オリジナルジョジョの奇妙な冒険 〜別れの雨〜 (ラタ)
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#1 出会い

初めて小説書いて、初めてハーメルンに投稿しました。
不安でいっぱいなんです。
間違いとかあれば連絡お願いします。


第一章 出会い

――とある人がこう言った。

「出会いと別れは表裏一体であり、何かと出会えば、何かと別れ、何かと別れれば何かと出会う」と。

そのとおりに、人々は出会いと別れを繰り返して成長し、生きていく。

……これは、「別れ」しかなかった私が何かに「出会う」物語。

 

 

それは、雨が降っていた夜。

私、空条助音は買い物の帰りの途中に雨に降られ、

走って帰っていた。

 

助音「なんで天気予報外れたんだろ…このままじゃ風邪ひいちゃうよ…」

 

そんなとき、こんな時間誰もいないはずの公園から叫び声が聞こえてきた。―いったいどうしたのだろう?

ほんの出来心で覗いてみた。

 

黒服の男「おい、テメェ…スタンドの矢は何処にやった?まだ持ってるんだろ!」

黒服の男2「テメェがスタンド使いだろうが、もう手も足も出ないようだなぁ…?」

 

まるで漫画のような展開。木陰から隠れて見てみると、なんと少年が追い詰められていた。

 

少年「矢は捨てたッ 何度も言ってる!」

 

涙ながらに少年は答える。

話から察するに、少年が何かを奪ったようだ。しかしまだ話の真相が掴めない。

 

黒服の男「おい…テメェのせいで俺がスタンドを手に入れるはずだったチャンスがオジャンになっちまったじゃねぇかよォォォォッ!」 バキッ

黒服の男2「おいおいやめろ…そう激昂するんじゃあない…生きたまんま連れ帰らないといけないんだぞ?」

 

男は激昂して少年を殴打した。

 

――うわ。これって関わるべきじゃないんじゃないかな…

と思っていた。 が、少年が殴られた瞬間、心の中の何かが私を突き動かした。

――放ってはおけない。よくわかんないけどこれは絶対に見て見ぬふりをしていいもんじゃあない。

 

助音「ちょっと!やめなさいよ!」

リンゴを投げつけ、男たちと距離をとりながら少年の側に寄った。

 

助音「それ以上この子をいじめたら…この携帯で警察を呼ぶから…!」

 

自分でも何をしてるのかを理解できなかった。そして、どのように男たちを怒らせるのかも。

もちろん男たちはもっと怒り出す。

 

黒服の男2「おい女…まさかお前 財団の奴なのか…? それとも行方不明とされてたその小僧の親か…?」

 

何を言っているのか理解できない。なんて答えればいいんだろう…

 

黒服の男2「悪いことは言わねェ…さっさと失せろ

これは警察がどうにかできることじゃあねえんだよ」

 

その時、さっき少年を殴った男はとうとう耐えきれず、私に叫ぶ。

 

黒服の男「おいアマ!いい加減にしろよ!アマだけ始末して小僧を連れ帰るッ!」

 

うわ…どうしよう…などと思っていたら、先程庇った少年がこちらに話かけてきた。

 

少年「すいません、お姉さん…この買い物袋、勝手ながらに拝見させてもらったんですが… この電池、借りてもいいですか!?」

 

いったい何を言ってるのだろう。誰だってこの発言についてこう思うだろう。しかし、私はこの少年の発言に対して、何らかの「スゴ味」を悟った。

 

助音「な、なにに使うのか知らないけどどうぞ!」

少年「ありがとうございます!」

 

そういうと少年は電池が4つ入った袋に触れた。

――本当に何してんだろ!? 近づいてくる男たちの前に謎行動を取る少年に私は焦りを感じた。

すると、少年の行動をみた男たちは、

 

黒服の男2「お、おおおいアマ!テメェいったいその小僧に何をやった!!」

 

何か焦っている。少年のこの謎行動は正解なの…?

 

刹那、少年は銃を持つようなポーズを取った。

私にはよく見えなかったしわからなかったけど、

うっすらと銃が見えたような…?

 

黒服の男たち「うぐふぉっ!?」 バタッ

 

――えっ!? 気づいたら、男たちは声をあげて倒れていた。

 

すると少年はこっちに向き直り、こう言った。

 

少年「僕の名前は枕木翔太郎! はやくここから逃げましょう!」

 

私ははじめての「出会い」を遂げた。――

 

 

 

スタンド紹介……章の最後には、スタンドの紹介を行います。基本は1つずつです。

 

スタンド名  「ムーヴメント」

スタンド使い名「枕木翔太郎」

 

拳銃型のスタンド。一般人視認不可。

小さなものやエネルギーなどを弾丸の形にして撃ち出す能力。弾丸にしたものは基本威力強化されるが、威力が実弾並みになるかは弾丸にしたもの次第である。

弾丸にできるのは風や音から炎や衝撃波などと広い。

破壊力 :?(弾丸による)

スピード:A(実銃と同じ速度。)

射程距離:?(弾丸の重さによる。)

持続力 :A(形がかわることはない。)

精密動作:?(スタンド使い次第。)




更新ははやめにします。
間違い等あれば教えてください。


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#2 片方

第2話です。小説だから描写は難しいのですが、戦闘シーンがわかりやすいように頑張ります。
こうみえて伏線は結構張ってたりします。


第二章 片方

そんなこんなで私は不思議な少年に出会った。

 

――少年「僕の名前は枕木翔太郎!はやくここから逃げましょう!」

 

少年の名前は翔太郎くんというらしい。

翔太郎くんの顔は幼く、中学…もしや小学生!?

私は買い物袋を手に取りながら尋ねる。

 

助音「翔太郎くん、今あいつらにいったい何をしたの?

うっすら銃を構えてるように見えたけど…」

 

すると、翔太郎くんはびっくりした表情になる。

 

翔太郎「まさかお姉さん、さっきの銃が見えたんですか!?」

 

翔太郎くんは私をじろじろ見る。

するとまた翔太郎くんは驚く。

 

助音「こ、今度はどうしたの?」

翔太郎「あ、あなた首元に星形のアザ…」

 

――なんだろう、翔太郎くんが私を見る目が人を見る目をしていない…

 

助音「たしかにおかしいでしょ? この星形のアザも生まれつきだし、私の金髪赤目、これも生まれつきなんだよ」

 

そんな会話をしておきながら、逃げる準備をしていると、さっき倒れたはずの男たちが立ち上がった。

これってすごいことなのかな?

 

黒服の男「おい…さっきはよくもやってくれたな…もう許さねェ…生きて帰れると思うな…」

 

あ……これまずいのでは?

さっきまであった余裕におさらば。

今までにあまり無い絶望感に浸っているとき、翔太郎くんが何かを持っているようにみえた。

 

翔太郎「やっぱり貴女はジョースター家の人間…

ごめんなさい!お姉さん!!」

 

――――へ?

 

ブサッとまでは言わないが、矢で手を傷つけられた。

でも思ったより痛い。え?なんで?

とか考えてたら意識がどっかに行った。

 

黒服の男2「や、やはり矢を持ってんじゃあねぇか!

はやくそれを返しやがれ!」

 

翔太郎はそんなのを聞かずに助音の安否を確認する。

 

黒服の男「やはりどうしようもなくなってそのアマに賭けたようだな…」

黒服の男2「でも倒れたってことは死んd…」

 

ムクッ

 

黒服の男+2+翔太郎「!?」

 

翔太郎は希望に満ちた目で助音をみつめた。

だがしかし、異変に気づく。

 

翔太郎「お姉さん…  その目は…?」

 

翔太郎が言うように、先程まで敵に怯えていた金髪赤目の女性はそこにはいなかった。

そこにいたのは、殺意を剥き出した、雨の中燦然と輝く碧い目をしていた女性が立っていたのだった。

 

???「あーーー…この体を動かすのは久しぶりだねェ… んで、こいつらが叩きのめすべき屑野郎どもか…」

 

その女性の気性は汚い言動から察するに、荒んでいる。翔太郎は怯えて涙目になる。

 

???「おーおー泣くな翔太郎くんとやら…

お姉さんが今からこいつらをぶちのめしてやるからよォ… そしてこいつが…スタンドか。」

 

"さっきまで"助音だった人物は人型のスタンドを繰り出した。

翔太郎(スタンドの矢はうまくいったぽいけど…

さっきまでのお姉さんはどこに…?)

 

黒服の男「な…まさか…スタンドを手に入れやがった!!!」

黒服の男2「しかも性格がなんか変わってやがる!」

 

その女性は男たち2人に近づく。

 

黒服の男2「お…俺のそばに近寄るな!容赦はしねぇぞ!!!」

 

???「容赦はしない?何言ってんだ…容赦をしないのはワタシのほうだろ…?

        "BAD DREAMS"」

 

女性はスタンド名らしきものを呟いた。

人型のスタンドは1人の男を吹き飛ばす。

 

黒服の男「お、おいテメー!相棒に何をしやがった!やはりスタンドを手に入れたのか!!」

 

殴られなかった男は喚く。

 

???「ハァー… ぎゃーぎゃー喚いてんじゃあないよ…みっともない… そんな奴等は私が…

    "支配"してやるよ…」

 

翔太郎が見守るなか、翔太郎は気づく。

先程殴り飛ばされた男がゆらゆらと立ち上がる。

そして急に走り出した。

翔太郎が叫ぼうとした瞬間…

 

バキッ

 

急に仲間の男を殴り飛ばした!!

 

黒服の男「!!!」

 

???「どうだ?仲間だった男に殴り飛ばされる

気分はよォーーッ」

 

その女性は2人固まった場所に倒れているところに

近づいていった。

 

???「そんじゃあ再起不能になってもらうぜ…」

 

黒服の男「ヒッ‼︎」

 

???「オルオルオルオルオルオルオルオルゥ!」

 

"BAD DREAMS"と呼ばれる人型のスタンドは

掛け声と共に男たちを途轍もない勢いで殴る。

そして、遠くに吹っ飛んだ…

 

???「Au revoir!!!(さよならだ)」

 

翔太郎息をのむ。この女性はさっきまでの女性なのだろうか…?

 

???「おう、翔太郎くんとやら!説明ナシで

悪かったな… 私の名前はダブレ!よろしくな!」

 

男たちを倒し、丁度止んだ雨の中で

彼女は無邪気な笑顔をしていた。

 

 

 

スタンド紹介

スタンド名 「BAD DREAMS(バッド・ドリームス)」

スタンド使い名「ダブレ」

 

人型の近距離パワー型のスタンド。

能力は身体の支配。

触ったり殴ったりした人物の身体や行動を支配することができる。相手の精神力が弱っていたりするほど、

相手を操りやすい。

また、自分に能力を使うことができる。

矢に刺されることによって手に入れた。

破壊力 :A

スピード:B

射程距離:C(1〜3m程度)

持続力 :C

精密動作:B




ダブレさんはスタンドを使うのは初めてなんですが、何故こんなにもはやく適応できるんですかねぇ…


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#3 混在

3話目です。この小説だと3章分でアニメの1話分と考えてください。


第三章 混在

 

それは急だった。

 

――ダブレ「おう、翔太郎くんとやら!説明ナシで悪かったな… 私の名前はダブレ!よろしくな!」

 

そう無邪気に自己紹介した女性、ダブレは…

翔太郎を目の前にして倒れた。

それは一瞬の出来事だった。

注意深くダブレを観察していたので、

容易に倒れるダブレを支えることができた。

 

翔太郎「わわっ!どうしたんです!?」

 

子供1人の手で大人の女性を支えるのは難しく、

抱きつくようなかたちになった。

間もないうちに、女性は目を覚ます。

 

助音「うーん…いつのまにか寝てた?

なんだろう…この感触…」

 

言動から察するに、先程のダブレという女性ではなく

覚悟を決めて翔太郎を助けた、赤目のおとなしく、怖がりな女性なのだった。

ダブレと名乗っていた女性とはどのような関係なのだろうか。

 

助音「うえっ!?え!!?私なんで翔太郎くんに

抱きついてるの??なんで??」

 

助音は、翔太郎に自分が抱きつくような体勢になっていることに気づき、瞬時に離れて体勢を立て直す。

よくみると翔太郎は顔を少し赤くしていた。

 

   ――まさか、自分はかなり年下の少年を

      襲ってしまったのだろうか――

 

自分が先程までの記憶がないことに

とても恐怖を感じていた。

あれ?そういえばさっきの男たちは?

すると翔太郎は口を開いた。

 

翔太郎「あ、あの… お姉さん さっきまでの記憶はないのですか?」

助音「そ、そうなんだよね。私、もしかして君に変なことしちゃった??」

翔太郎「あ、いや、されてないです。…」

 

なんだか翔太郎くんの動きや言動はぎこちない。

これ以上思い出すことを諦め、周りを見渡してみる。

――うん?

さっきの黒服の男たちが、遠いところに倒れている。

これをこの翔太郎くんがやったのだろうか。

――起き上がるかもしれない、逃げないと。

でもこの子を。どうする?

気まずい雰囲気、先に口を開いたのは翔太郎だった。

 

翔太郎「あの…男たちのことを気にしているようですが、たぶん当分起きませんよ。  それより…ごめんなさい。名前を聞かせてもらっても構いませんか?」

 

それはそうだ。そういえば名前を名乗っていなかった。

 

助音「私の名前は空条助音。すぐ近くに私の家があるからそこに逃げましょ?」

 

――やはりジョースター家の人っぽいな。

さっきのダブレと名乗っていた人とは

どのような関係なのだろう…?

 

助音と翔太郎が移動している最中…

 

助音「翔太郎くんは何者なの?」

 

心に思ったことが急に言葉になって出た。

聞こうとする意識さえなかったのに。

何故か聞かずにはいられなかった。

翔太郎くんはゆっくり口を開く。

 

翔太郎「…お姉さん。あなたはジョースター家の人間ですよね。 あまり今は詳しく言うことはできないけど、 あなたはきっと強大な敵と戦うことになる。」

 

――あれ?空条姓は名乗ったけど、ジョースター家って…なんで知ってるんだろう…

戦うことに…ご先祖さまたちみたいになのかな…

 

不安がよぎりながらも、目的地に着く。

 

――それは、私の個人的な職場、探偵事務所だった。

 

翔太郎「ここは…?「ジョジョ探偵事務所」?

お姉さんは探偵をやってるんですか?」

 

助音「そうだよ。ちゃんと自宅の一軒家もあるんだけど、あの公園からはこの事務所の方が近かったし、1階が仕事場の事務所なんだけどね、一応2階で住めるようにはなってるのよ。」

 

――そう。助音は探偵だった。

 

早速事務所に入る。先程までとはいえ、雨に濡れていたので、先に翔太郎くんにシャワーを浴びるように促した。彼がシャワーを浴びているときにでも2人分の夜ご飯を作ってしまおう。

 

翔太郎がシャワーを浴びている間、助音は2人分のオムライスを作ろうと冷蔵庫をあける。

 

――げっ、卵が2つしかない…これじゃあ1人分しか

作れない… まぁいっか、私は簡単なものでいいや。

 

そんなことを考えながら卵を取る。

手際良いスピードで助音は料理していく。

彼女は子供の頃から1人暮らしだったため、料理の腕前はかなり良い。特にアレンジが上手だった。

すると、途中で助音の手が止まった。

それは、卵を1つ割った時だった。

 

助音「あ!二黄卵だ!ラッキー♪」

 

二黄卵とは、卵の中に黄卵が2つ入っていること。

 

――もし、もう1つの卵も二黄卵だったら…

私の分も作れる…?

 

そんな期待も淡く、崩れ去った。

2つ目の卵の卵黄は1つ。

 

助音「あ"… まぁいいや、翔太郎くんのオムライス、卵多めにしてあげよ…」

 

残念そうに助音は二黄卵に1つの卵黄を加えた。

途中で、助音は「杜王町ラジオ」なるものを

スマホで流した。それは、2032年の今まで続いてきた

約30年程の御長寿ラジオだった。

 

料理を作り終わると同時に翔太郎くんが風呂場の方から助音を呼んでいた。

 

翔太郎「あ、あの…服とかどうすればいいんでしょうか…?」

 

翔太郎は風呂場に隠れてそういった。

確かにそうだ。雨で濡れていた服は洗濯機に放り込んでしまった。

 

助音「うーん、そうだね… どうしよっか…

あ!そうだ!ちょっとまってて!」

 

……少しすると、助音は子供用の、明らかに女の子用の服をたくさんもってきた。

翔太郎の顔が青ざめる。

 

助音「少しの間でいいから女の子コーデにしよっか!」

 

翔太郎の予想は的中する。翔太郎は思う。

――一軒家の方じゃなくてなんで職場の方に…?

しかももしかしてお姉さんの服…?

 

助音「あー、私の小さい頃の服がまだあって良かった!  さて、翔太郎くん。着せ替え人形になっもらうよォー…」

翔太郎「きゃあああああ……」

 

10分後…

翔太郎くんは、ザ・女の子な姿になった。

元々ショートヘアーだった翔太郎と相まって、

簡単なワンピースがとても似合っている。

助音的には帽子も着せたかったが、流石に無理があった。

 

助音たちが戻ってきた頃には、オムライスは冷めてしまっていた。

 

助音+翔太郎「あっ…」

 

結局温めて食べた翔太郎。助音はその間にシャワーを浴びて、すぐ戻ってきて簡易的なご飯を食べた。

 

そして寝る時間。

助音「寝る場所どーしよ… ソファーと、ベッドがあるから、私がソファーで眠るね?」

 

助音が提案する。

 

翔太郎「え、僕なんかがベッドで良いんですか?」

助音「大丈夫大丈夫。それじゃまた翌朝ね?」

 

助音はソファーに向かって歩き出した…。

 

――すると、翔太郎が助音のパジャマの裾を掴んだ。

翔太郎は寂しげな顔で、

 

翔太郎「あの…本当はすごく怖かったんです…

あの…一緒に寝てくれませんか?」

 

……やはり、大人びて見えた子供でも、やはりまだ子供だったか。

助音はそう思い、了承して2人でベッドに向かった。

 

ベッドで寝ようとしたその時、翔太郎がか細い声で

助音に話しかけた。

その声は泣きかけていて、本人の顔は実際涙目になっていた。

 

翔太郎「ごめんなさい… お姉さん…もしかしたら僕のせいでお姉さんが追われることになるかもしれない… 僕は僕自身が責任を取らないといけないことに、

お姉さんを巻き込んでしまった…

本当にごめんなさい…」

 

――あぁ、この子はこんなにも辛く感じていたのか…

 

助音「大丈夫だよ。私は探偵で頭がいいからね!

どんな敵が来たって、頭脳戦でやっつけちゃう!」

 

……翔太郎にとって、

その言葉は闇を照らすほど眩しくって涙が溢れた。

 

その力強く、優しい言葉に涙を流した翔太郎も、

いつのまにか悲しいココロは消え去っていた。

 

そして間もなく、翔太郎は寝息を立て始める。

 

助音の背景に、うっすらと人影が浮かんでいた。

無意識なのだろうか、それは助音の「能力」だった。

 

――助音「翔太郎くん、"良い夢"を…」

 

 

 

スタンド紹介

スタンド名 「GOOD DREAMS(グッド・ドリームス)」

スタンド使い名「空条助音」

 

人型の近距離パワー型スタンド。

能力は精神、感情、思考の支配。

触ったり殴ったりしたものの精神や感情、思考を

自分の思い通りに変えることができる。相手が体力的に弱っているほど支配しやすい。

また、この能力を自分にも使用できる。

矢に刺されることによって手に入れた。

破壊力 :B

スピード:A

射程距離:C(1〜3m)

持続力 :C

精密動作:B




最初の方こそ、情報量が少ないですが、後々からわかってくるのがこの小説です。


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#4 幻影

ツイッターやってるんでフォローお願いします!
@RATA_to_you です!(欲望丸出し)


……私、空条助音は、行くあてのない少年、翔太郎くんを引き取り、保護することになった。

 

――助音「翔太郎くん、"良い夢"を…」

 

――翌朝、私たちは朝ごはんを済ませていた。

やはり昨夜ドタバタしていたので。

また詳しく自己紹介などを行なっているのであった。

 

助音「私は空条助音。 職業は探偵だよ。」

翔太郎「僕は枕木翔太郎です。よろしくお願いします。」

 

翔太郎は礼儀正しくお辞儀する。

 

この間に決まったこともあった。

 

助音「それじゃあ、翔太郎くんは"探偵見習い"として、ここにしばらく住むってことでいいね?」

翔太郎「はい。 お姉さん程役に立てるかはわかりませんががんばります…」

 

謎の少年、翔太郎は「ジョジョ探偵事務所」で探偵見習いとして働くことになった。

 

朝食後、翔太郎はふと助音に尋ねる。

 

翔太郎「あの…お姉さんは、"スタンド"って、

ご存知なんですか?」

 

助音は聞かれて脳内を探り出す。

――たしか聞いたことが…

 

助音「うーん、聞いたことはあるんだけどなァー…

まずスタンドってどんなものなの?」

 

翔太郎「はい…スタンドというのは、スタンド使いと呼ばれる人たちにしか見えないし、使うことのできない超能力です。  僕のスタンドは"コレ"ですね。」

 

助音は驚いた。翔太郎の手元が歪んで見えたと思ったら、黒く光る銃が現れたのだ。

もしかして昨夜見えた銃って…

 

翔太郎は詳しくスタンドについて説明していく。

スタンドは1人1つであること、人によって能力が異なること、スタンドがダメージを受けると本体もダメージを受けることやスタンドは血統や矢によって引き出されるということなど。

 

翔太郎「昨夜、僕はお姉さんをこの"矢"で刺したんです。お姉さんは生きてた。つまり、お姉さんはスタンドを持っているハズなんです。」

 

翔太郎「僕のこの銃のスタンドは、"ムーヴメント"

能力は、小さい物やエネルギー系物質を弾丸の形にして撃ち込むことができます。

僕はお姉さんの能力を知りたい。これからのことに必ずそれは関係する。」

 

助音「ほ、ほぉ…」

 

助音は人一倍頭が良い。これくらいの話はすぐに理解できるハズなのだが、頭は追いつかなかった。そして、翔太郎にスタンドの出し方などを教わるのだった。

 

……5分後

助音「おぉ!出たよ翔太郎くん!なんか人型の…

えと…スタンド?が!」

 

それは、薄い紅色を纏っていて、胸にハートの形がある女性型のスタンドだった。

 

翔太郎「見た感じ 人型の近距離パワー型と

いったところでしょうか… 能力は…?」

 

がっつく翔太郎に助音はスタンドを使って抱き上げて

少し遠めのところに座らせた。

 

助音「ご、ごめん…さすがに疲れちゃったよ…

ちょっと休んでもいいかな?」

 

――スタンドは精神力の象徴。スタンドを駆使することは精神力を駆使することと同じことなのだ。助音はまだ出したばっかりなので、クタクタになってしまったのだ。

 

助音「それともまだ練習することがご所望かな?

翔太郎博士?」

 

もともと助音は翔太郎が諦めないことを悟っていた。

しかし、出てきたのは予想外の言葉だった。

 

翔太郎「大丈夫ですよ。…まぁ急ぐこともないですし、ゆっくりわかっていけばいいですよ。」

 

それは、さっきまで興奮して質問攻めをしていた少年の言葉とは思えなかった。

助音は流石におかしいと思う。

 

すると、翔太郎ははっとして、

翔太郎「あ、あれ?僕今なんて言いました??

本当はもっと知りたいのに…」

 

助音「!!」

助音は気付き始める。自分の"能力"を。

 

――私の能力は…思考の支配…?

 

助音「ごめん翔太郎くん!

私能力わかっちゃったかも!」

 

助音はいつもの探偵の仕事をしているときのような台詞を吐いた。

 

翔太郎で無理くり実験して、わかったことは以下。

1.触ることで人や物に宿る思考を変えれる

2.触ることで人や物に宿る感情を変えれる

3.触ることで人の精神力を強弱調整できる

 

といったもの。

能力がよほど珍しかったのか、翔太郎くんは

目を輝かせていた。

 

そんな中、いきなり助音は思い出す。

 

助音「あ!私、友人にスタンド使いがいるかも!」

翔太郎「ええっ!?」

助音「やっぱり探偵業やってたら色んな人に会うんだけどね、友人に依頼されることもあるんだけど、その友達がたぶんスタンドを持ってるんだよ!」

 

あまりにも唐突な話。翔太郎は驚く。

翔太郎「その人の名前は…?」

 

助音「その人の名前は…a」

言おうとした瞬間にインターホンのチャイムが鳴る。

 

???「すまない。依頼しにきたぞ。」

???「ちょっと!なんで応答なしに入るんですか!インターホン押した意味ないじゃあないですかぁ!」

 

2人の男女が入ってくる。

 

???「ほら、俺だよ。TG大学病院 調査部の部長、 天久鷹優(あめくたかゆう)と…」

???「同じく調査部見習い、小鳥遊ことり(たかなし ことり)ですッ!」

 

医者を名乗る2人はいきなり事務所に入ってきたのだった。




この小説、自分でも思っているのですが、パロディがかなり多いんですよね…


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#5 医師

忙しくなりそうなので先取り投稿です。


インターホンを押したにも関わらず、医師を名乗る2人は返事をするまもなく事務所に入ってきた。

 

――???「ほら、俺だよ。TG大学病院 調査部の部長、 天久鷹優(あめくたかゆう)と…」

???「同じく調査部見習い、小鳥遊ことり(たかなし ことり)ですッ!」

 

翔太郎は驚いた顔をしている。当たり前だ。

 

2人の医師は空条助音の友人だった。

 

鷹優「ん?子供…?

ははーん、依頼で預かってるんだな?」

ことり「あら可愛い〜!この子の名前なんていうの?助音ちゃん!」

 

ことりは一瞬で翔太郎に近づき、撫で始める。

一瞬の出来事だったので、翔太郎もすぐには気づかなかった。

 

助音「さ、翔太郎くん。この人たちは悪い人じゃないから、自己紹介してあげて?」

 

助音は笑顔で言う。彼女が言うからには本当に悪者ではないのだろう。

翔太郎は頷いて自己紹介を始める。

 

翔太郎「僕の名前は枕木翔太郎です。

いろいろあって、お姉さんと一緒に住むことになりました。よろしくお願いします。」

 

型通りの自己紹介だったのだが、2人の医師の反応はそれぞれ違った。

 

天久鷹優。TG大学病院の院長の息子であり、天才であるがために副院長である。才能を見出され、"調査部"なるものを設立し、部長である。

部の名前のとおり、調査部とは、難解な医療事件に関しての調査を行う機関。

 

彼は、自己紹介をした少年をまるで、"普通に子供を見る目で見ていなかった。"

 

小鳥遊ことり。TG大学病院の調査部に属していて、

天久鷹優の直属の部下。研修を本気で積んだため、あらゆる分野の医療に上手く携わることができる。

調査部としてはまだ見習いで、天然な鷹優に対し、振り回されている。

 

彼女は、少年に対しなにか心当たりがあるのか、一度撫でるのを止めたがまた再開した。

 

鷹優とことりも翔太郎に対して自己紹介を行った。

 

自己紹介を終えた後に、鷹優は急にこう言った。

鷹優「"枕木"と言ったな…少し、話を聞かせてもらおうじゃあないか…」

 

――それはそうだ。翔太郎くんという男の子の名前をしながら女の子コーデなのだ。聞きたいことがあるのだろう。ちなみに私がコーデした。

 

助音「あ、私もあまり翔太郎くんについて詳しく聞いてないなぁ、私も聞かせて?」

 

助音は穏やかな声で言う。

 

翔太郎は少し俯いたのちに、口を開く。

翔太郎「…わかりました。」

 

助音は少しだけ重い雰囲気を察しながらも、穏やかな口調で続けた。

助音「飲み物用意するね。鷹優先生もことり先生もコーヒーでいいかな? あと、翔太郎くんはオレンジジュースでいい?」

 

鷹優「私はなんでも構わない。」

ことり「あ、私もー!助音ちゃんが入れてくれるならなんでもいいよぉ〜!」

2人が答えたあとに、翔太郎も言う。

 

翔太郎「お姉さん、僕はコーヒーのブラックでお願いします。」

 

――翔太郎くんってあの幼さでコーヒー飲むんだねぇ

そう思いながらも助音はキッチンに向かってゆく。

 

鷹優「さて、翔太郎…ジョジョがあんなに元気でやってられるのも、秘密をまだ隠しているのだろう?」

助音がキッチンでコーヒーを用意している最中に、鷹優は助音に聞かれない程度の声で翔太郎に言う。

 

翔太郎は聞き慣れない単語を聞いて困る。

――じ、ジョジョ?

 

ことり「もー、説明が足りてないんですから…

あのね、ショータくん。 助音ちゃんはね?

苗字の空条のじょうと、助音のじょ を掛け合わせて、皆から"ジョジョ"って呼ばれてるの。

ま、私は助音ちゃんって呼んでるんだけどねー!」

 

そういうことりは、いつのまにか翔太郎にショータというあだ名を勝手につけている。

 

――だから"ジョジョ探偵事務所"なのか…

 

翔太郎「TG大学病院の医師と言ってましたが…

"枕木"姓について質問があるのなら、あなたたちはもしや、例の財団の…?」

 

"例の財団"という単語に2人の医師の顔は引き締まる。

 

鷹優「ということはやはり貴様、SPW財団の関係者か…しかも…」

ことり「枕木蓮さんの息子だね?」

 

鷹優とことりは息ぴったりに質問してくる。

翔太郎はゆっくり頷く。

 

そこに、"ジョジョ"…もとい、空条助音がコーヒーと共にやってくる。人数分を持ちきれなかったのか、スタンドを使って持ってきている。

 

鷹優「ジョジョ。これはかなり重要な話で…」

鷹優は言いかけてる途中でジョジョを見ると、硬直した。それに倣ってことりもジョジョを見ると、同じように硬直したのだった。

 

――あちゃー…と翔太郎は思う。

これじゃあ説明する順序が面倒になっちゃうよ…

ん?待てよ、何故スタンドに驚いて… まさか…

 

ことり「助音ちゃん!いつスタンドを!!」

 

――やはりか。翔太郎は"明らかに助音の後ろにいるスタンドを見ている"2人を見て理解する。

この2人がお姉さんが言ってた"スタンド使い"か…

 

助音「あっ!説明してなかったね?」

助音はコーヒーカップを人数分配り終えた後に、意気揚々とスタンドを手に入れた理由を説明する。

 

ことり「なるほど…ショータくんがねぇ…」

助音「そのあだ名いいですね!私も使お♡」

 

女子陣がきゃっきゃきゃっきゃしているのに、空気を読まず鷹優は言う。

 

鷹優「なら…翔太郎。君から詳しく聞かないといけないみたいだな…」

 

大人びたクールな口調。翔太郎には彼の目が容赦なく獲物を捕らえる猛獣の目に見えた。

 

翔太郎「わかりました。僕が昨日なぜ追われていたのかなどを説明します。」

 

場の空気が一気に重くなる。

 

翔太郎「まず…

僕は、SPW財団の幹部、枕木蓮の息子です。」

 

SPW財団……正式名称、スピードワゴン財団。

昔、スピードワゴンという男が石油を発掘し、大富豪となったのだが、その資金等を全国の医療などに割り当てる組織を作り、SPW財団として残っている。

ジョースター家と密接な関係であり、今の今までジョースター家をバックで支えていた。

助音も、少なくとも財団の加護を受けていたので知っていた。

 

鷹優「わかっている。」

ことり「あぁ、ごめんねショータくん… 彼も私も、元々SPW財団の研究者だったんだ…」

 

そう、天久鷹優と小鳥遊ことりは元々SPW財団の研究者であった。

 

翔太郎「たぶん…あなたたち2人は知っているハズです… その財団の裏で悪事を働いているグループがあることを…」

 

翔太郎「反SPW。最近SPW財団の反乱分子が密かに増えている… 僕だって、その反SPWが"どのような悪事"を働いてるからがわからないんです。」

 

翔太郎「でも1つだけわかったことがある。

それは、スタンド使いを量産し、僕の父さんのスタンドを悪用していることです。僕は僕の父さんのスタンド能力を知らないんですけど、父さんは洗脳されているようだった。

つまり、敵組織の中に"人を洗脳する"スタンドがいるわけなんですよ。」

 

翔太郎はしゃべり切った後にコーヒーを飲む。

一息ついたあとに翔太郎はまた話し始める。

 

翔太郎「僕は、ことの顛末が悪くなる前に逃げてきたのですが、敵組織はもう先手を打ってきていた。

でも、戦局は悪くない一方なんです。

何故なら…」

 

翔太郎の代わりに鷹優が答えた。

 

鷹優「"ジョースター家の人間に出会えたから。"」

 

……え?私?

唐突に自分のことを指され、驚く。

 

ことり「たしか、ジョースター家は何世紀をもまたぐ因縁と敵対してたんですよね?」

 

なんで皆私の家系のことを知ってるんだろ。

 

翔太郎「でもこの因縁はDIOとのではない。

全く別のことだけど、世界の安否に関わることなんです。」

 

DIO……正式名称、ディオ・ブランドー

数世紀前からジョースター家と敵対していた。

助音も母親や祖父から聞いていた。

 

翔太郎「秘密を知ってしまった以上、僕らはこれから反SPWから追手を送り込まれるでしょう…

話から察して、鷹優さん、ことりさんはスタンド使いなんですよね?」

 

鷹優「そういうのは君に教えるのはまだはやい。

私とことりはまだ君を完全に信頼しているわけではない。」

ことりが何か答えようとした瞬間に鷹優は言う。

 

鷹優「それで、だ。 話はこれだけか?」

 

鷹優はまるで辛辣な声で言う。

翔太郎はゆっくり頷く。

 

鷹優「ここから私の話になる。早い話、何故私たちがここに来たか、だ。」

助音「そういえば、そうですね…

なんか依頼でも持ってきたんですか?」

 

ことりが説明する。

ことり「たぶん、さっきショータくんが言ってたことと関係があるんだと思うの。

最近ね、植物状態の患者さんが増えているの。」

 

突然の重い話に驚く。

 

鷹優「しかし、だ。先程ことりが"植物状態"と言及したが、正確には違う。  実はその大半の人間の、"脳系の機能は完全に働いていた。"」

 

……それってまさか…

 

鷹優「そう、その患者たちは、内臓などの機能はしっかりと働いていたんだ。なのに"植物状態のような状態になっていた。"」

 

 

――鷹優「まるで、"ココロ"が抜かれたようにな。」




お話だけで約3500文字も執筆しましたが、
次回から戦闘が増えていくのでお楽しみを。


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#6 怪事件

今更ですが、サブタイトルは別に二文字だけ、とかそういう決まりはないです。


 

鷹優はそう真実を口にした。

――鷹優「しかし、だ。先程ことりが"植物状態"と言及したが、正確には違う。  実はその大半の人間の、"脳系の機能は完全に働いていた"。

つまり、その患者たちは、内臓などの機能はしっかりと働いていたんだ。なのに"植物状態のような状態になっていた。"」

 

鷹優「まるで、"ココロ"が抜けたようにな。」

 

……それはそうだ。

植物状態とは、生きているものの、脳系の機能が働いていない状態のこと。

"脳系が機能しているのに植物状態になっている"

というのは極めておかしいのだ。

考えられることは…

 

鷹優「私は新手の病気ではなく、"スタンド能力"でこのような患者が増えたのではないかと考えている。」

 

ことり「この不可解な事件は、先程ショータくんが言っていたこととなんらかの関連性があると思うんですよ。ですよね?鷹優先生。」

 

鷹優「あぁ、情報が集まってないからには解き明かすことなんてままならない。だから私はジョジョにこのことを"依頼"として伝えに来た。」

 

しっかりした宣言を前に"ジョジョ"は言う。

 

助音「わかりました。私、ジョジョはその依頼を受け取り、解決に協力します。」

 

 

……こうやって私と翔太郎くんは杜王町に起こる不可解な事件の解決に乗り出したのだった。

 

鷹優「――それより、何故翔太郎は女子の格好をしているんだ?」

 

 

……それから2日後。

助音と翔太郎は問題のTG大学病院に向かっていた。

その間、2人は事件について話し合っていた。

 

助音「その、スタンドが事件の発端なのなら、

やっぱり能力は"魂"に関する能力だと思うんだよね」

翔太郎「魂…ですか?」

助音「勘だけどねー…」

 

助音は穏やかなのだが、思ったより天然なのだ。

 

そうこう言っている最中、無人の公園を通りかかったとき。

 

不穏な何かを察知した翔太郎。

そして完全に"ソレ"を認識した瞬間…

 

翔太郎「お姉さん、危ないッ!」

 

翔太郎が助音を突き飛ばす。

助音は何が何だかわからなかった。

しかし、見えたのだ。

"翔太郎が人型の何かに殴り飛ばされたシーン"が。

 

――間違いない。敵組織の追手だ。

 

???「おっと…子供の方を殴ってしまったようだ… まぁ順序は変わっても関係はない…」

 

その男は占い師の格好をしていた。

 

助音「あなた誰…?何をしにきたの?」

 

助音は普段キレないが、珍しくもキレそうになっていた。当然、不意打ちを仕掛けられたのだから。

 

???「わたしは…まぁ、"魂の鑑定人"と言うべきでしょうか…まぁそんなことは関係ないですよ…

 

いわゆる"あなたたちは知りすぎた"ってやつです。」

 

瞬間に男は人型のスタンドで殴りかかる。

 

――しかし、助音は密かに鷹優などからスタンドの使い方などをレクチャーされていた。

 

助音「オルぁ!」

 

勢いよくやってきた敵スタンドに対し、いきなり助音はスタンドを繰り出して殴り返した。

 

殴り飛ばされた敵スタンドは吹っ飛んで倒れる。

魂の鑑定人とやらもダメージを受けているようだ。

 

魂の鑑定人「あなた…やはりスタンドを持っていたのですか… やはり詰めが甘すぎましたか…」

 

魂の鑑定人「"ジェラニエ"」

 

鑑定人が敵スタンドの名前らしきものを呟く。

メタリックな感じで、水晶玉のようなものがたくさんついたスタンドの目が光る。

 

先程と同じように殴りかかってきたのでスタンドで

応戦する…のだが、助音が打ち込もうとした拳が

必ず打ち返されてしまう。まるで先回りされているように。

 

鑑定人「次にあなたは…右のストレートを出す…

それがわたしが"占った"結果だ。」

助音「!!」

 

次の瞬間、助音のスタンド「グッド・ドリームス」

が左の拳で殴りかかる…が…

 

……瞬間、"避けられた"。

 

スタンドのスピードで見ると、普通避けられないはやさで突っ込んできた拳を"避けた"のだった。

 

その隙を突かれ、助音はスタンドで殴り飛ばされる。

 

助音「ぐぅッ!い…一体なんなんだ…この男の

スタンド能力は…!!」

 

鑑定人「あなたはすでに"占われている"。」

 

 

 

スタンド紹介

スタンド名「ジェラニエ」

スタンド使い名「魂の鑑定人」

能力は魂の鑑定。

メカニックで体の至る所に水晶のようなものがついている人型の特殊型スタンド。

相手の魂の情報を用いることによって、

相手が次に取る行動などを察知できる。

また、魂や感情の様子も知ることができる。

原作の「アトゥム神」と似ている。

真の能力として、少しだけ他人の未来が見える。

破壊力 :D

スピード:D

射程距離:B(能力射程は半径10m)

持続力 :A

精密動作:A




お気に入りとか宣伝とかしていただけると嬉しいです!
創作意欲が湧くんですよ!


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#7 占術

わーいUAが計200くらいいったー!
もっと見てもらいたい…


敵組織の追手と思われる占い師の格好をした男、

"魂の鑑定人"が襲撃し、翔太郎は気絶している。

助音も苦戦している。

 

――鑑定人「あなたはすでに"占われている"。」

 

……まさか…この男、"私が次に取る行動を知っている"のか?そうに違いない…ッ

 

助音がスタンドの右拳をかなりはやいスピードで突き出す。。。だが避けられてしまう。

そして反撃を受ける。

 

鑑定人「あなたの能力は…まだまだ占えませんね…

でもそろそろおしまいですよ…」

 

スタンドの破壊力は助音の方が勝っているが、避けられてばかりで反撃を喰らうばかり。

助音に限界は迫っていた。

 

助音「このままじゃ…勝てないッ…」

 

――勝ちたいか?

 

フラフラな助音の脳内にそんな声が響いた。

 

――翔太郎は今倒れて気絶している。戦えるのはお前だけだがこのままでは負けてしまう。

 

助音は叫ぶ。

 

助音「勝ちたいッ!」

 

その瞬間。

 

 

 

鑑定人「いったいどうしたというのだ…?

何故あなた…"オッドアイになっている"?」

 

――その少女、空条助音は… 元々赤目だった目が、赤と青の、オッドアイになっていた。

 

鑑定人「もともとおかしいと思っていた…

占った結果、あなたは"複数の人格を持っている"。」

 

ダブレ「おひさの登場だねェ… テメェの言う通り、このアタシは空条助音の"もう片方"。」

助音「え?え?なにこれどうなってるの!?」

 

言葉は焦っていたが、助音はそれとなく理解できた。

 

……今まで独りで20年も生活していて。気がつくハズもなかった真実。  ……"二重人格"。

 

どちらかというと、"気がつかなかった"のではなく、"忘れていた"。

 

ダブレ「さっきまでよわっちい助音が戦っていてもどかしかった。もし、アタシがこの体を支配できていても、テメェの能力に勝てるかは怪しかった。」

 

ダブレ「だからアタシは"半分だけ"出てきた。」

 

ダブレの言う通り、容姿はほぼ変わらないが、赤色の目の片方が青色に、つまりオッドアイになっている。

スタンドが、体の半分が少し似ているスタンドと合体しているように見えた。

 

――そう。全てが半分なのである。

 

ダブレ「アタシと助音は今、2つの魂でこの体を動かしている。ちぃと不便だが、"2人の能力が同時に使える"。」

 

助音は理解した。

――私は二重人格で、今、ダブレと共に体を動かしている。

 

助音 「"私たち"に勝てると思わないでよね!」

ダブレ「"私たち"に勝てると思うなよ…ッ!」

 

まるで体が半分こずつ合体しているヒーローのような

2人のスタンド、"グッド・ドリームス"と"バッド・ドリームス"は一体となって鑑定人に襲いかかる。

 

……何に恐る必要がある…!

占いはできている…奴らのスタンドの次の動きは…

左のストレートだッ!

 

鑑定人「勝ったッ!」

 

次の瞬間、鑑定人に"右の拳"が叩き込まれる。

 

鑑定人「あがっ… な…何故だ…」

 

鑑定人は吹っ飛ばされる。

 

助音「たしかに私たちは左のストレートを出すことを考えていた。占ってもそう出たんでしょ?」

ダブレ「でも、だ。アタシの能力、"バッド・ドリームス"の能力は身体の支配…左のストレートを出したい、と思っていても出せるのは右の拳だった。」

助音「この作戦がバレたらいけないからね、作戦を決行した瞬間に私の能力、"グッド・ドリームス"で魂の行動を支配し、上書きしたのよ。」

 

鑑定人は倒れ込んで起き上がれない。

"バッド・ドリームス"の身体の支配。身体の自由が効かなくなり、動けなくなる。

"グッド・ドリームス"の精神の支配。精神力の低下でスタンドを動かすのもままならない。

 

まるで2人の能力は"2つで1つ"な能力だった。

 

助音「能力でこの男の精神を見てみたけど…やっぱりこの男、洗脳されてるみたいだよ… 今、その洗脳を能力で解いた。取り除いた、の方が適当かな?」

ダブレ「なるほどね…取り敢えずこいつも病院に連れていっとくか…2発ほど殴っただけだし、再起不能までにはなってないだろ…気絶してる翔太郎もそろそろ起きるハズだ。説明しないとな…」

 

翔太郎がこちらへ向かってくる。

 

――このようにして、助音とダブレで敵組織の追手を撃退したのだった。

 

 

人物紹介

「空条助音+ダブレ」

空条助音は二重人格であり、片方の人格がダブレである。普段身体を動かしているのは助音の人格であり、

ダブレは基本、助音が気絶したときぐらいしか身体を動かせない。だが、精神的成長により、ダブレが無理くり助音の身体を動かせるようになった。

その状態が2つの魂で身体を動かしている、

オッドアイの状態なのである。

その時スタンドは、某ヒーローのように2人のスタンドは半分こになったものが合体しており、2つの能力が同時に使える。




今作主人公、空条助音の設定がようやく見えてきましたねぇ…


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#8 電線と天使

ここから戦闘が多くなります。思ったより、原作より戦闘が多くなるかもしれません。


 

――二重人格であると判明した空条助音とダブレは、

2人で協力して敵組織の追手を撃退したのだった。

 

鷹優たちと病院内で14:00で会う約束だったのだが、

敵の襲撃により、遅れている。

 

状況をうまく把握できていない翔太郎と洗脳が解けた敵を連れて急いでTG大学病院に向かうのだった。

 

 

……一方その頃。

助音たちが追手に襲撃されていた時。

 

昼過ぎの人がいない時間帯の駐車場。

鷹優とことりはバッタリ駐車場で鉢合わせた。

 

ことり「鷹優先生、おはようございます」

鷹優「あぁ、おはよう」

 

鷹優とことりはかなり仲が良く、良いパートナー

なのだが… 2人はほぼくっついているような状態だった。何やら話し込んでいる。

 

 

そんなことも気にせずに、2人の人影が鷹優とことりを

挟み討ちにするかたちで近づいていった。

 

鷹優とことりは何か少し話したあとに、意を決した表情をしていた。

 

そして、2人はそれぞれ後ろを向いて敵と対面する。

 

身長差がある背中を合わせ、背中を預けた状態。

 

鷹優の方に"細長い電線"、ことりの方に小さい斧が向かってくる。

 

刹那、2人は同時に彼らのスタンド名を呟く。

 

鷹優 「クリムゾン・シティ」

ことり「エメラルド・シティ」

 

鷹優は人型のスタンドの手についている"爪のようについている医療器具のメス"で電線を叩き切り、

ことりは"巨大化したメス"で飛んできた斧を薙ぎ払う。

 

鷹優「お前ら、車でつけてきていただろ…運転中でもそんな不審な動きしてたら気付くぜ…」

ことり「鷹優先生…そっちの男の対処お願いしますよ…私はすぐにこっちの男を始末するんで…」

 

???「ふむ…一筋縄ではいかないか…

おい、李人、そっちのアマを絶対に始末しろよ…」

 

李人と呼ばれる男は"大きい斧"を出現させ、答える。

 

李人「わかってるよ俊樹…テメーもしくじるんじゃあないぜ…」

 

俊樹と呼ばれる男は体から無数の"電線"を出現させる。

 

鷹優とことりは離れてそれぞれ対面していた敵に近づく。別れる際に2人は同時に…

 

鷹優 「任せたぞ」

ことり「任せますよ」

 

そう言って敵に立ち向かうのだった…

 

 

(鷹優パート)

俊樹「人型で天使のようなスタンド…"クリムゾン・シティ"…聞いていた通りだ…」

 

鷹優「お前は…電線を伸ばしていたな?こちらの近距離のスタンドに対し遠距離の能力を持ってきたってことかよ… だがな、"いい気になるんじゃあない"ぜ」

 

鷹優のその台詞には、重みのある、相手にプレッシャーを与える一言だった。

 

俊樹「フン、生憎だがそんな脅しに俺は乗らないぜ…?"仕事"だからな…」

 

俊樹「"Xavier(ザヴィアー)"」

 

俊樹がスタンド名を発すると同時に2、3本の電線が勢いよく鷹優のスタンドに向かってくる。

 

鷹優のスタンド、"クリムゾン・シティ"は、爪のメスでその電線を切り飛ばしながら俊樹に近づいてゆく。

俊樹に殴りかかるそのスタンドの手は、爪のメスが いきなり注射器に変化した。

 

俊樹「!!!」

 

その長いシリンジを俊樹は避けようとするが、少しだけ針がかすってしまう。

 

俊樹「ヤロウ…やりやがったな…」

頬をかすっただけなのに、俊樹という男は息を切らしていた。

 

鷹優「今、お前から血液を200ml奪った。」

 

鷹優「体重50キロ程の人間には、約4Lの血液を持つと言われている。そして、失血死するほどの血液量は全血液量の20%の800mlだ。」

 

その説明が何を表しているのかが俊樹にはわかっていた。かすっただけで200mlもの血液が奪われるということは、彼のスタンドの注射器をまともに刺されるだけで、死んでしまうということだ。

 

しかし、"それだけではなかった。"

 

俊樹を襲う恐怖は失血だけではなかった。

……明らかに体に起こっている症状は、"失血のみによって起こる"ものではなかった。

――身体が痺れている。

 

鷹優は、彼の"血液を他の液体物質に変える"能力で、俊樹の血液を少しだけ"何か"に変えていた。

 

俊樹「貴様…能力は血を抜き取る能力だけじゃあ

ないんだろう?」

 

鷹優「敵に教える情報は無い。」

 

冷酷。鷹優はまさにそれだった。鷹優がまたその注射器を刺そうとスタンドを繰り出したその瞬間。

 

地面や背後を這わせていた電線が足に刺さっていた。

 

俊樹「感電して真っ黒焦げになりな」

 

瞬間で高圧電流が鷹優の体に流れる。

 

鷹優「ぐぁぁぁぁぁぁッ」

 

敵も冷酷で、着々と鷹優を追い詰めていたのだった。

 

 

スタンド紹介

 

スタンド名「クリムゾン・シティ」

スタンド使い名「天久鷹優」

天使のような人型の近距離パワー型スタンド。爪が注射器のようになっており、血液を別の液体物質に、液体物質を血液に変えることができる能力。血液は無限に、いつまでも保持することができる。戦法は注射器のような爪を相手に刺して攻撃する。爪の注射器をメスにしたりできて、爪の注射器やメスは着脱可能である。

破壊力 :D

スピード:B

射程距離:B(5〜10m)

持続力 :A

精密動作:B

 

 

 

スタンド紹介

スタンド名「Xavier(ザヴィアー)」

スタンド使い名「相田俊樹」

体から伸びる伸縮自在の電線型スタンド。

電線の先はコンセントなどのコード類になっており、物に刺すことで高圧電流を流すことができる。一瞬で伸び、一瞬で縮む。

また、伸ばした電線にうまく乗ると、電線の先に一瞬で着くことができる。

曲げることもできる…が、制御が難しい。

破壊力 :ナシ

スピード:A(伸びるスピードは速い)

射程距離:B(半径15m)

持続力 :C(5秒程伸ばした状態を保てる。)

精密動作:E




少ない語数でどんどん出していますが、ある程度まとめて出したほうがいいのでしょうか…


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#9 メスと斧

たくさんの方が読んでくれて嬉しいです!
もっと頑張りますね!


――俊樹「感電して真っ黒焦げになりな」

 

鷹優「ぐぁぁぁぁぁぁッ」

 

鷹優、ことりは敵組織の追手2人に襲撃されていた。

 

(ことりパート)

 

李人「えーと…オーラ型の…エメラルド・シティ?だったっけ?まぁどうでもいいか…」

ことり「ふーん…大雑把すぎる男はモテないのよ…」

 

李人「んな事どうだっていいんだよ…

        "ビスケットハンマー"」

 

そう李人が発すると、ハンマーと言いながらも、大きいラブリュス(両刃斧)が現れた。

 

ことり「なによ、"ハンマー"じゃないじゃん!」

 

李人「細けえことはいいんだよッッ!!!」

 

李人は斧を軽々と動かしながら走り襲いかかる。

 

ことり「ほんっとウザい…そんなんでキレないでよ… "エメラルド・シティ"」

 

ことりの目の前に李人の斧と同じくらいの大きさの医療器具のメスが現れる。

そして振り下ろされた斧をメスで受け止めた。

 

ことり「中途半端な男は嫌いなのよォッ!」

 

ことりがそう叫ぶとともに巨大なメスでガンガン攻める。李人は少し圧倒されてしまう。

その時。李人はことりの側に"ソレ"を見た。

 

李人「注射器(シリンジ)…!!!」

 

李人の言う通り、ことりの側に5本程度のオーラを纏った注射器が浮いていた。

 

激しい攻防の中。その注射器は李人のもとに飛んできた。避けようとするも、メスの攻撃も防御しないといけないから、1本のみ刺さってしまった。

 

ことり「細かいことを気にしないのは命取りなのよ」

李人「剣戟の最中に…テメー、生成できるのはメスだけじゃあないのかよ…」

 

――どうみても剣戟ではない。2人の武器はどちらとも剣ではなかった。

 

ことり「剣戟じゃあないでしょ…いい加減にしなさいよ…」

 

その瞬間。

 

李人「いい加減にすんのはテメーだろうがよォォォォォォォォッッッ!!!」

 

キレた。細かいことを指摘されすぎたせいで逆上し、逆ギレしたのだ。

 

……そして。李人の持つ両刃斧は。

   "ひとまわり小さくなった。"

 

李人「テメーブッ殺す」

 

李人は武器の斧を、投げた。

 

ことり「アンタついにヤケになったかッ!」

 

ことりは避ける。その次の瞬間。

 

"まるで斧が戻ってきたようにことりの体をかすった"

背中を少し切り裂かれたことり。

 

ことりは振り向く。遠くには上司の鷹優が戦っているがそこじゃあない。もっと手前。

 

――"まるで中学生のような身長の、さっきまで戦っていた男、李人がそこにいた"。

 

また後ろを見ても李人はいる。

 

ことり「2人いるッ!?」

 

……何故だッ!?男のスタンドは"斧"のハズだ。

斧がオーラを纏っているからだ。

まさか…スタンド名の"ビスケット"ってのは…

 

李人「死にゆくテメーに教えてやんよォ!

俺の"ビスケットハンマー"の後ろについている刃で物を切ると!それが半分になり、増えるのさッ!」

 

ことり「だからか…だからアンタは"身長が私より低い"のか…」

 

そう。李人は、助音より小さいことりよりも身長が低かった。おかしいとは思っていたのだ。

 

ことり「アンタ、自分をその斧で切ったのか…

だから私の前後にアンタが"2人"いる…」

李人「気付いてももう遅いんだよォォォォ!」

 

まるでサンドイッチのよう。"2人の李人"はことりを挟んで斧を投げてくる。小さくなった斧は、かなりのスピードで飛んでくる。ことりは避けるしかできない。

ことりは避けながら逃げる…が、相手2人はことりを挟んだ陣形を崩さない。

 

……こうなったら…

 

ことり「ぐっ… コイツを喰らえッ!」

 

ことりは逃げ回りながら複数メスを投げる。

 

李人「どーこを狙ってんだこのマヌケッ!」

 

李人はそのメスを避ける。メスは近くの車に刺さった。

 

ことりはもっとメスを投げるが、1つも当たらない。

 

李人「数を撃ちゃ当たると思ったか?

これでシメーだッ!」

 

陣形を崩さないように李人も動きながら斧を投げようとする…

 

が。1人の斧を持っていた李人は動きを止めた。

いや、動けなかったというべきか。

 

"車に刺さっていたメスには糸が巻きつけられていた"

 

ことり「頑丈な縫合糸よ…細かいことを見落とすとこうなる…」

 

勢いよく頑丈な複数の糸に突っ込んだ小さい李人は所々が切れてしまっている。死にはしないだろうが。

 

ことり「手間がかかった…でももうおしまいよ…」

 

ことりの手に出現したのは巨大化した2対のメス。

 

ことり「峰打ちで済ましてあげる。」

 

そう言って、斧を持ってないもう1人の李人は切り刻まれたのだった。

 

ことり「お大事に。」

 

ことりは天真爛漫な笑顔で叫んだ。

 

(鷹優パート)

電線を刺され、高圧電流を流された鷹優。

ついにもう一歩で注射器の針を刺せるところでスタンドが止まり、もやがかかったように見え辛くなる。

 

俊樹「ふん、倒れた。死んじまったか」

 

俊樹は倒れた鷹優に近づいてゆく。

 

俊樹「!!」

 

たしかに鷹優は倒れていた。普通は高圧電流を受けてしまったからには火傷し、心臓が止まってしまうだろう。誰だって死んだと思うだろう。

 

しかし、"倒れた鷹優に2、3本の注射器が刺さっていた"。

鷹優は顔を上げてニヤリと笑った。

 

鷹優「油断したな…ッ!」

 

もやがかかって消えたように見えた"クリムゾン・シティ"が俊樹の腕の血管に注射器を刺す。

注入したのは麻酔薬。俊樹は倒れた。

 

鷹優「強心剤を一気に複数注入するのは危険だが…

こうでもしねーと勝てなかったぜ…」

 

強心剤…衰弱した心臓に対し使う薬。

 

鷹優は高圧電流を流される前に、スタンドの左手の注射器をとっており、能力で血液の一部を強心剤に変えて止まりかけた心臓を動かしていた。

 

鷹優「注射器で奴をかすったときに一部の血液を神経毒に変えておいてよかったぜ…」

 

俊樹が、"クリムゾン・シティ"が消えたように見えたのは、神経毒による眩暈だった。

神経毒が効いてなければ、鷹優はトドメをさされていただろう。

 

鷹優「お大事に。」

そうやってことりと鷹優は敵組織の追手を撃退し、2人を連れて院内に入っていった。

 

 

スタンド紹介

スタンド「エメラルド・シティ」

スタンド使い名「小鳥遊ことり」

若草色のオーラ型のスタンド。

手術用具を無限に生成することができる能力。また、手術用具を強化することができる。(メスを巨大化するなど)生成のジャンルは幅広く、ガンマナイフや除細動器までに至る。

破壊力 :ナシ

スピード:(生成物による)

射程距離:D(自分の周りにしか出せない)

持続力 :B

精密動作:A

 

 

 

スタンド紹介

スタンド名「ビスケット・ハンマー」

スタンド使い名「小野寺李人」

スタンド名にハンマーとありながらも、

見た目はメタリックで若干紫多めの大きい斧。

斧の大きさは少しだけ変えれる。

斧で切り裂いた物を分裂させる能力。

また、ラブリュス(両刃斧)であり、刃が大きいほうが分裂させる能力を持っており、小さい刃のほうには能力は存在しない。

殺傷力はかなり高い。

破壊力 :A

スピード:C(大小関係無く重い。)

射程距離:C

持続力 :A(能力射程を離れると分裂したものは戻る)

精密動作:D




天久鷹優と小鳥遊ことり…

どこかで聞いたことある名前ですね…?


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#10 TG大学病院にて

今回は文字量は少なめです。話数を書き溜めてるけどストックがいつなくなるかわかったもんじゃねぇや…


鷹優とことりは敵組織の追手を追い払った。

 

――ことり「お大事に。」

――鷹優 「お大事に。」

 

もともと鷹優たちと助音たちはTG大学病院で合流する予定だった。追手を撃退した鷹優たちや、助音たちは、TG大学病院に向かい、調査部の診断室でようやく合流を果たした。

お互い見知らぬ人を連れてきていたから驚いていたが、大体みんな察していた。

 

鷹優「調査部の人間は私とことりの2人だけだ。情報漏洩の危険もない。」

助音「とりあえず、私たちを襲撃してきたこの男たちの情報を探りましょ。」

 

ことり「その小野寺李人って男、今確認したんですが、やはりSPW財団の研究者っぽいです。」

 

鷹優「やはりな。そいつは洗脳されてない、金で雇われたタチの人間だ。調べなくてもわかる。」

 

翔太郎「僕もそう思います。その男に僕は会ったことがあるんですが、やはり敵組織側とつるんでたようなんです。」

 

助音「そんでもってこっちの男…"グッド・ドリームス"で調べてみたけど、相田俊樹っていうみたい。」

 

ことり「相田俊樹…電子カルテに過去の情報が残ってました。この病院の患者だったっぽいですね。カルテには電力会社の社員で、感電して運ばれたらしいです。」

 

鷹優「その俊樹という男や李人という男はどうでもいい。1番重要なのはこの占い師だ。」

 

その占い師の男は、助音と翔太郎を襲撃し、追い詰めた人物。スタンド能力が占いに関するものみたいだが、本人の占いもプロ並みらしい。

 

鷹優「この男はもともと占いの仕事が好評でSPW財団に役を買われて雇われていた。ジョジョ、その男は洗脳されていたのか?」

 

助音「えぇ。洗脳されてたみたいです。」

 

ことり「たしか、その人はスタンド能力で"少しだけ他人の未来が見えてた"からスタンド使いになりたかった人にかなり依頼を頼まれてましたね。」

 

鷹優「そうだ。スタンド使いを量産するために敵組織はこの男を洗脳したんだろう。」

 

助音「…この人を追手として私たちを襲撃させたのは、この人はもう捨て駒だったってことだよね?」

 

鷹優「その可能性が高い。ということは敵組織のスタンドの勢力が揃ったと見ていいのだろう。」

 

――うわ。話についていけないや。

と思っていたことりや翔太郎を気にせず鷹優や助音は話を続けていっていた。しかし…

 

ダブレ「その男の能力は強かった。特殊なスタンドじゃないとそいつには勝てないだろう。こう見れば考えは変わらないか?」

 

鷹優「ジョジョ…?」

 

助音はいつのまにかオッドアイになっていた。

 

助音「あ!ダブレったら!ちゃんと詳しく説明してから出てきてって言ったじゃん!」

 

ダブレ「いや、この話は重要なことだ。なぁ鷹優。何故こんなにも強いスタンドを持つ男を私たちに襲撃させたと思う?アタシたちを始末できればよかったんだろうが、アタシたちが撃退することくらい予想の範疇にはあったと思わないか?」

 

鷹優「それはどういうことだ」

 

ダブレ「質問を質問で返すんじゃあないよ…

まぁこういうこった。敵組織の追手に相田俊樹とか小野寺李人とかいうやつらがいたようだが、そいつらもかなり強かったんだろう?本来スタンド使いを量産するための駒を何故捨て駒として使ったのか。」

 

ダブレ「どうせなら違うスタンド使いを私たちに襲撃させて、その占い師の能力でスタンド使いを量産すればよかったんじゃないのか?」

 

助音+鷹優「!!」

 

鷹優「"なんらかの理由で私たちをいち早く始末しなければいけなかった"。」

 

ダブレ「正解だ。あくまで予想だが、アタシと助音と翔太郎がその占い師と出会った時、あの男のスタンドの破壊力は弱かったにしても、1発の拳で人をかなりの重症に陥らせることも可能だ。翔太郎はアタシたちを庇ってスタンドに殴られたが、"気絶程度で済んだ"。

その後にこう言った。"おっと…子供の方を殴ってしまったようだ… まぁ順序は変わっても関係はない…"」

 

翔太郎「それってまさか…!殺すのが目的じゃないってこと…?」

 

助音「目的は私…?」

 

ことり「ということは、連れて行く最優先はショータくんじゃなくて助音ちゃんってこと!?」

 

ダブレ「たぶん…だ。つまりアタシたちは敵組織のなんらかの弱みを握っているということだ。ま、鷹優の"敵スタンドの勢力が揃った"ってのもありそうだな。」

 

鷹優「お前…空条助音じゃないな…?」

ダブレ「いや、アタシは空条助音さ。」

 

助音「あのですね、鷹優先生。これは私のもう片方の人格っぽくて、私が二重人格だったらしいんですよ。それで、もう片方の人格の名前は"ダブレ"で、今ダブレと私で体を動かしてるから今オッドアイなんです」

 

鷹優「ふむ…2つの人格で魂を動かすか…珍しい事象だが、ジョジョの"魂や精神に干渉する能力"などが関係しているのかもな」

ことり「ねーねー、ダーちゃんって呼んでいい?」

 

衝撃的な真実を告げられたにも関わらず、2人はあまり驚いてないようだ。翔太郎は初めて助音と会ったときに、ダブレとおぼしきものに遭遇していたため、多少の驚きで済んだ。

 

ダブレ「まぁ最終的には、敵組織において何が弱みなのかをこれから探すことになるな。」

 

鷹優「私たちを襲撃したその2人の男はもうそろそろ起きても構わないだろうから私の能力の自白剤で…」

 

そう言って鷹優たちがそれぞれベッドの上にいる追手のほうに振り返ったその時。

 

"先程まで寝ていたハズの相田俊樹が、まだ起きていない小野寺李人に電線を刺していた。"

 

ことり「あ、アンタ何やってんの!!」

 

小野寺李人は動かなくなってしまっている。体中に電線を刺されていて、体中が火傷をしている。

もう助けられないだろう。

 

俊樹「!!」

――気付かれた。そう思った俊樹は…

 

人体が焦げる不快な匂いが漂う。

相田俊樹は、気付かれた瞬間にスタンドの電線を自分に刺し、自殺してしまった。

 

翔太郎「相田俊樹が…"小野寺李人を殺して、自殺した…"」

 

偶然すぐ気付けたからか、占い師までは殺されていなかった…が、情報源となるはずだった3人のうち2人は、仲間と自分をも殺して口を閉ざしてしまったのだった。

 

 

 

人物紹介

天久鷹優…TG大学病院の院長の息子。クールで冷徹だが、天然で大雑把。基本白衣を四六時中身につけている。長く伸びた髪を切るのが面倒なのか、輪ゴムでポニーテールにしている。元SPW財団の医者で、ことりとともにスタンドの矢について研究していたのだが、矢を落として指を傷つけてしまい、スタンド能力を手に入れる。恋愛に興味は無い。

 

小鳥遊ことり…調査部見習い。元気はつらつ。ショートヘアーで身長は低め。普段はボーイッシュな服を着ることが多い。元SPW財団の医者で、鷹優とは幼い頃からよく一緒にいた。鷹優のスタンドの矢の研究に付き合っていたが、鷹優が落としてしまった矢をキャッチしたときに手を傷つけてスタンドを得る。鷹優が大学病院で調査部を立ち上げたときについていって、ほぼずっと一緒である。恋愛対象は女性。




ストックは少なめですが、なるべく安定して投稿します!


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#11 同胞

pixivにもこの作品を投稿していますが、どちらかというとハーメルンの方が多く読まれてる感じがします。


――翔太郎「相田俊樹が…"小野寺李人を殺して、自殺した…"」

 

敵組織の追手2人は情報漏洩を防ぐために自らの口をスタンドで永遠に塞いだのだった。

 

鷹優とことりが焦げた人影に近づく。

 

ことり「駄目です。死にました。」

 

あまりにも突然なことで空いた口が塞がらない。

 

鷹優「ことり、この死体をとりあえずSPW財団に報告して運んでもらうんだ。」

ことり「わかりました。」

 

そういってことりはスマホを操作して連絡を入れる。

 

ダブレ「占い師の方は無事みたいだねェ」

 

翔太郎「えぇ…ですが、やはりこの雇われた2人の方が敵組織について詳しかったハズです。」

 

――SPW財団が数分後に到着し、遺体を運んでいく。

騒ぎにはなってなかったようだ。隠密に行動しているのだろう。

 

そののちに"魂の鑑定人"が目を覚ました。

 

鑑定人「ここは…?」

 

助音「ここはTG大学病院です。敵組織に洗脳されてたあなたを少し気絶させてここで治療しました。」

 

鑑定人「洗脳…そうだ。私は洗脳されていたのだった…"奴の能力はそうだった"…」

 

翔太郎「奴とは?詳しく教えてください!」

 

無精髭を生やした外国人風の男は口をゆっくり開く。

 

鑑定人「奴の名前は坂根圭。詳しくは知らないが、私が占ったら"反SPWのボスの腹心"という結果がかえってきた。私の占いは外れたことはない。信用してほしい。」

 

その場の全員が驚いた。

なんらかの情報を得られると思っていたが、それ以上の情報が出てきたからだ。

 

鷹優「ということはボスの腹心があなたをスタンド能力で洗脳していたと?」

 

鑑定人「あぁそうだ。たぶんな。しかし、奴の能力は正確に言うと少し違う。"夢を見せる"んだ。」

 

翔太郎「夢を見せる?」

 

思った斜め上の回答に沈黙がおりる。

魂の鑑定人は説明を続ける。

 

鑑定人「しっかりと"覚えている"…夢なんて普通は覚えているものじゃあないが、"覚えている"んだ。

奴の能力は、人に自由に夢を見せ、その人にとっての悪夢などを見せることによって精神力を低下させて洗脳するというものだった。」

 

ダブレ「ほう…"夢"を…か。」

 

鑑定人「私も初めてその"夢"を見た時はおかしいと思った。私がSPW財団に裏切られて、反SPWの構成員になるという"夢"だった。」

 

鑑定人「わかったことは、夢の中でもスタンドを出せることや、夢の中で起こったことは現実に反映されないということだ。夢の中で自分をナイフで切っても現実に切り傷はなかった。」

 

魂の鑑定人から聞き出せた情報はそれだけだった。

 

鷹優「あんたは絶対にまた敵組織に回ってしまったらいけない男だ。SPW財団に保護してもらおうかと思ったが、どこに敵組織の構成員がいるかわかったもんじゃあない。しばらくはこの調査部で匿わせてもらう」

 

――本当に敵組織からの攻撃が始まった。

私もいつかあの占い師のように、洗脳されてしまうかもしれない…

 

と思いながら、助音と翔太郎は帰宅していた。

夜もう遅かったからだ。

 

助音「今回は私の自宅の方に帰ろっか!」

翔太郎「わかりました」

 

それまでずっと探偵事務所で生活していたが、流石に辛いので自宅に帰ることにした。

 

数分後、大きな一軒家に着いた。

そしてその玄関ドアの前に、1人の女性が立っていた。

 

瞬時に気付いた翔太郎。

――敵の追手か!?

