胡蝶しのぶが攫われた!? 誘拐犯の男としのぶの関係は? そして助けたのは真逆の〇〇!? (英 詠歌)
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胡蝶しのぶが攫われた!? 誘拐犯の男としのぶの関係は? そして助けたのは真逆の〇〇!?

 前作に引き続き「鬼滅の刃」から、キメツ学園のお話を。
 今回は私の妄想が多量に含まれています。
 胡蝶しのぶ目線のお話です。

※pixiv・小説家になろうにも同じものを投稿しております※


「不審者?」

 昼休み、一学年下の栗花落(つゆり)カナヲに会った為立ち話をしていると、物騒な単語が彼女の口から出て来た。

「うん。最近、私達がいつも通る駅の前によくうろついているんだって。見た目は普通なんだけど帽子を目深にかぶってて、その上マスクもしてるから顔が見えないらしいの。それで時折そこを通る人に質問するんだって。『紫紺(しこん)のアサギマダラはどこにいるか』って。質問された人はその意味が分からなくて去っていくんだけど、私のクラスでは、その『紫紺(しこん)のアサギマダラ』なる人物を探していて、誘拐しようとしてるんじゃないかって噂になってるの」

 想像の斜め上を行くような変な質問だなと思い、首を傾げる。

紫紺(しこん)のアサギマダラ? アサギマダラって蝶よね。それも毒を持った。でも大体は白に黒い模様の蝶だと思うのだけど……」

「え、アサギマダラって毒蝶なの? 毒蝶……、……何となくクラスメイトが()ってたことと繋がるかも」

 カナヲは手を顎にあてて少し考えてから、

「アサギマダラは毒を持ってる。でもしのぶ姉さんによると大体は白に黒い模様を持つから、紫紺(しこん)のような、紫系統の個体は存在しない、またはとても希少な存在。——私、クラスメイトと話してて、どうして誘拐犯に結び付くのか疑問だったのだけど、紫紺(しこん)のその蝶はその男にとって稀有(けう)な存在で、どうしても捕まえたいから質問してるんじゃないかって今思った。——しのぶ姉さんはどう思う? この話」

「……気味の悪い話ではあるけど、何だか胡散臭(うさんくさ)さはあるわね。人探しをしているのにわざわざそんな蝶の名前を引っ張り出してきて。でも気を付けた方が良いのは確かよね。私達よく通るもの。カナヲも気を付けてね」

「姉さんもね」

 昼休みはそんな会話をして終わった。

 何気ない、不審者情報についての憶測の話をしただけだった。

 しかしこの会話が後に、重大な鍵を握ってくる事を、私はまだ知らなかった。

 

 ✕ ✕ ✕

 

 今日はフェンシング部も薬学部も休み。久しぶりの部活なしの日だから、ゆっくり勉強を復習しながら、最近ほとんど()れていなかった紅茶を、茶葉から淹れて飲もうと思う。

 最近は忙しかった為、ゆっくりする時間が取れて嬉しかった。やりたかったことを今日のうちに、なるべく片付けてしまおうと思う。そう考えると、自然に足が軽くなる。

 ──その時だった。

「……っ!?」

 首の後ろに、強烈な痛みが走った。それとほぼ同時に、何故(なぜ)か視界が(かす)む。

頚椎(けいつい)を打撃された……!? しかもこんなに意識が早く落ちそうなんて……相当な……手慣……れ……』

 自分が何者かに頚椎(けいつい)を強く打撃された事と、意識が遠のく速さから、相当慣れているだろうと推測を立てたが、落ちていく意識には(あらが)えず、何の声も出せないまま、私は気絶した。

 

 ✕ ✕ ✕

 

「……ん……?」

 目が覚めたのは、部屋のような場所。カーテンは締め切られ、ドアも閉められている為薄暗いが、本棚にある何冊かの本と、写真立てのようなものは見つかった。──しかし、ここがどこか分からなかった。

「えっ……手錠……? 足枷(あしかせ)も……?」

 動こうとした時、金属音が響いた。そして自分の身体が動かないことに気がつく。

 手首は背中側で手錠で拘束され、足首を拘束する足枷と繋がっていた。そしてそれはその部屋の壁の金具のようなものに繋がれており、完璧に身動きを封じられていた。

 

「お、やっと起きた。──久しいな、紫式部(むらさきしきぶ)蝶々(ちょうちょう)さん」

 

 ガチャっと扉が開き、聞き覚えのある声が私に向けられた。

 私の前に立つのは、長身の男。眉目(びもく)秀麗(しゅうれい)、切れ長の綺麗(きれい)暗緑色(あんりょくしょく)の瞳に優しい(ほが)らかな笑顔。そして何より語彙(ごい)が豊富で知的な好青年。

 

 ──しかし私は知ってる。この男の全てを。

 

