IF―切り開かれる現在、閉ざされる未来―(OCCF) (黒川 優)
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序章 May―踊り始める現在
Prologue&Begining+α


初めまして。作者改め黒川 優と申します。

至らない点は多々ありますが温かい目で見てくださると嬉しいです。

それではプロローグ、本編をどうぞ


ー6年前ー亡国機業日本本部

(千冬side)

 

「何とかなったか……」

 

瓦礫をのし退けて回りを見る。

火の海に覆われたここは辺りは焦げて黒くなっていた。

 

「よいしょっと」

 

瓦礫の中に埋もれている男の子を引き上げる。

どうやら気絶しているらしい。私は暮桜の装甲を一部収納し、少年をおぶった。

 

「あそこか」

 

全く燃えていない所へ行き扉を開けた。

 

「…ちーちゃん」

 

そこにはいつもの摩訶不思議な服でなく、白衣姿の束がいた。

 

「姿が見えないと思ったらここにいたのか」

「ちょっとねー束さんにとって予想外のことが起こっちゃったからね」

 

いつも通りのような会話をする。

その瞳は私だけを見ていた。

 

「いいのか?」

「うん。もう要らない」

「そうか…」

 

いつもより刺のある言葉が返ってきた。

 

「これからどうするつもりだ?」

「しばらくは身を隠させてもらうよ。こんなこと、もう懲り懲りだからね」

 

その言葉を最後に束はどこかへ行ってしまった。

 

 

 

(フランス某所上空)

 

 

 

ザァ―――――――

 

リブァイブを展開した何者かは雷の鳴る暗雲の中に姿を隠していた。

 

「楯無、そっちはどうだ?」

『問題ないわ。私の他にも何人かが彼女を見てる』

「なら、問題ないな」

 

ゆっくり確実にスコープの真ん中に照準を合わせる。

そして雷鳴と共にトリガーは引かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

フランス支部の駐車場。そこには黒のスカイラインが止まっており、その運転席には所持者とは不釣り合いな背の低い金髪金眼の男の子が寝転がっていた。

 

「ふー」

 

 

フランスに滞在して2か月。どっかの誰かさん達が男なのにISが使えるとか変なことを言い出したせいでこうして長々と調査をしなければならなくなった。

 

(さて、帰りますか)

車を動かし駐車場を出ようとする。

その途中、茶髪の女の子がいきなり前に飛び出してきた。

 

「先輩~~~!ストップ!!」

 

こっちは低速でも車を動かしているにも関わらず女の子はバンっと手を車のボンネットに手を当てて車を止めようとした。

 

「バカ。あぶねーだろアリス」

 

目の前の茶髪の女性を軽く注意する。

 

――アリス・ファイルス

AIFアメリカ支部の期待の新人であるがこうしてフランスに来て事務作業されている辺り、まぁ……あれである。

ちなみに、向こうは先輩と言うが年齢的には彼女の方が年上である。

あと、俺の髪が長過ぎるせいか、中性的な顔をしているせいか、俺を女と信じてしまっている。

 

 

「先輩。仕事です!」

「仕事?それは昨日で……」

「デュノア本社が何者かに襲われたんです!」

「……………」

 

都心の真ん中にある一流企業が襲われた?

ガセだと信じたいがアリスの様子から見るに本当のことらしい。

 

「早く行きましょう」

「いいけどさ、お前パジャマで現場行くの?」

「え?」

 

子供が着るような水玉のパジャマに寝起きボサボサの髪。

仕事熱心で大変良いけど熱中し過ぎだと思う。

 

「……優先輩。上着貸して下さい」

「意味ないと思うぞ」

 

ここ来るには玄関ロビー必ず通らないといけない。

今更隠したところでもう皆にバレてる。

 

「貸して下さい」

「はいはい」

 

着ているスーツをアリスに貸してあげる。

さっきと一転して周りの目を気にしながら部屋に戻っていった。

 

 




まだIS要素が少ないですがこれから少しずつ進めて行きます。

読んでいただきありがとうございました。


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Does he already know it?+α

(優side―デュノア社内)

 

 

車でデュノア社の敷地内に入る。

既にそこにはフランス警察とIS委員会フランス支部の方々が捜査を行っていた。

 

「君!勝手に入られちゃ困るよ!」

「あー。こういうものです」

 

止められた警官に身分証明書を見せる。

 

「国際IS委員会日本本部AIF副隊長、黒川 優……。し、失礼しました!」

 

警官の顔がみるみる青くなる。

AIF(対IF部隊)はIS、亡国機業に関連する事件等を処理するため、俗に言えばエリートと言われてもおかしくない所なのだ。

あんな言い方で引き留めてしまえば首が危ない。

 

「いいって19のガキに気遣わなくて。じゃあ失礼」

 

ひょいと中に入り現場を確認する。

 

「こりゃまたすげぇな……」

 

中庭にはマフィアが銃撃したかのように弾丸の跡で一杯だった。

埋まっている弾を見るとかなり大きい。主犯はISを使っていたのは確実か。

 

 

「えーとアリス、調査はどんな感じ?」

「はい」

 

 

アリスが渡された資料を簡潔に説明してくれる。

 

「狙われたのは社内のラボひとつです。

このラボは稼働直前のものでまだ人は入っていなかったため怪我人、死亡者はありませんでした。

また、防犯カメラから犯行時刻は深夜と判明しました」

「あの豪雨の中飛ぶなんて…まぁISなら大丈夫か」

「また、使われた弾丸から犯行に使われたISは『クアッド・ファランクス』と思われます」

「はい?」

 

クアッド・ファランクスは装備すると本体は動けないことから通常のISに積むこともないため生産数は少ない。

その分、特定には時間がかからない。

 

「了解了解。じゃあ社長に話聞いてみるわ。

調査引き続きよろしく」

「はい」

 

 

(これは社長に聞いた方がいいか)

とっとと特定してフランス支部に委託させれば事件は解決。

俺は休暇が取れる。

そんな風に楽観視しながら俺は社長室のドアを開けた。

 

「デュノア社長、失礼します」

「黒川 優君だったかな?息子のこと以来だね」

 

息子(シャルル)のこと以来とは、

フランスに現れた男性IS適合者はIF操縦者の可能性があるため調査をしたのだ。

IFのコアがあればそれを代用することでISに乗れる可能性があるからだ。

 

「その時はお手数をお掛けしました。それで今回使われた武装についてですが…」

「それはこちらでも調べてみた」

 

流石一流企業。対応が速い。

 

「で、結果は?」

「それが…、わが社に登録されたものではなかった」

「……ないと?でも、弾丸はここで作っているものですよね?」

「信じられないが同じものだ」

「…………」

 

着弾した弾を見るかぎり放たれたのは上空。

だが、『クアッド・ファランクス』を装備したISが飛翔することは不可能。

つまり、これは不可能犯罪――

 

「黒川君。私の推測ではあるがこの襲撃『亡国機業』の仕業じゃないかと」

 

亡国機業。確かに活動の一つにラボを破壊する謎めいた行動をする。

だが、亡国機業がわざわざ企業のラボを破壊する利点は無いはず。あるとすれば……。

 

「もう1つ言いにくいことですが、この社内の何者かの可能性があります」

「…………」

 

あくまで可能性の一つとしてあるだけではある。

しかし、登録されていないクアッド・ファランクスが使われているということはリブァイブを作る技術を持ったものが犯行を行ったとも推測できる。

 

「しばらく貴方の敷地を跨ぐことになりますがどうか許して下さい」

「……わかった」

 

 

 

(優side―国際IS委員会フランス支部)

 

「それで一週間近く調査してどうでしたか?」

 

今回の騒動で駆けつけたAIF日本本部、レクス・ゴドウィン長官に簡易報告を行う。

 

「内部犯の可能性はほぼゼロ。現段階では消去法で亡国機業となります」

「そうですか」

「では、ここの方達に捜査を委託します」

 

俺にできることは一通り終わった。

ここのことなら、後は他の人にでもできるだろう。

 

「学園に戻るのですね」

「はい。千冬さんがうるさいので」

 

長官の言葉に半ば苦笑いで答える。

本分は学業だって言われてもね……。

結局仕事に呼び出され授業を休み、出席日数が足らず留年。

去年はこんなオチである。

 

 

「失礼しました」

 

バタンっと長官室の扉を閉める。

 

「『赤い靴』ね……」

 

デュノア社から拝借した資料に目を通す。

Slave Mode 同様、AIによって操縦者の意志と関係なく機体を強制操作させるシステム。

こんなものを積む理由は……。

 

(早く学園に戻るか)

俺は日本に戻るべく車を動かした。

 

 

 




すいません。
この話でも原作キャラを出せませんでした……。
ホントにごめんなさい。
次の話では出すのでどうか許して下さい。

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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Boy meets boys/How does she think about?

こんにちは。作者名を考えるのが面倒で主人公の名前をパクった作者改め、黒川 優です。

これから適宜、本編の前に用語、キャラの説明をしたいと思います。
それではどうぞ。


黒川 優(くろかわ ゆう)

 

身長:160㎝程、体重:52㎏、歳:19歳

 

国際IS委員会AIF日本本部副隊長

専用IS:なし

 

見た目は中性的な顔立ち、金髪金眼、ストレートな長髪、身長が相まって女に見える。

(一夏が初めて優を見た時、箒かと思ったほど)

以前、施設の実験で左目に「越壁の瞳」右目に「オーディンの瞳」が移植された。

そのため日本人であるが両目とも金眼である。

金髪は本人曰く「遺伝」らしい。

 

切ってもすぐに伸びてしまう髪は本人の悩みの種の一つ。

一番の悩みは年下の一夏より背が低いことである。

 

19歳ではあるがAIFの仕事のせいで出席日数が足らず留年している。

中学生の時、一時的ながら千冬と一夏と一緒に暮らしていた。

 

モデル:東方project 様の霧雨 魔理沙×???

 

 

 

アリス・ファイルス

 

身長:156㎝、体重:作者は知りません、歳:たぶん20歳ぐらい

 

国際IS委員会AIFアメリカ支部所属

専用IS:お楽しみに

 

ナターシャ・ファイルスの妹。

 

AIFの入隊試験を最年少で通過した期待の新人。

しかし、上は優と千冬さんで埋まっている。

また、姉の過保護な根回しのせいでまだAIFとして実戦はなく事務仕事をすることが多い。

 

これもまた姉の過保護のせいか男性恐怖症になっており、男で話せるのは見た目が女である優ぐらいである。

ただナターシャは「優は女」と教えているので優が男と知ったらどうなることやら……。

 

モデル:東方project 様のアリス(旧作)

※このアリスの髪は金茶混じりの茶髪です。

 

 

 

 

 

(一夏side―IS学園)

 

 

 

「では、本日から格闘及び射撃を含む実戦訓練を開始する」

 

「「はい!」」

 

 

 

今日は今年初めての1、2組合同授業。

 

人も2倍、活気も2倍、俺の視線を置く場所に困る確率も2倍……。

ところがどっこい。そんなことはない。

なんと今日から男の転校生シャルルが俺と同じクラスに入ったからだ。

 

「くぅ……」

「……一夏のせい一夏のせい……」

 

叩かれた場所が痛むのか、箒と鈴は涙目になりながら頭を押さえていた。

やっぱり痛いよな千冬姉の出席簿アタック。

受けるこっちの身にもなってほしい。

 

つうか鈴、なんか妙に不穏当かつ不当な主張をしてないか?

俺の思い過ごしならいいが、そうでない場合はこちらも法的手段に訴える!

 

どかっ!

 

「なんとなく何考えているかわかるわよ……」

 

あれを受けてもう動けるのか……。

前言撤回だ。箒の心配だけしよう。

 

「今日は戦闘を実演してもらう。ちょうど活力のある女子もいることだしな――凰!オルコット!」

「なんでわたくしが!?箒さんでは!」

 

あぁ、セシリアかわいそうに。二人の近くにいたせいでとばっちりを受けている。

 

「専用機持ちならすぐに始められるからだ」

「はぁ…」

 

セシリアは最初はため息をつくものの、ISを展開し終わる時にはしっかりとした面持ちになる。この切り替えはさすがだと思う。

 

「それで相手は?わたくしは鈴さんとの勝負でも構いませんが」

「こっちの台詞。返り討ちよ」

 

「バカども。対戦相手は――」

 

言葉を続けようとした千冬姉は何かを見て呆れていた。

 

―キィィィン……

――キィィィィィン――

 

「あああああっーー!ど、退いてくださーーぐふっ!!」

 

元々墜落しかけていた山田先生だったが横から流れ星のように落ちてきた何かとぶつかり猛スピードで墜落した。

煙が立ち混めり以前俺が作ったのより大きい穴がグランドにできる。

 

(一体何が…)

 

イレギュラーな事態にセシリア、鈴は構える。

煙の中から出てきたのは……

 

「え…優?」

「久しぶりだな一夏」

 

気絶している山田先生を抱き上げた優がいた。

 

「一夏、あいつと知り合いなのか?」

「知り合いも何も千冬姉が一時期預かっていたんだ」

「なに?」

 

もう一度まじまじと見る。日本人なのに金髪金眼、男なのに女っぽい肌。

間違いなく優。そして、学園の制服(一番上はカーディガン)を着ている。

 

「優…もしか」

「あっ、デュノア君久しぶりー」

 

俺のこと完全無視でシャルルの方へ行ってしまった。

ちょっと傷ついた。

 

「え……。嘘、黒川さん?」

 

シャルルは優の存在にかなり驚いていた。

そもそもなんで優の存在を知っているのか……。

 

「優でいいよ」

「あの、どうしてここに?委員会は?」

「どうしてって俺もここの生徒だから。これからよろしくね」

「あ、はい」

 

とても機嫌良さそうに握手をしていた。そう、千冬姉の存在に気づかないくらい。

 

スパーン!

 

今日も出席簿が火を噴いた。

箒や鈴にやった時よりもいい音がした気がする。

 

「上司への報告もせずに戯れるとはいい度胸だな」

「千冬さん……」

 

(上司?)

 

「まぁいい。早く着替えて授業に出ろ」

「…あの、実はまだ仕事がまだ終わってなくて……」

 

ガシっと優は千冬姉に頭打を押さえ付けられていた。

ギリギリっといっているのは擬音だけではないと思う。

 

「ほう……。二か月もいたにも関わらず終わってないだと…」

「痛い!マジで痛いです!仕方ないじゃですか。ここじゃないとできないんですよ」

 

千冬姉は優が何の仕事をしてたのか知ってるせいかため息をつきなかまらも手を離していた。

 

「なら、これから代表候補生二人と戦って勝ったら許してやる」

「機体は?」

「リヴァイブだ」

「了解」

 

その言葉にテキパキと装着し始める。どうやらかなり乗りなれているようだ。

 

「久しぶりね、優」

「おぉ鈴か!久しぶりだな。候補生になっていたのか」

「まぁね。まさかアンタがここにいるとは思わなかったわ」

 

鈴と優は3歳差であるが昔、実家の中華料理屋でご馳走になったりして互いによく知っている。

 

「貴方、IS を持っていないのですか?」

「あぁ。IS は持ってない。ちなみに言うと代表生とかでもない」

 

セシリアは返答を聞いて顔をしかめていた。が、以前俺に向けたものとは違う。

どうやら、なんで千冬姉がそんな人を自分達の相手にしたのか考えているようだった。

 

「準備終わりました」

「お前の場合、終わってなくても始める」

「ひどい…」

「それでは、始め!」

 

千冬姉の言葉で三機が大空に飛び立った。

 

当然、鈴は前衛、セシリアは後衛のポジションを取る。

優はマシンガンとアサルトライフルを展開。

が、持った武器に反して優は鈴に向かって加速した。

 

「山田先生、Conflict(コンフリクト)の説明をお願いします」

「はいっ」

 

ここで山田先生が復活。

ISを装着していただけあって回復は早かったみたいだ。

 

「Conflictというのは本来、中、遠距離武器を近接武器として使う技術です。

オールレンジで戦えるようになるので武器の呼び出しの回数が減るので隙も減るなどの利点があります。ただし、射撃武器を持った場合、スコープを見る時間はないので高い技術が必要とされます」

 

つまり、優も高い操縦技術があるということになる。

まぁ、上を見れば一目瞭然だな。

 

「ちょっとセシリア!あんた援護しなさいよ!」

「鈴さん…無理がありますわ」

 

鈴は不満そうに言うが、優が鈴に張り付いているせいでセシリアは援護しないのではなくできないのだ。

しかもその距離は鈴の双天牙月がギリギリ届かない距離。

だけど龍砲を使うにはウエイトの関係から優は近過ぎる。

 

バゴォォン!

 

マシンガンとライフルの応酬。

最後に零距離からのグレネードランチャーをくらい墜落していった。

 

 

 

 

(セシリアside)

 

「鈴さん!」

 

鈴さんは零距離でグレネードランチャーを受け地面へ落下していった。

 

(ほぼ無傷で、しかも訓練機で鈴さんを倒すなんて…)

 

油断していたなんてことはない。

だが、自分達と彼の間で実力の差が大き過ぎる。

 

「どうして貴方はそんなにお強いのですか?」

『まぁ経験の差だな。……良い意味でも悪い意味でも』

「え?」

 

唐突に言う彼の言葉に私は理解できなかった。

それにそれを塾考する時間を彼は与えてくれなかった。

 

彼の戦法が分かった以上、近接、中距離戦は分が悪い。

ビットを展開し距離を取って攻撃する。

 

多方面から攻撃するもリヴァイブの物理シールドに阻まれてしまう。

しかし、彼の射撃もビットを撃ち落せてはいない。

 

(これはお互いジリ貧ですわね)

 

円形制御飛翔で互いに回避しながらの射撃が続く。

このまま均衡が続くなら、手は汚いが訓練機の限界まで速度を上げて彼の移動先に弾幕を張るしかない。

 

しかし、その策を使うことはなかった。彼は強引に急停止。

さっきまでとは逆方向に旋回することで私に接近してきたからだ。

 

(甘いです……あれ?)

 

急いでビットに射撃を行わせようとするができなかった。

ビットは彼の攻撃を避け続けたためにちぐはぐな所を浮遊。

しかも最高速に近い状態で円形飛翔制御を行ったせいでビットは完全に置いてきぼり状態。

一瞬では制御しきれなくなっていた。

 

その隙を突かれ、スターライトを掴まれ踵落としをされた。とっさにミサイルビットで反撃するが、物理シールドに防がれ彼の追撃が再開される。

 

(まさか…わざとビットを残したというのですか)

 

だとしたら、ここまでの流れは全て彼の手の平で遊ばれたことになる。

インターセプターを展開できないまま一方的に攻撃を受ける。

 

何かが装填される。

 

「終わりだ」

 

それは鈴さんに放ったのと同じグレネードランチャー

それを零距離で受けシールドエネルギーは無くなった。

 

 

 

(セシリアside―自室)

 

サアアアアア………

シャワーノズルから熱目のお湯が噴き出す。

セシリアはそれを体に受けながらさっきの試合を思い返していた。

 

女性に媚びらない態度、強い意志を持った瞳。それは織斑 一夏も同じだった。

ただ彼が一夏と違うのは戦う前に言った言葉

 

『まぁ経験の差だな。……良い意味でも悪い意味でも』

 

(きっとあの言葉に彼の強さと弱さが含まれているのですね…)

あの時の彼の言葉は重く、眼差しは強く、そして表情は悲しみが見えていた。

 

「黒川、優……」

 

その名前を口にしてみる。

不思議と、胸が熱くなるのがわかる。

どうしようもなくドキドキして、何かが込み上げてくる。

 

「…………………」

 

熱いのに甘く、切ないのに嬉しい。

――なんだろう、この気持ちは。

意識すると途端に胸をいっぱいにする、この感情の奔流は。

――知りたい。

その正体を。その先にあるものを。

 

「…………………」

 

浴室は私の気持ちを表すように水が満たされていった。

 

 

 

(一夏side―屋上)

 

「どういうことだよ。なんで優がここにいるんだよ」

 

授業の後、砂を被ったセシリアと鈴を待っている間に俺は優に問い詰めていた。

 

「ゆーりん、これ食べさせてー」

「見ればわかるだろ。俺もISが動かせるから」

「なんで19のお前が俺らと同じクラスなんだよ」

「ゆーりん、これも食べさせてー」

「はいはい。いやー仕事が多くてな。出席日数が足らないだわ。

つまり留年生」

 

俺の気持ちの露知らず優は呑気な声でのほほんさんにご飯をあげていた。

 

「優が国際IS委員会にいるなんて知らなかったぞ」

「ゆーりん、これもーこれもー」

「はい、あーん。まぁあれだ。大人の事情ってやつだ」

「ゆーりん、ゆーりん」

「…………のほほんさん……」

 

溜め息をつきながらのほほんさんを見る。

人が大事な話をしているのに話の腰を折らないでほしい。

けど、なんか色々毒されて怒る気が無くなった。

 

「なんで俺に教えてくれなかったんだよ」

 

これだけはいくら毒されようが邪魔されようが聞く。

俺は家族同然に思ってたのに……。

その言葉に優は箸を置いて真っ直ぐ俺を見てくれた。

 

「対反社会勢力の人間の情報が公開されたらその本人や家族が危ないだろ?

俺はお前がまた危険な目にあうために委員会にいるわけじゃない。

お前を含めて多くの人を守るために委員会にいるんだ」

「優………」

 

前に俺が亡国機業に捕らえられたこと気にしてたんだな。

そうだよな。あの時、優がいなかったら俺も千冬姉も生きてるかどうか……。

 

「じゃあ、この話は終わりということで。篠ノ之さんも何か言いたそうだし」

「あっ。悪いな箒」

 

元々、屋上で食べようと話していたのだが

優の登場に聞いときゃならないことが出来てしまったので待ってもらってたのだ。

まぁセシリアと鈴もシャワー浴びたいって言ってたし時間合わせにもよかったと思う。

 

「ところで、シャルルと篠ノ之さん何か言いたそうなんだけど、何かな?」

「どうして彼女と仲良いの?」

「なぜ彼女と親しい?」

 

それは俺も思っていた。

さっきも親鳥と雛鳥のように飯を口に運んでいるし、呼び方も初対面のようには感じられない。

 

「簡単に言うと友達の妹だな」

「関係遠いな。俺に直すと弾の妹の蘭だろ?」

「……一夏。お前の場合かなり近いからな。ゼロになる可能性だってある」

「そんなわけないだろ……」

 

今だって会ってもよそよそしい態度だし

この前なんかいきなり外出用の服に着替えてたし、多分俺が家にいる間出掛けるつもりだったんだろうな。やっぱり嫌われてるようにしかみえない。

 

それより箒、なんでそんな睨み付けるような目で見るんだよ。

俺はまだ何もしてないぞ。

 

「話を戻すと俺の場合、本音は俺の飯を横から食べる時以外はそんな来ない」

「だって、ゆーりんが食べさせてくれるご飯はー美味しいんだもんー」

「ここは学食だから自分で食べても同じだろ」

「ゆーりん、それはでりぃかしぃーないー」

 

むーと顔を膨らますのほほんさんだが優がおかずをあげると嬉しそうに食べていった。

優、かなり扱いに慣れてるな。どこが遠い関係なんだか……。

 

「一夏さん。あら、本音さんもいたのですか」

「なんか知り合いだったらしいぞ」

「そう…ですか」

「へー。そうなんだ」

 

セシリアはのほほんさんがいることに納得し

鈴は何か別のことに対して一人納得していた。

 

「ところで箒、そろそろ弁当くれないか?」

 

箒に言われた通り何も買ってきてないから腹が減った。

 

「これだ」

「サンキュ。おぉー!これはすげぇな」

 

 

 

 

「そういえば、なんで箒のには唐揚げがないんだ?」

「…うまく作れたのはそれだけだからな」

「何か言ったか?」

「いや!な、なんでもない」

「愛情込めて作ったから感謝して食え、だと」

「!?」

「なんだ。そんなの当たり前だろ。ありがとな箒」

「あ、あぁ……」

 

箒は優が伝えてくれた言葉に怒ったような顔をしたと思ったら嬉しいような面をくらった顔をした。

よくわからないが慌ただしいな。そんな言われたら困ることあったか?

 

「でも、ないならないって最初に言えよ。お前が作ったやつだけどあげるのに」

「いいのか?」

「当たり前だろ」

 

箸で唐揚げを箒の口の高さに持っていく。

そしたら皆が少しざわついた気がした。

なんだよ?合わせ箸は下品なのは常識だろ?

そのまま箒の口に唐揚げをゆっくり入れた。

 

「どうだ?いいだろ?」

「うむ。唐揚げではないが、かなりいいものだった」

「これって日本で恋人がする『はい、あーん』ってやつなのかな。

あれ?そしたら優と布仏さんも恋人同士?

でも、さっきただの友達って……」

 

どうしたシャルル?

一人であれこれ言って。そんな悩むことあったか?

それともさっきの箒病でも移ったか?

 

「シャルル。はい、あーーん」

「ん?んーん?」

 

シャルルは困惑しながらも優が差し出した唐揚げを食べた。

 

「と、まぁこうされたら大抵の人は食っちゃうわけだ。

そもそも好意を持ってる人しかしないけど」

「好意を持ってる………」

 

優が何を言ったのか分からないがシャルルは優の言葉に一気に顔を赤くした。

 

「……なんでだろう。男同士なのになんか微笑ましい」

「えぇ。同感しますわ一夏さん」

「まさか優がそんなんだったなんて……」

「………………………」

「あー。私の唐揚げーー」

 

皆、思い思い感じたことをこぼしていた。

箒が不純とか不潔と言わなかったのは意外だな。

……ってそもそもこっち向いてなかった。

なんか自分の世界に入ってるし。

 

残り休み時間が少ないので俺も早足に弁当を食べた。

 

 

 

 

 

「なぁ、鈴辺りが白い目で俺を見るんだけど……」

「なんでだろうな。自分の胸に聞くと分かるんじゃないか?」

「一夏に言われるとなんか腹立つ」

「あぁ、私も腹が立つな性懲りもなく遅刻するお前達にな」

「「え?」」

 

バシーーン!!

 

本日何度目かの出席簿アタック

俺が叩かれない日はないのだろうか……。

 




今話で原作キャラ、ISを出すことが出来ました。
主人公の実力は……許して下さい。
仕方ないんです。主人公だから。

Conflictは「矛盾」という意味があったので使っているだけです。ちゃんとした専門用語があっても許して下さい。

それではまた次話。
読んでいただきありがとうございました。


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What is Zins and IS hunting?/ Troublesome visitor



皆の主人公、霧雨 魔理沙だぜ。
なんでも今話も日常に近い話だから前倒したとか何とか……。
でも、大事な用語がボンボン出るから読んで欲しいぜ。

それではどうぞ。






レクス・ゴドウィン

 

身長:計れなかった、体重82㎏、歳:聞いたらはぐらかされた

 

国際IS委員会AIF長官

専用IS:なし

 

優、アリス、千冬の上司。

IS狩りの時、後のAIFになる組織を設立し対処した功績から男性ながら委員会の一柱のトップに立つ。

 

過去にEOSでISと互角に戦った。まさに超官。

立ちながらライディングデュエルはしないので今作でのデュエルマッスルの出番は無し。

 

モデル:遊戯王5D's様のレクス・ゴドウィン

 

 

ミリータ

 

軍関係者、委員会関係者が持つ身分証明書。

 

疑似絶対防御「Pawer Wall」が内蔵されている。

またISの武装と同じくミリータ内に拳銃などを収納、展開できる。

 

 

IF(アイエフ、正式名称『 Infinite Features』

 

亡国機業が独自に作りだしたマルチフォームスーツ

 

過去に現れた機体と操縦者から操縦者の性別に関わらず乗ることができると推測されている。

また、イメージインターフェイスもIFの方が充実している可能性があるという声が多い。

 

待機状態もISと同じアクセサリーなどになることが多いらしい。

 

 

 

 

 

(シャルルside―IS学園、寮棟)

 

 

「これからルームメイトとしてもよろしくな」

「うん。こちらこそよろしく」

 

優と一緒に寮内を歩く。

一夏は箒といるから空きのある優の部屋になったからだ。

 

「優の部屋って言っても皆とそんな変わらないんだね」

「俺もここの生徒として借りてるからな」

 

違いと言えば、窓側のベットなどを撤去してその空いたスペースに中央にはソファと長机、壁側には金庫や本棚が置いてあるくらいである。

 

「そういえば優って仕事でここに来るの遅くなったんだよね。どこに行ってたの?」

「どこって…フランスだぞ。知らないのか?先日デュノア社が何者かに襲撃されたの」

「あぁ……」

 

知ってる。研究所の襲撃。っと言っても研究所を狙うのは亡国機業の特徴。

何にしろ、僕がしたわけではない以上あの人の会社なんてどうでもよかった。

 

「シャルル?」

 

じーっと顔を見られる。

(やっぱり怪しまれた?)

 

さっきの対応は社長の御曹司としてはあまりにも不自然過ぎたから。

 

くしゃ―――

 

「え?」

 

僕の頭に手を乗せて撫でてくれた。

 

「ゆ、優どうしたの?」

「シャルルって女の子みたいでかわいいなって」

「か、かわいい……」

 

かわいい。あまり男と関わりがなかった僕にはあまり言われたことのない言葉。

それに反応して顔が赤くなってしまう。

 

「僕、男なんだけど…」

「あれ?そうだっけ?」

 

冗談混じりの声。その声には悪意も何も無くてほっとした。

 

「まぁこれからよろしくな」

「うん」

 

 

 

 

 

「ところで僕はどこで寝ればいいのかな?」

 

ベッドは一個しかない。

やっぱりソファとか……。

 

「別に一緒に寝ればいいんじゃない?」

「え?」

 

一瞬、何を言っているのか分からなかった。

 

「別に大丈夫だろ。男同士なんだし」

 

(どうしよう……。

で、でも断ったら女ってバレちゃうかも……)

悩んでも仕方ないので意を決してベッドに入る。

 

「お、お邪魔します」

「なんで寝るだけなのにそんな畏まるの」

 

優は僕の気持ちなんか知りもせず笑っていた。

僕、こういうの初めてなのに……。

 

「じゃおやすみ」

 

横になった優はすぐに寝てしまった。

 

(近い!近いよ優!)

 

整った唇が無防備に目の前にある。

僕は壁側にいるから逃げ場所がない。

 

(ダメダメ意識しちゃ。別のことを考えよう)

 

別のことって言っても目にみえるのは優しかいないから

自然に目の前の優のことしか考えられない

 

顔にかかってる髪をそっと指で払う。

見た目的に僕より長い髪をして、部屋には女の子のみたいいっぱい色んな美容品があった。

 

(もしかしたら優も僕みたいに男のフリしてたりして)

というか、これで男とか言ったら根本的に、そう遺伝子的におかしいと言っていい。

 

肌や指など体を少しずつ触れて優が女の子である確証を得ていく。

そう思うと優がお姉さんに見えて……。

 

 

(あれ……胸がない………)

優が起きない程度に何度も胸を触っても

普通に少し鍛えられた胸板らしいものがあるだけだけだった。

 

(………………)

ってことはやっぱり優は男で、僕は勝手に女って思っていっぱい触ってて………。

 

ボンッて顔が赤くなる。

こうなってしまったら意識しないことなんてできない。

その後は横になっても寝ることできず気付いたら朝日が昇っていた。

 

 

(優side―IS学園、教室)

 

 

一夏が難しい顔で俺を見ている。

 

「国際IS委員会って言っても具体的にどこなんだ?」

 

一口に国際IS学園と言っても、その中は議会、裁判、AIFが三権分立の状態で存在していて、ひとつひとつの組織がデカい。

 

「俺が代用の利く議会や裁判なわけないだろ」

「じゃあAIFか………」

 

細かく言うとAgainst Infinite Features(対IF部隊)。

文字通り、亡国機業が作ったマルチフォームスーツInfinite Features、通称IFと戦うための部隊。

勿論、それだけじゃなくIS界の警察として活動している。

一夏とシャルルのIS適性検査、身辺調査などがその一例になる。

 

まぁ運命的(宿命的?どっちもイタイ表現か)なことがあり、俺も所属している。

ちなみに隊長は千冬さん。当たり前といえば当たり前。

IS狩りを止め、亡国機業本部を崩壊させた功績から就任しているからだ。

 

「前線に立つってことは危険も多いんだろ?」

「無いわけじゃないな。

けど……まぁこう言っちゃいけないんだがISを使っている以上、普通の軍人よりは危険は少ないと思う」

 

勿論、それはIS展開時に限る話。

だから俺や軍関係はISの疑似絶対防御「Pawer Wall」を内蔵したミリータを常備している。

 

「あの黒川さん」

「ん?」

 

振り返った先にいたのは昨日戦ったセシリアだった。

 

「なんでしょうお嬢様」

「セシリアで構いません。でその……」

 

やけにキョロキョロとして昨日の模擬戦前の威勢の強さが見られない。

けど意を決したらしく、更に一歩俺らに近づいた。

 

「もしお時間がありましたら、コンフリクトについて教えていただけませんか?」

「あぁそれなら今日からでも大丈夫だぞ」

「本当ですか?」

 

俺の言葉を聞いてぱぁっと笑顔になった。

 

「あぁ。じゃあ放課後でいいか?」

「はい!よろしくお願いしますわ」

 

セシリアは上機嫌で席に戻っていった。

 

(高飛車気味と聞いていたが意外と真面目なんだな)

それとも一夏が何かしたのか。

 

「………なんだ?」

 

こっちの方だな。一夏は見境なく女を落とすって鈴が言ってたし。

また無意識にやらかしたんだろう。

 

「全員席に着け。授業始めるぞ」

 

千冬姉と山田先生に皆は慌ただしく席に着いた。

 

(一夏side)

 

「さて、今日は最近物騒な事件を起こしたと思われる亡国機業について勉強する。

最初に……」

 

千冬姉は肘を付いて上手く寝ている優にチョークを投げて起こした。

 

「痛い……」

「いいから教科書を読め」

「…えーと。亡国機業はZ-ONEによって第二次世界対戦後に創設された組織である――」

 

簡単に言うと

設立当初は音沙汰はなかったが、6年前のIS狩りを皮切りに活動が活発化。

現在はISISによるISの強奪とIS研究室の破壊、情報工作が主な行為になっている。

目的は不明だが、創設者Z-ONE(ゾーン)がユダヤ人でナチスの虐待を受けていたこと、破壊している研究所が何かしらあると思われる。

と言ったところだ。

 

「織斑先生。そのIS狩りは文字通り、ISを破壊したことですか?」

「そうだ。第一回モンド・クロッソの上位者を狙った連続IS破壊事件。まぁテレビで見たことがあるだろう」

 

あの時期はどのチャンネルにしてもそのニュースで持ちきりだった。

特に、ISを展開していたにも関わらず操縦者が亡くなったときは不安を越え、恐怖するものもいた。

そのくらいこの次世代兵器の乱用は世界に大影響を与えた。

 

「では、亡国機業はどこでISを手に入れたのですか?」

 

世界でも希少なISをそう簡単に手に入れることはできないはずだ。

 

「亡国機業はISを使っていない。独自にマルチフォームシステムを開発したのだ。

委員会はこれを「Infinite Features」通称「IF」と呼称。またそのIS狩りに使われたIF一号機を「アインス」と呼称している。具体的には教科書を見た方が良いだろう」

 

見た目はISと遜色はない。

違うとすれば全体的にスリムな感じなのと装甲の下に羽織があることぐらいだろうか。

 

(あれ?)