 

翔太郎「ムーヴメントッ!」

助音「え?え?」

 

翔太郎の両手が銃を持つ手になると、その空白の空間から真っ黒い銃が現れた。

 

すると、ドアの前にいた女性はこちらに気付き、

こっちに手を振ってこう言った。

 

???「ジョジョ〜!遊びにきたよ〜!」

 

助音「あ!キッド!!」

 

翔太郎「え?遊びにきた?」

 

困惑する翔太郎。

助音は説明する。

 

助音「あの女性はキッドっていう私の友達だよ!

敵じゃないから安心して!」

 

走って近づいてきたキッドと呼ばれる女性は、

刹那、助音に抱きついた。

 

平均女性より胸が大きめの助音だが、それよりも大きい胸が助音の顔を圧迫している。身長は助音をゆうに超えている。助音は窒息しかけた。

 

キッド「その少年は?さっき変なこと叫んでたけど、そういうお年頃なのかな〜?」

 

……スタンドが見えていない…スタンド使いではない…?

 

助音「この子は最近うちで預かることになった

枕木翔太郎くん!詳しいことは後で話すから、とりあえず家に入りましょ!」

 

キッドは一瞬考え込む表情になったが、すぐに頷いて3人で大きい一軒家に入って行く。

 

落ち着いてから助音が話し始める。

 

助音「彼女の本名は城戸瑞稀っていって、私とおんなじ探偵なんだよ!」

 

キッド「ちょっと〜その名前嫌いだから"キッド"って呼んでって言ってるじゃーん…」

 

……なんで"キッド"なんだろうか。翔太郎が数秒考え込んだ後、城戸(きど)という苗字からだろうな。と勝手に決めつけた。

 

キッド「あ、翔太郎く〜ん、今私がなんでキッドなのかって考えてたでしょ〜?」

 

翔太郎「!?」

 

キッド「あっ、その表情は図星だね〜?」

 

助音「キッドは頭いいんだよ〜!」

 

キッド「ジョジョ程じゃないけどね〜ちなみになんでキッドかって言うと〜男の子好きだからかな〜…」

 

翔太郎「???」

 

助音「うわ…」

キッドの言葉の真意がわかった助音は少し引いた。

KID...小さい子供のことを指す。

 

キッド「それにしても可愛い〜!」

 

キッド…もとい、城戸瑞樹は翔太郎に抱きつく。

翔太郎が嬉しいのか苦しいのかわからない焦燥に見舞われたその時。

 

キッド「痛っ」

 

助音+翔太郎「え?」

 

キッドは翔太郎から離れる。原因不明の痛みが胸のほうからだったのか、キッドは自分の胸を覗き込んでいる。

 

キッド「刺さり傷…?胸元にあるっぽいけど、裸を見られても傷は小さいから気付かれないかな。」

 

翔太郎は自分の服の胸ポケットに"ソレ"が入っていることに気づく。

 

……スタンドの矢!!

 

翔太郎は敵組織の構成員から奪ったスタンドを発現させる矢を肌身離さず持っていた。助音に買ってもらった男児用の服の胸ポケットに入れていたのだが、キッドが抱きついた時に、矢尻が胸ポケットの生地を破いてキッドの胸元に刺さってしまったようだ。

 

……スタンドの矢を刺されても死んでいないということは…スタンド使いになった…?

 

刺されてスタンド使いの素質がなかったら死んでしまうスタンドの矢。キッドの胸元が傷ついたのはこの矢のほかにない。

 

キッド「あ〜ッ!手からなんか出てる!」

 

彼女の手から、水色の魔法陣が発生していた。

 

 

 

人物紹介

魂の鑑定人…本名不明。いかにも占い師っぽい格好をしていて、無精髭を生やしている。イタリアのサルディニア島出身だが、日本語はペラペラ。

占いの実力は父親譲りで、イタリアで不審死した父親にかなり似ている。




新しい味方キャラ登場!能力については次回!


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#12 キッド

ストーリーの全体構想とかは考え終わってるのですが、やはり考えるだけじゃあだめですね。間が開いたらごめんなさい…


――キッド「あ〜ッ!手からなんか出てる!」

キッド、もとい城戸瑞樹は翔太郎に抱きついたときに、スタンドの才能を引き出すスタンドの矢が偶然刺さってしまうが、"彼女は選ばれていた"。

 

翔太郎「スタンドの才能があって、矢に"選ばれ"、

生き延びたあなたは、スタンドを手に入れた。」

 

キッド「あ〜ッ!"スタンド"!知ってるよ!

SPW財団の人に聞いたことあるー!」

 

……この人…SPW財団のことを知っている?

探偵と言っていたが…何者なんだ…?

 

そんなことを考えてた翔太郎。

 

キッド「僕ね、つい最近SPW財団の人に反乱分子が何を企んでいるのか調べてくれって依頼受けたんだー他にも、"抜け殻"についてとかね」

 

助音「"抜け殻"?」

 

キッド「"まるで魂が抜けたような状態"のことだよ」

 

翔太郎+助音「!!」

 

キッド「お、その顔は知ってる顔だね?」

 

翔太郎「内臓は機能しているのに植物状態のようになっていること…それは"抜け殻"と呼称されてる…?」

助音「ていうことはキッドの目的は私たちの同じってことなんだね!」

 

助音たちはお互いの目的を確認しあったが、調査する内容はほぼ同じだった。

 

キッド「そういえば、僕の能力、なんなんだろうね〜?手から魔法陣みたいなのが出てるけど…」

 

翔太郎「スタンドは基本、人型だったり、物に宿るかたちになります。物に宿る場合は一般人には見えることが多いんですが、僕の銃は実物だからこれが僕の精神の形といったところでしょうか。」

 

翔太郎「でも、最近になってオーラ型のスタンドが増えてきています。かなり珍しいケースなんですが、人型にできないかわりに、ステータスがその分高かったり能力が強いことが多いんです。」

 

助音「鷹優先生が言ってたけど、人型を思い浮かべてスタンドが人型にならなかったらそれはオーラ型スタンドなんだって。」

 

……ことり先生の"エメラルド・シティ"はオーラ型だったな…

 

鷹優とことりは、翔太郎には能力を教えなかったが、

昔からの友人である助音には能力を教えていた。

 

たしかに、ことりの能力は人型にはならず、打撃等の物理攻撃ができない。その代わりに手術用具を無限に生成できるという強力な能力なのだ。

 

キッド「!!」

 

助音「どうしたの?」

 

キッドの表情の変化に気付いた助音は訊ねる。

 

キッド「あ、いや…ちょっとお花を摘みに…」

翔太郎「???」

 

……トイレかい… 助音はココロの中でつっこんだ。

 

次の瞬間。"キッドが消えた"。

 

翔太郎「え?消えた?」

 

助音と翔太郎は1分間その場を探し回るが、

本当に"消えた"。

 

キッド「能力わかったよ〜」

 

すると、キッドが玄関方面ではないドアを開けて出てきた。

 

助音「キッド!一体どうしたの?」

 

キッド「"トイレに行こう"って思ってたら、いつのまにか既に"トイレにいた"んだよね〜」

 

確かに、彼女が出てきたのはトイレがある方面のドアである。

 

キッド「僕はこの"能力"、瞬間移動と推理するッ!」

 

次の瞬間。またキッドが消える。

 

翔太郎「い…いつのまに背後に…」

 

いち早く気付いたのは翔太郎。

キッドはいつのまにか助音たちの背後にいた。

 

助音「し、瞬間移動の能力ってことはあたりみたいね。」

 

キッド「でもねー…移動した直後にまた移動するのは無理っぽいんだよねェー…少なくとも移動した後に30秒くらいインターバルがあるっぽい。」

 

……さっきまでの2分間程の時間でそこまで

能力について"推理"したのか…

 

翔太郎がそう考えていると、翔太郎がお腹を鳴らす。

 

助音「あ、そういえば夜ご飯食べてなかったね?」

キッド「僕も食べてないからお願い〜ッ」

 

助音「はいはい、わかってますよ〜」

 

助音「それじゃカレー作るから待っててね?」

 

翔太郎+キッド「は〜い」

 

助音はキッチンに向かう。

すると、キッドは翔太郎に近づき、耳元で囁いた。

 

キッド「君は枕木って言ってたね…」

 

翔太郎「やはり、SPW財団の人間から依頼されてるわけだから知ってますよね…」

 

キッド「何を隠そう、僕に仕事を依頼してきたのは、SPW財団幹部で君の親、枕木蓮さんだからねー…」

 

翔太郎「!!!」

 

翔太郎は目が張り裂けんばかり目を見開く。

 

キッド「おかしいと思ったのは本当に近頃だ…いつ依頼を受けたのかは覚えてない。でも、たしかにその時は"大丈夫だった"んだ。」

 

キッド「でも、近頃になって彼からの連絡が何故かパッタリ途絶えてしまった。」

 

翔太郎「洗脳される前のお父さんに会っている…?

あなたとお父さんはどういう関係なんですか…?」

 

キッド「ただ単に仕事で知り合っただけなんだけどねー…スタンドについて教えてくれたのも彼だよ。まぁこれ以上の話はまた今度♡」

 

キッドは艶っぽくウィンクを翔太郎にすると、助音がいるキッチンに歩いて行った。

 

キッド「ジョジョ〜何か手伝うことあるかな〜?」

 

 

――30分後。

カレーも作り終わり、皆で食べて片付けまで済ませていた。助音は先にシャワーを浴びている。

 

インターホンの音が鳴る。

 

翔太郎「あ、僕が出ますね。」

 

キッド「よろしくね〜?」

 

キッドは前からスマホを触っていた。翔太郎は彼女の気を汲み取って自分から進み出た。

 

翔太郎は玄関に辿り着き、ドアのドアアイ(覗き穴)を覗き込む。

しかし、誰もいない。

 

翔太郎「誰もいないのか…?」

 

翔太郎はゆっくりドアを開ける。

 

 

ドアが何かに貫かれる音がする。

ドアを貫いた"何か"は、翔太郎の真上を通っていた。

まさに間一髪。

 

???「あー、そっかぁ、そういえば子供もいるっていってたなぁ、忘れてたよ…」

 

おとなしい口調。帽子を被っているその青年は、

笑顔でこう言った。

 

???「ごめんけど、始末させてもらうね。」

 

どこからともなく現れた光線が翔太郎の胸を貫いた。

 

 

 

スタンド紹介

スタンド「naked shuffle(ネイキッド・シャッフル)」

スタンド使い名「城戸瑞稀」

両掌から魔法陣を発するオーラ型スタンド。

能力はワープ。自分、他人、物を好きな数を好きなところにワープさせることができる。射程は∞だが、地球上のものを地球上にしかワープできない。

ものをワープさせた後には必ず30秒のワープを使えない時間、インターバルが存在する。また、ワープさせるものが多い、ワープ距離が遠いなどの条件によってインターバルの長さが長くなる。

破壊力 :ナシ

スピード:瞬時

射程距離:∞(地球上のみだが)

持続力 :D(必ず30秒以上のインターバル)

精密動作:C(座標上の問題で、出現させる位置どりはかなり難しいがスタンド使いが有能。)




これじゃあ遅れちゃうかも…どうなっちゃうのかな?(自問自答)
Where do I go?


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#13 光線

誠に勝手ながら、3日ごとに投稿してたこの小説を、4日ごとに投稿させてもらいます。
今書き溜めている話数に、投稿してる話数が追いついて、投稿のインターバルが不安定になったら、こちらも読者の皆様も迷惑がかかりますので。とりあえず様子見ということで。


――???「ごめんけど、始末させてもらうね。」

 

夕食後、インターホンが鳴ったので玄関に向かった翔太郎は、敵組織の追手と思われる人物に襲撃を受けていた。ドアを開けた瞬間に翔太郎の真上を通り過ぎてドアを貫通した"何か"。もし助音やキッドだったら、身長から考えて一撃でその"何か"の攻撃を喰らっていただろう。

 

しかし、翔太郎は先程のセリフと共に、その何かを胸に喰らってしまった。

 

重い地響きを立てて翔太郎は崩れ落ちて倒れる。

 

???「やはり僕の"ホワイトアッシュ"のレーザーに敵うものはない…」

 

碌な死亡確認をせずに、その青年はインターホンを押そうと玄関に近付く。

 

翔太郎「光線か、だから死ななかったのか!」

 

死んだと思われた翔太郎が叫ぶ。

その黒光する拳銃を構えながら。

 

???「ッ!!!」

 

翔太郎「お返しだッ!」

 

そう。翔太郎の胸を貫いたハズのレーザーは、胸に仕込んであった"ムーヴメント"の能力で、レーザーは胸を貫かずに"弾丸"にされていた。

 

翔太郎は高圧電流の弾丸をその青年に撃ち込む。

 

ギリギリに気付いた青年は、避けようとするが、弾丸の形をした電流を肩に受ける。

 

翔太郎「よく見ればアンタ…SPW財団に保護されてた室田悠斗じゃあないかッ!」

 

その室田悠斗と呼ばれた青年は、崩れ落ちながらも、拳銃を構えた翔太郎を憎らしげに睨めあげる。

 

悠斗「変わってないなッその注意深さ…ッ!」

 

翔太郎「遂にアンタも洗脳されたらしいな…普段ならアンタは正義感があって、卑怯な手を使わないハズだッ! しかもスタンドまで手に入れて…!」

 

悠斗「フン!なんて言われようが、命令なんでなッ!レーザーで灰になってもらうぜッ!

"ホワイトアッシュ(白い灰)"!!」

 

すると、悠斗の足元に白い煙がたちのぼる。その煙の中から上半身だけの人型のスタンドが現れた。

そのスタンドには穴が至る所に空いている。

 

翔太郎「アンタのレーザー光線のおかげで、高圧電流の弾丸が4発もできたッ!"ムーヴメント"ッ!」

 

ホワイトアッシュと呼ばれる煙から出てきた上半身だけの人型スタンド。なんと大きい穴が空いている顔から、極太のレーザーが発射された。

 

翔太郎「!!コイツ!顔からレーザーを!?」

 

しかし、翔太郎は"レーザーを避けずに、拳銃でレーザーを受け止めた"。

 

翔太郎「相性が悪かったな…いくらレーザーを撃とうが、僕の弾丸になるだけだよ…」

 

レーザーを受けた拳銃の周りに、小さい弾丸が6個浮いている。その弾丸は勝手真っ黒い拳銃の中に入っていって、余った分は翔太郎の周りにフワフワと浮いている。

 

悠斗「なるほど…エネルギー系のものを弾丸にして撃ち込むことができる"ムーヴメント"…なるほど、相性が悪いってのも本当っぽいな…」

 

そういって悠斗は胸ポケットから何かを取り出し、翔太郎の方に投げた。

 

翔太郎はそれを見逃さず、それを電流の弾丸で撃ち抜く。"ムーヴメント"で弾丸にされたものは基本威力強化などが施されるのだ。

 

電流弾丸で撃ち抜かれて穴が空いたソレは…

"生徒手帳だった"。

 

翔太郎「…!?」

 

悠斗「"穴"が空いたな…まるで水面に一滴の水を落としてできた波紋のような"穴"が…」

 

その瞬間。"穴"が空いた生徒手帳から、レーザーが飛び出した。そのレーザーは翔太郎の肩を撃ち抜く。

 

悠斗「これでおあいこだな…枕木翔太郎…」

 

翔太郎「アンタの能力…さっきから穴と連呼しているが、もしや"穴"からレーザーを射出する能力だな!」

 

悠斗「そうだ…中学生にもなれず組織から逃げて、オツムがなってないお前の為に教えてんだよォーッ」

 

キッド「あらあら、遅いなぁ…と思って来てみたら…可愛い敵の襲撃かぁ…」

 

悠斗「!?」

 

悠斗の背後、すぐ近くにその女性はいた。

先程スタンドを手に入れたばかりのキッド。

 

インターホンが鳴って出向いた翔太郎の帰りが遅かったので、キッドは瞬間移動の能力でいつのまにか外に出ていた。

 

キッド「はやく終わると思って瞬間移動を使ったけど…やっぱ靴を履いてくるべきだったね〜ッ」

 

そんな呑気なことを言いながら青年に近付いていく

キッド。

 

悠斗「近寄るんじゃあねーッ"ホワイトアッシュ"」

 

スタンドの所々に空いた穴からレーザーが幾度ともなく発射されるが、全弾が当たる寸前にキッドは消える。気付けばキッドは翔太郎の近くにいた。

 

キッド「流石にさっき手に入れた能力までは情報がないもんね〜翔太郎くんもやられてないで何より!」

 

悠斗「あんまり舐めるんじゃあねーぜ!」

 

悠斗はポケットから、何かを取り出そうとしている。

 

翔太郎はハァーと俯いて溜息をしてから、リボルバーから一本だけ"電流弾丸を落とした"。

 

悠斗は、ポケットから、穴が空いたお菓子を、たくさん空中に放り投げた。

 

悠斗「体中に穴をあけてやるぜッ!」

 

すると、翔太郎は素早く引き金を引いた。

 

拳銃から飛び出した弾丸。それは、"レーザーを媒介として作った高圧電流の弾丸ではなく、さっき溢した溜息からできた空気の弾丸だった"。

 

空気の威力強化を施された空気弾丸は、軽いお菓子を簡単にフッ飛ばし、お菓子はレーザーを出せる射程距離外にまで飛んでいった。

 

悠斗「え…」

 

キッド「はい!つーかまーえたッ!」

 

キッドはいつの間にか青年の背後に瞬間移動しており、青年の腕を掴んで動けないように拘束した。

 

悠斗「お前!離しやがれッ!」

 

キッド「おやおや…そんな乱暴なことしていいのかな〜ッ?翔太郎くんが君を確実に撃ち抜くよ〜?」

 

翔太郎は拳銃の標準をしっかりと悠斗の胸にあわせている。

 

キッド「それじゃ大人しくおうちに入ろっか〜」

 

陽気な声と共にキッドと翔太郎たちは家に入ってゆく。

 

翔太郎とキッドは襲撃してきた青年をその場の行動で撃退したのだった。

 

 

 

スタンド紹介

スタンド名「White ash(ホワイト・アッシュ)」

スタンド使い名「室田悠斗」

人型の特殊型スタンド。

スタンドの顔や体の所々に穴が空いている。

射程距離内に存在する「穴」からレーザービームを発射することができる能力。

穴の大きさによってレーザービームの太さも変わる。

レーザーの長さによって、レーザーの圧力が変わり、短いほど殺傷力は高くなり、長いほど弱くなる。

破壊力 :C

スピード:C

射程距離:B(レーザー射程は調整できる)

持続力 :B

精密動作:A




最近何処かで、仮面ライダーパロをしたばかりに大変になってるとこがあるらしいですね…
ただでさえ、パロが多いこの小説、大丈夫なんでしょうか…


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#14 鋭利

後半から鷹優先生の戦闘シーンです。本格的な戦闘は次回からですが、力を入れてかけましたよ!


――キッド「それじゃ大人しくおうちに入ろっか〜」

 

キッドと翔太郎はは急襲してきた追手、室田悠斗を機転で捕まえ、助音の能力で洗脳を解いていた。

 

助音「それにしても、こんな高校生にまで戦わせるなんてねぇ…まぁショータくんも小学生だけど…」

 

キッド「あっ、そのショータってあだ名いいね!」

 

洗脳を解かれた青年は、さっきまでの乱暴な性格はまるで消えてしまい、大人しくなった。

 

青年はお腹を空かせていたので、余っていたカレーを

助音が用意して食べさせてあげた。

 

悠斗「まだ僕の他にも追手はいます。たしか、僕と同時に違う所に襲撃しに行った人もいましたが…」

 

カレーを食べながら悠斗は言う。

 

助音「え!それじゃあ鷹優先生とかことり先生も襲撃されてるのかな…!?」

 

悠斗「たぶんそうだと思います。現段階でわかっていた始末対象は、天久鷹優、小鳥遊ことり、枕木翔太郎でした。空条助音とダブレは、捕獲対象だったんです。そこの大きい女性は情報になかったですね。」

 

大きい女性と呼称された、体も胸も大きい女性、城戸瑞樹は顔をしかめた。

 

キッド「私は情報に入ってなかったんだね?意外。」

 

助音「そりゃそうでしょ、最近会ってなかったんだから…」

 

キッド「ていうかさ、僕の聞き間違えじゃなければいいんだけど… 悠斗くん、ダブレって言った?」

 

助音「あ、説明してなかったか…ダブレ、ちょっと出てきてくれる?」

 

ひとりごつ助音を不思議に眺めるキッドだったが、助音の顔を見るや、キッドは驚いた。

 

ダブレ「よぅ 空条助音のもう片方。ダブレだ。お前は…見たことあるな。」

 

キッド「ジョジョ…それは…まさか…」

 

助音「そのまさか。私、実は二重人格だったの。」

 

オッドアイの女性はキッドに告げる。

悠斗は、興味無さげにカレーを貪る。

 

キッド「やっとスッキリしたよ〜僕も昔からジョジョは変わってるな〜って思ってたもんね〜ッ」

 

ダブレ「それで…だ。悠斗とやら、その鷹優たちを始末しにいってる奴は何処へ向かったんだ。」

 

悠斗「確か、鷹優の家が目的地だったっぽいですよ?ことりって女性と付き合ってるんでしょうか…?」

 

助音「敵組織の重役はそう思ったのかな?たしかにあの2人は仲良くて良いパートナーだけど…」

 

キッド「それはないんじゃない?だってことりちゃんの恋愛対象女性だし…」

 

助音+翔太郎「ええッ!?」

 

いちばん驚いていたのは助音。ダブレは何も言わないことから、興味がないか、もしくは気づいていたか…

 

キッド(ジョジョも驚いてるってことはジョジョはことりちゃんのアタックに気付いてないのか…それじゃあ言わなかった方が良かったかな…)

 

キッドは心の中でことりに謝る。

 

――1人で帰宅していたことり「へっくしゅん!」

 

ダブレ「目標が鷹優の家ということは、キッド。お前の能力で鷹優の手助けくらいはできるんじゃあないか?」

 

キッド「生憎、僕は鷹優くんのおうち知らないんだよね〜ッ たしかジョジョも知らなかったでしょ?」

 

助音「え、あ、そうだよ。ダブレも知らないでしょ?」

 

ダブレ「あぁ… 鷹優とことりを同時に始末するために襲撃させたってことはだ。その追手はかなり強い能力なんじゃあないか?悠斗。人数はわかるか?」

 

悠斗「1人です。能力は知りませんが。」

 

カレーを食べ終わって、助音が皿を下げる前に自分で皿を持ってって洗っていた悠斗が答える。

 

助音「1人なのね…ダブレの推理は当たってるかも。とりあえず鷹優先生に電話してみるね。」

 

キッド「うーん…場所がわかってれば僕の"ネイキッドシャッフル"で迎えにいけたのにね〜…」

 

翔太郎(うわ。スタンド名にもキッドって入ってる…)

 

助音がスマホで鷹優に電話をかける。。。

 

 

場所は移り、鷹優の家の近くの川を挟んだ広い橋の上、鷹優はけたたましくなるスマホを取り出し、電話主が助音と見るや、周りを見渡した。

 

鷹優「周りは…他に1人しかいないな。盗聴の危険性はあまりないか…」

 

ひとりごちた後に、鷹優は通話ボタンをタップする。

 

鷹優「天久だ。どうした?」

 

助音『あ、鷹優先生。今入った情報なんですが、追手がそちらに向かっているようです。今鷹優の居場所を言ってくれればそちらに向かうので場所を教えてください。』

 

鷹優「追手だと…?その情報、確かなんだろうな…」

 

電話しながら広い橋を歩く鷹優。

 

鷹優「今ことりはここにはいない。場所は…」

 

……その橋の名前でいいか。

 

そう思って話そうとする。

暗い夜、鷹優は橋に1人居た女性の目の前を通る。

 

いきなりツーツーという気の抜けた音声が響く。

 

鷹優「!?」

 

気付くと、"手に持っていたスマホは八裂きにされたように、バラバラになって地面に落ちていた"。

 

……まさか、この女が…!?

 

ハイスペックな頭脳を持つ鷹優。助音の頭脳をゆうに超えるが、誰だってその状況は理解できないハズだ。

 

???「アンタ…天久鷹優か… 小鳥遊ことりはいないな… まぁいい。」

 

暗闇の中でフードを深くかぶっていた為、尚更見えにくかった顔だが、鷹優にはその顔は見覚えがあった。

 

鷹優「お前… 咲田舞だな…?」

 

咲田舞と呼ばれた女性はフードを外し、こちらに顔を向けた。

 

舞「正解よ…天久鷹優…」

 

咲田舞……天久鷹優と同年齢であり、SPW財団の職員。つまり、鷹優の元同僚。

 

鷹優「お前…今俺のスマホに何をした…?」

 

舞「やだねェ、スマホに何かしたのは"アンタの方じゃあないの"。」

 

鷹優「俺とことりを同時に始末するつもりだったらしいな。大層な御身分なんだな。」

 

舞「そうよ…"プラスチックフラワー"」

 

スタンド名を呟いた咲田舞。彼女の後ろから、白い、全身が刃のようなまがまがしい見た目の人型のスタンドが現れる。

 

鷹優は、舞がスタンドを出したと同時に地面を蹴り、なるべく射程距離外に出れるように走ってまた舞の方を向き直した。

 

舞「おや、まさか突っ込まずに距離を取るなんてねぇ… アンタにとっちゃあそれは良い行動だろうが、私は大胆な男の方が好きだよ…」

 

そんなことを言う舞だが、鷹優はそんなことに聞く耳を持たず、こんなことを考えていた。

 

鷹優(あのスマホ…残骸がおかしかった…切れていたようだったが、俺の体とかはどこも傷ついていない…

そして、"俺自身が壊した"という発言…)

 

落ちたスマホの残骸は、"一閃に切れていたのではなく、八裂きにされていた"。

 

舞「スタンドの能力を知りたいみたいだねぇ…

どうせだから教えてあげるよ…」

 

舞は、橋から落ちないようにするための欄干の方に向き、その全身刃のようなスタンドの手を、ゆっくりとのめり込ませるような動きで手を縦に欄干に触れさせた。

 

鷹優「なにを…やっているんだ…?」

 

すると、驚くべき光景が目に入る。

 

"スタンドが硬い欄干を手でゆっくりと切っている"

 

表現としても、やはり"切る"と表記する方が正しいだろう。

 

舞「これだけじゃあないよ。」

 

すると、今度は舞は、服の裏側の胸ポケットから大きなリンゴを2つ取り出した。

 

胸が大きいように見えた彼女はただ服の裏側の胸ポケットにリンゴを2つ入れてるだけであった。

 

舞は2つのリンゴを切れてない欄干の上に置くと、

"まるで包丁でリンゴを切るような動きで、人差し指だけでリンゴを半分に切ってしまった。"

 

舞「私の能力、"プラスチックフラワー"は、射程距離内に存在するもの、を任意で"鋭利"にすることができる… だからアンタはの指は"鋭利"になって、握っていたスマホを指で八裂きにした…」

 

兎の形に切ったリンゴを舞は鷹優の方に投げてくるが、鷹優は受け取らずに避けた。

 

すると、そのリンゴは頑丈な橋に穴を開けて落ちてゆき、川に落ちてしまった。

 

舞「今までの人生を悔い改めて、いつ八裂きにされてもいいように覚悟するんだなッ!」

 

恐ろしくも強い能力を持った女性、咲田舞は、リンゴをかじりながら鷹優に叫ぶのだった。

 

 

 

スタンド紹介

スタンド名「プラスチックフラワー」 

スタンド使い名「咲田舞」

近距離パワー型の人型スタンド。

体全身が刃のような見た目で、イメージカラーは白。

射程距離内の物体を任意で鋭利にする能力。

その切断力は、指でリンゴを切れる程。

つまり、射程距離内に入ってしまえば武器を使う相手を完封できる。(武器の持ち手が鋭利になり持てない)

しかし、遠距離型スタンドや特殊型スタンドに弱い。

破壊力 :A

スピード:C

射程距離:B(半径3m)

持続力 :B

精密動作:D




"プラスチックフラワー"って能力、本当に強いんですよね…
私自身もお気に入りです。


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#15 プラスチックフラワー

プラスチックフラワー戦。
能力が強くてお気に入りです。


――舞「今までの人生を悔い改めて、いつ八裂きにされてもいいように覚悟するんだなッ!」

 

鷹優は1人で帰宅している最中、大きな橋の上で、元同僚の咲田舞に襲撃されていた。

 

舞「射程内の任意の物を"鋭利"にする…

          これが私の能力…」

 

鷹優「"クリムゾン・シティ"ッ!」

 

鷹優の背後から、白い天使のような人型のスタンドが現れる。

 

舞「"クリムゾン・シティ"…血液の採集や保持、血液を別の液体物質に変化させれる能力…知っている。」

 

鷹優「流石にそれくらいの情報はご存知なようだな。相性が悪いワケだ。」

 

鷹優はまだスタンドを動かさなかった。落ちたリンゴが橋を貫いたことから理解していたのだ。彼がまだ敵のスタンドの射程距離内に入っていることを。

 

舞「迂闊に手を出せないってか… アンタの能力は近接のパワー型。注射器を刺されでもしたらおしまい。

それなら遠距離で攻めるのみッ!」

 

舞は服のどこからともなく爪楊枝をたくさん取り出した。

 

鷹優(爪楊枝ッ!まずいッ!)

 

複数の爪楊枝が凄いスピードで飛んでくる。

舞の能力、"プラスチックフラワー"の、鋭利にする能力で、どれだけにこんなに相性の良い武器があろうか。空気抵抗を受けない速さ、そして、最大限に達したその貫通力。

 

ギリギリ避けた鷹優。避けた爪楊枝数本は、すぐ背後にあった電柱を貫通し、またもや飛んでいった。

 

その小ささは、精密な動きができる能力でもないと叩き落とすことができない。また、迂闊に触りでもすればたちまちその体を貫通するだろう。

 

鷹優「さては、ずっとソレを投げ続けるワケじゃあないだろうな… ソレを続けたらいずれ…」

 

舞「周りにも被害が及ぶ、って言いたいのかしら?」

 

鷹優「ソレもそうだが…数を撃てば当たると思っているのか?ということだ。」

 

舞「たしかに、爪楊枝を何本も投げてるだけじゃアンタを倒すことはできないってことはわかってる。」

 

すると、舞はポケットから"妙に刺々しい鉄球"を取り出した。

 

鷹優「"鉄球"…?一体何をするつもりだ…?」

 

舞「これでアンタを始末するッ!」

 

手慣れた手つきでその鉄球を投げる。

不思議な軌道をして飛んだ鉄球だったが、避けれないものではなかったので、鷹優はゆうに避ける。

 

鷹優「うぐぁッ!!!」

 

……な…何故だ…?

避けたハズの鉄球が…"かえってきた"…?

 

舞は、鋭利になって鷹優を貫き戻ってきた鉄球をキャッチする。

 

舞「この"鉄球"は職人に作られたモノ…特定の投擲方法で、"鉄球"とは思えない"跳弾"を見せる…」

 

いつの間にか鷹優は横腹を軽く抉られていた。

再び舞は鉄球を繰り出す。

 

鷹優は飛んできた鉄球を避け、鉄球の行方をみる。すると、鉄球は射程距離外にまで飛んでいき、"橋の欄干にぶつかって跳弾し、鷹優の元に戻ってきた"。

 

鷹優「やはりこの鉄球ッ 跳ね返っているのかッ!」

 

戻ってきた鉄球を避ける鷹優。しかし、複数の痛みが体を突き抜ける。

 

鷹優「な、なにぃッ!?」

 

この突き抜ける痛み。この痛みは…

 

舞「"鉄球"を避けることに夢中になってたから…

この爪楊枝には気付かなかったようだなッ!」

 

戻ってきた鉄球を避けたところに、咲田舞は爪楊枝を繰り出していた。

 

鷹優「これが…お前の戦術か…ヤケに完璧なんだな…」

 

そう、完璧な戦術。

 

鋭利にした鉄球を投げ、射程距離外に飛び出すと能力は解除され、当たった所を貫かずに跳弾し…戻ってきた鉄球が射程距離内に入った瞬間にまた鋭利になる…

戻ってきた鉄球に当たらなくても、避けられたところに鋭利にした爪楊枝を投げて相手を追い詰める。

 

鷹優「鋭利だから防御不可能か…なかなか戦闘向きで、いやらしい能力なんだな…」

 

舞「なんて言われようと、アンタはその"いやらしい能力"に負けるのさッ!」

 

舞の言う通り、刺々しい鉄球や、最大限に鋭利になった爪楊枝は殺傷力が高く、鷹優の傷は思ったよりも深く、出血量は多かった。

 

鷹優「残念だが、失血で俺が死ぬことはない。何故なら…」

 

既に出現していた"クリムゾン・シティ"の背後に、たくさんの薬ビンが現れる。それぞれには細々と文字が刻まれている。

 

鷹優「これは全て今までに採集した"血液"だ…

俺の能力は血液の情報をも変更できる。だから、輸血時の血液情報など無関係だ。」

 

鷹優のスタンド、"クリムゾン・シティ"がそのビンに触ると、その薬ビンは光だす。すると、中の血液が鷹優の中に入っていった。スタンドのおかげで、点滴なども必要なしに輸血ができるようだ。

 

鷹優「そりゃあ傷は治せねーが…泥試合になるぜ?」

 

舞「泥試合で結構!どのくらい時間がかかろうと、アンタを絶対に始末するッ!」

 

殺意を剥き出した目は鷹優に向いている。

 

鷹優「…お前はそんな人間じゃあなかった… 他人思いで、頑張り屋だったのに… 洗脳ってのは人の"取り柄"ってのもなくしちまうのか」

 

鷹優は演技っぽいが皮肉っぽく、相手をまさに煽っていた。

 

舞「うるせえうるせえうるせえうるせェェェェ」

 

狂ったように叫び、手は思いっきり鉄球を握ったせいか血が垂れている。

 

鷹優「おい、落ち着けよ。そんなもんじゃ、大切なモノさえ見落としてしまう。そうだろう?

咲田舞、血液型はO。過去に癌を患っていた。」

 

舞「!!!!!」

 

鷹優「血液というのは"情報"だ…体の健康状態などを正確に教えてくれる…」

 

舞は鷹優のセリフを聞いた瞬間に、彼女自身の体を見回す。

 

舞「もしかしてアンタッ私の血液をッッッ!!??」

 

絶対にそんなことはない。そのようなことをできる暇はなかったハズだ。そう思っても、舞はココロが焦って、体からは冷や汗をかいている。やはり注射器が刺さっていたような跡はない。

 

しかし、鷹優は、舞の血液が入っていると思われる小さいビンを持っていた。

 

舞「血液を取っても、私はまだ死んじゃあいないぞッ!まだ鉄球を投げる力は…ッ!」

 

鉄球を思いっきり投げようとしたその腕はいつも通り動いた。

 

舞「へ?」

鷹優「慌てたなッ!この血液は"過去にお前から採取したもの"だッ!!」

 

刹那。鷹優は"クリムゾン・シティ"の爪にあるメスを舞の手元に投げた。

 

焦って手元が狂っていた鉄球に、更に複数メスが命中し、鷹優の方に鉄球が落ちて転がった。

 

鷹優「勝機はコレにかかっているッ!」

 

"クリムゾン・シティ"で素早く鉄球を取った鷹優は叫ぶ。

 

舞「あ、アンタにその鉄球を使いこなせないわ!」

 

半ばヤケになった舞が叫ぶ。

 

鷹優「さぁな…しかし俺は天才だ…とある本で読んだことがあるが…」

 

鷹優はおとなしい口調で言う。

 

鷹優「"黄金の回転"という言葉を聞いたことがあるか?」

 

舞「!!!」

 

鷹優「とある一族が過去に完成させた鉄球の技。鉄球をとあるかたちで投げることによる究極の奥義。」

 

黄金の回転…鉄球を黄金長方形と呼ばれるかたちで放つことにより、回転を未知なる次元へと導く。

その効果は未知数であり、とある記事だと"次元の壁をも越える"とまで言われている。

 

舞「アンタなんかが撃てるわけがない!できるわけがないッ!」

 

舞も鉄球の練習をしている時に、黄金の回転というものは聞いていた。しかしそれは類稀なる実力、又は才能やセンスがないとできない程難しい。

 

鷹優「俺は…天才だァッ!!!」

 

鷹優は鉄球を放つ瞬間。舞は彼から黄金長方形の軌跡が見えた。

 

鉄球が目視では回転してるかさえ認識が困難なスピードで舞の元に飛んでゆく。

 

舞「"プラスチックフラワー"ッ!」

 

舞の前に刃だらけの禍々しいスタンドが鉄球の前に立ち塞がる。その見た目に加え、鋭利になった爪は誰も防御できないしろものであり、また、防御自体も完璧であった。

 

舞「黄金の回転がアンタなんかにィィィィィ」

 

スタンドの爪が鉄球に命中する…が、鉄球は切れない。回転も止まらなかった。

 

――それは正に、言葉で示すならば、

      「防御不可能の鉄球回転攻撃。」

 

黄金の回転を纏った鉄球は、"プラスチックフラワー"の鋭利な爪を弾き飛ばし、遂に舞に直撃した。

 

舞「この…私よりも…鉄球の技術が勝っている人間なんて…しかもこんな奴にィィィィィッ」

 

鉄球は舞を吹き飛ばしたが、致命傷までには至らない。それは黄金の回転がしっかりと成っていなかったのか、それとも手加減をしたのか…

 

鷹優は倒れた舞に近寄って簡単な応急処置をし、いわゆる、「お姫様抱っこ」で家に連れて行こうとした。

 

すると、その先にいたのは…

 

キッド「やぁ!遅いじゃあないか!」

 

そこには、普通は迎えにこれなかったハズの女性が、手に魔法陣を宿してその場に居たのだった。

 

 

 

黄金の回転について…

この言葉自体は、原作の第7部、「スティールボールラン」という作品で登場する。本文でも説明した通りに、黄金の回転とは黄金長方形の形で鉄球を繰り出すことによって発生する無敵の攻撃。

もちろん鷹優はそんなのを練習してたわけでもなく、ただ、書籍で読んだことがあるだけで、実践していた。もちろん、黄金の回転は完全ではなかった。

ただし、彼の場合はただの練習不足であり、今作屈指の頭脳を持つ彼ならすぐに上達していたのかもしれない。




キッドさん、一体何者なんでしょうかねぇ…
ところで、次話の後半はとんでもないおふざけ能力が登場するんですよね…もしかしたら怒られて削除…なんてこともあるかもしれないので、削除されてたりしたら、そういうことだと思っておいてください。こっちは至って真面目ですよ。


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#16 仮面の騎士

後半からおふざけ能力が登場します。
言わなくても何のパロかはわかるハズ。


――キッド「やぁ!遅いじゃあないか!」

 

そこには、普通は迎えにこれなかったハズの女性が、手に魔法陣を宿してその場に居たのだった。

 

鷹優「お前は…会ったことがあるな…確か…

          探偵の城戸瑞稀か…」

 

キッド「そうそう!キッドって呼んでね〜ッ!」

 

温厚な口調と笑顔でキッドは鷹優に話しかける。が、まるでキッドの目は笑っていない。

 

鷹優「もしかしてお前も…追手なんじゃあないだろうな?」

 

鷹優は先程彼を襲撃してきた女性、咲田舞を返り討ちにし、保護しようとお姫様抱っこのままだったが。キッドの前でもそのクールな目つきは変わらない。

 

キッド「違うよォ〜 って言いたいけど…そんなこと、証明なんてできないよね。」

 

普段にこやかとして目を閉じているキッドだが、

この時だけその赫い目を露わにしていた。

 

キッド「実際僕は観察しにきただけだよ…嘘はない…」

 

鷹優「観察だと…?いい御身分なモンだな。それってーと俺を助けずに見てたってわけかい。」

 

キッド「酷い言い分だね。」

 

すると、目の前のキッドは消えた。

消えた彼女の声は後ろから聞こえてきた。

 

キッド「君はたしかジョジョよりも頭がずば抜けてよかったハズだ… なのに、"夜とはいえ人や車が全く来なかった"ことに何も思わなかったのかい?」

 

橋の欄干に座っていたキッドはまるで鷹優を乏しめるかのようにそう言い放つ。

 

鷹優は振り向いて言う。

 

鷹優「お前…一瞬でそこに…」

 

キッド「おっと…今質問しているのは僕だ…質問を質問で返すなんて行儀がよくないな…君は国語をそう学んできたのかい?」

 

城戸瑞稀の発言はもはや挑発と化す。

 

鷹優「私を怒らせたいのなら、それらの発言は無駄だ。それ以上くっちゃべってもそれは無駄骨だ。」

 

鷹優は挑発的な発言に対し冷静に返す。

 

キッド「そりゃそうだよね〜ッ 君は感情によって一人称が変わるもんね〜ッ」

 

鷹優(コイツ…ここまで…)

 

鷹優は警戒を怠らないままこう発言する。

 

鷹優「お前…瞬間移動の能力を持っているんだろう…?消える前に手から魔法陣のようなものが出ていたぞ。」

 

城戸瑞稀は驚いたかのような表情を見せた後、またいつものにこやかな顔になる。

 

キッド「そうだね〜。この"ワープ能力"を使って、通行人とかを瞬間移動させて、この橋に近づけなかったんだよー。流石に車が来た時はどうしようかって悩んじゃったよ〜ッ」

 

鷹優「今はお前に構っている暇はない… 助音からお前のことを後々聞くとするが、あまり怪しい行動はやめたほうがいい…」

 

鷹優はお姫様抱っこをしたまま振り返り、ゆっくりと家に向かって歩き出した。

 

キッド「ふ〜ん… その子と君の関係は知らないけど、その子も洗脳されてたみたいだね。ジョジョもすぐ連れてきとくね〜ッ」

 

キッドは欄干から降りて、鷹優に走って近づいた。

 

鷹優「コイツは…働きすぎで精神的に弱っていた…表では前向きな癖して、家では自傷行為、まぁリストカットを行っていたんだ。私はコイツの仲間から依頼を受け、コイツの家に行ったが、自傷行為で失血をして倒れていた。洗脳するなんて容易かっただろう。」

 

鷹優はキッドと歩きながら喋る。

 

キッド「ふ〜ん。今もお姫様みたいに抱いてるけど、この後も抱くのかな?」

 

キッドは鷹優が抱っこしている女性、咲田舞を覗き込んで言う。

 

鷹優「冗談はよせ。」

 

 

 

場面は変わり、空条助音宅。

 

助音「今キッドから連絡が入ったよ。鷹優先生は追手を倒してたみたい。」

 

翔太郎「そうですか…やはり、ことりお姉さんに電話しておいて正解でしたね。」

 

先程、空条助音は、いきなり鷹優との電話が途切れたので彼の部下の小鳥遊ことりに電話をして彼の家の場所を教えてもらっていた。

 

すると、いきなり翔太郎の目の前にキッドが現れた。

 

翔太郎「うわぁッ!」

 

キッド「あッ、驚かしちゃったね〜? それより、ジョジョ。鷹優くんのとこにいる追手の洗脳を解きに行こっか。」

 

翔太郎は悠斗と共に留守番をすることになった。

 

またもや場所は移り、鷹優宅。

 

鷹優は一人暮らしだが、大きな一軒家に住んでいた。

 

鷹優「…来たか。」

 

玄関に一斉に現れた助音達。

気絶している咲田舞は、リビングにひかれた布団に寝かせてあり、鷹優が処理をしたのか、傷には様々な治療が施されたあとがあった。

 

助音「早速見てみるね。"グッド・ドリームス"」

 

数秒後。

 

助音「洗脳解けたよ。綺麗に傷跡処置できてますね。」

 

助音の目はいつの間にやらオッドアイになっていた。ダブレも観察していたのだろう。

 

鷹優「あぁ。一応念入りにな。」

 

ダブレ「悪夢を見ていたな…"片方"がグッド・ドリームスで良い夢に変えてやってたぜ。名前通りの能力なこった。」

 

助音「ちょっとー…ダブレったら、私のこと"片方"って呼ばないでって言ってるじゃーん…」

 

鷹優「それで…だ。何か手がかりは得られたのか?」

 

ダブレ「いや、全くだ。」

助音「この子、SPW財団の職員で、鷹優先生と面識があったようですね。」

 

鷹優「あぁ。」

 

鷹優は冷淡に答える。

 

ダブレ「SPW財団に保護させるのは危険だし、もう夜遅くだから病院に連れていけないから一夜だけここに泊めるのか。そんなこと言わずにずっと泊めてやりゃいいのにな。」

 

鷹優「ダブレ…そんなのは余計な世話ってヤツだ。」

 

助音「でも…私もそれがいいと思います。」

 

助音はダブレの辛辣な口調とは打って変わっておっとりとした口調。まるで飴と鞭の刑事だ。

 

鷹優「くっ…ジョジョまでも…まぁ考えといてやる。」

 

鷹優は恋愛などに興味はない。しかし、鷹優は先程戦った女性、咲田舞と交際していたことがあった。

 

きっと助音は能力でそれを読み取り、わざわざ空気を読んだのだろう。

 

助音「それじゃあ私たちはなにもすることがなくなったので、帰りますね。」

 

助音は玄関で待っていたキッドに近づいたあとに鷹優に向かって言う。

 

鷹優「あぁ。助かった。」

 

キッド「それじゃあねェ〜ッ」

 

1秒にも満たない内に助音達は消えてしまった。

 

 

鷹優「…恋など、興味はなかったのにな…」

 

鷹優は、気持ちよさそうな顔をして寝ている咲田舞の頬を優しく撫でた。

 

 

 

――翌日。

休日であったため、助音は翔太郎、ことりとでショッピングモールに買い足しに来ていた。

 

ことり「それにしても、鷹優せんせーが追手に襲われて、そしてまさかその追手が元カノだったとはねぇ…」

 

助音「結局、ことが収まるまで、鷹優先生のお家に泊まらせるらしいですよ?またくっつくのかなぁ…」

 

完全に女子会トーク。翔太郎はついていけずに、流しながら歩く。

 

ことり「助音ちゃんも私に敬語使わなくてもいいのにー…同い年でしょー?」

 

そんな他愛もない話をしていて、

ショッピングモールの中央ホールに着いたその時。

 

隆之「ふん…アンタたちが俺の敵なわけか…」

 

助音達の前に立った男は、いきなり3人に言い放った。

 

翔太郎は一瞬で警戒し、いつでもスタンドを出せる体勢を取る。

 

翔太郎「なんですか…?時間をそこまでかけられないんです、邪魔しないでもらえませんか?」

 

隆之「今まで出会った敵もそう言ってたさ…俺の名前は天野隆之。正義の為にアンタら、やられてもらうぜ」

 

助音「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。いきなり何を言ってるんですか??」

 

しかし、天野隆之と名乗る男はその発言を気にすることなく、色とりどりで派手なスマホと、穴が真ん中に一つあいている派手なスマホカバーを取り出す。カバーは見るに材質はわからない。取り出された大きめのそれらは、オーラを纏っているように見える。スタンドだ。

 

隆之「アンタら…俺が出す処方箋で死滅させてやるぜ」

 

――さっきから何を言っているんだ…?そして、何をしている…?

 

いきなりのことだったので、助音達3人は状況があまりわかっていなかった。追手かどうかさえもわかっていないので、身動きが取れないのは確かだ。

 

変なものを見るような視線に射抜かれながらも、隆之はスマホカバーを彼のお腹の部分に持っていった。スマホカバーは空中で固定され、電子的な画面、おそらくカルテのようなものが出現し、並び、全体的に見てベルトのようなかたちになった。

 

隆之は大きめのスマホの表面をこっちに向ける。パスワード入力画面だ。それに隆之は"2,0,2"と入力し、決定ボタンを押すとスマホが喋り始める。

 

スマホの待機音「be preparing... be preparing...」

 

隆之がスマホを天に翳して、勢いよく腰の開いているカバーにスマホを差し込んだ。

 

待機音「Now It's Your Turn!!!」

 

けたたましく機械音が鳴り響く。

 

翔太郎「何を…しているんだ…ッ!?」

助音「まさか…本当に敵組織の追手…?」

 

次の瞬間。隆之は開いていたカバーを閉じる。

カチリと音がし、またスマホが喋りはじめる。

 

待機音「Shut Down!!」

 

カバーの真ん中に空いている穴から何かが見える。

斜めに線が入った0の中に2つの2が入っている。

 

隆之「変身ッ!」

 

隆之はカバーの上に露出していた大きく丸い

スイッチを勢いよくその拳で押し込んだ。

 

待機音「R E B O O T !!!」

 

その刹那。隆之は立体的な数字の群れと

無数の光に囲まれる。

 

ベルト「Prescription Possible」

 

ベルト「KAMEN KNIGHT RITALIN」

 

数字群や無数の光の中から出てきたのは

先程までの男ではなかった。

 

その電子的、そして数学的なデザイン、

電源マークを彷彿させる仮面のような顔、

そしてベルトを含めたメタリックな体。

 

…それは巷で「仮面騎士」と呼ばれるものだった。

 

隆之「俺は仮面騎士リタリン。」

 

隆之「治療開始だ。」

 

天野隆之と名乗る男は、仮面騎士なるものに変身し、助音たちの前に立ちはだかるのだった。

 

 

 

スタンド紹介

スタンド名「リタリン202」

スタンド使い名「天野隆之」

少し大きめで派手なスマホと、派手で穴が空いている手帳型スマホカバーの能力。カバーをお腹の部分に持ってゆくとホログラム的なカルテがあらわれ、ベルトのようになり、装着できる。スマホのパスワード入力画面で「202」と打ち込んでベルトカバーに差し込み、カバーを閉じて電源ボタンを押すことによって、

「仮面騎士リタリン」に変身できる。

全体的に見て見に纏う形のスタンドであり、その鋼鉄のような体にまともな攻撃は通用しない。一応身に纏う能力。

破壊力 :A(A以上だが、Aと記載)

スピード:A

射程距離:C

持続力 :A(時間による解除はない)

精密動作:D




あくまで仮面騎士ですからね。騎士。仮面ナイトですよ。


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#17 仮面騎士リタリン

ある程度書き溜めていたストックがきれかけてきました…


――隆之「治療開始だ。」

 

天野隆之と名乗る男は、仮面騎士なるものに変身し、助音たちの前に立ちはだかるのだった。

 

翔太郎「な…何者なんだコイツッ!」

 

隆之が変身した、ということはスタンド能力であることは助音、翔太郎、ことりの3人はわかっていた…が、やはり、その"仮面騎士"という単語や、変身の流れなどが全くわかっていなかった。

 

隆之「俺は天野隆之…スタンドパワーを用いて、正義のヒーロー、"仮面騎士リタリン"に変身し、悪者をブッ飛ばす…」

 

どうやら、"リタリン"という名前があるようだ。その名前を聞いた時にことりと翔太郎は動揺した。

 

ことり「まさかあなた…SPW財団の上層部しか知らない、正義のヒーロー!?」

 

隆之「そんなのは昔の話だ… お喋りなんてしている暇は無い… アンタ達はスタンドを準備しないでいいのか…? 俺は無防備な奴らを始末するのは苦手なんだよ。」

 

まさに、仮面騎士。騎士道精神を持っているから"仮面騎士"と呼ばれてるのだろうか。

 

ダブレ「アタシも参加させてもらうよ…」

 

そして、いつのまにか助音はオッドアイになっている。

 

助音「"グッドドリームス"」

ダブレ「"バッドドリームス"」

翔太郎「"ムーヴメント"ッ!」

ことり「"エメラルドシティ"」

 

"4人"は一気にスタンド能力を出現させる。

 

ダブレ「"4人"がかりなのに、よく勝てると思ったもんなんだな…」

 

ダブレがそんなこと言った瞬間。

 

一般男児「あァッ!"仮面騎士リタリン"だァーッ」

 

そう。天野隆之が襲撃してきたこの場所。ショッピングモールの中央。広いとは言え、もちろん人はいる。

 

男児が叫んだと同時に周りから歓声があがり、人が一斉に少し離れた所に集まってくる。

 

一般人「こんなところで仮面騎士ショーをやってるんだな… それにしてもリタリンかっこいいな!!」

 

いつの間にか人が集まってきている。

 

"仮面騎士リタリン"は元々テレビで放映されていた特撮ヒーローものだったが、実際にその"仮面騎士リタリン"は現実に存在していた。

しかも、かなり人気だった。リタリン自体は"身に纏う"形のスタンド能力なのだが、一般人にも見えているようだ。

 

隆之「仮面騎士リタリン…人気なモンだよな。実際に放映は続いてる作品だし…演じてるのも俺だ。」

 

ダブレ「翔太郎…知ってるのか?」

 

翔太郎「えぇ。SPW財団の中でも、その存在を知る者は少ない。SPW財団の敵になるテロリストなどの始末などの、"正義のヒーロー"をしているようです。」

 

助音「なるほど、フィクションじゃあなくて、現実にも存在していたってことね…」

 

隆之「今から始まるのは、俺、仮面騎士リタリンがアンタらを始末するショー。つまりアンタらは悪役だ…」

 

リタリンは助音とダブレに殴りかかる。

 

ダブレ「なんだ、見た目通りかなり遅いんだな。」

 

ダブレの言う通り、リタリンは動きがとても遅かった。助音達は簡単に避ける。

 

翔太郎「お姉さん!僕とことりお姉さんで離れた所から援護攻撃を行います!近接戦闘は頼みましたよ!」

 

そういうと翔太郎は銃を持ち、ことりとともに離れようとする…が、とあることに気づく。

 

……最初よりも観客が増えている…ッ

これじゃあいつ観客が被害を受けるか…

 

助音達を囲っている人々の数はかなり増えていた。

 

 

助音「隙だらけよッ!!」

ダブレ「こいつを喰らいやがれッ!!」

 

2つで1つなスタンド、グッドドリームスとバッドドリームスは、リタリンに拳を放つ…が。

 

重い重鉄音。てごたえがない。

 

鷹優「近距離パワー型スタンドとは言っても、やはり所詮は俺のこの体にダメージを与えることができない…」

 

ダブレ「そんならダメ押し…」

 

すると、2人のスタンドは一気に拳を敵に連打する。

オッドアイの女性は勢いよくその拳と共に叫ぶ。

 

助音 「オルオルオルオルオルオルオル…」

ダブレ「オルオルオルオルオルオルオル…」

 

容赦もない拳の連打。しかし、響く鋼鉄音は、かえってその攻撃が無力であることを示していた。

 

助音 「オルァッ!!」

ダブレ「オルァッ!!」

 

渾身の一撃さえ、なんと軽く受け止められてしまう。

 

隆之「そんなもんか…?次はこっちからいくぞ…"リトルバスターズソード"」

 

すると、空中から巨大な剣が現れた。

 

ダブレ「ちょちょ、剣ン!?」

 

隆之「そりゃあ騎士だからな…」

 

リタリンは自由自在にその剣を動かしながら、助音達に斬りかかる…が。

 

鋼鉄音が響く。それは、人が切れた音でもなんでもなかった。

 

ことり「させませんよ…絶対にね。」

 

ことりは、"エメラルドシティ"で出現させた大きいメスでその剣を受け止めていた。

 

……お…重い!なんなの!?コイツの剣!

とてつもないくらい重いッ!

 

そうは思いながらも、ことりは相手の剣をおさえつける。

 

次の瞬間、発砲音が3発響く。

 

隆之「!!!」

 

カランカランと、乾いた音を立ててリタリンの剣が落ちる。

 

翔太郎「少なくともアンタは4人を敵に回しているんだ。最初から勝った気にならないで欲しい。」

 

翔太郎が放った空気の弾丸はリタリンの手元にヒットして剣を吹き飛ばした。もし空気の弾丸が観客にあたっても、軽く転ぶだけで済むだろう。

 

リタリンが落ちた剣を拾おうとしたが、助音とダブレに剣を奪われてしまう。

 

助音「剣なんか使ったことないよ…ダブレ、任せるね!!」

ダブレ「あぁ、任せろ。」

 

すると、赤と青でオッドアイだった女性は、完全に両目が青色になる。スタンドも、バッドドリームスだけになっている。

 

ダブレ「ことり、行くぜ!」

ことり「了解、ダーちゃん!」

 

2人で一気に斬りかかる。

 

隆之「グゥッ!!やりやがったな…ッ!」

 

やはり、元々彼が所持していた剣や、巨大なメスでダメージをようやく受けたらしい。

 

隆之「ハッピースレイヴウィップ」

 

ばちばち、と電気が弾けている音をたてる鞭が現れる。その長い鞭は先から全体的に電流が流れていた。持ち手の部分のみ安全地帯だ。

 

隆之「コイツを喰らってくたばりなァッ!!!」

 

隆之は電流が流れる鞭を振るう。

 

助音とことりは各々の武器でガードしようとする…が、その長い鞭は思いもよらないところに伸びていく。そこは…

……空気の弾丸を補給していた翔太郎の所だった。

 

ことり「ショータくん 危ないッ!!!」

 

だが手遅れだった。翔太郎は当たる数コンマ秒前に気付いたが、時すでに遅し。電流の流れる鞭で縛られてしまった。

 

翔太郎「うわァァァァ」

ダブレ「翔太郎ッ!!」

 

ダブレは軽々とその剣を用い、鞭を切り裂いた。

翔太郎は軽く気絶している。

 

ことり「ショータくんは私が治療しますッ!」

ことりが急いで翔太郎のもとに走る。

 

隆之「させるかよ。」

その発言と同時に鞭を振り払った隆之。変幻自在な軌道で動いた鞭は、ことりの足を引っ掛けた。

 

ことり「きゃあッ!!!」

 

ことりは派手に転ぶ。そのまま観客の方に転がっていってしまう。

 

……あれ?感触が…

ことりは、転んだ先の人に触ろうとするが触れない。

もしかして…これはホログラム…?

 

ダブレ「お前の相手はこのアタシんだァァァァッ」

 

彼女が使う剣はまたリタリンにヒットする。

 

隆之「ぐッ…よほど俺のことが好きなようだなッ!」

ダブレ「そんなわけねェだろォーーッ!!」

 

ダブレは剣を振り払って何度も斬りつける。が、鞭で剣をおさえられてしまう。

 

ダブレ「そんな長射程の鞭、やはり近距離では使いにくいんだよなァ?ほら、手がブルブル震えてるぜ…」

 

ダブレが言う通り、リタリンの、ダブレの剣を抑えるその手は震えていた。

 

隆之「言わせておけばこのヤローッ ――…」

そう言いかけた瞬間。

 

ダブレ「なんで気付かなかったんだろうな… 元々、私の能力は"触った人やスタンドの行動を支配"するといったもの…」

 

ダブレ「それはつまり、"どれだけ硬くて防御が強い能力でも、スタンドであることに変わりはないから行動は支配できる"ってな…」

 

剣をいつの間にか手放していたダブレは、神妙な顔をしながらそう発言したとともに、"バッドドリームス"で渾身の一撃をリタリンに喰らわす。

 

隆之「な…体が動かないッ!」

 

そう、ダブレは"バッドドリームス"の能力で、リタリンの行動を支配し、動きを止めていた。

 

ことり「ダーちゃん!ショータくんは治療しといたから、その能力でそいつをそのまま抑えといて!」

 

ダブレ「一体こんな硬い奴をどう倒すって…」

 

ぼん。という音がことりの方からする。ことりの主武器となるのは大きなメスだが、ことりが持っているメスは、普段の2倍ほどもあった。

 

ダブレ「おいおい!そんな大きさじゃあ観客が!考えは好きだが、やめとけッ!」

 

ことり「いいのよダーちゃん。この観客たち、ホログラムだもん。」

 

ことりはそう言うと、1本のメスを観客の1人に投げる。メスは人に刺さらず、突き抜けていった。

 

隆之「くっ、バレたか… 」

 

ことり「そんなのハッタリ、この調査部の小鳥遊ことりには効かないわーッ!」

 

ダブレはメスの射程に入らない程度に逃げ、尚もバッドドリームスでリタリンの動きを止めていた。

 

ことり「それじゃ、再起不能になってもらうわね!」

その超巨大なメスを持った女性は天真爛漫に言う。

 

隆之「ウワァァァァァァァァァァ‼︎‼︎」

 

超巨大なメスが振り下ろされ、重力とその鉄の質量を乗せた斬撃が隆之を襲う。

 

地面にメスが叩きつけられる。

人型のスタンドじゃ太刀打ちができなかった仮面騎士リタリンでも、その質量を乗せた斬撃に敵うハズもなく、その場に倒れこんだ。

 

ことり「リタリンは鬱に対する、依存が見られる薬…一体どんな活動を行ってるか知らないけど、少なくとも、皆を笑顔にさせてよね?」

 

ことりは倒れて気絶している"仮面騎士リタリン"こと、天野隆之に言うのだった。

 

 

 

 

仮面騎士リタリン…

作者が怒られても仕方ないキャラクター。

カルテベルトに、リタリンドライバーを装着した正義のヒーロー。

SPW財団に雇われており、財団の敵になるテロリストや、特殊な鬱病患者から発生する怪人を倒すことを生きがいとしている。もちろん今作では洗脳されている。あくまで、「仮面騎士」。




作者は慢性シメキリ病にかかってしまったようです 助けて鷹優先生


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#18 風船と夢

この回、書くのに時間かかったんですよね…


――ことり「リタリンは鬱に対する、依存が見られる薬…一体どんな活動を行ってるか知らないけど、少なくとも、皆を笑顔にさせてよね?」

 

ことり達は、先程ショッピングモールで襲撃してきた、天野隆之を4人の力を合わせて撃退した。隆之を倒したことりは、倒れて気絶している隆之、もとい"仮面騎士リタリン"にそう言うのだった。

 

 

……隆之を倒した後、助音達は戦場となったショッピングモールの中央の後片付け等を行なっていた。

 

助音「そういえばショッピングモールなのに、この人の少なさは異様じゃない?ほぼいないし…」

 

ダブレ「片方。それについては…」

 

ダブレが何かを言おうとするが、それを遮るようなおっとりとした声が聞こえる。聞き慣れた声だ。

 

キッド「やっほ〜ッ 皆元気してるゥ〜?」

 

陽気に現れたのは城戸瑞稀。

咄嗟に翔太郎は身構える。

 

今までに翔太郎は、キッドと会う度々に抱きつかれていた。言わずもがな、その度に窒息しかけているのである。

 

ことり「貴女は確か… 城戸…?」

 

キッド「あっ、ことりちゃんだね〜?僕は城戸だけどキッドだからね!」

 

などとキッドは意味不明なことを言いながら翔太郎に近づいていく。

それと同時に翔太郎も後ずさる。

 

翔太郎「今回はやめてくださいよ…さっき追手と戦闘して、ダメージを貰ってるんですよ…治療したはいえ、抱きつくのはナシですよ…」

 

その瞬間。キッドが消えた。

 

助音+ダブレ「あっ…」

 

消えた直後にキッドは翔太郎の真後ろに現れた。彼女の瞬間移動の能力だ。そして翔太郎に抱きつく。

 

翔太郎「…」

 

翔太郎はすっかり意気消沈してしまった。

人がいないとはいえ、公共の面前でハグしている2人を助音やダブレ、ことりは冷ややかな目で見守る。

 

ことり「キッドって人…子供好きなんですかね…?」

ダブレ「気にしちゃ負けだぜ」

 

ダブレ「瑞稀…久しぶりだな。サポートありがたかったぜ。」

 

キッドは驚いたような顔をしたが、すぐに繕い直して話し出す。

 

キッド「なんだ、僕が"能力"でみんなを避難させてたってこと、気付いてたんだね。それに…」

 

キッドが何かいいかけるが、声の音量が大きくてうるさいことりの声がそれをかき消す。

 

ことり「城戸さんの能力って、一体何なんですか?」

助音「え、それって簡単に聞いていいことじゃ…」

 

そんなやりとりをする2人。

 

キッド(まだ伝えるにははやいかな…)

キッド「僕の能力は瞬間移動だよ。戦闘の支障になる人だけを瞬間移動させて避難させてた。」

 

助音「ちょっと、キッド!そんなの言ってよかったの!?」

 

キッド「減るもんじゃないしね〜ッ まぁそれより、戦場の傷を直さないとね〜!」

 

ことり「あ…そうだった…」

 

小鳥遊ことりは絶望に満ちた顔になる。

先程の仮面騎士リタリンとの戦いは、4人がかりでようやく倒せる相手であった。

リタリンを倒したのはことりだった。もちろん倒すために使った武器も大掛かりなものであり、流石に戦場となったショッピングモールが傷ついていたので、彼女らにできるだけの処置をおこなっていた。

 

キッド「僕も手伝うね〜ッ」

 

 

――10分後。

5人がかりでようやく片付いたのだった。

 

キッド「ふぁ〜ッ ようやく終わった〜」

 

キッドが気の抜けた声で呟く。

 

助音「キッドのおかげで助かったよ〜」

翔太郎「やっぱり、"ネイキッドシャッフル"は便利な能力ですねぇ〜」

 

3人が和やかに談笑しているところを、小鳥遊ことりは妙に真剣な表情で眺めていた。

 

ことり(鷹優せんせーが、城戸瑞稀のことは警戒しろ、と言っていた… それでも… この人は本当に警戒しないといけない人物なのだろうか…?)

