ランサーで第5次聖杯戦争 (指が痛い人)
しおりを挟む

血生臭いプロローグ

「なぁ相棒、俺がんばったよな」

 

「えぇ確かに。普段の貴方にしては頑張った方だと私は思いますよ」

 

 男と女二人。黄昏の空の下、男が女に肩を貸してもらいながら足を引きずり丘を登って行く。足跡は赤い色で染められ、長い一本を描き続けている。

 それは何故か、男の後ろ姿を見るに明らかだろう。背中や腹には何本もの剣や槍が刺さっており見るからに痛ましい。

 彼の脳はとっくの昔にキャパシティーを超え麻痺しており感覚は無く、痛みを感じない。そんな中、無駄と頭の隅で分かっているが震える片手を動かし傷口を抑えるがそこから流れ出す血液の流れは止められそうにもない。

 

「すまないな、せっかく助けに来たってのにこんな結果になって」

 

 男は弱々しくも拳を強く握りしめる。その時の彼の脳裏にはこの悲劇の起こった経緯、そして自身の行った行為の結果の数々がまるで走馬灯のように走り続ける。その中には嬉しい結果も苦い経験も、辛すぎる出来事もあった。今ではただの過去の思い出の、記憶の一遍に過ぎない事ではあるが。やり残したこともあるし後悔も懸念も心配事や心残りもある。全部を救うことは出来ず、一番防ぎたかった事も防げなかった。彼は顔で笑いながらも暗く、気持ちが沈み込んでいくがそんな彼にも優しく彼女は語り掛ける。

 

「そんなことありませんよ」

 

 彼女は彼の軌跡と自身の人生図を知っていた。本来の道筋から少し脇道へと逸れ、本来の彼女とは全くの別人と言っても過言ではない彼女は女性特有の優し気な笑顔を向ける。

 

「あなたが私に待ち受ける運命を変えようと頑張っていた事は知っていますから、助けに来てくれた事は大変うれしく思います」

 

「っへ、そうかい」

 

 恥ずかしそうな顔をしながらも歩く男。しかし次第にその歩みはおぼつかないものとなっていき呼吸が浅くなり段々と光を失っていく。彼女はそんな彼の瞳を悲しそうに見つめるしかない。それは彼女が知っているから、彼がこれまで経験してきたの挫折を苦難を絶望の数々を。そしてこれから待ち受ける終焉を。

 

「今思えばあなたとは随分と遠くへ来ましたね」

 

「──―あぁ、そうだな」

 

 彼女もまた彼と過ごした思い出を浮かべる。

 幼い頃から一緒だった彼は私の兄と同等なほどに親密な関係であり、遠慮のない……家族のような存在。

 出会いこそ最悪──―いま思うと子供っぽい理由が切っ掛けで知り合い、そして仲を深めていたけど彼には本当に世話になった。

 選定の剣を抜くと決まった場合は彼は真っ先に反対し、周りの人に止められながらもそれでも無理矢理瞳に涙を浮かべながら私へ駆け寄って来ていた。

 私がマーリンと修行の旅へと赴く際にはスムーズに王を継げる為の下地作り、余計なトラブルを防ぐ為に嫌だ嫌だと言っていたはずの城へ、私のあずかり知らない所で赴いていた。それから王を継いだ後の再会は私もビックリでしたよ。てっきりその手腕を生かした料理人にでもなっているかと思いきや意外な才能を生かして騎士になっていたのですから。

 立場が変われば態度も変わると思っていたのですが……‥‥彼は全く、不服ながら昔と同じでまるで妹を相手にしているかのような態度であり変えることはありませんでした。他の騎士達の前では最低限猫を被っていたようですがそれ以外。例えば二人っきりの時などは昔と変わらずの接して来てくれました。

 その態度にどれだけ私が救われたか、貴方は知らないでしょうね。普段から兄さんにも言う事の出来ない相談事や愚痴など、付き合わなくてことにも紳士的に付き合ってくれていた事によってどれだけ私への負担が軽減されていたかなんて……あなたは変な所で鈍感なので気付いてはいなかったでしょうね。

 

 彼女は身の丈ほどありそうな真っ赤に染まった槍を杖替わりに扱い彼を抱え歩き続ける。途中に点在し、騒然とした光景を作り出している騎士達の遺体を背に丘を登りきる。そこからはブリテン島が一望でき、遠くまでよく見えた。故郷の村に彼とよく遠征へと赴き、色々と楽しかった立ち寄った大きな町に加え我らが城、キャメロットまでもがこの場所からは見える。しかしそのどれも自身の記憶にあるような光景ではない。村は戦の影響で廃れ、町からは離れているはずのこの場所まで聞こえて来る数々の悲鳴に怒号。そして城は────崩壊していた。幾度となくピクト人からの侵攻に耐えた強固な城壁は崩れ火の手が周り、白く美しかったはずの光景は見るも無残な光景へと変わっている。

 普通の人ならばこれに何か思う事があるだろう。しかし、彼女は何も思わない。だってこれら全ては自身の行動による結果であり、王となる前に予め示唆されていた事なのだから。

 

 ブリテンは本来早くからこうな結末を辿る運命だった。しかし、彼女が延命処置を施しそれが偶然上手くいってしまったが為に長々と続いて行ってしまっただけの事。その事を彼女は分かっているからこそ後悔はない。

 

「―――今思えばもっといい方法があったんじゃないかと俺は思うんだよなぁ……こんな酷い結果は至らない、な」

 

 ──無いのだが、それは彼女だけのようで彼女の抱える男は別だった。亡びの運命に対抗するためにひた走り、解決案を提示するが毎度上手くいかず苦悩していた彼からしたら受け入れてはいるものの納得はいかない。文字道理命懸けて努力、奮闘していたから直の事だ。

 

「──っけ」

 

 そんな光景を見つめ、感傷に浸る彼女の足元から声が聞こえた。目を向けるとそこには今にも死にそうな騎士が仰向けに、夕暮れの空を光の無い瞳で見上げながら倒れていた。この者も他の騎士と同じで傷があり肩から胸にかけて大きく斬り傷が確認できる。そしてそこから流れる血液により作られた水溜まりの大きさから見て手遅れである事が分かった。

 

「決死の覚悟で父上に挑んだってのに……それが操られた結果だったなんてやり切れねぇよな」

 

けれど彼女はそんな状態にあるにも関わらず何処かスッキリして憑き物が落ちたかのような表情を浮かべていた。

 

「でも、鈍感でニブちんな父上と本気の喧嘩が出来たからスッキリしたよ……」

 

「―――そうですかモードレッド、それは私もです」

 

彼を担いだ状態の彼女が倒れている者、モードレッドに話しかけるとだんだんと青く顔色を変えながらも驚く。

 

「うぉ!? 父上そこにいたのかよ……てっきり兄さんかと思ってたのによ」

 

その声に少しばかり笑顔を浮かべながら彼女の隣に彼をゆっくりと座らせながら自身もその隣へと腰掛ける。

 

「モードレッド……私も貴方とはこのような形になったものの感情と感情をぶつけ合い、語り合えた事は嬉しく思う。しかし出来るなら剣ではなく言葉で語り合いたかった」

 

彼女の言葉には後悔の念が籠っていたように感じられた。

 

「かの、アーサー王が弱くなったもんだな。反逆者にそんな言葉を語り掛けるだなんて」

 

そんな彼女の答えをモードレッドは別の言葉が返って来ると思っていた為に面白くないと感じ、アーサー王と呼ばれた彼女は驚いたような表情を浮かべた後、ふふふと笑みを浮かべる。

 

「ふふふ」

 

「なっなんだよ」

 

彼女の脳裏には彼のいなくなった後にとった自身の行動を思い浮かべる。突然の侵攻による戦。本来ありえざる赤き竜との戦い。物資不足による民たちの謀反。2番目に信頼を置いていた最強の騎士の反乱。彼が聖杯を取りにギャラハッド、パーシヴァルと共に旅立った後自身が考え、選択した結果は全て悪い結末へと至ってしまった。

 

「私は弱い。彼が居ないと間違った選択をしてしまうほどに私は彼に依存していたようです」

 

それを悪い事とは思わない。むしろ彼の存在が無ければ私はとうの昔に心を壊し、民の事すら考えられない冷酷な王へとなっていただろう。だが、それを彼は防いでくれていた。だけど私が彼と離れた途端にコレだ。今回だって彼が急いで駆け付けてくれなけばどうなっていたか―――本当に彼には迷惑をかけてばかりですね。

 

「本当に、本当に感謝していますよ。ファルシオ」

 

アーサー王は彼、ファルシオへと語り掛けるが答えは来ない。それもそのはず、彼は既にこと切れている。とても安らかでまるで寝ているような表情を浮かべた彼は友より託された槍へと寄りかかる状態で風に吹かれる。

 

「あぁ~兄さん先に逝っちまったか……まぁそうだよな俺の剣も思いっ切りぶっ刺さってるもんな」

 

モードレッドも薄れゆく意識の中、彼が黄泉へと旅立った事を察する。

 

「そう、ですか……そろそろ私も、のようです」

 

彼が先に旅立った事を確認すると限界を迎えたのかアーサー王も彼に寄りかかる。段々と意識が薄れ体に力も入らず強い睡魔が襲って来た。

 

「ほんと……あなたは……鈍い、ですか……ら――――」

 

そんな薄れゆく意識の中、自身が向ける好意を伝えることが出来なかったとちょっぴり後悔しながらアーサー王の人生は此処で幕を閉じた。

 

「っけ、父上ももう少し素直だったらこんな事にならなかったのかね」

 

後に残されたモードレッドはそのような事を呟き、息を引き取った。三人の眠る丘には季節外れの穏やかで、温かい風が吹いていたという。

 

こうして彼と彼女らの人生は幕を閉じた。しかしそれは彼の人生にとって始まりにしか過ぎない長い長いプロローグ。

 

 

さぁ、幕は開いた。物語を始めよう。

 

 

 

これはお節介が厄介事を呼ぶ、運の無い男の物語。

 

 

 

 

「で、俺が生まれたって訳」

 

「いや、いきなり何言ってるんだよ佐藤。って言うかストーブの上に座りながら奇行に走らないでくれよ」

 

「うっせぇ衛宮! ワサビ鼻に突っ込むぞゴラァ!」

 

「な、なんでさッ!!?」

 

千数百年後のある学校でそんなやり取りが行われたって言うのは余談である。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

いつもの第一話

「お、ちょうど良い所に来たな衛宮に佐藤、ちょっと手伝ってくれ」

 

「何だ一成。今度は何が壊れたんだ──ってオイッ佐藤! いつまでフランクフルト食べてるんだ。さっさと飲み込めって」

 

「うぐぐぐぐう──ッゴクン、っプハァ。いやぁ、あんまりにも美味しかったからつい。ソーセージは最高の食い物だって改めて実感するわぁ流石は祖国の味だな!」

 

「いや何でさ」

 

 時は200X年。俺、佐藤 翔は転生しこの時代に生を受けた。まぁ世に言うオレ強えぇ系の転生者……って訳でもなく、ちょっとした苦難と挫折を何度も経験した変わりと自負している者だ。前々世では普通の会社員。世に言うリーマンだった。具体的な事は記憶の摩耗でほとんど覚えてないが死ぬ直前に動物園を脱走した獅子にガブガブされた事は強く記憶に残っている。てか、衝撃的過ぎて忘れたいけど忘れられないな! 

 その後は再度転生し色々あって幼馴染兼相棒の人生に連れ添い、またも死んで今に至るって訳だ。俺の出生に関してそれなりに問題は付いてきたが今は無事解決済みで普通の人生を送り、高校生として人生を謳歌してるよ。

 

「ムム、それは変だぞ佐藤。俺の記憶が確かならソーセージはドイツの食べ物の筈だ……いやしかし失った記憶の中にドイツに居た時の記憶があった可能性も……むぅ、難しい」

 

 そんな生活の中、当然友も出来るもので。嬉しい事に俺は変わった友達を得たらしい。

 

「一成、騙されてるぞ。だってコイツハーフはハーフでもイギリス人とのハーフだぞ。あと記憶喪失についての話は真っ赤な嘘だ」

 

 俺の片割れの血を容赦なく言い当てて来る赤髪のコイツの名は衛宮士郎。俺がイギリスから日本へ移住する際に最初に友達になった自称正義の味方さんだ。基本お人好しの性格をしており、頼られたらNOと言えないから俺がついてやらなきゃ何時か体壊すんじゃないかと内心心配している大親友さ。

 

「そうであったか……いやなに、友からの偽りに気付かぬとはまだまだ修行の余地ありだな」

 

 そしてこの頓珍漢な予測を当然の如く外したメガネは柳洞一成。頭脳明晰、容姿端麗であり生徒会長と言う立場でありながら何処か抜けてる独特な口調で喋るお寺さんの次男坊さん。すこし説教臭い所もあるが鋭い洞察力で何度も俺の窮地を救ってくれた友でもあり恩人でもある奴だ。

 

「あちゃー、さすがは鋭さを誇る衛宮だ、俺の嘘に気付くなんて……もしやニンニンとアメリカのビル街を渡り歩くニンジャスレイヤーさんなのでは!?」

 

「何とぉぉぉ! ニンジャ!? エミヤ、ニンジャ、ナンデ!?」

 

「ドーモ、一成サン、佐藤サン、ニンジャスレイヤーデス──ーって誰がネオサイタマを飛び回る復讐者だゴラァ!」 

 

「アバーッ!」

 

 そんでもって親友に無惨にもハリセン斬りをまともに食らい、宙をぶっ飛んでる金髪野郎がこの俺だ。大体話を逸らす原因として動いてるからか最初に排除されたりする。

 

「ふむ、ハリセンでありながら見事としか言いようのない太刀筋。これはアレだな、ワザマエ! って奴だな」

 

「いつまで言うか!」

 

「グワーッ! 」

 

「流石は衛宮、だ、ぜ……」

 

「む、無念」

 

 俺には勿体無いぐらいの良い奴らで、ノリも良い。少々俺が貸す漫画でミーム汚染してるがまぁ、問題なかろう。俺にとって、前世の柵とかそういうの抜きで心から信頼できる良い奴らだ。

 

「爺さん、俺わかったよ。正義は悪を全て滅ぼせば実現するんだな」

 

「最終的に全て殺せば」 「よいのだぁぁぁぁッ!!!」

 

「そうそう、すべて殺せば解決―――ってアホかッ!」

 

 生徒会室にスッパンッ! と気持ちのいい音が響き、外でその音を聞いていた者はまたかとため息を吐いたのだった。赤、青、金って感じのトリオで大体過ごしているせいかバカな3トリオなんて呼ばれている。おかしいな、俺ってば平均的な成績キープしているはずなのにバカと呼ばれるだなんて……不思議だ。

 

 

 

 

「で、一成。このパッキン馬鹿のお陰で話は逸れに逸れまくったが何のようだ?」

 

「そーだ! そーだ! こっちは早朝に起きて学校に来た記念として屋上で凧揚げする予定があるんだぞ!」

 

「ちょっと待て佐藤、俺はそんな話聞いていない。それに肝心の凧は昨日薪として一緒に焼いただろ?」

 

「そーだった……む、無念」

 

「本来なら俺も是非とも参加したかったが凧がないならば諦めるほかあるまい」

 

 ぶっ飛んだ結果荒れまくっていた生徒会室。散らかった物を片付けて話に戻ろうとしたが結局それでお通訳のような空気に……南無三! 

 

「無いものはないでしょうがない。それは諦めるとして今回はある物を直して欲しく二人を呼んだのだ」

 

「ある──」

 

「物??」

 

 別の意味で空気が重くなり肌を刺すかの如きプレッシャーを感じる。

 自然と汗は吹き出し、ゴクリと衛宮が喉を鳴らした。何なんだ、一成ともあろう者がここまで出し渋る物とは……

 

 俺たち二人が注目する中、一成が指を指した。自然とその先へと視線を向けるとそこには──ー

 

「ストーブ、だと!?」

 

「実は文科系へ回す予算が足りなくてな……うちの学校は運動系の部活が優遇される。その影響でストーブも数が足りず、こんなオンボロも修理しなければ全部室へと行き渡らせることが出来ないのだ。だからこそ二人にはこのストーブの修理を頼みたい」

 

 一目でわかるほど劣化している古びたストーブ。ボディーは錆びつき、塗装は剥げて錆止めの塗料が見える。埃も積み上がりストーブの形式も古く、明らかに電気系部品よりも機械系部品の多そうなそれは去年俺達がマシュマロを焼くのに使用してぶっ壊したそれであった。

 

「だが一成何故アレなのだ。アレは去年衛宮が修理しようとして燃え尽き、真っ白な灰になりながら敗北宣言したそれじゃないか。俺達の手に余る物だぞ」

 

 震える手をもう片方の手で抑え恐怖を和らげようと努力する。

 去年の俺達はアレをぶっ壊した。ただ当然の如く壊したからには修復しようとしたが結果は惨敗。どうやら電熱線の部品にベットリと溶けたマシュマロが張り付いているらしく、水洗いも出来ない事から衛宮は敗北した。その結果は至るのに数時間ストーブに付きっきりだった衛宮はショックを受けて真っ白に燃え尽きたのはただの余談ではある。しかし、アレは結局の所廃棄処分が決まっていたはずだ。それが今更何ができるというのだ。

 

「俺達には手に負えないパンドラだぞ、一成はそれを理解できているのか!?」

 

「いや、ただ俺の修理の腕が足りないだけだと思うが……」

 

 シャラップエミヤッ! 今いいとこ、邪魔した鼻に粘度の高いオイスターソースぶち込むぞ。

 

「何でさ!」

 

 衛宮が鼻を抑え俺のポケットを警戒する中、一成は突如魔王のような笑みを浮かべ、戸棚の中から何かを取り出す。

 

「ふふふ、生徒会長であるこの俺を舐めてもらって困るだよ」

 

「なん……だと……」

 

 それは何かのパーツ。一見用途不明の機械部品なのだが今一番、俺たちの必要としていた物だった。

 

「お、一成。それは換えの電熱線じゃないか、よく見つけたな」

 

「ふふふ、その通りだ衛宮。実は親父殿の知り合いにジャンクパーツを取り扱っている店の店主がいてな。事情を話し、型の同じ代理部品として扱える物を取り寄せてもらっていたのだ! どうだ凄かろう!」

 

「な、なんだって!?」

 

「いちいちリアクションが大げさだなぁ二人は。」

 

 こちとら壊した事に責任を感じ、冬木の地から大金はたいて部品探しにわざわざ東京のラジ館まで行ったんだぞ。そりゃねぇーよ。あ、シュタゲの聖地巡り楽しかったです。この後滅茶苦茶修理した。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

変化する第二話

Q:今日遅れた理由を答えよ。
A:嘘つきな虫を取り行ってました。


今回は後半を先に書いてしまった為繋がりがかなり雑です。


「さて、とりあえずはこのストーブを運ぶ事にするか。手伝ってくれ衛宮」

 

「おう」

 

 俺と一緒に一成がストーブの両端を持ち生徒会室から運び出す。あのバカこと佐藤は先に燃料タンクを手に運び先の教室へと行ってしまった為に今は一成との二人。

 アイツはいつも俺と一緒に行動していたから俺達の傍から離れるのは中々珍しい事。少々新鮮な気分だ。思えばアイツとは長い付き合いなる。かなりの時間一緒に過ごしてきたからいて当たり前の存在になっていたんだな。

 それは一成よりも長く、フジねぇと同じくらいの付き合い。出会った頃はまだ普通だったのに馴れて来たら素を出し始めてからは、そのギャップによく驚いてた。そこまで考えた途端ふとアイツ、佐藤 翔との出会いを思い出す。

 

 翔との出会いはまだ爺さんこと衛宮切嗣が生きていた頃まで遡る。あれは吹雪の酷い正月の事、アイツは突然家に訪ねて来たのに驚いていたのをよく覚えている。爺さんと俺はこんな猛吹雪の中誰かと不思議に思い、出迎えるとそこにはその当時の俺と同じくらいの男の子がいた。

 真っ白な防寒着を身に纏い、長い間吹雪の中を進んできたのだろう。全身雪まみれで白に白を上塗りしたような姿になっていた。それが俺が見た最初の翼。

 

「▽〇※※キリィ!」

 

「ッ!?」

 

 多分外国語だろう、最後のキリィしか聞き取れなかったけど何かを爺さんへ伝えると爺さんの顔色が一気に変わった。それを不思議に思い俺も爺さんから止められ。彼らはそのまま応接間代わりに使っていた部屋へと入って行ってしまった。部屋の中で何を話しているのか聞きたかったが、防音の魔術を使っていたらしく何も聞き取れず数分後、二人は部屋から出て来た。

 

 翔は俺が話しかけても俺自身を認識していなかったようで横を素通りという冷たい反応を示し、そのまま家から立ち去る。誰だと思いながら何事かと不思議に思い爺さんの元へと向かった。俺が部屋に入ると爺さんは外から見える翔の姿を窓から眺めていた。そしてその時の爺さんは────泣いてたんだ。

結局その後理由を聞いてもはぐらかされ、爺さんが死んじまったから分からず仕舞い。本人に聞いても覚えていないの一点張りだし、分からず仕舞いだ。

 

 まぁそれはともかくとしてアイツとの最初の出会いはそんな最悪の出会いだった。そんでもって二回目に当たる出会いはそれから時が経ち、蒸し暑い感覚が全身を包み込みセミの煩い声が響く夏の季節になってからになる。そしてその時も突然だった。

 

 俺が近くの公園で遊ぼうと向かった時、アイツはいた。

 

 公園に1人ポツンとブランコに座る金髪の少年。顔つきは明らかに日本人って顔つきではなく、外国人を見慣れていない状態だった俺からしたら異質に感じた。そんな感覚も他所に当時の俺は翔へと話しかける。まぁその後なんやかんやあって殴り合い、友達になった……けれども難物だった。最初はこんな愛想のいい奴ではなく、今思えばまるで見えない誰かを追いかけ続けているようにも感じられる奴。今の光景を何処か他人事のように感じているかの如く振舞う変人……まぁ簡単に表すならコレだな。だけども、一緒に過ごしていくうちにその欠点も無くなり素の性格が出てくる。だけどなぁ、性格が180度裏返ったかのような人懐っこい変人へと変わるのは予想してなかったぞ。

 

 中学に上がると翔が起こした事件を切っ掛けに一成と出会う。その事件を解決する頃には既に俺と翔の歩道信号コンビという不名誉なコンビへと組み込まれ、新生信号機トリオと言われるようになったのは流石に堪えたが……いい奴なのには違いない……と、思う。うん、正直問題ばっかり起こされちゃこっちも庇いきれねぇ。毎度の如くアイツがふざけ始め、一成が悪乗り、結果的に俺が被害を受けツッコミを行うコンボが恒例の流れで自然と問題を起こしてしまう為に止めようにも止められない。まぁ、逆説的に考えれば俺や一成が居なければ特に問題は――――

 

出会いの記憶から過去の思い出へとシフトし、友の問題点へ頭を悩ませる思考へとギアチェンジしていると一成が不満そうにこちらを見ている。

 

「衛宮……考え事をするのは構わないが何故持ち上げたっきり動かないのだ。正直言うがそろそろ腰の方が辛くなってきたのだが‥‥‥‥」

 

「す、すまん」

 

そうだった。ストーブを運ぶ事をすっかり忘れていた。

俺は一度持ち方を変える為に生徒会室の前の扉の前でストーブを下ろす。いくら燃料が入ってないとはいえ機械部品で構成された鉄の塊だ。あのままじゃ途中で落としてただろうし、意外に体力がワカメな一成には長時間持っているのはキツイだろうからな。

 

そうやって休んでいるとこの時間帯には珍しい人物が歩いて来た。

 

「ふぅふぃ、ほぉ。冬とは言え軽い運動でも中々キツイものだな……ん? どうした衛宮、何を見ているのだ―――ッ!」

 

一成も上がった息を整え俺の見ている方へ目線を向けると一気に顔を歪ませた。まぁ、一成だったらそんな反応だろうな。

そんな感想を抱きながらその子へと意識を割く。俺達の見つめる先、そこで歩いているのはこの学校のミスパーフェクトこと遠坂凛という名の女子学生。頭脳明晰、容姿端麗、運動神経抜群。社交性も高く、その名の如く何処を見ても欠点のない女の子だ。そして一成が嫌ってる理由ってのがその欠点の無さなのは完全な余談だったりする。

 

だけど変だな。遠坂が登校してくるにはまだ早いはず……何故こんな時間帯に? そんな疑問を抱いているとそんな彼女の意外性を引き出す人物がやって来る。

 

「お、凛チャンじゃん。今日は早いな」

 

我らが問題児であり、俺達を置いて比較的軽い燃料タンク"だけ"を早々と運んで行った翔だ。

 

「あら佐藤君、ごきげんよう」

 

幸い彼女らとの距離は俺達とさほど離れてはない。一成も―――

 

「――――ッチ、メギツネめ。またも男子生徒を誑かそうと―――」

 

―――っと、こんな感じで一方的な私怨を念仏かの如く呟くbotになってしまってるから一時は動けない。再起動するには翔が茶番を始めるか遠坂が何処かへと行くしか方法は無い。つまり何が言いたいかというと―――俺、動けない状態になってしまっているのだ。……なんでさ。

 

「あら遠坂さんったら冷たいのね……昨夜はあんなにも激しく強く求めて来たって言うのに―――」

 

「ふふふふ、そうよぉ可愛い子ちゃんはついついいじめたくなって――――ってそんな事あるかぁ!」

 

なるほど、遠坂はSだったのか。

激しく怒れる遠坂。普段からは想像もつかない彼女の姿は一部の生徒には大変有名であり人気だった。

 

その変貌ぶりは凄く、何故か本人は気付かれていないと思っているらしくアホの子要素も加わる強者だ。その為、それを理解した多くの人がギャップ萌えなどの感情を抱き、ある意味暗黙のルールとしてそれに気付かせないっていうものがあったりもするがそれは今、関係ないだろう。それをばらそうとしたワカメが全治2週間の怪我を負っていたのは余談である。

 

話は戻るが、そんな遠坂を面白そうに笑顔を浮かべながらそのまま会話を続ける翔……アイツ、最近フジねぇとの時間が取れず、ストレスが溜まってたみたいだったからなぁ……全力で楽しんでやがる。でも新しいおもちゃが目の前にいるからって朝っぱらからその会話はどうかと思うぞ。

 

「あれはただ貴方に聞きたい事があっただけで―――」

 

「それはアレか? 人の好みを聞きに来ていたのか……ハァ、仕方ないな遠坂チャン君は、俺の好みは――――ズバリ女王様だ」

 

「っふ、それは良い事を聞いたわ。さぁさっさとひれ伏し許しを請いなさい、このぶ――――――って私になんて事言わせるのよ!」

 

「あれれぇ~? おかしいぞぉ~、今のは遠坂チャンが勝手に言い出した事だよね~???」

 

「そうそう私が勝ってに――――ってあるかぁ!」

 

「ヒデェブッ!」

 

テンションも上がって来たのか遠坂の仮面は剥がれ落ち恐らく素の性格であろう彼女が現れて来た。その光景には恨みつらみを呟く一成も思わずニッコリ。

本当ならこうなる前に止めに入ったりするのだが――――あの状態、俺がヘブンと呼んでいる状態の翔に近づくのは得策じゃない。昔は何度か止めに入ったりもしたけど最終的に巻き込まれ酷い目に合ってたからな。ワサビ味のシュークリームタコ無しイカ焼き事件では酷い目に遭ったぜ。

でもそれはそれとして痛そうだな、思いっ切り遠坂の持つ鞄のフルスイング食らってたぞ今の。

 

「ハァ、ハァ、何で今日は朝から酷い目に―――ハァ~」

 

遠坂は気絶し、床で伸びている翔の首元を掴むとズルズルと引きずりながら階段を上がって行った。その様子はまるで遺体を引きずるサイコパスのよう。その光景に今まで感じたことの無い別のベクトルでの恐怖に身を震わせた俺達はその後何事もなく、何も見なかったという事を胸にストーブを運んだのだった。

 

※※※

 

学校が終わり夕方。俺は衛宮家にお邪魔し夕ご飯をご馳走してもらう約束をしていた。ついでにタイガさんを弄りに。

いつもの俺ならばテンション高めのルンルンな気持ちで衛宮家で過ごすんだが……今、この時の俺のテンションは最底辺を記録していた。それは何故かって? 俺達には夕ご飯の前にやる事があったからだ。

 

「トレース、オン」

 

 魔術……それは神秘や奇跡を人為的に、人の手によって再現、模倣する行為の総称を指す。

 非科学的で非現実的な要素が複雑に、まるで化学式のように織りなし組み合わされているそれは様々な種類が存在する。だがそれは一般人に知られることは無く、魔術を扱う者達によって徹底的に秘匿され隠されている。それは何故か、まぁ有体に言えば迫害を避ける為……かな? 

