに分けて濃いのがスノウの口の中を犯して行く。

 まるで萎えないちんぽでそのまま蓋をしていると、

 

「ん……んぐっ……」

 

 喉が嚥下するように動いたので、そのタイミングで頭から手を離すと、すぐにスノウはちんぽから離れた。

 

「えほっ! げほっ、げほっ……あ、あんたね……! きゃっ!」

 

 まだ生意気なスノウが俺を睨みあげようとするタイミングで突き飛ばし、ベッドに仰向けにさせる。

 先程まで怒っていたはずの顔には既に期待するような色が浮かんでいる。

 現金な奴だ。

 もう欲しくて欲しくて堪らないのだろう。

 かく言う俺も、既に2回も射精しているのに関わらずまだちんぽはギンギンなままだ。

 

 流石ここで更に自身を焦らすようなことは出来ず、既に湯気がたちそうな程出来上がっている肉壷に一気に挿入する。

 

「あっ――♡ ぐっ、っ~~~~~~!!」

 

 目を白黒させて身体を痙攣させるスノウ。

 この一回の挿入だけで何度か絶頂しているようだ。

 何度も焦らした上に俺たちの情事を眺め、その上で自分で慰めていたくらいだからな。

 本当に待ちかねた上でのことだ。

 しかしその絶頂が収まるまで待ってやる義理は俺の方にはない。

 

 すぐに動き始める。

 情け容赦一切ないピストンだ。

 

「ん゛っ、あ゛っ、ぐっ♡ あ゛っ♡ あ゛っ♡ あ゛っ♡」

 

 全身の筋肉が絶頂によって収縮してしまっているからだろう。

 満足に動くこともままならず、声すらもどこか間抜けなものとして辺りに響く。

 

「やら、やら、やだやだやだやら!」

 

 しばらく喘いでいただけのスノウは、やがて意味のある言葉を発し始めた。

 

「も、イギたくない゛っ、イギたぐな゛いのっ!」

 

 どうやら完全に取り乱しているようだ。

 散々焦らした結果、俺の思っている以上に絶頂しやすい身体になっている。

 ほとんど媚薬のような効果をもたらすカフェインのことも相まって、今までで一番イきやすい状況のようだ。

 それにしてもスノウが泣いて絶頂を嫌がるとは。

 

「も゛っ、う、うごか、ない、でっ♡ い゛ってる♡ いってる♡ か、ら♡ おねが、おねがい、しますっ♡ こわ、こわいっ♡ の♡ ゆー、ま♡ おねがいっ♡ だ、からっ♡」

 

「どうしても挿れて欲しいと言ったから挿れてやったのに、今度は動くなと来たか。どこまで俺を馬鹿にすれば気が済むんだ?」

 

 ズン、と強く奥まで突っ込む。

 先程綾乃にやったような要領だ。

 いや、むしろ綾乃より身体が頑丈なのが確定している分、それよりも強いくらいかもしれない。

 しかしそんな乱暴な挿入でさえスノウは感じてしまうようで、

 

「お゛っ♡ お゛んっ♡ あ゛っ♡ お゛っ♡ お゛っ♡♡♡」

 

 まるで野生動物のように喘いでいた。

 普通の人間であれば脳髄が焼ききれてしまうような快楽なのではないだろうか。

 そう感じる程のスノウの反応に、俺の股間は更に滾る。

 

「ま、まだ、大きくな、るの、ぉ♡ も、むりぃ、なのにぃ♡」

 

 薬の効果もあってか今まで一番ちんぽが敏感になっているような気がする。

 その上で何度出しても元気なままだという確信もあった。

 なるほど、マカドリンクとは良いものだ。

 常用するのも有りかもしれない。

 

「ほら、一発目、だっ!」

 

「あ゛っ――ぐっ、ううううううう!!」

 

 どぐんっ、とまるでポンプのような勢いで射精する。

 自分でもちょっと引いてしまうような量と勢いだが、まだまだ俺のちんぽは萎える気配を見せない。

 

「出し、ながら、だめっ、だめなの、いってるの、あたしっ、もっ」

 

 もはや幼児のようにいやいやと駄々をこねるスノウを決して逃さないように腰を掴んで、ピストンする。

 

「いってる゛っ、のに゛、ばかになっちゃう、か、らっ♡」

 

 その後も終始ごめんなさいだのもうやめてだの許してだのとスノウらしからぬ言葉を発していたが、実に行為を始めて6時間が経過する頃には物言わぬオナホと化していた。

 

「……あっ♡ でて、る……いっぱい……♡ ゆー、まの……♡」

 

 何度目かも分からない射精をすると小さなうめき声と共に膣がきゅっと収縮する。

 ほとんど気を失っているような状態でもちゃんと膣内(なか)は気持ち良いのが凄いな。

 入り切らなかった精液がベッドに水たまりのような状態になる中、俺はちんぽの限界より先に眠気が来てしまった。

 外は既に若干明るい。

 どうやら夜通しでスノウを虐め倒してしまったようだ。

 綾乃は気を失ったまま眠ってしまったようだし、スノウも同じくほとんど気を失っている。

 ちんぽはまだまだイケると主張しているが、最後に一発いったら流石に寝よう。

 

 結局、俺が力尽きて眠ったのはそれから更に30分後だった。

 

 

 

2.

 

 

 

「おはよう」

 

 翌朝。というか俺が力尽きてから数時間後。

 9時になると知佳がやってきた。

 その頃には流石に綾乃は復活して風呂を浴びた後なのだが、流石に家に戻るだけの時間はなくスノウの私服を借りていた。

 知佳はそれを見て首をかしげる。

 

「スーツは?」

 

「あっえーと、その……クールビズ? です」

 

 綾乃の苦しい言い訳に知佳はふーん、と意味深に頷く。

 そして俺の方をちらっと見た。

 

そういうこと(・・・・・・)ね」

 

 ……何故俺の周りにいる女はみんな勘が鋭いというか、察しが良いのだろう。

 それとも俺が鈍いのだろうか。相対的に鋭く見えているのだろうか。

 

「スノウは?」

 

「……シャワー浴びてる」

 

「ふーん」

 

 知佳は再び意味ありげに俺を眺めた。

 うっ。

 気づいているんだろう。分かってるよ。

 

「ま、良いけど。それより、今日二本目の動画投稿する」

 

「二本目か。一本目の反響は今どんな感じなんだ?」

 

「とんでもないことになってる。新宿ダンジョンの件も含めて」

 

 ピッと知佳がテレビを付けた。

 朝の情報番組が映る。

 

『――新宿ダンジョンを攻略した妖精迷宮事務所の”白い妖精”について――』

 

 ピッ、と知佳が番組を変える。

 

『――件の動画は現在全世界合計で7億回再生を突破していて――』

 

 ピッ。

 

『――ダンジョン管理局幹部の証言によりますと、”白い妖精”が新宿ダンジョンを攻略したと――』

 

 プッ、とテレビの電源を知佳が切る。

 

「とまあ、こんな感じでどこもここを取り上げてる」

 

「うわー……まあこうなるよな」

 

 白い妖精というのはまず間違いなくスノウの事だろう。

 衝撃的なデビューを果たした動画に、衝撃的なニュースの新宿ダンジョン攻略。

 それらが合わさればこうなることは想像に難くない。

 

「昨日の夜の番組からずっと特番。どこの番組も同じ内容」

 

 それだけ視聴率が取れるということだろう。

 確かに、俺も当事者でさえなければ興味津々になるニュース内容だと思う。

 新宿ダンジョンが攻略された。しかもそれが巷で噂の”白い妖精”の仕業とくればそうもなる。

 実際は妖精ではなく精霊なのだが。

 しかし確かに知佳が言った通り、妖精の方が通りが良かったようだ。

 実際、妖精のようだしな。スノウの見た目は。

 

「ちなみに、どこの番組も妖精迷宮事務所に連絡が取れないって嘆いてた」

 

「あー……」

 

 こうなることが予想されたのであらかじめ知佳の提案で電話線を引っこ抜いていたのだ。

 メールサーバーも既にパンクしているだろうし、そもそもその確認は知佳に任せているので当然俺たちは何も知らない。

 で、当の知佳も今は放っておくと言っているので誰も連絡が取れない。

 こうなる訳か。

 

「この上、二本目の動画を出すんですよね……?」

 

 綾乃が恐る恐ると言う感じで聞いてくる。

 

「そう。今が一番のタイミングだと思う」

 

「まあ、再生回数という点では爆発的に伸びるだろうな」

 

 恐らくは一本目を優に超えるロケットスタートになるだろう。

 なにせ10年間攻略者が現れなかったダンジョンを攻略してしまったのだ。

 日本だけの問題ではない。

 海外でもとんでもない反響と注目を浴びていることだろう。

 とても日本だけではたかだか1日2日では億単位の再生回数は行かないしな。

 

 

「あら知佳、おはよう」

 

「おはよう」

 

 シャワーを浴びてきたスノウが知佳に挨拶をする。

 そして俺を見ると、ぼっと顔を赤らめてすぐに目を逸らされてしまった。

 うーむ、怒ってるよなああれ。

 間違いなく。

 後でちゃんと謝っておこう。

 チョコを美味しそうに食べていたので、甘いものを添えて。もちろんカフェインの入ってないやつ。

 しかしシャワーを浴びた後の女子というのは何故こうも色っぽいのだろう。

 つい数時間前までヤりまくっていたのにもう元気になってしまいそうだ。

 

「で、何の話?」

 

「2本目の動画の話だよ。反響がすごそうだなって……そうだ、スノウ。俺ちょっと考えたんだけどさ」

 

「……なによ」

 

 じとっと警戒したような目つきで俺を見るスノウ。

 だから悪かったって。

 

「知佳と綾乃もダンジョンに連れていってみないか?」

 

「なんで?」

 

「もちろん戦力になって貰おうって訳じゃない。ただ、魔力が開放されれば強くなるだろ? そうしたら自分の身も自分で守れるかなって」

 

 するとスノウが口を開く前に、知佳と綾乃が、

 

「私、ダンジョン行ったことあるよ」

 

「私もです」

 

「え、そうなの?」

 

 ……いや、なんだか驚いてしまったが、そう不思議な話でもないのか。

 新宿ダンジョンだって1階は一般人でも立ち入ることが出来た。

 それにレジャーと化しているところならばそれこそどこへでも立ち入れる。

 資格が必要なのはあくまでも探索者としてダンジョンに入る場合のことであって、あくまでも観光やちょっとしたスポーツ感覚で入ることは出来るのだ。

 

「身体能力が強化される程の魔力を持つ人間はごくわずかよ」

 

 スノウが腰に手を当てて言う。

 

「ここ何日かで注意深く観察してたから間違いないわ。今の知佳や綾乃には魔力がある。あたしが教えれば簡単な魔法なら使えるようになるでしょうけど、それでそこら辺の暴漢をやっつけられるかって言ったらそれは無理ね」

 

「そういうもんなのか……?」

 

「みんな強くなるならスポーツでは新記録ばかり」

 

 知佳がぽつりと言う。

 ……そう言われてみればそうかもしれない。

 だが、10年も経てば一人くらいは魔力覚醒で身体能力が上がったスポーツ選手がいても良さそうなものだが。

 それこそ既にダンジョンとは綾乃や知佳でも入ったことがある程メジャーなものなのだから。

 

「限界まで鍛えた人間が運良く魔力覚醒で身体能力が上がるだけの魔力を持っている場合なんてほぼないわよ。それに普通は上がったとしてもほんの僅かだし。それまで握力が50キロあった人がダンジョンに入って出てきたら51キロの握力になっていた、くらいの差よ。完全に自覚出来るくらい上がる魔力の最低ラインは……そうね、あの柳枝(やなぎ)って男くらいかしら」

 

「そうだったのか」

 

 いや、俺は柳枝さんの魔力量がどれくらいなのかは知らないが。

 ほぼ伝説に名を残していると言っても過言でない柳枝さんでさえ最低ラインだと言うのならば、魔力覚醒で身体能力が爆発的に上がるのは本当に稀有な例なのだろう。

 ということは可能性は低いがやがて出てくる可能性はあるのか。

 柳枝さんくらいの魔力を持ちながらスポーツに傾倒している人間。

 そうなったらスポーツ界には激震が走るだろうな。

 

「後は、それよりも魔力が少なくても魔力のコントロールが上手ければ一時的な強化は出来るし、そうでなくとも火事場の馬鹿力みたいなタイミングで奇跡的に魔力のコントロールが上手く行ってちょっと力が強くなる、みたいなことはあるかもしれないわね」

 

 つまり、いずれにせよ一筋縄では行かないと。

 まあスノウの作った氷の狼くんがいる以上、よほどのことがない限りは安全だとは思うが。

 

「ところでスノウ」

 

「なによ」

 

 話しかける度に警戒するのはそろそろやめて欲しいが、それよりも気になることがある。

 

「簡単な魔法なら使えるって、本当?」



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第27話:魔法

1.

 

 

「あっ、出来ましたっ!」

 

 綾乃が喜びにぴょんと飛び跳ねる。

 それにワンテンポ遅れておっぱいも飛び跳ねる。

 何故ただの脂肪の塊なのにこうも目を奪われてしまうのだろうか。

 喜ぶ綾乃の指先には小さな火が灯っていた。

 スノウが言っていた『簡単な魔法』の一つである。

 ライター代わりくらいにはなるだろうか。

 誰も煙草吸わないから使い時はかなり少なそうだが。

 

「む。綾乃に先を越されるとは」

 

 知佳は先程からうんうん唸っているが、未だに出来る様子がない。

 

「慣れたら誰でも出来るわ。自転車みたいなもんよ」

 

 そう知佳を慰めるスノウの周りは20個程の火の玉が浮かんでいた。

 綾乃のものと同じ魔法を使っているらしいのだが、規模も数も大違いだ。

 その上それを自在に動かせると言うのだからもはや驚きしかない。

 

「というかスノウ、お前って火の魔法とか使えるんだな。氷の精霊だからてっきり相性は悪いのかと」

 

「魔法と精霊の力は厳密には違うの。氷の力ほど大規模な出力は出せないけど、そこらへんのものを燃やし尽くすくらいの火力は出せるわよ」

 

「出せてもやらないでくれよ……?」

 

 一応牽制しておく。

 そして俺はと言えば、割と簡単に出来てしまった。

 お約束として全く出来ないのが美味しいと思うのだが、かなりあっさりと。

 スノウのやる様子を見て、やり方をなんとなく聞いて、真似してみたら出来た感じ。

 かめ○め波をいきなり撃てた某主人公のような気分だ。

 多分やろうと思えば5個くらいまでは余裕を持って出せる。

 流石に危ないので試してはいないが。

 

「お、できた」

 

 しばらく経つと、知佳も安定して火を灯せるようになった。

 俺はつい最近までほぼ素人同然だった訳だし、知佳や綾乃については全くの素人。

 それなのにここまで短時間で『火を出す魔法』を使えるようになるとは。

 ダンジョン管理局が魔力の存在を公にしない理由がよく分かったな。

 世の中が混乱する、なんてもんじゃない。

 全てのルールがガラッと変わってしまうような危険性を秘めている。

 

 極端な例にはなるが、この火を灯す魔法を悪用すればまず証拠の出ない放火が出来る可能性だってあるのだ。

 というか、スノウならばそれが可能だろう。

 俺たちも今覚えたばかりなのでまだ覚束ないが、慣れれば同じことが出来るようになるかもしれない。

 自転車のようなものだとスノウは言っていたので、誰でもある程度のレベルまでは達することが出来ると考えて良い。

 

「まあこんなものは序の口よ。次はもう少し実用的なものを覚えるわ」

 

「実用的?」

 

「自分の身を守れるようなものよ。あくまで自衛の手段」

 

「なるほど」

 

 確かにそれは実用的だ。

 実際、いつヤバイ人たちが特定して凸ってくるか分からない。

 スノウの防衛機構という名の氷の狼がいるとは言え、街を歩いていて突然、なんてこともありえるかもしれない訳だし。

 出来ることは多いに越したことはないだろう。

 

 と、スマホがぶるぶると震える。

 

「柳枝さんからだ」

 

 別に聞かれて困るような内容でもないだろうからどうでも良いのだが、普段の癖のようなものでなんとなくみんなから少し離れたところで電話に出る。

 

「もしもし、皆城(みなしろ)です」

 

『やあ、悠真君。伊敷(いしき)だ』

 

 電話口から聞こえてきたのは凛々しい印象をもたせる女性の声だった。

 え……

 伊敷さん?

 

『ああ、形式的に伊敷とは名乗ったが、君とは仲良くしたい。気軽に未菜(みな)と呼んでくれ』

 

 いやそれは恐れ多いので無理です。

 というか、

 

「柳枝さんのスマホですよね……?」

 

『私はスマホを持っていないからな。苦手なんだ、機械』

 

「えー……」

 

 現代人でスマホを持っていない理由が機械が苦手だからってマジかよ。

 25歳とかだよな。

 この人タイムスリッパーか何かか?

 

『でも君と話したいから柳枝からちょっと奪……借りたんだ』

 

 奪うって言いかけた?

 いや、流石に気の所為か。

 

『とりあえず業務連絡からだ。新宿ダンジョンの魔石だが、鑑定の結果192億2300万円が妥当だろうということになった。どうだ? 私としてはキリ良く200億でも良いと思っているのだが……おい柳枝、分かった、分かったからスマホを取り上げようとするなっ。……すまないな、200億というのは取り消しだ』

 

「ああいや、流石に冗談だって分かってますよ。192億2300万円ですよね。それで問題ないです」

 

 というか今さらっと金額を流したが、とんでもない額だな。

 それをポンと出せるダンジョン管理局の資金力もとんでもないが。

 正直数が大きすぎてあまり実感が沸かないというのが実情だ。

 そんなにお金あっても何に使うのって話だしな。

 

『それから個人的な話なんだが、スノウホワイトさんに謝っておいてくれ。昨日は少しやんちゃが過ぎた。あの後柳枝にも叱られてな』

 

「あー……その件は大丈夫です。こっちで片付いたので」

 

『ん? そうか? それなら良いのだが』

 

 片付いたというか片付けたというか。

 あれがあったお陰で昨夜は楽しみましたとかは流石に言えない。

 

『で、個人的な話に移りたいのだが、時間はまだ大丈夫かい?』

 

「はい、それはもう。暇で暇で仕方がないくらいで」

 

『変なことを言うんだな、君は』

 

 くすくすと笑うような声が電話口から聞こえる。

 なんというか、俺もまだ緊張しているのだろう。

 なにせ憧れの伝説の存在だ。

 

『君たちに連絡がつかないと言う苦情がこちらに来ているんだ』

 

 何故かかなり小さな声、こしょこしょ話をするようなトーンで電話口からそんなことを言われる。

 

「え゛っ……すみません、ご迷惑をおかけして」

 

『うむ……非常に迷惑している。困っている』

 

「す、すみません」

 

 伊敷さんに迷惑をかけるようなことになってしまうとは。

 これは全力で謝罪しなければいけないだろう。

 後で菓子折りを持ってダンジョン管理局へ行くべきだろうか。

 スノウは連れていかない方が良いだろうな。

 

『しかし君たちにも事情があるのだろう。ということで、一つ取引をしないか』

 

「……取引、ですか?」

 

 何故かずっとこしょこしょ話をするトーンの伊敷さん。

 まるですぐそこにいるのであろう柳枝さんには聞かれたくない話をしているような感じだ。

 

『午後になったらダンジョン管理局へ来てくれ。君一人で、だ。受付には伝えておく。それで全部チャラにしよう』

 

「わ、分かりました」

 

 やはり怒られるのだろうか。

 流石に迷惑をかけ過ぎだ、と。

 正直そう言われればぐうの音も出ない。

 しかしそれでチャラにしてくれるというのだから、俺が一人で行って一人で怒られれば良いだけの話。

 わざわざ皆に用事を伝えるまでもない。黙って行こう。

 

 

2.

 

 

 

 そして午後。

 訝しげにする三人を置いて、俺は一人でダンジョン管理局へ来た。

 一人で来ると何度も探索者試験を受けに来たことを思い出すな。

 あの時は潜在魔力を検知出来なかった、という理由で落とされていたらしいのだが、今受けたら合格するのだろうか。

 受付の人に名前を伝えられると、見覚えこそあるものの、これまで通されていた所とは違う場所へ連れてこられた。

 

 ここは……実技試験会場だ。

 剣や槍、手甲など、一通りの竹製の近距離用武器が置いてあって、プロテクターを装着してそれで相手をただ打倒するというシンプルな実技試験。

 時代錯誤だとバッシングを受けたこともあるこの試験だが、実際問題、探索者としてやっていくには戦闘能力が必要だ。

 男女で分けることなく行われるこの試験には未だに根強い反対者がいるようだが、それでも実施し続けるだけの理由があるのだろう。

 ダンジョン管理局には弓や銃を専門に使う探索者もいるが、この実技試験を合格している以上、彼らは近接能力も他の企業に属する並の探索者より優れているということになる。

 

 大体一日で二十戦くらいするのだが、俺の勝率は半々くらいだった。

 一応合格ラインには達している基準ではある。

 筆記に関してもほぼ満点だったはずなので、最終的に見られるのはやはり魔力という潜在的な能力だったのだろう。

 身体能力の上がった今ならもう少し勝てるのだろうか。

 等と思いながら懐かしの(?)実技試験場で待つ。

 しかし何故ここなのだろう。

 今までは普通に応接室だったのに。

 もしかして物理的な折檻なのだろうか。

 だとするとちょっと体育会系的すぎる気もするが。

 

「やあ」

 

「っ!?」

 

 後ろから突然肩をポンと叩かれ、その場で飛び上がる程驚く。

 声で既に察してはいたが、振り返ってその姿を確認して俺はすぐに佇まいを直した。

 

「い、伊敷さん!」

 

「そんなに畏まらなくていいよ。まさかそこまで驚くとは思わなかった」

 

 <気配遮断>のスキルを使って俺の背後から忍び寄っていたのだろう。

 微笑を浮かべる伊敷さんは、昨日のスーツ姿とは違って身体のラインが出ている全身を覆う黒タイツのようなものの上に関節部分や胸部、鳩尾を守る為のプロテクターが装着されている、いわゆる『ダンジョン管理局に属する探索者の戦闘服』と呼ばれる格好をしていた。

 一部界隈では妙にエロティックだと注目を集めていたが、凛々しい美人の伊敷さんがそれを着ると、エロいというよりもかっこいい。

 いやエロいにはエロいのだが。

 ちなみにこのタイツのように見えるものは防刃防弾性な上に衝撃吸収能力まであるのでかなりのスグレモノなのだ。市販品のそれとはレベルが違う。

 外部の人間が同じものを用意しようとすると数千万はかかるのではないと言われている程。

 ……で、何故そんなフル装備で伊敷さんはここに現れたのだろう。

 

「一応君の分もあるが、魔力量からして恐らく必要はないだろうね」

 

 そのまま伊敷さんは壁に向かって歩いていく。

 その壁には竹製の武器達がかけられているのだが、まさかやはりあれを使って物理的折檻の道なのだろうか。

 

「君の身体はプロテクターよりも硬いだろう?」

 

 パシン、と竹刀を手にとって、重さを確かめるように自分の掌に打付けた伊敷さんが言った。

 

「え……まあ、はい」

 

 そういえば、オークに殴られた時も俺の身体には傷一つついていなかったが、プロテクターは変形していた。

 

「君も武器を取りたまえ。それとも素手の方がお好みかな?」

 

「……はい?」

 

 にっこりと伊敷さんは笑った。

 

「手合わせをして欲しいんだ。君はきっと私より強いからね」

 

「言っている意味が分からないのですが」

 

 伊敷さんと俺が手合わせ?

 なんでそんなことに。

 

「君に言ったあれこれは全部単なる建前さ。私は君と戦ってみたい。スノウホワイトさんもかなりのものだが、私の直感は君の方が上だと言っているんだ。だからやろう。さあ、早くやろう。すぐやろう。今やろう」

 

 ……スノウ。

 どうやら俺が間違えていたようだ。

 確かにこの人は戦闘狂だった。

 それもかなり真性の。



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第28話:遊び

1.

 

 

 その後も何分か押し問答があったのだが、結局押し切られて一本先取で手合わせをすることになってしまった。

 俺は一切何の装備も付けていない。

 邪魔にしかならないからだ。

 そして伊敷(いしき)さんは防具フル装備な上で竹刀を持っている。

 一見かなり不公平なようにも見えるが、実際のところほとんどのプロテクターは意味を為さないし、下手に扱えない武器を持つよりは素手の方がまだマシだという判断の元による。

 勝負は三本先取。

 

「竹刀では有効打にはならないだろうから、急所と言えるところを私が攻撃出来たらこちらの勝ち……ということで良いかな? もちろんこれは君の場合も然りだ」

「分かりました」

 

 ここでゴネたところで意味はないだろう。

 唯一このイベントを回避する方法はここから全力ダッシュで逃げる事だが、俺としてもダンジョン管理局との仲は良好である方がやりやすい。

 しかし、まさか憧れの対象と模擬戦とは言え手合わせをすることになるとは。

 言ってしまえば、伊敷さん――日本初のダンジョン攻略者という人物は、俺にとってはアニメや漫画の主人公以上の存在だ。

 こうして会話をしているだけでも現実味が湧きづらいというのに。

 

「君のタイミングで始めてくれていい」

 

 正面、十歩ほど離れた位置に立つ伊敷さんが言う。

 

「はい――では行きます」

 

 やるからには一本くらい取りたい。

 そう思っていたのだが。

 開始の合図をして、ふ、と伊敷さんが視界から消えた。

 ピシ、と首筋に竹刀が軽く当たる。

 

「え……」

 

 伊敷さんは俺のすぐ隣に立っていた。

 

「まずは一本、ということで良いかな」

「は、はや……」

 

 速い……?

 いや、違う。

 ただ速いだけなら俺の目には見えるはずだ。

 ボスの攻撃さえ見切れる程なんだぞ。

 魔力で身体能力が強化されていれば一瞬で十歩の距離を詰めることは可能だろう。多分、俺もやろうと思えば出来る。

 しかし見失う程の速さでと言われればそれは無理だ。

 

「悪いね、わざわざ三本先取にしたのは君の驚くところを見たかったんだ」

 

 伊敷さんは茶目っ気たっぷりに少し舌を突き出した。

 昨日も先程もそうだが、驚かせる、ということ自体が好きなようだ。

 しっかりしているように見えるが、意外とやんちゃな人なのかもしれない。

 

「とは言え残りの二本も同じでは味気ない。種明かしをしようか」

 

 次の瞬間、伊敷さんは元の立ち位置に戻っていた。

 まただ。

 ()()()()

 

「簡単な話さ。私の<気配遮断>の力を使った。君が瞬きで目を閉じた瞬間にね」

「……そんなの無敵じゃないですか?」

 

 ()()()()のも当たり前の話だった。

 見えていない間に姿を消しているのだから。

 しかし言葉で言うのは簡単だが、当然同じことをしろと言われても俺には不可能だ。

 人間の瞬きなんて一瞬で終わるんだぞ。

 <気配遮断>との組み合わせだと言っていたが、それでも簡単な技術ではないだろう。

 

「本気での立ち会いならば私は人間相手に負けたことはないよ」

 

 ……なるほど。

 別に俺は戦うのが好きという訳ではないが、無敗だと聞けば敗かせてみせたくなるのが人間というものだろう。

 瞬きするのがまずいのだったらそれを意識すれば良い。

 しかし受け身でいればどうしても生理現象としての瞬きをしてしまうだろう。

 ならばこちらから攻めるだけだ。

 

「行きます」

 

 今度は宣言と同時に俺がダッシュした。

 バキ、と床が砕け散る。

 力を入れすぎた、と思った次の瞬間には俺の身体が宙を舞っていた。

 視界が一気に反転する。

 

「――うおおおお!?」

 

 そのままの勢いで床に叩きつけられる。

 どうやら投げ方が上手かったようで、受け身は自然に取れていた。

 そうでなければ床の方が陥没していたのではないだろうか。

 そして仰向けに寝転ぶ俺の首元に竹刀が突きつけられた。

 

「一本目の絡繰りを聞いた者は大抵同じことをしようとするよ」

 

 楽しそうに笑いながら、伊敷さんに助け起こされる。

 ダメージは一切ないが……

 今どうやって投げられたかも分からないぞ。

 プロテクターを付けている以上、多分魔力自体は俺の方がある。

 つまり力自体は俺が上なはずだ。

 しかし一方的に翻弄されているのはこちら……か。

 

「……伊敷さん、提案があります」

「うん?」

 

 元の立ち位置に戻った伊敷さんが首を傾げる。

 

「何かな?」

「今度からは寸止めでなく、急所に向かって最後まで全力で振り切ってください。大丈夫です。竹刀じゃ何がどうなっても俺は死にませんから」

「……ほう」

 

 伊敷さんは俺の我儘を興味深そうに聞いてくれる。

 

「なるほど、カウンター狙いというわけか」

「…………」

 

 あっさりと目論見を看破されてしまった。

 いやしかし実際にそれしか勝ち筋がないのだから仕方がない。

 自分の防御力にあかせた力業だ。

 

「うん、面白い。それでやろうか」

 

 やはり戦闘狂の伊敷さんなら乗ってくると思った。

 狙いがバレているのが不安だが、それしかないのだからそれでどうにかするしかない。

 

 

 

2.

 

 

「今度は伊敷さんのタイミングで来ていいですよ」

「では行こうか」

 

 ふ、と伊敷さんの姿が消える。

 咄嗟に首をガードすると、鳩尾に竹刀がとん、と当たった。

 だが、痛みはない。

 寸止めはしないように言った以上、これは攻撃ということではなく――フェイクだ。

 しかしそれに気付いた時にはもう遅い。

 すぐに竹刀を掴むが、その先に既に伊敷さんはいない。

 ――竹刀を捨てた?

 脇腹に軽い衝撃。

 だが姿は見えない。

 背中へ再び衝撃。

 当然のように姿を捉えることは出来ない。

 痛みはない。

 拳か蹴りで殴打されているのだろう。

 

 ……なるほど、()()()()だな。

 思っていた以上だ。

 注力したところで無理なものは無理……と。

 なら少し趣向を変えてみよう。

 

 

「――なっ」

 

 首へ迫っていた手刀を、掴んで止めた。

 伊敷さんの姿をようやく視認することが出来る。

 驚きに目を見開いているその顔面に、思い切りパンチを――叩き込む寸前で拳を止めた。

 ぶわ、と拳圧で伊敷さんの髪が乱れる。

 

「……一本は取れたってことで良いですかね」

「ど……どうやって私の動きを見きった?」

 

 伊敷さんは顔を伏せていて表情が見えない。

 不思議なのだろう。

 俺だってまさかこの手がうまくいくとは思っていなかった。

 正直綱渡りにも程がある方法だ。

 

「スノウが伊敷さんの<気配遮断>中にも察知していたのをヒントにしました。多分彼女は魔力で感じ取ったんでしょうけど、俺には同じことは出来ない。なら魔力以外の何か――<気配遮断>を視覚で感じ取れないなら、肌で感じ取ろうと思ったんです」

「肌で……?」

「あれだけのスピードで動けば空気が押されて、風が出るでしょう? それなら伊敷さんの攻撃が届く寸前に感じ取ることが出来るんじゃないかって。けどそれが寸止め前提の速度だと弱くて感じられないかもしれない」

「だから最後まで振り切ってくれ、と言っていたわけか」

 

 最初の一発目は<音>を聞いてやろうと思ったが無理だった。

 あの首なし侍と戦った時、集中したら奴の動きがスローに見えた。

 つまりあの状態は<視覚>が強化されていたと考えていい。

 

 なら聴覚もできるだろう。

 ということでやってみたのだが、音は全くと言っていいほど発生していなかった。

 伊敷さんの抜き足も相当なものなのだろうが、それに加えてスキルの効果もあったのだろう。

 <気配遮断>と言うくらいなので、聴覚や視覚はほとんど役に立たないと考えていい。

 視覚に関してはもう分かりきっている通り、役に立たない。

 どころかまばたきの瞬間を利用されたりして足を引っ張る要因にさえなり得る。

 見ている、という思い込み故に一本目はあっさり取られた。

 そして聴覚は先述の通りまるで役に立たなかった。

 ならば他の五感――触覚で感じ取ろう、と言う訳だ。

 

「ふ、ふ……なるほど、出鱈目だな……」

 

 と、そこで始めて伊敷さんの声が震えているのに気づく。

 もしかして泣――

 

 

「おい、お転婆娘。社員から聞いたぞ。ここにいるようだな」

 

 柳枝(やなぎ)さん!?

 伊敷さんが泣いているのかどうかの確認はともかく、こんな場面を見られたらまずい!

 そう思った俺が自分の身体で伊敷さんを隠そうとすると、その前に彼女が俺に抱きついてきた。

 

「なっ……なっ……!」

「あまり大きな声を出すとバレるぞ。私の<気配遮断>は他人にはかかりが悪い」

 

 先程よりも声が……というかテンションの低くなった伊敷さんに思い切り抱きつかれ、俺がフリーズしている間に柳枝さんは中をぐるりと見回した。

 明らかに俺と伊敷さんがいるところも見たが、こちらにはどうやら気づいていないようだ。

 こ、これが<気配遮断>……なのか。

 とんでもないな。

 効果を俺にも適用することが出来るなんて。

 しかし、伊敷さんは気づいているのだろうか。

 幾ら防御性能に優れているとは言え、今の彼女はほとんど全身タイツだ。

 胸や各関節は隠れているものの、他はそうではない。

 ここまで密着されれば、肌のあちこちが、柔らかいあれこれが当たっているのだが。

 

「……たく、竹刀くらい片付けておけ。いつまでも子どもじゃないんだぞ……って、床が抉れているじゃないか。まったく、あいつは……」

 

 すぐそこに落ちていた竹刀を拾い上げ、柳枝さんはまた離れていった。

 元あった場所に竹刀を戻し部屋を去っていく。

 

「動機が激しくなっているな。呼吸も荒い。体温も上昇しているようだ」

 

 何故か俺から離れようとしない伊敷さんが耳元で囁く。

 最近耳元を責められることが多いような気がする。

 何故だろう。

 日頃の行いがよほど良いのだろうか。

 

「興奮しているな。私もだ」

「こ、興奮って……」

「私より強い人間は世界のどこかにいる。それは今までも分かってはいた。だが、私の前に姿を現すことはなかった」

 

 密着したまま耳元で囁かれる。

 

「私は今日初めて敗北した」

 

 初めての敗北。

 それはそうだろう。

 対人では負けたことがないと言っていた。

 モンスターにもそうそう負けはしないだろう。

 ボスにも勝ったことがあるはずだ。

 そんな彼女が、今日初めてただの人間に負けた。

 それは理解出来る。

 だが……それとこれと何の関係が?

 

「初めての感覚だ。こんなにも興奮するのは。君が欲しい」

 

 まるで熱に浮かされているような声音でそんなことを言われる。

 

「この勝負、もし私が勝ったら付き合ってくれないか」

「つ、付き合う……とは……」

「買い物やお出かけに付き合って欲しいというわけではないぞ。分かってはいると思うけどな」

 

 すい、と伊敷さんは俺から離れて、先程柳枝さんが拾って片付けた竹刀を再び手にとった。

 先程までとは……明らかに空気が違う。

 

「ここからはただのお遊びじゃなく――()()で遊ぼうか」



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第29話:意外と…

1.

 

 

 事実は小説より奇なり。

 これを言ったのは確かイギリスの詩人だったか。

 突如全世界にダンジョンが出現したことももちろんそうだ。

 そして俺がダンジョンの発生に巻き込まれ、運良くスキルブックを手にし、スノウに出会って会社を設立することになったというのもまたそのパターンだ。

 しかし俺は今この瞬間が一番、事実は小説より奇なりという言葉に当てはまっているような気がする。

 日本人なら誰もが知っているが誰も知らない人、という不思議な立ち位置にいる大英雄。

 伊敷(いしき) 未菜(みな)という本名でさえ昨日知ったばかりだと言うのに、その昨日の今日でそんな関係になってしまっているのだから。

 思えば綾乃ともそうだったが、ここ最近の俺は節操が無さすぎるような気がする。

 というかなんなら今朝までやりまくっていたと言うのに、既に元気になり始めている我が愚息の持久力にもかなり驚いているのだが。

 流石にマカドリンクの効果はもう消えているだろうし、ここ最近の絶倫ぶりには驚かされるばかりだ。

 

「本当に良いんですね。もう止まれませんよ」

 

 伊敷さんの腕を掴んで改めて聞く。

 

「ああ……とうとう私は自分よりも強い男性に組み敷かれて……乱暴にされてしまうんだな……っ!」

 

 ……え?

 伊敷さんの目がなんだかおかしい。

 もしかしてこの人、綾乃と同じような属性なのだろうか。

 しかしさっきも言った通り今更止まれるはずもなく、プロテクターを外そうとし……外し方がよく分からないのでもう壊してしまう。

 自動車の衝突にも耐えるプロテクターだが、俺がその気になればパキ、とプラスチックのように簡単に割れてしまう。

 もう少し強めに作った方が良いと思う、というのは後でご意見ボックスにでも投稿しておこうか。

 

 ほとんど全身タイツのような格好なので、胸部を守っていたプロテクターを外してしまえばお椀型の綺麗な形の胸がそのまま露出される。

 ……思っていたよりも大きいな。

 思わず手を伸ばして触れると、「ん……」と伊敷さんが小さな吐息を漏らした。

 

「え、えっちな触り方だ」

 

「えっちじゃない触り方ってどんなですか」

 

 顔を真っ赤にした伊敷さんが咎めるように言うが、それこそエッチする前におっぱいを触るのだからそりゃえっちな触り方にもなる。

 しかし先程俺のちんこをズボン越しに触っていた時もそうだし、先程の発言でも察することは出来たが、どうやらこの人にとって性交は初めての体験のようだ。

 10年前……つまり中学生か高校生になりたてくらいの時に国の英雄として祀り上げられ、そこからもダンジョン攻略に駆り出されたりダンジョン管理局の業務に追われたりと忙しかったのかもしれない。

 相当モテそうではあるけどな。

 

 しかし、これだけ鍛えてそうな人でもおっぱいは柔らかいのか。

 本当に不思議な部位だ。

 男の身体にはこの柔らかさって存在しないからなあ。

 しかも今までに伊敷さんを含めて四人の胸を揉んできた訳だが、大きさが違うことはもちろん、柔らかさの質というものも違うということを俺は知った。

 本当に不思議だ。皆このように個人差があるのだろうか。全人類の胸を揉みくらべてみればはっきりするのだろうか。

 

「いつまで触っているんだ? 飽きないのか?」

 

「飽きないですね」

 

「そ、そうなのか……」

 

 つい先程までノリノリで俺を挑発していた癖に、いざこちらが主導する側になった途端に弱気になっている。

 それこそノリで始めてしまったので今ちょっと後悔してたりするのではないだろうか。

 そう言われてももう今さら止まるのは不可能だが。

 

「んっ……」

 

 全身タイツのようだとは言ったが、本当に全身タイツという訳ではない。

 恐らくこの下には普通に下着があるのだろうし、それが透けている訳でもない。

 なのでもう手っ取り早く脱がせてしまおうと思ったのだが、このスーツ、脱がせる場所が分からん。

 プロテクターもそうだったが何故こうもわかりにくいのだろうか。

 ええい、ままよ。

 

「あっ……!」

 

 伊敷さんが小さく声をあげる。

 俺はスーツを両手で引っ張って破いてしまう。

 流石に高級素材。

 引き裂く際にプロテクターよりは抵抗を感じたが、それでも破けないという程ではない。

 これもまだ改善の余地があるな、うん。そういうことにしておこう。

 そしてそのスーツの下には、白くもさい感じのデザインのブラが出てきた。

 洒落っ気はあまりないのだろうか。

 しかしそれがなんだか逆にエロい。

 性を感じさせない女性から不意に見られる女の部分。

 そういうのに興奮する人はよく分かると思う。

 

「あ、わ、そ、その、そんなに見ないでほしい」

 

 わたわたと慌てたように両手で胸を隠す伊敷さん。

 さっきから年上の威厳のようなものが失われっぱなしなのだが良いのだろうか。

 

「なんでです?」

 

 段々とそんな姿に嗜虐心を煽られ始めた俺がそう聞くと、

 

「……私がお忍びで出かけている時なんかによく視線を感じるのだ。多分、私の胸はどこかおかしいんだと思う」

 

 ……それは貴女が綺麗な上に割かし巨乳だからだと思います。

 少なくともおっぱいの見た目が変だとかそういうことはない。

 

「なんだか可愛いですね」

 

「何を言うか。私が可愛いはずないだろう」

 

「いえ、ちゃんと可愛いですが」

 

「…………」

 

 崇拝に近い憧れさえ抱いていた英雄の意外な一面に素直な気持ちでそう言うと、伊敷さんは顔を真っ赤にした。

 もはやゆでダコだ。

 そしてそんな顔を見られるのが恥ずかしいのか、今度は胸ではなく顔を隠し始める。

 

「う、嘘でもまあ嬉しいものだな、うん。お世辞というものは良い文化だ」

 

「お世辞じゃないですって。本当に可愛いですよ」

 

「か、かわ、かわいいだなんて、そんな。私がかわいい? そんな馬鹿な話はあるか」

 

 その反応でピンと来た。

 伊敷さんは女の子扱いというものをほとんどされたことがないのではないだろうか。

 実際、俺も初見では『凛々しい』だとか『かっこいい』とかそっちの方面の印象をまず受けた。

 姿勢はビシッとしているし、表情もキリッとしている。

 そして恐ろしく美人だ。

 可愛いというよりは綺麗系の整い方なので、『可愛い』という扱いは受けたことがないのかもしれない。

 それにやはり日本初のダンジョン攻略者ということもあって周りの環境も特殊なのだろう。

 そういうのが相まって暴走してのこの状況だろうし、そう考えればなんとなく分かるような気もする。

 となると、ただ単に綾乃と同じようにマゾだ……というよりは、女の子扱いをして欲しいのか。

 自分より強い男性に組み敷かれる云々というものもその裏返しなのかもしれない。

 そうか。なら、知佳にやったあの作戦で行ってみるか。

 

「本当に可愛いですよ、伊敷さ……いや、未菜さん」

 

「――!?」

 

 耳元でそう囁いてやると、面白い程に伊敷さんの――未菜さんの身体が竦み上がった。

 元々『男と女の勝負』とやらに敗ける気はしなかったが、これは確実な勝機だ。

 下半身のスーツも破いて、ショーツのクロッチ部分に触れる。

 まだ濡れてこそいないものの、触れた瞬間に未菜は身体を震わせた。

 まだ快楽はないだろう。他人に触れられるというのも始めてなはずだ。

 じっくり開発していけばいい。

 

 

2.

 

 

 さて、まずは解きほぐしていくか。

 

「俺に身を委ねてください」

 

「あ、ああ……」

 

 じっと未菜さんは俺の目を見ている。

 黒瑪瑙(オニキス)のように綺麗で澄んだ黒い瞳だ。

 まるで吸い込まれるような魅力を持っている。

 

「ん……」

 

 自然と唇を合わせていた。

 触れるような軽いもの。

 

「……初めてだぞ」

 

「でしょうね。二度目も三度目も俺が貰います」

 

「んっ……」

 

 今度は少し激しめに。

 同時に、股間に触れている指も動かし始める。

 

「くっ……う……」

 

 ショーツ越しに感覚で探り当てたクリトリスを重点的に。

 しかし痛くはならない程度に。

 

「んっ……むっ……」

 

 口はずっと塞いだままだ。

 どうやら性交渉の経験はなくともオナニーは流石にしたことがあるらしい。

 いじり続けていると、やがて愛液が溢れるようになってきた。

 そしてそのまま続けること約5分。

 

「むっ……ん――くっ……」

 

 未菜さんがぐっと身を竦ませる。

 絶頂したようだ。

 その間、息継ぎはちょこちょこ挟んではいたもののずっとキスは続けていた。

 

「イきましたね。これであと互いにあと一本です」

 

 とろんと蕩けたように俺を見つめていた未菜さんはハッと表情を改める。

 

「イ、イってないぞ。今のはその、ちょっとビクッとしただけだ」

 

「なるほど」

 

 そう言い張るのならこちらにも考えがある。

 既にギンギンになっているちんぽを取り出し、膣の中へ少しだけ挿入させる。

 

「ふぐっ……!?」

 

 完全に不意打ちだったということもあって、未菜さんは歯を食いしばってその衝撃に耐えようとしている。

 

「確かに、どの道さっきまでは俺が一方的に責めるだけでしたから。ですが挿入すれば条件は五分ですよね」

 

「ぐ……くっ、そ、そう、だな……しかし悠真くん、少しだけ動くのは待って欲しい。き、キツすぎるんだ」

 

「動くもなにもまだ全部入っていませんが」

 

 俺がそう伝えると未菜さんは背景にガーン、とでも出そうなほど露骨にショックを受けていた。

 

「こ、これで全部じゃない……だと……!? あ、あり得ない。これ以上入ってきたら私の身体は串刺しになってしまうぞ!」

 

「ならないので大丈夫です」

 

 未菜さんより20センチ以上身長の低い知佳でも全部入ったのだ。

 ちょっと無理やりだけど。

 だからきっと大丈夫なはずだ。

 というか、まだ本当に先っちょしか入れてない。

 まだ鬼頭すら全部入りきっていないのだから。

 

「うっ……ぐ、ぐ……」

 

 全部入れていこうとすると未菜さんがかなりの勢いでいきむので、物凄くキツく感じる。

 鍛えているということもあってそもそも膣圧がかなり高いのかもしれない。

 そういう話を聞いたことがある。エロ漫画で。

 あと、そろそろ膜に到達していても良い頃だがそれも感じない。

 これもまた激しい運動をしていると膜が破れてしまうことがあると聞いたことがある。エロ漫画で。

 そういう意味では肉を裂かれるような激痛というものは感じにくいのかもしれない。

 こちらにとっては好都合だ。

 

「そ、そろそろ……全部入ったんじゃないか……!?」

 

「半分くらいですね」

 

 膜こそ激しい運動でなくなっているものの、初めてには違いないのでゆっくり入れなければ膜以外のところで肉が裂けてしまう。これもまたエロ漫画で得た知識だが。

 

「は、半分……だと……!? 全部入ったら私は死んでしまうのでは……!?」

 

「絶対ないので安心してください」

 

 どんだけビビってるんだ。

 普段ダンジョンに入り浸っていると聞いていたが。

 モンスターは平気でちんこは怖いって。

 ……女性からしたらありえなくもない話なのだろうか。

 

「ぅぅ……」

 

 既にべそをかきそうになっている未菜さん。

 あれだけ凛々しいあの伝説の英雄が俺のちんぽに泣かされている。

 本当に事実は小説より奇なり、だな。

 更にそこから数分をかけて、ようやく全てを挿入し終えた。

 

「全部入りましたよ」

 

「そ、そうか、セックスとはこんなに苦しいものなんだな」

 

 何を言っているんだこの人は。

 これはセックスではなくただの準備だと言うのに。

 

「大丈夫です。ここからは気持ちよくなるので。逆に苦しくなるかもしれないですけど」

 

 俺がにっこり笑ってそう言うと、対象的に未菜さんの顔は青ざめていくのだった。



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第30話:ここからが本番

1.

 

 

「い、今から動くのか? 冗談だろう? 冗談だよな?」

 

 残念ながら冗談でもなんでもない。

 むしろ動くなと言われる方が冗談じみた話だ。

 ゆっくりと腰を動かし始めると、未菜さんはぐっと歯を噛みしめる。

 

「お、大きすぎる……んじゃない、のか……っ!」

 

「さあ……他の人のものをまじまじと見たことはないんで、なんとも」

 

 大きいのかな? と思うことは最近よくあるが、実際のところどうなのかは知らないのでなんとも言えない。

 しかも心なしか最近大きくなってきているような気もするのでよくわからないのだ。

 膣内は濡れてはいるのだが、如何せん緊張が解けていないようで過剰にキツい。

 このまま無理に動かしても肉壁が傷ついてしまうだけだろう。

 となると、弛緩させる――なんとかして受け入れて貰うしかないのだが。

 思っていたよりずっと乙女な未菜さんの緊張を解きほぐすのは生半可なことでは出来ないだろう。

 ということでしばらく考えを巡らせ、俺はとある結論に辿り着いた。

 緊張を解すのが難しいのなら、脱力させてしまえば良いのだと。

 先程絶頂していたのにも関わらずそれを否定していたし、認めるまでイきまくって貰おうか。

 

「ひっ……!?」

 

 先程クリトリスを触った時はそこが弱そうだったので、もう一度弄り始める。

 触れた瞬間にぴく、と身体を震わせる様子は既に元の凛々しさなど全く感じないものだった。

 この様子じゃ脱力までも早そうだな。

 

「んっ……こ、こら、悠真く、そこは敏か――んっ♡」

 

 挿れたままの動きになるのでイジる度に膣が収縮運動をするのがダイレクトにちんぽに伝わる。

 もちろん腰をガツガツ動かしている時が一番気持ち良いとは思うが、これはこれで趣があるな。

 しかし、動きやすい髪型だということで未菜さんはポニーテールにしているのかもしれないが、この人の気質的にも合いすぎていてやたらと扇情的だ。

 頬を赤く染めてじっと快感に耐えている姿は、やはり綺麗やかっこいいと言うよりも可愛いものだ。

 

「――っ、!」

 

 びくん、と未菜さんの身体が跳ねる。

 どうやらまた絶頂したようだ。

 本当ならもう三本先取しているようなものなのだが、どうせ認めないだろうということは分かっているのでそのまま続ける。

 

「くっ……ま、っ……♡ あっ♡」

 

「可愛い声が出ていますよ」

 

「かわいいって……いうなぁ……♡」

 

 未菜さんは腕で顔を隠そうとするので、俺は空いてる方の左手でその腕をどかす。

 すると縋り付くような眼差しを向けてきた。

 これじゃ完全に女の子だな。

 

 そしてそのまま責め続けること小一時間。

 愛液が床に水たまりを作るようになる頃には、すっかり未菜さんはぐったりと脱力していた。

 少しだけ腰を動かしてみるが、先程までのキツすぎるという状態ではなく、今ではびくびくと痙攣する度に締め付けてくるただ気持ちいいだけの肉壷だ。

 

「一応聞いておきますけど、もうイってますよね?」

 

「イ……へ……な……ひ……♡」

 

 負けず嫌いにも程があるな。

 しかしここで負けを認められていたらこちらにとっては不都合だったので助かる。

 寸止めされるようなものだからな。

 寸止めの恨みは怖いぞ。

 

「じゃあ動きますね」

 

「えっ……あ゛っ♡」

 

 既に中はぐちゅぐちゅで、ずっと俺のものを挿れたままだったということもあって狭くてキツくて痛い、なんていうこともなくただ快楽だけが与えられているのだろう。

 動かし始めてすぐに未菜さんは喘ぎ声を上げるようになった。

 

「ま、ま、て、悠真、く――ん゛っ♡」

 

「もう待ちませんよ。もう待ちくたびれました。待ち望んでいたんですから」

 

「ひぃ、ぐっ、ん、あ、あっ、い、ぐっ♡ ん゛っ♡」

 

 ばちゅ、ぱちゅ、と淫猥な音が辺りに響く。

 いや、響いてはいないのかもしれない。

 恐らくだがまだ未菜さんは<気配遮断>のスキルを使っているからな。

 ずっと近くにいたからか、なんとなくスキルを使っている際の魔力の流れのようなものが分かってきたような気がする。

 

「そろそろイったことを認めた方が良いと思いますが」

 

「イって、なぃい゛……っ」

 

 俺の忠告に、未菜さんはあキッと俺を睨んで言う。

 まあ睨めてはないのだが。

 何度も絶頂させた後ということと、シチュエーションに彼女自身が慣れていないということがあって普段のキレが全くない。

 凛々しい? なにそれ美味しいの? な状態である。

 こんな姿を社員に見られたらダンジョン管理局は崩壊するのではないだろうか。

 

「そうですか」

 

 我慢強いという訳ではないのだが、精神力は異常に強いな。

 というか負けず嫌い過ぎないか。

 負けたことがないと言っていたしな。

 では仕方がない。

 もう負けを認めざるを得ないほどの状態にまで陥って貰うしかない。

 後から考えれば別に俺の方が負けを認めて引くという手もあったのだが、どうやら俺自身も相当な負けず嫌いだったようだ。

 

「じゃあ! もう! 加減は! しないですからねっ!!」

 

 一回一回の言葉の区切りごとに強く腰を打ち付ける。

 膣内は既にほぐれきっているのでそこで遠慮する必要はなかった。

 しかし流石は鍛えている女性のまんこだ。

 弛緩しているとは言ってもまだしっかりと締め付けてきているし、力が入らなくはなっているもののそれで緩くなるという程でもない。

 時間が経てばまたあのキツキツの状態に戻るのではないだろうか。

 

「ま、っ、へっ♡ あっ♡ あっ♡ あっ♡ あっ♡」

 

 段々と高まっていく嬌声は、今まで辛うじて取り繕っていた(本当にできていたかは別として)仮面がどんどん剥がれていく様を如実に物語っていた。

 もう止まることは出来ないだろう。

 このまま一番上まで登り詰めてフィニッシュだ。

 

「いっ♡ く、悠真、く♡ ん、♡ ぎゅって♡ ぎゅってしてくれっえ♡」

 

 う……

 やばい。

 何だこの人。

 可愛すぎるだろう。

 普段の様子と違いすぎるその抱っこをねだる姿に、直前まで外に出さなければと考えていた俺の理性が吹き飛んだ。

 未菜さんの身体を強く抱きしめ、一番奥で射精する。

 

「あ゛ああああああああああああ゛っ♡ きて、る♡ 奥に、あたたかいのが、きてるぅぅぅぅ……♡」

 

 結果的にずっとこちらも我慢していたことになったので、思っていたよりも相当濃く量もかなり出てしまった。

 朝までヤっていたのに、まだこんな元気なのか俺の精巣は。

 自分でも驚く。というか明らかに何かしらの変化が身体に起きているように感じる。

 

 ……もしかしてだけど、魔力で身体能力が上がるように、ちんこというか性欲も……

 いや、流石にそれはないか。

 発想が飛躍しすぎだ。

 そんなことがあるはずない。

 ない……よな?

 

「あ……♡ あ……っ♡」

 

 ぶぴ、とまんこから膣内に入り切らなかった精液を垂れ流して完全にトんでしまった様子の未菜さんを抱きかかえながら、俺は自分の突飛もない想像を否定も出来ずに溜め息をつくのだった。

 

 

2.

 

 

 未菜さんが意識を取り戻す頃には、部屋の掃除はとりあえず終わらせておいた。

 <気配遮断>がない今、もし柳枝(やなぎ)さんが来たら俺の人生終わりかなーとかなんとか言い訳出来るかなーとか色々考えていたが、結局彼が再びここを訪れることはなかった。

 助かった。

 

「おはようございます。とりあえずこれ着てください」

 

 未菜さんの着ていたものに関しては俺が破いてしまったので自分の着てきた上着を渡す。

 しばらく俺を恨みがましそうに見ていた未菜さんだったが、やがてふっ、とアンニュイな様子で息を吐いた。

 なにそれ、どういう感情?

 

「先程の勝負は引き分け……ということにしてやろう」

 

「えっ」

 

「だって君もイっていただろう! 中に出すなんて聞いてないもん!」

 

「もん?」

 

「あ、いや、聞いてないぞ!」

 

 ……セックスしている時もそうだったがもしかしたらこの人、俺たちが見ている姿はあくまでも演じているようなもので、素はもっと女の子女の子しているのではないだろうか。

 

「まったく……安全日だったので良かったものの、次からする時はちゃんとゴムを着けるようにするんだぞ」

 

「次から?」

 

「え? あっ、違う、今のは言葉の綾だ」

 

 意外と隙だらけだな、この人……

 キャラをずっと保つのも大変なのかもしれない。

 

「……しかし今回は引き分けだったとは言え、君は強いな」

 

 あくまでも引き分けだということにするのか。

 いや別に良いけど。

 冷静に考えてみたら、俺は負けようが勝とうが何も得るものがない訳だし。

 

「本当の殺し合いだったら最初の一本で俺が死んでますからね」

 

「その仮定は意味がない。君も本気は一度も出していないだろう」

 

「俺は俺で必死でしたけど」

 

「君も殺すつもりで来ていたら一本目もなかったかもしれない。まあ、やはり意味のない仮定だがな。君が私を……人間を殺す気で襲えるとは思えない」

 

 それはその通りかもしれない。

 相手がモンスターならまだしも、人相手はな。

 自動車の衝突に耐えるプロテクターが壊れた攻撃にも耐えることが出来るということは、俺が普通に体当たりをするだけでも自動車の衝突くらいの威力が出るかもしれないということだ。

 そんな力を人間相手に使うなんて考えるだけでもぞっとするものがある。

 

「しかしこれではせっかく手合わせまでしたというのに、君の力がどれくらいのものなのかよく分からなかったな。どうせなら本気を見てみたい」

 

「と言われましても……」

 

 そこら辺の岩を思い切り殴ったりするだけで分かってくれるなら良いのだが、未菜さんが言っているのはそういうことではないだろう。

 そもそも自分で多少戦って分かったことだが、単純に身体能力が高いとか低いとかはさほど重要でもなかったりするしな。

 新宿ダンジョンのあのボス相手に勝てたのは明らかに俺のフィジカル勝ちだったが、相手の攻撃は喰らえば死ぬことは分かっていた。

 それに意識こそしていなかったものの、最初のゴーレムのようなボスの時だって大きな魔力は持っていたはずだが、ワンパンで俺は死にかけた訳だ。

 油断をすればどれだけ優れた力を持っていても死ぬ時は死ぬし、負ける時は負ける。

 

「人相手に本気で戦えないのなら、モンスター相手ならどうだ?」

 

「モンスター相手……ですか?」

 

「九十九里浜にあるダンジョンは知ってるな?」

 

「え? ええ、まあ」

 

 千葉県にある九十九里浜。

 そこにもダンジョンがある。

 新宿ダンジョンと同じく10年前からあるものだ。

 スノウいわく、周りの環境に適応しているダンジョンは高難易度らしいので、中が水浸しになっていたり砂浜のようになっているあのダンジョンは難易度も高い方なのだろう。

 事実10年間攻略者は現れていない。

 ボスの目撃情報はちらほらあるが。

 巨大なタコのようなものらしいと聞いたことがある。

 

「あそこのダンジョンに行ってみないか? もちろんスノウホワイトさんも連れてきてくれていい。もちろんボスには手を出さない。低階層の雑魚を蹴散らすだけさ。そうだな、早ければ明日でもいい」

 

「明日ダンジョンにって……仕事は良いんですか?」

 

「……まあ大丈夫だ」

 

 ビシッ、と未菜さんは親指を立てる。

 後で柳枝さんに怒られるんだろうなぁ……。



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第31話:方向音痴

1.

 

 

 未菜(みな)さんと半ば強制的に九十九里浜のダンジョンへ行く約束を取り付けられた後、家まで帰ってくると見慣れない車が止まっていた。

 あまり詳しくないのでこれが何の車種なのかは分からないが、ぱっと見でも高級車であることは分かる。

 しかも新車っぽいし。

 来客だろうか。

 知人でこんな高そうな車に乗ってる奴はいないし(そもそも引越し先のことについて伝えてない。防犯上の理由で)、どこかの社用車とかだろうか。

 高級車の7、8割は社用車として購入されているとどこかで聞いたことがある気がするし。

 

 知佳も綾乃もいるし何か問題が起きている訳ではないと思うが、気難しいスノウもいるはずだ。

 少し慌てて家に入るが、リビングではいつもの三人が何かしらの談笑をしているだけだった。

 

「……?」

 

 困惑する俺に、知佳が「おかえり」と声をかけてくる。

 それに続いて綾乃とスノウも。

 俺もそれに「ただいま」と返すが……

 

「お客さんが来てるんじゃないのか?」

「え? 来てないわよ」

 

 スノウはきょとんとしている。

 隠しているという訳でもなさそうだ。

 というかそんなことする意味もないし。

 ということはここにいる誰かの私物なの? あれ。

 

「外の車のことなら、あれは社用車」

「社用車って……まさかうちの?」

「いえす」

 

 知佳がなんでもないことのように伝えてくるが……いや、実際なんでもないことなのだろう。

 この数日間で200億近い利益を出しているのだから。

 車なんてどんなに高くても1000万とか2000万くらいだろうし。

 ……いかんな、金銭感覚がおかしくなってきている気がするぞ。

 

「相対的に見れば安い買い物って訳か」

「あれは2億くらいだから、そこまで安いって訳でもないけど」

「2億!?」

 

 2億ってあれだぞお前。

 1万円札が2万枚あるってことだぞ。

 万に万をかけてようやく億になるんだぞ。

 

「ダンジョン探索者用のプロテクターに使用されている素材と同じものが流用されているんです。動力源もガソリンではなく魔石になっている最新モデルで、自動運転機能もついてるんです」

 

 綾乃の説明に、俺は一つ思い出した。

 

「あー……あったなあそんなの」

 

 そういえばニュースで見たことある気がする。

 誰が買うんだよそんな怪物車(モンスターカー)、と思っていたがまさか自分たちが所有者となるとは。

 しかし車に限らず、ありとあらゆるモノがここ数年で急激に進化しているからな。

 ダンジョンの出現――つまり魔石が発見されたり、その技術の応用が為されたりと。

 もしダンジョンが現れることがなかったらもう少し落ち着いた成長速度だったのではないかと思う。

 密かにそろそろ空を飛ぶ車なんかも出てくるんじゃないかと思っている。

 

「まあ、車はあるに越したことはないか」

 

 ダンジョン管理局に行く時なんかもこれからは車で行けばいいし。

 

「それで、あんたは何してたのよ。どこか出かけてたみたいだけど」

「ちょっと野暮用でダンジョン管理局にな……スノウ、明日ダンジョンに行かないか?」

「…………」

 

 スノウが驚いたような表情を浮かべている。

 どうしたんだろう。

 

「あんたから誘われるとは思ってなかったわ」

「まあ、たまにはな」

 

 実際伊敷さんに強制連行されてなければ誘うこともなかっただろうけど。

 

「どこのダンジョン?」

 

 もし彼女が犬だったならば尻尾をぶんぶんと振っているのではないだろうかと思うほどのウキウキさ加減で詳細を聞いてくるスノウ。

 

「九十九里浜」

「……知らない地名だけど、名前からして海辺にあるダンジョンっぽいわね」

 

 おや。

 先程までのワンコっぷりが嘘のように消えたぞ。

 

「ああ、その通り。しかもお前の言ってた高難易度ってやつで、中にも海っぽいのがあったり砂浜があったりするんだ」

「じゃあ行かないわ。あんただけで行ってきてちょうだい」

「えっ。なんでだよ。一緒に来てくれよ」

「ボス相手じゃなければあんたでも問題なくやれるわよ。あまり深層に行かなければ平気よ」

 

 明らかに嫌がっている。

 知佳と綾乃の方をちらっと見るが、首を横に振られた。

 どうやら二人にもこの態度が激変した理由が分からないようだ。

 海辺だと何か不都合があるのだろうか。 

 ……いや待てよ。

 海を嫌がる一番シンプルな理由があるじゃないか。

 

「もしかして泳げないのか?」

 

 するとスノウはギロッと俺を睨んだ。

 すごい迫力だ。

 小動物くらいなら視線だけで凍死させられそう。

 

「泳げるわよ! ……浮き輪があれば」

「それは俗に言う泳げないってやつなんだよなあ……」

 

 意外な弱点だ。

 今回のダンジョンには同行出来ないとしてもいつか海かプールにでも連れていってみたいな。泳げないスノウを見てみたい。

 俺がそんなことを考えていると、そろそろと綾乃が手をあげる。

 

「泳げなくても水を凍らせてしまえば良いのでは?」

 

 確かに。

 それなら泳ぐ必要はないのか。

 

「あたし一人ならそれでも良いけど。氷の上を歩くのって大変よ」

 

 それも確かに。

 綾乃も納得したようだった。

 しかしスノウが来ないとなると、俺と伊敷さんの二人で行くことになるのか。

 確かにボスにさえ遭遇しなければ大丈夫そうだが。

 まさかスノウなしでダンジョンに行く時が来るとはな。

 そういえば伊敷さんは泳げるのだろうか。

 いや、自分から九十九里浜を提案してきたくらいだし泳げるのだろう。

 水着姿をぼんやり想像してしまうが、慌ててその妄想を打ち消す。

 

「……あんたまさか、未菜とかいう女と一緒に行くんじゃないでしょうね」

「へ?」

 

 何故そこで伊敷さんの名前が出てくるのだろう。

 絶対に渋るから敢えて名前は出さないでおいたのに。

 女の勘というやつだろうか。

 

「いやその、黙っておくつもりはなかったんだ。もちろん」

 

 誤魔化すことにした。

 

「……ま、別に良いけどね。あの後あたしもあの女についてちょっと調べたし。信用するかどうかはともかく、あんたに危害を加えたりはしないでしょ」

「調べたのは主に私だけど」

 

 ああ、なるほど。

 インターネットか何かで伊敷さん……つまり日本初のダンジョン攻略者について情報を集めたのか。

 名前や存在そのものが疑問視されてはいたものの、英雄的なエピソードは幾つもあるからな。

 確かにそれらを見れば安全な人物だということは分かるか。

 ……本当に安全なのかどうかはちょっと怪しいところだが。

 俺も今日は呼び出されて強制的にバトルが始まった訳だし。

 

「それにダンジョンにも慣れてそうだったし。腕は確かでしょうね。まあ、あたしの方が強いけど」

 

 当たり前のように自分のことを付け足すスノウだった。

 

 

2.

 

 

 

 翌日。

 現地集合と言うことで九十九里浜に着いたのだが、そもそも久しぶりに海に来た気がするな。

 スノウにはああ言ったが、実は俺も海はさほど好きではない。

 潮でべたべたするし。照り返しで日焼けするし。

 友人と遊びに来る分には楽しくて良いとは思うのだが。

 

「伊敷さん。もういるのは分かってますからね」

 

 後ろに伊敷さんの()()を感じて、俺は聞こえるようにそう言う。

 

「おや、驚いたな。もう私の<気配遮断>を完璧に見破れるようになったのか」

 

 後ろから伊敷さんの声が届いた。

 恐らく驚かすつもりだったのだろう。

 驚かせるつもりはなかった、とか言いながらな。

 

「まあ……」

 

 スノウのように万遍ない感知能力は流石にないが、伊敷さんと同じような能力で隠れている奴ならもう見つけられるかもしれない。

 振り向くと、昨日手合わせを行った際の格好で伊敷さんが立っていた。

 

 昨日は色々あったとは言え、やはりこうして見ると凛々しいやかっこいいが勝つ人だな。

 

「どうした、水着姿で来るとでも思っていたか?」

「まさか。見てみたいとは思いますけどね」

 

 どんな水着でも似合いそうだ。

 フィットネス水着のようなものでも似合いそうだし、ビキニなんて言うまでもない。

 ワンピースのようになっているものでも良いだろう。

 フリルの着いているものなんかも似合いそうだ。

 ということで俺としては本気で言っていたのだが、とうの伊敷さんは顔を赤くして、

 

「お、お世辞はやめてくれ」

 

 と、なんだか怒ったような様子でズカズカとダンジョンに向かって歩いていってしまった。

 いや、冷静に考えれば水着を見てみたいって、人によってはかなりのセクハラ発言と取られるよな。

 イケメンでなければ許されない発言だ。

 猛省。

 俺は怒っている割になんだか足取りの軽い伊敷さんの後ろを着いていくのだった。

 

 

 ダンジョンの中に入ると、ひんやりとした空気が肌を撫でる。

 大きな洞窟……鍾乳洞のようになっているようだ。

 映像では何度か見たことがあるが、直接来たのは初めてなので少しこの光景に見惚れてしまう。

 ダンジョンはつい10年前に出来たものだ。

 数千年、数万年とかけて出来上がる鍾乳洞のそれとは全く質が違うのだと頭では理解していても尚、圧巻だ。

 

「凄いな……」

「幻想的だろう。比較的安全な一階はデートスポットにもなっているくらいだからな」

「聞いたことはあります。彼女なんていたことないので来たことはないですけど」

「君のパートナーもいないし、今の我々は二人きりだ。デートみたいなものだな」

「伊敷さんくらい綺麗な人とだと男冥利につきますよ。エスコートしましょうか」

 

 冗談まじりにそんなことを言うと、伊敷さんは再び顔を赤くして怒った。

 

「ダンジョンでそんな冗談を言うものじゃないぞ。き、綺麗とか」

「そこは冗談じゃないですけどね?」

 

 沸点のよく分からない人だ。

 ……あれ、もしかして褒められて照れてるだけか?

 そういえば昨日もかなりチョロかったよな。褒め言葉に対して。

 よし、支障が出ない程度に褒めまくって照れさせてやろう。

 

 俺がそんなことを考えている間にも伊敷さんは特に迷う様子もなく歩いていく。

 このダンジョンにも新宿ダンジョンと同じように地図があるので事前にダウンロードしていつでもスマホで見られるようにしておいたのだが、流石は伊敷さん。

 どうやら地図など見なくても道筋は頭に入っているようだ。

 と思っていたのだが、いつまで経っても下の階層へ行く階段に辿り着かない。

 ちなみに道中でぶよぶよしたスライム状の雑魚を倒しているのだが、これがキモカワイイと一時話題になっていたことがある。

 俺からしたらただキモイだけなのだが。

 

「そうだ、ずっと伊敷さん、と呼んでいるが、未菜と下の名前で呼んでくれないか?」

「え? で、ですけど……」

「嫌ならいいんだ。そうか、君は私のことが嫌いだから……」

「いえ、呼ばせていただきます! 未菜さん!」

「ふふ、冗談だ」

 

 伊敷さん、もとい未菜さんは冗談っぽく笑った。

 まずいな。

 本当にデートっぽい。

 いやでも意識してしまう。

 

「困ったな。今回は運が悪いようだ」

「え、運?」

「ああ。いつもは適当に歩いていれば下へ降りる階段が見つかるのだが」

 

 ……一体何を言っているんだ、この人は。

 

「地図ありますよね? このダンジョン」

「だって地図って分かりにくいだろう?」

 

 当然のように言う伊敷さん。

 もしかしてこの人、方向音痴なのでは?

 日常生活を送る分には案内板や標識があるので普通は困らないのだが、ダンジョンの中だと勝手が違う。

 案内板も標識も存在しないから地図に従って動くしかないのだが、その地図を読めない人はこうなってしまう。

 という話をちらっと聞いたことがあるが……

 まさか伊敷さんがそのパターンだとは。

 

「……俺が地図通りに進むんで、着いてきてください」

「おお、悠真君は地図が読めるのか! 凄いな!」

 

 目をキラキラさせて尊敬の眼差しで俺を見る伊敷さん。

 そんな純真無垢な瞳を向けられて、「いえ、大抵の人は普通読めるんです」とは流石に言えなかった。



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第32話:召喚

1.

 

 

 俺が地図を見て動くようになって、二時間程で10階に辿り着いた。

 ボスエリアは11階にあるので、スノウ無しで来るのならここが限界だろう。

 一度も安息地を利用していないが、二人ともさほど疲れていないのでそのまま探索をすることにする。

 

「しかし先程から何度か雑魚と遭遇しているが、難なく捌いているな」

「これくらいはなんとでもなりますよ。問題はボス級の奴です」

「それは私も厳しい。というより、一人でボスクラスを倒したのは一度しかない。君とのタッグでならやれそうなボスも何体かは思い浮かぶが、ここのは難しいだろうな」

 

 ……ボス一人で倒したことあるの?

 正直それだけで俺からすればかなり尊敬なんだけど。

 あのゴーレムにも首なし侍にも、一人で勝てるかと言われたら答えはノーだ。

 だがそんな未菜さんがいて、更に曲りなりにもそれなりの戦力になる(はずの)俺がいるのに難しいとは。

 

「そんなに強いんですか?」

 

 どちらかと言えば自信家の未菜さんが消極的なことを言うとは。

 二人でなら倒せる! くらいの勢いで来るのかと。

 負けず嫌いだし。

 

「強いと言うよりは厄介、だな。常に水の中にいるタコ型のボスなので決定打が無い。過去には電撃や狙撃で倒そうと試みた者もいるそうだが、結果は今私たちがここにいるということが物語っているな」

「へえ……今度本格的に攻略しに来る時はなんとかスノウを説得して連れてきましょうか」

「彼女なら……やれるんだろうな」

「多分ですけど。精霊ってとんでもないですからね。地球を氷河期にすることも出来るって言ってましたよ」

「恐ろしいものだ。その主人(マスター)が君のような善人で良かったよ」

「悪いことに使われてたら、と思うとぞっとしますね」

 

 とは言えスノウ自身の意思で拒否するとは思うが。

 それともある程度本気で命じたら行動も制限出来たりするのだろうか。

 今度聞いてみようかな。

 

「そういえば、ちょっと聞きたいことがあるんですけど」

「なにかな?」

「未菜さんって、なんで正体を隠してるんですか? 現金な話、トップが未菜さんくらい綺麗な方だと知れたらダンジョン管理局の株が上がると思いますよ」

 

 姿を知られていないからこそのカリスマという人気もあるが、それを上回る程の美貌は持っているのだ。

 それこそスノウが動画投稿サイトで話題になっているように、いや、元々のネームバリューから考えればそれ以上の話題をかっさらうに違いない。

 

「……君はさっきから私のことをからかっているな」

 

 流石にバレたか。

 可愛らしく拗ねた様子を見せた未菜さんだが、質問にはちゃんと答えてくれるようで、

 

「理由は幾つかある。君の言った通り、私の正体を知った上で支持してくれる人もいるだろう。だがその逆もやはり存在はする。いつか公表する時は来るかもしれないが、少なくとも今ではない。あと、数ある理由の内の一つは単純に恥ずかしいから、だな。あまり注目されるのは好きじゃないんだ」

「じゃあ良いスキルブック見つけたんですね」

「ああ、うってつけだな」

 

 ふ、と未菜さんは笑う。

 背景の神秘的な鍾乳洞と、綺麗に澄んだ湖のようなものと併せて一つの絵画のような印象さえ受ける。

 同じ画角に俺が居て良いのだろうかと思う程だ。

 

「あともう一つ聞きたいことが」

「なんだ?」

「機密なら別に良いんですけど……10年前のことを。興味があるんですよ、俺。日本人初のダンジョン攻略者がどうやって攻略したのか。しかも15歳という若さ……いえ、幼いとさえ言えるような年齢で」

「幼い……か」

 

 未菜さんは遠いところを見るような目をする。

 

「確かに当時の私は幼かった。精神的にも、肉体的にもな。かと言って今は成熟していると言えば柳枝(やなぎ)に叱られそうだが」

「一緒のチームでダンジョンを攻略したんですよね。未菜さんがリーダーで、柳枝さんが副リーダー」

「実質仕切っていたのは彼だったがな。私は戦闘力だけを買われていたんだ。リーダーシップなんてものは皆無に等しかったよ」

「やっぱり当時から強かったんですか」

「祖父が剣術を先祖代々受け継いでいてね。本来父の代で途切れるはずだったそれを、私はたまたま継承していたんだ。剣道の大会なんかには家の仕来りで出られなかったが、私はそれでも満足していた。そうしたらダンジョンなんてものが現れたではないか。しかも近所に小規模なダンジョンが出来てね。政府にも見つかっていなかったそこに、自分の力を試すいい機会だと思ってひたすら潜っていたのさ」

「やんちゃですね……」

 

 今でこそ未成年は保護者と一緒じゃないと入れないとか、身分証明書が必要だとか様々な法整備や暗黙の了解的なルールが普及しているが当時はほとんど無法地帯だ。

 死者も大勢出ていたと記憶している。

 毎日ニュースで流れていたからな。

 行方不明者と死者数。

 

「まあな。それである日とうとう大人に見つかって、あれよあれよという内に柳枝たちとチームを組まされた。そこから先は大体柳枝が主人公となっている映画や何かで見るようなものと同じ流れだよ」

「その手の映画だと未菜さんは基本イカつい男性でしたけどね」

「そちらの方が世間的には納得も出来るだろう。当時15歳の小娘が実はリーダーでした、なんて今更言っても信じて貰えそうにもない」

 

 それが先程言っていた、その逆(・・・)というやつなのだろうか。

 俺はなんとなくで感じ取れたが、テレビ越しにともなるとまた話が変わってくるしな。

 話だけで聞けば確かに15歳の少女がダンジョンを攻略したパーティのリーダーでした、なんて到底信じられないかもしれない。

 

「どうでしたか?」

「どうとは?」

「あの時、未菜さんたちが攻略した愛知県の三河地方にあったダンジョン。どれくらいの難易度だったんですか?」

「……そうだな。何度も死ぬかと思ったよ。当時はまだ未熟だったからな。それに装備やメンバーの熟練度も低かった。公開されている情報なので知ってはいると思うが、あのダンジョンでメンバーのうち3名が命を落としている」

「……ですよね。すみません、嫌なこと思い出させてしまって」

 

 少し突っ込んで聞きすぎた。

 いくら自分がどうしても聞きたいことだとは言っても、流石に礼を欠いた行為だった。

 

「良いんだ。私でも気になることではあると思うよ。……さて、君の力も大体分かったし、もう少しだけ探索したら戻ろう。このままボスに行くのも吝かでないが――」

「流石にそれはやめときましょう」

「冗談だよ。私も二人でボスに突っ込むほと命知らずではないつもりさ」

 

 まあ……あの首無し侍みたいな奴だったら正直なんとかなるかもしれないとは思う。

 俺がひたすら奴を惹きつけて、未菜さんが隙をついて急所を両断してくれれば良い。

 首がないのでどこが弱点かはわかりにくいが、恐らくは縦に半分にすれば流石に倒せるだろうし。

 未菜さんなら多分それが出来る。

 

 しかし相手がタコだとそれは難しいよな。

 しかもでかいらしいし。

 たこ焼きにでもすれば良いのかもしれない。モンスターって食べれるのかな。

 

「――ん」

 

 未菜さんが腰の刀の柄に手をかけた。

 そして素早く周囲を確認する。

 俺も同じようなタイミングで、何か()()()()()を感じた。

 それが何なのかは分からない。

 だが――

 

「下がれ!」

 

 未菜さんが叫ぶのとほぼ同時に、俺は彼女を抱えて後ろに思い切り飛んでいた。

 ほとんど反射での行動だったが、今まで俺たちが立っていた地面が凄まじい音と共に()()()のを見て冷や汗を浮かべる。

 

 砕ける、とかではなく抉れる、だ。

 凄まじい威力を秘めていることがすぐにわかる。

 

「わ、私は一人でも避けられる。君は君自身を優先しろ」

「すみません、つい」

「だが礼は言っておく――そして()から目を離すなよ」

 

 すぐ傍にあった透明な湖から、巨大なタコが姿を現していた。

 

 

2.