 

助音「ことり先生、買い物自体はもう済ませてるんだし、帰りましょ?」

 

ことり「え、ああ、わかった。」

 

助音、ダブレ、翔太郎、キッド、ことりの5人は足並みを揃えてショッピングモールから出る。

 

 

ショッピングモールから出て間もない頃、助音はスマホの通知が来ていたので確認した。

 

翔太郎(やっぱ、僕も携帯電話とか欲しいなぁ〜)

 

翔太郎がそんなこと考えてる最中、スマホを見ている助音の方からダブレの声が聞こえる。

 

ダブレ「すまねぇ、急用だ。3人で帰ってくれ。」

 

いつのまにか、"助音はダブレになっている"。

 

キッド「了解〜」

 

キッドがそういうや否や、ダブレは走り出していった。

 

ことり「一体どうかしたんですかねぇ?」

翔太郎「誰かから連絡が来てたんでしょうか…」

 

翔太郎が周りを見渡すと、いつのまにかキッドさえ消えている。

 

ことりと翔太郎は、"どうせ瞬間移動で帰った"と推理し、2人で帰ってしまった。

 

 

 

 

――金髪で両青目の女性…ダブレが走り出して着いた先は、人が誰も来ないような薄暗い路地裏だった。

 

 

キッド「やぁ… "ジョジョ"、どうしたんだい?」

 

そこに居たのは、赫い目と共にシニカルな笑みを浮かべている女性がゴミ箱の上に座っていたのだった。

 

ダブレ「"ジョジョ"は…今はいない。青色の目をしているときは、アタシ、ダブレが体を動かしている。だから、助音は今出てこれないし、アタシの記憶は保持できないハズだ。」

 

キッド「ていうことは〜 やっぱり思い出したんだね。"見たことがある"って言われたときは、僕ビックリしたんだからね〜」

 

キッドの赫い目が細まる。

 

ダブレ「あぁ、悪かったな瑞稀。すぐに思い出せなくて… なんせ、今までの5年間は体を動かしてないんだからな…」

 

キッド「出てこれるようになったのはやはり矢の影響… と見ていいのかな?」

 

スタンドの矢…空条助音が、翔太郎に刺された物。スタンドの矢は、精神や魂と密接な関係を持っており、未だその謎は解明されていない。

 

ダブレ「あぁ… それにしても、瑞稀には助けられてばっかりだな。助音も、瑞稀にはかなり信頼しているしな。」

 

その発言を聞いたキッドは、ぷっと笑う。

 

キッド「やだなぁ〜 空条助音は君じゃあないか」

キッド「まぁいい… 僕が君をこんなところに呼んだのは、そんなまどろっこしい話をする為じゃあない…もちろん、この杜王町で起こっている抜け殻の件だ。」

 

両者の顔が引き締まる。

 

ダブレ「アタシはまだ、この事件のシッポはまだ掴めていない。 アタシや翔太郎、鷹優達じゃあまだ明確な情報は掴めない。 だから、アタシは瑞稀を頼っている。」

 

キッド「また人に頼って… 変わらないな〜ッ まぁでも… 僕側の情報が集まってきているのは確かだ。」

キッド「でも…だ。情報が集まっているとはいえ、安心するのはまだはやい… この事件には、"とんでもないもの"がきっと絡んでいる… 君も気をつけた方がいい。 僕の話はこれだけだ。」

 

時刻はもう夕方で、夜はすぐにでも来そうな雰囲気だ。そのせいか、ただでさえ暗い路地裏では、キッドの表情はわかりにくい。

 

ダブレ「おいおい、碌な情報もくれねーで帰っちまうのかよ瑞稀… こっちだって真相を…」

 

引き止めるようなセリフを吐くダブレだが、セリフを言い終わらない最中にキッドは消えてしまった。

 

暗い路地裏に残されたダブレ。暗闇はすぐに彼女を包む。彼女の目の色はわからない。

 

 

 

 

――翔太郎はことりと別れ、たった1人で帰り道を歩いていた…が、後ろの方から聞き覚えのある女性の声が、途切れ途切れに近づいてくる。

 

助音「ごめん翔太郎くん!1人で寂しかったでしょ?」

 

その声が聞こえた数秒後に、翔太郎は振り返る。

 

翔太郎「いえ、別に大丈夫ですよ… ひとりぼっちは、慣れていますから…」

 

翔太郎は、それがおかしいこととは思っていないような素振りで言う。

 

助音「えと…あ!ここ、ショータくんと初めて会った公園じゃん!ここで飲み物でも買って休憩しよ!」

 

そこは、助音と翔太郎が初めて会った公園。

夜7時ほどになってるからか、人は見えない。

 

翔太郎は熱い珈琲(ブラック)、助音はフルーツミックスジュースを買って、2人で公園のベンチに座る。

 

翔太郎「そういえば、お姉さんはなんで急にどこかに行っちゃったんですか?」

 

助音「あー、それは…」

 

いきなり助音の言葉は途切れる。翔太郎はおかしく思ったが、何が原因かがわかった。

 

少し先にある、1本の木のふもとから女児のか細い泣き声が聞こえてくる。

そこには女児が座り込んで啜り泣いていた。よくみると、木の枝のところに風船が引っかかっている。

 

翔太郎「前からいたんでしょうか… たぶん、木のかげに隠れていたから気づかなかったんですね。」

 

助音「まさか、風船が取れないから帰ってないのかな… ちょっと、私が風船取ってきてあげてくるね。」

 

即決。助音はその女児に近づき、話しかける。

 

助音「お姉さんが風船を取ってあげるからね〜」

 

その女児は、微かに頷く。

その可憐で幼い顔から、翔太郎と同い年くらいだろうか。助音は木に近づいて背伸びする。届かない距離じゃあない。

 

助音「よし!取れた!」

 

翔太郎も、ベンチから見守っていたがホッとした。

女児の方から"ありがとう"と声が聞こえてくる。

 

助音は風船の紐を手に取り、引き寄せながら答える。

助音「大丈夫、これくらいどうってことは…」

 

次の瞬間。すごい大きな音を立てて風船が破裂する。その瞬間に風船から何かが飛び散り、助音と激突する。

 

翔太郎「!!!」

 

助音は背伸びしてた足のバランスを崩して倒れる。何秒経っても起き上がらない。気絶している。

 

???「罠にかかってくれて、"ありがとう"…」

 

その童顔の女児は、冷ややかな顔で呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

余談:仮面騎士リタリンは、ことりたちにやられた後に、SPW財団が即座に回収していった。仮面騎士が現実に存在すること自体が機密事項だからだ。




なんかシリアスになってきたなぁ…


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#19 ビヨンド・ザ・ムーンとアナザーモーニング

今回は文字多めですよ〜


――???「罠にかかってくれて、"ありがとう"…」

 

風船を取れずに困っていたように見えていた少女。助音が風船を取ってあげると、その風船は勢いよく破裂し、助音はその"攻撃"に倒れるのだった。

 

翔太郎「お姉さんッッッ!」

 

空条助音は起き上がらない。

気絶しているようだ。

 

???「そう激昂しないでよね…あなたもいずれそうなるのよ」

 

その少女は翔太郎を冷ややかに見ながら言う。

 

翔太郎「ッ!  "ムーヴメント"ッ」

 

ここはまず様子見だ。"風船が破裂した"という事実だけでは相手の能力はまだ特定できない。

翔太郎は溜息で空気の弾丸を2発作る。拳銃の照準をピッタリと少女に合わせるが、少女は微動だにしない。

 

翔太郎「君は見たことがないな…? 敵組織の追手もストックがきれないモンなんだな!」

 

???「私の名前は…ない。 私もみんなも、私の名前を知らないから"をー"って呼んでる。」

 

少女は、周りから"をー"と呼ばれているらしい。

 

をー「この女の人は気絶してるだけだけど、あなたは始末対象だから死んでもらうわね 

        "ビヨンド・ザ・ムーン"」

 

すると、をーから大人1人分の大きさの人型スタンドが現れた。

 

翔太郎(やつとの距離は離れてる…充分、人型のスタンドの射程距離の外にはでてるハズだ… 問題はお姉さんの安否だ…)

 

助音は寝たまま。いつ人質として使われるかわかったことじゃあない。また、相手のスタンドは成人程の大きさのスタンドだ。能力がわからないとやはりこちらも動けない。

 

をー「やっぱり。能力がわからなければ容易に動けない。哀れ。私はあなたの能力を知ってるのにね。」

 

をーと呼ばれる少女は、翔太郎を煽ってみせた。翔太郎側がをーの能力を知らないことに、優位に立っていると思っているだろう。

 

をー「私の"ビヨンド・ザ・ムーン"は、触った物質をなんでも風船に変えることができる能力…」

 

翔太郎(いいぞ…そのままもっと自分から情報を晒せ… )

 

をーという少女は、よほど傲慢なのか、それともなにか思惑があるのかはわからないが、彼女自身の能力を説明し始める。

 

をー「ただ、風船を作るだけって思ってるんでしょう? 違うのよ。」

 

翔太郎「何が言いたい?」

 

翔太郎がをーに向かってそう言うと、彼女は少し声に出して笑う。まるで翔太郎を嘲るように。

 

をー「少し見てなさい。ここに窓ガラスがあるでしょう?」

 

それは、公園のすぐ隣にあった家の窓ガラス。をーのスタンド、"ビヨンド・ザ・ムーン"がその窓ガラスに触ると、風船がそこからムクムクと出てきた。

風船ができたところは、ちょうど風船一個分、"削り取られている"ようになっている。風船の素材になる物質は、その風船一個分に削り取られてしまうらしい。

 

をー「これが、ガラスの風船。 風船になったものは、どんな材質、物質でも、必ず風船なの。」

 

をーが持っているガラスの風船は、見た目は透明で無機質なのだが、宙に浮いていることや、をーが触っている時の感触から、"それが本物の風船である"ことを明瞭に示していた。

 

翔太郎「本物の風船になるのか…!」

 

をー「それだけじゃあないわ。」

 

そういうと同時に、ガラスの風船は、"浮いている状態、誰もそれに触れないのに、勝手に破裂した"。

 

をー「私の能力で作られた風船は、私の認識で自由自在に破裂する。破裂と同時に、その風船を構成していた物質が飛び散り、対象を襲う。」

 

たしかに、ガラスの風船が破裂する瞬間に、ガラスの破片がとんでもない速さで飛び散っていた。思ったより威力は高そうで助音を襲ったのは、そのような風船の破裂だと思われる。

 

翔太郎「敵に能力を教えるなんて、随分と余裕そうなんだな。」

 

をー「そうね、これ以上のサービスタイムはおしまいよ。そんじゃ死んでもらうわ。」

 

をーは彼女のスタンド、"ビヨンド・ザ・ムーン"を繰り出し、"空中の何もない場所から風船を作り出した"。

 

翔太郎「ッ!!」

 

をー「いい?あなたが空気の弾丸を作れるように、私でも空気の風船を作れるの。」

 

その空気の風船は、をーの方から翔太郎の方へと吹く追い風にのって飛んでくる。

 

翔太郎「"ムーヴメント"ッ!」

 

拳銃からは空気の弾丸が撃ち出される。

弾丸が風船とぶつかる瞬間。直撃する寸前に風船は破裂し、その場には暴風が発生して弾丸を掻き消した。

 

翔太郎「威力強化された空気の弾丸を…相殺したッ!?」

 

をー「"たかが風船"って思ってるでしょう?馬鹿ね…」

 

全てにおいての物質から物体を作り出し、威力強化する2人の能力。2人の能力は似ていた。

 

をー「さっさと終わらせないといけないの。いちいち驚いてないで、はやくやられてくれない?」

 

そういうとをーは木から木の風船を作り出した。さっそくその風船は翔太郎のもとに向かってゆく。

 

翔太郎「残念だが、そう簡単にはやられない!」

 

夜空に響く銃声。

もちろん、翔太郎の能力の拳銃は、拳銃自体がスタンド像なので、銃声もスタンド使いにしかきこえない。

 

"ムーヴメント"から射出された弾丸は、"空気の弾丸ではなかった"。

 

をー「それは… 土?」

 

翔太郎「君がいちいち長話してくれたおかげで、僕は土の弾丸がつくれた!風船の破裂で文字通り自爆するんだな!」

 

最初から翔太郎の考えは的確だった。"風船のみで大人1人を気絶させるには、なんらかの特殊能力が付属していないとできない"と。

翔太郎は、をーの話を聞いている最中に、土などの高威力の弾丸で風船ををーの近くで破裂させようと考えていた。

 

――しかし。

 

ぼよん。

 

翔太郎「………は?」

 

高威力の土の弾丸。それは、風船を破裂させるかと思いきや、なんと風船に弾かれてしまった。

 

をー「無様… 私があなたに能力を説明し終えたときに、あなたは"この傲慢な女は能力を全部教えた"と考えたんでしょう?」

 

翔太郎(しまった…! そういうことか…ッ!)

 

をー「ごめんなさいね、あと1つだけ説明してなかったの。 完璧な風船になるとは言ったせどね、"針とか、銃弾とかの物理的衝撃だけで、この風船は割れることはない"」

 

をー「つまり、針とかを刺してもこの風船は割れないの。まぁ流石に日光とかの影響は受けるけど…」

 

をーは先程、翔太郎に能力を教えていたが、その情報は完璧ではなかったのだ。

 

をー「なるほど、私に直に弾丸を当てずに、そうやって風船を私の側で割って、私を再起不能にしようとしてたのね…」

 

翔太郎(しまった、思惑がバレてしまった…!)

 

をー「なんとかいいなさいよ。 …まぁ、実際に弾丸で風船を割ることはできないんだけどね。それでもね… 油断はしないに越したことはないわ。」

 

すると、その少女は、少し離れた所に倒れている空条助音に、そこにあった木まるまる一本から作り出したたくさんの風船を取り付けた。

 

どうしたことか、たくさん風船があるとはいえ、"風船をつけられた空条助音が、少しだけ浮いている"。

 

をー「面白いでしょ?この風船は、こんなこともでしるのよ?」

 

少女は、風船をつけられて浮いている助音をいとも容易く少女の前に動かした。

 

翔太郎「!そうやってお姉さんを盾にしたつもりかッ卑怯だッ」

 

しかし、少女は聞く耳もなしにこう言う。

 

をー「これで盾ができたわ。」

 

すると、即席で作られたと思われる空気の風船が2、3個飛んでくる。

 

翔太郎が"ムーヴメント"でその風船に、残りの土の弾丸を撃ち込むがやはり手応えはない。

少女が言っていたことは本当なのだろう。

 

翔太郎「気絶している人を盾にして、風船で遠隔攻撃か… 随分と卑怯な戦法を思いつくなッ!」

 

翔太郎は溜息で空気の弾丸を作ろうとするが、追い風のせいか速いスピードで飛んできた風船は、その弾丸を撃ち込む暇もなく破裂する。

 

翔太郎「ぐぅッ!!」

 

翔太郎は、とてつもない暴風に見舞われ吹っ飛ばされる。

 

をー「負け犬の遠吠えね。諦めなさい。」

 

 

……なんとか無事だった翔太郎。彼は、強敵を前にして焦るよりも、"違う理由で焦っていた"。

 

翔太郎(…なぜ、気絶したお姉さんの体をダブレさんが動かせない!? お姉さんが気絶していれば、ダブレさんが体を動かせるハズだ…!)

 

今度は、鉄棒から作ったのだろうか、鉄の風船が飛んできた。遂に少女も翔太郎を仕留めに来たようだ。

 

翔太郎は、不安を抱えたまま少女に勝利することを決意するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

助音「あれ?ここは?」

 

その金髪両赤目の女性、空条助音は、見覚えのある銀色の霧がかかった場所にいた。

 

助音「ここは…」

 

見覚えのある場所。そこは、ダブレが助音の体を動かす時に、助音の人格が存在する精神の居場所だった。

 

助音「そっか、私気絶しちゃったんだっけ… 」

 

その銀色の霧がかかった場所は助音とダブレの情報の交換場所、もとい交流の場であった。

助音が寝ている、もしくは気絶しているとき、そしてダブレが体を動かしていないという条件を満たしているときに、助音はダブレと話すことができた。

 

……しかし、なんだろう、いつもと雰囲気が違うような…?

 

そう助音が思っていると向こうの方から人が歩いてくる。しかし助音にその人の見覚えは無かった。

 

???「………」

 

その女性は終止無言で、助音の前を通り過ぎてゆく。そして気付かぬ間に消えてしまった。

 

助音「???」

 

どういうことだろう?と思う助音。しかし、妙にその女性の銀色の髪と銀色の目がやけに記憶にこびりついた。

 

 

助音「え???」

 

いつの間にか助音は、彼女の家の中にいた。

 

助音「体を動かしてるのは私… どういうこと?ショータくんが勝ったのかな…」

 

何か、雰囲気がおかしかった。今の今まで感じていた、ダブレの魂を感じない。何故か、ココロの中が空っぽなのだ。

 

助音「ショータくんー!キッドー!ダブレー!」

 

しかし、返事はない。

"何もわからない"という恐怖と焦燥感が助音を襲う。

 

玄関を見てみると、翔太郎の靴があった。

それをみてから、少しだけ安堵した助音は翔太郎の部屋へと向かった。

 

もともと、彼女の家であまり使われていなかった部屋を翔太郎に貸して、彼の部屋にしていたのだ。

 

彼の部屋の前にたどり着く助音だが、何故か、先程の焦燥感がまたもや彼女を襲った。

 

――外や時計を見る限り、まだ朝だ。もしかしてショータくんは寝てる?

 

助音「ショータくん?」

 

助音(本当にぐっすりと寝てるんだな…)

 

息が詰まる。考えられるのは、翔太郎が”勝った“ということなのに。

 

――しかし、ショータくんを部屋まで起こしに行くなんて、まるで私が彼の親みたいだ。

 

助音(何にせよ、特に支障なく彼の部屋にたどり着いたんだ。)

 

彼女は、翔太郎の部屋のドアをノックする。

 

助音「ショータくん? 起きてよね…」

 

返事はない。

助音(こんな風に部屋に入りたくなかったけど…なんだか、プライバシーの侵害じゃあないか?でもこうなってしまったらもうしょうがない。)

 

彼女はゆっくりと、ドアを開ける。

 

 

 

……そこには、胸や体全体が血で真っ赤に染まった、壁にもたれかかったまんま動かない、変わり果てた"ショータくん"がいた。

 

 

 

スタンド紹介

スタンド名「Beyond The Moon(ビヨンドザムーン)」

スタンド使い名「をー」

近距離パワー型の人型スタンド。

触った物を風船にすることができる。

高度はある程度調整できる。任意のタイミングで破裂させることができ、破裂させた物によっては破壊力が増す。(例えばガラスなど)破裂の破壊力は原作のキラークイーンより弱いといったところか。

物理的衝撃(針や弾丸)等では、風船は割れることはないが、日光や科学には弱い。

破壊力 :C

スピード:B

射程距離:D(射程を離れると能力は解除される)

持続力 :A

精密動作:B




最近洋楽にハマってるんですよね
「Man in the mirror」とか好き


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#20 堕落

段々と複雑化してきましたね…


……助音が敵の攻撃に倒れてから、幾分経ったかわからない。彼女が存在していた場所は、彼女の精神世界から彼女の家へと移ったが…

 

助音「ショータくん?」

 

彼女は仲間を探し、翔太郎の部屋のドアを開ける。

しかし、待っていたのは悲惨な結果だった。

 

……そこには、胸や体全体が血で真っ赤に染まった、壁にもたれかかったまんま動かない、変わり果てた"ショータくん"がいた。

 

助音「ショータくん!?」

 

助音は翔太郎に駆け寄ろうとするが、足が動かない。

これが、ココロで思っても体が動かないということなのだろうか。

 

彼は、助音の声に返答しなかった。それが如実に語っていたのは紛れもない"死"であった。

 

助音(まだわからない… 気を失ってるだけなのかもしれない…ッ!  でも…体が動かないッ…)

 

遂に助音は、動けぬまま跪いてしまう。

 

助音(そうだッ私のスタンドならッ!)

 

助音「"グッド・ドリームス"ッ!!」

 

人型のそのスタンドは、動けない彼女の代わりに翔太郎に近づく。

 

……脈も呼吸もない。"グッド・ドリームス"でのみ見ることができる、魂などの思考がない。

 

 

死んでいる。

 

途轍もない、吐き気が彼女を襲う。

助音は完全ち崩れ落ちる。

 

助音「なんで… なんで…ッ」

 

外には雨が降り始めている。その雨粒は、まるで助音の目から溢れる涙と呼応しているようだった。

 

無自覚なのか、彼女の"グッド・ドリームス"は彼女に近づいて、まるで慰めるように傍に寄り添った。

 

その「感情や精神、思考の変化」という能力が彼女のココロを安らがせていった…

 

 

 

助音「ッ!!!」

 

唐突な痛みがその女性、空条助音を襲う。

――また場所が変わっている…

 

助音「ここは…」

 

彼女は周りを見渡す。

 

???「大丈夫ですかッ!お姉さん!!!」

 

助音「この…声は…ッ」

 

彼女の顔の、まだ拭い去れていない涙が輝く。

 

翔太郎「もう大丈夫ですッ!助けに来ましたよッ!」

 

それは、紛れもない翔太郎であった。

 

助音「ショータくん!!!」

 

周りをには、遠いところに少女が倒れている。

恐らく助音を気絶させた張本人だろう。

 

翔太郎「僕に任せてくださいッ!」

 

その言葉は闇を照らすほど眩しくって、涙が溢れた。

しかし、その涙はさっきの涙なんかじゃあない。

 

彼女は、今自分がいる場所が現実であることを無意識に理解する。助音は、その涙だらけの目で翔太郎を見守るのだった。

 

をー「…ッ! あなた…」

翔太郎「"一体何をしたのか"って顔をしてるな…」

 

遠くに倒れていた少女が、文字通り困惑したような顔で翔太郎を睨む。

 

翔太郎とをーという名の少女の戦闘。

空条助音が気絶したとはいえ、それからの2人の戦闘は、もはや泥試合だった。

 

何故なら、翔太郎の"ムーヴメント"、をーの"ビヨンド・ザ・ムーン"は似たような能力だからだ。

 

をーは、公園にある遊具という遊具を風船に変えてしまい、その公園にはもう遊具が無くなっていた。

 

をー「あなた… どうやって"さっきの私の風の風船を割った"の…?」

 

翔太郎「こういうことさ。」

 

翔太郎は、レボルバーの中から1つの弾丸を取り出した。その弾丸は彼の周りに浮いている。

 

翔太郎「これは、僕がさっき飲んでいた、"ホットのコーヒーから作った熱湯の弾丸"…」

 

翔太郎「衝撃だけでは割れない…から、風船を攻撃しても無駄だった…が、"科学的に割るのは簡単だった"……」

 

――そう。をーの能力が作る風船は、どれだけ針で刺そうが、銃弾を命中させようが割れることはない。

 

しかし、翔太郎はこう考えていた。

"科学的に風船を割ることはできないだろうか…"と。

 

そして、風船の素材になる遊具が無くなり、"ソレ"が来るのを待っていた。

 

空条助音を人質に取られ、無駄に身動きが取れず攻撃を受けるだけしかない状況を、打開する"ソレ"。

 

翔太郎「ようやく来たッ!"空気の風船"がッ!」

 

をーが能力で、"空気の風船"を作り出してこちらに飛ばした瞬間、翔太郎は彼の能力"ムーヴメント"の弾丸を風船に向かって撃ち込んだ。

 

その、"熱湯の弾丸"で。

 

をー「ッ!?」

 

をーは、それまで抵抗をしてこなかった翔太郎が急に銃を抜いたのに驚いた。

 

次の瞬間。

強化された熱湯の弾丸が、"風船を貫通した"。

 

をー「弾丸が風船を貫通したッ!!?」

 

驚いた束の間に、風船が割れたことによる暴風が、少女と人質にされた女性を襲った。

 

翔太郎よりも体が小さいをーは、いとも簡単に吹っ飛ばされてしまった。

空条助音と言えば、風船がたくさんつけられていたため、飛ばされて壁にぶつかっても衝撃がかなり緩和されていた。

そして、助音が目覚めたのはこの時である。

 

翔太郎「知らなかったようだな… "風船は熱湯で割れてしまう"ということをッ!!」

 

をー「ぐッ… 追手のことを警戒して、コーヒーからその弾丸を作っていたのか…ッ! なるほどな用意周到さだッ!」

 

……翔太郎と一通りの会話を終えた空条助音の元に、をーが走り出す。

 

翔太郎「お姉さんッ!その風船を切り離して逃げてくださいッ!」

 

助音「えっ、わかったッ "グッド・ドリームス"ッ」

 

人型のスタンドが彼女の元から出てきて、風船の紐を切ろうとする。

 

をー「させないッ!」

 

少女は走りながらそのスタンドを発現させ、風船を作り出した。

 

翔太郎も助音の元へ走り出す。拳銃の標準を少女に向けながら。

 

翔太郎「攻略方は見つけたッ 諦めろッ!!!」

 

をーは聞く耳を持たず、作り出した風船を人型のスタンドで殴り飛ばす。

 

翔太郎「…ッ!諦めの悪い…ッ!」

 

じつはいうと、熱湯の弾丸はあと1つしかなかった。攻略方を見つけたとは言え、"見つけただけ"だった。

 

しかし、最後の熱湯の弾丸を風船に撃ち込み、命中させる。

 

をー「かかったわね…」

 

翔太郎「ッ!?」

 

風船が割れて出てきたのは、大規模な土埃だった。

少女が作り出していたのは土の風船であり、少女はその風船で目眩しするのが目的だったのだ。

 

翔太郎(本当に何も見えない…ッ 奴は一体何を!?)

 

土煙の中から走る足音が聞こえてくる。

 

をー「始末される前に…ッ この女だけでも始末する…ッ! 上からの命令なんて知るもんかァーッ!

     "ビヨンド・ザ・ムーン"ッ!!!」

 

翔太郎(マズい!墜ちた! 煽りすぎたかッ!?)

翔太郎「やめろォーーッ!!」

 

をー「終わりだァーーッ」

 

 

……音が聞こえなくなる。土埃はまだ残っていて、どうなったかはわからないが、何もない沈黙が翔太郎の不安を掻き立てる。

 

翔太郎は空気の弾丸を作り出し、土埃が発生している少し手前の地面に撃ち込む。

 

すると、たちまち土埃は消えてしまった。

 

翔太郎「お姉さんッ!!」

 

彼は、誰もが予想しえない結果も知らずに叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

――そこには…例えるならそう。『死神』が、少女の胸をその大きな大きな鎌で切り裂いていたのだった。

 

 

 

スタンド紹介

スタンド名「アナザーモーニング」

スタンド使い名「坂根圭」

もやのかかった幽霊のようなスタンド。

広範囲の射程距離内の人1人に自分が見せたい「夢」を見せることができる(しかし、位置を特定しないと見せることはできない)。原作の"死の13"とは違い、夢の中ではスタンドを出せるし、夢世界で起こった出来事は現実に反映されない。夢を見た人物は目覚めても夢の内容を覚えている。このスタンドは現実世界に出すことが出来ず、弱点は誰かに夢を見せた時に必ず夢の中にこのスタンドが存在すること。

坂根圭という男は、このスタンドで他人に悪夢を見せて精神力を弱らせ、洗脳していた。

破壊力 :ナシ

スピード:C

射程距離:A(町を覆うほど。)

持続力 :C(物理的な衝撃で起きてしまう。)

精密動作:B




怒涛の展開ィィッ!(私がそう思ってるだけ)


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#21 城戸瑞稀の調査

遅れてごめんなさい…
最近なんだかスランプ気味なんです…


第二十一章 城戸瑞稀の調査

――をー「始末される前に…ッ この女だけでも始末する…ッ! 上からの命令なんて知るもんかァーッ!

     "ビヨンド・ザ・ムーン"ッ!!!」

 

敵組織の追手、をーという少女は空条助音を気絶させることに成功し、翔太郎を着々と追い詰めていったが、翔太郎の奇策によって、逆にをーは追い詰められてしまう。

 

そこでをーが取った手段は、組織の命令に背き無防備な空条助音を始末することだった。

 

――翔太郎「やめろォーーッ!!」

 

能力、"ビヨンド・ザ・ムーン"の応用で土埃を起こし、翔太郎に手を出させなくしたをー。

 

溜息の空気の弾丸で土埃を晴らした翔太郎。

そこにいたのは…

 

目を瞑っている助音の目の前。黒装束を身につけた、兎を彷彿とさせる死神が、持つ大きな鎌で少女の胸を切り裂いていた。

 

翔太郎「…!!!」

 

翔太郎は、安堵したような、困惑したような表情を浮かべる。

 

をー「あが…っ お…お前…は!!!」

 

鎌で切り裂かれてなお、少女は生きている。

だが流石に話している間に吐血した。

 

――一体、仲間なのだろうか?敵なのだろうか?

敵なのなら、何故少女を攻撃したのか…

 

翔太郎はそんな考えが頭の中を巡り巡って、立ち尽くしてしまう。

 

すると…

 

兎の死神「…」

 

死神は翔太郎に気付くと、瞬時に消えてしまった。

 

翔太郎「ッ!!スタンドだったのか…ッ?」

 

まるで、金縛りが解けたかのように翔太郎は血だらけの少女の元へと走り出す。

 

翔太郎「大丈夫か!? 今のはなんだ!?」

 

をー「奴は… ! 奴は…ッ!」

 

息絶え絶えに喋るをーだが、先の言葉が出てこない。

しかし、少女は傷を厭いもせずに続ける。

 

をー「どうしても…! "思い出せない"のッ…」

 

 

 

 

――公園なのに、遊具も木もない。あるのは国洞洞の闇と、沈黙である。

そして、そこには倒れてる少女、少年、そして金髪の女性がいる。

 

そんな風景を、近くの家の屋根の上からから覗き込む目があった。

 

――それはそれは赫い目だった。

 

キッド「遂に坂根圭が動き出したか… そろそろ見張るだけじゃなくて行動に出るべきか…」

 

その女性は、"掛けていた眼鏡を上げる"。

 

キッド「そしてさっきの兎の死神…」

 

先程の場面を見ていたのだろうか、その女性が取り出した携帯電話の画像フォルダには先程の兎のような死神の写真があらわれる。

 

キッド「まずは情報の整理だ… "このままじゃ黒幕を叩けない"…」

 

その女性は何やら電話した後に、その"能力"で消えてしまった。

 

 

助音「!! 救急車がきたみたいだよ!」

 

をーという少女の胸の裂傷は致命的なるものだった。

先程の死神が持っていた鎌は見た目以上に攻撃力と殺傷力が高かったのだろう。

 

翔太郎「応急処置も済ませました!!」

 

"敵組織の情報を手に入れる"ということより、"致命傷を負った少女を治療する"、ということを優先した翔太郎と助音。

 

救急隊員「大丈夫ですか?」

 

救急隊員との一通りの会話を終えたあとに助音は気付く。

 

助音(この人たち…"SPW財団"だ… 普通の救急医とかじゃあなくて、SPW財団専用の医師…?)

 

翔太郎「お姉さん、そろそろ戻りましょうか。もう深夜ですよ。」

 

彼が言う通り、時間を確認するともう深夜だった。

 

助音「え?あ、そうだね…」

 

翔太郎に諭され、2人は帰路に立つ。

 

 

 

 

助音「それにしても、さっきの子はショータくんくらいの学年の子に見えたよ… 敵はあんな少女にも闘わせるなんて…!」

 

憤りを含む声が、2人だけしかいない家に響く。しかし彼女の向こう、テーブルを挟んだ対面に座っている翔太郎は、神妙な顔付きで返答する。

 

翔太郎「それだけじゃあなくて、"死神"の件もありますしね…」

 

……空条助音曰く、「その時土埃のせいで、当分目を開けられなかったためその死神を見ていない」と。

 

つまりその状況を完全に把握することは翔太郎には不可能であり、彼はそのことを不自然に思っているのであった。

 

助音「えと… ショータくん?どうしたの?」

 

一通りの話を終えた後にも、翔太郎は何か言いたげだった。

 

翔太郎「あの…お姉さんは何か隠してませんか…?なんだか、全てがから元気に見えるというか…」

 

助音「!!」

 

助音は言葉に詰まる。まさに図星だったのだ。

 

翔太郎「言いたくないなら聞きません。僕は、お姉さんが元気になれることなら頑張りますから…」

 

なんて健気なのだろう、と思う助音だが内心迷っていた。

 

"ショータくんが死んだ夢を見た"なんてこと、言えっこない、と。

 

助音「いや…あの、いやーな夢を見てね…」

 

翔太郎「夢…? …!夢ってまさか!」

 

助音(忘れるハズもない。誰1人、ダブレさえいない1人ぼっちの中で、ショータくんの死体を発見する夢…

…ダブレ?  ダブレ!?)

助音「"ダブレが私の中にいる"!!!」

 

翔太郎「わわわっ!!!」

 

助音がいきなり立ち上がったことに驚いた翔太郎は変な声が出てしまう。

 

助音「"夢の中でいなかったダブレが今、私のココロの中にいる"ッ! …でも変われないし話せない…?」

 

翔太郎「ちょ、ちょっと待ってください!一体どういうことなんですか!?」

 

キッド「それは僕が説明しよーかなッ」

 

翔太郎「キッドさん、!?…むぐっ」

 

掌に水色の魔法陣を宿した胸の大きい女性が、珍しくも赫い目で彼らを見据えながら現れた。

……そして、翔太郎に抱きついている。

 

翔太郎「ちょ… 息が…」

 

キッド(よし、"まだある"な…)

 

その光景を(引き気味に)眺めてる助音が、ふと思う。

 

助音「あれ?キッドって眼鏡かけてたっけ?」

 

ようやく離してもらえた翔太郎も気付く。

 

キッド「いや〜イメチェンだよ〜ッ こういうのかけたら、見えてくる世界が変わってくるかも、なんて思ってね〜ッ」

 

翔太郎「それで…"僕が説明する"っていうのは?」

 

翔太郎がそういうと、キッドの赫い目が細まる。

 

キッド「僕が集めてきた情報なんだけどね、"ジョジョがさっき言ってたこと、つまりダブレが出てこない理由"とかかな〜」

 

翔太郎「ダブレさんが出てこないんですか!?」

 

キッド「まぁまぁ、ちゃんと説明するから… ジョジョ、ちょっとコーヒー用意してくれないかい?」

 

キッドが翔太郎をなだめると同時に、助音にそう話しかける。

 

助音「もう深夜だよ?コーヒー飲んだら眠れなくなるし… 今すぐにでもしないといけない話なの?」

 

助音は少し不満げに答える。

そういえばもう2時程度だ。

 

キッド「ごめん、重要な話なんだ。だから、お願い。」

 

いつになく真剣な、彼女の赫い目。

助音はその真剣さにおされ、コーヒーを作りにキッチンへ向かう。

 

翔太郎「一体、どうしたんですか?"お姉さんを遠ざけて"… あの人にできない話でも…?」

 

キッド「その通りだ。君には僕から、"使命"を授けないといけない。」

 

翔太郎「"使命"…?」

 

 

 

助音「できたよ〜 それじゃ、キッドは説明よろしくね?」

 

助音がキッチンにコーヒーをつくりにいって、5分程経っていた。

 

キッド「まずは…だ。僕は、"ジョジョやショータくんがをーという少女と戦闘していたことを見ていて、わざと加勢しなかった"。」

 

翔太郎+助音「!!!」

 

キッド「それならなんで… とか言わないでね。僕も、"監視"していたもんでね…」

 

彼女は一息つくと、コーヒーを一口飲む。

 

キッド「あと、これから説明することは… 説明し終わるまでに質問は受け付けない。」

 

彼女は眼鏡を上げながらそう言った。そして、それを聞く2人が頷くのを見て、また話しだす。

 

キッド「今回に大きく関するのは、ボスの腹心、"坂根圭"という男についてだ。」

 

キッド「スタンド名は"アナザーモーニング"で、能力は射程内の1人に夢を見せることができる。」

 

――過去に、魂の鑑定人が言っていた。

――鑑定人「奴の名前は坂根圭。詳しくは知らないが、私が占ったら"反SPWのボスの腹心"という結果がかえってきた。私の占いは外れたことはない。信用してほしい。」

 

行動も、目的も、存在さえも謎の"反SPW財団'という敵組織。助音たちが求めるその組織の幹部やボスに近い情報を…キッド、もとい城戸瑞稀が持っている。

 

キッド「ジョジョ…君は、をーという少女に気絶させられた時に"夢"を見たハズだ。」

 

名指しされた助音がギクリと驚く。

翔太郎は真剣に聞き入っている。

 

キッド「僕が言いたいことはもうわかるハズだ。"ボスの腹心、坂根圭が能力で遂に助音を洗脳させようとしてきた"ということだ。」

 

翔太郎「遂に、味方を増やす役割だった人間が標的の人間を洗脳しようとしていた…」

 

キッド「問題点はここだ。ジョジョなら気付いているハズだ。"人格をダブレに変えられず、彼女に話しかけることもできない。そして、夢の中ではダブレの存在を感じなかった"。ということだ。」

 

キッド「それは、坂根圭の能力が、"人1人に見せる能力だから、夢を見せる対象が全ての人格に当てはまる"からだ。」

 

助音「!!!それってつまり…ッ!」

 

キッド「ダブレは、まだ悪夢を見せられ続けている。…奴の能力の夢は、物理的衝撃で起きるらしいが、ダブレにまだ変われないということは、"ダブレが主人格の時に起こさないといけない"ということだ。」

 

助音「私は今ダブレと変われない…それじゃあ、悪夢を見せられてるダブレを助けに行く方法が…!」

 

キッド「あるんだよ。」

 

助音「え?」

 

翔太郎はそういうことか、と理解する。

 

キッド「坂根圭を始末するんだ。」

 

その女性は、淡々と告げたのだった。




頑張って3日後にまた投稿します…


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#22 Binary Star

そういえば、この小説のモチーフになった曲もあるので紹介しときますね。
「ワカレノウタ」「雨上がりに見た幻」

是非聴いてみてください!もしかしたら何かヒントが得られるかも…?


――キッド「僕が言いたいことはもうわかるハズだ。

"ボスの腹心、坂根圭が能力で遂に助音を洗脳させようとしてきた"ということだ。」

 

をーとの戦闘を終え、家で話し合っていた助音、翔太郎、キッドの3人。

 

キッドが言うには、"遂に反SPWの上層部が動いた"ということだった。

 

キッド「ダブレは、まだ悪夢を見せられ続けている。…奴の能力の夢は、物理的衝撃で起きるらしいが、ダブレにまだ変われないということは、"ダブレが主人格の時に起こさないといけない"ということだ。」

 

助音「私は今ダブレと変われない…それじゃあ、悪夢を見せられてるダブレを助けに行く方法が…!」

 

キッド「あるんだよ。」

 

助音「え?」

 

翔太郎はそういうことか、と理解する。

 

キッド「坂根圭を始末するんだ。」

 

淡々と、まるで無罪の被告人が裁判官の質問に誠実に答えるように、キッドは告げた。

 

キッド「奴を始末して、ダブレを助け出す。僕からの説明は以上だ。」

 

キッドはしゃべり疲れたのか、黙ってコーヒーを飲み出す。

 

翔太郎「あ、あの…肝心な、"どうやって奴を始末するのか"が聞けてないんですが…」

 

それだけでなく、キッドの説明には様々なものが欠落している。困惑するのも無理はない。

 

キッド「あぁ、それね… それじゃあ今から、坂根圭を始末する作戦の講義を始めようと思う。」

 

助音「ねぇキッド、そんな悠長に話してる暇はないこと、わかってるんでしょう?」

 

キッドの悠長な態度に、苛立ってそう言う助音。

 

翔太郎「そうですよ。なんだかキッドさんらしくないです」

 

キッド(時間稼ぎはまぁまぁか… じゃあそろそろ…)

キッド「じゃあ端的に言おう。ジョジョ、君には今から寝てもらう。」

 

助音+翔太郎「…え?」

 

 

 

 

 

 

 

夢の中の、深層心理の奥深く。

ひとりぼっちの女性がいる。

――それは、金髪両青目の女性、ダブレだった。

 

ダブレ「…なんて悪夢なんだ…ッ」

 

彼女の目の前には、"まるで魂が抜けた、抜け殻になってしまった城戸瑞稀がいた"。

 

これは、助音が風船の少女、"をー"に気絶させられてすぐの話。

 

空条助音という人間は多重人格者である。主人格が、"温厚な性格の助音"、他の人格が、"荒々しい性格のダブレ"。

 

対照的な性格なのが、多重人格をよく表している。

 

ダブレ「"その人にとっての悪夢を見せ、弱らせてから洗脳する"とは言っていたが… これほどまでに…ココロを抉られるとは…なッ」

 

助音が、"翔太郎が死んだ夢"を見せられたのと同様に、ダブレも彼女にとっての悪夢を見せられていた。

 

ダブレ「でも… 約束したんだ…」

 

さっきまで彼女のスタンド、"バッド・ドリームス"の「身体を支配する」能力でやっと、立っていられたダブレ。

 

しかし、ダブレはスタンドの能力を使わずに、"自分だけの力で、抜け殻のキッドに近づいていった"。

 

そして、彼女の手を握る。

 

キッド「どれだけ悲しくても、どれだけ辛くても、アタシと瑞稀は、一緒に歩き続けるって…」

 

 

 

それからも、今の今でも惨い悪夢を見せられているダブレ。そんな彼女を、"監視する者がいた"。

 

坂根圭である。

 

その男は、夢の世界でもない、現実世界でパソコンに向かいながらひとりごちる。

 

圭「なんてしぶとい奴だ…こいつもかなり手強いな… はやくしねーあの人になんて言われるかわかんねぇ」

 

その男は、眼鏡をかけて無精髭を生やしている。

年齢は30歳程で、職業はない。つまり、世間で"ニート"と呼称されるものに分類される。

 

圭「あの人にどやされるのはもう勘弁だ… 本当はこんな仕事、引き受けずに家でゆっくりしてーだけなのに… 何が反SPWの腹心だよ、俺はただ単にゲームできればなんでもいいんだよッ 金や女なんてどうでもいいッ」

 

独り言が段々と大きくなる。

 

圭「そうだ… 凶器拷問でも堕ちねーのなら、もう禁断の手を使うしかねーな…!」

 

苛立ちが含まれていた声が、段々と大きな笑い声に変わっていく。

 

そしてその笑い声は、"風船一個分の穴が空いた窓からこぼれていった"…

 

 

 

 

ダブレ。空条助音の"もう片方"。翔太郎が初めて彼女と出会った時から、彼女は彼女自身のことを“ダブレ”と名乗っていたことなら、その後もそう呼ばれる。

 

「空条助音のもう一つの人格」なんて言えばみんなが納得するのだが、誰もが「いつから存在するのか、何故スタンドが2つあるのか」などと思う。

 

彼女らに親しい仲の人が、仕事が終わって時間が空いたために、そんな会話をしている。

 

ことり「鷹優せんせー。そういえばなんでダーちゃんもスタンドを持ってるんですか?」

 

TG大学病院の調査部診断室。"抜け殻事件"に関する情報を患者や周辺へ地域から聞き込み調査を終えた天久鷹優とその助手、小鳥遊ことりは2人で帰る用意をしていた。

 

鷹優「どういうことだ?スタンド使いがスタンド使いであることに理由はないだろう?」

 

ことり「そうなんですが… 今日イタリア人の鑑定人さんから助音ちゃんの情報を貰ったんですが、ちょっと気になってですね…」

 

……それは、ことりが魂の鑑定人に聞き込みをおこなっていたとき。

 

――鑑定人「空条助音とダブレ… あぁ、覚えているよ。 あんな異質な子を見たことなかったからな…」

 

ことり「異質?」

 

"助音ちゃんについて何か情報を"と、私情丸出しの質問を投げかけたことりだったが、予想外の答えに聞き返す。

 

鑑定人「私の能力は、"魂の鑑定"だ…。魂や感情の状態はもちろん、次に何をするかやその人の能力だって鑑定できる。…のだが、あの子だけは、"簡単に鑑定できなかった"んだ。」

 

ことり「それはやはり、助音ちゃんが多重人格者だからなんでしょうか?」

 

鑑定人「少し…違うかもしれない。」

 

何か引っかかるような言い方をする占い師。

 

ことり「と言いますと?」

 

鑑定人「私は今までに、多重人格者を占ったり鑑定したことがあった。でも、空条助音を鑑定するのは上手くはいかなかった。それは何故か…」

 

鑑定人「スタンド能力が鑑定できなかったのもそうだ。それは恐らく、"助音の人格がグッド・ドリームス"を持っていて、ダブレの人格が"バッド・ドリームス"を持つ。つまり、2つ能力を持っていたからなんじゃあないかと思うんだ。」

 

ことり「そういえば助音ちゃんたちの能力はそれぞれ違いますね。」

 

鑑定人「そこでだ。」

 

男が妙に真剣な顔で言う。

 

鑑定人「私が1番不思議に思っていたことは…"魂の行動が鑑定できたのに、魂やスタンドの情報が鑑定できなかった"ことなんだ。」

 

彼と助音たちが戦闘した時、彼はその"ジェラニエ"という能力で彼女の動きを先読みして追い詰めていた。

その後助音が覚醒し、工夫された策略と2つで1つなスタンドの攻撃に彼は敗れたのだった。

 

鑑定人「またいつか彼女らを占ってみたいもんだね」

 

ことり「情報提供ありがとうございます!活用させてもらいます!」

 

 

 

……ことり「とにかく思ったのは、助音ちゃんとダーちゃんで、何故それぞれが個別の能力を持ってるのかなんですよね…」

 

一連の説明を終える。鷹優は何か考え込んでいるようだ。

 

ことり「あのー… 鷹優せんせー?」

 

鷹優「あぁ、すまない… 何故ジョジョ達が個別に能力を持っているのかだな?」

 

ことり「えぇ。"多重人格"とは言えど、魂が2つもあるわけじゃあないんでしょ?」

 

鷹優「そうだが、ジョジョたちのケースはまた違うものだろう。恐らく能力が2つになる原因は多重人格にある。」

 

鷹優「いいか…?今からするのは、"空条助音とダブレの過去の話"だ。」

 

いつになく、表情がかたい。

 

ことり「えっ、鷹優せんせーは知ってたんですか!?」

 

鷹優「あぁ… あまり言わないようにしてたんだが、お前には秘密にしておく理由がない…。 だが、この話は多言無用だ。絶対にだぞ。」

 

ことりはその、鷹優のプレッシャーに気圧される。

 

ことり「わ、わかりました…」

 

鷹優「お前も少しはわかっているんじゃないか?"彼女がいったい、どんな悲惨な過去に苛まれた"のか。話をするだけでも彼女のトラウマを掘り返すことなんだ。この袋ん中にある飴全部やるから黙ってろよ。」

 

ことり「むぅー…」

 

鷹優に「黙ってろよ」と念を押されたことに不服を感じたことりだったが、助音の情報がもらえたのと、飴がたくさん入った袋がもらえたことを念頭において、ことりは怒らなかった。

 

鷹優「まずは…だ。数学でも正確にわかってない値をxやyと置くように、助音とダブレの区別を"正しく"つけようと思う。」

 

ことりは、赤色と青色の飴2つを適当に口に放り込んで、それらを口で転がしながら鷹優に耳を傾ける。

 

鷹優「"グッド・ドリームス"を使える人格をGと置く。そして、"バッド・ドリームス"を使える人格をBと置く。 …それじゃあ本編の話に入る。一回しか言わないからしっかり聞いとけよ。」

 

彼は目を瞑る。そして、まるで頭に残していた情報を全部思い出したかのように目を開ける。

 

鷹優「空条助音の母親は空条徐倫、日本人だ。そして、父親はナルシソ・アナスイ。彼については出身は知らない…」

 

鷹優「彼女らは、誰かの策略によって刑務所に入れられたらしい。SPW財団と、徐倫の父親の空条承太郎の力によって刑務所を出た後に、徐倫とアナスイは結婚している。」

 

鷹優「刑務所を出てから、杜王町に越してきているのだが、それ以前の話はあまり詳しくない。何故なら、問題はこの後なんだからな…」

 

彼は一息置いてから、その"真実"を喋り出す。

 

鷹優「そして、2012年に空条助音が生まれる。この時の人格は"B"だ。」

 

ことり「えッ!?それって…まさかッ!」

 

鷹優は重い口を開く。

 

鷹優「そうだ。"空条助音の元々の主人格は、今で言うダブレだった"ということだ。」

 

天久鷹優は、誰も知る由がない衝撃の真実を告げるのだった。




ここらへんの話は複雑なので、かくのでさえ時間がかかる…(そして申し訳程度のスランプが襲いかかる)


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#23 二つの星

遅れてごめんなさいいYYYYY


――TG大学病院調査部の部長天久鷹優と、その助手小鳥遊ことりは、「何故空条助音はそれぞれの人格に個別の能力があるのか」といった話になり、ことりは鷹優から助音の過去について聞くことになった。

 

そして、ことりは衝撃の事実を知る。

 

――鷹優「つまり、"空条助音の元々の主人格は、今で言うダブレだった"ということだ。」

 

「能力、"グッド・ドリームス"を使える人格をG、"バッド・ドリームス"を使える人格をBとおく」という条件の上、鷹優が言っていることは、"空条助音という人物の、最初の人格がBである"ということである。

 

ことり「えええっ!?」

 

鷹優「お前が驚くのもわかる。なにしろ、"今の主人格、Gの人格さえそのことを知らない"からな。」

 

ことりは、いかにも驚きを隠せないような表情になる。

 

鷹優「多重人格。正式には"解離性同一性障害"というが、ことりも知っているように多重人格の原因は幼少期の精神的外傷が基になることが多い。」

 

ことり「多重人格になった原因が、その空条助音という女性の"悲惨な過去"ってことですね…?」

 

多重人格、もとい解離性同一性障害は、幼少期の親からのネグレクトや学校でのいじめ等の、心的外傷を原因として起こりやすいと学説では言われている。

 

人間の防衛反応として、まだココロの成長しきってないときに起こってしまった本人に耐えられない状況を境に、「自分の人格や感情、性格さえもを切り離してしまう」それが、多重人格の本質ということである。

 

鷹優「…杜王町では、15年前にとある交通事故が起きている。」

 

 

 

 

――ここは、ダブレの夢の中。

 

 

敵の"夢を見せる能力"によって先程まで刀やナイフといった武器での拷問を受けていたダブレ。

 

ダブレ「ッ…? ここは…」

 

一瞬の出来事だった。拷問が止まり、数分したと思ったら"いきなり何処かに飛ばされた"のだった。

 

ダブレ「へッ、拷問でもココロが折れなかったから遂に諦めやがったか…」

 

そんな余裕そうな発言をしていながらも、彼女は正直安堵していた。その理由は言わずもがなである。

 

ダブレ「それにしても…ここは杜王町か?何か見覚えがあるような…」

 

そこは、どこにでもあるような道路が続く道。

観光名所が近いわけでもない。

 

周りは暗い。夜だからなのか、車の数は少ない。

 

ダブレ「ッ!?」

 

すると、いきなりダブレは"視界が支配された"ように、一つの車に視線が勝手に集中していた。

 

身体は動かない。いや、動かないというより…

 

ダブレ「アタシの身体が…ないッ…?」

 

そう。今のダブレは言うなれば、"幽体離脱したかのように、魂だけの状態"であった。

 

そして、彼女の視線は嫌でも"その光景"に。

そこには…

 

ダブレ「お父さんと…お母さん…ッ!?」

 

運転席にいるピンク色の長髪の男性、名前は"ナルシソ・アナスイ"と、助手席に座っているお団子頭の黒髪の女性、"空条徐倫"。

 

その2人が乗っている車の光景を、ダブレは強制的に見せられている。そして、ダブレはその真意に気づくのだった。

 

ダブレ「これは…まさか、そんな…バカな…ッ」

 

そして、その少女の姿も目に入ってくる。

金髪で、両青目の…"空条助音"と名付けられた少女。

 

ダブレ「まさか、まさかァァァァッ!!!!」

 

――それは、彼女のココロに封印された過去だった。

 

 

その車の中で、談笑が聞こえてくる。

仲のいい夫婦の笑い声。その笑い声を聞きながら後ろの席で寝ている少女、空条助音。

 

そして、彼女は信じたくない真実を実感する。

――"悪夢は終わっていない"ッ!!!

 

その幸せそうな家族が乗った車の向こう。

"何かがおかしい"人を乗せた車が、虚な視線をそこらに飛ばしながらやってくる。いや、どこも見えてないのかもしれない。

 

その車は左右にグラグラ、スピードもはやかったりおそかったり。運転席に乗っている人は、脱力してしまっている。

 

その車の向かう先は――

 

ダブレ「やめろおおおおおおおおおおお」

 

 

 

 

 

 

鷹優「杜王町のとある道路で、交通事故が起こった。空条徐倫やアナスイ、そして空条助音が乗った車に、暴走した車が突っ込んだんだ。」

 

鷹優「暴走していた車に乗っていたのは、高田というSPW財団の上の位にいた男。その男は事故の際に死亡してしまっていて、何故そのような事故が起こったのかさえわかっていない。」

 

鷹優「そして、その時に…空条助音の両親である、空条徐倫とナルシソ・アナスイは死亡した。」

 

空条助音の隠された過去。

それは残酷な真実。

 

ことり「ど、ドライブレコーダーとかは…?事件の真相は、本当にわかっていないんですか…ッ?」

 

鷹優「ない。その高田という男も含めて、当事者である空条徐倫とナルシソ・アナスイも、死亡しているからな。事件当時のことを知る者はほぼいない。」

 

 

 

 

鷹優「その事件をきっかけに、空条助音は解離性同一性障害を起こしてしまい、二重人格になった。」

 

飴が入っている口をあんぐりとあけたことり。

 

ことり「そんなことがあったなんて…」

 

驚愕の真実に驚きを隠せないことりだったが、

"1つ、気になる点を見つけた"。

 

ことり「でもその説明全く"知りたかったことを説明できてない"じゃないですか。"なんで空条助音が人格別にスタンド能力を持っているのか"とか、"なんで今はGの人格なのか"とか…」

 

鷹優「たしかにそうだ。それもこれから、説明していこうと思うんだが…」

 

鷹優はなにか、ひっかかるように言葉が止まる。

 

ことり「どうしたんですか?」

 

鷹優「いや、じつはこれから話すのは…"城戸瑞稀から聞いた話だから本当かどうかがわからない"。」

 

ことり「城戸瑞稀って…あの、自分で"キッド"って名乗ってる?やはりあの人も助音ちゃんの過去を知ってるってことなんですか…?」

 

鷹優「そういうことになるな… まぁ、次にいくぞ。"事故当時に、空条助音は行方不明になっていた"。」

 

 

 

 

 

 

 

薄暗く、月の光が"窓の穴"から差し込んでくる部屋。

そこには、パソコンに向かいあったまま動かない男と、そのすぐ後ろに眼鏡をかけた赫い目の女性がいる。

 

 

――キッド「やぁ。スタンドの夢中継をパソコンに繋ぐなんてなかなか器用なことするんだね。」

 

その女性は、どこまでも冷ややかに、どこまでも底のない深い深淵を含んだような声で話しかける。

 

圭「お、お前はッ」

キッド「動くな」

 

パソコンを凝視していたその男の頭に突きつけられているのは、真っ黒い拳銃。

その女性は右手にその拳銃、左手にスマートフォンを持ったまま、その赫い目をその男、坂根圭にむけている。

 

圭「お前は…城戸瑞稀か…探偵の…ッ」

 

キッド「!声でわかったのか…?いや、パソコンの画面の反射か… そうだよ。僕は城戸瑞稀だ。」

 

圭「何故この場所がわかった…?」

 

坂根圭は、本当にわからない、といった顔をしている。

 

キッド「ヒントはお前の能力だった…"アナザーモーニング"の能力が教えてくれたんだよ。」

 

圭「俺の能力が…だと?」

 

キッド「お前の能力は、"射程距離内の、位置がわかっている相手に夢を見せる"というものだった。」

 

キッド「そして僕は、をーという少女と空条助音、枕木翔太郎が戦闘しているのを見ていた。」

 

城戸瑞稀が、説明を一旦区切る。

が、坂根圭はまだ理解できていないようだ。

 

キッドははぁ、と溜息をして続ける。

 

キッド「空条助音はその戦闘で、少女の能力で気絶させられた。そしてその時に夢を見せられている。

 

…"位置がわからないと夢を見せれないのに、何故公園に倒れた助音に、正確に夢を見せれたのか"。」

 

そこでやっと、圭が焦った表情を見せる。

 

坂根圭「ま、まさか…バレたのかッ!!!」

 

その男が振り向いた先には、"風船一個分の穴が空いた窓"があった。

 

キッド「僕は、少女が能力を説明していたのは、"彼女がすっかり慢心していたから"なんて思っていたよ…」

 

をーという少女の能力、"ビヨンド・ザ・ムーン"は、その場にある素材まるまるを風船一個分に変える能力である。

 

その少女は、翔太郎に能力を説明するために公園に隣接していた家の窓のガラスを風船にしていた。

 

キッド「うん。思いもしなかったよ… 反SPWのボスの腹心のお前が、公園のすぐ隣に住んでたなんてな…」

 

圭「ッ!!!!!」

 

そう。坂根圭という男は、"翔太郎たちとをーが戦っていた公園"、すなわち、"空条助音と枕木翔太郎が出会った公園"のすぐ隣の家に住んでいたのだ。

 

キッド「あの少女が窓を風船に変えたのは…こうやって穴をあけて、"お前に助音の位置を正確に知らせるため"だったんだな…」

 

その風船一個分が空いている窓の先には、間違いなく助音と翔太郎が出会った、遊具がなくなってしまっている公園が見えてくるのだった。

 

キッド「まさかお前に、"ジョースターの血を継ぐ者、空条助音とSPW財団の幹部の息子、枕木翔太郎が出会っていること"が筒抜けになっていたとはな…」

 

キッド「でも、情報が筒抜けになるのは今日で最後だ。何故なら… お前は今日死ぬからな…。」

 

圭「やはり…この俺を殺しに来たか…ッ」

 

キッド「その前に…だ。なにか、僕らにとっておいしーい情報を教えてくれたら…殺さなくはないかな…」

 

キッドは、まるで無邪気な声でそう言う。

 

圭「…言うワケがねー…」

 

その瞬間。

"坂根圭と城戸瑞稀は何百、いや何千メートルもの高さの上空に出現する"。

それは、城戸瑞稀の"瞬間移動の能力"だった。

 

圭「な、なァァァァ!?」

 

キッド「スカイダイビングだ。楽しんでいけよ。」

 

9.8メートル毎秒毎秒の速さで落ちていく2人。

2人の落下速度はどんどん加速していく。

 

圭「ば、バカめッ!こうすればお前は…ッ!」

 

坂根圭は、城戸瑞稀の服の裾を掴む。

すると、キッドは呆れたような目をして…

 

キッド「瞬間移動する際に、転移者に掴まっていればそのワープに便乗できる…なんて思ってるのか?」

 

すると、その女性はいつのまにか、既に落下した先にゆうとした表情で立っていた。

 

圭「な、なにィィィィィ!?まさか便乗できねーなんて…ッ!!!」

 

城戸瑞稀のワープに"便乗できず"に、1人だけで落下していく坂根圭。地面は近づいてきている。

 

キッド「この能力、"死体の後始末が楽なんだよ"…?」

 

圭「う、うううううッ  わかったッ喋るッ!」

 

そして、男が折れた。

 

キッド「思ったより簡単だったな…ッ」

 

すると落下してきたその男、坂根圭が地面と高速のキスをする寸前にキッドはその男とともにワープする。

 

そして、2人は坂根圭の部屋に戻っていた。

 

圭「はぁ、はぁ…ッ」

 

キッド「おい、ボケっとしてないで喋りなよ… おたくらのボスの名前とか、能力とかを…」

 

まるで屈辱的、といった表情をする坂根だったが、城戸瑞稀がこちらに向けてくる拳銃を見てから少し大人しくなる。

 

圭「うちのボス… あの人の名前は…ッ "高田"という男だ…ッ!!」

 

キッド「…」

 

すると城戸瑞稀は、持っている拳銃で発砲した。

 

圭「うぐァァァァァァッ」

 

キッド「おい、嘘をついてんじゃあない。こっちは"嘘をついてるかどうか"、わかってるんだぜ…?それとも、この"ガラスの弾丸"を今度は脳天に喰らいたいのかい…?」

 

坂根圭は、肩を撃ち抜かれている。

 

圭「わ…わかったッ!!」

 

 

そして、ゆっくりとその人名を呼ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

圭「あの人の名前は…!"枕木明"だ…ッ!!!!」

 

その男は、黒幕であろう人物の名前を、まるで食べたものを吐き出すかのように言うのだった。




最後らへんの坂根圭の居場所の推理についてわからなければ、19話を見ていただけるとわかると思います…


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#24 雨上がりに見た幻

ちょっとわかりにくいかもですね


――城戸瑞稀は、反SPWの腹心である坂根圭のもとに突入し、追い詰めていた。

 

キッド「おい、ボケっとしてないで喋りなよ… おたくらのボスの名前とか、能力とかを…」

 

城戸瑞稀はその真っ黒い拳銃を圭の頭に突きつけている。

 

圭「うちのボス… あの人の名前は…ッ "高田"という男だ…ッ!!」

 

その男は、顔を苦々しくしながら答える。

それを、城戸瑞稀は眼鏡をちょいとあげて聞いていた…が。

 

キッド「…」

 

城戸瑞稀…もとい、キッドがその銃口をその男の肩に向けて発砲する。

 

圭「うぐァァァァァァッ」

 

キッド「おい、嘘をついてんじゃあない。こっちは"嘘をついてるかどうか"、わかってるんだぜ…?それとも、この"ガラスの弾丸"を今度は脳天に喰らいたいのかい…?」

 

その女性は、"嘘も全ても、まるでお見通し"とでも言うかのようにそう言う。

 

そしてついにその男は、ゆっくりとその人名を口にする。

 

圭「あの人の名前は…!"枕木明"だ…ッ!!!!」

 

――その男は、黒幕であろう人物の名前を、まるで食べたものを吐き出すかのように言うのだった。

 

 

……キッド(嘘はついてないっぽいな…)

 

キッドのその眼鏡から覗かせる赫い目は、その男を大人しく見据えていた。

 

圭「…これで十分だろう!!」

 

キッド「うーん…どうだろうね…」

 

キッドは、「ダブレが見せられている夢」が映し出されている、PCのディスプレイを覗き込む。

 

キッド「お、"ジョジョもついに動き出した"ね。」

 

圭「なに…ッ!?」

 

そのディスプレイの中には、紛れもないその女性。

空条助音が、彼女のスタンド"グッド・ドリームス"を出現させた状態で、"その赤い瞳でこちらを見ていた"。

 

 

 

――助音「あそこにいたッ!!」

 

ここは、夢世界。

助音や翔太郎、キッドが、「坂根圭を始末する作戦」の会議を終えた後、"助音は寝た"。

 

それは紛れもなく、"夢世界に突入するためでもあり"、"坂根圭を始末するため"でもあった。

 

助音「キッドの言う通り、"人型のスタンドが夢の中にいた"ッ!!!」

 

彼女が言う通り、彼女の視線の先には…

"まるで煙のような人型のスタンドがいた"。

 

 

 

 

――キッド「奴の能力、"アナザーモーニング"は必ず夢の中にいる。そいつを"夢の中で叩く"んだ。」

 

「坂根圭を始末する作戦会議」の、一言目に彼女はそう言った。

 

助音「スタンドが…夢の中にいる?」

 

その場の助音と翔太郎は、困惑する。

 

キッド「ジョジョが気づかなかっただけだと思うけど、奴が人に夢を見せる時に、必ず人型のスタンドが夢の中にいるんだ。」

 

翔太郎「つまり、その人型のスタンド、"アナザーモーニング"を叩けば奴を始末できる…と?」

 

キッド「その通りだ。ジョジョ。君には今から寝てもらって、夢の中で奴のスタンドを叩いてもらう。

そして、もしマズいことになったらショータくんにジョジョを起こしてもらいたい。」

 

助音「なんとなくわかった…けど、キッドはこれから一体どうするの?」

 

先程の城戸瑞稀とは違ったかのようにスラスラと進む会議。話すペースが急激に変化したため、助音と翔太郎は終始困惑していた。

 

キッド「それはね、奴を始末できたら教えるよ。あと…」

 

助音+翔太郎「???」

 

キッド「ジョジョには… ダブレの過去を見てもらう。」

 

助音「え?え?えっと…何言ってるの…?」

 

キッド「まぁ作戦通りにやってたらわかるさ…僕が言った通りのことをやっておいてね。」

 

すると、瞬時にキッドは消えてしまった。

 

 

 

 

 

 

そして場所は戻り、坂根圭の部屋。

 

キッド「つまりはこういうことだ。空条助音の"グッド・ドリームス"は、精神や魂に干渉する能力だ。」

 

キッド「自分の魂に干渉するなんてお茶の子さいさいだから、"ダブレが見せられている夢に潜入してもらった"。」

 

城戸瑞稀は、坂根圭に淡々と告げる。

 

圭「助音が…ダブレの夢の中に潜入した…?」

 

キッド「流石に、武器拷問の夢は見せないように時間はズラしたけど… ダブレの過去を知って、そしてお前のやった仕打ちを知っただろうね…」

 

圭「俺のスタンドが夢の中にいることに気づいている…ッ!?てことは…ッ!」

 

坂根圭は、ディスプレイの中を覗き込む。

 

キッド「とーっても、怒ってるだろうね」

 

そして、ディスプレイの中では、助音のスタンド"グッド・ドリームス"がもうこちらに迫っていて…

 

 

 

 

 

 

 

助音「オルオルオルオルオルオルオルオルオルオルオルオルオルオルオルオルオルオルオルオルオルオルオルオルオルオルオルオルオルオルオルオルオルオルオルオルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッッッ!!」

 

その、様々な人を洗脳していた元凶のスタンド、"アナザーモーニング"は、激怒した空条助音のスタンド、"グッド・ドリームス"に怒涛のラッシュを喰らい、まだ止まらない…

 

まだ止まらない。まだまだ止まらない。

 

その、怒りがこもった一つ一つの拳が1秒間に幾度ともなく、そのスタンド"アナザーモーニング"に叩きつけられる。

 

助音「オルァァァァァァァァァァァァァァッッ」

 

そして、遂にそのスタンドを空の彼方に吹き飛ばす。

 

 

 

 

……助音「Au revoir (さよならだ)」

 

 

 

 

――キッド「あーらら…可哀想…そうでもないか。僕はね、ジョジョにお前を倒して欲しかったんだよ…」

 

その城戸瑞稀という女性は、すぐそこに倒れている坂根圭に向かって言う。

 

 

夢を映していたPCのディスプレイにはヒビが入っている…

 

 

 

 

 

――そこに、夢の中に、泣き崩れていた女性がいた。

それは、とてもとても綺麗な碧い目をした金髪の女性…ダブレだった。

 

その女性の体に、容赦なく冷たい雨が襲う。

 

ダブレ「もう…嫌なんだ… 『別れ』は…もう誰とも『別れ』たくなんてないよ…」

 

 

その泣き崩れた女性のもとに、1人の女性が寄り添う。

それは、またしても綺麗な赤色の目をした金髪の女性、助音だった。

 

 

助音「泣かないで…ダブレ…」

 

その女性が寄り添うと共に、雨雲はどんどんとなくなってゆく。

 

雲は晴れ、雨上がりの空には虹ができてゆく。

 

……それは、まるで2人を象徴するような、赤とか碧とか、そんな色んな色が混ざった虹。

 

助音「ダブレ…あなたは、ずっと私と一緒にいてくれたんだね…」

 

2人の顔に、太陽の光がさす。

 

助音「性格が、感情が別れちゃっても… こうやって、あなたと『出会う』ことができた…。みんなと、『出会う』ことができた…。 それも全部、あなたのおかげだよ」

 

ダブレ「うぅ…」

 

助音「別れの雨はやんだよ…。何かと『別れ』ればね、何かと『出会う』。

…だからね、この出会いの虹が私たちの、『出会い』の証だよ」

 

ダブレ「…うん…」

 

2人は、その白昼夢の不思議な夢のような世界で、

雨上がりの混成の虹をずっと眺めるのだった。




でも、自分なりにはうまくかけました


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#25 夢の続き

遅れてごめんなさい
言い訳はしません


――ここは、TG大学病院の調査部診断室。

ここで、空条助音という女性について話している男性と女性がいた。

 

天久鷹優と、小鳥遊ことりである。

 

――ことり「鷹優せんせー。そういえばなんでダーちゃんもスタンドを持ってるんですか?」

 

多重人格は魂が分離しているわけではないのに、"何故助音とダブレでそれぞれ能力を持っているのか"。

 

そんな疑問から生まれた会話は、空条助音という女性の過去に迫ってゆく。

 

 

……鷹優「その交通事故をきっかけに、空条助音は解離性同一性障害を起こしてしまい、二重人格になった。」

 

そして鷹優は、空条助音に起きた悲惨な過去についての説明を終えるが、飴を舐めながらその話を聞いていた小鳥遊ことりは1つのことに気づく。

 

ことり「でもその説明全く"知りたかったことを説明できてない"じゃないですか。"なんで空条助音が人格別にスタンド能力を持っているのか"とか、"なんで今はGの人格なのか"とか…」

 

Gは、「"グッド・ドリームス"を使える人格」を表している。つまり、その逆はBである。

 

鷹優「たしかにそうだ。それもこれから、説明していこうと思うんだが…」

 

鷹優はなにか、ひっかかるように言葉が止まる。

 

ことり「どうしたんですか?」

 

鷹優「いや、じつはこれから話すのは…"城戸瑞稀から聞いた話だから本当かどうかがわからない"。」

 

ことり「城戸瑞稀って…あの、自分で"キッド"って名乗ってる?やはりあの人も助音ちゃんの過去を知ってるってことなんですか…?」

 

鷹優「そういうことになるな… まぁ、次にいくぞ。"事故当時に、空条助音は行方不明になっていた"。」

 

 

 

小さくなってきた飴をまだ口の中で転がすことり。

困ったような顔つきで質問する。

 

ことり「"行方不明になっていた"?」

 

鷹優「…そうだ。まぁ説明を最後まで聞けって。」

 

ことり「むぅ…」

 

鷹優も、飴が入った袋から白い飴の袋を取り出す。

 

鷹優「聞く限り、空条助音はその当時、事故が起こってすぐに解離性同一性障害… つまり、二重人格になっていたらしい。」

 

鷹優「つまりだ… ココロが耐えきれない状況に陥った助音は、その当時の主人格、Bの人格を切り離してGの人格を創り出した。ここからはわかるか?」

 

ことりは唸りながら目を瞑る。そしてこう答える。

 

ことり「えと…Bの人格を切り離したってことは、"交通事故のトラウマの記憶を切り離してる"ってことですか?」

 

鷹優「なんだ、そこまで来たらもう正解だ。その事故の記憶を一時的に切り離した助音は人格を、"事故のことを知らないGの人格に切り替えた"。」

 

鷹優「そして、事故を知らないGの人格は、その場からどこかに行ってしまったらしい。」

 

 

 

 

 

 

 

――金髪両赤目の女性、空条助音は、気づいたらまた夢のどこかにいた。

 

助音「あれ」

 

周りを見渡すが、さっきのダブレも、虹も、何もない。

 

すると、立ち尽くす彼女の目の前に、いきなり大きなモニターが現れる。

 

助音「おわっ」

 

なにがなんだかわからない助音。すると…

 

キッド「Salut(やぁ)!元気そうで何よりだよ〜」

 

聞き覚えのある陽気な声。城戸瑞稀だ。

軽快なフランス語の挨拶は、目の前のモニターから聞こえてきた。

 

助音「キッド!!」

 

そう。その城戸瑞稀という女性は、目の前のモニターに映っていた。

 

キッド「坂根圭のスタンドを占拠したよ〜」

 

それを聞いて、助音はホッとする。作戦は完璧だったのだ。

 

キッド「ジョジョもわかってると思うけど、"夢が続いてる“ことから、完璧に始末したわけじゃあない。」

 

確かに、夢を見せるスタンド"アナザーモーニング"の使い手、坂根圭を始末したならば夢はもう終わってるハズなのだ。

 

もし夢が終わってたなら、助音はダブレと一緒に虹を見ることもできなかった。

 

助音「それじゃあ、今はどういう状況なの?」

 

キッド「まず、奴を屈服させた。服従させてるってわけ。」

 

いとも容易く、えげつないことを言うキッド。

坂根圭は城戸瑞稀の支配下に置かれたらしい。

 

キッド「朝まで時間あるし、ジョジョになにか夢を見せてあげたいな〜ッて思ってね〜」

 

助音「え?いいの?」

 

夢を見せる"アナザーモーニング"というスタンドも、使いようは使いようである。

今まで拷問等にしか使っていなかっただけで、良い夢、つまり瑞夢を見せることができるのである。

 

キッド「ジョジョはどんな夢が見たい?今回だけのご褒美だよ〜ッ」

 

陽気なキッドと裏腹に、助音は何故か黙りこくる。

 

キッド「ジョジョ?」

 

数秒のち、助音は意を決した表情で叫ぶ。

 

 

 

助音「私、ダブレの過去の続きを知りたいッ!」

 

キッドは少し、意表を突かれたような顔をするがすぐに取り繕って笑顔になる。

 

キッド「流石ジョジョだね… ほら。やってあげなよ」

 

キッドが誰かに話しかける。恐らく坂根圭に命令しているのだろう。

 

助音「私のわがままを聞いてくれてありがとう…」

 

キッド「いいや、実際僕はジョジョに、ダブレの過去の続きは見てもらいたかったんだ… しかと、目に焼き付けたほうがいいよ…」

 

すると、真っ黒な世界がどんどんと変わっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――15年前の、交通事故が起こってから数時間後。

 

交通事故の現場の近くに、2人の人間がいた。

 

???「事故現場はスワンキーストリートか… 事故の発端は…まさか、本当に高田さんなのか…?あの人がやらかすとは思えないが…」

 

その眼鏡をかけ、いかにも研究者ということを示しているような白衣を着ていた若々しい男性は、タブレットを覗き込みながら呟く。

 

???「なんで僕まで連れてくるんだよ… ただの交通事故なんじゃあないの?枕木蓮さんや…」

 

その、少し背伸びをしたような格好をしている…年齢は15歳ほどであろうか。女子中学生ほどの娘が、呆れ気味に男に話しかける。

 

蓮「本当に、"ただの交通事故"だと思うかい?…君は、探偵になりたかったハズだ。物事は可能性で構成されている。探偵ってのは、全ての可能性を模索して真実を導きだすんだよ。瑞稀くん?」

 

その、"枕木蓮"と呼ばれた男はそう答えた。

 

蓮「ほら、ただの事故だなんて思わないで、事故現場を確認… って流石に悲惨すぎるか… んじゃ瑞稀くん、いつも通りに周りに聞き込み頼むよ。」

 

瑞稀「はいはい…」

 

2人の会話から察するに、2人は相棒みたいな感じの信頼感があった。

 

 

 

既に、事故現場には警察が到着していた。

 

警察官「あの、関係者以外は立ち入りが… って、あなたでしたか」

 

蓮「あぁ、私だよ。今回もちょっと、調査させていただきますよ?」

 

警察官「はい。でもあまり現場をいじらないでくださいね…」

 

蓮「わかってるって」

 

枕木蓮という男は、警察官となにか面識があるのか、簡単に会話を済ませる。

 

なにか絶対的な信頼があるようだ。

 

蓮は、事故現場を目の当たりにして、驚く。

 

蓮「こいつぁ酷い…」

 

車と車が衝突して、2台ともひしゃげてしまっている。

そしてそこには…

 

 

蓮「!!高田さんと… 空条家の人達か!!」

 

蓮「やはりもう駄目だったか…ッ …ん?」

 

そのひしゃげた2台の車の片方。

まだ無事だった後部座席に、人形が落ちていた。

しかし、"子供の気配は人1人ない"。

 

蓮「お子さんがいない… これはますます、真実を調べないとな…ッ!」

 

その男は、眼鏡をあげて現場を再び調べ始めるのだった。

 

 

 

 

 

瑞稀「流石に夜だから、警察以外人っこ1人もいないよ…"SPW財団の人が起こした事件だからすぐに確認しにいけ"だなんて無茶なことを…」

 

その、城戸瑞稀という少女は、探偵手帳のようなものを持って歩きながらぶつぶつと呟く。

 

どうやら、彼女たちはその財団から命じられ、その場にいるらしい。

 

瑞稀「高田さんと空条家…2つともSPW財団に関係しているけど… まさか最近、SPW財団に反抗し始めた奴らの仕業か…?」

 

片方の車に乗っていた高齢の男性、高田はSPW財団の上位に立つ権力者である。

しかし、権力をひけらかすことはなく、困っている人々を放っておけない性格から、周りの人に好かれる好々爺であった。

 

瑞稀「…?」

 

瑞稀が何かに反応する。

――足音だ。

 

……すると、向こうから小さい人影が近づいてきていることに、城戸瑞稀は気づく。

 

瑞稀「!!人がいた…ッ」

 

するとそこからは、金髪で両赤目の少女が出てきた。

 

瑞稀「…女の子?誰だ?」

 

事故についての情報が載っている手帳を瑞稀は覗き込むが、"両赤目の少女"について記載はない。

空条家の顔写真もあったが、やはり、1人娘の空条助音の目の色は"碧色"である。

 

しかし、"目の色以外は見た目はほぼ、空条助音と同じ"なのだ。

 

瑞稀「君、名前は?」

 

少女は首をかしげている。見た目からして、あまりにも幼い。わからないのも無理がないだろう。

 

瑞稀「年齢は?」

 

???「5しゃい」

 

指で5をあらわそうとしているが、できていない。

しかしどうだろう。やはり空条助音と"年齢が一致している"。

 

瑞稀「君、もしかして空条助音かい?」

 

そう質問した瞬間。

 

 

……少女の目の色がいきなり、"碧色に変化した"。

そして、びゃあああと泣き出す。

 

瑞稀「!?」

 

泣き出したと思ったら、今度は片方の目だけ"赤色に変化した"。

オッドアイになったのだ。

 

瑞稀「…ッ!?この子…オッドアイになった…ッ!? しかも、"片目しか泣いていない"ッ!」

 

瑞稀が言う通り、その少女の"碧い目だけから涙が流れている"。赤色の目に涙は見受けられない。

 

瑞稀(この子…情緒不安定なだけか…!?いや、違うッ!"まるで精神が分かれている"ッ!)

