新サクラ大戦2 巴里編 ~失われた愛を求めて~ (ユウーザ)
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第一話『花の都に降り立つ桜』
Partie1


 蒸気化学の発達した1941年。
 1930年の降魔大戦以来、日本発祥の怨霊"降魔"など、活発化した霊的驚異が世界に蔓延っていた。
 しかし、その牙は、霊力によって都市と人を護り癒やす華撃団に食い止められ、全世界中のそれらを統括するWLOF(世界華撃団連盟)によって平和は保たれていた……と思われていた。
 今代のWLOFの事務総長に立っていた"プレジデントG"は、降魔大戦から生き延びていた上級降魔(上位の降魔)"幻庵葬徹"だった。
 それに加えてWLOF中枢幹部が、『神』を自称する不死の魔人"ヴァレリー・カミンスキー"の配下の人形に成り変わられていた。
 世間からのWLOFの信用は薄くなり、その解体は時間の問題となり。
 世界の平和は崩れかかっていた――

 そこは愛の国仏蘭西(フランス)。 
 恋の首都"巴里(パリ)"の街並みは文にも書けない美しさ。
 人々が笑い、行き交っていく。
 その中に割って入るのは、巨体。
 紫と黒の異形が、人々の畏怖と恐怖を掻き立て、足を止めるか、後ろに走らせる。
「やーれやれやれ……」
 その声の主は、ブーツで巴里の地を踏みしめている。
 その様相、正しく奇術師(レ・マジシヤン)
 金がかった栗色の髪、紫の裏地を出した黒いジャケットと、全身に星をてらったスーツが、細い手足を引き立てている。
 吊り目気味の中の、使命の瞳を、怪物に向けている。
「街に迷惑だろうが」
 手首を捻って放ったのは、トランプ。 柄はダイヤのジャック。
 その一枚が異形に向かって回り吸い込まれると、その身体から十一個、橙の煙が爆ぜた。
 神のおわす天に向って雄叫びを上げる化生。 その青空から弾丸の雨が、魔物の全身に降り注ぐ。
「! 狩人(シャスール)ね……」
 マジシャンが仰ぎ見る空にいたのは鳥ではない。 青い羽根と、機械の羽根を広げた女子だ。 ボロボロに汚れた黒い制服を着ている。
 短い黒髪をたなびかせ、吊り気味の目は、瞳は、地上の目標を見据えている。
 よく見れば青い羽根の正体は、風にたなびくボロボロの青いコートだ。
 両手で携える一丁、大型機関銃は火を噴いている。
 周囲を回る翼人からの鋭い雨に撃たれて、辺り一面に異色の血を噴き出す怪物の正面へ、放られるは、スペードのエース。
 雨あられの中に、青い花火が大地に咲いた。
 爆煙が消えて、魔性の屍が晒されても、少女は引き金の引くのをやめず、雨が止んだのは屍体が溶けはじめたときだった。
 少女の瞳は獲物が溶けるのを見据えると、非対称の翼は広がり、明後日に飛ぶ。
 その軌跡を見上げる奇術師は、おつかれさん、とハートの2を真上に飛ばす。
 赤と桃の二つの花火が打ち上がった。




 怪物の討滅が奇術師と狩人によって行われた丁度その後、巴里駅では。

 有名文化への期待、新天地への希望、帰郷による懐かしさ、様々な思いを以て、列車から駅に降りる人々の中で、大きく息を吸う者がただ一人。

「着――い――た――っ!!!」

 満面の笑顔で、背の安いリュックに、肩にかけてるのは、着替えを大きく詰め込んだ安めのバッグ、茶髪と純白のワンピースを震わせて、長いケースを片手に大の字で空に向かって目一杯の喜びを叫んだ。

 周囲の注目を集めた彼女の名前はアニー・スリジェといった。

 

 ことの始まりは二日前、フランスの田舎村。

 母の乳を飲んでいた頃からの親友の片割れが、愛しい男に操を捧げたと告白してきた夜だった。

「ううううう嘘でしょエマ!? もうお腹に赤ちゃんいるだなんてっ!?」

「ま、まだわかってないの! いいことアニー、あの人とうちの親、ぜんっぜん仲悪いから、このことはペー(お父さん)メー(お母さん)には当分黙っといて……お願い」

「うん、わかった。 ……けどさ、まさか同い年で、まだお酒飲めてないのに、男でそこまで追い越されるなんて……」

 家が向かい同士のエマが、遠くまで行ってしまったような錯覚を覚えた。

「ふふふ……痛みと一緒に、アレ……ホントの幸せと嬉しさを味わったわ。

 ま、あんなすごい感じ、男子に縁のないお馬鹿娘には二十年早いでしょーねー」

 むっ、と悔しくなったアニーは、こんなことをのたまった。

「いーでしょういーでしょう、巴里の都会から良い男をここに引き連れてあげますよーだっ!」

 その明日に家から荷物をまとめ上げ、巴里の美しい文化を村中の数少ない資料で大分かじり上げた。

「歌劇団……歌って踊る歌劇団……すてき……」

 列車代と宿泊代を両親と村長からせびり倒した。

「どうかっ!! エマよりお先越したいのっ……!!」

 その翌日たる今日、電車に乗り込み、初めての興奮と歓喜の中で、巴里に着いたのだった。

 

「ふふふふふ、エマ・モローさん。 私は、憧れの巴里に来た……!

 あなたみたいな友達いっぱいできてる私なら~、男なんてちょちょいのちょーいさー!」

 実際、狭い村の中で知り合いではない者はおらず、同年代から年下の子供全てと交友関係ができている。

「巴里といったらこーんな歌~~。

 ぱーりー♪ はなーさき~~ボンジュール!」

 小さく笑われてるのも気づかずに、歌を口ずさみながら、大荷物をまとったその身で跳ね回り、老人の近くで挨拶をした。

 その後も歌の合間に挨拶を繰り返していき、周りに笑われながらも、やがて駅員に切符を切ってもらった。

 その調子で駅を出ていく。

「これこれ、はしゃいじゃいかん!」

 るんるんとスキップしていくアニーへ、初老で太った男性が大声を上げた。

「人にぶつかって大怪我させたらどうするんだね」

 あっ!とアニーは気恥ずかしくなり、顔を真っ赤にして周りの人々に頭を下げていく。

 そんな初々しい様子に微笑みつつ、初老の男はこう聞いてきた。

「田舎からのおのぼりさんかい?」

「はいっ! 我が友に対抗すべくして、この都で良い男見つけて何やらを前提にお付き合いをしたく思って上京致しましたっ!

 アニー・スリジェでっ……」

 顔を赤くして、慌てて口を塞ぐ少女。

「いいい今のはお忘れくださ~~いっ!」

 大荷物抱えた少女は風か光のように走り去る。

「はっはっは、巴里も一層楽しくなりそうだなぁ」

 帽子を整えながら、初老の男性……ジム・エビヤン警視は小粋に笑う。 しかし、轟音を聞いた途端に、顔を厳しく顰める。

 

 フランス車が、公道と歩道の境目で、横転している。

 その下には、女性が血を流して下敷きになっている。

「おいおい……早く病院に連絡を」

「そうよ、この人死にそうじゃない!」

「ひでえ運転だったぞ、昼間っから酔っ払ってたのかよ……!?」

 顔を青くする民衆の中には、駆け足を止めたアニーもいた。

 しかしアニーの面持ちは疑問で溢れ、頭と心にに苛立ちが募っている。

「……皆さんは助けないんですか?」

「え、しかし……俺達よりも助ける術を知ってる人が来るんだ」

 少女の拳が握り込む。

「それまで、この方に、苦しんでろと言うんですか」

「お、男が女より強いからとでも言うのか!?

 こんな重たい車、俺達にどうしろというんだ!?」

 拳の握り込みと共に、少女の肩が震える。

「……都会の男性方は、非力なんですね」

 アニーは車に近づいていく。

 男達の静止を聞かないその様を、遅い足取りで駆けつけてきたエビヤン警視も目にする。

 大荷物を下ろし、腰を落として片足でしゃがみ込むと、アニーは車と地面の境目に指を入れる。

 ふんっ!と、力強く腕を上げれば、車が高々と持ち上がっていた。

 エビヤン警視は目を見開いた。 民衆の半数も同様、もう半数は腰を抜かした。 女性の痛みが少しは引いた。

「よっ、とっ、とっ……」

 車のバランスを取りつつも、誰もいない場にずてんと乱雑に置くアニー・スリジェ。

 ふ――っ、と両手の煤を払い、手に残った汚れに気づかず、地面に置いた荷物を持ち上げ、女性の方を向くと、それを遮る民衆が奇異と畏怖の視線をこちらに向けていた。

「き……君、何者?」

「えっ? ……恥ずかしながら田舎者で……」

 アニーの口どもる様に、どっ、人々が男女入り乱れて、少女一人に近づいてくる。

「霊力者か何か!?」

「とんでもない豪腕だったよ!?」

「華撃団にいるの!?」

「ジュスタンの後輩だったりするの!?」

 いきなりの事態に、田舎娘の頭脳は混乱を極めた。

(なに!? 都会のルールなの!? 訳わかんないんだけど!?)

 市民と女子一人の間に、エビヤン警視がなんとか割って入ってくる。

「君達! 君達……この娘は私が聴取するから……ね? ……え」

 エビヤン警視が振り返ると、少女はどこにもいなかった。

 代わりに、強い足跡が残っていた。

 

「はーっ、はーっ、はーっ……うれ?

