珍奇!強制シーメール化事件 (モッチー7)
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第1話:どうしてこうなった

pixiv版→https://www.pixiv.net/novel/series/7675147

ハーメルン版→https://syosetu.org/novel/266019/

小説家になろう版→https://ncode.syosetu.com/n5419hd/


この男は、ある事件に巻き込まれて以来、極度の鏡嫌いになった。

この男が何者なのか……

の前に、検事が何故この男に「血液検査の結果次第では刑務所に戻って貰う」と言う取引を持ち出さなきゃいけないのかを説明しよう。

 

発端となったのは50年ほど前。

円盤型宇宙船群が飛来し、複数の深海に黒い玉の様なワープホールを落として行ってしまった。

その後、そのワープホールから動物型ロボットの様な巨大怪獣が次々と出現。町中に現れては騒ぎを起こして人々を大いに困らせた。

無論、地球側も指を銜えて観ている訳でもなかった……

と、言いたい所だが、銃器などの通常兵器を浴びる度に急成長・急強化してしまう巨大怪獣の前に為す術が無かった。

通常兵器による巨大怪獣の排除が不可能かと思われた時、宇宙から通信が入り、とんでもない和平条件を突き付けて来た。

「お前達が頭髪のケアーを徹底的に怠ると言うのであれば、この星で暴れている怪獣を全て撤退させよう」

この条件と特徴的な頭部を理由に「ダメージヘアー星人」と名付けられたエイリアンへの対応を協議する会議が何度か開かれたが、肝心の巨大怪獣の排除が全く上手くいっていない事が災いしたのか、降伏派が大半を占めてしまった。

だが……

この頃から、ダメージヘアー星人や巨大怪獣にとって致命的に不都合な現象が立て続けに発生した。

先ずは、複数の隕石群が円盤型宇宙船や巨大怪獣を何度も襲ったのだ。しかも、天からの恵みはこれだけに止まらず、巨大怪獣が極端にその隕石を避けて通る様になったのだ。

各国は隕石内に巨大怪獣を撃破出来る物質が有ると予想し、挙って隕石の解析に没頭するが、どう言う訳か隕石から採取された物質の兵器化に失敗してばかりなのだ。と言うより、どう言う訳か兵器が隕石を拒絶して排出してしまうのだ。

こうして、巨大怪獣に嫌われた隕石群は、都市部を防衛する為の守護神的置物として扱われた……

かに視えた。

しかし、ダメージヘアー星人や巨大怪獣にとって致命的に不都合な現象はこれだけではなかった。

いや、寧ろここからが本番だった。

 

巨大怪獣避け隕石群が様々な都市部に配置されてから数日が経った頃、隕石の保管管理を担当していた職員の中から多彩で無尽蔵な超能力を発現させる者が出始めた。

その者達は直ぐに様々な検査を受けさせられ、その結果、隕石の破片と同化してしまった事が原因である事が判明した。

更に、隕石の破片と同化した者達が放つ超能力には、地球側にとって嬉しい誤算とも言える副産物が有った。

それは、巨大怪獣は、その超能力を浴び過ぎると死んでしまうのだ。

 

その為、検事達は、この男に対して「血液検査の結果次第では刑務所に戻って貰う」と言う取引を持ち出す羽目になってしまったのだ。

男は勿論大笑いしながら嘲笑った。血液検査の結果次第で極悪人や凶悪犯を刑務所から追放すると言う、その非常識過ぎる甘さに。

そう……男は隕石の力と副作用を嘗めていたのだ……

 

それ以来、男は鏡を極度に嫌う様になった。

男の名は「強田護」。

強田は、幼い頃からヤンキー漫画に登場する「強過ぎる糞外道」に憧れていた。そして、自分も何時か「強過ぎる糞外道」の様なワガママを貫き通せる男に成りたいと願っていた。

その為なら何でもやった。様々な努力と悪行を重ねた。

無論、警察には何度も目を付けられた。

敵対するヤンキー達に忌み嫌われた。

だが、強田は売られた喧嘩を全て買い、そして全勝した。

が、何時までもそんな生活が続く筈も無く……手下だった筈の者の裏切りが切っ掛けで遂に逮捕され、例の隕石との適合率を測る為の血液検査を受ける羽目になってしまったのだ。

だが、強田の考えは楽観だった。

血液検査の結果次第で刑務所から出られる。そして、出たら何をしてやろうかを色々と考えていた。

逮捕の切っ掛けとなった裏切りの落とし前をつけさせるのも良いし、その裏にいる黒幕を根絶やしにするのも面白い。

あえに、これをきっかけに別の町に繰り出して勢力拡大の足掛かりにするのも良いかも知れない。

などと物騒な未来予定ばかり浮かぶ強田だったが、それは1つも実現する事は無かった……

 

例の隕石と同化して初めて鏡を診た時、強田は絶望して絶句した。

 

そう、隕石との同化の効果は、多彩で無尽蔵な超能力を得る……だけではなかった……

隕石の欠片と同化した者は、老若男女関係無く、ふっくらとした乳房を有する可愛らしい美少女の様な姿に成ってしまうのだ。

強田も例外ではなく、以前はかなり強面の男性だったが、同化後は青白いツーサイドアップが特徴の巨乳美少女の様な姿となってしまい、その事が悩みの種となっている。

故に、巨大怪獣を死亡させてしまう程の超能力を有する者達の事を「魔法少女」と呼んでいるのである。

「何で……プの字の様な女装をせにゃならんのだ……ちょっと前まで……『逆らう奴はぶっ殺す!自由とスリルと快楽の日々ぃー!』だったのに……今はプの字の様な女装をして……俺が!この俺がぁー!」

強田の殺意と激怒を籠めた絶叫。

だが、強田が最も許せなかったのは、道を踏む外して「強過ぎる糞外道」から遠ざかってしまった自分自身であった。

責任感の強い男が、最初に責めるは自分自身である。放った言葉も、殺意のやり場も、強田が強田に向けたものであったかもしれない。

 



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第2話:魔法少女の日常について

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強田は、魔法少女の日課の1つであるある装置の装着が死ぬ程嫌だった。

「こんな物をつけろと言うのか?野郎に……男にか?」

だが、魔法少女管理委員会役員は冷淡に答えた。

「仕方ありません。巨大怪獣との戦闘中に、アレをする為だけに退席されても困りますから」

でも納得出来ない強田。

「ふざけるな……俺は男だ!こんな物を付ける必要―――」

だが、アレをしたいと言う衝動が強田を襲った。

「ぐっ!?ぐう……」

隣にいた魔法少女が手慣れた手つきで例の装置を自分に装着した。

「しょうがないだろ。こう言う身体に成っちまったんだから」

「ぐっ……ぐっ……うわあぁーーーーー!」

強田が絶叫しながら例の装置を渋々装着する。

「はぁ、はぁ、はぁ……はあぁーーーーー!」

強田が歓喜の悲鳴を上げてしまい、慌てて正気に戻った。

「違う!俺は……俺はー!」

だが、例の装置の気持ち良さには勝てず、またしても歓喜の悲鳴を上げた。

「あっ!出、出るっ!出るのぉー!出るの……んあー!」

例の装置を回りくどく説明すると、乳房に溜まった尿意を解消する装置。

つまり「搾乳機」である。

 

強田の隣で搾乳していた魔法少女が、四つん這いになりながら項垂れる強田を見て呆れていた。

「しょうがないだろ。母乳を出さないと乳房の張りが強くて痛いんだから」

「俺は男だぞ……男が牛や山羊の様に牛乳を搾り取られるんだぞ……非常識にも程があるだろ!?」

「しょうがないだろ!私達は魔法少女なんだから!」

この様な短過ぎる説明では強田が納得しないと思った役員が補足説明を付け加える。

「隕石の欠片を取り込んで同化した影響で、貴女方の胸の辺りに、魔臓と呼ばれる新たなる臓器が生まれております。その魔臓のお陰で、魔法少女は多彩で無尽蔵な超能力を好きなだけ使用出来るのです。しかし」

「しかしだと!?こんな姿に変えただけでは飽き足らず、まだ何か有ると言うのかー!」

「魔臓が生み出す未知のエネルギー、通称『魔力』には、エストロゲンやプロゲステロン、プロラクチン、コラーゲン、ヒアルロン酸、アスタキサンチン、ローヤルゼリー、ボロン、葉酸、カルシウム、鉄分、エラスチンペプチド、ビタミンPP、アルブチン、L-アスコルビン酸 2-グルコシド、グリチルリチン酸ジカリウム、フッ素と同様の効果も有しています」

言ってる意味が3分の1も解らない強田が首を傾げる。

「……どう言う意味だよ?」

「つまり、美容と健康と女性化と母乳生成に効果絶大と言う訳です」

この説明がかえって強田の怒りを煽った。

「3つ目と4つ目は明らかに不要だろ!」

「私達に言われても困るわよ!私達魔法少女はこう言う身体なんだから!」

と言って、魔法少女は強田のある事が気になった。

「それよりお前」

「あ?」

「その女らしくもない物、何時までぶら下げてる気だ?」

その途端、強田が魔法少女の胸倉を掴んだ。

「一生に決まってるだろ!これは……俺の最後の牙城なんだぞ!」

そう、魔法少女は老若男女関係無く、隕石の欠片と同化出来る可能性さえあれば、誰でも志願出来るのである。

更に言えば、魔法少女に成れるか否かを調べる為の血液検査も、実は挙手制である。

「なにぃー!あいつら騙しやがったなぁーーーーー!」

だが、魔法少女は強田の女気無さ過ぎな行動の方が気になっていた。

「それより、何時まで上半身裸なんだ?さっさと服を着るか衣装を生成しろよ」

「男にとって、上半身裸は恥ずかしい事じゃねぇんだよぉーーーーー!」

 

強田が更にある疑問にぶつかる。

「そう言えば」

「今度は何なんだ!?」

「何でこうもちょくちょく巨大怪獣がやって来るんだ?聞いた話だと、俺達の様な奴が―――」

「奴じゃなくて魔法少女!」

「俺達の様な奴が放つ超能力を浴びると死んじまうんだろ?」

「2回言いやがった」

「なのになんで……その事を解っていながら、そんなリスクを背負ってまで地上に出てくるんだ?」

魔法少女は言葉に詰まった。

「それは、そ……」

魔法少女管理委員会役員の1人であるライラ・アーニマールが代わりに答えた。

「それは、ダメージヘアー星人に直接訊くしかないわね」

「ダメージヘアーせいじん?」

「彼らが国連に送って来た動画を見る限りでは、彼らが巨大怪獣関連の事件の黒幕だと思われるわ」

「つまり、そいつを斃せば全てが終わるって事か?」

だが、事は強田が思っている程楽ではなかった。

「我々は既にダメージヘアー星人を何人か死に至らしめ、駄目押しの検死まで行っている」

「つまり……個人名ではなくチーム名って訳ね?」

「今はそう言う解釈で十分だろ?」

「で、そのチームは何の為に怪獣達を?」

その質問に対し、ライラは困り果てた顔をした。

「……一応、それらしい動画は送ってきているらしいが、聴き方によっては冗談に聞こえてしまうので、表向きは『理由不明』と言う事にしている」

「観せてくれないか?その動画」

「……後悔しても知らんぞ?」

ライラのパソコンに映し出されたのは、ダメージヘアー星人が提示した和平条件であった。

「お前達が頭髪のケアーを徹底的に怠ると言うのであれば、この星で暴れている怪獣を全て撤退させよう」

それは、強田の怒りの炎に油を注ぐに十分な内容だった。

「何だこれはぁ……これは完全にただの嫉妬じゃねぇか!?」

「あいつらに言ってくれ!私に言われても困る!」

ライラは、強田と魔法少女との口喧嘩を観ながら思う。

(本当は、あのワープホールを壊せば良いだけなのだが……)

魔法少女が強田に尻を噛まれた。

(今のあの子達の力では、まだこの推論は早いか?)

 

とある病院内でアナウンスがけたたましく鳴る。

「魔法少女管理委員会より避難命令が発出されました。看護師の指示に従って避難してください」

それを聞いた中年女性が文句を垂れる。

「どうして……怪獣が何だって言うのよ!」

その時、病院の近くで不気味な落下音が木霊した。

「何だ?何だ!?」

 

蛸と中年男性の頭部を同時に兼ね備える巨大怪獣が、周りにある物を次々に投げ飛ばした。

それを観ていた人々が慌てて逃走した。避難命令に文句を垂れていた中年女性も、それを観て大音量の悲鳴を上げた。

だが、少しばかり逃走が遅かったのか、投げ飛ばされた車にぶつかった病院から出た瓦礫が、逃走する人々の頭上に振りかかろうと言ていた。

「あーーーーー!あーーーーー!」

が、その瓦礫は、不自然な程宙に浮いていた。

「あーーーーー!……へ?」

駆け付けた魔法少女達が超能力で瓦礫を浮かべたからだ。

ついでに、魔法少女達も空を飛んでいた。

その1人である強田は、他の魔法少女達の戦闘衣装に違和感を覚えた。

「その!ロリが着そうなドレスみたいなの!何とかならんのか!」

魔法少女が強田にツッコミを入れた。

「お前こそその女気が無い恰好を何とかしろ。いやしくも少女なんだからさー」

魔法少女が使用する超能力の1つに物質生成が有るのだが、強田が生成した戦闘衣装は、他の魔法少女と違ってかなり武骨で不格好だった。

白いワイシャツに長ズボン、ブレストプレートに凶暴そうな鉄製のロンググローブとロングブーツと言う出で立ち。

他の魔法少女達がゲームやアニメに出てくるアイドルの様な戦闘衣装なので、強田の戦闘衣装は逆に目立つ。

ふと何かに気付いた強田が呆れた様に言い放った。

「そんな事より、お客様がお待ちだぜ?」

その間、蛸と中年男性の頭部を同時に兼ね備える巨大怪獣が周りにある物を次々と投げ飛ばし続けていた。

ターゲットを補足した強田は、他の魔法少女達とは真逆の事をした。

「おい!待てお前!近過ぎるって!」

「俺はなぁ!飛び道具って奴がどうも好きになれないんだよ!」

そうこうしている内に巨大怪獣の眼前に到着した強田。

「やはり喧嘩と言えば接近戦だよな?遠くで偉そうにって言うのは……」

巨大怪獣は強田まで投げ飛ばそうとするが、

「やっぱ性に合わねぇ!」

強田のアッパーが巨大怪獣の触腕を直撃。巨大怪獣は大袈裟に痛がった。

「デカいのは……図体だけかビビり!」

そこへ、魔法少女がピンク色のビームを放って応戦する。

「強田ぁー!お前、本当に近いって!」

が、強田は別に意味で呆れていた。

「持ってる棒までプの字ぽいな」

不利を実感した巨大怪獣は、作戦を変えて近くに有った車を投げつける事にした。

それを見た強田が更に呆れた。

「本当に図体以外は小さいな……お前も遠くで偉そうに攻撃するタイプな上に、騒いでるだけの野次馬共まで巻き込むとは……」

強田の目つきが変わり、本気モードになる。

「躾けなくちゃな!」

巨大怪獣に投げ飛ばされた車に乗っていた人々を瞬間転送で車から追い出すと、念力でその車を巨大怪獣に投げ返した。

どんどん悪化する戦局に困り果てる巨大怪獣の隙を見逃す事なく、次々とパンチやキックを決める強田。

強田の接近し過ぎに呆れつつも、他の魔法少女もビームや光弾などで巨大怪獣を攻撃する。

そして、魔法少女管理委員会アジア支部が勝利まであとわずかである事を告げる。

「巨大怪獣、超能力許容限界値を突破します!」

「でやあぁーーーーー!」

強田の駄目押しのパンチが命中した所で巨大怪獣が息絶え、派手に吹き飛ばされて海に叩き返されながら姿を消した。

 

巨大で凶悪な破壊者が魔法少女達に追い返されたのを観て歓喜する人々。

称賛された魔法少女達の1人である強田が照れ臭そうにしていたが、何気なく振り向いたら、瓦礫の下敷きになっている者を発見。瞬間移動で近づき念力で瓦礫をどかすと、掌から出る青い光で怪我を治療し傷を消していく。

「アフターケアーも完璧かよ?すげぇー!」

「出血が止まった!?」

「命の恩人だ」

それを聞いた強田が照れ臭そうに言い放った。

「うるせぇ!これが仕事なんだよ仕事!」

 

とここで、強田が魔法少女を辞めたくなる事態が発生した。

「サインください」

魔法少女は、ただでさえふっくらとした乳房を有する可愛らしい美少女の様な姿であるが、戦闘だけでなく医療や救助も完璧にこなす為、人々からは実用系アイドルと呼ばれてちやほやされているのある。

(早く来てくれ!後始末部隊ぃーーーーー!)

 

管理委員会が送り込んだ後始末部隊のお陰で、付き纏うオタク達をどうにかまけた強田達は、そのオタク達への陰口を叩いていた。

「はぁ……人々から称賛されるのは良いけど、あのブタ達は正直勘弁して欲しいわ」

「私達が立っているのは舞台じゃなくて戦地だと言うのに」

「ああいう人達が巨大怪獣に狙われたらと思うとゾッとするわ」

そんな中、強田が半壊したカーブミラーを発見。ムッとしながら念力でカーブミラーを叩き割った。

そして、強田を含めた魔法少女達はまたオタク達に絡まれるのを嫌って瞬間移動で基地に戻った。

 

その日の夜。

強田が個室のベットに八つ当たりをしていた。

「ざっけんなボケェー!クソ!クソ!クソー!なんでだ……なんでこの俺が、あんな気色悪いキモオタに追われなきゃなんねぇんだ……」

そして、かつての栄光を思い出して泣き崩れた。

「かつての俺なら……姿をさらしただけで楽々と追っ払えたのに……間違っている……あんな気色悪いキモオタに俺が!この俺がぁー!」

とは言ったものの、既に魔法少女に成ってしまったので、一生ふっくらとした乳房を有する可愛らしい美少女の様な姿と付き合わなければならない。

 

魔法少女・強田護の未来はどっちだ?



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資料:強田護について

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強田護

 

性別:男性→シーメール

職業:囚人→魔法少女

身長:198㎝→154㎝

体重:92.7㎏→47.6㎏

体型:108/85/106→90/60/82

 

元暴行罪常習者。

子供の頃からヤンキー漫画に登場する『強過ぎる糞外道』に憧れており、様々な悪事を重ねて逮捕されたが、血液検査の結果次第では刑務所に戻って貰うと言う取引に何の考えも無く(寧ろ、検察の甘ったれた考えを嘲笑っていた)乗っかってしまった結果、美宝石との同化・吸収を果たしてしまい、魔法少女となって巨大怪獣と戦う日々を送る羽目になった。

以前はかなり強面の男性だったが、美宝石と同化後は青白いツーサイドアップが特徴の巨乳美少女の様な姿となってしまい、その事が悩みの種となっている。また、男性器摘出を拒否したり搾乳される事に罪悪感を感じたりと、男性化願望が非常に強い。

戦闘スタイルは荒々しく、物質生成魔法で生み出した鉄製グローブや鉄製ロングブーツで、巨大怪獣に殴る蹴るの暴行を加える。

 

枡田

 

性別:男性

職業:魔法少女管理委員会会員

 

魔法少女管理委員会アジア支部役員。

根は善人だが、常識的過ぎてアドリブに弱い。

 

用語

 

魔法少女

美宝石と同化する事で多彩で無尽蔵な超能力を得た人間。

美宝石の影響により、老若男女関係無くふっくらとした乳房を有する可愛らしい美少女の様な姿となる。

巨大怪獣対策の要であるが、医療や救助などへの転用も可能なので、多方面から多大な期待を受けている。

 

美宝石

隕石や小惑星帯から採取されるピンク色の宝石。

ダメージヘアー星人が送り込む巨大怪獣の寄せ付けない効果があるほか、移植し同化する事で多彩な超能力を得る。ただし、必ずや同化出来る訳ではなく、拒絶反応を起こす者もいれば、ダメージヘアー星人の様に触るだけで死に至るケースもある。また、兵器を拒絶する性質を有し、例え弾頭などに搭載しても勝手に排出されてしまう。

 

魔臓

魔法少女の胸部にある臓器。

魔法少女に多彩で無尽蔵な超能力を与えるが、魔力にはエストロゲンやプロゲステロン、プロラクチン、コラーゲン、ヒアルロン酸、アスタキサンチン、ローヤルゼリー、ボロン、葉酸、カルシウム、鉄分、エラスチンペプチド、ビタミンPP、アルブチン、L-アスコルビン酸 2-グルコシド、グリチルリチン酸ジカリウム、フッ素と同様の効果も有している。

 

性操臓

魔法少女の尻部にある臓器。

魔臓が生成した魔力による性器のホルモンバランス悪化を抑制し、性器のホルモンバランスを正常化させる効果を有する。

 

魔法

魔法少女が使う不思議な超能力。

その効果は様々で、魔法少女の知識、技量、特性などにより種類も増減する。

 

基本的な超能力

 

念力

色々な物を浮かせて自由に動かす事が出来る。複数の物体を同時に浮かせ、複雑な軌道を取らせる事も可能。

 

瞬間移動

物体を離れた空間に転送したり、自分自身が離れた場所に瞬間的に移動したりする事が出来る。

 

飛行

自分を浮かせて自由に動かす事が出来る。最大速度はマッハ1.7。

 

防御

バリア(球状の障壁)やシールド(平面の障壁)を発生させる。

 

念話

他人の心の中を読んだり、遠隔地にいる相手に自分の意思を伝えたりする。

 

翻訳

動物や色々な国の人と会話出来る。およそ知的生命体の書いた物なら全部本人の母語に置き換えて読む事が出来る。

 

治癒

相手を短期間で回復させる事ができる。

 

探索

隠れている物や人を見つける事が出来る。視力・聴力も非常に鋭敏で事前に本能的に危機を察知するなどの超感覚もある。

 

物質生成

想念を実体化させる事が出来る。固有の衣装や装備を発生させる為に使用される事が多い。



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第3話:因縁の魔法少女

pixiv版→https://www.pixiv.net/novel/series/7675147

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今日もまた搾乳された強田が、自己嫌悪に襲われながら朝食を食べていると、

あー!

強田がある魔法少女の姿を見て大声を上げるが、言われた魔法少女の方は、強田の姿が変わり過ぎたせいでもあるのか、ただ首を傾げるだけだった。

「どこかでお会いしましたか?」

「何が『どこかでお遭いしましたかー♪』じゃねぇ!そのムカつく大五郎ヘアー!1秒たりとも忘れた事がねぇ!」

「好きでやってるんだよこの髪型。と言うか、私があんたに何をした!?」

いくら問い詰められ……

「これを観てもまだそんな事を言えるかー!」

問い詰められた魔法少女が強田の超能力である事を思い出させられていた。

 

まだ男だった頃の強田が苦しそうに転がっていた。

「くっ……くっそぉー……」

強田の目の前にいる敵は、変わった髪形をした魔法少女とそれにしがみ付く金髪のチンピラであった。

「こいつっす!こいつが犯人っす!」

そう。このチンピラは魔法少女管理委員会に強田を売ったのだ。

だが、強過ぎる糞外道を目指す強田の辞書に、逃走や降伏の2文字は無い。気に入らない奴は、殴り倒して屈服させるのみなのだ。

「この野郎!」

が、一般人と魔法少女では理が違い過ぎた。

魔法少女は飛行や瞬間移動で強田の鉄パイプを楽々と躱し、手にした二丁拳銃で光弾を次々と命中させた。

「ぐおぉーーーーー!」

圧倒的な力の差を魅せ付けられた強田であったが、それでも強田の罵詈雑言は止まらない。

「罰ゲームの様な髪形をしてるくせに、随分卑怯な事をしてくれるじゃねぇか?空飛ぶブサイクさんよぉー!」

髪形を馬鹿にされた魔法少女は、怒りを圧し殺しながら冷静に言い返す。

「罰ゲーム?これは趣味だ。それに……私達が普段立っている戦場は、そんな綺麗事が通用する程楽じゃない」

そう。強田は、強過ぎる糞外道を目指すと言っておきながら、俗に言う飛び道具に頼った事は一切無かったのだ。

ナイフや鉄パイプと言った凶器を遠慮なく使用する事はあっても、強田の喧嘩は接近戦オンリー。遠くからじわじわ相手を傷つける事も無ければ、遠くで偉そうにしている無能が大嫌いだった。

「綺麗事?これは趣味だ。それに……そこの糞みたいな屑をボコったのは、これが初めてじゃねぇんだよ!」

指名されたチンピラが怯えながら魔法少女の背中に隠れ、魔法少女は手にした二丁拳銃を構えた。

「ボコった?まるで過去形だね?まだ……貴方が勝ったと決まった訳じゃないのに!」

魔法少女が光弾を発砲。光弾は姿を変えて手錠や足枷の代わりとなり、強田の自由を奪った。

それでも、強田の虚勢と罵詈雑言は止まらない。

「見た目も卑怯だが戦い方も卑怯か?通りで何時まで経っても勃たねぇ筈だよ!」

強田の悪口にツッコむのが疲れたのか、魔法少女が指を鳴らすと、警官達が強田の周りに転送された。

そして、テレパシーで事情を説明すると、警官達が何の疑問も無く強田を逮捕した。

 

全てを思い出した魔法少女は慌てふためいた。

「貴女!あの時の不良だったのぉー!?」

強田が昭和の漫画の様に自分の指を折りながら、自身の逮捕に貢献した魔法少女に近づいた。

「やっと思い出してくれたか?……再戦を指折り数えて待ってたぜ!」

だが、役員が飛び出して来て、2人の間に割って入る。

「ちょとちょっとちょっと!ダメダメ!魔法少女同士が戦ったら!」

強田が悔しそうに舌打ちしながら食堂を後にした。

 

魔法少女管理委員会が管理する建物の中には、魔法少女が超能力の練習をする為のスペースが有った。

魔法少女は、この中で自身の超能力を磨き、何時か現れる筈の巨大怪獣との戦いに備えるのだ。

が、強田は、自分を逮捕した魔法少女を発見したのを契機に、このスペースに物足りなさを感じていた。

「どうかしましたか?さっきからため息ばかり」

「この練習場……何所も御1人様なのか?」

対応した役員は、このままではバリエーションが増えない事に不満を持っていると勘違いし、他の魔法少女のデータや練習を観たらどうだと薦めるが、

「それって、唯のパクリじゃん」

「ではどうしろと?」

強田が狡賢そうな顔をしながら答えた。

「模擬戦だよ模擬戦」

役員は当然慌てる。

「駄目ですよそんなの!」

「何で駄目なんだい?」

「魔法少女は巨大怪獣対策の要!それを無駄に消費するなど、もってのほかです!」

強田は意地悪そうな顔で答える。

「模擬戦如きで壊れる様な軟弱が、あんなデカブツに勝てるとでも思う?」

強田の言い分も一理あるので、役員が返答に困った。

「それはぁ……ですが―――」

「そんなぬるい考えで勝てる相手―――」

その時、巨大怪獣出現アラートが鳴り響いた。

「ちっ!この話はまた後だ」

強田の出撃を確認すると、役員は安堵の溜息を吐いた。

 

モグラとプレコを同時に兼ね備える巨大怪獣が、地中で穴を掘りながら前進していた。

その姿に呆れる強田。

「ああいう何かに隠れながら戦う奴は、何時まで経ってもどうも好きになれねぇ……」

それを聞いた複数の魔法少女達が提案する。

「なら、転送で地上に引き摺り出そうか?」

強田の逮捕に貢献した魔法少女がさっきまで困り果てていたが、先程の提案を聞いて顔色が明るくなる。

「おー!それが良い!それが良いよ!」

その様子を視ていた強田は、少し考えたのち、珍しく管理委員会に意見を求めた。

「奴を地上に出せば、野次馬共を巻き込む事になるぜ?どうする?」

その間も、巨大怪獣は地中で穴を掘りながら前進していた。

そこで、ライラが避難状況の説明を求めた。

「避難が完了しているエリアは!?」

オペレーター達が避難完了エリアを次々と読み上げる。

それを聞いたライラが決断する。

「地上に引っ張り出せ!奴を丸裸にして一気に叩く!」

ライラの合図とともに動いた魔法少女達が巨大怪獣が掘った穴に瞬間移動で侵入。ターゲットを発見するや否や、問答無用で巨大怪獣を空中に転送した。

予想外の事態に慌てる巨大怪獣。

そこへ、強田のパンチが飛ぶ。

「でやぁー!」

だが、鎧の様に固くザラザラした鱗が非常に頑丈で、思った程の効果がない。

「くっ!地面の次は鱗か!?どんだけ色々な物を盾にすれば気が済むんだこいつは!?」

強田の逮捕に貢献した魔法少女も攻撃に加わるが、二丁拳銃から出る光弾も頑強な鱗に阻まれ効果無し。

「うわっ!?……硬い……」

強田の逮捕に貢献した魔法少女の蒼褪めた顔を見て、物凄く邪な考えが浮かぶ強田。

(ふふーん♪そう言う事?)

強田が殴打をやめて巨大怪獣の鼻先を両手で掴む。

慌てた巨大怪獣が両手の爪で追い払おうとするが、

「おーい♪そっち往ったぞぉー♪」

「へ?」

強田はなんと、自身を捕まえた魔法少女に向かって巨大怪獣を放り投げたのだ。

「えーーーーー!?」

魔法少女が二丁拳銃から光弾を連発するが、鱗が頑強過ぎてまるで効果無し。

そう。強田の逮捕に貢献した魔法少女は、二丁拳銃を武器とする事で様々な光弾による臨機応変な戦闘を獲得したが、その代償として、一撃で相手を倒す事が出来なくなって手数で勝負する事を余儀なくされたのだ。

結局、強田に投げ飛ばされた巨大怪獣を押し返す事が出来ず、回避すれば良いと言う考えが浮かばぬまま、シールドを張って防御して一緒に吹き飛ばされた。

強田に投げ飛ばされて仰向けに倒れた巨大怪獣は、うつ伏せに戻ろうと足掻くが、目の前の徐々に大きくなる光を見て瞼が全開になる。

巨大怪獣を地上に引き摺り出すのを担当していた魔法少女達が、瞬間移動で巨大怪獣の真上に出現し、大規模なビームの準備をしていたのだ。

強田の逮捕に貢献した魔法少女とその子が張ったシールドが、仰向けに倒れた巨大怪獣の下敷きになっているのに気付かずに……

「逝っけえぇー!」

「食らえぇーーーーー!」

待ってえぇーーーーー(涙)」

魔法少女達が共同で放った極太ビームが、無防備となった巨大怪獣の腹に命中し、

「巨大怪獣、超能力許容限界値を突破します!」

炎上・爆散した。

「いやったぁーーーーー♪」

他の魔法少女達が喜ぶ中、強田以外が何かを忘れていた。

「何々?今日の私の運勢は最下位なの?」

強田の逮捕に貢献した魔法少女が、疲れ果てて大の字で倒れた。

 

巨大怪獣に止めを刺した魔法少女達が強田の逮捕に貢献した魔法少女に謝罪していた。

「いやー、ごめんごめん。まさかそこにいたとは」

「そこにいたとはじゃないわよ!危うく死ぬところだったんだからね!」

が、強田が謝罪している魔法少女達の弁解をした。

「仕方ないよ。最後の攻撃があの鱗に当たっていたら、結果が変わっていた可能性も在るしよ」

「じゃあ何か?吹っ飛んだ巨大怪獣を避けなかった私が悪いって言うの?」

強田がわざととぼけた?

「え?アレ避けれるの?」

強田の逮捕に貢献した魔法少女が怒って怒鳴り散らす。

「避けれるわぁー!忘れたの!?あの時の私の華麗な動きを!」

強田が強田の逮捕に貢献した魔法少女の肩を叩く。

「なら……共に申請しない?」

「神聖!?どこがよ!?」

「委員会に魔法少女同士の模擬戦が出来る様にって」

強田の逮捕に貢献した魔法少女は、自分が強田の罠にはまった事に気が付いた。

「え?模擬戦ってぇ……まさか……まさかよね?」

強田がとびっきりの笑顔で答える。

「いやー。同じ目的を持った者同士が、お互いと戦いながら切磋琢磨する。んーーーーー!良いシュチュエーションだねぇー♪」

「お前な。お前なー!いい加減にあの事は忘れろぉーーーーー!」

強田の逮捕に貢献した魔法少女が瞬間移動で逃走するが、強田も飛行や瞬間移動を駆使してそれを追った。



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第4話:ヤンキーの入れ知恵

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新たな巨大怪獣が出現したので、魔法少女達が次々と出動したが、1人だけライラ達と揉めているのを強田が発見する。

「何で私は待機なんですか!?」

「待機?アイツ出ないのか?」

強田は引き返して立ち聞きした。

「駄目だ。お前は待機だ」

「そんな!?私のどこが駄目なんですか!?」

ライラの隣にいた役員がサラッと答えた。

「ハッキリ言いまして……出動()過ぎです」

「そんな事ありません!」

「いいや、お前は今週、何回強制出動させられたと思う?」

強田はコケそうになった。

(ただの働き過ぎかよ!?)

「でも……私はまだ戦えます!」

イライラし始めたライラの声がどんどん大きくなる。

「クドイ!お前には3日間の休憩を命じる!これは命令だ!」

「命令……」

待機命令に食い下がっていた魔法少女も、ここまで強い口調で命令されて渋々引き下がった。そして、力無く出動する魔法少女達とは逆の方向に歩き始めた。

待機を命じられた方を追おうとする強田だったが、

「お前は出撃だ。曙夏芽の分もな」

強田が舌打ちしながら振り返った。

「もー!追っちゃダメかよ?」

ライラが呆れる様に言い放った。

「お前は曙とは違う。お前は出動ろ」

「でもよ……」

力無く歩く夏芽の背中が異様に寂しそうだった。

「ほっといて良いのかよ?あれ」

ライラが溜息を吐きながら言い放った。

「本当はこんな事をしてる場合じゃないんだがな……曙は元ホームレスで両親も共にホームレスだ」

強田が少しだけ驚いた。

「ホームレスって、あの町の片隅に転がってるアレか?」

「そうだ。曙の両親は家も無ければ仕事も無い。誰もあの2人を必要としなかった。そんな2人が傷の舐め合っている内に出来たのが―――」

「あの女か?」

ライラが辛そうに首を縦に振った。

「だから曙は……必要性や役割に貪欲なんだ。過剰な程にな」

何を思ったのか夏芽の方へと歩こうとした強田だったが、

「だからって、お前に待機命令が下った訳じゃないぞ」

強田が舌打ちしながら振り返った。

「寧ろ、お前が積極的に出動して曙が休暇を取り易くしてやれ」

「はいはい。解りました。よ!」

強田は、夏芽の事を気にしながら渋々出動した。

 

「巨大怪獣、超能力許容限界値を突破します!」

「グオォーーーーー!」

巨大怪獣との戦いを終え、夕食の時間になったので食堂に集まる魔法少女達。

そんな中、今日は待機だったせいか、どこか気が引ける夏芽。

そこへ、強田が馴れ馴れしく夏芽に話しかけた。

「よっ。今夜時間ある?」

 

強田が夏芽を連れてキャバクラにやって来た。

「なんて言うか高そうなお店だね?」

「俺は行き慣れてるけどね」

夏芽は驚いた。

「結構行ってるのぉー!?こんなに高そうなのにぃー!」

「しっ!声が大きい。他の客に迷惑だぜ?」

強田と違って居酒屋に行ける程の金に無縁だった夏芽は周りをキョロキョロする。

が、強田は不意打ち気味に夏芽に話しかけた。

「あいつら、お前の仕事中毒が気に入らないらしいな?」

それが何を意味するのかを悟った夏芽が驚いた。

「観てたの!?ライラさんとの喧嘩を!」

一方の強田は冷静そのものだった。

「あまりにも珍しいからな。自慢じゃないが、魔法少女に変えられるまでは、ここまで真面目な奴には出会えなかったからな」

(本当に自慢じゃないよそれ)

そこへ、かつて強田に敗けたヤンキー達が笑いながら入店した。

「いやぁー♪強田の野郎がいなくなって清々するぜ!」

「枕を高くして眠るって、正にこの事っすねぇー。いやぁー、やっぱ自由って良いでやんす♪」

「お陰で俺達の天下だぜ!」

黙って聞いている心算だったが、強田のおでこに青筋が浮かぶ。

「で、強田の野郎ってどうなったけ?」

「魔法少女相手になんかやらかしたって言う話は小耳にはさんだっすけど、その先が一切無いのが不気味っすねぇー」

「おいおい。知らねぇのかよ?」

(そいつと一緒に魔法少女やってますよ……)

「きっと殺されたんだろうねぇ……」

「いやぁ、きっと死んでるっすよ。そう信じましょでやんす」

「その方が俺の為俺達の為だよな!?」

(勝手に殺すな!だから死んでねーっつうの!)

強田がヤンキー達と喧嘩しそうだったので、夏芽が慌てて立ち上がった。

「あー!私達、やらなきゃいけない事が山積みだった―――」

夏芽の言葉で冷静さとキャバクラに来た理由を思い出し、不意打ち気味に夏芽に話しかける強田。

「3連休初日なのにか?」

「!」

図星を突かれて驚く夏芽。

「あいつらに休暇を押し付けられたのがそんなに悔しいのなら、2度と休暇を押し付けられねぇ様にしてやれば良いんだよ」

「……出来るの?」

強田が悪徳詐欺師の様な顔をしながら言い放つ。

「本当は……遠くで偉そうにしてる無能は大嫌いなんだが―――」

酒が入ったからなのか、例のヤンキー達が更に偉そうな事を言う。

「強田の野郎ー、もうこんな美味い酒が飲めねぇんだよなぁー♪」

「アイツの分まで飲んでやるっすねぇー♪」

「強田のお通夜祝いだぁー♪」

だが、さっきと違って強田は冷静そのものだった。

……強田……さん……大丈夫……です……よね……?

