転生したらまさかの馬!? (白雪(pixivでもやってる))
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転生

はじめまして


転生したら馬でした。

 

いや、これ誰得???

 

 

私は普通の女子大生。短大に通いバイトをしちまちまと生活していた。

 

まあそれなりに充実してたしボッチでもなかった。

 

夜、家に帰ると鍵が開いており、不審に思ってドアを開けると家を漁る強盗。

 

思わず声を出してしまってそのままグサリ。

 

不思議と痛みは感じなかった。意識がなくなる瞬間思ったこと…………は特にない。

 

けれどフラッシュバックした人生の走馬灯に友達とのある会話があったのだ。

 

「ねえねえ、ウマ娘って知ってる?」

「知らない。何それ?」

「現実の競走馬が擬人化して女の子になったのよ!牡馬が女の子!」

「へえ。この子可愛いね。」

「あー!その子はね………………………………」

 

 

 

肝心の名前が出てこない。なんだっけ?やけに変な名前だったような。

 

「おーい、ジゼル。おはよう。」

おはよう、えーと。原厩務員さん。

 

彼は私達馬のお世話係みたいなものだ。うん、多分そう。

ジゼルというのは私の名前で正式名称があるらしいが知らない。

 

ジゼルって…………バレエのだよね?悲劇だった気がするけど名前つけるセンスなさすぎ。

 

つまり推測するに私は牝馬?かな。

体の作りからしてそうだと信じたい。

 

牝馬かあ…………。牡馬じゃないだけマシかな。

 

「ジゼル、来週はデビュー戦だぞ。ここの期待の星だ、頑張れよ。」

まあ頑張りますよ。頑張って億目指します。

 

「父親がすごいことをしたのに産駒は活躍した馬がいないからな。本当に頑張れよ!」

父親はすごい馬らしい。ここのヒーロー的存在だとか。

 

答える代わりにヒヒッと鳴く。訳するともちろんだ!という意味。

 

「はは、お前は本当に言葉がわかるみたいだな!今まで見た中でもトップクラスに頭がいいよ。」

そりゃ元人間だし。

 

「原、彼が来た。ジゼルの騎手をやってもらうから会わせてやってくれ。」

「分かりました、岩井さん。」

 

調教師である岩井さん。優しそうな人で穏やかな性格。

 

騎手か、知ってるのは武騎手くらいだな。流石に乗らないか。

しかし乗せるならイケメンがいい。しょうがないでしょ!元人間の女なんだから!

 

原さんに連れられ、草を踏み歩く。走りたいけど迷惑をかけるから我慢してる。

本能や味覚はやはり馬寄りになるのだ。

 

「和久、この子がうちの期待の新星、牝馬のテイエムジゼルだ。」

…………テイエムジゼル?

 

それに、和久?

 

前世の記憶をフル回転させる。それは確か…………

「オペラオーの娘ですか。…………よろしくな。」

 

私の父親世紀末覇王や?!?




しばらく競走馬編続くけど早めに終わらせたい。


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顔合わせと実力

テイエムオペラオーは強いんや、決してラキ珍ではない!
て言うと「産駒弱くね?ディープ産駒は強いやん」と反論されます。
私は怒った。よし、小説を書いてやろうと。


まさかの父親世紀末覇王。

 

あのとき可愛いと思った女の子の元ネタだったとは…………。

オペラオーは和久騎手との関係も素敵だと友達が言っていた。その子供の私と組むのは当然、なのか?

 

まあイケメンだし!?合格!

 

その意を込めて背中に乗るよう体を向けて鳴く。

「話に聞いてた通り人間みたいな馬やなあ」

 

和久さん…………(面倒くさいからリュージと呼ぶ)もといリュージはからっとした笑顔で乗ってくれた。明るく優しそうな人である。

 

「よし、試しに走ってみいや」

「いくぞ、ジゼル」

 

アイアイサー!

 

私は背中に誰かが乗って走る感覚を覚えた。意外としっくりきて驚いた。あまり重いと感じなかったし。

 

しばらく走った私達は牧草地をぐるぐると回ってゆっくりと原さん、岩井さんのもとへ戻った。

 

私は他の人の手で休むように促された。その際にリュージに「これからよろしくな!」と鳴いた。リュージは笑って手を振ってた。

 

___________

 

 

「で、和久、どう思う。ジゼルは。」

 

「すごいと、思いました。オペラオーに乗って勝ち続けた感覚と似てる…………もしかしたらオペラオーと同じく秋古馬三冠を取れる器なのかもしれません。」

「それ以上は、行けそうか。」

 

「…………俺の騎乗次第ですね。オペラオーは邪魔をしないのがベストだったけどジゼルはそうかはわかりません。」

「じゃあ、来週のデビュー戦はジゼルの邪魔をしないような騎乗をしろ。もし負けたら考える。」

 

世間のオペラオーの評価はあまり高くなく和久自身の評価も高くない。牧場はそれに歯痒さを覚えていた。そのため、デビュー前から才覚が現れているテイエムジゼルに期待してる。

 

それに、とオペラオーの調教を担当した岩井は思う。

 

あの奇跡のような馬をもう一度見たかったのだ、と。

 

 

 

____________

 

私の他より秀でているところは馬体でも末脚でもなく、頭脳だと思っている。

 

もちろん、脚の速さには自信があるが。それよりも前世人間だった頃の理性的な目を活かせれば勝ち続けることができるかもしれない。

 

馬は記憶力がいいと聞くが、流石に私みたいに勉強できるほどの頭脳は持っていないだろう。持ってたらちょっと引いてる。

 

レースを分析し、何よりゴール板及び道と長さ、坂を知ってる。スタミナ調整ができる。これはデカイ。まあ騎手の仕事だけど。

 

でも、…………

 

『オペラオーってさ、普通に最強だと思うんだよね。言いすぎかもしれないけどあの記録は評価されるべきだよ。でも産駒が言うほど活躍していないから舐められがち。人気もなかったしね。』

 

 

………………………………頑張ろう。




実在の人物名は控えたほうが安全なのではないかと指摘を受けました。
なのでこの小説では、実在の人物名を多少変えています。
ご了承下さい。


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デビューから桜まで

拙者、競馬初心者ゆえ


今日も今日とて馬生活してます。

 

デビュー戦?結構楽勝でした。脚も残して勝利できたし。

 

話を聞く限り私の父親はギリギリで勝つ方法、僅差圧勝というものをしていたらしい。

なんでも、叩き合いでは負けなかったとか。

 

強さがわかりにくいから未だに良い成績を残しているのに過小評価されてる。

正直、父親がそんなふうに言われるのはちょっと我慢できない。たとえ会った記憶がなくても、私の父親なのだ。

 

ということで、私が父と同じくらい活躍すれば認められるんじゃね?と考えたわけ。

 

馬って産駒も評価の一因らしいしね。

 

だから私は頑張って一着を取る!!まずは桜花賞だね!

 

………………………………………………………………私、チューリップ賞取ってたの!?気づかなかった!

 

 

アホの子やないか!

 

__________________

 

うわ、緊張してきた…………。

 

私のいるここは阪神競馬場。桜花賞の舞台だ。一着の賞金は一億五百万円。

 

普通は牝馬って桜花賞、優駿牝馬、秋華賞の牝馬三冠を目指すらしい。

 

私はどのレースでも勝ちを目指すだけだけど。

 

まずは、坂の場所とか距離とか覚えなくちゃ。最低、牝馬三冠とれなくても馬場を覚えておくのは無駄なことじゃない。

 

私は、古馬王道完全制覇を狙っている。

 

_________________

 

『最終四コーナーに入りました!先頭はラインクラフト!』

 

『なんと最後方の大外からテイエムジゼル!テイエムジゼルだ!』

 

『驚異的な末脚だ!!まるで翔んでいるかのようだ!』

 

『そのまま一馬身のリード、凄まじい走り!』

 

『一着はテイエムジゼル!テイエムオペラオーの娘!女王になるためにまずは桜花賞を駆け抜ける!』

 

_________________

勝ちました。うん。

 

女王とか恥ずかしすぎるんだがあの実況!?はあ〜…………。

 

最初はとりあえず最後尾でどんな感じか様子をうかがっていたの。

で、予想より遥かにスローペースだった!無茶苦茶焦ったわ!?

スローペースになりやすいのか…………覚えとこ。

 

しかし、私が一着を取り続けるということは史実では一着だった馬が負けるということ。

それを頭に常に置いて走ろう。

 

 

 

それよりさ、人参!お腹空いたよー!

 

_________________

「まずは一冠目だな、おめでとう。」

 

「ありがとうございます。」

 

「このままオークスと秋華賞も勝てよ」

 

「はい、頑張ります。」

 

「あと、最後方からの追い込みは脚に負担がかかるから辞めといたほうがいい。……………………これ、オペラオーの皐月賞の時にも言ったな。」

 

「あぁ…………そうですね。懐かしいな。」

 

「ジゼルは素質がある。それもとびきり天才なやつだ。それをあの頃より少しは成長したお前は活かしてくれるんだろう?」

 

「はい、もちろん。まさか、こんなに早く会いに行けるとは思いませんでしたけど。」

 

「…………ジゼルをオペラオーの二の舞にはさせたくない。勝ち続けて欲しいし、してほしくない。複雑だな。」

 

__________________

次はオークスか。東京競馬場。

 

楽しみだなあ。

 

スタミナもあるし今回で脚も他と比べて速いことがよくわかった。あとはそれをうまく使うだけ。

 

まだこんなのは序章に過ぎなかったことを、古馬になって宿敵と出会うまでは知らなかったのだ…………。

 




皆様お察し、2005年桜花賞です。
そしてこの年はある馬が…………。
主人公にはある馬とライバルになって貰います。
それが最終的に主人公の株が無茶苦茶上がることに繋がります。


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有馬のちライバル発見

ただひたすらにボーッとする。

 

ぼんやりと空を眺めてモグモグとご飯を食べる。食べすぎると豚になっちゃうが私はそんなに太くないので多少重くなっても大丈夫、なはず。

 

なぜ私がこんなに覇気がない状態かというとオークスと秋華賞で一着を取ったからだ。

望んだ牝馬三冠。勿論嬉しいし過去にないレベルでテンションが上がった。  

人間だったら「私、今なら空を飛べるわ!」と世界中に届くように叫んで最高に頭可笑しい人になってる。

 

 

シーザリオもエアメサイアも、強かったと思う。

その馬たちをぶっちぎって勝った私が言うのも何だが。

 

ラインクラフトも速くて桜の女王にふさわしかった。

 

でも、私はそれらに勝った。

ただ単純に競争心が冷めてしまったのである。

 

本当に強い、私にぶっちぎりで勝つ馬が見たい。

 

私が必死になって食らいつくような馬が、父にとってのメイショウドトウのようなライバルが欲しい。

 

こう、願うことは高慢なのだろうか。

 

「ジゼル、お前の次のレースが決まったよ」

厩務員さんだ。毎日馬と接しているお仕事なんて好きじゃなきゃできないだろうなあと尊敬する。

 

「有馬記念だよ。お前の活躍を見てくれた人が投票してくれたんだ。…………まあ、無敗の三冠馬ディープインパクトの次だったけど。」

 

無敗の三冠。私と同じ。

最近話題の「飛ぶように走る馬」か。無敗の三冠なら、牡馬なら私も頑張らないと勝てないかもしれない。

…………なんか、やる気出てきたかも。

 

「でも、皆ジゼルの走りを期待してるのは変わらない。和久と一緒にがんばれよ、負けるな。応援することしかできないが。」

 

困ったような笑みを浮かべる。

 

ー 大丈夫、私頑張るよ皆 ー

 

まだ見ぬ「ディープインパクト」への期待をにじませながらテイエムジゼルは微笑んだ。

 

________________________

 

鹿毛の、周りに比べると比較的小柄な馬だった。

 

これといって何も特徴がないと思うかもしれないがこの馬は目が綺麗だった。

吸い込まれそうで、周りにかける圧は古馬と変わらない。

 

あぁ、本物だな。

 

そう思ったのはどちらだろうか。

 

_________________________

 

『第4コーナーを回って最後の直線だ!タップダンスシチーを交わしてコスモバルク先頭!』

 

もっと、速く。

 

『残り150メートル!ハーツクライが先頭です!ディープインパクト、テイエムジゼル上がってくる!怒涛の追い上げ!』

 

隣のこの馬に、本物に負けないように。

 

『ディープインパクト届かないか!?テイエムジゼルはスピードを上げてハーツクライに追いついた!』

 

まだ、まだ。

 

『僅かにテイエム抜け出した!!一着はテイエムジゼル!無敗の牝馬三冠の女王は無敗のクラシック三冠にも決して首を下げなかった!』

 

はあはあと乱れる息を整える。

全力だった。負けないという強い意志が最後は力になった気がした。

 

それに、まだ勝ったとは言えないかもしれない。

 

ちらりと横目で鹿毛の馬を見る。

 

(明らかにアレはまだスイッチが入ってなかった。)

 

万全な走りではない。万全だったら少なくとも二着のハーツクライは抜かせるはず。

 

それに、普通の走りだった。

噂の飛ぶような走りではなく。

 

ハハッ、と思わず笑ってしまう。馬だが。

 

(化物じゃん、面白い。)

 

あの脚は天性のものだ。あの馬は別格だと走って気づいてしまった。

自分と競り合うことが、追い抜かすことができる天才馬なのだこいつは。

 

だったら自分が思うことは一つだけ。

 

(次も勝つ、勝ち続ける。)

 

 

女王は新しき道へ走り出す。

 

 

 




うちのディープは主人公に負けたくないので最終的には2007年3月辺りまで引退しません。
引退レースが高松宮記念になりますね。ナリブと同じ。(まあナリブは怪我で引退したから)

有馬記念が引退レースの馬、多いですね。
最初、引退レースまで史実改変するのはなあ、と悩みましたが主人公がいることでかなりの史実改変なので結局変える事にしました。


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2006年のチャレンジ

今回の内容:ドキドキ!激動の2006年編!ジゼルはグランドスラムできるの!?
テイエムジゼル出場レース(2006年版)
京都記念
日経賞
春天
宝塚
オールカマー
秋天
ジャパンC
有馬記念


新年あけましておめでとうございます。

競走馬としては全盛期が多い4歳になりました。

 

5歳でも勝てる馬はいるけど能力がいやでも衰えてくるみたい。

だから、非常にハードモードだけど今年、古馬王道完全制覇を目指す!  

 

最大の敵はディープインパクト。

強すぎるからもしかしたら皆マークしてくれるかなーと思ったけどいつも大外からぶん回してるし意味ないね、うん。

 

必勝法が思いつかないのも問題だ。いつかは負けそう。確実に勝てる手ないかなあ。

 

もうコース全部私の得意な重馬場にしてくれないかな!?

あの驚異的な脚には通じないかもだけど!!

 

何にしろ次の勝負は京都記念。

私の絶対グランドスラム目指すよオーラに影響されたのか皆ノリノリだし。

 

和久騎手も調子いいしいけるかな。

 

_________________________

京都記念    一着

日経賞     一着

天皇賞(春)   レコード勝ち(なお二着もレコードを破る)

宝塚記念    一着

オールカマー  一着

天皇賞(秋)   一着

ジャパンC    一着

_________________________

 

グランドスラムまであと一勝なのよ。結果だけ見ると素晴らしいと思うでしょ?でもこれ結構ギリギリの勝負なんだよなあ〜!

 

G1レースで5馬身差以上つけれたのディープインパクトがいなかった宝塚記念くらいよ?

 

ジャパンCも海外馬の圧がすごくて胃が死にそうでした。

馬が胃痛とか洒落にならないけど。

 

しかも春天に至ってはお前もレコード破ったのかよ、と思ったわ。

すごすぎるだろ!?前代未聞だよ!

 

ジャパンCと秋天はクビ差だし危ないのなんのって。

 

最後はシメの有馬記念。私が優勝すれば牝馬初の有馬記念連覇らしい。

 

父親の世紀末の有馬記念は凄かったという話をよく聞く。

なんでも包囲網から抜け出してハナ差で勝ったとか。

未だにクビ差まで迫られると心臓が悪くなる私とは違うなあ。

 

包囲網、か。

 

__________________________

 

『今年最後のG1レース有馬記念がやってきました。』

 

『一番人気はこの馬、テイエムジゼル。優勝したら牝馬初の有馬記念連覇、及び史上二頭目の父オペラオーと同じ年間無敗古馬王道完全制覇になります!』

 

『二番人気はディープインパクト。テイエムジゼルに勝つことができるのはこの馬だけなのか!?それとも女王は玉座に座ったままなのか!』

 

『皆綺麗にスタートしました。スイープトウショウ少し出遅れたか。』

 

『先行三番手に一番人気テイエムジゼル。ディープインパクトは後方にいます。』

 

『序盤ですがだんだん全体上がってきました』

 

『テイエムジゼルはなんと後団に埋まっている』

 

『ディープインパクト徐々に大外から先頭集団へ』

 

『さて最終コーナーへ突入しました!残り310mしかありません!』

 

『ディープインパクト先頭!今までの雪辱を果たすために翼を広げたー!』

 

『ジゼルは来ないか!?父のように抜け出せるか!?』

 

『!!テイエムジゼル抜け出した!最大のライバルに追いつくか!?』

 

『なんという強さだ!テイエムジゼル、ディープインパクトほぼ同時にゴールイン!三着との差は5馬身!』

 

『写真判定のようです。あの絶望的な状況からよく追いつきましたテイエムジゼル!ディープインパクトの走りも見事なものでした!』

 

『この二頭はある意味同じ時代に生まれてはいけなかったのかもしれません。けれど、二頭が同世代であったことで数々の名勝負が生まれました。』

 

『結果が出たようです!一着はテイエムジゼル!父と同じハナ差圧勝だー!!!』

 

『会場は大歓声のなか包まれています。そして年間無敗、古馬王道完全制覇を親子揃って成し遂げました!この勝利により、日本競馬史上初のG1レース9勝!』

 

『牡馬に一歩も引けを取らなかった女王に拍手を!!』

 

 




次回:驚愕の2007年編!
日経新春杯
阪神大賞典(ディープなし)
高松宮記念(ジゼルとディープ引退レース)


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2007年のさよなら

今回の内容

高松宮記念とか正気?


ディープゥゥゥゥゥゥ!!!





またもやあけましておめでとうございます。

 

新しい年になりました。競走馬なら引退を考える年ですね。 

まあ一部除いて…………。

 

私の新年初めのレースは日経新春杯です。

そしてこのレース、一着は一着だけど同着なんだよなあ。

圧倒的馬身差で油断してたらディープが追い抜きそうになってて焦ったら同着でした。

猛烈に反省してる。やっぱ他の馬とは段違いだわ…………。

 

2回目のレースは阪神大賞典。

3000メートルでこのとき調子が悪かったのよ。ディープいなかったから勝てたけど。

いたらボロ負けだと思う。

 

で、明日に出る高松宮記念…………なんで短距離に出るし?

そりゃ脚質自在何でもできるテイエムジゼルとか牧場では噂になってたけど!

私は基本的には長距離!

短距離とかうまく考えて走れるかなあ。 

 

うーん、と考え込んでいると和久騎手がやってきた。レースを明日に控えているから乗りに来たんだろう。

 

「ジゼル、今までよく頑張ったな」

 

what???

 

「本当にお前は最高の牝馬や」

 

まさかこれが引退レースだったり…………いやまさか。

 

「ディープインパクトも引退レースは高松宮記念らしい。頑張るぞ、これに勝ったら生涯無敗だ」

 

マジで??ディープあんた適正距離長距離でしょ!?なんで引退レースが短距離レースなのよ!?

 

「ジゼルたちは強いから早めに引退させるんやろなあ。」

 

…………所謂、種馬と繁殖牝馬ってやつか。

私、馬と出来るかな。心を無にしてよう…………いやそれでも抵抗が…………!

 

だから人間から種族変えた転生はハードモードだとラノベであれだけ…………。

私の未来お先真っ暗では?産駒に有名どころがいなかった父親を心配してたけど私も大概そうなるのでは??

 

______________________

 

『高松宮記念、会場にはこれだけの観客が集まっています。ボルテージは最高潮。仕方ありません、世代最強馬二頭の引退レースですから。』

 

『一番人気、テイエムジゼル。今回のレースを以て引退します。これに勝てば生涯無敗の伝説の記録が作られます!』

 

『二番人気はディープインパクト。テイエムジゼルと一緒に引退。最後に一矢報いるか!?』

 

『スタートしました。内から押してディバインシルバーが出てきました。一気に先頭。』

 

『テイエムジゼル、ディープインパクトは後方から』

 

『さあ回って一気にラストスパート!先頭はやはり最強の二頭だ!』

 

『他の馬を置き去りにして叩き合い!最早あそこだけ別次元だ!』

 

『ディープ抜いた、ジゼル差した、ディープもう一回抜いた!そのまま引き離してゴール!』

 

『ようやく最後に勝ったディープインパクト!お互いもう後がない状況でのラストラン!』

 

『一着ディープインパクト、二着にテイエムジゼル!この差は二分の一馬身!』

 

『ようやく抜くことができたライバルの背中!それでもテイエムジゼルの強さは衰えませんでした。』

 

『この時代に生まれてこの最強二頭のレースを見られるなんて私達はなんて幸せなんでしょう!!』

 

 




短めでしたね。
繁殖牝馬になったあとは生々しいんで次回はテイエムジゼルまとめとウマ娘編ですね。


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テイエムジゼルまとめ

テイエムジゼル

 

2002年12月29日生まれ。

 

父 テイエムオペラオー

母父 ニジンスキー

 

テイエムオペラオー初年度の産駒。史上初のG1レース9冠馬。

17戦16勝

G1 桜花賞

 優駿牝馬

  秋華賞

  有馬記念(2回)

  天皇賞(春)

 宝塚記念

  天皇賞(秋)

  ジャパンC

G2 チューリップ賞

  京都記念

  日経賞

  オールカマー

  日経新春杯

  阪神大賞典

 

珍しい冬生まれの馬。出産予定日は1月だったが早まり12月に生まれた。

あまり馬体は大きくなく目立たなかった。だが立つのが早く、走るときにも他を置き去りにしていたくらい速かった。

 

デビュー戦で二着を大きく引き離して勝ち、既に頭角は現れていた。

条件戦も当然のように勝ち、続くチューリップ賞では大逃げをして勝った。

 

桜花賞、優駿牝馬、秋華賞では猛烈な追い込みをしてその自在な脚質を見せ、牝馬三冠を取った。ディープインパクトがクラシックを無敗の三冠で取ったことにより、史上初の牡牝の無敗の三冠を達成。

 

そして3歳最後の年のレース、有馬記念。同じ無敗の三冠であるディープインパクトとの直接対決が注目された。結果はディープインパクト三着、テイエムジゼル一着。71年トウメイ以来の有馬記念制覇である。

 

4歳時では古馬王道完全制覇を果たした。途中に凱旋門賞への挑戦が打診されたが陣営は参加しないと公表し、代わりにディープインパクトが出場することになる。

 

そして、天皇賞(春)でコースレコードを二着のディープインパクトとともに出す。それにより、日本調教馬としては異例の世界の芝、長距離部門の一位にランクイン。二位はディープインパクト。

 

このことから情報誌やテレビではテイエムジゼルとディープインパクトを日本競馬史上最強のライバル関係と載せている。

 

5歳時では3月の高松宮記念で引退すると公表しており、ディープインパクトも同じといったことから会場は満客、外も行列や人だかりが沢山いた。

レースはほぼ二頭のデッドヒートで三着との差は驚異の7馬身。叩き合いに勝ったディープインパクトが一着を取り、初めてテイエムジゼルに勝利した。

 

 

繁殖牝馬としての成績は非常に優秀。初めての相手はライバル、ディープインパクトでこれもまた話題になった。

父ディープインパクト ー ジークフリート(白鳥の湖、ジークフリート王子から)

父と母と同じ無敗の三冠を取った。通算成績はG1を7勝している。

 

父ステイゴールド ー テイエムゴールド

日本馬初の凱旋門賞制覇。だが有馬記念を最後に屈腱炎により引退。

 

最も有名な産駒は上の二頭。

 

引退後には父オペラオーを意識して「新世紀女帝」という異名がつけられた。

生涯引退レース以外負けていない。しかも二着のほとんどがディープインパクト。

 

そして、研究所が父オペラオーと同じく調べたら心肺機能が並の牡馬より何倍も強いことがわかった。遺伝性の可能性が非常に高い。

 




一応終わりなはず。
次回、ウマ娘編!


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ウマ娘編スタート!

主人公とディープはダスカウオッカと同じ時期に入学しました。

圧倒的大差によりディープはウマ娘として出演することになりました!
投票してくださった皆さんありがとうございます。
番外編を作る余裕がありましたら、スレとか子供編とかディープが男性の話とか書きたいです。


転生したらウマ娘という種族でした。

……………………そろそろ神様に訴えようかな。

 

牝馬としての人生を歩み、ゆっくりと安らかに死んでいったら…………またもや人間ではない種族。キレそう。

 

繁殖牝馬としての生活と感想?聞くな殴るぞ。

 

「お母さん、トレセン学園ってなあに?」

 

うちにトレセン学園のチラシが届いていたので聞く。トレセン…………中央トレセンのこと?それにしても友達の好きなウマ娘の世界のまんまだな。

いや、もしかしてウマ娘プリティーダービーの世界…………!?

 

友達に知られたら刺されそう。

ていうか牡馬も女の子とか私の牝馬としての大活躍というか他の名牝も霞むぞ。

 

しかも前みたいに頭脳プレーで勝てないし。

前みたいな記録出せないかもなあ…………。

 

ディープは、トレセンに入るのかなあ。

入るならあのときのリベンジしたいんだけど。高松宮記念で。

 

やるなら入らないといけないよね。

……………………まあ前は走ったり子供産んだりしかしてなかったし今回は走れるし人間(偽)として生活できるし絶好のチャンスなのかも。

 

「お母さん、私トレセン学園に入るよ。」

「あら、貴女が……………………そう、やるからには手を抜かずにやりなさい。」

「うん、もちろん。」

 

ところで走るのがメインなら入学試験とか何やるの?やっぱりレース?

 

_____________________

 

「ここがトレセン学園…………広っ!?」

 

一つの街のような広さだ。確かに沢山の多種多様なウマ娘がいるんじゃこのくらいの施設は当然なのか?

 

キョロキョロと辺りを見回すと、誰もいない。お母さんに言われて早く来たけど早すぎたのか…………。

 

ふと、隣の芝で誰かが走ってるのが目に入った。朝練だろう。

キラキラとしたオレンジの髪。同色の耳にはピアスがつけられていて派手だ。

キラキラで目が痛い…………がどうしようもなく懐かしく、目が離せない。

こんなこと、ディープと出会ったとき以来。

 

視線に気づいたウマ娘がこちらへやってきた。

 

「やあ、はじめまして!君は新入生かな?ボクに見惚れてたんだね!流石最速最強で世紀末覇王のボク!!」

 

一発目からわかる。このひと変人だ…………!

自分のことを最速最強とか世紀末覇王とか……………………え?世紀末覇王??

 

「貴女は…………」

「あぁすまない!自己紹介が遅れたね、ボクの名前はテイエムオペラオー!最速最強の美貌の世紀末覇王だ!」

 

くらり、と目眩がする。

まるで運命の相手に出会ったかのような錯覚に陥ったのにこのギャップというか裏切りというか。

 

私の父親がこんな変人だなんて聞いてない…………!



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深い衝撃、再び

年間全勝のレジェンド、再び。
父の名を受け継ぎ、神話と成った。
牝馬だから、何だ。欧州の血だから、何だ。
新世紀に降臨した女帝、
その名はテイエムジゼル。
人はそれに伝説を見た。
有馬記念。

(なんちゃってCM風)


あのナルシ……ゴホン、お父さんと別れてから学園の内部にやっと入れた。

あまりにも私が早く来すぎていて、たづなさんという秘書が驚いていた。

 

『今年の新入生は随分と早いですね。これで私が直接入れたのは二人目です。』

 

一人目は私と同じクラスらしい。そんでもって、ルームメイト。

今のうちに仲良くしておきたいな。

 

そこらの学校と変わらないが綺麗な教室。流石はあのトレセン学園。内部もこんなに……………………、かなり儲かってるな???

 

ポツン、と。所謂隣に誰もいないボッチ席に彼女はいた。

 

背は私と比べて小柄。お父さんと同じか少し高いくらい。

真っ直ぐな鹿毛を背中まで伸ばして、耳には青いリボンがつけられている。

顔はやはりまだ幼いが、意志の強そうな瞳に呑まれそうだ。

 

見覚えがある。いや、この子はもしかして……………………。

 

「ディープ、インパクト?」

 

私の声に気づいた彼女はゆっくりとこちらを見つめる。そして、至極まっとうな疑問を硬い表情で言った。

 

「何故私の名前をご存知で?」

「あー………さっきたづなさんに会ってさ、一番目に来た子の名前を聞いたの。」

 

絶対に前世あなたと走って一年間はボコボコにしてましたとか、言えない…………!

 

彼女はそうですか、と呟くと私の目の前まで歩いてきた。

私と彼女の距離はお互いの息がわかるくらい近い。

 

こんなことは初めてで固くなる。

しかも、ディープはずーっと見つめてくるのだ。

 

「やはり、貴女と私は初対面です…………。なのに、貴女と会ったときから可笑しい。」

「可笑しい…………?」

 

ため息をつき、伏せ目がちにこちらを見る。彼女もたいへん戸惑ってるようだった。

 

「まるで、戦地から友が帰ってきたかのような、宿敵と相見えたかのような、そんな高揚感です。」

「それは…………」

 

彼女は、私を覚えているのか?

……………………あながち、ウマソウルというのも馬鹿にできない。

 

「貴女の名前を教えてください。私だけ知らないなんて、ずるいです。」

 

ムッとした顔をしているディープインパクトはやはり年相応の少女だ。

人生3回目の自分は微笑ましく思ってしまう。

 

クスリ、と笑って自己紹介をする。

これから彼女の道を阻むライバルとして。

 

「私はテイエムジゼル。私がここに来たからには一番は私よ。」

 

_____________________

テイエムオペラオーはご機嫌だった。

 

なにせ、人生に二度もない運命的な出会いをしたからだ。

 

彼女と会った瞬間、ピンときた。この子を目一杯可愛がらなくては、と。

 

先輩になって張り切っているだけか?いや、違う。

何故か目が離せないのだ。

 

恋人とか友達や後輩というより、親愛に近い何か…………。

 

彼女は、自分の走りを呆けたように見ていた。 

その時点で十分嬉しかったんだが……………………

 

『私はテイエムジゼルです。センパイ。』

 

同じテイエムの名を持つものとして親近感が湧く。それにあの有名なバレエ演目"ジゼル"のヒロインの名前だ。

 

絶対に気が合う。自分のオペラの話についてこれた数少ないウマ娘だし。

 

それに、彼女の才能は凄まじいものだ。しかも開花しきっている。

覇王と名乗っている以上、後輩に負けられない…………!

 

「やあ、ドトウ!今日も相変わらずボクは太陽さえ嫉妬するような輝き…………!学園まで併走しないかね、我がライバルよ!!」

「ひえええ!!!」




オペラオーしか出てないけど次回からはもっとたくさんのキャラと関わらせたい。

ちな、テムゴ君の主戦騎手はスズカさんやクリークママの主戦騎手を務めた人。奇しくも祖父の有馬記念のブロックをし、母のライバル馬の騎手だった人に凱旋門を制覇させてしまった。皮肉。

ジーク君はクレイジーストロングの人か最敬礼の人だと思う。クレイジーストロングの人、大好きなんだけど…………やっぱ無理かな。クレイジーストロングさんがジークに乗るために日本に来た、みたいな話が昔から好き。


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選抜レース

この小説の時間軸は割と曖昧。
でも少なくともアニメ一期軸になる。一年生編は。


選抜レース。

それは、新入生が相棒であるトレーナーをゲットするための見せ場であり、トレーナーは将来有望のウマ娘を勧誘するチャンスなのだ。

 

選抜レースはリギルのような強豪だとチームで開催するが、基本的には学年全体で参加する学校行事みたいなもの。新入生たちのやる気も高い。

 

「今日は選抜レースです。2000mの芝で良バ場。一週間という短い期間ですが皆さんいい結果は望めそうですか?」

 

教師が選抜レースの説明をする。

チーム制度なんてものがあるのか。確かにトレセンに来る優秀なトレーナーの数は少ないからな。

てっきり専属のトレーナーがつくと思っていたジゼルは話を熱心に聞く。

 

「貴女たちのお披露目のようなもので、生徒会長も理事長も見に来ます。勿論、あの学園最強と名高いリギルの東条トレーナーもです。」

 

リギル。

その名を言った瞬間、ざわめきが大きくなる。リギルに憧れてこの学園に入った者もいる。流石スターウマ娘の宝庫、あのシンボリルドルフのチームだ。

 

「同級生だから、友達だからといって手を抜かないように。私からは以上です。黒板に貴女たちをブロックに分けた紙を貼るので見てください。」

 

教師はそのまま大きな紙を貼ったあと、教室から出ていった。

 

皆が気になって一斉に黒板前に押しかかる。わあ、すごい圧…………。

 

なんとかジゼルも見ると、自分は第二ブロックのようだった。

ディープは第五ブロック。離れて少しホッとする。

 

「貴女は第二ブロックですか…………一緒に走ってみたかったので残念です。」

「そ、そう?ディープは強そうだね…………。」

 

いや絶対強いでしょ。

うんうんと一人で頷く私をじっと見つめる彼女。

思ったけどそれは癖なのかな?

 

「でも、あんなことを言ったんです。相応の実力はあると信じていますよ。」

そう言うと、スッと立ち去っていく。

 

(やべー!なんであんなこと言っちゃったの私!一番は私よ、ドヤアとか!)

 

その場には頭を抱える少女が取り残された。黒歴史の発見に身を悶ている可哀想な少女が。

 

_________________________

「第一ブロック終わったよ、ジゼルさん。」

「あ、うん。ありがとう。」 

 

クラスメイトと共にゲートまで歩く。とうとう自分のレースが来てしまった。

ヘマなんてできない。話の中でお父さんはリギルに所属していたはずだ。

(私も、そこに入りたい……………………!!)

 

大丈夫、私はG1レースを経験してるんだ。しかも一番人気の責任をわかっている。

こんなことで躓いていられない。

 

 

 

「……………………ようやく、それらしい顔つきになりましたね。」

見せてもらいますよ、と呟く少女。

 

ゲートが、開かれた。

 

__________________________

 

(あぁ、やはり……………………)

 

ぬるい。まだ新入生なので仕方がないが、確か新馬戦もこんな感じだったか?

 

(自在の脚質だけど、普通に走ってるのに私は一番手でこんなにも後続と差がついてる。)

とりあえず普通に走ろうと飛び出して、いつも通り先行にして、最後の直線で皆と並んで抜け出す…………そう計画していたのに。

 

「むりいいい!!!」

まだ半分しか走ってないじゃん、と呆れたようにため息をつく。

 

(もう好きに走ろうかな。)

 

 

「うそ…………!?」

彼女はさらにスピードを出し、周囲を驚かせる。だってただでさえハイペース気味でバテるのではないかとトレーナーたちは予想していたのに。

彼女にはバテるという言葉を知らないくらい、他とは圧倒的だった。

 

彼女は坂も難なくクリアし圧倒的大差で一番を手に入れた…………。

 

_________________________

「二着とは…………あぁ、そんなについていたか。」

なんと、十六バ身。もちろん彼女は全力ではないが他の人たちはやはりトレーナーがいない状況で走ったのもあるだろう。

 

それに、経験は私のほうが上だ。伊達にグランドスラムして無敗の牝馬三冠取ってるわけではない。

 

才能も、使い方も知っている。ペース配分もだ。

 

ちらり、とトレーナーたちを見ると明らかに言葉を失って驚いている。やはり新入生にしては出来すぎただろうか。

 

でもシンボリルドルフやナリタブライアンとやったら負けるかもしれないし。

 

「すごい…………レースタイムがシンボリルドルフやマルゼンスキーより何秒も速い…!」

「アレは逃げか?」

「バカ、逃げじゃなきゃあんなに最初からハイペースなわけ無いだろう!?」

 

ヒソヒソヒソヒソと囁く彼ら。遠巻きとかあまり好きじゃないんですけど。

その声はすぐに収まった。何故かって?

あの、シンボリルドルフが私の目の前に来たからだ…………!

 

「テイエムジゼルだね。今のレースは凄かった、まさか私だけではなくマルゼンのタイムまであんなに気持ちよく抜かれるとは…………」

 

若干苦笑いをする皇帝。当時の皇帝と言ってもやはり好タイムだし今は何倍も強いし関係ない。

 

「うちの、リギルのトレーナーが君を呼んでいる。本来はリギルの選抜レースに参加して一着を取った子を入れるけど今回は特別だ。」

大人しくシンボリルドルフの後を追う。

 

(やったあ!!!第一関門クリア!大成功!!)

 

内心では興奮気味のジゼル。

ベンチに座っているクールビューティーな美人が二人を目に映す。きっとあの人がトレーナーだろう。

 

「私は東条ハナ。リギルのトレーナーをしている。」

「テイエムジゼルです。」

「お前の実力を見せてもらった…………あの連中は逃げとか言ってるが何でもできるのだろう?」

「当たりです。流石一流トレーナーですね。」

 

わかる人にはわかると思ったがやはりこの人は出来るな、とジゼルは思った。

「リギルならお前の実力を伸ばせる…………リギルに入らないか?」

「謹んでお受けします。」

 

内心はリオのカーニバル並の盛り上がりだ。

 

「ここは厳しいぞ、生半可な覚悟ではリギルは入れない。」

「ええ、存じています。」

 

メンツが明らかに豪華やん。

 

「そうか、ならうちのチームに入ることを承認する。書類は後で持っていくから他のレースも見るといい。」

 

ふと、疑問に思った。

「私だけですか?他の子のは見ないんですか?」

「おハナさんは最初から君にしか眼中になかったのさ。入試のレースタイムを見て、この年は君だと言っていたよ。」

 

つまりは私、リギル入り確定してた…………!?

あんなに気張る必要なかったじゃん!!

 

「ではテイエムジゼル、明日からリギルのメンバーとしてよろしく頼む。」

「はい、よろしくお願いします。」

 




おハナさん好き。


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トレセンの人々

副題︰同級生とライバルと


「あ、」

「あ、」

声が揃ったあと二人で顔を見合わせ、叫ぶ。

 

「「なんでここにいるの!?/いるんですか!?」」

 

何事かと粟東寮の寮長であるフジキセキが駆けつけ、あぁ、と笑って言う。

 

「君たちルームメイトだよ。」

 

______________________

 

(確かにたづなさんもそういうこと言ってた気がするけど!)

どうやらディープの実家はかなり近く、今まで実家から通っていた。そのため荷造りをゆっくりしていたら学園から早く引っ越すようにと催促が来たらしい。

 

(なるほど…………)

 

「さっきはすみませんでした。これからよろしくお願いします。」

「私もさっきはごめんね。改めてよろしく。」

 

ディープの机はさっぱりとしていて、棚には本がぎっしりと詰まっている。どれも小説のようだ。無駄がないと言ったら分かりやすい。

色もほとんどがモノクロだ。

 

「…………リギルに入ったようですね。」

「知ってるんだ。」

「シンボリルドルフ会長が貴女のところへ来ていたので。皆噂していましたよ。」

 

やはり皇帝は目立つ。隠密行動とか向いてなさそう。

遠巻きにされるのかな、嫌だな〜。

 

「ディープはトレーナー、見つかった?」

「えぇ、かなり無理矢理にですが…………」

「それ、大丈夫?」

 

ぐったりと疲れたような顔をしているので聞いてみると、どうやら相容れないタイプの問題児な先輩と会ったらしい。

 

「言葉が意味わからないし、行動も突飛だし…………理解できそうにありません。」

「つまりはハジケリストなんだね。」

 

こういうときに親の顔が見てみたいって言うのかな。

 

「でも、基本的には放任なんですけど、それが新鮮です。」

「リギルは徹底的に管理ていう感じかな。でも私自分で考えてトレーニングしたりするの苦手だからさ、合ってるかも。」

 

しばらく他愛もない話をした後、ふっと真面目な顔になったディープ。

 

「一番は自分だと、そう言ってましたね。」

「ア、ハイ…………」

 

黒歴史!黒歴史!

 

「私です、私が一番になります。…………でも、今日の貴女の走りの方が、何倍も素晴らしかった…………!」

 

「ディープ…………」

 

「私、貴女に絶対に勝ちます。」

「…………望むところだよ。」

 

_____________________________

 

「ちょっと来てくれないかしら?話があるんだけど…………。」

 

一昔前のギャルゲーのツンデレ巨乳ツインテ美少女が私のところに来た。

…………なんだろう、今お昼なんだけどな。

 

「すぐ終わるから!」

「スカーレットさん、私もいいですか?」

 

ついていこうとするとディープも入ってきた。知り合いかと聞けばチームメイトだと答えられた。

 

「いいわ、アンタも来なさい」

さらに口調がツンデレぽく…………。身内にだけなるタイプかな?

 

比較的人気の少ない中庭。そこにいたのはボーイッシュなウマ娘だ。

「話とは?」

 

若干スカーレットさんに睨まれてるのは置いといて。

「スカーレットはな、自分が一番じゃなきゃ気がすまないんだよ。」

 

お、おう…………。字面だけ見ればただの性格悪いやつ……。

 

「でも、昨日の主役はアンタだった。準主役は二番目に良いタイムを出したディープ。アタシは、ただのモブだった。」

 

ディープすっごいな!いや、私のライバルなんだから当然だけど!

 

「だから決めたの。アタシ、アンタには絶対負けない!首洗って待っていなさい!!」

 

昨日も同じこと言われたな。何なの?そんなにライバルって簡単にできるの?

 

「と、言うことだ。この学年で一番強いのはアンタみたいだしオレもアンタを超えるよ。」

「大丈夫、簡単には超えさせないから」

「……………………ジゼルのライバルの座は、譲らないから。」

 

ディープ…………!と謎に感動する。

静かで激情家タイプではない彼女がこんなことを…………!

 

「アタシはダイワスカーレット、アンタを超えるウマ娘の名前よ!!」

「オレはウオッカだ。よろしく。」

 

 

お父さん、友達兼ライバルができました。

やはりいいですね、こう言うの。青春って感じで。

放課後お父さんと一緒に練習できるのを楽しみにしてます。

 

 

 

 

 

私、ファザコンみたいじゃん。はっず!!!



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デビューへ向けて

リギルでも頭角を現すジゼルさん。 
スピカ(まだチーム認定されてない)でヤベーやつとして沖野Tを戦慄させるディープ。

デビュー時期とトリプルティアラ挑戦時期について考えました。馬鹿なりには頑張ったと思います。


ハロハロー、テイエムジゼルです。

私は今、リギルに入って初めての練習を経験してます。

 

トレーナー…………おハナさんは指示がとても適確で調教師みたいだから前と同じでやりやすい。

 

私は初めてだから体力造りメイン。ひたすら、走って、柔軟して、ダッシュ練習をしている。これが結構キツイけど何も考えなくていいから楽。

 

「ジゼル!もっと足の回転数を上げろ!」

「はい!」

 

やっぱり私だけじゃ自分の悪いところは分からない。だからおハナさんがいることはかなりメリット。

…………あぁ、早くお父さんたちに混ざりたいなあ。

 

_______________________

 

「……………………センパイ、何してるんですか?」

「あぁ!これはね、ボクの愛用の手鏡ジョセフィーヌさ!!ありふれた手鏡ではボクの美しさに耐えきれず割れてしまうからね!」

 

休憩中、ドリンクを飲んでいたら一人だけキラキラしながら変なポーズをとってる先輩がいた。

ハイ、私のお父さんですね!! 