 ここどこですか?」

 いつの間にここまで来たのか、アニーの周りにはカフェばかり。

「ボンジュール。 そんな大荷物でどこから走ってきたの?」

 若い声にアニーは振り向くと、パラソル下の丸机の前、椅子に腰掛けている、若い奇術師がいた。

 髪は金がかった栗色で、精悍で細めの顔立ち、服は紫の裏地を出した黒いジャケットと、全身に星をてらったスーツ、細く長い手足が彼を美しく魅せようとしているが、やる気のない眼差しと、手袋で持った軽めの酒ビンが、それをダメにしている。

「……まじ、しやん、さん?」

「うん、マジシヤン」

 瓶のない方の手袋を歯で脱がし取り、それを片手で丸めて包み、そのまま軽い拳を何度か軽く振って、五本の指を開くと……。

 幾多の花びらと共に白い鳩が舞った。

「わあああああ!?

 え!? なんですかいまの!?

 タネも仕掛けもございませんって奴ですか!?

 はじめて見ました手品なんて!!」

 興奮する女子の問答に対して、酒瓶を飲む手品師。

「……きみ、田舎から来たの?」

 小動物的にこくこくと頷く娘。

「田舎出にしてはまぁまぁ良い服じゃん」

 突然の賛辞に、アニーの頬はアルコールを含んだように真っ赤になり、不安定にゆらゆら揺れる。

「え、へへ、そうですかぁ~~? 実は実は~、記念として村で一番良い服をもらっちゃってですねぇ~~、えへへ~~、お母さんとかおばちゃんにお土産あげないとですよよよ~~」

 そのままバランスが崩れて、地面に倒れると思った瞬間、背中と足に少しの重圧がかかる。

「大丈夫か」

 美しい顔の真剣な眼差しがこちらを見ている。

 自分が抱き抱えられていることを確信した瞬間、

「お酒臭いです」

 コンマのロマンティックをかき消した。

 変な汗が奇術師の左頬から流れる。

 青年は紛らわせるように、女子の身体を地に立たせ、薔薇をその手に渡す。

「……お土産。 田舎にあるかい?」

 首を横に振って感謝をする。

 掌中の花に、自己知識との違和感を感じる。

「薔薇って棘あるって聞きましたけど……」

「ああ、プレゼント用に抜いたのさ」

「マジシャンさんって、ここに何してるんですか?」

 問われて彼は前髪をかき上げて、こう言った。

「ホコリ叩き貴族の振る舞い……サボりさ」

 半目でやれやれといった感じのポーズで、舌を見せる。

 そんなキザな男を、田舎娘は訝しめる。

「貴族って、かっこいいんでは?」

「良いんだよ俺ん家、没落してるから」

 訝しめの眼差しを強くする。

「……巴里って花の都ですよね?」

「そんなに残念がるな。

 全部が全部俺みたいなのじゃないから。

 ……ジュスタン」

「はい?」

「俺の名前。 ジュスタン・オンコリー。

 ……君は?」

「あっ、はい!

 アニー・スリジェです」

 名乗った少女に、もひとつおまけと手渡されるのは、黒猫の描かれたチケット。

 手書きのサインが込められている。

「……これ、なんですか?」

「チケット。

 歌劇団の」

 目が爛々と輝く。

「かげきだんって……歌って踊っての奴ですか!?

 マジシャンさんってサーカスじゃなかったんですか!?」

「まあね。

 8時に演目やるから。

 俺に会えるかは、気分次第だけど」

 そういってジュスタンは去っていく。

 

 掲げたチケットを見上げつつ、アニーは歩いていた。

 嬉しい気分が心に咲き誇っていたところで、耳がこんな声を拾う。

「お花は如何でしょうか~」

 お花。

 さっきまで住んでいた田舎にも自分と同じ名の花が舞っていた。

 横を見れば、花束を抱えるエプロンドレスの女性と、建物の窓とその下に多く並んでいる鉢上の花々があった。

 資料で見た花屋の名前と結びつけ、またも瞳を爛々とさせて、女性にすごく近づく。

 その女性の顔は、片目が白髪混じりの黒髪で隠れ、口元にほうれい線が見えるが、総じて整っており、穏やかな印象を見せる。

「あ、あの、そんなに近づかれては……」

 はっと、顔を赤くして、女性から離れる。

「すっ、すいません!

 お花の名字の家に生まれたもので、興味が湧きまして……」

「まぁ、それはそれは」

 商品道具とはいえ、その手に抱える花束と、清楚なエプロンドレス、穏やかな面持ちが、文句のないバランスと一体感を醸し出している。

「お花でしたら、貴重なものでない限り、なんでもありますよ」

「……店員様ですよね?

 花束似合ってます」

「はい?」

 店員は懐の花束を見下ろす。

「ああ……こちらをご希望でしょうか?」

「いえ! 店員様とその花束、セットになってお似合いです。

 うちの田舎にはこんなに花束似合う方はおりませんでした!」

 正直な気持ちが、胸中の感嘆を迸らせ、店員の頬を赤らめてしまう。

「ちょ……困りますよ、もう……」

 店員の縮こんでしまう様子と、その言葉にアニーは気づく。

「……えっと、なんか失礼しちゃいましたか?」

 後ろから声がする。

「パパー、あのお花買ってー」

 男性と手をつないだ少年が、窓下の花を指差している。

「ダメだよ、今はお金使えないから」

「ええー、やああだああああ、あれ買ってええええ黄色いお花ああああ」

 ぶんぶんする手で黄色の花を指して泣き出す少年。

 その顔を見て思わず悲しげな面になるアニーは、人差し指を顎に当てて、頭ごと上げるように思案すると、少年が指した花を自分も指差す。

「……あの、あちらのお花、買いたいんですけど」

「ああ、ミモザの花ですね。

 お代は5ユーロになります」

 財布を開くアニーを見て、子の頭を撫でてなだめる父は花屋の前から去ろうとする。

「まったく……今度買ってあげるから」

 そこに花束を持って、アニーが近づいてくる。

「はいどうぞっ」

 黄色いミモザの花束を、父の腕中の少年に渡す。

「おねーちゃん、くれるの?

 ありがとー!」

「ど、どうして?」

 父親の質問に対してアニーは、片手を後ろ頭にやって、少し赤い頬の間ではにかんで笑った。

「いやー私、お子様が泣いてるのが辛くて嫌いですね。

 お父さんだってお子さんが悲しいままだったら嫌じゃないですか」

 間抜けのような面持ちでアニーを見る父親。

 その微笑みは春のように、暖かった。

「? どうしました?」

「い、いや。 ありがとうございます」

「おねーちゃん、ありがとー! じゃーねー」

 父は花束を持ちながら手を振る息子を更に抱きかかえながら、踵を返して帰路に着いていった。

 さよーならーっと親子に向けて元気に手を振るアニーの後ろ姿に、店員ジェニーは微笑んでいる。

「はっ!? 確か村長様から……」

 財布には、かすかな金音が感じられず。

 中を見てみれば、村長から直接渡された紙しかあらず。

『アニーよ、以下以外のことに、この5ユーロを使ってはならん

 宿代 300セント

 食費代200セント』

 5ユーロ。 ミモザの花も5ユーロ。 空っぽの財布。

 先程の微笑みはどこへやら、青ざめた顔の中で目を丸くして、ギギギギと頭を壊れかけの機械のように回して、店員にかすかな質問をする。

「……もしかして、今のお花って……」

「? あのミモザは、同種の中でも珍しいものでしたから、少し値が張っておりましたが……。

 もしかして……お金の計算を間違えたりとか……?」

 店員が眉をひそめている。

 金を払っておいてそんな顔をさせた申し訳無さと、彼女と村長への罪悪感が身を震わせる。

 その身震をぐっと抑えたアニーは、

「大丈夫ですっ!」

 ぐっと目尻に涙をためて、懇親のドヤ顔とサムズアップを少年に向けた。

 

 襤褸になってしまった青いマントは、右肩から靴の上までの半身を覆い隠し、黒い制服の全身と、腰にベルトを巻いた左半身が露わになっている。

 丸い黒髪の下の、大きな目に収まる丸く黄色い瞳は、誰もいない教会を写していた。

 モンマルトルの西の教会。

 そこにはドジなシスターがいた。

 何もないところで転ぶのは日常茶飯事、教会にとって貴重な物品を壊したり、貧しい人々に不味い料理を配ってより不幸にしてしまったり、それでいていつでも心からすぐに笑って、その明るさが周りに伝播する……そんな少女だった。

 ただ人知れず、その身を以てこの街を救ってきたその乙女は……仲間と共に日本に向かったきり帰ってこない。

「エリ姉……」

 少女の口がボソリと小さく紡いだのは、自分がその乙女に勝手につけていたあだ名。

 眉一つ動かぬ無表情ではあるが、この顔を感のいい人間が見ていたとしたら、それはどこか寂しげに感じることだろう。

 途端に上を見上げると、冷たくなった黄色の瞳は、上空の異形の姿を捉える。

 背中から綺麗につながった丸い頭部に目はなく、赤い口元からは牙が生え、蝙蝠の羽根、鋭い爪を生やした四肢。

 世界に蔓延る怨念の化身、『降魔(コウマ)』である。

 少女の視力は降魔の牙の隙間に挟まれた肉まで捉えると、感情の見えない表情の中、に更なる冷気と温度が重なる。

 少女の背中の堅いリュック……否、四角い機械が、周囲に風を吹かせて大きく展開する。

 それは、硬い質感だが、金色の翼だった。

 風によって、青い襤褸が後ろに大きく広がると、少女の背に二色の異なる翼が生え、舞い上がった。

 少女の左手に握られているのは、金の翼の展開の折に、その先端から排出された部分。

 現代でいうところのアタッシュケースに見えるそれは、空を昇る間にその形を変えていき、黒一色の重機関銃となった。

「降魔は殺す」

 片手で向けられた銃口が怨霊にしっかりと向けられて、その口が火を吹けば、たかだか二秒で物質怨霊の全身に多くの穴が空いていく。

 怨霊は動く力を失っていき、穴という穴から血を吐きながら墜落していく。

 死骸となっていくそれに、空飛ぶ狩人は追い打ちの弾丸を降らせていく。

 死骸の墜落場は、人間のいない方に調整されていく。

 翼人は変わらぬ面持ちのままに、それを成していく。

 

 



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Partie2

状況説明(?)


