TS美少女魔王さま、オタクが再発する (波土よるり)
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キャラ・用語一覧(1.10更新)
以下はネタバレを含む箇所もあります。
「あれ? この人なんだっけ? この用語ってなんだっけ?」ってときに見ると良いかもしれません。
時間があるときに更新していきます。
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■災厄の日
■ロスト
キャラクター
名前:レイン=フレイム
種族:今は人間
性別:女
年齢:たぶん100歳くらい。魔族的には20歳くらい。
身長:150センチちょっと
愛称:ぐーたら姫
本作の主人公。
もともと男で、ある日突然異世界にTS転生を果たした。転生先では銀髪ロリ少女の魔族になっていたが、魔力量や魔法操作に長けていた事もあり、魔王として魔族を統治していた。
魔王として何十年も君臨していたが、ついに勇者に討たれ死亡してしまう。しかし、今度は銀髪ロリのまま日本に転生していた。
日本がダンジョンまみれのファンタジーになっていたことに困惑したが、アニメやラノベ、ゲームが普通にあるので日本での生活を謳歌している。もともと日本で男だった頃はかなりのオタクで、数十年の魔王生活の反動もあってかオタクが再発し、ぐーたら生活の日々。相棒のナヴィには「働け」と常々言われている。
名前:ナヴィ
種族:精霊
性別:なし
大きさ:20センチ四方の立方体
レインの相棒。
レインが異世界で魔王に君臨していたときからの付き合いで、レインと魂が結びついているためかレインが勇者に殺されたあと一緒に日本に転移してしまった模様。
20センチ四方の薄いピンク色をした立方体の身体をしており、正面に目が一つだけある。少し機械チックな見た目をしているが、れっきとした精霊。
左右には四角い羽根が付いているが、特に羽根を動かさなくても浮遊できる。ときどきパタパタと動かしている。
常に冷静な口調で落ち着いた性格をしている。ぐーたらなレインの生活を正すべく、最近おかん化している。
名前:?
性別:女
愛称:かがりん
身長:レインよりも高い
登録者1,000万人超えの超人気冒険者系Yootuber。
はちみつ色の糸を編み込んだかのような美しい色合いの金髪に、星を散りばめたようにきれいな瞳。現実では珍しい縦巻きロールツインテール。整った顔立ちをしている。
金髪縦巻きロールツインテール=高飛車お嬢様の計算式から外れず、高飛車な口調のお嬢様。
ただしかなり根が真面目で優しく、高飛車な口調とのギャップにファンはグッと来るらしい。あとドジっ子属性も併せ持つ。レインの目の前で盛大にコケた。
冒険者としての実力も高く、Aランクの冒険者である。
回復術に
名前:珊瑚(さんご)
性別:女
職業:かがりん付きのメイドさん
かがりんの侍女。つまりメイドさん。かがりんのことを主人としても、1人の人間としても尊敬している。かがりんのこと大好き。
太陽みたいに朗らかに笑う元気な女の子。
従者としてやはり話があうのか、ナヴィと気が合う。
名前:三成 美卯(みなり みう)
性別:女
職業:冒険者ギルドの受付嬢
レインが活動拠点にしている水々市冒険者ギルド04支部の受付嬢。
幼さの少し残る顔立ちに、いつもニコニコした笑顔を浮かべている栗毛色の髪の女の子。元気ハツラツとした性格で、冒険者達からも姪っ子のように可愛がられている。
レインが大好きなアニメ『魔法少女ナナニカ・ニカナ』の大ファンで、レインと意気投合。レインとはプライベートでよくオタ話に花を咲かせている。
名前:一条 一華(いちじょう いちか)
性別:女
年齢:20代後半
身長:175センチくらい
職業:特殊機動隊 副隊長
特殊機動隊 神宮寺隊の副隊長。
美人で丁寧な言葉づかいをする。若いながらも副隊長に任命されるほど仕事もでき、実力もある。
趣味はアニメを見たり漫画を読んだりすることで、レインが大好きな『魔法少女ナナニカ・ニカナ』を知っていることもありレインと友だちになった。
BLも嗜んでおり、美人な見た目からは想像もできない言葉を普通に使う。GLもいける。一見すると常識人だが、時折やばい発言もするし、たぶん家でやばい行動もしている。アニメキャラのフィギュアを舐めて悦に浸っていたという噂もあるが真偽は不明。犯罪係数は推定で300オーバー。でもたぶん免罪体質。
名前:神宮寺
性別:男
年齢:イケオジ
特殊機動隊一番隊の隊長で、一条の上司。
イケオジ。
用語
世界にダンジョンが出現した日のことを指す。多くの犠牲を出した。
災厄の日に忽然と姿を消した人々のこと。
ダンジョンが出現して数十年が経過した今なお、ダンジョン内で保護されることがある。
保護されたロストには、完全に記憶をなくしている人もいれば、災厄の日以前の日々を過ごしていた記憶はあるが、ロストとして保護されるまでの記憶がない人もいる。姿を消したとき20歳の人が、姿を消した10年後に20歳のままダンジョンで発見されることもある。
地球とは別の世界、つまり異世界に飛ばされたというロストもいる。
魔法やスキルを使った犯罪など、特殊な犯罪に対処する警察の特殊部隊。
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プロローグ
第0話 オタクな魔王さま
対戦よろしくおねがいします。
――ああ、死んだ。
冒険者になってまだ間もない少女は自分の死を確信した。
自分はこのモンスターに殺されて死ぬのだろう、と。
犬のような顔をした人型のモンスター、コボルト。
ただのコボルトであれば少女でも対処できた。このダンジョンには通常種のコボルトしかいないから自分でも大丈夫だと、そう思っていた。
しかしどうだ。
ふたを開けてみれば頭に一角獣のような立派な角が生えた、明らかに通常種とは異なる風貌のコボルト。
雷属性の魔法を使ってくる上位種だ。
上位種と言うだけならまだいい。
たとえ上位種でも、1匹だけならまだ逃げることは出来た。
しかし、その上位種のコボルトが5匹。
上位種だけではなく、通常種もどこからかワラワラ出てきて囲まれた。
そして自分はコボルトの雷魔法をくらって身体がしびれて身動きが取れない。
――欲をかいちゃダメだったなぁ……
自嘲気味に少女は笑う。
少女がいるダンジョンはまだできて新しいダンジョン。
新規のダンジョンはまだ開拓されていない分危険度も高いが、その分一気に稼げる可能性がある。いわゆるダンジョンドリームだ。
自分なら大丈夫、ダンジョンドリームを勝ち取っていい暮らしをしてやる! その過信が今回の結果を招いたのだ。
両親の反対を押し切って冒険者になったが、冒険者になったことは別に後悔していない。いつかモンスターに殺されるかもしれないことも考えていた。これも運命だろう。
命のやりとりをするんだ。そんな覚悟はとっくにできている。
けれど両親はきっと、自分が死んだらすごく悲しむし、すごく怒るだろう。そこだけは後悔しているし、申し訳ない。
「グギャ…ャ…」
コボルトたちがニヤニヤと、こちらに近づいてくる。
右手に持った棍棒を左手に軽く打ち付けて、今からこれでお前を殺してやるんだぞ、そう言っているように感じた。
「ごめん、お父さん、お母さん……」
コボルトが棍棒を振り上げる。
まるでスローで再生される動画のように、棍棒が振り下ろされる瞬間が鮮明に見えた。
あたる直前、文字通り死ぬほど痛いであろう痛みを想像し、少女は目をつむった。
しかし、いくら待っても衝撃は来ない。
「え?」
閉じていた目を開けると、そこには銀髪の女の子がいた。
コボルトと少女の間に割って入るようにいる銀髪の女の子は、コボルトが振り下ろした棍棒を何でもないように右手で止めている。
コボルトたちはいきなり現れた女の子に驚いているようで身構えて距離をすぐさまとった。
「生きるのをあきらめるのはまだ早いぜ、お嬢さん?」
こちらをちらりと見ながら、女の子が言う。
自分よりも年下であろう女の子が使うにはすこし違和感のある言葉遣いだが、不思議としっくりくる。
腰まであるきれいでつややかな白銀の髪。こちらを見る、宝石のように美しい紅の瞳。雪をも
死んだ自分を迎えに来た天使と言われたら納得してしまいそうなほど綺麗な女の子に少女はすこし見惚れてしまった。
「なんで……」
少女からこぼれたその言葉は、別に何かを問いたくて出た言葉ではなかった。
ただ、なぜここにこんな女の子がいるのか。
なぜ自分を助けてくれたのか。
なぜそんな簡単にコボルトの攻撃を止めているのか。
そんないろいろな考えがつい言葉に出ただけだった。
「ふっ」
白髪の女の子は不敵に笑い、こう答えた。
「ダンジョンの中で困っているきゃわいい女の子を助けるとか当たり前でしょ
先ほどまでのミステリアスな雰囲気から一変。
銀髪の女の子はなにを言っているのだろう? 日本語……ということはかろうじて理解できたが、意味をすべて理解できたかが不安だ。
「あーあー、マスター。ハードボイルドなアニメを見たお陰でせっかくかっこよく決まっていたのに、今の一言で台無しですよ。
すーぐ
なんですか? ついついハードボイルドな雰囲気を出してしまったことに対する照れ隠しか何かですか?」
するといつからいたのか、薄いピンク色をした立方体の生物が現れた。
立方体の生物には、側面にパタパタしている耳のようなものがついていたり、正面には目もついている。
初めて見るが、モンスターだろうか?
そんな立方体の生物に女の子は口をとがらせて“いいんだよこれがワタシなんだからー”と言っている。
この女の子は一体何者なのだろう?
少女がいろいろ頭の整理がつかず混乱していると、ふいに銀髪の女の子がこちらを向いて、安心させるようにニコリと笑う。
「ちょっと待ってて。すぐに片付けるから」
女の子はコボルトたちのほうを向くと、およそ先ほどの柔和な笑顔をしていた人物と同じ人間だとは思えないほど獰猛な目つきをした。
まるで狩りをする獅子のように、あるいは殺戮を楽しむ悪魔のように。
しかしそれは恐ろしくはなかった。
むしろ頼もしく見え、少女は女の子が繰り出す蹂躙劇に時を忘れ見惚れてしまった――。
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第1話 ここは誰? 私はどこ?
まだ数話は魔王さまのオタクは再発しません
「……ここは? ぐっ……」
痛む頭を右手で押さえ、起き上がる。
上体を起こし、あたりを見渡してみると、どうやら洞窟のようだ。
なんでワタシはこんな場所で寝ていたんだ?
「マスター」
「うわ?!」
急に後ろから話しかけられて、反射的にびっくりして変な声が出てしまった。
話しかけられたほうを見ると、ふわふわと浮かぶ、淡いピンク色をした立方体がいる。
「びっくりさせるなナヴィ」
パタパタと側面についた長方形の耳を動かし、一つ目をパチパチ瞬きさせると、ピンクの不思議立方体生物―― ナヴィは少し不機嫌そうな目をする。
「ただ単に話しかけただけなので心外です。
それに、マスターが目を覚ますまで甲斐甲斐しく見守っていたことを褒めて欲しいくらいです」
「いやまあ、それはありがとうなんだけどさ」
彼、あるいは彼女の名前はナヴィ。
20センチ四方の立方体のような身体をしているが、れっきとした精霊で、ワタシが魔王に君臨してからの付き合いだ。もう何十年、ナヴィと一緒な気がする。
「ところで、ここはどこだ?」
「分かりません」
「へ?」
「分からないのです。
私の最期の記憶は、魔王城でマスターと一緒に勇者に殺された記憶です」
「あぁ――」
思い出した。
そうだ、たしかにワタシは殺された。人間がワタシを討伐するために遣わした17人目の勇者。そいつに殺された。
別に悔いはない。
いや、むしろ楽しかった記憶しかない。
日本から異世界に飛ばされて何十年間も魔王として君臨していたけど、あんなにも心躍る戦闘は初めてだった。
強かったな、アイツ。
しかし、そうなると、ワタシはなぜ生きているのだろう?
確実に胸を剣で貫かれたはずだ。
いくら魔族の身体が丈夫だからといって、生きていくのに必要不可欠な器官を破壊されて生きているはずがない。
「ワタシ、たしかに殺されたはずなんだが…… 生きてる?」
「マスターは生きていますが、どうやら事はそう単純ではないようです。マスターの角や羽根など、悪魔的な特徴が消失しています」
「何だと?」
ナヴィに言われて慌てて頭や背中を手で触って確認してみる。
……本当だ。
猛々しい2本の角、コウモリのような羽根、先端がスペードのような形になった尻尾がない!
もしかして、死んで全く別の人に憑依した、とか?
……ありえる。
インターネットに張り付いてアニメや掲示板ばかり見ていたオタクサラリーマンが異世界に飛ばされて、美少女になって魔王になることがあり得るのだ。死んで別の人に憑依することだって起こり得る。
できればちゃんと自分の姿を確認したいが――
そう思ってキョロキョロとあたりを見渡しても当然姿見はない。
しかたがないので、地面の適当なくぼみに水魔法で水たまりを作り、水面の反射で姿を確認することにした。
あたりはぼんやりと明るいが、より強い光源を求めて光魔法で明かりも出す。
即席の姿見へひょいっと、水面を覗き込めば、そこに映るのは美少女。
すこしウェーブのかかった長い白銀の髪に、炎を凝縮して落とし込んだような紅の瞳。
幼さの少し残るものの、猫の目のように少しつり上がった勝ち気な目つき。
かわいい。
おっと、ついつい自画自賛してしまった。
しかし、これは紛れもなく、魔王であるワタシの姿だ。
まあ、角とか羽根とかないが。
うーむ…… 死亡して、知らない人間に憑依したという説は薄いだろうな。顔の造形も身体もワタシだし。尻尾ないけど。
「意味が分からない」
「全くですね。しかし、ここでじっとしていても事は進みません。
マスターの体調が良いようでしたら、ここがどこだか確かめるためにも出口を探すのはいかがでしょうか」
「そうだな。うん、頭痛いのも治ったし、とりあえず進もうか」
****
進んでいると、色々と分かることもあった。
まるで誰かが整備しているかのように洞窟の道には明かりが設置されているし、ときどき宝箱(中身は程度の低い武器だった)もある。
それに、低級のスライムみたいなモンスターも出現する(あろうことか魔王であるワタシを攻撃してきたので火炎魔法で焼いておいた)。
これらを勘案すると、ここはおそらく――
「ダンジョンだな」
「そうですね。しかし、先程のスライムは妙でした。
モンスターの王であるマスターを攻撃するなど、いくら低級モンスターでも本能で分かりそうなものですが。それに、私の知識にあるスライムと色や形状が一致するものはありませんでした」
たしかにあのスライムは見たことがなかった。
ワタシを攻撃してきたことも良く分からない。
確かに今のワタシは尻尾や角はないが、魔王としての力、すなわち魔力は変わらず健在だ。勇者と対峙したときと同じように、魔法も問題なく撃てる。
モンスターは基本的に相手を魔力で判断するから普通ならワタシに攻撃なんてしようとも思わないはずだが……
「うーん…… 新種のスライム?」
「どうでしょうか……
それに、殺したスライムが光の粒子になって消滅するのもよく分かりません」
「ゲームみたいだよね」
「ゲーム……?
あぁ、マスターが生前“ニホン”というところで遊んでいた遊戯具ですか」
「そそ。倒すとあんな感じでモンスターがぱあっと消えてドロップアイテムが……」
そんなふうに話しながら歩いていると、不意に気配を感じた。
ちょうど前に見える曲がり角の先だ。
「――ナヴィ」
「はい」
数秒後、轟音とともに、曲がり角の向こう側から巨大な何かが吹き飛ばされてきた。
「ゴウガァァ…ァ……」
「あれは…… オーク? ちょっと知らない種類だけど」
吹き飛ばされてきたのは体長2メートルはありそうな人型のモンスターだった。
顎から生えた2本の牙に、人間と豚を混ぜたような顔。
まあ、細部は違うのでこれもまた新種かもしれないが。
吹き飛ばされてきたオークはキラキラと光の粒子になって消え、オークが居た場所には握りこぶしくらいの紫色の宝石と、牙が1本残されていた。
『ふぅ~、あっぶね~』
それを通路の先から来た人間が拾う。
人間はこちらに気がついたらしく、声をかけてきた。
『あれ、うそ。まじかー、俺より先に進んでるやつが居たのか。
俺は赤坂。お嬢ちゃん、見ない顔だな。名前は?』
『レイン、だけど……』
そこまで言って、ワタシは気がついた。
赤坂と言った男性、そしてワタシも、
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第2話 ニホン……?
『マスター、今のって日本語ですよね……?』
ナヴィが驚いた様子で聞いてくる。
『あ、ああ……日本語だ。というかナヴィまだ日本語覚えてたんだな。結構昔に面白がって数回教えた程度だろ?』
『私は一度覚えたことは忘れませんから。
それよりどうしますかマスター? 人間ですし、拷問でもして情報を吐かせますか?』
『ちょっと待て拷問は短絡的すぎだ。幸い……か分からないが、今のワタシは人間の見た目だ。わざわざ敵対するようなことは避けられる。
最終手段として拷問はありだが、できる限り友好的に行こう』
『分かりました』
「おーい誰と話してんだ……って、なんだそいつ? モンスターか?」
赤坂と名乗った男性はこちらに近づいてくると、ワタシの隣にふわふわ浮いているナヴィに気がついたのか、少し驚いた様子で武器を構える。
「あ、いや、えーっと、説明は難しいんだが、こいつは大丈夫だ。分類的にはモンスターに近いかもしれないが、敵じゃない。そしてワタシも敵じゃない」
「はじめまして、
マスター…… こちらの方のパートナーを努めております。以後お見知りおきを」
パタパタと羽根を動かしながら、赤坂さんの前までスィーっとナヴィが移動する。
「すげぇ、人語を解するモンスターか。ここまでなめらかにしゃべるのは見たことないな。しかも初めて見る見た目してんな。
ふーむ…… なるほどなるほど。使い魔みたいな感じか」
顎に手を当てて興味深そうにナヴィを見ているが、コホンと小さく咳払いをして話をすすめる。
人に会えるなんて
「で、えっと、すまない。赤坂さん。ここはどこだろうか?」
「……? どこって、イシギダンジョンだけど……? 今日からダンジョン攻略が開始したから嬢ちゃんたちも来たんだろ?」
「イシギダンジョン…… すまない、その名前に覚えがなくてな。
ナヴィ、イシギダンジョンはどこにある? サバティエリ大陸か?」
「いえ、私の持つ情報には“イシギダンジョン”なるダンジョンはありません」
「何?」
ナヴィでも知らないダンジョン? 意味がわからない。
さっきナヴィ自身も言っていたが、ナヴィは一度覚えたことは基本的に忘れないし、それこそ動く図書館のように知識に富んでいる。
まったく新しいダンジョンか……?
ダンジョンにも様々なタイプがあるし、ある日突然できるタイプのものもある。
……いや、まて。
そもそも、赤坂さんは日本語を使っていたんだ。
少なくとも異世界で日本語を使う人物はワタシは見たことがない。それこそ、ワタシが少し教えたナヴィくらいなものだろう。
じゃあ、ここは日本か?
赤坂さんが日本語を使っているという一点のみに焦点を当てれば最も有力だが、そもそも日本にダンジョンなんてあるはずがないし……
となると、ここはワタシが居た異世界でもないし、日本でもない。全く別の世界の可能性……?
うーむ、分からない。
「……もしかして嬢ちゃん、ロストか?」
そんなふうにうんうんと唸っていると、何やら納得したように赤坂さんが問いかけてきた。
「ロスト……?」
「あぁ、そうだな。いきなりロストとか言ってもわからないよな。
とりあえず付いてきてくれ。地上に出よう」
「え、ああ、ちょっとまってくれ。まだ状況がよく飲み込めていないんだ」
「ちょっと話が長くなるからな。
まあ、安心してくれ。ロストの保護は冒険者の義務だ。悪いようにはならんから大丈夫だ」
*****
赤坂さんに付いていきながら話し、おおよそ今の自分の状況が理解できてきた。
まず、ここはワタシが魔王として君臨していた世界とは違う世界だ。
更に言うのであれば、ここは地球だ。
そして、日本。
日本? ならなんでダンジョンがあるんだという話になるが、どうやらワタシが異世界に召喚されてしばらくして、地球全体にある異変が起きたらしい。
その異変は「災厄の日」と呼ばれ、地球各地にダンジョンが出現した。
ダンジョンにはまるでゲームに登場するようなモンスターが出現し、さらにダンジョンの出現から程なくして、ダンジョンからモンスターが地上に
地上に這い出てきたモンスターは人々を襲い、建物を破壊し、多くの被害を出した。
当然国民を守るため、自衛隊や警察が動いたが、どういうわけか、拳銃や戦車、地雷や火炎放射器など、ありとあらゆる武器がほとんど効かなかった。
人類は突然の災厄に滅びるしかないと思われたが、モンスターが出現した「災厄の日」に、人類は新たな力に目覚めていたらしい。
まるでゲームやアニメのように、魔法を扱える人々。
戦技と呼ばれる特殊な技能を使う人々。
レベルの概念やジョブの概念。
様々な力が生まれていた。
そして、これらの力はモンスターに効果的に効いた。
「ま。ざっくり言うとこんな感じだな。人間が科学の
そうして人間はなんとかモンスターを地上から排してダンジョンに押し込めることに成功。
「ふーむ、なるほど……」
「興味深いお話ですね」
日本、日本か……
つまりワタシはやはり向こうの世界で勇者に殺されて死んで、日本に再び転生した。……ということだろうか。今のワタシが、向こうの世界で魔王をやっていたワタシと顔の造形や身体がほとんど一緒なのは謎だけど。
ナヴィも一緒に転生したのも謎だな。
まあ、ナヴィは精霊で、ワタシの魂と強い結びつきがあるから引っ張られたとか?
色々とわからないことだらけだが、現状はこの説が一番ありえそうだ。
まだ威厳ある魔王さま
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第3話 ロスト
「赤坂さん、それで、ロストっていうのは結局なんなんだ?」
ダンジョンの中を歩きながら、隣を歩く赤坂さんに問いかける。
「ロストってのは嬢ちゃんみたいな人たちのことを言うのさ。
災厄の日、這い出るモンスターに多くの人が殺されたが、モンスターに殺されるだけじゃなく、どうやらダンジョンの出現とともにある程度の数の人達が
で、どういうわけだか、その忽然と姿を消した人たちは、ダンジョン出現から数十年経過した今なお、ときどきダンジョン内で保護されることがある。
まあ、ロストと
完全に記憶喪失になっている人もいるし、災厄の日以前の日々を過ごしていた記憶はあるけれど、ロストとして保護されるまでの記憶がない人もいる。姿を消したとき20歳の人が、姿を消した10年後に20歳のままダンジョンで発見される、とかな。
変わりどころで言えば、地球とは異なる世界、つまり異世界に行っていた、なんて人も割合的には少ないが一部いる」
ふむ、ワタシはその“異世界に行っていたロスト”という枠組みに含まれるのだろう。
もしかしたらワタシが異世界に転生したのも災厄の日とやらが少なからず関係しているのかもしれないな。
まあ、転生して異世界で女の子になるのは意味が分からないけど。
今でこそ慣れたが、転生して最初の方とか湯浴みとかで結構困ったりしたもんだ。ま、今となってはいい思い出かもしれん。
幼児体型の美少女の裸(自分)がね、どうしても視界に入るんだよな……
「嬢ちゃん、異世界に行ってた口だろ?」
昔の思い出に浸っていると、赤坂さんが得意げに聞いてきた。
「どうしてそう思う? まだあまりワタシの事情を話していなかったと思うが」
「色々あるが、まずロストなのは確定だと思った。
ここはどこ? なんて質問するし、ちゃんと入り口からダンジョンに入ったならここがイシギダンジョンであることを知らないはずがない。
んで、嬢ちゃん、年齢は十代後半くらいだろ?
それにしてはなんていうか…… 突然ダンジョンに放り出されて状況が飲み込めないにしては結構落ち着いて居るし、冷静だった。
俺が吹き飛ばしたオークも見ているだろうが、あの化け物はなにか、という質問はなかった。ロストは結構パニックに陥っていることが多いって聞いてたが、嬢ちゃんは違った。
そうすると、昔耳に挟んだ事例みたいに、嬢ちゃんは異世界で色々慣れているんじゃないかってな。
あ! あとそうだ。小声だったからあまり聞こえなかったが、たぶん日本語じゃない言語を喋ってた。英語でもなかった」
「ほう…… 意外と見ているじゃないか赤坂さん」
「合ってたか?」
ふふん、と得意気に赤坂さんが聞いてくる。
赤坂さんは40~50代くらいに見えるが、得意気にしている様がなんだか一瞬少年のように思えてしまって、思わずクスリと笑ってしまった。
ワタシは異世界に行く前は普通に成人してサラリーマンだったし、異世界で何十年と魔王として君臨していたから、赤坂さんの言う“年齢は十代後半くらい”という部分は違うが、まあ、そこは黙っておこう。
見た目が若いと言われるのは別に悪い気はしないからな。
「ああ、ほとんど正解だ。ちなみに、十代後半くらいに見える
少し茶化して言うと、“いらんいらん”と大げさに手を振られた。
「冒険者やってる連中なんて血の気の多いやつばっかだ。敬語使うヤツのほうが珍しいし、俺も敬語使われるのになれてねーよ。敬語なんてガンテツ兄弟の弟で腹いっぱいだ、無理して使うな」
「そうか。ならそうしよう」
「まあでも良く分からないのは、嬢ちゃんのパートナーのえっと……」
「私はナヴィです」
「そうそう、ごめんごめん。
ナヴィはもしかして異世界のモンスターか? ロストと一緒にモンスターがついてくるなんて事例は初めて聞くが……」
「ナヴィは確かに異世界で出会った。ワタシと一緒にここにいたのは…… ワタシにもよく分からん」
「なにを言っているんですか。私とマスターの熱くて厚い絆のおかげですよ」
ナヴィをちらりと見ると、すごいドヤ顔でそんな事を言っていた。
ときどきナヴィは良く分からないことを言うな。
まあ、好いてくれているのは分かるので放っておこう。
「ロストを保護するのは冒険者の義務と先程言っていたな。
冒険者というのはモンスターを狩ったりダンジョンを探索して生活資金を稼ぐ者たち、という認識で合っているか?」
「
「ほぉー…… じゃあ、こちらの世界では冒険者として働くか」
「やめとけやめとけ。
冒険者をしている俺が言うのも何だが、嬢ちゃん、まだ若いんだ。いろんな選択肢があるぜ? 何も危険に身を投じる必要はないんじゃないか?」
「ご忠告痛み居るが、まあ、今更サラリーマンやるのも性に合わんし――」
「――嬢ちゃん、待て」
楽しく談笑していると、ふいに赤坂さんがワタシの前に手を出して静止する。
なるほど。先の方に見えるオークを見つけたというわけか。
「ちっ。またオークか」
「ワタシと出会ったときに倒していたじゃないか。もう一回倒せばいいだろう」
“まあそうなんだが……”と赤坂さんはこちらをちらりと見て歯切れの悪そうに言う。
はは~ん。なるほどなるほど。
ロスト、つまりワタシというお荷物が居るからなるべく戦闘は避けたかったということだろう。
心配せずともお構いなしにやってくれていいのに。
「心遣いはありがたいが、心配しなくてもワタシは……」
そこまで言って気が付いた。
そうだ、ここでワタシがオークを倒せば早い。
「よし、赤坂さん。そこで待っていてくれ。ワタシが倒してこよう」
「お、おい嬢ちゃん!」
「Mr.赤坂。大丈夫です、マスターにとっては朝飯前です」
「ふふん、そういうことだ。
冒険者になるにはBランク以上の冒険者の推薦が必要なのだろう? しっかり見届けてワタシを推薦してくれたまえ」
(このペースだとオタク化まであと4~5話掛かりそう…)
評価入れてくださった方、ありがとうございます!
お気に入り登録も感想もありがとうございます!
ほそぼそ頑張ります!
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第4話 まおうさま、つおい
「おいちょっと、ナヴィちゃん、止めなくて良いのか?! オークの危険度はBだ! つまりギルドの基準に照らせば戦うにはランクがB以上の冒険者が推奨されてるんだぞ!
ああえっと、ギルドって言っても分からんか…… とにかくオークは強いんだ!」
「まったく問題ありません、Mr.赤坂」
赤坂さんがワタシを心配してまだ後ろで渋っているが、ナヴィも言っている通り全く問題ない。
なにせワタシは魔王なのだ。いや、もう
なんにせよ、多少世界が違ったとしてもワタシが負ける可能性など毛ほどもない。
赤坂さんと出会う前に軽く魔法を試し撃ちしていたが、魔力量や魔法の威力に問題はない。魔力のめぐりも、魔王をやっていたワタシそのままだ。
「さて、と。赤坂さんが心配しているが…… オークよ、ワタシと少しダンスを踊ろうか?」
オークの前まで悠々と歩いていき、ニヤリと笑う。
そんな態度が
が、ワタシは右手でそれを軽く止める。
「ほらどうした、もっと力を入れんか」
しょせんオークの
顔面で棍棒を受け止めるなんてナンセンス。
ふふふ、品を気にするワタシってばマジ魔王。
オークはワタシに攻撃が止められるとは微塵も思っていなかったのだろう。
驚愕の表情を浮かべ、ワタシの右手で止められた棍棒をすぐさま引き下げようと棍棒を持つ左手に力を込める。
しかし、何も起こらない。
まるでワタシの右手に固定されているかのように微塵も動くことはなかった。
「なんだァ? ワタシにくれるのか?
そうかそうか、じゃあもらっておこうかな」
挑発気味にそう言って、ひょいっと力任せにオークの棍棒を取り上げる。
オークの知能は猿並みだといっても、魔物として生存に必要な知能は最低限備わっているのだろう。身の危険を感じたのか、自分の棍棒をすぐに諦めてワタシと距離を取った。
オークから取り上げた棍棒を改めて見るが、随分とボロい。
「重いだけで安っぽい棍棒だな。
やっぱりいらないからお前に返そう。そら、受け取れッ」
距離をとったオークめがけて、棍棒を投げる。
ワタシの手から放たれた棍棒はジェット機もかくやというような速度で飛んでいき、オークの胴の中心を貫く。棍棒はそのままダンジョンの壁にあたり、大きな窪みを作った。
オークは自分に何が起きたのか理解できなかったのだろう。
痛みを感じる暇すらなかっただろう。
声を荒げるでもなく、自分のお腹にあいた空洞を左手で擦ると、そのまま力なく倒れた。
「いっちょ上がり、だな」
地面に伏したオークはしばらくすると先程のスライムやオークのように光の粒子になって消えた。
やはりこの世界のモンスターはゲームの敵キャラのように、ぱあっと消えるらしい。
ただ、地面に飛び散ったオークの血は、粒子になって消えた箇所と、そのまま残っている箇所がある。粒子になって消えるものとそうでないものの違いがいまいち分からないな。
まあ、些細な問題か。
オークが消えた場所には、こぶし大の紫色の宝石が落ちていた。
このアイテムがどれほど有用なのかは知らないが、一応拾っておこうか。
ポータルを開いて、その中に宝石をポイッと入れておく。
「ほら、赤坂さん。大丈夫だっただろう?」
赤坂さんのところまで戻り、ニシシとちょっといたずらっぽく笑ってみる。
赤坂さんは少し放心していたが、フー……っとため息を付いてやれやれと肩をすくめた。
「こりゃまいったな。心配する必要まったくなかったじゃないか。いや、うん。すごいな嬢ちゃん」
「ふっふっふ。マスターはすごいのです」
赤坂さんの言葉にナヴィが抑揚のない声で返す。
ナヴィは基本的に起伏のない喋り方をするが、かわりに意外と表情に出やすい。今もすごいドヤ顔をしている。
なぜワタシではなくお前がドヤ顔するんだというツッコミは野暮だろう。
「こりゃ地上までなんの心配もいらなさそうだな」
「ああ、任せてくれ。ワタシは魔法も得意だからな、次から今みたいにザコ敵が出てきたら炎で一掃しよう」
「ザコ敵ねぇ…… 一応オークは冒険者の壁の一つなんだけどねぇ……」
少し引きつった笑いを赤坂さんがしているが、まあ、魔王とただの冒険者を比べるのは比較対象を少し間違えているとしか言いようがない。
ああ、そうだ。
ポータルを開いて、亜空間にしまった先程の紫色の宝石を赤坂さんに見せる。
「赤坂さん、貴方を真似して拾っておいたが、これは一応持って行けばいいか?」
「道具なしにアイテムボックス使えるのか…… まあいいや、ちょっと見せてみろ」
赤坂さんに宝石を渡すと、赤坂さんは”ほぅー…”と感心する。
腰に挿していたペン型のライトを取り出し、宝石に照らして様々な角度から一通り見るとワタシに返してくれた。
「かなり純度の高い魔石だ。
俺がさっきオークを倒して手に入れた魔石よりワンランク上のものだな」
「なるほど。これは魔石というのか」
「ああ、説明がまだだったな。
モンスターは倒すとドロップアイテムを落とす。大抵は純度の低い魔石や素材だが、時々純度の高い魔石や貴重な素材を落とすことがある。いわゆるレアドロップだ。
魔石はいろいろな機械の動力源になっていたりするからギルドでいつでも買い取ってもらえるぜ」
「ふむ、そうなのか。ちなみにこれはいくらくらいになるんだ?」
「そうだな…… それ1個だけできっと豪華な食事が数日は楽しめるぜ」
今の日本の豪華な食事がどういうものか分からないが、銀座の寿司くらいを想定しておけばいいかな?
そんなことを考えながらワタシ達は再び歩みを進めた。
ザギンのシースーはいくらくらいするんですかね?(貧乏人)
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第5話 ただいま
「やっと地上に出たな」
「ああ」
赤坂さんと出会い、ダンジョンを歩くこと約1時間。
ようやくワタシたちは地上に出た。
「やはり地下の陰湿な空気はいかんな。暗いところは嫌いではないが、ああもジメジメしていると気が滅入る。地上は良い」
「久々のシャバの空気は美味い、というやつですね」
「……ナヴィ、どこでそんな言葉覚えたんだ」
「……? 適切な表現かと思ったのですが、間違っていたでしょうか?」
それは“ヤ”のつく職業の人が使う言葉だナヴィ。淡々とした口調で変なことを言うんじゃない。
本当にどこでそんな言葉を覚えたんだ。
まあいい。
ワタシたちはダンジョンの入り口から入ったわけではないので、自分がいたダンジョンの入り口は初めて見るが、随分と重厚な扉で固められている。万が一にもダンジョンからモンスターが這い出てこないように、人間たちがあとから扉を設置したのだろう。
鎧をつけた警備員みたいな人も立っている。
「ダンジョン自体はワタシたちが居た世界とあまり変わらないが、ダンジョンが建物の中にすっぽり収められているのは驚いたな」
「あー、そうなのか? こっちではダンジョンが出現すると、まず入り口をガッチリ扉で固めて、その後こういうふうに建物を建設するんだ。
ここにはダンジョンを管理するための事務所もあるし、簡易的なシャワー室なんかもあるぞ。ほらあそこだ」
「ほぉー…」
赤坂さんに言われた方を見ると“シャワー室はこちら! E~Dランク冒険者は利用料30%OFF!”とポップな案内看板が立っていた。
案内看板によると、シャワーだけでなく、ダンジョンで汚れた防具や服、モンスターの血がついた武器などを洗ったりするための簡易的な洗い場も併設されているらしい。
現代チックな建物の中にダンジョンの入口があるという感じなので、異世界経験者からすると少し違和感があるが、異世界に比べ随分と充実した施設だ。
異世界に居た頃は魔王の公務が嫌で、お忍びで人間の街に何回か遊びに行ったことがあったが、異世界の冒険者は獣臭しかしなかったな。まあ、それが向こうでの“普通”だったわけだが。
それに比べさすが日本。ワタシがまだ男でサラリーマンやっていた頃から何十年も経っているが、変わらず清潔で素晴らしい。
「どうする? 俺も嬢ちゃんもあんまり汚れていないし、このままギルドに向かおうかと思ってたんだが、軽くシャワーくらい浴びてきてもいいぞ?
利用料くらいは俺が払ってやる」
「いいや、別に大丈夫だ。返り血なんて浴びてないし、汗もかいていないからな。
それに、多少の汚れぐらい、水魔法でちゃちゃっと洗える」
「水魔法で洗えるのか? 器用だな…… じゃあこのまま行こう。
ここにある転送装置は今メンテナンス中でな。歩き疲れてるかもしれないが、一番近い冒険者ギルドまでもうちょっとあるから我慢してくれ」
「問題ない」
赤坂さんと一緒に建物から出る。
自動ドアを出て眼前に広がるのは、懐かしのコンクリートジャングル。
背の高いビルに、巨大なモニターに流れるCM。あれはコンビニだろうか。数十年経過しても日本の町並みはあまり変わらないな。
いやむしろ、ダンジョンが出現するなんてイレギュラーが起こったせいであまり大きな技術革新や変化が起こらなかったのかもしれない。
――なんにしても懐かしいな。
「どうしたんだ?」
スタスタと前を歩いていた赤坂さんがこちらに気が付き、戻ってきた。
いけないいけない。
懐かしすぎて、立ち止まってこの風景を噛みしめてしまっていた。
「いやなに、日本に戻ってきたんだと実感が湧いてきてな」
「そうか、嬢ちゃんは異世界に行ってたんだもんな。嬢ちゃんが行ってた異世界はやっぱり全然街の雰囲気とか日本と違うのか?」
「全く違うな。よくあるファンタジー小説みたいに石造りやレンガ造りの建物ばかりだし、巨大なモニターなんてのもない。
あちらはあちらで美しい建物だったが、良くも悪くも魔法のみを前提にした文化だからな。その点、ここはもともとは魔法なんて存在しなかったから……」
「ふんふん。やっぱ異世界ファンタジーの定番は中世ヨーロッパ風だよな。俺も災厄の日以前はただの高校生だったから、その手のラノベは読みまくってたぜ」
「お、なんだ赤坂さん、意外とそういうの知ってるのか!」
ワタシは思わず同志を見つけて目をキラキラさせながらずいっと顔を近づけて聞くが、赤坂さんに「近い近い」と引き離された。
いかん。
つい少年のような心が働いてしまった。
「まあ災厄の日以降は生きるのに必死だったから、それ以来あまりサブカル系のものは読んだりしてないな。
今の娯楽はスポーツ観戦とか… あとビールだな!」
「……そうなのか。
赤坂さん、ところで一つ、非常に大事な質問をしたい……! そういうラノベとかアニメとか、災厄の日で変わってしまったこの世界でも、今も変わらずあるか?」
鼻息を荒げ、赤坂さんの回答を待つ。
この答えによって、ワタシの今後の日本での生活が左右されると言っても過言ではない。
なにせワタシはもともとオタク的な生き物だったのだ。
異世界転生とかいう摩訶不思議なことが起こったせいで――まあ、それはそれでオタク冥利に尽きる体験だが――アニメやラノベなんてまったくない生活をもう何十年もしているのだ。
アニメやラノベに限らず、異世界はテレビとかゲームもない。ワタシは常にそういうものに飢えていた。
そのせいで戦いくらいしか楽しみがなくて周りからは戦闘狂みたいな扱いを受けていた。自分では平穏が好きなパンピーのつもりだったんだけどな。
赤坂さんはワタシの鬼気迫るオーラに少し気圧されながらも口を開いた。
「ある……と思うぞ。
災厄の日のせいでいろいろな産業が破壊されたし、経済も停滞もしたが、今じゃあもうすっかり災厄の日前と遜色ないレベルまで持ち直してるぜ。
アニメとかも普通にテレビで放送してたと思うし、なんならこの前、駅前にオタク向けのショップみたいなのが出来たって受付嬢のみーちゃんが言ってたような気がする」
赤坂さんのその言葉を聞いてワタシは、フッと静かに笑みをこぼす。
どうやら日本での生活は楽しくなりそうだ。
「マスター、そんなにラノベなるものが読みたいんですか?