 まぁそれはともかくとして。魔術の歴史は古く、神代と呼ばれる紀元前1000年以上前の時代に存在していたと言われている魔術王が起源と言われている。

 そしてその技術は後の世の人間へと世代を重ねながら受け継がれていき。途中別れ、種類を増やしながらも形を変え現代へと受け継がれて行った。

 まぁつまり何が言いたいかと言うと……俺の友にはその魔術を使える者がいる。

 

「────基本骨子、解明」

 

 俺も前世で嫌と言うほど魔術とは密接に関わって来たから分かるがあれは────正直気に入らない。

 奇跡や神秘を直で目の当たりにしてきた俺にとって現代の魔術なんて……ただの遊戯みたいなものだ。俺は化け物のような強さを誇る魔術師を知っているし、それを上回る事象も知っている。けれど俺が一番魔術を気に入らない理由は────―

 

「────構成材質、解明」

 

 ──―俺が基本的に使えない技術だと言う事だ。俺には魔術で重要視される魔術回路と呼ばれるものがない。いや、正確に言えば使える回路がないからだ。

 前世では魔術は俺の生活基盤だった為に正直ツライな……今まで出来ていた事が出来ていないだから。今世と前世を割り切って考えていなければストレスで禿げになるぜ。

 

「──―よし、壊れている所が分かったぞ。佐藤、そのドライバーと銅線、ビニールテープを取ってくれ」

 

 そんな俺を知ってか知らずか──って言ってもコイツの性格と変な所でニブイ所を考えるに素で気付いていないだけだろうが俺の前で魔術を扱う時はまるで褒めてーって感じのイヌッコロのように瞳を輝かせながら魔術のできを俺へと聞いて来る。はぁ、せめて女だったら需要ありだったのに大変遺憾である。

 

「どうだ佐藤、今回の俺の魔術は。俺的には10点中9点の高得点だと思うんだが──ー」

 

 ほら、今回も聞いてきた。いっそのこと嫌味や遠回りな嫌がらせだったらまだマシだったのにこいつの場合、ただただ純粋に聞いて来るからある意味タチが悪いんだよなぁ……ハァ。魔術、教えるんじゃなかったなぁ。

 

「はぁ? まだ半人前以下の魔術使いの分際で俺から9点もぎ取ろうとか片腹痛いわ!」

 

「……揚げ出し豆腐増量」

 

「悪かった衛宮、お前は立派な魔術使いだ!」

 

 魔術の師をよりにもよって俺に引き継がせるだなんて。本当キリさん……いや、親父。この事に関しては恨むからな。そんな事を頭の片隅で考えながら前世で培った魔術の基礎を衛宮へ叩き込むのであった――――

 

 

 

あ、夕ご飯は美味しかったです。ご馳走様でした。




・佐藤 翔

陽気で変人。学校では一番の問題児でありながら一番の優等生とも知られている学生。
やる事成す事は無茶苦茶ではあるものの、結果的にいい方向へと進むために彼を頼りにする生徒も多い。
様々な過去を隠しているようだがまだ明らかになってはいない。

「座右の銘は終わりよければオールOK!」

・柳洞一成

お寺の子であり頭脳明晰、容姿端麗の生徒会長。
かなり真面目で堅物な雰囲気を醸し出しているが翔が近くに居るとアホになる。何がとは言わないがアホになる。

「ふむ……1と1が合わさると田圃になるとは知らなかった」

・衛宮士郎

 翔を抑える為の安全装置兼便利屋と知られている。
何時も翔に振り回され、引き回され、頼りにされているいい奴。ある事が切っ掛けで弓道部を辞めたらしいのだが詳しい事は知られてない。自身の親が使っていた魔術の習得を目指している。

「便利屋ってなんでさ!」

・遠坂凛

学校一の才女でありながら容姿端麗であり、運動神経抜群。更に社交性も高くその名の如く全ての事でパーフェクト。
しかし翔が接触すると塗り固められた仮面は意味を成さず素で相手していまう。その時の様子を偶々見てしまった生徒はそのギャップでやられてしまい慕うと言う。最近非公認ファンクラブが出来たとか……

「ほんっっっと、アイツといるとペースが狂いっぱなしなのだわ!」

完全に余談ではあるが翔から酷過ぎる機械音痴を一発で見抜かれた過去があるらしい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

運命の第三話

自分自身が読みたい作品を書き殴っているだけなので誤字報告などジャンジャンしてください。
でも辛口コメントは辞めていただけると幸いです。何故かって? モチベが下がるから。
矛盾点見つけても目を瞑ってくださいね。


「ふぁぁ~、クッソねっむ」

 

衛宮家からの帰り道、街頭が照らす夜の住宅街を1人俺は歩いていた。

ってかこんな遅い時間に変えるつもりなかったんだけど食い終わった後、フジ先生こと藤村先生が絡んできた。俺的にはタイガーつまり獅子には恨みも辛みもある為に断る理由もなくあれよあれよと道場での勝負に。竹刀での勝負だったのだが俺はその時ピンチだった。フジ先生はちゃらんぽらんで将来生き遅れになりそうなハチャメチャな性格はしているが剣道の段保有者ではある為に行ってしまえば実力者だ。竹刀での戦いに馴れてるのもあってオフザケではあるが対面してみると隙は一切ない。俺はというと昔からロングソードの類は苦手で前世でもどっちかというと槍を使っていた。せめて一回り短いショートショード程度だったらまだ何とかなったんだけどこの場合は仕方ないと思いフジ先生と戦った。

結果はどうなったかって? 俺の頭に出来た大きなたん瘤を見たら察するんじゃないですかね。

その後、もう遅い時間なので俺を帰そうと探しに来た衛宮に見つかりあえなくフジ先生御用。そして今に至るって訳だ。

ホントフジ先生には困ったものだ。口では勝てないと悟ったのか実力行使で絡んできやがる。まぁその分運動出来るのはありがたいが―――へとへとになるまでやらなくてもいいんじゃないですかね。

 

「ハァ~」

 

へとへとに疲労した体に鞭打つかのような気分でこの憎たらしい坂道を登る。

俺の家は深山町と呼ばれる冬木の地にある町の小高い丘に当たる場所に建てられている。まぁまぁな大きさを誇る洋風な建物で元はどっかの貴族に仕えていた使用人達の家だったらしく、それを改装し今は佐藤宅にしている訳だ。

 

そんな我が家に帰宅しようと歩くと大きな屋敷が見えてくる。赤レンガの使われた結構な豪邸だが館の外観は手入れのされてない蔦で覆われ、いかにもな魔女屋敷といった風貌の建物があった。あのミスパーフェクト(笑)で名高い遠坂さんのご自宅だ。

実は遠坂チャンとはご近所さんで俺がこっちに引っ越して来てからの知り合い。

まぁ最初はこっちが没落した魔術師の家系だからと見下されてた。だけどある事が切っ掛けで魔術の指導をする事になり、俺がちょちょいのチョイッ!って感じで指導を施すと何とビックリ才能開花。それからは友人関係となって今に至る訳だが……アイツの猫かぶり面白すぎだろ。何だよあの絵の描いたような優等生っぷりは。最初見たときは同一人物だと分からなかったぐらいだぞ。まぁそんなわけで遠坂チャンとはご近所である俺の家だが、魔女屋敷であるあの家の間隣に隣接している為に蔦の侵食が……

 

「あとで遠坂チャンにクレーム入れとかないと」

 

そんな訳で俺は無事家へと帰る事が出来たのであった(マル)

 

 

アレから時間は経ち夜の0時。辺りはシーンと静まり返っており何処か不気味な時間帯だ。

 

そんな時間に俺は家の地下室にてある儀式の準備を始める。まず準備するものは自身の体液の入った水銀、もしくは自身の血液。それとお札の張られたしめ縄。それを使い俺の家に代々伝わって来た幾何学模様の組み合わされた魔法陣を描く。記憶の通り、一遍の狂いもなく描かれるそれは我ながら綺麗で世に言う機能美というものにも見える。その後はそれを囲むようにしめ縄を部屋の彼方此方に結び取り囲んだ。

何で魔術の使えない俺がこんな事をしているかというとその魔術が使えない事に起因する事だからだ。

 

まず説明すると冬木の地は霊脈と呼ばれるものが張り巡らされている。それが何なのかは俺も知らないが魔術を扱うのに必要不可欠な燃料の魔力が充満している。そしてその霊脈が強い場所が複数存在しており俺の家がある場所もそのうちの一つだ。そんでもって俺が今から行う事はその霊脈への直接的な干渉だ。

 

 俺の体には魔術を流す為の回路はあるが魔力を生み出す炉がない。簡単に説明すると水道を通す水道管は沢山張り巡らされてはいるが肝心な水源が存在しない状態だ。通常の魔術師、というより生物ならばならば水道管があるのならばその水源は大なり小なり存在している。しかしそれが俺には存在しないのだ。でもその状態は危険でもある。なぜかと言うと前世から引き継いだ起源である【改変】が足を引っ張り魔力を通さなければ回路が劣化していく為だ。

放っておくと大変な事ととなる。

その事から俺は通常ならば短命で終わる命だったが今も生きている。何故生きているかというのを話すにはまず俺の出生してからの人生を少しだけ語る必要が出てくる。

 

 育ての親である母に聞かされた話では産みの母親である人が俺自身を魔術師相手に身売りに出したそうだ。そして当時跡継ぎを探していた爺さんが俺を買い取り育て始めたってのが俺の生誕の秘密。まぁそのおかげで実の父親であるキリさんには認知されてはいなかったけどね。

んで、その爺さんが使っていた魔術というのが召喚術の元である霊脈を利用した降霊術の類だそうだ。肝心の内容は教わる前に爺さんが亡くなってしまった為に分からないが、残された文献を察するに歪みを伴う霊脈から霊を引き出しその身に落としてその霊の力を借りる魔術だったとか。

さて、ここまで話したが、話を戻す。引き取り人の爺さんが俺を引き取った後、その魔力を流さなければ劣化する魔術回路と魔力を生み出さない欠陥に気付いてある魔術を編み出してくれた。その魔術ってのがその降霊術の魔術を改変し編み出した干渉の魔術だ。

 

 必要な準備を終えて魔法陣の真ん中に立つだけで発動する魔術であるがその中身はかなり特殊で俺でしか使えない。キリさんから変異して受けついだと思われる起源の【接続】と【解除】を使い霊脈へと俺自身の魔術回路を接続。その後は魔術回路を蝕む元凶である【改変】を使い俺の魔術回路を霊脈の一部だと誤認させることによって霊脈に流れる膨大な魔力を回路へと流す事ができる。この魔術に詠唱は必要なく魔法陣を描くだけで発動できる魔術だ。ただし制限が設けられており夜0時から朝の6時までしか使うことが出来ない。お札付きしめ縄は保険なようなもので接続する際のノイズをカットする役割を担っている。

 本来なら霊脈の魔力をそのまま体へと流す事は危険な行為に当たるが俺の場合素で魔術回路の本数が多く、死んだ爺さんの回路を受け継いだ事も相まって問題なく流す事ができた。

 魔術を一度発動すると意識が薄くなりやがて星空の海のような場所へと至る。そこは多分霊脈そのモノ。感覚的に俺が俺ではなくなり霊脈に干渉するモノの存在が認知できるようになるため、正直あまり好かない。自分が自分では無くなるような感覚だから。まぁそんな訳で一日の終わりには必ずこの魔術を発動しながら寝落ちするのが俺の日課だ。

 

 そして今日も何時ものように魔術を使い霊脈へと繋がったは良いのだが‥‥‥‥今日は、此処最近は何だか変だ。やけに霊脈へと干渉している場所が多く、その場所も特定できない。特定できない理由はそこから魔力が吸い出されている事にあるので多分、何かしらの魔術が行使されているのだろう。

 

なんだろ、冬木の地で何が起こってんだろうか?

 

疑問に思っていながらも魔力の中に漬かっていると遠坂邸の地下に当たる場所からあった干渉の感覚が消えた。お隣さんともあってか直ぐに分かった。

 

おかしい。遠坂チャン…って言うより遠坂家の得意とする魔術は宝石魔術のはず、霊脈を使う魔術はなかったと思うのだが……

 

不思議に思いふわふわぁ~っと意識をそこへと飛ばし何をやっているのかを探ろうとした瞬間―――

 

「あ、が、ぎぃぃ!?」

 

突如、頭の割れるような激しい痛みに襲われた。

 

「そそそそは銀に鉄、ちちちち血に葛藤。おおおおおおお降り立つ壁には破壊を。 しししし四方の門は開け放たれ、王冠より出で、おおおおお王国に至る三叉路は循環せよ」

 

頭の中で知りもしない、謎の詠唱が自分の意思とは別に紡がれていく。

 

「みみみみみみみみみ開けよ(みたせ)開けよ(みたせ)開けよ(みたせ)開けよ(みたせ)開けよ(みたせ)。繰り返すつどに五度。

ただ、満たされ分け隔てる世を破却する」

 

その一言一言を紡ぐ度に頭の中の血管が切れそうになるほどの痛みが走り、次第に意識が遠くなる。

 

「つつつつ――――告げる」

 

段々と意識が遠くなり、痛みが麻痺して感じなくなると自身の意志とは関係なく行っていた詠唱がハッキリとしてきた。

 

「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に」

 

次第に視界は霞み、霊脈から現実へと引き戻される。

 

「聖杯の寄るべに従い、この意、この理、この繋がりに従うならば応えよ」

 

何かと繋がった感覚を感じながら焼けるような痛みを右手の甲に感じるが、今の俺に何もする事はできない。

 

「あの日の誓いを此処に。我は世の理を変えた者、我は待ち受ける運命に逆らう者」

 

そんな中、まるで走馬灯のように前世の記憶が頭の中で浮かび上がり、流れていく。どこで誰と出会い、どんな思いでを作ったか。どんな悲劇による後悔と悔しみを感じたか。そしてどんな思いで死んでいったか。そんな辛く、悔しい思いも楽しい思いもした過去の記憶が流れていくうちにある思い出へと辿り着く。

 

「汝三大の言霊を纏う七天、我が身と隔たる世界のより来たれ――――

 

それは彼女と過ごした故郷の村での思い出。数々の出来事があったその村でも割かし何時もの光景でもあるそれは―――――――彼女の笑った、可愛らしい顔だった。

 

―――聖剣の担い手よッ!」

 

魔力の抜ける久しい感覚に体を任せながら俺の意識は落ちた。

 

――――※※※※※※※。運命の再会ですね、マスター(相棒)

 

その直前、懐かしい声を聴いた気がした。

 




今回使った詠唱。

そは銀に鉄、血に葛藤。

降り立つ壁には破壊を。

四方の門は開け放たれ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ

開けよ(みたせ)開けよ(みたせ)開けよ(みたせ)開けよ(みたせ)開けよ(みたせ)。繰り返すつどに五度。ただ、満たされ分け隔てる世を破却する。

――――告げる。

汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

聖杯の寄るべに従い、この意、この理、この繋がりに従うならば応えよ。

あの日の誓いを此処に。我は世の理を変えた者、我は待ち受ける運命に逆らう者。

汝三大の言霊を纏う七天、我が身と隔たる世界のより来たれ―――聖剣の担い手よ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

睡眠の第四話

うむー、難しいな。



 懐かしい匂いがする。

 

「起きてください」

 

 それは何だか忘れてた匂いであり、長らく嗅ぐことも無かった匂い。お日様のようで暖かな懐かしい匂い

 

「お寝坊さんですね……早く起きないと私が食べちゃいますよ……がぶっと」

 

 でも可笑しいな。そんな匂い、嗅いだ記憶なんて今世では無いってのに……まさかコレが────母の温もりって奴か? 

 

「────誰が母ですか誰が」

 

 何だかそう考えるとそれにしか思えなくなってきたぞ。多分今の俺の状態は死んでる。そしてその状態で行く場所と言ったら俺の場合は冥界送りが決まっている為に多分そこだろ。

 

「冥界ですか……なるほど、これで一つ疑問が解けました。生前の活躍から座へと登録はされているけれど肝心の魂が冥界送りになっていた為、座で貴方を探しても中身の無い抜け殻しか見つからなかったのですね」

 

 そして冥界で待ち受ける者とは誰だ。それは決まっている母だ。

 

「いや、それはおかしいのでは?」

 

 そして今は恐らくだが母が俺を抱き上げてくれていると思う、ってか思いたい! だってぇ前世と今世では母の温もりなんてただのただの一度も感じる機会なんて無かった。こちとら連ちゃんで物心つく前に母親死んでんだぞ、それぐらいの願望叶えてくれも良いじゃないッ! 

 

「……確かに。今思えばあなたの母上を見た事は無かったですよね……既に亡くなっていたのですか」

 

 こちとら母性に飢えすぎて今の性癖が赤ちゃんプレイ希望な紳士へと進化しつつあるんだぞゴラァ! ママ上殿ぉぉぉ! ママ上殿は何処じゃぁぁぁぁ! 俺にばむみを、母性を感じさせてくだされぇぇぇぇえ!! 

 

「────ッ! ……。と、特殊な性癖ですがこれも個性です。が、がんばって受け入れましょう。うん、だいじょぉぉーぶ」

 

 ってか、冥界送りで思い出したが──―

 

「マーリンからの卑猥な煽りと嫌がらせにも耐えたのです。これぐらいの障害、問題なく乗り越えられ──

 

 ────あの神さん、エレシュキガルさんは元気にしてるだろうか? 

 

 ────ん? 上さん??? ……上さんッ!?」

 

 今思えば一度目の冥界滞在期間はかなり長く、時は色々と世話にもなったりこっちも世話もしたなぁ。問題があったとしても一緒に協力して解決もしたっけ。

 

「なななな何故ですファルシオッ! 何故冥界で奥方など娶っているのです!! それもよりによって冥界の神ですかこのヤロォォォッ!!」

 

 神さんは威厳だけはいっちょ前の癖にあれで結構おっちょこちょいな所がある。俺がいつも一緒に居てカバーしてないと問題起こしてしまいには泣いてしまうからかなり心配だ。一緒に過ごしてくうちに俺が一緒に居てやらなきゃ直ぐに泣いちゃうぐらいにか弱くなっちまってたからなぁ……あの人。すっごく心配だなぁ。

 

「なんですかなんですかなんですかッ! 何で! ファルシオは何時も何時も私の目の届かぬ場所へと1人で行くと、一癖もッ! 、二癖もッ! 、あるような癖の強い女性ばかりと関係を持つんですか! それも今回は奥さん!? 貴方そんなのとは無縁だったでしょうが! グィネヴィアに迫られた時だって覚悟決まらず、魔術を使いランスロットに押し付けたチキンハートだったのにッ!」

 

 そんな弱っちい癖にベットの上(の掃除)では主導権を握りたがって必要以上に(掃除を)頑張るし……あ、だからと言って4日間ぶっ続けて(掃除を)やるほど体力は俺にはないので辞めていただきたい。

 

「ガ──ーン。マーリンに次いでまたも遅れをとるなんて……これは本格的に起こして事情を聴取しなければ──―」

 

 いやぁー、何で今までホントにこんな記憶忘れてたんだろ。これはあれか、生まれ変わった障害って奴なのかな? 

 

「起きてください起きてください起きてください起きてください、起きろッ! 

 

 ってかさっきから何だよママ上殿。バブ味を味わわせてくれるならもう少し丁重にだな──―

 

「これだけやっても起きませんか……あまり使いたくはないのですが仕方ありません、最終手段です」

 

 ────お、そうそう。バブ味を感じさせるならまずは耳ふぅふぅからだな。わかってるじゃないかママ上殿。

 

「本当に声帯が似ていると困る事もあるものです。ファルシオ、起きるんだファルシオ────

 

 おぉスウィート、おぉスウィート。これだけ耳ふぅふぅが心地の良い物だとは思いもしなかったぜ。それに加え前世の名前呼びだなんて、ママ上殿分かって────

 

 ──―早く起きないとあの夜のようにもう一度君を食べちゃうよ?」

 

 俺はこの瞬間、前世での悪夢の瞬間を思い出した。それと同時に悪寒が全身へと走り体毛が全身で逆立って、鳥肌の浮かび上がる感覚もやって来る。

 それによって長らく忘れていた憎しみやら怒りやらがごちゃごちゃになった感情が爆発。俺は飛び起きた。

 

「オラぁマーリン何処じゃゴラァッ! 今日という今日はその糞生意気な顔面にモルガンと一緒に編み出した対マーリン特攻の魔術ぶち込んだらぁ!!」

 

 目を開け飛び起きるがそこは薄暗い岩と埃で出来た冥界……ではなくすっごく見慣れた儀式の部屋。そして視界を塞ぐのは天井に結びまくったしめ縄だった。

 まぁしめ縄に関してはベッドの上に立ってる関係上仕方ないとしてあれれぇ? おっかしいぞ、さっき確かにあのクソムカつく夢魔の声がしたと思ったんだけどなぁ……

 

 疑問に思いながらも辺りを見回す為に振り返る。そして俺の視界に映ったのは久しくも懐かしい──―

 

「目覚めましたかマスター(相棒)

 

 冷たい目でこちらを見つめる前世での親友(相棒)の姿だった。

 

 って、お化けぇぇぇぇぇぇぇええええ!!!? 

 

「く、くぁwせdrftgyふじこlp」

 

※※※

 

 ハァ、何でこんな状況になってしまったのでしょう。

 

「く、くぁwせdrftgyふじこlp」

 

 世を超えた奇跡のような再会だと言うのにマスター(相棒)は私を見つめた途端、そんな言語とも思えない理解不能な言葉を叫びながら再度気絶してしまいました。

 ハァ……せっかく色々と聞きたい事があったというのにこれでは興ざめです。彼の事ですから大方私の事を霊か何かだと勘違いしたのでしょう。ファルシオは生前からゴーストの類が苦手でしたからね。

 

「ま、マーリン。やめてくれ、俺には妻と子供が……」

 

「いや貴方、結局人生を終えるまで未婚者だったでしょうが」

 

 中々にツッコミどころのある寝言を吐くファルシオを丁重にベッドへと寝かせます。安心しきった表情で私の膝を枕として使い眠っている彼を見ていると、段々と先ほどまで考えていた事が馬鹿らしくなって行きそれどころか彼と再び触れ合える事に嬉しさを感じてしまいます。

 

「本当に再会出来て良かった」

 

 触れる髪は恐らく生前と同じ色に染めているからだろうか、少し硬く、その顔は私の記憶とは似ても似つかぬほど違った顔つきをしている。

 

 姿も名前も私の生前の頃とは違い、ほとんど別人と言っても差し支えない。けれど私には彼だと一目で分かりました。だって彼の魂が放つ光を私は憶えているのだから。

 あの日、あの時。彼から手渡された聖槍。それを手に取った瞬間感じられるようになった魂の輝き達。それは十人十色でそれぞれに色も形も違い、特徴も持っているが私にはどうでも良い事だ。彼の魂さえ覚えていればいいのだから。

 

「ふふふ」

 

 私も本来王としてこのような考え方はいけない事と考えることもあります。民よりも1人の人間を大事にする考え方なのですから。しかし、この身は既に死に、歴史に刻まれた過去の存在。死んだ後ぐらいは失いかけた1人の少女に戻っても、バチは当たらないとこの世界の男マーリンも召喚される直前に言ってました。マーリンは隠す事はあっても嘘をつく事は人生を通して一度もありませんだ。だからこうしていても問題ありません。なんせ彼のお墨付きなのですから。

 

「サーヴァントという形ではありますが、貴方との再会を大変喜ばしく思いますよ愛しのファルシオ」

 

 これで私の聖杯への願いは叶いました。後は彼の願いを成就させるのみ。ふふ、これはやる気が湧いてきました。なんせ初めての恩返しができるのですから。

 

「んんん……うまぴょぉzZ」

 

「どんな寝言ですか全く……」

 

 無防備な顔を晒すファルシオ。聖杯の知識によりその顔は平凡な顔をしているのは分かりますが、どうしても私の知っているファルシオを重ねてしまいその──―すごく愛らしく見える。

 

 見れば見るほど段々と胸から感情が込みあがって来てこのままだと我慢が出来なくなる。

 だって私が見つめる今の彼の表情はまるでキスを待つ表情のよう。そんな表情を見ていると自然とそれへと引き付けられ……‥‥って。

 

「──―やっぱ無理ッ! 

 

 ……ここで額にでもキスが出来ればよかったのですが私には無理! 恥ずかしくて死んでしまいますッ! 

熱くなった顔を抑えながら心の中でそう叫ぶが誰が聞くはずもなく、彼の寝息だけが規則正しく聞こえるだけだった。




正直今回難しかったZE

あと今回、対話を期待していた人たちすまんな、どうしてもこの展開を挟みたかったんだ。
それは何故かって? 自分が大好物な展開だからだ!

こういうくさい展開大好きッ!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

再会の第五話

書けたぞおおおおおお!!!

今回は地味に難しかったぞぉぉお。早く戦闘描写に行きたい。


「なるほど、それで今俺はその聖杯探索に巻き込まれている……っと」

 

「いえ、正しくは聖杯戦争です」

 

 お化けかと思って気絶してしまった俺。柔らかなママ味を感じられる感触に気付き目が覚めるとそこには夢じゃなかった過去に死に別れた相棒の姿があった。っけ、せっかく母性に期待したのに、よりによって妹分に膝枕をされてたとは損したぜ。

 

 それはともかく俺はまたもゴーストの類が出たかと再び混乱しながらも、相棒の説明を受けた。すると何とビックリ、魔術的な儀式に巻き込まれているという。マジか、そんなものとは無縁になるように生きて来たってのに巻き込まれてしまうのか。‥‥‥‥ってか妹分がサーヴァント、つまりは使い魔ってポリ公案件じゃね? 直ぐに弁護士を手配しないと……って事はアイツになる訳で。でもなぁぁ、最後に会ったのが2年前ぐらいだろ? あの時の反応を考えると……うん、あの水銀少女に弁護を頼むのは──―

 

「──―メンドクセェ」

 

「出てますね、心の声」

 

 おっと、余りの面倒くささに声にぽろっと出てたようだ。気を付けとかないと。

 

「あら、ごめんあそばせアルトリア嬢。それにしても今夜もお美しいことで」

 

「ありがとうございますサー・ファルシオ。貴殿も大変凛々しく──―って、誰がアルトリア嬢ですかッ!」

 

「「……っプ」」

 

 懐かしいやり取りに二人して笑いがこみ上げ、遂に我慢が出来なくなり二人して久しぶりに大笑い。前世では嫌となるほど積み重ねたお決まりのやり取り。

 特に不正を行っていた貴族のパーティーに潜入調査した時はこうやって演じて、二人でよく踊ったっけ、懐かしいなぁ。

 アルトリアも前世の姿と変わりは無いが、まるで垢抜けたように笑いを浮かべる。

 ま、そうだよな俺も嬉しいし相棒も嬉しいんだろうさ。この奇跡の再会に乾杯ッ! 

 二人して笑いが落ち着き、息を整える。ふぅー、久方ぶりに心から笑ったぜ。

 

「それにしてもまたも聖杯関係か……俺の人生には聖杯が大きく関わってるのかね?」

 

「そういえばあなたはパーシヴァル卿、ギャラハッド卿と同じ聖杯探索のメンバーでもありましたね」

 

「まぁ、な」

 

 実は俺の動向した最後の遠征はあの聖杯探索だ。まぁ途中でカムランの丘での決戦の情報を得て最後までは同行することは叶わなかったが、聖杯が関係している事は確かだ。ってか何だよ、万能の願望器って。そんな第三魔法が空論上ではなく現実にあるって聞いた事ないぞ。

 

「聖杯の知識によるとこの儀式は過去に4度ほど繰り返されているそうで……何か知りませんか?」

 

「うん~……」

 

 7人のマスターが過去の英雄を呼び出しあって戦わせ、勝ち残る儀式って事は相当な魔力量が必要となるだろう。するとそれ相応の膨大な魔力が必要となる。集めるにも時間がかかるだろうし準備にも相当時間が必要とするはずだ。って事は過去の文献が何かしら残ってたりするもんだと思うが……うん~、爺さんが残した文献にそんなのあったかなぁ? 

 

「それにしても直ぐにふざける癖は死んでも治りませんでしたか、ファルシオ」

 

 俺が思考を潜らせているとそんな事を言い出す相棒。まぁこればっかりは俺を俺たらしめる部分の一つだからってのもあるがそれとは別に理由もある。

 

「仕方ないさ、特に相棒の前だとな」

 

「? それは一体どういう──―「こうやって過ごすとお前は決まって俺の好きな笑顔を見せてくれるからなッ!」──―ッ!」

 

 

 俺は前世でアルトリア・ペンドランゴン……アーサー王が辿る道筋とその結末を知っていた。何故かというと前々世ではアーサー王伝説が俺のバイブルだったから。

 小さい頃に読んで憧れ、歳が上がるにつれて現実を知るに比例しその焦がれは強くなってたのをよく覚えている。だからこそ知ってた、その悲劇な結末を。それを防ごうとして頑張った。無理矢理にでも絡んで笑わせ人間性を失わせないように頑張ったり、円卓内での人間関係をとりもったりと俺が出来る事は全てやったはずだ。しかし時は残酷なもので結果は知っての通り……ハァ、生前でやり残した事をあげろと言われたら真っ先に相棒の事を考えるわ。

 

 話しは戻すとして、そうやって知ってたからこそ俺は頑張ってたのさ。そういえば前々世で思い出したがライオンバクバク事件の日だって友達からそのアーサー王伝説が元となったゲームを借りに行く最中だったようなぁ……うん、そうだ。確かゲームを借りに行っていた記憶が確かにあるぞ、ジョジョォォォ!!! そういえばあのゲーム、名前は何と言ったけな? 運命か何かだと記憶してるんだが……うん~、何分古い記憶だからわからん! 