 

夜空に泣く声が響く…が、数秒後にその泣き声も消える。また"両赤目に戻った"のだ。

 

そして、その少女はポケットから何かを取り出して、こちらに渡してきた。

 

瑞稀「…?くれるの?これ… ハンカチ?」

 

その少女は、困っている瑞稀を見て、慰めてあげようと思ったらしい。

 

瑞稀「!!!」

 

そして、そのハンカチには"空条助音"という名前がかいてあったのだった。

 

 

 

 

 

――蓮「…ッ!!!」

 

1人で事故現場を捜索していたその枕木蓮という男は、高田という男の遺体を見た瞬間に、呻き声をあげる。

 

蓮「こ…コイツは…ッ」

 

蓮は遺体を見て驚いているようだがどうだろう、"遺体には特におかしい点はない"。

ただの、交通事故にあった遺体である。

 

その男には一体どう見えているのだろうか。

 

蓮「この事故は…"スタンドの仕業"で起こったんだ…ッ!!」

 

その男は、まるで"真実に辿り着いたような目"をしていたのだった。




ダブレさんの過去の続きですね。
そして、枕木蓮さんも出てきましたね。
…内容が複雑で、かくのが難しいッ!!


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#26 スワンキーストリート

遅くなったぶん、文字数も多いです。
その上、結構重要なことが多めにかかれているんですよ。


――蓮「この事故は…"スタンドの仕業で起こった"んだ…ッ!!」

 

 

ここは、空条助音が見ている夢…つまり、"15年前の交通事故が起きた後の出来事"の夢である。

 

SPW財団の高田という男が起こした交通事故。尻拭いというべきか、事故の調査と称して派遣された枕木蓮という男と、城戸瑞稀という少女が事故現場"スワンキーストリート"にいた。

 

枕木蓮は瑞稀に周りの聞き込みをさせている間、単独で事故現場の調査を行なっていた。

 

まだたった数分しか調査していない蓮から発せられた言葉が、冒頭のソレである。

 

蓮「スタンドの犯行だが…充分立証できそうなモンがあるじゃあねーか…」

 

蓮は、高田という高齢の男の遺体を凝視しながらそう呟く。

 

その遺体の喉もと。一閃の、"切り傷"があった。

それは、近くで凝視しないと見れない程のモノであったが、"発見できなくはない"。

 

だからこそ、蓮は気づく。

 

蓮「どういうことだ… 何故、"資料に喉もとの切り傷"について記載されていない…?」

 

スタンド能力が絡んでいる事件は、起訴や立証が困難であるものが多い。

それはもちろんスタンド能力は一般人に見えないことや、特殊能力で起こったことは基本スタンド使いでさえわからないからだ。

 

だからこそ存在するのが、"スタンド使いの探偵"である。調査向きのスタンド能力を持っている人がしていることが多い。

 

この交通事故はまだ2時間にも満たない程前に起きている。警察の現場検証もまだ少ないだろうが、もちろんしっかり見ればわかる"切り傷"が、事故の詳細に記載されていない。

 

蓮は、遺体に手を伸ばしてこう呟く。

 

蓮「南無三…」

 

そう言って、手袋をつけた手で遺体を少し触れる。

するとどうだろう。枕木蓮という男を、真っ白い純白なオーラが覆う。

 

きっと彼の"スタンド能力"だろう。

人型のスタンドではなさそうだ。

 

蓮「…これはッ!!」

 

蓮は周りを見渡して、近くにいた警察官を探す…が、いない。

 

???「ここから立ち退け」

 

蓮「!?」

 

気付けば蓮の後ろに、サングラスをかけ、黒い服を着た大男が立っていた。

 

蓮(気付けなかった…いつのまに背後に…ッ)

 

蓮は一瞬でその男から飛び退く。

 

蓮「おたく…反SPWだな?」

 

ズレた眼鏡をかけ直す蓮。大男はその発言を聞いても表情一つすら変えない。というか顔がよく見えない。

 

蓮「だから、"喉もとの切り傷について事故の詳細に記載されていなかった"んだな…ッ!!」

 

???「!!!」

 

謎の大男は、動揺する。

その反応から"蓮が放った発言が真実であること"を蓮は理解する。

 

???「流石枕木蓮といったところか…"スタンド能力さえ持ってねぇくせ"に探偵ごっこをしやがって…ッ」

 

蓮「スタンド能力を持ってないからなんなんだ?誰だってこんな簡単な切り傷、気づけるハズだッ!!」

 

???「いくら喚こうが無駄だ… お前はもう、この事件が"もみ消される"ということを理解しているハズだ…」

 

大男はいかにもな重低音での発言をする。

 

蓮「やはり…レジスタンスの組織の割に成長がはやいモンなんだな…ッ やはり財力かッ?」

 

???「それがどうした… はやく立ち退かないとどうなるか…わかってるんだろうな?お前の頭脳なら…」

 

その大男は身構える。若干緑色のオーラが出てきた。

 

蓮「あぁ…わかってるさ…

おたくの能力、"ペナルティーライフ"のタイマーで、俺の命を止めるつもりなんだろう…?」

 

その発言を聞いた瞬間、その大男は今までにないほど動揺した。脂汗もかいている。

 

???「何故知っている…ッ!?この能力は…」

 

蓮「"昨日発現したばかり"なのにか?」

 

???「ッ!?」

 

蓮「昨日、たくさん能力の練習をしたもんな〜… まだ使いこなせないから、緊張してるんだろう?」

 

その男はもはや声を出さない。いや、出せないのだろうか。口をパクパクさせている。

 

枕木蓮は、事実を言い当てているようだ。

 

???「…ッ!!」

 

その男は、ほんの一瞬でスタンドを発現させて、蓮に飛び込んで拳を放った。

 

蓮「…つぅッ!!!」

 

蓮は少し吹っ飛んで倒れる。

 

???「能力がわかっていても、一般人のお前には俺への勝ち目はないッ!!!」

 

その男の前にいる人型のスタンド…蓮が言うには、そのスタンドの名前は"ペナルティーライフ"と言うらしいが。

 

その痩身のスタンドの体には、至る所にタイマーが付いている。

 

蓮「へぇ… 破壊力はCか… でも、"触ったり殴ったりした場所にタイマーをつけれる"…か。」

 

そういう彼の身体…胸の心臓部には、タイマーが付いていた。

 

???「そのタイマーは、あと1分以内にこのスタンドの射程距離…半径10mから離れないと、お前の心臓の動きを停止させる…」

 

その蓮に付いているタイマーは、確かに時計の秒針が動き出している。

 

その男の能力は、"触った所にタイマーをつけ、制限時間が切れるとその部位の動きを止める"といったものらしい。

 

???「死んでもいいのなら、現場を調査してもいいがな… 1分間だけだが…!」

 

その男は微笑する。それを聞いた蓮は…

 

蓮「んじゃ、お言葉に甘えてちょっくら調査させてもらいますよっと」

 

余命宣告をされた蓮は、いとも簡単にその忠告を無視して、空条家の車に近づいていった。

 

???「…マジかよ?」

 

 

蓮は、くたびれてしまっている2人の夫婦の遺体を「南無三」と言いながら触れた。

 

蓮「…!なるほど…流石空条家と言ったところか…」

 

そう呟くとともに、蓮は急足で逃げてゆく。

 

蓮「ほんじゃ、忠告通りに逃げさせていただきますわ!ほなね〜魚塚次郎さん〜ッ」

 

蓮は、スタコラサッサと擬音が出てそうな軽快な動きで半径10mを目指して走ってゆく。

その魚塚と呼ばれた男は、顔が困惑している。

 

次郎「何故俺の名前を…ッ なんなんだあの男は…」

 

 

 

 

……事故現場、"スワンキーストリート"付近。

金髪で両赤目の少女と、赫い目の少女がいた。

 

瑞稀「やはりこの子…ッ 空条助音だ…ッ!!」

 

その発言を聞いて、5歳程の金髪の少女は泣き出す。…が、その目は片方が碧色になっている。

 

涙は碧い目から流れ出し、赤い目はポカーンとしている。

 

瑞稀は、少女から受け取ったハンカチを再度確認する。

 

瑞稀「やはり…"空条助音"と記名されてる…」

 

貰ったハンカチで"助音だと思われる少女"の涙を拭う瑞稀。そこに、走ってくる男がいる。

 

蓮「瑞稀、ここから逃げるぞ… 反SPWがもうここに来ている… この事故を "もみ消す"つもりだッ!」

 

瑞稀「蓮さんッ その前にだ、この少女の身元を確認しないとッ!」

 

息切れしている蓮は、ようやくその少女に気づく。

 

蓮「うわぁ、綺麗なオッドアイの子……?……」

 

蓮は、眼鏡を上げてその少女をジロジロと見つめる。どこからどう見ても犯罪者である。

 

蓮「うわぁッ!!その子、空条助音じゃあないかッ!!!」

 

瑞稀「蓮さんったら…テンションおかしいよ!」

 

蓮「あぁすまん…しかし何故オッドアイなんだ…? まぁいい!とりあえずこの子を保護して、研究所に帰るぞッ!!」

 

瑞稀「はいッ」

 

蓮は走って、瑞稀は少女の手をとりながら走って近くに停めてあった車のほうへ向かう。

 

 

……蓮は運転席に、瑞稀と少女は後部座席に座る。

 

蓮「まさか空条家の助音を発見できたとはな… 反SPWに見つかってたらどうなってたことか…」

 

蓮「瑞稀くん、この眼鏡掛けてて。 とりあえず急いで帰るから、その子と仲良くなっといてッ!」

 

眼鏡を瑞稀に手渡すと、彼はエンジンをかける。

車のスピーカーからは音楽が流れてくる。

 

瑞稀(この子… 一体何者なんだろう?蓮さんも"空条助音"って断定してたけど…)

 

眼鏡を手に受け取った瑞稀は、その可憐な少女を見つめ込む。

 

助音「ん」

 

その少女は、煌めく赤と碧の目で瑞稀を見つめ返す。

 

瑞稀(あヤベ この子めちゃ可愛い)

 

彼女は眼鏡を掛けて、少女の手を握る。

 

瑞稀「…そういうことか…ッ」

 

蓮「何か情報が取り出せた?」

 

蓮がミラー越しにこちらを覗いてくる。

 

瑞稀「あぁ。この子、ほんとに助音だ。」

 

蓮「やっぱりね…後で話をじっくり聞くとするか…」

 

スピーカーから流れる音楽が、3人の耳を包む。ギターの音やドラムの音が構成するのはロックミュージックだ。

 

夜でも人は多かった。スクランブル交差点には人が賑わっている。

 

歩行者用の信号が青から赤に変わると同時に、スピーカーから流れてくる音楽も変わった。

 

瑞稀「あれ」

 

瑞稀は、その英文の歌詞の歌を聴いてからふと声を出す。

 

瑞稀「この曲、このアルバムに入ってなかったでしょ?このアルバムには…普通の曲1曲と、インスト曲が1曲だけだったから…」

 

瑞稀「元々あった2曲の中に、別の曲がはいってる!」

 

蓮はこちらを見ることもなく答えた。

 

蓮「好きなんだよこの曲。最近ハマっててね」

 

瑞稀「いや、答えになってないけど」

 

ツッコミを入れる瑞稀だが、その声でうとうとしていた助音がびっくりして起きた。

 

瑞稀「あ、ヤベっ」

 

蓮「子供の扱いに慣れてないなぁ… 僕を見習ってほしいくらいだよ」

 

瑞稀「うるせーやい」

 

蓮「ちなみにこのCDはね、僕が編集したものなの。2曲入ってたアルバムに、この1曲だけを混ぜたんだよ。つまり、マイベストアルバムかな。」

 

瑞稀「ふーん… それより、まだつかないの?」

 

 

信号に焦れてきた瑞稀。

信号が青になったときの彼女の笑顔は、とても素晴らしいものだった。

 

 

瑞稀は助音に話しかける。

 

瑞稀「お父さんお母さんのことはわかる?」

 

助音「?」

 

少女は首を傾げている。

目は、両赤目に変わっていた。

 

瑞稀「やっぱり目の色が変わってる…」

 

蓮「見た目なんて関係ないさ。本質は変わらないんだからな。 人間の目が物を見るときに、それぞれの見方によって見え方は変わってくるが、結局真実なんて一つしかないんだ。」

 

蓮「赤い文字を赤いシートを通して見たら、その文字は見えなくなる。だが、シートがなければその文字はもちろん見えるし、特殊な方法で見たら、普通じゃあ見えない色だって見えてくるかもしれない。 真実なんてそんなもんだよ。」

 

瑞稀「なにか深いことを言ってる気がするけど 当たり前のことを言ってるだけじゃん」

 

蓮「痛いところを突くねえ!」

 

音楽はまた変わる。ボーカル(声)が入っていない、インスト曲と呼ばれるものだ。

 

瑞稀「やっぱりこの曲が1番だよ。元々2曲だったけど、この曲が主要曲だったし」

 

蓮「わかってないなぁ。瑞稀くんは…このバンドの曲は全部神曲だよ」

 

瑞稀「それ言ったらおしまいじゃん」

 

…すると、蓮のカバンの中にあったスマホが、けたたましく鳴った。

 

蓮「メールかな 瑞稀くん確認してくれる?」

 

瑞稀「あぁはい」

 

彼女は彼のカバンからスマホを取り出して確認した。ロック画面が現れる。

 

瑞稀「パスワードは…」

 

蓮「1989だよ」

 

言われた通りに入力すると、可愛らしい女性のホーム画面に移った。

 

瑞稀「愛しの奥さん、紗和さんからのメールですよ。」

 

蓮「あぁ〜紗和ちゃんね!読み上げてちょうだい!」

 

蓮はニヤニヤしながらそう言った。

 

瑞稀(一気にダラしなくなった…どんだけ奥さんに甘々なんだよ…)

 

瑞稀「"面白いのゲットしたから、これあげる♡" …付属ファイルに…"Einsatz"ってかかれてますが…」

 

蓮「あぁ、オッケーありがと!返信は後で僕がするから、カバンに戻しといて!」

 

瑞稀「???はあ…」

 

彼女はメールの内容がわからずに、困惑しながらスマホをカバンの中に戻す。

 

蓮「お、もうそろそろ着くよ!」

 

瑞稀「やっとですか!!!」

 

蓮の言葉を聞いた瞬間、彼女の困惑は消えてしまった。

 

 

 

ーースピーカーからは、インスト曲が終わった後にまた違う曲が流れ始めたのだった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ここは、スワンキーストリート。

黒塗りの高級車の中から出て、事故現場を眺めている人が2人いた。

 

???「言わんこっちゃない。またしくじったんですね…?」

 

その高校生くらいに見える、眼鏡をかけたやや太り気味の青年が、少し身長が低めの娘に話しかける。

 

???「黙れ。これはまだ練習だ。"車を運転している男への攻撃が成功した"んだから褒められても足りないくらいだ」

 

その娘は、年齢は13歳程であろうか。

銀髪銀目で幼めの顔立ちをしているが、手には妖しく光を反射する、大きな鎌を持っていた。

 

娘にとってそのオーラを纏っている鎌は、重いのか肩に掛けるかたちで持っている。

 

???「圭。この事故、揉み消せるんだろうな?お前のスタンドは有能だからな。」

 

その圭と呼ばれた青年は、ため息をしながら答える。

 

圭「またですか… いちいち警察とかを洗脳するのって、無駄に時間かかるんですよ… 寝てないとまず発動できないし…」

 

???「黙れ それがお前の役目だろう」

 

その娘は体を翻して、黒塗りの車に乗り込む。

 

圭(チッ… 俺がこの計画をプロデュースしてるってのに、いい気になりやがって…)

 

圭も、娘同様に車に乗り込む。

 

???「なんだよ、何か文句あるのか?いってみろよ。言葉次第では…」

 

???「お前のも、そこらにポイしてやるぞ」

 

その娘は、圭にその大きな鎌を見せつける。

 

圭「いや、文句なんてないですよ(あるに決まってんだろ…)」

 

圭(なんで俺が年下に向かって敬語を使わなくっちゃあいけねーんだよ… 第一、鎌しか出せてねー癖に能力だけが一丁前に強いってのが気に入らねーんだよな…)

 

圭「それより明さん、蓮が来てたようですね… そろそろあの夫婦とも殺ったほうがいいんじゃあないんですか?」

 

その娘の名前は明というらしい。

 

明「お前、あいつら一応家族なんだぞ。紗和ねぇに至っては無害だ。両者ともスタンドは持ってないしな…」

 

圭「それだけでなく、今回の件で、空条家内でも最大の敵の一人娘が行方不明らしいですよ」

 

明「あの…鑑定人?占い師?どっちだか知らんが、言ってた奴か… スタンド使いでもないのに、人を占えるとは凄い奴だ」

 

圭「えぇ。SPW財団(やつら)からスタンドの矢を奪ってその占い師に刺したら、きっとすげー能力が手に入りますよ」

 

明「まぁいい…どれだけ長くかかってもいい。私たちの手で、SPW財団(やつら)を乗っ取るまで、どれだけの命が…魂が無駄になろうと私たちは止まることはない…」

 

 

その黒塗りの高級車は、夜の闇に溶けるように、何処かに走ってゆくのだった。

 

 

 

スタンド紹介

スタンド名「ペナルティーライフ」

スタンド使い名「魚塚次郎」

近距離特殊型の、人型スタンド。

数学的なデザインの身体に、所々にタイマーがついている。物を触ったり殴ったりするとそのタイマーをつけることができる。

タイマーの時間が切れると、タイマーが付いている物や部位は、その機能を停止してしまう。

タイマーの時間は1分〜から設定できる。

タイマーは、射程から出るか、このスタンドを使える人じゃないと取ることはできない。

破壊力 :C

スピード:B

射程距離:C(半径10m)

持続力 :A

精密動作:C




5000文字くらいに2時間もかけてやがる私って一体…?


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#27 夢を見る者

遅れてごめんなさぁい!


――蓮「瑞稀、ここから逃げるぞ… 反SPWがもうここに来ている… この事故を "もみ消す"つもりだッ!」

 

助音は、夢を見せるスタンドの力で、"15年前の交通事故が起きた後"の夢を見せてもらっていた。

 

空条家が運転している車に、高田という男が乗っている、"暴走している車"が突っ込んだという事故。

 

その事故現場に、SPW財団から枕木蓮という男と城戸瑞稀という娘が派遣された。

2人は事故の真相を調査するために派遣されたらしい。

 

――魚塚次郎「ここから立ち退け」

 

現場を調査している前に立ちはだかった黒服の大男は、反SPWの人間だった。

 

その男のスタンド能力で脅された蓮はパッと調査を行った後に、その現場を後にした。

そして蓮が、別行動をしていた瑞稀の元に向かった時に発したのが冒頭の発言である。

 

その後、瑞稀と蓮は情緒不安定な少女、空条助音を保護して研究所に戻るのだった。

 

 

 

 

 

――夢を操作するスタンド使い、坂根圭が空条助音によって倒されたとき…

 

夢世界の中で、その坂根という男のスタンド、"アナザーモーニング"が助音のスタンドのラッシュによってふっとばされた。

 

キッド「あーらら…可哀想…そうでもないか。僕はね、ジョジョにお前を倒して欲しかったんだよ…」

 

その城戸瑞稀という女性は、すぐそこに倒れている坂根圭に向かって言った。

 

キッド「さて、ちゃんと本体から情報をとりださないとね〜ッ」

 

その女性が持っていた拳銃は消えていた。そして今や、ガラ空きの手をワキワキと動かしている。

 

キッド「おや…?」

 

すると、先程まで助音の夢を映していた、ヒビの入ったPCのディスプレイが目についた。

 

"ディスプレイの映像は途切れておらず、微弱ながらも映像を流し続けていた"。

 

キッド「お前ッ 生きてるなッ!!」

 

彼女が勢いよく振り返ると、坂根という男は、倒れている先で"なにやらスマホを操作していた"。

 

キッド「"ムーヴメント"ッ!!!」

 

彼女が、"枕木翔太郎という少年の持つスタンド"を叫んだ瞬間に、真っ黒い拳銃が現れた。

 

そして、躊躇なくその拳銃の引き金を引いた瑞稀。

距離はあまり離れていない。すぐにでも、光を反射したり屈折させたりしている"ガラスの弾丸"は坂根圭に近づいていって…

 

圭「"Einsatz(アインザッツ)"…」

 

 

ぱりん。

 

拳銃撃たれた実弾と同じ速さで飛び出した"ガラスの弾丸"は、あまりにも虚しく、そして乾いた音を立てた。

 

キッド「弾丸が…"貫通していない"ッ… ガラスの弾丸は貫通力が随一高いのに…ッ」

 

彼女が言う通りにガラスの弾丸は、"男に直撃した瞬間に割れてしまった"。

 

ガラスの破片をぱっぱと取り払ったその男、坂根圭は、灰色のオーラを体から放っていた。

 

圭「油断したな、城戸… お前はそうだから、蓮に追いつけないんだ…昔からそうだった…」

 

キッド「お前は… いや、お前も"持っていた"のか…」

 

拳銃の標準を眉間に合わしたまま、瑞稀は坂根に話しかける。

 

圭「正確には違う… お前のその拳銃の能力も、奴から貰ったんだろうが… 俺はただ単に奴から奪っただけだ…」

 

キッド「へぇ〜 やっぱり、僕を始末しようって言うのかい? 君も知ってる通りに、僕は"瞬間移動"の能力を持っている。この意味がわかるだろ?」

 

そういう彼女の手には、魔法陣が発していた。しかも、拳銃は消えていた。

 

圭「お前を始末するなんて造作もないことだ。明様がお前をどうせ始末するだろ… だが、俺をコケにしたお前は絶対に許さんッ俺が始末するッ!!!」

 

黒い岩のようなスタンドを出現させた坂根。そのスタンドは瑞稀に殴りかかるが、その拳があたる寸前に彼女は消えてしまった。

 

キッド「でもね…まだ帰らないよ… お前ら側の情報を全く貰ってないからね〜」

 

その手に魔法陣を宿した女性は、その男の背後にいた。

 

圭「やはり"逃げなかった"な… 俺の予想通りだったが、こんな近くまで来てくれるとは思わなかったよッ!!」

 

キッド「ッ!!」

 

その男はスタンドではなく、"拳"を後ろの瑞稀に向けて勢いよく叩きつけた。

 

キッド「ぁぐっ」

 

瑞稀は部屋の端に殴り飛ばされた。

 

圭「俺は今…無性に腹が立っているッッ!!!」

 

圭は、オーラを纏ったその足で硬そうなゲーム機をいとも簡単に踏み潰した。

 

キッド「お前…"Einsatz"って言ってたが… やはりあの人が持っていた能力か…いつ奪った…?」

 

そういう瑞稀の口からは血が出ている。

 

圭「ふん、お前には関係ねえなあ… どうせ、奴…"蓮は消えちまったんだからな"」

 

キッド「なんだと…ッ?」

 

圭「奴…蓮は、洗脳されてから1週間も立たないうちに、監禁していた場所から消えちまったんだ。"携帯に脱出できるような能力を隠してた"んだろうな…」

 

圭は苦虫を噛み潰したような顔をしている。

その顔だと、まだ"蓮という男"は発見されていないのだろう。

 

圭「しかしそんなの関係ない…奴は俺が洗脳したままだから、解除しない限り俺たちの邪魔にはならないならな…」

 

下卑た笑い声を漏らす圭。そんな彼を、見下すように見つめている瑞稀は、何やら後ろで手を動かしているようだった。

 

圭「さて…お前の瞬間移動は、インターバルという制約付きだったな… しかも、深手を負ったその体ではろくに動けないだろう… ここで…お前を始末するッ」

 

壁にもたれかかっている瑞稀に近づく圭。

すると……

 

キッド「"プラスチックフラワー"」

 

体の後ろで携帯を操作していた瑞稀。その行動の結果なのか、見覚えのあるその白い刃だらけの凶々しいスタンドが瑞稀の前に現れる。

 

圭「ッ!!携帯にまだ能力が残ってたか… しかし、どんな能力を持っていようと、この"Einsatz"に勝つことは不可能だ…」

 

キッド「何やら自慢げだね?」

 

圭「この能力は、"身体を最高まで硬質化させる"能力だ… だから、さっきの拳も随分と効いただろう?少なくとも骨の何本かはイッてるかなあ…」

 

彼の言うことは本当のようで、オーラを纏う身体が硬くなっていることは、先程ゲーム機を踏み潰したことが物語っていた。

圭は、勝ちを確信しているのか、ニヤニヤしている。

 

キッド「へぇ…身体の硬質化ねぇ…」

 

彼女の目の前のスタンドが圭に近づいていった。

 

キッド「それじゃあ…」

 

その刃だらけのスタンド、"プラスチックフラワー"が、ぴっぴっ、と腕を振るった。

 

キッド「最高までに硬くなってるハズのお前の腕…なんで床に落ちてんの?」

 

圭「な」

 

圭がいる床に…腕が落ちていた。

そして、"圭の右腕が無い"。

 

それは紛れもなく、"物を最大まで鋭利にする"能力だった。

 

キッド「ほらほら、左腕も」

 

そういうと同時に白いスタンドは"手刀"で、圭の左腕を切り落とした。

 

ごとっ…と、いかにも硬くて重そうな音を立てて落ちた圭の左腕。

 

圭「おあああああああああああああ」

 

キッド「僕の方の能力は、物を鋭利にする能力だ…つまり、手刀が本当に刀になっちゃうんだよね〜 硬質化するって言ってたけど…その程度の硬質化なんだね〜」

 

淡々と挑発する瑞稀。しかし、圭はそんな挑発を気にせずに呟く。

 

圭「ぐッ…それも蓮の、"デイドリームワンダー"でコピーされた能力か…ッ」

 

キッド「そんなことはどうでもいい…はやく、ボスのことについて話した方がいいよ…」

 

その、ひざまづいた圭を見下ろす赫い目は、さっきまでの軽快さはなく、殺気立っている。

 

圭「だから…これ以上言うわけ…ッ」

 

キッド「…これ、何回繰り返すわけ?そろそろ学ばないとねえ〜」

 

圭「ぐぁぁぁぁぁぁぁ」

 

圭の両足がスタンドの手刀によって切断された。

 

圭(コイツ…本気で俺から情報を取り出すつもりだ…ッ!)

 

キッド「最後の質問だ。本当に最後のね。お前は…本当に情報を漏らすつもりはないんだな…」

 

キッド「ないなら殺すまで…」

 

圭「あの人はッ!!!」

 

遂に圭は叫ぶ。瑞稀の発言を遮るように叫んだ圭は、息切れでうまく発せれない言葉を一つ一つ紡いでいった。

 

圭「あの人は…枕木明は…"昇らない太陽"だ…」

 

それを聞いた瑞稀は、神妙な顔で聞き返す。

 

キッド「"昇らない太陽"だと?何が言いたい」

 

圭「あの人は…反SPWの要だ…あの人の能力がないとここまでやってこられなかっただろうし… つまり、あの人は俺たちにとって希望の光…つまり太陽なんだ…」

 

圭「しかしあの人は人前に姿をあらわそうとしない…今だってそうだ。 誰を照らすこともなく…」

 

圭「お前たち、ジョースターサイドを"夢を見る者"と例えるならば…俺たちは…あの人は、"夢を見てるフリを続けている者"なんだ。」

 

言葉を紡いでいく男、坂根圭には、今やもう身体にオーラを纏っていない。

 

圭「俺はきっと、ここで死ぬんだろう… だから1つ言っておいてやろう。」

 

キッド「…?」

 

何か不穏な空気を読み取った瑞稀。スタンドに身構えさせた。

 

圭「俺らサイドの情報を多く知ってるのはこの城戸瑞稀って野郎だッ!!こいつを優先して始末しろッ!!」

 

キッド「!!!」

 

――そこでようやく気づく。

 

キッド(誰かが僕らの話を聞いている…ッ!?)

 

圭「へッ、これでお前が始末の対象で優先されるわけだ… 瞬間移動の能力をもっていようが、狙撃されたりとかもするかもなぁ…」

 

キッド「ッ!! "プラスチックフラワー"ッ」

 

 

 

 

……その男の首が吹っ飛んだ。

 

PCのディスプレイで微弱に続いていた夢中継も、遂に途切れてしまった。

 

キッド(クソ…僕の瞬間移動の能力とかの事情を知られてしまったってわけか…流石No.2だッ)

 

彼女は瞬間移動の能力で、坂根の家の屋根に出る…が、人の気配がしない。

 

キッド「しょうがない… 追跡は断念するしかないか…」

 

瑞稀は追跡を諦め、坂根の部屋に戻る。

 

キッド「今日の収穫は…奴の能力だけか…?」

 

彼女は、懐からその携帯を取り出す。

そして器用に操作していった。

 

瑞稀は、電子メールの下書き用紙に、次のようなことを書き込んでゆく。

 

『アナザーモーニング … 本体:坂根圭 … 能力:対象の1人に自由に夢を見せる能力』

 

キッド「蓮さんのこの能力…貰ったのはいいけど、流石に電話はできないのか… スタンドのコピーや送信はできるのに普通の携帯電話として使えないのは残念だ… 蓮さんの安否もわかんないし…」

 

下書き用紙には、『コピー完了』と表示されている。彼女はすぐにそれを選択し、決定ボタンを押した。

 

 

すると、夢中継が途切れたハズのPCのディスプレイが、再び光が灯った。

 

キッド「これで僕も、"アナザーモーニング"を使えるようになった… 坂根は皆に悪夢を見せていた… 次は、僕が皆に瑞夢を見せる時だ」

 

 

――それから少したった後…

 

モニターには、真っ暗闇にいる空条助音が映っていた。

 

そして、瑞稀はその女性に話しかける。

 

キッド「Salut(やぁ)!元気そうで何よりだよ〜」

 

 

 

 

 

――ここは、15年前の交通事故の続き。

 

事故現場から、空条助音を保護して帰った枕木蓮と城戸瑞稀。

 

瑞稀「やーっと研究所についた…」

 

少女は伸びをしながら呟く。

 

蓮「瑞稀くんはせっかちすぎるんだよなー…」

 

助音を抱っこしながら車から出てきたのは、枕木蓮だった。

 

瑞稀「まぁまぁ、はやく研究所に入りましょ!」

 

 

そうやって、2人は研究所に入ってゆく。

 

 

???「おかえりなさい〜!!!瑞稀ちゃんもおかえり!!!」

 

瑞稀がドアを開けた瞬間に、陽気な声がとんできた。

 

瑞稀「ただいま、紗和さん!」

 

その女性は紗和というらしい。

 

蓮「ただいま〜」

 

蓮は助音を抱っこしながら入ってくる。

その光景を見た紗和。

 

紗和「蓮さん、その子は…?」

 

瑞稀「あっ」

 

その金髪ロングの髪をなびかせ、蓮を見つめる銀色の紗和の目は若干キレ気味である。

 

紗和…… 枕木紗和。蓮と同じ27歳で、蓮と25歳の時に結婚した。蓮は、苗字を紗和の姓の枕木にしたので、紗和の苗字は枕木のままである。

結婚する前から同棲しており、今もなお研究所で仲良く過ごしているのだ。

 

瑞稀「紗和さん、蓮さんは決して浮気なんて…!」

 

蓮「紗和。この少女の名前は"空条助音"だ」

 

蓮は、瑞稀の発言を遮ってしゃべった。

 

紗和「!!!空条って…!」

 

蓮「わかってくれたみたいだね」

 

瑞稀は、蓮に言葉を遮られたことに少し憤怒していたが、紗和の殺気が消えたことに安堵した。

 

蓮「瑞稀くん、この子連れて手洗って、部屋に戻っててくれるかい?これからどうするか考えるからさ…」

 

瑞稀「あ、はい。」

 

瑞稀に助音を任せた蓮。瑞稀が扉を閉めたのを見て、蓮はどかってソファに座り込むと、ちょこんと紗和が蓮の隣に座る。

 

蓮「なんであの子らを退避させたのはわかってると思う。」

 

紗和「交通事故のことでしょう…?一体何があったの?」

 

銀色の目が、心配そうに蓮を見つめる。

 

蓮「今回の件は…スタンド使いの仕業だった…!しかもだ!やはり明も関連している…!」

 

紗和「明って…!めいちゃんのこと…!?」

 

蓮「そうだ… もちろん、明だけではできない犯行だ…この事件を揉み消すには彼女だけではきっと不可能だし… これで明らかになった。今までに起きていた不可解な事件も、やはり彼女が関わっている…」

 

紗和は口に手を当てている。

 

紗和「めいちゃんはまだ13歳なのに…?」

 

蓮「妹を犯人扱いされるのに怒るのはわかる…でもだ。やっぱり、紗和… "君がスタンドに目覚めたと同時に、彼女も血統的にスタンドに目覚めた"可能性が高い… 能力ももしかしたら厄介かもしれない…」

 

紗和「まだ完璧にわかってないんでしょう?ちゃんと調査を続けるべきよ…まだ事件の全容が見えてないんだし…」

 

蓮「そうだね。でも、何があっても君は僕が守るよ…」

 

紗和「あら、柄にもないことを… 蓮さんの能力はよわよわなんだから、私が守る側でしょう?」

 

 

さっきまでの堅苦しい雰囲気が、談笑に変わってゆく。

 

 

少し隙間のあいた扉から蓮たちを眺めていた赫い目も、部屋に戻ったのだった。




めちゃ内容複雑になってるやん…


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#28 メッセージ

遅くなったのは、文字数が多いからです(違う)


――蓮「今回の件は…スタンド使いの仕業だった…!しかもだ!やはり明も関連している…!」

 

これは、空条助音の過去を巡る夢。

15年前…2017年、空条家を巻き込んだ交通事故の真相を究明しようとする、枕木蓮(当時27歳)と城戸瑞稀(当時15歳)は、行方不明になっていた空条助音を保護して研究所に帰還した。

 

助音と共に部屋に戻るように瑞稀に指示をした枕木蓮は、妻の枕木紗和に結果を報告していた。

 

紗和「明って…!めいちゃんのこと…!?」

 

驚いた声は部屋に反響して響く。

 

蓮「そうだ… もちろん、明だけではできない犯行だ…この事件を揉み消すには彼女だけではきっと不可能だし… これで明らかになった。今までに起きていた不可解な事件も、やはり彼女が関わっている…」

 

紗和「めいちゃんはまだ13歳なのに…?」

 

驚きと、少しの憤怒が混ざった声。

身内…つまり"妹"を、今までに起きていた事件の犯人として推理されるのは、怒るのも当然だ。

 

蓮「妹を犯人扱いされるのに怒るのはわかる…でもだ。やっぱり、紗和… "君がスタンドに目覚めたと同時に、彼女も血統的にスタンドに目覚めた"可能性が高い… 能力ももしかしたら厄介かもしれない…」

 

紗和「まだ完璧にわかってないんでしょう?ちゃんと調査を続けるべきよ…まだ事件の全容が見えてないんだし…」

 

そんなこんなで、事件の真相や枕木明についてはまだ様子見ということになったのだった。

 

 

【翌日】

空条助音を保護して夜が明けた。

助音は瑞稀とともに寝ている。

 

朝6時ほど。先に起きていた蓮と紗和の2人は、コーヒーを啜りながら話していた。

 

紗和「蓮さん…あの子は本当に空条助音なの?」

 

コーヒーを一口飲んだ紗和が言う。

 

蓮「うん、能力で調べた… が、やはりなにかおかしいんだ… 財団からもらった彼女の写真だが…」

 

蓮は、近くにかけてあったコートの中から1枚の写真を取り出して提示した。

 

紗和「目が碧色…ッ!」

 

昨夜蓮と瑞稀が連れてきた、"空条助音"の目の色は赤色。しかし、目の色以外は見た目は同じだ。

 

紗和「血統やスタンドの発現が関係して変わったのかな…?」

 

実際、血統の都合で黒髪から金髪に変わった少年もいるらしい。

 

紗和は、信じられないという顔で写真をまじまじと見つめる。

 

蓮「いや、スタンドは持っていなかった。…が、なんとなく見当はついている。」

 

紗和「え!?わかってるの?」

 

蓮「恐らくなんだが、彼女は…」

 

 

???「二重人格っすね?」

 

蓮+紗和「!!!」

 

いつのまにか。気づくと、玄関の方に背の高い痩身の男性がビニール袋を携えて立っていた。

 

???「どうも、比良明良っすよ」

 

愛想たっぷりの笑顔で会釈したその男性は、比良明良(ひら あきよし)という名前らしい。

 

比良明良…当時20歳。軽い敬語を使うヘラヘラしたつかみどころのない人。花屋兼探偵で、枕木蓮と仲良し。"能力"が捜査に向いているため、蓮や周りの人にこき使われやすいが、それとともに周りの人からかなりの信頼を得ている。

 

蓮「比良くんか… やっと来たみたいだな!」

 

蓮は身を乗り出す。

 

紗和「比良さんじゃない!また蓮さんに無茶な仕事頼まれてきたの?」

 

明良「ええ…今回もまた難易度が高かったすけど、なんとかうまくいきました!!」

 

蓮「悪かった悪かった!コーヒー淹れてくるから待っててくれ!」

 

蓮は上機嫌にキッチンに向かっていく。

 

 

明良「あ、紗和さん… 土産といってはなんですがこんなもの用意しまして…」

 

明良が、怪しげに袋から何かを取り出す。

 

紗和「?」

 

彼がやっとこさ袋から取り出したのは、白が目立つ可愛らしい花の束だった。

 

明良「いつも通りのアイリスっすよ〜」

 

それは、アイリスという花で構成された花束だった。

 

紗和「比良さんはアイリス好きだよね〜」

 

紗和が花束を受け取って花びらを触ってみると、その花束が光出した。

 

紗和「あ、"メッセージ"の能力だったのね… お主もワルね…!」

 

明良「いやはや、お代官様には逆らえませんよ…」

 

2人は、お世辞にも良いとは言えない笑顔で笑い合っている。

 

紗和「さて、今回はどんな"過去"かしら?」

 

紗和がそんなことを呟きながら、不思議に光る花の茎をぎゅっ、と握った。

 

――するとそこから周りが光に囲まれた。

これは、ホログラムと呼ばれている立体映像だ。

 

映った映像は、漫画やゲーム、ホビーが売られている店と、そこにいる枕木連の姿。

 

紗和「あら、ここは…」

 

明良「これ、"視覚の花"っす。蓮さんをこの前見かけたんすけど、ヤケにキョドキョドしてたんすよね… なんで、"ちょっくら過去を採取してきた"んすよ」

 

その映像中の蓮は、周りを用心して見渡しながら、"仮面騎士"の変身グッズを買っていた。

 

 

 

……その光景を見た彼女の笑顔は、途轍もなく凄まじいものだった。(比良曰く、愛情と殺意が混ざった、矛盾極まりない笑顔。とのこと)

 

そこに、コーヒーのカップを持った蓮がやってきた。

 

蓮「あれ、この過去は…………」

 

どんどんと顔が青ざめてゆく蓮。

 

紗和「蓮さん?趣味で物買うなら、前もって相談するようにって何度言ったかしら…?」

 

蓮「比良ッッッ いつの間にこの過去を…」

 

蓮は明良に叫ぼうとするも、その途中で声が出なくなる。彼女が…オーラを纏ったムキムキの姿で、蓮の喉元を掴んで持ち上げていたからだ。

 

蓮「あのお 紗和さん…それはなんの能力で…?」

 

紗和「"Энергия(エネルギヤ)"よ。触った物などを強制的に成長させたり、衰えさせたりする能力。」

 

蓮「あぁ、ロシアで出会った人の能力のコピーを使ったんですねわかります…

ロシア旅行楽しかったなぁ…」

 

明良は、そう蓮が言葉を残した瞬間に逃げ出した。

数秒後に断末魔の叫びが聞こえる。

 

近くにあった部屋に避難した明良。部屋は暗い。

 

明良「"蓮さんの弱みとなる過去を採取してきて欲しい"って言ったのは紗和さんだけど… 愛妻家なのか恐妻家なのかちっともわかんないな…」

 

そう苦笑しながら独りごちた明良。

……そして、彼はその暗い部屋に誰かがいることに気づく。

 

瑞稀「あれ?まさか比良さん…?」

 

その少女は、赫い眠そうな目を擦りながら現れた。

 

明良「お、瑞稀ちゃんじゃないすか、久しぶりすね〜ッ」

 

彼は瑞稀と面識があるようだ。

明良は、自分よりも年下の瑞稀にさえ軽い敬語を使っている。それが周りから好まれる理由だろう。

 

明良「向こうの騒音で起きちゃったっすかね?ちょーっと夫婦喧嘩になっちゃったみたいで…?」

 

話してる途中で、明良はとあることに気づく。

 

明良(瑞稀ちゃんの後ろに…誰かいる?)

 

それは、瑞稀よりも小さい身長の少女。

"綺麗なオッドアイをしている"。

 

その少女は、涙ぐんだ碧い瞳と、もう片方のポカンとした赤い瞳で明良を見つめる。

 

瑞稀「比良さん…?あぁ、この子ね〜! この子は、昨日保護した空条助音ちゃんだよ〜!」

 

――比良明良は硬直した。

 

 

 

 

――15分後。

瑞稀から、保護した少女について詳しく聞いていた。

 

明良「たしかに、本人の写真と目の色が違うって言われてたけど、こんなにコロコロと変わるモンなんすね〜ッ」

 

瑞稀「可愛いからなんでもいいでしょ!」

 

そして、ようやくリビングからの騒音も消え去ったので、3人でリビングに向かった。

 

リビングには、「お前…やるじゃねえか…」と言ってるような倒れ方をしている蓮と紗和の2人がいた。

 

2人とも、余程動き回ったのか頬が赤く蒸気している。

 

明良「勝敗は?」

 

蓮「俺が紗和にキスして終了」

 

瑞稀「ひゃー」

 

……だから顔が赤くなってるのか…

などと思った比良だった。

 

ちなみに、ムキムキになっていた紗和の体は元のスリムな体に戻っていた。

 

 

明良「んで蓮さん、この少女が空条助音ってマジすか?」

 

すっかり冷えたコーヒーを啜りながら蓮は答える。

 

蓮「ああ、大マジだ。能力で調べたからな…さっき"二重人格っすね?"とかドヤ顔で言ってたのにわかんなかったのかよ…」

 

少し呆れた視線を向けられた明良は顔をしかめながら、助音の頭を優しく撫でた。

 

明良「"デイドリームワンダー"のコピーの能力が大規模すぎて、どれが元々の能力なのかわかんないんすよね…あれ?調べる能力はコピーしたやつだっけ…?」

 

蓮「まぁ深く考えるな。とりあえず今は、"交通事故現場の過去"が見たい。」

 

それを聞いた明良はそれこそまた顔をしかめた。

 

明良「相変わらずせっかちっすね〜… まあいいですけど… "メッセージ"」

 

すると、ソムリエのような格好のスタンドが明良のそばから現れる。 

 

メッセージ「…」

 

男性の顔つきに、モノクルから覗く目がその場を緊張感で包む…

 

 

 

メッセージ「呼ばれてドンッッッっ!!!」

 

その場にいる紗和と蓮がズッこけた。

"スタンドが見えていない"助音と瑞稀は、こけた2人を不思議そうに眺めるのだった。

 

蓮「お前の能力、こんなユニークな奴だったっけ??」

 

メッセージ「その通りですよ〜ッ 私、"メッセージ"は、自立型のスタンドでございますから!!」

 

自立型スタンド…本人の意思に関係なく、思考したり行動したりできるスタンド。もちろん本人が制御することが可能だが、精神力が弱ければ制御しにくい。

 

紗和「スタンドはスタンド使いに似るってこういうことね…」

 

明良は苦笑を浮かべ、子供2人組は未だにクエスチョンマークを頭の上に浮かべるのだった。

 

 

 

――紗和は、過去が再現されているリビングから子供たちを連れ出して他の部屋に移った。

 

それは、蓮が"残酷な映像だから"と言っていたのもあるし、"過去の映像を見れない2人"を考慮したうえである。

 

瑞稀「比良さんて、スタンド使いだったんだね〜 いったいどんな能力なの?」

 

助音をあやしながら、瑞稀は言う。

 

紗和「あの人はね…"五感の1つを使って過去を再現する能力"よ。その場の匂いだったり、視覚だったりを再現する、捜査にもってこいの能力なの。」

 

瑞稀「じゃあ、今は現場検証を行ってるんだ…」

 

瑞稀は納得する。

 

彼…比良明良の能力は、"五感の種"のうちの1つを植え、時間経過で育った花を採取することによってようやく発現する。五感の1つからしか選べないということや、時間がかかるのが傷だが、"五感の花"は保存可能であるのが強みだ。

 

先程、ホログラムで投影されていた"枕木蓮の過去"も彼の能力、"メッセージ"によるものである。

 

瑞稀「そういえばさ、蓮さんが"二重人格"とかなんとか言ってたけど、この子は二重人格なの?」

 

紗和「恐らく…ね。私も聞いてようやくわかったわ。」

 

紗和はそう言いながら、聞いたことがある事例を思い起こす。

多重人格…解離性同一性障害について、このようなことが言われたことがある。

 

「この世には複数の人格を持つ人間がいて、それは精神だけではなくて、肉体、筋力も別人となり、言葉すら別の言語となるケースもある」と。

 

人格の変化によって、性格が変化するというのは多重人格の基本事項なのだが…

稀なケースで、人格が変化するに伴って身体も変化するといったものがある。

 

まだ希少な例なのだが、"人格の変化にあたって、筋肉が変化して顔さえ変わったり、年齢さえも違ってみえる"というものさえある。

 

思い起こしたことをそのまま瑞稀に伝えた紗和。

瑞稀はわかったようなわかってないような顔をした。

 

瑞稀「二重人格って、性格とかを切り離して分離するってことですよね?そこまで深く考えたことなかったなぁ…」

 

しばらくして、蓮と明良から「入っていいよ」と声をかけられたので3人で部屋に入った。

 

そこで待ち受けていたのは、重い雰囲気。

芳しい結果じゃあなかったのか、それとも…

 

蓮「今回も瑞稀くんには出てってもらう。理由は…わかってくれるな?」

 

明良「今回は僕からも言っとくっす。今回のは…マジにヤバいんでね…」

 

2人は、今までにないほどに神妙な顔をしている。

 

瑞稀「…」

 

しかし、彼女から反応はない。俯いたままだ。

が。彼女はいきなり、紅潮させた顔を上げて蓮をいきなり睨みつけた。

 

瑞稀「そんなの…そんなのってさ…」

 

蓮「…?」

 

紗和は、瑞稀が少し涙ぐんでいるのを見て、何を察したのか助音を抱っこしてすぐさま部屋から去った。

 

 

瑞稀「そんなのってさ、無責任じゃんッッッ」

 

叫んだ。

紗和が察したのはこれである。

 

瑞稀「あまり事件に関わらせるつもりがなかったんなら、なんで僕をスワンキーストリートまで連れてったんだよッッ 僕を現場まで連れてったクセに、解決しないまま"無関係"でサヨナラなんてできるわけがないじゃんッッッ!!!」

 

普段はあまり感情的にならない瑞稀。怒りは特に表に出さないがために、一度怒ってしまうと手をつけられない事態になることがザラにあるのだった。

 

瑞稀「僕だって、蓮さんを信じてるからついて行ったんだ!僕は調査について行って、蓮さんみたいな人になりたかったんだッ!」

 

一気に捲し立てた瑞稀。赫い目からは涙がこぼれている。

 

 

 

――蓮と明良は、顔を見合わせた後に微笑した。

 

蓮「そこまでも決意していたなんてね…そうまでも言われたら、断れないな」

 

明良「流石名探偵予備軍っすね… 探偵になるために蓮さんに目をつける着眼点を持ってる時点で、もう名探偵っすよ…」

 

蓮「ふん、覚悟しろよな。事件が解決するまでにたくさんこき使ってやるからな!それじゃ、今からもう一度現場の過去を見るぞ!」

 

それを聞いた彼女はぱぁぁぁっと笑顔になり…

 

瑞稀「うんッッッ」

 

 

ドアの隙間から覗いていた金色の瞳も、満足したのか少女を連れて部屋にいくのだった。

 

 

 

 

 

 

――そこで、急に夢は途絶えた。

 

助音「へ?」

 

先程まで、ダブレの過去を見ていた助音だったが、いきなり夢が終わってしまい暗闇に取り残されてしまった。

 

すると、またもや大きな画面が現れてそこに城戸瑞稀の顔が映った。

 

瑞稀「ジョジョ、ご機嫌いかがかな〜?」

 

助音「キッド、なんで夢止まっちゃったの?」

 

そう質問すると、キッドと呼ばれた女性は後ろから時計を取り出した。

 

瑞稀「ほら、もう朝5時くらいなんだよね〜 もう少しで起床時間になっちゃうからさ〜ッ それにしてもさ、さっきの夢を見て、ジョジョはどう思う?」

 

助音「うーん…どうって言われてもな… 実際知らない人ばっか出てきたし、よくわからない能力とかも出てきてるから混乱してるかな…」

 

彼女は赤色の目を閉じてうーんと唸っている。

 

助音「…でもね。 私の両親のこととかがよーくわかった。」 

 

キッド「…なんで多重人格になったのかはわかったみたいだね。」

 

助音「でもね、なんで今までその交通事故のことを忘れてたのかとかが結局わかってないんだよね。不思議なことに、高校生までの記憶がないの。」

 

キッド「まぁダブレも幼少期だったし、今回は枕木家の情報が多めだったからね〜」

 

助音「それじゃあさ、過去の中で重要なところとかを抜き出して見せれる?」

 

キッド「お、いいねえ!それやってみる〜ッ」

 

そう言うと、すぐさま黒い景色が変わっていった…

 

 

 

【2017年...スワンキーストリート】

その何もないような…大きい丘が近くにあるだけの道に、その少女はいた。

 

???「本当にここであってるんだろうな?あと、圭の奴には言ってないだろうな?」

 

その少女が近くにいた黒服の男に尋ねる。

 

黒服の男「はっ。坂根様には報告しておりません。これからどうなさいますか、明様。」

 

明「ご苦労。"標的"来たら私が始末するから死体の処理を頼む。」

 

黒服の男「はっ。」

 

それから数分後。

しっかりとみないとわからない程遠くに、その"標的"が乗った車が見えた。

 

明「たしかに時間通りだな。流石占い師と言ったところか…」

 

銀色に輝く髪を揺らめかしているその銀目の少女は、妖しく舌なめずりをした後にこう呟いた。

 

――明「"Where do I go?"」

 

 

――高田「どうしたもんか…」

 

その同時刻…SPW財団の幹部、高田という名の男がスワンキーストリートを車で駆け抜けていた。

 

彼、高田は、SPW財団の上位に立つ権力者なのだが、権力をひけらかそうとしないことや、他人思いの性格からして、周りから好かれている。

 

そんな男が今考えていることは、ズバリ言うと「反SPWの処罰について」である。

 

高田「最近奴らの動きが目立ち始めてきた… 周りの幹部たちは"どうせ何も出来ずに終わる"なんて言ってるが…この組織は何かがマズい…ッ」

 

独り言が夜の闇に消えてゆく。

高田は、車についているラジオを流した。

 

軽快な音楽から始まるそのラジオは、「杜王町ラジオ」と呼ばれているご長寿ラジオだ。

 

苛立っているからなのか、車のスピードは速くなる。

 

高田(どうせ誰もいないだろ…)

 

高田「ふぅ……ん?」

 

 

その一瞬。高田は道路の脇に"少女"を見た。

通行人かと思ったが違う。"立ち止まっている"からだ。

 

 

 

高スピードで走るその車から目視できたことは2つ。

 

その少女は銀髪銀目で、見たことがあったことと…

 

 

 

――その少女が妖しく光る鎌を携えていたこと。

 

 

 

その少女の横を通り過ぎる時にはもう遅かった。

 

気づいた時には、喉元を一閃に、その大きな鎌で切り裂かれていた。

 

傷は深かったのか、その男が、その男の意思で体を動かすことはもうなかった。

 

空虚な視線をそこらに飛ばしながら、その車は止まらない。

 

そしてその先には、

空条家の3人が乗せた車が走っていたのだった。

 

 

 

 

スタンド紹介

スタンド名「メッセージ」

スタンド使い名「比良明良」

人型の特殊型、自立型スタンド。ソムリエのような見た目でモノクルをつけたクールな男性型だが、本体と似てユニークな能力。自立しているために本体の意思とは逆に動くこともある。

五感の1つを使って過去を再現する、捜査にもってこいな能力。"五感の種"と呼ばれるものの1つを埋め、育ちきって花になることでようやく過去を再現できる。例えば、"視覚の花"を使うことで、種を植えた場所の指定した時間の過去をホログラムでその場に再現することができる。

原作の"ムーディ・ブルース"と似ている能力。

破壊力 :C

スピード:B(花一本の成長につき1分かかるが、本数が増えるにつれて、成長時間も1分増える。)

射程距離:B(植えた場所から半径25mの過去を再現することが可能。)

持続力 :A

精密動作:C




"デイドリームワンダー"とかいう、まだ詳しく説明されてない能力のせいで物語がめちゃ複雑になってますね…困ったわ


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#29 ノンフィクション

助音「あけましておめでとうございます!!」
翔太郎「今年も小説別れの雨をたくさん書きますので!!!」
ダブレ「今年もよろしくたのむぜ?」


15年前…2017年に起きたスワンキーストリートの交通事故。高田という男が起こしたとされ、空条家が巻き込まれた事故。SPW財団から派遣された枕木蓮という男と、城戸瑞稀という少女がこの事故の真相を究明しようとしていた。

 

事故現場から、被害者である空条助音を保護した2人。その翌朝に、"捜査向けの能力"を持っている、比良明良という男を招き入れた。

 

その男の能力は、"五感の1つを使って過去を再現する"というものであり、蓮、瑞稀、比良はその能力で現場で起こったことを見たのだった…

 

 

――瑞稀「予想以上に…ッ」

 

……これは、スワンキーストリートで起こった事故を能力で見終わった時の、最初に出た一言である。

 

蓮「ほら、言った通りに悲惨だったろ?」

 

瑞稀「こ、これくらい大丈夫ですよ…ッ」

 

そういう彼女は少し震えている。

 

明良「それにしても、奴の能力が見えてきたっすね… "鎌を出現させてた"っすけど…」

 

瑞稀「"Where do I go?"って呟いてたね…スタンド名かな?」

 

過去の映像では、少女は"Where do I go?"と呟いた後に、鎌を出現させていた。

 

蓮「その可能性が高いな。恐らく鎌を出現させるだけではないと思う。他の特殊能力があるとすれば、今の情報だけじゃもちろんコピーすることも不可能だ。」

 

明良「それにしても、でっかい鎌だったのに首を吹っ飛ばさずに命だけを奪うなんて…」

 

少女は大きな鎌を持って、高スピードで走っている車に乗っている男を攻撃した。

にも関わらず、首を吹っ飛ばさずに命だけを奪うとなるとかなり高技術なことを少女はやってのけたことになる。

 

蓮「僕は現場を直に調べてきたが… 喉元の傷は浅かったよ… じっくり見ないとわからないほど…実際、あれだけの傷じゃあ人は殺せない。」

 

明良「それなら蓮さんの言う通り、特殊能力で高田さんを殺したって線が強いっすね」

 

瑞稀「斬りつける瞬間に発動する能力とか?」

 

蓮「それが可能性大だな。 とりあえず続きを見よう。比良くん頼んだ。」

 

明良「了解っす。この花はスワンキーストリートで"枕木明の部下と思われる奴が電話してた"過去っす。ま、聴覚の花だけっすけどね」

 

すると、彼は花の茎をぎゅっと握った。

 

 

……高田の乗る自動車が、空条家の自動車に衝突してから30分後。

 

安っぽい電話コール音が数回鳴った後に、少女の声が聞こえてくる。

 

明『私だ 軽々しく私に電話をかけるとは、何かあったんだろうな?』

 

そこからは、まだ幼さが残る少女の声が聞こえてきた。かすかに車のエンジン音が聞こえる。

 

部下「申し訳ございません明様… 例外が発生していまして… "高田の死体が処理できないのです"…」

 

――明『死体が処理できないだと?』

 

恐らく既に事故現場から車で移動しているであろう明。もちろん警察やSPW財団に勘付かれないためだろう。

 

部下「何故か、高田の死体に触れなくて…! それだけでなく、車にも…!」

 

明『触れない…だと?舐めたことを言うんじゃあない。あの現場には高田と空条家しかいなかったし、消えていた助音さえスタンドは使えないハズだッ』

 

部下「こちらにも、訳がわからず…!現場にいるスタンド使いでさえ手がつけられず… 今、魚塚というスタンド使いを呼び出しているのですが、1時間弱はかかると…!」

 

明『む…反SPWには確かにスタンド使いは少ない…が、本当に何もできないのか?まだその現象が何なのかさえわかっていないのに…』

 

部下「坂根様にも報告しました。明様とすぐに合流できるそうです!」

 

それを聞いたその少女は、一瞬硬直した後に…

 

明『なるほど…貴様、圭に報告したのか…そうか…わかった。貴様はもう何もしなくていい。だが、そこに残っていろ。私と圭ですぐそこに向かう。』

 

その少女の言動は、どことなくキレていた。

はたから聞くと、ただの冷徹な声なのだが…その声には、"殺気"がこもっていたのだ。

 

 

車が急発進する音が聞こえた後、その音は途切れた。

 

 

――蓮「部下と電話するって、かなり庶民的なボスなんだなあ…」

 

音が切れて3秒後、蓮がそう発した。

これには瑞稀も呆れ顔で、

 

瑞稀「え、そこなの?もっと気になるところあるでしょ…」

 

明良「でも枕木明って人はまだ13歳なんすよね?存在を秘匿するってことを知らないだけなんじゃ…」

 

そういう明良や瑞稀にチッチッと指を振る蓮。

 

蓮「こう考えてみたまえ…"ボスの能力が特殊すぎて部下さえも恐れていて反抗できない"とか、"もしかしたら存在を追うことすらできない"とかかもしれないだろ?」

 

それを聞いた2人は驚いたような表情をしたが一瞬でそれを引っ込めた。恐らく信頼してないのだろう。

 

瑞稀「それにしてもだよ、僕が1番気になるのは、"高田さんの遺体に触れなかった"ってところだけど…」

 

明良「一体何が起こってたんすかねえ…これだけじゃサッパリわからないっすよ…」

 

すると、蓮が一息…ため息を吐いた。

 

蓮「わからなくて当然だ。」

 

明良「でも、蓮さんは何か察してる顔っすね…」

 

彼が言う通り、蓮の顔は少し困っているようだった。

しかしそれは、"わからなくて困ってる顔"じゃあなくて、"呆れ困っている顔"だった。

 

蓮「瑞稀くん、"遺体が触れない"ってことは恐らく…あの人、高田さんの能力だ…」

 

 

 

瑞稀「高田さんの能力…?」

 

明良「あの人、スタンド能力持ってたんすか!?結構つきあいが長い僕でさえ知らないすよ!?」

 

比良明良と高田はかなり仲が良く、普段からの繋がりが多かった。

 

比良は基本探偵ではなく花屋として営業しており、兼業で探偵をしていることは大っぴらにしていない。

高田は比良の花屋の常連であり、また、探偵としても高田は比良を頼ることがあった。

 

それほど高田と仲が良かった比良でさえ知らなかったというスタンド能力。それを蓮が語り出す。

 

蓮「あの人の能力は…難しいから簡単に言うが…

"現実をバグらせる"能力だ…」

 

瑞稀と明良は反応が薄い…というのも、よくわかっていないという顔だ。

 

明良「てかなんで知ってるんすか」

 

そう言われた蓮はポケットから携帯を取り出す。

そして、1つの画像を2人に見せた。

 

その画像には、先程の男…高田が、"紫色のオーラをまとって"立っていた。

 

明良「これって…スタンド?スタンドって写真取れないんじゃないんでしたっけ…」

 

瑞稀「え」

 

もちろん瑞稀には見えていない。彼女はスタンド使いではないから。

 

蓮「これは、"デイドリームワンダー"の携帯で撮った写真だ。」

 

明良「!!!"デイドリームワンダー"って…!」

 

"デイドリームワンダー"…。

枕木蓮が使用している携帯電話の能力。その携帯電話に他人のスタンド能力の情報を詳しく入力することによって、その能力をコピーして使用することができる能力。使用中のコピーした能力を一度解除すると二度と使えなくなってしまう。

コピーした能力をメール等のSNSで送信することができ、受信者はその能力を使用できる。

 

蓮「この携帯は…スタンドの写真を"撮ることができる"。また、撮った能力の情報を得ることができる。

だから、僕は"高田さんの能力を知っている"。」

 

つまり、画像に映っているのは紛れもない高田のスタンド能力である。

 

蓮「彼の能力は、"スタンドを発現させると同時にその場から半径25m以内の情報をバグらせる"能力。能力は基本制御できずに、何が起こるかわからない。また、発現させる時に起こせるバグの数を調節できるらしい。」

 

瑞稀「…蓮さんはその能力を直に見たことがあるの?」

 

疑うような顔で彼女は言う。

 

蓮「…一度だ。起こったバグの数はわからない。遠くから見たからな… 場所は、スワンキーストリートにある大きな丘の、木の下だったよ…俺がハッキリとわかった"バグ"は2つだけだ。」

 

蓮はVサインをしながら、その事例を静かに呟く。

 

蓮「まず…"高田と敵対していた男が消滅した"。あと一つは、"高田に同伴していた女性の名前が変わった"。ただそれだけだ。」

 

"男が消滅"し、"女性の名前が変わった"。それは確実に無差別であることを示していた。

 

蓮「別に、その男のことをみんなが忘れた…つまり、"存在ごと消えた"というわけではなかった。」

 

蓮「でも…だ。"名前が変わってしまった女性や、周りの人が元の名前を思い出すことはなかった"。」

 

瑞稀「それって…どういう意味…?」

 

蓮「その女性も、周りの人でさえ"名前が変わった"ということは認識していたのに、"元の名前を思い出せなかった"んだ。その女性の"戸籍や、書いた報告書でさえ名前が変わっていた"。」

 

明良「その人の…変わってしまった後の名前は…?」

 

蓮「"をー"だ。姓名無関係に、ただ"をー"と名付けられてしまったんだ。バグにな。…しかも、それだけじゃあなかった。」

 

蓮「その人は…名前の情報が変わってしまったせいで、他人との関係性の情報さえ変わってしまった…"誰と家族なのか"さえもわからなくなってしまった…」

 

衝撃の事実に驚く2人。もちろん、他人との関係性がわからなくなってしまうことは、"他人から忘れられた"のと同然だからである。

 

明良「無差別バグ攻撃… …そのスタンド名は?」

 

蓮「"ノンフィクション"だ。バグで変わってしまっても、それが現実だとさ。皮肉だな…」

 

瑞稀「ていうことは、高田さんは事故る前に"ノンフィクション"を発動させたってこと?」

 

蓮「そうなるな…恐らく、"数時間程度、当たり判定が消える"とかのバグだろう…」

 

彼が言っていることはきっと正しい。そうでもないと、"遺体や車に触ることができない"ということに説明がつかないからだ。

 

明良「蓮さんは…"デイドリームワンダー"でコピーしたんですか…?」

 

蓮「していない…恐らく、アレは存在してはいけない能力なんだと思う… 高田さんはかなり高齢だし、今までの経験があの能力を作り出したんだろう…」

 

蓮「それでも、僕達が現場を調査できたのは高田さんの"ノンフィクション"のおかげだ。何が起こるかさえわからない能力だが、今回は運が良かったみたいだね…」

 

明良「今回わかったことは、"枕木明がスタンドで高田さんを始末した"ことと、"高田さんがノンフィクションを発現させていた"ことっすね…」

 

瑞稀「明のスタンドをはやく捜査したほうが良いと思うけど…蓮さんできそうなの?」

 

蓮「わからない。…だが、若い芽を摘まないといけないのに変わりはない…ッ」

 

その3人の目は、いつになく真剣だった…

 

 

……いつのまにか、見ている夢の画面が変わっていた。

 

これは、自由に夢を見せるスタンド、"アナザーモーニング"の能力で見ている夢である。

「ダブレの過去を知りたい」という助音の願いによって見ている、15年前の夢。

 

すると、助音の目にはまた研究所が見えてきた。

そこには、"赤子を抱いている"蓮と、その周りにいる瑞稀、助音、紗和が映っている…

 

先程まで蓮や瑞稀といった人の顔を見ていたので、助音にはすぐにわかった。

"先程の過去から数年時が経っている"ことを。

 

すると、頭に響くような声が聞こえてきた。

 

キッド「これは、さっきの過去の映像から3年後の映像だよ〜 2020年だから〜、ショータくんが生まれてるわけだね〜ッ」

 

キッド…もとい、城戸瑞稀はそう言う。

 

助音(なるほどそれなら合点がいく。蓮さんが抱いている赤ちゃんはショータくんってことか… …てことは、キッドはショータくんともう会ってたってこと…?)