ファンタジーな体験なら向こうの世界でたくさんしたでしょうに」
「それはそうだが、何も異世界はワタシたちが居た世界が全てというわけでもあるまい。人の想いの数だけ、異世界がある。
いろんな作者が考える世界を読むのはなかなか楽しいぞ」
「なるほど……? そのようなものなのですね」
異世界転生、憧れるけどインターネットないと1週間で発狂しそう…(ネット中毒者並感)
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第6話 ようこそ、水々市冒険者ギルド04支部へ!
「着いたぜ。ここが水々市の冒険者ギルドだ。
まあ、正確には水々市にいくつかある支部の一つだがな」
ダンジョンを出てしばらくぶりの日本の街を堪能すること数分。
ワタシたちは冒険者ギルドに着いた。
冒険者ギルドと聞くと、異世界の知識があるせいで石やレンガ、木材で出来た中世風の建物をイメージしてしまうが、ここはそんな古典的なギルドではなく、普通にコンクリートでできた小綺麗な建物だった。
正面に【水々市冒険者ギルド04支部】と木製の看板がデカデカと出ているのが多少違和感があるくらいだろう。
入り口は普通の建物と同じで自動ドア。
うむ、やはり現代技術は素晴らしいな。
異世界では自動ドアなんてなかったからなぁ。そればかりか
建物の中に入って、内装を確認すれば、一言でいうと市役所みたいな感じだった。
天井には案内のプレートが吊り下げられ、窓口には番号が振られている。
ただ、ギルドに併設されている酒場には屈強な男たちがたむろしており、まだ日も高いというのに、ビール片手に騒いでいる。うーむ、なんたるミスマッチか。
いや、これが今の日本の普通なのだろう。むしろ違和感を覚えるワタシが異端者なのだ。
「先程のダンジョン管理所もそうでしたが、我々が居た世界とはだいぶ建築様式が違うのですね。興味深いです」
「そうだな。まあ、こちらの世界の冒険者にも荒くれ者が多いみたいで、なんだか妙な安心感を覚えるよ」
「嬢ちゃん達、こっちだ」
赤坂さんに案内されて01番の受付に行く。
受付には元気そうな受付嬢が居て、幼さの少し残る可愛い顔立ちにニコニコと人懐こっそうな笑顔を浮かべている。
他の受付嬢も同じような服装をしているが、ファンタジー色の強い、茶色を基調とした落ち着いた色合いのゆったりとした袖口の広い服装で、頭にはメイドさんがつけているようなプリムも乗せている。ここの制服なのだろう。
建物が現代的だし、ここは日本なので、ギルド職員の服装はネクタイをきっちりと締めたスーツ姿なのかと思っていたが、意外と違っていた。
変に前々世の記憶があるせいで、日本でこういう服装を着ている人を見るとコスプレみたいに感じてしまうなぁ。
「こんにちはー、赤坂さん! あれ、今日はイシギダンジョンの攻略じゃなかったんですか? 随分と早いお帰りですけど……?」
「いやなに、途中で珍しいもん拾っちまってな」
そう言って赤坂さんは親指でクイッとワタシを指差す。
「おやおや? おやおやおや~?
なんともまあ可愛らしい女の子ではありませんか!
……はっは~ん。赤坂さんにもついに彼女が出来ましたか。隅に置けませんね~、このこの~! 大丈夫です、彼女と言うよりも父と娘といった感じですが、愛に年の差は関係ありません! 20~30歳くらい離れていたって無問題デスッ! なんならそういうほうが愛は燃え上がるのです!
年の差カップルの漫画はSNSでも結構人気高いんですよ!」
受付嬢はなにやら壮大に勘違いをしているが、どうやらいつものことなのだろう。赤坂さんが慣れた様子で「んなわけないだろ」と
「ダンジョンの中でこの嬢ちゃんに会ったんだ。ロストだよ、ロスト。俺は冒険者の義務を果たしただけだ」
「なんと、そうでしたか! いやはや失礼いたしました!
……コホンッ 私はここで受付嬢をしております、
「あ、ああ。ワタシはレイン。こっちは相棒のナヴィだ」
「はじめまして
「ちょわ! “マスター”とな! くわぁ~! 私の中二心がくすぐられますね! 美少女と良くわからない生物という組み合わせそれ自体だけでも良いのに、種族を超えた絆、いや愛! 良いです!
では、ちょっと待っていてください。ロストの保護プログラムなんて初めて受付しますからね! 間違えないためにもマニュアル持ってきます!
課長~! 課長~! ロストの人用の書類とマニュアルどこでしたっけ~!?」
まるで駆け足のように言い終わると、受付嬢――美卯さんは嵐のようにマニュアルを取りに行った。
そんな美卯さんを見送って赤坂さんがやれやれと息を吐く。
「すまねえな嬢ちゃん。初めはみーちゃんにびっくりすると思うがまあ、じきに慣れる。みーちゃんはなんていうか…… テンションがすごいが、優しい良い娘だ。仲良くしてやってくれ」
「ああ、いい子そうなのは十分に伝わってくるよ」
それに、美卯さんとはなんだかシンパシーというか、親近感を覚える。
うまく言語化が出来ないが、同じ穴のムジナというか、
受付嬢はね、自由でなんというか、明るい娘が良いんだ(唐突な性癖暴露)
もちろんクールな娘もいい(博愛主義)
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第7話 それじゃ、手続きです!
マニュアルを取りに行った美卯さんがなかなか帰ってこない。
受付の奥にいる上司や同僚も一緒に探しているようだが、ちょっと時間がかかりそうだ。
頭の風通しが他人より少し良さそうな男性も「おっかしいな~、ここに置いといたはずなんだが……」とか言いながら探している。
さっき美卯さんに課長と呼ばれていたからこの男性はたぶん偉い人だろう。
ちなみにこの男性も別にスーツに身を包んでいるわけではなく、ファンタジーな服装だ。
……それにしても美卯さんたちの様子を見るに、ロストというのは赤坂さんも言っていたとおり珍しい存在なのだろう。
もしかしたらこの支部で受付をするのはワタシが初めてだったりするのかもしれない。
しばらく待っていると、ファイルに閉じられたマニュアルを抱えてドタバタと美卯さんが戻ってきた。
「おっまたせしました~!
いやはや、結構手間取っちゃいました! すみません! それじゃあ、軽くロスト保護プログラムの説明をしますね」
美卯さんは人差し指を立てると、得意げに説明を始めた。
ロスト保護プログラムは国が設けている救済制度で、その名の通り、ロスト――災厄の日に行方不明になったがその後ダンジョン内で保護された人――を保護する制度だ。
ロストと
他にも様々な状態のロストが確認されていて、災厄の日の時点で20歳の人が、30年後、20歳のまま発見されたり、あるいは普通に発見までの時間分歳をとっていたりと色々ある。
このロスト保護プログラムは、そんなふうに色々な事情のロストを保護するために、新たな住民登録や身分登録もしてくれるし、三ヶ月間の生活費の支給や住居の無償貸与、仕事の斡旋などを始め、いろいろな側面からサポートしてくれる、とのこと。
――ふむふむ。
仕事は冒険者をすればいいから大した問題ではないが、住居を無料で借りられるのはありがたいな。ちょうど今日の寝床はどうしようか悩んでいたから。
「……っと、まあ大体こんな感じです。ここまで大丈夫ですか?」
「ああ」
「では、保護プログラム適用のために、まずはレインさんの情報が行政やギルドが管理するデータベースにないことを照会します。
色々と生体情報を取得いたしますのでちょっとお時間かかります」
そのまま美卯さんの指示に従い、いろいろな機械でワタシを測定してもらった。
何を測定しているのかわからない機械もあったが、指紋とか顔写真とか、わかりやすい情報も取られた。照会自体はそう時間もかからず、全体で20分程度で終わった。
「……はい。
では、レインさんの場合は新規で住民登録と身分登録なので、早速取り掛かりましょう!
あ、その前に、これは任意なんですけれども、ロストの研究のために可能な限り詳しい経緯を聞き取ることになっているんですけれど、お聞きしても大丈夫ですか?」
経緯、か……
別に減るものでもないし言うことは全然構わないのだが、前々世が日本でサラリーマン、前世が女の子になってついでに魔王をやっていた、なんて馬鹿正直に言っていいものだろうか……?
『マスター、少しよろしいでしょうか?』
うーん……と悩んでいると、ナヴィが異世界の言語で話しかけてきた。
この場で日本語を使わないということは何か美卯さんや赤坂さんには内密に話をしたいということだろう。
ワタシもナヴィに異世界の言語で応えた。
『どうした?』
『経緯についてですが、マスターが魔王をやっていたことは伏せたほうが良いのではないでしょうか?』
『お前もそう思うか?』
『はい。魔王とは人間にとって畏怖・恐怖の対象です。
この世界に魔王が居るか現時点では分かりませんが、モンスターが居るのであれば、この認識はある程度同じでしょう。魔王とはその名の通り、魔の者の王なのですから。
この世界の人間をすべて処分するのであれば魔王であったことを明かしても良いでしょうが、マスターは共存を望んでいます。であれば少なくとも現時点では伏せるべきです』
『そうだな。
いっそのこと異世界で勇者でもやっていたことにするか? あるいは…… そもそも何も話さないでおくか?』
『いえ、ウソを付くのであれば9割の真実に1割の虚構を混ぜるべきです。それに、何も話さないのも不信感を抱かせる原因になる恐れがあります。
魔王であったこと、人間と敵対していたこと、これらに付随することを伏せてあとはある程度喋ってもよいかと』
うん、そうだな。
ここはナヴィの言う通りその2点を伏せて語るとしようか。別に魔王であったことを隠さなくても良さそうなら折を見て話せばいいし、急く必要はないな。
「相談は終わったか?」
「ああすまない。待たせてしまったな」
「いんや、気にする必要はないぜ。こいつは少しデリケートな問題だろうからな。ぶっちゃけ何も言わなくても良いんだろ、みーちゃん?」
「あー、はい。えーっと、待ってくださいね……
……そうですね。マニュアルにも言う言わないで保護プログラムの承認の可否には影響しないとあります。
まあただ、ギルドの人間として言うのであれば、ある程度はお教えいただきたいなーっと」
美卯さんは手元に用意しているマニュアルをパラパラめくりながら、少し申し訳無さそうに答えた。
「いや、答えよう。どこから言えばいいか――」
***
「ふむふむ。つまりレインさんは元男で、異世界に行ったらTS美少女になって、高名な魔法使いになって、とある激闘の末、こちらに美少女のまま転移していたと?!」
「あ、ああ。女として過ごしている時間のほうが長いが、日本で女として過ごしたことはないから何かあったら助力願いたい」
「それくらいお安いご用です!
ったはー! それにしても、銀髪ロリ顔紅眼TS美少女魔法使いとか属性盛りがすごすぎますね―!」
「みーちゃん、テンションがおかしいことになってるぜ。
嬢ちゃんはまだしも、ナヴィちゃんがすごいジト目になってドン引きしてるぞ」
「おっと、これは失礼つかまつりました。ではでは、身分登録等しますので、この用紙に記入してくださいね。
……あ、代筆とか必要ですか?」
「いや、久しぶりに日本語を使うが、存外しっかり覚えているから大丈夫だ」
名前、年齢、性別……
名前、名前か。
ワタシの前世での名前をそのまま書けばいいのか?
「美卯さん、名前は日本に居た頃の名で書けばいいか? それとも異世界での名で書くべきか?
あと年齢を正確に覚えていないのだが…… だいたい100歳かな」
「そうですね~……」
美卯さんはマニュアルをもう一度パラパラめくって確かめる。
「この身分登録で登録した名前で今後生活することになりますので、自分の好きなようにして大丈夫です。レインさんでもいいですし、全く新しく名前をつけてもダイジョブです。
って、流石に100歳は見た目と違いすぎて審査機関にも冗談だとバレちゃいますって。
分からないのであればだいたいで良いです。レインさんなら私よりは絶対下だし…… 15~16歳くらいじゃないです?」
「ふむ、それじゃあ…… うん、そうしよう。
待て。今の日本でお酒は何歳からだ?」
「昔から変わらず20歳ですね」
「じゃあ20歳にしないと飲めないじゃないか」
危ない危ない。
名前はそのままレイン=フレイムで、年齢は20にしておこう。
前々世と前世を合わせたら100歳近くなりそうだが、まあ魔族的に言えば100歳なんて人間で言うところの20歳みたいなものだし良いだろう。
やっと次話でプロローグ終わる。
NKT(長く苦しい戦いだった……)
あっ、そうだ(唐突)
この小説や前作が性癖に刺さる人は、今期のアニメのジャヒー様も刺さると思うので、ほら、見ろよ見ろよ(おすすめ)
俺も見てるんだからさ(同調圧力)
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第8話 前兆
その後いろいろな手続を終えてギルドの壁にかけられている時計を見てみれば、結局1時間以上かかっていたようだ。まあ、思っていたよりは早く終わった気がする。
「赤坂さん、長い時間付き合わせて悪かったな。助かったよ」
「いやなに、さっきも言ったが、ロストの保護は冒険者の義務だ。それに保護すれば冒険者にも協力金という形で金が入る。気にする必要はないぜ」
最後の手続きを終えて待合室のソファで手続きが完了するのを待ちながら赤坂さんと話す。
時刻は既に夕暮れ。赤坂さんはこのまま今日の仕事を終えるらしい。
保護してもらっている手前聞きにくかったが、攻略初日のイシギダンジョンの攻略は良いのか聞くと、別に今日じゃなくても良いとのこと。
多くの冒険者が攻略初日のダンジョンを攻略するのは、金目のものが手に入りやすいからだそうだが、赤坂さんはお金目的というよりも、初見のダンジョンを攻略するのが楽しいから来ただけだそうだ。攻略なんていつでもできるから良いのだと。
「ナヴィちゃんも、ちゃんと使い魔として認められてよかったな」
「使い魔登録というものが至極面倒でした。
写し絵――写真でしたか。写真をたくさん取られましたし、奇妙な機械で測定されるし、あまり気分の良いものではありませんでした」
「まあまあ。これで大手を振って嬢ちゃんと一緒に街へ出ても問題ないんだからさ。そう拗ねた顔しなさんな」
ナヴィの言うように使い魔の登録というのは結構手間がかかった。
写真を撮って、魔道具のようなものでナヴィの生体情報を記録する、みたいな感じだ。
まあ、モンスターが街中で自由気ままに歩いているような状況はありえないし、ちゃんと管理しようとしているところには個人的に好感が持てる。
「そういえば詳しく聞いていなかったが、使い魔を連れている冒険者というのは結構いるのか? それと、何体も連れている人もいるのか? そのあたりが良く分からないんだが」
「うーん、そうだな…… モンスターを使い魔として使役するのには特別なスキルが要るって話だし、冒険者の1割にも満たないんじゃないか?
魔力消費的にも結構きついし、連れているとしても1~2体がほとんどだな」
ふーむ、そんなものなのか。
このギルドに来る道中も街中で人を観察していたが、たしかに使い魔を連れている人はほとんど、というか一人も見なかった気がする。
そんな風にしばし談笑していると、窓口の方から美卯さんが戻ってきた。
「おっまたせしましたー! これでレインさんの保護プログラムの手続きはすべて完了ですっ!
はい! こちらをどうぞ!」
そう言って美卯さんからもらったのは一枚のカード。
名前やらワタシの顔写真やらが載っている。
「これがレインさんの身分カードになるので
「承知した。ところで、保護プログラムでは住む場所を三ヶ月無料で貸してもらえるとの話だったが、どこに行けば良いんだ?」
「私がこのあと案内しますので大丈夫ですよ!
歩いて10分くらいのアパートですからここからすぐです。
にひひ…… 実は課長からレインさんを送ったら今日はこのままあがっても良いと言われているのです!」
「んじゃ、俺もそろそろお役御免みたいだし、帰るとするかな」
赤坂さんがどっこいしょとソファを立ち上がると伸びをする。
「赤坂さんもありがとうございました! レインさんのことは私が責任を持ってお家までご案内します!」
「おう」
「お疲れさまでした~!」
自動ドアへ向かう赤坂さんに美卯さんが大げさに手を振った。
そう――、美卯さんが赤坂さんに手を振った、まさに瞬間。
ワタシに電撃が走った――!
「美卯さん! その左手を見せてくれ!」
ワタシのあまりにも鬼気迫る表情や声に、帰ろうとしていた赤坂さんも慌てて戻ってきた。
ワタシは美卯さんの左手を強引に掴むと、その手首をまじまじと見る。
――ああ、ああ……
こんなことがあるなんて――!
くそ! なぜ今の今まで気が付かなかったんだ――!!
「どうした嬢ちゃん!?」
「赤坂さん、こいつを見てくれ!」
きょとんとしている美卯さんの左手を赤坂さんに見せる。
薄いピンク色を基調とした、可愛さとスタイリッシュさを兼ね備えた腕時計。造形も非常に凝っている。
「……? みーちゃんの腕時計がどうかしたのか?」
赤坂さんはどうやら事の重大さに気がついていないらしい。
確かに、詳しくない人が見ればなんてことはない、ただの腕時計に見えてしまうだろう。
しかし、これは――。
「赤坂さん、落ち着いて聞いてくれ」
「あ、ああ」
赤坂さんはゴクリと喉を鳴らし、ワタシの次の言葉を待つ。
「これは、魔法少女ナナニカ・ニカナの主人公、ニカナが身につけている腕時計そのものなんだ――!」
「……ん? え、ん?」
赤坂さんは状況がよく飲み込めず、目が点になっている。
たしかに、ワタシもこれが魔ナニカの主人公のニカナが身につけていた腕時計だと気がついたときには理解が追いつかなかった。
すると、瞬間的に瞳の奥が銀河のごとく輝いた美卯さんが、ワタシの右手を胸の前で両手で包む。
「んなー! レインさん、魔ナニカをご存知なんですか?!」
まるで暗闇の中でひときわ明るい輝きを見つけたような――。
まるで窮地に駆けつけるヒーローを見るような――。
キラキラとした眼でワタシを見ていた。
そんな美卯さんにワタシも応える。
「ああ! ワタシが異世界に飛ばされるまで毎週楽しみにしていたアニメだ! 3期が始まって、あれは6話だったか。物語が佳境に入りかけたときに異世界に召喚されたからな……」
「あぁ、それはお気の毒に……
今は災厄の日以前の魔ナニカの再放送もやっていますし、ちょうど今期、リメイクの2期がやってるんですよ!
私はリメイクの1期を見てハマった口でして、その時限定販売されていたこの腕時計を買ったというわけなのです!」
「マジか! いや~、魔ナニカが続いているだけでも嬉しいし、日本での生活は楽しくなりそうだ!
魔ナニカの何が良いかって、魔法少女という女児向けの題材ながら、バトルアクションへの力の入れようが半端ないんだよね。純粋にバトルアニメとして評価が高いし、合間合間の人間ドラマも素晴らしい」
「分かります分かります! 大人も子どもも楽しめる、まさにアニメの完成形の一つとも言える名作です! 主人公サイドももちろん魅力的ですし、敵サイドも魅力のあるキャラクターたちばかりなんですよね! なんていうか芯が通った敵が多くて、ある種、敵にも感情移入してしまうんです!」
「だよな! それから――」
語りが止まらないワタシ達の後ろで、ナヴィと赤坂さんが何か言っているが、美卯さんとの語りが楽しすぎるのでスルーしておこう。
「なんかすげぇな…… 嬢ちゃんも、みーちゃんも」
「そうですね…… マスターはオタクという人種だったと昔おっしゃっていましたが、これほどまでとは……」
んなー! コロナくんのせいで投稿が遅くなってしまったンゴねぇ……
やっとプロローグ終わったンゴ!
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第1章 再発
第9話 ぐーたら姫
「マスター、いい加減働きましょう」
ナヴィがやれやれと、幾度となく聞いた言葉をワタシにかける。
「え~、いやもうマジでぐーたら生活が楽しすぎるンゴよねぇ~…… ほら、ワタシってば魔王として休み無しで何十年も働いていたじゃん? ちょっとぐらいぐーたらしててもバチは当たらないって。常識的に考えて~」
「ちょっとぐらいはぐーたらしてもいいですが、もう2ヶ月もぐーたらしています。それは『ちょっと』ではありません」
ナヴィが顔の前までズイッと寄ってきて、まるでワタシの母親かなにかのように言う。
いやもうホント最近、ナヴィのおかん化がやばい。
「良いですか?
我々がこちらの世界に飛ばされて、はや2ヶ月が経とうとしています。最初の意気込みはどうしたのですか。冒険者になるのではなかったのですか?」
「いやだって、ロスト保護プログラムで3ヶ月は何もしなくても生活できるじゃんアゼルバイジャン。
あぁ^~、ニート生活最高なのじゃ~」
「
はぁ…… 違う環境に2ヶ月間身を置くだけで、人はこうも変わり果ててしまうのですね……」
まあ、ナヴィの言うことも一理はある。
ワタシ達がこちらの世界に来てからもう2ヶ月が経とうとしている。ロスト保護プログラムによる資金提供と住居の無料貸与は3ヶ月間なので、そろそろ動かなくてはいけないというのも分かる。
しかし、ワタシはアニメで忙しいのです。
ついでにゲームも忙しい。ソシャゲの周回とかね。
つまりあれだ。日本のサブカルコンテンツが面白すぎるのがいけないとも言えるのです。
いやもう、マジで異世界では娯楽に飢えていたからね。
日本のネットコンテンツ最高や。口調が多少ネットに毒されていたとしても大目に見てクレメンス。
「別に24時間働けとは言いませんから、働きましょう。適度な労働は健全な肉体や精神を育みます」
「労働は悪ってそれ一番言われているし~? 明日から本気出すから~」
「それ昨日も一昨日も、それより前の日も言っていましたからね」
「ふ~ふん♪ さてと、『イブキ』の更新でもみるか~」
「最近ご執心のブログサイトですか。ブログなんかの更新を見るよりも預金通帳の残高を見ることをおすすめいたします。
マスターがラノベやアニメのグッズ、ゲームなんかを買い漁るので保護プログラムによる資金提供の甲斐虚しく、我が家の家計は火の車ですよ? 食費を削るのはやりすぎかと。一日三食が人間の基本だと聞いています。
私はマスターからの魔力供給があれば大丈夫ですが、マスターのお体が心配です」
「いいのいいの~」
ゴロンと寝転がり、スマホをポチポチといじる。
これぞ至高のひと時。
もっと生産性のある行動をしろ? いやいや、これほど生産的な行動などないのだよ。偉い人はそんなことも分からんとですよ。
気を取り直し、ブックマークしているサブカル系のブログの更新を確認する。
『オタクnoイブキ』という名前のこのブログは、ワタシが一押ししているブログだ。
とってつけたかのような薄い内容しかないまとめサイトなどとは一線を画す、素晴らしいサイトだ。いろんなジャンルの情報をいち早く、そして正確に記事にすることで界隈では結構有名だったりする。
「ふーん、レーペックスレジェンズのアプデか~… ああ、やっぱあの
ちなみに、レーペックスレジェンズというのはシューティングゲームのことだ。いわゆるFPS。
ダンジョンがこの世界に出現した『災厄の日』に多くのものが一時的に失われたが、現在はほとんどサルベージされて、ゲームやアニメ、その他もろもろのサブカル文化は変わらずに存続している。
今、ワタシがこうしてアニメを見たり、ゲームを楽しんだりすることができるのは、復興を支えた数多くの先輩オタク達のおかげだ。尊敬の念を抱かざるを得ない。
ありがとう、名も知らぬオタク達よ。
「ふんふん~♪
……ん? 魔法少女ナナニカ・ニカナの数量限定8分の1プレミアムフィギュアが電撃発売?! 予約は来週から?!?!?!
みーちゃんにも教えないと!!」
な、なんだと……!?
こんなの魔法少女ファンとしては買うしかないじゃない!
「本当ですね。
まあただ、マスターが怠惰な生活をしているせいで、お金が完膚なきまでに足りないですね。マスターが働かない限り、今回のフィギュアは諦めるしかありません」
…………。
そうだった。
ワタシ、イマ、オカネ、ナイ。
「――ダンジョン行って働くか」
ワタシは意を決して
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第10話 大木の腰
まるで岩盤まで根を下ろした大木のように重い腰を上げて、ワタシは遠路はるばる金を稼ぎにギルドまで来た。『なにが遠路ですか。徒歩で15分でしょう』というナヴィの突っ込みがあったけど、コンビニより遠いなら、それは遠路になるんだぜ。
「あー、だるいなー。働かなくても月に50万円くらい口座にお金が入ってこないかな」
「そんな都合の良い事態など起きようもありませんので諦めてあくせく働きましょう」
ロスト保護プログラムで借りているアパートから徒歩15分。
とぼとぼ歩いて水々市冒険者ギルド04支部まで来た。
日本に転移してきた翌日、ワタシはすぐに冒険者の免許を得るためにギルドまで来て、実はちゃんと冒険者になっている。ワタシ偉い。
まあ、冒険者になってまだ1回も冒険者としての仕事をしていないけどな!
アッハッハ!(笑)
アニメとゲームとラノベが面白すぎるのがいけないんです。ワタシは悪くないと声を大にして言いたい。
ちなみに、冒険者の免許自体はすぐに取得することが出来た。
ワタシを保護してくれた赤坂さんの事前情報の通り、Bランク以上の他の冒険者の推薦があれば簡単に免許を取得することができる。
免許とはいったい…… うごごごごごご……
まあ、冒険者というのは万年人手不足なのだ。いとも簡単に冒険者になれるのも致し方ない。危険を冒したいと思う人は少ないし、稼げる分死にやすいしね。
冒険者になると、『冒険者カード』というものが支給される。
冒険者カードは保護プログラムのときにもらった身分証よりも少し大きいサイズの硬いカードで、表面にはワタシのステータスが載っている。
ワタシはかなり驚いたのだが、冒険者カードに載っているステータスは魔力や防御力、体力などがすべて数値化されて載っていて、しかもレベルが上がったりなどでステータスに変動があると、自動でカードも更新されるとのこと。
ワタシは魔道具にあまり造詣がないが、内部を覗いて
この世界は本当にゲームみたいなシステムになっているなと改めて感じた。まあ、分かりやすくていいけどね。
みーちゃんに冒険者カードを発行してもらうときに、当然ワタシのステータスもそこに載っているのだが、みーちゃんにだいぶ驚かれたのを覚えている。
「ステータスが全部999になってますね…… ロストだとバグっちゃうのかな……? 一見するとゲームに出てくる魔王とか勇者みたいなステータスしてますね! まあ、多分バグだと思うので、一応上にも報告しておきますね!」なんて無邪気に言われて乾いた笑いをしたものだ。
うん、みーちゃんごめん。ワタシ、言えてないけど元魔王なんだ。
「いくか~」
「猫背になっていますよ、マスター。しゃきっとしましょう」
「ふぁ~い」
諦めてギルドの自動ドアをウィーンとくぐる。
「お、レインとナヴィじゃねーか」
「ほんとだ」
自動ドアをくぐると、ちょうど上半身が半裸の大男2人とばったり会った。どうやらギルドに併設されている酒場へ向かうところのようだ。
2人とも筋骨隆隆としたシルエットで、ガハハと良く豪快に笑うほうがガンさんで、もうひとりの見た目に反した爽やかな喋り方をするのがテツさん。2人は兄弟で、周りからはガンテツ兄弟とよく言われている。
「あ、ガンさん、テツさん」
「こんにちは。4日ぶりですねMr.ガン、Mr.テツ」
「今日は昼間っから呑むの?」
「そうそう。今日はオフだからね。兄さんと一緒にお酒を飲んで楽しもうかと」
「そっ! 今日の俺らは気前がいいぜ~? 昨日たんまり稼いだからな! レインは今から昼ごはんか? なにかおごるぜ?」
「いや~、今日は冒険者やりにダンジョンの攻略申請に来ただけなんだよね~」
「え!? ナヴィちゃん、ホントなの?! 働きに?!」
「レインが!? いつもギルドには食事に来るだけで、この2ヶ月保護プログラムにかまけて働いていないぐーたら姫がついに動くのか?!」
ん?
なんかおかしくない?
今日は冒険者として働きに来ているだけだといえば、ガンテツ兄弟にめちゃくちゃ驚かれた。
たしかにワタシはギルドに食事にしか来ていないけどね? 週4くらいで来てるけどね?
ここの酒場の料理は安いくせにおいしいからね、しょうがないね。唐揚げが特に美味しいからね。
ガンさんやテツさんとは酒場で知り合って、意外に話があって意気投合した。冒険者とは何たるかをすごい雄弁に語るのを聞くのは結構好きだ。
「いやいや、ワタシだってしっかりとした社会人だからね。(書類上は)20歳だし、れっきとした大人。しっかりと働くときは働くのだよ。ふふん♪」
「明日は雪が降るかもしれんな、テツ」
「そうだね兄さん。電気ストーブ、今のうちに出しておこうか」
「息ピッタリだなおい」
少しおどけてワタシだって働くんだと言ってみれば、弟のテツさんまでひどい言いようだ。さすが兄弟、仲がいいようで何よりだな?
「じゃあ、そんなわけでワタシらはダンジョンに行ってくるから――」
話をそこそこに、攻略申請をしに窓口へ行こうとして、ふと酒場の方に目が行った。
「なにあれ? なんか人だかりが出来てるけど……」
「ああ、登録者数1,000万人超えのYootuber“かがりん”が握手会するっていうんでみんな来てんだ。ゲリラ的だからあれでも少ないほうだぜ。
ま、かく言う俺らも仲間から連絡もらって、ちょうどそれに来たってわけだ」
Yootuberのかがりん?
誰それ?
(仲いい兄弟がいると、片方を死なせて闇堕ちさせる展開もできるのですが、
ハッピーな方が好きなので)ないです。
幸せで安心できる日常的な物語が良いって、それ一番言われてるから。
だからみんな、まどマギ観ようね!
とっても可愛らしいマスコットもいるよ
***
【定期】
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第11話 かがーりん「地球はダンジョンまみれだった――」
「かがりん?」
聞き慣れない名前に思わず聞き返した。
するとガンさんは目を見開いて驚いた。
うーん…… Yootubeはもちろん知っているけど、YootubeなんてほぼゲームのボスラッシュBGMくらいしか聴かないからなぁ。ああ、あとヒーリングBGMみたいなものも聴くな。
「マジか、レイン知らんのか? かがりんだぞ?」
「全然知らない」
「ええ…… 日本でトップクラスの冒険者系配信者だよ? インターネットに疎い僕でも知ってるくらいには有名だけど…… ほら、ときどきテレビに出たりとかも。
そこらへんのアイドルなんかとは比べ物にならないくらいかわいいし、お嬢様口調と性格のギャップで結構人気あるよ?」
「いやホント知らない。ワタシ、ロストだからまだ2ヶ月しかこの世界のこと知らないし」
「2ヶ月もあったらどこかで耳にしてそうだけどなぁ」
うーん、知っているのが当たり前みたいな雰囲気だな。
顔を見たら分かるかな? でも酒場の奥の方にかがりんなる人物がいるから、ここからだとよく見えないなぁ。
……せっかくだ。近くまで行ってそのご尊顔を拝んでやるか。
「マスター、Ms.かがりんを見に行くのは良いですが、お金を稼がないと1/8スケールのフィギュアが買えなくなってしまいますよ? まあ、私は良いですが」
「分かってるって。ちょっと顔見たらすぐダンジョン潜って稼ぐから」
ガンテツ兄弟と一緒に酒場の端で群がっている集団に近づいていく。
うーむ、結構な人が来ているな。
男性だけでなく女性も結構来ているし、年齢も幅広く居る。
本当に有名らしい。
「えーっと、どれどれ……」
人だかりの後ろの方からぴょんぴょんとジャンプしてかがりんなる配信者を見ようとするが、いかんせん、ワタシの身長は150センチちょっとで高くないため、なかなか見えん。
ぐぬぬ……
「レインちゃん、あれだったら僕が抱えてあげようか?」
「お、ホント? ありがたい。お願いテツさん」
「了解。よいしょっと」
身長2メートルほどのテツさんは、己の発達した筋肉にものを言わせてワタシを軽々と上昇させる。
さすがマッスル兄弟の片割れ。
成人女性の平均よりも軽いとはいえ、ワタシをこうも軽々持ち上げるとはやるな。褒めてつかわす。
どれどれ~……
覗き込むように手を当てて改めて前を見ると、キラキラしたオーラの女の子がいた。
はちみつ色の糸を編み込んだかのような美しい色合いの金髪に、星を散りばめたようにきれいな瞳。創作の世界ではなく現実で見ることになろうとは微塵も思っていなかった縦巻きロールツインテールが目を引く。パーツ一つ一つも綺麗だが、それらが整って顔に配置されている。
身長はワタシよりも高いかな? 並んでいる人と握手をして、一緒に写真も撮っている。
ふむ、ファンサービスが良いらしい。
「お、レインじゃねーか」
「ほんとだ。なんだ、レインも意外とミーハーだな! まあ俺が言えた義理じゃねえけど! ガハハハハ!」
テツさんに抱っこされながら、かがりんなるyootuberを見ていると、ワタシの前で並んでいる冒険者に声をかけられた。
ときどきギルドの酒場で同席になるおっちゃんと男勝りのお姉さんだ。
とりあえずかがりんを見るのはこれくらいでいいだろう。そろそろ降ろしてもらおう。
「テツさん、ありがと」
「どういたしまして」
2メートルの高い高いを終え、無事地上に帰還。
テツさんに「なかなか見晴らしが良くてよかったぜ」と、彼の太腕をパシパシ叩いてお礼をしといた。
「オッスオッス~」
テツさんから降りて、話しかけてきたおっちゃんとお姉さんに挨拶する。
「さっすがインターネットにかじりついているお姫様だ。Yootubeで有名なかがりんと一緒に写真を取れるって情報を聞いてすっ飛んできたんだな」
「いや、ワタシたまたま居合わせただけだし。
なんなら今日は冒険者として働きに来てるんだけど」
「え?! あのぐーたら姫が?!!? 働きに!?!?」
「なんだなんだ? どうした?」
「ぐーたら姫が働きに来たんだってよ!」
「ウソつけ」
「いやワタシ、マジで今日は働きに来てるから」
ワタシが働きに来ていると言ったらめちゃくちゃ大きな声でおっちゃんがびっくりして、その声に釣られるように他のみんなもぞろぞろとこちらに来る。
いや、お前らなんだよそれ。
ワタシが働くのがそんなにもおかしいのか? ワタシだって大人で社会人ゾ? 働くときは働くんだよなぁ……
「まあ、マスターの日頃の行いを考えれば当然の反応ですね」
「
ワタシはギルドの酒場によく来るからか、ここ、水々市冒険者ギルド04支部を中心に活動している冒険者に結構顔が知られている。
みんな、「ええ!あのぐーたら姫が!?」「エイプリルフールはまだ先だぞ」とか好き勝手に言っている。
……?
ワタシってそんなにぐーたらしてたか? ていうか信用なさすぎない? ワタシ元魔王だよ? 恐れ
あぁ~あ~、もう~。
ぞろぞろこっちに来て……
みんなかがりんYootuberのファンサに来てるんなら、ワタシなんかに構わずちゃんとかがりんに並んで。
「いやうん、ホント。ダンジョンでお仕事する前にちらっと覗きに来ただけだから、ワタシもう行くからね。
ほら、かがりんさんも皆が放ったらかしにするから目をパチクリさせてんじゃん」
「ぐーたら姫がついに起動したんだぞ! みんなにとっちゃ一大事だぜ!」
「そうだぜ!」
「えぇ……」
「マスターもMs.かがりんと同じように握手会や写真撮影会ができそうな勢いですね? フィギュアを諦めて握手会をやられたらどうですか?」
「やるわけ無いでしょ。シャラップ、ナヴィ」
「さいですか」
まったく……
いつまでもここで時間を費やすわけにも行かないので、とっととダンジョンに行こう。
――と、ダンジョンの攻略申請をしに受付に行こうとしたときだった。
みんなに放ったらかしにされたYootuberかがりんがこちらにズンズンと寄ってきた。
「ちょっと貴女! わたくしを差し置いてなに目立っちゃってくれちゃってますの?!」
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第12話 かがーりん2
「ちょっと貴女! わたくしを差し置いてなに目立っちゃってくれちゃってますの?!」
お嬢様口調でズンズンとワタシの方までかがりんさんが寄ってきた。
「え、あ、いやごめん。別に邪魔するつもりはなかったんだけど、おっちゃんたちがなんか変に群がってきちゃって……」
「ふん! 貴女、随分とここらへんで人気があるようですわね! しかし、その人気も今日までですわ!
なにせ、このかがりん様がここ、水々市に活動拠点を移したのですから!」
ああー……
たしかにさっきテツさんがちらっと言っていた気がする。もともとは別の場所で活動していた配信者だったけど、最近水々市に拠点を移したんだっけ?
「あー、じゃあ、これから顔を合わせることもありそうだね。よろしく」
「こちらこそ、よろしくおねがいいたしますわ! ぜひとも一緒にお茶会をしましょう!
しかし! 随分と余裕でいらっしゃること!!
確かに可愛らしいお顔立ちをしていらっしゃいますが! わたくしには敵いませんわ! その可愛らしいお顔と、心が穏やかになるような甘い良い声で人気を得ていたのでしょうが、真の人気者たるわたくしには可愛いだけでは勝てませんことよ!」
「いやおっちゃんたちとは単に飲み仲間なだけで…… 一緒に食べたりとか……」
「まあ! “食べたり”ですって?! 直接的な表現は避けていますが、わたくしには分かりますわよ! つまり、接待飲食店よろしく、接待をして人気を得ていたのですね!
人気へのその
「え、いや普通に食事しただけだけど……」
うん、だめだこのお嬢様。
全然話が通じない。
「そういえば貴女、このかがりん様を前にしても握手や写真を求めないなんて、随分と珍しいお方ですわね。さすがにこのわたくしを倒すべき強大な存在と認知してのことでしょうが、その心意気や良し! 評価に値しますわ!