「ハッ!あんな雑魚擬き、ほっとけば良いのさ。仕事を欲しがるアンタと違って、目の上のタンコブが勝手に死ぬのを待つ事しか出来ないカスだ。我ながら大人げ無かったぜ」

(あの大五郎ヘアーとは無関係そうだしな)

 

またしても巨大怪獣が出現し、強田がそれにあたろうと出撃する。

だが、今回の敵の様子がいつもより変なのだ。

「巨大怪獣の反応……消滅!」

「超能力許容限界値は!?」

「計測……出来ません!」

「計測不能!?魔法少女以外の方法で消されたと言うのか!?」

そんなオペレーター達とライラの会話は……完全に見当違いだった。

その間も巨大怪獣の攻撃にさらされる強田達。

「消滅したんじゃない!透明になったんだ!」

透明な巨大怪獣からの攻撃に他の魔法少女達が慌てる中、強田が飛翔して高層ビルの屋上に向かった。

「何をする気だアイツ?」

「あれで囮の心算なのか?」

「肝心の私達が見えないと意味が―――」

だが、他の魔法少女達の疑念と心配をよそに、強田が透明な巨大怪獣の攻撃を楽々と払いのけた。

「ふっ……卑怯なだけあって、攻撃に重さを感じないな!?」

「え!?」

「アイツ!?そんなに探索得意だっけ!?」

「でも、まるで判ってたって動きだよ!?」

その後も透明な巨大怪獣が強田を攻撃し続けるが、ナイスタイミングで小型シールドを張り続ける強田。

「あんな……何所から来るか解らない攻撃相手に、あんな小さいシールドだけで!?」

「やっぱり見えてるよアイツ!」

透明な巨大怪獣もそれを察したのか、正体を現しながら強田との距離を広げる。

「巨大怪獣の反応が出現!」

「何!?」

テングザルとオウギワシを同時に兼ね備える巨大怪獣が口を大きく開け、口から多くの人々に嫌われているアノ音を発した。

「おい!こんな時にオナラする奴があるか!?」

「私じゃない!」

「私も違う!」

「じゃあ誰!?」

魔法少女達が嫌な予感がした。

「まさか……」

そのまさかである。

巨大怪獣は口から屁を吐いたのだ、

巨大怪獣の屁の臭いにもがく苦しむ強田。

口から屁を吐く事で強田の目を封じたと思い込んだ巨大怪獣が再び透明になった。

「巨大怪獣の反応……消滅!」

ライラは、自分達の情けなさに絶句した。

「……遊ばれているのか?」

巨大怪獣がここぞとばかりに屁の臭いに苦しむ強田を襲う。

「しまった!」

と思いきや、強田が出現させた小型シールドが巨大怪獣の攻撃を何度も阻んだ。

透明なのに驚きを隠せない巨大怪獣に対し、やっと屁の臭いから解放された強田がクスッと笑った。

「透明になれる上に口からオナラを吐くのか……反則技のオンパレードだな?」

強田が飛行しながら巨大怪獣のお腹にパンチを入れた。

「え?えーーー!?」

気を失った巨大怪獣が実体化しながら墜落した。

「あー、危なかったぁー」

そして、強田が両手に光弾を握り締めながら巨大怪獣目がけて落下する。

「でやあぁーーーーー!」

強田は、両手に光弾を握り締めながら上方で両手を組み、そのまま振り下ろして鉄槌打ちを見舞った。

「巨大怪獣、超能力許容限界値を突破します!」

耐えきれなくなった巨大怪獣が黄色い煙となって消えた。

が、

「うえっ!?こいつ!口から吐く屁も臭いが、死体の最後っ屁化もめっちゃ臭い!ふざけんじゃねぇよおい!」

 

透明な巨大怪獣相手に大金星を奪った強田に駆け寄る魔法少女達であったが、

「あんた、なかなかやるじゃん!」

「って!?臭い!」

「お前……染み付いてるぞ?さっきのオナラが」

「帰ったら風呂入った方が良いわよ!マジで!」

強田もこの臭いに呆れた。

「やっぱ臭いか?本当に卑怯のオンパレードだったぜアイツ!?」

だが、あの話題から逃げる訳にもいかないので、勇気を持って話を続ける魔法少女達。

「しかし、アンタにあれ程の探索能力があったなんて」

が、強田が嬉々として首を横に振った。

「いや、あの卑怯者を発見したのは俺じゃない」

「え?」

予想外の返答の意味が解らず困惑する魔法少女達。

すると、夏芽が瞬間移動でやって来た。

「夏芽!?」

「あんた謹慎中じゃ?」

強田が意地悪そうに言い放った。

「謹慎中なのにだと?こいつは出動してないぜ?」

謎が謎を呼ぶ言い回しにさらに困惑する魔法少女達。

「どう言う……事?」

と、ここで種明かし。

「こいつ、遠くて安全な場所で、俺に偉そうに命令してただけだぜ?」

魔法少女達がやっと合点がいった。

「って事は、あの巨大怪獣を探索して見つけ出したのは……」

「そう。こいつだ」

そう言えば、夏芽の周りに複数の鏡が取り巻いていた。

「俺達が使う物質生成は、想念を実体化させる超能力……なんだろ?」

「だから、探索や遠見に特化したアイテムを出現させて、それで得た情報や戦況をテレパシーで伝えた?」

強田が意地悪そうに言い放った。

「つまり、アイツは出動せずに安全な場所で命令してただけなんだよ」

 

強田の言い分に呆れるライラ。

「まったく……言ってくれるよ」

だが、その割には笑顔を浮かべるライラ。

「こんな悪知恵がすんなり浮かんで実行出来るとは。強田護……あの子はひょっとしたらひょっとするぞ?」



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第5話(前):最凶の敵、現る!

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ダメージヘアー星人のネブソク少将は悩んでいた。

「何だ……あの女共の妙な術は!?」

シラミ上級曹長が戦況を報告する。

「お陰で、ボルベス側の攻撃がガラッと変わり、怪獣達の成長が大幅に遅れています」

因みに、ボルベスとは、宇宙人が使う「地球」を指す言葉である。

「成長が遅れているだと?あいつらは怪獣を攻撃してる筈だろ!?」

「はい。ですが、あの妙な連中の妙な術を吸収する怪獣はおらず―――」

「何故いない!?攻撃だぞ!」

ダメージヘアー星人が巨大怪獣を使用する最大の理由は、巨大怪獣が通常兵器を浴びる度に急成長・急強化するからだ。

故に、ダメージヘアー星人は巨大怪獣をどんどん送り込む事で、地球に対して「頭髪のケアーを徹底的に怠れ」と命令できるのである。

しかし、地球に魔法少女達をもたらした複数の隕石群によって、地球とダメージヘアー星人との力関係は大きく変わってしまったのだ。

「そこで、妙な術の源と思われる隕石の奪取を何度か試みたのですが……」

「で、その隕石はどこだ?」

「……失敗しました。送り込んだ工作員の98%が隕石の半径10m以内に入った途端に大量の吐血を行い、隕石に触れた途端に死亡する者が後を絶たず、死亡してから捕虜になった者さえいる程で―――」

魔法少女が美しいロングヘアーを自慢げになびかせる姿を思い浮かべてしまい、悔しそうに机を殴るネブソク少将。

「ひっ!?」

「おのれぇ……ボルベスめぇー!」

そこへ、ニコチン准尉がやって来て、

「少将、怪獣をボルベスに送り込むペースについて進言したく参りました」

「小出しではなく、大量の怪獣を一気にボルベスに送り込めとでも?」

「いいえ。その逆です」

「ぎ……逆……?」

ニコチン准尉の言葉に不安になるネブソク少将。

「逆とはどう言う意味だ?……まさか……諦めろと言うのか……?」

魔法少女が美しいロングヘアーを自慢げになびかせる姿を思い浮かべてしまい、上司に向かって怒鳴り散らすニコチン准尉。

「そんな訳ねぇだろ!でも!ボルベスに往った怪獣が一向に成長しねぇから!こっちである程度成長させてから送り込むしかねぇんだよ!」

ニコチン准尉の怒鳴り声に少々引くネブソク少将とシラミ上級曹長。

「解った……君の悔しい気持ちは良く解った……」

「はっ!失礼いたしました!」

そこへ、フケ曹長が嬉々としてやって来た。

「ボルベスの怪獣への攻撃手段を劇的に変える方法が有りますぞ!」

驚く一同。

「何!?あるのか!?そんな方法が!?」

フケ曹長が嬉々として説明する。

「上手くいけば……ボルベスは、もう2度とあの妙な連中の妙な術に頼らなくなり、ボルベスに往った怪獣もすくすくと成長する事でしょう」

「で、その作戦とは?」

 

1人の日本人が悔しそうに現場監督官の説明を聞いていた。

「今日の朝礼なんだが、良いニュースと悪いニュースがある。どっちから訊きたい?」

「悪い方からー」

朝礼に参加している作業員が冗談を言うと、他の作業員が笑った。ただし、現場監督官すら笑っているのに1人だけ笑っていない。

「くっ!」

だが、その1人の悔しそうな顔に気付く事無く朝礼は進む。

「では悪いニュースからだ。この前の健康診断の結果、うちのもんが4人も魔法少女管理委員会に盗られた。で、良いニュースは、現段階での最上階での作業に3人程空きが出来た。誰か志願する奴はいないかー?」

悔しそうにしていた男がその仕事に志願する事は無かった。

 

この男の名は「叩務」。叩が苗字で務が名前である。

彼は、日本人でありながら兵器や軍隊を崇拝し、戦争の事を「人類に発展と繁栄を与え続ける貴き現象」と決めつけていた。

勿論、彼の希望職種は軍隊だった。

しかし、彼が自衛隊に入隊出来る歳になった頃には、自衛隊はレスキュー隊との差がほとんどない程まで変わり果てていた。

その最大の原因は、やっぱりダメージヘアー星人が送り込んだ巨大怪獣の存在である。

巨大怪獣の前では、世界各国の軍隊が使用する通常兵器はまるで歯が立たず、それどころか巨大怪獣の急成長・急強化を大幅促進させてしまう体たらくだった。

それ以降、例の複数の隕石群による巨大怪獣除けと、隕石の欠片を移殖する事で誕生する魔法少女による巨大怪獣討伐に頼っているのが現状なのだ。

 

通常兵器の地位や名声は、底辺を大きく下回ったのだ……

 

叩は泣いた。

兵器を触らなくなった自衛隊の体たらくに。

兵器や軍隊への信心を完全に失った政府の体たらくに。

人類に発展と繁栄を与え続けてきた戦争への邪悪な手のひら返しを平気で行う愚民達の体たらくに。

叩は、これ以上……戦争の恩恵を失い堕落と衰退の一途を辿る人類を見るのが……辛かった。

 

だが、叩は諦めてはいなかった。

通常兵器だけで巨大怪獣を討伐すると言う絶対に発生しない現象(叩はそう思っておらず、本当は兵器が巨大怪獣討伐の最大の武器だと信じている)を発生させる方法を根気強く探し続け、(ほぼ絶滅危惧種と言って言い)同士をひたすらに募り続け、遂にある組織に辿り着いた。

 

国連非公認組織「兵器推進善業」。

 

彼らは、巨大怪獣の出現によって見向きもされなくなった兵器を密かに開発・量産し続け、通常兵器だけで巨大怪獣を討伐する日(本来なら絶対に来ない)と通常兵器の地位や名声を意図的に急落させた魔法少女管理委員会の不正を暴く日(彼らと叩の逆恨み的見当違いで、本当に通常兵器の地位や名声を謀らずも急落させたのはダメージヘアー星人と巨大怪獣)に備えて力を蓄え続けたのだ。

叩は、その集会に積極的に参加した。

叩にとっては有意義で充実した時間だった。

そして確信した。人類にとって魔法少女管理委員会や戦争否定派は癌細胞以外の何者でもない猛毒であり、戦争こそが人類に発展と繁栄を与え続ける貴き現象だと。

そして、叩達はある計画を実行に移す。

 

その計画が……地球を破滅に導き、地球の敵である筈のダメージヘアー星人が歓喜と勝利の美酒に支配される最大の原因だと知らずに……

 

ライラは、今回の巨大怪獣の出現の仕方に疑問を持っていた。

「今回は随分予想進路がハッキリしているな?ブレも少ない」

「はい。我々が使用している機材が大幅に改善されている訳でもないのに」

ライラは嫌な予感がした。

本来なら、巨大怪獣の発生地点と予想進路が完璧に解っているのは良い事なのだ。戦う側にとっても逃げる側にとっても。

だが、ライラは何故か素直に喜べなかった。寧ろ、虫の知らせ的な何かが騒ぐのだ。

(何なんだ?この違和感は?)

強田も、今回の出動に謀略的な何かを感じていた。

夏芽が心配そうに訊ねる。

「どうしたの?」

「なんか……今回の出撃は、何か変じゃないか?」

だが、魔法少女全員が虫の知らせ的な何かに襲われた訳じゃなかった。

「何言ってるの!?お陰で民間人を逃がし易くなったし、心置きなく戦える!」

でも、強田の違和感は止まらない。

「……本当にそうなのか?」

そして……強田とライラの嫌な予感は、裏切りと言う形で現実となってしまった。

ライラとオペレーター達が叩達にマシンガンを突き付けられてしまったのだ。そして、出動準備をしていた魔法少女達もである。

「何の真似だ?」

叩が怒りを込めて言う。

「お前達が人類から奪った物を返して貰いに来た!」

ライラは理解に苦しんだ。

魔法少女が巨大怪獣と戦い、委員会がそれを管理する。それだけの話の筈だ。

ダメージヘアー星人や巨大怪獣が略奪者扱いされるのは納得出来るが、我々が略奪者扱いされる覚えは無い筈だ。

ライラが人類から奪った物が何か一向に思い出さない事にしびれをきらした叩がピストルを真上に発砲し、オペレーター達に悲鳴を上げさせた。

「とぼけるな!お前達がアレを奪ったせいで、人類は衰退と退化の一途なんだよ!」

 

叩の言い分が魔法少女に管理委員会への猜疑心に繋がる……事は無かった。

寧ろ、委員会に軍事クーデターを行った者達の理解の無さに呆れと哀れみを懐くだけであった。

だが、それを口にする事は出来なかった。オペレーター達が人質に盗られているのを既に知っているからだ。

これが魔法少女だけならいとも簡単に撃破出来ただろう。だが、オペレーター達は戦う術を持っていない。しかも、人質の数はかなりのもので、1人2人死んでもなお人質としての効果を発揮するのだ。

でも、夏芽は我慢出来なかった。もう直ぐ巨大怪獣が上陸するからだ。

「待って下さい!せめて……せめてあの―――」

だが、兵士達は夏芽の訴えを最後まで聴くどころか夏芽の右足を銃撃した。

「!? 曙!?」

強田が夏芽に駆け寄った。

「大丈夫か!?」

夏芽は強がった。

「私は大丈夫。それより、あの巨大怪獣を」

強田が悔しそうかつ残念そうに首を横に振った。

「駄目だ……この卑怯者共が許さない。少なくとも今日の出撃は……な」

その間、強田が夏芽の足を超能力で治療していたが、

「そんなふざけた嘘を吐き続ける気か?」

かつての強田なら、この時点で大乱闘を発生させていたであろう。だが、今回は動かなかった。強田の名誉の為に言うのであれば、あくまで「動かなかった」であって「動けなかった」ではない。

この者達に、「命令して下さい」と言わせる程ボコるだけで改心する程の良心すら残っていない事に気が付いてしまったから。

とは言え、巨大怪獣の上陸が迫っているので、魔法少女達は急いで現場に急行しなければならないのだが、

「安心しろ。お前達が世界に吐き続けた嘘は暴かれ、兵器は本来の役目に戻り、巨大怪獣は駆逐される」

魔法少女達は、観せられた映像に愕然とした。

巨大怪獣上陸予定地に居並ぶ戦車、戦闘機、戦闘ヘリ、軍艦。

巨大怪獣にとっては栄養剤でしかない物が居並んでいると言う、地球側にとっては最悪の事態であった。

流石に人質になっているオペレーター達を見殺しにしてでも止めなきゃいけない最悪の状況に、1人の魔法少女が叫ぶ。

「やめさせろ!あんな事をしたら、巨大怪獣が―――」

「黙れ嘘吐き!」

兵士の1人が魔法少女のこめかみを撃ち抜いてしまった。

だが、兵士達に罪悪感は無かった。

「おいおい。この後、こいつらを警察に突き出す予定じゃなかったのか?」

「良いじゃねぇか。どうせ、逮捕されても死刑判決がオチなんだからよ」

強田が悔しそうに歯ぎしりした。

 

一方、ライラも命と大義を天秤にかけなければならない状況に陥ってしまった。

「どうした……早く読め!それが、お前達の唯一の贖罪なんだ!」

巨大怪獣や魔法少女を良く知るライラにとって、叩達に渡された原稿は、地球をダメージヘアー星人に明け渡す事を認める程危険な物だった。

「本当に大きな声で読んでも良いのか?ダメージヘアー星人の思う壺―――」

「この期に及んで嘘を吐くなぁ!どうせ……お前達の嘘は、もう直ぐ暴かれるんだからよ!」

でも、ライラは叩達に渡された原稿を読む事は出来なかった。読めばダメージヘアー星人と巨大怪獣の思う壺だからだ。

一方の叩は、イライラはすれどまだ余裕はあった。

巨大怪獣上陸予定地に居並ぶ兵器推進善業の皆さんが、通常兵器だけで巨大怪獣を討伐してくれると信じているからだ。

「読みたくないなら読まなくて良い。だが……後で後悔する事になるぜ」

最早、ライラに出来る事は……もう直ぐ発生する最悪な事態を悔しそうに観るだけであった。

それを察した叩達の1人が、叩達にバレない様にダメージヘアー星人に通信を入れた。

この時点で叩達は気付くべきだった。

自分達がダメージヘアー星人の手の平で踊らされていた事に。

だが、残念ながら叩達は自分達の致命的なミスに気付かない。通常兵器が巨大怪獣に完勝すると言う、本来なら在り得ない現象を見届ける為に。

 

ダメージヘアー星人達は、歓喜を必死に我慢しながら兵器推進善業と巨大怪獣との戦いを見守っていた。

そして遂に、ウサギとチンパンジーを同時に兼ね備える巨大怪獣が姿を現してしまった。

「全部隊、攻撃開始!」

とうとう巨大怪獣最大の栄養剤である通常兵器が火を噴き、全弾命中してしまった。

その結果、巨大怪獣は最初とは比べ物にならない姿へと急成長した。

突然ブリッジを始めたかと思うと、頭部が一旦胴体に収納され、へそから頭部がニョキっと生え、その頭部が4等分されて目と耳が4つに増えた。

更に、手足の部分が車輪に変化し、肘や膝からパトランプが生え、頭部が有った部分がジェットブースタへと変形し、局部から複数の縄分銅が生えた。

とここで、ダメージヘアー星人達がとうとう歓喜と勝利の美酒に完全に支配されてしまった。

嬉し過ぎて変な踊りを踊る者。

肩を組み合う者。

握手し合う者。

ダメージヘアー星人達がそれぞれの形で喜びを表現したのだ。

 

「馬鹿な……そんな馬鹿な!」

叩達は、この状況を信じられず、全く理解出来なかった。

兵器推進善業がかき集めた通常兵器が巨大怪獣を斃し、魔法少女管理委員会の嘘を暴いて兵器や軍隊の名誉と必要性を飛躍的に回復する筈だったのだ。

だが、結果は違った。

兵器推進善業がかき集めた通常兵器が巨大怪獣の成長と変形を促してしまっただけであった。

それでも、叩はスクリーン越しに巨大怪獣と戦う前線部隊に檄を飛ばずと共に、前線部隊の予想外過ぎる苦戦に困惑する同胞に活を入れた。

「諦めちゃダメだ!俺達の使命を忘れるな!魔法少女管理委員会の嘘を暴き、兵器や軍隊の名誉と必要性を飛躍的に回復させ、人類の発展と繁栄に必要不可欠な存在である『戦争』を取り戻すんだ!」

だが、叩の望みと責務に反して、ダメージヘアー星人達にとって嬉し過ぎる誤算が発生してしまった。

兵器推進善業がかき集めた通常兵器を嗅ぎつけて、カエルとカマキリを同時に兼ね備える巨大怪獣とカバと水牛を同時に兼ね備える巨大怪獣が、同時に出現してしまったのだ。

 

このまま……ダメージヘアー星人達の勝利が約束された状態のままで終わってしまうのか?

いや!歓喜と勝利の美酒に完全に支配されてしまったダメージヘアー星人達は気付かない。この計画のほころびを無理矢理作ろうとしている者が既に動き出している事に……




今回から登場する「叩務」のモチーフは、愚かで無知だった頃の私です。

戦争に勧善懲悪を持ち込む様な娯楽映画を何の疑いも無く楽しんでいた頃、正義のヒーローに強力な武器を持たせるべきだと考えていた頃、そんな間違った子供らしさを抱えながら大人になってしまった不幸者が、今回から登場する「叩務」なのです。


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第5話(後):逆転の鍵は、ゴ〇〇

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3匹の巨大怪獣が、兵器推進善業がかき集めた通常兵器の総攻撃の餌食になる権利を奪い合っていた

兵器推進善業が攻撃する度に、他の巨大怪獣を押しのけながら着弾予想地点に急行し、兵器推進善業の攻撃をもろに食らう。その繰り返しであった。

それを観ていた強田が、呆れながら兵器推進善業の魔法少女管理委員会施設制圧部隊に質問した。

「おい。話が全然違うじゃねぇかよ?」

「黙れ」

「お前らが使ってる武器なら、俺達魔法少女の奇妙な力が無くても、あのデカブツを殺せるんじゃなかったのかよ?」

「黙れって言ってるだろ!既に死刑判決が決まった詐欺師の分際で!」

もっと何か言ってやりたかった強田であったが、彼らが既に聞く耳を持つ程の余裕すら無いと判断したのでやめた。

 

聞く耳を持つ余裕すら失ったのは、オペレーター達とライラを人質に取った叩達もであった。

「何故だ……既にあれだけの猛攻の餌食になった筈なのに……なぜ死なない!?」

それは、ダメージヘアー星人の方が一枚上手だったに他ならない。

ダメージヘアー星人が侵略する側。つまり、攻撃されても文句が言えない側なのだ。だからこそ、攻撃された時の為の対抗策をそれなりに練る必要が有ったのだ。

だからこそ、巨大怪獣は通常兵器を浴びる度に急成長・急強化する様に品種改良されているのだ。

兵器と軍隊の存在価値や必要性が底辺を大幅に下回った状態が永く続き、多くの者達がそれに慣れてしまった事に焦った叩達と兵器推進善業は、そんなちょっと考えれば解る事すらまったく思い浮かばない程墜ちていたのだ。

そんな中、想定外の連続に困惑する叩達に紛れ込んでいる妙な違和感を発見したライラは、今回の軍事クーデターの本当の黒幕が誰なのかに気付いてしまい、自分自身に心底呆れてしまった。

(なるほど。そう言う事か?……我ながら、勘が呆れる程鈍いな?)

 

最初に兵器推進善業と戦った巨大怪獣が痺れを切らし、両肘と両膝に生えたパトランプを発光させた。

「今度は何だ?」

すると、戦車や軍艦が次々と浮かび上がり、巨大怪獣の周りを回り始めたのだ。

そして、ジェットブースターを起動させて都市部へと逃げ込んだ。

叩は意味が解らなかったが、ライラはその意味を正しく理解した。

「1人占めよ。通常兵器をたっぷり浴びて強大な力を得るために」

叩がライラにピストルを向けた。

「まだそんな嘘を吐く気かぁー!」

だが、叩の言い分に反して、このままでは兵器推進善業がかき集めた通常兵器の総攻撃の餌食になる権利を1人占めされると察したカエルとカマキリを同時に兼ね備える巨大怪獣が後を追った。

「何をやってるんだ!?巨大怪獣を上陸前に斃さないと、あいつ等の嘘を暴けないじゃないか……」

同胞の情けなさに項垂れる叩に対し、ライラが怒り気味に言う。

「その前に民間人だ!」

 

兵器推進善業がかき集めた通常兵器の総攻撃の餌食になる権利を奪い合う2匹の巨大怪獣の姿を観て喜ぶダメージヘアー星人達であったが、

「大変です!」

「なに?あの妙な術を使う連中が、我々の今回の計画の全貌を知ったのか?」

「いいえ……裏切り者です……」

ついさっきまで歓喜と勝利の美酒に完全に支配されていたダメージヘアー星人達が、その言葉を聴いて一気にお通夜の様な状態になった。

「あの馬鹿まで来てしまったと言うのか?」

 

強田は……兵器推進善業がかき集めた通常兵器の総攻撃の餌食になる権利争奪戦に最後に参戦した巨大怪獣の姿に驚き恐怖した。

「……こんなの……ありか……?……」

その巨大怪獣は、他の巨大怪獣より大きく、他の巨大怪獣より太く、他の巨大怪獣より焼け爛れていた。

強田と共に兵器推進善業の魔法少女管理委員会施設制圧部隊にマシンガンを突き付けられた魔法少女達が静かに語り始める。

「Risquemaximum」

「りす……なんだって?」

「フランス語で危険度最大値って言う意味で、今ではあいつの名称さ」

「そして、私達地球側が育て過ぎちゃった巨大怪獣なのよ」

強田が更に蒼褪めた。

「お前……それって……」

 

久しぶりにRisquemaximumの姿を観たライラが皮肉を込めて言う。

「お前達が机の裏に隠したテスト用紙のお出ましだな?」

叩達はライラを撃ち殺したくなったが、流石にそれは出来ない。魔法少女管理委員会の大幹部を公正な裁判の場に引き摺り出して正当な裁きを下すのも、今回の軍事クーデターの目的の1つなのだから。

だが、ライラが突こうとした図星は、兵器推進善業の殺意を煽るのに十分だからだ。

Risquemaximumは元々、ダメージヘアー星人が地球に送り込んだオオカンガルーとグリーンイグアナを同時に兼ね備えた巨大怪獣に過ぎなかった。

だが、当時の地球は巨大怪獣が魔法少女の超能力に致命的に弱い事に気付ていない時期だったので、当然の如く通常兵器の総攻撃の餌食になり、そして、ダメ押しとばかりに核を搭載した巡航ミサイルまで撃ち込まれた。

その結果、Risquemaximumは飛躍的かつ劇的に強くなり過ぎた。強くなり過ぎてダメージヘアー星人の洗脳を自力で解いてしまった。

その代償として、Risquemaximumの体内は常に無尽蔵の放射能に汚染され続け、その皮膚は常に焼け爛れ続けた。

「これを……私達地球側の罪と呼ばすして……何を罪と呼べば良いんだ?」

叩が懸命に叫ぶ。

「違う!」

だが、その後が続かない。

「何が違う?どこが違う?言ってみろ」

叩は喋れなかった。全否定したいにも拘らず。

 

カバと水牛を同時に兼ね備える巨大怪獣が真っ先に逃げた。Risquemaximumと戦っても勝てないと悟ったからだ。

Risquemaximumはそれを追おうともせず、いまだ兵器推進善業がかき集めた通常兵器の総攻撃の餌食になる権利を奪い合う2匹の巨大怪獣を追う様にゆっくりと都市部へと歩み始めた。

これにより、現場指揮官の焦りはピークに達した。

ただでさえ巨大怪獣の上陸を2匹も許してしまった上に、更にRisquemaximumの上陸まで許せば、通常兵器の名誉と必要性の回復は永遠に来なくなってしまうからだ。

「討てぇ!止めろぉ!奴まで上陸すれば、全てが最悪な形で終わってしまうぅー!」

だが、既にボロボロの兵器推進善業にRisquemaximumを止める手段は無い。いや、現実を否定し通常兵器に頼った彼らに、最初から止める方法など無かったのかのしれない。

Risquemaximumは、背びれを光らせながらカエルとカマキリを同時に兼ね備える巨大怪獣を見据え、口内を青白く光らせた。

「何をする気だ?」

Risquemaximumの口から放たれた青白くて細長い炎が、たった1撃でカエルとカマキリを同時に兼ね備える巨大怪獣を消してしまった。

たった1発で巨大怪獣を消し去るRisquemaximumの姿に、強田が素直に言う。

「もう……『ゴの字』で良いじゃん」

それを聞いた魔法少女達が宥める。

「ある映画制作会社から『それだけはやめてくれ!』って言われてるんだよ」

「……著作権がどうとか言ってる場合か?」

 

巨大怪獣に操られて巨大怪獣の周囲を浮かんでいる戦車や戦闘機や軍艦が、Risquemaximumに追われる巨大怪獣に向けて砲撃を続けていた。

傍目から見れば、巨大怪獣から逃れる為に攻撃している様に見えるが、

「何をしている!?弾幕が薄いぞ!早く撃破せんか!」

だが、操られた戦車に乗っている車長の意見は違った。

「違う!戦車が勝手に巨大怪獣を攻撃してるんだ!」

「言ってる意味が解らん!操られている者が操ってる者を攻撃しているとでも言うのか!?」

前線指揮官が檄を飛ばすが、巨大怪獣とRisquemaximumの鬼ごっこによる甚大な被害を観て、前線部隊の中に「巨大怪獣を斃して通常兵器の名誉と必要性の回復を謀る」に疑問を持ち始める者が出始めた。

「もっと……もっと早くに魔法少女を呼ぶべきだったのではないでしょうか?」

「何ぃ!」

「だってそうじゃないですか?これだけ周到に待ち伏せしてこれだけの被害なんですよ……もう負けを認めるべきです!」

前線指揮官が弱音を吐いた隊員の胸倉を掴んだ。

「じゃあ何か?兵器や軍隊が廃れても良いのか!?」

でも、既に敗北を認めた隊員の考えは変わらなかった。

「それで侵略者に打ち勝って護りたいモノを護れれば!……それで良いじゃないですか?」

「私も……不要なプライドを捨ててでも侵略者に勝つ事が重要だと……思われます」

 

スクリーン越しに前線部隊の精神的乱れを観た叩が怒り狂う。

「何を言ってるんだあいつは!?たとえ、それで侵略者に勝ったとしても、人類の発展と進化に必要不可欠な戦争を失えば、衰退と滅亡しか残らんではないか!」

だが、叩の望みに反して、1人の魔法少女が飛び出してRisquemaximumに斬りかかった。

「貴様あぁー!魔法少女を出撃させたなぁー!?そんなに自分達が吐いた嘘を守りたいかぁー!」

本当は違うのだが、あえてその事は言わなかった。

確かにあの魔法少女はRisquemaximumを倒す為だけに管理委員会を退職したのだが、思い込みに完全に取り憑かれて飲み込まれた叩に言ったところで信じてもらえないからだ。

叩達の人質になったオペレーターの1人が立ち上がり、上司であるライラに命令した。

「ライラァーーー!何時までぼさっとしてるぅーーー!早く出撃命令を出せやぁーーー!」

「黙れ嘘吐きがぁー!」

だが、このオペレーターの勇気は、叩が放った銃声が掻き消してしまった。

でも、ライラの決意を後押しするには十分過ぎる勇気であった。

「何をぼさっとしている!既に巨大怪獣は出現しているのだぞ!?早く出撃しろ!」

それに対し、叩がピストルをライラに向けながら叫ぶ。

「やめろー!貴様等に騙された愚民達を真実から遠ざける気かぁー!」

しかし、既に射殺される気満々なライラは、完全に思い込みの中にいる叩に説教を垂れた。

「貴様こそ現実を視ろ」

 

ライラから改めて出動命令を受けた魔法少女達であったが、叩達の人質であるオペレーター達の事を思ってか、なかなか踏み出す事が出来ない。

そう、強田以外は。

「その言葉……待ってたぜぇ!」

ライラのお陰で箍が外れた強田は、自分達に銃口を向ける兵器推進善業の魔法少女管理委員会施設制圧部隊に殴る蹴るの暴行を加えた。

「行きな」

だが、他の魔法少女達は慌てるばかりでこの場から離れようとしない。

「何やってるんだお前!?そんな事をしたら―――」

そんな魔法少女達に強田が一喝する。

「あいつらが選んだ道を否定する気か!?」

「え?」

「あいつらは、自分の命より町で暴れているデカブツをぶっ倒す事を選択した。それを否定するのかって訊いてんだよ!」

強田のこの言葉で吹っ切れた魔法少女達は、巨大怪獣とRisquemaximumを撃破するべく出動する。

「待て詐欺師共!停まれ!」

それを見た兵器推進善業が慌てて魔法少女達に銃口を向けるが、直ぐに強田の暴力の餌食となった。

「俺も……こいつらを片づけたら直ぐに往く!先に往け!」

「……解った!」

一見カッコイイ場面に見えるが、強田は正直恥ずかしかった。

(何で俺はこっちを選んじまったんだ?まさか……あのゴの字にビビってるのか?)

でも、強田は解っていた。

今の自分ではRisquemaximumには勝てないと。

だから、無意識のうちにRisquemaximumより数段弱い兵器推進善業の魔法少女管理委員会施設制圧部隊の殲滅を選んだのだ。

とは言え、常識外れな巨大怪獣との戦いになれてしまった強田にとって、兵器推進善業は数の暴力と卑怯な武器に頼るだけの雑魚。

いとも簡単に叩きのめし、ライラ達がいる情報管理室へと向かった。

 

叩達が魔法少女達の出撃を妨害していた部隊からの連絡を聴いて慌てた。

「停められなかっただと!?」

「で、ここに向かっている魔法少女は何人だ!?」

叩は、次の報告を聞いて蒼褪めた。

「2人だけだと!?他は全部巨大怪獣の許に……」

ライラが呆れ気味に言い放った。

「何か不都合でもあったのか?」

叩がピストルをライラに向けながら叫ぶ。

「地球最大の不都合である貴様等が言うな!」

しかし、突然戦闘服装の温度が急上昇して視界が歪み始めた。

「何だ……この暑さは……」

「私が熱波を操ってるからさ♪その服はもうサウナ室だよ?」

叩がピストルを赤いショートヘアの少年的な雰囲気を纏った魔法少女に向けるが、当の魔法少女は余裕であった。

「良いの?そんな暑い中で素手で金属を触って?」

そこへ、強田が兵器推進善業の雑兵達に暴行を加えながらやって来た。

「そろそろ……この迷惑な戦争ごっこはお開きにしようや」

強田の台詞は、既に怒りが頂点に達していた叩の怒りを買うのに十分だった。

「迷惑だと?散々戦争の恩恵に甘え続けたクセに、今更迷惑だと!」

「は?俺が何に甘えてるって?」

「お前だけじゃない!俺達全人類は、兵器によって力を得、軍隊に護られ、戦闘によって発達し、戦争によって発展してきたんだ!そんな戦争を迷惑の一言で片付けるのは、人類の進化に対する冒涜に他ならない!」

その言葉を聴いて、呆れながら言い放つ強田。

「……俺よ……腕力と筋肉とワガママだけが取り柄だからよ、歴史の授業はからっきしなんだ。でも、そんな俺でもわかる事が有る……戦争を嘗めるなよ?……戦争は気に入らねぇ奴を根絶やしにする為に在るんだよ!」

思い込みの中にいる叩の耳にはやはり届かない。

でも、強田にとってはどうでも良い事であり、最初から解っていた事であった。

それに、もっと大事な事が在るからだ。

強田がポケットから隕石の破片を取り出すと、ライラが自虐的に鼻で笑った。

「お前も気付いていたのか?」

「……ああ」

すると突然、叩の仲間の1人が突然苦しみだし、口からオレンジ色の炭酸血液を吐いた

「……オレンジ色の吐血だと……馬鹿な……そんな馬鹿な!?ダメージヘアー星人の天敵である筈の我々の中にだなんて……そんな馬鹿な事が在り得ようか!?」

大慌ての叩に対し、強田とライラは冷静そのものであった。

「解るだろ普通。俺達が敗けて最も得をするのは誰か?それさえ判れば……」

強田が隕石の破片を近づける度に叩の仲間に化けていたダメージヘアー星人がもがき苦しみ、肌色を緑に変えた

「やめてくれぇ……本当にやめてくえぇ……」

「おのずと黒幕が誰か解る」

「あぐぐぐっ……ぐっ!……」

そして、ダメージヘアー星人は死んでしまった。

強田がライラからある台本を奪うと、

「それと……さっきの卑怯者の死、ネットで生放送しといたから。あいつらの遅刻理由は解ってもらえるだろうし……お前も言い逃れ出来ないぜ?」

叩は何も言えず、ただ悔しそうに歯ぎしりするだけだった。

 

追っていた巨大怪獣の消滅を確認したRisquemaximumは、これ以上の戦闘は無意味だと判断して海底に戻ってしまった。

それを追おうとする魔法少女がいたが、他の魔法少女達がそれを制止した。

「今のアンタじゃ無理だって。アンタは私達が来るまで、あの2匹の足止めをしてたんでしょ?これ以上戦ったら死んじゃうよ?」

Risquemaximumを追撃しようとしていた魔法少女は、悔しそうに地面を叩いた。

「おぉ……おーーーーー!」

と、ここで、Risquemaximumがいなくなった隙をついてカバと水牛を同時に兼ね備える巨大怪獣が再び出現した

が、それを待っていたのは兵器推進善業の通常兵器ではなく、散々待ったをかけられてまだまだ暴れ足りない魔法少女達であった。

「お前……何しに来たぁー?」

そして……巨大怪獣の最期の悲鳴が響き渡った。

 

こうして、叩達は逮捕され、兵器推進善業と魔法少女管理委員会との力関係を逆転させようとしたダメージヘアー星人の目論見は破綻した。

だが、これでもなお叩は負けを認めない。

「これで終わりだと思うなよ……必ずやお前達の嘘を暴き、人類の発達と発展に必要な戦争を奪還する!」

強田が呆れながら言い放つ。

「いい加減……勝利者目線で戦争を観るのは辞めて、馬鹿げた夢から醒めろ」

強田は「あれを視ろ」と言いたげに目を動かした。

「あいつ等の様にな」

そこにいたのは……今回のRisquemaximum上陸の被害者達であった。

被害者達は、叩達を見つけた途端に次々とゴミを投げつけ始め、機動隊がそれを宥めながら制止させる。

「この裏切り者ぉー!」

「何で魔法少女を出し惜しみしたんだよ!?」

「俺の店を返せぇー!魔法少女があんだけ遅刻したんだ、それだけの事はして当然だよなぁー!」

「落ち着いて下さい皆さん!このままでは、貴方方を暴行罪で逮捕しなければなりません!ですから、皆さん落ち着いて下さい!」

叩は許せなかった。

兵器推進善業が果たそうとした善意を……通常兵器だけで巨大怪獣を討伐し、兵器や軍隊の必要性を意図的に葬り去った魔法少女管理委員会の嘘を暴き、人類の発達と発展に必要不可欠な戦争を全人類に返還する。

それを無視して、魔法少女の出動を遅らせた「裏切り」への誹謗中傷に没頭する被害者達の悪意が、どうしても許せなかった。

だから、叩は両脇を抱える警官達を振りほどきながら反論する。

「違う!悪質な詐欺師共が言ってる事は全部嘘だ!兵器だけで巨大怪獣を討伐出来るんだ!出来るんだぁー!」

だが、誰も叩の反論に耳を傾けず、魔法少女の出動を遅らせた「裏切り」への誹謗中傷に没頭する。

「嘘吐け!だったら何で息子は死んだんだ!?」

「あんな役立たずを並べる暇が有ったら、さっさと魔法少女を出撃させろ!」

「お前は手下か?ダメージヘアー星人の手下か!?裏切り者ぉー!」

それでも、叩の必死の説得は続いた。

「違う!あの詐欺師共が超能力でしか巨大怪獣を討伐出来ないと嘘を吐くから、兵器や軍隊がどんどん衰退し、戦争を失い、我々全人類は滅亡の道をひた走る羽目になったんだ!」

でも、やっぱり叩の反論に耳を傾けず、魔法少女の出動を遅らせた「裏切り」への誹謗中傷に没頭する。

「返せぇー!裏切り者ぉー!」

「嘘吐きはお前だ!これのどこが魔法少女を管理しているだ!?」

「引っ込め!裏切り者!」

叩は必死に涙を流しながら訴える。

「違う!違う!違ぁーう!」

 