 

そう考えているうちに、過去の映像が動き出す。

 

 

――助音「ねーさー!その子の名前決めたのかよーッ?」

 

天真爛漫に、"両碧目の少女"は尋ねる。

2020年…つまり、空条助音は当時8歳ということになる。城戸瑞稀は18歳だ。

 

先程見ていた過去の映像は、助音が5歳だった時のもの。彼女はしゃべっていなかったが、8歳にもなるとやはり流暢に喋っている。その上、口調が少し荒い。

 

瑞稀「まあまあジョジョ、そう焦らないで…」

 

紗和「そうよ、弟分ができるのが嬉しいのはわかるけど、そう急がないでね…」

 

2人の女性が、助音を宥める。

 

蓮「そうだぞ、ちゃんと今から紹介するから待ってろ…」

 

蓮は、ゴソゴソとなにやら後ろの方から紙を取り出す。

 

蓮「僕と紗和で決めた、赤ちゃんの名前は…ッ!"翔太郎"くんだッッ」

 

手に持った紙を、ばっと開き見せびらかした蓮。

その紙には、どうどうと『翔太郎』と書かれている。

 

助音「うおおおおおッ!いい名前じゃあねーかァッ」

 

そう叫びながら助音は『翔太郎』と名付けられた赤子に走り近寄っていく。

その周りでは、瑞稀と紗和が満面の笑顔で拍手している。

 

瑞稀「それにしても…名前に困って決めきれずに、退院して期限ギリギリに決めるとはねぇ…」

 

紗和「あら瑞稀ちゃん、これでも結構本当に悩んでたのよ?瑞稀ちゃんもいつかこう思う日がくるハズよ!」

 

赤子の命名は、出産してから2週間という期限がある。また、出産者は出産時から大体5日程で退院できる。

なので、赤子の命名に迷いに迷った枕木夫妻は、紗和が退院して命名の期限2週間の最終日にようやく『翔太郎』という名前を思いついたのである。

 

蓮「なにしろ君らは希望の若手だからなぁ…ジョジョの祖父にあたる、"空条承太郎"をモチーフにさせてもらった!!」

 

瑞稀「えぇ〜…蓮さん自体はその承太郎さんとやらに…」

 

蓮「あってないよ」

 

瑞稀「オイ」

 

そんな談笑が続くが、ふと紗和が声を上げる。

 

紗和「あ、いろんな届け出を出しに行かないと…」

 

蓮「げ、そうだった…面倒だな… しょうがない、瑞稀くんはジョジョと一緒にお留守番しててくれなかい?」

 

瑞稀+助音「は〜い」

 

 

紗和と蓮が出かけて数分後。

 

助音「瑞稀ーッ、またフランス語教えろ〜ッ」

 

両碧目の少女が、ノートやら教科書やらを手に瑞稀に近づいていった。

 

瑞稀「いいけど…随分と蓮さんに似てきちゃったなぁ…」

 

瑞稀(蓮さんの旅行好きが似らなければいいけど…)

 

蓮や紗和は、SPW財団の仕事の都合で、様々な国に向かうことが多い。

しかし、SPW上層部の気遣いあってか夫婦揃って同じ場所に向かうことが多いので、実質"2人きりの旅行"になることが多々あるのだ。

 

訪れた国はかなりの規模にわたり、イタリア、アメリカ、ドイツ、ロシア…などと様々である。

その度に各国からスタンドを"デイドリームワンダー"でコピーしてきたり("Einsatz"や、"Энергия"など。)、蓮に至っては言語を多数覚えて日常で使うようになるのだ。

 

蓮は特にフランス語を気に入っており、日常で多用するために瑞稀や助音に浸透してしまっている。

 

瑞稀「前回は何教えたっけ?」

 

助音「Au revoir!!!」

 

瑞稀「そっかそっか、そうだったね…ジョジョはその単語気に入ってたもんね… さて、今回やるのは… …ん?」

 

言いかけた途端に、彼女は気づく。

 

助音の目が…"両方赤色に変わっている"。

 

瑞稀「…ジョジョ?」

 

助音「なーに?」

 

その少女は、先程の荒々しい口調とは打って変わっておとなしい口調でしゃべる。

 

瑞稀(…"ダブレの人格に変わっている"…ッ)

 

…それは、荒々しい性格の正反対である、みなから"ダブレ"と呼称されているおとなしい人格。

 

助音「お、いつの間にか"ダブレ"が出てるな」

 

瑞稀「え」

 

気づくと、その金髪の少女は碧色と赤色のオッドアイに変わっていた。

それは、"両方の人格が表出ている時"の目。

 

助音「瑞稀ねえね、どうしたの?」

 

助音「あ、ちょ…そんな"ねえね"とか言うなって…」

 

助音が1人漫才を始めた。

こころなしか碧目の顔の頬が赤く染まっている。

 

瑞稀「あー…ずっとダブレの人格だったら可愛い妹分なのになーッ」

 

助音「そんなこと言うなよな〜ッ」

 

2人は顔を見合わせて苦笑する。

助音の目も両碧目になっている。

 

瑞稀「気抜いてたんでしょ?ダブレの人格になるなんて… 自ら変えたわけじゃあるまいし…」

 

助音「ん、そうだな… なーんかいつのまにか変わっちゃってたんだよな〜ッ」

 

助音「もしかしたら、もう主人格をダブレにする時が来るかもしんねえな〜」

 

瑞稀「そんな時来なくていいのにね…」

 

瑞稀が、聞こえないくらいの声で呟いた。

 

助音「なんか言ったか?」

 

瑞稀「なんでもないよ」

 

助音「比良おじさんは〜ッ?」

 

瑞稀「え」

 

……まただ…ッ!

 

また。

いつのまにか目が赤色に。

 

助音「おわ、またダブレが…!お前は黙っとけって… 」

 

彼女は1人で自分の頬をつねったりしている。

 

助音「よし、おさまった… てか、そいや比良さんは見つかったのかよ?」

 

瑞稀「…まだ。いなくなったのは最近だけど、まだ見つかってないって…僕も蓮さんも探してるんだけど…」

 

助音「そうか…何かあったのかな…比良さん…」

 

 

――過去の捜索能力"メッセージ"を持つ、花屋兼探偵の比良明良が行方不明になってから、1週間経っていた…

 

 

スタンド紹介

スタンド名「ノンフィクション」

スタンド使い名「高田順平(75)」

オーラ型のスタンド。オーラの色は発現させる度に変化している。

「能力を発現させる瞬間に、その場半径25mで情報がバグる」という能力。

簡単に言い表せば、現実世界にバグを起こすというトンデモ能力。"バグ"は未知数で、可能性は無限大。

例えば、「個人情報がバグって名前が変わった」や、「相手の寿命が30年伸びた」「相手が幅跳びの連続使用によってワープできるようになった」など。

ただでさえ物理法則そっちのけのスタンド能力が、文字通りバグってしまったような能力。

破壊力 :ナシ

スピード:ナシ

射程距離:B(半径25m)

持続力 :?(未知数)

精密動作:?




ことり「なんで私達はあけおめとか言えないんですか」
鷹優「ごちゃごちゃ言うんじゃねー この私らのセリフでさえPixivには書かれないんだぜ」
瑞稀「あぁ〜メタいね〜」
蓮「僕のことも忘れちゃあいけない」
紗和「蓮さんはひっこんでてね〜♡」
明良「これはひどい」


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#30 R.E.V.I.V.A.L.

助音「キッドって、蓮さんに似たのかもね!」

キッド「え、急にどうしたの?」

助音「別に〜?(嬉しくて照れてる…キッドも可愛いところあるね〜)」


――助音「ダブレの過去を軽く見て、わかったことが多々ある。」

 

いきなり、"金髪両赤目の女性"は夢の中に叫んだ。

すると、少女時代の助音や瑞稀が映っていた夢の世界が、虚空に変わって真っ暗になる。

 

そこには金髪両赤目の女性が1人で、銀色の霧がかかっている場所に立っていた。

 

キッド「…へぇ。」

 

その声は、脳内に響くような声ではなかった。

"直接"聞こえる声。いつのまにかキッド…もとい、城戸瑞稀が目の前にいた。その赫い目で助音を見据えながら。

 

助音「例えば…その、捜索向け能力を持っている"比良明良という男が行方不明になっていること"とか…!」

 

それは、先程少女の助音と瑞稀が話していた内容…比良明良が、1週間程前に行方不明になっていることだ。

 

キッド「その通りだよジョジョ…彼、比良さんは僕でさえ未だに発見できていない。一度蓮さんに発見できたのか聞いたことがあるけど…あの人は苦い顔しかしなかった…そんな顔、似合わないのにね…」

 

助音「蓮さんがそんな反応するってことは、まだ見つかっていないのか、それとも…」

 

想像を絶する考えに、助音は思わず目を伏せる。

 

キッド「でも僕は、"見つかっていない"わけがないと思っている。」

 

彼女が顔を勢いよく上げる。

 

キッド「蓮さんは特に、"デイドリームワンダー"を持っている。その能力があればいくらでも捜索系能力をコピーして使うことができるから、逆に"見つかっていない方がおかしい"と思っている。」

 

助音「"デイドリームワンダー"… 蓮さんの能力…」

 

キッド「あぁ…僕はスタンドという概念は蓮さんに教えられたから知っているけど、その時はまだ能力を持っていなかった…スタンドを手に入れたのはついこの前のことだ。ジョジョ、君も覚えてるだろ?」

 

それは、城戸瑞稀と枕木翔太郎が初対面したとき…いや、既に彼女らは出会っているため、"再会した"ときと言えばいいのだろうか。

 

助音「"デイドリームワンダー"って、よく説明されてなかったからよくわからなかったけど、"スタンドをコピーする能力"で間違いないよね?」

 

キッド「ま、能力の本質はそうだね…実物の携帯に能力が宿ったらしいから、スタンド使い以外にも触れるし、見えるらしいよ」

 

一度、助音は考え込む。よくよく考えてみたら、時系列がしっかりしていなかったり、何がどうなったのか、などを詳しくわかってないからこんがらがったのだ。

 

――結局枕木蓮さん、紗和さん、明は今どこにいて、どうなっているのか?

 

キッド「まあまあ、一応まだ続きあるし、ジョジョもそこまで深く考える必要ないよ。続き見るかい?」

 

そういう彼女は、俯いている助音の顔を下から覗き込んだ。

 

助音「…いや。もう2つだけ確認したい。」

 

キッド「…?何を確認したいのかわかんないけど、僕だって答えられないかもしれないからね?」

 

瑞稀は了承を取るように相槌を打つと、助音は頷いてゆっくりと話し出した。

 

助音「まず…"をー"という名前の少女のこと…」

 

キッド「…」

 

一瞬、彼女の表情が動いた。

 

キッド「ま、そりゃそこに気づくよね。ジョジョとあろう人ならば。」

 

助音「一度、私とショータくんとで交戦した少女…"風船を作り出す"能力の。キッドもそこにいたから、知っているでしょう?」

 

 

……それは、一日間も満たない間に起きていた。

"ダブレの過去の夢"を見ている今から数時間前に、助音と翔太郎は、"をーという名の少女"と交戦していた。

 

その少女は、翔太郎よりも幼く見えた。

 

 

――キッド「さっきの蓮さんたちの会話の中で…"ノンフィクション"って能力の話になってたね。」

 

助音「高田っていう男性のスタンド能力… 能力は、"無差別バグ攻撃"…ッ」

 

それも、夢で先程話されていたこと。高田と仲が良かった比良でさえ知らなかった、高田の能力。

 

……それは、"半径25m以内の情報をバグらせる"という非現実的な能力であった。

 

キッド「蓮さんは、バグる瞬間を遠くから見ていた… "高田さんの同伴の女性の名前が変わる瞬間"を。」

 

キッド「『"をー"だ。姓名無関係に、ただ"をー"と名付けられてしまったんだ。バグにな。』って、言ってたね」

 

……蓮が言ったことが本当ならば、誰もが"その矛盾"に気がつくだろう。

 

助音「蓮さんは…その、"をー"って名前に変わっちゃった人のこと、"女性"って言ってたよね?」

 

キッド「…うん、そうだね。」

 

その金髪の女性は、目を静かに閉じてからその記憶を反芻させる…

 

……そう。その"少女"の記憶を。

 

助音「キッド… “そのをーって人、若返った”の?」

 

 

 

 

……"をー"。私が知る限りは、反SPWに洗脳され、ショータくんや私を追い詰めた"少女"…

 

スタンド能力"ビヨンド・ザ・ムーン"は、触った物質から風船を作り出し、任意で爆発させて対象を攻撃するといったもの。

 

……私は、あんなちっちゃい子が敵だとは思わなくて…不意打ちを喰らってしまった。

 

――キッド「…"若返る"、か… それじゃあジョジョは、少なくともその"をー"が若返ったっておもってるんだね?」

 

キッドがそう聞き返した。

質問を質問で返されたうえに、勿体ぶられてる感じがして少し嫌になったけど、私は喋る。

 

助音「必ずしも若返ったとは言えない… 少なくとも、スタンド能力が原因なのなら、"若返った"とかじゃあなくて"復活した"とかも考えられるけど…」

 

つまりそういうことだ。

蓮さんは、““バグのスタンドによって、高田と同伴していた女性の名前がをーという名前に変わってしまった””…と言っていた。

そして、先日私とショータくんが対立したのは、"をー"という名の少女。

 

詰まるところ、私は…今あげたこの2人が"同一人物"じゃあないかと疑っているということだ。

 

キッド「"若返った"や、"復活した"か…」

 

助音「キッドはなにか知ってるの?」

 

キッド「僕?僕は…知らないかな」

 

あ、知らないんだ…

 

"知っているかもしれない"と思って思い切って聞いてみたが、知らないならしょうがない。

せめて、意見だけでも聞いてみようかな?

 

助音「じゃあやっぱり、私が会った少女と高田さんの同伴の女性は別人なのかな?」

 

キッド「まぁ…少なくとも10年以上前の話になるからね… もしかしたら蓮さんが間違ってたりしてて、ジョジョの言う通りに同一人物じゃなかったりするかもね…」

 

私は考えるのを放棄しそうになった。

何故なら、わかっていないことが全て"バグのせい"という一言で解決してしまうから。

 

もしかしたら、蓮さんが言っていたのは本当で、"名前が変わった女性が私が最近出会った少女と同一人物である"かもしれない。

 

……そうなってしまえば、"若返った"や、"復活した"なんて、ぜーんぶバグのせいにできてしまう。

 

助音「…キッドはさ、あの少女とその女性は同一人物だと思う?」

 

答えは数秒経ったあとにかえってくる。

 

キッド「僕が言えることは…確信はないけど、やっぱり同一人物なんじゃあないかと思うよ。」

 

助音「確信は…ないんだ…

もうこうなったら、今日にでもあの子がいる病院にいかないとね…」

 

これだけでも、かなりの進捗なんだろう。

欲張ってはいけない。飢えすぎたら、自分が堕ちに堕ちてゆくだけだ。

 

キッド「それで、2つ目の確認事項は?」

 

助音「これは…ってか、気づかないとおかしいことなんだけど…」

 

……全ての始まり、スワンキーストリートでの事故の時から気づいていた。

 

それは、自分の存在に疑問さえ抱いてしまうこと。

 

 

助音「私って…もともとはダブレだったんだね」

 

交通事故の時の、空条助音の目の色。

8歳の助音の性格。

 

論より証拠というのはこのことなんだ。

"今のダブレの人格は、主人格だったッ!"

 

キッド「…そうだね。

かなり重要なことだけど、思ったよりも動揺はしてないんだ?」

 

"動揺なんてしなかった"といえば、それは嘘になる。

少なくとも、自分が「空条助音」ではなかったという現実に魘されそうになったりもした。

 

でもそれよりも、"納得"があった。

 

助音「よくよく考えてみたら、ダブレが主人格だったっていう節はいくつかあったんだね。」

 

今考えてみればおかしくない発言。まるで、小説に挟まれた伏線のような。

ダブレの、「いや、私は空条助音さ」という発言もそうだし、"自分のココロと無関係に体が動く"といった出来事も、主人格であるダブレの仕業に違いない。

 

キッド「…僕は少なくとも君が別人格ってことを、さっきの映像からのように昔から知っていた。そして、ダブレが君の人格に"記憶の蓋"をしたことも。」

 

助音「"記憶の蓋"…」

 

それも、説明されなくてもわかるかもしれない。

 

"魂の鑑定人"との戦闘で初めてダブレと共闘したときに、思ったあの感情が証拠だ。

 

自分が多重人格であることを、

"気がづかなかった"のではなく、"忘れていた"。

 

キッド「君が言うダブレは、君に主人格の座を渡す時には彼女は君に、"記憶を思い出せる制限"をつけたんだ。それが"記憶の蓋"。 ジョジョ。君は、高校生以前は何をしていたんだい?」

 

助音「…思い出せない…!」

 

明確な記憶は、高校生の時からだ。

でも何故か、"両親はいない"と断定できていたし、キッドとも仲良くできていた。

 

助音「…ちょっと意地悪に聞くけど、なんでキッドは私が"記憶の蓋"をされてるって教えてくれなかったの?」

 

私は、意地悪い笑顔でキッドを覗き込む。

 

キッド「僕は嘘吐きだからね。」

 

いつもの笑顔。何の変哲もない、まさに清純無垢な、浄化されてしまうような。

 

質問の答えになっていないが、

キッドが言っていることは、たぶん真実。

 

恐らく、"記憶の蓋"をつけられていることを教えないことがなにか意味があることなのだろう。

 

助音「キッド…いや、瑞稀はさ。何を…どこまで知っているの?」

 

気になっていたことを耐えきれずに言ってしまった。

さて、どんな反応をするのだろうか…

 

キッド「しー」

 

予想外の反応。

彼女は艶っぽくウィンクをしながら、その細い指を助音の口元に持っていってそう言った。

 

キッド「もうそろそろ朝8時だよ。流石に話してたら時間がはやく流れちゃったね」

 

え、もうそんな時間なのか…

この銀色の靄しかない場所じゃあ時間はわからなくて当然だけど。

 

キッド「ジョジョとなら何時間でも話してたいけど、そうはいかないみたいだね。もう起きる時間だ。」

 

すると、眩しい光が私たちを包んで…

 

 

 

 

 

――助音「ん…」

 

目を覚ますと、いつも通りのベッドが目に入る。

何かよくわからないが、ココロがポカポカしている。

 

そしてよくみたら、足元のほうに翔太郎が、まるで病人を看病するようなつきっきりの体制で眠っていた。

 

キッド「Bonjour(おはよ)!いい夢は見れたかい?ジョジョ!」

 

枕の横には、さっきまで話していた女性がいた。

 

助音「うん、昨日今日はありがとね…」

 

キッド「大丈夫だよ〜 悪夢は僕とダブレ担当だからね〜ッ」

 

元気そうな、そして朗らかな声が部屋にこだまする。

 

ダブレ「なんでアタシも担当…まぁあながち間違ってないからいいか…」

 

助音「!!!」

 

金髪の彼女は、いつの間にかオッドアイになっている。

 

助音「ダブレ!!!!」

 

ダブレ「おう、"ジョジョ"。昨日はアタシがいなくて寂しかったか?」

 

もう1つの…いや、もう1人の人格がいる…それだけで、幸せを感じる。

 

助音「あ!やっと"片方"じゃない呼び方してくれた!!」

 

その会話で、翔太郎が起きかけてきた。

 

ダブレ「まぁ…坂根とかそこらへんの借りがあるからな… 瑞稀も、随分と手間かけちまったみたいだな」

 

翔太郎「えと…これ、どうなってるんですかね?うまくいったってことですか?」

 

眠たげな目を擦りながら、翔太郎はつぶやく。

 

助音 「うん!作戦成功だよ!!!」

ダブレ「おう!作戦成功だな!!!」

 

2人の声が重なる。

それを聞いた翔太郎が、嬉しそうに飛び跳ねた。

 

 

キッド(ふふ…微笑ましい光景だけど、助音とダブレはやっぱり1人で会話してるの面白いな…)

 

そんなことを考えながらも、彼女も笑う。

 

作戦成功。

 

 

 

スタンド紹介

スタンド名「Einsatz(アインザッツ)」

スタンド使い名「不明(ドイツ人)」

真っ黒い岩の塊のような、近距離パワー型の人型能力。自分の身体や射程距離内の物体を最大限まで"硬質化"できる能力。

破壊力 :A

スピード:D

射程距離:B(半径3m)

持続力 :B

精密動作:D

 

スタンド名「Энергия(エネルギヤ)」

スタンド使い名「不明(ロシア人)」

黄色いオーラを纏うオーラ型の能力。

自分や、触ったものを成長させたり、退化させたりすることができる能力。

自分の筋力を活性化させたり、年齢のサバを読んだり、わざと過剰に成長させることで物体の細胞レベルまで壊死させることができる。

射程距離が何故か存在せず、能力を任意で解除するまで能力の影響は続く。

破壊力 :ナシ

スピード:B

射程距離:ナシ

持続力 :A(解除するまで続く)

精密動作:B




キッド「作者さんや、"デイドリームワンダー"のせいで物語が複雑化してやしませんかい?」

作者「そんなこと言わんといてくれや キー能力なんだからしゃーないやろ」


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#31 閑話

ようやく新しいのが出せた!
随分とお待たせしました!


――ことり「へー…つまりは、助音ちゃんは城戸瑞稀や枕木蓮に保護されてたってワケですね」

 

……これは、空条助音が"ダブレの過去の夢"を見る少し前の夕方の話…

 

TG大学病院『調査部』の部長天久鷹優とその部下、小鳥遊ことりは、仕事終わりにこのような話をしていた。

 

『何故空条助音は二重人格になったのか、何故スタンド能力が2種類も存在するのか』

 

質問を鷹優に持ちかけたことりは、"空条助音が15年前の交通事故によって二重人格になった"ことや、"元々の主人格が今で言うダブレだった"ことなど順々に説明を受ける…が、一向にその疑問の答えに向かいそうにない。

 

ことり「結局答えに辿り着かなさそうなんでそろそろ答えだけ教えてくれませんか?」

 

焦れてついにことりがそう言った。

それを聞くと鷹優も呆れ顔で、

 

鷹優「はぁ?まだわからないのか?ここまできて?」

 

ことり「…わからなくてすいませんね…」

 

そういう彼女の顔は硬直してワナワナ震えている。

 

鷹優「まぁ…じゃあヒントをやろう。"城戸瑞稀や枕木蓮が助音を保護した"ことは確かに関係ない。

そして、"解離性同一性障害"は、自分の感情や性格を切り離すという症状だ」

 

鷹優はいきなりヒントを出した。恐らく、ことりが若草色のオーラを纏っていたからであろう。

彼女は怒り(もしくは殺意?)のせいか、無意識にスタンドを発現させていた。

 

ことり「んー… わからないです〜」

 

ことりは降参とでも言うように肩をすくめる。

 

鷹優「まだわからないのk」

 

その煽りのセリフは、ことりが大きいメスを手にした時点で消えてしまった。

 

鷹優「はぁ…しょうがないな… それじゃあ答え合わせだ。答えてすらなかったがな」

 

ことり「やったー」

 

鷹優は溜息をしながら、飴玉が入った小袋から白く小さい飴を取り出して口に放り込む。

隣から「それ私が貰ったから私のものですよ」って聞こえるが、彼は無視を決め込んだ。

 

……そして、その質問を投げかける。

 

鷹優「ことり…お前、ジョジョが怒ってるところ見たことあるか?」

 

ことり「え?」

 

予想外の発言に、思わず疑問の声が出たことり。

 

鷹優「だから、お前はジョジョ…空条助音が怒ってるところを見たことがあるか、とたずねているんだ」

 

ことり「えと…それ、関係あるんですか?」

 

鷹優「質問を質問で返すんじゃあない」

 

鷹優のその目は凛としている。

これは本気(マジ)の質問だ。

 

ことり「…助音ちゃんが怒ってるとこ…見たことないですけど…」

 

ことり(そう考えたら、全く見たことがない…照れ隠しで怒ってるってのは見たことあるけど、それはたぶん違うカウントかな…)

 

鷹優「じゃあ泣いてるのは見たことあるか?」

 

ことりは少し考えるように俯くが…

 

ことり「ないです。」

 

答えは否定である。

しかし、ことりはだからこそ気付いた。

その、鷹優の質問の意味に。

 

ことり「それってつまり…」

 

 

鷹優「助音に怒りや悲しみは存在しない」

 

 

 

……たしかにそうだ。

助音ちゃんが怒ってるのも、泣いてるのも見たことがない。

 

鷹優「でも、最近になって感情豊かになってきている。怒ったりもするし、泣いたりもしている。」

 

それは恐らく私が見ていないだけだ。

でも、感情豊かになっているのは確かだ。

 

……しかし、重要なのは、感情豊かに"なってきている"ということだ。

 

鷹優「…もちろんそれは、"助音がスタンドを手に入れてから"、感情豊かになってきているんだ。」

 

……そしてその出来事は、とある事実と重なる。

 

ことり「…そして、それと同時に"ダブレ"が出てくるようになった…!」

 

私らがショータくんから聞くことには、「助音をスタンドの矢で刺すと、気を失ったがダブレの人格が出てきて、スタンド使いになっていた」…と。

 

鷹優「…それだけじゃない。助音の"グッド・ドリームス"の精神の支配、ダブレの"バッド・ドリームス"の身体の支配… 支配という点は同じだが、精神と身体の支配…なかなかに、"2つで1つ"な能力と思わないか?」

 

…"2つで1つ"な能力…精神と身体の支配。かなり両極な能力だ。

 

そこで、私の頭の中に一閃の雷のような、閃きが頭を支配する。

 

ことり「"2つで1つな能力"…"存在しない怒りと悲しみ"…"解離性同一性障害"…!」

 

鷹優「気づいたようだな。何故、空条助音は2つものスタンドを持っているのか…」

 

『ダブレが出始めてから、助音が感情豊かになっている』という点で、それはもう確実。

 

ことり「元々1つだった人格が"感情"を切り離したから、スタンドも半分になった…?」

 

鷹優「正解だ」

 

 

 

ここは、空条家。

眠たげな目を擦る少年、枕木翔太郎や、オッドアイの金髪女性、空条助音、ニコニコと笑顔な城戸瑞稀がテーブルの上の朝食を囲んでいた。

 

助音「こんな感じで大勢で食卓を囲むの、すごく久しぶりな感じがするよ〜」

 

ダブレ「でもこの前に、室田悠斗が襲来してきたときにはみんなでカレー食ってたよな?」

 

室田悠斗は、反SPWに洗脳され、ジョジョらを襲撃した青年である。(スタンド能力は、射程内の"穴"からレーザーを発射する、"ホワイトアッシュ")

そしてそれは、助音が瑞稀と久しく会った時である。

 

翔太郎「でもなーんか、それが凄く懐かしく感じるんですよねぇ…最近のことなのに…」

 

キッド「まぁ確かにあれは20話前の話だからね〜、投稿したのも去年の9月だし…」

 

助音「キッド?」

 

 

翔太郎「そういえば、作戦は成功したらしいですけど結局何がどうなったんですか?」

 

トーストを食みながら聞く翔太郎。

それもそうで、彼はその作戦にはほぼ参入していないのだ。

 

ダブレ「そういえばアタシもいなかったからあんまり成り行きがわかんないな」

 

彼女もまた、翔太郎と同じように何もできていない。

助けられる側なので当たり前だが。

 

助音「んーと…簡単に説明すると、ダブレだけが覚めない悪夢を見せられてて、その元凶のスタンド使いの坂根圭を叩くって作戦だったね」

 

ダブレ「つまり、その坂根ってやつは倒せたのか?」

 

キッド「いや 僕が始末した」

 

その発言のインパクトがでかすぎたせいか、

助音と翔太郎が急に咳き込む。

 

ダブレ「スタンドを解除するには殺すしかないだろ…そのへんわかって考えてたのか?そもそも、ボスの腹心なんだから死んでも当然なんじゃあないか?」

 

そういう彼女の発言には少し棘があるように見受けられる。そして助音は直感的に悟る。

 

助音(ダブレはずっと悪夢を見せられてたから奴を毛嫌いしてて当然か…)

 

そうは言いながらも、彼女もその坂根という男の最低最悪な行動に激怒していたのである。

 

翔太郎「捕らえずに殺したんですか!?情報とかは何か得られなかったんですか!?」

 

焦った調子で彼は捲し立てる…ついでにそのペースでコーヒーを飲んでいる。

 

キッド「いや、重要なこととかも聞けたから、まだ万々歳だよ」

 

助音「ちょっと情報過多かもだけどね…」

 

空条助音は、前夜の"夢"によって、自分の過去の情報を得た。それは全てが彼女にとって新しいことであり、頭がこんがらがってしまうように複雑なのである。

少なくともダブレとキッドは知っていたことであり、翔太郎はともかく、その当事者である助音でさえ知らなかった真実。

 

『今で言うダブレが主人格だったこと』や、『15年前の交通事故』、『反SPW』関連など。

情報過多待ったなしだ。

 

キッド「でもね、ショータくん。そんなに焦る必要はないよ。逆にその全ての情報をパッと理解するなんてそれこそ不可能だから、ゆっくりと知っていこう?」

 

笑顔で、優しい口調で彼女は翔太郎に語る。

 

……あぁ、そうだったんだ…

もうひと段落したんだから、ゆっくり廻り道をしてもいいよね…?

 

そう助音は考えると、コーヒーを啜る。

 

ダブレ「ジョジョ…なんかお前、色々と変わったんじゃあないか?まさか瑞稀の影響受けちまったりしてやしないか?」

 

キッド「なんで僕に影響されるのが悪いみたいに言ってるんだよ〜」

 

翔太郎「僕も、お姉さんは結構変わったと思いますよ?なんというか"スゴ味"があるというか…」

 

そう言われる彼女は、少し驚いたような顔をする…が、すこし顔を綻ばせて、こう呟いた。

 

助音「これも、『出会い』のおかげかな?」

 

翔太郎「取り敢えず、これからどうするかが問題ですよね?反SPWのボスの腹心は始末できたとしても、黒幕が始末できてないのは当然ですし…」

 

ダブレ「少なくともやらないといけないこと…アタシが挙げるとするならば、『TG大学病院に行く』、『スワンキーストリートの視察』、『反SPWへの対策』だなあ」

 

彼女が言うことは全てにおいて的確。

まさに彼女らの課題である。

 

キッド「できれば安全だから固まって動きたいんだけど…これからは思い切ろうと思う」

 

キッド「今まで、人を洗脳して僕たちに刺客として差し向けてた、坂根圭はもう死んだ。必然的に、僕らへの刺客は少なくなると考えるべきだ。

だから、僕たちがすべきことはそれぞれ全員で行うんじゃあなくて、分かれて行動したいんだ。」

 

翔太郎「分かれて行動…もちろんそれは、鷹優先生やことり先生も入れての話なんですよね?」

 

キッド「もちろんだ。僕が考えるに、"ジョジョ、鷹優くん、ことりちゃん"でTG大学病院に。"僕とショータくん"でスワンキーストリートに行きたい。」

 

助音「キッドとショータくんがペア?なんか珍しいかも…てかショータくんを襲ったりしないでね…?」

 

彼女が言う通りに、キッド…もとい、城戸瑞稀は幼い男の子に対して言い表せない何かを抱えている。

助音はただ単にそれの心配をしているのだ。

 

ダブレ「おいジョジョ、そんな杞憂はいらないぞ

アタシたちはキッドを信じようぜ」

 

キッド「僕をなんだと思ってるんだよ… まあ、朝の作戦会議はこんな感じかなあ」

 

助音「そうだね…せっかくだし、ゆっくりみんなで朝食楽しもう?朝食をとりながらする話じゃなかったし…」

 

翔太郎「そうですねッ」

 

皆が、食事しながら楽しく会話する。

それだけで、どれだけ幸せなのだろうと助音は思う。

 

ダブレ「どうせならことりや鷹優たちも呼びたかったなあ アタシとジョジョは後で会うがな」

 

キッド「おや、ダブレも言うようになったねぇ。あの2人のどっちかに気があるのかい?お姉さんが魔法で一瞬で連れてきてあげようか?」

 

助音「え、ダブレが他人に気があるわけないでしょ」

 

キッド「君たち同一人物だろ…」

 

ダブレ「そういうジョジョこそ、好きな人なんていねえんだろ?アタシ、スゴ味でわかるぞ なんたってこいつ、ウブなんだぜ?そりゃもうジョジョなんかじゃあなくてショジ…」

 

助音「ショータくんは気になる人とかはいるのかな?」

 

この一瞬で彼女の目は両赤目になっている。

恐らく(助音が)強制的にシャットダウンしたようだ。

 

キッド(なんか凄いことが聞こえかけたけどまあいいか…)

 

翔太郎「僕は…そういうのはないですかね…

いたとしても言わないですよ…」

 

そういう彼の顔は少し赤い。助音はそれをみて少し顔が綻んだが、翔太郎に期待の眼差しを向けるキッドに少し引いた。

 

ダブレ「瑞稀。お前もう三十路なんだから、そろそろショタコ」

 

助音「この人格しつこいし失言しかしないね…」

 

ダブレはまた発言を強制的にシャットダウンされたようだ。

どこからか赫い視線が飛んでくるような気がするが、恐らく気のせいだろう。そう助音は目を瞑る。

 

翔太郎「お姉さんは、人格の切り替えとかが最近上手になってきてますね。今とかさっきとか、ダブレさんをコントロールしたんですよね?会話を遮るために」

 

キッド「ダブレをコントロールするなんてなかなかやるよねえ。ジョジョの方が精神力が強いのかな?

それこそ、目を瞑ってたらどっちの人格が話してるかもわかんないよ」

 

城戸瑞稀が言う通り、助音の周りの人物(多重人格であることを知っている人)は、彼女を目の色と言動でどの人格であるのかを見分けている。

もちろん碧目で言動が荒い時はダブレの人格で、赤目で優しい口調であれば助音の人格だ。

 

「じゃあこれ、どっちの人格で喋ってるでしょう?」

 

彼女は目を閉じながらそう言う。少しテンションが高い。

 

翔太郎「んー…人格によって少し声の高さとかが違うけど、今の声はあまり聞かない声だから微妙ですね…」

 

「そりゃあわざと声を変えてるから!さて、どっちだと思う?」

 

その声は少し上ずっている。恐らく、声の高さで判断されてるとは思ってなくて焦ったのだろう。

 

翔太郎「僕はお姉さんで!」

 

キッド「じゃあ僕はダブレで」

 

「正解は〜コマーシャルの後で!」

 

キッド「あはは、なにそれ。」

 

翔太郎「カラーコンタクトなんてしたら、もう誰もわかりませんね?」

 

「えへへ、そうだね〜」

 

キッド「僕はわかるよ。君がどんな状態でも。

いつだって見抜いてみせる。そうだよね?」

 

キッドは眼鏡をくいと上げながら、その赫い目で彼女を見据えた。

 

……やけに落ち着いてるな

 

「おう!」

 

翔太郎「あ!」

 

キッド「やっぱりダブレだったね 僕の目は欺けなかったようだね〜」

 

そう言いながら、みんなで笑う。

……でも1つだけ。

翔太郎は、城戸瑞稀が…愛想笑いをしているように見え、それがただ心配でならなかった。

 

 

――助音「あっ」

 

ぱりん。

 

翔太郎「大丈夫ですか!? …あっ、お皿…」

 

朝食を食べ終わって食器を片付けていた時。

少しぼーっとしていた助音が、食器を1枚落としてしまったようだ。

 

ダブレ「おいおい、人格を任せてたけど…なにやってんだよ」

 

落とした皿は、粉々に砕けてしまっている。

 

助音「んー…なんかぼーっとしちゃってさ」

 

翔太郎「割れた食器の処理は任せてください。"ムーヴメント"!」

 

彼がそう言うと、手から黒い拳銃が現れる。

それと同時に、微塵と化した食器が光って1つの弾丸になって拳銃に入っていった。

 

ダブレ「おぉ…さすがだな アタシたちの能力なんかよりよっぽど良い能力だな」

 

翔太郎「それほどじゃないですよ。…まぁ、効率とかは良いかもですがね」

 

少し自慢げに言う翔太郎に、羨ましげに翔太郎を見つめるダブレ。

すると、ダブレの目の前に彼女らのスタンドが出現する。"G・ドリームス"と"B・ドリームス"が半分こに合体した、2つの人格で体を動かしている時のスタンドの姿だ。

 

助音+ダブレ「え?」

 

彼女らは、彼女らのスタンドにデコピンされた。

 

キッド「おやおや」

 

いつのまにか瞬間移動して来ていたキッドが、微笑する。

 

キッド「いつのまにか…というか、少しだけ自我が芽生えてるのかもね。君たちの能力。」

 

助音「つまり…嫉妬してるってこと?」

 

助音がそういうと、彼女のスタンドはキッドに近づいてハグした。

 

キッド「おやおやおやおやおやおや」

 

抱きつかれたキッドは、(凄く嬉しそうに)その魔法陣が出ている手でそのスタンドを撫で回した。

 

ダブレ「なんか…これがアタシらの深層心理がとった行動なのなら、凄く恥ずいな…」

 

翔太郎「今までに、そんな感じで勝手に動いたりとかそういうことはなかったですよね?ちゃんと制御できてたのに…自我が芽生えた?」

 

キッド「まぁまぁ、深く考えなくていいんじゃあないかな〜ッ」

 

凄く嬉しそうだ。

ちなみに助音は恥ずかしそうにしている。

ダブレは、行く末が不安でたまらなかったとさ。

 

 

 

〜G・ドリームスとB・ドリームスについて〜

そのスタンド能力は、本体の人格によって変わる。

G…今の助音の人格の時は、G・ドリームスを使える。その逆に、Bの人格の時はB・ドリームスが使える。また、2つの人格で同時に体を動かす時は、両方の能力が半分こで重なったような形になり、両方の能力を同時に使用できる。 G・ドリームスは精神の支配の能力で、その逆は身体の支配の能力である。

なぜそれぞれの人格が1つずつの能力を持っているのかというと、『元々1つだった能力が多重人格の特性により、わかれた』という説が濃厚である。

なので、それぞれが半分この時は、総じて『相手を支配する能力』となるのだ。




小説投稿再開します!


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#32 バグ

1週間更新なんて久しぶりだぜ…


――ことり「元々1つだった人格が"感情"を切り離したから、スタンドも半分になった…?」

 

鷹優「正解だ」

 

これは、『何故空条助音は二重人格になったのか、何故スタンド能力が2種類も存在するのか』という議論である。

 

議論の中心である人物、「空条助音」の友人、TG大学病院調査部部長天久鷹優とその部下小鳥遊ことりは、そんな議論をして結論に辿り着く。

 

鷹優「『感情や性格を切り離す』解離性同一性障害。

いわゆる多重人格といったヤツだが…」

 

鷹優「恐らくだが、15年前の交通事故が起きたとき、途轍もない悲しみと怒りが彼女を襲ったと思う。しかし幼すぎた彼女はその感情を抑えられずにその感情を切り離した。」

 

解離性同一性障害は、「自分にとって耐えきれないような状況に陥った時、自分のココロを守る為に起こる」自衛的行動である。

 

今現在2032年、空条助音は20歳。

15年前となれば彼女は5歳となる。

 

ことり「"感情を切り離した"から、助音ちゃんには怒りや悲しみが存在しない!」

 

そういう彼女。小鳥遊ことりは元々空条助音と同じ高校の同級生である。

ことりは"怒ったり泣いたりしている助音"を見たことがない。その事実が、"怒りと悲しみの感情を切り離している"ことを顕著に表していた。

 

鷹優「『最近になって助音は感情豊かになってきている』というのは、スタンドの矢によってダブレの人格が覚醒したからだ。怒りや悲しみの感情の塊…それが奴だからな」

 

ことり「でも、ダーちゃんだって喜んだり笑ったりしてますよね?それはどういうことなんですか?」

 

鷹優もことりも、ダブレという人格に出会ってからまだ数日しか経っていない…が、2人ともダブレがどういう人物像なのかは理解している。

 

強引で無茶苦茶。だがいざとなると頼れる姉のような人物。時にはユーモアがあったり、結局は面倒見の良い人。

 

鷹優「恐らく、彼女が主人格だからだ。元々感情を切り離したのは彼女の人格だし、感情をコントロールできてもおかしくない。」

 

彼は、“説明終了”とでも言うように目を閉じたのだった…のだが、何か思い出したように目を開ける。

 

 

鷹優「そういえば…今日搬送されてきたその少女…名前は…えーっと」

 

ことり「“をー”ちゃんですね?まだ目を覚ましません。…極秘裏で私たちで手術したけど外科の人たちにバレてませんかね…?」

 

彼女の近くにあるベッドに寝ているその白髪の少女…その名を“をー”という。

 

彼女は助音や翔太郎に差し向けられた刺客だったが、彼らに逆に始末されそうになり、逆上して任務に歯向かおうとした。

…が、謎の兎のような死神に、大きな鎌で胸を切り裂かれて意識不明にまで陥ったのだ。

結局彼女は誰かの連絡によって彼女はSPW財団の救急隊員に引き取られ、鷹優達のもとに周る。

 

鷹優「あれは今まで以上にやりにくかった手術だったな…あんなどでかい裂傷。初めて見たよ」

 

そう。致命的な傷を負った彼女は天久鷹優と小鳥遊ことりによって手術されていた。

 

ことり「手術なんて久しぶりでしたよ…私の能力を手術に使うことになるのは久しぶりでしたね〜」

 

彼女らは医療系のスタンド能力を持っていた。

鷹優は無限の血液の能力。そしてことりは無限の医療用具の能力。

そして彼女らの実力も相まって、『奇跡』は起きた。

少なくとも命に別状はなくなったのだ。

 

鷹優「この話…ジョジョやキッドが関わってるらしいが…お前は何も聞いていないのか?というか本当に名前が“をー”なんだな…」

 

ことり「私だってなんにも知りませんよ…電子カルテにさえこの子の名前が登録されてなかったし…」

 

彼女らはその少女を受け取る際、『名前が“をー”である』ということしか聞かされていない。

もちろん当時鷹優とことりは困惑したのだが、少しでもはやく医療的措置を取らないと少女が命を落としてしまうという状況だったので、気にせずに手術したのであった。

 

鷹優「謎が深まるばかり。だな…」

 

ことり「ほんとですよ!私なんてさっき知ったばかりの情報が多すぎて頭パンクしちゃいそうなんですよ」

 

ことり「助音ちゃんとダーちゃんの過去… 多重人格になった原因… スタンドが2つある理由…謎の少女…」

 

彼女にとってどれもこれもが大切な気がして、頭がこんがらがりそうなのだ。

 

鷹優「ヤケに説明口調じゃあないか」

 

ことり「だって、さっきの議論なんて第22話からずーっと引っ張られてきたんですよ?こんな長ったらしく続けてたら、読者さんも困惑しますよ」

 

鷹優「なる」

 

ことり「というかこんなに引っ張っておいて、重要そうな情報や伏線が無いってどれだけ作者小説書くの下手くそなんですか…」

 

鷹優「疲れてんだろ。まぁ…この後にでも重要な伏線とかあるんじゃあないのか?もしかしたら第22話から続いてる伏線があるかもしれないだろ…?」

 

ことり「どっちにしろ、もう私たちのパートの文字数少ないでしょ…あと何文字くらいなんだろ…」

 

鷹優「俺のこのセリフ終わってから約600文字かな」

 

鷹優は興味無さげに彼のスタンド“クリムゾン・シティ”を繰り出してから、ことりの側に置いてあった袋から白いサイダー味の飴を取り出した。

 

ことり「ちょ…それ以上もうあげませんからね!」

 

そう言われながらも彼は口をあんぐりと開けてそこに飴を放り込んだ。

 

その光景を見て、ことりは止まった。

それは、自分の飴を勝手に食べられたからではないようだ。

 

ことり「あれ?鷹優せんせーその口は…?」

 

よく見たら彼のその口の中は、そこで転がしている白い飴の色のように染まっていた。

 

鷹優「ん?あぁ…気づかなかったのか?この飴、口の中がその飴の色に変わっちゃうんだぜ」

 

そう言いながら彼は白く染まった舌を悪戯っぽく見せつけた。

 

どうやら鷹優がことりにあげた飴は、舌の色が変わってしまうという代物らしい。

 

ことり「うわ…!やってくれましたねッ!」

 

ことりは、彼女のスマホに顔を映し出して確認している。その口から出る舌は黄色…いや、金色に染まってしまっている。

 

鷹優「なかなか面白いモンだよなあ?」

 

彼は焦ることりを見てゲラゲラと大笑いしている。

 

ことり「“エメラルド・シティ”」

 

鷹優「え」

 

その後、鷹優は頭部に大きなコブを携えて調査部の診断室から出てきたらしい。

家に帰った彼に、咲田舞が何が起こったのか聞くと「メスの側面のほうでよかった」としか言わなかったらしい。

 

 

 

 

――夢を見ている。

 

――『私はこれから何処へ向かうのだと思う?』

 

「さあ。貴女のことだから…何処へも向かうことはないんじゃないの?」

 

『はは、そうか…雨月ねぇが言うならそうなのかもしれないな…』

 

『私は今ここに向かっている。答えは自分でわかってたんだ。ただ、雨月ねぇから聞きたかっただけだ。』

 

「貴女が向かっている“ここ”は…行くべき道ではないのよ」

 

『それでも私は向かわないといけないんだ。雨月ねぇでも、邪魔したりしたら…いや、この話はもうやめよう』

 

……貴女はわかっていない。

貴女は太陽で私は三日月。そしてお姉ちゃんは向日葵。そう決まっている運命だから…

 

 

 

目が覚める。私…?ここは…?

真っ白い天井が目に映る。ここは病院…?

 

???「おや…目を覚ましたようですね」

 

……明らかに怪しそうな人がいる。

赤い占い師みたいな格好をしていて、無精髭を生やしている男の人。

ここが病院ってことはあってそうだけどなんでこんな人が病院に…?

 

すると、向こうから青年が現れた。

シャツとジーンズというシンプルな格好だ。

 

??「目を覚ました…?よかった〜」

 

すると、占い師っぽい男が話しかけてくる。

 

???「いいですか、落ち着いて聞いてください。貴女は致命的な傷を負いましたが無事生きています」

 

???「おっと、紹介が遅れましたね…私の名前は…いや、名前なんて無いので鑑定人とでも呼んでください。」

 

??「僕は室田悠斗!をーさん、無事そうで何よりですよ!」

 

怪しそうな…占い師?は鑑定人?と呼べばいいらしい。また、その後ろにいる好青年は室田悠斗というらしい。

ここは病院ということで間違いなさそうだ。

 

そして“私の名前”は…まだ変わっていない。

この"バグ"はいつになったら終わるのだろうか?それとも無限に続いてしまうのだろうか。

 

でも、さっきの夢は…

随分と昔の夢を見た気がする。

大丈夫。まだ希望はある。

 

鑑定人「をーさん…貴女、随分とお疲れみたいですね… まだ寝ててください。お医者さんを呼んできますので… 行こう悠斗くん。」

 

悠斗「わかりました!」

 

2人はドアを開けて向こうへ消えていった。

久しぶりに安心した気分だ…

 

安堵の息をしてから、私は再び眠りにつく。

『バグが修正される』ことを願いながら…

 

 

“貴女は私の夢の中に住んでいて”

“貴女は私が寝ている間に何処かへと消えてしまう”

 

 

 

――鷹優「ジョジョ。こんなところで寝てるとロクなことに遭わんぞ」

 

助音「…? あぁ、鷹優先生…」

 

気づかぬ間に、寝てしまっていたようだ。

 

私、空条助音は、ショータくんやキッドと別行動することになった。

 

キッドとショータくんは『スワンキーストリートの視察』、そして私の役目は『TG大学病院へ行く』というものだった。

 

ここは、TG大学病院の待合室。

元はと言えば「抜け殻事件」について依頼してきた鷹優先生たちなのだが、流石に調査部としての仕事があるようで少し時間が噛み合わなかった為、私と鷹優先生は待合室で待ち合わせしていた。

 

キッドの瞬間移動の能力、“ネイキッドシャッフル”でTG大学病院に送ってもらった後、待合室に着いて寝てたら鷹優先生と合流できたみたいだ。

 

ダブレ「アタシがいる限り“ロクなこと”は起こさせねえよ」

 

鷹優「おぉ、そうだな。 …さて、あの少女が目を覚ましたようだ。行くぞ」

 

助音「えぇ、わかりました…」

 

今日の私の目標は、『“をー”という少女の調査』と『抜け殻になった人の調査』だ。

 

 

 

――キッド「着いたよ〜ここがスワンキーストリート!」

 

翔太郎「へぇ、僕自身は初めて来る所です。」

 

その道…スワンキーストリートは、大きな丘とそこにある大きな木がある道。

しかしそれ以外には何もない平凡な道。

 

ただ…“15年前に交通事故”が起こった道路である。

 

翔太郎「着いたは着いたけど、何処を見るんですか?交通事故が起きた場所とか?」

 

彼は周りをキョロキョロと見回す。人はほぼいない。

 

キッド「いや、まずあの丘の木のとこへ行くよ〜」

 

彼女は道路から横に離れた大きな丘の上の、大きな木を指差す。

 

翔太郎「あの丘?何かあるんですか?何も聞いてませんが…」

 

キッド「うん。ひとまずあそこで全部話すよ。」

 

彼女はそう言ってその丘へと歩き出した。

……瞬間移動使わないんだ… と翔太郎は思った。

 

距離はあまり無い。5分程度で着いてしまったが…城戸瑞稀はその間無口だった。

 

翔太郎「あの…キッドさん…?なんでそんな神妙な顔してるんですか?」

 

そう質問するが、帰ってきた返事はその質問の答えではなかった。

 

キッド「僕は…長らくこれを待ち望んでた…」

 

緑が生い茂る木の下で、彼女は呟く。

すると、木の陰から人影が見えた。

 

翔太郎「…え…!?」

 

そこから現れたのは、金髪で伸ばした髪…銀色に輝く目の女性。

 

紗和『翔太郎…久しぶりね…って言っても覚えてないか〜』

 

そこには、行方不明であったハズの女性…

“枕木翔太郎の母親、枕木紗和”がいたのだった。




色々吹っ切れてメタくなったのは秘密


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#33 大きな木

何度も先延ばししてごめんなさい…
ようやく戦闘シーンです!


――紗和『翔太郎…久しぶりね…って言っても覚えてないか〜』

 

スワンキーストリートへ視察に来た枕木翔太郎と城戸瑞稀。城戸瑞稀に連れられ、丘の上にある大きな木の下にやってきた翔太郎だったが、そこにいたのは…

 

向日葵みたいな金色の伸ばした髪、白銀色の透き通った目の女性。

 

そこには、翔太郎の母親、枕木紗和だった。

 

 

翔太郎「え…?」

 

翔太郎は硬直する。

冷や汗をかいていて、口もあんぐりと空いている。

 

紗和『まあ、わからなくて当然だよね〜 聞いてる限りには、“行方不明になってる”んだっけな?とりあえず瑞稀ちゃん説明お願いね!』

 

キッド「やっぱり僕が説明するのか〜」

 

瑞稀は、ちょっと困り顔で言う。

見るに、彼女ら2人は信頼しあっている。

 

紗和と名乗る彼女も、瑞稀が説明することが1番信憑性があると考えているのだろう。

すると瑞稀は大きな木に寄りかかって座った。

手をひょいひょいと動かして翔太郎にも促す。

 

キッド「まぁ…少しここから踏み行った話になる。過去に何が起こったのか… そして今、一体どのような状況になっているのか…」

 

促された翔太郎は、彼女と同様に木に寄りかかる。

紗和は金髪を靡かせて木に近づき、しゃがんで座った。

 

キッド「それを全部説明するには、時間がかかるんだ。話も長くて簡単に覚えられないしね。」

 

すると、彼女の顔はいつになく真剣になる。

 

キッド「この“スワンキーストリート”には…災厄が、不吉が…たくさんの負が集まる。」

 

紗和『この道はまさに…杜王町の“負の遺産”ね…』

 

彼女はそういいながら、寄りかかっている木に触れる…が。"手がすり抜けている"。

 

翔太郎「手が…!?」

 

キッド「あぁもう…紗和さん、後で説明することなんですから混乱させないでください」

 

紗和『あら、先にこのことだけ説明すればいいんじゃない?』

 

悪戯っぽく彼女は微笑む。

風で金色の向日葵のような髪が揺れた。

 

紗和『私、じつはこの世に存在してないのよ』

 

彼女は、嘘を吐く素振りもなくにこやかに言う。

城戸瑞稀はため息をついた。

 

 

 

――紗和『私、じつはこの世に存在してないのよ』

 

私はこう発言したあと、彼が…翔太郎がどんな反応を取るか、注意深く見ていた…が。

大方予想通りだ。

 

強い困惑の表情が浮き出ている。

まずまず、『本当に母親なのか』なんてまだわかってないから当然か…

瑞稀ちゃんの言うことをちゃんと聞いておけば良かったのかも…

 

キッド「厳密に言えば、魂のみの状態だね」

 

そう彼女が言うと、彼女は魔法陣を宿した手で私を触れようとする。が、触れれない。当たり前だ。

 

……まず翔太郎は、瑞稀ちゃんの能力"ネイキッドシャッフル"は、「魔法陣を宿した手でスタンドを触ることができる」という能力も持つことを知ってるのかしら?

 

キッド「素手ではもちろん、スタンド能力でさえ紗和さんに触ることはできない。ほぼ、幽霊みたいなもんだからね」

 

翔太郎「何故そんなことに…?」

 

…まあ、そう思うのは当たり前か。

私だって、こんなことになるとは思わなかった。

 

キッド「紗和さん、どうする?この話題だけ話しとく?」

 

瑞稀ちゃんがこちらを見る。

 

紗和『うん。話そう。明ちゃんのこと。』

 

翔太郎「明…って」

 

キッド「枕木明(まくらぎ めい)枕木姉妹の末っ子で、紗和さんの妹だ。」

 

翔太郎「つまり、紗和さん…?が、そうなったのは、枕木明が原因ってことなんですね?」

 

紗和『そうだね… このお話には、2つの人物の能力が関係しているの。"Where do I go?"と、"ノンフィクション"よ。』

 

瑞稀ちゃんはウンウンと頷くが、翔太郎はわかっていない様子。そんなに説明してなかったのね…

 

キッド「じゃあまず…枕木明の能力、"Where do I go?"から解説しようか… 」

 

そういって、瑞稀はスマホを取り出すのだった。

 

 

 

 

ここは、場所を移ってTG大学病院。

金髪で赤青の目のオッドアイの女性、空条助音と黒い長髪で白衣を着た男性、天久鷹優は、調査部病室のドアの前にいた。

 

助音「この先に…いるんですね」

 

緊張を孕んだ声で彼女が言う。

 

鷹優「あぁ。そうなるな… だがそんなに緊張する必要はないぜ」

 

そう彼は言うと、打診するような動きでドアを優しくノックした。

 

鷹優「調査部部長の天久鷹優です 失礼します」

 

返事はない。お構いなしにドアを開けた。

助音は引くような目で彼を見るが、視線を病室の中へと移らせた。

 

病室の端っこ。窓の近くのベッドの上。

黒い長髪の少女が目を瞑って横たわっている。

 

鷹優「おや…?まだ眠っていたか。起きたと聞いていたがな…」

 

助音が少女に近づいて、スタンド能力“G・ドリームス”で少女の頬に優しく触れた。

 

助音「"夢を見ている"… 本当に寝てるよ。」

 

鷹優も安堵して少女に向き直る。

彼女は、助音と翔太郎を襲撃した。

まだ敵か味方かなどわからない状況なのだ。“実は寝ていて、こちらの情報を探っている”ということをまず疑わないといけなかった。

 

鷹優「ちなみに夢の内容は?」

 

助音「乙女のプライバシーですよ。それ以上聞いたらセクハラで訴えます」

 

鷹優「夢の内容にセクハラもクソもあるかよ…」

 

少し部屋に沈黙が落ちる。

 

鷹優「…んで、洗脳は?」

 

助音「完全に消えています。やはり、洗脳していたスタンドの本体が死んだから、能力が解除されたと思います。」

 

ダブレ「個人情報もあまり出てこないが、本当に名前が“をー”なんだな。不思議なモンだぜ。」

 

鷹優「個人情報については、ことりがいろいろと頑張ってくれている。SPW財団の人と協力して過去等を今調べているそうだ。」

 

すると、後ろの方からドアを開ける音がした。

 

悠斗「あ、空条さんと天久先生。もう来てたんですね」

 

シャツとジーンズというシンプルな格好をしている好青年。その青年の名は室田悠斗。

 

助音「悠斗くん!久しぶりだね!」

 

彼は、反SPWのボスの腹心である坂根圭に洗脳されて助音たちを襲撃した。

翔太郎と瑞稀に撃退された彼は洗脳を解かれ、今は天久たちがいるTG大学病院の調査部に匿われている。

 

悠斗「お久しぶりです! あ、をーさん、また寝ちゃったんですね…」

 

鷹優「そうみたいだな。まあ別に彼女に話を聞く以外にもやることがあるから後回しでも構わないが」

 

助音「悠斗くん、鑑定人さん知らない?ちょっと色々と鑑定してほしくて…」

 

鷹優「"抜け殻"はまだ見なくていいのか?」

 

鷹優は、少女の具合を気にしながら聞く。

 

ダブレ「まだ時間もあるし大丈夫だろ。」

 

鷹優「なんの為に私は時間を… まあいいか。それじゃあ私は彼女の具合を見てたり、ことりの手伝いでもしているよ。」

 

少しため息を吐いたあと、鷹優はそう言った。

 

ダブレ「悪いな。どちらかというと、占いの方を優先しておきたくてな」

 

鷹優「問題ない。…ん?」

 

鷹優のスマホが揺れた。緩慢な動きで彼はスマホを操作する。

 

鷹優「ちょうどことりから呼び出しをくらった。ちょうど用事ができてよかったよ。」

 

そういって彼は病室を後にするのだった。

 

助音「悠斗くん、それで鑑定人さんは?」

 

悠斗「鑑定人さんなら、調査部診断室で電子カルテいじってたみたいですが」

 

ダブレ「あいついつか逮捕されるだろ 見た目だけでも怪しいってのに」

 

助音「占いでパスワードを強行突破したんだろうなあ…」

 

そうこう言っていると、悠斗はドアに向けて歩き出した。

 

助音「あれ?悠斗くんはこれからどうするの?」

 

悠斗「どうせだから、天久先生たちを手伝ってきます。空条さんたちはごゆっくりしててくださいね!」

 

ドアが閉まる音がする。

 

ダブレ「アタシたちも行くか」

 

助音「うん。そうだね。」

 

2人で1人の女性は動き出した。

 

 

 

――鷹優「一体どういうことだ…?」

 

そういう彼、天久鷹優は、病院の屋上…の入り口のドアの前にいた。

TG大学病院には2つ、屋上が存在する。1つは、患者をヘリで輸送するヘリポートで、もう1つは、患者や医者が自由に楽しめる公園となっている。

 

今彼が向かっているのはヘリポートの方だ。

彼は、ずっと足を動かして続けて歩いている。

 

その、"床にある足跡を順々に踏みながら"。

 

鷹優「いつの間にか…体が制御できなくなっている… この足跡、もしやスタンド能力なのか…!?」

 

――5分前に、鷹優は調査部病室を後にした。

彼はことりからのメッセージ通りに、屋上へ向かっていたのだが、途中で"体の制御が効かず、足が止まらない"ということに気づいた。

 

ことりにメッセージを飛ばすも、返事はない。

そこから推測するに、考えられるのは…

 

鷹優「“C・シティ”」

 

彼の能力、“C・シティ”で、目の前のドアを開ける。

 

視線を移した先…屋上には、青い空が広がっている。

そしてそこには、大方予想通りの光景が広がっていた。

 

???「あらら、随分と遅い到着やんけ。2対1はキツいけど、よう頑張ったやん。」

 

??「敵側を褒めてどうするの。…さて、鷹優先生…来てくれて感謝なのデスアルキメデス」

 

そこには、2人の少女と、見覚えのある1人の女性がいた。その2人の少女の見た目は酷似している…

少女と言えども、見た目は女子高生程度だ。

 

その1人の女性な大きなメスを持っている。

調査部で鷹優の部下、小鳥遊ことりだ。

 

ことり「鷹優せんせーーッ!ごめんなさーーいッ 突然の襲撃と、スマホ奪われたことでこうなっちゃいましたーーッ!」

 

???「必死で草」

 

鷹優「お前ら…反SPWの手先だな。 私たち2人に襲撃するってことは…覚悟はできてんだろうな?」

 

??「おーこわデスわ。貴方達勝てないのでご安心を。」

 

鷹優は、足元を覗き見る。

"足跡が消えている"…

 

そのことを確認した瞬間彼は地面を蹴って、ことりのそばの近寄った。

 

鷹優「こいつらの能力はわかったのか?てかまずこいつらは誰なんだ…」

 

ことり「ちょっとずつわかってきましたよ…この娘たちの名前は知りませんがね。」

 

すると、少女2人は距離をとって話す。

 

??「んじゃ、仕切り直しまショ。」

 

???「アタシの名前は神谷亜希乃(こうや あきの)。双子姉妹の姉で、スタンド名は“ピーナッツ”!!!」

 

??「ワタシの名前は、神谷紗季乃(こうや さきの)。双子姉妹の妹でスタンド名は“マシュマロ”。」

 

亜希乃+紗季乃「どーぞお見知り置きを!!」

 

亜希乃「久しぶりの戦闘だぜ。喜ぶんやな。」

 

2人の電波少女と、調査部の2人の戦いが始まった…




回想編よりも戦闘シーンのほうが
書きやすいかもしれない…


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#34 マシュマロ&ピーナッツ

めちゃ遅れてしまった…
許してください!犯人はカービィとウマ娘です


――亜希乃「アタシの名前は神谷亜希乃(こうや あきの)。双子姉妹の姉で、スタンド名は“ピーナッツ”!!!」

 

紗季乃「ワタシの名前は、神谷紗季乃(こうや さきの)。双子姉妹の妹でスタンド名は“マシュマロ”。」

 

亜希乃+紗季乃「どーぞお見知り置きを!!」

 

亜希乃「久しぶりの戦闘だぜ。喜ぶんやな。」

 

 

ここはTG大学病院の屋上(ヘリポート)。

そこには双子の少女、そして調査部部長とその部下である天久鷹優と小鳥遊ことりがいる。

 

少女とは言えども、2人とも制服と思しきものを着ている。恐らく高校生だろう。

 

鷹優「おいことり。どうしたらこんな状況になるのかわかりやすいように説明しろ」

 

亜希乃「読者にわかりやすいようにするんやで」

 

紗季乃「ワタシらみたいな電波少女系が出たらメタネタは書きやすいシね。そして死ね」

 

ことり「唐突な暴言」

 

ことりが大きく咳払いする。仕切り直しだ。

 

ことり「まず私がですね、鷹優せんせーに用があって調査部病室に向かっているときに、"なんらかの攻撃で屋上へ向かわされてる"ことに気付きました」

 

ことり「屋上へ着いたらこの2人の少女が待ち構えていて、動けない私に勝手に身体検査してスマホを奪い取られ、鷹優先生を呼び出すとかいう始末です。そして今に至ります」

 

紗季乃「ぐへへ、良い身体してたゼ」

 

ことり「ちょ、そういう根も葉もない嘘はマジでやめてくれないかな」

 

亜希乃「それで、根掘り葉掘り情報をその人から取ろうとしたけど、全く吐かないってわけや。ほんに儚いわ」

 

ことり「1番はやっぱ助音ちゃんだけど、いやでもこういう女子高生系もいいかも…」

 

紗季乃「そういえば根掘り葉掘りって言葉さァ」

 

亜希乃「原作ネタはやめたほうがいいんやない?」

 

鷹優「ツッコミ不在の恐怖」

 

 

 

鷹優「…さて、茶番はこれくらいにして」

 

亜希乃「あれ、これだけでええの?」

 

鷹優「お前たちは何が目的だ。もし俺らを始末しにきたのなら…覚悟ができてるってことだよな…」

 

彼は姉の亜希乃の発言を無視する。

多分…ではなく確実に疲れている。

 

その双子の少女は、敵なのか?味方なのか?