 

「ちふ…織斑先生、あのアインスの機体数がやけに多いのですが…」

 

一流企業でもここまで多くの種類は作っていない。と言うより作れない。

だけど、アインス専用機は実験段階のものまで合わせると7機ある。

まだそんなにISを知らない俺でもこれは異常だとわかる。

 

「それはアインスがIF、ISIS(アイスィス)に対してのみだが現在も使用可能になっている。

実験段階の機体があるのは既成機の改良を行っているためだ。

それから数機体種類が増えるだろう」

 

大丈夫なのか?敵が使っていたもの使って……。

 

「それについてはお前のように不安視する声があるが、今のところアインスには存在してもらわないとならない理由がある。それは次の授業にしよう。そろそろ授業が終わるからな」

 

千冬姉は寝ようとしている優の監視を解いて教卓に戻っていった。

 

「さて宿題だか、次の授業までにアインス専用機は覚えておけよ。

あとIS狩りは試験によく出るから覚えとけ。以上だ」

 

チャイムの音と共に千冬姉と山田先生は職員室に戻っていった。

 

えーアインス専用機はっと……やっぱり多いよな。

能力、性能に一貫性ないし。

しかも、現段階で7機で増えるって…全部改良したら14機じゃねぇか。

覚えらんねぇよ。

俺は幸先の暗さにため息をついた。

 

 

 

 

(セシリアside)

 

「♪~♪♪~~」

 

セシリアは上機嫌で髪にブラシを通していた。

ふたりっきりでの訓練。

しかも、次の訓練も約束してくれてその時までにはコンフリクトに適したものを作ってくれるという。

 

訓練関連でなければデートになったのだが、まだ知り合ったばかり。

これでも上々だと思うことにする。

 

問題は……

(布仏さんですわね……)

 

大体食事の時は一緒だし、しかも彼女は食べさせてもらっているし、優本人も嫌がっているわけではない。

二人が特別甘い空間を作っているわけではないが、やはりあれが普通に成り立ってしまう関係は油断できない。

 

(ですが、このセシリア・オルコットの名にかけて落としてみせますわ!)

持っていたブラシを握り直し上に高々と挙げていた。

 

(シャルルside―図書館)

 

 

 

ボンっと集めた本を重ねる。

以前、授業で扱ったIS狩りと機体整備に関する書籍だ。

そのことでどうしても知りたいことがあった。

 

――Slave Mode

アインスが展開していた機体が強制収納、破壊された時に発動するシステム。

機体の操縦が強制的に人の意志からAIの制御によるものに移行する。

 

この状態になったアインスは非人道的な行動をとる。

IS狩りで死者を出したのがこのシステムのせいと言えばその残虐性がわかるかもしれない。

 

大まかにこんな感じの文章。

ここの記述にきっと少なくとも僕がシャルル・デュノアとしてここにいられる方法があるはず。

ただ絶望的なのはアインスが未だにそれを切り離していないこと。

 

この事実にあの人との会話が揺らめいて来る。

 

――――――――――――――――――

 

「『赤い靴』…ですか?」

 

「あぁ。アインスのSlave Modeに似たシステムだ。

お前がもしISで負けそうになった場合、搭載したAIが変わりに戦うようになっている。

勿論、私の意志でも移行できる。

言っておくが変な偽装はするなよ?

これにはお前を監視するシステムも搭載されている。

奴らを庇うようなことをすれば私が強制的に移行させる」

 

「そんな………」

 

「なに、要は仕事をこなせばいいってことだ。

ISがあれば男と女の力の差なんて変わらなくなる。それどころか女の方が有利だろう」

「………………」

「活躍に期待してるよ。成功すれば君が戻りたがっているあの家は返そう」

「………はい」

 

――――――――――――――――――――

 

(大丈夫……)

 

向こうだってコレがずっとリブァイブに入っているのは都合が悪いはず。

絶対に取り外しもできる。

 

そう、できるはずなんだ。

絶対に、絶対に………。

 

 

 

 

 

(セシリアside―食堂)

 

「ふぁ~」

「シャルルさん、よく寝れなかったのですか?」

「うん、優がベッドがないからって僕を同じベッドで寝かせるんだよね…」

「それはよかったですわね」

 

つんっと冷たく言い返す。最近わかったのだが一夏さんも優さんもシャルルさんには甘いというか何というか、とにかく自分達と扱いが全然違う。

 

「セシリアってもしかして優のことが好きなの?」

「シャルルさん!?いきなり何を言うのですか!?」

「あっ否定しないってことはそうなんだ。じゃあ――」

「シャルルさん!」

 

急いで彼の口を塞ぐ。

 

「(このことは誰にも言わないで!)」

 

他の人に聞こえないように小さな声で口止めにかかる。

だが、これが悪かった。

 

「おぉセシリア、朝から大胆だな」

「え?」

 

優さんに言われて今の状況を確認する。

よく見ると自分がシャルルさんを押し倒したようになっていた。

しかも、場所が場所で横になってしまうとまわりから見えない部屋の角の席に自分達がいた。

 

「優さん、これは…」

誤解ですと言おうとしたが当の本人は一夏さんの所に行ってしまった。

 

 

(シャルルside)

 

 

「どうだった?英国淑女さんは?」

「優!あれは誤解だって言ったでしょ!」

 

今日それのせいでセシリアと気まずかったんだから。

それでもそれが収まっているのは優が大人の対応をしてくれたおかげである。

こういうのを見ると見つけるとすぐに言いふらしていたクラスの子とは違うなぁと思う。

 

「はいはい」

 

くしゃくしゃと頭を撫でた優はシャワーを浴びに行った。

 

(いつも思うけど、優って僕のこと小学生ぐらいの子だって思ってるよね。)

確かに年下ではあるが頭を撫でるあたり、扱いは中、高校生ではない。

 

(…まぁいいけどさ。嫌じゃないし…)

 

ガチャガチャ――

 

「すみません。今、開け――」

 

ガチャリ――

 

(あれ?勝手に開いた)

 

部屋の鍵は最近新調したものみたいで鍵は僕と優しか持っていないはず。

織斑先生はちゃんと一声かけてから中に入る。

 

リヴァイブをすぐに展開できるように構えて、入ってきた人を見る。

その正体は……

 

「生徒…会長さん……?」

「え?」

 

互いに状況が読めずに目を見開いていた。

 

(シャルルside)

 

「なるほど。その子が転校生の一人で、男だから優君と同室なのね」

「そういうこと」

「それにしても…」

 

さっき優から紹介を受けた楯無先輩はまじまじと僕を見る。

 

「女の子の服着せたくなるわね」

 

楯無先輩は手をわきわきさせて僕を見ていた。

失礼だけど目がいやらしい。

 

「やめとけ。シャルルが引いてるから。それよりどうやって部屋の中に入った?」

「普通に鍵を使ってよ」

 

楯無先輩は当たり前のように答えたがそれはおかしい。

この部屋は優が大事な仕事の書類を扱う関係からドアは特殊なもので、鍵も僕と優と織斑先生しか持っていない。はずなんだけと…。

 

「お姉さんをないがしろしちゃダメだぞ★」

「はぁ……」

 

このやり取りで楯無さんの性格が何となく分かった気がする。

 

「で、何しに来たんだ?」

「あら。久々にここに帰ってきた元ルームメイトの様子を見に来ちゃいけないのかしら」

「優、楯無さんと同室だったの?」

「ちょっとトラブルがあってな。去年いっぱいまで同室だったんだ」

「へぇー」

 

って、部屋の感じからして去年もベッドひとつだけ。

この人の精神的なタフさは見習わないといけないかもしれない。

 

「シャルルくん、優くんの写真見たかったらお姉さんの部屋に来てね。

寝顔とかいっぱい撮ったから」

「はっ!?そんな話聞いてねぇぞ」

「今、初めて言ったもの」

 

楯無先輩は手品のように扇子を小槌のように振って写真を出してきた。

どれもブレてなくて見事なものだった。

よく見ようと思ったら優に取り上げられてしまった。ちょっと残念。

 

「楯無、ちょーっとお話しようか?」

「私を捕まえられたらね」

「待て!部屋からは出さん」

 

2人は忍者のように部屋を飛び回った。

 

………………………

…………………

……………

 

「じゃあねーシャルルくん」

 

楯無先輩は優が諦めてシャワー浴びている間に部屋を出ていった。

 

 

「優、大変だったんだね」

 

あのあと優は楯無さんを捕まえようと必死だったけど

結局、優本人の意志と関係なく猫のようにじゃれあうような形になってしまったのだ。

 

時々、楯無先輩が優を捕まえてたし。

布仏さんもそうだけど優の友達はこういうスキンシップが多い気がする。

 

「まぁ今回はいくらか楽だったけどな」

 

(楯無先輩、今まで優に何したんだろ……?)

どこか掴みどころのない人なだけに少し気になるところだ。

 

「さて、もう寝るか」

「そうだね」

 

ベッドは一つしかないので優の隣で横になる。

 

(別に楯無さんの部屋に行かなくてもいいよね)

話せば優しさを感じられ、手を伸ばせば顔が見えて、手を握れば温かさが伝わる。

そんなカラフルな今がここにあるのだから。

 

「おやすみ、優」

 

そんな世界が続くように祈りながら

くすりと微笑んで僕は夢の世界に飛び立った。

 

 




魔理沙「……随分色んな用語が出たが気にするな。
作者に文句言えばいいんだからな」

作者「実際かなり詰めてしまったと思います。
IS狩りなどは過去編として出す予定ですが先の話なので
分からないと感じたら感想などに書いて下さい。
拙い辭になるかもしれませんが返答します」

魔、作「それでは、ここまで読んでいただきありがとうございました」


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Collision, Who will dance?+α

当て拍子

 

用語としては原作5巻で登場。

律動を合わせることで自在に場を支配する古武術のひとつ。

 

 

 

 

(セシリアside)

 

 

「じゃあ、お願いされたConflictを始めようか」

「はい!」

 

2人っきりで外れにある第7アリーナでそれぞれ機体を展開する。

箒さんを見ると本当に切に感じるですが他の方がいない、2人きりの状態というのはこの学園で作るのはとても難しいです。

そのチャンスを一週間足らずで得られたのは大きいです。

 

「っと言ってもConflictって特別教えることないんだよな」

「と申しますと?」

「簡単に言うと慣れから来る技なんだ」

 

優さんはリブァイブからアサルトライフルを展開し横を向きながら的に放たれる。

得点は10、9、9、8、9、9と高得点。

わたくしも遠距離武器を使っていますがここまではいけないです。

 

「というわけで最初は山ほど引き金を引くことから始まる。

正直、Conflictだけを習得する為に練習するのは効率が悪いんだ」

「では、他の技を学んだ方がいいのでしょうか?」

「ん~…でも接近戦術に関してはConflictが一番なんだよな…。

それにセシリアはそれを知りたくて来たんだし」

 

優さんはう~んと唸りながら渋々ながら答えを出してくださった。

 

「仕方ない。最短で覚えられるようにするか」

「それってスパルタってことですか?」

 

正直、家を維持する為の勉強並のことを要求されてもわたくしはできません。

あの時期は何かがおかしかった。

 

「いや。いくつか注意することで習得への道は近いよ。

当然ながら銃身の確認。セシリアのスターライトMk-3は銃身が長いから特にだな」

「そうですね」

 

詰めすぎると撃てなくなりますしね。

 

「あとは各撃ち方に対する軌道を覚えること。

スコープを覗かない射撃で独自のサイトを持つこと。

例えば、帽子の鍔をそれ代わりにする、とかな」

「はぁ……」

 

つまり何千ともあろう射撃体勢の弾道をおおよそ記憶していると言うのですか…?

眩暈がしますわ…。

 

「優さんは一体どれだけ訓練をしているのですか?」

「まぁ…日によっては一日訓練していた時もあったからな」

「一日中ですか!?」

 

一般的にISの訓練はどんな内容にしても6時間以上は無理。

それだけ体力があるとは…やはり殿方は違いますね。

まさか……

 

「流石に一日やれとは言わないよ。俺もされた時は急を要された時だけだったし」

「ですよね」

「ただ、アリーナの開館時間は限られてるからな」

「……………」

 

(それって)

時間内までは死ぬ気でやれってことじゃないですかヤダー。

 

「さて始めるか」

 

 

 

 

(セシリアside)

 

 

「はぁ……」

 

昨日あんなに撃ったせいで右腕の感覚がおかしくなってます。

途中からは片手で持たされての射撃だったので真っすぐ歩いてるつもりでも右に傾いている気がする。

しかも、撃った弾道を逐一覚えないといけないので訓練の光景が脳裏に浮かび上がる。

大体のコツは身につけましたが、もうあんなことしたくない…。

私も近接型のISを使いたいです。

 

「セシリア」

「優さん。おはようございます」

 

優さんはふわっと柔らかい笑みを浮かべてくれる。

昨日の訓練を乗り越えられたのは本当に優さんの存在が大きかったです。

これが祖国のお堅い人と一緒だったら死んでました。

でも、これ飴と鞭ってやつですよね?

 

「おはよう。これを渡そうと思ってたんだ」

 

小型の銃を渡された。小型と言ってもIS武装。

でも両手なら生身でも使えますね。

 

「これは?」

「スターライトMk-3の拳銃型だな。昨日山ほど撃ったからな。解析する時間があった」

「ありがとうございます」

 

よく見ると自動拳銃にリボルバーが付いている謎過ぎる変態構造。

これは銃弾が実弾ではなくエネルギー弾だからできる芸当ですね。

 

(データ見せたわけでもないのによくできますね…)

操縦技術だけでなく整備技術もあるということ。

優さんの頭はどうなっているのでしょうか?

 

「で、これが予備の弾倉。

でこれが機体からエネルギー輸送させる装置」

 

わたくしの手の中にゴロゴロとあまり見覚えのない装置と説明書らしい紙が山のように積み上げられた。

優さんも一緒に持ってくださるこのシチュレーションはとても嬉しいのですが。

 

「優さん……」

「ん?」

「つまり、これも…覚えないといけないのですよね?」

 

弾道も含めて。

 

「そうだな」

 

爽やかな笑みを浮かべて恐ろしい真実を伝えられた。

あの地獄の訓練をまた……。

 

「容赦ないんですね…」

 

きゅーと倒れてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(一夏side―第三アリーナ)

 

 

シャルルが転校、優が学校に戻ってから2週間。

土曜なのになぜかある授業が終え、やっと迎えた自由時間。

と言っても俺は皆より遅れているから訓練の時間になる。

 

というわけで今はアリーナで優と模擬戦をするところだ。

 

「白式も雪片だけなのか?」

「あぁ。欠陥機らしいからな」

 

俺の言葉を聞いた優はおかしそうに笑った。

 

「雪片があって欠陥機扱いか…贅沢だな」

「零落白夜あっても剣一刀は辛いぞ」

 

さっきのシャルルとの模擬戦見たよな?遠距離武器で舜殺だっただろ……。

 

「じゃあこの勝負、俺が一刀で勝ったら、その言葉撤回しろよ?」

 

優は借りた打鉄の近接ブレードを俺に向けた。

 

「剣道で俺に勝ったことないだろ、優」

「ISと剣道は一味違うことを教えてやるよ、一夏」

 

 

――ガキン!

 

開始早々、俺は瞬間加速で一気に加速して推進力を付けた一撃を振るう。

それを優は肩部の物理シールドをふたつあわせて防いできた。

 

「大見得切った割に受け身から入るなんてな」

「別にでかく出たからって攻撃的に戦うわけじゃない」

「あぁ、そうかい!」

 

1回刀を払い、再び刀を交える。

優はそれも苦しそうに俺の剣を受け流していた。

優はコンフリクトを使ってまで遠距離系を使うことに拘るのは接近戦を苦手にしているからだ。

なら、セシリアと戦った時と同じように近づけばこっちの土俵に持ち込むことができる。

 

「ちっ……」

「逃がさなねぇ」

 

距離を取ろうとする優に瞬間加速で再び肉薄する。

その勢いのまま下段から一気に上段に振り上げ、優の手から刀を弾く。

優はこの流れを読んでいたらしく完全に弾かれる前に収納し再展開して上段から降り下ろしてきた。

が、雪片は優の刀と交わることはなく空を切った。

 

(わざと展開速度を遅くして…!?)

雪片と俺の体の間で刀が完全展開される。そこから一閃を受けた俺はバランスを崩される。

この後、優が言っていたことの意味を身をもって知った。

 

斬ったら武器を収納、すぐに逆の手に展開、斬る、また収納、展開……

 

一刀だけで二刀の乱舞のように次から次へと剣撃が放たれる。

瞬く間に白式のシールドエネルギーは無くなり俺は負けた。

 

 

「大丈夫か?」

「あぁ。ありがとう優」

 

結果を見れば惨敗。

きっとポンポン攻撃できたのも、優が受身の体勢で攻撃を受けてたのも当て拍子を使って俺が攻撃しやすいリズムを作ってたからだろう。

 

けれど、俺は今までISを使った中で一番の確証を得た。

優が見せてくれた連続展開。零落白夜を持つ白式に力は要らない。

相手が防ぎきれない程の手数さえあれば俺は近接戦で最強になれる。

 

「あとは遠距離に対してだな」

「あぁ、それは……」

 

優は何かを言っていたが不意に奥の方で皆が騒ぎ始めたために声はかき消された。

 

「ねぇ、ちょっとアレ……」

「ウソっ、ドイツの第三世代型だ」

「まだ本国でのトライアル段階だって聞いてたけど……」

 

皆の視線の先にいたのはもう一人の転校生、ドイツの代表候補生ラウラ・ボーデヴィッヒだった。

 

『おい』

 

ISのオープンチャンネルで声が飛んでくる。

初対面があれだったのだから、その声は忘れもしない。ラウラ本人の声だ。

 

「……なんだよ」

 

気が進まないが無視するわけにもいかない。

俺がとりあえずの返事をすると、言葉を続けながらふわりと飛翔してきた。

 

『貴様も専用機持ちか。なら私と戦え』

「お前と戦う理由はないだろ」

 

それにここにはたくさんの人がいる。今模擬戦をするのは危険だ。

それに学年別トーナメントも近い。

恐らくそこで戦う可能性は十分あるし、せめて戦うにしてもさっきの連続展開を覚えてからにしたい。

 

『なら、』

 

警告――敵IS攻撃体勢へ移行

 

『戦わざる得えなくしてやる』

 

言うが早いか、ラウラはその漆黒のISを戦闘状態へとシフトさせる。

刹那、左肩に装備された大型の実弾砲が俺に向けられた。

 

――ザクッ!

 

『なに!?』

 

ラウラのレールガンには近接ブレードが深々と刺さっていた。

 

『貴様…』

『ようラウラ。ちょっと度が過ぎてるんじゃないか』

 

ラウラのレールカノンの上に乗り、ラウラに機体の隙間に合わせ部分的に打鉄を展開した優が立っていた。

 

『邪魔をするなら貴様から蹴散らすぞ』

『おぉ怖いこわい。とても軍人の言葉とは思えないな』

 

ラウラは殺気放ちつつ優を睨み付ける。

対して優はリラックスした体勢をとっているが瞳の奥ははっきりとラウラを捉えていた。

この一触即発の事態に周りも緊張が走る。

 

『そこの生徒!何をやっている!』

 

突然アリーナにスピーカーからの声が響く。

異変を感じてやってきた担当の教師だろう。

 

『……ふん。今日は引こう』

 

横やりを入れられて興が削がれたのか、ラウラは機体を収納してアリーナから出ていった。

 

 

 

(シャルルside)

 

 

 

一足早く部屋に戻ったシャルルは優とラウラのやり取りを思い返していた。

 

まっすぐ閃光のようにアリーナを飛翔し一撃で敵の攻撃を刺す。

その姿は訓練機を纏ったものでも凛々しく頼もしいものだった。

 

(僕も、あんな風に強くなれるかな……)

あんなに強かったら僕は………。

 

「……シャルルー、シャルルー」

 

意識を前に戻すと優が僕の前で手を振っていた。

 

「優!?いつから」

「いや、最初から?それより顔赤いけど、熱?」

 

僕の顔が赤いのが気になったのか手を僕のおでこに伸ばす。

 

「大丈夫だよ!うん大丈夫!」

 

慌てて優から離れて話題を変える。

 

「優はボーデヴィッヒさんとも知り合いなの?」

「あぁ。前ドイツ軍にお世話にかったことがあってな。

あの反応を見ると分かるけど仲は良くない」

 

やっぱり委員会、しかもIS界の警察AIFにいると色んな所を回るせいか

学園みたいに1ヶ所しかない施設に行くと親戚が集まった小さなパーティーみたいなものなのかもしれない。

 

「ねぇ……優」

「ん?」

「どうしたら優みたいに強くなれるの?」

「シャルルは高速切替があるからコンフリクトは必要ないし俺がどうこう言うものはないと思うが」

「そうじゃなくてね。その、なんて言うんだろう。人間的にって言うのかな?」

「……………」

 

優は僕の言葉に黙ってしまった。

やっぱりこんなこと聞かれても困るよね…。

 

「……これはセシリアに言ったんだが良くも悪くも経験が必要なんだよ」

「経験?」

「こうして失敗した成功したっていう過程。

もし、シャルルが俺を強いと見えるならその分俺は苦労してるってわけ」

 

それは逆に言うと数日では僕はこの状況を打開できないということになる。

 

「まぁ、なんでもひとりでする必要はないんだ。

助けて欲しがったら言ってくれ。力になる」

「……うん。ありがとね」

「じゃあ、飯でも食うか」

 

簡単に身仕度をして食堂に向かう。

 

僕は優の背中を見つめる。

助けてと言えたらどれだけ楽だろうか……。

けれど言えない。言えばきっと僕は優を殺してしまう。

 

(優、お願い。できたら…僕を助けて)

 

 

 

(優side―寮長室)

 

 

珍しく千冬さんに呼ばれた俺は去年とは見違えるほどの部屋の椅子に座って待っていた。

恐らく以前、授業の時に言った仕事のことだろう。

 

「様子はどうなんだ?」

「普通でしたよ」

 

俺は当たり障りのない事実を報告する。

と言ってもそれは向こうから見た場合だ。彼女から見た場合は何かをしている。

これは後々楽になるかもしれないので報告しないが。

 

「……お前、今回の仕事やる気あるのか?」

「どちらかと言えば俺より向こうの方がやる気がないように見えますけど」

「質問に答えろ」

 

ここには一夏がいるせいかかなりピリピリしたした声で問い詰めてくる。

それだけ余裕がないということだ。

 

「大丈夫ですよ」

 

別に一夏に危険が迫るわけじゃない。

向こうからしたら俺の方が希少価値があるからな。

 

「まぁ俺は向こうが踊らない限り何もしませんが」

「なぜだ?お前は自分でした調査でこの事に対して明確な結果を出している。

状況的な証拠も物質的な証拠もある。なのになぜ踏み込まない?」

「俺には俺のやり方があるってことです」

「……………………」

 

何か言いたそうに口を開いたが納得してくれたようだ。

 

「あと、ボーデヴィッヒのことだがまた揉めたらしいな」

「最初に敵意を向けてたのは一夏でしたけどね」

 

さすが千冬さん大好きっ子。

っというよりその力に惚れていると言った方がいいのか。

だからモンドクロッソ2連覇を逃した原因である一夏が許せないのだろう。

それなら似た理由で俺も殺されそうだが。

 

「お前が手を抜くなり何なりして負けたらどうだ?」

「嫌いな奴ほど目に付くって言葉があるでしょ。

手を抜いたらすぐ気付きますよ」

 

俺の場合、瞳持ちだから使わなかった時点で手を抜かれたとバレてしまう。

誰から見ても分かるくらい瞳に変化が表れるからだ。

 

「それに俺が負けたら助長するだけでしょ」

「まぁな………」

 

もっと根本的な部分を解決しなければならないのだが、俺も千冬さんも中々出来ていない。

まぁ嫌いな奴に説教されて「はいそうですね」と言える人は大人でも少ない。

俺が率先して解決しようとしても悪化するだけだ。

 

 

「まぁこれは一夏にでも任せましょう」

「アイツも嫌われてるだろう」

「大丈夫でしょ。アイツはアイツなりに強いですから」

「まぁ…、そうだな」

「あっ。あっさり認めましたね。やっぱり愛すべき弟に向ける言葉は違いま――」

 

―ガシッ

 

アイアンクローを決めようとする右手を両手で何とか押さえた。

そう何度もくらってたら頭がもたない。

 

「私はからかわれるのは嫌いだ」

「分かりましたんで手を納めてくれませんか?」

 

空いた左手が俺の頭に置かれる。

何をされるのか検討がついたけど手を掴まれてるせいで逃げれない。

 

「あともう1つ、お前に説教をできるチャンスは逃さん」

 

――ギリギリギリギリ

 

思いっきり指先に力を入れられた。

爪が頭に突き刺さってホントに痛い。

 

「止めて下さい!暴力反対!」

「ならとっとと仕事して来い」

 

頭を掴まれたままぽいっと部屋の外に投げ出されドアを閉められた。

 

「いててて…」

 

本当に一夏のことになると融通が利かなくなるな。

こういうのを見るたびにやっぱりあの時ああしといて良かったなと思う。

 

さて言われた通り仕事をしますか。

 

「シャルルー……はどこだ?」

 

隣の自分の部屋を覗くが誰もいる気配がしない。

まぁいつも一緒にいたらそれはそれで問題か。(鈴には白い目で見られてるし)

たぶん、一夏の所にでもいるだろう。

 

俺は足早に寮を出た。

 

 

 

 

 

 

 

(セシリアside―第3アリーナ)

 

 

セシリアは一足早くアリーナで訓練を始めようとしていた。

 

話によるとこの学年別トーナメントに優勝すると男子と付き合えるとか。

何としてでも優勝したいが専用機持ちの多いこの学年、一筋縄ではいかないのは確か。

せめて、この前優さんに教わったコンフリクトをマスターしたい。

 

アリーナの設備で的を出現させ、以前の特訓で優さんがくださった散弾タイプのスターライトを構える。

が、突如放たれた砲弾に緊急回避する。

 

「貴女は……」

 

砲弾が放たれたと思われる場所へ視線を向ける。

漆黒の機体、先日、一夏に敵対心を向けていたラウラ・ボーデヴィッヒの姿があった。

 

「一体何の御用でしょうか?」

「簡単なことだ。腕試しに貴様でも倒す、それだけだ。

訓練機に劣る貴様が腕試しになるかは分からんがな」

 

彼女は卑下するような眼差しで私を見ていた。

 

「その腕試しの先には優さんがいるのでしょうか?

もしそうなら貴女は優さんに勝つことはありません。

貴女と優さんでは持っている力が違います」

「どうだか。教官の存在を消そうとしたヤツなどクズ以外の何者でもない。

そんなものに力について説かれる筋合いはない」

「……貴女が優さんと何があってそう言うのか分かりません。

ですが、優さんは素敵な方です。

少なくとも、ただ力を振り回すだけの貴女と比べては失礼なくらい」

 

目の前の彼女の話が本当なら彼は力がどのようなものか知っている。

持ち過ぎること、それが何を及ぼすのか。

だから力を持ったことで傲慢になることはない。

そんな彼を非難することは誰もできないはず。

 

「どうやら口で言っても分からないようだな」

「えぇ。力が全てだと思う貴女に賛同する気はありません」

 

お互いに装備の最終安全装置を外す。

 

警告――エネルギー反応有り

 

警告とは裏腹に何も見えないが、それらが地面に当たったことで何なのか理解した。

ラウラさんはそれを手を出すことで防ぐがさらに武器が投擲されたために回避行動を取る。

 

「まったく。見てれば人は叩くし他人をクズ呼ばわり。もう少しまともなことは出来ないのかしら」

「鈴さん」

 

彼女は投擲していた双天牙月を再展開して肩にかけながらすでに戦闘体勢の龍砲を彼女に向けていた。

 

「この戦い。混ぜさせてもらうわよ。

良いでしょうジャガイモウサギ?

どうせ私も訓練機に劣る人なんだから」

 

挑発するような言葉と皮肉が出てくる。

彼女も優さんの1面を知っている。

彼女なりに優さんを認めていることがわかった。

 

「ふん、好きにするといい。

貴様もあのクズを擁護するというなら叩き潰してくれる」

 

ボーデヴィッヒさんはわずかに両手を広げ自分に向けて振る。

 

「気を付けなさいよ。さっき衝撃砲を止めたアレ、AICよ」

「分かってますわ」

 

―AIC

日本語では慣性停止能力と言う。

恐らく鈴さんの衝撃砲と同じようにエネルギー制御によって対象の動きを止めれるのでしょう。捕まった後にレールカノンで撃たれたら即死でしょうね。

それだけは避けたいところ。

 

「とっとと来い」

「ええ!」

「上等ですわ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(一夏side―校舎内)

 

 

ピピィ、ピピィ、ピピィ―――

 

「おぉなんだ?ISが信号をキャッチ?」

「これはEmergency Callだね。ISがエネルギー的に、またはシステムに問題がある時、他のISにその危険を伝えるシステムなんだけど……」

 

シャルルの話す声がどんどん小さくなる。

シャルルの説明が正しければ、それは普通学園で発せられるものではない。

そうなると何か問題が起こっているということ。

 

「そのCallを出してるISってどこか分かるか?」

「こっちの方だよ」

「第3アリーナの方か……。急ごうシャルル」

「うん」

 

 

 

 

 

 

 

(セシリアside)

 

 

「鈴さん!」

 

インターセプターを投擲しワイヤーブレードを切断した後、ビット2機を鈴さんの脇に挟ませ移動させる。

 

「1回下がってください」

『バカ、アンタの装備じゃ』

「大丈夫です」

 

鈴さんと入れ替わるようにボーデゥィッヒさんに接近する。

 

『ふん。遠距離のブルーティアーズが接近戦など』

 

勿論、近接武器がインターセプターしかない私が接近戦をするのは無理があるし、したくもない。

彼女のワイヤーブレードを上へ回転しながら回避しつつ散弾型のスターライトで攻撃をする。

 

『コンフリクトか。だが、このレーゲンには効かん』

 

ボーデゥィッヒさんは16個もあるワイヤーブレードを12個わたくしに回し捕らえようとしていた。

通常のスターライト、更にビットを展開し彼女に応戦する。

とにかく、負けることだけはできない。

神経を集中させ光弾でワイヤーブレードを撃ち抜き、レールカノンの軌道を自分から逸らす。

 

駆け引きについに彼女はAICを2面展開してわたくしの光弾とビットの動きを止めた。

 

「止まりましたわね」

『お前もな』

「えぇ。私だけが」

 

彼女の言葉に細く微笑む。

確かに、私はビットを操作しながら別の行動することは殆どできない。

けれど、わたくしは一人じゃない。

彼女の後ろには最大出力の龍砲を構えた鈴さんがいた。

2門の龍砲の砲撃により辺り一帯が煙に覆われた。

 

「鈴さん、大丈夫ですか?」

「何とかね。全く、アンタも無茶するわね」

「苦情は後で。これなら――」

 

言葉は途中で止まる。

霧が晴れ、そこに佇んでいるのはあれだけの攻撃を受けながらもほぼ無傷の彼女だった。

 

『終わりか? ならば――私の番だ』

 

 

 

 

 

 

(一夏side)

 

 

アリーナにたどり着いた俺達が見たのは模擬戦なんかではなかった。

ワイヤーブレードで拘束するだけならまだいい。

だが、ひたすら殴った後にそのワイヤーブレードで自分の足元に引きずり戻すその様は暴力と言っていい。

 

「おい!やめろラウラ!」

 

まずい。ブルーティアーズもEmergency Callを発するようになった。

鈴の甲龍もデッドラインに入っている。

このままISが解ければ二人に命が危ない。

 

「来い百式!」

 

零落白夜を発動しアリーナのシールドを破壊しアリーナの中に入る。

 

「その手を離せ!」

 

瞬間加速で一気にラウラの懐に入り零落白夜を展開させる。

が、俺の体は何かに押さえつけられたかのように動かせなくなった。

 

「こんなものか……」

「くっ、この…」

「やはり貴様も教官を汚す存在。失せろ」

 

腕部からプラズマブレードが展開され俺の首元を狙う。

何か、この状況を方法は―――

 

―ガキン!

 

「なに!?」

「……どうやら動きを止めたのは雪片だけだったみたいだな」

 

そうなら1回収納して再び展開すれば良い。

優との模擬戦での教訓がここで役に立つとは思わなかった。

 

シャルルが この隙をついて銃弾を撃つ。

体勢を崩したこのタイミングでの攻撃は痛かったらしい。

ラウラは回避行動を取らざる負えなかったようだ。

 

『一夏!今のうちに二人を助け出して!』

「分かってる!」

「織斑 一夏、貴様だけは逃がしはしない」

 

劣勢でありながらもラウラは半分の8個のワイヤーブレードを俺に回してきた。

 

(頼む、出来てくれ…-)

 

意識を集中させ優が教えてくれた連続展開を行う。

中途半端ながらもワイヤーブレードに拘束されることだけは避けれた。

 

「二人共、掴まってくれ」

「えぇ……」

「助かりますわ」

 

一気に離脱を図り二人に負担が重くならない程度に加速する。

瞬間加速特有の発動感覚が広がった矢先、背中から衝撃がきた。

俺の逃げ道を予測してラウラがカノン砲を撃ってきたのだ。

 

何とか二人を守ったが直撃を受けた百式が強制収納されてしまった。

 

「一夏!!」

「余所見している暇はないぞ」

 

俺達が攻撃を受けたことに気がそれてしまったシャルルは一瞬でワイヤーブレードに拘束されてしまった。

 

「所詮その程度か……。なら貴様に用はない――消えろ」

 

生身の俺達に容赦無く再度カノン砲が撃たれる。

 

――バアァァァァン!

 

俺らに当たる前に何かによって砲弾の軌道が大きく変わりアリーナのシールドに着弾した。

 

(いったい……何が………)

朦朧とする意識の中、目を開けるとそこには風を纏う淡緑の機体が俺達の前に立っていた。

 

 

 

 

 

アインス

 

亡国機業がIS狩りに使った機体(=亡国機業が世に見せた初めてのIF)。

またはアインスの操縦者(未公表)のことを指す。

 

アインスは総称であり、実際は複数の機体を所持している。

 

 

 

 

 

 

 

 




いかがでしょうか?

字数が少ないことは申し訳ないです。
5000文字も10000文字も書ける気はしないです。

その他、ご要望などがあれば教えて下さると嬉しいです。

それではまた次話また会いましょう


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Who will dance?(Qui va danser ?)―2

レヴァ

 

アインスの機体の一種

淡緑にオレンジのラインが入っているのが特徴

単一能力は風を操る「ミスティル」

 

武装は十種類程の槍

(主に赤槍「アキュレス」黒槍「ブラックスピア」を使う)

と双短銃「ブランディストック」

 

ISの基準では第2世代にあたる。

 

 

モデル―遊戯王「ドラグニティアームズ―レヴァテイン」

 

 

 

(シャルルside)

 

(あれは……)

 

一夏達の前に立つ機体を凝視する。

淡橙の羽織に淡緑の装甲。

今のISには採用されていない素顔を隠す龍のお面のようなバイザー。

間違いない。アインスの中の一機「レヴァ」

 

「やはり出てきたか」

 

ボーデヴィッヒさんはアインスを見て満足そうに微笑んだ。

そのアインスはすでに彼女の視界から外れ、一夏達を観客席に運んでいた。

 

(速い……!)

同じ瞬間加速なのに自然体でするせいかまるで瞬間移動したように見える。

 

『ラウラ、今すぐISを収納しろ』

「ふざけるな!」

 

ボーデヴィッヒさんはアインスの反応が気に入らないのかレールカノンを放つ。

しかし、アインスは短銃を展開。砲弾を全く見ることなく誘爆させた。

その間にワイヤーブレードを切断して僕を助けてくれた。

 

『大丈夫か?』

「あっ、はい……」

 

性別の判断がつかないマシンボイス。

だからと言って冷たい、無機質といったわけでもない不思議なものだった。

 

『アインスを確認――赤い靴発動』

 

途端に頭の中でオーケストラの演奏が流れ意識が遠退く。

なのに右手は勝手にアインスの首へと動いていった。

 

(…ダメ!ここで起動しないで!)

 

朦朧とする意識で左手を動かし右手を抑える。

そして、機体が本格的に暴れる前に無理矢理収納させた。

そうしなければ機体が何をするか分からなかったから。

 

「はぁはぁ………」

『……………』

『どうやら足枷がもう一人できてしまったようだな』

『人を邪魔物のように言うなと以前言ったはずだが……』

『貴様は例外だろう?