2日後。

「ライラさん達を人質に取った人達の判決が出たそうだ……無期懲役な上に50年間の懲罰房だと」

「早くね?裁判ってそんなに短かったけ?」

「……弁護士のなりてがいなかったそうだ……誰も、必ず惨敗する戦いは避けたいって事だろう?」

「でも、何で無期懲役なんだ?何で殺さない?」

「死すら生温いって事だろ?」

強田は溜息を吐いた。

「馬鹿だよ……あいつらは加害者と敗北者の末路を……知らな過ぎる」




兵器推進善業が登場する回全ては、『マシンガンやミサイルが新型コロナや異常気象に何をしたって言うんだ!』という気持ちで書いています。
本当の苦痛の中にいる人に武器は必要ないですからね。


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資料:Risquemaximumについて

pixiv版→https://www.pixiv.net/novel/series/7675147

ハーメルン版→https://syosetu.org/novel/266019/

小説家になろう版→https://ncode.syosetu.com/n5419hd/


Risquemaximum

 

種類:巨大怪獣

所属:ダメージヘアー星人傘下→無所属

身長:30m→90m

尾長:20m→80m

体重:1320㎏→3960㎏

 

最強怪獣。水陸両用。フランス語で危険度最大値。

元はダメージヘアー星人が送り込んだ巨大怪獣で、オオカンガルーとグリーンイグアナを同時に兼ね備えていたに過ぎなかった。だが、軍の核攻撃によって放射能に汚染された影響で強大化し、自力でダメージヘアー星人の洗脳を解いてしまった。

しかし、強大な力を得た代償として、体内は常に無尽蔵の放射能に汚染され続け、その皮膚は常に焼け爛れ続けた。

強田護には「もうゴの字でいい」と言われたが、とある映画制作会社からやめてくれと言われている。

主な武器は、口から吐く放射能を大量に含んだ青白くて細長い炎。

 

●ダメージヘアー星人

後に、特徴的な頭部を理由にダメージヘアー星人と呼ばれる事になる人間型エイリアン。オレンジ色の炭酸血液と緑色の肌も特徴。

内心地球上の生物の頭髪に嫉妬しており、複数の深海に定期的に巨大怪獣を輩出するワープホールを設置し、それを武器に地球上の生物に頭髪のケアーを徹底的に怠る様強制しようとしている。

美宝石に非常に弱く、触れただけでショック死する者もいる程。

 

●ボルベス

宇宙人が使う、「地球」を指す言葉。

 

●円盤型宇宙船

ダメージヘアー星人が使用する宇宙船。

超光速で飛行したり垂直離着陸したり様々な種類のビームを発射したりとかなり高性能だが、ダメージヘアー星人や巨大怪獣と同様に美宝石や魔法少女に異常に弱い。しかも、超高性能AIが搭載されているのがかえって仇となり、美宝石を避ける動きを勝手にする事もある(最悪の場合、美宝石から10000m以上も離れる事も)。

 

●巨大怪獣

ダメージヘアー星人が地球に送り込む動物型ロボットの様な巨大生命体兵器。

ダメージヘアー星人の植民星で養殖・改造されているので、銃器などの通常兵器を浴びると急成長・急強化するなどの強大な戦力を誇るが、美宝石を極度に嫌う習性がある。また、魔法少女の超能力を浴び過ぎると死んでしまう。

 

兵器推進善業

ダメージヘアー星人や魔法少女の出現によって底辺を大幅に下回った兵器や軍隊の地位や必要性を向上させるを目的とする国連非公認の組織。

彼らの最大の目標は魔法少女の力を借りずに通常兵器のみで巨大怪獣を討伐する事だが、巨大怪獣は通常兵器を浴びる度に急成長・急強化してしまう為、世間からは『魔法少女の足手纏い』と揶揄されている。



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第6話:才能差が生んだ悲劇

pixiv版→https://www.pixiv.net/novel/series/7675147

ハーメルン版→https://syosetu.org/novel/266019/

小説家になろう版→https://ncode.syosetu.com/n5419hd/



兵器や軍隊の地位と必要性の向上を目論む兵器推進善業が送り込んだ叩務を逮捕した魔法少女達。

だが、強田は色々とモヤモヤしていた。まあ、シーメールに変えられて魔法少女として怪獣と戦っている時点でイライラしているが。

確かに叩に対して複雑な感情を懐いてはいるが、もっと気になる事が沢山有った。

1つは、Risquemaximumの存在。

強田は、スクリーン越しにRisquemaximumを観ただけで、魔法少女管理委員会制圧部隊の撃破を選んでしまう程ビビった。

強過ぎる糞外道を目指していた筈の強田が、素直に負けを認めて逃げたのだ。

悔しかった……それ以上に、惨めだった……

「くそ!何なんだアイツは!?この俺を逃げさせるなんて……アイツがいる限り、俺は『我が道を行く』が出来ねぇ……だが……勝てるのか?今の俺に……」

もう1つは……

「何を荒れてるんだお前?」

ライラ達を人質に取った叩達の許へ向かった時に出会った……新たなる魔法少女の存在。

強田は新入りなので魔法少女管理委員会の詳しい事は知らない。

でも、少なくとも一緒に銃口を向けられた魔法少女達の中にはいなかった。食堂で見た魔法少女とも違う。

ただ、叩達と戦っていたのを視る限りでは、この魔法少女が敵である可能性は低い。

「見た事が無い顔だね?もしかして新入り」

そこへライラがやって来て、

「そうだ。お前が呑気に産休をやっている間に入った」

ライラが強田に自己紹介を促す。

「あー、強田護だ」

産休明けの魔法少女は、自己紹介する強田の態度から強田の魔法少女に成る前の性別を正しく悟った。

「君、かつて男だろ?」

「かつてじゃねぇ!今も男だ!……って!解るのか!?こんな格好をさせられているのに!」

「激しいノリツッコミをありがとう。僕は福山翔太。僕も魔法少女に成る前は男性だったんだよー」

「あっそ」

一旦素っ気ない態度をとる強田だったが、翔太とライラの会話に異様な矛盾を感じて驚いた。

「って、おかしいぞお前?お前は男だろ?何で男が産休貰ってんだよ?

「おかしいかい?」

「おかしいだろ!?産休で、普通女だろ!?」

「ひどいね君。それじゃまるで、僕が女じゃないって言ってる様なもんじゃん」

そんな強田と翔太の会話を観て、ライラが溜息を吐いた。

「強田……知らなかったとは言え、福山にここまで絡むとは……ご愁傷様だよ本当に」

(またろくでもないタイプの奴かー!?)

 

「で!……説明してもらおうか!福山翔太は何者だ!?」

「僕は福山翔太。僕も魔法少女に成る前は男性だったんだよー」

「そうじゃない。強田は、お前の過去を知りたいって言ってるんだ」

「……過去ねぇ……」

翔太が嫌そうな顔をした気がした強田は気が引けた。

「話したくねぇのか?だったら後で―――」

でも、翔太が意を決して爆弾発言をした。

「僕はね、恋人だった男性に殺された事が遭ったんだ」

強田は驚いた。

「殺された!?言葉のあやだよな!?」

ライラが残念そうに首を横に振った。

「事実だ。現にその男性、殺人未遂容疑で逮捕されている」

「で、病院に運ばれて、そこで血液検査をして、魔法少女に変えられたって訳か?」

「そ。でも、魔法少女に成った事を後悔していない。だって、その恋人だった男性の子供を出産する事が出来たんだもん♪」

強田は、改めて異様な矛盾に首を傾げた。

「お前は男なんだろ?なのになんで出産をしたんだ」

ライラが溜息を吐いた。

「確かに……最も重要な部分を話してなかったな?」

「なんか……嫌な予感しかしねぇんだけど……」

「福山は……性同一性障害ではないのに過剰男性愛者なんだ」

「で、せっかく魔法少女に成れたんだから、他の女性の生殖器をコピーして移殖して、要らなくなった竿と玉は切除したんだー♪」

強田の目がハイライトを失いながら点になった。

ワー。マホウショウジョノチョウノウリョクッテスッゴーイ!(棒)」

またろくでもないタイプの奴かー!?

 

強田は、翔太を殺しかけた男に会いに刑務所にやって来た。

ライラの話によると、この男の名は「阿倉景虎」。

翔太の幼馴染であった阿倉は、ある目論見を理由にフェンシングに打ち込むようになった。が、男性でありながら阿倉に愛欲していた翔太も、釣られる様にフェンシングを始めたのだ。

それが、この殺人未遂事件の本当の始まりだった。

動機を一言で例えると……嫉妬だった。

(またこのパターンかよ!?)

高校生になってもフェンシングを続けていた2人だが、その差は歴然となってしまった。

翔太は顧問にエペやサーブルに適していると称されたのに対し、肝心の阿倉は……

 

面会室に到着した強田。

阿倉を視た第一印象は……危険

ちょっとした事で直ぐに逆恨みしそうな……そんな目をしている気がしていた。

「お前……福山って野郎を―――」

阿倉は予想通りの反応をした。

アイツのせいだ!アイツのせいで、俺の人生は滅茶苦茶になったんだよ!

(解り易い逆恨みだなぁー)

阿倉と言う男……最初からフェンシングに触れるべき人間ではなかった。と言うより、武器を持って良い人間ですらなかった。

阿倉がフェンシングを始めたのは、「最も簡単に金メダルを手に入れられる方法」と言う安易な考えだった。

無論、その程度で金メダルが手に入る程現実は甘くない。

 

強田は、刑務所の許可を得て、阿倉にフェンシングの試合を挑んだ。

(あいつ等の権力って……こんなに凄かったのか……)

阿倉は逮捕される直前までフェンシングに打ち込んだ男。対する強田は翔太にルールを教わっただけの素人

本来なら、阿倉の圧勝で終わる筈だ。だが……

「では、よろしくお願い―――」

阿倉は、開始早々いきなり攻撃してきた。

強田は面食らったが、不意打ちを躱している内に、阿倉からポイントを奪った事になってしまっていた。

(弱っ!相手の攻撃をくらった後の事まで考えてねぇ!これなら、そこら辺のガキのチャンバラの方がまだ手強いぞ?)

阿倉は、ただデタラメに不意打ちを連発するばかりの攻撃一辺倒で、防御や回避を疎かにし過ぎていた

高校でフェンシング部に入部するまで、試合開始から自分の攻撃が当たるまでの時間を極力短くする事ばかり心血を注いでいたその結果である。

一応、剣を左手に持つなどの工夫はみられるが、まったく意味を成していなかった。

当時の顧問もその点を見抜いていたのか、このままでは基礎卒業すら難しいと告げた事さえあったと言う。

しかし、根っからの自己中心的な逆恨み体質な阿倉に、顧問の叱咤激励は届かなかった。

寧ろ、どんどん遠い所に行ってしまう翔太ばかり優遇され、阿倉自身が劣遇される事態を不公平だと解釈してしまった。

対する翔太は、ある時期から、試合開始から自分の攻撃が当たるまでの時間の短縮と言う点では阿倉に到底勝てないと悟り、胴ではなく腕を狙う様になっていった。その結果、相手の手の動きをちゃんと観察できる様になったのだ。

 

そして……事件は起こった。

切っ掛けは、翔太がオリンピックにスカウトされた事。

過剰男性愛者である翔太は、阿倉から離れるのを拒む様に断ったが、この時既に翔太との差が劇的に広がっていた阿倉から見たら、翔太がオリンピックに往くタイミングを計っている様にしか見えなかった。

阿倉は我慢の限界だった。

(で、殺そうとして檻の中って訳か?解り易い下っ端人生だな?)

 

強田は、八つ当たりするかの様にウナキとトカゲを同時に兼ね備える巨大怪獣に殴る蹴るの暴行を加えていた。

「だー!お前じゃねぇ!」

「私達……必要?」

魔法少女達が強田の圧倒的な強さに呆然とする中、翔太は異様な危うさを感じていた。

「お前みたいな奴を何億回殺してもな、強さの証明にはならねぇんだよ!」

その時、強田の頭部を強烈な冷風が襲った。

「頭冷やしなよ」

「何するんだ!?この変態!」

翔太がムッとする。

「他人の自由に土足で上がるなつうの。それに」

巨大怪獣は既に光の粒子へと姿を変えた。

既に戦いは終わってる。オーバーキルは良い趣味とは思えないね」

自分が怒りに完全に支配されていた事に気付いた強田は、自分を恥じる様に訊ねた。

「……すまねぇ……現実に逆恨みしてた。努力の意味が解らなくなってよ……」

それを聞いた翔太が悲し気な顔をした。

「逢っちゃったんだね?景虎に」

強田は……力無く首を縦に振るのが精一杯であった。

 

強田は焦っていた。

力の差を魅せ付けるRisquemaximumに。

現実に敗けて目論見を破綻させた阿倉景虎に。

そして、強過ぎる糞外道から遠ざかっていく自分自身に。

 

魔法少女・強田護の未来はどっちだ?

 

因みに、

福山翔太が出産した双子の父親は阿倉景虎である。

阿倉に嫉妬されて重体を負わされた翔太であったが、魔法少女として復活して性転換を果たした翔太は、しばらく魔法少女として巨大怪獣と戦ったのち、再び阿倉の許を訪れ、阿倉に妊娠させられたのである。

 

ライラは言う。

ここまで馬鹿な魔法少女は、世界広しと言ってもお前だけだぞ?



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第7話:逆襲の老婆

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どけえー!どけえー!

まるで漫☆画太郎の様な老婆が、裸の様な姿で一直線に走っていた。

警察がそれを止めようとするが、

「邪魔じゃあー!どけえー!」

警察の制止を振り払い、真っ直ぐに突き進む。

「どけえー!どけえー!」

そんな漫☆画太郎の様な老婆の前にいたのは……

 

蟹と蠍を同時に兼ね備える巨大怪獣を踏み潰すRisquemaximumであった。

 

Risquemaximumに関する答えが未だに出ない強田。

「気になる様だね?奴の事が」

翔太に声をかけられてドキッとする。

「奴って誰だよ!?」

慌てて否定しようとするが、翔太にはお見通しであった。

「何ってRisquemaximumの事だよ」

改めてドキッとする強田。

「ななな何語だソレ!?意味解らんわ!」

そこへ夏芽までやって来て、

「それって、1番強いって言われてる巨大怪獣の事ですよね?」

本当は認めたくない強田だが、流石にこうなると白状するしかない。

「……こんな弱音……口に出して言いたかねぇんだが……」

それに対し、翔太はあっけらかんとしていた。

「なら、気にしなきゃ良い」

強田は、翔太の言ってる意味が解らなかった。

「は?お前ら魔法少女はあのデカブツを倒すのが仕事だろ?」

だが、夏芽も翔太に近い事を言う。

「確かに、いずれはRisquemaximumも倒す事になると思いますが、今は殆ど上陸せず、大半が海底で暮らしてるんです」

「え?」

「つまりだ。Risquemaximumは出現した時だけ対処し、それまではもっと厄介な巨大怪獣の方を倒してながら力を蓄えろって話」

翔太は、もう話が終わったとばかりに強田が未だに抵抗を感じる部屋に入って行った。

「いやぁー、ひさしぶりだなぁー。今までは授乳だったから、搾乳は久しぶりなんだよ」

「抵抗無しかよ!?」

「何を今さら。それに、我慢は体に毒だよ?」

確かに、尿意の様なモノが強田の乳房を襲っているのは事実である。

だが、それを認めてしまったら、大切な何かを失う気がして怖いのだ。

そんな中、夏芽がある事に気付く。

「そう言えば私、強田と一緒にお風呂入った事がありません」

「マジで?君って、意外と……まさか」

翔太が強田の股間に触れ、女性としてあるまじき物を確認した。

「お前ぇー!まだそんな諦めの悪い物をぶら下げているのか!?」

強田が強気で反論した。

「うるせぇ!今はこんな格好になっちまったけど、俺は男を辞めた事はねぇし、辞める気も無い!」

翔太が珍しく真顔で言い放つ。

「本当に切除しなくても良いのかい?Risquemaximumの事と言い、まだ切除してない事と言い、あの婆さんの様に泥沼にはまって抜けなくなるぞ」

強田が首を傾げた。

「泥沼?」

と、ここで、翔太の過剰男性愛が疼いた。

「でも……太くて大きいー♡」

夏芽がちょっと引いた。

「これって……セクハラ?」

 

強田は、叩達が乱入した際に最初にRisquemaximumに斬りかかった魔法少女に出会った。

「見ない顔だな?新入りか?」

強田は恥ずかしそうに答えた。

「それもあるが……Risquemaximumから逃げたと言われてもおかしくない事をしてたからな」

魔法少女は鼻で笑った。

「あんな人の苦労を知らない馬鹿共の事か?」

強田が力無く首を横に振った。

「いいや……その馬鹿を口実に逃げたのさ。Risquemaximumから」

そして、珍しくしおらしい事を言う。

「俺達がその馬鹿共をボッコボコにしてる間、アンタがあのデカブツ共を足止めしてくれたんだよな?」

だが、強田の心を読んだ魔法少女は、怒りを表す様に槍の石突を地面に突き刺した。

「黒幕はあの変態か?」

翔太の事だと思い、強田が仕方なく首を縦に振った。

「……ああ、あの変態男だ」

 

強田は、あの後翔太にある魔法少女の過去を聞かされた。

エメラード・クライアス。

彼女は元々、親元を離れてドイツに移り住んだ娘達と別居していたフィンランド人であった。だが、それが彼女とその娘達との運命を分けた。

なんと、そのドイツに巨大怪獣が上陸してしまう。

エメラードは、周囲の制止を振り切って1人でドイツに向かった。一心不乱に。

「どけえー!どけえー!」

まるで漫☆画太郎の様な老婆姿になってまで、一心不乱にドイツに向かったエメラードが見たモノは……

娘達と孫達の亡骸と……

まーーーてーーー!まーーーてーーークソガキぃーーー!

ドイツに上陸した巨大怪獣を成敗して、満足気に海に帰って行くRisquemaximumの姿であった。

そこからエメラードは変わった……

娘達と孫達を失った彼女は、自分のできる範囲内で巨大怪獣の事を調べ、魔法少女の超能力が非常に有効だと知り、年甲斐も無く魔法少女に志願した。

例の隕石との相性検査に合格し、前髪ぱっつん、サイドテール、金髪縦ロール、ジト目が特徴の魔法少女となり、巨大怪獣を次々と容赦なく殺していった。

だが、

「何時になったらRisquemaximumを殺させてくれるんだ!?」

娘達と孫達の仇であるRisquemaximumに未だ近付けない事にイライラしたエメラードの怒りの訴えに対し、当時の役員はこう答えるしかなかった。

「まだ命令が無いのです。それどころか、Risquemaximumの上陸回数も激減しており、下手に刺激してRisquemaximumを怒らせるのは悪手だと判断する者も出始めているのです」

この言葉は、憎しみに取り憑かれたエメラードを魔法少女管理委員会から追い出すのに十分だった。

MIA(戦闘中行方不明)を装う形で魔法少女管理委員会を無断退職したエメラードは、自分のできる範囲内でRisquemaximumを探し求めた。

エメラードの生存を知っていた管理委員会であったが、既にコントロール不能と判断して黙認したのだ。

 

「で、現在に至るか?」

強田の言葉にエメラードが舌打ちをした。

「あの悪戯好きめ!」

だが、強田は台詞を止めない。

「で、アンタのゴールはどこだよ?」

エメラードが呆れながら答えた。

「決まっているだろ。Risquemaximumをこの手で殺す事だ」

悔しそうに拳を握るエメラード。

「で、ゴールを決めた後はどうする?」

憎しみと怒りに完全に取り憑かれてしまったエメラードは、本当にそこまで考えていなかった。

「無いのかよ?」

「老い先短いババアが相手だぞ?」

この図星によって、強田とエメラードとの間に一発即発の空気が流れたが、

とここで、この空気の元凶である翔太にとって嬉しい誤算が発生した。

「御2人さーん!ちょっと手伝ってくれると嬉しんだけどぉー!」

 

レスキュー隊員が何かに向かって命令口調で叫ぶ。

「この手を放すなよ!絶対に放すなよ!」

それには一応理由があった。

鷲と蝙蝠を同時に兼ね備える巨大怪獣の羽ばたきのせいで発生した強風が、小さな子供を遠く彼方に吹き飛ばそうとしていたからだ

「ママァー!ママァー!」

「この手を放すなよ!絶対に放すなよ!」

だが、レスキュー隊員の命令口調も虚しく、子供はとうとう吹き飛んでしまった。

「ちくしょおぉーーーーー!」

でも、魔法少女達が瞬間移動で先回りしていたので、吹き飛ばされた子供は無事に保護された。

「もう大丈夫!お母さんに逢わせてあげるからねー」

とは言え……鷲と蝙蝠を同時に兼ね備える巨大怪獣の羽ばたきのせいで発生した強風がまだ吹き荒れ続けていた。

「元凶であるあいつを倒さないと、この風は終わらないみたいね?」

翔太に呼び出され、現場から少し離れた場所に瞬間移動した強田とエメラード。

「あーあ。まるであいつの手の平みたいで嫌なんだけど……」

悪態を吐く強田に対し、エメラードは何かを思い出すかの様に額に青筋を浮かべた。

 

「どけえー!どけえー!」

まるで漫☆画太郎の様な老婆が、裸の様な姿で一直線に走っていた。

警察がそれを止めようとするが、

「邪魔じゃあー!どけえー!」

警察の制止を振り払い、真っ直ぐに突き進む。

「どけえー!どけえー!」

 

「あのガキ、気の利いた魔法少女がいなかったら―――」

強田の悪態を最後まで聞く事無く、エメラードは既に飛び出していた。

「……言うまでもなかったか?」

手にした槍からビームを放って巨大怪獣を攻撃するエメラード。

巨大怪獣は激しく羽ばたいて強風を発生させようとするが、その時既に背後に回り込んでいたエメラード。

「生憎、わしはわしより大きな動物は大嫌いなんじゃ」

エメラードの殺気に満ちた笑顔を見て少し怯える魔法少女達。

巨大怪獣が体を回転させながら翼でエメラードを殴ろうとしたが、その時既に巨大怪獣の頭頂部に槍を刺していたエメラード。

「消えろ。目障りじゃ」

巨大怪獣の頭頂部に突き刺した槍からビームを放って巨大怪獣を攻撃するエメラード。

「巨大怪獣、超能力許容限界値を突破します!」

そして、ガラスの様に砕け散る巨大怪獣の中からエメラードが出て来た。

殆ど出番が無かった強田は、

「うっひょー!流石は百戦錬磨!伊達にババアしてねぇわ!」

 

戦いを終えたエメラードがこのまま飛び去ろうとしたので、翔太や夏芽が慌てて停めた。

「ちょっと!?どこへ行くんですか!?」

「そんなつれない事言わないで!」

だが、エメラードは素っ気無い。

「役目は終わった。これ以上、時間を無駄には出来ない」

そこへ、強田がやって来た。

「お目当てのRisquemaximumがいないからか?」

エメラードは無言のまま去ろうとするが、強田は更に台詞を加える。

「でもよ、倒すべきデカブツはRisquemaximumだけじゃじゃねぇだろ?」

魔法少女達が下を見ると、先程吹き飛ばされて救助された子供の母親が、お礼を言う様に会釈した。

これを視て、エメラードは何を思ったのか?

娘を失った事への後悔か?

娘を奪ったRisquemaximumへの怒りか?

娘を守れなかった自分への叱咤か?

子供を失わなくて済んだ母親への嫉妬か?

が、他の魔法少女達はどれにも当てはまらなかった。特に強田は。

「硬いぜ婆さん!ああいうのは、素直に受け取っておくものだぜ!

しかし、エメラードにとっては無意味であった。

そんな物を受け取っても、娘や孫は戻って来ない

それならば、さっさとRisquemaximumを殺した方が正しいのではないか?

でも、

「それによ婆さん、Risquemaximumは何時何処に現れる?

エメラードにとって1番痛い所であった。

兵器推進善業による軍事クーデターの時にRisquemaximumを攻撃できたのも、ただ運が良かっただけなのだ

「だからこそ!時間が惜しいのだ!」

既に図星を突いたと悟った強田は、ここぞとばかりにツッコむ。

「手あたり次第かよ?そんなんじゃ、命が100ダース有っても足りねぇよ

図星を突かれて赤面したエメラードは、強田に対して強い口調で言い放つ。

「そこの若造!お前はとっくに魔法少女なんだから、そんな醜い物を未練がましくぶら下げるな!そっちの方が逆に女々しいわ!」

エメラードが言っているのが局部の事だと理解した強田は、さっきまでの様な嬉々とした態度から一変して怒り出した。

「うるせぇー!誰が好き好んで切り落とすか!?」

と言って、ふと翔太の事を思い出してしまう。

「……いたわ……アレを望んで切り落とす、救い様が無いアホが……」

「そこで何で僕を見るのかなぁー?」

その隙に、エメラードが瞬間移動でこの場を離れた。

「あっ!しまった!?」

だが、強田は夏芽の方を止めた。

「やめときな。アレは誰かさんの言う通りの泥沼だ」

「だったら―――」

強田は残念そうに首を横に振る。

「あの様子じゃ、もう無理だ。多分、自分自身ですら止められない。そこまで追い詰める何かが有るんだろうよ?きっとな」

そんな強田とエメラードが心の底から共闘出来る日は来るのか?

その鍵を握るのは、Risquemaximumか?魔法少女管理委員会か?

それとも……



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資料:曙夏芽について

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曙夏芽

 

性別:女性

職業:無職(ホームレス)→魔法少女

身長:157㎝

体重:49㎏

体型:88/58/83

 

元ホームレス。両親もホームレス。

テンションとコミュニケーション能力が高いが「誰かに必要とされる」「誰かの役に立つ」事への欲求が強く、魔法少女管理委員会から仕事中毒に陥り易い性格の改善を求められている。

防御、移動、治療などの補助的な超能力を得意とする一方、攻撃力は低い。また、強田のアドバイスにより索敵・探索・調査に長けた鏡を複数発生させて操り、鏡から強力な閃光を放てる様になった。

 

ライラ・アーニマール

 

性別:女性

職業:魔法少女管理委員会会員

身長:182㎝

体重:64㎏

体型:81/70/93

 

魔法少女管理委員会会員。

真面目で合理性を重視するが情が欠けているわけではなく、必要に応じて魔法少女の出撃数を調整したり、場合によっては休息を命じたりする。また、世話焼き気質で本質を正確に見抜く場面が多々ある。

実は義父と義弟を巨大怪獣に殺されており、魔法少女に成れなかった事に罪悪感を懐いている。

 

福山翔太

 

性別:男性→シーメール→女性

職業:魔法少女

身長:151㎝

体重:45.3㎏

体型:85/56/80

 

元フェンシング国際大会代表(エペとサーブル)。赤いショートヘアの少年的な雰囲気と八重歯が特徴。

強田護同様、美宝石と同化して魔法少女となった男性。だが、強田と違って過剰男性愛者(だが、性同一性障害ではない)。フェンシングを始めたのも、狙った男性がフェンシング部だっただけだったが、才能や実力はその男性より断然上だった為、逆に男に恨まれ殺されかけた。が、そこで魔法少女管理委員会と出会い、魔法少女としての才を見出された。

既に女性化しており、出産歴まである。

二刀流フェンシング(右手がエペで左手がサーブル)を武器とするが遠距離攻撃の方が得意で、熱風や冷風を生み出して操る。

 

エメラード・クライアス

 

性別:女性

職業:魔法少女→無職(無断退職)

身長:124㎝

体重:30㎏

体型:71/48/65

 

Risquemaximum(フランス語で危険度最大値)と呼ばれる巨大怪獣を追いかけ回す魔法少女。娘達と孫達の仇であるRisquemaximum打倒に専念するべく魔法少女管理委員会の許を離れた。

前髪ぱっつん、サイドテール、金髪縦ロール、ジト目が特徴。普段は無愛想だが、時折女の子らしい表情を見せることも。

防御と接近戦を得意とし、2本のナイフとビーム砲にもなる槍を愛用する。

モデルは『イクシオンサーガDT』のエカルラート姫。

 

魔法少女管理委員会

巨大怪獣対策として新設された国連直属組織。

魔法少女の生活や健康などを管理する他、戦闘以外での魔法少女の活用模索や魔法少女志願者の適性診断、戦闘指揮や避難誘導なども行っている。

 

 



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第8話:珍推理の代償

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強田が目を覚ますと……

「え……?」

2人の魔法少女が全裸で寝ていた。

「何だこれはぁー!?」

しかも、どちらも味方に回すと厄介だが、敵になると非常に戦い易い存在であった。

「福山!何でテメェが俺のベットて寝てやがる!?」

「もーう。あんなに太い物を魅せておいてぇん。僕は子持ちの人妻なのに……君に浮気しちゃうじゃん♡」

翔太の言葉にゾクッとする強田。

「うおぉー!?気色悪い事を言うな!男が人妻を名乗るんじゃねぇ!」

強田に押しのけられそうになる翔太だが、

「君って本当にSなんだね?」

どう言う訳か笑顔が崩れない。

対する強田は、本当に背筋が冷たくなった。

「本当に気色悪いんだよ!マジでやめろ!」

確かに福山翔太は厄介だ。

が、もう1人の方がもっと厄介であった。

「つうか!……こいつ何なんだよ!?」

全裸の魔法少女が目を覚ます。

「ん……んーん……」

「お目覚めか?変態侵入者君」

全裸の魔法少女が局部を触れて何かを確認し、自分らしかぬ事態に愕然とした。

「何もされて……ない?……私が……ただ男の隣で寝てただけ?」

勿論、強田は怒った。

「何をするつもりだったんだお前はー!?」

そこへ、声を聞きつけてやって来た役員が入って来た。

「何か異様な音がしましたが……」

無論、全裸女性が2人もいる光景を見て驚かない者はいない。

「何をやってるんですか貴女方は!?」

強田が被害者面をしながら弱々しく答えた。

「それはこっちが訊きてぇよ」

そんな中、役員が1人の女性を見て怒鳴った。

「エレクトロンさん!また貴女ですか!?」

その言葉に頭を抱える強田。

「この変態女、何時もこうなのか?」

役員が渋々答える。

「エレクトロンさんも、貴女同様の元囚人なのです」

「囚人?こいつもあの検事に騙されてか?」

「いいえ。エレクトロンさんは、自ら魔法少女適性検査に臨まれ、自ら交渉を持ち込んだのです。ただ……」

「ただって何だよ?」

「元囚人なだけあって素行はあまり良くなく、売春や万引きの常習犯だったそうです」

それを聞いた強田は、昨日の深夜の事が怖くなってきた。

「売春?……いま……売春って言わなかったか?」

役員は、頭を抱えながら首を横に振る。

それを見た強田はみるみる蒼褪めた。

「冗談だろ?熟睡中に喧嘩を売られた事は山ほどあったが、女が男を夜這いするなんて初めて聞いたぞ!?」

強田の言い分に役員がツッコむ。

「寝込みを襲われた経験が豊富なのも異常事態なのですが」

「悪かったな。俺は喧嘩三昧な人生だったんで」

役員が困った様に溜息を吐いた。

「ハァー……」

「何か問題……」

翔太とエレクトロンを視て台詞を変える強田。

「だらけだよな?どう観ても」

役員は、困り果てながらこう述べた。

「本日からアレが解禁になったと言うのに……」

「……アレ?」

 

魔法少女達の生活も大分元に戻って来たが、やはり兵器推進善業が行った軍事クーデターがもたらした影響は完全には消えてはいない。

魔法少女が巨大怪獣討伐に遅れた理由が人間側にあるのは、国連の威信に関わると言う訳で、

「と言う訳で、本日より、各魔法少女管理委員会施設への警察組織の自由な出入りが解禁となった」

ライラの説明に、魔法少女達が驚きを隠せない。

「来るんですか?警官が、ここに?」

「そうだ」

その途端、皆が兵器推進善業への不満を口にする。

「えー!?嫌だぁー!?」

「最低!今直ぐ取り下げてよ!」

「迷惑なんですけどぉー!」

「元はと言えば、あいつらが意味不明な事を言いながらここを攻撃するから!」

「何が『兵器の威信に賭けてー!』よ。こっちのプライバシーやプライベートはどうでもいいって言うの!」

それらを聞きながら静かに食堂を去ろうとする強田。

が、ライラにどうしても言いたい事が有った。

「何で、アンタの様な奴が魔法少女に成らなかったんだ?よっぽと向いてるだろ?」

ライラが自虐的な笑みを浮かべながら言い放った。

「その話はやめておけ。つまらん嫉妬に巻き込まれても、なんの得も無いぞ?」

訊いてはいけない事を訊いた気がした強田は、会釈しながら皮肉を言った。

「あんたらは、あんなクソ動画(ダメージヘアー星人が提示した降伏条件)観た時点でもう巻き込まれてる」

そして、強田の頭の中で新たなる疑問が増えた。

(何でライラの様なアマじゃなくて、俺やあのバカ2人の様な屑ばっかなんだよ?)

 

一方、上司の命令で魔法少女管理委員会施設に行かされた松本警部が悪態を吐いていた。

「何で俺が、女々しくて小狡い手品師共の屋敷に行かなきゃならないんだ!」

同行していた後輩刑事が慌てて釈明する。

「文句があるなら兵器推進善業に言って下さいよ警部ぅ」

だが、松本は後輩とは逆の事を言い始めた。

「つまり、今の警察はそんなに情けないって事か?」

「どうしてそうなるんですか警部?」

「だってそうじゃねぇか。俺達は未だに魔法少女が使ってる手品のタネを暴けねぇんだからよ」

その途端、松本達に向けられた目線が一気に鋭くなる。

「ひいぃ!ちょっと警部!何でそれを今言うんですかぁ!?」

魔法少女達の目線に怯える後輩に説教を垂れる松本。

「情けない事を言うな!俺達が今日ここへ来たのは、その手品のタネを暴きに来たんだろうが!」

魔法少女達の目線が更に鋭くなった気がした後輩の腰が完全に引けた。

「ちょっと警部!どっちの味方なんですか!?と言うか、俺を殺す気ですか!?」

松本の説教が更に強みを増す。

「何だ?そのへっぴり腰は!?そんな事だから科学捜査班の嘘にコロッと騙されるんだ!」

「何でそうなるんですか!?彼らだって―――」

松本は後輩の言い分を紡ぎきる前に否定した。

「あんな現場に行こうとしないで、パソコンや理科の実験ばっかやってる引き籠り共の屁理屈のどこに真実が有ると言うんだ?刑事は目と耳と足と勘が命だ!現場百遍!聞き込み百遍!顔色百遍だ!

他の魔法少女達が松本を毛嫌いする中、強田がわざとらしく案内した。

「だったら、実際に魔法少女の手品とやらを間近で観たらどうだ?ほら、あっちで練習してるぜ?」

それに対し、松本が強田に挑発的に近付く。

「見抜けるものなら見抜いてみろか?大層な自信だな?」

そして、松本達が魔法少女達が超能力の練習をする為に使用している空間へと向かった。

 

その途端、夏芽達が慌てて強田の許に駆け寄った。

「ちょっと何で!?悔しくないの!?」

「あんな奴、ガツンと言ってやれよ!」

「私達、馬鹿にされたんだよ!否定されたんだよ!」

だが、強田は松本達への怒りがいっこうに湧かなかった。

「んー?どうもあいつらが、テレビに出てくる名探偵を引き立てる駄目刑事に見えちゃってさ。だから、ついからかってやりたくなっちゃったんだよねー」

そんな気楽な強田に対し、夏芽達の怒りは収まらない。

「だからって」

 

結局、ありもしないトリックを発見出来ずにイライラする松本。

「くそ!俺の目は節穴か!?」

それを宥める後輩。

「やはり、ここは彼女達―――」

が、後輩の言い分を聞かない松本。

「直ぐに諦めるから日本の警察は馬鹿にされるんだ!現場百遍!今日は見抜けなかったかもしれんが、明日は見抜けるかもしれんではないか!」

対する魔法少女達は、強田以外が怒りに震えていた。

「あの糞親父……何時か目にモノを魅せてやる」

強田だけは、松本を見下す様にどこ吹く風であった。

「やめときなって。流石のあいつらでも、そこまでやったらお前達を庇いきれないって」

「何もせずにほっとけって言うのか!?」

「あーそうだよ。それに、いまどき聞き込みと勘だけが頼りって、警察学校で何を学んで来た事やら。そこら辺の三流テレビ局の方がまだ推理力が高いぜ」

 

それからしばらくして、松本達が施設中央に鎮座している隕石に触れようとしていたので、役員の1人が不安がる。

「あの方、大丈夫でしょうか?」

「ん?何が大丈夫だって?」

「伊藤さんと言う刑事さんは兎も角、あの松本警部は、1度も魔法少女適性検査を受けていないのです」

それを聞いた魔法少女達の何人かが何かを思い出した。

「そう言えば、健康診断の質問の欄に『魔法少女適性検査を望みますか?』って書いてあったけ?」

「そうなんですよ。ですが、あの松本警部は、1度もはいにチェックを入れなかったんです」

それを聞いた強田は、あの検事の事を思い出し、

「血液検査の結果次第では刑務所に戻っていただきます」

あれっと首を傾げた。

「あれ?……それって、任意だったけ?」

「覚えていないんですか?」

「自分で記載したのに?」

「いや……どっちかと言うと……騙されていたのか?」

そうこう言って間にも、松本達がどんどん隕石に近づいて行く。

「ですから、あの後が予想出来ないので困っているのです」

夏芽が珍しく怖い顔をしながら言い放った。

「良いじゃないですか。もしその警官さんが魔法少女になったら、私達が手取り足取りで魔法少女がどんなものかを、丁寧に教えて差し上げれば」

そんな夏芽の様子に強田が少し引いた。

「曙、お前……目が怖いぞ」

その時、パリンと音がして、そして……

「うぐ!?」

松本が突然もがき苦しみ始めた。

慌てて駆け寄る役員。

「何があったのですか!?」

「警部が、ここにあった隕石に色々と苦言を言っていたら」

その間も、松本の容体はみるみる悪化し、遂には嘔吐してしまった。

「げえ!げえぇー!」

駆け付けた強田が松本の治療を試みるが、

「げえ!げえぇー!」

「おい……逆に悪化してるそ!?」

翔太が隕石を囲っていたショーケースを視て少し驚いた。

「銃痕?……いや、違う!弾痕にしてはあまり熱くない!?釘を勢いよく飛ばした!?でも、隕石には釘は刺さってない!何なんだコレ!?」

その間も、松本は嘔吐を続けていた。

「げえ!げえぇー!」

エレクトロンが嫌な予感がしたので、松本の腕に切り傷を付けた。

「失礼!」

だが、流れたのは一般的な赤い血であった。

「違う!こいつはダメージヘアー星人じゃない!」

そして……松本は白目をむいて失神しながら嘔吐を続けた。

「誰か医者を呼んで来い!医者ー!」

 

数日後。

強田が松本の見舞いに行くと、

「ぐっぬうぅー……おのれぇー……」

そこには、アレキサンドライト色のおかっぱが特徴の巨乳美少女がいた。

「貴様ら……俺の身体に何をした?」

強田が嫌な予感がした。

「これってまさか」

そのまさかである。しかも、夏芽が嬉しそうに答えた。

「松本さん、見事に魔法少女に覚醒したんですよー♪」

強田は、松本に同情して涙を流した。

「俺も人の事は言えねぇが……哀れな……」

当の松本は怒りで震えていた。

「質問に答えろ。俺の身体に何をした?」

それに対し、夏芽が嬉々として言った言葉が凄かった。

「あと、性別も寝てる間に交換しておきましたからね♪」

その途端、少女漫画のお嬢様の様な驚き方をしながら両手で股間を隠す強田。

「曙さん、恐ろしい子!?