それがまだわからない状況である。

少なくともことりは明確な傷を負うほどの攻撃されていない。

 

紗季乃「嘘吐くのは楽しくないので話しマスが…」

 

亜希乃「アタシらはアンタら2人を殺しにきたやで」

 

急に2人の雰囲気が変わった。

さっきまでの…ユーモラスな雰囲気は…消えた。

彼女らが放つその殺気は、女子高生のソレではなかった。

 

鷹優「反SPWの手先か…ジョジョが丁度きてるからすぐに洗脳解除できるな。」

 

ことり「鷹優せんせーが連絡今すぐしてくださいよ…なんせ私はスマホ取られてるので」

 

すると、その少女は不思議そうな顔をした。

 

紗季乃「オヤ、ワタシらは洗脳なんてされてませんよ?」

 

亜希乃「洗脳の能力を持ってた坂根サマは死んじまったもんなァ、つい昨日にな」

 

 

鷹優+ことり「…は?」

 

 

 

へくし、とその女性…空条助音がくしゃみをする。

それを見た男性が聞く。

 

鑑定人「どうかしたんですか?」

 

その男は、魂の鑑定人と呼ばれている人。

 

助音「いえ…もしかして噂されたのかも」

 

鑑定人「はぁ…それで、私に占ってほしいこととは?」

 

彼らがいるのは、調査部診断室である。

助音は鑑定人に占ってほしいことがあったために、電子カルテをいじっていた彼の元に向かったのだ。

 

鑑定人「をーさんのことについては、まだわかっていませんよ?少なくとも私の能力じゃね…」

 

少し俯くように彼は言う。

 

ダブレ「あぁ…いや、今回占って欲しいのは、そのをーって少女でもアタシ達でもない人なんだ。」

 

オッドアイの女性がそう言う。

彼はそれを聞いて、こう返した。

 

鑑定人「成程。でも、会ったことがある人とかじゃないとはっきりわかりませんよ?さもないと、場所さえわかるかどうか…」

 

助音「まあその時はその時として…その、反SPWのボスの名前が発覚したんです。もしかしたら、その人がどこにいるかとか占えないかな〜ッて思って…」

 

ダブレ「そのボスの名前は枕木明だ」

 

それを聞いて、彼は少し考える素振りを見せたあとに、彼のスタンド能力を発現させる。

 

鑑定人「“ジェラニエ”」

 

そのスタンドは、手を祈るように重ねる。

手の甲の水晶が、手を重ねることによって1つの水晶玉のようになった。

 

ぴかぴかと擬音が出てそうなほどに、その水晶は輝きだす。

 

しかし、その水晶玉は輝くばかりで、数十秒経ってさえ何も起こりそうはない。

 

ダブレ「流石に無理そうか…?本人がこの場にいるワケでもないしな…」

 

鑑定人「焦らないでください。占う対象がその場にいないときはただ単に時間が少しかかるんです。」

 

そう喋ったあとすぐに、彼はまた声を上げる。

 

鑑定人「…!これは!」

 

水晶玉の中に、銀色のもやが現れる。

その中に1つの建物が見えた。

 

助音も覗き込む。

 

助音「これは…まさか…ッ!」

 

それは、見覚えのあるものだった。

彼女が昨夜の夢で見たもの。

 

鑑定人「まさか場所が出てくるとは… なにやら名前が書いてありますね…」

 

ダブレ「…“SPW財団附属 枕木研究所”ッ!!」

 

……それは、枕木蓮や紗和、瑞稀と助音が暮らしていた、研究所兼家であった。

 

助音「ここに…反SPWのボスが!?」

 

鑑定人「落ち着いてください。今いるわけではなさそうです。したがって、そこに住んでいる…ってこともなさそうです。」

 

ダブレ「それは、どれくらい先の未来なんだ?」

 

冷静に、考えを整理しながら彼女は問う。

鑑定人は水晶玉を覗き込むと…

 

鑑定人「今夜です!」

 

助音+ダブレ「こ、今夜ぁ!?」

 

鑑定人「…ここまでしか占えないようです。わかったこととしては、『枕木明が深夜12時前後に枕木研究所に訪れる』ということですね」

 

ダブレ「なるほど、手がかりが掴めてきたな…ッ」

 

助音「それにしても、枕木研究所に何かあるのかな?私たちが住んでただけなんじゃ…?」

 

ダブレ「あそこは…今は誰もいない。何故そこに行く必要があるのか…?正直アタシにもわからない…」

 

助音(そういえば私…蓮さんや紗和さんの行方を知らない…誰も教えてくれないから… もしかしたら、今回それがわかるかも!!!)

 

 

鑑定人「占うことは、これくらいでいいですかね?」

 

ダブレ「優先すべき事項としては、枕木明について占うことなんだが…その調子じゃできなさそうだしな」

 

助音「じゃあ頼む事もなさそうだね?」

 

すると、その男はおずおずと手を挙げた。

 

鑑定人「あの…お礼と言っては少しおこがましいですが、貴女達の魂、鑑定させてもらえませんか?」

 

 

 

場所は移り、大学病院の屋上。

双子女子高生が、黄色、紫…とオーラを醸し出している。

 

鷹優「遂に本性あらわにしたな…“C・シティ”」

 

若草色のオーラを纏っている彼女は言う。

 

ことり「鷹優せんせーはもう理解していると思いますが、片方の…紗季乃ちゃん?の能力は“足跡”の能力です。」

 

紗季乃「何ネタバレしてくれちゃってるのよ…“マシュマロ”」

 

黄色いオーラの中から出てきた人型のスタンド…“マシュマロ”というらしいが。

顔や身体のところどころに足跡のようなものや、キャタピラのタイヤ痕のようなものがついている。

 

また、そのスタンドは本体同様にポニーテールになっている。

 

亜希乃「ついでにアタシも出しとこ。“ピーナッツ”」

 

彼女の方からは、紫色のオーラから男性型のロボットのスタンドが現れる。

 

鷹優「うわ…」

 

彼がそう言うのも問題はない。

そのロボット型のスタンドは、黒帽子に黒タキシードといった黒服に包まれていて、まるで殺し屋のような格好をしていた。その上拳銃が入ったホルスターさえ身につけている。

 

亜希乃「あ?アタシの能力になんか文句あるんかコラッ 撃ち抜いたるぞ!アンタのハート!」

 

鷹優「拳銃型スタンドということか…?」

 

ことり「私、その子がスタンド使うの初めて見ました!」

 

鷹優「まだ見てないのか… これは対処しづらいな…」

 

お互いまだ動かない。

すると、紗季乃が声をあげた。

 

紗季乃「こういう前置きってか、御宅はいいからさ、もう攻撃していい?いい?」

 

嬉々として喋ったその瞬間。

 

鷹優「ぅ!?」

 

鷹優の背中に、痛烈な衝撃が走る。

彼は何が起こったのか、理解できぬまま前方…2人の少女の方へと吹っ飛ばされた。

 

ことり「鷹優せんせーッ!?」

 

亜希乃「余所見すんじゃねーよ」

 

その殺し屋のようなスタンドが急に発砲した。

 

しかし、その金色の弾丸は大きく外れてことりの後ろの方の地面へ着弾する。

 

ことり「ビックリした!“E・シティ”ッ!!」

 

彼女の手元に大きなメスが現れるのを確認して、彼女は2人の少女の元へと駆ける。

 

ことり「タンコブだけで許してあげ… え?」

 

勢いよく駆けていった彼女の速度はグングンと落ちていく。まるで、何かに引き寄せられてるみたいに…

 

鷹優「ことりッ 気をつけろ!ブラックホールだ!」

 

ことり「え」

 

さっきの…金色の弾丸が着弾した地点に…紫色の球体の様なものが浮いている。

それは弾丸ではなくカプセルであり、割れたカプセルの中からソレが出たのだ。

 

その周囲は捻れるようになっている。近くに落ちているゴミなどが吸い込まれていく。

 

ことり(吸い込まれる…!?射程距離があるハズ…引力から脱出しないと…!)

 

ことりは足を止めない。その引力に抗っている。

そんな彼女の元に、“ピーナッツ”が近づく。

 

亜希乃「『タンコブで済ませてあげる』だっけ…?ごめんやけど、アタシらそんな覚悟で来とらんのや」

 

そのスタンドは、銃口を彼女の額に突きつける。

 

鷹優「ことりッ!」

 

紗季乃「余裕なんだねあなた ワタシとの距離が離れてるから… 『勝てる!』って自信があるから…!」

 

鷹優「ぐぁッ」

 

かなり強い力で鷹優は踏みつけられている。

そのせいか、倒れたまま起き上がれない。

しかし、紗季乃やそのスタンドは、鷹優からは離れている。

 

鷹優「くッ!“C・シティ”!」

 

スタンドを発現させ、爪についている注射器をスタンド“マシュマロ”に向けて投げる。

 

紗季乃「おーじょーぎわが悪ーい」

 

彼女がそう言うと、黄色いオーラを纏った“足跡”が浮き上がり、飛んできた注射器を勢いよく踏み潰した。

 

鷹優「あれは…足跡…!? 足跡が注射器を踏み潰したのか…!?」

 

紗季乃「気づくのが遅インザミラー!“足跡の能力”って気づいといて、なーんで絡繰がわからないかなあ…ww」

 

彼女のスタンドが指をスイスイと動かすと、注射器を踏み潰した足跡はスタンドの元に戻ってゆく。

 

鷹優「なるほど…足跡を自由自在に動かし、運動エネルギーを付属させて攻撃しているってワケか…ッ」

 

紗季乃「このままお命頂戴致す」

 

 

ことり「なるほど…それほどの覚悟ができているんだね…?」

 

シリアスな口調だが、走り続け、息切れをしながらそして走りながらのセリフであるため、なかなかシュールな風景になっている。

 

亜希乃「わかってもろて、ありがとさん」

 

そのスタンドが引き金を引く瞬間…

ことりは、いきなり地面を強く蹴って、“後方に”跳び上がった。

 

亜希乃「な、なんやてぇ!?」

 

彼女は引力に引き摺られ…

が、“ブラックホールが消えた”。

 

ことり「あ、ブラックホールに吸い込まれる覚悟、できてたのに消えちゃった… 成程…“持続力がない”んだ〜 良いこと教えてくれてありがと♡」

 

そのブラックホールは、“僅か3〜5秒で消滅した”。

 

亜希乃「…調子乗んなよ」

 

一息つくと、彼女は再び走り出す。

しかし、走っている先は…?

 

亜希乃「え?」

 

鷹優「え」

 

ことり「鷹優せんせ!許してちょんまげ!」

 

蹴っ飛ばした。ことりが、鷹優を。

質量と速度を乗せたその蹴りは、鷹優を押さえつけていた“足跡”を無視して鷹優だけを吹っ飛ばす。

 

亜希乃「こいつら(1人)…頭おかしいで!」

 

鷹優は転がってフェンスのところで止まる。

また、そこにことりが駆けつける。

 

ことり「大丈夫ですか?鷹優せんせー大丈夫ですか?大丈夫ですか?」

 

鷹優「黙れ!   … だが助かった。」

 

結局、立ち位置は最初のようになる。

亜希乃と紗季乃は遠くにいて、鷹優とことりは密着した状態。

 

ことり「やっぱり…別れて戦うより、2人一緒に戦う方がいいですね!」

 

鷹優は溜息を吐くのだった。

 

 

 

スタンド紹介

スタンド能力名「マシュマロ」

スタンド使い名「神谷紗季乃(16)」

人型の特殊型スタンド。

顔や身体のところどころに、足跡やキャタピラのタイヤ痕のようなものがついている。

能力の核は「足跡」で、足跡の情報解析、追跡ができたり、足跡を作り出して、その足跡の順に相手を誘導することができる。(足跡が残らない床でも、足跡の情報は残っている。)

また足跡を自由自在に動かして、遠距離の相手を蹴り飛ばしたり踏み潰したりすることもできる。

破壊力 :C

スピード:C

射程距離:B

持続力 :A

精密動作:A

 

 

スタンド能力名「ピーナッツ」

スタンド使い名「神谷亜希乃(16)」

中距離の人型スタンド。

黒帽子に黒タキシードといった殺し屋のような風貌をしており、ホルスターの中にはブラックホールのカプセル入りの拳銃が備わっている。

拳やベルトに金色のカプセルが数個ついている。

カプセルは"レモンドロップ"と呼ばれ、着脱可能。

カプセルの中には、小さなブラックホールが入っており、カプセルが割れると即座にブラックホールが発動する。ブラックホール自体に殺傷力は無いが、吸引力はかなり強く、約3〜5秒間発生する。

カプセルは保存可能。とれるもしくは割れてから1分程度でまたカプセルは出現する。

破壊力 :B

スピード:C

射程距離:C

持続力 :B

精密動作:D




戦闘…続く!


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#35 余裕な2人

遅れて申し訳ございませんでした
でも戦闘シーンはお気に入りなので問題ありません


 

TG大学病院屋上、鷹優とことりが双子女子高生“亜希乃、紗季乃”と交戦中に、翔太郎や瑞稀は未だスワンキーストリートにいた。

 

十五年前の交通事故。それはまさにスワンキーストリートで起こったこともあり、翔太郎と瑞稀は現地へと視察に赴いたわけだが…

 

――キッド「大体言うべき話はこれくらいだけど… やっぱ頭パンクしちゃってるかあ〜」

 

そのキッドと呼ばれている女性は、大きな木によりかかっている放心気味の少年、翔太郎に向かって言う。

 

翔太郎「魂…?矢…?本物…?3つ目…?主人格…?レクイエム…?単語同士が結びつかない…」

 

紗和「まあかれこれ1、2時間話してるし…しょうがないんじゃないかな?」

 

金の長い髪をなびかせるその女性の名は枕木紗和。

目が回ってさえいそうな翔太郎を覗き込んでいる。

 

キッド「ま、出来るだけわかりやすく、そして時間をかけずに説明したつもりなんだけど…やっぱりそううまくはいかないみたいだね〜」

 

紗和「貴方には少し重すぎる真実かもしれないけど、受け止めて欲しいの。」

 

翔太郎「でも、大体わかりました。僕たちがこれから何をすべきなのか、"僕の使命"がなんなのか。」

 

翔太郎の目が鋭くなる。

 

紗和「まずは、明ちゃんが出てくるタイミングを見計らないといけないね…」

 

キッド「まだこの状況を打開できるタイミングじゃないからね」

 

少し、その間に沈黙が降りる。

 

翔太郎「やはり、お母さんを助ける方法はないんでしょうか…」

 

紗和は少し暗い顔をしたが、少し綻んだ。

 

紗和「私の身体はもうない。私はもうこれからきっと助からないけど、あなたに“お母さん”って呼んでもらえるだけで私は救われるのよ。」

 

その光景を見て瑞稀は微笑む。

 

 

がさごそ。

そんな音が、上からした。

 

キッド+翔太郎「ッ!!」

 

キッド「“ネイキッドシャッフル”」

翔太郎「“ムーヴメント”ッ!」

 

瑞稀の手には魔法陣、翔太郎の手に拳銃が現れる。

紗和は何が起こっているかわからない、という顔だ。

 

紗和「えと…どしたの?」

 

???「これ以上の情報は得られないと判断した。」

 

??「状況がよくわかってないと思うけど、じゃ。」

 

誰かの声がすると同時に、2人の男性がおそらく木の上から降りて来た。

紗和はとても驚いている。

 

キッド「誰だお前 いつからいた?」

 

翔太郎は拳銃の照準を2人の間に行き来させている。

 

緊迫した状況の中、2人の男性は同時にペコリとお辞儀をした後にゆっくりと口を開く。

 

???「俺の名は桜井紫苑。」

 

??「僕の名前は古橋怜。」

 

紫苑+怜「それじゃあね」

 

キッド「…は?」

 

2人はそういうと、3人に背を向けて歩き始める。

 

翔太郎「一体どういう…!」

 

彼がそう言う瞬間に、その2人の男の目の前に瑞稀が現れる。瞬間移動の能力だ。

 

キッド「流石に、“ボクたちの話を全部聞いていた”となれば帰せないなあ〜」

 

彼女が言う通り、彼らは瑞稀たちが話していたことを全部聞いていたのだろう。

 

紫苑「やれやれ、困ったな」

 

怜「『帰せない』…かあ。『帰りたくない』ってセリフだったらドキドキしたんだけどなあ。」

 

怜…その長身で金髪の…青年、もしくは成人しているであろう男は、まるで煽るように言う。

 

怜「僕達の目的を話せば帰してくれるかい?」

 

キッド「アティテュード次第かなあ〜今君は、“なんて発言すればいいか”しっかり思考する必要がある。これは"面接"と思うがいいよ。」

 

翔太郎「少なくとも3人に勝てるとは思わないで欲しい。」

 

紗和(…え?私も戦うの?)

 

数秒の沈黙の後、怜と同じくらいの身長でボサボサな髪をしている男が口を開く。

 

紫苑「別に俺たちはお前らを始末しにきたわけじゃない。その気になればできるが、任務ではないからな」

 

怜「僕らは反SPWの幹部なんだ。特に僕らは“情報班”って呼ばれてるやつだね」

 

翔太郎「反SPWの…幹部…!?」

 

翔太郎は、反SPWの話では聞きなれない“幹部”という言葉に困惑する。

今まで刺客として送られてきた(洗脳されてた)者たちと、どのような違いがあるのだろうか。

 

怜「聞いてた限りボスからの命令で、天久と小鳥遊のところに“電波姉妹”、ジョースターのところに“ドラゴン男”が行ってたハズだけど…」

 

翔太郎(なるほど…幹部はボスから直々に命令を受けて動いてるってことか…)

 

キッド「つまり…“情報班”の君たちは、なんらかの方法で僕たちがここに来ることを知って僕らから情報を得て、今現在帰ろうとしている、と。」

 

紫苑「噛み砕いたらそんな感じだな。…ま、思ってたよりも多く情報が出てきたからホクホクだぜ」

 

ほぼ『尋問』紛いの面接を受けているその2人は、無防備に突っ立っている。

"それを見てからこそ"、無防備な2人だからこそ瑞稀は思うことがあった。

 

キッド「なんでお前らはそんなに“余裕”なんだ?」

 

その通りである。(1人だけ特殊だが)3人のスタンド使い相手に、こんな無防備でヘラヘラとしているのだ。

相手を挑発するためなのか、それとも“余裕”である理由が存在しているのであろうか。

 

怜「んー…まあ強いて言うならスタンドが強いからじゃない?てか、もう帰っていい?」

 

見るに、もう彼らは飽きている。

 

翔太郎「帰ってみろよ。一歩でも動いたら撃つぞ」

 

紗和(あら物騒)

 

 

紫苑「了解」

 

そう言うと同時に、その男は一歩、踏み出した。

拳銃の照準を紫苑に合わせた翔太郎は、躊躇いもせずにトリガーを引く。

半透明で光を乱反射して飛んでいくその弾丸は、ガラスの弾丸。

 

堅苦しい発砲音がけたたましく響いたその瞬間。

 

紫苑「“Winning come back!”」

 

キッド「!!」

 

翔太郎「え」

 

いつの間にか。

その“ガラスの弾丸は翔太郎の方を向いていた”。

 

紗和「え!?」

 

――反射された!?

 

その綺麗な弾丸は音を置き去りにする速度で翔太郎の元へと走っていく。

 

怜「あーあ」

 

瞬間、男らの前にいた瑞稀は消えた。

 

紫苑「そういや言ってなかったなァー…“お前らに勝ち目がない”ってこと…」

 

ガッ、という無機質な音が響く。弾丸が木に着弾したのだ。

 

怜「あれ?」

 

――おかしいな。なんで死んでないんだろう。

 

彼が目を凝らして見ても、その少年は死んでいないし怪我すらしていない。

その少年は木の少し手前で腰を抜かして座っている。

そこに、城戸瑞稀が手に魔法陣を宿しながら立っていた。

 

怜(どちらとも無傷…ッ どういうことだ?

しかも何故…“片手しか魔法陣がない”んだ?)

 

すると、数秒とも経たないうちに彼女は消えて、また2人の目の前に現れた。

 

紫苑「おや」

 

怜「一体どういうこと?“インターバル”はどうしたの?」

 

2人の男の剣幕が強くなる。

 

キッド「なぁ〜んだ。“情報班”のクセに、碌に僕の能力をわかってないんだな〜」

 

紫苑「お前の“ネイキッドシャッフル”は瞬間移動後に30秒以上瞬間移動できないインターバルが存在しているんじゃあないのか?」

 

キッド「さあ?何を言っているのかわかんないなあ」

 

左手に輝く魔法陣を“右手に移し替えた”彼女はそう笑うのだった。

 

 

 

――亜希乃「粘られても尺的に困るんや、はやく死んでくれへんかな」

 

これは、TG大学病院調査部の2人と、反SPW幹部の電波姉妹の戦闘の続きである。

 

TG大学病院の屋上のヘリポートでの戦闘。鷹優とことりが同位置、そこから離れたところに亜希乃と紗季乃がいる。

依然戦闘は続いており、"亜希乃がブラックホールの能力"、"紗季乃が足跡の能力"ということが判明している。

 

紗季乃「焦っても生姜ないよあーちゃん。いつものアレでいこう。」

 

その光景を少し離れたところから見ている鷹優とことり。

 

鷹優「今度は何をしてくるんだ…?何が起こるかわかったものじゃあないな…」

 

ことり「油断しないでくださいよ鷹優せんせーッ」

 

亜希乃「“ピーナッツ”…覚悟しぃや」

 

その殺し屋のような風貌のスタンドが、銃口を鷹優たちに向けた。

 

鷹優「走れッ!!!」

 

瞬間に発砲音は響き、空へと消えていく。

鷹優たちがいた場所の真前に着弾したそのカプセルが割れ、紫色のブラックホールが出現する。

 

ことり「“E・シティ”ッ」

鷹優 「“C・シティ”」

 

空間が歪み、光さえも吸い込まれるブラックホールの引力に抗いながら、二手に別れて走る鷹優とことり。

 

鷹優+ことり「くらえッ!!」

 

2人のスタンドのオーラを纏った、沢山のメスが途轍もない速度で亜希乃と紗季乃の元へ飛んでいく。

 

紗季乃「ザンネン無念“マシュマロ”」

 

彼女らの前に、沢山の足跡が盾のように現れ、山ほどあるメスはそれらの足跡に突き刺さって止まった。

 

ことり「成程足跡を盾代わりに…」

 

亜希乃「感心してる暇ないで」

 

2発の発砲。さっきの倍の音が鼓膜を揺らす。

 

それぞれ鷹優、ことりの近くへと着弾し、ブラックホールが発現する。

 

鷹優もことりもまた軌道修正して走る。

 

ことり「…どれだけブラックホール出現させてるの… きゃぁ!」

 

ことりが瞬間吹っ飛ばされた。

 

鷹優「ことりッ!?」

 

紗季乃「おやおや、ワタシのスタンド“マシュマロ”がブラックホールの中に先にいたことを知らなかったようですね?」

 

ことりの近くに発現したブラックホール。

ブラックホールは基本光さえ脱出できず、観測できるのは"黒"だけである。

そのブラックホールが消えた中から出てきたのは、紗季乃のスタンド“マシュマロ”だった。

 

数メートル飛ばされて倒れたことりが、息絶え絶えに言う。

 

ことり「足跡…ッ!私たちが観測できないところから、足跡を伸ばして私を攻撃した…ッ!」

 

さっきまでことりが立っていた場所には、長く伸びた足跡があった。

つまり紗季乃は、自身のスタンド能力をブラックホールの中に隠し、足跡追跡能力でことりを追撃したということだ。

 

しかし鷹優はことりを無視して走り続ける。

 

亜希乃「なんて冷酷なやっちゃ」

 

鷹優「あいつはあんなんで死なないのでね」

 

鷹優は走りながら、状況の確認を怠らない。

亜希乃、紗季乃はまだ動いてない。“マシュマロ”は鷹優と離れた場所にもいるし、足元には足跡はない…

 

鷹優「!?」

 

――足跡は無いが…カプセルが散布されている…!

 

そう。彼が進まんとする道のりに、たくさんの金色のカプセルが“ピーナッツ”の方へと一列に並んでいた。

 

鷹優「ッ… これは…ッ!」

 

亜希乃「『下を向いて歩こう』ってか?まんまえにいる始末対象を見らんでいいんか?」

 

紗季乃「クスクスゥー」

 

それを見たことりが叫ぶ。

 

ことり「鷹優せんせーッ!後ろに逃げてぇぇぇぇ」

 

しかし遅かった。

紗季乃が飛ばした足跡は、"鷹優に近いカプセルから亜希乃に近いカプセルへと、順々に踏んで割っていった"。

 

鷹優「なッ!?」

 

鷹優は目の前のブラックホールに吸い込まれ、順番的に…まるで、ドミノのように奥へ奥へと吸い込まれていく。カプセルを手前から奥へと順々に割ったからだ。

 

もちろん、目の前に現れる…終着点は亜希乃のスタンド、“ピーナッツ”である。

 

亜希乃「気前のいい宅配便やな」

 

そのスタンドは勢いよく振りかぶって…

 

亜希乃「SEEEEEEEEEEEE YAAAAAAAAAAAAAAA」

 

連打。“ピーナッツ”は、その1発1発の拳に殺意を込めて、何度も何度も鷹優に打ち込む。

 

フィナーレかと言うように殴った拳。鷹優は吹っ飛ばされたが、その拳についていた金色のカプセルが割れ、ブラックホールが出現する。

 

また吸い込まれた鷹優はまた怒涛のラッシュを喰らう。

 

亜希乃「どうやァッ これでアタシらの覚悟がわかったかァ!」

 

“背中を足跡で押しつけられている”ことりは、それを傍観することしかできなかった。

 

ことり「さ…殺意の塊…」

 

紗季乃「うるさいよアナタ」

 

遠隔で動かされた足跡が、ことりを強く踏む。

 

ことり「ぐぅッ」

 

 

拳のカプセルが全て割れてしまい、ブラックホールが消えてしまったところで鷹優はことりの元へと殴り飛ばされた。

 

どうにか止めようとすることりのメス投げも虚しく、全て足跡に弾かれてしまった。

 

ことり「た…鷹優せんせ…げほ」

 

鷹優「あぁ…なんとか… 血液だけはなくならないからな…」

 

またもや遠くに離れてしまった亜希乃たちは、鷹優を人間を見る目で見ていなかった。

 

亜希乃「そか…“無限の血液の能力”!ゾンビかおもたわ…」

 

紗季乃「イットイズグラス(それは草)」

 

亜希乃「でもそろそろ決着つけなやなあ」

 

そうこう話している間に、鷹優とことりはヒソヒソと小声で話していた。

 

鷹優「あのメスは…そういうことでいいんだな?」

 

ことり「それくらいの覚悟、ありますよね?私もう動けないんですよね。実際近距離じゃないと勝てないし…」

 

鷹優はわかったよ、と呟く。

 

亜希乃「決着をつけたる!」

鷹優 「決着をつけるッ!」

 

鷹優がまたもや2人の少女の元へ走り出す。

 

紗季乃「“マシュマロ”足跡祭りーっ」

 

紗季乃が急に万歳すると同時に、周りが"足跡で埋め尽くされた"。

その足跡はことりや鷹優の前後左右、全ての方向を埋め尽くしていて、どう動いても能力が発動してしまうようになっている。

 

ことり「足場が…ッ、このままじゃカプセル弾丸の格好の餌食に…ッ!」

 

瞬時に鷹優は叫ぶ。

 

鷹優「ことりィッ “ストレッチャー”を出せ!」

 

ことり「えっあっ!はいッ!“E・シティ”!」

 

ことりの目の前に、“ストレッチャー”が現れる。

それは、救急現場等で使われる、『動く診察台』である。

 

そして、ことりは勢いよくストレッチャーを鷹優の方向へと手で押す。

“足跡を無視して”ストレッチャーは鷹優の方へ走っていく。それに鷹優は飛び乗った。

 

亜希乃「なァッ!?」

 

鷹優「“C・シティ”ッッッ!!!!」

 

勢いよく距離が狭まる。そんな鷹優のスタンドの目の前に…“大量の血液ビン”が現れた。

2人の少女が唖然としている間に、鷹優はラッシュで"血液ビンを全て割った"。

 

鷹優「SYAAAAAAAAAAAAAAAA」

 

瞬時に我に帰った亜希乃が叫ぶ。

 

亜希乃「さーちゃんッッッ 奴は血液を違う液体に変えたんだッ!得体の知れない何かにッ!!」

 

亜希乃は紗季乃の制服を掴んで急いで後退したが、時すでに遅し。深紅の血液が、“無色透明な液体”と化して、紗季乃に襲いかかった。

 

紗季乃「つ、冷たァ…ぁぁぁぁぁ!」

 

鷹優「それは“液体窒素”だッ!浴びてすぐに命に関わるわけじゃあないが、凍っちまうかもな」

 

紗季乃「よ、よくもォォォォピーナッツゥァァ!」

 

ガチガチと震えている紗季乃。もはや、寒くて震えているのか怒りで震えているのかがわからない。

 

足跡でストレッチャーを蹴っ飛ばし、地面の足跡を踏んでしまって動けなくなった鷹優を、紗季乃は学校指定靴で踏みつけた。

 

鷹優「ぐぅぁッ」

 

紗季乃「やはりホンモノの脚で踏むに限る…!あーちゃん!“ピーナッツ”でコイツの眉間撃ち抜いて!」

 

亜希乃「お、おゥ!アタシの妹によくも!」

 

倒れている鷹優に亜希乃が小走りで近づいてから、銃口を鷹優の顔の方へと持っていく。

 

紗季乃「これで、ザ・エンドってねェ!」

 

鷹優「“怒り”はッ!!!!!」

 

鷹優「良くねーよなあ?」

 

叫んだ。鷹優が。

…不敵な笑みを浮かべながら。

 

亜希乃「はァ?」

 

鷹優「私だって、キレたら『俺』なんて言ってしまう時だってある。しかも、キレちまったらどんだけ優勢でも、不利になってしまったりするよな?」

 

鷹優「それに!お前たちが言っている"決意"ってのは、真の決意ではないッ!"人殺しをする"なんてことが決意なのではない!自分が殺されるかも、という大前提を得てこその"決意"なんだッ!」

 

紗季乃「き、急になにを」

 

鷹優「そうだろ?ことり」

 

紗季乃の発言を遮って、ことりに語りかけると同時に、鷹優は空高く"何か"を放り投げた。

 

亜希乃「薬ビンかッ!?」

 

ことり「…ええ。“背中の足跡にメスを突き刺してどかす”なんて、それ相応の決意がないと…いや、そんなんじゃあないか。」

 

紗季乃「な、お前ッ!?」

 

その遠くには、“足跡をスタンド能力でできたメスでどかした”小鳥遊ことりが立っていた。

 

ことり「投げたメスが足跡に突き刺さるってことは、こんなことも可能ってか…流石鷹優せんせー。

…あとはカッコいいところ、見せてくださいよ。」

 

そういうと、ことりは“無数のメス”を鷹優たちの上空へと“E・シティ”で飛ばした。

 

亜希乃「な…アンタら、一体何をする気や!!!」

 

 

――鷹優「本物の決意ってヤツだよ。とっくに済ましちまったがな。」

 

鷹優が高く放り投げた"モノ"に、一本のメスが命中した。それと同時にぱき、という音がする。

 

紗季乃「アレは…あの音は…!」

 

鷹優たちから、数十メートルの高さのところに。

その“ブラックホール”は発現した。

 

亜希乃「う、うばっとったんかアタシのカプセル!」

 

鷹優「そんなこと気にする時間じゃない。今からは…決意の時間だ。」

 

亜希乃+紗季乃「はァ!?」

 

上空のブラックホール周りが、光と空間を歪める。

とんでもない引力が鷹優たちを引っ張るが、少し離れているからか吸い込まれない。

 

亜希乃「ざ、ザンネンやったなぁ…ってえ!?」

 

しかし。鷹優たちの代わりに吸い込まれてしまうモノがあった。

 

人間の体重とは比べものにならないほど軽いソレ。

ことりが亜希乃らを迎撃しようとしたソレ。

 

“たくさんばら撒かれたメス”だった。

 

ことりが無数に発現させていたメス。

足跡に弾かれたメス。

消えることなく、全部がそのブラックホールに吸い込まれていく。

 

そして、次第にブラックホールの引力が弱まってくる。歪んだ空間も元に戻り始め、メスとメスが擦り合う鋼鉄音さえも聞こえてくる。

 

鷹優「『下を向いて歩こう』だったっけか?違うよ。お前らは足元ばっか見過ぎなんだよ」

 

紗季乃「メスがァァァァ鷹優ぅぅ貴様ああ」

 

まるで、戦闘配置をとる蟻のようなほどのメスが、雨のように降り注いでくる。

 

亜希乃「くッ…"ピーナッツ"!」

 

メスが5メートル、とどんどん近づいてくる中、亜希乃はそのスタンドの銃口を真後ろの地面に向け、カプセルを放った。

 

亜希乃「さーちゃんッ 走れェェェェェェ」

 

遠く、真後ろに発生したブラックホールに、亜希乃と紗季乃は走り出す。

間一髪、メスが落ちてくる前に、2人ともブラックホールの引力に吸い込まれた。

 

紗季乃「ふ、ふふ…助かった…!よくもあいつ…ってあぁッ!?」

 

亜希乃「なぁっ!?」

 

鷹優「どこまでも執念深いな。だからこそ俺は、ブラックホールの中まで追ってきたッ!!!」

 

鷹優「仕返し、させてもらうぜ」

 

亜希乃や紗季乃がスタンドを繰り出すよりもはやく、鷹優は“C・シティ”を繰り出して…

 

鷹優「WiiiiiiiiiillllllllllllllBEEEEEEEEEEEEィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ」

 

目にも止まらぬラッシュ。

2人に反撃の暇すら与えずに、連打は止まらない。

 

ついに、最後の1発ずつを決めて、ブラックホールと足跡は消えた。

 

鷹優「治療完了。」

 

ついに、鷹優とことりは反SPW幹部の双子姉妹、「神谷亜希乃」、「神谷紗季乃」を撃破したのだった。




マシュマロ&ピーナッツ強すぎ


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#36 銀

貴女は私の夢の中に住んでいて
貴女は私が寝ている間に何処かへと消えてしまう


―私は、考え事をすることが多い。

 

恐らくその考え事の量は一般人のそれとは違う。

もちろん私が…空条助音が、探偵であることも関係しているのだが。大きく関係しているのは、多重人格であることである。

 

私の身体には、“人格のスペース”とでも呼ぶべき場所が存在している。

それは文字通りの、それぞれの人格の居場所である。

 

それは寝ている時、目を閉じている時、そして、身体を動かす人格を交代している時にいることができるスペースであり、私のもう一つの人格“ダブレ”と会話できるスペースでもある。

 

私とダブレは同一人物であるが、感性や考え、知っていることが違うので、ちょくちょくとダブレと“人格のスペース”で意見交換等をしているのだ。

 

2つの人格で身体を動かすことによって彼女と話すこともできるのだが、周りから「ずっと独り言を話している」と勘違いされるし、少しずつ精神力を削るので、やはり人格のスペースで話すことが多い。

 

ダブレ曰く、この“人格のスペース”は、「ココロの逃げ場」らしい。

 

ダブレと話す時…人格のスペースにいることを集中している時、現実世界に戻る際に周りの状況を瞬時に理解できない。それが、大きな難点なのだ。

 

 

……私はいつものように目を覚まそうとする。

確か、先程まで鑑定人さんに魂の鑑定をしてもらっていたハズだ。

 

鑑定人さんに、この“人格のスペース”の話をすると、彼は目を嬉々として「貴女とダブレさんが人格のスペースにいる時の魂を鑑定してみたい」と話した。

 

“ココロを覗かれる感覚”が無くなって数秒したから、私は現実世界に戻ろうと思った。

 

――抜け出す際に、目を閉じていてもわかるような、何か“異様な”雰囲気を私は感じ取った。

 

この鼻を掠める匂い…血!?

目を開けるのを躊躇いそうになる。

一体何が…?

 

……駄目だ。こんなんじゃ前に進めない。

 

ゆっくりと目を開ける。

 

 

目の前…数センチ先には、血塗れの“魂の鑑定人”が寝るように顔を項垂れていた。

 

外では雨が降り始めていた。

 

 

――助音「こ…これはッ!?」

 

TG大学病院の調査部診断室。

助音は、そこで鑑定人に魂を鑑定してもらっていた。

 

しかし、"魂の鑑定が終わったと思って目を開けたら、鑑定人が血塗れで動かない"。全く状況が読めない。

“鋭い何かで切り裂かれている”…?

 

助音(まさか…また夢!?でも坂根は死んだハズだし…身体も動かせる。てことは…)

 

反SPWのボスの腹心、坂根圭は彼のスタンド能力「"アナザーモーニング"」…相手に夢を見せる能力を持っていた。

彼はその能力を駆使し、助音に“翔太郎が死ぬ夢”を見せ、精神力を低下させて洗脳しようとしていた。

その夢の中では、助音を動けなくすることで"翔太郎の死体をまじまじと見せ続ける"というなんとも惨い仕打ちをしていたのだが…

 

助音は、前回と打って変わって動かせる身体を走らせ、鑑定人の元へ近づいた。

 

助音「ダブレッ!」

 

動揺を含む叫び声が、胸の内のダブレを呼び起こす。

彼女の目が、煌めく赤と碧のオッドアイへと変化する。

 

ダブレ「一体どうしたっていうん…」

 

発した言葉はすぐに途切れた。

出てきた目の前に血塗れの人間がいたら誰でも唖然とするのは当然だ。

 

助音「“ダブレもいる”…つまりこれは…"夢"じゃないッ!現実なんだッ!」

 

彼女は必死に「大丈夫ですか?」と問いかけるが、期待も虚しく返事がない。

 

近くの机の上に置いてあったペンライトで瞳孔を照らす。死亡を確認するための処置である。

 

ダブレ「瞳孔が散大している…心拍音も…ッ!」

 

助音「死んでる…」

 

呼吸が荒くなる。

ダブレがいること、身体を動かせること。まぎれもなくこれが現実であることを悲痛に示している。

ポツポツという雨の音が鼓膜を揺らす。

 

助音「“別れ”…」

 

彼女がぽつんと…雨のようなか細い声で呟いた。

 

ダブレ「甘ったれたこと言ってんじゃあねぇッ アタシたち探偵なら、“誰が殺ったか”を徹底的に調べるんだろ!ジョジョ!」

 

いきなり、ダブレが助音を鼓舞するように叫ぶ。

 

ダブレ「こんな雨なんて、アタシらには関係ないだろ?」

 

助音「…うん!」

 

彼女は、踵を返して走り出す。

 

……まさかとは思うけど…!

 

着いたのは、すぐ近くにある病室。

 

助音「いる…!“少女はいる”…ッ」

 

“をー”という名の少女。

反SPWに洗脳され、助音たちに差し向けられたのだが敗北し、洗脳が解かれ病院で治療中なのだ。

 

ダブレ(まだ敵かわからない。静かにしろ(小声))

 

その少女は未だにベッドに横たわっていた。

 

助音+ダブレ「“G・B・ドリームス”」

 

その“2人で1人のスタンド”を発現させ、彼女はゆっくりと少女に近づいて行く。

 

2m...1m...近づけど、オーラのようなものは見受けられない。目を瞑ったまま動かない。

 

……動かない…?もしかしてこの子も死んで…?

 

遂にすぐ隣に着く。

2人で1人のスタンドが、少女の胸元に触れる。

 

ダブレ「"触れた"… これでこの少女は動けないし、スタンドも出せない…!」

 

助音とダブレの2つの能力が合体した結果、2つの能力を同時に使える。今少女は精神力、そして身体を…つまりは完全に支配されているということだ。

 

助音「生きているし…起きていない。寝ている…まだ“夢を見ている”…!」

 

ダブレ「おいおい、本気で言ってんのか!?それじゃあ誰が鑑定人を殺ったってんだよ!」

 

2人(1人)でわちゃわちゃしている内に、何か…おかしな音が聞こえてきた。

 

助音+ダブレ「え?」

 

それは何処から聞こえるのか?2人(1人)は周りを見渡す。

 

???「お邪魔するぜ」

 

そんな声が聞こえた瞬間に、窓が割れる音がした。

 

ダブレ「何だッ!?」

 

見ると、少し離れた所の窓が割れていて、そこには“翼が生えた男”が立っていた。

 

助音「えぇ!?ここって高層階だよね!?」

 

その男…光る黄色い目をこちらに向けて言うに…

 

???「貴様が…"枕木"か…」

 

なにか、もはや憎しみを向けるような目である。

助音は動揺を隠せない。

 

助音(まさか…あの少女が…ッ!?)

 

ダブレ「おいおい、勝手に病室に入ってきやがって…訴えられる覚悟はできてんだろうな?不法侵入と器物損壊罪で訴えるぞ?」

 

そんなことを言いながらも、ダブレは冷静に状況を理解しようとしていた。

 

……目の前に翼の生えた男、後ろに元刺客の少女。

アタシたちは挟まれている。……もし、もし少女がまだ敵だとしたらとても厄介な状況だ…

 

よく見たら大きな爪が生えている…あの翼で空を飛んで、あの爪で窓を割ったということか…?あれはスタンド能力なのか…?まるで、“竜”だ…ッ!

 

ダブレ(まさか…あの男が鑑定人を殺ったというのか…?あの爪で…!しかし何故窓を割って入る必要があるのだ…!?わからん…ッ)

 

そうこう考えている内に、その男がかなり大きな声で話し出す。

 

???「なるほど…こんなところに隠れていやがったんだな…だから“生捕り”指定だったのか…」

 

???「さっきので確信した…さっきの行動でな…貴様が…枕木明ッ!!」

 

助音(枕木…明!?待って待って、意味わかんないッ!この少女が枕木明だと言うの? この男…反SPWの刺客なのか…ッ!?)

 

???「なるほど…“出てこない”のか…」

 

助音「さっきから何を言ってるんですか!?」

 

すると、男は視線を移し替えるように助音を見る。

 

???「お前…」

 

???「お前…ジョジョと言うらしいが…なるほど…2人もいたのか…口調が変わっているものな…」

 

助音(…!多重人格者であることを見抜かれた…!まてよ、てことは…今まで知らなかったってこと…?)

 

ダブレ「あんた…何者だ?」

 

凛とした、碧の視線が男を射抜く。

 

???「そういや名乗ってなかったな」

 

その男は、白いオーラを惑わせて言う。

 

???「俺の名は小林真司。反SPWの幹部だ …貴様を抹殺しにきた…ッ!!」

 

部屋に殺気が満ちる。空気が重い。

彼女は目を瞑ってゆっくりと、余命を宣告するかのようにしゃべる。

 

「殺害命令は出していないハズだが…?」

 

その顔を見た真司はニヤリと笑う。

 

真司「“銀色”か…アンタにお似合いじゃあないか」

 

 

 

……何が起こっているの!?

 

寝ている間に一体何がどうなっているのだろうか。

私はまだ“をー”…バグはまだ修正されていない。

 

"目が覚めた時のルーティン"で名前が変わっていないことを確認してから、今現在の状況を考える。

 

ことの発端はガラスが割れる音だった。

乾いた大きい音が鼓膜を揺らし、私はゆっくりと、ゆっくりと目を開く。

 

窓が割れた方向のX軸と、視線のY軸は垂直で、何が起こったのか完璧に確認することはできなかった。

 

今私が寝転がってる…病院のベッドから起き上がってもいいのだろうか…?

簡単な、どうでもいい原因で窓が割れたのならいいのだが、もし…私を狙った敵襲だったらマズい。

 

真司「貴様が…“枕木”か…」

 

考えているうちに、そんな言葉が聞こえて来る。

私の心臓が過度に跳ねた。

 

“何故”?

 

まず1つの疑問が思い浮かぶ。

寝汗をかいたかのように流れる冷や汗は脳を不安にさせて思考がままならない。

 

“私の名前はをー”。それなのに、何故“枕木と聞いて焦っているのだろうか”。

私が枕木翔太郎と交戦して負けたから?この部屋に翔太郎がいるのだろうか。

 

この“貴様”というのは、誰を指しているのだろうか?

ほんのちょっとだけ、私だけのスタンド“ビヨンド・ザ・ムーン”を出し、部屋を確認する。

 

部屋には…2人、見覚えのある人がいた。

 

1人は…先日、私が襲撃したオッドアイの女性。“生捕り対象”の空条助音。

生捕りにするために気絶させたとしても、“もう1つの人格”が出てきて簡単には捕まえられないと聞いた。

だから私は坂根と組んだのだが。

 

もう1人の男…この男は…何か、見覚えがあった。

名前も誰かも知らない。思い出せない。

 

まるで記憶の中に壁があるように、思い出すことはできない。“また”だ…

 

このような感覚で記憶を思い出せないのは、“私がをーになる前”の記憶だということがわかっている。

 

…?

おかしい。何かを思い出しかけている…

記憶の中の壁に、ヒビが入るイメージがした。

 

 

瞬間。記憶がフラッシュバックした。

 

大きな丘の木の上。

 

隣にいる老齢の男性。

 

目の前にいる、優しい黄色い目をした男。

 

遠くから見つめる姉。

 

移ろうモザイク。

 

をー「!!!」

 

私は驚きを口の中で噛み締める。

そして、スタンドでもう一度確認した。

 

“この男は…!”

 

真司「なるほど…こんなところに隠れていやがったんだな…だから“生捕り”指定だったのか…」

 

男の台詞を聞きながら、私は冷静に考える。

もしこの男が、“あの男”だとしたら…?

まだだ。もう少しだ。

もう少しで、全てを思い出せる気がする。

 

真司「さっきので確信した…さっきの行動でな…貴様が…枕木明ッ!!」

 

その言葉がトリガーだった。

 

これでもか、というほどの情報量が、頭の中に流れ込んできた。何故私がこうにもなってしまったのか。目の前の翼が生えた男が一体何者なのか。

 

そして私は、その親愛なる…いや、親愛なんてないかもしれない。そんな妹を思い出す。

 

私を“こんな姿”にした張本人…枕木明ッ!!

 

私は男が言っていることの“真意”に気づく。

“枕木明”はここにいる…

 

考えに熱中していたせいか、会話はいつのまにか先へ進んでいた。

 

助音「この少女には…指一本触れさせないッ この少女が一体誰であろうと!私には"護る"義務があるッ!」

 

真司「お前…少し着いてきてもらうぞ」

 

真司「"Degeneration"」

 

男がそう呟くと同時に、背中から生えている翼、手の爪がもっと大きくなった。

 

男がオッドアイの女性を掴むまで1秒もなかった。

彼女もスタンドを出していたようだがそれでも反応できないとは、どれだけの速さだろうか。

 

男はその女性を掴んだまま、窓の外へと跳んだ。

しかし私は気づく。その男が、窓の外へ跳ぶ瞬間私へ目配せしていたことを。

 

普段聞くことがない、翼がはためく音が段々と上へと向かっていく。この病院には屋上があるのだろう。きっとそこで戦闘するハズだ。

 

“寝てる場合じゃない”ッ…!

 

彼女は水色の患者服をはためかせて病室を後にするのだった。

 

 

いかにも不思議な状態。

"天空に"2人の姿がある。

雨はまだ降っていた。

 

真司「少しでもスタンドで攻撃してみろッ!重力加速度9.8m/s2(空気抵抗を加味した)の速度で地面とのキスをすることになるぜッ ファーストキスはそんなんで済ませたくないだろう!?」

 

その男…背中から翼が生えていて、手に大きな爪を持っている。そして、その爪で金髪の女性を掴んでいた。

 

助音「うぅっ…なんてことを…!」

 

すぐ真下を見れば、地面まで…何メートルだろう。数えたくないほど高い。

もしこのまま落ちたら、雨とほぼ同じ速度で落下することになるだろう。

 

今助音の生死を握っているのはその男、小林真司である。彼女は身動きを取れないでいた。

ちなみに怖くて目を瞑っている。

 

しかし、真司は笑うような口調で言う。

 

真司「お前とは少し話したかったからな…!もう少しの辛抱だッ」

 

ダブレ(この男…つくづくわからない…先程出していた殺気は…?本当にアタシたちを殺す気なのだろうか…?)

 

数秒して、真司は彼女を急に手放した。

 

助音「えっ…」

 

声を出す間もなく、体は重力に引っ張られる。

…が、すぐ着地した。

 

どうやら転落死は免れたようだ。

 

ダブレ「ジョジョ!目瞑ってんじゃねえ!」

 

助音「なッ、ダブレだって怖くて目瞑ってたでしょ!てかやろうと思えば片目だけでも開けれたでしょ!?」

 

するとすぐ近くに、助音たちをそこへと連れ出した男…小林真司が現れる。

 

真司(なるほど…身体は動いている人格に“色濃く”反映されるみたいだな…)

 

その興味を乗せた視線に流石に気づいたのか、助音は険しい目つきで男を見る。

 

助音「あなた…何が目的なの…!?“抹殺する”って…をーちゃんを抹殺するのかと思ったら私を連れ出して…しかも私を殺せる状況で殺さない…!」

 

真司「焦るな…お前は探偵なんだろ?推理してみせろよ…できるんだろ?」

 

ダブレ「テメー、ふざけたこと言ってんじゃあねえぜ!今この場でお前の正体を推理するなんて不可能だろッ!つーか何者だよ結局!」

 

彼女らは、口ぶりからわかるように、怒りを発していた。

 

ダブレ(反SPWの幹部と言っていたが…生捕りと言えるかどうかわからんが…ここは少なくとも…まだTG大学病院の屋上のハズだ…)

 

彼女は寝転がっている地面を見てみる。

黄色い線で、Hと書かれている。

Heliportの頭文字。つまりここは"ヘリポート"だ。

 

周りを見回してみる。誰もいない。

 

真司は、彼女が状況を察するために周りを見回していることを厭いもせずに考え事をする。

 

真司(やはり俺の考えは合っていた…つまりここからは…)

 

真司「推理の時間だ」

 

ダブレ「一体何を言ってんだ…?イカれてるのか?この状況で…」

 

助音「ダブレ!おじいちゃんのセリフ使っちゃ駄目!!!」

 

よくわからない茶番を無視して、真司は得意げに語り出す。

 

真司「まず…語るべきは"鑑定人"についてだな?お前も気になっているハズだ。」

 

ダブレ「鑑定人はアンタが殺したんじゃあないのか…ッ!?アンタのその爪で切り裂いたんじゃあないのか…ッ!?」

 

助音「鑑定人を殺して、一度外に出て窓を割って入ってくることで、殺人にまるで無関係のように見せかけた…ッ!」

 

鑑定人は、胸元に切り裂いた傷があって、恐らくそこからの失血で死んだ。

 

真司「違うな…お前はそう“思い込んでる”だけだ」

 

真司「お前は気にならなかったのか?何故“遺体を処理したり、証拠隠滅をしなかったのか”。」

 

ダブレ(…!たしかにこの男なら、違う殺し方もできるし、空を飛んで逃げることもできる…!)

 

真司「その前にだ…何故俺が殺す必要がある?」

 

その言葉に少し彼女は動揺を見せる。

彼女の顔を雨が濡らす。

 

真司「元々あの男は、洗脳されて反SPWに加入し、その持ち前の能力を駆使して“占った人がスタンド使いになれるかどうか”を調べてスタンド使いを量産していた。」

 

真司「しかし俺は奴がお前ら側についたとしても別になんとも思わない。ジョースター側が仲間のスタンド使いを増やそうなんて思わないことを知ってるからな…俺が奴に対してなにか殺意があるわけでもない。」

 

対峙するように彼を見つめる助音は言う。

 

助音「それなら一体誰が…まさか、あの少女が鑑定人を殺したとでも言うの!?あの少女はまだ眠ってたし、スタンド能力を使ったってあんな裂傷にはならないッ!」

 

真司「待て待て、落ち着け。焦るな…探っていこうじゃないか。状況推理というものがあるだろう?あの状況…あれだけの情報であの殺人は解ける。」

 

ダブレ(何かマズいぞ…屋上で戦闘するのかと思いきや何やら推理ショーが始まってやがる…"探っていこう"だと…?何を言ってんだホントに…!)

 

真司「まずお前らが言う通り…彼は胸に大きな裂傷があった。それが死因と見て間違いない。それをできる者は誰か…?あの大きな胸の裂傷は、並の刃物なんかじゃあ不可能だ。」

 

助音は、そんなことが一体誰が可能なのか考える…

 

真司「お宅の天久鷹優と小鳥遊ことりには少なくとも不可能だ…彼らは、先程このヘリポートで反SPWの幹部2人と戦っていた。どちらが勝ったにしてもな。」

 

助音「戦っていた…?」

 

真司「それについてはお前が知らないのも無理はない。まずまず、お前が今思う通りに彼らが犯人だったとしても動機がない。」

 

ダブレ「動機…」

 

真司「そう!“動機”なんだよ…!」

 

真司「“何故彼は殺されないといけなかったか”?そこから推理してみようじゃあないか。」

 

何か男は、上から目線で助音に話しかける。

 

助音「彼は…性格が悪いわけでもないし誰かから嫌われているとは思えない…」

 

彼は誰にでも礼儀正しく接していた。

そんな彼を、誰が嫌うだろうか。

 

真司「それだったら…何か、“どうしても殺さないといけなかった”理由があるハズだ…」

 

真司「お前が鑑定人の近くにいたことも関係しているのかもしれない…殺す対象の近くに人がいるのに何故殺したのか?それは最早、“罪をおっかぶらせる”為としか思えないよな?」

 

彼女に寒気が走る。

 

真司「まず彼の能力から考えてみよう…彼は、他人の魂の本質を見抜く能力を持っている。」

 

真司「もしそれが動機に関係しているとしたら、余程知られたくないことを“ココロに秘めている”人だな?もしそうだとしたら…それほど隠したかった“重大な何か”が存在してたってことだなぁ〜ッ」

 

彼女は男が話すにつれて、俯いていく。

それは、話についていけないのか、それとも…

 

真司「これが最後だ。何故“証拠隠滅”を行わなかったのか?」

 

俯く彼女を無視してでも男は話を続けた。

 

真司「眠っていた…?のかどうか知らないが、目を覚ましたお前は鑑定人の遺体を発見した。いやあ迅速だったなあ。お前の死亡診断は。」

 

真司「お前が鑑定人の死亡を確認してからの行動の切り替えもはやかった…一体誰が殺したのか?その犯人がまだ近くにいるのではないか、と思ったんだな。」

 

ポツポツと一定の間隔で降る雨と対照的に、心臓の鼓動の間隔が速くなる。

 

真司「それでも、"犯人は見つからなかった"。」

 

「…」

 

真司「じゃあ犯人は何故証拠隠滅をしなかったのか?」

 

 

真司「それは俺が、窓の外から犯行現場を目撃していたからだ」

 

恐らく、彼は敵陣の視察の為に空を飛んで助音の居場所を探っていたのだろう。

 

真司「普通の…いや、普通なんておかしいのかもしれないが、もし殺人を犯した犯人が他人に現場を見られたら…?目撃者も始末しようとするハズだ。」

 

真司「そこで犯人は考える…空を飛べる相手をどうやって始末しようか?犯人はきっと頭がキレるんだろうなあ〜ッ すぐに打開策を思いついたんだ。」

 

真司「その場に、“罪を着せれる人”がいたんだ。そして、罪を着せられることを恐れたその人が、犯人探しを行ってその男を始末するだろうということを、犯人は簡単に思いついたのさ。」

 

真司「もしそうすれば、ジョジョに“大きな爪を持った男が犯人である”と誤認させれるからな」

 

そう言うと、彼は助音から距離を取ったところを歩き始める。濡れた足音が響く。

 

真司「全く、困ったもんだぜ。"犯人"がそんなにも頭がキレるとはなあ…ジョジョに罪を着せるだけでなく、俺にさえ罪を着せるなんてなあ…」

 

そこで男は一息ついて一区切りをつけた。

その黄色い目で彼女を睨む。

 

真司「相手に大きな裂傷を与えれる奴…

ココロに特大な秘密を抱えている奴…

ジョジョに気づかれずに人を殺せる奴…」

 

すると、ようやくその女性は口を開いた。

 

「なんだ…はやく言ってしまえばいいだろう?その推理力…いちいち推理ショーなんてしなくても犯人を名指しできたハズだ」

 

真司「俺はな…人を追い詰めるってことが大好きなんだよ…まあそれだけじゃなくて、先輩探偵としては後輩にも成長して欲しくってなぁ〜ッ」

 

「成程…お前は探偵だったのか…私の組織にそんな奴がいたとはな…気づかなかったよ…スパイがいるなんて、この体にいちゃわからないよな…」

 

跪くように座っていた彼女は、ようやく立ち上がった。金色の髪をかきあげたその顔は、まるで無機質な…少なくともさっきまでの感じとは違った。

 

 

その男が彼女を指差して告げる。

 

――真司「貴様が犯人だ」

 

 

 

真司「枕木明…いや、“3つ目の人格”とでも呼んだ方がいいのかな?」

 

明「まさかお前がこの私を裏切るとは思わなかったよ…しかも私の“居場所”さえ見抜くとはな…」

 

彼女は殺意を込めた発言を男へと送る。

……その輝く“銀色の目”を男に向けながら。

 

 

真司「彼を殺せる犯人は…“空条助音の中に潜んでいて”、“実質的にその身体を乗っ取っている”貴様…枕木明だけだ。」

 

明「気づかれないと思ってたんだがな…まさか、鑑定人だけでなくお前にまで気づかれるとは。」

 

彼女は、濡れた金髪に銀色の目…

雰囲気が、“空条助音のソレ”ではなかった。

もはや、同一人物とでも思えないほど。

 

真司「真実はこうだ…“空条助音の身体に3つ目の人格として潜んでいること”が鑑定人にバレた貴様は、口封じの為に鑑定人を始末した」

 

真司「しかし、その行為はこの俺…小林真司に見られていた。そこで貴様は俺を始末するために、助音とダブレの人格に俺を追わせたんだ。」

 

口に出さずとも、“白銀色のオーラ”を纏っている彼女は男に近づきながら答える。

 

明「“運が悪かった”訳ではない…この世は全て運命で定められているからな…だから私はきっと後悔しないんだ。 …だから、“小林真司が枕木明に始末される”という運命を達成させにいく」

 

真司「それは違う…もしお前が病室でその“銀色の目”を俺に見せなければ俺は貴様の正体を知らずにいたようなもんだ。それに関しては運が悪かったんじゃあなくて、貴様がただ過ちを犯しただけなんだ」

 

明「黙れ」

 

明「貴様を始末した後に…病室に戻ってあの少女…バカ姉を始末しに行くとしよう…」

 

真司「おや、それが可能だと思うのか?

俺はさっき、わざと彼女の過去に関することを発言することで彼女の“バグ”を修正した…」

 

明「バグを…修正しただと?」

 

真司「簡単だったよ…彼女がバグに襲われる瞬間に居合わせていた俺は、彼女の名前を覚えていた…バグの修正方法は、そのバグが起きたところに居合わせていた者が近くにいることだったんだ」

 

真司「恐らく彼女はもう、貴様…枕木明が空条助音の中に潜んでいて、俺と屋上で戦闘することに気づいたハズだ。貴様は…そんな余裕でいられるのかな?」

 

圧倒的に彼女が不利な状況…

にも関わらず、彼女は“笑っていた”。

 

明「成程なあ…成程…なかなかやってくれるじゃあないか… だが万事を休するのはお前だ」

 

彼女は銀色の視線を男に向けたまま呟く。

 

明「“N o w h e r e”」

 

 

 

スタンド紹介

スタンド名「Degeneration(ディジェネレーション)」

スタンド使い名「小林真司」

竜のような体になれるスタンド。いわゆる竜人。

ツノ、翼、爪、鱗やキバが生える。

大きな竜の姿、そして人の姿のまま竜に近い形に変身できる。

攻撃手段は主に爪、キバ、火炎放射など。翼で空を飛ぶことができる。鱗で防御できる。

能力が相当強く、リターンとして、能力を使用している間、精神力を酷使する。なので制御や持続はかなり難しい。

また、生物なら竜に変えることができる。

破壊力 :A

スピード:A

射程距離:C

持続力 :E

精密動作:D




昇らない太陽は、雨が降る中に出づ。


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#37 3人目

すげえ遅くなって誠に申し訳ございません
あとクソ長いのでご容赦を


ここはスワンキーストリート。

城戸瑞稀、枕木翔太郎はここへ視察に訪れ、“魂だけの状態”になってしまった枕木紗和と会う。

 

そこで瑞稀は紗和と共に翔太郎に、反SPWに関する情報などを教えていたのだが、その情報を木の上にいた男2人に聞かれていた。

 

紫苑「俺の名は桜井紫苑。」

 

怜「僕の名前は古橋怜。」

 

紫苑+怜「それじゃあね」

 

そんな余裕な2人は3人を前にして帰ろうとするが、『知りすぎた奴らは帰せない』と、キッドたちと2人は戦闘に陥った。

 

先に引き金を引いたのは翔太郎だったが、どういうことか弾丸は翔太郎へ跳ね返されてしまった。

 

しかし…

 

怜「えーと…なんで弾丸がその子に当たってないの?お前が庇ったわけじゃあないし…」

 

跳ね返った弾丸は、木に着弾していた。

撃ったのはガラスの弾丸だったため砕けているが。

しかし、それは“弾丸が消えていない”ことを顕著に示していた。

 

紫苑「自身もワープして、弾丸もワープさせた…?30秒間のインターバルが存在しているのに…?」

 

そう迷う彼らを嘲笑うように彼女…キッドは笑う。

 

キッド「おやおや〜?予想外のことが起きて混乱しちゃってるみたいだね〜ッ」

 

翔太郎「キッドさん…?その“能力”は…」

 

仲間である翔太郎でさえ、困惑していた。

 

キッド「え?この能力?“ネイキッドシャッフル”だよ〜」

 

翔太郎「いやそういうことじゃなくて!」

 

怜「んー…なるほど…その子でさえ知らないってことは、“能力が覚醒した”か、“違う別の能力を隠していた”か…だね」

 

キッド「おや、“デイドリームワンダー”の線は最初から捨ててるんだ。その理由聞かせてよ。」

 

代わって紫苑が言う。

 

紫苑「お前が携帯を持っていないし、“片手の魔法陣が消えている”からな」

 

それを聞いた瑞稀は、はしゃぐように言った。

 

キッド「あは〜いい線いってるじゃん!…ま、教えるつもりなんてさらさらないけどね」

 

雰囲気が変わった。

“情報班”の2人から、異様なオーラを感じるのだ。

 

紗和『一体どうしたのかしら?あの人たち…』

 

翔太郎「わかりません…」

 

紗和が耳打ちで翔太郎に話しかけるが、翔太郎はそう返事して構えることしかできなかった。

 

ちなみに何か紗和もはしゃいでいた。

 

怜「僕ら情報班は…“知りたい情報はどんな手を尽くしてでも手に入れる”のがモットーでね」

 

紫苑「というわけで潰す」

 

とっくに立ち上がっていた翔太郎は拳銃を握りしめる。すると、すぐとなりから小さな声が聞こえた。

 

紗和『“DAYDREAM WONDER(デイドリーム・ワンダー)”』

 

その向日葵のような金髪の女性は、オーラを放つ携帯を右手に携えていた。

 

怜「“サイバーキャット”」

 

金髪の青年の背後からでた青いオーラ…そこには、人型の…猫? 猫(?)型のスタンドが立っていた。

人間のように立っている。それだけでなく、手首の辺りや体にそれぞれ赤色と青色の2種類の矢印がついている。

ロボットのような…メタリック感のある重装備をしている。猫…?

 

紫苑「“Winning Come Back!”」

 

短めの黒髪をガリガリとかいた男はそう呟く。

すると、白い半球状のオーラが男の前方を囲んだ。

 

そして、スタンドを露わにした男2人はゆっくりと3人に向けて歩き出す。

 

すると、片方…怜が、一気に踏み出して跳んだ!

 

翔太郎「!?」

 

キッド「"速い"…!」

 

彼はたった一歩分の跳躍で、何メートルを飛び越えたのだろうか。

 

しかし紫苑は依然として歩いたまま。

 

……どちらを撃てばいいのだ…!?

 

翔太郎は、瞬時に覚悟を決めて発砲した。

煌めく弾丸が音を捨てた速度で、翔太郎たちに近づく怜に飛ぶ。

 

怜「にゃァッ!」

 

そう怜が叫んだ。

スタンドで…弾丸を殴り飛ばした!

 

紗和『え』

 

弾丸は砕けたり失速して落ちたりせず、速度を維持したまま、紗和の元へ飛んでいった。

 

弾丸は紗和を"すり抜けて飛んでいった"が…

紗和は驚きの表情を隠しきれていない。

 

紗和『弾丸を…殴り返した…!?』

 

キッド「単純にパワーが強いのか…それとも…」

 

そう言う彼女に、怜が飛び込む。

 

翔太郎「キッドさん!何を言っているんだッ!はやく避けて!!」

 

城戸瑞稀は動かない。

 

その瞬間。

 

怜「ぶッ」

 

“スタンドの拳(肉球)は瑞稀に届かず”、怜はズッこけた。彼は瑞稀にぶつかることなく、目の前に顔から落下する。

 

キッド「美味しいかい?地面の味は」

 

未だ歩みを止めない紫苑も目を見開いていた。

 

なによりも目を引くのは、“空中に浮いた足”だった。

“水色の魔法陣から足が出て、空に浮いている”。

 

キッド「ちゃんと見なよ。」

 

よくみると…そういう彼女の右足は…"なくなっていた"。…いや、完璧になくなっているというわけではなさそうだ。

 

浮いている足が水色の魔法陣から出ているように、瑞稀のなくなった片足の膝…そこに同じく水色の魔法陣があった。

 

紫苑「足がワープした…!?」

 

怜「??…???? ?」

 

怜は顔の土を払うが、まだ何もわかっていない、という顔だ。

 

キッド「ショータくん!この猫男を撃ってッ!!」

 

翔太郎「えっ はいッ!」

 

瞬時に照準を合わせた翔太郎は、男の眉間を狙って引き金を引く。

 

硝煙…二酸化窒素が銃口から舞うように、発射する瞬間に土埃が舞った。土の弾丸だ。

 

弾丸は真っ直ぐ男の顔に飛んでいく。男は弾丸を見据えて再び叫んだ。

 

怜「“サイバーキャット”ォ!僕を守れ!」

 

しかし。

 

キッド「そう叫ばないでよ。うるさいよ」

 

手を差し伸ばした。その魔法陣が付いた手を、怜に。

弾丸がその手に直撃する瞬間に、弾丸は消えた。

 

翔太郎にも一瞬のことでわからなかった。

『撃て』と言われて撃ったのに。瑞稀は…その手を眉間の方へ伸ばした。

 

紫苑「ぐぇっ」

 

翔太郎がようやく正気に戻ったのは、左斜め前方から聞こえる、男の喘ぐような声が聞こえた時だった。

 

いつのまにか…"紫苑も倒れている"。

 

うつ伏せに倒れているその男の背中に…真っ茶色の土埃がついている…“土の弾丸がめりこんでいる”!