 

「しゅ、しゅき、いまわたしのえがおがしゅきって」

 

「まぁそれはともかくとして、つまりは俺達は命を狙われる立場にある訳だよなぁ……マジかぁぁ」

 

 何故か赤くなって取り乱している相棒。まぁこの突然発病してしまう奇病は生前からなので問題ないとしてどうしたものか……前世の俺だったら槍とか色々使って血反吐を吐いてでも生き残っただろうけど、今世ではそんな事考えもしなかったから備えほとんどしてないからなぁ。

 

「ゴホンッ! すいません取り乱しました」

 

 正気に戻った相棒はこう語る。サーヴァント同士は気配を探り合う事が出来るので接近にはいち早く気付けるし、もし見つかったとしても自身のクラス適正的に誰であろうと逃げる事は可能だと。

 

「それだと完全にマスターである俺が足手まといになるじゃないか」

 

「サーヴァントは全盛期の姿、つまりは一番強かった時期の体で召喚されます。それに加え、それぞれ割り振られたクラス適正により常人では相手にできない化け物と化してしまうので今のファルシオでは……」

 

「むぅ……‥」

 

 確かに、それを言われるとキツイな。俺は欠陥魔術師なだけに他の魔術師が有する魔力を探し出す能力が皆無で、ひょっとすると初心者である衛宮よりも酷いかもしれない。

 それに俺は一日の終わりには魔力回路を浸さねなければならない制約がある。いつまでも逃げ回るにしてもその制約を熟す為にこの家を離れるわけには……って──―

 

「──―待てよ」

 

 確か俺の家は霊脈への接続を安定化させるために内部と外とを異界化して分けていたはず。儀式の途中でノイズが走ると大変なので外部からの干渉を全てシャットアウトしてたってどっかの爺さんが残した資料で読んだな。でも外部からの干渉が出来ないなら逆説的に。

 

「相棒、ちょっと」

 

「なんでしょう?」

 

 俺の考えが正しければ、この異界化した工房は──

 

「──他のサーヴァントの気配を今ここで探れるか?」

 

「? ……ッ!?」

 

 ──俺の切り札になるかもしれないな。この後無茶苦茶準備した。

そして次の日も聖杯戦争の準備に掛かりきって丸一日使った為に学校を休んでしまったのはただの余談である。

 

自己紹介の時、名字が普通だと言われたのはちょっとショックだったなぁ……

 

※※※

 

 サーヴァントを召喚して寝坊しずる休み、私が召喚したサーヴァントであるアーチャーに町を案内しアーチャーと初めて過ごした最初の日。その日の中では色々とアーチャーの事を知れた日だと思う充実した日だった。

 それでその次の日。私が学校へと一日ぶりに登校するその道にはいつも通りうるさく、しかし楽しいと感じてしまうご近所さん兼、第三の魔術の師匠でもあるアイツと珍しく登校していた。

 

「っで、遠坂チャンよ。昨夜はどうしたんだ? 聞いた話によると休んだらしいけど……まさか陣痛か!? 生まれるのか赤ちゃんが!!?」

 

「そうそう、今月で臨月なの──―って誰が妊婦じゃ!」

 

「相手は誰だ! 三組の田中か! それとも5組の斉藤……意外性を突いて用務員のジャーネット・ジャスカか!?」

 

「しくしく、貴方の子供だっていうのに認知してくれないのね────って昼ドラかッ!」

 

「よ! 今日も朝からのツッコミ、冴えてるねッ!」

 

「うるさいッ!」

 

 ほんっとコイツと一緒に居たらペースを乱される。まるで手玉に取られているかのような感覚は小さな頃に出会った時と変わらず、コイツが一度ボケを始めると気づいたら巻き込まれている……いい迷惑よホント。

 

【それにしては楽しんでいるようだが?】

 

【煩いわよアーチャー! 私がこんなデリカシーも無い奴に対して楽しんでいるはずないじゃない】

 

 頭の中で響く声。その正体は私が召喚したサーヴァントであるアーチャー。すっごく生意気でいけ好かない奴かと思ってたけど、昨日の行動を見るにちょっと擦れてるだけで本当は優しい奴だと分かった……と、思う。だって小さな頃から幼馴染であるこいつならいざ知らず、一日過ごしただけで人の器が図れるわけないじゃない。だから確証はない。まぁ、私が使った令呪の効果によって命令には素直に従ってくれるし私を守ろうとしている意思も感じられる。だから信用できない訳でもないけどね。

 

【そういえば凛】

 

「なぁなぁ遠坂チャン」

 

【何、アーチャー。何か気づいた?】

 

【この凛の友人は魔術師でもあると昨日、君は話してくれていたが。この友人がマスターだと言う事も考えられないか?】

 

 アーチャーが言っていた通り、私もコイツがマスターではないのかと真っ先に考えた。けれど──

 

【それは無いわね】

 

「ねぇ~」

 

 ──―無いと断言できるほどの理由を私は既に知っている。

 確かに彼は私の聞いた事もない魔術を知っているし、遠坂家に伝わる宝石魔術を古い型とは言え私以上に理解がある。それにその宝石魔術に関して、直接教鞭を取ってくれたのは悔しい事にコイツだ。だからもしマスターだとしたら要注意人物だと考えていたと思うわ。けれど、コイツの場合それはない。

 だって魔術回路は持っているのにそれが死んでいるんですもの。一時期一緒にその回路を生き返らせようとして頑張ってたから知ってるけど本数こそ私の倍以上を保有しているけど、それは全て死んでいて魔力を生成する事が出来ない。それどころか彼の家にある儀式台で一日に一度体に処置を施さなければ死んでしまうような欠陥を持つ魔術師なんだから、マスターになる確率なんて万に一つもない。

 その事をアーチャーへと端折って説明するとそうか、と言い残して学校につくまでは話しかけてこなくなった。まぁ良いわ、うるさいのが1人消えたと思えばいいのだし、変わった奴二人も同時に相手出来るほど私も己惚れてないわ。

 

「なぁなぁ、遠坂チャン」

 

「何かしら?」

 

「俺達ってもう……やっていけないのかな。離婚するしかないのかな……」

 

「待って貴方! 私はあなたがいないといないと────って誰が別れ際の夫婦じゃァ!」

 

「ワザマエッ!」

 

 それにこんなバカする奴がマスターな訳無いでしょう! 

 

【ッ】

 

【アーチャーも笑うなぁ!】

 

 こうして私の騒がしい一日が始まる。でも、この時点で思ってもみなかった。私の考えが全て水泡に帰す事になるだなんて──―




・ステータス

名前:アルトリア・ペンドラゴン
クラス:ランサー
身長:172㎝
体重:不明
地域:欧州
属性・カテゴリ:秩序・善・地→天
性別:女

【ステータス】
筋力:A
耐久:C-
敏捷:A++
魔力:A
幸運:B-→A++
宝具:A


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

始まる前の第六話

 あ、そういえばランサーの描写を忘れていたのですが、イメージ的には体系はXX師匠、衣装は英霊正装アルトリアペンドラゴン(ランサー)で瞳が獅子王の如くライムグリーンの色をしている姿ですね。


「なぁなぁ遠坂チャン」

 

「何かしら?」

 

 眩しいほどの太陽が照らす早朝。俺は珍しく寝坊してしまっていつもより遅い時間で登校。その途中、魔術師仲間の遠坂チャンと偶然出会い一緒に学校へと向かっていた。あ、ランサーはお留守番です。だって外に連れ出すと直ぐに暴れるもん。多分、いまごろはクイックルパットって料理サイトで今夜の晩飯を決めてるんじゃないかな? アイツ料理させろってうるさかったし。

 

 何となく相棒が現代調理器具にギクシャクしてないか心配な心を隠し、俺達は道を歩いて行く。その途中、朝飯を食べながら見ていたニュースで報道されていた内容を思い出す。

 

「最近何だか新都の方でガス爆発が多いみたいだけど……何か知ってる?」

 

 冬木には駅を中心とした繁華街のある東部の新都と、古い町並みが立ち並ぶ西部の深山町に分かれて存在している。その間には未遠川って大きな川が流れていて行き来は架かってる冬木大橋によって可能。そんでもって最近その新都では最近ガス爆発が多発しているらしく、どこの放送局でも同じようなニュースが流れているのだ。そのまま何も考えずにその情報をうのみにするならば都市の管理体制に文句を言いたい所だけど、このパターンは凄く覚えがあった。

 

「……大方他所から来た魔術師達の仕業でしょうね」

 

 魔術とは基本秘匿されている技術だ。だからこそ一般人に知られないよう徹底的に管理している為、もし大規模な被害を出したとしても露見を防ぐ為に事故に見せかけるなんて珍しくない。だからこそ多発するガス爆発なんて魔術による被害が多い事に理由がある為に、そのあからさま過ぎる報道は見る者によっては挑発行為に近いモノだったりする。

 

「ほんっと許せないわねッ、本来魔術とは──―」

 

 あ、その見る者ってのは主に遠坂チャンを指してたりする。でもこの時期に外からの魔術師か、あからさまに聖杯戦争関係だろうなぁ……ってか遠坂チャンはどうなんだろうか? ここで探るってのも──―うん~、明日でもいっか。

 

 

「────であるからにして……って聞いてる?」

 

「聞いてる聞いてる、流石遠坂チャン。お金の管理についてはピカ一だね!」

 

「そうそう、最近は宝石の値段も上がっちゃって、手に入りにくく──―って聞いてないじゃない、このバカッ!」

 

「アバロンッ!」

 

 頭に大きなたん瘤を作って倒れる俺。それを踏み越え、ズカズカと歩いて行く遠坂凛。これはいつも道理の日常の一遍の会話でもあり、一日の始まりを告げる何時もの茶番劇。この者達がどれだけ仲の良い友人だと思わせるこれは、二人にとっては楽しい瞬間だ。

 

「いっててぇ……いつも通り容赦がないんだから、もう」

 

 しかしそんな関係である二人がこの日を境に関係が変わって行ってしまう事をこの者は少しだけ直感してた……のかもしれないのだった。

 

「もう、早く来なさい。おいて行くわよぉ!」

 

「おめぇがぶったんじゃろうがいッ!」

 

※※※

 

「お、そろそろ学校だなミスターパーフェクト」

 

「そうですね、ミス・フール。今日も数々のレディーが私達を待って────って私は女だ、ゴラァ!」

 

「──―ッ、痛いですわ。レディーの顔をブツだなんて紳士の風上にも置けませんわ!」

 

「ねぇ、そろそろやめない? みんなから向けられる視線が痛いのだけど……‥」

 

「おう、そうだな。後誰が愚者だ、誰が」

 

 いつも通りのバカバカしい会話をやり取り、怪しい雰囲気なんて全然しない何時も道理の日常を感じながら私達は校門を跨ぎ校舎へと歩くのだ──―が、現実はそうもいかなかった。

 

「──―ッ!?」

 

 突如心臓を鷲掴みにされたかのような違和感が体を走り、無意識に体が軽い防御用魔術を発動させる。これは、まさか結界? 

 

【アーチャー、これって‥‥】

 

【完成こそしてないが結界だろうな】

 

 こんなに派手に、張るだなんて──―余程の大物か素人のどちらかね。

 

【しかし意地が悪い結界だ。君のテリトリーにこうも堂々と張るとは完全に挑発行為だな】

 

【えぇ、これは相応な報いを受けさせなければならないわね】

 

 思わず令呪の刻まれている手を握り絞めてしまうが──―ちょっとまって。

 

「ねぇ翔、貴方は何も感じないの?」

 

 私の先を歩いて行く魔術師仲間へと声をかける。へらへらと私の前を歩いていくその歩みが止まる。

 魔術師である翔がこの異変に気付いてないなんておかしい。何かしらのリアクションがあるはずよ。けれど私が見た限り変化は見られない、先ほど同じ翔だ。

 

「────―どうしたの遠坂チャン?」

 

「──―ッ!」

 

 こちらへ振り向くその顔には異常なんて感じてないようにも見える。

 だけど彼に異常がない事がなによりも異常だ。いくら魔術回路が死んでるとは言え、ここまでのあからさまなモノを気付かない方がおかしい。

 

【……凛】

 

【えぇ、今朝言った事は撤回するかもしれないわ】

 

 思わず息を飲む。彼が振り返り見つめるその先は私ではなく、私の後ろに霊体化して存在するアーチャー。普通見えない存在が見えている事は何かしら魔術を行使してるに他ならない。どうやって死んだ魔術回路を回復させたかは分からないけれど、彼の家が霊に関する魔術な以上サーヴァントが見えていても不思議じゃない。それにサーヴァントを前にここまでの余裕、それはつまり自身もマスターでありサーヴァントを従え、自身のサーヴァントをぶつける事が出来るという余裕の表れ。

 

「なぁ、遠坂チャン」

 

「ッ!」

 

【構えてアーチャー!】

 

 もしこの場合、隠れているサーヴァントはアサシンだろう。アサシン特有のスキルである気配遮断を使えば私や、アーチャーに知られず私達の近くに忍ばせることはそう難しくはない。その場合一時的にとはいえアーチャーはアサシンに釘付けになる。そうすると翔とは1対1で戦う事になるけど──―その場合、手札を全て知られている私が圧倒的に不利。唯一の勝算はお父様が残してくれたあの宝石だけど、あれでも勝てるかどうか……

 

 ジリジリと近づいて来る彼。その動きはごく自然そのもであり、まるで私達を警戒してないような────

 

「肩に虫付いてるぞ」

 

「へ?」

 

 指摘された方の肩を見てみる。そこには何かしらの幼虫がこんにちわ! っと肩の上で鎮座していた……って。

 

「早く教えなさいよ、このバカ!」

 

「カラドボルグぅッ!」

 

 直後翔の顔に向かってバックをフルスイングしたについては私、悪くないと思うの。っていうかアーチャー、なんで虫が乗っていること教えてくれなかったの! 

 

【てっきり凛の友達かと……】

 

【へぇー、いい度胸じゃないアーチャー。帰ったら覚悟してなさい】

 

【な、なんでさ!】

 

※※※

 

超ビビったわこの野郎! 

 

 遠坂チャンと通学中、ふと何か違和感を感じた俺は呼びかけに振り向いた。その時、詳しい理由は後程説明するが無意識的に中途半端に霊脈へと繋ぎっぱなしになっている回路を起動させて変な干渉を防いでいたのだが……まさか遠坂チャンの後ろに赤い誰かがいるとは思ってもみなかったぞ。

 状況的に多分サーヴァントと思われる彼は俺が見ていた事に気付いたのだろう、なんだか気配が鋭くなり出す。それにビビった俺は咄嗟に遠坂チャンの肩に付いた虫について指摘したが、それが大成功に終わって助かったぜ。

 でも変だな、ここまでの結界を隠蔽せずに発動させるだなんて、今夜あたり調査が必要かなぁ……ワンチャンランサーだけ向かわせればいい気もするけどな。

 そんな考えを浮かべながら校門でフルスイングを受け、ぶっ倒れている俺であった。

 

「遅刻遅刻ぅー!」

 

 あ、(予鈴の)鐘の音が聞こえる……これは遅刻確定ですね。

 




・ステータス

名前:アルトリア・ペンドラゴン
クラス:ランサー
身長:172㎝
体重:不明
地域:欧州
属性・カテゴリ:秩序・善・地→天
性別:女

【ステータス】
筋力:A
耐久:C-
敏捷:A++
魔力:A
幸運:B-→A++
宝具:A

マテリアル0

異なる歴史を辿った歴史のブリテンにて、死にゆく国であるキャメロットの最後の王を務めた偉大なる騎士王。

その姿は美しくも気高く、そして保有するその圧倒的な力とカリスマを前に彼女の元に集った配下達は心から敬意を払い、忠誠を誓うだろう。
何故このような歴史へと至ったのかはこの世界には知る者はいない。唯一知るのは彼だけだ。

マテリアル1
絆レベルが足りません。

マテリアル2
絆レベルが足りません。

マテリアル3
絆レベルが足りません。

マテリアル4
絆レベルが足りません。

マテリアル5
絆レベルが足りません。

マテリアル6
クエスト【彼の為に私は―――】クリア時に開放。

マテリアル7
???

マテリアル8
???


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

始まった夜の第七話

ちょっとワクチン接種して副作用で苦しんでたら投稿遅れちゃったぜ!
待っててくれた読者の皆も副作用には覚悟しようなッ!

最近の楽しみは誤字報告のお知らせな作者からでした。

※今回はガバ理論入ります。ご注意くだされ。


【準備は良いか、ランサー(相棒)

 

【えぇ、こちらはいつでも準備OKですよマスター(相棒)

 

 その日の晩、俺達は行動に移す事に決めた。どうしてもあの学校に仕掛けられている結界の術者が気になるからだ。

 

 普通魔術師のテリトリー内であそこまであからさまに結界を張ろうなんて馬鹿はいない。ましてやあんなタチの悪い物、仕掛けるだなんてどんな奴だ。学校にいる時偶然、その結界の魔法陣を見つけ、その際に調査目的で【接続】して分かった事だけどあれは干渉なんてちゃちなモノじゃない。文字通り人の体を溶かす効果の付いた結界だった。それに加え魔法陣を撤去しようにもクッソ面倒な事に昔マーリンに見せてもらった神代の魔術に酷似していて、今の俺じゃ解除どころか魔力を消し去る事もできっこない代物だ。恐らくはサーヴァントが仕掛けた物だと思うが……正体がまるでつかめないぜ。

 

 術者を探そうにも手掛かりが────ってとこで俺は思い出した。コレ、そういえば未完成だったと。この結界は先ほど述べた通り未完成で必要な数の魔法陣も足りちゃいない。ならその術者は魔法陣を書くために学校に現れるのではないか? っと思い俺は調査へと乗り込む事に決めた。

 

 俺は改造した祭壇に設置されている浴槽へと漬かる。

 そいえば俺が中途半端に霊脈へと繋がっていると言ったが、これに起因する事でもある。資料で読んだがどうやら本来、聖杯戦争でパートナーとするサーヴァンを召喚するには簡単ではあるが魔法陣と呼び出す者に関係する触媒が必要とされるらしい。けれど俺の場合はランサー(相棒)を召喚する時にどういう訳か、俺自身が組み込まれている状態の霊脈その物を魔法陣へと代用、そして触媒としても俺を使用したらしい。まぁ分かりやすく言うとこの地の霊脈その物の約半分ほどが俺自身と一体化したらしく解除できない状態になっているのだ。

 だからこそ、俺は魔術がある程度だが使える体になってしまった訳だが──―まぁ、だからこその問題もある。

 

今の俺の状態は簡単に言えば魔力という水が止めどなく生成されるタンクに突如ブッ刺さった蛇口付きのパイプだ。蛇口で制御しなければいつまでも垂れ流しになるし、自身で生成した魔力で無いためにコントロールも難しい。その蛇口の制御も極端にしか操作できない欠陥品でものすごい少ない量か、制御無しの垂れ流ししか出来ない状態。まぁだからこそ、遠坂チャンに気付かれることなく魔力を使用で来た訳だが……

 そんでもってじゃあなんで浴槽へと漬かるかと言うと、その制御不可の魔力を制御する為に使うのだ。この祭壇の置かれている部屋は俺のあの事故があった影響か、その場所へ居るだけで霊脈へと繋がれる特殊空間に成っちまっている。そして霊脈は俺が繋がる事によって一つの魔術回路へ認識が代わり────俺自身となる。まぁつまり何が言いたいかというと俺がこの部屋にいるだけで俺に契約しているサーヴァントは無尽蔵に魔力が補給できるって事だな。あ、普通の人が立つと魔力の過剰供給で死ぬ危険な場所なので注意な。

 

 で、ここで浴槽へ漬かる事に繋がるんだが。俺の魔術特性は【水】と【何か】だ。何かは正体が分からないので説明しようがないが【水】に関してはある程度は説明できる。魔術師にはそれぞれ五大元素のどれかに適性を持っている。偶にそれ以外を持っている奴もいるがそれは例外として、それぞれ適正のある元素はその者にとって何かしらの恩恵を得る。それはマーリンによると人それぞれ違うらしく、俺の場合は水に漬かる事によって魔力を操りやすくなるようだ。無造作にサーヴァントへと魔力を垂れ流してちゃ何時か水風船のように破裂しかねないからな、それを操る手段が必要だった為に突貫で用意した方法だったりする。つまりはこの浴槽に漬かる行為は必要な事。これで説明がついたな。

でも、これだけやっても何故かランサー(相棒)への魔力供給量足りないっていうんだよなぁ……なんでだろ?

 

【もしかしたら余剰魔力は胸に行ってるのでないか―――】

 

【聞こえてますよ】

 

【あ、すまん。元胸無し】

 

【……帰ったら覚えていてください】

 

おっと、これはハードラックとダンスちまったようだぜ。

 相棒のコンプレックスの地雷原については、有り余る胸の上に置いておいて。足りないって言うんで、俺は考えて考えて考えて―――――――そして寝た。

いや、考え疲れて寝た訳ではなく、単純に俺自身を魔力タンクと割り切って余計な抵抗となる意識をカットする事によって魔力供給量を増やそうって考えだ。

自分でも奇策だと思う。本来マスターが寝るだなんて常識からしたら考えられない。でも俺の場合、それが出来てやった方が良い理由が三つある。

 

一つ目はまず町全体に張り巡らされている霊脈そのものが俺自身の回路へと出来、どこへ居ようとサーヴァントへ魔力供給できる能力。

霊脈の影響範囲内であればどこへいても念話ができるし、魔力だって好きに渡せる。その量に限りは無く、あったとしてもその時は霊脈が枯れるのと同意味だ。

 

 

二つ目にサーヴァントであろうと察知されることはない異界と化した工房。

前にも述べた通り俺の工房は外からの干渉を一切受けない異界化した工房と化している。それに加え、あの事故があった影響で固有結界めいた場所になっている。だからこそサーヴァンや他の魔術師が察知する事はまずないだろう。

 

そして最後の三つ目だが……単純に俺が魔力操作を行うのに、意識を落して無意識にならなければ繊細な操作ができないからだ。

これは前世からマーリンやモルガンから言われていた事で、俺はどうやら無意識的に行う魔力操作の方が二人が手放しに誉めるぐらい腕が良いらしい。それは寝ている時も同様で、これのおかげで何度マーリンからのベッド侵入を防止出来た事か分かったもんじゃない。

 

この三つの理由から俺は寝る事を選んだ。

 

【相棒……改め、ランサー。今回の目的は分かっているな?】

 

【今回の目的は魔法陣を形成しに来るであろう魔術師、またはサーヴァントへの威力偵察……ですよね?】

 

【そうだ。いざと言う時は宝具を使用してもいいが顔だけは見られるなよ? 宝具で気付かれる事はマズ無いだろうが、お前の顔見知りが敵サーヴァントとして出てきたら一発で真名バレするから注意するように】

 

【えぇ、わかっていますとも。何の為に座にいるモルガン(姉さん)からこの宝具を借り受けて来たか分かりませんからね】

 

最後の打ち合わせを軽く済ませながら、念話を送るがどんどんと意識が落ちて来るのを感じて来る……時間だ。

 

【それじゃ……二時間後、定期連絡の為に目を覚ますから忘れるなよ……】

 

【えぇ、それでは二時間後】

 

相棒声が薄く掠れてきやがて……俺の意識が落ちたのだった。

 

お休みなさいファルシオ――――

 

眠る直前にそんな声が聞こえたが俺は既に夢の中……

 

※※※

 

【お休みなさいファルシオ、いい夢を】

 

 槍で薙ぎ払うかのように構え、気合を入れる。コレはある種のルーティーンの様な役割があり、前世で槍を握ってから繰り返している習慣でもある。これよりは戦場、弱い私は一度なりを潜めさせて、王である私を呼び起こす。

 

この私はファルシオが嫌う私だ。私自身もあまり好きではないがこれより先は歴戦の勇士達が集う戦場と考えると致し方ないだろう。

彼が眠ったのを感じると同時にファルシオから送られてくる魔力が何倍にも増したのを感じる。やはり貴方は私に甘い所が抜け切れていない。

 

 弱い私が冗談半分で足りないと言うとそれを真に受け、それを解決する手段を用意して実行する。その様な理由から導きだされるに性格的にお人好しな部分が抜け切れていない証拠だろう。だが、それも愛おしく感じる。

王である私が真っ先に切り捨てた部分をいつまででも失っていないと言う証拠であり、何よりもどちらの私も最も美しいと感じる部分だからだ。失ったモノほど美しいとは誰が言ったか……同じような状態であるが故にまさしくその通りだと私は思う。

 

槍を構え供給される膨大な魔力を操り、体へと纏わせていく。それは風であり風で作った結界。光を通さず、不可視とする術が本来の使用用途だが今回は違う。風は不可視になる事は無く体の周りへと圧縮されて密度を高め、余りの強風に周りの物が全て吹き飛んで行く。

 

「ふんッ!」

 

その状態のまま持ち前の脚力で飛び上がりその高さ、約12m。彼女はそのまま―――空を蹴った。

 

それはまるで空を足場にしてジャンプしてるかのように飛行し、そのタイミングで任意の方向へと結界を解放。更に体は加速していき、彼女は一筋の流星かの様に加速したのだった。




・宝具

風王結界(インビジブル・エア)

ランク:C
種別:対人宝具
レンジ:1~2
最大捕捉:1個

本来は聖剣を隠す結界だがそうは扱わず移動手段として使用する。

空中での足場を風によって生成し空中へと浮かび上がり、自身の周りに纏わせた風を任意の方向へと解放する事によって爆発的な加速力と速度を実現している。風の量は込める魔力量によって変わる。

一応は本来の使い方も可能。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

接敵な第八話

うぃー! ちょっと副作用で頭痛に吐き気、嫌悪感に関節痛と色々苦しみながらマキオンやりながら内容考えてたら遅れたぜぇ!



生徒達が帰宅し人の気配を感じない校舎。学校で指定された門限の時刻も過ぎ、時計は夜の八時を指す時間帯。

結界の起点となる場所を捜索していた私達は魔力の流れを辿り起点があると思われる屋上へと辿り着いた。外へ出てみるとやっぱり日は完全に落ちており、不気味なぐらい物静かだ。

 

「アーチャー、あなた達ってそういうモノなの?」

 

【私達は基本霊体だからな、必要以上に魔力を貯蔵する場合はそのような方法を取る者もいるだろう】

 

調べて分かった事だけど、この結界は肉体を文字通り溶解させにじみ出る魂を強引に集めると言うタチの悪い物で私の腕じゃ解除する事も出来ない異質な物。そしてこの場合集めたその魂を欲しているのは同じく霊体であり、それを糧とできるサーヴァントだ。

 

「マスターから提供される魔力だけじゃ足りないって言いたいわけ?」

 

思わず出てしまった声は自身で自覚できるぐらい冷たい声だった。そんな声をぶつけられてもアーチャーは鼻で笑―――

 

【ふぅ…ふぅ…ブアックションッ!】

 

……これは笑うと言うよりくしゃみね。サーヴァントでもくしゃみはするんだ。

新しい発見にちょっとびっくりしつつもアーチャーは気にせず、何事も無かったかのように会話を続ける。……アーチャーってメンタルが鋼並みの強度がありそうね。

 

【魔力に関しては多いに越した事も無い。なんせ多ければ多いほど生前の実力と近しい強さを手に入れる事が出来るんだからな】

 

ちょっとシリアスな雰囲気ぶち壊れたけど話は戻して、確かにサーヴァントにとって何をするにも魔力は必要となる。特に戦闘となると予想ではあるがアイツの食欲と同じぐらいに消費量が増加する事だろう。そう考えるとこの結界は完成すると理想的な魔力の補給源となるのだろうけれど――――

 

「……気に入らないわね、アーチャー」

 

【奇遇だな凛、私も全くの同意見だ】

 

魔術師になった以上ある程度は目を瞑る事も出来るだろうけれど、少なくとも人の命に対して何とも思っていない外道にまでは成り下がった覚えはない。

だから何としてでもこの結界を何とかしないと。そう思い魔法陣へと手を伸ばし直接分析しているとその瞬間――――何かを感じた。

 

「ッ!」

 

そちらの方へと視線を急いで向ける。

貯水タンクの上、私達との距離にして十メートル先上空に立っている。それが放っている存在感は巨大であり、例えるのならば存在そのものが規格外で今までの経験で培った私の物差でも図る事どころか比べる事さえする事が出来ない何か。その様な存在を有す存在がなんの前触れもなく表れ、私達を見下ろしているだなんて信じられない。

 

「なるほど、貴方達でしたか」

 

一歩踏み出し月光に照らされ正体を現す。一見青を基調とした現代風の軍服のような恰好だが、何故か騎士を思わせるような凛々しさを兼ね備えている格好をしており、性別に関して言うならばスカートのような物を履いているので恐らく女なのだろう。だが、今はそのような事些細な問題にもならない。

何故なら彼女はここまでの巨大な存在感を全く、誰にも悟らせる事もなく気配を消し、私達の前へと現れたのだから……サーヴァントと言えどここまでの事が出来るって事は実力は多分だけど別格ね。でも納得できたわ。あんな結界を使ってでも魔力を集めるその理由が。

 

【凛、悪い知らせだ】

 

【何よアーチャー、今この状況以上に最悪な事って存在するの?】

 

一触即発の空気の中、更に焦っているかのような声色のアーチャーが語り掛けて来る。

 

【その悪い状況を更に悪化させる知らせだが知らせておこう。彼女は……恐らく神霊、もしくはそれに準ずる存在のようだ】

 

【ッ!?】

 

神霊、それはその字の如く神の霊。本来はこの冬木の聖杯戦争にて絶対に召喚する事が出来ない存在のはずなのだけど……まったく一体誰よ、神霊なんて召喚出来た魔術師は。完全にルール違反じゃないッ! 