 ベンチに腰掛けて、チケットも入れた着替えの荷を地に置いて、ケースを手放さないながらも、ため息をつくアニー。

「村長様、お父様、お母様、ごめんなさあい……」

(店員様……ジェニー様はご自分のお宿を貸してくださると言ってくださいましたけど……)

 ふと顔を上げると、周りの建物、道行き交う人の数と、きらびやかな衣服は田舎でお目にかかれないものばかり。

 あまりの斬新さに瞳は輝くばかり。

「ホントにわたし、都会に来たんですねー……」

 その輝く瞳の中に、笑いながら腕を組み合う男女が通る。

「……良い男かー……」

 ふと、空を見上げる。 綺麗な青空である。

「……考えてみたら、わたし男に興味なんてなかったわ……」

 そう、アニー・スリジェは恋愛ごとに興味などなかった。

 両親の世代の大人を愛し尊敬し、その憧れから結婚して子供作りたいなどと思っても、村の中の顔の良い男には、ただ顔良いなーとしか思わなかった。

 ただ友達に先を越されたことが悔しかっただけだったのだ。

 それだけでこんな都に来ようとは、我ながら大した行動力である。

 塔などは見えないかと、視線を反らし、横の空を見る。

 すると、二羽の鳥影が軌跡を描いている。

 目を細めてみると、片方が奇跡描いてこちらに向かってくる。

 しかしそれは鳥ではなかった。

 化け物。

 そうとしか語彙が見つからなかった。

 胴体しか残ってないそいつは、アニーの前の地面にめり込んだ。

 アニーが顔を青くしていると、目のない化生の口から、緑の液がゲップのように吐き出ると、少女の喉から悲鳴が上がった。

「なっなっなっなっなっなんじゃこりやあああああああ!?!?!?」

 化生はジュージューと溶けていき、着替え鞄もそれに巻き込まれて、また溶けていく。

 先程のチケットも、この鞄に入っていたのを思い出し、顔をまた青くした。

「お、お着替えがああああ……!?」

「大丈夫?」

 アニーは声のした上を向く。

 少女だ。

 羽根を生やした人間がこちらの前に飛んできて、地に着地した。

 短い黒髪で、大きな目に収まる黄色い瞳、腰にベルトを巻いた黒い制服、右肩に羽織られ足まで覆うぼろぼろの青いマントが目を誘う。

 さっき見えた翼はどこにいったのかわからないままに、青い顔が薄まったアニーは恐る恐る質問をする。

「……そちらのお洋服、大丈夫でしょうか?」

 目の丸くなったアニーの指がマントを指すと、だいじょうぶ、と少女は答えた。

「降魔の返り血くらい、霊子(りょうし)シャスールには平気」

「……こうま? かえり、ち? りょーししゃ……? ……なんですかそれ?」

 娘の頭にはてなが三つほど置かれる。

「降魔はここで溶けたヤツ。 死んだ人間の怨念が大きくなって出てきたゲテモノ」

 アニーの顔はまた青くなる。

「死んだ人の、怨念って……お……オバケってことですか?

 な……なんで、都会にそんなの出るんですか……?」

「どこでだって人は死ぬ。 だから、降魔はどこへでも湧いて出る」

「……お昼にオバケだなんて、冗談じゃないですよ……」

 自分はとんでもない都に来てしまったのではないかと思い、ため息をつくアニー。

「……ていうか、あなたは一体?」

 襤褸の少女は表情なくこう答えた。

「わたしは霊子シャスール。 霊力で降魔を殺す狩人」

「れいりょく……ってなんですか?」

「「…………?」」

 間を置いて首を傾げる女子二人。

「あんた、霊力あるのに、戦わないから気になった。

 そっか、自分の力に気づいてないんだ」

 田舎娘の頭の中にはてなが置かれる間に、ほんの少し微笑んだシャスールがアニーの肩に両手を置く。

「飛ぼっか」

「へ?」

 その言葉にますます混乱が走っていると、手足に違和感が生じた。

 手元を見ると、手を繋がれて、そこから下を見たら、地面が遠ざかっていた。

 正面を見れば、シャスールのマントが風で右背に広がり、身体の右半分を露わにし、左背からは先端の黒い金色の硬い翼が生えていた。

「……飛んでるうううううううう!?」

 沈着に、左右非対称の翼を広げる女子と対象的に、あたふたあたふたと手足をばたばたさせるアニー。

「あんたに力があるから、飛べる」

「いやややややややや!?」

 少女はアニーの手を、こう言って離していく。

「一緒に飛ぼう」

「やーーーーめーーーーーてーーーーーー!?」

 絶叫するアニーだが、その身は空に浮かんでいる。

「え? 浮いてる? 浮いてる!? 嘘でしょう!?」

 アニーの頭は続いてきた混乱からやがて楽しみに変わり、わーいわーいとはしゃぎながら、少女と並行して空を飛ぶ。

「わたし、リッサ」

 翼の少女は微笑みながら言った。

「あ、わたしアニーです!

 でもなんで飛んでるの?

 お荷物に変なの入れたかし……らー!?」

 不意に落ちる。 少女は目を下に向ける。

「……ん。 大丈夫」

 

 モンマルトルの丘には、十数年前から劇場が建っている。

 玄関通路を雨雪を少し凌ぐための屋根ポーチの上に、『Chattes Noires(シャ ノワール)』の文字が二本足の黒猫と月に挟まれているという、洒落た意匠の看板が目を引く。

 その支配人室には、三人の女性がいる。

 壁際の机に座る貴婦人の傍に二人のメイドが控えている。

「ジュスタンには困ったもんだねぇ、常連がついてるってのにブラブラと」

 貴婦人の金の髪には白毛が混ざり、顔の節々に小皺があるものの、眼差しと佇まいから漂う気品が老いを感じさせないでいる。

 机に座っている、どこか幼げな黒猫は、ナア~とあくびをかく。

「街の防衛は真面目にやってくれているようですが、ここでのショーも歌劇団の本懐だというのに……これでは新たに巴里華撃団を立ち上げた意味がありません」

 短い青髪のメイドの次に、栗色で長い髪をしたメイドがため息混じりに言う。

「シャスールちゃんも入ってくれたら良いのに~」

「やはり例の詐欺師をつかまえ……」

 婦人が言いかけると、ぎゃーーーーんという悲鳴と三度の轟音が劇場を揺する。

 前を見ると、散乱した瓦礫に囲まれ、薄く光る物体が床にめり込んでいる。

 沈黙が支配している。 と、やがて物体が動く。

 ぷはぁっと、めり込んでいた中身が、瓦礫を散らして上がる。 それは人間で、アニー・スリジェだった。

「…………どこ!?

 え!?」

 あまりの困惑に、辺りに木片散らして、手離さないでいたケースごと全身を回す少女へ、黒猫が近づいてくる。

「わっ! えっ、もしや猫ちゃん?

 はじめて見ました、黒いにゃんにゃんなんて……きゃわわわわ」

 黒猫は少女の肩までかけ上がると、その首から頬を舌でかわいくひと舐めする。

 笑顔で猫を撫でるアニーは、自然と三人の存在に気づく。

「あっあのっ! ここは何処でしょうか、巴里のどこなのでしょうか?」

 不安げに近づいてくるアニー。

「……ここは間違いなく巴里です」

「モンマルトルの劇場、テアトル・シャノワールなのぉ」

「劇場!

 歌って踊れる女優様の歌劇団やってるとこですか!?

 わたし、憧れてたんです女優様に!」

 目を輝かせるアニーは身を乗り出して、二人のメイドに近づく。

「え、ええと、お嬢ちゃんはなんで天井からやって来たりしたのかな~?」

 後ずさる長髪の従者の問いに、慌てて背筋を立てるアニー。

「えーと、そう、この街でちょっと休んでたら、コウマとかいうなんじゃこりゃあああなゲテモノが死体で空から降ってきたんです! そしたらシャスールって名乗る女の子が降りてきて、飛ぼっかとか言われて……そもそもなんで飛べたの私!?」

 二人のメイドは、互いに見知り過ぎな顔を向け合う。

「シャスールに送り込まれたということかしら?」

「あの娘、降魔やっつけることしか考えてないと思ってたけど……」

 見慣れぬ衣服の二人を前に、アニーは自分が大事な社交辞令を欠かしていたことに気づく。

「あっ! わたし、アニー・スリジェです!