 

小さい女の子がぬいぐるみとかに名前をつけるのはわかるんだ。でも自分を見る手鏡にいい年した貴女がつけるのはナルシストの塊なんだよ…………。

 

トレセン学園はこういうのばっかなの?????

 

相変わらず手鏡で自分の姿を熱心に見ながら私に話しかける。

 

「リギルの練習はキツいだろう?大丈夫かい?」

「はい。むしろ楽しいです。」

「それはおハナさんも浮かばれるね。練習の厳しさと楽しさの両立は難しい。でも逆に両立出来ればぐんぐん力は伸びる。ボクのようにね!!」

 

シュバッと変なポーズを決めながら言われるとなあ…………。

 

「おハナさんは君にかなり期待している。勿論、ボクも先輩たちもだ。」

「大丈夫です。期待は裏切らないと約束します。」

 

ニコッと安心させるように笑うとようやくこちらを見た。

どこか心配そうな顔をしている。らしくもない。

 

「だから君がその重圧に潰されそうになったときは…………誰でもいい。ボクでもルドルフ先輩でもフジ先輩でもいいから頼るんだ。……………………君はもう、リギルの仲間なのだから。」

 

お父さん…………。

私のこと、心配してくれてるんだ。

 

胸の奥が温かい。こんな感覚は久しぶりだ。

 

じーんとその感覚を堪能していると、おハナさんが私を呼ぶ声が聞こえた。

お父さんに一言言って急いで向かう。

ウマ娘の"急いで"は洒落にならんから手加減して。

 

「何か御用でしょうか?」

「今、理事長から通達があった。…………新入生はお前しかいないうちにはさして問題はなかったが。」

 

「……………………レースのことについてですか?」

「あぁ。今年はかなり変更点があるらしい。」

 

おハナさんは私に余すことなく伝えてくれた。

まとめると、

1、今年の新入生のクラシック・ティアラ路線に関しては新入生を2つに分ける。

2、なんでかというと今年は入学した人数が多いから

3、つまり最初にやる子たちは早くて2年後。次にやる子たちは少なくとも最初にやる子たちのレースが終った次の年から。

4、まあ要するに一年生全員で狙いに行くわけではないよと。

5、チームの場合、一年生を最初にやるか最後にやるか2つに分けること。

 

なるほど。でも……………………。

 

「どっちにしろ私は勝つだけです。」

「あぁ、お前は勿論最初の年に入れる。とりあえず目標はトリプルティアラ、それも無敗の…………だったよな?」

「ええ。クラシックと同じくらい難しいことですがやりがいがあるので。」

 

私は事前におハナさんに無敗の牝馬三冠…………じゃなくて、無敗のトリプルティアラを目標にしていることを伝えた。

おハナさんはクラシック路線に進ませる気だったらしいが。無敗のトリプルティアラが誰も成し遂げられていないことを知ると納得したような顔になった。

 

「お前ならできると思っているが…………レースに絶対はない。慢心するなよ、ジゼル。」

「ええ、勿論ですよ。」

 

あれ、スピカは一年生3人いなかった??どうするんだろ。




次回、ディープVSダスカVSウオッカ 

ジゼル
バスト 85

オペラオー 76
ルドルフ 86
スカーレット 90
ディープ 74

スズカ 70


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才媛と女王と英雄と

きっとディープは追い抜くときライスみたいに目が光ってるって信じてる


「……………………。」

 

準備体操をしていたディープはちらり、と黙ったままの二人を見た。

 

理事長による今年の新入生のレースについての発表から一日。スピカ(仮)のトレーナーである沖野から3人でレースをして決めると通達があった。

 

ただ順番を決めるだけ。それなのにこんなにピリピリしてるのは3人の実力が、順番が分かってしまうから。 

 

ディープはこんな状況だろうがなんだろうが気にせず走るが…………二人はそうもいかないのだろうか?

 

「(絶対勝つ…………!ただメインであるクラシック・ティアラ路線に進む順番だけじゃなくて、力関係が…………!)」

 

「(スカーレットには勿論負けねえ……………それにディープに負けたらあいつには絶対に勝てない…………!)」

 

「(ただ、走るだけです…………いつも通りの自分で。)」

 

メラメラとした闘志が伝わってきたのかゴールドシップが沖野の影に隠れる。

 

「あいつら無茶苦茶怖いんだけど…………?ゴルシちゃんの繊細なハートがブロークンされちゃうぜ。」

 

「ただのレースじゃないからな。今の自分の力が分かる。」

 

沖野も硬い顔をして三人を見つめる。

三人は静かにスタートラインで準備している。

いつも静かで真面目なディープはともかく、お互いを常に意識していて毎日喧嘩してるウオッカとスカーレットが静かなのは嵐の前触れだろうか。

 

「今からレースを始める!よーい、ドン!!!」

 

勢いよく飛び出して先頭をもぎ取ったのはやはりレースのペースを握ろうとするスカーレット。

 

次いでウオッカ、離れてディープ。

 

「やっぱりスカーレットが先頭かあ…………。」

「ウオッカは終盤の直線に入ってすぐ差せるようにしてるな。流石いつも競ってるだけはある。考えを見抜いてる。」

 

でも、と沖野は遥か後方をゆったりと走るディープを見た。

「このレース、あいつ次第で変わる。」

 

「アタシなら一気にぶち抜くわ〜」

「気分がノッたら、だろ?」

 

よく分かってんじゃん、と笑うゴールドシップを一瞥し、粛々と時を待ってるであろうディープを注視する。

 

「お、もう最後の直線じゃん。」

「スカーレットの体力が持つかウオッカが差すかだな、二人は。でもウオッカはスカーレットのすぐ後続についたことで体力持っていかれてるぞ。」

 

先頭は未だスカーレット。ウオッカがすぐそこまで迫っている。

 

沖野はふとさっきまでディープがいた場所を見るが…………

 

「おい!ディープは!?」

「一瞬でも目を離しちまったな。あいつはもうあそこまで来てるぜ。」

 

恐らくレースを全体的に見ていたゴールドシップがほら、と指を指す。

 

「嘘だろ…………最低でもウオッカスカーレットとの差は十バ身はあったんだぞ…………!?」

「鳥みたいにすぐビューン!!て飛んでったわー。アタシもあれやりたいなー。」

 

あっけらかんと話す彼女に沖野はディープの走り方を見た。

 

それは、鳥だった。

 

飛んでいた、彼女は。

 

一人だけ空を飛んでいると言っても過言ではない。

陸での移動よりヘリで空を飛んだほうが速いのと同じように思わせてしまう。

 

「失礼。」

「「な!!!」」

 

あっという間に二人を追い越して引き離す。もう2着争いになっている。

 

「とんでもない化物を担当しちゃったかもしれないな…………」

 

 

 

 

 



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邂逅 スピカ

スズカ先輩とディープとジゼル




スズカ先輩がリギルを抜けた。

 

このことはすぐに広まった。

 

ルドルフ先輩とマルゼンスキー先輩は納得したような顔をしていて、エアグルーヴ先輩は理解できないというような感じ。

他の人たちは戸惑っていた。

 

かくいう私はそれほど衝撃を受けていなかった。

彼女の気持ちとチームの方針が合わないことを知っていたから。

 

いつも楽しくなさそうに走っている。ウマ娘は少なからず走ることを楽しいと思う筈だ。それなのに楽しくなさそうなのは、苦しい練習や脚質に合わないレース計画。それによるストレスだろう。

 

私は少ししか話したことがない。第一印象は静かで控えめな先輩。

でも、この人は"デキる"…………そう思った。

 

スズカ先輩はスピカに所属したらしい。

自由で放任主義らしいし合ってるのではないだろうか。

 

脚質的には逃げ…………だと思うがディープと戦わせたらどうなんだろう。

ものすごく気になる。

 

スズカ先輩がリギルを抜けたのとほぼ同時に、中等部3年に転入生が来た。

 

名はスペシャルウィーク。

 

グラス先輩と、新しくリギルに入ってきたエルコンドルパサー先輩と仲が良いようだ。

 

「ねえ、スペシャルウィーク先輩ってスピカに入ったんでしょう?強いの?」

 

気になってディープに聞いてみた。ディープは本を読む手をやめ、しばらく考えていると…………

 

「スイッチが入ると強い、ですかね。まだムラがある感じです。」

「へ〜。」

 

つい最近、ウオッカとスカーレットに勝ったと聞いたけど流石私の前世のライバル。

 

「スズカ先輩はどう?」

「とても速いですよ。逃げウマ娘としては最高です。私でも勝てるかは五分五分ですね。」

 

スズカ先輩はやはり逃げの才能が凄まじい。

でもいつかそのことで怪我でもしなければいいけど。

 

「そうだ、気になっているのなら明日練習を見に来ませんか?リギルはお休みでしょう。」

 

明日はおハナさんが出張ということでリギルの練習はお休みだ。

自主トレをしてる先輩もいるが、ほとんどは寮でゆっくり休んでいるらしい。

休むのも練習ということだ。

 

 

「いいの?仮にもライバルチームだよ?」

「ええ。トレーナーには話しておきます。」

 

珍しく楽しそうな顔をしている。

私も明日ディープの先輩に会うのが楽しみだ。

 

__________________________

「リギルのテイエムジゼルです。今日はよろしくお願いします。」

 

ぺこり、と頭を下げるとよろしくー!と返事が返ってくる。可愛い。

 

「スピカのトレーナーの沖野だ…………ふむ、なるほど。ちょっと触らせ」

「変態!!」

「撲滅!!」

「離れてください!!」

 

そーっと私のトモを触ろうとしたこの変態…………トレーナーはすぐさま一年生3人によって拘束され、蹴られる。

 

あの手の動きは常習犯だ…………!!

 

「……………………」

「……………………」

 

さっきから私を見つめてるこの芦毛の先輩もどうにかして欲しいです。気まずい。

にしても、何か既視感が…………。

 

「うーん、容姿端麗才色兼備のゴルゴル星人でもお前がわからないなんて…………もしや、お前、ジャーコなの!?ジャーコ!私よ!!」

 

「すみません私はジゼルです。」

 

ハジケリストの先輩かこのウマ娘…………!

この相手の話を聞かない感じ会ったことあるような…………もしや前世関係?

 

記憶を遡ってみても芦毛の馬なんて面と向かって会ったことなんてないし。

 

「お母つぁん!お母つぁん!」

「何この人、怖い」

 

意味わからないことを言ってくるんだけど…………。

ハジケリスト具合半端ないな???

 

「おーい、そこまでにしておけ。ジゼル、お前ジャージは持ってきたな?スペと走ってくれるか?おハナさんの許可は取ってある。」

 

噂の先輩の実力、見せてもらいますよ。

 




テイエムジゼルまとめで分かりますがステイゴールドと面識はあります。
ゴールドシップとは…………??
後付の設定なので是非考察してみてくださいね。


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芦毛と日本総大将

真相解明編である。

前回の謎、ゴルシとジゼルの関係について書きます。


『ステイゴールドの子供がいなくなった!』

 

『急いで探せ!』

 

一生懸命あたりを探すスタッフたち。

それを見て心の中でため息をつく。

 

『(いつこの子は見つかるかな…………。)』

 

自身の脚にもたれかかってすやすやと眠っている栗毛で大白のラインが入った仔馬を見て。

 

____________________

 

『(はあ…………眠っていて起きたら子供がいたとかなんてドッキリ?)』

 

自身の柵の隙間から忍びこんでしまった"ステイゴールドの子供"と言われている仔馬。

ステイゴールドは所謂気性難で現代風にわかりやすく言うと俺様系。

自分なりのマイルールがあって非常にめんどくさい。

その子供だ。成長したら彼並みの気性難になるのか…………。

いや、そしたらテイエムゴールドもだな。流石に我が子があんな風に…………。

 

『(…………寂しそう。離乳終わりかな?)』

 

母と別れて恋しいのだろうか。そう考えたら何だかとても可哀想に思えてきた。

 

『(しょうがない、迎えが来るまで代わりをしてやるか。)』

 

やや大柄なその子を暖かく包む。

その後はうとうととまどろんでしまった。目が覚めたときにはあの子はもういなかった。

 

どうしてるかなあ。

 

 

『しかし、ゴールドシップには驚きの連続ですよ。テイエムジゼルの寝所へ忍び込んだかと思うと親子のように安らかに寝てるんですから。』

 

『お前が離そうとしたら起きたあとすぐにとんでもない声量でいななきをしてたからびっくりだよ。』

 

『母親代わりでもしてたんですかね、あの女帝』

 

『さあな。』

 

___________________________

 

「スペシャルウィーク先輩、ですよね?リギルのテイエムジゼルです!今日は先輩の胸を借りるつもりで頑張りますね!」

 

「あ、うん!よろしくね!」

 

明るく優しそうな先輩だと思った。でもデビュー戦もまだなためか覚悟というか意識がキマってない。

 

勝てるかな?今日は何にしよう…………。

 

差しでもやるかな。

 

「位置について、よーい、ドン!」

大きく声を張り上げたウオッカ。

 

ほぼ同時にスタートし、先頭にはスペシャルウィーク、それにピッタリつくようにテイエムジゼル。

 

スペシャルウィークは違和感を感じ辺りを見回すが、彼女の死角にジゼルはいるため気づかない。

 

「(なんでいないの!?)」

「(作戦成功、かな。)」

 

そのまま最後の直線に入ってスペシャルウィークは自慢の末脚を出した。普通なら引きちぎるであろうソレは効かなかった。

 

同じく溜めていた脚を出したジゼルはあっという間にスペシャルウィークを抜いてそのまま引きちぎる。

 

「ゴール!!」

 

こうして、ジゼルにとっては最初の先輩とのレースはジゼルの勝利で終わった。



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逃げウマと追込ウマ

スズカ先輩とディープ。

珍しいディープ目線。


スペシャルウィーク先輩は発展途上のウマ娘といった感じだ。

 

この先輩はかなり化けるだろう。もしかしたら、エルコンドルパサー先輩やグラスワンダー先輩と並ぶウマ娘になるかもしれない。

 

「ま、負けちゃった……………………スズカさん!?ディープちゃん!?」 

「二人がどうか…………え?」

 

私と先輩は目を見開いてただただ驚愕する。

だって、走ってる二人は苦しそうだから。

 

「沖野トレーナー!ディープたちは何本やってるんですか!?」

「いや、これが最初だが…………、」

 

スピカのトレーナーも驚いているようだ。二人の顔は真剣勝負のレースを連続でしたような苦しさが宿っている。

 

スズカ先輩の走りは、逃げ。それも逃げて差すという一番難しいことをしている。

ディープの走りは、追込。前傾姿勢と手を振らないことで飛ぶように走ることを実現してる。そして、ディープは最後方から仕掛けて一気に一着を抜けられるタイプ。

 

 

 

二人とも、脚質が反対なのか…………!

だからこんなに疲れて…………!

 

「沖野トレーナー、二人の脚質は逆で性格も走ることになると先頭を譲らないという執着心が強いタイプです。…………しばらくは一緒に走らせない方が、」

 

「あぁ、分かってる。ある意味相性が良すぎて悪すぎる。」

 

特にディープはやりにくいだろう。逃げてもバテないしさらに加速する。トップスピードも速い。

 

「スズカ先輩…………」

心配そうに見つめるスペシャルウィーク先輩。

 

私もディープを見つめる。

 

「そんなんじゃ、一番なんて無理よ…………?」

 

私の、ライバルじゃない。

 

小さな声で呟いた。

 

____________________

 

 

苦しい…………っ!

 

まさか実際に走るとこんなに遠く感じるなんて…………!

 

スズカ先輩と自分の相性が良くないのはわかってた。

でも試したかった。限界まで、怪我するまで追ってしまう気がして危険だったが。

 

「(縮められました…………!あと二分の一バ身!でも、)」

 

「(もう、無理です…………。)」

 

息切れで今すぐ倒れそうだ。足がとても熱い。

もっと走れれば…………!!

 

ちらり、とレースが終わったジゼルを見た。心配そうにこちらを見ている。

あぁ、何か言ってる?

 

何なんだろう…………。

 

彼女の、消え入りそうな声が聞こえた。

 

「私の、ライバルじゃない。」

 

何をやってるんだ、私は!!

 

彼女、テイエムジゼルはもっとすごい!私は彼女のライバルだ!彼女を越す存在だ!

 

なのに何故私は、諦めようとしている!?

 

力をふり絞れ。失望なんて、させない。

 

足掻け。

 

私を見ろ!

 

「はあぁぁぁぁぁ!!」

「抜かせないわ!!」

 

負けじとスズカ先輩も粘ってくる。

 

並んだ。同じ景色が見えた。

 

もっと!!もっと!!

 

 

 

「ゴール!!」

 

 

 

僅かに、私が先だった気がした。

 

 




ディープと相性悪いのはスズカらしいです。


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デビュー戦

ジゼルのデビュー戦とリギル。
リギルの末っ子を甘やかす先輩たちが見たかったと供述しており…………。


ついに来てしまった。

 

緊張していつもより一時間も早く起きてしまったことを若干後悔しながら、テイエムジゼルは震える手で準備を行う。

 

昨日の夜、何度も忘れはないか確認したスポーツバッグの中身を3回確認する。

………………………よし、オッケー。

 

朝ご飯はきっちりお米と人参スープと紅鮭。フルーツはりんご。

馬に転生したらすっかり人参好きになってしまった。人間時代は好きじゃなかったのに。怖い。

 

ディープはいつも早起きで大抵朝は一時間くらい練習している。ベッドがもぬけの殻だ。

 

「行ってきます。」

 

私のデビュー戦は午前中に行われる。インタビューやら写真撮影やら手続きやらが時間がかかるので朝にレース場に行かなくてはならないらしい。

 

リギルのチーム部屋(無駄に広い)の前にはもうメンバーがほとんど集まっていた。

 

「おはようございます。…………全員見に来てくださるんですか?」

「メンバーのG1レースとデビュー戦は必ず見るというのが暗黙のルールでな……………………緊張してるか?」

「……………………はい、すごく。」

 

前世でいくらレースに出ていたからって緊張しないわけではない。それに、良くも悪くも馬だったから。

 

「いつも普通のウマ娘が顔負けするほどのレース運びをする君が緊張、か…………。可愛いところがあるじゃないか。」

「私だってまだまだ若輩者ですから。」

 

笑うルドルフ先輩に少しムッとしながらも言い返した。

すまない、と笑いをこらえる先輩は何を思いついたのか目を輝かせて言ってきた。

 

「後輩の大舞台にチームの大部隊が駆けつける…………なかなか良くないか!?」

 

先輩、センスないですね。

 

____________________________

 

バスの中で話してることのメインは私のデビュー戦についてだ。

入試でいい成績を残した優等生と有名な問題児が出るらしいとか。

 

…………今話してるのは私が勝ったら何をプレゼントするかだ。

正直言って申し訳ないのでやめてほしい。

最初は私が緊張していることをエアグルーヴ先輩に見抜かれて励まされ、じゃあご褒美あったほうが燃えるじゃんとヒシアマゾン先輩が言ったのがきっかけだ。

 

「とっておきのデスソースなんてどうでショウ!」

「エル、ジゼルは甘いものが好きなのよ。ここは有名和菓子店の芋羊羹を買うべきです。」

「無難に日常生活で使えるものでいいんじゃないか?」

「肉。」

「それはアンタの好きなものだろうが!」

「お菓子とかどうかな?」

「それなら美味しいパンナコッタのお店があるわ!」

「マルゼン、それかなり昔に流行った食べ物ではないのか…………、」

 

エル先輩、デスソースはやめてください。辛いの苦手です。

皆さん食べ物系多いんですけど私を豚にする気ですか???

 

「ジゼルは何がいいかな?」

心を見透かしたようなお父さんの言葉に少し考える。

 

出来れば…………

 

「いつまでも、形に残るものがいいです。」

 

食べ物はすぐなくなっちゃうからね。

遠い未来にそれを見て今日を思い出せるといいな。

 

 

「オプションにボクの歌を聞かせよう!とてもオプションでは収まりきれないがね!!」

 

お父さんうるさい。

 

______________________________

 

レース本番。

緊張がぶり返してきた…………大丈夫、いつも通り。

 

私なら、勝てる。

 

懐かしいゲートに入り、深呼吸。

 

「ふう…………よし。」

 

周りを見ると私をマークする気なのかギラギラした目で私を睨んでいる。

おお、怖い怖い。

 

それなら、捕まらない。マークする余裕なんて吹き飛ばしてあげる。

 

「嘘ー!」

 

私は先頭に立ち、周りから見たらハイペースになるレース展開を作る。

私は逃げウマ娘ではないけど、ディープ用に逃げウマの動きはインプットしてある。

 

ああ、もうこんなに差が開いている。これならもう少し体力を節約しても…………いや、やめだ。

 

「どうせなら…………レコード目指すっ!」

 

一息ついて、ぐん、と脚を爆発させる。あと少しで最後のカーブなのでゴール板まで全力で駆け抜ける感じで。

 

速すぎる、と誰かの声が聞こえた。

 

そりゃあ、私は世紀末覇王の娘、

 

新世紀女帝と呼ばれたテイエムジゼルよ!!

 

ゴール板を一気に駆け抜けて徐々にスピードを落としていく。息を整えてパネルを見ると、

一着テイエムジゼルの隣にレコード、と映っている。

おまけに二着との差は十三バ身。文句なしの大差勝ちだ。

 

歓声に包まれる。

私を応援してくれたであろう人たちの声がくすぐったい。

 

「なんかいいな。こういうの。」

 

 



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今年のクラシックの行方と感謝祭

次回はスレを書きたいです。



皐月賞 セイウンスカイ

日本ダービー スペシャルウィーク、エルコンドルパサー

菊花賞 セイウンスカイ

 

今年のクラシックはなんとあのスペシャルウィーク先輩がダービーを勝ち、セイウンスカイ先輩が二冠を取った。

我らがエルコンドルパサー先輩は一皮剥けたスペシャルウィーク先輩と同着。

スペシャルウィーク先輩の評価を考え直さなければならないかもしれない。

まだ強さにムラがあるが。

 

そしてシニア級では、なかなか戦果を挙げられなかったスズカ先輩が宝塚記念でエアグルーヴ先輩を撃破。どうも最近調子がいいようだ。

 

あのエアグルーヴ先輩の末脚でも差せなかった。やばい。

 

まあ、ディープはハナ差勝ちしてたけど。

 

逃げて差すなんてとんでもなく強いに決まってる。私だってできるかは分からない。

 

スズカ先輩……………………もしかしたら私の敵になるかもしれない。

 

なんやかんやあって感謝祭が迫っている。

 

ファンの人たちに感謝の気持ちを伝える…………文化祭のようなもの?

 

私達リギルは出店を出すらしい。

 

ここからが面白いところなんだけど、ファンの人たちからのアイデアから決めるらしくて、結果は執事喫茶。

 

面白そうでワクワクする。ルドルフ先輩は勿論だがお父さんも宝塚男役顔だし似合うと思う。

 

私は調理係。理由はチームの中でヒシアマゾン先輩の次に料理ができるから、らしい。

エアグルーヴ先輩も出来そうだが執事服が違和感なく似合うため接客に行くそうだ。

 

……………………カッコよすぎてフラッシュ向けられそう。

 

少し心配が残るが盛況で終わりそうだ。

 

すると、今まで隣のベッドで黙ったまま週刊誌を読んでいたディープがあ、と声を出した。

 

「え、なになに?どうしたの?」

「貴女が載っています。ホラ、ここ。」

 

ディープが開いたページには私の特集が組まれていた。見開きで。

 

レース前と後の取材だろうか?

気になって読み始める。

 

好奇心から見たのが間違いだった。黒歴史が追加されたわ。

 

『新世紀女帝爆誕!!』

『13バ身の圧勝劇!』

『世代期待のニューヒロイン!』

 

恥ずかしいんだけど?ヒロインやら女帝やら。皆さ、変な異名を軽率につけたがるよね。

 

謎にキマってる私のインタビューを読んでさらにイタタ…………となる。

イキりすぎだろワレェ。

 

「うう…………黒歴史黒歴史…………!……………………あれ?」

 

次のページを捲るとディープのことについて書かれていた。

 

『最後方からの逆襲!』

『飛ぶような走り!』

『7バ身差の余裕!』

 

極めつけは

『英雄の誕生!』

 

私に負けず劣らずの恥ずかしさに思わずニヤニヤしてしまう。

 

「へえ…………英雄ねえ。」

「なにか文句が?」

「いや?素敵な異名じゃん。」

 

うん、新世紀女帝よりはカッコいいよ。

 

もしかして、お父さんと同じテイエムだから新世紀、なのか…………!?

 

「きっと貴女の記事を書いた人も私の記事を書いた人も厨二心が忘れられないんですよ。」

「おお…………辛辣。」

 

相当恥ずかしかったらしい。

しばらくこのネタでからかおうかな。

 

________________________

 

「いらっしゃいませ、お嬢様。」

「おお…………様になってる。」

 

感謝祭当日。

 

執事服に身を包んだリギルの先輩方は文句なしにカッコいい。

しかもお父さんに関しては薔薇が舞ってるように見えるから不思議。

 

「なんか札束ねじ込まれそうですね。」

「そういう時は丁重に返すがな。」

 

冗談と受け取ったエアグルーヴ先輩には悪いがガチで諭吉さん捧げられるわ。

 

 

「ジゼルのシフトは午前はないだろう?早めに楽しんでこい。」

 

と、言ってくれたブライアン先輩に感謝してにぎやかな校舎を周る。

 

やはり文化祭と変わらないようだ。

 

 

「そういえば、お父さんの皐月賞もうすぐだわ。」

 

何か激励できるものとかないかな。

 

あの人のことだからアクセサリーとか喜びそう。ハンドクリームとか手鏡とか。

 

考えていると、ハッと気づいた。

「いや、私親孝行しすぎてるわ。理想の娘過ぎて自分のこと尊敬するわ。」

 




実は主人公にはトリプルティアラ→グランドスラム→ディープとの高松宮記念以外にも目標を作らせるつもりです。
現実には到底無理なローテをするつもりですがそこらへんご容赦いただけると幸いです。


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番外編 ウマ娘で実装したら…………?

スレ編です。
掲示板小説初めてなのでおかしいところがあるかも。


【テイエムジゼル】ウマ娘で新実装した二人について語ろうぜ【ディープインパクト】

 

205 名無しのトレーナー

確かに二人とも原案はあったけどなんかお蔵入りっぽかったじゃん?

突然の運営からのご褒美(地獄)はやめてよお…………。

 

 

206 名無しのトレーナー

ディープの声優さんどうなるかなって思ったけど、鬼滅の刃のしのぶさんの声やった人か。

で、ジゼルはそのまま続行、と。

 

207 名無しのトレーナー

ジゼルの声優さんは何やった人なん?

 

208 名無しのトレーナー

>>207 七つの大罪のエリザベスとか。結構いろんな役やってる可愛い人。

 

209 名無しのトレーナー

予告だけでもこんなにTwitter荒れてるなんて二人はやべーやつなの?

 

210 名無しのトレーナー

ウィキペディアでも見て…。

 

211 名無しのトレーナー

会長越えてるかもしれないくらい強い。

 

212 名無しのトレーナー

新世紀女帝

英雄

史上最強のライバル

 

213 名無しのトレーナー

片や引退レースまで無敗のG1レース9勝馬。

片や無敗の三冠馬で幻のG1レース9勝馬。

ちな二人とも当時の世界長距離ランキング1位と2位。

 

214 名無しのトレーナー

どんな鬼性能になるのかな。もう、ウンスと水着マルゼン地獄は勘弁…………!

 

215 名無しのトレーナー

ジゼルの称号とれる条件はオペより厳しいよね…………。

 

216 名無しのトレーナー

史実の父であるオペラオーと絡みあるといいな。

 

217 名無しのトレーナー

……………………どんなナルシストが来るんだ!(又は変人)

 

218 名無しのトレーナー

ジゼルの原案クッソ美人だわ。

 

219 名無しのトレーナー

女帝つながりで、原案エアグルーヴは男を弄びそうな女帝って感じがしたけど、ジゼルは冷酷無情で皇帝である兄を殺して成り上がった女帝って感じがする。

 

220 名無しのトレーナー

すごく鞭の扱いが上手そう

 

221 名無しのトレーナー

でもオペラオーの娘だから絶対いいやつよ。

 

222 名無しのトレーナー

ディープはドトウみたいなポジションだけど自信はありそう。

 

223 名無しのトレーナー

ジゼルがいなければG1八勝の馬。

 

224 名無しのトレーナー

テイエム親子はリュージに関してはマウント張り合ってそう。

 

 

 

 

 

800 名無しのトレーナー

私服すごい可愛い

 

801 名無しのトレーナー

可愛いというより大人っぽい。

 

803 名無しのトレーナー

白いブラウスに黒地で大きな赤い花の長いスカートの組み合わせは天才。

ちなみに赤い花はアネモネ。花言葉は「君を愛す」

 

804 名無しのトレーナー

>>803 作り込まれてんなあ…………

 

805 名無しのトレーナー

ストーリー見たけど、私服オペラオーと私服ジゼルの組み合わせが何故か宝塚好きのお父さんと仕方なくついてきた娘の図…………。

 

806 名無しのトレーナー

ジゼルの方が胸も背も高いのにオペと並ぶと完全に父と娘。

 

807 名無しのトレーナー

性能はどうなん?

 

808 名無しのトレーナー

適性から行くね。

芝A  ダートE

短距離C  マイルC  中距離A  長距離A

逃げB  先行A  差しA  追込A

ちなみに成長率は賢さ20%、スタミナ10%

 

809 名無しのトレーナー

適性やべえな。距離と脚質はD以下ないし。

 

810 名無しのトレーナー

賢さ20は史実か。スタミナ入れたのはオペと同じ。

 

 

811 名無しのトレーナー

固有二つ名 新世紀女帝

デビュー戦から、トリプルティアラ、天皇賞(春)、宝塚記念、天皇賞(秋)、ジャパンC、有馬記念を16連勝する。

※宝塚記念では5バ身以上の差をつける。

 

812 名無しのトレーナー

史実通りなんだな。

 

813 名無しのトレーナー

運大事のライスとかネイチャよりはいい。

 

814 名無しのトレーナー

ウララも…………

 

815 名無しのトレーナー

キャッチコピーは「ラ・トゥア・ルーナ」

イタリア語で「あなたの月」

これはオペラオーと対比してるね。

 

816 名無しのトレーナー

オペラオーのキャッチコピー「オー・ソレ・スーオ!」は「あなたの太陽」という意味。

 

817 名無しのトレーナー

なんなのこの仲良し親子…………。

 

818 名無しのトレーナー

固有スキル「アルブレヒトへ願うパ・ド・ドゥ」

最終直線で前の方にいると、速度がすごく上がる。

 

819 名無しのトレーナー

ガバガバで草

 

820 名無しのトレーナー

ルドルフのスキルがさらにガバガバになった…………。

 

821 名無しのトレーナー

ウンス、水着マルゼン、ジゼル

この三強かしら…………。

 

822 名無しのトレーナー

ヴィットーリアといい、アルブレヒトといい隠す気ないよなこの親子。

 

823 名無しのトレーナー

ルドルフは3人抜くって条件あるのにこいつは前にいるだけか。

 

824 名無しのトレーナー

ディープは来週実装やがどんな感じやろなあ…………。

 

 

 

以下続く…………

 

 

 

 




固有とか二つ名の条件とかすっごく悩んだ。


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番外編 続!ウマ娘で実装したら…………?

続いちゃった。


【英雄】ディープ実装おめでとう!【来たり】

 

 

500 名無しのトレーナー

当たったわ…………!

 

501 名無しのトレーナー

>>500 おお、おめ。ディープは結構強いから当たりだな。

 

502 名無しのトレーナー

おさらい☆

適性

芝A ダートG

短距離B  マイルF  中距離A  長距離A

逃げG 先行G 差しA 追込A 

 

503 名無しのトレーナー

史実再現というか…………脚質なんていっそ清々しいわ。

 

504 名無しのトレーナー

短距離は高松宮記念か。

 

505 名無しのトレーナー

成長率はスピード20%、スタミナ10%

 

506 名無しのトレーナー

ここもまあ、って感じ。

 

507 名無しのトレーナー

理解はできるんだここまでは。

 

508 名無しのトレーナー

二つ名「英雄」

条件はクラシック三冠を無敗で達成して、天皇賞(春)、ジャパンC、有馬記念を二着以上、高松宮記念を二番人気で一着。クラシック三冠レースを合計バ身9バ身半以上で勝利する。

 

509 名無しのトレーナー

運営は忠実に原作再現しようとするな!!

 

510 名無しのトレーナー

二番人気、だと…………!?ライスの悪夢…………!

 

511 名無しのトレーナー

確かにディープは合計馬身がそうだけど!つまりは平均3バ身以上でしょ!?いけるいける(脳死)

 

512 名無しのトレーナー

なんなの…………英雄カッコいいから取るけどさ。

 

513 名無しのトレーナー

固有スキル「天翔る英雄」

自身の位置が後団に位置しているとき、中盤から最後の直線にかけてスピードを徐々に上げて最終的にはトップスピードになる。

 

514 名無しのトレーナー

ものすごいつよい 

 

515 名無しのトレーナー

基本的に長距離はゴルシを愛用してたけどディープ育てようかな。

 

516 名無しのトレーナー

つまりはトップスピードになったときにはもう一位…………(震)

 

517 名無しのトレーナー

長距離界の革命児。

 

518 名無しのトレーナー

この最強ライバル二人はウマ娘環境をぶっ壊すつもりなの???

 

519 名無しのトレーナー

育成ストーリーがジゼルむっちゃ出てきてた。あれ、こいつのストーリーだっけ…………?

 

520 名無しのトレーナー

私服は地味な優等生って感じ。もっとオシャレしよう…………?

 

521 名無しのトレーナー

イクノみたいな性格だと思ったら意外と情熱的なタイプね。

 

522 名無しのトレーナー

すごい叫ぶよ。

 

523 名無しのトレーナー

スズカは出てきてたわ。サンデーサイレンスの盾と矛…………。

 

524 名無しのトレーナー

一年通してジゼルに負けるからな…………最弱の三冠だって言ったやつ出てこい。

 

525 名無しのトレーナー

なお能力的には日本競馬史上でもトップクラスの模様。

 

526 名無しのトレーナー

高松宮記念ホントに泣いたわ

 

 

 

 

 

 

これにて、終!!

 

 



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沈黙の日曜日と焦燥の正月

「うわ、すごい人…………、流石最近人気のスズカ先輩のG1レース。」

 

天皇賞秋が来ました。一番人気は勝てないジンクスがあるようですがスズカ先輩ほどの実力を持ったウマ娘なら大丈夫でしょう。

 

ナリタブライアン先輩、ビワハヤヒデ先輩、シンボリルドルフ先輩、オグリキャップ先輩…………。

幾多の有名ウマ娘たちが辛酸を舐めたこのレース。

 

確実に何か起こる気がする。

 

 

嫌な予感がしながらも、いつも通り飛び出したスズカ先輩を見た。

 

「今までにないほど好調ですね。」

「あぁ、やはり私の指導は間違ってたのか。」

 

おハナさんも感心したように見ている。元仲間のスズカ先輩のレース、そしてヒシアマゾン先輩とエルコンドルパサー先輩のレースとあって皆は緊張感がすごい。

 

 

完全なる逃げに徹してからは、公式戦無敗だからな。

 

そしてスズカ先輩はとんでもないタイムを叩き出した。

 

レースレコード、いや、ワールドレコードを狙えるかもしれないほど規格外の速いタイム。

 

「(すごい。ディープから逃げ切り、私が差せないウマ娘かもしれない…………!)」

 

チームの先輩二人が窮地なので喜んではいけないが、内心は歓喜だった。

 

このレースの結末を目に焼き付けようとしたとき、ソレは起こった。

 

 

「え…………?」

 

だんだんスピードが落ちていき、走り方がフラフラとしたものになる。明らかに怪我をしているとわかる。

 

 

『サイレンススズカに故障発生です!サイレンススズカ大丈夫でしょうか!?』

 

おハナさんも、リギルメンバーも、私も、観客もすべてが無になった。

 

レース中での、故障…………!?

 

「まずいっ!あのままでは…………!」

おハナさんが立ち上がって叫ぶ。

 

ウマ娘は規格外のスピードで走ってるため、普通にレースに出ただけでも足を痛めることがある。

ましてや、あのスピードで転倒でもしたら、直接足をつけてしまったら…………?

 

待ち受けるのは、死だ。

 

「スズカ先輩っ!」

 

すぐさま救助に向かったスペシャルウィーク先輩。沖野トレーナーも後に続く。

 

「スズカ先輩…………。」

 

私のか細い声が、静かな部屋に響いた。

 

_______________________________

 

「命に大事はないのね?」

「はい。骨折で、リハビリすれば生活に支障ないレベルで走れるそうです。」

 

実家から送られてきたお餅をディープと一緒にもぐもぐと食べる。

たまたま同じ時期に帰ってきたのだ。

 

「良かった…………。エルコンドルパサー先輩がずっと元気がなくて、心配してたの。」

 

スズカ先輩へのリベンジと海外挑戦への前哨戦。それがこんな形で勝ってしまっては納得がいかないだろう。

 

 

「…………何か、あった?」

「別に、少し気になることがあるだけです。」

 

いつもよりそっけなく返すディープ。機嫌が悪い彼女なんて滅多に見れないため、ついじっと見てしまう。

 

「何かあったときは言ってよ?」

 

そう言ったけど、きっと私が気づかないと話さないな。

 

 

スズカ先輩の天皇賞、あんなレースはごくまれに起こるとは知ってはいたけど。

 

あんな、強烈な…………!

 

私達が走ってることが奇跡なら、私は大事に一生懸命走らないといけない。

 

それが、当然の行いなのだろう。

 

 

 

 

 



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ディープの懸念と怒り

ディープインパクトは基本的には手抜きはしない。

 

客観的に見たら手抜きしてるだろ、と思われたってしていない。やるからには全力でやれることは全部やる、これが彼女のポリシーである。

 

彼女は大敗した相手でも讃える。それは、全力を出し切って、己の持てる力を高めたから。

 

逆に言えば、彼女はあらゆるもの…………ことレースにおいて、余所見をして舐めているウマ娘を許せない。

 

それが怪我を懸念してのことだったならいい。

問題は完全にレースを全力でやろうとする意識もなく練習も他のことに気を取られて集中しない。そんな、相手も見ようとしないウマ娘は嫌いである。

 

 

「私は…………?」

 

隣のテーブルに座っているグラスワンダーの小さな、本当に小さな声が聞こえた。

何事かと思って見ているとスペシャルウィークとグラスワンダーの宝塚記念についての話だ。

 

耳を立てると、怪我で走れないサイレンススズカのことを話している。

 

「(本当の相手は、目の前の人なのに。)」

 

怒りを覚える。

 

正月あたりからこうなることは予想はしていた。

スペシャルウィークのことは尊敬している。あのダービーウマ娘だ。クラシック三冠を目指す者として尊敬しないわけはない。

 

真に眠っている底力が恐ろしい先輩であり、ドジっ子で目が離せない。

 

「(スズカ先輩に憧れているせいか、若干彼女に依存してるのは否めないですかね。)」

 

彼女の基準は、憧れているサイレンススズカだ。

スズカさんがいれば、スズカさんはもっとすごい、スズカさんだったら、やっぱりスズカさんはすごく強い。

 

最終的にはスズカさん。

それはかなり危ないかもしれないのに。

 

そもそもサイレンススズカとスペシャルウィークは脚質やレースの展開の仕方も全然違うのに、彼女を真似したって大した成績は出せないだろう。

何より彼女は、目の前の強敵を真の意味で見ていない。

 

全力を出そうとしてる相手を、侮辱しているのか?

 

 

沸々と怒りが胸に込み上がってくる。

 

許さない。

そんなに生半可な覚悟で勝てるほどこの世界は甘くない。

そんなに他のことに気を取られてばかりでは怪我をするかもしれない。

それでは、ただのダービーウマ娘止まりだ。

 

今すぐレースに出場したくても、年齢が邪魔をする自分をバ鹿にしてるのか!!

軽い気持ちでレースに出るなんて許せない。

 

____________________

 

「ディープ、スペのことは許してやってくれ。」

「…………完全に舐めてますよ。全力を出しきらなくても、走らなくても勝てるなんて思ってます。」

 

スピカの練習中、真剣な顔をした沖野に言われたが許せる気にはならない。

 

自分も後輩として、スズカを心配していないわけではない。過保護になる理由は分かるが、あんなに行動理由と思考がスズカ一色なのはいただけない。

 

 

「ジュニアチャンピオンのグラスワンダー先輩に勝てませんよ。あの人強いですから。今のスペ先輩だと本当に全てを賭けないとだめです。」

 

自分の指摘に完全な図星である沖野。彼も生半可なことでは勝てないのはよく分かってるが、スズカを心配する気持ちは分かるので強く言い出せないのだろう。

 

「スペ先輩が負けたら、スズカ先輩は確実に思い悩みます。自分のことで時間を取られたから負けたのではないかと。」

 

物事を兼任するというのは簡単なことではない。それを分かってほしいが…………。

 

「いっそ、気持ちいいほど大敗したら、考え直すでしょうか?」

 

彼女の目は真っ直ぐスペシャルウィークに向けられた。

その目はマジだ。

 

「完膚無きまでに叩くのか?レース前だぞ、自信をなくすんじゃ…………」

「それで考え直すのなら、やりますけど。」

 

暗に、それだけでは駄目だと言った。

 

ディープは、迫っている宝塚記念を憂いた…………。



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宝塚記念、夏、スパルタ

またの名を、ディープ怒りの夏編


グラスワンダー先輩が最近むっちゃ怖い。

 

いつもは優しく、おしとやかなのに。

 

昨日エル先輩がかなり失礼な()ことを言って締められていた。

私達は合掌した。

 

双眼鏡で彼女の姿を見たマルゼン先輩とおハナさんが驚いた顔をした。

遠目から見てもグラス先輩のオーラがすごい。

これが、ジュニアチャンピオンの本当の実力…………。

 

レースが始まり、私はずっとスペシャルウィーク先輩をマークしているグラス先輩を見た。

スペシャルウィーク先輩は…………多分勝てないだろうなあ。

心此処にあらず、って感じ。

 

グラス先輩、すごく頑張ってたからスペシャルウィーク先輩は…………。

 

もしやディープが最近不機嫌なのこれ?

ディープは真面目だからな…………。

 

スペシャルウィーク先輩はスズカ先輩を慕っていた。スズカ先輩は宝塚記念を勝ったから彼女のことを考えているのかな?