松本が慌てて自分の股間を触るが、今までとは明らかに違う感触しかなかった。

「お……俺はまだ恵まれていた方なのか!?」

「貴様……逮捕だ」

だが、役員がそれを否定する。

「申し訳ございませんが、既に松本さんの所属がこちらに移っていますので、警察としての権限はございません」

勿論、そんな事では納得出来ない松本。

「貴様らは違法だ……詐欺罪だ……全員逮捕する!」

強田は寧ろ、松本に同情し過ぎて泣けてきた。

「悪魔だ。悪魔がいる」

で、松本は更に気になっている事が有る。

「あと……アレキサンドライト色のおかっぱって何だ!?意味が解らんぞ!」

役員が丁寧に答える。

「アレキサンドライトとは本来、光の種類や角度によって色が変わる宝石の事で、昼はエメラルドで夜はルビーだそうです」

当然、松本は怒る。

「ふざけるな!今直ぐ俺を元に戻せ!」

しかし、夏芽が嬉々として告げた。

「大丈夫♪私とエレクトロンさんが、手取り足取りで魔法少女の何たるかを、松本さんにたっぷり教えますからねー♪」

今度は、役員が劇画風の驚き方をしながら両手で顔隠した。

「何と信じられない!対極同士が怒りで結託するとは!?」

無論、松本の怒りが収まる筈がない。

「逮捕だ……お前ら全員逮捕だぁーーーーー!」

それを聞いた強田が、色々な意味で泣けてきた。

(お気の毒に……頑張ってこの試練に耐えて下さいねー!)



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第9話:変わってしまったのか? 変わっていないのか?

pixiv版→https://www.pixiv.net/novel/series/7675147

ハーメルン版→https://syosetu.org/novel/266019/

小説家になろう版→https://ncode.syosetu.com/n5419hd/


1週間もの休暇を貰った強田は、まだ男性だった頃に闊歩していたエリアに戻って来た。だが、容姿が変わり過ぎたのか誰も強田だと気付かなかった

それどころか……

「ねぇねぇ、そこのお嬢ちゃーん。俺達と一緒に良い事しなーい」

「おーい。そこの可愛い子ちゃーん」

(どいつもこいつも、俺を女の様に見やがって)

往く先々でナンパされて無視していた強田だったが、意図的にナンパをシカトするのに疲れたのかベンチで座っていると、

「こんな女の子が、1人でこんな所にいると……危ないよ?

ピエロの様な小男が強田の首に包丁を突き付けた。

(どこがどう危険なんだ?この雑魚が!)

我慢の限界に達した強田が、自身を脅すピエロ擬きを叩きのめそうとしたその時、突然4人組が声をかけて来た。

「そこの小さいの、こんな所で何やってるんだ?」

それを聞いたピエロ擬きが汗だくとなった。

「お……お前達は……強田はもういない筈!?」

それを聞いた4人組の1人である小太りの男性が食って掛かった。

「あ?俺達は、強田がいないと何も出来ない雑魚とでも言いたいのか?」

形勢不利を悟ったピエロ擬きが、捨て台詞を吐きながら逃走した。

「ちっ!覚えてろよ!岩山さんが動けば、テメェらなんか―――」

だが、余計な事を言い過ぎたのか、そう簡単には逃がしてくれなかった。

「その小石山が、今度は何をしでかしたって?」

「石山じゃなくて岩山さんだ!呼び捨てにするな!」

ピエロ擬きは、岩山が馬鹿にされた事に怒って逃走を中断したのが命取りとなって、4人組にボコボコにされた。

それを観ていた強田は、ピエロ擬きのあまりの頭の悪さと4人組の容赦の無さに呆れていた。

「おいおい。そんな雑魚相手にそこまでするか?」

対する4人組は、目の前の女性が強田だと気付いてないかの様に警告した。

「こういう奴はちゃんと締めておかないと、直ぐに増長してとんでもない事をしでかすからな。それに、この時間帯はこういう危険人物がうようよいる。本当に自分が可愛いなら、さっさと帰りな」

改めて変わり過ぎた自分の容姿を再確認させられながら4人組のリーダーらしき男に話しかけた。

「曽我部……やっぱりお前ですら気付かないか……」

目の前の女性が強田だと気付かない曽我部は、初対面の女性(4人組はそう思っている)に苗字を言い当てられて動揺した。

「お前、何で俺の名前を知ってる?」

その途端、小太りが手のひらを返したかの様に強田(4人組はそう思っていない)の襟首を掴んだ。

「このアマ!さては岩山の連れか!?」

が、4人組唯一の女性が小太りを止めた。

「待ちな!その割には、こいつの目から敵意や焦りを感じないね」

このままでは、きりがないどころか4人組が仲間割れすると判断した強田は、テレパシーを使って自分の過去を4人組に観せた。

「な!?」

「え!?」

「おい!?」

「どうなってるんだよ?」

4人は驚きながら強田を視た。

「……やはり変わり過ぎたか?」

 

ようやく目の前の女性が強田だと知った4人は、前とは大違いな強田の姿に驚きつつも懐かしんだ。

「いやー、本当にびっくりしたぜー」

「魔法少女になった奴はみんなこうなのか?」

「詳しい事は良く解んねぇが、どうもそうらしい」

「へぇー。羨ましいこった。私、胸の大きさに自信が無いからさー」

「やめろ!それだけはやめろ!俺はまだ男だ!」

そんな中、曽我部が違和感を覚え始めた。

(岩山については何も話さない。ただ知らないからなのか?)

逮捕されてから今までの話をした強田が4人に訊ねた。

「で、俺を裏切った金髪は知らないか?」

「金髪ねぇー……それだけだと大勢いるからなぁー」

そこへ、さっきボコボコされたピエロ擬きが仲間を引き連れてやって来た。

「おい!さっきはよくもやってくれたなー!」

「何で生きてるんだよ!?」

「勝手に殺すなー!」

再び4人と対立したピエロ擬きであったが、大勢を引き連れているせいか、さっきの惨敗をもう忘れたかの様に強気だ。

「それに、今回は岩山さんが付いてるんだ。お前達はもうおしまいだぜ」

それを聞いた曽我部が強田の台詞に注目するが、当の強田がヤンキーの新参勢力に興味を持てなかった。

それどころか、

「それよりもよ、俺……強田って奴を裏切った金髪を知らねぇか?」

勿論、彼らが素直に真実を話すとは到底思っていなかったが、やっぱり訊かずにはいられなかった。

その予想通り、岩山達は大笑いしながら強田の事を馬鹿にする。目の前の女性が強田だと気付かずに。

「強田?あー、あの魔法少女に捕まったヘボヤンキーの事か?」

「なぁーんか、強過ぎる糞外道を気取ってたらしいけど、本物の化け物には勝てませんでしたか?」

「目立ちすぎるんだよなー?あのアホ」

が、強田に怒りは無かった。

魔法少女に変えられてからの戦いに比べたら、彼らは明らかに小物だからだ。

何時まで経っても本当の話をしない岩山達への興味を失った強田が

「邪魔したな」

と言って去ろうとしたが、モヒカンとドレッドヘアーが合体したかの様な異様な髪形の男性を発見した途端、血相を変えてその男に駆け寄った。

「お前!?どっかで会った事がないか!?」

異様な髪形の男性は理解に苦しんだが、強田の超能力である事を思い出させられていた。

 

まだ男だった頃の強田が苦しそうに転がっていた。

「くっ……くっそぉー……」

 

その途中で、異様な髪形の男性が慌てて逃走した。

貴様!強田だったのかぁーーーーー!?

異様な髪形の男性の台詞によって、強田の今の容姿を漸く理解した岩山達がどよめいた。

「あれが強田!?」

「変わり過ぎだろ!?」

「もはや詐欺だ!」

が、強田の興味は異様な髪形の男性の詳細しかなかった。

「お互い……随分変わっちまったなぁー。まるで、整形手術した逃走犯だぜ?」

「何の事だ!俺は最初から―――」

「誤魔化すなよ?俺の記憶の中では、お前は金髪の筈だったんだ?」

強田の言葉通り、強田を魔法少女管理委員会に売り渡した後に髪形を強引に変えたのだ。

完全に鬼ごっこ状態の2人を観て、4人組と岩山達は呆れた。自分達が置いてきぼりを食わされた事も踏まえて。

特に、自分の知ってる強田とは違う強田を見せられた曽我部が嫌そうな顔をしながら舌打ちをした。

 

強田がようやく異様な髪形の男性に追いついたかに見えたが、その時、巨大怪獣登場を告げる警報が鳴り響いた。

「チッ!こんな時に」

何の事だか解らない4人組と岩山達が困惑する中、強田がヤンキー達に逃走を強要する。

「何をしてる!?奴が来るぞ!早く逃げろ!」

「何がだよ?」

「怪獣だよ!巨大怪獣!」

だが遅かった。

ハエトリグモとマレーヒヨケザルを同時に兼ね備える巨大怪獣が空から降って来て、口から粘糸を次々と吐いた。

「曽我部!三田!渡部!塩屋!」

強田がヤンキー達に向けて放たれた粘糸を念力で全て自分に引き寄せた。

「お前ら無事か!?」

「強田!?お前こそ大丈夫か!?」

その間、巨大怪獣がビルを登っていた。

「今度は何を始める気だ?」

ビルの屋上からジャンプした巨大怪獣は、足から出た粘糸を皮膜がわりにして滑空する。

「羽も無いのに空を飛ぶのか?」

そして、巨大怪獣は口からレーザーの様な粘糸を吐いて逃げ遅れた曽我部達を襲った。

強田が慌ててシールドを張って曽我部達を庇ったが、巨大怪獣は滑空しながら強田に飛び掛かった。

(チッ!最近は勝ってばかりだったから完全に嘗めていたのか!?)

「お前ら!早く逃げろ!」

「逃げろって言われても、お前はどうするんだよ!?」

「今はそんな言い合いをしてる場合じゃない!この俺が何時までもつのか解んねぇぞ!?」

強田が諦めかけたその時、サーチライトの様な閃光が巨大怪獣の目を襲い、巨大怪獣の目測を誤らせた。

更に、巨大怪獣の背中に数発の銃弾が命中して巨大怪獣を墜落させた。

予想外の援護に顔が明るくなる強田。

「やっと来たか!?」

強田の視線の先には、夏芽とエレクトロンと松本がいた。

「おいおい。休暇の筈なのに、何で戦ってるんだよ?」

エレクトロンの質問に対し、強田が強気に答えた。

「馬鹿言え。かかる火の粉を振り払って何が悪い」

が、ふと松本の立ち方が気になる強田。

「こいつは確か……足の形が大分女らしくなったと言うかぁ……」

夏芽が笑顔で答える。

「松本さんは、私とエレクトロンさんが魔法少女らしい振る舞いを叩き込んでやりましたからー♪

その間、松本が赤面する。

「うー……何時か覚えていろよー」

「……お気の毒に……」

そうこうしている内に、目測を誤って墜落した巨大怪獣が体勢を立て直した。

それを見た強田が意地悪そうな笑みを浮かべた。

「刑事さんよ……こいつの暴行罪と器物損壊罪はもう適用なんだろ?」

松本がキョトンとしながら答える。

「あ、ああー」

「なら……俺の正当防衛成立だろ?こいつはもう……アウトなんだし」

それを聞いた曽我部がハッとする。

(何だよ……やっぱり強田は強田かよ)

だが口の端に微かに笑みを浮かべている。

その間に、巨大怪獣が既にビルの屋上にいた。

「こいつ、そうやって高い所から飛び降りないと飛行できないって事か?」

「どっちかと言うと滑空だよ。ハンググライダーみたいな奴」

「ま……さっき失敗した技をまたやるとは……馬鹿の一つ覚えとはこの事だな?」

ビルの屋上からジャンプした巨大怪獣は、足から出た粘糸を皮膜がわりにして滑空する。

だが、魔法少女達は既に巨大怪獣の更に上で浮遊していた。

「さっきはよくもやってくれたな?高く付くぜ!」

強田が真下に落下しながら巨大怪獣の背中を蹴った。

その衝撃で標準を誤った巨大怪獣は、無意識のうちに粘糸を山なりに飛ばす。

エレクトロンが本を開くと、無数の蝶が次々と発生して巨大怪獣が吐いた粘糸に突進し、そのまま共同で粘糸を持ち上げて巨大怪獣にぶつけた。

再び墜落した巨大怪獣であったが、今度は松本が複数の手錠が発生して巨大怪獣の身動きを奪った。

「松本警部……まだまだ刑事だった頃が抜けてないみたいだな?」

だが、突然曽我部が強田に向かって叫んだ。

「強田!後ろだー!」

強田が慌てて振り返ると、ハエトリグモとマレーヒヨケザルを同時に兼ね備える巨大怪獣がもう1匹現れて、滑空しながら強田に飛び掛かった。

だが、既にその動きを見破っていた夏芽が瞬間移動で先回りし、複数の鏡から閃光を放って巨大怪獣の目測を誤らせた。

その一方、強田が曽我部達がまだ逃げていない事に苦言を呈していた。

「何やってるんだお前ら!?殺されたいのか?」

それに対し、曽我部が意地悪そうに微笑んだ。

「火の粉を振り払って何が悪いんだい?それに、あいつらはもうアウトなんだろ?」

強田はふとあっとなったが、昔を思い出したかの様に苦笑いした。

「ふっ。そうだったな」

その後も2匹の巨大怪獣は見せ場を1度も生み出せる事なく敗れ消滅した。

 

休暇中に巨大怪獣退治をさせられたものの、ようやく自分を魔法少女管理委員会に売った男を捕まえた強田。

「さてと……やっと出逢えたな?」

一方の異様な髪形の男性が慌てて助けを求める。

「岩山さん!早くッ!早くアイツを何とかしてくださいよッ!岩山さんッ!」

勿論聞く耳持たない強田。しかも、当の岩山達は巨大怪獣出現のどさくさに紛れて既に逃走していた。

「こいつは俺と貴様とあの大五郎ヘアーの3人の問題だ。部外者を勝手に巻き込んでんじゃねぇ!」

この言葉通り、強田は岩山など眼中に無かった。松本のあの言葉を聞くまでは。

「ところが、事はそこまで小さくないんだ」

松本の台詞が、謀らずも強田のパンチを寸止めに変えた。

「は?さっき言った3人以外に誰がいるって言うんだ?」

 

覚醒剤(シャブ)を売り飛ばしただぁー!?」

「買い手も多く、暴力団との繋がりまで疑われてる」

「恐らく口封じだろうね?アンタが覚醒剤の事を警察に密告する前にって」

「強田さん、この方の覚醒剤販売に関する記憶はございませんか?」

強田は首を傾げるばかりであった。

元々、強田がシーメール化して魔法少女として巨大怪獣と戦う羽目になるきっかけとなった事件は、異様な髪形の男性の一方的な勘違いから始まった。

覚醒剤や大麻と言った危険薬物に手を出さない主義だった強田に覚醒剤販売の現場を見られたと勘違いし(当の強田は、偶然現場を素通りしただけでその事すら既に忘れていた)、このままでは強田に強請り尽くされると勝手に危機感を懐き、強田が行く先々で喧嘩に明け暮れていたと聞いて、それをたまたま休暇で出掛けていた大五郎ヘアーに密告。

強田が大五郎ヘアーに敗れ、検察に騙されて魔法少女に成ってしまって現在に至るのである。

「だから覚醒剤(シャブ)覚醒剤の事を密告する前にって訳か?」

だが、強田はやはり解らない。

「でもよ、それのどこが他に関係者がいるって言えるんだ?」

いつもの強田らしくない勘の鈍さに驚く夏芽。

「気付きませんか?この不公平感に」

「不公平?何の事だ?」

曽我部が先に気付いた。

「は!岩山達もこいつの覚醒剤(シャブ)の事を知っていた!?」

「何ぃ!?」

「なのに、強田と違って岩山に対して何もしてない」

それが意味するものはただ1つ。

「少なくとも黙認してた。最悪、岩山達もつるんでたって事も」

強田が俯き気味に訊ねた。

「……俺の休暇……あと何日残ってたっけ……」

その途端、異様な髪形の男性は、口から魂を発射したくなる程蒼褪めた。

「どいつもこいつもアウトだらけだしな!」

そして……異様な髪形の男性の予想通り、それから6日間、岩山達の悲鳴が鳴り止む事は1度も無かった

 

「あースッキリした。充実し過ぎた休暇だったぜ」

「強田さん、やり過ぎ……」

とにかく、強田が抱えていた問題の1つが後腐れ無く解決したのであった。異様な髪形の男性が惨敗したと言う代償を支払う形で。

「これのどこが『めでたしめでたし』なんですか?」



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資料:松本道広について

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エレクトロン・カプチーノ

 

性別:女性

職業:魔法少女

身長:160㎝

体重:50㎏

体型:86/59/86

 

売春や万引きなどで生計を立てていた不良少女。

軽い気持ちで魔法少女に志願して美宝石との同化・吸収を果たして以降は犯罪行為を行っていないが、前科があるせいか、未だに警察が苦手。

戦闘では、生成した本を読む事で様々な疑似生命体を呼び出し、ベリーダンスを踊りながら戦う。

 

松本道広

 

性別:男性→女性

職業:警察→魔法少女

身長:165㎝→157㎝

体重:81.6㎏→49.6㎏

体型:87/99/88→91/61/88

 

元刑事。

叩き上げのノンキャリアで、空想も怪談も科学も信じず、科学捜査や常習犯を蔑視する傾向を持ち、「刑事は目と耳と足と勘が命」だと決めつける古き悪き旧式刑事であるが、刑事という自分の職業には情熱と誇りをもっており、その高き誇りゆえ汚職を蔑視する傾向を持つ。

だが、魔法少女管理委員会関連施設の査察を嫌々ながら行ってる最中に美宝石と同化して魔法少女となり、アレキサンドライト色のおかっぱが特徴の巨乳美少女の様な姿となった。性転換は本人が寝てる間に勝手に行われた。

それ以降、曙夏芽の後輩として活動するが、何かと口実をつけて魔法少女管理委員会を逮捕しようとする。

モデルは『ソードアート・オンライン』の桐ヶ谷直葉。

 

強田のヤンキー仲間

 

●曽我部

強田一味の一員でサブリーダー。一人称は「俺」。強田とは無二の親友であり、荒々しいリーダーの強田とは逆に落ち着いた性格。

魔法少女となって変わってしまった強田に不信感を抱き始めたが、強田のある口癖を聞いて、強田が何も変わっていない事を確信して安堵した。

 

●三田

強田一味の紅一点。一人称は「私」。気性の激しさこそあるが、姉御肌的な義理堅さを持つ女性。

 

●渡部

強田一味のメンバー。一人称は「俺」。5人の中では喧嘩早い気質で、小柄の肥満体とは裏腹に素早く動く。

 

●塩屋

強田一味のメンバー。一人称は「俺」。口数が少なく常に食べ物を口にしている巨漢。

4人の苗字の元ネタは『ドラゴンボールZ たったひとりの最終決戦〜フリーザに挑んだZ戦士 孫悟空の父〜』のバーダックチーム。

 

岩山

 

曽我部達と張り合っていたヤンキーグループのリーダー。強田がいない間に勢力を急拡大していた。

最初の内は強田の討伐優先度は非常に低く、ほぼ無視される扱いだったが、強田が魔法少女になるきっかけとなった異様な髪形の男性(当時はただの金髪だった)を舎弟として扱い、覚醒剤密売を黙認する以上の優遇を行っていた事がバレてしまい、結局、強田に殴られて怪我をしてしまった。

前述の未来があるせいか、曽我部達からは「小石山」と呼ばれ馬鹿にされていた。



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第10話①:母島列島事変

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かつて魔法少女管理委員会と兵器推進善業のミリタリーバランスを一変させようとして願い叶わず敗れた叩務が、どう言う訳か廃墟の中を彷徨っていた。

どうやら、叩自身も自分がどうやってこの廃墟に辿り着いたのか解らない様子だった。

「ここは……何所だ……?」

そこへ異様な集団が叩に近付いて来た。

「お前達は誰だ!?」

集団は涙ながらに懇願した。

「お願いです。もう寝て下さい」

(殺される?)

殺されると勝手に解釈した叩は、銃を突きつけようと自分をボディチェックする形になったが、ろくな武器が見つからずに焦った。

(くそ!何でこんな時に何も持ってない!?俺達にはまだやるべき事が星の数程あるのに!)

叩の警戒心を察した集団が慌てて釈明する。

「いいえ!其処を動かずに寝ていただくだけで良いんです!」

「特に今は、貴方方にぐっすり寝て欲しいんです!」

だが、叩は集団を信用出来なかった。

「いきなりやって来て、いきなり寝ろって言われて、警戒しない者がいるかー!?」

すると、集団はターバンの様な物を脱いだ。

それを見た叩の感想は、

(何その頭……まるでダメージヘアー星人じゃんかよー)

殺されると勝手に解釈した叩は、銃を突きつけようと自分をボディチェックする形になったが、ろくな武器が見つからずに焦った。

(くそ!何でこんな時に何も持ってない!?俺達にはまだやるべき事が星の数程あるのに!)

確かに、お世辞にも美髪とは呼べない醜い頭髪であるが、集団の肌色はどれも緑色とは程遠かった。

「いいえ!違うんです!我々は、リンスやシャンプーはおろか……頭髪の水洗いすら産まれて1度もした事が無いんです!」

「何を言っている?まるでお前達がダメージヘアー星人に敗けたみたいじゃないか!?」

叩のこの言葉を聞いて、集団の中に混ざっていた子供達が泣き崩れた。

「うぅー」

「大丈夫!大丈夫よ!」

そんな集団の情けなさを観て怒りが湧く叩。

「そんなにダメージヘアー星人の様な髪形が嫌なら、何故武器を持たなかった!?軍隊を編成しなかった!?なぜ兵器を使わなかった!?」

集団は、そんな叩に涙ながらに訴えた。

「だからこそ……だからこそ、貴方方には寝て欲しいんです!我々の先祖があの者達を裏切る前に!」

「あの者達!?」

「お願いです!今は寝て下さい!平和が訪れるその日まで!」

叩は納得出来なかった。

「何を言っている!?戦争なくして発展は生まれんぞ!戦争なくして進化は成し遂げられんぞ!戦争なくして絶望には討ち勝てんぞ!戦争なくして希望は産まれんぞ!」

「お願いです!寝て下さぁーーーーーい!」

 

「戦争が無い世界に希望は有るかー!」

叩は飛び起きようとした。だが、拘束具でグルグル巻きにされているので飛び起きる事が出来なかった。

(……ここは……)

実際の叩は……魔法少女管理委員会の施設を強襲し、魔法少女の出撃を大幅に遅らせ、都市部に重大な損害を与えた罪で、50年間懲罰房で暮らしてから無期懲役に服すると言う罰を与えられていた。

(夢……なのか?)

 

本日、アフリカゾウとイリエワニを同時に兼ね備える巨大怪獣が戦死した。

「おのれぇー!あの忌々しい女共めぇー!」

ネブソク少将の怒りに、周囲のダメージヘアー星人達が驚き怯えた。

「怪獣達も頑張ってはいるのですが―――」

その程度の言い訳では焼け石に水であった。

「負けたら意味無いんだよ!」

言い訳をしていた者達が言葉に詰まる。

「そ……それは……そうですが……」

「あの女共さえ……あの女共さえ居なければぁーーーーー!」

そこへニコチン准尉が不機嫌そうにやって来て。

「そのボルベスについて恐るべき事実が判明しました!」

「恐るべき事実だと!?」

「こちらをご覧ください!」

ニコチン准尉がネブソク少将に渡したのは、ボロボロの書物であった。

「何だねこれは?」

「は。私の高祖父の祖父の大伯母の日記です」

それを聞いた周囲のダメージヘアー星人達が首を傾げた。

「それって何代目だ?」

が、ニコチン准尉にとって作者が誰かはどうでも良かった。問題はその内容である。

「ボルベスのしつこくて図々しい浅ましさ。私は、この日記を読んで、怖くなって体中の毛穴が開きましたぞ!」

それを聞いて、ネブソク少将の怒りが更に増した。

「おのれボルベス!どんだけ罪を重ねれば気が済むんじゃぁーーーーー!」

 

数日後、ライラが魔法少女達にある島の護衛を命じた。

「母島列島に奴らの円盤が集まっている?」

「何故そんな所に?」

「そんな長話をしてる暇は無いだろ?」

翔太が疑問を振り切って出撃しようとしたが、ライラがそれを停めた。

「いや、今回の奴らの探し物が何か。それを知った方が良い」

そう言うと、ライラが突然語り始めた。

「日本の古書を再調査した結果、日本人とダメージヘアー星人との戦いは平安時代まで遡っていたのだ。しかし、当初は日本人の通常兵器製造技術もダメージヘアー星人の怪獣製造技術も未熟だったため、例の隕石を使わずに発現出来る超能力のみで対処可能だった。そこで、当時の日本政府は、ダメージヘアー星人が送り込んだ怪獣を妖怪や悪霊と呼んで怪獣襲撃の事実を隠蔽しようとしたのだ」

「それじゃ何か?平安時代の日本政府の隠蔽の証拠があの島に有るとでも?」

「いや、それだけなら奴らはこの島には来んよ。母島列島が今回の戦闘エリアになった理由は、安土桃山時代に起こった小田原城陥落にある。かつて三河と呼ばれていた土地を支配していた徳川家は、小田原城陥落によって発生した戦果を処理すると言う名目で江戸と呼ばれる土地への左遷を命じられた。その事が切っ掛けで、徳川家はダメージヘアー星人が送り込む怪獣の処理の最主戦力になってしまった」

「ってことは、その島に怪獣を倒す為の秘密兵器が眠っているって訳か?」

ライラが俯きながら言う。

「表向きはな」

魔法少女達は意味が解らなかった。

 

母島列島に到着した魔法少女達は、早速ダメージヘアー星人の円盤型宇宙船群のレーザー攻撃を受けた。

「そんなにあの島に眠っている厄介者を叩き起こしたくねぇみたいだな!」

「暢気な事を言ってる場合か!あの島には居住区があるんだぞ!」

松本が周囲に発生させた魔法陣から複数の手錠を放って円盤型宇宙船を縛り上げる。

「おーおー。まだまだ警官要素は抜けてないが、大分さまになったじゃねぇか?」

強田に茶化された松本が赤面しながら叱責する。

「真面目にやれ!と言うか、住民の避難の方はどうなった!?」

問われた翔太が避難状況を説明する。

「今就航した船で最後だよ。護ってあげなきゃね!」

そう言うと、翔太が二刀流フェンシングを振り回して強力な熱風や冷風を発生させて円盤型宇宙船群を大きく揺らす。

中にいたフケ曹長は堪ったものではない。

「あの糞女共め!あの島に眠る技術を奪いに来たか!?」

その後も、魔法少女達が思い思いの攻撃を繰り出し、ビームやレーザーの壮絶な応酬が繰り広げられた。

そんな中、夏芽がリアカーを引く青年を追う複数のダメージヘアー星人を発見する。

「待って下さい!あの島にはまだ人がいます!」

「ちょ!?逃げ遅れ!?」

「あの船が最後じゃなかったの!?」

「誰だ!?あんなデタラメな仕事をしたの!?」

夏芽とエレクトロンが青年に向かって降下する。

「間に合ってくれよ!」

追い詰められた青年に向けてダメージヘアー星人達は拳銃からレーザーを連射する。

その内の1発がリアカーに命中したので青年が慌てふためき、リアカーを心配し過ぎて逃走を中断してしまう。

「あっ!あっ!なんて事をしてくれたんだ!?」

それを見ていたダメージヘアー星人が不快感を露にする。

「自分よりその箱の中身が大事か……貴様のこの島にある忌まわしくて汚らわしい技術が狙いかー!?」

だが、夏芽の周囲にある鏡が放つ閃光が眩し過ぎて引き金が引けないダメージヘアー星人達。

「うわぁー!?」

その隙に手にした本を読み上げて熊の立体映像を発生させるエレクトロン。そして、エレクトロンが発生させた熊の立体映像がダメージヘアー星人達を次々と叩きのめし、青年を追っていたダメージヘアー星人達は全員爆散した。

青年は、助けてくれた魔法少女達に軽く会釈すると、再びリアカーを引いて港とは逆方向に進んだ。

「ちょちょちょちょ!ちょっと待てちょっと待て!この島にいたら命が幾つ有っても足りないぞ!」

青年が魔法少女達が自分を引き留めようとしている事に気付くと、白い玉を地面に叩きつけてからまるで逃げる様にリアカーを引きながら走り出した。

突然の白い煙に咳き込むエレクトロン。

「ゴホゴホ!うわ!?何これ!?煙幕!?」

逃げた青年を探そうとした夏芽だが、運悪く島を散策していたダメージヘアー星人達と遭遇してしまった。

「何だ貴様等は!?貴様等もあの技術が狙いか!?」

「この忙しい時に!」

 

夏芽からの報告を聴いたライラが困惑する。

「戦闘エリアと化した島からの逃走を拒否した住民がいるだと!?」

「この島に残る気満々なのは確かなのですが、本当に最初からこの島の住民だったのかは不明です」

「妙な煙まで持ってたし、なんか変なのを担いでたしなぁー……そいつもなんか怪しいぞ?」

ライラはその青年について嫌な予感がした。

「その男もあの島に眠る失敗作が狙いか?」

とは言え、出す指示は変わらない。

「どっちにしろ、今はこの島に残して置けないな。島から避難させろ」

しかし、問題はその方法だ。

「要救助者を乗せた船を戦闘エリアに戻せって言うの?それは流石に酷いだろ?」

「私達が担いで運ぶのもありですが、あの様子だと、その間暴れ続けるのは必至だと思います」

「取り敢えず、安全な場所に転送する?」

「今は……それしかないね」

そんな中、ライラは問題の青年について考え込む。

「エレクトロンの報告に有った謎の荷物の中身が解らないから断定は出来ないが、その者もこの島に隠された失敗作が狙いと仮定するべきだろうか」

話が全然進まない事にイライラしたのか、強田が一同を折檻する。

「今はそのガキを探すのが先決だろ!?目的なら後で問い詰めれば良いだけの話なんだからよ!」

 

一方のダメージヘアー星人も上へ下への大騒動であった。

「曹長!もはや証拠探ししている余裕はありません!怪獣を送り込んで一気にこの島を破壊してしまいましょう!」

それに対し、フケ曹長は即答を避けた。

確かに証拠集めと言う遠回りなどせずに巨大怪獣を使ってこの島を破壊してしまえば良かったと後悔している。だが、本当に例の物がここにあると断言できないのも事実であり、勘違いして巨大怪獣を送り込む場所を間違えて、その隙に魔法少女達が例の物を手に入れてパワーアップされたら目も当てられない。

それに……

「船を護れー!要避難者を逃がすんだー!」

「逃走を拒否した青年はどこだ!?今度ダメージヘアー星人に見つかったら、今度こそ手遅れどころの騒ぎじゃないぞ!」

既にこれだけの魔法少女達が集まっているのだ。

通常兵器の恩恵が無い状態で巨大怪獣を送り込んでも返り討ちが関の山だ。

しかし、次の通信がフケ曹長の迷いを断ち切った。

「例の男の脱獄に成功。大量の通常兵器を持ってこちらに向かっています」

フケ曹長は遂に決断した。

「怪獣!投入!」

 

円盤型宇宙船の1機の真下に黒い玉の様なワープホールが出現した。

これを観たライラが嫌な予感がした。

「深海に投下されたワープホールを破壊するだけでは……ダメなのか?」

そして……ミンミンゼミとテッポウエビを同時に兼ね備える巨人が出現した。

それを見た強田が渇いた笑い声を上げた。

「ははは。今度はバの字かよ」

ミンミンゼミとテッポウエビを同時に兼ね備える巨人が左鋏を前に突き出し、パチン!という大きな破裂音と共に強力な衝撃波を放った。

「うわ!?」

「こいつ、何をした!?」

ライラが直ぐに破裂音付き衝撃波の正体を見抜いた。

「テッポウエビと同じ原理だ。はさみを急に閉める事でキャビテーションを起こし、その音と衝撃によって獲物を捕らえたり外敵から身を守ったりする生態を持ってる。しかし、液体の流れの中で圧力差により短時間に泡の発生と消滅が起きる物理現象であるキャビテーションを空中で発生させるとはな」

そうこう言っている内に、ミンミンゼミとテッポウエビを同時に兼ね備える巨人が左鋏を再び開いた。

「また来る!?」

そこへ松本が動いた。

「させるか!」

松本が周囲に発生させた魔法陣から複数の手錠を放ってミンミンゼミとテッポウエビを同時に兼ね備える巨人の左鋏を縛り上げる。

「これでさっきの衝撃波は撃てない筈!」

ミンミンゼミとテッポウエビを同時に兼ね備える巨人が大音量の鳴き声で牽制するも、魔法少女達にとってはもはや俎板の鯉である。

「諦めなって。しつこい男は嫌われるよー」

この勝負は魔法少女達の勝ちだと誰もが思った。しかし……

キャオーン!

「攻撃?誰が攻撃をしてるんだ?」

「いや……ただの攻撃じゃない……通常兵器か!?」

「そんな事をされたら、巨大怪獣が!」

 

そう、叩務が兵器推進善業の一員に変装したダメージヘアー星人の手引きで脱獄し、残っていたイージス艦をかき集めて母島列島にやって来てしまったのだ。

「魔法少女を騙るインチキ詐欺師共ぉーーーーー!あんな嘘で俺を騙しても無駄だぁーーーーー!真実を白日の下に曝してやるぅーーーーー!」

夢の中で叩に眠る様勧めた者達にとっては最悪のシナリオだったらしく、叩に強烈な頭痛を与えながら必死に叫んだ。

「お願いだ!頼む!今は寝てくれ!」

「俺達にこれ以上、膨大な絶望を与えないでくれ!頼む!」

「うえぇーん!ママぁーーーーー!」

「大丈夫!大丈夫よ!ちゃんと伝えれば、解ってくれるわ!」

だが、完全に兵器推進善業の一員に変装したダメージヘアー星人に完全に騙されてる叩の耳には届かず、寧ろ魔法少女達が大衆達に吐き続けていた嘘を隠蔽する為の小細工としか思っていなかった。

「俺は騙されんぞぉーーーーー!通常兵器こそが巨大怪獣討伐の最大にして最強の武器なのだぁーーーーー!」

その後も、謎の幻達は叩に大音量の懇願と強烈な頭痛を与え続けるが、叩は耐えるばかりで聞く耳持たない。

兵器推進善業の一員に変装したダメージヘアー星人が勝ち誇った様に微笑んだ事に気付かずに……

(大量の通常兵器をありがとよ♪)

一方の艦長は、狂喜乱舞している様にしか診えない叩の態度を見て、叩の体調を心配した。

「休んだ方が良いのではないか?」

だが、叩にその気はなかった。

「今はそれどころではない!この艦隊の総火力を持って目の前の巨大怪獣を焼き尽くすのだぁーーーーー!」

完全に理想に酔った叩の暴走は止まらない。それが、地球に最悪のシナリオをもたらすとも気付かずに……




第5話は前後編でしたが、第10話は3部作です。
そして……第5話以来の兵器推進善業と叩務の再登場です。
本作の力関係は、

通常兵器<超えられない壁<巨大怪獣<魔法少女

なので、兵器推進善業と叩務を登場させるだけで、ハラハラする程の大ピンチを生み出せます。

……もう、叩務はどっちの味方なんだか……


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第10話②:地球人が完全惨敗した日

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Risquemaximumが海中を泳いでいたが、その表情には焦りが浮かんでいた。

急がないと取り返しがつかなくなる。

その思いで海中を泳ぐRisquemaximum。

その先に在ったのは……

 

その一方、大量のイージス艦を率いて壮絶な母島決戦に名乗りを上げた叩は、謎の夢がもたらす大声と頭痛に耐えながら目の前にいるミンミンゼミとテッポウエビを同時に兼ね備える巨人を見据えていた。

それを見ていた艦長が叩に休憩を促した。

「お前……さっきから様子がおかしいぞ?少し休んだ方が良いんじゃないのか?」

だが、叩は受け入れなかった。

「騙されるな!これは、余計な嘘で地球の発展に必要不可欠な兵器を消し去ろうとする人類の敵の罠だ!」

艦長は理解に苦しんだが、これ以上は士気に関わると思い、無理矢理医務室に連行しようとしたが、

「艦長、このまま指揮官が後ろに下がって前線に全てを押し付ける様では、下の者達に示しが付きませんし、最悪、職務放棄の可能性も出て来ます」

兵器推進善業の一員に変装したダメージヘアー星人に推し切られ、渋々叩をブリッジに残しておいた。

ここが惜しかった。

この段階で、兵器推進善業の一員に変装したダメージヘアー星人の言い分に不信感を懐き、返す言葉を失うくらい問い詰めた方が良かったのに……

無論、その様な事は正体を知っているからこそ出来る芸当で、敵が自分達の味方に変装している事に気付かなければ意味が無いのである。

そして、叩が盛大に命令する。

「攻撃ぃー、開始ぃーーーーー!」

叩の合図と共にMk.41からSM-3ABMが一斉に発射された。

ミンミンゼミとテッポウエビを同時に兼ね備える巨人は無論、あえて全弾喰らった。

その結果、ミンミンゼミとテッポウエビを同時に兼ね備える巨人が突然羽化を始めてしまった。

「何だアイツ!?脱皮しているのか?」

ミンミンゼミとテッポウエビを同時に兼ね備える巨人の更なる強化を察して構える魔法少女達であったが、

「観ろぉーーーーー!効いているぅー!効いているぞぉーーーーー!」

謎の夢による大声と頭痛と戦いながらなのか、いつも以上にハイテンションで自分達の成果を強調する叩。

「このまま怯まずぅー!攻撃をーーー続行ぉーーーーー!」

だが、ミンミンゼミとテッポウエビを同時に兼ね備える巨人の羽化の原因がMk.41から発射されたSM-3ABMである事を正しく理解してしまった松本が、また余計な事をしてしまった。

「いけない!」

なんと、よりによってミンミンゼミとテッポウエビを同時に兼ね備える巨人を庇ってしまったのだ。

巨大怪獣が通常兵器の餌食となって更にパワーアップする事態を防ぐ意味では的確だが、今回は相手が悪かった。

先ずはミンミンゼミとテッポウエビを同時に兼ね備える巨人。

ミンミンゼミとテッポウエビを同時に兼ね備える巨人が両鋏を前に突き出し、パチン!という大きな破裂音と共に強力な衝撃波を放った。

衝撃波を背中でもろに受ける松本。

「グワァ!」

「松本!?」

1人の魔法少女が慌てて松本をキャッチするが、2人共ミンミンゼミとテッポウエビを同時に兼ね備える巨人の鋏に捕まってしまう。

しかも、衝撃波を放った時と魔法少女を捕まえた時の両鋏の形状がまるで違ったのだ。

「まさか!?さっきの攻撃の影響で、鋏の大きさや形状を瞬時に変えられる様になったって言うのか!?」

それだけじゃない!