貴様はここで消えても誰が、何を言う?』

『…………………』

 

彼女の言葉にアインスは黙ってしまった。

対して彼女はここでアインスがこうなることを分かっていたのか攻撃してきた。

アインスはワンテンポ遅れて僕を抱えてワイヤーブレードを回避する。

けれど僕は生身の状態。複雑な3次元回避ができない上にワイヤーブレードは16個。

 

あまり動けない内にAICに捕らえられる。

僕に対してはAICからワイヤーブレードに変えて適当な場所に投げ捨てられた。

 

「お前も死ぬ前に見てくと良い。コイツの素顔をな」

 

ボーデヴィッヒさんはアインスの顔面を思いっきり殴る。

シールドエネルギーで防がれなかった拳は顔を覆う仮面を砕いていった。

 

仮面が無くなり、素顔が見え隠していた髪が表に出る。

まるで女の子ように長い金髪、左右で若干色の異なる金眼、白い肌。

 

間違いなく優だった。

 

 

「ふん。その顔相変わらずだな。気にいらん」

『…………………』

 

何の前触れもなく空から大量の槍が雨のように降ってきた。

それを回避するためにボーデヴィッヒさんは距離をとる。

 

『もう一度言う。ラウラ、今すぐISを収納しろ。

俺はこの場を納めるためだけに来た』

「ふふふっ、ははははは!」

 

ボーデヴィッヒさんは優が言ったことがおかしかったようで笑っていた。

 

「私は待ち望んでいたのだ。お前と戦えるこの時を。

その私がこの絶好の機会を逃すと思っていたのか?」

『それは授業の時でもいいだろ』

「それではダメだ。私は他を圧倒する力、アインスを使うお前の全力と戦いたいのだ。

そして、その力を使わせる手段はここにある!」

 

彼女は僕にカノン砲を向けた。

 

『てめぇ!』

 

瞬間加速を仕掛けようとした瞬間、地面からワイヤーブレードが現れ優を捕えた。

 

「さぁ貴様には私のために消えてもらおう」

 

―バァアアアン!

 

再び爆音がアリーナに響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

(来ない………)

 

カノン砲が炸裂した音は確かにした。

けれど、衝撃も痛みも全く来ない。

僕は少しずつ目を開けた。

 

それは不思議な光景だった。

僕の周りに数本の槍が地面に突き刺さり、僕を守るように風が纏ってくれている。

ボーデヴィッヒさんの表情をみる限り、これがあのレールカノンを防いだのだろう。

 

「……貴様、何だその能力は…」

 

ボーデヴィッヒさんは困惑した表情で優を見る。

いや僕を含めここにいる誰もがそう思う。

なぜなら優は未だにワイヤーブレードによって拘束されているのだから。

 

『ミスティル』

 

地面に刺さっていた槍がひとりでに抜け回転して僕に絡み付くワイヤーブレードを切断してくれた。

槍の付近は明らかに風の流れが違う。

槍を動かしているのも、僕を守ってくれたのも風を操るレヴァの能力なんだと感じた。

 

『シャルル、できるだけ下がってくれ』

「うん」

 

一夏が零落白夜で開けた穴の近くに避難する。

 

『ありがとう。少しだけ待っててくれ。すぐ終わらせる』

『ふん。どんな能力が使えようと動けないお前など脅威ではない!』

 

ボーデヴィッヒさんはプラズマブレードを展開して優に肉薄した。

 

『単一化』

 

優の機体の装甲に紫電が走り吹き飛ぶ。

勢いよくパージした装甲は拘束していたワイヤーブレードを断ち切り、そのまま彼女のところにまで飛び散る。

至近距離で、しかも装甲が能動的に外されることは意外そのもので彼女はAICで装甲を防いでいた。

 

「ミスティル」

 

展開した槍に風が貫通力を上げるために回転しながら纏われる。

 

まだ動きの止まったままの彼女に順に強化した槍を至近距離で投擲する。

一本目、二本目はAICで防ぐが三本目の槍がボーデヴィッヒさんを襲った時、彼女はAICを切って回避行動に移る。

けれど、それより先に優が踵落としで地面に叩き落とした。

 

『ぐっ…………』

 

再び動こうとする彼女の視線の先に三本の槍が囲むように彼女の回りに立てられた。

それはその気になればいつでも倒すことができると言っているようだった。

 

『ラウラ、次同じことしてみろ。その時は容赦しない』

 

その時、いつも笑ってる優が初めて怒りを露にしてボーデヴィッヒさんを見ていた。

その瞳には鈴やセシリア、一夏を傷つけたことに対してだけでなく、何か大切なものにまで土足で入ってきたことにも怒っているようだった。

 

それを見た彼女は逃げるようにアリーナを出ていった。

 

『ふーー』

 

優はさっきとは一転して安堵したようで一息漏らしてアインスを収納する。

けれど僕達を見た瞬間、悲しそうな辛そうな顔をしてボーデヴィッヒさんを追うように優もアリーナを後にしていってしまった。

 

 

 

 

(一夏side―医務室)

 

「ここは……」

 

見覚えのある白い天井が見える。

無人機の時と同じようにまた奥のベッドで寝ているようだ。

いや、何か忘れてる……。

(そうだ。俺は……)

 

「鈴、セシリア!うっ……」

 

勢いよく起き上がったはいいが体の痛みに走る。

 

「一夏」

「箒……。二人は?」

「大丈夫だ。お前よりは軽傷だ」

 

医務室を見回す。他にいるのはシャルルだけでシャルルはケガしなかったみたいだ。

さすが代表候補生、俺とは違う。

 

「シャルルありがとな。あの場を納めてくれて」

「ううん。僕は何もしてないよ」

 

疲れているというより心ここに有らずのような感じ。

箒も何か考えて事いるようで何やら難しい顔をしている。

(そういえば……)

 

普段より重症気味の生徒が出たのに保険医の姿が見当たらない。

 

と思ったら圧縮空気のいい音とともに医務室のドアが開く。

そこには治療を終えた鈴とセシリア、保険医の平野先生だけでなく山田先生、そして千冬姉もここに入ってきた。

 

「目を覚ましたか一夏」

「千冬姉、――」

 

俺が続きを言う前にバッシーンっと出席簿で叩かれた。

 

「この馬鹿者が。

黒川がいなかったらどうなったか……」

「優が?」

「…そうか。お前はそこまで見てなかったのか」

「?」

「二人共、織斑に見せても――」

「はい。ここまでくると隠すのは無理だと思います」

「私もそう思います」

 

千冬姉の言葉に二人の先生は何かに賛同した。

 

「デュノア。織斑に活動記録を見せてやれ」

「はい」

 

空中投射のディスプレイが渡される。

映像で見えるのは意識を失う前に見た風を纏う淡緑の機体がラウラの機体と対峙しているところだ。

途中、付けていた仮面がラウラによって破壊される。

 

「どういうことだよ……。なんで優が…」

「それが黒川がISを使うことができ、AIFに属してしる理由だ」

 

つまり優がアインスだと……。

 

「ほんとに優がアインスを……?」

「えぇ」

「そうよ。アイツはアインスを使って私達を助けてくれたの」

 

二人は言いにくそうに俺に告げてくれる。

二人がそういうんだから優がアインスなのは本当なんだろう。

 

「念のために言っておく」

「亡国機業の活動が活発化しているのにも関わらず私達が演習ごっこができるのはIS、IFが前時代兵器より希少で戦闘が拡大しないのもあるが、一番はアイツが世界を駆け回っているお陰だ。それを浪費してまで下らないことはするな。いいな?」

「………はい」

 

どんな理由であれ模擬戦の範疇を超えてのISの使用に対する注意。

けれど、それは注意と呼ぶには重かった。

 

「ケガはもう大丈夫だろう。

今日のことは他言するなよ」

 

説明するようなことは終わったのか部屋を出るように千冬姉に手を振られた。

 

「千冬姉」

「なんだ?」

「後で話があるんだ」

「……分かった。後で向かう」

 

 

 

 

(シャルルside)

 

 

(優が、アインスか………)

 

確信はなかったけど、何となくそんな気はしてた。

前、優は一夏に代用が利く議会や裁判には属さないっと言ってた。

逆に言えば優がAIFにいるのは他に代用が利かないから。

そして、そのAIFで一番代用が利かないのはISが吸収されるISISに対して唯一の

有効手段のアインスだけ。

 

 

――ガチャ

 

「ただいま」

「あぁ、シャルルか……」

「優?」

 

ベッドで横になっていた優が少し体を起こす。

いつもと違ってどこか態度がよそよそしい。それに目に光がない。

 

「どうしたの?もしかしてアインスは使うだけでも何か影響あるの?今、何が必要?」

「シャルル……」

「ん?」

「俺のことが恐かったりしないのか?」

 

優は僕の反応がおかしかったのか、ちょっとキョトンとした顔で僕を見ていた。

 

「恐くないよ。どうして?」

「前、学園でバレた時は銃を突き付けられたから」

「…そっか。優、ちょっとだけ目閉じて」

 

膝立ちになってぎゅっと優を抱き締める。

 

「これが僕の答え」

「シャルル…」

「優がいなかったら僕は死んでたかもしれないから。

優に助けられて嬉しかったよ」

 

僕の言葉が本心だって分かってくれたのか少しだけいつもの優に戻った気がした。

 

「どうしてボーデヴィッヒさんは優を敵対視するの?」

「ラウラは千冬さんが好きだからな」

「え?」

「半年間ぐらいだけど千冬さんに教えて貰ってたんだよ。

その時に惚れたんだろう。同時に俺は憎き敵になってわけ」

「そんな。だって……」

「まぁそれが現実だ」

「現実なら優は悪くない!」

 

だってあの事件を起こした時、優の意志は欠片も反映されてなかった。

織斑先生と戦った時だって本当はもう戦える状態じゃなかった。

同じ立場だから分かる。あの時、優は千冬さんに殺されることでIS狩りを終えようとしていたんだ。

 

「そう言ってくれるなんて思わなかった」

 

優はちょこんと顔を僕の肩に置く。

 

「……ちょっとこうしてて良いか?」

「いくらでもどうぞ」

 

母親が子供をあやすように背中に手を当てる。

ゆっくり体を僕に預けてくれた。

 

「ありがとう」

 

小さい声だったけど、1回だけお礼を言ってくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「優」

「ん?」

「ごめんね……」

 

袖の中からスタンガンを取り出して優を気絶させた。

 

 

 

 

 

 

(一夏side―カフェ)

 

 

 

適当なテーブルに目を付け座る。

学園の食堂に隣接しているここは、本来夜のこの時間帯には閉まるのだが無理を言って開けてもらった。

 

 

「それで、私を呼んだのは優のことか」

 

千冬姉の言葉に頷く。

なんで千冬姉が預からなきゃならなかったのか?

普通、個人ではなく、委員会が監視するのが筋じゃないのか?

 

どう考えてもそれが分からなかった。

委員会がそうしたのも、千冬姉もそれに応じたことも。

 

「一夏、お前は優の正体が分かるまでアインスをどう思っていた?」

「そりゃあ…。近い言葉で言えば“悪”だって思った。

どんな理由があっても人を殺していいわけじゃないから」

「綺麗な回答だな。そう言ってくれないと困るが」

 

(綺麗な回答……?)

その意味はよく分からないが今知りたいこととは違うので置いて置く。

 

「じゃあ、なぜアイツはそんなことをしたと思う?」

「そりゃあ、やっぱり殺意の類いがあったからとか?

じゃなかったら……」

 

―バッシーーン!!

 

最後まで言い切る前に思いっきり出席簿で叩かれた。

容赦ない一撃に額がテーブルにぶつかった。

それだけ俺が間違ったことに怒っているんだと顔は見れなかったけどそれを感じた。

 

「授業でも言ったはずだ。

Slave Mode、AIによるものでそこにアイツの意志など無かったと」

「じゃあ……」

「アイツだってそんなことは分かってる。

だから、あの戦い以外峰打ちで終わりにしている」

 

 

 

 

「IS狩りの直後、何が原因でSlave Modeが発動するなんて全く分からなかった。

だからアイツは私のもとを離れようとしなかった。当時、唯一アインスに対抗できる私から」

「それまで優は一人の時どうしたんだ?」

 

そうだとしても、千冬姉が連れてくまで委員会が預かってたはずだ。

 

「同僚の話だと全く眠らず他人と距離を取っていたらしい。

そのせいで倒れることも多々あった、っと」

「……優も大変だったんだな」

「あぁ。ある意味、IS狩りの一番の被害者は優だからな。

12、3の子供にしては失ったものが多過ぎた」

 

そうか。IS狩りは6年前の出来事。

そんな子供にあんなことをさせるなんて酷い話だな……。

 

「話はもう良いか?」

「最後に、優は委員会の仕事以外でアインスを使ったことは?」

「ない。そもそも委員会に籠りきりで心配になる」

「そっか」

 

アインスを持っている人が信用できる人で良かった。

 

「なら、早くデュノアの所にも行かないとな」

「シャルルの所に?」

「後で寮室が血生臭い現場にされたら私の管理能力が疑われるからな」

「……………………」

 

いつも自分の部屋を掃除してもらっている人が何を言っているのだろうか。

 

「まぁ、アイツはお前と違って“優等生”だし誤解はしてないと思うが」

「ぐっ……」

 

ここぞとばかりに痛いところを突いてきた。

 

「どうせ下らないことを考えてたんだろう。お返しだ」

 

話を一段落着けた俺達はここを貸してくれた従業員にお礼を言って寮に戻った。

 

 

――コンコン

 

「デュノアいるか?私だ」

「…………………」

 

千冬姉はノックを繰り返す。けど、部屋から返答は全く無かった。

 

「デュノア?黒川?」

「…………………」

 

不審に思った千冬姉がドアノブを回す。

普段鍵が掛かっているはずのドアが開いた。

 

「!?」

 

異常を感じたのかそのまま勢いよくドアを開けて中に入る。

その部屋には誰もいなかった。

 

 

 

 

(優side)

 

 

意識が朦朧とする。

体が泥のように重い。

 

(睡眠薬を大量に盛られたか……)

 

とりあえず誰かが来る前に見える範囲だけでも状況を確認する。

 

俺自身は鎖に繋がれた手錠で拘束されている。

部屋ははめごろしの窓にひとつしかないドア。

荷物は部屋に戻った時と同じ手荷物。

圏外で使えないが端末数台はここにある。

GPSの処理とかが面倒なせいか。

逆に身に付けていたアクセサリー類は没収。

IFも待機状態は怪しまれないようにアクセサリーなどが待機状態になっていることを知っていたのだろう。

後、ここを強行突破されないようにミリータも盗られたな。

 

 

 

 

ガチャ――

 

 

 

「…シャルロット」

「いつから僕のことを?」

「学園に戻る前からだ。まさか、こんなことをするとは思わなかったな」

「なら僕がなんのために来たかわかるよね」

 

シャルロットはリヴァイブを展開し俺に銃を向けた。

 

「優、アインスのセキュリティはどうやって解ける?」

 

どうやら持ち出した主はセキュリティの解除中らしい。

 

「…シャルロット。何のためにこんなことをしている?」

「………………………」

「自分を苦しめてまで何がしたい?」

「うるさい!」

 

放たれた銃弾は俺の横の壁に穴を開けた。

 

「優にわからないよ…。僕の気持ちなんか……」

 

シャルロットは奥歯を噛み締めて、苦しそうに小さく言った。

その瞬間、突如発生した雷は俺の手錠とシャルロットが構えていた銃を破壊された。

 

「なんで……。どうして……」

「まぁ…アインスの能力?」

 

本当は色々とあるのだが今はそれより……

新しく展開した銃を退けてまっすぐシャルロットを見る。

 

「俺にもその気持ちはわかる。俺も大人に利用されてきたことがあるから」

 

子供が社会的に自立できないことをいいことに法外なことを強要する。

亡国機業も似たようなものだった。

 

「だから何!そんなこと僕には!」

「だから俺が助けてやる」

「え…………」

 

シャルロットは俺が何を言ったのか分からなかったように呆然と俺を見ていた。

 

「助けてやるって言ったんだよ。

お前を縛っているもの、苦しめてるもの全部、取っ払ってやるって」

「…………………」

「だから、そんな無理すんな」

 

壊れそうなほど小さく見える彼女をそっと抱き締める。

リプァイブの展開が解けてシャルロットは俺の胸の中で泣き崩れた。

 

 

 

(シャルロットside)

 

 

あの後、優の言葉に泣き崩れたてた。

僕にそんな言葉をかけてくれる人なんてお母さんがいなくなってから誰もいなかったから、

その間優はずっと僕を膝の上に乗せてこの前僕がしたように背中を軽く叩いてくれた。

 

「大丈夫か?」

「うん。もう大丈夫。ありがと」

 

名残惜しいが立って優の膝の上から離れようとする。

けど、何故か優に肩を押さえ付けられて動けなかった。

「優?」

「さーて、落ち着いたばかりで悪いが言いたいことがある」

「ん?なに?」

 

―グリグリグリグリ

 

「痛い!痛いよ優!?」

 

くの字にした両指で思いっきり頭を弄られた。

 

「まったく。何の為に俺がAIFだと言ったと思う?

お前がヘルプ出せるようにする為。

せめて、何らかの形で俺を利用できるようにする為だよ。

それなのにお前ときたらスタンガンに大漁の睡眠薬。俺を殺す気かよ」

「ご、ごめん………」

「それに学園の特記事項で外からの圧力は無くなるっていうのに自分から学園の外に出やがって。

何の為に学園に入れたと思ってる?」

「で、でもリブァイブ通して監視されてるから、いつか暴走させられちゃうんだもん」

 

――グリグリグリグリ

また指で頭を弄くられた。

 

「痛い!」

「ほう。それは大した自信だな。

こっちは能力がそこそこ強いせいで能力制限、一機は使用禁止を受けてる機体だぞ?

それが第二世代ごときのIS一機に遅れをとると思ったのか?」

「そ、それは………」

「しかもだ。俺がいなくたって千冬さんを始めとして各国の実力者の先生方、楯無を始めとする代表達がいるんだぞ」

 

……………………………

…………………

 

「優は……僕がバカだって言いたいの………」

「あぁ。当たりだ。このことに関してはお前はバカだ」

 

薄々感じていたのを聞いたら即答された。

そのことに頭の中で何かが切れたような気がした。

 

「優だってIS狩りで僕の気持ち分かるんでしょ!

僕が『助けて』って言える状況じゃないって!」

「そういう時はあえて赤い靴を使えばいいんだよ。

事後で調べればお前が強要されたってすぐわかるんだから」

「そんな身勝手なことできないよ!」

「じゃあなんだ?

理不尽な責任背負わされて殺されても良いって言うのか?」

「そ、それは……」

 

膝の上で抱き上げられた状態だったのを押し倒される。

 

「ちょっ、優……」

「ったく、聞いてれば言い返してきて、なに?助けてもらいたくないの?」

「それは、…助けてもらいたいです……」

「なら少しは素直になれ」

 

優の顔が近付いて来る。

髪がくすぐったい。聞こえる吐息に意識してしまって顔が赤くなる。

 

(そんないきなり……。でも優なら…)

 

上のボタンを開けられ、そこに優がうずくまるように顔を入れる。

優の唇が僕の首筋に触れる。

 

 

そのまま…………

 

(あれ……?)

何も起きない。

普通、このままスキンシップを取るはずなのに…。

不思議に思って目を開けると僕から顔を離していてリブァイブの待機状態の首飾りを口にくわえていた。

 

「証拠のご提示ありがとうございます」

 

僕の気持ちなんて知らずにニコニコと笑ってる。

つまり、今までしてた紛らわしい行動は首飾りを取るだけだと……。

 

「………………」

「ん?どうした?」

「……この、バカ優!」

 

バシーン!

 

織斑先生の出席簿アタック並みにいい音が部屋に鳴り響いた。

 

………………………………

………………………

……………

 

 

「ふう」

 

今まで溜まってたものを大声出したり暴れたりして吐き出したおかげで体が軽くなったような気がした。

 

「理不尽だ……」

 

頬に見事なほど真っ赤な紅葉を付けた優が小さい声で異を唱えてた。

 

「優が悪いの」

 

人の気持ち弄んで、1回馬にでも蹴られればいいんだ。

 

「で、どうやってここから出るの?」

 

盾殺しはここに入れられる前に外されちゃったし、赤い靴がある以上リブァイブを展開するのは危ない。

 

「そうだな。まずはコレを持ってて」

 

ひょいと優が携帯端末を僕の手の上に乗せる。

 

「これは?」

「ん?アインスの待機状態」

「え?」

 

優の言った言葉が理解できなかった。

企業秘密の塊みたいなものを、しかもさっきまで欲しがっていた人に渡すなんて。

信用してもらっているのか、はたまた図太いのか……。

それより……

 

「アインスの待機状態ってもっと小さいんじゃないの!?」

「機体が10近く入ってるんだぞ。アクセサリーの類いに収まるわけないじゃん」

「…あはははは」

 

アクセサリーの類いだと思ってた。

ホントに僕は優に言われた通りバカなんかな……。

なんか色々自信無くした。

 

「わざわざ機体を持ち替えた理由の一つは赤い靴を使えないようにする為」

「え?だって優はISに乗れるんじゃないの?」

「俺は一夏と違ってアインスのコアを代用してるだけで本質的に適性はないんだ」

 

なるほど。どんなシステムがあってもISが起動できなきゃ話にならない。

デメリットになるところをあえて使うことでリスクそのものを無くしたんだ。

 

「僕がアインスを使って脱出すればいいんだね」

「残念ながら委員会の調査でアインスは俺以外使えないし、使えたとしても千冬さんの出席簿アタックよりも痛い仕打ちが待ってるから無理だ」

「……じゃあここから出れないじゃん」

「そこでさっきの雷だ。ちょっと壁側まで行ってくれないか?」

 

言われた通り、壁に寄り掛かる。

対して優は僕と反対側の壁に進んで行った。

 

「さっきの雷は簡単に謂えば操縦者保護の一つで俺が命の危険にある時やアインスと距離がある時に発生する。

で、この雷サンダーフォースって言うんだが、元は一機体の技の一つだ。

つまり………」

 

僕が持っているアインスの待機状態から雷が展開された。

壁に突きの体勢を取る。雷は優の意志を読み取ったかのようにドリルの形をして腕に纏う。

 

――ガラガラガラ

 

「この位の壁ならアインスを展開しなくても破壊できるわけ」

 

 

ずっと僕が悩んでいたのがバカみたいに

あっという間に取り払われた

 

「じゃあ行きますか。色々取り戻しに」

 

優は僕の頭をくしゃくしゃと撫でながらにっと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「解析の結果はどうだ?」

「はい。IFの波長と思われるものが検出されました。ただいまセキュリティ解除中です」

「そうか。続行してくれ」

「了解しました」

 

 

やっとだ。

始めは織斑一夏を狙っていたが、それ以上の上玉アインスが学園にいる。しかも同室ときたものだ。私はシャルロットにアインスを連れてくるように命じた。

そしてそのアインスを手に入れた。

これでわが社が不動の地位を築くことができる。

 

―バン!

 

突如ドアが乱暴に開かれる。

そこにいるのは……

 

「Bonjour(ボンジュール)、Dunois président (デュノア社長)」

 

幽閉したはずのアインスとシャルロットだった。

 

 

 

(デュノア社長side)

 

「Bonjour(ボンジュール)、Dunois président (デュノア社長)」

 

アインスはドアを開けた乱暴さとは対称的に微笑んで私に挨拶をしてきた。

 

「黒川君。いくら君でも普段はアポを取ってくれないかな?そしてドアを蹴り開けないでほしい」

 

私が彼の動きを知っているのは不自然なので平静を取り繕う。

 

「今日はAIFの仕事で、貴方を捕まえに来ました」

「何の罪で?」

「窃盗。しかもアインスの」

 

こともあろうか、アインスはストレートに「盗まれた」言った。

 

「何の根拠で?まさか、私の子が君に何かしたからか?

だとしたらそれはシャルロットの独断での行動であって私は何も関わっていない」

「そんな……」

 

シャルロットは落胆の声を漏らす。

当たり前だ。お前はわが社存続の糧でしかない。

 

「そうですか……」

 

バサッバサッ――

 

アインスは持っていた紙を吹雪のように散らせた。

 

「『赤い靴』システム

この資料は以前、調査の関係でここに来た時拝借したものです」

「………………」

「随分物騒なシステムですね。Slave Mode に酷似している。

競技の枠を超えたシステムを作って一体何に使うのですか?」

 

私の机に流れて来た一枚をざっと読む。

文書の内容は本物。

間違いない。アインスは私の策略を知っている。

 

「それは亡国機業が再びIS狩りを行った時、最悪の場合を想定してのシステムだ」

「いくら正当防衛のためとはいえ、委員会の申請なしにこのようなシステムを作られるのは遺憾です。出回っているリヴァイブをこれから我々が調査することになります。構いませんよね?」

「……………」

 

彼は私にシャルロットが持っているはずの待機状態の首飾りを見せつける。

アインスは私が動くのを待っている。

この状況で私が動けば、『赤い靴』がシャルロットのリヴァイブの中にしか入っていないことを肯定するからだ。

が、このまま黙っていても調査で分かってしまう。

そして、それはデータを盗もうとしたことに直結する。

 

 

(…このクソガキが!)

 

そこで閃く。

アインスのミリータからマシンガンを展開し二人に向ける。

 

「その行動はリヴァイブを見られると困ることがあるからと見てよろしいのでしょうか?」

「だとしても、できるものならやってみろ」

 

そうだ。アインスは今、私達の手にある。靴のせいでシャルロットのリヴァイブが使えない今、奴らに自衛の手段はない。ここで殺し口封じをすれば問題ないのだ。

 

「社長、面白いことを一つ」

「アンタの言うアインスは、俺からのプレゼントです」

「ほう。それは有り難い」

 

表情一つ変えないと思ったら死に際を予期したらしい。

その予測ができたなら、ここに足を入れなければいいものを。

 

「それは意外ですね。まさか中身のない偽物で満足して下さるとは」

「な…に……」

 

突如、解析を行わせていたラボから大量の花火がうち上がった。

 

「なんだあれは!?」

「あれが偽物の中身です。ユニークでしょう?」

 

爆発音と派手な色で社員を含む人が打ち上げ地点を見た。

最終的に外から丸見えの状態になり何発かは高くうち上がっていった。

 

(これではあのラボの目撃者が数えきれないほどに……)

 

「偽物だから当然、俺しか持っていないし、俺以外の人間が持つ意味はない。

ですが何故、貴方の会社の人間が持っているのでしょうか?」

「それは………」

 

この状況を覆す言葉を返すことができなかった。

 

「デュノア社長。委員会に来ていただけますね?」

 

『社長、アインスにコア・ネットワークとは別に、発信機、GPSと思われるものが――』

「……………………」

 

アインスはこうなることを想定していた。そして私は愚かにも自らその証拠を並べてしまった。

皮肉にも踊ったのは私。こうなった以上、捕まれば私の人生は終わりだ。

 

(どうすればここから…)

 

 

狭い通路ならアインスを展開できない。

そしてアインスも一役員。ならば――

 

「来い!」

「きゃ!」

 

シャルロットを盾にして非常用の通路を通る。

 

「動くな!!動けば……」

 

ガシャ――

 

シャルロットに向けたはずの銃はアインスに取られ、私の脳天に構えられていた。

 

「悪いけど逃がさねえよ」

 

アインスは風のように私の横にいたシャルロットを抱え、更に銃を頭に押し付ける。

 

 

「てめえは何回人を都合の良い道具のように扱ったら気が済む?」

「……あ…ぁ……」

 

アインスはさっきと一転してドスの効いた低い声に言葉が出なかった。

 

「…ま、待って……くれ」

 

しかしアインスは躊躇なく銃のトリガーを引いた。

 

パァンッ‼

 

銃弾は私の耳をかすり壁に穴を開けた。

私は腰が砕けたかのように床に尻をつく。

 

「殺しはしない。だがアンタを絶対に許さない。覚悟しろ」

 

アインスを見上げる。その瞳は私に向けられた銃よりもずっと恐ろしかった。

 

 

(シャルロットside)

 

 

 

あの後、花火を確認したIS委員会がデュノア社を強制捜査し『赤い靴』の製作チーム、データの強奪に関わった人達は委員会に重要参考人として連れてかれた。

 

「シャルロット何にする?」

「……じゃあ、これ」

 

メニューを置くとすぐに給仕さんが僕達のテーブルに来てくれた。

 

「キノコのヴルーテとサーモンのテリーヌで」

「かしこまりました」

 

 

注文を聞くと給仕さんはメニューを伝えにどこかへ行ってしまった。

それより………

 

「僕をこんな所に連れて来ていいの?」

 

いい服着せてもらって、高い車乗って、しかも今は一流レストランで食事。

どう考えても僕がいるような場所じゃなかった。

 

「別に。シャルロットは靴のせいで強要されただけだから逮捕されることはないよ。

まぁ監視はあるけどな」

 

監視と言ってもするのは優だから、実質的に僕はおとめがなしである。

 

「優…その、ごめん」

 

いくら強要されていたとはいえ、自分がやったことに変わりはない。

ちゃんと頭を下げて謝る。

 

「まぁいいって。旨いもん食ってぱぁーってしようぜ」

「でも……」

「それ以上言うとその口にワインボトルつっこむよ?」

 

 

優は妖しい顔をしてワインを持つ。

僕のためにわざわざこんなことをしてくれたのだ。

その厚意を踏みにじってはいけない。

 

「ごめん。ありがとう」

 

その後は今回の事件のことなんて無かったかのようにいっぱい話した。

学園でのこと、学園に来るまでのこと、

この好意が自分の為だけに向けられているのはとても心地よくて、お酒を飲んでないのにふわふわとした気持ちになっていた。

 

 

 

 

 

「車を表に出しました」

「悪いね。慣れない日本車使わせて」

「いえ」

 

さりげなくチップを渡している辺り、優は僕なんかよりずっと大人だなと思う。

 

「どうぞ。お嬢様」

「だからやめてって、優」

 

誰にもされたことのなかったエスコートを急にされ恥ずかしくなる。

 

「さて、帰りますか」

 

 

夜の街の中車を進める。

けど、通る道は行きと逆方向でどんどん郊外に向かって行ってた。

 

「優どこ行くの?」

「それはお楽しみにで」

 

更に30分くらい車を飛ばす。

 

「ねぇ、今更だけど優って運転していいの?」

「あぁ。アインスは資格取得の年齢制限はなくなるから、試験に受かればOKだ」

「そうなんだ」

 

アインスもISと同じように使用制限があるからそうしないと移動が不便だ。

特にこんな田舎に行くときは電車もそうな……。

 

(あれ……?)

 

暗くて外は見にくいけど途中から自分の見慣れた道を走っていることに気づいた。

 

「到着」

 

ドアを開けられる。

そこに広がっていたのはあの人に引き取られる前、お母さんと住んでいた家だった。

 

「キレイ……」

 

家の前の空地に一面に色とりどりの花が咲き、地面からのライトで輝いていた。

 

「学園に戻る前、シャルロットに名義を戻しといたんだ。

俺の予想通り、誰かさんが不正に土地を横取りしてたからな。ほいっ」

 

家の鍵を渡される。

 

「久しぶりの我が家に入りな」

「うん!」

 

ドアを開けて家の中に入る。僕の部屋もお母さんの部屋も前と何も変わってない。

それどころか僕一人じゃ掃除できなかったところまできれいになっていた。

 

「お邪魔します。どうだ?」

「優、ホントありがとう……」

 

あの人との約束でここを取り戻せてもきっと戻ってこれないと思ってた。

だから、こうしてここにいられるのがホントに嬉しい。

 

「大袈裟だって」

「だって…だって……」

 

くしゃくしゃと頭を撫でられる。

 

「なぁシャルロット」

「なに?」

 

この時、思いもしない言葉が発せられた。

 

「俺の養子にならないか?」

「え?」

 

 

 

 

 




いかがでしょうか?

個人的に物語のキーパーソン、アインスの登場の仕方は良いのではないか、っとちょっと思ってます。
優がオリキャラでなければ(それはしょうがない)

それかどっかのエド・フェニックスみたいな登場ができた理由が機体を持っているから、っという理由でも推測できますね。

キャラ説明で専用IS無しとあるのにアインスを持っているのはアインスがISじゃないからです。
(屁理屈ですね……)

次回、原作2巻後半内容の6月をお楽しみしてくれたら嬉しいです

ここまで読んで頂きありがとうございました。


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June―雪辱と進歩
Réunion


皆さんこんにちは。作者こと、黒川 優です。

前回、次話投稿に時間がかかるといいましたが
(閑話ですが)出来上がったので投稿します。

それではどうぞ
(良ければ後書きの茶番もどうぞ)


(シャルロットside―シャルロット家)

 

 

「んー……」

 

時計を見るともう11時。

いつもならとっくに起きている時間だけど昨日、今日はベッドから出ることができなかった。

その理由は……

 

「優、起きて」

「……逃げる…な…」

 

僕の言葉は却下され、逆に強く抱きしめるられる。

優が監視(前みたいなことをされない)のために絶えず後ろから拘束(どう見ても監視が面倒くさくて抱き締めてるだけ)している。

 

(……なんか……もういいかな)

 

どんな理由にしても好きな人に抱き締められて悪い気にならない。

 

そっと髪をどかして優の顔を見る。

女の子みたいで可愛くて、この前「助けてやる」なんて言った人には見えない。

 

――コンコン

 

「ごめん。誰か来たみたい」

「んー……」

 

僕が来客に対応するのに優も起き始めた。

猫のように目をごしごしする姿……

 

(か、かわいい……)

なぜ神様は優をこんな姿にしたのですか?

僕にその可愛さを回して欲しがった……。

 

―コンコンコン

 

「は―い!今行きま―す!」

 

軽く身仕度を整えて玄関へ向かう。

ここに帰ってきたばっかなのに誰だろう?

 

「はい。どちら様ですか?」

「シャル!」

 

ドアを開けた瞬間、飛び込んで来た誰かに抱きしめられた。

 

「レティ!?それにルナとサニーまで」

「久しぶりシャル」

 

ルナとサニーもレティに続いて飛び付いてきて皆で抱き締める形になる。

この3人は小学校からの付き合いで僕があの人に引き取られるまでずっと一緒にいた親友だ。

 

「どうして空けてたここに?」

「いきなりサニーがシャルの家に明かりが付いてるって言うんだもの」

「で、ホントかどうか確認しに来たってわけ」

 

 

 

「そう言えばシャル、ここの辺で怪しい人見なかった?」

「怪しい人?」

「4月の時にね、ここの周りをウロチョロしてる人がいたの」

「どんな人?」

「身長が私達よりちょっと高くて、金髪金眼の女で、日本車に乗ってた」

 

(………………………)

 

「サニー、それきっと勘違いだよ」

「そんなことないわ。

どうせシャルのお父さんがまたろくでもないことを………」

 

いつものようにサニーがあの人の悪口を言ってた時、何かを見て表情が固まった。

 

「アイツよ!アイツがうろついてたのよ!」

 

指差したのはやっぱり僕の後ろを通っていった優だった。

 

「ん?あっシャルロットの友達?