 田舎から旅行に来たんですが、なんでこんなとこに……」

 スリジェ(桜)かい、と感慨深そうに呟くと、婦人はアニーにこう問いかけた。

「あんた……歌劇団に興味はないかい?」

「あっはい! 歌も踊りも好きですし、すっげー見たいです!」

「じゃあ……入る気はあるかい?」

 沈黙の後、困惑のあまりアニーは瞬時に目を二回開閉。

 猫の鳴き声が響いた。

 

 アニーは風呂を大変好んでいたが、上からお湯の吹き出すシャワーなど知らなかった。

 汚れた服の替えとして(スペアの)舞台衣装を用意されることなど一度もなかった。

 田舎の村にはステージなどなかった。

 その前を覆う、劇場名の書かれた薄い緞帳もなかった。

 それを囲む客席もなかった。

 外世界の斬新さに、田舎娘の瞳が輝いている。

(服を借りてもらって、こんな素敵なところにご招待受けるとはぁぁぁ……)

 感嘆の声を上げる、可憐な衣服を着たばかりの少女に、婦人の声がかかる。

「どうやら劇場は初めてのようだね」

 無言で口を開いたまま、こくこくと頷く少女。

「存分に目に焼き付けておくと良い。

 あの緞帳の向こうのステージは、自分が踊るんだから」

 その言葉で、アニーは風呂前の困惑を思い出すと、喜びの感情を脳裏に置いてどこか不安げにこう問いかける。

「……あの、どうしてそうなるんですか?」

「そうだね……立ち話もなんだし、そこに座ってから話そうか」

 丸く白い机と椅子の方を差し、傍には青髪の従者が備えている。

言われたとおりにアニーは椅子に座る。 慣れない尻の感覚にまた困惑する中で、こっそりついてきた黒猫が首を舐めてきた。

 笑って拒もうと黒猫と戯れる少女の幕間を微笑ましく見ながら、婦人も向かいの椅子に座る。

「名乗るのが遅れたね……あたしはイザベラ・ライラック。

 ここの支配人をやっている」

「しはいにん……?」

「オーナー……家主と思ってくれれば良い。

 グラン・マなんて大勢から呼ばれてるがね」

「グランマ……お祖母ちゃん?

 大きいお子様とお孫さんもいるのですか?」

「いや、そういうのを作る前に、旦那とは死に別れてね……。

 代わりに手のかかる娘が五人はいたんだが、今頃どうしてるんだか……」

(血の繋がらない親子関係ってこと? 初めて聞いたけど、都会じゃ珍しくないのかしら)

 こめかみに指を置くアニーの前に、青髪の女性が、無駄のない仕草を以て、紅茶とビスケットを置く。

 豪奢なグラスにキラキラさせるアニーだが、女性が給仕してくれたことと、今更ながらその服に気づく。

「……もしかして、召使い様ですか?

 村長のお屋敷にもいませんでした」

 少女の言葉と輝かせる瞳に、女性はクスッと笑う。

「召使い様、ですか。

 確かに、私はこちらのグラン・マにお仕えしているメイドで、メル・レゾンと申します」

「メイド様……!」

 アニーはその言葉の響きに、彼女に身を乗り出している。

 コホン、というグラン・マの咳込みに、覚醒するアニー、椅子に座る。

「……あ、すいません!

 実は田舎から参ったものでして……。

 えーっと、何から聞けば良いのやら……」

「ゆっくりで良いよ」

 アニーはなけなしの頭で、ここに至るまでの全てを話した。

 駅で踊って注意されたことから、酒を呑むマジシヤンとの遭遇、つい金を散財してしまったこと、霊子シャスールと一緒に空を飛んでここに落ちてしまったことまで……。

 時折婦人は「ほぅ」、「それはそれは」などと相槌を打った。

「……やっぱり、ほんっっっとに最後になんで飛べたのか全っ然わらかないです」

「そうだね……論点をずらすつもりはないが、お前さんが会った呑んだくれには心当たりがある。

 この舞台で手品を披露している男さ、『魔法伯爵ジュスタン』ってね」

 昼に会った彼の名前を耳で受けると、その彼から手渡されたチケットが着替え鞄と共に溶けたことを思い出す。

「時々仕事をサボってはどこぞの店で酒か葉巻を吸う毎日。

 休みでも同じことさ」

 紙の在り処を思い出す前に、男の素行に呆れるアニー。

「……なしてそのような方をお雇いに?」

「そこのナポレオンII世はね、ある力が強い者に懐くのさ」

 机にはいつの間にか、黒猫が座っていた。

「ナポレオンというのは、フランスの皇帝閣下ですよね?

 もう昔に亡くなったんじゃ」

「その皇帝閣下から、この子の親へ拝借してもらっただけのことさ」

 そういうの都会の流儀なのかしら……と思いつつ、世間知らずの少女はまた一つ質問を下した。

「ある力というのは?」

「霊力というものさ」

 霊力。 その言葉はシャスールも言っていたのをアニーは思い出した。

「本来人間なら誰しも持ってる”力”……しかしそれが強ければ強いほど、すごいことが出来る。

 何もないところから火を吹いたり、物を触らずに動かせたり、化け物を殺せたり、ね」 

「ナポレオンII世が首から頬を舐めた場合は、お前さんはよっぽど強い力を持っていることになる」

 支配人室で黒猫に舐められた場所を思い出すと、ぴったり一致した。

「いやいやまさかそんな」

 先程、空に落ちた時に見た建物を思い出す。

 猫の看板の目立つ建物だった気がした。

 それがここだとして、何故自分はあの高さから無事だったのか……?

「いやいやいや……えぇ……?

 ……舞台女優様って、みんな霊力というのが強い方だったのですか?」

 イザベラは微笑む。

「まさか。

 霊力と演技はそこまで関係はないはずだよ。

 ただ……霊力の高い人間の舞踊は、その地の魔の力を鎮める効果がある。

 それが、巴里歌劇団の夜の仕事なのさ」

「ぱりかげきだん……」

 

「巴里華撃団は不要なのです!」

 貴族そのものといった身なりをした男が、即席に設けた教壇に立ち、拳を握り上げて叫んでいる。

独逸(ドイツ)からの伯林(ベルリン)華撃団と、英国(イギリス)からの倫敦(ロンドン)華撃団が、この巴里に支部を置いて早一年!

 我々はもう、降魔を始めとする霊的(れいてき)脅威に悩まされてはおりません!

 十一年ほど前にくたばった小娘共の跡継ぎなど、今更必要ないのです!

 なので!」

 怒声に囃し立てられながら、大きなベールをはがす。

「古き悪習の体現、霊子甲冑(りょうしかっちゅう)は、ここに破壊すると致します!」

 それは3mほどの全長で、ずんぐりむっくりとした胴体の中央に、色違いのカメラアイとそれを滑らせるレールがあり、両側面に肩から伸びる三本指の腕、銅を下に支える二本足がある。

 それは、蒸気導力で稼働する亜人間型重機『人型蒸気』。

 その旧式種である装甲倍力動甲冑『霊子甲冑』、その名は『光武F2』である。

「めんどくせえな……」

 テアトル・シャノワールが誇る奇術師は、気怠げに細めた眼を貴族に向けて、後ろ側頭をかいている。

 一昔前の伝説の骨董品を、鉄球による破砕装置に置かせ、高らかに叫んでいる罰当たりは、明後日に巴里からフランスの一区に蒸気鉄道を設けようとしている貴族。

 その行いの邪魔をすれば、ただでさえ厳しい巴里華撃団の運営に響いてしまう。

 かといって予備品とはいえ、偉大な先達の遺品が音を立てて崩れるのを見過ごすわけにはいかない。

 さてどうしたものかと思案するが、ぎゃっと悲鳴がした。

 見ると貴族が鼻を抑えている。

「この恩知らずめ!!

 お前がこうして馬鹿をやれるのは誰のおかげだと!?」

 中年の男が中ほどの石を掲げている。

「十一年前の降魔大戦で、巴里花組が、命を賭けてここに住む人間達を守ってくれたおかげじゃないか!!」

「それに泥を塗るなんて真似、絶対に許さないよ!!」

 様々な罵声が壇上の伯爵に飛んでいき、後ずさらせていく。

「う、うるさい!

 十一年前の私は、こんな街に住んでないやい!

 こんな骨董品の代わりに、お前らを一人一人潰してやっても……」

「良いわけがないでしょう、コッタール卿」

 いつの間にやら、伯爵と同じ壇上には奇術師が立っていた。

「無実の市民を殺すなんて馬鹿な真似、巴里市警はもちろん、我々巴里華撃団が黙っちゃいませんよ」

 

 



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Partie3

 通路を歩く、スペアドレスのアニーと、長い栗髪のメイド。

「シーさん、でしたっけ。

 わたし、上手く舞台できますかね?