それは、悪手だ。

 

 

あっという間にグラス先輩はスペシャルウィーク先輩を差して差を広げる。

うわ、えげつな。

 

スペシャルウィーク先輩は満身創痍。グラス先輩はやるせないような顔をしている。

 

そりゃあ本気とは言えなかったからね。

あーあ、ディープ今日も不機嫌なんだろうな。

 

スピカの中で黒いオーラを発しているディープを見て、ため息をついた。

 

______________________

夏合宿来ました。

 

リギルは高級ホテルに泊まります。すごく嬉しい。

 

スピカはチラッと見かけたけど民宿に泊まるようだった。

経済格差ェ…………。

 

肝心な練習ですが、無茶苦茶ハード。

ウマ娘だったからいいけど人間だったら死んでるわ。

 

「ジゼル!息をもっと早く入れる!」

「はい!」

 

ラップを正確に刻めてるかとかフォームなんて、気にする余裕はない。

がむしゃらに走りまくった。

 

休憩時間、ディープから電話がかかってきた。

 

「ちょっといい機会だからスペ先輩潰してきますね。今の彼女なら一捻りです。」

「ストップ!物騒な言葉が聞こえたけど!?」

 

声からたいへんお怒りなのがわかる。

 

「何が馴れ合ってたんでしょうか、よ!?なんで自分で気づけないんですか!!」

 

レース後のトレーナーの喝も意味ないとかあまりにも情けなさすぎるとか。

こんなに乱れてるディープはじめて…………。

 

「もういいです、潰します。ええ、大差勝ちしますよ。」

「大差勝ち…………10バ身以上つけるつもり!?」

 

流石に心が折れるからやめておいて…………。先輩のプライドズタズタよ。

 

「あんなに時間があったのに、自分の行動や考えを振り返らないなんて。」

 

失望と悔しさと怒りが混ざった声。

 

スペシャルウィーク先輩が素質のあるウマ娘だからこそ許せないのか。

 

「まあ、スピカのトレーナーさんにも考えがあるんでしょう。それを待ったら?」

 

とりあえず潰すのだけはと説得する。

 

「…………そうですね。トレーナーのことを信じてみます。」

 

そこから合宿最終日まで毎日私へ怒りの電話が続いた。

泣きそう。

 

 

 



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解決、凱旋門、憧れ

坂で油断していたディープは海に突っ込んだ。

彼女だけではなく、スピカのメンバーもだが。

 

心なしか、スズカとスペシャルウィークの顔が晴れやかだ。どこか吹っ切れたような…………。

 

「…………トレーナーさんを信じて良かったんですね。」

「何か言いましたか?ディープ。」

「いえ、態々私が潰さなくて良かったという話です。」

「?」

 

キョトンとしたマックイーンから目を逸らし、件の二人を見た。

よそよそしかった二人は笑い合っている。だが二人の関係がライバルということに落ち着いたのが分かった。

 

「(私も、ジゼルに…………)」

 

 

その夜、明日は最終日ということで全員は早めに寝た。

ディープは目が覚めてしまい、外に出た。

夜空がきれいで、都会では見られないほど輝いている。

 

「ディープちゃん!」

 

追いかけてきたのかスペシャルウィークが隣に並んできた。何か言いたいことでもあるのか、口をモゴモゴさせている。

 

「…………何でしょうか?」

「私、ディープちゃんに謝りたくて…………!」

 

トレーナーに言われたからではなさそうだ。トレーナーはスペシャルウィークが傷付くと思ってディープが潰そうとしたことなど言わない。

 

意外だった。スペシャルウィークはてっきりスズカを自分より遥かに優先して行動していたことを後悔や反省していなかったと思ったから。

 

「ごめんなさい!私、自分の最初の夢を忘れてた。そのためにはレースで勝たなきゃいけないのに、ライバルのスズカさんを優先して努力を怠って………。…………ディープちゃんからしたら、すごく図々しいよね。」

 

グラスちゃんにも、謝らないとな。

そうぽつりと零したスペシャルウィークは頭を下げたまま動かない。

 

ずっと頭を下げさせるのも本意ではないため、やめてくださいと言った。

スペシャルウィークの純粋無垢な瞳がディープを見つめた。

 

…………あぁ、そんなに素直で優しくて愚直なまでに清廉だからあんなことになったのか。

 

「そうですね、私は宝塚記念の前あたりから貴女のことが嫌いでした。貴女は自覚はなかったでしょうがスズカ先輩を優先しすぎて自分のことについて何も考えてはいなかった。……………………貴女の夢は、そんなに甘いものじゃないのに。」

 

「貴女と全力で戦おうとしていたグラス先輩の心を裏切りました。スズカ先輩を優先していたくせに負けるから、本当にふざけるな、って思いました。」

 

「貴女の行動は、その日宝塚記念を獲ろうと努力して挑んできたウマ娘たちへの侮辱です。貴女はきっと、愚かにも勝てると思ってたんでしょう。」

 

「スズカ先輩を優先するなとは思いません。でも、弥生やダービーの貴女みたいな全力の走りがそう簡単にはできません。」

 

「今まではそれを自覚していなかったから怒っていっそ、と貴女を潰そうとしました。……………………こちらこそ、すみませんでした。」

 

 

頭を下げたディープに焦ったスペシャルウィークはオロオロしながら再び謝罪した。

 

 

…………言わずもがな、翌日のディープの電話は穏やかなものだったという。

 

___________________________

 

ディープの怒りがなくなって数日。

凱旋門賞の時間が近づいていた。

 

「エル先輩に勝利を…………!」

「凱旋門賞は今まで日本のウマ娘は勝ったことがないんでしたよね。……………………私も、行きたいです。」

 

前世でも凱旋門賞制覇は日本競馬の夢だ。

私は行かなかったけど。

 

「始まるよ!あ、アレはエル先輩!落ち着いてるな、さすが〜!」

「隣はブロワイエですね。明らかに強そうです。」

 

欧州バ場に慣れたエル先輩は落ち着いていてなおかつ絶好調。これは、ブロワイエを押さえれば勝てる。

 

リギルとスピカもガヤガヤと応援している。

 

…………始まった。

 

エル先輩はいつものように走っている。このいつも通りの走りが大舞台では難しい。

懸念材料のブロワイエはエル先輩の後ろから様子を探っている。

…………これは。

 

エル先輩は終盤で仕掛けた。後ろはかなり引き離して。

私達も声援を大きくする。

 

世界まで、あと少し。

そこに彼女はやってきた。

 

特徴的な息づかいをして、エル先輩に猛追する。

その差は少しずつ埋まっている。やばい。

 

「もう少し、頑張って…………!」

 

その願いは届かず、ブロワイエに差されたエル先輩は二着。今までのウマ娘のなかだと最高。だが負けは負け。

 

空間を沈黙が包む。

 

いたたまれなくなって、そっと抜け出した。

 

廊下に出て、さっきの走りをもう一度思い出す。

 

「…………いいなあ。」

 

 




ジゼルが今までうまぴょい(意味深)した相手。

ディープインパクト(夢の配合で無敗の三冠馬が生まれた)
ステイゴールド(日本馬初の凱旋門賞制覇馬を出した)
キングヘイロー(重賞勝利馬)
アグネスタキオン(皐月賞制覇したが、ダービーで骨折し、安楽死処分となる。)
オルフェーヴル(無敗の牝馬三冠馬を出した)
トウカイテイオー(テイオーの晩年の最後の相手、なお子供は2017年に菊花賞、キタサンブラック引退レースの有馬記念を制した。)

まだ相手が少ないが(ドーベルと比べて)無茶苦茶貢献した。
繁殖牝馬としてもディープと張り合った。


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番外編 テイエムジゼルについて語ろう

500

漫画みたいな強さだよな

 

501

ディープ一強だと思って3歳有馬記念でディープに入れました。だって牝馬だし…………。

エアグルーヴとかは置いておいて。

 

502

無敗の牝馬三冠馬すげーなって思ったら世界一になっててビックリした。

 

503

ジゼルを引退レースで止めたディープマジ英雄。

 

504

現役ではディープを圧倒し、引退後も重賞馬をほぼ毎回出すやべーやつ。

 

505

レース見たけどなんかジゼルの逸話?ある?

 

506

ゴールドシップが母離れしてとある馬の馬房に忍び込んでスヤスヤ寝て、ある馬も満更でもない感じで母代わりをしていた。それがジゼル。

 

507

なお前日はステゴとうまぴょい()してた模様。

 

508

人語を理解しててもおかしくないような賢さ

 

509

ドーベルは色んな馬とお付き合い()したけどジゼルは純粋にモテてた。

 

510

>>509 オルフェもジゼルの前ではすっかり大人しく優等生だったと

 

511

ディープも恋してたフシはある

 

512

実はクロフネもジゼルが好きだったけどその当時はジゼルには中長距離馬をつけることになってたから無理だった。

 

513

なお最近はキタサンともうまぴょいした模様。

 

514

ジゼルの産駒で一番強いのは?

ちな、俺はエルドール。

※父オルフェーヴルの無敗牝馬三冠馬

 

515

サラブレッドの貴公子、ジークフリートに決まってるわ。

※父ディープインパクトの無敗クラシック三冠馬

 

516

甘いなお前ら。テイエムゴールド先輩に決まっとるやろ!!

※父ステイゴールドの日本馬としては初の凱旋門賞制覇

 

517

皆さん悲劇のダービー馬、アグネスアルマンご存じで?

※父アグネスタキオンの皐月賞、日本ダービー馬。だが、ダービーのゴール板を駆け抜けた直後に骨折。安楽死処分となる。

 

518

おいおい、ここはテイエムサファイアや。

※父トウカイテイオーで晩年の子。菊花賞、キタサンブラック引退レースの有馬記念を制した。

 

519

収拾つかなくて草

 

520

凱旋門挑戦してほしかったわ

 

521

2008は確かザカルヴァだったはず。牝馬で凱旋門を始めG1レース5勝した猛者。ちな7戦7勝。

 

522

オペラオーのサドラーズウェルズ血統とニジンスキー血統だからイケそうだけどね。

 

523

高松宮記念は本当に謎。

 

524

アレは陣営が悪い。負けたとはいえ、抜いたディープを差し返したのなんなの…………(震)

 

525

天皇賞春、伝説の二着もレコード。マヤノのタイムをあんな…………。

 

526

子供のウィキペディアで母父オペラオーって書いてあって嬉しいオペファン。

 

527

どれだけすごい産駒を出したかでもライバル関係なのは草。

 

528

写真見たけど栗毛の美人さんだったわ。睫毛長い…………。

 

529

ウイポでもヤベー女

 

530

取り敢えず迷ったらジゼルの子供買っとけ

 

 



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世紀末覇王から新世紀女帝へ

ここからアニメのハイペース。
ブロワイエを破ったジャパンC、最強の二頭の有馬記念、そして世紀末覇王時代。
それらを一気に駆け上っていき、ここからテイエムジゼルの新世紀女帝編が本格的に開幕します。


『日本総大将スペシャルウィーク!!』

 

『やはり外から最強の二頭!』

 

『テイエムは来ないのか!?テイエム来た!テイエム来た!テイエム来た!テイエム来た!抜け出すか、メイショウドトウと!テイエム、テイエムかー!?わずかにテイエム!』

 

頭に浮かぶのは、一瞬の熱狂。

あぁやっぱりここはいいな。ディープ以外にもこんなに強いウマがいるなんて。

 

テイエムジゼルは霞む目をこすりながら、桜花賞の舞台である阪神競バ場を仰ぎ見る。

 

「(久しぶりね…………また帰ってきたわよ。)」

 

思えばあのときは調教を受けていたとはいえ、コースを覚えようと、勝とうと、走りに慣れようと必死だった。

 

父の汚名を晴らし、陣営に感謝の気持ちを表すために…………。

 

今は違う。

 

私はリギルの一員として負けられない。

ディープのライバルとして負けられない。

新世紀女帝だから負けられない。

 

今まで他の人のためにしか走ってこなくて、馬だからしょうがないで済ませていた。

違うの。違うのよ。

 

私は無視し続けていた。自分の想いに。

 

「吹っ切れた私は今までより何倍も強いわよ…………ディープ」

 

絶対に負けられない戦いがあるのだ。

少なくとも私には。

___________________

 

「トレーナーさん。我儘を言ってしまってすみません。」

「むしろお前からなんて珍しいくらいだぜ。ゴルシやマックイーンは…………痛い!!」

 

余計なことを言った沖野はいつものようにしばかれる。

ディープはスピカのメンバーが出場してないにも関わらず、沖野にお願いして皆で阪神競バ場に来ていた。

 

幸い予定は全員無かったのでティアラ路線のはじめの一歩、桜花賞を見る。

 

将来、出る予定であるウオッカスカーレットには勉強になるだろう。

 

沖野はじんじんと痛む背中を押さえながら思考する。

 

「(間違いなく同世代イチの怪物、テイエムジゼルが出るからな。幸いクラシック路線のディープとは被らないが、シニアで確実に当たるだろう。直接目で見たほうがよくわかる。)」

 

そもそもディープ自体が規格外の才能の持ち主であり、そのディープでも勝てるか怪しいレベルにいるジゼル。

東条トレーナーの"ジゼルの時代"という評価は正しい。

 

沖野としては、こんな怪物いてたまるかと言った感じである。

まだマルゼンスキーやシンボリルドルフ、ナリタブライアンが可愛く思えてくる、不思議。

 

一番近いのはサイレンススズカだろうが、彼女は今アメリカ。

未だ底が見えないテイエムオペラオーはドリームトロフィーリーグへの移籍だ。

 

不運なことに、ジゼルを止められる要素が無い……!

 

「(俺は信じてるぞ、ディープ。お前がジゼルに勝てることを!)」

 

まだ羽化していない英雄に望みをかけるほかない。

 

__________________

 

「やはり、別格………」

 

パドックへ出てきた彼女の姿を見て思わずディープは呟く。

勝負服はオフホワイトのロングブレザーにフリルがついたシャツと赤い宝石のボロネクタイ。

ロングブレザーよりも短い紺のスカートに黒いタイツ。

太腿のレッグガーターは片足しかついていない。

左耳にはオーロラ色の宝石が眩しいティアラ。

先端にかけてオレンジになるグラデーションのある金髪を姫カットのロングヘアーにしている。

よく見れば後ろはこなれたお団子にハーフアップされている。

 

アメジストの強い光を携えた瞳はどこまでも射抜く。

 

オーラが違うのだ。

 

周りは完全に萎縮してる。

あぁ、早く同じ舞台に立ちたい…………!

 

 

「負けないですよね、新世紀女帝さん。」

「見てなさいよ、英雄。」

 

 

 




オリ友から子供の設定を書いてと言われたので今回からちびちび紹介します。
ジークフリート
父ディープインパクト  母テイエムジゼル
『サラブレッドの貴公子』『理想の体現者』
G1成績  皐月賞、日本ダービー、菊花賞、ジャパンC(2回)、有馬記念(2回)
計 7勝
無敗の三冠を達成し、その年にジャパンC、有馬記念を制覇した世代最強馬。 
期待された4歳時は骨折によりジャパンCまで休養しなければならなかった。
だが、怪我の影響を加味してか3番人気となったジャパンC。かの馬は衰えてなどいなかった。むしろ当時のワールドレコードで勝利する。
生涯唯一の負けはゴールドシップの阪神大賞典。その時は不調気味で参加し、ハナ差の二着に。後に骨折してることが判明する。


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夜桜乱舞

ちょくちょくモブウマ娘が出てきますが、あくまでモブです。


デビュー戦のときのようなメンツではない。

 

前哨戦でいい結果を残し、将来を望まれたウマ娘たち。

ティアラ路線は流石というか、レベルがやはり高い。

あくまでも、他のウマ娘たちから見たらだが。

 

チューリップ賞を圧倒的大差で勝った私はかなり意識されてるみたいだ。光栄だけど…………勝つのは私だ。

 

ここで負けたら英雄のライバルなんて言えないわよ。

 

前世とは違う景色。…………リュージもこんな気持ちだったのかな?

 

 

「アンタには絶対に負けないわ!」

「その余裕そうな顔を崩してやる!」

 

私を睨み、ゲートに入る子たち。

その明らかに敵対心剥き出しの様子に苦笑いしながらポツリと呟く。

 

「…………余裕ねえ。……………………そっか。」

 

____________________

 

ラインクラフトは努力家だ。

 

彼女はウマ娘が好きな兄に見てもらいたくて入学した。

貧乏だったから頑張って成績を上げて特待生として。

 

死ぬほどの努力家だと自負している。

彼女のトレーナーはあのミホノブルボンやメイショウドトウを担当した敏腕。彼の方針とはしっくり合った。

 

努力は私を裏切らない…………そう思っていたラインクラフトに悲劇が訪れる。

 

それは、テイエムジゼルという存在を初めて認識したときである。

 

同じクラスではなく、選抜レースも自分のことで手一杯だったラインクラフトはテイエムジゼルを知らなかった。

噂は聞いていたが、それまでだ。

 

自分のトレーナーがリギルのトレーナーと話しているときに、彼女を見てしまった。

 

凄かった。

 

それしか出てこなかった。いつもなら、シンボリルドルフやライスシャワーを見たときのように、努力し続ければ私もなれるかな、と思うはずなのに。

 

なぜか出てきた答えは、勝てない。

 

ただただ意味がわからなくて、明日地球が滅亡しますと大真面目で言われたかのようだ。

 

トリプルティアラは絶対に獲りたかった。それだけの実力はあると思ってた。

 

あのテイエムジゼルも出るなんて、神様は私のことが嫌いなのかな?

 

靴紐をしっかりと結び、隣のゲートに並んでいる他とは別格の彼女を見た。

 

これでも二番人気なのに。貴女は私のことなんて見えてないわ。

 

このドロドロとした感情を全てくらい尽くそう。

 

嫉妬も羨望も痛みも苦労も全て食らって、下っ端には下っ端なりの戦い方で勝とう。

 

貴女が常に周りを圧倒する女帝なら、私はその服を汚す泥犬だ。

 

覚悟を決めて、ラインクラフトは前を見据えた。

 

_____________________

 

桜花賞が始まり、会場のボルテージは上がりまくっている。

 

スピカの面々は食い入るようにジゼルの走りを見つめた。

 

ジゼルは後団でも最後尾。追込スタイルで行くようだ。

チューリップ賞やデビュー戦ではそもそもの速さが違うため、大逃げだと言われていたが、インタビューで東条トレーナーが否定している。

 

『スズカではありません。今までのウマ娘の中だとマヤノトップガンやテイエムオペラオーに近いです。』

 

つまりはマヤノトップガンのように脚質自在でテイエムオペラオーのように器用で平均値の化け物だということだ。

 

だがファンは前とは違う走り方に不安を感じているようだ。

 

「大丈夫かな…………ジゼルが飛び出さないなんて。」

「追込できるだけのレース勘とスタミナがあるかどうかだな。」

 

ディープはまさか、と何か思い当たることがあった。それが本当なら…………。

 

中盤から終盤に入り、ウマ娘たちは勝負を仕掛け合う。

 

「テイエムジゼルは一番下…………!これならいける!」

「思ったよりも大したことないわ!」

 

スパートをかけたウマ娘たちから飛び出したラインクラフト。

圧倒的なスピードで後続を引き離していく。

 

「(このまま行けば一着!私の努力が…………!)」

 

つらい特訓を思い出して、思わず涙が出そうになる。

報われる。テイエムジゼルは来ないだろう。届かないだろう。

 

私はあの怪物に勝った!!

 

そう思った瞬間。

 

彼女は来た。

 

 

「……………………」

 

ただ無情にバテているウマ娘たちをそのスピードで交わしながらラインクラフトに迫る。

 

ラインクラフトは本能的な恐怖を感じ、まだ残っている体力を使い果たそうとした。

「(大丈夫、まだ五バ身…………!!………………………………え??)」

 

一瞬のことだった。軽々とラインクラフトを抜いた彼女は軽やかに駆けてゆく。

 

あの一瞬で抜くなんてと、絶望に浸る余裕はなかった。

 

「あああああ!!!!絶対に!負けないんだから!」

 

大声で自身を叱咤し、痙攣気味の脚を叩いて無理矢理動かす。

あの背中に追いついて食らうために!

 

その普通ではないラインクラフトにトレーナーは叫んだ。

 

「ラインクラフト!それ以上限界を超えたら、お前は…………!」

 

「(追いつく追いつく追いつく追いつく!!!!)」

 

ラインクラフトが鬼気迫る表情で普段より遥かに速いスピードで走る。

でも…………。

 

 

「なんで、こんなに届かないの!?!?」

 

 

差は逆にますます広がるばかり。

ラインクラフトが遅いのではない。

 

テイエムジゼルが速すぎたのだ…………!

 

「すげえ…………!二着以下がレンズに入り切らねえよ!」

 

興奮気味に言うカメラマン。

 

「天皇賞の時のライスさんと似たあの二着のウマ娘をあんなに圧倒的に…………!」

 

感心したようなメジロマックイーン。

 

そして。

 

 

「私にわざわざ貴女の追込を見せるなんて…………。やはり、喧嘩を売ってるんですね。」

 

上等です、と目を光らせたディープはゴール板を一番に駆け抜けたジゼルをメラメラと見つめた。

 

 

 

 




エルドール
父オルフェーヴル  母テイエムジゼル
名前の由来はフランス語で『金色に輝く翼』から。
桜花賞、オークス、秋華賞、エリザベス女王杯、天皇賞(秋)、ドバイターフ

気性難で操縦性ナッシング。主戦騎手はもちろんikze。無敗で牝馬三冠を達成した。勝利するときはほとんどが大差勝ちかレコード。
桜花賞、エリ女、秋天はコースレコード勝ち。
父の血筋か、主戦騎手を振り落とす。
牧場では美人さんとして有名だった。


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英雄蜂起

ディープに思いっきり喧嘩を売って毎日がガクブルのジゼルです。

自分はちょっとした出来心で…………いやすみません。

 

あの日からディープが燃えて怖いとスカーレットに泣きつかれました。

だろうね!あと、同室の私の方が気まずいから!

 

煽りすぎたかな、でもあれくらい楽勝でしょ。

 

と楽観的にディープを見守っていた。  

 

 

皐月賞当日。クラシックの最初のレースなのですごく盛り上がっている。

一番人気は弥生賞を圧勝したディープ。

 

小柄だが、底知れないパワーのようなものが宿ってるとわかる。

 

勝負服は黒メインのゴスロリっぽい?ワンピースドレスだ。

※詳しくはディープの原案イラストを見てね。

 

大舞台の一番人気なのに涼しい顔してゲートに入っていった。

なんか悔しい。負けた感じがする。

 

「喧嘩買うなら…………やってくれるよね?」

 

_____________________

 

ディープは傍から見れば落ち着いていたが、内心はそうでもなかった。

 

心臓はいつもより煩いし、思考がまとまらない。

 

その状況で、スピカのメンバーを見て、次に思わずジゼルを探す。

 

…………いた。

 

自身を見ているその目は何を思っているのか。

 

ディープは皐月賞を勝つことはもちろん一番大事なことだが、桜花賞で売られた喧嘩を買って勝負しようと思っていた。

 

彼女を見ていると頭がスッキリし、冴えてくる。

 

大丈夫、わたしは強い。そう言い聞かせた。

 

_____________________

 

ゲートが開かれて、ウマ娘たちがタイミングよくスタートをきる。

…………一人を除いて。

 

 

なんと、一番人気のディープインパクトが躓いて大きく姿勢を崩して、後団でもかなり位置が離れてしまった。

 

その様子に観客は悲鳴を上げる。

 

「大丈夫なのかよ!」

「追込スタイルだが…………厳しいんじゃ。」

 

ディープの脚はすごいが流石に無理がある。小さな身体ではパワーもスタミナも他とは足りないだろう。

 

 

ウマ娘たちも要警戒していたディープが落ちたことで安心していた。

これで自分のレースに専念できる。

 

 

その様子を黙って眺めていたジゼルはつぶやいた。

 

「まさかあの脳筋思考のディープが…………」

 

こんな罠を仕掛けるなんて。

 

 

スピカのメンバーは不安になりながらもディープを信じていた。

 

「大丈夫です、ディープならこのままスピードを上げて抜くぐらい簡単ですわ。」

「ゴールドシップさんが練習に付き合ってたしパワーもスタミナも前とは違うから、きっと…………!」

 

ただ沖野だけがディープの思惑に気づいた。

 

「まさか、ディープ…………」

 

最終コーナー。

 

ウマ娘たちは次々に仕掛ける。後ろからの音が全くしないため、ディープは自分たちより遥かに後ろにいると確信して脚を出す…………。

 

 

 

 

大外から、飛んできた。

 

 

「え?」

誰もが零した。

 

ターフを踏みしめる音も息づかいも聞こえなかった。

それは彼女の技術でもあるが…………何よりは安心と怠慢。

 

 

ディープが抜けられない差を開いていると確信して彼女を気にしないでいた、ディープ以外の全員の。

 

ほぼ全員はディープの実力を真に理解はしていなかった。

 

だからこんなことが起こった。

 

相手がシンボリルドルフ等の歴戦のウマ娘なら疑問を持ったであろう。

相手がテイエムジゼルならディープのことをよく理解しているため、作戦自体を見抜かれて利用されていただろう。

 

これは、まだ未熟な彼女ら相手だからこそできた。

 

 

躓くのは、作戦。

できるだけ違和感なく最後尾に入れるように。普通なら絶望的な差を開かせるために。

 

 

周りを軽々抜いたディープは鳥のように軽やかだ。

 

最後の短い直線とは思えないほどの豪脚でゴールを駆け抜ける。

 

一着はディープインパクト。

 

二着との差は九バ身。上がりハロンは33秒。

 

絶妙に負けた感じがする。

悔しいのでダービーでは覚悟しとけよ(ジゼルは出ないが)と思いながらファンの声援に応えた。

 

 

ジゼル?

 

「なんなのあの怪物…………」

 

と頭を抱えていたそうな。

 

 

 

 




テイエムゴールド
父ステイゴールド  母テイエムジゼル
日本ダービー、天皇賞春、安田記念、高松宮記念、凱旋門賞、有馬記念
計 6勝

ゴルシの同期。皐月賞ではゴルシらの奇策にアタマ差で、菊花賞では仕上がり不足で負ける。だが4歳から頭角を現して、なんと日本馬としては史上初の凱旋門賞を制覇する。
凱旋門賞後の有馬記念ではジェンティルドンナの引退レースなので2番人気だったが、ゼンノロブロイのレコードを破って勝利する。
だが、その後屈腱炎により引退。種牡馬としての活躍が見込まれたが、僅か2年でこの世を去る。

関係者からは「真面目すぎる。あんなに真面目に走って怪我しないのか。」と言われるほどだったのでゴルシと比べられがち。


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オークスとダービー

ジゼルとディープはお互いの理解力が高いです。
でも決していいことばかりではありません。




ティアラ二冠目、オークス。

前世では優駿牝馬と言われていた。

 

前世ではシーザリオがかなり食らいついていたけど、問題はない。

煽ろうかな…………ディープ。

いやでも皐月賞まで怖かったしいいかな。

 

一枠一番という幸運な番号を貰い、ゲートに入る。

うわ、皆の視線が痛い…………泣きそう。

 

その視線の中にディープからのも含まれている。

…………頑張らないと。

 

オークス、秋華賞は通過点でしかない。

その先の有馬記念こそが本命。私が本気で走らなければいけないレース。

 

 

 

速く速く速く速く!

 

アイツに追いつかれないためにも。

 

「テ、テイエムジゼル独走!完全なる横綱レースだ!」

 

ちらりと黒い幻影が自身の後ろにいる気がした。

追いつかれる、そう思ってさらにスピードを上げた。

 

「テイエムジゼル、ゴールイン!会場は呆気にとられている!」

「タイムが出ました…………。な、なんとワールドレコード!ワールドレコードです!」

 

タイムなんてあてにならない。

私は、あいつに勝たないといけない。

 

_______________________

 

「貴女は、私のことをずっと見てくれてるんですね。」

 

私は貴女をずっと追いかけてるというのに。

 

ポツリと呟き、最大外に回って一気に追い込む。

 

あっという間に一人になる。

 

「ディープインパクト二冠目達成!」

「レースレコードを記録しました!」

 

…………ああ、ワールドレコードじゃなきゃ、意味ないじゃないですか。

 

 

________________________

 

「ディープ、日本ダービー一着おめでとう!」

「…………ありがとうございます?」

 

気を落としながらスピカの部室に入ると仲間が笑顔で祝福してくれた。

嬉しいが、それよりも聞くことがある。

 

「トレーナーさん。私はどうやったらワールドレコードが獲れますか。今よりもっとスパルタの練習をする?精神を強くする?私はどうしても…………」

「ストップストップ。お前今日、レースレコード出したじゃないか。」

 

詰め寄りすぎたか、もっとゆっくり話せば…………と再び口を開くとゴールドシップ先輩に口を塞がれた。

 

「ふごふご」

 

「なあ、お前勝っただけでもすごいのに何でレコードに拘るんだ?運、バ場、調子…………全てが揃ってないとレコードは獲れない。何が不満なんだ?」

 

「ぷはッ…………だって勝ってもワールドレコードじゃなきゃあの人と私は同じ位置にいられない!分かるんですよ私、あの人はいつも私を見てるけど寂しがってる。勝てない相手を探してるんです!それは、私じゃなきゃ多分いけないんですよ!」

 

涙が出てくる。私はまたあの人のライバルになれなかった。

あの人は私に勝とうと思ってるけど、私はまだそのレベルには至ってない。

 

悔しい、同じ目線に立てないことがこんなにも…………!

 

俯くとゴールドシップ先輩は優しい表情で頭を撫でてくる。

 

「焦らなくていい。ゆっくりだ。あいつの枯渇を潤してあげられるのはお前だけだよ。だから、焦るな。時間はまだある。人にも仲間にも恵まれている。」

 

私をボロ布袋で誘拐した先輩とは思えないほど優しい手付きで髪を梳く。

 

私はつい、彼女の懐で寝てしまった。

 




アグネスアルマン
父アグネスタキオン  母テイエムジゼル
皐月賞、日本ダービー
計 二勝

名前の由来は、フランスの物理学者アルマン・フィゾーから。ちなみに彼は光速度の測定を行った。
父アグネスタキオンはアルマンが生まれた翌日に亡くなったのでかなりの期待が寄せられていた。その通りに、日本ダービーまでは無敗。
だが、日本ダービーで無敗の二冠目を獲得した瞬間、開放性骨折。ゴール板を駆け抜けた直後、ウイニングランをしようとしたときに気づいた悲劇だった。
その後は安楽死処分。悲劇の馬として挙げる競馬ファンも多い。
父さえも怪我で届かなかった輝かしいダービー馬の地位に登ったが、同じく怪我で三冠を諦めることとなる。

主戦騎手はキングの主戦騎手を務めた人。
彼はその後の菊花賞でエピファネイアに乗り、それを制することとなる。


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悪夢の巻

日常回です。前回暗めだったんで…………。


コンコンと、とあるウマ娘が根城にしている研究室の扉を叩く。

少しして、「入り給え」と声を聞いて、開くと…………。

 

 

「タキオン先輩…………」

「お願いだから待ってくれ私でも警察に通報されるのはちょっとというか大分…………ああ!!押さないで!誤解だから!」

 

泣いている幼女(小学校中学年くらい?)を膝に乗せて頭をなでているアグネスタキオン先輩を見て思わず真顔でスマホを手にとってしまった。

 

110を押して、あとはかけるだけという状態になっている。タキオン先輩は全力で止めようとするが、膝の上の幼女が危ないので下手に動けない。

まさか…………ロリコンだなんて。

 

可哀想なものを見つめる目で静かに訴えると、地味にショックを受けたらしく放心気味になってる。

 

アグネスタキオン先輩はスカーレットが憧れていて、その本人は超ド級のマッドサイエンティスト。私は彼女のモルモット君…………もといトレーナーを匿っていたことがあったのだ。

 

意外と我儘で可愛いところがあるとは彼女のモルモ…………トレーナー談。

 

皐月賞を制覇するくらいの実力者だがいかせん脚が脆く日々研究に奔走している。

 

 

そんな彼女からの呼び出し。確実に嫌な予感がしたのだが…………。

 

「その子は?」

「私に懐いてくれている親戚の子だよ。アルマン、そこのお姉さんに自己紹介しよう。」

「…………はい。」

 

アルマンと呼ばれた子は恥ずかしそうにこちらを見た。

…………なんかあったことがある気がするのは気のせいかな。

 

「アグネスアルマンです。よろしくお願いします。」

「こちらこそ…………もしかして先輩、この子が関係しているんですか?私を呼び出した理由。」

 

あえて私を使うのは何故だろうか。

もしかしてタキオン先輩と前世で会ってたり?それなら彼女は…………うん、考えるのやめておこう。

 

 

「相談事だよ。アルマンは私と君にしか話せないみたいなんだ。」

「え??」

 

思わず驚いてアルマンの方を見る。澄んだまるい瞳は私を射抜いた。

 

「なんとなく、死んだお母さんに似てるんです。…………その、おかしいと思うかも知れませんが…………。」

 

聞けば両親共々亡くなっていて、彼女の人見知りさはタキオン先輩以外の親戚家族を拒絶した。

タキオン先輩はお父さんに似てるらしい。…………それ、大丈夫?

 

「本当に、私でいいんだね?」

再度確認するように尋ねると、大きく頷いた。

 

「よし、アルマン。君の悩みとは一体なんだい?」

 

「…………最近、全然寝れなくて。その、悪夢を見るからなんです。」

「悪夢…………。」

 

ウマ娘の夢には時折意味があるものが混じってることがある。

それは自分が受け継いだ別世界の魂の記憶、らしい。

それは楽しい記憶も辛い記憶もある。

 

悪夢、ということは辛い記憶なのか。

 

「悪夢の詳細を教えてくれ。」 

 

「はい…………。私はその人と一緒に走ってるんです。最初はとても楽しくて…………でも最後は必ずその人は私を見て、私のそばで泣いてるんです。」

「私はその人に笑っていてほしいのに。でも、脚がとても痛くて動けなくて…………。結果的に私はどこかに連れて行かれる。そんな夢です。」

 

それは、もしかしてアルマンが魂を持っている馬は骨折をしたのではないか。

その人、というのは騎手か?

 

 

…………骨折したときに騎手がそばにいるなら………………………………ああ、レースで骨折してそのまま…………。

 

私しかわからないであろう真実を、どう伝えたらいいんだろう。

 

思い悩んでいると、タキオン先輩が温かいコーヒーを淹れてくれた。

 

「そんなに思い悩む必要はないよ、ジゼル君。こういうのは話を聞くだけでもかなりいいんだ。」

 

ね?アルマン、と彼女が聞けば、ブンブンと激しく首を振ったアルマンが心配そうにこちらを見ていた。

いつの間にやら、私が心配される側に回っていたみたいだ。

 

「二人ともすみません。…………悪夢の対処法は、夢を見ないほどぐっすり寝るか、根気良く付き合っていくかの二択ですけど…………安眠薬みたいなの作れませんかね。」

 

タキオン先輩は

「ふむ、安眠薬くらいならすぐ作れるかもしれない。少し奥の部屋で考えているよ。」

 

と言って奥の部屋に消えていった。

 

沈黙が支配する。

 

先に口を開いたのはアルマンだった。人見知りとは?

 

「あの悪夢には続きがあるんです。」

「続き?」

「はい。さっきまですごく痛かったのに急に楽になって、そうしたら、目の前が暗くて。タキオン姉さんみたいに、誰かが私の頭を撫でてくれたんです。それが、何故かとても嬉しくて。頑張ったね、って言われて…………!」

 

思い出したのか、目に涙をためている。

 

「失礼かもしれないですけど、私、ジゼルさんを桜花賞のインタビューで初めて見たとき、運命を感じたんです。」

「わお…………運命か。」

「はい。お母さんに似てるのもそうなんですけど、もっと別の…………」

 

お母さんに似てる、か。そうか。

 

いつの間にか私はアルマンの頭を撫でていたらしい。

目を見開くアルマンがわかる。

 

焦って手を離して謝罪する。

「ごめんね、勝手に…………つい。」

「いえ。全然嫌じゃなかったです。」

 

ふんわりと微笑まれた。あのタキオン先輩の親戚だとは思えないほどピュア。

 

「今日はありがとうございました。秋華賞も頑張ってくださいね。」

「ええ。必ず勝つわ。」




テイエムサファイア
父トウカイテイオー  母テイエムジゼル
菊花賞、有馬記念(2回)、大阪杯、ヴィクトリアマイル
G1計 5勝

珍しい尾花栗毛の馬。クリフジやブラウニー以来の牝馬による菊花賞制覇を成し遂げた。トウカイテイオー晩年の子。母がテイエムジゼルだったため、高値で取引された。
3歳時には有馬記念で引退するキタサンブラックを破って制覇した。ちなみに、名実況とされる「これが男の引き際だー!」は、言った直後に偶然サファイアの大外強襲が決まり、かなり残念な感じになった。
騎手は、3歳時は某リュージが担当、4歳時は某タッケが担当した。


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秋の華よ、咲き誇れ

秋華賞と菊花賞編。

キングとの子供の成績を少し変えました。
激しい子供ラッシュ。ジゼルは耐えられるか!?


ダービーからずっと私とは話さなかったディープ。彼女は無言で秋華賞に来てくれた。

ものすごい圧を感じる…………。

 

ウオッカから聞いた話だと、自分の結果に納得がいかなかったみたいだ。

レースレコード出したし、十分だと思うけどな。

 

キラキラとした顔でこちらを見つめるアルマンと、保護者に見えるタキオン先輩。

わあ、不思議。タキオン先輩がまともに見える…………。

 

バチンッと頬に手を当てて集中する。

 

勝てる。勝ってみせる。見てなさいよ、ディープ。

 

ここで諦めたら、許さないんだから。

 

________________

 

テイエムジゼルが勝ったら、史上初の無敗のトリプルティアラ達成となる。

人々はほとんどそれを見に来たようなものだった。

 

ジゼルは後団の少し離れたところにいるようだ。追込策を取るつもりかは本人のみぞ知る。

 

「勝ちなさいよ…………ジゼル。」

 

ぎゅっと手を握るスカーレットと緊張した顔でレースを見るウオッカ。

 

そして、未だ今日は一言も喋っていないディープ。しかも表情も同じだ。

機嫌が悪いのかとトレーナーがビクビクするくらい無表情。

一体、何を思っているのやら。

 

 

「うわ!危なっ!」

「まあ予想通りと言えば予想通りか。」

 

ジゼルはほぼ全員からきついマークを受けていた。

飛び出そうとすれば阻まれ、常に体をぶつかることを気にしている。

 

あまりにも目立ちすぎたのだ。

 

それでも、ジゼルは涼しい顔をしているし、妨害相手たちはギリィ……!と悔しそうな顔をしている。

 

だが、ついに最終直線でジゼル以外が横一列の一並びになると会場からは悲鳴の声が溢れた。

 

勝てるのか、テイエムジゼルは!!

 

誰しもがそう叫んだとき、ディープは本当に小さな声で言った。

「あの人は、来ます。」

 

期待を裏切りませんから。

 

 

 

テイエムジゼルは芝を力強く踏み込み、最大外と呼ばれる、観客からも消えたように思うくらい奥の位置へ駆け出した。

 

かの一昔前のスターウマ娘、シンザンが使用し、「シンザンが消えた!」でお馴染みのあれだ。

そして、近年は毎日王冠で徹底マークされたオグリキャップが使った方法でもある。

 

ただこれができるのはとてつもない末脚を持つ馬だけで、追込に慣れてなかったりすると失敗するのが難しいところ。

 

ただ、それができるスペックをジゼルは十分すぎるほどに持っていた。

 

さっきまで最後尾だったのにもう先頭に近づいている。

 

ディープの特徴的な鳥のような走り方と比べて、チーターのような走り方をしている。

 

ぐん、と一気に差を詰める。

 

先頭のウマ娘の顔が歪んだ瞬間、ジゼルはその横を走り去った。

 

そこからさらに引き離してゴールした。

 

会場は大逆転を果たしたからかここ一番に盛り上がっている。

 

ジゼルコールが鳴り響くなか、スカーレットはディープを見ると…………。

 

「ふふ…………ふふっ」

 

一人で笑っていた。

 

_______________

 

「うわ、まぶし」

「我慢しなさい」

 

激しいフラッシュに思わず顔をしかめると、おハナさんが叱ってくる。

いいじゃん、エアグルーヴ先輩だってレースに影響が出るくらい苦手だし。

 

興奮気味に記者がインタビューしてくる。なんか圧がすごい。

 

「史上初の無敗のトリプルティアラおめでとうございます!今回のレースはどうでしたか?」

「ありがとうございます。はい、今回はマークがきつく、動こうとするとすぐ囲むので誰もが嫌う最大外から追い込んでみました。」

 

ただ最大外から走るのではなく、一気に、というのがポイントだ。

反応できないほどに、考える時間を与えないほどに速く駆け抜けること。それが大事。

 

「当初の目標であった無敗のトリプルティアラは達成しましたが、次はズバリ何をすることが目標ですか!?」

 

これは一つだけだ。それは…………

「ディープインパクトと、有馬記念でぶつかり合って勝つことです。」

「おお、あの歴代最強ウマ娘と名高い…………!」

「もしかしたら無敗同士の戦いかもしれない!」

「おい、早く号外出せ!」

 

騒ぎ出すメディア陣に思わず苦笑する。前世もこんな感じだったのかな。

 

「ジゼル。」

「ディープ…………」

 

すっかりあの話しかけづらい雰囲気はなくなったディープが微笑みながら花束を差し出した。白いバラだから多分私の勝負服に合わせたのかな。

 

「トリプルティアラおめでとうございます。私も負けてはいられないですね。」

「うん、ありがとう。そう言うなら、菊花は期待していいってことだよね?」

「ええ、もちろんです。精々貴女の度肝を抜いてやりますよ。」

 

勝ち誇った顔で勝利宣言したディープはフラッシュにたかれても平気そうだ、羨ましい。

ディープと一緒にインタビューを受けていると、小さい子供二人が間を縫って来た。

 

「あの…………サインください!」

「わ、私も……!」

 

無茶苦茶かわいい。

ディープも頬を緩ませている。

 

大人しそうな黒鹿毛のウマ娘と、活発そうな栗毛のウマ娘だ。

いいよ、と色紙にさらさらとサインを書く。いやあ………先輩たちから習っておいて正解だったわ。真面目に教えてくれたの、ルドルフ先輩とエアグルーヴ先輩とフジキセキ先輩の3人だけだったけど!エル先輩とかタイキ先輩は英語の筆記体が秀逸で真似できないし。

 

「あの、ディープインパクトさんも………」

「私も、ですか。」

黒鹿毛の子はディープのことも好きらしく、サインをねだっていた。 

 

色紙を渡すととたんにキラキラした顔になる。可愛い。

 

「わ、私、テイエムジゼルさんとディープインパクトさんみたいな無敗の三冠ウマ娘になります!」

「私も!テイエムジゼルさんみたいな無敗のトリプルティアラウマ娘になります!」

 

すごく輝いてるわ………若いって感じがする。

 

「もう、まだ私は三冠ウマ娘じゃありませんよ?」

「それになるためには、死ぬほど努力しないといけないわよ。どんなに才能があってもね。」

 

二人の頭を撫でて聞く。

「お名前は?覚えておきましょう、未来の三冠ウマ娘お二人さん?」

 

二人は、元気いっぱいにこう答えた。

「ジークフリートです!」

と黒鹿毛のおとなしそうな子は。

「エルドールです!」

と活発な栗毛の子は。

 

 




キングオデット
父キングヘイロー  母テイエムジゼル
G1勝利記録なし

別名『最強のG1未勝利馬』
なぜこうよばれるに至ったかというと、ひとえにこの馬の成績の異常性である。この馬はG1こそ勝利していないが、その他のG2レースとG3レースは全て一着。G1レースも出たものは全て二着である。つまり、生涯三着以下になったことがない。前哨戦含むG1以外の重賞などは全て圧勝してるのにG1は勝たないことから、ファンからは「兄弟が目立ち過ぎているからそれが嫌でG1をわざと勝たないようにするも金は欲しいからそれ以外は全部勝つ最近のなろう主人公みたい」とか言われる。陣営からはG1レースが苦手だと思われている。
毎回のようにG1王者たちを前哨戦などで圧勝してみせているから実はすごい馬なのかと思われている。ちなみにダートでも同じ成績を出すのでさらにわけわかんない。
名前はバレエの演目、白鳥の湖のオデットから。


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日本近代ウマ娘の結晶

菊花賞編。吹っ切れたディープは強い。


クラシック路線最後のレース、3000メートルの長距離である菊花賞。

 

最も強いウマ娘が勝つ……………歴代の勝者はそんなウマ娘ばかりだ。

 

これに勝てば三冠ウマ娘。気は抜けない。それに、ライバルが見ている!