俺は席を外すのでお構い無く―――」

「突撃――!!」

「え?」

 

優が反応する前にレティの声でサニーとルナが優にのし掛かっていった。

 

 

……………………………

……………………

……………

 

 

(なんでこんなったんだろう…)

リビングにまた手足を拘束された優に調理器具を武器代わりにするレティ達。

どこかで見た光景である。

 

「さぁ、何をしに来てたの?吐きなさい」

「調査と名義変更の手続き」

「どういうこと?説明しなさい」

「いや、文字通りなんだが……」

「シャル、どういうこと?」

 

 

優が調査をしたら名義が不正に変えられてたみたいなので元に戻したってことだけを話した。

 

「シャル、ダメよ。

優しい人のフリをして近付いてくる人がいるんだから」

「ありがとうレティ。

でも、大丈夫だよ。優は本当にいい人だし、ちゃんとした役人だから」

「役人?どこか公的機関の人なの?」

「あ…………」

 

僕自身、全体が分かってるわけでもないしどこまで言っていいかも分からないないのでチラッとアイコンタクトで助けを求める。

 

「まぁ、どうせ報道されてるし話してもいいか…」

 

優は自分がアインスであることを除いて今回のことをレティ達に話してあげた。

 

「…っというわけだ」

「とりあえずニュース通りね」

「いや、私達の知らなかったこともあったわ」

 

 

どうやら優が怪しい人でないことは分かってもらえたみたい。

 

「じゃあ着替えさせてもらうね」

 

優はさらっと一人で縄を解いて部屋を出ていった。

 

「「「シャル……」」」

 

3人がゆっくり僕に顔を向ける。

どうやら話してくれなくて怒っているみたい。

 

「あ、あのね、話す時間がなくて……」

 

――ガシッ

 

「あんたってすみにおけないわね!」

「ホント!あんないい人が父親になってくれるなんて!」

 

バンバン僕の背中を叩かれた。

どうやら事件のことより養子の話の方が気になるらしい。

 

「でも、父親だよ?」

「へー」

「ふーん」

「ほうほう」

「な、なに?」

「やっぱりシャル気があったんだ」

 

ルナはニヤニヤしながら僕を見てきた。

 

(やっちゃった…)

3人の前で地雷を踏んでしまった。

 

(マズイ……非常にまずい…)

レティ達にその手の話を聞かれた人(特に男子)は多大な(メンタル的に)ダメージを受けてきたのを見てきたのに……。

 

「そんなのはね、他の女を寄せ付けずにずっと二人でいればいいのよ」

「そうそう。毎日一緒にいれば自分のだって暗に主張できるしね」

「それか彼に娘として見られる前に女として見させればいいんじゃない?」

「それいいわね。押し倒して既成事実でも作っちゃえば?」

「……………」

 

優、今は別室だけどこの三人は優が戻って来た時何を言い出すかわかったものじゃなかった。

 

「お待たせ……っと思ったんだけど皆久しぶりに会えたんだし、俺は席を外すよ」

「いえいえ。お構い無く!

それより学園でのシャルの様子を聞かせて下さい!」

 

 

同室だったと聞いた途端、3人は目を輝かせ、

置き場所がないから同じベッドで寝てるって聞いてからは感極まるといった感じだった。

 

「(シャル、その後は?)」

「(眠らせたんでしょ?)」

「(その間にキスの一つや二つしたでしょ?)」

 

意味ありげに僕に視線を送ってくる。

もちろんその時首を横に振ったら露骨にガッカリされた。

 

「(このヘタレ……)」

「(信じらんない)」

「(何の為に睡眠薬使ったのよ)」

 

レティ、睡眠薬は人を襲うためには使わないの。

 

 

「ところで優さん、優さんはシャルのことを……」

「ルナ、ストップー!」

「ぐふっ!?」

 

言い切る前に溝打ちで口をふさいだ。

 

…………………………………………

………………………………

………………………

 

「疲れたー」

 

3人が帰った後、ソファに転がり込む。

 

3人とも隙さえあれば僕のことを話そうとするから気が気じゃなかった。

アドレスを交換しようとしてたけどそれも全力で止めた。

絶対に何か企んでいるからだ。

 

「そうか?俺には楽しそうに見えたけど」

「えー?どこが?」

「学園にいた時は皆と一歩距離を取っていた気がしてたからな」

 

レティ達は僕の事情を前から知ってても変わらず接してくれる。

だから、僕も気にせず話せるのかもしれない。

 

「ん~。まぁ…ね」

「父親面は嫌か?」

「うん」

「即答は傷つくぞ……」

 

(ごめんね)

やっぱり僕は優を父親とは見れない。

僕にとって優はもっとカッコよくて優しい人で、とても愛しい人だから。

 

「それ言えば、最後何話してたの?」

 

最後は3人がかりで迫って来て優の耳に何か入れたのだ。

優はそれに笑って答えてたから変なことは言ってないと思うけど、良くも悪くも気になっていたのだ。

 

「シャル」

「ん?」

「レティさんがシャルロットを『シャル』って呼んだらきっと喜ぶって言ってた」

 

(レティ……)

親友の心遣いが嬉しかった。

 

「シャルって呼んでいいか?」

「まぁ…優なら特別に………いいよ」

「サンキュ」

 

空いている左手でくしゃくしゃと頭を撫でてくれた。

 

「早いけど、明日には日本には戻るから」

「うん」

 

 

……………………………………………

……………………………

………………

 

 

「レティ、ありがとね」

『別にいいわよ』

 

レティは何でもないみたいに

やっぱり持つべきものは友ってことだよね。

 

『その代わり、来月までに優さんの唇奪わなかったらただじゃ済まさないから』

「え、そんなの無理だよ!」

『答えはYesしか聞かないわ』

「む、無理だって!」

『そう。ならとっとと既成事実でも作りなさい』

「そっちの方が無理だよ!」

『よく言うわよ。自分から優さんを抱き締めたんでしょ?

あと一歩じゃない』

「そ、それは……」

 

確かにしたけど、アレはその…なんて言うか……。

優が元気なかったから元気付けたかったからでそんな深い意味は……。

 

『言い訳は聞きたくないわ。じゃあね』

 

――プープープー

レティの笑い声と一緒に一方的に電話が切られた。

 

(あ、あの悪魔ーー!!)

 

その声は虚しく心の中で広がっただけだった。

 

 





作者「じゃあ次話の作成とテスト勉を……」
魔理沙「待て」
作者「ん?」
魔理沙「ん?じゃねぇ。なんで主人公の私が出ない」
作者「出番が先だから」
魔理沙「いつだぜ?」
作者「………来年?」
魔理沙「書き直せ」

ギャーギャーギャーギャー

霊夢「また何かやってるの?」
アリス「出番が少ないって抗議してるらしいわよ」
霊夢「ふーん」
アリス「貴女も出番が少ないらしいわよ」
霊夢「だったらここでゆっくりお茶を飲んでるわ」
アリス「相変わらずね……」

霊夢「そう言えばアレ言わなくていいの?終わらないわよ」
アリス「そうね。じゃあ……」
上海「シャンハーイ(ここまで読んで頂きありがとうございました)」

アリス「貴女言いなさいよ」
霊夢「嫌よ。面倒くさい。貴女だって言ってないじゃない」
アリス「私は言ったわよ(上海が)」

ギャーギャーギャー………


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Ready……


皆さん、お久しぶりです。
作者こと黒川 優です。
以前言ってはいましたが投稿が遅れてしまいました。
申し訳ないです。

投稿できなかった理由は次の通り(茶番付き)
どうでもいいと思った方は本編へどうぞ

あ、ありのまま 先週起こったことを話すぜ。
俺は火曜日を確認して小説を投稿しようと思っていた。
しかし、気が付いたら土曜日になっていて、その後木曜日になっていたんだ……。

な…何を言っているのかわからねーと思うが俺も何をされたのかわからなかった。


優「いや…水曜に授業調整があっただけだろ」
鈴「アンタ、それだけで曜日感覚狂ったの?脳に何詰め込んでるのよ」

いやテスト前で時間も余裕も無かったんですよ……。
咲夜さん、時止めてくれないかなぁ……。

咲夜「もし止めるとしたら貴方の時間だけ止めるわ」
逆ですよ。なんでですか

咲夜「時間の無さに苦しむ貴方の姿が見えるから」
ひどい。私の味方はいないのでしょうか……。



(一夏side―IS学園正門)

 

 

(そろそろかな……)

 

名前通り、角を丸くしているものの箱に近い形をした車のタクシーが正門を通って学園の中に入ってきた。

 

「やっとフランスから帰ってきたんだな優、シャルル」

「久しぶり一夏」

「おぉ。お出迎えしてくれるなんてありがたいな」

「俺の他にもお出迎えはいるぞ」

「あれはお出迎えとは言わん」

 

優は正門の外で取材をしたがっているマスコミを一瞥して寮に向かった。

 

優がマスコミを嫌うのはまるでストーカーのように追ってくること(向こうは取材がしたいだけだが)と、ろくな説明もせずアインスは悪と決めつけたこと(ただ、良くないことをしたのは事実な為、強くは言わない)が原因らしい。

見た目は色んな意味で欺けているからバレにくいとは思うが有名人は大変だなっと実感する。

 

「で、わざわざ出迎えたってことは何か話があるんだろう?」

「あぁ。二人に頼みがある。今度の学年別トーナメント、パートナーになってくれ」

 

二人に頭を下げる。

ラウラとの決着を付けたい。でも俺1人の実力は未熟。

だから、戦う時にサポートをしてもらいたくてここで待っていたのだ。

 

「悪いな。俺はアインスで大会警備を行うから、大会参加はできない」

「そうか……」

「じゃあ僕がなるよ。まだパートナーも決まってないから」

「いいのか?」

「うん」

「ありがとうシャルル!」

 

あぁ。こんな俺のパートナーになってくれるなんて……。

目の前のシャルルが女神様に見えた。

つい両手をつかんでぶんぶん上下に振る。

 

「で、どうやってラウラを倒すんだ?」

「それは……」

 

とにかく二人に協力してもらうことで頭がいっぱいで全く考えてなかった。

 

「頼む、優」

「……はぁ、わかった。俺が考えとく。

取り合えず、射撃技術は向上させてくれ」

 

射撃技術なのか?

まぁあのラウラに接近戦オンリーで戦いたくないが百式に遠距離武器はないぞ。

 

「シャルルから借りればいいだろ」

「そうだね。じゃあ、アリーナに行く?」

「いいのか?」

 

シャルルは帰ってきたばっかで疲れてるかもしれないのに。

ホントいい奴だなぁ……。

 

「じゃあ準備してくるね」

「おう。ありがとな」

 

シャルルはパタパタと走って部屋に戻っていった。

 

「ところで一夏、お前、どうして箒と組まなかったんだ?」

「箒が『今度の学年別トーナメントに優勝したら付き合ってほしい』って言われたから組にくくてな」

「……もう付き合ったらどうだ?」

「そりゃあ幼馴染みの願いなんだから買い物くらい付き合うさ」

「………アホ」

 

壮大に溜め息をつかれた後にボソッと言われた。

 

「アホってどういうことだよ」

「自分で考えてくれ。俺はもう疲れた」

 

優は俺をもう一度見た後、また溜め息をついて自分の部屋へ行った。

 

 

 

 

(優side―寮長室)

 

 

 

「まったく。派手にやったな」

「派手にしてくれたのは向こうのせいです」

 

俺が偽物を持ってる時は花火なんて上がらないのだから。

 

「お前がデュノア社を泳がせていたのはデュノアから赤い靴が内蔵されたリヴァイブを手に入れる為か」

「えぇ。現物を取り押さえることができればシャルロットが強要されていることがわかりますから」

 

この捜査が始まったのは3月。

向こうが狙っていたのは(当時は)一夏な為、

もし、順当に入学して関係を持ち、仲を深めることを考えると5月に入る。

そこでより希少価値のある俺が学園に戻れば向こうは絶対に俺に矛先を向ける。

そうするとシャルに仲を深めさせるのにまた1ヶ月程かかる。

 

っと言ったように今回は余るほど時間があったため、シャルを近くに置いて色々観察させてもらい、物証的にも状況的にもシャルが強要されている事実を集めさせて貰った。

 

その間に掴んでいた物証の裏を取り、誤認逮捕せず、ピンポイントの人物だけを捕まえることができた。

 

 

「まぁアインスを使わずに解決したことは褒めてやる。

よく管轄外の仕事をこなしたな」

「ありがとうございます」

 

千冬さんがこうも褒めてくれるのは珍しい。明日は雪だろうか?

 

「……だが黒川。どうして帰国が予定より遅れた?」

 

(やべぇ…報告し損ねた……)

 

いくら長官が知っているとしても上司に報告をしないのは大問題だ。

そして、今回帰国が遅れた理由は仕事じゃない。

 

「フランスで遊んできました!」

「この馬鹿者が!」

 

スパーン!!――

 

出席簿が今日も俺のせいで凹んだ。

 

(降ったのは雪じゃなくて出席簿か…)

 

スパーン!!――

 

「下らないことを考えている暇があったら反省しろ」

「はい……」

 

 

(ラウラside)

 

 

 

 

何十回目かになる映像を凝視する。

内容は以前、アリーナで奴と戦ったときのものだ。

 

正直、奴の能力『ミスティル』は第二世代相当とされている機体の単一能力では凡庸性のあるものだった。

しかし、どんな能力にも弱点はあるはず―――

 

そのまま画面を見ながら歩いていると誰かとぶつかった。

 

「よう。歩きながら空中投影ディスプレイを見るのはマナー的に良くないぞ」

「……フランスで面倒事に巻き込まれたと聞いたが」

「無視かよ。それは向こうが踊ってくれたから見に行っただけだ」

「ちっ……」

 

つまり何をされてもコイツの想定内だったということか。

 

「舌打ちはないだろ」

「ふん。自分がそうされないことに値する人間か自分の胸に聞いてみるといい」

「おぉなんて厳しいお言葉」

 

コイツは私の言葉をさらっと流した。

時間の無駄なのでそのまま奴の横を通り過ぎる。

 

「熱心にこの前の騒動の活動記録を見てるところ悪いが俺は大会に出ないぞ」

「なに?」

「そりゃあ、AIFに属する人が非常時動けないのはマズイだろ。

そんな訳で俺は警備にまわる」

「ふん」

 

世界を危ぶめた奴が警備などふざけたことを……。

 

「また変なこと考えてただろ」

「私は2度も同じことは言わん」

「あっそ、じゃあな」

 

私の気持ちなど知らず奴は颯爽とどこかへ行った。

 

 

――ガン!

 

近くの壁を思いっきり殴った。

 

教官とアイツがいた頃に起きたドイツ軍での不祥事「セカンドアメリカン」

そこでアイツと戦い私は負けた。

屈辱的だった。他でもなく教官の存在を消そうとしたやつに負けたことが何よりも。

 

あの後、奴に勝つために私は当時受けた教官の教えを1から学び直した。

そして先月、私はあの時より確実に力を付けてこの学園に来た………はずだった。

 

再び奴と対峙した時、奴に傷を負わすこともオーディンの瞳を使わせることもなく私は負けた。

 

 

この大会で奴を完膚無きまでに叩き潰そうつもりだった。

しかし奴が選手として出ない以上、この大会で私の目標はなくなってしまった……。

 

――いや、いる。

教官の名誉に泥を塗った存在、私が駆除しなければならない存在。

――織斑 一夏

 

「ふふふっ、ははははは!」

 

黒い笑い声が廊下に響いた。

 

 

(一夏side―食堂)

 

 

訓練の成果の報告も兼ねて一緒に夕食をとる。

大事な話なのでのほほんさんには席を外してもらった。

 

 

「どうだ?数回練習してみて」

「シャルルの補助無しでもある程度撃てるようにはなった。

実戦じゃどうなるか分からないかどな」

「そうか。予想よりは良いな」

 

優のその言葉に少し安心した。

コンフリクトを修得するのか最低ラインだったらどうしようかと思いながら報告してたのだ。

 

「器用なシャルならともかく、お前にできないと確信できるからな。高望みはしない」

「ひどい」

 

なんで千冬姉も優も俺に厳しいんだろうか……。

 

「……射撃技術がある程度向上したなら

(あっ、俺の心の声分かっててスルーしやがった)

他にすることがある。と言うかこれが対ラウラ戦での要になるな」

「それはどんなんだ?」

「あぁ、それは……」

 

誰かが皆から離れてるここのテーブルに来た。

 

「優さん、一夏さん」

「セシリアと鈴か。悪いけど今大事な話を……」

「いや、二人は俺が呼んだんだ。

手伝ってほしいことがあってな」

 

残念ながら機体はまだ修復中であり、トーナメントには参加できない。

 

「あのジャガイモウサギをコテンパンにする方法があるんでしょ?

私にもやらせてよ。と言うか私にもやらせなさい」

 

鈴はあの騒動で何をされたかしらないがラウラに対してかなり怒っているらしい。

 

「と言うか優!なんで一夏だけなのよ!

私にも作りなさい!」

「一機しか造れないって言っただろう」

 

鈴が優に怒りの矛先を向ける。

機体を損傷した俺達がトーナメントに出るの唯一の方法、優が作ってくれた代用機を使うこと。

その権利を公正にジャンケンで俺が勝ち取った。

あんなに怒る辺り、やっぱり鈴もトーナメントに出たかったんだろう。

そこ関しては申し訳ない。

 

 

「で、俺は何の修行をするんだ?」

2人に聞いたところで話は進まないのでセシリアに聞いてみる。

 

もしかして、ラウラが相手でも当たれば一撃で倒せる必殺技とか?

それとも優みたいにレールカノンを弾く技とか?

 

「優さんの話ではスケートをするらしいですよ」

「は?」

 

俺には優が何をしたいのかさっぱりわからなかった。

 

 

(シャルロットside―IS学園内スケートリンク)

 

 

「調子はどうだ?」

 

Power Wallを階段状に展開して僕のところまで駆け上がって来てくれる。

ちなみに、優も一夏達と同じようにスケート靴を履いている。

 

「まぁまぁかな。この調子ならトーナメントまでに間に合うと思う」

「そうか。一夏もやっとアレを始めたからな」

 

優が指差す下を見る。

 

セシリアと鈴が一夏にスケートを教えていた。

どうも一夏はスケートが初めてみたい。

まっすぐ進むだけで何度もバランスを崩しては倒れそうになっていた。

 

「ところで、さっきからフラフラしてるが機体の調子が悪いのか?」

 

優は心配そうに僕を見る。

空中停止は誰でもできるにも関わらず僕はあっちへこっちへフラフラしていた。

 

「ううん。機体は何の問題ないよ。

久しぶりに何も気にせず飛べるからじっとしてられなくて」

 

誰かを傷付けるかもしれない赤い靴のことを気にせずにISが使える。

当たり前のことだけど、これがたまらなく嬉しい。

 

「皆、最初はISで大空を翔びたくて代表候補生を目指すんだもん」

「そーなのか?」

「優もそうじゃなかった?」

「亡国機業は地下にあったし、他人に選ばれて乗った身だからな」

「あっ………」

 

嫌なことに触れちゃったかな……。

 

「じゃあ、来月臨海学校あるからそこで名一杯翔ぼう。

あそこの風景はきれいって聞くから、きっと空を飛ぶ楽しさが優も分かると思うよ」

 

兵器という手段としてでなく、空を翔ぶという元々作られた意義で、アインスを使えることを楽しんでほしい。

 

「ありがとな。気遣ってくれて」

「ううん。約束だよ」

 

小指を出す。優もそれが何を示すのか分かってくれて小指を出してくれた。

 

「指切りげんまん嘘付いたら針千本のーます。指切った!」

 

「好きだな指切り」

「えへへへ」

 

 

「だから感覚よ感覚。何度言えばわかるの」

「ですから片足で約80㎝移動した後、…………」

「あー!全然分からん!」

 

下では教えているはずの二人と一夏が何か言い争いをしているようだった。

 

「一夏、大丈夫…かな?」

「……ダメだな。奇抜、器用な2人のやり方が不器用な一夏に合ってない。

2人を呼ぶのが早かったかな」

 

優は一夏のヘルプに行くためにPower wallを収納してリンクに降りていった。

 

(あっ……もう行っちゃった)

忙しいのは分かる。

でも、もうちょっと親子の時間としてでも一緒にいてほしい……。

そう思ってしまう。

けど、まだ誰も成功できてないこの技術を習得すれば、絶対優は褒めてくれるはず。

 

その僅かな一時の為に僕はまた意識を集中させた。

 





また閑話になってしまいましたがどうでしょうか?

次回はやっと(ホントにやっと)学年別トーナメントです(/^^)/

一夏の代用機は?AIC同時2面展開+ワイヤーブレード16個と教化されたレーゲンをどう倒すのか?
お楽しみにしていて下さい。

ここまで読んで頂きありがとうございました。


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GO!


こんにちはこんばんは作者こと黒川 優です。

皆さん、夏をどうお過ごしですか?
私は冷房の空間から冷房の空間へ移動しているので外がかなりキツイです。
皆さんは作者のような生活はしないで下さいね。

それでは本編をどうぞ♪ヽ(´▽`)/



(優side―管制室)

 

 

――学年別トーナメント

 

生徒側では今年度初の自分の力を発揮できる場であり、企業側ではスカウトをメインに生徒の確認が行われる。

 

今年は一夏が学園に入ったせいか、去年よりも企業の人が多い気がする。

まぁ、百式は後付装備に反応しないらしいので目を付けるだけ時間の無駄だな気がするが……。

 

「ついに始まりますね。織斑君の試合」

「黒川、あれはどういうことだ」

「あれって?」

「特に変わったところはみえませんが…」

 

千冬さんは一夏の乗っている機体を指差す。

 

それは『ファントム・オブ・カオス』

簡単にいえばデータがあれば機体のコピーができる機体だ。

今、一夏は白式をコピーしたファントムに乗っている。

 

「なぜダメージレベルがCを超えていた百式が無傷なんだろうな?黒川?」

「ははは……」

 

(そっちでバレたか……)

さすがにそこまでコピーしたら意味ないしな。

 

「さぁ吐け。何をした、この馬鹿者」

「一夏がトーナメントに出たいから『ファントム』を作っただけで、ガハッ!?」

 

(ちょ…溝うちやめて…)

あと当たり前のように2発もうたないで……。

 

「織斑先生どうします?止めますか?」

「もういい。どうせ結果はそう変わらないだろう」

「良いのですか?」

「ボーデビィッヒはAICを2面同時展開できる。今のアイツにとっては一人も二人も変わらないだろう」

 

(うわぁひでえ保護者。少しは自分の子の輝く姿を思い描けよ…)

 

「何か言ったか、黒川」

「いいえ。何も」

 

また溝内をくらいたくないので真っ向から否定はしない。

ラウラはAICを二面同時展開ができる。でも、二面だけだ。攻略法はある。

 

(さあ目にものをみせてやれ)

俺は期待を込めて画面に映る二人を見た。

 

 

(一夏side)

 

 

 

『一戦目で当たるとはな。待つ手間が省けたというものだ』

「あぁ、まったくもってその通りだ」

 

ラウラのパートナーは箒。

もしかしたら優勝を実現させるための選択だったのかもしれない。

 

(けど、悪いな)

ラウラを倒す算段はある程度ついているんだ。

あとは俺がそれを実現できるかどうかだけ。

 

――10、9、8、7、6

 

雪片を構えスラスターを唸らせる。

 

―――5、4、3、2、1、0

 

「「叩きのめす!」」

 

開始のブザーと共に瞬間加速で一気に接近する。

それに対しラウラは右手を前に出す。

俺の体は以前と同じように見えない腕に掴まれたかのように、身動き一つ取れなくなってしまった。

 

「開幕直後の先制攻撃か。わかりやすいな」

「それゃあどうも。以心伝心で何よりだ」

「なら、私がどうするかわかるだろう?」

 

以前、白式を一撃で葬ったレールカノンを顔に向けられる。

 

(焦るなよ。まだ勝負は始まったばかりだぜ)

シャルルが俺の影に隠れて顔の横から銃を放つ。

死角からの攻撃にラウラはAICを使わず後退した。

 

「逃がさないよ!」

 

 

高速切替で絶えずリロードしラウラの反撃を許さない。

事前に武器の呼び出しをしなくても良い高速切替と後付の拡張領域が通常の2倍あるシャルルのリヴァイブだからこそできる芸当だ。

 

誰かが弾幕をすり抜けながら接近しシャルルの銃を叩き落とした。

 

『私を忘れてもらっては困る』

「あぁ。そうだったな!」

 

俺はラウラを一旦シャルロットに任せて箒と対峙する。

スラスターを噴かせ、推進力で勢いを付けた剣を振るう。

じりじりと後退していた。

 

(よし、バランスを崩した)

 

「シャルル、5発だけ撃ってくれ」

『了解』

 

シャルロットが箒の足元に徹甲弾「バルム」を放つ。

これが他の爆発弾と違うのは弾をシャルロットの意志で爆発させることができることだ。

 

「くっ………」

 

土を巻き上げて目を眩ませたところに前、優が教えてくれた連続展開を零落白夜発動状態で畳み掛ける。

雪片が二本あることにも驚いた箒はそのまま零落白夜を受けシールドエネルギーがなくなった。

 

動かなくなった打鉄を箒こどアリーナの端へ運ぶ。

 

「一夏………」

「打鉄の影に隠れてろよ。流れ弾が飛んでくるからな」

「…………分かった」

 

箒は何か言いたそうではあったが頷いてくれた。

 

 

アリーナの端から二人の戦いに加わるためにスラスターを吹かす。

背後から接近して面倒なレールカノンを叩き切ろうとする。

 

が、ISは後ろを見ることもできるので難なくプラズマブレードによって止められた。

AICの餌食になるたくないので、すく様距離を取り構え直す。

 

『ほう。どうやらそこそこ上手くなったようだな。

だが、二人になったところで何も変わりはしない』

「1+1が2になるとは限らないんだぜ」

 

それに二人だけじゃない。優、鈴、セシリアにだって手伝ってもらった。足す数だって1+1だけじゃない。

 

「行くぜ。シャルル、パス」

「OK」

『なに!?』

 

会ってから初めてラウラが驚いた顔をした。

俺とシャルルがラウラを中心に円形制御飛翔をし始めたからだ。

最初は驚いた顔をしていたがそれは徐々に苦しげなものに変わっていった。

 

――円形制御飛翔の利点は2つ。

1つは動きながら射撃することで狙撃者に被弾しないこと。

もう1つは弾が必ず円の中心を通るということだ。

つまり、ラウラを円の中心に置けば俺の射撃が下手でも当てることができる。

それが平面だけで360度。三次元の動作を加えれば2面のAICでは防ぎきれない。

 

 

――『円形制御飛翔は、フィギュアスケートに似ている。

ISの技術だからってウイングスラスターに頼るなよ?

この技術で大事なのは遠心力に流されながらもほどほどに踏ん張ることだからな』――

 

 

あの時、優がスケートと言ったのは円形飛翔制御と相互性があるだけじゃなく、暗にISの技術だからといってISに頼るなとも言いたかったんかもしれない。

おかげで旋回している面に垂直にたっていれば俺でも感覚的にこれができる。

 

「くっ…姑息な真似を……」

 

そんなことを言いながらもワイヤーブレードをフル展開して弾幕を防いでいた。

さすが部隊長。やはり俺とは違う。

でもここまでは予想していた。

 

「シャルル、準備は?」

『ばっちりだよ。一夏突っ込んで』

「おお」

 

俺が瞬間加速で接近すると同時にラウラのISが爆発した。

 

 




いかがだったでしょうか?
(短いのは申し訳ないです)
円形飛翔制御を回避中心の技ではなく、攻撃中心の技として使ってみました。

しかし………、箒さんが不敏でしょうがない。
原作メインヒロインですが実は立ち位置に困ってます。
どうしましょうか?(笑)


さて次回、ラウラのレーゲンには何が起こったのか?
そして……をお楽しみ下さい。


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Devouring Desire System



こんにちは、作者こと黒川 優です。
以前お伝えしましたがバイトにより更新が遅くなりました。
私にバイトと小説作成はできませんでした。

気疲れだけで体がダメになりそうってのもあるのですが(笑)

まぁそんな私の下らない話はともかく、本編をどうぞ ♪ヽ(´▽`)/




 

平行切替(パラレル・スイッチ)

 

操縦者が武器の収納空間を干渉することで異なる武器に対しても平行処理を行うことができる技術

(銃を撃つことに関しては意識が第3、第4の手になると考えると分かりやすい?)

(因みに、刀で平行切替を行うと手を使わずに刀を動かせる)

 

しかし、同時作業の連続である実戦で武器の使用にまで同時作業を強いられることもあり、使用者には高い処理能力が問われる。また、そのため長時間の使用は難しい。

 

理論としてはこの技術は高速切替の延長上に存在すると言われていたが、実際に使えるのはシャルロットだけである。

 

 

(優side―管制室)

 

 

 

「どういうことでしょうか?ボーデヴィッヒさんのISが突然爆発を繰り返すなんて…」

 

山田先生はこの変わった事態に驚く。

爆発と言っても小規模なもので単体では装甲を破壊することはない。

が、これがラウラとの戦いでの攻略ポイントになる。

 

「ISは全て正常。となるとデュノア達の仕業か。……なるほどそういうことか」

「え?どういうことなのですか?」

 

千冬さんに対して山田先生は未だにわかっていなかった。

 

「差し金はどうせお前だろう。お前が答えろ」

「えーめんど「ギロッ」了解です。実は今回シャルルの射撃武器を全て徹甲弾にしました」

「なぜ弾数の少ない徹甲弾なのですか?」

「確かに通常弾で多角攻撃を行えばAICをくぐり抜けることはできますが無駄が多く、長期戦には向きません。ですが、あの徹甲弾はシャルルの意志で爆発させることができます。これによりAICの発動時に爆発させることで確実に隙を作ることができます」

 

勿論、毎回AIC発動時に使えばラウラにバレるから、適当に爆発させるように指示はしてある。

 

「でもデュノア君、射撃しながら爆発させてますよね。

いくら高速切替でもタイムラグが生じますよね?」

 

そう。山田先生に言う通り高速切替は武器の切り替えが速いだけで同時に別の動作ができるわけではない。

 

「なので、シャルロットには一段階上の技術を身に着けてもらいました」

「それって……」

 

高速切替を上回る、意識による収納空間の干渉

 

「―平行切替―」

 

 

 

(ラウラside)

 

 

『はぁぁぁぁ!』

 

織斑 一夏が雪片を構え接近してくる。

零落白夜、くらえばシールドエネルギーを大きく削られる。

それをAICで止めにかかるが……

 

バン!

 

「くっ」

 

爆発に邪魔されてAICが途切れる。

AICの拘束が解け再び自由になった刃を触れないように距離を取る。

 

さっきからこの調子だ。AICを使うと爆発が起こる。

 

(故障か?)

いや、チェックをしているがAICを含む全ての機能は正常だ。なら何故?

 

「よそ見していていいのかな」

「なんだ…それは……」

「ふふっ」

 

デュノアの銃はトリガーから先が光の粒子のままだが、その先は10種類ものの銃が展開されていた。

 

―ダダダダダッ!!

 

弾幕と爆発の嵐でAICでは対処しきれない状況。

私はワイヤーブレードを盾の形にして防ぐしかなかった。

 

「これで終わりだ!」

 

再び零落白夜を発動した織斑一夏が爆発をものともせず接近してきた。

退路はない。しかし、一人なら――

 

AICを二面展開。ワイヤーの盾とAICでデュノアの攻撃を防ぎ、残った方のAICで雪片を止めた。

 

「万事休すだな」

「くっ……」

 

AICを封じての零落白夜による奇襲だったのだろう。

が、こいつの直線的な攻撃は奇襲には向かなかった。

 

『それはどうかな?』

 

爆発の中、現れたのは射撃を続けているはずのデュノアだった。

 

「バカな!?お前は……」

「僕は上にも撃っていたんだよ」

「Sky Shineか」

 

実弾装備の武装のみができる技術Sky Shine。

打ち上げた弾にかかる重力を利用して上空からも弾を放つように見せる技。

 

視界不良でどこから弾が来ているのか分からないこの状況とデュノアの機体には最も有効な行動だった。

 

「今なら当てられる」

 

盾の一部がパージし中から新たな武器が見える。

 

(あれは……!?)

第二世代最強兵器―灰色の鱗殻。通称『盾殺し』

あれを受けるのはマズい。

 

AICを起動し止めにかかる。

――が、止められなかった。

 

ズガン――‼

 

パイルバンカーの一撃が腹部に入り私はアリーナの壁に激突した。

 

「げほっ……」

 

さっきの一撃でエネルギーを大きく失った。

それに盾殺しを止めようと起動させたAICもやられてしまった。

対して、織斑 一夏もシャルル・デュノアもエネルギーはまだある。

この状況をひっくり返すのは絶望的だった。

 

(私は負けるのか…。また、負けるのか……)

昔も、そしてこの前も私は黒川に負けた。

けど、私はもう負けるわけにはいかない。あんな奴の力を認めるわけにはいかない。

あれを認めてしまったら私の力は……私の生きる意味は………。

 

 

『――願うか……? 汝、自らの変革を望むか……? より強い力を欲するか……?』

 

言うまでもない。力があるのなら、それを得られるのなら、私など――空っぽの私など、何から何までくれてやる!

だから、力を……比類無き最強を、唯一無二の絶対を――私によこせ!

 

 

Damage level ………D.

Maindcondition ……… Uplift .

Certification ……… Clear .

 

《Valkyrie Trace System 》 ………boot.

 

 

 

 

 

 

 

 

(一夏side)

 

 

 

「なんだあれは…」

 

紫電を放つシュバルツア・レーゲンはラウラを取り込んだまま一度球状になったあと、一気にその姿を変えた。

それは黒い全身装甲のISのような何か。

先月の無人機とは形状は異なるが禍々しい雰囲気を纏っている。

ただ一つだけ確かなものがある。奴の持つブレード。

 

「≪雪片≫……」

 

間違いない。千冬姉の暮桜で振るっていた刀。

かなり構精にできている。ここまでいくと複写のレベルだ。

俺は無意識に雪片弐型を構え黒いISに接近した。

あれを許してはいけない。心のどこかでそう感じていた。

 

『――!』

「げふっ!?」

 

横一閃で雪片が弾き飛ばされもう一閃で両断させる。

ファントムが緊急回避で一瞬バックするも具現化限界を超える。その勢いで生身のままアリーナの端に吹き飛ばされた。

 

(これは……)

形としては紛れもない。千冬姉が得意としている「一閃二断の構え」

しかもその流れるような一連の動きは千冬姉そのものだった。

 

 

瞬間加速で接近していたらしく、眼前に刀が突きの状態で向けられていた。

 

――ザクッ

 

 

「……ったく、コイツもコイツで面倒なもの載せてるな」

「優……」

 

ミスティルで黒い雪片の軌道をずらしてくれたおかげで、間一髪で俺の頭の壁に突きささった。

優は更にラウラを包んだ黒い機体を覆うように赤槍―アキュレスの部分展開を利用して地面からも赤い槍を十字架の形になるように展開した。

 

「また喰らっとけ。――Unsleep scarlet moonlight(眠らぬ紅い月夜)」

 

紅い槍が一斉に黒い機体を襲う。

黒い機体は自身が形成した黒い雪片を使って迫り来る槍を全て叩き落とした。

 

『あんだけのものに狙われたら刀を振らざる負えないよな』

 

優は俺のもとを離れて既に雪片の内側、黒い機体の懐に入っていた。

最初からそのために陽動をかけていたのだ。

 

さっき『Unsleep scarlet moonlight』と言って展開された赤い槍がミスティルによって優の腕で束ねられ竜の尾のようになりそのまま黒い機体を壁に叩きつけた。

 

「抑えました。増援と観客の避難をお願いします」

『わかった。鎮圧のために教師部隊を送る。しばらく抑えておけ』

「了解」

 

「黒川、一体何が」

「箒。バカ、お前の打鉄はエネルギーが無いんだから無暗に出るなって」

「優、一体何が起こってるの?」

 

ここでシャルルも合流。これで箒の安全も確保された。

 

 

「ラウラが委員会で禁止しているものを使った。それで千冬さんをコピーしたらしい」

「……ホントか?」

「まぁそうだろ。ドイツなら第2回モンドクロッソのデータもあるし。

間違いないだろう。こっからは俺の仕事だ」

 

優は早く下がれと言わんばかりに手をしっしっと振ってきた。

 

「…嫌だ」

「一夏?何を言っている?お前の機体はエネルギーがないのだぞ?