 歌も踊りも昔っから好きですけど」

 不安げな新人候補に、メイド……シー・カプリスはにこやかに答える。

「上手くなるための練習がありますからぁ。

 それにぃ、今は人手不足でしてぇ。

 役者がサボりがちだと、若いスタッフくんの面白いトークで場を持たせるのも一苦労なんですぅ」

 それだけでなく、モギリや雑用、オペレーターまで卒なくやってくれる青年スタッフには、感謝してもしきれないでいる。 それはシーだけでなくメルもイザベラも同じ。

 皺の見える手がドアを開くと、その先の光景は、アニーの好奇心と、感動に瞳を輝かせ、感嘆の声を上げさせた。

 天井がガラスで覆われ、中央にはベンチに囲まれて、観葉植物が咲き、その傍で青年が跪いている。

「ここはどこですか~」

 目を輝かせ続けているアニーに微笑みながら、入口に続くエントランスロビーですよ~、と答えた。

「えんとらんすろび~~~。

 あの綺麗な草はなんですか~~~」

 斬新による興奮に浮いて、くるくると回る少女にクスっと微笑むメイド。

「これは観葉植物といってぇ、お客様に見てもらうために栽培してるんですよぉ」

 へぇーと観葉植物を近くまでまじまじと見るアニー。

「あ、あの……?」

 すぐ近くの声にびくっとした。 隣を見ると、男の顔があった。

「わわわわわわごめんなさああい!?」

 アニーはシェーといったポーズで三度跳ねて、青年から離れる。

 青年の服はワイシャツの上に黒ジャケット、膝を曲げた足は黒いズボンに包まれている。

 その両手には、ハンカチとじょうろを持っている。

「エランくんお疲れ様~」

「ああいえ……彼女は?」

 従業員が見慣れぬ少女に訝しむと、新人よぉ、とシーは言った。

 急速に畏まって腰を正したアニーは、アニー・スリジェですっ、と綺麗にお辞儀をする。

「かわいい……」

 そう、若い男の小さい声を、女達の四つの耳は捉えた。

 大人がくすくすと笑う中、アニーはかわいいの意味がわからず、首を傾げる。

 青年は、すぐにハンカチとじょうろを地に置いて、綺麗に立ち上がる。

「ええと、新人ということはその娘、ナポレオンII世に懐かれた、ということですか?」

「そうそう。 あ、華撃団の方はまだ秘密だから。

 この娘、まだ素人だし」

「? 華撃団……?」

 台詞にある通り、歌劇団と日本語の読みは同じかげきだんだが、ここは仏蘭西。

 華撃団という言葉は、アニーの耳に入るのは初めてなのだ。

「ああ、ぼ、僕エランっていいます。

 ここの雑用で、モギリとオペ……色んな雑用をやってます」

 エランのほんのり赤い頬に、大先輩は微笑む。

「もぎり?」

 耳慣れぬ言葉に首を傾げるアニーの質問に、エランはこう丁寧に答えた。

「モギリはですね、お客様のチケットを切って、劇場内に入ってもらうお仕事です」

「? チケットって、切っちゃうんですか?」

「へ? ええ、チケットには切れるところがありまして。

 チケットは大抵その日の内にしか使えないものなんです」

 はぁ、と言いながら半ば理解しきれていないアニー・スリジェ。

 実物を溶けてしまったことを思い返して心中でまた落胆する少女。

「あ、そうだエランくん。 アニーちゃんの劇場案内取り次いでもらえる?」

 へっ!?とエランは驚く。

 アニーは素朴にシーさんと名前を呼ぶ?

「ごめんなさい、溜まってたお仕事消化しなくちゃならなくって。 そ・れ・に~」

 にやにやとエランとアニーを見比べる。

「な、ななんですか」

「じゃ、よろしくね~」

 エランの問いに答えず、そそくさと庭園から立ち去るシー・カプリスであった。

 頭にはてなを置くアニーが発した声は、小さかった。

「……男性の召使い服、かっこいいかもです」

 びくっと身体を強く震わせるエラン。

「い、いや!? 召使い服じゃなくてその!

 制服! 制服っていうんだコレ、あははははは!」

 青年の挙動不審を訝しんで見やるアニーであった。

 

『以上のように、燃料切れのスクラップであろうと、巴里華撃団の所有物に変わりはない。

 さっ、渡してもらおうか』

 暗い室内を照らすのは、ジュスタンが貴族に詰め寄っているカラー映像。

「ムカつく面ねぇ~、女平気で騙す顔じゃない。

 巴里華撃団って男子禁制じゃなかったの?」

 ドレスを揺らして、女の声が鳴る。

「前の隊長さんは海の外の男だったよ?

 それに、霊力者が華撃団に入れるレベル低くなったから、男隊長多いんだよイマドキ。

 ねー?」

 低いながら子供っぽい声調の主は、大柄なシルエットに頬を擦る。

 女は苛立って舌を打つ。

「さーーてと……実力テストと行こうかな」

 男は笑って、パチンと指を鳴らす。

 途端に後ろがガラスの割れる音と共に照らされる。

 ガラスを破った降魔が高い高い天井へ上がっていく。

 

「それで、ここが貴賓室。

 お金持ちの方をお迎えするところ」

 薄紫の壁に囲まれた、豪華な部屋に、アニーとエランはいる。

「おおー……ここもまた……って、んん!?

 なんですか、あのおっきな目がありますよ!?」

 壁の御影石の区画には、大きな猫の目が張り付いていた。

「ああ、これはね。

 マジックミラーという作りになっていて、ここからステージと客席を見れるようになってるんだ」

 恐る恐るアニーは近づいていき、猫目の窓を近くまで見ると、別側面だが、舞台の別側面が広がっていた。

「おおおー……ホントです!

 でも、ステージにこんな窓があったなんて……」

「マジックミラーっていうのは、こっちから見えるけど、あちらからは見えないようになっててね。

 つまりステージと客席の方からは、この部屋は気づかれないようになってるんだ」

 最初のぎこちなさはどこへやら、三十分足らずの間に、アニーとエランはすっかり打ち解けていた。

 部屋から部屋へ行く合間に住んでいたところのカルチャーギャップを堪能し、互いの家族のことを話し合い、友人への愚痴まで共有し合った。

 ただ、自ら姉のことを口にした瞬間のエランの顔が、どこか重かったことが、アニーには引っかかっていた。

「でもどうしてこんなお部屋をお作りに?」

「お金持ちといっても、色んな人がいるからね。

 庶民や貧乏人から恨み買ってるような奴ほど、ここに案内するのさ」

「ええー……なしてそんな人連れてくるんですか」

 エランの顔に苦笑が浮かぶ。

「やむを得ない事情って奴。

 十年近くぶりに再開したばっかだから、維持とか大変で。

 お偉い方との根回しも必要なのさ……」

「よくわかりませんけど、大変なんですね……」

 我ながら他人事みたいに言うものだ、とアニーは思った。

 彼女の耳が耳障りな警報を拾ったのはその瞬間だった。

「!? なんですかこの音? うるさいですね」

「アニーちゃん!」

 急に両肩を掴まれた先には、エランの真剣な面持ちがあった。

 自然と頬がほんのり熱くなる。

「これは警報音といって、危ないことが起こったときにしか鳴らないものなんだ」

「あ、危ないことってなんですか?」

「まだ話せないこと。

 とにかく、この貴賓室なら安全のはずだ。

 僕が戻ってくるまでここを動かないでくれ。

 しばらくかかるけど!」

 さっと踵を返して、貴賓室から出ていくエラン。

 置いてきぼりのアニーは近くのソファに座り込んで、数秒の沈黙を破る。

「……どゆこと?」

 

 牙から滴り口を汚すは、酸性の唾。

 血肉を求めて、降魔の群れが広場に大挙している。

 色とりどりな花火が群れ成す怨霊の身体を削り落としていく。

「やけに大所帯じゃないか。 今日はおたくらの吉日だったのかい?」

 群れの中心にいるのは、霊子引火性のトランプを手札と腰に携えた奇術師、ジュスタン。

(局地爆発で一斉撃破を狙いたいが……)

 トランプボムによる爆発範囲と威力は、カードの数目に応じて変動する。

 Aだと、範囲狭しの高火力。 13だと、13発連続爆破(一つ一つはAの1/13)による広範囲。

 因みにスートだと、爆煙の形と色が変わる。

 この大人数でも殲滅も容易いと思ったが、爆破を察知して離れられて殲滅数が減ると、紙が切れるのが先になってしまう。

(知恵ある親玉か参謀がいるのは確か……無茶だが一点突破を狙って、そいつを探すか)

 紙はあと半数を切っている。

 意を決したとき、上空の翼を見据える。

「助かった」

 霊子シャスール。 本名不明。 どこの国の華撃団にも入っておらず、独自に降魔を殺害している。

 背中には、昔に航空会社で没を食らったはずの霊子飛翔補助翼を背負い、隻腕にぶら下げる得物の蒸気重機関銃”ウリエル”は、降魔の

「いいか無理してはいかん。 霊子戦闘機が来るまで持ちこたえるんだ!」

 老いていて高い声の方をチラリと見て、ニッと微笑む。

 薄い色のコートがやや太った体型に押し出されている、初老の男性。

 その正体はジム・エビヤン警視。

 巴里市警を束ねる、歴戦の勇士。

 十一年前の大戦以降、各国華撃団に協力を惜しまず、勇猛果敢な警官達を率いて、降魔撃退任務に助力している。

 他国の華撃団ほどではないが、心から頼りになる同志だ。

「ここらでかっこ悪いとこ見せらんねえわな」

 指の間より投じられたハートの11は、十一匹の内三匹を塵に、四匹を死に至らし、五匹の身体の一部か半分を現世から抉り取った。

 

「ホントに暇になっちゃいましたねー……」

 ソファの上で靴をぶらぶらしてる間、全身になにか違和感が募って仕方がないアニー。

「……見るだけ見るだけ」

 しびれを切らして立ち上がると、部屋中のものを見ていく。

 先程まで暇つぶしに見回していたものの、近場まで見ると違うので、目を輝かせる。

 ちょっとだけちょっとだけ、とタンスの高貴な紋章に恐る恐る触れる。

 そしてそれは光り出して、ガコンと音が鳴った。

 音の方を見ると、部屋の角が開き、降りの階段が露わになっていた。

「えっ!? ……え……!?」

 恐怖と高揚感が胸を強く鳴らす。

 恐る恐る。 中に入って、階段を降りていく。

 壁の煉瓦模様が、知らぬ白銀へと変わっていく。

 降り切った先は、鉄臭かった。

「……ここはどこでしょう?」

 アニーの視界には、丸い胴体に手足のついたものが何体か並び、作業衣の男達がそれに張り付くように作業をしている。

 別組の男達が大きい鉄製のものに対して作業を行っている。

 その中心に、大声を張り上げている、タンクトップの少女がいる。

「オラオラ手ぇ動か……あ”? 誰だァてめえ」

 アニーを目視した少女の顔は、苛立ちで険しかった。

「ははははい!