しかし! わたくしが人気で負けることはありえません! わたくしへの挑戦は茨の道と知りなさい!」
「いや~…… ワタシ、かがりんさんのこと今の今まで知らなかったから、握手とか求めるモチベーションというかテンションがないというか……」
「ええ?! 貴女、わたくしのこと知りませんの?! うぬぼれでもなんでもなく、自他ともに認める日本トップクラスの冒険者系Yootuberですのに!?」
「ワタシ、Yootube派じゃなくて、ニヨニヨ動画派だから……」
「そんな言い訳は聞いておりませんの!」
「えぇ……」
これはあれだな。少し話の方向を変えていかないと延々とループに嵌りそうだ。
「えっと、かがりんさんは配信者なんだよね? すごい有名だっていうことだけど……
ワタシ、全然知らないから知りたいな~、なんて」
「おや、わたくしの魅力に気が付き始めて、もっとわたくしのことをお知りになりたいと? いいでしょういいでしょう」
ワタシがかがりんさんの話を聞きたいと言えば、かがりんさんは嬉しそうに眉をピクッと動かしてドヤ顔をしながら色々と教えてくれた。
分かりやすくて可愛いなこの人。
そもそもワタシは『冒険者系Yootuber』なるものをあまり知らなかったのだが、冒険者系Yootuberとは、その名前の通り、冒険者をしているYootuberのことを指すらしい。そのまんまだな。
ダンジョン攻略の様子や、モンスターの効果的な攻略法や危険性の解説、ダンジョンで手に入るアイテムの解説など、冒険者にまつわることを色々配信しているとのこと。
当然モンスターを倒す場面が動画に映るわけで、そんなグロいものを動画配信していいのか疑問に思ったが、別にこの世界では普通のことらしい。
Oh...
日本、たくましくなってるな。
かがりんさんの戦闘スタイルはいわゆる『殴りヒーラー』らしい。
いや、MMORPGとかでたまにそういう変態ビルドする人いるけれど、現実でする人いるんだ……
あー、でもそういえば、異世界でもそういう変なビルドする人とかたまに人間でいたな。
防具を何も付けずに普段着だけで、モンスターの攻撃はすべて避ける人間。
武器を何も装備せず、大盾だけで防御も攻撃もする人間。
アイテムだけでモンスターを倒す人間。アイテム代が高くてかなわんって言ってた。
……ぱっと思いつくだけでも結構いる。
しかもそういう変態に限って魔王城まで乗り込んで良いところまで行けるやつが多いんだよなぁ。まあ全部倒したけど。
そんなふうに昔に思いを馳せつつ、かがりんさんのドヤ顔を堪能していると、長い話が終わり解放された。
まあ結構興味深い話だったから普通に面白かったけど。
「まあ、いいですわ。今日のところはこんくらいのところで勘弁してやりますわ。
こんどお茶会でもっといっぱいお話しましょう」
そういって、かがりんさんが元の場所に戻ろと
かがりんさんが自分の足に足を引っ掛けて「へぶしっ!」というおよそお嬢様が口にしなさそうな断末魔とともに盛大にころんだ。
それはもう盛大にころんだ。
漫画かよという具合にビターンと顔面で地面にキスをしに行った。
数秒間、その場のときが止まったように間が空いたが、ぬるっとかがりんさんは立ち上がった。
「えっと、大丈夫?」
見て見ぬ振りをしようかとも考えたけど、こういうときは逆に声をかけてあげたほうがダメージが少ないかなと思って、一応声をかけてみた。
かがりんさんは涙目でこちらを向いた。
「じ、心配にはお、およびませんわ!」
「あ、うん」
早足で元の場所に戻っていったかがりんさんを遠目で見送ると、ナヴィがワタシの近くに寄ってきた。
「マスター」
「どうした?」
「私はこの2ヶ月間、この世界に関するありとあらゆる情報を集めておりましたので、彼女のことも知っています。
彼女は見た目も人気ですが、高飛車な性格ながらドジっ子であり、その性格のギャップが人気のようです。あと、配信の収益の何割かを募金にまわしていたり、誠実な面も評価されているようですね。毎年チャリティイベントにも参加しているそうです」
「なるほどなぁ……」
戻る途中でもう一回ころびそうになっているかがりんさんを見て、ワタシは顎をさすりながらつぶやいた。
コロナ君のせいで最近忙しすぎなんじゃ^~
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第13話 ダンジョン攻略準備
かがりんさんから解放されたワタシ達は、ガンテツ兄弟や、いつもの呑み仲間のおっちゃんやお姉さんなどに別れを告げ、そのままギルドの窓口へ向かった。
「おやおやレインちゃんではござりませんか! ご飯のあとに私のところへ寄ってくれるのはありがたいですが、私はまだまだ仕事中なのです。
この前レインちゃんに教えていただいたナナニカ・ニカナの1/8スケールフィギュア購入のために、私はしっかりと働かなくてはならないのですよ。オタクトークはお仕事のあとにしましょう」
「いや、ワタシは仕事でここに来てるんだよみーちゃん。たしかダンジョン攻略する前に、申請しなくちゃいけないんでしょ?」
「ちょわ?! なんですと!? ぐーたら姫でおなじみのレインちゃんが!? おおおおおおお仕事!?
……そうですか。……グスン。
ついに私の思いが通じたんですね。
さすがにあと1ヶ月もしたらロスト保護プログラムも切れてしまいますから、働いてくださいとかねてよりお願いしていましたが、私の思いについに答えてくださるとは…… 私感激です!」
いつもギルドの酒場にしか来ていないが、今日はお仕事で来ているのだドヤァ…とみーちゃんに言うと、みーちゃんはどこからともなくハンカチを取り出して、オーバーリアクション気味にヨヨヨと泣いて喜んだ。
うん……?
ていうか、みーちゃんも私のことぐーたら姫って言っていたの? 驚愕の事実なんだが。
そんなにもワタシに働かないイメージが付いていたのか……
たしかに、みーちゃんから何度か『冒険者じゃなくても、色々なお仕事の斡旋もギルドでやっていますから、働きましょ? ね?』と何度か言われていたが、まあ、ついにワタシも本気を出したってことだ。ワタシの事、もっと褒めてくれていいぞ?
「ふっふっふ」
「おお! その不敵な笑いもレインちゃんが大人に一歩近づいたことを示す偉大な笑みに見えますね!」
「ドヤァ……」
「Ms.美卯、盛り上がっているところ恐縮ですが、マスターは貴女と同じくアニメのフィギュアを買いたいのに、お金があまりにも無さすぎてここに来ているのです。
ちなみに、ここに来る前はさんざん文句を垂れていました。そんなにかっこいいものではないですよ」
「ちょおま!? 主人のことディスるな!」
まったく、マスターを裏切るとはなんて使い魔だ。
「私はレインちゃんが働こうとする意思を見せているだけで嬉しいです。
そういえばレインちゃん。ダンジョンの攻略申請に来たと言っていましたが、ダンジョンの攻略の基本とかちゃんと覚えてます? 一番初めにルールとか教えましたけど」
「あー…… うーん…」
うん。ぶっちゃけあまり覚えていない気がする。
冒険者になるために免許の交付に来たときも、じつはアニメの魔法少女ナナニカ・ニカナの話の続きが気になりすぎて話をあまり聞いていなかったり。ルールとかも色々言ってた気がするけどほぼ覚えていない。
まあ、なんとなくダンジョンに行く前にギルドに攻略申請をするということだけは口酸っぱく言われていた気がするので覚えていたわけだ。
大事なことを覚えているワタシ偉い。褒めて。
「レインちゃん……
まあいいです。今日はYootuberのかがりんがあっちでファンサしているせいもあってか窓口にお客さん少ないですし、もう一度レクチャーしましょう! よーく聞いていてくださいよ!」
みーちゃんは右手を腰に当てて、ビシッと左手の人差し指をたてて説明してくれた。
冒険者は強さや実績に応じて、E~Sランクが与えられる。
ワタシは冒険者になりたてだが、オークを実際に倒していることや、ワタシを助けてくれた赤坂さんの口添えのおかげで、初心者の上限のCランクとなっている。ちなみに、赤坂さんはAランクなので、冒険者的に赤坂さんは結構強い部類になる。
同じくモンスターにも危険度に応じてE~Sランクが割り振られている。
基本的には、危険度Cのモンスターの場合は、Cランク以上の冒険者が対処することが推奨されるというように、モンスターと冒険者のランクは対応している。
「ここまでは良いですね、レインちゃん?」
「ばっちり」
「で、あちらにある掲示板にはられている依頼、通称クエストにも同じように難易度が振られていますので、ちゃんと自分の冒険者ランクに合ったものを受けてくださいね」
あー、そういえば、そんなことも言っていた気がする。
異世界でもたしか人間の街には似たようなシステムがあったが、この世界でもギルドでクエストが受けられるようだ。
たとえば、メジャーな内容で言うと、モンスターの素材を集めてこいという内容のクエストが多いとのこと。
どのモンスターからもドロップが期待できる魔石は流通量が多く、需要も供給も安定しているが、ある特定のモンスターの素材とか、レアドロップの素材とかは流通量が少なく、そういうものを欲する人はクエストを通じて、直接収集するそうだ。
で、同じくクエストにも難易度があり、基本的にはそれを守るようにとのこと。
システム的に自分のランク以上のクエストを受けることもできるが、ランクを無視した冒険者はよく死にますとみーちゃんは悲しそうに言う。
ただでさえ死にやすい職業なのだから、話を聞かないやつにはそれ相応の結果が待っているというわけだな。
え? ワタシ?
ワタシはほら、今ちゃんと話を聞いてるから…… ワタシ、偉い。話を聞くいい子。
+++++
「……っと、まあ、ざっくりとこんな感じです。分かりましたですか、レインちゃん?」
「おk、完全に把握した」
「じゃあ、なにかクエスト受けてからダンジョンに行きますか?」
「いや、今日はクエスト受けなくていいや。適当に雑魚モンスターを狩って、魔石で稼ごうかな。クエストは対象のモンスターとか探すの面倒ですからな。適当に出遭ったモンスター倒してくのが楽。
で、どのダンジョンに行くかだけど……
うーん、イシギダンジョンに行こうかな」
そういうと、みーちゃんが待ったをかけてきた。
ワタシが保護された場所でもあるイシギダンジョンは、出現してからおよそ2ヶ月が経ち、だいぶ調査も進んでいるが、基本的にはまだ『新規ダンジョン』という括りのダンジョンだ。おそらく階層もそう多くなく、モンスターもランクE~Dのものがほとんどで低階層なら危険性も低いと見られているが、まだ確定ではない。
「レインちゃんは強いと赤坂さんからも聞いていますが――
良いですか? イシギダンジョンに行かれるのであれば、慢心せず、油断せずに気をつけてくださいね」
「ハッ! 慢心せずして、何が王か!」
「ったはー! それは某有名なアニメのセリフでかっこいいですが、慢心はだめですよ? それにレインちゃんは王様じゃないのです」
元魔王様なんだよなぁ…… と思いながらも、たしかにまともにダンジョン攻略するのは初めてだから一応気を引き締めておこうと思い直した。
++++
「あ~、楽勝だな~」
「事前情報通り、低階層のイシギダンジョンは低ランクのモンスターしか出現しないようですね。もう少し奥に進みますか? 以前のようにオークくらいなら出遭えるかもしれません」
「ん~。まあ、フィギュア代くらいは充分にあるし、とりま戻ろうかな」
適当にダンジョンをぶらつき、手当たりしだいにモンスターを倒していけば、ある程度の魔石は集まる。ポータルにしまった魔石も充分な量だ。
これくらいあればナナニカ・ニカナのフィギュアを買うことはできるだろう。
「ん?」
そろそろ戻ろうかと思った矢先、遠くの方でこれまでとは違う強い魔物の気配がした。
どうやら何匹かいるようだ。
それに…… なんか弱っている気配も一つある。
魔物じゃない、おそらく人間の気配だ。
説明回of説明回
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第14話 【迷宮攻略】イシギダンジョン初攻略ですわ!【生配信】1
.
「皆さま、御機嫌よう。冒険者系Yootuberのかがりんですわ」
:ごきげんよう
:お久しぶりでございますわ
:あら、皆様方のコメントが丁寧でおハーブ生えますわよ
:挨拶では皆さまお嬢様言葉を使うのが通例ですのよ
:初めては肩の力を抜いておくんなまし
:5日ぶりの配信キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!! …ですわ!
: ( ゚∀゚)o彡゜かがりん!かがりん!
:楽しみでございますわ
:この
:ですわ!
:かがりん様万歳ですわ!
自動追尾型魔導カメラに向けて勝ち気な笑顔を浮かべて、かがりんは配信をスタートさせた。
コメントにもあるように、今日は久しぶりの配信だ。水々市に拠点を移すに当たっての引っ越しが意外と手間取って、結局5日間も配信をお休みしていたのだ。
そのこともあって、今日のかがりんは一段とやる気だ。
ちなみに、自動追尾型魔導カメラというのはその名の通り、撮影者の近くを浮遊し、自動で追尾していい感じに撮影してくれるカメラのことだ。
かがりんが使用している魔導カメラは特注品で、色々と独自カスタマイズもしている。モンスターと戦っていても自動的に攻撃も避けてくれるし、内蔵されたAIが撮るべき被写体や画面への収まりを考慮し、いい感じの画を撮ってくれるすぐれものだ。もちろんそれなりのお値段はする。
魔導カメラ自体は一般的なもので、自動追尾機能が付いていてもお値打ちなものも結構あるので、冒険者系配信者にとって自動追尾型魔導カメラは必須アイテムとなっている。
ヘルメットに小型のカメラを取り付けて撮影する、昔ながらの方法で撮る人も一部いるが、基本的には自動追尾型魔導カメラが最近のトレンドだ。
「実は水々市引っ越しを記念して、ゲリラ的に握手会をしていたので配信開始をこの時間に設定したのですわ。もちろん、冒険者ギルドで許可を得ておりますわ」
:握手会いったよ~!
:まじか、知らなかったわ…
:ゲリラか…行けた人ええなぁ
:トゥウィッターでTLに流れてきたから行ったぜ!
:行きたかったぜよ
:行けた人幸運やな
:握手会やってるって聞いて高い転送代払って行った!
:生のかがりんもかわいかった!
:そういえば、途中で銀髪の可愛い子きたな
「そうですわ! コメントにもありますが、握手会の途中でとってもかわいい女の子が来ましたの!
あのときは思わず張り合ってしまいましたが、はしたないことをしてしまいましたわ…… あの女の子にも申し訳なかったですわね……」
:何に張り合ったんや…w
:可愛い女の子が冒険者って、かがりんみたいやな
:かがりん地味に負けず嫌いだから
:すーぐ勝負するから……
:かがりんすぐ張り合うンゴねぇ
:どんな娘なんやろ
:腕相撲でかがりんが勝ち越すまで終わらない配信は伝説
:結局5時間配信になった回の話はNG
「今度お会いしたときにちゃんと謝罪をしてお友達になりましょう。
それはそうと、配信を5日もお休みしてしまって申し訳ありませんでしたわ。
前々から申し上げていましたように、水々市に拠点を移しまして、ようやく色々な手続きが終わりましたわ。
そして今日は手始めに、つい2ヶ月ほど前に水々市に出現しました新しいダンジョンの攻略をしますわ! 低級のモンスターばかりだと伺っていますが、ルート開拓がまだ終わって居ないと聞いています。わたくしが最奥に一番乗りしようという寸法ですの!」
:おぉ~、楽しみ
:イシギダンジョンか
:俺のとこから遠くて転送の値段高くて行けねえわ
:ルート開拓楽しみだけど、気をつけて
:新規ダンジョンは半年は経たないと怖くて行けんわ
:モンスター怖いお……
:冒険者できる人すげーわ
:低級でも普通に人殺せるしな
:まともに戦闘経験ないやつは文字通り死ゾ
「もう少しイシギダンジョンの事を言うと、今の所イシギダンジョンは10階層まで発見・攻略されていて、1~7階層はスライムやゴブリン、コボルトのように低級のモンスターしかいませんわ。
8層を超えるとダンジョン内の環境が少し変わって、オークが数体確認されています。それ以外は特筆するようなことはないそうですね」
:ほぅ… スライム… スライムまみれのかがりんハァハァ
:なお現実のスライムは服だけじゃなく身体も溶かす模様
:かがりんに不埒な考えをするな
:創作のスライムとは違うんや
:服だけ溶かすスライムの品種開発はよ
:イシギダンジョンってオークまでいるのか。こわ
:オークってランクBだろ?
:8層から結構難易度たかいな
「コホンッ。
コメント欄に少々変態さんがいらっしゃるようですが、続けますわ。
たしかに、8層を超えるとオークが出てきますが、皆さま知っての通り、基本的にモンスターは環境の異なる階層間を移動しません。
それに、イシギダンジョンは時間経過で内部の環境が変化しない、いわゆる固定型のダンジョンと見られていますので、低階層は初心者向けになりそうな感じですわね」
:俺Dランクだからイシギ行ってみようかな
:ほぇ~
:新規ダンジョンは半年は待て
:落ち着いたら低階層だけ行ってみるのもありだな
:マジで初心者はギルドの確定通知がでるまで新規ダンジョンにいくなよ
:流動型ダンジョンの可能性もワンチャンまだあるからな
「さて、前置きが長くなってしまいましたが、そろそろダンジョン攻略と行きましょう! 閃光の殴りヒーラーかがりん、いざ参りますわ!」
今回はちょっと短めですわ。
*
感想や評価をくださって、本当にありがとうございますですわ。
お気に入り登録も、とっても励みになりましてよ。感謝いたしますわ(高飛車お嬢様並感)。
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第15話 【迷宮攻略】イシギダンジョン初攻略ですわ!【生配信】2
「ふっふ~ん♪ 情報通り、低階層は低級モンスターだけのようですわね!
かがりん様の前では羽虫も同然ですわ!」
:さすがかがりん
:殴りヒーラーは伊達じゃないな
:ヒーラーなのに回復魔法一回も使っていない件
:攻撃全部避けるじゃん
:メイスで頭かち割る姿はまごうことなきAランク
:光魔法もやっぱつえーな
:スライム君が蒸発しておられる……
:スライム、いいやつだったよ……
ライブ配信をしながら、かがりんはルンルンとダンジョンを攻略していく。
スライムに出遭ったら得意の光魔法で倒し、ゴブリンやコボルトに出遭ったらメイスで殴打して倒す。いつもと変わらない快進撃にリスナーたちも満足している。
ある程度探索したが、事前の情報通りイシギダンジョンの浅い階層は低級のモンスターしかいないらしい。
「まあ、低階層はこんなものですわね。
そうですわ! もっと奥まで進んでオークも倒してしまいましょう。奥の階層では目撃例がそれなりにあったはずです」
:簡単にオーク倒すとかいうヒーラー怖いンゴ
:オークはマジで鬼門
:俺オークに殺されかけて冒険者引退したわ
:オークはな、誰でもそうなるんやって…
:オークはエロ同人の中だけの存在にしてクレメンス
「ふふん♪ わたくしくらいになりますと、オークを倒すことなど赤子の手をひねるよりも
……いえ、この表現は少々よろしくありませんわね。
赤ちゃんの手をひねるなんておぞましい行為、わたくしにはそもそも出来ません。……そうですわね、スライムの核を握りつぶすより容易い。うん、この表現のほうがしっくり来ますわ」
:全然たやすくなくて草
:草
:ゴブリンの頭をかち割ることはおぞましくないんですか…?
:スライム君に辛辣で草
:まあ確かに赤ちゃんには優しくしないとな
:戦闘中との乖離が激しい件について
:オーク簡単ってやっぱAランクはちげーわ
:スライムの核に触るとかそもそも無理だろwww
「あら? スライムの核に触ることは出来ますわよ?
ほんの少し精密な魔力操作が必要ですが、このように腕に魔力でコーティングして…… こんな具合ですわ」
:えぇ…
:一般人には出来ないんですがそれ
:○逸般人 ×一般人
:コーティングできても、核ってリンゴ潰すより硬いと思うんですけど
:↑かがりん魔力で筋力強化して余裕でリンゴ潰せるぞ
:はぇ~、精密な魔力操作……
「さあ、どんどん進んでいきますわよ!」
そろそろダンジョンのもっと奥まで進もうと、再び歩みを進めた、まさにその時だった。
「……たす…け……」
消え入りそうな声で助けを求める声がかがりんの耳に届いた。
魔法で聴覚を強化しているかがりんだからこそ聞くことが出来たかすかな音。
「今のは……!」
かがりんは唇を強く結び、すぐさま探知魔法を声のした方へ発動した。
反応が3つ、4つ…… いや、もっと多い。
探知魔法ではどの反応がモンスターで、どの反応が冒険者かまで判定できないが、数からして状況はあまり良くなさそうだ。
――急がないとまずいですわ!
確実に助けを求める声がした。
早く駆けつけなければ――!
配信していることなど頭の中からすっかり抜け落ち、カメラを切ることも忘れ、かがりんはすぐに地面を蹴った。
反応はここから近い。
メイスを力強く握りしめ、駆ける。
近接戦闘に秀でている自分がヒーラーを目指したのは、誰かを助けるためなのだ。
――絶対助ける!
「……!」
思わず言葉を失った。
目的の場所に近づき、かがりんの目に飛び込んできたのは、今にも少女に棍棒を振り下ろそうとするコボルトの姿。
――間に合わない。
かがりんは直感した。
コボルトは既に棍棒を振り下ろす動作に入っている。
どうする――!
どうすればいい――!?
シャイニングアローで攻撃…… いや、詠唱が間に合わない!
身体強化魔法で足を強化して走って…… これもだめ!
それなら、詠唱時間が短いホーリーレイで――
コンマ0秒にも満たない時間でいくつもの方法を考えるが、今まさに振り下ろされる棍棒を止める手段が思い浮かばない。
無理だ。
瞬間移動でもしなければ間に合わない。
そして、いくら早く思考を巡らせても、現実の時間は止まらない。
まるでコマ送りをしている映像のように、振り下ろされる様子が鮮明に見えた。
「まっ――!」
待てと言ってコボルトが待つはずがない。
そもそも彼らに人語は理解できないだろう。
無慈悲に、棍棒が少女に向かって振り下ろされた。
――が、その瞬間、少女がいた場所を中心に砂煙があたりに起きた。
「何ごとですの――!?」
巻き上がる砂煙から右手で顔を守りながら状況を把握しようと、なんとか目を開ける。
「生きるのをあきらめるのはまだ早いぜ、お嬢さん?」
透き通るような心地の良い声。
その声の主はコボルトが振り下ろした棍棒を、なんでもないように片手で受け止めているではないか。
腰まであるきれいでつややかな白銀の髪。
フードの付いたダボっとしたジャージに身を包むこの女の子には見覚えがあった。
少し前、握手会で自分よりも目立っていたかわいい女の子。
「名前はたしか――」
レイン。
レイン=フレイム。
握手会の後、来てくれた人たちに聞いたら幾度となくその名前が出た。
四角い奇妙な使い魔を連れ、水々市冒険者ギルド04支部で知名度がある不思議な少女。たしかぐーたら姫なんて呼ばれ方をしていた。
曰く、冒険者の初期登録の上限であるCランクにいきなりなった。
曰く、冒険者になっても一度もダンジョンに潜ったところを見た者はいない。
曰く、ステータスは並の冒険者を凌ぐ。
曰く、見た目とは違って実は成人しており一緒にお酒が飲め、ついでに笑い上戸。
いろいろな噂を聞いた。
「ちょっと待っててね。すぐに片付けるから」
倒れている少女に安心させるような笑みを浮かべると、レインはおよそ先ほどの柔和な笑顔をしていた人物と同じ人間だとは思えないほど、獰猛な目つきをした。
まるで狩りをする獅子のように、あるいは殺戮を楽しむ悪魔のように。
ヒーローが遅れてやってくる演出、王道だけど大好きなんや(性癖)
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第16話 【迷宮攻略】イシギダンジョン初攻略ですわ!【生配信】3
「そこにさっきのYootuberさん居るよねー? この子のことよろしくね!
んで、ナヴィ! Yootuberさんのサポートよろしく!」
「仰せのままに」
レインはこちらを見ることなく、大きな声で言うやいなや、距離をとったコボルトたちへ瞬時に詰め寄った。
その声でかがりんはハッとする。
あまりに衝撃的なレインの登場によりしばし呆然としてしまったが、倒れている少女が危険な状況であることに変わりはない。
すぐに頭を切り替え、少女に駆け寄った。
「結構ひどいわね……」
ぱっと見ただけでも数え切れないほどの傷、右足はおそらく折れている。
たしかコボルトには獲物をいたぶる習性があったはずだ。
生かさず殺さずの状態をニチャニチャと笑い楽しむと聞いたことがある。
この少女もきっとコボルトたちにいたぶられたのだろう。
「Ms.かがりん、この場にいては戦闘の余波で治療に専念できない可能性があります。
少女を抱え、後方に下がることを推奨します」
「ええ、そうね――」
かがりんは魔法で筋力を強化して少女を抱きかかえ、離れた場所に少女をそっと寝かせた。
「右大腿骨の骨折、コボルトの刃物による切り傷及び棍棒による打撲多数。また、危険な出血量です。
すぐに治癒ポーションの使用ないし回復魔法の行使が推奨されます。Ms.かがりん、私はインターネットの情報から貴女が高位の回復魔法を使えることを知っています。
術の行使をお願いできますか? 私は貴女にバフをかけます」
レインがナヴィと呼んでいた、この四角い奇妙な生物は倒れている少女に淡い光を照射し状態を分析すると、かがりんに術の行使を求めた。
「もちろんですわ!」
そんなもの当然やるに決まっている。
かがりんは二つ返事で了承した。
――精神を集中し、術を行使する。
回復魔法というものは、例外はあれど基本的に魔力の消費量が多い。
そして、繊細な魔力操作が要求される。
ただのかすり傷程度であれば新米冒険者でもある程度心得があれば治癒できるが、この少女のように大怪我をしている場合は話が別だ。習熟した回復術師が術を行使する必要がある。
「Ms.かがりん。貴女の魔法力を一時的に向上させます」
冷静かつ落ち着いた声色で、ナヴィはバフ――すなわち強化魔法をかがりんに掛けた。
いつもより、自分の能力が強くなっていることが感覚的に分かった。
魔力操作もいつもよりスムーズに行えている気がする。
「――ハイヒール」
ナヴィのバフのおかげか、見る見る傷がふさがり、折れておかしな方向に曲がっていた右足も、まるで逆再生のように正常な向きに治り、骨折部の腫れも徐々に引いていった。
苦悶の表情を浮かべていた少女の顔も次第に穏やかなものになってゆく。
「もう少しですから、しばし頑張ってくださいませ――」
***
「――こんなもので大丈夫ですわ」
ふぅ、とかがりんは自分の額に浮かんだ汗を軽く拭った。
回復魔法の行使の甲斐あり、少女の怪我はほぼ完治したと行ってもいいだろう。今はかがりんのアイテムバッグから取り出した毛布の上で穏やかに寝息をたてている。
「あなたもありがとうございました。えっと……ナヴィさん、でしたか? 貴方のおかげで見込みよりもスムーズに治療が行えましたわ」
「はい。お役に立てたようで何よりです、Ms.かがりん。
貴女の回復魔法も噂に違わぬ精密さでした」
「お褒めに預かり光栄ですわ―― って、そういえばコボルトはどうなりましたの!? レインさんは大丈夫ですの!?」
しまった――!
ひと仕事を終えてなんだか気が抜けてしまっていたかがりんはハッと思い出した。
術の行使に集中しすぎて、ギルドで出遭った女の子――レインの事が完全に頭から抜け落ちていた。
何たる失態か。
術を行使してすぐに加勢に行くつもりだったのに!
ほっと一息、奇妙な生物と談笑している場合ではない。
正確な数は確認していないが、低級のコボルトもかなりの数がいたし、おそらく上位種である雷属性のコボルトも数体いた。
上位のコボルト名前は、たしかそのままサンダーコボルトという名前だったと思う。
かがりんも数度、サンダーコボルトと戦ったことがあるが、彼らは単体でランクB。複数体いれば、場合によってはAランクにもなるモンスターだ。
つまり、レイン一人で対処させるには危険すぎる。
ギルドでレインのこともいろいろと聞いていたが、彼女の実力は未知数だという。
オークを倒したなんて言う人もいたが、そもそも冒険者になってから一度たりともダンジョンに潜っていないという人もいた。いつもぐーたらしてるからそのへんの犬にもやられるだろうなんて言う人もいた。
コボルトの攻撃をたやすく受け止めていたからある程度の実力はあるだろうが、酒場で色んな人に話を聞いたかぎり、レインがあまり経験のない冒険者というのは間違いない。
新米冒険者にとってモンスターと戦うというだけでも一苦労なのに、あのコボルトたちを全員相手するなんて無茶だ――!
すぐに探知魔法で状況を把握して加勢を――
「もうとっくに終わってるよ、かがりんYootuberさん」
「――え?」
かがりんが焦ってレインやコボルトのいた方を向くと、ちょんちょんと後ろから肩を叩かれた。
びっくりして後ろを向けば、まるでいたずらが成功した子供のようにニシシと笑うレインがいた。
「え?え? コボルトたちはどうしたのですの?」
「倒したよ? ほら、ドロップした素材と魔石」
レインは何もない空間に手を突っ込むと、黄色い稲妻のような形をしたツノと、ジャラジャラと大粒の魔石を取り出した。
その姿にかがりんは一瞬目を見開いた。
レインは何でもないようにやっているが、ひと目見ただけでも高度な空間魔法を使っていることが分かる。
中級冒険者くらいになると見た目よりも多くのものを収納できるアイテムバッグを持っているのが普通であるが、レインは魔道具なしにその魔法を使っている。
随分と魔法が得意らしい。
――っと、今はそれよりもサンダーコボルトですわ。
レインに許可をとってドロップしたというツノを見てみれば、確かにサンダーコボルトのツノだ。それに魔石も純度の高いもので、高ランクのモンスターのドロップ品であることが伺える。
「本当に倒したんですのね…… すごいですわ。新米の冒険者とお聞きしてましたのに……」
「にひひ。まあ、ダンジョンに潜るのは初めてだけど戦闘なんて慣れっこだから」
「え? ダンジョンに潜るのが初めてなのに戦闘には慣れていらっしゃいますの?
ひょっとして元喧嘩番長みたいな……!」
「あ、いや、そ↑、そういえば、ずっと気になってたんだけど、かがりんさんの周りでふわふわ浮いてるこれ何? カメラ? あるいはナヴィみたいなヘンテコ使い魔? なんか戦闘中もときどきワタシの近くに寄ってきたりもしたけど」
「ワタシはヘンテコ使い魔ではありません、マスター」
「ああ、それは自動追尾型魔導カメラですわ。特注品ですから汎用品とは見た目が……」
そこまで言って、かがりんはまたもや「しまった」と思った。
完全にカメラの録画を停止するのを忘れていた。
一般の人の顔が配信に載ってしまわないように、かがりんはなるべく気をつけていたのだが、完全に失念した。
一応、このカメラの内蔵機能で、登録している顔以外の人の顔が映ったら自動で目にモザイクがかかるようにはなっているが、目線以外は普通に映るし、音声はそのまま配信に載る。
かがりんは光の速さでカメラの電源をオフにし、その勢いを殺さずレインに頭を下げた。
「――ッ! レインさん、申し訳ないですわ!」
「わわっ!? 何? どうしたの?」
「――実は……」
***
「なんだそんなことなら別に良いよ、減るものでもないし」
「いやでも登録者1,000万人超えの超有名人気配信者の配信に載ってしまっているわけですし……」
「自分で超有名って言っちゃうんだ…… でも本当にいいよ気にしなくて」
「そうですか…… しかし助太刀頂いた上にご迷惑をおかけして…… わたくしの気が収まりませんわ」
「うーん、じゃあ、今度何かご馳走してよ。
自慢じゃないけどワタシ、オタ活のために食費削ってるからたまにはまともなものを食べたいからさ」
「それくらいお安いご用ですわ! お抱えのシェフに腕によりをかけて作らせますわ!」
「お抱えのシェフ……? おかかのしぇふ……???
まあいいや、ともかく一旦地上に戻ろう。この女の子もかがりんさんの回復魔法をかけてもらったとはいえ、ちゃんと病院でお医者さんに診てもらった方がいい」
「はい!」
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第17話 【ですのよ!】かがりん様を見守る会 Part.!!【1】
【ですのよ!】かがりん様を見守る会 Part.!!
・
・
・
1:名無しのお嬢様 ID:BeNsPo1oi
冒険者系トップYootuberのかがりんについて語りましょう。
・次スレは>>950が宣言して立ててください
・立たない時は>>960が立ててください
・荒らしや煽りはNG登録して徹底スルーしましょう
・スルーできずに構う人も荒らしです
■かがりん公式トゥウィッター
htttps://twuwitter.com/kagarin
■前スレ
【ですのよ!】かがりん様を見守る会 Part.!”
htttps://kakuunosure/streaming/465679854
【ですのよ!】かがりん様を見守る会 Part.!#
htttps://kakuunosure/streaming/465465432
・
・
・
321:名無しのお嬢様 ID:FN6Mld1iX
かがりんの引っ越しようやく終わったのか
久々の配信に思わずスパチャしてしまった
322:名無しのお嬢様 ID:9/cn7ux6d
ここに、かがりん様の握手会に行かれた方はいらっしゃいますの?
325:名無しのお嬢様 ID:cC/hfn+Os
>>322
馳せ参じたかったのですが、母様に「そんな暇あったら働きなさい!」と一蹴されてしまいましたわ。
326:名無しのお嬢様 ID:lQvBBzTUn
>>325
それはお母様が正しいですわ。
世間様のお役に立てないニートお嬢様は存在価値がミジンコ以下でございましてよ?
328:名無しのお嬢様 ID:DY+FZh212
まあ実際問題、なんの告知もないかなり突発的な握手会だし、行けた人そうそうおらんやろ
330:名無しのお嬢様 ID:1jvOkBWeU
そんなことよりかがりんの配信ちゃんとみようぜ!
こんな5chのスレッドで文字打たずにYootubeにコメントしようず
332:名無しのお嬢様 ID:99euKQkdN
>>330
Yootubeのコメント欄もいいけど、ワイはこっちのアングラな感じの雰囲気がすきなんや
もちろん、ワイはこのスレッド開きながらYootubeも見てるで。デュアルディスプレイ快適や
333:名無しのお嬢様 ID:qtghfFc5I
Yootubeのコメント欄は視聴者同士のコミュニケーションには不向きやからな
割と一方通行な感じやし
334:名無しのお嬢様 ID:+WJ6Rc0rG
わたくしもデュアルディスプレイですわ
乙女のたしなみですわ
335:名無しのお嬢様 ID:PR1XHPtwt
【速報】かがりん、握手会でかわいい女の子と張り合う
336:名無しのお嬢様 ID:iy9lceAHK
草
339:名無しのお嬢様 ID:VIWC/ak/t
まーた、このお嬢様張り合ってるよw
341:名無しのお嬢様 ID:ykt0kdt32
相変わらず負けず嫌いだなwwwwww
343:名無しのお嬢様 ID:ebx+FriKW
お嬢様たるもの、常に勝者じゃないといけないのです
345:名無しのお嬢様 ID:v0omXu2gz
かわいい女の子の冒険者…… わたし、気になります!
348:名無しのお嬢様 ID:ZWHE+bD9J
冒険者やる女の子性癖にささりまくりだから多少ブスでもめちゃくちゃかわいく映ってしまう。
ボストロールじゃなければなりふり構わずお近づきになりたい
350:名無しのお嬢様 ID:MUV+pdLyO
>>348
まずは鏡を御覧くださいませ。
無理でございましょう?
351:名無しのお嬢様 ID:b3+gfZHP2
へー、かがりん、イシギダンジョン行くのか。
まあ、水々市に引っ越したんならそりゃ新規ダンジョンいくわな
353:名無しのお嬢様 ID:jot8pkekI
イシギってオークもでるのか
356:名無しのお嬢様 ID:9Jm4yZ2HV
>>353
低階層はスライム・ゴブリン・コボルトしか出なさそうだし
低階層→初心者
奥の階層→中級者以上
ってかんじでいい感じに幅広い冒険者が行けそうな優良ダンジョンやな
357:名無しのお嬢様 ID:FEGS8JUIf
最近かがりん観るようになって、ダンジョンのことも詳しくないから教えてほしいんだけど、
さっきかがりんが言ってた
「深い階層にいるモンスターが浅い階層にくることはない」って本当なの?
階層は階段とかでつながってるんでしょ?
359:名無しのお嬢様 ID:fGnN3mm7K
>>357
教養として知っとくと良いと思うんだけど、モンスターは基本的に環境の異なる階層へは移動しない。それこそ災厄の日みたいなよっぽどのことがない限り。
361:名無しのお嬢様 ID:oB0yK7Dpj
>>357
>>359
ダンジョン知らん人からすると、ダンジョンって洞窟のイメージしかないかもしれんけど、
階層ごとにかなり環境が違って、1階は洞窟だったのに、次の階層は草原になってるとか、氷雪地帯とか、わりとザラなんや。(ダンジョンは割と亜空間)
で、当然環境が違えばモンスターは自分の好きな環境にいるわけや。
暖かいのが好きなのにわざわざ寒いとこいかんやろ?
363:名無しのお嬢様 ID:G+X4vnBrL
>>359
>>361
そうなんだ。教えてくれてありがとう
366:名無しのお嬢様 ID:GweFX086F
ええんやで
367:名無しのお嬢様 ID:LoOrm8wHf
やさしいせかい
370:名無しのお嬢様 ID:WnvUfr5w9
ちな、環境が異なるってのは見た目だけの話じゃなくて、人間にはよく分からんけど、空気中に漂ってる魔力の濃度の違いとかもあるで
モンスターは魔力に敏感なんだと
372:名無しのお嬢様 ID:4+2k21T76
ここは博識なお嬢様方がたくさんいらっしゃるのですね
375:名無しのお嬢様 ID:r+gBXhpn6
当然のことですわ。
知識は人生をより豊かにしますもの。
わたくし、知識探求のためにかがりんお姉さまの動画を一つたりとも見逃したことはありませんことよ。
深夜配信を見ていて寝坊して会社に遅刻して上司に怒られたことは一度や二度ではありませんわ!
378:名無しのお嬢様 ID:M9UeXVjdv
>>375
草
380:名無しのお嬢様 ID:xLmvtmhO3
>>375
だいぶ畜生で草
クビにならないなんて上司有情じゃんwww
388:名無しのお嬢様 ID:r+gBXhpn6
その上司、アイドルの追っかけやってるから、推しを推す気持ちは分かるんやとw
怒られるけど、すごい優しい怒り方してくれるw
390:名無しのお嬢様 ID:8iiqupuey
>>388
めちゃくちゃいい上司じゃん
もう二度と遅刻するなよ
391:名無しのお嬢様 ID:wvY0Hmrn2
人格者で草
うちの上司なんかそういうのに全く理解ないわ
・
・
・
456:名無しのお嬢様 ID:UOii10RI7
_人人人人人人人人人人人人人人_
> スライム君、蒸発して死亡 <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄
459:名無しのお嬢様 ID:RqIiDop4B
ああ…… 貴重なスライム君がおなくなりに…
合掌。
460:名無しのお嬢様 ID:EibKaVpXT
文字通り蒸発で草
461:名無しのお嬢様 ID:TRPdbk1L9
い つ も の
463:名無しのお嬢様 ID:QMI7ZjCSE
まあ、Aランクの攻撃魔法にEランク雑魚モンスが耐えられるわけないから・・・
465:名無しのお嬢様 ID:AOXw0ZZz2
いつも思うんだけど、スライムがEランクっておかしくね?