 

幸いステイヤー気質である自分に合ってる。今日はハイペースが予想される。何故かというと、スローペースだと追込ウマ娘である自分に有利だから。

だが、どういう展開になろうと、ただ一着になるだけ。

 

まとめて、ブチ抜く。

 

きつい眼差しを前へ向ける。自分にとってはまぁまぁのスタート。どっちみち遅れてもさして問題はない。

 

「あんたは自由に動けない!」

「クラシックまで一人占めなんて許さない!」

 

囲もうとするが、対策済だ。私は、誰もが嫌う大外に出た。急にピョンと飛び出て独走した私に驚いている。

すぐ隣に必死に並走しようとするウマ娘たちは必死の形相だ。

 

「さあ、そろそろ行きますか。」

 

ぐ、と体を勢いよく前傾姿勢で深く潜るようにする。手を後ろに伸ばした特徴的な走りは私だけのもの。

 

徐々にスピードを上げて、最終コーナーに到達したらトップスピードに至れるように。

ついていけてたウマ娘たちの数が一人、二人と減ってゆく。

 

目の前にはまっさらな光景だった。

 

仲間の声が聞こえる。スタミナ不足ではないが、天皇賞春でジゼルとぶつかるときは足りないだろう。

 

後続との差は三バ身。このまま行けると思った……………………。

 

 

眩しい白金がずっと前にいる気がする。こんなにも、遠い。

 

足掻いても足掻いても届かない虚無。

 

拔かなきゃ、拔かなきゃ!!

 

カチッ、とナニかがハマる音がした。

 

急速に周りの色が変わる。

 

黒と青の織りなす美しい闇が染まった。

 

だが、それも一瞬。

 

すぐにそれは終わり、急速に現実へ引き戻される。

 

気持ちの良かった感覚はすぐにレースの緊迫感へと変わった。

 

「世界のウマ娘関係者よ、見てくれ…………」

 

飛ぶ、翔ぶ、跳ぶ。

 

「これが、日本近代ウマ娘の結晶だ!!!」

 

足を地につけたとき、ゴールを駆け抜けて会場のなかにいたジゼルを見た。

 

その顔は、美しい歓喜に染まっている。

 

まるで、未知の領域に踏み込んだディープとぶつかることができると感激しているように見えたのは、気のせいではない。

 

ゆっくりグーパーグーパーと手を動かしたディープはさっきの感触を思い出した。

 

まるで自分だけの世界になったかのような感覚。でもそれは一瞬にして解けてしまった。

 

おそらく、自分が未熟だからだ。

 

悔しさとジゼルと対等に戦えるかもしれないという感情がごっちゃになる。

ああでも、今はそんなことより勝ちを喜んでも、いいだろうか。

 

 

「ディープちゃん!お゛め゛で゛と゛う゛!!」

「全く、アンタって奴はアタシたちのことを置き去りにして…………!」

「最後のやつすごかったな!」

「スピカの名に恥じない走りでしたわ!」

「ボクの出来なかった無敗の三冠、悔しいけど、おめでとう!」

「今日はトレーナーの奢りだぜぇ!」

「まさか、俺のチームから三冠ウマ娘が…………しかもシンボリルドルフ以来の無敗が出てくるとはな…………!うううう…………っ!」

 

誰よりも号泣してたのはトレーナーさんだった。スペ先輩はブンブンと肩を振ってくるし、スカーレットとウオッカは抱きついてくる。

マックイーン先輩、テイオー先輩は涙ぐみながらも頭を撫でてくるし、ゴールドシップ先輩に至ってはいつ作ったのか「アタシ特製の花火だぜ!ドッカーン!!」て叫んでる。

 

そして、ジゼルはいつものように微笑んでディープを見ていた。

 

メラメラとした闘争心を、隠して。

 

 

 




実は今のところディープのほうが成長してる。


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領域への道

ルドルフ先生による領域講座。

領域ってどんなやつだよ!って思ってる方は調べてください。シンデレラグレイに出てきます。
自己解釈、捏造ありありです。


ごくり。

 

エアグルーヴ先輩自慢のハーブティーを隣に座るディープと一緒にゆっくり味わいながら、目の前に座る先輩を見る。

 

「私が呼び出したのもなんだが、わざわざ来てくれてありがとう。有馬記念に向けて集中的に練習しているだろう?」

 

トレセン学園の生徒会長をして、ウマ娘の幸福のために日々奔走している先輩。

G1レースを七勝、無敗の三冠を達成した日本を代表するスターウマ娘。

『レースに絶対はないが彼女には絶対がある』

『勝利よりもたった3度の敗北を語りたくなる』

そう言われている絶対無敵の皇帝、シンボリルドルフ。

 

チームリギルでは、お父さんやマルゼン先輩と同じくらい併走してもらっている。

意外と愉快な一面もあって、駄洒落をよく言う。その頭の良さを無駄にしている…………。

 

面倒見がよく、後輩の相談にも親身になって相手してくれているから人気も高い。そして当然のごとく忙しい。

 

そんな彼女が、私とディープを生徒会室に呼び出した。

 

何かやらかしたかな!?私、自分で言うけど優等生だよ!?

 

ディープは、怒ると手がつけられないくらい暴走するけど普段はやらかすような性格ではない。

 

本当に、何なんだろう。

 

さっきまでいたエアグルーヴ先輩とブライアン先輩は退室していて、部屋の中は3人だけだ。

 

ルドルフ先輩はいつものように後輩に向ける優しい顔で(だがカッコいい)説明してくれた。

 

「ディープインパクトの菊花賞…………何か感じるものがあったんだろう、ジゼル。」

「!!」

 

世界を握らされた感覚がしたあの菊花賞は、わけがわからなくて何回も見てる。違和感が拭えない。何かディープはすごいことをしたような、そんな…………。

 

「それを説明するんだ。気になってる君にも同席してもらった。」

「一瞬しか出なかったアレは一体…………?」

 

 

「領域だよ。」

 

ゾーン、と言ったルドルフ先輩は真面目な顔で言った。

 

ゾーン、聞いたことがある。何かへの挑戦的没頭。例えば金メダリストのプレイが神がかっていたり、極限的集中力により何でもできるようになる。

 

某バスケ漫画では目が光っていた。中学生の頃の私は「やべー、カッケーわ」なんて思ってたけど。

 

私以外にも、あの昏き森が見えていたのだろうか。

 

「時代を作るウマ娘は必ずなると言われている。私やマルゼン、ミスターシービーなどがそうだ。」

「私があのとき出せて、すぐ消えてしまったのは何故でしょうか。」

「これは推測だが、恐らく単純に領域を維持させるまでに至らなかったんだ。でも、君が領域を本当に使うべきはその時ではなかったと私は思うよ。」

 

練度が足りなかったから未完成、短い時間しか発動できなかった?

極限的集中や勝利への執着がトリガーだとすると、私が出ないのも…………。

 

「領域は強力だが体に負担がかかる。君は短い時間だったから大丈夫そうだが…………。」

「いつも通りのレース後の疲れです。問題ありません。」

「それは良かった。…………さて、聡明なジゼルのことだから何故自分が呼ばれたのだろうと疑問に思ってるな?」

 

「はい。何故私を呼び出したんですか。私はディープみたいに領域出せてませんよ。」

「領域とは別に、二人にお願いがあってね。」

 

ルドルフ先輩は、スクールモットーである『唯一抜きん出て並ぶ者なし』の文字を背に立った。

その風格は紛れもなく現役最強ウマ娘のもの。ディープと同じ無敗の三冠を成し遂げたのは伊達ではない。

 

「私が卒業したあとの話だ。…………二人に、生徒会に入って貰いたい。」

「「!?」」

 

私達は驚いた。だってルドルフ先輩が卒業したあとということは、私達はまだ中等部にいる。中等部のウマ娘が生徒会に入るなんて前代未聞ではないか。

実績が必要ならお父さんが一番合うけど、あのひとはちょっと違う。

 

いつも冷静なディープもギョッとした顔をしてるし。

 

「年下の私達が生徒会に入るなんて一部の先輩方は面白くないですよ。」

「君達の実力にいやでも認めるさ。」

「多分ブライアン先輩とエアグルーヴ先輩のどちらかが生徒会長だから私達は片方入れなくなりますよ。規定人数は3人でしょう。」

「特に決まってない。生徒会長と副会長だけだったから書記なんてどうだ?」

 

ああ言ってもこう言っても私達を激オシするルドルフ先輩に頭が痛くなる。何人ものあの個性的なウマ娘をまとめるなんて無理ですって!!!!

 

「こうなったルドルフ先輩は止められないわ。ディープ、やるしかない。」

「…………道連れ?」

「いいや、心中。」

 

「生徒会をどう思ってるんだ君達?」

若干呆れているルドルフ先輩。すみません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「会長、ジゼルを呼び出した本当の理由は…………」 

「生徒会に入ってもらいたいのは本当だ。ジゼルはあの世代の代表格。ふさわしいだろう。」

「まさかアンタ、ジゼルに対抗意識を出させるために一緒に呼んで、領域について話したのか。」

「正解だブライアン。少し先輩が発破をかけようと思ってね。私だってチームメイトとして彼女には勝ってほしい。」

「……………………怪物の目を覚ましてしまったのかもしれませんよ。」

「エアグルーヴ、君だって同じ女帝の名を戴くもの同士、思うところがあるだろう。」

「ですが、」

「君は硬すぎる。もう少し自由にしたって罰は当たらないさ。」

 



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女帝と女帝

「え?エアグルーヴ先輩、エリザベス女王杯に出るんですか?」

 

今日はエアグルーヴ先輩と組んで何回か走っていた。厳格で真面目だがすごくやりやすい。

エアグルーヴ先輩は珍しくドリームトロフィーリーグに移籍していない先輩ウマ娘。

気になって、引退レースは何にするのか聞いてみたのだ。

 

「ああ。そろそろドリームトロフィーリーグに移ろうと思ってな。タイミングを逃し続けてしまった。」

「そうですね。ブライアン先輩もヒシアマ先輩もいますし。エリザベス女王杯かあ、当日は応援しますね!」

 

ニッコリと笑顔でパチン、と手を叩いた。

だが、エアグルーヴ先輩はなぜか怪訝そうに言った。

 

「?貴様も走るんだぞ。」

「え?」

「だからエリザベス女王杯、貴様も走るんだジゼル。」

 

 

な、なんですとぉ!!!???

 

__________________

 

「おハナさん!聞いてませんよ!」

「ついさっきエアグルーヴと話して、彼女が貴女と走りたいって言ったのよ。」

 

ちょっとエアグルーヴ先輩!?一ヶ月少しくらいあとには有馬記念が待ってるんですよ?「ジゼル、エアグルーヴ。エリザベス女王杯ではスイープトウショウも出るわ。注意しなさい。」

「は、はい……………?」

「はい。全く、その呆けた顔を早く戻せ。」

 

呆れた顔で腕を組んで注意する先輩に未だになぜ、という感情が湧き上がる。

 

「私が貴様と走りたいと思ったのは女帝の名を戴くウマ娘だからだ。」

 

エアグルーヴ先輩がどれだけその名に相応しい行いをしようとしてるのはよく知ってる。

それだけ、誇りを抱いてる。

 

まさか、私が女帝と呼ばれるに相応しいウマ娘か見極めるためにわざわざ引退レースを…………。

 

あまりにもショックが大きすぎて、口を半開きにしたまま止まる。 

 

私は、今までみたいに走れるだろうか?

 

チームの先輩の引退レースを台無しにしてしまうのではないか?

 

震える手をギュッと掴んだ。エアグルーヴ先輩は私を本気で潰すつもりだ。

若手に奪われる気なんてさらさらない。最後まで理想を走るつもりだ。

 

新世紀女帝なんて言われたのも、外野の勝手。

 

エアグルーヴ先輩は強敵だ。

そのレースセンスと差すには脅威すぎる末脚は今まで多くのウマ娘を負かしてきた。

 

「本気で、走れるかなあ。」

 

「本気で、走るしかないんですよ?」

 

いつの間にか隣にいたディープが心配そうに顔を覗き込んだ。

本気で走れない、そう思ってた。

 

でもディープは違うというのだ。

 

「今はわからなくても走ればわかりますよ。」

「この、レースバカ。」

 

スズカ先輩並のレースバカであるディープには何言ったって無駄。はっきりわかんだね。

 

 

 

 



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君を思って痛かった

待たせたな、エリ女だぜ!
スイープトウショウのキャラ掴めなくて一時間くらい蹲った。


「G1レース、エリザベス女王杯。今回の見どころはズバリ、エアグルーヴとテイエムジゼルの新旧女帝対決でしょうか。」

「そうですね。エアグルーヴはトゥインクルシリーズの引退レースですから、無敗のトリプルティアラウマ娘のテイエムジゼルに負けてほしくないですね。」

 

ついに、来てしまった。

 

エリザベス女王杯が…………!

 

阪神、芝、内回りの2200メートル。1コーナーまでは550メートル、直線半ばで一回目の急坂を上り、2コーナー、バックストレッチまではほぼ平坦。

3コーナーの途中から4コーナー、直線の半ばまで緩やかに下っていく。

直線距離は、356.5メートル!

 

スタート直後が下り坂なので前半のペースが速くなりやすいのが特徴。

そして、最後の直線が短い。

まあ直線の短さで怖いのはご存知中山だけど。

 

エアグルーヴ先輩は、差し。

類稀なるレース勘と末脚が武器のウマ娘。

今回要警戒。

 

で、個人的に気になるスイープトウショウ。

追込ウマ娘で魔女っ子ロリみたいな外見。気性難っぽいので追込なのはまあ納得できる。

 

「アタシは魔法少女なんだから!」

「キャー!かわいいー!」

「魔法かけてー!」

 

観客席のお姉さま方が興奮してるわ。まるでカレンチャンとライスシャワー先輩のファンを見てるようだ。

 

私は

「手振ってー!」

「新世紀女帝頑張ってねー!」

「負けないでね!」

 

なんて声をかけてくれるファンが大勢いる。

最初はかなりぎこちなかったけど、今はもう慣れた。

手を振ると、キャー!という歓声が聞こえる。

 

反対側のパドックでは引退するエアグルーヴ先輩のファンがまだ始まっていないのにも関わらず泣いている。エアグルーヴ先輩のファンは、先輩に憧れる女の子やキャリアウーマン美人みたいなのが好きな男性が多い。ただ、本人の性格からか、女の子が7割。

 

世代最強候補筆頭とも言われる私は2番人気。

引退レースであるエアグルーヴ先輩は1番人気だ。

 

なんだかんだ言って、2番人気はなったことないわ。

リギルの唯一の新入生だからかかなり期待されてたし。

 

…………引退レースか。

そういえば、お父さんは引退レースは5着だって聞いたな。

厩務員さんの話によると2000年は無敗でまさに国内無双してたが、5歳時にはG1を一回しか勝つことができなかったという。

 

引退レースをきっちり決めないと、強いとは認められない。

 

だから私はあの高松宮記念が未だに強く心に残っている。

 

もし、私が勝ったら、エアグルーヴ先輩はファンからどう思われるのだろうか?

お父さんみたいに………………………………いや、変な想像は止めよう。

 

今は、レースに集中しなくては。

 

 

___________________

 

「やはり、気負っているか。」

 

強さとしては女帝の名に相応しい後輩がなんとなく挙動不審なのを横目で見て、エアグルーヴはため息をつく。

 

どうせあの後輩のことだから、自分が何か言われるのだと思ってるのだろう。

 

後輩、テイエムジゼルが新世紀女帝と呼ばれて一番複雑な思いを抱いていたのはエアグルーヴだ。

 

まるで自分がもう用済みで見放された気がした。事実、ジゼルは鬼のように強かった。

 

それでも、エアグルーヴが引退レースに彼女を呼ぶほどジゼルを気にかけるのは…………。

 

 

「教えてやる。私の今までの全てを。」

 

 

 




百合やりたいです。


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倒錯、憐憫、覚醒

レースが始まります。


バンッ!とゲートが勢いよく開く。

私はスタートが得意だから気持ちよく飛び出せた。

 

その後、私はすぐにハナを奪う。

周りから言われる、大逃げ状態だ。

できるだけ有馬記念まで余力は残したいし。

 

ふと、後ろにピッタリと誰かがついている感覚がする。

 

「え、エアグルーヴ先輩…………。」

 

本来の先輩なら絶対に取らないであろう位置だ。先輩は逃げをワンマンマークすることを嫌う。確実性がないからだ。ペースを乱されやすい位置で、体力が必要。

 

少なくとも逃げに回ったテイエムジゼルの真後ろにつけたウマ娘は今までいない。その点で、エアグルーヴは特大級の賛辞を受け取れるぐらいだ。

 

動揺してすぐにスピードアップしようとする心を宥める。

まだ、終盤に入ってからが勝負。

すぐ突放せばいい。

 

____________________

 

「エアグルーヴには今回好きにしていいと言っている。」

 

東条はレース展開を見て、唖然としているリギルのメンバーにそう言った。

2週間前、頭を下げてきてまでマルゼンスキーに並走を頼み、あえて大逃げ馬ウマ娘にワンマンマーク。

宝塚記念のグラスワンダーがスペシャルウィーク相手に取った策だが、負担は並のそれではない。むしろあのテイエムジゼル相手にすぐに追いつき、後ろを陣取った時点でもういい、と言いたくなる。

 

テイエムジゼルはあの頭おかしいスピードからさらに再加速するのだ。

東条からしてみれば、ジゼルが減速しない限りエアグルーヴは追いつけない。

 

 

『ジゼルはきっと私に気後れして減速します。そこをなけなしの末脚で仕留める…………。』

『その根拠は?』

『心優しい後輩を信じてるんです。負けるつもりはないですが。…………そして、このレースで私が伝えたいことを伝えれば、きっとあいつは。』

 

 

「……………………ひと波乱、起きるかもしれないわね。」

勘という不確かなものは信じない質だが、漠然と東条はそう思った。

 

____________________

 

もう終盤だ。

エアグルーヴ先輩は未だに私についている。キツくないのだろうか?

もしも、怪我でもしたら…………!

 

「(何を考えていたのよ私!それでも走るって決めたじゃない!)」

 

自身を叱咤し気持ちを切り替える。

 

そこから一気にスピードを上げた。

誰も追いつけないように。

 

「(大丈夫…………エアグルーヴ先輩は追いついていない!これなら……………………)」

 

ふと、前世を思い出した。

 

『オペラオーは引退レースを勝ってないから弱いんだってさ、悲しいよな。あの馬の強さは俺たちが一番よく知ってる。やっぱり、何もできなかった俺のせいかな。』

 

『(悲しまないでよ、リュージ。)』

 

「あ…………ああ…………!」

 

スピードが減速し始めてるのがわかる。

エアグルーヴ先輩は、これに負けたら弱いと言われるのか。皆、悲しむのか。

勝ち続けたお父さんのように、私を空気が読めないと罵るのか。

 

私は、これからトウィンクルシリーズでたくさんレースに出られる。

でも、エアグルーヴ先輩は最後だ。私は、花を持たせたほうがいいのではないか?

 

 

エアグルーヴ先輩との距離は三バ身。もう、抜けられるだろう。

抜けるなら、早く抜けてくれ。

そう思って、ギュッと目を瞑った。

 

 

 

「ふざけるな!!」

 

驚いて後ろを見るとエアグルーヴ先輩が鬼の形相で迫っていた。

 

「何故諦めている!私がいるからという理由でお前は真剣勝負に手を抜けるのか!お前は、勝ち続けるのではなかったのか!私を気にして、プライドを捨てるな!」

 

 

「お前は、私の名を継ぐ最強になるウマ娘だろう!!!」

 

目の前が、さっと晴れた気がした。

体が軽く、なんでもできそうだ。

 

なんで、私は先輩の気持ちを、おハナさんの気持ちを、チームの皆の気持ちを、ファンの気持ちを考えなかったのだろう。

 

後ろから激しい息遣いが聞こえる。先輩は、限界だ。でも私を追い抜こうとしてる。

 

先輩は私にマークするまで地獄の修練をし続けたのだろう。

その気持ちはどこまでも真摯だ。

 

私は、悩んでる場合じゃない。ここで負けてはいけない!

 

「はああああ!!!!!」

 

ぐ、と力を入れて駆け出した。もう、後ろは気にしない。前に進み続ける!

 

そして、私は一番にゴール板を駆け抜けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………それで、いい。…………それで、いいんだ。」

 

誇りを持って突き進め。



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有馬記念、前奏、序曲

待たせたな、お待たせディープとの対決だぜ!まだ前奏だけどな!


『無敗の三冠ウマ娘同士の戦い!』

『史上初の豪華対決!』

『英雄VS女帝』

 

ネットニュースはこれらの文字でいっぱいだ。人間のときはこんなに競馬流行らなかったのに(お母さんの時代は違かったらしいが)。やっぱりアイドル的存在なのね。

 

そりゃあ同じ世代の無敗同士がぶつかったらなんて夢のある対決なかなかないわな。

 

エリザベス女王杯の後、私はディープに怒られることを覚悟していた。でも、彼女は意外なことに優しかった。

 

『貴女の意識を変えることができたのは恐らくエアグルーヴ先輩だけでしょう。』

『私には多分できなかったことです。貴女が何を抱えているかは分かりませんが、貴女は一つ確実に強くなった。』

 

私とエアグルーヴ先輩は、同じだ。

 

母ダイナカールのオークス制覇。それを目指していたというエアグルーヴ先輩。

父テイエムオペラオーと同じグランドスラムを成し遂げたかった私。

 

理想を体現しようと努力していたエアグルーヴ先輩。

父という理想の証明をして自らもそうなった私。

 

エアグルーヴ先輩は私が持つ父への憧憬を見抜いていた。まあ確実にその父がオペラオーだとは知らないだろうが。

 

自分と同じ立場のチームの仲間。

エアグルーヴ先輩は私をずっと気にかけてくれていた。同じだからこそ自分しか変えられないと思ったのだろう。すごく優しい先輩だ。

 

自らの後を継ぐ者として…………という気持ちはあるだろうが決して今のことが外れているわけではないはずだ。

 

何かしこりがあるような気がしてならないが、今はその場合ではない。

私がどれだけ歪んでいようと、走るだけ。

「そのためにも、勝たなくちゃ。」

 

ズズ、と栄養ゼリーを飲み干して再び走り出した。真夜中の話である。

 

__________________

 

情けない、と思った。

彼女ではなく私に。

 

彼女の目標はどこか的を射ない。本当の目標ではないということではなく、過去の目標をそのまま引きずってる感じがする。

 

偽りのものなのだ。彼女にとってはもう達成したことのようなのだ。不思議だが。

 

 

「ああ、本当に情けない…………!」

 

彼女の意識を変えることのできない無力な私に怒りがこみ上げる。

 

ライバルなのに。私はこんなにも彼女のおかげで進めているのに私は何もできないなんて。

 

私は勝たないといけない。彼女に勝たなければならない。

…………初めて会ったときから、そう思ってた。

 

 

彼女が私に影響を与えているように、彼女も私に影響を受ければいいのにと思った。

 

 

コンコンとノック音が窓から聞こえた。

不審に思って窓を覗くと…………

 

「貴女は…………」

 

 




コソコソ裏話

テイエムゴールドが凱旋門賞制覇したときの騎手は皆さんご存知タッケ。



追記
凱旋門賞残念でしたね。また来年に期待します!


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決戦のとき

有馬記念編は二回に分けることになりそう。

窓からの来訪者は次回ネタバレするつもり。


長い歴史を持つドリームレース、有馬記念。

その年の集大成であり、レースの前線を駆け抜けたウマ娘だけが参加できるのだ。

 

その有馬記念は、かつてないほどに盛り上がっていた…………!

 

「お前、どっち勝つと思う?」

「やっぱディープインパクトだろー。シンボリルドルフ以来の無敗のクラシック三冠だぜ?」

 

「テイエムジゼルが勝つよね!」 

「そりゃあ初めて無敗のトリプルティアラを達成したウマ娘よ!その強さは圧倒的!」

 

ディープが勝つのか、ジゼルが勝つのか。

観客はその話題でいっぱいだ。観客は満席。ぎゅうぎゅう詰めである。

さらに、現地だけでは留まらず、テレビや動画サイトを見てる人はたくさんいる。

 

無敗のクラシック三冠ウマ娘VS無敗のトリプルティアラウマ娘

 

かつてのミスターシービーとシンボリルドルフの三冠対決より盛り上がっている。

 

同世代で共に無敗。どちらかが負け、どちらかが無敗を維持し続ける。

そう、世間は思っていた。

 

「バカじゃないのっ…………」

 

悔しそうに言葉を漏らしたウマ娘はハーツクライ。同世代にはダービーウマ娘、キングカメハメハがいるため影が薄いが、来年はドバイシーマクラシックに出走を決めている優秀なウマ娘だ。

日本ダービーではキングカメハメハに敗れて二着。その後は重賞レースをまともに勝てていなかった。だが、今年のジャパンCでは二着でようやく本調子といったところなのだ。

 

「今度こそ、G1レースを勝ってやる……………っ!」

 

それに、勝てれば無敗のウマ娘二人相手に一着の先輩ウマ娘として名を馳せるだろう。ディープインパクトとテイエムジゼルの知名度は異常だ。

それをせいぜい利用させてもらう。

 

そのピリピリとした雰囲気は他のウマ娘にも伝播する。誰もが二人の影に隠れてしまったウマ娘たちだ。

 

「有馬記念まで勝たせないわ……………!」

「調子に乗んないでよね!」

「絶対に勝つ……………!」

 

入口を睨みつけるウマ娘たちの姿はそれはそれは怖かった。なまじ顔が整っているから迫力がある。

 

 

ゆっくりと、二人が出てきた。

歓声は破壊的なほど大きくなる。思わずジゼルは耳をペタンと伏せた。

 

「「…………」」

 

無言で拳をぶつけ合う二人に、さらに悲鳴のような歓声が上がった。

 

「負けんなよー!」

「ディープちゃーん!頑張ってねー!」 

「勝たないと許さないから!」 

「頑張れー!」

「落ち着いて走るんですのよー!」

「ボク達がついてるからねー!」

 

「絶対に勝てよ、ジゼル!」

「いつもの君らしく走れー!」

「勝て…………っ!」

「頑張ってねー!」

「油断してはいけませんよ!」

「どうか勝ってくれ!」

「腰が引けるなんてことにならないようにね!堂々としてるのよー!」

「勝て、ジゼルっ……………!」

「後ろを向くな!進み続けろ!」

 

 

「どうか、勝ってくれディープ…………!」

「絶対に、勝て!!」

 

様々な思いが交錯し、有馬記念は始まった。

 

 

 

 

「スタートしました!一番に飛び出してレースを引っ張るのはやはりテイエムジゼルです!」

「彼女、今日はどう逃げるんでしょうか。差しも先行もできるらしいですが、ディープインパクト相手にそれは悪手でしょう。」

「逃げてディープインパクトを追いつかせないかテイエムジゼル!」

 

 

勢いよく飛び出したのはやはりジゼルだ。当然のようにハイペースな展開になる。

二番手との差は六バ身。十分に距離をとっている。二番手のウマ娘は息が切れかけているが。

 

「(落ちるわね)」

 

ジゼルがそう思ったときに二番手のウマ娘はズルズルと落ちていく。彼女のペースについていけないのだ。まともに付き合っても体力が急速に減って落ちる。無視しても洒落にならないほどの大差をつけられるから取り返しがつかない。

 

「(やはり、そう来ますよね。)」

 

ディープは織り込み済みだった。自分に対抗するには大逃げ一択だ。サイレンススズカやマルゼンスキーのような。

 

スズカと共に練習したが、ジゼルは頭も使う。レース勘や頭脳戦では明らかにあちらのほうが上。どんな複雑な策でも見破って攻略してしまう。それだけの力がある。

 

「(だから、私は敢えてシンプルに追い込みで対抗します!)」

 

「そうだ…………あいつに下手な策なんて通じねえ……お前の追い込みなら十分追い詰められる!」

「つまり脳筋戦法か!」

「力のゴリ押しだね。」

 

スピカのメンバーとトレーナーは軽口を叩きつつも食い入るようにレースを見ている。

 

ゆっくりとディープが速度を上げて上がってくる。

その姿を一瞥したジゼルは脚に力を込めてさらに速度を上げた。このくらいなら体力は問題ない。他は駄目だろうけど。

 

 

最終コーナーに回って、最後の戦いが来た。

 

ハーツクライは力を振り絞って駆け出した。ディープは遠くにいるライバルの背中を追って抜いていく。

 

「はあああ!!!アンタには負けないんだから!」

「貴女に逃げ切られてたまるものですか!」

 

鬼気迫る表情のディープ。

 

ディープは、このままだと追いつけないと悟った。

耳が遠くなる。ハーツクライが自分より先にいる。ジゼルがさらに先にいる。

私は、二人に届かない?一番になれない!

 

 

「お願いですから…………っ。あの時の奇跡をもう一度!!私は負けたくない!貴女には絶対に!!」

 

切に願う叫び声がレース場に響いた。

 

 

 

その瞬間、景色が変わる。

 

「なっ…………これは!」

 

暗い森。青く差し込む光。美しい闇。静謐な空間が、そこにはあった。

 

「こんな、モノ…………っ!」

 

あのジゼルでさえひどく走りにくく感じる。空間そのものが自分を拒絶してるかのようだ。

 

ディープは黒いオーラを発しながら自身の隣に走っていた。

 

「領域…………」

 

ものすごい集中力だ。ただジゼルに勝つことだけを支点にしたディープのための領域。

ディープしか受け入れない闇。

 

きっとかなりの負担があるだろう、とジゼルは思った。

 

「それだけ、私に…………」

 

食らいついていたハーツクライや勝つために領域を展開したディープ。熱量が違う。

 

周りよりも自分は冷めている。

なぜだろう。私は確かに勝ちたいと思うのに。

 

 

暗転

 

 

黒い闇の中に私はいた。私は、ターフにいたはずでは…………。

 

「やあ、やっと会えたね。」

 

「……………………どなたですか?」

 

 

突然闇の中から声がした。




コソコソ裏話!

脚質紹介
ジークフリート(自在)
エルドール(差し)
テイエムゴールド(追い込み)
テイエムサファイア(先行)
キングオデット(差し)
アグネスアルマン(逃げ)


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臨場

色々謎が明かされていきます。
ジゼルの気持ちとか窓からの訪問者とか謎の闇からの声とか。


「ボクは残留思念のようなものさ。ボクの魂は受け継がれて君もよく知ってる子のなかにいる。」

 

姿を現さない"声"に訝しむと明るく「まあ、少し話をしようじゃないか!」と言われる。

私、レースに戻らないと…………。

 

踵を返して立ち去ろうとすると鋭く冷たい声が私を射抜く。

「勝てるのかい?」

 

勝てるわけがない。

 

あんな領域、対抗できるわけがない。そもそも私は領域を使えない。領域は時代を動かすウマ娘が使える技。私が使えないと言うことは…………。

 

「私は、本当はいなかった存在…………。」

 

ずっと疑問に思っていた。

友達は“テイエムオペラオーの評価が悪い要因に産駒が活躍していないことにある”と言っていた。それを聞いて私は、ひどく驚いた。

だってこの馬の体、すごく走りやすい。

 

私は特定の脚質はなかった。いわゆる自在脚質。なんでもできる。

不良馬場もできてパワーもスタミナもスピードも極めて高い水準にあった。

 

この馬が活躍してないのは、おかしい。

 

勝手に過去に遡って生まれたのが私。

本来はいない存在。

数々の馬の名誉を奪った。

 

考えないようにしていた。

でも、領域が使えないことで確信したのだ。

 

「本来、栄光を浴びるべきなのはディープインパクト。」

 

ゆっくりと言葉を紡ぐ。

 

「本当は、ディープインパクトが時代を牽引する馬だった…………だから領域が現れた。私はいない馬だから領域が発動できない。」

 

声は、しなかった。

 

何も反応を示さなかったという方が正しいか。気味の悪い沈黙に包まれた。

 

「君は、もしかしてとんでもないバカなのかな?」

 

まさかの叱責。

 

驚いて空中を見入る。

 

落ち着いた声は続いた。

「確かに、他の馬は君が現れたことで不幸せになったかもしれないね。でも、ボクは幸せだったよ。」

 

なんで、私を知ってるの?

 

幸せって、なに?

 

「ボクは君のおかげで幸せだった。君に幸福を教えられた。ボクだけじゃない、オーナーも、厩務員さんも、調教師さんも、もちろんリュージだって!」

 

「君にたくさんの幸せを貰ったんだ!」

 

そう思いっきり怒鳴られた。

 

ビリビリと鼓膜を震わす声にビクッとしてしまう。

 

「じゃあ、私は、どうやったら勝てるの…………?紛い物の私じゃ、本物に敵わないわよ…………!?」

 

実際、あの領域に対抗する手段が思いつかない。

私の走力じゃ、限界だろう。

 

「なんだ、簡単なことじゃないか。君も領域を使えばいい。」

「使えばいいって…………そんな簡単に!」

「使えるよ。」

 

真っ直ぐな言葉に、ぐっと詰まる。

 

なんでこの人は私をそんなに信じているのだろうか。意識したところで出せる代物じゃないのに。

 

「走るのが好きかい?」 

 

「好きよ。」

 

その質問に即答する。私の、確かな気持ち。走ると楽しいし生きがいって感じがする。それは、前世も今も同じだ。

 

「なら使えるさ。今の君なら楽勝。あと、」

 

寂しそうな声になったあと、続けた。

 

「もう、ボクに囚われて走るのはやめておしまい。走るのが好き、その気持ちで永遠に強くなれる。」

「君はちゃんと自分の本当の思いを持ってる。それは決してボクのためという大義名分に侵されてはならない。」

 

頭が働かない。情報を必死に整理しようとする。つまり、この人は…………。

 

「ま、待って!もう少し話を…………!」

「いいや。もう会うことはない。永遠にさようならだ。所詮、未練から生まれた残留思念だからね。」

 

永遠に遠くへ行ってしまう気がして止めたけど、間に合わない。

 

「ボクのために走ることをいけないとは思ったけど…………ボク、本当は嬉しかったよ。」

 

「ありがとう。ボクはこんな親孝行者の娘に恵まれて幸せだったよ。早く、現実へ帰るといい。戻ったらほんの一瞬しか経っていないけど、その一瞬があの世界じゃ命取りだ。ボクはそれをよく知ってる。」

 

 

「お父さん!!!」

 

「あの運命がねじれた世界で勝つなんて、流石ボクの娘だよ!これからもどうか頑張ってね!」

 

 

 

その瞬間、私の体は光に包まれた。

 

 

______________

 

現実へ戻った。

隣には依然ディープがいる…………いや、もう私を交わそうとしてる!

 

まずい。

 

もう残り僅か…………いったいどうやったら。

 

 

「純粋に、勝ちたいの…………」

 

自分から言葉が漏れ出る。

まるでそれが本心かのように。

 

「しがらみとか一切関係なしに!勝ちたいのっ!!」

 

お父さんのためにグランドスラムするとか、ただトリプルティアラ達成するとか。

そういうことじゃなくて、私は、ただ…………

 

「自分のために!走りたい!!」

 

パァァッ!

 

白い光が満ちた。 

 

その光は無数の束となって闇を破壊する。パキパキと音がなり森が壊れ青い光が金色の光に変わる。

 

「これは…………」

 

真白の空間。光に満ち溢れた、清浄な…………。

 

これが、領域?

 

前を見ると、光の束がただ一つの道になる。

 

そこが、ゴールだ。

 

 

しがらみも邪念もなにもない世界で私は走った。ディープがいることさえ気にせずに。

 

ただ、一番にゴールを駆け抜けたくて。

 

「絶対は!女帝は!一番は!私だー!!」

 

そして私は一番にゴールを通った。

 

 

 



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凱旋

私は、ゴールを一番に駆け抜けた、はず。

 

現実味がなさすぎて未だあの会話が忘れられない。

 

お父さんは、私に伝えるために残ったのか…………!

 

私の枷を外すために。最後に伝えに来たのだ。

 

溢れる涙を手の甲で拭い、観客席を見た。

 

盛大な歓声、笑顔、熱狂。

 

「勝ったのはテイエムジゼル!タイムは驚異の2:27.5!ゼンノロブロイのレコードを二秒縮めた世界レコードです!」

 

前世はこんなに速く走れてなかった。世界レコードなんてこのレースでとってないもの。

歴史はさらに変わっている。私の活躍で。でも…………

 

「自分のために走るって、楽しいや。」

 

 

 

 

 

 

「…………負けたんですね、私。」

 

途中、ジゼルと並んだときに勝ちを確信していた。だが結果はこれだ。まだまだ鍛錬が足りないということか。

 

「顔つきが変わりましたね。…………約束は果たせたみたいです。」

 

思いだすのは、前日の夜。自分に会いに窓から来た来訪者だ。

 

 

『やあ、はじめまして。ディープインパクト。』

 

『テイエムオペラオー先輩ですか…………』

 

キザっぽく薔薇を投げてくるオペラオーに噂通りだと呆れる。

…………囲まれた有馬記念は凄かった。アレは私でも無理だと思ったのだ。

 

『同チームのジゼルではなく私に何か用ですか?』

『君にお願いがあってね。』

 

薄く微笑むオペラオーに首を傾げる。

 

『あの子の枷を、呪縛を取り払ってくれないか。』

『枷に呪縛…………。』

 

急に真剣な顔になったオペラオーに動揺するも、気取られぬよう精一杯真顔になるように努めた。

 

どうやら、私のライバルは私が思うより深刻な理由があって自分のために走れないらしい。

その理由についてはオペラオー先輩も知らないのだとか。

 

『さながら、あの子は呪いにかかって白鳥になったオデットだ。』

『そこはオペラじゃないんですね。』

『あの名前はバレエの演目である"ジゼル"を連想させるだろう?オペラよりもバレエが似合う。』

 

確かに。オペラオー先輩とジゼルは仲が良さそうだったが名前という意味でも似てるのか。

バレエとオペラ…………確かオペラの舞台もバレエを取り入れている。

 

『多分、この世界だと君にしか出来ない。今のボクでは悔しいけど力不足だ。こればっかりはどうしようもない。』

 

彼女のライバルである私しか彼女を追い詰めて自覚させることができないと言った。

 

『私の目的はあの子に勝つことです。でも、その件私も気になります。自分のために走れたジゼルはどのくらい強いんでしょうか。』

 

『少なくとも、軽く周りを捻り潰せるほどだよ。あの子は加減を知らなくなる。』

 

『さらに強くなるんですね……………………頑張ってみます。』

 

 

 

自分はジゼルを追い詰められたか否か。

 

それは出来たのだ。

ジゼルは間違いなく人生で一番追い詰められていた。油断しないディープも勝利を確信していたほどに。

 

では、自分はジゼルを救えたのか否か。

 

それは否、だ。

少なくとも自分は追い詰めたが、ジゼルは自分のために走るということをてんで理解していなかったように感じた。

だが一瞬で領域を発動させてあっという間に今までとは比べ物にならないパワーを手に入れた。

 

救ったのは、自分じゃない。けど、自分の走りがきっかけなのは事実だ。あのテイエムジゼルを負け一歩手前まで追い詰めたのは誇りに思っていい。それだけで終わる気は毛頭ないが。

 

『負けて、しまいました…………』

 

『ああ。皆見てたぜ。』

 

『勝ちたかったです。でも、悔しさ以上に、楽しかった…………!』

 

『またそんなレースができるといいな。』

 

私とジゼルをよく理解してるであろうゴールドシップ先輩に珍しく真面目に言われてクスッと笑ってしまう。

 

ゴールドシップ先輩がジゼルに抱くのは、家族愛に近い。血縁関係はなさそうだが、ゴールドシップ先輩は時折ジゼルに甘えたくなる、らしい。

トレーナーが言うには母親に甘える子供。

いつも奇想天外な先輩だが、ジゼルの前だと甘えるらしい。あと、マックイーン先輩はいつもイジられてる、と思っているが多分そうではない。アレは一種の甘えだ。

 

メジロマックイーンにテイエムジゼル…………いったい先輩の特別は何が基準なのだろう。まああの先輩を理解しようとしても無駄だが。

 

「ありがとう、ディープインパクト。」

 

パドックから去ってウイニングライブの準備をすると、ジゼルが壁に寄りかかって待っていた。

 

「私が成長できたのは、貴女のおかげだよ。あと、今日は最高に楽しかった!」

 

花のような笑顔を向けられた。

 

私も負けじと感謝を伝える。

 

「こちらこそ、ありがとうございます。また、走りましょう。」

 

 

次は順当に大阪杯だ。そこでリベンジできるか…………いや、やってみせる。

 

新たな決意を胸に、一緒にステージへ上がっていった………。




※まだジュニア級です。終わりじゃありません。

コソコソ裏話!

主戦騎手について

ジークフリート(タッケ)
エルドール(ikze)
テイエムゴールド(タッケ)
アグネスアルマン(ユーイチ)
テイエムサファイア(リュージorタッケ)
キングオデット(リュージ)

ちなみにリュージはアルマン以外は一回はジゼルの子供に乗ってる。最早テイエム一族専属騎手。


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一歩前進

珍しく日常回だぞ!


『よく頑張ったな、ジゼル。』

 

はあはあと息が切れる私に、厩務員さんは頭を優しく撫でる。

 

『きっとお前とディープインパクトに似て、強い馬になるさ。』

 

薄く開いた目で目の前の仔馬を見た。小さくて、可愛い子。

 

ずっと一緒にいることは恐らく叶わないけど、今のうちに思い出を作りたい…………。

この世界は厳しいけど、どうか強く生きてほしい。

 

そう思いながら意識を失った。

 

 

 

 

 

「夢…………。」

 

チュンチュンと小鳥が鳴く。時計を見るといつもより少し早い。ディープはもう走りに行ったに違いない。

今のは、昔の封印したはずの記憶。

 

いわゆる黒歴史。

普通に考えて?元人間が馬とうまぴょい(意味深)するんだぞ?初めてがライバル馬とかトラウマもんだぞ??しかも毎年産んだしな!!!(ヤケクソ) 

 

 

いつもならさっさと忘れるように努力するのだが、今日はそういう気分にはなれなかった。

きっと、昨日の有馬記念で、馬時代のお父さんに会ったからだろう。

 

「最初の子供の名前って確か…………」

 

ジークフリートだったような…………。

 

ん?ジークフリート??

 

背筋に冷や汗が流れる。

 

可愛い笑顔でディープと私のサインを貰った小学生のウマ娘。彼女はジークフリートと名乗っていた。

 

そして、私のサインを貰った勝ち気そうな小学生のウマ娘。エルドールという名前だった。

 

 

悪夢を見たのだと相談してきたタキオン先輩の親戚のウマ娘、アグネスアルマン。

 

 

やべえ…………全員私の前世の子供じゃん!!!

 

厩務員さんから私の子供たちの活躍を聞いて、誇らしく思っていた。特に凱旋門賞を制覇したテイエムゴールドへの熱の入りようは凄かった。

 

今はまだ三人しか会ってないけど他にもいるよね絶対!!

 

強制的に思い出すパターンかあ…………。

 

もうタキオン先輩とかキングヘイロー先輩とかにまともに挨拶できないんだけど!?

テイオー先輩はそもそもあんまり話したことないし。

 

「思い出してよかった…………のか?」

 

_______________

 

「ポニーちゃん、浮かない顔だね。昨日の疲労が抜けないのかい?」

「あははは…………そうですね。」

 

フジ先輩が心配そうに聞いてくる。うん。そういうことにしておこう。

 

「無理もない、領域を発動したんだ。普通なら数日は休む。」

 

丁度登校してきたルドルフ先輩。その隣にはテイオー先輩だ。

うげ…………。

 

「多分話したことなかったよね?ボクはトウカイテイオー!よろしくねジゼル!」

「テイエムジゼルです。よろしくお願いします…………。」

 

あの奇跡の復活を果たしたテイオー先輩と関わるのは嬉しい。

私はあのレースを見て、お父さんの有馬記念の次に感動したのだから。

つまりファン。でも今は気まずい。主に私が!