 なんかこう、巴里歌劇団!の新人になった?アニー・スリジェです!」

 その言葉を聞いた少女の顔は柔らかくなって満面の笑顔が咲き、猛スピードでアニーに急接近した。

「新人! 黒猫にどこ舐められた?」

 アニーはその勢いにたじろぎながらも、首筋から頬をなぞる。 そして手を掴まれる。

「よーし来なァ!!」

 声を上げる間もなく引っ張られていった先、それは先ほども見かけた丸めの胴体に、手足のついた機械……霊子戦闘機の前だった。

 

 




次回!
霊子戦闘機回です
時間かかりますが、お楽しみに!


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Partie4

お待たせいたしましたかな?
霊子戦闘機回です。
第一話の締めです!


 テアトル・シャノワールには地下がある。

 アニーが着いた格納庫兼任のシャノワール工廠の敷地内。

 その部屋には支配人とメイド二人、スタッフ一人がいる。

 その名を作戦指令室といった。

「付近住民の避難、終了確認!

 残っているのは、警官隊だけのようです!」

 書本サイズの紐育製蒸気端末を動かすメル・レゾンが声を上げる先には、天井の部屋より下げられた、木枝のような大型アーム椅子に座るグランマがいる。

「エクレールの発進準備は?」

 グランマは、机いっぱい液晶の中の書類にサインを書き回していくエラン。

「もう終わります!

 しっかしどうしてここまで手間かかるんですかねっと!」

 メルと同じく書本サイズの蒸気端末を動かすシー・カプリスはこう言って苦笑する。

「再開したばかりだからね~巴里華撃団」

 苦笑を受け流すメルは、蒸気端末の液晶を見下ろしていると、怪訝に片眉を曲げる。

「ジュスタン機、搬入かん……? 誰か乗っています!」

 メルの端末内液晶に指が入ると、グランマの後ろの大型モニターにいるはずのない少女の顔が映る。

『た、助けてくださ~い!』

 滝のように涙流すアニーの顔に、どへーっとバランスを崩す一同。

「アンタなんでそこにいるんだい!」

「貴賓室で待っててくれって言ったじゃない!?」

「シャノワール工廠、シャノワール工廠!

 これはどういうことですか」

 シーが通信をかけた地下工廠の相手は、若きタンクトップの整備士長ニコラ・エピーヌ。

『貴賓室から降りてきたみたいだ。

 首からほっぺなら、霊子甲冑を動かせるだろ?』

「バカニコラ! この娘は舞台も戦闘も素人だよ。

 訓練段階にも入ってなかったから、都市防衛のことを伏せてたっていうのに、あんたって娘は戦闘服も着せないで……」

 シーの液晶へ声を上げるグランマに対し、眉を顰めるエランは問いかける。

「待ってください? 貴賓室が工廠に繋がってるなんて、聞いてませんよ!?」

「エラン……あんた知らなかったのかい?

 他国の華撃団の見学用にと通路を設けていたんだよ」

「うそぉ!?」

「あ! 霊力感知式だから知らなかったんだ、エランくん」

『早く出してくださ~~い!』

 大きなモニターに対して、落ち着きなアニーと、優しめながら厳しい声調を揺らがずに少女をたしなめるグランマ。

「あんたが乗ってるそいつは、降魔のような霊的脅威を倒すための鎧だよ」

『えっ、オバケやっつけるんですか!? これで!?』

 周りの蒸気機器を見回しながら、アニー、次にこう告げる。

『無理ですよ、蚊しか潰したことないのに、オバケなんて!』

「いや! 今、その必要はないよアニー。

 右も左も分からないあんたを戦わせるわけにはいかない。

 良いかい、そいつは、呑んだくれのマジシャンだけが扱える鎧なんだ。

 ジュスタンにそいつを届けたら、速やかに脱出して、さっさと逃げるんだよ。

 脱出の指示はこちらでやるからね!」

『は、はぁ……? あの人のですか……』

 現実感を掴めないでいるアニー、目を数度開閉する。

 

 地下鉄。

 地上からの微かな振動に不安か違和感を感じる市民達。

 顧客と電車の境目に鉄柵が落ちる。

 鉄柵の向こうを目にも留まらぬ速さで突っ切る列車が一台。

 雷のようなそれは、弾丸列車エクレール。

 巴里全域に霊子戦闘機を輸送する、高速輸送車両である。

 

 爆発飛び交う戦場の中に、何かが垂直に落下する。

 それは霊子戦闘機フルールIII。

 丸い全身の紫色に金の星を所々にあてらい、丸い両肩部と短めの両腕にトランプのパックのような四角形を装備している。二つずつの丸いアイが前面上を走るレールの上に載り、下半分は短めの足として分かたれている。

「おお、来たかジュスタン機」

 胴体が下に開くと、上に空いた口から女子が出てくる。

「……は!? キミ、さっきの……」

 アニー・スリジェには、トランプの奇術師の顔に見覚えがあった。

「あっ、ホントに呑んだくれさん!」

「いやそうじゃなくて!?」

 アニーの後ろが爆発した。 ジュスタンが言動に突っ込みつつ、アニーの頭に食らいつかんとした降魔にトランプボムを放ったのだ。

 驚いたアニーはぎゃわわわわわわと叫びながら、ずでんと背中から地面に落ちる。

 そんな彼女を二名の警官がそそくさと丁寧に抱き連れて行き、その隙を突くようにジュスタンは開いた霊子戦闘機に乗り込む。

「エラン、今のなんだ!?

 こいつから降りた娘だよ」

 ジュスタンは胸元を引き上げつつ、悪友に向けて通信で問いかける。

『新人のアニーちゃん!

 とはいえ色々素人だからさ、そいつ送ってもらって、逃げてもらったんだ。

 文句は無理矢理載せたニコラ達に言って』

「だったら送ったてめーらにも責任あんだろーに」

 ジュスタンの奇術師服の節々から四角い白の突起が浮き出て、その突起の薄い穴に光が吸い込まれていく。

『ジュスタン機、開幕!』

 周囲に蔓延る降魔の群々に向けて、日本舞踊歌舞伎のように曲げた腕と伸ばした腕を向ける。

 短い両腕上腕を覆う四個ずつのパックの一つから無数の札が射出されていく。 ジュスタンが使うものと同じトランプボムだ。

 降魔の軍勢が瞬く間に爆ぜていく。

 足裏のグランドホイールが回り、地を滑り走る。

 ある一体の背中を足場にして走り飛び上がり、宙返りして地上に二つの目を向けると、両肩のパックの口が開き、トランプボムが雨のように歪な亡霊達へ降り注ぐ。

「す、すごいです、あんな感じに戦うんですね……」

 広場端の即席バリケードの向こう、季節外れの肩掛けを肩にもらったアニーは多くの警察官に庇うように囲まれ、驚愕と動揺と感嘆の複雑な感情をジュスタンの駆る鎧に向けている。

「なにを当然のことを。 どこの国だろうと、華撃団がいれば街の平和は安泰さ」

「どこの国?」

 またも耳慣れぬ用語について警官に問おうとしたら、その身体に影がかかる。

 上を見れば、自分に衝撃を寄越した仏頂面がそこにはあった。

「うわっ! た、たしかシャスールさん?」

「あなたも戦うの」

 手を優しく掴まれると、およそ一時間前の浮遊感覚が足の裏から戻っていく。

「おわわわわっ!」

 空飛ぶ二人は、警官達の静止の声を振り切り、降魔の猛襲を幾多の弾丸で振り切る。

(うげぇ……アレやっぱりシャスールさんのせいだったんだ)

 グロテスクに穴だらけになった降魔と、一時間前に見た降魔の死体の類似性を見て思ったアニー。 次に鞄を台無しにされた怒りがふつふつと湧いてくるかと思ったら、目下に地面が急速に近づいてくる。

 降りていくのを察知すると、わわわっと、繋いだ手と、自由な足を回していき、綺麗に靴裏を地面に立たせる。

 そして、すぐ近くに、丸めなものを目に捉える。

「え、これ、りょうしせんとおきって奴ですか?」

「ううん、りょうしかっちゅう。

 霊力があれば動くから」

 アニーより綺麗に着地していたシャスールは、霊子甲冑の上に上がり、そこにある機器を弄ると、霊子甲冑の前面が下に開いていく。

『は!? なにやってんだアイツ!?』

「あの光武F3スペアの燃料は、空穴じゃないのか!?」

 フルールIIIの中のジュスタンと、逃げ遅れの避難誘導をしていたエビヤン警視の動揺をよそに、アニーは冷や汗かきながら。

「……わたしも戦うのって、もしかして……」

「少し念じれば絶対動く」

『目が見えるぐらいだろ、殺す気か!!!』

 爆殺の合間に流れたジュスタンの怒声の次に、アニーは目と手をわたわたと大袈裟に振り回す。

「無理ですよ無理ですよ、喧嘩なんて数えるくらいしかもやったことないし、勝ったことだって、お裁縫対決ぐらいだし!」

「降魔は人が恨めしくて仕方ない」

 冷気を一筋感じたと思ったら、それは狩人の瞳だった。

「あいつらは死んだ自分達に代わって生きてる人達が羨ましくて、妬ましくてしょうがない。 だから殺すの」

 そう冷たく言った女の顔を見て、今更にアニーは気づいた。

(この人……わたしと同じくらいなのに……)