一歩でも動こうものなら、殺す。帽子を深く被り人相こそ分からないが、そのような念を感じる視線をライムイエローに怪しく光る瞳が鋭く私達の姿を捉えていた。

 

「……首を垂れ、私に対し跪く事はあっても恐怖し、怯えることはない。赤い外装を羽織るサーヴァントのマスター」

 

 声には何もなく無。まるで人を人として見ていないかのような声に恐怖は加速する。

この状態で怯えるな、ですって? そんなの率直に言って無理ッ。恐怖に怯え、背筋が凍る感覚を抱きつつも考えるが戦う事ではなく逃げる事のみにしか

思考が働かない。

霊体化しているアーチャーが見えると言う事はこんな規格外であってもサーヴァントって事じゃないの。

余りの恐怖に感覚が麻痺してまるで他人事のように考えてしまうがアーチャーの声で引き戻される。

 

【……凛、私が過去に発言した内容を撤回させてくれ】

 

【いいわよアーチャー。ついでに言うと私も全く同じ事を考えていたわ】

 

【サーヴァントとマスター、嫌でも気が合うな】

 

自身を召喚した術者である私をこの聖杯戦争で最強のマスターと過去アーチャーは言った。けれど、こんな強大過ぎる英霊を前に、お世辞でも自身を最強なんて思えないわ。だって規格外を召喚できる魔術師なんて規格外に決まっている。

 

目の前の規格外から逃げる為私は、自身のいる置かれている状況を整理する。

少しでも太刀打ちするならまず場所を移動しなきゃ。ここは学校の屋上、落下防止用フェンスに四方を囲まれている。こんな閉鎖空間じゃアーチャーが優位に立ち回れない。瞬時にその事を理解すると何かアクションを起こされる前に私は一目散に校庭側のフェンスへと走った。途中考えるよりも先に回避行動を取ると、先ほどまで自身がいた場所に斬撃のような何かが飛んで来た。

しかしそんな事で一々足を止める訳にもいかず。魔力を左足の刻印へと走らせながら自身の軽量化と重力調整の効果を持つ魔術を一小節で組み上げ、実行。

この一瞬、まるで羽の様に軽くなった体は軽々と進行の障害となるフェンスを飛び越え――――屋上から落下し始めた。

 

【凛】

 

体が風圧と重圧で絞られるが関係ない。

 

「アーチャー、着地任せた!」

 

【あぁ】

 

共に落下するアーチャーに着地の衝撃を殺させ、そのまま一度跳躍し飛び上がり広い場所へ。着地と同時に地面に私の足が付くと走り出す。普通の人ならば目で追えないほどのスピードであるにも関わらず―――サーヴァントは当然の如く追い付いて来た。

 

「何故逃げる」

 

その瞬間私の背後から強烈な死の気配が漂って来くる。何かしても死ぬ、何もしなくても死ぬ。どうあがいても自身では超える事の出来ない死そのものが近づいて来るのを感じたが、それでも私は足を止めない。だって私は―――1人ではないのだから。

 

「ッく!」

 

鉄と鉄とがぶつかり合い耳障りな轟音が響く。アーチャーは無事、私への攻撃を防いでくれたようだ。

そこから少しした距離で急いで振り返り、敵サーヴァントを視界に捉える。追って来た彼女はいつの間にか自身の身長よりも長い、錆びの目立つ古びた槍を手にしており、先ほどからの攻撃の正体はコレだった。槍を手にしているってことはクラスはランサーって言うことよね。

そんな考えを巡らせている私を庇う位置でアーチャーは霊体化を解き実体化する。しかしその右手はよく見ると微かに震えており、手にする短剣は刀身が明らかに半ば欠けると言うより砕けていた。

 

「アーチャー!」

 

 見つめ合う両者。

その間には濃厚に死を予感させる殺気が充満しており、一歩でも動こうものなら死ぬと暗示しているかのようだった。

 

「―――ほう」

 

彼女はまるで面白いモノを見たかのように、唯一見えている口元が笑みを浮かべる。

 

「私の一撃をただの短剣程度で防ぐか……面白い」

 

突風を軽く発生させ古びた槍を振るう。

彼女の向ける視線がアーチャーへと降り注がれ、それはまるで捕食者のよう。例えるなら獅子が獲物を見つけたかのような感じだ。

 

「ランサーの、サーヴァント」

 

「そちらはセイバー……ではないよう。セイバーであればあれしきの一撃を防いだ程度で自身の宝具を使用不能にするハズが無い」

 

アーチャーもそれに対して常に警戒はしているようだが、その姿に全くの余裕はなく。隙を見せようものなら一撃で命が刈り取られると本能で理解したようでもあった。両者の間合いは約4メートルほど。ランサーの持っている槍は二メートル近い長さとあの俊敏さを考えるにこの程度の距離、一瞬で詰められるだろう。

 

「とすると予想するに……なるほどアーチャーか」

 

ただの予想でアーチャーのクラスが特定されてしまった。それに関して特に問題は無い。けど、勘がいいのか、それとも分析能力が高いのか定かではない為に油断ならない相手という事だ。そうこうしている間にもどちらのサーヴァントも自身の必殺の一撃が確実に入るタイミングを見計らっている。

 

「自身の得意とする獲物を使えずに負けるのは納得いかないだろう。アーチャー、弓を構えなさい。これは騎士としての情けです」

 

「―――――」

 

明らかに自身が既に勝っているかのような発言をしているランサー。それに対してアーチャーは何も答えない。

ただランサーへと殺気を飛ばし、相手の出方を伺っているようにも見える。

何故何もしないのか。という疑問が私の中で生まれつつあったがそこで気付く。

 

私はバカだ。アーチャーはただ一言、私からの命令を待っているのだ。

 

「アーチャー、やれるわね」

 

私はその背に語り掛ける。

 

「―――もちろんだ、マスター」

 

アーチャーは当然とばかりに私の問いに答えると疾走する。そしてそれがこの戦いの火ぶたを切る合図となった。




戦闘シーンって難しいけど書き方のコツを掴むと楽しいよね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

戦闘の第九話

問題、今回遅れた理由は次の内どれでしょう?


1:単純にめんどくさくて忘れてた。
2:副作用で死んでた。
3:腹痛による死亡。

さぁ~一体、どぉーれだ! 答えは後書きにて。


 アーチャーのその姿はまるで一筋の赤い弾丸のよう。そしてそれを迎え撃つは槍の一撃。

 アーチャーが拳銃だとしてそれを迎え撃つランサーはまるでライフル。斬りかかるアーチャーを目で追えない速度で槍を振るい、いなすランサー。

 本来、ランサーの槍のような長物ではアーチャーのような短剣による連続した斬撃には対処しずらいモノ。しかしランサーはアーチャーの動きをまるで知っているかのように予め刃の当たる場所へと槍を置き、斬撃を往なす。本来なら神業と呼ばれるそれは既に何度も行われている。それはもうほとんど未来予知と言って良いほどの技術であり、流石は英霊と呼ばれる存在なだけはある。

 対してアーチャーも中々自身の間合いに入り込めずに苦戦しているようだったが、それでもランサーからの攻撃にはその脅威的な反応速度で対処していきこれまた人間離れしている技術とも言える。

 

「結局弓兵でありながらその利点を捨てるか……ますます面白い」

 

 やがてランサーは攻め手を変え、守りから攻撃へと移る。槍の持ち方を変えると自身の射程ギリギリの戦いではなく間合いを詰める。本来ならばアーチャーの独壇場となるはずの間合いなのだがそれでもランサーの猛攻に苦戦し、ジリジリと押され始めて来た。

 本来、ランサーにとって短剣での間合い、つまりは超接近戦に当たる間合いは自殺行為に近い。わざわざ自身の利点である遠距離からの攻撃を捨て、相手の間合いであり、自身にとって最も攻撃しにくい距離で戦うだなんてナンセンスだからだ。だけどこのランサーは余裕の表れかそれをいとも簡単にやってのける。それもムカつく事にランサーは現在槍の攻撃方法である薙ぎ払いをする訳でもなく、息もつかせぬ突き技のみでアーチャーを追い詰めてるのだ。

 その突き技も一突き一突きも確実にアーチャーの命を刈り取ろうとしている所がタチが悪い。油断したわけでもなかった。むしろ格上と戦う心構えまでしていたが現実はどうだ。完全に弄ばれている。

 幾度となく自身の獲物をぶつけ合う際に発生する火花と鉄の弾ける轟音。少しでも隙を見せようものならば確実な死が待つその戦いに狙いの甘い魔術しか使えない私が介入する余地はなく、ただその戦いの戦況を見守るしか私にはできない。

 そして見守る中私はその超越した武術のぶつかる戦いに正直、少し見惚れていた。本来であれば決して現代の魔術師では使役する事の出来ない最高ランクサーヴァント同士の戦い。人間の介入する余地は全くなく、英霊(化け物)には英霊(化け物)をぶつける他戦う手段が存在せず、ただ一つの願望器をめぐり争う戦いこそが聖杯戦争そのものだと。

 

「これで、チェックです」

 

そんな高レベルな戦いが繰り広げられる中、一際高い剣戟。それをまともに防いだ結果であろう、アーチャーの持つ短剣はとうとう限界を迎え砕けてしまう。目を見開くアーチャー。その隙を当然ランサーが見逃すはずもなく。刃を立て、確実に心の臓へと届く一撃を見定め狙う。

 

ランサーはここで勝負を決めるつもりなんだわ。

 

彼女は自身の動きと共に一歩踏み出す。そして繰り出されるはこれまで一度も行う事の無かった薙ぎ払いであり、それは突き以上に強力な一撃。錆びてくすんだ白の槍はまさに彼女の言葉の通りこちらにとって積みの一撃。これが決まればアーチャーの命は無く、私はあえなく敗退する結果となるだろう。

 

だが。

 

――――その一撃は届く事は無かった。

 

「――――やはり」

 

アーチャーの無手だったその手は再び短剣が握られていた。先ほど砕かれた短剣と同じ、()()()()()()()()()()()()()と呼ばれる短剣を思わせる真っ黒に染まった剣。

 

【……? ―――なッ!?】

 

先ほどまでの追い詰められ、苦戦していたはずなのに先ほど同じ殺気を高ぶらせる。まるでまだ勝機があるかのように。そしてその姿には違いがあり、その最大の違いは―――――――二振りである事。

 

「動きから予想はしていましたがやはり二刀使いでしたか……道理で動きにムラがあると―――」

 

二振りの短剣。ナイフと言うには大きすぎ、短刀と呼ぶには一回り小さい。両手に握られていたそれは寸分違わぬほど正確な双剣であった。

 

「アーチャーと言うクラスを得てなお、剣に拘るその心は私には眩し過ぎる――――!」

 

先ほどよりも濃厚な殺意を滾らせるランサーは、その獲物を縦横無尽に扱いアーチャーへと襲い掛かる。必要以上に槍を振るう姿は、先ほどの突きを主体としていた戦いと比べるとていた時と比べるがもはや――――別物。確実にアーチャーを殺さんとすとばかりに槍の速度は増して行く。耳を打つ剣戟は回数を増して行きまるで音楽のよう。火花を散らす剣合は耐えどなく、限りなくその速度を上げてゆく。両者の戦いに既に優劣はない。ランサーと比べると絶望的だった状況だが、アーチャーはその差を技量のみで同等のレベルにまで押し上げ、イーブンの戦いにまでもってきている。しかしその剣戟は本来ほんの一瞬の出来事。しかし見ている私には長く、息が詰まるほどの時間に感じられた。

 

命を刈り取らんとしつつも懐に入られまいと間合を保つランサーと、その一撃一撃を双剣でいなし盾にしながら間合いを詰めるアーチャー。

両者の打ち合いは既に百を超え、更に回数を重ねその都度アーチャーは自身の獲物を砕かれる。だがそれも一瞬、次の瞬間には既に別の獲物を持っている。

時にファンティングナイフの形のものもあればコマンドナイフに加えグリーンベレーナイフ、ピコピコハンマーに至るまで、様々な種類の形をした短剣……武器、をその手にしランサーの猛攻を防いでゆく。

 

【ピコピコハンマーぁ、なんでさッ!?】

 

偶に混じる奇想天外な武器を目の前にランサーは驚きが隠せず、その都度わずかに後退していく。事此処に至り、ランサーは己の未熟さを認めるたのだった。目の前の者が何者か知らぬ。だが、これ以上この奇策を打ち出す弓兵と打ち合っていては敗北するのは己だと。その瞬間、間合が離れる。仕切り直しの為にランサーは大きく間合を離した。

 

……なによあの速さ、尋常じゃないじゃない。

アーチャーの突進も常軌を逸した速さだったけれどランサーのは度を越した速さ。アーチャーを自転車と例えたなら、ランサーの速さはまるで戦闘機だ。それに加え咄嗟に間合いを外したランサーの動きは常軌を逸していて、まるで体の一部を急加速させたかのような奇妙な動きで、普通の人間には到底行える動動きとは思えない。それに加え際に発生した突風、相当素早く動いているんだろう私の元まで強く吹き荒れた。

 

「……貴様の剣はこの打ち合いのみで既に40は砕いているはず、一体幾つ剣を保有してるのだアーチャー」

 

困惑しているような声色で呟くランサー。まるで得体のしれない未知のモノを見ているかのような表情でアーチャーが持っているハリセンを見つめる。

 

……でも、それは私も同じ。父の話では本来、サーヴァントが持つ武器は例外もあるけど大体は一つ。それぞれが絶大な魔力を帯びた彼らの武器は、アーチャーのように次々と出せるものではない。それに加えてその出す武器も現代の代物ばかりであり、偶に今持っているハリセンのように変なのも混じっている。あれがサーヴァントにとって唯一無二の切り札でもある宝具とは考えにくい。むしろピコピコハンマーやあのハリセンが最終兵器だなんて考えたくもない。でも、よく考えなくても彼のクラスはアーチャーだ。故にその宝具も弓に関するモノでなければならない。でもそうすると一つ疑問が残る。何故アーチャーが手にする名刀は、一本一本が現代にあるような軍用ナイフの形をしているのだろうか―――。

 

「先ほどまでの勢いは何処へやった、ランサー」

 

言葉を掛けられるランサー。先ほどまで未知を見ているようだったその表情は、言葉に反応するかのように変わって行き納得した表情へと変わる。

 

「―――なるほど。貴様、贋作者(フェイカー)か」

 

フェイカー……偽物? 

 

私の疑問も他所に突然アーチャーへとそう言い放ったランサーは先ほどの表情とは打って変わり無表情へ変わる。……だけどなんとなく分かるんだけど相当苛立っていると思う。ランサーはクラスの通り槍兵として戦いアーチャーへに戦いを挑んだ。しかしその戦いも弓兵として相手されるのではなく、ふざけた武器を使う剣士として戦い、これを凌いでしまった。この結果は先ほどの発言を考えるに相当プライドと実力を有した騎士だと思われるランサーにとっては相当な侮辱にも感じただろう。そう考えるとランサーが苛立つと思うのが普通。

 

「いきなり私を偽物呼ばわりとは……君こそ、あの立ち回りを見るに今手にしている獲物は本来の獲物とは違うのではないか?」

 

アーチャーの問いに無言で槍を向け答えるランサー。図星……ってことかしら。確かによく見ると槍の大きく塗装が剥離している部分、つまりはよく握るであろう場所と彼女が握っている場所は全く違う。

 

「ぺらぺらと良く喋る……いいだろう。剣の使える弓兵はいざ知れず、二刀使いの者は聞いた事がない。貴様、何処の英霊だ」

 

「そう言う君こそ、一体何者なんだ。最初はあの繊細で大胆な魔力の使い方をする点と女の槍使いという事から北欧神話の戦乙女の1人であり、竜殺しの英雄の伴侶かと思いもしたが彼女に伝わる伝承と騎士と名乗った君は合致しない。それにそのような有名な英霊が、オーディンから授けられた自身の宝具でもある槍を持ってこないはずが無いんだ。――――一体君は誰なんだ」

 

 

 

「―――ならば、この宝具を受けあの世で誰かを予想してみるがいい」

 

刹那、あまりの殺気に呼吸を忘れる。

 

ランサーの構えが変わる。矛先をアーチャーへと向け突き出し、まるでクラウチングスタートかのように姿勢を低く沈む。それと同時に彼女の背に視界が歪むほど濃厚な魔力が集められ、圧縮されていくのが分かる。

思わず息を飲んだ。これだけの魔力量、お父様が残した形見の宝石の何倍以上……私が同様の魔力を集めるとしたら恐らく生涯をかける事になるだろう膨大すぎる量じゃない。帽子の影の中で怪しく光る緑にも近い黄色をした瞳は、一直線にアーチャーの命を刈り取ろうと捉え続けている――――

 

「――――準備は良いか、アーチャーッ!」

「宝具か……止めはしない。君はこの戦争を勝ち残るには必ず越えなければならない障壁だ。ただその機会が遅いか早いか、それだけの事だ」

 

その瞬間、校庭に茨のような悪寒が蹂躙する。空気が凍り、あまりの殺気に呼吸を忘れた。さっきまでの戦いはほんの手探り、これからが本当の殺し合いだ。そう言わんばかりな濃厚過ぎる死の気配を乗せた殺気を私へぶつけられては無いはずなのに全身で感じることが出来た。それと同時に私の視界には信じたくもない光景が目に入る。

 

アレは―――一体なんなの。

 

あの古びた槍は予想もつかない物だ。全体に罅が入りはじめそこから漏れ出す濃厚過ぎる魔力の渦は、今か今かと本当の姿を晒し敵を貫かんとする瞬間を待っている――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――まずい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

このままでは確実にアーチャーはやられる。

ランサーが持っているあの槍がどんな宝具かは分からないけど、アレはどう考えたって規格外。私達じゃ到底敵いっこない何かを秘めた物だ。

そういえば神霊に近しい何かを相手している事を忘れていた。そう考えると当然よね、アーチャーがアレだけ善戦したのもランサーにとってはお遊びの延長戦。出会った時、既に自身の勝利を確信していたからこそ、あのような当たり前のように勝利したと言う態度をしていたという事だったのね。

 

あれが槍が解放されればアーチャーはどんな抵抗も虚しく敗北する。ランサーにこれ以上宝具を解放させられたら確実にアーチャーの命は刈り取られ死ぬだろう。そう予想出来ていても私は助けに入る事さえできない。私が少しでも動こうものそれが開戦の合図と見なされてしまうから。……だからこの戦い、アーチャーの死を止める事が出来るとしたらそれは―――――

 

「―――何者だッ!」

 

――――想定外の出来事。偶然という第三者の登場に他ならない。

 

「……え?」

 

ランサーからにじみ出ていた濃厚な魔力の渦は成りを潜め、死の気配と共に殺気も消えた。

走り去る足音。その足音の後ろ姿は、見間違い様もなく学生服。

 

「生徒!? まだ学校に残っていたというの!?」

「そのようだな凛。しかしおかげで私達は命拾いしたようだ」

 

冷静に言い放つアーチャー。……いや、まぁ確かに助かったのは事実だけど。

 

「……失敗した、ランサーに気を取られて周りの気配に気付かなかった……って何をしているのよアーチャー」

「見て分からないか? 手が空いたから休んでいる」

「んな訳ないでしょ! ランサーはどうしたのよ」

 

呆れた目でアーチャーを見つめるが当の本人はそれに対し苦笑いを浮かべる。

 

「さっきの人影に気を取られた瞬間にはもう消えていたよ。流石は最速の英霊が選ばれるというランサーだ。まさかあの一瞬で気配すら覚らせずに消えるとは恐れ入った」

 

先ほどまでランサーが構えていた場所には既に姿は無く、そこに居たという痕跡しか残ってはいない。目の前の敵を放り出して一体何処に――――

 

「恐らく先ほどの人影を追っていったのだろう。目撃者だからな、消しに行ったのだろう」

 

アーチャーの言葉を理解した瞬間、一瞬。

 

「―――――」

 

ありとあらゆる思考が、停止した。




皆分かったかな? 答えは三番の腹痛による死亡。でした! 

ちょっと朝から調子が悪くてですね……牛乳飲みすぎたかな?  

それでは次回。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

逃走の第Ⅹ話

モルガンピック始まりましたね~……自分は勝ちましたよ。いや、六章読んだら引かない人はいないでしょう。


 走る走る走る走る走る。学校の廊下を走るその足は疲れにより悲鳴を上げ、体は肺が空気を取り込もうと全力で動き、それでも心臓が空が足りないと悲鳴を上げる。しかし彼はそんな事構っていられるかと走り続けた。それは何のためか―――――必死で逃げるその男の背後から迫る死の恐怖から逃げ出している為だ。

 

「――――!」

 

そして彼は考える。何なんだ、と。自身の行いと好奇心を抑えきれなかった考えに後悔を抱きながら彼は走り続けるが。

 

「―――ッガハ」

 

突然走る背の痛みによりそれは続かなかった。体が宙に浮き、壁へと叩き突けられ床へと伏せる。何が起こったか理解出来ず、それでも逃走しようと試みた。しかし。

 

「―――チェックメイト」

 

月光に照らされる女の瞳は綺麗で宝石のよう。壁に寄りかかり床に起き上がりかかる彼の姿をその瞳は捉え、美しくも凛々しい姿をした彼を見下げる追跡者の姿を視界に収めそれが無理だと理解する。そして同時に―――

 

「――ッ!?」

 

――――声を上げる事も叶わず、胸を貫いた事により心の臓に走る激痛により自身の死を悟ったのだった。

 

※※※

 

 あれは慎二の頼みを受け、道具の整理とついでだからと弓道場の掃除もした帰り道の事だ。

 

「戸締りよし、慎二への嫌がらせ兼罰よし、最終点検完了っと」

 

風が吹くと頬がかじかむほど寒く、冷え込んでいた夜遅い時間に物音一つするはずが無い学校の夜。校庭から普段はまず聞く事の無い、聞きなれない音が聞こえた。耳を澄ませば何かがぶつかる鈍い音。それが何度も何度も繰り返され、明らかに何かあると暗示していたかのよう。俺はそれを不思議に思い校庭の見える位置へと移動した。

 

「……誰かいるのか?」

 

最初、遠くから見えた影はハッキリとは見えず辛うじて人だと言う事が分かった。月の光が分厚い雲に隠され暗い中だったからそんな風にしか俺には見えない為に仕方なくはある。この状態のままハッキリと見たいのなら異音の発生源たる場所の近くに行くか、佐藤が常備しているゴッツイ双眼鏡を借りるしかないのだが今はアイツはいない。その異音はどんどんと勢いを増して行き少しばかり強い風と共にハッキリと聞こえて来る。まるでそれは刃物同士で斬り合っているかのよう――――

そこまで考え流石にバカバカしいとも思えて来た。だって今の時代そんな事を仕出かす輩なんてそうはいない。第一、そんな物持っていたら警察に通報されて捕まるのがオチだ。今浮かんだイメージが昔じいさんと見た三文芝居の内容と被っていた為に懐かしく感じ同時にそんな事ある訳がないと苦笑いしながら否定して、正体を知る為に足を進める。

何となく見つかったら面倒な事になると感じ、隠れながら進んでいた事が功を奏したのかその異音の発生源をより近くから発見できた――――同時にそれを見た瞬間、意識が真っ白になりフリーズする。

 

「―――ッな!?」

 

俺の頭では到底理解できない何かがそこに居た。

赤い外装を羽織った両手で何かを振るう男と、その男を刺殺さんと自身の身の丈以上の長さを誇る槍を縦横無尽に振るう青い女。冗談みたいな時代錯誤の殺し合い。笑えない冗談と化した目の前の光景は先ほど笑い飛ばし否定したイメージそのモノ。本当に武器で斬り合っていた。

理解できない。辛うじて両者の動きは目で追えるが、あまりの現実味の無さに脳が理解を拒否する。だがそんな状態であっても凶器同士が振るわれ、弾け合い、突風が俺の頬を撫でる度にあの理解の及ばない両者は殺し合っていると否応なしに理解させられる。

 

「――――」

 

 アレは人間ではない。その動きを目で追っているうちに俺の脳はそう結論付ける。

あのような常軌を逸した早すぎる動きは冗談でも人間ができるようなモノではない。過去姉弟子が身体強化魔術を自身へと付与し、魔術の第二の師匠的な立場であった佐藤の教えた剣術を過去見たことがある。確かにその時も魔術を使用した事により常軌を逸した動きとなった戦う姿は今回と同じように理解ができなかったけれど、それでも人間の範疇には収まっていた為にここまでは酷くはなかった。だからこそアレは人間ではない。決して関わってはいけないモノだ。

 

「――――」

 

両者の濃厚な殺気が距離が離れているはずのここまで伝わってくる。肉体が死の恐怖により怯え、心臓の鼓動も自然と早くなる。呼吸が乱れ瞬きをする事もできないほどにその戦いに目が離せない。

 

「―――――」

 

歴史の教科書などに乗っている、今は使われなくなった人を殺す事に特化した凶器。自身の体の一部化のように操るその姿は達人のそれ。

ふと、最近頻発しているという殺人事件の事を思い出す。最初一成に聞いたそれは何か長物の鋭利な刃物が犯行に使われたらしい。その結果最近のニュースでもあったように子供を残して両親が殺されたという。

 

「―――――ッ」

 

逃げなければ。これ以上この殺し合いを見ていては駄目だ。そう頭で考えるが体は言う事を効かずにうんともすんとも言わない。それどころか瞬きや呼吸すら忘れまるで金縛りにあったかのよう。感情的に逃げなければと思う心と恐怖に竦み、もし動いた結果見つかる事になると言う予想により身動きの出来ない体。感情により逃げ出したいいう感情と体の生命の危機に関する本能。それが鬩ぎ合い、解離した結果手足が麻痺する事に。

 

50メートル以上は距離が離れているはずなのに先ほどからあの槍、または赤い男の握る短剣が付き突きつけられ、殺気が向けているのだと言う気がしてならない。息も出来なくなり、そろそろ経験上気絶するかという瀬戸際――――音が止まる。

 

「――――」

 

両者は距離を取り、向かい合ったままその強烈な殺気を漂わせ立ち止まっている。

殺し合いが止まり、休まるかと安堵したが同時に経験上からこうも思った。本番はこれからだと。その瞬間、両者からより一層強い殺気が放たれた。

 

「――――ッ!」

 

怯え切った体は先ほどより強い殺気と信じられないものを感じ取り痙攣し始める体。思わずはを食いしばり震え痙攣する体を押さえつけるが頭では理解を再度超ていた。

 

「うそ、だろ――――何をする気なんだ、アイツ――――!」

 

周辺から吸い上げ、信じられない量の魔力を自身の背へと圧縮させている事も理解が及ばないが、これは一層意味が分からない。青い彼女の持つ槍。それから溢れ出すは膨大な魔力の渦。それは圧縮している魔力と比にならず、例えるならばまるで吹き荒れる嵐のよう。その嵐からかなりの量を吸い込んでいるはずなのに全く衰える気配すら感じない。それどころか強まる一方。その結果から予想するに恐らく槍そのものが超高性能な魔力の炉なんだろうが……性能が段違いすぎる。普通の魔術師と比べると彼女の槍は太陽のように強大で、吐き出される渦は竜巻のように荒々しい。

 

「――――」

 

だからだろう、俺には赤い男が勝つビジョンが浮かび上がらなかった。

アレだけのモノを保有し、今から行使しようとしている存在と比べると赤い男はあまりにも無力。放たれる一撃によって例え防御したとしても突破され命を散らすのが関の山だ。

 

死ぬ。ヒトガシンデシマウ。

ヒトではないが、ヒトの形をした何かがシンデシマウ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、見過ゴシテモイイ事、ナノカ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その迷いと一瞬走った思考のノイズ。それのおかげで意識がソレから外れ体の自由を取り戻すと、ハァ、と大きく呼吸してしまう。しかしその瞬間。

 

 

「―――何者だッ!」

 

青い女の注意を引き付け、隠れて見えないはずの俺を凝視させる結果を生んでしまう。

 

「……っッ!」

 

目を離さなかったはずなのに次の瞬間には女の姿は無く、消えた。しかし、それで確信する。女の注意は俺へとシフトした。

 

「―――!!」

 

消される。

気付けば俺の体は勝手に動き出しは走り始めていた。死を直感した直後、体が死を回避するために走り始めているという事にようやく気付いた俺は文字道理全身全霊で逃走。無我夢中で走ったので俺自身も何処をどう走ったか覚えて居ていない。

 

「―――ハァ―――ハァ――――ハァ」

 

本当にただ我武者羅で無我夢中に生き残る事を目的として走る俺。そうやって走りながらも俺は自身の行動に後悔する。普通この場合逃げるなら街中だ。何故このような人気も無く、ルートも限られた学校内へと逃げるなんてどうかしていた。そもそもなんで俺はこんな風に物騒な事に巻き込まれているんだ。

 

「―――ックソ!」

 

思えば朝からおかしな事ばかり。記憶にない傷に、何時も朝早くから待ち合わせしているはずなのに何か今日に限って初めて寝坊し遠坂と登校してくる友人。それに加え何処か違和感のある学校‥‥‥‥今日は厄日かッ!

 

現海上に走りづめで悲鳴を上げだす心臓。既に背後から追いかけて来る気配はない。しかしそれでも足を止める訳にもいかず、俺は夢中に走り続ける。静かな長い廊下には俺の走る足音が聞こえるのみ。丁度その時、窓が開いている場所が見えた。ここの階は幸いな事に2階。飛び降りても問題はない。あそこから外へでて町へと逃げ込めれば――――

 

そう考えのもつかの間

 

「―――ッガハ」

 

突如背中に痛みが走り体が宙を舞う。突然の事に思考が止まり、何もすることができず壁へと叩き突けられ全身に痛みが走った。

なんだ何だ、今の。戸惑うが最初の目的は忘れてはいない。急いで立ち上がってあの窓へと向かわなければ。体を起こそうと壁を背に仰向けになった――――が。

 

「―――チェックメイトです」

 

 その時点で俺は詰みだったようだ。俺のへと向けられるのは刃こぼれのある矛先、全体的によく使いこまれたそれは所々に錆びが目立ち本来の色であろう白を濁す。そしてそれを持ち俺へと向ける彼女は―――何と言うか、美しかった。

月の光に照らされる言葉で表せない魅惑を秘めた彼女は俺の目から見ても綺麗で、こちらを見下げる瞳はエメラルドの宝石のよう。一瞬見惚れる俺だったがその槍の向けられる意味を思い出し。

 

「――ッ!?」

 

体を突き刺される痛みにより、呼吸が止まった。




原作シーンのオマージュを絶望的状況でやってみました。
後、ダブルオベイロンシステムたのすぃぃぃ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

死と夢の11話

アンケート締め切りました。ご協力感謝です!
これで先の展開が決められるぅ~!