 私は彼の姿を認めると、恐怖の余り身体が硬直した。そしてしばらくすると、全身が震え、呼吸が浅くなり、鼓動が早鐘(はやがね)を打つ。

「ハハッ、俺を見ただけでそんなに怖いのか? 何もしていないでらないか」

 愉悦に顔を染める男と、恐怖で()きたい事さえも真面(まとも)に言葉に出来ない私。だが私はその震える口で、男に(たず)ねた。

「どうして……どうして貴方(あなた)が……ここに……?」

「どうして、とは愚問(ぐもん)だな、しのぶ。ここは()()()だ。自分の家に本人がいて何がおかしい?」

「……っ!」

 私の脳内で、バラバラになっていたパズルのピースが繋がって一つの絵を作り上げるように、断片的な情報と疑問などから、私がここにいる理由が理解出来た。そしてこれから、何をされるかもきっと……。

「……貴方(あなた)が……噂の誘拐犯……? ……紫紺(しこん)の……アサギマダラを探して……連れ去ろうとした……。そうですよね……詩玲(しれい)……?」

 すると彼はパチンと指を鳴らし、ご名答、と笑う。

 ──その男は、柳川(やながわ)詩玲(しれい)といった。

 私が高等部からキメツ学園に編入する前まで住んでいた家の近くに住んでいた、私より四つ歳上の男で、……私に()()()()()()()()()()、暴力的かつ横暴な()()()だ。

「苦労したよ、お前を探すのには。いきなり『別れる』だなんて()い出したと思ったら引越しして。受験で志望校に受かったって喜んでたのにそれも捨てて、全く違う場所の中高一貫校にいたなんてねぇ。──でも見つけたよ。お前はフェンシング部に所属しているのだろう。それも全国大会で優勝する程の実力者だ。以前たまたま観ていたテレビで、『次世代のオリンピアン』なんて()われて紹介されていたな。真逆(まさか)東京にいたとはねぇ。そんなに俺から逃げたかったのか?」

 笑顔で距離を詰め、顎をクイと持ち上げられる。

 私は彼の、優しそうに見える笑顔と、知的さと、端正な顔立ちに騙された。

 告白は私からだった。元々仲良しだった私は思い切ってバレンタインにチョコレートを作った。

 それを彼は嬉しそうに受け取り、その日のうちに付き合う事が決まった。

 ──詩玲が変わったのはそれからだった。

 いつもの笑顔が少なくなった。いつも掛けてくれていた優しい言葉が消えた。代わりに増えたのは、私を莫迦(ばか)にする罵詈(ばり)雑言(ぞうごん)と、私に向けられた拳だった。

 家が近く親同士も仲良しだった為、彼の家に泊まる事もあった。両親も姉さんもカナヲも、私と詩玲がラブラブだと誤認していた為、止めなかった。

 だがその中で行われていたのは、お家デートでも何でもなく、彼のストレスを発散する事だった。

 彼は素手でサンドバッグ(わたし)を思いっ切り殴り蹴った。何度も止めてと()った。何か悪い事をしたのなら謝るからと、泣きながら何度も何度も訴えた。

 ──だが彼は私を彼女だと思っていない。ストレス解消の為の玩具(おもちゃ)としか考えていないのだ。泣いても(けな)され、痛みで立てずにいるとより強い痛みが襲ってくる。

 そんな彼は私が苦しむ(さま)を笑いながら眺めていた。時には私の首を絞めて、死ぬ寸前まで追い込んで楽しんでいた。

 こんな日々が続いて、怪我をしない訳がない。その時からキメツ学園の教師をしていたカナエ姉さんに怪しまれ、私が全てを打ち明けた事で、即刻引っ越しが決まり、進学先はカナエ姉さんのツテや産屋敷(うぶやしき)理事長のご厚意もあり、特例として編入が認められた。

 やっと離れられたと思ったのに──。絶望の底に叩き付けられたその精神的ショックだけでもう泣きそうだ。

「ここは俺の家だ。そして同時にお前の家でもある。俺はお前が逃げてからも、一度たりともお前を忘れた事は無かった。ずっと俺はお前だけを求めた。だからお前も俺しか愛したらいけねぇんだよ!」

 語彙(ごい)はあるが理論的に適わない、意味不明な発言。

 でも私は以前とは違う。彼の事を一定の間だけ忘れられた事だけでも、彼に(あらが)う気力は出た。

「私がいつ貴方(あなた)と一緒に住む約束をしたと()うのですか? 私は貴方(あなた)からプロポーズを受けてもいませんし、私からした覚えもありません。──()った(はず)ですよ、私はもう貴方(あなた)と関わらない、(いな)()()()()()()()と。そうやってわざわざ丁寧に教えて上げていますのに、ずっと執念深く探していた貴方(あなた)の方が余っ程愚劣(ぐれつ)じゃありませんか?」

 すると詩玲は乾いた笑い声を上げて、「口が達者になったなぁ」と莫迦(ばか)にしたように()い、

「あの時の教育が足りなかったのか? だったら今からでも教育し直してあげるよ。お馬鹿さんの蝶々さんの為に、俺がたっぷり時間をかけて、教育(調教)し直してあげる

 笑いながら彼の拳が頭上に上げられた。

 ──また殴られる……!