 

「ルドルフ先輩は卒業後は何をなさるおつもりですか?」

 

ウマ娘の卒業後の進路は多種多様だ。普通に就職したり、海外に進出してプロとして活躍したり。ルドルフ先輩は名門シンボリ家の至宝と呼ばれていたから当主の座を継ぐのかな?

 

「私の夢は総てのウマ娘の幸福。だからシンボリ家当主としてみんなをサポートしようと思ってる。」

 

「さっすがカイチョー!」

 

テイオー先輩は噂通りルドルフ先輩をよく慕っているようだ。

フジ先輩があ、と気づいたように私に言った。

 

「そういえばジゼル、ディープと一緒に生徒会に入らないかって会長から誘われたんだって?すごいじゃないか!」

 

あ、これヤバいかも。

 

ルドルフ先輩もその話について肯定しようとしたが、テイオー先輩のしっとりとした雰囲気に固まってる。

止められるの貴女しかいませんよ!?

 

テイオー先輩はルドルフ先輩をよく慕ってるからその話についてあまりいい気はしないだろう。テイオー先輩、なんとなく生徒会って柄じゃないし。ブライアン先輩もだけど。

 

それに、ディープの話だと最初は無敗の三冠ウマ娘を目指していたということだ。残念ながら怪我で出来なくなったが。

 

もしかしたら、私とディープという組み合わせに"三冠ウマ娘じゃないと認められない"とか思ってたり…………いや、ないかな?

 

「カイチョーの後を継ぐウマ娘として認められたんだ…………へえ。」

「うっわ。」

「テイオー、前のことは謝るから話を聞いて…………」

 

「ボク、やっぱり…………」

 

小声でボソッと呟いたあと、校舎とは逆方向に走る。

 

「ちょ…………っ!すみません先輩方!授業遅れます!」

 

私もすぐに追いかけた。見捨てられなくて。

 




ウマ娘のトレーナー百合ものだとルドトレが好きです。


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溶解

「待って!テイオー先輩っ!」

 

速度規定があるため軽く(×100)走ってる。けどテイオー先輩はそれを無視してる。これは、ちょっと真面目に走っちゃおうか。

 

ぐ、と体を少し傾けて一気に駆ける。あっという間に隣に並んだ。

目を見開くテイオー先輩に私なりの大声で怒鳴った。

 

「ちゃんと、話を聞けええ!!!」

 

「…………え?」

 

___________

 

とりあえず人気のない公園で話すことにした。道中、はちみーを買って飲んでる。

うわ、これ甘い…………ねっとりしてる…………。

 

テイオー先輩は硬め濃いめ多め、私は柔らかめ薄め少なめだ。私のやつは一番初心者ウケしやすいらしいけど…………テイオー先輩いつか糖尿病になりそう(偏見)

 

「ボク、はちみーはこれしか勝たん!」

「えー…………私のやつでも甘すぎるのに…………。」

 

むしろ甘いものは好きな部類なのだ。なのに甘すぎると感じるからテイオー先輩のは相当やばい。

 

「…………ボク、カイチョーが一番好きなウマ娘なんだ。カイチョーの日本ダービー見てカイチョーみたいな無敗の三冠ウマ娘になろうって…………。」

 

「思うんですけど、無敗の三冠ってそんなに偉いんですかね。」 

 

これから活躍できるなんてわからない。競馬というかレースに絶対はないのだ。

 

「偉いんじゃなくて凄いんだよ。今まで達成出来たのはカイチョーとディープとジゼルだけ。」

 

「生徒会入りに関してですけど、私だけじゃなくてきっと他の人も…………」

「いない。」

 

きっぱりとテイオー先輩は断言する。またしっとりとしたオーラが出てきた。いやだ…………梅雨かな?

 

 

「ボク、一回カイチョーの後を継ぐのは誰って聞いたことがあるんだ。カイチョーは、私に選ぶ権利はないって言ってた。」

 

それじゃあ矛盾が生じる。私とディープを誘ったのは…………。私はスマホを素早く操作する。

 

「ボクはカイチョーの後を継ぎたいって言った。でも、断られたんだ。テイオーには向いてないって。」

 

「先代の生徒会長はミスターシービー。先々代はシンザン。皆、三冠ウマ娘だ。」

 

「怪我をしないことだって強さの証明だ。ボクはそれが出来なかった。無敗の三冠ウマ娘にもなれなかった。」

 

「結局はカイチョーの真似しか出来ない…………それさえも出来なかった中途半端な奴だよボクって。」

 

淀んだ目で虚空を見上げるテイオー先輩には言いたいことがたくさんあった。

 

まずこの人誤解しまくってる。

 

そんでもって「無敵のテイオー様」とか言っておきながらネガティブというか拗ねらせ思考すぎる。

 

自己評価が最初から低いわけではなく、複数の怪我により低評価になったのか?

 

 

「貴女は誤解してます。ルドルフ先輩は貴女を心配して言ってるんです。」

 

淀んだ目がこちらを向いた。もう闇堕ちじゃないですかヤダー。

 

 

ため息をつき真っ直ぐ見返す。

 

「生徒会というものが走る時の枷になってしまうから、ですって。ルドルフ先輩はトレセンの顔。確かに負けてはいけない感は出てますよね?」

 

スマホのルドルフ先輩とのトーク画面をずいっと見せる。実はテイオー先輩が話してるときこっそり打ってた。

 

それには、テイオー先輩を心配してるメッセージがあった。あと、テイオー先輩の思ってることは誤解だとも。

 

「貴女とルドルフ先輩は全然違う…………そういうことを言いたいんじゃないですか?」

 

暗に真似する必要はないと言う。

 

というか、ルドルフ先輩が可愛がってるテイオー先輩相手にテイオー先輩が思ってるようなことを言うなんて有り得ないのだ。

 

「自由に、自分のために走る…………簡単だけど難しいことです。私もそうでした。」

 

「生徒会…………それも生徒会長だと、一つのレースごとに負けられない、トレセンに泥を塗るなんて考えますよ。」

 

あの個性豊かなウマ娘たちを束ねるから相当な精神性も必要だ。

 

…………考えれば考えるほど無理に思えてきたぞ?

 

「そっかぁ…………違うのかあ。カイチョーはボクのことちゃんと考えてくれてたんだね。」

 

テイオー先輩は拍子抜けしたような安心したような顔をした。

 

これで一安心?

 

「早く戻らないとですね。授業の途中ですよ時間的に。」

 

先生に睨まれるのはちょっと怖いんだよなあ。

 

 

すっかりなくなったはちみーの容器をゴミ箱に捨てる。あれ、意外とイケた…………?

 

「ジゼル、ありがと。ボク、正直ちょっと苦手だったんだ。君のこと。」

同じく容器をぽいと投げて見事命中させたテイオー先輩は笑顔で言った。

 

「…………それ、今言います?」

 

しかも笑顔で。

 

「もう、ごめんってば。ボクが叶えられなかった無敗のウマ娘だからね。ディープもだけど、羨ましかったんだ。」

 

吹っ切れた顔をしてるからもう大丈夫だろう。もともと不屈と言われるくらい精神は強いウマ娘だ。

 

 

「でも、ボク君のこと好きになれそう!」

 

「…………さいですか。」

 

私は複雑だったよ、うん。




アンケートとります。

番外編でジゼルの子供の話を書くので読みたい子のところを投票してください。

確実に言えるのはアルマンは地獄です。


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番外編 貴公子ですが、何か?

改めてジークフリートのプロット読んだらチートすぎて草生やしまくりました。

ジークフリート君は転生者ではなく、素で頭が良いです。

ゴール板の存在を理解していたとか競馬のルールわかってるとかはオペラオーやルドルフとかの話が元ネタです。すごいなこの二頭。誕生日も同じなんだぜ?

繁殖牝馬の仕組みとか!調べてもよくわかりませんでした!テイエムついてないのでジークフリートは馬主タケゾノ氏じゃないですすみません!!


ジークフリート。

 

父ディープインパクト、母テイエムジゼル。

母の父テイエムオペラオー、父の父サンデーサイレンス。

母方はサドラーズウェルズ系、父方はみんな大好きサンデーサイレンス系である。

 

父と母は最強のライバルと言われるほどの名馬で最強馬論争引っ張りだこである。

母の父も言わずもがな年間無敗を達成して主要G1総なめのこちらも最強馬候補。

父の父は日本競馬界では名の知れた大種牡馬。

血統から見ればファンなら二度見どころじゃすまないくらいの夢の配合だ。

 

当然ホースマンたちはワクワクしてたしいざ生まれたとなったら大騒ぎだった。ホースマンだけではなく、競馬板も一時サーバーが落ちるレベルでそれはもう凄かった。

 

ただ、良血ほど走らないというのはよくある話。大成している馬はかなり少ないのだ。

そもそも競走馬になるのも一握り、勝つのも一握り、重賞なんて夢のまた夢だ。

死ぬ場合だって普通に有り得るのだ。

 

だからジークフリートの関係者はハラハラしながら見守った。真綿で包むように丁寧に丁寧にジークフリートを扱った。

 

なにせ親はあの最強のライバル二頭。人気も高い二頭の子供が怪我したり死んだりしたらバッシングは必ず受けるだろう。

 

だが流石将来は両親に恥じない名馬となる貴公子、他の馬より素質は明らかに段違いだった。

 

「(走るの楽しいなあ…………みんなも喜んでくれてるし)」

 

と本馬は思ってたりする。

 

走るのが楽しくてついつい走っちゃうのは父ディープインパクト譲りである。どこぞのサンデーサイレンスの先頭民族とまではいかないが、一番は渡さないという勝負根性も備わっていた。

サンデーサイレンス血統の瞬発力、サドラーズウェルズ系の欧州向けの脚にパワー、良いところどりだった。

 

欧州血統、それもサドラーズウェルズが入ると日本では走れないと言われるが、テイエムオペラオーとテイエムジゼルは両馬共に日本でかなりの実績を残した馬だ。その血を引くジークフリートも高い適応力があった。

 

馬主は父と同じだ。

騎手は天才騎手と名高いユタカだ。

 

ユタカは調教時からジークフリートをべた褒めしている。

例えば

「他の名馬はソラを使ったり気性難だったりと何かしらの欠点が一つはあるはずだがこの馬には一つもない。サラブレッドの理想型とはこの馬のことを言ってるんだろう。」

とコメントしてる。

 

サンデーサイレンスの最高傑作はサイレンススズカかディープインパクトかと思ったが違うかもしれない、とまことしやかに囁かれた。

 

ジークフリートは新馬戦から凄かった。

上がり32.5のやべえタイムを出しあっさりとレースレコードを出した。ちなみに父と同じ追い込みをした。

 

ユタカは

「この馬は何でもできる。」

と絶賛した。何でもできるテイエムジゼルの血の影響か。

 

その後はレースを2つ重ねて弥生賞に出走。もちろん陣営の狙いは無敗のクラシック三冠だ。

弥生賞ではまさかの大逃げ。おいおい大丈夫か負けるんじゃねえの…………というムードが強かったが、ジークフリートの母馬を思い出せ。追い込みから大逃げまでこなした頭おかしいやつだぞ。

 

結果は九馬身差の圧勝に終わった。

 

皐月賞では先行策を取り、五馬身差の快勝。だが二着の馬オルフェーヴルもかなりすごく、ファンはジークフリート越えを期待した。

 

だが結果は無情である。

 

日本ダービーは逃げジークフリートを差しきれず、菊花賞では並ぶところまではいけたもののジークフリートの母方譲りの競り合い強さに負けた。

そういえば母父テイエムオペラオーだわ。納得。

 

ジークフリートは人懐っこく、林檎が大好き。

そして、走ることも好きだがウイニングランがレース後の何よりの楽しみだ。

 

自分の名前を呼んで拍手をしてくれる。騎手さんも厩務員さんも褒めてくれるし。つまりはゴール板一番に抜けたら一番でしょ?皆知らないの〜?

と思ってた。

 

その後ジャパンカップから有馬記念へ直行する誰も成し遂げたことのないローテをした。シンボリルドルフも勝てなかったローテだがこいつならやるという凄味がジークフリートにあった。

 

そしてジャパンカップを快勝。ファンは今まで成し遂げたことのない記録にどんちゃん騒ぎだ。

有馬記念では一皮剥けたオルフェーヴルがいたが何のその。直線一気に追い込んで見事グランプリ制覇した。

これにより年間無敗。無敗のクラシック三冠馬。世代最強は間違いなくジークフリートだった。

 

だが4歳初戦の阪神大賞典。先行策をとったジークフリートはレース中に骨折。明らかに走りが怪我した馬のそれになったが、ユタカの制止も聞かず走り続けた。

 

観客からは悲鳴。

年下のゴールドシップが追い込んでくる。いつものような走りができなくなっても一番だけは譲らないとジークフリートは頑張った。

 

「もう、やめてくれジークフリート!」

「(絶対に勝つんだ…………!)」

 

その頑張りは届かなかった。

 

ハナ差でゴールドシップが勝ったのだ。あのゴールドシップが唯一最初から最後まで真面目に走ったのがこのレースだと言われている。

 

もともと丈夫だったのか、幸い命に別状はなかった。安楽死は免れた。だがそれでも酷く、その年のジャパンカップまで休まないといけなかった。

 

周りを悲しませてしまったことにジークフリートは自分も悲しくなった。

騎手さんだって最後は泣きそうになっていた。

 

だから、ジャパンカップと有馬記念というレースは勝つ。そう心に決めた。

 

療養期間はジークフリートにとっても寂しい時間だ。楽しい走りもできない。色々不便だし。

 

ジークフリートはおとなしく過ごしていた。

 

 

そして、ジャパンカップになった。

 

ジークフリートは怪我明けということで人気は低かった。何せ三冠牝馬で異母兄妹にあたるジェンティルドンナ、そしてあのオルフェーヴルが出ているからだ。

 

その人気を覆し、ユタカとジークフリートは大外強襲をし、大差で勝った。そのタイムは当時の世界レコードだ。

 

怪我明けのレースで世界レコード。

ホースマンたちは震撼した。怪我してなかったらどうなってたんだこの馬…………。

 

そして堂々の一番人気に推されたジークフリートは有馬記念でも勝った。

陣営はここで引退することを決めていた。

 

ジャパンカップ、有馬記念を連覇。

G1レース7勝。

 

間違いなくジークフリートは歴代トップレベルの名馬だった。

 

 

 

 




やべえ、私明日あたりオルフェーヴルファンに刺されそう()
オルフェーヴルとジークフリートが同い年なのは二次創作マジックです!!!!!作者、年表に穴あるの最近知ったんだから!直そうにもテイエムゴールドはゴルシの同期にしたかったのよ!!え?ゴルシ阪神大賞典初参加が4歳時?計算合わない?そこの男子!シッ!!!




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大阪杯

テイオー先輩との件も無事解決し、私とディープはシニア級になった。

初戦の大阪杯。それが次のディープとの対決になる。

 

「大阪杯は阪神芝2000メートル。コース取りは皐月賞と似たようなものだ。良馬場なら2分は切るだろうな。」

 

「ほええ…………」

 

教師が持つ棒を使いながらホワイトボードで大阪杯の解説をしてくれるおハナさん。すごい似合ってる。

 

「そして、今回はディープと同じくらい無視できないウマ娘も出走する。」

 

真剣な目をしているおハナさんに深く頷く。そう、今学園はその話題でいっぱいだ…………。

 

「宝塚記念で骨折して以来レースに出ていなかった、ライスシャワー先輩が出るんですよね。」

 

無敗の二冠ウマ娘、ミホノブルボン先輩の三冠、史上最強ステイヤーと名高いメジロマックイーン先輩の三連覇を阻んだ漆黒のステイヤー、淀の刺客。

有馬記念ではナイスネイチャ先輩の連続三着を止めているレコードブレイカー(記録壊し)だ。

 

こちらが怯むほどの精神力と削ぎ落とされた体、徹底マークを駆使し勝利を重ねてきた。

 

私との相性は、悪いのか良いのか…………。

 

ていうか、ディープはマークできないしやっぱり私にマークするのかな。

私の大逃げについてこられるかなんだけど、ステイヤーだし持久力はあるか。

 

「かなりの強敵だぞ、お前でも危ないくらいこういう時のライスシャワーは完成している。」

 

あの殺気みたいなオーラと実際に相対したら私どうなるんだろう…………というか、なんで短剣持ってるの?怖いよ!

 

「私の逃げはスタミナだけじゃなくてスピードにも着いてこられるか、です。慢心はしませんけど、取り敢えずディープとライスシャワー先輩に注意を向けておきます。」

 

無敗のクラシック三冠を獲れると期待されたミホノブルボン。

 

三連覇を可能にしようとした最強と謳われたメジロマックイーン。

 

「で、現在無敗伝説更新中の私、か…………。」

 

さて、どうしようか。

 

 

___________________

 

「ふッ…………はッ…………!」

 

「ひゅっ…………ハッ…………!」

 

ディープはスピカの先輩であるメジロマックイーンと長距離の並走をしていた。

いつもなら次の大阪杯に向けてミーティングをするのだが、予想より早く終わってしまったのだ。なぜなら、

 

『つまりジゼルとライスシャワー先輩に反応されないくらい速く抜けろということですね?つまりはジゼルが引っ張るハイペースのなか脚を溜められるくらいのスタミナが必要…………。よし、マックイーン先輩、走りましょう。』

 

『もっと捻った作戦はありませんの!?というかトレーナー!ただでさえ脳筋なディープにただ抜かせなんて今度こそ馬鹿になりますわよ!?』

 

『私、学校の成績はいいですよ…………?』

 

『もっと駆け引きとか覚えてください!』

 

『まあスズカと似たようなもんだろ。』

 

「分かってましたけど、かなりキツイですね。」

 

スポーツドリンクを飲んで休憩したディープが言った。

このトレーニングは天皇賞春が行われる前にマックイーンとゴールドシップがしていた練習だ。

スピカで長距離枠…………といったらゴールドシップしかいなかったからである。ディープはまだ三冠獲っていなかったため除外。まだ中距離メインの練習をしていたからだ。

 

「見た限りあのジゼルってウマ娘、もっと"出来る"ウマ娘ですわよ。」

 

「わかってます。だから今こうしてマックイーン先輩に付き合って貰ってるんです。」

 

ぐ、と柔軟をしてから立ち上がってコースに戻った。ジゼルだって練習してるはすだ。負けていられない。

 

 

この練習にゴルシが飛び入り参加してくるまであと5秒…………。

 

 

 

_____________________

 

「お兄さま、ライス、頑張るよ。」

 

漆黒のステイヤーに、鬼が宿る。

 

 

 



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女帝、英雄、刺客

鬼が宿るとはまさにこのことだ、とジゼルは思った。

 

パドックにはマックイーンとの天皇賞春のような、それよりも研ぎ澄まされたオーラを放つウマ娘がいる。

 

観客は彼女の姿を見て感動のあまり泣き出してる人もいた。

 

一流の暗殺者や殺し屋に会ったことなんてないが、きっとこういうオーラを放つのだろうと思わせるくらいのレベルだ。

 

「(これは…………私も些かペースを崩されそうだ。)」

 

さて、どう対抗するかと考えた。

おハナさんは、対ライスシャワー先輩に関しては珍しくその場の私に任せると言った。

きっとこのレース、私達じゃ予想できないレベルの展開になる、と。

 

「ビビってるんですか?珍しい。」

煽るように隣に並んだのはディープ。

彼女もライスシャワー先輩の姿を認めると、顔を少し歪ませた。

 

「マックイーン先輩から聞いてはいましたけど、キツイですね。」

「あんなのにマークされ続けたらおかしくなりそうよね。」

 

だから、ある程度平常心を取り戻せたメジロマックイーン先輩は流石だと思う。

 

「マークされるのは私か貴女ですよ。どちらになってもキツそうですが。」

 

とディープが言うので思わず笑ってしまった。

 

「マークされるのは絶対私よ…………考えてみればわかることだわ。」

 

だって、ディープをマークするには最後尾に降らないといけない。

そして……………………。

 

ひやり、とナイフが突き立てられた感覚がした。

ライスシャワー先輩が、こちらをじっと見ている。

 

「…………構わない。」

 

最後に勝つのは、私だから。

 

____________________

 

ガシャン!!

 

と勢いよくゲートが開いてウマ娘たちが一斉に飛び出した。出遅れはいなく、きれいなスタートと言えるだろう。

 

その中でも、規格外のスピードで一気に先頭に立ったのはやはりテイエムジゼル。

後続のウマ娘たちとの差をどんどん引き離していく。

 

「やっぱりテイエムジゼルの実力は段違いだよなあ…………。」

「この中だと、対抗できるのがライスシャワーとディープインパクトだしな。」

 

テイエムジゼルを負かすには、彼女以上のレースセンス、脚力、スタミナ、頭脳が備わっていないといけない。

 

彼女の後ろに、黒い影が来た。

 

「ライスシャワーだ!テイエムジゼルのすぐ後ろへマーク!!」

 

普通の人なら分からないが、今日のライスシャワーは完成されている。

細い足は密度の高い筋肉が付き、肩はしっかりとしている。

 

極限まで削ぎ落とされた体…………何をすればここまでできるのだというほどだ。

 

ライスシャワーはお兄さま…………トレーナーに言われたことを思い出していた。

 

『いいか、ライス。君は生粋のステイヤーだ。大阪杯の2000メートルは君には短いだろう。だから君はこの勝負、不利と考えている…………違うかい?』

 

『う、うん…………ライスがブルボンさんやマックイーンさんに勝ったときは長距離だったから…………。』

 

『そうだな。自分に有利な状況にしないと、あの怪物二人には勝てない。今回はライスがステイヤーなことを上手く利用する。』

 

まず、ジゼルにピッタリとマークすること。

相手が動きづらいと思ったならなおよし。

 

本来なら、ジゼルをマークするというだけでも大変だが、ライスは違った。

参加してるウマ娘たちの中で、ライスだけは違った。

 

ライスシャワーはステイヤーである。それも才能があるタイプの。それに努力も掛け算する。

ライスシャワーはステイヤーとしての膨大なスタミナがある。そのスタミナゆえに2000メートル程度だと力を出しきれないのではないかと思っていた。

 

今回は、テイエムジゼルというまさにスタミナを搾り取られる強敵がいた。

大阪杯に出ている中距離ウマ娘たちはジゼルのスピードとスタミナはたまったものではない。

 

だが、ライスは?

 

ライスはこの中でジゼル以外だと一番スタミナがある。だってステイヤーだから。ジゼルはスタミナも優れていることはあの頭おかしい大逃げで証明されている。

 

だからライスは終盤までずっとジゼルをマークすることができる…………理論上では。

 

ジゼルが優れているのはそのレース巧者なところとスピード。駆け引きや競り合いに持ち込まれたら多分負ける。

 

ライスは体力作りだけではなく、スタートダッシュとすぐスピードが出せるように瞬発力の

練習をしていた。

でも、それでも、ジゼルにすぐ付くことは出来なかった。

でも、今は自分の位置から上がって付くことはできた。

 

 

「ライスは…………負けないから!」

 

「…………面白い。」




コソコソ裏話!

エルドールはジゼルに似て馬界では美人だった。そのせいで全馬掛からせ事件を起こしたことがある。
エルドールが来ると必ず掛かるのでいつも最後に登場してた。


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番外編 テイエム一族のやべえ伝説語ろうぜ

大阪杯編があまりにも難産です。
筆休めで番外編を書いてしまいました。

この世界ではテイエム一族はただのやべーやつとして認識されてます。ジゼルの努力が実った結果(笑)


 

1、名無し

さて、まずはオペラオーから行こうか。

 

2、名無し

新人のリュージ乗せてG1を7勝。

 

3、名無し

歴代トップにやべー包囲網を敷かれてもハナ差圧勝。

 

4、名無し

阿寒湖とは12戦12勝。阿寒湖の失格も含まれてるが。

 

5、名無し

グランドスラム

 

6、名無し

年間全勝のレジェンド

 

7、名無し

自在脚質

 

8、名無し

心臓デカイ

 

9、名無し

>>8 セクレタリアト「は????」

 

10、名無し

初年度産駒がテイエムジゼル

 

11、名無し

>>10 これなんだよなあ

 

12、名無し

次はテイエムジゼルさん。

 

13、名無し

初の無敗牝馬三冠

 

14、名無し

ライバルがディープインパクト。

 

15、名無し

最強牝馬

 

16、名無し

引退レース以外負けなし

 

17、名無し

親子(父娘)初のグランドスラム

 

18、名無し

9冠馬

 

19、名無し

アーモンドアイのジャパンカップすごかったけどジゼルが走ってたらって考えると…………競馬に絶対はないけどね?すごい恐ろしい対決だなあと。

 

20、名無し

産駒成績でも最強のライバル、ディープインパクトと張り合おうとする繁殖牝馬さん。

 

21、名無し

毎年のように産駒がG1勝ってる

 

22、名無し

親子揃ってリュージ大好き。

 

23、名無し

すごく美人

 

24、名無し

ジゼルの産駒たちの話を、どうぞ

 

25、名無し

キングオデット以外G1勝っててもはや笑えてくるわ

 

26、名無し

ジークフリートはデビュー前から話題で名馬同士の配合だと走らないと思ってたからスルーしてたらとんでもない馬になってた。

 

27、名無し

キングヘイローも良血だけど、ジークフリートやエルドールは二度見どころじゃ済まないレベルだわ。

 

28、名無し

しかも母方の血統の影響で欧州方面でも通用する可能性が高い。

 

29、名無し

母方から心臓などの内臓系は遺伝するからなあ…………。

 

30、名無し

繁殖牝馬としても競走馬としても名牝なのはエアグルーヴだったけど今は完全にテイエムジゼルだわ。

 

31、名無し

ジークフリートさん、骨折してるのに後の阪神大賞典三連覇ゴルシ相手にハナ差二着。グラスやスズカを見ればどれだけやばいことなのかがわかる。

 

32、名無し

エルドールの伝説の全馬掛からせ事件。アレはピルサドスキーが可愛く思えるくらい酷かった。

 

33、名無し

復帰後のジャパンカップでワールドレコード出すジークフリートとかいう名馬。

 

34、名無し

この手の話題でテイエムゴールドは不利かあ…………日本馬初の凱旋門賞制覇馬なのに。

 

35、名無し

テムゴは真面目だからね!

 

36、名無し 

テムゴはジェンティルドンナのお相手として有名だよね。真面目騎士と鬼婦人…………これは薄い本が厚くなる。

 

37、名無し

ジゼルさんは息子と娘の活躍もアレだけど、孫の活躍も相当なものだからな?

 

38、名無し

テムゴとジェンティルニキの娘のノーブルローズはまさかの短距離馬だからな。気高い薔薇って意味の名前は二人の子供にピッタリ。

 

39、名無し

ジェンティルはテムゴにガチ恋疑惑あるしな。ソースはタッケ。こいつマックとイクノの恋愛沙汰にも関わってなかったか??

 

40、名無し

二人の血統からなぜ短距離馬が…………と思ったけどテムゴは天皇賞春勝ってるのに安田記念も獲ってるわ。ジゼルさんはなんでもできるし高松宮記念二着。母父ディープは高松宮記念制覇馬。なんでもできる血統はロシアンルーレットみたいだな。

 

41、名無し

ノーブルローズは現役だからな。しかも香港スプリント三連覇がかかってるから今年頑張ってほしい。しかも5歳だから引退考える年だしね。

 

42、名無し

皆のトラウマ、サイレンススズカ、ライスシャワー、アグネスアルマン。

 

43、名無し

その名はやめるんだ!!

 

44、名無し

ユーイチ…………

 

45、名無し

スズカ失ったときのタッケみたいな感じだったもん。エピファで菊花勝ったときはユーイチとエピファとアルマンコールよ。感動したわ。

 

46、名無し

現地でダービー見てたけど、ウイニングランしようとしたときに脚からすごい血が出てて、医療かじってるから開放性骨折だってすぐ分かったわ。遠目でもわかるくらい状態は酷かった。現地で見てた人はまじでトラウマもん。

 

47、名無し

同期でアルマンの母馬の主戦騎手のリュージと同じ立場になったことのあるタッケがすごく慰めたって話があったな。

 

48、名無し

エルドールはジゼルの女王様気質を3倍くらいにして受け継いでるわ。

 

49、名無し

オデットはステゴの完成形。

 

50、名無し

サファイアは牝馬とは思えないほどだった。だって菊花勝つんだぜ…………?しかも当時最強馬のキタサンを破るんだ。

 

51、名無し

やけに強いなあと思った馬の血統表を見るとテイエム一族が関わってたりする。

 

52、名無し

今までジゼルさんに惚れた馬一覧…………ディープ、オルフェ、クロフネ、ステゴ???

 

53、名無し

ステゴもなのか…………オリエンタルアートさん可哀想。

 

54、名無し

ステゴは厩舎でも暴れてたんだけど、ジゼルさんが来ると毎回大人しくなって、厩務員への対応も丁寧になる。いつもジゼルさんの後を追いかけようとする。で、ジゼルさんが帰るといつもの乱暴なステゴになる。

 

55、名無し

エルドールの美貌はジゼルさん譲りだよね…………

 

 

 




また新しい設定増えてて草。


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宵に咲く

今回の作戦はもう破綻している。

どうしよう、とディープは思った。

 

トレーナーの想定だとジゼルかディープにライスシャワーはマークしてくる。

ただ、二人をマークするにはかなりのリスクがある。

ジゼルをマークして差すには瞬発力、スタミナ、スピードが高水準で揃ってないといけない。

ディープの場合だと彼女以上の追い込みが必要になる。

 

だからディープは追い込みの強化をしてきた。

 

仮にライスシャワーにマークされてもいいように。追い込みでは負けないというプライドもあった。

 

だが、ジゼルが直前に自分にマークしてくると言っていたのだ。

ジゼルのことを誰よりも信用して信頼してるディープは作戦の失敗を悟った。

 

二人が競り合っている隙を突いて抜かす。

これにはディープの領域が必要不可欠だ。

だがこれにはジゼルの目をかいくぐって発動しなければならない。

 

ジゼルは自分の領域のことをもうわかっているだろう。

 

なら、どうすればいいか。

 

前の二人にわからないように発動するのだ。

幸い、ジゼルの注意はほとんどライスシャワーに向いている。

 

ディープはゆっくりと領域を広げてスピードを徐々に上げた。

最後の直線まで気づかないなら僥倖、中盤で違和感に気づいたなら流石というべきだ。

 

ジゼルが目を見開いてこちらを見た。つい、うっそりと笑う。

 

「勝つのは、私です。」

 

______________________

 

まずい、とジゼルは舌打ちをした。

 

ディープをすっかり野放しにしていた。警戒するのは二人だったはずなのに、ライスシャワーばかり見ていたのだ。

 

ライスシャワーは未だ自分に食らいついている。

そのスタミナとパワーはどこまで持つのか。既に限界に近づいているように見える。

ジゼルはもちろん、まだまだいける。

 

ディープの領域を野放しにしておくのはまずい。

でも、自分の領域の使いどころはまだだ。

 

まだ、耐えないといけない。

 

ライスシャワーの本当の強さを見ていないから。

 

______________________

 

「ライスは勝ちたい。」

 

蔦が周りを飲み込むように伸びる。

青い薔薇が輝くような美しさで咲いている。

 

ディープの青と黒のコントラストが美しい闇と混ざり合うような光景。

蔦が、足を絡めとる。

 

ジゼルは不快そうに顔を歪めた。

ディープはさらにライスシャワーへの警戒の色を濃くする。

 

最後の直線に入った。

 

「見せてやれ、ライス…………!淀の刺客の本髄を…………!」

 

蔦を振り払ったジゼルは驚愕する。ジゼルだけではなく、ウマ娘たち、記者、観客たちも言葉を失った。

 

「ライスだって…………咲ける!」

 

ジゼルからハナを奪ったライスシャワーがいた。

 

ジゼルは初めてだった。先頭を奪われるのは。

ディープでさえ、並んでいたのに。

 

「「(これが、淀の刺客…………!)」」

 

ある意味シンボリルドルフやナリタブライアンよりも恐ろしい。

ノると、誰よりも怖い。

 

 

ディープは最高スピードで大外を駆け抜けた。

いつも通りの飛んでいるような走り方で。ライスシャワーとジゼルを仕留めるように動く。

 

ディープが、並んだ。

 

ライスシャワーがジゼルの少し手前にいて、ディープがすぐ外側にいる。

 

大丈夫だと自分に言い聞かせた。

 

 

 

驚いてしまったこともあったが、ジゼルにとっては想定内だ。

 

 

この時を逃さず、領域を発動する。

 

 

 

光が、満ちた。

 



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会心の一撃

このレースで最も警戒すべきはライスシャワーであった。

 

何度も何度も菊花賞と天皇賞春の映像を見たジゼルはこれはまずい、と思った。

 

この精神力が限界突破した、鬼が宿ったライスシャワーはどんなウマ娘でも差せる可能性がある、と。

 

差されたらあちらのペースに巻き込まれる。最後の直線で差されたら絶望だ。絶望度で言ったら父の有馬記念と同じくらいだ。

 

ではどうするべきか?

差されないほどに離れるか?

いや、それでも差される。

 

競り合いに持ち込む?

下手に競り合ったら大外からディープが来てぶち抜かれる。

 

東条トレーナーと話し合った結果は…………ライスシャワーに全身全霊の力を使って貰って、自分をわざと差させること。

 

恐らく予想だが、ライスシャワーの領域は差すこと、抜け出すことに特化していると考えた。だが、完全に領域を展開し続けているディープやジゼルとは違って短く終わるタイプ。それだけ差すことに力が集約されているのだ。

 

差されたあとはディープの動向も見つつ領域を発動。

二人をまとめて抜く。

これのほうが確実性がある。

 

領域は連発できるものではないからわざと抜かせたほうがいい。こういうタイプは。

 

自身の領域を発動させ、完全に教会と青い薔薇の世界と暗い闇の世界を壊したジゼルは脚に力を込める。

 

今まで6割ほどのスピードしか出していなかったが、8割強くらいに出した。

怪我しては元も子もないため、勝てるギリギリを狙う。

このやり方は前世でも使って、今世では父から教えてもらった。

 

骨折したことがある父は無駄な力を使わず勝つことに長けていた。

それは前世から知っている。

 

黄金の道に沿って爆走する。

忍者みたいなディープと比べると、走る音が煩い。

 

直線が長く感じる。

問題はない。

久しぶりに本気で脚を使って痛い。

走るのに問題はない。

鬼のように迫るディープが、怖い。

それがどうした。

 

ライスシャワーが追い上げてくる。抜かれて拍子抜けしたかのような顔だったがすぐ持ち直している。流石だ。

 

でも、やっぱり。

 

隣はディープだ。

 

いつ抜かれるかわからない。怖い。ハナ差クビ差は僅差だからなおのこと。

父さんは、これがよくできるなんて心臓が強すぎる…………。

 

 

「やっぱり来たのね、ディープ!」

「貴女に勝つまで、誰かに負けるわけにはいきません!」

 

 

誰もが固唾を飲んでいた。

最早どうなるかわからないこのレース。いったい誰が勝つのか…………。

 

半ば抜け出したテイエムジゼル。

ジゼルに並びかけるディープインパクト。

その一バ身後ろを走るライスシャワー。

 

「ライスは、勝たなくちゃ!」

「貴女にだけは!負けたくない!」

「私、こそ…………っ!」

 

それぞれの思いを抱えて、

三人はほぼ並びかけてゴールした。

 




ウマ娘のアニメをこの小説のオリウマ娘でやるとしたら一番の適任は誰だろうなあ…………。
ジゼルの子どもたちの話をオニムバス形式でやってもいいし。
ていうか、強すぎるんだよなあジークフリートとかは。アルマンちゃんは悲劇すぎるし…。
やっぱりテムゴ君が適任かな?


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これにて閉幕

……………………長い。

 

写真判定に入って15分はかかってる。私は勝ったと思ったけど。

僅差圧勝に関してはお父さんから今回は学んだし、大丈夫だとは思うんだけど…………やっぱ怖いなあ。

 

「…………私の勝ちです。」

「う、ううん!ライスだよ!」

「いやいや、私だってば。」

 

三人で話しながら結果を待つ。

私は三番、ディープは七番、ライス先輩は二番だ。

掲示板を固唾をのんで見守るおハナさん含めたトレーナーやファンたち…………。

もちろん、私達も掲示板から目を離したりしない。

 

カチカチ、と三着の隣に二、と映ってる。

ライス先輩は呆気にとられて崩れ落ちた。もう限界だったのだろう。彼女のトレーナーが急いで駆けつけている。

 

少しして、一着と二着も決まった。

一着 三番

二着 七番

 

「…………あ。」

「あら、」

 

一着は、私だ。

 

じわりと涙が出てくる。慣れないギャンブルみたいなことをしたから疲れた。ディープもライス先輩も強かったし。

 

「また、今回みたいな接戦ができると嬉しいですね。」

「私、もうギャンブルみたいなレースしたくないんだけど?!」

 

どこか覚悟が決まったディープに嫌な予感がする。

気になって聞いてしまった。

 

「なんか、私に隠してない?」

「ああ、そうですね。私は元々大阪杯に負けたら天皇賞春は回避することになってました。」

 

嘘でしょ!?

ディープはステイヤー気質じゃん!?回避なんて悪手だよ!正気なのスピカのトレーナー!

 

「宝塚記念で貴女にリベンジする計画です。そのために、一回アメリカに行ってスズカ先輩に会ってきます。」

「…………私はリベンジするディープが手も足も出ないくらいに強くなってるよ。」

「ふふ、楽しみにしてますね?」

 

天皇賞春を回避…………その間に修行をするそう。過去の追い込みウマ娘に師事して、アメリカのスズカさんと模擬レースをするという。

確実に強くなるだろうな…………油断していられない。

 

私だって、強くなってやる。

 

「何度やっても、負けないからね!」

「私の鮮やかな逆転劇、特等席で見させてあげますよ。」

 

お互い煽りながらウイニングライブへ走り出した。煽りながら、ここ重要。

 

_____________________

「天皇賞春、やはりジゼルの一強!無敗のトリプルティアラウマ娘の貫禄を見せつけた!」

 

天皇賞春は、ディープや強い先輩が走ってないため今までより比較的楽に勝てた。

はー…………ディープがいれば大分違ったんだろうなあ。

今、きっと死ぬ気で頑張ってるんだろう。

 

宝塚記念…………気は抜けない。

ディープはあの大阪杯より恐らく数段上に進化してる。

私も強くなってるが、会ってないので彼女の今の強さはわからない。

 

宝塚記念、楽しみにしてるよ。ディープ。




ウマ娘:テイエム一族編とか書きたい(笑)


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アニメ三期:テイエムゴールド編

※ジェンティルドンナやジャスタウェイが出てきます。
※筆者の計算違いと諸々の勘違いにより、テイエムゴールドのG1レース勝利記録に高松宮記念が追加されました。


謹厳実直、質実剛健。

目の前のレースや物事に全力で挑み、圧倒的な勝利をしても驕ることはなく反省をして次に進む。

テイエムゴールドは、超がつくほどの真面目で堅物だった………。

 

 

 

「おはようございます、ジェンティルさん。」

「おはよう、テムゴ。」

 

テイエムゴールドは仲のいい友人たちからはテムゴと呼ばれている。それは、トレセン学園にはテイエムの名を冠するウマ娘が他におり、ゴールドはテムゴを悩ます某芦毛のハジケリストの名前だからだ。

 

同室のトリプルティアラウマ娘、ジェンティルドンナは鏡の前で身だしなみを整えている。

貴婦人と呼ばれているだけあって、身のこなし一つ一つが洗練されていて優雅だ。

 

けれど、テムゴはこの友人が存外泥臭く、優雅という言葉にふさわしくないほどの武闘派であることを知っている。それに脳筋。

 

「さあ、一緒に登校しましょう?…………って、アナタもう準備できてるじゃない!?」

 

ドヤ顔のまま振り向いたジェンティルドンナはもう登校の準備がとっくの前にできていたテムゴに気づく。

テムゴは早起きで身だしなみも最低限相手を不快にさせないぐらいである。

トリプルティアラウマ娘としての矜持と誇りを持ち、常に身だしなみに気を使っているジェンティルドンナと違って行動の一つ一つが速いのだ。

 

「早く行きましょう…………早くいかないとまたあのウマの餌食になります。」

「ああ…………。」

 

死んだ目をしたテムゴに同情するジェンティルドンナ。

二人は寮を出ていつもより早めに門を通った。

 

「さあ………出てきなさいッ!私は準備出来てますよ!」

「ホントにあいつ来るの…………?」

 

あのウマが私に悪戯する準備をしているときに登校して迎え撃ちます、と周囲を警戒しているテムゴ。

ジェンティルドンナは周囲を見回した。

 

その瞬間、木の上からウマ娘二人が飛び降りてきた。

 

「ゴフッ!」

「うわ〜!」

「ウソ!?」

「痛!」

 

まず芦毛のウマ娘がテムゴの背中にダイブ、ジェンティルドンナが驚いたのもつかの間、さらに鹿毛のウマ娘が上から時間差で降ってくる。

 

「う゛」

「わわ!ジェンティル、ごめーん!」

 

でも流石武闘派()。ギリギリ鹿毛のウマ娘をキャッチした。

貴婦人とは何だったのか…………。

 

「重いです!いったい貴女は今回何をしようとしたんですか?!」

「お、テムゴじゃねーか、絶景絶景。」

「ふざけないで下さい!」

 

ゴールドシップ!!!

 

テムゴの大声が学園中に響いた。

 

_______________________

 

ゴールドシップとテイエムゴールドの出会いは中庭だった。

テムゴは中庭でお昼ご飯を食べていた。手づくりのお弁当でなかなかの自信作だった。

蓋を開けて、見事な出来栄えに自画自賛しながら箸を持って卵焼きを挟むと…………

 

「うわあー!」

「え、ええー!?」

 

空からウマ娘が降ってきた。

否、正確には大きな木から落下してきた。

突然のことに反応できなく、固まっていたテムゴ。悲しいかな、ゴルシは背中からテムゴに突っ込んで倒れた。もちろんテムゴも。

 

テムゴは中庭に無残にも落ちてしまった弁当のおかずたちを見て絶望した。

せっかく、作ったのに…………!

 

「ちょっと貴女!急に何するんですか!?」

「ん?誰だオマエ。どした?」

 

いってえなあ…………と背中を擦るゴルシはキョトンとした顔をする。

 

「どうしたもこうもありません!私のお弁当をこんな無残に…………!」

「ああゴメンゴメン。代わりにコレやるわ!」

 

茶色の紙袋をテムゴに押し付けて走り去るゴルシ。

呆気にとられてテムゴは見ていた。

 

ハッと我に返って紙袋を開けると、パンが入っていた。

 

ただのパンではない。ハバネロ特倍入りの辛すぎパンである。

 

「…………。」

 

テムゴは思わず黙った。

 

次の邂逅は皐月賞。

テムゴは絶好調だった。所属しているチームカペラの仲間たちもテムゴが勝つと思っていた。トレーナーからも喝をもらい、まさに風はテムゴに吹いていた。

それに憧れの先輩、テイエムジゼルが来ていた。

 

いつも通り、冷静にレースを分析し持ち前の真面目さで本気で走っていた。手抜かりなどあるはずがない。

そう、まさか雨のあとの馬場を内側から走るなんてバカはいないと思っていたのだ。

 

「うおおお!」

「え?」

 

内側から驚異の追い込みで皐月賞ウマ娘になったゴールドシップを見て「こんなふざけたウマに負けるなんて…………」と思っていた。

 

検索アプリやクラスメイトから話を聞いてもてんで彼女のことが理解できない。

ダービーでリベンジすることを誓ったテムゴはゴールドシップ対策に動いていた。

 

ダービーではテムゴが勝った。ゴルシは六着。

周りは皆テムゴを褒めるが、本人はなんとも煮えきらなかった。

 

なにせ完全な本気を出してない。いや、気分が乗らなかった。

 

悔しくて悔しくて…………菊花賞で負けたときも、阪神大賞典でチームメイトが脚を怪我してもひたすらにゴールドシップの研究を続けた。

 

そして、なんやかんや自分は彼女に気に入られてた。

 

いつの間にかジャスタウェイやジェンティルドンナも加わり、不本意ながらヨンコイチみたいな感じになった。

 

不本意だが!