あとFate/EXTRA一気見しましたけど――――滅茶苦茶面白かったぁ! 



「―――ッ!?」

 

視界が歪み、恐怖に震え、思考また停止する。まるでスローモーションのように時が流れ、目の前の槍はゆっくりと俺の胸へと吸い込まれるのを俺はただ黙って見る事しかできない。胸を刺す痛みが徐々に心の臓へと進み、貫く。言葉に言い表せないほどの痛みが体を麻痺させ、更に思考を鈍重と化す。

 

「ぁ―――――」

 

世界が歪み、色を失う。指先から感覚が消失し体が生きている証である暖かさを失い段々と冷えて行く。

 

「こ―――ッふ」

 

口の中が鉄の味で満たされ、俺は血を吐き出した。色を失ったハズの視界に映るのは真っ赤に染まる世界。本来なら更に血液を吐き出してもいいハズなのだが、今回はたった一度っきり。女の槍の腕は相当美味かったのだろう、血液は滲み壊れ、血をまき散らすはずのポンプはたった一刺しのみで綺麗に活動を停止し、役目を終えていた。

 

「――――」

 

何も見えない。さっきまであった痛みも含めすべての感覚は消失しまるで暗い夜の海に浮かんでいるかのよう。麻痺しきった体はふわふわと体が浮き沈む感覚だけ。世界は白く視界は真っ赤に染まり、自分だけが黒く濁る。自身が意味消失し、あたかも透明人間になったかのよう。自身が死んだというよりも全てが無になったかのよう。

思い出す。この感覚は前にも―――十年前のあの日にも一度経験した感覚、人が死に至って行く感覚だ。

 

「目撃者は例外無く口封じするのが聖杯戦争のルールです―――――そして、それに参加する者はそれを順守しなければならない」

 

目は開いているはずなのに視界が一行に回復しない。緊急用に組んでもらい体に組み込んでもらっていた自動発動型の回復魔術も組み込んでもらっていた場所である心臓を壊されれば意味を成さない。

 

「そこに温情も無く加減無く、女だろうが子供だろうが例外は無い――――」

 

声は聞こえる。しかし視界は一向に回復する事はない。ただ刻々と呟かれる凍えるような冷徹な女の声だけが耳に響く。

 

「あのアーチャー、出来るならあのタイミングで殺しておきたかった。あの男からは何か、言葉では言い表せれない異質な何かを感じ―――……追って来るのか、アーチャー。既に当初の目的は最低限完了している。しかし私の願いを叶える為にも今はマスターの願いを叶えなければ―――」

 

声が唐突に消える。恐らくあの窓から飛び降りたのだろう。その後、徐々に聞こえて来た足音が止まる。奇妙な間、それから続く足音が聞こえるが……もう、聞き取れ、ない。

 

「追ってちょうだいアーチャー。多分ランサーはマスターの元へ戻ると思う。だからせめて相手の顔ぐらいは把握しないと」

 

……既に聞き取り難い声は何処かで聞いた声……アレは誰の声だったか。

 

霞みゆく意識を総動員しても思い出せない。脳裏に浮かぶのは既に使う事の出来ない回復魔術の発動トリガー、ただそれのみ。

呼吸音がうるさい。何も聞こえないはずの耳に響くのは俺の呼吸音。辛うじて肺は生きているようで死にゆく体の中に必死に空気を取り込み続け、それが耳に響く煩い音の正体。

 

「ん? 憶えのある魔術の反応……コイツ、もう既に死に体ってのに生きようと魔術を使っている?」

 

誰かからの覗き込まれる気配。俺の呼吸音がうるさいのか、口へと指を伸ばされている感覚が――――

 

「……うそ。止めてよね、何でアンタが……アイツに何って説明したらいいのよ」

 

喰いしばり軋む音が聞こえた途端に躊躇いなく、血濡れた俺へと優しく触れる。

 

「……破損した臓器は心臓に壊れているけど何処かで見た回復魔術の痕跡。回路に関しては気にしている暇ないけど、今回は逆にありがたい。この魔術式なら私の物を流用して使用し破損した臓器そのモノをまるごと修復できる。……二つの異なる魔術式を組み合わせて心臓の修復なんて……こんな事、時計塔で一発合格できるレベルの難題じゃない……」

 

苦しげな声。

それを境に壊れて使い物にならないはずの回復魔術の回路に魔力が満ち、形を変え、修復されてトリガーが引ける状態になって行くのを感じる。

 

「――――――」

 

ゆっくりと、少しずつ。ぽたぽたと垂れる水滴のようにゆっくりと、しかし着実に体の機能が戻って来る。

 

「――――――」

 

……ぽたり、ぽたり、ぽたりと何をしているのだろうか。寄り添ったその人物は額から汗を流し、一心不乱に俺の傷へと手を当てている。

 

「――――――」

 

段々と手の置かれている場所が厚くなり繋がった回路も太く、丈夫な物へと変化していくのも感じていた。

体は熱く、冷え切った体に熱が加えられそれは体全体へと広がる。

 

「――――はぁ」

 

やがてトリガーが引けるようになると魔術が発動。薄れて行く意識がピタリと止まり、無くなったはずの残りの感覚が戻って来る。

 

「っかれたぁ……魔術も無事発動したようね」

 

カラン、と何かの落ちる音。

 

「……人1人の代償にしては高くついたけど仕方ない、か。ごめんなさいお父さん。あなたの娘は、貴方の形見を早々と使ってしまうとんでもない薄情者です」

 

それが最後に聞いた声。

自嘲気味に嘆き、誰かの放つ気配はあっさりと遠ざかって行った。

 

「――――」

 

意識が再度途切れて行く。それは死を意味する眠りではなく、再度目覚める為に必要である休息の眠りだった。

 

 

※※※

 

 

これは夢だ。

 

真っ暗な空間、俺はふわふわと浮かび沈みを繰り返し目の前に映る光景から目を背けないでいる。

 

そこに映るは目の前には槍で心臓を貫かれ、無残にも死に絶えた友の姿。

 

これは夢だ。

 

次に映るは目の前では双剣を握り絞め、槍の猛攻を防ぐ友の姿。

 

これは……夢だ。

 

――目の前では全身から血を流し、それでも諦めず前を進む友の姿。

 

これは……夢か?

 

―――目の前には誰かの亡骸を抱きしめ、泣き叫ぶ友の姿。

 

これは……夢?

 

 

 

 

 

 

 

 

これは……

 

 

 

 

 

 

 

これは……

 

 

 

 

 

 

 

これは……――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――夢、なのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっと私の最愛の騎士君、それから先は観賞禁止だよ」

 

真っ暗な景色が突如煌びやかな空間へと切り替わる。地面には見渡す限りの色とりどりの花が咲き誇り。遠くにはどこかで見た、既視感の湧く塔が聳え立っている。ふわふわと浮いていた体は地面へと降り立ち、突如出現した椅子へと腰掛ける。ここは何処だ、さっきの声は? 色々と疑問が尽きないがまずは瞬きした瞬間出現したテーブルにある紅茶は飲んでいいんだろうか……

カップから紅茶の香りと共に湯気がもくもくと。恐らく入れたてなんだろ、まるで早く飲めとも言っているかのように紅茶が目の前に出現した。うん~、これは飲んでもいい物なんだろうか……分からん。

 

「せっかく私が初めて入れてあげたのに、飲まないなんて失礼だね騎士君」

 

謎。突如現れた人間はそうとしか分類できない見た目をしていた。全体的に白い服を着ている事はまぁ分かる。けれどまるでボールペンなどでグルグルと書き殴ったような黒が彼女もしくは彼の顔を覆い隠す。声もダミー声で性別すら分からない。

 

「って言うか、さっさと夢から覚めてもらわないと困るよ君ぃ」

 

まるで俺の知り合いかのように馴れ馴れしい。しかし俺はどれだけ記憶を辿ろうがこのような謎の人物に当てはまるような人物はヒットしない。

だけどその声から何となく喜んでいる、つまりは幸福な感情が読み取れるに俺が忘れているだけで誰か親しい人物なんだろうか?

 

「……そうだ、そんなに私といたいのなら―――」

 

頭が混乱してくる。さっき見ていた光景や今の状況。夢にしてはあまりにもリアルすぎるし具体的だ。この光景は一体何なん。

 

 

「――一緒にランデブーしようか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「テェメェマーリンか、ぶっ殺すフォォォォォォォォォォッ!!!」

 

風呂から飛び起きた。




突然ですがエイシンフラッシュ無料で当てました。

私は嬉しい(ポロロォン)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

報告とショックと再度の眠りの12話

眠たいナリー。最近洋画のアクション映画にハマりつつあるなり~。大迫力なアクションは戦闘描写の参考になるんだよなぁ。


【無事ですか相棒(マスター)ッ!】

 

「あ、あぁ。すまん、どうやら寝ぼけてたみたいだ」

 

頭の中に多分に焦ったランサーの出した声が大音量で響き渡るので少し頭痛がする。思わず頭を押さえて回復魔術でも使ってやろうかとも考えたがやっぱり止めだ。そういえば今日の夜の天気は曇りって言ってたからきっと片頭痛か何かだろう。回復魔術を使うまでも無いか……でも念のために、後で頭痛薬でも飲んでおこう。

夢見の悪い目覚めにやっぱり頭を抱えてしまう。内容はもう既に朧気でほとんど思い出せないぐらいには薄いけれど、確実と言えるほどマーリンが出て来たのだけは分かる。ハァ、せっかく気持ちよく寝てたってのに何でよりにもよってあの、俺にとってのトラウマが出てくるかね。生まれ変わってからは一度も出て来た事が無かったてのに何で今更……アレか? ランサーとの再会が何かの切っ掛けにでもなったか?飛び出てしまった浴槽にゆっくりと漬かり直すがその最中も念話は続く。

 

【ね、寝ぼけててもそこまでの大声は出さないと思いますよ……】

 

噂をしたら何とやら。災厄の引き金を引いちまったかもしれない奴からの念話だ。ってかその発言、ブーメランだぞ。お前だって前世で寝てる時よく"マーリン死すべしFOOOOOOOOOOOOOOOッ!"って言ってたじゃないか。なぁーんて思ったが俺はその事を飲み込む。だって言っても、マーリンに関しての悪口はアイツが喜ぶだけだし。でもこれだけは言っておく。

 

「俺は出すんだよ間抜け」

【誰が間抜けですか! この場合は相棒の方が間抜けだと思うんですけど!】

 

おっとそれは俺に喧嘩を売ってるのかな? あのことはまだ許してないんからなぁ。

 

「……そういえば昨夜寝ぼけて俺の腕をパクパクと噛みついて奴がいたような」

 

俺は噛みつかれる事が前々世の死因である関係上あまり好きではない。特に寝ている時なんて特にな。本人の言い分だと目の前にごちそうが並べられ、それを食っている夢だった為に私は無罪っとの証言だったが――――――さっきの俺みたいになってたりするのかね?

 

【真面目な話に戻りましょうかマスター】

「おう。バ……賢い相棒は嫌いじゃないぜ!」

 

まぁ相棒も自身が過去に同じような事をやっている事を自覚させられれば何も言えなくなるのは当然だな。

 

「それで、成果を聞かせてもらおうじゃないか」

 

丁度時計が差す時間は眠る前から二時間経っている。元々この時間に結果を聞くつもりだったからちょうどいっか。

 

【わかりました。今の所、明確に姿の確認できたサーバントは4体のみです】

 

思わず息を飲む。俺の想定より、行動しているサーヴァントの数が多い。

聖杯戦争への知識が俺の持っている遺産の知識だけでは足りず、仕方なく姿が誰にも見られないようにと夜にランサーを偵察に出したが俺の考えていた以上に数が多いな。てっきり会えても多くて二か三人ぐらいだと思っていたがまさか、参加している総人数の約三割の人数に会えるだなんて序盤から上々の進み出しだ。

俺の場合基本ルールが欠けている。分からない場所があるのならランサーが聖杯から情報を引き出してくれるが現状、圧倒的に情報が足りない。

どのような状況に至っても情報は武器だ。どんな状況でも情報をより多く持っている奴が勝つ。たかが三割ではあるがサーヴァントの姿さえ確認できたのならその姿から真名やクラスを割り出せば勝率が上がるって訳よ。

 

【そのうち二名に関してはクラスも判明しています】

 

サーヴァントにそれぞれ7種類のクラスと呼ばれる者が割り振られているらしい。

最有力で優勝候補とされるセイバー、ランサー、アーチャー。爺さんの遺産の中には殆ど記録の無いライダー、アサシン、キャスター。情報の全くないバーサーカー。ランサーは説明下手だから聞いても分からないけれどとりあえず、相手のクラスさえ分かれば敵の得意な戦い方や距離ぐらいは掴める。

 

「それで、そのクラスは?」

【一体目は刀を主武装としていた所から考えるに恐らくセイバー。相棒(マスター)の言っていた寺へと続く山道の途中にある門の前にて発見しました】

「セイバーか……」

 

セイバー、いきなり聞かされるのは最有力候補。聖杯戦争に呼び出されるサーヴァントの中でセイバーが一番強いらしく一番警戒の必要な相手。それといきなりエンカウントとか中々に運が無い。

 

【いえ。直感が働き、今の状態の私では到底戦っても勝てないと判断したので気付かれる前に逃げる事を判断しました】

 

それに加えランサーが素直に勝てないと言える相手だなんてマジで運が無い。そんな事前世では一回も無かった……いや、一度あったわ。アレは確か我が親友ギャラハッドの楽しみにしているおやつを勝手に食った時だっけ。怒り狂ったギャラハッドから逃れるべく俺達が仕方なしに罪を擦り付けた時だ。あの時の怒りようと来たらボコボコに半殺しどころか9割殺しを受けたランスロットの無念すぎる姿。その光景に恐怖を感じ相棒と俺は素直に死を覚悟したが……あれレベルの相手だなんて一体どんな実力を持った英霊なんだ。

 

「……無事逃げ切れたんだろな?」

【いえ、判断が少し遅かったようで苦戦を強いられましたが戦闘となってしまいました】

 

マジか。槍の機能を制限してる状態で戦闘なんて自殺行為だ。並みの相手なら余裕で相手出来るだろうが、狂戦士と化したギャラハッドと同等の実力を持つ相手では無理に決まっている。

 

「無事逃げ切れたのか?」

【一応は逃げ切る事には成功しましたが――――戦いの途中手傷を負ってしまい、親指の筋を斬られ使えない事態に】

 

それぐらいなら軽傷っちゃ軽傷。相棒が持っている槍の効果で治療できる範囲だ。むしろそれだけ強い相手と戦闘してその程度の被害で済んでラッキーだな。

 

「それだけ強い相手なら何かしらの真名への手がかりがあるはずだ。何かなかったのか?」

 

サーヴァントに対しては必ず対策が必要となって来る。

今回だって強い英霊ならその強さの中には知名度補正もあるはず、だからそれなりに有名な英霊なはずだからそれで相手の正体が分かるはずだ。

それに正体さえわかってしまえばサーヴァントの切り札である宝具の正体が探る事が出来る。だからこそサーヴァントは自身の真名が知られないように立ち回る必要があるのだが……今回は探る側、分かってしまえばこちらのモノ。もしかしたら勝利への道筋が見えるかもしれない。

 

【戦う前、まるで決闘場での戦いかのように名乗られたので分かりましたがセイバーの真明は佐々木小次郎。恐らくあの佐々木小次郎かと思われます】

「っげ、有名どころ来たな」

 

佐々木小次郎。日本であまり知らぬものは居ないであろう侍だな。かの宮本武蔵との戦いにて散っていった剣豪のはずだ。そんな奴が相手だなんてやっぱり運が無い。

 

【強敵でした。剣の腕もさることながら、その絶妙過ぎる間合が厄介の何の……正直言いますが相手の剣戟を防ぐので精一杯でした】

 

確か彼の有名な逸話であり、技は燕返しだったような気がする。聞いた話では高速で剣を振るう技だが……ひょっとしてそれが宝具か?

とりあえずそんな敵がいる寺方面は今の所いかないようにしないと。あそこは霊脈から変な場所で一番大きな穴があるのに俺も近付けないほど魔力が濃い。そして寺である影響か、色々と呪いっぽい雰囲気を感じる場所だ。普段から近づいては居なかったが……マジで何なんだろ、あそこ。

 

【そして二体目は調査を頼まれていた学校にて遭遇。恐らく魔法陣の製作者であろうマスターの従えるサーヴァントと戦闘を行いました】

 

あぁ、佐々木小次郎のインパクトがデカすぎて忘れてた。そういえばそんな指示もしてたな。

あの魔法陣はかなり危険な物だ。きっと今夜あたりに追加の魔法陣を書きに来るだろうと睨んでいたがやっぱり来てたか。

 

「マスターの姿は見たか?」

()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

マジか。マスターの姿が無かったのか。

 

【恐らく私に見つけられないよう魔術を使いサーヴァントへと指示を出していたのでしょう。しかしそれを踏まえても厄介極まりない相手でした】

「何?」

 

確か()()()()()()()ではサーヴァントへと念話や魔力を送る事の出来る距離はあまり広くなく。ある程度は近くに居る必要があると聞いていたが……隠れているだなんて。それに加え、直感の鋭いランサーを欺けるほどの魔術を展開できる腕を持つ魔術師だなんて‥‥‥‥相手にして勝てるのかな、俺。

 

【そのサーヴァントは自身の主武装の姿を一切見せず、クラス適正ではない双剣で私の槍捌きを対処できるほどの技量を持っており。最終的には私が逃げる結果に……】

「……確か今のお前って俺が全く勝てなくなった全盛期の姿だよな?」

【はい】

 

 

や、やべぇ。魔術師が規格外の腕を持つ者だとしたらそれが使役するサーヴァントもやべぇ。

生前俺自身が槍を持ち相手したことがあるから分かるがあの頃の彼女は強すぎてやべぇ。何度挑んでも誰にも負けない、無敗記録を作れるぐらいには強かったはずだ。そんな全盛期の姿であり、一番の得意な武器である槍のクラス適正であるランサーのクラスで現界したハズの彼女が繰り出す猛攻をクラス適正外の武装で相手取る事が出来る奴なんて…‥‥相当な実力者じゃねぇか! マジで何者だよソイツ―――ッ!

 

【それに加え、その敵のクラスはアーチャー。私が何度砕いても、次の瞬間には復活する奇妙な宝具を持っていました】

 

驚きの情報に頭が真っ白になる。アーチャーって事は本来遠距離が得意なクラス。つまりは接近戦があまり得意でないクラスの敵を相手にランサーが勝てないと判断して逃げたって事だよな……。姿が見えないマスターに召喚された謎の復活する宝具を持つ接近戦も出来るスゴ強よアーチャー。これって勝ち目あるのか?

 

【む、新たなサーヴァントの気配を感じ取りました。残りの情報は帰還後に説明するので今は戦闘の準備を】

「お、おう」

 

うん、とりあえずこの課題は棚上げだな。今この状態で考えてもらちが明かない。

俺は頭の中を空っぽにして体をリラックスさせる。段々と自身が霊脈へと一体化して行き、段々とそこに流れる魔力を強く感じる事が出来るようになる。それに比例して俺の意識は落ちて行った。




突然ですけど銀英伝やスター〇レックって面白いですよね!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

紅茶と見落としの13話

お待たせー


「―――――つっかれたぁ」

 

ただいまも言えぬまま、家に上がってソファーへと倒れ込む。

ぽっふっとしたクッションの感触が顔を包み込み全身でソファーの柔らかさを感じ体をリラックスさせていった。

あのランサーの後を追わせたアーチャーはまだ帰って来ない。

 

そのままの状態で先ほどあったばかりの事を振り返る。

しかし、今夜は予想外の事が多すぎた。今回の聖杯戦争もセイバーが最強の札だと思っていたのに、まさか予想外な事にランサーがジョーカーだったなんて。アーチャーも勝てそうになかったし。あの時の宝具が放たれていたと思うと――――やっぱり負けてただろうなぁ

 

「――――ハァ」

 

それに加え私達の戦いを目撃してしまったアイツ。ホントなんでアイツがあそこに居たのよ。おかげで損傷した心臓の修復に、お父様のペンダントを使っちゃったじゃない。でも気になるのが――――

 

「―――心臓に半壊した状態とは言え、既に組まれていた魔術よね」

 

そう、アレだ。今回の場合は肝心のコアとなる部分が破壊されていた為に発動していなかったけど、あの魔術は何処か無性に既視感を覚える。

 

魔術は何でもできるイメージがあると思うけれど実は違い条件に応じて発動する魔術の使い手は多く、今回の他人の体内に干渉して発動する魔術を施す事が出来る魔術師は余りいない。

自分自身の内部への干渉はさほど難しくないけれど他人の中となると話は違い、他人からの干渉をあまり受けない魔術回路がある都合上難しいとされ、難易度の高い技術だ。だから同じような事をするならまだ魔術の刻まれた物を何かしら体内へ埋め込むか何かしらの技術を用いて内包する方がよっぽど簡単。でも、今回見た魔術はその難易度の高い物が重要部が破壊されているとは言え発動前の状態である詠唱途中だったモノだ。普通ならそんな状態になってしまったら発動するはず無いのに……アレは普通の魔術師じゃあ絶対出来ない世に言う神業の部類の物だ。例え出来る人物がいるとしてもそれは時計塔でロードと呼ばれる魔術師として頂点を行く人たちぐらいよね……本来なら。

でも、私は知っている。あんな人外の技を当然の如く出来てしまい、凄腕ではあるけれど障害を抱えたお隣に住んでいる欠陥魔術師を。

つまりあの魔術をかけたのは翔って事かしら? でも、そう考えれば色々と辻褄が合うのよね。

あんな凄い魔術、お父様のペンダントの力があったとは言え私が修復出来たって事は何処かで習った事のある証拠だ。それに私が会得している魔術の中でお父様の残してくれた宝石魔術以外って言ったら翔が教えてくれたMD式魔術とか言う正式名称不明な魔術と似非神父が教えてくれた魔術だけ。似非神父に関しては言う事無いけれど、問題はこのふざけた名前の魔術にあるのかしら……って、それしかないか。

MD魔術ってのはアイツが作り上げたふざけた名前の割に色々と謎が多い独自の魔術。自身でその術を施す時にどんな工程を得て、どんな方法で魔術を施すかを直後に全てに忘れてしまうって言う欠点があるけれど効果自体は極めて高い。短時間且つ少ない工程で極めて高い効果を得られる凄い魔術なのが、名前が変過ぎて何だかムカつくのよね。アイツは何故か私に回復や身体の強化系の魔術しか教えてくれなかったけど聞いた話じゃ攻撃系は特定の人物の殺害に特化したモノらしい。って事はその忘れてしまっている部分にヒントがあると言う事かしら? 

 

「うん~……とにかく明日聞いてみるか」

 

生憎と今は午後の10時過ぎ。アイツは既に眠っているだろう。一度眠ったらアイツ、寝起きの機嫌は毎度の如く災厄だから起こすのも面倒だ。ホントなんなのよ、何度か起こしに行ったらその度に誰かと間違えて襲ってくるだから、本当に最悪よ。憂鬱な気分でクッションに顔を押し付け、その柔らかさに虜になっていると一瞬ヒヤッとする風が部屋へと吹き込んで来る。

 

「戻ったぞ、凛」

 

アーチャーが帰還した。

 

「おかえりなさい、えらく早かったわね」

「ランサークラスには最速の英霊が選ばれると言うのは噂ではないらしい。隣町へ続く橋までは追跡出来たんだが見失ってしまったよ」

 

それもそうよね。人間じゃ到底出せない目を疑うほどの速さだったもの、アーチャーのクラスである私のサーヴァントじゃ難しいわよね。むしろ橋まで追跡できた事を褒めるべきだわ。

 

「ま、いいわ。これで少なくともこちら側の街にはマスターが存在しないと確認出来たのだから。それにそう簡単に尻尾を見せる相手だと思っていしね」

 

それに今回は予想外の出来事が立て続けに起こって流石に疲れた。何よ、初戦にルール違反である神霊って授業料にしては高すぎないかしら! まだ特売セール、一袋5円のもやし争奪戦の方が安いわよ! 

 

「はぁ…」

 

「どうしたんだマスター。ため息などついて気迫がないぞ、まさか怖気付いたのか?」

 

「そんな事はないけど……ただ、今回の聖杯戦争と週一であるもやし争奪戦が私の中で同列にある事が納得いかなくって」

 

「もやし争奪戦?」

 

うん、何言ってんだろ私。サーヴァントであるアーチャーにもやし争奪戦なんてわかるはず無いのに。

 

「……もしや特売セール一袋5円のあのもやしか!」

 

「何であんたが知ってんのよッ!」

 

自分の真名について何にも覚えてないくせに何でそんなどうでもいい事知ってるのよコイツわ! 思わず立ち上がって叫ぶのも仕方ないわよね、私悪くないわよね!

 

「いや、今朝台所を借りた時に置いてあったチラシが目に入ったのでな。日付も近いので次のセールに私も赴いてみようと思っていたのだ」

 

「サーヴァントがスーパーのセールに自主的に行くってそれでアンタはいいのかッ!」

 

アンタは私のママかッ! 

はぁーと呆れて、ぽすっとソファーへ腰掛ける。変わり者だとは思っていたけどまさか母性の働くそっち方面の変わり者だったなんて……なんと言うか、ギャップが凄い。

 

「それよりもあのランサーはどうする。君が命じれば私は隣町をしらみ潰しに探し、相手する所存だが」

 

恐らくそのスーパーの下見を兼ねているんだろうなぁー、なんて本当の目的が透けて見える講義をしてくるアーチャー。

 

「はぁー、そんなの今の所放置でいいわよ放置で」

 

「ん?放置? 何故なんだマスター」

 

「だってまだ全てのサーヴァントが出揃って無いんですもの。今夜のは単なる事故と考えて、少なくとも私は聖杯戦争の開始を知らせる合図があるまで戦う気はこれっぽっちも無いわよ。それにお父さんも言っていたわ、遠坂家の人間であるならばルール違反は許されないってね」

 

「……ほう、その説明を察するに君の父親もマスターだったのか」

 

なるほどなぁー、なんて手を叩いて納得するアーチャー。……なんだかコイツ、最初の態度と違すぎるんじゃないかしら。お茶目って言うか天然って言うか……

 

「なによ、何か文句でもあるの?」

 

「いや特にない。ただ一つ気になってな」

 

「気になる事?」

 

「あぁ。聞くが凛、君は生まれた時からマスターになるべく育てられた人間。この認識に間違いはないな?」

 

「ええそうよ。聖杯戦争を勝ち残る事は何代も過去から続いて来た遠坂家の悲願ですもの、突発的に選ばれるマスターとは違うわ」

 

「よろしい。だったら聞かせてくれ、君が聖杯に望む願いは何だ?」

 

聖杯に望む願い? そんなのーーー

 

「そんなの別に無いわよ」

 

「なッ!? そ、それは本当か!」

 

あ、アーチャーが変顔晒してる。おもしろーい。

 

「ここで嘘ついてどーすんのよ」

 

元々聖杯戦争に参加するのは塔坂家に生まれた人間が果たすべき義務みたいなモノ、私個人が望む願いなんてないわ。

 

「まぁ、強いて言うなら実績作りね」

 

「じ、実績ぃ」

 

「今回の聖杯戦争を終えた後私、時計塔に行くつもりだから。その際、聖杯戦争に参加して勝ち残った実績が入学に少しでも有利になったらいいなぁーって考えもあるわよ」

 

ま、そのためにはあのランサーもろとも他のマスターが従えるサーヴァントを全部なぎ倒して生き残る必要があるんだけどね。アーチャーは私の目的がよっぽどショックなのか間抜けずらを晒し続け、固まっている。

 

「そ」

 

「そ?」

 

「そ、そんなハズあるまいッ! 聖杯とは願いを叶える願望器だ。マスターになると言う事はそれを手に入れると言う事、叶える願いが無く参加した理由がそんなチンプなモノとは一体全体どういう事だ!」

 

アーチャーは真剣な表情で問いただしてくる。けれどチンプは言い過ぎじゃないかしら?