それに教師部隊も来る。お前が参加することはないし、することはできない」

 

箒の言うことは合っている。理論整然としている。でも……

 

「それでも、これは、これだけは『俺がやらなきゃいけない』んだ」

 

千冬姉の強さと優しさをこんな形で汚すアレを俺は許してはいけない。

織斑 千冬の弟があんなものを見せられて退いちゃいけない。

 

「さっき一撃で沈んだ奴が何を言う?

これは大会や模擬戦のお遊戯とは違う。次は死ぬぞ」

 

優は今まで見たことないほど鋭く睨んできた。

 

「いいや。俺は倒されることはあっても俺は負けない。

あんな力に屈したりもしない」

「…………………………」

「…………………………」

 

俺と優は無言で睨み合っていたが、優は溜め息を付いてこの重い均衡を切った。

 

「……ったく。仕方ねぇな。ファントムを出せ」

「えっ、でもファントムはエネルギー切れで……」

「だからエネルギーをやるよ」

 

 

「ただ、俺はアレを抑えるのに手一杯だ。シャルできるか?」

「大丈夫だよ。何ならリヴァイブのでもいいけど」

「もしもの時にそれは避けたい。それに百式にしても機体全てを展開できないだろうしな」

 

銀色の打鉄に似た機体が1機、俺達の前に展開された。

 

「じゃあ一夏ここに来て。エネルギーの転換を始めるから」

 

シャルルがディスプレイで操作すると、銀色の機体が収納されたかのように光の粒子になり俺を包み込んだ。

 

「すげーな。エネルギーが全回復した」

「当たり前だ。その機体は俺の知る中で一番優秀な機体だ」

「……なんでそんな大層な機体を俺に?」

「俺には必要ないし、これ以上持つべきじゃないからな」

 

持ち過ぎた力は暴力になるって言いたいのだろうか。

けど、アインスを制御できる優なら大丈夫な気も……。

 

「ほら、早く行け」

「優……」

 

何でもことのように蹴って俺を前に出す。

 

「一夏!」

「どうした箒?」

「その…死ぬな、絶対に。そうでなければ私は……」

「…すまん。よく聞こえなかった」

 

打鉄のエネルギーはないから箒の声はファントムが拾ってくれないんだよな……。

 

「骨は拾ってやるだとよ」

「く、黒川!?」

 

優がわざわざ介してくれたのに箒は驚いた表情をしていた。

なんだ?自分から言い出したことなのに聞かれたら困るのか?

 

「箒までそうゆうこと言うのか……」

「いや違う!私は……」

「私は?」

 

何か言いたそうだが顔を赤らめたりあたふたしたりして全然聞こえないし分からない。

 

「ええぃ!後で骨拾いでも何でもしてやる!もう行ってこい!」

 

えぇー。何か逆ギレされた。

……やっぱり俺って嫌われてるのか?

 

「じゃあいいか二人とも」

「…………」

「頼む」

「いくぞ」

「あぁ」

 

優がミスティルを解き、赤い槍は箒を守るために再展開された。

槍の尾から解放された黒い機体は真っ直ぐ優達のもとへ接近していった。

 

――ガキィン!

 

「悪いが、相手は俺だぜ」

「―――――――――」

 

刀を弾き距離を置き対峙する。

コイツがどんな思考で動いているのかは知らないが、標的を俺に変えたようだ。

 

「零落白夜―発動」

 

エネルギーを得た雪片は力強く、いつもの2倍近い長さになって展開された。

 

(今はそんなにでかくなくていいぜ。今必要なのは素早く振りぬける、洗礼された刀だ)

そう。元々一振りでシールドエネルギーを無効にできる零落白夜。一太刀入れられればいい。

雪片は俺の意志に呼応するように細く鋭くなりまるで日本刀のようになった。

 

「いくぜ。偽者野郎」

 

黒い機体は俺に剣を振るう。

幼い頃、何度も見た太刀筋だ。

けど、そこに何の意志も乗ってはいない。

なら、それを打ち砕くことは難しいことじゃない。

 

押し返し、今度はこっちから畳み掛ける。

 

 

――これが本当の

 

横の払いで相手の刀を弾き飛ばす。そして、

 

「はあぁぁぁあ!」

 

――一閃二断の構えだ

 

上段から一文字に振るい落とした一閃は黒い機体を深々と引き裂いた。

 

機体から紫電が走り切り口からラウラが姿を現した。

(……ったくなんだよ。そんな捨てられた子犬のような顔しやがって)

 

仕方ない。殴るのは勘弁して―――

 

「一夏!避けろ!」

「え?」」

 

箒の声で上を見た時には白と青のツートンカラーの機体が俺にブレードを振り下ろしていた。

 




VTシステムはあっさり終わらせて頂きました。
あとが閊えていますもので……。

それが次回になります。
まぁ言葉だけならもう出てるんですけどね。
だから見直すと分かったり?

それではまた次回。
ここまで読んで頂きありがとうございました。


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Infinite Stratos Intercept System/ His secrets

皆さんこんにちは。作者こと黒川 優です。

実は8月のUA(=読者の皆さん、と私は思っています)、必ず一人付いていたんです。
週1目標と言いながら3話しか投稿してないのに本当に皆様ありがとうございます。
頭が上がりません。

これから、より定期的な更新、(本当に余裕があれば)別の時系列の物語の投稿を行うことで皆様にお礼をしたいと思っています。

それでは本編へどうぞ♪ヽ(´▽`)/




-IS-(インフィニット・ストーム)

 

剣を振るうことで斬撃(近いイメージでは月牙天衝やサタンスラッシュ)を出す技

 

理論上、エネルギー系統の近接武装ならどの武器も可能だが、一太刀で複数の斬撃を繰り出すことは困難で大抵の操縦者は複数回剣を振り回すことで複数の斬撃を繰り出している。

 

(当然、千冬さんは一太刀でできます。

と言うより千冬さんが最初に使った)

 

 

(一夏side)

 

 

『ミスティル』

 

風を纏ったアキュレスが投擲され、敵はその回避の為に俺から距離を取った。

 

「優サンキュー。助かった」

「お前ら下がれ」

 

優がピシャリと俺達に言い放った。

 

「な、何言ってるんだよ!俺達はまだ動ける。連携して戦った方が――」

「あれを見ろ」

 

優が指差す先、そこにはラウラが乗っていたIS。無人機は胸部からフォトンウィップを展開してISを吸収した。

 

「嘘だろ……」

 

しかも吸収した無人機のエネルギーが増大している。

 

「Infinite Stratos Intercept System……」

 

シャルロットが俺に答えを教えるかのように呟いた。

 

通称ISIS(アイスィス)

亡国機業が作った剥離材を応用した技術が搭載されている無人機、文字通りISを奪うための機体。

しかも厄介なのが吸収するとISISの能力が上がってしまうこと。

 

今のISにコイツの対策がない。

だからISでない優が対処するしかない。

 

「わかっただろ。お前達は避難第一にしろ。」

「……わかった」

 

こればっかりは下がるしかない。

俺は打鉄を、シャルロットはラウラと箒を抱えて飛び立つ。

それに反応したISISは再びフォトンウィップを展開、今度は俺達を捕えようとする。

が、それは優のミスティルによって機体ごと地面に落とされた。

 

「すげぇ…」

 

ISISが重力の影響を受けたかのように押しつぶされていた。

 

「一夏、行くぞ」

「あぁ」

 

俺達はISISが開けた穴から脱出した。

 

 

(優side)

 

 

 

(一夏達は避難できたか…)

アリーナのシールドが再度覆われたところで少し安堵の息をもらす。

もし、もう一機ISを吸収されることになったら今の状態では勝算はなくなるからだ。

 

赤槍アキュレスを展開しISISに近づく。

ISISの胸部にあるコアはシステムの中枢であり弱点。そこを突けばISISは止まる。しかし……

 

(この機体はなんだ?)

ISISは基本単色で、白い機体のワイゼル、青い機体のスキエル、黄色い機体のグランエルの3種だけだ。二色のISISは存在しないはず。

 

(とにかく……破壊しないとな)

 

ザクッ――

 

手に持っていたアキュレスはただ地面に刺さっただけだった。

それはISISが10個のパーツに別れ、それぞれがビットとして独立起動し始めたからだ。

それぞれがビッドのように遠距離から俺を狙う。

 

「ちっ……ミスティル」

 

ビットと同じ10本の槍を展開し追尾させる。

が、無人機特有の正確無比の動きに一本の槍では対応しきれなかった。

それに槍の何本かは能力が行き届かず落下していた。

 

「……………」

 

(やっぱり今のままじゃ上手くいかないか…)

恐らく単一化してもこの結果は変わらないだろう。

このままいけば俺が不利になる。

他に機体で多角、かつ連続攻撃ができるのは、

 

(アイツぐらいか……)

 

「Access―シンクロスコープ」

 

 

 

 

(千冬side―管制室)

 

 

「黒川君、大丈夫でしょうか?」

 

管制室にいる山田先生は悪戦苦闘する黒川を心配そうに見ていた。

 

「平気だろう。ただ今のままでは難しいだけだ」

「今のまま?」

「アインスの機体は一つではないだろう」

「あっ。そうでしたね」

 

アインスは黒川が使う複数のIFの総称。現に黒川は機体を変えている。

同調機体展開時に発生する独特の緑色の円が彼を覆う。

 

その光の中から現れた姿は白騎士を彷彿させた。

 

 

(優side)

 

 

『―シンクロフライトコントロール、開始

リミッター解放

ブースター注入、開始1%、13%、35%……』

 

シンクロスコープによって同調率を引き上げたアインスは装甲が透明になり、周りに緑色の円を纏う。

 

『黒川』

「なんですか」

『その…すまない…』

「俺はもう子供じゃないです。気にしないで下さい 」

『……………』

「…はぁ」

 

千冬さんは子供をこの戦いに出すことを嫌う。

だから、俺は早く大人になれるように努力した。

大人達はそれを認められて副隊長にのし上げた。

それでもやはり千冬さんの中では俺は昔のままの幼く弱い俺らしい。

 

(何が足らないかね……)

とにかく、今はコイツを倒さないとな。

 

『ブースター注入、完了

リカバリーネットワーク、接続完了

レンジ修正、オールクリアー

―同調―スターダスト』

 

緑の円が消え辺りが光に満ちる。

その瞬間にピットを二つ切り落とした。

 

百式同様純白の装甲に純白に輝く羽織。

武装も白のレイピアのみ。

 

同調機体、スターダスト

 

 

同調機体は高い同調率が必要だがその能力は申し分ない。

スピードならレヴァを軽く上回る。

 

瞬間加速でビットまで一気に距離を詰め、逃げられる前に一太刀を入れ爆発させる。

 

(うん。悪くはない)

ISISはスターダストを警戒してかピットの一部を合体して接近してきた。

その姿はワイゼルだった。

 

(なるほど。ワイゼルに無理やりスキエルをビットして装備させたのか)

腕部のブレードとビットの多角攻撃を展開したレイピアで防御とカウンターを行う。これができるのは風を利用した連続攻撃を得意とするスターダストならではだ。

 

そのままカウンターでISISのコアに腕を突き刺す。

中枢を貫かれたことによりISISの起動が止まった。

 

「ふぅ」

 

引き抜くと鉄の塊になったISISはそのまま落下した。

 

(まったく。また面倒な時に襲撃しやがって)

しかし、以前と違って1機で良かったっと思うべきか。

 

 

ISISからレーゲンのコアをとりだそうとする――

 

『警告―ISIS再起動―警告―』

「な!?」

 

不意を突かれた俺は抵抗できないまま地面に叩き落とされた。

そのまま体を押さえ付けられる。

 

警告―高エネルギーを確認――警告―……

 

ISISのエネルギー砲にエネルギーが集中する。この距離でくらえばお陀仏になる。

 

(っとでも思ったか)

ブースターを全開にし装甲を収納する。装甲が無くなり隙間ができた隙に慣性でブースターの推進方向に体が飛ぶ。

離脱したところでレイピアを再展開する。

 

(そんなに壊れたければ壊してやるよ)

 

「-IS-」

 

レイピアから放たれたいくつもの風の斬撃。

それはISISを小間切れにした。

 

(ラウラside―???)

 

 

 

 

私は宇宙のようなただ広い空間が広がっていた。

以前も私はここに来たことがある。その時は私一人しかいなかった。

しかし、今回は私の他にもう一人いるようだった。

飛んで誰なのかを確認する。その姿は織斑 一夏だった。

彼も私に気付いたのか振り向いて私に応える。

 

―織斑 一夏。なぜ、お前はそう強いのだ?

 

『別に、俺は強くも何ともない』

 

―なに?

そんなはずはない。じゃなかったら私は負けていなかったはずだ。

 

『もし、俺が強いと思うならそれは俺が誰かを守りたいと欲し続けるからかもしれないな』

 

―守りたい…か……。

軍での教えとしては存在した。

しかし、私にそのような考えは持てなかった。

なぜなら私は人としてではなく兵器として育てられたから。

 

『千冬姉は俺がISを使うことを嫌がっていた。

けど、ISが使えると分かった時、俺は嬉しかった。

この力があれば俺は千冬姉を守ることができる。

まぁ、今でも鈴とかにダメ出しばっかされるけどな』

 

―…………

私と同じように力を欲しているのに……。

どうしてコイツと私ではこうも違うのだろうか……。

 

『そうだ。もし、お前に困ったことがあったら守ってやるよラウラ・ボーデヴィッヒ』

 

織斑 一夏は私に優しく微笑む。

以前の私なら日和った、いかにも日本で育った危機意識のない顔だと思っただろう。

でも、違う。

 

この裏表のない表情は私を人と思ってくれた、私だけに向けられた暖かいものだった。

 

 

 

 

(ラウラside―医務室)

 

 

(今のは……夢…?)

いや、それにしては今まで感じたことが無いほど暖かい。

 

「やれやれ。やっと目を覚ましたか」

 

その声に聞き覚えがある―聞き覚えがある、どころではない。

私が敬愛して止まない織斑教官の声だ。

 

「全身筋肉疲労と打撲だ。そのまま寝ていろ」

 

 

 

「私に、何が…起こったのですか……?」

 

「ボーデヴィッヒ、VTシステムは知っているな」

「はい」

 

知らないわけがない。

 

―ヴァルキリー・トレース・システム―

過去にモンド・クロッソの部門受賞者の動きをコピーするシステム。

2年前にドイツで起こったセカンドアメリカンの負の遺産と言っても過言ではない。

 

「そう、委員会が作ったIS条約によってどの国家・組織・機関においても研究、開発、使用が禁じられている。それがお前のレーゲンに積まれていた」

「……………」

「巧妙に隠されていたがな。

操縦者の精神状態、蓄積ダメージ、そして何より操縦者の意志というより願望か。

それが揃うと発動するようになっていた」

「……私が願ったからですね…」

 

―貴女になることを―

 

ISの技術云々の話以前に私自身が弱かった。

自分自身を信じられなかった自分が。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ!」

「は、はい!」

「お前は何者だ?」

「……………………」

「なんだ自分の名前も言えないのか?」

「いえ……」

 

今の自分が何者か分からないわけではない。

私自身答えを出している。“空っぽの私”と。

 

 

「何を迷うことがある?お前は今も昔もラウラ・ボーデヴィッヒだろう」

「え……」

「これまで過ごした時間もそこにいたお前も全部否定することはない。

正しければ貫き、間違っていれば変えればいい。それだけだ。

何、時間なら腐るほどある。それに今のお前なら正してくれる奴もいるだろう」

「しかし………」

 

教官の弟と弟同然に育てていた黒川を目の敵にした私を許してくれるのだろうか…。

 

「なに、一夏も優もお前のことは嫌ってないさ。

嫌ってたら今頃お前はドイツに逆戻りだ。

アイツは使わないが副隊長もおいしい権力を持っているからな」

 

教官はニヤッと笑い席を立つ。

もう話すべきことは話したのだろう。

きっとこれからAIFとしての仕事に向かうようだった。

 

「最後に―」

 

教官はドアに手を当てながらも私に声を投げかけてくれた。

 

「お前は私にはなれんぞ。こう見えてあの馬鹿2人世話は苦労が絶えないからな」

 

 

「ふふっ…ははは」

 

教官がいなくなった後、私はおかしくて笑ってしまった。

2人共言うだけ言って結局最後は自分で何とかしろというのだ。ズルいことこの上ない。

 

 

私は今日、負けることが必ずしも悪いことではないことを知った。

 

 

 

(優side―食堂)

 

 

「あーー……」

「お疲れ優」

「あー一夏、シャル」

 

シャルは月見うどん、一夏は海鮮塩ラーメンを持って俺のテーブルに来てくれた。

因みに俺はペペロンチーノを食いたかったが説教を受けたら食欲が無くなった。

 

「大丈夫?やっぱりISISとの戦闘はツライの?」

「いや。千冬さんに説教くらったのがツラくてな…」

 

今日は出席簿の角で頭を叩かれ続けその後は延々と説教タイム。

ちゃんと仕事はしたのに理不尽である。

 

まさかコアを二個持ってるとは思わなかった。

それに気付かなかったために最初からISISのコアに腕を入れた。

なんて言っても言い訳になるか。

 

でも、そんな怒らなくてもいいじゃん。

鬼、悪魔。

 

コツコツ―――

 

明らかに俺達とは違う足音が近づいてくる。

 

(……やっぱり来た!)

相手の気配とタイミングを合わせて膝を曲げる。

さらに腕で頭を覆う。完璧な防御。通称、カリスマガー……

 

「君は何をしてるのですか?」

「へ?」

 

後ろにいたのは千冬さんではなくゴドウィン長官だった。

 

「あ、いえ…。ちょっと落し物を……」

「あぁ、知ってますよ。カリスマガードって言うんですよね。

ちゃんと言わないとダメですよ“うー☆”と」

「長官……やめて、許して……」

「うー」

 

無言の圧力ならぬうーの圧力がかけられてしまった。

 

「………う、うー☆」

「「「…………………」」」

 

俺のカリスマガードを見た3人とも固まってしまった。

 

「もうやだ。死にたい」

「待て優。大丈夫だって!そんな気にすることじゃないって」

「シャルルですら口に手をあてるんだぞ。

もう終わりだ……お終いだぁ……」

「シャルル、何か言ってくれ」

「え、あ……その、可愛かったよ」

「ちょっ、シャルル何言ってんだよ」

 

………………………

………………

…………

 

 

「で、どうして長官がここに?」

「勿論ここでの騒動もありますが、それとは別に君に話があったんです」

 

長官がシャルロットに目配せる。

シャルロットも一夏も意外だった目を見開いていた。

 

「え?ぼ、私ですか?」

「えぇ。ここではあれですので場所を変えましょうか」

 

恐らく内容はデュノア社絡みの問題だろう。

他の生徒に聞かれないように長官はシャルを連れてどこかへ行った。

 

「はぁーー緊張した。

なんかオーラが違うよな」

「まぁ、経験の差ってやつだろう」

 

以前聞いた話では第二次世界大戦に参加したらしいし、激動の時代の舵をきってきたことに関してはあの人の右に出る人は多くはないだろう。

 

「そういえば、山田先生がお前に話があるらしい」

「そうなのか?」

「何でも大事な話らしい」

「普通の話だよな?」

 

時々聞こえる山田先生の妄想は教師としてはどうなのかと時々思う。

 

「さぁ?行けば分かるんじゃない?」

「無責任だな。まぁ行くしかないんだけど」

 

 

 

 

 

(シャルロットside―IS学園)

 

 

 

「すみません。わざわざお呼びして」

「いえ。こちらこそすみません。私が委員会に行かないばかりに」

「いえ。お気になさらずに」

 

気さくに答えてくれる。

 

不思議な人だった。

白髪気味の銀髪なのに若い人のようにがっちりした体。

会社にもこの歳でありながらスポーツマンに近い体つきをした人なんていなかった。

 

「改めてご挨拶させて頂きます。私、国際IS委員会長官レクス・ゴドウィンといいます」

 

――長官。

あの人のこともあって一気に緊張の度合いが増す。

 

「私にどんなご用件できたのですか?」

「君の今後についてです。あぁ、連行などは一切ないのでご安心を」

 

レクス長官は手を挙げて他意がないことを示してくれた。

 

「近々、私はデュノア社の騒動について会見をしなければなりません。ただ、今の状況だと世間は被害者であるはずの君がまるで騒動の加担者のように映ってしまう。そう誤解されれば君の人生はまた大きく狂うでしょう」

「……………」

「今ある最善の手は黒川君の籍に移ることです」

「でも、そんなことできるのですか?」

 

前に優にそんな話をされた時も思ったが、僕とあの人は血の繋がりがあるのに対し、優と僕は他人なのだ。

 

「それについては黒川君が君のお父さんと話しあって、君が彼のところに移るなら親権を渡してもいいと仰っていたそうです」

 

(……………)

 

「他に手はないのですか?」

 

一抹の期待を持って長官に聞いてみるけど、こうして僕の所に来るあたり無理なんだろう。

 

「はい。15の君に籍の独立は難しいですし、私がこう言うのもあれですが『他人に強要された』という事実が作れませんしね」

「……………」

 

ざっとこの先のことを考える。

籍を移せば僕は『娘』という形に納まって、セシリアみたいに優を狙っている人と確実に差が開く。

けど、それ以上は行けない。

 

「どうでしょうか?」

「……………」

 

でも、このままいけば候補生を降ろされ、生きる手が無くなる。

そもそも優に会えることも無くなる……。

 

そうなれば前と変わらない灰色の世界が待っているのかもしれない。

そう思うと怖かった。

 

「まだ時間はあるので本部に電話してもらえれば―」

「…いえ。大丈夫です。優のところに籍を移します」

「そうですか。話が早くて助かります」

 

 

 

「そろそろ出てきたらどうですか?」

「え……?」

 

長官の目線の先の茂みから優が現れた。

 

「どうして優がここに?」

「用事から戻る時にたまたま見かけたからな」

 

そう言うけどここは食堂に対して寮とは反対側。

たぶん、優もこの話で長官が僕を呼んだのに気付いてたんだ。

 

「ちょうどよかった。君に確認したいことがあったのですよ」

「報告書に不備がありましたか?」

「いえ。報告書はほぼ完璧でしたよ。

もっと根本的な話を――先月、デュノア社を襲撃したのは君ですね」

「え?」

 

(優が…会社を……?)

突然のことに頭が追い付かなかった。

 

「『クラッド・ファランクス』を使うことで社内内部の犯行、もしくは襲撃されたのは無人のラボであることから亡国機業の犯行に思わせられる。見事です。その為にわざわざリブァイブとクラッド・ファランクスを一から作るとは恐れいります」

 

…意味が分からない。

そんなことをしてまでする必要があったのか…。

 

「証拠は?」

「今のところはないです。ただ、状況的に彼女の調査を私が打ち切ったあの時、彼女を助けデュノア社の悪事を暴くためには騒動を起こし調査と言って潜入するしかないです」

「……………」

「優!お願い何か言ってよ!」

 

違うって言ってよ。

このままじゃ肯定してるようなものだよ…。

 

「変わりましたね。昔の君ならただ仕事をこなすだけだった」

「今回のも仕事だろ」

「いえ。君は1人の子供としてこの事件を解決したのです」

「……俺はもう子供じゃない」

「いえ。君はまだ子供です。でもだからこそ今回の事件を解決できたのです」

 

 

長官は優の隣を通ってそっと耳打ちする。

 

 

「報告書、上手く書き直して下さいね」

「それが長官の台詞か?」

「でないと君も彼と同じ所に行きますよ。では」

 

脅しにも思える言葉を最後に長官は僕達を後にした。

 

「どうして?どうしてそんなことしたの!」

 

涙混じりに優の胸を叩く。

なんで、僕なんかのために……そんなことを……。

 

「言っただろ。俺も大人達に利用されたことがあるって」

 

優は僕を抱きしめしっかり目を見て答えてくれる。

 

「俺と同じ思いはさせたくなかったんだ」

「…ばか……ばかぁ………」

 

勿論、そう思ってくれたのはうれしい。

でも、それで捕まっちゃったら意味ないのに…

 

「そう、かもな」

「ばか、ばか……ばかぁ……」

 

色んな想いが込み上がりもう泣くことしかできなかった。

 

 

 

(千冬side)

 

 

 

「おや。君も盗み聞きですか?」

 

長官がわざわざ私の所を通って校舎に戻ってきた。

(『も』ということは黒川もこうしていたのか)

 

「アイツが何をしたと思っている?」

「一時的ながらアインスの機能制限の解除し、現在禁止動作のコピーナイトを使用。

クラッド・ファランクスの無断製造、というより独力での再現と言った方がいいですか。それを使いデュノア社を襲撃といったところでしょうか。」

「………………」

 

アインスの機能制限の解除も現在禁止されているし、他社のものを無断で製造するのも良くない。

勿論、それだけデュノアを助けたいというアイツの意志が表れていることをなるが。

 

「アイツをどうするつもりだ?」

「今のところは証拠がないので逮捕状はでないでしょう」

「『今のところは』か……。探せば見つかると?」

「えぇ。コピーナイトで展開できるのはサイバーだけです。サイバーでは使った薬莢は全て回収できなかったでしょう。それを調べれば彼にたどり着きます」

 

 

「……無理だな」

「それは、なぜ?」

 

珍しく長官が疑問をもったようだった。

 

 

「デュノアがアイツ自身に、そして彼女に似ているからだ」

 

 

 




(個人的に)ISISとの戦闘が雑かなぁ…?
まぁISISは原作涙目なISキラーの能力をもっているので登場数は絶対多くなるから大丈夫なはず。

ISISの外見的説明なんですが……諦めました。
なんか、書けないんですよね。
特にワイゼルとスキエルが混ざった奴は即行で白旗挙げて「すいませんが5D's(遊星vsフラシド)見て下さい」としかいえない。

なので、すみませんが全知全能のGoogle先生かコンマイに聞いて下さい。
5D'sにはカッコいい合体シーンもあるのでもし良ければそれを見て下さるとビット状態もよく分かると思います。

千冬さんとラウラの会話で“セカンドアメリカン”という単語が出ましたが説明をしてないですね。(以下長文です)

セカンドアメリカンは約2年前(千冬が教官としてドイツにいて、後にラウラが隊長までのし上がった時)
ドイツ軍の上層部が『第三世代が(試作機ながら)他国より早く成功した今こそ、軍拡をし、アメリカのように“世界の警察”になろう』というものです。

その点に関しては、亡国機業の存在もあるので各国はある程度許容していたのですが、問題はその軍備強化の方法。

試験管ベイビーによる戦闘に特化した人物の形成、および(軍にとって都合のいい)教育。
そして、VTシステムによる強制戦闘(当時VTシステムは遠隔でも発動させることができたので操縦者が死にかけようが何であろうが使えた)

道徳的に問題しかありません。

結果的にセカンドアメリカンはゴドウィン長官の耳に入っていたのでAIFが介入しセカンドアメリカンはドイツ軍にとって夢のまた夢となりました。

しかし、提案した当事者達は現在も行方不明なので委員会は似たケースが起きるのではないかと推測しています。
(余談ながら、これを機に委員会の権力が強くなった)

……っという内容の過去編を考えてたんですけど、もう書かなくていいですよね?

この話はストーリー上、取り上げるべきなのです。
ですが、全く書けてなくて、正直、ますこの本編と去年編を書きたい……。



ここまで読んで頂きありがとうございました。



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GiRL's PoWaR , Catch Her! / Afterword

皆さん、こんにちは作者こと黒川 優です。

今回は原作では一夏とシャルロットが入浴した後ですね。

風呂繋がりで時々、入浴中にネタを閃いたりします。
ガラケーの時はそのまま浴室で打ち込んでいたのですが、スマホは水滴で操作できなくなるので思いついても忘れたりしてしまいます。

ここを聞くと私がスマホ依存症と思いますが大丈夫ですよ(たぶん)
操作時間のほとんどが小説の為のWordなので。

そんなくだらない私の世間話は置いといて……。

それでは本編へどうぞ♪ヽ(´▽`)/



(一夏side―教室)

 

 

 

(ったく優のやつ、意味深に言いやがって)

優が大事な話って意味深にいうからなんだと思ったら、大浴場が使えるようになったってだけだった。

 

なのに結局2人は来ないから俺ひとりだけだった。

久しぶりに風呂にはいれたのはこの上なく嬉しかったけどな。

 

しかし、優とシャルルはどうしたんだ?寝坊か?

 

「今日はですね……皆さんに転校生を紹介します。

えぇと……とにかく入ってもらいましょう…。どうぞ」

「失礼します」

 

あれ?なんか聞き覚えのある声が。

 

「シャルロット・デュノアです。皆さん、改めてよろしくお願いします」

 

昨日までズボンを穿いていたシャルルがスカートを穿いていた。

 

「え?デュノア君って女……?」

「おかしいと思った!美少年じゃなくて美少女だったのね」

「って織斑君、一緒に着替えてたんだから知らないわけないよね!?」

「ちょっと待って。昨日って男子の大浴場が解禁されたんじゃ……」

 

最後の誰かの一言によって女子の皆が一斉に俺を見始めた。

優が今日来てない理由はこれか。セコイぞ優。

 

 

「一夏あぁぁぁあ!」

 

派手にドアが破壊され俺を睨み付けるのは隣のクラスにいるはずの凰 鈴音。

すでにIS甲龍が展開されている。

背後に昇竜が見えるのは虚像ではない。

 

「死ね‼」

 

―ズドドドドドオォン!

 

最大までチャージされた衝撃砲が俺に向けられた。

 

(あれ……俺、生きてる…?)

目を開けるとなんと先日、険悪なムードで戦ったラウラが俺の前に立っていた。

 

ISは纏っていなかったが、青色のシールドがはられていた。

 

「それはPower Wallか…」

「私だって軍人だ。ミリータぐらい持っている」

 

なるほど箱の中に納める形で展開することで反射する衝撃同士で相殺するか。

頭良いな。

 

「そうなのか。……っておい」

 

何の脈絡もなくラウラは抱き付いて来た。

 

「なな……。アンタ…」

「うむ……。暖かい。やはりお前だったか」

「おい。放せって――!?」

 

いきなりだ。いきなり胸倉を掴まれ、ラウラに引き寄せられ、そしてあろうことか唇を重ねられた。

あまりにも唐突な出来事に誰もが口を開けて放心していた。

 

「お前は私の嫁にする!決定事項だ!異論は認めん!」

「え…俺が嫁なの?」

 

この際どうでもいいがつい反応してしまう。

というか先日と今日でラウラの人物像が一致しない。

本当に目の前にいるのはラウラなのか?

 

「おい。なんでお前が抱き上げる」

「日本では好きな人をこうして持ち上げると聞いた」

「それは男がするものだ!」

 

ったく誰だ。コイツに変なものを教えたやつは。

 

「きゃー!ボーデヴィッヒさんが織斑君をお姫様抱っこしてる!」

「い、一夏!貴様、男としてのプライドはないのか!」

 

箒はどこからともなく真剣を抜刀する。

止めてください箒さん。死んでしまいます。

 

「ふむ。うるさい奴らだ」

「おい、なぜ外へ行く……。ちょっ、おぉぉぉ!?」

 

ラウラは俺をおぶったまま教室のベランダから飛び降りた。

 

 

 

 

(優side)

 

 

(さて、そろそろ授業だし大丈夫だろ)

 

「すいません。遅くなりましたー……ってあれ?」

 

教室に残っているのはシャルロットとセシリア、本音ぐらいだった。

 

「あ、今日は土曜日だったのか。じゃあ帰って寝るか」

「ダ、ダメですよ黒川君。土曜日も授業はちゃんとあります!」

 

珍しく今日は山田先生が俺の言葉にツッコミをいれた。

 

「……………………」

 

一方、いつも突っ込むはずの千冬さんは放心状態だった。

 

教室の荒れ模様、何処からともなく聞こえる声、何が起こったのか大体想像できた。

 

「さすが無差別ハーレム製造機、織斑 一夏ですね。

まさか千冬さんの威光を振り切るとは思いませんでした」

「……そうだな。流石と言うべきか…」

 

困った顔をしているが、どこかいつも通りで安心した感じもあった。

 

「黒川、収拾を頼む」

「はいはい。了解されました。上で寝てます」

「黒川くん!?」

 

 

 

(ラウラside)

 

 

 

教官。私はここに来て、力にも種類があることを知りました。

 

一つは私が使い続けた単純な力。

脆く、そして高圧的なもの

 

そして、誰かを守りたいという優しさとも言える力。

今回の事件で教官や嫁………黒川もその力を持っている、芯の強いもの。

 

しかし、私には分かりません。

 

「ラウラちゃん!」

「待ちなさい!」

 

 

このクラスメイト達を突き動かしてる力の正体が分かりません。

 

(教官……いつから学園の生徒はこのような(捕縛を行うような)授業を取り入れたのですか?)

そして、いつからクラス共通で無線通信の設備を持っているのでしょうか?

おかげ嫁はあっという間にクラスの者に抑えられてしまった。

 

クラスの実態がこうである以上、今度嫁にもその対策をさせないといけないかもしれない。

 

 

「ここにいたか」

「む……篠ノ之 箒」

 

しゅらんと無駄なく真剣を抜く。

打鉄の動きを見た時に思ったがコイツは他の者と違い、刀の扱いに慣れている。

 

「覚悟」

「ぐ………」

 

重い一撃が短いナイフにのしかかる。

日本の名刀にこのナイフでは役不足か

それだけでなく刀の使い方も上手い。

まさしくクラリッサの言う現代の武士だな。

 

コイツに時間をかけて逃げ道を塞がれたら元も子もない。

私は反撃する振りをして篠ノ之から距離を取った。

 

「待て!」

 

走って私を追ってくる。

 

……ちょっと待て。

なぜ真剣という重いものを持っているにも関わらず私より速いのだ!?

 

「貴様だけは絶対に許さん」

 

何を許さないのだ!?

あれかトーナメントの時、何も手助けしなかったことを怒っているのか!?

 

 

「くっ、行き止まり……」

「死ね」

 

真剣を容赦なく突き刺し、そのまま横に払うことでドアを破壊した。

 

「ちっ、外したか……」

 

 

教官なんなんですかあの女は!?

私より危ない人間じゃないですか!

 

再び篠ノ之 箒は私を追ってくる。

その姿は正しく鬼。

まぁ、私はその辺はいいのだがさっきのドアが施錠されていたということはこの先も施錠されているだろう。

そうなると避難経路が確保できない。

 

(仕方ない……)

手元の武器が減るのは癪だがナイフを彼女に投擲する。

彼女の実力通り、全く動揺せず落ち着いてナイフを刀で防いだ。

 

「Power Wall」

 

その間に空中にエネルギーシールドを地面代わりにして窓から一気に屋上へ上がる。

そして、屋上に繋がるドアを施錠する。これでしばらくは何とかなるはずだ。

 

 

「ちっ、逃がしたか……」

「篠ノ之さん!ボーデヴィッヒさんは?」

「恐らく屋上だ」

 

やはりここに来られるのも時間の問題か…。

 

「く、黒川!」

「おうラウラ」

 

ここで昼寝をしていた黒川は私に気付いて近づいてくる。

大丈夫だ。いつもと同じ気にくわない顔だ。

 

「どうしたんだ?教室にいったら皆いなかったんだが」

「それは……」

 

私は今起こったことを黒川に教えた。

コイツの頭の出来は知らない(どうせろくでもない)が『オーディンの瞳』を持っているから妙案を思いつくはずだ。

 

「それで何か良い方法はないか?」

「…そうだな。まずあっち向いて」

「うむ」

「両手挙げて」

「した」

「目を閉じて」

 

言われた通りのことを行う。

しかし、これに何の意味が……。

 

「ラウラ確保したぞ」

『ホント!?場所は?』

「屋上だ」

『ありがと!すぐ行くね!』

「な!?」

 

目を開けて抵抗しようとするが私の手首はすでにリボンでしっかり拘束されていた。

 

「この裏切り者!」

「あ?今まで散々暴言吐いといて何も仕返しされないと思ったの?」

「う……」

 

それを言われたら何も言い返せない。

だが、やっぱりコイツに正論を言われるのは腹が立つ。

CQCや体術系は私の方が上。

例え両手が使えないこの状態でも黒川なら倒せる。

 

 

――グルグルグル

 

私は黒川に手を繋がれ、空中ブランコのように振り回されていた。

おかげで足まで浮いている。

 

「ははは。これじゃさすがのお前も手が出ないだろ」

「くっ……この…」

 

なぜ、私が、こんな奴と、手を繋いでこんなことをしなければならない!