 

キッド「やはり…“跳ね返す能力”は背後にはなかったか…」

 

クスクスと笑う瑞稀。

 

紫苑「ぐ…お前っ… “足”だけでなく“弾丸”も!お前はその“魔法陣”で物体をワープさせているのかッ!」

 

怜「…なるほどそういうことね…確かに、僕も“瞬間移動に魔法陣は関係ないだろ!”って思ってたからね…」

 

瑞稀は指をくいくいと動かすと、足が出ていた魔法陣を手に戻した。それと同時に足も元に戻る。

 

キッド「正解っ!」

 

翔太郎は理解する。

僕の方に反射された弾丸も…キッドさんの魔法陣を通ってワープして木に着弾した!

足を魔法陣を通してワープさせて怜を転ばせたし、僕が撃った弾丸を紫苑の背後にワープさせて背中を撃ち抜いた!

 

翔太郎(キッドさんの魔法陣は、“ワープマーカーやワープホール”の様な、物体を通してワープさせる能力があったんだッ!!)

 

……確かに思っていた。ただ行きたいと思うところに移動するだけなら、“魔法陣は必要ない”のでは?と。

 

何故気づかなかったのだろう。

恐らく、あの魔法陣を介した瞬間移動には"インターバルが存在していない"ッ!

 

すぅ、と息を吐いてから、瑞稀は話し出す。

 

キッド「これは“制約”だ。」

 

キッド「決断をしたら、もう逃げない、という“制約”…30秒という制約…自ら下した決断から逃げてはいけない、という“制約”…」

 

キッド「でもここ最近でわかったよ… お前らみたいな生きる価値もない奴を始末するのに、“何故ボクが制約を取り付けなくちゃいけない?”世の中は理不尽に塗れている。…これは、"理不尽から逃げるという"決断"だ。」

 

キッド「次に“制約”をつけられるのはお前らだ」

 

その冷徹な台詞に、翔太郎は戦慄した。

冷や汗がダラダラと出てくる。

 

……キッドさんがこんな声で喋ってるのを見るの、初めてだ…

 

紗和『…』

 

怜「君の気持ちは充分わかったよ」

 

立ち上がった怜は、先程のような速度で瑞稀の後ろへと回り込んだ。

 

怜「君の制約の情報なんていらないんだよ!」

 

勢いよく、その猫のスタンドは振りかぶってその拳(肉球)を反応しきっていない瑞稀に向ける。

 

が。

 

怜「に"ッ」

 

その拳(肉球)が届く前に、怜は吹っ飛ばされた。

殴り飛ばされたのだ。

 

キッド「忘れてるよね…『スタンド使いは3人いる』って言ったこと…」

 

紗和『“Einsatz”』

 

瑞稀の近くには、紗和の元から出現した守護霊のようなエネルギーの塊…真っ黒い岩のようなスタンドがいた。

 

紫苑「…!魂だけのまんまで…スタンドを使えるのか!?」

 

その言葉を無視するように、紗和は翔太郎と瑞稀に話しかけた。

その無視は、紫苑の考えを肯定しているにすぎないのだろう。

 

紗和『この携帯で奴らのスタンド撮ったから、能力わかったよ。』

 

怜「えっ」

 

紗和は楽しげに語る。

 

紗和『さっき「えっ」って言った男…古橋怜。スタンド名は“サイバーキャット”…人型の近距離パワー型能力で、特殊能力は"作用反作用のどちらかを強化したり、無視したりできる能力"…』

 

怜の顔から冷や汗が垂れる。

 

紗和『もう片方の男…桜井紫苑。スタンド名は“ウィニングカムバック!”オーラ型に見えるがじつはバリア型の能力で、“等速、加速度運動以外の動きをしている物体を反射する能力”…』

 

紫苑「なっ…!」

 

キッド「ありがと紗和さん。これでこちらの方が圧倒的に有利だ。」

 

2人の男の反応からして、焦りを感じる。その焦りは、紗和が述べた分析が正しいことを示していた。

 

すると、そんな男たちを紗和が見下すように見、しかし笑うように言った。

 

紗和『詰めが甘いよ』

 

翔太郎は、普段見ない2人に混乱したのだった。

 

 

 

……なんてことだ!頭がパンクしちゃいそうだ!

 

僕、翔太郎は自分でもわかるほどに混乱している。

稀にさえ見ない、キッドさんの言動…

そして、お母さんの“能力”!

 

頭を整理する前に、男が声を上げた。

 

紫苑「能力もバレたし…攻撃も受けた。紛れもない劣勢だ。“制約”?笑わせるな。もう手段は選ばないッ!」

 

起き上がった男…紫苑は、どこからともなく…

拳銃を取り出した!?

 

オーラみたいなのは見えない。

少なくとも“スタンドではない”…

完全違法の実銃だッ!

 

紫苑「“Winning Come Back!”」

 

男がそう言うと…僕と男を、半透明な膜みたいなものが僕らを囲った。

 

翔太郎「!?」

 

キッドさんやお母さんが目を見張るのが感じ取れた。

流石に驚いているらしい。

 

紗和『これは…バリア!?』

 

紫苑「反射のバリアで部屋を作った…これでこの部屋の中に入れる者はいない」

 

薄透明なバリアが縦横に重なり、割と広めの部屋のように僕と紫苑を囲っている。

このバリアだったらたしかに人は入れない…!

 

お母さんがバリアにすり抜けて入ってきてるけど…

いや、スタンドがバリアに跳ね返されてる…なるほど本当に2人きりみたいだ…ッ

 

翔太郎「差しで勝負か…受けてたつっ!!」

 

紫苑「差し殺してやる」

 

彼は僕の方へ拳銃を向ける。

 

 

 

――紗和『どこみてるの瑞稀ちゃん!やつに触られているよ!』

 

キッド「なっ!!」

 

気付けば…怜のスタンド、“サイバーキャット”が瑞稀の右足を掴んでいた。

 

キッド「き…気づかなかった…!"触られている感触すらなかった"…!」

 

怜「あららごめんね、その綺麗なおみ足、触られるの嫌だったかあ〜」

 

気持ち悪いことをいいながら、男のスタンドは足を掴むのをやめた。

 

キッド「うッ!?」

 

瑞稀が…触られただけで微動している。

彼女の足には、“下向きの赤色の矢印”が浮き出ていた。

“作用・反作用無視”の能力と言っていたが…

 

怜「“触られていたのに気づいていない”…それは当たり前だ。僕が“作用”を無視したからな…」

 

……奴の能力…触られただけで発動するのか…!?

 

紗和『瑞稀ちゃん!?動けないの!?』

 

返事する間もなく、怜が喋る。

 

怜「作用反作用は…この世に存在する物質全てに毎秒働いている力…足で地面を蹴って勢いをつけれるのも、この足で地面に立っているのも、全てこの力においてのこと。」

 

キッド「…ッ!恐らくこいつの能力で、“垂直抗力と地面からの摩擦”という反作用を無視されているんだ!」

 

紗和はなんだかわかっていないようだ。

怜は彼女をみかねて説明する。

 

怜「わかりやすいように説明してあげる。水泳の授業で泳ぐ時に、最初は壁を蹴って勢いをつけるでしょ?蹴る力は作用と呼ばれる…そして、蹴る時に“壁から受ける力”で僕らは前へと泳ぐ…その力が反作用だね」

 

怜「物体Aが物体Bに力を加える(作用)とき、物体Aはまた物体Bから同じ大きさの力を受けている(反作用)。これはいつ何時でも発生する"法則"だ。」

 

……彼の説明より言えることは、人が手で物体に力を加える際に、手は物体から同じ大きさの力を受けている、ということ。これは作用反作用の法則と呼ばれる。

 

人間が地面に立つ下向きの作用に対して、“地面を踏んでいる”という感触が反作用である。

 

キッド「くそっ…小説じゃ説明しにくい能力持ってきやがって…!」

 

紗和『じゃあ瑞稀ちゃんが今受けている力は…』

 

怜「摩擦もなくなって、地面を踏むという手応えもなくなる…即ちこれは、地面に立っているのに、“落下している”という矛盾した状況に陥るハズだ。」

 

理論上、地面の摩擦と垂直抗力を失った彼女にかかる力は、(彼女の質量)×(重力加速)のみとなる。

もちろん重力と地面からの力がつりあっていないため、仮に彼女の体重が50kgと仮定すると、490Nの力がかかっていることになる。これは重力が普段より強くなっていることと同じである。

 

怜は動けない瑞稀に近づいてこう言う。

 

怜「気分はどう?“立っているのに落下している”ような感覚は… この矛盾した状況は、空気抵抗を加味しないから、無限に加速し続けるんだよ?」

 

怜「いい?“無限とは矛盾”であり、“矛盾とは無限”だ。矛盾には無限の力が存在しているんだ…君らにもいずれわかるよ。」

 

紗和『“Einsatz”!』

 

紗和とそのスタンドが怜に急接近する。

しかしそれを見た怜はニヤリと笑った。

 

キッド「はッ」

 

瑞稀が叫んだ。

 

キッド「紗和さん駄目だッ!その男を攻撃してはッ!」

 

怜「物事には理解を以て取り組むべきだと思うんだよ」

 

紗和『あッ!?』

 

拳が直撃した時。

その真っ黒い拳に…青色の、紗和の方へ向いている矢印が浮き出ていた。

 

怜「それは“反作用の矢印”だ」

 

彼は、痛くも痒くもなさそうな顔で言った。

もはや攻撃されたとは思えないような顔で。

 

紗和『はっ!!』

 

瑞稀の叫びや、怜の説明でようやく“自分が犯した失敗”に気づいた彼女は拳を戻すがもう遅かった。

 

紗和『あ…ぐぁ…』

 

青い矢印を伝った破壊エネルギーが、その黒いスタンドを襲う。

黒い岩のようなスタンドに、ヒビが入っていく。

 

キッド「紗和さんッ!すぐにその能力をメールボックスから削除するんだッ!!」

 

怜「うるさいっ!」

 

凄い速度で瑞稀に飛び込んだ怜は、その拳をお見舞いした。

 

キッド「…ぁっ…!」

 

動けない瑞稀は、かなり後ろの方へ殴り飛ばされた。

殴打されたその腹には、赤色の矢印が浮き出ていた。

 

怜「作用と反作用…どちらが効果しているのか、わかりやすいでしょ?その赤色の矢印は作用、青色は反作用を表しているんだよ。」

 

また彼は足で地面を踏み込んで今度は紗和の元へと跳んだ。

その足には、大きめの青色の矢印が浮き出ていた。

 

キッド「地面からの反作用を強化して…なるほど、普段よりも強い力で地面を蹴って速く進んでいるのか!しかも作用を強化して反作用を無視することで強化した拳でボクを殴り飛ばした!」

 

彼は踏み込んで跳ぶ反作用の力を増強して、常人よりも強く速く跳んでいるらしい。また、殴る力(作用)を強化することで相手に与えるダメージを多くしているようだ。

 

怜「あ、そういえばどうなったのかな」

 

くるりと振り向いた方向には、少し体が"透けて見える"紗和が、携帯を持ちながら怜を睨んでいた。

 

怜「な〜んだ間に合ってたのか〜 でも、“弱点”は発見しちゃったねぇ」

 

魂の状態である紗和には、例えスタンドであろうとも物理的な攻撃は通用しない。

 

が、“DAYDREAM WONDER”でコピーしていた“Einsatz”がダメージを受けてしまった。

 

怜「君がコピーし使っている“能力”…それを攻撃すれば君は消失するッ!!」

 

現に、スタンドにダメージを受けた紗和は、モヤがかかるように体が消えかかっている。

 

紗和『はぁ…なんかちょっとムカつく…』

 

怜「消失したくなければ当たり判定のないその指咥えて負けゆく城戸をみてるんだねーっ」

 

子供のように煽る怜は、瑞稀の方を見直す。

しかし彼が見るその彼女の顔は、焦っているものではなかった。

 

怜「あれ…湿っている困った顔の方が似合ってたのに…」

 

瑞稀は不敵な笑みと共に、黒光する拳銃を取り出した。

 

 

 

紫苑「この部屋…バリアの部屋と呼ぼうか… このバリアは放たれた物体が放たれた場所へ戻ってくるのではない。エアホッケーのようになる。」

 

彼は、その拳銃を向かっている少年ではなく、少し上にズレた場所へと向けている。

 

紫苑「難しくいえば光のようなもの…光は鏡にぶつかり反射される時…入射角と反射角が同じようになることと同じなのさ。」

 

紫苑「そして…このバリアは“加速、等速運動以外の運動”をしている物体を跳ね返す… 拳銃の銃弾は少なくとも重力、そして空気抵抗を受けているため、“完璧な加等速運動”にはならない…言ってること、わかるよな?」

 

実践、とでも言うように男はバリアに向かって発砲した。耳が割れそうなほどの音が響く。

 

発砲音に併せて薬莢が飛んだ。

 

翔太郎(撃ってきた…!)

 

発砲が確認された瞬間に、翔太郎はステップ移動で避ける。

天井のバリアとぶつかって反射され、下方向に…翔太郎の方へと飛んでいく弾丸は翔太郎にあたることなく地面へと着弾した。

 

翔太郎「目で認識できないほどに地面を抉って、威力を失わず…もしやパワーが強くなっている!?」

 

弾丸は地面を抉って見えない深さまでに沈んでいた。

鉄の弾丸を地面に撃ったことがある翔太郎はすぐに理解することができた。

 

翔太郎「"反射された物体の速度、パワーが増強されている"…ッ!」

 

紫苑「バリアって言ったらそんな感じがするだろ。ゲームではリクレクターとか言うらしいが」

 

バリアを介して反射された物質は、速度もパワーと増すらしい。

 

翔太郎「くっ…“ムーヴメント”!」

 

翔太郎も応戦するように2発ほどその銃で発砲する…

翔太郎は、2発目をわざと“バリアに撃った”。

 

紫苑「おっと。“Winning Come Back!”」

 

紫苑を正面から狙った弾丸は、彼の目の前に張られたバリアにはね返されて地面に着弾する。

 

しかし正面に撃った弾丸はおろか、跳弾した弾さえもはね返されてしまった。

 

紫苑「俺は射程内ならいくつでもバリアを張ることができる。だから正面に撃とうが反射で狙おうが俺のバリアの前には意味がないんだよ」

 

紫苑はまた発砲する。

弾丸が目で認識できない速さで…

 

翔太郎「どんどん反射している!」

 

先程のように上下に反射されたわけではない。

地面と並行に移動しているその弾丸は、“着弾地点が地面ではなくバリアなので弾丸は止まらない”。

バリアに無限に反射されて当たるまで止まらないのだ…!

 

紫苑「俺は目の前にバリアを張っているからこの弾丸はお前に当たるまで止まらない。

…いや。当たっても突き抜けるかもな…?」

 

下卑た笑いを堪えようともせずにその男は言う。

…が、その笑みはすぐに消えた。

 

翔太郎「あんた阿保なのか…?あんたの身長で撃った弾丸が僕の身長に当たるワケないだろう!」

 

しゃがみながら、天井に銃口を向けた翔太郎が叫ぶ。

 

翔太郎「“ムーヴメント”」

 

乾いた発砲音がこれまた鼓膜を揺らす。

天井にぶつかった弾丸は跳弾し…

その弾丸が地面に着弾した瞬間、土埃が舞った。

 

紫苑「目眩しのつもりか!お前の身長に合わせて地面に並行に撃ったらお前はもうおしまいだぞッ!」

 

翔太郎「本当にいいのかな?撃ってみなよ…」

 

笑うような口調で、翔太郎は言う。

最も土埃で笑っているのかさえ目視できないが。

 

紫苑「…何が狙いだ?」

 

翔太郎「“粉塵爆発”って言葉くらい…聞いたことあるでしょ?今ここには無尽の砂埃が舞っている… “そんな中で、銃を撃っていいのか?”ってきいてるんだよ」

 

粉塵爆発とは、多くの塵のような物質が大気中に浮遊している状態で、引火するとたちまち発生する大爆発のことである。

 

その空間には、“ムーヴメント”により強化され、尋常じゃない程の土埃が舞っている。

 

紫苑「何が狙いだ!こんなの時間稼ぎにしかならねえってお前にはわかるはずだ!しかもお前は弾丸にする“資源”がない!」

 

彼の言う通り、翔太郎の行動は銃を使うことを封じただけで、紫苑を攻撃できる手段ではないのだ。

依然彼は周りをバリアで囲っているため、絶対防御を体現しているような状況である。

 

また彼が言う通り、翔太郎が紫苑を再起不能にできるほどの攻撃力を持つ弾丸を作る"資源"がないことを、『土の弾丸を多用していること』が物語っていた。

 

紫苑(落ち着け…このガキが今俺に攻撃できる手段はないハズ… じゃあ!“何故こんな手段をとる”!? この瞬間に、奴は何か、得体も知れないことをしようとしているんだッ!)

 

するとこんな声が聞こえてきた。

 

……怜ってやつの声か?

 

「この馬鹿ッ!!粉塵爆発は可燃性の物体が舞ってないと発生しねーんだよッ!!つまり奴が言ってることは“ハッタリ”だ!お前が動けない時間に、“奴は何かを準備している”んだ!」

 

紫苑「なッ!?」

 

翔太郎「あーあ」

 

先程口述した通り粉塵爆発は、粉塵に"引火"することによって爆発するのだ。

言うまでもなく、“土”は可燃性ではない。

 

翔太郎は紫苑に、嘘を…“ハッタリ”をかけたのだ。

 

翔太郎「バレちゃったけど、おかげで時間が足りたよ。あんたが馬鹿なおかげでね…」

 

煽られたことによる怒りが紫苑を衝動に駆らせようとするが…それでさえ動けないような、“異様な状況”に彼は流石に気づいた。

 

……“暗い”!

 

紫苑「光…がない!」

 

土埃などもはや関係ないくらいに…

そこには、“光”がなかった。

 

そこにあるのは確かな闇のみだった。

 

紫苑「まさかお前…“光を資源に”ッ!!」

 

翔太郎「あれ?僕の身長に合わせて撃てば当たるんじゃあなかったっけ?」

 

紫苑「ッッッ!!!!」

 

ついに、怒りに任せて…紫苑が撃った。

それを翔太郎は見逃さなかった。

 

翔太郎「見えたッ!!」

 

発砲する瞬間に銃口から発生する火炎光…

“マズルフラッシュ”を。

 

翔太郎「そこだぁッ!!」

 

銃口から飛び出した無骨な“鉄”の弾丸が、正確に紫苑の片腹を貫いた。

 

紫苑「っぅッ!?」

 

……何故俺に…この暗闇の中で?しかも俺の場所も把握して… それにこの弾丸…!痛え!土じゃねえ!

 

スタンドの意識が一瞬途切れたのか、バリアが消えた。そのせいか紫苑が撃った弾丸は翔太郎に当たるまでもなく飛んでいってしまった。

 

翔太郎は、余裕のためか、ふうという息をすると共に風の弾丸で土埃を飛ばした。

しかしまだ“暗闇”のままである。

 

翔太郎「この状況…不利な状態から反撃するまでに、本当にたくさんの条件が必要だったよ…」

 

吐血する男を尻目に(暗闇で見えていないのだが)、翔太郎は語り出す。

 

翔太郎「あんたの目の前にあるバリア…それはもちろん、あんたが撃つ時には引っ込めないといけないよね?反射して自分に当たっちゃうから…」

 

翔太郎「でもあんたは暗闇の中でも“撃った”。光で撃った場所、タイミングがわかってしまうのに。」

 

そこで、ようやく紫苑は自分が犯した失態に気づく。

 

紫苑「!!なるほど…この辺りを暗くしたのは…俺が発砲するタイミング、即ち“バリアを解除する”タイミングを見つける為か…ッ」

 

"能力を解除する瞬間を見抜く"…これが、翔太郎が“暗闇を作り出した”目的であった。

 

紫苑「しかしこの弾丸…鉄だ。痛みでわかる。どこに隠してた…?それも盲貫(弾丸が突き抜けずに身体に留まること)だ…」

 

翔太郎が撃った弾丸は、紛れもない…鉄である。

必ず弾丸が当たるタイミングまで、その“資源”をとっていたのだろうか?

 

翔太郎「あんたは気づいていない…自動式拳銃…それは撃つ度に“薬莢”が落ちる…“排莢”が起こる!」

 

弾丸は大まかに、発砲する瞬間に発射される“弾頭”、それのケース的な存在の“薬莢”で構成される。

 

対物に当たるのは“弾頭”であり、発砲する瞬間にケースである“薬莢”は落ちるのだ。これを“排莢”という。

 

翔太郎「薬莢は金属でできている… それだけでなく、僕の能力も進化している…僕の"弾丸を作る射程"は以前よりも広い!」

 

意味を理解し、紫苑は続きを言う。

 

紫苑「俺が発砲する度にお前は“鉄の弾丸”を作ることができる!」

 

彼が銃で発砲するたびに、“薬莢という鉄の資源”ができる。翔太郎は薬莢を基に弾丸を作ったのだ。

しかも未だに光がないことから、鉄の弾丸を作りながら光の弾丸を作っていることになる。

 

翔太郎は“暗闇を作る”という行動のみで、『バリアを解除するタイミングを理解する』、『鉄の弾丸を補給する』、『紫苑の居場所を火炎光で判断する』ということを全てやってのけたのだ。

 

紫苑(この勝負…俺ばかりが有利だというわけではないのか… 目を凝らしてもガキが見えねえ…)

 

しかし、彼は未だに不敵な笑みを浮かべる。

 

紫苑「ふ…ふふ…」

 

それは、声にも出てしまう程。

流石に翔太郎も不審に思う。

 

翔太郎(…何がおかしい!?)

 

すると、彼はいきなり1発、発砲してきた。

マズルフラッシュが瞬く間に流れる。

 

翔太郎「!!“ムーヴメント”ッ」

 

…1秒経っても音がしない。

 

……当たらなかったのか…!?

それとも捨て身の射撃なのか…!?

 

翔太郎「っぁッ…!?」

 

肩に、足に、衝撃が走る。

断片的な痛みではなく、つん裂くような痛みが…断続的な痛みが全身を駆け巡る。

 

翔太郎(なッ 一体なにが!?)

 

“動けない”。

身体が弛緩して、能力も薄れて光が差し込んでくる。

 

 

そこには、紫苑が笑顔で立っていた。

 

1発目の…最初の鉄の弾丸を受けた所に、薄透明のバリアを張っている… “止血”をしているのだ。

 

だがしかし、“それ以外の傷は見受けられない”。

 

紫苑「はあ…笑い疲れたよ… やはり“その場の機転”は大切なんだなあ…」

 

翔太郎「!?…一体、何を…!」

 

翔太郎は、右肩に。左足に。

弾丸を1発ずつ受けている。しかも貫通している…

 

……何故当たっていない!?

撃った瞬間にバリアを張ったのか…?

 

紫苑「さて…終わらそうじゃんかよ」

 

弾を込めた銃口を翔太郎に向け、男は言った。

 

 

 

怜「…その“銃”…」

 

その黒い瞳は彼女が持つ黒い拳銃へと向けられている。

 

キッド「言わなくてもわかるよね?」

 

すると、向こうの方から何発かの銃声が聞こえる。それぞれの発砲音が微妙に違うので、紫苑と翔太郎が撃ち合っているのだろう。

 

怜「おーおーあっちでもどんぱちやってるみたいだねー」

 

呑気な声で、瑞稀にその男は話しかける。

 

キッド「心配することはないよ〜 ショータくんは勝つからね〜」

 

彼女は、“摩擦と垂直抗力を奪われている”ため、未だに微動して動けない…ハズなのだが…?

足元に作用…"赤色の矢印は見受けられない"。

 

怜「お前…なんで普通に立ってんの?」

 

キッド「そりゃあ、お前が気づかない速さで能力射程外に行って戻ったからさ」

 

怜(あ、そういえばこいつの能力の本質は“瞬間移動”だったな…)

 

瑞稀は話ながらも未だに不敵な笑みを戻さなかった。

 

怜「その顔…その“勝ち誇ったような顔”…大嫌いだ。 ぼくを怒らせたからにはもう許さないぜ。その顔、歪ませてやる…!」

 

彼女は叫ぶ。

 

キッド「“ムーヴメント”」

 

その瞬間、魔法陣が彼女全体を消した。

いなくなった。どこかへ瞬間移動したのだ。

 

怜「え!?」

 

周りを見渡してみる。

しかし、誰もいない。

遠くの方に暗闇が見えるが、アレは関係ない。

 

……何処に消えた!?

 

瞬間、何かが風を切る音がした。

 

怜「ぐぇッ」

 

背中に鋭い衝撃が走る。

 

……な、なんだ…!?

すぐに背後を見渡してみる。

そこには、多数の魔法陣が“浮いていた”。

 

即座に叫んだ。

 

怜「さ、“サイバーキャット”ッ!!」

 

予想通り、魔法陣から雨のように弾丸が飛んできた。

しかもその全ての弾丸が光を乱反射してキラキラと光り輝くのがやかましくてしょうがない。

 

怜「ニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャ!!」

 

目にも止まらぬ拳のラッシュ。

全ての弾丸を弾き飛ばす。

それぞれのガラスの弾丸に、青色の反作用の矢印がついていた。

 

弾丸の対処は簡単だ。

弾丸の作用を奪ってしまえば、威力など皆無に等しいから叩けばオールOK。

 

依然怜は冷静に考える。

 

……奴…城戸瑞稀は僕らから大分離れた所に瞬間移動して、“弾丸だけをワープさせて”僕を攻撃しているんだ!てか紗和って奴もいない…

 

『これじゃあ僕らは瑞稀を叩くことはできない』…

 

男はわざと背を地につける。

魔法陣がまたもや、無数に現れるのが見える。

 

怜「とでも思ってるのかなあッ!?!?」

 

彼が背を地につけたのは、全ての魔法陣を目視するためである。

魔法陣から煌めく弾丸が無数に射出された、その瞬間。

 

怜「NYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA」

 

無数の弾丸を、“飛んできた魔法陣へと”拳で殴り返す。もちろん反作用を強化することによって“威力を増強させて”。

 

弾丸は思惑通りに、青色の矢印の方向へ…魔法陣を通っていく。

 

キッド「はっ!?」

 

魔法陣の向こうから、驚くような声が微かに聞こえた。

 

攻撃が止み、まもなく城戸瑞稀が前に現れた。

息を切らしている。体から血が流れ出ている。

 

キッド「はは…絶対“攻撃できない”って思ってたのに…いとも簡単に看破されちゃった…」

 

怜「お前は何処に…例えモスクワでもプエルトリコにいても僕に勝つことはできないのさ」

 

キッド(まさか弾丸を魔法陣に跳ね返してこちらを攻撃してくるとは思わなかった… …こいつ、どうやって倒せばいいんだ…!?)

 

しかしどちらも今は手負いである。

わかりにくいが、彼は背中に弾丸を受けている。

 

先に動いたのは瑞稀だった。

 

キッド「“ネイキッドシャッフル”ッ!!」

 

叫んだ瞬間に、空中に様々な角度の魔法陣が現れた。

そしてそれと同時に弾丸を放った。

 

怜「ニャアッ!」

 

わざと斜めに放たれた弾丸も、数多の魔法陣を介して怜の目の前に移動した…が、瑞稀の方へ方向転換して殴り返される。

 

キッド「跳ね返されることなんてもう想定済みだよッ!!」

 

瑞稀の方に殴り返された弾丸でさえ、手についたワープマーカーで瞬間移動させた。

 

怜「はッ」

 

しかし呻き声は聞こえなかった。

……当たらなかったか…!?

 

怜「攻撃ばかりできると思うなよーッ」

 

すると、怜さえも拳銃を取り出した。

 

キッド「おいおい、反社会組織とはいえ、なかなか突飛なんだな!」

 

怜「そんなこと言ってられるかな?」

 

すると、怜は拳銃を…彼自体に向けた!

 

……何やって… !!

 

キッド「まさか!」

 

撃った。その弾丸は怜に衝突した瞬間、“跳ね返った”。青色の反作用の矢印は、瑞稀の元へと向いていた。そしてそれは音を置き去りにして飛ぶ…

 

ちっ、という音がし、弾丸は瑞稀の横腹を軽く抉った。

 

キッド「…!!」

 

怜「僕の能力が『無敵』ってこと、わかってくれたかい?銃弾が当たった瞬間に“作用”を無視したら、僕にダメージが行くことはない!同時に反作用を強化すれば、弾丸は反射され誰にも止められない速度の弾丸になる!」

 

しかし、瑞稀は痛みをものともせずこう言う。

 

キッド「なるほどなあ…」

 

怜「わかってくれたみたいだね」

 

しかし、瑞稀は怜は考えていることとは裏腹の行動を取り始めた。

 

ごんっ という音がした。空中に浮いている魔法陣から落ちてきた物らしい。

それは…

 

怜「氷塊…氷?」

 

大きい、氷の塊だった。

 

キッド「そ 南極から取ってきた」

 

彼女曰く、南極から移動させてきたらしい。

冷気が怜にも伝わる程それは大きい。

 

怜(何やってんだこいつ…“ムーヴメント”は弾丸にした物質を強化するとか言ってたけど、まさか氷の弾丸に当たったら凍っちまうのかな…)

 

キッド「次はこれ!」

 

次に魔法陣から落ちてきたのは…

おどろおどろしい、何か…流動的な物質…

 

怜「…なにこれ?え、こわいこわいなにこれ」

 

暑い。熱がこちらに伝わってくる。

その流動的な黒っぽい物質は、流れ流れ植物さえも飲み込む。飲み込まれる瞬間、植物が溶けていたことが目に見えた。

 

キッド「これは、マグマ…というか地表にワープさせたから溶岩かな」

 

ますます彼女が何をしようというのかがわからない、という怜の顔。

 

すると、瞬時にその溶岩と氷が、それぞれ一つずつの弾丸へと変形した。

 

怜「ひゃー それに当たったらひとたまりもないんだろうなあ…」

 

キッド「当てるつもりはない」

 

『え?』と問いただす暇もなく、瑞稀は発砲した。

氷の弾丸を足元に。溶岩の弾丸を空中に。

 

キッド「“わかった”よ。“君を倒す方法”。」

 

怜「…マジわけわかんねえ!」

 

怜は構える(スタンドと銃を)…が、その2発の弾丸は本当に怜を狙ったわけではなさそうだ。

しかし、目を引くのは…

 

キッド「これで完成〜」

 

氷の弾丸も、溶岩の弾丸も、動いてはいるもののその場から消えなかった。

わかりやすく言うと、ワープマーカーを多数設置して弾丸がどこかへ飛んでいかせずに、その場をグルグルと弾丸が飛び交っているのだ。

 

氷の弾丸が足元を飛び交い、溶岩の弾丸が空中を飛び交っている。

 

怜「なんだ?これで近距離戦ができないとでも思ってるのか?僕がさっき拳銃使ったことを覚えてないのか!死ね!」

 

耳が割れそうな音と共に、弾丸がとんでもない速度で瑞稀の元に… 当たらない。

 

怜「え?」

 

何度も撃ってみる。当たらない。

腕前が芳しいのか、と思わせるくらい当たらない。

 

瞬間、瑞稀がガラスの弾丸を怜に向かって撃った。

しかし、弾丸はあらぬ方向に向かって…?

 

怜「!びっくりした!どこに向かって撃って…」

 

鋭い痛みが走った。

 

怜「ぁっ!?  …な、なんで…」

 

弾丸は関係ない方向へ飛んでいったと思ったら、“自分に命中していた”。

 

怜(ワープさせていたわけではない…!どういうこった…!?近づいて撃つこともできない!)

 

ドクドクと血が流れ出ていることがわかる。

畜生、畜生…

 

何発もにっくき瑞稀に撃つのに、当たらない。

 

キッド「この弾丸…ただここを通れなくするためだと思ってたのか?ただ足止めだけに?」

 

瑞稀が氷の弾丸と溶岩の弾丸が飛び交う中を歩く。

しかしそれぞれの弾丸は瑞稀に当たらない。

恐らく当たらないように瞬間移動させているのだろう。

 

怜「…は!もしやお前…ッ」

 

怜でもわかるほど、今、おかしいことが起こっていた。

“瑞稀がぐにゃぐにゃしている…”流れる血は横に落ち、スレンダーな体の瑞稀が…太ってる?

 

キッド「これは“上位蜃気楼”」

 

キッド「蜃気楼は密度の異なる大気中で発生する光の屈折現象で… 大気の上下で空気の温度の差が大きい時に発生くる蜃気楼を“上位蜃気楼”という。」

 

それなら納得がつく。

毎秒のようにぐにゃぐにゃとしている瑞稀。

これは飛び交う溶岩と氷の弾丸が空気の密度と温度を変化させ、光を屈折させていて、彼女の姿形が変形して見えるのだ。

 

怜「それじゃあ弾丸が当たらなかったのは…」

 

キッド「もちろん。光が屈折して、ボクがいるところが君からみる所とは違うだけ。」

 

“そこにいる”と思って撃った弾丸は、光の屈折によるまやかしだったのだ。

 

キッド「君の能力は面倒だ…意識していれば、銃弾なんて完全に無力化もできる…」

 

キッド「大切なのは君の“油断”だったんだ。」

 

ピクピクと動く怜の眉間。

そろそろ限界だったのだろうか、怜はスタンドを剥き出しに瑞稀へと飛びかかった。

 

怜「うガァァァァァァァァ」

 

しかし、当たらない。

 

キッド「そこじゃないよ」

 

瑞稀は全く見当違い…しかし怜と近い場所にいた。

 

――蜃気楼でよく見えなかった。

 

目の前にあるのは魔法陣である。

そこにいるのは本物の瑞稀ではない。

 

キッド「“景色”を瞬間移動させたんだ 粋だろ?」

 

そして瑞稀が怜を触った瞬間、"景色が変わった"。

 

……ここは…!?重力に身が引かれる。

…“落下している”…!?

 

見れば真上すぐ近くには雲。

周りを見渡すとあるのは青。

 

キッド「ボクと君は今、重力加速という加速度の元で重力に引っ張られ落ちている。」

 

――そう、2人は“上空から落下していた”。

 

……こいつ、"僕を上空に放り出しやがった"…!

 

息もできない速度で2人は落下する。

流れる血液は体よりも落下が遅く、上へと流れる。

 

怜「な…何が目的だ!僕は落下ダメージでさえ無視することができるんだぞ!」

 

“声の音”が微々ながらも聞こえるが、すぐに上空へと流れ落ちていく。

そのセリフを聞いても瑞稀はニヤッとするばかりで…

 

キッド「お前は確か…ドキドキするような言葉を言われるのが好きなんだよね…?いいよ、言ってあげるよ…」

 

キッド「このまま、ボクと一緒にに堕ちるとこまで堕ちよ♡」

 

成す術なく、落ちていく…

……嫌だ!このままこいつの作戦に引っ掛かってばかりなんて…!

 

怜「“サイバーキャット”ッ!」

 

キッド「お」

 

怜「ニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャッッッ」

 

猛烈な拳のラッシュを浴びせようとするが、全てを魔法陣で捌かれてしまう。

 

キッド「なんだよ、さっきの台詞が気に入らなかった…?」

 

そういうと彼女は声を少し変えて、

 

キッド「流れに身を任せるだけでいいから…」

 

っと言った。

 

何か違う意味でドキドキしながらも、2人は落下する。空気抵抗も加味して速度の最高地点、終端速度という等速の落下となるが、それでも呼吸がもたないくらいの速さで景色が目まぐるしく変わる。

 

地面が見えてきた…

 

 

 

走りながら、弾丸を避ける。

しかしどうせそれも反射されこちらに向かってくる…!

 

紫苑「はは、形勢逆転ってやつだな」

 

……どれだけ撃っても、“当たらない”…!

 

また奴は発砲する。

空中に浮いたたくさんのバリアが弾丸を加速させ、反射し、その弾丸は…

 

翔太郎「うぐっ」

 

目にも見えない速度で僕の肩を撃ち抜く。

もう1発弾丸が、地面に着弾した。

 

翔太郎「この状況…ダブレさんみたいに強気なことを言いたい… この弾丸、体を突き抜けずに残ったものは僕の“ムーヴメント”の弾丸にしてことなきを得ているが…」

 

また翔太郎は銃を撃つ。

弾丸はバリアに反射され、紫苑の元に向かうが…

 

当たる瞬間に“弾丸は止まった”。

 

……“弾丸が当たらずに止まる…”どういうことだ…?

 

紫苑「おっと、余計なことを考えるな。お前はもう、八月の蝉のように死ぬ運命を理解し諦めるだけだ」

 

翔太郎は、足を引きずって紫苑の目の前で止まる。

 

紫苑「悪かったな、たった12年ほどしか生かしてやれなくて。悪いのは枕木に生まれたお前だがな」

 

紫苑は油断もせずにバリアを張り、かといえ容赦もせずに拳銃を翔太郎へと向けている。

 

薄透明なバリアが2人の間に、壁のように張られていた。

 

翔太郎「あぁ、吹っ切れたよ…で、決断に至った。僕の、あんたに対する決断…」

 

明らかにおかしい様子だった。

翔太郎はバリアにピッタリと、数ミリでも動いたら当たってしまう程の近さに近づいた。

 

紫苑「なんだ…?バリアが消える瞬間を狙った早撃ち勝負でもやりたいのか…?」

 

それに呼応することもなく…

翔太郎は、目を疑う行為に出た。

 

紫苑「おい…何故、拳銃を…"そっちに向けている?"」

 

翔太郎が拳銃を向けているのは、紫苑とは正反対の方向である。

もちろん、そちらの方向に何かがあるわけではない。

 

……“あいつ”に気づかれてるわけでもねぇ…

紗和とかいう幽霊も、…あれ?怜達もいねえ

“何をする気だ”…?

 

翔太郎「僕はあと10秒後に撃つ 僕を撃ちたければ、10秒以内に撃てばいい」

 

すると、彼はカウントを始めた。

 

10。

 

紫苑(なにやってんだ…!?そんな方向に撃って何かあるのか…!?)

 

9。

 

8。

 

刻々と時間は刻まれていく。

 

紫苑(この間に…バリアを解除してガキを撃つのは“駄目”な気がするッ!)

 

2。

 

紫苑は黙って、彼を見守った。

完全防御の前にどうしようもないハズの少年を。

 

1。

 

瞬間、けたたましい発砲音が響く。

 

紫苑「“Winning Come Back”ッ!!!」

 

紫苑はバリアを翔太郎の前に張った。

予測通りに、弾丸は速度を上げて翔太郎に襲い掛かる。

 

…あの弾丸は…

半透明な弾丸。

 

「待ってたよ」

 

翔太郎にぶつかった瞬間、彼は押し出された。

少年は紫苑の方へと押し出され…

 

紫苑「な、なにッ!?」

 

翔太郎は、“バリアを通り抜けた”。

痛みを堪えながら、そして彼は叫ぶ。

 

翔太郎「“ムーヴメント”ッッッ!!!!」

 

鋼鉄の弾丸が、紫苑の胸を貫いた。

紫苑は準じて倒れる。

 

紫苑「一体何を…?何故バリアを“通り抜けれた”…!?」

 

男は口から血を吐きながら、息絶え絶えに喋る。

 

翔太郎「そうだよね…敵が不審な行動を取ってたら阻止しようとするよね…?」

 

翔太郎「しかしその行動は仇だっ!」

 

翔太郎は距離を取るように動き、話し出した。

 

紫苑「俺のバリアは…なんでも跳ね返すハズ…」

 

翔太郎「あーあ、もはや勘違いしてるか… 言ってただろあんた、このバリアは“加等速運動以外の運動”をしている物体を跳ね返すって…」

 

しかしその後の彼が言う通り、この世の全ての物質は重力と空気抵抗という、運動を変化させる力がはたらいている。

なので、基本どんな物質でも跳ね返すことができるのだ。

 

翔太郎「僕が使ったこの弾丸は…“衝撃の弾丸”だ。人が物を蹴ったり、どんなことにでも発生する物体を変形させたりする力…」

 

翔太郎「そして何故僕がバリアを通り抜けれたのか…?それは、“撃力”を利用したからだッ!」

 

撃力とは、二つの物体が衝突する極めて短い時間で発生する力のことである。

 

翔太郎「物質と物体が瞬間的な速度で衝突する時、"それぞれが作用する時間"を考慮しない!」

 

力の効果を表すのには(力)×(働いた時間)というベクトル量を用いるが、撃力ではそれぞれの力が作用している時間も測れない。ため、方程式では純粋な力積で表示される。

 

翔太郎「撃力は空気抵抗や重力と言った、他物に影響を与える力…つまり外力さえも無視する。

つまり、僕に起こった衝突の運動は、“純粋な加等速運動”となるッ!」

 

彼が言う通り撃力には、外力は無視される。

つまり"衝撃の弾丸"は彼と衝突運動を起こし、“純粋な加等速運動”をしている翔太郎はバリアを通り抜けたのだ。

 

翔太郎「いたた…結構背中に衝撃が来たよ…体がブッ飛ぶこの衝撃!」

 

紫苑「なんて…ガキだ…」

 

男が気絶したのを確認し、翔太郎はふうと息を吐く。

 

翔太郎「驕ったね…自分が“無敵な能力”だと…

でも残念ながら、勝利には覚悟と犠牲の精神が必要なんだ…」

 

 

 

風が吹いている…

まさかこんな技術が、使われることになろうとは思わなかったけどね。

 

彼女…枕木紗和は、丘の上の大木を見上げる。

 

私は、彼に教わったことを思い出す。

“狙撃は600〜1200m内が安定しやすい”

 

ここは“スワンキーストリート”の道路の上。

いちいち“あいつ”を狙撃できるポイントを探してたけど、丘の上の“大木”からも、800m程離れている。

角度ヨシ!いい場所見つけちゃった。

 

私は携帯をいじくって、大事にとっておいたメールボックスからとある能力を引き出す。

……使わせてもらうね、翔太郎。

 

紗和『“ムーヴメント”』

 

やっぱり銃の能力だったらこれくらいできるか…

目の前に出てきたのは普段翔太郎が使うような自動式拳銃のようなピストルではない。ライフルだ。

 

スコープ(照準器)もついてる…ウンウン、OK!

 

“目には目を、狙撃には狙撃を”だよねっ!

 

立って大きな木の方へライフルを向け、スコープを覗き込んでみる。

 

紗和『!!!』

 

翔太郎…“ムーヴメント”の弾丸を“止められて”、しかも狙撃されてる…!

 

はやくどうにかしないとね…

木の上。やっぱり“いた”。

 

黒髪の男性。20歳程度?

大きな木の上に、ライフル片手に翔太郎達を観察してる。“3人目”がいるとは思わないよね…でも、私も“3人目”だから…!

携帯のカメラでズームしてみるけど…

800mも離れてるんだし映らないか。阿保か私。

 

あ、また撃ったけど外した。あの距離で外すとか…

蓮さんが笑っちゃう!

 

さて…狙お。

 

弾丸は…空気の弾丸でいっか。

この距離だったら弾道落下は7mくらい…

着弾まで1、2秒程度…そして、ここは少し風が吹いてるけど向こうは無風!

 

空気の密度を最大限にして、弾丸にあたって落ちた所で追撃すればいいか…

 

それじゃあ。戦闘中の息子に愛を込め、ターゲットに殺意を込めて!

 

スコープから目を離さず、彼女は立ったまま…

はしゃいだように呟く。

 

紗和『どん』

 

 

 

……どういうこった…?

 

小僧はバリアを通り抜けて紫苑を再起不能にするわ、瑞稀と怜と紗和は消えるわ…

 

怜は瑞稀にワープさせられた感じかな?

少なくともこの大木の上から見えるとこにはいない…

 

紗和って幽霊は逃げたかな…?

ま、怜達の能力が強すぎたもんな…

しかしあんなインチキ能力にも勝つとは…

 

油断してる小僧の動きを“能力”で止めて、狙撃するか…

 

「“Waiting At The Busstop”」

 

奴の体は完璧に“停止した”…

ふふ、困惑してる…後はこいつを撃ち抜くだけ…

 

…ん?今なんか音が…

 

スコープから目を離して周りを見渡す。

瞬間、暴風が巻き起こった。

 

「な、なんだ!?落っこち…うわあ!」

 

スナイパーライフルも、俺の体でさえ吹っ飛ぶ。

誰だ!?新しい能力者か!?

 

転がり落ちた先には、携帯をこちらに向けた金髪の女…こいつは…

 

「枕木紗和ッ!!」

 

叫んだこともものともせずに彼女は淡々と言う。

 

紗和『名前バビロン 21歳スタンド名“Waiting At The Busstop”能力 視界内に存在する物体の運動を約5秒間程停止させることができる。反SPW内では幹部であり情報班附属。』

 

…!こいつ、俺の素性を…!

 

バビロン「“デイドリームワンダー”!枕木蓮の能力…!“スタンド能力をコピーする能力”と“能力を他人にメールで送れる能力”を利用して、“デイドリームワンダー”という能力をコピーし、他人にそれを送って勢力を増やしている…!」

 

紗和『枕木蓮の能力、ねぇ…この“DAYDREAM WONDER”が?まあそれはそれとして…』

 

薄透明の指をバビロンという名の男に指す。

 

紗和『貴方ね。大木の上から私たちを監視し、反SPWの勝利を得るために私たちの行動を妨害した…!』

 

バビロン「なんでバレたかなあ…あ、あれか。"粉塵爆発のがハッタリだ"って叫んだ時か…」

 

紗和『2人…反SPWの敵が何故私たちの目の前に降りてきて、そして帰ろうとするのか?不思議に思ってた…答えは2人と私たちを戦闘に陥らせ、貴方という“3人目”がいるとは思わせずにし、完璧に私たちを始末するため…!』

 

紗和『最初2人は帰る気満々だったけど、最初から私たちを始末するつもりだった…!』

 

バビロン「そう激昂するなって…」

 

チッチッと舌を鳴らすと共に指を振る男はこう話す。

 

バビロン「物事の始まりってのは大体感情から始まる…こういう戦闘だって、“殺意”から始まる…」

 

バビロン「でも“お前”は違うよなあ?」

 

紗和は、携帯片手に彼を睨みつけている。

 

バビロン「反SPWがここまで発展したのも、ジョースター側と反SPWの対立がここまで激化したのも…

“お前が枕木明という妹に殺された”ことがトリガーだった」

 

紗和『…』

 

バビロン「俺は少なくとも情報班だ。さっきお前らが話してたことをもとに、理解したよ。

お前が明に殺され…妹である雨月でさえ明の能力の餌食に… それをきっかけに蓮が憤慨したのもな」

 

バビロン「まったく、枕木三姉妹のお話は聞いてて飽きないよ…お前ら三姉妹が周りに迷惑かけてんだ。まあそれに巻き込まれちまった蓮も蓮だがな」

 

それを聞いた瞬間、紗和が男を見る目が変わった。

……視線が鋭い…

 

バビロン(挑発してみたがこれ以上情報は得られないか…)

 

すると紗和が話す。

 

紗和『私たちや蓮さんのことをこれ以上笑うな』

 

紗和が携帯を触り出す。

……さて、逃げるか…!

 

紗和『“Waiting At The Busstop”』

 

バビロン「え」

 

そそくさと逃げ出そうとした男は、動けなくなった。

“自分の能力を利用されて”。

 

紗和『これだけ近づければ逃げれないでしょう…さて、貴方には口を閉じててもらうよ。』

 

紗和『“Where do I go?”』

 

紗和は、大きな…人が持つには重すぎる見た目の銀色の鎌を、手に取った。

瞬間、男に冷や汗が垂れる。

 

バビロン「その能力…枕木明の…? やめろ!魂だけは…!」

 

金色の…その、向日葵のような髪が揺れた瞬間。

大きな鎌が、男の首を掬った。

 

そして、男は動かなくなる。

無傷にも関わらず。

 

紗和『魂だけの存在に魂を取られるってのはどういう気分…?ま、喋れないだろうけど』

 

紗和『私は“死神”になるつもりも、果たして“太陽”になるつもりもないけどね…』

 

 

 

……“落下し続けている…!”

 

怜「うおおおおおおおおおおおおお」

 

彼は落下していた。

 

キッド「どうだい?“無限に落下する気分”は…」

 

とっくに瑞稀は、地に足つけて“落下し続ける”怜を傍観していた。

 

彼女の言う通り、怜は“無限に”落下していた。

 

怜「っっっこんなことがぁッ!」

 

男は地面に直撃しようかという地面スレスレのところに魔法陣が浮いており、地面に叩きつけられることなく瞬間移動させられる。

 

それもまた、移動先の魔法陣がある場所は“空”である。

 

怜の能力なら“落下による衝撃”は無視できる。

しかし、落下先に魔法陣があってまた空に瞬間移動させられる。

いつになっても"着陸することができず"に、無限に落下し続けているのだ。

 

怜「バビロォォォォォォンンンンンンン  早く僕を止めろおおおおおおおおおおお」

 

木の上で自分らを援護しているハズの仲間の名を呼ぶ。しかし呼応はなく、声はただ虚空に溶けるのみである。

 

キッド「3人目のお仲間…バビロンって言うんだ。…でも、紗和さんがそいつを始末したと思うよ?」

 

怜「そ、そんなわけあるはず…」

 

台詞一つさえ言い切れずにまた空へと瞬間移動する。

……また…!また落下する…!

 

怜(いつ奴が能力を解除してもおかしくない…でも、“意識してないと落下ダメージは無効にできない”!でも落ちる恐怖が意識させてくれない…!)

 

……銃で殺すしか…ない!

 

果たして彼の思惑通り、落下しながら発砲してその弾丸は瑞稀を貫けるのだろうか。

そんな疑問すらどうでもいいほど、彼は焦っていた。

 

すると、口元に魔法陣が現れた。

自分と同じ速度でついてきている…

 

キッド『情報を喋る気はないかい?さもなくば再起不能になるけど』

 

魔法陣の奥から、その女の声が聞こえる。

 

怜「無い 殺す」

 

キッド『残念』

 

魔法陣は見えなくなったが、地面とともに瑞稀が見えてきた。

 

怜は懐から銃を取り出し、狂ったように叫ぶ。

 

怜「死ねえええええええええええええええええ」

 

キッド「“ムーヴメント”דネイキッドシャッフル”」

 

2人が発砲したのは、同じ瞬間だった。

同時に6発ずつ。

 

しかし、彼が撃った6発は、当たることはなかった。

 

決して方向が悪かったわけではなかった。

 

怜「はッッッこれは…!」

 

――この“水色に輝く弾丸”は…!

 

キッド「私はまだ地獄に堕ちる予定がないから、1人で勝手に堕ちててよ。残念ながらクズ男には愛想ぎ尽きちゃったので。」

 

瑞稀が放った水色の弾丸が怜の弾丸とすれ違う時…怜の弾丸は全て消えいった。

 

怜「弾丸が消え… “魔法陣の弾丸”だとおおおおおおおおおおおおお!?」

 

煌めく水色の弾丸が怜に直撃した瞬間。

彼は忽然として消えてしまった。

 

 

土の中にいる。

土の中に瞬間移動させられたのだ。

 

動けない。“サイバーキャット”はあてにならない。

空気さえもない。光もない。

 

……あぁ、僕は“堕ちてしまった”のか…

 

一緒に“瞬間移動してきた”であろう、先程彼が撃った弾丸は、地面の中でも眩しく見えた。

 

怜「負け…た…」

 

開けた口の中に砂が侵入してくる。

結局言葉は最後まで言い切れず、砂の中に消えてしまった。

 

桜井紫苑、古橋怜、バビロン 再起不能。

 

スタンド紹介

スタンド名「Winning Come Back!(ウィニングカムバック!)」

スタンド使い名「桜井紫苑」

オーラ型に見えるが、本当は本体の周り半径1mを囲む見えないバリアのスタンド。

バリアの能力としては、「バリアに触れた、等速直線運動、もしくは加速運動以外の動きをしている物体を反射する」といったもの。もちろんそれは生物でも。

しかし、内側からの攻撃等も反射するので、完全防御型スタンド能力。

破壊力 :ナシ

スピード:ナシ

射程距離:C(半径1m)

持続力 :B

精密動作:D

 

 

スタンド能力「サイバーキャット」

スタンド使い名「古橋怜」

猫のような見た目の、特殊型人型スタンド。

物理学で言う、「作用反作用」のどちらか一方、もしくは両方を無視したり強化したりできる能力。

作用反作用とは、例えば物を手で押した時に、手が壁を押す力を“作用”、その時手に返ってくる壁が手を押す力を“反作用”と呼ぶ。2物間で及ぼし合う力のことである。人間が地に足ついて立っているのも、作用反作用の法則に則っているからである。

この能力によって、作用を無視して“殴ってきた相手に反作用の力のみが働き、カウンターになる”といったことや、“反作用を無視して一方的に殴り続ける”といった芸当も可能。

破壊力 :B

スピード:C

持続力 :D

精密動作:C

射程距離:B

 

 

スタンド名「Waiting At The Busstop」

スタンド使い名「バビロン」

周りに矢印が舞っているようなオーラ型能力。

視界内に存在する物質、物体の“運動を停止させる”ことができる。もちろん視界外では能力しない。

正確には“ベクトル消去”の能力。

作中では、翔太郎や瑞稀の“ムーヴメント”の弾丸の動きを止めていたり、能力を込めた銃弾で翔太郎を狙撃していた。

破壊力 :ナシ

スピード:ナシ

射程距離:視界内

精密動作:B

持続力 :C(5秒間程度)




能力「サイバーキャット」
は頑張るざるそばさん(@bass_zaru)さんの曲「サイバーキャット」
を使わせていただきました!


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#38 Желание

Желание。その意味は希望。



昨日別れの雨1周年でした。
できれば昨日中に出したかったんですが
本当に申し訳ないです。
今回も前回よりはマシだけど長いので…


魂の鑑定人「魂の…スペースですって?」

 

助音「あんま他人には言ってなかったんですけどね〜 言ってもイメージが湧かないって人もいるだろうし」

 

彼女は言う。

 

聞いたことがなかった。

“人格の居場所”とでも言う場所。

 

鑑定人「言ったことがある通り、私は今まで多重人格の人を含めた何千人もの人を鑑定してきました。」

 

鑑定人「それでも、見たことも聞いたこともないんですよ。そのような“事例”は」

 

何故そのような“事例”が起こっているのだろう?

多重人格特有というわけではない。何故彼女だけに起こっているのだろう?“能力”が関係しているのだろうか。

 

ダブレ「アタシも割と気になってた。調べても出てこねーし… 何か特別な力が働いているのか…」

 

空条助音。20歳女性。ジョースター家の血統で、幼くして両親を事故で亡くし、ココロに亀裂ができてしまい多重人格になる。鷹優先生から聞いていた話によるとこんな感じになるが、この過去も何か関係しているのだろうか?

 

碧色の目。そして赤色の目。

私が今気になったことは、“2つの人格が魂のスペースにいる時”、目の色はどうなっているのか。

 

とりあえず鑑定してみたい。

占い師のプライドにも関わることでもある。

 

助音「早速鑑定してみましょうか。」

 

頷くと、彼女は目を閉じた。

ピタッと身体は静止している。

 

近くにあった聴診器を手に取る。

待て、流石にマズいのでは…?

医者の真似事とは言え、私のような変な格好をしている男が動かない女性に聴診器を…

 

鑑定人「事案になってしまうな」

 

仕方がない。スタンドを近づけて呼吸を確認してみるか。

 

鑑定人「“ジェラニエ”」

 

見慣れた人型のスタンドが現れるのを確認し、スタンドを彼女の顔に近づける。

 

鑑定人「…?」

 

呼吸はしている…

だが、何故“心拍が激しい”のだろう?

 

鑑定人「ちょっと助音さん?聴診器使おうとしたことは謝ります。だからちゃんと魂のスペースに行ってもらえますか?」

 

…返事はない。

まあ、とりあえず魂を視てみよう。

 

鑑定人「…とりあえず魂を視てみれば、“魂のスペース”は覗けるのだろうか?」

 

“ジェラニエ”の目が光ると同時に、私は彼女の“深層心理”に潜り込んだ。

 

 

……銀色の靄…

助音さんに聞いた、“魂のスペース”の情報と同じ…

魂の色は…銀色に、少し黒が濁っている…

 

“黒く濁っている”!?

 

魂が黒く濁っている人は、性格に難があったり、悪に染まりかけている場合が多い。

少し驚いたが、“ダブレの人格が元々は主人格だった”ということを考慮すれば考えれなくはない。

 

…自暴自棄になったのだろうか。

両親を失い、そして、人格がダブレに戻った時に。

 

“悪に染まりきってない”ことが救いか。

 

鑑定人『はッ!!』

 

その時、視線を感じた。

自分より高い所から、見下ろされている…?

 

魂の中だからか、いろんなものが過敏になる。

今度は視線がまた移った。

 

相もかわらず視線は1つのみだが…

場所が移っている。移動して、近づいてきている…?

 

“見えた”。 一瞬観測できた。

悍ましい…なんだアレは!?

 

そして、“それ”が目の前に現れる。

 

それは人型の死神のようで、見た目は兎である。

銀色と黒が混ざった毛並み…ピョコンと飛び出た1つの耳に対して、もう片方の耳は垂れている。

 

顔には仮面のようなバイザーをつけていて、それは口まで伸びていて瞳も口も垣間見ることはできない。

 

真っ黒なマントを羽織っていて、肩にどっしりと巨大な“鎌”を背負っている。

 

見た感想は一言で表すなら“死神”である。

 

さて、大変なことになった。

これは魂を守護する存在なのだろうか?

 

魂の中にスタンドが出てくることは稀ではない。

その魂を守らんとするがために出てくるのだが、出てくるかどうか、そしてその行動はその人の性格や信条について毎秒変化する。

 

鑑定人「スタンドが出てくるということは、この魂を守ろうとしているのか、それとも守秘主義者なのか…」

 

攻撃してもいいのだが、もし倒してしまえば相手の性格や、その他何かを消してしまう。

倒せるかどうかも相手の精神力の強さに関係するのだが。

 

それよりもここで出た疑問が2つ。

 

まず、ここは“空条助音”という人物の身体の中の魂に潜伏している。しかし空条助音は見かけない。

それでもなお見たことがない“スタンド能力”。

彼女らの能力は人格ごとに違っていても、このようなスタンドではなかったハズである。

“G・Bドリームス”。それとは違うスタンドが、助音という女性の魂の中…今、ここにいる。

 

そしてもう1つが、何かに“見覚えがある”ということである。

スタンドは見たことない。一体何に見覚えがあるのだろうか…?

 

鑑定人「少し怖くなってきましたね」

 

考え事をしている内に、兎の死神は消えていた。

奇襲されるのか?それとも逃げたのか?

 

魂の中の私は攻撃されても、魂から追い出されるのみである。

 

鑑定人「…?」

 

明るくなってきた。

しかし明かりのような物はないし、太陽も昇っていない。私は何に照らされているのだろう?

 

あれは…“月”…?

 

『コレイジョウノ記憶ノ露呈ハ許サナイ』

 

鑑定人「な!?」

 

背後には、先程の兎の死神が。

数センチ先に立っていた。いや、浮いていると表記した方が正しいだろうか?立っているように見えるが地に足は着いていない。

 

『貴様ノ魂ハコレカラ終ワリヲ迎エル』

 

喋った!

さっきの声の主と同じだ。この兎が“喋って”いるッ!

 

このスタンドに意思が宿っているのか…?

スタンドは魂のヴィジョンだから、本体の声を通達してるに過ぎないのかもしれない。

 

鑑定人「勝手にココロに土足で侵入してすみません。黙って出ていくので見逃してもらえませんか?」

 

穏便に済ましたい。

もう少しで“鑑定”し終わる…

 

『ココロガ覗カレテイル…』

 

私の中にうっすらと控えていた“ジェラニエ”の水晶が光ったのは、その声と同時である。

 

鑑定人(鑑定が終了し… !!!)

 

瞬間的に、汗が流れた。

顔は真っ青になっているだろう。自分を映す物などここにはないが。

 

その兎は、器用な手つきで顔のバイザーを動かした。

 

そこから覗かせる口にはギザギザの牙、そしてそこから涎を垂らしている。

 

鑑定人「ひっ」

 

その声は、"兎を見ていない"にも関わらず漏れた。

 

この“鑑定結果”は…ッ!!!

 

 

そして最後の景色は、兎の死神が瞬時に大きな鎌を振りかぶって襲い掛かってくる光景だった。

 

 

 

 

目を覚ますと、目の前には項垂れた金髪の女性がいる。

 

男は、起きたばかりとは思えない程に…息切れをしているのかと思えるほど、呼吸をポンプの如く行いながら動揺していた。

 

そして、彼女を見ることで再び狼狽する。

 

――“私は本当にこの女性の魂に侵入していたのだろうか”と。

 

鑑定人「魂から追い出された…やはり助音さんもダブレさんもいなかった。」

 

彼は能力“ジェラニエ”をまた彼女に近づける。

 

鑑定人「私が視ていた魂は…ッ!」

 

そして、“ジェラニエ”が彼女の額に近づき、瞼をあけようと…"瞳の色"を確認しようとする。

 

 

鑑定人「ぁがっ」

 

瞬間の出来事だった。

 

「知ってどうするんだ?」

 

「これ以上、私のココロを知って…」

 

女性が目を見開いて、男の首根っこを掴んでいた。

まだ手を離さない。

 

鑑定人「その“瞳の色”…!」

 

鑑定人「光と影…!表と裏…!二重の人格…!そして、それを辿った“最奥”!!!」

 

見開いた、その“白銀色”の目。

 

鑑定人「“3つ目の人格”ッ!!」

 

手を離さずに、ゆっくりと口を開く。

 

「知ってしまったみたいだな…知らなくていい真実を。その“ジェラニエ”で。」

 

その空条助音という体を借りた3つ目の人格は、笑うように問いかける。

 

「なあ…久しぶりじゃあないか?15年前以来か?」

 

その声は、少し…空条助音より大人びていて、それでいて少し低い。

 

"変化した"…目の色や声色…そして人格が!!

 

鑑定人「3つ目の人格にして反SPWのボス!」

 

「あぁ… この私 枕木明だ」

 

 

男は苦しそうにも叫び、女性はそれに呼応した。

彼女の名前は、もはや“空条助音”ではなく、“枕木明”というらしい。

 

明「魂のスペース…なるほど、他の2つの人格がそこにいる間に魂の鑑定を行うか…なかなか面白いことを考えつくものなんだな。」

 

鑑定人「おかげでわかりましたよ…何故空条助音の魂を正確に鑑定できなかったのか、何故魂のスペースという場所が存在しているのかッ!」

 

明「そうだな。私の居場所を暴けるのはお前しかいない。私と同じ、“魂”専門の能力なんだからな。」

 

すると、その銀色の目の女性は男の首を掴んでいた手を離して男をそこらに倒した。

 

げほっげほっと荒い咳をたてながら、男はそれでもその女性をその薄青い目で睨む。

 

明「そんな剣幕で私を見るな…少し話がしたいだけだ」

 

床にへたり座り込む鑑定人に対し、明は椅子へ座ってじろりと鑑定人を見つめこむ。

あくまでも優位に立ちたいのだろうか。

 

鑑定人「“覚えて”いますよ…その銀色の目…そしてその鎌!」

 

明「ほお…15年前のことも覚えているのか。お前のおかげで空条徐倫を始末することができたし、こうして空条助音へと潜むこともできた…」

 

鑑定人は彼女のセリフを遮るように叫ぶ。それも、まるで彼女を嘲るように。

 

鑑定人「貴方の最大の過ちは、坂根圭という男の思惑に飲まれてしまったことだ」

 

ピクリ、と眉間を動かした明。

どこまでと冷徹な目を男に向け、

 

明「私は、“あの時こうしていれば”などという反実仮想的思考は取らないんだ。それもこれも、私らの意志を尊重した“運命”だからな。

それはお前が1番わかっているだろう?」

 

と。

 

鑑定人「運命論ですか。しかし残念ながら私は違います。私は起こるはずの未来を占って、それをまた違う未来へ変えています。」

 

明「そこから違う。お前が予知したのは“起こったかもしれない未来”だ。  そして、お前が言う『未来を変える』という行動そのものが運命に定められているんだ。」

 

鑑定人「そうだとしても、未来への道のりは私たちの“意志”と“精神”の力で変えられるッ!!」

 

会話の継続を諦めたのか、明はやれやれと言いそうな顔をしている。

 

明「ところで… 私はこれから、何処へと向かうのだと思う?」

 

そう言うと同時に、彼女は見るからに重そうな鎌を出現させて肩に掛けた。

 

鑑定人「…貴方はもう既に、その"自問自答"の答えは出しているハズでしょう…」

 

驚いたような表情を浮かべる明。

しかしすぐ取り繕って言う。

 

明「“自問自答”…か。確かに私はこの“能力”を手に入れてからそんな疑問を抱えていたが…」

 

明「私がこの疑問を誰かにぶつけるのは…

私がその誰かを始末する時だけだ」

 

もとより汗をダラダラと流していた鑑定人だが、その言葉を聞いてからというものの顔が青ざめている。

 

明「何か最後に言い残すことはあるか?なんでもいいぞ。私に有益なことを言ってくれるなら苦しませずに始末できるぞ?」

 

その口調は、もはや人を殺すという場面の喋り方ではない。恐らく人を殺し慣れているのだ。

 

その男は、恐怖しながらもしゃべる。

 

鑑定人「…ひとつだけ」

 

明「ほう なんだ?」

 

鑑定人「引きずってるのですか」

 

またもや、彼女は眉間に皺を寄せる。

 

鑑定人「あの“月”…そして貴方の記憶の中の姉。

自らの手で、“能力”で手を下した…うぐッ」 

 

最後まで言えずに鑑定人は口籠る。

首元に、“後ろから”鎌が伸びてきている…

 

明「お前は…他人の魂を見抜けるからと言ってその能力に過信してはいけない…人のココロに土足で入ってきたらどんな報いを受けるかわからないぞ」

 

鑑定人「貴方がッッ!!そのココロをどうするかによって貴方の未来は変わる!」

 

数秒の沈黙の後、女性は口を開く。

 

明「…お前の質問に答えておいてやろう。私の殺しのモットーは『最後の悲鳴が響かないように』だ。」

 

鑑定人「…残念ながら貴方には破滅の道しかないようだ」

 

明はそっぽを向くように、後ろを見る。

 

明「お前は人の本質を見抜く知恵をジョースター側に提供し、私のもとにつかなかったのが最大の不幸だった。その“ジェラニエ”という素晴らしい能力を持っておきながら… もはや未練もないだろう さらばだ」

 

鑑定人「…“ジェラニエ”…この意味は“希望”ですよ。」

 

苦笑いを浮かべた瞬間に鎌が1秒も足りない速さで男を切り裂いた。

 

明「“N o w h e r e”」

 

びちゃびちゃという血が垂れる音。

 

明「お前が私に反抗してこなかったのは…死ぬ未来が占えていたから…か。血は出てしまったが…しかし痛みはなかったハズだ。」

 

明「お前の魂は頂いた。お前の命は無駄にしないぞ」

 

兎の死神が、鎌の先についている黄金色の物体をマントの中に仕舞い込んだ。

 

そして、ゆっくりとその死神は明へと近づいていき、彼女と重なる瞬間に消える。

 

明「困ったものだ…この死体がある状況では助音に代わることはできないな…処理しなくては…」

 

銀色の目を細めてウンウンと唸っていると、どこかから何か不思議な音が聞こえてきた。

 

瞬時に、近くのドアの外や隣の部屋を確認してみる。

 

……あのバカ姉は寝ているし、周りには誰もいない…

じゃあ、さっきの音はいったい…?

 

どんどんその音が近づいてくる。

 

――待て…この翼がはためくような音…!

 

明「小林真司…か!」

 

――確か奴には電波少女らと協力して天久らの始末を命じていたハズだが…空条助音の生捕りは指示していない…じゃあコイツは一体何を…!?

 

……もしや…見られたか!?

窓の外を見たいが、“この目”を見せるわけにはいかん…

 

ちらりと横目で見た窓の外には、人と竜が交わったような姿の男が翼をはためかせて宙に浮いていた。

“こっちを見ている”…ッ

 

――このまま乗り込んでくる気か…?