ミンミンゼミとテッポウエビを同時に兼ね備える巨人は、姿が同一の幻を多数発生させたのだ。

「って、どう考えても、松本達を捕まえた奴が本物だろ!」

だが、魔法少女の攻撃は全て素通りしてしまう。

「何!?」

そう。一見松本達を捕まえていない様に見える方が本物で、松本達の姿を透明にしたのだ。

夏芽がとっさに本物を探そうとするが、叩が再び余計な命令を下した。

「怯むなぁーーーーー!どんどん撃ってぇーー、巨大怪獣を討伐するのに必要なのはぁーーー、兵器のみだと解らせろぉーーーーー!」

兵器推進善業の一員に変装したダメージヘアー星人は、叩の見当違いな命令と、それに伴うミンミンゼミとテッポウエビを同時に兼ね備える巨人の急成長・急強化にほぐ添え笑った。

(ふふふ……逆だよ。我々が送り込む怪獣が、あの妙な術を使う忌々しき女共を成敗する為に必要なのが、今お前達が使っている通常兵器(えいようざい)なのだ)

そして、兵器推進善業の一員に変装したダメージヘアー星人が邪でとてつもないアイデアを提案する。

「叩さん、今なら、魔法少女管理委員会の嘘を暴けます」

 

兵器推進善業の一員に変装したダメージヘアー星人の優秀さに満足するフケ曹長。

「アイツ……やるではないか?」

その時、今回の戦いに参加した円盤型宇宙船が、あのリアカー青年を発見した。

それに気付いたフケ曹長は、あえて攻撃を中止させた。

「いや待て。あの男の狙いもあの力だと言うのであれば、あ奴に道案内させよう」

 

円盤型宇宙船群の動きが同一化した事に気付く強田だが、兵器推進善業の猛攻のせいでどんどんパワーアップするミンミンゼミとテッポウエビを同時に兼ね備える巨人の方が気になるので無視しようとした。

だが、

「助けて!」

叩を苦しめていた謎の夢の声が強田の耳に届いたのだ。

「助けて!?今言ったのは誰だ!?」

その間も、兵器推進善業の猛攻のせいでどんどんパワーアップするミンミンゼミとテッポウエビを同時に兼ね備える巨人に苦戦する魔法少女達を見て、彼女達が行ったと勘違いするが、兵器推進善業の猛攻のせいでどんどんパワーアップするミンミンゼミとテッポウエビを同時に兼ね備える巨人に戦いを挑もうとすると、

「助けて!」

「違う!言ったのはあいつらじゃない!あの円盤共に先にいる奴だ!」

あのリアカー青年の許に往かなければいけない気がした強田は、ライラに断りの通信を送った。

「俺は今から戦闘を離れ、あのワガママな逃走拒否野郎を追う!」

勿論ライラは納得出来ない。

「目の前の巨大怪獣を無視してでもか?」

だが、強田の意思は固かった。

「あいつ、例の失敗作を発見したかもしれないぞ!」

「あれを発見しただと!?」

「それに……」

強田の耳に再び叩を苦しめる謎の夢の声が届いた。

「助けて!」

「今あいつの所に行かないと、取り返しのつかない事になる気がするんだ!何故だか知らねぇが!」

ライラは、強田の言ってる意味が解らなかった。

「……それは……勘か?」

ライラの質問に対し、強田は少し悩んだ。

(勘……なのか……?)

その間も、謎の夢の声が鳴り響き続いた。

「助けて!」

その結果、強田はリアカー青年を追う決断をした。

「いや!これは確信だ!これが最悪の事態を回避する唯一の方法なんだ!」

そして、ライラの制止を振り切った強田がリアカー青年を尾行する円盤型宇宙船群へと突っ込んだ。

それを知ったフケ曹長は、自身の指示を呪った。

(しまった!あの忌々しい女共にあの技術の隠し場所を教える結果になったか!?)

しかし、例の青年は既に目的の洞窟を発見してどんどん奥へと進んでいた。

(あんなところにすんなり入れるって事は……あの中に失敗作が?)

幸い、ダメージヘアー星人は青年の事に気付いていないので、邪魔な円盤型宇宙船群を片付けてから洞窟に入る事にした強田。

「お前らはもうアウトなんだ。覚悟を決めろよ!」

それに対して、フケ曹長は一時撤退を選択した。

「えぇい!……まあ良い。証拠集めは既に終わった。後は、この島ごとあの忌々しい技術を破壊すれば良いだけの事だ!」

円盤型宇宙船に邪魔される事が無いと判断した強田は、リアカー青年の後を追う様に洞窟の中に入って行った。

「どこであの失敗作の事を知ったか知らねぇが、急いでやらねぇとアイツがアウトな目に遭っちまうかもな」

 

一方、兵器推進善業の猛攻のせいでどんどんパワーアップするミンミンゼミとテッポウエビを同時に兼ね備える巨人を攻略する為に指示を捻り出そうとするライラであったが、

「大変です!」

「今度は何だ!?」

「ある動画に関する我々への苦情が殺到しています!」

「メール保存量が限界を突破!システム低下します!」

「どう言う事だ!?」

 

叩は、謎の夢が絶望のどん底に叩き落されたかの様な顔をしている事を無視しながら、兵器推進善業の一員に変装したダメージヘアー星人の作戦をべた褒めしていた。

「いいぞぉーーーー!これで……あの裏切り者共に騙されていた愚民共も目を覚まぁーーーーーすぅーーーーー!これがぁーーーーー、正常化だぁーーーーー!」

兵器推進善業の一員に変装したダメージヘアー星人が提案した作戦。それは、ミンミンゼミとテッポウエビを同時に兼ね備える巨人のこれ以上のパワーアップを未然に防ぐ為に兵器推進善業の猛攻からミンミンゼミとテッポウエビを同時に兼ね備える巨人を庇う魔法少女達の姿をSNSやYouTubeなどにアップして拡散させると言うモノであった。

巨大怪獣と通常兵器との因果関係を知っている人から見れば兵器推進善業の方が厄介過ぎる邪魔者だと解るが、何も知らない人々から見れば魔法少女が巨大怪獣を庇っている様にしか見えないのである。

叩が何でこの作戦に気付かなかったのかと狂喜しながら恥じる中、兵器推進善業の一員に変装したダメージヘアー星人が真実を知る者にしか出来ない苦笑をしていた。

(ふっ、裏切り者か……はてさて、本当の裏切り者は……どっちなんだろうねぇー♪……)

フケ曹長もまた狂喜乱舞していた。

「よーしよし!よくやったよくやった!これで……怪獣共は通常兵器(えいようざい)をがぶ飲みしながら戦える!我々の……勝利だぁーーーーー!

それに引き換え……謎の夢達は、最も恐れていた事態の到来を知って愕然としていた。そして、ただでさえ醜い頭髪が更に抜け落ち、それに呼応する様に絶望の涙の量が増えて逝った。

ミンミンゼミとテッポウエビを同時に兼ね備える巨人のこれ以上のパワーアップを未然に防ぐ為に行った行為が、かえって自分達魔法少女の首を絞めている事を思い知らされた松本が絶叫する。

「俺が良かれと思って行った行動が……俺から仲間を奪う……何故だ!?」

松本と共にミンミンゼミとテッポウエビを同時に兼ね備える巨人に捕まった魔法少女が松本を慰める。

「お前は何も悪くないさ。通常兵器が巨大怪獣の成長と強化を促してるって点は事実だしな」

それでも、兵器推進善業の一員に変装したダメージヘアー星人に踊らされる形で地球人に完全惨敗をもたらした事を恥じる松本。

「俺は……刑事なんだぞ……俺は刑事として……くそぉーーーーー!」

そう言ってる間も、叩達が集めたイージス艦の猛攻は続く。自責の念に取り憑かれた松本を慰める暇も与える事無く……

 

一方、地上が致命的かつ絶望的になっている事を全く知らないリアカー青年は、遂に江戸に左遷させられた徳川家がダメージヘアー星人に対抗する為に造った祭壇に到着した。

「姉さん……やっと全てを返す事が出来そうだ」

青年がリアカーに乗せていた死体を祭壇の中心部に置こうとした時、追いついた強田に声をかけられた。

「やめな。その女が完全にアウトになる前に」




一応、タグにバッドエンドを付けましたが、物語は来週以降もまだまだ続きます。大ピンチからの逆転劇にご期待ください。

と言うか、兵器推進善業と叩務が相変わらず邪魔過ぎる。兵器推進善業の一員に変装したダメージヘアー星人の言う通り、もうどっちの味方なんだか……


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第10話③:初起動!エンジェルモード!

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小田原城陥落によって発生した戦果を処理すると言う名目で江戸に左遷させられた徳川家。

それは、徳川家にダメージヘアー星人と言う新たなる敵との戦いを強いる事を意味していた。

そこで、徳川家は母島に秘密の祭壇を作り、ダメージヘアー星人が送り込む怪獣に対抗できる人間を生み出そうと考えていた。

そして、時は流れて……

2人の現代人がその祭壇を中心に対談する。

「何故邪魔をする?あと少しで姉さんは復活できるんだぞ!」

それを聞いた強田が首を横に振った。

「やめな。その女が完全にアウトになる前に」

だが、青年は強田の助言に耳を傾けない。

「何を言っている!俺はアウトをセーフに戻す為にここまで来たんだ!姉さんの復活の邪魔はさせねぇ!」

青年がポケットからナイフを取り出すと、強田が悲し気な表情を浮かべた。

「お前……誰かに騙されてるんだろ?」

青年は強田の台詞の意味が解らなかった。

「騙されてる?何の事だ?俺は、姉さんから奪ってしまった物を全部姉さんに返そうとしているだけだ!」

青年が強田を攻撃するが、れっきとしたヤンキー男子だった頃から既に喧嘩慣れしている強田の敵ではなかった。

「お前……筋が良過ぎるな?それ以上進歩したら、本当に人を殺しちゃうぞ?」

悠々と捌きながらアドバイスを送る余裕さえあった強田に対し、青年の方は必死だ。

「ほざくな!」

で、結局場数の差に押されて強田に取り押さえられる青年。

「くそ!離せ!放せ!」

そして、強田が青年に訊ねた。

「お前は、この地に眠る失敗作の廃棄理由をどこまで聞いてる?」

その途端、青年は無言で仰天した。

「やはりな……やはりお前は騙されてるわ。作り方しか聞かされてなかったんだろ?」

図星だった。

兵器推進善業が魔法少女管理委員会施設に対してクーデターを行った日に姉がウサギとチンパンジーを同時に兼ね備える巨大怪獣に殺された事を後悔していた青年は、姉がウサギとチンパンジーを同時に兼ね備える巨大怪獣に殺された現場で出会った少年に死者を復活させる方法を教わった。

それが、青年が母島に隠された地下祭壇にやって来た理由であった。

強田が青年の記憶を盗み視るが、出てくるのは中国風の衣装を身に纏う8歳くらいの少年だけであった。

今回の祭壇侵入に関する黒幕の慎重さに背筋が寒くなる強田だが、青年に対して他に言わなければいけない事が有った。

「そんな事をしてる暇が有ったら、その女が死んだ理由に怒りをぶつけてみたらどうだ?あの日に大遅刻した俺達と、俺達の大遅刻の原因となった軍隊によ」

だが、青年は恨みに身をゆだねる気にはなれなかった。

「そんな事をして何の意味がある?あの叩とか言う糞野郎を殺すだけで姉さんが復活するとでも言うのか!」

強田は悲しくなった。

本来なら青年の言い分の方が正しい。流石の強田だってそれくらいは理解出来る。

だが、今回はそれが逆に仇になってしまったのだ。母島に眠る失敗作を利用しようとした黒幕の悪意によって。

 

夏芽が強田を発見するや否や、いきなり強田を平手打ちした。

「強田さん!こんな忙しい時になにサボってるんですか!?」

あっけにとられた強田があっけらかんと返答した。

「ピンチなのか?」

怒った夏芽がまた平手打ちをした。

「ピンチどころの騒ぎじゃありません!」

「そんなにヤバいのか?」

夏芽から聞かされた状況は最悪だった。

兵器推進善業が行った通常兵器による猛攻によりミンミンゼミとテッポウエビを同時に兼ね備える巨人が劇的に成長してしまい、ミンミンゼミとテッポウエビを同時に兼ね備える巨人のこれ以上のパワーアップを未然に防ぐ為に行った行為を兵器推進善業に盗撮され、それを兵器推進善業(と兵器推進善業の一員に変装したダメージヘアー星人)の都合が良い様に加工されて全世界に拡散され、その結果、ライラ達が率いる情報管理室が無数の苦情でパンク状態に陥ったのだ。

「正に大炎上。これで逆転したら、歴史の教科書に掲載出来るな?」

夏芽が3度目の平手打ちをしようとしたが、さっきまで強田と口論していた青年が妨害した。

「そこの女、この俺に恨みに現を抜かさせる気か?」

すると、青年が何かを我慢する様にしゃがみ込みながら力んだ。

「考えない様にしようとしたのに……姉さんの復活に全集中しようとしたのに……叩め……俺に姉さんの見殺しをさせるだけでは……飽き足らんかぁー!」

これを見せられては、夏芽も怒りに身を任せる事は出来なかった。

「見殺し?どう言う意味ですかそれは!?」

「そいつの姉貴、俺達が妙な軍隊のせいで大遅刻した日に巨大怪獣に殺されたんだと」

「そんな!」

「で、誰かさんに騙されて、例の失敗作を使ってその姉貴を復活させる気だったんだと」

「騙された!?じゃあ、この方は怨人の正体を知らずにここに?」

その途端、青年が夏芽の襟首を掴んだ。

「嘘だ!姉さんは、怨人に成れれば復活する筈だ!」

強田が残念そうに首を横に振った。

「違うな……その時点で、お前の姉貴は人間ではない」

「それは……人間を超越したからだろ?」

青年は「そうだ」と言って欲しかった。

だが、強田の口から出た言葉は、青年の期待とはほとんど逆方向だった。

「怨人の力は人間を超えた力じゃない。人間を……捨てた力だ」

 

怨人

当時は例の隕石の力が無かった徳川家が魔法少女の代用品として開発した強化人間……の筈だった。

被験者に生霊と悪霊を注入する事で、被験者の内に秘めた超能力を飛躍的に向上させようとしたのだが、完成した怨人には致命的な欠点があった。

それは、知能低下と光拒絶反応。

怨人は強い光を浴びると悶絶してしまうと言うとんでもない弱点を秘めており、その段階で既に実用化不可能と診なされていたが、知能低下の方がもっとひどかった。

一応、宿主や生霊の記憶や性格を色濃く残しているものの、人間的知性は低下して宿主や生霊の日課や行動を繰り返すだけ

しかも、元がどれほど慈愛ある人格者であっても好きな食べ物が生肉と血液に変更され、近くにいる人間を襲ってしまう可能性まであるのだ。

 

青年は、怨人の正体を知って愕然とした。

「そんなの……そんなの俺が知ってる姉さんじゃない!」

そして、青年は姉の復活がふりだしに戻った事に気付いて怒り狂った。

「じゃあなんだ!?俺にどうしろと言うんだ!」

返す言葉が無いのでどうする事も出来ない強田と夏芽。

その時、怨人を生み出す為に造られた祭壇が勝手に動き出した

「しまった!怨人共が復活する!」

慌てて青年の姉の死体に駆け寄る強田だったが、青年の姉の身体に生霊や悪霊が注入される事は無く、寧ろ、青年の姉の死体から半透明な女性が抜け出た。

「姉さん!」

だが、半透明な女性が語り掛けたのは強田の方だった。

「彼らを……救ってあげて」

「彼ら?」

強田が半透明な女性が指差した所を視ると、叩を散々苦しめた謎の夢達が絶望に打ちのめされた状態で棒立ちになっていた。

そして、祭壇の動きが更に活発になると、半透明な女性と謎の夢達が強田に注入された。

「うっ!」

「強田さん!?」

「姉さん!」

(これは……さっきの『助けて』は、そう言う意味だったのか?)

「……強田……さん?」

「姉……さん……?」

青年の姉と言う悪霊と叩を散々苦しめた謎の夢達を注入され、魔法少女と怨人を同時に兼ね備える男性となった強田は、何を成すべきかを悟ったかの様に瞬間移動した。

「ちょっと!?強田さん!?」

「どこへ行く!?姉さんを返せ!」

 

兵器推進善業の猛攻のせいでどんどんパワーアップするミンミンゼミとテッポウエビを同時に兼ね備える巨人との戦いは、叩と兵器推進善業の一員に変装したダメージヘアー星人が意図的に流した動画による魔法少女管理委員会の支持率急低下により、更に混迷を極めた。

と言うより、既にほとんどの魔法少女達の心が完全に折れていた。

それを察した叩が、通常兵器によるダメージヘアー星人及び巨大怪獣の真の完全討伐と、戦争による人類の真の進化と発展を確信していた。

「これでぇー、我々人類の戦争による進化を止める者はいなくなったぁーーーーー!そしてぇー、ダメージヘアー星人と巨大怪獣はぁー、我々軍隊の手によって正しく滅びぃー、地球はぁー、戦争と言う善の力でぇー、正しい方向へと向かうのだぁーーーーー!」

一方の兵器推進善業の一員に変装したダメージヘアー星人は、嬉しい誤算的な意味で苦しんでいた。叩の真実とは真逆の見当違いな台詞のせいで笑いをこらえるのに必死だからだ。

だが……

「まだ、諦めるのは早いぜガキ共」

強田の声が響き渡った途端、無数の白い羽が舞い降りた

心身共に疲れ果てた魔法少女達の心を癒し、ミンミンゼミとテッポウエビを同時に兼ね備える巨人の本体が無数の白い羽を煙たそうにはねのける。

「もう偽装を脱ぎ捨てるとは……お前はもう……アウトだな」

皆が声のする方を見ると、いつもとは違う強田が神々しく浮遊していた。背中には白鳥の翼に似たエネルギー翼を発生させ、純白のドレスに身を包んでいた。

あまりの美しさと神々しさに、魔法少女達もライラ達も自分達が既に致命的な状況に墜ちた事をすっかり忘れてしまった。そして、兵器推進善業も攻撃を忘れて見惚れてしまった。

その反面、ダメージヘアー星人は強田の真っ白な肌を見て嫌な予感がした。

「まさか……取り入れたと言うのか……怨人を生み出す技術を!?」

ただし、叩だけは違った。

「こらぁーーーーー!何をサボってるぅーーーーー!早く目の前の巨大怪獣を撃破しろぉーーーーー!」

叩の一喝に慌てた艦隊が、Mk.41からSM-3ABMを一斉発射する。

だが、強田が左手をヒラヒラすると、まるでビデオの巻き戻しの様にSM-3ABMがMk.41内に戻った。

「……何が……起こった?」

更に、強田が指を鳴らすと、ミンミンゼミとテッポウエビを同時に兼ね備える巨人が生み出した無数の幻が全て消滅し、透明に変えられていた松本達を元の姿に戻した

それを見ていた魔法少女達は驚いた。

時間を操ったと言うのか?正に桁違いだ」

ミンミンゼミとテッポウエビを同時に兼ね備える巨人が止まったら敗けと判断したのか捕らえていた松本達を投げ捨てたが、強田が右手を突き出した途端、松本達が光に包まれて浮遊し、松本達の怪我が完治していく。

ミンミンゼミとテッポウエビを同時に兼ね備える巨人が両鋏の形状を接近戦用に変形させながら強田に飛び掛かるが、強田は楽々かつ悠々と攻撃を捌いて蹴り飛ばし、ミンミンゼミとテッポウエビを同時に兼ね備える巨人を海面に叩き付けた。

が、ミンミンゼミとテッポウエビを同時に兼ね備える巨人が両鋏の形状を遠距離戦用に変形させ、両鋏を前に突き出し、パチン!という大きな破裂音と共に強力な衝撃波を放った。しかし、強田の身体に全て弾かれた挙句、強田は全くの無傷であった。

これには、流石のフケ曹長も兵器推進善業の一員に変装したダメージヘアー星人も、顔が完全に蒼褪めて背筋が氷の様に冷たくなった。

「強過ぎる……やはり一気にあの島を徹底破壊するべきだったのだぁー!」

更に強田が手を盛大に叩くと、海中からあの青白くて細長い炎が放たれ、兵器推進善業の艦隊に多大なダメージを与えた。

「あの炎は!?まさか……」

そのまさかである。

「本当なら、アンタはこの母島決戦に間に合わない筈だったんだよねー」

そう、強田が長距離転送と時間操作の合わせ技を使って、母島列島に急行していたRisquemaximumを母島近くの海に呼び寄せたのだ。

ようやく母島に到着したRisquemaximumがミンミンゼミとテッポウエビを同時に兼ね備える巨人に向かって歩き出し、それを見たミンミンゼミとテッポウエビを同時に兼ね備える巨人が両鋏を前に突き出し、パチン!という大きな破裂音と共に強力な衝撃波を放った。

それを見た強田は、なすべき事を行う為に一旦戦いの場から離れた。

「Risquemaximumさんよ、後は頼んだぜ」

 

叩達がいるブリッジに瞬間移動した強田。

「な!?何をしに来た!?」

強田が呆れながら訊ねた。

「お前は最近、変な夢を観続けているそうだな?」

だが、叩は強田の質問には耳を傾けず、逆に強田の敗北感を煽った。

「だが無駄だぁーーーーー!世界は既にぃー、お前達が撒き散らし続けた嘘から解放されたぁーーーーー!それにより―――」

強田が本格的に呆れた。

「本当にアウトだなお前は?この期に及んでまだあの夢の正体を知らないとはねぇ」

その言葉に兵器推進善業の一員に変装したダメージヘアー星人が嫌な予感がした。

「おい!叩務!その様な話を何故隠した!?」

叩は悪びれる事も無く答えた。

「所詮はぁー、魔法少女どもが我々人類に必要不可欠な戦争を奪う為に―――」

もう叩の言い分を聞いても無駄だと判断した強田。

「あいつら……本当に無駄足だったな。こんな馬鹿に俺達の未来に関わる情報を託すなんてよ」

が、今の叩には何を言っても無駄だった。

「あの夢は確かに無駄だったさ……既に地球はぁー、戦争が生み出す明るくて輝かしい未来に向かって―――」

「本当にそうなら、あの夢がこの時代に姿を現す事はねぇんだよ!」

艦長が代わりに質問した。

「では、君は叩くんが観た夢が何か解っているのか?」

強田が真面目な顔で答えた。

「未来から来た生霊さ。今回の戦いの結果を変えて、散々過ぎる未来を回避する為にな」

強田が完全に蒼褪めた兵器推進善業の一員に変装したダメージヘアー星人を発見して皮肉を言った。

「あれれぇー?何でそんなに青くなるのかなぁ?もしかして、罪悪感以外の何かを感じての事かなぁー?」

兵器推進善業の一員に変装したダメージヘアー星人が慌てて言い訳をしようとする。

「罪悪感?何の事かな?我々は―――」

だが、既に全てを見抜いている強田には通用しなかった。

「じゃあ……さっきの動画のアイデア、誰が言い出しっぺだ?」

兵器推進善業の一員に変装したダメージヘアー星人の背筋が急速に冷え、滝の様な汗を流した。

「おいおい!どうしたどうした!あの動画を世界に拡散しようって言った奴が誰かを言えば良いだけの話だろ!」

すると、叩以外のブリッジにいるメンバーが、兵器推進善業の一員に変装したダメージヘアー星人の方を恐る恐る見た。

「何だ……何故俺を疑う……俺がお前達に何をしたって言うんだ!」

強田が怒った様に答えた。

「これからするんだよ!お前達……ダメージヘアー星人が!」

兵器推進善業の一員に変装したダメージヘアー星人が慌てて釈明する。

「何を言ってる!お前達が巨大怪獣を庇ったから悪いのだろ!地球の敵である筈の―――」

流石に鈍感な兵器推進善業の一員でも、兵器推進善業の一員に変装したダメージヘアー星人の慌てる姿に不信感を懐いた。

「ちょっとあんた!言いがかりにしちゃ慌て過ぎなんじゃないの!?」

だが、自己の思想に酔っている叩は、兵器推進善業の一員に変装したダメージヘアー星人に不信感を懐いたメンバーを一喝した。

「馬鹿者ぉーーーーー!敵の前で仲間割れするとはぁー、何事だぁーーーーー!」

強田が頭を抱えながら溜息を吐いた。

「……アホかアンタ?」

そして、強田がポケットから何かを取り出した。

「こいつを借りパクしておいて正解だった様だな」

強田が兵器推進善業の一員に変装したダメージヘアー星人に隕石の欠片を近づけた途端、兵器推進善業の一員に変装したダメージヘアー星人が突然苦しみだし、口からオレンジ色の炭酸血液を吐いた。

それにより、叩の異様過ぎる興奮は一気に醒めた。

「……オレンジ色の吐血だと……馬鹿な……そんな馬鹿な!?ダメージヘアー星人の天敵である筈の我々の中にだなんて……そんな馬鹿な事が在り得ようか!?」

大慌ての叩に対し、強田は冷静そのものであった。

「解るだろ普通。俺達が敗けて最も得をするのは誰か?それさえ判れば……」

強田が隕石の破片を近づける度に兵器推進善業の一員に変装したダメージヘアー星人がもがき苦しみ、肌色を緑に変えた。

「やめてくれぇ……本当にやめてくえぇ……」

「おのずと黒幕が誰か解る」

「あぐぐぐっ……ぐっ!……」

そして、ダメージヘアー星人は死んでしまった。

「あー、言い忘れてたけど……こいつのくたばり方、既に世界に拡散したから」

 

一方の兵器推進善業本部では、

「先程のダメージヘアー星人の死亡シーンに関する苦情によって大炎上しました!早急に対策を施さないと、我々の再起は不可能になります!」

 

本部からの連絡を受けた叩が愕然とした。

「世界は……もう直ぐ救われる……筈だったのに……」

強田の意見は逆だった。

「いや、救われたさ。少なくとも、あの夢に出て来た連中と違って、頭髪の水洗いはおろかシャンプーもリンスも……許されてるぜ?」

叩が強田に文句を垂れた。

「夢だと!?あの夢は、俺を苦しめる為に仕組んだ、お前達魔法少女管理委員会の罠だろ!」

強田が残念そうに首を横に振った。

「違うな……お前は、虐げられた者の苦しみを知らないからそんな事を言えるんだ」

「嘘を吐くな!」

「ま、俺はちょっと前まで虐げる側だったから、虐げられた連中の恨みに満ちた目くらいしか知らないがな」

そうこう言っている内に、海に沈んだミンミンゼミとテッポウエビを同時に兼ね備える巨人がうんともすんとも言わなくなった。

「おっ、Risquemaximumも役目を果たしたらしいな?」

全てを終えた強田の表情は晴れやかだったのに対し、兵器推進善業の理想とする未来がまたまた遠ざかった事に愕然とする叩。

 

戦いを終えて佇むRisquemaximumを警戒する魔法少女達の前に瞬間移動する強田。

「大丈夫だよ。もうこいつは味方だよ。少なくとも……」

だが、強田の言い分に反し、Risquemaximumが口から青白くて細長い炎を吐いた。

「ダメージヘアー星人の味方じゃない!」

Risquemaximumが吐いた細長い炎は、冷静沈着に見守る強田の背後を素通りし、フケ曹長が乗る円盤型宇宙船に命中した。

「あーーーーー!?」

フケ曹長が乗る円盤型宇宙船が爆散・炎上した。

「Risquemaximumがダメージヘアー星人の円盤を撃ち墜とした!?」

母島決戦の元凶の死を看取ったRisquemaximumは、強田の予想通り、魔法少女達には何もせずに海底へと帰って往った。

「あばよ。そして、お疲れさーん」

 

ダメージヘアー星人が怨人の存在を思い出した事が端を発した母島決戦を終え、魔法少女達が改めて母島に上陸した。

先ずは、松本が叩が拡散させた動画の事で謝罪した。

「すまない!まさかあんな事になるとは思えず、皆に誤解を招く様な―――」

が、強田が優しく遮った。

「あんたのどこがアウトだよ?アウトなのは……」

そこへ、出頭を決意した艦長達がやって来た。

「例のエイリアンに騙されて良からぬ事をした、鈍感すぎる連中の方さ」

艦長が謝罪するかの様に頭を下げた。

一方、翔太は強田の今の姿の方が気になった。

「何か……随分見ない内に、随分ご立派になられて……」

「あー、これ?俺はどうやら……怨人に変えられたらしい」

その途端、魔法少女達が慌てて臨戦態勢をとった。

「あー、やっぱりそうなるか?」

「なるよー!怨人って確か!?」

だが、強田の表情に殺意は無かった。

「何だけどねー、例の隕石のお陰かな?どうも、思った程凶暴に成れないんだ」

「信じられるのか?その言葉?」

「確かにな。ま、その点に関してはあいつらが詳しく調べるだろうよ。ただ、徳川家の怨人製作で大きな間違いをしていた事だけは確かだぜ」

強田の意味深な台詞に首を傾げる一同。

「どう言う意味だ?」

だが、強田の言い分は単純だった。

「徳川家は、被験者に生霊と悪霊を注入する事で怨人を製作しようとした。けどな、徳川家は怨人製作の際に生霊や悪霊の了解を得ていたのかって事だよ」

最初に強田の言い分を理解したのはライラであった。

「つまり、怨人の知能低下と凶暴化は、強引に怪獣討伐に利用された悪霊の反乱だと言うのか?」

「だろうな」

だが、これだけでは、魔法少女と怨人を同時に兼ね備える男に成った強田が凶暴化しない理由としては不十分だった。

その疑問に対して、強田が艦長達の方をチラっと見た。

「幸い……俺達には共通の敵がいたのさ」

「ん?一見辻褄が合ってる様で合って無いぞ?それって結局、巨大怪獣を倒す為に悪霊の力を悪用したって事じゃないの?」

強田がまた艦長達の方をチラっと見た。

「いや、巨大怪獣もダメージヘアー星人も、俺達の敵が悪さするきっかけを作っただけさ」

ますます謎めいた言い回しをする強田に少しイラっとする魔法少女達。

「いい加減にしてよ。そろそろ本当の事を言ってよ」

それを聞いた強田が真顔で冗談(?)を言った。

「いただろ?俺達に大遅刻と言う大恥を掻かせ、あのデカブツ共の悪さを手助けし、大量の文句を全て無視したアウト野郎が」

それを聞いた艦長がハッとする。

「それってまさか!?あの男の事か!?」

強田達の敵、それは正に艦長の予想通りであった。

叩務。自分の綺麗事と兵器推進善業の甘い誘惑に完全に溺れて酔っているアウト野郎さ」

だが、一部の魔法少女が首を傾げた。

「ん?一見辻褄が合ってる様で合って無いぞ?叩務は既に無期懲役で、しかも50年間の―――」

とここで、艦長がとんでもない白状をする。

「あの男なら……既に脱獄したダメージヘアー星人の手引きでな」

「脱獄した!?マジで!?」

艦長が残念そうに言葉を続けた。

我々は踊らされたのだ。ダメージヘアー星人にな。だが、あの男は最もその事実に気付いていない。利用価値が膨大過ぎるかませ犬だったのだよ我々は」

呆れ果てる魔法少女達。

「……もはや……叩務がどっちの味方か解らんな……」

強田があっけらかんと答えた。

「アイツは……地球の発展と俺達人間の進化の為に、戦争と兵器を存続させようと努力してる心算なのさ……」

そして、直ぐに真顔になる強田。

「だが、“今”があいつを否定したのさ。あいつはアウトだとな」

そう考えると、叩は悲しい男である。が、だからと言って許されるの範疇を既に超えているのも事実。その証拠に、叩が兵器推進善業の一員に変装したダメージヘアー星人に誑かされて拡散させた動画が、魔法少女管理委員会を解散寸前まで追い詰めたのは事実だ。それに……

(あのアウト野郎が観た変な夢の正体は、未来からやって来た生霊で、あいつらはリンスやシャンプーはおろか、頭髪の水洗いすらさせて貰えない哀れな存在だが、これ以上は更にみんなを混乱させそうだから黙ってよ)




江戸時代の怪獣対策技術争奪戦だった母島決戦もいよいよ完全決着。
第5話(https://syosetu.org/novel/266019/6.html)(https://syosetu.org/novel/266019/7.html)の内容にも繋がる戦いだけあって、3部作で収まるのかって感じで長くなってしまいました。
で、叩や兵器推進善業は相変わらずの邪魔者(地球側にとって)ですね(汗)。全く、何がしたいのやら……


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第11話:新たなる敵

pixiv版→https://www.pixiv.net/novel/series/7675147

ハーメルン版→https://syosetu.org/novel/266019/

小説家になろう版→https://ncode.syosetu.com/n5419hd/


「はい、もう服を着ても良いですよ」

魔法少女と怨人を同時に兼ね備える男になってしまった強田は、急遽健康診断を受ける事になったのだが、

「特に異常はありません。至って健康ですね」

それを聞いたライラ達は驚き困惑した。

「異常が……無い?」

そこへ強田が口を挟む。

「あいつらが大人しくしている内は……な」

「あいつらとは、お前の身体に注入された悪霊の事か?」

「未来からやって来た生霊もな」

「つまり、あくまで医学的には問題は無い……と言う意味か?」

「そこの医者が幽霊の面倒を診れるって言うのであればな」

強田の言う通り、心霊現象中心の話をされては、医師も口を挟みにくい。

 

検査が終わって委員会に戻った強田は、抜き打ち健康診断を受けてる間の彼らのその後が気になっていた。

「例の怨人争奪戦に関わった連中、あれからどうなったか聴かせてくれないか?」

ライラは、迷いつつも質問に質問で返した。

「……何所から聴きたい?」

強田が母島決戦で一番気になっていた、怨人製作用祭壇を使って姉を復活させようとした青年の事。

「彼なら出頭したよ。今は留置所にいる」

強田が強めに問い質す。

「つまり、まだ生きているって事だな!?」

ライラは、その言葉の意味が解らない程の馬鹿ではない。

「気になるのか?あの青年が、どうして怨人の存在を知っていたのかを」

「気になると言うより、アイツを騙した連中が許せないの方が強いな。ああいうアウトな奴は『騙された方が悪い』って開き直るのが常だけどよ、流石にアレはやり過ぎだぜ」

「なら、急がせないとな」

強田は嫌な予感がした。

「まさか!?アイツを護衛してないって言うんじゃないだろうな!?」

それに対し、ライラは無駄な焦りをさせてしまった事を詫びた。

「あ、すまない。勘違いさせてしまったな。私が言ったのは、母島にある地下祭壇の解体工事の事だ。二度と怨人を生み出さない様にな」

「その事……アイツには話したのか?」

「その必要は……もう無さそうだ」

「そうか……」

「それに、お前は例の青年を護衛しろと言ったな?」

強田が少しだけ焦る。

「そこだよ。俺が一番気になってるの」

「それなら、松本が既に動いている」

 

例の青年と面会した松本は、元後輩達にある人物の似顔絵を描かせたのだが、

「ちっ!まるでガキだな」

松本もまた、テレパシーの応用で例の青年の過去を覗き視て、中国風の衣装を着た8歳くらいの少年に辿り着いたのだ。

「一応、母島に不法侵入した容疑者にその似顔絵を見せてやれ。ま、一致したからと言って、それだけだと実行犯しかやらせて貰えない小物しか捕まらんがな」

「ではでは、松本先輩はあの容疑者の背後に大きな黒幕の存在を感じると?」

松本が折檻する様に言い放つ。

「当たり前だろ。こんなガキが1人であんな小難しい事に辿り着けると思ってんのか?」

とそこへ、瞬間移動した強田が似顔絵を観ながら言い放つ。

「ま、どっちにしろ、このガキを捕まえない事には始まらないな」

それに引き換え、強田の瞬間移動を見た周囲の刑事達が一斉に驚いた。

「うわっ!何だ急に!?」

そんな情けない元後輩達を観て頭を抱える松本。

「そのくらいで驚いてどうする……凶悪犯を逮捕するのが俺達の仕事だろ?」

「ですが!何の前触れも無く急に―――」

松本は、元後輩の見苦しい言い訳を無視した。

「馬鹿言え。指名手配犯が堂々と街中を闊歩するかよ?」

そこへ、例の青年に似顔絵を見せに行った刑事が戻って来た。

「やはり容疑者はこの子供と面識があったようです!」

強田と松本は、改めて母島にある地下祭壇を悪用しようとした黒幕への怒りを募らせた。

だが、強田が例の青年と面会する事は無かった。

強田に注入された悪霊(つまり例の青年の姉)に止められたからだ。理由はどうあれ、強田が例の青年の姉の復活を妨害した事には変わりないのだから……

 

強田と松本が徒歩でライラの許へ戻ろうとしていた。

「で、そう言うお前は、母島での戦いに変な手出しをした凶悪犯に逢って何がしたい?」

強田が少し悩んだ後、こう切り返した。

「やっぱ……そっから先は騙された奴の仕事かな?恨みの量が違う」

「……そうか」

それからしばらくして、素通りしかけた交番で1枚の張り紙を発見した。

「マジかよ!?」

強田が慌ててその張り紙に駆け寄る。

それは、叩務の指名手配書であった。

「あのアウト野郎!まだ捕まってねぇのかよ!?」

そんな強田を観ながら過去を振り返る様に話す松本。

「俺もよ、巨大怪獣がミサイルや戦車を食べて成長するって設定には半信半疑だったんだ。あんなの喰らって大怪我しねぇ動物なんて、漫画かテレビの中にしかいないとばかり思っていたからな」

それに対し、強田は、魔法少女に成る前から巨大怪獣と通常兵器との関係に何の疑問も浮かばなかった。

「そうかねぇ?俺は理に適ってると思ってるがね」

「どう言うこった?」

「考えてもみなよ。あいつらは襲う側。つまり、侵略する側だ」

「……確かにな」

「て事は、悪く言えば攻撃されたり悪口を言われたりしても、なんの文句も言えねぇ立場って事だろ?」

それを聞いた松本がハッとする。

「だからこそ、巨大怪獣にはミサイルを食べて成長するって設定が必要だった!お前はそう言いたいのか!?」

強田が静かだが力強く答える。

「少なくとも……襲われる側の攻撃への備えは、ある程度考えてる筈だろ?」

改めて叩務の指名手配書を視て、

「だとすると、あのアウト野郎がまだ捕まっていない事実に急に納得が出来たな。恐らく、あの醜い頭をしたクソエイリアン共があのアウト野郎の逃走に関わってる筈だぜ?」

そう言われた松本は、この前の母島決戦に無許可参戦して逮捕された艦長のあの言葉を思い出した。

「利用価値が膨大過ぎるかませ犬だったのだよ我々は」

段々空恐ろしくなってきた松本。

「野放しにして良いのか!?その様な危険人物!」

その質問を聞いた強田が怒鳴り散らす。

「良い訳ねぇだろ!あんな未来を創った糞アウト野郎をよ!」

一同の驚きを察した強田が急に冷静になった。

「あ!?……すまねぇ。俺の中にいる連中が、あのアウト野郎に敏感に反応しやがってよ」

そう言われて首を傾げる松本。

「……その、前に教えられた怨人の作り方に関する事か?」

強田が静かに頷く。

「……ああ……どいつもこいつも、あの叩務とか言うアウト野郎の事を憎んでる。アイツさえいなければとさえ思っている」

妙な恐怖にかられる松本。

「お前、本当に外に出て良いのか?」

 

Risquemaximumは、ウサギとチンパンジーを同時に兼ね備える巨大怪獣とカエルとカマキリを同時に兼ね備える巨大怪獣を撃破した時と全く同じミスを、先日の母島決戦でも犯していた。

ミンミンゼミとテッポウエビを同時に兼ね備える巨人の死んだフリを見抜けなかったのだ。

そして、熱が冷めたと判断したミンミンゼミとテッポウエビを同時に兼ね備える巨人が、母島に隠された怨人製作用祭壇の破壊任務を再開させようと海面から飛び出した。

だが、母島に向けて両鋏を前に突き出したミンミンゼミとテッポウエビを同時に兼ね備える巨人の背後を何かが襲った。

「我々が怨人の力を手に入れるのがそんなに怖いか?」

4人の魔法少女がミンミンゼミとテッポウエビを同時に兼ね備える巨人の背後を見下ろした。

その内の1人が無言でビリヤードの様な構えをし、ビリヤードのキューの様な物から光弾を発射した。

慌てて振り返るミンミンゼミとテッポウエビを同時に兼ね備える巨人であったが、既に反撃のチャンスを失っていた。

「さあ、解体ショーへようこそ」

4人の魔法少女の連続攻撃に耐え切れなくなったミンミンゼミとテッポウエビを同時に兼ね備える巨人は、無様に死体を晒す事になってしまった。そう、ミンミンゼミとテッポウエビを同時に兼ね備える巨人は、今度こそ本当に死んだのだ。

その様子を、あの中国風の衣装を着た8歳くらいの少年が船の上から観ていた。

「少し来るのが遅かったかな?つまり、今回は僕達の負け……と言う事で」

 

「ん?これは……」

一方、松本が元後輩達に描かせた似顔絵を観た署長は、ある事を思い出して慌てふためいた。

「……大変だ!