しかも容赦なく回るからロマンチックの欠片もない。

 

手が滑って二人とも遠心力で放り出された。

 

「ま、回り過ぎた……気持ちわる…」

「ふ、バカめ……」

 

私は投げ飛ばされた先に何か柔らかいものがあったためケガをせずに済んだ。

 

(さて早くここからも逃げなければ……動けない)

誰かに抱き締められているようだ。

 

「ふふふっ。やっと捕まえたわよ」

「確か……櫛灘だったか?」

「ふっふっふっ。だいせーかい」

 

なぜだろうか。大会後一生懸命クラスの名前と顔を覚えた成果を見せれたのに全く嬉しくない。

 

「さぁ、ホーデヴィッヒさん」

 

他の女子達もジリジリと私に近寄る。

 

「いや……………」

「「「私達と」」」

「「「お話」」」

「「「しましょうね」」」

 

「い…いやーー!!」

私の悲鳴が虚しく響いた。

 

 

(シャルロットside―食堂)

 

 

今日、遅くなったけど僕とボーデヴィッヒさんの転校祝い。

料理が得意な一夏や箒達は調理場で一生懸命料理を作ってくれている。

対して優は……

 

「何してるの……」

「何って撮影の準備」

「それは分かるんだけど、取材って言ってもするのは新聞部の黛先輩だし要らないんじゃないの?」

 

本当は1組だけでやろうとおもったんだけど、トーナメントで色々面倒事に巻き込まれた僕達を黛先輩が逃すわけもなく、先輩による取材がここで行われるらしい。

 

「簡単に言えば、コイツは取材用じゃないってことだ」

「え?」

「たのもー!」

 

格好の得物を得てテンションの高い黛先輩とその後ろで暴れているボーデヴィッヒさんが入ってきた。

 

「おぉ!凄いね優君。まさかこんな立派なカメラまで用意してくれるなんて」

「ちょっと私用で用意しました」

「私用?じゃあ後で回してくれるのかしら?」

「さぁ、それはどうでしょう?」

「あら、つれないねー」

 

優と黛先輩は互いに黒い顔をして微笑んでいた。

 

「さぁさぁラウラちゃん。取材を始めるわよ。早くあそこに座って」

 

黛先輩はまだリボンで手首を止められたボーデヴィッヒさんを急かした。

 

「ま、待ってくれ。黒川、そのカメラはなんだ?」

「何って、録画用だ。

やったねラウラちゃん。これであられもない姿を学園の皆に見せることができるね」

「おいやめろ」

 

日本ではお決まりらしいやり取りがされた。

なんでボーデヴィッヒさんはそんな変なことを知ってるのだろうか?

 

「えー。取材を受けたら一夏とのツーショット写真を撮って貰おうと思ってたのに」

「ホ、ホントか!?」

「あぁ。その予定だ」

 

優の言葉にボーデヴィッヒさんは瞳を輝かした。

どうやら知らない間に彼女と一夏は仲良くなっていたみたい。

 

「し、仕方ない……。取材とやらを受けよう」

「よし。本人の了解も得たし早速始めようか」

 

黛先輩とボーデヴィッヒさんがやや対面気味に座り皆がギャラリーとして囲っていった。

一気に騒がしくなった。

 

「よく一夏が引き受けてくれたね」

「まだ、打診も何もしてないけどな」

「え?」

「予定(=必ずするとは言ってない)だからな」

「酷い……」

「素敵な素敵なファンサービスと言ってくれ」

 

優は今までで一番腹黒い笑い方をしていた。

僕がフランスに連れていく前の関係の酷さを見る限り、

彼女は優に色々やり過ぎたんじゃないかなって思う。

 

「「きゃー!」」

「それで!それで!」

 

離れたテーブルで取材という名の尋問は続いていて

周りはラウラの質問に歓声が湧いていた。

 

 

「まだ……あるのか?」

「もちろん。では一番リクエストの多かったものを。

織斑くんとのキスはどうでしたか?」

「な!?」

 

黛先輩の質問に彼女の顔が一気に赤くなる。

ドイツの冷水って言われてるみたいだけど今だけは温水と言った方がいいかも。

 

「黒川、貴様!」

 

ラウラは反対のテーブルから反応を撮っている優に文句を言い始めた。

 

「あれいいの?答えないと一夏とのツーショットなくなっちゃうよ」

「それはダメだ!」

「ではお答え下さい」

 

優は楯無さんに似た言い方で続けさせる。

完全に優のペースだ。

 

「そ、それは……その、一夏の唇は柔らかくて……良いものだった……」

「「「きゃーー!!」」」

 

ラウラの言葉に皆発狂もので、黛さんはペンがさらさら動いていて更に追及していた。

 

「……さて、取材はもう十分ね」

 

黛先輩はすっとハサミを取り出してリボンを切る。

キッと優を睨み付けていたが、そんな赤い顔でしてもただ可愛いだけな気がする。

 

「一夏くーん。料理の手止めてちょっとこっち来て」

「はい。なんでしょうか?」

「んーそうね。織斑君はエプロン着たままで、ラウラちゃんもエプロン着て。

はい二人ともこれ持つ」

 

一夏が作ったばかりの料理だ。

 

「はいはーい。二人ともこっち向いて笑って」

 

ボーデヴィッヒさんは恥ずかしいそうに、でも、一夏の隣にいれて嬉しそうに立っている。

一夏もそんな変わった一面のラウラを見て少し意識してるみたい。

 

「はい、チーズ」

 

 

 

(優side)

 

 

ラウラと一夏が写真を撮った後は、他の皆が一夏と写真を撮ったり、一夏がインタビューに応えたりして大賑わいとなった。

 

今日のでラウラと皆の距離が一気に縮まり、最後は背の低いラウラを愛でてご満悦な感じで自室へ帰っていった。

 

 

「ん」

「ん?」

「ん」

 

自分が不利な立場で強く言えないと分かってるのか、ラウラは手を出して無言で要求する。

 

「ほい」

 

さっき録画に使ったカメラを渡す。

それを受け取ったラウラはメモリーを荒らし始めた。

 

「データは?」

「もう送った」

 

俺の言葉に元々白い顔が更に白くなった。

 

「どっ、どこにだ!」

「どこもなにも……っととそれは勘弁だわ」

 

足技をかけられてそのまま押し倒された。

しかもご丁寧に首もとにナイフがチラついている。

 

「これ以上恥をさらしたら、只でさえ迷惑をかけている私の隊の皆に申し訳ない」

 

瞳がうるうるしている。

こう見ると、ラウラの性格がかなり変わったな。

 

「大丈夫だって。データの送り先はその『私の隊』だから」

「そ、それで………」

 

一瞬、晴れた顔になったがすぐに難しい顔になる。

 

今まで隊のメンバーに色々やってしまっただけに相手の反応が気になるらしい。

 

「クラリッサさん嬉しそうだったぞ。今度ゆっくり話したいだってさ」

「……そうか」

 

俺の返答にラウラは嬉しそうに微笑む。

あぁこう見るとただの女の子だ。

 

一夏はやっぱり人を正すのが巧い。

女性に限られるがメンタルクリニックとかできるだろうな。

 

「なんだ貴様、じーっと私を見て。気持ち悪い」

「仮にも一夏の兄なんだけどなぁ、俺」

「ふん。嫌いなものは嫌いだ。

邪魔をするなら、その口を縫い合わすぞ」

 

できたら俺に対する印象も変えて欲しかったなぁ、一夏…。

 

「まぁいいや。このカメラ、クラリッサさんに返しといてくれ」

「仕方ない。私が夏、軍に帰る時に持って帰ってやる」

「サンキュー。じゃあな」

 

 

食堂を後にした。

 

「黒川(優)どういうこと?」

 

ぐいっと箒と鈴に迫られる。

 

「なんでラウラが一夏と写真撮ったの?」

「写真を撮るなら試合をした私もだろう?」

 

正直二人の言葉は耳に入っていない。箒は日本刀、鈴は甲龍を展開している。

そして、何より目付きが怖い。

 

「……その、………すまん」

 

全力で二人から逃げるために走る。

 

「待て!」

「待ちなさい!」

 

二人が俺のあとを少女とは思えない速さで追いかけてくる。

誰が鬼のような顔をしたお前達の所にいるかよ。

 

角を曲がってすぐの部屋は空き部屋。そこから飛び降りれば俺の部屋はすぐそこだ。

俺の部屋のドアなら真剣でも切られないだろう。ってか千冬さんの部屋が隣だしそんな物騒なことはしないはず。

 

 

――ぼふっ

 

角を曲がった途端、何かにぶつかった。

よく分からんが柔らかいそれはそのままくっついたままだった、

 

「こんばんわ優さん」

「おう。セシリア」

 

……なぜ、セシリアは抱き着いているのだろうか?

そして、なんでブルーティアーズを展開しているのか?

 

「悪いんだけど、今忙しいんだ。放してくれないか?」

「大丈夫ですわ。聞きたいことが終わりましたらすぐに解放しますので」

 

言った矢先から対照的に抱き締められる力が若干強くなった気がした。

 

「優さん、どうしてシャルロットさんが女とわかっていて添い寝したのですか?」

「それはシャルロットの心を開くためで……」

 

楯無が言ってたんだよ。心を開くためには「裸の付き合い」をすればいいって。

勿論、裸は不味いからそれに近いものを……

 

「あら、紳士ともあろう方が言い訳ですか?みっともないですよ」

 

ガシャンと音がする。ビットが放れた音だ。

 

「ははははは………」

 

人は極限を超えると笑うしかなくなるらしい。

 

バキ、ボキ、ドカッ――‼

………ピチューン

 

 

 

(レクス・ゴドウィンside)

 

 

 

 

「どうでしたか?」

「長官の仰っていた薬莢、またそれが落ちた跡は発見されませんでした」

「……そうですか。調査ありがとうございます」

「失礼します」

 

(…………)

考えても仕方ない。電話をかけ真相を聞く。

今ならまだ起きているはず。

 

 

『はい。なんでしょう長官』

「君はコピーナイトで複数の機体を使い、重さが難点である『クラッド・ファランクス』を支えることで空中で使用したはずです。しかし、コピーナイトはサイバーしか展開できないはず――」

『……………』

 

「どうやって薬莢を回収したのですか?」

『別に。できなかったことができるようになっただけですよ』

 

それだけ言って彼は電話を切った。

 

(やられましたね……)

だらしなくイスに体を預け、手を顔にあてる。

彼も他人のためなら自分の限界を超えていくということか……。

 

 

(でも、これなら……)

できるかもしれない。彼に私達の意志を継ぐことが――

 

 

 

(唯side―亡国機業)

 

 

「……………」

「よう」

 

そこには一見、オレンジかかった髪色にも関わらず好青年に見える男が座っていた。

 

「何?真月。用がないなら帰るわよ」

 

私は人の不幸を笑うこの男が大嫌いだ。

どうしてこんなヤツが幹部候補までなれたのか……

 

「まぁ待て。今回は俺からお前に任務を言い渡しに来ただけだ」

「……その任務って?」

「アインスを殺せ」

 

真月の言葉に元々冷めていた空気が更に凍りついた。

 

「私がそれに従うと思った?」

 

私は亡国機業の一員ではあるが絶対に優を殺さない。

それは上の幹部も知っているしトップに立つパラドックスも了承してくれている。

 

「まぁまぁ最後まで話を聞けって。

これは俺様の優しさ故にお前にこの任務を託すんだぜ」

「……どういうこと?」

 

「お前にとって愛しの愛しの優と敵対し続けることはお前との仲を切り続けることになる。

いくらお前の存在を知ってもアイツがこっちに傾くことはないだろう。

それじゃあ、お前達は気の毒だ。

だが、ほぼ無傷で殺して体を持ってくれば俺がアイツを蘇らせることができる。

そうすればお前はずーとアイツといることができる。

それはお前がよーくわかっていることだろう?」

「………………」

「了解したと見ていいな?」

「好きに思いなさい」

 

話は終わったので私は真月のいるこの部屋から出る。

 

「くれぐれもバラしてくるなよ?そしたらお前の望みが叶わなくなるんだからな」

「くっ……」

 

後ろから煽るように真月が声をかける。

あんなヤツにいいように使われるなんて屈辱的だ。

それでも私は―――

 

「来て、スターダスト」

 

私は大空へ飛び立った。

 

 

 

 

 

改めて、皆さんこんにちは。作者こと、黒川 優です。

『IF―切り開かれる現在、閉ざされる未来―』を読んでいただきありがとうございます。

やっと原作2巻の内容が終わりました。(本当にやっと)

今後の話は今回ほど長くはならない予定なので、もう少しテンポ良くいけると思ってます。

 

 

サイトのどこかに後書きは避けてほしいとあった気がしたのですが、

私が原作の中で好きな2巻の二次創作なのでどうしても書きたいと思い書かせてもらいました。

 

興味がない方はプラウザバックして構いません。

どうでもいい裏話なので。

読んでもいいという方は下へどうぞ。

 

 

◇ラウラのキャラについて

 

ラウラが好きな方、申し訳ないです。

前半はかなりキツイ言葉を言う、鋭すぎて持つことを危ないナイフみたいになってしまいました。

 

それだけアインスの影響が大きかったと思って下さい。

実際、IS狩りがあったら憎んでも憎みきれない……なんて思う人はいますから。

 

ラウラは一夏のおかげで改心しましたのでこれからは原作に近く(?)なると思います。

 

 

それと取材後、ラウラがカメラを要求する時に「ん」って言いながら手を出すシーン、ちっちゃい子がしてるようで可愛いと思いませんか?

あっ私だけ?あぁそうですか…残念です。

 

 

◇主人公、優の視点の少なさについて

 

読者の皆様は気付いたと思いますが、優の視点(5月)が(主人公wwのレベルで)少ないです。

 

これは意図的に優の視点でもいいものをシャルロットやセシリアに変えました。

なぜかと言うと、優の視点にすると、デュノア社の事件をどこかのバーロー名探偵並みに速攻で解決してしまい、『赤い靴』が危険性の低いものと捉えられてしまうからです。

 

赤い靴はこの話では大事な要素なので少しでも強調できるように苦悩するシャルロットの話が少しある……と言った裏話があります。

 

しかしUA数を見る限り、私の意図以前に内容で失敗してますね。

これから文の質を改善していたいと思います。

 

 

今作の5月の扱いについて

 

私個人的に鈴の転校が5月。シャルロット、ラウラの転校が6月。

と考えています。

ですが、読むと、2人は5月に転校し、鈴は入学生のようになっており原作と合っていないです。

 

実は、元々は5月の内容も6月に入っていました。

(なのでこの後書きも5、6月分です)

しかし、書くにつれてページ数が100ページを超えてしまい、今のように分断しました。

学年別トーナメントが長期間行われるので時間的に無理だったというのもありますね。

 

この辺はご了承願いたいです。

 

 

◇Qui va danser ? ―3の時、アインスを使わなかったことに関して

 

実は書き直す前、スターダストの初登場はこの話でした。

しかし、書いていて「警察官が事件に向かうからといって必ず拳銃を使うわけではない。なら、アインスを使わずに事件を解決する時があっても良いのではないか?」と思いあたり結末までの過程を変えました。

 

星屑「手抜きだ!」

 

決して手抜きではありませんよ。

君の出番はこれからたくさんあります(予定)←

 

 

 

6月、最初の部分(フランスにいた時)について

 

 

(中高一貫という設定で)高校に訪れ、優に嫉妬した男の子がテニスで勝負を挑むっという話がありました。

 

はい。茶番です。

 

何がしたかったというとシャルロットが家の問題、母子家庭に囚われず人間関係を築いていた、ということが書きたかったわけです。

 

ですが、そこまでするとセシリア涙目なので早めに帰国させました。

 

 

◇アインスの機体について

 

実はこの物語の骨組みを作り始めたのはかなり前です。

そのためキャラ、機体は5D's(アニメ)が中心です。

 

まぁ、ホープをモデルにするのは(私の価値観的に)ちょっとカッコ悪いと思ったというのもあり不採用となってます。

 

しかし今はZEXALも終わってしまいARC-Vに……。

新エース、オッドアイズも使えないとなるとマズイかな。

 

 

ドラグニティアームズ・レヴァテインという「なにそれ?」と言われてもおかしくないモンスターをモデルにしたのは、私のお気に入りカードだからです。

私、個人的にロマンカードの1枚です。

 

レヴァ(光闇装備)→攻撃→ダブル・サイクロン、エネコンなど→レヴァをリリース→光闇効果発動→レヴァ復活→最初に戻る

 

……といったずっと俺のターンができるかなぁと思ってます。

 

勿論このデッキを作るなら征竜ドラグニティの方が良いですね。

色々制限にされましたが……。

それかファランクスとのシンクロで牙王を出した方が強い(笑)

 

 

 

◇Unsleep scarlet moonlightについて

 

これを見た時、皆さん思ったはずです。“なんてセンスの欠片もない技名だと(笑)”

Unsleepなんて言葉はありませんので注意して下さい。

使う機会はないと思いますが。

十字架や名前のもとは不夜城レッドです。

こんな名前になってしまうなら名前をお借りした方がよかったかな……。

 

 

◇原作機のスペックアップについて

 

ラウラのレーゲンが初っぱなからワイヤーブレード4倍、AIC2面展開可能……と原作ならチート機に近いポジションでありますが、アインス、-IS-と比較すれば誤差範囲になってしまいます。

どうしてこうなった……。

その他にもIFのスペックインフレが……。

 

その為、他のキャラの機体もスペックアップします。

しかし、赤椿をどうしますかね。基本負けることがない機体ですし。

 

 

 

◇タグの遊戯王、東方について

 

東方のキャラはほぼ少女なので適当に入れることはできますが、製作始めは東方の存在を知らなかったのでまだ絡みがないです。

 

後書きや予告ぐらいには登場してもらおうかな、と思っています。

 

――ピクッ

 

魔理沙「霊夢聞いたか?出番があるらしいぞ」

霊夢「ホント!?これで自由に使えるお金が増えるわ!」

 

 

また、遊戯王の主人公達は男でしかも蟹さん以外ほぼ学生な為、扱いにくいのが現状です。対して長官は委員会≒治安維持なのでそのまま投入できました。

 

ATM「俺、カオス・ソルジャーになったのに……」

AIBO「ブラックマジシャンに(ry」

凡骨「炎の剣士、真紅眼に(ry」

社長「ふん。わが社の総力を結集すればISなど敵ではない」

二十代「ネオスを実体化できるぞ!」

蟹「ハンガーでもあればIS作れるだろ」

UMA「ZEXALになればISを創造できる!」

 

遊矢「(俺もいつかああいうこと言い出すのかなぁ……)」

 

はい。なので残念ながら主人公達が大暴れするという感じではないです。

まぁそれは先駆者がいますのでその方の作品を楽しんで下さい。

 

 

さて次回から7月。

正直書くの難しいから早くその次のものにしたい(笑)

 

嘘です。文才は欠片もありませんが私なりに頑張っていきます。

 

ではまたお会いしましょう。

 

 




勢いだけで書いた今回、たぶん1話に対する字数が一番多いと思います。

「あれれ~。おかしいぞ~(コ○ン君風)」
と結構本気で思いました。

それではまた次回。
ここまで読んでいただきありがとうございました。


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July―燃えよ乙女!
GiRL's Day -Shopping


皆さんこんにちは。
今日になって過去編(IS狩り)を描こうと思い始めた作者です。

さて9月も終わり涼しく、朝は少し寒くなりましたが、こっちはこれからが夏入りです。
遅い夏ですが楽しんでくれたら嬉しいです。

それでは本編をどうぞ♪ヽ(´▽`)/


(一夏side―寮、自室)

 

 

 

7月に入ったばかりの今日、まだ朝は涼しい。

このまどろみタイムがこの上無く心地好い。

 

――むに、むにむに

 

(……………)

以前もこの独特の感触を体験したことがある。

 

「……またお前か」

 

布団を少しだけめくると俺にくっついて眠るラウラがいた。

しかも、問題なのは服装だ。というより何を着ているかではなく全裸なのだ。

身に着けているのは左目の眼帯と右ももにISの待機状態のみ。

前回は箒が朝練からこともあってかなり荒れた。もうあれは生きた心地がしなかった。

 

しかし、俺はあれから学んだ。

そーとベッドから離れてぐるぐると体を押してかけ布団を巻きつける。これで人間海老フライの完成だ。

これなら相手が全裸でも何の問題もなく部屋に返すことができる。

 

手の塞がっている俺の代わりに誰かがドアを開けてくれた。

 

「む……」

 

ここで箒が朝練から帰宅。

相変わらずラウラを見ると機嫌が悪くなるんだな。

仮にも先月ペア組んだのに…。

 

「(大丈夫だって。まだ寝てるから)」

「(そうか……)」

 

剣道道具を置いて俺についてくる。

 

「(なんで付いてくるんだ?)」

「(お前のことだから何かやらかすと思ってな)」

 

そんなに信頼ないのか俺。

しかしこう見てると……

 

「(子供が生まれた夫婦みたいだよな)」

「(ぶっ!?)」

 

何気なく言った言葉だったが箒にはどこかツボったようで吹き出した。

 

「(な、な、何を言っている!)」

「(いや、生まれた子ってこうやって包まれてるじゃん)」

 

流石に海老フライのようにはされてないけどさ。

 

「(はい。お母さん、貴女の赤ちゃんですよ~)」

「(ば、馬鹿者!)」

 

ベシッと両手の塞がっている俺の顔に思いっきり右ストレートをかましてきた。

ホント冗談通じないなぁ。

 

朝も早いのでラウラの部屋の前に置いといた。

 

「……………」

「どうした箒?」

 

ずっとラウラと俺を交互に見て何かに悩んでいるようだった。

 

「前、付き合ってくれると言ってたな一夏」

「まぁ。そういえばなんであの時蹴ったんだよ」

 

あの時とは山田先生から大浴場の許可を貰った時だ。

あの時、約束関係なく付き合うと言ったのに思いっきり蹴られたのである。

昨日見た時はまだ痣が残ってた。

 

「あれはお前が悪いのだ」

「なんで?」

「なんでもだ」

 

(おい………)

小学生じゃないんだから具体的に言ってくれよ。

じゃないと俺も改善できないだろ。

 

「で、その話がどう―」

「今日出かけるぞ」

「は?」

「だから、出かけるぞ」

 

(シャルロットside)

 

 

 

来週は臨海学校。自由時間に海で遊べるらしいから

水着を選びにお出掛けしたんだけど……。

 

「――――――」

「――――!―――!」

 

優の声と誰かが大声をあげている。

 

「優?」

「あぁ。シャルロット」

「あら、貴女の男なの?」

 

如何にも高飛車そうな女の人が会話の矛先を僕へ向ける。

 

「ええ。そうですが何か?」

「別に。自分の犬の躾くらいしっかりしなさいって言いたいだけよ」

 

優と揉めていた人は僕を見ると一瞥してどこかへいってしまった。

 

「優大丈夫?」

「あぁ大丈夫…」

「優、どうしたの?」

「いや、いつもは女と勘違いされるのになんでだろうなぁって」

「優、自分の服装見て」

 

今日の優の服装は誰からみても男性と分かるものを着ている(というか着させた)

 

(というか、特定の人以外には女とみられているという考えはどうなのかな…)

そんなに去年、女装に凝っていたのだろうか?

去年のことは知らないから楯無先輩に相談する必要がありそうだ。

 

 

「もう水着決められたのか?」

「んーあともうちょっと。どっちかにするか悩んでるんだ」

「ごめんな」

「いいよ。代わりに優が選んでくれないかな?」

「いいぞ。俺なんかでよければ」

「じゃあ、中入って」

「………はい?」

 

優は僕の言葉に目をパチクリさせていた。

 

「だって、また絡まれちゃうし…」

 

そ、そう!

べ、別に、更衣室なら密着できるとかじゃなくて、絡まれたらまた僕が対応しなくちゃいけなくなって選ぶ時間がなくなっちゃうからだよ。

 

それに――

 

「とにかく入って」

 

無理やり優を押して更衣室にいれる。

なんか、優を他人の目から隠さないといけない気がするの。

 

けど……。

 

「「……………」」

 

(着替えられない……)

洋服と違って下着も脱がないといけないことをすっかり忘れてた。

いくら優が子供として僕を見ててもそれは恥ずかしい……。

 

「……シャル、やっぱり外で待ってていいか?」

「うん……。あ!でも待って!」

 

僕の静止より先に優はシャーっと更衣室のカーテンを開ける。

 

「……お前達、何している?」

「え?」

目の前には顔を引きつらせた織斑先生と慌てふためく山田先生の姿がいた。

さっきからしてた嫌な予感が当たってしまった……。

 

「デュノア、何か言い残すことはあるか?」

 

あぁ………これは…、僕、終わった……。

 

「す、す…すいませんでした!」

 

バコッ――‼

 

 

……………………………

…………………

…………

 

 

「黒川、お前は常識の範囲内のことをしろ。でないとデュノアの立場も悪くなる」

「はい……」

「デュノアもだ。コイツはまだ半人前なんだから変に刺激をするな」

「はい……」

 

只今、お店の真ん中で正座でお説教中を受けています。

なんでだろう。素手でくらったのに出席簿よりずっと痛い。

 

「まぁ、ここではこれでいいだろう。

後で“保護者”として話がある。部屋に来い」

「…はい」

 

優は重く答える。

こういう時、近くに身内がいるって大変だなぁ。

 

「お前もだデュノア」

「え?」

「今はお前は私の孫みたいなものだからな」

「あっ。そうですね」

「……お前は説教されるのが嬉しいのか?」

「いえ。そういうわけではなく」

 

怒ってくれるほど僕に気を遣ってくれることがいなかったから。

 

 

「以上だ。くれぐれも変なことはするなよ」

「「はい」」

 

 

こうして僕達はやっと買い物を再開できた。

 

(優side―レゾナンス)

 

 

千冬さんに追い出される形で水着売り場を後にした俺達は昼食にすべきかすぐに片ずく日用品の買い物どっちかにするのか悩みながら通りを歩いていた。

 

 

「そういえば、なんで女の人と言い争ってたの?」

「よくあるやつだよ。“女の私の方が偉い”ってやつ」

 

時々あういう人って俺が目の前でアインス使ったらどうするんだろうって思う。

ある意味、アイデンティティの喪失に繋がるよな。

 

「優、ここでアインス使ったら学園に隠れている意味ないでしょ」

「あ、気付いた?」

「優が教えてくれないから全部自分で調べました」

 

シャルは若干怒り気味に答える。

こうして自分のこと調べてくれるって結構幸せなことだよな。

あんま良いこと載ってないけど。

 

「ん?あれセシリア達じゃないか?」

「そうだね。どうしたんだろう?」

 

こそこそ移動している鈴とラウラ。セシリアはあまり乗り気ではないらしい。

 

「行ってみるか」

 

そっと後ろから近寄り袖を引っ張る。

 

「セシリア」

「優さんにシャルロットさん!どうして!?」

「いや金髪と銀髪は目立つからな。それより何しているんだ?」

「それが、鈴さんが一夏さんと箒さんが手を握っているのを見て尾行を始めたのです。そしたらラウラさんも入って……」

 

セシリアは何かを見てピシっと固まった。

 

「…お二人も手を握っていらっしゃったのですね」

 

(セシリアの雰囲気が変わった?)

手を握っていたことに対してなら普通、一夏と箒の時じゃないか?二人は他人なんだし…。

 

「セシリア、二人共いなくなっちゃったよ」

「え?あぁ……」

 

(シャルもどうしたんだ?)

俺の後ろに隠れるように立って。二人は仲良いと思ってたんだけどな。

前セシリア、シャル押し倒してたし。

 

「あの黒川さん。実は私先日のお礼をしたくて。…できれば少しお付き合いしても構いませんか?」

 

さっきとは裏腹に、もじもじと言いにくそうに尋ねてきた。

 

「別にそんな大したことしてないぞ」

「いえ。私にとってはとても大きいです」

 

セシリアはグッと近づいて俺の手を握る。

 

「いいぞ」

 

俺が答えると花が咲いたように晴れ晴れしたものになった。

 

「では行きましょう。あそこのお店です」

 

するっと腕を組んで来るセシリア。別に俺は逃げないから大丈夫だって。

 

 

 

(シャルロットside―寮)

 

 

 

「何か怒ってないか?」

「別に」

 

優の歩くペースなんて考えずに歩く。

信じられない。いくらセシリアといたからって僕置いてってどこか行っちゃうし。

しかも帰ってきたら二人お揃いのブレスレッドしてるし。

まぁ僕もセシリアや優と同じだったけど、だったら先に僕探してくれもいいじゃんって思う。

 

「そういえばシャルはこの部屋だったな」

「そうだね」

 

つんって答える。

いくら親子と言っても義理だし年の差はないって理由で優と別の部屋になったのだ。

因みにもう一人はラウラ。時々、クラリッサさんって人から聞いた変な日本文化(?)を教えてくれる。

 

「シャル」

「なに」

 

―ちゅ

 

「また明日な。おやすみ」

「…………………」

 

優はそのまま自分の部屋に戻って行ってしまった。

 

(ズルい………)

人の気も知らないでこんなことするなんて……。

 

優の唇が触れた頬は熱を持ってままだった。

 

 




魔理沙「久しぶりだぜ。私は霧雨 魔理沙。作者の代理人だぜ」
霊夢「私は話し相手といったところね。次は何になるのかしら?」
魔理沙「臨海学校。舞台は海だぜ。
先に言うと内容には期待しないでくれ。私は海に行かないからな」
霊夢「幻想郷と同じで近くに海がないだけでしょ」
魔理沙「そうとも言う。閑話になるが楽しんで欲しいぜ。じゃあ――」

魔理沙、霊夢「ここまで読んで頂きありがとうございました」



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GiRL's Day ―Seaside school


皆さん。こんにちは作者です。
涼しくなりましたが体調は大丈夫ですか?

私はいつも通りです。
というか、物語を書く時間を確保する意味では風邪ぐらいひいてた方が良いかもしれませんね(笑)

それでは本編をどうぞ♪ヽ(´▽`)/



(優side―バス)

 

 

「海っ、見えたぁ!」

 

 

今日は臨海学校初日

綺麗な海が見えたことが今日から泊まる旅館が近いことを示している。

皆もバスの中で大盛り上がりだ。

因みに俺は2回目。その時は事実上大荒れだったが旅館周辺の地形は嫌というほど知っている。

 

 

「ねぇねぇゆーりん」

「なんだ本音?あと、その名前はやめろ」

 

「ゆーりん」は去年、女装して学園にいた時の名前「井上 酉花」がもとになっているらしい。

恥ずかしいからやめてほしいのだが本人は聞いてくれない。

 

「なんででゅちぃとキスしてたの?」

「「「「え?」」」」

 

皆が俺とシャルを凝視してきた。そんな驚くことじゃないだろ。

 

「親子なんだから頬ならいいだろ?」

「………………」

「そっか……」

「親子だもんね」

 

海外組は納得してくれたみたいだ。

まぁ比較的欧米の国ほどスキンシップが顕著だからな。

 

「…………」

「…………」

 

あれ?

セシリアは変わらず俺を睨んでる。そしてシャルも無言だ。

なぜだ?

 

 

(一夏side)

 

 

「見てみて!織斑先生だ!」

「わぁキレイ」

「黒川君もいる!」

「黒川君もカッコイイなぁ」

 

千冬姉は俺が選んだ黒の水着。

ホント弟が言うのもなんだが、モデル以上のスタイルの良さにドギマギする。

ここに男は俺と優しかいないけど1枚羽織ってくれないかなっと思う。

 

山田先生はグリーンの水着。

授業の時のように目に魅力的で(ある意味有毒な)姿である。

優は青い股下の長い水着に黒の上質そうなシャツを着ていた。

デザインは違うが相変わらず露出が少ない。

 

「優さん着てくれたのですね」

「あぁ。これ、ありがとうな。今度何かお礼するよ」

「楽しみにしてますわ」

 

なるほど。そのシャツはセシリアから貰ったのか。

それにしても、二人共上品な雰囲気を醸し出すよな。

やっぱり俺といる時より、優がいる時の方が合ってると思う。

教養の差だろうか。

 

「うぅ~」

「シャルロット?」

 

 

嫁と姑。いや、子持ちの親の結婚

これじゃあいつまで経っても優は誰とも結婚できなさそうだな……。

 

「オルコット、お前達も昼食をとってこい」

 

ぺしっとただ挙げて降ろしただけの手がセシリアの頭に落ちた。

 

「優さんは?」

「さっき、昼食を取りながら先生達と臨海学校の調整の話をしてたから今から自由時間だ」

「そうですか…。それは仕方ないですね」

 

というと他の先生もこれから休みなのだろう。

そうなると教師陣の自由時間は僅かしかないのだろうな。

 

「あと黒川、早くパラソルを立てろ。日焼けする」

「はいはい」

 

遠くでこき使われている優を見ながら1回砂浜を後にした。

 

 

 

(千冬side)

 

 

昼食で生徒がいなくなり、私達教員が海を楽しむ時間になった。

海を楽しむと言っても、私達は砂浜でゆっくりするだけだが。

 

「いくら男が俺と一夏しかいなくても上着を着たらどうですか?一夏気にしてましたよ」

 

黒川が私に2度目(1回目は日焼けも考慮して)の注意をする。

一夏が選んだスポーティながらもメッシュ状にクロスした部分がセクシーに見える黒水着。

一夏が無駄な注意をして見る限り、色物になるだろう。

 

「なんだ?お前も私の心配をしてくれるのか?」

「はっ!?誰が」

 

何気ない返事だったつもりだったが狼狽したのでもう少しつついてみる。

 

「そうか……残念だな。昔はキレイとも言ってくれたのに……」

「ま、まぁ…それは事実ですし…」

「昔はよく私の後ろを付いてきたのに……」

「それは…」

「夜、寂しがって私のベッドに入ってきたのに……」

「………泳いできます」

 

赤い顔を隠すかのように黒川は海に飛び込んだ。

 

「はははっ!!」

「織斑先生からかい過ぎですよ」

「アイツは真面目過ぎるんだ。このくらいでいい」

 

「黒川君ー!シャツは脱いだほうがいいですよー!」

 

山田先生は声を張り上げて優に注意するが、本人は全く聞かずにそのまま海に入った。

 

「山田先生、黒川は着水泳に馴れてますから」

「でも、せっかくオルコットさんから貰ったシャツが…」

「……アイツは私達に気を遣ってるんだ」

「気を遣う?」

「ここまで来て弾痕を見たくはないだろう。私達も、アイツも」

「あっ………」

 

四肢に撃たれたと言うことはそこに傷があるということ。

まったく。子供相手に酷いことをする。

 

「何の為にあんなことをしかも黒川君にさせたのでしょうか?」

「さあな。アレで肝心のZ-ONEは死んでしまった。

直接聞くにしても聞けん。それに、それを明らかするのが委員会の仕事だ」

 

「……やっぱり織斑先生って愛情を持って育てたんですね」

「山田先生……」

「べ、別に良いじゃないですか。昔の話ですし。

それにまだ、からかってません!」

 

えっへんっと自慢げに言う山田先生。

普通、年上をからかわないんだがな。

 

(まぁ……いいか)

その後は今と全然違って可愛げがあったなど、小さい時の一夏と優の話で盛り上がった。

そのせいで帰ってきても優の顔が真っ赤なままだったのはここでの内緒の話だ。

 

 

 

(優side―旅館、大広間)

 

 

「んー。やっぱりここの飯は上手いな」

「学園のも美味しいけど、こっちの方が新鮮かな」

 

俺達は浴衣姿で夕食をいただく。

 

因みにシャル達の浴衣は旅館のだが、俺のは女将さんの許可を貰って持ち込んだ特注物だ。

いつでも非常時に対応できるようにISスーツと同じ素材でできている。

 

「なんかあそこは変に静かなだな」

「そうだね。この前あんなことがあったのに…。なんか不気味だね」

 

一夏の両隣は箒と鈴、そこから一番近いテーブルにラウラ。

今は鈴と一夏が話しているだけだが間違いなく何かが起こりそうな雰囲気がある。

 

というかあの時の発端は君でしょう…シャル。

 

「鈴はよく一夏といるな」

 

昼の時も本人曰く「移動監視塔ごっこ」をしていたからな。

アプローチと言う点では鈴が一番積極的だったかもしれない。

 

「鈴は一夏を好きな人として見てるわけじゃないって前言ってたよ」

「あっ、そうなの」

 

昔は今の箒やラウラのように一夏一夏いちか言ってたんだけどな。

中国で良い男でも捕まえたのか?