 

ちょっとだけ、兎の死神のスタンドを繰り出してバレないように窓の外を視認する。

 

男は部屋の光景を見て少し驚いたあと、瞬時に上へと飛んで行った。

 

明「上…屋上か。電波姉妹の様子でも見に行ったか…」

 

女性は、この状況を切り抜ける方法を何度も画策する。そして、1つの結論へと辿り着く。

 

明「待て…ここで“N o w h e r e”の能力を使えば…」

 

――助音が主人格の今、なかなか試せなかった能力…

 

彼女は何も言わずとも、兎の死神を目の前に繰り出した。

マントから、先程奪った“鑑定人の魂”を取り出し…

 

バイザーをズラして見えた牙で、噛み砕き“喰った”。

 

明「さっき奪った魂をすぐ使うことになるとはな…奴の"能力"は有能だから時間がある時に"使いたかった"が…」

 

兎の死神が、変形していく。

体のあちらこちらに水晶がつき、“ジェラニエ”のようなメタリックな外見に変化した。

 

明「“ジェラニエ”」

 

鑑定人の“能力”を明が発動させて数十秒後、納得したかのように彼女は頷いて、椅子に座り、目を閉じる。

 

次に目を覚ました時には、目は既に赤色になっていた。

 

――助音「こ、これは…ッ!?」

 

 

 

ここはスワンキーストリート。

1人の少年が、2人の女性と話していた。

 

翔太郎「本当に、このまま助けないんですね?」

 

キッド「覚悟してくれ。ボクらはボクらの為に、人を殺さないといけないんだ。」

 

彼女らは、襲撃してきた反SPWの幹部を返り討ちにし、始末した。

 

今までの追手は洗脳されていたから助けていたのだが、幹部レベルだと洗脳されずに指示に従っているために助ける必要はないのだと瑞稀は言う。

 

紗和『小学6年生にやらせることじゃないと思うんだけど!』

 

翔太郎「大丈夫ですよお母さん!キッドさんから話を聞いてた時から、もう覚悟してたので。」

 

笑顔の仮面を被ったように笑う翔太郎に、瑞稀が手を伸ばして抱きしめた。

 

翔太郎は一瞬驚いていたが、抵抗はしなかった。

その抱擁が、今までで1番優しかったのだ。

 

紗和『私の息子を私の目の前で抱きしめるなんてなかなか良い根性してるみたいね?瑞稀ちゃん』

 

彼女が当たり判定の無い拳で瑞稀をラッシュし終わって5分程経った時。

 

翔太郎「そういえば僕らはスワンキーストリートの視察の為にここに来たんですよね。さっき言ってた、15年前の事故現場には行かなくていいんですか?」

 

キッド「大丈夫だよ。事件の全容はさっき話したこと以外何もない。犯人は枕木明と坂根圭ってだけ。」

 

そういう彼女、城戸瑞稀は枕木蓮と共に15年前の交通事故を調査した張本人である。

当時彼女は15歳だが。

 

紗和(さっき瑞稀ちゃんが話してた…蓮さんが事故現場を調査してたら助音ちゃんを保護したって話…

翔太郎は分からなくて当然だけど、ちょっとだけ“おかしい点”があった…)

 

紗和『ねぇ、瑞稀ちゃん。もしかして、まだ私に秘密にしていることがあるの?』

 

瑞稀は、ゆっくりと紗和を見つめる。

それも、何かを秘めた悲しい目で。

 

キッド「いーや?何も、隠してないよ。」

 

紗和は、その悲しい笑顔に知ってはいけない“何か”を見てとった。

 

そんなのもつゆ知らずに翔太郎は話しかける。

 

翔太郎「じゃあ今日の目的はこうやって、僕にことの顛末を話すことだったんですね!」

 

キッド「そうだね。さっき情報班の幹部が、『ジョジョらの所にも反SPWの幹部が向かってる』って言ってたから、加勢しに行ってくれるかな?ショータくん。ボクが送るからさ。」

 

翔太郎「え?キッドさんは加勢しないんですか?」

 

瑞稀は、翔太郎を見つめて言う。

 

キッド「ショータくん。ボクには“使命”がある。もちろんショータくんもそうだし、紗和さんもそう。

ボクは、今からその“使命”を全うしないといけないんだ。わかってくれるかい?」

 

何かを察した翔太郎は、こくりと頷く。

 

翔太郎「わかりました。お姉さん達のことは僕に任せてください。僕も、貴女と僕の“使命”の為に戦います。」

 

その発言を聞き、幸せそうに微笑んだ紗和は、誰にも気づかれないようにゆっくりと姿を眩ました。

 

キッド「じゃあ、とりあえず“N・シャッフル”で病院の入り口まで送るよ。鷹優先生達の所に瞬間移動したら急に戦火に巻き込まれるかもしれないからね。」

 

大きい水色の魔法陣が、1人でに動いて翔太郎を包み込むと同時に、翔太郎は消える。

 

キッド「ふぅ…」

 

そうため息をすると同時に、彼女は大きな木に寄りかかって座った。

手の魔法陣の上に小さいワイヤレスイヤホンが出現すると、瑞稀はそれを耳につけて、目閉じる。

 

キッド「これは“ボクら”の使命だったね、お兄ちゃん…」

 

 

 

 

 

 

その死神を目の当たりにして言葉をこぼしてしまった。

 

 

真司「兎の死神…」

 

明「なんだ?知らなかったわけじゃあないだろう?」

 

明「この能力は実戦で使うのはほぼ初めてだからな」

 

そんなこといいながら、奴は既にその能力を始末に使っている。

 

真司「その能力で鑑定人を殺したクセにか?」

 

明「ま…名義はそりゃ“殺した”んだろうが、私がしたことは奴の魂を“奪った”だけだ。」

 

しかしそこにはまた矛盾点が生まれる。

 

真司「そいつはまた違うだろう」

 

真司「お前の“魂を扱う”能力…魂を奪われた人間は完全に死に至るわけではない。内蔵は機能しているが植物状態のようになる、“抜け殻”になるはずだ。

最近増えていた、植物状態のようになっていた“抜け殻”は全て貴様がやったことだということもこちらはわかっている。」

 

明「ほう…?」

 

真司「貴様が助音に“交代”した時にわかったよ。助音が鑑定人に簡易的な"死亡確認"をしたからな…鑑定人は、抜け殻にならずに“死んでいた”ッ」

 

少し、奴が狼狽える素振りを見せたことに、何か違和感を感じた。

 

明「あぁ…そうだったな。助音は鑑定人の“死亡”を確認していたな」

 

真司「貴様は鑑定人を“殺した”。今までは抜け殻だけで済ませていたことが多かったのにだ。」

 

真司「何故確実に殺したか?それは“お前の正体”を鑑定人が知ってしまったからだ。」

 

男は距離をとりながら、その場を歩き回る。

 

明「しょうがないな。私の正体を知る者は存在してはいけないからな… もちろんお前も例外ではない。」

 

真司「しかしそれだけではない」

 

黄色い視線が、明を射抜く。

 

真司「彼には、人のココロの奥底まで視る能力がある。正体がバレただけじゃあなくて、もしかして“ココロの奥底に秘めていたもの”を知られちまったんじゃあないのか?」

 

明「よく喋るんだな。 私は今、お前を殺したくてウズウズしている。」

 

真司が、明を見つめ言う。

 

真司「その前に…推理ショーさせてくんねえかな?」

 

明「何を言っているんだ。お前は私に関する全てを知っている。何故私がここにいるかなど…知っているなら知っているでいいじゃあないか。何故いちいち、それについて話さないといけないんだ?」

 

明「観客がいるわけでもない。そんなのはショーでもないし、ただのお前の自己満足だろう」

 

真司「しょうがないだろう。探偵には“推理”というのはつきものだ。1つの快楽みたいなモンだよ。貴様もそうだろう?」

 

眉間に皺を寄せ、彼女は言う。

 

明「この私が、殺人狂とでも言いたいのか?人を殺して、言い難い何かを得ている変態だと?」

 

真司「快楽と言ってもそれが性欲とは限らないだろう?逆に快楽という単語だけでそういうことを考えているお前の方が…」

 

明「黙れ」

 

真司「冗談だ!推理ショーってのはよ、観衆の中でやるもんじゃあないぜ。『犯人だ』って当てられちゃった犯人が、逆上してヤケクソで観衆を攻撃するかもしれねーだろ?」

 

真司「だから、推理ショーを聴くのは探偵と犯人と、たった1人の妹くらいでいいんだよ」

 

それを聞いて、何か思うことがあったのか明は胡座をかいて座る。しかし、鎌は肩に掛けたままだ。

 

真司「理解してくれて嬉しいよ」

 

翼や大きい爪を戻した真司は、近くはないが明の対面にどかっと座った。しかし耳は、まだ竜の肌のままであった。

 

真司「じゃあまず…必修事項として、15年前の交通事故辺りからいこうじゃないの。」

 

明「おい、そこから話してたら何時間かかると思っているんだ?」

 

真司「ぱっと終わらせるから大丈夫だ。15年前の交通事故辺りはそこまで重要じゃあないからな」

 

1つ咳払いをして話し始める真司。

 

真司「まず…貴様は、血のつながっている姉妹、枕木紗和が矢で偶然能力を手に入れたことにより、血統上の問題で能力を手にした。三姉妹全員だ。」

 

真司「貴様が手に入れた能力は“Where do I go?”

大きな鎌のスタンド…それで人を切り裂くことによって、他人の魂を奪うことができる能力…そしてもう1つ、自分のみ魂だけの状態になれて、他人の体に“憑依”できるという能力だ…」

 

今、空条助音という身を借りて姿を表している枕木明。胡座をかき肩に掛けているその鎌が、明のスタンド能力“Where do I go?”だった。

 

明「最初は驚いたよ。紗和ねぇと姉妹喧嘩した時、この大きい鎌が出てきたんだ。紗和ねぇは焦ってた。」

 

真司「貴様はその魂を自由に操る能力を駆使し、金儲けを始めた。例えば…金持ちの老人の魂を若い奴に入れ替えたり、女性の魂だけを抜いて動けなくした体を提供したり…」

 

歯痒そうに真司は言う。

その行動に何か怒りを持っているのだ。

 

真司「最初にそれに気づいたのは、比良明良。そしてその次に長女枕木紗和だった。しかし彼女らは貴様に魂を抜かれ、抜け殻になった…」

 

真司「そこから辺りか?流石金の力というばかりか、反SPWという組織が出来始めた…坂根圭という男がお前につけいり始めたのもその時期だな。」

 

明は、否定も肯定もせずに目を瞑る。

 

真司「その次に、“次女”である枕木雨月の魂を抜いた。まあその当時には雨月は既に“をー”という名前に変わっていたが、俺も貴様も、バグの現場にいたから覚えていたんだろうな。」

 

男の黄色い目は細まって明を睨む。

 

真司「そこで1つ、確かな疑問が生まれてくる。

恐らく雨月は紗和が始末されたことに対し、貴様に抗議したんだろう。しかし貴様は剰えもう1人の姉、雨月の魂を奪った。」

 

彼は一息、ふぅと吐いたあとに叫ぶ。

 

真司「じゃあ何故彼女だけ、"幼い子供の体に魂を移し替えた"?完全に始末せずにッッ!!」

 

顔が少し揺れた。

ここに、“何か”があったと思っていた。

 

真司「今さっきまで助音に“をー”と呼ばれていた少女…正体は枕木雨月!能力で、魂を少女の体に移し替えられてしまったッ!」

 

一度、空条助音が不思議に思っていたこと…

――助音『キッド… そのをーって人、“若返った”の?』

 

過去、“バグの能力”で名前が変化してしまった女性がいた。真司が言っていた通り、その変化した名前は“をー”。

 

そして今、現在。“をー”という名の少女が助音の前に立ちはだかったのだ。

 

助音は“バグの能力”の存在を知ってから、“をー”という少女がなんらかの能力で若返ったと思っていた。

 

しかし真実は、明の魂を操る能力で、魂を幼い少女の体に入れられてしまっていたのだ。

 

明「何か利用できると思っただけだ。それだとしても、あのバカ姉…雨月ねぇは能力を持っていた…抵抗されないように、坂根圭の能力の“夢”で洗脳したまでだ。」

 

明「少女の体に移し替えたのは…私が雨月ねぇを“始末できなかった”のを隠す為…それだけでなく、“をー”という名前の人が枕木雨月だとバレないようにするためだ…」

 

こくりと頷く真司。

 

真司「“をー”という名前に変わってしまった人の元の名前が枕木雨月だと、知っている人は多数いるからな。俺もそうだし貴様も、紗和もそうだった。」

 

明「ちなみになんだが…何故雨月ねぇが“若返った”と思わなかったんだ?何故、少女の体に移り“復活した”とわかったんだ?」

 

ちっちっと指を振る。彼女はウザがっている。

 

真司「若返っていたなら、彼女のスタンド像も幼くなっていたハズだ。スタンドは精神のヴィジョン。幼児退行したのなら、準じてスタンドも幼くなるのさ。

彼女のスタンドは成人の大きさだった。」

 

……大きさ“だった”…か。

コイツが実際そのスタンドを見たのか…

それとも、情報を共有している“仲間”がいるのか…

 

考えるような素振りを見せたが、明はそのまま話し続ける。

 

明「結局あのバカ姉は、洗脳されることで私に魂を移し替えられたことも忘れ、反SPWについたってわけだがな。結局活躍もせずに墓穴を掘っただけだったが。」

 

一度、“をー”という名前だった枕木雨月…

少女となり、洗脳された状態で助音と翔太郎を襲撃したのだ。

 

助音を気絶させたところまではよかったのだが、翔太郎に反撃されて窮地に陥ってしまう。

逆上した彼女は捕獲対象の助音を始末しようとしたが…

 

真司「雨月が…動けない助音に襲い掛かった時。貴様は依代である助音の体を、自分を守るためにその能力を使った。」

 

真司「"兎の死神"の能力…“Nowhere”をッ!」

 

すると、彼女は少し苛立ったように訂正する。

 

明「大体合ってるが、少し違う。私の第二の能力は“Nowhere”じゃなくて“N o w h e r e”だ。」

 

真司「まあいい…話が脱線しすぎてしまったな。

少し話を戻そうか…」

 

 

男はまた、小さい咳払いをした。

ちなみに口から小さい火炎が漏れていた。

 

真司「貴様は…比良も、紗和も、雨月までも自分の能力で手を下した…。そして、次に枕木蓮までも追跡した。」

 

彼女は何か、思い出したように首をすくめる。

 

明「あの時は凄かったよ。大勢の人数で蓮を追撃したんだが…1人に大勢が負けるところだった…」

 

真司「そして、貴様は蓮を“監禁”した。恐らくその狙いは、万能能力“デイドリームワンダー”を使いたいが為に。」

 

明「その通りだ。私は結局手に入れてないが、圭はひっそりと奴から能力を奪ってたようだな。そして、奴はいつの間にか逃亡していた。監禁されていても逃げれるような能力を“携帯”に隠していたんだろう。」

 

真司「これまで、貴様が社会にのしあがっていくための計画に何にも失敗はなかった…ハズだった。」

 

女性が、静かにため息を吐いているのが見えた。

 

明「城戸瑞稀が助音を保護して育てていた…翔太郎も、SPW財団に保護されていた。翔太郎に至ってはもう少しで始末できたんだがな…」

 

枕木研究所に住んでいた紗和や蓮、そして瑞稀と助音。そのうち紗和も蓮も消えてしまったなか、

瑞稀はそれでも諦めずに助音を護っていた。

 

真司「瑞稀は、たった1人で働いて助音を学校に行かせていた…だが、その平和を壊したのは貴様だったな」

 

真司「貴様は、“ジョースター家”の末裔である空条助音に目を付ける。」

 

真司「恐らく、洗脳で仲間にした鑑定人に未来を視てもらったんだろう。そして貴様は…“憑依”の能力“Where do I go?”を使って助音に魂を憑依させた。第3の人格としてッ!」

 

明「そうだな。いずれかは対立することはわかっていたんだ。鑑定人の勧めで、この空条助音という体に潜むことにしたんだ。いやあ良いこと尽くめだったな。」

 

虎穴に入らずんば虎子を得ず。と言ったものだろうか。明はジョースター家の人間にわざと潜んでいた。

 

真司「貴様はその能力を駆使して、たまに意識を乗っ取っていた。ジョースター家の勢力の話や…敵の追手が返り討ちにされたかどうか。それを仲間に電話で話すだけでなく、貴様はジョースター側の仲間…天久や小鳥遊…それらを、隙を見計らって始末しようとしていた。」

 

真司「しかも貴様が得たものはそれだけではなかった。」

 

……やはり運命というものは素晴らしい。

 

それは、明が助音に潜んだことによって得た、最大とも言えるものだった。

 

真司「逃亡してきた翔太郎は、空条助音と出会う…そして、貴様…枕木明が潜伏している空条助音の体を“スタンドの矢で貫いた”。」

 

真司「“3つ目の人格”として助音の体に潜んでいた貴様にも、スタンドの矢は反応した。助音と共に、“新しい能力”を手に入れたッ!第2の能力…『N o w h e r e』を…!」

 

明は、わざとなのかその第2の能力を出現させる。

その…兎の死神を。

バイザーのせいで余計に分かりづらいが、それでもその兎が真司を睨んでいることは分かった。

 

真司「その能力を手に入れてからだ。魂を抜かれた抜け殻が増え始めたのは。」

 

明「そうだな…私は無敵の能力を手に入れた。第1の能力とは比べものにならないほどな…強力になったのは魂の“支配”だけではなかった…」

 

真司「ついに人型の能力を手に入れた貴様は、助音が気づかないうちに何人もの魂を抜いていた。自分の邪魔になる存在のな。しかし天久達といったスタンド使いにはまだ自分の正体を明かすわけにもいかないから、天久たちもまだ始末していない。違うか?」

 

明「なんにも違わない。全てお前が言った通りだ。何故ここまでバレているのか…?それさえもわかってないってとこだ。」

 

真司「結局貴様は追手をジョースター側に送る割には上手く行かず、今の今までバレずにここまで来た…よくバレなかったもんだな。」

 

明「なんだ、それは皮肉か?もうお前や、鑑定人に既にバレているじゃあないか」

 

真司「情報班の幹部らもやられたみたいだぜ。電波姉妹らもだ。貴様、手のうちようが無いんじゃあないのか?」

 

すると、こぼすように彼女は笑う。

 

……何故笑う?

 

明「いや、ふふふ…悪いな。お前がなんか、情報班より情報班してるなと思ったんだよ。お前を情報班の幹部にしときゃ良かったかな?」

 

真司「たしかにスワンキーストリートまでならひとっとびだが、残念ながら瑞稀と戦うのはゴメンだぜ。」

 

彼女の笑みは、先程より大きくなった。

くすくす、というよりも何かをほくそ笑むような笑い。

そして、それは彼女には似合わないほどの笑いになる。

 

 

 

明「本当に残念だな。“城戸真司”。」

 

明「残念だが、私の方が探偵をしてたかな?」

 

その黄色い目の男は、汗を流し、狼狽していた。

見えづらい竜の耳がピクリと動く。

かつてなく、焦りを見せたその男は彼女に問う。

 

真司「何故…俺の苗字を…!?」

 

明「わかりやすいなあ…本当に…恐らくだが、お前の旧姓は“城戸”。結婚し、小林に本姓を変えたんだろうが…それを見抜けない程私は馬鹿じゃあない…」

 

がっ、と明は鎌の刃の先を地面に刺した。

 

……推理ショーか…そうだな。

 

明「まず、電波姉妹が敗北したことを知っているのはまだわかる。私が鑑定人を殺した現場を目撃したお前は、"上空に飛んでいた"な…恐らくそれは、電波姉妹が未だに戦っているかを確認するためだ。」

 

彼は、助音の居場所を探していた。

そして彼女を見つけた瞬間に“誰にも被害が発生しない”場所を探していたのだ。

それが、電波姉妹が戦っていた場所、屋上だった。

 

明「じゃあ何故“情報班の敗北を知っているのか”?

あそこには、あの3人しか送り込んでいない。少なくとも反SPWに潜り込んだ哀れなスパイはお前だけのハズ。」

 

考えるようなポーズをわざとらしく、男に見せつける。

 

明「じゃあ誰か、“情報を共有している者”がいるんじゃあないか?それを辿ってみよう。」

 

明「まず、考えられるのはスワンキーストリートにいて、お前に情報を伝えれる奴だな。もしくは情報を知ったり伝えたりする能力者だが…後者のはなくはないが真実味がないし根拠もない。前者で考える。」

 

明「今スワンキーストリートにいるのは、枕木翔太郎と城戸瑞稀のみ… そこで私は気づく。坂根圭は死ぬ寸前に、画面越しに私に『反SPW側の情報を多く知る者は城戸瑞稀だ』と言ってきたんだ…そこで、情報の共有者を城戸瑞稀だと断定してみる。」

 

明「そうすると、雨月ねえの能力が幼児退行していなかったと断言できることにも辻褄があうのさ。

雨月ねえが助音と翔太郎に襲撃していた時、瑞稀が私を見ていたことは知っているからな…」

 

城戸瑞稀は、翔太郎と雨月(をー)が戦闘している現場にいたが、ただ観察のみをしていた。

そして、その観察していた結果を後に助音と翔太郎に報告していたのだ。

 

明「それだけじゃあない。いつから瑞稀が私の正体に気づいていたのか知らないが、奴が情報通であることは既にわかっていたしな…」

 

またもやわざとらしく、何か閃いたような、手のひらに拳を乗っける仕草をした後に言う。

 

明「そこで思いついたんだよ。何故いちいち“推理ショー”を始めたのか?それは、推理を犯人の私と問答し、合っているかどうか。そして、ついでに得た情報を…

“電話のような通信機器で今も尚流しているんではないか”ってね」

 

ついに、その男の顔が青ざめる。

 

明「お前ッ!今その耳につけているイヤホンで、城戸瑞稀と“通話”しているんだろうッ!!?この私の情報を流すためにッ」

 

真司は、よく見えづらかった耳の中から、小さいワイヤレスイヤホンを取り出し、『降参』とでも言うかのようにその両手を上にあげた。

 

真司「じゃあなんで俺の苗字が“城戸”だって?」

 

明「お前、最初言ってたよな?『だから、推理ショーを聴くのは探偵と犯人と、たった1人の妹くらいでいいんだよ』って…」

 

真司「はっ。全部お見通しか。まさかここまで暴かれるとは思わなかったよ。」

 

笑っているように見える顔に、緑の鱗ができていく。

 

真司「“Degeneration”」

 

そして、イヤホンに何かをつぶやいたあと。

大きい爪が出た足で、イヤホンを思い切り踏み潰した。

何か聴こえていた音を振り切って。

 

明「いやあ、探偵と言うのは楽しいな。また1つの“快楽”を知ったよ…これだったら魂の中でも暇じゃあないかもしれないな。」

 

笑いながら立ち上がる。

その銀色の目を見開いて。

 

明「“N o w h e r e”」

 

明「“喰らわせろ”…お前の魂をッ!私が特別、痛いように掻っ捌いてやる…ッ!」

 

真司「消滅しろ」

 

“2人の推理ショー”の末、激戦の火蓋は切って落とされた。

 

 

スタンド紹介

スタンド名 「Where do I go?」

スタンド使い「枕木明」

銀色で大きい鎌の能力。一応2つまで出すことができる。血統上の問題か、紗和がスタンドを手に入れると同時に明も手に入れた。

“魂を支配する”能力。鎌で攻撃した人間の魂を問答無用で刈り取り、仮死状態である“抜け殻”にする。

また、自分も魂だけの状態になることができ、他人に“憑依”することもできる。

破壊力 :A

スピード:ナシ

射程距離:B

精密動作:A

持続力 :A

 

 

オマケ

 

真司「なぁ…」

 

真司が話しかける。

 

明「なんだ?」

 

真司「貴様は姉のことを紗和ねえとか呼ぶが…なんで雨月ねぇのことだけバカ姉って呼ぶんだ…?」

 

すると、彼女の顔は今までにないほど真っ青になる。

 

真司「あ…言いたくなければ言わなくても…」

 

明「…シスコンだったんだ…雨月ねぇは…」

 

 

沈黙が降りる。

 

真司「えっと…ごめんな。」




魂の鑑定人…ジョジョ5部で、ディアボロの正体を見抜いたことで殺された占い師の息子。
占いの才能も似て良かったのだが、運命も似てしまったらしい。

“ジェラニエ”という能力の語源が何故ロシア語なのか。
それは本人しか知らない。


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#39 復活

一ヶ月くらいかけてなくて本当にすみませんでした
失踪するときはちゃんと言います


――明「“喰らわせろ”…お前の魂をッ!私が特別、痛いように掻っ捌いてやる…ッ!」

 

真司「消滅しろ」

 

探偵城戸瑞稀の兄…城戸真司は、空条助音の身体を借りて出た枕木明と対峙していた。

 

探偵である真司は枕木明が空条助音の身体に潜んでいたこと、15年前から今にかけて起こったことを全て解き明かした。

 

そして遂に、“2人の推理ショー”の末、激戦の火蓋は切って落とされた。

 

 

明「魂を喰われる覚悟の準備はできたか? そういう“運命”なんだ、受け入れろ」

 

金髪の女性が、銀色の目を光らせて真司の真正面に立つ。少し距離はあるが、二者の射程に入っているのかは、誰にもわからない。

 

真司「貴様みたいな運命論を信じる者はうざったくてしょうがないな」

 

煽るように、黄色い視線が明に向く。

瞬間に男の爪が、物語の竜を思わせる程肥大化した。

 

真司「俺の持論じゃ、“死”とは自ら追いかけるものだ」

 

竜の脚力と翼で跳んだ真司は、明に向かって爪の斬撃をお見舞いしようとするが、大きな鎌の柄で受け止められた。

 

明「つまり死に急ぎってのは的を得ているってことか?笑わせるな。」

 

目を光らせた女性は、爪を振り払うと同時に大きく振りかぶった。

そのまま勢いで、一歩前進して鎌で空を薙いだ。

 

後ろに跳んで避ける真司。

しかし謎の悪寒が彼を襲う。

 

彼が見るその銀色で大きな鎌には、彼自身が映っていて…

そしてその背後には、兎の姿が。

 

「死トハ常ニ背後ニアルモノダ」

 

真司「うぉあぶねッ!」

 

兎の死神の薙ぎ払い攻撃を避けるため上に跳んだ真司。そのまま翼をはためかせ空中に浮かんだ。

 

明「生きている時に限り、死の確率は100だ。人はいつ死ぬかわからない。だからこそ毎秒毎秒、死を覚悟しないといけない…“メメント・モリ”という言葉だ。」

 

明「私が思うに…死は常に背後にあり、追いつかれて仕舞えば終わりだ」

 

真司「そして、“死”に追いつかれるタイミングは運命に決まっている…と。そっちの持論の方がお笑いだがなあ」

 

背中に生えた翼をはためかせ、宙に浮かびながら真司は大きく息を吸い込み…

口を開けたかと思えば大きな火炎を吐いた。

 

明「まるで竜だな」

 

彼女は向かってくる火炎を大きな鎌の刃で受け止め、適当に薙ぎ払う。

 

真司「竜だよッ」

 

明「私のこの鎌…少しでも溶かせると思ったのか?」

 

何千度あるかわからない火炎に弄ばれた鎌は、溶けることなくキラキラと火炎の光を反射していた。

 

そしてまた悪寒がする。

……気づいた時には、隣には死神が佇んでいた。

 

兎の死神「…」

 

真司「うおおお邪魔だッ!!」

 

男は死神に向かって勢いよく火を吹いた。

…が。

 

兎の死神「…ムダダ」

 

真司「!!無敵かこの野郎ッ!」

 

紅く燃える炎の中でも。

死神は1ミリも動かなかった。

 

真司「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ」

 

その竜と人が混ざったような生物は、肥大化した爪の見た目に反して素早く斬撃のラッシュを死神に喰らわした。

しかしその攻撃が効いている気配はない。

攻撃は死神を通り抜けていた。

 

明「…探偵ってのは賢い者しかなれないと思ってたのだが 違ったみたいだな」

 

真司「オラァッッッ!」

 

真司は叫ぶと同時に、不敵に笑む。

 

死神「…!!」

 

明「…なんだ…?どうした“N o w h e r e”!」

 

死神が肩にかけていた鎌に、その竜の手がかかっていた。

 

真司「後悔するなよ」

 

男は手にかけた鎌を素早く奪い、そして思いっきり明の方へ投げつけた。

 

明「そんな攻撃で後悔をすることにはならない」

 

鎌が向かう先に、彼女はいなかった。

そこにあるのは残り火と、止んでしまった雨が作る水溜まりのみである。

 

真司「…!?」

 

真司「一体何をしやがった…何故消えた…?」

 

辺りを見渡す。

 

……!

 

男のすぐ隣にいた死神…

いた“ハズ”だった死神が、金髪の女性へと代わっていた。

 

明「ふん」

 

既に振りかぶった姿勢だった彼女は、空中でも構わずに鎌を振り回した。

 

真司「うわッ!消えたと思ったら急に出てくるな!」

 

横薙ぎの鎌を男は足で思い切り上へ蹴り飛ばす。

代わって爪で引っ掻こうとする…が。

 

目の前にいたのは灰色と黒が混ざった死神だった。

探していた彼女は、Hとかかれた地面の上に…水溜まりを避けた所に立っていた。

 

真司「…成程ね。ようやく理解したぜ…貴様の能力…」

 

羽休めとばかりに地面に着陸した真司は話しかける。

 

真司「その兎の死神の能力…射程距離内なら好きなところに瞬時に出せるんだろ? …その上、自分と死神の位置を変えることができる!」

 

真司「だから貴様はいたはずの場所から消えたり、死神がいたはずの所にいたんだッ!」

 

それを聞く女性は、子供を褒めるようにパチパチと手を叩く。

 

明「よくできましたねー …この能力を私は簡易的な“瞬間移動能力”と思っている」

 

明「だから、こうやって貴様の背後を取るのも簡単なんだ」

 

真司「ッ!」

 

気づくと、鎌を首にかけられている。

 

明「私は魂を刈りとる者…“死”そのものだ」

 

真司「…そういう貴様は…死にゆく魂を見たことがあるのか?」

 

男は鎌を首にかけられながらも、静かに聞いた。

 

明「…死にゆく魂…か。」

 

明「忘れもしない…紗和ねぇの魂をとった時…」

 

 

――明「紗和ねぇ。これは私が進まないといけない道なんだ。」

 

紗和『駄目よ!“その道”を行っちゃ…!明ちゃん…』

 

白銀色に光を反射する髪の毛が、揺れる。

 

紗和『その“能力”は…!そんなことの為のものじゃないッ!』

 

悲しそうな銀色の目が輝いていた。

 

明「ごめんね…紗和ねぇ…私は最初からこういう奴だったんだよ。」

 

そして、遂にその質問をする。

 

――明「紗和ねぇ…“私はこれから、何処へ向かうと思う”…?」

 

その金髪の女性は、携帯を握りしめて言う。

 

紗和『貴方の選択次第よ。少なくとも…私は貴方を…』

 

 

彼女が、少し俯いて言う。

見えないが、今まで見たことのない顔なのだろう。

 

明「初めて…人の魂をとった時…紗和ねぇの魂は…綺麗な黄金の色をしてたんだ…」

 

絞り出すように言う声。

 

明「私は決心してたのに自分がやってしまったことに理解が追いつかなくて…ただ、その金色の魂が綺麗で、何もできず眺めてたんだ…」

 

首にかかった鎌が消えたと思えば、その女性は少し離れた所にいた。

 

明「昔話はもうやめだ。しんみりしてしまうからな。…お前の悲鳴が最後だ」

 

真司「感傷的な話をすれば油断するとでも思ったか?マヌケ 貴様が話している間、精神力と持久力が回復できたぜ」

 

キッ、と強く真司を睨む彼女。

 

真司「貴様がやってきた行為を貴様がどう顧みようとしても起こったことは変わりはない。問題はこれからの行動だろう」

 

男はそうも言いながら、真っ黒い…殺意のようなオーラを滾らせる。

そのオーラはどんどん強くなっていき…

 

明「…」

 

真司「“Degeneration(退化)”」

 

男は、人と竜が混ざった姿から変貌する。

それは、童話に出てくるような…“龍”だった。

 

明「…面白い 私だって、自問自答の答えは出ているさ…」

 

明「“Where do I go?”」

 

1人ごち、鎌を肩にかけ直すとともに…

 

明「“Now here(今、ここに。)”」

 

兎の死神が、鎌を構えて立ち並んだ。

 

 

 

……流石にアレは想定外だな…

反SPWに入った当初のあの男は、私に「竜人になる能力」とだけ言っていた。

 

しかしあれはなんだ。

大きすぎる…どんな精神力してるんだ…?

 

黒いオーラを纏っている…殺意か。

つくづく、嫌われたものだな

 

明「…さて、どう調理してやろうか」

 

簡単に近づいてみろ、あの大きな爪で薙ぎ払われて死だ。

鎌を投げてみるか…?それじゃあ魂を取ることもできないし、下手すれば傷すらも入らない。どうにもならずに防御できないほどの火炎放射が待ち構えてるハズだ。

 

…万事休すか?

 

真司「ぐるるるるるる」

 

まるで猛獣かのように、私を睨んでいる。

爬虫類を思わせる黄色い目が…私を…

 

クソッ、迷ってる時間はない。

 

すると、その龍は大きく息を吸い込んだ。

 

……これは火炎放射攻撃の兆候だッ

 

兎の死神を龍の背中(?)にあたる部分に出現させ、それと私の位置を入れ替え…ッ

 

瞬間移動移動した感覚が消え、代わりにゴムのような床の感触が足に伝わる。

これは爬虫類の皮膚…鱗だ。

 

明「このもやしみたいな細い首を刈るッ!」

 

――喰らえッ

 

明「…ッ!?」

 

……何が起こった…!?

聞こえたのは翼の音。

 

背中から全体に痛みが走る。

まさか…落とされた?

目がまだ機能せずに真っ暗だ。

 

あの感覚…一回転したのか…体を!

あんな巨体で素早い動き…燃費がいいんだか悪いんだか…

 

――燃費?

 

真司「ぐぉぉ」

 

蓄えてたとばかりに、紅く輝く火炎がこちらに向かってくる。

……なりふりかまってられないな

覚悟を決めるとしようか。

 

 

「オルオルオルオルオルオルオルオルオルッ!」

 

 

その女性は、炎に包まれたかと思えばそう叫んだ。

「オルァッ!」と最後に叫ぶと同時に、炎は鎌で薙ぎ払われた。

 

真司「…」

 

辺りに吹き散らかされた炎がまだ、赤赤しく燃える。

その龍は、女性の顔を見据え、姿を人に変え地に降りた。

 

真司「貴様…その“能力”は…」

 

明「お、人の言葉を喋ったな…『ぐるる』って言ってた方が最高にかっこよかったぞ」

 

挑発するように、彼女は言う。

 

明「…もしや、進化したスタンドが『兎型のスタンドになっただけ』とでも思ってたのか?『ただ瞬間移動できるだけ』と…」

 

……あの顔…あの目…

まだあったのか…ッ!

 

2人の周りを、火炎が囲む。

 

真司「俺はまだ死ねない 一つでも命を奪ったら…貴様はもう後戻りできなくなるッ!」

 

呼応するように。

 

明「私はそれを望んでいる」

 

炎の中の2人は、お互いを憎たらしそうに睨み合っていた。

 

 

 

……急がなきゃ…急がなきゃ!

 

若草色の病院着をはためかせ、その“少女”は走る。

廊下にいる人から変な目で見られるが気にしない。

看護師から止められようが気にしない。

胸の裂傷が傷もうと…

 

「お姉ちゃんの痛みに比べたら、全然マシだッ!」

 

走りながらも、考える。

あのバカ妹…城戸さんと戦っているのか!屋上で!

 

少女…名前を、「をー」改め、「枕木雨月」…

枕木三姉妹…紗和を姉に持ち、明を妹に持つ。

明に魂を少女の体に入れられ、洗脳されて数年…

存在を蝕む“バグ”が解消された今、記憶がくっきりとしている。

 

雨月「…あのバカを止めれるかしら…ジョースター側の力を借りるべき…?」

 

走りながらも、考える。

病室で聞いた会話…あれから推理すると、あのバカは持ち前の能力を駆使し、空条助音の身体に隠れていた…ッ

 

このことをジョースター側に伝えてもすぐに理解できるだろうか…?出来たとしても、間に合わないハズ…

 

……元々これは、私たち“枕木”が起こした問題!

私たちがケジメをつけないといけないッ!

 

城戸さん…ッ!

 

思い出したのだ。城戸真司という男のことを。

 

 

 

――「…成程、その件もこちら側の仕業だったか…いや悪い、俺は違う方に行かされてたからよ」

 

「しょうがないでしょう。貴方はもう少しで幹部に昇格できそうなんでしょう?くれぐれもバレないよう…」

 

目の前にいる男が、竜の翼と耳を出現させたまま、私の隣にいる高齢の男と喋る。

 

「高田さんよ、SPW財団内では反SPWの処罰は決まったのかい?」

 

質問に、高田と呼ばれた男が髭をいじりながら答えた。

 

高田「いえ…まだ決まってません。未だ反乱分子とさえ認識されていない…」

 

苛立たしげに、男は言う。

 

「何かが起きる前に、どうにかしておきたいんですがね…」

 

私が言うと、対面している男…城戸真司が言う。

 

真司「雨月ちゃんや…蓮さんだって、SPW財団内では権力高い方だろ?それでもどうにかならないのか?」

 

雨月「未だ目立った反抗をしてないから…まだ、反SPWの存在が認められてないらしいの。」

 

真司「俺自体、ボス…枕木明の居場所はわかってない。何か企んでる噂は聞こえてくるが、真に信じられないわな」

 

彼…城戸真司は、探偵でありながら反SPWにスパイとして潜入している。

その高いポテンシャルと能力を買われ、かなりのし上がっているらしいが…組織内ではまだボスのことはよくわかってないらしい。

 

雨月「その噂ってのは…」

 

私が質問した瞬間。

城戸の顔がこわばった。

 

高田「城戸さん?一体…」

 

真司「しー」

 

ジェスチャーを見ると、誰かが近づいてきていることがわかった。近くにいるハズの姉とは遭遇してないのだろうか…?

竜の耳は聞こえがいいらしい。本当なのかは知らないけど。

ここは、スワンキーストリートの丘の上。

大きな木の下にいるわけだが…木の向こうから来ているのか、姿は見えない。

 

…ようやく、人間にも聞こえる程度の足音が聞こえてきた。

 

雨月(退散しますか…?)

 

高田(相手によって行動を変えましょう)

 

見えてきたのは…銀色の髪ッ!?

 

――「誰がいるかと思えば…小林真司か…こんな所で何を…?」

 

目があった。

その人は…私の7歳年下の妹…枕木明。

 

真司「…ッ」

 

明「…なるほど」

 

銀色の目が、私たちを見る。

 

高田「枕木明…ッ、何故こんな所に!?」

 

雨月「明…あんた…」

 

彼女が、心底嫌そうに私を見る。

 

明「雨月ねぇ…何故ここにいるかは知らない。もしかしたら私がここに来るのを知って止めに来たのかもしれないし、出会ったのは偶然かもしれない。」

 

明「しかし。何度止められようと私はもう止まらない。邪魔してくる奴らは…始末するのみだ」

 

雨月「あんたがなんと言おうと、行き過ぎる前にどうしてでも止める」

 

姉妹2人が対峙しているさなか…

 

高田「貴方が…反SPWのボス…ッ」

 

明は、ゆっくりと発言者の方へ向いた。

 

明「爺さん…SPW財団上層部の高田順平だろ?今日は本当についている」

 

話し合いなんてできないのだ。

明は紗和姉さんがスタンドを手に入れたと同時に能力を得ている…それは私も同じだ。

私が能力を持っていることは、明も知っているハズだ。

私は紗和姉さんから明の能力の概要を既に聞いていた。

 

明「“Where do I go?”…おい、小林。貴様も能力を出せ。」

 

真司「…わかりました」

 

鎌を背負う彼女の後ろに控えていた真司は、私たち…いや、高田に向けて『3』の数字を指で、見せていた。

…それは…まさか。いや、しょうがない。

 

私は、その数字が何を意味しているかを知っていた。

彼はまだ、『明を討ち取る時期ではない。まだ裏切る時ではない』と判断したのだ。

 

流石に今じゃ間が悪いらしい。

私は高田さんと顔を合わせ、頷く。

……どうか、紗和姉さんに被害がありませんように。

 

明「…?どうしたんだ もう待たないぞ」

 

重い口を開け、その老齢の男はゆっくり発した。

 

高田「“ノンフィクション”」

 

瞬間、紫色のオーラが男を纏い、どんどんとオーラが大きくなり…

 

明「なっ…爺さんッあんたもスタンド使いだったのか!!」

 

私は高田さんが“ノンフィクション”という能力を使うのを見たことがない。

聞いた所、無差別にバグを発生させる能力らしいが…あまりにも危険なため、非常事態でも使用を渋るらしい。

 

世界に…モザイクがかかっていく。

冷静に立ち回ろうとしていたらしい明でも、流石にビビっているらしい。私もビビっている。

 

明「なんだこの能力…一体なに」

 

瞬間。明は消えた。

存在が抹消されたのか…どこかに移動させられたのか…透明になったのか…

少なくとも、妹の記憶はあるため存在が抹消されたわけではない…

本当に何が起こるかわからない。

 

これが『一つ目』だ。

“ノンフィクション”を発動する時、バグが起こる数を指定できるらしい。

城戸真司が指で伝えてきた数字…『3』は『3つバグを起こせ』という意味なのだ。

 

一つ目が明の消失…まだ二つ残っている。

 

…?何かがおかしい。一体何が…

すると、高田が私を心配そうに見、言う。

 

高田「あぁ…貴方…!もしかして!バグで…」

 

「高田さん…?どうしたんですか?まさか私にバグが…?」

 

おかしい。普段高田さんは私のことを名前で呼んで…そう、『をー』って…

 

…?“をー”?

 

真司「もしや…」

 

「私の名前…」

 

高田「まさか…貴方の名前が…変化しているッ…」

 

「私の名前…まさか…ずっと…“をー”…」

 

名前が…“変わった”…!?

違う。私の名前は“をー”…違う!違うッ!

 

このバグが…『二つ目』…

頭から混乱が抜けない。落ち着け…死んだわけじゃあない。まだ『一つ』残っている。

 

誰に…何に、バグが起こるのか…ッ

 

高田、城戸と順に見る…と。

城戸さんが足元から消えていく。

 

雨月「城戸さんッ!!」

 

城戸が自分の足元を見て、言う。

 

真司「なに…大丈夫さ。未だ“ノンフィクション”で人が死んだり存在が抹消されたことはない。何かあったとしても…」

 

残り顔までとなった時。

聞こえないくらいの声で。

 

真司「妹を頼む」

 

そう言って、男は消えた。

 

 

 

走りながらも、考える。

まさか、消えたハズの城戸さんが元に戻っているとは思わなかった。

 

彼は恐らく魂を少女の体に入れられた私を、『枕木雨月』と認識していた…

しかしこれだけじゃまだわからないことだらけだ。

 

もう少しだ。見ると左に階段…目の前に標識が。

『↑ヘリポート』という標識を見て、緊張なのか疲れただけなのか、心臓がバクバクと鳴っている。

 

少し休憩し、階段を駆け上がってドアの前に立つ。

深呼吸をする…

 

意を決して、ドアを開けた。

 

その先にいたのは…

 

 

「あ、をーちゃん…目が覚めたんだね?」

 

黄金色に輝く髪の女性…

そしてその目は、煌めく赤と碧のオッドアイ。

 

その女性の側に、城戸真司が倒れていた。

 

 

 

「空条…助音?」

 

無意識に声が漏れ出る。

それに呼応するように、彼女は笑顔で言う。

 

助音「どうしたの?」

 

それを聞きたいのはこっちだ。

城戸真司が倒れている…まさか、死んでいるのか!?

 

「そ、その男は…?」

 

ダブレ「この男…小林真司と言うらしいが…どうにか始末することができた。反SPWの幹部らしい…」

 

口調が荒っぽくなった…この口調は“ダブレ”だ。

ジョースターが…倒したのか?

明じゃなくて?

 

助音「貴方が無事でよかった。お姉さん、貴方を護るために頑張っちゃった。」

 

優しい口調で私に手を伸ばし、私の頭を撫でた。

私は子供じゃないッ!

 

ダブレ「をーって言ったっけか…よく屋上ってわかったな…」

 

助音「確かに…しかも、まだ傷が痛むんでしょ?戻らないと…」

 

違う…違う…!

 

「私の名前は雨月だッ!!!」

 

助音「…え」

 

手を振り払って、倒れている男の元へ走る。

 

ダブレ「おいッ 名前が雨月だかなんだか知らんが、その男は既に死んでんだッ!教育に悪いからさっさと戻っておねんねしてろ!」

 

助音「ダブレ!言い過ぎだよ!雨月ちゃん…だっけ?とりあえず戻ろ?お姉さんが一緒についていくからさ?」

 

死んでいるだと…?嘘を…

自然に触る体で、男の脈をとる。

 

呼吸もしているし…体も冷えていない…

まだ生きている…何故起きない…?

 

……これは…まさかッ!

 

雨月「おいッ城戸!しっかりしろッ!城戸!」

 

もはや、誰が周りにいようと関係ない。

大声で叫ぶ。

…が、予想通り返事は返ってこない。

 

ぐるりと体を曲げ、そこにいる女性を睨む。

 

助音「…」

 

屋上に吹く冷たい風が、彼女の金色の髪を揺らして形を変えた。

 

その隠れた額の部分…そこには…

 

雨月「枕木明…ッ "魂を奪った"んだな!?城戸真司のッ!!!」

 

静かに、笑うオッドアイの女性。

戻ろうとする髪を自らの手でかき分け、“それ”を露出させた。

 

助音「…バレないと思ってたのだがな」

 

その女性は、観念したような顔で、空中に出現した鎌をキャッチして肩に乗っけた。

 

雨月「まさか…あんたにそんな…最低最悪な能力があるなんて…ッ」

 

 

……その隠れていた額には、もう一つの…三つ目の“目”があった。

 

 

 

黒髪の少女が、横たわる真司の側で叫ぶ。

 

雨月「それがあんたの新しい“能力”なんだな…ッ」

 

三つ目の目とでも呼ぼうか。赤と碧のオッドアイの目…そして、額の部分にもう一つ…銀色の目が。

 

ダブレ「新しい能力…ね。まあ、そんな感じなんだと私も思う。」

 

声の低さやテンションは、空条助音の片方の人格…ダブレのものである。

…が、口調が枕木明のそれであった。

 

ダブレ「なんでバレたのかわからないな」

 

雨月「“鎌”よ…」

 

ダブレ「…鎌?私の能力のことか?」

 

三つの目が、肩にかかっている鎌を覗き見る。

 

雨月「貴方が本人かどうか、わざと『枕木明』って叫んだの」

 

その女性は驚いたような顔をした。

 

雨月「文字通り、“鎌にかかってくれて”ありがとう」

 

助音「…ッ いつも癪に障る話し方だな…バカ姉貴!」

 

雨月「その口調で喋るなッ!!助音さんの声で貴様が喋るなッッッ!!!」

 

助音「ん…実の妹に酷い言い草だ」

 

その女性は、肩にかけた大きな鎌の刃をわざと大きな音を立てて地面に突き刺した。

 

地面に胡座をかいたと思えば、その女性は目を瞑る。

少女は横たわる男の隣に静かにしゃがんだ。

 

雨月「…!」

 

すると、女性の額には既に三つ目の目はなく、両目は既に銀色へと変貌していた。

 

雨月「“枕木明”の人格…」

 

明「どうせだから説明してやる。先程の能力について、そのマヌケな男がいかにして負けたのか。」

 

少女は怒りを堪え、言う。

 

雨月「やはりあんたがやったのね…昔から碌なことをしない…」

 

無視を決めこんだ明が、説明しだす。

 

明「先程の三つ目の目の能力…これは、助音が翔太郎にスタンドの矢を刺されたことによって、内部の私にも発現した新しい能力…“N o w h e r e”の一つだ。」

 

明「私の“N o w h e r e”にはおおよそ二つの能力がある。もう片方は後で教えてやるよ。」

 

こわばった表情で聞く少女を眺める明。

鎌には目を瞑って動けない真司が映っていた。

 

明「片方の能力…それを私は、“第3の目(ザ・サードアイ)”と呼んでいる…」

 

雨月「大方予想はついている…憑依している人間を自由自在に操り、その人のスタンド能力を使えるんでしょ?」

 

明「半分正解半分不正解だ。この能力の最も素晴らしい点は…」

 

胡座をかいたまま、人差し指で少女を指し言う。

 

明「行われた行動は本体の意思で行われたことになり、それだけでなく都合のいいように本体の記憶を改変することができる。」

 

雨月「…ッ!そんな能力…あっていいハズが…」

 

明「バカ姉貴にはわからないだろうが…既に実用はされている。ジョースター側に刺客を送らせる際、私はいつも体を乗っ取って電話をしているが、流石に怪しまれるだろう?」

 

先をうながすようにチラチラと少女を見る。

 

雨月「…つまり、電話したというブランクの時間を不自然に思わせないことができるってこと?」

 

明「流石バカ姉貴」

 

流石にピキッときたのか、その“バカ姉貴”は立ち上がって言った。

 

雨月「そのことは二の次。城戸さんの魂を何処にやったの?」

 

ジリジリと近寄りながら、睨み合う。

 

……答えによっては…

 

明「喰った」

 

雨月「“Beyond the moon”」

 

誰にも反応できなさそうな速度で殴る。

が、手応えはない。

そこにいたハズの女性は、宙に浮いていた。

 

明「私の能力が二の次に大事なことでいいのか?今からその能力でやられるってのに?」

 

その銀色の目の女性…背中には灰色の翼が生えていた。よくみると体の至る所に鱗が浮き出て、牙も八重歯のように尖っていた。

 

雨月「その牙…その翼…」

 

明「“Degeneration”…城戸真司の能力だ」

 

雨月「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

狂ったような声をあげながら、成人大の人型スタンドが明を狙ってラッシュをかける。…が、虚しく全てさばかれている。

 

明「これが私の“N o w h e r e”のもう片方の能力だ。他人の魂を喰らい、自分の魂を強化する…もちろん、喰った魂に付属するスタンド能力も一時的に使える…」

 

そんなのも聞かずに、彼女のスタンドは思いっきり足元のコンクリートを殴りつけた。

そこからともなく“コンクリートの風船”が現れ、明の元へと浮かんでいく。

 

…が、大きく翼をはためかせた明。

その風圧で、割れる瞬間の風船を真司の近くに飛ばした。

 

そして、尖ったコンクリートの破片が真司に襲いかかる。

 

雨月「ッ!!WRROOOOOOOOOOONNG!!!!」

 

素早いラッシュで、コンクリートの破片を全て吹っ飛ばし、真司の身体を守った雨月。

その顔は怒りで震えている。

 

明「諦めろバカ姉貴。その体はかろうじて生きてるが、そろそろ死に至るハズだ。“城戸真司という魂”は既にこの世に存在しない。」

 

高く宙に浮く明を睨む雨月。

 

雨月「空気の風船ッ!!」

 

空中に空気の風船を複数作り出し、それを踏んでって跳んだ。

踏み込み飛ぶ際に、風船は破裂する。その瞬間発生する風圧で飛ぶのだ。

 

明「おいおい…そりゃ無茶があるだろ」

 

殴りかかってきたスタンドの腕を、竜の腕で掴む。

勢いを失ったスタンドと雨月は、少し高いところにぷらんと吊り下げられる状況になってしまった。

明の気分次第で、いつでも落とされるし落下する速度も変わるだろう。

 

明「私は“ザ・サードアイ”で空条助音の“G・Bドリームス”の能力を使って奴を追い詰めたんだが…死に間際であいつ、なんて言ったと思う…?」

 

腕を掴んだまま、演技をするように言うわけでもなく淡々と。

 

明「『みんなに…申し訳が立たない…』だとよ」

 

雨月「…ッ!」

 

明「『あとは雨月に託す』とかも言ってたっけなあ。

今こんな状態だがな。」

 

 

明「バカ姉貴もわかってくれたか?奴が既に死んだということを。」

 

しかし、返事はない。

顔は俯き、どんな顔をしているかもわからない。

 

明「…?」

 

雨月「………ふぅ…………ふぅ……」

 

その声は、涙を堪える声にも聞こえたし、怒りを堪える声にも聞こえた。

 

次の瞬間。

 

明「…あれ?」

 

宙に浮く、明の体…胸の辺りから、一つの風船が現れた。

 

何を風船の材料にしたのだろうか。

服が欠けたわけではない。体が抉られたわけではない。

 

その風船は、屋上に吹き荒れる風も、はためく翼から出る風も、ものともせずに少女に近づき…

 

破裂した。

 

明「今のは…一体…?」

 

瞬間。

 

明「ぁが」

 

蹴られた。

誰に?身動きが取れないスタンドに?違う。

 

うっかり、手を離してしまった…が。

 

明「…ッ!?」

 

“空を飛んでいる…!?”

 

その少女の背中には、翼が生えていた。

その少女の口には、牙が生えていた。

その少女の銀色の目には、自分の姿が映っていた。

 

目の前にいる少女…紛れもない、姉。枕木雨月。

頭が…追いつか…な…

 

雨月「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ」

 

少女は空を羽ばたいたまま、目の前の妹に拳のラッシュを喰らわした。

 

雨月「オラァッ!!」

 

明「…ぁっ…!」

 

その痛みで空を飛ぶこともままならず、地面に落下する。

その女性は、金色の目で少女を睨め上げる。

 

明「姉貴…ッ!今…何を…」

 

宙を浮いていた少女はゆっくりと着地し、ため息を吐く。

 

雨月「私にもわからない…でも、何か…ココロの中の何かが変化した。」

 

……なんてことだ。

 

雨月「さっきまでの嫌な気分はどっかに行っちゃったよ。吹っ切れたのかな。」

 

その少女の背後にいるスタンドは、見た目が少し変わっていた。

白い、何もないような体の上…頭上に、様々な色の…天使の輪っか、ヘイローがある。

 

明「まさか…能力の進化…ッ!?」

 

雨月「もはや、そういうのもどうでもいいや。

…城戸さん。託されたよ。私は、私なりの使命を全うするよ…」

 

またもや、明の胸から風船が出てくる。

慌てて彼女はその風船を掴もうとするが、手はすり抜けてしまった。

 

そして、少女はその風船を大きな爪で握りしめて破裂させた。

 

雨月「新能力…?とかそういうの、よくわかんないけど…」

 

――名前をつけるなら…

 

雨月「“Revival”かな」

 

現れた鎌を肩にかけ、その少女はつぶやいた。

 

 

 

スタンド紹介

スタンド名「“N o w h e r e”」

スタンド使い名「枕木明」

明が助音の体に潜んでいる最中、助音がスタンドの矢で刺されることによって発現した。

兎型のスタンドで、目、口がみえないようバイザーやマフラー、黒いマントを身につけている。

第一の能力“Where do I go?”を引き継ぎ、鎌の攻撃力は格段に上がった。

射程距離内の任意の場所に出現させることができ、死神と本体の位置を一瞬で変えることができる。

物理攻撃を受け付けない。

この能力には、もう2つの能力を持つ。

 

①奪った魂を喰らい、自分の魂を強化する

食べた魂によって、身体能力などが変化する。食べた魂がスタンド使いだと、そのスタンドを一時的に使用することができる。

 

②憑依している人間を完璧に操り、憑依者が取った行動が憑依されている者の意思の行動となる

簡単に言えば、憑依されている者の記憶や意思を都合よく改変できる。

 

破壊力 :A

スピード:A

射程距離:B(数十m)

精密動作:C

持続力 :A

 




講義中に考えてた構想とは少し違うけどいいか…


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#40 絶望を

遅れてごめんなさい(テンプレ)
今回は久しぶりに短めです。
これから2週間くらい忙しいので、仮面ライダーリタリンは大体1ヶ月後くらい、別れの雨は… それくらい、期間が空くと思います


第40話 絶望を

その病院の屋上では、激戦が繰り広げられていた。

 

1人、尊敬する存在を殺され、挙げ句の果てには蔑ろにされた者。

1人、己が望む結末を求め、残る家族の死を望む者。

 

2人の想いは交錯し、お互いがそれを受け止めることはなくそのまますれ違ってしまった。

その結末は希望か、絶望か。

 

それとも…

 

大きく紅い鎌が、少女の手によって軽々と振るわれる。

対抗してこれまた紅い鎌がそれを柄で受け止めた。

 

金色に靡く髪が、刃に触れたのか少し舞った。

その女性は、銀色の瞳で相対する少女を睨め上げる。

 

「バカ姉貴…なんだよその能力…!」

 

「何回も何回も“バカ姉貴”って言うな!」

 

柄に力を込め押し返した女性は少女から距離を取る。

 

――髪が邪魔だな

 

長い黄金の髪をいかにも怪訝な目で見る女性に少女が叫んだ。

 

「あんたまさかその髪、切るつもり!?助音さんの身体なんでしょ!やめなさいッ」

 

「やかましいな…まあいい」

 

緩慢な動きでポケットに手を入れるとともにヘアゴムを取り出し、長い髪をまとめた。

 

「ヘアゴムがあるなら最初からまとめなさい!」

 

「ギャーギャーうるさいんだよ!」

 

その女性は自然な動きで時間を稼いでいた。

彼女にはまだ、実の姉…枕木雨月の能力が解明できていなかったのである。

こう見えて、かなり焦っている。

 

「“N o w h e r e”」

 

兎の死神が、前からいたかのような雰囲気で少女の背後に現れた。

 

少女が振り返った時には、その死神は妹に変わっていた。

そして、そのまた背後に死神が佇んでいた。

 

――前後で挟み撃ち…ッ!

 

「死ね」

 

冷酷な呟きが空に溶ける。

 

「ふんっ!」

 

――?

 

彼女が死神と同時に鎌を横に薙ぐよりもはやく、その少女は手に持つ斧を地面に思い切り突き刺した。

そして…跳んだ。

 

それが少女の跳躍力なのだろうか。いや、違うだろう。

彼女の足…太ももの辺りに、黄色い鱗が滲み出ていた。

 

もちろん横薙ぎの鎌は当たることもなく、強く地面に突き刺された鎌の刃に制止させられる。

鈍く嫌な金属音が鳴り響いても、少女は躊躇せず。

 

 

地に突き刺さった鎌の刃の部分を蹴り、勢いをつけて女性の方へと跳んだ。

 

「“Revival”」

 

白い天使のようなスタンド…

姉が何をやってのけたのか、気づいた時には全ての色で構成されたヘイローが目の前に近づいてきていた。

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラ」

 

「オラァッ!」

 

最後の最後には、本体そのものが蹴りを入れてきた。

手も足も出ない…!

 

「…痛… 全くもってその能力わからないな」

 

「わからなくて結構」

 

――油断もしない…か。

 

「“Degeneration”」

 

すると、彼女の体は竜へと変貌していく。

目は金色に。爪は肥大化し、角が生える。

 

「あんた…その能力をもう使うなってさっき言ったはずだったけど?」

 

静かに彼女が問う。…この聞き方はあれだ。私がやらかした時に尋問する時の声だ。

しかし昔に聞いた声とは違って今は少女の声だ。怖くない…気にしたら負けだ。

 

「なんで姉貴の言うことを聞く義理がある?」

 

「…」

 

完全な竜とはならず、竜と人が混ざった姿で空を飛ぶ。

はためく翼からは、普段聞かない空を飛ぶ音が聞こえる。

 

「城戸さん…」

 

そう、呟いた。

少女は、1秒後には黄色の鱗が体に出現し、妹と同じように爪、そして角や牙が肥大化した。

 

「本当は姉妹で殴り合いなんてしたくない…でも。」

 

「あんたがやってきた行為は許されることではない」

 

「許されたいなんて思ってない」

 

そう言いながらも明は、昔からしていた姉妹喧嘩の時のように姉へと掴み掛かった。

 

爪に爪、蹴りに蹴り、炎のブレスに炎のブレス。

泥試合としか言えないような殴り合い。

 

どこからみても、それはただの“姉妹喧嘩”だった。

 

「あんたが…ッ!私をッ!紗和姉さんをッ!城戸さんをッ!」

 

「ああそうさ!全部私が直に手を下したッ!私の野望に邪魔になる存在だったからなッ!!」

 

そのほかにも、お互いが胸に秘めてたことを言い合いながら、それと同時進行で殴り合う。

 

しかし、お互いの想いは一方通行ですれ違う。

もう…恐らく、和解なんてありえないのだろう。

 

少女が、涙を溜めた目で。

最愛の妹の胸ぐらを掴んで顔を引き寄せ叫ぶ。

 

「私はただ、3人で幸せに生きていきたいだけだった!!!!!」

 

銀色の目から涙が溢れていた。

 

その最愛の姉へと叫び返す。

 

「そんな運命なんてなかったッ!!私は最初から歪んでいたんだ!紗和ねぇを殺す前からッ!!」

 

そして…

小さく、最愛の姉へ別れを告げ、突き放した。

 

よろよろと地面へ着地した少女は、遂に嗚咽を漏らす。

 

「…だから。私を愛してるのなら」

 

着地した彼女は。足を引きずりながら少女に近づく。

 

「私を殺してくれ」

 

スタンドを静かに繰り出した。

その意味は、“殺せるものなら”ということなのだろう。

 

私は決意をした。

愛をもって、彼女を。

 

「“Revival”」

 

少女は、泣きながら呟いた。

 

目の前に幾つかの風船が出現した。

少女は薙ぎ払うように鎌でその風船を割る。

すると、鎌は刀の形状へ変化した。

 

「“名付けられた剣”」

 

少女は立ち向かう。

訪れる絶望へと。

 

 

僕は聞いたのだ。全ての真相を。

未だに頭が整理できていないが、理解はできてるつもりだ。

 

スワンキーストリートからTG大学病院の入り口に送ってもらってからは、ずっと走り続けている。

 

「お姉さん…ッ」

 

気づかなかった。枕木明という、諸悪の根源が助音お姉さんの中に潜んでいたなんて。

知らなかった。“抜け殻”は思っていたよりも壮大な事件の一部なんだって。

 

階段を駆け上がって、調査部病室へと飛び込んだ。

 

「鷹優先生!ことり先生!」

 

そこには、室田悠斗くんがいた。

かつて反SPWに洗脳され、僕たちを襲撃した青年。

今や洗脳は解かれ、反SPWの追手に始末されないようにTG大学病院に匿われていた人。

 

「あ、翔太郎君。そんなに急いでどうかしたの?天久先生と小鳥遊先生は今忙しいみたいだけど…」

 

そういう悠斗くんは何をしていたのだろうか。

そんな疑問を察したかのように、彼は答える。

 

「僕は天久先生たちを手伝おうと思ってたんだけど、どうやら反SPWの追手を迎撃してたみたいで。僕が合流できたのは天久先生たちが勝った後でってわけで。」

 

「僕は今ジャストでここに戻ってきたって感じ。天久先生たちは追手の対処を考えるって。」

 

「助音お姉さんは?屋上にいるらしいんですけど」

 

「屋上?僕が知ってる限り助音さんは鑑定人さんに魂の鑑定してもらってたはずだけど…てか屋上には天久先生たちがいたはずじゃ…?」

 

……じゃあもしかして…!

枕木明がもし魂の鑑定人に存在がバレたら…?

 

「悠斗さん!鑑定人さんの安否を確認しに行ってください!僕は屋上に助音さんを探しにいきます!」

 

「えっ、えっ?」

 

有無を言われる前に走り出す。

大変なことになっている気がする…!

 

屋上に向かう階段に辿り着く。

ヘリポートと屋上公園とあるが…どっちだ!?

悠斗さんが言うには、片方に天久先生たちがいるらしい。お姉さんがいるのはもう片方だろう。

 

「…しょうがない、どちらもあたるしかないッ」

 

屋上公園の入り口のドアを勢いよく開けると、そこには調査部の天久鷹優と、小鳥遊ことりがいた。

 

「あ、ショータくん!てかめっちゃ久しぶりにこの名前呼んだ気がするんだけど」

 

「翔太郎か…そんなに焦ってどうしたんだ」

 

小鳥遊ことりは、倒れた2人の少女の手当てをしていた。

天久もそれの手伝いをしているようだ。

 

「その人たちは…」

 

「反SPWの追手…それも幹部だ」

 

「どうにか撃退できたんだけど、始末をどうするか…洗脳されてないとは言え、JKだし…」

 

手当てもまだ終わっておらず、その上先生たちさえ怪我をしていた。

ついてきてください、なんて言えない。

……その上、彼女らはまだ真相を知らないのだ。

 

「翔太郎…そういえば君はスワンキーストリートに行ってたんじゃ?城戸とはどうしたんだ?」

 

「視察が終わったんで、送り返してもらったんです。」

 

本当は視察という目的ではなかった。

真相を、現実を、知らされただけなんだ。

天久先生達ではなく、僕だけに伝えたことにも、何か意味があるんだろう。

 

「ほう… 何か、めぼしいものは発見できたか?」

 

「ちょっと忙しいんで、後で話しますね!」

 

「おい、翔太郎どこに行く」

 

「久しぶりの登場なのに私たちの出番少なくないですか」

 

強引に会話を終わらせて扉を開き駆けた。

背後から何か聞こえてくるが、本当に忙しいのだ。

 

 

……遂に、残りの屋上…ヘリポートの扉の前に着く。

焦りすぎたかもしれない。呼吸が乱れている…

 

「お姉さん…無事でいてください…」

 

少し祈ったあと、呼吸を整えて扉を勢いよく開けた。

 

 

 

「助音…お姉さん…?」

 

屋上。吹き荒れる風の中。

 

尊敬している存在。頼れる存在。好きだった存在。

そんな、空条助音が倒れていた。

 

「枕木…翔太郎…」

 

そして、その先には。

目を疑う程紅く、身体の丈に合わない大きさの鎌を持った少女がいた。

 

「をー…いや、“枕木雨月”」

 

銃を構えながら、倒れている助音お姉さんの元へと歩いた。

 

「助音お姉さんに一体何をした?」

 

自分でも驚く。こんな重く、ドスの効いた声が出るとは。

全て、この状況が僕の声にそうさせているんだろう。

 

まだ理解が追いついていない。

をーという少女…枕木雨月。枕木明の実の姉にして、その敵対者。

聞いた限りだと、僕らの味方である。

…だがこの状況だとそういうわけにはいかない。

 

あの少女は、枕木明の能力の“鎌”を持っている…

明が彼女の体に潜んでいる可能性は高い。

しかし、もともと彼女は銀目である。今の状況ではそれがどうかわからない… どうすべきか…?

 

…待て。もし枕木明がまだお姉さんの中にいたとして。雨月さんが寝返っていたとしたら?それじゃああの少女が持つ鎌は?

 

頭がこんがらがってきた。

何が正しくて、何が違くて。誰が味方で、誰が敵で。

 

すると、ようやく少女が口を開いた。

しかしその口調は、まるで演技のように。

 

「この体は私、枕木明が乗っ取った。」

 

「枕木翔太郎…ここに来たのも運の尽きだな。」

 

作ったような顔だった。

 

 

スタンド紹介

スタンド名「Revival」

スタンド使い名「枕木雨月」

“Beyond the moon”が進化した能力。

進化前とは打って変わって、見た目に特徴が何もない人型で、頭の上には様々な色で彩られたヘイローが存在する。

物に“性質”、“本質”を付け加える能力。

付け加えたい性質を含む風船を出現させ、割ることによって、割ったものにその性質を付け加える。

作中では、鎌で「剣のような形、鋭い、長い」という風船を一気に割ることによって、鎌を剣へと変化させた。

他人の能力の性質を自分に加えることによって、個々の特殊能力に干渉できる“同じ性質(タイプ)のスタンド”へと変貌する。(早い話同じスタンド能力を使えるようになる)

作中でやっていたように「竜の姿になれる能力」の性質を自分に加え竜に変化できるし、もちろん「魂を自由に扱える能力」の性質を奪い、使いこなすことも可能だろう。

能力の本質は“情報”である。

“誰かの能力を利用できる能力”とも言うこともできるし、それは実の家族である枕木明のソレと同じである。

破壊力 :A

スピード:A

持続力 :A

精密動作:C

射程距離:C(本体から半径5m)




てかもう40話なんですね
ちょっと感慨深い


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