スライムに取り込まれたら問答無用で消化されて骨だけになるし、少なくともランクDはあるだろ。
不意をつかれてスライムに殺された初心者冒険者の画像見たけど消化途中でグロかったぞ
466:名無しのお嬢様 ID:rhPQZCYuj
>>465
スライムって動きが亀だし、
対処法を知っていて適切なアイテムがあればまず負けることはない。
そもそも戦わずに余裕で素通りできるから
469:名無しのお嬢様 ID:p9KN2oQ6G
モンスターはすべからく危険だし、そもそもEランク=安全なモンスターって思うのが間違い
安全なモンスターなんていない。文字通り化け物たちや。
470:名無しのお嬢様 ID:9DaHsCP+b
まぁ、最悪腕にスライムがくっついて溶かされても完全な消化までは時間かかるし、ある程度ならちゃんとした病院の治癒魔法で再生できるから大丈夫やで(経験者は語る)
471:名無しのお嬢様 ID:3uu6G9Rcf
>>470
ファッ?! ウッソだろお前w
474:名無しのお嬢様 ID:Jug8hBoAP
経験者で草
476:名無しのお嬢様 ID:9DaHsCP+b
もう何年も前だけどマジであのときは焦ったw
右腕が肘から手首にかけてかなり溶けたw
ろくな準備をせずにダンジョンに言ってはいけない(戒め)
ちな、そんな俺でも今ではCランクです
477:名無しのお嬢様 ID:rEMqgh4iS
_人人人人人人人人人人人人_
> ゴブリン、撲殺される <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄
479:名無しのお嬢様 ID:qaWMXzzAa
ボッコボコやん・・・
481:名無しのお嬢様 ID:DzHtht90f
顔面複雑骨折ではすまんだろこれ
484:名無しのお嬢様 ID:bRB0H+KLN
かがりんニッコニコで草
487:名無しのお嬢様 ID:66BT6E8VE
やっぱこいつヒーラーじゃなくてバーサーカーだろ
490:名無しのお嬢様 ID:+nbyecjr/
せめてもの救いは遺体が残らないことか・・・
493:名無しのお嬢様 ID:vgonedRCK
>>490
モンスターの死体って粒子になって消えるから良いけど、
普通の動物みたいにそのまま死体残ってたらかがりんの歩いた道が文字通り死屍累々だろうなw
496:名無しのお嬢様 ID:n/vZ4c8x9
おいおい、このお嬢、オーク倒すとか簡単にいっちゃってくれちゃってますぜ?
497:名無しのお嬢様 ID:HMqsXkxQq
>>493
い つ も の
500:名無しのお嬢様 ID:KrU5I6nbO
オーク4~5体くらいが束になってもかがりんには勝てないよ
502:名無しのお嬢様 ID:4+G2Zwv6V
>>500
まあさすがに被弾するだろうがな
505:名無しのお嬢様 ID:RPxpZ1bMz
オークの何がやばいか
①図体がバカでかい(相撲取りより1~2周りはでかい)
②力がやばい(並の人間なら一振りで壁のシミ)
③意外と足がはやい(逃げても結構追ってくる)
508:名無しのお嬢様 ID:8uNdeku5w
>>505
やはりやばい(再確認)
509:名無しのお嬢様 ID:rzfv9t56B
ん? どうしたお嬢
511:名無しのお嬢様 ID:0RQ5F97xG
なんか急に走り出したな
513:名無しのお嬢様 ID:0ENjUJhnB
オークを早く倒したくてウズウズしてるんじゃね?
515:名無しのお嬢様 ID:jpILyqukM
>>513
なんか焦ってる感じじゃない?
517:名無しのお嬢様 ID:2iapBQgwj
どうしたんだ?
518:名無しのお嬢様 ID:+2Pqw/MQW
なんか焦ってるな
520:名無しのお嬢様 ID:0M26yQI8r
かがりんって基本探索中は聴覚強化してるはずだからなんか聞こえたとか?
521:名無しのお嬢様 ID:tks9x+mI+
足はっや
523:名無しのお嬢様 ID:L6IpVhIER
>>521
強化魔法だと思われ
524:名無しのお嬢様 ID:b8ZjX/oUM
どうしたんやろうな・・・
掲示板形式回は書いててとても楽しいです。
私の脳内でねらー達が勝手に喋り合ってる
***
【定期】
もしこの作品を気に入っていただけたらお気に入り登録や評価、感想などいただけるととっても励みになります。
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感想リンク
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第18話 【ですのよ!】かがりん様を見守る会 Part.!!【2】
603:名無しのお嬢様 ID:GS9rNfVj7
なんだこの女の子?!
604:名無しのお嬢様 ID:dNGSoG5yq
トゥンク…
605:名無しのお嬢様 ID:xJ9jaKubh
なんでもないように攻撃受け止めてやがる…
606:名無しのお嬢様 ID:qWrDJGi2P
登場の仕方くそかっけえええええええええええ
608:名無しのお嬢様 ID:1mxXd/+Iv
カメラの内蔵AIの性能高すぎて画面がバトルアニメの一コマみたいになってる
かっけぇ・・・
610:名無しのお嬢様 ID:EGaRhbx0N
やった! これで怪我してる子も助けられる!
611:名無しのお嬢様 ID:92C/SciZI
砂煙が晴れてそこに攻撃受け止めて不敵に笑う女の子とかどんな主人公だよかっこよすぎかよ抱いて///
614:名無しのお嬢様 ID:M2nCc1UV9
目線にモザイク入ってるのが惜しい
しょうがないけど
616:名無しのお嬢様 ID:/IhI9g12J
かがりんのカメラもこの女の子のかっこよさに惹かれて、かがりんじゃなくてこの女の子撮ってるの笑うんだがw
主人を映せよ主人をwww
619:名無しのお嬢様 ID:QYVs9n1Jr
>>616
かがりんのカメラのAI無駄に性能高いから、完全に「画」を優先するんだよ
たしかかがりんから半径50メートル以内ならよゆーでかがりん放ったらかしてすっ飛んでく
622:名無しのお嬢様 ID:unOWm5PxE
>>619
かがりんが治療してるとこ見たかったが、これはこれで見たい。
カメラ2台用意しておいてー!
623:名無しのお嬢様 ID:+N0VNFPIm
まじでカメラ2台いるってこれはwwww
624:名無しのお嬢様 ID:jk1xfPR2R
コボルト達くっそビビってて草w
625:名無しのお嬢様 ID:wW6f4zzmO
ていうかなにこのコボルト?
明らかに通常種と違うんだが
627:名無しのお嬢様 ID:6goyv+m7l
>>625
サンダーコボルト
ちな単体でBランク。複数体のときは連携してくるからAランク
630:名無しのお嬢様 ID:e8q6Yp/24
>>627
やばくね?
そいつ5体もいるぞ。Aランクってことはかがりんクラスの冒険者じゃないと厳しいんだろ?
631:名無しのお嬢様 ID:uy0iwYybM
Yootubeもここもコメント量エグw
632:名無しのお嬢様 ID:YFbxKCOq4
>>630
普通はかなり厳しい。
Aランク以上の冒険者なんて冒険者の上位数%しかいないし。
でもさっき攻撃受け止めてたしワンチャンこの子大丈夫かも…?
635:名無しのお嬢様 ID:+MY9ydVWy
つーかそもそもこの女の子武器なにも持ってないんだが
637:名無しのお嬢様 ID:m2qfyK22U
>>635
さっきの攻撃の受け止めからして闘気をまとわせて拳で戦うスタイルかもしれん
俺の姉貴も闘気で戦うし
640:名無しのお嬢様 ID:uciBmS4iS
え、てか待って。まじでこの女の子かっこいいんだけど。
上位コボルトがいても全然臆しないし、挑戦的な笑みにキュンと来ちゃうんだが
643:名無しのお嬢様 ID:NtzekWZrj
おいおい今の聞いたか?
「どうした? 来ないのならこちらからいくぞ?」ってめっちゃかっけえええええええええええ
そんな台詞現実で言えるやついるのかよおぉおぉぉおおおおおお
644:名無しのお嬢様 ID:TZV2jDFzJ
>>643
サンダーコボルトってかなり知能が高いし、完全にこの女の子のこと警戒してるなw
周りの通常種もビビっとるビビっとる
645:名無しのお嬢様 ID:xEThdAu1j
やばい、まだ戦いが始まってすらいないのに、なんか手汗がやばい
646:名無しのお嬢様 ID:Lu5JryHiK
>>645
わかる。俺も手汗やばい。
647:名無しのお嬢様 ID:ZGD7wbKeb
手に汗握るとはこのこと
648:名無しのお嬢様 ID:FN2ZqPfg9
なんだなんだ?
魔法?
650:名無しのお嬢様 ID:EDYavZH6r
魔法っぽいな
魔法なんかこの子のスタイル。まあ武器持ってないし当然か
651:名無しのお嬢様 ID:ayerbzPyD
何だこの魔法
652:名無しのお嬢様 ID:LToAM8Uvy
光魔法の「ライト」っぽいけど周囲を明るく照らしたところで意味ないしなんだろう
653:名無しのお嬢様 ID:Ei/xd+0dl
ファッ!?
目離した隙に1匹残して死んでるんだが?????
654:名無しのお嬢様 ID:zgtWpFALc
え? は?
657:名無しのお嬢様 ID:oA4zy45BN
ええええ?
659:名無しのお嬢様 ID:AEn5lH8vo
ん? ・・・ん!?
662:名無しのお嬢様 ID:jMmcMnTnR
まじで視認出来なかったんだが何がどうなったんだ?
663:名無しのお嬢様 ID:eWp3SGXT4
>>662
分からんが、この子の手のひらの上に
それを右手で握りつぶした瞬間にモンスターが死んだように見えた
664:名無しのお嬢様 ID:hoZOpDwqZ
>>663
意味不で草
665:名無しのお嬢様 ID:9RFLUxrVP
この中に魔法に詳しいお嬢様はいませんかー!!!
668:名無しのお嬢様 ID:1AL3Kz2Qb
>>665
Bランクの魔法使いだが全然こんな魔法知らん
光魔法は結構知ってるつもりだったんだがなぁ・・・
671:名無しのお嬢様 ID:RtMf8nUU5
>>665
大学で攻撃魔法の研究してるけど全然知らんw
お手上げw
672:名無しのお嬢様 ID:pXEmOJ9bY
ファーーーーwwwww
673:名無しのお嬢様 ID:h5nz/dU1b
なんで一匹だけ残したのか疑問だったけど、
今の「どうだ? 蹂躙される側の気分は?」の言葉でゾワっとした・・・
675:名無しのお嬢様 ID:h1kYkL+Zi
>>673
どこぞの魔王様みたいな言い回しにキュンと来た抱いて///
678:名無しのお嬢様 ID:gjGKgnDKc
残りの1匹クソビビってるンゴねぇ…
679:名無しのお嬢様 ID:0LYvD2f0k
>>678
そらそうよ。
気が付いたら周りの仲間がひとり残らず地に伏して消えたんだぞ。
こんなん俺じゃなかったら漏らすだけじゃすまないね
680:名無しのお嬢様 ID:nWnzNnX7M
>>679
汚い。オシメしてろ
681:名無しのお嬢様 ID:ThI/2bTiY
お、またおんなじ魔法か?
682:名無しのお嬢様 ID:fJEM1QKKu
こんどはさっきと違って集まる光が少ないな
683:名無しのお嬢様 ID:He9SJevUS
光の玉が一個しかないな
残りが1匹だからか?
685:名無しのお嬢様 ID:iALiA8+ZW
あ
686:名無しのお嬢様 ID:7bMwY6oWx
死んだな
687:名無しのお嬢様 ID:kCMAVPGau
つええええええええええええ!
688:名無しのお嬢様 ID:CbqyEVcLf
やっぱトリガーは集まった光の玉を潰すことか
689:名無しのお嬢様 ID:JYJ5ct6Kr
やばい、心臓のバクバクが止まらん
690:名無しのお嬢様 ID:JdjAuSYQm
すごいとしか言いようがない。
サンダーコボルト複数体を全くの無傷で倒しやがった…… 汗一つかいてないし……
・
・
・
・
・
900:名無しのお嬢様 ID:AEJ8SffTD
あ
かがりんにカメラ切られた
901:名無しのお嬢様 ID:eNQH/2fju
もっと見たかったのに・・・
902:名無しのお嬢様 ID:J/9J2jbdP
かがりんなんで消すのぉおぉぉぉおぉおおお
その子をもっと映してよぉぉぉぉおおおおおおおお!
905:名無しのお嬢様 ID:xPZms4fpG
やっと気づいたw
908:名無しのお嬢様 ID:FfrSraDdH
>>902
まあ、一般人を配信に映すのはマナー的にあんまり良くないからな
かがりんもその辺かなり気をつけてるけどこの子若干アホの子だから…
910:名無しのお嬢様 ID:ctFFVOYAo
>>908
かがりんカメラオフ割とやらかしがちだよなw
911:名無しのお嬢様 ID:E7iyeTlXv
あああああああああああああああああああああああ
興奮が収まらなああああああああああああい!
なんだあのバチクソにかっこいい女の子はっぁあぁぁああああ!!!
913:名無しのお嬢様 ID:GuwNWmvD/
>>911
おちつけ
915:名無しのお嬢様 ID:E7iyeTlXv
>>913
すまん取り乱したわ。
916:名無しのお嬢様 ID:83MDdAqh6
うわぁ!? 急に落ち着くな!
917:名無しのお嬢様 ID:FYJ8KEvK3
草
920:名無しのお嬢様 ID:b0BsLRo1h
でもとりあえず怪我してた女の子もかがりんの治癒魔法で大丈夫っぽいし、
ひとまず良かった。
921:名無しのお嬢様 ID:oettTqiDN
>>921
せやな
死人がでなくて本当に良かった
922:名無しのお嬢様 ID:QKZCHcheu
かがりんもさすがやな
最初の方でちらっと映った怪我した子かなりの重症やったのに
925:名無しのお嬢様 ID:ztGPToPvL
>>922
かがりんの治癒魔法、術士の中でもかなり上だからな
たしか一級回復術士の資格も持ってる
928:名無しのお嬢様 ID:SPgB/gvza
謎の少女の特徴まとめ
①名前はレイン?(かがりんがそう呼んでた)
②四角い不思議な使い魔を連れている。
③使い魔は人語を話す高知能で、名前はナビorナビーorナヴィ
⑤一瞬でAランクモンスを葬る謎の魔法
⑥背はかがりんよりも低い(たぶん)
⑦声かわいい(ダウナー系の喋り方も良い)
⑧目線にモザイクあったけど絶対美少女。絶対にだ。俺は詳しいんだ。
929:名無しのお嬢様 ID:ywwx/PdnS
>>928
最後ただの願望で草
930:名無しのお嬢様 ID:q3UIGd6md
>>929
なにげに使い魔もすごいよな。
単語をしゃべるモンスは見たことあるけどあんな流暢にしゃべるの初めてみたわ。
932:名無しのお嬢様 ID:pJAMo9SvE
とりあえずかがりんがYootubeのアーカイブ消しちゃうかもしれないから動画DLしといた。
933:名無しのお嬢様 ID:Zq7HxOfz8
録画しといたから後でもう一回見てちゃんと魔法の判別しよ
936:名無しのお嬢様 ID:k6nvXLmtR
>>933
魔法かなり謎だよな
あとで冒険者ギルド行ってデータベース見てくるわ
938:名無しのお嬢様 ID:Op4qgbisU
おんなじ魔法でも使う人によって多少は違いはでるし、アレンジする人もいるけど、
アレはそんなレベルじゃなくて未知の魔法だったな。
オリジナルで作ったんかしら?
940:名無しのお嬢様 ID:RM97kANc0
最後戦闘が終わってかがりんの方にカメラが戻ったじゃん?
そのとき、四角い使い魔に「あなたのおかげでスムーズに治療ができた」ってかがりん言ったじゃん?
あのナビとかいう不思議生物、知能高いだけじゃなくてなんか一芸あるぞ
942:名無しのお嬢様 ID:GJRXYm0YW
>>940
使い魔だし、状況考えれば回復魔法とか強化魔法とかの類かな?
943:名無しのお嬢様 ID:J1pZfQNNM
ていうかだれも触れないけどさ、
あの女の子、アイテムバッグつかわないでアイテムバッグ使ってたぜ(?)
946:名無しのお嬢様 ID:Y+uFqI1YO
>>943
魔石とツノ取り出すときのあのポータル?的なやつか
949:名無しのお嬢様 ID:X+kmhTsf4
>>943
合ってるけどその一文だけ見たら何言ってんだってなるなw
950:名無しのお嬢様 ID:pCAjKtus3
俺も久々にギルドに顔だしてデータベース見させてもらうか
952:名無しのお嬢様 ID:6lpCuX9Uw
まあ、コボルト殲滅した魔法見てる(視認できてない)からいまさらアイテムバッグ使わないくらいなんとも(目逸らし)
953:名無しのお嬢様 ID:pCAjKtus3
>>950踏んだから次スレ立ててくる
少し減速しといて
954:名無しのお嬢様 ID:4FbNeUzcn
実際魔法上位勢はアイテムバッグ使わないでああいうことできるひと一部にいるからな
976:名無しのお嬢様 ID:pCAjKtus3
次スレこれな
【ですのよ!】かがりん様を見守る会 Part.!¥
htttps://kakuunosure/streaming/465691356
980:名無しのお嬢様 ID:fWLlhJoJ0
>>976
乙
1001 1001
このスレッドは1000を超えました。
新しいスレッドを立ててください。
次回は魔王様視点に戻る予定
***
最近は 吸血鬼すぐ死ぬ 観てるで候。
この作品もそうだけど、ああいう現実とファンタジーが絶妙に混ざってるのすこすこ侍
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第19話 レインちゃんは凄いのですよ
「『謎の少女、かがりんの動画で判明していることまとめ 正体はSランク冒険者!?』、ねぇ…… このサイトの管理人はちゃんと調べて書いてるんですかねぇ? ワタシまだCランクなんですけど。
ま、悪い気はしないけどね。
やはりワタシってば崇拝される存在だしぃ? 隠しきれぬオーラに皆気が付いてしまったわけだな。ムフフ」
「マスター。先程からスマホを見てニヤケ顔が止まっていません。
Ms.美卯のみならず、周りには他のお客もいます。はしたない顔をなさるのはお控えください」
「は↑、はしたなくないし?!」
ワタシ達は今、受付嬢のみーちゃんと一緒にスターバックレというおしゃれなカフェに来ている。
何を隠そう、今日は魔法少女ナナニカ・ニカナの数量限定8分の1プレミアムフィギュアの発売日なのだ……!
もちろん予約開始日に爆速で予約したが、ついに発売日を迎えたわけだ。今か今かと待ちわびたぞ。
ちなみに、同じ魔ナニカファンであるみーちゃんももちろんフィギュアは予約済みで、販売開始の11時まで一緒にカフェに行こうと誘われたのでここに来ている。
普段は①極力働きたくない、②オタ活資金がいる、という2つの理由のためにワタシはこういったお店には来ないのだが、なかなかどうして良いお店だ。
元魔王であるワタシにふさわしいシャレオツ感と言うべきか。
否、ワタシのために存在する店といっても過言ではないだろう。
……この抹茶クリームフラペチーノ美味しいな。
「まぁまぁナヴィちゃん。実際、レインちゃんは凄いのですよ!
サンダーコボルトや通常コボルトの群れをあんなにもダダダダっと気持ちよく倒す様はまさに『無双』! 魔ナニカのような一幕に私脱帽でした! 何度あの動画を見たか分かりませんね!
して、ときにレインちゃん!
個人的な興味と、ギルドの職員としての興味で、あの動画に出てきた未確認魔法のこと教えてほしいなぁ、なんて…… チラッ」
「うーん、あれはちょっと教えられないというか… そもそも魔法体系からしてちょっと違うというか……
まああれはワタシにしか多分使えないよ。一応闇属性の魔法かな」
「フムフム。一見すると光属性の魔法のようですが、あれは闇魔法なのですね……!
たしかに、光と闇は表裏一体。いわば同じコインの表と裏。魔法の見た目が似ていても何も不思議ではありません。うーむ興味深い……
たしかにアレほど強い魔法は他に使える人も限られるでしょうね。……まあ、これ以上無理に聞くのもマジシャンにタネを聞くがごとく野暮なことですしここまでにしましょう」
どちらかと言うとあれは本来人が使う魔法じゃないしね。
試したことはないけれど、多分純粋な人間にはそもそも使えない。それにとんでもなく魔法力を消費するので並の人には使えないだろう。発動しようとしただけでぶっ倒れるのが落ちだ。
……あっ、このアメリカンアップルパイ美味しい。
サクサク食感のパイ生地が実に美味だ。シェフを呼んで直接褒めてやりたいくらいだ。
「そういえば、かがりんがあのアーカイブ動画を消しちゃうんじゃないかと思いましたが、レインちゃんがそのまま残していいと許可を出したんですね。この前かがりんが動画で言ってました」
「まー、別に減るものでもないし、ほら、ワタシの勇姿を皆に見せつけなくてはならないからね。もう二度とぐーたら姫なんて言わせない」
「ぐーたら姫って愛称、なんだか可愛くて私は好きなんですけどねぇ。
そうそう! あの動画のおかげでレインちゃんのこと、ギルドの中でも結構話題ですよ! 職員はアレがレインちゃんだってすぐに分かりますし、レインちゃんと仲がいい私によく色々聞いてきます」
「マジ?」
「レインちゃんのことは冒険者だけでなく、ギルド職員にも名が知れ渡っていますからね! 普段のレインちゃんがどんな人か聞かれるので、私と同じ魔ナニカを愛する御仁だとお答えしてあります」
「それは草」
「あ、あとそうです。ウチのギルドマスターから直々に感謝の言葉をいただいた話も話題になってますね。ギルマスから直々にお褒めの言葉なんて滅多にありませんし」
「あ~、アレね」
ギルドマスターという単語を聞いてワタシは数日前のことを思い出した。
あの日、動画の影響でいろいろな人からお褒めの言葉を頂いたわけだが、その中でも特筆するのであれば、みーちゃんの言うとおりギルドマスターだろう。
ギルドマスターとはその名の通り、水々市のギルドのトップのことで、みーちゃんが働いているギルドの支部長よりももう一つ偉い人。
そのギルドマスターがワタシがよく通っている水々市04支部までわざわざ来てお褒めの言葉をくれたわけだ。
ちなみにお褒めの言葉だけでなく、高い寿司屋につれてってくれた。
美味かった。
値段は知らないが、寿司のネタが書かれた壁掛けの板には『時価』と書いてあった。時価ってなんだよ時価って。算用数字でちゃんと書いておいて。まあもちろん全部ギルドマスターが払ってくれたけど。
ギルドマスターはなんというか貫禄のあるイケオジだった。
眉間にシワを寄せていて厳つい感じだが、寿司をおごってくれるのできっといい人だ。
大トロも良かったが中トロが一番美味かった……
「いい人だったな~。また寿司おごってくれないかな」
『マスター』
中トロの味を思い出しながら独り言を言うと、ナヴィが耳元に近寄ってきて異世界言語で話しかけてきた。
『あの日も言いましたが、あまりあのギルドマスターに心を許してはいけません。
あの人はおそらく、マスターの冒険者カードに私が施した偽造工作を見抜いています』
『分かってるって大丈夫大丈夫』
ナヴィは心配性だな。
ワタシの冒険者カードに載っているステータスは、本当はすべて『999』でカンストしている。そりゃ魔王の力を数値換算したらカンストもするだろう。
で、ナヴィからの進言でそのステータスの数字を偽装してある。
今はだいたいのステータスを『500』~『600』くらいの数値にしてあり、誰かに見られても、『お、こいつ結構強いやん』くらいになるようにしている。
別に偽装しなくても良い気もするが、ナヴィ曰く、すべてのステータスがカンストしている人は日本には存在せず、そんなところであまり変な風に目立つのは良くないとのこと。
たしかに冒険者カードをみーちゃんに作ってもらったとき、みーちゃんは結構驚いていた。「バグですかねー?」なんて言っていたような気がする。
そうなると今回のかがりんさんの一件で目立ったのは良いのかという話になるが、ナヴィ的にそれは別に『良い目立ち方』とのこと。よく分からん。
『ギルマスにバレてるって言っても、どうやって偽装したのかとか、ましてや証拠を握られているわけでもないんでしょ?』
『当然です。私が異界の最高の技術を用いて施した術式です。術式の中身まで、あんな
『さっすがナヴィ。愛してるぜ。
じゃあ何も心配いらないよ』
『愛しているのは私もですが、もっと感情を込めて愛しているを言ってほしいものです。――っと失礼。兎にも角にも、この世界はまだ我々の知らないことに溢れています。用心に越したことはありません』
「あー! また異世界の言葉で話しています! ずるいです! 仲間はずれは私、泣いちゃいますよ!?」
ナヴィと異世界言語で喋っていると蚊帳の外にされたみーちゃんが頬をぷくーっと膨らませて抗議してきた。
「ごめんごめん。別に大したこと話してないから」
「マスターの言うとおりですMs.美卯。心配ありません。
ただ私とマスターが互いに愛し合っていると再確認しただけです」
「ちょわ!? ここここ、これは種族を超えた禁断の恋! いや愛!」
何故そこで愛ッ!?
おいナヴィ。
なんかみーちゃんが盛大に勘違いしているぞ。
ほのぼの日常回
……スターバックス?
ああ、あのAppleのパソコンを広げてドヤる場所のことね。
(スターバックスなんて1回しか言ったことねぇです…)
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第20話 お金を使う瞬間が一番生を実感する
「いやぁ~、付き合ってもらってしまってすみません」
「ううん、別に気にしなくていいよ~。ワタシも少しお金おろしときたかったし」
ワタシとみーちゃんは今、カフェ・スターバックレからほど近い銀行に来ている。
みーちゃんがフィギュアを買うためのお金をおろしたいとのことで、ちょうど私もおろしたいと思っていたので一緒に来ている。
今どき電子決済だろ
災厄の日以前から日本では現金が好まれていたように思うが、今も日本は現金での支払いが好まれる傾向にある気がする。もちろん電子マネーも結構普及しているが。武器屋とかでも電子マネー使えるしね。
「はぁ~! やはり一生懸命に働いて得たお金を手にし、オタクコンテンツのために使う、というのは一番生を実感する瞬間ですね~!
生きるためではなくオタ活をするために働く。これが私のモットーですっ。もしオタクコンテンツがこの世に存在しなかったら私は今きっとニートまっしぐらでしょう!」
「これには
「ではレインちゃん。少し早いですが、そろそろ行きましょう!」
「
ワタシもみーちゃんもお金をおろし終わって、魔ナニカのフィギュアを予約してあるアニメショップに向かおうとした、まさにその時だった。
――パンっ!
重い金属的な衝撃音が入口の方から響いた。
「おいお前ら、死にたくなかったら妙な真似するんじゃねーぞォ?」
顔全体を覆うレスラーマスクのような覆面をした5人組が入り口から入ってきた。
覆面の一人は慣れた様子で店員の方に詰め寄ると大きなカバンを取り出し、金を入るだけ詰めるように迫った。
威嚇射撃で店内には何度か銃声が響き、そのたびに店員たちは体を強張らせ、恐怖のまま、言われるがままかばんを受け取り、金を詰め始める。
「……なるほど、これが銀行強盗というものなのですね。初めて見ました」
「ワタシも初めて見た。意外と迫力あるな」
「ななな、なにナヴィちゃんもレインちゃんも冷静に見てるんですかー…!!!
やばいです、私の命運はここで尽きてしまうのですか…! まだ魔ナニカのフィギュアも買っていないのにこんなところでは死ねません…!!!」
ドラマやアニメでは時々見るけど、初めて生で銀行強盗を見たので感想を言っていると、みーちゃんがかなり怯えた様子で息を殺しながらツッコミを入れてきた。
やっぱり生で見るのは違うな。
銃声とかもゲームの音声よりもなんていうかリアルで重い音だ。
というかコイツら普通にみんな銃を携えているわけだけど、どこから仕入れてきてるんだ? ファンタジー的な武器じゃない普通の拳銃なんて売っているお店、日本にはないはずだけど…?
覆面の男達は拳銃だけではなく、魔法力増幅安定器(いわゆる魔法の杖)や片手剣も携えている。随分とやる気だこと。
「銀行強盗に遭うなんて、日本の安全神話はどこにいったんだか」
思わず独り言が
今の日本は、災厄の日以前、つまりワタシがまだ男でサラリーマンをしていた時代とは異なり、犯罪率が結構高い。
テレビやネットニュースを見ていればそれを何となく実感できる。
災厄の日なんていう突拍子もないことが起きたせいで、普通の一般人でもモンスターさえ
おまけに今の日本は『力』や『才能』による格差がさらに大きく広がっている。『力』や『才能』は努力でなんとかできる部分もあるが、能力は往々にして生まれた時点でほぼ決まっているという。
分かりやすく犯罪に走る理由も割とあるわけだ。
そりゃ犯罪率も上昇するのも道理だ。
まあこの銀行強盗達が生活に困窮してやっているのか、はたまたおもしろ半分で犯罪をしているのかは知らんが。
「さて、どうしようか」
ワタシは顎に手を当てて考える。
きっと、こういう場合は警察の到着を待ったほうが良いのだろう。武器や魔法を使うような犯罪者を専門にする警察の部署も確かあった気がする。面倒事はプロに任せるに限る。
しかしそうすると、警察の到着を待たねばならず、アニメショップの開店時間に間に合わない可能性が出てくる。
うーん……
コイツらもなんでワタシが来るタイミングで銀行強盗しちゃうのかなぁ。
別にワタシは正義の味方ではない。
なんなら悪の組織のほうが属性的には近いし、このまま銀行強盗を放っておいても別にいい。
かと言って、このまま店員たちが殺されたりしたらみーちゃんのメンタルに良くないしなぁ……
「まあいいや、とっ捕まえてそのへんに縄で縛っておいておけばいいでしょ」
「ちょちょちょレインちゃん!? どこ行くんです!?!? やややばいですって!!! 刺激しちゃ殺されますってぇ…!!!」
ワタシは自分の中で活動方針を決めると、覆面の男の一人に近づいていく。
「……あぁ? なんだ女ァ、俺様が妙な真似はするなっつったの聞こえなかったのか? それとも鉛玉撃ち込まれて死にてえのか!? あァ!?」
男はドスの利いた声で怒鳴る。
おー、怖い怖い。
後ろでガクブル震えているみーちゃんからも『それ見たことですかぁ!』っていう感じで無言の圧力をひしひしと感じる。
いやだってフィギュア早く手に入れたいし……
「おいてめえ、聞こえてねえのか! 死にたくなかったら、その場から一歩も動くな」
覆面の男はこちらに銃を向け、怒気を乗せて命令をするが、ワタシは気にせず口を開く。
「キミ達には今2つの選択肢がある。
一つは、今すぐ銀行強盗なんかやめて自分の足で警察に行く。これはちょーおすすめだね。ワタシの時間を奪わなくて済む。合理的。
もう一つは、ワタシにボコされて醜態を晒すこと。
どっちがいい?」
ワタシが笑顔で聞くと、覆面の男がブチッと青筋を立てたのが分かった。
こんな美少女の笑顔に怒るなんて……!
「どうやら撃たれないと思って完全に舐めきってやがるようだな…… ガキぃ……
ちょうどいい。見せしめにいくらか殺してもいいと思ってたんだ。後ろの連れの女も、そのヘンテコな生き物もまとめてブチ殺してやるよ」
覆面の男は銃のトリガーに人差し指をかける。
「じゃあなクソガキ。
恨むんなら、大人に対して生意気に口答えするように育てた、自分のママを恨むんだな」
そして無情に重い音が響く。
「――なっ!」
しかし男は驚愕の声を漏らす。
たしかに、銃弾を片手で受け止められる体験というのはなかなかないだろう。驚くのも無理はないかもしれない。それに、基本的に人間という種族では銃弾に素手で対抗するというのはなかなか難しいし。
「びっくりした?
まあでもアレだね。銃弾って、勇者の攻撃よりは遅いね。もっと早いかと思ってた」
ワタシは人差し指と中指で止めた弾丸をポイッとそのへんに捨てる。
「……ッ!」
男は半ば恐慌状態に陥ったのだろう。
一心不乱に何発も弾丸を放つ。
そしてそれを右手の指と指の間ですべて挟んで止めてみれば、男は情けない声を出して尻餅をついた。
「ば、化け物……!」
「侮蔑の意味でその言葉を使ったのかもしれないけれど、それはワタシに対する正当な評価だよ。
じゃあ、選択肢②をご所望とのことで、5名様ごあんな~い」
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第21話 フィギュア
「よいしょっと。いっちょ上がり」
パン、パン、と手をたたき仕事を終える。
覆面の男達5人は結構簡単に制圧できた。
まあというか、簡単に制圧できなかったらそれはそれでびっくりなわけだけど。
銃弾を片手で止めたのが効いたのか、他の人達は拳銃を使わず、剣やら魔法やらで攻撃してきた。「銃が効かないならファンタジー系の攻撃だ!」ということだろうか。
もちろん被弾はしてない。
剣は回避して根元から折って、魔法はすべてマイナスの作用を持つ魔法を当てて消滅させて対処した。
で、目をパチクリさせている銀行強盗に近づいて、頭に手を当てて昏睡の魔法で卒倒させる。
簡単簡単。
一応縄で縛って動けないようにしてあるからこれで安心だろう。
ふっふっふ、ワタシってば超魔王。
ワタシの魔王ムーブにひれ伏せ、愚民ども。
「お、警察来たっぽい」
ワタシの不敵な笑いに呼応するかのように、けたたましいサイレンの音がいくつか近づいてきた。
きっと銀行の店員が通報したのだろう。
たしか銀行の受付の下には通報用のボタンが有るとか無いとかいう話をテレビでやっていた気がする。銀行強盗の目を盗んでボタンを押す店員さん、さすがだぜ。
……というか、こんなに早く来るならワタシがわざわざ対処する必要なかったのでは?
「……まあいいや。
よし、あとは警察の人がいい感じに処理してくれるだろうし。うんうん、開店時間にもなんとか間に合いそう。終わりよければ全てよし。
いこう、みーちゃん!」
「レインちゃんの力が凄いことは動画を見て知っていましたが、これほどまでとは…… レインちゃんのファンになってしまいそうですね……」
「ふふふ。もっと褒めてもいいよ?」
ひと仕事を終えたので、入り口から出てアニメショップに向かう。
銀行からアニメショップまでは歩いてだいたい10分くらいだ。開店時間の11時まであと20分くらいはあるので、ゆっくりみーちゃんと喋りながら行けばちょうどいい感じだろう。
ワクワクするぜ。
あぁ――!
麗しの1/8プレミアムフィギュア!
「――! 誰か出てきたぞ!」
ワタシ達がルンルンとした足取りで自動ドアから外に出ると、外に来ていた警察官の一人が大きな声で発する。
その言葉に周りの警察官も盾やら警棒やらを構えてこちらを見る。
20~30人くらいは居るだろうか。
透明な厚いバイザーの付いたヘルメットに、人ひとりを余裕で守れそうなライオットシールド。防弾や防魔加工が施されているであろうベストを着用し、ザ・特殊機動隊という装備をしている。
……初めて見たけどかっこいいな。
男心に突き刺さる、素晴らしいデザインだ。まあ今のワタシは女だが。
ご苦労さまですという意味を込めて、一度ぺこりとお辞儀をして通り過ぎようとすると、機動隊のリーダー的な人に呼び止められた。ガタイのいい人が多い機動隊の中でもひときわ図体もでかくて強そうな見た目をしている。
武器を構えたままで、どうやら超警戒してるご様子だ。
ワタシも銀行強盗の一味なんて思われてるんだろうか? こんなか弱い少女を疑うなんて……!
まあ、今の日本で見た目で判断するほど愚かなことはないけど。
「失礼。我々は特殊機動隊だ。
通報がありこの場にいるのだが、あなた方は? 中はどうなっていますか?」
丁寧な口調だが眉間にシワを寄せ、警棒を手に、すぐに応戦できる構えだ。
「ワタシ達は…… しがない一般市民?です。 ワタシは冒険者で、こっちのみーちゃんはギルド職員。銀行強盗なら入口の近くに縄で縛って置いてありますので、あとはよろしくおねがいします。
ではワタシたちはこのへんで……」
「まてまてまて。んん゛ッ。待ってください。状況を確認するのでここから動かないでください。いいですね?
……おい」
「はっ」
機動隊のリーダーが近くにいた隊員に声をかけると、声をかけられた隊員は他の隊員を引き連れて銀行の中に入っていった。
むむ……
結構時間かかる感じ?
まだ多少ショップの開店時間までに余裕はあるが、早いとこ行きたいんだが。
魔ナニカに興味のない人からしたら「別に予約をしてあるのだから、急ぐ必要はないのでは?」という感想を抱くのかもしれないが、それには断固として「否」と答えたい。
たしかに、ショップで購入の予約はしてあるから、1/8プレミアムフィギュアを手に入れるのはショップの開店時間以降であればいつでもできる。
しかし、しかしだ。
発売日にいち早く手に入れたいという、この熱い気持ちは何よりも優先されるのだ。
楽しみにしていたアニメの第1話の放映日、続編が出ることが無いと思っていた名作ゲームの続編の発売日、好きなアニメの声優が出るイベントの日――。
何かを一途に愛する人種である我々オタクからしてみれば、まるで遠足を楽しみにする小学生のように、恋い焦がれたその日、その瞬間を1秒でも早く味わいたいのだ。
簡単に言うと、早くフィギュア買いに行きたい。
「みーちゃん。もうワタシ達行ってもいいかな? いいよね? ね?」
「だ、だめですよ……! もうちょっと待ちましょう! 見てください。あの隊長的なひと、眼力がやばいです。 きっと2,3人は
「マスター。Ms.美卯の言う通りです。しばし待ちましょう。後で面倒なことになりかねません」
「うーん……」
しょうがない。
早く早くと思いながら数分待っていると、中に入った隊員の一人が出てきてワタシたちの前で野獣の如き眼光をしている機動隊リーダーに報告した。
「隊長。彼女の言う通り入口付近に覆面をかぶった5人が縄で縛られていました。
中にいたお客や店員に軽く話を聞いた限り、銀髪の彼女が銀行強盗のすべてを相手取り撃退した模様です」
「間違いないか?」
「はい、複数人に聞いたので間違いないかと。一部の人がスマホで事件の様子を動画を撮っていたようなので現在他の隊員が確認中です」
「ふむ……」
隊長は顎に手を当てて何かを考えるような仕草をする。
……もう行ってもいいよね? いいよね?
「じゃあ、そういうことでワタシ達はこのへんで……」
「ああいや、ちょっと待ってください。
まずはご協力感謝いたします。詳細は確認中ですが、あなたのおかげで被害は最小に食い止められたでしょう。ありがとうございます。
ついては事件のことについて色々とお聞かせいただければと。ご協力いただけますか?」
「いやです」
「……え?」
いけないいけない。
つい食い気味に即答してしまった。
断られると思っていなかっただろう隊長さんはきょとんとした。
「あ、別に後でならいいんですけど、このあと買い物に行かないといけなくて」
「そういうことですか。いえしかし…… 重要な参考人を……」
隊長は歯切れの悪い言い方をする。
うん、分かりますよ? そりゃ犯人逮捕に関わった人物から事情聴取したいよね。隊長さんも職務を遂行したいよね。でも、ワタシは早くフィギュアが買いたい!
もう、いいよね。
ワタシ十分我慢したよね。
我慢したワタシ偉い!