 

 

 俺たちの間で緊張が走る。

 最初に出会ったボスのあのゴーレムよりもサイズは大きいかもしれない。

 足まで含めれば間違いなく最大だ。

 何故タコがこの階層にいるんだ。

 一番下まで降りなければ現れないはずでは?

 うっかり一番下まで来ていた?

 いや、そんなはずはない。

 地図を見て移動していたんだ。

 そのようなヘマをする余地はなかった。

 

「来ます!!」

 

 そんなことを考えている間にも、タコは触手を伸ばしてきた。

 凄まじい速度。

 しかし首無し侍程ではない。

 難なく躱すが、その威力は尋常でない。

 壁がまるでスポンジのように抉れるのだ。

 触手が長い分、遠心力が加わっているのだろうか。

 そもそもサイズから考えても相当のパワーを持っていそうだが。

 未菜さんは俺のように避けるのではなく、刀で脚を切り落としていた。

 あの芸当は俺には無理だ。

 

 しかし、気の所為か?

 明らかに俺の方に来る触手の数が多い。

 躱すだけなら大した労力でもないからまだ良いが、これじゃ逃げる暇もないぞ。

 

「未菜さんだけでも逃げてください!」

「君を置いていける訳がないだろう!」

 

 俺に来る分のタコ足まで切り始めた未菜さんに俺は叫ぶが、まあ案の定逃げてはくれないか。

 となると二人で逃げるか、二人で倒すかの二択しかない訳だが。

 タコは最初こそ姿を見せていたものの、触手での攻撃に注力し始めてからは身体の大部分を水面の下に潜らせている。

 あれを叩こうと思って水に入ればすぐに絡め取られて終了だろう。

 ならば逃げるしかないが――

 

 右へ動けば右側を。

 左へ動けば左側をタコ足が襲いかかってくる。

 掠っただけでも肉を持っていかれてしまうだろう。

 いや、百歩譲って俺は耐えれるかもしれないが、未菜さんは間違いなく無理だ。

 こんなの自動車の衝突に耐えられる程度のプロテクターがあろうがなかろうが変わらない。

 というか、タコのくせに明らかに足の数が8本じゃないのなんなんだよ。

 未菜さんが切り落としたものだけでも既に4本はあるはずだが、見えている範囲でも10本以上はある。

 それが絶え間なく襲いかかってくるので当然隙などほとんどない。

 こんなことになるんだったら多少無理を言ってでもスノウに来てもらうべきだった。

 

 何かしなければこのままではジリ貧だ。

 しかし俺に何が出来る?

 魔力が多いのでちょっと力が強いだけだ。

 ――いや待て。

 そうだ、魔法。

 一つだけ俺は魔法を使えるじゃないか。

 指先に火を灯す魔法。

 しかしあんなものでは意味がない。

 こいつの皮膚を焦がすことすら出来ないだろう。

 身体が感覚を覚えている。

 あの火を大きくして、それで怯ませることが出来れば、或いは。

 

「未菜さん、二秒任せます!」

 

「了解した!」

 

 俺は一歩下がって、魔力を練る。

 スノウから教わった魔法の概要は、こうだ。

 まず己の中に流れる魔力を意識する。

 それを指先に集める。

 発火するイメージを持つ。

 ただこれだけ。

 最初の魔力を意識するというところさえクリア出来れば誰でも簡単に出来るのだ。

 最初は()()()()()()()()()と称して、俺も知佳も綾乃もスノウに微量の魔力を直接流し込まれた。

 それですぐに魔力を意識できたが、俺はその感覚を今となっては更に深く知っている。

 集中している時に身体能力が上がっている時も、未菜さんが<気配遮断>を使っている時も魔力が揺らぐ。

 その揺らぎを意図して大きくすれば――

 

「これで――どうだ!!」

 

 人と同じくらいのサイズの火の玉が出来上がる。

 そしてそれを水面からほんの少しだけ出ているタコ頭――本当は胴体だっけか?――に思い切り投げつける!

 

 ボゴウ!! と重い音を立てて炸裂した火の玉はどうやらタコを怯ませることに成功したようで、タコ足での攻撃が一瞬止んだ。

 その間に俺と未菜さんは水辺から大きく距離を取った。

 既にボスの姿はない。

 どうやら今ので引っ込んでくれたようだ。

 

「す、すごいな。今のはなんだ……!?」

「……たまたまです。もう一度同じことをやれと言われても、多分無理じゃないですかね」

 

 あそこまでの集中力を出すのはもう難しいだろう。

 

「……いっ……!」

 

 先程火の玉を出した右手が火傷している。

 流石にあれだけの火力には耐えられないのか。

 そこまで酷くはないが、後で水ぶくれになるだろうなあ、これ。

 その様子を見た未菜さんは痛ましそうに目を細め、

 

「君の手当も必要だろう。とにかく今のうちもっと離れ――」

 

 言い終わる前に。

 何故か俺を突き飛ばした。

 完全に油断していたので、踏ん張ることも出来ずにそのまま吹き飛ばされる。

 

「――なっ」

 

 タコ足が未菜さんを絡め取っていた。

 

 音もなく近寄ってきていたのか。

 それに俺は気づけず、庇われた。

 その代わりに未菜さんが囚われた。

 

「――君は逃げろ」

 

 物凄い力で締め上げられているだろうに、気丈な声で俺に言った。

 その後凄まじい速度で未菜さんが水中に引きずり込まれる。

 どぷん、と。

 嘘のように呆気ない音を立てて、場が静寂に包み込まれた。

 

「未菜さんっ!!!!」

 

 俺が叫んでも声は帰ってこない。

 彼女は俺の身代わりになったのだ。

 

 

 

3.

 

 

 目の前が真っ暗になったような感覚。

 理性が言っている。

 未菜さんはまず間違いなく助からないと。

 俺に助ける手段はない。

 水の中に引きずり込まれてしまったら終わりだ。

 

 先程のような小手先の魔法も意味がない。

 タコの本体が水の中にいる以上、そこまで届かせる程の熱量は出せないし、仮に出せたとしても水中にいる未菜さんにも影響がある。

 

 ――君は逃げろ。

 

 未菜さんはそう言っていた。

 いつかも同じシチュエーションだった。

 あの時は一度逃げて、やっぱり逃げるのをやめた。

 俺だけの力ではどうにもならなかったが、結果的にはそれが正解だった。

 だからと言って今回もなんとかなるか?

 あの時はスノウがいた。

 だが今は違う。

 頼りになる彼女はいない。

 

 ――いや、考えていても仕方がない。

 せめて俺にもスノウのような力があれば別だったかもしれないが、ないものねだりは出来ないのだから。

 水辺に向かって走り出そうとした時、とあることを閃いた。

 

 待てよ。

 根本的な話だ。

 

 ()()()()()

 ()()()()()()()

 

 俺は召喚術師で。

 彼女は精霊だ。

 

 成功するかは分からない。

 まだスノウからGOサインは貰っていない。

 しかしやるなら今しかないだろう。

 魔力が多い。

 それが俺の唯一の取り柄なのだから。

 

召喚(サモン)!!」

 

 叫ぶのと同時に――俺の目の前には女の人が立っていた。

 翡翠のような色合いのメッシュの入った黒く長い髪に、どこかスノウに似た顔立ち。

 スラリと均整の取れた身体。

 目つきのキツいスノウとはまた違って人を威圧するようなものはないのだが、どこか冷たい印象を受けるような、翡翠色の瞳。

 格好は、魔道士……とでも言おうか。

 魔女のようなとんがり帽子こそないが、黒いゆったりとしたローブで身を包んでいる。

 そして口を開く。

 

「ご命令をどうぞ。マスター」

 

 さあっ、と一陣の風が吹いた。



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第33話:風の精霊

1.

 

 

「ご命令をどうぞ。マスター」

 

 成功……したのか?

 俺のことを主人(マスター)と呼ぶのは一番最初のスノウと同じだ。

 それに雰囲気も彼女に似ている。

 

「君は……精霊なのか」

「ええ、貴方の精霊でございます」

 

 目の前の女性は恭しく頭を下げた。

 スノウとは随分態度が違うが、こちらの方が正解なのだろうか。

 いや、今はそんなことはどうでも良い。

 精霊だと言うならば、今やって貰うことは一つだけだ。

 

「すぐそこの水場にボスが潜んでるんだ。タコみたいなやつ。なんとかして倒せないか!?」

「不可能です。仮契約状態ではボスを倒せる程の出力は出せません」

 

 ピシャリと断言された。

 一瞬頭が真っ白になりかけたが、すぐに考え直す。

 こんなことをしている間にも未菜さんは引きずり込まれているんだ。

 わざわざ数分もかかるような本契約をしているような時間はない。

 

「なら活路を開いてくれ! 水を押しのけるんだ!!」

「承知しました」

 

 つい、翡翠色の瞳を持つ精霊が指先を水面に向けた。

 かと思えば、突風が吹いてまるでモーゼの逸話のように湖が割れる。

 湖底にいるタコ型ボスの全容と、タコ足に絡みつかれて藻掻いている未菜さんが目に入った。

 まだ生きている。

 ならば助けられる。

 

 地面を思い切り蹴って、一気にボスの元へ向かう。

 

「――何故来た!?」

 

 未菜さんが俺に向かって叫ぶ。

 自分もギリギリの状態だろうに、それでも俺を案じるのか。

 尚更助けなければならない。

 

 未菜さんを捕まえている足の根本を掴んで、右手を手刀の形にして一気に突き刺す。

 ぬめぬめとした生暖かい感触が気持ち悪いが、今はそんなことを言っている場合じゃない。

 集中しろ。

 さっきも出来たのだから、もう一度出来るはずだ。

 

「ぐっ……おおおおお!!」

 

 一瞬の焼け付くような痛み。

 右の掌に火球が生まれ、タコ足が根本から吹き飛んだ。

 これで未菜さんを捕らえていた足はなくなった。

 しかしこれまでの緊迫状態が相当キツかったのか、未菜さんはいつの間にか気を失っていた。

 担いでこいつから逃げられるか?

 既にタコはこちらに気づいている。

 あの触手から走って逃げるのは幾らなんでも無理だ。

 俺一人ならともかく、気を失っている未菜さんを担いでの移動は危険すぎる。

 やるしかない。

 

 何発かは貰う覚悟で本体に近づき、先程と同じ要領で爆破する。

 しかし規模は比べ物にならない程大きく、だ。

 一撃で仕留めなければ俺が死ぬ。

 

 動き出そうとしたタイミングで、最初の触手が近づいてきた。

 避けている暇はない。

 耐えれるはずだ。

 何発か貰っても死にはしないと信じろ。

 

 ――と。

 俺に当たる直前で、足が切断されて吹っ飛んでいった。

 未菜さんは気を失っている。

 なら、と思って上を見上げると、こちらに向かって召喚した精霊が腕を向けているのが見えた。

 何の力かは分からないが、彼女がやってくれたのだろう。

 

 本体に近づく間にも何本も触手が迫ってくるが、その全てが俺に辿り着く前に切断されている。

 これだけの数をこれだけの精度で切り払うとは。

 仮契約状態でこれだと言うのなら、本契約したらどれ程の強さになるのか。

 

 遂に本体に辿り着き、全力で手刀を突き刺す。

 腕全体がタコの体内に入ったかというタイミングで、例の魔法を使う。

 

「く、た、ばれ――!!」

 

 身体中の魔力を一点に腕へ集めるイメージ。

 そしてそれ全てを炎に変え、爆発させる。

 激痛が走るのと同時に、今までにない規模の炎が炸裂した。

 

 ――が。

 

「……足りない……のか……!」

 

 炎は炸裂したが、タコ自体が大きすぎる。

 この程度の爆発の規模じゃとてもこいつは倒せない。

 もう一度やるか?

 今度は腕が吹っ飛ぶかもしれない。

 しかしやるしかない。

 

「お下がりください、マスター」

「……え」

 

 いつの間にか、俺の隣に召喚した精霊が立っていた。

 

「そこで気を失っていた女性は上へ退避させました。後はお任せください」

 

 ぶわ、と風が巻き起こる。

 ボスの身体でくすぶっていた炎が一気に燃え広がる。

 

「私はウェンディ。風を司る精霊です。ボスを直接屠ることは今の私では不可能ですが、マスターの魔力がこれだけ高密度に込められた炎があるならば、煽る(・・)だけで十分ボスを倒し得ます」

 

 瞬く間にボスは身体全体を炎の包まれ、苦しむように燃える足を振り回すがそれらは全て俺たちに届く前に切り落とされていく。

 風。

 そうか、風か。

 風に煽られた炎は勢いを衰えさせることもなく、長時間に渡ってボスを焼き続けた。

 

 

 

「……助かったよ。ウェンディ……で良いんだよな?」

「はい、マスター。しかしお礼は不要でございます。私は貴方の所有物ですから」

「所有物て」

 

 ボスが燃え尽きるのを確認してから、俺たちは湖底から戻った。

 直後にずっと風で余所に押し寄せられていた水が戻っていった。

 仮契約前のスノウの力の規模から考えても、これだけも相当な力を使っていたのではないだろうか。

 

「召喚直後に無理させて悪いな」

「お気になさらず。それが私の使命ですので。それよりもマスター、右腕の治療をいたします」

 

 とことんスノウとは違うな。

 しかしこうも下手に出られると逆にやりづらくも感じるのは、俺が日本生まれの庶民だからだろうか。

 

「俺より先に未菜さんを……そこの女の人を治してくれ」

「肋骨が7本、両腕の骨折および筋組織の断裂、肺にも損傷があります。見た目以上に彼女は重症です」

「そ、そんなに……!? なら尚更早く治してくれ!」

 

 俺が死にかけた時もスノウが治してくれた。

 恐らく精霊には人を治癒するような力があるのだろう。

 

「彼女を治せば、マスターの腕を治す程の余力は残りません。しばらく時間を置く必要があります。それでもよろしいのですか?」

「ああ、もちろんだ。俺の火傷なんてツバつけときゃ治る」

「絶対にそれでは治りませんが……承知しました。では彼女から治療します」

 

 そう言うとウェンディは両手を未菜さんにかざす。

 視覚的には見えないが、今の俺なら辛うじて分かる。魔力が未菜さんに流れていっているんだ。

 しばらくすると、険しかった未菜さんの寝顔がだいぶ穏やかになった。

 

「後は待っていれば目を覚ますかと」

「ありがとう、助かったよ」

「……マスターの治療はあと三時間程待っていただくか、この場で本契約をすればすぐにでも治せますが」

 

 サラッと言ったが、この場で本契約はまずいだろう。

 周りにはモンスターがまだうようよいる。

 

「家に戻ろう。スノウに治して貰うよ」

 

 俺がそう言うと、ぴくりとウェンディの眉が上がった。

 

「スノウ? スノウと仰いましたか?」

「え? ああ、うん。氷を司る精霊なんだ」

「よく知っています。あれは私の妹なので」

「へえ、そうなのか。……え?」

 

 ……マジで?

 

 

2.

 

 

「……やっぱり……ウェンディお姉ちゃん……」

 

 帰ってきた俺たちを出迎えたのはスノウだった。

 というか、()ではなくウェンディを迎えたのかもしれないが。

 社用車という名の超高級車があって助かった。

 さすがに右腕がボロボロな俺に、魔女っぽい格好のウェンディと気を失っている未菜さんが電車なんかで移動していたら余裕で通報される。

 ちなみに帰りの運転をしてきたのはウェンディ。

 多分免許とか持ってないと思うけどこの際気にしないことにした。

 俺が片腕で運転するのとどっちがマシだったかと聞かれると微妙なラインだし。

 で、運転席から出てきたウェンディを引きつった顔で見ているのが珍しく玄関まで出迎えに来ていたスノウという訳だ。

 

 しかし何故スノウは引きつった顔なのだろう。

 姉妹……ということはウェンディから聞いたが。

 感動の再会とまでは行かなくとももうちょっと嬉しそうな反応すると思っていたのだが。

 

 とか考えていたら、ふっとウェンディがスノウに笑いかけた。

 

「久しぶりですね、スノウ」

 

 すると先程までの不安そうな表情が嘘だったかのように、スノウはぱっと笑顔を浮かべる。

 初めて見る表情だ。

 やはり姉妹ということで気を許せる存在なのだろう。

 

「ウェンディお姉ちゃん……!」

 

 たた、と走り出してスノウがウェンディの胸の中に飛び込む。

 それをウェンディは優しく抱きとめた。

 スノウの顔は見えないが、肩を震わせている辺り泣いているのかもしれない。

 良かった。

 やはり感動の再会じゃないか。

 

「私たちが待ち望んでいた<希望>は現れていたのですね」

「うん……!」

 

 希望?

 何の話だろう、と思いながらも姉妹の美しい姉妹愛を眺めていると、不意に空気感が変わった。

 

「それはそうと、スノウ。一体これはどういうことですか」

 

 ビクッ! とスノウの肩が震える。

 ……あれは……泣いている訳じゃなさそうだな……

 

「ウェンデイお姉ちゃん、あたし泳げないの……知ってるよね? だからその、ボスにさえ会わなければ安全だって思ったから」

 

 スノウが珍しく慌てている。

 流石の彼女も姉には頭が上がらないのだろうか。

 

「帰り道で聞きましたが、ボスのいる階層ではないはずなのにボスに襲われたとマスターは仰っていました。前代未聞の事態ではありますが、自分の苦手分野を克服しないで逃げた貴女にも落ち度はあります」

「はい……」

 

 おお……

 あのスノウが完全に萎れている。

 恐るべし、『ウェンディお姉ちゃん』。

 

「もしマスターが私の召喚に失敗したら、彼は命を落としていたかもしれません」

「は、はい……」

「はい、ではないでしょう」

「ごめんなさい……」

 

 スノウがしゅんとしている。

 あのスノウが!

 まさかこんな光景を見ることがあるなんて。

 

「しっかり反省しなさい。それから、マスターが負傷しています。治してさしあげなさい」

「はいっ」

 

 返事が良いな……

 明らかに主人(マスター)なはずの俺よりも姉であるウェンディの方を上として見ているような気がするぞ。

 しかしそれを突っ込んで後で痛い目を見るのは俺だと分かっているので、歩み寄ってきたスノウに黙って右腕を差し出す。

 魔力が流れ込んできて、徐々に火傷が引いていく。

 痕も残りそうにないのはどういう理屈になっているのだろうか。

 

「その……ごめん、悠真。あたしも着いてくべきだった」

「いや、ウェンディはああ言ってるけどさ。実際不測の事態だった訳だし、仕方ないって。ある意味俺たちを信じてくれてたから着いてこなかったようなもんだろ?」

 

 正直どうしようもないと思うし、俺も。

 ウェンディも言っていたが、あんなの前代未聞の事態だ。

 10年間全くそんなことがなかったのに急にあんなことが起きてしまうのだから。

 しかし実際にスノウも引け目には感じているようで、俺の前でもしょんぼりしていた。

 

 なので治して貰った右手でスノウの頭をぽんと撫でる。

 

「ま、あんまり気にすんなよ。結果生きてるんだからさ」

「……気軽に撫でないでよ、ばか」

 

 慰められていると分かったのだろう。

 多少いつもの調子に戻ったスノウは、小さな声だがそう言うのだった。

 

 

3.

 

 

 どうやら未菜さんはかなり体力を消費したようで、まだ目を覚まさない。

 あの後念の為スノウも彼女の身体を診てくれたが、問題なく治療は行われていると言う。

 柳枝(やなぎ)さんに一報入れた後、今は客間に寝かしてあるので、そのうち起きてくるだろう。

 で……。

 それでは夕食にしようというタイミングで俺が立ち上がると、ウェンディがスノウに向かって「まさかマスターに食事を作らせていたのですか?」とお冠だったので、今はその姉妹二人が台所に立っている。

 

 そして知佳と綾乃はまだ状況を上手く飲み込めてはいないようだったが、とりあえず何故か俺を挟むように両脇に座って俺と一緒にテレビを見ていた。

 結局知佳と綾乃の二人ともなし崩し的にほとんど同居みたいになっているのだ。

 あれ、これにウェンディも加わるとなると一気に5人になるな……?

 

 最初は二人だけだったはずなのにいつの間にかまあまあな大所帯である。

 

 あちらはあちらで積もる話もあるのだろう。

 あまり聞き耳をたてないようにしながら、俺はのほほんとテレビを眺める。

 

「……スノウのお姉さんって言ってたけど、あの人も精霊ってこと?」

 

 知佳があちらに聞こえないようだろう、小声で囁く。

 というか耳元で囁くのやめて欲しいんだけど。

 こしょばゆいから。

 

「そういうこと。今日召喚したんだ」

「ふぅん」

 

 知佳はそれだけ聞くと、他に特に詮索することはないようでそのままテレビを見る作業に戻った。

 俺の隣をキープしたまま。

 

 そんな俺たちを綾乃はちらちらと見ながら、何やら挙動不審な動きをしている。

 謎である。

 

 ……しかし、どの番組も新宿ダンジョンのことばかりを報道しているな。

 これに加えて九十九里浜のことまで知れ渡ったらこのお祭り騒ぎは更に継続されることになるのだろうか。

 

 ちなみに魔石はウェンディがしっかり回収してくれていた。

 というか、凍ったり燃えたりしても傷一つついてない辺り、魔石ってかなり頑丈なんだな。

 硬度的にはダイヤよりも上、なんて話も聞いたことはあるがただ硬いだけではなさそうだ。

 

「ん……」

 

 俺も流石に無茶しすぎたのか、睡魔が襲ってきた。

 しかしせっかく食事を作ってくれているのに、今寝るのは忍びない。

 いやでもねむ……

 

 …………。

 

 ……。

 

 

「ん……?」

 

 目を覚ます。

 寝起きでぼやける視界の中、ここが自分の寝室だということに気づく。

 

「んー……」

 

 どうやら食事を取らないで眠ってしまったようだ。

 今の時間は分からないが、かなり遅い時間に目が覚めてしまったのかもしれない。

 目が闇にもなれ、少しずつ鮮明になっていく中、扉がゆっくり開くのが目に入った。

 

「……目を覚ましていらしたのですね、マスター」

 

 部屋へ入ってきたのはウェンディだ。

 スノウから寝間着は借りているらしく、見覚えのある可愛らしいデザインのパジャマを着ている。

 

「今起きたところだ……何時?」

「夜中の二時です」

 

 とすると、結構長いこと寝ていたんだな。

 大体気を失ったのが19時から20時くらいだろうから。

 しかし今目を覚ましてしまうと寝れないよなあ。

 

「ところで、ウェンディはなにしに?」

「汗を拭こうかと思っていたのですが」

「自分でやるよ……ってて……」

 

 動こうとして、脚が筋肉痛のように痛むことに気づいた。

 いや、実際筋肉痛なのだろう。

 かなり酷使したからな……

 

「やはり私が拭きましょう」

 

 入ってきた時には気づかなかったが、ウェンディは濡れたタオルを手に持っていた。

 しかし今近づかれるとまずい事情がある。

 今は夜中とは言え、俺は寝起き。

 男性諸君は起きた直後の自分のデリケートポイントのことを思い起こしてみてほしい。

 毛布を剥がれ、いざ俺の身体を拭こうとした段階で、ウェンディは動きを止めた。

 

「あら……」

 

 見られてる!

 完全に!

 

「元気なのですね」

「お、お陰様で……」

 

 なんと返したら良いのか分からないので意味の分からないことを言ってしまったが、ウェンディはさほど気にもとめていないようだ。

 

「ところで、マスターがよろしければ、早めに()()()を済ませてしまいたいのですが」

「え……」

 

 それってつまり……

 

「もちろんマスターが嫌だと仰るのであれば後日に回しますが」

「嫌ってことはないけど……」

 

 ギシ、とウェンディがベッドに上半身を乗せた。

 既に期待に膨らんだ股間を見て、ウェンディは微笑を浮かべるのだった。



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第34話:つかまえた

1.

 

 

 ウェンディがゆっくりとベッドに脚を乗せる。

 体重分だけマットレスが沈むのを背中で感じる。

 表情は先程までと全く変わらないのに、じっと俺のことを見つめる翡翠色の瞳がやけに色っぽく感じた。

 

「……綺麗な瞳だな」

 

 翡翠、と言っていることからも分かると思うが、まるで宝石のように綺麗な瞳だ。

 透き通るような透明感を持っていながら、深緑の確かな意思を感じる。

 吸い込まれそうな瞳、というのは比喩ではよく使われる表現だが、これ程までにその言葉の合う瞳もなかなかないと思う。

 俺の不意の褒め言葉にウェンディはきょとんとした表情を浮かべていた。

 これだけ綺麗な瞳なら褒められ慣れているだろうに、何を驚いているのだろうか。

 

「私の瞳が綺麗、ですか」

「ああ、だってそうだろ?」

 

 俺が普通に頷くとウェンディは少しだけ微笑みを浮かべた。ような気がした。

 

「スノウの髪が何故白いか知っていますか?」

「え……氷の精霊だから?」

「その通りです」

 

 え、そうなの?

 我ながらかなりの適当さ加減だと思ったのだが。

 

「私たちのような力を扱う者は己の持つ力が身体的特徴として現れる傾向にあるのです」

「そういうことか……風を操るウェンディは瞳や髪の一部が翡翠のような色になっているのもそういうこと?」

「はい。私は瞳と髪の一部――一般的には、優れた者ほど分かりやすく特徴に現れると言われています。瞳なんかは目立ちにくい部類ですね」

 

 そうなのか。

 つまりスノウの方が能力的に優れている?

 俺はそうは感じなかったけど。

 本契約前での比較しか出来ないが、普通に同等クラスの力を持っているように思う。

 翡翠のような瞳、か。

 

「俺は綺麗で良いと思うけどな」

「今までにそう言ってくださったのは私の姉妹と、両親だけです」

「へえ……この世界には今ウェンディの言ったような常識はないから、色んな人が褒めてくれると思うぞ」

「そうですか」

 

 ふ、とウェンディの表情が柔らかくなった。ような気がする。

 

「スノウから話を聞きました。貴方のようなお方がマスターであったことは私たちにとって、とても幸運なことです」

 

 言いながら、ウェンディは長く細い指を俺の身体に這わせてくる。

 ぞくぞくするような快感が皮膚から伝わってくる。

 しかしスノウから話を聞いたって……

 どこからどこまでの話なのだろう。

 あんなことやこんなことまで話されていたとしたらちょっと、いやかなり気まずいのだが。

 

「では失礼します」

 

 そう言うとウェンディの顔が急接近し、柔らかな唇が俺の唇と触れる。

 ふわ、とミントのような香りがする。

 しばらくすると、スノウとの本契約時にもそうだったように二人の間でパスのようなものが繋がっていく感覚がじんわりと浮かんでくる。

 

 ここがベッドということもあり、そのまま押し倒してしまいたい衝動に駆られるが――ギリギリで我慢する。

 ややあって、ウェンディの顔が離れていった。

 

「初めて接吻というものをしましたが、なるほど、親愛の表現だと言われる所以も分かります」

 

 ウェンディがそっと自分の唇に触れる。

 そんな様子でさえアダルティだ。

 

「それではご奉仕いたしますね」

 

 俺が物思いに耽っている間にウェンディは俺の下半身の辺りへ移動していて、そのまま露出させていた。

 というか、いつの間にか着替えさせられている辺り、スノウかウェンディのどちらかには既に裸を見られているのか。

 自分が気を失っている状態で……スノウならともかく、ウェンディにも見られているかもしれないというのは些か恥ずかしいものがある。

 しかしこの流れに身を任せたい自分もいるので、結局無抵抗なのだった。

 まろびでたイチモツに、ウェンディが目を丸くする。

 

「……初めて実物を見ましたが、こんなにも大きくなるものなのですね」

 

 ちろ、と舌で舐められる。

 唾液が分泌されていないのか、ざらざらとした感触の舌で舐められて一気に快楽が刺激される。

 

「れろ……不思議な味ですが……悪い気はしません。ん……決して美味しい訳ではないのですが、癖になると言うか」

 

 そんなことを解説しながら、ぺろぺろとまるでキャンディを舐めるかのように舌を這わせる。

 う……これはやばいぞ。

 完全に自分に従順な存在。

 綾乃のような命令されて悦ぶという性質という訳でもなく、ただ単に俺を目上として扱ってくる、絶対的な上下関係。

 何も命令せずとも俺に奉仕し、喜ばせようとしている。

 しかも容姿は作り物めいているとさえ言えるほど整っている。

 当然の話だ。なにせあのスノウの姉である。いや、スノウが妹なのだから順序は逆なのか。

 

「んむっ……少ひ大きふぎますね。口へ全部を咥えふのは難ひそうでふ」

 

 長い髪を耳にかけ、ウェンディは俺のちんぽを咥えた。

 ぬるりとした粘膜に亀頭が包まれ、ぞくぞくとした快感が背中から脳へ突き抜けるような感覚を覚える。

 俺の表情をちらりと見たウェンディは、少しずつ喉の奥へちんぽを飲み込んでいく。

 

「ひはっははひっへふははひ」

 

 もはや何と言っているのかも分からない程奥まで飲み込んだウェンディは、右手を幹に添えた。

 全てを飲み込むのは無理だと悟ったのだろう。

 そしてそのまましごき始める。

 

「んぐ、じゅぶ、――ちゅう、ん、く……」

 

 手コキに加え、口腔内をもごもごと動かしながら亀頭を刺激される。

 与える快楽に緩急をつけた舌がちろちろとカリの部分をなぞったかと思えば、扱く手で全体を刺激される。

 まずい、もう出てしまいそうだ。

 俺の限界が近いことを悟ったのか、舌の動きも扱く動きも早くなり始める。

 

「……っ」

 

「じゅぷ、ん、んっ、じゅぶっ……んっ、は、れろ、ん……」

 

 上目遣いでちら、とウェンディが俺を見た。

 先程褒めた綺麗な翡翠の瞳。

 それに見つめられ、とうとう俺は限界に達する。

 

「んぅ――!? ん……んう……んぐ……」

 

 一瞬驚いたような反応を見せたウェンディだったが、口を離すことはなく、口の中いっぱいに精液が溜まっていく。

 手はまるで乳搾りでもしているかのような動きで射精を促していた。

 それに逆らうことも出来ず、大量の精子がとめどなく溢れる。

 やがて喉がごく、ごく、と嚥下するような動きを見せ始めたので、飲んでいるのだろう。

 俺の精液を。

 そのこと自体にまた興奮して、例のごとくちんぽは硬くそそり立つ。

 やがて射精された精液を全て飲み終えたのか、ウェンディの口がちんぽから離れていった。

 

「んえ……マスターの子種、全て頂きました……♡」

 

 あーん、と口の中をこちらに見せてくるウェンディ。

 

「……っ。一体どこでそんなことを学んだんだ……」

 

「来たるべき時に備えていただけです。ご安心ください、マスターが初めてですから」

 

 やはり表情は変わらない――だが妖艶な雰囲気を出しながら、ウェンディは自分の下半身も露出させる。

 そして俺に見せつけるように、自らの手で陰部を弄り始めた。

 

「んっ……少々お待ち下さい、マスター。はっ……今、準備いたします」

 

 先程俺のちんぽを扱いていた右手で、自分の大事な部分の筋をなぞるように触れるウェンディ。

 普段なら俺が愛撫しているところなのだが、初めて見る女性の自慰というものに俺自身魅入ってしまっていた。

 指でクリを弄るようにしている。

 クリ派とナカ派がいると聞いたことはあるが、どうやらウェンディは前者のようだ。

 

「はっ……あっ……♡」

 

 少しずつウェンディの息が荒くなっている。

 膝立ちでガニ股になって、俺に見せつけるように腰を突き出しながらの自慰。

 まるで全ての行程で俺を楽しませようとしているかのような献身度合いだ。

 やがて湿ったような音が聞こえるようになってきた。

 

「はっ……ぁ♡」

 

 時折身体が震えるのは、自分の指がいわゆる良いところに当たってしまっているからなのだろうか。

 表情はなかなか変わらないのだが、それでも漏れ出る声は明らかにこの状況に、自らオナニーを見せつけているという事に興奮している様子だった。

 

「んっ……くっ……♡」

 

 ウェンディが目を閉じて口を食いしばるようになった。

 なんとなく感覚で分かるが、そろそろ絶頂するようだ。

 そこで少し俺は意地悪を思いついた。

 

「あっ……♡ マスター……?」

 

 完全に油断している様子のウェンディの胸に触れる。

 少しスノウよりも大きいだろうか。

 着痩せするタイプなのか、見た目よりもボリュームがあるように感じる。

 

「手伝ってあげようと思ってな」

 

「そん……なっ、マスターの手を煩わせるなんて……っ♡」

 

 明らかに感じている様子のウェンディ。

 スノウもそうだったが、精霊というのは敏感な体質なのだろうか。

 それともこれもまた、主人と精霊という特殊な関係がもたらす恩恵なのだろうか。

 まあそんなことはどうでも良い。

 あのスノウをも項垂れさせるようなウェンディが、今は俺を喜ばせる為に身体をくねらせているのだから。

 人には綺麗なものを汚したくなるような欲求があると言う。

 それと似たようなもので、上位存在を屈服させたくなる欲求もあるのではないかと俺は思う。

 なにせ今がそれだ。

 精霊という、人間よりも優れた力を持つ存在。

 その上、最も身近にいたスノウよりも目上――姉というだけではあるが――の存在。

 本来ならば俺のような普通の人間の手が届くようなものではない。

 だが、何の因果かこうなっている以上はこの倒錯的な快楽を享受すべきなのだろう。

 

「んっ――くっ――♡」

 

 びくん、とウェンディが背中をそらした。

 どうやら絶頂したようだ。

 ぷし、とショーツ越しにも潮を噴いたのが分かる。

 

「はっ……♡ はぁっ……♡」

 

 口元を抑えて、それでも乱れた表情自体は俺に見せようとしないウェンディ。

 無理に表情を作っているというよりは、元々感情を表に見せない性格なのだろう。

 しかしそうであればある程、その鉄仮面を崩してみせたくなる。

 

「まだ終わりじゃないだろ?」

 

 本題は本契約なのだから、ここまではただの前戯だ。

 俺がそう聞くと、ウェンディはこくりと頷いた。

 

「もちろんです」

 

 

 

2.

 

 

 

「っ……」

 

 俺の上に跨ったウェンディが息を呑む。

 騎乗位のような格好だ。

 ぐちゅ、と壺口がちんぽの先に触れている。

 既に濡れ具合としては十分だ。

 しかし先程も言っていたが、知識としてはあっても初めてなことには代わりないのだろう。

 互いの粘膜が少し接触した時点でウェンディは一旦動きを止めた。

 

「……それでは、ご奉仕させて頂きます」

 

 先程も聞いた文句。

 その言葉と共に、ぐちゅ、とちんぽが膣内へと侵入した。

 一気にではなく、徐々に。

 しかしまるで迎え入れるのを待ち構えていたと言わんばかりに、膣はぐねぐねと収縮を繰り返してちんぽを中へ引きずり込もうとしている。

 外面では奉仕をする、と言っているが、どうやら奉仕をしたがっている立場のようだ。

 フェラも何も言わないでしていたし、そもそもそういう性癖なのかもしれない。

 

「んっ……う……ぐっ……」

 

 ずぶずぶと奥まで膣内へ入っていく。

 これまでの反応から少し気になった実は調べたのだが、どうやら俺のものは比較的大きい方なようなので、流石にキツイようだ。

 思えば無理しないと全部は入り切らなかったもんな、これまでも。

 しかしウェンディは何も言わずとも全部を挿れるつもりのようで、どんどん奥へ奥へと押し進めている。

 

「……痛いようならあまり無理はするなよ?」

 

「いえ……っ、痛、くは、ない……のですが……っあ♡」

 

 びくん、とウェンディは途中で身体を震わせた。

 それと同時にキュッと膣内が締め付ける。

 

「はっ……♡ くっ……♡」

 

 ウェンディが悩ましげな声をあげる。

 どうやら気持ちよすぎてちょくちょく止まっているらしい。

 幾らなんでも快楽に弱すぎる。

 

「……さっきスノウから話を聞いたって言ってたけど、カフェインのことも聞いた?」

 

「流石マスター。お見通しですか。もうすぐ目が覚めることは魔力の波長で分かっていましたので、部屋へ来る前に少しだけエナジードリンクなるものを摂取してきました」

 

 やっぱり。

 素面でこれは日常生活に支障をきたすレベルだろう。

 しかしカフェイン入りだと言うのなら納得だ。

 それに、そうと分かればこちらとしても遠慮はいらないしな。

 

「んえっ!?」

 

 思わず変な声が出てしまったのだろう。

 ウェンディははっとした表情で口を押さえる。

 しかし無理もないだろう。

 俺が不意打ちで下から突いたのだから。

 

「悪い、我慢が出来なくてな。続けてくれ」

 

「はっ……はい……っ♡」

 

 ずぶぶ、と更に奥へ入っていく。

 やがてようやく一番奥まで入ったか、というタイミングで、もう一度ぐっと腰を動かす。

 

「んんっ……! ま、マスター……っ♡」

 

「悪い悪い」

 

 少し困ったように眉を下げ、 潤んだ目で俺を咎めるように見やるウェンディ。

 ギャップ萌えというやつなのだろうか。

 その様子がめちゃくちゃ可愛い。

 

「で、では、動きますね……」

 

 ぐっぷ、ぐっちゅ、とゆっくりウェンディが動き出す。

 膣内をかき回されるような感覚なのだろう。

 流石にウェンディも声を抑えられないようだ。

 

「んっ♡ ふっ♡ っ、♡ くっ♡」

 

 平静を保っていた表情は淫れるとまでは行かずとも、眉はひそめられ、目はぎゅっと瞑っているのでもう無表情という訳にもいかない。

 先程少し揉んだ時に気づいたが、寝間着だからかノーブラなウェンディの胸がパジャマ越しにも暴れているのが分かる。

 着痩せするタイプ、とは言ったが揺れている様子を見るにもしかしたら綾乃より少し小さいくらいか、同じ程度はあるかもしれない。

 

 しかし、とんでもなく贅沢な光景だ。

 絶世の美女が俺の上で必死に腰を振っている。

 それも、奉仕する、と言ってだ。

 まるで自分が王様にでもなったかのような気分だな。

 

 そして頃合いを見て、再び俺は自分で腰を一突き、動かす。

 

「んぁっ!? ふ、深っ、いぃ……っ……ま、マスター……ぁ♡」

 

 もはや咎める為に呼んだのか、更に誘う為に呼んだのかも分からない声音だ。

 それに俺は引き寄せられるように、暴れる胸に両手で触れる。

 

「あっ♡ ん、胸、だめ、です、いま、はっ♡ わた、しが、♡ ご、ほうし、をぉ♡」

 

 かくん、と力が抜けたようにこちらに倒れ込んでくるウェンディ。

 その華奢な背中を抱きしめ、一気に腰を動かす。

 

「あ、は、ん、ああああぁぁっ♡ は、はげし、すぎま、す、ま、すたぁ♡」

 

 ぐちゅ、どちゅ、と淫猥な音とウェンディの矯正が部屋に響き渡る。

 今はウェンディの背中を抱きしめているので、密着感もすごい。

 お陰でまるで空間そのものが快楽に占められているような感覚も味わえる。

 胸板に当たる柔らかな脂肪も男にはあり得ないものだ。

 パジャマという布越しにも関わらず温もりを直に感じているかのような高い体温は快楽によって血液の流れがよくなっているからだろう。

 

「これっ、だめですっ♡ ますたー、私、なんかを、♡ そんな、ぎゅってしたらっ♡」

 

 びくん、とウェンディの身体が跳ねる。

 どうやら絶頂したようだ。

 しかし俺はまだ。

 つまり本契約も終えていない訳で、そんなことで止まる理由にはならない。

 

「あ、頭っ、真っ白に、ますたー、ますたー、ぁ♡」

 

 まるで助けを求めるような涙目で俺を見つめるウェンディ。

 クールな彼女の化けの皮が剥がれてきた様子にこちらも興奮がどんどん抑えきれなくなっていく。

 

「ますたー、ますたー、ますたーっ」

 

 もはや取り繕うこともやめたのか、ウェンディは俺のことを何度も呼ぶ。

 しかしその慣れない呼び方のせいもあってか、一度呼ばれるごとに限界は近づいていって――

 

「あっ――ん、あああああああぁあぁぁぁぁ♡♡♡」

 

 とうとう膣内(なか)へ射精する。

 同時に、どくん、と二人の間で何かが繋がったような感覚を覚えた。

 スノウの時にはまだ魔力の扱いに全く慣れていなかったということもあってそんなことを感じる余裕がなかったが、どうやら今の感覚が本契約完了、ということらしい。

 しかし……

 くた、と脱力してほとんど俺にもたれかかっているようなウェンディには悪いのだが、こちらの性欲はまるで衰える気配がしない。

 

 ――ん?

 誰か扉の前にいるか? これ。

 魔力を消している(・・・・・・・・)ような気配を感じる。

 と言っても伝わりにくいと思うのだが、なんとなく違和感があるのだ。

 無臭スプレーを蒔いた後のような『逆に無臭くさい』、みたいな違和感。

 

 耳に意識を集中すると、扉の前にいるのが誰なのかはすぐに分かった。

 スノウだ。

 未菜さんの<気配遮断>とは異なる原理で気配を殺しているようだが、流石にあのレベルには及ばないな。

 ウェンディは気づいていないようなので、彼女が淫れ始めてから見に来たのだろう。

 しかし当のスノウは覗いているだけで入ってくるつもりはないようだ。

 そんなものを許す俺ではないがな。

 

 ウェンディの膣からちんぽを抜いて、何気なくベッドに腰掛ける。

 と見せかけて扉までダッシュすると、扉の向こうで、

 

「あっ!」

 

 という焦ったような声と、ごん、と転んだような音が聞こえた。

 もちろんその扉を開くと、パジャマのズボンの内側に手を突っ込んでいるスノウが転がっていた。

 

 俺はにっこり笑う。

 

「混ざってくよな」

 

 反射的に逃げようとしたスノウの腕を掴んで、部屋の中へ引きずり込むのだった。



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第35話:姉妹丼

1.

 

 

「なんで貴女がここに……?」

 

 ぐったりしていたウェンディが俺に引きずられて部屋の中へ入ってきたスノウを見て驚いたような声をあげる。

 

「覗き見してたんだよ。これは躾が必要だ。うん、躾」

 

「ちょ……っと、あんた、調子に乗ってるわね! 分かりやすく!」

 

 猛獣が獲物を狙う時の目で俺を睨むスノウ。

 怖すぎる。

 だが、いつもは目の前にその猛獣がいたとしても今日は檻の向こう側だ。

 なにせ、

 

「ふはは、こちらにはウェンディがいるんだぞ。俺に手出し出来まい!」

 

「くっ……! この……っ!」

 

 事実、ウェンディがいる間は明らかにスノウはしおらしくなっている。

 今もギリギリと歯ぎしりしているが襲いかかってくる様子はない。

 ない……よな?

 

「スノウ、マスターの前ですよ」

 

 不穏な様子を感じ取ったのかウェンディがスノウを制止する。

 

「くっ……は、い……」

 

 おお……

 まるで待てを言いつけられたライオンのようだ。

 ライオンにそういう躾できるか知らないけど。

 

「……ウェンディ、さっきエナドリを少し飲んできたって言ってたよな」

 

「はい」

 

「残りを持ってきてくれ」

 

「承知しました」

 

 まだ快楽の余波が残っているのか、ウェンディがふらつきながら立ち上がって部屋を出ていく。

 もちろんこれから何が起きるのかを察知したスノウは俺を再び睨んでいた。

 やばい、ウェンディがいない間どうするかを考えてなかった。

 

「まあ待て落ち着け、ステイクールだスノウ」

 

「全凍りか半凍りか選ばせてあげるわ」

 

 何その新ワード。

 わくわくしちゃうな。

 どこの何を凍らせるつもりなんだろう。

 

「しかしだ、俺は不思議に思うのさ」

 

「何よそのテンション」

 

「何故君は扉の前でオナニーをしていたんだい?」

 

「おな……! してないわよ!」

 

 先程までの怒りとは違う理由で顔を真っ赤にするスノウ。

 しかし俺の目というか耳は誤魔化せない。

 

「いいや、明らかに水の音がしていたね!」

 

「ちょっと大きな声で言わないでくれる!?」

 

「それに、右手を見せてみろ!」

 

「うっ……」

 

 サッと右手を隠す。

 それはそうだろう。

 先程までオナニーしていたということは右手は愛液に塗れているはず。

 それを見られれば決定的な証拠となるのだから。

 

「くっ……気づかれるなんて、不覚だわ。完璧に気配は殺してたはずなのに……!」

 

「今や未菜さんの<気配遮断>さえ破れるこの俺に死角はないのだよ!」

 

 俺たちがコントをしていると、コンコン、と扉がノックされる。

 

「良いぞー」

 

 俺が声をかけると、ウェンディが「失礼します」とエナドリを持って入ってきた。

 スノウは再び、ウェンディに見えない角度から俺を睨む。

 カフェインの恐ろしさはよく知っているからだろう。

 

「さあスノウくん、君にはこのエナドリを飲んで貰おうか。せっかく来たんだ。楽しんでいってくれたまえ」

 

「あんたさっきから何キャラなのよそれ! 絶対いやよ。あたしは飲まないから」

 

 あくまでも拒否するスノウ。

 これは俺が幾ら言っても無駄だな。

 ウェンディから言って貰うという手もあるにはあるが……

 それよりも良い手を思いついた。

 

「ウェンディ、スノウにエナドリを飲ませてやってくれ」

 

「はっ!?」

 

「承知しました、マスター」

 

 ウェンディがエナドリを手に持ったままスノウににじり寄る。

 なかなか見れない光景だぞ。

 スノウが壁を背にじりじりと下がりながら逃げようとしているが、もちろんウェンディはそれを追いかける。

 絵面だけで考えるとかなり面白いが、二人の間で行われている心情的な攻防を考えると……いやそれでも面白いな。

 

 やがて壁に行き着いたスノウが逃げ場所をなくし、ウェンディがとうとう目の前まで肉薄した。

 後は飲ませるだけ……なのだが。

 スノウは口をきゅっと閉じて絶対に飲まないという意思表示をしていた。

 絵面はかなり間抜けだが、可愛いな。あれはあれで。

 しかし可愛いから許すとはなる訳はなく。

 ウェンディが困ったようにこちらを見てくる。

 確かに口を開けないんじゃ飲ませようとしても床が濡れるだけだからな。

 スノウが勝ち誇ったような表情を浮かべる中――俺は更なる名案を思いつく。

 

「ウェンディ、口移しでスノウに飲ませるんだ」

 

「承知しました」

 

「はあ!? あんたバカじゃないの!?」

 

 スノウが俺に向かって食ってかかるが、ウェンディに壁に追いやられている以上、俺に害が及ぶことはない。つまり無敵である。なんでも命令できるのだ。

 ウェンディは自分の口にエナドリを含んで床に缶を一旦置くとスノウの顔をがしっと掴んで固定した。

 

「うぇ、ウェンディお姉ちゃん……? 冗談よね? あたしたち女の子同士だし、姉妹だし……そういうの……ん~~~~!」

 

 逃げようとするスノウにウェンディが口吻をする。

 姉妹ということもあって雰囲気の似ている二人だが、それがこうも近い距離――いや、もはや文字通りゼロ距離で交わっている姿を見ると、提案した時の思いつき以上の興奮があるな。

 

「ん……く……ん……」

 

 最初のうちはスノウも抵抗していたのだが、やがて喉が嚥下するような動きを見せる。

 姉妹の百合キスか……

 有りだな。

 凄く有りだと思う。

 

「ん……ふぁ……んちゅ……んっ……♡」

 

 ……もう飲ませ終わったよな?

 ウェンディがスノウから離れようとしない。

 というか互いに離れる気配がない。

 恐らく口に含んだ時に多少飲んでしまったであろうウェンディと、直接流し込まれたスノウとで完全に本気の百合キスを始めてしまっている。

 舌を互いに絡め合い、腕も互いの身体を離さないように抱きしめている。

 時折聞こえる息継ぎの声と、唾液が混ざり合う音だけが部屋に響く。

 途轍もなく淫猥な光景だ。

 美しすぎると形容しても良いようなレベルの姉妹がお互いに求め合い、絡み合っているのだから。

 まるで離してしまったら死んでしまうとでも言わんばかりに激しい繋がり。

 この様子をカメラに収めたらどんな魔石よりも高く売れるんじゃないかと思う程だ。

 だが、待って欲しい。

 何の為に口移しで飲ませたのか二人とも忘れてないか?

 つまり、だ。

 

「俺は……?」

 

 

2.

 

 

 大体30分くらい待っただろうか。

 スノウとウェンディでレズレズしているのも流石に疲れたのか、二人してへたり込んでいた。

 何故手を出さなかったかって?

 百合の間に挟まる男は殺されるんだよ。知らないのか。

 そして百合姉妹の情事が終わったので、俺は改めて動く。

 見せつけられただけで終われるはずがないだろう。

 経験上、カフェインの効果は30分やそこらで切れるものでもないのでまだ発情状態だろう。

 俺はスノウを抱えあげる。

 

「え……あ……ゆうまぁ……♡」

 

 ぎゅっとスノウが俺に抱きついてくる。

 まるで愛おしい対象にそうするかのようにすりすりと顔をこすり付けてまで。

 以前の時もそうだったが、カフェインを摂取した時の変わりようがすごいんだよな。

 いつもツンツンしていることが多い分、破壊力が半端じゃない。

 今も理性が吹っ飛びかけたところだ。

 姉妹丼を楽しもうと思っていたが、まずはスノウから頂こうか。

 二人同時はその後だ。

 

 ベッドに押し倒して、そのまま挿入しようとすると、

 

「……顔見えるの、恥ずかしい……」

 

 ともじもじしながら言った。

 なんだかこいつ幼児退行していないか?

 姉が来たからだろうか。

 無関係とは思えないが。

 しかし何故か言うことを聞いてしまうような魔力があって、結局背面座位のような形で落ち着くことになった。

 既に十分以上に濡れそぼっている肉壷に挿入する。

 

「ん――く――♡ あっ、は、ぐ、う、きゅう――♡」

 

 ビクビクビク、と激しく身体を震わせ、スノウが絶頂した。

 どうやら百合キスの時点で相当昂ぶってはいたようだ。

 

「はっ、あ、い、く、♡ っ♡ っ♡ あっ♡」

 

 動かし始めると完全にスイッチが入ったようで、あられもない声を出しながら淫れる。

 ぐにゅぐにゅと蠢く膣内(なか)、脳まで蕩けてしまっているような甘い声。

 スノウの中にある可愛いとエロいをひたすら煮詰めたような姿。

 

「あ゛っ♡ はげしく、なってるぅ♡ ゆうま、がまんできないのっ?♡ あたしのなか、すき?♡」

 

「ああ……っ、気持ちよすぎだ……!」

 

「うれしい♡ もっと、もっときもちよくなって、きもちよくしてっ♡ ゆーま、ゆーまぁ♡」

 

 やばい。

 可愛すぎる。

 元々カフェインが入ると甘えたような態度を取っていたスノウだが、さっきも言った通りウェンディがいることで精神年齢が退行しているように感じる。

 

「はっ、あっ♡ 奥まで、ずんずんって、つよく♡ も、らめ、ゆーま、だめ、なのっ♡ ~~~~~ッ!?」

 

 突然、ガクン、とスノウが身体を震わせた。

 今までにない強い動きだったので何かと思ったら、いつの間にかウェンディが復活してすぐ近くまで来ていた。

 いや、近くまで来ていただけではない。

 ちんぽとまんこの接合部に顔を近づけ、スノウの陰核を舐めているようだ。

 

「マスター、お手伝いいたします」

 

 おお……

 なんというパーフェクトな献身具合なのだろう。

 

「ウェンディおねえちゃ、だめ、それ、ほんとに、だめっ♡ あたまっ、ちかちかするっ♡」

 

 同時責め――それも片方は実の姉によるもので、一番敏感な部分を舌で舐められている。

 それによって与えられる快楽はもはや俺の考えは及びすらしないようなものだろう。

 

「あっ、う、ぐ、く――っ♡ ん~~~~~っ♡」

 

 感電したかのように身体を痙攣させて絶頂するスノウ。

 軽イキを含めれば既に何度もイっているようだが、しかし俺はまだ一度もイっていない。

 ウェンディもそれは分かっているようで、クリ責めを続けていた。

 

「あ゛っ、い、ってる、のっ、に♡ うぇんでぃお姉ちゃん、もっ、やめっ♡ ゆうまも、うごかな、いで♡ これ、っ、やばいのっ、きちゃう、からっ♡」

 

 かなりキているようだな。

 しかし口では嫌がっている割に、スノウの手はウェンディの頭を自分の股間に押さえつけるように動いていた。

 もちろんウェンディの方も本気で抵抗すれば抜け出せるだろうが、そのままクリ責めを続けている。

 職務(?)に忠実なやつだ。

 またスノウの身体がぷるぷると震え始めた。

 同時に膣内も細かく収縮運動を始める。

 また絶頂するようだ。

 ならば、と俺もそれに合わせるように動きを早める。

 

「きもち、いいのっ♡ きちゃう♡ きちゃうからっ♡ あっ……♡ あ――♡」

 

 どくん、と一際大きく跳ねたスノウの身体。

 それと同時に俺も射精する。

 一番奥で、精霊でなかったら孕んでしまうのではないかと思うほど大量に。

 当然のように入り切らずに溢れ始めた精液をウェンディがぺろぺろと舐めて綺麗にする。

 

「君は余裕そうだな、ウェンディ」

 

「マスターのお望みとあらば、幾らでも」

 

 先程本契約を交わした時はかなりの勢いで絶頂していたが、その本契約を済ませたが故に体力が回復したのだろうか。

 それにそもそも休憩時間もあった訳で、たった今責められていたスノウよりは当然元気だ。

 もちろん俺も二発出した程度で満足はしない。

 本当に最近は性欲が人間離れしているな。

 それでもあまり困らないような生活……性活になっているのも問題はあると思うが。

 しかし我慢する必要がないというのも素晴らしい話だな。

 

 さて、今度は姉妹丼だ。

 ウェンディとスノウ、順番に頂いたのだ。

 次は同時にご馳走になるとしようじゃないか。

 

「ウェンディ、ベッドの上に仰向けになるんだ」

 

「はい、マスター」

 

 言われた通りにウェンディが仰向けに寝そべる。

 じっと俺を見つめる翡翠の目は、どこか期待の感情のようなものも籠もっているように見えるのは気の所為だろうか。

 そして俺はそのウェンディの上に、ぐったりと脱力したスノウをうつ伏せに寝かせた。

 

「ん……う……♡」

 

 二人とも身長は同じくらいなのでちょうど良いな。

 さて、これでどうなったかと言うと、姉妹丼……というか姉妹サンドイッチのような形になった訳だ。

 ひくひくと物欲しそうに動くまんこが上下合わせて二つ。

 まずは下……ウェンディの方に挿入する。

 ずにゅ……とまるで包み込むように刺激してくるウェンディのまんこ。

 外面はクールだが、膣内は既にこちらに媚びきっているようだ。

 

「ん……ふっ……っ♡」

 

 表情にもなかなか出ない。

 時間を置いてしまったので余裕が生まれたのだろう。

 また堕ちるところまでやっても良いが、せっかくの姉妹丼なのだ。

 両方を平等に楽しみたい。

 さてどうしようか……と悩んでいると、不意にきゅっとウェンディの締め付けが強くなった。

 

「ウェンディお姉ちゃん……かわいい♡」

 

 スノウが目を覚まして、ウェンディに抱きついていた。

 妹に痴態を見られるのが恥ずかしいのだろう。

 なるほど、外面に出ないだけでしっかりと感情はある訳だ。

 当然と言えば当然なのだが。

 よし、物は試しだ。

 普段のスノウなら絶対に言うことは聞かないが……

 

「スノウ、ウェンディお姉ちゃんを手伝ってやれ(・・・・・・・)

 

 それはつまり、先程された手伝い(・・・)と同じことをしろという命令。

 それを理解してかしないでかは分からないが、スノウは「わかった」と思いの外素直に応じた。

 

「ま、マスター……それ、は……んっ♡」

 

 何かウェンディが俺に抗議をしようとしたようだが、それはスノウの口によって封じられた。

 先程の百合キスの再来だ。

 しかし今度は最初から俺が混ざっている。

 百合の間に挟まる男を殺しに来る過激派もきっと今回ばかりは反応しないだろう。

 

「ん、ちゅ、ん――♡ んっ!?」

 

 俺も再び動き始める。

 ウェンディの方からは余裕が失われたが、一方的に責めているだけのスノウはそうではない。

 まるで本当に先程の意趣返しと言わんばかりに無慈悲に口吻を続ける。

 もはやスノウの舌がウェンディの口腔を犯していると言っても過言でないだろう。

 

「スノウ、口だけでなくおっぱいとかも刺激してやったらどうだ?」

 

 俺の言葉にスノウは手でウェンディの胸をまさぐり始める。

 それだけでもウェンディはびくん、と身体を震わせた。

 妹に身体を弄られるということに性的興奮を覚えているのだろう。

 

「ますたー、やめさせて、ください……っ。これ、はっ♡ だめ、です……♡」

 

「いいや、駄目だな」

 

「そんな……あっ♡」

 

 ウェンディが泣き言を漏らし始める。

 これこそが見たかった光景なのだ。

 ウェンディもスノウも、どちらもこのように淫れたりする様子を普段のそれからは想像出来ない。

 だが現実はこれだ。

 このギャップが素晴らしいのである。

 

「あっ、んっ♡ はっ、あっ、くっ、ん……むっ♡」

 

 途中で再び口吻に戻ったり、胸を弄る方に移ったり。

 スノウも工夫を凝らして姉を楽しませる方向に入っているらしい。

 俺もそれはそれで見ていて楽しいのだが、そろそろ油断し始める頃合いだろうな。

 腰の動きを早くしていく。

 

「んっ、はっ♡ ますたーの、おちんちん、おおきくっ、なって、ます……っ♡」

 

「くっ……!」

 

 出る、という直前で。

 ウェンディの膣内からちんぽを引き抜いて、完全に油断しきっていたスノウの肉壷へ一気に挿入する。

 

「あああああああああああぁぁぁぁっ!! あっ♡ がっ♡ はっ……あっ♡」

 

 スノウの一番奥で射精する。

 一気に突き入れたというのに、その衝撃と精液が奥へ当たる感覚とでスノウも一発で絶頂したようだ。

 完全な不意打ちにスノウがあられもなく絶頂する中、ウェンディだけがきょとんとした表情を浮かべていた。

 

「ま、マスター……? なぜ……」

 

「そういう顔が見たかったから、かな」

 

 そして再び俺はウェンディの中へ挿入する。

 元々分泌されていた愛液に、スノウの中で混ざった俺の精液と愛液が更に加わりぐちょぐちゃと湿った音を立てる。

 

「んっ♡ ふっ……♡ ふー♡ ふー……♡」

 

 不満そうだったウェンディの表情が再び乱れる。

 それからも何度も同じようなことをしたり、逆のことをしたり。

 順当にそのまま出したりと様々なパターンを試した。

 

 

 

3.

 

 

 外が明るくなってきていた。

 流石に俺たちは体力の限界が近づいてきていて、最後の射精をスノウの中へと放つ。

 

「んっ……あっ……♡ はっ……♡」

 

 途中からはカフェインの効果も切れていたようで、甘えモードではなくなっていたスノウが己の中に放たれた精液を感じて背中を震わせる。

 

「……流石にそろそろ打ち止めかな」

 

 先程までは出しても即座に元気になっていたのだが、流石にそろそろそうも言っていられない。

 もう何発出したかも分からないほどウェンディとスノウの身体は白濁に染まっていた。

 エロ漫画みたいな量の射精だな。

 我ながら。

 これだけ出していたらそのうち赤い玉が出てきてもおかしくないのではないかと思う。

 

「綺麗にいたします」

 

 疲れた様子でウェンディが俺のちんぽを握り、そのまま顔を近づけて舌を這わせる。

 弱めの刺激ではあるものの、ざりざりとした感触が異様に気持ちが良い。

 いやこれまた大きくなるぞ。

 ぐんぐんと力を取り戻し始めたちんぽを見て、ウェンディは薄く微笑んだ。

 

「スノウ、手伝いなさい」

 

「え……ん……わかったわ」

 

 既に正気には戻っているはずのスノウも素直にウェンディの言うことを聞いて、俺の股間に顔を近づけてきた。

 そしてそのまま、ウェンディとは反対側から肉棒を舐め始める。

 こ、これは……

 全ての男の夢、ダブルフェラじゃないか!

 しかも姉妹にやって貰うとか!

 どうしよう、俺はもう死んでも良いかもしれん。

 というか今日隕石にでもぶつかって死ぬのではないだろうか。

 或いはこれから一生幸運という幸運が訪れない体になってしまうのだろうか。

 そんなアホなことを考えてしまう程インパクトのある画だった。

 超美人姉妹、それも片方はクールキャラでもう片方はツン多めのツンデレだ。

 想像するだけでも勃起してしまいそうなのに、それが実際に起きているのだ。

 

「ん、ちゅ……れろ……」

 

「れろ……ん……ちょっと、どんどんおおきくなってるじゃない」

 

 スノウが俺をジト目で見つめる。

 そりゃ大きくもなるだろう。

 こんなの我慢出来る訳がない。

 先程までもう限界だと思っていた性欲がむくむくと湧き上がるのを実感出来る。

 いやしかし時間的にももう限界だ。

 ここからまた2回戦……どころか10回戦なのか20回戦なのかも分からない延長線に突入する訳にもいかない。

 そんな俺の思いを汲み取ったのか、ちら、とウェンディがこちらを見た後、ずぼっ、と一気に口の奥までちんぽを咥えた。

 

「ウェンディお姉ちゃん……!?」

 

「ん、じゅぼ、じゅるっ、じゅぶっ、んぶっ、んっ」

 

 近寄ることさえ許されない程の美貌を持つウェンディが妹の前で下品な音を立てながら俺のちんぽをしゃぶっている。

 口腔内の気持ちよさももちろんだが、そんな状況に一気に決壊した。

 どびゅ、とウェンディの口奥深くに射精する。

 ごく、ごく、と精液を飲んでいくのが口の中の動きで分かる。

 更に最後は、じゅるるるるる、と音を立てて尿道に残っていた精液までも持っていかれた。

 ちんぽから口を離したウェンディは打って変わった上品な仕草で口元を抑える。

 

「んえ……」

 

 そして全て飲み込んだことを俺に見せつけるように、口を開いた。

 

 やば……エロすぎるだろ……っ。

 またちんぽが大きくなりそうだったが、いや待て待て流石にこれ以上はまずいと無理やり理性で抑えつける。

 

 そういう訳で、本契約から始まった性欲の祭りは終わりを告げたのだった。



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第36話:変異

1.

 

 

「そういえば、ウェンディさんの戸籍も我々で取得した方が良いのかな?」

 

「そうして貰えると助かります」

 

 朝。

 あの後シーツを換えたりシャワーを浴びたりとすったもんだはあったが、なんとかずっと寝ていた未菜さんが起きてくるまでには全ての後始末を終え、みんなでウェンディの作った朝食を食べていた。

 しかしタフそうな未菜さんが12時間以上も寝込んでいたことを考えると、やはりボス相手ともなると相当厳しいものなんだな。

 事実、スノウやウェンディがいなければ倒すのは難しかっただろうし。

 人類全体で見ても事実上最高戦力だと言えるほどの実力者である未菜さんでさえああなのだから、ダンジョン攻略の難易度の高さも伺える。

 で、その未菜さんの提案でウェンディの戸籍も入手して貰うことになったのだが……

 

「精霊とはまだこれから増えるものなのか? 後何人くらいの予定とかあるのかい?」

 

 と聞かれる。

 その問いについて、俺は正直首をひねるしかない。

 戦力としてはスノウにウェンディ、この二人で十分過ぎるほどに十分だと思う。

 これ以上を望むのは過剰ではないだろうか。

 と思っていたのだが、ウェンディが口を挟んできた。

 

「マスター、お話しておきたいことが」

 

「なんだ?」

 

「私たちは四姉妹なのです。つまりあと二人、私たちと同等かそれ以上の能力を持つ者がいます」

 

「四姉妹?」

 

 そもそもスノウとウェンディが姉妹だということも結構な驚きだったが、そんなにいたのか。

 いや、そういえば昨日ウェンディが「褒めてくれたのは両親と姉妹だけ」みたいなことを言っていたな。

 スノウしか姉妹がいないのだったらスノウと名指しすれば良いわけで、あの時点で他の姉妹の存在は示唆されてたということか。

 

「となると、じゃああと二人……になるのかな?」

 

「そうして頂けると幸いです」

 

 にしても、スノウやウェンディに匹敵する力を持つ精霊があと二人もいるのか。

 俺もしかしたら世界征服とか出来るんじゃないだろうか。

 

「悠真君がその気になったら世界征服もできそうだな」

 

「しませんよ」

 

 なんて考えていたら呆れた表情を浮かべた未菜さんがまんまそんなことを言うので、俺は苦笑して流しておく。

 

「基本的にはあんたの命令に従うけど、その手のはちゃんと拒否するわよ」

 

 スノウが当然でしょ、と言わんばかりに言い放つ。

 

「そうしてくれ。俺が力を持ちすぎてとち狂うなんて可能性も無きにしもあらずだからな」

 

 いや多分ないとは思うけど。

 世界征服したところで何すんのって話だし。

 誰かが作ってくれたルールの上でのほほんと過ごすのが俺に出来る精一杯だ。

 

「それから、次からダンジョンに行く際は最低でも私かスノウ……どちらかをお連れください」

 

「分かってるよ」

 

 これは昨日も散々言われたことだ。

 あとスノウは滅茶苦茶叱られてた。

 当初はかなり落ち込んでいてちょっと可哀想になってきたくらいだ。

 既に立ち直ってはいるようだが、ああして姉妹の上下関係は植え付けられていくのだろうか。

 

「その節は本当に申し訳ない。元はと言えば私が無理に連れ出したせいだ」

 

「いや、あれは誰が悪いとかじゃないですって。あんなの予想出来ないですし」

 

 未菜さんが頭を下げるので慌ててそれを制する。

 あんなの、とは本来ボスがいないはずの階層にボスが現れたことである。

 あんなことがこれからもまかり通るようならダンジョンでの犠牲者がぐっと増えることになる。

 

「もちろん、あの件の原因調査はダンジョン管理局で進める……のだが、スノウさんとウェンディさんにも少し話を聞いてみていいかな。あなた達はダンジョンのスペシャリストなのだろう?」

 

「その認識は間違えてもいないけど、正確とも言えないわね」

 

 未菜さんの問いかけにスノウが答える。

 

「どういうことかな?」

 

「私たちにとってもダンジョンについては謎が多いってことよ。ボスが本来いないはずの階層に現れるなんてのも初めて聞いた話。それに、そもそもこの世界と私たちのいた世界じゃ勝手がだいぶ違うから私たちの常識が当てはまるかも微妙なところなのよ」

 

「そうか。なるほど、分かった。ありがとう」

 

「力になれなくて悪いわね」

 

 ……どうやら未菜さんとスノウは以前ほど険悪な仲でもないようだ。

 世界の勝手が違う、とは多分魔力の有る無しのことも含めてのことなのだろう。

 スノウたちのいた世界では魔法が当たり前にあるようだったし。

 

 ……そういえば。

 

「スノウ、それにウェンディ。もう少し実用的……というか実戦向きの魔法を教えてくれないか? 例の火を灯す魔法だと自爆しちゃうからキツイんだよな」

 

「普通は自爆出来るほどの火力は出せないのよ、あの魔法。ウェンディお姉ちゃんから話は聞いてるけど、あんたのその異常な魔力量の為せる技だったんでしょうね」

 

 呆れた様子のスノウ。

 

「そもそも出来てもやらないわ。危なすぎるもの」

 

「そうなのか」

 

 たしかにあんなシンプルな魔法であそこまでの怪我をしてしまうのはおかしいとは思っていたのだが。

 

「魔法は追々教えていくわ。一気に教えても混乱するだろうし。どれをどの順番で教えるかはウェンディお姉ちゃんと話し合うから」

 

「お任せください」

 

 すっとウェンディが頭を下げる。

 

「スノウだけなら心配だけど、ウェンディも一緒なら安心だな」

 

「ちょっとそれどういう意味よ」

 

 ジト目でスノウが睨んでくるのを無視していなす。

 

「しかし、君たちは凄まじいな。最初のダンジョンを攻略してまだ一週間も経たない内に二つも10年もののダンジョンを攻略してしまった」

 

 俺たちの様子を見ていた未菜さんが苦笑しながら言う。

 

「片方は未菜さんも関わってるじゃないですか」

 

「私は正直ただの足手まといだったよ。いない方がマシだった」

 

 寂しそうに笑みを浮かべる未菜さん。

 だが、その認識は間違っている。

 

「最初に襲いかかられた時点で、未菜さんがいなければ触手にそのまま押し潰されてましたよ。仮にそこを突破しても庇って貰ってなければそこで死んでましたし」

 

 俺一人では死んでいた。

 これが紛れもない事実だ。

 未菜さんがいなければそもそも精霊を召喚するということを思いつく前にゲームオーバーだった訳だ。

 

「悪いのはスノウなので、お二人は気にしなくて良いのです」

 

「うっ……」

 

 俺たちの罪のなすりつけあいというか、罪の取り合いをウェンディがぴしゃりと止める。

 矢面に立たされたスノウは微妙な表情を浮かべているが否定はしない。

 今回のことで相当堪えたようだ。

 

「どの道、私は鍛え直すよ。最低でも君の隣に立って戦えるくらいにはね」

 

 パチン、と未菜さんは俺にウインクをした。

 正直、かなりドキッとする仕草だったがコーヒーを飲む動作で誤魔化したのだった。

 

 

2.

 

 

「この人が例の英雄……実在したんだ」

 

「うちの創設者さんなのに、初めて見ました……」

 

「そうまじまじと見られると照れるね」

 

 朝食からしばらくして、知佳と綾乃が出勤してきた。

 未菜さんも未菜さんでそろそろダンジョン管理局の方へ戻らないといけないのだが、その直前あたりに二人に捕まった感じだ。

 更に新顔のウェンディもいるのでもはや混乱はピークに達しているようだ。

 

「存在すら疑問視されていた伝説の存在がいて、スノウさんのお姉さんもいて……九十九里浜のダンジョンも攻略して。情報が多すぎてくらくらします」

 

「まあ、そういうこともある」

 

 前言撤回。

 綾乃は混乱しているが、知佳は割と平然としていた。

 そういうこともあるで流して良いような話でもないと思うのだが。

 やはりこいつは大物なのかもしれない。

 

「それにしても、君の周りは女性ばかりだな」

 

 未菜さんが呆れているのか感心しているのかよく分からないようなトーンでそんなことを言う。

 ……そう言われてみればそうかもしれない。

 しかし不可抗力のような気もするぞ。

 知佳に関しては俺から協力を要請しているのだから女性であることに対して俺から何かしらの申し開きをすることは出来ないが、他の面子に関しては蓋を開けてみればたまたま女性だったというだけだ。

 

 ……ちょっと待て。

 俺もしかしてここにいる女性全員と関係を持っているのか?

 いやもしかしなくてもそうだ。

 嘘だろ……?

 そんなことある……?

 

 

 それから未菜さんはダンジョン管理局へ諸々の報告も兼ねて出勤(?)して行き、家には俺、スノウ、ウェンディ、知佳、綾乃の5人が残った。

 

「で、悠真」

 

「なんだ?」

 

 知佳がいつもと変わらぬ様子で俺に訊ねてくる。

 

「ダンジョンを攻略したなら魔石ある?」

 

「ウェンディが持ってる」

 

 ちら、とウェンディの方を見ると、

 

「こちらに」

 

 と右の掌を上に向ける。

 そこに、新宿ダンジョンでの魔石よりも更に一回り大きな魔石が出てきた。

 

「ん……大きい」

 

「そうなんだよな。ボスの強さ的にも納得は行くけど」

 

 知佳がまじまじと魔石を眺める。

 こいつがかなりの小顔だというのもあるが、もうほとんど顔と魔石の大きさが変わらないな。

 

「これだけの大きさだと……」

 

 知佳はちらりと綾乃の方を見た。

 それに向かって綾乃は困ったような表情で頷く。

 

「買い取って貰えるかどうか、怪しいですね」

 

「? ダンジョン管理局に売るんじゃないのか?」

 

 なんなら未菜さんに先に渡しておけば良かったとちょっと思っていたくらいなのだが。

 ダンジョン管理局の資金力なら払えるだろうし。多分。

 

「そろそろ他の企業相手にも売る。魔石のエネルギーはどこも欲しがるし」

 

「そういえば最初からそういう話だったか」

 

 これだけのサイズだ。

 需要はあるだろう。

 しかし資金力の問題もあるのか。

 ダンジョン管理局クラスに金を持っている会社なんてそうはないからな……

 

「或いは外国の政府に売っても良いかも」

 

「マジで言ってる?」

 

「割と」

 

 急にスケールの大きさがバグったな。

 いや……でも選択肢として無しな訳でもないのか。

 日本は最大手のダンジョン管理局が民間なのでむしろ特殊な方で、アメリカだったり中国だったりの他の先進国は当然のように政府主導でダンジョンの管理を進めている。

 特にアメリカはそれが顕著だ。

 なにせ最初の攻略者が特殊部隊に所属していた軍人だからな。

 国家レベルの予算ならば数百億の魔石だって簡単に買い取れてしまうだろう。

 ただし相手が国家レベルともなると、個人……一企業で取引をするのは少なくとも俺には無理だ。

 

「今すぐには無理だと思う。けどいずれはそれも可能なくらいになる」

 

「そういうものかね」

 

 しかし知佳が出来るというのなら出来るのだろう。

 多分。

 知らんけど。

 

「まず手始めにウェンディにも動画に出て貰う」

 

「動画……ですか?」

 

 ウェンディが首を傾げる。

 基本的に何も言わなくても察する能力の高いウェンディだが、流石にこればかりは予測出来ないか。

 ザ・現代っ子って感性だし。

 

 

「なるほど……確かに合理的です」

 

 知佳から一通りの説明を受けたウェンディは感心したように呟く。

 

「なにせスノウは可愛いですし」

 

「ちょ、ウェンディお姉ちゃん!?」

 

「そう、可愛いは正義だから」

 

「知佳まで!」

 

 からかわれていると思っているスノウがむっとしているが、別にからかっている訳ではないと思うぞ。

 知佳はどうか分からんが。ウェンディは多分本気で言っている。

 なにせ可愛いのは事実だ。

 しかも超弩級に可愛いのだから。

 

「実際、動画はすごい反響ですよ。二本目の動画なんて昨日アップロードして10分くらいで100万再生行きましたから」

 

「マジか……」

 

「マジです」

 

 綾乃が頷く。

 しかしダンジョンを攻略した謎の組織に属する謎の美少女ともなればそういう注目を受けるのも当然か。

 ちなみに最初の動画の再生回数はもうとんでもないことになっている。

 二本目もすぐに一本目の再生回数を追い抜くだろう。

 で、三本目を出す頃には九十九里浜のことも知れ渡っているだろうから、更に注目を浴びると。

 

 そういえば、九十九里浜のこともそろそろニュースにはなる頃だろうか。

 誰が攻略したかまでは分からずとも、攻略されたという情報自体はそろそろテレビで出てもおかしくない。

 そう思って俺がテレビをつけると、ちょうどそのタイミングで速報のテロップが流れた。

 

 しかし、その内容は俺の予想していたものと大きく異なっていた。

 

 ――アメリカ・ロサンゼルスで高層ビル型のダンジョンが出現。大規模なダンジョン災害に巻き込まれた死者・行方不明者数は少なくとも1000人以上と見られる――

 

「高層ビル型のダンジョン……?」

 

 それに死者・行方不明者数が1000人以上だって?