 

「ゴルシーウェイを見てたらいつの間にか朝になってたんだよ。」

「ミルキーウェイの兄弟かな?」

「ミルキーウェイは天の川ですよジャスタウェイ。」

「ああ、でもアレ、なんか星空っぽくなかったけど…………」

「「何それ怖い」」



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ウマ娘編:テイエムゴールド、アグネスアルマン編

ま た せ た な
お前らの好きな地獄だぞ!!

血の描写入ります。苦手な人は戻りましょう。


チームカペラ。

メンバーはジークフリート、テイエムゴールド、エルドール、キングオデット、テイエムサファイアである。

ジークフリートは怪我で療養中だが、無敗のクラシック三冠ウマ娘。

テイエムゴールドはダービーウマ娘である。

他の三名も負けず劣らずの実力者。

トレセン学園のチームからはひそかに意識されてる新進気鋭のチームだ。

 

トレーナーはまだ若手だが有能。あだ名はドラゴン。ドラゴントレーナーとからかわれる。

 

「カペラ、調子良いみたいですね。」

「はい。アルマンも皐月に続いてダービー、頑張って下さい。」

 

その言葉に小柄で気弱で儚そうな印象を受けるウマ娘、アグネスアルマンが微笑む。

テイエムゴールドとは同じクラス。隣の席で仲良しだ。

 

親戚のお姉さんにアグネスタキオンがいる。一見やべーやつと思われがちだがいい子だ。その姿はライスシャワーを想起させる。

 

オドオドというか、弱々しいというか。そういう性格だが、アルマンは強い。

流石強豪チームに所属してるだけはある。

ユーイチトレーナーのチームはジャスタウェイも入ってるのでよく行くのだ。行かされているとも言う。

 

キングヘイロー、シーザリオ等の先輩ウマ娘も所属している。

アルマンは三冠を目指しているそうだが、実際叶えられる実力を持つ。いわゆる天才なのだ。

 

こんな気弱な風でもパドックに立つと一級品の風格を纏う。

初めて見たときは多重人格ではないかと疑った。

 

それはさておき、アルマンはテムゴ同様、テイエムジゼルに憧れている。

 

小学生の頃会ったことがあるらしい。たいへん羨ましい。

 

テイエムジゼルは現在海外遠征中だ。

ダービーを見てもらうことは難しいかもしれない。

 

「ユーイチさん、すごく楽しみにしてるからその期待に応えたいの。」

 

「頑張りすぎないようにね?」

 

「テムゴが言うと説得力ないよ?」

 

____________________

 

日本ダービー。

クラシック路線でも特別なレース。

最も運が良いウマ娘が勝つと言われているくらい、このレースはわからない。

 

注目されているのは、皐月賞をレコード勝ちした現在無敗のアグネスアルマン。

皐月賞では二着のロゴタイプ。

アルマンと同じチームのエピファネイア。

ディープインパクトに師事している最近調子がいいキズナ。

 

キズナに関しては、ダービーを勝ったら凱旋門を視野に入れるらしいのでさらに期待がかかる。

テムゴも、このレースではキズナが厄介だろうな、と思っていた。

ただでさえ枠順が大事になるこのダービーで一枠はかなりの有利を取るだろう。

 

アルマンは逃げなので内枠は取っておきたかった。

八枠は…………かなり逃げウマ娘としては不利。

 

ただでさえ皐月賞ウマ娘ということで意識されてるのに。

 

それを跳ね除けることができるのか。

 

ファンファーレが鳴り、一瞬の静寂が包む。テムゴはこの瞬間が好きだった。

 

「今スタートしました。おっと、一番人気アグネスアルマン、枠の不利をものともせずハナを奪って内に陣取ります!」

 

どうやら、あの天才には枠の不利なんて関係ないみたいだ。

スタミナ消費の逃げよりスピード重視の逃げなので必然的に後続との差は広がる。

 

周りのウマ娘はどうする?このままだと皐月賞の二の舞になるぞ?

 

「コーナーを曲がって、先頭は依然アグネスアルマン!後続との差はなんと七バ身だ!後続のウマ娘、懸命に追う!」

 

うーん、ここまでの差だと私でも厳しいかな。

アルマンもかなり気持ちよく走れてるみたいだし、これはアルマンが勝つかもなあ。

 

「最後の直線!アグネスアルマンが独走!ウマ娘たち必死に食らいついているが届かない!今年のダービーウマ娘はアグネスアルマンー!」

 

「おお…………」

 

完全独走状態じゃん。すご。唯一不安があるなら距離が長い菊花賞だけど。

 

ゴールしたアルマンがクールダウンのため、軽く走る。

…………ん?!?

 

彼女の白い肌に似つかわしくない赤い液体が、ターフに滴る。

最初、鼻血か何かだと思ってた。でも、違う。

 

血が流れてるのは、脚からだ。

 

「ア、アルマンの脚が…………!」

「こ、骨折、なのか!?」

 

「アグネスアルマン、どうしたんでしょうか!?場内は悲鳴に包まれています!」

 

ぐっと目を凝らし、アルマンの脚を見る。その脚からは血がかなり出ているため、折れた骨が露出しているのだろう。かなりえぐい。

 

カペラのメンバーがアルマンに駆け寄っているのが見えた。

 

私も慌てて柵を飛び越えて走る。

 

「ヒュッ…………いた、いよッ…………あ゛う゛」

 

涙を溢れさせながらアルマンが小さく悲鳴を溢す。

 

見たら、救急車を呼んでいたユーイチトレーナーも泣いている。

ウマ娘にとっては一つの怪我で命に関わることがある。もしかしたら、アルマンも…………。

 

ぞくり、と悪寒が奔る。

 

そのままアルマンは救急車に運ばれていった。

 

心配そうな顔をしているレースで負けたウマ娘たち。

騒然としている観客。

無言のままの実況者。

 

まるであの沈黙の日曜日みたいだと思ってしまった。

_____________________

 

「アルマン、入るよ…………?」

 

静かに病室に入ると、ベッドに寝そべったアルマンがいた。その脚にはぐるぐると包帯が巻かれている。私のチームメイトのジークフリートもかなりの重傷だったが、アルマンも相当なものだったとユーイチトレーナーから聞いた。

 

あと、一歩救急車に運ぶのが遅れていたら命が失われていたかもしれない。

 

「菊花賞、無理なんだって。」

「…………。」

「ユーイチさんも、すごく憔悴してるの。」

「…………。」

 

何も言えなかった。私には脚に怪我をしたことがないから。夢を一方的に諦められたことがないから。

 

「悔しいッ!なんで私は怪我しちゃったの!?菊花賞で負けたほうが良かった!だって、無駄なことを、考えなくて済むから…………!私が出ていたら、なんて希望を見いだせずに済むから…………!」

 

今回のダービーは横綱試合だった。アルマンの逃げが炸裂したすごいレースだ。もしかしたら、菊花賞に出ていたら勝っていたかもしれない。けど、それは仮定の話。

 

確かに、これならまだ菊花賞を負けたほうが良かったのかもしれない。怪我で絶たれたなんて不完全燃焼、確かに未練は残るだろう。

 

「三冠…………!タキオン姉さんとジゼル先輩に三冠取るって約束したのに…………!」

 

タキオン先輩は今すごく自分を責めている。アルマンが怪我したのは自分の血縁者だからではないかと疑っているのだ。姉妹ではなく親戚だしそこまで影響するのかと思うが…………私にはわからない。

 

どう、しよう。

 

ユーイチトレーナーも今はアテにならないし。傍から見てもかなりショックを受けている。

 

生優しい慰めなんて攻撃にしかならないだろう。いったい、どうすれば…………!

 

コンコン。

 

「アルマン、入るよ。」

 

控えめなノックをして入ってきたのはエピファネイアだ。彼女は今回のダービーは三着で、菊花賞へ期待されてる。

アルマンとは同世代で同じチームなため、ライバルだったらしい。

 

「エピファネイアは私と違って、菊花賞があるんだから、練習しないと…………。」

「絶対に勝つわ。」

「え?」

 

真っ直ぐな瞳が、アルマンを貫く。

 

「貴女の代わりに菊花賞に勝つ。アルマンが三冠を目指してたのは、トレーナーを三冠ウマ娘のトレーナーにしたかったのもあるんでしょ?」

 

私もアルマンも驚く。

エピファネイアが、アルマンの代わりに菊花賞で勝つ…………?

 

「だから、菊花賞までに歩けるまでには回復しておいて。現地で私の勇姿を見ていなさい。…………そして、レースに復帰するのよ。」



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番外編 アオハル杯ネタ

※ネタです。


「管理主義、ねえ…………。」

 

海外出張の理事長に代わって、理事長代理が来たらしい。

なんでも、ある意味自由な校風の学園を憂い、徹底的な管理をするのだ。

 

教室、いや校内はそのことで持ちきりである。

 

バン!と勢いよく机を叩いたスカーレットが私に怒鳴ってくる。

いや、ここ教室…………。

 

「ジゼルはなんとも思わないわけ!?」

「いや、私は別に。リギルは管理主義だし。」

 

むしろ私は自分で決めて解決しなければならない放任主義は苦手。物欲なんて、最近はインターネットで何でも買えるから特に無い。

食事は、決められているという点では給食みたいなものだろう。

 

騒ぐスカーレットたちを達観して見てると、ディープが非難するような眼差しを向けてくる。

…………しょうがないな。

 

「まあでも、それが一人ひとりに合ってるかどうかは別よね。」

「そうですよね。私だってアオハル杯、楽しみにしてたんですから。」

 

アオハル杯のポスターには中止予定、と書かれてある。

新しいチーム戦かあ。確かに楽しそうだ。

まあ、もう無理か。

 

「長距離、中距離、マイル、短距離、ダート…………。」

「ブツブツ言ってどうしたのよ。」

 

何やらブツブツ言い始めたディープ。こうなると手がつけられない。

諦めてラノベを開いて読もうとしたとき、肩をガシッと掴まれた。

 

「ジゼル。」

「な、なによ…………。」

「出ましょう。レースは当分ないですよね?」

「そりゃそうだけど…………。」

 

ていうか、中止なのでは??しかもチーム戦、メンバーはどうするんだ。

 

「アオハル杯、やるらしいですよ。理事長代理のチームと戦うらしいです。」

「管理主義絶対なチームか…………。」

「私たちの自由がかかってます。何よりも、理事長代理のチームはすごく強いらしいです。」

 

悲しいかな、ウマ娘の性により私はアオハル杯にディープと一緒に出ることが決まってしまった。

 

「で、どうするの。距離に合わせたメンバー選ぶんでしょう?私はどこでも大丈夫だけど。」

 

「長距離は私が、短距離はジゼルがお願いします。」

「ふーん?敢えて私を短距離に使うわけね。で、他は?アテあるの?」

 

人見知りでお硬そうに見え、意外と友達はいるディープ。でも私たちレベルのウマ娘ってなかなかに…………。

 

「マイルはスズカ先輩にお願いしましょう。あの人の逃げならマイルで十分無双できるはずですよ。」

 

確かにスズカ先輩は2400は長くて2000なら最強、なんて言われてたし。

「ダートと中距離はすみません、アテがないんです。ジゼルは誰か思いつきますか?」

 

ふむ。ダート…………ダートねえ…。最近だとスマートファルコンとか?中距離は逆に候補がたくさん…………でもそのウマたち近いうちにレースあるし。

 

悩み続けた結果、私の大ファンだというウマ娘二人に交渉することにした。

 

 

 

 

 

「ジゼル先輩からのお願いって何なんだろう。」

「あたしにできることなら…………叶えたい…………。」

 

中庭で黒髪をセミロングにしたウマ娘とマスクをつけた栗毛のウマ娘がいた。

その二人こそ、ジゼルの大ファンの例のウマ娘である。

 

「ごめんなさい。待たせてしまったみたいね。」

 

ディープと共に颯爽と現れたジゼルに思わず頬を赤らめる。

うわ、推しの顔面がいい…………みたいな。

 

「い、いえ…………ジゼル先輩の頼みなら例え火の中水の中!」

「あたしも、負け続けのダメウマだけど、役に立てるなら…………。」

 

ジゼルはじゃあ、とにっこり笑った。

 

「アオハル杯にダートと中距離で出てくれない?私達と一緒に…………、」

 

クロフネ。

 

オルフェーヴル。

 

 




ターフキングズ
長距離 ディープインパクト
中距離 オルフェーヴル
マイル サイレンススズカ
短距離 テイエムジゼル
ダート クロフネ


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番外編 続アオハル杯ネタ

「カレンのお友達に香港に遠征中のスプリンターがいるから、紹介するねー!」

「私の妹分にマイルに強い子がいるんです。お願いしてみますね。」

 

やっぱり短距離とマイルが層薄いなあ。

カレンとグラス先輩の紹介してくれるウマ娘に期待するか…………。

 

「砂のディープインパクトって呼ばれてるウマ娘がいるらしいわよ。」

「おハナさん、ありがとうございます。」

 

期待できそうなウマ娘をおハナさんから教えてもらう。

中長距離はディープに任せてるけど、大丈夫かな。

理事長代理のチームファーストは15人いるって聞いたから集めてるけど…………できるだけ強いウマ娘集めたいな。

 

「タイキシャトル先輩は別チームだし…………。」

 

最強マイラーと呼ばれる先輩の力を借りれないのはかなり痛い。

ダートはクロフネがいい才能持ってるからワンチャン楽勝な気もしてくる。

 

「ディープ、熱くなりすぎてないかな。すごくキレてたもん。」

 

昨日のことを思い出して、思わず遠い目になる。

 

『へえ…………仲良しごっこで勝てるなら、世話ないよね。』

 

『は?????????』

 

『ストップ、ディープストップ!!!』

 

『初めての無敗トリプルティアラウマ娘と二人目の無敗クラシック三冠ウマ娘…………。新世紀女帝と英雄って呼ばれてるのに、大したことなさそうだね。』

 

『ほら!ココンもムキならない!』

 

なんてことがあって、ディープは燃えているのだ。

なんでも、長距離でギッタギタのメッタメタにしてやると。

 

おお、こわ…………。

 

それと、「地獄を見せてやりますよ、リトルココン!」とも。

 

メンバーたちもスペースキャットになってたわ。

 

「せ、先輩!ジゼル先輩!」

 

クロフネが焦った様子で走る。ウマ娘の脚力だと軽く走るだけでも凄まじいから砂煙が…………うわ、目に入った。

 

「ディープ先輩が長距離と中距離に出走するウマ娘を決めたそうです!今すぐ体育館に来るようにだそうです!」

「え、ディープもう決めたの?速すぎない?」

 

交渉とかあるよね普通?行動速すぎ。

誰なんだろう、メンバー。

キレたディープが選んだからきっと相当やべえウマ娘には違いないな。

 

複数ある体育館の一つに着き、ドアを開けると…………。

 

「????」

「すごいですよね!この豪華メンバー!」

 

鼻息を荒くするクロフネを宥めることも忘れて、ポカンとする。

 

え…………?厨パすぎない…………?

 

「たとえ相手が理事長代理の精鋭たちであっても!一番になるのはこのボクさ!!」

「大死一番、粉骨砕身して共に頑張ろう。それに、久しぶりに強敵と走れるから、これでも楽しみにしているんだ。」

「ナウでヤングな貴女たちにまだまだ負ける気はないわよ!それに、私の調子もバッチグー!」

 

リギルから、お父さん、ルドルフ先輩、マルゼンスキー先輩だ。

これだけでもお腹いっぱいである。

 

なのに……………

 

「こら!ゴールドシップ!わたくしの尻尾に悪戯しないでくれます!?」

「マックイーン、せっかくアタシが派手にしてやろうと思ってたのによー。」

いつも通りのメジロマックイーン先輩とゴールドシップ先輩。

 

長距離は完全にスピカか。それにスズカ先輩もいるわ。

 

ていうかこのメンツがなんで集まったし?

 

私の疑問を解決するように胸を張りながらディープが説明した。

 

「スズカ先輩は自由に走れなくなると、マックイーン先輩はスイーツが自由に食べられないということを言って参加させました。」

 

「た、単純!」

 

え?勧誘とか交渉ってこんなのでいいの???

 

「私にとって走れないことは死活問題よ。」

「スイーツには勝てませんわ。」

 

まあ二人はわかった。他は…………ゴールドシップはマックイーンについてきたんだろうけど。

 

「私は理事長代理に何回か直談判をしていたんだが、あちらもなかなか折れなくてな。アオハル杯で勝つ方がいいと判断して誘いに乗った。」

 

「なんとなく、面白そうだったから!」

 

「たまには勇者の側も味わってみたいと思ってね!演技において、役の幅を広げることはいいことだよ!まあ、ボクが覇王なことは変わらないさ!アハハハハ!」

 

おおう…………。

しかし、中距離と長距離魔窟過ぎない?マイルもだけど!マルゼンスキー先輩は…………できれば短距離に行ってほしいな。心強いし。

 

あとは…………ダートとマイル、短距離のみか。

いい返事もらえるといいけどな。




追加ウマ娘ヒント:このメンツでも見劣りしないそれぞれのスペシャリスト。カレンチャン、グラスワンダーは関係馬。


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番外編 【悲報】ターフキングズが倒せない

400

ターフキングズってなんだよ都市伝説かよ…………ってアオハル杯やったらターフキングズと当たりました。泣きそうです。

 

401

どんまい。アレは運営のお遊びチームだから出現率が低いんだよ。某運命の夜のソシャゲの星5並だから。

 

402

つまり確率的に言えば約1パーセント。運が悪かったね!

 

403

トレーニングレベルSなのにボロ負けしました。全距離✕とかふざけてやがる。

 

404

なんかモブウマ娘いるんだけど。

 

405

ダートにいる異常に強い二人組は確かライコウペリーとディープイナズマだっけ?

…………完全にクロフネとカネヒキリじゃん!ふざけんな!

 

406

ライコウペリー→ペリー来航→黒船→クロフネ

ディープイナズマ→ディープ+雷でダートウマ娘→砂のディープインパクト→ハワイ語で雷の精のカネヒキリ

 

407

短距離ジゼルとマルゼンじゃん。あとモブ。

 

408

目撃例集めると短距離のモブウマ娘の名前はキングドラゴン…………ロードカナロアですねわかります!

 

409

はあー!中距離に見たことのあるダウナー系ウマ娘いたなと思ったら原案オルフェ(仮)じゃん!

ゴールドタイラントて名前だけど!

 

410

ゴールド…………金

タイラント…………暴君

 

411

嘘やろうちのマルおばが負けるなんて

 

412

アオハル杯では不動のエース、ゴルシがボロ負け…………?

 

413

ターフクイーンズも絶望的に強いんだけど、キングズはあれだわ。

もう世界の終わりだわ。

 

414

まずディープとジゼルが仲間なのがやばい。

 

415

たまたまターフキングズと当たって、今まで負けなしのマイルでスズカさんに負けました。

心が折れそう。

 

416

メンツがやばいんだ。

 

417

逃げだと大体勝てるやろと思ってたワイ、ディープの怖さを知る。

 

418

ニ着三着にもなれないとか笑うしかない

 

419

アオハル杯の評価は信じられん。決勝で全部◎なのに全敗したし、逆に△✕あっても勝つ。

でも、ターフキングズ相手の評価は信じられるわ。

 

420

前にチームランクSSいった人いて話題になったけど、ターフキングズはSS+だ。

ありえねーだろ!?

 

421

ターフクイーンズはよく出てくるけど、なんでターフキングズはこんなにもでてこないの?いや、でてこなくていいんだけど!

 

422

たづな「勝利する可能性はゼロです。かなり難しいですが、入着できるように頑張りましょう。」

入着でも難しいって何事だと思ったが、納得した。

 

423

ターフクイーンズはこんなに避けられてんのにターフキングズは挑戦者多いのなぜだ。

 

424

珍しいから、所謂記念受験みたいな感じ。

 

425

ステータスを見たけどショックすぎて覚えてない…………。

 

426

確かターフクイーンズの見たらオールB+だったけど、ターフキングズはオールSとかいて吹きそうになった。ジゼルとディープ?それよりもひどかったよ…………。

 

427

こいつらでチームファースト殴ったほうが早くね?俺たちいらなくね?

 

428

きっとあっちも遊びのノリなんだよ。

 

429

運営が俺たちを殺しに来てる

 

430

なんでこんなチーム作っちゃったの

 

 

 




アオハルネタは一応一区切り。
本編更新してないので…………そろそろシニア編も佳境なので。


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栄枯盛衰

驚くほど、気持ちが凪いでいる。

 

久々に本気が出せると、体が昂ぶっているのがわかる。

 

ああ、早く…………

 

「貴女に会いたい。」

 

________________

 

京都レース場は案の定大盛り上がりだった。

 

現在無敗記録更新中のテイエムジゼルと、アメリカへ武者修行へ行っていたディープインパクト。

 

やはり女帝が勝つだろう、いやいや英雄の走りが一番になる…………。

 

朝からニュースは今日行われる宝塚記念について大きく特集していた。

 

ジゼルに二連敗と言ってもディープインパクトの才覚は本物。もちろん人気だった。

 

「…………っ…………あああ!!」

「トレーナーさん、少しは落ち着きましょう?」

 

忙しなくグルグルと一人で動き回る沖野にスペシャルウィークが声をかける。

今日のために日本へ帰国したサイレンススズカも「大丈夫ですよ」と背中を擦る。

 

「だって…………ディープが…………!」

「今度こそ勝てるか不安?」

 

ボクも不安だけどさ、とテイオーが言う。

スピカメンバーは成長したディープを昨日見ている。だがレースには何が起こるかわからないし、ジゼルの鬼のような強さも理解しているため不安なのだ。

 

「大丈夫だってトレーナー。あいつ、朝見たらかなりキマってたぜ?」

「そうですわよ。それに、貴方が不安になっていたらディープだって伝染してしまいますわよ。」

 

宝塚記念は格式あるグランプリレース。過去のレースを振り返ると、タマモクロスやメジロパーマーなど、予想外のウマ娘が勝つことだってあり得るのだ。

それに、宝塚記念はリベンジレースも兼ねている。

今まで負け続けのウマ娘が宝塚記念で結果を残すのはよくある。名ウマ娘が獲っていない2大G1レースが宝塚記念と天皇賞秋と言われている。

 

天皇賞秋は一番人気が勝てないジンクスもあいまって近年は有馬記念より難関、なんて言われていた。

 

それをぶち壊したのが某世紀末覇王だが。

 

今年は京都レース場で行われる宝塚記念。

2200メートルの距離、高低差がひどい坂、ラスト4ハロン戦の直線、芝質の軽さ。

これを踏まえると…………

 

「高速決着になりやすく、スピードと瞬発力が求められる。今のディープにはそれが完全に備わっているから負ける姿が想像できない。だが、ジゼルが未知数なんだ。逃げ先行内枠有利でまくり差し戦法も有効。ジゼルが使う手が全くわからない。ディープは問題ないと言っていたが、トレーナーとして不甲斐ない…………!」

 

自在脚質はこういうところが怖い。最悪ディープと一緒によーいどんのかけっこができてしまうわけで。

 

「もうレースが始まっちゃうわよ!」

 

いつの間にか、パドックでのお披露目は終わったらしく、スタッフがゲートに導いてる。

 

良バ場とは言えない芝の重さ。確実に雨の影響だ。

 

そして内枠有利な京都2200でジゼルが一枠一番を引いてしまった。

 

「ああ〜。」

「トレーナーさん!ちゃんと見ないと!」

 

スズカとスペシャルウィークは人参ドリンク片手に観戦している。

 

スズカにディープの武者修行の内容を聞いたらうまくはぐらかされたのでキツイ練習をしたことはわかる。

 

スタミナは元々ステイヤー気質なので問題はなし。

スピードと瞬発力は見違えるほどに強化された。

 

 

その貫禄は観客席にいる全員が感じる。

 

貫禄といってもジゼルはそれに劣らない。

明らかに天皇賞春より鍛え抜かれた体に遠くを見つめた瞳。トゥインクルシリーズ最強ウマ娘の名をほしいままにしているだけはある。

 

 

 

全員がゲートに入り、構えた。

 

静かに時間が経つ。

 

ごくり、と誰かがつばを飲み込む音が聞こえた。

 

 

ガチャン!!!

 

 

 

ウマ娘全員、きれいなスタート。

 

 

だが…………

 

 

 

「この翼で、天の果てまで昇ります!」

「ならば私は、地の果てさえも駆け抜けてやりましょう。」

 

天を駆ける黒い翼と、地を踊る白い翼が相対した。

 

 




開 幕 領 域


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三度目の正直

ディープインパクトはアメリカでレースのことしか考えていなかった。

 

走ることに重きを置く生活は慣れていたつもりだが、アメリカはひどい。

なにせ、サイレンススズカ級のレースバカがうじゃうじゃいるのだ。

 

ガタイがいいウマ娘が多いので肩に触れるだけでもかなり痛い。

聞けば日常茶飯事だそう。

 

そのおかげでパワーが鍛えられた。

だが、アメリカのウマ娘のパワーは生半可なものではない。

 

道悪も物ともしない。だから、スピードを徹底的に鍛え上げた。

 

結果、周りからは閃光の英雄とか呼ばれた。

トップスピードでは、まだジゼルに敵わないかもしれないけれど。

 

徹底的に自分の体を鍛えたが、ムキムキにはならなかった。こればかりは体質らしい。

 

ディープは自分のステータスを上げてもジゼルには簡単に勝てないことを分かっていた。

 

だから、ディープの一昔前の追込ウマ娘、ミスターシービーに助けを求めた。

 

あの菊花のときのようなレースが出来る発想力を持つ、ターフの演出家に。

 

シービーが言うには、ジゼルを攻略するには常に予想を上回り続けることが大切らしい。

 

あのジゼルを出し抜くのは難しい。

ディープもジゼルのことを理解してはいるが、ジゼルはそれ以上にディープを理解…………いや、熟知している。

 

ディープは成績優秀だがこういうのは弱かった。ゲームでも攻略法が思いつかないなんてことはたくさんあった。

 

だから、領域を複数作れば良くね???という方法を思いついた。

 

結果がジゼルと同じく開幕ぶっぱである。

 

 

「(な、まさか貴女も領域を直後に…………!)」

「(タイミング悪かったかな。でも驚いてるしいいか。)」

 

ディープの領域は中盤からの追込みスピードアップ。最後の直線で、本来ならすぐに出せないトップスピードを結果的に最初から出せるものである。

 

そして、次にアメリカで取得した領域は序盤で有用されるもの。

端的に言えば燃費が凄くいいスピードアップ。

 

無駄な動きをしない種族なんていない。

どれだけしっかりした人でも、動きの一つ一つまでは無駄を減らすことなんてできない。

 

この領域は、自身の無駄な動きを一切削ぎ落としてスピードを上げる究極のバフだ。

 

掛かりや出遅れ、コーナーリングまで。全てにおいて無駄がない。

 

それに比べてジゼルはいつもと同じように見える。

 

 

……………………まずい。このままだと、

 

「(大阪杯のように並ばれるのだけは避けたい…………!)」

 

並ばれたら勝てないだろう。並んだときの勝負では絶対にジゼルに勝てないことを悟っていた。

 

 

「もう、負けた頃の私ではありません…………!」

 

内側は固められている。

内から抜くのが吉とされる宝塚記念で大外から抜くのは自殺行為だ。

追込の自分にとっては何でもないが…………いや、それだと大阪杯や有馬記念の二の舞だ。

 

勝つには、どうしたら…………。

 

ふと、観客席にいるスピカのメンバーのことを見た。

 

スペシャルウィーク、サイレンススズカ、ダイワスカーレット、ウオッカ、トウカイテイオー、メジロマックイーン、ゴールドシップ…………。

 

 

…………ん???ゴールドシップ?

 

ディープの脳内に、ある可能性と今までのジゼルとのレースを思い出す。

あの時は?していなかった。

あの時は?やるには遅すぎた。

 

 

「…………ぁ。」

 

これなら、勝てるかもしれない。

私はなぜ思いつかなかったのか。自分の限界を、能力を、決めつけていたのか。

 

 

ディープはまだ中盤に入ったばかりにも関わらず仕掛けて徐々に順位を上げていった。

 

 

レース用語でいう、まくりである。

それよりも少々早いが。

 

 




まくりと追込の違いがよく分からんけどこういうことでいいはず。


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ストレート・アップ

ストレート・アップ…………ルーレットでの一点賭けのこと。


今まで、領域を発動したのは二回のみ。うち未遂が一回。

 

私は最後の直線にトップスピードに達していたと思ってしまった。

 

その保証はどこにもない。

 

もっと距離が長ければもっと速くなっていたかもしれない。

 

これは、賭けだ。

 

 

ゴールドシップ先輩は、恵まれた体格とスタミナ、パワーでまくっていた。

私は小柄だし筋肉も付きにくい。スタミナとパワーはなんとか前よりは上がったがこのコースを大外からまくるには足りないだろう。

 

今のジゼルに勝つにはこれしかない…………。

成功率は五分五分。

 

成功しても、脚を痛めたりする可能性が高い。

体が無理な作戦についていけなくなるのだ。

 

怖い。

大事な脚を壊すかもしれないと言うことが。

 

でもそれ以上に、ジゼルに負けることが嫌だ…………!!

 

 

_________________

 

ゾワリ、と後ろのディープのオーラが変わった気がした。

 

覚悟を決めたような、そんな…………。

 

後ろを見ると、まだ中盤なのに大外からスパートをかけているディープが見えた。

 

「うっそ…………。」

 

ディープにしては早すぎない?いつももう少し後でしょ。

これ、まくりってやつ?

 

追込の中でも特別でできるウマ娘は少ないと言われる。

ディープの体で耐えられるかな。

 

怪我をしてでも、勝率が五割であろうと賭けたのか。

私に…………勝つために。

 

 

「ハハッ…………。」

 

何だよそれ。

そんなの、照れちゃうじゃん。

 

ディープにとっての私は、そんなに大きい存在だって…………思い込んじゃうじゃん。

 

「いいよ、ディープ。その覚悟に、私も存分に応えてあげる!」

 

少し考えてみよう。

 

わざわざディープがリスクのあるまくりをしたということは、そうしなければ勝てなかったからだ。

 

まくりをして得られるメリットは、最終直線で後方からではなく前方に位置することができるということ。

 

なら、あんなに早くスパートをかけずに、いつものようなタイミングでかけることだってできたはず。

 

早いスパート…………長い距離を走るということ?

長く脚を使わなければ勝てない何かがあったということ?

 

スパートと言えばあの領域。

確かにまくりで好位置についたディープのトップスピードは凄まじいだろう。

 

徐々に速くなる脚…………まさか、早めにスパートをかけて長い距離を領域に使うことで、最終直線のスピードを速くしようという魂胆!?

 

嵌ったらきっと末恐ろしいことになるわ。

 

私も、ここで仕掛けないと…………!

 

最終直線の直前で私は仕掛けた。

他を置き去りにするくらい、速く。

 

成長したのは貴女だけではないということ。

前より私は数段強くなってるわ!

 

ジゼルが爆走したほぼ同時に、大外から黒い影が迫った。

 

__________________

 

芝が重く感じる。脚も痛い。疲れが溜まってるのがわかる。

 

でも、こんなに風と一体化したような気分になったのは初めてだ。

 

ディープは、三番手の位置について、ジゼルが完全に抜け出した瞬間、さらにスピードを上げた。

 

これまでの彼女の限界を越えた速度。

 

ジゼルとディープの間はジリジリと小さくなっていく。

 

「来たわね、ディープ!」

「借りを返しに来ましたよ、ジゼル!」

 

ディープがジゼルに並び、共に走る。

 

ディープの現状のトップスピードでもジゼルは一歩も引かない。

そのことに、やはりディープはジゼルはすごいと思わざるを得ない。

 

だからこそ、彼女を超える…………!

 

「はあああ!!」

 

並ばれるとまずい。

彼女の勝負根性は優れている。

早く抜け出して、引き離さないと…………!

 

「ッ!!ああああ!」

 

負けじとジゼルが食らいつく。

気を抜くとすぐ抜かれる。

 

脚が限界に近い。

もう少し、頑張って私の脚…………!

 

リードは半バ身。

 

すぐ差し返し可能な差だ。

 

これを、保つ…………!

 

 

 

ジゼルが叫ぶ。前世の敗北を繰り返さないために。

「私は貴女の先を行き続ける…………今度こそ!」

 

ディープが叫ぶ。本物のライバルになるために。

「私は!貴女の最高のライバルであり続けるために勝たなければいけない!」

 

 

観客も固唾を呑んで見守るなか、最初にゴールを駆け抜けたのは、

 

 

 

 

 

 

 

 

『ディープインパクト!執念の勝利!連敗していたテイエムジゼルに念願の勝利です!英雄の凱旋!』

 

 

 

 

 




ディープのは簡単に言えば段々速くする領域です。
今までは同じようなタイミングで発動していたけど、早めに仕掛けたらもっと最後の直線は速くなるんじゃね?ってことです。(まあディープが前よりスペックが上がったのもありますが)



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ハローグッバイ

「負けた…………負けた負けた。」

 

ぐるぐると控室を回るジゼルはブツブツと唱えながら頭を抱えた。

 

「ああああ!!ゴール前の競り合いでは負ける気がしないからってなんで簡単に抜かされちゃうかな私!?鬼みたいなディープは油断できないって大阪杯と有馬記念で十分学んだでしょ…………!」

 

前世で勝っていたレースだからと内心油断していたのかもしれないとジゼルは思った。

 

悔しい。泣きわめいて壁をぶち壊したい。今世での初敗北だ。

でも…………不思議と悪い気はしないのはなぜだろう。

 

ようやく立ち止まり、フッと笑みを浮かべた。

 

「返す借りが、また増えちゃったじゃない…………!」

 

___________________

 

「勝った…………?」

 

掲示板に一番に映されているのは自身の番号だ。

 

あまり、実感がわかない。

あのテイエムジゼルに勝ったということに。

 

痛む脚も今なら気にならない。

 

この喜びを世界中の人に伝えたい。

 

「やりました……!私、ようやく勝てました……!」

 

笑顔になって手を思い切り振れば、割れんばかりの歓声が身を包む。

 

「ディープ!おめでとうー!」

「よく頑張ったな………ここまで…………ううっ…………」

「トレーナー、泣きすぎ!」

 

スピカのメンバーも沖野トレーナーも、全力でディープの勝利を喜んでいる。

 

「…………まだです。まだ、スタートラインに立っだけ。ジゼルと同じ景色を見てるだけに過ぎません。」

 

「自分に厳しすぎますわ。もっと思い切り喜んでもいいんですのよ?」

 

「これ以上は…………それに、同じ手は二度と使えません。帰ったら、たっぷり反省をしないと。」

 

「じゃあ、今日はトレーナーの奢りで焼き肉だー!」

 

「お前らなあ…………今日くらいはいいか。」

 

念願の勝利。

だが、ディープの道はまだまだ続く。

もちろん、ジゼルと走ることは何回もあるだろう。

 

この歩みを止めてはならないと、ディープは思った。

 

 

_________________________

 

幾多の時間が流れ…………春。

出会いと別れの季節がやってきた。

 

 

ディープは桜の木の前で立っているジゼルを見つけ、駆け寄った。

 

「何しているんですか?」

「ん?ううん、去年のこと思い出しててね。有馬記念は熾烈だったなあって。」

「宝塚記念のあと、私は有馬記念まで休んでましたから。脚を痛めただけですけど、大事をとって。」

 

ディープはジャパンカップを走ることはできただろうが、万全ではなかった。このまま行けばジゼルに大差で負けると考えて、有馬記念まで休んだ。

 

結果は7センチでジゼルの勝ちだった。

 

この勝利で、ジゼルは秋シニア三冠ウマ娘になったのだった。

 

「私も有馬記念は絶対に勝とうと思ってたからね。」

「あのときの貴女は今までにも増して燃えてましたね。何故ですか?」

 

ジゼルは空を見上げて笑った。

 

「グランドスラムは出来なかったからね。せめて、秋シニア三冠は獲らないと、示しがつかないよ。」

 

「…………?」

 

ディープはその言い方になんとなく疑問を持ったが、踏み入れてはいけない領域のような気がして聞かなかった。

 

「それよりもさ、飛行機の時間、まだあるっけ?」

「ええ。あと一時間後にタクシーに乗れば間に合いますよ。」

 

「ロンシャンのご飯美味しいかな。」

「どちらかと言うとお菓子でしょう。ブランドバッグも有名ですね。」

 

そう、二人は今日フランスに行く。

凱旋門賞へのチャレンジのために、早めに本土に行って成績を残すのだ。

芝やコースは日本とは違うため春先に行かなければならない。

 

「…………外国だからって、負けても泣かないでね。」

「そっちこそ。」

「ホラ、私はお父さん譲りの良血サドラーだし。」

「なんの話ですか?」

「ごめん、こっちの話。」

 

アハハハと誤魔化すように笑ったジゼル。

やはり謎が多いと、ディープは目を細めた。

いつか、彼女の秘密も知りたい。

 

「そんなことより、早めに行ったほうがいいと思うの!」

「遅れたら嫌ですし、そろそろ行きましょう。」

 

二人は足並みをそろえてトレセン学園を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ、今年も凱旋門が始まります。注目の一番人気!日本のウマ娘、テイエムジゼル!欧州に来てから無敗です!」

 

「二番人気はディープインパクト!テイエムジゼルとのライバル対決になります!前回のレースでの借りを返すことはできるのか!」

 

「これは、最後まで目が離せない展開になりそうです!二人には日本の意地を見せつけてほしいですね!」

 

「全員、ゲートに入りました。……………………スタートしました!綺麗なスタート!」

 

 

「テイエムジゼルはやはり一番手!ぐんぐん後続を離していく!」

 

「ディープインパクトは冷静だ!落ち着いていて後方につく!」

 

「さあ、勝利の女神が微笑むのはどちらか…………!」




本編は一応完結です。

全く投稿しないと言うわけではなく、番外編も投稿するかもしれません。つまり作者の気まぐれ。


次回作は考えてはいます。

絶対的な悲劇の血統が生み出す死亡フラグを圧し折りたい主人公。(性別考えてない)
キングヘイローの全妹として、一流道を世紀末で駆け巡る主人公。(牝馬)
などなど…………せめて、性別は決めたいのでアンケート行います!
ぜひぜひ投票してください!


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番外編 その光、どこまでも疾く

アグネスアルマン視点の競走馬時代編です。
正直言って書いてるとき無茶苦茶辛かったです。
設定を作った作者が思うのもアレですけど…………。


アグネスアルマンは、人が好きだった。

 

自分に愛情深く接し、育ててくれた人間が大好きだった。

 

母はアルマンに、「恩返しをしたいなら、皆より速く走るのよ」と言い聞かせてくれた。

母はとても賢く、面白い話を沢山してくれた。

 

皆より速く走る…………知能は母に遠く及ばないアルマンは取り敢えず一番になればいいと思っていた。

 

知能は他の馬と同じでも、アルマンは感受性や共感性がずば抜けていた。

 

なんとなく周りの人間の感情かわかるのだ。

 

アルマンが初めて見知らぬ馬達と競ったとき、アルマンはいつも通り一番になった。

 

周りの人間はとても喜んでくれた。

 

それが嬉しくて嬉しくて…………つい頑張りすぎてしまう。

 

たまにアルマンを見に来たタケ騎手は「スズカと重なる。少し心配だ。」と言っていた。

 

マトバ騎手も「あんなに毎回頑張り過ぎたらいつかガタが来る。アルマンにはライスのようになって欲しくない」と言った。

 

そんなアルマンを制御していた、唯一無二の相棒はユーイチという。

 

アルマンは人間たちの中でもユーイチが一番好きだった。

 

撫でる手も、笑う顔も、名前を呼ぶ声も。全てがアルマンにとって大切なものであった。

 

なんとなく、ユーイチがダービーというものに特別な思いを持ってることは分かっていた。

 

アルマンがダービーというものだけではなく、菊花賞というものも勝ったら凄く特別なことなのだと言うことはぼんやりと理解していた。

 

アルマンは、ユーイチに"特別"を贈りたかった。

 

この後も走り続けて…………ユーイチを一番にするんだと決意していた。

 

だって、一番大切な人だから。大好きな人だから。

 

ダービーというものがやっと終わった、と思ったときには、アルマンの脚は崩壊していた。

 

激痛に蝕まれ、心臓がどくどくと鳴る。

 

苦しくて、息が乱れる。

 

立つのはすごく辛かったけど、倒れたらユーイチが痛い思いをしてしまう。

 

鋼の意思で、アルマンは立ち続けた。

 

アルマンの脚から骨が出て、血が流れる。

 

周りの人間の叫び声が聞こえる。

 

慌ててアルマンから降りたユーイチは、脚の状態を見ると目を見開いた。

 

もう、手遅れなのは明らかだった。

 

かくいうアルマンも、自分の死期が近いことを悟っていた。

 

「(ユーイチが……泣いてる……。泣いてほしくないのに…………。もう少し、ユーイチと、走っていたかったなあ…………。)」

 

幸い、アルマンが意地でも倒れなかったおかげで、ユーイチは無傷。

そのことが、アルマンにとって唯一満足のいくことだった。

 

その後、アルマンは苦しまないよう安楽死処置がとられた。

 

アルマンの死後、しばらく食事もまともに摂れなかったユーイチは、先輩であるタケ騎手や、アルマンの母の主戦騎手で同期のリュージに励まされた。

 

ようやく復活し、エピファネイアに乗って勝った菊花賞のインタビューでは、「アルマンに背中を押された」と話した。

 

でも、もしも。もしもがあるのならば、ユーイチはアルマンに乗って菊花賞を駆けたかったと言うだろう。

 

ユーイチにとって初めてのダービーを制覇した馬は、ファンに語り継がれる悲劇の無敗の二冠馬だ。

 

2020年。

コントレイルであの時の"やり直し"をしたユーイチは何を思っただろう…………。

 



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番外編 孤高?の女王様

金色の暴君の娘であるエルドールは、それはひどい気性難だった。

 

同じオルフェーヴル産駒であるラッキーライラックなどは気性が穏やかなのにどうして…………と言われていた。

 

しかも母ジゼルの影響か賢いので自分のことを悪く言った人のことを噛む。

 

調教師にも厩務員にも暴れるので牧場では問題児。

ただ、顔はジゼルに似てすこぶる良かった。かなりの美人であった。

 

オーナーはエルドールの暴れっぷりを聞くたびに頭を抱えていた。

騎手のことを落としてしまうかもしれない、どうしようと。

 

そこで、数ある気性難の馬に乗って勝利してきたミスター気性難ことikze騎手(イケゾエ騎手と表記する)に頼むことにした。

 

スイープトウショウやデュランダル、何より父オルフェーヴルを勝利に導いたのだ。エルドールのことも走らせてくれるはず…………!