 

「だから自分が何をしてても大丈夫だって2人に言ってたけど」

「やっぱりふたりは気になるんだろうな」

 

鈴からは大丈夫だとしても一夏からはどうなるかは別問題だからな。

 

「ゆ、優さん……」

「ん?どうしたセシリア?」

「あ、足が痺れてしまいまして……。助けて頂けませんか?」

 

今まで我慢していたのか顔が真っ赤である。

後ろから半分抱き抱えて後ろに引っ張り足が座布団の上で伸ばせるようにする。

 

「あ……」

「ん?」

「あ、いえ。助かりましたわ」

 

どうした?そんな物足りないみたいな表情して。

 

「まったく。正座がダメならテーブルで食べればいいのに」

「それではダメなのです。

そもそも、この席を取るのにどれだけ苦労を………」

「ん?この席って決められてたのか?」

「優、女の子には色々あるの」

「そうなのか?」

「そうなの」

 

「えーん。ゆーりん……」

「仕方ないでしょ。ジャンケンに負けたんだから」

 

 

去年は女としてここにいたが女子のネットワークは本当に深いな。

知らない間に席が決められていたのか……。

だとすると一夏の周りも決められているんだろうな。

きっと箒は隣になれて死ぬほど嬉しかっただろう。

 

「セシリアはどうやって飯食う?」

「あの……できれば食べさせてくれませんか?」

「いいぞ」

「ちょっと優!――」

「ホントですか!?」

 

シャルが何か言っていたがセシリアの声にかき消された。

さすがに長座対前屈のような体勢で食うわけにもいかないからな。

 

「はい。あーん」

「あ、あーん………」

 

「あぁ!せっしーずるい!」

「織斑君に食べさせてもらってる!卑怯者!」

「ずるくありませんわ!席が隣の特権です!」

 

正座に苦労していたさっきと違い、ビシッと強い口調で反論していた。

 

「それがずるいって言ってるの!」

「ゆーりん!わたしも!わたしもー!」

 

本音を始めたくさんの人が俺の前に並び始めた。

そんなに並んでももうあげれるものはないのですが…。

 

――ガラ、バシーン!

 

「またお前か」

「千冬さん……」

 

襖を開けたと思ったら躊躇なく俺を叩いてきた。

この人は透視でもできるのだろうか。

それにしてもあの強烈な出席簿アタックを受けても刺身を落とさなかった。うん、俺偉い。

 

「下らないことを考える暇があるなら騒ぎを起こすな。

私の手間が増える」

「りょ、了解です……」

「織斑、お前にも先に言っておく。ほどほどにしろよ」

「はぁ……」

「もっとシャキッと声を出さんか」

 

(セシリアside)

 

 

貴族の身として作法に反するようなことはできない、と言って一人で食べ続けてましたが

結局、時々優さんがPower Wallで座椅子程度に腰を上げたりしてもらいました。

本当に申し訳ないです……。

 

「立てるか?」

「申し訳ありません。まだ足が痺れてまして……」

 

あの体勢から何でもなかったように普通に立ち上がる日本人の体は一体どうなっているのでしょうか?

 

「すいません。そろそろ広間の掃除をしたいのですが」

「すいません。移動します。セシリア乗って」

 

優さんは膝をついて背中を私に向ける。

 

「あ、あの優さん。お気持ちは嬉しいのですが」

 

女性として、しかも好きな人の前で足を大きく開くのは抵抗がある。

 

「あぁ悪い。じゃあ失礼するぞ」

「ひゃ!?」

 

肩と膝を下から持ち上げられる。

俗に言うお姫様抱っこだ。

突然のことでつい慌てふためいてしまう。

 

「あっ、こら。暴れるなって」

「すいません」

 

こう体が触れて改めて感じるのが優さんはAIFとほぼ軍と変わらない施設にいるのに体格は私達に近い。

そういえば、筋トレの類いはあまり好きじゃないと言っていた気が。

 

「あ、あの。首に手を回した方が楽でしょうか?」

「そうだな。頼む」

 

手を回し少し力を入れる。

すると甘い顔により近くなる。

 

「……優さんはズルいです」

「何が?」

「女性を魅了させる術をいっぱい持ってます」

「それは一夏じゃないか?

アイツの方が背も高くて男らしくて何でもよく映える」

「いえ……」

 

確かに外見は女性そのもの。一夏さんの方が良いと言うひとはたくさんいる。

でも、優さんはその女性らしい一面の中に太い芯が見える。

それは一夏さんよりもはっきり、ずっと太い。

 

「優さん………」

 

首に回した腕の力が強くなる。

このままわたくしを甘く締め付けるこの想いを言葉にできたらどれだけいいだろうか。

けれど、きっと優さんはわたくしがどんな想いを告げても応えてはくれない。

何か、何かが優さんをしばりつけている。

それを解けない限り、きっと優さんはわたくしの気持ちを受け取ってくれない。

根拠はないがそんな気がしていた。

 

「優さんの大切なものは何ですか?」

「んー…、家族じゃないかな。一夏も千冬さんも入れてな。

本当に、辛い時は支えてもらえた。前を向かせてくれた。

そのことに関しては感謝しきれない」

 

優さんは少しだけ暗い表情になった気がした。

こうして一人でいる今、両親とは離れてしまった。

大事とは言っているが、あまり触れてほしくないのかもしれない。

 

「セシリアはやっぱり家になるのかな?」

「そう……ですかね…」

 

優さんの言葉を聞いた後だと自分が一生懸命守ってきたものなのにどうしても皮肉めいた、下心を持ったものに見えてしまう。

 

「別に、“オルコット”って名前だけが家を表すわけじゃない。

前教えてくれたチェルシーさんだっけ?

他にもお手伝いさんとかいて、セシリアを支えてくれる皆含めて『オルコット家』なんじゃないか?」

「優さん、ありがとうございます」

 

あぁ、優さんはどこまでも優しい。

どうしたら、わたくしもそんなことが言える人間になれるでしょうか?

 

――カシャ

 

「ん?」

「え?」

 

昔のカメラを真似たデジタル音が響いた。

 

「アンタ達、何してるのよ?」

 

目の前には自分の端末を私達に向ける鈴さんがいました。

 

「なんで声かける前に盗撮するんですか」

「そんなの簡単よ。面白そうだから」

 

鈴さんは「当たり前よ」と言いたげにふふんと答えた。

時々思いますけど、鈴さんは手癖が悪いんじゃないかと思います。

 

「それと千冬さんからの伝言よ。部屋に来いですって」

「わたくしがですか?」

 

特に織斑先生の逆鱗に触れることは……

 

(ありますね。現在進行形で……)

いや、でもまさか今の状態になって最初に会ったのがここにいる鈴さんですし、そんなことはないですよね……?

 

「え?じゃあ俺は?」

「アンタはしばらく適当に時間潰してなさい」

 

優さんに降ろされ織斑先生の部屋に行くために別れました。

 

「鈴さんも来るんですか?」

「私だけじゃないわ。箒にシャルロットにラウラも呼ばれたわ」

 

つまり、私達いつもいるメンバーということ。

共通点が優さんと一夏しか思い浮かばない…。

 

「まさか…怒られたりしないですわよね……?」

「さぁ?でも、何か言うんじゃない。あの人ブラコン気味だから」

「はぁ~…失礼します」

 

私達は乗り気でないが織斑先生のいる部屋に入っていった。

 

 

(一夏side)

 

 

「はー……」

 

しっかり体を洗い、露天風呂に浸かる。

 

 

バスタオルを体に巻き付けた金髪の長髪の人が入って来た。

 

(え…ちょ……)

もしかして入る場所、間違った…?

 

とにかく相手の裸を見ないように反対側を向く。

 

「え、あ、あの!ここは男湯ですんで!」

「あほ、俺だ」

「へ?」

 

くるっと体を戻して誰なのか確認する。

女性のように胸辺りまでタオルを巻いている優がいた。まどろっこしい。

 

「箒じゃなくて残念だったな」

「バカ、そんなこと考えてねーよ」

「昔、俺を箒と見間違えてたくせに」

「仕方ないだろ。大体、お前の髪が長過ぎるんだよ」

 

ほんと優がもし黒髪なら見分けがつかないからな。

 

バスタオルを巻き付けたまま湯船に入る。

本当ならマナー的に良くないと言いたいが優もそれはわかっているし

女将さんの清州さんも了解したのだろう。

 

「なぁ、委員会って俺の知らないところで何やってるんだ?」

「またその話か。代表選手になって長官が声をかけたら教えるって言ってるだろ」

 

またこの返答。

事あるごとに聞いてみるんだが優も千冬姉と同じで答える気がない。

何度もしてるやり取りなのでダメなら話を変える。

 

「しかし、何を話してるんだろうな」

 

わざわざ箒達を集めるなんて。

あいつら何か変なことしたのか?

 

「お前の結婚かもな」

「なわけないだろ。毎回、バカやらアホやら言って蹴ってくるんだから、

縁の切り方の方が合ってるはずだ。

「お前、それ本気で思ってる?」

「どう見てもそうだろ」

「はぁ………」

 

優はかなり深い溜め息をついた。

3日に一度は聞いている気がする。

何が問題なんだ。

 

「一夏、お前1回病院行けよ」

「なんで?健康なのにどこに行けと」

「眼科でも精神科でも。義兄として不安になるよ」

 

さっきほどではないが溜め息をつかれた。

 

 

(千冬side―自室)

 

 

 

「で、お前達一夏のことをどう思っている?」

 

一本目のビールを潰しながら5人に問いかける。

 

「わ、私は、別に……以前より剣の腕が落ちているのが気になるだけですし」

「私は腐れ縁ですから」

「ふん。つまらん」

 

篠ノ之と鳳の言葉を一蹴する。

特に篠ノ之。お前が本心でそれを言ってないことぐらい容易にわかる。

 

「でラウラ。お前はどう思っている?」

「…とても優しいと思います。人柄も力も…」

「ほう。それは良いことを聞いた。本人に言っておこう」

「きょ、教官!?」

 

ボーデヴィッヒもここに来てよく変わったと思う。

いや、一夏が変えてくれたんだろう。丸くなって良くなったと思う。

 

「ラウラがあそこまで言ったんだ。いいのか篠ノ之?」

「いや、私は……」

「別に、ここで言わないのなら暴走したラウラと一夏が一戦交える前のお前の声を届けてもいいんだが」

「な…!?」

「一夏がなんだったかな。なぁ篠ノ之?」

「織斑先生…。お願いですから止めて下さい……」

 

何を言っていたのかまだ覚えているのか、篠ノ之は顔を真っ赤にした。

最初からそう素直になればいいのに。めんどくさい奴だ。

 

「で、オルコットお前は?」

「わ、わたくしは一夏さんとは普通に御学友として」

「お前は優に対してだ。なんでもさっき優と見つめ合ってたとか」

「なっ!?」

 

オルコットは心当たりがあるのかすぐに凰を睨み付けていた。

がここで恥ずかしいところを突かれていない凰は余裕の表情をしていた。

コイツはからかってもつまらないな。

 

「あとはちょっとISを展開して優を押し倒すといったところか?

アイツは普段無防備だからそれより先にいけるかもな」

「わわ、わたくしはそのようなこと……」

 

と言いながらも想像したのか顔が赤くなっていく。

オルコットはからかうと面白いかもな。

 

「で、シャルロット。お前は?」

 

デュノアの名前を使うのは本人が嫌がりそうなのでとりあえず名前で呼ぶ。

 

「私は一夏とは友達で、優はお父さんで」

「お前もだ。

オルコットの話をした時、一番目の色を変えたのはお前だ。誰でもすぐ分かる」

「……………」

 

シャルロットは私の言葉に黙ってしまった。

他の奴らと違って優とは親子関係だからな。仕方ないか。

 

「デュノア、別にアイツのことが好きなら親と思わず好きにするといい」

「良いのですか?」

「お前とアイツは血の繋がっていない他人だ。

なら、恋愛の自由も結婚の自由もある。

まぁ、道のりは険しいとおもうがな」

 

表情が晴れたデュノアに対しオルコットの表情が曇った。

まぁ、保護者が交際を認めたと思える発言だったしな。

贔屓と言われたくもないし、もう一言言っておくか。

 

「と言ってもアイツがお前を好きになったら、の話だ。

向こうの習慣を真似て頬にキスされる時点で子供と見られているようだがな」

「うぅ………………」

 

シャルロットはガックリと肩を落とす。

コイツもからかうと面白いかもな。

 

「まぁアイツらは役に立つ。片や家事万能、片や仕事万能だ。

それはお前達がよく分かっているか」

 

5人はうんうんと強く頷いていた。

 

「といわけで付き合えた女は得だな。どうだ欲しいか?」

「「「「くれるんですか!?」」」」

「いや、やらん」

「「「「えぇ~……」」」」

 

4人は落胆する様子を思いっきり声に出して抗議した。

 

「女なら、奪うぐらいの気持ちでどうする

それに、私から取るよりアイツらから取る方が大変かもな」

 

その現実も知っている各々は私の言葉にガックリとしていた。

私はそんな一喜一憂する姿を面白おかしく見させてもらった。

 

 





霊「まぁ随分駆け足でいったわね」
魔「シーンが飛び飛びなのは勘弁してほしいんだぜ。
全部書いてたら投稿できない量になっちゃうからな」
霊「どうせ手抜きもあるでしょ」
魔「この後、戦闘シーンがあるからそっちに力を入れたいだけだぜ」
霊「まぁどっちでもいいわ。ちゃんとギャラが貰えれば」
魔「信じられるか?これが巫女なんだぜ」
霊「何か言った?」
魔「別に。次はあの人が出るって話をしただけだぜ」
霊「そう。じゃあ絞めましょう」

魔、霊「ここまで読んで頂きありがとうございました」


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Stand on the deadline


こんにちは作者こと黒川 優です。

先日Twitterを開設しました。名前はここと同じ“黒川 優(@if_author)"です。
まだ寂しいところですがポチィとフォロー押して感想などを書いて下さったらと思っています。

あと、ハーメルンで活躍している作者さんのアカウントを教えて下さると嬉しいです。

それでは本編をどうぞ♪ヽ(´▽`)/



 

白雷(はくらい)

 

 

一定時間(だいたい一回の戦闘時間)に一度、機体を高機動状態にするIFのブースターシステム。

 

ただし、操縦者保護の範囲を超える加速なため肉体的負担が大きい。

 

 

(一夏side)

 

 

臨海学校2日目。

今日は丸1日ISの各種装備試験運用とデータ取りを行うことになっている。

 

専用機持ちは各研究室がこの非限定空間での活動を待ってましたと言わんばかりに大量の装備が運ばれる。

俺の百式はワガママ体質ってこともありほとんどないが、鈴達は遠くに輸送船があるのを見る限りかなりの量だ。

 

 

「あ、あの…、これはなんでしょうか?」

 

一人が指を指して千冬姉に聞いている。

この場所に不釣り合いな巨大なニンジンが地面に突き刺さっていた。

俺もそれが気になってあまり千冬姉の注意を聞いてなかった。

 

「……織斑、百式を使ってこれを海に投げ捨てろ」

「え…。でも……」

 

目が「とっととやれ」と言っている。

俺は言われた通り、巨大なニンジンを持ち上げてポイッと投げ捨てた。

 

「ち~~~ちゃ~~~~ん!」

 

ニンジンが縦に割れたと思ったら中から現れたのは稀代の天才、篠ノ之 束。

立ち入り禁止なんてなかったのように臨海学校に乱入してきた。

 

千冬姉はアイアンクローで頭を掴んだ後、思いっきり海へ投げ捨てた。

羽のない人間は空中で軌道を変えることはできない。

束さんはそのまま海へ落ちていった。

 

「教官よろしいのですか?一般人があのような服装では溺れますが……」

「ほっとけ。どうせ碌なことをしない」

「もう。ちーちゃんの愛情表現は激しいなぁ」

 

ひょいとさっきのことが嘘のように千冬姉の後ろから顔を出す。なぜか服は乾いていた。一体どんな構造なんだろうか?

 

「束。自己紹介くらいしろ。うちの生徒たちが困っている」

「えー面倒くさいな。私が天才束さんだよ。はろー。はいおわり」

 

束さんはくるっと回って箒に向かって微笑んだ。

「で、何しに来た?」

「ちーちゃんも分かってるでしょ?だから箒ちゃんをここによんでいるんでしょ」

「……………」

「では、大空をご覧あれ!」

 

束さんはビシッと直上指さす。それにつられて俺たちも上を見る。

 

金属の塊が俺の隣に落ちた。下手すればペシャンコになっていた。

銀色をしたそれはパカッと開いて紅い機体が見えた。

 

「じゃんじゃじゃーん‼これが箒ちゃんの専用機『赤椿』!全スペックが現行ISを上回る束さんお手製のISだよ」

 

(最新鋭機にして最高性能機か……)

束さんが作ったのだから当たり前かもしれないが、何とも言えない。

 

「じゃあさっそくフィッティングとパーソナライズしちゃおうか♪」

「それでは…お願いします……」

 

束さんと対照的に箒はやや堅い表情で答えていた。

 

「ふふ~ん♪近接戦闘を軸に万能型に調整してあるからすぐに馴染むと思うよ♪

あと、自動支援装備も作ったからね、お姉ちゃんが♪」

「それはどうも……」

 

相変わらず箒は素っ気ない返ししかしない。

どうもISを作ったのが原因らしいけど、そろそろ許してもいいんじゃないかな。

 

「あ、あのっ!篠ノ之束博士のご高名はかねがね承っております!

もしよければ私のISを見て頂けませんか!」

 

誰かと思えばセシリアだった。稀代の天才に会えたことに瞳は輝いていた。

 

「なに君、誰だよ」

「え?」

 

さっきまでのふわふわした雰囲気は無くなり言葉も口調も視線にセシリアは固まってしまった。

 

「そもそも今は――」

「セシリア、ちょっと話があるんだ。来てくれ」

「待って下さい。私は今きゃ!?」

 

優は返事を待たずにセシリアをお姫様抱っこして旅館の方へ連れていった。

 

「水を指されたけど、アレが連れ出していったからいいとしよう」

 

優のおかげで束さんは機嫌を崩さず作業を続けてくれた。

優GJ

 

「それじゃあ、試運転も兼ねて飛んでみれば?

ちょっと飛ぶのに苦労するかもしれないから」

「えぇ。そうします」

 

まぶたを閉じて意識を集中させると、赤椿は一瞬にして大空へ飛び立った。

 

「最初は展開装甲があるから飛びにくいかもしれないけど、すぐ慣れるから大丈夫だよ」

「では…いきます」

 

確かに最初は危なげな感じがあったが今は普通に。じゃなくて……

 

「何ですか?その…展開装甲って」

 

たぶん画期的なものなはずだが全く聞いたことがない。

 

「いっくんに教えてあげよう。展開装甲は『パッケージ換装を必要としない万能機』を可能にした第四世代だよ~

だから、赤椿は攻撃・防御・機動と用途に応じて切り替え可能なんだよ」

「「「「え」」」」

 

(は…?もう第四?)

赤椿は確かに俺たちのISよりずっと速い。

でも、束さんの話が本当なら他の研究者達の努力は意味を成さない

 

「束、やり過ぎるなと言ったはずだ」

「え~これでも抑えてるよ~」

 

あれで抑えているなんて聞いたらどの国の技術者も発狂するだろうな……。

 

「じゃあ武器データ送るよ~。右が対単一仕様の武器『雨月』左が対集団仕様の武器『空裂』じゃあ早速――」

 

束さんは一六連装ミサイルポットを呼び出し箒に放った。

 

「箒!」

「―やれる!この赤椿なら!」

 

空裂を振るうことで見事ミサイルを撃ち落とし堂々と立つ赤椿。

その姿に誰もがその能力の高さに畏れた。

 

「ところで、アインスはどこにいるの?」

「さっきいただろうが」

「どこに~?」

「お前の視点からすればうるさい金髪を連れていったやつだ」

「あ~あれか。とう!」

 

その言葉と共に何メートルか飛んだ後、歩いて来る優に上から落ち優を押し倒した。

 

「えーとどれどれ。あっこれがアインスだね」

 

俺も初めて見たアインスの待機状態。

何かのアクセサリーだと思っていたそれはただの端末だった。

 

「ん~変わったフラグメントマップを作っているかと思ったらそうでもないんだね。予想範囲内かな~。さすがISに劣るIFだね~」

興味の対象は優じゃなくて機体の方か。まぁ束さんは俺達以外の人間に興味持たないからな。当たり前と言えば当たり前である。

だけど、千冬姉は一瞬驚いていたな。なんか関係があるのだろうか?

 

「返せ」

 

また取られるのはごめんと思ったのかアインスを羽織だけ展開した。

確か、アインスは委員会が機密情報として扱っているから束さんでも見られたら困るか。

 

「ほうほう。それがアインスだけが使える単一化ね。凡人のわりに頑張ったじゃん」

「単一化?」

「装甲を外すだけで機能特化専用パッケージ『オートクチュール』の状態になれるシステムだ」

 

優が拗ねたかのように答えた。こんな凄いはずの最新技術の感想が一言だけだもんな。

そもそも束さんを基準にしたのが間違いか。

 

「お、織斑先生!」

 

いきなりの山田先生の声に、千冬姉は向き直って持って来られた端末に目を通す。

 

「特命任務レベルA、現時刻もって対策を開始されたし」

「そ、それが、その、ハワイ沖で試験稼働していた。それと――」

「機密事項を口にするな。生徒に聞こえる」

「す、すみませんっ……」

「機体持ちは?」

「一人欠席していますが、それ以外は」

 

漏れてもいい情報は会話で、重要な話は手話らしいもので連絡を取り合っていた。

 

「そ、それでは私は、私は他の先生達にも連絡しておきますのでっ」

 

いつものほんわかした感じは無く、以前ISに乗っていた時のようにピシッとした感じで旅館に戻って行った。

 

「現時刻をもってIS学園教員は特別任務行動へ移る。今日のテスト稼働は中止。各班ISを片付けて旅館に戻れ。連絡があるまで各自室に待機すること。以上だ!」

 

不測の事態にみんなは騒がしくなる。

がその中、優、代表候補生の顔つきが厳しくなっていった。

 

「千冬さん」

「あぁ、今すぐ準備してくれ」

「了解」

 

優も旅館に向かって急いで飛び立った。

 

「機体持ちは私に付いてこい。篠ノ之、お前もだ」

「は、はい!」

 

箒は優と対照的に明るく誇らしげに千冬姉の声に答えた。

 

 

 

 

(一夏side―大広間)

 

 

 

「では、現状を説明する」

 

旅館の大広間に俺たち機体持ち、教師陣が集められた。

 

「――――――、福音は30分後ここから2㎞先の空域を通過することがわかった。学園上層部からの伝達により、我々がこの事態を対処することになった」

 

(なっ……)

アメリカの軍用機が暴走…?

 

「教員は学園の訓練機を使用して空域及び海域の封鎖を行う。よって、本作戦の要は専用機持ちに担当してもらう」

 

(しかも、俺達が……!?)

 

「それでは作戦会議を始める。意見があるものは挙手するように」

「はい」

 

セシリアが手を挙げた。

 

「福音の詳細なデータの開示を要求します」

「いいだろう。しかし、これはアメリカとイスラエルの軍事機密だ。

漏洩させればペナルティと監視を課せられることを忘れるな」

「はい」

 

皆はデータから様々な視点から福音の推測を始めた。

今暴走しているのは軍用機。

用途が俺達と違って戦うことに重点を置いてあるせいか、同じ第三世代とは思えない。

 

「黒川、お前からも一言」

「ではまた。……えーと福音ですね。福音はデータ通り多くの砲口を持ち、正面からの突破は困難。格闘武器はないですが操縦者が軍人なので接近できても気は抜けないでしょう。

ブレードの類いで少しでもアドバンテージを取った方がいいです」

 

優はどこかに連絡を取りながらアドバイスと一緒に俺に視線を向けていた。

 

「ちょっと待ってくれ。零落白夜なら福音を倒せるのはわかる。でも、

こういうのは実践経験の多い優を中心に組んだ方がいいだろ」

「できればそうしたい。だが、それはできない」

「どうして?」

「今、IFがアメリカ軍基地を襲撃している。黒川はそっちに行かなければならない」

 

だから、優は俺達から少し離れた所で端末で連絡を取り合っていたのか……。

しかも、IFってことは相手はテロ組織と言っても過言ではない、亡国機業。

 

「別に無理は言わない。最悪黒川を作戦にあてる」

 

――――。

 

千冬姉にそう言われて、俺は及び腰になっていた自分を蹴り倒した。

 

「やります。俺にやらせて下さい」

「そうか。ではもう1つの………」

「待った待―った。その作戦ちょっと待ったなんだよ~」

 

ひょこっと屋根裏から束さんが現れる。

そしてくるっと一回転して床に着陸。体の使い方が絶対におかしい。

 

「いっくんをあのISに運ぶのを誰かがしなくちゃいけないんでしょ?

だったら赤椿の出番なんだよ」

「どういうことだ?」

「赤椿の展開装甲を調節するとねー高機動ができるようになるんだよー。

ほら、調節は30秒もいらない。というかもう赤椿は高機動対応にしてあるよ~」

 

束さんは嬉しそうに福音のデータが映っていたディスプレイを赤椿のに変えて説明していた。

 

「……オルコット、もしこれから高機動装備にするのにどのくらい時間がかかる?」

「正直に申しますと、作戦の決行に支障がでる恐れがあります」

「………やむおえないか。

では本作戦は織斑、篠ノ之の両名で行う。

2人はボーデヴィッヒ達から高機動における心得とシミュレーションを行え」

「「はい」」

 

 

 

(一夏side)

 

 

『織斑、篠ノ之、聞こえるか?』

 

『今回の作戦の要は一撃必殺だ。短時間での決着を心がけろ』

「了解」

「織斑先生、私は必要に応じて一夏のサポートをすればよろしいですか?」

『そうだな。だか無理はするな。お前は実践経験は皆無だ。突然、なにかしらの問題がでるとも限らない』

「わかりました」

 

箒は明るい声で千冬姉に答える。

さっきからこんな感じなのだ。

第四世代の機体を持ったせいか、いつもより態度が浮かれ過ぎてはないだろうか。

 

 

『――織斑』

「は、はい」

『どうも篠ノ之は浮かれているな。あれでは作戦に支障が出るかもしれん。いざというときはサポートしてやれ』

「わかりました。意識しておきます」

『頼むぞ』

 

『では、作戦開始!』

 

箒の背中に乗り飛翔する。

 

(速い……)

常時瞬間加速をしている勢いだ。

でも、そしたらエネルギー消費は激しいはず。どこからそのエネルギーを調達するんだ?

 

「いたぞ!福音だ!」

 

巨大なウイングスラスターが特徴的な銀色の機体、福音が前方

まだこっちには気付いていない。

 

「行け一夏!」

「うおおおぉぉぉお‼」

 

零落白夜を発動させ、瞬間加速で接近する。

 

 

が、福音は雪片を紙一重で避けた。

 

(コイツ…。このスピードの中でなんつー動きしてるんだよ)

こっちの攻撃を数ミリという次元で避けてくる。

 

『敵機二機確認―≪銀の鐘≫稼働』

 

こっちの敵意に福音が気付き、臨戦態勢に入られる。

 

どうする?ここから引くか?

いや、ここに来るまでに時間とエネルギーを要してる以上、引けない。

 

「箒、そっちから頼む」

『任せろ!』

 

箒は二刀を展開し戦いに参加する。

赤椿は更には腕部から展開装甲が開きそこからエネルギー刃が放出される。

 

「くそ!」

 

優が教えてくれた連続展開でも福音を捉えることができない。

 

 

ピピィピピィピピィ――ピピィピピィピピィ――

 

(こんな時に……。機体の異常か?)

中型の船が俺達の下を渡っていた。

 

(あれは…密漁船!?どうして)

海上は教員が閉鎖したはずなのに……。

なんにしても動けないのとそう変わらない船を放置するわけにはいかない。

 

「間に合え!零落白夜」

 

連続展開で密漁船近くに落ちそうだったエネルギー弾を全て無力化する。

 

これによって雪片はエネルギーを失い光の粒子となってしまった。

最大にして唯一のチャンスを、作戦の要を無くした。

 

『一夏、何をしている』

「密漁船だ。何とかあの人達を守らないと」

『馬鹿者!犯罪者などをかばって……。そんなやつらは』

「箒!」

『ッ―――!?』

「箒、そんな悲しきこと言うなよ。力を手にしたら、弱いヤツのことが見えなくなるなんて……どうしたんだよ」

『わ、私、は……』

 

動揺を隠しきれずその顔を手で隠す。

その時、持っていた雨月と空裂を手放す。その二刀は光の粒子となって消えた。

具現化限界。つまり赤椿ももうエネルギーがない。

その奥で福音が砲口を開き、箒を狙っていた。

 

「箒!!」

 

(くそ!エネルギーが足りねぇ!)

瞬間加速で箒を助けようとするがガクンと速度が落ちてしまった。

 

光弾が箒の眼前まで迫った時、俺と箒の前を白い閃光が横切った。

 

 

 

(一夏side)

 

 

 

 

俺と箒は白い閃光に引っ張られた。

 

『二人とも大丈夫か?』

「お前の方こそ大丈夫かよ……」

 

助けに来てくれた優は吐血していて話せる状態じゃない。それでも会話ができるのはプライベートチャネルのおかげだ。

 

『一夏、ファントムを出して白雷で撤退しろ』

「でも……」

『お前達の任務は失敗した。今は次の作戦のために帰還しろ』

「優はどうするんだよ」

『お前達が帰還できるように時間を稼ぐ』

 

何十もの槍と一緒にレヴァを展開した。

 

『大丈夫だ。Slave Modeもある。死にはしない』

『IF 確認。「銀の弾」稼働開始。直ちに――抹殺する』

 

福音が俺達の時以上の殺気をもって接近してきた。

 

『行け!』

「――!」

 

俺は半ば逃げるように箒を抱え飛び立った。

 

 

 

 

(優side)

 

 

「げほっげほっ」

 

喉に溜まっていた血を吐きだす。

やはり長時間飛び過ぎた。白雷による体の負担が大きい。

 

 

(さぁ…どうするか……)

 

この福音第一号の稼働データのほとんどは俺との実戦データでできている。

つまり、向こうは過去のデータから俺の動きを捉えることができる。

それはこっちも同じだが、今回機体を動かしているのは操縦者ではなくシステム。

俺はそのシステムの内容までは知らない。

その上、『銀の弾丸(シルバーブレッド)』はいわばIFに対する零落白夜。シールドは貫通する。

 

 

「……ブランディストック」

 

福音の銀の弾丸と同じように双短銃を展開する。

 

距離を置きながら左右の短銃から反時計、時計回りで弾を放つ。

上手くいけば最初に撃った弾が陽動になり、自分の正面に逃げてきた時多くの弾を当てることができるが、これは以前使ったことがある技。

データとして残っている福音は的確に避ける。

そのままこっちと同じ動作で反撃してくる。

 

(やっぱり、コイツでも無理か……)

ブランディストックの連射性能は銃火器でもトップクラスなのだが2門で計34門を相手するにはやはり心もとなかった。

 

「くっ………」

 

リロードで弾幕が薄くなった瞬間を狙われた。

やむ終えず意図的にブランディストックを爆発させることで撃たれた弾を相殺した。

 

煙の中から福音が一気に接近してくる。

体がまだ強張っている俺の体は何もできず猛烈な蹴りを受けて小島に落下した。

 

『―――』

「喰らっとけ」

 

ミスティルで風を纏わせ最大まで威力を上げた赤槍アキュレスを投擲する。

 

(ちっ、かすっただけか……)

お互い高速で動いるためよく見えないが福音の砲口を2門程度潰せた程度だろう……。

 

『――敵の推測エネルギー残量約60%危険度―C』

 

 

(こうなると後は……自爆特攻による『コズミック・ブラスト』の発動しかないな)

 

――コズミック・ブラスト――

 

破壊された機体のエネルギーを全て能力に変える技。

例え無傷の福音でも一気に致命傷にもっていくことができる。

だが『コズミック・ブラスト』は道ずれを前提にした技。

 

俺もすぐに他の機体を再展開できるわけではない。

間違えば俺は死ぬことになる。

 

 

「ミスティル」

 

大量のアキュレスを展開し福音に向ける。

 

「Unsleep Scarlet Moonlight」

 

福音から見て十字架見えるように展開されたアキュレスが一斉に放たれる。

福音が銀の弾丸でアキュレスを相殺する。

すると弾かれた槍が他の槍にぶつかる。その繰り返しでほぼ全ての槍が不規則な動きのまま福音へ向かった。

 

この技の特徴は反撃にでると槍が予測不可能な軌道をすること。

しかし、逃げようとしてもミスティルで追撃できる。

これなら戦闘中複数回使っても見切られることはない。

 

福音も回避は不可能と判断したらしく上空へ逃げるも俺がミスティルで追撃させる。

それを見てアキュレスを破壊することにしたらしい。

だが、その方法はグルンっと回ったかと思ったら畳んでいた銀の鐘を一気に開き、広範囲にエネルギーの弾雨が降り下ろしたものだった。

 

(おいおい…。それはズルくないか……)

ウイングスラスターから放たれたのは接触した途端、爆発するエネルギー弾。

そう。福音は強引に全てのアキュレスを破壊したのだ。

 

これじゃあ、現アインス最大戦力のスターダストでも部が悪い、なんてどころじゃない。

 

 

完全にがら空きになったところを瞬間加速で接近し突きの体勢をとった。

 

――ガキン!

 

俺はその腕を黒槍ブラックスピアをブレード代わりに扱うことで弾いた。

 

(別に使わないだけでアキュレス以外の槍がないわけじゃないんだよ)

しかし、福音の伸ばした腕が首を狙う辺り達が悪い。

が、接近してくれたのは助かった。

 

アキュレス以外の槍、黒槍ブラックスピアやパルチザンをあるだけ展開してミルティルで全方向から圧力をかける。これで福音を一時的ながら拘束することができた。

 

 

「――コズミック・ブラスト」

 

砲口で槍を破壊される前に福音を中心に巨大な竜巻が発生する。

 

福音の腹を蹴って距離を取る。後は海面に落ちる前に別の機体を――

 

―ガシッ

 

(な!?)

福音が自分の腕など省みずせず俺の足を掴んできた。

別の機体を展開し瞬間加速で離脱を計るがそれでも福音は俺の足を放さなかった。

 

(くそっ!コズミック・ブラストはもう止められ…)

 

バアァァァン――!!