 たった一つのダンジョン発生にそれだけの人数が巻き込まれることなんて今までなかったはずだ。

 ニュースを見てすぐにノートPCで何かを調べていた知佳が、少なからず驚いたような声をあげた。

 

「このダンジョン、出現したのではなく元々ある高層ビルが変異(・・)して出来たものと観測されているって」

 

「変異……?」

 

 そんなことが有り得るのか?

 スノウとウェンディの方をちらりと見ると、困惑したような表情で首を横に振っていた。

 どうやら二人にとっても不測の事態のようだ。

 本来いないはずの階にボスが現れたり、ビルが変異するという異常事態が起きたり。

 何かが狂い始めている。

 そんな予感があった。



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第37話:大人たちの思惑

side伊敷 未菜

 

 

 珍しく会社で仕事をしていた未菜とそれを監視していた柳枝(やなぎ)の元に、衝撃のニュースが飛び込んできた。

 

「ロサンゼルスで高層ビルがダンジョンに()()しただと……?」

 

 10年間ダンジョンに最前線で関わってきた未菜ですら一度も聞いたことのない事例。

 偶発的に発生したダンジョンが既存の建物の一部を飲み込んだという例はなくもない。

 だがそうではなく、全体の変異ともなるとこれまでとは規模の違う犠牲者が出るだろう。

 事実、未菜のところまで上がってきた情報の時点で死者・行方不明者の総数は1143人となっていた。

 ビルの規模から考えて確認の取れていないものまで含めれば、ダンジョン発生の時刻を考慮して2000人は優に超えるだろう。

 

「今はまだ対岸の火事だが、日本で同じことが起きないとは言えないぞ。()()()()()()()()もあることだ。何が起きてもおかしくはない」

 

 柳枝は渋面を浮かべながら提言する。

 未菜の報告した件とはボスが本来いないはずの階層に現れた、という事。

 これもまた今までに起きなかったことだ。

 何らかの異変がダンジョンを中心に起きている。

 それは明らかだった。

 

 未菜は天井を仰ぎ見る。

 

「分かっている。かと言ってもう少し詳しい情報が出るまではこちらも何も出来ない。あちらは政府主導だからな。情報が開示されるまでは時間がかかる」

 

 そう――今のところは何もできない。

 

 今頃あちらでは政府が躍起になって自体の収束へ動いているだろう。

 しかしそれはとても迅速な動きとは言えない。

 ダンジョン絡み――もっと言えば魔力が絡んでいる以上、どうしても動きが鈍ってしまうのだ。

 魔力を多く持つ探索者を下手に失うわけにはいかない。

 

 魔力の存在は極秘裏だ。

 近頃は()()()()()として知られ始めているが。

 魔力の存在が広く知れ渡れば世界中が混乱に陥る。

 

 ――というのは建前だ。

 

 各国の本音としては、魔力によって身体能力が強化された<兵士>を作り、その情報を独占することによって立場を市民に脅かされないようにするというどこまでも自分本位な考え方である。

 

 未菜は小さく呟く。

 

「……それを知っていながら公表しない私が人のことをとやかく言えたことではないか」

「なにか言ったか?」

「いいや、柳枝。私は何も言っていないさ。何もな」

 

 もし秘密を漏らせば未菜の身だけではなく、日本という国そのものの立場が危うくなる。

 スキル所有者(スキルホルダー)の始末屋までいるという情報もある。

 未菜は溜め息をついた。

 

「全く、面倒なことだ」

 

 魔力の存在を隠すということには日本の政府も関わっている。

 というより、早い段階で圧力がかかっていたのだ。

 元々与える影響の大きさ故に公表する気もなかったことだが、G7を始めとした先進国で<魔力>の存在を公表しないということが取り決められた。

 もちろんその中には中国やロシアと言った本来そこに加入していない国も入っている。

 国家ぐるみのルールと言っていい。

 日本ではダンジョンのことは基本的にはダンジョン管理局が取りまとめているが、結局のところそれは魔力を秘密にするというルールの上に成り立っていること。

 

(民間企業とは謳っているが、全く政府と関わりがない訳でもない……とても公表は出来ないがな)

 

 自分のことを英雄と慕ってくれる国民が――もっと身近なところで言えば、悠真が知ったらどう思うだろうか。

 そう考えると胸が痛む。

 

「どう思う、伊敷」

「どう、とは?」

 

 柳枝が真剣な表情を浮かべ、伊敷に問いかける。

 

「アメリカはこの事態を収束出来ると思うか」

 

 被害者の多さ。

 そして世間に与えている衝撃の大きさ。

 これらを考えれば、アメリカはあのダンジョンを放置はしないだろう。

 即時の攻略を目指すはず。

 今は手をこまねいているかもしれないが、それも僅かな間だろう。

 準備を整えた後、アメリカの最高戦力クラスが動き出す。

 だが――

 

「分からない。このダンジョンの難易度がどれ程のものか、私たちは知る術はないからな」

「予想でいい。ダンジョンと関わってきた長年の勘の、な」

「難しいだろうな」

 

 未菜は断言した。

 情報のない今は公式に発言することは出来ない。

 だがそれこそ未菜の勘ではこの事態は普通でないと警鐘を鳴らしていた。

 一般的にダンジョンの難易度には統一性がないと言われている。

 どのようなダンジョンが難しく、どのようなダンジョンが簡単なのか。

 未菜や柳枝ほどの歴戦の探索者にもなればそこに入ればある程度の難易度は察することが出来るが、今回はそれも敵わない。

 国内の主要なダンジョンには(勝手に)何度も行ったことのある未菜でも、流石にそれが海外ともなればそう簡単には行くことが出来ない。

 スノウを始めとした悠真たちのグループはその難易度を簡易的に見極める方法を既に知っているが、それは一般的な知識ではない。

 そもそもの話、そのようにダンジョンをゲーム感覚の難易度で区切るということが出来るほどの実力を持つ者が少ないのだ。

 そしてそのスノウ達でさえ、今回発生したダンジョンのことについては分からないことの方が多かった。

 唯一分かっているのは、『分からないという事』のみ。

 未菜が口を開く。

 

「もうしばらくすればあちらの()が動くだろう。それでどうにもならなかったら……」

「事実上、人類がダンジョンに敗北したということになる」

 

 柳枝が重々しい口調で断言した。

 人類の敗北――

 これまでは勝利するとまでは言わずとも、上手く付き合ってきたつもりだった。

 その均衡が崩れるというのだ。

 もちろんそれは分かっているが、一応未菜は反論のようなことを言っておく。

 

「既存の建物がダンジョンに変異するという事例が他でも起きるならな」

「起きないと断言する方が難しかろう」

「全くだな」

 

 だからこそ厄介なのだ。

 このダンジョンの原因解明、そして攻略が進まなければまず高層ビルそのものが廃れるだろう。

 否、それだけで済めばまだ被害は軽い方だ。

 

 最悪の場合、駅や学校など主要かつ人流の多い場所すべてが閉鎖もしくは解体される可能性だってある。

 そうなれば人々へ与える影響はダンジョンが現れたあの時と同規模、あるいはそれ以上のものになる。

 再び世界中が混乱に陥るだろう。

 

 10年経って、ようやく人々はダンジョンという謎に対して向き合えるようになってきたというのに。

 

(あるいは人々が慣れ始めた頃だからこそ……か? いや、考えすぎか……)

 

 基本的にはどこにいてもダンジョンに巻き込まれる可能性はある。

 ある日普通に道を歩いていて巻き込まれた悠真のように。

 しかし、人々は誰もその可能性を憂慮しない。

 道を歩いていて隕石にぶつかることを心配する人間がいるだろうか、という話だ。

 しかしそれが建物ピンポイントでダンジョン化する可能性があるともなれば話は変わってくる。

 本来発生するダンジョンなど、精々が巻き込まれても一人や二人、多くて三人程度だ。

 ダンジョン発生時に生じる穴というものはそれほど大きくない。

 しかし建物全体がダンジョンに変わるのなら、その穴に落ちるという仮定すらなしにそこにいるだけでアウト。

 体感的な危険度は跳ね上がるという訳だ。

 

 柳枝は額を押さえた。

 頭痛のタネがまた一つ増えた、と言わんばかりに。

 

「すぐさま混乱が起きる訳ではないだろうが、このご時世だ。誰かがそのことで騒ぎ出し、テレビやネットを介して全体に広まるのも時間の問題だろう」

「その辺りのことは私たちでどうこうするのは無理だ。国に任せるしかない」

 

 流石にダンジョン管理局と言えど、そこまで抑制出来る訳ではない。

 とは言え、国になら出来るとも言い切れないのだが。

 人の感情というものは理屈ではない。

 特に不安や恐怖というものは。

 それをいの一番に拭うことが出来たからこそ政府を差し置いて民間でダンジョンのことを取り仕切っているのがダンジョン管理局なのだから。

 しかしだからこそ、

 

「間違いなく我々が矢面に立たされるだろうな。いや、我々というより、俺が、か」

「……すまないな、柳枝」

 

 ダンジョン攻略者を抱えあげる、という名目で作られた会社。

 発案者こそ彼女ではないが、間違いなく彼女の実績ありきで成立しているのに、その自分が世間に身を晒さず、安全を享受している。

 そのことに対しての負い目というものはやはり未菜の中にあった。

 

「良い。名声を受けられないというデメリットを甘んじて受けれている時点でそのことに対する贖罪は済んでいるだろう。お前は存在しない者(インビジブル)として扱われる。それに、当時15の少女をダンジョン攻略に連れていったなど知られてみろ。別の悩みのタネも増えるぞ」

 

 柳枝はそう言うが、それは建前だと未菜は分かっている。

 一番の理由は彼女自身が10年前に望んだ、必要以上に目立ちたくないという言葉によるものだと。

 15の子供だ。

 当時の大人は――柳枝はそれを尊重した。

 そして当時のパーティメンバーも。

 今もなお、全員が誰一人秘密を漏らさずにいてくれる。

 

「……()()()()()()()()()()……いや、今は三人組になったんだったか? 彼らが解決してくれないだろうか」

 

 柳枝は本気でそう思ってはいないが、と言わんばかりの態度で冗談混じりにそんなことを言った。

 しかし事実、柳枝にとっての彼らは()()()()()()()()()

 短期間で発生したてのものを含めてダンジョンを3つも攻略しているのだ。

 それもごく少人数で。

 普通ならあり得ない。

 なら今起きているあり得ないこともそのあり得ない力で解決してくれれば良いのに。

 それくらいのノリでの軽口である。

 

「…………」

 

 しかしそれを聞いた未菜の中では、確信めいた予感があった。

 この件だけに関わらず――

 彼らの存在が、これからの『ダンジョンのある世界』において重要な何かを担うであろう、ということ。

 

 その予感が正しいかどうかは、まだ誰も知らない。

 

 

「しかしそれはそうとして、伊敷。お前が報告したことの中に隠していることがあるだろう」

 

 先程までの深刻な雰囲気とは打って変わって、未菜にとって一番馴染み深い雰囲気が出る。

 それはこの10年間、ほとんど父親代わりとして接してきた相手としての身近なもの。

 しかしその雰囲気が出る時はつまるところ未菜に何かしらの否がある時だ。

 具体的に言えば、ほとんどはダンジョン絡みのことで。

 

「……なんのことだ?」

 

 未菜は先程までのシリアスな表情のままとぼけた。

 

 隠していたこと(・・・・・・・)に心当たりがあるものの、黙っている。

 というより、心当たりがありすぎて何が正解なのかよく分からないのでとぼけている。

 変に藪をつついて蛇を出すのは避けたいからだ。

 

「皆城君から既に連絡を受けている。よく出来た若者だな。お前の子守だけでなく、ちゃんと報告もしてくれるのだから。ほうれんそうを怠るどこかの誰かとは大違いだ」

「……しまった」

 

 口止めをしておくべきだった。

 しかし時既に遅しである。

 

「言っておくが、口止めは無駄だぞ。あの若者は責任感が強い。お前を怪我させてしまったことに対して申し訳無さそうにしていたからな」

 

 流石は父親代わり。

 未菜の思っていることもお見通しである。

 というより普通に表情に出ていた。

 

「ダンジョンで重傷を負ったそうだな。それを彼の精霊に治して貰ったと」

「そういうことも……あったかな?」

 

 たらりと未菜のこめかみに冷や汗が垂れる。

 よく考えなくても分かることだった。

 悠真のあの性格で、そのことを柳枝に報告しないはずがなかった。

 

「あったかな、じゃない。また俺に報告しないでダンジョンに行った挙げ句、自分だけでなく皆城君も危険な目に合わせた訳だ。皆城君はしきりに謝っていたがな。自分の力が及ばなかったせいだと」

「それは違う。私の不注意だ」

「そんなことは分かっている。たとえボスが本来いない階層に現れるというイレギュラーがあったとしても、経験年数の長いお前がついていながら彼を危険な目に合わせたのはお前の落ち度だ。どれだけ強くともまだ成人したての青年。それも彼はダンジョンについては初心者のようなものだ」

 

 ぐうの音も出なかった。

 こうなると基本的に未菜は柳枝に勝てない。

 なぜならほとんどの場合で未菜が悪いからである。

 そして柳枝の言うことはとことん正論だった。

 未菜の大人としての部分はそれを理解している。

 甘んじてお叱りを受けるべきだとも。

 しかし、悠真もある程度見抜いていた通り、未菜の根っこの部分は案外子どもっぽい。

 それがどういう結果に繋がるかと言うと……

 

「あ、おい伊敷! お前能力を使ったな! 少し俺が叱ると毎回こうだ! 出てこい、こら!」

 

(そんなことはお前に言われなくとも分かっているんだ、柳枝。だからこそ私はこれから強くなる。今度こそ彼を――悠真君を守れるようにな)

 

 完全に気配を消した未菜を柳枝が見つけられるはずもなく、虚空に向かって叱り続ける彼を尻目にそっと未菜は部屋を出ていった。

 30分だけ修練場に行って、柳枝の怒りが落ち着いた頃に帰ってこようと考えながら。

 

 結局30分後にのこのこ帰ってきて、それを待ち構えていた柳枝にこっぴどく叱られるのはまた別の話である。



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第38話:甘え上手

 ロサンゼルスでのダンジョン災害について聞いた俺たちが何をしたかと言うと……特にすることはなかった。

 というか、出来ることがそもそもない。

 アメリカは政府主導でダンジョン攻略を進めている為、一民間人である上にそもそもアメリカ国民ですらない俺に出来ることがある訳なかったのだ。

 大変そうだな、とは思うがそれ以上何をする訳でもなし。

 こちらはこちらで通常営業をするしかないのだ。

 

 で、俺はどこかのダンジョンに行くことになると思っていたのだが、そのダンジョンに行くよりも先にやることがあった。

 それはウェンディの身の回りのものを揃えることだ。

 とは言えそれを俺がやる訳にも行かず(だってほとんど女の趣味なんて分からないんだもの)、その買い物にはスノウとウェンディの二人で向かうことになった。

 ……意識を阻害する魔法を使うとは言え、それでもめちゃくちゃ目立ちそうな二人組だが大丈夫なのだろうか。

 なにせスノウはスノウだし、ウェンディはウェンディだ。

 何が言いたいかと言うと、二人とも人間離れしたとんでもない美人である。

 良からぬ虫がつかないとも限らない。

 いや、つくと限る。

 ……まあ大丈夫に決まってるいるのだが。

 なにかの間違いで二人をナンパしてしまう哀れな被害者が出ないことを祈るしかない。

 一応ウェンディには伝えておいたが。

 もし何かあっても怪我とかさせないようにねって。

 

 ……心配いらないはずの二人なのに、心配なのは不思議だ。

 

 そして綾乃は役所へ行っている。

 何かしらの手続きがいるらしいが、聞いてもよく分からなかったので分かる彼女に任せた。

 どうせ暇だし着いていこうと思っていたのだが、出かける準備をしていたところで知佳に声をかけられた。

 

 曰く編集作業を手伝って欲しいと。

 パソコンは専門外とは言え人並み程度には使える。

 全く分からないことをする綾乃に着いていくよりもそれなりに戦力になりそうな方を手伝おうということで家に残ったのだ。

 というところまでは良いのだが……

 

「何故俺の膝の上で作業をするんだ?」

「偶然」

「知ってるか。人の意思が介在してる時点で偶然ってのはあり得ないんだぜ」

「わあ、賢い」

「こいつ!」

 

 リビングには座卓とテーブルの両方がある。

 というのも、元はテーブルしかなかったのだが、俺が座卓の方が好きなので個人的にネットで購入したのだ。

 二つ置いても十分スペースには余裕があるし。

 でそこに座ってパソコン作業をしようとしたところ、すかさず知佳が俺の膝の上に潜り込んできたのである。。

 ちんまい知佳だからこそ出来る芸当だ。

 しかしこいつは何を考えているのかいまいちよく分からんな。相変わらず。

 

「ったく……手伝えって言ったから残ったのに、何もしないんじゃ俺ただサボってるだけじゃねえか」

「悠真の手を借りるくらいなら私が二人に分身した方が早い」

「すげえなお前分身出来るのかよ」

「4人までなら可能」

「天○飯かよ」

「ただし一人あたりの作業効率は4分の1」

「天津○かよ」

 

 ドラゴ○ボール知ってるんだな。

 スノウも某ハンター漫画のこと知ってたし案外女子の間にも浸透しているのだろうか、少年漫画って。

 スノウと知佳が特殊なだけな気もするが。

 しかし女子が自分の通じる少年漫画ネタを知ってると妙に嬉しいこの感覚ってなんなんだろうな。

 逆に俺は全然少女漫画を知らないのだが。

 

「分身は冗談として、なんで俺を残らせたんだよ。まさか椅子として使うつもりだったとか言わないだろうな」

「半分はそう」

「お前人のこと半分は椅子だと思ってるの? もう半分はちゃんと人なんだろうな?」

「え? うん……まあ」

「なんで歯切れが悪いんだ!」

 

 本当にこいつの中での俺の評価が心配になってきたぞ。

 半分は椅子でもう半分はちょっと迷った末の人間て。

 

「悠真、明るくなったね」

「お前は俺のオカンか。元々こんなんだろ」

「初めて会った時は死んだ目してた」

「死んだ魚のような目とかじゃなくて死んでるのかよ、俺の目」

「実際そうでしょ?」

 

 悪びれる様子もなく、知佳はじっと俺を見上げる。

 ……なんでか、こいつには嘘をつき通せる気がしないんだよな。

 

「……まあ、当時はな」

 

 あの時は色々大変だったし。

 

「人とか殺してそうだった」

「流石にそこまで荒んだ目はしてねえよ!?」

「初めて話しかけた時も殺されるかと思った」

「それは嘘だね! 絶対嘘だね!」

「最近は本当に元気になった」

「だからオカンかっての」

 

 実は俺の保護者だったのだろうか。

 今の絵面は真逆だけど。 

 姪っ子と戯れてるお兄さんって感じだ。

 しかし見た目がロリでも中味は立派な成人女性である。

 

 上がっている筋力に物を言わせて知佳を座った姿勢のままどけた。

 腕だけで小柄とは言え人間を軽く持ち上げられるのだから、俺も随分なもんだな。

 

「……あっ、変なところ触らないで……」

 

 別に変なところを触ってはいないし、知佳も冗談のつもりで言ったということはわかっているのだが――

 そんなことはわかっていても、ムラッと来てしまったら止められないのが男の悲しい性なのであった。

 

2.

 

 

「っ……♡」

 

 知佳が喉の奥で嬌声をあげる。

 もう慣れたもので、多少の抵抗は感じつつもこれまでに比べればあっさりと奥まで挿入することが出来た。

 かと言って緩くなっている訳ではない。

 受け入れる為の動きがスムーズになったとでも言おうか。

 身体が小さい分、一番奥まで挿れてもやはり俺の肉棒の全てが入りきってはいないのだが、それでも十分すぎる程に気持ちが良い。

 

「やっ……ぱり、大きく、なってる……っ♡」

 

 しかしどうやら知佳の方には思っていた以上に余裕がなかったようだ。

 随分苦しそうにしているが、どうやらそれを快楽が上回っているようで声は上擦っていた。

 最近気づいたというか分かってきたのだが、普段の俺の力……筋力は大体1.5倍くらいで収まっている。敢えて意識すればもっとパワーキャラになれるのだが、ダンジョンにでも行かない限りはそこまでの力が必要ない。

 要するに普段からある程度は力持ちになっている。

 ……のだが、それを差し引いても知佳は軽すぎる。

 身長もそうだが、体つきもほぼ同年代の綾乃と比べて……

 とかなんとか失礼すぎることを考えていると、知佳が不意に腰を回すように動かし始めた。

 普通のピストン運動とは異なる快楽に少し驚く。

 

「んっ……おっきいおちんちん……っ♡ お腹の奥にぐりぐりってして、ぇ♡、きもちいい……?」

 

 挑発的なことを言いながら腰を動かすのをやめない知佳。

 

「んっ……ふっ……♡」

 

 ぐりぐりと動かし続ける中でも緩急をつけられていて、このままの強さを持続し続けてくれればそのうちイけるのに、というもどかしい思いを何度もさせられる。

 更には意図してなのかそうでないのか、身長差の関係で上から見下ろしている服の襟から乳首が見えそうで見えなかったり……

 て待てよ。

 こいつもしかしてノーブラなのか?

 いやもしかしなくてもノーブラだ。

 なんでだよ。

 ……まさか最初からこの状況を狙っていたというのか……?

 恐るべき知佳の策略。

 

「見ようとしてるの、バレてるから」

 

 ちら、と知佳が見上げてきていつもの抑揚のない声で言う。

 別に見ようとしていること自体はこんな状況になっている以上、今更どうでも良いはずなのだがそれでもどこか見透かされたような気分になってしまう。

 

「おちんちん、びくっ♡ てしてる」

 

 まるで俺の反応を全て腟内で感じ取ろうとしているかのように、じっくりと知佳が動く。

 こいつ、前世がサキュバスか何かか?

 まだ数回しかしていないのに上手くなる速度が尋常じゃない。

 

「もうイきそうなの? よわよわおちんぽなの?」

 

 確かに気持ちいいは気持ちいいのだが、こうも挑発され続けていると責められっぱなしでは負けた気分になる。

 それに何故だかこうも挑発されているというのに逆に興奮してきてしまうという不思議な状態にも陥っている。

 屈服させたい。

 このメスを思いっきり。

 そんな衝動に駆られる。

 

「こんな身体に欲情するなんて、変態♡ 変態ちんぽ♡」

 

 マジでどこで何を学んできたんだか、こいつは。

 しかし知佳は一つ致命的な勘違いをしていた。

 

「ほら、ちっちゃい身体が好きなんで――お゛っ♡」

 

 ずん、と手加減抜きに思い切り腹の奥を突く。

 ガッチリ腰を掴んでもはやオナホのように扱ってやる。

 

「あ゛っ、あ゛う゛っ♡ すごっ、これ、すごいっ♡ のっ♡」

 

 パンパンと乾いた音の中に知佳の喘ぎ声と湿った音が混ざる。

 

「言っておくが――」

 

 ずちゅ、と奥まで突っ込む。

 こりこりとしたなにかの感触をちんぽの先で感じるのは子宮口を直接突いているのだろう。

 

「別にっ! 俺はっ! 小さい身体がっ! 好きなっ! 訳じゃない!!」

 

「あ゛っ、あうっ、お゛っ、んっ♡ あっ♡」

 

 一節ごとにガンガンと奥を突いてやると、知佳がこちらを見上げた。

 

「じゃあこれはどう説明するの」

 

 まるで鬼の首を取ったかのようにこれが証拠だ、と言わんばかりの知佳。

 しかし勘違いは勘違いだ。

 

「お前だからこんな興奮してるんだろ」

 

「……はっ?」

 

 膣がぎゅっと閉まる。

 慌てて知佳は前を向いてしまったので表情がどうなっているかは分からないが、耳まで赤くしてどうやら怒っているようだ。

 そんな変なこと言っただろうか。

 そんなに小さい身体に興奮しないと言われたことが腹立たしいのだろうか。

 冷静に考えれば確かにデリカシーに欠ける発言ではあったかもしれないが、しかし事実別に俺はロリコンではない。

 知佳のような体型の知佳じゃないやつに誘惑されてもその誘惑を断ち切ることが出来ると断言出来る。

 

「仕方ないだろ、それが本音なんだから。お前じゃなければこんなにはならない」

 

「悠、真、だまっ♡ てっ♡」

 

 謝りつつも身体は正直なもので腰も腕も止まらない。

 しかし知佳は相当ご立腹なようでとうとう黙れとまで言われてしまった。

 経験上、こうなってしまうと尾を引く。

 こいつは意外と根に持つタイプなのだ。

 しかし嘘をついて謝る訳にもいかないのでなんとか説得するしかない。

 

「知佳だからこうなるんだ。別の奴では考えられない」

 

「ほんっ♡ と、♡ やめ♡ てっ♡ って♡ あっ♡ いっ♡ ――ッ!!」

 

 ぎゅう、と知佳の膣が再び強く収縮した。

 どうやら今のでかなり深くイったようだ。

 謝りながらそのままセックスしている俺も俺だが、それでイってしまう知佳も知佳で相当チョロいな。

 

「っ……悠真……!」

 

 じろ、と責めるような視線を向けてくる知佳。

 お前がチョロいのは俺のせいじゃないからな。

 それと、知佳が挑発してきていた件についてはまた別だ。

 俺は俺の方で用事を済ませてからまた謝ろう。

 

「あえ゛っ♡」

 

 変な声をあげて喘ぐ知佳。

 イったばかりだということで敏感なのだろう。

 しかし俺はまだイっていない。

 一度知佳の口で出している分、まだまだ余裕があるのだ。

 

 

「やえっ、まっで♡ おなか、へんに゛なる゛っ♡ あたま、っ、♡ がっ♡」

 

 さっきからチラチラと見えていた(というか見せられていた)乳首をぎゅっと摘んでやると、知佳は身体を仰け反らせた。

 とは言っても俺の膝の上に背面座位で座っているので身体全体をぐりぐりと押し付けられているような感覚だが。

 お陰でバニラのような香りを鼻孔いっぱいに吸い込んでしまって更に興奮する。

 耳フェチなことはうっすら分かってきていたが、匂いフェチもあるとなるともはや何でも良いような気がしてくるな。

 どれだけ俺の性癖は広範囲をカバーしているのだろうか。

 

 そのまま顔を見せずに声だけが聞こえるような状態が5分ほど続き、とうとう俺にも限界がやってくる。

 その間にも知佳は何度もイっているようだが、スパートをかけるために容赦はしない。

 

「っく♡ あっ♡ おちんちん、♡ ふくらんでっ♡ ――ッ♡ っ~~~~~~♡♡♡」

 

 どぶ、と粘性の高い液体が一気に知佳の中へ放たれる。

 びく、びく、と知佳の身体が俺の射精の脈動と同時に痙攣する。

 イっている中をかなり強引に動いたので相当体力的にキツそうだが、これ後で怒られたりしないかな……

 

 ……と。

 膝の上にいる知佳が気を失っていることにそこで気がつくのだった。

 

 

3.

 

 

「あれ、知佳ちゃんはどうしたんですか?」

 

「疲れたから仮眠とるって」

 

「……? そうなんですか。体調でも悪いんですかね」

 

「さあ……ドウダロウネ」

 

 実際は気を失っているだけだが、役所での手続きを終えて帰ってきた綾乃には誤魔化しておいた。

 知佳もあれはあれでタフなのでそのうち起きてくるだろう。

 多分。

 

「ていうか、手続きありがとな。本当は俺がやらなきゃいけないんだろうけど」

 

「いえ、それが私の仕事ですし、ダンジョン管理局の方から根回しがあるので役所での手続きは普通よりずっと楽なんです」

 

 そういえばそうか。

 色々ダンジョン管理局には無理を言っているし、やはり何かしらの形で恩返しはしたいものだな。

 とは言え俺個人の出来ることなんてたかが知れてるしなあ。

 それに今は俺の手伝いなんかあっても焼け石に水だろうし。

 

「今あっちはあっちで大変なんだろうな」

 

「ロサンゼルスの件がありますからね……帰り際に普段使ってる筆記用具とか取りに少し局の方へ寄っていったのですが、かなり忙しそうでした」

 

 しゅんとした様子で綾乃が言う。

 尻尾と耳があったら垂れ下がっていただろう。

 というか本人の器質的に犬耳めっちゃ似合いそうだな。

 小動物っぽいし。

 

「別にそんな申し訳そうにせんでも」

 

 こちらでの業務がある限り、ダンジョン管理局でどれだけ同僚が忙しそうにしていても手伝うことは出来ない。

 それに負い目を感じているのだろう。

 

「こっちはこっちで割と仕事投げちゃってるし、忙しいだろ?」

 

「結構楽しいですけどね。ウェンディさんはまだ今日会ったばかりですけど、知佳ちゃんやスノウさんも良い方ですし……悠真くんもいますし」

 

「知佳はともかく俺はいてもほとんど何も出来ないけどな」

 

 4分の1に分身した知佳に作業効率で負けるらしいし。

 いや実際負けるには負けるのだろうけど。

 

「そういうことじゃないんですけど……悠真くんって結構鈍感ですよね」

 

 綾乃はむう、と不満げな表情を浮かべる。

 

「なんか知佳にも言われたことあるな、それ」

 

 結構前だけど。

 あいつもあいつで人の心の機微には疎い方だと思うのだが、何故こうも俺ばかりが責められるのだろう。不思議である。

 

「そういえば知佳ちゃん体調不良とのことですけど、動画の方はどうなりました?」

 

「え? あー……いや、どうだろ。知佳がいないと詳しいことはちょっと」

 

「あれ、お手伝いしてたんじゃないんですか?」

 

「まあちょこちょこな。ちょこちょこ」

 

 本当は手伝いなんて何もしていないどころか、途中から乳繰り合っていたのでむしろ邪魔していたと言っても過言でないとは言えない。

 だって綾乃には真っ当に仕事してきて貰ったんだもの。

 これ以上の追求を避ける為に俺はテレビをパッと点ける。

 今朝のニュースを見て以降、ロサンゼルスでのことがどうなったかとかも知らないしな。

 

「……ちょうどやってますね」

 

「……ああ」

 

 ニュース番組にはショッキングな内容がテロップとして表示されていた。

 既にダンジョン攻略の為の特殊部隊が突入しているが、連絡が取れなくなって2時間が経ったと。

 ダンジョン内で2時間音信不通。

 そもそもダンジョンには電波を遮断する効果があるが、一応内部との連絡は取れない訳でもない。

 数年前にそれ専用のデバイスが開発されているからだ。

 もちろん政府主導でダンジョン攻略を進めているアメリカで純粋に電波が繋がっていないから連絡が取れませんでした、なんて凡ミスを犯しているはずもなく。

 

 アメリカのダンジョン攻略力はダンジョン管理局に並ぶか、それ以上だ。

 上澄みの質で言えば俺的にはダンジョン管理局の方が上だと思っているが、なにせあちらは数が多い。

 その上、政府主導なので軍隊や特殊部隊出身の人がダンジョン攻略をしている事も多いので平均的な能力が高いのだ。

 日本でも自衛隊がダンジョン攻略に挑戦したり、特殊部隊が実は作られていたりという話も聞かなくはないが、やはりアメリカ程の規模には及ばない。

 それでも世界的に魔石エネルギーの運用や応用技術で着いていけているのはやはりダンジョン管理局の力が大きいということだ。

 

「犠牲者の数は推定2000人以上……か」

 

「……一つのダンジョンが出現した際の犠牲者数としては、ぶっちぎりで過去一番ですね」

 

「とんでもないな」

 

 年間何人もダンジョンで亡くなっている。

 そのような暮らしに慣れてきている中でのこの件。

 一気にドカンと犠牲者が増え、その上アメリカ政府でもそのダンジョンをどうにかすることを出来ない。

 攻略さえ出来れば犠牲者・行方不明者の捜索も出来るのだろうが、それが難しそうという話になれば……

 

「これが日本なら、柳枝(やなぎ)さんあたりに無理いって作戦に組み込んで貰う、とか出来なくもないんだろうけどな」

 

 或いは勝手に行ってしまっても良い。

 スノウやウェンディも事情を説明すれば快くやってくれるだろう。

 新宿のボスや九十九里浜のボスまで倒した精霊たちだ。

 しかも特に苦戦することもなく。

 九十九里浜はちと状況が特殊ではあったが。

 どうにも手が出ないなんてことはない……と思う。

 

「早く問題が解決されることを祈るばかりですね」

 

「そうだなあ……」

 

 俺は曖昧に頷く。

 なんとかなって欲しいとは思うが、どうしようもない。

 

 この時はまだ、俺たちにとっては他人事だった。

 しかし翌日から、徐々に状況は変わり始める。



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第39話:新たな武器

1.

 

 

「あいてっ!」

 

 ピリッと来るような痛みに思わず声をあげる。

 少し痺れも残っているような感じもするな。

 

「あっ……すみません、これ加減が難しいんです」

 

 その痛みをもたらした元凶こと綾乃が申し訳無さそうに謝る。

 

「別に加減なんてしなくて良いのよ。その為の実験体(ゆうま)なんだし。防御を意識してる悠真に痛みを感じさせるくらいの出力が出るのなら、その辺の暴漢なら一撃で昏倒させられるわね」

 

 そしてその痛みをもたらした真の元凶こと、昼過ぎ頃に買い物から帰ってきたスノウが無慈悲にそう言い放った。

 そう、今のは事務所が特定されて凸られた時に対策用にスノウが綾乃と知佳に教えていた魔法だ。

 魔力で電気を作り、それを相手にぶつけてスパークさせる。

 原理だけを聞くとシンプルだが、実際結構痛い。

 というか俺も不意打ちだと多分意識を持っていかれる。

 今のは二の腕だった上に今から痛いのが来るぞ来るぞで構えていたので大したことはなかったが。

 

 その様子を見ていた知佳がフッと笑う。

 

「だらしない」

 

「いやこれまじで痛いからな。冬場の静電気みたいな感じ」

 

 多分もう少し本気で防御しようと思えば出来るのだろうとは思うが。

 それでもスノウの言う通り一般人相手ならば十分以上の効果を発揮するだろう。

 その辺のスタンガンよりも高性能なんじゃないだろうか。

 ちなみに知佳は綾乃より先に成功させていた。

 魔法にも相性があったりするらしいのでどちらが優れているという事でもないとは思うが。

 

「でもこれ、魔法を教えていったら知佳や綾乃もダンジョンで戦えるんじゃないか?」

 

「魔力が尽きない限りは戦えるかもしれないわね。私やウェンディお姉ちゃんはあんたから魔力を引っ張ってこれるからまだしも、知佳や綾乃は一度使い切ったら回復するまでは無力なのよ?」

 

「そういうもんなのか」

 

 魔法って万能そうだがそういう訳でもないんだな。

 俺は散々魔力が多い魔力が多い言われているので多分よほどのことがないとそれで困ることはないのだろう。多分。

 

「しかし妙ですね」

 

 スノウと同じく、知佳や綾乃に魔法を教えてくれていたウェンディが口を挟む。

 

「知佳様の魔力総量が今朝よりも微量にですが増えています」

 

「え? あ……ほんとね。なんでかしら。本当に少しだけど、普通の人がたったの数時間で簡単に増やせるものでもないわよ、魔力って」

 

 知佳の魔力が……?

 

「ウェンディが言うってことは気の所為じゃないよな」

 

「あたしも言ってるんだけど?」

 

「心当たりはある」

 

 知佳が手を挙げる。

 心当たり?

 何か魔力を増やすようなことをしたのだろうか。

 

「今朝悠真とセックスしたから。気を失うまで」

 

 ……。

 えっ。

 それ今カミングアウトするの?

 

 女性陣……主にスノウと綾乃の視線が痛い。

 ウェンディは……あれ、ちょっと呆れてる?

 マスターですよ。

 俺、マスターですよ?

 

「真っ昼間から盛ってた訳ね。猿ね、猿。オス猿よ」

 

「ひどいです悠真さん。私は仕事してたのに」

 

 何故俺だけが責められているのだろう。

 誘ってきたのは知佳なのに。

 俺は悪くないはずなのに。

 

「しかし、人間が人間と性交して魔力が増えるという話は……あり得なくもないですね。精液は魔力を多く含んでいますから。もちろん、マスターほどに規格外の魔力を持っていれば、の話ですが」

 

「本契約は中出しすることって聞いてたから、もしかしたらと」

 

「流石です、知佳様。慧眼でございますね」

 

 ウェンディは知佳を褒める。

 そして知佳は得意げな表情を浮かべる。

 いや、いつもの無表情なのだが、なんとなく分かる程度の差異はある。

 精霊とセックスをすれば俺の魔力が増える、というのは聞いていたが、人とセックスをすると相手の魔力が増えるのか。

 ……つまりひたすらセックスしまくればめっちゃ魔力を持つ人間が生まれるということか?

 スノウ曰く、身体能力が上がる魔力量というのは大体柳枝(やなぎ)さんクラスらしい。

 最低でもそこまで持っていくことが出来れば、それはつまりダンジョンでもそれなりの戦力になるということなのではないだろうか。

 

「これは試してみる価値……いや、試してみる必要があるな……」

 

「大体何考えてるか分かるわよ、変態」

 

 スノウが明らかに見下す目で俺を見ている。

 そんな本気で見下されるとなんだか背中がぞくぞくしてしまうぞ。

 

「うっ。いやでも実際そうなる(・・・・)可能性はあるんじゃないか?」

 

「可能性としては大いに有り得ますね。最終的には本人の才覚にもよるとは思いますが」

 

 ウェンディが肯定する。

 俺がそら見ろ、という顔でスノウを見たら額に氷の礫をぶつけられた。

 痛いんですけど。

 ちなみにウェンディはこれくらいのスキンシップなら過剰に止めてくるということはない。

 というか実験台にされるのを許容している時点で、俺にめちゃくちゃ甘いという訳でもないのかもしれない。

 

「相手さえ望むのなら、そういう意味でも積極的に性交するのは有りかもしれません」

 

 そう言ってウェンディはちら、と知佳と綾乃を見る。

 知佳はいつも通りあまり表情が変わらないが、綾乃はあからさまに顔を真っ赤にしていた。

 

「あ、いえ、その、私も、悠真くんが良ければいいというかやぶさかでないというか」

 

 慌てている割に結構しっかり自己主張してきたな。

 もちろん俺としては断る理由がないので親指を立ててサムズアップする。

 知佳は……まあ表情からは読めないとは言え、考えていることが全く分からない訳でもない。

 そもそも今朝襲われたばかりだし。

 

「それはそうと、マスター。実はスノウと買い物中に一つちょっとした思いつきがありまして」

 

 改まった様子でウェンディが切り出してくる。

 

「思いつき?」

 

 俺がオウム返しにすると、スノウが答えを引き継いだ。

 

「ええ、あんた手持ちの武器すぐ駄目にしちゃうでしょ。思い切り握っただけでもぐにゃぐにゃにしちゃうくらいだし」

 

「確かにそうだけど……思いつきってのは武器関係のことか?」

 

「そういうこと。ちょっと中庭まで着いてらっしゃい」

 

 くいくい、と指でジェスチャーをして歩き出すスノウ。

 とりあえず俺はそれに着いていくのだった。

 

 

2.

 

 

「これよ」

 

 中庭でスノウが手渡してきたのは、石ころだった。

 何の変哲もない……石だよな?

 

「スノウ、説明をしないとマスターも何も分からないでしょう」

 

 ウェンディがスノウを嗜める。

 

「マスター、その石に魔力を込めることが出来ますか?」

 

「石に……?」

 

「基本的には魔法を使う際、指先に魔力を集める要領です。石を自分の身体の一部だと思って、そこへ魔力を集めるように」

 

 ん……

 難しい注文だな。

 そもそも魔法を使うのにもそれなりの集中力が必要なのだ。

 それで自分の指先に集めて使うのだから、それが自分の身体でない石ころともなれば難易度は跳ね上がる。

 

 とにかく言われた通りしばらくトライしてみるが……

 

「……うーん、無理っぽいな」

 

 難しいなんてもんじゃなかった。

 出来るようになるビジョンすら見えないぞ。

 

 見物に着いてきた綾乃もそこら辺に落ちている石に向かってうむむ……と唸っているが出来そうになる様子はない。

 ちなみに知佳も着いてきてはいるのだが、いつの間にか綾乃の膝枕で寝ていた。

 お前は猫か。

 今朝のあれで疲れてるんだろうけども。

 

「ま、一発で成功するとは思ってないわよ。あたし達のいた世界でもこれが出来たのはごく一部だもの。あたしも出来ないわ」

 

 言いながらスノウは石ころを拾い、それに魔力をあっさりと込めた。

 ……魔力、込められてるよな?

 ちゃんと石から魔力を感じるし。

 

「出来てんじゃん」

 

「あたしのは不完全よ。ほら」

 

 ぽいっとこちらに石を投げて寄越す。

 それをキャッチしようとしたら、その直前にパキッという音と共に砕け散った。

 

「なんでこうなるんだ?」

 

「込め方が下手くそだから、魔力による影響が物質の破壊に向かってしまったのよ。本当は強化をしたいんだけど。それに、あたしが込められるのは精々それくらいのサイズの小石まで。仮に強化出来たとしても意味はないわ」

 

「私はそもそも小石にも出来ません」

 

 ウェンディは首を横に振る。

 そんな鬼難易度なことを俺にやらせて何をしたいのだろう。

 

「強化って言ってたけど、それはつまりこの小石がめっちゃ硬くなるとかそういう話なのか?」

 

「肉体の強化と大して変わらないわ。武器に施せば破壊力が上がったり、切れ味が上がったり。頑丈さが上がったりね。付与魔法(エンチャント)って言うんだけど、使い手は本当に少ないのよ。莫大な魔力と繊細なコントロールが求められるから」

 

「コントロールはやってりゃ分かるけど……魔力も大量に必要なのか」

 

「維持するのに物凄く魔力を使うのよ。あんたくらいの魔力量なら正直大した量でもないから、もしあんたが付与魔法を使えればと思ったんだけど、流石にすぐには無理そうね」

 

 すぐにというか、一生かかっても出来そうにないのだが。

 今の所全く出来そうになる気配ないし。

 

「逆に小石だと小さすぎるのかもしれません。どうせ武器に付与するのですから、最初から武器にした方が良いかもしれませんね」

 

 そう言ってウェンディは家の中に戻る。

 そして持ってきたのは、前回のダンジョンではほとんど使うことのなかった真っ黒い棒だ。

 本気で使うと折れたり曲がったりしてしまうので実用性はほとんどなかったのだが、なるほど、付与魔法とやらを使えるようになればこれが一気に化ける訳か。

 

 棒を手渡され、トライしてみる前にスノウに聞いてみる。

 

「なにかコツとかないのか?」

 

「あんた意外と魔力コントロール上手いから、やりすぎかもってくらい魔力を込めてみたら良いんじゃない? 理性が働きすぎてるのよ」

 

 うーむ。

 やりすぎかもってくらい、か。

 目を閉じて、身体の中にある魔力を意識する。

 正直自分の魔力が多いとか少ないとかはまだよく分かっていない。

 自分の匂いがわかりにくいように、自分の魔力に関しては感じづらいのだろう。

 しかし体内を流れている魔力くらいは分かる。

 それを一気に腕へ、手へ――そしてその先にある黒い棒へ。

 流し込むイメージ。

 

「あっ」

 

 出来た、と思った瞬間。

 黒い棒は砂のように粉々になって崩れた。

 

 ……え?

 そんなことある?

 

「そのサイズのものを粉々にするって、あんたどんだけ魔力込めたのよ」

 

 スノウが呆れ半分驚き半分みたいな声音で俺を非難する。

 

「いやお前が言ったんだからな? やりすぎかもってくらいって。ていうかあれ高いのに! 粉々になっちゃったよ!」

 

「同じものを大量に発注しましょう。完璧にコントロール出来るまで。綾乃様、お願いします」

 

「あっ、はい!」

 

 ウェンディがそう言うと、綾乃がメモ帳を取り出してすぐにメモった。

 あそこの連携完璧じゃん。

 今日初対面だよね?

 なんとなく秘書タイプっぽいもんな、二人とも。

 タイプは違うけど。

 そもそも綾乃は事務仕事出来るタイプだし。ウェンディも同じく知識さえあれば出来そうだし。

 ちなみに俺は絶対無理なタイプだ。 

 なんか細かいところで変な凡ミスばかりしてむしろ仕事を増やしそう。

 知佳は……出来るかもしれないがやらないだろうな。

 スノウは俺と同じタイプと見た。

 そういう点では今まで綾乃一人に負担を負わせていたのを多少軽減出来るので良いのかもしれない。

 別に狙ってウェンディを召喚した訳ではないが。

 

 しかし完璧にコントロール出来るまで、か。

 どれだけかかることやら。

 

「どれくらいで出来るようになると思う?」

 

「私の知る限りでは、2年間の修行で出来るようになった者が最速でしたね」

 

 気の長い話だな。

 俺が出来るようになるのはいつになる事やら。



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第40話:四姉妹の二人

1.

 

 

「アメリカ政府が日本を含む諸外国に応援を要請したって」

 

 PCをカタカタ弄っていた知佳が不意にそんなことを言った。

 色んな情報が錯綜しているので知佳には信頼出来そうなネタを集めて貰っていたのだが、応援を要請したということは……

 

「手に負えなかったってことか」

 

 今は午後4時半。

 今朝、一番最初にロサンゼルスでのダンジョン災害があったとの報道からは既に10時間以上経過している。

 それまでにビル型のダンジョンに特殊部隊が三度ほど突入しているそうだ。

 そしてその三度共全て連絡が取れなくなっている、と。

 

 そして今日本で人々を混乱に陥れているのはロサンゼルスの件だけでもなかった。

 

「九十九里浜が攻略されたこともトレンドになってる。妖精迷宮事務所の仕業じゃないかって」

 

 仕業て。

 実際そうと言えばそうなのだが。

 

「それとボスが本来存在しないところに出現したっていうのもずっと騒がれてる。ロサンゼルスの件と合わせて天変地異の前触れじゃないかって」

 

 どちらもダンジョン絡みだし、結びつけたくなる気持ちは分かる。

 というか俺も完全に無関係だとはちょっと思えない。

 ダンジョンに関する異常事態がこうも立て続けに起きているのだから、これからも何かあると考える方が自然な気もする。

 

「ダンジョン管理局は大変だろうな。実質3つの案件が重なったようなものだし」

 

 ロサンゼルス、九十九里浜、存在しないはずのボス。

 十中八九、政府からの要請でダンジョン管理局からアメリカへ精鋭が向かうことになるだろう。もちろん他の会社にも優れた人材はいるのでそこにも声はかかるかもしれないが。

 日本の有名な探索者たちが会社の垣根を超えて遠い海の向こうで協力し合う、なんて聞けば一見ヒーローものっぽいが、アメリカの精鋭部隊が生還していない以上どう足掻いても命がけだ。

 

「けど、幾ら高難度かもしれないとは言っても政府に選ばれるような精鋭がただの雑魚にやられるか?」

 

「ロサンゼルスのダンジョンでもボスが最下層以外に出現している可能性は十分あるでしょうね」

 

 俺の言葉にウェンディが答える。

 正直その可能性は結構高いだろう。

 相手がボスともなれば幾ら精鋭だろうがあっさり全滅する。

 政府からの要請にどう答えるか、ボスがいつどこに現れるか分からないダンジョンをこれからどう管理していくか。

 大きな争点はこの2つだろうな。

 前者はともかく、後者は俺も当事者なのでここでのほほんとしていることに若干の罪悪感を覚えないでもないが。

 

「なんもできないもんだなあ」

 

 ボフッ、と座っていたソファに倒れ込む。

 今日はもう時間も時間なのでこれからすることもなし。

 あ~柔らかい。高価なソファって良いな。

 人を駄目にする例のあれでなくとも駄目になってしまいそうだ。

 

「あんたも知佳みたいに情報集めればいいんじゃないの。あたしよりはネット出来るでしょ」

 

「俺とスノウの間にあるIT関係の技術や知識の差よりも俺と知佳の間にある差のそれのほうが大きいの」

 

 俺が集められる情報なんて精々SNSで出回っているもの程度。

 そんなもの大半はデマだろうし、そうでなくとも本物だと確信を得る方法が俺にはない。

 綾乃のように事務仕事が出来るのならともかく。

 俺はソファから起き上がって座り直す。

 

「そういや綾乃はさっきから何してるんだ?」

 

「私は必要なものを纏めてます。経費として落とせそうなものとそうでないものを分けてるんです」

 

「手伝えそう?」

 

「うーん……」

 

 困ったような笑みを浮かべる綾乃。

 手伝えることはなさそうだ。

 スノウは特に何も気にしないでテレビを見ているし、ウェンディは俺の後ろにじっと控えている。

 ……まともに仕事をしているのが知佳と綾乃だけだ。

 実質俺たち3人は実働部隊というか、現場仕事なのでここですることがなくとも仕方ないと言えば仕方ないのだが。

 

「ウェンディ、肩揉んでくれ」

 

「承知しました」

 

「まじで?」

 

 普通にウェンディが俺の肩に手を置いて揉み始めた。

 あっ、やばいこれめっちゃ気持ちいい。

 このまま眠ってしまいそうだ。

 

「スノウ、足揉んでくれ」

 

「殺すわよ」

 

 流れで行けるかと思ったが無理だった。

 というかウェンディにも申し訳ないので肩揉みはやめてもらう。

 やめてと言った瞬間が一番残念そうな表情を浮かべていたような気がするが、多分気の所為だろう。

 

 することもないし、もう夕食近いけど何かおやつ的なものでも適当に作ろうかな。

 パンケーキでも焼くか?

 まずは素から買ってこないとだけど。

 俺が立ち上がるとウェンディがすかさず声をかけてくる。

 

「出かけるのですか?」

 

「ああ、ちょっと気分転換に買い物でもな。夕食もついでに買ってくるよ。知佳と綾乃も食べていくか? 何が良い?」

 

「荷物持ちならお任せください」

 

 お任せ出来るか。

 

 

2.

 

 

 

「昼間スノウと出かけた時に聞きました」

 

 車を運転する俺の隣、助手席に座ったウェンディが不意に切り出す。

 

「ん? 何が?」

 

「初対面の時点であの子を助ける為に命を張ったと」

 

「あー……」

 

 命を張った、というよりは。

 一方的に投げ捨てたようなものだが、あれに関しては。

 正直見通しが甘かったとしか言いようがない。

 今考えればあのゴーレム、あの時点で既に魔力は開放されていたはずの俺のタックルを食らってビクともしなかったということは、相当硬かったんだろうな。

 

「本来、私の立場からすれば自分の命を顧みずに精霊を救おうとするマスターの行動は否定すべきものです。……ですが、一人の姉として、心より御礼をしたかったのです」

 

「良いよ、あの時は俺もなんというか……無我夢中だったし。褒められるようなことはしてない」 

 

「それでも、マスターがいらっしゃるお陰で私たち姉妹が再び揃う可能性も出来たのですから」

 

「そのことだけどさ」

 

 少し気になっていたことを聞いてみる。

 

「スノウに姉妹がいるってこと俺知らなかったんだよ。話す機会は幾らでもあっただろうに」

 

 今回ウェンディが現れて初めて姉妹がいることを知った。

 それも四人姉妹だ。

 今までそんなこと微塵もおくびに出さなかったのには何か理由があるのだろうか。

 

「本来、私たち姉妹は一人で十分なんです」

 

「どういうこと?」

 

「私たち姉妹のうち誰か一人でも召喚できてしまえば、ほとんどのダンジョンは攻略出来る。そもそも私たちを召喚するには普通では考えられない莫大な魔力が必要ですから。マスターの魔力の大きさから、二人目の召喚する精霊もそれなりの実力者であることはもちろんあの子も認識していたと思います。しかしまさか完全に自分と同等――つまり姉妹を召喚出来るとは思っていなかったのでしょう。しかしもし姉妹の存在をマスターに明かせば召喚しないといけない、とプレッシャーになってしまうかもしれない。だから黙っていたんじゃないですかね」

 

 俺に気を使っていたということか。

 確かに、話を聞いてしまえば折角だし姉妹で揃っていたほうが良いとは思うだろうな。

 

「……聞いといてなんだけど、それって俺に言って良かった内容? 後でスノウに照れ隠しで氷漬けにされたりしない?」

 

「体の芯までは凍らされないと思いますから、大丈夫ですよ」

 

 それは表面は凍らされるということでは?

 信号が赤になっているので停まる。

 流石は超高級車。

 停まるのもめっちゃ静かだ。

 

「……あともう一個気になってること聞いて良いか?」

 

「なんでしょうか」

 

「スノウもウェンディも、俺のことを<希望>と呼んだ。何に対する希望なんだ」

 

「…………」

 

 じっとウェンディは俺を見つめる。

 そしてふっと目を逸らした。

 

「……実は思い出せないのです」

 

「思い出せない?」

 

「はい。私たちはダンジョンを攻略する、ということ以外に何か確固たる目的を持っているはずなのですが、その目的をどうしても思い出せない。元いた世界のことやその世界にあったダンジョンのこと。そして、私たちを召喚することの出来る方が<希望>になり得ることは覚えているのですが。もしかしたら他の二人は覚えているかもしれませんが、こちらの世界では私たちは召喚されなければ受肉できないので」

 

「あと二人を召喚した時に聞き出せたら御の字って感じか」

 

「何かの魔法の影響だとは思います。あまりにもピンポイントな記憶の穴なので」

 

 魔法……ねえ。

 青信号になったので安全確認して発進する。

 もちろん発進もスムーズだ。

 流石は高い車である。

 嘘をついているとは思えない。

 だとしたら誰が何のために、その目的だけを忘れさせたのだろう。

 それもスノウやウェンディを含め、同等の力を持つ姉妹四人に。

 そんな怪しげな魔法かけようとしたら抵抗しそうなものだが、不意を突かれたとかどうしてもやむを得なかったとか。

 何かしらの理由はあるのだろう。

 

「ちなみに残りの二人ってどんな能力なんだ?」

 

「一番上の姉は雷使いです。そしてもう一人はスノウと双子で、炎使い」

 

「雷に……双子で炎か」

 

 というか双子だったのか、スノウ。

 想像つかないな……どんな子なのだろう。

 氷と炎の双子と考えると結構マッチしてそうだが。

 性格は真反対だったりしてな。

 で、一番上が雷と来たか。

 氷に風、そして炎はなんとなく想像しやすいが、雷ってどんな感じなのだろう。

 ……ま、これ以上は召喚してからのお楽しみということで良いか。

 本契約をしなければ本来の力を発揮出来ない精霊なので、スノウやウェンディのようにダンジョンでぶっつけ本番で召喚することはなるべく避けたい。 

 基本的には落ち着いた状況での召喚になると思うので、その時に詳しい話は本人から聞けば良いだろう。

 

「スノウからダンジョンに行くかセックスをするかで魔力が増えるって聞いたんだけど、ウェンディを召喚するまでそんなに期間空いてないし意外と早く召喚出来るようになるかもだな」

 

「普通は数年、下手をすれば数十年単位はかかるようなことですが、元の量が莫大かつ増えていく量も規格外なのでなんとも言えませんね。今まで私が見てきた中で最も魔力量が多いのは一番上の姉でしたが、その姉よりも多いようですし」

 

「てことは一番上のお姉さんが一番強いのか?」

 

「敵を殲滅する、という一点のみで見ればそうかもしれません」

 

「へえ……」

 

 スノウの圧倒的な殲滅力を知っている俺からすれば、アレ以上かもしれないのがどんなものなのか想像もつかないのだが。

 だってスノウって地球を氷河期に出来ると豪語するんだよ。

 じゃあ雷を操るお姉さんはなんだ。

 地球上の電力を全て賄えるとかか?

 魔石に置き換わりつつあるので本当にそれくらいなら出来るかもしれない。

 しかし氷河期に出来るのが本当でも嘘でもどちらでも良いとしても、ダンジョンのボスを余裕で完封出来るほどの力を持つ精霊ならば確かに一人で十分なのだろうな。

 4人揃ったとしたら、未菜さんも言っていたことではあるが地球征服だって本当に出来てしまうかもしれない。

 

 俺としては、そういう悪役よりもどちらかと言えば地球を救うヒーローのような存在になる方がよっぽどマシだけどな。

 

 

3.

 

 

「マスター、こちらの人参の方が新鮮かつ美味しいと思います」

 

「そうなの?」

 

「はい。人参は色味が鮮やかで表皮が滑らかなものが新鮮です。更にこの茎の部分が小さいものの方が芯まで瑞々しくて美味しいんです」

 

「……詳しくない? 昨日召喚したばっかりだよね?」

 

「召喚される前に色々調べておいたのです。干渉は出来なくとも、調べ物くらいは出来ますから。全ては召喚主(マスター)にご満足いただく為に」

 

「ただ漂っていただけのどこかの誰かさんとは大違いだな」

 

 こういう噂をしても氷の精霊故にくしゃみすらしなさそうなどこかの誰かさん。

 多分今ものほほんとテレビを眺めているのだろう。

 或いは知佳や綾乃に絡んでいるかだな。

 そもそも誰かに奉仕するということ自体が好きなのかもしれない。

 その後も食材だのお菓子だのを買い、レジにて。

 

「あちらでレシートをご提示いただければ1000円につき一度懸賞に参加できますよ。夫婦の方やカップルでのご参加ですともう一度引けるのでぜひ」

 

 ということなので、せっかくなので懸賞に参加することにした。

 大体5000円ちょいの買い物をしたので5回分。

 そして、

 

「聞いたか? カップルなら一回分おまけしてくれるって」

 

「しかしマスター、私たちはそのような関係ではありません」

 

「良いって良いって。そんなの黙ってりゃバレないし……こうすれば」

 

 俺はウェンディの手を取る。

 ひんやりとした滑らかな手だ。

 

「疑われることもないだろ?」

 

「……確かに、そうですね」

 

 まあ結局懸賞は何も引っかからず、参加賞のポケットティッシュと4等の箱ティッシュを貰ったのみで終わったのだが。

 というか参加賞と4等同じものにするなよ。

 ポケットと箱の違いがあるとは言え被ってるだろ。

 

 なんて思いながら無駄に嵩張った荷物を持って車の置いてある駐車場へ戻ってくる。

 と、そこでようやくずっと手を繋ぎっぱなしだったことに気がつく。

 荷物が持ちにくい訳だ。

 

 荷物を全て積み込み、車に乗り込む。

 

「シートベルトつけたか、ウェンディ……ウェンディ?」

 

 助手席に座っているウェンディがぼうっとしていた。

 俺が呼びかけると、

 

「あ、いえ、すみません。なんでもないです……なんでしたっけ?」

 

「……熱でもあるのか?」

 

 今までに見せなかった反応を見せるウェンディ。

 買い物に付き合わせちゃったからな。

 元々体調が悪かったのかもしれない。

 ウェンディの額に手を触れさせる。

 平熱だよな?

 

「だ、大丈夫です」

 

 とウェンディがその手を振り払うようにした。

 その際に指が髪に引っかかり、真っ赤になっている耳が見える。

 

「え……」

 

「っ!」

 

 さっと乱れた髪を戻した。

 先程は耳だけだったが、今は頬も赤くなっている。

 その姿はやはりあのスノウの姉だな、と思わせるほど似通っていた。

 思わぬところでの女の子らしい反応に心臓が跳ねる。

 

「あっ、いえその、今のは決して嫌という訳では……なく……その……」

 

 ちら、と伏し目がちにこちらを見るウェンディ。

 それは反則じゃないか。

 可愛すぎるだろう。

 車の中が広くて良かった。

 俺は身を乗り出してウェンディに口吻をする。

 

「んっ……ま、マスター……」

 

「あまり遅くならないようにするか」

 

 家では3人が待っている。

 そう言うと、ウェンディはこくりと頷くのだった。



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第41話:選定部隊

1.

 

 

「んっ……マスター……ぁ」

 

 とろん、と翡翠色の瞳を潤ませるウェンディ。

 甘えるような声音で俺に縋り付いてくる。

 見た目では分かりにくいが豊かな乳房がむにゅ、と俺の胸板との間で潰れる。

 昨日した時はまるで主人に仕えるメイドのような奉仕具合だったが、今の様子は全く違う。まるで恋人同士のそれのように媚びた様子だ。

 正直かなり可愛い。

 もちろん普段の様子も最高なのだが、こういった違う面も見せてくれるのはやはり良い。

 問題はこの状態になることに対するトリガーが何なのか分からないということだが。

 

「ウェンディ、こっちへ来るんだ」

 

「……はい、マスター……っ」

 

 ダッシュボードに手をつき、センターコンソールを跨いてこちらへ来ようとするウェンディ。

 比較的広い車内とは言え、それは満足に身体を動かせる程のスペースには達していない。

 動きにくそうにしながらこちらへ来る様子の途中で、ふと意地悪をしたくなった。

 

「あんっ……ま、ますたー……」

 

 右足が跨いできた時点で、股間に触れる。

 触れた瞬間にびくりと身体を震わせる。

 無理な態勢の途中に触れたのでそのままこちらへウェンディが倒れ込んできた。

 ふわ、とミントのような香りが鼻腔に広がる。

 倒れ込む際にどこかぶつからないように咄嗟に抱きしめているので、かなりの密着状態だ。

 顔は胸元に埋められているので分からないが耳は赤くなっている。

 恥ずかしいのだろうか。

 しかしその恥ずかしがっている様子がやたらと可愛い。

 

「その……マスター」

 

「なんだ?」

 

「……外から……見えてしまいます」

 

「見せつけてやればいいさ」

 

 まあ本当に見られたら二度とここへは来ないが。

 俺だって羞恥心がない訳ではない。

 しかしそれ以上に恥ずかしがっているウェンディが可愛いのでこのままする。

 結局男は下半身に逆らえないのである。

 

「自分で挿れるんだ」

 

「……は、い……」

 

 俺に命じられたウェンディはまず俺のズボンのファスナーを下げる。

 そして邪魔をしていたパンツの隙間からちんぽを露出させる。

 もちろんこんな状況だ。

 既にびんびんである。

 続いてウェンディはショーツを自分の指で少しずらし、挿れやすいように自分で膣口を広げながら俺のちんぽの上に跨った。

 そして。

 

「んっ……つっ……」

 

 そのままゆっくりと腰を下ろしていく。

 前戯が完璧だとか最初から発情しているような状態ではないのでまだしっかりと濡れきっていないのか、昨夜よりもキツいような気がする。

 状況も関わっているのだろう。

 いつ人が通り掛かるか分からないような状況。

 それにこの車も車だ。

 派手な訳ではないが、一目で高級車と分かるようなイカついデザインになっている。

 つまり目立つ。

 多分基本的には車に興味のない俺もこんな車が停まってたらちょっと見ちゃう。

 ウェンディはそれを理解しているのだろう。 

 自前で準備してきた『常識』が仇となった瞬間かもしれない。

 

挿入(はい)り……まし……た……ぁ」

 

 防音性は高めなので別に小声で言う必要はないのだが、やはり恥ずかしいのだろう。

 小さな声でそう自己申告するウェンディに俺は残酷な真実を告げる。

 

「まだ半分くらいしか入ってないんだな、これが」

 

「えっ……」

 

 ぐい、と少しだけ腰を突き上げてみせる。

 

「んあっ♡」

 

「ほらな? ちゃんと全部挿れてくれよ」

 

「しょ、承知……しまし、た……ぁ♡」

 

 ずぷぷ、と更に奥までゆっくりと入っていく。

 

「んっ……ふっ……♡ くっ……♡」

 

 恐らく意図してはいないのだろうが、俺の肩を掴む手に結構な力が入っている。

 吐息もどんどん荒く熱くなっている。

 それに、膣内も徐々に湿り気を帯びてきていた。

 まだ動いてもいないのにこれだ。

 動き始めたら気持ちよさと恥ずかしさの間でどうにかなってしまうのではないだろうか。

 

 またしばらくして。

 

「こ、これで、全部入りました、マス――ひっ!?」

 

 言い終わる前にずん、と強く突く。

 慌てて口を抑えるウェンディだが、少し声が漏れていた。

 さっきも言った通り防音性能は高いのでなんてことないのだが、気にしているというのならそれを利用しない手もない。

 

「あまり声を出すと注目されるかもな」

 

「っ……!」

 

「俺は見られても構わないが、ウェンディはどうだ? 男に跨って腰を振っている淫乱女だと思われるかもな。見た目はクールだが、中身はとんだどピンクって訳だ」

 

 ウェンディは顔を俺の胸板に押し付け、また表情を見えないようにした。

 しかし耳は赤くなっているし、きゅっと膣圧が強くなる。

 どうやら効果はてきめんなようだな。

 しかし意外と赤面癖があるんだな。

 もっと鉄仮面なのかと思っていたが。いや実際、辱めと受けている時が特殊なだけで普段はそうなのだろう。ただし弱点もある、と言ったところか。

 

「さて、挿れただけで終わりな訳ないだろ? ちゃんと動いて奉仕(・・)してくれよ」

 

「っ……はい……マスター」

 

「あとしっかり目を合わせてな」

 

「……はい、マスター」

 

 ずっと表情を隠していたウェンディが命令通り俺と目を合わせる。

 相当恥ずかしいのか、最初とは違う意味で目が潤んでいる。

 これ以上虐めたらそのまま泣いてしまうのではないだろうかと思う程だ。

 

「んなっ……」

 

 心臓がギュッとわしづかみにされたような感覚に陥る。

 なんだこの感覚は。

 知っている言葉の中で最も近いものをあげるならば庇護欲だろうか。

 しかし罪悪感を覚える心とは裏腹にちんぽは明らかに更に硬く大きくなっていた。

 

「さあ、動くんだ」

 

「ん……っ♡ っ……♡」

 

 ゆっくりとウェンディが動き出す。

 今にも泣き出しそうな表情を浮かべながら、動きにくい車内でしかし必死に俺に快楽を与えようとしている。

 改めて状況を可視化すると凄いことをしているな、俺たち。

 実際いつ誰が窓の中を覗くか分からないという緊張感。

 家に待たせている人達がいるという罪悪感。

 クールなウェンディが泣きそうになる程恥ずかしがっているという背徳感。

 全てが合わさって興奮する要素に昇華されている。

 

「今どうなってるか実況もしてもらおうか」

 

「実……況、ですか……?」

 

「その通り」

 

 もちろん言われている意味は分かっているのだろう。

 わなわなと口元を震わせた後、決心したかのようにキリッとした表情を浮かべる。

 涙目だけど。

 

「んっ……マスターの……おおきいのが……」

 

「おおきいの? なんだそれは。よく分からんな」

 

「ちんぽ……です。おちんぽがっ……あっ、わたしの……中……でっ」

 

 びくん、と身体を震わせるウェンディ。

 動かしながらの実況なので時折良いところに当たるのだろう。

 

「奥っ、まで……届くほど大きくなっていて……っ」

 

 同じ動きばかりだと単調だと思ったのかぐりぐりと腰を回すように動かすウェンディ。

 かなり気持ちいい。

 

「私のっ……気持ちいいところをっ……♡ カリが、えぐってます……ぅ♡」

 

「気持ちいいところはどこなんだ?」

 

「んっ……ここ(・・)っ……ですっ……♡」

 

 ぐり、と腰を動かして押し付けられたのは思ったよりも浅いところだった。

 何度か行き来する度に当たっていた場所なのは敢えて当てていたのか。

 

「すごっ……これ、おおきいんっ、ですっ……♡ これ、だめっ……♡ こんなのだめなのにっ……♡ マスター、マスターっ♡」

 

 段々と声も大きくなってきた。

 動きも速く、少しずつ理性を本能が凌駕していっている。

 

「あっ♡ あっ♡ んっ、あっ♡ すみませんっ♡ マスター、勝手に、速くっ、してっ♡ 我慢、できないんです、ごめんなさい、マスターっ♡ ごめんなさいっ♡♡♡」

 

 必死に腰を振るウェンディを見ていて、俺は本当に何の前触れもなくハッと気づいた。

 ウェンディが最初のうち何に対して恥ずかしがっていたのか。

 

 恋人っぽいことをするのを恥ずかしがっていたのだ。

 ウェンディの様子がおかしくなったのは懸賞の為に手を繋いだことがキッカケだ。

 もしかしたら頑なにマスターと精霊という形を崩そうとしなかったのもその裏返しなのかもしれない。

 恋人らしいことは恥ずかしくて出来ないから、そこからは遠いところで奉仕をしようと。

 ほら見ろ綾乃、知佳。

 俺は鈍感などではない。

 こういうことにはちゃんと気付ける男なのだ。

 そして気付いてしまったからにはそれを利用しない手はない。

 

「ウェンディ、こっちを見るんだ」

 

 途中から動くことに必死になって俺と目を合わせるのをやめていたウェンディがこちらを見る。

 快楽なのか恥ずかしさなのか、ずっと涙目でうるうるとしている綺麗な翡翠の瞳。

 そのウェンディに唇を合わせる。

 

「んっ――ん――♡♡♡」

 

 そしてそのタイミングで限界を迎え、射精した。

 最初こそウェンディは驚いた様子だったが、やがて自分で俺の背中に腕を回して抱きついてくる。

 長い射精の間ずっと互いの唾液を貪り合っていたが、流石に打ち止めのタイミングでようやく離れる。

 

「どうだった?」

 

 俺がにやにやしながら聞くと、ウェンディは頬を赤く染めたまま俯いた。

 

「こんなのずるいですっ……!」

 

 ぽす、とウェンディが軽く俺の胸を叩くのだった。

 

 

2.

 

 

「遅かったわね」

 

 俺たちがうちへ帰ると、スノウたちは人生ゲームをしていた。

 どこから出してきたんだろう、あれ。

 ちらっと見ると綾乃が子沢山な上にめっちゃ借金を抱えている。

 なんというか、不憫だ。

 なんか有り得そうな未来なだけに尚更。

 

「ちょっとな」

 

 大量のティッシュを抱えて帰ってきた俺たちを怪訝な目で見つめる知佳。

 奴は勘が鋭いのであまり関わりたくないのだが。

 

「あれ、どうして一つだけティッシュが出ているんですか?」

 

 知佳からティッシュ箱を隠したら綾乃に見られてしまった。

 

「ほら、車の中にあった方が便利だろ?」

 

 実際は中出しした精液が車の中を汚せないように必死に拭き取ったというだけなのだが。

 綾乃はその説明を特に不思議に思わなかったようで、(というか人生ゲームの惨状の方が彼女にとっては重要なようだ)すぐにボードゲームの方へ向かい直す。

 知佳はしばらくじっとこちらを見ていたかと思うと、ふっ、とあからさまに何かを察したような笑い方をした。

 スノウは終始どうでも良さそうにしているので気付いていないようだが。

 後で奴には口止めをしておかないといけないな。

 昼間もぽろっと機密(?)情報を漏らしやがったし。

 

「そういえば、さっきニュースで新しい情報が出てたわよ」

 

「新しい情報?」

 

「日本政府が対ダンジョン戦力を応援として送ることに了承したって。早ければ明後日にも選定部隊が編成されて出発するとか言ってたわ」

 

 ロサンゼルスの件か。

 やはり断ることはしなかったか。

 アメリカとのパイプは大事だしな。

 しかし命がけの仕事になることは間違いない。

 国民や探索者達の反発も少なからずありそうだが。

 なにせ特殊部隊が突入して音信不通だ。

 ダンジョン内で行方不明になることはほぼ死を意味する。

 奇跡的に一人帰ってきたようだが、それ以外の人たちはもはや論ずるまでもないような状況なのだろう。

 

「主だった会社で言えばまずダンジョン管理局は外せないな。後はどこだろうな……スキル所有者(ホルダー)が優先されるだろうし、でも主戦力を失う可能性もあると考えれば……いやでも政府に恩を売れるのはでかいよなあ」

 

 現状、よくも悪くも日本ではダンジョン管理局ほぼ一強だ。

 ここで何か実績を残せれば、と考える二番手三番手の企業があってもおかしくない。

 スキルホルダーはかなり希少な存在なのでそう簡単に死地へ赴かせる訳にも行かないが、だが今活用しないでいつ活用するのか甚だ疑問でもある。

 

 ……そういえば、未菜さんはどうするんだろうか。

 あの人の実力ならばもちろん選定部隊に選ばれてもおかしくない。

 というか国内トップなのだから普通ならまず外れない。

 しかし彼女は正体を世間に隠している。

 もちろん隠したままでも参加することは出来るだろう。

 全員の名や所在を公表しないといけないなどというルールは無いだろうし。

 

 それに彼女の性格なら普通に参加すると言い出すだろう。

 だが……

 

「危険すぎるよな……」

 

 知り合いが死ぬかもしれない。

 そう考えるだけで呼吸が苦しくなるような気さえする。

 なんとかして不参加ということに出来ないだろうか。

 しかし未菜さんほどの戦力がいるといないとでは他の参加者の生存率も大幅に変わってくるだろう。

 

「ねえ、その選定部隊ってのはあたしたちは入れないの?」

 

 スノウが疑問をぶつけてくる。

 至極当然な話だ。

 未菜さんと同じく、実力だけで言えば俺はともかくスノウやウェンディが選ばれない理由はない。

 というより、もし選定部隊に入ることが出来ればそれだけで問題が解決する可能性すらある。

 だが……

 

「……まず俺たちには声すらかからないと思うぞ」

 

 注目度はともかく、まだ立ち上げたばかりの会社だ。

 言うならばぽっと出。

 しかも実績はあるにはあるが、正直俺が外部の人間だったら逆に胡散臭いレベルの実績なのだ。

 俺たちが選ばれればバッシングを受けること間違いなしである。

 

「一つ、可能性のある案があります」

 

 ウェンディが人差し指を立てる。

 

「なんだ?」

 

「ダンジョン管理局が選定するということは、恐らく明日ダンジョン管理局に全国から実力者たちが呼び寄せられるのでしょう」

 

 それはそうだろう。

 そこで作戦の説明や事の運びなどを共有するはずだ。

 

「そこで力を示せば良いのです。多少(・・)国民からは非難を買うかもしれませんが、そこは現地で、実績で黙らせば良いのですから」

 

 ……無茶苦茶だな。

 しかし理に適っている話でもある。

 それに最悪、そもそもの話ダンジョン管理局にはコネがあるのだ。

 なんかスルッとさりげなく潜入させてくれたりもするかもしれないし。

 明日一応動いてみるだけ動いてみるか。



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第42話:ハイスペック

1.

 

 

『結論から言って、君達を作戦に組み込むことは出来ない』

 

 夜の10時頃。

 遅くなっても良いので折返しをくれと連絡を入れておいた柳枝(やなぎ)さんから電話がかかってきた。

 恐らくこの時間まで仕事をしていたのだろう。

 そんな大変な時に時間を取らせてしまうことは申し訳ないのだが、こちらとしても割と死活問題なのだ。

 ということで事情を説明したり、俺達を選定部隊に入れて貰えないかと交渉してみたのだが……

 返事はきっぱりとしたノーだった。

 

「……どうしてもですか?」

 

『どうしても、だ。君達の力は普通でないことはこちらとしても把握している。明日の選定部隊、全員が総力をあげて襲いかかっても容易に返り討ちにされるくらいの力はあるだろう』

 

「それが分かっていて、何故」

 

『政府が絡んでいるからだ。アメリカに送り出す戦力ということで、あちらの政府も納得の行く面子でないといけない』

 

「あ……」

 

 そうか。

 確かにそれはそうだ。

 実績や名のある探索者はあちらでもある程度名前は知られているだろう。

 対して俺達はどうだ?