「うーん、えっと、ワタシはレイン。レイン=フレイム。
隊長さん、お名前は?」
「え、はっ。失礼、自己紹介が遅れました。
本官はこの隊を預かる神宮寺と申します」
「そっ、じゃあ…… はい、これ一応ワタシの携帯電話の番号だから。用事が済んだらすぐに警察に行ってあげる。
……んじゃ、そういうことで! 行くよ、みーちゃん!」
ワタシは持っていた適当な紙に自分の携帯電話の番号を乱雑に書き、その紙をそのまま神宮寺さんの胸ポケットにねじ込むと、みーちゃんの手を引いてアニメショップへ向けて走り出す――!
「え、ちょわわわわっ!? レインちゃん!?」
「はっはっはー! じゃあね神宮寺さん、また後で!」
「え、あ、ちょっと! レインさん!?」
隊長さんの呼び止めを無視してワタシは走り抜けた。
私の俊足には太刀打ちできまい!
ごめん、神宮寺隊長さん!
あとでちゃんと警察に行くから!
警察とかがドラマでよく持ってる盾の名前がライオットシールドということを初めて知りました。かっこいい(小並感)。
ちなみにパンの袋についているインベーダーみたいな留め具はバッグ・クロージャーです(墓場まで使わぬ知識)。
***
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第22話 事情聴取にカツ丼はありません
今回は神宮寺さん視点。
「お二人ともご協力ありがとうございました。供述調書の作成もつつがなくできそうです」
神宮寺は事情聴取に使っていた書類を集めて机でトン、トン、ときれいに揃える。
「ふっふっふー。今のワタシは機嫌がすこぶる良いからね。これぐらいお安いご用ってやつ?」
「いえいえ! ご協力できて何よりですッ! 警察に協力するのは市民の務めというやつなのですよ」
銀髪の小柄な少女――レインは得意げに腕を組んで『ふふん』とドヤ顔を。
そして栗色の髪の少女――
なにはともあれ、無事に事情聴取ができてよかったと神宮寺は少しほっとしていた。
事件現場に居合わせたこの少女たちに事情を聞こうと思ったが、その場では逃げられてしまい、どうなることかと思ったが、約束通り、ちゃんと彼女らは警察署に来てくれた。
通常、こういった事情聴取や事後処理的な事務は、暴力的な事件や魔法を使った犯罪等の対処を主な業務とする特殊機動隊の領分ではあまりない。しかし、神宮寺の隊では余裕があればなるべくやるようにしている。
こういった事後処理のことも知っておいたほうが、一般の警察官とも連携が取りやすくなり何かと役に立つからだ。自分より2つ前の隊長からの風習らしいが、神宮寺はその考えに大いに賛同している。
ちなみに今回は神宮寺が直接彼女たちに話を聞きたいと思い、少し根回しをして彼女の事情聴取に当ててもらった。
「
「承知しました」
神宮寺は一緒に事情聴取をしていた女性――副隊長の一条に持っていた書類を渡し、そのまま小会議室を後にした。
「そうだ。わざわざ来ていただいたお礼と言ってはなんですが、なにかおごりますよ? どれが良いですか?」
会議室を出てすぐのところにある自動販売機がふと目に入ったので、二人に問いかける。
するとレインのアホ毛がピコンと一瞬揺れたような気がした。
……最近働きすぎで目が疲れているのかもしれない。しかしまあ、アホ毛が意思を持ったかのように動いたとしても不思議ではないくらい、レインの目は輝いていた。
たかが100円ちょっとの飲み物がそんなにお気に召したのだろうか。まるで小さな子どものような無邪気な反応に、神宮寺は思わずくすりと小さく笑った。
レインと三成は歳が近いらしいが、自動販売機の前で一緒に悩んでいる様はなんだか姉妹にも思える。さしずめ三成が姉で、レインが妹だろうか。
二人はしばらく悩んで、レインは『ハチミツたっぷりおでん風いちごみるく』、三成は『練乳抹茶みるくティー』を選んだ。
名前だけ見てもどちらも甘ったるいのが容易に想像できる。
……というよりも、『練乳抹茶みるくティー』はまだ分かるが、『ハチミツたっぷりおでん風いちごみるく』とはどんな味なんだ。そもそもそんなニッチなジャンルの飲み物がある事自体、神宮寺は今初めて知った。おでん風とはなんだ。おでんのつゆでも入っているのか。
「なかなか独特な飲み物ですね」
あまりにも衝撃的な飲料に思わず口がひとりでに動いてしまった。
「そう? 結構美味しいよ。……口つけちゃったけど、神宮寺さんも飲む? 一回飲んだら病みつきかもよ?」
レインは不思議そうにこちらを見上げ、飲んでいた『ハチミツたっぷりおでん風いちごみるく』をこちらに寄越してきた。
「いえ、自分は大丈夫です。あまり甘いものが得意ではありませんので」
「うーん、美味しいのに…… みーちゃんもこの前飲んで美味しいって言ってたよ? ね?」
「そうですね! 最初は敬遠していましたが、意外と美味しいですよ! 私は『おでん風いちごみるく 南国フルーティー味』が一押しですね!」
「お気持ちだけで大丈夫です。ありがとうございます」
なるほど。
どうやらレインだけでなく、三成もなかなか独特な味覚の持ち主らしい。――いや、自分が単に歳をくったおじさんだからだろうか。今の若い子は一般的にこういった味が好きなのかもしれない。
そのまま三人で少し世間話をしながら入り口までレイン達を送った。
「んじゃバイバーイ、神宮寺さん」
「みるくティー、ごちそうさまでした! 失礼します!」
「どういたしまして。改めてお二人ともありがとうございました」
そのまま神宮寺は自分の隊の事務室まで戻る。
今、神宮寺の隊の隊員は出払っている者が多くて事務室は少し閑散としていた。
パソコンの前で事務作業をしている一条に『お疲れ』と言って、先程自動販売機で一緒に買っておいた缶コーヒーも渡す。
「あら、頂いてよろしいんですか?」
「レインさん達に買ったついでだ。……あ、すまん。ブラックで大丈夫だったか?」
つい癖でビターのコーヒーを買ってしまったが、実は一条もレインたちのように甘党だったかもしれない。カフェオレとかにしたほうが良かった気がいまさらしてきた。
「大丈夫ですよ? 私は苦いのも甘いのも大丈夫です」
「そか。なら良かった」
大丈夫なら良かったと一安心して、神宮寺も自分用に買った缶コーヒーを開けて飲む。
やはり、自動販売機で買うのはブラックのコーヒーに限る。先程妙に甘そうな名前の飲み物を見たせいで余計に缶コーヒーが美味しく感じる。
美味しい苦味を感じながら、ふぅと一息ついて神宮寺は口を開く。
「……一条、彼女のことをどう思う?」
『彼女』とは、もちろんレインのことだ。
「……そうですね。成人している割に少し子どもっぽい性格をしていますが、ひとまず人格等、問題のある人物には見えませんでした。それに…… 例の動画で見た限り、かなり実力があります。スカウトするには申し分ない人材かと」
「そうだな。俺も同意見だ」
神宮寺は一条の答えに満足気に笑った。
今日の事件、銀行からの通報を受け、すぐに動ける状態にあった自分たちの隊がすぐに現場に向かった。
しかし、すでに事件は解決済み。
銀行に来ていたお客に訊けば、銀髪の少女――レインがすべての銀行強盗を相手取り、あっけなく倒して拘束したのだという。
レイン達に事情聴取から逃げられたあとはとりあえず現場検証に協力していたが、その際、銀行に来ていたお客の一人がスマホで動画を撮っていたので見させてもらった。
一言で言えば圧倒的だった。
弾丸は指で止め、剣は力任せに根元から折り、魔法はなにかの魔法を使って消滅させていた。
剣を折るのは神宮寺でも簡単にできるが、弾丸を指で止めるのは難しい。自分に強化魔法をかけて
それに、神宮寺は魔法にも多少腕に覚えがあるが、レインが使っていた魔法は初めて見た。
室内での魔法攻撃に対する行動としては、基本的に避けるか、防壁を貼るかだ。なにか別の魔法をぶつけて対処することもできるが、そうすると敵の魔法も自分の魔法も、思わぬ方向へ跳ねたりして味方や周りに被害が出る場合がある。
しかし、レインは相手の魔法を完璧に消滅させた。どういう魔法なのだろうか。
動画を見ただけでも、特殊機動隊の隊長格クラス―― いや、それ以上だと言っても過言ではないだろう。
そんな人材を放っておく手はない。
レインは冒険者だと言っていたが、ぜひ特殊機動隊にスカウトしたい。不安定な冒険者よりも収入や福利厚生も充実している特殊機動隊に、きっと彼女も魅力を感じるはずだ。
「それと…… 彼女たちはたぶん同志です。持っていた紙袋は私も行きつけの店のものでしたし、一緒に働くことになったらぜひ語り合いたいものです」
「……ん? 同志? どういうことだ?」
「いえ、失言です。気にしないでください。こちらの話です」
「……そうか?」
一条との話は、今回みたいに時々噛み合わない。やはり自分よりも一回りも歳が下の、しかも女性との会話に付いていくのは難しいなと改めて思う。
若者に置いていかれぬよう情報はなるべくアップデートするようにしているが、もう少し精進しようと神宮寺は
アニメとか漫画とかでよくある意味不明な飲み物・食べ物たちが好き。
***
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小説のことはそんなにつぶやいてないですけど…
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第23話 20XX年X月6日 21時00分 公開記事「SNSでバズっている銀行強盗撃退少女の正体とは!? その正体はSランク冒険者!?」
銀行強盗を撃退した美少女のことがブログでまとめられたようです。
SNSでバズっている銀行強盗撃退少女の正体とは!? その正体はSランク冒険者!?
今回はSNSで爆速で拡散されている謎の少女のことについてまとめました!
ニュース等でも取り上げられているように、この事件は一昨日の夕方、水々市にあるXX銀行で起きた銀行強盗です。
まずはこの動画をご覧ください。
(撮影者に使用許諾を頂いています。また、人物の顔には撮影者がぼかしを入れているようです)
動画の冒頭で犯人と思しき覆面の男が声を荒げている様子がわかります。
撮影者によると、この動画は犯人が銀行に入ってきてから数分後に撮影を開始したとのことです。
この動画を撮影している方もなかなか肝が据わっていますね……
バレたら犯人を刺激しかねませんが、画面の端に少し影が映っていることから、おそらくバッグの中からばれないように撮影しているのでしょう。
……すごい根性ですw
初めてこの動画を見たときは凄い衝撃的でした。この記事を執筆している時点で私も驚きと興奮が収まっておりませんが、なるべく冷静に分析していきたいと思います。
では、この動画で特筆すべきポイントをいくつかあげます!
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
◆ 弾丸を指で止める ◆
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
動画の2:40付近で、
会話が少しとぎれとぎれですが、どうやら少女が銀行強盗を煽るようなことを言ったようです。それにまんまと乗せられた銀行強盗が激昂して、少女に銃を向けます。
次の瞬間、強盗は発砲。
誰もが陰惨な光景を想像してしまいますが、そうはなりません。
なんと少女は右手の人指し指と中指で銃弾を止めているではありませんか!
銀行強盗が使用している銃の種類が定かではないので若干ゆらぎはありますが、通常、拳銃の弾丸は秒速200~600mで発射されます。間を取って秒速400mだとしてもとても通常の人では対応できません。
そもそも視認すらできません。
認識したと同時に死んでそうです。
少女がどうやって弾丸を止めたのか全く分かりませんが、考えられる方法としては強化魔法が挙げられるでしょう。
例えば、強化魔法で視力と動体視力、それに反応速度を上げる。
そして、秒速400mで動く物体の運動エネルギーを軽く上回る力で弾丸を止められるよう、筋力らへんにも強化魔法を入れる。
そして実践。
……と、一応例を挙げてみましたが、基本的には難しいでしょうw 書いている私自身も並大抵の人間には無理だと理解しています。魔力操作に特に秀でていて、さらに素の身体能力も要求されそうです。
この点だけに鑑みても、件の少女は冒険者のランクで言えば、少なくともAランク。いや、Sランクも視野に入るでしょう。
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
◆ 手をかざして敵を無力化 ◆
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
銃弾止めは少女の
異変に気がついた他の銀行強盗も少女に攻撃を仕掛けます。ちょうど動画の3:30くらいのところです。
銃弾を止めている様子を見て、銃による攻撃は無駄だと判断したのでしょう。のこり4人の銀行強盗の内、2人が剣を、もう2人が魔法の杖を取り出します。(なぜ剣や魔法なら効くとおもったのかw)
しかし、武技を発動した攻撃も、魔法による攻撃も、少女には効きません。
片手剣とレイピアを根元から折られ、魔法は少女の手のひらから放たれた魔法により相殺されます。
……もうここまで来ると乾いた笑いしかでませんねw
剣を折るのは百歩譲って常識の範囲内です。
実際、有名なYootuberのかがりんも似たようなことを過去にやっています。(かがりんの動画:ここをクリック)
強化魔法が得意で、相手が対処法を知っていなければ同じようなことができる人はそれなりにいます。
しかし、魔法の方はまた別です。
この相殺している魔法は、なんと、現時点でどんな魔法なのか分かっていないのです!
今現在も色々な掲示板やSNS上で議論がかわされていますが、なんの魔法なのか皆目検討が付いていません。一部の有識者の話では、全く新しい魔法なのでは?との見解もあります。
(もし魔法にお詳しい方がいたら、ぜひこのページ下部のコメント欄で教えて下さい!)
(というか魔法の杖を使わないでこれほど凄そうな魔法を使えるってどんだけですかね……w)
そして極めつけは次の行動です!
動画5:10付近をご覧ください。
少女は武器を折って無力化した男の一人に近づき、男の頭を右手でつかみ、何やら暗い紫色の光が一瞬光ったかと思えば、次の瞬間、男は地面に力なく倒れ込みます。
……例によって意味がわかりませんねw
残りの銀行強盗にも近づき、同様に手で掴んで昏倒させます。
こちらの魔法も色々な掲示板やSNS上で議論がかわされていますが、なんの魔法か分かっていません。
一応、闇属性の魔法でモンスターを麻痺させる魔法とかもあるので、その派生系の魔法なのでは?とは言われていますが、そのものズバリは私が調べたところありませんでした。
そして、アイテムバッグ無しでどこからともなくロープを取り出して、銀行強盗5人ともを縛り上げます。
銀行強盗が現れて5分たらずですべて無力化。
……すごすぎます。
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
◆ 少女はSランク冒険者? ◆
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
ここまで強いと、少女はSランクの冒険者なのではという疑問が出てきます。
実際、掲示板やSNSでもSランクではないかという声が多数あります。
銀行強盗たちの使用している武技や魔法を見る限り、銀行強盗たちもそこそこランクが高そうですが、1人で制圧するだけならAランクの冒険者ならおそらく普通にできます。Bランクの冒険者でも複数人いれば制圧できそうです。
が、動画で見た少女のようには行かないでしょう。
銃弾を素手で掴むとか。
誰も知らない魔法を使うとか。
アイテムバッグを使わずアイテムバッグを使うとか。
色々と規格外ですw
SNS上でも私と同様に、少女はSランク冒険者だ!という人が結構いますねw
ちなみに、Sランク冒険者ではなくて、非番中の特殊機動隊の隊長とかなのでは?という人もいましたが、警察の
ただ、そもそも特機隊の隊長を全員分HPに載せているわけではないので、もしかしたら非公表の特機隊の隊長とかの可能性はあります。特機隊の隊長や副隊長もかなり強いらしいですからね。
(ちなみに、特機隊の隊長格は冒険者ランクでいうところのAランク以上に相当すると言われています)
冒険者の免許交付を受けようとするときの講習でも初めの方で習いますが、冒険者はS、A~Eランクでランク付けされています。
頂点に位置するSランクは冒険者全体の1%未満。
そしてAランクは冒険者全体の2~4%程度だと言われています。
そんな上位者だとしてもなんの疑いもありません。
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
◆ まとめ ◆
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
いかがでしたか?
件の少女が誰なのかまでは特定できませんでしたが、Sランク冒険者である可能性が高いと私は睨んでいます! Sランク冒険者は顔が割れている人が結構いますが、ネットに情報があまりないことから、少女は最近メキメキと力を付けてきた人物かもしれませんね。
動画では顔にボカシが入っているので一体どんなお顔をした人なのかわかりませんが、もしかしたら地元では割と有名人だったりするのかもしれません!
もしまたこの少女について続報が入りましたらまた記事にします!
いかがでしたか?(2回目)
いわゆるいかがでしたかブログを書いてみましたが、再現しようとするとなかなか難しい(汗
たぶん銀行強盗の事件以降、ネットにはこんな記事が溢れていることでしょう。
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第24話 アニメショップ
「あ」
今日発売の魔ナニカの小説版第7巻を手に取ろうと、棚に右手を伸ばしたとき、隣りにいた人も手を伸ばしていて、お互いの手が触れ合った。
「失礼しました。おや?」
「え? あ…… えっと確か、えっとー…… 警察の……五条、いや九条さん?」
「マスター、全然違います。勝手に数字を増やさないでください。お久しぶりですMs.一条」
「お久しぶりです、ナヴィさん、そしてレインさん。
といっても、事情聴取からまだ5日しか経っていませんが」
そうだそうだ。
一条さんだ。
警察での事情聴取のときに特殊機動隊の隊長の神宮寺さんの隣にいた人だ。たしかこの人は副隊長だったと思う。
180センチ弱くらいはありそうな高身長に、美人系のきれいな顔立ち。肩ほどまである柔らかく大人な女性を演出するウルフカットの髪。事情聴取のときに感じた『できる女』という印象そのままに、落ち着いた服装が見事に合っている。
事情聴取のときにも思ったが、一条さんはかなりの美人さんだ。
「今日はメガネしてるんだね。
メガネしてない顔しか知らないから一瞬誰か分からなかった」
「ええ。仕事中はコンタクトレンズを使っていますが、非番の日は基本的にメガネですね。手入れが楽ですし」
今日の一条さんはいわゆるボストン型のクラシックなおしゃれメガネをしている。事情聴取のときはコンタクトをしていたのか。
とても似合っている。
というか、美人は何付けても似合う気がするわ。
「そういえば今日はどうしてここにいるの? 何か事件?」
「いえ、今日は完全に非番です。つまり趣味です」
「へー、一条さんもこういうところ来るんだ。なんか意外」
「よく言われます」
一条さんみたいな正統派の美人ビジネスウーマンがこんなオタクショップに居るのにすごい違和感を覚える。別に糾弾をしているわけではもちろんないけれど、なんていうか『陽』の人が『陰』のところにいるのがびっくりする。
……いや、そういう意味ではみーちゃんも『陽』っぽいな。コミュ力やばいし。
……うん、陰とか陽とか関係ないや。オタク万歳。
「ん……? というか、さっき一条さんも魔ナニカの小説手に取ろうとしてたけど、もしかして魔ナニカ分かる人だったり……?」
「もちろんです」
――!
その言葉を聞いて、ワタシは思わず一条さんの両手を胸の前へ抱き寄せた。
「ほんと!? いやぁ! 周りに意外と知ってる人がいなくてさ! みーちゃんくらいしかいなくて! あとはネット上で語り合うくらいしかできなくてさぁ! え、マジ!?
え、え、どこまで
「マスター、マスター。落ち着いてください。いきなりその距離の詰め方は怖いと思います。一条さんもびっくりしてしまわれますよ」
「え? あー、ごめん一条さん。嬉しくってつい」
ナヴィの忠告で我に返り、
いかんいかん。
つい嬉しくて……
魔ナニカってオタクの間では割と有名な方なんだけど、意外と周りに話せる人がいないんだよね……
まあ、そもそも周りにオタクがいないってのもある。
冒険者ギルドで時々一緒に御飯を食べる連中は戦うことしか頭にない戦闘狂とか、酒とつまみの話にしか興味ない奴らとか、休日はごろ寝しながらテレビで野球観戦してるやつとか、そんなのしかいない。
ネットのコミュニティでアニメの最新話が放映された後は語り合うくらいのことはするが、こうして直に話すことができる人間は貴重だ。
「……? 別に私は気にしませんよ?」
一条さんはこてりんと少し首を
顔は変わらず無表情だが、顔立ちが良いせいで、そんな些細な動作がすごく可愛い。
「それに、私もレインさんとはお話したいと思っていたので。魔ナニカはレインさんと同じく、リメイク前から小説版、漫画版まですべて網羅しています。
あと私も買いましたよ、アレ。1/8プレミアムフィギュア」
「ほんと!? アレいいよね、造形がきれいでまさにプレミアムフィギュアに相応しい出来だよね。うんうん。」
「そうですね。一日中
「うん?」
「冗談です」
一条さんは相変わらず無表情のまま、口に手を当てて上品におほほと笑う。
……???
ま、まあ良いや。
「レインちゃん、おっまたせしましたー! いやぁー、家を出る前に飲んだコーヒーが猛威をふるいダムが決壊しそうでしたが、無事、
そんなこんな話をしていると、お手洗いに行っていたみーちゃんが戻ってきた。
「おやおや! そちらのお姉さんはこの前の副隊長さんではござりませんか!」
「こんにちは、三成さん」
「こんにちはです! ……やややっ! その買い物かごに入っているのは魔ナニカのクリアファイルに、今日発売の小説版7巻ではありませんか!」
「そうなんだよ、みーちゃん! 一条さん、どうやらワタシ達と同じくらい魔ナニカのこと話せそうだよ!」
「なんと! 思いがけぬところに同志がいたとは!
一条さん、ぜひお友達になりましょう!」
「いいですよ。じゃあちょっと待ってくださいね……
はい。LIMEのQRコード。……あ、LIMEやってます?」
みーちゃんは『やってます!』と元気よく自分のスマホを取り出して一条さんのQRコードをスキャンして友達登録をした。
もちろんワタシも一条さんと友達登録させてもらった。
むふふ、美人で話のわかる人と友達登録できるなんて、なんだか一粒で二度美味しい気がする。
「一条さん結構いっぱい買い物かごに入ってますねー。魔ナニカ以外も結構買ってるんですか?」
「ええ。今期やってる『刀剣士クロニクル』の原作1~5巻と、あとは『ヴィランの美学』が好きなので、それのBL同人誌とかですね」
「剣クロ面白いですよね! ――っと、ラン学は知っていますが、BL同人誌ですか…?
BLってなんでしたっけ?」
「みーちゃん、みーちゃん……
1個質問なんだけど、『攻め』の反対の言葉は何か分かる?」
みーちゃんの純粋無垢な質問に思わず質問する。
TSして女になった今でもBLの良さはよく分からないが、トゥウィッターでタイムラインに流れてくる腐女子達の会話を理解するくらいはできる。ワタシの好きな有名な女性声優が腐女子だから、それでなんとなく用語も覚えてしまったのだ。
オタク歴が長い人ほどワタシみたいに興味はないけど用語とかミームとかは知ってるとか割とあると思う。
つまり、オタク界隈にいればある程度染まっていくというか汚れていくわけだけど……
「もちろんです! 攻撃の反対は防御ですよ! 私だってギルド職員の端くれ! 攻撃と防御を知らないほど世間知らずではありません!」
みーちゃんは自信を持って答えた。
Oh... みーちゃん……
そなたはなんて清らかなんだ。
「あらあら? ……これは引きずり込みがいがありそうですね」
「ちょちょちょ。ちょっとまって、一条さん」
沼に引きずり込む『何か』の光が一条さんの瞳に宿ったのを見て、ワタシは思わず手を引っ張ってみーちゃんから少し遠ざけ小声で話す。
「どうかしましたか、レインさん?」
「いや、なんていうか…… みーちゃんはまだオタクになって日が浅いんだ。腐らせてしまうのはなんていうか…… 納豆は大豆には戻らないし…… みーちゃんにとって赤ちゃんはコウノトリが運んでくるっていうか……」
「でも遅かれ早かれ、インターネットに触れていたら知ることになるのでは? 別に私も無理強いはしません。ただ視野を広げてあげるだけです」
「それはそうかもしれないけど……」
「それにアレです。ふとしたきっかけで過激なものを見てしまうより、先達である私が優しくBLについてお教えするほうが結果的に三成さんにとっても良いと思います」
「そう、なのか……?」
「そうですそうです。そうに決まっています。
BLとは何たるかを知って、その先の選択は三成さんに委ねるだけです」
うーん… うーん…
「二人とも、何をコソコソと話をしているのですかー?」
「いえいえ、なんでもありません。
それで三成さん、BLというのはですね、男と男の織りなす一種の芸術作品と呼べるものなんですが――」
*****
「――と、こんな感じです。ちなみに私のおすすめはこれです。『ヴィランの美学』のBL同人。野獣のやおい先生が描かれている初心者にも優しい作品です。
どうします? ご興味あるみたいですし、買っていかれますか?」
「い、頂いていきます……」
顔を真赤にして一条さんからおすすめされた作品を手にとってレジに向かっていくみーちゃん。頭からは完全に湯気が立ち上っている。
「レインさんにもいくつかオススメのBL作品ご紹介しましょうか? ショタ同士とかどうです?」
「いや、ワタシはそういったのは大丈夫だ」
「そうですか…… 残念です」
ああ――、こうして人は腐っていくのだと。
ワタシにはどうすることもできないこともあるのだと、みーちゃんの後ろ姿を見ながらしみじみと実感した。
「あ、そうでした。
レインさん、唐突ですけど特殊機動隊で働きませんか?」
「えすっごい唐突。何? スカウト?」
「そうですね。まだ正式ではありませんが、うちの隊長がレインさんをぜひスカウトしたいと言っていましたので。完全に忘れていましたが、今唐突にその話を思い出したので聞いてみました」
「うーん、拘束時間多そうだし遠慮しとくかな。オタ活に割く時間が減るのは困るし、ワタシには冒険者がなにかと合ってるんだよ。平日にお昼まで寝てても怒られないの最高」
「……そうですか。残念ですが仕方ないですね」
「意外とあっさり引いたね」
「心変わりしたらいつでも特機隊に来てほしいですが、人にはそれぞれその人に合った働き方があります。無理強いは良くないです。
あ、でも隊長からたぶんスカウトの話はいくと思うので、断る前に話だけは聞いてあげてくださいね。隊長が泣いちゃうといけないので」
「なにそれ草生える。神宮寺さんの
「ふふっ。怖そうに見えて意外と繊細ですからね、隊長」
私はBL読んだこと一回もないですが、某Y.AOIネキや、Vの詩子さんとか、そういう人たちから知識吸収をしています(汚染)
***
一条さんはきっと刺激の少ないものから与えてじっくり育てたいタイプのオタク。
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第2章 未確認モンスター
第25話 未確認モンスター
時間があるときにちまちま更新していきます。
「マスター、働きましょう」
「りょうか~い。明日から頑張るね~」
「だめです。可及的速やかに、です」
ベッドで布団にくるまりながら携帯型ゲーム機で遊んでいると、ナヴィが顔の前に割り込んできた。
「ナヴィ、画面が見えない。
ご主人様のゲームライフを邪魔するなんてどういう了見なんだまったく。国際孵化厳選でワタシ忙しいんだけど。今日こそ国際孵化を完遂するって決めてるんだワタシは」
「色違いを狙うよりもっと大事なことがあります。
いいですかマスター? 我が家の家計は火の車どころか大炎上中です。プレミアムフィギュアの購入、Ms.美卯やMs.一条との度重なる買い物による支出、ゲームやアニメグッズの通販などなど。
お金を使うことは悪いことではありませんが、支出をするのであればそれ相応の収入が必要です。いい加減働いてお金を稼いでください」
「明日から本気出すし~、何なら昼ごはん抜くくらいなら大丈夫だから~」
「ダ・メ・で・す。人間は一日3食が基本だと何度も言っているでしょう。
マスターは今人間の身体になってしまっているのですから、健全な食生活は必須です」
ナヴィがジト目になってまくしたてる。
ナヴィ=おかん説、あると思います。
こうなるとナヴィは譲らないんだよな……
まあたしかに、実際のところお財布の中身が寂しいのは本当だ。この前ダンジョンに行って稼いだお金は軒並みオタクライフの必要経費に消えていった。ナヴィの言う通りそろそろお金を稼がないといけない。
まあでも明日からで……
「ほらマスター、いつまでも布団でミノムシにならないで起きてください」
ナヴィはスッと移動すると、無慈悲に布団をめくった。
起きたばかりで体温のまだ上がりきっていないワタシの身体に、朝の少し冷えた空気が容赦なく襲いかかる!▼
「ぎゃあああ! お前、何してくれてん!?
朝の肌寒い時間帯に布団にくるまりながらダラダラとゲームをして過ごす時間がどれほど至福の時であるかお前は知らんのか??? お?お? なかなか起きてこない息子を強制的に起こすおかんかよお前!?!?」
「おはようございますマスター。今日も元気がよろしいようで何よりです。
しっかりと労働に励むことができそうですね」
こいつ…!
「はぁ、分かったよ…… 働きます働きます」
ワタシは肩をがっくりと落として渋々了承する。
まあいいや…… この前みたいにテンポよく稼げるかは分からないが、良さそうなクエストがあったらそれも受けてしばらくは働かなくてもいいくらいに稼いでやる。
*****
「で、ナヴィ。あれは何?」
「私にも分かりかねます。おかしいですね…… 現在日本で確認されているモンスターはすべて私の記憶領域にインプットされているはずですが、あのモンスターの姿形に合致するものはありません」
「まあそもそも街中でモンスターが暴れてるのがおかしいけどね」
ワタシとナヴィはおかしな光景を遠目から冷静に見ていた。
時刻は朝の8時過ぎ。
通勤途中のサラリーマンやOL、あるいは通学途中の学生が忙しそうに歩いている中、突如として悲鳴が上がった。どこから現れたのか、人間よりも一回りも二回りも大きいモンスターが突然現れたのだ。
体長は3メートルくらいだろうか。
人型の身体に狼のような獣の顔、爪は鋭く伸び、身体は毛に覆われている。一見すると童話や神話に出てくる狼男がただ単に大きくなっただけのように見えるが、顎からはオークのように大きな牙が伸びているし、尻尾は蛇になっている。おまけに足は鶏のような鳥類の足だ。
「うーん、たしかに初めて見るな…… モンスターって結構変な見た目してるやつ多いけど、その中でも群を抜いて変だね。なんていうかチグハグだ」
「もしかすると、最近
その時のモンスターとはまったく姿が違いますが、関連がありそうですね」
「そんなモンスターが話題になってたのか…… 全然知らなかった」
「最初の未確認モンスターの報告例がつい1週間前です。最近マスターはゲームにかかりっきりでしたからご存知ないのでしょう。
特殊機動隊はこの対応に追われているらしいですね」
「そういえば
「失礼、マスター。『いっちー』とは誰のことを指しているのでしょうか」
「ん? 一条さんのこと。
ショップでばったり会って以来仲良くなったし、いっちーからも『年上だからって気を使わないでください』って言われて、んじゃいっちーって呼ぶねってなった」
「承知しました。ではそのように記憶しておきます」
少し話がそれてしまったが、暴れているあのモンスターは話題の未確認モンスターと関連がありそうだ。
そこかしこから聞こえてくる悲鳴。逃げ惑う人々。
今のところ怪我人は出ていないようだが、建物や街路樹を破壊しながら、モンスターは逃げ惑う人々をニタニタとしながら追いかけている。
どうやらただ単に無秩序に暴れているわけではなく、弱い生き物をいじめるのがとても楽しいらしい。自分の力に酔っていると言ってもいいだろう。
「討伐しますか? 地上で暴れる未知のモンスターからどのようなアイテムがドロップするのかわかりませんが、多少は家計にもプラスになるでしょう」
「うーん…そうだなぁ。まあ準備運動がてら討伐しようかなぁ…… ギルドに行くこの道を壊されたらワタシが困るしなぁ。
……あ。
なんかこっち向かってきた」
しょうがないから倒してあげようかと思っていると、モンスターの方からこちらに来た。
なんだなんだ。
怯えもしないし逃げもしないワタシにイラッときちゃったのかな?
「というかさナヴィ。ワタシ今良いこと思いついちゃったんだけど、このモンスターってたぶん情報があまり出回ってないんだよね?」
「そうですね。今まで未確認モンスターは5体が確認されていますが、詳細なことはあまり分かっていないようです。加えてこのモンスターは今まで確認された5体のいずれとも合致しません」
「つまりさ、スマホで思う存分こいつの動画を撮ったら、その動画って特殊機動隊とかに高く売れると思わない? あ、週刊誌とかに売っても良いかも」
「可能性は否定しません」
「よし」
ニィッと笑い、ワタシはポケットからスマホを取り出す。
普段スマホゲームしかやらないが、高いだけあってカメラも高性能の自慢のスマホだ。かがりんさんみたいに自動追尾型魔導カメラなんて
「ほらほら鬼さん、こちらまで!」
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第26話 今日のわんこ
「ほらほら! 鬼さんこちら!」
スマホのカメラアプリを起動し動画撮影を始め、レインは未確認モンスターに手招きをする。
未確認モンスターはレインの挑発に乗ったのか、一度大きな雄叫びを上げると、赤いマントに興奮する闘牛のように四足歩行で突進してきた。
レインはその様子をカメラアプリで
「どうやらこのモンスターは通常二足歩行で行動するようですが、今走ってるみたいに、走るときは手を前足のように使い四足歩行になるみたいですね! 両腕が少し長いのも四足歩行時に素早く行動できるように、ということなのでしょう!」
この動画の売却先が警察になるのかギルドになるのか、あるいは週刊誌とかメディア系になるのか分からないが、丁寧な口調で音声を載せる。
全然
表情のわかりにくいモンスターだが、ひしひしとその苛立ちが伝わってくる。
未確認モンスターは速度を落とさぬままレインの元まで来ると、その大きな右手に怒りを乗せ力強く振った。
どんなものでも引き裂きそうな大きな爪による攻撃。
常人なら当たればひとたまりもないだろう。
――まあ、ワタシが当たるはずもないけどね。
「よっ」
レインは右手でスマホを構えたまま、寸前のところで
まさか避けられると思わなかったのだろう。
未確認モンスターは目を大きく見開いた。
しかし、その動揺は一瞬。
未確認モンスターはすぐさま次の攻撃へ移った。
しゃがんで攻撃を避けたレインを、今度は踏み潰そうと鳥類のような足を上げ、レインを無慈悲に踏み抜く。
ニヤリとした表情で、モンスターは勝利を確信したようだ。
今度は避けられなかったぞ、と。
しかし未確認モンスターはすぐに怪訝な表情を浮かべた。
踏み潰したのなら辺りに踏み潰した人間の血が散乱していないとおかしいし、断末魔の一つも聞こえないのもどうなっているのか。
次に目に飛び込んできた光景を見て、モンスターは動揺した。
「なるほどなるほど。
近くで見れば見るほど、こいつの足は鶏みたいにウロコだってますね~。踏みつけてきたときの威力もなかなかのものでした。耐久力に自信のある方以外は攻撃はあまり受けないほうが良いかもしれませんね~」
レインは何でもないようにモンスターの足を左手で受け止めながら、右手に構えているスマホを近づけて解説する。
――うーん、それにしても……
スマホ越しに見る未確認モンスターの足の表面を見て、改めてこの未確認モンスターはチグハグだとレインは感じた。
このモンスターの上半身は一言で言えば完全に狼男だ。
もふもふな毛で覆われているし、顔は完全に狼のそれ。しかし蛇の尻尾があり、今スマホで撮っているように足は鳥類のようだ。
この奇妙な感覚を言語化すれば、別種のモンスターを切って縫い付けたようなチグハグさとでも言えばいいだろうか。
モンスターの足を左手で掴みながら撮っていると、今度は尻尾の蛇が大きく口を開けてレインに攻撃してきた。
「おっと」
掴んでいたモンスターの足を手放し、ひとまずモンスターから距離を置く。
「尻尾の蛇はもしかしたらそれ単体で意思を持っているのかもしれません。狼男の方の攻撃とは別の意思による攻撃に感じました!
尻尾の蛇についている目も眼球が動いてこちらを視認しているようでしたし、狼男の方とはそれぞれ独立しているようです!」
未確認モンスターはレインが離れたのを確認すると、その胸部が膨らむくらい、息を大きく吸い込みはじめた。
魔力の流れが変わったのも感じる。
何か特殊な技を撃ってくるようだ。
「おやおや、何か大技を撃ってくるようです!
……ナヴィ! スマホ壊れるといけないから障壁張って!」
「承知しましたマスター」
おそらくブレス攻撃的なものだろう。
そのまま攻撃を受けてもレインは大丈夫だが、スマホの耐久性で耐えられるかが不安だったので少し離れて控えているナヴィに障壁を張ってもらう。
向こうが透けて見えるくらい薄い青色をした障壁。
この障壁があれば大抵の攻撃は通らないから安心だ。
障壁ギリギリにスマホを構えて、モンスターの攻撃を待つ。
そして、モンスターは息を吸い終わり、一瞬の溜めの後、大きく口を開いて炎を吐き出してきた。
「どうやら炎属性のブレス攻撃だったようです!
割と威力が強そうですが、予備動作が分かりやすく
自分の声を動画に載せつつある程度撮ったところで、レインは空いている左手を横に一振りして未確認モンスターが吐き出している炎を消し去る。
――これってどれくらい撮れば良いかなぁ?
元気に動き回る様子は遠くからも撮ったし、近くでも撮った。鳥類のような足のウロコが鮮明に映るくらいには接写もしたし、特殊攻撃っぽい炎のブレスの撮影も分かりやすく撮影した。
――うーん… 口の中とか撮ってみる…?
外側からはもう十分に撮った気がするので、あとは体内とかだろうか。
しかし流石に自分の大切なスマホを食べさせるわけにはいかないし、一寸法師よろしく小さくなって体内へ侵入するのもできない。
この未確認モンスターを解体する様を撮影してもいいが、解体の途中でモンスターのHPが0になって粒子になって消えそうだ。ここはモンスターの口を開けて歯並びを撮影するくらいにして終わろう。
「ナヴィ~! あいつの口の中撮影して終わるから、ちょっと拘束しといて~!」
「かしこまりました」
レインの呼びかけに応じてナヴィが術式を展開する。
ナヴィの周りの何もない空間から
手足を縛られたモンスターはなんとか
さらに追加の触手がまるで手のように動き、モンスターの上顎と下顎を掴み、強引に口を開けさせる。
「どうぞ、マスター」
「ん。ありがと」
レインは歩いてモンスターの元まで行くと、大きく口が開かれたモンスターの撮影を始める。
「おー、やっぱり狼っぽい顔をしているだけあって、噛み付いた獲物を離さない鋭い牙が多くありますね~。ただやはり動物の狼と違うのは、オークのように下顎から伸びている大きな牙でしょうか。
うーん…… さっきの炎はどうやってここから出していたんでしょうかね~? たぶん火炎袋的な器官があって、そこに魔力を通して生成してるんだと思うんですけど、ちょっと良くわかりませんね~。
……よし、これくらいでいいかな」
ちょうどレインが撮影を開始してから5分程度が経った。
これくらい撮れば十分だろうと思い、録画を止める。
しっかりとスマホのライブラリに今撮った動画があるのを確認し、一応念の為にクラウドストレージにもアップロードしておく。
――動画のバックアップもちゃんと取るとか、ワタシってばまじ魔王。
ふふんと得意げに笑い、スマホをロックしてポケットにしまう。
「じゃあお終いにしよっか」
レインはモンスターの方へ向き直ると、何もない空間にポータルを開き、そこらへんの武器屋で普通に売っている長剣を取り出す。
そしてそれを目にも留まらぬ速さで振るう。
ボトリ、と鈍い音とともにモンスターの首が地面に落ち、辺りに静けさが戻った。
しばらくするとモンスターだったものは光の粒子になって消え、それを確認したナヴィは術式を解き、拘束していた触手も消えた。
「おつかれナヴィ」
「お疲れさまです、マスター。
それで、動画は上手く撮れましたか?」
「うん。バッチグーだよ」
レインはナヴィに向かってサムズアップをする。
「それは良かったです」
「でさ、ドロップしたアイテムがこれなんだけど、ナヴィこれ何か分かる?」
レインはモンスターからドロップしたアイテムをナヴィに見せる。
「私の記憶領域にこのアイテムの情報はありません。……初めて見ました」
「ナヴィでも知らないってことは本当に珍しいものなんだろうな。うーん…… 珍しすぎてギルドで買い取ってもらえないと困るな~」
「きっと大丈夫です。珍しいものなら高く買い取ってもらえる可能性もありますよ。
さぁ、思いがけない寄り道もしてしまいましたし、そろそろ冒険者ギルドに行きましょう」
「働きたくないでござる~」
――というかワンチャン、高額買取で今日もう働かなくていいのでは?