この警察署長の「大変だ!」の真の意味を強田が知るのは……まだ少し先の様である。



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第12話:魔法少女の残業

pixiv版→https://www.pixiv.net/novel/series/7675147

ハーメルン版→https://syosetu.org/novel/266019/

小説家になろう版→https://ncode.syosetu.com/n5419hd/


本日、デンキウナギとヒョウアザラシを同時に兼ね備える巨大怪獣が死亡した。

白鳥の様なエネルギー翼を羽ばたかせながら舞い降りる強田の神々しさと強さに、他の魔法少女達がポカーンとしていた。

「正に鎧袖一触。何もさせないとは正にこの事ね?」

ただ、今回は巨大怪獣の斃し方に問題があった。

「でも……これだけ残っちゃ、間違いなく残業ね」

翔太の言葉に、あからさまに嫌そうな顔をする魔法少女達。

「えー!?強田ちゃん―――」

「ちゃん!?」

その途端、強田が怒る!

「俺は男でヤンキーだぞ!せめておっさんか野郎で呼べ!」

魔法少女達にとってはどうでも良い事であり、見た目的にもおっさんやジジイで呼ぶのは気が引ける。

が、ヤンキー漫画に登場する『強過ぎる糞外道』に憧れる男を自負する強田にとってはどうでもよくない事である。

でも、翔太の“残業”の言葉に嫌な予感がしている魔法少女達にとっては、やはりどうでも良いこだわりである。

「そんな事より強田ちゃん、さっさとアレを完全に消しちゃってよぉー」

物凄く悔しいが何を言っても無駄だと悟った強田は、取り敢えず何を嫌がってるのかを訊ねた。

「俺達、これから残業らしいが、具体的に何をすれば良いんだ?」

「強田ちゃんがアレをさっさと完全消滅させれば良いだけだよぉー」

段々腹が立って来た強田。

「いい加減にしろよお前ら……それに、このまま残して解体してやれば―――」

翔太が首を横に振りながら悲しげに言う。

「残業を長引かせたくなければ、そう言う考えは捨てた方が良いよ」

「は?」

 

翔太の言う“残業”とは、魔法少女管理委員会の隠語の1つである。

最初の内は確かに巨大怪獣の遺体を解剖して今後の対策を練ろうと考えていた事もあったが、巨大怪獣の身体の部位を高値で売る者が後を絶たず、不要な人物の戦闘エリア侵入を予防すると言う理由で、国連は渋々巨大怪獣の調査解剖を諦めた。

それ以降、魔法少女は巨大怪獣が完全消滅するまで巨大怪獣を監視する事を余儀なくされてしまったのである。

 

「つまり、悪質転売ヤー対策って訳ね?」

翔太から残業の意味を聞かされた強田は、急に他の魔法少女達とは真逆の行動をしている魔法少女達の事が気になった。

「それじゃあ、あそこで何かを運び出そうとしているのも、駄目って事か?」

そこにいたのは、巨大怪獣の体内から巨大ダンゴムシの様な物を取り出し、それを円柱型の瓶の中に入れる4人の少女達であった。

「うわぁー!言ってる傍から早速かい!?」

魔法少女達がその4人を問い詰めに駆け寄る。

「ちょっとちょっと!此処は関係者以外立ち入り禁止よ!」

「ほらほら!要救助者はさっさと避難所に戻って!」

が、4人は言う事を聞きそうにない。

「生憎……こっちも仕事なんで」

このままだと余計な仕事が増えそうなのでイライラしているせいか、魔法少女達の口調がどんどん乱暴になっていく。

「こっちは無関係者を危険エリアから追い出すのが仕事なの!」

「と言うか、余計な仕事を増やさないでくれる」

それに対し、4人組のリーダー格の女性が嫌味な事を言う。

「働いた?ほとんど」

突然指を指されて注目を一身に受けてしまう強田。

「あの方が1人で黙らせた様なモノじゃなくて?」

「……俺?」

呼び出しを食らった気がしたので、渋々口論の場に混ざろうとした強田であったが、

「ぐっ!」

突然力が抜ける感覚に襲われてしまい、翼を消していつもの戦闘服に戻ってしまった強田。

「やはり……地球の敵以外との戦いでは……本気を出せないのか……」

「強田!?」

突然の強田の不調に、魔法少女達が強田の許に集まる中、4人組のリーダー格が何故か困惑した。

「怨人の力、完全に使いこなしたのではないのか!?」

その言葉に、強田が姉を復活させようとした青年の事を思い出す。

「貴様ぁ……あの8歳のクソガキの仲間か!?」

4人組のリーダー格が他のメンバーに退却を命じた。

「これは……暢気に解体ショーをしてる場合じゃなさそうね?一旦、あの方の許へ戻る!」

「え!?まだ材料がこんなに―――」

「いいから帰るぞ!」

「はぁーい」

不満そうな返事をしながら瞬間移動で逃走する4人組。

「あいつらも魔法少女か……道理であいつらが本気を出さない筈だ」

「強田!?」

「強田ちゃん!?」

最早、ちゃん付けに対するツッコミすら出来ない強田であった。

 

病院のベットに寝かされた強田は、早速、ライラの尋問を受けてしまう。

「何が遭った?……やはり怨人に変えられた影響か?」

強田はただ一言、

「ああ」

強田が体を起こしながら続けた。

「あいつらに羽交い絞めにされて……()けなかった」

「それは、お前の体内に埋め込まれた死霊の仕業か?」

強田が悲し気に首を振る。

「いや……あのクソアマ共が俺の予想通りの奴らなら、あの男の姉が停める筈が無い。寧ろ、俺の背中を押していたかもしれない」

ライラは首を傾げた。

「じゃあ、誰が止めた?」

強田が悲し気に答えた。

「生霊の方さ」

ますます理解に苦しむライラ。

「何故だ?生霊の方はお前と共に戦うと―――」

「いや!それ故だ。未来からやって来た生霊は、これ以上魔法少女が減る事を恐れてる。だから、例えそれが悪党であっても手を出す勇気が無いんだ」

ライラは……恐る恐るながら意を決して訊ねた。

「その……未来で何が遭った?」

強田が悲し気に答えた。

「……俺達は本来、あの母島で叩務にボロ負けする筈だった」

「兵器推進善業が流したあの動画!それだけの威力が有ったのか……」

「恐らくあいつらは……それ以来、俺達の様な存在の力を借りられなくなっていったんだろう?あいつらの髪……あのクソエイリアンと同じくらい酷かったぜ?」

驚きを隠せないライラ。

「……なんて事だ!」

「だからあいつらは生霊となってここに来た。俺達の運命を変える為に」

ライラはもう何も言えなかった。

 

しばらくして、強田が強引に話題を変えた。

「ところで、例のクソアマ共は何者なんだ!?時期が短いから生意気な事は言えねぇけどよ、あいつらを見た覚えがねぇ!」

その言葉に、ライラの視線が厳しくなった。

「お前があの者達を見た事が無いのは当たり前だ。彼らもまた、違法に造られた魔法少女なのだからな」

身構える強田。

「確かにあの隕石の大半は、国連と我々管理委員会の管理下にある。だが、我々の監視の目をくぐり抜けて例の隕石を手に入れている者も、ほんの僅かながらいるのも……恥ずかしながら事実だ」

「つまり、盗んだ隕石の力で魔法少女に成った糞野郎が、あのデカブツに群がる転売ヤーと手を組んだって訳か!?」

ベットから降りようとする強田を見て表情が曇るライラ。

「どこへ行く!?」

「決まってる。あのクソアマ共の所だ。どうせ、俺達がどこで何をしているのか全部把握してるんだろ?」

強田の皮肉にあえて否定はせず、ライラは質問で返した。

「行ってどうする?その体でか?」

強田は少し悩んだが、

「……確かに未来からやって来た連中は嫌がるだろうが……」

強田の脳裏に、怨人製作用祭壇を使って姉を復活させようとした青年の顔が浮かぶ。

「俺的には……もうアウトなんだよ」

 

既に4人組の転送先を特定していた管理委員会は、対テロ用特殊部隊と共に4人組のアジトと思われる中国風の豪邸を襲撃していた。

「随分派手にやってるな!?」

遅れてやって来た強田に対し、松本がバツが悪そうに答えた。

「来たか!例の子供の正体が解った!」

「はぁ!?もう直ぐ黒幕とのタイマンだろ!?なのになんで今頃あのガキの事を話すんだ!?」

それに対し、松本が本当にバツが悪そうだ。

「それなんだが……色々と……遭って……な……」

少しイライラする強田。

「何だ歯切れの悪い!?いつもの傲慢さは何処に行った!?」

その時、夏芽とエレクトロンの声が響いた。

「いたぞ!祭高明だ!」

直感でそいつが黒幕だと判断した強田は、夏芽達の許へ急いだ。

「あの伝言役のガキの事は後だ!転売ヤー野郎をとっちめるぞ!」

バツが悪そうな松本が完全に出遅れた。

「いや待て!待てと言うに!」

 

夏芽達の許に到着した強田が叫んだ。

「出てこい!転売ヤー野郎!」

祭高明が、例の4人を従えながら階段をゆっくりと降りたが、その姿に対して驚き半分疑念半分と言った感じの強田。

「テメェは!?……母島で出会った盗人野郎を騙したクソガキ!?」

強田が誰と間違えているのか察した祭が恥ずかしそうに頬をかいた。

「ただの伝言役の小物に用はねぇ!俺が探しているのは、母島で余計な真似をした転売ヤー野郎だ!」

祭が恥ずかしそうに笑った。

「ははは。やはりそっちと勘違いしましたか……本当はそろそろ老後の事を考えなきゃいけない歳なんですが」

「そんな嘘に誰が騙され―――」

強田は、嘘を見破ろうと祭の過去をテレパシーで盗み視たが、

「……マジか……貴様が母島で余計な真似をした転売ヤーだったのか……」

それに対し、祭は冷静に答えた。

「ええ……私が祭高明です」

強田はやはり驚きを隠せなかった。

祭の姿は、どう診ても8歳くらいの男の子にしか見えないからだ。

だが、目の前の子供が姉を蘇らせようとした青年を騙した連中の黒幕だと解った時点で、もはや外見年齢と実際年齢の開きが大き過ぎる事などどうでも良かった。

「ならば直球で行くぜアウト野郎……貴様は何を企んでる!」

すると、祭が1枚の紙袋を取り出した。病院で貰える薬入れの様なモノだ。

「彼らの骨……骨粗しょう症に効果てきめんでね」

「それがどうした」

「だから、粉末にすると1g10円で売れるんですよ」

その途端、管理委員会が送り込ん魔法少女達と祭配下の魔法少女達が、ほぼ同時に臨戦態勢をとった。

「結局は金かい!……卑劣な転売ヤーらしい考えだぜ!」

 

 

その時、ガラガラヘビとイッカクを同時に兼ね備える巨大怪獣が祭の豪邸を強襲した。

「こんな時にかよ!?」

一瞬、祭の顔を見た強田が逆に納得した。

「いや……売り飛ばされた仲間の仇討ちか?あのデカブツ、案外可愛い所があるじゃねぇか?」

その間、巨大怪獣が円柱型の瓶を次々と破壊し、それを見た祭の配下の魔法少女達が慌てふためいた。

「あー!せっかく集めたのにぃー!」

だが、巨大怪獣はお構いなしに円柱型の瓶を次々と破壊する。

「いや……前言撤回!あのデカブツの目的は、ただの口封じかよ!?」

そんな中、祭が配下のリーダー格と何かを話していた。

「ですが、それでは損失と利益のバランスが……」

祭に迷いが無いと判断したリーダー格が、意を決してテレパシーで指示を送る。

「さあ……解体ショーへようこそ」

すると、1人目が斧を投げつけて角をへし折った。

「へへーん♪どうだ!?」

2人目は、ただ黙ってビリヤードの様な構えで光弾を次々と発射した。

3人目は、ゴルフクラブを五節棍に変形させて巨大怪獣を何度も殴打する。

「元譲姉さーん、今だよー」

元譲と呼ばれたリーダー格が、金剛杖から銃弾をマシンガンの様に発射し、その途端、巨大怪獣がもがき苦しんで泡を吹いて倒れた。

4人組の連携攻撃を観て背筋が寒くなる松本。

「強い……いずれ俺はこいつらを逮捕しなきゃいけないと言うのにか!?」

そして、4人組は祭を巨大怪獣の上に乗せると、巨大怪獣に大量の念を送った。

すると、

「巨大怪獣、超能力許容限界値を突破します!」

祭ごと骨を全て長距離転送された巨大怪獣が、フニャフニャに成りながら死亡した。

その状況に呆れる松本。

「体を一部を別の場所に転送したのか?そう言う戦い方もアリ……なのか?」

だが、強田はそれどころじゃなかった。

「クソ!待ちやがれ!クソ転売ヤーアウト野郎!」

 

結局、祭を取り逃がす事になってしまった強田が心底悔しがる。

「クソ!」

そして、ライラと連絡を取って祭達を捜索させようとするが……

「その前に……残業です」

一同が、祭達に敗れフニャフニャになった巨大怪獣の遺体を見た。

「あ」

「そうだったわねぇ」

祭は、管理委員会側の魔法少女達が巨大怪獣の遺体を護衛しなければならなくなる事まで見越し、その上で骨全てだけを別の豪邸に転送させたのだ。

「クソォー!早く消えてくれデカブツ!速くぅー!」

「と言うか、他の盗人が嗅ぎ付けて来る前に……」

他の魔法少女達が溜息を吐き、完全に祭にしてやられた強田の怒号がとんだ。

があぁーーーーー!



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資料:祭高明について

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ハーメルン版→https://syosetu.org/novel/266019/

小説家になろう版→https://ncode.syosetu.com/n5419hd/



祭高明

 

性別:男性

職業:薬剤師→中華マフィア

 

怪獣の死骸を解体し、臓器を万能薬として売りさばく闇商人のボス。非公認魔法少女を重宝しており、兵器推進善業の事を『時代遅れの負け犬』と見下す。

一見すると8歳の男の子に見えるが、当人は『そろそろ老後の事を考えなきゃいけない』歳らしい。

人物像のモチーフは、逃げ上手の若君の北条時行。

 

元譲

 

性別:女性

職業:中華マフィア(非公認魔法少女)

身長:160㎝

体重:50㎏

体型:89/61/85

 

祭高明と共に巨大怪獣の死体の窃盗を行っている非公認魔法少女。祭高明の用心棒も務め、マシンガンや刀の仕込まれた金剛杖を武器にする。

人物像のモチーフは、快傑ズバットの竜山丸。ペンネームのモチーフは三国志の夏侯惇。

 

子廉

 

性別:女性

職業:中華マフィア(非公認魔法少女)

身長:156㎝

体重:48㎏

体型:85/57/82

 

祭高明と共に巨大怪獣の死体の窃盗を行っている非公認魔法少女。自分の感情を一切出さず、まるで正確なマシンのように確実な仕事をする女性。

キューの先端に仕込んだ太い針状の武器をビリヤードの要領で使い、ビリヤードの要領で複数の光弾を操る。

人物像のモチーフは、快傑ズバットの必殺ハスラー。ペンネームのモチーフは三国志の曹洪。

 

仲康

 

性別:女性

職業:中華マフィア(非公認魔法少女)

身長:165㎝

体重:55㎏

体型:96/63/88

 

祭高明と共に巨大怪獣の死体の窃盗を行っている非公認魔法少女。男勝りで我儘で感情豊か。ただ、勝負に負けても引き下がらないので、祭も彼女には手を焼いていた。

怪力の持ち主で、ゴルフクラブを五節棍に変形させて戦う。

人物像のモチーフは、快傑ズバットの黒のゴルファー左丹。ペンネームのモチーフは三国志の許褚。

 

文若

 

性別:女性

職業:中華マフィア(非公認魔法少女)

身長:145㎝

体重:50㎏

体型:87/53/76

 

祭高明と共に巨大怪獣の死体の窃盗を行っている非公認魔法少女。4人の中ではかなり幼い性格をしており、力を信奉する単純な価値観を持っている。

斧投げの名人で、槍も強力な武器。

人物像のモチーフは、快傑ズバットのレッドボワ。ペンネームのモチーフは三国志の荀彧。

 

●怨人

江戸に左遷された徳川家が怪獣対策として開発しようとした魔法少女の代用品。被験者に生霊と悪霊を注入する事で魔法少女に匹敵する超能力者を生み出そうとした。小笠原諸島の母島列島で実験が行われていた。

宿主や生霊の記憶や性格を色濃く残しているものの、人間的知性は低下して宿主や生霊の日課や行動を繰り返すだけの凶暴な肉食動物と化してしまった。また、強い光を浴びると悶絶してしまうのが弱点。

その為、実験は失敗したと視なされ、実験の成果や資料は母島列島の奥地に封印された。

モデルは『SIREN2』の闇人零式。

 

●怪獣

ダメージヘアー星人が平安時代から江戸時代末期まで日本に送り込んでいた生物兵器。

当時は、ダメージヘアー星人の巨大怪獣製造技術も日本の通常兵器製造技術も未熟だったため、美宝石無しでも発動可能な超能力のみで撃破可能。

明治に入ると、日本が他国との戦争に明け暮れる様になったので送り込まれなくなったが……

 

●謎の夢

兵器推進善業の一員である叩務が、母島列島での怨人争奪戦の参加に前後して観た夢。無惨な廃墟とダメージヘアー星人の様に無様な頭髪の人々が特徴。

その正体は未来からやって来た生霊で、叩務の暴走を止める事で母島列島での怨人争奪戦の結果を逆転させ、自分達の過去を改善させようと目論んでいた。

 

●エンジェルモード

魔法少女と怨人を同時に兼ね備える男に成った強田護の強化フォーム。

白を基調としたドレスと白鳥の翼に似たエネルギー翼が特徴で、時間操作などの一般的な魔法少女では不可能な超能力の発現も可能。

 

●残業

魔法少女管理委員会で使われている隠語の1つ。

巨大怪獣の死体の一部が高額で売れる可能性があるらしいので、それらを狙う窃盗犯を戦闘エリアから追放している。

 

●祭一味

怪獣の死骸を解体し、臓器を万能薬として売りさばく闇商人グループ。

魔法少女管理委員会の管理外の魔法少女を複数抱えており、自分達で巨大怪獣を討伐する事もあるので、国連の討伐優先度は低い。

モデルは『パシフィック・リム』のハンニバル・チャウと『Weiß kreuz』のシュライエント。



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第13話:元男性魔法少女のい〇り

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謎の隕石……

 

通常兵器を餌に成長・強化する巨大怪獣(叩務や兵器推進善業の為にもう1度、通常兵器を餌に成長・強化する巨大怪獣)と戦う地球にとっては、正に切り札と言える存在である。

巨大怪獣の接近を全く許さず、巨大怪獣の製作者であるダメージヘアー星人を死に至らしめ、適性者を多彩で強大な超能力を有する魔法少女に変える。

正に、巨大怪獣と戦う地球にとっては至れり尽くせりであった。

だが、隕石には性差と言う概念が無く、老若男女関係無く、見境無しに適性者を魔法少女に変えてしまう。しかも、例え年老いて醜くなっていようが、例え厳つくて恐ろしいであろうが、例え致命的に容姿不格好であろうが、例え男であっても魔法少女に成った途端に可愛い少女に変えられてしまい、ふっくらつやつやした乳房を手に入れてしまうのだ。

そして……俗に言う『ロリ巨乳美少女』となった元男性魔法少女は、今日も以前と以後の乖離に悩まされるのだ。

 

今日も、強田と松本が日課の搾乳に打ちのめされていた。

「アウトだ……今の俺は、完全にアウトだ……」

「逮捕したい……あの忌まわしい詐欺石を逮捕してしまいたい……」

「そんな大げさな」

翔太が諦めの悪い強田と松本に呆れるが、別の魔法少女が翔太を窘める。

「この者達、かつては元男性だったんだろ?なら―――」

「元じゃねぇ!これからも一生男だ!死んだ後も男のままだ!」

強田の怒号に驚きながらも、翔太を窘めた魔法少女は強田がどんな状況なのかを理解した。

「つまり、君はまだ切ってないって事だね?」

切るがどう言う意味か理解した強田が再び怒号を飛ばす。

「誰が切るか!俺は男だ!永遠に男だ!」

それに対し、魔法少女は納得したかの様に頷いた。

「解るよその気持ち。俺も、受け入れて切り落とす勇気を振り絞るのに、どれだけの月日が掛かった事か」

それを聞いた強田が急に冷静になる。

「何!?それじゃあ!?」

魔法少女は改めて自己紹介した。

「俺は神楽榊。元陸上自衛隊男性隊員で二等陸佐だ」

「自衛隊?そんなお偉いさんが、何でこんな所に?」

「勿論、巨大怪獣討伐の為さ」

それを聞いた強田は、自分が魔法少女に成った理由を思い出しながら溜息を吐いた。

「真面目だねぇ。俺なんか、糞検事共に散々騙されてここに来ちまったって言うのによ」

神楽は理解に苦しんだ。

「騙された?こういうのって、普通は志願制じゃなかったのか?」

強田が怒り気味に言う。

「全然違います。全然違います」

「2回も言うか?」

だが、松本もそれに続く。

「強要罪適用だ。刑法第223条。生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者は、3年以下の懲役に処する。つまり、逮捕だ」

神楽は、強田と松本がどれだけ今の自分を受け入れていないのかを、自分なりに理解した。

「なるほどな……まさかこんな姿になるとはって感じだったのか……」

そこへ、ライラがやって来て、

「神楽か?戻ってたのか?」

自衛隊時代の名残なのか、ライラに向かって敬礼してしまう神楽。

「は!神楽榊二等陸佐!中東の兵器推進善業に関する調査から帰還いたしました!」

急に硬くなる神楽に呆れるライラ。

「固いよ君は……魔法少女は軍人ではないのだぞ」

ライラの指摘を受け、つい自衛隊時代の名残が出てしまった事に気付いて態度を直す神楽。

「あ。すまん。つい癖で」

「骨の髄まで染込んでるって感じだな。直すのに、あと数年は掛かると言った感じか?」

一方、『兵器推進善業』と言う言葉を聞いてしまったので、注入された未来からやって来た生霊達が騒ぎ出してしまい、必死に胸を押さえる強田。

(く!静まれ!落ち着け!怒りと悔しさを捨てろ!)

急に胸を押さえる強田の姿に、神楽が不安に感じた。

「おい!どうしたんだ君!?何が遭ったんだ!?」

それを見ていたライラが頭を抱えた。

「話すと長くなるよ……」

 

神楽の報告を聴いて残念そうにするライラ。

「……そうか。やはり向こうの怪獣は、日本に出現する怪獣より格段に強いのか?」

それに対し、神楽はやや怒った様に言う。

「ええ!向こうのは、必ずと言って良い程『兵器推進善業』と1戦交えてから来ますからね。空腹の奴と戦うか満腹の奴と戦うかの違いですよ!」

それを聴いたライラが強田の言葉を思い出し、自分の背筋を冷たくした。

「未来からやって来た生霊は、これ以上魔法少女が減る事を恐れてる。だから、例えそれが悪党であっても手を出す勇気が無いんだ」

ライラの心の底から少しずつ怒りが湧いて来た。

「人間はそんなに馬鹿か……強大な兵器がどれだけ不要で役立たずか気付かない程、我々人間は馬鹿だと言うのかァーーーーー!」

ライラが怒りに任せて目の前のテーブルを蹴り上げた。

「この、戦争オタク共がぁーーーーー!」

「ひいぃ!?」

隣にいた役員が慌ててライラから離れる中、神楽は冷静かつ冷酷に質問に答えた。

「その通りです!……が、今の我々が絞り出せる限界です。特に、軍事政権や独裁者が横行し過ぎて民主政治に不慣れな国ほど、完全に兵器推進善業の言いなりですよ」

が、神楽の返答はどんどん上層部への愚痴に替わっていく。

「まったく……そこら辺のボランティアや良心的な店舗の方が、よっぽど政治家らしい事をしてますよ。あれでは、反政府デモをしろと命令されているようなものだ」

「じゃあ何か!?その無能な政治家どもを全て皆殺しにしろと言うのか!?」

怒り狂って怒鳴り散らすライラの額に1枚の札を貼る神楽。

「頂上にいて全てを見渡せる者ほど、クールな思考が必要だ」

神楽に貼られた札のお陰で冷静さを取り戻したライラが再び着席する。

「すまない。取り乱した」

「取り乱したってレベルじゃないでしょがー」

ライラの隣にいた役員の冗談は無視された。

それに、神楽の報告はまだまだ続く。

「それと、祭高明と1戦交えたそうですね?」

「ああ。久々に残業させられたって愚痴ってたよ」

「その祭高明の逮捕……またまた後回しにされてしまいそうです」

それを聴いて頭を抱えるライラ。

「では何か?奴らの怪獣の死体の販売を見て見ぬ振りしろと?」

「実際、彼らも怪獣達の敵です。ま、怪獣を討伐する理由が理由ですから、流石に奴らをダメージヘアー星人の敵だと断定し難いですが」

兵器推進善業の余計な悪行に頭を痛める国連の心情を察したライラが呆れた。

「怪獣を討伐してくれるのであれば、なりふり構わずと言う訳か?数字は正直だな」

そして、神楽が真面目な顔できりだす。

「で、ここから本題なのですが―――」

ライラの隣にいた役員が驚いた。

「今までの不都合な報告が本題じゃないと言うのか!?」

でも、神楽はその“本題”を続けた。

「日本支部で余ってる魔法少女を、東南アジア支部や中東支部、それにモンゴル支部に譲ってくれませんか?期限付きでも構いませんので」

それを聴いて頭を抱えるライラ。

「……兵器推進善業の暴挙や悪行に晒された怪獣は、そんなに強いのか?」

神楽が悲し気に答えた。

「それもありますが……兵器推進善業が魔法少女の数を制限していますから、戦況バランスがすこぶる悪いのです」

ライラはもう何も言えなかった……

 

ライラへの報告と懇願を終えた神楽は、深夜である事を良い事に、全裸になって海に飛び込んだ。

その姿は、まるで美しい人魚の誘惑の様で幻想的であった。

「本当に、魔法少女は俺の男根(あいぼう)を休ませないな」

神楽が振り返ると、強田が突っ立っていた。

「その魔法少女様を、お前は東南アジアや中東に飛ばしたいんだって?」

それに対し、神楽は皮肉で答える。

「盗み聴きとは感心しないな。それとも、ライラの緊急連絡を聞いて転勤を恐れたかい?」

強田が気楽な感じで答えた。

「まさか。寧ろ……望むところだよ」

が、神楽が怒り気味な真顔で言い放つ。

「調子に乗るなよ新人。通常兵器を散々大量に浴びた巨大怪獣を嘗めるなよ。向こうの戦いを経験したら、巨大怪獣に向かって通常兵器を一切使用しないエリアの戦闘が『お遊び』だと錯覚してしまう程にな」

それでも、強田は気楽に答えた。

「だから往くんだよ。そう言うアウト共をこれ以上のさばらせない様に。それに、俺の中にいる連中も兵器推進善業と戦いたがってる」

神楽が不安そうに訊ねる。

「怨人や未来からやって来た生霊の事、軽くは聞いていたが……本当に大丈夫なのか?」

強田が気楽な感じで答えた。

「こいつらがあまり怒ってない内は大丈夫さ。ま、予想不可能な不意打ち的な縛りゲーみたいなもんですわ」

それを聴いた神楽は、怒り気味にそっぽを向こうとするが、

「やはりお前は連れていけない。怪獣討伐をゲーム感覚―――」

「なら……試して視るかい!」

強田が白いドレスを上からまとったような服装になり、背中から白鳥の翼を思わせるオーラを発生させた。

「なっ……」

神楽の背筋が凍った。

それは決して海面温度が低いからではない。強田が母島決戦で新たに得た力に畏怖しているからだ。

(俺が後ろに下がった?自衛隊の心得を散々叩き込まれた上に、兵器推進善業の暴挙を吸収して強化された巨大怪獣と何度も戦わされたこの俺が!?)

それに反し、神楽の恐怖心を察した強田が既に普段の姿に戻っていた。

「って、俺達が潰し合っても誰も得しねぇよ。特に、俺の中にいる連中はな」

力の差を思い知ったからか、神楽が急に謙虚になった。

「あ……ああ。そう……だな」

すると、強田も全裸になって海に飛び込んだ。

「あ!?おい!?」

海上に頭を出した強田が微笑んだ。

「それと。こんな時間にこんな所でこの姿……本当はお前もアレに嫌気を感じているんじゃねぇのか?」

図星だった。

神楽は、表面上は冷静で機械的な先輩魔法少女を気取っているが、本心は未だに女に成りきれてない部分もあるのだ。

でも、それを悟られる訳にはいかない―――

「なんの―――な!?念動力で胸を揉むな!」

「無理するなって。本当は嫌だっただろ?男なのに牛の様に乳を搾られるの」

「ぐっ!貴様!?まだ諦めて―――」

「諦めねぇよ。何せ俺は、我が道を往く強過ぎる糞外道ヤンキーだからな♪」

何かに気付いた強田が目で合図する。

「それに」

それは、何かから逃げる様に現れた松本であった。

「エレクトロンめぇ。猥褻罪だ……逮捕してやる……公然とわいせつな行為をした者は、六月以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処するだぞぉーーーーー!?」

「あのおっさん、また夏芽に扱かれたな?おーい!」

強田と神楽に気付いた松本であったが、全裸で海面に浮いている姿を観て嫌そうな顔をする。

「……お前らも逮捕されたいのか?六月以下の懲役だぞ?」

だが、強田は服を着るどころか、挑発的にボソッと呟いた。

「乳搾り」

「だっ!?」

慌てて両手で胸を隠す松本。

「やはり貴様は逮捕だ!逮捕だ―――」

「それじゃあ何かい?いつも通りに牛の様に乳を搾られろって言うのかい?」

「ぐっ!」

「がっ!」

強田に内面を暴かれて困惑する松本と神楽。

そして……観念したかの様に怒りを露にする松本。

「俺は元々、お前らのインチキを見抜きに来たんだ!それなのに……何で女みたいな恰好で女々しい振る舞いを強要されて!」

そこで、強田が松本を誘う。

「なら、お前も服を脱いでこっちに来なよー!そして、その牛の様な胸に隠してるどす黒い物を全て吐き出せよー!」

強田の言葉に、意を決して海に飛び込む松本。

そして、3人が三者三様に文句を言いながら乳房に残った母乳を念動力で絞り出した。

「どいつもこいつも……俺を裏切ったり騙したりしなければな、こんな姿にならずに済んだんだよぉーーーーー!」

「あの糞詐欺石ぃーーーーー!俺の人生を滅茶苦茶にしやがってぇーーーーー!逮捕だぁーーーーー!」

「俺だってなぁ……小便の様に母乳を垂れ流す為に、代々続く神主の家系の優遇を捨ててまて自衛隊に入隊したり、怪獣討伐に志願したりした訳じゃ、ねぇんだよぉーーーーー!」

で、乳房に溜まった母乳を海中に捨てる感覚に酔いしれる3人であった。

「あっ、あーーーーー!あーーーーーんーーーーー!」

 

全てを吐き出してスッキリした3人は、楽し気に語り合いながら宿舎に戻って行った。

無論、ちゃんと服を着ている事は言うまでもない。

 

数日後、神楽の口から中東支部行きとなった魔法少女が発表された。

 

強田護

曙夏芽

エレクトロン・カプチーノ

 

この3人。

流石に松本は経験不足と言う理由で保留となってしまったが、その妥協案として、松本の精神的女性化の元凶である夏芽とエレクトロンを連れて行く事にしたのだ。

貢献欲過剰な夏芽は兎も角、これ以上の激しい戦闘に自由を奪われるのを拒むエレクトロンは激しく駄々をこねたが、やはり命令は命令。拒否権は無いのである。

「横暴だぁーーーーー!」

「エレクトロンさん……何の為に魔法少女に成ったんですか?」

「まあ……しょうがないよ。向こうの怪獣は、誰かさんのせいで強くなり過ぎだって話だし」

「言うなぁーーーーー!あーん!嫌だぁーーーーー!」

と言う訳で、早速4人は激戦区である中東に向かうのであった。

「いっやだあぁーーーーー!」

 

一方、国連の追手が厳しくなり過ぎて日本にいられなくなった叩は、どうにか兵器推進善業中東支部に逃げ込んでいた。

「くそ!どいつもこいつも、あの忌まわしい憲法第9条からの卒業を何故嫌がる」

「そっちも苦戦している様だな」

それを聴いた叩は、まだまだ厳しい戦いが続くと確信した。

「まだ……例の真実を愚民共に伝えきれてないのか?」

「ああ……あれだけ食らってまだしぶといし、あの隕石も弾丸や砲弾の中に入りたがらない。観ての通りの劣勢だよ」

叩が決意を新たに真顔で答える。

「だが、やらねばならん。兵器だけで巨大怪獣を滅ぼし、魔法少女を騙る詐欺師集団から世界を救済せねばならん。そして、世界を再び人類の成長と進化に必要不可欠な戦争で包んで平和と発展に導くのだ

が、中東支部の問題はそれだけではなかった。

「しかし、その詐欺師共の日本支部とやらが、この地に更に招かざる敵を送り込んだ様だ」

「なに!?」

叩が手渡された写真を視た。そして、怒りに震えた。

「あの糞娘ぇーーーーー。2度ならず3度までも、我らの救済の邪魔をするかぁーーーーー?」

強田の顔写真を憎しみに任せて握り潰す叩であった。



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第14話:親兵器推進善業国家入国の心得

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神楽からこれから入国する国に関する注意事項を聞かされてげんなりする強田達。

「で、何しに往くんだ?」

「何もしなくて良いのなら……このまま観光旅行ー」

「なら、別に私達だけでなくても良いじゃないですかー」

エレクトロンのお気楽さと怠慢さに呆れる強田。

とは言え、文字通り、魔法少女は今から往く国では何も出来ないのだ。

先ずは宗教上の問題。

これから往く国の国教は、復古主義的女性蔑視思想な主張が目立ち、民主主義的な価値観や女性の権利を重視する現代社会と対立する。しかも、一夫多妻や児童婚が認められている

「流石に古いだろ?戦国時代の人質かって言うの?」

また、家父長制の伝統が色濃く、そこに女性が入り込む余地はほとんど無いとの考え方がある。

「そんな事したら、意見が凝り固まって改善提案の新鮮味が無くなっちゃいますよ」

「女にしか解らない苦しみもあるしな」

当然、女性政治家の数も極端に少ない

その点だけは日本も一緒ですねぇー」

「ぐ!……返す言葉が無い(2021年10月時点での衆議院女性比率9.7%)」

しかし、今から往く国では魔法少女が参加出来ない最大の理由は、軍事政権と兵器推進善業の癒着と忖度による政策改悪に合った。

「それが、『無許可戦闘禁止法』だ」

「それって、ただ単に銃刀法が拡大誇張されているだけだろ?」

「それだけならまだ良い。だが、その申請の合否を決めているのが……」

「通常兵器だけで巨大怪獣を倒そうとしている」

兵器推進善業

神楽が真顔で頷いた。

「なるほどな。下手に魔法少女が活躍し過ぎたり、戦車やミサイルがあのデカブツに通用しない事がバレたりしたら、それこそ軍隊が非難の雨あられだからな」

「それに、欧米諸国に対抗して民主主義的な価値観を排除する為に、どうしても軍事力の強化は重大課題。魔法少女ブーム如きで躓く訳にはいかないと言うのが、これから往くエリアの言い分だ」

「正に独裁政治の汚点。いや、恥曝しだな」

強田の皮肉に呆れる神楽。

()も蓋も無い事を言ってくれるな……」

が、実際は通常兵器の猛攻を浴びる事で成長する巨大怪獣を通常兵器だけで斃す事は不可能。寧ろ、敵である筈の巨大怪獣とその背後にいるダメージヘアー星人を喜ばせるだけ

事実、最近の巨大怪獣の強大化は、この無許可戦闘禁止法による通常兵器の出しゃばりが最大の原因である。

それに、魔法少女管理委員会にとって無許可戦闘禁止法が都合悪い法律である理由はもう1つある。

「管理委員会の目が届かないとなると……」

そう。祭高明の事である。

「あいつらは図々しい犯罪者だ。もう、ルールを1つや2つを破ったって平然だよ」

「そう言えば、お前達は1度、祭高明と戦ったんだったな?」

「……ああ。そして、俺達は今から祭共の狩場に行くって事だな」

強田の皮肉に呆れる神楽。

「本当に……()も蓋も無い事を言ってくれるな……」

だが、強田の皮肉は続く。

「こうして視ると、国境ってもんがどれだけ邪魔でウザくてうっせえかが解るな」

「……()も蓋も無さ過ぎるなお前……」

 

一方、ダメージヘアー星人のネブソク少将は、反兵器推進善業国家と親兵器推進善業国家との致命的な戦果差にイライラしていた。

「相変わらす……あの忌々しい女共への対策が不十分過ぎるのぉー……」

未だに兵器推進善業の力を借りずに魔法少女を討伐する方法に辿り着けず、それどころか、母島決戦での怨人争奪戦で強田に先を越され、祭高明などと言った無許可で巨大怪獣の遺体の一部を売り飛ばす輩まで出現する体たらく。どんなに温厚な指揮官でも怒りを表したくなる散々な戦果である。

「特に……例の母島から怨人を盗み出した盗人女の妙な術は、それ以来、更に磨きが―――」

ネブソク少将が目の前のファイルを乱暴に投げ捨てた。

「ひいぃー!」

「ふざけるな!何だこの……ただぶ厚いだけで中身がスカスカの資料は!焚火の材料か!」

そこへ、ニコチン准尉が慌ててやって来た。

「大変です!」

「今度は何だ!?」

ニコチン准尉が会釈するのももどかし気に、

「例の母島から怨人を盗み出した盗人女が、ボルベス側の我々の味方の領地にぃーーーーー!」

その報告に、一同が驚愕した。

「なにいぃーーーーー!?」

ネブソク少将は嫌な予感しかしなかった。

ただでさえ魔法少女は巨大怪獣の天敵だと言うのに、強田はその中でも抜きんでた存在になりつつある、ダメージヘアー星人にとっては危険な存在であった。

兵器推進善業の一員に変装したダメージヘアー星人を2度も楽々と見抜いて抹殺し、上記どおり怨人の力を手に入れ、反兵器推進善業国家に致命傷を与える筈の動画を上回る動画を瞬時に生み出して反兵器推進善業国家を救った。正に三面八臂の如き働きでダメージヘアー星人を苦しめる魔法少女なのだ。

ダメージヘアー星人にとっては天敵中の天敵と言える化け物が、ダメージヘアー星人にとって都合が良過ぎる親兵器推進善業国家に入国しようとしているのだ。

ネブソク少将が気が気でないのも無理が無い。

「何とかしろ!」

「何とかしろ!」

「……何とかしろ!」

もはや漫才である。

「そんな事をしてる場合か!?何か手は無いのか!?」

で、出した答えは、

「ボルベス側の我々の味方の領地に入る前に、奴を倒すしかありません」

その意見を聞いて、ネブソク少将が頭を抱えた。

「それが出来れは……苦労はしない……」

 

兵器推進善業中東支部でも、もう直ぐやって来る強田対策でもちきりであった。

「奴は危険だ!このまま野放しにしたら、我々人類の成長と進化に必要な物を全て根こそぎ滅ぼすぞ!」

「その魔法少女が、もし本当に君の言う通りの存在なら、このまま入国させる訳にはいかん!」

「そうだ!我々は巨大怪獣を敗走させるところまで来たのだ!それを魔法少女などと言ういかがわしい存在に邪魔されてたまるか!」

兵器推進善業は気付いていないが、ダメージヘアー星人も巨大怪獣も地球側の習慣や習性を学習して対応を柔軟に改善しているだけなのだ。

つまり、巨大怪獣は欲張って通常兵器の餌食になる権利を得ようとして前に出て逆に不審がられるより、時間はかかるが通常兵器を少しだけ浴びて引っ込むを繰り返す事で、定期的かつ継続的に通常兵器の餌食になり続ける戦法を選び始めただけなのだ。

その結果、通常兵器だけで巨大怪獣を斃そうとする兵器推進善業の努力が報われ始めたと言う見当違いのぬか喜びしてる間、ずっと地球側にとって都合の悪い事が悪化の一途を辿り続ける、負の永久ループに突入しつつあるのだ。

だが、兵器推進善業や民主主義に反する国々はその事に全く気付かず、未だにダメージヘアー星人の手の上で踊らされ続けているのだ。

「それから更に兵器の強化と改良を重ねていけば、巨大怪獣の討伐も夢ではないと言うのに……あの馬鹿女はぁー!」

そして、叩達は決断する。

「奴の入国を逮捕しましょう!それ以外に人類の進化と安寧を護る方法はありません!」

その提案が、敵である筈のダメージヘアー星人や巨大怪獣を喜ばせるだけだと気付かず、一同がそれに全会一致で同意してしまった。

 

その間、この会議を盗聴していた祭高明が兵器推進善業の頭の悪さを嘲笑った。

「空気や流行が全く読めず、無意識の内に敵の思惑通りに動いてしまう……これ程敵に回した方が楽な敵も珍しい。彼らと戦ってるダメージヘアー星人が羨ましいくらいだ。ま、悪く言うと……馬鹿!ですかねぁー」

「とは言え、これ以上兵器推進善業が怪獣をパワーアップさせ過ぎると、我々の怪獣解体が更に困難になります。やはり何か手を打つべきかと?」

「元譲さん、どうします?消しちゃいましょうか?」

だが、祭高明は配下の魔法少女達の意見とは逆な事を言う。

「んー?別に消す事はないんじゃないの?」

「……よろしいのですか?」

「むこうもさぁー、管理委員会が送り込んだ魔法少女を煙たがってる様だし、取り敢えず……様子見で良いじゃないのかな?」

「そうですかぁー?」

 

親兵器推進善業国家に入国しようとする強田達に対し、祭一味は動かず静観し、兵器推進善業とダメージヘアー星人は入国阻止に尽力する。

 

果たして、強田達を乗せた船は、無事に港に辿り着ける事が出来るのか?