 動画を見て、パフォーマーとしての知名度は多少あるかもしれないがその知名度は探索者としてのそれではない。

 

『本音を言えば君達にも協力を要請したい。というより、その為の嘆願書は既に()に提出した。しかし選定されるメンバーの中に君達は含まれていなかった。理由は説得力が足りない、からだ』

 

「…………」

 

 ウェンディの言った通りの作戦を実行するしかないのだろうか。

 その場で力を示せば説得力としては事足りるか?

 いや、アメリカのことも絡んでくるのならそれだけでは足りない可能性もある。

 だが……

 

「今回の作戦、柳枝さんやみ……伊敷さんは参加するんですか?」

 

『……伊敷が出ることになっている。政府からの要請だ』

 

 少し硬い声で柳枝さんは答えた。

 やはりそうなるか。

 俺が選ぶ側でも、未菜さんか柳枝さんのどちらかは作戦に組み込む。どちらも日本最高峰の戦力なのだから。

 世間には隠している未菜さんの正体も、政府側の人間ともなれば把握していないはずがない訳で。

 

『正体こそ公表されないが、あちらにはINVISIBLE(インビジブル)が参加すると伝えることになる』

 

 INVISIBLE。

 一向に姿を見せない日本初のダンジョン攻略パーティのリーダーに付けられた呼び名だ。

 日本人はその名で呼ぶ人はあまりいないが、海外ではそう呼ばれることが多いらしい。

 

 世間的には公表されないとは言え、一緒に作戦を遂行する人たちには正体がバレるだろう。

 頑なに姿を見せなかった未菜さんがそこまでするのだからこの作戦には尚更失敗は許されない。

 彼女の実力は知っている。

 よほどのことがない限りは大丈夫だろう。

 しかしそのよほどのことがあるような気がしてならない。

 

「……正直に言います。俺はこの作戦が失敗することを恐れている。百歩譲って、柳枝さんや伊敷さんが作戦に関係ないのなら諦めていたかもしれない。けれどそうじゃないなら多少の無理は押し通すつもりです」

 

『ダンジョンに関わる仕事をするなら、知り合いの探索者が死ぬのはそう珍しいことではない』

 

「でしょうね。けどそれは静観していて良い理由にはならない」

 

『何が君をそこまで駆り立てる。強いとは言え、君自身も危険なんだ』

 

「それでも、です」

 

『…………分かった。明後日のフライトで君達のアメリカ行きのチケットを手配しよう。しかし先程も言った通り、作戦には組み込めない。君達はあくまで君達の都合で(・・・・・・)ロサンゼルスへ行くことになる。君はパスポートを持っているか?』

 

「あ……」

 

 持っていない。

 海外へ行こうと思ったことがないので仕方のないことではあるが、ここまで息巻いておいてなんという情けない話なのだろうか。 

 というかスノウやウェンディも多分ダンジョン管理局を通して貰わないと海外へ行けないだろう。

 

『パスポートなど持っている者の方が少ない。その他手続きもこちらでなんとかしよう。そうだな、飛行機での移動となれば個人でねじ込むよりは会社単位での動きという方がこちらとしてもカモフラージュしやすい。そちらの今の人数は5名だったか?』

 

「はい」

 

『では5名分の手続きを進めておく。細かい話は緒方君に通しておく』

 

「お願いします」

 

 綾乃か。

 何から何までダンジョン管理局とのパイプ頼りだな。

 

「すみません、我儘に付き合わせてしまって」

 

『……いや。今回の場合は持ちつ持たれつだ。正直、ロサンゼルスのダンジョンの件は私も普通ではないと思っている。アメリカの特殊部隊が帰ってこなくなったように、どれだけ実力者であっても何かが起きないとは限らない』

 

 事実、特殊部隊の練度は並の探索者とは比べ物にならないものだっただろう。

 それがあっさりと壊滅しているのだから、単に難易度がべらぼうに高いのか、何かタネがあるのか。

 

『虫のいい話だとは分かっている。伊敷を頼む……あれは私の娘のようなものだ』

 

「頼まれました」

 

 折角ロサンゼルスまで行くのだ。

 未菜さんだけとは言わず、助けられる人間は全員助けるさ。

 

 

2.

 

 

「と、いうことになったんだが」

 

 カクカクシカジカと事の運びを現在うちにいるスノウとウェンディに説明した。

 

「まあダンジョン管理局に行ってひと暴れするよりは穏便に済んで良いと思うわよ。別にあたしはそれでも構わなかったけど」

 

 スノウはあっけらかんと言い放つ。

 確かにお前に限ればそれの方が手っ取り早くて良かったんだろうけど。

 

「何はともあれ、あちらへ行く手段が出来ただけでも御の字です。流石はマスターですね」

 

「いや、俺は何もしてないけどね?」

 

「最悪、私の風でアメリカまで飛んでいこうと思っていたのですが」

 

「……」

 

 冗談か本気なのか微妙に判断しかねるな。

 もしかしたらやろうと思えば出来てしまうのかもしれない。

 それくらいは出来てしまいそうな感じはする。

 そう考えると、精霊にとっては人間用の法律やルールなんてほとんど関係ないのかもしれないな。

 あくまでも召喚主(マスター)である俺に合わせてくれているだけか。

 

「しかし、問題は現地に到着した後ですね。ダンジョンの性質上、一般の立ち入りは禁止されているでしょうし」

 

「ああ、その辺りは調べてみたけど、まあ当然のように一般人はおろか、探索者の立ち入りも基本的には禁止されてる」

 

「流石ですマスター」

 

 事あるごとに俺を褒めるのやめて貰えないかな。

 すごくこそばゆいのだが。

 ちょっと調べ物しただけだよ俺。

 なんかウェンディといるとどんどん駄目になっていきそうだ。

 ダメ男製造機とはこういうことだったのか。

 

「それじゃどうすんのよ」

 

「そこはこれから考える」

 

「あんたが捕まっても良いなら手段は幾らでもあるけど」

 

「それは勘弁して欲しいな」

 

 いや、最悪何も思いつかなかったら正面突破するしかないのだが。

 立ち入り禁止とは言ってもガチガチに武装した連中で固めている訳ではないだろうから、普通に強行突破出来るとは思う。

 だがまあそれは本当に最後の手段だ。

 出来るだけやりたくはない。

 最悪国際問題とかにもなりそうだし。

 

「上空からの侵入はどうでしょうか」

 

 ウェンディが上を指差す。

 

「上空?」

 

「ビル型のダンジョンなら上は開けているのでは」

 

「おお、確かに」

 

 今までのダンジョンとは異なるタイプなのが良い目に出るパターンか。

 

「けど、最低でも日本から行く選定部隊の人たちから犠牲者は出したくない。別行動することになるのは危険なんじゃないか?」

 

「先に攻略しちゃえば良いじゃない。今までにないタイプのダンジョンだとしてもボスを倒せば終わりなのは変わりない……と思うわ」

 

「そういうことです」

 

 なるほど、そう考えれば別に一緒に行動する必要はないのか。

 確かにダンジョンに入らないこと以上の安全行動はないからな。

 

「じゃあアメリカに到着し次第突入ってことで良いか?」

 

「それが一番手っ取り早いんじゃないかしら。さっさと終わらせて社員旅行よ」

 

 スノウが同調する。

 そういうことは知ってるんだな。

 しかし社員旅行でアメリカとは贅沢な話だ。

 

「いいえ、すぐに突入するのは危険かと」

 

「その心は?」

 

「アメリカの部隊も精鋭だったのでしょう。それが為すすべなく壊滅している。生還者が出てきたのですから、その方から何かしらの情報を得るまでは私たちも迂闊に動くべきではないでしょう。ただでさえイレギュラーが発生しているのです。何が起きるかは分かりません」

 

 スノウとウェンディがいればゴリ押しでもなんとかなると軽く考えていたが、確かにそういう油断も良くないか。

 厄介だなダンジョンって。

 

「生還者は何か喋ったのか?」

 

「私が確認した限りでは昏睡状態だということでした。つまり彼が目覚め、中で起きたことを喋るまでは待った方が良いと思います。恐らく、各国の選定部隊もそうするかと」

 

「分かった、そうしよう」

 

 何かのギミックがあるにしても事前に情報があれば対策くらいは出来るはずだしな。

 

 

3.

 

 

 翌日。

 知佳と綾乃が出勤してきたタイミングで二人にもロサンゼルス行きが決まったことを告げた。

 

「今朝会社から来ていたメールの正体が分かりました。その件で午後から本社に呼び出されていたんですね、私。何かやらかしたのかと思いました……」

 

「悪いな、綾乃。俺達じゃそういう処理についてはよく分からないし」

 

「いえ、それも仕事ですから。なんだかもうここ数日で色々なことがありすぎてこれくらいなら特に驚きもしないですね」

 

 綾乃は困ったように笑いつつそんなことを言っていた。

 まあ……確かに会社を設立してから、というか俺はその前からだが激動の日々だもんなあ。

 

「知佳も、悪いな。出不精なのにアメリカ行きに付き合わせることになって」

 

「別にそれは構わない」

 

 ロサンゼルスへ行くということを聞いても特に何の反応も見せなかった知佳に一応謝っておくが、まあこいつはこいつで構わないというのなら本当に構わないのだろう。

 

「どのみち私が着いていかないと悠真何も出来ないし。だって英語喋れないでしょ」

 

「……日常会話くらいな出来るぞ。辛うじて」

 

「辛うじてのレベルじゃコミュニケーションに困る。そもそも悠真の英語、海外ドラマで覚えたのがほとんどだからかなりキザったらしい。正直アメリカでは喋らないで欲しい」

 

「マジでか」

 

「マジなのです」

 

 知らなかった……

 確かに日常会話が出来ると言っても大学入った時くらい一時期ハマっていた海外ドラマで覚えたくらいだからな。

 俺はあれで普通に喋れていると思っていたのだが、そうか。

 確かにドラマなんかで覚えたら言い回しは独特なものになるよなあ。

 もちろん見る種類にもよるのだろうが。

 俺の趣味的にもそっちに偏っていそうだ。

 

「そういえば綾乃は英語喋れるのか?」

 

「はい……日常会話くらいなら」

 

 多分綾乃の日常会話は本当に日常会話なのだろう。

 俺のなんちゃって日常会話とは違って。

 

「となると、俺とスノウとウェンディは喋れないのか。あっちでダンジョン絡み以外で何か動く時は基本的に知佳か綾乃に同行して貰うことになるかな」

 

「マスター、私は英語をある程度は喋れます。他にもフランス語、イタリア語、ドイツ語を」

 

「えっ……精霊ってそういう感じなの?」

 

 ちらりとスノウを見るとさっと目を逸らされた。

 

「いえ、いつどんな時でもマスターのお力になる為に、主要国家の公用語は基本的に抑えてあります。召喚されるまでの時間はたっぷりありましたので。一番違和感なく喋れるのはマスターから得られた『常識』の範疇にある日本語ですが」

 

 普通にスペック高すぎない?

 じゃあ喋れないの俺とスノウだけじゃん。

 

「スノウ……俺達はせめてみんなの分の荷造りも手伝おうぜ」

 

「…………仕方ないわね」

 

 流石のスノウも若干負い目には感じていたっぽい。

 でもお前までウェンディ並に有能になっちゃったらなんか面白みないからそのままで良いよ。

 ……俺はもうちょっと頑張るけど。



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第43話:銃社会の洗礼

1.

 

 

「うぅ……地面が揺れてます……波打ってます……」

 

「気を確かに持て綾乃。母なる大地だ。如何なる時も大地は揺らがん」

 

 飛行機酔い、というものがあるらしい。

 約10時間のフライトを終え、綾乃は顔を真っ白にしてフラフラしていた。

 精霊組はともかく、俺や知佳は平気だったのだが。

 

「地震は?」

 

「余計なことを言うんじゃない」

 

 知佳のあまりにもあんまりな横槍にツッコミを入れつつ、俺は綾乃に肩を貸しながら歩く。

 いっそ抱っこして歩いた方が手っ取り早そうだが。

 

「でもファーストクラス? とやらで良かったわね。道中快適だったし、一番最初に降りれるなんて」

 

 とんとん、と地面の感触を確かめるように足で蹴りながらスノウが言う。

 

「200万くらいするらしいからなあ……」

 

「うっ……200万……」

 

 綾乃がよろめく。

 

「気を確かに持つんだ綾乃。お前は普段もっと桁の巨大な数字を扱っているだろう!」

 

「なんか数字がリアルで逆に怖いです……」

 

 正直気持ちは分かる。

 シンプルに数百億とか実感湧かないし。

 200万って聞くとなんか分かりやすい大金だもんな。

 たかだか10時間の移動の為に200万。

 

 うーん。

 俺まで気分悪くなりそうだ。

 

「うぅ……」

 

 グロッキーな綾乃がもはや足元が覚束ないレベルになってきたのでいっそ背負ってしまおう。

 よっと。

 軽いなあ。

 背中に当たる柔らかいものはこんなにも重量感に溢れているのに。

 気付けば知佳にジト目で見られていた。

 なんだよ。

 

「私も気分悪くなってきたかも」

 

「嘘つけ」

 

「むう」

 

 知佳が不満そうな表情を浮かべる。

 いや見かけはいつもと同じ無なのだが。

 ウェンディが心配そうに俺たちを見る。

 

「マスター、代わりましょうか?」

 

「いや大丈夫。別に負担にもならないし」

 

 俺の身体能力が上がっているという事も含め、リュックサックを背負っている程度にも感じない。

 

「その代わり荷物とかは持って貰えると助かるな」

 

「承知しました」

 

 しかし、パスポートの提示も必要なしで海外に来れてしまうとは。

 会社立ち上げの時の手続きスキップの時もちょっと思ったが、ほぼ一強とは言え企業としての権力が半端なく強いな。

 どんな力を使ったらパスポート無しでの渡航が出来るのかは分からないが。

 だってこれってつまり日本政府だけじゃなくアメリカ政府ともある程度以上のコネがあるから出来ることだよな、多分。

 少なくともダンジョンがなければ一生出来ない経験だったな。

 他人に自慢出来ない類の経験だが。

 

 綾乃を背負ったままロビーまで来ると、当然と言えば当然だがそこは人でごった返していた。

 気を失っていて良かったな、綾乃。

 起きてたらまたここで気分が悪くなっていたところだ。

 

「で、柳枝(やなぎ)さんが言うには迎えが来てるらしいけど……」

 

 これだけ人でごった返していると誰が誰だか分からないな。

 とか思っていると、ウェンディが俺に声をかけてきた。

 

「マスター、あの方では?」

 

 ウェンディが視線を向けている方を見ると、なるほど確かに妖精迷宮事務所御一行と書いてあるプラカードを持った燕尾服の総白髪の男性がいた。

 大体60歳くらいだろうか。

 多分日本人だな。

 あちらもこちらに気付いたようで、歩み寄ってくる。

 

「妖精迷宮事務所の皆城(みなしろ)様御一行でございますか?」

 

「はい、そうです」

 

 自然に手を差し出して握手をしようと思ったが、綾乃を背負ったままなので出来なかった。

 それを察したのか男性はふっ、と笑みを浮かべる。

 

「そのままで結構でございます。私は石橋(いしばし) 尚久(なおひさ)と申します。滞在中の雑事は私めにお任せください」

 

 そう名乗って石橋さんは深く腰を折る。

 おお……

 執事だ。

 リアル執事だ。

 

「マスター、この方、出来ます」

 

 ウェンディが俺の耳元で囁く。

 

「え?」

 

 鋭い目つきをしている。

 出来るって……この人もしかして戦えるタイプの執事なの?

 

「相当な奉仕力です」

 

「…………」

 

 多分その奉仕力とやらはお前にしか計れないよ。

 

 

2.

 

 

「ひっろ……」

 

 石橋さんの運転するやたらと高級そうな車に乗せられ、やたらと高いビルに到着した俺達はやたらと広い部屋に案内された。

 高層ビル型のホテルらしい。

 しかも最上階はスウィートになっていて、一階まるまる貸し切りのフロアなのだとか。

 いやこれ幾らするんだよ…… 

 もっと普通の部屋で良かったのに。

 俺と同じような反応をしてくれそうな綾乃は未だに寝ているので結果無反応だし、もちろん知佳はいつもの無表情で特に変わりなし。

 スノウとウェンディはやはりこんなことで驚かないので俺だけが間抜けに反応している。

 この面子はなんというか、色々と世俗離れしているな。

 

 とりあえず綾乃をベッドに寝かせて(何故か一つしかない超でかいベッド。キングサイズよりでかいのなんて言うんだろう)、一息つく。

 

「さて、ここからどうするかね」

 

「生還者が目を覚ますまでは、特にこちらで出来ることは無いですね」

 

 それなんだよなあ。

 いつでも動けるようにこちらに来たまでは良いが、そこからこちらですることはないのだ。

 未菜さんも既にこちらに来ているはずだからどんな状況か聞こうと思ったが、そういえばあの人機会音痴だから何もデバイス持っていないんだ。

 

 ……え、不便すぎない?

 聞いた時はなんとなくサラッと流してしまったけれど。

 柳枝さんは日本にいるからまじで未菜さんと連絡を取る手段がない。

 いや流石にそんなことはないよな?

 多分未菜さんの正体を知るおつきの人みたいなのがいるだろうから、その人の連絡先を後で柳枝さんに聞こう。

 というか柳枝さんの負担大きいな。

 あの人、苦労人っぽいしなあ。

 

「ねえ悠真。あたし観光したいわ。アメリカ来たの初めてだし。基本日本にいたのよねー」

 

「そうなのか?」

 

「あたしが漂っていたあたり、少年ジャン○の早売りしてたのよ。木曜日くらいにはもう店頭に並んでたわ」

 

「マジかよ」

 

 超良い立地じゃないか。

 俺そこに住みたいんだけど。

 というか精霊が少年漫画読むんだな。

 某ハンター漫画の左右どちらを選ぶかのネタも知っていたし、結構コアな読者なのかもしれない。

 

「俺もちょっと観光には興味あるしその辺ぷらぷら歩いてみようかな。行こうぜ、スノウ」

 

「え、今から行くの?」

 

 ソファにだらーんともたれかかっていたスノウが目をぱちくりさせる。

 

「違うのか?」

 

「10時間も飛行機に乗った直後よ。疲れてるから一眠りしたいわ」

 

「自由かお前は」

 

 観光に行きたいと言い出したのはお前だろうに。

 というかお前疲れるとかの概念あるの?

 本人の自己申告で疲れたと言っているのなら疲れたことには違いないとは思うのだが。

 

「私がお供いたします」

 

 だらけたスノウに代わってウェンディが名乗り出るが……

 

「んー……いや、ウェンディいなくなったら綾乃を見る人がいなくなるし、悪いけど残ってくれないか。その辺を適当にプラつくだけだからさ、別に危険もないし。なんか菓子でも買ってくるから」

 

 ダンジョンに特攻する訳でもないのだ。

 ロサンゼルスと一口に言ってもそもそも結構な広さがある訳で。

 

「承知しました。では綾乃様はお任せください」

 

「ん、ごめんな」

 

「いえ。マスターのお力になれれば、どのような形でも」

 

 先程石橋さんを見たからだろうか。

 奉仕力がいつもより強い気がする。

 いやなんだよ奉仕力って。

 

「知佳はどうする?」

 

「んー……」

 

 話を振られた知佳はそれなりに悩む素振りを見せた後、

 

「結構疲れてる。行くなら明日」

 

 とのことだった。

 まあ知佳に関しては普通の人間だしな。

 それも仕方ないか。

 

 まあ一人でブラつくのも悪くない。

 英語も全く分からない訳じゃないし。

 最悪ジェスチャーを交えればなんとでもなるだろう。

 

 

3.

 

 

 ホテルから道路に一歩出ると、そこは日本とは全く異なる様相を呈していた。

 というのも、まず歩いている人々の人種のなんたる多様さよ。

 そもそも多民族国家なので当然とも言えるが、それ以上に多分観光に来ている人や海外から仕事で来ている人が多いのだろう。

 それに服装も人それぞれだ。

 ラフな格好の人が多いような印象は受けるが。

 それ部屋着そのままで出てきてない? という感じ。

 あまりファッションには気を使わないのだろうか。

 もちろん全員が全員そうという訳ではないのだが、当然の話ではあるが文化からして大きく異なるようだ。

 全体を評して、一言で纏めれば、

 

「アメリカに来たって感じだなあ」

 

 想像するアメリカそのままと言った感じだ。

 道は広いし道行く人々はサイズ感がもうでかい。

 女性でも俺と同じくらいの身長の人をちらほら見かける程だ。

 一応これでも175くらいはあるので小さい方ではないはずなのだが。

 

 適当な店に入ってみれば、そこで売っているものもやはりでかい。

 というかでかすぎる。

 こんなの使い切れるのか?

 

 全体的に日本の商品の二倍くらいの大きさに感じる。

 それと量から考えるとやたらと安い。

 安かろう悪かろうの精神の日本人からすればちょっと不安になる安さだな。

 多分大丈夫なんだろうけど。

 

 なんか面白いな。

 店の中の商品を見て回っているだけでも色々な発見がある。

 こういう文化の違いを学ぶ機会は中々ないので貴重な体験かもしれない。

 

 もうちょっと色々な店を見て回ってみるか。

 ホテルのあるビルはやたら大きいので遠くからでも見えるし、迷うということはないだろう。

 最悪、知佳にでも位置情報を送ってもらえばいいし。

 

 

 それから大体1時間はあちこち歩き回っただろうか。

 一応ビルは視界から外れないように歩いていたのでここらをぐるりと回ったことになるだろう。

 そろそろ何か買って帰らないと心配させてしまうかもしれない。

 

 ちなみに知佳から俺の英語はキザったらしいと聞いたので先程から意識的に聴覚を強化して道行く人々の英語を聞き取り、少しでも慣らそうとしている。

 しかし流石に会話を聞き取れる程の精度はないな。

 そもそも普段自分の使っている言語じゃないということもあってあまり頭に入ってこない。

 意味はそんなになさそうだ……と聴覚強化をやめようとしたそのタイミングで。

 

「ん……?」

 

 雑多な音の中で明らかに異質なものが混ざる。

 全力疾走した直後かのような、不安定な小走りの足音。

 それを追いかける複数の足音。

 音の聞こえる方を思わず振り向くと、金髪ツインテールの少女がちょうど裏路地のようなところへ走って入っていくのが見えた。

 その後を明らかに物々しい雰囲気のサングラスをかけた男達が追う。

 

 ……映画の撮影か何かか?

 じゃないよな。

 カメラ無いし。

 

「おいおい……」

 

 こんな事あるか?

 ロスでは日常茶飯事だぜってか?

 周りの人たちも敢えて追いかけようとは思わないのだろう。

 

 明らかに危険そうなことに首を突っ込むのは避けたいが……

 見捨てる訳にもいかないよな。

 気付いてしまった以上は。

 それに、さっきの少女。

 俺の勘違いでなければ、魔力がある。

 それもそれなりに多い。

 未菜さんや柳枝さん程でもないが、少なくとも知佳や綾乃と言った一般人のレベルは逸脱している。

 どうも普通の事情ではなさそうだな。

 

 ……追いかけるか。

 

 

 少女と男達が入っていった路地裏。

 聴覚を強化すると、どこにいるのかはすぐに分かった。

 言い争うような声が聞こえる。

 明らかに揉め事だな。

 

 ……相手は普通の人間ぽいし、よほどのことがなければ大丈夫だろう。

 

 少女が壁に追い込まれ、男たちが追い詰めているという一触即発の状態になっているところに、後ろからジャンプして男達を飛び越し、少女の前に立ち塞がる。

 

「な……っ」

「こいつ、どこから現れた!」

「邪魔をするな! 失せろ!」

 

 急に現れた俺に驚いたサングラスの男達はなんとか聞き取れる範囲で聞くと大体こんな感じのことを言っている。

 

「大勢でレディ一人を追いかけるのは褒められたことじゃないな」

 

 ちら、と少女の方を振り向く。

 

「間違えてたら悪いが、誘拐か何かかい? お嬢ちゃん」

 

 急に現れた俺に少女も少女で碧眼を丸くしていたが、こくこくと肯定するように頷く。

 どうやら俺の英語は通じているようだ。

 にしても、やっぱり誘拐現場かよ。

 全く、本当にこんなのがロスで日常茶飯事だって言うんなら二度と来ないからな。

 

「さっさと失せな」

 

 改めて男達の方を向いて言う。

 流石にこいつらも騒ぎになるのは望んでいないだろう。

 サングラスかけてちゃっかり身元を隠してる訳だし。

 と思っていたら、一番近い位置にいる男が胸元から拳銃を取り出した。

 

 ……そっか。

 ここってアメリカじゃん。

 そりゃ出てくるよな、拳銃(それ)も。

 

「失せるのはお前だ、アジア人」

 

 俺は両手を挙げた。

 いや、だって流石に銃はずるいって。



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第44話:NINJA高跳び

1.

 

 

「そのまま消えろ、東洋人。反抗的な態度を見せれば撃つ」

 

「その物騒なオモチャをしまえよ。男なら拳だろう?」

 

 これで本当に拳銃を捨てて「野郎ブッ殺してやらあ!」とかかってきてくれるのならとても楽なのだが、そんな訳もなく。

 

 銃口を突きつけられ俺は両手を挙げる。

 まずい。

 まずすぎる。

 普通の取っ組み合いなら魔力を持たない人間相手には勝てると踏んでいたが、拳銃が出てくることは想定していなかった。

 仕方ないだろう。こちとら銃社会とは無縁な日本人だ。

 しかしここで少女を置いて逃げる訳にもいかない。

 

 さてどうしようかな。

 土下座したら許してくれるだろうか。

 ジャパニーズ土下座。

 

 しかしその思案している時間でさえ連中にとっては反抗的と見なされたようだった。

 パスン、とどこか間の抜けた発砲音が鳴る。

 少し遅れてカラン、と弾丸(・・)が地面に落ちた。

 

「……は?」

 

 撃った男も驚いているが、俺が一番驚いてる。

 人間、弾丸って受け止められるんだな。

 掌があっちいけど。

 

 さて、しかしこの惚けて貰っている時間を有効活用しない訳にも行かない。

 

「ちょいと失礼」

 

 少女の腰を抱えて、思い切りジャンプする。

 

「えっ――きゃあああああああ!?」

 

 そして屋上(・・)へ着地。

 先程あの男達を飛び越えた感覚的には行けると思ったが、やはり余裕だったな。

 要は壁となっていた建物の上まで跳んだのだ。

 サングラスの男達がこちらを見上げているので親指を下に向けた後、銃の斜線に入らないように少し後ろへ下がる。

 

「あ、あっ、あなたっ、何者なの!?」

 

 思いっきり驚いている様子の少女。

 大体年齢は15、6と言ったところだろうか。

 よく見ればかなり可愛い顔をしている。

 にしても、俺が何者か、か。

 答えにくい質問だな。

 少し考えた末に……

 

「通りすがりのNINJAさ」

 

「NINJA!?」

 

 打って変わって俺を尊敬の眼差しで見つめる少女。

 どことなくアホの子の波動を感じる。

 

「そう、可憐な君が目に入ってね。少しデートのお誘いでもしようかと思ったんだ。NINJAにも目の保養は必要なのさ」

 

 すぐに冗談だと言うつもりだったが面白いのでこのままにしておこう。

 

「なるほど……NINJAなら弾丸を受け止めるのもここまでジャンプするのも納得だわ」

 

 この子の中でNINJAはどんな超人なのかな?

 本物のNINJAはそんなこと出来ないよ。多分。

 隠密とかが本職だもの。

 

「That means…つまりあなた日本人?」

 

「えっ」

 

 完全に英語の脳になっていたので一瞬困惑したが、この子、今日本語を喋ったのか?

 

「日本語が分かるのか」

 

「当然でしょ。わたしは12ヶ国語喋れるの」

 

 えっへん、と少女は薄い胸を張る。

 イントネーションも完璧だ。

 

「天才じゃん」

 

 何故毎度毎度神様は俺の平凡さをこう突きつけてくるのだろう。

 俺もいつか3ヶ国語くらいは喋れるようになって見返してやるからな。

 ……いや無理だけど。

 

「ところでなんで追われてたんだ」

 

「……それは言えないわ。あなたが幾らNINJAでも、巻き込む訳にはいかないもの」

 

「もう巻き込まれてるよ。発砲までされたんだ」

 

「……確かにそれもそうね」

 

 少女は頷く。

 君賢い割にチョロくない?

 もうちょっと悩んでも良いと思うんだけど。

 

ダンジョンへ行け(・・・・・・・・)って迫られてるのよ。で、わたしはそんなの嫌だから逃げてる」

 

「ダンジョン……?」

 

「あ、NINJAは知らないのかしら。人里離れた山奥にいるって聞いたもの、知らなくてもおかしくないわよね」

 

 いやそんなことはないが。

 そもそも人里離れた山奥にもNINJAはもういない。

 多分。

 

「ダンジョンは知ってる……けど、君が?」

 

 いや待てよ。

 この子は魔力を持っている。

 それも普通よりかなり多めに。

 そう考えれば探索者としての適正は十分ということか?

 

「そうよ。LAにいるならあれも知ってるでしょ。ダンジョンに変異したビルのこと。あそこへ突入しろって」

 

「それは……」

 

 危険すぎる。

 どう考えても。

 魔力は多めとは言え、それだけで生き残れる程甘いダンジョンでもないだろう。

 それに多いとは言っても未菜さんや柳枝(やなぎ)さんの方がずっと多いくらいだ。

 

「死にに行くようなものでしょ。だから嫌なの。でもわたしのスキル(・・・)が役に立つのも事実だから、ずっとは嫌がってもいられない。いずれわたしはあのダンジョンに入って……多分死ぬんだわ」

 

「スキル所有者(ホルダー)なのか。どんなスキルなんだ?」

 

「人を感知するスキルよ。……いえ、人だけでなく生きてるものなら大抵なんでも。それでダンジョンに入って、生存者がいないかを探せと命令されてるの」

 

「……そのスキルを持つ君が帰れる保証もないのに?」

 

「生存者を探しているっていう分かりやすいアピールをしたいのよ」

 

 ……なるほどなあ。

 分からなくもない話だ。

 ビル丸ごとダンジョンになったとは言え、そこに居た人々が全員既に亡くなっているかどうかは分からない。確認するまでは。

 要するにシュレディンガーの猫状態だ。使い方合ってるか知らんけども。

 ともかく、そういう状況であれば政府としては生存者を救う為に動いていますよのアピールをしなければならない。

 言わば諸外国へ協力を要請したのもその考えが根本にあってのことだろう。

 ただのダンジョンならば放置しておけば良い。

 しかし何千人単位で巻き込まれた上に生きてるかどうか分からない(未確認)ともなれば対応せざるを得ない。

 幾つの部隊が――何人の探索者が帰らぬものとなれば納得行くかは、国民次第ということか。

 

 で、今の所は特殊部隊が既に帰ってきていない訳で。

 そりゃそんなダンジョンに突入して生存者がいるかどうかを確認しろと言われても嫌だと断るわな。

 

「……どうするのが正解なのかねえ」

 

 倫理観の問題なのか、常識の問題なのか。

 この子にダンジョン入りを命じる上の気持ちも分かるし、俺も一人の人間として、生存者がいるかどうかを確かめられるスキルがあるのならダンジョンに入って欲しいという気持ちがない訳ではない。

 しかし普通のダンジョンと違い、無事に帰ってこれる保証は全くないのだ。

 ならば軽々に突入しろとは言えない。

 というより、辞めろとさえ言いたくなる。

 

「……いえ、あなたにまで迷惑をかける訳には行かないわ。どのみちいつかは連れていかれるんだもの。それが早いか遅いかだけの話よ」

 

 少女はキッと正面を睨みつける。

 そこには建物の中から屋上へと続く扉がある。

 俺も聴覚を強化している都合上気付いていたが、先程上へ跳んで撒いた男達が階段を登ってきているのだ。

 正直事情を聞いてどうすべきか少し悩んだが――

 

「よし決めた」

 

 少女の震える拳(・・・・)をそっと握る。

 

「NINJAは泣いている女の子を見捨てたりしないのさ」

 

 とかっこよく決めたつもりで英語で言ったのだが、「別に泣いてはいないわ」と日本語で返された。

 うーん、照れ隠し。

 実際泣いてはないけど。

 

「という事で再び失礼」

 

「ちょっ――またあ!?」

 

 少女の腰を抱いて、俺は再び跳んだ。

 建物の屋上を跳んで伝っていけば泊まっているホテルの近くまでは行けるだろう。

 後は……スノウとウェンディになんとかして貰おう。

 

 

2.

 

 

「いつか子猫とか拾ってきそうなお人好しだとは思っていたけど、まさか人間の女の子を拾ってくるなんてね」

 

 スノウが呆れた目で俺を見ていた。

 確かに子猫が捨てられていたら拾うとは思うけど。

 そもそも俺ねこ好きだし。

 

「マスター、こちらの方は?」

 

 俺の後ろに隠れる少女の方を見ながらウェンディが俺に聞くが……そういえば名前も知らないな。

 どういう事情なのかだけは聞いたが。

 

「悠真が女の子を誑かして帰ってきた……」

 

 知佳が俺のことを汚物を見る目で見ている。

 違う、違うんだ。

 というか本当にそんな状況だったらこうして皆に紹介する訳がないだろう。

 

「あー……自己紹介頼む。大丈夫、こいつらは俺の仲間だから」

 

「……ティナ・ナナ・ノバックよ。ティナでいいわ」

 

 小さな声で少女……もといティナが名乗る。

 

「フランスのお方ですかね」

 

 俺は全然ピンとこなかったが、ウェンディは分かったようだ。

 そう聞くとティナはこくりと頷いた。

 

「ママがフランス生まれでパパはアメリカ人よ」

 

 なるほど。

 ハーフって訳か。

 

「名前はともかく、状況は? 事と次第によっては悠真を警察に突き出す」

 

 知佳がサラッと酷いことを言う。

 こいつの場合本気なのか冗談なのかよく分からないトーンなのが。

 あとなんか若干苛ついてない? 気のせい?

 

「怖いこと言うな。別に攫ってきた訳じゃない。むしろ助けたの」

 

「そ、そうよ。この人はわたしを助けてくれたの。ユウマって言うのね、あなた」

 

「危険なことに首を突っ込んだんじゃないでしょうね。あたしウェンディお姉ちゃんに怒られるのもう嫌よ」

 

 ……。

 まあ。

 

「いや、危険なことは何もナカッタヨ」

 

 じぃ、と知佳が俺を見ている。

 あの目は気付いている。

 俺が今嘘をついたことに。

 必死にアイコンタクトで黙っていろと伝える。

 それが伝わったのかどうか、知佳は俺から目を逸らした。

 ……後で機嫌を取っておこう。

 ちなみにウェンディもなんだか気付いているような気がするが、きっと気のせいだと思いたい。

 

「ふぅん、ならいいけど」

 

 スノウは特に疑っていないようだった。

 お前はいつまでもお前のままでいてくれ。

 マジで。

 というかウェンディも気付いてるっぽいから嘘つく必要ないっちゃないんだけど。

 

「で、事情を説明すると――」

 

 一通りの事情を説明し終わると、スノウはふぅん、と相づちを一度打った。

 ちなみに発砲されたことは黙っておいた。

 

「まあ、あんたがお人好しなのは変わりないけど、連れてきちゃう気持ちは分かるわ」

 

 そしてティナの方を見る。

 

「とりあえずここにいる限りは安心なさい。あたしが守ってあげるわ」

 

 おお。

 スノウがまともなこと言ってる。

 なんてことを考えているとじろっと俺を睨んでくる。

 

「あんた失礼なこと考えてるでしょ」

 

「全然」

 

 鋭いんだか鈍いんだかよく分からない奴め。

 

「しかし、いつまでもここがバレないとも限りません。少なくともマスターの顔は割れている訳ですから、そこから潜伏先がバレる可能性もあります」

 

 ウェンディが冷静に意見をする。

 確かに俺が顔を隠さなかったのはまずかったかもしれないな。

 いやまさかここまで大事になるとは思ってなかったのだ。

 サングラス連中を警察に突き出して終わりかな、くらいの感覚でいた。

 

「一番手っ取り早いのは問題の根本から取り除くことだな。ダンジョンを攻略出来ればそれで終わりだ」

 

「確かにそれもそうね。早くダンジョンに行きたいわ」

 

「今は生還者が無事に目を覚ますことを祈るばかりですね」

 

 そんな俺達を見て、ティナは本気で困惑したような表情を浮かべる。

 

「あなた達、何を言ってるの? 確かにユウマはNINJAだし強いのかもしれないけど、それくらいじゃダンジョンは攻略出来ないわ」

 

「NINJA?」

 

 スノウが首をかしげる。

 しまった、適当に吹き込んだ情報を訂正しておくのを忘れていた。

 

「ティナ、信じられないかもしれないがこの二人はとんでもなく強いんだ。俺の500倍くらいは強いと思ってくれて良い」

 

「……ちょっと信じられないわね。戦闘機から打ち出されるミサイルでも止められそうじゃない」

 

 何を言っているのかと思ったが、弾丸の500倍の喩えで言ったのだとすぐに気付く。

 まずい、ここを掘り下げられると危険な目にあったことを悟られてしまう。

 

「500倍はちょっと言い過ぎたかもしれないけど、実際めっちゃ強い。日本でここ最近、大きなダンジョンが2つ攻略されたの知ってるか?」

 

「当然知ってるわよ。新宿のダンジョンでしょ? あともう一個はなんか複雑な名前だったからよく覚えてないけど」

 

 九十九里浜な。

 複雑と言うか、日本人でもちょっとだけ発音に馴染みがないので一発で読めない人も多分若い人にはちらほらいると思う。

 

「……あれ、ちょっと待って。もしかしてあなた妖精迷宮事務所の……」

 

 ……お?

 

「動画で見た顔だわ!」

 

 スノウを凝視しながら叫ぶティナ。

 おお。

 まさかこんなところに動画の成果が出てくるとは。

 

「そういうことだ。つまりダンジョンを攻略した実績があるんだよ」

 

「何かのプロモーションだと思っていたわ。どこかの企業のパフォーマンスとか」

 

 なるほど、世間ではそういう認識になっているのか。

 

「全部事実だ。本当に俺達はダンジョンを攻略してる」

 

「簡単には信じられないわ……けどユウマの仲間なら有り得るのかも……」

 

 まあ、こればっかりは実際に見て貰わないと俄には信じ難いか。

 俺だってこんな話を聞いたらそいつの頭を疑う。

 

「……なんか動画を見たって人が目の前にいると恥ずかしいわね」

 

 スノウはよく分からないところで恥ずかしがっていた。

 俺は動画に出る予定がないので一生分からない恥ずかしさだろうけど。

 

「そうだティナ、魔力は感じられないのか?」

 

「魔力?」

 

 おっと。

 知らないのか。

 これだけの魔力を持っていながら。

 いや、そもそもスキルホルダーだろう?

 

「ティナ、お前もしかして探索者じゃないのか?」

 

「違うわ。わたしはたまたま遊びに行った、既に攻略されたダンジョンでスキルブックを見つけただけなの」

 

 ……こりゃあ益々ティナを匿っておかないといけない理由が増えたな。



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第45話:呼び出し

1.

 

 

「ん……段々なんとなく分かってきたような気がするわ。でもなんかぼんやりしてる」

 

「それは悠真が近くにいるせいね。ちょっとあんた出ていきなさいよ」

 

「ええ……」

 

 スノウはティナと波長があうのか(なんか性格もどことなく似ているような気はする)、魔力の感知の仕方を教えてやっていた。

 そしてその途中で俺は出ていけとの命令を受けたのである。

 酷くない?

 

「あんたが近くにいると魔力がでかすぎてぼけるのよ」

 

 ということで追い出されることになった。

 

「マスター」

 

「分かってる。別のフロアに行くだけで建物からは出ない」

 

 先程危険な目に遭ったということを既に察知しているウェンディに釘を刺される。

 部屋を出ていこうとするタイミングで……

 そういえばとある奴の機嫌を取っておく必要があることを思い出した。

 

「知佳、ちょっと来い」

 

「ほわい?」

 

「良いから来い」

 

「はー……」

 

 知佳は如何にも面倒だと言わんばかりの態度で立ち上がった。

 ……が、こいつの微妙に変化する表情を感知する俺センサーは今の知佳は別に不機嫌な訳ではないと言っている。

 まあ分かりにくいからな。

 そもそも感覚に頼っているセンサー(笑)なので誤感知もあるのだろう。

 

 確かこの階の一階下と二階下がプレイルームなのでそこまで行けば流石に邪魔もしないだろう。

 多分。

 

「ウェンディ、綾乃とティナを頼む」

 

「承知しました」

 

 

 

 エレベーターに知佳と二人で乗り込み、二階下へ行く。

 

「……で、なんでお前は不機嫌だったんだよ」

 

「別にそうでもないけど」

 

 ウィーンと扉の開いたエレベーターから降りて適当にダーツコーナーへ歩く。

 二人で喋りながらだとこれくらいしかやるものがないからな。

 

「ティナを連れてきた時機嫌悪そうだったろ? それに俺の嘘に気付いてたみたいだから、一応スノウには黙っておいてくれよ。ウェンディは気付いてそうだったけど」

 

「危険な目に遭ってる遭ってないの話?」

 

「それよそれ」

 

「行動する度に何か問題に遭ってる」

 

「流石にそんなことは……ないと思いたい」

 

 いや最近はマジで否定出来ないかもしれない。

 今回の件も、ダンジョンに行かないなら流石に安全だろうと思ってたらまさかのトラブルに巻き込まれた(というか自分から巻き込まれに行った)んだし。

 そもそも事の発端はダンジョンに落ちた事から始まったんだよな。

 

「トラブルメイカー」

 

「俺も好きでトラブルをメイクしてる訳じゃないんだけどな……」

 

 トラブルの方からやってくるというだけで。

 どうやらここはかなりの高階層なので他にお客もいないようだ。

 ということで心置きなく実は一度もやったことのないダーツに挑戦する。

 

 矢を手にとって、ドラマで見た持ち方を見様見真似でやってみる。

 

 ……これ投げにくくない?

 しかしこうやっていたはずなのでそのまま投げてみる。

 的にすら当たらない。

 そんなことある?

 うーん、引くほどノーコン。

 

「へたくそ」

 

「じゃあなにか。お前は出来るんか」

 

 知佳は黙って隣のレーンに立って矢を構える。

 ……サマになってるじゃないか。

 そしてそのまま投げて、あっさり的に矢を命中させた。

 

 ぐぬぬ。

 

「でも真ん中じゃないじゃないか」

 

「真ん中が一番得点が高いと思ってる時点で素人」

 

「……違うの?」

 

「今刺さってるあそこが一番。20のトリプルで60点。真ん中は50点」

 

 日本語で喋って欲しい。

 いや20のトリプルで60ということはあそこに当てれば3倍なのだろうという予測は立つけども。

 普通真ん中が一番高得点だと思うじゃん。

 

 その後も知佳は2本続けて投げて、3本とも20のトリプル……つまり180点を取った。

 そしてこちらに向かってピース。

 いやあれはVサインだ。

 俺に向かって勝ち誇っているのだ。

 ……悔しいが勝てない。

 そもそも的に当てることさえ出来ない俺にどんなミラクルを起こせというのか。

 

「……というか全部一番高得点のとこに当てれるならもはやプロになれるだろ。なんなんだよお前」

 

「流石に全部当たるとは思ってなかった。初めて」

 

「偶然かよ!」

 

 当てても喜ぶとかないから全部狙ってやったのかと思った。

 というか絶対意図してそう見えるように振る舞ってただろ。

 しかし上手いことには間違いない。

 むしろお前はこういうのに興味ないと思ってたのに。

 

「投げ方さえ分かれば3本に1本くらいは狙ったところに入る」

 

「いや多分そんな簡単な話でもないと思うけどな」

 

 しかし3本連続で当てたのは初めてだと言っていたし、今このタイミングでその初めてを引く豪運もある訳だ。

 うーん。

 このプレイルームには他にもビリヤード台やチェス台があるが、そのどちらももちろん俺はやったことがない。

 チェスに至ってはルールすらよく知らない。

 ビリヤードはルールを辛うじて知っているレベル。

 どれをやっても知佳に一泡吹かせることは出来そうにない。

 というかビリヤードはともかく、チェスとかの頭を使うゲームでこいつに勝てるビジョンが浮かばない。

 実は2年ほど前、オセロで全面ひっくり返されて負けたのだ。

 知佳にはここまで弱いのはむしろ才能だと言われた。

 

 しかしビルから出る訳にもいかないしスノウには部屋を追い出されたのでここで時間を潰すしかない。

 というか自然に追い出されたけど理不尽じゃない?

 俺が可哀想だと思わないのだろうか、あの白いのは。

 これは後でお仕置きが必要だな。

 

「しかしそうなるとやることがないな。漫画喫茶とかないのかね、漫画喫茶とか」

 

「ここにはないだろうけど、ロスならリトルトーキョーがあるしそこにならあるかも」

 

「あ、そういえばそんなのもあったな。ダンジョンでのごたごたが片付いたらそういうとこも行ってみたいなあ」

 

「そこなら悠真のダメダメイングリッシュでも平気かも」

 

「一応言っておくけど、ティナにはちゃんと通じてたからな。俺の英語」

 

「それじゃテスト」

 

 ススス、と知佳が寄ってきて何をするのかと思えばそのままの流れでズボンのベルトに触れる。

 

「一体何が始まるんだ?」

 

「期待通りのもの」

 

 じっと知佳はこちらを見つめてくる。

 いつもの感情の読みにくい目だ。

 冗談で言っているのか本気なのか。

 

「ここからの会話は全部英語ね」

 

 と、英語で知佳に宣言される。

 

「冗談キツイぜ」

 

「もし日本語を喋ったらペナルティ。恥ずかしい秘密を綾乃に暴露する」

 

 喋られて恥ずかしい秘密なんてない。

 と言いたいところだがまあそこそこあるような気もするので大人しく乗っておこう。

 それにこれから始まるであろうことはもちろん俺にとってもウェルカムな訳で。

 

「極限状態でこそ能力の真価が問われる」

 

 そんなことを言いながらしばらくベルトをカチャカチャと弄っていたかと思うと、あっさりと外された。

 もちろんズボンも脱がされる。

 ここまで来れば何が起きるかは流石に分かっているが、こいつもしや言いがかりをつけて自分の性欲を発散させたいだけなのではないだろうか。

 

「もうちょっと大きくなってる」

 

 パンツを下ろす前にその上から掌で触れられる。

 布越しの微妙な感覚に腰が引けそうになる。

 

「君のような可愛い子にされるのなら、そうならない方が失礼だろう」

 

 ピタ、と知佳の動きが止まった。

 そしてなんだかよく分からない表情でこちらを見上げる。

 なんだよ。

 

「なるほど、こうなるのか」

 

 ぽつりと呟いた。

 何がどうなるのかは分からないが何かに納得したようだ。

 何なのだろう。

 

 パンツもずりおろされ、誰もいないとは言え割と開けた場所でふるちんにさせられる。

 冷房が効いているのでちょっと寒い。

 知佳の手が触れる。

 こいつの手はぬくいな。

 

「……いつもより大きい。誰かに見られるかもしれないのが興奮するんだ」

 

 その側面はなくもない。

 が、それを認めるのもしゃくなので適当に誤魔化しておく。

 

「魅力的な子に触って貰ってるからさ」

 

「……ん」

 

 知佳が眉を寄せた。

 怒って……いるような雰囲気ではないがどういう感情なのだろう。

 

 そのまま事務的に扱き始める。

 というか、こちらをじっと無表情なまま見つめながら扱かれるので本当に仕事でされているような感じだ。

 しかしそれが嫌かと言うとそうでもなくて、退廃的で興奮する。

 そもそもこれは知佳から持ちかけてきていることなのでイヤイヤやっている訳ではないだろうし。

 

「脈打ってる。そろそろ出そう?」

 

「限界は近いかもしれないな」

 

「ふぅん。でも、だめ」

 

 ピタリと知佳は手を止めた。

 思わず俺がそれに文句を言おうとすると、するりと知佳もズボンとショーツを脱いで俺の方に放ってきた。

 なんでやねん。

 

「ティッシュが近くにないから、全部膣内(なか)に出して」

 

 ビリヤード台の方まで歩いていって、そこにもたれかかる。

 そして自分の手でまんこをくぱ、と開いてこちらに見せる。

 

「ほら、来て。準備は出来てるから」

 

 ティッシュがないから中出して。

 何か他に手はあるだろうに。

 

「悪い子だ」

 

 とは言え俺もここでお預けされてはいそうですかと引き下がれる訳もなく、自分で開いているまんこにちんぽの先を当てる。

 

「んっ……」

 

「挿れるよ。肩の力を抜いて。俺に委ねるんだ」

 

 既に湿り気を帯びていた膣内(なか)へ挿入する。

 扱いていただけなのにもう濡れていたのか。

 やはり期待していたということなのだろう。

 膣内はうねってちんぽをちゅうちゅうと吸い取るような動きをする。

 さっき俺に言っていたことが自分に返ってきていることに気付いているのだろうか。

 

「ん……♡」

 

 ぐりっと知佳が腰を自分で動かす。

 しかしこうして改めて正面から抱き合ってみると、身体の小ささを実感するな。

 

「まるで妖精だな」

 

「小さいのが好きなんでしょ」

 

 知佳がこちらを見上げてそんなことを言う。

 いや……特にそういう趣味はないと思うけども。

 以前もこんなやり取りがあったような気がする。

 

「ティナも小さいし」

 

 なんだそりゃ。

 

「彼女は困っていたから助けた。それだけさ」

 

「昔の私みたいに?」

 

「……ノーコメントだな」

 

 ぐい、と腰を動かす。

 

「あっ……♡」

 

 知佳が俺の首の後に腕を回して、そのまま抱きついてくる。

 身体が小さいというのはこういう時には便利なのかもしれない。

 そのまま知佳の身体を持ち上げ、駅弁のような形になった。

 初めてした時もそうだったが、屋外でする時はこのスタイルがベターなのかもな。

 男側にある程度の腕力と体力は求められるが。

 

「てっきり……っ、ティナにも欲情したのかと思ったけど……っ♡」

 

「年齢は聞いてないが、多分5つは年下だぞ。それに初対面だ」

 

「初対面、ね」

 

 知佳が意味ありげな表情で俺を見つめた。

 ……まあこいつ以外は全員初対面だったのだが。

 しかしよく考えてみれば今まで歳下に手を出したことはない。

 知佳は同い年だし、綾乃は1つ上。未菜さんは3つ上。

 スノウとウェンディは……よくわからないけど。

 そもそも年齢という概念があるのかどうかすら怪しいところだ。

 

「私とセックスしてる時点で、歳下が安全とも言い切れない」

 

「それはお前が特別魅力的なだけだろう」

 

「…………」

 

 ぎゅ、と俺に抱きつく力が強くなる。

 俺は別に平気だが、下手すりゃ苦しいくらいの力だぞ。

 どんな強い力で抱きついているんだ。

 

 しかし、それはそれとして既に手淫でギリギリの状態まで持っていかれているのでそろそろ出そうなのだが。

 

「良いよ、出して。全部膣内(なか)に」

 

「……っ!」

 

 耳元で囁かれ、我慢出来ずに中へ出してしまう。

 

「んっ……♡ 出て、る……♡ なかに……たくさん……っ♡」

 

 知佳も知佳で耳元で囁かれるのに弱いのは判明しているが、それは俺もなので結局お互い様の弱点なんだよな。

 互いに弱点を握り合っている状態なので結局イーブンなのだろうか。

 

 ぎゅう、と目を瞑って快楽に耐えている知佳を見ていると、それがなんだか可愛らしく思えてくる。

 いつもは余裕綽々という態度なので尚更だ。

 軽くキスをすると、そのまま舌を入れてきた。

 

「ん……♡ ちゅ……♡ ふ……ぅ♡」

 

 唇を離すと、知佳は挑発的に微笑を浮かべた。

 

「まだする……?」

 

「……二人の時間はまだ幾らでもあるからな」

 

 結局、いつまで経っても帰ってこない俺達をウェンディが呼びに来るまで続いたのだった。



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第46話:夜中

1.

 

 

「ティナは筋が良いわよ。元々魔力も多い方だけど、もう簡単な防御魔法も使えるようになったわ!」

 

 俺達が部屋へ戻るやいなや、まるで自分の事かのように得意げなスノウからそう報告を受けた。

 

「スノウ姉の教え方が良いの。とっても分かりやすかったわ」

 

 スノウがやたらとティナを気に入っているのもそうだが、ティナもティナでスノウにやたらと懐いていた。

 二人は性格も似ている部分があるし、波長が合うのかもしれない。

 

「あの子は末っ子だったので、姉のように振る舞えるティナ様がいるのは嬉しいのかもしれません」

 

 と、小声でウェンディの解説が入った。

 

「ああ、そういう……ティナもスノウ姉と呼んでいるくらいだし、確かに姉妹っぽさはあるな」

 

 しかし俺の勝手で連れてきたティナが馴染んでいるようでよかった。

 うんうん。

 

「それじゃ俺はちょっとほら、用事を思い出したから」

 

「待ちなさい」

 

 逃げ出そうとする俺の肩をスノウが掴む。

 何故だろう。

 本能が逃げろと言っているのだ。

 

 しかも既にエレベーターの前にウェンディが陣取っている。

 しまった、呼びに来た時は丸っきり普通だったから油断していた。

 

「ティナから聞いたわよ。あんたが弾丸をキャッチしたって」

 

 冷や汗が背中を流れる感覚。

 

「はは……スゴイだろ?」

 

「正座」

 

 有無を言わさぬ迫力。

 

「はい」

 

 その場に正座させられる。

 ティナが申し訳無さそうに俺を見ている。

 いや……君は悪くない。

 調子こいてNINJAとか言って口止めしておかなかった俺が悪い。

 そりゃそうだよな。

 仲良くなればティナは単に俺の武勇伝として、悪意なく弾丸キャッチのことを伝えるに決まっている。

 余裕綽々みたいな様子を見せていたのも悪かった。

 実際もう一度同じことをやれと言われてもぶっちゃけできるかよくわからないのに完全にえ? 実力ですけど? みたいな態度を取っていたからな。

 

「さっきあんた、危険なことはなかったとか言ってたわよね」

 

「危険なことに対する認識の差が出ているな。つまり俺が悪いのではなく、認識を共有しておかなかった俺達のミスだ。そうは思わ」「ないわ。殴るわよ」

 

「ごめんなさい」

 

 知佳には口止めしたものの、結局それも意味なかったな。

 

「マスター、これからはダンジョン以外でも私たちが同行します。少なくともアメリカにいる間――例のダンジョンを攻略するまではトラブルに巻き込まれる可能性がありますから」

 

 逃げる様子はないと悟ったのか、ウェンディも寄ってきて俺に釘を刺す。

 それくらいの措置は必要だろうな。

 もうトラブルはあちらからやってくるものと仮定した方がいい。

 今回は俺から突っ込んだが、既に巻き込まれているのだから。

 

「その……ごめんなさいユウマ。わたしのせいで……面倒事に巻き込まれたのよね」

 

 ティナが申し訳無さそうに謝ってくる。

 

「いいんだよ、そんなことは。お前の気にすることじゃない」

 

 実際、あそこでもしティナを見捨てていたらそれはもはや俺じゃない。

 正直俺の口からは誰が悪いとかも言えない。

 今はティナの側に立っているからアメリカ政府が悪いと言いたいところだが、国内外への問題解決に注力しているというアピールが必要なのも理解できる。

 やはり問題解決したいのならダンジョンをどうにかするしかないのだろう。

 

「……知佳、生還者はまだ何も喋ってないのか?」

 

「今調べてたけど、まだ目を覚ましてすらない。むしろ容態が悪化してるという情報ならある」

 

「どうしたもんかね……」

 

 もしこのまま目を覚ますことがなければ、どこかの国がしびれを切らしてダンジョンへ突入する可能性がある。

 もし手柄を独占することができればアメリカに大きな恩を売ることになるからな。

 しかしアメリカの特殊部隊がことごとく惨敗しているダンジョンに突入して無事で済む保証はない。

 

 まあ、結局今考えたところでどうしようもないのだが。

 生還者が無事に目を覚ますのを祈るしかない、というのはもう何度も達した結論だしな。

 

 どんよりした空気になりつつあったところを、ウェンディがぱん、と手を鳴らして断ち切る。

 

「そろそろ食事にしましょう。ルームサービスに連絡いたします」

 

 

2.

 

 

 薄暗い天井をぼんやり眺める。

 ベッドは何故か一つしかないので、女性組に譲って俺はソファで寝ようとしているのだが、如何せんソファで寝ることなんてないのでなかなか寝付けない。

 寝心地だけで言えば恐らく引っ越す前のベッドよりも上なのだろうけど。

 

 ティナがいなけりゃベッドで寝るんだけどな。

 今更気にすることでもないし。

 

 時差ボケなのかなんなのか全然眠くならんな……

 しかし夜の散歩に行く訳にもいかない。

 そのためにウェンディかスノウ起こすのは申し訳なさすぎるし。

 

 ホットミルクでも飲もうかな。

 一応このフロアぶち抜きのやたら広い部屋にはキッチンスペース的な場所もある。そこには冷蔵庫もあり、ミルクが入っていたはずだ。

 電子レンジもあった……と思う。

 ルームサービスは24時間対応していると言っていたし最悪頼めばいいか。

 

 薄暗いので足元には気をつけつつ立ち上がろうとすると、少し離れたところから「きゃっ!」と聞き覚えのある声が聞こえた。

 ついでばしーん、と転んだような音も。

 

 ……そういえばずっと寝てたからあいつも寝付けないのか。

 

「いたた……」

 

「大丈夫か、綾乃」

 

「え? あ、悠真くん。ごめんなさい、起こしちゃいましたか?」

 

 手を貸しつつ立ち上がらせる。

 

「いや、寝付けなかったところだ」

 

「あ、そうだったんですね。実は私もなんです」

 

 薄暗い中でえへへ、と綾乃が照れくさそうに笑う。

 他の4人は寝ている中、小声で喋っているのでなんか悪いことをしているような気分だ。

 

「そりゃ綾乃はずっと寝込んでたからな。飛行機乗ったのは初めてなのか?」

 

「はい。まさか飛行機があんな酔う乗り物だとは思ってませんでした……」

 

 いやあ、あそこまでグロッキーになる人は多分あまりいないと思うぞ。

 

「今は平気なのか?」

 

「はい、随分と楽になりました。ご迷惑をおかけしました」

 

「いいよ、いつも世話になってるんだし」

 

「……ふふ」

 

 何故か綾乃が笑う。

 俺が首をかしげると、

 

「すみません、なんか小声でこそこそ喋ってるといけないことしてるみたいだなって」

 

「わかる」

 

「修学旅行の夜に恋バナしてるみたいですね」

 

「そんなイベントもあったなあ」

 

 中高生の時は特に余裕のない時期だったのでそういうのとは無縁だが。

 

「修学旅行って聞くと、そこで告白してカップルが大量に生まれてたなあ」

 

「ああ、そうでしたねえ」

 

「綾乃はそういうのなかったのか?」

 

「いえ……その男性のことは怖かったので。つい最近までは。というか今でも怖いは怖いんですけど。あっ、でも悠真くんは平気なんです。本当に」

 

 慌てたように否定する綾乃。

 それは別になんとなく分かっているが、面白いので少しからかってみるか。

 

「そっか……男が苦手なのに無理に付き合わせちゃって悪いな」

 

「ええっ!? だからそんなことはなくって、その……」

 

「じゃあ証明できるか?」

 

「しょ、証明ですか?」

 

 綾乃は少し悩んだ挙げ句、俺に抱きついてきた。

 おお!?

 いやまさかこんな手段でくるとは思っていなかったので驚いてしまった。

 しかもかなり強く胸を押し付けてきている。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……♡」

 

 ……なんか興奮してない?

 何故そうなったのかはわからないが、どういう訳か綾乃は発情していた。

 エロすぎる。

 ちら、と皆が寝ている方を見る。

 起きてくる気配は……ないな。

 

「あっ……♡」

 

 すぐ近くにあったソファへ綾乃を押し倒す。

 完全に発情している目だ。

 無理やり押し倒されたというのに全く怖がっている様子はない。

 男性は怖いが、俺は別というのは本心なのだろう。

 

「私また犯されちゃうんですか……?」

 

 言葉ではそんな風に言っているが、明らかに期待している表情だ。

 

「卑しい奴だな」

 

 ぎゅう、と強く胸を揉んでやる。

 

「んっ――♡ あぁっ♡」

 

「言葉で責められるのもこうして強くされるのも好きなんだろ? つくづく変態だよな。起きてきたのもこうなるのを期待してたんじゃないのか?」

 

「ち、ちがっ――あああんっ♡」

 

「口答えするな」

 

「は、はいっ……♡」

 

 とことんMっ気の強い奴だな。

 ともすればただいじめているだけなのに感じているようだ。

 目の中がハートになっているような錯覚さえ覚える。

 

 しかし女の人って寝る時にブラをつけないのだろうか。 

 先程までベッドにいたはずの綾乃は当然のようにノーブラである。

 脱がせる手間がないのはいいことなのか、それとも脱がせる手間を楽しめない分は損しているのか。

 

「ほら、もう濡れてるんだろ。股開け」

 

「はい……♡」

 

 綾乃がズボンを脱いで言われた通りに股を開く。

 そして予想通り、既に濡れていた。

 本当にマゾ中のマゾだな。

 俺もちんぽを出して、てらてらと愛液で濡れて僅かな光を反射しているまんこの入り口にあてる。

 

「んっ……あれ、挿れない……んですか?」

 

「タダで挿れて貰えると思ったか?」

 

 ぺちぺちと肉棒を揺らして綾乃の肌を叩く。

 本当は顔にやりたかったが、既に挿入間近の態勢になっているので今回は我慢しよう。

 

「えっ……お金を払うんですか? えっと……何万円でしょうか?」

 

「違うわバカ。払おうとすんな」

 

 素で突っ込んでしまった。

 しかし綾乃はバカと言われたのが嬉しいのか恍惚とした表情を浮かべている。

 こいつ日常生活に支障をきたすレベルのマゾじゃないのか。

 よく今まで平穏無事に過ごせてきたな。

 

「おねだりだよ、おねだり。ほれ、してみろ」

 

「はっはい……その……私のおまんこにおちんぽ挿れてください、お願いします」

 

「普通すぎるな。やり直し」

 

「ええっ!? 普通すぎるって……ひどいです悠真くん……」

 

 ひどいと言いながら顔は嬉々としているが。

 何も知らない人が見たら情緒がバグってるヤバイやつだ。

 

「もっと淫乱な雌豚らしく、みっともなくねだれよ。そうだな、お前がやれないのならスノウでも夜這いに行くか。用済みだからな。取り繕わずに全部本音で言えよ」

 

「うぅ……♡ 悠真くんのおっきなおちんぽ、私のぐちょぐちょのやらしいおまんこに挿れてください……♡ 奥までたくさんかきまわして、孕ませてくださいぃ♡♡♡」

 

 ずりゅん、と膣口にちんぽを擦り付ける。

 

「あひんっ♡ な、なんで、ぇ……♡ 挿れてよぉ……♡」

 

「口の利き方がなってないな」

 

 ばしん、と露出された豊満な胸を叩く。

 結構な強さで叩いたので白い肌が赤く染まる。

 

「あんっ♡ はっ……♡ あっ……♡」

 

 びくん、と身体を震わせて絶頂したようだ。

 ただ叩かれただけで。

  

 そしてその絶頂に合わせて一気に挿入する。

 

「ひぐっ――♡♡♡ あっ♡♡♡ は、~~~~っ♡♡♡」

 

 一番奥まで、全く慣らさずに手加減なしの一息での挿入。

 とんでもない圧迫感を感じているはずだ。

 実際、まるで空気を求める魚のようにぱくぱくと口を開いたり閉じたりしている。

 目を大きく見開いてガクガクと身体を痙攣させる。

 明らかに苦しさも感じているようだが、綾乃の場合はそれによって更に相当深く絶頂しているようだ。

 

「ん――むぅ――♡ んーーーーー♡♡♡」

 

 酸素を求めて大きく開かれている口を手で塞いでやる。

 流石に抵抗するような素振りを見せる綾乃だが、仮に俺が魔力による身体強化をされていなくとも男女の力の差というものは歴然としている。

 口を塞ぐ手をどかすことは出来ない。

 そしてそのままピストンを始める。

 

「ふぅ――♡ ふぅ――♡ んっ♡ ふぅ♡ ふっ♡ ふっ――♡♡♡」

 

 たまに空気を吸えるように一瞬緩めたりしているので窒息死してしまうということは恐らくないが、感じている快楽の都合上、それでも酸素は足りていないようだ。

 段々と焦点があわなくなり、うつろになってきている。

 目には涙がうっすらと浮かんでいる。

 

「苦しいか?」

 

 馬鹿にするように問いかけると、綾乃はこくこくと首を動かした。

 

「なら――」

 

 耳元で囁く。

 

「やめてほしいか?」

 

 綾乃は――

 頷かなかった。

 俺はそれに思わず口元を歪める。

 

 抽送を早める。

 互いの肉と肉が混ざり合ってしまうのではないかと思うほど激しく、強く。

 流石に苦しくなってきたのか、綾乃が俺の手を自分の手でどかそうとしてきた。

 その両手を片手で纏めて掴み、拘束する。

 

「んーーーっ! んんんんーーーーーっ♡♡♡」

 

 必死に何かを訴えかけるような目。

 暴れる身体。

 拘束から逃れようとする手。

 全てを力ずくで押さえつけ、俺はやがて射精した。

 

「んっ――♡♡♡ んんんんんんん゛ん゛ん゛――♡♡♡」

 

 昂ぶった気分に合わせるように心臓の鼓動も早く強いものになっている。

 それとほとんど同じようなリズムで射精の波が訪れ、全てを腟内へ注ぎ込んで行く。

 そして全てを射精しきった後、ふと我にかえる。

 

「おい、大丈夫か!?」

 

 手を離し、アヘ顔とはこういうのを言うのだろうというあまりにもテンプレ的なアヘ顔でほとんど失神している綾乃。

 呼吸はしているのでどうやら無事ではあるようだが、完全に気を失っている。

 アメリカに来てからの大部分を気絶して過ごしていることになるぞ。

 しかし幸せそうな顔だな……

 少し熱くなっていたとは言え、流石に明らかにヤバイとなればやめるつもりでいたが、どうやらこれくらいギリギリなのが綾乃的にはお気に召すようだ。

 

 しかしやりすぎはやりすぎなので明日謝っておこう。

 俺も一発しか出していないとは言え、非日常すぎるセックスに疲れた。

 とりあえず綾乃の身体は適当に拭いてベッドに投げ捨てて俺も寝よう。



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第47話:攻略スタート

1.

 

 

「あいてて……」

 

 大きめかつ高級素材らしく柔らかいソファで寝ていたとは言え、流石に背中や腰が痛い。

 ベッドで眠るほど開放的ではないからな、どうしても少し窮屈な寝方になってしまう。

 

「マスター、マッサージしましょうか?」

 

「あー……お願いしようかな」

 

 ウェンディの提案を受け入れる。

 この間のは冗談だったが、今回は本当に肩や背中が痛いので仕方ない。

 

「あー、そこそこ。気持ちいい。あ~」

 

 この間一瞬やってもらった時も思ったが、マッサージ上手いよなウェンディ。

 マッサージで食っていけるのではないだろうか。

 そんな俺たちの様子を見ていたティナが真剣な表情で何か考えこんでいる。

 

「ユウマはNINJAマスターなの?」

 

 そして口を開いたかと思えばこれである。

 なんだNINJAマスターって。

 

「そう、悠真はNINJAマスター。全ての忍術を使いこなし、女を侍らせる」

 

 知佳が悪ノリする。

 

「全ての忍術ってなんだよ。水の上でも歩けるのか俺」

 

「やっぱり……昨夜のもそういうことだったのね」

 

 ティナは何やら納得しているが、小声だったので後半部分は聞き取れなかった。

 一応昨日の時点で俺がNINJAだという話の誤解(というか意図的についた嘘ではあるが)は解けたはずなのだが、どうやらまた再燃しているようだ。

 こうなってはもう説明しても無駄だろう。

 ティナの中で俺はNINJAになってしまった。

  

 うーむ。

 完全に自業自得である。

 

 

「……あ」

 

 パソコンを弄っていた知佳が短く声をあげる。

 何か嫌な予感のする「あ」だな。

 

「どうした?」

 

「唯一の生還者の死亡が確認されたって」

 

 知佳はいつも通り淡々と答えた。

 しかしその言葉の意味する現実は重くのしかかるのだった。

 

 

2.

 

 

「作戦の決行は明日……ですか」

 

『ああ。元々は君の予想通り、生還者が目覚めるのを待つ予定だった。だが、先程報道で流れた通り――』

 

「ダンジョン内の情報を持つ者はいなくなってしまった」

 

『そういうことだ。待つ必要がなくなれば、集まっている面子も探索者としては上位陣ばかり。いつまでも燻ぶらせている訳にもいかないというお上の決定だ』

 

 知佳が情報をキャッチした後、俺はすぐに柳枝(やなぎ)さんへ連絡し、未菜さんと連絡のつく番号……未菜さんのマネージャーの連絡先を教えて貰った。

 そしてすぐさまそちらに連絡を取り、現在は未菜さんと話している。

 

「柳枝さんから話は聞いているかもしれませんが、未菜さんが行くのなら俺達はそれより先に突入します。それが約束でもあり、俺が決めたことでもありますから」

 

『……私としては君を危険な目に遭わせたくないのだがな』

 

「それは俺だって同じ気持ちです。それに、こういうことはあまり言いたくないですが……未菜さんたちの方がよほど危険ですから」

 

『……耳の痛い話だが、事実だな』

 

「未菜さん、一つお願いがあるんです」

 

『なんだ?』

 

「俺達がダンジョンへ突入している間、未菜さんは姿を隠して貰えませんか」

 

『どういうことだ』

 

 電話の向こうで未菜さんの空気が変わるのがわかった。

 どういうことだ、と聞いてはいても何をさせたいのかはすぐに察したのだろう。

 

「俺達の手柄を未菜さんへ――INVISIBLEへ譲ります」

 

『冗談でも笑えないな』

 

「本気だから笑えないんです」

 

 俺達がダンジョンへ突入してそのまま攻略したとしよう。

 そうすれば所在不明の誰かがダンジョンを攻略したということになり、手柄の在り処は宙ぶらりんになる。

 しかし日本所属のINVISIBLE――正体不明の探索者が攻略された時間帯に姿を消していた、ともなれば、誰がやったかは一目瞭然だ。

 多少揉めるかもしれないが最終的に手柄は日本のものになるだろう。

 

 ティナをあんな風に扱うアメリカ政府の一人勝ちというのが単純に気に食わないというのもあるが、ダンジョン管理局には世話になっている。

 そもそも今回ここまで来れたのも彼らのお陰なのだから、筋は通すべきだ。

 

「お願いします」

 

『君が言っていることを実行すれば、君自身が危険を冒すというのに何の報酬も得られないんだぞ。命を賭けるにも関わらずだ』

 

「死にませんよ。精霊が二人もついているんです」

 

『しかし……』

 

「信じてください」

 

『…………』

 

 しばらく沈黙が流れる。

 止める言葉を探しているのだろう。

 

「ちなみに柳枝さんには既にこの話は通してあります」

 

『勝手なことを……』

 

 電話の向こうで呆れているのがわかるな。

 実際のところ、柳枝さんにも相当反対はされたのだが。

 最終的には了承してもらえなくても勝手にやる、と言ったらなんとか頷いてくれたという感じだ。

 

『……わかった。しかし君はお人好しがすぎるな。君は政治には何の関わりも持っていないし、今回招集されたメンバーでもない。知らんぷりをして日本で待つだけでも良かったのだぞ』

 

「知っている人が危険な目に遭うんですからそりゃ無理な相談ですよ」

 

『君には借りてばかりだな』

 

「返してるんです。これからも末永くよろしくお願いしますよ」

 

『必ず生きて戻れ。必ずだ。そうじゃなかったら私は泣いてしまうからな』

 

「泣いているところを見てみたい気もしますが、死んだら見れないのでちゃんと生きて戻りますよ」

 

 その後しばらく今後の流れを話して電話を切る。

 当然、死ぬつもりなんてない。

 元々より万難を排する為に生還者から情報が出てくるのを待っていただけだ。

 それがないのならないなりに動くだけである。

 

 

3.

 

 

「わたしも着いていく」

 

 武器の簡単な手入れをしたり知佳が他の国の動きを調べたりしてくれている中、ティナがそんなことを言い出した。

 全く想定していなかった言葉にフリーズしてしまう。

 

「なんて?」

 

「わたしも着いていきたいと言ったの」

 

 断言する。

 強い決意をみなぎらせているのはわかるのだが、あれほどダンジョンに行くのを嫌がっていたというのにどういう風の吹き回しなのだろう。

 

「ダンジョンへ行くんだぞ? お前が嫌がってたところだ」

 

「そうよ……でも、あなた達を見てたら私だけ怖がってるのも恥ずかしくなったのよ。わたしも誰かの為に頑張りたい。生きてる人がいたら、私の力も役に立つでしょ?」

 

「それは……そうだが」

 

 スノウやウェンディも人を感知することはできる。

 俺もその気になれば似たようなことは可能だ。

 しかしスキルとして発現しているものとはやはり有効性は違ってくるだろう。

 実際、ティナの力は有用だ。

 だからこそアメリカ政府は彼女をダンジョンへ突入させたかったのだから。

 

「もちろん手柄はいらないわ。ただわたしも震えて待っているだけはいやなの。出来ることがあるのに待つだけなのは――いや」

 

「危険すぎる」

 

 俺は実質ウェンディとスノウの魔力タンクだ。

 なので着いていくしかないが、それにしたって危険なことには変わりない。

 雑魚を相手する分にはどうってことないがボス相手には手も足も出ないのだ。

 ましてやティナはほとんど一般人である。

 魔法を扱う才能はあるようだが、それにしたって昨日の今日で戦えるレベルには達していないだろう。

 

「いいと思いますよ」

 

「え……」

 

 意外なところからティナへの援護が来た。

 しばらく様子を静観していたウェンディだ。

 

「私かスノウ、どちらかしか同行しないのならともかく、二人ともダンジョンへ入るのなら守るのが一人でも二人でも大差はありません。それでもティナ様に何かあるとしたら、我々も無事では済まない時ですから」

 

「じゃあ危険なことには変わりないだろ?」

 

「それだけの覚悟はあるでしょう。ダンジョンの危険度は彼女も理解しているはずですから」

 

 ティナの方を改めて見ると、こくりと頷いた。

 ……なるほどな。

 柳枝さんや未菜さんが反対する理由がよく分かった。

 こういう気持ちになるのか。

 年少者が危険な地へ自らの意思で赴こうとするのを見ると。

 

 そもそも俺自身も危険は承知で入るのだから、同じだけの覚悟を持っているのだったらそこで反対する理由はないのだ。

 ウェンディが問題ないと言っているのなら事実問題はないのだろうし。

 

 一応スノウにも意見を聞いておくか。

 

「ウェンディはこう言ってるけどどうだ?」

 

「ウェンディお姉ちゃんの言うことにあたしが反対する訳ないでしょ」

 

 スノウはあっさりしていた。

 信じるべきものがはっきりしているからだろう。

 

「まあ実際、雑魚相手ならあんたでもティナのことは守れるでしょうし、ボス相手ならそのあんたも足手まといなんだから大差はないわよ」

 

「はっきり言ってくれるなー……」

 

 まあ事実なのだが。

 万全の状態でのスノウ、そして同等の力を持つウェンディ。

 この二人がいるのなら俺は戦力として見るならばいてもいなくても同じだ。

 多分その辺を飛んでいる蚊と同じくらいの影響力しか持たない。

 

「むしろ生きてる人を見つけられる分、ティナの方が有用だったりするかもしれないわね」

 

「流石に泣くぞ」

 

「冗談よ」

 

 うーん。

 二人がいいと言うなら俺としてもこれ以上反対する理由がない。

 

「ただし、ティナ様。これだけは肝に銘じておいてください」

 

 ウェンディがティナと目線を合わせて言い聞かせる。

 

「なに?」

 

「もしマスターとティナ様、両方に同時に危険が降りかかれば私はマスターを優先します」

 

 ……まあウェンディならこう言うだろう。

 それにティナは全く物怖じしないで頷く。

 

「うん、わかってる」

 

「ではもう何も言うことはありません」

 

 どうやら本当にそれ以上言うことはないようで、それだけであっさりと決まってしまった。

 なので俺はスノウに近寄っていって小声で耳打ちする。

 

「ウェンディはああ言ってるけど、お前はティナを優先してくれよ」

 

「……あたしもあんたの精霊なんだけど?」

 

「でも頼む」

 

「善処はするわ」

 

 そう言いつつも、スノウはティナのことを気に入っているようだし多分もし何かあればちゃんとそうしてくれるだろう。

 もちろんベストは何事もなくダンジョンを攻略できてしまうことなのだが、やはり特殊部隊が壊滅ということがどうにも引っかかる。

 何かあるように思えて仕方ないのだ。

 

 ただの杞憂ならいいんだけどな。

 

 

4.