脳裏にひらめいた綺羅びやかな希望に、レインは足取りを軽くしてギルドへの歩みを進めた。
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第27話 お宝鑑定団(1人)
ワタシ達は特殊機動隊がやってくる前にそそくさと現場を離れ、ギルドまでやってきていた。
言っておくと、別に後ろめたいことは全然ない。
ないったら、ない。
なんなら『街を破壊する未確認モンスターの討伐』という、ヒーローもかくやというような大活躍をしたわけである。素晴らしい。褒めて。
まあ、ただなんていうか……
特殊機動隊の事情聴取とか時間かかりそうだし、ドロップしたこの丸い不思議な宝石も没収されそうっていうか……
まあ実際のところは別に没収とか理不尽なことはされないと思うけど、ワタシは元魔王。つまり人間から見たら悪だったわけだ。警察とかいう正義の権化に対し、本能的に避けてしまったのかもしれんな! あっはっは! あと、早く家に帰って今やってるゲームのランクマッチもやりたいし。
まま、そんなことはさておき。
これから始まりますは、楽しい楽しい、お宝鑑定タイムでございまする。
ギルドの扉をくぐるや否や、ワタシはアイテムショップのカウンターへめがけて駆けた!
「
みーちゃんが居る受付窓口とは少し離れた一角。
そこにアイテムショップがある。
アイテムショップでは文字通りアイテムが売られており、これからダンジョンに行く冒険者たちの物資補給の場所となっている。
そしてここではアイテムを売ってくれるだけでなく、ダンジョンの中で手に入れたアイテムを適正価格で買ってくれるのだ。
そんなアイテムショップのカウンターで頬杖を付きながらアイテム図鑑を読んでいる女性が一人。
彼女が藤宮の姐御こと、ここの店長さんだ。
赤みがかった長い茶髪を頭の後ろで一つにまとめ、目は三白眼。
彼女を知らない人が見れば、彼女のことをヤンキーかと思うかもしれない。服装もなんとなくそれっぽいし、言葉遣いも荒いしね。
ちなみに、このギルドでお世話になってる人は大抵彼女のことを『姐御』だったり『姐さん』と呼ぶ。もちろん慕ってのことだ。ワタシも彼女のことは尊敬と畏敬の念を込めて姐さんと呼ばせてもらっている。
姐さんの審美眼は本物だ。
それは彼女の持つ特異な
一応彼女もギルドの職員だが、彼女の居るこのアイテムショップは、クエストカウンターや総合カウンターとは少し雰囲気が違う。
クエストカウンターとかは市役所の受付みたいな感じだが、この場所はアイテムやモンスターからドロップした素材で溢れかえり、ここだけは異世界風味が強い。
だからだろうか。
ここに居ると、なんだか妙な安心感を覚える。
「あァ? んだよ、騒がしいと思ったらレインじゃねーか。こんな朝っぱらから珍しい。
ナヴィも一緒か。朝からどうしたんだ?」
「ふっふーん♪ 姐さんがそんな透かした顔をしていられるのも今のうちだよ」
ワタシは溢れ出る自信をそのままに、ポータルを開いて、未確認モンスターからドロップしたあの紫色の宝石を姐さんに見せる。
もちろん、とびっきりのドヤ顔で。
「じゃーん!」
「……! ――ほぅ」
姐さんは一瞬目を見開いた後、まるで好敵手を見つけた歴戦の戦士のような目つきで小さく感嘆した。
「見てもいいか?」
「もちろん。姐さんならこいつの価値を見抜いてくれると思うからね」
ひょいと姐さんに渡す。
姐さんは美術館の学芸員がつけるような手袋をはめ、ワタシから受け取った宝石をいろいろな角度から見る。
カウンターに備え付けられたライトで宝石を照らしながら見たり、頭の上に上げていたスチームパンクなルーペを通して目を凝らしてみたり。
そうしてひとしきり見た後、姐さんの眼の周りに魔法的な流れを感じた。
瞬間、姐さんの眼は大海を思わせる深い蒼色から、財宝のような金色へと変化する。彼女のスキル、『鑑定眼』だ。
姐さんは30秒ほど『鑑定眼』で宝石を見ると、満足したように、小さくふぅと息を漏らした。
「どう、姐さん?」
「そうだな――」
姐さんは顎に手を当てて少し考えると、ニカッと口を開いた。
「一言で言えば…… 分かんねぇ!」
これ以上ないほど満面の笑みで、かつ自信満々に言うので思わずズコッと
姐さんの鑑定眼は創作物でよくあるような鑑定とは少し違う。
創作物でよくある鑑定はその場で人物やアイテムが何か分かるものが多いと思うが、基本的にそういった鑑定は現実には存在しない。
姐さんの鑑定眼は、構成する物質が何か、魔力をどれくらいまとっているか、質量はいくらか、というくらいしか分からない。まあ、それが分かるのはとても凄いのだが。
うーむ…… 姐さんでも分からないとなると、いよいよこのアイテムは新発見の
新発見という響きはいいが、値がちゃんとつくのか心配だ。
見たこともないアイテム→値がつけられません→買取不可 のコンボになったら最悪だ。ワタシはこの後もお仕事をしないといけなくなる。
「えぇ~…… なんでそんな自信満々に分からん宣言してるの姐さん……」
「まあ聞けレイン。
これが何かは分からんが、見たことはある」
がっくしと
「ん? どゆこと?」
「最近、未確認モンスターが街中に現れるっつー事件が起きてるのは知ってるだろ? そいつを討伐したときにドロップするアイテムとこいつは瓜二つだ。
つい2日前に水々市に現れた未確認モンスターは特殊機動隊に討伐されたんだが、そんときあたしも呼ばれたんだよ。見たことがないドロップ品があるから鑑定してほしいってな。そのときに見たんだ」
「はぇ~、すっごい」
「で、だ。率直に聞くが、レイン。コイツをどこで手に入れた?」
姐さんは座ったままこちらを心底楽しそうにまっすぐ見てくる。
「つい15分くらい前に街中でモンスターが暴れててそいつを倒したらドロップしたよ」
「そうか。ふふ…… クククク……ッ」
ワタシがそう答えると、姐さんは肩を震わせながら笑い出した。
「クク…… それで、特機隊はお前が倒した後に来たってわけか?」
「うーん……たぶんそうじゃない?
事情聴取されるのとか時間がかかりそうだったから、特機隊を待たずにスタコラサッサとここに来たから」
「ププッ……アハハハッ……! そうかそうか!
ったく、レインはやっぱおもしれーな! クククッ…… ナヴィもコイツといて飽きないだろ?」
「そうですね…… マスターと一緒にいるととても楽しくて刺激的です」
「ククッ……」
ひとしきり笑いきると、笑いすぎて目に浮かんだ涙を拭って姐さんは言葉を続けた。
「あー、おっかしー。
……で、倒したやつはどんなモンスターだったんだ?」
「んー、ぱっと見は狼男みたいだったんだけど、蛇みたいな尻尾が付いてたし、足がなんか鶏みたいな感じだった」
「ほぉー…… そうすると、2日前のモンスターとは全然違うわけか。
特機隊に見せてもらった写真だとあれはライオンと象とキリンを足して3で割った感じだったし…… しかし、共通して同じような宝石がドロップするわけか。興味深いな。他の共通項としては街中に現れる点と複数の種の特徴を備えていることくらいか…… そもそも未確認モンスターが一番最初に確認された隣の市のときもそうだがモンスターが自然発生的に街中に現れること自体――」
姐さんはぶつぶつと考えをつぶやきながら顎に手を当てて考えはじめる。
控えめに言って凄い楽しそう。
姐さんはヤンキーみたいな見た目をしているのに……なんていうと失礼だが、すごい知識に貪欲で、こういう『未知』にひときわ心を躍らせるらしい。たしか冒険者学校も主席で卒業しているとか言ってた気がするし、基本的にハイスペックなんだよね、この人。見た目とのギャップが凄い。
……と、それはさておき、ワタシはまだ重要なことを姐さんに聞いていない。
思考に
「姐さん、姐さん。
買取不可はまじで勘弁してほしい。
「ん……? ああ、すまねえ。そうだな、コイツは協定が適用されるだろうし…… ウチで買い取れる額は基本的にこうなるな」
そういって姐さんは電卓を叩くと、ワタシに見せてくれた。
「えっと、一、十、百、千、万、十万…… ?! マジ?! 姐さんマジ?! これ10万の
あまりにも嬉しすぎてぴょんぴょんと跳ねて姐さんに聞く。
こんな石っころがこんな大金になれば、今日はもう働かなくて済むぞ! 早起きは三文の得どころの話じゃない!
「ああ。まじのマジだ。
本当を言えばこんな不思議なアイテム、金積んででもあたしが欲しいくらいなんだが、たぶんギルドと特殊機動隊との間の協定が適用されるからな。一律適用ってわけでもねぇが、事件解決の重要なアイテムになりそうなやつは、このくらいの値段で買い取れることになってる。まあ、あたしの裁量もある程度入るけどな。
ここで買い取って特殊機動隊と後でやり取りすることになるわけだな。
……で、どうする? 売るか?」
「売る売る!」
今日はもう働かなくてOKだ!
これで勝つる! キタコレ!
「マスター、マスター」
家に帰ってからのぐーたら
「ん?」
「動画はよろしかったのですか? せっかく撮影されたのですからMs.藤宮に売れるかどうか聞いてみてはいかがでしょう?」
「あ」
すっかり忘れていた。
「姐さん姐さん。ワタシ、こんな動画撮ったんだけど、これのデータとか買い取ってもらえそう? ワタシの実況付きという付加価値もあるけど」
「見せてみろ」
ポケットから取り出したスマホのライブラリを開いて姐さんに見せる。
5分にも満たない動画を見終えると、姐さんはニヤリと口を開いた。
「これも同じ額でいけるぜ? どうする?」
「売る売るー♪」
「良かったですね、マスター」
「ん!」
今日のワタシまじ豪運じゃね?
夕飯は奮発して、近くのスーパーでお寿司でも買おうかな!
【修正】
最初は買取額を10万円にしてたんですが、ちょっと安すぎたので、
明確な数字は出さずに10万の位の数(10万円~99万円)にしました。
***
【定期】
もしこの作品を気に入っていただけたらお気に入り登録や評価、感想などいただけるととっても励みになります。
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第28話 かがりんとお食事回 1
「すごく…… 大きいです」
「何を言っているのですかマスター。魔王城に比べればだいぶ小さいでしょうに」
「まあそうなんだけど世間一般からすればかなり大きいぞ、ここ」
ワタシ達は今、Yootuberかがりんの家に来ている。
いや、正確にはかがりんの所有する数ある別荘のうち、水々市にある別荘に来ている。つまりここは本邸ではない。今は水々市に活動拠点を置いているため一応ここが寝泊まりする家らしいんだが……
本邸じゃないのにこの大きさはなかなかやるな。
まるでここからは世界が違うと言わんばかりに敷地をぐるっと一周囲む塀。奥に見える西洋風の建物。大きな鉄製の門。
だいぶ庶民生活に馴染んできたワタシだが、こういった雰囲気は懐かしく感じる。
ここに来たのは、もちろんかがりんに呼ばれたからだ。
勝手に来たわけではない。
以前かがりんとダンジョンの中で会ってコボルトに襲われてた女の子を助けたりしたわけだが、そのときに約束した「食事をおごってもらえる」という話が今日実現するわけだ。先日の街中に現れた未確認モンスターのおかげでだいぶ
ただで美味しい料理、いいよね。
「むへへ… タダで食べられるなんて、情けは人の為ならずとはこのことだな」
「マスター、ちゃんとテーブルマナーとか覚えてますか?
「ふっふっふ。案ずるな、ナヴィ。
7~8割方覚えているぞ! あれだろ、色々とお
「……」
「……そんな目で見るな。
そもそも今日は友達の家に遊びに来ただけなんだ。かがりんからも“
「それはそうですが…… ギルドの酒場のようなノリで食べるのはお控えくださいね」
ナヴィは少し心配そうな目でこちらを見てくる。
大丈夫だぜ、ナヴィ。
何も心配することはない。
1DKのアパートで暇なときはニヨニヨ動画で時間を潰したり、アニメや漫画を観たり読んだり。
あるいは布団の中でお菓子を食べたり、肘を付きながらご飯を食べるという、ほんのちょっぴりだけダラけた生活を謳歌しているがワタシだって元魔王。上品に、且つ大胆に振る舞うなんて造作も無いことだ。……たぶん。
そういえばあんまり考えてなかったけど、かがりんって何者なんだろうか。
なんとなくお嬢様っぽい口調と見た目だったし、LIMEでやり取りしてるときも節々にお嬢様感出てるけど、こんな大豪邸に住んでるってことはちょっとしたお嬢様じゃなくて、まじで大企業の社長令嬢とかでしょ?
なんで冒険者なんてやってんの?
……LIMEではダンジョンとか冒険者のこと話すのが主だけど、今日はそこらへんも聞いてみるか。
「まあいいか。そろそろ行くぞナヴィ」
「はい」
大きな鉄の門のすぐ横にブザーがあるのでそのボタンを押す。
少しすると、透き通るような女性の声で「レイン様ですね。少々お待ち下さい、今お迎えに上がります」と。
少し待っているとすぐに女性がやってきて門を開けてくれた。
「レイン様とナヴィ様でございますね。心よりお待ちしておりました」
迎えに来てくれた女性が
秋葉原なんかにいそうなコスプレメイドさんとは全然違う、クラシカルなロングスカートのメイド服に身を包み洗練された動きでこちらを迎える。
ワタシは生地とか服とか、そういうのに詳しいわけではなし、興味もさしてないが、頭に乗せている
魔王やっているときも色々と身の回りのお世話とかしてくれる使用人はいたけど、地球のメイドみたいな服装じゃなかったから、なんていうか新鮮だ。
あっちの世界では人型魔人だけじゃなくて異型魔人も多くてそもそも統一的な服装っていうのは少なかったからなぁ。あぁでも、この人みたいにメイドは皆ホワイトブリムを頭に乗っけてたりしてたか。
ワタシの付き人をしてくれてた
勇者が来てるから逃げろって何度言っても離れてくれなかったから、最後の最後は力づくで無理やり遠くに飛ばしたけど、殺されず生きててほしいものだ。
「おや? どうかなされましたか?」
「あー、いや。なんとなく昔の知人に似てて思い出してた」
「ふふ。そうでございましたか」
メイドさんは明るく朗らかな笑顔をする。
何だその太陽みたいな笑顔は…… かわいいかよ。
「ささ。お約束の時間よりも幾分か早いですが、すでにお嬢様はテラスでお待ちです。ご案内いたしますね。
あ、自己紹介がまだでしたね。私は
珊瑚さんの後ろに付いていき、いざかがりん邸へ入っていく。
鉄の門を通り、まず目に入るのは広い敷地を使ったきれいな庭園。噴水とかも当たり前のようにあるし、邸宅までの道を手入れのの行き届いた木々や花々が彩ってくれている。
そしてその奥には中世風とでも言えば良いのだろうか。蒼色を基調としたレンガ造りの大豪邸がある。
水々市みたいな割と都会にこんな場所があったなんて全然知らなかった。
――こんな大豪邸で、今からワタシが食することになる料理…… 久々の高級料理に胸が高鳴るぜ。
そんなふうに想像したのがいけなかったのだろう。
ワタシの腹の虫が盛大に『グゥ~…』と大きな音を出して鳴った。
「ぅ…… 恥ずかし……」
「空腹は最高の調味料といいますが、やはり軽くでいいので朝食は摂るべきでしたね」
「ふふ。美味しいご飯までもう少しでございますよ。
きっと、ほっぺたが落ちてしまうくらい美味しいと思います。お嬢様がご友人をお招きするなんて
珊瑚さんがワタシとナヴィのやり取りに小さくクスリと微笑む。
「……ん? 友達来るのがとても珍しいって、もしかしてかがりんってあんまり友達いなかったりするの? コミュ
「マスター。デリカシーがないのですか」
「あ、ごめんなさい」
「いえ、大丈夫ですよ。
……そうですね。実際、お嬢様にご友人と呼べる存在は少ないかもしれません。
あの方は、今も昔も周囲から
……だからでしょう。“対等”で“気の許せる”方は限られてしまいます」
珊瑚さんは歩を進めながら少し物憂げな横顔をのぞかせる。
まあそりゃ、お金持ちのお嬢様って知っていればそう見てしまうし、庶民からすれば一定の距離を置いてしまうだろう。有名な配信者であれば芸能人と同じだ。そういう色眼鏡を通して見てしまうのはしょうがない。
ワタシも魔王なんていう大層な仕事をやってたから、対等な存在なんて、それこそ家族かナヴィくらいだったかな。臣下もみな良いやつらだったが、どうしても上司と部下の関係だった。従者のアラクネも、仲はとても良かったが友達かと言われれば少し違うかもしれない。
……あれ? 今思うと魔王のワタシも友達少なくね?
「レイン様と初めて会われた日、お嬢様はとても楽しそうに、そして嬉しそうに私共にレイン様のことを話されました。
『レインさんったら、わたくしのこと全然知りませんの!』『レインさんと協力してサンダーコボルトの魔の手から女の子を助けたのよ!』なんて楽しそうにおっしゃっていましたわ」
その時の光景があまりに微笑ましかったのか、まるで我が子を思う母のように珊瑚さんは小さく笑う。
少しして、珊瑚さんは歩みを止めてこちらにくるりと向いた。
「レイン様。改めて、お嬢様のことよろしくお願いいたしますね」
「え、あ、うん。任せてください…?」
「ふふっ。さあ、お嬢様は2階のテラスです。
美味しい料理までもうすぐですよ」
庭園を抜け、珊瑚さんがかがりん邸の立派な扉を開けてくれる。
さすが、家の顔ともなるべき玄関なだけあって立派な扉だ。
【追記・修正】
レインが魔王さまっぽくないこと言っていたので少し修正して上げ直しました。
*****
アラクネみたいな半人半獣みたいな魔物すこすこ
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第29話 かがりんとお食事回 2
「ぇあ~、食べた食べた!」
「良い食べっぷりでしたわ」
中世風の大豪邸の2階のテラス。
ぽかぽかとした気持ちのいい陽気に照らされながら昼食を楽しんだ。
出てきた料理も素晴らしいものばかり。
前菜、スープ、そしてメインのお肉――
すべてが一級品だった。
特にね、お肉!お肉!
さすが松阪牛。
ギルドの酒場の大衆料理もいいけれど、やはりワタシにはこういう高級料理が似合うな。うんうん。
料理もさることながら、それを楽しむこの空間も素晴らしい。
ワタシが住んでいる1DKのアパートのベランダとはわけが違う。心地の良いそよ風がそっと肌をなで、テラスから見るかがりん邸のきれいな庭園が心を癒やしてくれる。植物が少ない岩石地帯にあった魔王城とは少し趣が違って、これまたいいものだ。
そして今は珊瑚さんが持ってきてくれた食後のデザートと飲み物でまったりしている。
「デザートも美味しい」
食後のデザートは杏仁豆腐。
杏仁豆腐なんてコンビニで時々買って食べるくらいだったが、高級品はやはり違う。旨味も濃厚だし、舌触りも絹みたいだ。
うま~!
「うふふ。レインさんったら、本当に美味しそうに食べますのね。
気に入ってくださって何よりですわ」
「そりゃあ、本当に美味しいからね。最高」
「自分が大好きなものを友人も好いてくれる、というのはこんなにも嬉しいのですわね」
杏仁豆腐を丁寧にスプーンですくって一口ひとくち大切に食べるワタシの様子が微笑ましかったのか、かがりんはこちらを見て優しい笑顔になる。
「かがりん、杏仁豆腐が大好物なの?」
「ええ、いろいろなデザートを食べてきましたが、杏仁豆腐に勝るものはありませんわ!」
「確かに美味しいもんね。うま~!」
かがりんも自分の杏仁豆腐を上品にすくってぱくりと食べ、幸せな顔をした。
「そういえばレインさんにお聞きしたかったのですが…… 最近、水々市に現れた未確認モンスターを討伐したり、なんてことなさっていますか?」
「ん? つい3日前に倒したけど……? あれ、かがりんに話したっけ?」
「やはりそうでしたか……
実は注意喚起と情報収集のために、ギルドと特殊機動隊からある動画が公開されていますの。わたくしも見たのですが、その動画に載っている声の喋り方や声質がどうも聞き覚えのあるものでしたから」
「あー、そういうことか」
ギルドの藤宮の姐御に売った動画があるからそれのことだろう。
特殊機動隊からも公開されているということは姐さんが言っていたとおり、ギルドと特殊機動隊の間でやり取りがあって、売った動画が特殊機動隊にも渡ったということかな。
ていうか動きが割と素早い。
未確認モンスターを倒して動画を売ったのが3日前で、既にかがりんが知っているってことは、売ってからすぐに公開に踏み切ったんだろう。
まああの変なモンスターは普通の人が出遭ったら結構やばいし、注意喚起の意味で公開するのは手としては割とありか。未確認モンスターはたぶん個体ごとに姿が違うだろうけど、未確認モンスターがどれくらい恐ろしいかわかれば興味本位で戦いに行く人も減るだろうし、多少は効果ある……かな?
ワタシもあの後なんとなく特殊機動隊のホームページにアクセスしてみたら「現在確認されている街中に出現したモンスター」みたいなページがあって、写真とかが公開されてて情報求む!みたいになってた。
動画の資料はその時になかった気がするので、ワタシの動画はそこそこ有用認定されたのだろう。
「まったく。レインさんには驚かされてばかりですわ。
レインさんの実力でしたら問題ないとは思いますけど、友人が危険なことに巻き込まれているのは肝が冷えますわ…… 確か先日の銀行強盗の一件もレインさんでしたし」
「まあワタシなら大丈夫だよ。そもそもワタシが死ぬようなことが起きるなら、人類なんてとっくに滅んでるからへーきへーき。
ていうかさー、LIMEでもちょっと愚痴った気がするんだけど、かがりんと女の子助けたときとか銀行強盗のあととか、結構いろんなネット記事が書かれたんだけど、みんな適当なこと書いてるんだよね~。
実は冒険者のSランクだー、とか、特殊機動隊の隠れたエースだー、とか。あとは違う世界からきたエイリアンだ!とか。まあこれは若干あたってなくもないけど…… ワタシ、Cランクのただの冒険者なのにね」
「そうですわね……
レインさんの場合はある程度しょうがない部分もありますわ。レインさんはわたくしみたいに顔を出して配信をしているわけでも、テレビに出ている有名人でもありませんもの。とても強くて素顔の分からない、ミステリアスな女の子――。そんなフレーズに惹かれる大衆は少なくありませんわ。
というかレインさんは確実にAランク以上の実力があるのですから、昇格要件を早く満たせばCランクじゃなくなりますわよ?」
「えぇ、試験受けるの面倒だし……
でもあんまりにも突拍子のないこと書かれるから、単発で動画でも撮ってYootubeとかトゥウィッターに上げるかとも思うけど、準備が大変なんだよね。軽く調べたけど機材揃えるところから大変だし、動画編集とか無理ぽよだし……
かがりんもそうだけど、動画配信者ってすごいよね…… 改めて思ったわ……」
ワタシが机に力なくうなだれると、かがりんが少し考え込んで口を開いた。
「それでしたら、わたくしの配信に“ゲスト”という形で出演なさいますか?」
「そりゃ願ったり叶ったりだけど…… いいの?
自慢じゃないけどワタシ、リスナーに対して愛想を振りまくとかたぶんできないよ?」
「レインさんでしたら大歓迎ですわ。未だに“動画に写ったあの女の子とダンジョンコラボしてほしい”なんていうコメントもありますし。
ただ…… 登録者数1,000万人超えの
「やっぱり自分で超人気って言っちゃうんだ……
まあそれは別に大丈夫。有名になるのも別に悪くないし、そもそもネットに顔を出すってそういうことだし。それに、ワタシという存在をみんなが崇めてくれるわけだしね! ナヴィも別にワタシが良いなら問題ないって言うだろうし無問題。
ね、ナヴィ? ……あれ、ナヴィは?」
ナヴィに声をかけると、周りにいない。
あれ? いつもならワタシの右後ろでふわふわ浮かんで控えているのに。まったく。主人を放り出してどこにいったんだ。
「ナヴィさんなら、
一応、離れる前にレインさんにも断ってみえましたわよ?」
「食べるのに夢中で気が付かなかった……」
もう大晦日なんですね。
早い…早すぎるッ!
来年も本作をよろしくおねがいします。良いお年を~!
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第30話 かがりんとお食事回 3
「ナヴィ、
「はい、とても」
「そっか。それは良かった」
戻ってきたナヴィはワタシの右肩らへんでいつものようにふわふわ浮いている。
うんうん、やっぱりナヴィがこの位置に居るとしっくりくるね。
「珊瑚、それじゃあ撮影用の機材をここまで持ってきてくれるかしら?」
「かしこまりました、お嬢様」
恭しくお辞儀をして、珊瑚さんがテラスから離れる。
デザートを食べながらの会話の流れでかがりんの配信に出させてもらえることになったわけだが、いつやろっかと聞いたら、じゃあ今日やりましょうとなった。「思い立ったが吉日ですわ!」とはかがりんの言だ。即断即決でかがりんらしい。
「撮影はこのまま
「そうですわね、今日は天気もいいですしこのままテラスで撮影しましょう。
パラソルが陽の光もほどよく抑えてくれますし、パソコンの画面をちゃんと確認しながらできますわよ」
「おっけ。了解」
「あ、そうですわ。レインさん、珊瑚が来るまでにお化粧直しをなさいますか?
日本中にレインさんのお顔が写りますもの。急に撮影をすることになりましたし、お化粧直しの時間くらい取りますわよ? もしよろしければメイクアップアーティストもしていた当家の使用人にやらせることも可能ですわ」
「あー、いや。ワタシは化粧とかしないし大丈夫。というか生まれてこの方したことないからよく分からん。
魔法で日焼け対策はしてるけど」
「ええ!?」
ワタシが化粧は別に大丈夫と言った途端、かがりんが勢いよく立ち上がってズンズンとワタシの方に迫ってきた。
「レインさん、貴女一度もお化粧したことありませんの?! というよりも今現在、何も化粧していませんの!? 薄化粧やナチュラルメイクという意味合いでもなく!?」
「う、うん。
えなになに怖い」
「ナヴィさん、本当ですの!?」
「はい。マスターは嘘を言っていません、Ms.かがりん。マスターは天然でこの美しくきれいなお顔立ちなのです」
「ちょっとレインさん、よくお顔を見せてくださいませ!」
鬼気迫る表情でかがりんがワタシの顔を両手でむぎゅっと挟むと、ぐいっと食い入るように覗き込んできた。
近い近い近い。
「化粧を一つも使っていないなんて…… 確かに雪のようにきれいなお肌ですわ……」
「くぁ、かがりん…… ちょ…… 喋りにくい」
「見た目だけではありませんわ…… 赤ちゃんのようにすべすべもちもちなお肌…… ずっと触っていたくなる不思議な魅力……」
かがりんはなおもずっと、ワタシの頬をむぎゅ~っと挟んでまじまじと見ている。
「ちょ… ふぁ、ふぁい! はい、終了!」
「あ…… もうちょっと触りたかったですわ…」
ワタシがかがりんの両手を振り解くと、まるで飼い猫に避けられた飼い主のようにかがりんは少し寂しそうな顔をする。
そんな顔されても、もう終了!
かがりんの顔が近くて無駄にドキドキしちゃうし。
ワタシ、前々世が男だからだと思うんだけど、未だに女性の顔が近くに来たりするとちょっとドキッとしてしまうし、心臓に悪いんだよ。
まだ触りたりなさそうなかがりんを尻目に、紅茶を飲み直そうと手を伸ばす。
ふぅ~、紅茶うま。
「あらあら~」
「ん? あ、珊瑚さんおかえり」
「只今戻りました。ふふっ。すみません、黙って遠くから見るようなことをして」
後ろを向くと、何やらニコニコとして楽しそうな珊瑚さんがいた。
戻ってくるの意外と早いね。
珊瑚さんの両手にはアタッシュケースが二つ。
どうやらそのケースに撮影用の道具が入っているらしい。
「お嬢様、カメラとノートパソコンをお持ちしました。セッティングもこのまま私がいたしましょうか?」
「ありがとう珊瑚。でも後のことは大丈夫よ。自分で設定をしたりするのも楽しいもの」
「かしこまりました」
珊瑚さんはかがりんにアタッシュケースを渡すとそのまま下がり、かがりんは珊瑚さんから受け取ったアタッシュケースを机の上で開ける。
ケースの一つには思ったとおりノートパソコンが入っており、もう一つのケースには卓上に設置できるコンパクトな三脚と、高そうなカメラ、それにいろいろなケーブル類が入っていた。
かがりんは慣れた手付きでパソコンと撮影・配信用のアプリケーションを立ち上げ、カメラの設置もテキパキと行う。
「設定からかがりんがやるんだ。正直その辺りの面倒なことは全部使用人に任せるのかと思ってた」
「忙しいときは珊瑚たちにもお願いしますが、基本的には自分でやりますわ。こういった地味な作業、わたくし嫌いではありませんもの。
一応撮影から編集まで一通り自分でできますわ。といっても、今日は
さすがプロ配信者。ちゃんと全部自分でできるんだ。
いやね、ワタシも本当は自分で軽く動画撮って「事件を解決した謎の美少女はワタシですよ~」って動画をアップしてみたかったけど、意外と面倒なんだよね。
今どきスマホで撮影ができるし、アプリも入れれば編集もできそうな感じはあったけど、Yootubeに最適なビットレートの値が~、エンコードの方式は~、画質は~、とか…… 挫折してしまった……
ちゃんと探せばもっと簡単なアプリとかあったかな?
「あれ、そういえばこの前のアレは使わないの? ほら、ダンジョンのときに勝手に撮影してくれたやつ。なんだっけ…… 自動撮影ドローンだっけ?」
「自動追尾型魔導カメラですわね? もちろんアレでもできますが、わたくしのアレはダンジョン用に特別にカスタマイズしていますの。今日はもっとお手軽に撮影できるようにしますわ。
……はい、これでいつでも配信可能ですわ!」
試しに机の上に設置されたカメラに向かって手を振ってみると、その映像が横においてあるノートパソコンのプレビュー画面にちゃんと表示される。
おぉ~。
「Yootubeで配信を開始しますと、リスナーのみなさんがきっと沢山コメントしてくださいますわ。
今日の配信は、そのコメントを見ながらレインさんが色々と質問に応えていく感じにしましょう」
「了解。初めてだからちょっと緊張するけど、かがりんいるし大丈夫かな。
頼りにしてるね?」
「もちろんですわ! この超々人気配信者のかがりんがいれば恐れることなど何一つありませんもの!」
あけましておめでとうございます。
今年も引き続きどうぞよろしくおねがいします。(*´ω`*)
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第31話 【ゲリラ生配信】謎の美少女とコラボ配信ですわ!【かがりん】
#かがりん #生配信
【ゲリラ生配信】謎の美少女とコラボ配信ですわ!【かがりん】
18,108人が待機しています・20XX/XX/XX に公開予定
:なんだなんだ?
:10分前にいきなり告知あったけど…
:急に配信来たな
:急なのって久しぶりだな
:コラボ配信って久々だな
:トゥウィッターから来ました!
:待機場のコメント量もえぐいな流石かがりん
:謎の美少女とな?
:+ (0゚・∀・) + ワクワクテカテカ +
「皆さま、御機嫌よう。冒険者系Yootuberのかがりんですわ」
:御機嫌よう
:こんにちは、ですわ
:今日もいいお天気ですこと
:キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!! …ですわ!
:ご機嫌
:ごきげんようですわ!!!
:毎度のごとくみんなお嬢様言葉で草ですわ
:私服のかがりん姉さまもお綺麗ですわ
:言葉遣いで品位がわかるものですのよ
:おほほ
:今日も一段とお美しいですわ
:屋外での撮影ですのね?
「今日は急な配信にも関わらずありがとうございます。
配信タイトルにもありますように、今日はコラボ配信ですわ」
:コラボですの?
:謎の美少女、参戦!
:楽しみや
:そよ風に揺れるかがりんの髪、エモい…
:楽しみ!
:ワクワク
「ささ、レインさん。ご挨拶をお願いしますわ」
「ん?もう入って
えーっと、あー…… はじめまして皆さん。ご紹介にあずかりましたレインです。どもー」
:!!!!!
:ガチ美少女じゃん!
:かわ
:ファッ?!
:おかわわわわわわわわわわわわわ!!(昇天)
:声も顔もかわいい
:タイトル通りとは恐れ入った
:ほぅ…
:銀髪赤眼ロリですか、やりますねぇ!
:ダンジョンの子?
:(無言のガッツポーズ)
:ダンジョンで女の子助けた子じゃね?
「ふふん。みなさんの素敵な反応ありがとうございます。
既に気がついている方が何人かみえますが、その通りですわ! レインさんはわたくしと一緒にダンジョンで女の子を助けた方ですの。あの日からレインさんとはお友達になりましたのよ」
「そそ。今日はかがりんのお家に招かれて昼食を食べさせてもらってたんだけど、話の流れから急遽動画に出させてもらえることになったわけ。
あー、あと、ワタシはかがりんみたいな丁寧な言葉遣い苦手だからそこは容赦してね。
この場を借りて、動画出させてくれてありがとうかがりん」
「どういたしましてですわ。
わたくしもレインさんと配信でコラボできてとっても嬉しいわ」
:マジか!
:え、あのクソつよ女の子なの?!
:あの動画何回見返したか分からんわ
:動画では目線にモザイクかかってたけど、こんな美少女やったんか!
:かわいい…
:某掲示板で魔王と恐れられた存在!
:画面に美少女が二人…来るぞ遊馬!
「それでレインさん、今日なぜ配信に出てくださることになったのでしたっけ?」
「えっと。かがりんと一緒にダンジョンで女の子助けたり、銀行強盗を退治したり、色々したんだよね、ワタシ。ああ、あとつい3日前に変なモンスターも討伐したな。
んで、色んな人がいろんな記事とかコメントをネットに上げてるんだけど、あまりにもみんな
「――ということですわ」
:なる
:把握しますた
:おk
:え、サラッと言ったけど銀行強盗のやつもレインちゃんなの!?
:了解
:(銀行強盗を倒した…?)
:完全に理解した(よく分かってない)
:謎の地球外生命体説は本当ですか!?
:たしかに変な記事多かったしねw
:美少女2人が肩を寄せ合って写ってる
「それともうお一人、ご紹介いたします。レインさんのパートナーのナヴィさんですわ。
ナヴィさん、画面に入ってくださいませ」
「はじめまして。マスターに仕えているナヴィと申します。以後お見知りおきを」
:!?
:なに、この…… なに?
:サイコロ?
:なにこのキューブ生物w
:ふわふわ浮いてる
:サイコロに羽根はやして一つ目付けた謎の生物、参戦!
:魔物?
:???
:なんか機械っぽさと生物っぽさ両方あるな
:魔物、なんか?
「えっと、みんな結構困惑してるっぽいけど、こいつはナヴィ。ワタシの相棒で、一応使い魔的な存在。
ちゃんと使い魔登録もしてるし、知能も高いから人間を襲ったりしないよ」
「私は“魔物”という位置づけで間違っていませんが、正確に言うのであれば“精霊”に属します。マスターに害を与えない存在であれば人間だろうと魔物だろうと攻撃はしません。
もちろん、マスターに危害を加えるのであれば容赦はしません」
「あんま怖いこと言わないのナヴィ。
ま、基本的に気のいいやつだよ。人間とも上手くやれる良い子」
「ナヴィさんもレインさんと同じくとても凄い方ですわ。
レインさんが攻撃面に優れているとすれば、ナヴィさんはどちらかと言えば支援方面に優れていると言えるかしら」
「そだね。そんな感じ」
:美少女と人外バディキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!
:魔物でこんなに
:初めて見る種類だ
:俺の使い魔のゴブリンと交換してほしい
:ナヴィもクソ強そう…
:側面の羽根パタパタかわいい
:なんか挙動がかわいいなw
:主従関係に胸がドキドキしちゃうの…
:かっこいい
「それではレインさんナヴィさん、そろそろリスナーの皆さんから質問してもらいますか?」
「マスター。質問の前にもう少しマスターのことを皆さんに伝えることを推奨します。マスターに関する情報があまりにも少ないまま質問を募集すると、質問をする方も困惑してしまいます」
「そっか。えっとそれじゃあ……
ワタシの基本的なことを伝えると、ワタシはCランクの冒険者。冒険者だから基本的にダンジョンでモンスターを倒してお金を稼いでるよ。年齢は……あれ、何歳にしてたかな… たしか20歳くらい。
あとは…… ワタシ結構強くて、さっきも言ったけど、銀行強盗捕まえたり、最近巷で話題の未確認モンスターを倒したりもしてて……
うーん、これくらいかな」
「はい。レインさんありがとうございます。
それでは皆さん、色々とご質問したいことがあると思いますので、今日はいつもの雑談配信みたいな形で質問してくださいませ」
「時間がある限り答えるつもりだからどしどし書いてねー」
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第32話 【かわいい】かがりんの配信に現れた美少女レインちゃんスレ【かっこいい】[1]
【かわいい】かがりんの配信に現れた美少女レインちゃんスレ【かっこいい】
1:名無しの美少女 ID:KARPvnbiF
かがりんの配信に現れた美少女レインちゃんについて語りましょう!
↓レインちゃん登場配信アーカイブ
htttps://www.yootube.com/watch?v=FOK6sgkjosaks
■かがりん公式
トゥウィッター:
htttps://twuwitter.com/kagarin
Yootubeチャンネル:
htttps://www.yootube.com/channel/UCkjoikOIJ
■本スレ
【ですのよ!】かがりん様を見守る会 Part.+#
htttps://kakuunosure/streaming/465698754
・
・
・
10:名無しの美少女 ID:MkIBy96pN
>>1乙
13:名無しの美少女 ID:1roY1AOdR
本スレから分けるの?