 

「そうは言うけどねアーチャー、実際過去に参加した魔術師の中には私のような実績目的で参加した人もいるのよ。だったら私の考えもあながち間違っては無いと思うのだわ」

 

「せ、聖杯戦争に実績目的で参加した者が過去にも……」

 

「えぇ、何ならその人とは月一のペースで連絡を取り合ってたりするわ。魔術師の道理に漏れず、変人だけどね」

 

それに彼には今、姉弟子が預けられている。姉弟子は普段はしっかりしてるけどちょっと抜けてるとこも多いから私が傍にいないと心配なのよね。

 

「――――」

 

言葉を失ってる様子のアーチャー。でも変ね、お父さんの話だとサーバントにも望みはあるって言っていたけれどそれはあくまでサーバント個人の望み。私の望みがおかしなものだって気にする必要はないと思うけど。

 

「よ、よし、そんな辺鄙な望みは止めてもっと大きな願いに変えよう。例えば世界征服のような――――」

 

「何でそんなめんどくさい事望まなくちゃいけないのよ。一人で世界を管理だんて絶対大変じゃない、そんなの嫌よ私」

 

「」

 

「それに私は既に征服してるわよ、世界。私だけの価値観が通じる、私だけの世界をね」

 

難しい顔で私を見てくるアーチャー。コイツ、天然かと思いきや案外考え方がかたいなー。

 

「……理解に苦しむな。私の考え方では到底理解出来そうにない価値観だ」

 

「はぁ。貴方、案外想像力が貧困なのね」

 

「余計なお世話だ凛。……ではそんな想像力の欠けた君の使い魔に教えて欲しい。凛、君は何のために戦う?」

 

「そこに戦いがあるからよ、私の使い魔さん。聖杯なんて物その戦いの副産物でしかないわ。まぁもらえる物はもらうし聖杯が何なのか分からないけどこの先、欲しい物が出来たら使えばいい話じゃない。人間って言う生き物は常に貪欲なのだから」

 

「……つまり君の目的は」

 

「ご名答。そう、ただ勝利を勝ち取る為に戦うのよアーチャー」

 

ふう、っと肩をすくめるアーチャー。呆れているの先ほどまで入っていた肩の力がようやく抜けたようだ。

 

「……これは参った。コレは本格的に認めなければならないらしい、君が私のマスターに相応しいと言う事を」

 

な、なによ。そんな偉そうにしてくれちゃって、そんな反応されるとこっちが対処に困るじゃない。

 

「……なら、逆に問わせてもらうけど何が貴方のマスターに相応しい要素に成りえたのかしら?」

 

「察しろ、私のマスターであるなら」

 

むぅ。察しろってわかんないから聞いてるんじゃない。それを察せって無理にもほどがあるわ。……けど、それぐらいに私を信用してくれてるってことよね。

私はもちろん彼の事を信用してるし彼もまた、私の事を信用してくれてる。この連帯感は悪くないわね。

 

「では、確認も終わった事だし一息入れよう。なに、君の話が正しいのであれば最後のマスターが現れるのは今すぐと言う訳でもあるまい。お茶の一杯……っと、待て凛。あのペンダントはどうした?」

 

「ペンダントってアレの事? ……あ! 学校に忘れて来ちゃった。ハァ……ま、いっか。何の力も残ってないんだし別に問題ない、か」

 

「そ、そうか。君がそれでいいなら別に問題無いが……」

 

「えぇ、一応お父さんの形見だけど。アレだけが形見って訳じゃないし――――「――――よくはない。例えそうだとしても無くなってしまった肉親の物だ。大切にしなくてどうする」

 

睨むようにそう言った後、私が学校で忘れて来たハズのペンダントを取り出した。

 

「あ、拾ってくれてたんだ」

 

「……もう忘れるな。それは君にしか似合わない物なんだから」

 

照れ臭いのだろ、視線を逸らし手渡してくるアーチャー。

 

「――――そう。ペンダント、ありがと」

 

何となく私はそれを受け取る。正直どんな反応でこれを受け取るべきなのか、私には分からなかった。

 

「ところで―――」

 

受け取った感触は二つ……二つ?

 

「これは、何?」

 

それは黒いブツブツの入った球体。強いて言うならパイナップルにも似た形をしていて、一本のピンが突き刺さっていた。

 

「あぁ、それはマークII手榴弾と言って―――って手榴弾ッ!?」

 

アーチャーは焦った様子で私の手からそれを奪い取った。

 

「な、何故こんな物が―――」

 

「何故ってアーチャーが渡して来たんでしょうが……それにしてもへぇ、マークⅡ手榴弾って初めて見たわ。本当にパイナップルみたいな形してるのね」

 

何時もM26しか使わないからこんな骨董品、初めて見るわ。 じろじろと観察していたらアーチャーは取り乱したかのような表情を見せる。

 

「き、君は爆弾と聞いても何故、動じてないんだ」

 

「だってピンが抜かれてないから安全だと分かってるからに決まってるじゃない。それにそれぐらいの爆弾、地下にたんまりと用意してるから馴れたわ」

 

「な、まさか凛。銃などを所持してるとは言わないよな?」

 

「ん? してるに決まってるじゃない。聖杯戦争は頭の固い魔術師との戦いよ、だったら正当方よりも銃などを使った絡め手の方が強いに決まってるじゃない」

 

「―――――」

 

ま、この戦法は翔の受けよりなんだけどね。魔術師相手に本気で勝ちたかったら常識を捨てろって。しかしアイツがまさか重火器の仕入れルートにまで詳しいだんて思わなかったわ。まぁ今ではそのおかげで今回の戦いに備えてその裏ルートを使って一個小隊規模の銃を仕入れる事が出来てるからありがたかったちゃ、ありがたかったわね――――

 

「――――ってちょっと待って」

 

何か引っかかる。翔の事を考えて関連的に思い出されたけど、今思えば不十分だ。アイツ、衛宮の記憶を弄らないと危険だし。何よりあのランサーは私達よりも目撃者排除を優先した。そしてランサーの考えはマスターの考えでもあるはずだから――――その用心深いマスターがもし、殺した筈の相手を取り逃がしたと知ったらどうするか。

 

「……そんなの決まってる、生かしてはおかない」

 

ソファーから立ち上がり時計を確認。……アレから恐らく三時間。間に合わない可能性が高いけど、アレだけのことをして助けたんだから可能性だの云々言ってる訳にもいかないじゃない!

 

「アーチャー、行くわよ!」

 

「い、一体どこへ行くんだ凛。私は今、凛と付き合い方について考えてだな―――」

 

「そんな事をしてる暇ないわ、急いで!」

 

今夜使うとは思わなかった靴箱に隠してあるM4A1を取り出すと私は夜を駆けた。アイツの家は知っている。下見にしか行った事は無かったが聖杯戦争に備え、すべての住所を把握しているのが今回は幸いした。

 

「――――お願いだから間に合って」

 

嫌な予感を頭に過らせ、私は走り続ける。まだ彼が生きているそう、信じて。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

チラシと恐怖な14話

疲れた~


「あ────クソ。一体全体何が、起きたって言うんだ」

 

 化け物みたいな女に胸を貫かれた俺は目が覚めた。喉からこみ上げる吐き気を我慢しながらも俺は何故か自然と血痕などを片付けていた。

 多分貧血と混乱で頭働いてなかった結果なんだろうけど、何故証拠隠滅を自然とやってしまったのか……今では分からない。ゾンビの様な足取りで学校を後にし、家に帰る頃には日付が変わっていた。屋敷には誰もおらず、何時も遊びに来ている藤ねぇと佐藤はとっくに帰った後だ。

 

「はあ、はあ、はぁ……」

 

 思わず力が抜けて床に腰を下ろす。そのまま床に寝転がるとようやく気持ちが落ち着き、頭が整理出来て来た。

 

「────」

 

 深く息を吸い込み、肺に空気を送り込む。肺を大きく膨らますと、傷口を抉るかの如く心臓が痛んだ。だけどそれも仕方ない事なのか、穴の開いた心臓が塞がれ、治療されたばかりなのに膨張させた結果、傷が開きかけているんだろうから。

 

「……俺、殺されたのか」

 

 月の光を背にし、俺を槍で貫いた女。その女に俺は成す術も無く蹂躪され、最終的には心臓を一突きされて俺は死んだ。けど、今こうして生きているのはその直後に誰かが助けてくれたからだ。

 

「一体誰が助けてくれたんだ……出来たら礼ぐらいは言わせてほしいもんだけど」

 

 あの場に居合わせた、という事はあの女の関係者かもしれない。けど、それでも助けてくれた恩人には変わりない。いつか見つけ出してちゃんと礼を言わないと。

 

「それにしても佐藤に回復魔術を習っておいてよか……ぐ……!」

 

 気を抜いた途端、痛みが戻って来た。胸を文字道理割くような激痛はこれでも回復魔術で和らいでる方だから恐ろしい。同時にせりあがって来る嘔吐感に身を任せたくなる。

 

「あ……ッぐ、ッ! ‥‥‥‥」

 

 体を何とか起こして吐き気に堪える。制服のボタンを無理矢理外し、胸へと手を触れた。助けられたとはいえ、この胸には穴が開いていた。あの感覚を、あの不快感を忘れたいが強烈過ぎる為に忘れられそうにない。

 

「あぁーっくそ、コレは夢に出て来るだろうな」

 

 まだ槍が刺さってる気がする。錯覚にも幻痛にも似た感覚を振り払って、とりあえず冷静になろうと努め何度か深呼吸を繰り返す。

 

「……よし、落ち着いた」

 

 これは佐藤から習った技で心を落ち着ける呼吸法。これを何度か繰り返す事によって曇った思考はクリアになり、嘔吐感も無くなってくる。

 

「にしてもあの女、一体何者だったんだ?」

 

 軍服にも似た服を着た槍使いの女。アレは単なる感だけど人間だけど人間じゃないと思う。どっちかというと姉弟子がよく相手にしていた幽霊の類に近い者だと思う。確か姉弟子が言ってたよな、幽霊の中には実体を持って生きている人間へと直接干渉出来る意志の強い霊もいるって。

 

「名前、名前、名前……少なくとも精霊ではなかったよな?」

 

 でもよく考えてみるにそれよりももっと根本的な問題が残っているよな。アレは何者かと殺し合っていた。つまりはあれと同等の存在が少なくとももう一人いると言う証明に他ならない。それに最近続く不幸な事件に近所へ押し入ったとされる強盗殺人……

 

「────」

 

 これだけ関連付けて考えて、解ったのは自分の手には余る問題と言う事だけだ。

 

「……もしかしたら佐藤なら何とかなるのか?」

 

 もしくは親父。まぁ親父は既に墓の中だから頼る事は出来ないが。

 

「────クソ、俺はバカだ。例え理解できない事にあっても自分に出来る事をやると決めてたじゃないか」

 

 弱音を吐くのはそれからでも早い。

 

「とりあえずはアイツに電話だな」

 

 外間に設置してある固定電話を手に取り、電話番後を入力。既に日を跨いでいる時間帯でありながら数回のコールで佐藤は出てくれた。

 

「ふぁ~、はいはい佐藤です。どちらさま?」

 

 声に覇気は無く、明らかに寝起きの声だと分かるが大丈夫だろうか? 

 

「俺だ、衛宮だ」

 

「おぉ~しろぉ~、こんな夜遅くにどうしたの?」

 

「たすけ──」

 

 そう口にしようとした瞬間、天井に吊り下げられた鐘が鳴った。ここは腐っても魔術師の家、それに佐藤の奴が早期警戒にと組んでくれた魔術を張り巡らされている場所だ。だから警報ぐらいの結界は張ってある。

 

「──クソ、こんな時に泥棒──」

 

 口にしてから俺自身の愚かさに嫌気がさす。そんな筈ない、奴が追って来たんだ。俺の命を刈り取りに来た暗殺者が。

 思わず耳を離した受話器をゆっくりと耳に当て、マイク部分は人差し指を当てる。そして二人でオフザケ半分で覚えた緊急事態を知らせるSOSのモールスを送った。

 

「……今行く、十分持たせろ」

 

 俺の意図は伝わったようでうれしい返事を最後に通話が切れた。受話器を戻す暇も無く、そのままゆっくりと手放すとこの静まり返った屋敷がいっそう不気味に感じた。物音は全くしない。けれど、確かに──―あの校庭で感じた殺気が近づいて来ているのが分かった。

 

「────ッ」

 

 思わず息を飲む。背筋に悪寒が走りコレが幻でも何でもなく、確かに現実で起こっている事だと認識させられる。恐らくこの部屋から出ると俺は────死ぬ。

 

「ッ────」

 

 悲鳴をあげたい。けれど、そんな物を溢した瞬間には暗殺者は意気揚々と俺を殺しに飛び込んでくるだろう。そうなれば学校で起きた出来事の繰り返し。俺はまたあの女に蹂躪されて、槍を心臓へと突き刺さされるだろう。

 

「──────ッ!」

 

 そう考えた瞬間、呼吸が乱れて来る。

 何とも頭にくる話だ。恐怖を感じて怯えてる自分と、助けられた命を簡単に捨てようとしている自分、それと助けに来てくれている友達の思いを無下にしようとしている自分が情けない。

 

「────落ち着け」

 

 これで二度目、いい加減に慣れるべきだ。それに殺されようとしているのも二度目だからな、今度はあんな無様な姿は見せられない。それに俺、衛宮士郎は魔術師だではないか。ならこんな非常時にぐらいこれまで学んで来た事を生かせなくてどうする────! 

 

「……やるしかない。佐藤が来るまで時間を稼いでみせる」

 

 やる事は単純。今は来た奴を叩き出して時間を稼ぐだけ。正直何の根拠も無いが、佐藤さえ来てくれればこの最悪な状況だって何とかしてくれると思う。

 

「でもまずは武器をどうするか、だ……」

 

 俺は魔術師だが、出来る事と言ったら自身の治癒力を少し強化するか物を強化する事だけ。つまりは戦うには武器がいる。一応この屋敷には佐藤がいざと言う時にと隠していった物があるが、生憎とそれは外蔵か俺の寝室内に隠した奴しかない。このまま居間から出て寝室や蔵に向かってる時、丸腰では学校で起きた事の二の前になる。……と、すると武器はこの部屋で調達するしかない。できれば長物、できれば物干し竿のような棒状のものが好ましいが、当然の如くこの部屋にはそんなもの置いてない。そうなるとこの条件で合致して、武器になりそうなモノは────

 

「うわぁ……藤ねぇが持って来たヘンテコポスターしかない」

 

 無駄に鉄板で作られたポスター。まさかこんな時に役立つだなんて予想外すぎる。

 がっくり、と肩の力が抜けるが、逆にこの絶望的状況に腹が座って来た。ここまで最悪な状況、どう転んでもこれ以上悪い事になる訳ないんだからな。なら後、俺に残されたのは力尽きるまで足掻き続けるだけだ。

 

「────トレース、オン」

 

 魔術のトリガーを引き、長さ60㎝ほどのポスターに魔力を通す。あの異質な槍と打ち合おうって言うんだ、すべての魔力を回して固定しないと武器としては使えずに撃ち負けるだろ。

 

「構成材質────解明、補強──トレース、オフ」

 

 ポスターの隅々まで魔力が行き渡り何時も以上の成功の感触に、思わず身震いした。コイツの強度は今や鋼鉄並みには上がってると思う。それでいて軽さはそのままだから急造の剣としては文句なしの出来栄えだ。

 

「これで────なんとか」

 

 なんとかなるかもしれない。一応佐藤に剣術は仕込まれてる。だから上手く行けば撃退だって可能かもしれない。

 両手でポスターを握りしめ、中心にて待つ。どちらにしても何処に留まっても殺される。例え屋敷から出てもあのスピードだ、逃げ切れず直ぐに捕まって死ぬだけだ。

 

「────時間を、稼ぐだけ」

 

 来るなら来やがれ、そう身構えた瞬間。

 

「──ッ!」

 

 背筋に悪寒が走り俺の本能が、爆音で警告を鳴り響かせ命の危機を知らせて来た。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

運命の始まる15話

お・ま・た・せ。待ったかな?


 一直線に走る閃光。それは俺を串刺しにせんと天井から降って来た。

 

「こ、の──っ!」

 

 ただ夢中に転がり前へと身を翻す。その直後たん、っと軽い着地音と共に俺を殺さんと放たれた凶器が、畳へと刺さる音が聞こえた。ゴロゴロと転がってしまった体を止め、すぐさま急増の剣を構えながら立ち上がった。

 

「ふむ、何故避けたのだ小僧。避けると殺せないではないか」

 

 天井から現れた人物、そいつは何ともつまらなそうにそうつぶやくとこちらへと振り返る。

 

「──っな!?」

 

 そして俺は驚いてしまった。その槍使いは確かに軍服のような服を着た女であった。けれど、殺される直前に見た人相とはまるで違い、完全に全くの別人であったのだ。

 

「──ほう。その反応を察するに貴様、私のルーンが効いていなかったと見える。一体何者だ?」

 

 気怠そうではあるが俺の顔をよく覗き込んだりと、油断しているのか俺なんて眼中に無いのか、校庭で感じたような覇気は全く感じない。

 

「しかし、この事がマスターに知られると少々面倒だな……この程度の人間に、効果が無かったとするとアーチャー陣営にも同様だろうが……ッチ、一度死んだ事で腕が落ちたか」

 

 今の状態であるなら、なんとか出し抜く事ができそうだ。

 白い槍を振り回すも俺など見ていないのか悪態を吐く女を前に、俺はジリジリと後ろへ下がる。俺も目的はあくまでも時間稼ぎだ。今の場合より多く時間を稼ぐ為に武器の調達が必須。すると自然に選択権は限られ、蔵へと走る事になるが……距離は約20メートルあるかないか、とどくのか? 

 

「はぁー。まぁいい、考えるは後だ。とりあえず──今度こそ死んでくれ、小僧」

 

「──ッ!?」

 

 右腕に痛みが走り、鉄と鉄とがぶつかり合う鈍い音が響く。

 

「……?」

 

 ほとんど一種の出来事。無造作に振られた槍を無意識的に自然と体は動き、それを防いでいていた。佐藤の剣術の訓練を受けていなければ既に2度目の死を迎えていたと確信出来るほどの、意識外の攻撃だった。

 恐らく女も俺が持っているのはただの紙切れだと思っていたのだろう、不思議そうに己の槍を弾いたポスターを見ている。

 

「……ふむ、少しだがその紙切れから微かだが魔力を感じる。貴様魔術師か?」

 

 微かって……一応俺の全力なんだけどなぁ。なんて余裕が起きるわけがない。人物は違うがコイツも学校で出会った奴と同じで常識外の生き物。ほら、見てみろ。俺が魔術師とわかった瞬間目付きが変わり、完全に獲物を狩る狩人のような目をしている。ミスったな、これなら一撃目を避けたタイミングで一目散に蔵へと走ればよかった。

 

「まぁ、マスターに心臓を破壊されて尚生きているという事はそういう事なんだろう」

 

「──ッ!」

 

 矛先が向けられる。だが次の一撃、俺は防ぎようがないだろう。閃光のように素早いリーチの長い点の一撃と、人間レベルの線の斬撃。どちらが有利かは言わずもがなだろう。

 

「いいだろう。正直私も無抵抗の相手を殺すのに少し物足りないたと感じていた所だ、抵抗を見せるのならそれはそれで好都合」

 

 女の華奢な体は槍を構え──────刹那。

 

「────ッく!?」

 

 突きではなく、横殴りに薙ぎ払らわれた。

 ほとんど条件反射。先程と同じく無意識的に弾いたが、ポスターを握る俺の手はその重い一撃の影響か痺れ、多分震えてる。

 

「ほう、一撃目は防ぐか。ならば──ーこんなのはどうだ?」

「く────ッ!?」

 

 槍が払われる事により起こる旋風。室内であろうと縦横無尽に弧を描くように払われるその矛先は、俺の命を遊びの延長線上のように刈り取ろうと狙っている。

 

「っ!!!!」

 

 胴を狙った一撃は間一髪で防げた。けれどアレはまぐれに近い。こんな奇跡、3度も起こってるんだからもう起こる保証はない。クソ、急増品の剣は既に折れ曲がってる。鋼鉄以上の硬度のはずなのにアイツ、どんな馬鹿力してんだ! 

 

「ぐ、このくそッ!」

 

「ふむ」

 

 剣を振るう、狙いは頭部。だけども奴は舐めているのか槍の柄で剣を弾いた。

 

「ッ畜生!」

 

 鍛えているはずの両腕が、明確にわかるほど痺れて来た。剣も先程より折れ曲がり、リーチはさらに短くなってしまっている。

 

「はぁー。小僧、少々期待外れだな。魔術師なら魔術師らしく何かしらの手を繰り出して来ると思っていたが……まさか斬りかかって来るとは」

 

 目の前の女にとって俺は、ただの暇潰し道具にしか過ぎない。あの二撃はただの様子見。俺が魔術を使うのを待っていたに過ぎない。……そして俺はそんな唯一にして最大の瞬間を単なるその場凌ぎに使っちまった。だからこそ──女は俺に価値など見出さない。

 

「────これでは興醒めだ……もう死ね、坊主」

 

 女は打ち上げられた槍を構え直す。だが、これはチャンスだ。

 

「勝手に────」

 

 背には襖、その先には大窓。この二つを打ち抜けばまだ勝機は、ある! 

 

「────言ってろマヌケ!」

 

 俺は背を見る事無く、襖をぶち破り窓ガラスへと突っ込んで庭へと転がりんだ。そのまま何度か転がりながらも立ち上がらんとする。よし、後は走るだけ──

 

「────おい小僧」

 

 だが、その考えは浅はかだったとの直後に思い知らされる羽目になる。

 

「──ッガハ!」

 

 いつの間に女は俺の間近まで、迫って来ていたんだろうか。直前に見た光景は差し迫る長い足。それが俺へと直撃し、激痛と共に体を浮かせた。視界は二転三転、ぐるぐると回り続け景色が流れていった。呼吸は出来ない、蹴り上げられた胸は酸素を取り込むのではなく、ただ激痛を走らせるばかり。単なる蹴りで体がここまで飛翔するだなるて、思ってもみな────

 

「──グハァ!」

 

 突如、背中に激痛が走る。恐らくは背中から地面に落ちたのだろう、地面の感触がやけに懐かしくも思えて来た。

 視界が歪み呼吸も出来ず、それでもなんとか目的地である蔵──その壁を頼りに中へと進む。

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

 霞んだ視界に女を捕らえると、距離はゆうに20メートルほど。つまり、俺の体はそれほどの距離を蹴り飛ばされた事を証明してる。本当にふざけないでくれ。人外の相手はイギリスで散々、2人の姉弟子とやったからもう沢山なんだよ! 

 

「逃げるなら逃げろ小僧。その瞬間こそがお前にとって、最後の時間なのだから」

 

 四つん這いになりながらも何んとか、蔵へと入る──────が。

 

「コレで、終わりだ」

 

 その直後、俺の背に向かって避けようのない一撃が放たれた気がした。

 何故かはわからない。けれど、なんとなく、そう感じた。

 

「う──────う、うぉぉぉおおおおおおお!!!」

 

 だからか俺は、その直感に従いそれを防いだ。丸めていたポスター、それを広げて一度きりの盾にした。

 

「ほう」

 

 ただでさえ薄い鉄板。例え強化を施しても強度的に攻撃が防げるかは微妙な所。でも、俺はその賭けに勝った。

 

「っく!」

 

 ゴン、っと衝撃共に砕け散るポスター。けれどその一撃を防ぐと言う役目は果たしてくれた。しかしそれでも元は鉄板、一撃を防いだ後は貫通、役目を終えると元の素材へと戻っていった。

 

「あ、ぐッ!」

 

 だが防げなかったモノもある。薄い盾では攻撃は防げても衝撃までは殺せなかったようで体までに達し、その衝撃で壁まで吹っ飛ばされてしまった。

 

「──ーッ!」

 

 尻餅を付き、激しく鼓動する心臓に喝を入れながら次の武器を取ろうと試みるが……顔を上げた時、俺は悟る。

 

「今度こそ終わりだ、変わり者の魔術師。最後のは中々に楽しめたぞ」

 

 俺自身の終わりを、明確な死を。

 心臓に突きつけられるはあの白い槍。そして俺を一度、終わりへ導いたあの槍。匂い立つは死の匂い。ピッタリと俺の心臓へ向けられた槍は、間違いなく数刻前と同じ通りに俺の心臓へ突き刺すだろう。

 

「筋はいい……が、若い。それに魔術師でありながら根は戦士だ。もし、私自ら貴様を鍛えていたらきっとセタンタと同等の実力者になっただろう。なんとも惜しい事だ」

 

 女の声は聞こえず、俺の意識はただ向けられている槍に注がれるのみ。当然だ。コレが突き刺さればまた、俺が死ぬと身をもって知っているのだから。

 

「だがコレもマスターの命令。ゲッシュに従い、私はただそれを実行するのみだ」

 

 女の腕が動く。先程まで見えなかったはずの動きは今はスローモーションのようにゆっくりと見えた。

 

 閃光の一撃。防ぎようのない無慈悲な閃光はただ真っ直ぐ、俺の心臓を目指して突き進む。後一瞬でもしたら血が出るだろう。肉をかき分け、その矛先が俺の心臓へと届くだろう。

 俺は知っている。知ってしまっている。体内に矛先が入る感触や

 痛み、胸から迫り上がって来る血の味。そして世界がモノクロとなり、消えていくあの瞬間も。

 ……それをもう一度味わえと? 冗談じゃない。なんで俺が、そんな最悪な事を受け入れなきゃいけないんだ! 

 俺には爺さんにあの災害から助けられた恩がある。なんだかんだと言いながら藤ねぇには俺を孤独にしまいと無理矢理にでも一緒にいてくれた恩がある。親友には未熟な魔術師だからと文句を垂れながらも、真剣に付き合い、師匠となって鍛えてもらった恩がある。姉弟子には俺が料理が出来なかったからと付きっきりで料理を教わった恩がある。もう1人の姉弟子からは自分があなただからと血だらけにのりながら、それでも俺へと笑いかけ、命を賭して死にかけで囚われていた俺を非情な生き物から助けられた恩がある。

 

「──────」

 

 頭にきた。

 そんな恩ばかり背負っている俺が、何も返せずにこんな所で死ぬのか。

 誰にも返せてない、増え続けるこの恩を抱えたままに死んでしまうのか。

 

「ふざけるなよ、俺は──ー」

 

 こんなとこで、意味もなく。よくわからない、テメェみたいな奴に──ー

 

「────殺されてたまるかぁぁぁ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

「ッチ」

 

 それは、まるで魔法のように現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 眩く光る閃光の中。それは、俺の背後から現れた。

 

 思考が停止し、現れたそれが少女の形をしている事しかわからない。

 あろう事にそれは俺を貫かんとしていた槍を打ち弾き、躊躇なく女へ踏み込んだ。

 

「────ッな! このタイミングで新たなるサーヴァントだと!?」

 

 弾かれた槍を構える女と、手にした()()()()()()()()()()()()()()()()を一閃する少女。

 複数の火花が散り、鉄同士のぶつかり合う感高い音が響く。それはまさに剛剣一閃。現れた少女の一撃を受けた女は、たたらをふむ。

 

「ッチ、場が悪いッ!」

 

 この場所では不利と悟ったのだろう、女は目に纏まらぬ俊敏な動きで外へと飛び出す。それを自身の体を使って警戒しながら、それは静かに、振り返った。

 

「問おう、あなたが私のマスターか」

 

 月の光に照らされるその光景は奇しくも、数刻前に見た光景と瓜二つであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

運命交わる第16話

「……今行く、10分持たせろ」

 

 受話器を戻し、眠気覚ましのコーヒーを煽る。

 

「クソが、何処のどいつだよ。あの屋敷に奇襲をかけるバカ者はよ」

 

 あの屋敷は普通の泥棒ぐらいなら到底近付けない、それなりの強さの結界が張られてある。そんでもってその結界は常に俺の監視下あり、何かしら変化があればすぐにわかるのだが……こりゃ綺麗に無効化されてんな。まぁ、今回の事を例えるなら異常を伝える事無く。大本の電源をOFFにされた感じだな。 ハァ、おっかしいな。毎回張り直すのが面倒だからと、時計塔にバレたら一発封印される原初のルーン使って構成してる結界だっつうのに……それが無効化されるってどんな相手だよ、全く。

 

「さて、準備準備っと」

 

 現在ランサー(相棒)は隠密活動中、敵に覚られないよう念話すら行えない状況だ。だから俺自身でこのピンチを切り抜けるしかない。やべぇな、対行出来っかな? 風呂から上がり、目の前にあった制服へと袖を通す。此処から衛宮邸まで歩いてならおよそ一時間半程度。倉庫のアレを出すしかない状況だが……仕方ないか。ゴメン母さん。貴方の遺産、使わせてもらいます! 

 様々な準備を素早く整える。倉庫から大きな筒状の武器である対戦車ミサイルであるプレデターと様々な道具が入ったボストンバックを取り出し、一緒くたに背負う。そしてそれらと一緒に倉庫から出した母さんの遺産(バイク)、VMAXへ跨った。

 

「待ってろよ弟子4号、俺がお前を助けてやるからな」

 

 キーを回し、キックスターターで火を入れると独特の駆動音と共にV型四気筒1400──1800ccのエンジンは10年ぶりに獅子の如く怒号を張り上げ、蘇る。

 

 元々これは当時で考えても最高のクラスを誇っていたモンスターマシンであった。けど、母は何を考えたのかそんなモンスターマシンを机上の空論である速度特化、実用性皆無のカスタムを施し、無茶苦茶な代物にしちまっていた。相当俺の母は相当のバイク好きだったのだろうな。普通こんなマシンを乗りこなそうだなんて、そんな人物じゃなきゃ考えないからな。そしてそんなモンスターマシンは受け継いだ当初、大破した状態だった。何があったかは分からないが結構大きな事故でも起こしたんだろ。そんな状態のマシンを勿体なく感じた俺は10年がかりでこれを修理、そして改造を施した。

 

 ブーン、ブーンとスロットルを回しエンジンの調子を確かめるが──この音は上々。何とか動きそうだな。

 

 修理の際一番困ったのは部品だった。改造に使ったであろう設計図は何故か、衛宮邸の蔵内に残ってたからそこは何とかなったがマジで部品確保に苦労させられた。

 物自体が初代と呼ばれる珍しい物だったらしく市場に出回ってる部品が比較的少ない。だから、俺は考え最終的には改修にはジャンク品や後期生産された同じバイクの部品を多く用いる結論へと辿り着いた。駆動系には既に手が入れられていた為に大破し、原型を留めてないエンジンやターボチャージャーなどを取り付け、ボアアップした改造品へまるごと交換。フレームも一部追加して事故の後遺症で弱くなったシャーシを補強したりと様々な改修を行った。結果、計算上では330馬力を叩き出す物に変貌した。……血は争えないって事かな? 