 

 

「ね、ねえ、これって冗談よね?」

 

 ティナが俺の腕にしがみついてがたがたと震えている。

 正直俺も冗談だと思いたいが、一番簡単かつ確実な方法を取るのだから仕方がない。

 

 俺たちは今、ホテルビルの屋上に建っている。

 最初から高いところの方が比較的ラクだから、という理由らしい。

 

「しっかりマスターに掴まっていてくださいね。もし落ちたら助けられないかもしれませんから」

 

 ウェンディの言葉にこくこくこくこくと高速で頷くティナ。

 ダンジョンへ突入すると言っていた時よりも怖がっているように見える。

 当たり前の話かもしれないが。

 

 なにせ、数キロは離れたビル型のダンジョンの屋上までここから飛んでいくと言っているのだから。

 しかも生身で。

 

「別にそんな怖がる必要もないわよ? 意外と快適だから」

 

 スノウはのほほんとしているが、俺達にとっては初めての経験なのだから察してほしい。

 正直俺もめっちゃ怖いけどティナが俺より怖そうにしているので逆に落ち着いているだけだ。

 

「では行きます」

 

 ウェンディが宣言すると、俺達の周りに風が吹いた。

 かと思うと一気に身体が浮かび上がる。

 

「お、お、おっ!?」

「わっ、わっ、わっ!?」

 

 俺とティナが初めての浮遊感に慌てふためいている間にもぐんぐんと高度は上がっていく。

 

「スノウ、認識阻害の魔法を」

 

「わかったわ」

 

 そしてその直後に――

 ぐん、と景色が物凄い勢いで流れる。

 しかし風圧などは感じない。

 どういう原理なのかは知らないが、恐らくウェンディの能力で風圧は弾いているのだろう。

 

「は、速い、速いわっ!」

 

「お、おう」

 

 ティナは先程の怖がりようはどこへやら、なんだかはしゃいでいた。

 俺は正直まだ怖い。

 だって速すぎるだろこれ。

 新幹線くらいスピード出てないか?

 

 体感的には1分程度。

 

 俺がびびり倒している間に、ぐん、と今度は減速して着地する。

 ダンジョンと化したビルの屋上。

 明らかに情報で聞いていたよりも広く見えるのはダンジョン化した影響なのだろう。

 新宿のもそうだったが、明らかに外見のサイズ感とあわない広さを持つのもダンジョンとしての特徴の一つだ。

 

 しかし少なくとも屋上はどうみてもただの屋上だ。

 モンスターがいるという様子もない。

 

「中に入ってからが本番ってことね」

 

 言いながら、スノウは小さな氷の塊を掌に2つ作り出した。

 それを俺とティナに一つずつ渡す。

 

「万が一はぐれてもあたしとウェンディお姉ちゃんはそれの魔力を辿って合流できるわ。特にティナはもしもはぐれてもそこから動かずに待っていること」

 

「う、うん」

 

 ティナは素直に頷く。

 

「……よし。じゃあ行こうか。速攻で攻略してしまうのがベスト。最悪でも何か情報を持ち帰るか、生存者を外へ連れ出そう」

 

 パン、と掌を合わせて気合いを入れる。

 

「あんたは何もしなくていいわよ。ウェンディお姉ちゃんが先頭、あんたとティナは真ん中で手を繋いでて。あたしが殿を務めるから」

 

「……はい……」

 

 ぐうの音も出ない完璧な布陣だった。



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第48話:鬼ごっこ

1.

 

 

 ウェンディがまず屋上から中へと通じる扉を開いて中を確認する。

 

「……かなり広くなっていること以外は、中は普通のビルのようになっていますね。とりあえず周囲にいたモンスターは倒したので、しばらくは安全です」

 

 周りのモンスターを倒したって言ったか今。

 ちらっと中を覗いただけなのに?

 スノウも俺の見えないところでモンスターを倒していたが、強さを極めるとみんなこうなるのだろうか。

 

 ウェンディが特に躊躇もしないで中へ入っていくので、俺はスノウに言われた通りティナの手をとって後に続く。

 

 中へ入った瞬間――

 

「……これは……」

 

 何かいやな感じ、としか言いようがない得も言われぬ不安感が襲いかかる。

 なんだこの感覚。

 

「あんたも肌でわかるようになってきたのね。ダンジョンの難易度が」

 

 思わず足を止めてしまった俺の背中をぽん、とスノウが押す。

 

「いい傾向よ。危険度が直感でわかるようになれば一人前まで後少しだから」

 

 どうやらまだ一人前と認められてはいないようだ。

 ちなみに扉の向こうは階段ではなく、ビル内のフロアに出ていた。

 明らかに建物の構造を無視しているが、ダンジョンにその手のツッコミはいまさらだろう。

 

「このフロアは会社のオフィスとして使われていたようですね」

 

 コンピュータが整然と並び、デスクの上には書類が積まれている。

 ときおり電源の入ったままのものがあるのはまだ電気が通じているから、ではなくダンジョン内の不思議エネルギーのお陰だろう。

 しかし人影は全くないな。

 

「……入ってすぐに大量の死体、なんてのも覚悟はしてたんだが……」

 

「この建物がダンジョンになる際に取り込まれた(・・・・・・)のでしょう。ティナ様、人の感知はできますか?」

 

 ウェンディが後ろを振り向いて確認するが、ティナは悼ましげな表情で首を横に振る。

 

「……このフロアには生きてる人はいないわ」

 

「そうですか。では先を急ぎましょう」

 

 淡々と答えたウェンディが先へ進むので俺たちも着いていく。

 死者を悼むのはダンジョンが攻略されてからでいい。

 

「……にしても、異常にモンスターの数が多いわね」

 

 後ろでスノウがぼやく。

 

「そうなのか?」

 

「本当に異常な数よ。処理しないで進もうと思ったらもうとっくに囲まれてるわ」

 

 少なくともこうして進んでいる限りは全くその大変さは伝わってこないが。

 それだけスノウとウェンディの処理能力が優れているのだろう。

 俺たちの視界の外でモンスターが氷漬けにされたり風で細切れにされたりするのを想像するとちょっとモンスター側に同情してしまいそうになる。

 

「マスター、なるべく警戒を怠らないでください。この形のダンジョンならば一番上――つまりここが最奥部なはずです。ボスの気配は感じませんが、いつ飛び出てきてもおかしくはないので」

 

「そっか。そうだよな」

 

 ウェンディの警告を受けて気を引き締める。

 いくらスノウやウェンディが優れているからと言って、結局ダンジョンの中であることには変わりない。

 それにモンスターの数が異常に多い程度で特殊部隊が帰ってこれなくなるのかというのもやはり疑問だ。

 

 少なくとも、未菜さんや柳枝(やなぎ)さんくらいの実力者ならば囲まれても突破して入り口まで戻ることくらいはできるはずだ。

 

「トラップの類、ってことなのかな」

 

「ずっとトラップの警戒もしてるけど、全く見つかる様子はないわね。特殊な能力を持ったモンスターがいるのかもしれないわ」

 

 俺のつぶやきにスノウが答える。

 

「特殊な能力?」

 

「厄介な魔法攻撃をしてくるやつとか、それくらいならまだいいけど魔法自体を封じてくるやつとか色々いるわよ」

 

「そういうのは俺だと手も足も出ないんだろうな」

 

「あんたみたいに素の身体能力が馬鹿げてる奴は大抵どのモンスターにも有利取れるわよ?」

 

「……そうなのか?」

 

 馬鹿げてるという微妙に褒めてなさそうな言葉はとりあえずスルーするとして。

 

「ボス級にもなると一捻りないとキツイけど。その辺の雑魚相手ならまず力負けすることはないから、近寄ってぶっ飛ばせば終わりよ」

 

「簡単に言ってくれるよなあ」

 

 実際スノウにとっては簡単なことなのだろうけど。

 

「……ユウマはなんで力が強いの?」

 

 俺たちの会話を聞いていたティナが疑問を挟んでくる。

 そういえば説明してなかったっけか。

 

「ある一定以上の魔力を持ってる人は身体能力が上がるんだよ。ティナも相当多い方だからもうちょい増えたら力も強くなるんじゃないか?」

 

 最低でも柳枝さんクラス、とスノウが言っていたのでそれくらいを仮定するならばティナはあと一息と言ったところだろう。

 

「そんなの知らなかったわ……そもそも魔力なんてものがあるってこと自体も知らなかったし」

 

「まあ、ほとんど機密扱いっぽいしなあ」

 

 というかこれ言ってしまってよかったのだろうか。

 いやまあ誤魔化し続けるのも無理があるか。

 目の前で人間離れした動きをしてしまった訳だし、そもそも現状を説明するのに魔力抜きでは無理だ。

 

「魔力はどうやったら増えるの?」

 

「……ダンジョンに頻繁に通うとか」

 

 後は俺に抱かれるとか。

 流石にこれは言えないが。

 そういえば、セックスすると魔力が増えるという関係上、昨日の夜に綾乃としたこともスノウやウェンディにはバレているのだろうか。

 

 知佳はそもそも異様に勘が鋭いので気付いていると考えると、ティナ以外の全員にバレてるってことじゃん。

 いや今更どうということもないのだが、なんだかそう考えると恥ずかしいような気もしてきた。

 

「だからわたしの魔力は多いのね。何度もこのスキルを使う為にダンジョンに入らされてるから」

 

 ティナは納得したように頷く。

 

「何度もって……今回だけじゃなかったのか」

 

「行方不明者が出る度によ。特殊部隊が帰ってこない、なんて得たいのしれないダンジョンとは違って、普通のダンジョンとかでだけど」

 

「なるほどなあ」

 

 確かに、考えてみればそもそもスキルが役に立つかどうかを知らなければ白羽の矢が立つこともないのか。

 実績があるからこそ今回も抜擢されたということだろう。

 

 もちろん元の素質も含めての話だろうが、数年前までバリバリ前線を張っていた柳枝さんの魔力量にあと一歩で匹敵するほど何度も。

 

 ……今回は俺たちが保護したから事なきを得たが、この先も同じようなことがあるかもしれないと考えるとただ攻略して終わり、というだけでいいのかわからなくなってきたな。

 いや、いい訳がないか。

 何かしらの対策を練らないといけないな。

 ……しかし相手はアメリカ政府か。

 うーん、どうしよう。

 後で考えよう。

 きっと明日の俺が何か思いついてくれるさ。

 

 

 そしてそのままひたすらパソコンが大量に並ぶだけのフロアを歩き続け、20分ほど。

 

「下の階へ続く階段です。このフロアではボスは出てきませんでしたね」

 

 ダンジョンということで異常な広さになっている。

 そしてスノウいわくモンスターが大量発生している、ということ以外は特に何事もなく最上階を突破してしまった。

 

「ダンジョンってボスを倒さないと攻略扱いにならないよな?」

 

「はい。なのでこのフロアで遭遇しなかったということは、他のフロアにまで探しにいかないといけません」

 

「だよな。それじゃどんどん行こう」

 

 

2.

 

 

 下の階は上の階とほとんど代わり映えのしないオフィスだった。

 しかし決定的に違う点があった。

 

「荒れてるな」

 

「戦闘の形跡がありますね」

 

 それもかなり激しい戦闘の跡だ。

 銃痕や刀傷が至る所に走っている。

 

「下から突入した特殊部隊がここまで来ていたのか?」

 

「それにしては弾痕が多いですね。ほとんど装備品を消耗しないでここまで来たと考えるのは少し無理があるかと」

 

「じゃあ……どういうことだ? ここまでワープしてきたとか?」

 

 半分冗談で俺はそう言ったのだが、惨状を見るウェンディは難しい顔をして黙りこくっている。

 

「ま、状況から見ればそうとしか考えられないわね。ワープ系のトラップを踏んでここまで飛ばされた。部隊はバラバラになっていて隊列もぐちゃぐちゃ、モンスターには善戦するもここで全滅してしまった――ってところかしら」

 

 ……確かに部隊がバラバラにされるのなら、スノウが多いと言うほどの数のモンスター相手では幾ら訓練を受けたプロでも多勢に無勢だろう。

 

「……モンスターがやけに多いって言ってたのは、全フロアがモンスター部屋みたいになってるってことだったりしてな」

 

「あり得なくはない話ですね」

 

 ウェンディが弾痕や壁についた傷を触りながら呟く。

 

「このダンジョンに入ってから既に数百体のモンスターを倒しています。それこそモンスター部屋と言っても良い程の数です」

 

 またもや半分冗談のつもりだったのだが。

 しかしモンスターの数と言い転移系のトラップと言い、聞けば聞くほど凶悪だな。

 

「でもそれにしてはトラップはないのよね。下の方に行けばあるのかもしれないけど」

 

「いいえスノウ。ここで人の反応が途切れています。つまり、ここで戦闘をした人達はここからまたどこかへ転移しているのです」

 

「……つまりトラップではないってこと?」

 

「そういうことでしょう」

 

 スノウとウェンディで話し合っていることを傍から聞いてなんとか理解すると、ようするにここにいた人たちはここでモンスターの大群をなんとか倒した後にまたワープさせられたということか。

 しかしスノウはトラップが見つからないと言っているので、トラップを踏んでそのワープが作動した訳ではない。

 

「……十中八九、モンスターかボスの特殊能力でしょう。強制的にワープをさせる――」

 

 突然だった。

 ウェンディが消えた(・・・)のは。

 

「あたしから離れないで!!」

 

 スノウが叫ぶ――が。

 そのスノウも次の瞬間消えていた。

 

 ……なんだ?

 あの二人が反応もできずにやられた?

 

 違う。

 ウェンディが消える直前に言っていた、強制的にワープをさせる能力。

 恐らくそれが発動したのだろう。

 

 コツン、コツン、コツン……

 

 革靴で床を歩くような音がする。

 その音がした方向を見ると、スーツ姿の男性がこちらへ歩いてきていた。

 

 生き残りか?

 

 いや――違う。

 あれは人間じゃない。

 顔の部分はまるで影に飲み込まれているかのように表情を判別できない。

 

 ボスだ。

 ゴーレム、首なし侍、巨大タコで感じたプレッシャーだとすぐにわかる。

 

「……俺達もワープさせてくれるってこたあ、なさそうだな……」

 

 ボスと戦うくらいならどこかへワープさせられた方がずっとマシだが、どうやらそういう訳にもいかないようだ。

 ただ分断したかっただけなのか、俺達が一番弱いと踏んだのか。

 あちらさんは戦う気満々のようだ。

 

「ゆ、ユウ、マ……」

 

 ボスの放つプレッシャーに当てられてティナがガタガタと震えている。

 

「……大丈夫だ」

 

 俺とティナが分断されていない理由。

 多分それは手を繋いでいるからだ。

 触れ合っていればワープで引き離れる心配はない。

 逆に言えば、俺達の手が離れた瞬間にどちらかがワープさせられる可能性がある。

 俺はともかく、ティナを一人にするのはまずい。

 

 そしてティナがいようがいまいが、ボスと戦うのはどう考えても悪手だ。

 

 スノウやウェンディはすぐに戻ってくるはず。

 ならそれまではひたすら逃げ回って時間を稼ぐしかない。

 

 ティナの腰を抱える。

 実に三度目の本気で逃げる時の態勢。

 

「なるべく早く戻ってきてくれよ……!」

 

 最悪の鬼ごっこが始まる。



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第49話:激怒

1.

 

 

 スーツ姿の男――このダンジョンのボスがこちらに向かって右手を突きつける。

 その手の形は銃のハンドジェスチャー。

 つい最近それ(・・)に撃たれたという経験がなくとも、すぐに何が起きるのかは察することが出来た。

 

「――っ!」

 

 ティナを抱えて横っ飛びに飛ぶ。

 すると、俺たちが先程までいた地点を黒い光線のようなものが通過していった。

 射線にあったデスクやパソコンを当然のように綺麗に貫通している辺り、銃弾とは違って掴めたりはしないと考えた方がいいだろう。

 

 速度も拳銃のそれとは段違いだ。

 正直、見てから避けたり受けたりするのは不可能だろう。

 

 今のはわかりやすいモーションだったから避けることができただけだ。

 

「……にしても遠距離攻撃持ちかよ」

 

 スノウかウェンディが合流するまで逃げ続けるしか選択肢がないのに、相手が飛び道具搭載とはなんと運の悪いことか。

 

「ティナ、しっかり歯を食いしばってろよ。舌を噛んで怪我しても面倒みきれないからな」

 

 とにかく遠くまで逃げてなるべくこいつの直線上から逃れるんだ。

 

「ゆ、ユウマ? なにをするつもりなの?」

 

 お馴染み三度目の抱えられるティナが既に察している様子で質問してくるので、俺は短く答えた。

 

「走るんだよ」

 

 

2.

 

 

 抱えているティナにパシパシと腕をタップされる。

 

「――っ!」

 

 その瞬間に俺は斜め前に飛ぶ。

 すると、先程まで走っていた地点を黒い光線が貫いていく。

 抱えている体勢の都合上後ろを見れるのはティナだけだが、全力疾走している最中に喋ると危険だということで逃げている最中で思いついた光線の避け方である。

 

 スーツの男は遊んでいるのかなんなのか、俺たちを本気で追おうとはしていないようだ。

 

 舐めやがって、とは思うが実際この遊ばれている状態をずっとキープできるのが望ましい。

 正面から戦うことになれば勝ち目はないからな。

 

 しかし逃げ始めて5分は経ったが、二人が合流するまであとどれくらいかかるのだろうか。

 有名な話だが、追う側よりも逃げる側の方が精神的にも体力的にも消耗するのだ。

 かけっこやマラソンなんかで一度逃げる側になったことがある人には簡単にわかるかもしれない。

 

 今相手がどれくらい後ろにいるのか。

 あと自分はどれだけ逃げれば安全になるのか。

 この苦しみはゴールするまで続くのか。

 不安要素が出れば出るほど呼吸は乱れ、思考はぐちゃぐちゃになる。

 

 さらに言えばそのゴールがどこにあるのかもわからないこの状況。

 正直、いつまで逃げ続けられるかは全くわからない。

 

 そんなことを考えている間にもう一度腕をタップされる。

 条件反射で斜め前へ飛ぶと、すぐそこを光線が過ぎ去っていった。

 

 こんなことをもう何度繰り返しているだろうか。

 逃げる。避ける。逃げる。避ける。

 

 更には途中で何度かモンスターにも絡まれているので直線で逃げられている訳ではない。

 くそ、せめてボス部屋があるタイプのボスならまだ楽だったのだが。

 いやしかしそれだと逃げられないから一緒のことか。

 

 俺たちを残した辺り、あのボスにはある程度の知能はあるように見える。

 少なくともあの中で無力なのが俺とティナだということはわかっているのだろう。

 厄介な精霊二人は邪魔をされないようにどこかへワープさせた。

 

 今まで戦った三体のボスにそんな知能はなかったように思う。

 九十九里浜にいたタコ型のボスは不意打ちこそしてきたが、あれもどちらかを分断させようとしての結果ではなく自らが生き残るための選択だろう。

 

 しかしこのボスは違う。

 明らかに俺たちで遊んでいる。

 露骨な追い詰め方をしてこないのもその証拠だ。

 じわりじわりと獲物を追い詰めて楽しんでいる。

 

「左よ!!」

 

 抱えているティナが叫んだ。

 それと同時にぐいっと服の袖も左側に引っ張られる。

 反射的にそちらへ飛ぶと、俺たちのいた地点から少し右(・・・)を黒い光線が通過していった。

 

「……!」

 

 学習したのか。

 俺たちが何らかの合図で攻撃を避けていることを。

 利き足の都合なのかティナを抱えているのが左だからかなのまではわからないが、確かに俺は右に飛んで避けることが多かった。

 

 これもまた遊んでいたのだろう。

 避けられることをわかっていて、そこをそのまま狙っていた。

 だが少しずつこちらを追い詰めようとしている。

 

 徐々に死神の鎌が近づいてきている。

 

 掴まるのは時間の問題だろう。

 

 どうする。

 いつまでも遊んでくれるとは限らない。

 いや、今のから考えてもリミットはそう遠くない。

 それまでに二人が合流できるという保証もない。

 

 そもそもワープさせるってなんだ。

 トラップには気を配っていた。

 特殊な能力を持つモンスターのことも聞いていた。

 

 だがワープさせるボスが出てくるなんて流石に想定外だ。

 対応ができるであろうウェンディやスノウは初手で飛ばされ、俺たちだけが残された。

 

 どう足掻いてもどうにもならないのではないか。

 

 ――ここで死ぬのか?

 

「ユウマ、前――!」

 

 ティナがもう一度叫び、俺はハッとする。

 進行方向にスーツ姿の男が立っていたのだ。

 

 顔はない。

 だが、その表情はにたにたと嗤っているように感じた。

 

 ワープしたのか!

 そりゃそうだ、最初からこいつにワープする力があることは予測できていたじゃないか。

 

 スーツ姿の男はこちらにハンドジェスチャーの銃口を向ける。

 

「くそ――!」

 

 一瞬反応が遅れた。

 左腕を黒い光線が掠める。

 ぶしゅ、と少なくない血が吹き出る。

 

「ユウマ!!」

 

「大丈夫だ、見た目ほどじゃない」

 

 反応が遅れたのもそうだが、ティナに当たるかもしれないと思って避ける動作が無駄に大きかった。

 そのせいで体勢を崩した。

 痛みはまだ感じない。

 アドレナリンが出ているせいだろうか。

 

「ワープまで切ってきやがったかよ、この野郎……!」

 

 いよいよもって死が間近にいるのを感じる。

 

「ユウマ、もうわたしは置いていっていいから! あなたまで死んじゃうわ!!」

 

 どうするか考え込む俺にティナがそんなことを叫んだ。

 気が動転しているのか日本語ではなく英語になっている。

 彼女もまた死を間近に感じているのだろう。

 いつまでも逃げ切れるものじゃない。

 それはわかっている。

 

「……男ってのは、守るべき女性がいた方が強くなれるのさ。覚えておきな」

 

 ティナを安心させる為に俺も英語で返す。

 

 ……仕方ない。一か八かだ。

 腹を括れ、皆城(みなしろ) 悠真。

 

 どうせ瞬間移動じみた移動で追いつかれるのなら逃げるのはもう意味がない。

 ならここで戦って時間稼ぎしてやるさ。

 

「ユウマ、なにを――?」

 

 スーツの男が再び右手を構えた。

 その瞬間に距離を詰め、思い切り腹に蹴りを入れてやる。

 ズドン、と重い音と共に、俺の方が逆に体勢を崩してしまう。

 

「かってぇ……!」

 

 なんてこった。

 手応えがまるでない。

 巨大なゴムの塊を蹴ったかのような感覚。

 

 直後、黒い光線が発射される。

 咄嗟に今度は右腕に蹴りを入れてやる。

 今度は腹と違って相手の方に衝撃が行き、光線が発射される寸前の右腕がブレた。

 光線は脇腹を掠めていき、背後のパソコンやデスクを貫く。

 

 距離が近いだけあって避けるまでの猶予は短い。

 だが、逆に近づいた分、少しでもこのスーツの男の腕の方をずらしてやれば簡単に避けることができる。

 

 神経のすり減るスピードは早くなるけどな。

 それに打撃がほとんど効かないのが想定外だ。

 まさかここまで手応えがないとは思わなかった。

 

 ギリギリの攻防が始まる。

 スーツの男が腕を突き出す度にそれを蹴るなり殴るなりして逸らす。

 

 だが――

 その均衡が破れる時は唐突に来た。

 

 ドシュン、と。

 

 嫌な音がして、腹部に鋭い痛みが走る。

 右手を逸らした直後のことだった。

 俺のへその少し上のあたりに、奴の左手が銃のジェスチャーで押し付けられている。

 

 ――そりゃそうか。

 

 せりあがってくる生暖かい血を辛うじて飲み込む。

 右手ばかりに注目していたが、銃のジェスチャーで攻撃してくるやつが片手しか使えないなんてことはないだろう。

 

 あー……やばい。

 これは間違いなく致命傷だ。

 

 とんでもない勢いで血が流れ出ている。

 

 膝をついてしまう。

 もう立っていることすらも辛い。

 

 死ぬのか。

 

 俺は。

 

「いやよ、だめ! そんなことわたしがさせない!!」

 

 ティナが泣きながら俺の傷口に触れると、ふわりとした暖かな光がそこを包み始めた。

 スノウに治療魔法を教わっていたのだろうか。

 しかしいくら才能があるとは言っても、その練度は精霊二人とは比べ物にならない。

 傷口は塞がる様子はない。

 多少血の溢れる勢いは落ちたが、それでも助かるほどのものだとはとてもじゃないが思えない。

 

 ティナがスーツの男の前に立ち塞がる。

 

「殺すならわたしからにしなさい! この人は絶対に殺させないわ!!」

 

 ……ああ。

 だめじゃないか。

 手を離したら。

 

 いやでも、もう俺は死ぬからワープさせられようがされまいが同じなのか。

 

 時間……稼ぎきれなかったな。

 せめてティナだけでも守りたかった。

 

「きゃっ!!」

 

 パチン、と乾いた音が響いてティナが吹き飛ばされる。

 俺しか戦えないことに気付いているのだろう。

 後でじっくりいたぶって遊ぶつもりなのか、まだ殺しはしないようだ。

 

 俺が死んだらスノウやウェンディはどうなるのだろうか。

 また延々と地球のどこかをさまようことになる?

 それとも主を失ったというだけでこれからもそのまま生きていくことができるのかな。

 

 しかし本契約した俺がいなくなれば、いくらスノウやウェンディでもボスを相手にするのはキツイだろう。

 実際、ゴーレムやタコのボスにもそのままでは勝ち目がないと言っていた。

 そうなればティナだけではなく二人も死んでしまうのだろうか。

 

 スーツの男の右手が俺の心臓の位置にそっと当てられる。

 トドメを刺すつもりか。

 死ぬまで眺めているつもりかと思ったが、どうやらそれにも飽きたようだ。

 

 俺の次はティナが殺される。

 そしてマスターを失った二人も。

 

 帰ってこない俺たちに知佳はどんな反応をするだろうか。

 綾乃は? 未菜さんは? 柳枝さんは?

 

 色んな人を巻き込んだ挙げ句、全員を巻き込んで不幸にするのか。

 

「――そんな、の……許されないよな……!」

 

 スーツの男の右腕を左手で掴む。

 とんでもない怪力だ。

 既に力を失いつつ俺の力では一ミリたりとも心臓の位置から動かすことはできないだろう。

 

 死にかけて朦朧としている頭なのに――いやだからこそなのか、俺はとある一つの光明を見出していた。

 

「……喰らえ」

 

 左腕に魔力を集中させ――

 

 そのままスーツの男の右腕へ流し込む。

 

「――――!!!!」

 

 次の瞬間、スーツの男の右腕が破裂した。

 

 あの黒い棒きれを砂のように破壊することが出来るのなら、人体でも同じことが出来るかもしれないと思ってのことだったが、まさかここまでとはな。

 

「ざまーみろ」

 

 右腕を失ったスーツの男はひとしきり声にならない悲鳴のようなものをあげて苦しんだ後、今度は左手で銃の形を作って頭に突きつけてきた。

 

 今度こそ終わりだな。

 

 もはやその腕をもう一度掴んで同じことをするだけの猶予はないだろう。

 というか、もう俺の方に腕をあげるだけの力がない。

 

 やるだけやったさ。

 片腕は持っていった。

 後はスノウやウェンディがなんとかしてくれることを祈るしかない。

 

 俺は目を閉じ、最期の瞬間を待った。

 

 ……しかし。

 

 いつまで経っても光線が発射されない。

 

 目を開けると、そこには左腕を失った(・・・・・・)スーツ姿の男が悶え苦しむ姿があった。

 

 どころか、先程まで腹部を襲っていた激しい痛みが消えている。

 穴も――塞がっているようだ。

 

 

「――申し訳ありません、マスター、ティナ様。本当に、遅くなりました」

 

 ふわ、と風が吹いたかと思うと、目の前には泣きそうな顔をした翡翠の瞳の女性がいた。

 

「ですがご安心ください」

 

 俺から視線を切る瞬間、ぞっとする程冷たい目をしていたウェンディが言う。

 

「もう終わっていますから」

 

 スーツの男が、まるでシュレッダーにかけたかのように手足の末端からバラバラになっていく。

 音もなく、ウェンディの代名詞である風すらも吹かない。

 数秒後には大きな魔石一つ残して、ボスは消え去っていた。



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第50話:召喚準備

1.

 

 

 ボスの姿が消滅した後、すぐにウェンディが駆け寄ってくる。

 

「マスター! 大丈夫ですか!? お怪我は!?」

 

「俺は平気だからティナを看てやってくれ」

 

 実際、怪我は既に全て治っている。

 一番大きな致命傷となっていた腹の傷も綺麗さっぱりだ。

 ゴーレムで死にかけた時にも完全に治癒していたし、精霊の使う治癒魔法は桁が違うようだ。

 

「ティナ様の怪我ももう治してあります。ショックで気は失っていますが、命に別状はありません」

 

「そうか……よかった」

 

 ボスの奴も後で遊ぶつもりだったのかかなり加減した一撃ぽかったが、それでもティナの身体は俺のそれとは強度が全く違う。

 俺にとっては撫でるような威力でもあの子にとってはそうではない。

 

「……マスターはご自分よりも他人を優先するのですね」

 

 仕方ないなあ、と言った感じの表情でウェンディが俺を見る。

 

「だめか?」

 

「だめとまでは言いませんが、もう少しご自愛してください」

 

「善処するよ」

 

 既に立ち上がれる程に回復した。

 ……と思ったが。

 立ち上がった瞬間によろめいてしまう。

 

「治癒魔法は傷は治せますが、失った血までは戻せません。緊張感が途切れて疲労も重なったのでしょう。よろしければおぶっていきますが」

 

「流石にそれはよろしくないから勘弁してくれ……けどティナを運ぶのはお願いしようかな」

 

「承知しました」

 

 ウェンディが倒れるティナを背負って立ち上がる。

 流石に素の力が普通の人間のそれではないので当然のように俺のこともおぶって普通に歩いたり走ったりはできるのだろうが、絵面は地獄のそれだ。

 俺はなんとか歩いて帰ろう。

 

「そういえばスノウはまだ合流しないのか? 心配だな」

 

まだ(・・)合流できなくて悪かったわね……これでも最速で戻ってきたのよ」

 

「おわあ!?」

 

 急に後ろから話しかけられて飛び上がるほどに驚いてしまう。

 もちろん声の主はスノウだ。

 

「あのバカ(ボス)、一番下までワープさせやがったのよ。ここまで戻ってくるのも大変だったんだから」

 

 ぷんすこ怒った様子で腰に手を当てるスノウ。

 

「一番下って……逆にそれにしては早すぎないか?」

 

「階段を探すのが面倒だったから天井をぶち抜いてきたのよ」

 

「……ダンジョンの壁って破壊したところですぐに復元されるよな?」

 

 向こう側の通路まで貫通させようとした瞬間にもとに戻るイメージだ。

 多少傷をつけたり壁が崩れたりする程度ならどうってことないのだが、その手のショートカットは許されない。

 というか誰がそれを許さないのかはわからないんだけどな。

 その辺りはダンジョンに意思があるとしか思えない。

 

「凍らせればその限りじゃないわ。まあ、ダンジョンの壁を完全凍結させるのは結構魔力を消費しちゃうからあまりやりたくないけど」

 

 やれないではなくやりたくない、か。

 

 多分そんなことが出来るのはスノウくらいだ。

 少なくとも普通の人間にはできない。

 とは言っても全てのダンジョンの壁が完全に破壊不能というわけでもないというのがまたややこしいところなのだが。

 

「ウェンディはどこへワープさせられたんだ?」

 

「ここから10階ほど下です。私はスノウのように壁を破っての強引な移動はできませんが、風に乗って移動できますので順に走破しました」

 

 それでも十分すぎるくらい速いけどな。

 

「……それにしても、ワープさせてくるボスなんて流石に想定外だったわ。そもそもこのダンジョン自体規格外なんだから何が起きてもいいように心構えはしてたつもりだったけど」

 

 スノウが反省するように言う。

 あれは誰も予想できないだろう。

 トラップにも気をつけていたし、モンスターはそもそも近づけないようにしていた。

 ワープしてくるボスで、しかも強制的にワープさせる能力まで持っているとなればどう対策しようがどうしようもない。

 

「これからダンジョンへ入る時は何かしらの対策を立てた方が良いかもしれませんね。少なくとも、戦力の増強はすぐにでもすべきかと」

 

「戦力の増強? 今回みたいなのは流石にそんな頻繁には起きないだろ。今でもオーバーキルくらいじゃないか?」

 

「いえ、今回のように不測の事態に対処するにはやはり二人では心許ないです。三人、ベストは四人揃っていれば一人や二人戦線離脱させられても残りで対応できますから」

 

 ……まあ確かに、さっきのボスも一人ずつしかワープさせられない様子だったし、それでウェンディ、スノウと立て続けに飛ばされて詰んだ訳だ。

 スノウが身構えた瞬間に飛ばされたということは、仮にもう一人いれば既に反撃体勢は整っていたわけで。

 

「帰ったらマスターの魔力の増強に努めましょう」

 

 ウェンディが事も無げに言って、スノウがなんだか微妙な表情を浮かべた。

 帰ってから魔力の増強に努めるということはそれはつまりセックスをしまくりましょうと言っているようなものだからだ。

 俺としては特段断る理由もないが、

 

「それって三人目を召喚できる魔力量になるまでってことだよな? どれくらいかかるんだ?」

 

「……今回のダンジョンには史上類を見ない特殊な点が二つありました」

 

「二つ?」

 

「一つは建物がまるごとダンジョンへ変化してしまったということです」

 

 それは俺もわかっている。

 だからこそ早急な解決が求められたのだから。

 

「もう一つはマスターの魔力の増え方です。マスターの魔力はダンジョンへ入り、魔力を使うことで増えていきます。その説明はスノウから聞いていますね?」

 

「ああ、そんなこと言ってたな」

 

「このダンジョンへ入ってからのマスターの魔力の増え方は正直異常です。ご自身でボスとの戦闘を行ったことも関係はしているとは思いますが、このダンジョンが帯びている魔力自体が特殊なのでしょう。既存のものとは明らかに違います」

 

 確か以前にスノウから聞いていた話ではダンジョンで体を慣らし、魔力を使えば使うほどに鍛えられる筋トレのようなイメージだったが。

 もう少し噛み砕いて理解すると、早い話がこのダンジョンから得られる経験値が多くて、俺のレベルアップが凄まじいという話なのだろう。

 

「……ならもしかして召喚しようと思えば精霊を召喚できてたのか?」

 

「流石に無理でしょうね。ここから二日程は私たちと交わる必要があると思います」

 

「二日か……意外とすぐだな」

 

「二日丸っとですよ?」

 

 そりゃ全然意外とすぐじゃねえや。

 俺がこれから訪れるであろう苦難なのか幸福なのかよくわからない状況に思いを馳せていると、スノウがふとキョロキョロと周りを見渡した。

 

「ねえ、なんか揺れてない?」

 

「え?」

 

 いや……確かにスノウのいう通り少し揺れているような気がする。

 地震か?

 いやでもここアメリカだぞ?

 

「ここが崩れかけているのかもしれませんね」

 

「そんなことあるのか!?」

 

 ダンジョンが攻略されても消滅するという話は聞いたことがない。

 ただモンスターが湧かなくなるだけだ。

 ボスを倒した後もそれまでに湧いていたモンスターは残るので、それを駆除するのに莫大な金がまたかかったりするのである。

 

「普通はありませんが、このダンジョンは特殊なので何があってもおかしくはないでしょう」

 

 そんなことを話している間にもどんどん揺れは強くなっていく。

 やばい、これまじで崩れるぞ。

 

「逃げましょう。急げば倒壊前に出られるはずです」

 

「ダメだ、ウェンディ」

 

「マスター?」

 

 走り出そうとしたウェンディを思わず引き止める。

 ここへ来たそもそもの目的。

 

「生きてる人がいるかもしれない。助けないと」

 

「――それは」

 

 諦めてください、とウェンディは言おうとしたのかもしれない。

 しかしその言葉をスノウが遮った。

 

「あたしに任せなさい。ちょっと手荒だけど、なんとかしてあげるわ。多分あんたの魔力ならいけるでしょ」

 

 そう言ってスノウがカッ、と地面を踏んだ。

 その瞬間――ぴたりと揺れが収まる。

 同時に、俺の身体から一気に力が抜けていった。

 

「はっ……?」

 

 ただでさえ貧血気味の身体。

 そのまま立っていられるはずもなく、倒れ込みそうになったところをスノウに抱きとめられる。

 普通こういうのって男女逆だと思うのだが。

 

「……ダンジョン全体を凍らせたのですね、スノウ」

 

「そうよ。永久凍結はかなりほんのちょっとでもかなり魔力を使うから賭けだったけど。多分ギリギリウェンディお姉ちゃんの魔法でホテルに戻るくらいの魔力は残ってると思うわ」

 

「全体って……結構でかかったぞ、このビル。それに永久凍結ってなんだ?」

 

 しかもダンジョン化しているので中は見た目よりもずっと広い。

 それを全て凍らせたというのだろうか。

 

「端的に言えば絶対に溶けない氷よ。あたしが自分の意思で解かない限りは」

 

 マジかよ……

 要するにこのビルを大きな氷の彫像にしてしまったようなものじゃないか。

 それも床がつるつる滑るようなことはないので、内部を完全に凍結させたということだろう。

 氷は永久かもしれないが、コンクリートや鉄筋は劣化していくのでいずれこのビル型の大きな氷の像がそびえ立つことになるわけだ。

 

 いずれは氷のダンジョンとしてとんでもない人気になるのではないだろうか。

 

 ……とんでもないな。

 これが精霊のスケール感か。

 

「あれ……」

 

 ダメだ。

 身体に全然力が入らない。

 どころかどんどん眠くなってきて……

 

「今はおやすみ、悠真。あんたはよくがんばったわよ」

 

 最後にスノウのそんな言葉が聞こえたような気がした。

 

 

 

2.

 

 

 翌日。

 まあ当然のように世界中が大騒ぎになっていた。

 突如ダンジョンと化したビルがぶるぶる震えだしたかと思えば急にピタリとそれが止んで、恐る恐る調査班が突入したらモンスターの湧きが止まっているのでダンジョンが攻略されていることが判明する。

 

 更には一部剥がれた壁や床の隙間から氷のようなものが見え、詳しく調べてみればビルの内部全てが凍結しているのだから。

 

 そりゃもう大騒ぎだ。

 しかし困ったことになった。

 

 というのも、スノウがビルを凍らせたお陰で未菜さんが単独でダンジョンを攻略したというのが少し……いやかなり苦しいものになったのだ。

 

 当然、すぐに誰が攻略したのかをアメリカは調べ、同時刻にINVISIBLEが行方不明になっていたこともすぐに突き止めている。

 謎に包まれたその存在が攻略した可能性は第三者視点から見れば非常に高いが、何故ダンジョンが凍結しているのかは流石に誰も説明できないのだ。

 

 そこまでの出力が出せる存在がいるということ自体、誰も信じられないからだ。

 

 しかしそれでスノウを責めることはできない。

 何故なら倒壊しなかったダンジョンから、数人の生存者が見つかったから。

 衰弱しているが命に別状はないと言う。

 

 現在も捜索中なのでもしかしたら生存者は増えるかもしれない。

 午後からはティナも一旦政府側に戻り、捜索に加わるとのことだった。

 

 今はまだ精神的にも体力的にも回復しきっていないので俺達の泊まっているホテルで一緒にニュースを見ているが。

 

「……ごめんなさい、ユウマ。それに二人も。わたし、何の役にも立てなかった」

 

 ニュースを見ながらぽつりとティナがそんなことを言った。

 俺はそんなティナの頭をぽんと撫でる。

 

「お前がいなけりゃ俺は鬼ごっこするまでもなく死んでたよ。つまり俺の命の恩人みたいなもんだ」

 

「…………」

 

 しかしどうしても納得がいかないのか黙り込んでしまう。

 

「わたしを抱えたり手を繋いだりしてなければ、もっと安全に逃げれたはずだわ」

 

「それは違う」

 

 なんと言おうか俺が迷っていると、傍から様子を見ていた知佳が口を挟んできた。

 

「え?」

 

 顔を見上げるティナに知佳は淡々と告げる。

 

「悠真は小さな女の子に欲情する性欲魔神だから、ティナを抱えている間はパワーアップしていたはず」

 

 実際、身体能力の強化の都合上、抱えている間は別に重さを感じないし左手が使えようが使えまいがあのボスに勝てるとは思えないので大差はないのだが、流石にティナを抱えてパワーアップとかそんな訳はないしそもそも俺は小さな女の子に欲情する趣味はないしお前は一体俺をなんだと思っているんだとツッコミたかったが、明らかに嘘だとわかる嘘でもあった方がいいものは存在する。

 ……俺は苦渋の決断でそれに乗っかることにした。

 

「まあそういうことだ。スケベパワーは偉大ってことだな。ジャパニーズHENTAIはアメリカでもフランスでも有名だろ?」

 

「……ふふっ」

 

 当然、ティナも冗談だと理解している。

 だからこそようやく少し笑ってくれた。

 笑うのはいいことだ。

 精神的に余裕ができるからな。

 

「それにティナ、お前は凄いんだぜ。なにせあんなひでえことした政府に戻って今から人助けするんだろ?」

 

「……ええ。あなた達があんなに頑張ってるのに、やっぱりわたしだけ楽をするわけにはいかないもの」

 

 ティナは強い決意を瞳に携えて頷く。

 

「けど、政府の言いなり人形になるのはこれで最後だな」

 

「え? でもそうしないと人助けが――」

 

「今回は仕方ないにしても、人助けをする奴が助けられちゃいけないルールなんてないだろ?」

 

 俺はニヤリと笑う。

 

「あのダンジョンの生還者を全員見つけて一段落ついたら、悪いNINJAがお姫様を攫いに来るかもな」

 

 ティナのことも――未菜さん、INVISIBLEの件も含めて解決する方法を思いついた。

 後は交渉の場を整えるだけだな。

 

 とは言えそれには数日かかるだろうので、その前にするべきことがあるのだが。

 

 ……精力剤ってアメリカでもあるのかな。



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第51話:宴の始まり

1.

 

 

「ふ、二日間も……ですか?」

 

 綾乃が顔を真っ赤にして俺に聞き返す。

 三人目の精霊の召喚。

 その為にひたすら魔力を増やす――つまりセックスをする必要がある、と知佳と綾乃へ伝えたのだ。

 

 ちなみにティナは既にアメリカ政府の元に戻っている。

 表向きは友好的な態度だったが、同行したスノウによれば帰りに尾行がいたので(物理的に)排除したとのことだった。

 殺してはいないらしいが、一体どんな目に遭っているのかはちょっと想像もしたくない。

 

「ああ、二日もだ」

 

 しかも丸っと二日。

 もちろん体力的な限界はそのうち来るだろうから途中途中で休憩は挟むとは思うが、基本的にはぶっ続けとのことだった。

 

 強化合宿みたいなものだ。要するに。

 ダンジョンへ何度も行けばいいのではと進言したところ、効率的にはダンジョンへ潜った方が早い場合もありますがより安全な方を選ぶのです、とのウェンディの言葉を頂いた。

 

 過保護すぎるような気もするが、最近ダンジョンではイレギュラーが多いので仕方のない話かもしれない。

 少なくともウェンディの考えでは三人目の召喚までダンジョンへは行かないつもりのようだ。

 

「私も混ざろうかな」

 

「えっ」

 

「えっ!?」

 

 知佳がぼそっと呟いて俺と綾乃が反応する。

 この話を聞いて引かれるとは思ったがまさかそんな反応が返ってくるとは思ってなかった。

 

「ずっと同じものを食べてたら飽きる」

 

「理屈ではそうかもしれないけど……」

 

「それに私の魔力も増える。戦力増強」

 

「……確かに」

 

 ぶっちゃけ俺としては断る理由がない。

 むしろ歓迎したい。

 それに理屈も通っている。

 傍で聞いているウェンディもスノウも特に何かを言うつもりはなさそうなので反対はしてこないのだろう。

 精霊以外と交わっている間は俺の魔力が増えることはないが、その分時間を伸ばせばいいだけだ。

 正直なところ二日も三日も大差ない。

 と思う。

 

 それに知佳は体力が多い訳でもないからずっといるということでもないだろう。

 たまに混ざってくるようなイメージだ。

 

 しかし建前として知佳の魔力も増えるから、となると……

 

「わ、私は……どうしましょう……かね?」

 

 綾乃もそわそわし始めていた。

 本音では混ざりたいと言いたいのだろう。

 なんとなくそれはわかる。

 しかし俺は敢えて助け舟は出さない。

 

「それじゃそういうことだから、把握の方よろしく」

 

「おーけー」

 

「わ、わかりました……」

 

 さて、知佳は途中で乱入してくるとして綾乃はどうなるのかね。

 

 

2.

 

 

「…………」

 

 1フロア丸ごとスイートルームという破格の待遇なので、部屋を隔てる訳にもいかず知佳と綾乃は少し離れたところで何かしらの作業をしている。

 

 そして俺はと言えば、先に風呂を済ませておいて姉妹二人の入浴タイムを待っているのである。

 なんかこうしていざヤるぞ!! と普通に待っているのは初めてな気がする。

 一番近かったのは新宿ダンジョンの安息地(ラブホ)だったが、あれも一緒に風呂入った結果本番はなし崩し的なものだったし。

 

 しかし距離的にはそれなりに離れているとは言え、女性のいる部屋で他の女性と交わるというのはかなり変な気持ちだな。

 普通に家だったら部屋が別なのでまだしも。

 

 うーん、慣れない。

 何もかも慣れない。

  

 ちなみに精力剤は普通に売ってた。

 日本のものよりなんか効きそうな気がするのは多分見た目のせいだろう。

 実際飲んでみたが、確かに効き目はいい気がする。

 とは言えまる二日も効果が持続する訳はないので定期的に飲み直すのと、後は自力で頑張るしかないな。

 

 最近の性欲は自分でも異常だと思うので多分二日や三日ならヤれてしまうだろうなというところが恐ろしい。

 性欲というか、それを含めた体力も多分魔力で強化されているんだろうな。

 そうでないとちょっと説明がつかない。

 

 ちなみにシャワーだけは唯一仕切りがあるので様子を見に行こうとしても見れない。

 別に突撃していっても怒られはしない……いやスノウは怒るかも。

 拒絶まではされないと思うが、それをするよりもなんか待っていたい気分なのだ。

 何故と言われても困る。気分だから。

 

 しばらく悶々としながら待っていると、

 

「お待たせしました、マスター」

 

「…………」

 

 バスタオルだけ巻いた、比較的平然としているウェンディと恥ずかしそうに押し黙るスノウが出てきた。

 二人とも風呂上がりだからか肌が上気している。

 なんで男ってのは女の人の普段と違う側面というのに興奮するのだろう。

 

 髪がしっとりしているだけで気を惹かれてしまうのはもはや病気なのではとさえ思う。

 

「……あれ、カフェインは摂ってないのか?」

 

 二人とも発情しているようには見えない。

 

「必要とあらば摂取しますが、特になくとも問題はないかと思いまして」

 

 ウェンディがゆっくりベッドに入ってきながら言う。

 てことはどちらも素面か。

 確かに最初からあまりぐちゃぐちゃになりすぎてももたないしな。

 途中、追加マカドリンクを飲むときにカフェインを摂って貰おうかな。

 

 それにしてもいざエッチしましょうとなるとどう切り出したらいいかわからないぞ。

 世の中の一般的なカップルは一体どのようにエッチするのだろう。

 セックスしようぜ! って言って強引に持っていくのだろうか。

 それともムード的なものを作ってなんとなくいくのだろうか。

 わからん。

 

 ……適当でいいか。

 

「ウェンディ、横になって」

 

「え……? ご奉仕しようと思っていたのですが」

 

 ウェンディは困惑したように首を傾げる。

 ご奉仕大好きウーマンなので当然のようにしようとしていたのだろう。

 しかしここは敢えて立場を逆転させる。

 

「この間してもらったから今度は俺からするよ。スノウは待ってて」

 

「ん……」

 

 二人同時に相手してもいいのだが、最初くらいは順番にいただきたい。

 待てを言い渡されたされたスノウはなんとも言えぬ表情でベッドの端に座った。

 

 そしてウェンディが居たたまれなさそうな表情でベッドに横になる。

 こういう表情も珍しいな。

 普段はあまり感情を表に出さないウェンディだが、慣れない状況にはそう強くないようだ。

 

 そして俺はずっと興味のあったことをする。

 ウェンディの両足を持って開かせて、まんこに顔を近づける。

 

「ま、マスター!? ま、まさか……」

 

「そのまさかだ」

 

 まだ準備ができていないぴったりと閉じた筋に舌を這わせる。

 風呂に入ってきたばかりだからだろう。

 ほんのりと嗅ぎ慣れない洗剤の匂いがする。

 

「マ……スター……っ」

 

 ウェンディの腰が逃げていくように動こうとするのをしっかりと両手で抱えて阻止する。

 

「……だめですっ♡ そんな……ところきたな……い……のに……♡」

 

 どうやら既に快楽は感じているらしい。

 しかし素面の状態で、しかも奉仕すべき自分が奉仕されているという状況に慣れないのだろう。

 言葉はまだまだ否定的だ。

 

「きたないところなんてないから安心しろ」

 

「んっ……んんんっ……」

 

 どうやら言葉で反応するのではなく我慢する方向へ移ったようだ。

 

「んっはっ……く……っ」

 

 精霊がみんなそうなのか、たまたまなのかはわからないがそもそも感じやすい身体をしているよな。

 ウェンディも、スノウも。

 

「ひゃう! ……んんっ、マスター、そんなとこ、だめ、ですっ。そこはっ、敏感っ、ですから……!」

 

 クリトリスを舌先で転がすととうとうウェンディは俺の頭を押して拒むようになった。

 しかし本気で嫌がっているわけではない。

 それは声音からも察することができる。

 

「んんん……んッっ♡」

 

 その後5分ほど舐め続けていると、びくん、と大きくウェンディの身体が跳ねる。

 どうやら絶頂したようだ。

 

 先程まではぴっちり閉じていたところが少し開いて、中の淫猥な粘膜が目に見えるようになっている。

 まるでここに挿れてほしいと主張しているようだ。

 

 クンニなんて初めてするので勝手がわからなかったが、絶頂したのなら良しとしよう。

 カフェインを摂らなくてもこれほど感じやすいのなら、確かに摂取する必要はないのかもしれない。

 

「はっ……はーっ、はー……っ、ますたー……っ」

 

 目尻に涙を浮かべるウェンディの両手をベッドに押さえつけて上に覆いかぶさる。

 逃がす気はないという無言の主張だ。

 

「はい……ってきました……っ」

 

 ずぶぶ、と既に硬くなっていたものを挿入する。

 ウェンディは抵抗しないでその身を俺に委ねている。

 既に逃げようとするのはやめたようだ。

 クンニの時に中まで舌を入れなかったかいあってか、膣内はまるでちゅうちゅうとちんぽを吸っているかのように動いている。

 眉は悩ましげにひそめられ、いつもの冷静さは見る影もない。

 今はただ俺に媚びを売るだけのメスだ。

 

「……っく♡ ……私の中を……マスター……のが……♡」

 

 動かす度にウェンディの膣内はちんぽを逃すまいと絡みつこうとしてくる。

 奥を突いてやると、反応が明らかに変わった。

 

「そこはだめ……です♡ っ、奥は……っ♡ だめっ……♡」

 

「だめと言う割に一番反応は良さそうだけどな」

 

「ち、ちが――い、ま……すっ……♡」

 

「正直に言え、ウェンディ。これは命令(・・)だ」

 

「――っっ♡♡」

 

 きゅん、と膣内が締まる。

 そもそも答えはわかりきっている。

 上の口では嫌がっていても下の口は正直だなというやつだ。

 肉棒をまるで離そうとしないのが顕著に物語っている。

 むしろもっと深く。

 もっと奥を突いてくれと言っているのが聞こえるようだ。

 

「おくっ♡ が……っ、いいんですッ……♡♡」

 

「なんで嘘をついたんだ?」

 

「まだ始まったばかりなのに……っ♡ 怖かったんです……っ♡ どろどろになってしまいます……からっ……♡」

 

「そうか、嘘をついたのならお仕置きが必要……だなっ!!」

 

「ああああああっ♡♡♡ あっ♡ あ゛っ……♡」

 

 一番奥を力強く叩いてやる。

 いつも思うのだが、女性の膣内はちんぽに対して浅すぎるのではないだろうか。

 本気で全部突っ込もうと思ったら慣れてない人はかなり苦しいんじゃないか。

 今までしてきた人たちの中に全部突っ込んで苦しがる人がいなかったのは幸運だったのかもしれない。

 

 最低でもあと二人は精霊が控えているのでその二人も平気だといいのだが。

 全部を突っ込む時とそうでない時はこちらの気持ちよさも断然違うのだ。

 

 肉同士がぶつかりあうぱちぱちという音。

 その中に混ざる愛液による湿った音。

 それに合わせて揺れる、普段はわかりにくい意外と大きな胸と乱れた髪。

 

 その光景だけでむせ返るほどエロいというのにそもそも肉体的にも気持ちいいというのだから限界は程近い。

 

「中に出すぞ」

 

「ください……っ♡ 中……にだして……っ♡」

 

 最後のスパートをかける。

 ウェンディの一番奥を重点的に、掘削するような勢いで突き立てる。

 

「……ダメっ……です♡ 先にイって……しまいます……っ♡ いや……♡ 一緒、一緒が……がいいんですっ……!」

 

「くっ……!」

 

 そんな可愛くおねだりされては我慢できるはずもない。

 ウェンディの身体が思い切り反って最も深い絶頂を迎えるのと同時に。

 

「あ――あぅっ♡ はっ♡ あぁあっああああっっぁっぁぁあっ――んんんんん――♡♡♡」

 

 俺も限界を迎え、肉棒から発射された精液が子宮を満たし、膣内(なか)を満たし、遂には接合部から溢れ出た。

 

「あっ……は……♡ ます……た……ぁ♡」

 

 普通にしただけだが、それでも驚くほどの量が出た。

 精霊じゃなかったら妊娠待ったなしだろうこれは。

 

「さて……」

 

 脱力したウェンディから離れ、未だバスタオルを巻いたままのスノウに向き直る。

 顔を真っ赤にして俺たちの情事を見ていたスノウは目が合うと、

 

「な、なによ」

 

 と分かりきったことを聞いてきた。

 

「さあ横になるんだスノウ。次はお前の番だからな」

 

 まだまだ強化合宿(?)は始まったばかりだ。



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第52話:悪の枢軸

1.

 

 

「……」

 

 一糸まとわぬ姿でスノウは横になっていた。

 先程射精したばかりとは言え、もちろんまだまだ余力は有り余っている俺の欲望の証はびんびんに元気である。

 

 しかし改めて見ると、スノウの身体は尋常じゃない程に『綺麗』だ。

 大きい訳ではないが小さくもなく、つまりはちょうどいいサイズの胸にスラリとした腹部、女性らしい丸みを帯びた腰から伸びる白く長い脚。

 

 まさしく完璧としか言いようのないプロポーション。

 陳腐なたとえになるが、はっきり言って神が直接設計したのではないかとさえ思うほど素晴らしいバランスを保っている。

 

 スノウの青い目が責めるように細められる。

 

「……なにじろじろ見てんのよ」

 

「いいだろ、別に減るもんでもないし」

 

 見惚れていたと言うのは恥ずかしかったので誤魔化す。

 

「へ、減るわよ。色々と」

 

「色々ってなんだ、色々って」

 

「まるでけだものの目よ。性欲に忠実な」

 

 ジト目で言うスノウ。

 

「……この状況でむしろそういう目で見ない方が異常じゃないか?」

 

 誰だってこうなる。

 俺だってそうなる。

 つまり不可抗力である。

 

 しかしいつまでも眺めていても話は進まないか。

 

 右手を頭の裏に回して口づけする。

 

「ん……んむ……ぴちゅ、ん……ぅぅぅ、ちゅ……」

 

 最初こそこの期に及んで口を閉じて抵抗しようとしていたがすぐに柔らかな唇は開かれ、口腔内を舌で蹂躙し始める。

 一見氷のようにツンツンしているスノウだが、その実は快楽に弱いただの女の子だ。

 俺はそれをよく知っている。

 

 一旦受け入れられてしまえば後は勝ち戦だ。

 頭の芯からじんわり熱に侵されているような感覚。

 余っていた左手でスノウの股間を弄る。

 スノウホワイト、なんて冷たそうな名前のくせにそこは既に熱くとろとろに濡れていた。

 

 俺とウェンディの情事を見ていて興奮していたのだろう。

 

「んっ……ああ……ん……あ、ちゅ……っ……んん、ちゅぶ……あ……」

 

 段々とスノウの吐息が熱っぽくなってくる。

 左手で恥肉をいじる速度をあげつつ、キスもさらに激しいものへ変える。

 

「っっあ♡ ちゅう、ぅぅ♡ っんんあ♡ ん、ちゅぴ、ぅぅ♡」

 

 最大限まで高まっただろうというタイミングで、今まで交わったことでなんとなく察することのできたスノウの弱点――膣入ってすぐのお腹側をカリッと引っ掻いてやる。

 

「んっ♡♡♡ んんんんん――!!」

 

 身体を弓なりに反らせて絶頂するスノウ。

 流石にもう何度も交わっているだけあって弱点も完璧だな。

  

「んっ……はっ……はぁ……♡ ちょっと……最初から……飛ばしすぎ、なんじゃないの……」

 

 口を離すとスノウが責めるような目で俺を見る。

 が、既にそれは形だけであってほとんど快楽に堕ちかけているのは言うまでもない。

 

「俺はまだ全然だからな」

 

 指と舌で楽しんだだけだ。

 それだけでも十分……なんてわけがない。

 当然まだビンビンのギンギンな欲望の塊がいるのだ。

 

「ほら、自分で開いてみせるんだ」

 

「は、はあ!?」

 

 思い切り睨まれる。

 こ、怖い。

 素面だと完全に堕ちきるまでは基本的に命令はできないのかもしれない。

 

 しかしなスノウよ。

 こちらにはウェンディがいるんだ。

 

「ウェンディ、スノウが反抗的なんだがどうしようか」

 

「こうしましょう」

 

 急に話を振られたウェンディだが、しかし流石の順能力で指をパチンと鳴らして即座にスノウを拘束した。

 

「え、えっ、えっ!?」

 

 目には見えない何か――多分風の力の応用なのだろうが、こんなことまでできるのか。

 スノウも困惑している様子なのでこれを見たのは初めてなのかもしれない。

 

「流石はウェンディだ。後でご褒美をあげよう」

 

「あ……♡ ありがとうございます」

 

 さて。

 肝心のスノウの方だが、流石に無理やり拘束を抜けようとはしないようだ。

 ウェンディがやったというのが効いているのだろう。

 ここで逃げ出せば姉に怒られるだけである。

 

 しかし、スノウもスノウで素直じゃない奴だ。

 既にまんこは濡れていて、期待するかのようにこちらを誘っているというのに。

 

「たまにはこういう趣向もいいな」

 

 基本的には被虐体質なのは綾乃と……まあ多分だがウェンディくらいだ。

 後者に関してはこれから開発の余地があるが。

 しかしスノウや知佳、それに未菜さんに関しても絶対にNGというわけではないだろう。

 もちろん与えられる快楽次第だが。

 

 今回はそれに挑戦してみるのもいいかもしれない。

 

 さて、スノウがどういう体勢で拘束されているのかというと、両腕は頭の上で結ばれ、脚は開脚した状態で動きを封じられている。

 つまり大事なところは全て包み隠さず見えているわけだ。

 

「恥ずかしい格好だな、スノウ」

 

「……あんた覚えてなさいよぉ……!」

 

 ゴゴゴゴゴ、と裏に炎が見えそうな勢いで怒っている。

 スノウホワイトなのに。

 ステイクールだ。

 

「怖い怖い」

 

 スノウももちろん本気で嫌がっているわけではない。

 本気なら本気で抵抗するだろうし、それをウェンディも察することができるだろう。

 恥ずかしいのと困惑とでこういう反応をしているだけなのは既に分かっているので、後はとろとろに蕩けてもらうだけというわけだ。

 

 ちんぽを開脚で全て丸見えになっている肉壷の入り口へとあてる。

 それだけでまるでちんぽが入ってくるのを待ちかねていたかのようにまんこがひくひくと動いている。

 

 そして勢いをつけて、一気に奥まで挿入した。

 

「うぐっ……んんっ……♡ ふっ、んくぅぅぅ……♡」

 

 ちんぽなんかに負けない! と言わんばかりの気丈な表情を浮かべて快楽に耐えようとするスノウ。

 しかし膣内は明らかにこの異物に対して歓迎ムードだ。

 ぐねぐねと蠢きながら奥へ奥へ、中へ中へと招いている。

 

 腰を動かす度にぬちゅ、ぐちゅ、ぷちゅ、と湿っぽい粘ついた音が響く。

 

「んっ……ンンっ♡ あっ♡ ふっ♡ ……んぅぅ♡」

 

「スノウ、一つ提案があるんだが」

 

「な……にぃ……よぉぉ……♡」

 

 おっと。

 動きながらだと話しづらいか。

 一旦動きを止めると、スノウが不満げな表情を浮かべた。

 

 この様子では自分で気付いてはいなさそうだが。

 

「俺が一度イくまでにお前が10回イかなかったらこの拘束をウェンディに解かせてもいい」

 

「……10回? 本当にいいのね。そんなの余裕よ」

 

 ふふん、とスノウは得意げに鼻を鳴らした。

 

 

2.

 

 

 多分30分程が経過しただろうか。

 

「はっ……♡ はっ……♡ はっ……♡ はっ……♡」

 

 スノウがうつろな目で虚空を見つめながら、荒い息を繰り返していた。

 体勢が固定されているのでこちらは弱点をつき放題なのだ。

 さらに男と違って一回絶頂してもクールタイムを必要としないのでイく時は連続でイってしまう。

 

 合計で既に20回は絶頂していた。

 

 ちんぽには勝てなかったよ……

 

「なあ、そろそろ認めたらどうだ?」

 

「ま、まだ……イって……ないわ……♡ ……10かい……も……♡」

 

 うーむ。

 虚勢を張っているのか頭がバカになってしまって数が数えられていないだけなのか判断がつかない。

 とりあえず埒が明かないのでウェンディに目配せして拘束を解かせると、その場にくてん、とスノウは倒れ込んだ。

 

「……そういえば中出ししないと意味なかったりする?」

 

 今の一連の流れで俺は一度も絶頂していない。

 魔力を増やす目的でやっているのにその魔力が増えないのでは意味がないだろうと思ってウェンディに聞いてみると、

 

「肉体的な接触があれば多少は増えていきます。もちろん一番は中出しですが」

 

 肉体的な接触でもOKとは。

 

「結構ゆるいんだな」

 

「知佳様や綾乃様、未菜様の魔力を増やしたいのなら中出し……あるいは他の手段で精液を体内に入れるしか方法はありませんが」

 

 なるほど。

 マスターと精霊という関係でのみ起きることか。

 

 しかしどのみち中出しが最高効率であることには変わりない……と。

 

こっち(・・・)ならどうなるんだ?」

 

 俺がへろへろのスノウを裏返してうつ伏せにさせ、とある場所へ狙いをつけながらウェンディに聞く。

 

「……()とさほど変わりはない効率かと」

 

 ウェンディが頬を赤らめつつ答えてくれた。

 しかしこの反応、流石のウェンディでもこっちはすんなり受け入れてくれそうにないな。

 だからこそする価値があるのだが。

 いずれそちらでも楽しむことを視野に入れておこう。

 

「さて……お前はまだ終わってないぞ、と」

 

 ズブブ、とちんぽを挿入したのは――

 

「――!? そぉ……っちは……♡ ちが……♡」

 

 もちろんアナルだ。

 スノウはケツ穴が弱い。

 膣も弱いけど。

 

 先程までへろへろになっていたスノウは一気に意識が覚醒し、背中を仰け反らせている。

 表情が見えないのが残念だ。

 わざわざ裏返さずに正常位ですれば良かった。

 

「待……ってぇっ……♡ 動……いたっらぁあ……だめえ……っ♡」

 

 ピストンを始めると今度はスノウが顔をベッドに埋めてしまった。

 

「んんっ♡ フーッ♡♡♡ フーッ♡ ンンンン♡♡♡」

 

「顔は隠せても声は隠しきれないようだな」

 

 しかしこの間アナルに挑戦した時も思ったが、この膣とは異なる快楽がまた堪らないのだ。

 排泄の必要がない精霊だから何も気にする必要がないし。

 実質性器みたいなものだ。

 とか言ったらスノウには怒られそうだが。

 

 それにしてもスノウは本当にアナルに弱いな。

 まだ経験が浅いのでこっちの弱点がどこかまでは把握していないのだが、それすら必要ないほどただ動くだけで感じまくっている。

 

 気の強い女はアナルが弱いという法則を最初に発見した奴は偉大だ。

 全員に当てはまるかは知らんけど。

 

 しかしこちらもこちらで30分以上ずっと射精しないでスノウの弱点を突いていたので限界は近い。

 先に一発出してしまおうか。

 

「ほら、出すぞ!」

 

「ンンンんんんんぅぅぅぅ――♡♡♡」

 

 膣と違って行き止まり(子宮)のないアナル。

 もちろん奥までちんぽを突っ込んで、一番奥で射精する。

 

 そういえば溢れ出た分はともかく、体内へ入っていった精液はどうなっているのだろう。

 吸収されるのかな。

 だとしたら人間の常識に照らし合わせれば直腸へ直接精液を流し込むのは理にかなっているのでは?

 

 とりあえずの射精が一旦落ち着いた後、一番奥まで突っ込んだちんぽをゆっくりと引き戻していく。

 

「んんぅぅぅ、んおぉぉ♡ んんんん――♡♡♡」

 

 スノウがそれに合わせて喘ぎ声を出す。

 美少女が出していい声じゃないぞ。

 しかしアナルは抜けていく時が一番気持ちいいとエロ漫画に書いてあったのでつまりはそういうことなのだろう。

 

 やはりエロで学びを得ることは大事だ。

 

 さて…… 

 しかし半ばマグロ状態になってしまったスノウをこのまま抱くのも勿体ない話だ。

 

 すぐそこにまだまだ元気な女体があるのだから。

 

 ウェンディと目が合うと、彼女はびくりと体を震わせた。

 たらりと冷や汗を垂らしているように見えるのは気のせいだろうか。

 

「あ、あの、マスター。提案があるのですが、やはり効率的には膣の方が良いと思うのです」

 

「大丈夫だ安心しろ。その効率の差を打ち消すくらい大量にするから。どうせまだまだ時間はある」

 

 そう、時間はたっぷりあるのだ。

 まだ合宿は始まったばかりである。

 一日目の終了さえ程遠い。

 

 じりじりとウェンディに近づくと少し離れられる。

 そこまで嫌がるのならなおさらしたくなる。

 

「ふふふ――ははは――はっはっは!」

 

「完全に悪役です、マスター……」

 

 ウェンディは半ば呆れたようなトーンで言うのだった。

 



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第53話:男は大体こういうのが好き

1.

 

 

「いい眺めだな」

 

「……ありがとう……ございます……っ!」

 

 羞恥に顔を歪めたウェンディが目を合わせないでおざなりな礼を言った。

 普段、慇懃なウェンディからは決して見られない珍しい反応に思わずニヤけそうになってしまう。

 いかんいかん。

 確かにこんな笑みばかり浮かべていては悪役そのものだ。

 

 しかし考えてもみてほしい。

 

 今ウェンディはこちらにまんことアナルがよく見えるように自らの膝を抱え込み、突き出しているような形になっている。

 まんぐり返しと言われるような体勢だ。

 普段の姿勢の良い立ち姿からは想像もできない淫らな格好。

 

 形の良い白いケツが羞恥で桃色に染まっている。

 小さく震えているのは気のせいじゃないだろう。

 

 それに加え、普段は怜悧な表情を浮かべていることが多いのに羞恥で歪んだ表情だ。

 

 興奮しないという方が嘘だ。

 

 ウェンディの脚を掴んで体勢を整えると、

 

「本当にそちらの穴でするのですか……?」

 

 と改めて聞いてきた。

 何を今更。

 

「スノウがしてたの見てただろ?」

 

「それは……そうですが……」

 

「じゃあ大丈夫だ。姉妹だし」

 

「それはあまり理由にな――って、ぇぇぇ、っ――!」

 

 喋っている間に指でアナルを弄る。

 

 喋っている途中にアナルへ挿入してしまう。

 精液やらなんやらで既にちんぽがセルフローションで塗れていたような状態だったとは言え、拡張も何もしていない状態からの急な挿入。

 

 当然スムーズに入るわけはなく、ちんぽの4分の1程が埋まったところで一旦止めた。

 ウェンディの顔が痛みに顰められる――かと思ったが。

 

「……っ、くっ……ふっ……」

 

 腹に異物が挿れられたという違和感はあるようだが、どうやら痛くはないようだ。

 

 召喚主(マスター)と交わることにメリットのある精霊ならではの順応性なのかもしれない。

 スノウの時もあっさりできたが、本来、結構長いことかけてアナル拡張しないとアナルセックスってできないらしいしな。

 

「どうだ?」

 

「変……な、感じ、です……っ。いつもとは違うところ、からっ……圧迫されています、から……!」

 

 変な感じか。

 確かに浮かべている表情も快楽を感じているというよりはなんだか困惑しているような感じだ。

 しかし俺としてはやりたいと思ったらやることはやるというのがモットーなので(?)そのまま押し通させて貰おう。

 

 実際スノウも感じていたし、姉妹云々という話は置いておいて人類はアナルでも感じられるということは立証済みだ。

 精霊を人類の枠組みに入れていいのかという問題も置いといて。

 少なくともスノウとウェンディは同じ枠組みだし。

 

「んっ……ん……ふっ……ふぅ……」

 

 ちんぽをどんどん奥まで挿入するに連れて、異物感を排除する為なのかウェンディが深く息を吐いているのだが。

 なんかそれが異様にエロい。

 なんでだろう。

 別にやっていることは決してエロくはないはずなのだが。

 

 半分ほど挿れたところで再び動きを止めた俺をウェンディが不思議そうに見てくる。

 

「……マスター? どうか、……んっ、なさいましたか?」

 

「いや、なんか妙に色っぽいなと」

 

「なんですかそれ……」

 

 ウェンディがスノウがよくする表情を浮かべる。

 なんとなく不満そうというか、むっとした感じの顔だ。

 姉妹だからその表情がまためちゃくちゃ似てるのだが、スノウがそういう表情を浮かべる時は大抵照れ隠しの時である。

 

 多分ウェンディも同じなのではないだろうか。

 

 しかし先程からアナルという普通では使用しないところでしているからなのか、ウェンディの素の部分というか……元々演じている訳ではないだろうが、より素面っぽいところを見れているような気がするな。

 

 もっと続けていけばもっとウェンディの素の部分を見られるのだろうか。

 

「――ます、た……あ……」

 

 とうとう一番奥まで到達する。

 異物として俺を追い出そうとする動き。

 スノウほど最初から感じている訳ではないようだ。

 ある程度ピストンは手加減をしないといけないな。

 まずはこの状態で慣らす必要があるか。

 

 少しでもスムーズになるように円を描くように腰を動かすと、とあるタイミングでびくん、とウェンディの身体が縮まった。

 

「……? え?」

 

 俺もびっくりしたが、どうやらウェンディ自身が一番びっくりしているようだ。

 どうしたのだろう。

 何の反応だったんだ、今のは。

 

 もう一度先程の動きをしてみると、再びウェンディがびく、と身を縮こませた。

 

「? ? ?」

 

 ウェンディは頭に疑問符を浮かべて明らかに困惑している。

 普段何もかも俺やスノウよりも達観している様子なのでそれもまた新鮮で可愛いのだが、俺はウェンディが何に反応しているのかわかった。

 

 ぐり(・・)、とそこを刺激してやると「っ!?」とウェンディが再び過剰な反応をする。

 

 何度も、何度も、そこだけを押してやる。

 

「っ……♡ くっ……♡ ふっ……♡ ます……た……ぁ……ぁ、ぁ♡」

 

「そろそろ自分でも気付いたか?」

 

「っ……はい……」

 

 流石に何度もやればウェンディも気付いたか。

 こちら側(・・・・)から干渉できるとは思わなかったので俺も最初は半信半疑だったが、こう何度も試しても同じ反応ということは間違いなくそうだろう。

 

「じゃあ自分でどこが感じているか言ってみようか」

 

「ん……」

 

 ウェンディが若干責めるような色合いを滲ませた目で俺を見る。

 普段ならば従順に従うはずだが、これもまた普段は見られない変化か。

 

「子宮を……裏側から押されています」

 

 そう。

 明らかにちんぽが一番奥かつお腹側を圧迫している時だけウェンディは過剰に反応していた。

 確かに距離という概念で見れば程近い位置にあるが、盲点だったな。

 

「抜く時だけが気持ちいいのかと思ってたけど、そういうルートもあるんだなあ」

 

 しかし分かってしまえば後はそこを重点的に責めてやればいい。

 

「んっ……ますた、ぁ……♡ 少し、手心、を……♡」

 

 ぐい、と押してやると俺にそんなことを言うウェンディ。

 もちろんそれでやめるはずはない。

 

「っ……奥、ぅ……ぐりぐり、って、しないで……っ、くださ、ぃぃ……♡」

 

「しないで? 違うだろ?」

 

「ぅっ……」

 

 サッと顔を赤らめるウェンディ。

 普段と違う自分自身にも戸惑っているようだ。

 いい機会だし、少し試してみるか。

 

 俺の直感はウェンディはどちらかと言えばマゾ気質だと言っているのだ。

 

 右手をちんぽが裏側から当たっている辺り――つまり子宮の辺りに当てる。

 

「マスター、なにを……んひぃっ!?」

 

 ウェンディから聞いたことのないような声が漏れる。

 マゾ、と一口に言ってもみんながみんな綾乃のように痛いのや苦しいのが好きというわけではないのだろう。

 

 ウェンディの場合はこうして、軽く圧迫してやるだけでも感じるようだ。

 

「だ、だめっ、ですっ♡ ますたー、それっ、だめですっ♡」

 

 ぐい、ぐい、と押すタイミングを表側と裏側で同時にしてやる。

 

「外も中も押すのっ、ぉぉ、マスター、ぁ、おねがい、ぃ、ですぅ、から、ぁぁっ♡」

 

 どうやら俺の思っていた以上に感じているようだ。

 アナルセックス自体で感じているというよりは、この状況に酔っているようにも見える。

 子宮を性器として開発するポルチオ開発なるものが世の中にはあるらしいが、それをウェンディで試してみてもいいような気もする。

 

 何もしていないのにここまで感じていては、開発する意味もないような気もするが。

 

「マスター、イって、しまい、ますっ♡ わたしが、わたしでなくなるみたい、でっ♡ ますたー♡ ますたー♡ ますたーっ♡」

 

 俺のことを連呼するウェンディ。

 当初の目論見以上に淫れてくれたんだ。

 そろそろ開放してやってもいいだろう。

 

 というか俺の方が限界だ。

 エロすぎるだろ、この姉妹。

 

 そのまま出してしまおうかと思ったが、少し考えて一気にアナルからちんぽを引き抜く。

 

「んんあっ」

 

 驚くように声をあげるウェンディ。

 そして間髪入れずに今度はまんこに勢いよく突っ込む。

 ずちゅっ、と勢いの良い水音が響いて、一気にちんぽは一番奥――先程まで表と裏とから刺激していた子宮に到達した。

 

「あ゛っ……かっ……♡」

 

 もはや取り繕うことさえできない様子で身体を強張らせるウェンディの子宮へ勢いよく精子を浴びせる。

 

「中、ぁ……に……ぃ、で……て、ま、す……♡」

 

 ウェンディは掠れた声でそう宣言して、ぐったりと脱力した。

 気を失っているわけではないようだが、感じすぎたのか慣れないことに疲れたのかすぐ続きという訳にはいかなさそうだ。

 

 それにしても直前までアナルで射精だけ膣内というのは、ちょっとした思いつきでやってみたことだが征服感がすごくて思っていたよりもずっと良いな。

 

 大事な存在を性欲処理道具として扱っているような謎の背徳感がある。

 機会があったらまたやってみよう。

 存外ハマってしまいそうだ。

 

 

2.