14:名無しの美少女 ID:oNCIVbKkV
本スレがレインちゃんの話題に埋め尽くされてて本来のかがりんの話がしにくかったから分けたほうがいいやろ
分けたほうがレインちゃんのこと話しやすいし
15:名無しの美少女 ID:ehOEHCJZZ
>>1
オツカレチャ━━( ´∀` )━━━ン!!!!
18:名無しの美少女 ID:OWxQFsjVl
19:名無しの美少女 ID:wCQpjLxPo
マジでレインちゃんかわいいしカッコいいよな。
惚れそう。てか惚れた。
23:名無しの美少女 ID:4PRJT/Ggu
色々と驚愕な事実ばっかりだったけど、一番の驚愕はこんな美少女やったことや……
ほんとにこんなロリっ子が銀行強盗ボコしたんか? 近場のことだったからニュース覚えてるけど銀行強盗ってたしか5人組やったんやろ?
26:名無しの美少女 ID:fzKgKtrCE
>>23
居合わせた人が撮影した現場の映像がYootubeにあるけどレインちゃんで間違いない(目線にモザイクかかってるけど声とか背丈とかもろレインちゃん)。
なんなら今日の生配信と同じパーカー着てる。
28:名無しの美少女 ID:IEN0pgwRL
29:名無しの美少女 ID:9NuOXXaIs
>>28
1.かがりんが突然美少女とコラボ生配信する
2.その美少女はかがりんと一緒にダンジョンで女の子助けた子。
3.銀行強盗とか最近話題の未確認モンスター討伐しててスレ民困惑&歓喜
31:名無しの美少女 ID:IEN0pgwRL
>>29
サンガツ。
「未確認モンスター」ってこの前水々市に出たってやつ? ネットでキメラって言われてた
33:名無しの美少女 ID:geV3TA2dT
>>31
そうやで
ちなみに特殊機動隊のホームページに今まで確認されたキメラの写真とかがあるけど、水々市に3日前に現れたやつの動画があるんやが、それ、レインちゃんが撮影しとんねん
34:名無しの美少女 ID:ap5XunUoH
マ!?
38:名無しの美少女 ID:5Wo3zhTSl
生配信内でもレインちゃんが証言してたから、アレとったのレインちゃんで間違いない。
なんなら動画内でナヴィの名前呼んどる
39:名無しの美少女 ID:vbnivsnvw
41:名無しの美少女 ID:f1OG0RRuc
かがりんといいレインちゃんといい、なぜ美少女は冒険者をやるのか
43:名無しの美少女 ID:P7nFW2gPg
まあ美少女な冒険者はごく一部だけどな
47:名無しの美少女 ID:mrkZjB8C+
生配信のアーカイブあるけど2時間もあるのか……
見たいけど最近体力がないからきちぃ
50:名無しの美少女 ID:QWGlfOiPz
>>47
まあそのうち誰かが切り抜き動画つくってニヨニヨかYootubeにあげるでしょ
52:名無しの美少女 ID:30pjEWzE+
>>47
動画の後半らへんは甘いお菓子を食べて「おいひ~」ってしてるかがりんとレインちゃんのご尊顔が拝めるぞ
55:名無しの美少女 ID:/TXXS8RmS
定期的に二人で雑談配信してほしい
58:名無しの美少女 ID:zNeFta4dd
ちなみに配信の中でレインちゃんが使った魔法のこと言及してた?
ダンジョンでサンダーコボルト瞬殺したやつ
60:名無しの美少女 ID:1qQW8e4no
>>58
言及してる
たしか対象のモンスターの魂的なものを手の平に疑似的に集めて、それを潰すことで息の根を止める魔法とか言ってた気がする
63:名無しの美少女 ID:MRvD+xaN8
>>60
配信20分くらいの質問で言ってたな。意味不明すぎて草はえたわw
65:名無しの美少女 ID:LWGTcm8Yo
草に草をはやすな定期
69:名無しの美少女 ID:zNeFta4dd
>>60
ま?
俺大学で攻撃魔法の研究してるんだけど、取り急ぎその配信の20分くらいのところ見てくるわ
さすがに魔法のやり方までは言ってないよなぁ…… 気になる…
属性だけでも教えてくれんかな
71:名無しの美少女 ID:XPGxqLN9L
配信全部見たわけじゃないけどオリジナル魔法の発動原理はよっぽど明かさないやろ
聞くのも本来はちょっとマナー違反やし
72:名無しの美少女 ID:ZPTYnZOc4
配信のコメントで「僕でも使えますか!」みたいな初心な質問あってレインちゃん答えてたぞ
76:名無しの美少女 ID:ZPTYnZOc4
>>71
たぶん普通の人間には使えないって言ってた。
発動条件も割と厳しめでかなり格下なモンスターじゃないと通用しないし、魔法耐性が高いと使えないらしいぞ。
78:名無しの美少女 ID:XB3Fy/KLe
(格下のモンスターにしか通じない…? サンダーコボルトってBランクorAランクじゃ…)
80:名無しの美少女 ID:NSZa0tCHP
サンダーコボルトはEランクモンスだった可能性が微レ存
82:名無しの美少女 ID:DQjojeoLu
>>80
(そんな可能性)ないです。
84:名無しの美少女 ID:tF1oWot/Y
サンダーコボルト格下とかレインちゃんやっぱりAランク以上の才能あるだろ
88:名無しの美少女 ID:oZmxbac1Q
なお本人はランク上げに興味がなくてCランク冒険者の模様
89:名無しの美少女 ID:2pIlcECRm
AランクどころかSランクすら視野に入るだろ
かがりんがAランクだけど、かがりんが自分より断然強いって言ってますしおすし
ていうかギルドはレインちゃんのランクを問答無用で上げろ(豹変)
93:名無しの美少女 ID:Gu/pfvnDh
(みんなレインちゃんの話ばっかりだけど、私はナヴィちゃんのことも話したいです)
96:名無しの美少女 ID:ww8IyFTGA
>>89
ナヴィちゃんも凄いよねっていうか謎だよね
ギルドのモンスターデータベースにもナヴィちゃんみたいなモンスター載ってないし
99:名無しの美少女 ID:XAcDMKNtj
ナヴィって、ちゃん付けで合ってるんか?
メスなの?
101:名無しの美少女 ID:qrs49wxg6
声的には中性よりの女性声に聞こえる
102:名無しの美少女 ID:dxCqJUn3l
なんか冒頭で「正確にいうと自分は精霊」的なこと言ってたし、オスメスとかそもそもないのかも知れん
104:名無しの美少女 ID:MLJYyaxQG
擬人化したら冷静沈着な美人お姉さんだけど頭の中では常にご主人さまのこと考えてそう
105:名無しの美少女 ID:0Mw50V9At
キマシ?
107:名無しの美少女 ID:ypoJLQiB7
108:名無しの美少女 ID:0glIn6ebS
別にナヴィにちゃん付けでええやろ
可愛い男の娘にはみんなちゃん付けするやろ?
112:名無しの美少女 ID:eBob6mOKh
(し)ないです
115:名無しの美少女 ID:AYTtre+FP
人外バディっていいよね……(恍惚)
116:名無しの美少女 ID:oVHkni9zJ
117:名無しの美少女 ID:oVHkni9zJ
初めてAA作ってみたけど1時間ではこれが限界やった……
118:名無しの美少女 ID:ilJjla+Vi
>>116
13点
119:名無しの美少女 ID:LC9dMOqHo
遠目で見ればちゃんとレインちゃんってわかるから十分よ
120:名無しの美少女 ID:A/8DhGdSx
AA作るのむずいよな
使いやすいAA作ってくれる職人さんにはいつも感謝や
最近、ハーメルンの新機能でAA(アスキーアート)が使えるようになりました。
運営さんありがとう!
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第33話 【かわいい】かがりんの配信に現れた美少女レインちゃんスレ【かっこいい】[2]
200:名無しの美少女 ID:8xUXQDhVW
銀行強盗の動画みたけど、すごいなこれ
銃弾を指で挟んで止めるとかどんな離れ業よ
203:名無しの美少女 ID:EHkjRdZnd
銃弾を目で追えてる時点で人間やめてるけど、指で掴んで指がなんともないのもやばい
音速とほぼ同じ速度で動く物体だぞ? 物理耐性すごすぎんか?
207:名無しの美少女 ID:aoi9E18L0
当時の考察で「目に強化魔法を使ってる」的な考察合ったけど結局そこらへんはどうだったん?
208:名無しの美少女 ID:KvpF8Kt/q
>>207
特別な魔法は使ってないって言ってた。
211:名無しの美少女 ID:yRsAdT1Ow
無意識的に体内で魔力を巡らせてるから、動体視力に限らず、基本的に通常の人よりも身体能力が高いらしいゾ
ちなみにそのおかげで物理攻撃も魔法攻撃も弱いのなら効かないらしい。
レインちゃん強すぎィ!
215:名無しの美少女 ID:UjxHWPEic
>>211
え、なにそれは……
218:名無しの美少女 ID:qxIo9oa0r
物理も魔法も生半可な攻撃じゃ通じないとかどうしろとw
ミサイルでも使わないとレインちゃんにダメージ通らないかも?w
220:名無しの美少女 ID:5k9g+ggp5
拳銃は生半可な物理攻撃なのか(困惑)
223:名無しの美少女 ID:mzHb5UWS/
ところで巷で噂の「レインちゃん地球外生命体説」はありますか!?
226:名無しの美少女 ID:k/kw2VwlN
>>223
ないです。
231:名無しの美少女 ID:I9NOoWEvX
地球外生命体説はないけど、ロストだっていうのは言ってたな
235:名無しの美少女 ID:s4sWFaEvm
>>231
ほんとにちらっと言ってただけであんまりその話題に触れてくれなかったな
あんまり言いたくないのかしら
238:名無しの美少女 ID:mDLQN6Nxt
ロストって基本的に良い思いしてる人少ないしなぁ……
言いたくないのも当然っちゃ当然。聞くのも割とセンシティブな話題だったりするし。
239:名無しの美少女 ID:Ip+HFDzR0
ロストってなんだっけ?
最近あんまり聞かないからど忘れしてまった。ダンジョンで保護される人のことだっけ?
242:名無しの美少女 ID:PV0LfwRH7
>>239
だいたいはそんな感じ。
地球にダンジョンが生まれた日(災厄の日)に姿を消して、その数十年後とかにダンジョンで保護される人たちの総称。
完全に記憶喪失になってて保護される人もいるし、災厄の日より前のことは覚えてるけどダンジョンで発見されるまでの数十年の記憶がない人も居る(タイムリープしてるみたいに本人は感じる)。
しかも、発見されるまでの時間分ちゃんと歳をとってる人もいれば、全く歳をとってない人もいる。
ほんとに色々なケースのロストがいて、たしか異世界に行ってたっていうちょっと変わったロストの人もいたはず。
245:名無しの美少女 ID:Ip+HFDzR0
>>242
すまんありがと。
最近あんまり聞かなくて忘れてたけど教養としてちゃんと知っとかないかんな。
246:名無しの美少女 ID:a18Qx/qCM
まあロストなんて周りにいなければ小中学生の社会の授業で習うくらいだしな。
災厄の日から10年後くらいがロストの発見数のピークで、今はそんなに発見されてないからしょうがない。
250:名無しの美少女 ID:o3BMDwn+8
>>242
異世界に行ってるロストなんて居るのか!
いいなぁ~! ラノベとか読み漁ってるから、俺もロストになって異世界行きたかったわ!
できれば中世風のファンタジーがいい!
251:名無しの美少女 ID:4nK6AUuGe
>>250
そんなお気楽なものじゃないらしいぞ実際は。
ネットで探せばロストの人が書いたブログがいくらかあるけど、マジでかわいそすぎて読んでられんかったわ。身寄りもなくて今日明日死ぬかもの世界だぞ。
254:名無しの美少女 ID:tX7e1yehy
>>250
場合によってはロストにぶん殴られる発言だな
256:名無しの美少女 ID:Xu4aY4duS
異世界行ったロストの書いた本読んだことあるけど、マジで悲惨。
ある日突然森に放り出されて、自分よりも何倍も大きな化け物に襲われて、命からがら逃げ出して、人間が居る街にいけて助かったと思ったら誰も自分を助けてくれない。言葉は当然違くて意思疎通もできないし、チート能力なんてもちろん無くて、自分になんの価値もないと蔑まれるんや。
なんの前触れもなく愛する妻と娘と別れることになって、そんな生活が十年続いて、ある日突然日本に戻ってくるって感じの内容。
マジであの本の著者には日本で幸せな生活送ってほしい。
257:名無しの美少女 ID:o3BMDwn+8
そういうもんなんか……
普通にすまん、完全に軽率な発言やったわ
261:名無しの美少女 ID:citSbaWTQ
人によってはイージーモードの異世界生活送ってたひとも居るって聞いたけど、まああんまり軽い発言はしないほうがええわな。
異世界に行ったロストに限らず、気がついたら数十年後にタイムスリップとかも怖すぎだよな
263:名無しの美少女 ID:a9L8nMTn1
ダンジョンの出現で次元の歪みが出現してそれに巻き込まれたのがロストだとかいう話もあるけど、実際はどうなんやろうな
267:名無しの美少女 ID:IM6YRAP3c
異世界行ったロストって割合でいうとどれくらいなの?
271:名無しの美少女 ID:FNiuUrk/M
>>267
ロスト全体の1割未満くらいだった気がする。
そもそも記憶喪失の人が3割くらいだったかな……?
国の公開してるのに統計情報があった気がするけどどこのページか分からん
275:名無しの美少女 ID:tPhUk31RG
話が全然変わるけど、レインちゃんの声好きな人いますか?
めっちゃ好みの声なんだけど
277:名無しの美少女 ID:T6fzWM3I4
>>275
わかるマーン!
280:名無しの美少女 ID:gbTfYmZV2
ちょっと気だるげな感じの声いいよな、わかる
284:名無しの美少女 ID:2CtQmOzNb
ダボダボなパーカー着てるのいいゾ~、これ
美少女の萌え袖最高!
288:名無しの美少女 ID:SShnqydKs
家でもダボダボな服着てて欲しい。
290:名無しの美少女 ID:8LvLf5mt1
特殊機動隊のホームページで、レインちゃんが撮影したという噂の未確認モンスター(キメラ)討伐動画見てきた!
さすがサンダーコボルトと銀行強盗を瞬殺しただけのことはあるというか、やばいなアレw
292:名無しの美少女 ID:C2mR3OpSx
キメラって普通のモンスターみたいに危険度分類されてないけど、ランクでいうとどれくらいなの?
296:名無しの美少女 ID:gKMmg8CzN
個体によって強さが割と違うっぽいから一概には言えないけど、
現在確認されてるキメラは一応B~Aくらいとは言われてる
300:名無しの美少女 ID:IBRfkzjDW
>>292
特殊機動隊のホームページとかニュースとかでは
キメラに遭遇したら、一般市民とCランク以下の冒険者は迷わず逃げることってなってるから、
低く見積もってもBランク以上ではあるっぽい
303:名無しの美少女 ID:3R1IZRv1q
レインちゃんが退治したキメラは確実にAランク以上だって言われてる
A
305:名無しの美少女 ID:xSdqiPEmd
そんな極悪モンスを
306:名無しの美少女 ID:tHXw1Tylo
余裕で実況しながら撮影してるからなw
307:名無しの美少女 ID:OpchwtrJp
レインちゃん配信者の素質あると思うの。
310:名無しの美少女 ID:0HeQxt6Ja
レインちゃんに配信者として活動してほしいけど、「面倒だから絶対しない」と今日の生配信で公言してたしなぁ(悲しみ)
314:名無しの美少女 ID:peMCKUz18
>>310
ときどきかがりんの動画にでるかもねって言ってたから気を落とすな
317:名無しの美少女 ID:0oRpYmINu
キメラ討伐動画すこすこすこ侍
完全に犬っころを手玉に取ってて草ァ!
318:名無しの美少女 ID:+Ut/BIRCp
クゥ~ン
320:名無しの美少女 ID:456YhiCIM
キメラの口腔内を撮影しだすのワロてまうわ
p.s.
ほんのり小説のタイトル変更しました
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第34話 面倒
『特殊機動隊はこの未確認モンスターを“キメラ”と呼称することを正式に決定しました。
特殊機動隊及び冒険者ギルドは協力して事態の収拾に努めておりますが、依然としてキメラ出現の原因は分かっておらず、キメラによる被害は今後も続くと予想されます』
『えー、また、危険度分類につきましては今朝特殊機動隊からB
一般の方はもちろんのこと、冒険者の方であってもCランク以下の方は決して立ち向かおうとせず、すぐに逃げてください。Bランク以上の冒険者の方であっても、決して無理はせずできる範囲での行動をお願いします』
醤油を
久しぶりに朝から起きて朝食を食べながらテレビを見ているのだが、多くのチャンネルで未確認モンスター“キメラ”のことを取り上げている。
なんでも、昨日の夜から今朝にかけて特殊機動隊からキメラに関する記者発表やらホームページでの情報公開やらの動きが多くあったらしく、メディア陣は慌ただしくしているようだ。
ちなみに、ニュース番組でワタシの撮影したキメラの映像も時々流れている。
キャスターの人から「撮影者すごいですね」的な言葉が聞けてワタシは満足だ。
ふふん♪ やはり崇められたり褒められたりするのは気持ちいい。
ん? それにしても、この目玉焼きめちゃくちゃ美味くないか?
絶妙な焼き加減で半熟トロトロ……
さすが元魔王のワタシといったところか――。朝食の目玉焼きなんて、ノーライフキングを焼き殺すよりも
ふふふ。さすワタ。
「どのニュース番組でもキメラの話題で持ちきりですね」
「そうだな。街中でモンスターが暴れるなんて普通無いし、最近は1日に数体は出現してるしな。
ふーん…… 今の所、ワタシたちが住んでる水々市を含めて、キメラの出現地域は近隣の6市か。日本全国に出現しているわけではないし、何かしらの発生原因があるんだろうけど良く分からんね」
一緒にテレビを見ているナヴィに応えつつ考える。
街中にキメラが現れる原因はなんだろうか?
モンスターが出現する場所といえばもちろんダンジョンだ。
だが、水々市含め、他の市町村でもダンジョンからモンスターが逃げ出した、なんて話は聞いたことがない。そもそもモンスターは大気中の魔力の濃いところを好む。魔力濃度の低い地上に出てくる理由はあまりないだろう。それこそ災厄の日みたいな大事が起こらない限り。
第一、ワタシが倒したキメラはワープでもしてきたように街中に突然出現したし。
「結構困るんだけどなぁ。出現数がこのまま増え続けると
「そうですね。今の所人的被害は少ないですが、建物が破壊されたり、商品が使い物にならなくなったりして休業を余儀なくされるお店も多いそうです」
「だよねー」
食材とかは通販でいいんだけど、発売日にゲームを買いに行くワクワク感味わえなくなるとか、アニメイベントが開催直前になって中止になるとかはマジ勘弁。
来月駅前でやるイベントとか中止になったらワタシ泣いちゃうよ?
「ときにマスター」
「ん?」
「そろそろ働かなくてはならない時期がやってきました」
「ん???」
へ?
あれ? あれれ?
おかしいな…… この前のキメラ討伐のときに結構な額稼いだし、数日前かがりんにお昼ごちそうになってお昼代浮いたりしてるのにな……
「昨日マスターがAmazonesで購入したアニメの限定ブルーレイボックスの出費が決定打となり、我が家の家計が
それに、ソーシャルゲームに課金しすぎです。今月はいくら課金したか覚えてますか? 1万円、10万円という次元ではありません。桁が足りていませんよね。
さぁ、働きますよマスター」
「まじか~……」
机に
なんでこう、お金ってすぐに消えてしまうの?
なんて儚い存在なんだ。ワタシはこんなにも
……と現実逃避してもお金は湧いて出てこない。悲しいなぁ。
まあ冒険者らしくダンジョンに行って雑魚モンス狩って稼ぐか。
ちまちま倒すの面倒だなぁ。前のキメラみたいにいい感じに短時間で稼げるモンスター出てくればいいけど……
でも1体だけ倒してもすぐにガチャに消えるか。
しばらく働かなくても良いようにキメラ50体くらい一度にワタシの前に出現してくれないかな? 無理? 無理だよね……
そう言えばギルドのシステムで“クエスト”もあるからそれ受けてみるか。
いつも適当にダンジョンの中を探索してモンスター倒してドロップ品売って稼いでるけど、たまにはクエストを受けて依頼の報酬額目当てでやるのも良いかもしれない。
ときどきすごく割の良いクエストもあるってガンさんとテツさんが言ってたし。
「それじゃあ今日はギルドに顔を出してお金稼ぐか…… 来週はソシャゲのガチャの入れ替わりがあるからお金は要るし…… はぁ…… ワタシが錬金術を修めていれば金を作り出して楽して大儲けするのに」
「錬金術は等価交換が原則ですから、そのように都合の良いものではありませんよマスター」
「知ってる。言ってみただけ。まあ勤勉に働きますよ」
「その意気ですマスター」
*
コロナくんのせいで全然平日に時間取れないんじゃヽ(`Д´)ノプンプン
(´・ω・`)ショボーン
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第35話 出勤
「くっ……! 朝の日差しが我が身体に襲いかかる……ッ!」
「何を仰るんですか。マスターは日の光に弱い種族ではないでしょう? そもそも今は人間の身体ですし」
「あのなナヴィ。こういうのはノリとテンションなんだ。
それに良いことを教えてやるぞナヴィ。人間には夜行性の種族もいるんだ。そしてワタシは限りなく夜型の人間だから日の光に弱いんだ。たぶん」
「私は人間ではないのでよく分かりませんが…… なるほど、人間も奥が深いのですね」
「そうそう。そういうこと」
ナヴィが言うようにワタシは別に日の光に焼かれる種族ではないが、なんかこう…… 中二病なテンションなときってあるよね? 邪気眼とかちょいちょい暴れるよね? 誰も見てないとついやっちゃう。
1DKのアパートを後にしてそんな他愛もないやりとりをしながら、冒険者ギルドへの徒歩15分の道のりをてくてくと歩く。
今日は珍しく早起きしたからか、通勤・通学の時間帯にあたってしまったらしく、道行く人が多い。
スーツを着て時計を確認しながら早足で歩く男性、2列に並んで自転車で走行している女子高生たち、バス停でスマホのカメラを鏡代わりに髪をいじっている女性。色んな人がいる。
道行く人の中にはもちろん冒険者もいる。
ダンジョンができる前の日本を知っている身からすれば、スーツ姿の人々の間にときおりファンタジーな防具に身を包んでいる人がいるのはちょっと不思議な感覚だ。
まあここに来て数ヶ月経つのでちょっとは慣れてきたが。
それにしても今日は朝の時間帯という点を除いても、冒険者がやけに多いような気がする。冒険者って意外と朝型が多いのかも?
そんな光景を見ながら水々市冒険者ギルド04支部へ向かう。
ギルドの扉を開けて受付カウンターに行くと、いつもどおり受付嬢のみーちゃんがブンブンと手を振って元気よく出迎えてくれる。
朝早くから元気でみーちゃんはすごいな。
「レインちゃんにナヴィちゃん! おっはよーございまーす! 早朝からいらっしゃるとは珍しいですね!」
「おはようございます、Ms.美卯」
「おはようみーちゃん。お金がなくてね…… 仕方なく働きにきた」
「なるほど…… あれ? でもこの前“キメラを討伐してたくさん儲けてたから、しばらくギルドには顔出さないと思うぜ?”ってアイテムショップの藤宮さんが言っていたような…… レインちゃんからもLIMEで“いっぱい稼いだ!”って来たような……」
みーちゃんが唇に人差し指を当てて不思議がる。
……うん、みーちゃん。そのお金、ソシャゲのガチャとアニメとかのグッズで全部消えたというか風前の灯なんだ……
「Ms.美卯。そのお金はほぼ全てマスターの趣味に消えていきました」
「あ~、ははは…… 確かレインちゃん、最近はソシャゲにもハマったって言ってましたしね……
まああれですよナヴィちゃん! レインちゃんはガチャじゃなくて経済を回しているのですよ! 誇るのです」
みーちゃん、そのフォローはありがたいが無理がある。
「今日はどうしますか? クエスト受けて行きますか?」
「うん。たまにはクエスト受けてダンジョンに行こうかなってナヴィとも話してた。みーちゃんオススメのクエストとかあれば教えてほしいかな」
「そうですね……
ダンジョンでのクエストもいくらかありますが、やっぱり今のホットなクエストは街中でのキメラ討伐ですね! 報酬が結構良いのでBランク以上の冒険者はパーティを組んだりして張り切っています!」
「へー……キメラの討伐ってそんなにいい額の報酬がでるんだ。ここに来る道で冒険者を多く見たのもそのせいか」
どれどれ……っとみーちゃんにキメラ討伐のクエストの内容を見させてもらう。
確かに、普通のモンスター討伐の依頼よりも良い額が載っている。
「ちなみにマスター、キメラ討伐者もしくはその協力者に報奨金が出ることは朝のニュースでも報道されていましたよ」
「マ? 全然知らんかった」
「まあ、マスターがご自身で作られた目玉焼きに
そうなのか。
確かにワタシが作った目玉焼きの焼き加減が素晴らしすぎて聞いてなかったかも知れんな。
それにしてもキメラ討伐の報奨金か……
たしかに割といい額がでるが……
「どうしますかレインちゃん? レインちゃんもキメラ討伐狙ってみますか?」
「いややめとく。報奨金の額は魅力的だけど、そもそもキメラに出会える保証は無いし、一日中街中歩くのもちょっとやだし、なる
「了解です!
確かに、レインちゃんの言う通り出会える保証はありませんし、最近は1日に数体出現していると言っても、広い水々市のどこに現れるか分かりませんからね。
一発でかいのを狙いにいくとかでなければ、通常のクエストのほうが確実でしょう。
ではダンジョン内でのオススメのクエストはぁあああああっとと! そうでした! レインちゃんには申し訳ないのですが、すぐに支部長室へ行ってほしいです!」
突然大声を出して思い出したようにみーちゃんが言う。
「え? うん? どうしたの急に? 支部長室?」
「レインちゃんがギルドに顔を出したら支部長室へ案内するように言付かっていたのでした! 私も詳しくは聞いていませんが、キメラのことで話があると」
「分かった。けどなんだろ?」
正直言うと偉い人に会いに行くのは
支部長ってどんな人だっけ?
あ、あれか。
少し前にかがりんとダンジョンの中で女の子を助けたけど、それを褒めてくれて高級寿司をおごってくれたイケオジか。中トロが美味かったなぁ。
「支部長ってあのちょっと顔の厳ついオジサマのことだよね? キメラ討伐のお礼でまたお寿司おごってくれるのかな?」
「マスター、その方は“ギルドマスター”です。支部長ではありません」
「そうですね、ナヴィちゃんの仰るとおりです。
レインちゃんが寿司をおごってもらったのが、水々市のギルドの各支部を束ねるトップ、“ギルドマスター”です。そして、これから会っていただくのは、この04支部のトップ、“支部長”なのです」
みーちゃんがピンっと人差し指を立てて教えてくれる。
「ちなみに言うと、支部長のことはサブマスターとも言いますが、慣例的に支部長と呼ぶことのほうが多いです。
あと、04支部の支部長はギルドマスターとは違って、女性の方ですよ」
「あ、そっか。あのイケオジはギルドマスターなのか。
まあいいや。とりあえず了解。支部長室ってどこだっけ? 2階?」
「はい! あそこの階段を上がって少し行ったところです!」
「おけ。んじゃ、ギルドマスターのオジサマみたいにお寿司おごってくれるかもしれないし、ナヴィ行くぞ」
「承知しました」
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第36話 四者面談
コンコンコンと小気味よく扉をノックする。
前前世で就活をする前は、ノックは2回するのが基本だと思ってたけど2回ノックはトイレノックだ!って面接担当に怒られた思い出がある。
2回でも3回でも別にええやん……と何度思ったことか。
「入って良いぞ」
変な思い出に浸っているとすぐに扉の奥から声が聞こえてきた。
声の感じからするとみーちゃんの言っていたとおり若そうな女性だ。声色は若いけれど、なんていうか妙に色気のある可愛らしい特徴的な声だ。
「失礼しまーす」
支部長室へ入っていくと、小さな女の子が品定めをするようにこちらを見てきた。
「ほほぅ…… お主がレインじゃな。そして後ろの魔物がナヴィか。やはり今日ギルドに来るという
ツーサイドアップの栗色の髪に、猫のようにパッチリとして少し釣り上がった大きな瞳。赤を基調としたミニスカくらいの丈の着物に身を包み、
身長は確実にワタシよりも低い。
ワタシの身長が150センチくらいだから、この子は130センチくらいだろうか。
着物を着ているのと、妖艶な雰囲気があるせいで大人っぽく見えるが、普通の洋服でランドセルとか背負ってたら小学生に見えそう。
支部長をやっているということはもちろん小学生じゃないし、何歳なんだろうこの人。
そして女の子の隣には、狼をそのまま大きくしたような魔物が控えている。
こちらをじーっと見て目を離さない。
なんていう種類の魔物か知らないが、この子の使い魔だろうか?
「さぁ、そちらに座ってくれ。固いのはなしじゃ。くつろいでくれて
女の子に勧められるがままソファに腰をかけ、女の子もワタシの正面に座る。
それにしてもアレか。
この女の子はいわゆる“のじゃロリ”なのか。初めて現実で見た気がする。
「ガルルルル……」
「ふふふ。アルフレッドもレインとナヴィに興味津々じゃな。
おっとすまんのぅ。こやつはアルフレッド。
女の子が狼の魔物――アルフレッドの頭を撫でると、アルフレッドはそこらへんのペットの犬っころのようにクゥ~ンと甘えるような声を出して女の子に擦り寄る。
「さて、と。自己紹介がまだじゃったな。
妾の名前は
「えっと、ワタシのことはもう知ってるようだけど、ワタシはレイン。んでこっちの不思議立方体生物がナヴィ」
「“不思議立方体”は余計ですマスター。
はじめまして、Ms.猫屋敷。ナヴィと申します」
「話は聞いておったが、本当に流暢に人の言葉をしゃべるのじゃな。もちろん、ナヴィだけではなくレインも色々と噂は聞いておるぞ?
二人に会えて光栄じゃ。よろしくの」
女の子――猫屋敷さんが握手を求めてきたので“こちらこそ”と握り返す。
「でじゃ、今日お主らをここに呼んだのは他でもない。妾がお主らに会いたかったというのもあるのじゃが、キメラについて一つ依頼をしようと思うてのぅ」
「依頼?」
「そうじゃ」
猫屋敷さんは
簡単にまとめればキメラ事件の解決に協力してほしいという内容だ。
現在、特殊機動隊と冒険者ギルドは共同戦線を張って事件の解決に尽力している。事件の被害拡大を防ぐ意図でキメラ討伐者と討伐協力者に報奨金がでるようにしているのもその一環だ。
だが、防戦一方であまり事件解決の糸口が掴めていない。
そこで、主にAランク以上の冒険者を特別に選定して、事件解決に協力してもらうという方針が打ち出された。
「つまり、お主がその一人に選ばれたわけじゃな」
ウンウンと得意げにうなずいて猫屋敷さんは語る。
「たぶん猫屋敷さんは勘違いしてると思うんだけど、ワタシ、Aランク以上じゃないよ? ついでに言えばCランク。そんな冒険者に依頼して大丈夫なの?」
「なんじゃそんなことか。
大丈夫に決まっておろう。ランク制限はあくまでも目安じゃ。お主は既に1体キメラを討伐しておるし、撮影した映像を見ればその実力は一目瞭然。サンダーコボルトの群れを1人で
妾としてはお主に
このクエストはきっとお主にとっても良いものじゃ。結構良い報酬がでるぞぉ? ほれ、見てみぃ」
ふーむ、褒められているので悪い気はしないな。
どれどれと、猫屋敷さんからクエスト内容が書かれた紙を受け取る。
たしかにいい金額が記載されている。事件解決の有力な手がかりを見つければ更にプラスの報酬もあるようだ。
「どう思うナヴィ?」
ざっと書類に目を通した後、一緒に見ていたナヴィに問いかける。
「悪くない内容です。Ms.猫屋敷が言うようにマスターの実力があれば何ら問題なく依頼を遂行することができるでしょう。
ただし、マスターの懸念材料になることが一点あります。
事件解決まではこのクエストに時間的に縛られることが多くなるでしょう。つまり、家でダラダラする時間が減る可能性が高いです」
「やっぱそうだよなー」
クエストの書類には“この時間からここまでの時間は必ず調査にあたること”的な内容が書いてあり、時間的に拘束される内容が盛り込まれている。
ある意味当然といえば当然だ。
“キメラ1体討伐するごとに○○円!”みたいな分かりやすい歩合制にできるのであればそれに越したことはないが、このクエストは“事件解決”というゴールこそ明確なものの、そこに至るまでの道筋や方法、労力がまるで分からない。
ある程度時間で縛らないと、“適当に依頼を受けて後は何もしませ~ん”ってなる冒険者が出てくるだろう。
まあ、このクエストを任せる冒険者は選定していると言っていたから、そんな信義誠実の原則に反しそうな人は選ばないのだろうけど。
「ちなみにさ、猫屋敷さん。クエスト内容は“事件解決のための調査”っていうざっくりしたものだけど、具体的に何をやるの?」
「自由を売りにしている冒険者に依頼するのじゃ。調査の内容は
あとそこにも書いてあるとおり、基本的には
お主も誰かと組んでもらうが、まあ、相性の良いやつを選定するからそこは安心してくれて構わん。
……どうじゃ、やるか?」
うーん……と口に手を当てて考える。
たしかにこのクエストの報酬は良い。
それこそキメラ討伐の報奨金を目当てに、現れるかも分からないキメラを求めて街中を
けれどやっぱり時間拘束が気になる。
この事件が直ぐに解決すればもちろん大丈夫だが、そんな保証はどこにもない。
流石に事件解決まで未来永劫このクエストに従事しなければならない、なんてことはないだろうが、1日やってみて飽きたので明日から辞めまーす、というのは無理だろう。
放映中のアニメはなるべくオンタイムで見たい派のワタシにとってはこの点はかなりマイナスポイントだ。
このマイナスポイントを打ち払うくらいの魅力がこのクエストにあれば受けるのも
……うん、そうだな。
直々に支部長から依頼されたクエストだが、やはりここは断ろう。
オタクを楽しむために生きているのに、オタクを犠牲にして仕事をするのはやっぱり違う。
よし、これがワタシの答えだ。
猫屋敷さんにはすまないが、これがワタシの生き様だ。生半可な材料ではこの意志を曲げることはできない。
そう――、この意志は鋼よりも固いのだ!
*
ロリがのじゃ口調なら“のじゃロリ”で良いけど、20歳代くらいの見た目の女性がのじゃ口調の場合はなんて言えば良いんだろう? ……のじゃ女?
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第37話 喉から手が30本くらい出る状況
「すまないけど猫屋敷さん、このクエストは――」
「あっと、そうじゃった!」
ワタシがクエストを断ろうとしたのに被せるように、猫屋敷さんがパンッと手を大げさに叩いた。
「知人からとてもめずらしい
たしか後ろの棚にしまったはずじゃ」
猫屋敷さんはトンッとソファから降りると、後ろの棚に向かう。
なるほど、お菓子でワタシを釣ろうという考えなのだろう。
確かにお菓子はとても魅力的だ。美味しい食べ物というのはどうしても人の心を動かす。いちご大福なんて出された日には鋼のごとき決意すら揺るぎかねない。
もちろんいちご大福だけに限らない。最近はみかん大福なんてものもあるそうじゃないか。
柑橘類特有の心地よい酸味、そしてなめらかな白
しかし残念だったね猫屋敷さん。
オタ活のためにこのクエストを断るというワタシの決意は鋼の意志を超えた意志。言うなればオリハルコンの意志とでも言うべき強固なものだ。
オリハルコンとは超高硬度の一級金属。
その名を冠する意志を砕こうなど、ひのきの棒で魔王に挑むがごとき蛮行なのだ。
ワタシに事件解決の協力をしてほしいという熱意は認めるが、お菓子などという文字通り甘美な響きだけで惑わそうとするのは無意味としか言いようがない。
まあ、今から猫屋敷さんが出してくれるお菓子がワタシ好みのお菓子であれば、街中でキメラを見かけたら討伐するくらいなら積極的にやってやろう。
さてさて、どんなお菓子を猫屋敷さんは用意しているかな?
ちらりと猫屋敷さんを見る。
猫屋敷さんは折りたたみの踏み台を持ってきて棚の戸を開けていた。
よくよく部屋を見てみると折りたたみの踏み台がいくつもある。まあ、あの低い背丈なら生活に必須なのだろう。かくいうワタシも割と背の低いほうだから人のこと言えないしね。
「あったあった。これじゃ」
猫屋敷さんが棚から茶菓子を取り出す様子を眺めていると、ワタシに電撃が走った――!
お菓子を見て、ではない。そこにある別の物が目に飛び込んできたのだ。
これみよがしに表紙がこちらを向いている、一冊のB5サイズの本。
とても簡素な表紙だ。
しかし、そこに書かれている文字列を見逃すことができなかった。
“魔法少女ナナニカ・ニカナ Re:make!
第1話 夢の中で出遭った、ような……”
それは紛れもない、魔法少女ナナニカ・ニカナのリメイク第1期の第1話のタイトルだ。
つまりこの本は、その台本なのだ。
ワタシも存在は知っていた。
ワタシが勇者に殺されてこちらの世界に来るよりも半年ほど前。アニメの公式トゥウィッターで台本のプレゼント企画をやっていたようなのだ。
もちろんワタシはそのときこちらの世界にいないので応募できていない。
手に入れたくても手にすることができない、魔ナニカグッズの一つだ――。
「……ッ! ッ、そ、れは……!」
反射的に声が出る。
しかし、自分のその声は酷く
「おや、どうしたのじゃ? そんなにも物欲しそうな顔をしおって」
猫屋敷さんがたいそう楽しそうにこちらを見てニヤリと笑う。
「ああ、これが気になるのか!
これはのぅ、偶々良い
わざと大げさに言って、こちらをちらりと見てくる。
「これにはこのアニメの主人公の声優さんのサインも入っておるでな、すごーく貴重なようじゃな。
無下に扱うわけにもいかんし、まったくもって取り扱いに困ったのぅ。
具体的に言えばキメラ事件解決のクエストを受けてくれる者で、このアニメが好きなやつがおれば譲ってもよいのじゃがのぅ? 誰か現れぬかのぅ? 誰も欲しい者がおらぬなら姪っ子にでも聞いてみようかのぅ?」
猫屋敷さんは台本を手にとって、挑発的にこちらにひらひらと見せびらかす。
ふふふと妖艶に微笑むと猫屋敷さんは台本と茶菓子を手にとって、こちらにゆっくりと戻ってくる。
ワタシの正面に座り直すと茶菓子の一つを
その挑戦的とも言える態度ですべて分かった。
ああ、猫屋敷さんはワタシをこれで完全に釣れると確信している、と。
つまりワタシは――、レイン=フレイムは物で釣れる安い女だと、彼女はそう思っているのだ。
ここでワタシが取るべき選択肢は一つしかない。
簡単だ。
つまり――、
「ワタシ、正義のためにキメラ事件を解決したい。
ついてはワタシはそのアニメが大好きなのでその台本も報酬に加えてほしいです」
「マスター……」
これは一見すると猫屋敷さんの誘惑に屈したように見えるだろう。
もしこの場に他の者が居てワタシの姿を見たのなら、鋼の意志・オリハルコンの意志とは何だったのかと疑問を呈するかもしれない。
しかし、それは大きな間違いだ。
ワタシほどの熟練者になれば、オリハルコンを粘土のごとく柔軟に扱うこともできる。
つまりそう――、強い方針をもって事に臨むことも重要だが、それだけでは二流というわけだ。一流は高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変に対応するものなのだ――!