 まぁ、そうすると当然人間では扱えない実用性皆無な物になる。一応リミッターを取り付けて最大機能を発揮できないようにはしてるけど──―よく考えるとコレがリミッター付きの初走行なんだよな……上手く機能してくれると良いけど。

 

「ま、やるだけやってみるさ」

 

 マウントを蹴って仕舞う。俺はゆっくりとスロットを捻りクラッチを繫げて、このモンスターマシンで車道へ乗り出したのだった。

 

 

 

 結論から言おう。母さん、何てマシンに改造してくれてるんだ! 

 

 

「おらぁ!」

 

 とにかく速く、とにかく曲がりにくい。リミッターを付けて設計図の性能へ近付けた結果でコレだ。もしリミッターを外すと考えると────うん、考えないようにしておこう。ってか何だよVブースト機構って。普通こんなやべぇ機構にツインターボなんて搭載するか、普通! 

 月明り眩しいこの夜。住宅街の中を爆走するは俺の操るモンスターバイク。操縦性最悪な為に正直迷路みたいな、住宅街を突き進むには向いて無さ過ぎる車両ではあるがそのスピードは予想以上。アイツには10分と言ったがこれなら予想以上に早く、衛宮邸へ到着できるな。

 そんな軽く考えたのが悪いのだろう。

 

「──―ッ! な、何だ今の!?」

 

 胸を刺す様な重圧と魔力の高ぶりが、衛宮邸から強く感じられた。そしてこの感覚に俺は覚えがあった。コレは────

 

「──―まさか相棒、聖剣を使ってるのか?」

 

 でもなんで。アイツ、何度目かの蛮族退治の際に使ってから何故か、聖剣嫌いになって俺と一緒に湖へと捨てに行ったはずなのに……何で使ってるんだ? 

 更に速度を上げる為、スロットルを回しエンジン回転数を上げる。残りは直線、コレは急いで確認しないと。スピードメーターは進む速度と比例して変化を続け、既に100キロを突破していた。風景を横流し、衛宮邸の裏に到着。俺はそのままスピードを緩めつつバイクを進め、正面の門へと回り込んだ。

 

「──―ッ!」

 

 そこには見えないようにしているのか、風を纏わせている聖剣を構えた相棒の姿と赤い外装を纏った外国人。その二人がそれぞれの獲物を構え、一色触発。どちらも雰囲気が普通じゃない事を察するに壮絶な戦いを繰り広げると想像に難くなかった。

 ッチ、何が何だかわからないが、状況から考えるにあの赤い奴が敵だろう。そんで相棒は俺の友である衛宮を助けに来たって感じだな。

 状況を素早く整理して、優先事項を頭の中で組み換え確定させるとバイクに跨ったまま、腰に下げた筒を肩に乗せ照準器を除き込む。安全装置を外し、後は射線上に存在する相棒を下げさせるだけ。

 

「そこの騎士、伏せろ!」

 

「──―ッ!」

 

 一応は相棒の話だと現在は聖杯戦争の真っ最中、真名がバレると不味いと判断した俺は相棒のみ当てはまる役職を叫ぶ、すると反応したのか相棒は素早くサイドステップをくりなし射線が確保できた。それを確認した俺は赤い奴目掛けてプレデターを発射──―するはずだったが。

 

「佐藤、止めろッ!」

「止めて、翔ッ!」

 

 二人の声で止められ、無意識的に引き金を引く事は無かった。ど、どういう事だ。片方は衛宮の声だと分かるが今の声は────まさか、遠坂チャン? 

 俺の予想は間違ってなかったようで赤い男、その背後から見覚えのあるツインテールな女子が出て来た。

 

「よ、よかったぁ。流石にこんな場所でプレデターぶっ放されたら隠蔽しようがないわ」

 

 いや、まぁ。確かにそうだ。こんな住宅街のど真ん中で対戦車ミサイルなんてぶっ放したらダメだわな。

 俺はミサイルの安全装置を再度起動させる。それと一応拳銃の存在を確認し、バイクから降りていつも通りのテンションで彼女へ話しかけた。

 

「や、やぁ遠坂チャン。良い夜だね」

 

「えぇ、確かにそうね翔。その左手で掴んでる物が向けられる心配が無ければいい夜ね」

 

 いや、Mー16の銃口をこちらに笑顔で向けてる君にだけは言われたくないんですが。

 

「凛、どうやら戦う雰囲気では無さそうだ。一度その物騒な物を下ろしてはどうだ?」

 

「えぇー、でもせっかく弾頭を魔法を込めたダイヤで作った物を持って来たのだから、一発ぐらいは撃ちたいぃ」

 

「え、えらく物騒で豪華な消耗品だな……でもダイヤを弾頭とはちょっとやり過ぎなのでわ?」

 

 確かに、そこの赤い人の言う通りダイヤはやり過ぎだと思うぞ。一色告発の状況から一遍、何故かホンワカとした空気が漂って来た。そしてそんな空気の中、空気の読めない必死そうな奴もいる訳で。

 

「ハァ────ハァ────ハァ……よかった、発射する前で」

 

 お、衛宮さんチッスチッス。無事そうでなにより。見たところ怪我は────多少しかしてないようだな。傷自体は俺の教えた魔術を使って塞いでるみたいだし、問題なさそうだ。

 

「よぉ衛宮。電話では切羽詰まってた癖に案外元気そうじゃないか」

 

「お、おう。そうだな佐藤。お前は案外早かったんだな」

 

「新記録だぜ、俺も5分もかからないうちに到着できるとは思ってもみなかった」

 

 ってか、意外と余裕そうじゃん。こりゃバイク出した意味、無かったかな? ってか、やけに相棒が静かだな……どうしたよアルトリアちゃんよぉ。何時もの乗りはどうしたんだい? 

 

 何てふざけた思考でいたのが悪かったのか。

 

「何故──」

 

 彼女の瞳に。

 

「ん? どうした相棒、俺の顔に何か変なの付いて──」

 

 彼女が俺へと向けるその瞳に混じった狂気に気付けなかった。

 

「────何故、生きているんだランサー……いや、サー・ファルシオ。お前は私がこの手で殺した筈だッ!」

 

 そう言って聖剣を俺へと向け、肌を刺す様な濃厚な殺意を向けて来る相棒だった。な、何で?



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

聖なる剣の暴走、再会する因縁の17話

ふぅー、やっとここまで行けた


 オーケーオーケー、状況を整理しよう。

 俺は聖杯戦争なる戦いに巻き込まれ、偶然にも相棒を召喚した。そんでもって今日、友の助けに向かうとその相棒にと偶然にも再開し何故か。彼女が嫌ってたはずの聖剣を向けられ、割と本気の殺気を向けられている……っと。うん、まるで意味がわからない。

 

「オイオイ、これはなんの冗談だよ全く」

 

「その減らず口は死んでも治りませんでしたか、サー・ファルシオ」

 

 いや減らず口の一つや二つでも呟いてないと正直、恐怖に呑まれそうになるから仕方ないね。前世ならまだしも今世では普通の人間なんだから。

 心臓は激しく鼓動し、鷲掴みにされたのように痛い。少しでも油断したら即座に切り捨てられそうだぁ。

 

「お、おいセイバー。いきなりどうしたんだよ」

 

 セイバー……あぁなるほど。つまりは目の前にいる相棒はアルトリア、つまりはアーサー王であって俺が出会った相棒とは別人って事ね。……いや、尚更剣を向けられる理由がわかんないんですけど。

 

「それになセイバー、こいつはそんなふぁるこんだかファミレスだか変な名前じゃないぞ。ちゃんと佐藤と言う名前がある」

 

 苗字なんだが? もしかして士郎君。君ってば俺の事、佐藤としか認識してないな? 雰囲気は一触即発。油断のならないこの状況で士郎は動き、俺の前に庇うように立った。

 

「下がってくださいシロウ、この男は危険です」

 

「何故佐藤が危険なんだ、理由をちゃんと説明してくれ」

 

 確かに。士郎の意見には俺も賛成だ。突然銃口を向けられる事は多々あっても、聖剣を向けられる覚えはない。あ、でも邪剣とかなら向けられる覚えはあるかな。

 

「どかなければ────貴方ごと、斬るッ!」

 

「────ッ!」

 

 有言実行とはまさにこの事。目の前にいるあ……ではなくセイバーは不可視の剣を振り上げ、斬り込んで来た。

 咄嗟に目の前にいる士郎の肩を掴み、後ろへ引っ張ると俺は懐から取り出した。

 

「おらぁ!」

 

 取り出した物は伸縮式の特殊警棒。でもただの特殊警棒では無く特別製の物だ。材質はアトラス院に所属している友達から、わがままを言って提供してもらった星由来の特別なものを使用。組み合わせる事によって効果を発揮するルーンを刻み込み、とにかく頑丈でなんでも殴れる警棒に仕立て上げた。まぁ、本当はコレって弟子1号が暴走した時用の装備だったりするんだが……どんな物でもいつ、何処で役立つかわかんねーな。

 

「────ッく!」

 

 振り下げられた聖剣を警棒の腹に当たる部分で受け止め、全身を使い踏ん張る。

 だが、それでも備えは足りなかった。瞬間身を砕くような衝撃を感じる。あまりの衝撃に立っていられるはずも無く、思わず膝をついてしまった。

 流石に正面から受けるには重いか! 

 剣は苦手だが出来ない訳じゃない。弾く事も出来たが、生憎とこれは弾きを想定して使ってない。むしろ正面から打ち合い。鍔部分にあるネズミ返しに相手の武器を引っ掛け、奪い取る事を主眼にして作られてるから無理だ。

 

「──く、そ────いちいち、重いんだよ!」

 

 なんとか身体能力のみで対抗するが、相手はサーヴァント。特にアルトリアに至っては自身の足りない筋力を魔力で補ってるために剛腕。クソ、そんなんだからガレスに裏でゴリラの大王、略してキングコングなんて呼ばれるんだよ! 

 

「ほう、やはり見えていますか私の剣が」

 

「────見えている訳じゃない、ただ知っているってだけだ」

 

 そりゃマーリンと一緒に旅立ち、修行した時に嫌と言うほどその剣とは打ち合ったからね。体じゃなくて魂がその剣の間合いを覚えたらぁ。

 俺とセイバーはこのままでは埒があかないと一度バックステップ、間合いを離す。

 後ろにぶっ飛ばした士郎が心配だったけどそれは要らぬ心配だったよう、あの赤い男の肩の上でお米様抱っこの状態のまま、何か遠坂チャンと元気に2人で言い争ってるのが見て取れた。

 

「アンタのサーヴァントでしょ! は・や・く止めなさいよ!!!」

 

「だからどうやって止めるって言うだ遠坂ッ!」

 

「令呪の一角でも使えばいいじゃないのッ!」

 

「れいじゅってなんなんだッ!」

 

「あ、あのぉ……出来れば私の耳元で言い争いはやめてほしいなぁ、なんて────」

 

「「うっさい! お前(アーチャー)は黙っててッ!」」

 

 なーにしてんだか。あの2人は? ほら、あの赤い人が見るからに困ってるでしょ。見てる方も恥ずかしいからやめなさいって。 

 

「ならば────これはどうですか。ッはぁぁぁぁぁ──ー!!!」

 

 セイバーの闘牛のような剣を振り上げながらのダッシュ。その動きにはなんだか既視感があって記憶の何処かに────って、まさかラッシュか!? 

 

「こなくそッ!」

 

 火花が2度散る。火薬が爆発したかのような音を発生させ、繰り出されたは、斬り下げからの流れるような斬り上げ。基本的な動作ではあるが、技量のある人間が行うとこうも違うのか。

 反応できたのは言うに無意識的な防衛行動の賜物。野生の感に近い直感に従い、前世での記憶を元に動いたからだ。まぁこんな偶然二度もないと思うけどね。

 セイバーはそれも考慮していたのか、その後も何度か俺へと斬りかかり。それから始まるは怒涛のラッシュ。

 

「────ぁ────く────」

 

 それを悟った俺は咄嗟にもう一本。合わせて二刀流で対抗してそれを防ごうとするが────まぁ、うん。ぶっちゃけ無理ですね。

 三回に一回。傷自体は浅いが確実に俺の体が斬られていっている。斬られた場所は熱く、まるで焼かれてるように痛い。てか、コレでもこいつ遊んでんだろ。騎士の風上にも置かない酷い奴だな。

 最後の斬撃が終わると、再度セイバーはバックステップを取り後ろへ下がる。正直助かる、これ以上ラッシュに対応してたらどうにかなってたぜ。

 

「────ファルシオ、ウォーミングアップは終わりです。自身の獲物を出しなさい」

 

 いや既に出してますし、その片方は二度と使用できないぐらいボロボロにされたんですけど。コレ作るのに結構時間かかってんだからな! どうしてくれんだこの野郎ッ! このゴリラー! キングコング! 王は人の心がわからない! 

 ……そういえばあの二股野郎、ちゃんとイゾルデズに玉潰されたかな? 旅立つ前、2人に密告したのが俺だからかなり気になるわぁ。

 

「……なんだかバカにされた気がします」

 

「気のせい気のせい、ご自慢の直感は大外れを引きましたよ〜」

 

「ッ! やはり貴方は私を愚弄するのですか」

 

 ……いくらなんでも気が短すぎじゃありませんかね? 

 ボロボロになった警棒を捨て、俺は両手持ちで構える。

 相手も刀身を後ろへ向けて、濃厚な魔力をその隠された刀身へと流し込んでいる。てか、セイバーを相手するなら持ってくれば良かったなぁ……槍。セイバー相手じゃ持ってきた銃火器も意味をなさないだろうし、警棒じゃなくて本当は槍が良かったなぁ────あ、そうだ。

 

「気が短いって事はカルシューム足りてないじゃありませんか? ペチャパイさん」

 

「ッな!」

 

 こうなったら呼び出すか、ランサーを。

 敵の気を散らし、俺は右手に刻印されてる令呪へと意識を向ける。

 俺は知ってるぞ。聖剣を持ってた頃、お前が実はその貧相なペチャパイに悩んでいた事をなッ! あ、ちなみに情報のソースは俺の大親友サー・ケイさんです。前世ではよく三人でギャラハッドを怒らせ浮気の騎士、ランスロットを懲らしめてました。

 まぁ、そんな訳でこの悪口は確実に彼女の地雷を踏み抜く訳で────

 

「ぺ────」

 

「ぺ?」

 

「────ペチャパイって、言うなッ!」

 

 ────そして結果、感情の大爆発を起こすのだ。

 俺の狙いは見事に当たり、彼女は聖剣に貯めていた魔力をジェット噴射の如く解放して真っ直ぐこちらへ突っ込んできた。普通ならすっごくヤバイ状況なのだが────それとほぼ同時に俺の準備も完了した。

 

「うぉぉぉぉぉ!!!!」

 

「────令呪をもって我が友に伝う」

 

 本来なら俺に無い魔力の昂りが右手を包み込み、転移と言う大魔術は発動────するかに思えた。

 

「令呪? をもって命じる、誰かアレを止めてくれッ!」

 

 だが、それは衛宮が消費した別の令呪によって起こした奇跡により、書き変わる事となる。

 

「────へぇ、なんとも面白い事してるじゃねぇか。俺も混ぜろッ!」

 

 

 

 それはまさに血のように真っ赤な稲妻。

 突如飛来したそれは、セイバーの一撃を軽くいなし俺の前へと立つ。

 

「────初っ端から父上が相手とかテンション上がるなー、おい!」

 

 楽しそうな声色で喋るは突如として現れた白銀と赤のツートーンの鎧を身に付けた騎士。俺はその人物に見覚えがあり、その手にするあの剣は俺が預け、そして死因の一つにもなった因縁の剣。

 

「サーヴァント、セイバー。召喚に応じ参上した。んで、どいつが俺のマスターだ?」

 

 2人目のセイバー、見覚えのある甲冑姿。

 ゆっくりと俺たちの方へと振り返り、そう叫ぶ姿はまさに俺の記憶に焼き付いた前世の戦友そのものであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ちょっとした過去話と驚きの18話

「────よく私の前に姿を現せましたね、反逆の騎士」

 

「────えぇ私もそう思いますよ我らが王よ。だが、何の因果か私達は再び出会い、剣を向ける相手となったようです。そして貴方はお変わりない。相変わらず貴方は頭の固い、()()のようである意味安心しましたよ」

 

「────ッ」

 

 二人の騎士が剣を突き合わす。片や魔力によって刀身を隠した星の聖剣。片や歴史では王を討った反逆者が扱ったとされる宝剣。

 その間にいる俺はピリピリとした空気が肌が刺り、幻痛のように痛い。真相真意の奥底、人類の魂願たる本能の一つ、生存本能が全力でこの場から逃げろと叫びを上げていた。体は恐怖を感じ震え、足は竦み始める。ってか、何でそんな二人の間に俺がいるんだよッ! 俺は百合の間に挟まるブ男じゃねぇ! 

 両者が刃を突き合わせ、戦いが始まろうとしていた、まさにその時──────

 

「止めろッ、セイバーッ!」

 

 ────衛宮の放った一言、ただされだけで事態は急停止してしまったのだった。

 ど、どういう事だ。何故二人は戦闘を辞めて一切動かなく────

 

「ちょッ! 衛宮君なによ、ソレッ!」

 

「うおぉ! ふ、増えてる……」

 

 声のする方向へ目を向けて何とビックリ。士郎の腕に見間違いようがない、刻印。令呪が刻まれていたのだった。しかしその形は俺が見た資料や自分の手に刻まれている物ともまるで違い、極めて歪。それは手の甲から二の腕までその刻印は伸び、全体的に広がっている。その数はぱっと見で四画、消えている部分も合わせると全部で6画も存在してようにも見える。でもおかしいな、本来なら全部で三画、それが令呪の絶対条件のハズ。だけども士郎が有するそれは、明らかにそれよりも数が多いよなぁ……やべぇ。なぁーんだ、アレ。令呪がまるで蔓のように絡み合ってらぁ。あまりにも似過ぎて全く関係ない、呪いか呪詛と見分けがつかねぇ。

 

「っちょ、せっかく今から楽しいドンパチをするつもりだったのに止めるなよー ノリわりぃーぞ、マスター」

 

「シロウ、止めないでください。私は、私にはこの二人を討たなければならない確かな理由があるのです。だから、邪魔をしないでくださいッ!」

 

 令呪の拘束能力は相当優秀のよう。さっきまで一触即発であった両者がまるで首輪に繋がれたワンコのよう、どちらも衛宮に睨みを利かせながら大人しくなってやがる。そしてその両者に挟まれた俺もワンワンワン、どっか行きてぇがさっきから飛んで来る相棒セイバーからの殺気で足がすみ、動けねぇぜ。

 

「二人共とにかく頭を冷やせ、後誰か俺に状況を説明してくれ。何が何だかまだ把握出来てないんだ!」

 

 全力で叫び散らかす士郎。その声には明らかな戸惑いや困惑、疑問などの思いが詰まっていると魔眼が無くても感じ取れたのだった。

 まぁうん。とりあえず、その困ったら令呪をぶっ放す精神は止めようか。突然の濃厚な魔力の流動は霊脈と常に繋がってる俺にとって、余りに心臓に悪過ぎる。だってビックリするからな。

 

 

 時は飛んで数分。士郎の説得の会もあって現在は衛宮邸に先程のメンバーで勢揃いし、遠坂チャンによって説明会が行われようとしていた。

 まぁその前に後片付けをしなくちゃならないけどな。って事で士郎が行ったと思われる戦闘痕を処理する。

 ふむ、コレはガラスそのものをまるごと交換し──―え? なに、どうしたの遠坂チャン。魔術で修復するから問題ない? だって? ……確かに、その方が手っ取り早いな。無意識的にその選択を消してたわ。そんじゃ、ヨロシク。

 俺はその間にお茶の準備でも──―おぉアーチャーが準備してくれたのか、ありがとう。そんじゃお先に一杯──―うん、美味い。アーチャーやるな、茶の入れ方が完璧だ。お、士郎ー 茶菓子どこあったっけ? たしかこの前、タイガー藤が買って来た饅頭がどっかに仕舞ってあったダルゥオ。おぉー、そうそうコレだよコレ。この饅頭を、俺達は待っていたんだぁ! あ、セイバー達も食べる? 

 

 

 まぁ、そんな感じで俺はのんびりお茶をしながら、今だに向けられる殺気を躱しつつ饅頭摘んでいるとガラスの修復が終わったのか遠坂チャンが俺の隣に腰掛けた。はい、あったかい物どうぞ。そんでもってさっき台所で見つけた茶菓子だ。

 

「ありがとう、気が利くのね」

 

「当たり前じゃないか遠坂チャン、俺に君の事に関してわからない事なんてプライバシーに関する事以外はねぇ」

 

「……はぁー、認めたく無いけどそのストーカー発言の内容を否定したいのに事実だから否定できないのよね……」

 

「フハハハハ。俺達の友情、いや愛は無敵さ遠坂チャンッ! って事でコレにサイン頂戴」

 

「あら大胆な告白ね。そんな事されたら私、何でもサインしちゃう────ってするかッ!」

 

「トリスタンッ!」

 

「なんてツッコミ力だ。私でなきゃ見逃す所だった」

 

「アーチャーもふざけるなぁ!」

 

 ッチ。流れ的に最近メルヴィンから借りた借金の連帯保証人にでも出来ると思ったが無理だったか。麻婆神父から仕入れる黒鍵は意外と高かったよ。そんな風にしていると遠坂チャンは急に真剣な表情へと変わり、おふざけの許さないピリピリとした空気となる。ってか、も────ゴホン。赤いセイバーさん饅頭食い過ぎだわ? 全部で三十ぐらいはあったはずなのにもう二、三個しか残ってないんですけど。

 

「ねぇ」

 

「なんだい遠坂チャン。士郎なら現在お着替え中だよ」

 

「それは知ってる。アンタ、さっきからかなりの殺気をあのセイバーから向けられているはずなのに、なんでそんなにのんびりとしてられるの?」

 

 まぁ似たような状況は経験してるからなぁ。ユグドミレニアでの宝具モドキを使った内乱騒ぎにへっぽこロードと水銀少女によって巻き込まれた時計塔での権力争い。妖精の国への不法入国に加えて相棒の墓場での死霊や使途モドキ達相手に戦闘などエクセトラエクセトラ……思えばこの十年で色々あったからなぁ。

 

「馴れだよ馴れ。ちょっと日本に来る前、色々と、な?」

 

「馴れって……」

 

「まぁ色々ってのは紛争地帯や内乱騒ぎに巻き込まれた事だけども。俺はホラ、出生がアレだから仕方ない部分もあるのさ」

 

 知ってるかい。魔術社会において養子は珍しくは無いが、あまりいい顔されないんだぜ。仕方ないね。養子を取るってことは血縁者の中に後継者のいない証みたいなものなんだからさ。もしくは最悪、儀式の生贄候補。

 

「そういえば貴方のおじいさんって旧姓が────」

 

「そうそう、今では悪名名高いユグドミレニアさんですよー。時計塔に正面から喧嘩売って大負けしたあの一族の末裔ですよ〜。そんでもって俺はその人の養子で仲間内ではよく異端児って呼ばれてた不幸な少年さッ!」

 

 いやーあの時は大変だった。ダーニック爺さんのご機嫌取りとかゴルジム君の魔術を見てやったり、ドSバァーさんから逃げ回って、ある意味義兄弟の兄妹を相手にしたりとほんっと大変だった。ってか、ダーニック爺さん英霊の影を呼び出し、使徒する宝具なんて何処で見つけて来たんだか。

 

「……確かあの内乱の後、ユグドミレニアの少年が贖罪の為に様々な戦場を駆け回っていたと聞いた事あるけれど────貴方だったのね」

 

「正確にはロードの後継者たる人物の依頼でな。そんでもってそんな戦場じゃ昨日の友が今日の敵、昨日の敵が今日の友──なんて展開はザラだったからなぁ……あの水銀女、今度会ったらピーマンの詰め合わせを食わせてやる」

 

 お茶を一杯飲みほし、余韻に浸っていると過去の記憶が蘇る。

 あの内乱を収めた代償は相当な額の借金だった。まぁ、仕方ないよね。対霊で一番有効打を与えられる武器は聖堂教会が保有してるし、それを買いまくってた結果なんだから。そんでもってその借金をどうやってか返そうとしていた時にアイツに捕まった。それからなんやかんやあって代わりにその借金を払ってくれて、その代価としてへっぽこロードと共に世界中駆け回ったよなぁ。まぁ、そのおかげで時計塔で沢山の友が出来たから万々歳ではあるがな。プロレス貴族や魔眼少女、キリたんやヘビメタ屁理屈ボーイとかね。

 そんな感じで思い出してるとどうやら着替えが終わったようで俺の横に衛宮が座る。が──―うん~空気が重いッ! 主にあいぼ────セイバーのせいだけどなんとも空気が重いですなぁ。

 

「何を話していたんだ遠坂、佐藤」

 

「俺の過去話。それと俺の愛をあげるから遠坂チャンに借金の連帯保証人になってもらえるよう説得してた」

 

「私はそんな愛だけでサインするような安い女になった覚えはな────「ちなみにルヴィはサインしてくれたぞ」……」

 

 突然黙る遠坂チャン。まぁ当然だよね、君はあの子に対してライバル意識凄いもの。あ、あとサインしてくれたのは連帯保証人云々ではなく、司法取引の書類だったりする。昔ドジってフランス警察に捕まっちまったぜ☆

 

「やめるんだ凛! 一時の感情に流されるじゃない!」

 

「離してアーチャー! 私はあの女にだけは負けられない、負けちゃいけないのよ!」

 

 ワロスワロス。必死にペンを持ってサインしようと足掻いたらぁ。アーチャーは意地でも止めようとしてて草しか生えませんなぁ。

 そんな中、頭を捻っている士郎。どうしたよチミー? 

 

「ルヴィって、誰だ?」

 

「ダイナミック淑女」

 

「あぁ、納得。あの人かぁ……」

 

 この前士郎と一緒にロンドン行った時に会ったが、何故か物理的にアタック食らってたもんね。そりゃ苦手意識が生まれてもおかしく無い。アレは見惚れるほど綺麗なコブラツイストだった。

 

「ってか、あんたって隠してる事多すぎない?」

 

 お、そこに気付いちゃうか遠坂チャン。

 アーチャーを何故足下にしてるのかは謎だが。白目剥いてらっしゃる。

 

「俺は隠し事なんてほとんどないゾ、ただ聞かれなかっただけだからな」

 

「聞かれなかったからって……なら聞くけど数月前、イギリスに渡っていたのは何で? あと水銀女って誰よ」

 

「誰って────そりゃお前も会った事あるだろう。ライネスだよライネス、あのクソ女だよ」

 

アイツには苦労させられた。借金を返すまで俺の身柄は預かったとか、兄さんの手伝いをしてくれよとか、最終的には伴侶になってくれよとか……どこか頭がぶっ飛んでる女だったぜ。あ、伴侶の話は裏の思惑がスケスケスケルトンだったので断りました。まだGoライオンの後継者の方が魅力的に感じるわ! 悪魔の呪い付きだけど。

 

「ちょ、クソ女って……仮にも次期ロードよロード」

 

「アイツはクソ女で十分だ。後その数か月間に関しては聞くな、絶対聞くなよ。ただ単にちょっとクソロードの救援に行ってただけだからな……二度と魔眼蒐集列車なんて乗るもんか」

 

 直死の魔眼は流石に物騒過ぎんだろ。何で俺ってばこんなやべぇ物手に入れてるんだ? ……今思い出してもわからん。思い出せるのはマリーちゃんと親友になった事ぐらいだ。マリーちゃん煽るの楽しかったよなぁ……また会いたい。あ、でもサーバントはNGな。時すでに遅しではあるが。

 

「……何があったかは分からないけど色々と大変だったのね」

 

 うん。ハートレスの旦那に裏切られたのは、ちょっと心に来るものがあったわ。せっかく最近手に入れた、旦那の求めていた心臓を盗んだ妖精の情報を教えようとしていたのに……残念。

 

「じゃ、じゃ衛宮君との関係! なんで魔術師未満の衛宮君がマスターになれてるのよ!」

 

「酷い言い草だなぁ……まるで姉弟子みたいな言い分だぁ」

 

「姉弟子?」

 

 何故か微妙な空気のなる両者と間。俺の両隣にいる両者は見つめ合い、最終的には俺を見て来た。その様子はまるで答えを待つ、学生のよう。

 

「ありゃ? てか、2人に話してなかったっけ?」

 

「何をだ……って言いたいところだが、佐藤。俺はなんとなく察したぞ」

 

「奇遇ね衛宮君、実は私もよ」

 

 お、なぁーんだ。二人も知ってたのかぁー。今までは2人の仲が微妙だったから遠慮してたけど、この様子なら変に取り繕う必要ないな。

 

「遠坂チャンが三人目の弟子で、衛宮が四人目って二人とも知ってたのかぁー」

 

 2人は俺の言葉を聞いた途端目を見開き、遠坂チャンは口を両手で塞いだが、衛宮は開いた口が塞がらない様子。まぁ、世に言う驚きの表情ってのを浮かべていた。何故? 2人とも知ってたんでしょ。

 

「わ、私が三人目で!?」

 

「俺がよ、4人目!? 一体どう言う事なんだ佐藤ッ!」

 

 ありゃ? 別の所で驚いてらっしゃる。どうして? 