「嫌っ! 助けて!!」

 誰も助ける人なんていない。まずこんな所に私の知ってる人がいるはずが無い。助けてくれる人は近くにいない。

 ──だが私の魂の叫びが届いたのだろうか、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 いつまでもやって来ない痛みを不思議に思い、恐る恐る目を開けると、吃驚(びっくり)したまま固まっている詩玲が目の前にいた。

 そして振り上げられた拳。()()()()()()()()()()()()

 驚愕して顔を上げたと同時に、男の声がした。

「やっと証拠を掴んだ。やっと貴様を逮捕出来る事が出来る。チェックメイトだ、柳川詩玲」

 ──聞いた事のある声。確か、テレビでよく見かけて……色々物議を(かも)してる政治家の……。

鬼舞辻(きぶつじ)無惨(むざん)議員……?」

 目の前には帽子を被り、黒背広に赤目の眉目(びもく)秀麗(しゅうれい)の男。──今の世の政治ニュースをざわつかせている議員、鬼舞辻無惨がいた。

 そして詩玲の拳を止めているのは……確かボディーガードとよく勘違いされる秘書の……黒死牟(こくしぼう)さん?

「鬼舞辻議員に秘書の黒死牟さん……? どうしてここに……?」

「そこの柳川とかいう男は私に執拗(しつよう)に嫌がらせをして来ていたのだ。何度も何度も私はこの男の決定的証拠を掴む為奔走した。だが柳川と胡蝶しのぶとやらいう少女の今までのやり取りは、全て録音させて頂いた。──警察共、こやつを脅迫及び監禁罪で現行犯逮捕しろ!」

 鬼舞辻議員の指示に、何人かの警察が部屋に入って来て、詩玲を取り押さえた。黒死牟さんに拘束を解いてもらい、手錠を付けられ御用となった詩玲の背中を見ながら、

「……どうして、見ず知らずの私を助けに……?」

 一番の疑問を投げかけた。すると鬼舞辻議員の横から、すっと姿を男女二人が姿を現す。そして男性の方は朗らかな声色で、

「鬼舞辻議員、今回は本当に助かりましたよ。私の大事な生徒を助けて下さって」

 それに対し鬼舞辻議員は()めつけながら、「貴様の為などではない」と鋭く()った。

「……産屋敷(うぶやしき)理事長!? あまね校長まで……!?」

 目の前の男女は、キメツ学園の理事長と校長の、産屋敷夫妻だった。

 ──噂に聞いた事がある。

 悪徳政治家として暗躍する鬼舞辻議員と産屋敷理事長は対立しており、理事長の(ただ)れた顔は、鬼舞辻議員を恨んでいる人が腹いせに毒薬を、顔の似ていた理事長にかけて出来たものだと。二人は遠い親戚なのではないかという話も聞いた事がある。

 そんなまさに「犬猿の仲」である二人がどうして……?

栗花落(つゆり)カナヲさんから電話があったのですよ。姉が帰って来ないと。そして昨今(さっこん)、『紫紺(しこん)のアサギマダラ』を探す不審者がうろついており、その人に誘拐されたのではと心配されておりました。学園側で事情を確認した所、駅の近くの人の少ない場所の防犯カメラに、柳川詩玲がしのぶさんを(さら)う瞬間が記録されておりました」

 あまね校長は理路整然と経緯を述べる。そしてその言葉を引き継ぐように理事長は、

「確か柳川詩玲は鬼舞辻議員の執拗(しつよう)なアンチだと聞いていたからね。学園側は生徒を助けられる、議員側は確定的証拠を掴めないでいたアンチを逮捕出来る。お互いの利害関係が成立したんだよ」

「今回だけは礼を()う、産屋敷。だがこれからは何があっても協力などしないからな」

 そう冷たく()い放った鬼舞辻議員は、秘書の黒死牟さんを連れて、どこかへ去ってしまった。

「さあ、しのぶも家に帰ろう。カナエもカナヲも、心配しているよ」

 

 ✕ ✕ ✕

 

 この事件は、産屋敷理事長と鬼舞辻議員という真逆(まさか)のコンビによって見事解決。家まで送って頂き、家に帰った瞬間、カナヲが涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら私に抱き着いてきた。

 その後の報告によると、柳川詩玲改め、柳川詩玲()()は、私への数々の暴行、脅迫、今回の監禁で有罪となった。私としては、自業自得(ざまあみろ)という感じだ。

 過去の鬱憤(うっぷん)も晴れ、私の心は浄化された。

 

 皆さんも、身近な危険にはご用心。




 呪術廻戦の長編小説の合間に短編を投稿しているのですが、まだ完結の目処は立っていませんね……どんどんアイデアが浮かんでくる……。
 今回も楽しんで頂けたら幸いです。
 では、またどこかでお会いしましょう。


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