「交渉成立、じゃな」
猫屋敷さんはとても満足げに笑った。
ついでに言うとナヴィは凄いジト目だった――。
.
Twitterのプレゼント企画に無限に応募しても無限に外れるつらたん。
.
【定期】
もしこの作品を気に入っていただけたらお気に入り登録や評価、感想などいただけるととっても励みになります。
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第38話 もちもち大福
「いやぁ、すまんすまん。意地悪をするつもりはなかったのじゃが、お主は実に良い反応をしてくれるのぅ。
「モグモグ…… 別にワタシは台本が手に入れば何でも良いけど、モグ… ちゃんとモグ… クエスト引き受けたら報酬でその台本くれるんだよね?」
「ふふふ。もちろんじゃ。
この台本はお主を参加させるためにわざわざ手に入れたのじゃからな。クエストクリアの
猫屋敷さんはころころと鈴を転がしたように笑う。
ちょっとしたイタズラとドッキリが成功してとても楽しそうだ。
結果的にワタシは猫屋敷さんに一杯食わされたみたいな状態になってしまったが、ワタシとしてはこんな展開も悪くない。
こんなに美味しいぶどう大福も食べられたしね。
入手不可能と思われていた幻の台本が手にできるなんてこの上ない幸せだ。
手に入るのであればキメラの100体や1,000体、いや、1万体くらいなら軽く屠ろう。どこかの村々を焼き尽くせと言われれば燃やしつくそう。世界征服をしろというのであれば喜んでやってやろう。
あぁ――! 高まる――!
ちなみに、猫屋敷さんに断って念の為台本の中身を確認させてもらった。
この台本は本物で間違いない。
表紙に書かれているサインも魔ナニカの主人公声優の"みどりん"こと
それにしてもこのぶどう大福美味しいな……
茶菓子としてぶどう大福を頂いているのだが、実に美味い。
ぶどうは食べるときに種が邪魔で個人的に少し苦手意識のある果物なのだが、このぶどう大福に使われているぶどうは種無しの品種のものですごく食べやすい。
それにこのぶどうはたぶん糖度も普通の品種よりも高くて美味しい。酸味も絶妙だ。
ぶどうを包む白
「わざわざワタシを参加させるためにモグ…台本を手に入れたって言うけれど、モグ… どうやって手に入れたのかとか、どうして
「別に大したことではないぞ?
特殊機動隊の隊員にお主の友達がおるじゃろう? そやつに“レインを誘うにはどうしたらよいか”と聞いたのじゃ。そしてそやつはレインはお金よりもアニメのグッズで動くと言うた。
ちょうど妾の友人にお主の好きなアニメの制作会社の社長がおっての、頼んだのじゃ」
「すご…… 何その人脈……」
ワタシがアニメ好きで特に魔ナニカに目がないという情報は、いっちーこと一条さんからの情報提供というわけか。
このキメラ事件は特殊機動隊とギルドの合同作戦だし、たまたま顔を合わせる機会がきっとあったのだろう。
まあそこまでは割と分かるんだけど、アニメ制作会社の社長の友人がいるって凄いな。どんな人脈よ。
やっぱり支部長をやっているだけあって色々な偉い人とのつながりがあるのかな。
「もしかしてこのバチクソに美味いぶどう大福も誰か凄い人に頼んで作らせたとか?」
「ふふふ、いやそれは妾が作ったものじゃ。
実家が和菓子屋でのぅ、妾の趣味でもあるから休日とかにときどき作るのじゃ。気に入ってもらえたようで何よりじゃな」
猫屋敷さんは少し頬を紅潮させて微笑む。
かわいいかよ。
「魔ナニカの超貴重台本も手に入るし、生活費も稼げるし、ぶどう大福もごちそうになれたし、結果的にワタシにとっては凄いありがたいんだけど、そんなにもワタシのことクエストに参加させたかったんだ?
ぶっちゃけた話、ワタシ抜きでも事件解決できると思うよ?」
「たしかに事件を解決するだけならお主抜きでも良いじゃろうな。
しかしな、お主をクエストに参加させれば幾分か解決までが早くなる、そんな予感がしたんじゃ」
「ふーん……
予感だけでそこまでできるんだから大した行動力だね」
「まあの。妾の予感は結構当たるんじゃぞ? 予感を大事にしてきたからこそ今の妾があるといっても過言ではない」
「まあ直感は大事って言うしね。
それで、事件の調査は今日すぐに始める感じなの?」
「そうじゃのぅ、早めに動いてもらうと妾としてはありがたいんじゃが、さっきも言ったとおり、このクエストは不測の事態に備えるために基本的に
で、お主以外にも何名かこのクエストを受けてもらうからの、顔合わせと全体説明のために2日後に集まることになっておる」
あぁ、そう言えばそんなこと言ってたな。
二人一組か三人一組くらいでチームを組んでもらうって。
ワタシにはナヴィもいるし、万が一にもワタシがキメラごときに負けることなんてないからナヴィとワタシの二人?一組でもいいが、他にも多くの冒険者がこの事件にあたるのであれば例外的な扱いは基本的にしたくないだろう。
ここはおとなしくチームを組むのに従うとして、ワタシは誰と組むことになるのだろうか。
相性はある程度考えてくれるって言ってたけど……
04支部によくいる冒険者ならたいてい顔見知りだから良いけど、全然知らない人と組むことになったら嫌だなぁ。知らない人でも美人さんとか可愛い子なら許す。
このクエストに参加できるのはAランク以上の冒険者で、ワタシみたいに声がけされた人だ。
04支部のAランク以上って誰が居たかな?
たしかワタシがこの世界に戻ってきて初めて会って色々サポートしてくれた赤坂さんはAランクだから組むこともありそう。かがりんも一応Aランクか。
ガンさんとテツさんたちはどうだったかな…… あの人達はBか?
04支部の酒場でいろんな人と飲み食いするけどみんなのランクなんか気にしたことないから他の人のランクあんまり分からん。
「とりあえずりょーかい。2日後に集まるのは
「いや、水々市冒険者ギルドの
お主はまだ行ったことないじゃろうが、水々市の中心地にそびえ立つどでかいビルじゃ。楽しみにしておれ」
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第39話 出社
「はぇ~、すっごい大きい……」
水々市の中心街にそびえ立つ大きなビルを見上げる。
何階あるんだろう? パッと見た感じ30階くらいはありそう。
「確かにとても大きな建造物ですね。
ちなみにこの中央のビルだけでなく、周りにある武器屋や道具屋もギルドが管理・運営しているものだそうです」
「へ~。ギルドが運営している店ならボッタクリは無いだろうからビギナー冒険者も安心だな。まあその分規格品しか置いてないから面白味は少ないかもだけど。
試しに帰り寄ってみる?」
「会合はそれほど時間が掛からないと思いますので寄るのは構いませんが、マスターに見合うものがあるのかは疑問です。マスターの仰るとおり所詮はただの汎用品を取り扱う店ですから」
「まあそうだけど意外とウィンドウショッピングも楽しいもんだぜ」
今日は水々市で最も栄えているところにある冒険者ギルドの本部に来ている。
ワタシがよく行く水々市冒険者ギルド04支部も割と大きな建物だと思っていたけど、スケールが違う。本部は一見すると大手IT企業が入っていそうな全面ガラス張りの大きなビルだ。
2日前に支部長の猫屋敷さんからキメラ事件のクエストを受けたわけだが、その説明会とクエスト参加者の顔合わせがここで行われる。
たしか会場は最上階の大会議室だったはずだ。
***
「ここか」
会場の大会議室についた。
ちなみにエレベーターのボタンで確認したが、この冒険者ギルドの本部は33階建てだった。でかい(確信)。
最上階は会議室が4つあり、会場はそのうち一番広い会議室だ。
「トビラ閉まってるけど普通に開けて入って良いんだよね? もしかして時間間違えてたりする?」
「いえ、集合時間までまだ余裕があります。案内表示の看板も出ているので入ってよろしいかと」
「んじゃ入るか」
トビラを開けて会議室に入ると入り口近くに居た人達が一斉にこちらに注目してきた。
あれ? 既に結構人が集まってる気がする。
冒険者って時間にルーズだと勝手に思ってたけどそうでもないんか? あ、あれか。ここ日本だから普通にみんな時間守る人が多いのか。
「お、なんだァ? また随分とちんまいのが来たな。
迷子か? おいおい、パパとママはどうしたんだァ?」
会議室入るなり男が声をかけてきた。
チャラチャラとした全身黒コーデの金髪の男。耳にピアスもあり随分とチャラい印象を受ける。もしかしてヤンキーってやつ……?
まあただ、ここに居るということは風体はどうであれちゃんとした実力のある冒険者なのだろう。
「ここはお子様が来る場所じゃねェぞ」
チャラ男は少しかがんでニチャリと笑う。
瞬間、ワタシは気がついた。
これはライトノベルとかでよく見る展開だと。
異世界転生物のラノベでは序盤に冒険者ギルドにいって冒険者登録をしようとすると、先輩冒険者に絡まれる展開がテンプレとして存在する。
“おいおい、そんなひ弱な見た目して冒険者登録ぅ? 笑わせるぜギャハハハ”という展開だ。
そしてなんやかんやあって主人公との決闘になり、主人公が瞬殺して勝つ。“な、なんだこの強さは!”と周囲の人間からちやほやされるわけだ。
今のワタシの状況はその状況に非常によく似ている。
間違いない。昨日読んだ異世界転生物のラノベで勉強したとおりだ!
十中八九、目の前のこの金髪チャラ男はワタシを子どもだと思って
ワタシの実力を推し量れていないのだ。
「どうした、だんまり決め込みやがってェ…… 帰り道が分かんねぇなら1階の総合案内所まで案内するぜぇ?」
このあとなんやかんやあって決闘になる展開に違いない。
“俺様がこんなお子様に負けるわけないんだよギャハハハ”と。
「おいブラック。その子は迷子じゃないぞ」
ワタシに目線を合わせて
「お前も見ただろキメラを倒す動画。あれ、その子が撮影したものだぞ。
他にも銀行強盗を捕まえたりもしているし、お前より強いかもしれないぞ」
カツカツと少し早足気味でこちらに近づいてくるメガネを掛けた男性。
こちらの男は落ち着いた青色を基調とした服装、というか装備で、金髪チャラ男と違い落ち着いた印象を受ける。
「あァ? 何いってんだブルー。このガキがあの動画撮ったってのか? 小学生か中学生か知らねえが、こんなお子様にできるってのかァ?」
「見たことのない不思議な使い魔を連れた、白銀の髪の女の子。……間違いない。最近話題の女の子だ。
冒険者ランクはCランクだが実力はAランク以上だと聞く。
あとその子は普通に成人の女性だぞブラック」
「まじかよ。あの動画撮ったのがこんなちんまいヤツだったのか……」
「まったく…… お前はもう少しニュースやギルド情報ネットを見ろ。
すまなかったね。えっと…… レインさんとナヴィで間違いないかな?
僕はブルー。本名は公表していなくてね、“
「あー、うん。よろしく」
「こちらこそ、Mr.ブルー」
握手を求められたので握り返す。
相棒には少しあたりが強そうだが、他の人にはすごく丁寧に対応してくれるんだな。
相棒のブラックと呼ばれていた男はザ・チャラ男の印象だが、随分と対照的だ。なんで正反対な性格なのに組んでるんだろ。気になる。
「ほらブラック。お前もちゃんと挨拶しろって」
「分かってるよ。
あー…… すまなかったな勘違いしてガキ扱いしてよ。謝罪する。人を見た目で判断するなっていつもブルーから言われてんのにな……
俺は“漆黒のブラック”。気軽にブラックって呼んでくれていいぜ。よろしくな」
「よろしく」
ブラックさんはワタシを子供扱いしたことに頭を下げて謝ってきた。
……あれ? 普通にいい人じゃね? チャラチャラした見た目でちょっと身構えたけど、この人いい人やん。
思い返してみればワタシを迷子の子どもだと思って親はどうしたのかと聞いてきたし、1階の総合案内所まで送ってくれようとしたり……
……ワタシのほうこそ見た目で人を判断してごめんやで……
その後もブラックさんたちと世間話をしてしばらくすると会合が始まった。
最終的に会場にいる冒険者はぱっと見で100人に少し満たないくらいだろうか。
この100人という数字を多いと見るか少ないと見るかは人によりけりだろうが、水々市は他の都市と比べても大きな都市なのでもう少し人員が多くても良い気はする。
まあただ、Aランク以上の冒険者の絶対数がそもそも少ないのでしょうがない部分でもある。
ワタシにはナヴィという相棒がいるがナヴィは使い魔扱いなので、ワタシは一応ソロの冒険者という扱いになる。
猫屋敷さんの話では誰かと組むことになると言っていたが、はてさて誰と組むことになるか。
ワンチャンこのブルー・ブラックコンビと一緒でも全然いいぞ。いい人たちそうだし。
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第40話 調査初日
「さて、今日から本格的にキメラ事件の調査が始まるわけだ。
改めてよろしく頼むよ、レインさん。そしてナヴィ」
「よろしくな、レイン、ナヴィ」
ブルーさんはメガネをくいっと上げ、ブラックさんはニカッと笑う。
ブラックさんって金髪でチャラチャラした見た目だし最初会ったときは完全に不良感満載だったけど、普通にいい兄ちゃんなんだよなぁ。改めて思う。見た目とのギャップが激しすぎて風邪引くよ。
キメラ事件のクエストの会合が終わって、結局ワタシはこの二人と組むことになった。
支部長の猫屋敷さんは一応相性をみてチーム分けをしているって言ってたし、この二人とは戦い方の相性とかが良いのかな? よく分からんが。
彼らとは昨日の会合が始まるまでに少し話した程度の間柄ではあるけれど、全く知らない人と組むよりは全然いい。二人ともいい人そうだしね。
「うん、よろしくね」
「ええ、こちらこそよろしくおねがいします。Mr.ブルー。Mr.ブラック」
「それじゃあ出発しようか」
ちなみに昨日の会合はワタシにとって目新しい情報はそれほどなかった。
内容としては現在判明しているキメラの種類とその特徴、確認された出現地点、キメラによる被害状況などが主なものだった。
ニュースでも報じられているが、やはりここ最近のキメラの発生数は増加傾向にあるらしい。
昨日会場でスクリーンに映し出されていたグラフは面白いように右肩上がりだった。出現数増加に伴って被害の数も増えているというわけだね。
報酬の台本のためにも、そしてワタシの行きつけのオタクショップが被害を被らないためにもこのクエストを頑張らなくては……!
ワタシのオタクライフはワタシが守る!
あと昨日の会合はギルドマスター――水々市の支部を含めた冒険者ギルドで一番偉い人――が自ら説明していた。
そう、あの寿司をおごってくれたオジサマだ。
ハスキーボイスでテキパキとクエスト内容を説明していたが、これができる大人かと感心したものだ。
ちなみに、ワタシはこのキメラクエストに臨むモチベーションが意外とそれなりに高い。
激レア報酬も手に入るし、銀行強盗のときみたいに良い成績を修められたらまたギルマスのオジサマが高級寿司おごってくれるんじゃね?的な。
まじ中トロ美味しいからね、モチベが上がるのも仕方のないことだ。
「そういえばブルーさんたちは04支部が活動拠点じゃなくて本部周辺が普段の活動区域なんでしょ? 04支部まで来てもらったけど良かったの?
ここまでの
「問題ないよ。このクエストの受注中はギルド間の転送にかかる料金が免除されるからね」
「あ、そうなんだ」
「マスター…… 昨日配布された資料にちゃんと書いてありましたよ。一通りくらい目を通しておきましょうよ」
ブルーさんは快く応えてくれたのにナヴィのジト目がひどい。
ごめんて。
たしかに昨日資料をもらったけどまだ全然読んでない。ていうか何ならあんまり読む気なかったわ…… クエストに臨むモチベーションが高いとは何だったのか。
A4の紙に印刷された数枚の資料なんだけど字が小さくてあんまり読む気になれないんだよね…… ライトノベルとかゲームのフレーバーテキストとかなら全然読めるんだけどなぁ。同じ活字なのになぜなのか。
「それに今日の調査で行くところは04支部が一番近いからね。少し歩かないといけないが、パトロールも兼ねられる」
「あー、そう言えば会合前からあたりを付けてた場所に行くって言ってたけど、具体的に今日はどこに行くの?」
昨日の会合でチーム分けが発表されてすぐにブルーさんから“調査で行きたい場所がある”と言われて二つ返事でOKをしてしまったのでどこに行くか実は知らない。
ギルド本部の周りにあったアイテムショップやら武器屋に早く寄って色々見たかったからね、聞いてないのは仕方ないね。
まあ、ブルーさんってメガネかけててインテリ風な感じだからたぶん変なところには行かないだろうし問題ないという素晴らしき判断の上での行動だ。つまりワタシってば英断。
「今日行くのは“日本魔物研究機構”だ」
「何でもその研究所には生け捕りしたキメラがいるらしいぜェ。
レインとナヴィはキメラ倒してるからいいだろうけど、俺らはまだ1回もこの目で見てねェからな。見に行きたいってのは俺がブルーに言い出したことなんだが、まァ、こんくらいのわがままは許してくれや」
「日本魔物研究機構は文字通り魔物の研究機構だ。
魔物の専門家から話を聞くのは決して悪い手ではない。キメラの実物を見て感じることもあるだろうしな」
「ふ~ん…… なるほどね」
日本魔物研究機構というのは初めて聞いたけど、名前からしてちゃんとした公の施設っぽい。国の機関なのかな。
キメラを捕獲して研究しているならなにか新情報があるかもしれないね。まあ基本的には新情報があるなら少し遅れてギルドを通してワタシたちにも情報が来そうだけど。
それよりもブルーさんの言うようにキメラの実物を見るというのは悪くない。
百聞は一見に如かずというし、敵を知れば戦でも大いに役立つものだ。
かくいうワタシもキメラの実物は自分で倒したあの1体だけだ。キメラは個体によって見た目や能力が違うという話だし、ワタシも倒したヤツ以外にも見ておくべきだろう。事件解決の糸口が見つかるかもしれん。
「その研究所にいくのは全然良いというか大賛成なんだけど、アポはちゃんと取ってあるの?
突撃隣の晩ごはんのノリではちょっと厳しいと思うんだけど……」
「晩ごはんはよくわからないが、アポイントは問題なく取ってある」
「そそ。約束とるのも結構簡単だったぜェ。なにせ俺らの同級生がそこの研究室の室長をしてんだ」
「え、すごくない? 同級生ってことはブラックさんたちと同い年くらいなんでしょ? そんな若くてトップなんだ。めっちゃ頭良さそう」
「日本魔物研究機構は政府が設置する研究所ですし、研究室長ということはマスターの仰るとおりお二人のご友人はとても聡明な方なのですね」
「そうなんだよ! ほんと学生時代もテストはいっつもぶっちぎりであいつが1位でさ、ブルーよりも頭良かったのめっちゃ覚えてるぜ!」
「悪かったな万年2位で」
「にししッ そう拗ねんなって! なッ?
あ、そうそう。実はその室長様は何を思ったのか最初は冒険者やっててな。あれはマジでビビったぜェ。てっきりお医者先生にでもなると思ってたからな」
「まあ結局すぐに辞めて研究職に就いたがな」
「冒険者から研究職への転身か…… ぜんぜん違う業種に飛び込むってすごいなぁ」
ワタシも前前世のサラリーマンのときに転職は何回か経験したけど全く違う業種に行くのはすごい尊敬する。そんな勇気はあのときなかったし、業界によっていわゆる“常識”ってぜんぜん違うからね。
「そういえば二人ってすごい仲いいよね。昔から友達なの?」
「ああ。コイツとは小学生からの腐れ縁だ」
「ちなみに研究室長様は高校ん時の同級生だぜ。なんだかんだ気があって昼飯はよく一緒に食べてたな。
……お!
話している間に見えてきたな。あのおっきい白い建物が日本魔物研究機構だぜ」
エルデの王にならなくては……
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第41話 研究所
「ようこそレインさんにナヴィちゃん。日本魔物研究機構へ。
それに青やm……っと、本名じゃなくて冒険者ネームで活動してるんだったね。ブルーもブラックも久しぶり」
白い大きな建物の日本魔物研究機構へ入って受付で手続きをして待っていると、白衣を来た優男がやってきた。
あまり寝ていないのか目の辺りにすこしクマがあるし、髪もすこしハネている。やはり研究職は忙しいのだろうか。勝手なイメージだけどモンエナドリンクとか飲んで徹夜してそうなイメージある。
「よっ! 面と向かって会うのは同窓会以来だな!」
「よろしく頼むよ、
「ふふふ。ブルーから室長って呼ばれるのはなんだか違和感があるね。
それにしても……」
羽希さんはクスクスとすこし照れくさそうに笑うと、視線をこちらに移した。
「噂には聞いてたけど、レインさんの使い魔のナヴィちゃん…… やっぱりすごく珍しい魔物だよね? 一応、私は魔物の専門家を名乗ってるんだけど初めて見る種類だ。
うーん…… すごいなぁ。一見すると金属のような質感で、まるで機械みたいな身体だ。それでいて生物感もある。ナヴィちゃんはどうやって浮かんでるんだろう…… 側面についている耳のような羽根では浮かぶだけの揚力を得られないのは明白だからやはり魔力回路を通して浮力を得ているのかな……」
顎に手を当ててまじまじとナヴィの身体をいろいろな角度から観察し始める。
やっぱり研究員なだけはあってナヴィのことが気になるらしい。職業病ってやつかな。
いきなりジロジロ見られてナヴィは不快そうだ。
スイーっとワタシにくっついて避難する。
「なにナヴィ? 照れてるの?」
「そんな訳ありませんマスター。人間にジロジロと見られるのはあまり気持ちの良いものではありませんから避けただけです」
「ああ! ごめんねナヴィちゃん! 珍しい生き物を見るとつい……」
ナヴィのジト目に羽希さんはショボンとする。
基本的に人間に見られたり触られたりするの好きじゃないしねナヴィ。使い魔登録のときに色々とナヴィの身体の計測やら測定やらさせられたけど、そのときも至極不愉快な顔をしてたな。
「レインさんのお噂も色々とお聞きしてますよ。
何でもサンダーコボルトの群れを一薙で倒したとか。動画も拝見しましたが素晴らしいものでした。
私は魔法学を専攻しているわけではないのでそちらの方面は詳しくないですが、サンダーコボルトについてはよく知っています。コボルト種の中でも上位の種です。群れると仲間と連携して攻撃してくるAランクにもなるモンスターですが、あの華麗な捌きようは素晴らしかったです」
「いやぁ、それほどでも~」
「ふふふ。ご謙遜なさらないでください。
レインさんが撮影されたキメラの討伐映像。あれ、私の研究でもとても役立っていますよ」
「いやぁ。それほどでもあるな~」
手放しに褒められると気分がいい。
そうそう。こうやってワタシを褒め称えるのだ。
「さて、ここでもっとお話もしたいところですが、本日の目的は捕獲されているキメラを見ることですよね。ご案内しますので着いてきてください」
***
「そうだ羽希。レイン達、あんまこの研究所のこと知らねェみたいだから、軽く教えてあげてくんね?」
「ああ、そうなんだね。
そうですね、ではレインさんたちに簡単にご説明します」
日本魔物研究機構。
正式な略称名はないが、よく“マモ研”やら“
その名前のとおり魔物のことについて研究する政府設置の機関で、魔物の生態や魔物のドロップするアイテムの研究、あるいは魔物が繰り出してくる攻撃についての研究を行っているとのこと。
「この研究所にはテーマによって研究室がいくつかありまして、私が任されている研究室では主に魔物の生態について研究しているんですよ」
「へ~」
「ではここで問題ですレインさん。魔物は何を食事にしていると思いますか?」
突然クイズがはじまった。
羽希さん、すごいニコニコしてて楽しそう。
魔物の食事か……
こっちも一緒なのかな?
「うーん…… 大気中に漂ってるマナ、というか魔力とか?」
「お、正解です。流石ですね。
レインさんの仰る通り、魔物は大気中のマナを摂取して生きています。もちろん、他の魔物あるいは人間を含む動物を捕食することでも栄養を摂取できますが、基本的には大気中のマナで生きています」
ほうほう。
こちらの魔物も割と一緒っぽいな。
「つまり、大気中のマナ濃度がダンジョンに比して極端に低い地上では、魔物は何もしなければ数日で死んでしまいます。
そこで私達の研究所では区切られた空間の大気中のマナ濃度を人工的に上げ、モンスターが生存できる空間を作って、そこでモンスターを研究しているのです。まあ、有り体に言えば飼育場所みたいなものですね。
今向かっている場所がそこ、ということです」
「へ~、すごいね。めっちゃ維持費とか掛かりそうだけど」
「そうですね、実際かなり維持費用はかかります。そもそもそういったスペースが数えるほどしか無いので苦労していますね。スペースがあまりないので研究する対象をある程度絞る必要があります」
「ワタシが倒したキメラってかなり大きかったけど、キメラを入れてる研究スペースは大きめなの?」
「キメラが捕獲されている場所は研究所でも一番大きなスペースになりますね。
まあ、キメラは少々というかだいぶ他のモンスターとは性質が違うようなので別にあそこでなくても良かったのですが、まあそれは良いでしょう」
【宣伝】
前作も不定期で更新してるのでもし良かったらそちらもよろしくおねがいします。
https://syosetu.org/novel/245501/
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第42話 でんでんむし
そうして研究所の中を歩くこと数分。
「研究スペースへはもう少しだけ距離がありますが、一応こちらが私達の研究室になります。
とはいっても、最近はキメラ研究のおかげでここにはあまりいませんけどね」
見た感じ普通の事務室みたいだ。
研究室と言うだけあって色々な書類が積み上がっているが、比較的片付いている印象を受ける。席がいくつかあるが、羽希さんの言うように皆出払っていて誰もいない。
「あ、ちょっとすみません。少し待っていてください」
「え? うん」
そう言うと羽希さんは研究室の中に入っていった。
なんだろう?
「ちょうど起きたんだね。
おー、よしよし。あはは、可愛い奴めぇ! 今はお客様が来所中なんだ。また後で迎えに来るから、もう少し待ってて」
廊下から研究室の中を覗いてみると、研究室の奥にある大型犬用のケージに入れられているモンスターをあやす羽希さんの姿があった。
なにあのモンスター? 初めて見た。
簡単に一言で言えばすごく大きいカタツムリなんだけど、いわゆるカタツムリのツノが3つあって、ツノの先にはピンポン玉くらいの大きさの目が付いている。あとなんか背負っている殻がめちゃくちゃメタリック。
不思議な見た目のモンスターだが、それよりも羽希さんがめちゃくちゃ楽しそうというか幸せそうな顔をしている。
あのカタツムリはペットかなにかかな?
あんまりモンスターをペットにするって聞かないけど、モンスターを研究している研究員だし、少し変わり種のペットくらい飼っていても不思議ではないか。
「相変わらずマイマイにご執心だな羽希ィ。
俺たちはだいぶ見慣れたが、それでもやっぱりなんていうか…… ちょっと近寄りがたい見た目してるよな。ま、ナメクジよりは全然マシだけどなァ」
「そうだな。というか僕は未だに慣れん。触ったらなんかヌメヌメしてそうだし。
あの鈍足そうな見た目で意外と速いしな。不意に大型犬くらいのサイズのカタツムリが追ってきたらビビる人間は多いだろう」
それぞれブラックさんとブルーさんがワタシの後ろで遠目で羽希さんたちを見ながら口にする。
まあたしかに一般的な感覚からすれば割と不気味な外見をしている。
魔物にあまり触れていない人間とかだったら夜中に見たら泣いちゃいそうかもしれん。自宅でゆっくりしているときに大きめの蜘蛛を見たときくらいの衝撃は受けるかもしれないね。
小さいサイズのカタツムリならともかく、柴犬くらいはありそうな大きいカタツムリとか女の子は泣いちゃいそう。
「えー、そうかなぁ? こんなにも可愛いのになにが苦手なんだろう? マイちゃんは性格も温厚で私に対してもすごい優しいぞ!
今は席外してるけど研究室のみんなも“マイマイかわいい!”って言ってくれるよ」
「それはお前の研究室の人は変わり者ばっかりだからだろう? ゴブリンすらカワイイというヤツのカワイイは信じられない」
カタツムリを抱えて羽希さんが少し不満そうに口をとがらせてる。
ワタシは魔物に慣れているというか、もともと魔物を統べる王様だったしこのカタツムリに全然嫌悪感はない。魔物の中にはめちゃくちゃエグいのとかもいるからこんなのでビビっていたら魔王なんかやってられないしね。
ちなみに基本魔物に対して嫌悪感が無いワタシでもアンデッドはちょっぴり苦手だ。
身なりに気をつけてくれる上位アンデッドなら別に普通なんだけど、ほとんど知能がない腐った死体みたいなやつがね……
臭いはまあしょうがないとして、見た目がね、普通にR18Gなんだよね。文字通り顎が外れたまま喋りだしたりするし。
ゾンビ種とかはリッチの部下とかに管理させてたくらいにはちょっと苦手。すまん、ゾンビ達。
「確かに少し変わった見た目をしてるけど、割とカワイイ方だと思うよワタシは」
羽希さんが少し可哀想なのでワタシなりにフォローしてあげる。
実際ゾンビなんかに比べてこのカタツムリは全然可愛い方だからね。
「レインさんにも分かるかい!? マイちゃんの可愛さが!」
すると羽希さんが目を流星群のように輝かせて顔を寄せてきた。
「え、う、うん」
「いやーそうなんだよね。マイちゃんはめちゃくちゃカワイイんだよね!あ、マイちゃんっていうのはこの子のことなんだけどね。ちなみにレインさんはすでに知ってるかもしれないけどマイちゃんの種族名はミツメアイアンマイマイっていうんだけど、その名の通り3つのツノの先についたクリクリの目が特徴でね!あと“アイアン”って名前に入っている通り渦巻状の殻の部分が金属で出来ているんだ!成分的には
マシンガントークとはこのことだろう。
言葉の奔流がワタシに襲いかかる。
羽希さんへのワタシのフォローの言葉が何十倍にもなって跳ね返ってきてびっくりだ。
「おい羽希ィ…… またいつもの出てるぞ。レインちゃんめっちゃ困ってるぞ」
「ああ! すみません! 好きなことの話になるとついいっぱい喋っちゃうんです……」
「う、うん」
好きなものになるとすごい饒舌になる…… あれ? なんだか身に覚えが……
ワタシも魔ナニカの話してるときって割とこんな感じだったりする?
……これからはちょっと周囲の目とか気にしようかな。
羽希さんは“また後でね”とカタツムリ魔物のマイちゃんに語りかけてマイちゃんをケージに戻す。
「カタツムリ―― じゃなくてマイちゃんは羽希さんの使い魔なの?」
「はい、そうです。私は昔冒険者をしていたのですが、駆け出しの頃に出会いました。マイちゃんとはそれ以来のつきあいです」
さっき羽希さんが早口で喋っていたときに15年の付き合いとか言ってたような気がするから、だいぶ長い付き合いだな。
魔王をしていたワタシだからモンスターの気持ちが見て分かる、というのもあるが、マイチャン自身も本当に羽希さんのことが好きらしい。
相思相愛で大変よろしいことですね。
「すみませんでした、寄り道してしまって。さあ、キメラのところへ向かいましょう」
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第43話 剣盾
「で、二人とも、初めて見たキメラはどうだった?」
「そうだな…… 一人で相手をするとして、まあ勝てはするだろうが最初の方は苦労しそうだ。あまり一人で対峙したくないな」
「俺も同意見だなァ。個体によっても戦闘能力に差があるらしいが、研究所のやつみたいなのは一人では面倒臭いだろうなァ」
研究室を後にしてブルーさんとブラックさんに話しかける。
研究室で捕獲・研究されていたキメラはワタシが退治したキメラとは随分と姿形が違っていた。
ワタシが討伐したキメラは狼男みたいな外見に、顎からはオークのように大きな牙、尻尾は蛇になっていて足は鶏のような足だった。
それに対して研究所のキメラは、パッと見は二足歩行の亀みたいな感じで、大きさは4~5メートルくらいはあったと思う。背中の甲羅にはコウモリみたいな翼が生えていて、顔は虎みたいな顔をしていた。
ちなみに研究室長の羽希さんによると、翼があるだけあって捕獲されていたキメラは飛ぶことができるらしい。飛ぶときは羽ばたかないらしいから、ナヴィみたいに魔力的に浮いてるのかな?
やはりニュースの報道等でも言われている通り、キメラは個体によって姿や能力が大分違うらしい。
「あの亀キメラ、亀っぽい見た目してるのに飛べるし動きも速いんだろ? 羽希にデータも見させてもらったけどよォ、あんな巨体で縦横無尽に動き回るって相当厄介だぜェ? 一人で倒すんなら結構時間かかりそうだな。
もしキメラに遭うとしても、もう少し倒しやすそうなヤツがいいなァ。タゲ管理とか楽そうなやつな」
「ちなみに1人で相手するなら面倒って話だけど、ブルーさんたちが二人で相手するならどう?」
「僕らが二人で相手をするのであれば楽勝だろうな。モンスターの相手は一人でするのと複数人とでするのではまるで話が違う。そういう意味でも今回の二人一組以上でクエストにあたるというルールは有効だ」
「だな。二人なら負ける道理がねェ。俺ら、一応Aランクだしな」
Aランク以上の人が二人いればキメラくらい楽勝か。
そういえばこの二人はどんな戦い方をするのだろうか?
ブラックさんはちょっとチャラチャラした全身黒統一のコーデだけど特に武器とか持ってないし、ブルーさんも落ち着いた青色の装備を着てるけど武器らしい武器を何も持ってない。
もしかして二人とも拳で戦う脳筋戦法なのかな?
「Mr.ブルー、Mr.ブラック。純粋に興味からの質問ですが、お二人はどのように戦うのでしょうか?」
「お、ワタシもちょうどそれ聞こうと思ってた」
「んー、まあ一応俺のジョブは戦士だ。モンスターと距離詰めて剣で戦う感じってェ言えば伝わるか? んでブルーがだいたいタンク役みたいな感じだなァ」
「もっと言えばブラックは二刀流の剣士だ。そして僕がブラックの言う通り大盾を使って戦う。ブラックは攻撃力はあるが向こう見ずに結構突っ込むからな。僕が守ってやらないと不安だ」
「あァ? んだよそれ。お前ェは俺の保護者かって」
ブルーさんの言葉にブラックさんが笑って応える。
「あれ、でも二刀流とか大盾使いとかいう割には二人とも腰に刺した短剣しか無いようだけど……?」
「ん? あァ、俺達は普段この腰のポーチに武器入れてんだ。いわゆるアイテムボックスってやつだな」
ブラックさんが自分の腰につけているポーチをちょんちょんと指差す。
ああ、そういえば今の日本には普通にアイテムボックスの魔法が付与されたかばんやらポーチやらが売っているんだった。ワタシは普段魔法で亜空間を呼び出してそこにものを仕舞ってるから気にしてなかったけど、この世界でもアイテムボックスを普通に使ってるんだ。
ふーん…… 結構見た目は小さいね。
アイテムボックスの魔法を付与されたものは品質によって性能が大きく違うと聞く。
つまり安物は見た目とほぼ変わらない容量しか無いが、高いものは見た目以上によく収納できる。ブラックさん達のアイテムボックスもきっと良いものなんだろうね。
「僕らもダンジョンの中で動くときは常に武器や大盾を身に着けているけど、街中ではそこまでしないね」
「しかも俺らのアイテムボックスはすごいぜェ? ショートカット登録ができるスグレモノだからよォ、こことここのボタンをこうやって操作すれば――
……よっと。このとおりだぜェ」
ブラックさんがポーチに付いたボタンを得意げに操作すると、なにもない空中に二本の剣が現れ、それを慣れた様子でブラックさんが手に取る。
一本は刀身が真っ直ぐな太い剣。
もう一本は刀身が少し弧を描いている剣。
大きさは一緒くらいだが、左右で違う種類の剣を使って扱いにくくないのかな?
「どうだ?」
「へー、すごいね。アイテムボックスに全然興味なかったからそんな機能があるなんて知らなかった」
とその時、急に周囲の魔力の流れに乱れを感じた――。
この乱れ方には覚えがある。
ちょうど数日前、キメラを倒したときに感じた。あのとき、キメラが出現するときに現れた黒いモヤ、その魔力だ。
「な、なんだ――!」
それは誰の言葉だったか分からないが、声のする方を見れば思った通り、空中に浮かぶ黒いモヤがあった。
「ね、ナヴィ。あれキメラのやつだよね?」
「はい、マスター。先日のものと同じような魔力反応があります」
やっぱりね。
「……空間の魔力反応に強力な反応あり。――マスター、キメラが出現します。ご注意を」
ナヴィの言う通り、黒いモヤが出現してすぐ、モヤに一瞬魔力の乱れが生じた後キメラがモヤから現れた。
馬のような4本の足の胴体に人間の上半身をくっつけたような身体。神話に出てくる半人半馬のケンタウロスのような出で立ちだが、顔に当たる部分は人間のそれではなく、羊のような、或いは悪魔のような顔をしていた。
右手には大きな槍を携え、左手には丸い形をしたラウンドシールドを装備している。
馬のような下半身をしているが、モンスターの身体の大きさは普通の馬なんかよりもかなり大きい。
遠目だが、こいつも4~5メートルくらいはありそうだ。
キメラは悠々とモヤから出てくると逃げ惑う人々をニタニタと笑いながら見下ろす。
自分に恐れおののいて矮小な生物が無様に逃げる様はさぞ滑稽に映っているのだろう。
そしてふと、逃げ惑う矮小な生物の中に全く動じていないワタシ達を見つけた。
「あ。こっち来るみたいだね」
キメラはこちらを真っ直ぐ見据え、闘牛などが威嚇するときに行う地面を足でひっかく動作をしている。
……面倒だけど相手するか。倒せばお金でるし。
この前みたいに動画に撮っても良いけど、目新しい情報はあんまりないだろうし、ギルドにも高く買い取ってもらえないだろうから良いや。
「おっと。レインちゃん、ちょっと待ってくれ。
ここは俺らにやらせてくれねェか?」
ブラックさんはポーチから取り出していた2つの剣をもう一度強く握り締め、ワタシの前に立つ。
「そうだな。いい機会だし、レインさんにも僕たちの実力を知ってもらおう」
「え、まあいいけど……」
「安心してくれ、討伐報酬は3人で山分けだ」
ブルーさんは先程ブラックさんがやったように腰につけているポーチのボタンを操作して大盾を取り出し装備する。
火炎魔法でキメラをこんがり焼こうかと思ったけど、この二人に任せてみるのもいいだろう。
一応、一緒に働くパーティメンバーだし、実力は知っておきたい。もし危ないようなら助けに入ればいいしね。
「へっ、そんじゃァ、暴れるとするか!」
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