「危なーいっ!」

 横から大きな声がかかり、横を見ると。

 血飛沫が上がった。

 こちらに両手を伸ばした警察官の脇腹が、ごっそりと抉り取られて、真っ赤な肉が剥き出しになっていた。

 抉り取った元凶は、弾丸によって穴だらけの降魔の死骸となっていた。

 アニーの喉から上がるはずだった悲鳴をせき止めたのは、その顔を染める強い恐怖だけではない。

 それより強い驚愕と、こんな風に殺すのかという納得もあった。

『クソッ、よくも!!!』

 義憤の紙々が他の降魔達を爆ぜていく。

 その内一体の尖り歯は、逃げ遅れた子供の近くまで迫り、一足遅かったら咀嚼されて肉塊になっていただろう。

 アニーの目がよく凝らしてみれば、その子は5ユーロのミモザの少年ではないか。

 そして近くには、血に塗れて男が倒れている。

 その服は少年の父が着ていたものと、アニーは思った。

 親子二人の去り際の笑顔が、脳内で反復される。

 さきほどのシャスールの言葉も反復される。

――降魔は人が恨めしくて仕方ない』

――あいつらは死んだ自分達に代わって生きてる人達が羨ましくて、妬ましくてしょうがない

――だから殺すの

 眼前に見えるのは、脇腹を食われた警官の死体。

(それでこんな風に?)

――人の幸せを貪れる?

「……ふざけんな…………ざっけんな!!!」

 

 予備武装の整備などで、喧騒慌ただしいシャノワール工廠。

 アニーの忘れ物が一つ置かれていた。

 旅の直前に、『二度と手放すことなかれ』と村長から託されたケース……お守り籠。

 それがカタカタとひとりでに揺れていくのを、誰も見なかった。

 そうして浮いていくのを不意に整備士の誰かが見た。

 整備士長!と呼ばれてニコラが横目に見たのは、ケースが浮いて旋回していく有様。

「なんだぁありゃあ!?」

 興味から知的好奇心が強く湧き上がり、身体が思考と同等にすぐさまケースに走っていく。

 周囲からの静止の声を振り切り、ニコラの手が小さい竜巻に突っ込むと。

 おわあああああと喘ぐ彼女の全身も竜巻を軸に回転し、

 お守り籠ごと、工廠の壁を突き抜けた。

「エピーヌ整備士長ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」

 

 モニター上には、まだ戦いも知らない新入隊員が、霊子甲冑の開けた蓋の胴体前面を這い上がり、露出したコクピットに乗り込む。

「新入り!?

 そいつは巴里華撃団の所有物だが、エネルギー切れのポンコツだ!

 動かせるわけねえ!」

 ジュスタンの声を遮らないように、エランからの通信が入る。

『いや、アニーちゃんがII世に舐められたところは首からほっぺだった。

 相当に霊力が高い証拠だよ、でも……』

 ナポレオンII世は霊力の強い人間、特に乙女に靡く。

 本能で舐める箇所は、霊力の強弱によって長く短くなる。

 首から頬は霊子甲冑レベルは、首筋だと霊子戦闘機レベル、指の先だと普通人間レベル、霊力がなければ舐めもしないし、そもそも靡かない。

 旧型である霊子甲冑は、新型である霊子戦闘機よりも搭乗条件の必要霊力量が高い。

「燃料追加できても、素人が上手く動かせるわけがねえ!

 冗談じゃねえやっ」

 一瞬愚痴を放ちながらも、自らの腕を通した機体腕部から紙形爆発物を世を呪う化生に配っていく。

 アニーの乗った霊子甲冑に、降魔が食らいついたのはそのときだった。

 

「ぅわああああああああ!!!」

 アニーを襲うのは死の恐怖。

 どう動かせば良いのかと四苦八苦していたところに、鋭い牙が迫ってきた。

 咄嗟に横に伸びた腕が、コクピットの横穴に通った。

 霊子甲冑の身体が、食らいつく降魔を横回転で押し返す。

「えっ!?」

 胴体前面が自動的に閉まりながら、霊子甲冑がカクカクと動く。

 アニーは自分の腕が入った横穴に気づき、その中で手指を動かし、腕を伸ばすか動かしているのだ。

 転んだ降魔が殺意を以て、胴体に噛み付いてくる。

「うおお!?

 こんのっ!!!」

 光武F3の三本指が降魔の身体を捉える。

「おまわりさんがっ、おどれに食われて!!

 どれだけ痛くて!!」

 怒りで殴りかかっても、拳になってないために三本のマニュピレーターが折れていく。

 そんなとき。

 旋回物体が、飛んできた。

 ニコラを巻き込んだケース。

「お守り籠!?」

 アニーが初めての霊的直感で感じた瞬間、籠はF3の肘に当たって砕け散り、周りに衝撃が走った。

 降魔を転倒し、辛うじて衝突から逃れたニコラは宙を回転し続けている。

 驚くジュスタンが回転少女を保護する中、右腕の三本指の折れかけた一柱が盛り上がって、関節そのものが外れたかと思うと、指より短めの鋭角が飛び出ていた。

 ライフルの銃口に、ナイフが生えるように差し込まれている。

 銃剣だ。

「……これが、お守り籠の中身?」

 仰向けに倒れて呻く降魔。 その首に、銃剣指が突き刺される。

「……村長様……なしてこんなものを私に与えよったか知りません、が……」

 炸裂音。 コクピットにつながる装置によって引き金が引かれ銃剣の刃からの霊力エネルギーが放たれ、化生の身体を破裂させたのだ。

「そこなオバケどもをぶっ殺させていただきます!!!」

 アニー・スリジェの義憤による殺意が、光武F3スペアの全身に込められた。

 ドタドタと大足開いて何度も転びかける危うい走りを見せる霊子甲冑は、爆傷に喘ぐ怪物頭に、銃剣の指を突き立て、そのまま横に払って、頭をかっさばいて返り血を浴びる。

 視界の汚れをものともせず、息絶えた降魔を足場にして飛び上がる。

「死にくされええええええっ」

 五体満足の降魔に銃剣を突き立て……ようとするが、一歩届かず、地面に刺さる。

 抜こうとしても、どうもうまくいかぬまま、二匹の降魔に食らいつかれる。

 二匹から離れようとじたばたとしているF3スペアへ、他の降魔がそこへ群がってくる。

 すると、銃剣の暴発で地面が爆発し、その衝撃にF3スペアと二匹の降魔が飛び上がって離れる。

 仰向けで大地を少し歪ませるF3スペア。

 そこを羽根を羽ばたかせる三匹の降魔が牙を剥き、開けた口に火を溜める。

 その口にハートの12とクラブの8、スペードの10が放られると、降魔達は頭から大爆発を起こし、足までこの世から消え去った。

『やれやれ、お仕事多くて大変なことで』

 霊子甲冑の前に立つのは、両腕にトランプパックを携えた霊子戦闘機フルールIII。

「の……飲んだくれさん?」

『ちょっとは頭冷えた? 素人が無茶してんじゃねーの。

 ここはアレ、幽霊(ファントム)の死に方、殺し方を学んでいくんだな』

 ジュスタンが長々と言ってる合間に、フルールIIIのトランプは、群がってくる降魔達を一部か全身丸ごと抉っていく。

 頭を無くした怨霊は声なき悲鳴を動きで上げると一気に溶解、右半身を残した個体も同様に溶けていく。

 上空から穴だらけになった降魔の群れが落ちていき、いずれも地に到達する前に溶け、消えていく。

 雲を背に異色の翼を羽ばたかせるは、少女狩人(シャスール)

 光武F3スペアの中、アニーの顔色は、悪くなっていた。

(あれが、未練を残してオバケになってしまった人達の、最後……?

 やっつけられたら、溶けていって…………生きてる人を食べたから、自業、自得……?)

 アニーの中の怒りが、妙な申し訳無さに置き換わった。

 ザザザという音に気づかないでいた。

 

 シャノワール工廠では、エクレール発進を促す設備がある。

 そこは霊子戦闘機のアシストをするオペレートルームでもあり、戦闘時メルとシーは優先的にそこでジュスタンの補佐をしている。

『アニーと連絡つかないのかい?』

 司令室からのグラン・マの問いかけに、シーは答える。

「該当する蒸気電子番号ですけど、やっぱりアニーちゃんの霊力でしか動いてないから、通信繋がりません」

 続いてメルも答える。

「大戦以降、整備もなされてなかったスペア機ですからね……。

 あれでは周りの音を拾えてるかどうか」

 司令室のエランも、悪友へ通信をかける。

『そもそも、なんであのスペア機が広場なんかにあったのさ』

『コッタール卿って貴族いるだろ?

 フランスのどっかに埋められてたのをわざわざ掘り返してな、んでもってぶっ壊そうなんてバカをしかけたのさ、この広場でな。

 なに考えてんだか』

 悪友が降魔を爆殺対応しながら長々と説明する中、グラン・マは納得をした。

『なるほど……奴さん、WLOFとどっぷり浸かってたからね。

 WLOF名誉回復から自分の利益につながると勘違いしたんだろう』

『先代巴里華撃団はWLOF華撃団の大先輩。

 それに泥を塗るような真似、許されるわけがない』

 エランの言葉に頷いてると、メルの目と、液晶は大きな霊力反応を捉える。

「大型降魔反応、来ます!」

 

 晴天のある一点だけが暗くなる。

『新入り!