 

 6時間程が経過した。

 

「はー、さっぱりした」

 

 ひたすらその間二人を犯し続けていたのだが、スノウはへばって、ウェンディもダウンしてしまったのでひとっ風呂浴びてきたのだ。

 

 ぶっ続けとは言え、睡眠や食事は摂らなければ死んでしまうし、衛生的に風呂には入りたい。

 身体から綺麗な成分しか出ていなさそうなスノウやウェンディたち美少女とは違って俺はただの人間である。

 しかもむさ苦しいオスである。

 風呂に入っていない男など誰が得するというのか。

 

 ちらりとベッドの様子を見ていると、まだスノウもウェンディも復活していなかった。

 まあ20分とかそこらで復活する訳もないか。

 

 しかし精霊ですらダウンするというのに、何故俺はこうも元気なのだろう。

 不思議だ。

 本当に人間を辞めてしまったのかもしれない。

 エロ方面で。

 なんという性欲魔神だ。

 

 それはともかく、軽く飯でも食おうかな。

 普通に小腹は空いているような気がするし。

 

 とかなんとか考えていると、ふとこちらに近づいてくる気配を感じた。

 

 ずっとここにあった気配なので外部の人間ではない。

 それが二つ。

 要するに知佳と綾乃だ。

 

 様子を見に来たのだろうか。

 そういえば途中で混ざりに来ると言っていたし、それでこちらへ来ているのかもしれない。

 

 こちらはフルチンなのでなんとなく気恥ずかしい。

 

 なんて思っていると、姿を現した二人は俺の予想の斜め上を行っていた。

 

「警察官と……ナース?」

 

 色々と小さい方は警察官……婦警のコスプレをしていて。

 色々と大きい方は看護師……ナースのコスプレをしていた。

 

 しかも超ミニスカートだ。

 これ明らかにそういうのを目的として作られた衣装だろ。

 

 知佳は妙に堂々としているというか、飄々としているのだが、綾乃は短すぎるスカートが気になるのかそれともコスプレしている自分が恥ずかしいのか顔を真っ赤にしている。

 嫌なら着なきゃいいのに、と思ったがあいつはマゾだった。

 嫌だからこそ着るんだ。忘れてた。

 

「どこからそんなの持ってきたんだ?」

 

 二人が外へ出た気配はなかった。

 となるとあらかじめ用意していたということになるが、流石にそんな訳はないだろう。

 

「ホテルサービス」

 

 知佳が何故かピースしながら答える。

 本当に何故だ。

 

 しかしルームサービスて……

 確かに一度誰かがフロアに上がってきた気配は感じていた。

 スノウもウェンディも反応しなかったのでそれこそルームサービスの類だろうとは思っていたのだが、まさかそんなものを持ってこさせていたとは。

 絶対ムリ言っただろ。

 こっちがVIP待遇だから普段ならあり得ない要望にも無理やり応えさせられたのだろうか。

 

 サービス業って大変だなあ……

 

「なんでコスプレなんだ」

 

「いつも同じ味だと飽きるでしょ?」

 

 知佳は平然と答える。

 それってそういう意味だったの?

 

「身体は素直」

 

「お、大きくなってます……」

 

 二人が俺の股間を見ながら言う。

 ……まあ、その通りではあるのだが。

 なるほど、確かに丸っと二日か三日もある強化合宿だ。

 

 そういう変化球は必要なのかもしれないな。

 

「こういうの好きでしょ?」

 

 好きだよ!



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第54話:逮捕しちゃうぞ

「綾乃は見てるだけか」

 

「わ、私はその……あの……」

 

 知佳は自発的にベッドに入ったが、綾乃は少し離れたところで立っておろおろしていた。

 コスプレ自体は知佳に言われてやったようだが、そのままセックスするかどうかはまだ決めかねている……というか自分の気持ちに素直になれていないようだ。

 

 しかし俺から強制するよりも自分から来てもらった方が興奮するので、しばらく放っておこう。

 

「後ろに手を回して」

 

 ぐい、と知佳に手を引っ張られる。

 そしてガッチャンといやな音がした。

 

「……これはどういう冗談だ?」

 

 ガチャン、と繋がれた手錠(・・)を鳴らす。

 

「抵抗しなかったくせに」

 

 表情こそ変わらないが、明らかにからかうような含みを持たせて知佳が言う。

 確かにそれはそうだが。

 

 それに、と続ける。

 

「それくらいの手錠、引きちぎろうと思えば引きちぎれる」

 

 それもそうだが。

 流石に輪っぱの部分をどうこうするには本腰を入れないと無理そうだが、繋がれている鎖部分くらいならちょっと力を入れて引っ張れば簡単にちぎれるだろう。

 

 しかし前方向に縛られているのならまだしも、後ろ手というのはいささか拘束の度合いが強くないだろうか。

 

 という意味での抗議の視線を向けていると、知佳は薄くサディスティックな笑みを浮かべた。

 ……嫌な予感しかしないのだが。

 

「罪を犯した悠真にはお似合いの姿」

 

 罪て。

 

「罪状はなんだよ」

 

「色々あるけど、全部聞く?」

 

 色々あるのか。

 ……聞くのは怖いので俺は無言で拒絶しておいた。

 

「逮捕しちゃうぞ」

 

「されてるだろ。見ろこの手錠」

 

 壊せそうだとは言ったが、オモチャみたいな作りではなく無駄に重厚なのだ。

 本物持ってきてるんじゃないだろうな。

 

「言ってみたかっただけ」

 

 スンとした様子でそんなことを言う知佳。

 調子の狂う話である。

 

「冗談でもない冗談はさておき」

 

「…………」

 

 またツッコミにくいことを言うなこいつは本当に。

 

「逮捕されちゃうくらい悪い悠真はお仕置きしないと」

 

 知佳の小さな手が流石に今はまだ硬くなっていないちんぽに触れる。

 全裸の男が手錠で繋がれて婦警さんに股間を触られているって、字面だけで見るととんでもない光景だな。

 

 この凄いところは実際に目で見てもこの婦警がちっこいせいで更にヤバイというところなのだが。

 

「小さい時ってこんな感じなんだ」

 

 ふにふにとちんぽを触られている内に、当然それは段々と硬く大きくなっていくわけで。

 

「こんなに大きさが変わる物が身体についてたら不便そう」

 

 と、素直な感想を頂いた。

 うーむ。

 不便かどうかと聞かれたら慣れているからそうでもない、というのが答えになるのだろうか。

 

 たまにチャックとかで挟んで悲惨なことになったりもするので、やはりあるよりはない方が利便性で言ったら上なのかもしれない。

 あとこれは俺だけなのかもしれないが、講義中にうたた寝しちゃって目が覚めた時にもう朝勃ちよろしく大きくなっていることがあるのでそういう点では限りなく不便に近いが不要ではないというラインだろうか。

 

「……不便かどうかと言われたら答えかねるな」

 

「別にそんな真剣に聞いてない」

 

 ジト目でツッコまれた。

 いつもボケている知佳にツッコミをされるとなんだか釈然としない。

 

「縛られて大きくするなんて。変態」

 

「縛られて、じゃなくて触られて――って、痛いんだが」

 

 俺が口答えしようとすると知佳が結構強めに竿を握ってきた。

 痛い、とは言ったが本気で痛い訳ではない。

 そのまま扱くにしては強すぎるというくらいの具合だ。

 狙ってやっているんだとしたら力加減が絶妙すぎる。

 

「でも強く握っても大きいまま」

 

 そりゃそう簡単に男のちんこは萎えたりはしないからな。

 とか言うと今度は痛いくらいの力で握られてもおかしくないので黙っておいた。

 

「沈黙ってことは、肯定?」

 

 否定すれば制裁があり、黙れば肯定と見なされる。

 こうなって(しばられて)いる以上、絶対的上位が知佳になるのは必然のことだった。

 

「変態」

 

 アメリカに来る前も同じような論調で責められたことがあったが、あの時とは違って何かを演じているというよりはこちらの方がより素に近いか。

 

 知佳は根本の辺りを握って、扱くというよりはまるでギア操作でもするかのようにちんぽを動かし始めた。

 それがまた絶妙に悪くないというか、率直に言って気持ちいい。

 

「こういうのが気持ちいいんでしょ」

 

「……そうでもないけどな」

 

 しかし素直に認めるのは負けた気がするので誤魔化しておく。

 

「悠真は我慢してる時、右のこめかみがピクピクしてる」

 

「……まじで?」

 

「うそ」

 

 この野郎。

 俺にカマをかけるとは。

 いい度胸してやがるじゃないか。

 

 すう、と知佳が右の耳元に近づいてきて小声で囁く。

 

「一年くらい前」

 

「?」

 

「警官コスプレのAV買ってたでしょ」

 

「ぶっ」

 

 待てお前。

 なんで知ってるんだ。

 

 まさかそれで警官コスプレしてるのか!?

 

「だから好きでしょ?」

 

 好きだけどさ!

 普段取り締まる側の存在がインモラルなことしてるのってすげえエロいじゃん。

 男ってそういう単純なのに興奮するんだよ。

 

「しこ、しこ。しこ、しこ」

 

 そのまま耳元で囁くようにされながら上下に扱かれる。

 力加減はその時々によって調整しているようで、強かったり弱かったり――決して俺を絶頂させようとしている動きではなく、ただ焦れさせているだけなのだとすぐに察することができた。

 

「焦らすつもりか?」

 

「お仕置きなのに簡単に気持ちよくなっちゃだめ」

 

 ふぅ、と知佳が耳へ息を吹き掛けてきた――かと思えば。

 

「れろ」

 

 舌で耳を舐められる。

 ぞくり、と快感が背筋から抜けていくような感覚。

 

 竿を握っている右手とは逆の左手が俺の頭の後ろを通って、左耳を塞いだ。

 右手はちんぽを握っていて、左手は片耳を塞いでいて、もう片耳では知佳の息遣いを感じているような状態。

 

 自分よりも遥かに小柄な女の子に全身を包まれているような感覚だ。

 

「はむ……れろっ……」

 

 そのまま知佳が耳たぶを舐めたり食んだりしてくる。

 こ、これはやばい。

 やばすぎる。

 

 左耳が抑えられている影響なのか、まるで脳内で知佳の息遣いが反響しているようだ。

 

「じゅぷ……んっ……はぁ……っ、んっ……」

 

 耳たぶだけでなく、耳の中に舌が侵入してきた。

 もちろん奥まで入るわけはないので入り口だけをちろちろと舐められたり弄ばれたりしているだけだが、先程よりもより音はダイレクトに伝わり、先程と同じく逃げ道がないので反響する。

 

 熱い息遣い。舌での愛撫。

 支配されているような感覚。

 

「はぁむ……れろっ……ん……ちゅ……ぅ」

 

 当然、竿を扱く手も止まってはいない。

 一定の間隔で、強弱織り交ぜての上下を繰り返されている。

 

 先程と同じく焦らす為の動き――

 にも関わらず、俺の射精感はほとんど限界まで高まっていた。

 そしてそれをちんぽへの力の入り方で既に察していたのだろう。

 

「手に出しちゃうの?」

 

 吐息混じりの声で耳元で囁く知佳。

 熱い息が吹き掛けられる。

 

「それとも膣内(なか)でいっぱいびゅーびゅーしたいの?」

 

「…………」

 

 俺が黙っていると、少し甘えたような声音で知佳は囁いた。

 

「答えて」

 

 心臓がまるでドッキリをしかけられた時のように跳ねる。

 まさか知佳がこんな声を出すなんて。

 びっくりした、のだろう。

 そのドキドキしている心臓のまま、俺は答えてしまう。

 

「中に……出したい」

 

「よく言えました」

 

 知佳がそのまま俺に跨って、特に焦らすこともなく挿入させてくれた。

 凶悪さを感じるほど大きく硬くなっていたグロテスクな肉棒が入っていく。

 

「んっ……ふっ……♡」

 

 ミニスカとは言え、接合部はしっかりとは見えない。

 しかしその見えないという状況が更に興奮を加速させる。

 

 ミニスカポリスが男の上に跨ってちんぽを咥えこんでいるのだ。

 興奮しないわけがない。

 ましてやそれが知り合いであり、身体の相性もいいのだから拍車はかかれど止まる道理はない。

 

「全部入っちゃった……♡」

 

 知佳はぺろりと舌なめずりをした。

 まるで獲物を捕食する肉食獣のようなそれだ。

 

「悪いおちんちんが婦警さんに食べられちゃって、どんな気持ち?」

 

 ぐりぐりと挑発するように腰を動かす知佳。

 そんなもの聞かなくても答えは分かっているだろうに、嗜虐的な趣向に目覚めつつある知佳は止まらない。

 

「びくびくしてる」

 

 きゅっ、と締め上げるように膣が動く。

 ミルク絞りでもされているような動かし方に腰が引けそうになってしまう。

 とは言え、両手を後ろ手に縛られている上に、膝の上には知佳が乗っているので本当に引けるわけではないのだが。

 

「悠真、我慢してる。かわいい」

 

 知佳が俺の頭に両手を回して、ぐいっと自分に引き寄せた。

 身長差の関係で、まるで俺が無理に甘えているような構図になってしまう。

 しかしそんなことはお構いなしのようだ。

 

「いいよ、中にいっぱい出して。全部、中に出して」

 

 先程までは焦らされていた分、その言葉は効果絶大だった。

 

「……っ!」

 

 気を失ってしまうのではないかと思うほどの気持ちよさと共に一気に射精する。

 

「~~~っ♡♡♡」

 

 びくんびくんびくん、と知佳が背中を仰け反らせて絶頂する。

 身体が小さい分、膣も短ければ子宮も小さい。

 しかし出た精液は溢れる様子がない。

 膣が限界まで俺のちんぽを締め付けて、隙間がないからだ。

 

 まるで全て自分の体内へ取り込むと言わんばかりにごくごくとまんこで精液を飲んだ(・・・)知佳は、俺を見て薄い笑みを浮かべた。

 

「……いっぱい出た」

 

「……ああ」

 

 正直、この射精は気持ちよすぎた。

 声フェチのケがある俺にとっては途中までほとんどクリティカルだったし、最後の方もただひたすらに気持ちよくて射精することしか考えていなかった。

 

 まさかここまでされるとは。

 驚いたな、本当に。

 

「流石にそろそろ外してくれてもいいんじゃないか?」

 

 じゃら、と俺が手錠を鳴らすと、知佳もある程度今ので満足したのか、俺の上から降りて胸ポケットから取り出した鍵で手錠を外してくれた。

 

「ふう……」

 

 久しぶりに開放された手首の感覚を確かめるようにぷらぷらと動かす。

 

 ……さて。

 

 知佳の腕を掴んで、後ろ手……はこの後のことも考えてやめ、身体の前で手錠を嵌めた。

 

「えっ」

 

 びっくりしたような表情を浮かべる知佳から鍵を素早く取り上げ、ピンと綾乃の方へ投げる。

 

「わ、わっ」

 

「俺が良しと言うまで持っていろ」

 

「は、はいっ」

 

 急に仕事を割り振られた綾乃はしかしいい返事をした。

 

 うむ。

 

「……どういうこと?」

 

「お礼だよ、お礼。気持ちよかったからさ」

 

 まだヘバっているウェンディに言われずとも分かっている。

 今の俺は悪役の笑顔を浮かべていることだろう、と。



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第55話:逮捕しかえしちゃうぞ

1.

 

 

「……外れない」

 

 胸の前で手錠をガチャガチャと鳴らす知佳。

 無駄に本格的だからな。

 普通の人間でも筋肉自慢ならもしかしたら壊せるかもしれないが、少なくとも知佳のような女の子には無理だろう。

 

 じとー、と知佳が俺を責めるような目で見てくる。

 

「変態」

 

「警察官が拘束されてるっていう光景もなかなか乙なもんだな」

 

「やらしいことするの? 身動きの取れない女の子に」

 

「もちろん」

 

「んっ――」

 

 知佳の顎を指で持ち上げてそのままキスをする。

 嫌がっている女性への陵辱と言えば望まないキスというイメージがあったのだが、知佳はどうやら言葉ほど嫌がっているようではなく、普通に唇同士の接触を受け入れた。

 

「ん……れろ……んぅ……」

 

 どころか舌まで入れてくる余裕さだ。

 なるほど、普通にやっても知佳を圧倒することは難しいようだ。

 しかしこちらからしかけた戦いである。

 これでやり返されたからと言ってそこであっさり引き下がるわけにはいかない。

 

 そうだ。

 先程やられたことの仕返しなのだから、同じことをしてやればいい。

 

 俺は知佳の両耳を両手で抑えた。

 小さな頭を左右両側から挟み込むような形になって、無理やりキスしているような感じも意図せずにあがったが。

 

「んっ……!? ん……っ、ん……♡」

 

 流石の知佳も急なことに驚いたようだ。

 至近距離にある表情が驚きのものへと変化する。

 

 先程は耳元にあった音が出口を塞がれていたが、今度は口元で発生した音の出口がない状態だ。

 

 状態は違えど状況はほぼ同じである。

 

 そしてしばらくやっていて気付いた。

 あれは俺に対する知佳の声だからあそこまでの特攻だったわけだ。

 知佳も声フェチっぽいケはあるが、冷静に考えて声の発生しないキスで同じことをしてもあまり効果がないのではないか。

 

「んぇ……♡ ん……♡♡♡」

 

 ……と思っていたのだが。

 

 口を離すと知佳はぐったりと俺に体を預けてきた。

 完全に脱力していて、まるで熱に浮かされているかのような表情を浮かべている。

 股の下のシーツはぐっしょり濡れていて、何度も絶頂していたようだ。

 

 よくわからないがこれはこれで知佳にかなりのクリティカルだったらしい。

 声フェチというか音フェチなのだろうか。

 ASMRでスライムの音とかを聞いたりする人もいるらしいし。

 

 しかし大丈夫かと心配になるほど脱力している。

 先程まではあんなに余裕だったのに。

 ……これはちょっと時間を置いた方がいいかもしれないな。

 

 手錠で繋がれているせいでまるで凄惨なレ○プ現場みたいになっている。

 しかもその対象が婦警だというのだから業が深すぎる。

 バックで突き倒す予定だったのだが、無理をさせるわけにもいかないか。

 

 スノウとウェンディを見てみると、どうやらまだへばっているようだ。

 全く精霊だというのに情けない話である。

 俺自身の体力は本当にどうなっているんだと言いたいところだが。

 

 さて、となると……

 

 綾乃をちらりと見ると、面白いようにびくっと身体を震わせた。

 しかし生地が薄かったりスカートが短かったりと、恐らくそれ専用に作られている為に扇情的な作りになっているとは言え、綾乃の巨乳ナースの破壊力はなかなかのものだ。

 

 立ち上がり、綾乃へ近づいていく。

 

「あ……あっ……」

 

 俺が二歩近づくと一歩さがる。

 今度は三歩近づいて半歩さがる。

 

 本当は逃げようとしていないということが透けて見えるな。

 やがてすぐ手の届く位置に立って、俺はあえて少し荒めにがしっと綾乃の肩を掴んだ。

 

 びく、とその瞬間に綾乃が身を縮こませる。

 その目には涙が浮かんでいたが、俺にはそれが期待している時の目だとすぐにわかる。

 だってこいつマゾだし。

 

 今からめちゃくちゃに犯されるのを想像しているのだろう。

 

 だが、ここで手を出すのは綾乃にそのまま褒美をやるようなもの。

 それにあくまでも綾乃は自分からこの『合宿』に参戦するとは言っていないからな。

 

「ナースさん、あいつらのこと頼むよ」

 

「ふぇっ?」

 

 きょとん、とした表情を浮かべる綾乃。

 

「そんじゃよろしく」

 

 そのまま俺は冷蔵庫の方へ歩いていく。

 喉が乾いたからだ。

 

 

2.

 

 

 恐らくウェンディあたりがあらかじめ用意しておいたのであろうスポーツドリンクをペットボトル一本分一気に飲み干して(どうやら相当身体は脱水症状に陥っていたようだ)ベッドへ戻ってくると、綾乃が言われた通り三人の身体を拭いたり知佳の手錠も外してベッドに並べていたりして。

 

 こうして見てると本当にナースみたいだな。

 中身はマゾとは言え、見た目は小動物っぽいので、何も知らずに見れば心優しい看護師にしか見えないだろう。

 

 地毛と言っていた栗色の髪も業務に支障をきたさない程度のお洒落のように見えてより本物っぽい。

 

「悪いな綾乃、そんなこと任せちゃって」

 

「い、いえ……大丈夫です……けど、その……」

 

「どうした?」

 

 何を言いたいかはもちろん分かっている。

 私は抱かないんですか、と聞きたいのだろう。

 気合いを入れてコスプレまでしてきたのに。

 

 まあ、犯すのだが。

 

 もちろん懇願はさせなければ面白くないけど。

 

 俺はベッドの脇でシーツの水分を拭き取ったりシワを伸ばしたりしている(もはやナースではなくホテルマンだ)綾乃の後ろに立つ。

 

「あ、あの……? ひゃっ!?」

 

 無造作にケツを揉む……というよりは掴む。

 太っているわけではないが、スノウやウェンディ、もちろん知佳と比べて一番女性らしい丸みに富んでいる綾乃はこういうこともできるわけだ。

 

 そのまま少し強めに手を動かす。

 

 綾乃の目が期待の色に染まる。

 しかし俺はそれを冷たい表情で見返した。

 

「どうした? 手が止まってるぞ」

 

「え……でも、悠真くんが……」

 

「いいから続けろ」

 

「……っ♡ はい……♡」

 

 若干恍惚とした表情を浮かべて綾乃が頷いた。

 流石は生粋のマゾだ。

 ウェンディの若干の被虐体質とは比べ物にならないほどの受けである。

 

 もしかしたら究極のマゾは戦いに置いては無敵なのかもしれない。

 痛いのも苦しいのも気持ちいいんだから。

 もちろん人間なので度を越した時点で死んでしまうか倒れてしまうかになるのだが。

 

 そんなアホな考えはともかく。

 

 常人ならばただ痛いだけで気持ちよさは感じないであろう強さでケツを掴んでいても綾乃は気持ちよさそうにしていた。

 

 ちなみにケツを掴む以外は何もしていない。

 気持ちよくなるように動かしたりとかは一切していない……のだが。

 

 綾乃はいつのまにか完全に動きを止め、ベッドに両手をついてケツをこちらに突き出していた。

 

「はぁ……♡ はっ……♡ はぁ……っ♡」

 

 意識してかしないでか、まるで誘うかのように腰を振っている。

 

「手が止まっているが」

 

 正直めちゃくちゃエロい。

 今すぐ思い切りちんぽを突っ込みたい気持ちを抑えて、俺は敢えて冷たい感じで綾乃に聞く。

 

「悠真くん……お願い、ですから……♡」

 

 完全に発情している顔で綾乃がこちらを振り向く。

 

「私……♡ もうだめなんです……♡ オシオキ……してください……♡」

 

 まあ、いいか。

 これ以上はこっちも我慢するのに限界を感じていたところだし。

 

「自分でスカートをまくりあげて、パンツもずらせ」

 

「はい……♡」

 

 いそいそと言われた通りにする綾乃。

 白くて丸い大きなケツがあらわになる。

 普段こんなにエロいものがズボンだったりスカートだったりに隠されているのは惜しいのではないだろうか。

 人類の損失と言っても過言じゃない。

 

 むっちりとしたケツ肉を掴んでぐいっと左右に割る。

 

「ひあっ……♡」

 

 既にとろとろに濡れているまんこだけではなく、見られて恥ずかしいのかヒクヒクと動くアナルまで丸見えだ。

 しかしスノウやウェンディとは違って綾乃は普通の人間である。

 いきなりアナルに挿入するのは色々と問題があるだろう。

 

 なので俺は綾乃の腰を掴んで、一気にまんこへ挿入した。

 乱暴な動きだったので綾乃の身体が持ち上がるほどの力が入ってしまった。

 

「……ひゅっ……♡」

 

 一瞬、やばい、と思うような苦しそうな声を出したものの、綾乃の膣内は明らかに悦びに打ち震えていた。

 その上ちらりと見えた表情も幸せそうだ。

 

 マジで無敵なのかもしれん、こいつ。

 しかしそういうことなら遠慮はいらないか。

 最初の一突きと同じくらいの強さで遠慮なくガシガシと奥を突きまくってやる。

 

「あ゛え゛っ、こえ゛っ、やあ、い゛っ、えすっ、ゆう゛ま、くん゛っ」

 

 呼吸がままならないまま無理やり喋っているせいか、ほとんどなんと言っているか聞き取れない。

 だがどうやら気持ちいいのは間違いないようだ。

 その証拠に中はどんどん愛液が分泌されて洪水のようになっているし、表情もどこか恍惚としている。

 

「ほら、こっち向け」

 

 ぐりん、と膣内へ挿入したまま向きを変えてやるとごりゅごりゅ、と中がえぐれる。

 

「ああ゛っ♡♡ ひぃっ♡♡ んぅ♡♡」

 

 そのまま鯖折りよろしく両腕を巻きつけて締め上げる。

 もちろん加減はしているが、間違いなく苦しいだろう。

 

「――かはっ♡♡♡ あっ♡♡♡ あああっ、あああああああっ、あっあああああああ♡♡♡」

 

 それだと言うのに綾乃はやはり嬉しそうな表情で、苦しそうな声をあげながら膣内をきゅうきゅうと締め上げていた。

 する度に思うが、綾乃とのセックスはまるで劇薬だ。

 征服感という根源的な欲求を満たしてくれる。

 

「まるで性奴隷だな、お前は」

 

 拘束する力を弱めて、淫れる綾乃に囁く。

 

「ち、ちがっ、ちがうのぉぉぉ、そんなの人間じゃないみらいれ――」

 

 流石に性奴隷扱いは嫌なのかぶんぶんと首を横に振って否定する綾乃。

 しかしこのマゾが本気で嫌がっている訳がない。

 本能を理性が邪魔しているのだ。

 ならばその理性を徹底的に破壊するまで。

 

 力任せの強いピストンを再会する。

 

「ひぎゅっ!? あぐっ――んぐっ、あっああっ――」

 

 ぐりぃ、と乳首を抓ってやる。

 

「ひぃ――!? あっ、いた、いたいぃぃぃ♡♡♡ あ、らめなの、それぇ、らめええぇぇぇぇぇ♡♡♡」

 

 髪を振り乱し、小動物のような愛くるしさはどこへ行ったのやら。

 もはやそれは性を貪るただの獣だ。

 

「はぁッぉッはぁッ……っんぉッっ♡ いっ゛……♡ っ、♡」

 

「出るぞ……!」

 

「――はっ、あ゛っ♡♡♡ ――♡♡♡」

 

 ぶつん、と糸の切れた人形のように急に脱力する綾乃。

 どうやら膣内の反応から察するに今のも絶頂したということらしい。

 

 で……

 どうやら気を失ったらしい。

 

「おーい」

 

 ぺちぺちと頬を叩くも、

 

「んへ……♡」

 

 と幸せそうな表情を浮かべるだけで起きる様子はない。

 寝ててもマゾなのか、こいつは。

 

 しかし由々しき事態が発生してしまった。

 まさかの女性陣が全員ダウンだ。

 俺はピンピンしているというかビンビンしているのに。

 

 どうしようか。

 強化合宿を銘打ったものの、ものの数時間で全員がダウンした以上、復活するのを待つのはあまり効率が悪い。

 そして俺の方はまだまだ欲求不満なわけで。

 

「寝てても……穴はあるか」

 

 究極的には膣内射精(なかだし)をすればいいのだろう?

 

 

3.

 

 

 合宿なるものが始まって実に4日が経過していた。

 当初の2日を大幅に上回ったのは単に俺がヤりたかったからである……と言うと半分嘘だ。

 

 理由はティナの件。

 

 ダンジョン管理局……というか柳枝(やなぎ)さんに無理を言って、ティナを良いようにこき使っている政府側の人間への面談を取り付けて貰ったのだ。

 

 流石のダンジョン管理局でも政府側の人間と一般人の面談をセッティングするのは手間取ったようで、4日もかかったという訳だ。

 

 そして。

 肝心の魔力の方はと言うと、この4日間で通算三桁にも上るセックスをした結果、ウェンディいわく次の精霊を召喚しても問題ないところまで上昇したとのことだった。

 

 ちなみに知佳や綾乃の魔力も相当増えはしたが、今の所は未菜さんの7割程度、ティナよりほんのちょびっと少ないくらいに留まっているらしい。

 それでも常人よりは遥かに多いが。

 

「で、もう召喚していいのか? 次の精霊」

 

「午後からの予定(面談)にも最低でも精霊(わたしたち)の中から二人はマスターに同行したいですし、その間は知佳様と綾乃様が無防備になるので一人警備をさせるとして合計三人必要ですから。召喚するのなら今がベストかと」

 

 4日間の長く苦しい……いや苦しくはないか。むしろ楽しい……というか気持ちいい戦いを経て、ようやく三人目の精霊だ。

 

 スノウの時のような偶発的なものでもなく、ウェンディのように突発的なものでもない。

 

 いざこうして準備をして呼び出すのは初めてだ。

 

 なんか緊張するな。

 他の四人に見守られながら、俺は唱えた。

 

召喚(サモン)



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第56話:妹(?)ができました

1.

 

 

召喚(サモン)

 

 そう唱えた直後、パッとそこに現れたのは燃えるように紅いショートヘアの少女だった。

 そして俺と目が会った瞬間、喜色満面といった様子でこちらへ飛び込んでくる。

 

お兄さま(・・・・)!」

 

 そんなことを口走りながら飛び込んできた少女をばふ、と受け止める。 

 

「……お兄さま?」

 

 俺に妹はいないはずなのだが。

 

「落ち着きなさい」

 

 と、初手で俺に抱きついてきたその子をスノウがぺいっと引き剥がした。

 

「何するのよ、スノウ。わたしはもっとお兄さまを感じたいのに」

 

 憮然とした様子でスノウへぶーたれる少女は――

 

 年齢は高校生くらい……に見える。

 おっとりとした垂れ目で、瞳は空のような青。

 

 そして何故か服装はめっちゃ和装だ。

 髪と同じ紅を意識しているのであろう色合いの着物。

 

 シンプルなワンピース姿だったスノウや、魔術師然としたローブを着ていたウェンディとはまた違ったデザインである。

 

 更にもちろんというか当然というか、スノウやウェンディに負けず劣らずの美人だ。

 ウェンディを見た時もスノウに少し似ているように見えたが、この子は更に似ているように見える。

 

 双子の姉がいると言っていたのでそっちかな……?

 

「申し遅れました、お兄さま。フレアティフォートと言います。フレア、と呼んでください」

 

 にっこりと少女は微笑んだ。

 

 

2.

 

 

 フレアティフォート。

 見た目でなんとなくわかる通り、炎を司る精霊らしい。

 そしてこちらも俺が予想した通り、スノウと双子だという。

 

 身長もスノウの方が高いし、どちらかと言えばフレアの方が少女らしいので妹っぽく見えるのだが姉だ。

 どのみち双子だからどうでもいいと言えばどうでもいいのだが。

 

「とりあえずそこまでは理解した……けど、なんで俺が『お兄さま』なんだ? 双子ってことはスノウと同い年なんだよな?」

 

「フレアとスノウの肉体年齢は19ですから。お兄さまは22でしょう? ならばお兄さまです」

 

 と、どこかうっとりしたような表情で(というか召喚してからずっとこの調子なのだが)言った。

 初めて聞いたぞそんなこと。

 ちらりとスノウの方を向くと、

 

「彷徨ってる期間を含めればあんたよりずっと年上よ」

 

 とよくわからないマウントを取られた。

 まあそれはそうなのだろうが。

 そもそも精霊に関しては肉体的に年齢を重ねていくのかも疑問の残るところである。

 

「……で、召喚していきなり抱きついてきたのはなんでなんだ? 他の二人はまず状況把握するところからだったはずだけど」

 

 もしかしてダンジョン内での召喚じゃないからとかだろうか。

 今までとは異なる、イレギュラーが発生した理由と言えばそれくらいしか考えられない。

 

「いいえ、違いますお兄さま」

 

 じぃっとフレアに目を見つめられる。

 

「フレアはずうぅぅ――っとお兄さまのことを見ていたんです。スノウが召喚されて……二日目くらいから」

 

「ずっと?」

 

 しかも二日目って。

 幾らなんでも早すぎないか?

 

「双子だからか、召喚されたスノウの魔力を遠くからでも感じられました。だからすぐに二人を見に来たんです。それからは、ずうっと」

 

 ぎゅう、と俺の腕をしっかり抱いて、多分わざと胸にぐいぐいと押し当てるフレア。

 

「ウェンディお姉ちゃんが先だったのは悲しかったけれど、今こうしてお兄さまに触れられるので気にしていません。一番とは言いませんから、フレアを近くに置いてください、お兄さま」

 

「わ、わかったからちょっと離れてくれ」

 

 当たってるんだよ。

 ずっと。

 絶対わざとだろこれ。

 いや別に精霊である以上本契約は必ずする必要があるのだから邪な気持ちを抱くことに何も問題はないのだが、流石に出会って数分の相手に欲情するほど節操なしとは思われたくない。

 

 ……がここまでされたら仕方なくない? とも思う。

 

「……離れる?」

  

 ギリィ……と抱きついている力が強まる。

 

 ……フレアさん?

 

「フレアの愛を受け入れてもらえないのでしょうか? お兄さま。お兄さま、お兄さま。フレアはこんなに愛しているのに。こんなにも愛しているのに。フレアはお邪魔でしょうか? 一番じゃなくていいんです。でものけものはいやです。いやなんです。許しません」

 

 笑顔を浮かべたまま段々と早口になっていくフレア。

 なんだか部屋が暑くなってきたような気がする。

 というか熱くなってきているような気がする。

 

「落ち着きなさいって」

 

 ぺしーん、とスノウがフレアの頭をはたいた。

 それと同時に先程までの熱さが引いていく。

 

「だって、だってぇ……スノウ~~~!」

 

「はいはい。悠真は別にあんたを拒絶したわけじゃないのよ。エッチしてる時以外はむっつりだから拒絶したみたいに見えただけ。心の底はまだ童貞なの」

 

 フレアがスノウに泣きついている。

 まるで歳下の子をあやしているような光景だが、フレアが姉でスノウが妹だ。

 双子だけど。

 

 ちょいちょいとウェンディに小突かれる。

 フォローしろってことね。了解ですよ。

 

「あー……悪かった、フレア。嫌なわけじゃないんだけど、ほら、可愛い子に抱きつかれたら緊張するだろ?」

 

「かわいい……? フレアはお兄さまから見てもかわいいんですか?」

 

「ああ、そりゃもう」

 

 そう言うとぱあっとフレアの表情が明るくなった。

 

 というか可愛いのは事実だし。

 スノウに瓜二つと言っていいほど似ているが、スノウはツリ目でフレアはタレ目。

 更にそもそもの雰囲気が全く違うので、スノウが綺麗系だとすればフレアは可愛い系である。

 

 似ているが違うというなんだか不思議な感覚である。

 

「たらし」

 

 知佳がジト目で俺を見ている。

 どうしろって言うんだ。

 

「……で、フレアを召喚したはいいけど、これからすぐに本契約するの? 悠真のアホみたいな性欲ならできなくもないと思うけど」

 

「お兄さまと本契約……♡」

 

 再び熱っぽい視線で俺をじいっと見てくるフレア。

 まるで引き込まれるような感覚に陥ってしまうが、それを断ち切ったのはウェンディの冷静な声だった。

 

「マスターに出会えて今は昂ぶっているようですから、本契約で本来の力を取り戻すのは危険かと」

 

「危険て……」

 

 いやしかしさっきも実際に部屋が熱くなっていたか。

 あれがスノウやウェンディの出力で行われていたら今頃俺たちは電子レンジの中に入ったようになってしまっていたかもしれない。

 

 スノウがいるからよっぽどなことはないとは思うが。

 

「流石に私たちに危険が及ぶことはないとは思いますが。今から交渉しに行く相手は一筋縄ではいかないでしょうからね。この様子のフレアに、もし目の前でマスターに敵意をぶつけるような相手を見せでもしたら……私やスノウからすれば止める意味も薄いので、相手がただでは済まない可能性があります」

 

「……そりゃあ大変だ」

 

 いや、冗談抜きで。

 なにせこれから会う相手はアメリカ政府の中でもかなりの重役である。

 流石に危害を加えるようなことをするのはまずい。

 

 

3.

 

 

「お兄さまとお出かけ……こんなことができるなんて本当に夢のようです」

 

 待ち合わせの場所へ向かう道中、相変わらず語尾に♡マークが大量に浮いていそうな様子で俺の腕に抱きついているフレア。

 正直かなり歩きにくいのだが、そんなことを言って機嫌を損ねられるよりは腕に当たっている見た目の割にそこそこのボリュームを誇るものの感触を楽しんだ方がいいだろう。

 

 少し後ろを歩くウェンディが周囲の警戒をしているのでとりあえずの危険はないだろうし。

 

 ちなみに知佳と綾乃は留守番。

 スノウも二人と同じく留守番兼警備である。

 

 なにせこれから行うのは政府の要人に喧嘩を売るようなもの。

 俺自身に危険が及ぶのならともかく、知佳や綾乃もそれに巻き込まれる可能性がある。

 

 その点スノウがいれば、俺が離れる分多少弱まるとしても十分すぎる程の役割を果たすだろうということだ。

 

「……にしても、良かったなあ。フレアが召喚できて」

 

「えっ! お兄さま、もうフレアのことをそんなに想ってくださっているのですね……!」

 

「いや……ああいや、そうでもあるんだけど、スノウ、ウェンディ、そしてフレアとみんな知り合いどころか姉妹なんだろ? 相当俺も運が良いよなって」

 

 スノウはウェンディが召喚されたことに対して結構驚いていたように見えた。

 精霊は結構数がいるようだし、自分の姉妹が召喚されるとは思っていなかったのだろう。

 ウェンディだけならまだ豪運が引き寄せたとも言えるかもしれないが、フレアもとなるとほぼ必然的な気もする。

 

「魔力の強さ(・・)で言えば姉妹の中でもスノウとフレアは頭ひとつ抜けていますから、まずスノウが召喚されたことで私を含め姉妹を引き寄せているような側面があるのかもしれません」

 

 ウェンディが持論を展開する。

 なるほど、魔力の強さか。

 魔力自体まだわからないことの方が多い謎エネルギーでもあるということもあるが、なんとなく納得のいく理屈でもある。

 

「そんなこともあるのか」

 

「そして二人目が私だったことで更にその引力は強くなり――」

 

「三人目はほぼ確定で姉妹の内の誰か……つまりフレアってわけか。じゃあ次に召喚したらお前たちの一番上のお姉さんが出てくるのもほぼ確定ってことか?」

 

「ほぼ確定かどうかはともかく、確率は高いでしょう」

 

 姉妹以外にも精霊はいるのはわかっているので、そこから誰かが出てくる可能性ももちろんあるということか。

 戦力という点で見れば別に構わないのだが、姉妹以外だとなんとなく気まずそうだ。

 俺としても円満に行きたいので、次召喚する時は一番上のお姉さんであることを祈ろう。

 

「そういえば、お兄さま。ティナちゃんをなんとかして開放してあげたいので今から交渉へ向かうのですよね?」

 

「ああ、そうだけど。それがどうかしたか?」

 

 特に説明とかしないで連れてきてしまったが、当然のように現状を把握している。

 どうやら本当に『ずうっと』見ていたようだ。

 飽きずによく見ていられたなあ……

 セックスしたりなんだりのところも見られていたと考えると恥ずかしいものがあるが。

 

 ……待てよ。

 

 ずうっとってどれくらいずうっとだ。

 セックスは百歩譲って見られていたとしてもまあいいだろう。

 

 トイレや風呂もか……?

 流石にそれは……いやしかしなんだかそれも有り得そうな凄みがフレアにはある。

 見ていたと言われてもさほど驚きがない。

 

 うーむ。

 

 ……聞くのはやめておこう。そうしよう。

 

「どうするつもりなんですか? 力ずくでしょうか?」

 

「流石にそれはな」

 

 俺がダンジョン管理局に世話になっていない立場だったらそれも選択肢には入っただろうけど。

 一応ウェンディには話してあるが、そこはどうやら流石のフレアも聞いていなかったようだ。

 フレアでも知らないことがあるとなると安心できるな。

 俺がいつもトイレで鼻歌を口ずさんでいることとかまで知られていたら俺は恥ずかしくて死んでしまう。

 

「あくまでも『交渉』だ。こちらが差し出すものを提示して、あちらにはティナを開放してもらう。ただそれだけさ」

 

 もちろんそれとは別で、ある程度の報いは受けて貰うけどな。

 相手からすれば自国の為にやっていたことかもしれないが、事実それで犠牲になっていた子がいるのだ。

 お互いウィンウィンなだけの関係で終わらせるつもりは毛頭ない。

 

 それに相手の出方にもよるしな、最終的にどう転がるかなんて。

 

 

4.

 

 

 待ち合わせの時間からたっぷり30分以上は遅れて部屋へ入ってきたでっぷりと肥えた、オークよりオークっぽいおっさんは俺とウェンディ、そしてフレアを見てチッと舌打ちした。

 

「ガキと女だけか。生産性皆無の無能共があまり時間を取らせるなよ。私は忙しいんだ」

 

 厭味たっぷりの表情でそんなことを言い捨てるおっさん。

 

 ピクピクとこめかみが引き攣るのを自覚しつつ、俺は自分を落ち着ける為に一つ深呼吸をした。

 どうやら一筋縄では行きそうにないな。

 

 あと殺気が漏れてるぞ、フレア。

 頼むからこのおっさんを焼豚にしたりしないでくれよ。



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第57話:交渉の余地

1.

 

 

 ドッカリと対面のソファに座った肥えたおっさんはじろりと値踏みするように俺を眺めた。

 後ろにはお付きなのか護衛なのか、屈強なスーツの男が二人控えている。

 パッと見は丸腰だが、多分どこかに銃を隠しているんだろうな。

 

「で、極東のガキが何の用だ?」

 

 確か柳枝(やなぎ)さんから事前に聞いていた名前はパットンだかなんとかって名前だったか。

 自分から名乗らない辺り、知って当然と思っているのか名乗る価値もないと思っているのか。

 それとも純粋に常識がなく知能も見た目通りなのか。

 

 名乗られない以上こちらも名乗る義理はない。

 

 俺は事前にウェンディとフレアに打ち合わせしておいた通り、足を組んで背中を背もたれに預けさせ、挑発的な笑みを浮かべた。

 

 足を組んだりするのは海外だと普通だとも聞いたことがあるが、流石にここまでする人はあまりいないだろう。

 尊大とも言える態度にパットンは露骨に眉根を寄せた。

 

 そもそもこいつが部屋に入ってきた時点で俺は立ち上がらなかったので、そこでも気分を害しているのだろう。

 

 別にこのおっさんに気持ちよく交渉して貰うつもりなど全くないのでそれで構わないのだが。

 

「交渉に来たのさ。きっとアメリカの利益になる」

 

 ピクリとパットンが眉を上げた。

 俺との話し合いを事前にどう聞いていたのかまではわからないが、多少は話を聞く気になったか?

 

「国の利益などどうでもいい。私にとって有益かどうかだ」

 

 あんた政治家だろ。

 

「そうなるかどうかはあんた次第だな」

 

「話せ。聞くだけ聞いてやる」

 

 あくまで上から目線で話すパットンに後ろでフレアが殺気を漲らせているが、ウェンディの牽制している様子も同時に伝わってくるのでとりあえずは大丈夫だろう。

 多分。

 

魔力(・・)の有効活用についてだ」

 

 パットンが少し目を見開く。

 

「有効活用?」

 

「ミスター。あんたは魔力についての理解が足りない。いや、あんただけではなく、人類全体の話だが」

 

「なんだと?」

 

 露骨に機嫌を悪くするパットン。

 自分がバカにされるのは我慢ならないようだ。

 そしてここからはダンジョン管理局――つまり柳枝さん達の中での魔力の認識を聞いた上での話になる。

 

「魔力とはダンジョンへの習熟度を示すもの。最初から多く持つ者はそれだけ早くダンジョンへの適性を示すし、逆に少ない者や全く持っていない者は幾ら訓練を積んでも優秀な探索者にはなれない。そして極端に多い魔力を持つ者は身体能力にも影響が出る。だからアメリカでは魔力の多い者を特別に鍛えている」

 

「そんなことは知っている。私を誰だと思っている。」

 

 知らんよ。

 柳枝さんから名前を聞くまでは存在すら知らなかったんだから。

 

「魔力ってのはそれだけじゃない。こういう(・・・・)こともできるのさ」

 

 そして、ここから先はダンジョン管理局も知らなかった――つまり世界中で誰も知らない事実。

 人差し指の上に火の玉を作り出しながら、俺は言った。

 

「知らなかっただろう?」

 

「くだらん手品だな」

 

 ふん、と鼻を鳴らしてパットンは一蹴した。

 ……ま、俺はスノウの存在を知っていたから魔法が使えると初めて聞いた時も特に驚かなかったが、普通はこういう反応になるだろう。

 

「裏の二人に身体検査でもさせればいい。手品じゃないことがわかる」

 

「…………」

 

 俺の自信満々な様子に興味を抱いたのか、無言でパットンは顎をしゃくった。

 スーツの男たちが俺へ近づいてきて、特に許可も取らずに体をまさぐられる。

 これが美女だったら良かったのに。

 

 しばらく不愉快な感覚を味わった後、スーツの男たちは無言でパットンに向かって首を振った。

 そりゃそうだ。

 種も仕掛けもないのだから。

 まあ種はあると言えばあるが。

 魔力という名のな。

 

「……そんなはずはない。後ろの女共が何か細工をしているのかもしれん。私が直々に調べてやろう」

 

 好色そうな笑みを浮かべながらそんなふざけたことを言うパットン。

 

「その必要はない。あんたはこれが本物だとすぐにわかる」

 

 指先に込める魔力を多くして、火の玉を半径1メートル程に巨大化させる。

 そしてそれをパットンに向けて突きつけた。

 

「なっ……! 貴様、何をする!」

 

 今パットンは相当な熱気を感じていることだろう。

 部屋の温度が上昇していく。

 

「これだけの熱量をたかだか細工で出せると思うか?」

 

「――分かった、分かったからこれを消せ!」

 

 苦しそうに喚くパットン。

 少し溜飲も下がったのでふっ、と火の玉を消してやる。

 次にウェンディ達に手を出そうとしたら小さいやつをかましてやろう。

 

「これが魔法だ」

 

「……貴様がスキルホルダーで、そのスキルで今の火の玉を出していたのではないという証拠はどこにある」

 

 俺を睨みつけるパットン。

 なるほど、確かにそれもそうだ。

 魔法として魔力を行使できる人間はいないが、スキルホルダーがスキルを使用する時は魔力を消費する。

 それは俺が召喚を使う時もそうなので分かっていたことだ。

 

「フレア」

 

「はい、お兄さま」

 

 俺の合図で、先程俺が作り出した火の玉よりも遥かに大きなものを作り出して、何も言ってないのに勝手にそれをパットンに突きつけるフレア。

 そしてすぐにその火の玉は消失した。

 

 ほんの一瞬だったが、その一瞬で前髪が焼けて縮れている。

 

 ぽかん、とした間抜け面を晒していたパットンが我に返って喚く。

 

「き、き、貴様!!」

 

「誰でも出来るという証拠を見せただけさ」

 

 いい気味である。

 骨の髄まで焼き尽くされなくて良かったと思ってほしいものだ。

 いくら本契約前とは言え、精霊のそれと俺の魔法では規模も威力も違う。

 

 ウェンディも止めなかった辺り相当パットンのことは頭に来ていたのだろう。

 流石に殺しにかかっていたら止めてはいたと思うが。

 これくらいなら許容範囲だ。

 

「信じてくれたか?」

 

「……交渉と言ったな。何がほしい。金か?」

 

 流石に本物の無能という訳ではないようだ。

 今ので十分魔法の有用性は伝わったらしい。

 まあ、もしこの情報を持ち帰って有用性を証明できればパットンの地位は一気に上がるだろうからな。

 

「ティナ・ナナ・ノバックという少女の身柄を引き渡せ」

 

 その名を聞いてパットンは首を傾げた。

 

「……? 誰だそれは」

 

 なに?

 知らないはずはない。

 確かに柳枝さんからこの男がティナへ命令を下している筋のトップだと聞いている。

 

 ティナの能力の重要性から言っても十分把握していて然るべきだろう。

 

「……<気配感知>の少女かと」

 

 ぼそりと後ろに立っていた男が耳打ちした。

 常人には聞こえない音量だっただろうが、俺にはばっちり聞こえている。

 

 そしてそれでようやくパットンは思い当たったようで、

 

「<気配感知>か。アレ(・・)との交換だと? アレがどれだけ有益なモノ(・・)か分かって言っているのか?」

 

 ……モノ扱いか。

 なるほど、そうか。

 薄々わかってはいたが、やはりこの男に慈悲をかける必要はなさそうだな。

 

「ロサンゼルスの例のダンジョンが日本のINVISIBLEによって攻略され、つい先日まで<気配感知>で生存者を捜索していた。結果、20名以上の生き残りがいた。これを上手く扱えば私の評価はこれまでより更に上る。それを手放せと言うのか」

 

 そう。

 現在のティナの功績は計り知れない。

 そしてその身柄を預かっているこの男もまた、このまま行けば出世するだろう。

 だがそうは問屋がおろさない。

 確かにティナによって救われた命はあるだろう。

 

 だがそれはティナ自身を蔑ろにしていい理由にはならない。

 何故ならあいつはこの男に命令されなくとも自主的に人を救うからだ。

 

 お前は不要なんだよ、パットン。

 

「それに貴様の言う魔法も本当に誰でも使えるものかどうかわからん。最低でも審議にかけて慎重に判断しなければ――」

 

「ここで決めろ」

 

 トン、と俺たちの間にあるテーブルを指で指す。

 

「今、ここでだ」

 

「……なんだと?」

 

「でなければこの話はなかったことになる」

 

「ふん――やはり先程のはトリックだったか。後でじっくり精査されれば嘘だとバレる。だからこの場で押し切ろうとしているのだろう。そんな小細工が通用すると思ったか。しょせんはガキと女の浅知恵だな」

 

「断るなら、アメリカは日本に大きくリードされることになるぞ」

 

「なに?」

 

「日本の友人にこの魔法の存在を隠しておく理由はないだろう? それに、誰かにうっかり話してしまうかもしれない。ミスターにこの話をしたが、まるで信憑性がないと蹴られてしまった、とね」

 

 パットンの目が据わった。

 どうやら今の今まで俺達を舐めていたのが、少し考えを改めたらしい。

 

「揺さぶりか」

 

「可能性の話さ。そうなれば有益な情報を蹴ったとしてあんたの評価は地に落ちるだろうな」

 

「人身売買じみた提案をしてきておいて人を脅すか」

 

「人攫いから少女を取り戻そうとしているだけだ――こっちは力ずくでもいいんだぞ」

 

 ピリッとした空気が流れ、後ろの男たちが拳銃を同時に構える。

 ……が。

 

 一瞬にしてその拳銃が片方は細切れに、もう片方はまるで超高温で炙られたかのように溶け出す。

 あんなピンポイントで魔法を使うのは俺には無理だ。

 いや、厳密には魔法じゃないんだっけ。

 まあそれをこいつらに伝える必要はないだろう。

 

「なるべく喧嘩はしたくない。揉め事になるのは互いに得策じゃない――だろ?」

 

 魔法を見せても尚、後ろに控えているのが女性だということ。

 俺のことをガキだと侮っていたということで自分達が有利だと思っていたのだろう。

 いざとなれば暴力で脅せばなんとでもなる。

 そんな考えが透けて見えていた。

 

 しかし実際のパワーバランスはこうだ。

 本契約していないフレアでさえ、アメリカにいるどの探索者よりも遥かに力量は上。

 本契約済みのウェンディに至ってはもはや比べ物にすらならない。

 

「バカな……」

「ありえない!」

 

 後ろで控えていた二人がそれぞれ細切れになった拳銃と溶解した拳銃を投げ捨てて取り乱している。

 魔力はそれ程でもないが、そもそも魔力によって身体能力が向上するのはごく一部の才能に溢れた者だ。

 

「その二人は優れたボディガードのようだが、魔法の力はこの通りだ。どうする、ミスター。まだ選択権はあんたに残ってるぞ。情報を受け取り、ティナ・ナナ・ノバックを開放するか。情報を受け取らずにこのまま失墜するか」

 

「<気配感知>で何をするつもりだ」

 

 パットンは腰を抜かしているようだ。

 先程までの余裕の態度を崩し、俺達から逃げたくても逃げられない。

 そんな状況に追い込まれ余裕をなくしている。

 

「俺からは何も強制しない。彼女のやりたいようにやらせるさ」

 

「アレを利用して金儲けしようとしているのだろう!!」

 

「あいにく、金に関しては間に合ってるんだ。多分あんたより持ってるぞ」

 

 アメリカの政治家がどれくらい稼いでるかは知らないけど。

 

「もう一度言うが、今、ここで決めろ。誰に相談することも許さない。何が起きても全てあんたの責任になるってことだ」

 

「私に何の恨みがある……!!」

 

「ただ交渉してるだけさ」

 

「何者なんだ、お前達は!! 私を誰だと思っている!!」

 

「答える義理はないが――特別に教えてやるよ。日本から遥々やってきた、お人好しのNINJAさ」

 

 

2.

 

 

「しかしお兄さま、本当に魔法のことを教えてしまって良かったのですか?」

 

 帰り道。

 ティナの身柄を今日中に引き渡すということを確約させ、俺達的には大勝利ということで結局交渉は終わった。

 ちなみにそれが確定してすぐにスノウへ連絡を入れたので今はスノウ達が迎えに行っているはずだ。

 

 魔法がもたらす恩恵とティナという一人の少女をアメリカに縛り付けておく恩恵。

 双方を天秤にかけた結果というわけだ。

 

 俺からすれば魔法の存在なんかよりティナの方がよっぽど大事な存在なのだが。

 それに――

 

「どのみちあのおっさんは失墜するしな」

 

「……何故でしょう?」

 

 フレアがここが自分の定位置だと言わんばかりに腕に抱きつきながら聞いてくる。

 普通に道を歩いているので、周りの視線が若干痛いのだが。

 認識阻害の魔法をかけているから容姿で目立つことはなくとも、町中でイチャイチャしている男女がいたらそりゃ別の意味で目を引く。

 

「魔法の使い方は教えると言ったが、それだけじゃ魔法を使うのは難しい。知佳や綾乃がいきなり魔法を使えたのはスノウが魔力を直接二人に感じさせたからだ。その抜け道を使わなければ習得には遥かに時間がかかる。つまり日本に先を越されるのは確定してるのさ」

 

「日本で実際に魔法を使えるようなる人物が出てくれば魔法の情報が嘘でないということはわかりますし、その時点でアメリカに魔法を使える人間がいなければ今度はアメリカが日本へ頭を下げることになる、ということですか」

 

 ウェンディが引き継いで説明してくれた。

 

「後はダンジョン管理局あたりが日本に有利な条件を提示してくれれば、普段の恩も返せるしあのおっさんにも意趣返しができるしで一石二鳥ってことだな」

 

 魔法の存在を聞き出したという功績はあるが。

 結果として日本への遅れを取ったという事実。

 日本への借りを作ってしまうという事実。

 ティナ・ナナ・ノバックという人材を自身の目先の利益の為に独断で手放したという事実。

 

 それらを総合して考えればマイナス評価にならざるを得ないだろう。

 何より最後の独断というのが一番痛い。

 なにせどれだけ偉くても政治家だからな。

 

 独断専行が許される立場ではないのだ。本来ならば。

 

 要するに断ろうが断るまいがあのおっさんには痛い目を見て貰うことになっていたのだ。

 その事実に気付くのはもう少し後になるだろうが。

 魔法はすぐに使えるもの――相手はそう思い込んでいるだろうからな。

 敢えてその辺りには言及しなかったし。

 

「しかしもし断られていたらどうするつもりだったんですか? 焼き尽くせと言われればそうしていましたけど」

 

「流石にそんな命令は出さないけど……もし断られていたら実用性を見せて再説得だったな」

 

「実用性ですか?」

 

「早い話、その辺のダンジョンを2、3個攻略してきてこれが魔法の力だ! って更に上の人間に突きつける予定だった。あのおっさんがティナへ命令を下していた諸悪の根源だし、だからこそあいつに責任を負わせたかったからその手は最終手段だったけど」

 

 流石に実用性を見せつければ、審議を挟んでも勝算は十分あった。

 その場で決めさせたのはあのおっさんに責任を負わせる為だ。

 それより上の人間に見せるのなら即決させる必要はない。

 ティナの身柄を確保する、という点ではほとんど確信に近いものがあったが、ティナに無理をさせていた奴らに一泡吹かせるという点で見ればそこまでの確実性はなかった。

 

 結果上手くいってホっとはしたが。

 

「マスターのキザな英語が得体の知れない相手だという印象を抱かせていたというのもあるでしょうね」

 

 ウェンディがそう分析するが、俺としてはキザに喋っていたつもりはない。

 ちゃんとした英語を覚える必要がありそうだな……

 フレアも英語大体は理解してるっぽいし。

 少なくとも俺とパットンの会話は正しく聞き取れていたようだ。

 

「大丈夫です、お兄さま!」

 

 ぐっと腕を胸に押し付けながら(絶対わざとやってる)フレアは俺を励ました。

 

「どんなお兄さまでも素敵ですから!」

 

 フォローになっているようでなっていない言葉を受け、俺はがっくりと肩を落とすのだった。



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第58話:ファーストキス

1.sideパットン

 

 

 他人を蹴落とし、血みどろの権力争いを若い頃から20数年に渡って制し続けてきたジョシュ・T・パットンは、日本からやってきた若造にしてやられて怒りに打ち震えていた。

 

 パットンからすればダンジョン管理局からの強い要請であちらに恩を売れると思って得体の知れないガキと面談をしてやったという認識。

 

 それがまさかあそこまでの劇物を持ち込まれるとは思っていなかったのだ。

 

 魔力を用いて魔法を行使する。

 先程悠真たちが見せたそれは未だにパットンの目に焼き付いている。

 

 超常的な力。

 長年の勘はアレを逃すべきではないと叫んでいた。

 <気配感知>を失うのは惜しいがそれを補って余りある利益を自分にもたらすだろう。

 

 そう確信していた。

 

 だから現時点でパットンにとってはさほどマイナスのない交渉だったのである。

 独断専行したという点は確かに多少の顰蹙を買うかもしれないが魔法の優位性がわかればその程度の話はどうとでもなる、と思っていた。

 もちろん、それは単に現時点で(・・・・)という話に過ぎないのだが。

 

「舐めおって……! この私を誰だと思っている……!!」

 

 現在パットンが憤っているのはもっと低次元で根源的な部分だ。

 悠真たちのあの態度。

 まるで自分たちが優位に立っていると言わんばかりの挑発的なそれはパットンのプライドを大いに傷つけた。

 

 腰が抜けた無様な姿を嘲笑っていた。

 許せない。

 許せない。

 許せない。

 

 それだけが頭の中をぐるぐると回っている。

 

「私が誰だか――思い知らせてやる」

 

 ガタン、をテーブルを叩く。

 そして先程悠真たちへ銃を突きつけ、それを一瞬で失った二人でとある命令を下した。

 

 内一人があまりの内容に反発する。

 

「それは、流石に――」

 

「良いからやれ!! 殺してしまえば証拠など残らん!!」

 

 感情的になったパットンはまだ、送り込んだ刺客が特に何のエピソードもなく、悠真本人が気付きすらしないで精霊二人に処理(・・)され、更に自分の立場が追い込まれることを知らない。

 

 

2.

 

 

 無事に交渉が終わり、俺たちが仮拠点にしているホテルへ戻ってくるとまだスノウ達は帰っていなかった。

 知佳へ連絡してみると、途中でカフェに寄ってパフェを食べているらしい。

 スノウがいればまず100%危険はないとは言え、くつろぎすぎではなかろうか。

 しかし続いて届いた写真がティナが笑顔でパフェを頬張っている姿だったので、今回はまあ許してやるさ。

 

「はーーーー…………」

 

 どっかりとソファに腰を下ろす。

 ようやく肩の荷が下りた気分だ。

 実際のところはまだ問題は山積みなのだが。

 

「お疲れ様です、マスター。何か淹れましょうか?」

 

「……冷たい水がほしいかな」

 

「承知しました」

 

 ウェンディのいつもの労いが今はありがたい。

 ダンジョンを攻略するよりも疲れた気がする。

 しかしここまで色々なことがあったな。

 ダンジョンを攻略するだけで終わりだと思っていたのに拳銃で撃たれたりダンジョンで死にかけたり、4日間セックスぶっ続けだったり政治家の偉い人とギリギリの交渉をしないといけなくなったり。

 

 途中で変なのが混ざった気がするが。

 

 全て自分のやりたいことに素直に従った結果なので別に後悔はしていないが、最近の俺は働きすぎな気がする。

 しばらく何もしないでのほほんと暮らしたい。

 

 スローライフを望む人の気持ちが今ならちょっとわかる。

 ……どこかの小さいやつが言うには俺はトラブルメイカーらしいのでスローライフとやらを始めても何かしらの面倒事に巻き込まれるのかもしれないが。

 

 フレアはそっと隣に座って俺に寄り添った。

 うう、身体が柔らかい。

 なるべく気にしないようにしていたが、完全に女の子の身体なのだ。

 

 いかん、安心したからか本能(せいよく)が鎌首をもたげ始めている。

 

「お兄さま、フレアはずっと見ていたんですよ?」

 

 そっとフレアの掌が俺の太ももに乗せられた。

 

「お兄さまのことは全部知ってます。我慢しなくていいんです」

 

 そのまま当然のように太ももを撫でられる。

 触るか触らないかくらいの距離で――焦らすように。

 

「お水をお持ちしました、マスター」

 

 と。

 ちょうどそのタイミングでウェンディが戻ってきた。 

 パッとフレアが手を離して、しかし抱きついたまま俺の代わりにウェンディから水を受け取る。

 

「はい、飲ませてあげますね、お兄さま」

 

「さ、流石にそれは自分でできるから」

 

 にこにこ笑顔のフレアからコップを受け取る。

 この子の場合、どこからどこまで本気なのかがわからないぞ。

 

「フレア、本契約の件、逸る気持ちはわかりますがせめて夜まで待ちなさい」

 

 ウェンディがフレアに釘を差した。

 流石ウェンディだ。

 直前で離れたとて気付いていたのだろう。

 フレアは「はーい」とつまらなそうに返事をする。

 

 ……ウェンディが戻ってこなかったら流されていたかもしれない。

 

 それで今更どのような問題が発生するかというと特に何もないような気もするが、なんだかフレアに関しては()にハマってしまいそうな危うい魅力を感じるんだよな。

 

 それとお兄さま、という呼び方。

 俺は妹がいないのだが、なんだか何回も呼ばれている内にこう……妹的な子も良いよね……って気持ちになってきた。

 順調に開発を進められているような気がするが、気のせいだろうか。

 

 しばらくすると、スノウの気配が近づいてきていることに気付いた。

 もうだいぶ近くまで来ているようだ。

 俺が気付いたことにウェンディも気付いたようで、

 

「マスターもかなり魔力を感じられるようになりましたね」

 

「ああ、特にスノウ程にもなると気配も大きいしな。ティナも知佳も綾乃も普通よりは魔力が多いし」

 

「マスターの順応性も高いですが、知佳様や綾乃様を見る限りそもそもこの世界の人は魔力というものを知らない、或いは覚醒していないから認識していないだけで、魔力の扱いが特別苦手というわけでもないようです」

 

「だな……それがどうかしたか?」

 

「魔法の存在が公になると世界の在り方ががらりと変わるかもしれません」

 

「まあ、確かにな」

 

 魔法での犯罪とかぶっちゃけなんでもありだもんなあ。

 しばらくすれば場に残っている魔力から犯人を特定、とかもできそうではあるが。

 そうなったとしても世界の在り方が変わっているという点から見れば該当する変化だ。

 

「けど遅かれ早かれ魔法の存在については誰かが気付いてたと思うんだよな。確かに使うのは難しいけど、才能のある人がもしかして……って試したらできちゃうかもしれないし」

 

「可能性は十分ありますね。既にダンジョンは一般層へ普及していますし気付く可能性が1億分の1だとししても要するに1億人の魔力を持つ人間がいればいいというだけの話ですから」

 

「そういうこと。だったら先に国に管理して貰ったほうが安全じゃないか?」

 

「確かにその通りかもしれません。流石マスターです」

 

「……というのは今咄嗟に考えた屁理屈だからあまり褒めないでくれ」

 

 そう言うとウェンディはくすりと笑った。

 かわいいなおい。

 

「わかっていますよ。少しからかっただけです」

 

 ちくしょう。

 かわいいな。

 

 そんなデレデレの俺の腕がつねられた。

 もちろん誰にかと言われればフレアにである。

 

「フレアのことも見てください」

 

 ……かわいいな!!

 

 ダメだこりゃ。

 冷静に考えると俺はとんでもない幸せ空間にいることになるぞ。

 これに加えて知佳や綾乃、スノウまでいるわけだ。

 更にはティナまで加わると考えると俺の理性が決壊するのもそう遠くない話なのではないだろうか。

 

 というか既に理性が決壊した結果が童貞卒業してすぐに既に経験人数が5人という意味のわからない状況になっているような気がするし、既に6人目(フレア)が内定しているようなものだし。

 

 全国の男子諸君、すまない。

 俺はこの夢のような環境を独占することにする。

 幸せのお裾分けは俺以外の幸せな奴から受け取ってくれ。

 

 とかなんとか。

 わけのわからないことを考えているうちに、スノウ達が帰ってきた。

 

 両手に大量のお土産らしきものを持っていたティナが、俺と目が合うと「ユウマ!」と嬉しそうに叫んで飛びついてきた。

 

 流石に空気を読んだのかフレアが離れる。

 かなり名残惜しそうにしていたが。

 

「ティナ」

 

「スノウ達から聞いたわ。ユウマのお陰でわたしは自由の身だって!」

 

「俺のお陰……というか俺の周りの人のお陰だな。俺だけじゃ何もできなかった」

 

「でもユウマのお陰でもあるでしょ?」

 

 にっこりとティナが笑う。

 この笑顔を見られただけでも、苦労したかいがあったなと思う。

 

 最初はマフィアみたいなのに追いかけられているところを放っておけずに助けた……というか手を出しただけだったが、まさかこうなるとは思っていなかった。

 

「ねえユウマ、ちょっとかがんでくれる?」

 

「ん?」

 

 言われた通りにかがむと、頬に柔らかい感触が押し付けられた。

 

「む……」

 

 誰かが短く声をあげる。

 俺はびっくりして口をあんぐり開けるだけだ。

 

「えへへ、ファーストキスだからね」

 

 眩しい笑顔でティナはそう言うのだった。



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第59話:誘い

1.

 

 

「ヌセポケティウム」

「嘘だろお前!?」

 

 黄色い謎の生物が映ったカードを知佳が悠々と持っていく。

 

「悠真の浅知恵が通用するわけない」

 

 ドヤ、と効果音が付きそうな台詞だが表情の変わらない知佳。

 ティナとフレアが来たことでちょっとした歓迎会のようなものが開催されているのだが、その余興でナンジャモンジャというパーティカードゲームのようなものをやっているのだ。

 

 おかしな生物の描かれたカードが12種類、5枚ずつ存在し、合計で60枚のカードを取り合うというゲーム。

 山札から一枚ずつカードをめくっていって、初めて出た謎の生物だったらそいつに名前を付ける。

 そしてそいつが次に出てきたら名前を呼んでカードにタッチすると、その時点で溜まっていたカードが貰えるのだ。

 

 ぶっちゃけルールだけ聞くと簡単そうに思うだろう。

 しかし実際はめちゃくちゃ難しいし頭を使う。

 単純な名前をつければそのカードを取れるかと言えば違う。

 簡単な名前では他の人も覚えているからだ。

 かと言って難しすぎると記憶から抜け落ちてしまう。

 

 しかし予想以上に盛り上がるな、ナンジャモンジャ。

 知佳とウェンディが頭ひとつ……いやみっつくらい抜けて強いのは予想通りというべきか。

 ちなみに次にカードが多いのはティナである。

 

 何度かゲームをしているが、だいたい知佳≧ウェンディ>ティナ>綾乃≧俺=スノウ=フレアという序列に落ち着いている。

 もろに記憶力の良さが出ているというか、上位三人の記憶力が良すぎる。

 

 多分俺やスノウが普通くらいなんだよ。

 

「うぅ……お兄さまの名付けたカード……いわばお兄さまの子と言っても過言でないのに……!」

 

 フレアは変なところで悔しがっていた。

 いや、過言だからなそれ。

 嫌だよこんな謎生物が俺の子どもって。ヌセポケティウムってなんだよ。

 よく見るとちょっと愛嬌はあるような気がしないでもないけど、絶対宇宙人かなにかの類だし。

 

 そして今回は俺が最下位という結果に終わった。

 

 うーん。

 この手のゲームで知佳やウェンディに勝てる気がしないぞ。

 二人はちょっと普通じゃない。

 ティナも何ヶ国語も喋れる化け物だし、基礎スペックに差がありすぎる。起訴。

 

 しかし勝てなくても面白いのが凄いなこれ。

 

「意味のわからない名前を付けて独占しようとしたのにそれすら取れないってどんな気持ち?」

「くそ、お前覚えてろよ……!」

 

 知佳に煽られる。

 しかし事実なので雑魚キャラみたいなことしか言い返せない。

 悔しい……でも勝てない……!

 

「ユウマ、さっきのは大人げないよー」

「うっ」

 

 ティナは楽しそうに笑っていた。

 でもお前、さっき負けたくないからってイタリア語かなんかの名前つけてたの忘れてないからな。

 ちなみにそのイタリア語のやつはウェンディが取っていた。

 

 初めて会った時はこんな風に笑う子だとは思わなかった。

 年齢の割にしっかりしすぎている、という印象だったが――自分に課せられた役割から解放されればこんなものなのだろう。

 

 何ヶ国語も喋れる天才で、<気配感知>という有用なスキルを持っているということなど些細な話だ。

 本質はただの女の子だということだろう。

 

 スノウがニヤニヤと笑いながら言う。

 

「大人げない悠真には何か罰ゲームがあってもいいかもしれないわね。最下位だったし」

「お前自分が最下位だった時は罰ゲームの話なんて出さなかったよな!?」

 

 こいつ抜け目なさすぎる。

 主人であるはずの俺を貶めることに迷いが全くない。

 なんて恐ろしい奴なんだ。

 

「ではお兄さまへの罰ゲームはフレアが一晩中抱きついている、というのはどうでしょう」

「それはあんたがやりたいだけでしょ」

 

 ツッコミを入れたスノウへフレアがふふん、と何故か勝ち誇るような笑みを向けた。

 

「スノウもしたいの? いいわよ、心臓に近い左側は譲ってもらうけど」

 

 心臓に近い左側て。

 なんでサラッとちょっと怖いこと言うんだろうこの子。

 

「心臓に何の意味があるのよ……」

 

 良かった、俺だけじゃなくスノウにも意味は分かっていなかったようだ。

 

「それだけマスターの命……じゃなくて温もりを近くに感じられるでしょう?」

「いま命って言ったよね。絶対言ったよね」

 

 俺、自分の精霊から命を狙われてるの?

 そんなことある?

 飼い犬に手を噛まれるどころの騒ぎじゃないと思うんだけど。

 

「冗談です」

 

 ふふ、と口元に手を当てて上品に微笑むフレア。

 ……本当に冗談なのだろうか。

 

 そこでなんやかんや流れそうになっていた話題をティナが目ざとく再燃させる。

 

「ところでユウマへの罰ゲームはどうするの?」

「俺に何の恨みがあるんだ?」

 

 そう言うとティナはまた楽しそうに笑った。

 よく笑う子だ。

 笑顔は可愛いが、しかし俺が罰ゲームを受けることは避けなければならない。

 こんな人数の前で恥をかくのは嫌だ。

 

 助けを求めてウェンディの方を見ると、ふるふると首を横に振られた。

 

 OKだ。

 お手上げだ、と無言で伝わってきたよ。

 

 綾乃は……羨ましそうに俺を見ていた。

 お前はなんでもいいのか本当に。

 ダメだ、こいつは役に立たない。

 

 どうやら今の俺には味方がいないらしい。

 

「大体、罰ゲームって言ったって何するんだよ」

 

 言い出しっぺのスノウを睨む。

 しかし本人は俺の視線など意にも介さずに首をひねった。

 

「んー、一発芸とか?」

「そんなもんあるわけないだろ」

  

 お前は会社の飲み会で無茶振りしてくる上司か。

 と、知佳がティナの耳元で何か囁いている。

 咄嗟に聴覚を強化したが間に合わずになんと言っていたかは聞けなかった。

 

「本当!?」

 

 ぱあっと花が咲くような笑顔を見せたティナに知佳が無言でこくりと頷く。

 

 なんだ。

 一体何を吹き込みやがったあのちびっこ。

 

「ユウマって水の上を歩けるの!?」

「歩けるわけねえよ!?」

 

 俺をなんだと思ってるんだ。

 ……NINJAか!

 確かにNINJAなら歩けるな!

 

 余計なこと言いやがってあの野郎!

 

「えー、じゃあ何ができるの? NINJAっぽいこと」

「ええ……なんつう無茶振り……」

 

 一発芸と大差ないぞこれ。

 知佳のやつが余計なことを言わなければもっと簡単なことで済んだかもしれないのに。

 

 しかしせっかくティナが期待しているのだ。

 何かしてやりたいが……

 

 そこで黙っていたウェンディが口を開いた。

 

「歩くのは無理かもしれませんが、マスターなら走るくらいはできるかもしれませんよ」

「え?」

 

 

2.