 そんな俺の中で混乱を残しつつ、2人から責め立てられる俺であった。

 




おまたせー


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

困惑と突然の死、そして神々しい19話

久しぶりに書いたぜ


「えっと、つまり衛宮君は私の弟弟子。そして私に話していない姉弟子が1人いる……と」

「ぞーでじゅ、だがらびやぐごぉろじで」

 

現在の状況を二言で説明しよう。

これまでに隠した事が皆にバレた途端目を見張る連携攻撃を食らった後にいつの間にか逆さまに天井から吊るされ、割とエグイ拷問を受けてます。助けてください、このままだと冗談抜きに死んでしまいます!!!って感じだ。

 

「ッチ、ここまでやってももう一人の名前を吐かなかったか。一体どうしてかしら?」

「あたまにぢがのぼるりゅー」

 

流石は魔術師の旧家だぜ、自分の疑問を解決する為に拷問も厭わないとは……頭のオカシイ一族は後継者もしっかり血を継いでて俺ちゃん嬉しすぎて涙の代わりに血涙でるよ。

 

何て考えながらふともう一人の弟子ある衛宮の存在を思い出し、探してみるとチラチラと拷問部屋と大広間を区切るノレンの奥から特徴的な赤毛が……あ、いた。見たところどうやら遠坂ちゃんのアーチャーから聖杯戦争の説明を受けているみたい。何処か真剣な表情でメモ帳片手に頑張って書き込んでるのが霞んだ視界で確認出来た。

 

「聖杯戦争において召喚されるサーバントは本来なら全七基だ」

「はい! アーチャー先生質問があります」

「なんだね全年齢射程内猿よ」

「ぜ、全年齢……なんだって?」

「ゴホン。すまない、口がスリップした。それでなんだ?」

「は、はぁ。そ、それじゃアーチャー先生質問です。全七基なら今現在、俺の目の前にはセイバーが2人いるんだが……おかしくないか?」

「確かにそうだな、どう見てもセイバーが二人いてイレギュラーだ。何故このような事になったかは各自自分の頭で考えるしか無いだろう……って事で自分で考えろ。この正義の味方(笑)ッ!」

「……」

 

あ、士郎が何言ってんだコイツ怖ッ!って顔してるーおもしろー。

 

「コラ佐藤! さっさと私の質問に答えなさいッ!」

「わちゅれてぇーたぁ」

 

そーだったそだった。俺ってば拷問中だった事をすっかり忘れてたぜ☆

んな感じでぷらーんぷらーんっと吊るされ続けたまま俺はメトロノームのように揺れ、遠坂チャンとOHANASIしてると――――俺の持って来た饅頭を兜越しに食べ終え、沈黙していたモードレ――――赤のセイバーが立ち上がるとその手に乱暴に放置されてあった自身の剣を取る。

 

「なぁマスター」

 

眼にも止まらぬ鋭く素早い斬撃。明らかに間合の外であるはずの俺を吊るしている縄を部屋を区切っている暖簾ごと切り裂き見事、俺を床に敷かれてある畳に頭から叩きつけた。クソいてぇ……何故か拷問の途中で食らってたガンド以上に痛い。俺が顔面に走る痛みに悶え、苦しんでいると状況が変わった事を察してか話し込んでいた二人は剣を振った赤のセイバーへと目を向けていた。アーチャーに至ってはいつの間にかその手に獲物を握りしめ、警戒心を露わに彼女を睨いる。あ、相棒セイバーはどうしてるかだって? 彼女は赤のセイバーが立ち上がった時点で衛宮を庇うように立ち回ってるとも。

 

「そろそろその敵となれ合う茶番は止めないのか?」

 

ピリピリとした雰囲気がこの屋敷を包む。遠坂チャンも魔術のスイッチを入れたみたいで体から魔力が滲み出ているのを感じる。一気にコメディーモドキからシリアスに移行したこの状況、何故か部外者扱いになっている俺が取れる行動は――――この雰囲気をぶち壊す事だぜぇ!

 

「ホイホイホイっと」

 

素早く立ち上がった後アーチャーへ剣を向ける赤のセイバーの前に立った俺。赤のセイバーは"あ?"って感じで首を傾げ、俺を見ている。そりゃそうもなるか、俺ってば事情を知らない人間から見れば単なる一般人だもんネ!

 

「貴方がヤンチャな性格な事は十分理解したけれど……騎士さんや、一度その剣を置いてくだされ」

 

……正直思わずちびりそうな程怖い。だけどもこれぐらいの修羅場、前の俺は何度も潜って来たからある意味馴れてるんだよなぁ……嫌な馴れだと俺も思うぜ。

 

「すっこんでろ一般人。いや、父上と十分に打ち合ってた時点で一般人ではないのか?」

 

ボク唯ノ男子高校生ダヨー……ってオイ相棒セイバー、その人外を見るような目でこっちを見て来るの止めろよ。モルガンに対マーリン用高速拘束術式の原案を提案した時みたいでなんかヤダ。

 

「ま、いいや。私がぶっ倒す事には変わりないって事で死んでみるか?」

 

おっと相棒に気を取られてたらいつの間にかヘイトが俺に……こいつは不味いか? 真っ赤な宝剣、クラレントの剣先を向けられた途端先ほど相対した相棒セイバーと同様の重く苦しい殺気が当てられる。わぁー ぼくちゃんまたもしんじゃぅー

 

「ってふざけてる場合じゃねぇ。流石に死ぬのはゴメンだネ」

 

相手は聖杯戦争で呼び出せるサーバントの中で最も強く、最高位と言っても良いクラスであるセイバー。相棒セイバー相手なら何年も一緒に鍛えてた為に今世でも何とか対応出来たけど……相手はあの円卓内でも最強格であるランスロットやガウェインに並ぶとも劣らぬ強さだと評されていた雷鳴のモードレッドだ。生前で尚且つちゃんと槍を持った状態なら兎も角今の俺じゃ三秒も耐えれずに死んじまうぜ。

 

「そうか……なら抗ってみろよ!」

 

何時の間にか振り下ろされる宝剣。その光景は俺にとってまるでスローモーションの映像を見てるかの如くゆっくりと迫り来る感じ。当然身体能力が一般人ちょい上ぐらいの俺では対処のしようが無く、久しぶりに死ぬと確信していると――――

 

「止めろ!」

 

――――士郎の声が響いた。

 

「死ぬとか抗うとか――――」

 

衛宮が何やら言ってるみたいだけど俺の耳には届いてない。何故かと言うと眼前に刃先があって後少しでも止めるのが遅かったら文字道理真っ二つだったからネ!ってか、こえぇぇぇ。今度こそダメだと思ったけどマジで死ぬ直前で笑えねぇよコンチクショウ! もうヤダ。相棒、俺を助けてくれ……あ。

 

「あ、やっちまった」

 

俺の心の中で念じた願いはきちんと俺の令呪へと届いていたようでその神秘にて魔術を超えた奇跡、魔法が行使される。

 

「マスター」

 

「ッ!」

 

突然火薬が爆発したかのような轟音と共に火花が散ると俺の視界がグルングルンっと回ったかと思うと多分抱きかかえられてる形で別の場所で立って居た。そしてそれに気付いた俺はふと、抱きかかえてる人物へと目をやった。

 

「ご無事ですか?」

 

神性と呼ぶべきであろうか……大広間にて呼び出されたその存在は全てを屈服させ服従させるようなオーラを放ちながらも差し詰め自身の存在を神と語るかのような神聖な雰囲気を醸し出している人、俺の相棒ことサーバントであるランサーの姿がそこにあった。あぁー懐かしぃ、相棒って戦闘モードだとこんな感じだったなぁ……最後に経験したのが随分昔だったからすっかり忘れてたぜ。

 

「ヒュー」

 

モードレッドから楽し気な口笛が聞こえる。

 

「本物の父上もご登場。っへ、面白くなってきやがった」

 

気合を入れるかのように魔力を高ぶらせる彼女。鎧全体に赤い稲妻が走り、肌がピリピリと痛い。

 

「ら、ランサー。何でこんな所に……」

 

「下がれマスター!」

 

そしてアーチャーはと言うと驚き、そして焦りのような表情を浮かべながら遠坂チャンを庇うかのように立ち回る。凛チャンに至ってはショックが強すぎたのか白目むいちゃってるし……俺の知らない所で何かあったのか?

 

「な」

 

そして俺が呼び出したランサーを前に突然プルプルと震え出し、下を向いた相棒セイバー。その様子は尋常ならざる感じで例えるならそう、冷蔵庫にとっていたプリンを勝手に食べられた時のよう……ど、どったの急に。

 

「なんですかその胸わぁぁぁぁッッ!!!」

 

……はい? 

 

シリアスな雰囲気から一転、彼女の叫びによってまたもフザケタ事に成りそう。そう、俺は心底思うのだった。

 

「……えらい美人さんだな」

 

衛宮よ、今その感想はズレてると思うぞ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

何処か別の場所でのXX話

記念すべき20話だぁー! 

ってかまだこんなにもこの作品が沢山の人に読まれてて正直困惑を禁じ得ない。


「ほぉ、お主……いや、お主らが余のマスターか」

 

「はい、そうですよ」

「あぁそうさ、私達が貴方のマスターだとも」

 

 時刻はちょうど衛宮が追加のサーバントである赤のセイバーを召喚した頃、イギリスのロンドンでは同じくサーバントの召喚が行われていた。現代魔術師達の集まる組織で最高峰と呼ばれている組織の中でも最も身近な名のが時計塔と呼ばれる組織だろう。そしてその組織内にて突如として出現した冬木にて開催されるサーバントと呼ばれる奇跡をぶつけ合い、願望器を巡る戦争────聖杯戦争に選ばれたマスターが1人、そのサーバントを呼び出す召喚儀式に成功する。そして召喚されるは────前大戦にて猛威を振るったサーバント、イスカンダルその人であった。

 

「それにしても流石は兄上が秘蔵していた聖遺物だ、一発でお目当てのサーバントを引き当てる事が出来てある意味安心したよ」

 

 赤く光る痣のような紋章、つまり令呪をさすりながらそう言い放つは次期ロード当主であるライネス・エルメロイ・アーチゾルテ。

 

「そうですね、流石は前エルメロイ卿が残した遺産っと言ったところでしょうか?」

 

 そしてもう一人、令呪をその身に宿らせ彼のマスターとなった少女、彼女の名は間桐桜。現、時計塔にてその圧倒的な実力と才能のみで位を登り積め、紆余曲折あって時計塔設立以降最年少で色位の位にまで上り詰めた聞く人ぞ知る魔術師界隈では化け物や伝説とまで言われる人物だ。

 

「ぬぅ、しかし余のマスターが二人いるとは……実に不思議だのぉ」

 

 そんな彼女達を前にサーバントであるイスカンダルはその赤毛と同色の顎髭を欠き、この不可思議な現状に頭を捻る。それもそのはず、本来一基のサーバントに二人のマスターと言う状況はあり得ないのである。それに加え彼の中では前大戦である第四次聖杯戦争の記憶が色濃く残っていたのだから。少年との出会いに同じ王達との宴会、人外なる存在との戦いに騎士王との一騎打ち……そして英雄王との最後の戦い。本来あるはずの無い楽しかった記憶や悔しかった記憶、そして家臣と認めた少年との記憶が脳裏に刻み込まれていた。

 

 彼の疑問にライネス達は心底楽しそうに答える。

 

「そこはマァ、彼と一緒に面白半分で考えた裏技と私とサクラとの研究の賜物さ!」

「ハートレスさんとの出来事が無ければ思いつきもしなかったことですけどね」

 

 彼女達言い分はこうだ。突然ある人物が聖杯戦争のマスターに選ばれたらしいのだが、その人物はコレを辞退。そしてそのマスターの権利をライネスに譲り渡したそうなんだが、彼女はこの時ふと先代の経験を元にある事を思い付いたらしい。マスターが二人いれば勝利は盤石なものになるんじゃネ? っと。そのタイミング丁度彼女の友達兼ライバルの1人である桜が居た為に彼女を巻き込み、最高峰の魔術師二人が協力して令呪を徹底研究。結果、マスターの権を二分割する事に成功する。そして偶然にも過去、何処かの誰かが冬木の霊脈がどうしても必要で様々な人物の協力の元、試行錯誤した結果元々彼の部屋だったコノ召喚された場所を冬木の霊脈と接続する事に不安定ながらに成功した場所があったのでそこで召喚を行ったらしい。触媒を使った理由としてはマスターが二人いる事から召喚に際し何かしら不具合があると考えた為とかどうとか。

 

 その経緯を聞いてイスカンダルはその先代に関して心当たりがあったが……まさかと思い思考を停止させた。

 

「ふむ、しかし考えようによってはあの英雄王にリベンジする事も可能であるのか……」

 

 イスカンダルは考える。あの時は令呪三つのブーストがあったとは言えライダーとしての宝具も失い、マスターからの魔力供給も少なかった事から万全な状態とは言えなかった。しかし今回自身を呼び出したのマスター達は違う。彼女らは魔術の心得が無くても肌身で感じられるほどの最高位の魔術師だ。それが二人、自身へと供給される魔力量も前回の比では無いはず。だからこそ彼は考えてしまうのだ、聖杯から供給された知識によって知りえた受肉し現代でも生き残っている前勝利者であり、自身を撃ち破った英霊である英雄王ギルガメッシュとのリベンジマッチを。

 

「これは燃えてくるのぉ」

 

 彼の中で燻るは戦いへの情熱、そして渇望。あの戦いに再度挑む事を許された事に対する喜びが胸の中で溢れかえった。だけどもここで彼は正気に戻る。確かに戦う事も大切だが、それも今回のマスターとなる人物を知らなければ始まらない事。そう気付いた彼は復活の雄叫びを上げるかの如く目の前の少女二人へと宣誓するかのように告げる。

 

「我が名は征服王イスカンダルッ!」

 

 それは世界に対する宣言であり、自身を葬り去った打倒英雄王と血を滾らせる。

 

「此度の聖杯戦争においては再度ライダーのクラスを得て現界した。して、お主らの名は?」

 

 彼の脳裏に映るは前大戦であったあの少年。自分で呼び出した癖に姿を現した途端、腰が抜けて地面へへたり込むと言う愚行を犯した臆病な少年。今の時代があの時から何年の後の世界なのか今だに分からない、しかしこのマスター達を見ていると彼と何処か似ているようで思わず懐かしさと共に自然と笑みが零れた。実力も性別も何もかもが違う、しかし何故かそう感じてしまう。

 

 だからこそ彼の中で少女達に対して好感が持てている。だからこそ自身のマスターに相応しい、一目見てそう感じた。

 

「私はライネス・エルメロイ・アーチゾルテ、気軽にライネスで良いよ。そして彼女が──―」

「間桐桜です。よろしくお願いしますね、ライダーさん」

 

 

 こうして異国の地にてライダーの陣営が結成される事となった。コレがこの先どのような結果を齎すのか、誰にも分からない。しかし一つハッキリしている事がある。

 

「ところでお主ら。その魔術師としての腕を見込んで言うが、我軍門に下る気はないか?」

「ないな」

「ないです」

「そ、そうか……」

 

 ライダーはまたしてもスカウトに失敗したと言う事だ。

 

※※※

 

「まさかこの私がアサシンのクラスで現界するとは思ってもみませんでした」

「すいません、拙の思いつきの影響で召喚してしまって……」

「よい、よいのですマスター。偶然とはいえ貴方はマスターの権利を得ていた。でしたら私達サーバントを召喚する事は当然の事なのです。それに本来適正の無い私がこのクラスで呼ばれたと言う事は何かしら意味があると言う事なのでしょう」

 

 亡霊住まう亡者たちの安眠のである墓地。本来なら気軽に立ち寄れるはずの無い不気味で危険なその場所に灰色のフードを被る少女は珍しく日課である散歩のコースとしてこの場所に来ていた。その最中極偶に現世に未練タラタラな蘇る亡者なんかを掃除しながら散策していると────彼女は何となく昔師匠兼友人から教えられたある魔術の詠唱を口ずさんだ。本来なら詠唱のみであるならその魔術は発動する事は無く、問題は一切ないのだが……この時は運が悪かった。

 

 彼女にとって魔力が一番高まる時間帯に加え彼女にとって魔力が一番高まる場所、彼女が持つ聖遺物が封印されている武具に自身の体に刻み付けられている因子。そして何より何処かのゴーライオンがある戦いに挑む為に準備し、あるバカが残した冬木の霊脈と繋がている部屋に繋がるパスの残された召喚儀式の残滓。これらが偶然合わさり合い、彼女自身も知らず知らずのうちに魔力を高ぶらせながら最後のピースである詠唱を彼女が口ずさんだ事よって彼女、アサシンが召喚されてしまった。

 

「サーバント、アサシン……なッ!? 一体どういう事だ! 何故私がアサシンとして召喚されているッ!!???」

「ひぇッ!? さ、サーバント!???」

 

 これはある種不完全な召喚でありイレギュラーな召喚、その為呼び出されたアサシンも自身に割り振られたクラスに疑問を隠せないでいた。そしてそのアサシンを召喚した彼女も彼女で故意に召喚した訳では無かった為に突然現れたサーバントに驚きを隠せない。アサシンはクールな外見は何処へやら、灰色フードの少女は少女で目を回し、彼女の持つ鳥かごからは笑いが絶えない。まさにカオス。そんな状態が数分続き、ようやく二人が落ち着きを取り戻した後双方原因を分析し事情を把握、冒頭の謝罪をした後に今に至る。

 

「ハッハハハ! まさか俺が触媒になってブリテンの魔女を呼び出す事になるとは思っても見なかったぜ!」

「コラアッド! その呼び方はアサシンさんに失礼ですよ」

「や、止めろグレイ! おお俺を回すんじゃn────あぁあぁあぁあぁッ!!」

 

 グルグルと回される鳥かご。その中からは悲鳴が聞こえるがアサシンはその光景を何処か微笑ましく眺める。その瞳はまるで懐かしいモノを見ているかのように柔らかく、そして純愛に満ちているようにも感じられた。そんな二人? の茶番にも似たしれは終わり灰色フードの少女、グレイとアサシンは向き合う。

 

「それでは改めて自己紹介を────我名はモルガン・ル・フェ、アサシンのクラスで現界しました。我願いを叶える為、よろしくお願いしいますね、マスター」

 

「墓守のグレイです! 聖杯戦争は知識でしか知らず、まさか拙が参加する事になるとは思っても見なかった為に聖杯へ願う願いとかあまり思いつきませんが精一杯頑張らせていただきます!」

 

「ヒッヒヒヒ! 俺はアッドだ!」

 

 月夜に照らされる夜空が見える幻想的な風景の中、こうして偶然か必然かアサシン陣営は結成された。そして何の因果かアサシンが召喚された時を同じくしてライダーもまた召喚されていたのだった。

 

「一先ず拙達が日本へと渡る手段を確保しなければいけませんね」

「あのライネス嬢か先生さんに頼んでみたらどうだ?」

「アッドにしては良い考えですね、そうしましょうか」

「あぁファルシオ……今度こそ私と一緒に幸せになりましょう」

 

この後連絡をとったグレイとライネスが合流し、両者相手がライバルであるマスターだと知って勝手にサーバント同士が一触即発の雰囲気になったのは語る必要も無いだろ。




シン・オリ鯖じゃコラー!

・ステータス

名前:モルガン・ル・フェ
クラス:アサシン
身長:170㎝
体重:不明
地域:欧州
属性・カテゴリ:混沌・悪・地
性別:女

【ステータス】

筋力:C
耐久:E
敏捷:A
魔力:B++
幸運:C+
宝具:C

マテリアル0

異なる歴史にてブリテンを愛し、抑止を憎み、そして死んでいった魔女。
本来の歴史と違いアーサー王との和解はある男が二人の間を取り持った事により和解に成功、それどころか取り持った事によって唯一血のつながった姉妹として愛してさえいた。
本来の適正はキャスター一択なのだったのが……何故今回の召喚に当たってアサシンのクラスが適応されたのか本人も分ってはいない。

マテリアル1
絆レベルが足りません。

マテリアル2
絆レベルが足りません。

マテリアル3
絆レベルが足りません。

マテリアル4
絆レベルが足りません。

マテリアル5
絆レベルが足りません。

マテリアル6
クエスト【抑止の意思とガイヤの意思】クリア時に開放。

マテリアル7
???

マテリアル8
???


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

カオスを改善、バランサーの登場、そして更なるカオスな21話

途中から自分でも何を書いてるか分からなくなって来たぜ!


 俺がランサーを召喚した事によりさらにカオスを極めた衛宮邸。モードレッドが牙を剥き、相棒が殺気だって槍を構え、相棒セイバーが自分と相棒との明確な格差に憤怒を露わにし、アーチャーは何でさと嘆きながらも右手にハリセンを左手にピコピコハンマーを手にする。約二名オカシナ奴がいるがそこは超人であるサーバント。それぞれ劣らない殺気を放ちながら一触即発な雰囲気となるこの状況、それぞれマスターである俺達は"あ、此処が墓場か……"なんて考え始めた頃突然それは現れる。

 

【両者、矛を収めてください!】

 

 頭に響く女性の声。美しいその声は頭の中をまるで浸透するかのように澄み渡り、その言葉に従わなければ行けないと言う謎の強制力があった。だからだろう、超常の存在である殺気立っていたサーバント達はそれぞれの矛を治め始めた。そして、俺はこの状況に妙な既視感を感じる。具体的にはルーマニアを走り回ってた頃に感じたソレに近かった。

 

「っげ、まさか……」

 

 サーバント達の向き合う中心地点。大広間に置かれている机に幾何学模様が光浮かび、一目で何かしらを呼び出す召喚魔術の魔法陣と分かる。そしてそこから現れるは長い金髪を輝かせ手には旗を、腰には剣を持つ純白の鎧に身を包んだ女騎士だった。

 

「我はルーラー、真名をジャンヌダルク! 此度の聖杯大戦を管理する為に聖杯より召喚されました」

 

 ランサーとは別のベクトルで神々しい雰囲気を醸し出しているは彼女、ジャンヌダルク。フランスの百年戦争においてオルレアンの乙女と呼ばれた救国の英雄だ。そしてその英霊が宿る肉体の持ち主は────

 

「や、やぁレティシア。ひ、久しぶりだねぇ」

「……もうお姉ちゃんとは呼んでくれないんですか?」

 

 ────ルーマニアで暮らし、様々なトラブルを解決していた頃に俺とルームシェアしていたある種の幼馴染だ。

 

「本来なら起こりえぬトラブルが起こり此度の戦いは聖杯戦争を超え、数多くの英霊が争う聖杯大戦へと至りました」

 

 レティシアに憑依した英霊ジャンヌダルク。彼女の指示により彼女が召喚されたテーブルを挟んで俺達はその場に座り、彼女の話に耳を傾ける。何故荒馬であるサーバントがすんなりと彼女の言葉に従い、座っているかと言うと調停者であるルーラークラスの権限は呼び出された使い魔にとっては絶対服従。それは今回のこの戦いが聖杯大戦であるのなら、その絶対的なルールは変わらない。何故この事を知っているかと言うとルーマニアにいた頃に遭ったトラブルは、英霊とその影と言う違いは有れどまさしくその大戦だったのだから。故にサーバントも聖杯戦争も知らなかった俺だけど、この件に関して前大戦の当事者なので詳しいのだ。

 

「ですので本来呼び出されるはずの無い私がこうして呼び出されたのです」

 

 各員沈黙。それもそうだろ、ランサーの話では聖杯から齎される知識には聖杯大戦に関するモノは無かった。だからこそ遠坂チャンやそのサーバントであるアーチャーも疑問を浮かべているしモグモグと俺が提供した大きな饅頭を食べる二人のセイバーも同様にハテナマークを顔に浮かべていた。だからこそ、聖杯大戦に関して知識のある俺が最初に声を上げる事にした。

 

「さてさて、それじゃそれぞれの情報をすり合わせて状況の整理と行きましょうや」

 

 過去に彼女から聞いた話だと聖杯大戦は本来あり得ざるイレギュラーが起こった時に切り替わる、聖杯にデフォルトに組み込まれたシステムの総評らしい。だからこそ俺はそれぞれ持っている情報のすり合わせをしてその原因を知る事が重要だと思った……んだけど。

 

「知る必要はありません」

「なッ!?」

「まったくだ、父上の言う通りだぜ」

 

相棒セイバー、そしてモードレッドが俺の提案を突っぱねやがった! 

 

「私とマスターに立ち塞がる障害は全て斬ります」

「敵が増えようが私が全て切り伏せてやる!」

 

何と言う脳筋、でもある種合理的な考えに俺は言葉を失った。流石は血のつながった親子、考える事は同じかよ。重い空気、何故か始まった俺と彼女のマスターである衛宮との視線とモールス信号による静かな戦場が此処に始まり、そして――――。

 

【早く訂正させろバカ! もしくはお前が彼女達のマスターなんだからお前が責任取りやがれ!】

【なんでさ!】

【さもないとお前の頭を丸刈りにすんぞ!】

【……揚げ出し豆腐】

【すまなかった衛宮、今のやっぱ無し】

 

――――今ここに戦いが終結した。

そしてその後に訪れるのは耳が痛くなるほどの静粛、カチカチと壁時計の秒針の音のみ聞こえるこの空間で最初に声を上げたのは俺の相棒だった。

 

「あのー」

「何でしょうランサー」

「所で、私のマスターとは一体どういうご関係で?」

「姉です♪」

 

 空気が凍り付き先ほどと同様の殺気が部屋を包み込む。そしてセイバーがランサーの胸を睨み付け、アーチャーが俺に生暖かい目線を送って赤のセイバーが欠伸をした。オイオイオイオイオイオイ、相棒もだけどこの聖女を纏ったアホは何言ってんだコイツ! 嫌な予感が頭を過った俺は下手な事を言い出す前に何としても彼女の口を塞ごうとするが……遅かった。

 

「あ、正確には将来を誓い合った仲ですけどね♪」

「……マスター、一体どういう事なのでしょうか?」

「ッ!」

 

 その瞬間俺の中にある生存本能がこれまで経験した事の無いほど爆音で鳴り始め、俺はその本能に従い咄嗟に顔面を目の前の机へと叩きつけるように下げた。こういう時の俺の勘は大体正しいようで直後、後部にひやっとした感覚が通り過ぎる。

 

「ひゃッ!?」

「おい、マジかよ」

 

 遠坂チャンと衛宮の驚く声が耳に入るも後頭部に走った感覚に驚きながらも俺は恐る恐る頭を上げると……ヤバイモノが目に入る。

 

「や、槍が刺さってやがる」

 

 視界に映るは壁に突き刺さる見覚えがあり過ぎる白い槍。まだ突き刺さったばかりのようで細かく震えている……こ、こえぇ。コイツ冗談抜きに本気で俺を刺しに来やがった。

 

「ら、ランサーさん。何でこのような事をしたのでしょうか?」

「自分の胸に聞いてみてはいかがですか、浮気者(マスター)?」

 

 あ、アレオカシイな。何だか俺を呼ぶ声に副音が聞こえるぞぉー それも中々に不名誉過ぎる名称が聞こえるぞぉ。突然の事に言葉を失い俺がプルプルと震えていると突頭に白髪色黒の男の声が耳に入る。

 

「なるほど、やはりこの男は同類なのか……」

 

 なんでさッ! 遠坂チャンとこのアーチャーさん、君は一体全体何者と俺とを同類扱いしたんですかね??? そんな思いも他所に今度はルーラーが口を開き、相棒へ問いかけ始める。

 

「逆に問いますが貴方は一体彼にとって何でしょうか? たかがサーバント程度で、彼に対して慣れ馴れし過ぎると思いますが……」

 

この瞬間重々しい空気がさらに重くなり、いつの間にかランサーの手には先ほど投げられた槍が握られていた。おっとやべぇ、何か別のヤバイモノが始まりそうだ。

 

「それに――――【レティシア、流石にそれは言い過ぎだと思うのですが……】――――聖女様は黙っててください」

 

あ、滅多に出てこない引きこもりな聖女様が表に出て来やがったのにレティシアが無理矢理引っ込めやがった。

 

「それにまだ彼とは出会ったばかりのハズですよね? それなのにその態度……まさか惚れやすいタイプですか??」

「ほぉ」

 

あ、長年一緒だった俺だから直ぐに気付けたけど相棒がキレた。

 

「現世に生まれ、偶然聖女の受け皿に選ばれた人間如きが既に死したとは言え英霊たる私に立てつきますか?」

 

そろそろ重苦しいプレッシャーで俺の意識が途切れ途切れになって何を話してるか全く分からねぇ。けど相棒がキレたって事はレティシアめ、相当やべぇ事をやったな。

 

「既に死した存在が現世を過ごす私と彼の関係に口を挟む権利はないと思いますが?」

 

あ、更にプレッシャーが強くなって意識が遠のくぅー 薄れゆく意識の中、まるで眠りを誘うかの如く視界が霞み出しやがてはブラックアウト。完全に意識を失った。

 

「ルーラーって、聖杯大戦って……一体全体どういう事なのよぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

けれど、何故か最後に遠坂チャンが発した発狂にも似た叫びはハッキリと聞き取れたのだった。

 




【レティシア】

佐藤が過去ユグドミレニアであったトラブルが原因で紆余曲折あり出会った少女。過去に何があったかは不明だが、珍しく佐藤が苦手意識を持っている事に何やら事情があるのだろう。ハッキリ言えるのはただ一つ、彼女は佐藤に惚れてるが佐藤はニブチンなのでそれに気付けていない。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。