 

イケゾエ騎手とエルドールの初対面はイケゾエ騎手が振り落とされて終わった。

厩務員は心配したが、彼曰く「オルフェーヴルやデュランダルの方が酷かった」とのこと。

もはや慣れか?慣れなのか。

 

それでもニコニコと笑っているイケゾエ騎手にビビったエルドールは開き直ってレース後や調教中にたくさん振り落とした。

 

自分のことをひたすらにビビっていた人間が多かったから新鮮だったのだろうか。

 

ファンからは「まーたイケゾエが気性難の馬乗ってるぜ」なんて思われていた。

 

デビュー戦は10馬身差、オープン特別戦でもレコードを出すなどその素質の高さを見せた。

 

桜花賞では一番人気。

今まで産駒成績で優秀な馬ばかり出してきたジゼルの産駒だからである。

その人気に答えるかのように当然のようにコースレコードを出した。

 

もちろんその後はイケゾエ騎手を振り落とした。

 

続くオークス、秋華賞も馬身差を広げて勝った。勝ち方も派手だったのでファンからの人気も高かった。

結果、史上初の母娘無敗の牝馬三冠を達成した。

 

年末の有馬記念では惜しくも三着。リスグラシューの意地が見えたレースであった。

 

この負けに納得がいかなかったのかいつもより乱暴に振り落としてしまった結果、イケゾエ騎手は骨折してしまった。

 

翌年の天皇賞秋まではかつて母と母父の主戦騎手であったリュージ騎手に乗り変わった。

 

日経新春杯、金鯱賞では大差での圧勝をしたが、他のレースでは同じ牝馬であるクロノジェネシスやアーモンドアイには度々苦しめられた。

 

特にヴィクトリアマイルでアーモンドアイに惨敗して以降は明らかにライバル視していた。

 

「(何よ、あの女…………一番は、女王の座は私のものよ?)」

セリフだけ見てもただの悪役令嬢である。

 

しかもエルドールはプライドが高くて中途半端に優しかった。

なのでいつも重くて振り落とすアイツがいなくてモヤモヤしていた。

 

「(私のせいで来なくなった?私のせいではありません…………。早く帰ってきなさいよ、バカ。)」

 

これは、見事なツンデレ…………ッ!

 

そんな彼女も天皇賞秋では仲良くアーモンドアイと同着。しかもレコードである。

 

「はあ〜!?あの女と同着とか嫌なんだけど!私の勝ちでしよ!?」

「エルドールちゃんは可愛いわねえ」

「アンタに言われたくはないわよ!」

 

アーモンドアイはエルドールのことを親友だと思っているので何を言われても効果はゼロである。

 

そして、ようやくイケゾエ騎手が復帰。次戦のエリザベス女王杯で乗ることが決まった。

 

「フフン………遅すぎるわよイケゾエ」

「ゴメンなエルドール。」

 

元のリュック()を取り戻したエルドールは強かった。エリザベス女王杯では2分7秒7の文句なしのワールドレコード。

しかも元の記録を二秒も上回っているのでさらにすごい。

 

ジャパンカップでは同じ無敗の牝馬三冠のデアリングタクト、無敗の三冠のコントレイル、ライバルのアーモンドアイが出走する大レースとなった。

 

しかもここ3年で牝馬三冠が連続で出ているヤバさ。間違いなく牝馬の強さを知らしめた。

 

勝ったのはアーモンドアイで、エルドールはハナ差二着。今度は振り落とさなかった。

 

エルドールは有馬記念には出す、ドバイターフに出走して引退することが発表。

 

エルドールはなんとなく自分の終わりだと悟ったのか、いつもより力がみなぎっていた。

 

かつての父の有馬記念のように、差をぐんぐん開いてこれが引退する馬か、と思わせた実力を見せつけて勝った。

 

繁殖牝馬になり、初年度の相手はエピファネイア。

………………アーモンドアイといいエルドールといい両手に花だなこいつ。

 

 



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ウマ娘アニメ三期スレ

この世界のアニメ三期はテムゴたち12年世代メインです。


100

ジゼルさんなかなか出てこないけど存在感濃すぎる

 

101

テイエムゴールドまじすき

 

102

12世代好きすぎる

 

103

ジゼルチルドレンズがたくさん出てきたな

 

104

リアタイ実況スレは凄かったね

 

105

アルマンが出てきた瞬間、スレ民の悲鳴がやばかった

 

106

「嘘やろアルマン!!」「まさかやるのか?2013年日本ダービーを…………」

 

107

ユーイチのために立ち続けた、人懐っこいっていう性格を再現してたよね

 

108

正直言って辛かった。泣いた。

 

109

キングオデットがなんとなくナカヤマっぽい

 

110

こんなに名馬産んだんだなジゼル

 

111

ルーラーシップとアドマイヤグルーヴも何卒

 

112

バカ息子がいるエアグルーヴとお転婆娘がいるジゼルさん

 

113

騎手の間でもウマ娘見てる人いるらしいし、12年世代は最近の方だから殊更記憶が新しいやろうなあ

 

114

アルマンの例のシーンで「ユーイチ逃げろ!」「ユーイチのSAN値が心配だな」とか言われてるの草

 

115

アニメの出来良かったよな。三期はプリティーダービーな一期と曇り続ける二期の特徴を継いだみたいな感じで。

テムゴ自体はスペちゃんみたいな主人公なんだけど、周りが曇るから。

 

116

菊花賞のエピファネイア出してくれてありがとう…………ありがとう…………

 

117

あれ本当に凄かった

 

118

アルマンが最後の直線のところに立ってて、それを見たエピファが最後に追い抜く…………まるで二期有馬記念のマックイーンとテイオーだった。

 

119

凱旋門賞やばかった。

 

120

あのときのテムゴは本当に神がかってた。

 

121

テムゴ凱旋門を見るとステゴの香港ヴァーズを思い出す

 

122

これに乗ってジャスタウェイとジェンティルドンナ実装しろ

 

123

キングオデットはなんとなく二期のゴルシみがある

 

124

颯爽と現れて名言言って去るウマ…………あれ、これキングお嬢やん。

 

125

四期あるとしたら誰かな。なんとなくサファイアかなと思ってる。

 

126

サファイアは牝馬で菊花賞制覇がどれだけ凄いのかが表現できないからな

 

127

そもそもそこらへんの馬はあんまりウマ娘キャラでもいない。

 

128

馬の方のゴルシがジェンティルドンナとは仲悪くてジャスタウェイとは仲良しでテムゴに執拗に絡むけどテムゴからガン無視されてるの面白すぎる。

 

129

ジゼルさんの子どもがあんなに成績いいのはジゼルさんは子育て上手なだけではなく教育ママだからっていうの見て納得した。

 

130

リュージ、ジゼル産駒から好かれすぎてリュージが乗るとジゼル産駒はリュージ以外を受け付けなくなるらしい。だからikzeとユタカは凄いんだ。

 

131

ジゼルママ「いい?リュージという男性は凄くいい人だから信頼できるわよ。乗せるならこの人にしなさい!」

 

132

最近クリークじゃなくて、ジゼルさんにバブ味を感じる…………。

ばぶ…………ばぶ…………。

 

133

ジゼル産駒は総じて面食いだと聞く

 

134

今になってもユーイチに語らせたら傷口から血が吹き出して瀕死になる(精神が)アグネスアルマンという馬

 

135

最近の騎手にどの馬に乗りたかった?って聞くとだいたいジゼルかディープかジークフリートが出てくる。もう少し古いほうだとルドルフシービー。

 

136

よく見るとジゼルってオペラオーに似てる

 

 




テイエムジゼル

身長 162cm
体重 完璧としか言いようがない仕上がり
B85、W54、H84

学園内でもトップを争う実力の持ち主。だがそれを驕らず努力し続け、勉強もコミュニケーションもできるまさに完璧なウマ娘。性格は意外と庶民派で苦労人。同室で同じクラスのディープインパクトを常に意識している。

「これでも、私ちょっとすごいウマ娘なのよ?」
「どうか私に…………着いてきてね」


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番外編 青い宝石、誰よりも輝きたい

テイエムサファイアは、生まれがまさに"理想のサラブレッド"だった。

 

種牡馬としては活躍しなかったが、奇跡の復活を果たした有馬記念が有名なトウカイテイオー。その親は初代七冠馬のシンボリルドルフ。

 

母は名牝テイエムジゼル。彼女の父はあのテイエムオペラオーだ。

 

サファイアが生まれた当時は、丁度ジークフリートやテイエムゴールド、アグネスアルマンが暴れていた時期だった。

そのため、サファイアはかなりの箱入り娘で、牧場で蝶よ花よと育てられた。

 

いつも、ぽやーんとして蝶々を追いかけているので本当に走れるのか厩務員は不安だった。心優しくて繊細なサファイアがあの苛烈な世界で生き残れるのか…………。

 

まあそれは杞憂だった。

 

お淑やかな大和撫子系牝馬として厩舎で生活してたテイエムサファイア。

彼女は親離れするまで母ジゼルからサラブレッドとしての英才教育を施されていたのである。

ジゼル自身は、折角だからレースで勝って欲しいなあという思いがあったからで、現代社会の毒親みたいなことは絶対にない。

 

「逃げ馬は余程のことがない場合は無視していいわよ。むしろ逃げ馬にビビるくらいなら自分が逃げ馬になれ」「スローペースやハイペース、コースや天候の不得手は無くしたほうがいいわよ」などなど。

時にジゼルが走ってみたりして。

 

そんなポヤポヤ娘は英才教育のせいか周りよりも"競馬"というものをよく分かっていた。

ゴール板についてや斜行などについてである。

ジゼルはそこらへんも抜かりがなかった。我が子に斜行癖あるとか嫌だし。

某阿寒湖「せやせや」

 

サファイアはデビュー戦はダンシングブレーヴもビックリの差し脚で勝利。

どんどん勝利を重ねていき、諸々あってダービーからクラシックは挑戦することとなった。

 

理由は牝馬路線だとサファイアの適性に合わないからである。

彼女が最も得意なのは、芝3000でパワーのいる馬場だ。逆にマイル中距離だと力を発揮できない可能性が高い。

それでもダービーには出るのは、馬にとっても騎手にとってもダービーは特別だからである。

 

結果、日本ダービーではサファイアは四着。牝馬にしては善戦したほうである。

 

だが、リュージやテイエムオーナーたちの本命は菊花賞。

菊花賞で牝馬が勝つなんて前代未聞である________。

 

もしも勝てば、歴史に名を残す名牝になる。

父が挑戦できなかった菊花賞。

 

絶対に勝ちたい…………!

 

その意思のもとで行われた菊花賞は雨。

稀に見る不良馬場で通常よりもパワーが必要になるレースだった。

 

そう、サファイアが得意なレースだ。

 

 

 

 

雨で多くの馬が苦戦する。

最後の直線コース。

馬群から飛び出した馬がいた。

 

3000メートルにもバテず、パワーでは牡馬に劣らない。

歴史を変えた馬がいた。

 

テイエムサファイアという馬が、常識を塗り替えた瞬間だった。

 

 

___________________

 

牝馬での菊花賞制覇という前代未聞の勝利に陣営は喜び、古の競馬ファンたちは泣いた。

あの、骨折で惜しくも菊花賞に出走出来なかったテイオーの子供が菊花賞を勝った。

 

期待株となったサファイアが次に狙うのは、グランプリレース有馬記念。

 

現役最強馬キタサンブラックの引退レースだ。

 

サファイアと同じく、パワー系のステイヤーで重馬場でも苦にしない。

陣営はキタサンブラックに勝つために、いつもより調教に力を入れた。

 

有馬記念当日。

パドックに現れたサファイアの馬体は完璧に仕上がっていた。

それもあってか二番人気に推される。

 

序盤はやはりキタサンブラックが引っ張る展開となった。

サファイアはじっと展開を窺って三番手の位置に。

 

先頭変わりなく、最終直線でキタサンブラックが後続を離しにかかった。

 

差は広がるばかりで誰もがキタサンブラックの勝利だと思った。

 

だが、青の女王は決して諦めたりはしなかった。

 

残り200メートルないところで急加速。

実況も追いつけなくなるほどの末脚。

 

ゴール直前での差し切り勝ちだ。

 

 

あまりにも華麗な勝利に騎手自身も驚いていた。

 

でも間違いなく、テイエムサファイアは何よりも輝いていたと断言していいだろう。

 

その後は大阪杯、ヴィクトリアマイルを勝ち、有馬記念を連覇した。

 

余談だが、4歳になったと同時に、鞍上がユタカに変わった。最初は流石のサファイアもツンツンした態度をとったが、ユタカのたゆまぬ努力により認められた。

 

ちなみに、その時でちゅね遊びをしたとかしてないとか…………。

 

 

 

 

 




有馬記念サファイアの脚は、例えるなら根岸ステークスのブロードアピール並みです。


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番外編 サポートカード実装!

600

まさか同時SSR実装とは思わなかった…………

 

601

性能が鬼

 

602

『"最強"の名は渡せない』テイエムジゼル

『"最強"の名をこの手に』ディープインパクト

いいね…………いいね…………。元ネタは高松宮記念かな?

 

603

ジゼルはやる気アップイベントと練習上手つくのがいいね。

ディープはイベントごとに回復してくるんだけど、最後は50回復してくれる。そしてバットステータスを解除してくれる。

 

604

スピードがジゼルでスタミナがディープなのか…………。キタサンとサトダイと同じだな。

 

605

どっちもレース/ファン数ボーナスつくからね。強いよね。

 

607

テイエムジゼル

勝負根性(最終コーナー以降競り合うと抜け出しやすくなる)

臨機応変

一匹狼

うたかたの夢(デバフスキルの効果を軽減する)

集中力

コーナー加速

コーナー回復

追込けん制

自在(苦手な脚質、距離でも能力を少し発揮できる)

静謐(レースでわずかに掛かりや出遅れがしにくくなる)

新金スキル:絶対(最終コーナー以降、その意志の強さで抜かされにくくなり、速度が上がる)

 

608

ディープインパクト

栄養補給

直線巧者

コーナー巧者

追込のコツ

追込の美学(作戦追込だとモチベーションが上がって能力が上がる)

直線一気

お見通し

まなざし

仕掛け抜群

追い上げ

新金スキル:飛翔(レース中に後方から5人追い抜くと翔ぶような走りで速度が上がる)

 

609

ジゼルさん絶対といい追込けん制といいディープ殺しに来てるの草

 

610

ディープは清々しいほど追込特化…………

 

611

この2つのイラスト並べると繋がるんだよね。二人が競り合ってるのよね。無茶苦茶いいよね。

 

612

ディープもう固有じゃん。

 

613

絶対は逃げウマに入れたい

 

614

スズカさんとか相性良さそう

 

615

ウララで全G1制覇した人がTwitterで「自在あるなら全G1制覇も楽だったのに…………」て呟いてたね

 

616

保健室ディープとキタサンジゼルって言われてるの草

 

617

メインストーリーでディープ来たら高松宮記念がキツそう。このスキル構成だとね。

 

618

チームレースで絶対持ちが沢山いたら笑う

 

619

飛翔はもう固有

 

620

ディープの固有と合わせよう!とてもすごいよ!

 

621

完凸キタサンと完凸ジゼルで育成してえ〜!金がねえ〜!

 

622

おぬし、有馬記念とホープフルステークスで増えたじゃろう?

 

623

うたかたの夢とか、おれのデバフネイチャ殺しじゃないか!?

 

624

追込育成にはディープサポカが必須の時代になるな

 

625

自在のスキルには夢がある。そう、バクシンオーの天皇賞春制覇とか!

 

626

大丈夫?上方修正されない?

 

627

これは俺の新衣装タマモ貯金を崩さなくては

 

628

キタサン実装されたときにキタサンのサポカ使えないんだよな、って思ってたら救いが来た

 

629

新スキル多いなw

 

 



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番外編 貴公子と飛行機雲・上

コントくんすごく曇らせてますが決して実馬を貶そうとする意図はございません。
バッシングに関しては競馬板を参考にしております。


血が半分しか繋がってない姉がいるとどう思うか。

その人が自分よりも遥かに優秀であったら。

 

ぼくの場合は、劣等感に苛まれている。

 

_____________

 

無敗の三冠ウマ娘、ジークフリート。

史上初めて三冠を獲ってジャパンカップと有馬記念を勝ったパーフェクトウマ娘。

その後、怪我に苦しめられるも、復帰レースのジャパンカップでワールドレコードを出す。

有馬記念も勿論勝ち、そのまま引退。

生涯負けたのはたったの一回だけという隙のなさだ。

 

彼女は、ぼくの異母姉。

ぼくの父の連れ子で、ぼくが生まれる前に父とぼくの母は再婚した。

母は良くも悪くも普通のウマ娘だ。ただ、異母姉の母親が現役時代優秀なウマ娘だったらしく劣等感を感じている。

 

『コントレイル、もう帰ろう。風邪引いちゃうよ。』

 

『いい。ウマ娘は丈夫だもん。』

 

『お母さんだって心配するよ。』

 

『……………………ジークねえとは、血が繋がってないじゃん。』

 

『!!』

 

姉は本当に優秀で、レースではいつも一番、勉強もできて、品行方正。友達もたくさんいて、後輩たちからは慕われるし、ぼくにはないカリスマ性がある。

 

姉が何かをして成功するたびにぼくと姉が半分しか血が繋がっていないことをひしひしと感じてしまう。

食卓で父が姉を褒めると母とぼくは肩身が狭くなるのだ。反対に、ぼくが褒められると姉は自分のことのように喜ぶから本当に隙がない。

 

ぼくは、パイロットになりたかった。

空を駆けたかった。

 

けれど、突然、深い衝撃に襲われる。

 

『ディープインパクトだ!確かに翔んだ!』

 

無敗の三冠ウマ娘、ディープインパクト。

翔ぶように走るその姿に憧れた。それは姉も同じだった。

 

『わたし、ディープさんとジゼルさんからサイン貰ったの!』

 

宝物のように色紙を抱きしめる姉に嫉妬した。

ディープさんに憧れたのは、きっと姉に似ているジゼルさんのライバルだということもあるのだろう。

 

 

…………自分で思っててて恥ずかしくなる。

バカバカしい。ぼくがジークフリートに勝てるわけがないのに。

 

______________

 

「あなた、ジークフリート先輩の妹さんよね!?ぜひお友達になってほしいわ!」

「ジークフリートの妹だ、きっと将来は無敗の三冠ウマ娘だな!」

「ジークフリートの妹だからきっと同じくらいすごいウマ娘だよな!」

 

トレセン学園は窮屈だった。

コントレイルという名前があるのに、呼ばれない。  

ジークフリートの妹ということしか価値がないのだ。

 

一人称も変えた。

クラスメイトたちに笑われたからだ。

 

次期生徒会長候補筆頭の姉はよく私に構ってきた。

そのたびに周りからは仲良し姉妹と言われる。やめてほしい。

 

「お姉さんに続いて無敗の三冠ウマ娘候補筆頭格!」

そう、言われるようになった。

 

なまじ私は普通の子より器用だったから。何も特別な才能はないけれど、要領はよかったから。

 

ただ一人、同室のデアリングタクトだけは違った。

 

彼女はジゼルさんに憧れていて、将来は無敗のトリプルティアラウマ娘になるのだと語った。頑張ってほしい。

 

私のトレーナーさんは私のことをよく考えてくれてる。

だからか。きっと正しく評価してくれたからだろうか。

「コントレイルは1800から2400のウマ娘で自分は短距離ウマ娘だと最初思った」と。

 

それは正しい。

私の血縁は短距離が殆どで、ステイヤーはいなかった。

ジークフリートはなんでもこなす化け物だが。

 

私は短距離とは言わずとも本来マイラー。

ダービーまでは練習次第でいけるかもしれないが、菊花賞は正直言って不安だ。

 

トレーナーさんは、最近のウマ娘は真のステイヤーが少ないから練習次第でなんとかなると言っていた。

 

「コントレイル、マイラーらしいけど三冠大丈夫かな?」

「ジークフリートの万能さがあるといいけどね。」

 

悔しい。

本当なら私は距離適性的にトリプルティアラを目指すべきなのだ。

けれど、どうしても見返したくてクラシック三冠を獲ることに決めた。

 

________________

 

菊花賞はきつかった。

根性勝ちと言ってもいい。

 

そもそも私はマイラーだ、中距離も走れるけど。

3000はきつかった。

 

これで、ジークフリートの妹なんて呼ばれないだろうと、思っていたのに。

 

 

ジャパンカップ。

現役最強ウマ娘のアーモンドアイ先輩と、無敗のトリプルティアラウマ娘のエルドール先輩。そして、無敗の三冠ウマ娘の私と無敗のトリプルティアラウマ娘のデアリングタクト。

 

夢のようなレースと言われていた。

 

私は先輩方を食ってやるつもりで挑んだ。

 

結果は、惨敗。

 

一着はアーモンドアイ先輩、ハナ差二着はエルドール先輩。

 

私は三着。

いくら菊花賞からジャパンカップは難しいと言われてるとはいえ、私はそれを成し遂げてしまったジークフリートの妹。

有馬記念を回避したことも皆は許さなかった。

 

「史上最弱の三冠ウマ娘」

「菊花賞はレベルが低かった」

「下の世代のほうが強い」

 

極めつけには

「ジークフリートとコントレイルは賢姉愚妹」

 

ふざけるな、と言ってしまいたかった。

私達の世代は弱くないし愚妹と言われるほど駄目だったのか私は?

マイラーだから限界はあったけど一生懸命頑張ってきたつもりだ。

 

次は勝つ、と思って頑張った大阪杯も三着。

レイパパレさんだけではなくてモズベッロさんにも負けた。

 

私は天皇賞秋に出ることになった。

脚部不安から年内引退が決まった。

批判が殺到した。

 

年内引退は姉と同じだけど実績が足りなかった。

 

 

そして…………

 

「コント、わたし、しばらく走るのをやめるわ。」

 

デアリングタクトも居なくなってしまう。



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番外編 育成シナリオスレ

我、受験生なり。
受験まであと5日もない。
よし、小説書こう!(馬鹿)


100

新人トレです。

ガチャを引いたらジゼルさんが来たんですけど、性能は強いけど育成難って聞きました。ライスシャワーやキングヘイロー並に育成難なんですか?

 

101

よお、新人。悪いことは言わない。最初の育成にジゼルはやめとけ。

 

102

サポカがある程度揃って、レベルも上げて、因子もいいのが集まった今でも全勝は困難。

猛者たちは結構固有二つ名まで取れてたけどね。

 

103

大丈夫。ハルウララがんばるとG1全勝利よりはマシ。

 

104

ナリブハードモードで限界の俺はディープもきつかった。

 

105

具体的にどこが難しいんですか?

 

106

まず自分以外のウマ娘のステータスが高い。番号でしか呼ばれないモブでさえステータスが異様に高いしスキルもかなりある。だからメイクデビューで負けることはざらにある。

 

 

107

シナリオはいいんだけどね。

例えるならチヨノオーシナリオでやけにステータス高いマルゼンスキーとミスターシービーがいたやん?ディープのハードモードジゼルはそれ並みよ。ナリブシナリオのハヤヒデが可愛く思えるわ。

 

108

幸運なのは、一番人気ジゼルが出てくるのが高松宮記念だけなんだ。まあ短距離Sにしないと勝てないらしいけど。短距離Aで勝てたディープは見たことない。

 

109

本当にひどいのはディープはハードモードクリアしなきゃ固有二つ名が手に入らないことよ!

 

110

マジモンのサイゲからの刺客よ。

 

111

俺の心の中の幼女が泣いた

 

112

目標もかなりアレよ

 

113

メイクデビューは出走するだけよくて、クラシックに入ると一着指定、シニアからは2着以内指定。これジゼル。あ、最後の高松宮記念は一着指定ね。

 

114

ディープは目標は普通。有馬記念は一着指定。

ジャパンカップ後のストーリーで有馬記念後はURAに行くか高松宮記念行くかの選択肢がある。高松宮記念選ぶとハードモード。URAだといつも通り有馬記念で終了。

ジゼルの敵も強いことで有名だけどこいつも大概だからね?

 

115

ジゼルさんは高松宮記念以外負けなしだからストレスとの戦い。ある意味リュージの気持ちがわかるで。あと、トレーナーが関西弁。

 

116

フラッシュとかファインは自分の家族に紹介するけど、こいつはトレーナーの家族に挨拶に行くからな。理由はかなりしっかりしてて礼儀正しい子だけどね!

 

117

「息子(娘)さんにはたくさん迷惑をおかけしてしまうと思います。私と彼(彼女)の歩みを温かく見守っていただけると幸いです。」

ホントに中1?

 

118

ディープのひどいところはバステがあるところ。失敗率5%でやる気が下がりやすくなるやつ。『英雄失墜』って言うんだけどね。多分元ネタは凱旋門のアレコレ。

 

119

これ、凶悪なのがノーマルだと時間立つとバステ解消されるんだけどハードだと『英雄の復活』になって絶好調&ステータス上昇&失敗率30%ダウンになるんだ。あと強制的に固有スキルレベルが2つ上がる。

 

120

ジゼルはまだおとなしい方かもしれない。

 

121

ディープさんはトレーナーに「あなたは私の片翼です。つまり、無くてはならない存在です。」なんて言いやがるからな。

 

122

ジゼルさんは卑しか女杯に出走できるくらい行動がアレだけどオペラオーの娘だから湿度というか意図的なものが感じないんだよ。自分は普通の行動をしてると思ってるわ。

 

123

ジゼルさんはシナリオとかサポカイベで母性溢れてる。ジゼルママと呼ばれる日も近い。

 

124

エアグルーヴ「またレースで出遅れて…………あのたわけが…………!」

オリエンタルアート「旦那と子どもたちよりはマシ。」

ジゼル「エルドール????」

エルドール「サーセン」

こんな感じね。

 

125

指導もスパルタなジゼルさん。なおディープ。

 

126

「取り敢えず走りましょう。走ればなんとかなります。」




テイエムジゼルの秘密

実は、指導がスパルタで後輩を泣かせかけたことがある。


→教育ママ要素

ディープインパクトの秘密

実は、走ると周りが見えなくなる。

→小さい頃、走るのが好きすぎて脚の裏から血が出るほど走った。史実。


アグネスアルマンの秘密

実は、一番好きな日本史の人物は弁慶。

→日本ダービー、怪我、立ち往生。ユーイチは死ぬ。


テイエムゴールドの秘密

実は、お金を貯めたらフランス旅行に行きたいと考えている。

→みんな大好き凱旋門賞。

ジークフリートの秘密

実は、血の繋がらない妹がいる。

→みんな大好きコントレイル。


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番外編 貴公子と飛行機雲・下

デアリングタクト、繋靭帯炎により休養

 

そのニュースはすぐコントレイルの耳にも入ってきた。

 

「ねえコントちゃん。デアリングタクトちゃんの怪我聞いた?」

「……………うん。」

 

心配そうに聞いた"プボ"ことディープボンドに頷いた。

ディープボンドはコントレイルの同期で、長距離が得意。この前行われた天皇賞春では惜しくも二着に敗れた。

 

「大丈夫かなあ。今年中の復帰は厳しいって記事に書いてあったけど。」

「ボンドは凱旋門賞に出るんだよね。フォワ賞からだっけ。」

「そうそう、うちのトレーナー心配症なの。」

 

同伴するウマ娘が大先輩のグランプリウマ娘、クロノジェネシスだったこともありかなり緊張している。 

ボンドは愛嬌があってファンが多いため、まだG1は勝っていなくても凱旋門賞に出られるのだろう。

 

「頑張ってよね。日本の代表なんだから。」

「うう…………私より無敗の三冠ウマ娘のコントちゃんのほうが向いてるよ〜。」

 

そんなことはない、と叫びそうになる口を固く閉じ、曖昧に微笑む。

 

「コント、トレーナーが呼んでる。」

 

天皇賞春の覇者、ワールドプレミアが教室に来た。クールビューティーな彼女はあまり他者と関わろうとしない。案の定、態度はかなり素っ気なかった。

 

「(なんの話かな?トレーニングメニューの変更?次走の宝塚記念についてかな?)」

ドキドキしながらトレーナー室の扉を叩いて開けると難しい顔をしたトレーナーが座っていた。

 

「トレーナー…………。」

「コント…………。」

 

異常な様子だった。

いつもより数段硬い顔をしながら資料を読んでいる。周りには脚部不安用のトレーニングブックやマッサージ本などが散乱していた。

 

それを見て嫌でも悟ってしまう。

 

「まさか、宝塚記念出られないんですか?」

「…………ああ。」

「そんな、ファンの方たちに今度こそ何て言われるか…………!」

トレーナーは幾らか躊躇ったあと、覚悟を決めた声で話した。

 

 

 

「コント、今年中に引退しよう。」

 

 

________________

がむしゃらに足を動かす。

距離なんて気にしなかった。

恐らく3000メートルは越えてるだろうか。

 

強い雨に打たれても、長い時間走り続けてもきっと、大丈夫なはずなのだ。

 

 

『脚部不安がひどくなってる。海外遠征も無理だしそれこそ来年はどこかで壊れる。』

 

『悔しいとは思うが…………これもお前のためだ。』

 

ダメなのだ。

 

ボクは、デアリングタクトと約束した。

 

今走れないタクトの分までボクが走るって。

 

「うわあああ!!!!」

 

絶叫を上げて脚に力を入れる。

 

「…………ほら、…………脚部不安なんて、ないじゃん…………!」

 

泣きながら道に座り込むと、強く打ち付けていた雨が止んだ。

いや、これは止んだのではなく…………。

 

「大丈夫ですか?」

 

小柄で漆黒の髪を靡かせたウマ娘が傘を差し出した。

 

「ディープ、インパクト…………?」

「はい。ディープインパクトです。」

 

ボロボロのコントレイルを立たせた彼女は、服が濡れるのも厭わずコントレイルを持ち上げた。

 

「え?」

「これが一番いいです。」

片手でコントレイルの身体を持ち上げ、肩にかけた。

 

コントレイルは、え、ボク何されてるの…………?と思わずスペキャ顔になった。

________________

 

粟東寮のディープインパクトの部屋にドナドナされ、お風呂に突っ込まれたり、小柄な彼女の服と下着を借りたのだが、当然サイズが足りなく、同室のジゼルのものを借りることになり「ジゼル、苛つきますね」とディープが怖い顔で笑っていたりした。

ちなみに、服はちょうど良かったのだが下着は逆にゆるゆるだった。

皆の憧れのウマ娘二人のバストサイズを知ることになり、少し複雑だった。

 

「なぜ、あんな無茶なトレーニングを?」

「ずっと見ていたんですか?」

「そりゃあ、無敗の三冠ウマ娘の後輩のトレーニングは興味がありますからね。」

 

ずっと、ということはあの雨の中動きにくい私服で傘を持ちながら自分のスピードと距離についていけてたのか…………。

 

「何があったんですか。宝塚記念が近いからあまり無茶な練習はしてはいけないと思いますよ。」

 

この分だとトレーナーは私の宝塚記念不参加と今年中に引退することを知らないのだろう。

 

「私、今年に引退するんです。」

 

そう言うと驚いた顔をされた。

 

「随分早いんですね。海外遠征もしないんでしょう。」

「脚部不安でですね。有馬はきっと距離がキツイのでジャパンカップが引退レースになると思います。」

 

菊花賞は本当に奇跡でした、と思わず脚をなでた。

 

「脚、見せてください。あんな無茶な走りしてただでさえ脚部不安のあなたの脚に負荷をかけてどうするんですか!?」

 

太腿や脹脛を押されたり撫でられたりして異常がないか確認させられた。先輩曰くかなり脚に負荷がかかってるらしいのでしばらくトレーニングは休むとのお達しだった。

 

「宝塚記念も参加できなくて、もう天皇賞秋とジャパンカップしかないんです。」

 

あの皐月賞ウマ娘のレースを見て、とても恐ろしくなった。

勝てる距離でも負けるかもしれないという恐怖、非凡な才能を持つ嫉妬。

 

「後輩もとても強くて…………勝てるわけない、って思っちゃったんです。」

 

「負けてはいけないのに…………負けてしまったから。きっと皆の中でボクは出来損ないなんです。」

 

黙って聞いていたディープ先輩が反論した。

 

「そうしたら、私も同じです。かのウマ娘に勝てるまで、3回負けました。」

 

「いいですか、いいですか。負けないということは素晴らしいことです。すごいことです。でも、私はウマ娘の走りはそれがメインではないと思ってます。」

 

「じゃあ、何が…………。」

 

強く子供に言い聞かせるみたいに言葉をかけるディープに呆然と聞き返す。

 

「夢を、見せることです。」

 

天啓が見えた気がした。

 

「あるとき、とあるウマ娘二人がジゼルと私が憧れだと言ってくれました。そのウマ娘二人は今レースで活躍しています。」

 

「だからきっと、勝つだけでは意味がないんです。」

 

ボクは、誤解していたのかもしれない。

義姉がほぼ無敗であったから、それが価値のあるものだと思いこんでしまったのかもしれない。

だって、義姉は私の中で一番最初にすごいと思ったウマ娘だから…………。

 

「勝てないかもしれません。バッシングを受けるかもしれません。それでも走りなさい。あなたを待つ人が一人でもいればあなたの走る意味になります。」

 

「有難うございます…………。」

 

もう少し、走り続けてみよう。

 

________________

 

「始まりました、第41回ジャパンカップ。今回は、史上初の四人のダービーウマ娘が出走します。」

「コントレイル、マカヒキ、ワグネリアン、シャフリヤールですね。」

「コントレイルはこのレースで引退してしまいます。有終の美を見事飾って欲しいですね!」

「シャフリヤールはあのエフフォーリアに勝ってますからね。彼女も期待できそうです。」

 

実況二人がパドックのウマ娘を解説している。

 

静かに佇むコントレイルを心配そうにジークフリートは見た。

 

「あまり気負いすぎないといいけれど。」

「珍しいですね、そんな前で見るなんて。」

 

後ろからぬっとディープが顔を出す。ジークフリートはいつもファンに遠慮してジゼルとディープのレース以外は後列で見てるのだ。

 

「そりゃあ妹のトゥインクルシリーズ最後のレースですからね。」

苦笑しながらジークフリートが言う。

 

「ディープ先輩は、勝てると思いますか。コントレイルが。」

「…………レースに絶対はないことをあなたは知ってるでしょう。」

「はは。手厳しいですね。」 

 

あの日、誰もが彼女が勝つと思った。

なのに、怪我をして負けた。

レースの神様はいないのだと皆思った。

 

「正直言って、エフフォーリアが出走しなかったのは嬉しい誤算でしたね。まあ有馬記念制覇を目指すんでしょうけど。」

 

年下ながら全く末恐ろしいウマ娘だ。来年は無双してしまうんじゃないかと思う。

 

「私達にできるのは、見守るだけですよ。」

 

_________________

 

マカヒキ、シャフリヤール、ユーバーレーベン、キセキ、ワグネリアン、アリストテレス…………。

前回までとは言えないものの豪華すぎるメンバーだ。

 

大丈夫、全身全霊で走ればいい。

そして、その走りで誰かに夢を見せればいい。

 

「コントレイル先輩!」

無邪気に駆け寄るのはシャフリヤール。今年のダービーウマ娘だ。

 

「私、人気じゃ負けてしまいましたけど、レースじゃ負けませんからね!」

「うん。頑張ろうね。」

 

無邪気だが自信家。

それもそうだろう。天皇賞秋で自分に勝ったエフフォーリアに勝ってるのだから。

 

「ここから見るこの空も、もう見れなくなるのか…………。」

 

ドリームトロフィーリーグに私が出られるだろうか。

 

一枠に入り精神を統一する。

 

大丈夫、私はもう無敗じゃない。

 

もっと自由に走れる。

 

「スタートしました!ハナを進むのはアリストテレス!続いてワグネリアンとシャドウディーヴァ。オーソリティ、シャフリヤールは先団。一番人気コントレイルは7、8番手です!」

 

まずは、この位置でいいはず。仕掛けどころが重要になってくるからタイミング見ないと…………。

 

「おおっと、キセキだ。キセキが先頭に立った!」

 

あの先輩は本当に予想外なことしてくるなあ…………!

 

もうすぐ最後の直線。

 

脚は溜めてある。末脚勝負だ…………!

 

「最後の直線に入りました!オーソリティが先頭!」

 

横を見ると、シャフリヤールも私と同じタイミングで仕掛けた!

 

「さらには今年のダービーウマ娘シャフリヤールと去年のダービーウマ娘コントレイルだ!二頭のマッチレースになるのか!?」

 

「負けませんよ、先輩!」

「それは、ボクも同じだ!」

 

 

「キセキ届かない!外、外からコントレイルだ!コントレイルだ!」

 

 

 

「コントレイル!もうここには何も来ない!」

 

 

「空の彼方に最後の軌跡!コントレイルー!!!!」

 

「ボクは、いや私は絶対に勝つんだから!!!!」

 

 

「コントレイル、やりました!有終の美を飾りました!」

 

 

 

 

 

 

「やりましたね。」

「ええ、よくやってくれました。」



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番外編 テイエムゴールド、フランスにて

テムゴくんのわくわくフランス旅行!の回。
ちなみにまさかの馬の最終回でディープとジゼルの凱旋門がほのめかされてますがここではアニメ風に書いてるので初制覇はテムゴです。


「うわあ〜、見てテムゴちゃん。エッフェル塔だよ!後で写真撮ろうね〜。」

「ははは!あのシャンゼリゼ通りの店ゴルシちゃんカラーのゴルゴルマカロン美味しそうだな!マックイーンに送りつけるか!」

「ちょっと待ってよ…………ゴルシ先輩、それ唐辛子味のやつですよ。マックイーン先輩気絶しちゃいます。」

「大丈夫だって。マックイーンの体は鋼のように硬く、胃袋は太平洋より広く、マリアナ海溝より深く…………。」

「旅行をしにきたわけじゃないんですよ!?しっかりしてくださいよ皆!」

 

今年の桜花賞ウマ娘ハープスターはしっかりした娘だと思っていたがまさかのそっち側だったとは…………。

テムゴはこれから皆の面倒を見なければならない未来に頭を悩ませた。

 

___________________

 

「ゴルシ、あなたってウマ娘はー!!!」

「ちょっと調子いいからこのまま走って帰るわー!」

 

自慢の脚で帰っていったゴールドシップにぽかんと置き去りにされるテイエムゴールド。

 

まずい、迷った。

 

あいつの誘いに乗ったのが間違いだったと後悔をしてももう遅い。

 

レース場はいったいどこなんだと辺りをウロウロして3時間。

 

「はあ…………はあ…………。」

「およ?遅かったじゃねーかテムゴ。」

「誰の…せいだと…。」

 

フランス土産のマドレーヌをパクパクしていたゴルシはキョトンとした顔で首を傾げる。

テムゴは本気で殺意が湧いた。

 

「コロス……………!」

「テムゴちゃん、流石に殺しは不味いよ!!」

「お、テムゴやるのか?ん?」

「ゴルシ先輩も煽らないで!」

 

ジタバタと暴れるテムゴを必死に押さえつけるジャスタウェイにゴルシを黙らせようとするハープスター。控室はカオスだった。

 

 

「あの、もうすぐパドックに……………え?」  

 

呼びに来たスタッフはたいへん困惑していたという。

 

_________________

 

「ゴルシちゃん、さ、ん、じょ、う!!」

『『キャー!ゴールドシップー!』』

 

列から離れ、観客席に近付いてファンサするゴルシ。

ジャスタウェイとテムゴは必死に無関係だとアピールした。

 

テムゴもいつもなら怒鳴って引っ張るが、夢にまで見た凱旋門賞である。

できればレース前は集中したい。

 

「テムゴちゃん。」

「なんですか?」

「頑張りましょうね。お互い。」

「はい。」

 

天皇賞秋でようやく頭角を表した同期。その爆発的な脚はテムゴにとってもかなり驚異になるだろう。

ハープスターだってこの舞台に立つということは勝つことを望まれてる。

ゴールドシップは言わずもがな。きっと自由にやってこいとスピカのトレーナーに言われている。

 

憧れの先輩は見ているのだろうか、私を。

 

 

 

 

 

 

「……………見てるわよ、ちゃんと。」

 

味噌ラーメンをすすりながら、ラーメン屋でテイエムゴールドの勇姿を見ていた。

 

 

__________________

「20年ぶりに、20名のウマ娘がゲートに入ります。第93回凱旋門賞、日本勢は悲願の制覇なるか!?」

 

ここにいるのはきっと、今までのすべてをぶつけるため。

私が走ってきたのはすべてこの日のため。

 

………………………ゴルシ、私は絶対にあなたには負けませんよ。

 

「スタートしました!ゴールドシップハープスターは後方から、その3番手先にはジャスタウェイ。テイエムゴールドは4番手にいます。」

 

この位置が最良。やっぱりあの三人は後ろにいるみたい。

モンヴィロンさんがペースを作っていく展開、他のウマ娘はどう動く?

特に、前年度優勝ウマ娘のトレヴさんは…………。

 

「くっ!」

「ハーイ!ジャパンのダービーウマ娘サン!」

「チッ、面倒ですね…………!」

 

海外ウマ娘からのタックルもといラフプレーに舌打ちする。おそらくそれすら無自覚なんだろう。

海外レースはだから面倒で難しい。本当にシーキングザパール先輩やキンイロリョテイ先輩たちはすごい。尊敬する。奇行がアレだが。

 

脚と体力は温存しておかないと、フォルスストレートと坂でガス欠になってしまう。

 

 

「現在コーナーを回ってもうすぐフォルスストレートに入ります。ここはまだまだじっと我慢というところで、このポジションは果たして正解か!」

 

来た、名物フォルスストレート。

これを終えたら平坦な直線。その直線距離は東京レース場とほぼ同じはず。

坂をリズムよく走ったから脚もあるしまだ体力はもつ。

 

「ジャスタウェイはじっと待っている。テイエムゴールド外を回った!直線向いてのバ場状態は非常に良いですね。自分のレースができるかが鍵となっています!」

 

最後の4コーナーのカーブ。

ここに、私のすべてを賭ける…………!!

 

「運命の分かれ道、20人横に広がった!大外ハープスターとゴールドシップ。内からジャスタウェイとテイエムゴールドも突っ込んでくる!」

 

内ラチにいるトレヴさんが先頭。絶対に差し切る!

 

 

「二バ身先に前年王者トレヴ!差しきれ!テイエムゴールド!」

 

私を応援してくれる人がいる。

私を支えてくれた人がいる。

私のライバルがいる。

私をちゃんと見てくれた人がいる。

 

「うわああああああああ!!!」

 

頭がまっ白になった。

 

 

 

「テイエム来た!テイエム来た!ロンシャンのターフをテイエムゴールドが切り拓いた!もう一人の日本の金色が、今度は凱旋門で勝ちました!」

 

 

 

 

__________________

 

「お客さん、大丈夫かい?」

 

「ええ、大丈夫です…………。本当に、よくやったと思って…………。」

 

涙を流す目を強くこすったジゼルは、「替え玉お願いします」と笑った。

 

「私の、誇りよ。ありがとう。テイエムゴールド。」

 

 

 




作中出ていたラーメン屋ですが、キタサンブラックのストーリーに出てくるアレです。
未所持の方は調べるとわかると思います。


実は近々シングレメインの史実話も盛り込んだ牝馬の話を書こうと思いまして。
作者最近高校合格したのでわりと自由にスマホが触れることになりました!
シングレがキテるのでついアイデアが浮かんで小説化したくなった次第です。


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番外編 トライアスロン大会!?前編

一周年イベントストーリーです。


トライアスロンとは。

アメリカ発祥の、水泳、自転車ロードレース、長距離走の3種目を順番に行う耐久競技である。

 

「え、無理。絶対疲れるじゃん。」

「天皇賞春勝ったあなたが何言ってるんです?」

 

呆れたように私を見下ろすディープに「それはそれだよ。」と反論した。

 

「耐久競技じゃん。もうこの字面だけでやばいよ。ステイヤーズステークスよりスタミナ使うよ絶対。」

 

ステイヤーズステークス出たことないけどね!