 

 

 ということでこのビルの地下1階にプールがあるのでそこまで来たはいいのだが。

 

「無理だと思うぞ……?」

 

 人類が水の上を走ろうと思ったら、最低でもウサイン・ボルトの7倍から8倍程度の速度を出さないといけないと大学の教授が言っていた。

 しかもそれは理想の角度やタイミングで脚を動かせた場合なので実際はもっと速くないとダメらしい。

 計算式を見ても俺はちんぷんかんだったのでそれが本当かどうかは知らないが、少なくとも俺は100メートルを1秒で駆け抜けることは多分できないと思う。

 それができたとしても理想の角度やらなんやらじゃないと無理らしいし。

 

「普通に走ってチャレンジしてみてもいいですが、もう少し現実的な方法があります」

 

 ウェンディは自分の足を指差す。

 

「魔力を足の裏から常に放出し続けるんです。イメージとしては、自分へ働いている引力と釣り合うように。水は流動的なのですぐに歩くのは難しいですが、マスターの身体能力と魔力をコントロールする能力を考えれば十分走れるかと。慣れれば靴を履いたまま水面に立てるようになれますが、最初は裸足で走ってみてはどうでしょうか」

「……てことはウェンディたちはできるのか?」

「はい、できますよ」

 

 うーむ。

 すごいな精霊。

 君らの方がよっぽどNINJAだと思うぞ。

 

 コソコソと話している俺たちをティナが不思議そうに見ている。

 NINJAには色々準備が必要なんだ。

 実際のNINJAも水蜘蛛だかなんとかっていう睡蓮の葉っぱみたいなのに乗ってたんだし。

 そもそもあれで水面を歩くのは無理らしいけど。

 実際は沼地とかを渡る時に使っていたとか聞いた。

 

「それから、くれぐれも本気で走らないでください。ダンジョンでならともかく、普通に外でマスターが本気で走れば被害が大変なことになりますから」

 

「……わかった」

 

 確かにそれもそうだ。

 常人の2倍程度の力に留めておこう。

 後はさっきウェンディが言っていた通り足の裏から魔力を放出し――

 

「行くぞ!」

 

 少し助走をつけて走り出した。

 一歩目、二歩目、三歩目、と沈まずに足が進み、四歩目で盛大に水の中へ突っ込む。

 

「うべぶ!」

 

 なんとも間抜けな声が出てしまった。

 かなりの勢いで水へ突っ込んだせいで思い切り鼻に水が入ってしまった。

 めっちゃ痛い。

 

 ちょっと涙目になりながら俺がプールから上がってくると、スノウとティナが爆笑していた。

 

 綾乃も顔をそむけているが、笑っているなお前。

 肩が震えてるの見えてるからな。

 知佳は特に表情が変わらないが、声を出さずに口だけ動かした。

 

 俺流読唇術に寄れば「ブ・ザ・マ」とのことだった。

 

「あーあビショビショだよ」

 

 ポタポタと水を滴らせながらティナへ近づく。

 

「でもユウマ、ちょっと走れてたね。うぺぶ! って言ってたけど――ってきゃああああ!?」

 

 笑い転げていたティナを抱えてそのままプールへぽーんと投げ込む。

 

 ばしゃーんと盛大な水しぶきを上げてティナが着水した。

 しばらくして浮かんでくると、

 

「あっははははははは!」

  

 めっちゃ笑ってるなあいつ。

 楽しそうで何よりだ。

 

「さてお前らもだ」

 

 まずは綾乃を捕まえて投げ込む。

 

「ええええええ――!?」

 

 ばしゃーん。

 

 そして次に知佳を捕まえて投げ込む。

 

 ばしゃーん。

 

 ……あいつこういう時でも悲鳴あげないのな。

 既に二人やられて心の準備が出来ていたのかもしれない。

 初手で捕まえるべきだったか。

 

「さて……」

 

 お次は散々笑ってくれたスノウだが……

 

「あたしが無抵抗で掴まると思う?」

 

 不敵に笑うスノウ。

 確かに正面からスノウを捉えるのは難しいだろう。

 

「ウェンディ」

 

「承知しました」

 

 ビシッ、とウェンディの不可視の縄がスノウを捉える。

 

「それはずるくない!? ――きゃああああああ!?」

 

 さぼーんとスノウも無事にプールへ投げ込まれた。

 

 その後ウェンディとフレアがホテルサービスで借りてきた水着を着てそのままプールで遊んだり、何故か水面へ投げられるのにハマったティナを数回投げたりと色々やった後、全員が疲れ果てて死屍累々の状態で部屋へ戻っていくのだが、そこは割愛しよう。

 

 

3.

 

 

 ――誰かが困っているのなら助けたいだろ?

 

「……んあ……?」

 

 誰かに話しかけれたような気がして、目が覚める。

  

 そして自分がどういう状況に置かれているのかを思い出す。

 そうだ。

 プールで遊んで疲れて戻ってきて、そのまま寝ちゃったのか。

 

 どういう訳か俺の両隣にはフレアと知佳が寝ていて、更にその隣にスノウやウェンディ、ティナや綾乃と続いている。

 6人もの人数が同時に寝ても平気なベッドの大きさにビビる。

 どんだけの大人数で寝るのを想定しているんだよ。

 もしかしてハーレムを形成している大富豪とかがここに泊まりに来るのだろうか。

 

 だとしたら謎に充実している(コスプレとか)サービスも腑に落ちるぞ。

 ……超高級ラブホと考えると急にありがたみがなくなったな。

 言葉のマジックとは不思議なものである。

 

 とりあえず目先の問題が全て解決して、ティナを無事保護できて、フレアも召喚できた。

 はしゃぐ理由としては十分だろう。

 まだまだやることは色々あるけどな。

 

 両隣に寝ていたフレアと知佳を起こさないようにベッドから起き上がろうとすると、ぐいっと腕を引っ張られた。

 フレアだ。

 

「おはようございます、お兄さま」

 

 小声でそう話しかけられる。

 耳元で囁かないで欲しい。

 どうやら俺は耳が弱いらしいからな。

 

「起きてたのか、フレア」

 

「フレアは夜を楽しみにしてましたから……」

 

 ぎゅっと腕に絡みついてくる。

 柔らかい部分があちこちに当たっている。

 そして俺は寝起き。

 もちろん臨戦態勢に入ってしまっていた。

 

「大きくしてくださっていますね……♡」

 

 すりすりとズボン越しに触れられる。

 

「他のみんなが起きるぞ」

 

「声は抑えます。夜まで待ちました。もう我慢できません」

 

 抱きついてきていた体勢から、俺の上へ乗っかるような体勢へ。

 

「お情けをくださいませ、お兄さま……♡」

 

 ……俺も我慢できないわ。これは。



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第60話:複雑な女心

1.

 

 

 俺の上に馬乗りになったフレアが愛おしそうに露出させたちんぽを撫でている。

 顔はスノウそっくりなのだが、雰囲気が違うだけでこうも受ける印象が変わるのか。

 ……いや、雰囲気というかフレアに関してはなんだか狂気的なものも感じるのだが。

 

 今もなんだか行為を始めるというよりは捕食される寸前みたいな……

 

「お兄さまのお兄さま、たくましいです……♡」

 

 ……俺は俺なのだけども。

 うっとりと我が子を慈しむように触れられ、時折びくんとちんぽが跳ねてしまう。

 その動きを見ると、腹を胎児に蹴られた母親のような反応をするのだ。

 

 察するに多分俺の身体に対して俺以上に愛情を持っているぞ、この子。

 

「ああ、この硬さも熱さも大きさも太さも全て愛しています。お兄さま、お兄さま、お兄さま……♡」

 

 熱に浮かされているような――自分自身の熱に浮かされているような声と表情で俺のことを繰り返し呼ぶフレア。

 流石は炎の精霊だ。

 色々と情熱的だなあ。

 なんて軽いノリで済むもの……ではないのだろう。

 

 フレアが俺の両手を掴んで、自分の胸へと誘導した。

 恐らくスノウから借りているのだろうオレンジ色の寝間着の上から胸に触る。

 

 当然、柔らかい。

 それに大きさもちょうどいい。

 スノウより若干大きいくらいだろうか。

 触れただけでサイズを比べられる程になっている自分にちょっと引く。

 ヤりすぎなんだよ、ついこの間まで童貞だったのに。

 

 それにしてもこの姉妹みんな胸に関しては恵まれているな。

 一番上のお姉ちゃんがどうかはまだわからないけど。

 

「ああ、お兄さまの温もりが……♡」

 

 恍惚とした表情を浮かべるフレア。

 言い回しが怖いよキミ。

 というか言い方も怖いよ。

 

 危機を感じているからかいつもよりも大きくなっているような気はするが。

 

「お兄さま、接吻をさせていただいでもよろしいでしょうか……?」

 

 こんなとんでも美少女に切なげな目でそんなことを懇願されて断れる男はいないだろう。

 俺はフレアの頭を抱いてキスをする。

 すぐににゅるりと熱を持った舌が口の中へ侵入してきた。

 元々の体温が高いのか、全身がまるで湯たんぽのように温かい。

 そうなれば当然体内の温度はもっと高い訳で、互いに唾液を交換している最中もその体温が徐々に俺に移ってくるように感じていた。

 

「んっ、ちゅる……ぇろ……はぁっ……」

 

 突然唇を歯で噛まれた。

 ピリッとした痛みが走る。

 

「いてっ」

 

「あっ……すみません! つい昂ぶってしまって……」

 

 俺が痛みに呻くとすぐにフレアは謝ってきた。

 昂ぶって……というのはよくわからないがとりあえずわざとではなさそうだし、別に特別痛かったわけでもないので「いいよ、気にするな」と流してやる。

 

 しかしフレアは納得していないようだ。

 

「ダメです。お兄さま、フレアにお仕置きしてください」

 

 そう言って首を右に傾げる。

 

ここ(・・)へ……同じことをしてください……」

 

「同じことって、噛めってことか? 首を?」

 

「はい。それくらいのことをしてしまいましたから、フレアは」

 

「いやだから気にしてないんだって」

 

「ダメです」

 

 フレアがぐるりと俺の首に腕を回して抱きついてきた。

 超至近距離で俺に言い聞かせるように繰り返す。

 

「フレアにお仕置きしてください。悪いフレアに、お兄さまとの上下関係を刻んでください……♡ さあ、お兄さま。フレアはお兄さまのものです」

 

 そんな話を聞いていると、まるで俺が拒否していることの方が不自然なように感じてしまう。

 フレアに促されるがままに俺は首へ噛み付いた。

 

「あっ……♡ はぁっ……♡」

 

 痛みを感じているはずなのに官能的な声をあげるフレア。

 マゾ気質……という訳ではないのだろう。

 刻まれた(・・・・)ことに対しての悦び。

 

「ああ……♡ お兄さま……♡ お兄さま♡ お兄さま♡ お兄さま♡ お兄さま♡ お兄さま♡ お兄さま♡ お兄さま♡」

 

 ねこが自分の匂いを飼い主につけるようにぐりぐりと身体をこすり付けてくる。

 

 いや――匂いではなく移っているのは熱か。

 段々と俺もフレアを自分のものにしたい、そんな欲求が沸き上がってきていた。

 まるで毒されているようだ。

 

「もう我慢できません、お兄さま……♡ 挿れても……よろしいでしょうか……♡」

 

 俺はそれに言葉ではなく、フレアの身体を下から持ち上げることで答えた。

 

「あっ……♡ はッ……アッ……ッ――!」

 

 どすん、とフレア自身の体重のまま一気に奥まで挿入すると、背中を思い切り反らして絶頂したようだった。

 

「あぁァっ……お兄さま……が……フレアの中に、ぃぃ♡♡♡」

 

 ぐりぐりとそのまま奥へ奥へと押し付けてくる。

 完全にトリップしているような感じだ。

 

「お兄さま、ぁ♡ きもちいいです、お兄さまのものがフレアの中に入っているの、きもちいんですぅ♡」

 

 そう言うフレアの唇に俺は指を当てた。

 静かに、のジェスチャーだ。

 

 ハッとしたようにこくこくと頷くフレア。

 

「で、でもお兄さまのものが中にあって、声を抑えるなんて……」

 

 最初に我慢すると言い出したのはフレアの方だろうに。

 しかし自分で我慢できないというのなら手伝ってやるしかない。

 

 フレアの頭を抱いて、顔を近づけてキスをする。

 

「んっ――♡」

 

 そのまま下から突くように腰を動かしてやると、喘ぎ声が全て塞がれた口の中で反響するようにして外へ漏れなくなった。

 

「ひっぁ、ン、ぁん、ぁぅ、っふ、――んっぁ、ぅぅ♡♡♡」

 

 その代償にフレアの目の焦点は段々と合わなくなっているし、もはや高熱に浮かされている人のような体温になっているが。

 これ程までに熱くなって大丈夫なのだろうか。

 

 

 キスハメが始まって5分ほどが経過した。

 俺の体感でだが、既にフレアは二桁回数は絶頂している。

 精霊も何度も絶頂すれば疲れてしまうことは経験上知っているので、今上に乗っているフレアがぐったりしてきているのも想定内だ。

 

 唇を離すと、茫然自失としているのかそのまま口の端から涎が垂れている。

 先程までは狂気的な熱にあふれていた目も今は光を失っているように見える。

 どうやら落ち着いたようだ。

 

 ……これを落ち着いたと表現していいものかちょっと悩むが。

 

 しかし周りに音を漏らしてはいけない状況なので仕方がない。

 で、まだ俺は射精していないのでこのぐったりしたフレアでなんとかしないといけない訳だが……

 

「オナホにするみたいで気が引ける?」

 

「!?」

 

 まるで思考を盗み聞きされていたかのような完璧なタイミングで、隣で寝ていたはずの知佳に話しかけられた。

 

「……お前寝てたんじゃないのか」

 

「すぐ隣であれだけ声を出されたら起きる」

 

 ……ですよね。

 

「お前、睡眠が浅いっていつだったか言ってたもんな」

 

「それもある」

 

 と答えて、知佳は何やらもぞもぞと動き始めて俺の足の方へ向かっていった。

 何をするのかと思っていると、まだフレアの中に入りっぱなしだが、全部は入りきっていなかった竿部分の根本を握られる。

 

「なっ……お前……」

 

 フレアの身体で見えないが、絶対あいつ今悪い顔してるぞ。

 そのまま上下に竿が扱かれ始める。

 ちょ、お前、まじでそれやばいって。

 

 抵抗しようにもフレアが上に乗っているせいで難しい。

 既に射精感は上り詰めていたということもあって、1分ほどで射精してしまった。

 

 動かないフレアの膣内に。

 知佳の手コキで。

 どんな状況だよ。

 いやまじで。

 

 そしてまたもぞもぞと知佳が戻ってくる。

 

「お前なあ……」

 

「でも意識のないフレアを使う(・・)よりはこっちの方が罪悪感ないでしょ」

 

 しゅっしゅっと手コキの動作をする知佳。

 いやまあそう……なのか?

 考えようによっちゃ他の子の手コキで膣内へ精液をこき棄てたようなもので、意識のないうちに済ませてしまおうというよりも酷いのでは……

 

「早くしてもらわないと出番が回ってこないし」

 

「……出番?」

 

 よっこらせ、と知佳が俺の上に跨ってきた。

 ……顔の上に。

 

ふぁひふるんは(なにするんだ)

 

「身体の上はフレアがいるから」

 

 ぐりぐりとショーツを押し付けられる。

 なんかいい匂いがするというか、知佳のバニラっぽい匂いをかなり濃く感じる。

 有り体に言ってめちゃくちゃエロい。

 

「ほら、舐めて。犬みたいに」

 

 何故に。

 

「誰かさんが隣でしてたせいでムラムラして寝れないから」

 

「…………」

 

 俺が悪いのか?

 いや俺が悪いのか。

 しかし納得いかない。

 舐めるけども。

 

「んっ……」

 

 言われた通り舐めると知佳が小さくうめき声をあげた。

 そのまましばらくペロペロと舐め続ける。

 俺は知佳の体の良いオナニーに使われているのではないだろうかと思い始めた矢先、びくっ、と知佳の身体が動いた。

 

 ……何事だ?

 

「やっぱりあなたは起きてたんですね、知佳さん」

 

 この声は……フレア!?

 復活したのか。

 

「っ……胸……」

 

 知佳が呻く声が聞こえる。

 

「スノウやウェンディお姉さま、綾乃さん……それから伊敷 未菜さんという方もいらっしゃいましたが、一番警戒すべきはあなただと私の直感が言っていたんです」

 

「なんの……っん、こと……?」

 

「私は全て見ていたんですよ? 誤魔化しても無駄です」

 

 何の話をしているんだ……?

 そして俺はいつまで顔の上に乗られているんだ……?

 

「んっ……乳首……っ」

 

「とは言え私はまだお兄さまと出会ったばかりですから、知佳さんが一歩……いえ、二歩ほどリードしているのは認めます」

 

 知佳が呻いている……というかフレアに責められているのだろうか。

 

「スノウやウェンディお姉さま……それに綾乃さんや未菜さんがいつか本気を出してきたら……? それにもしかしたらティナさんもいずれ参戦してくるかもしれません。そんなときの為にお互い仲良くしておきたいんです。知佳さんとは」

 

 何の話をしているんだろう。

 俺の方はと言えば段々酸欠気味になってきたので頭がクラクラしてきたのだが。

 

「仲……良く……っ?」

 

「はい♡」

 

 冷静に考えれば、女の子に……それも可愛い女の子に顔面騎乗されて気を失うというのは幸せな経験なのかもしれない。

 

「――ひぁっ!?」

 

 今度はフレアの嬌声のようなものが聞こえてきた。

 

「ち、ちかさっ、なにを……ぁんっ♡」

 

「仲良くって言ってたから」

 

「そ、そういうことじゃ――~~~ッ!」

 

 もはや俺には何が起きているかわからない。

 ああ、けど酸欠で落ちるのって……

 

 なんか気持ちいいんだなあ……

 

 

2.

 

 

「はっ!」

 

 汗をびっしょりとかいている。

 

 そうか、俺はあれで気を失って……どうなったんだっけ……?

 

 ちらりと横を見てみると、なぜだか知佳とフレアが隣り合って寝ていた。

 仲良さそうだなーこいつら……

 あの時俺の上で何が行われていたのかはわからないが、何かしらの話し合いがあって丸く収まったのだろう。

 多分。

 

 ……まだ俺以外は誰も起きていないようだ。

 壁にかかっている時計を見てみると朝の5時ちょっと前を針が示している。

 

 他の人……特に隣の二人を刺激しないようにそっとベッドを降りる。

 あの状況は一体なんだったのだろうか。

 

 とりあえず顔を洗いにいって鏡を見ると、首筋の右側と左側に虫に刺されたような痕が二つ出来ていた。

 

「……なにこれ?」

 

 こんなシンメトリーに蚊に刺されることあるか? 普通。

 塗り薬とかフロントに言ったら持ってきてくれるのかなあ。

 

 とりあえず顔を洗っていると、ひたひたと後ろから足音が聞こえた。

 

「あ……えと……その、おはよう、ユウマ」

 

「ティナか。おはよう」

 

 顔を拭きながら答える。

 

「……なんかお前顔赤くないか? 風邪でも引いたか?」

 

 なんだかティナの様子がおかしい。

 もじもじしているというか。

 

「う、ううん、違うの、大丈夫。その……昨日(・・)のことなんだけど」

 

「?」

 

 続きを待っているがなかなかティナが切り出さない。

 

「えーっと、その、ありがとね! 昨日は。すごく楽しかったから!」

 

 その後小声で「あんなこと(・・・・・)聞けるわけないよ!」と英語で言っていたが、あんなことって何のことだろう。

 

「なんだ、そんなことか」

 

 ぽす、とティナの頭に手を置く。

 

「いいんだよ、俺がやりたくてやっただけのことだから」

 

 するとティナの顔がぼぼぼっと赤くなった。

 元々紅潮していたようだけど、更にだ。

 

「本当に大丈夫か?」

 

「だっ、大丈夫!」

 

 ティナは慌てて俺を押しのけると急いで顔を洗って向こうへ戻っていってしまった。

 ……なんだろう。

 気軽に髪に触れたのがまずかったのだろうか。

 

 ……昨日のフレアと知佳のこともそうだが、女心ってわからんもんだな。

 取り扱い説明書が欲しいよ、まったく。



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第61話:センスの塊

1.

 

 

「もしもし、ご無沙汰してます。皆城(みなしろ)です」

 

『柳枝だ。済まないな。そちらは早朝だろう』

 

「いえいえ」

 

 柳枝さんは多忙だ。

 特に未菜さんがアメリカへ渡っている上に、INVISIBLEがビル型ダンジョンを攻略したということになっているのだから。

 

 それに加えて俺から送られてくる報告メールだったりお偉いさんと会わせろだの無茶を言うメールだったり電話だったりに対応しているのだ。

 

 正直多忙という言葉で終わらせていいのか微妙なくらい忙しいと思う。

 

『それで、ティナ・ナナ・ノバックという少女の保護が上手くいったという件はメールで見たが、直接話したいこととはなんだ?』

 

「実は色々忙しくて言えなかったんですけど、新しい精霊を召喚したんです」

 

『……既にいる二人と比べて力の程は?』

 

「多分大体同じだと思います」

 

『君はこの時代に帝国でも作り上げる気か?』

 

「ダンジョンも色々危険がありますからね。うちの精霊は過保護なんです。あと一人は増えますし」

 

『……こちらでなんとかしよう』

 

「あと、ティナの件にも関係があるのですが、魔法の話です」

 

『既にこちらで……俺自身が試したが一度だけ成功した。君の言っていることが本当だということが証明された訳だ。別に元々疑ってはいなかったがな』

 

 もう成功したのか。

 スノウによる直接の魔力での指導なしにそれなのだから、やはり相当凄い人だな、柳枝さんも。

 

「その技術をなるべく早くダンジョン管理局内のトップランカーに広めて欲しいんです」

 

『外部……特に海外へやり方が漏れない程度に、か』

 

「はい。身内贔屓みたいなもんですけど、この場合一番得するのはダンジョン管理局であるべきだと思ってるので。色々助けてもらってますし」

 

『君たちが攻略したビル型ダンジョンを伊敷の功績にすることで既に莫大な利益を得ているのだがな。もちろん多少のゴタつきはあるが』

 

「ぽっと出の俺たちが攻略しましたって言うのは色々まずいでしょう? 外交的にも」

 

『まあ……な。しかし今回の件は俺個人(・・・)の事情も含め、君達に大きな借りを作ることになった。君は借りを返すと言っていたが、10円貸したら1億円になって返ってきたようなものだぞ。なんらかの形で君たちへフィードバックしようと思っているのだが』

 

「ティナのご両親を保護して貰ってるだけでも十分なんですけどね」

 

 もし俺が直接交渉した政治家ではなく、アメリカ政府そのものが俺たちを敵とみなした場合、まず危険に晒されるのは何のガードもないティナの両親だった。

 ここへ呼び出すのもなんなので、ダンジョン管理局とのコネを使わせて貰ったのだ。

 いつも面倒な部分の尻拭いを任せてしまっているので、気持ち的には1億円借りていたのにようやく1億と少しの利息を返せた程度である。

 

『……ところで、皆城君。これは俺の興味に過ぎないのだが』

 

「なんです?」

 

『例のビル型ダンジョン。実際に伊敷が入っていたとして、攻略できていたと思うか?』

 

 ……答えづらい質問だ。

 未菜さんは人類のレベルで考えれば間違いなくトップクラスだ。

 しかし単独であのボスを倒せるかと言ったら、多分難しいのではないかと思う。

 少なくとも俺は最初から奴が本気だったらあっさり殺されていた。

 

「ボスはワープさせる変な力を使ってきますから、それを無効化できれば可能性はあると思います。一人にされれば……伊敷さんでもやられるかもしれません」

 

 一人にされたら厳しいだろう。

 しかし大人数でタコ殴りにできるなら勝ち筋はあるはずだ。

 多分、だが。

 

『なるほど。参考になった』

 

「あと……ちょっと与太話として聞いて欲しいんですが」

 

『なんだ?』

 

「あのボスは意思を持っているように感じました」

 

『手加減されていた、というやつか?』

 

「はい」

 

 電話の向こうで少し考え込むような間が空いた。

 

『我々もダンジョンの専門家としてやってきたという自負はあるが、明らかに人をいたぶって楽しむようなボス……或いはモンスターと遭遇したことはない。狡猾なモンスターはいるが、それもあくまで彼らにとっての生存本能のようなものから来ているものだと考えている』

 

「有り体に言って、人の意思のようなものを感じたんです。俺たちを離れ離れにする時の判断にしたって、偶然かもしれませんが出来すぎていた」

 

『ロサンゼルスのダンジョンに関しては出自がまず特殊だからな。不思議なボスがいてもおかしくはない、か。君の仲間……精霊はなんと言っている?』

 

「初めて見るケースだ、と」

 

『イレギュラーばかりだな……』

 

「そういえば、一般人のダンジョンへの立ち入り禁止の件はどうなりそうなんですか?」

 

『そう遠くない内に可決されるだろうな。そうなれば必然的に探索者は法的な効力のある資格の試験を受ける必要が出てくるかもしれない』

 

「そうなるとダンジョン管理局としてはやりづらくなるんじゃ……」

 

『正直言って我々にとってはそう大した痛手ではない。困るのは中小だろうな。資金も人材も足りなくなってしまう可能性がある』

 

「ダンジョン開発がそれで遅れたら、とか考えないんですかね」

 

『その点については心配ないだろう』

 

「そうなんですか?」

 

『ただ身体能力を向上させるだけだと思われていた魔力の新たな使いみちが分かったんだ。トップ層の探索効率が上がればそれだけ攻略速度も上がる』

 

 あ……そっか。

 元々魔力を多く持つ探索者は多い。

 ダンジョン管理局では魔力の多さで試験をしていたくらいだ。

 

「魔法の存在が公になれば魔力の存在も必然的に公になりますよね。その辺りのゴタゴタは……」

 

『しばらくは魔力というものを知っているトップ層と、一部の政府関係者のみの極秘扱いになるだろうな』

 

「しばらくは、ですか」

 

『どうしたって隠し通せるものではないからな、魔法ともなれば。そう長くはもたないだろう。問題はその情報を専有している段階でどれだけ自分たちのアドバンテージを作れるか、だ』

 

「なんかよくわからない世界になってきますね」

 

『君たちの場合は今世界中で見ても最先端を独走状態だからな。言ってしまえば世界中を巻き込んだ熾烈な2位争いが始まるわけだ。国単位でも、企業単位でも。そして君たちのお陰で、ダンジョン管理局はずいぶんフライングをさせて貰った。君が負い目に感じることはない』

 

「すみません、気を遣わせてしまって」

 

『別に構わないさ。正直なところ、個人的な感情だけでも君にはどれだけ恩を返しても足りないくらいだ。死にかけたのだろう。俺の身勝手な願いのせいで』

 

「伊敷さんを死地に向かわせるのは俺も嫌でしたから、それこそ負い目に感じなくていいですよ。どうしてもって言うんなら今度暇なときに美味い飯でも奢ってください」

 

『無欲だな』

 

「割と満たされてるみたいで」

 

『良いことだ』

 

「ところで、伊敷さんは何してます?」

 

『君の方からは連絡していないのか?』

 

「してるんですけど、相当忙しいみたいで。流石に会社の方には連絡がいっているのかなと」

 

『特性上記者に追い回されたりはないが、正体を知っている各国の政府関係者なんかはそれなりに遠慮なく事情を聞きに来ると言っていた。それに事情を聞きに来たものでない者もいる、とな』

 

「……それって」

 

 俺たちと同じように刺客がやってきたりしているということか。

 

『心配するな。ダンジョンのボスならともかく、人間相手ならまず遅れは取らん。それこそ君のように銃弾さえ防ぐだろうさ』

 

 まあ未菜さんなら銃弾を斬ったりしてもさほど驚きはないが。

 

『とは言えそろそろあれも暇になるだろう。そうなったときには連絡をするように伝えておく』

 

「お願いします」

 

 

 

2.

 

 

「んー……難しいなあ」

 

 柳枝さんとあれこれ近況を話し合ってから3日が経っていた。

 すぐに日本に帰ってくると勘のいいヤツがダンジョンとの関係に気付くかもしれないとのことで、しばらくこちらに滞在することになっているのだが。

 

 ボロボロになって崩れる黒い棒を見て俺は溜め息をつく。

 魔力を込めて武器を強化する。

 アイデア自体はかなりいいと思うのだが、如何せん難易度が鬼のように高い。

 

 あまり何度もやると手首あたりの魔力回路が焼き切れるかもしれないとかいうウェンディの怖い忠告を受けているので一日に5回までの挑戦でやっているのだが、今のところ成功する兆しは全く見えない。

 

 うーむ。

 難しい。

 スノウとウェンディだけでなくフレアもできないと言っていたし、そもそもかなりの高等技術。

 そう簡単にできるとは思っていなかったが、こうも進展が見られないと気分も萎えてくる。

 

 流石にボロボロになるものを室内でやるわけにはいかないのでホテルの裏庭でやらせて貰っているのだが(ウェンディに聞いたら一応許可は取ってあるらしい)、このまま上へ戻らずにどこかへ出かけたい気分だ。

 

 いやまあ戻るんだけどさ。

 

「さっぱりわからないな」

 

「おわあ!?」

 

 急に真隣から聞こえてきた声に驚く。

 誰かと思えば――

 

「未菜さん!?」

 

 長い黒髪をポニーテールに纏めたスタイルの良い日本美人。

 そして今回一番何もしていないが一番働いていると断言できる存在だ。

 日本で一番最初にダンジョンを攻略したパーティのリーダーであり、ダンジョン管理局の創設者でもある。

 その上で探索者としての実力も折り紙付き。

 正直パーフェクトな人と言える。

 機械が苦手だったりもするけど。

 

「やあ、久しぶり。会いにきちゃった」

 

「会いにきちゃったて……」

 

「大丈夫だ、私のスキルで誰にも見られていないから」

 

 そりゃそうなんだろうけども。

 

「悠真君のお陰でここ最近は随分忙しかったよ」

 

「うっ。その節は……」

 

「冗談だよ」

 

「えっ、おわっ!?」

 

 にっこり笑って、未菜さんは俺に抱きついてきた。

 久しぶりに会ったということもあるが、こう、ガッツリ正当な美人なので普通に照れる。

 

「柳枝から話は聞いている。死にかけたそうだな」

 

「いやまあ、死にかけた、というか……」

 

 俺にハグしてきていた未菜さんが離れる。

 なんだか名残惜しい。

 

「色々言いたいことはあるが、まずはありがとう。それから、あまり無理はしないでくれ。私は生き延びたとしても君が死んだんじゃやるせない」

 

「それはまあ……これからはそういう事もほとんどなくなると思いますよ」

 

「それはまたどうして?」

 

「三人目の精霊を召喚したんです」

 

「……スノウさんやウェンディさんと同じくらい強い?」

 

「同じくらい強い」

 

「君は国を滅ぼしたりするつもりはないんだよな?」

 

 柳枝さんと違うようで同じようなことを聞かれる。

 もちろん俺は苦笑いで「んなわけないでしょ」と答えた。

 

「にしても<気配遮断>上手くなりました? 全然気づかなかったですよ」

 

「いや、君がかなり集中していたというだけの話だよ。それで、何をやっていたんだ? 私には武器を粉々にしていたように見えたのだが。発勁でも極めたか?」

 

「そんな特殊技術は使えませんよ。魔力を込めようとしているんです」

 

 と答えてから魔力関係も特殊技術であることには変わりないことに気付いたが、とりあえずそれは置いといて。

 

「……魔力を?」

 

 首を傾げる未菜さん。

 正統派な美人だけにこういう仕草でさえ様になるな。

 

「武器に魔力を流すことで強力な武器に変わるらしいんですよ。やってみます?」

 

 予備で持っていた棒を未菜さんに渡す。

 

「……と言われてもやり方は全くわからないのだが。柳枝は魔法が使えたらしいが、私はまだ一度もできていないし」

 

 困った顔でこちらを見る未菜さん。

 もっと困らせたい欲が一瞬うずいたが、それを抑える。

 

 にしても未菜さんでも無理だったと考えると柳枝さんのセンスには脱帽だな。

 あの人は事務仕事なんてしてないでダンジョン攻略へ向かうべきだと思うのだが。

 多分、今すぐに現役復帰しても余裕でトップレベルの探索者だろう。

 

「コツがあるんですよ。ちょっといいですか」

 

 黒い棒を握る未菜さんの手を上から握る。

 ……ん。

 

「ど、どうした?」

 

 若干緊張している様子の未菜さんがこちらを上目遣いで見てくる。

 

「小さいんですね、手」

 

「悪かったな」

 

 むっとした様子の未菜さん。

 別にディスったわけではない。

 

「いや、かわいいなと」

 

「なっ……君はすぐそうやって……!」

 

「まあまあ」

 

 未菜さんはこうやってからかうと面白いのだ。

 こんなに美人なのに女の子扱いはあまりされたことがないという稀有な人だからな。

 それはともかくとして。

 あのビル型ダンジョンのボスの腕をふっとばした時になんとなく身体で覚えた、他人へ魔力を流すという行為。

 それを未菜さんの手へやってみる。

 

「こんな感じです。魔力の流れを感じましたか?」

 

「ん……まあいつも感じているのもこんな感じだな」

 

「それを体内で完結させるのではなく、外へ放出するんです。今のが入ってきた感覚ですから、その逆をイメージして」

 

「ん……」

 

 未菜さんが集中し始める。

 流石と言うべきかなんというか、一瞬で俺よりもずっと深く集中しているように思える。

 

 ――やがて。

 

「え、これできてるんじゃ」

 

 黒い棒が魔力を帯び始めた。

 俺はあれだけやって全く成功する気配もなかったのに。

 

「……しかしこれを維持するのは難しいな」

 

 フッ、と魔力が霧散してしまう。

 しかしまさか一発目で破壊せずに成功させるとは。

 後は持続力さえ鍛えれば完璧じゃないか。

 

「何かコツとかってあったりします? 実は俺、一度も成功したことがないんですよ」

 

「……コツ、ねえ。私も今たまたまできただけかもしれないし、偉そうに言えることは特に無いのだが……強いて言うなら、君より私の方が武器の扱いに慣れているから、じゃないか?」

 

「……どういうことですか?」

 

「私は自分で言うのもなんだが、この棒みたいにある程度刀のような形をしているものなら己の手足のように扱うことができる。魔力を流すというのもその延長線だ。己の手足のように扱えるのなら、手足に流すように魔力を流してやればいい」

 

 ……そういえば、最初の頃に石で試した時、ウェンディが「石を自分の身体の一部だと思って」と言っていた。

 ある種、比喩のようなものだと思っていたがその込めるものに対する習熟度でも変わってくるのか。

 まあ未菜さんにセンスがあるというのにも間違いはないと思うが。

 

「これ、付与魔法(エンチャント)って言うんですよ。未菜さんなら極められるかも」

 

「うーん、私は無理だろうな」

 

 ぐっぱ、ぐっぱ、と手を握ったり開いたりしながら未菜さんは言う。

 

「何故です?」

 

 普通に練習を重ねればできそうだが。

 

「今の一瞬で魔力が3割は減ってしまった。こんなことをしていたらすぐにガス欠だ」

 

 ……そういえば、莫大な魔力が必要とも言っていたなあ。

 なかなかままならないものである。



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第62話:絶対に言われる

1.

 

 

「ところで、ちゃんと許可を取ってから来たんですよね?」

 

「流石にな。これだけ注目されれば移動するのも一苦労だったが」

 

 俺の疑問に未菜さんは苦笑しながら答えた。

 この人はこんなクールビューティみたいなナリしておいて柳枝(やなぎ)さんを相当苦労させているらしいからな。

 

「どうやって来たんです?」

 

「走って」

 

「……本気で言ってます?」

 

「冗談だ」

 

 平然と言わないで欲しい。

 なんだか未菜さんならやりかねないという謎の信頼感があるのだ。

 

「本当は歩いてきたんだ」

 

「……柳枝さんから聞いてた話だと徒歩で1時間くらいはかかる距離だったと思いますけど」

 

「車で移動すると目立つからな。車ごと<気配遮断>すれば事故が起きてしまうかもしれないし、身一つで来るしかなかったんだ」

 

 そう聞くとそれはその通りな気もするが。

 

「なら言ってくれれば会いに行きましたよ。未菜さんも狙われてるんでしょう? あまり出歩くのは危険ですって」

 

「それは君も同じだろう。スキルが無い分、私よりも絡まれる可能性は高そうだし。それになんだか君は少し出歩くだけでもトラブルに巻き込まれそうな雰囲気がある」

 

 ティナの件も当然未菜さんには伝わっているので、その釘を刺す意味もあるのだろう。

 というか知佳と言い未菜さんと言い、本当にトラブルメイカーみたいな扱いになってきているのはどうしたものか。

 

「せっかくですし上がっていきます? っていうのもなんか変だな、別に俺ん家(おれんち)なわけじゃないし。でもルームサービスの食事はかなり美味いですよ」

 

「有り難い申し出だが、遠慮しよう。私もそれなりに忙しい身でね。この後ちょっとした知り合いと二人で食事をするのさ。楽しい会食ではなく、ビジネスの話し合いにはなるが」

 

 未菜さんはやれやれと言わんばかりに肩をすくめた。

 なんか映画みたいだな。

 舞台がアメリカということもあって。

 

「INVISIBLEとしての出席ですか?」

 

「いいや、ダンジョン管理局のPresident(社長)として、だ。まあほとんど個人的な友人みたいなものなのでそこまで堅苦しいものでもないが」

 

「未菜さんって友人とかいたんですね」

 

「そこまでとっつきにくく見えるか?」

 

 少し不満げな表情を浮かべられる。

 

「いえ、そうではなく世間に正体を隠している立場なので、そういう友人なんかもあまりいないのかなと」

 

「相手も探索者だからな。アメリカのトップランカーだ。あまり気にする必要もない」

 

「というと、政府関係者ですか」

 

「ただの民間人だよ。アメリカは探索者になる為に国家資格が必要だというだけで全員が全員政府に関わりのある人間という訳じゃない」

 

 へえ……

 もちろんそれは知ってはいたが、民間人にもトップランカーがいるということは知らなかった。

 大抵優れた人材は政府が引き抜いてしまうからだ。

 ふとなんとなく気になったことを聞いてみる。

 

「その人と未菜さんが立ち会ったらどっちが強いんですか?」

 

「私……と言いたいところだが交戦距離に依るだろうな。今の私と君くらいの距離感からよーいどんで始めれば私が勝つが、少し離れれば彼女が勝つだろう」

 

 未菜さんにそこまで言わせる程か。

 ……って、彼女?

 

「女性なんですか?」

 

「そうだが、それがどうかしたか?」

 

「いや、なんとなく男性で想像してました」

 

 探索者ってどうしても男の人の方が多いからな。

 それも未菜さんに並ぶ程の実力者ともなれば自然に男の人を連想するのも無理のない話だと思う。

 

「男性の前で男性と二人きりで食事に行く話をするほど無頓着な人間だと思うか?」

 

「まあそれは確かに……」

 

「それにほとんど実父のような柳枝(やなぎ)はともかく、君以外の男性と二人きりというシチュエーションはそそらないな」

 

「……俺以外と、ですか」

 

 それはつまり。

 いやしかし気にしすぎか?

 

「ああそうだ。顔が赤くなっているぞ?」

 

「……不意打ちはやめてください」

 

 俺は憮然として言う。

 先程、手を握ってからかった仕返しなのだろう。

 未菜さんは俺をにやにやと眺めていた。

 

「ふっふ、奴は会う度に私に男っ気がないことをからかってきていたからな。今回は君のことを引き合いに出させて貰う」

 

「それは別に構わないですけど……」

 

「ところで君は今時間は大丈夫なのか?」

 

「平気ですよ。基本的には暇なんで」

 

 やることができたとしてもそれはダンジョン管理局経由だろうからやっぱり暇だしな。

 アメリカだと気軽にダンジョンに潜ることもできない訳で。

 なので時間つぶしに付与魔法(エンチャント)の練習をしていたのだ。

 

「では軽く手合わせをしないか? 寸止めルールで」

 

「これから食事なんでしょう?」

 

 食事前に激しい運動はよろしくないのではないだろうか。 

 

 そういえば未菜さんはいつものパンツスタイルのスーツだが、ダンジョン管理局の社長として行く会食なのにドレスコードとかないのだろうか。

 悪い意味ではなく、未菜さんにあまり高級そうなレストランは似合わないイメージがあるが。

 これが料亭とかだと別だけども。

 

「3時間は後だ。なに、そう長くは付き合わせないさ」

 

 そう言って、先程渡した黒い棒を未菜さんが構えた。

 

 

2.

 

 

「……君、強くなっていないか? 以前は全く反応できていなかったのに今度は完全に見切られていた」

 

 あの後10分ほど軽く手合わせをしていたのだが、途中からはほとんどお互いに動きだけは本気だった。

 もちろんどちらも寸止めではあったが。

 しかしその寸止めのうち、7割程度は未菜さんが止める前に俺が完全に躱すか受けるかしていたのだ。

 

「魔力が増えたからですかね。初めて会った時よりも扱い方も上手くなっているでしょうし」

 

「魔力とはそんな簡単に増えるものではないと思うが」

 

「あー……それが実は俺に関しては簡単に増えるんですよ」

 

 隠していても仕方のないことなので増やす方法(・・・・・)を教える。

 すると未菜さんは少なからず驚いていた。

 

「つまりその、精霊とのえ、エッチで増えるということか……?」

 

「まあ要するにそういうことです」

 

 ダンジョンへ行って増えるということは当然未菜さんも知っているだろう。

 しかしダンジョンへ行くというのもそう容易いことではない。

 何度も何度もダンジョンへ行くよりは何度も何度もセックスした方が手っ取り早いというのは以前の4日間で完全にわかったことだ。

 

「それはなんというか……破廉恥だな」

 

 言葉を選んだ末に出てきたのがそれのようだった。

 まあ否定はできない。

 

「俺が望んでそうなったわけじゃないですけどね?」

 

「しかしもう一つの事実の方も衝撃だな。君とえ、エッチをすると魔力が増えるという」

 

 未菜さんは顔を赤くしながら言う。

 俺はもう慣れてしまったが、普通はこういう反応なんだろうな。

 

「そっちは俺の魔力は増えないですけどね。相手の魔力が増えるだけということで」

 

「……しかし君はアレだな。ヤリチンというやつだな」

 

「う」

 

 それを言われると弱い。

 

「…………が、まあこの場合はそれがいい方に作用するというやつか」

 

「え、どうしたんですか?」

 

 何やらよくわからないことを呟くと、未菜さんは俺の腕を掴んで近くの茂みまで引っ張っていった。

 

「<気配遮断>をしている最中の私に気付くスノウさんもいるのなら、今更少しくらい離れたところで意味はなさそうだが……」

 

 そう言いながら未菜さんはズボンを脱いでいく。

 あまり飾り気のない、らしい(・・・)真っ白なショーツが外気に晒される。

 

「あの……?」

 

 流石に流れでやろうとしていることはわかる……けど。

 ここは外なのだが。

 

あの時(・・・)と同じように密着していれば、精霊以外には気づかれないさ」

 

 そのまま未菜さんは俺に抱きついてきた。

 完全に体重を預けてきているので、俺はそれを受け止める形になる。

 

「……つまりそういうことですか?」

 

 あの時、とはダンジョン管理局で手合わせして、そのまま交わったあの時のことを言っているのだろう。

 

「つまりそういうことさ」

 

 未菜さんが俺の股間をズボン越しに触ってくる。

 正直、これから起きることを期待して既にパンパンに漲っているのだが。

 

「言葉だけでは信じられないからな。試してみようという訳さ。それに私の魔力が増えれば、先の付与魔法(エンチャント)も実用的になるかもしれない」

 

「この後ご友人と会食なんでしょう?」

 

「一旦戻ってシャワーを浴びて出発すればいいだけさ」

 

 なるほど。

 あくまでもするつもりだと。

 しかし未菜さんに主導権を握られたままなのは頂けない。

 

「だとするとあまり時間的余裕はないですね」

 

 俺は無遠慮に未菜さんの胸を揉みしだく。

 スーツの上からなのでもちろん生で揉むほどの柔らかさは感じないが、ゴワゴワした感じのスーツの手触りと水饅頭のように柔らかな中身のギャップがそれはそれで気持ちいい。

 

「き、君も乗り気じゃないか」

 

 突然の俺の変わりようにたじろぐ未菜さん。

 やっぱりこの人、この手の方面についてはお姉さんぶるのとか無理だよ。

 だって弱すぎるもんな。

 

「そりゃこんだけの可愛い人が誘ってきたらそうなりますって」

 

「……君は可愛いと言っていればいいと思っていないか? 私だって君に何度もそう言われていれば耐性はついていくのだぞ」

 

「顔真っ赤で言われても説得力は皆無ですけどね?」

 

 明らかに効いてるじゃん。

 この人チョロくていいなあ。

 思ったことを思ったまま言っているだけで勝手に雑魚になるのだから楽なことこの上ない。

 

「未菜さんは一見美人系ですけど、意外と抜けてるし可愛らしいところも多いしで、つまり綺麗な上に可愛いっていう結構稀有な属性だと思うんですよ」

 

 既に<気配遮断>が発動しているのはわかっているので、さほど周りを気にしないで未菜さんの胸を揉みしだく。

 うーむ、しかしおっぱいというものは何故こんなにも男を惹きつけるのだろうか。

 未菜さんの場合、スレンダーな体型の割に意外と大きいというのもあって一粒で二度美味しいみたいな満足感がある。

 

「んっ……君こっち(・・・)も上手くなってるんじゃないか……?」

 

 胸を揉まれる未菜さんが小さく呻いた。

 

「…………」

 

 それに関してはノーコメントで。

 多分普通にダンジョン潜って戦うよりもずっと多い経験を積んでいるのだし、こちらが上手くなるのも当然と言えば当然なのかもしれない。

 しかしそれを改めて意識するとなんかやだな。

 物凄いヤリチンみたいじゃん。

 

 ……いやそれも否定できないな。

 気まずくなったので英語で適当に誤魔化しておく。

 

「上手くなったかどうかは、身体に教えてあげるよ」

 

「君、ちょっと言い回しがキザっぽいな」

 

 それを聞いた未菜さんは照れるとか慌てるとかよりも先に、くすりと笑った。

 ……みんなそれ指摘してくるんだけど。



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第63話:こそばゆい

1.

 

 

「ぁっ……んっ……!」

 

「しー。あまり大きな声出すと流石にバレますよ」

 

 実際<気配遮断>がどれだけ気配を隠してくれるのかは身を持って体感しているが、それはあくまで透明人間のようになるというだけの話であって声まで完全に隠してくれるという訳ではない。

 小声で喋っている分には恐らくバレないのだろうが、大きな声ともなればそれは変わってくる。

 

 そういうわけで少しからかったのだが、未菜さんは至近距離でしかめ面を作った。

 

「君が触るからだろう」

 

「未菜さんは触られるだけで感じちゃうんですね」

 

 つつ、と背中を指でなぞってやる。

 

「ひゃっ!? そ、それは卑怯だ!」

 

 俺をキッと睨みつける未菜さん。

 しかしあんな可愛らしい声を出されてから怖い顔されたところでこちらとしてはむしろ興奮するだけである。

 

 どうやらくすぐったいのに弱いようだ。

 

 そうとなれば……

 脇腹に触れると、

 

「はうっ!?」

 

 びくんと過剰にすら見える反応をする。

 しかしこういうの弱い人は本当に弱いらしいからなあ。

 

「うっ……くっ……ぅぅ……!」

 

 脇腹をこちょぐっていると未菜さんの身体から力が抜けてきた。

 声を堪えるのに必死で力が入らなくなってきたようだ。

 

 縋り付くように俺のシャツを握っているが、その握力は恐らくその辺の小学生の子にも劣る程度にしかないだろう。

 

 スーツの上からだとこちらも物足りなくなってきたので、徐々に脱がせつつもやはりくすぐることはやめない。

 時折びくりと身体が動く以外はほとんど無抵抗なのですぐに下半身に続いて上半身も下着姿となった。

 

 と、そこでとあることに気付く。

 

「未菜さん、気付いてますか? <気配遮断>が切れかかってますよ」

 

「なっ……!」

 

 声を堪えるだけだった未菜さんだが、どうやらそちらに意識を持っていかれすぎたようでスキルの方が途切れかけている。

 

「バレちゃうかもしれませんね。いくらここが視界の悪い場所だとしても限度がありますし」

 

「き、君がくすぐるか――ひゃぅぅ!?」

 

「人のせいにしないでくださいよ。これは未菜さんにとっても訓練になるんですから」

 

「く、訓練……?」

 

「はい。未菜さんは素でも十分強いですけど、<気配遮断>が生命線であることは間違いないでしょう? いつでもどんな時でも発動できるようにしておかないと危険ですから」

 

「そんな、のっ、方便だろう……!」

 

 未菜さんは話してる間にもやめようとしない俺のくすぐりを手で掴んで止めようとするが、そもそも力の差がありすぎて全く意味を成していない。

 未菜さんも魔力で身体能力を強化できるので常人よりは遥かに力が強いのだが、力の強さという点のみでみれば俺に敵うはずもないのだ。

 

 身のこなしや武器の扱いという項目が入ってくるとそうはならないのだが、こうして密着状態ならば圧倒的に俺が有利なのである。

 

「くっ……ぅ……いっ……ふっ……ぅ……!」

 

 直接肌に触れるようになってからは未菜さんの我慢の仕方も強くなった。

 それに加えてスキルの方も意識しないといけないということで相当気力を使うのか、俺に文句を言う余裕すらなくなったようだ。

 

「あくっ……ひあっ……んん……くっ……」

 

 俺の胸に頭をうずめるようにして声を我慢していた未菜さんの首筋に舌を這わせると、先程までとはまた違った反応が見られた。

 

 うーん、楽しい。

 これずっと続けられるな。

 

 

 とかなんとか調子に乗ること約10分。

 

「はっ……はー……、はー……、んっぁ、くっ……ぅ……」

 

 ……ちょっとやりすぎたかもしれない。

 完全に脱力してしまっているというか、全身の力を使い切ってしまった、みたいな力の抜け方をしている。

 ちなみに5分程前から<気配遮断>は切れている。

 聴覚を強化して周囲の音を拾っているので、近くに人がいないのはわかっているが。

 

 しかし、ともすれば扇情的にくすぐりに喘いでいた未菜さんを10分も間近で見ていて平気で済むわけもなく。

 

「挿れますよ……っと」

 

 いつからかまでは流石にわからないが、くすぐりによって快楽も感じていた様子の濡れまんこに挿入する。

 

「は……ぅ……あっ……」

 

 膣内も弛緩しているのか、締め付けてくると言うよりはまとわりつくような動きでちんぽを受け入れる。

 しかし反応がないのは面白くないな。

 

 少し揺さぶりをかけてみるか。

 

「<気配遮断>切れてますけど、いいんですか?」

 

「んっ……ぅ……よく……なぃ……」

 

 寝ぼけているみたいな反応を返してくる未菜さん。

 どうやら本当にやりすぎたようだ。

 しかたない。

 

「ひう!?」

 

 先程はあまり触れなかった太ももや腹に微妙なタッチで手を這わせる。

 後は膝や肘の内側と言ったなるべく敏感そうなところだ。

 

「はっ……ぁ……ぞくぞくする……それ、やめ……」

 

 もちろん脇腹だったり腋だったりよりはくすぐったくはないだろう。

 ただ触れるか触れないかくらいで手を這わせているだけ。

 しかしそれでも敏感な未菜さんの身体には十分らしく、膣内がきゅうと締まった。

 

「可愛いですね」

 

「だか、ら……それは卑怯だと……!」

 

「本音ですから」

 

 こちらを見上げた未菜さんと唇を合わせる。

 舌を侵入させ、無抵抗な口内を蹂躙する。

 

「は……んっ……んー……」

  

 舌を唇で噛んで外へ引き出してやると、唾液がだらりと垂れた。

 普段はしっかりしている姿とのギャップがとんでもなくエロい。

 やられたい放題じゃないか。

 

「ん……?」

 

 強化された聴覚がこちらへ向かってくる足音を二つ捉えた。

 魔力を感じないので身内の誰かではなく、本当に赤の他人だろう。

 ホテルの裏庭は誰でも利用できる場所なので人が来てもおかしくはないのだが……

 

「未菜さん、人が来ましたよ」

 

「えっ……え……!?」

 

 それには反応した未菜さんが辺りに注意を向ける。

 流石というべきか、確かにすぐ近くに人がいるのに気付いたようだ。

 

「ど、ど、どうしよう悠真君。こんなところ見られたら痴女だと思われる……!」

 

 どうやら相当慌てているようだ。

 まあそりゃそうだろう。

 彼女の言う通り、こんなところを見られれば間違いなくジャパニーズHENTAI扱いである。

 外で誘ってきたのは貴女なんで痴女であるかどうかは一考の余地がありますけどね。

 

 ……と。

 あれ?

 

 

「はぁ……ん……ふっ……んー……ダーリン、はげしい♡」

 

「あまりにも魅力的だから止まれないのさ」

 

 

 という会話に加え、しゅるしゅると服を脱ぐような音が聞こえてくる。

 あーこれ……青姦カップルだ……

 まさかのバッティングだ。

 未菜さんもそれに気付いたようで顔を真っ赤にしている。

 

「こ、こんなところで始めるなんて、非常識な……!」

 

 だからあんたが言えたことじゃないんですって。

 

 既にお隣さんは完全におっ始めているようで男女の喘ぎ声が聞こえてくる。

 アメリカのセックスは大胆だなあ。

 めっちゃ声大きいもん。

 あんなの普通に近くを人が通りがかったらバレるぞ。

 

 しかし洋物AVの本場を見ているような(見てはいないが)気分でなんだか更にムラムラしてきたぞ。

 

「……気のせいでなければお腹の中で大きくなっているように感じるのだが」

 

「こっちも聞かせてやりましょうか」

 

「う、嘘だろう……!?」

 

 嘘ではない。

 すぐ近くにあれだけ女を喘がせる男がいるというのがなんだか対抗心を燃やさせるのだ。

 

「っ~~~!!」

 

 ズン、と一番奥を突いてやると、すぐ近くに人が来たということで理性を取り戻した未菜さんが口を抑えて喘ぐ。

 

 我慢されたらこちらの負けじゃないか。

 

「ひぐっ……む……んーっ……んっ、♡ くっ……♡」

 

 手加減抜きで抽送を開始する。

 スレンダーな割に案外大きな胸がダイナミックに跳ねる。

 手で抑えていようが大きすぎる声が辺りに漏れ始め、相手も気付いたのかだんだんとヒートアップしている。

 

「ちょ、ま、ゆうま、く、はや、つよいっ♡ からっ♡ まって♡ くれっ」

 

 肉と肉がぶつかりあう音が徐々に早まり、あちらとこちらとで共鳴するように女の喘ぎ声も大きく高くなっていく。

 

 やがて――

 

「ふ、ぐぅぅぅぅっぅうぅぅぅぅ♡♡♡」

 

 未菜さんが強く絶頂するのに合わせて俺も奥へ射精した。

 並々と注がれる精液がやがて未菜さんの膣内から溢れそうになる辺りで、あちら側から人が近づいてくる気配がする。

 

「未菜さん、近づいてきますよ」

 

「わ、わかっているっ」

 

 ぶっちゃけ途中からノリノリだった未菜さんが改めてスキルを使用する。

 そしてその間にスーツを未菜さん自身を抱えて俺はそこから逃走するのだった。

 

 

2.

 

 

「……まったく、一時はどうなることかと思ったぞ」

 

 ビルの一階にある共用温泉施設でシャワーだけ浴びてきた未菜さんが出てくるなり俺に文句を言った。

 その顔が赤くなっているのはシャワーを浴びたから、というだけではないだろう。

 

「そう言いながら未菜さんも割と乗り気でしたよね?」

 

 ぽす、と不満です、とアピールするような表情を浮かべながら胸の辺りを叩かれる。

 

「全く……」

 

 同じような愚痴を繰り返す未菜さんに、先程の行為に本来込められていた本題がどうなっているか聞いてみる。

 

「どうです? 魔力の方は」

 

「……確かに増えているようだな。僅かではあるが、自力でダンジョンへ行って増やすよりはよほど多く増えている。これを繰り返せば超人が生まれるかもしれないな」

 

「そんなですか」

 

「公にバレたら全国……というか全世界から君の元へ女性が訪れるようになるだろうな。いや、それで済めばまだいい方か。最悪研究機関に一生研究対象として捕らえられたり……」

 

「うわ、前者はともかく後者は絶対勘弁ですね」

 

「前者もいくらなんでも枯れ果ててしまうぞ」

 

「冗談ですよ。ぶっちゃけ俺が言っても説得力ないでしょうけど」

 

「既にハーレムは築いているわけだからな……私もその一員だし」

 

 言っておいて赤くなるなら言わなければいいのに。

 しかしハーレムと改めて聞くとすごいよなあ。

 それも普通だったらお目にかかることさえ珍しいレベルの美女ばかりだ。

 世間にバレたら世界中から美女とかの前に世界中の男に命を狙われるようになるのではなかろうか。

 

「まああれです。俺で良かったらいつでも魔力を増やすの手伝いますよ」

 

「それは誘い文句にしては色気がなさすぎるんじゃないか?」

 

 くすりと未菜さんが笑う。

 確かに色気もクソもないな。

 

「……そういえば、この後ご友人と会食って言ってましたけど、ビジネス的な話? なんですよね?」

 

「ああ、そうだ。そろそろここを出発する必要があるな」

 

「それってやっぱりダンジョン絡みのことですか?」

 

「まあそうなるだろうな」

 

 やはりか。

 

「言うまでもないとは思いますけど、最近のダンジョンは色々変なことがありますから。何にせよ気をつけてくださいね。何かあったら嫌ですから」

 

 俺がそう言うと、未菜さんは少し頬を染めて黙り込んだ。

 

「どうしました?」

 

「……いや、君がまともなことを言うとなんだかこそばゆいな、と」

 

「物理的にこそばゆくしますよ」

 

「それは遠慮しよう」

 

 わきわきと両手を動かす俺から未菜さんは距離を取る。

 そんなに嫌がらなくてもいいのに。

 反応めっちゃ可愛いし。

 

「冗談はともかく、何かあったら頼ってください。手伝えることであれば手伝いますよ。どうせ暇ですし」

 

「ああ……そうなったら頼むよ」

 

 その後しばらくして、皆によろしく、と言って未菜さんは去っていった。

 

 ……しかし本当にくすぐりに弱かったなあ、あの人。

 後で皆にも試してみるか。

 

 

 その後、部屋へ戻って偶然最初に遭遇したティナへ試そうとし、スノウから本気で叱られるのはまた別の話しだ。



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第64話:アメリカの実力者

1.

 

 

「身体能力強化のコツ?」

 

「そうなんです。ウェンディさんいわくそろそろ私たちもできるだろうってことなんですけど、なかなか成功しなくて」

 

 未菜さんを見送った後、夕食を食べ終えてひと息ついたタイミングで綾乃に聞かれたのは俺も自分でどうやっているのかよくわからないもののコツだった。

 ティナを迎えてから数日が経過している訳だが、その間もちょくちょくエッチ自体はしているのでぼちぼち身体能力を意識的に強化できるラインに乗っているという話なのだろう。

 

「……コツってもなあ。そこを意識すると勝手に強化されるんだよ」

 

 聴覚や視覚の強化だってそうだ。

 多分やろうと思えば嗅覚や触覚だって強化できるだろうし、運動能力を上げたいのならそういうイメージをすればいい。

 

「やっぱり参考になりませんでした」

 

 がっくりと肩を落とす綾乃。

 

「やっぱりってどんだけ期待してないんだよ」

 

「知佳ちゃんもまだ強化はできてないんですけど、『悠真に聞いてもどうせ大した答えは返ってこない』って言ってたんです」

 

「あいつか……」

 

 ちらりとなにやらスマホを弄っている知佳を見ると、こちらの視線に気付いたのか小さく舌を出してきた。

 ……野郎。

 

 しかしウェンディやスノウ、フレアまでいて有意義な答えがないということは恐らくこればかりはセンスに依存するという話なのだろう。

 

「今の悠真くんって、握力とかどれくらいなんですか?」

 

「普通にしてたら多分70kgないくらいだと思うけど……本気(・・)でやった時の数値はちょっと想像もできないな」

 

「普通の状態でそんな行くんですか?」

 

「最近はそんなでもないけど、昔は結構鍛えてたからさ。あと握力70くらいだったらそんなめっちゃ凄い訳じゃない」

 

 握力って結構簡単に上がるからな。

 体質的な問題もあるので一口には言えないが、70kgくらいならバリバリ肉体労働してる人なんかだとまあぼちぼちいるくらいの数値だと聞いたことがある。

 

「私からしたらだいぶ凄いですけど……凄い筋肉ですもんね……」

 

 そういえば綾乃は筋肉フェチっぽい感じはするな。

 今もじいっと胸板を見られている気がする。

 女の人って胸を見られると気付くって言うけど、男もそうなんだな。

 

「一番あった時に比べるとだいぶ落ちたけどな。あの時の俺が今の俺見たらどう思うことか」

 

 当時の俺は色々余裕がなかった時なので今の俺からすればほぼ別人格みたいなものなのだが。

 

「そういえば悠真くんって元々探索者になりたかったんですよね?」

 

「正しくはダンジョン管理局所属の探索者、だな」

 

 魔力適性がないということで何度も落とされていたが。

 しかし今考えるとあそこで落とされていなかったら今の俺はない訳で、そうなれば当然精霊達や綾乃に未菜さん、ティナ、そして知佳とも知り合うことはなかっただろう。

 

 多分ダンジョン管理局に受かってたら大学行ってないしな。

 下手すれば高校も行ってないかもしれない。

 

 柳枝(やなぎ)さんは未菜さんと違ってオープンな存在だからダンジョン管理局に所属してればいずれ顔見知りくらいにはなっていたかもしれないが。

 

「何か探索者に思い入れでもあったんですか?」

 

「…………ま、ダンジョンって楽しそうだろ? それくらいだよ」

 

「あー、なるほど、ちょっとわかる気がしますね」

 

 綾乃がうんうんと頷いている。

 ふと視線を感じて知佳の方を見るが、相変わらずスマホを弄っていた。

 

 

「お、にいっ、さまっ」

 

 ばふ、と後ろから抱きつかれる。

 フレアはこんな感じの不意打ちが多いので流石に慣れた。

 

「どうした?」

 

「呼んだだけです」

 

「飛びついてもいるだろ」

 

「えへへ、そうかもしれません」

 

 そうかもしれないどころの話ではないような気がするが。

 

「何の話をしていたんですか? お兄さま、綾乃さん」

 

「強化の話だ。フレア達精霊も身体能力は強化してるんだろ? どうやってるんだ?」

 

「すみませんお兄さま。フレアたちは生まれた時から魔力のある生活をしてるので、参考になるような話はできないんです……」

 

 申し訳無さそうなトーンで謝るフレア。

 謝る前にそろそろ俺の背中から降りて欲しいのだが。

 炎の精霊ということが関係しているかどうかはともかく、フレアは体温が高めなので背中にくっつかれていると暑いのだ。

 

 あとお前絶対ノーブラだろ。

 背中に柔らかい餅みたいな感触のものが当たっている。

 

 召喚した時も着物だったので恐らくそれが好きなのだろうが、この間同じことを指摘した時は「だって着物は下着を着けないものでしょう?」と言われた。

 諸説あるが現代の人は普通にパンツも穿くしブラもつけるからな。

 ブラに関しては和服用のそれがあったりもするらしいし。

 

「あんたみたいに魔力のない世界に生まれた癖にぶっつけ本番できる奴のが珍しいのよ」

 

 俺たちがやいのやいの騒いでいるのを聞きつけたのだろう。

 先程まであっちでティナへ魔法を教えていたスノウも会話に入ってきた。

 

 センスと言えばティナも相当だよな。

 この間のダンジョンでは精霊たちに比べると弱めだったとは言え、治癒魔法まで使えたし。

 俺の治癒魔法は精々口内炎の治りが早くなる程度の効力しか発揮しない。

 

 これもまた適性の問題らしいのだが。

 

 最近なんとなく俺に対して余所余所しいような気がしないでもないティナへ話を振ってみる。

 

「ティナはどうだ? 身体能力強化に興味はないか?」

 

「えっ、わたし!?」

 

 何故か過剰に驚かれた。

 そんなに俺に話しかけられるのはびっくりするのだろうか。

 

「わ、わたしは興味ないかな。あんまり!」

 

 何故か顔を赤くしてまで強く否定された。

 そこまで興味がないことを強調されれば強要するわけにもいかないか。

 

 俺はともかく、ティナもできるようになればなんとかして言語化してくれるかもしれないと思ったのだが。

 しかしこうなると後知り合いである程度言語化できそうなのは未菜さんか柳枝さんになるのだが、二人とも忙しそうだからそう気軽に連絡はできないよなあ……

 

 と。

 そのタイミングで俺のスマホがぶるぶる震えた。

 まさか未菜さんか柳枝さんがタイミングよくかけてきたのかと思って慌てて手にとってみるが……

 

「……知らない番号だな」

 

 割と最近まで就職活動をしていたのでもしかしたら合否の結果かもしれない。

 進路は決まってしまっているみたいなものなのでもし合格だという話なら断らなければならないが。

 あと考えられるのはアメリカ政府とかその筋の人たちだが……そちらにこちらの個人情報が漏れるルートはダンジョン管理局くらいしか考えられないのでほぼあり得ないだろう。

 

「ちょっと電話に出てくる」

 

 そう言って俺は皆から少し離れる。

 

 今も尚鳴り続ける電話に出る。

 

「もしもし」

 

 電話口の向こうから女性の声が聞こえた。

 

「へえ、思ったより若い男性の声じゃないか」

 

「どちらさまでしょうか」

 

 思ったより若いってのはどういうことだろう。

 少なくともあちらも若い女性であるとは思うのだが。

 

「ローラ・ルー・ナイト。ローラでいいよ、ミナの恋人くん」

 

「え゛っ、ごほっ! ごほっ!」

 

 まさかの名前が出て咳き込んでしまった。

 ミナ……って未菜さんのことだよな?

 彼女の素性を知る人物……?

 

 まさか……

 

「未菜さんと会食をするって、貴女のことですか。ローラさん」

 

「ローラでいいよ。ボクはあまり日本語に慣れてるわけじゃないから敬語はうまく理解できない」

 

 ボク……?

 女性……だよな?

 未菜さんも女性だと言っていたし。

 

「で、ミナから聞いたんだ。君が物凄く強いってね」

 

「あー……」

 

 そういえばそんな話をするとかなんとか言っていたな。

 恋人というのは恐らく曲解があるが。

 俺なんかが未菜さんの恋人?

 恐れ多いにもほどがある。

 

「あとミナに聞いても口を割らなかったけど、彼女の魔力が異常な増え方をしているのも君の仕業だったりするんじゃないか? ボクの勝手な推測だけどさ」

 

 鋭いな。

 流石は未菜さんの友人と言うべきか。

 アメリカでの探索者のトップランカーって、日本のそれよりも基本的にはレベルが高いし。

 もちろん本当のトップ層になると話は別になるのだが。

 

 趣味みたいなもんで各国の主力クラスの戦力は公開されている範囲である程度知ってはいるが、その中で見ても未菜さんはほぼ間違いなく5本指に入る。

 その彼女をして距離が離れた状態で立ち会えば負けると言っているのだから強さに関しては折り紙つきだ。

 

「それで、何の用なんだ」

 

 敬語が不要と言われたのでそれに従って聞くと、待ってましたと言わんばかりのテンションで。

 

「実は君に攻略済みのダンジョンに残ってるモンスターの掃討を手伝って欲しいんだ。長年の友人にできた恋人ってのも気になるしね」

 

 

2.

 

 

「という訳なんだけど、行ってもいいかな」

 

「攻略されたダンジョンなら危険はなさそうですが……」

 

 一連の話をウェンディは悩むような素振りを見せる。

 もちろん俺の一存で決められることではない。

 なのでうちの実質参謀であるウェンディにお伺いを立てているのだ。

 

「一人で行くのはやはり推奨はしかねます」

 

「ボスがいないのはわかってるし、誰か一人着いてきてくれれば――」

 

「はい! フレアが行きます! お兄さまとどこまでも!」

 

 俺の発現を遮って同じく話を聞いていたフレアが挙手をした。

 いや別にどこまでも一緒に来て貰う必要はないのだが。

 

「……まあ、フレアも行くのなら安心でしょう。ですがマスター、くれぐれもお気をつけて。最近のダンジョンは挙動がおかしな事が多いです。本当は私やスノウも着いていきたいのですが……」

 

「いや、流石にそこまで過保護にしてもらわなくても大丈夫だって。ウェンディとスノウは皆を頼む」

 

 正直、俺たちにとってボスのいないダンジョンよりも今は外の方が危険だ。

 特に知佳や綾乃、ティナにとっては。

 元々俺、未菜さん、そして少なくとも未菜さんと同格のローラというある程度以上の戦力が揃っている攻略済みのダンジョンサイドよりは知佳たちに数を回した方がいいだろう。

 

「フレア、魔力で細い糸は作れますね」

 

「はい、ウェンディお姉さま」

 

「それでマスターと他の方々の動きを阻害しないように物理的に繋がっている(・・・・・・)状態にしておいてください。転移させるボスは既に討伐済みな上に例のダンジョンに行くわけではないですが、同じような能力を持ったモンスターがいないとも限りませんから」

 

「はい、わかりました! いつでもどこでもフレアはお兄さまの傍を離れません!!」

 

 ぐっと拳を握り込んでフレアはそう意気込んだ。

 

 それはいいんだけど、ちょくちょくトイレや風呂に侵入しようとしてくるのはやめてね。



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第65話:誘蛾灯

1.

 

 

「ボクはローラ。よろしくね」

 

 そう言って俺に手を差し出してきたのはブロンズショートカットのボーイッシュなお姉さんだった。

 いや……お姉さんというか、年齢的には俺と同じくらいか?

 

「よろしく、ローラ。俺は悠真だ」

 

 差し出された手を握ると思ったよりも強い力で握り返される。

 というか強い強い強い。

 咄嗟に魔力を込めていなければそのまま握りつぶされていたところだぞ。

 

「おお、流石ミナのボーイフレンド。ごめんね、どうしても試したくなってしまって」

 

 ニカッと特に悪気のなさそうな笑顔でそう言われてしまっては責める気にもなれない。

 初対面で試すようなことをするのはやめてほしい。

 

「それで、そっちのかわいらしい女の子は……」

 

「まあ、お兄さま。かわいらしいですって。私はフレアと申します。よろしくお願いします」

 

 ちょこんとフレアがお辞儀をする。

 

「お兄さま……妹ってことかな?」

 

 お兄さま、と

 

「うーん……まあそんなもんだ」

 

 そういうことにしておいた方が色々楽そうだ。

 何故かローラは俺と未菜さんを恋人関係だと思っているようだし。

 

 ローラは着物を着ているフレアに興味津々な様子だ。

 というかダンジョンにまでその格好で来るんだな。

 別にいいけどさ。

 本人的にはどんな服装でも大差なさそうだし。

 

「兄妹で探索者なんだ。珍しいね」

 

「はい、お兄さまが大好きなので」

 

「そんな格好で大丈夫なの?」

 

「問題ありません、お兄さまが守ってくださるので」

 

 フレアが適当なことを言っている。

 実際に守られるのは俺なのだが……

 

 しかし、ローラは美人……というよりはイケメンな感じだな。

 いや、顔は間違いなく整っているのだが、一人称がボクなところと言い物腰と言い、男よりかっこいい女性という感じがする。

 未菜さんもそうなのだが、見た目が完全に女性だからな。

 

 これは俗に言うボクっ娘というやつなのだろう。

 実在するとは驚きだが。

 

 ローラはショートヘアなのも相まって遠目で見たらとんでもない美形の男にも見えなくもない、という感じ。

 控えめっぽいがちゃんと胸の膨らみはあるので間違いなく女性だろう。

 

 等と割と最低なことを考えていると、少し遅れて集合場所である現地に到着した未菜さんも現れた。

 

「すまない、渋滞に掴まってしまってな」

 

 未菜さんは大小二振りの刀を携えていた。

 短い方は脇差というやつだろうか。

 しかしこの人、日本刀似合うな。

 ダンジョンアタック用のプロテクターをまとっているので格好自体は決して日本のそれではないのだが、それが逆にまたマッチしているというか。

 

「おや、ユーマはミナに見惚れてるみたいだな?」

 

 横から囁くように言われる。

 しかしそれを未菜さんがすぐに咎めた。

 

「ローラ、からかうんじゃない」

 

「はーい」

 

 ぺろっと舌を出して俺から離れていくローラ。

 また一癖も二癖もありそうな子だなあ。

 

「君は……悠真君の言っていた新しい精霊か。心強いよ。私は伊敷(いしき) 未菜だ。気軽に未菜と呼んでくれ」

 

 前半部分をローラに聞こえないよう小声で言う未菜さん。

 

「未菜さんのことはよく知っています。フレアと申します、よろしくお願いします」

 

 そう言ってちょこんと未菜さんにもお辞儀をするフレア。

 

 未菜さんは「よく知っている……?」と首を傾げていたが。

 

 ……そういえば全部見てたって言ってたな、フレア。

 

 

2.

 

 

 基本的にアメリカでは武装してのダンジョンへの入場は日本のように個人を特定できるような身分証明書……ではなく、探索者用の免許証が必要らしい。

 もちろんそんなものは俺もフレアも持っていないのだが、どうやらローラが相当な有名人らしく、ほとんど顔パスみたいな状態で俺たちも通された。

 

 いやまあ有名人であることは間違いないんだよな。

 わざわざダンジョンの掃討を依頼されるようなエリートなんだし。

 この攻略済みのダンジョンのモンスター掃討というのがまた結構大変なのだ。

 

 後にレジャーや商業施設として再利用する場合万が一討ち漏らしがあれば大問題になるので確実に狩りたいが、大人数を雇うと莫大な費用がかかってしまう。

 

 基本的にはモンスターを問題なく倒せる探索者というのは高級取りなのだ。

 もちろんそれはローラも変わりないだろうが、ダンジョンの中には俺たち以外の人員が見られない。

 

 つまり最低でも一人で問題なくモンスターを全滅させられるという信用を得ているのだ。

 

 そこにお付きの者が二人三人増えたところで依頼した側は支払う金額さえ変わらなければ特に気にしない、ということか。

 

 ローラとしては一人では荷が重いと判断して未菜さんを誘ったらしいが、感じる魔力からしても多分そこまで苦戦はしないと思う。

 少なくとも事前に予想していた通り、未菜さんに匹敵するくらいの力量はあるように感じる。

 

「そういえば、ローラの武器は銃なんだな」

 

 ローラは腰のホルスターに左右一丁ずつ拳銃のような形の武器を持っている。

 俺も一応粘着弾を発射するやつを購入したのだが、結局一度も使ってないな、そういえば。

 

 そして拳銃繋がりで撃たれた時のことをちらりと思い出して勝手にげんなりする。

 あのサングラス集団、次会ったらフレアに炙ってもらおうかな。

 他力本願バンザイ。

 だって拳銃怖いし。

 

「そうだよ。ボクはミナみたいにすごい剣技とか持ってないから。ユーマはその黒い木刀で戦うの?」

 

「材質は木じゃないけどな。まあそんなもんだ。大抵は素手だけど」

 

「……素手だとこのダンジョンは厳しいんじゃない?」

 

「かもなあ」

 

 現地へ来てから分かったことなのだが、どうやらこのダンジョンは鉱石系のモンスターが出現するダンジョンだ。

 恐らく鉱山として再利用するつもりなのではないだろうか。

 

 周りも基本的には岩山に囲まれているような感じなので、このダンジョンもその特性を受け継いでいるのだろう。

 

 ちなみにローラにはフレアの素性を話していないので、あまり面倒なことにならないよう、基本的には俺や未菜さん、ローラが戦うという手筈になっている。

 

 万が一危険なことがあればフレアの力も解禁するという形だ。

 

「お兄さま、次の角を曲がったところに4匹ほどの群れが」

 

 隣を歩いているフレアが小声で警告してくる。

 しかしこちらの戦力的に特に警戒すべきことでもないだろう。

 

「わかった」

 

 そしてフレアの予告通り、角を曲がった時点で恐らく鉄か何かでできたゴツゴツした狼型のモンスターが現れた。

 

「とりあえず、まずはボクがどれくらいやれるかを見せておこうかな」

 

 ローラがそう言って一歩前へ出る。

 次の瞬間、4発分の発射音がほぼ同時に鳴り響き、4匹全てのモンスターの眉間が正確に撃ち抜かれた。

 

 特に視力を強化していた訳じゃないのでほとんど見えなかったのだが、状況から察するに二丁の拳銃で4発分の早撃ちをしたということなのだろう。

 

 なるほど、確かに強い。

 モンスター掃討なんて面倒なことの依頼が来るわけだ。

 

 それもアメリカは政府お抱えの探索者がわんさかいる中での選出なのだから弱いはずがない。

 

「どうだい?」

 

「すごいな」

 

「にしてはあまり驚いていないね、ユーマ。ボクの戦っている姿を見た人はもっと……Amazing!! って感じになるんだけど」

 

「いや、十分驚いてるよ」

 

 もっととんでもないもんを何度も見ているから、とは言えない。

 すぐ隣を歩く紅い髪の子もとんでもない奴だからな。

 まだフレアの全力は見ていないが。

 

「次モンスターに出会ったら君の番だよ、ユーマ」

 

「わかったよ」

 

 そんな会話をしている間にもくい、と軽くフレアに袖を引かれた。

 どうやら次のお出ましだ。

 

 次に現れたのは少し大きめのゴーレムのようなモンスターだ。

 材質は先程の奴と同じく恐らく鉄かその系統の合金だろう。

 あの時の巨大ゴーレムとは比較にもならないな。

 

「あちゃー……ユーマ、これは流石に手伝うよ」

 

 そう言って前に出ようとするローラを未菜さんが手で制する。

 

「彼だけで平気だ」

 

「……ホントに?」

 

「ああ」

 

 正直ゴーレムというだけでちょっと嫌な思い出があるので手伝ってくれるに越したことはないのだが、フレアと未菜さんの手前かっこつけたい俺もいる。

 

 そんな悠長なやり取りをしている間にもモンスターであるゴーレムは待ってくれるはずもなく、どすんどすんと重い音を立てて近づいてきていた。

 

 俺は三歩ほど前に出て、ゴーレムの振るった大きな拳を左手で受け止める。

 ドシン、と重い衝撃が腹にまで響く。

 が、太鼓の演奏を聞いているのと同じような感覚だ。

 特にダメージはないな。

 

 やはりあの時の大ダメージは相手がボスクラスだったからだろう。

 しかしこの調子じゃこのダンジョンのボスもかなりの超パワーを誇っていそうだが、よく倒せたな。

 

「うわー……」

 

 ローラが素で驚いたような声を出している。

 というか引いてる。

 

 触ってみた感じ普通に殴っても倒せそうな気はしたが、素手で殴り飛ばして倒した場合更にローラに引かれそうだと思ったので背中につるしていた黒い棒を握って、それで頭を叩き潰した。

 流石はお高い棒だ。

 どうやら鉄よりも硬度は上らしい。

 

「…………」

 

 口をあんぐり開けてローラが驚いている。

 未菜さんも少なからず驚いているようだ。

 

「ユーマ、今のをそんなふうに止めて平気なのかい?」

 

「ん? ああ、大丈夫だ」

 

 左手を握ったり開いたりして無事をアピールする。

 

「言っただろう? 彼は近接戦闘で私を上回る。私達は井の中の蛙だったというわけさ」

 

 未菜さんがどことなく自慢げにローラにそう言う。

 

「ミナが君にLoveなのもわかるなあ。自分より強い男性しか認めない! みたいな典型的なアレだし」

 

「べ、別にそういうのではないぞ」

 

 未菜さんが慌てて否定するが、確かに初めて交わった時にそんなことをぽろりと言っていたような気がしないでもないな……

 

 

3.