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資料:親兵器推進善業国家について

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ハーメルン版→https://syosetu.org/novel/266019/

小説家になろう版→https://ncode.syosetu.com/n5419hd/


●親兵器推進善業国家

魔法少女管理委員会や反兵器デモと対を成す、兵器推進善業を受け入れ通常兵器や軍隊との共存を目指す政策を敷く国家の総称。強権主義や軍事政権などが多く、国内での民主主義の勢力は弱い

兵器推進善業と共に通常兵器のみでの巨大怪獣討伐を成し遂げ、魔法少女の威厳の急落を目論んでいるが、敵である筈のダメージヘアー星人にとっては巨大怪獣を強大化させる為の牧場代わりであり、祭一味の様な巨大怪獣の遺体を転売する転売ヤー達にとっては国連や管理委員会の目を盗める狩場と化しているのが現状である。

 

●無許可戦闘禁止法

戦闘の取締りを目的とした親兵器推進善業国家の法律である。

許可を受けた者以外は戦闘をする事が出来ない。また、許可を得た者であっても、使用する武器や能力については規制があり、違反した場合は処罰の対象となる可能性がある。

表面上は日本の銃刀法の拡大誇張だが、実際は巨大怪獣討伐任務から魔法少女の様な兵器や軍隊の復権の邪魔者を排除する事が目的悪法である。

 

ネブソク

 

種類:ダメージヘアー星人

所属:ダメージヘアー星人

階級:少将

 

ダメージヘアー星人地球攻撃部隊のメンバーの1人。

他のダメージヘアー星人同様、地球人の美しい頭髪に嫉妬しており、次々と巨大怪獣を送り込んで地球人の頭髪を滅茶苦茶にしようと目論んでいる。

だが、現在は魔法少女やそれを生み出す謎の隕石に対して打つ手が無く、兵器推進善業の力を借りないと戦果を挙げられない状態に陥っている(兵器推進善業の方は、自分達がダメージヘアー星人の敵だと思い込んでいる)。

名前の由来は、抜け毛の原因の1つである睡眠不足。

 

神楽榊

 

性別:男性→女性

職業:陸上自衛隊→魔法少女

身長:182㎝→150㎝

体重:71.7㎏→44.8㎏

体型:95/75/93→85/59/81

 

代々続く神主産出家系出身の元自衛官(最終階級は二等陸佐)。

このまま神主として後ろに隠れる生き方を良しとせず、自ら進んで救助する者となるべく自衛隊に志願し、そして魔法少女に志願したが、そこで魔法少女に成った者の体質的かつ体型的な運命(美少女の様な外見やふっくらとした乳房、常時授乳期体質など)を思い知り、少しだけ後悔している。

本来はお気楽で熱し易いが、自衛隊としての心得が骨の髄まで浸透しており、魔法少女達や管理委員会からは堅物と誤解されている。

出身家系の影響なのか、戦闘時は巫女の様な姿となり様々な効果を持つ札や魔法陣を武器に戦う。



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第15話:邪政!『無許可戦闘禁止法』!

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神楽達が入国後の事を話し合っている中、強田だけはそれを無視して海を観ていた。

「おい。おい。おい!」

強田は神楽の怒鳴り声を無視した。

「おい!返事をしろ」

神楽に肩を掴まれたのでようやく口を開いた。

「聞く耳持てないな……アホらしい」

「何だとお前!」

完全に喧嘩腰の神楽に対し、強田が神楽が告げた手段の不備を口にした。

「それはこっちの台詞だよ。命令があるまで戦闘は控えろって、例えデカブツが目の前にいる連中を殺そうとしたとしても、命令が無いから動きませんって言い張る心算か?」

いきなり言葉に詰まる神楽。

「そうは言ってない!だが―――」

強田は神楽の言い訳を聞く心算は毛頭ない。

「命令があるまで戦闘は控えろ……なんだろ?同じじゃねぇか?」

「そうだけど……だが、それだとお前は何の為に魔法少女に―――」

「町を壊したり人を殺したりするデカブツをボッコボコにする為だろ?他に何か有るか?」

強田に鋭い事を言われ続けて言葉に詰まる神楽。

「あ……そう言えば、ライラの奴が言ってたな……魔法少女は、救助や医療などでも活躍できるってよ?」

「うっ」

「で、俺達はこれから何をするって?」

「いや……だがな―――」

強田は、近づいてくる1隻の船を不審がった。

「それに……てめぇは兵器推進善業を贔屓している国と揉める気が無い様だが、向こうは違う」

そうこうしている内に、1隻の船が強田の乗る船に停止命令を下した。

「はい。そこの客船、停まりなさーい」

「あいつら……デカブツの前では救う術が無い超絶馬鹿だが、魔法少女にとっては強大で賢い敵なんだよ」

 

予想外のタイミングで軍人達が船に次々と乗り込んでくるので、神楽は完全に出鼻をくじかれた。

(く!?完全に入港後の持ち物検査対策しか考えていなかったから、まだ変装の準備が不十分なんだよ!)

そして、船に乗り込んできた軍人の代表として、叩務が宣告する。

「今から、無許可戦闘禁止法違反が無いかをチェックする。我々が許可した以外の武器を持ち込んだ者は、即刻逮捕だ」

すると、他の軍人達が特殊な機械でボディチェックをする。

「おいおい。持ち物検査じゃなかったのかよ?」

強田が呑気に冗談を口にする中、神楽は完全に汗だくであった。

(何だあの機械は?まさか、魔法少女を識別する装置じゃないよな)

神楽が困り果てる中、強田が自ら進んでボディチェックを受けた。

「あ!?馬鹿!よせ!」

神楽の制止も遅く、強田は早速無許可戦闘禁止法違反に認定されてしまった。

しかし、

「よお叩。出世したなお前、国際指名手配中のクセに」

強田の挑発に対し、叩は正論の心算で言い返す。

「本当の罪人は貴様なのにか?日本から進化と発展に必要不可欠な戦争を奪った邪悪のクセに」

そして、叩は合図する様に指を鳴らした。

「どのみち、貴様は逮捕だがな?」

神楽が汗だくで強田と叩のやり取りを視ていたが、それが致命的な隙となり、

「隊長、この女も我々が許可した以外の武器を持ち込もうとした魔法少女です」

叩は、ニヤリとしながら強田の方を見る。

「ふっ。仲間がいたのか?悪は群れたがるとはよく言ったモノだな」

が、強田も気楽に言い返す。

「群れ?俺には、そっちの数の方が多い様に視えるがね?因みに、こっちは4人だが、そっちは?」

そうこう言っている内に、夏芽とエレクトロンも捕まってしまう。

叩が呆れながら言い放った。

「兵器と戦争のお陰で発展と平和を謳歌している国に、魔法少女と言う危険物体をこんなにも持ち込むとは……もはや、貴様等は地球の……」

叩は、まるで強調するかの様に顔を強田に近付け過ぎながら言い放った。

「敵だな!」

「近っ!キスする心算かあいつら!?」

強田は、エレクトロンの皮肉を無視してポケットから管理委員会から盗んだ隕石の破片を取り出そうとするが、

「それと……何で貴様はまだ持っている?ちゃんと俺達に提出するのが筋だろ」

叩が隕石の破片を没収してしまう。

だが、その段階で強田は目的を果たしており、松本の時と違って叩の身体に何も起きない事に落胆の溜息を吐いた。

(あの糞石は、こいつを敵としても味方としても扱わないその他大勢としか見ていないのかよ?まるでモブだな

 

先程の隕石の破片の没収によって、叩がどうあがいても魔法少女の味方にならない地球人だと判明したので、強田は改めて叩に声をかける。

「おーい!其処の日本じーん!」

だが、叩はあえて無視した。

「……連行しろ。言い訳は檻の中で聞く」

叩に無視されてイージス艦に連行されそうになっても、めげずに叩に声をかける強田。

「戦争を嫌う日本人は、本当に俺だけだと本気で思っているのか?」

叩は反応しかけ、「愚民」と言う単語を使いかけたが、我慢して無視した。

「連れて往け」

叩の命を受けた軍人達が強田の両脇を抱えるが、強田は1歩も動かずビクともしない。

「文芸春秋の池島信平って野郎を知ってるか?太平洋戦争が終わってから真珠湾に行って泣いたそうだぜ?『いつの世でも愚昧(ぐまい)なる政治の償いをさせられるのは、何の罪もない若者の血である』てよ!」

叩は怒りに震えたが、それでも必死に我慢して強田の言葉を無視し、強田達の連行を無言で見守ろうとするが、配下の軍人が必死に連行しようとしても、強田は微動だにしない。

「何だこいつ!?何キロあるんだ!?」

「足が床に張り付いているのか!?さっさと歩け!」

軍人が強田の足を蹴るが、蹴った軍人が大袈裟に痛がった。

「があぁ!?」

めげずに叩に声をかける強田。

「次に、『昭和史を語り継ぐ会』の保阪正康って野郎を知ってる?江戸時代の各藩は『戦わない』って軍事学を熟知してたんだってぇー!後々!戦争は国を滅ぼすと理解するのが大事だけど、人間は誰でも状況によっておかしくなるんだってぇー!あー!耳痛がってるぅー!」

叩の怒りは既に限界値を大幅に超えていたが、ここで痴態を晒して兵器推進善業に恥を掻かせれば、完全に魔法少女とダメージヘアー星人の思う壺となって世界は破滅する……と言う見当違い過ぎる考えを胸に必死かつ懸命に我慢して強田の言葉を無視する。

だが、軍人達は未だに強田を1歩も動かせていない。

「それとそれとぉ!ノンフィクション作家の澤地久枝って婆さん知ってる?太平洋戦争は日本の大勝利で終わると信じていた時の自分の事を、『よく考えないで熱中する、国家には都合のいい馬鹿な軍国少女』って罵ってたよぉー!でね、『食べる物が無くなり、愛する人が殺される。それに耐えられますか?』と訊ねると、皆『嫌だ』と言うのに、国の運命は偉い人が考える事と思っているんじゃないかと。世の中は皆が知らない間に替わってしまう戦争は遠くの出来事じゃなくて、国民が戦争を選んだんじゃない。ある日突然降って来る日常的な事だって嘆いてたよぉー!」

叩はとうとう限界を突破してしまい、誰にも聴き取れない程の小声に抑えるのが関の山となっていた。

「撃て……そこの女を……殺せ……」

軍人達も既に我慢の限界を超えていたらしく、遂に拳銃を発砲する。が、強田にはまるで通用しない。シールドで自分の体をコーティングしているからだ。

「んでんでぇ!坂口安吾って作家野郎を知ってる?そいつ、太平洋戦争が始まった時にこんな事を考えてたらしいぜ?『尤(もっと)も私は始めから日本の勝利など夢にも考へてをらず、日本は負ける、否、亡(ほろ)びる。そして、祖国と共に余も亡びる、と諦めてゐたのである。その日私は日本の滅亡を信じ、私自身の滅亡を確信した』って。更に、日本国憲法第9条が誕生した途端に、『私は敗戦後の日本に、二つの優秀なことがあったと思う。一つは農地の解放で、一つは戦争抛棄(ほうき)という新憲法の一項目だ』とか『軍備をととのえ、敵なる者と一戦を辞せずの考えに憑(つ)かれている国という国がみんな滑稽なのさ。彼らはみんなキツネ憑きなのさ。ともかく憲法によって軍備も戦争も捨てたというのは日本だけだということ、そしてその憲法が人から与えられ強いられたものであるという面子(メンツ)に拘泥さえしなければどの国よりも先にキツネを落(おと)す機会にめぐまれているのも日本だけだということは確かであろう』だとさ。かといって熱烈な反戦主義者でもなかったようで、『山本元帥の戦死とアッツ島の玉砕と悲報つづいてあり、国の興亡を担ふ者あに軍人のみならんや、一億総力をあげて国難に赴くときになつた』だの『実際の戦果ほど偉大なる宣伝力はなく、又(また)、これのみが決戦の鍵だ。飛行機があれば戦争に勝つ。それならば、ただガムシャラに飛行機をつくれ。全てを犠牲に飛行機をつくれ。さうして実際の戦果をあげる。ただ、戦果、それのみが勝つ道、全部である』って言ってたけどねぇー」

とうとう我慢が出来ない叩は、強田の顔面を思いっきり殴った!

強田は、あえてシールドを解除してまでその顔面パンチをわざと受けた。

「黙れ極悪癌細胞!戦争の恩恵を受けて発展と進化と平和を謳歌している国が持つ希望と栄華!戦争を失って衰退と退化しか残されていない国の絶望と悲愴!その違いが判らない癖に!偉そうに講釈してんじゃねぇ!100億年早いわあぁーーーーー!」

だが、叩を散々煽り散らしていた筈の強田が叩を無視。そして、神楽に指示を仰いだ。

「そろそろタイムオーバーだぜ?早くしないと……この船に乗ってる一般人……全員死ぬぜ?」

「なっ!?」

 

強田が白いドレスを上からまとったような服装になり、背中から白鳥の翼を思わせるオーラを発生させると、強田達を乗せた船が急速にバックした。

「その姿は……母島の時の……」

強田が叩に皮肉を言う。

「お前みたいな馬鹿が近くにいると、この姿になる為の許可がすんなり取れるぜ」

すると、さっきまで強田達を乗せた船があった海面から異形の巨大怪獣が出現した。

夏芽は、今回現れた巨大怪獣の姿に驚いていた。

「何……これ……?今まで戦ってきたのとは……完全に違う!

驚くのも無理は無い。

その姿は正に肉で出来た高層ビルの様なものだからだ。しかも、狼の口や鼠の目が複数生えており、どれが本物の口や目か判らない。それに反して、四足の脚は非常に小さくて頼り無さそうだ。

強田は、今回の巨大怪獣が何でこうなってしまったのかを正しく理解した上で、叩に皮肉を言った。

「これって、俺が初めて貴様に遭った時に似てないか?てめぇらの攻撃をどんどん吸って―――」

だが、叩は何故か余裕だった。

「ふっ」

「何が可笑しい?」

「あんな、ちょっと攻撃しただけで逃走してしまう様な臆病者……そんな雑魚に怯える時点で既に戦士ではないわ!」

強田は、恐怖で顔面蒼白になりながら叩を完全に見下した。

「……チッ!」

(こいつ完全に馬鹿だ。奴がテメェらの攻撃を効率良く浴びる為にわざと勝ちを譲ってる事に気付いてないな?)

その間、複数の口から大音量の衝撃波を発して攻撃してくるので、夏芽とエレクトロンがシールドで船を庇うが、複数の目から強烈な閃光が一斉に放たれた為、シールドの配置が定まらずに衝撃波をもろに受けてしまう。

「がはっ!」

これにより、エレクトロンが完全に戦意を喪失してしまう。

「駄目だ……こいつ……強過ぎる!」

そして、肉の塔の様な巨大怪獣がホバークラフトの様な動きで船に近づいてくる。

この窮地に神楽が苦虫を噛み潰したような顔をするが、叩は何故か余裕であった。

「既に軍に救援要請を送った。見届けるがいい。本当の戦いと、本当の現実を」

だが、叩達を救援する為に来た筈の艦隊が、見えない壁に阻まれて前に進めない。

その途端、叩が完全に顔面蒼白となった。

「なっ!?何をしている!?なぜ攻撃しない!?」

その直接的な原因は……強田であった。

「あいつら邪魔だからな。足止めさせてもらった」

「あれだけの大規模なシールドを一瞬で!?」

神楽が強田の現時点の強さに驚きを隠せない中、叩が強田の見当違いな行動(叩はそう思っている)に怒った。

「馬鹿か貴様はぁー!我々に死ねと言うのかぁーーーーー!?」

が、強田はどこ吹く風。

「逆だよ。この船が沈没するのが嫌だからこうしたの」

すると、強田が叩を振り払って巨大怪獣に向かって飛翔する。

巨大怪獣が複数の口から大音量の衝撃波を放って攻撃しようとしたが、

「食べ過ぎは身体に毒だぜ?」

その途端、巨大怪獣の全身から次々と爆発が発生した……

「おぉー!我が同胞が、あの馬鹿女の妨害を振り払って―――」

だが、神楽は巨大怪獣の全身から連続発生する爆発に対して異様な違和感を感じていた。

「おかしいぞ!?爆炎の上がり方が不自然だ!」

強田が冗談交じりで神楽を指差す。

「神楽さん正解!賞金獲得!」

対する神楽は、言っている意味が解らず困惑する。

「えっ?」

そう、この爆発は攻撃ではない。

「つまり、巻き戻したのさ。こいつがあいつらから受けた攻撃を逆再生させて―――」

嫌な予感がした叩が叫んだ。

「我々と我々の同胞がせっかく蓄積させた傷を!お前は消し去る心算かぁーーーーー!?」

強田はあっけらかんと答えた。

「そうだよ」

叩はここぞとばかりに強田を罵り続けたが、それに反して、巨大怪獣の姿がみるみる縮んだ。

「そうしてやれば……」

そして……肉の塔の様な巨大怪獣が、チワワとハムスターを同時に兼ね備える巨大怪獣に戻ってしまった。

「初登場時の強さまで……弱体化する……筈」

「あれま可愛い」

強田の筋書き通りに弱体化した(と言うより兵器推進善業と戦う前の姿まで巻き戻された)チワワとハムスターを同時に兼ね備える巨大怪獣は、慌てて背後にいる艦隊にとびかかるが、強田が事前に張ったシールドに阻まれて艦隊に近付けない。

「ダメダメ。折角……致命的に馬鹿共に本当の真実を披露してやるんだからさ……」

強田が極悪人の様な微笑みを浮かべた。

「馬鹿共の恩恵を捨てて戦えよ」

だが、チワワとハムスターを同時に兼ね備える巨大怪獣は、兵器推進善業に向かって避難する事ばかり考え、一向に戦おうとしない。

しかも、ダメ押しとばかりに……

「Risque……maximum……」

Risquemaximumがいきなり出現して、兵器推進善業所有の艦隊を楽々と蹴散らした。

「なあぁー!」

予想外の展開の連続に驚愕しながら固まる叩とチワワとハムスターを同時に兼ね備える巨大怪獣。

とここで、兵器推進善業所有の艦隊の参戦を阻む為のシールドを解除する強田だが、目の前にRisquemaximumがいる為、兵器推進善業所有の艦隊に飛び掛かれないチワワとハムスターを同時に兼ね備える巨大怪獣。

「どうした?あの船共と戦いたいんだろ?馬鹿共の攻撃を浴びたいんだろ?なら行けよ。早くしないと……」

Risquemaximumの強大さと頑強さの前に為す術が無い艦隊が次々と爆散・轟沈する。

「あいつらがいなくなるぜ?」

更に、強田とRisquemaximumがアイコンタクトするかの様に目線が合うと、Risquemaximumが強田に背を向け、強田達が乗る船が入港する筈だった港に向かって歩き始めた。

そして、

「おーい。早くしないと、あの港にいる罪の無い連中がたくさん死ぬぜぇー」

夏芽は強田に言われる前に既に動いていたが、神楽の方は完全に困惑状態だったので直ぐには動けなかった。

「え……あ……だが……飛行しながら入国すると―――」

だが、強田が神楽をどんどん煽る。

「ほらほら!Risquemaximumはさっきの嘘吐きデカブツと違って、忖度も八百長もしないぜ!」

神楽は判断に迷ったが、兵器推進善業所有の艦隊や爆撃部隊はRisquemaximumの上陸阻止に対して力不足過ぎる。なら、やる事は1つしかない。

「あーーーーー!解ったよ!救助命令を出せは良いんだろ!出せば!」

「神楽さん正解!賞金獲得!」

強田も嬉々として夏芽の後を追う様に港に向かい、神楽は戦意喪失中のエレクトロンを無理矢理叩き起こした。

「おい!お前も行くぞ!もう、この船にはいられない!」

「……あ……え……あ……はい……」

んで、予想外の連続に打ちのめされていた叩がようやく強田を取り逃がした事に気付いた時には、Risquemaximumが兵器推進善業所有の艦隊や爆撃部隊を全滅させていた。

「あっ!あー!何で敗けている!?我々の負けは、地球の負けだと言うのに!」

そして、Risquemaximumが見当違いな事ばかりの叩を鼻で笑いながら深海へと去って行った。

 

兵器推進善業以外の死者をゼロに抑えた強田達は、神楽に意味不明な事を言われた。

「すまん強田に曙。俺を殴る事を許可する」

「なんで?」

神楽が理由を淡々と述べた。

「傲慢だったのは俺の方だったからさ。兵器推進善業を贔屓する国で生き永らえ続けた事で、自分は常に正しい判断が出来ると確信していた。だが勘違いだった」

対して強田は、何もしないでただ黙って聴いていた。

「正しかったのはお前達の方だった。あの時逃げを選択していたら、あの客船も沈没していたしこの港も壊滅していた。お前達の今日の判断を誇りにして良い」

そして、神楽は深々と頭を下げた。

「すまなかった!」

だが、強田は神楽の肩に手を置いただけだった。

「その判断はまだ早いぜ?」

「えっ?」

強田が沈む夕日を見ながら言った。

「まだ……この国での戦いは始まったばかりだからよ」

夏芽もそれに続く。

「そうですよ。神楽さんだって、私達が兵器推進善業に捕まらない様に色々と作戦を立ててくれたんですよね?」

それを聴いて涙ぐむ神楽。

「お前ら……」

「さ!行こうぜ!戦いの準備をしによ!」

「そうですね!先程の戦いで、魔法少女の数が本当に足りない事は判明しましたし!」

強田と夏芽の明るさと使命感に救われた気がした神楽は、改めて自分の不甲斐無さを恥じた。

(まだ戦いは始まったばかりか……えーい情けない!お前は何の為に自衛隊に志願したんだ!?神楽榊!)

それに引き換え……半ば放心状態だったエレクトロンは、強田達が既に出発した事に気付いて慌てて後を追った。

「え?……あ……ちょ……ちょっと待って!」




今回のお話は、中日新聞の12月6日の記事(https://www.chunichi.co.jp/article/378333?rct=hiroba)と12月8日の記事(https://www.chunichi.co.jp/article/379577?rct=editorial)(https://www.chunichi.co.jp/article/379641?rct=syunju)を使用(と言うよりパクった)させていただきました。
例の記事は、戦争を反対する意味で良い勉強になったと信じています。だから使用させていただきました。


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第16話:見殺しへのカウントダウン

pixiv版→https://www.pixiv.net/novel/series/7675147

ハーメルン版→https://syosetu.org/novel/266019/

小説家になろう版→https://ncode.syosetu.com/n5419hd/


叩務は怒りに震えていた。

戦争を紛失した期間が長過ぎて衰退し過ぎた日本の堕落に。そんな日本から戦争を奪う行為に対してなんの罪悪感を懐かない強田の悪辣さに。そして、そんな悪辣を阻止出来ない自分の不甲斐無さに。

(あいつは何も解っていない……世間知らずで自己中心的な老害の邪悪な誘惑にまんまと騙され、ただ悪戯に『戦争反対』をオウム返しの様に繰り返すだけ……それがどれ程危険を、あの女はまるで解っていない!)

戦争が生み出す利益と成長を頑なに信じ、戦争が生み出す利益と成長を日本も存分に味わって欲しいと心底願うからこそ、戦争を殺戮の道具と見下す強田の心理が信じられず、強田の頭の悪さに頭を抱えているのだ。

ただ、叩は強田について1つ勘違いしている。

そう。叩は強田の見た目に完全に騙され、強田を無知な女と見下しているのだ。

そこへ、高位の軍人と思われる者達に声をかけられた。

「魔法少女管理委員会日本支部が送り込んだ魔法少女を全員取り逃がした事が、余程悔しいと見える?」

それに対して、叩はきちんと敬礼しながら答える。

「今回の魔法少女は危険です!特に強田と言う魔法少女は特に危険です。あの女は、貴方方が築き上げ、この国にもたらした秩序と発展を平気で踏みにじります!急がないと取り返しのつかない事になります!」

それを聞いた軍高官は、冗談交じりに、

「ツトム・タタク、君は強田と言う魔法少女が余程お嫌いの様だな?」

が、叩はその冗談を真っ向から否定した。

「いいえ!嫌いではなく危険なのです!実際、あの女は我々が親切に間違いを正してやろうとしているのに、それを真っ向から否定し、あえて我々が行くなと言った間違いの方に迷う事無く突っ込んで逝き、周囲の者達まで巻き込み犠牲にするのです!そのせいで……我が祖国日本はぁ……」

軍高官が興奮し過ぎた叩を宥める。

「解った。解ったから、少しは頭を冷やせ」

指摘を受けて反省する叩。

「は!失礼しました!」

そして、軍高官は狡賢そうな邪な笑みを浮かべた。

「そもそも、既にこの国に違法入国しておるのであろう?」

「はい!非常に危険過ぎる存在が!」

「なら大丈夫だ」

叩は言ってる意味が解らなかった。

「は?」

それに対し、軍高官は大笑いしながら答えた。

「そうかそうか。君は日本での任務が長かったから、この国の魔法少女管理委員会施設が今どうなっているのかを知らないのだな?」

だが、叩はまだ理解出来ない。

「は?仰る意味が解りかねますが?」

「まあつまり、例の魔法少女達の事は、そんなに急がなくても大丈夫って事だ」

叩はまだまだツッコミ足りないが、これ以上反論して秩序と規律を乱すのは無礼に当たると判断し、軍高官が言う「大丈夫」を信じる事にした。

が、軍高官が直ぐに溜息を吐いたので、叩が再び不安になった。

「それよりも、あの隕石の頑固さじゃ」

「魔法少女と言う忌々しい存在を生み出し続ける元凶が如何なさいました?」

どう言う訳か兵器が隕石を極度に拒絶すると言うお話は大分前にしたと思うが、兵器推進善業は多くの国が諦めてしまった魔法少女を生み出す隕石と兵器の融合。更に言えば、魔法少女を生み出す隕石の兵器化を未だに諦めていなかったのだ。

だが、軍高官のこの様子だと、未だに隕石の兵器化成功の兆しがまったく見えない様である。

その体たらくを聴かされた叩は、兵器推進善業に協力的とは程遠い隕石の態度に怒った。

「何たる不合理!隕石もまた、所詮はただの石に過ぎないと言う事か!?ただの石の中に脳みそが無いのは当然の事と言う訳か!?」

しかも、兵器推進善業の隕石に関する悩みはそれだけではない。

最近、兵器推進善業が所有する隕石が謎の発光を行う様になったのだ。

「意味が解らぬ!むやみやたらに魔法少女と言う害虫を生み出したり、勝手に発光したりせず、対巨大怪獣用兵器に生まれ変わった方が効率的で合理的だと、何故解らんのだ!?」

叩は怒りのあまり、軍高官は叩を宥める事に夢中で気付いていなかったが、叩が隕石が兵器に生まれ変わる事を望む様な発言をした途端、隕石の発光が少しだけ強くなった。

 

一方……エレクトロンが魔法少女管理委員会中東支部の不甲斐無さに困惑し呆れ果てた。

「何……これ?……キャンプ場……」

そこにあったのは、瞬時に折り畳めるテントが複数配置されているだけの質素な事務所であった。

「まるで遊牧民ですね?」

夏芽の感想に対する反論が一切出来ない神楽。

「返す言葉が無いな。建物も機材も人材も最重要と言える例の隕石も……全部この国に没収されてしまったよ」

泣きたくなってきたエレクトロン。

「無い無い尽くしの貧乏生活に逆戻りかよ!?よくそんなんで巨大怪獣からこの国を護れたなぁ!?」

エレクトロンの皮肉付きの苦情に対して言える事が少ない神楽。

「確かに、中東支部が巨大怪獣を討ち斃した事は1度も無い」

それを聴いて不安になる夏芽。

「それじゃあ!?」

だが、この国は意外と大丈夫であった。

その理由は2つある。

1つ目は、この国を襲う巨大怪獣が凄まじくかつ物凄く賢くなった事。

巨大怪獣は本来、兵器推進善業が使用する様な通常兵器で攻撃される度に急成長・急強化する。つまり、兵器推進善業が通常兵器に頼り切ってる内は、巨大怪獣が兵器推進善業に殺される心配が全く無いのである。寧ろ、兵器推進善業のおかげで巨大怪獣はどんどん強く成れるのだ

だが、だからと言って巨大怪獣が兵器推進善業を優遇する国に長く留まり過ぎると、兵器推進善業より巨大怪獣の方が圧倒的に強い事がバレてしまい、兵器推進善業の居場所が更に減ってしまう。そうなれば、通常兵器を一切使用せず、巨大怪獣の天敵である超能力のみで戦う魔法少女が戦いの主流になってしまい、巨大怪獣やダメージヘアー星人が更に不利になってしまう。

そこで、巨大怪獣は兵器推進善業の通常兵器による攻撃を数回だけ受け、頃合いを計って逃走するふりをするのだ。そうする事で兵器推進善業を有頂天に陥れ、兵器推進善業の居場所を奪い過ぎる事態を未然に防ぎ、かなり時間を無駄にするも効率良く通常兵器を浴びて急成長・急強化出来るのである

「敵の方が1枚も2枚も上手じゃん」

Risquemaximumもその事は承知しており、だからこそ定期的にこの国に上陸して兵器推進善業より巨大怪獣の方が圧倒的に強い事を証明し続けた。が、この事がRisquemaximumが母島列島決戦に遅参しかけた原因でもあった。

もう1つは、祭高明の存在。

この国では、兵器推進善業や軍事政権の方が幅を利かせており、国際規則を厳守する管理委員会は為す術無く隅に追いやられている。

それは、祭高明傘下の魔法少女にとって、他の魔法少女に邪魔されない格好の狩場

勿論、巨大怪獣対策において魔法少女の超能力より通常兵器の方が断然有効である事実を証明したい兵器推進善業が黙っている訳が無いのだが、彼女達は管理委員会の言いつけすら守らない犯罪者。兵器推進善業の逮捕を目的とした動きなどどこ吹く風。また、首領格の祭高明も兵器推進善業の事を「時代遅れの負け犬」としか思っておらず、逮捕を前提とした注意喚起もどこ吹く風

そして今日も、他の魔法少女に邪魔される事無く巨大怪獣をハントするのだ。

「もぉーう。得するのは私達の敵ばかりじゃーん」

泣き言ばかり言うエレクトロンに対し、強田は考え込む素振りを見せた。

「ん?どうした?そんなに考え込んで」

神楽に言われて口を開く強田。

「夏芽」

「え?あ、はい」

「ちょっと手伝ってくれ。初仕事をしましょう」

「……何を始める気だ?」

 

無数の触手を生やした肉団子の様な巨大怪獣を発見した強田は、早速白鳥の様な翼を生やして発見した巨大怪獣の時間を止めた。

「さてと……こいつの最初の姿を拝ませてもらいますか」

強田を襲いたいが動けない巨大怪獣を尻目に、強田がその巨大怪獣の時間を一気に巻き戻した。

「兵器馬鹿集団に付けられた傷を治療してやってんだ。ありがたく思いな」

兵器推進善業から受けたダメージを全て没収されて急激に弱体化した肉団子の様な巨大怪獣は、みるみる縮んでクモザルとチンパンジーを同時に兼ね備える巨大怪獣へと姿を変えた。

だが、強田はあえて巨大怪獣にトドメを刺さず、巨大怪獣を自由にして逃がしてやった。無論、既に力の差を思い知らされた巨大怪獣が強田に闘いを挑む筈も無く、一目散に逃走した。

勿論理解に苦しむ神楽達。

「何やってるんだ!?せっかく兵器推進善業が行った戦闘行為によって強大化した巨大怪獣の弱体化に成功したと言うのに、なぜ逃がした!?」

それに対し、強田はあっけらかんと答えた。

「この国に巣喰う兵器馬鹿集団を倒す為さ。この国にとっては、そっちの方が急務だろ?」

つまり、強田の作戦はこうだ。

先ずは、兵器推進善業が行った戦闘行為によって強大化した巨大怪獣達を次々と弱体化させ、兵器推進善業が恋しい状態に陥れる。

弱体化した巨大怪獣は、弱体化した身体を鍛え直そうと兵器推進善業を襲う。

その隙に巨大怪獣の退路を断ち、巨大怪獣の敗走するふりを妨害。

そうする事で、巨大怪獣は兵器推進善業が所持する通常兵器を長々と浴び続けてしまい、兵器推進善業の戦闘行為が巨大怪獣を強大化させ続けてしまう「かませ犬」であると言う事実をこの国に思い知らせるのだ。

神楽は、この説明でようやく巨大怪獣の見逃しの理由を悟った。

「つまり、巨大怪獣と通常兵器の関係性を証明する動画が欲しいと言う訳か?」

それと同時に、夏芽が薄々気付いていたこの国の報道陣達の扱いを正しく理解した。

「そして……この国の報道規制は徹底されている」

国民が権力者の思惑通りに動く為の第1歩は、情報収集の難易度を上げる事だ。

権力者にとって不利な情報は隠すか消し去り、有利な情報だけを流す。その上、敵対者の痴態や悪癖を針小棒大に伝える事で国民の対抗心と使命感を煽る。更にダメ押しとして権力者が望む成果を得た者に多大で大袈裟な報酬を授ける。

そうやって国民的熱狂と同調圧力を造り出し、事実を捻じ曲げ続けて多大な報酬を与え続ける事で、情報収集に対する熱意を完全に冷やすのだ。

そうなってしまった国に暮らす国民は、他の国が知っている事実に気付く事無く与えられた情報に踊らされ続け、権力者の操り人形と化すのだ。

「太平洋戦争の時の日本と同じさ。なぁーんにも知らないしみぃーんなで渡れば怖くない状態だから、どうやって目の前の出来事を否定すれば良いのかがまるで解ってないのさ」

そして……強田は今にも泣きそうなぐらい悲し気な表情を浮かべた。

「嘘吐きな大人に騙され続ける子供ほど……哀れで気の毒な生物はいねぇさ……」

だが、夏芽が強田にとって都合が悪過ぎる事実に気付いてしまった。

「はっ!」

「ん?どうした曙?」

「この近くの隕石が……発光してる」

「……貸せ!」

嫌な予感がした強田は、夏芽の周囲に浮かんでいる複数の鏡を乱暴に掴んで注視した。

「本当だ……あの糞石が光ってやがる!光ってるのは1つだけか!?」

夏芽が慌てて首を横に振る。

「ううん!それだけじゃない!」

嫌な予感がした強田は、他の管理委員会支部に連絡して欲しいと神楽に懇願した。

「解った!解ったから!とにかく落ち着け!」

「これが落ち着いていられるか!俺の予想が正しければ……」

 

神楽から管理委員会が所有する施設にある隕石が発光したかと訊ねられ、理解に苦しむライラ。

「隕石には何の変化も無いが、それがどうかしたか?」

 

ライラの台詞を伝えた神楽であったが、それがかえって強田の不安を煽った。

「他はどうした!?他の糞石はどうしたって訊いてんだよ!」

強田のこの慌て様に驚き困惑する神楽。

「落ち着けって!何を焦っているんだお前は!?」

だが、強田の口調はどんどん強くなる。

「この国の命運が係ってるんだ……俺達が時間との勝負をさせられるかも知れねぇんだ!早く!」

国の命運と言われた神楽は、強田の尋常じゃない焦りと彼自身の使命感に突き動かされ、全ての管理委員会支部に一斉連絡をした。

しかし、どの支部も保管している隕石は発光していないと言い張る始末。特に魔法少女を優遇する国にある支部が保管している隕石はまったくの通常通り。発光の予兆すら見せなかった。

それを聴いた強田は俄然とし、作戦変更を余儀なくされた事を悟った。

「俺がやろうとした作戦は……既に失敗だ……」

「どう言う意味だ?」

「そんな悠長な事をしていたら……間に合わない!」

 

その頃、祭高明はエメラード・クライアスに話しかけていた。

が、

「去れ!こっちはそれどころじゃない」

エメラードに冷たくされる理由を理解する祭は、あえて皮肉を言って怒りを買おうとした。

「それは、何時まで経ってもRisquemaximumを殺せないからかい?」

その途端、祭の首に愛用の槍の柄を突き付けるエメラード。

「黙れ!邪魔する心算なら……例え子供でも容赦しない!」

このやり取りだけで、エメラードがどれだけRisquemaximumを恨んでいるのかを理解した祭。

(報告以上の憎しみ……この女、もう停まらんな?)