 早く逃げろ、大物出るから』

 旧い霊子甲冑は、霊子戦闘機の音を拾えない。

『デカい降魔出んだよ』

 ジュスタンの言葉と共に、一点から巨体から降り立ってくる。

 霊子甲冑と、それと同身長の霊子戦闘機の三倍は大きい。

 一対の翼を広げ、頭、胸、両腕、両足に西洋鎧を着こなした降魔だ。

 頬を覆う牙の間で口を大きく開けば、口が四つに裂けたように感じる。

 アニーは思った。

 あの大きな口で食べられたら、霊子甲冑も霊子戦闘機も丸ごと食べられるのでは。

 アニーは想像した。 その中での惨劇を。

「マジシヤンさん、逃げて!!」 

 霊子甲冑を通して声は放てない。

『やれやれ、腰抜かしてんのかな……?』

 一気に六枚の紙爆撃を放つ。

 爆煙から姿を現したのは、やや小さなY字ヒビを入れた鎧だった。

「弱点どこかな……おっ」

 フルールIIIが気配に見上げると、マントと鉄の翼を羽ばたかせるシャスール。

「シャスール!

 あっちの新入りの避難を」

 黒い鉄塊から、純粋な霊力の弾丸が乱れ撃たれる。

「シャスール!!」

 麗しき狩人の殺意の理由は、誰も知らない。

 それは彼女の胸中にある。 だから他ならぬ()()()()()()()()()()()()()()

 それに、彼女には確信があった。

「霊力持ちなら、あんな降魔も殺せる」

 だからアニーを助けに行かない。

『さっきまで光武の歩き方知らなかった素人にか?』

 一瞬で重機関銃の引き金が止まる。

『バカみたいに霊力高くたって、ちゃんとした使い道知らなかったら、足手まとい!!

 トーキョーのサクラ・アマミヤが証明してるようなもんだ』

 ジュスタン機、ヒビに向かってトランプパックの一つを射出する。

Feux d'artifice de luxe(フゥ・ダルティフィス・デ・ルゥクス)

 赤白二色の花火(霊子爆発)が、巨大降魔を軽く呑み込んだ。

 爆煙が晴れると、胸の鎧は消し飛び、ダイヤ形の爆傷が生じている。

 巨大降魔は痛みに呻きながら名に進む。

 霊子甲冑のモニターは映した。 悲鳴を上げる大口が、こちらを見下ろすシャスールを捉えんとするところを。

 アニーの中の怒りが、再燃した。

「いー加減に、しろ……!!!」

 降魔の大口から、間一髪且つ余裕で逃れたシャスールは、光武F3スペアの全身に光が滾っていくのを見た。

 いや、その光の中心は、銃剣を生やした右手にあり。

「どれ、だけ……おどれ、らぁぁぁぁ……!!!」

 とっくに錆びていたはずの足裏のホイールが、霊力を纏って回り出す。

「人様恨んで、なにするかああああああ!!!」

 霊子甲冑は危ない音を立てて、大地を滑走する。

 その行く先は、痛みに発狂する巨大降魔。

『アニーちゃん、巨大降魔へ向けて特攻!?』

『なにを無茶な!』

 光武F3スペア、宙へ飛び出す。

 二回り小さな鎧へ、巨大降魔の、大きな掌と鋭い爪が大きく振りかぶる。

 しかし、爆発と弾丸雨が大きな両手を妨げる。

 胸のダイヤ跡に、光武の銃剣指が刺さり込まれる。

 銃に支えられる輝く刃、刺されたダイヤから新たな光が描かれる。 夜の輝くであろうはずの星の花を。

「ぶっちぬけ!!!」

 丸い光が、怪物の胸を、ダイヤごと背中まで抉り取った。

 降魔は後のめりに倒れていき、地に触れた瞬間、溶けて消えた。

 重力に従って落ちていく光武F3スペア。

 それを下から止めて支えたのが、霊子戦闘機フルールIII。

『ったく……見せ場を新人に取られるなんて、我ながらとんだ先輩だ』

 自嘲を言いつつも、ジュスタンの心中はこうだった。

(首からほっぺってところか? マジでとんだ逸材引き当てたもんだ、グラン・マ……。

 ますます俺の出番もなくなるってもんだ)

 光武F3スペアをなんとか地に降ろすフルールIII、しかし瞬間、スペアの右腕が、瓦礫となって分解し、地面に散らばった。

『あらら……うわ?』

 光武F3スペアの前胴も前のめりに外れ、フルールIIIにぶつかる。

 フルールIIIは前胴をどけると、中身のアニーは呆然としていた。

 そこから見える景色は、フルールIIIと夕焼けだった。

 美しかったものの残骸と、溶けていく死骸が夕陽に照らされている。

 アニーの胸中は、不安と恐怖に呑まれている。

「お疲れ」

 体育座りを組んだ直後に、ジュスタンの声がした。

「説明する暇もなかったみたいだが……こういうことが華撃団。

 夜は歌舞で人を癒やし、土地の魔を鎮める。 俺はそこサボってばっかだけど……。

 時を問わず、今みたいなバケモンが都市を襲えば、コイツみたいな人型蒸気に乗って、悪を滅ぼし、この都市と人々を守り抜く……それこそが華撃団の使命ってワケ」

 ぎゅっと、足を抑える力が強くなる。

「出来るんですか、わたしに」

 その言葉に、ジュスタンはなにも返さず。

「怖いんです、さっきやっつけた奴らが。

 カッチューに噛み付かれたたんびに、すごく怖かったです。

 戦って、やっつけて溶かして消すのだって、怖いし……。

 でも、あいつらに噛まれて殺された人達は、わたしより怖い気持ちで死んでいったって思うと……戦ってる最中に、そんな感じに死んだりするのかって思うと……怖くって……」

 腕を生やす両肩から伝播して、全身が震える。

 村から出るんじゃなかった。 都会に来るんじゃなかった。 勝手に動くんじゃなかった。

 そういった後悔で、今すぐにでも逃げ出したかった。

「第一、歌も踊りも好きなだけで、舞台で出来るかどうか……」

「やるんだよ」

 強い女の口調に誘われ、頭が少し上がると、いつの間にか近くにいたグラン・マは厳しい目を向けていた。

「あら、支配人、いつの間に」

「出来るかどうかじゃない、やるんだよ。

 使える力があるのに、出し惜しみしてたら、色々無駄になる。

 今回の場合に出し惜しみしてたら……もっと多くの犠牲が出たよ」

 顔を上げる。

「やる気になったかい?」

 強く頷いた割には、アニーの面持ちはどこか冴えなかった。

 ただ、胸の内には負のものだけではなく、勇気が入っていた。

 巴里華撃団桜組爆誕まで、あと八ヶ月

 

次回予告

「アハハハハハハハハハ!

 アタシは大天災詐欺師ルーシーよ!?

 無霊力者がいくら死のうが構うもんですか!

 全ては、ステファニィのために~♡」

次回、新サクラ大戦2

『災厄を退けるは使命』

愛の御旗のもとに

「わたし、戦います!」

 

 




えー、第一話書き終わりましたこの作品は。
サクラ大戦の現行シリーズ『新サクラ大戦』の、自主制作続編になります。
発売直後に買ってクリアした二年前から迸らせてきた妄想を、ここハーメルンに解放していくわけです。
公式から新生巴里華撃団出される前に、こじらせてきたものを解放していくんです。
まあ当然、私オリジナル中心なんですがね。
太正と同じ世界のパリに私オリジナルをぶち込んでくわけです。
オリキャラって、自己顕示欲みたいで、書いてる私も正直イヤなとこあります。
とはいえ作品作りって、突き詰めたら自己顕示欲ですからね……。
それは置いといて、この新サクラ大戦2と名付けた同人作品で、守りたいものは
『漫画版サクラ大戦リスペクト』
『勧善懲悪』
『男女ハーレム』
『フランス語多様』
アニーちゃんは、外伝除いてサクラ大戦初の女子主人公を意識しています。
でも本家花組みたいに男1:女8な感じでは個人的になんか……こう……勝手に足りない!とか思っちゃいまして
そこだけが個人的ネックなんですね、旧サクラ大戦リスペクトなどと言っておきながら
ですから……これから女も隊員に出します。
誰が隊長か決まってませんが、アニーちゃんが主人公です。
つまりハーレム先です。
男女混合ハーレムなんて、斬新だと思ったまでです。
これから男女がアニーちゃんの元に集っていきます。
愛くるしい女子を取り囲む男女な感じです。

新サクラ大戦もサクラ革命もリスペクトが足りなかった(個人的に憎めないながらも)
もう少し旧ファンを喜ばせていれば、もう少し旧作をリスペクトしていれば、大目的の金もわんさか入ったというのにセガも勿体ないことを
これは私の勝手な願望ですが、香村純子先生が新サクラ大戦に参加してくれれば、売れると思うんです。
政一九先生には参戦の意思はないのが残念でなりません。

ところで、これと同時進行で日本側……本家新サクラ大戦チームの続編もオリキャラ込み旧キャラ込みで行いたいと思ってます。
開始はなかなか遅れると思いますが。

ではでは、これからよろしくお願いします。


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