 

 

 ダンジョンに入ってから6時間程。

 俺たちは一旦掃討を打ち切って地上へと戻ってきていた。

 全15層からなるダンジョンなので元々一日で終わる量でもない。

 

 一番下まで行ってボスを倒すだけならまだしも、モンスター掃討ともなればやはり時間がかかってしまうのだ。

 今の所は3層まで綺麗に掃討した。

 この調子で行けばあと4日かそこらで倒し切ることができるだろう。

 

 未菜さんとローラに明日の約束をした上で別れを告げ、帰路につく。

 

 フレアがいる限り車で移動しても安全なので普通にタクシーで移動していたのだが、何故かホテルに着く前にフレアの提案でタクシーを降りることになった。

 

 あと30分程の距離を二人で歩いている最中だ。

 

「悪いなフレア、雑用みたいなことばっかやらせちゃって」

 

 道中、俺が謝ったのはダンジョンでのことである。

 大抵はモンスターの索敵だ。

 それも、基本的には俺たちの戦力的にほとんど必要のない役割。

 たとえ急に目の前にモンスターが現れようとそいつがボス級だとでも言わない限りは面子の中の誰でも問題なく対応できる。

 

 フレアが本気でやれば一日どころか半日もかからずにダンジョン内のモンスターを全滅させることが可能だろう。

 

「いえ、フレアはお兄さまとあと4日も一緒にデートできることが嬉しいので大丈夫です」

 

 そう言ってフレアはぴったり俺の腕にくっついている。

 和服で紅髪の美人と二人で歩いているのだから普通ならとんでもない注目を浴びるはずなのだが、恐らく認識阻害の魔法をかけているのだろう。

 特に俺たちが目立つ様子はない。

 

 本当に凄いよな、魔法って。

 

「でも流石に4日もずっとだと負担が大きいだろ? 途中でスノウかウェンディにでも――」

 

「お兄さま?」

 

 ぎりっ、と俺の腕を掴む力が強くなる。

 ローラに手を握りつぶされかけた時よりもずっと力が強い。

 精霊と探索者のトップランカーとは言え普通の人間の差なので当然と言えば当然なのだが、あの、普通に痛いんですけど。

 

「一番でなくともいいと言いました。お兄さまは素敵な方ですから、いろんな女性が言い寄ってくるのは仕方のないことなので多妻(ハーレム)も許します。でも今はお兄さまはフレアのものです。フレアだけのものです。わかってますよね? スノウやウェンディお姉さまでも邪魔はさせません」

 

「な、なんかスミマセン……」

 

 ハイライトのない目でそんなことを言われると怖いだけなのだが……

 いやしかしこれだけ可愛い子にここまで慕われているというのは幸運なのだろうか。

 

 そんなことを思っていると、フレアにぐいっと腕を引かれて裏路地に連れ込まれた。

 一体どうしたと言うのだろう。

 

「フレアはお兄さまのことが大好きですから、お兄さまが謝るのなら全てを許します。でもこのままだと拗ねちゃうので、昨日、未菜さんにしていたことをフレアにもしてください」

 

「拗ねちゃうって……」

 

 どんな脅迫の仕方だよ。

 それに昨日していたことって、ばっちり青姦してたことバレてるじゃん。

 

「ほら、お兄さま。触ってみてください」

 

 フレアは自分で着物の裾を持ち上げ、下半身を露出した。

 当然のように下には何も穿いていない。

 

 フレアに誘導されるがまま手は既に濡れている秘所に触れる。

 

「んっ……ねえお兄さま。他の方にしたことはフレアにもして欲しいのです」

 

 そのまま俺の動きを阻害するように、脚や腕を使って壁に押さえつけられる。

 

「……こんなところでしたらバレるぞ」

 

「お兄さまもご存知でしょう? 未菜さんほどではありませんが、他者からの認識はある程度誤魔化せますから♡」

 

 これは止まりそうにないな。

 というか、俺もダンジョンへ潜った直後で気分が昂ぶっているからか、本来ならこういう時に邪魔をしてくるであろう理性の働きが弱い。

 

 まるで花の蜜に誘われる虫のように、俺はフレアの魅惑に抗えないでいた。



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第66話:あわあわ

1.

 

 

 ふと、こんなシチュエーションがいつだったかもあったことを思い出す。

 確か未菜さんと顔合わせをした直後。

 スノウに路地裏に連れ込まれ、躾を称した寸止め教育なるものをされた覚えがある。

 

 ……そういやあの時もきっかけは未菜さんだったのか。

 

 双子姉妹で似ているというべきか。

 

 俺のシャツを半ば無理やり(半ばというのは俺もあまり抵抗していないからだ)脱がせた後、フレアは何を思ったのか俺の乳首に舌を這わせはじめた。

 

「れろっ……こういうのはまだ皆さんあまりやってないですからね。お兄さまをフレア色に染めてあげます」

 

「っ……くすぐったいだけだぞ」

 

くすぐりは得意(・・・・・・・)でしょう?」

 

 にっこりと俺を見るが……目が笑ってない。

 怒っているわけでもなく、感情を敢えて読ませようとしていないような。

 

 怒ってるのか?

 その目は怒ってるのか?

 

「お兄さま、もうこんなに大きくして……ここはお外ですよ?」

 

「お前が……言うか……!」

 

 ぺろぺろと乳首を舐められつつ、ズボンの上から膨らみを愛撫される。

 こんな状況で勃起しないでいられるわけがない。

 

 そうだ、こういう時は円周率でも数えればいいんだ。

 3.141592653……

 ……精々10桁くらいしか覚えてねえな!

 知佳やティナなら暗記どころか下手すりゃ暗算すらできるかもしれないが俺には無理だ。

 

「ふふ、お兄さま、かわいいです♡」

 

 楽しそうに笑うフレア。

 ダメだ、完全にスイッチが入っている。

 

「可愛さで言えばお前には負けるけどな……!」

 

 売り言葉に買い言葉でそんなことを返すと、ぴたりとフレアの動きが止まった。

 

「……どうした?」

 

 フレアを見ると顔を真っ赤にしてわなわなと震えている。

 スノウと言いウェンディと言い赤面癖は遺伝子単位のものなのだろうか。

 怒っている……様子ではないような気がするが。

 

 もしかして照れてるのか?

 こんな責め方をしてきたのに?

 

 なるほど、そもそも俺としては責められるよりも責める方が性に合っているのだ。

 

「同じことをして欲しい、だったか?」

 

 ぐるりとフレアと身体を入れ替えて壁に押し付ける。

 抵抗は全くされていない。

 

「この程度で動揺するとは、本当に可愛いやつだな、フレアは」

 

「っ……!」

 

 両手を抑えつけて耳元で囁く。

 するとフレアはぞくぞくと感じるようにして太ももを擦り合わせた。

 先程自分で捲くりあげていたので裾が乱れ、太ももを透明な液体が伝っているのが見える。

 

 特別耳が弱いというよりは、それがどういうものであっても責められるのに弱いという感じな気がするな。フレアは。

 そういえば初めてした時も基本的にはフレアの方が責め側だったし、その後ちょくちょく交わっている時もフレアが責め側だったので攻守逆転は初めてかもしれない。

 

 察するにフレアは俺のことを相当好きなようなので(自分で言うのもこっ恥ずかしいが)、ちょっとキザなくらいでもちょうどいいのかもしれない。

 

 素のままの自分だと語彙力に限界があるのでむしろそっちの方がやりやすのだが。

 

 完全に責めっけを削がれてしまったフレアが顔を下に向けて表情を隠そうとしているので、俺はイケメンにしか許されないという禁断の技、顎クイをして真正面からフレアを見た。

 

「もっとその可愛い顔を見せてくれよ」

 

「~~~~~!!」

 

 フレアが感極まったように声にならない声をあげている。

 これは……好きというか、なんかアイドルに会ったファンみたいな反応にも思えるな。

 実際ずっと見られていてその期間に思いを募らせていたのだとしたら似たようなものではあるのか。

 

 召喚されて触れ合えるようになったからと言ってその間の気持ちをそう簡単に忘れることはできない、と。

 

 我ながら中々冴えた推理なのではないだろうか。

 

 しかし俺のどこにアイドル的に好かれる要素があったのかは謎である。

 その辺りを考え始めると自分の何がモテる要素なのか本気で考え始める痛い奴になってしまうのでやめておこう。

 

「どうして欲しい?」

 

 フレアにそう訊ねると、遠慮がちにこちらを見上げる。

 普段の押せ押せな雰囲気が嘘のようだ。

 

 潤んだ蒼い目。

 髪は綺麗な紅なのだが、目はスノウと同じ蒼。

 白髪に蒼の目もよく合っていると思うが、全く正反対の色なのに何故かよくマッチしている。

 

 神がそう誂えたかのような美しさだ。

 

「フレアは……お兄さまに好きだと言って欲しいです」

 

 ……乙女か!

 いや乙女なのか。

 普段から美少女であることは認識していたし、ドキッとさせられることも多々あったがこういうギャップには弱いのかもしれない。

 

 今日頑張ってくれたし、これからも数日間は世話になるのだからそういう意味でのご褒美はあってもいいかもしれないな。

 

「俺は頑張ってるフレアが好きだよ」

 

「ああ……! お兄さま……っ! フレアもお慕いしております……!」

 

「ええ!? 泣いてる!?」

 

 ぼろぼろと大粒の涙を流し始めるフレアにおろおろする俺の図。

 この子大丈夫なのだろうか。

 

 ふと、念の為強化しておいた聴覚がこちらへ近づいてくる足音をキャッチした。

 流石にこんな場所で服装の乱れた女の子が泣いている場所を見られるのはまずすぎる。

 

 とっさに俺はフレアを抱きしめて、泣いているところを見られないようにする。

 しばらくすると足音は遠ざかっていったので杞憂に終わったようだが。

 

 ……なんかするような雰囲気じゃなくなったな。

 しかしフレアの俺に対する依存度というものは思ったよりも強そうだ。

 なんというか、加減を間違えるとバッドエンドに直行しそうな危うさがある。

 

 気をつけよう……

 

 

 しばらくして結局セックスをしないで帰ってきた俺たちを出迎えたのは知佳だった。

 どうやら珍しく暇していたらしい。

 

「どこか寄ってきた?」

 

「ん? なんで?」

 

 知佳が俺とフレアを見比べるようにして聞いてくる。

 

「どこにも行ってはいませんが、収穫(・・)はありましたよ」

 

 そのままスキップでもそのままスキップでも始めるのではないかと思うほどテンションの高いフレアがそんなことを言う。

 すると知佳はハッとしたような顔をして、それにフレアが何故か勝ち誇ったような表情を浮かべた。

 

「…………」

 

「抜け駆けはしてませんよ? 知佳さんが来られない舞台でするのはルール違反だと思ったので」

 

「……あくまでフェアに?」

 

「そう、あくまでフェアに、です」

 

 どういう意味の会話なのか俺には理解できないのだが、この二人は最近仲がいいみたいなので何か独自の言語体系が形成されているのかもしれない。

 

 しかし俺は蚊帳の外だった。

 というか意図的にそうされているような気がするんだが、気のせいだろうか。

 

 

2.

 

 

 何故か途中でお預けになり、意図せずにスノウに路地裏でされた時と同じような状況になってしまった俺はシャワーを浴びながら気を静めていた。

 

 少なくとも夜中、ティナが寝るまでは待たなければならない。

 

 しかしその夜中のことをちょっと意識するだけでもうビンビンになってしまうのは流石に節操がなさすぎないか、俺よ。

 

 と。

 シャンプーを洗い流している最中に風呂場の扉がカラカラと開く音が聞こえた。

 

 またフレアか、と思って後ろを振り向くと、誰もいない。

 

 のではなく、視線を下に向けたらそこには素っ裸の知佳がいた。

 

「なにしてんのお前」

 

「ちょっと意趣返し。というかなんでもう大きいの?」

 

 意趣返し……?

 誰に対する意趣返しなんだ。

 俺何かしたっけ?

 

「ほっとけ」

 

 勃起しているちんぽを両手で隠す。

 しかし普通男女逆ではないだろうか。

 

 知佳はそのまま小さい手にシャンプーを出すと「ん」とこちらに両手を差し出してきた。

 

「なんでしょうか」

 

「座って。届かないから」

 

 ……わけがわからない……。

 言われた通りにバスチェアに座ると、そのまま頭を洗われる。

 まあ確かに立ってるままだと届かないわな……

 

 ていうかどんなプレイなんだこれ。

 

「かゆい所ある?」

 

 美容院か。

 

「……耳の裏」

 

「ふーん。自分でかけば?」

 

「なんで聞いたんだよ」

 

 わしゃわしゃとそのまま泡立てられる。

 さっき洗ったばかりなので当然よく泡立つ。

 

「で、何の用だよ」

 

「お風呂入ろうと思ったら悠真が入ってたから」

 

「入ってたら普通出るまで待つもんじゃないか?」

 

「二人で入った方が効率的」

 

「二人同時に洗うんならまだしもお前に洗ってもらってるんなら変わらないんじゃ……」

 

「うるさい」

 

 そう言いながら少し頭を締め付けられる。

 いや別に痛くはないが。

 なんなんだ一体。

 

 しかし美容院でも思うことではあるが、他人に頭を洗われるのって妙に気持ちがいいよな。

 なんでなんだろう。

 手付き的にはプロに比べればたどたどしいはずなのに、その美容院で洗髪されている時よりも気持ちよく感じるのも不思議だ。

 

「いつまで大きいままなの?」

 

「後ろに全裸のお前がいて小さくなるわけないだろ」

 

「ふーん」

 

 目の前にある姿見には身長差がありすぎて知佳の顔しか見えていないが。

 というか本当こいつ小さいな……

 自己申告では140あるとのことだったが本当にそれだけあるのかも疑わしいぞ。

  

 こいつとの初対面の時も何の疑いもなく中学生だと思ったし。

 

 今度きっちり測ってやろうか。

 

「はい。あわあわー」

 

 謎のかけ声と共にシャワーを頭からかけられてシャンプーが流される。

 俺を幼児か何かと勘違いしてないか、こいつ。

 

 次はリンスを手に取る知佳に改めて意図を訊ねる。

 

「で、何か用なのかよ」

 

「別に」

 

 そう言って振り向いていた俺の首をぐきりと前に戻して、今度はリンスを髪になじませていくのだった。



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第67話:お風呂プレイ

1.

 

 俺の髪の毛をしっかりリンスでケアしている知佳がふと呟いた。

 

「なんか変な感じ」

 

「そりゃこっちのセリフなんだが」

 

 明らかに変な感じを受けているのは俺であって、変な感じを仕掛けているのが知佳だろう。

 

「何が変な感じなんだよ」

 

 俺がそう聞くと、知佳は端的に答えた。

 

「生殺与奪を私が握っていると思うと」

 

「今の俺って死ぬか生きるかなの?」

 

 確かに頭部って人間にとって……というか大抵の生物にとっての急所になるんだよな。

 なのに理髪店なんかではあっさり頭を預ける。

 なんなら刃物を持っている相手にだ。

 

 そう考えるとめちゃくちゃ怖いような気もしてくるが、普段はそんなこと意識しないか。

 それこそ今の知佳みたいにボソッと怖いこと言われない限りは。

 

 俺が戦々恐々としていると、辛うじて鏡で見えている知佳の頬が少し緩んだ。

 

「冗談」

 

「お前って人をおちょくってる時が一番生き生きしてるよな」

 

「そう思うなら観察不足」

 

「少なくとも4年は見てるからな?」

 

 4年も見てて観察不足ということはないだろう。

 多分。

 

「ずっと見てたわけじゃないでしょ?」

 

「いや、そうでもないぞ――いてっ」

 

「あ、ごめん」

 

 爪を立てられたのかなんなのかチクリと頭に痛みが走った。

 どうやらわざとではないのでわざわざ言及するほどでもないが。

 知佳は何かを確認するように、先程俺が言ったことを繰り返す。

 

「4年間ずっと見てたって……」

 

「俺の交友関係の狭さは知ってるだろ? 見るにしたってお前以外に誰がいるんだよ」

 

「ああ、そういう……」

 

 妙に納得されたがどういうことなのだろう。

 しかしこいつ、羞恥心とかないのだろうか。

 同年代の男が入っている風呂に突撃してきて顔色一つ変えない。

 

 いや俺としてもなんか知佳ならこういうことしかねないな、みたいな謎の信頼があるのであまり人のことを言えないのだが。

  

 俺達の関係は友達以上恋人未満。

 初めて知佳とセックスした時にそんなことを言っていた。

 

 それにしては近いようで、適切なような気もするし、正直よくわからないな。

 友達だった時にこうなることは有り得なかったという意味では距離感としては適切なのかもしれないが。

 

「……ま、どうあれ一番気安いのは間違いないか」

 

「裸の女の子が真裏にいて気安いって、デリカシーなさすぎじゃない?」

 

「聞こえてたのかよ」

 

「この距離だし」

 

「そうは言っても――」

 

 ぐるりと振り向いて知佳と向き合う。

 眠たげな目がまっすぐ俺を見ている。

 

「気安いからと言って、ここまでお前にされて興奮しないわけじゃないからな」

 

「ふぅん。それで、どうするの?」

 

 どこか挑発的に聞いてくる知佳。

 訳のわからない状況に巻き込んでくれたお仕置きも少しはしないとな。

 

「壁に手をつけて、尻を向けてもらおうか」

 

 少しは抵抗するかと思ったが、知佳は言われた通りに壁に手をついてこちらへ小さな尻を向けた。

 こいつ……肌綺麗だなー。

 綺麗というか、幼いというか。

 本人に言ったら絶対怒るので言わないが、小学生とか中学生の健康な肌ってこんな感じなんだろうなという。

 

 かなり変態みたいなことを言っているが、本当にそんな感じなのだから仕方がない。

 こいつ実年齢も本当は22なんじゃなくて、12とかじゃないだろうな……

 少なくとも初めて会った18歳の時と全く見た目が変わっていないし、ちらりと見せてもらった中学生の時だか高校生の時だかの写真とも全く違わない。

 

 まさかこれから先10年経ってもこのままということはないだろうが、これより10年前からずっとこの感じだと言われても納得できてしまう。

 

 改めて断りを入れておくが、俺はロリコンではない。

 たまたま知佳がロリっぽいだけで俺は悪くない。

 

 しかし尻を向けてもらったはいいのだが、これ身長差がありすぎて入らないぞ……

 

 バスチェアに乗って貰うという手も考えたが、流石に不安定すぎて危ない。

 というかそれに乗って貰っても届かないかもしれない。

 

 知佳がこちらを振り向く。

 

「……どうしたの?」

 

「いや……」

 

 いつまで経っても挿入されないので不思議に思ったのだろう。

 

 しかしそこで俺は妙案を思いついた。

 バスチェアの上は不安定で危ないが、俺の力があれば知佳を持ち上げてしまうのが手っ取り早い。

 

 俺は知佳の腰を掴み、持ち上げる。

 手は壁について貰っているので、足だけが浮いているような形だ。

 

 驚いた知佳が抵抗するように少しもがく。

 

「ちょ……嘘――んっいき……な、り……ぃ……♡」

 

「でもこれ意外と安定しそうだぞ」

 

 挿入してみてわかったが、知佳は壁に手をついているし、俺の手は知佳の細い腰をガッチリ掴んでいる。

 更に結合部分が支点となって、思っていたよりもずっと安定しているのだ。

 

「これ……やば……ぃ……♡」

 

 知佳自身の様子を除いて、だが。

 表情は見えないが、膣内の反応からしてかなりキているようだ。

 まあ自分の体重が駅弁スタイルでする時のように奥側ではなく、背中側にかかっているのだから普段とは違うようになるのだろう。

 

 しかしこれは……気持ちよさもあるのだが、こう……

 駅弁は他の誰でもできるのだが、このスタイルはここまで身長差のある知佳としかできない。

 そう考えると背徳感が段違いなんだよな。

 

 ずちゅ、ぐちゅ、と動かし始めると、その度に知佳の突っ張っている腕がぷるぷると震える。

 それに加え、皮膚の薄い背中が段々と赤みがかっていく様子も見える。

 

 息も絶え絶えに知佳が訴えかけてくる。

 

「待って……っ、これ……っ、ほんとっ、に……だめなとこ、当たってる……っから、っ♡」

 

 確かにあまり体重がかかりすぎても辛そうだし、もう少し持ち上げてやるか。

 俺が腰を動かす度に脚がぷらんぷらんと慣性に従って揺れ動く。

 一応多少の音対策にシャワーを流しっぱなしにしているが、既に精霊組は気付いているだろうな、これ。

 

「はっ♡ くっ……♡ なかっ、おく、ぐりぐりって……ぇ♡ こんっ、なの、がまん、できな――」

 

 だいぶ早い気はするが、知佳が絶頂する直前。

 

 知佳が入ってきてからはずっと強化していた聴覚が、こちらへ近づいてくる足音をキャッチする。

 咄嗟に俺が動きを止めると、知佳が「え……?」と不思議そうにこちらを振り向こうとした。

 体勢的に無理があるので完全には目が合うことはないが。

 

「な、に……悠真。焦らすつもりなら……」

 

「しぃ。誰か近づいてきてる」

 

「えっ……」

 

 ……誰だろう。

 フレア……ではなさそうだ。

 魔力の感じでなんとなくわかる。

 

 これは……ティナ、かな?

 

 

「あの、ユウマ、だよね?」

 

 

 扉越しに声をかけられ、顔を伏せている知佳が僅かに緊張するのが伝わってくる。

 流石にティナにこの場面を見られたらまずいという考えは持ち合わせているようだ。

 

 というか精霊組は気づいているんだろうから、こっちに来るの止めてくれよ。

 

「ああ、そうだけど、どうかしたか?」

 

 俺はなるべく平然とそう返した。

 が少し声が裏返っていたかもしれない。

 

「最近ちょっと余所余所しくしてたから……謝りたくて。フレアさんが今なら一人のはず(・・)だからチャンスですよって、背中を押してくれたの」

 

 確かに最近余所余所しいなとは思っていたが。

 なんでこんなタイミングで来るのかと思ったら、フレアの差し金かよ!

 

「それは構わないけど……」

 

「その、実はユウマがいろんな人とエッチなことしてるの見たの」

 

 え、マジで?

 俺が答えられないでいると、ティナはどう思ったのか慌てて言葉を続ける。

 

「軽蔑したとかはないの! ただちょっとびっくりしちゃって……わたしよりも小さいチカともしてるのを見たから……」

 

 自分の名前を出され、今正にちんぽを挿れられている知佳の膣内がきゅっと締まる。

 そこで俺の悪戯心が沸き上がってきた。

 中断していた抽送を再開する。

 

「んあっ!」

 

 完全に不意打ちだったからか、知佳が大きな声を出した。

 慌てて俺が左手だけ腰から離して知佳の口を後ろから塞ぐ。

 

 支えがなくなったことで再び俺のちんぽに知佳の体重がかかり、即ち知佳の膣内にも圧力が加わることになる。

 

 しかし俺の身体ってすごいな。

 ちんぽまで頑丈になってるのか、こんな状況になれば根本から折れそうなものだがしっかりと知佳を串刺しにしてビクともしていない。

 

 ……これだけ皮膚も含めて頑丈になっているのに何故快楽は感じるのだろうという益体もない疑問がふと頭を過ぎったが、気にしないことにした。

 まあ魔力が強くなったら遅漏になるとかだと、じゃあ魔力が当たり前にある異世界ではどうしてたんですかって話になるもんな。

 

「んっ……むっ……ふっ……」

 

 びくん、びくん、と知佳の身体が震えてその度に脚がプラプラしているが、この状況がバレれば俺も知佳もティナにドン引きされる。

 そうなることを見越してティナをよこしたのだとすれば相当な策士だな、フレア。

 

 だが、いつもとは違う角度から圧迫されている為なのか、それとも俺が絶対にバレてはいけない状況に興奮する変態男なのかまでは定かでないが、いつもよりも気持ちいい気がする。

 

 肌がぶつかり合う音でティナにバレない程度に腰をゆるゆると動かす。

 我慢している知佳の熱い息が手にかかるのも更に興奮する材料だ。

 

 ずっと返事がないことを怪訝に思ったのか、ティナの足音が更に三歩ほど近づいてくる。

 

「……ユウマ? どうしたの? のぼせちゃった?」

 

「ああ、いや、大丈夫。ちょっと考えごとしてた。なんだっけ?」

 

「だからその、ちょっとびっくりしちゃってただけだから、ユウマのことが嫌いになったとかじゃないのよ……むしろ感謝してるというか、なんというか」

 

 見なくてももじもじしながら言っているのが伝わってくるような言い方だ。

 

「そっ、んなに恩を感じなくていいからな。ただ俺がやりたかったからやっただけだ」

 

 途中で声が裏返りそうになったのは知佳が急に膣内を締めてきたからだ。

 多分軽イキしたのだろう。

 

「人助けするのは……もう俺に遺伝子レベルでっ……組み込まれてるお人好し細胞のせいみたいなもんだ」

 

「……すごいね、ユウマは」

 

 セックスしながら普通に会話をしていることがすごいと言われているのかなとか一瞬かなりバカなことを考えてしまった。

 いかんな、俺も理性が壊れてきている気がする。

 

 落ち着け、俺よ。

 ティナにこんなところを見せてみろ。

 ショックで寝込むぞ。

 

「わたしはそんな風に考えられなかった。ユウマみたいに、誰かを助けるのが当たり前みたいになれるかな」

 

「皆が皆そうならなくてっ……もいい、と俺はっ……思うぞ。人それぞれってやつだ。日本語にはっ……十人十色ってことわざもあるしな」

 

「でもわたしはそんなユウマが素敵だと思うから。わたしももしそうなれたら……そうなれた時は……」

 

 ティナはそこで言葉を途切れさせた。

 

「……わたしも頑張るね、ユウマ」

 

「お、おおっ……がんばれよ。無理しないようにな……っ」

 

 俺がそう返すと、ティナは満足したのか、「話を聞いてくれてありがとう。お風呂の途中にごめんね」と言って去っていった。

 

 

 ……さて。

 俺とティナが話している間に通算で10回以上は絶頂している知佳のことをこれからどうすべきかという課題があるのだが……

 

 ずるりとちんぽを引き抜いて、知佳を抱えたままひっくり返すと湯船に浸かっていたわけでもないのにのぼせたように頬は紅潮し、意識を朦朧とさせていた。

 

 どうしよ。

 流石にやりすぎたかなと反省している。

 

 

 

2.

 

 

 しかし知佳も知佳で結構タフなようで、1分ほどもすれば段々と意識がはっきりしてきたようだ。

 そして今俺は風呂の床で土下座をしている。

 

 ちっちゃなあんよが俺の頭に乗っけられているので、今頭をあげればあられもないところがあられもない角度から見えるのだろう。

 

「申し訳ございませんでした」

 

「流石にあれはだめ。本当にだめ」

 

 ぐりぐりとそのまま踏みにじられる。

 その界隈の人にとっては垂涎モノなのかもしれないが、残念ながら俺にそんな趣味はなかった。

 

「全て俺の煩悩めが悪うございます。反省しております」

 

「はー……」

 

 知佳は溜め息をつくと、俺の頭からあんよをどけた。

 そうしてくいっと湯船の方へ顎を動かす。

 

 よくわからないが、俺に湯船に浸かれと言いたいらしい。

 ここで抵抗すると後が怖いので大人しく入ると、その上に知佳がちょこんと乗っかってきた。

 

 ただでさえ軽いのに水の浮力で更に軽くなっているので全く重さは感じないが。

 そして知佳がどこか拗ねたような口調で言う。

 

「日本に戻ったら色々付き合って貰うから」

 

「色々?」

 

「遊園地とか、動物園とか」

 

「そりゃお前デートみたいだな」

 

 茶化すように俺が言うと、太ももをつねられた。

 

「返事は?」

 

「わかったよ」

 

「ん」

 

 知佳が頭を俺の方へ預けてくる。

 

 俺はどうしたものか少し悩んだ後、その知佳の頭に掌を乗っけるのだった。



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第68話:不穏な呼び出し

1.

 

 13層最後の一匹になる全身を金属装備で固めたオークを殴り倒し魔石になったのを確認した後、俺はひと息ついた。

 

「これで後は14と最下層だけだな」

 

 ローラがニコニコと笑顔で俺を労う。

 

「いやー、だいぶ早く終わりそうだね。ミナはもちろんだけど、ユーマがいてほんと助かるよー」

 

 全15層からなるこの鉱物ダンジョン。

 他のダンジョンの例に漏れず下に降りるにつれて段々と出現モンスターは強くなっていたが、(フレアは当然として)俺も未菜さんもローラも問題なく倒せていた。

 

 今日は掃討を始めて3日目である。

 予定よりもかなり早く進んでいる為、既に15層中13層まで来ているのだが、今日はちょっと残業して14層まで掃討し終えたら帰ろうということになった。

 

 多少帰りは遅くなるが、一応ダンジョン内から連絡する手段はローラが持っていたのでそれでダンジョン管理局へ連絡し、そこから綾乃へ伝えて貰うという経路を辿ってみんなには既に伝えてある。

 

 なんでも、15層に出現するモンスターは今までのものとは比較にならない程厄介なものになるのだとか。

 あまり想像したくないのだが、メタル装甲のアリみたいなやつがわんさか沸くらしい。

 

 動きも素早く硬いが、攻撃能力は大したことがなかったので攻略前はほとんど無視されていた存在らしい。

 流石にボスを討伐する際に周りにいた奴は駆除したらしいが、それにもやたらと時間がかかったのだとか。

 

 攻略時のパーティにはローラはもちろん、俺も未菜さんも(フレアも)参加していないのでこの四人で降りていった場合はもう少し楽だろうということくらいは想像できるとのことである。

 

 ちらりと腕時計を見たローラが俺達に提案する。

 

「そろそろご飯にしよっか。ボクお腹ぺこぺこだよ」

 

「だな」

 

 攻略済みのダンジョンはモンスターが湧かなくなる。

 なのでその層全てのモンスターを掃討した後なら安息地関係なく身体を休めることができるのだ。

 

 持参したレジャーシートを広げ、その上にフレアが作ってきた全員分の弁当を並べる。

 なんと毎朝早起きしてホテルの厨房を借り、弁当を作っているそうだ。

 そこまでしてくれなくても……と本人に言ったら「いいえ、これはフレアの仕事なのです!」と何故か強い語調で否定された。

 

 いや、ありがたいんだけどさ。

 めっちゃ美味いし。

 ただ食べる時に凝視してくるのはやめて貰いたい。

 あとなんか俺が何かを口に入れる度に怪しい表情というか、雰囲気が出ているのは気のせいだろうか。

 

 

 しばらくして弁当も食べ終わり、少し落ち着いたら14層へ行こうという話の中でふとローラが話を振ってきた。

 

「そういえば、ミナとユーマはどうやって知り合ったの?」

 

 一瞬俺はどう答えたものかと悩んだが、未菜さんはさらりと、

 

「仕事の関係でな。柳枝(やなぎ)を覚えているか?」

 

 ローラは少し考えるような仕草をした後、ぽんと手を打った。

 

「ああ、あのオジサン」

 

 本人のいないところでオジサン扱いされる柳枝さんよ……

 まあ35歳ってなるとそうなるのもやむなしか。

 ローラは俺より一個下の21らしいし。

 

「アレの紹介で共にダンジョンを攻略している。ほら、以前言った九十九里浜の」

 

 そして未菜さんはこちらをちらりと見てきた。

 話を合わせろということだろう。

 実際言っていることはあながち嘘ではない。

 

 ローラは大げさに驚いてみせる。

 

「ヘー、二人でボスを倒したってこと?」

 

「いや、あと一人同行者がいた」

 

「てことは三人かあ。やっぱり凄いなあ、ミナは」

 

「私は大したことはしてないさ。彼ともう一人の力が大きかったよ」

 

 謙遜する未菜さん。

 そしてローラはそんな彼女を先程までとは打って変わってどこか物憂げな目で一瞬見る。

 

「君たちは……お似合いってやつなんだろうね」

 

 それを聞いた未菜さんは慌てて否定する。

 

「え、えっ、私たちがか!? ローラ、何度も言っている通り――」

 

「恋人っていうのはボクの勘違いだって話でしょ? でもお互いすごく強い男女ペアなわけだし、やっぱりお似合いだと思うよ」

 

 どこか影を感じる笑顔で、ローラはそう言うのだった。

 

 

2.

 

 

 数時間後。

 ホテルへ戻ってきた俺はいつもより少し長めにダンジョンへ潜っていたという精神的な疲れもあって、ソファに転がってダラダラしていた。

 

 肉体的にはすこぶる元気なのだが。

 

 風呂には先にフレアが入っている。

 知佳と綾乃が何やらパソコンで仕事をしているのをぼんやり眺める。

 

 すると背後から声をかけられた。

 スノウだ。

 

「疲れてるわね」

 

「そう見えるか?」

 

「まだまだダンジョンに慣れるのは先そうね」

 

「まあな。やっぱモンスターって言っても殴ったり蹴ったりする時の手応えが生き物だからさ。なんか精神的に疲れるよな」

 

「そこは慣れるしかないわ」

 

 ソファに寝転がっている俺の横に座るスノウ。

 すぐそこに形のいいケツがあるのだが、これは触れということだろうか。

 そろそろと手を伸ばしたらあっさりその腕を捕まえられた上に抓られた。

 

「スケベ」

 

「今更じゃねえかなあ……」

 

 もっといろんなところを触ったりこねたりしているのに。

 

「どうなの、ダンジョン探索は。フレアがついてるとは言え、手は出してないのよね? 精霊の力を借りずにって言うのは初めてでしょ」

 

「そう言われてみればそうか。ボスに遭うようなことがなければ特にこれと言った困ったことはないな」

 

「そういう意味じゃあんたもそこそこやるようにはなったのね。最初は雑魚オークにもビビってたのに」

 

「別にビビっては……いたけどさ」

 

「ほらみなさい」

 

 くすりとスノウが笑う。

 笑うと可愛いよなあ。

 笑ってなくても可愛いけど。

 あれ、こいつ無敵か?

 

「そっちこそどうなんだ? 俺たちがダンジョンへ行っている間、何か変わったようなこととかは」

 

「ちらほら怪しいのがうろついてるわね。全く問題はないけど」

 

「ありがとな」

 

「別に大したことじゃないわよ。部屋にいるまま弱っちいのをちょっとおどかして追っ払うだけだし」

 

 そう言いながらもしっかり頬を少し赤くしているスノウ。

 チョロいなあ……

 ツンデレなのにすぐデレる。

 やっぱりすぐツンに戻るけど。

 

「ティナはどうだ?」

 

「ご両親とちょこちょこ電話で話したりしてるわよ。危険だから会うのはもう少し先だけど、そんな寂しそうにはしてないわ。そういえばティナって日本に移住させるのよね?」

 

「そうなるだろうな。ダンジョン管理局が手続きを進めてくれてる」

 

 あっちはあっちでめちゃくちゃ忙しいだろうに色々任せてしまって申し訳ないな、本当に。

 魔法の件のこともあるので全く気にしなくていいと柳枝さんも未菜さんも言ってはいるが。

 

「あたしがいなくても一人で身を守れる程度にはもう魔法が使えるようになってるから、少なくともここより平和な日本なら心配はないわね」

 

「そんなにか」

 

「知佳や綾乃は仕事してるし、ウェンディお姉ちゃんはその手伝いができるけどあたしは無理だもの。ずっとティナに魔法を教えてるのよ。そうね、もう探索者としてやっていけると思うわ。身体能力強化もちょっとずつできるようになってるし」

 

「……魔力ってダンジョンに行くか俺とセックスするかでしか増えないんじゃないの?」

 

 スノウが言うには柳枝さんが身体能力強化されるレベルの魔力の最低ラインで、ティナはそれに達していなかったはずだ。

 というより、ここ最近でティナの魔力が増えたようには感じないのでそこは変わっていないはず。

 

「部分的な強化の話は別よ」

 

「部分的な?」

 

「例えば右腕だけのパワーを上げたいのならそこまで大きな魔力は必要ないでしょ。あたしも暇だから色々調べてみたけど、大多数の探索者はこの部位強化を無意識にしているわね。攻略の進み方からして練度は大したことないけど。で、ある程度魔力がある人は全身を強化できる。当然部分的な強化と組み合わせれば一気に強力な戦力になるわ」

 

「へえ……」

 

「へえって、あんたはまさにそうでしょ。膨大な魔力で全身が強化されている上に、臨戦態勢に入ると部分的な強化もほとんど無意識でしてる。そういうセンスに関してはずば抜けてるわよ。本当は無意識での強化は粗が出たり無駄が出たりするけど、それもほとんどないみたいだし」

 

「そんなに褒めるなよ。照れるじゃないか」

 

「スケベバカ」

 

「……なんで急に罵倒した?」

 

「あんたが褒めるなって言ったからバランスを取ったのよ」

 

 俺が無駄に傷ついただけだと思う、それ。

 

「ティナの話に戻るけど、あの子は意識的に……それも魔法を扱うことで魔力の流れを他の人よりもずっと理解しているから、ほとんど無駄なく強化できるようになってるわ。その気になればスポーツで世界記録を乱立できるかもしれないわね」

 

「そりゃ恐ろしい話だな」

 

 ティナの魔力が今後ダンジョンへ行くことで更に増え、柳枝さんラインに達して全体的な強化もできるようになれば一気に探索者のトップ層入りするかもしれないわけだ。

 

 それに加えて魔法も使えるのだから、高い戦闘技術に裏打ちされた近接戦闘を行う未菜さんや、無駄に多い魔力の身体能力でゴリ押しする俺とは違ってどちらかと言えば後方支援……銃で戦闘するスタイルのローラに近い形に落ち着くのかな。

 

 いやでもローラは普通の近接戦闘も相当強いみたいだからまた別か。

 拳銃を使って近距離戦をこなすという、アクション映画もびっくりな戦闘シーンを何度か目撃している。

 

 持っている武器的には中距離専用っぽいが、実際のところ拳銃の有効射程はそう長くはないらしいしそんな遠くから撃っているところはそもそも見ていない。

 

 ダンジョン用のライフルなんかも開発されてはいるが狭いところでは跳弾の問題やそもそも取り回しの鈍重さが問題になったりして、部隊単位での運用くらいしかされていない。

 

 あとそこまでの兵器になってくるとダンジョン用武器を持つ時のそれとはまた別で特殊な資格が必要になってくる。

 

 そこへ身一つで遠距離から攻撃できる魔法使いが参入するとなれば、どう考えても引く手あまただろうな。

 

 どこかの攻略組集団や会社から引き抜きが来てもおかしくない逸材だ。

 

 まあ、最終的にはその辺はティナのやりたいようにやってもらうのが一番だが。

 

「……そういやスノウって近接戦闘はできるのか?」

 

「武術的な心得のことを言ってるならあたしはほぼないわよ。魔力の問題で戦えなくはないけど。姉妹の中で言えばウェンディお姉ちゃんはナイフ術に長けてるわ」

 

「ナイフか」

 

 切れ味抜群の風を持っている以上それが必要なのかどうかという問題が発生するが……

 しかし魔法や精霊の力が通じない敵が出てくるかもしれないと考えると習得しておくのは有りか。

 

「なんで急にそんなこと気にしだすのよ」

 

「いや、俺もそろそろなにか武術的なものを習得した方がいいのかなとか思って」

 

 俺がそう言うとスノウは呆れたような目で俺を見た。

 最近その目が癖になりつつあると言ったらスノウは引くだろうか。

 

「あんた自分の身体能力わかってる? 人間用の戦い方を覚えたところで何の役に立つのよ」

 

「……絶対役に立たないってことはないんじゃないか?」

 

「極めればそうかもしれないわね。数十年単位で」

 

「ちょっと先が長すぎるなあ……けど俺って今のままじゃボスには手も足も出ないからさ」

 

「一番手っ取り早い方法はもう教えてるでしょ」

 

「手っ取り早い方法?」

 

付与魔法(エンチャント)よ」

 

「あれで一番手っ取り早いのかあ……」

 

 そういえばウェンディは自分の知る限りあれを習得した今までの最速が2年とか言ってたけど、未菜さんはあっさり成功してのけたんだよな。

 魔力量の問題でそれを維持できなかっただけで。

 そう考えると俺も絶対不可能という訳ではないのだろう。

 

 頑張るかあ……

 

 黒い棒のストックはまだまだあるのでまた裏庭で練習でもしようと思って立ち上がると、そのタイミングでスマホが鳴った。

 

 ここ最近、よくスマホで連絡を取っている気がする。

 しかし着信は登録されていない番号……だが見覚えはある。

 

 あ、これローラのか。

 俺が登録し忘れていただけだ。

 

 電話に出ると、普段とは少し異なった様子のローラの声が聞こえた。

 

「ボクだよ、ユーマ。今ホテルにいる?」

 

「? ああ、いるけど。それがどうかしたか?」

 

「下まで降りてきてほしいんだ。ちょっと話があるから」

 

 ここまで来てるのか。

 ちょうど俺も下に降りる用事があったし、断る理由もない。

 

「わかった」

 

 と返事をすると、電話が切られた。

 

「ちょっと下に行ってくる。敷地からは出ないから安心してくれ」

 

 そうスノウに伝え、俺はローラの待つ下へ向かった。

 ……しかしなんか元気なかったな、ローラ。

 どうしたんだろう。



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第69話:台無し

1.

 

 

 エレベーターで下の階へ着くと、エントランスで見覚えのあるブロンズショートカットの少女――ローラがいた。

 デニムパンツにTシャツ、そして小さなポーチとカジュアルな格好だ。

 ダンジョンへ行く時とは全く雰囲気が違う。武器も持っていないしな。

 

 ついでに付与魔法(エンチャント)の練習をしようと思っていたので3本ほど黒い棒を持っている俺の言えたことではない気もするけども。

 

 しかし今のローラの格好は露出も相応に多いのでやや目のやり場に困るな。

 

 少し微笑みながら話しかけてくる。

 

「急にごめん。ミナに居場所を聞いてきたんだ」

 

「それは構わないけど……大丈夫だったか? この辺、結構物騒だから」

 

「大丈夫。ボクも結構強いからさ――ちょっと外へ行こうか。ここ、裏庭があるんだよね?」

 

 そう言ってローラが歩き出すので、俺もそれについていく。

 

「で、どうしたんだ? 話があるってことだったけど」

 

 俺がそう切り出すと、ローラは少し逡巡するような様子を見せた。

 しばらくして口を開く。

 

「ユーマさは……ミナのことどう思ってる?」

 

「未菜さんか? 強力なスキルも持ってるし、本人の技量的にも隙はない。一緒にダンジョン潜ってると相当心強いよ」

 

 戦闘における<気配遮断>の有用性は直接手合わせをして身をもって知っているし、そもそも汎用性が相当高い。

 殴る蹴るしかできない俺よりもダンジョン攻略という点ではずっと有効だろう。

 

 しかしローラの求めていた答えはそうではなかったようだ。

 首を振り、こちらをちらりと見た。

 

「そうじゃなくて――ひとりの女性として」

 

「……素敵な人だと思うよ」

 

 質問の真意を測りかねたが、俺は正直に答えることにした。

 一見近寄りがたい雰囲気は出ているがその実結構抜けてるところがあったり、褒められると可愛らしく照れたりもする。

 

 俺からすれば否定的な意見が出るわけもない。

 

「そっか」

 

 ちょうどそれくらいのタイミングで、裏庭に到着した。

 一体何をするつもりなのだろう。

 ローラはポーチを開いて、手を突っ込んだ。

 

「それじゃやっぱり、君より強いボクを証明しなきゃいけない」

 

 ポーチから出た手には――ダンジョン内で何度も見た拳銃が。

 そしてそれを俺に突きつける。

 

「……どういうことだ?」

 

 俺は黙って両手を挙げた。

 ローラが俺に拳銃を向けている。

 何のために?

 

「ミナは自分より強い人を求めてた。だからボクは何年も何年も努力して、ここまで登り詰めた。それを君が横取りしたんだ」

 

 淡々と――普段の人懐こい笑顔からは想像もできない冷たい目で俺に言う。

 

「……何を言ってるんだかさっぱりわからないな」

 

「避けないと君でも死ぬかもね」

 

 パスン、と消音済みの発砲音が鳴る。

 ほとんど正確に俺の眉間を狙っていた銃弾を、忠告通り躱した。

 

 銃口が見えている状態で、撃つとまで宣言されていれば避けることくらいは容易い。

 だが――

 

 その直後。

 俺の左耳のすぐ近くを、銃弾が後ろから(・・・・)通過していった。

 その銃弾が地面に突き刺さり、着弾地点が思い切り爆ぜた。

 

 どうやら普通の銃弾ではないようだ。

 ダンジョンで使っているもののようだから当然か。

 

 キィン、と耳鳴りがする中で俺は思わず左耳を抑える。

 出血はしていない。

 当たってはいないようだが……

 何故後ろから銃弾が飛んでくるんだ?

 

 感覚を強化するが、背後に誰かがいる様子はない。

 隠れるのなら茂みの中だが、そこから撃ったにしては弾道がおかしい。

 

 斜め上から飛んできたから、すぐそこの地面に銃弾が突き刺さっているのだ。

 しかしこの弾道で撃てそうなところには何もない。

 

「ボクの能力(スキル)だよ。これを知ってるのはミナだけだ」

 

「……銃弾を曲げるスキルか?」

 

「ハズレ」

 

 改めてローラは俺に拳銃を向けた。

 

「お前と戦う理由がない」

 

「ボクにはある」

 

「……未菜さんのことか?」

 

 返答は銃弾だった。

 やはり正確に俺の眉間を狙う銃弾を躱す。

 だが、先程と同じならまた背後から来るはずだ。

 

 そう警戒した俺の真横(・・)から、縦断が目の前を通り過ぎていった。

 先程と同じように地面に突き刺さり、そこが大きく抉れる。

 それを見たローラは淡々と告げる。

 

「これで2回、ボクは君を殺せてた」

 

「勘弁してくれ。このままやっても互いに利益なんてないだろ」

 

「大丈夫、殺しはしないから。ちゃんと避けてくれさえすれば」

 

 三度(みたび)、銃口が光った。

 やはり正確に眉間を撃ち抜こうとしていた銃弾を――俺は重点的に強化した右手で受け止める。

 

 やはり普通の銃弾のパワーではないのか、威力を殺しきれずに自分の手の甲が思い切り額に当たったが、少なくとも撃ち抜かれるよりはダメージは少ないだろう。

 

「いってて……」

 

 受け止めた右手の方には、全力で投げられたテニスボールを素手でキャッチした時くらいの衝撃は来ていた。

 ついさっきスノウから身体強化のあれこれを聞いていなかったらこんなことできなかっただろうな。

 

 流石に銃弾を受け止められるとは思っていなかったのか、ローラは大きく目を見開いて震えていた。

 

 ……いや、違う。

 濃密な死の気配。

 これは殺気だ。

 

「待て!!」

 

 蛇のように地を這う膨大な魔力がローラを襲う直前。

 俺が制止の声をかけると、濃密な殺気がやや弱まった。

 

 そして、ローラの背後からよく見知った姿――紅い髪の少女が現れた。

 風呂上がりで急いでいたからか、バスタオル姿だ。

 普段俺に向けるようなものとはまるで異なる、ぞっとするほど温度の低い目。

 

「……フレア、待つんだ」

 

「何故止めるのです、お兄さま。この女はお兄さまを害そうとしていました」

 

 ぴたりとフレアの右手がローラの細い首へ添えられる。

 ローラは――動かない。

 いや、動けないのだ。

 

 蛇に睨まれた蛙という言葉があるように、圧倒的上位者から狙いをつけられた弱者(・・)が自由に動けるはずもない。

 

 どころか、戦力の差で言えば蛇と蛙どころの騒ぎではないだろう。

 

「フレア、頼む。ローラにも何か事情があるはずだ」

 

「……わかりました。お兄さまがそこまで言うのでしたら」

 

 ローラの首元から手を外し、そのまま俺の方へ歩いてくるフレア。

 バスタオルが鮮やかな赤い炎に包まれたかと思うと、直後には普段着ている着物へ変化していた。

 ……そんなこともできるのか。

 

 そして俺の横へ並ぶと、ローラを睨みつけた。

 

「もし再びその武器がお兄さまの方へ向くようなことがあれば、骨も残らないと思ってくださいね」

 

 ローラはその場にがくん、と膝を落とす。

 相当な恐怖だったのだろう。腰が抜けてしまったようだ。

 

「……君……たちは……何者なの……?」

 

 日本語をしゃべる余裕もないのか、英語でそう聞かれる。

 ……だいぶ心身ともに疲弊しているようだし、言語くらいは合わせてあげるか。

 

「俺も君と同じスキルホルダーなんだよ。この子は精霊――俺が召喚した大切な存在だ」

 

「大切だなんて……お兄さま……♡」

 

 ぽん、とフレアの頭に手を乗せると、先程まで殺気増し増しでローラを睨みつけていた少女と同一人物とは思えないほどふにゃんとした笑顔を浮かべて俺の腕に抱きついてきた。

 

「……で、俺としてはさっきの戯れ(・・)はどういうことだったのか、教えて欲しいかな」

 

「戯れ……か。そうだよね。君は距離を詰めていればそれだけで勝ててたのに、わざわざその場に留まってボクの攻撃を待ってた。元々勝負にもなっていなかったんだ」

 

「…………」

 

 俺はそれを否定しない。

 実際そうだったからだ。

 掌で受けることができたということは一発や二発なら耐えることができただろうし、その間に距離を詰めることはやはり可能だ。

 

 あまりにも状況が理解できなかったのでとりあえず受けに回っていただけ。

 

「けど、ローラが本気でないこともわかってた」

 

「それは……」

 

 そもそもローラは俺の目でも追うのが難しい程の早撃ちが得意なのだ。

 あんな風に今から撃ちますと宣言しているようなものでは本領の1割も発揮できていない。

 

「訳を、説明してくれるな」

 

 しゃがみこんでしまっているローラに目線を合わせながら、俺は改めてそう訊ねた。

 

 

2.

 

 

 ある程度落ち着いてから、ローラはゆっくりと喋り始めた。

 

「ボクはさ……ミナのことが好きだったんだ。初めて会った8年前から、ずっと」

 

 聞けば、出会い方は鮮烈そのものだった。

 誘拐されそうになっているところを未菜さんに助けられたらしい。

 その姿はローラにとって絵本の中の王子様のように見えたそうだ。

 

「けどミナは王子様なんかじゃなかった。君も知っているとは思うけど、ミナはむしろ王子様を待つお姫様だったんだよ」

 

 それはよく知っている。

 そしてローラも、未菜さんと友人でいる間にそれに気付いていったのだろう。

 

「だからボクは初めて会った時のミナのような、王子様みたいな人になろうと努力した。いつかミナのことを迎えに行けるような人に。強くなって、胸を張って」

 

 そこへ――俺が現れた。

 

「君はボクより、ミナよりも強かった。話を聞いた時にまさかと思った。ボクの知る限り一番強い人間はミナだったから。けど間近で見て納得した。力だけじゃない――人柄だって、いい人だってわかった」

 

 だから、とローラは続ける。

 

「ボクが君より強いと証明できれば、ミナを取り戻せると思ったんだ……結局、ダメだったけどね」

 

 一連の話を聞いて、俺はある程度納得していた。

 目標にしていた未菜さんよりも強い邪魔者の存在。

 更にその未菜さん自身も何故か魔力が増えていたりと、ローラにとっては訳のわからない状況だったのだろう。

 

 だから俺を間近で見る為に巻き込んだ。

 そしてこの数日間で色々考えた末の行動がこれということだろう。

 

「貴女の気持ちを理解はできますが――賛同はできません」

 

 俺が何か言おうとする前に、フレアが口を開いた。

 

「けど、それでもしお兄さまを傷つけていたとして、それで未菜さんがローラさんを認めると思いますか? 邪魔者を消すのが正解なら私だってそうしてます。けれどそれで得られるのは愛情ではなく、虚無でしょう?」

 

 フレアがそう諭すと、ローラは顔を伏せて泣き出してしまった。

 ……ここで宥めるようなことを言ったりするのはむしろ逆効果だろう。

 

 とりあえずのところ納得はしてくれたみたいだし、落ち着くまで待つのが正解だろうな。

 

 こういう細かい心の機微を読むのは苦手だ。

 誰かを好きになるとか嫌いになるとかはもちろん俺だって人並みにある。

 

 だが俺がどう思っていても、相手がどう思っているかはまた別なのだ。

 それで大失敗した俺が言うのだから間違いない。

 

 ……人の心なんて、ままならねえよなあ。

 

 静かに泣くローラをあまり見ないように顔を逸らしていると、耳元でフレアがこそりと囁いた。

 

「お兄さま、今がチャンスです」

 

「へ?」

 

「お兄さまのテク(・・)でメロメロにして堕としちゃいましょう」

 

「テク……?」

 

「はい、エッチのテクで」

 

 にっこりと、天使のように――或いは悪魔のように笑みを浮かべて、フレアは言うのだった。

 

 君さっきなんか良いこと風なこと言ってたのに、これで台無しだけど大丈夫?



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第70話:丸く収まる?

1.

 

 

「フレア、お前が言ってることには二つの無理が生じる。まずひとつは俺自身にその気がないこと。そしてもうひとつはローラにもその気がないことだ」

 

 かなりセンシティブな内容なので小声で話しているのだが、本音としては大きな声で否定したいようなことだった。

 そんな俺の真摯な意見を聞いたフレアはうんうんと頷いた。

 よかった、わかってくれたようだ。

 

「なるほど、では二つとも問題はないですね」

 

 俺はリアルにずっこけそうになる。

 ダメだこの子、話が通じない。

 

「あのなあ……」

 

「まあ……今がチャンスですとは言いましたけど、今すぐ押し倒せということではないですよ、お兄さま」

 

 白々しい様子でフレアはそんなことを言うが、本当にそうなのだろうか。

 妙な本気さを感じたのだが、俺の気のせいということにしていいのだろうか。

 

「そう難しい話ではありません。ローラさんから未菜さんへ向いている感情を、お兄さまへ転換させるんです」

 

「転換って……なんでそんなことするんだよ」

 

「このまま未菜さんへ感情が向いていたらまたお兄さまに危害を加えようとするかもしれないでしょう? せっかく生き延びるチャンスを与えてあげたんですから、アフターケアもしてあげませんと」

 

 生き延びるチャンスて……

 いや、フレアとしては『俺に危害を加えようとした』という時点で、俺が止めさえしなければローラをそのまま焼き尽くす動機こそあれどそれをやめる理由はないのだろう。

 

 それで現状維持では危険だから変化を与えようというわけか。

 

「……けど、誰かを好きって気持ちってそんな簡単に変わったりしないだろ?」

 

 言うは易し行うは難しの典型例ではなかろうか。

 そう言うと少しだけフレアは寂しそうな表情を浮かべた――ような気がした。

 

「もちろん、ローラさんから未菜さんへの感情が本当に愛情だったらそうですね」

 

「……どういうことだ? ローラはさっき自分で未菜さんが好きだって言ってたじゃないか」

 

「ローラさんがお兄さまを3日間見ていたように、フレアもローラさんを監……じゃなくて観察してました」

 

 何故言い直したのだろう。

 あまりツッコミたくない領域がそこにはあるような気がした。

 

「その結果、ローラさんは未菜さんに憧れを抱いていると結論づけたんです」

 

「……憧れ?」

 

「性愛ではなく、親愛……いえ、敬愛と言ってもいいかもしれません」

 

「つまりローラの言う好きだって言うのは、未菜さんと恋人になりたいとかそういうのではなく……」

 

「どちらかと言えば、未菜さんになりたかった、が近いですかね。子どもがヒーローに憧れるようなものです」

 

「けどそれってフレアの推測だよな……?」

 

「そうですけど、だってローラさんの目は恋する乙女のそれではなかったですから。結構信憑性高いと思いますよ?」

 

 なんだ恋する乙女の目って。

 俺にはさっぱりわからない概念だが……

 ここまで断言されると確かにそうなのかもしれないとは思い始めてきた。

 

 ローラが男の子っぽく振る舞ったのも、初対面の時の未菜さんの真似だと自分で言っていたしな。

 それは恋愛対象になる為と言うよりは、憧れに近づく少年少女が取る行動に近いような気もする。

 

 そしてフレアは核心をついた。

 

「お兄さま、女性の心の機微とか読めないでしょう? フレアを信じてください」

 

「……まあ……その通りではあるかもしれないしないかもしれない」

 

 素直に認めると負けな気がする。

 全くわからない……というわけではないと思いたい。うん。

 いやでも決定的な読み違えの経験もあるしなあ……

 

「……わかった。フレアを信じるよ。で、俺は何をすればいいんだ? エッチでメロメロにするっていうのは冗談だろ?」

 

「お兄さまが乗り気になってくださるなら、それは最後の仕上げに使うので今すぐはダメですかね。少し待っててください、まずフレアが慰めてくるので、その後にお兄さまも」

 

「え? お、おう」

 

 そう言ってフレアはローラに近づいていった。

 どんな話をするのか気になったので聴覚を強化してみたところ、ちょうどそのタイミングでフレアがこちらを振り向いて人差し指をまるで「ダメですよ」とでも言うかのように横に振った。

 

 ……まあ魔力の流れを読める精霊なら盗聴しようとしてるのもバレるよな。

 

 

2.

 

 

 盗み聞きを禁止され、手持ち無沙汰になった俺が少し離れたところで例の黒い棒相手に付与魔法(エンチャント)の練習をしていると、フレアとローラが二人で俺に近寄ってきた。

 

「お兄さま、ローラさんからお話があるそうですよ」

 

 ……結局何を話してたんだろう。

 伏し目がちなローラは何を考えているのかわからない。

 そしてフレアが俺の耳元でこそっと囁いた。

 

「ローラさんは心身ともに疲弊していますから、彼女の母国語……英語で話してあげてくださいね」

 

「英語で?」

 

 最近はちょっと英語をしゃべることに抵抗を覚えているのだが……

 まあそうしろと言われるのならそうするしかないか。 

 そのままフレアはエントランスの方へ向かおうとする。

 

「見ていかないのか?」

 

「もう安全ですから」

 

 よくわからないが、フレアがそう言うのなら少なくともローラの方に俺を再度襲おうという気はないのだろう。

 そのままフレアを見送り、隣で俯くローラに話しかける。

 

「……落ち着いたか?」

 

「あの……本当にごめんなさい。ボク……自分を見失ってたみたいで」

 

 しおらしい様子のローラに謝られる。

 何をどう話したかは知らないが、少なくともフレアや俺に怯えているということはなさそうだ。特にフレア。

 俺自身に向けられている殺気ではないとわかってはいても無茶苦茶怖かったからなあ……

 

「構わないさ。お互い無事だったんだから、気にすることはない」

 

「けど……」

 

「日本じゃこんな言葉があるのさ――男に二言はないってね」

 

「……かっこいい……」

 

「え?」

 

 何やらボソッとローラが呟いたが、しっかりとは聞き取れなかった。

 

「なんでもない。フレアの言う通りの人だって思ったんだ」

 

「…………」

 

 フレアは一体ローラに何を吹き込んだのだろう。

 少なくとも表情を見る限りマイナス方面のものではなさそうだが。

 

 若干キラキラした目を向けられているのは多分気のせいではないだろう。

 ローラが未菜さんに向けているのが憧れや憧憬だとして、それを俺に転換させると言っていたから大体そんな感じになるように誘導したのだろうとは思うが……

 

 そこから先俺が何をどうすればいいかまでは指示されてないぞ。

 ちゃんと上手くいくんだろうな。

 

 そして話すネタがなくなった。

 ……しかし黙り込むのはあまり印象が良くないよなあ。

 

「明後日のダンジョンは楽になりそうだな」

 

「え?」

 

お互いに(・・・・)隠していた手札が見えている状態になったんだ。これでおあいこってやつだろ?」

 

 俺はフレア――精霊というカードを。

 ローラは未菜さんしか詳細を知らないスキルというカードを。

 未菜さんからも全く話が出なかったあたり、意図的に隠していたのだろう。

 もちろん俺も精霊のことを隠していたので、本当の意味でおあいこだ。

 

 ……というか未菜さんは両方の秘密を握っている立場だったのか。

 これは思っていた以上に心労がすごそうだ。

 また今度、お礼代わりになにか奢ろうか。

 

「……ボクのスキルは空間袋(ポーチ)って言うんだ」

 

 そう言って、ローラは掌の上に小さなブラックホールのようなものを生み出した。

 いや、実際ブラックホールのように何かを吸い込みそうな感じはないのだが、そうとしか形容できない。

 

「このポーチに入れることができるのは重さは5kgまで。この入り口(・・・)に入る大きさのものまでしか入られない」

 

「俺に教えていいのか?」

 

 スキルの詳細を語り始めるローラに訊ねる。

 未菜さんにしか話していないようなスキルだ。

 そんなものをタダで聞いていいとは思えない。

 

「迷惑かけちゃったし……ユーマになら知られてもいいよ」

 

 そう言って俺を見つめるローラの目はこれまでのものとは明らかに違っていた。

 ……マジで何言ったんだ、フレア。

 後で詳しく聞いてみようか。

 ……いやなんか怖いから聞かないでおこうかな……

 

 俺のあまり当てにならない直感がここは知らない方が幸せだと言っている。

 

「……けど、そのスキルであんな風に銃弾を曲げることなんてできるか?」

 

「見てて」

 

 そう言うと、すぐそこに落ちていた小石を、黒い入り口に向かって落とす。

 するとそこに吸い込まれるようにして小石は見えなくなった。

 

 これがなんだと言うのだろうか。

 

 するとローラはもう一つ小さなブラックホールを作り出す。

 これ、何個も作れるのか。

 

「中身は全部共有されてるから、作った分だけたくさん入るってわけではないけどね。でもつながってるからこそできることもできる」

 

 そのブラックホールから、横向き(・・・)に小石がぽんと飛び出してきた。

 

「ポーチに入れたものは入れた時の全ての状態を維持するんだ。質量や温度、慣性まで――全て。だからただ落としただけの小石を横向きに発射することもできる」

 

 ……それってかなり凄くないか?

 

空間袋(ポーチ)の出入り口を出せる場所は30メートル以内かつボクの視界の中。撃ち出した銃弾なら、そのままの勢いでどんな方向にでも、どんな場所からでも出せるんだ」

 

「それで俺の真裏や真横から銃弾が出てきたのか」

 

 なるほど、そう聞けば合点が行く。

 恐らく最初に眉間に狙いを絞っていたのも、ずっとその射線上にこの小さな入り口が浮いていたからだろう。

 

 そして一度ポーチに入れてしまえば後はどんなタイミングでも、どんな場所からでもどんな角度からでも撃てる。

 

「……空間袋(ポーチ)って名前から、よくそんな使い方を思いついたよなあ」

 

 俺なら普通に何かを持ち運ぶ為のものだと思うだろう。

 慣性まで保存すると気づけたとしても、こんな運用方法まで思いつくかは正直微妙なところだ。

 

「発想の転換って言うのかな。こういうの、俺はあまり得意じゃないから素直に尊敬するよ」

 

「……大したことないよ。ボクはただミナに追いつきたくて……必死だっただけだから」

 

「それが凄いのさ」

 

「え?」

 

「目標に向かって努力する人間を大したことないなんて言えるわけないだろ。何か一つのことを続けるってことはそれだけで凄いんだよ」

 

 実はこの言葉、昔俺自身が言われたことの受け売りなのだが。

 この言葉がなかったら俺の人生はガラリと変わっていただろう。

 

「……なんでそんな風に褒めてくれるの? ボクはユーマのことを……」

 

「鬱陶しいから、ちょっと懲らしめてやろうと思っただけだろ? そんなの誰だってあることさ」

 

 もしローラが最初から本気だったら、曲がる銃弾の絡繰りを全く解けないまま集中砲火を食らっていただろう。

 少なくとも一発目も二発目も、俺は全く理屈が理解できていなかった。

 

 もし頭部に不意打ちであの銃弾が命中していたら、多分俺もタダでは済んでいない。

 

「ちょっとした喧嘩をしたようなもんさ。けど、せっかく友達になれたんだ。これからもぎくしゃくしたままってのも寂しい。だから仲直りしようぜ」

 

 俺は右手を差し出す。

 その手をぱちくりとローラは見た後、泣き笑いのような表情を浮かべた。

 

「……フレアの言った通りだね」

 

「……なんて言ってたんだ?」

 

「ユーマはものすごいお人好しだって」

 

 そう言って、ローラはぎゅっと俺の手を両手で握り、改めて謝る。

 

「……本当にごめんなさい」

 

「だから、気にすんなって」

 

 俺は苦笑いして返す。

 ……とりあえずは仲直りできたってことでいいのかね。

 どれだけフレアの思惑通りに進んだのかはわからないが。



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第71話:そう簡単には取れない

1.

 

 

 スーツの男から放たれた光線が俺の重ねた俺の両手を貫通する。

 

「あ」

 

 そのまま俺の身体も貫かれた。

 

 穴が――空いている。

 俺の腹に。

 どぼり、と血が溢れる。

 

 血が。

 命が溢れ落ちる。

 

「あ、あ――」

 

 血まみれの手が。

 自分のものでなくなっていくような感覚。

 

 遠くなっていく感覚が――

 

 ――死を間近に感じさせる。

 

 

「うおあっ!!」

 

 目が覚める(・・・・・)

 心臓が痛い程に脈打っている。

 

 ……なんだ今の夢は。

 

「ちょっと、大丈夫? すごいうなされてたわよ」

 

 胸を抑える俺に心配そうな表情で語りかけてきたのはスノウだ。

 フレアの提案で毎日となりで寝ている子が変わっているのだが(何を意図してかはよくわからない)、今日は右隣がスノウで左隣が綾乃だったのだ。

 

「……悪い、うるさかったか」

 

 俺がそう言うと、スノウは一層心配そうな表情を浮かべる。

 

「別にそういうわけじゃないわよ。一旦顔を洗ってきたら? すごい汗よ」

 

「……ああ、そうするよ」

 

 

2.

 

 

 洗面台の鏡をぼんやりと眺める。

 よく見慣れた平凡な男がそこには映っていた。

 嫌な夢を見たせいか若干やつれているようにも見える。

 

「トラウマになってんだろうな……」

 

 最初にゴーレムにふっとばされた時はほとんど記憶に残っていない。

 すぐに気を失ってしまったのが関係しているのだろう。

 しかしあのスーツの男との戦闘では全く違った。

 

 同じような体格の相手に正面からぶつかり合って完敗し、死にかけた。

 いや、もしあの時ウェンディが間に合ってなければ俺は死んでいただろう。

 

 もう終わったことだから、済んだことだからとなるべく気にしないようにはしていたが、深層心理はそうじゃないってことか。

 

 或いは昨日の夜――ローラとの戦闘で、本能的に死の気配を感じ取ったからそうなったのかもしれない。

 ……もしかしたらあのフレアの殺気のせいかもしれないけど。

 

「俺の取り柄ってのはこういうの図太いとこだと思ったんだけどな――」

 

 バシャバシャと顔を洗い、シャツも汗で気持ち悪いので脱いで洗濯カゴへ放っておく。

 ……そういえばあの中には今この部屋で寝泊まりする美女たちの衣服や下着のあれこれが入っているわけだ。

 

 流石に変態的すぎるな……

 あとあれにはティナのものも入っているので流石に手を出せない。

 俺の理性が珍しく仕事をしているようだ。

 

 タオルで軽く汗を拭いた後、替えのシャツは出していないことに気付いて上裸のまま洗面所を出る。

 

 と、ベッドから離れたところにある机でコーヒーを淹れて待っているスノウが目に入った。

 スノウ自身の分はホットミルクだな、あれ。

 

「カフェイン、平気なのか?」

 

「あたしが飲むわけじゃないから平気よ……って、なんであんた裸なのよっ」

 

 こちらを振り向いたスノウが赤面しながらぺしーん、とタオルケットを投げつけてきた。

 

「今更俺の上裸見たくらいでうろたえるなよ……」

 

 普段もっと恥ずかしいところまで見ているし見せているくせに。

 

「あんたは少しは恥ずかしがりなさいよ……」

 

「俺の肉体に恥じるべきところなどない――ひやっ」

 

 むしろ見せつけるようにすると、乳首がピンポイントでひんやりした。

 こいつなんて地味な嫌がらせしてきやがる。

 今度絶対乳首責めしてやるからな。

 

「っと、まだ朝の4時なのか。俺はもう目が覚めちまったけど、スノウは眠たかったら寝てくれていいんだぞ?」

 

「精霊なんだからその気になればずっと起きていられるわよ」

 

「まじ? すげえな精霊」

 

 昔は寝ないでずっと起きていられたらもっと色々できるのに……とか思っていたな。

 今じゃ寝るのはもはや一種の娯楽と認識しているので、暇さえあれば惰眠をむさぼるのもありかなと思っているが。

 

 スノウが物憂げな表情で続ける。

 

「……いつからこうなったかはわからないけどね」

 

「へ? いつからって……お前ら生まれたときからずっと精霊なんじゃないのか?」

 

「そう思っていたけど、そうだとしたらあたしたち姉妹の間で持ってる記憶に色々齟齬が生じるのよ」

 

「齟齬とか難しい言葉知ってるんだな、お前……」

 

「今度は完全に凍らせるわよ」

 

「わっ、タンマタンマ! 冗談だって! 悪かったって!」

 

 再び乳首がひんやりしてきたので俺は慌てて謝る。

 乳首とかうっかり凍らされたら取れちゃいそうで怖いんだよ。

 

「冗談はさておき、記憶に齟齬が生じるってのはどういう意味だ?」

 

「精霊として生きてきたんなら食事は必要ないし、睡眠だっていらないでしょ。でも確かに食事中に姉妹でした会話や、ベッドの中で両親に聞かされた話なんかの記憶があるのよ。これっておかしいと思わない?」

 

「嗜好品として楽しむことはできたんだろ?」

 

 スノウは俺を見て、真剣な表情をした。

 

「一番の疑問はなんであたしたち精霊に両親がいるのかって話よ」

 

「……そりゃ精霊だって何かから生まれなきゃ存在はできないんじゃ」

 

「親的な存在がいるのは別に変な話じゃないわ。でも両親(・・)がいるのは変でしょ。あたしたちに妊娠って概念はないのに。あたしが知らないだけならまだしも、ウェンディお姉ちゃんも精霊が子作りする方法は知らないって言ってた。そんなことあると思う?」

 

「……確かに。じゃあお前らは最初から精霊だったってわけじゃなくて、なんらかの理由で後天的に精霊になったのか?」

 

「かもね。って話になってるわ。今のところ」

 

「けど精霊として生きてきた記憶もあるんだろ?」

 

 それに精霊としての知識だってある。

 召喚術についてだってスノウからあれこれ聞いたのだ。

 

「あとなんか……お前もウェンディも俺のことを思わせぶりな呼び方してたよな? 希望がどうとか……」

 

「それも今のところ、あんたの何がどう希望なのかあやふやなのよ。ただのスケベなのに」

 

「ひどくない?」

 

 散々な言われようである。

 スケベであることはもはや否定のしようがないが。

 

「だから今の所はあれこれひっくるめて大体保留。そもそもウェンディお姉ちゃんにわからないことがあたしにわかるわけないし」

 

「身も蓋もないけど、実際その通りではあるな」

 

「失礼ねあんた」

 

「お前が言い出したことなのに!?」

 

「冗談よ。元気出てきたじゃない」

 

 くすりとスノウは笑った。

 不意に見せるこういう表情がずるいよなあ、こいつ。

 

「心配かけて悪かったよ……昨日のことも」

 

「本当よ。まあ昨日のは不穏な空気を感じ取ってすぐにフレアが窓を突き破って飛び降りたんだけど」

 

「マジで? アメコミヒーローかよ」

 

 アメリカだからってそんなところまで再現しなくていいのに。

 

「あれ、でもどこの窓も割れてなくないか?」

 

「窓くらい直せるわよ。治癒魔法より簡単だからあんたもちょっと壊れたものくらいなら直せるかもしれないわね」

 

「へー……いろんな魔法があるんだな」

 

「あんたはそういう小手先を覚えるよりまず付与魔法(エンチャント)よ。あと単純に身体強化をもっと極めるのもいいかもしれないわね」

 

「付与魔法についてはからっきしだけど、身体強化については昨日ちょっと兆しが見えたぞ。上手く行けば今よりずっと動けるようになると思う」

 

 あのとんでも威力の銃弾を受け止めた時の感覚。

 普段から意識することによって身体強化はしているわけだが、あの時は更にもう一段階深いところで意図的に強化したようなイメージ。

 

 言葉にするのは難しいのだが、多分もう一度やれと言われればやれると思う。

 

「ふぅん。それはいい傾向ね」

 

「もっと褒めてくれ。俺は褒められると伸びるタイプなんだ」

 

「じゃあご褒美をあげるわ」

 

「……ご褒美?」

 

「そ、ご褒美。なんでもいいわよ」

 

 男に向かってなんでもいいってのは禁句だと思うが、それをわざわざ教えてやる必要はないだろう。

 何故なら俺はその禁句を利用して悪さをする側の人間だからだ。

 

「そんじゃスノウ、俺の膝の上に」

 

「……まさかエッチなことするつもりじゃないでしょうね」

 

「そのまさかだ」

 

「みんな寝てるんだけど」

 

「だからあまり声は出さないようにしないとな」

 

 





初めまして、作者です。
中途半端なところで申し訳ないのですが、第一話の冒頭に書いた通り更新はここまでになります。

本契約周りの設定が全年齢対象版になっていたり、WSRという探索者ランキングのようなものが追加されていたり、他の子に手を出すのが遅くなっていたりと細かいところは違いますが大筋の流れが同じ、カクヨム版が存在しますので、物語自体の続きや今後どうなっていくかが気になるよ、という方は是非そちらへお越しください。

71話がスノウとの性交渉が始まる直前という中途半端な終わり方になっていますが、もし要望が多かったりするようならば72話としてその部分だけを加筆して、R18版の最終話とするかもしれません。

そして改めまして、ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
それから、最後までご一緒できなくて申し訳ありません。
物語自体は別のところで続いていますので、まだ付き合ってやるよという方はよろしくお願いします。
そちらでは最後の姉妹、金髪ボインの長女や合法でロリで巨乳な研究者、猫耳の生えた異世界からの来訪者などなど様々なキャラクターが新たに登場したりもしています。
興味が湧いた方は、ぜひお越しください。

それでは失礼します。

子供の子

【追伸】
ペース等の確約はできませんが、カクヨム版の(裏)バージョンとしてカクヨム版で省かれたR18描写が描かれた短編を投稿していこうと思っています。
そちらもよろしければぜひ。




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