しかし、祭は気にせずに自分の言いたい事を勝手に語り始めた。

「このままだと……Risquemaximumに近付けなくなると言われても……と言われても?」

その途端、エメラードは瞬間移動で祭から一旦離れ、その後再度臨戦態度をとる。

「お前は何者だ!?なぜそこまでしてRisquemaximumを庇う!?」

だが、祭はしらばっくれる。

「庇う?僕が巨大怪獣を?寧ろ商品としか思っていません」

「商品だと?」

「ええ。僕は巨大怪獣から精製される薬品を取り扱う……薬剤師です」

少し困惑するエメラード。

「……で、管理委員会から巨大怪獣の遺体を奪ったコソ泥が、この私に何の用だ?」

ニヤリと笑う祭。

「さっきも言った通り……Risquemaximumの事ですよ?」

その言葉に焦るエメラード。

「奴の居場所、知っているのか?」

ここであえてじらす祭。

「大組織の後ろ盾が無い風来が得られる情報はその程度ですか?」

「大組織?コソ泥が大組織とは、大きく出たな」

ニヤリと笑う祭。

「Risquemaximumなら……兵器推進善業が管理する国で、他の巨大怪獣を相手に頑張っていますよ」

正直信用出来ないエメラード。

「ふっ。冗談はよせ。通常兵器を浴びる権利を奪い合う事は有っても、巨大怪獣の同士討ちをあのダメージヘアー星人が許すと思うか?」

「ははははは」

「何が可笑しい?」

「いやいや。大組織の後ろ盾が無い風来の哀愁に驚かされましてね。まさか、Risquemaximumがダメージヘアー星人を裏切った事に全く気付いていないとは」

エメラードにとって予想外の言葉であったが、ライラのRisquemaximumに対する態度を思い出せば、納得がいく推測でもあった。

「だからか……Risquemaximumをわざと泳がせて巨大怪獣の同士討ちを煽っていたのか?」

悔しそうに近くの岩を殴るエメラード。

だが、祭が告げるエメラードにとって都合が悪過ぎる情報はこれだけではなかった。

「それと、このままだと……魔法少女は兵器推進善業が管理する国に入国する事が出来なくなりますよ?」

しかし、エメラードにとっては小さな事であった。

「はっ!その程度の連中に妨害されて動けない様では、Risquemaximumを殺す事など夢物語。私を嘗めているのか?」

が、祭は再び大笑い。

「ははははは」

「また!?私を嘗めているのか!?」

「当然。大組織の後ろ盾が無い事がこれだけ不利だったとはねぇー」

さらに焦るエメラード。

「どう言う意味だ?」

祭がエメラードに告げた推測は、強田にとっては絶望的過ぎるモノであった。

「あの隕石が……兵器推進善業が管理する国を見殺しにしたとしたら?」

エメラードは言ってる意味が解らなかった。

「隕石が国を見捨てた?落下中なら兎も角、既に落下を終えて動かなくなった隕石が自分の意志だけで動くと言うのか?そんな馬鹿な―――」

祭の配下が隠し撮りした映像をエメラードに観せた。

「隕石が……光った?」

「どうです?これでもまだ、兵器推進善業が管理する国で、他の巨大怪獣を相手に頑張ってるRisquemaximumに近付けると……言い張る御心算ですか?」

そう言うと、握手を求める様に右手を差し出す祭。



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第17話:強田護の過去

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ハーメルン版→https://syosetu.org/novel/266019/

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強田は焦っていた。

長期戦を封じられたこの状況に。

「落ち着け強田」

「これが落ち着いていられるか!証拠動画付きで真実を説明してる暇が無いなんて聞いてねぇぞ!」

周囲に有る物に当たり散らす強田の姿は、どこか寂しげで痛々しかった。

夏芽は、そんな強田の痛々しさをチラ見しながら、物質生成能力で作った鏡越しに兵器推進善業に没収された隕石を視ていたが……

「いくらあいつらが馬鹿だからって、簡単に手の平を返すんじゃねぇ!あの糞石が!」

隕石の発光が更に強まった事を伝えて良いものか迷った。

「言わなくて良いの?」

「……言える状況に見えます?」

兵器推進善業から隕石を強奪しようとする強田を取り押さえる神楽。

「冷静になれ!何の作戦も無しに力押しで勝てる相手だと思っているのか!?」

「じゃあどうしろって言うんだよ!」

呆れるエレクトロン。

「……言えないな……これ……」

強田と神楽の口論が五月蠅過ぎたのか、誰も祭一族が仕掛けた盗聴器の存在に気付かなかった。

 

「この国で狩りが出来る時間は……もうあまり長くない」

強田と神楽の口論の内容からそう察した祭高明。

「と言う訳だ。だから、明日の狩りにはエメラードさんにも参加してもらうよ」

返答せずに無言で去ろうとするエメラードだったが、直ぐに文若が斧を突き付ける。

「お前、逃げるのか?」

しかし、エメラードは意にかえさない。

「どけ。こっちも時間が無いんだ」

「無視」

そこで、祭が少し大きな声で言い放つ。

「我々は兵器推進善業を敵に回す程善人じゃない!」

少しイライラしつつも振り返るエメラード。

「今更兵器推進善業が何だと言うんだ?元々、あいつらの無知がRisquemaximumをぶくぶく肥え太らせたんじゃないのか?」

だが、祭は気にせずに話を続ける。

「あれを野放しにすれば、第2第3のRisquemaximumが誕生するでしょうね」

エメラードは素っ気無く返答した。

「あんな小難しい物を扱うんだ、そこまで馬鹿じゃないだろ?」

「ところがどっこい……だとしたら?」

やはりここを去ってRisquemaximumを捜索するべきだと判断したエメラードは、素っ気無く捨て台詞を吐いた。

「爺になりたければ、その過小評価を控える事だ。坊や」

文若のイライラが募る中、祭は冷静に説明を続けた。

「今聞いた盗み聞き、何か雑音の様なモノが入ってたと思いませんか?」

「型が古いだけだろ?」

「先週買ったばかりですが?」

「店選びが悪い」

「確かに。でも、変な電波まで拾ってしまったとしたら」

エメラードは頭を抱えかけた。

「そこまで馬鹿なのか!?兵器推進善業!」

「じゃなきゃ、通常兵器だけで巨大怪獣を斃そうだなんて言いだしませんよ。兵器推進善業」

そして……

「と、言う訳で、明日の狩りにはエメラードさんにも参加してもらうよ」

苦々しいと思いつつ、一応了承した。

「あの馬鹿共に現実を魅せてやる!」

 

エレクトロンは、最近の強田を視てふと思った。

「最近の強田ってさ、全くヤンキーらしい事してないね?口では強過ぎる糞外道ヤンキーを目指してるーって言ってるけど」

夏芽はこの質問が強田の機嫌を更に悪化させるのではないかと不安になったが、神楽はある意味この質問に納得した。

「確かに」

強田は観念したかの様に過去を語り始めた。

「俺が初めてヤンキーを目指そうと思った切っ掛けは……」

「語るんだ?」

「親父の嘘に逆ギレしたからさ」

「嘘?」

「俺の親……離婚してさ、そのまま親父の家に預けられて、『母はお前を見捨てて出て行った』って教えられた。だが、俺は子供心にそれが嘘だと解ったね」

「どうして嘘だと解る?」

「俺の親父が超お金持ちだからさ。しかも超名家。だからさ、お袋は俺が金の事で苦労しない様に身を引いた」

「そう思う事で、自分は母親に見捨てられてないと思い込もうと?」

「いや、実際にお袋に逢った事が有ってな、だが、お袋の奴、金の事でめっちゃ苦労してた。だから、お袋は泣いてた」

予想外の重さに訊いた事を後悔する夏芽。

本当なら親権を取り戻したかった強田の母親。だが、自分のワガママを押し通し過ぎれば強田が金に困って不幸になると判断し、強田の幸せの為に自ら身を引いた強田の母親。

だが、強田の母親の話にはまだ続きがあった。

「ま、元々親父はお袋を捨てる心算だったらしいがな」

「まだ何か有るのか!?」

「俺のお袋、単なる親父の愛人でよ、親父は正妻ってもんがありながら、遊びでお袋と付き合って出来たのが、俺って訳よ」

あまりの壮絶さに、神楽がゆっくりと頭を垂れながら右手で顔を覆った。

「……それでよく母親同様に父親の家から追い出されなかったな?」

強田が父親から追い出されなかった理由。それもまた馬鹿げた物であった。

「親父の家や親族がこれまた古い考えでねぇ、誰の腹から産まれようと、跡継ぎ候補は男性でなければならない。だから追い出されなくて済んだんだと」

夏芽はもうやめて欲しい気分だった。

「もうやめてぇー!」

だが、神楽はこの話に納得がいかない。

「名家の跡継ぎに成りえる男子だから……だが、私が知る限りでは、強田と言う苗字の名家を知らんが……」

それに対し、強田はあっけらかんと答えた。

「それ、俺のお袋の旧姓」

「はあぁ!?」

「いやだから、親父の苗字じゃなくてお袋の苗字を使ってるの。だから……」

そこまで話して、過去のある出来事を思い出して少し後悔する。

「俺が警察沙汰になって、警察に呼び出されるのはお袋の方で、お袋は泣きながら怒って、俺は無理矢理親父の家に帰らされてたっけ……となると、お袋を苦しめてたのは、親父じゃなくて俺の方……なのか?」

「つまり、調書でも母親の旧姓を使ってた……いや、今も現在進行形で使っているか」

「……ああ」

とここで、エレクトロンが妙な疑問を浮かべた。

「となるとぉー、こいつの本当の名前は何なんだ?」

それに対し、強田はあっけらかんと答えた。

「忘れた」

一同は驚きを隠せなかった。

「忘れたァー!?」

が、強田はその事に後悔は無かった。

「確かに男を辞める心算は一欠けらも無いよ!でも、だからってあんな家いらねぇし、貰ったところで面倒だ……あ」

「どうかしました?」

「そう言う意味では、俺をこんな姿に作り変えた嘘吐き検事と糞石に感謝の念を捧げた方が良いのかもな?」

「余程父親が嫌いなんだな?お前」

 

強田の過去語りは、邪悪な殺気によって中断された。

「どうやら……兵器推進善業は、この場所の事を知っていたみたいですね?」

「つけられたか?予想外の展開が多かったとは言え、迂闊だった」

「まあ良いよ。こんなとこに往かされる事が決定した段階で、色々と鬱憤が溜まってたし」

「……本当なら、俺がこの馬鹿共のアジトに乗り込んで、あの糞石をぶんどる予定……だったんだがな!」

強田の叫び声を合図に、4人の魔法少女が一斉に四方に飛び散った。

この行為は、強田達が発信機を仕掛けられた事に気付いていないと思っていた(実際に本当に気付いていない)兵器推進善業の油断と動揺を誘った。

「散った!?気付いていたと言うのか!?構わん!撃て!撃てぇー!」

兵器推進善業側の指揮官の叫びに失笑する神楽。

「馬鹿者……1番焦ってはいけない人物が焦るとは、笑止千万!」

神楽がばら蒔いた大量の札は、地面に触れた途端に無数の蔦となって兵器推進善業の兵士達を次々と絡め捕った。

「何だこれは!?おい!誰かこれを切ってくれ!」

だが、神楽の追い打ちはここからだった。

「いやいや、強田の隕石の発光に関する推測が事実なら、君達はまだまだおしおきが必要だ!」

無数の蔦に絡め捕られた兵器推進善業の兵士達に対し、神楽が別の札を投げつけた。その札は、兵士に触れた途端、高圧電流となって兵士達を更に苦しめた。

「ギャアアァーーーーー!」

「痺れるぅーーーーー!」

それに対し、これだけやって1人の死者を出していない事に感心する神楽。

「おやおや。君達は意外と丈夫なんだね?兵器推進善業も随分と仕込んだものだ」

一方、夏芽を攻撃している兵士達の戦況も絶望的であった。

既に何千発の銃弾を浴びせた筈なのに、その全てがバリアに跳ね返されて夏芽の身体に届いていない。

「嘘だ……嘘だ!この銃弾が、どれだけの数の巨大怪獣をこの国から追い出したか……それが効かないなんてぇー!」

夏芽がこの言葉に愕然とする。

そしてそれは、兵器推進善業が不都合な真実の隠蔽がどれ程重いのかを物語っていた。

「つまり、貴方方は何も知らないって事なんですね?気の毒に」

そうこうしている内に、兵士達が使用しているマシンガンやグレネードランチャーが弾切れになったので、弾倉を交換しようとしたが、

「させません!」

夏芽の周りを飛び回る複数の鏡から一斉にビームを放って兵士達の視界を遮った。

「ぐおぉ!?眩しい!?」

その隙に、夏芽が瞬間移動を応用した転送術を使って兵士達の銃火器を次々と没収する。

「は!?無い!?何時の間に!」

「こんな物に頼ってる様では、何時まで経っても巨大怪獣には勝てませんよ!」

更に、エレクトロンが敵対する兵士達を弄ぶ様に華麗に銃撃を全てギリギリで回避する。

「下手糞だねぇ君達?勘が鈍いんじゃないの!?」

と言ってる間に兵士達の隙間をすり抜けて背後に回り込む形になった。

「次はこっちの番かな?」

エレクトロンが手にした本を読んだ途端、無数の鳥とオオトカゲが一斉に兵士達を襲った。

「うわぁ!?何だこいつら!?助けてくれぇー!?」

だが、元凶のエレクトロンは気にせずにどこかへ行こうとする。

「お生憎様。今の私は気が立っていてね……あれ?この場合は、ご愁傷様の方が正しいのか?」

この3人でさえ絶望的なのに、強田と戦っている兵士達の戦況が1番絶望的であった。

「うおぉりやあぁー!」

右アッパーだけで戦車を転倒させ、歯向かって銃殺しようものなら、念力で投げ飛ばされて大玉の材料にされた。

歯向かった兵士達で作った大玉をペシペシと叩くと、

「いってらっしゃーい」

大玉に前蹴りを浴びせてまだ残ってる兵士達に方へと蹴飛ばした。

兵士達はどうしたら良いのか判らず、右往左往している内に大玉にぶつかり転倒する。

「ストラーイク。俺、ボウリングの才能が有るのかもな?」

 

こうして、兵器推進善業が送り込んだ兵士達があらかた片付いたかに思われたが、

「うっ!?」

強田が突然、苦しみだしながら蹲り、身体が僅かに発光し始めた。

「強田さん!?いったいどうしたんですか!?」

そして、強田は嫌な予感がした。

「そう言う事か……この国から出て行こうとしているのは……あの糞石だけじゃないって事か……」

神楽も嫌な予感がしたが、あえて訊ねてその嫌な予感を払拭しようとした。

「何を言っている?あの隕石がこの国から出て行こうとしているだけじゃないのか?」

が、神楽の期待に応えられない強田は、残念そうに首を横に振った。

「どうやら違うらしい……あの糞石共……この国そのものを完全に見捨てる気だ……こんな国如きに俺達みたいな人間を消費するのも……バカバカしいんだとよ……」

「そんな……」

夏芽は絶句した。

 

そこへ、1台の高級車が複数のパトカーを率いてやって来た。

「今度は何だ?」

神楽が予想外の展開に唖然とする中、パトカーの中らから叩が出て来た。

「アイツ!何で!?」

「この国にとって、兵器愛好家馬鹿共は味方って事だろ?」

そして、叩が拡声器越しに叫んだ。

「飛鳥井護!今直ぐ出頭しなさい!繰り返す!出頭しなさい!」

言われた魔法少女側は、飛鳥井護が何者か……と言うより、叩の声が音割れしている事の方が気になっていた。

「あの人うるさいぃー!」

「それに凄い音割れ!あの拡声器があの大声を拾いきれてない!」

「アイツ、メガホンの使い方を完全に間違えてる。と言うか、今時、凶悪犯相手でもあんな事しないぞ?」

「逆に何言ってるのか解んねぇよ!」

だが、叩の音割れは止まらない。

「繰り返す!飛鳥井護!今直ぐ出頭しなさい!」

「だから!声が大き過ぎて逆に何言ってるのか解んねぇつうの!」

そんな中、高級車から1人の老人が出て来た。

それを見た強田と神楽は驚いた。

「……あの方が、何であんなところに?」

「何でこんな時に、あの糞爺が?」

だが、そのシリアスを叩の音割れが台無しにする。

「繰り返す!飛鳥井護!今直ぐ出頭しなさい!」

「てめぇは黙ってろ!」

老人もそう思ったのか、叩の肩を叩いてから前に躍り出た。

それに対し、叩が深々と立礼をし、それを見た強田が悪態を吐いた。

「そんな事をして貰える身分かよ!」

が、神楽が強田の悪態を否定した。

「いや、飛鳥井家は公家の家格の1つである羽林家に連なる一家で、元伯爵家だ」

その質問に首を傾げる夏芽。

「それって、日本国内の話ですよね?」

「……兵器推進善業が調べたんだろ?あの様子じゃ、叩務の様な輩が、まだまだ日本国内に蠢いてる可能性があるぞ?」

その間、考え込んでいた強田が、観念したかの様に叫んだ。

「参った!」

一同の視線が強田に集中した。

「待て待て、撃つんじゃねぇ撃つんじゃねぇ」

強田の行動に一旦は驚く魔法少女勢であったが、直ぐに強田のテレパシーを受け取り、不安そうに無言で事の成り行きを見守った。

「久しいな……糞爺」

「あれだけ我が儘を許したんだ、そろそろ戻って来い」

「ケッ!てめぇらも人手不足かよ」

強田と老人の会話に割って入る叩。

「まさか……貴様が飛鳥井家の血族だったとはな……」

叩が強田の腹を蹴って左頬を殴った。

「我が祖国である日本から戦争を奪って貧困と退化のどん底に叩き堕とした貴様、本当なら殺してやりたい所だが、飛鳥井家の温情のお陰でこの程度で済んだ事をありがたく思え」

叩の殴打をわざと喰らってうずくまるフリをした強田を警官達が捕縛する。

しかし、その隙に複数のテントと機材ごと神楽達が瞬間移動で逃走した。

「あっ!?」

叩達が困惑する中、老人は強田を無言で見下ろし、強田が老人を無言で見上げた。



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第18話:未来終了のお知らせ……

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強田が目を覚ますと、上半身裸で手術台に磔にされていた。

「……ん……?ここは……?」

強田が辺りを見回すと、複数の医師や看護師が何かに吹き飛ばされたかの様に失神していた。

「何なんだこいつら?俺をどうする心算だったんだ?」

取り敢えず拘束を外して服を着る強田。

「これはぁ……メスか?俺って病気……」

とここで、強田が周囲の医師達が吹き飛ばされている理由に気付いた。

「はぁ……なるほど……あいつらか」

強田が思い出したのは、強田を怨人に変えた未来から来た生霊達の事。

「なるほどな。まだまだ悲惨な未来は回避しきれてねぇって事か!?」

そして、強田が強制的に受けさせられかけた手術の正体を知って背筋が寒くなった。

「んで……また諦めていなかったのかよ……」

 

で、強田が病院内を歩き回っては視たモノの……

(ちっ!兵器馬鹿集団に捕まりゃぁ、兵器馬鹿集団が盗んだ糞石の所へ往けると思ってたんだがなぁ……流石に甘かったか?)

強田の背後で転がっているのは……強田の逃走を察して捕らえに来た兵器推進善業メンバーの情けない姿であった。

「この程度の強さで、よくあのデカブツを殺すと言えたもんだな?出直せや」

(とは言え……この数って事は、俺達からあの糞石の破片を取り出したのは、1度や2度じゃねぇな。んで、俺達の体から取り出した糞石を兵器に転換し、その武器でデカブツ共を殺し、俺達の存在価値を低下させる……筋書きとしては悪くない)

だが……

(が、糞石共は兵器に取り込まれる事を良しとせず、俺達の様な存在をせっせと作り続けている。糞石は何故そんな方法をあえて選んだんだ?戦争に恨みでもあるのか?)

考えれば考える程、答えから遠ざかってる気がする強田。

ただ、1つだけ解っている事がある。

「どっちにしろ……あの兵器馬鹿集団から糞石を取り戻す。全てはそこからだな」

強田は、自分の胸が一瞬だけ光った気がした。

「残り時間もほとんど残ってないみたいだしな!」

決断した強田は、横で倒れていた兵器推進善業メンバーの胸倉を掴んで無理矢理起こした。

「おい!答えな!俺達の体から取り出した糞石はどこだ!?」

兵器推進善業メンバーは答えない。だが、兵器推進善業メンバーの口をこじ開ける必要は無かった。

「無理してまで口を開ける必要はねぇ!お前の過去を思い浮かべるだけで良い」

強田がテレパシーを使って兵器推進善業メンバーの記憶を覗き視る。

「ぐっ!?」

兵器推進善業メンバーが必死に偽りや妄想を捻り出そうとするが、時既に遅しであった。

「解った!あっちだな」

「待て!喋る!何でも喋る!」

兵器推進善業メンバーが慌てて口から嘘を吐こうとしたが、それも既に遅しである。

「無理なら口を開けるなって言ったろ?もう既に訊き出したんだからよ」

「貴様!」

兵器推進善業メンバーが慌てて拳銃の銃口を強田に向けた時には……やはり既に遅く、強田は既に瞬間移動で目的地に到着していた。

「不味い!直ぐに本部へ―――」

それさえ既に遅く、通信に使えそうな機材は全て長距離転送で別に場所に一瞬で移動させられていた。

「無い無い無い!くそぉー!早く車を!急がねば!」

全てが時既に遅しで、強田はもうとっくに目的地に到着していた。

 

一方、兵器推進善業中東支部の総合指令室でも隕石発光に関する会議が行われていた。

「では、隕石の発光は日増しに強まってるのだな?」

「はい。隕石を主成分とした銃弾や弾頭の悪影響を―――」

叩が悔しそうに机を殴った。

「ひいぃ!?」

「あの隕石は、本当にこの地球を護る気があるのかぁーーーーー!」

飛鳥井当主の咳払いにより、叩がクールダウン。

「失礼。興奮し過ぎました」

「落ち着き給え。だからこそ、君達は我々飛鳥井家を頼ったのであろう?」

先程までの激怒はどこへ行ってしまったのか、叩が急に恥ずかしがって委縮した。

「まことにお恥ずかしい限り……本来なら、我々軍人の後ろに隠れる筈の飛鳥井家の手を煩わせるとは」

今度は兵器推進善業中東支部の大幹部と思しき人物が手を叩いた。

「そう硬くならんでも良い。原因調査を行っている最中だ。その内結果が判明する」

「ですが、我々があの隕石の兵器化が遅れれば遅れる程、下々は魔法少女を騙るインチキ詐欺師どもに騙され続けます!そのせいで……我が祖国日本は……」

悔しそうに握り拳を作る叩。

それを大幹部が諫める。

「落ち着け。それと焦るな。詰めを急ぎ過ぎて勝てる戦いに敗けては、元も子もないぞ?」

「しかし!」

が、叩は言葉に詰まった。言われてみれば、確かにその通りだからだ。

でも、日本には早く戦争の素晴らしさに目覚めて更なる発展と進化を迎えて欲しいのも、叩の正直な本音である。

「やはり……待てません!我が祖国日本が、戦争反対と言う致命的な猛毒に侵されてじわじわ衰退……もとい!死亡して逝く姿を!……これ以上診たくありません……」

遂には涙ぐむ叩。

それを大幹部が諫める。

「だからこそだ。完全確実に巨大怪獣を斃し、日本に君の様な存在が必要不可欠だと、知らしめなければならんのだ」

悔しそうに握り拳を作る叩。

それを見てニヤッと笑いながら話を飛鳥井当主に振る大幹部。

「ところで、貴方のお孫さんで飛鳥井家次期頭首最有力候補を騙して魔法少女に変えた検察は、今どうしてます?」

飛鳥井当主が不満そうに語った。

「知らん。飛鳥井家の影響下にある企業や組織などには、解雇か不採用として扱えと伝えてある。それ以降は、我々は全く関与しておらん」

「では、その者は既に検察ではないと?」

「無論だ」

よほど不快だったのか、飛鳥井当主が話題を強引に変えた。

「ところで、君達が進めている隕石の兵器化において、我々は何をしたら良いのかな?」

「それはですね―――」

「1度地上に激突した隕石から足が生えないと、本気で思ってるのかい?」

突然響き渡る強田の声に驚く一同。特に飛鳥井当主は、強田の声がまるで少女の様に聞こえる事に驚いた。

「なっ!?何故貴様がこんな所に!?」

「この声は!?魔法少女を人間に戻す手術を我が孫に施したのではなかったのか!?」

「警備兵!何故奴がここにいる事を、今の今まで黙っていた!?」

そんな一同の動揺には目もくれず、姿を現す事無く自分の言いたい事だけを並べる強田。

「あの糞石がお前達を見殺しにしようとしてる事に、あれだけ宣言されてもまだ気付かないのかい?暢気なものだな」

「出てこい!姿を現せ!」

「生憎だが、俺はこの部屋にはいねぇよ。魔法少女の超能力とやらで声だけをこの部屋に届けているのさ」

「飛鳥井護!貴様はまた、飛鳥井家の男子としての責務から逃げるのか!?」

強田は、あえて飛鳥井当主の挑発を肯定する。

「そうだよ。俺はとっくの昔に飛鳥井家を辞めたよ。と言うか、俺のフルネームを視れば、赤ん坊でもそのくらいの事は解るつうの!」

「貴様!その様な事が許されると―――」

「俺が書いた辞表を受理して解雇すれば良いだけの話だ。それに、事は急を要する。地上に激突した隕石から足が生える事は無いなんて見当違いな事を言ってる場合じゃないぜ?」

「馬鹿かお前!地球上には存在しない物質が含まれている以外は―――」

「その地球上には存在しない物質が完全にブチキレてるんだよ。その点は、実際に観た方が速い」

フィンガースナップが響き渡った途端、兵器推進善業中東支部の主要人物達が一瞬で転送された。

 

その頃、兵器推進善業の追手から逃れた神楽達は……

「で、フランスへの入国理由をお尋ねしたいのですが?」

「え……えーとぉー……」

神楽達は返答に困った。

なぜなら、ここまで逃げる心算は無かったからだ。

「何で私達……ここまで飛んでるの?」

「こっちが訊きたいよ!あいつらから逃げるだけで良かった筈でしょ!?」

ただ、神楽だけはある嫌な仮説が浮かんでいた。

「……強田の予想が正しかったと仮定したら」

夏芽とエレクトロンがハッとする。

その時、魔法少女管理委員会の各支部が隕石の襲撃を受けたと言う事件がニュースで報じられた。まるで強田の仮説が真実だと証明するかの様に。

「隕石!?魔法少女を造り出すって言う、あの隕石か!?」

「でも、各宇宙研究所はそんな事は一言も!」

「静かにしろ!ニュースが聞こえないではないか!」

その隙に、神楽達は逃走した。

「私達、さっきから逃げてばっかですね?」

「良いの良いの。どの道、どうしてこうなったのか説明できないから」

 

その少し前、強田が兵器推進善業が強奪・回収した隕石の許へ辿り着いた。当の隕石は強烈な発光を続けるばかりであった。

そして、強田はいつになくかなり緊張した面持ちであった。

ここで隕石の説得に失敗すれば、兵器推進善業はダメージヘアー星人と巨大怪獣に飼い殺しにされ、兵器推進善業を優遇し贔屓する国の未来が終わる。強田もそれを承知の上で説得に赴いたのだ。

「おい糞石!」

だが、隕石の言い分は説得成功とは程遠いモノだった。

「何故まだ逃げないのです?その胸の傷が、このエリアに貴女の居場所が無い事を証明していると言うのに」

強田はいきなり出鼻を挫かれた。

失敗が許されない戦いに挑む男の出鼻を、失敗は許されない戦いに挑む男の祖父が挫くと言う、最悪の皮肉。

そしてそれは、隕石がどれだけ兵器推進善業に失望したかを簡潔かつ的確に表現していた。

だが、強田に隕石の説得から逃げる事も引く事も失敗する事も、なに1つ許されていない。

隕石の説得に成功してこの国を救う。それだけだった。

しかし……

「上の連中のスキャンダルを全部知ったくらいでその国の全てを知った気になるのって、気が早過ぎるって!」

「大を護る為に小を捨てるのは、悪党のする事だから」

「この国のガキ共を皆殺しにする気か?」

などと言った精神論的な台詞しか吐けない強田。

無論、論理的かつ長期的にダメージヘアー星人との戦いを見据える隕石の心に届く訳がない。

寧ろ、強田より隕石の方が賢そうに見えてしまう。

(あの戦争愛好馬鹿どもぉー!ぜんぜんこの国を護ってねぇじゃねぇか!)

そんな追い詰められた強田を見かねたのか、あの未来からやって来た生霊達も隕石の説得に加勢する。

「我々のこの姿を視て下さい!今あなた様に見捨てられると、地球は確実に敗けてしまいます……ですから、ですから今一度!お考え直しの程を」

が、兵器推進善業に裏切られ続けた隕石の心に、未来からやって来た生霊達がここまでやって来るまでに味わわされた苦痛の数々さえ届かなかった。

「貴方方をその様な姿に変えない為に私達はこのエリアを離れるのです。あの者達にこの星を汚させない様にする為に」

一方、強田を怨人に変えたもう1つの霊……兵器推進善業の魔法少女への妨害行為のせいで巨大怪獣に殺された女性の死霊は口を閉ざして隕石の説得に参加しようとはしなかった。

「その者が最もよく知ってるようですね?私がこのエリアに居てはいけない事実に」

強田は完全に焦っていた。油断していると全ての台詞が敬語になってしまいそうなくらい焦っていた。

だが、相変わらず強田が吐く台詞は、根拠が無い精神論的なものばかりであった。

隕石の光は更に強まり、そして、隕石そのものと共に消えた。

 

終わった……

 

真っ暗になった倉庫内で愕然とする強田。

強田は、兵器推進善業や自身の祖父に足を引っ張られ過ぎて、失敗が許されない戦いに敗北したのだ……

そして、この国の未来が完全に終わった瞬間を目撃してしまったのだ……

 

兵器推進善業中東支部の主要人物達が転送された場所は……何も無い真っ暗闇であった。

「何だ……ここは……」

「照明!照明は無いのか!?」

「一体、何がどうなっているんだ!?」

お望み通りに照明が点灯した。

「って、空っぽだぞ?あの日本を裏切った糞は、我々を―――」

「見覚えが無いかい?この場所の事」

強田の声が響き渡るが、その声はどこかいつもの覇気が無い。

一同は強田の言ってる意味が解らなかった。

そこで、叩が挑発的かつ説教的に問い質す。

「大義の為に戦っている我々の貴重な時間を奪っておいて―――」

が、強田が背を向けながら放ったパンチがそれを遮った。

「その裏切り者面を俺に見せるな。あの糞石共の完全に見捨てられたくせによ」

それを見た飛鳥井当主が慌てて問う。

「何をしている!?それに、その格好は何だ!?早く男に―――」

「うるせぇ!」

強田は確かに怒り狂っていた。だが、その割には覇気や元気と言ったモノが全く感じられない。

当然だ。隕石の説得に失敗し、この国の未来を完全に終わらせてしまった張本人だからだ。

「お前らいい加減にしろよ!もっと現実を視ろよ!意見を聴けよ!下々に触れろよ!お前らの自分勝手な理想に自分の国を巻き込むんじゃねぇよ!迷惑なんだよ!死ぬんだよ!滅びるんだよ!」

兵器推進善業の全てを否定するかの様な強田の台詞に、叩が怒りに任せて殴りかかるが、

「テメェの腐った面を俺に見せるなって言ってるだろ!」

強田の念力に吹き飛ばされて近くの棚にぶつかる叩。

一方の強田は、叩がまだ生きている事を確信した途端、悔しそうに舌打ちした。

「チッ!もっと出力を上げれば良かった」

失神した叩を無視すると、殺意と怒気に満ちた眼差しを飛鳥井当主に向けた。

「後はてめぇだ!何で貴様は何時まで俺にこだわる!?あの糞男は、俺の他にも多くの女を産ませたじゃねぇか!何でそっちの方は視ない!?」

それに対し、飛鳥井当主もまた怒気に満ちた台詞を吐いた。

「あんな無能な女共には何も期待せん!そのくらいの事も見抜けないのか!?」

強田は頭を抱えた。

「……古い……古過ぎる……男尊女卑なんか今時流行んねぇよ」

「何を言っている!?それが飛鳥井家次期頭首台詞か!?」

「ちげぇよ!俺は飛鳥井家次期頭首じゃなくて強田護だからよ!」

「なっ!?なっ!?」

強田は、飛鳥井当主に話す事など何も無いといった感じで、兵器推進善業のお偉いさんと思しき人物の腹部にアッパーを見舞った。

「ぐえぇ!?」

「なにテメェが護る筈だった国の未来の足を引っ張ってるんだ?と言うか、兵器とか言う何の役にも立たねぇ粗大ごみを買い取ってる暇があったら、もっと現実を視ろ。そして恵め」

目を覚ました叩の怒りは既に限界だった。

故に、飛鳥井当主の意見を無視して発砲するが、強田にはまるで通用しなかった。

「何をしている!?飛鳥井家次期―――」

「うるせえぇ!この化物を生かしておいたら、日本は反戦と言う恥を背負い続けるんだぞ!」

強田は頭を抱えた。

「お前、いい加減にしろよ馬鹿無脳。まだ負け足りないのか?まーだ負け足りないか?」

「なんだとぉー、お前は戦争を何だと思ってるんだ!?」

「だからお前は負け足りねぇって言われるんだよ!1回で良いから手足失ってみろ。そんなふざけた事が言えなくなるぞ?」

強田が空になった倉庫を見渡しながら言い放った。

「ここは……お前達がかき集めた糞石共を保管していた場所だよ。証拠である糞石共は、お前達を見捨ててどっか行っちまったけどな」

「ふざけるなぁー!地球を蝕む巨大怪獣共を滅ぼす為の兵器の材料を……貴様ぁーーーーー!」

強田の念力に吹き飛ばされてる叩。

「今なら糞石共がお前達を見捨てた理由が解る。銃弾や砲弾なんて、使ったら直ぐに消える。だが、人の体内に入っちまえば……直ぐに消える事は無いし、いずれは何かの役に立つかもしれない……それが、お前達に1番足りない物だった……」

そして、強田は飛鳥井当主にこう宣言した。

「俺は諦めない!飛鳥井は必ず辞めるし、男も強田も絶対に辞めない!それと、この国の未来も諦めない!おれのお袋からプレゼントである……飛鳥井家に置き去りにされると言う苦痛と苦労に賭けて……」

 

そこへ、1人の兵士がやって来た。

「ここにおられましたか!?」

それを見た叩が命令するが、聴き入れて貰えず、それどころか、

「緊急事態です!魔法少女がこの国への違法入国を試みようとしています!その数、およそ20!」

強田がライラ達を1度は疑ったが、直ぐに自分がしでかした取り返しのつかない失態を思い出して否定した。

(だとすると……あの転売ヤー共か!?)

 

一方、最上座に座っていた祭高明が居並ぶギャング達にシャンパンが配り終わるのを気長に待っていた。

しかし、

「ボス!……元譲からあまり嬉しくない報告が」

だが、祭が慌てる事は無かった。ある程度予想していたからだ。

「あの兵器推進善業の時代遅れ共……やはりこうなりましたか?では、あの国での狩猟は今夜が最後と言う事で」

2番目に偉い人が座るべき席に着席しているギャングが、今回の強田の隕石の説得に失敗した事について指摘する。

「ボス、やはりエメラードにこだわらずに予定を早めた方が良かったのでは?」

しかし、祭は首を横に振る。

「いや、隕石があの時代遅れ共を裏切ったとなれば、Risquemaximumが何らかの動きを見せて来る筈です。そのストッパーは多いに越した事は無い筈です」

全ての席にシャンパンが配り終わった事を確認すると、祭はおもむろに立ち上がり、

「祈りましょう。今夜の狩猟の成功を」

まるでその言葉が乾杯の音頭であるかの様にグラスを持ち上げるギャング達。

「今夜があの国での最後の狩猟になる。あの時代遅れ達にも、僕達のビジネスの有効性を理解して欲しかったものを……」



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