 

「安心してください。四人で分担してリレー形式でやるそうですよ。」

「え?もう一つは?」

「ランが2区画あるみたいですね。水泳が一番体力使いそうです。」

 

水泳→ラン→自転車→ランの順番だ。

ウマ娘は自転車乗ったことない人が多いのに…………。私は前前世で中高は自転車通学だったから自転車乗るのは得意だが。

 

「ディープのことだからメンバーは集めてるわよね。」

「ふふ。当たり前です。あとは貴女が頷くだけですよ。」

 

私は一番後回しかい…………。

 

「あーはいはい。分かりましたよ。参加すればいいんでしょう?」

「はい。優勝目指しましょうね。」

「で、他の二人は誰なのよ。」

 

その言葉に、ディープは含みのあるような笑みを浮かべた。

 

________________

 

「ライス、みんなに迷惑をかけないように頑張るね!」

「同じメジロ家のライアンやブライトのチームには負けられませんわ。それに、高級ビュッフェ…………!」

 

えいえいおー!と気合を入れるライスシャワー先輩に、優勝商品にうっとりとした顔をしているマックイーン先輩。

ディープのやつ、随分ガチな人たちを連れてきたな。

 

「ライスシャワー先輩はご存知の通り適正距離4000メートルと言われてるくらいのステイヤーで、マックイーン先輩は最強のステイヤーと呼ばれています。トライアスロンにはピッタリですよ。」

「そうね。あ、あまりにもガチ…………!」

 

ディープってこういうのに手を抜かないよね。何事も本気って感じ。

 

「最初のランはミッションありらしいですよ。誰にします?それに水泳も泳げない人いるでしょう?」

「くじでよくない?」

 

それにライス先輩もマックイーン先輩も賛成して、くじで決めることになった。

 

結果は、

「私が水泳ね。了解。」

「ミッションありのランは私ですわね。」

「自転車、ですか。精一杯頑張ります。」

「ライスがアンカー…………。」

 

私が水泳、マックイーン先輩はミッションありのラン、ディープが自転車、アンカーがライス先輩になった。

 

自転車がディープかあ。大丈夫かな?

 

「自転車はあまり乗ったことないのは他の娘も同じです。スタートラインは同じはずなので練習量で差をつけます。」

 

私は泳げるけど距離長いよね。ビート板使うのは少し苦手だし、普通に泳ごう。

 

「ライスさん、私達は一緒に走りましょう。」

「うん。ライス皆に負けないように頑張る!」

 

ライス先輩とマックイーン先輩は二人で並走。私はプールで、ディープは自転車を借りて練習することになった。

 

「ディープ調子どう?」

「まあ初めてにしては結構やりましたよ。」

「タイム見せてよ。どれどれ……、おお!初心者にしては速いじゃん!さっすが〜!」

「ふふん。」

 

ウマ娘の身体能力は自転車乗るときにも適用されるのか…。

ドヤ顔をするディープに褒めた本人ながらちょっとイラッときた。

 

「貴女はどうなんです?順調ですか?」

「私はかなりいけたよ。他の子とも競ってみて、一番取れたから本番は安心してくれていいよ!」

 

ウマ娘ってすごい。

前前世より無茶苦茶泳ぐのが速くなってる。

 

「そうだ。スペシャルウィーク先輩から合同練習しないかって誘われてるんだけど。」

「ああ。その話聞きました。明日やることになりましたよ。」

 

チームバクシン。

サクラバクシンオー先輩、キタサンブラック、サトノダイヤモンド、ゴールドシップ先輩。

 

チームマッスル。

メジロライアン先輩、メジロブライト先輩、スペシャルウィーク先輩、マチカネタンホイザ先輩。

 

チーム世紀末。

お父さん、ナリタトップロード先輩、アドマイヤベガ先輩、メイショウドトウ先輩。

 

チーム世紀末いいよね。見事にお父さんの同期しかいないよ。

 

ちなみに私のチーム名は"ステイヤー"。

全員が天皇賞春か菊花賞の勝者だからだろう。一番チーム名ではまとも。

 

「ジゼルは短距離もいけますからステイヤーではないような……。」

「まあ細かいことはいいんですよ。」

 

短距離もいけるウマ娘が天皇賞春を制覇してることがおかしい。

自分なんだが。

 

水泳はゴールドシップ先輩にお父さんにスペシャルウィーク先輩か。見事に天皇賞春の勝者だな。一番スタミナ削るから?

 

ていうか、ゴールドシップ先輩とお父さんと同じとか何が起こる気がしてならない。

 

特別賞狙いのチームだなバクシン。

無名の新入生もいるし。

キタサンブラックとサトノダイヤモンドか。

キタサンブラックねえ……。

 

ああ一回会ったことあるわ。前世でだけど。

どこで?聞かないでくれ。お願いだから。

 

 

 

 




テイエムネーロ(牡)
父キタサンブラック  母テイエムジゼル
うまぴょいしたことだけほのめかされていたキタサンブラック産駒。
皐月賞制覇を狙っており、戦績は今のところ3戦3勝。主な戦績はホープフルステークス。
ネーロはイタリア語で黒という意味。
脚質は逃げ先行。





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番外編 キンイロ一族との邂逅

ジゼルさんと繁殖牝馬成績でマウントとれるのミエスクとかアーバンシーくらいだなと思った今日この頃。


ウマ娘に詳しいおばちゃんが店主のラーメン屋は地元民だけが知る穴場である。

そして、トレセン学園に通うウマ娘もたまに訪れるラーメン屋でもある。

 

「あー………ラーメン食べたい…………。」

 

夜9時に就寝するディープと同じときに寝るのだが今日は少し違った。

いやに目が覚めてしまって"悪いこと"をしたくなったのだ。

ディープは一度寝たら起きないため多少部屋で何かしても気づかない。だが、皆が使うキッチンは寮の共有スペースなため、寮長のフジキセキに見つかる。あの先輩をなめてはいけない。ついこの間も夜に寮を抜け出した父を引きずって戻していた。

寮の地下には檻があるらしいという話も彼女から聞かされたのだ。

笑って話すことじゃないと思うし冗談とは一概に言えないのがアレだ。

 

前前世の大学生時代は、夜中に夜更しして唐揚げ作ったりラーメン食べたりはしていた。深夜ラーメンの美味しさは異常。

 

ウマ娘に転生してからは至極健康的な生活だったため徹夜だってしたことがない。

 

「ラーメン食べたい…………。味噌バターコーンラーメンが食べたい…………。」

 

もう欲望は抑えられない。

 

ジゼルは素早く静かに私服に着換え、財布を持って窓から飛び降りた。

幸運にも一階に部屋があるため他のウマ娘に気づかれなかったと思いたい。

服は細いベルトを締めたニットワンピース。簡単に脱げるし着れるからオススメである。

 

「あのラーメン屋なら人もいないかな。美味しいし。」

 

地元民だけが知る穴場のラーメン屋はウマ娘が来ても騒がないし信用できる。なにせ自分はテイエムジゼルであるから。

 

件のラーメン屋に着き、扉を開けた。

「こんばんは。…………え!?」

 

てっきり客は自分だけかと思ったら、思わぬ先客がいた。

 

 

「おー!ジゼルじゃんか!なになに、お前も抜け出してきちゃったのか?ん?」

「ジ、ジゼル先輩だ…………私服だ…………。」

「えっと、先輩はなぜここに?」

「ほう、珍しい奴が来たもんだ。」

「…………。」

 

ゴールドシップ、オルフェーヴル、テイエムゴールド、ナカヤマフェスタ、キンイロリョテイである。

テイエムゴールド以外は学園でも問題児として有名でかなりの気性難として知られる。

 

ホントになんの集まりなんだこれ。

 

「優等生のジゼル先輩が夜に寮から抜け出してラーメン屋に出掛けるって意外ですね。」

「それ言うならあなたもよ。真面目なテムゴが…………。」

「アイツに無理矢理連れてこられたんですよ。」

「ああ…………。」

 

死んだ目でゴールドシップを見るテムゴ。

その彼女はスタバで注文する女子高生か?というくらい長い注文をしていた。

 

私を見て「はわわ…………」と頬を赤く染めるオルフェーヴルは癒やされる。

マスク外すと乱暴だとか言われているが私の前だと大人しい。謎。

 

ナカヤマフェスタはスマホでギャンブルのアプリゲームをしている。様子を見るに多分負けてる。

 

キンイロリョテイ先輩は一番掴めない。じっとこちらを見ているから少しむず痒い。

 

アイドルウマ娘のリョテイ先輩はかなり長い間トゥインクルシリーズを走ったことで有名だ。かなりの実力者であることは間違いないのだが下積み時代が異様に長い。

一部ファンからは"阿寒湖"とか言われている。

だからこそ香港ヴァーズは感動したが。

 

そしてこのリョテイ先輩、おそらく前世ではステイゴールドと呼ばれていた馬だ。

関係者から"気性難""オペラオーとも走った""人気がある""香港ヴァーズでファンタスティックライトを差した"という情報を私は知っていたが、なぜかこの世界では名前を変えている。

 

私が知っているステイゴールドは二重人格だ。

俺様でこだわりが強くて肉食動物なんじゃないかと思うほどの気性難。だが私といるときはかなり大人しくむしろストーカーのように着いてくる。

 

私が帰ろうとすると、先導する厩務員さんを噛もうとするので威嚇しておいた。そうしたらどことなく元気がなくなっていたので私にビビっていただけだろう多分。

 

「はいよ。味噌バターコーンラーメン。」

「うわあ…………美味しそう。」

 

味噌ラーメンの香りとツヤツヤとしたコーン、その上のバターが美味しそうだ。

 

来たかいがあった。

 

ラーメンをすすっているとやはりじっと見つめてくるリョテイ先輩。

食べるのに集中できないからやめてほしい。

 

「リョテイ先輩、塩ラーメン伸びちまうぜ」

「ん。」

 

ナカヤマフェスタがリョテイ先輩の視線を反らしてくれたためじっくり食べることができた。

 

「テムゴ、そのとんこつラーメン美味しい?」

「はい。ここのオススメなんですよ。スープ飲みます?」

「いいの?じゃあ失礼して…………。」

 

自分のレンゲを使ってとんこつスープを掬う。とても美味しそうだ。

 

左の垂れている髪を耳にかけながらスープを飲む。

 

「あ〜!美味しい〜!」

 

前回来たときにはとんこつラーメンを頼んだから今日は頼まなかったがとても美味しい。

オススメなだけあってこだわりを感じるのだ。

 

「ありがとうテムゴ。」

「え…………あ…………はい…………。」

 

ぽかんとしているテムゴに首を傾げると他のみんなもこちらを見つめていることに気づいた。

 

「え、なんなの…………。」

 

なんだかその空気がいたたまれない。そんなに人のラーメンのスープを飲んだのが駄目なのか。もとの魂は前世の息子だからか距離感が掴めないのだ。

 

「ジゼル、」

「えっと、」

 

ぐい、と塩ラーメンの器をリョテイ先輩に差し出され、困惑する。

塩ラーメンも美味しそう。実はメニューで見たとき味噌バターコーンラーメンと迷ったのだ。

 

「えーと、これはどういう…………。」

「今日、迷ってただろ。それと、これ。」

「わかってたんですね…………。」

 

もしやだからこれ頼んだのか?確かに私が注文したあとにおばちゃんに注文してたけど。

 

「だから、少し分けてやってもいい。」

「…………意外と、後輩思いなんですね。」

 

お言葉に甘えて少し分けてもらった。

塩ラーメンはとても美味しかった。

 

 

 

 

 

「720円ですよね。」

「ああ、いいよ。キンイロリョテイちゃんが全員の払ったから。」

 

おばちゃんの言葉に思わず「え!」と叫んでしまった。

変なきのこでも食べたのか…………?

 

 

「初めてっスよね。リョテイ先輩がアタシたちに奢ったの。」

「どんな心境の変化があったんスか?」

 

「そんなんじゃねぇよ。…………ただ、」

 

 

今日くらいは別に優しくしようと思っただけだ。

 

 

 



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番外編 トライアスロン大会!?後編

なんやかんやありトライアスロン大会当日。

 

私はスタート地点のプールの前に立っていた。

 

スペシャルウィーク先輩とお父さんとゴールドシップ先輩がにこやかな顔で話している。

 

なんだこの愉快なメンツ。

 

まともなのは私だけ?

 

「お父さんたちは強敵だけど負けるつもりはないわ…。」

 

あんなに練習したのだ。きっと勝てるはず!

 

 

 

「ジゼルせんぱーい!」

「!?」

 

 

突然大きな声で名前を呼ばれ、思わずビクッと身を震わせる。

 

「えー……ウソでしょ…………。」

 

ギャラリーの最前列には『テイエムジゼル先輩頑張れ!』の横断幕とそれを持つ前世の子供たち。

 

立派な学ランを着ており、キリッとした顔をしている。

 

アルマンとテムゴは『ジゼル先輩♡』『陛下ウインクして♡』みたいなうちわを持ってるし。

ジークフリートは応援団の団長みたいなことしてるしエルドールは大太鼓叩いてる。

 

ええ…………なに、あれ?(困惑)

 

「あ、気づいた!せんぱーい!頑張って下さいねー!」

 

ぶんぶんと腕を振る後輩及びファンの皆に苦笑いしながら手を振る。

 

「ジゼルせんぱーい、ファンサしてー!」

「え、」

 

急にリクエストされて本気で困惑した。

 

私やったことないよ?

 

キラキラしたみんなの視線に負けて適当に目に入ったうちわの言葉通りにポーズを決めてみる。

 

「こう、かな??」

 

うちわを持った子に向かって指を差す。

 

アイドルのライブで見たやつだ。

 

一瞬静かになり、次に沸き立つように叫んだ。

 

 

「う……」

 

耳を思わずペタンと折る。

 

 

そういえば私が指差しした子って誰だろうと改めて顔を見ると。

 

 

「あ、」

「もう、死んでもいいっス……」

 

真っ赤になり顔を手で隠したオルフェーヴルだった。

 

「オルフェーヴル!うらやま……じゃなかった、大丈夫!?」

「くっ……無茶しやがって……」

 

心配そうによしよしと背中を撫でるテムゴと菩薩みたいな目をしたゴールドシップ先輩。

 

なんであなたそっちにいるんです?

 

____________________

ビート板を抱えたお父さんとゴールドシップ先輩と普通に泳ぐスペシャルウィーク先輩と私。

 

なんで泳げないのにこの種目にしたし。

そりゃルールに反してないけど!

 

「ジゼル、いくらクリスティーヌのように可憐なキミでも今日の主役はボクさ。」

 

「私だって尊敬するセンパイでも容赦しませんから。」

 

「ハッハッハッ!この覇王の威容を特等席で受けるといい!」

 

完全にセリフがラスボスのそれ。

クリスティーヌってオペラ座の怪人のかな。

 

プールに飛び込む準備をする。

これ、最初すごく怖かったなあ。

 

 

「よーい、スタート!」

 

勢いよく飛び込み、クロールで水を掻き分けていく。

バタフライの方が速いが距離がシンプルに長いためクロールにした。

 

私が一番手らしく、後ろから賑やかな声が聞こえてくる。

 

ああ、主役って特別賞の……。

 

 

スペシャルウィーク先輩も驚いて足を止めてるためその間にスイスイと泳ぐ。

 

リードはとれるだけとっておく。

 

そしてゴール地点まで泳ぎ、マックイーン先輩が走り出した。

 

 

ミッション大丈夫かな?

 

 

水着からジャージに着替えてディープのところまで走る。

マックイーン先輩は当然まだ着いていないらしい。

 

「緊張してる?」

「まさか、緊張したら楽しめないでしょう。」

 

笑うディープに安心しライスシャワー先輩のところへ向かおうとする。

 

「あ、スマホ鳴ってる?」

 

スマホの通知音が鳴り、誰がメールを送ったのだろうと確認すると驚くべきことが書いてあった。

 

 

「ナリタトップロード先輩だ。先輩も出るのになんで?」

 

「え!?ライスシャワー先輩が熱!?」

 

ナリタトップロード先輩は同じアンカーなため連絡してきたのだろう。

 

「どうしましょう。ライス先輩の代わりを探さないと。」

 

珍しく焦っているディープを落ち着かせて考える。

 

今から代わりなんて探せるか?それはルール違反にあたらないのか?

 

 

「よし、私出るよ。」

 

「大丈夫なんですか?ここからアンカーのスタート地点まで走って、またゴールまで走る。いくらあなただって体力持ちませんよ!」

 

心配してるディープは珍しい。

けれど、チームで一番体力的に余裕があるのは私だ。私がやるしかない。

 

「ディープ、私が一区間分走ったあとに連続して走るのは私にとってはハンデよハンデ。」

「ジゼル…………。」

 

明るくしても不安そうに見つめるディープ。正直私もきついと思う。

 

 

時間が惜しいため、出発することにした。

 

 

スポドリを飲んで走ろうとすると、

 

「話しは聞かせてもらった。」

 

大きく音を鳴らすバイクに乗ったトレセン学園の制服を着たウマ娘。

彼女は黒のヘルメットを外して親指をくいっと自分の後ろに向けた。

 

「乗りな。」

「「リ、リョテイ先輩……!?」」

____________________

 

結果的に体力ロスはリョテイ先輩のおかけでなくなった。バイクに乗るのは初めてなためはしゃいでしまった。恥ずかしい。

 

「ライスシャワー先輩は!?」

「テントにいるよ!思ったより熱が高くて……!」

 

私を見てほっと胸を撫で下ろしたトップロード先輩は相変わらず人がいいと思う。

 

テントに入り、顔を赤くしてベッドに横になってるライス先輩を見る。

先輩は申し訳無さそうに言った。

 

「ごめんなさい………………ライス、皆の役に立ちたくて練習いっぱいしちゃって……」

「苦しいんですから喋らないで。大丈夫です。先輩が気負わないように絶対勝ちますから。」

 

ほっとしたのだろう。すやすやと寝息をたて始めた。

 

「大丈夫、大丈夫……。だって私はテイエムジゼルだから。」

 

 

自分に言い聞かせて精神を落ち着かせる。

ライス先輩やマックイーン先輩、ディープの思いも背負ってるんだ。リョテイ先輩も協力してくれた。

勝たないと……。

 

 

アンカーの位置について並んでいると、自転車を漕いでるディープが見えた。

きっと一番にマックイーン先輩がミッションランをクリアしたのだろう。

 

「ジゼル!!」

「任せて!!」

 

 

そう遠くない位置にドトウ先輩やライアン先輩、バクシンオー先輩が見える。リードを広げるうちに広げておく!

 

 

新進気鋭キタサンブラック、おっとりステイヤーメジロブライト、人気の菊花賞ウマ娘ナリタトップロード。

 

普通ならトップロード先輩とブライト先輩を警戒すべきなのだろう。でも私は知っている。

 

 

キタサンブラックが、前世でG1レースを何勝もした名馬であることを。

 

 

「はあー!!!」

 

食らいついてくるキタサンブラック。

流石だ。まだまだ成長途中なのが恐ろしい。

 

「くっ……。」

「はあ……ふう…!」

 

踏ん張ってる二人の先輩もいる。

私は、まだ負けるわけには………………!

 

 

「あああーーー!!」

 

 

 

最後の意地で強く足を踏み込み、加速した。

 

 

そして、私は一番にゴールテープを切った。

 



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番外編 テイエムジゼルファンスレ

ファンスレ行ったことないんで想像でしかない。

インブリード?ハハッ、気にしないでね!!!

ここ!二次創作だから!


123

 

朗報  テイエムジゼルの2022産まれる。

 

 

124

 

わー、おめでたー!

 

 

125

 

父馬はドゥラメンテだっけ。ジゼルさん20歳だよね。もう引退だよなあ。

 

 

126

 

タイトルホルダーが活躍してるし、スターズオンアースが牝馬二冠達成してドゥラの早死にが悔やまれるけど、ジゼルさんが繋いでるなら安心。

 

 

127

 

安心安定のテイエムジゼル。

 

 

128

 

確かディープインパクトラストクロップの牡馬もジゼルさん母だっけ。テイエムジゼルの2020は高値がつくなー。

 

 

129

 

ジゼルさんの産駒なら高値取引定期。

 

 

130

 

テイエムネーロくんには頑張ってほしい。

 

 

131

 

皐月賞二着だったからね。活躍できると思うんだけど。

 

 

132

 

テイエムジゼルの2019……父キタサンブラック→テイエムネーロ(牡)

テイエムジゼルの2018……父キングカメハメハ→サトノオディール(牡)

 

いやあ、産駒誕生をスレの皆で祝ってたのが昨日のことのようだ。

 

 

133

 

オディールくん!去年のNHKマイルカップと安田記念凄かったよ!

 

 

134

 

オディールくん輸送苦手なんだもんなあ。強いけど不遇感否めなかったから良かった良かった。

 

 

135

 

そんなオディールくんはジャック・ル・マロワ賞に出走するらしい。まじで?大丈夫?輸送苦手でしょきみ?

 

 

136

 

だから早めに現地に送るんだって。

 

 

137

 

令和のタイキシャトルとして頑張ってほしい。

 

 

138

 

速報  テイエムジゼルの2020、ウマ娘の社長が六億で購入。

 

 

139

 

……ゑ???

 

 

140

 

六億って、まじかあ。

 

 

141

 

そんなに出したんだな。

 

 

142

 

記事みる限りだと二億だしたら他の馬主も張り合ってきて最終的にこうなった。

 

 

143

 

ウマ娘にジゼルディープでてるっけ。だからかなあ。

 

 

144

 

まあこのケンカップルの子供なら強そう。

 

 

145

 

ジークフリート「呼んだ?」

 

 

146

 

君もお父さんとお母さんに似て凄かったね、競走馬成績も引退後も。

 

 

147

 

2019年にイギリスでニジンスキー以来の三冠馬だしてたねえ。ついでにその年の凱旋門賞は君の娘が獲ってたね。

 

 

148

 

ロマンスダンス(母ウオッカ)→オークス、NHKマイル、ジャパンC、安田記念、ヴィクトリアマイル、フェブラリーS。なおダービーと天皇賞秋を勝っていれば東京競馬場G1全制覇。さらに化け物なのは勝ち鞍G1及び重賞が東京競馬場なこと。そして全てレコード。マスコミからは府中の女王とか呼ばれていたがこのファンスレでは府中の魔神と呼ばれている。カワダ騎手にとっても懐いている。

 

149

 

デアメルダー(母メジロドーベル)→テイエムゴールド産駒のノーブルローズを負かせたアサシン。デアメルダーはドイツ語で男性の暗殺者のこと。スプリンターズS三連覇をかけたレースでノーブルローズを差しきる。ノーブルローズとしては短距離で負けたのはこれが初。このときのデアメルダーは絶好調で海外の競馬関係者も「ブラックキャビアと勝ち負けができる」と言ったとか。

 

 

他にもあるけど????

 

 

150

 

大人しくWikipediaみてくる。

 

 

151

 

テイエムゴールドくん、2020年の凱旋門賞は君の息子が勝ってましたね、しかも最低人気勝利だとか。ちなみに凱旋門賞最低人気勝利はスターアピールぐらいしかいないらしいです。

 

 

152

 

テムゴもジークも種牡馬として活躍してくれて嬉しい。

 

 

 

 

 

______数年後

 

 

800

 

速報  名牝テイエムジゼル逝去

 

 

801

 

あー……まじかあ。

 

 

802

 

 

繁殖牝馬引退してのびのびと過ごしていたんだよね。死因は心臓麻痺。

 

 

803

 

多数の競馬関係者から追悼のメッセージが…………。愛されてるなあ。

 

 

804

 

 

去年、ディープインパクトラストクロップのミスティルテインが無敗の三冠、有馬記念、天皇賞春、凱旋門賞と、無敗で最強馬への道を駆けていきました。

ですが、凱旋門賞で勝利し日本に帰るべきだった彼は、輸送トラブルにより亡くなってしまいました。日本に帰ることはできませんでした。

 

その悲しみから一年、今度は貴女も亡くなり、号泣してます。

ありがとう、テイエムジゼル。夢を見せてくれて。

 

 

805

 

競馬ファンに多くの夢を見せ、数々の名馬を産み出した貴女には頭が上がりません。

 

さようなら。テイエムジゼル。

 

 

 

 




ロマンスダンスのエピソード
①東京競馬場好きだと見抜いた陣営は、何故かダートのフェブラリーSに出す。ファンも「流石にー」と笑っていたが、当然の如くレコード勝利。陣営もファンも困惑した。

②人懐っこい性格で厩務員から「馬より犬」と言われる。全戦騎乗のカワダ騎手には特に懐いており、自分に差し出された人参を咥えて差し出したことがある。


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ドッペルゲンガー

新章、突入?
好評だったら続くかも?


今日もトレセン学園は平和だ。

 

いや、ゴールドシップ先輩が暴れたりスーパークリーク先輩がトレーナーとでちゅね遊びしたりするのは日常茶飯事なので。

 

 

リョテイ先輩がマグロ漁に出たりテムゴがそれに(無理矢理)連れていかれたり……。

 

 

……可哀想だな、帰ってきたら慰めよう。

 

 

「今日は何かないかな……」

 

「今日は新しいトレーナーさんが来るそうですよ」

 

 

今までミステリー小説を読んでいたディープ。

いつの間に読み終わったのか、本を置いて優雅に紅茶を飲んでいる。

 

やっぱディープ、名門出身だよね。少し世間知らずなところあるもん。

 

 

 

「新しいトレーナーさん?」

 

 

「えぇ、スピカにも男性の方がサブトレーナーとしてうちのトレーナーのところで暫く学ぶらしいです」

 

 

「沖野トレーナーのところに?ならリギルにも来るでしょうね」

 

 

トレセン学園の数いるトレーナーのなかで抜きん出て優秀な我らが東条ハナトレーナーを師匠にもつなんて羨ましい。かなり恵まれてるのではないのだろうかそのサブトレ。

 

 

「スピカに慣れるといいわね、そっちのサブトレ」

 

「はい、私も出来るだけ気遣いますが……ゴールドシップ先輩が……」

 

「うーん、未知数」

 

 

あの破天荒を体現する芦毛のウマ娘の行動を予測して防ぐなんて無理だ。

リカバリーなら同期の貴婦人でも呼びなさい。

 

 

「まあウマ娘ってキャラ濃いから、いい勉強になるでしょう」

 

その点スピカは最高の環境と言えるのではないかな。

 

 

________________________

 

「リギルの召集……やっぱりサブトレのことだよね。」

 

 

グラウンドまでの道を歩きながら伸びをする。

ジャージが少し短いような……私も成長したってことかな。

 

 

サブトレって具体的に何をするんだろう?

 

誰か仮担当するのかな?

 

その場合、選ばれるのはおそらく……

 

 

「わっ!?」

 

「きゃっ!」

 

考え事をしていたので、学園のトレーナーさんとぶつかってしまった。その拍子に、トレーナーさんの持っていた書類が落ちる。

 

 

「すみません!考え事をしていたもので……」

 

「大丈夫、僕も同じだったから」

 

 

見たことないから……今日新任のトレーナーさんかな?

もしかしたらスピカのサブトレ予定の人かも。

 

 

「テイエムジゼルさん、だよね?僕は今日リギルのサブトレーナーに配属された者です」

 

「そうなんですか!?もしかしてリギルに行くところだったり……」

 

「あぁ、諸々の書類を理事長から渡されてね」

 

 

書類はかなりの量、それに厚さ。

この分じゃ、転んでしまうかも。

 

「私もリギルに行く予定でした。一緒に運びますよ」

 

「そうかい?ならお願いしようかな」

 

微笑まれて、少しドキッとしてしまう。

若い男性と話すことなんてなかなかないからだろうか?

 

 

しかし、どこかで見たことのある……

 

 

謎の既視感を感じたが気にしないようにした。

 

 

 

「ここです、よっ、と」

 

 

扉を開けるとおハナさんしかいない。

あれ、先輩たちは?

 

 

「ジゼルも一緒か、丁度いい」

 

 

頷くおハナさん、私はまったくわかりませんが?

 

 

「今日からリギルのサブトレーナーになる……」

 

「あ、自己紹介は僕から……」

 

おハナさんの言葉を遮った彼は、サラサラの整えられた黒髪を揺らした。

青い瞳は微笑んでいる……私と会った時から、ずっと。

 

 

「深井衝です。今日からリギルのサブトレーナーになり、テイエムジゼルさんの仮トレーナーを務めます」

 

 

 

 

 

あぁ、今わかった。

 

 

 

このひと、ディープに似てるんだ。

 

 




新作 青い蝶もよろしくお願いいたします

感想お待ちしております


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鏡合わせ

深井サブトレーナー……深井さんは優秀だった。おハナさんのもとで学ぶことが納得できるくらいに。

 

それに、本当にレースのことが好きということが伝わってくる。

 

 

 

レースを見るキラキラした顔が、ディープに似てる、なんて。

 

 

 

「ないない」

 

 

ウマソウルが分裂してるなんて……あり得るの?

 

でも……

 

 

「高松宮記念には行こうと考えなかったのか、なんて」

 

 

そんなこと言えるの、前世を知ってるひとくらいじゃない。

 

__________________________

 

 

「ジゼル、浮かない顔ですね?サブトレーナーさんとは仲良くなれなかったんです?」

 

 

部屋に戻ると、一足先に帰ってたお風呂上がりのディープがいた。

 

心配そうな顔で駆け寄るディープに安心させるように笑った。

 

 

「大丈夫、いい人だから。深井衝さんって言うの。リギルにいる間だけど私の仮トレーナーさんになったわ」

 

 

「それなら……いいんですが。」

 

 

「それよりもそっちどうなの?スピカには慣れそう?」

 

 

「思ったよりも予想外の方というか……。金色さんと言うんですが。」

 

 

こんじきさん……金色?

 

「えぇ、キンイロと書いてコンジキと読む……。金色旅人さんです。なんとなくリョテイ先輩に似てますね」

 

 

もしかして、この世界ウマソウルの分裂とか普通にある????

 

悩んでた私がバカみたいだった……。

 

 

「容赦なくゴールドシップ先輩を引きずって練習に参加させたのは尊敬します。」

 

 

強いなぁ……。

 

 

深井さんはルドルフ先輩たちに目をキラキラさせてたよ。確かにレジェンドウマ娘……芸能人が目の前にいるようなものだからね?

 

 

「ぶっきらぼうですがいい人なのは間違いないと思います」

 

 

そうか……もしその人がステイゴールドの魂を持ってるなら、かなりの気性難だけど、ゴールドシップ先輩いるしまあ……。

 

 

私も深井さんについて考えないとな。

 

 

____________________________

 

「深井さん、今日はお出かけしませんか?」

 

「?」

 

 

ずっとパソコンでレポートを作っていたのだ。気分転換にと誘う。

 

本音を言えば、どういう人が知りたかったから。

 

 

「いいけど……どこに行くつもり?」

 

「そりゃ……」

 

 

 

デパートですよ!!

 

 

「人……人が多い……!」

 

「家族連れが多いですからね、さて、どこから行きます?」

 

 

それから私たちはショッピングを満喫した。

服を見たりUFOキャッチャーしたりクレープを食べたり……とにかく色々した。

 

私も友達とショッピングに行くことはあったがトレーナーさんと行くのは初めてで……少しはしゃぎすぎた。

 

 

 

「久しぶりに遊んだよ」

 

「そうなんですか?確かにトレーナー試験は難しいと聞きますけど……」

 

「いや、試験自体にそれほど苦労はしなかったさ。でも家というか……母が厳しくてね。」

 

 

 

『家が厳しくて、なかなか同世代と遊ぶ機会がなかったんです』

 

 

 

そういうところも、似てるんだな。

 

 

 

私たちは公園のベンチで休んだ。

UFOキャッチャーで取ったディープのぬいぐるみを抱き締める。

 

 

……ふわふわしてるな。

 

その光景をじっと見ていた深井さんは

 

「ディープインパクトが、好きなの?」

 

と聞いた。

 

 

「はい。だって、私のライバルですから」

 

 

何にも替えがたい私のライバル。

 

理解者であり親友。

 

好きと聞かれたら、勿論好きに決まってる。

 

 

「そっか……そっか……」

 

「深井さん?」

 

どことなく暗い顔になった深井さん……今の会話のどこがおかしかったのだろうか。

 

 

少し悩んだ素振りを見せた彼は、衝撃のことを口にだした。

 

 

 

 

 

「ジゼル、僕はね_______________」

 

 

「………………え、?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

君と、前世で共に走った、ディープインパクトなんだよ。

 

 

 

 




深井衝(24)
トレーナー試験を主席で合格した天才。
走るのが好きでウマ娘にも劣らない。
一番好きなウマ娘はテイエムジゼルとのこと。
人柄も良く、顔もいい。若干かわいい系。
身長が169センチで170センチにギリ届かないことが最近の悩み。


ウマ娘よりはレースのほうが好き。



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不倶戴天

精神ディープもとい深井くんの話


記憶が戻ったのは、小学生のときだった。

 

 

自分は人間ながらウマ娘の同級生と競えるくらい足が速かった。

 

アンカーとして競り合い、一位を取った運動会のリレー。

 

クラスメイトと共に喜んだときに、唐突に思い出した。

 

 

自分は、前世は馬なるものであったと。

 

 

名前をディープインパクト。

 

 

この世界での名前は深井衝。

 

 

家はトレーナーの名門である。

 

 

何よりも走ることが好きだった……だった、のだ。

 

 

まず、記憶を戻した衝は絶望した。

 

 

この体では、レースに出て走ることができない。いつか限界を迎えると。

 

 

誰よりも、他のどの馬よりも走ることが好きで好きで……何よりもテイエムジゼルと走ることを生き甲斐をしていた彼は絶望した。

 

 

まだ、いい。それだけなら。

 

 

レースと完全に離れることはできなかったから、トレーナー試験を受けることになり、その勉強をしているときだった。

 

 

皐月賞で勝つ、この世界のディープインパクトを見てしまったのは。

 

 

思わず息を止めた。

 

 

なんで、なんでディープインパクトがいる。

 

 

それは、僕だ。

僕なんだ。

 

 

わかっていた。

 

あのディープインパクトだって僕だ。魂の双子のようなもので、自分と同じ存在なのだ。

 

だから、別にディープインパクトというものを他人にとられたわけじゃない。

 

 

でも、彼女は、ジゼルと共に走れる。

 

肩を並べられる。

 

 

かつての、自分のように!!!

 

 

あぁ、なぜあそこにいるのは僕じゃないのか。

 

 

なぜここにいるのはあの娘じゃないのか。

 

 

なぜ僕たちは分かれてしまったのか。

 

 

なぜ僕だけ記憶を取り戻したのか。

 

 

 

有馬記念、大阪杯、そして宝塚記念……。

 

 

羨ましい。羨ましい。

 

同じディープインパクトなのに、なぜ君だけジゼルと走れるのか。ライバルとして認識されてるのか。

 

 

僕だって、前の世界では君のライバルだった!!!

 

 

この世界の僕は、高松宮記念ではなく、宝塚記念で勝った。

 

 

すごいことだ。本当にすごいことだ。

 

 

僕はあんなにレースに真剣じゃなかった。ダービーでは寝てしまってユタカさんから怒られたんだ。

 

あんなにストイックで真面目じゃないよ。

 

 

僕は先輩に熱く語るほど何か特別な信念を持っていなかった。

 

 

楽しく走りたかったから。走っていたかったから。

 

 

気づいてよ、ジゼル。

 

僕はもう一人いるんだよ。

 

 

僕のことを見てよ。

 

 

 

 

初めて恋したひとよ、初めて負けたひとよ、初めて勝ちたいと強く願ったひとよ。

 

 

 

ずるい、ずるい。

 

あっちの自分がずるい。

 

 

僕だってディープインパクトだった。

 

なのに彼女の瞳に映ってるのは、ウマ娘のほうのディープインパクト。

 

 

やめてくれ、これ以上僕の名前で並ぶのは。

 

やめてくれ、これ以上僕のような走りで勝つのは。

 

やめてくれ、僕ができなかったことを平然とするのは。

 

 

凡そ人間関係で苦労したことがなかった。

 

でも、ウマ娘のディープインパクトは別だ。

 

 

どうしようもなく嫌いだ。

 

憎い、死んでしまえとさえ思う。

 

 

どうか消えてなくなってくれ。

 

 

 

愛していたんだ、どうしようもなく、ジゼルを愛していたんだ。

 

 

 

 

だから……………どうかジゼルをとらないでくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ディープ、貴方……私のことが、好きだったのね。」

 

 

泣きじゃくる僕を抱き締めた彼女は、ぽつりと呟いた。

 




感想お待ちしてます。



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番外編 何かあった世界線

本編がシリアス。
なので番外編でも読んで口直ししてくれ。




私、テイエムジゼルは、この世界ではレースに関わらないと決めていた。

 

 

なぜかって、私自身が世界のバグかつ今までディープから奪ってきたものを返そうと思ったからだ。

 

 

レースに関わらないと言っても、私の志望はトレーナー。

ただ、走らないだけ。

 

 

周りは不思議に思っただろう。

なぜ走れないわけじゃないのにトレセン学園に入らなかったのか、と……。

 

 

支える立場に興味があった。

 

何も罪滅ぼしとかそういうのじゃない。

 

 

トレーナー試験に合格するのは大変だしやりがいはある。

 

小さな穴が空いたような違和感を感じるだけ。

 

 

 

 

 

「合格したのはいいものの……………」

 

 

 

「おかっ……トレーナーさん!」

 

 

 

前世の子供たちを担当するなんて思わなかったなぁ~!!

 

 

にこにこと笑顔で駆け寄るテイエムネーロを撫でる。

 

 

そう、トレセン学園で東条トレーナーのもとで研鑽を積み、新人トレーナーとして自立したはいいものの、「運命の人!!」とテイエムネーロに逆スカウトされたのだ。

 

私のチームデネブのメンバーはこちら

 

テイエムネーロ

 

サトノオディール

 

サンドリヨン

 

ロマンスダンス

 

デアメルダー

 

 

うーん前世の私の子孫……。

 

というか生徒会長してたジークフリートだって「ジゼルトレーナーに担当してもらいたいなあ……駄目ですか?」って聞いてきたし、私の周りにそういう引力が働いてるのかな。

 

 

「何かな、ネーロ」

 

「これから行く選抜レースでのスカウト、一緒に行きたくて!!」

 

 

元気に答えたネーロはその名前に合う黒いアホ毛を揺らした。

 

 

「うん、いいよ。というか他のトレーナーたちも一人くらいは連れていってるからね」

 

 

まあアピールの意味だろう。

うちのチームには◯◯がいるんですよ、っていう。

 

 

つい最近善戦ウマ娘から脱却し、念願のG1制覇を果たしたネーロなら、ネームバリューはあるだろう。

 

 

クラシックはずっと二着だったネーロは、G2レースを地道に勝ち、シニア一年目の宝塚記念で勝った。

 

あのときは思わず泣いちゃったな。

 

 

「さて、行こうか。」

 

「はい!!」

 

 

_________________________________

 

「あの子はステイヤーだね、もっと長い距離なら一着になれたと思うよ」

 

 

「二着の子の差し脚もよかったですね」

 

 

やはりというか、走るための教育をされてきた名門出身の子は上手い。

 

寒門出身で勝った子もいるが少ない。

 

 

「あ、次が最後のレースみたいです。トレーナーさん、見つかりましたか?」

 

 

「……いいえ」

 

 

 

私の最後の子、ミスティルテイン。

 

前世では輸送事故で亡くなってしまった。

 

 

私は彼……彼女を助けたい。

 

 

「あっ……!」

 

 

一番外枠のゲートに収まった小さな鹿毛のウマ娘を見て、思わずベンチから立ち上がった。

 

 

「どうしたんです、トレーナーさん!?」

 

 

心配そうに同じく立ち上がったネーロも、そのウマ娘のオーラに言葉を失った。

 

 

 

ミスティルテイン……………厩務員さんから強いとは聞いていたけど、デビュー前でのこの風格はすごい!

 

 

 

スタートした途端、スッと自然に後ろに下がった動作で、きちんとレース教育をされてきた名門出身のウマ娘なんだと思った。

 

 

周りのトレーナーたちもただ者じゃないと感じたらしい。

食い入るようにレースを見ている。

 

 

そこからのミスティルテインは凄まじかった。

 

最終直線での圧倒的な末脚でのごぼう抜き、4馬身つけての余裕あるゴール。

 

 

これは……スカウトたくさん来るだろうな。

 

 

どうしたら自分の担当にすることができるのだろうか。

 

 

涼しい顔でスカウトを捌くミスティルテイン。

私は悩んでいた。

 

 

「行かないんですか?トレーナーさん」

 

「行くわよ。……ただ、うちに来てくれるかなあって。」

 

「トレーナーさんは素敵で優秀な人ですから、きっと来てくれますよ」

 

 

素敵で優秀ねえ……。

確かにG1ウマ娘を多数輩出してるから優秀といってもいいのかもしれない。

 

素敵……素敵???

 

 

「コホン……ミスティルテイン、貴女の走りを一番の特等席で見たいと思ってるわ。私のチームに来て欲しいの」

 

 

「ミスティルテイン、是非君にチームプロキオンに入って欲しいな」

 

 

私の声に被さった少し低めの男性の声。

 

聞き覚えがある、この声は……

 

 

「深井、トレーナー」

 

「衝で良いって、言ってるのになあ……」

 

 

中性的な顔で悪戯っ子のように笑った彼も、勧誘していた。

 

ま、まずい……彼の担当するチームプロキオンは、国内G1だけではなく、海外G1も制覇してるトレセン学園屈指の強豪チーム。

 

 

勝てるとは思えない……。

 

軽く絶望しかけた私の瞳に、困惑したようなミスティルテインが映った。

 

 

_______________________________

 

 

私はミスティルテイン、前世では数多の栄光を掴んだけど、その代わりに短い人生になった馬だった。

 

 

 

母の顔は覚えている。

 

大好きで優しかった母。

 

私に走ることを教えてくれた母。

 

 

そのため、この世界の私の母のことは、あまり肉親だと思えなかった。

 

 

父親については、騎手さんが話してるのを聞いたことがある。

ディープインパクトというらしい。

 

両親はすごい馬でライバルで……とにかく私は尊敬していた。

 

 

 

でもまさか、前世の母がトレーナーしていて、父親が分裂してるとか思わないじゃん!?

 

しかも私を取り合ってる!!

 

 

やめてよ!私二人には仲良くしてほしいの!!

 

 

言ってたよ厩務員さんも!ケンカップルって!

 

 

プイジゼ過激派なんだから!!

 

 

「あの、私……チームについては少し考えさせてください」

 

 

「分かったよ、いい返事待ってる」

 

「えぇ、大切な選択だもの。期待してるわね」

 

 

もうなにが何だかわからなくて、取り敢えず時間を稼いだ。

 

 

というか……

 

 

「トレーナーのお父さん、絶対お母さんのこと好きじゃん……」

 

 

お母さんそれに気づいてないっぽいし、どうしよう……

 

 

 

 

 




サンドリヨン(牝)
父ドゥラメンテ
勝ち鞍:ヴィクトリアマイル、ジャックルマロワ賞、BCマイル、安田記念

遅れてやってきたマイル界のシンデレラ。その脚は硝子のようであり体も病弱、デビュー前にも一度生死の境を彷徨った。
だがテイエムジゼルの子ということで遅めのデビューをし、間隔を開けながらレースに出走し勝ちを積んだ。
鞍上はリューセー。


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