 

ただ広い太平洋に爆発が鳴り響いた。

 

 

―――パラパラパラ…………

 

爆発によって

装甲が海へ落ちていく。

 

「ふぅ………」

 

(まったく。もう少し遅れてたら足がなくなるところだった)

 

俺の体にはレヴァとは異なる機体が展開されていた。

正直、なんでこの早い段階でSlave Modeが発動したのかは分からない。

しかし、これは福音に対抗できるチャンスだ。

さっきのコズミック・ブラストでSlave Modeが発動し防御の為に多くの装甲を盾代わりにした。

今なら自分の意志でコイツを動かせる。

 

対して福音は攻撃の要になっている銀の鐘が中破。

この状況なら福音を倒せるかもしれない。

 

『キアアアアアアァ……!!』

 

 

バキン!っという音と共に攻守の軸になっている銀の鐘が外れるように壊れた。

そして、内側から信じられないものが姿を現していた。

 

(嘘だろ……。こんなことが…)

形態移行なのか、何にしてもISではあり得ないことが起こっている……。

 

(一体何が…。またVTシステムの類いか?)

 

警告―高エネルギー反応あり……警告―……

 

口の前にエネルギーが集中し青い光線を吐かれた。

それをギリギリながらも避ける。

あまりの熱量に光線が当たった海面の一部は海水が蒸発したことで凹んでいるように見えた。

 

軍用機だとしてもあの威力は異常だ。

確実に掛けられているはずのリミッターがなくなっている。

 

『キアアアアアアァ!』

 

獣のような雄叫びに福音に意識を戻した時、俺は何かに包まれ、そして意識を失った。

 

 

 

 

(一夏side)

 

 

 

『―白雷-発動』

 

まるで常に瞬間加速をしているような速さで飛行する。

赤椿よりも速い速度によるGで体が悲鳴をあげる。

優の体がボロボロなのもわかる。優はもっと速かったのだから。

 

バアァァァン――!!

 

何かが爆ぜる音、何かが海に落ちるが聞こえた。

 

―『アインス』よりEmergency Callをキャッチ―

 

「一夏!黒川が!」

「……」

「一夏!」

「…わかっている」

「ならどうして!」

 

俺だって助けに行きたい。でも……

 

「ダメだ箒。今の俺達じゃ優の力になれない…」

「……」

「あと30秒で着く」

「…わかった」

 

俺達は無力さを感じながら皆のもとに戻った。

 

 

 






霊「主人公遅れて登場っと思ったら呆気なく負けたわね。主人公最強説は早くも折られたわね」
魔「“IS狩りが止められた=誰かに負けた"だからな。元々最強ではないぜ。
それに始めっから強かったら成長できないぜ」
霊「まぁそうね。現時点で一夏達より強いけど」
魔「それは言っちゃダメだぜ」

魔「話は変わるが今作は今日投稿したので21話になるんだ。
今は7月だからまだまだ話は長くなる」
霊「予定だと3月までは確実に書くそうよ」
魔「そこで字数の少ない所を併合して目次をスリムにしたいと思っている。
題名は変えないから大丈夫だと思うけど、違和感を感じたら『あぁ調節したんだな』って 思ってほしいんだぜ。あとTwitterもよろしくなんだぜ」

魔、霊「ここまで読んで頂きありがとうございました」


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Revenge Return+α

皆さんこんにちは。黒川 優です。

先日開設したTwitterは@if_authorで検索すればヒットすると思いますので是非気軽にフォローしてくださると嬉しいです。

それでは本編をどうぞ



(箒side)

 

 

 

ザザザザザァ――

 

私達は飛行機が不時着するような形で作戦開始地点に戻ってきた。

 

「一夏!?しっかりしろ一夏!」

 

軽くゆすってみるが反応が全くない。

なんで…、ただ飛んでいただけのはずなのに……。

 

「篠ノ之!不用意に体を揺らすな!」

「織斑先生……」

 

 

 

「救護班!早く一夏を連れて治療を施せ!」

 

千冬さんの指示でタンカーを持った教員達が私達の所に来てくれて一夏を運んで行ってくれた。

 

「お、織斑――」

「作戦は失敗だ。以降、状況に変化があれば召集する。それまで各自待機しろ」

 

織斑先生は私を責めることなく、ただ待機命令を出しただけだった。

 

 

「箒、優は?」

 

シャルロットが走って私のところに来る。

辺りを見回しても黒川がいないことに不安を感じている。

 

「すまない……。黒川は私達を逃がす為に福音と戦っていた」

「優は大丈夫……だよね?」

「………」

 

私は何も言えなかった。

私のせいであそこに残ざれ負えなかった黒川のことを。

 

Emergency Callが鳴っていたのに助けなかった私が、「大丈夫だ」なんて……。

 

「嘘…だよね……優が…そんな……」

「………すまない」

 

シャルロットの泣く声が砂浜に小さく、

 

―――――――――――――――――

 

 

(私のせいだ…)

私が一夏や黒川のようにしっかりしていれば……。

 

シャルロットの泣き崩れる姿を思い出す。

自分も大切な人との時間を取られたことがあったためにシャロットの気持ちが痛いほどわかるはずなのに…。

私は昔と変わっていなかった。

 

(最悪だ…)

私にISを使う資格など…ありはしない……。

 

「ったく。ここにいたのね」

「……鈴」

 

部屋の出入口で凰 鈴音が仁王立ちで私を見ていた。

 

 

(ラウラside)

 

 

 

「ここにいたか」

「…………………」

 

シャルロットは黒川が借りた部屋で黒川が着ていた服を胸に抱きしめて泣いていた。

 

「シャルロット。福音の場所が分かった。教官が私達に作戦の伝達をしたいらしい」

「……ゆうぅ……ゆうぅ………」

 

シャルロットは泣き続けたままたった。

今のシャルロットにとって黒川はかけがえのない存在、光指す世界に繋ぎ止めてくれる存在。そのアイツが消えたかもしれない。だから泣きたいというのは分かる。

 

「私情を挟むな、とは言わない。だが、泣いて何になる?」

「……え?」

 

私の声にシャルロットは初めて頭を上げてくれた。

 

「もし涙流して願いが叶うなら私は軍で一番の泣き虫だっただろう。

だが現実は違う。その時だけ自分の心が晴れるだけで現実は何も変わらない」

「ラウラ………」

「私達が今することは黒川を願うことでも無事を祈ることでもない。

ただ今回の事故を解決する。それだけだ」

 

心の折れた人間に泣くな、逃げるな、立ち上がって進めと言うのは酷な話だ。

しかし、作戦遂行のためにはシャルロットの力は必要なのだ。

 

「……ラウラ、優は…生きてるよね?」

「当たり前だ。アイツがそんな簡単にくたばるわけないだろう」

 

でなければ先月まで私が血眼になってまで黒川に執着しなかっただろう。

それにIS狩りで教官と戦ったにも関わらず生きていたラッキーボーイだ。

そんな悪運の強い奴がこんなことで死ぬわけがない。

 

「きっと全快とは言えないと思う。

けど、僕頑張るよ。優に会えた時泣いてたんじゃ恥ずかしいもん」

 

その目は赤くなっていたが真っ直ぐと前を向いていた。

 

「行くぞ。教官が呼んでいる」

「うん」

 

私はシャルロットの手を引き外へ連れ出した。

 

 

 

(一夏side)

 

 

「福音の居場所がわかった。これから作戦会議を行う」

 

千冬姉の言葉で2回目の作戦会議が始まるが皆の表情は良くはない。

やっぱり優のことが気になって仕方ない。

 

「その前に、黒川だが……」

「今、

州の病院にいる。報告も無しにアメリカに行っていたそうだ」

 

私の言葉に皆の表情が晴れる。

特にシャルロットは優が生きていることがわかったのだ。

福音のことがなかったら大喜びしていただろうな。

 

「諸君らにはあのバカと同じようなことはしないことをしないよう単独行動などは慎んでもらいたい。では、これより作戦会議を始める」

「「「はい!」」」

 

 

 

(楯無side)

 

 

 

――数時間前――

 

輸送機からISのハイパーセンサーを使って海を詮索する。

 

(きっと福音の衛星追跡を見る限りここの辺で戦闘があったはず)

 

 

―いた!

 

波に流されながら何とか浮いている人を見つけた。

機体を完全展開し、優くんを助けにいく。

 

赤い装甲の破片が彼の周りで浮かんでいた。

 

(嘘……。それってあの機体も敗れたってこと…)

とにかく考えるのはあと。

彼を輸送機まで連れ戻して私の機体を展開させて操縦者保護を最大にする。

その間に人工呼吸、ナノマシンで止血と治療を虚と一緒に進める。

 

「……げぼっげほっ!」

「優くん!」

 

意識が戻った優くんは飲み込んでいた海水を吐き出した。

 

「……ぁ…楯無……」

「よかった…。よかった……」

 

体は弱っているって分かっているけどついぎゅっと抱き締めてしまう。

 

「楯無……いたい……」

「ごめん……」

 

その後もナノマシンでの点滴を行ったおかげで朦朧としたものでなくしっかり意識が戻ったみたい。

 

「そうだ…。アメリカのはどうなっている……」

「依然IFとアメリカ軍用ISが交戦中よ。

ただ、遠距離重視と近接重視だから部が悪いらしいわ」

「そうか……――!?」

 

優くんは送られた映像を見て飛び起きた。

 

「この映像、何分前に来たやつだ?」

「たぶん…10分ぐらい前よ」

 

それを聞いた優くんは私のISを押し返してアインスで大空を飛んでいった。

 

「ちょっと!優くん!」

 

(―!?待ってこの娘なんでここに…)

一番あり得るのが優くんに対する亡国機業の罠。

 

「急いで優くんを追って!私達もアメリカに行くわよ」

「お嬢様?」

「早く!」

「は、はい!」

 

拙い……。元々銀の弾丸受けて死にかけてるのにIFと戦いに行ったら今度こそ……。

 

 

 

(一夏side)

 

 

 

福音は左半分の装甲が吹き飛んだままの状態で胎児のような格好で浮いていた。

優によって損傷した部分を修復するためだ。

 

 

『いくぞ』

 

八十口径レールカノン『ブリッツ』の左右の二門を福音に向ける。

 

――バアァァァン!

 

砲弾が当たり爆音が響く。

 

『初弾命中。続けて砲撃を行う!』

 

 

ラウラは砲撃体勢を取り続けながらも福音の接近を避ける為後退も行う。

 

この時、ブリッツの制御はあくまで上下左右に対するものだけ。

砲撃の反動も後退への助力にしている。

 

しかし、福音はウイングスラスターから放つ光弾でラウラの攻撃を相殺し接近する。

本来、砲戦使用で機動の両立が難しいレーゲンと機動力抜群の福音では速度が異なる。

 

福音は追いつきラウラへと右手を伸ばす。

 

『ふっ。甘いな』

 

ラウラは福音に向かう形で瞬間加速をした。

恐らく、後方へPICをかけて後退したのは最初だけ。

あとは慣性と砲撃の反動だけで下がり瞬間加速で今のように背後を狙える時を狙っていたのだ。

 

AICでほんの一瞬福音の動きを止めブリッツを構える。

ゼロ距離ならば照準もないもない。速攻で放たれた砲弾に福音は吹き飛ばした。

 

 

このゼロ距離攻撃を受けながらもすぐに体勢を立て直して再びラウラに接近してくる。

しかし今度の狙いはラウラではなくブリッツ。

 

今の攻撃スタイルは砲撃があってこそのもの。

破壊されたくないラウラは回避に専念せざる負えなくなる。

その分弾幕は薄くなり福音はさっきよりも速い段階でラウラの懐に入り込んでいた。

 

『無駄よ』

 

その伸ばした腕を鈴が双天牙月で叩き落とす。

 

福音はその勢いのまま1回転して踵落としをかける。

それを鈴は双天牙月の腹で流し、衝撃砲を撃つ。

 

この衝撃砲はいつもの不可視のものではない。

熱核拡散弾の機能増幅パッケージ『崩山』

その展開数は福音と同数に並ぶことができる。

 

 

強襲によって攻撃を受けた福音は銀の鐘からその延長上に弾幕を並べ相殺する。

その後、再び照準を定めるラウラから離れる為に瞬間加速で鈴から離脱した。

 

『ラウラ!』

『ダメだ。速過ぎる。セシリア!』

『わかりましたわ!』

 

強襲用高機動パッケージ『ストライクガンナー』を装備したセシリアが2人を追い抜き福音に接近する。

時速500キロを超える速さを出せる今のブルー・ティアーズならスピードで遅れをとることはない。

 

福音に追い付き臨戦態勢に入る。

円形ではなくねじるような形で円形飛翔制御に入る。

 

しかしスターライトは1門に対し福音は32門。

展開の差は歴然。セシリアが円形飛翔制御での移動先に弾幕を並べられていた。

 

「セシリア!」

『わたくしを舐めないで下さい』

 

セシリアは更に円形の内側に入り弾幕をかわす。その遠心力を殺さず大きく回り福音の視界から外れ、瞬間加速によって直線での移動に変えた。

 

――バアアアァァン!

 

インターセプターをまっすぐ構えて福音に激突した後、爆発加速でのスラスターの噴出口をゼロ距離であて、砲撃を当てたように吹き飛ばした。

更に追い討ちをかけるようにシャルロットの放った「バルム」によって爆発が起こる。

 

『東側から熱源を確認』

 

福音は銀の鐘を広げて反撃する。

がそこには誰もおらず、雲を切り裂いただけだった。

 

『僕はこっちだよ』

 

シャルロットは西側から福音にステルス強襲をかけた。

わざと福音を通過した時に徹甲弾を爆発させることにより、爆発という巨大な熱により熱源の位置を誤認させたのだ。

 

隙ができた福音に盾殺しを放つ。

が、それはリボルバーを白刃取りの要領で掴まれたため決まらなかった。

 

『今だよ!』

「はぁぁぁぁあ!」

 

俺は前回同様、箒の背中に乗って零落白夜を展開させる。

前は避けられてしまった。

でも、今度はそうはいかせない。

 

シャルロットが平行切替でバルムを撃ち続けているおかげで福音は動けない。

 

(これで、決める!)

背後から零落白夜で一刀両断する。

更に連続展開でもう二振りあの面倒なウイングスラスターを斬る。

翼を失った福音は俺の攻撃を受け、そのまま海へ沈んでいった。

 

『やったか?』

「手応えはあった」

 

福音もあれから上がってこない。

 

(やった。今回は俺達のか……)

そう思った最中、海面が強烈な光の球によって吹き飛ばされた。

 

 

『まずい!第二形態だ!』

 

ラウラの声に各操縦者は退避行動をとるが福音の方が速かった。

 

『一夏!』

「ぐ…。この……」

 

福音は絶対防御を切って雪片を装甲を纏ってはいるものの素手で掴んだ。

これじゃあ雪片は物珍しい刀だ。

 

『……キアアアアアアァ!』

 

信じられないことが起こった。

あの砲口があるウイングスラスターからエネルギー質の翼が生えてきたのだ。

福音が俺をエネルギーの羽で包む。

 

「がっ……」

 

零距離攻撃の弾幕、シールド兵器を持たない百式は一瞬にして砕け散った。

 

「一夏!」

『箒!後ろ!』

 

 

(く…そ……)

痛みで体を動かせない俺はそのまま海の中に沈んでいった。

 

 

 

 

(優side―アメリカ

 

 

(よし…)

手持ちのナノマシン治療薬を使いきってしまったがこれでしばらく普段と変わらないレベルで体を動かせるはずだ。

 

「単一化」

 

白雷で一回溶けて固まった装甲を外して羽織だけの状態にする。

相手が確かならコイツが一番相性いいはずだ。

 

 

 

何かがもの凄い勢いで壁にぶつかった。

 

「お前はイーリス…」

「あぁ…アインス……。

悪いね……。今はアンタと戦える余裕ないわ」

 

彼女の纏うファング・クエイクは射撃を受けてボロボロになっていた。

ダメージレベルはCを超えている。

よく、ここまで動かしたと言ってもいい。

 

「もういい。馬鹿を言う暇があるなら操縦者保護を第一にしろ」

 

俺はイーリスにPower Wallを箱状に展開させ、彼女のISに収納されているナノマシンで治療にあたる。

 

 

警告―IF接近―警告―………

 

俺達の目の前に純白の機体が姿を現す。

 

「……………」

『久しぶりね、優』

 

間違いない……。

射撃型のスターダスト。

背丈は多少変わっているが容姿は6年前と変わらない。

 

「………あぁ。久しぶりだな…」

 

(Z-ONE………)

まさか本当にするとはな……。

なにかの罠か?

いや、それならちらつかせるだけで手が届かないようにするはず…。

なににしてもこれは唯を連れ戻すチャンスだ。

 

警告――

 

彼女の方から俺に砲口を向け、攻撃に入る。

操られているのか?

何にしても、まず機体をある程度使い物にならなくさせる必要がある。

 

「『-IS-』」

 

俺は斬撃を、彼女は光弾を展開する。

それぞれが交差、相殺する。

 

俺は光弾に包まれた。

 

 

 

 

(一夏side)

 

 

 

(ここは……)

なぜか横になっていた体を起こす。

そもそも俺は福音と戦っていたはずだ。

それで一回倒したと思ったら第二形態になって……。

 

―ぴちゃ、ぴちゃ

 

「おぉ!なんだ!?」

 

足元は水だ。俺は百式を展開していないのにその上に立つことができている。

 

その違和感から辺りを見回す。

水面下では太陽が変わらず赤々と輝きながら魚のように泳いでかのように少しずつ移動している。

空は逆に月の光がない夜の空のように真っ暗だ。

 

水平上もおかしい。周りには本棚が並び続けその先は肉眼では見えない。

行ったら最後二度と戻って来られないかもしれない。

この謎の空間では目の前にあるテーブルとイス。あと遠くに置かれているソファぐらいでしか寛げなさそうだ。

 

 

―ほう…。また誰か来たのか―

 

「誰だ!」

 

―騒ぎ立てるな―

 

誰かがまるでISを纏っているかのように黒い空からフワッと俺の前に降り立つ。

全身を黒の服で纏い、唯一肩部に中世の鎧の一部ようなものを着けている。

長髪に整った顔、やや淡い青の瞳。

一言で言えば“黒い女神”とでもいうべき人物だ。

 

―我が名はe・ラー。汝の願いを叶える者―

 

彼女は遠くにあるソファに腰掛ける。

若干崩した姿勢ではあるがそれでも彼女からただならぬオーラを感じさせていた。

 

「願いを叶える…」

 

―そう。ここは強く望む願いを持つ者が集まる場所。そして我がそれを叶える場所。

例外はあるが“一度”が限界であるがな―

 

 

 

―では聞こう。汝の願いはなんだ?―

 

(俺の願い?)

そんなの、決まってる。

 

「仲間を、これから一緒に歩む人達を守る力だ」

 

―ほう?―

 

「ラウラに負けて優にファントムを渡された時にまた感じたんだ。

これじゃ亡国機業に誘拐された時と変わらない。

俺は強くならなきゃならないって。そのために百式は動いてくれるんだって」

 

そう。だから俺は戦うんだ。千冬姉と優を追うんだ。

守られるだけじゃない。守るためにも。

 

―くくくっ。そうか。仲間を守りたいか。くくくっ、ははははは!―

 

e・ラーは俺が言ったことがおかしいかのように笑い始めた。

まるで神の化身のような彼女ではなく普通の人間なら腹を抱えて笑い転げていたぐらいの勢いだ。

事実、彼女はソファから転げ落ちそうになっていた。

 

「何が言いたい。下らないとでも言うのか!」

 

―その判断は我がすることではない。

我はただその願いが姉以上に『傲慢』だと思っただけ―

 

「あんた、なんで千冬姉のことを…」

 

―知っているに決まっているであろう。我は全てのISを管理するライブラリアン。

全て覚えている。奴はその傲慢な願いを力に変えているのだからな―

 

足元の水面が俺を包み静かに上空へと打ち上げられる

彼女が望みを叶えたことで俺がここにいる理由がなくなったんだ。

 

―最後に、逆に聞こう。汝、……………―

 

「―!?どういうことだ!」

 

e・ラーの言葉に俺は声を荒げる。けれど水の中では俺の声は泡ぶくになるだけだった。

代わりに百式が展開される。今まで違う形になって。

 

 

 

 

 




霊「当たり前だけど福音との戦闘シーンは原作とかなり変わったわね」
魔「特にラウラのところを凝ってたみたいだぜ。
 アイツ曰く、『ラウラは置いといてレーゲンは好きかもしれない』と」
霊「ヒロインを置いてくな」
魔「実は作者が書こうと思ったのは原作での戦闘シーンの少なさが理由らしい。
 折角の素敵なデザインの機体が活躍しないのは悲しいとか…」
霊「ガンダムは見ないくせに…」

魔「さて、次回は大詰め?そして更にややこしくなるぜ。
 ここまで読んで下さりありがとうございました」
 


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Revenge Returnー2

皆さんこんにちは。作者です。

実は最近、この話よりも後ろの話ばかり作成していて投稿できないという事態がおきかけていました。やっぱり原作沿いよりもオリジナルの方が手が進むんですよね。
その分、構成とネタ不足に苦労しますが(笑)

細々とですがTwitter(@if_author)をしています。
もし良ければフォローしてください。

それでは本編をどうぞ♪ヽ(´▽`)/




(シャルロットside)

 

 

 

ラウラ、鈴は福音のゼロ距離攻撃を受けて重傷。

セシリアはゼロ距離攻撃こそは避けたものの集中攻撃を受けて機体が大破した。

 

「箒!」

 

箒にもエネルギー質になった銀の鐘による集中攻撃が行われる。

手動に設定し直した展開装甲のシールドを使うことでなんとか防いでいた。

 

(これ以上、僕の大切な人達を傷つけるな!)

平行切替を発動し福音に放つ。が、放たれたのは一門の銃弾だけだった。

 

「なんで!?」

 

元々、不安定気味な状態ではないにも関わらず長時間の戦闘による精神疲労のせいで残弾の確認、つまり平行切替を頭の中で処理しきれなくなったのだ。

ガシッと頭を掴まれエネルギー質になった銀の鐘が広げられる。

 

「くっ……この…」

 

盾殺しを放つ。

が、それは容易く抑えられてしまった。

 

警告―高エネルギー反応あり 警告―高エネルギー反応あり

 

ふと脳裏に優の顔が過る。

僕は負けるわけにはいかないのに……届かない…。

お願い。誰か助けて…優……。

 

 

キィィィィィン――

 

何か強い衝撃が福音を襲い、僕は拘束から解放された。

そのまま落下していた僕を誰かが腰に手を回され僕は海面に落下することはなかった。

 

(だれ………?)

 

「俺の仲間には誰一人やらせはしねぇ!」

 

そこには箒を抱え、新しい白の機体に身を包んだ一夏の姿があった。

 

 

(一夏side)

 

 

 

「一夏、その姿……」

「あぁ。第二形態の百式、雪羅だ」

 

以前よりも輝かしい光を放つ百式。

ウイングスラスターが4機に増設され、なにより新しく多機能武装腕、雪羅が左腕に作られた。

これで俺も遠距離攻撃を駆使して戦うことができる。

 

「シャルロット、大丈夫か?」

「うん。僕も戦うよ。まだ機体の損傷も少ないしまだ武装も残ってる」

「ダメだ。平行切替ができないほど疲弊してるんだ。だから箒を頼む」

「でも……」

「大丈夫だって。無理はしないから」

「うん……」

 

俺は二人が福音の攻撃範囲に入らないように飛翔する。

 

「さて、第二ラウンドといこうか」

『―――――』

 

 

 

(箒side)

 

 

 

 

「シャルロット…私は」

「一夏が助けてくれたんだよ」

「一夏が?」

 

空を見上げる。

新たな装甲を身に纏い両手の武器から零落白夜の光刃を作り福音に飛び込む一夏の姿があった。

 

(……私も戦いたい。あの背中を守りたい)

今度こそ、自分を失わずに、あの人を守りたい。

 

すると私の機体は金色に輝き、エネルギーが回復していった。

 

「絢爛舞踏……。これが赤椿の単一能力」

 

これなら私はまだ戦える。

 

「シャルロット行ってくる」

「うん。行ってらっしゃい」

 

 

 

 

(一夏side)

 

 

 

『―――――』

「はっ!」

 

雪羅をシールドモードに変更することで福音の光弾を無力化する。

雪羅のシールドは雪片と同じ零落白夜仕様。エネルギーの消費が半端じゃない。

早期決着の為にも何としてでも近づきたいが、福音が普通の武器として銀の弾丸を使い始めたせいもあってなかなか近づくこともできない。

 

(どうする…雪羅もあるし瞬間加速で強引にいくか?)

いや、福音はmm単位でも正確に避けてくる。

例え近づけてもすぐに離される。

 

もっと根本的に、奴の動きを見極める必要がある。

だけど、そのためにエネルギーが足りるか………。

 

「一夏!」

「箒、お前――」

「大丈夫だ。これを受け取れ」

 

箒の、赤椿の手が、俺の百式に触れる。

その瞬間、全身に電流のような衝撃と炎のような熱が走った。

 

(エネルギーが回復していく……)

これならまだ俺は戦える。

 

「一夏、やつを倒すぞ」

「あぁ!」

 

 

 

(???side―アメリカ、見えざる基地)

 

 

「優……」

 

地面に倒れてる優を起こして意識を確認する。

抱き上げた時に触れた私の手はベッタリと血が付いていた。

 

(なんで……)

アインスはIS以上に操縦者保護がしっかりしてるし、Slave Modeでオシリスが現れて相殺するはずなのに……

 

ミリータから小型の犬にも見えるロボット、オービタルを展開する。

 

『どうかなされましたか?』

「オービタル、優の外傷の確認と必要なナノマシン治療薬の使用。

Emergency Callの発信を行って」

『カシコマリ!』

 

オービタルが治療を行って間にボロボロのスターダストからケーブルを伸ばしてコンソールをいじる。

 

すると1時間前にほんの数分だけど戦闘記録があった。

――銀の福音。

 

本当ならここで私と対峙しなければならないはずの機体だった。

なんで?ISがそう簡単に暴走なんてしないはずなのに……。

 

『敵ISの存在を確認。臨戦態勢に入っております!』

『優くん!!』

 

何の前触れもなく発生した津波に飲み込まれた。

その時に私は優の手を放してしてしまった。

 

襲ってくれ来る水の量は増えるばかり。

スターダストを展開してても流れに逆らえずそのまま近くの建物に叩きつけられた。

その後も水は引くことなく私に押し寄せる。

水が意志を持っている?

これは自然に起こったものじゃない。

 

「-IS-」

 

光弾で水を弾く。

優を抱き抱える一機のISが見えた。

 

『いきなさい』

 

私を襲った水は竜の姿に変貌し口からブレスを放ってくる。

それは私に触れる前に爆発した。

 

(これは、アレと同じ………)

なら、操縦者を狙わなければ意味がない。

 

「-IS-」

 

偏向射撃による全方位攻撃を彼女だけに定める。

竜を操るISの操縦者と優は竜のお腹の中に入り私の光弾を受け流した。

 

『ミストレイガンの槍』

 

反撃と言わんばかりに水を纏った槍を投げられ、光弾に触れた途端大爆発した。

 

「ぐっ………」

 

根本的に彼女のISと相性がよくない。

 

『どうなされますか?』

 

ここには目的の福音初号機はない。

それに私が長居することで優の治療が遅れることは避けなければならない。

 

「オービタル下がって。退くわ」

『カシコマリ!スラスターモードへ移行します』

 

オービタルが変形してスラスターとなりスターダストと合体する。

白雷で一気にトップスピードまで上がり、見えざる基地を後にした。

 

『これからどうなされますか?亡国機業に帰還しますか?』

「先に日本に行くわ。そこに福音がいるはず。悪いけど移動はお願い」

『カシコマリ!白雷を解除。ブースターモードへ切り替えます』

 

 

 

(一夏side)

 

 

(マズイな……)

箒の絢爛舞踏と雪羅のシールド、この2つがあればダメージを受けることはないが

こっちも向こうに有効打を与えることができないでいる。

 

それに俺達は人間だ。

長時間神経質になることは集中力が落ちる。

ハイパーセンサーがあっても光弾に目が霞む。

 

でももう少し、もう少しで何かを掴めそうなんだ。

 

 

――警告ーエネルギー反応あり 警告―エネルギー反応あり

 

反射的に福音の光弾を避ける。

しかし、俺の後ろには箒が立っており光弾はそのまま箒を狙い始めた。

 

箒もエネルギー弾こそは防げたもののシールドを展開していた展開装甲が壊れた。

長時間の使用に装甲の方が耐えられなくなっていたのだ。

 

「箒!」

『大丈夫だ。展開装甲をやられただけだ』

 

が、さっきのような機動ができないのは確かだ。

高度を落としたことで何とかバランスをとっている。

元々、バランスを取るのに難しいだけに戦前にで続けるのは無理になってしまった。

 

「くそ……」

 

福音が箒を追撃しにかかっている。

今から俺が行っても間に合いそうにない。

 

青い光弾が福音の動きを止めた。

 

「助かったセシリ……」

 

振り向いた先にいたのはセシリアではなかった。

 

スターダスト。だが優のではない。

福音同様いくつもの砲口があるところ射撃型というべきか。

顔はバイザーをしていて男か女かも分からないが何にしても優でないのならそれは亡国機業。

 

(最悪だ。福音だけで手一杯なのに)

あのIFがどこについても漁夫の利を取れる状態だ。

 

最悪の結果を避ける為に福音を見捨てていかなければならいかもしれない。

ただ、その判断を何を基準に?どのタイミングで?

 

「ラウラ、応えてくれラウラ」

『―――――――』

 

ダメだ。やっぱり福音から受けたダメージが大きくて気を失ったままだ。

 

「シャルロット、どうしたらいい?」

『分からない……。でも、まだ動かないで。向こうの出方を伺って』

 

 

緊張気味に声が返ってくる。

同調機体を使うということはかなりのやり手。

 

『あなたが福音?』

 

IFの操縦者は俺達など全く見ていない。ただ福音だけを凝視していた。

 

『IFを確認――「銀の弾丸」使用開始』

『そう。なら私はあなたを許さない』

 

IFは敵意を持って福音に向かって接近する。

 

Conflict、円形制御飛翔、Sky Shine……

遠距離射撃型の機体であるにも関わらず全距離、どの方向からでも攻撃を行っていた。

俺達が手を出せる域じゃない……。

 

『―――――――――』

 

上空へ飛び上がった福音はぐるっと回り、翼からエネルギー弾の弾雨を降らせる。

更に連射を続けIFの下側からも追尾弾でIFを全方面から攻め立てる。

 

 

後ろからエネルギーの翼でIFを包み込む。

福音の第二形態になったとき、俺が最初に受けたゼロ距離射撃。

 

あの弾幕の嵐すら陽動に取る福音の戦術の高さに流石のIFも人溜まりもない。

そう思った。

そう思いたかった。最悪の場合を考えたくなかったから。

 

(嘘だろ……)

あのIF、福音の零距離攻撃を相殺している。

とても射撃武器のすることじゃない。

 

福音の羽はどんどん大きく膨らみ、歪んでいった。

そして、それが制御しきれないほどの大きさになった時ついに爆発した。

 

『-IS- 』

 

今度はIFの弾幕が福音を覆い始めている。

福音も応戦するもIFの弾は個々が意志を持っているかのように福音の光弾を避ける。

以前、セシリアが言っていた偏向射撃だ。

 

『散りなさい』

 

24門全ての砲口から放たれた追加の砲弾に福音が粉々に崩れ散っていき、砕けた装甲から操縦者が姿を現した。

 

『貴女ね……』

 

IF の操縦者は機体だけでは飽きたらず操縦者も狙い始めた。

 

(まずい!)

瞬間加速で操縦者を捕まえ、雪羅のシールドで弾を無効化した。

 

「なぜ操縦者を狙った!」

 

亡国機業の狙いはISだったはず。

ISと完全に離れた操縦者に興味はないはずだ。

 

『この人が優を殺そうとしたから』

「え…?」

 

その言葉を最後にIFは夜明けの空に消えて行った。

 

 

 

(一夏side)

 

 

 

「作戦完了―っというには微妙だが、イレギュラーなことが多々あったのによく生きて帰って来てくれた」

 

帰ってきた俺らに対する千冬姉の言葉は可もなく不可もなくっと言った感じ。

実際、あの後IFが去るのを傍観していたようなものだったし、福音の回収も本来とは違う形になってしまった。

 

「IFが絡み、これから面倒事が続くが今はいい。各々すぐに治療をうけろ」

「あっ、皆さん動かなくていいですよ。救護班をここに呼びましたので」

 

山田先生が呼んだ救護班によって皆が治療に入る。

俺はラウラと同じようにゼロ距離射撃を受けたはずだがケガが少ないので1回部屋を出た。

 

 

「箒」

「一夏…」

 

俺と同じように1度部屋を後にしていたのか近いところでまた会った。

 

「もういいのか治療?」

「あぁ。私はラウラやセシリアみたいに直撃を受けてないからな」

 

そうだったのか。あの時、海の中だったからさっぱりだった。

まぁ赤椿なら展開装甲が自動で防御に入るのだろう。

つくづく便利な機体だ。

 

「ここじゃ人の通りも激しいしどこか行かないか?」

 

動けるにしても重傷気味のセシリアとラウラ。

2人には及ばないがケガの多い鈴の為に多くの人が出入りしているここは休むにはせわしない。

 

「そうだな。…うむ、そうしよう」

 

俺達は自由時間の時に過ごした砂浜にたどり着く。

海面には月が浮かび俺達を照らしている。

夜の砂浜は昼と違って熱を持ってなくサラサラしている感じが大きい。

 

「そういえばなんで自由時間の時、お前いなかったんだ?

水着でも忘れたのか?」

「い、いや、水着は買ったのだが、本当に勢いで買ってしまったものでな……。

見直したら露出が多い気がしてやめたのだ」

「じゃあ今度、皆でまた行こうぜ。

ちゃんと水着選び直してさ。今は足くらい浸かろうぜ」

 

俺はズボンの裾を捲り、箒はソックスを脱いで砂浜に座って波を見ていた。

 

………ざざぁ………ざざぁ………

 

(そうか……自由時間のことは一昨日になるのか…)

自分から話を振ってあれだが随分昔のことに感じる。それだけ、今回のことは目まぐるしかった。

 

正直、以前優に教わったISの技術をマスターすれば俺は強くなれると思っていたところがある。

それは間違ってはいないだろう。

しかし、戦状に応じた正しい判断、ラウラのように軍のリーダーになればより必要になる指揮官力。そういうものがこれから必要になっていく。そんな気がした。

 

 

「あ、…あのだな……一夏…」

「ん?なんだ?」

「そ…その……。すこ、し…手…握っても…いいか?」

「あぁ。構わないぜ」

 

箒は俺が手を出すと女の子らしい華奢な手を重ねてきた。

その手は少しこわばっていた。

 

「箒…?」

「私は今日…怖かった。

もしかしたら死んでしまうのではないかと思って……」

「そうだよな……」

 

今回の相手、福音の銀の弾丸はIFのシールドエネルギーを貫通する代物。

きっとISにも通用してしまうだろう。

 

そんな今まで見たこともない、戦うとも思っていなかったものを相手したのだ。

戦ってた今より怖かったに違いない。

俺はそっと箒の手を握り返す。

 

「大丈夫だ。もし福音のような化け物と戦うことになっても俺が守ってやるよ」

「一夏……」

「だからそんな暗い顔するなよ。楽観的に、とは言わないけど雪羅ならエネルギー系は完全にガードできるからな」

 

そう。俺は騎士の女性にも言ったが仲間を守りたくて百式を使うんだ。

なら、手が届くのであれば全力で守ろう。誰も傷つかないように。

 

「だが、それも零落白夜仕様でエネルギーコストがかかるんだろう?」

「ま、まぁそれはだな…。強くなって何とかするさ」

 

零落白夜と雪羅がエネルギーを喰うし、ウイングスラスターもデカくなった分エネルギーを使う。

正直、強くなる他にも色々しなきゃいけないことがあって考えたくない…。

 

「ふふふっ、あははは」

 

俺の言ったことが可笑しかったのか箒は笑いだした。

なんかいたたまれない気持ちになって俺は顔をそらす。

 

「私が言えたことではないがお前もまだダメダメだな」

「う……」

 

同じことをラウラにも言われた。しかもIS展開してなかったのに。

こてんっと箒が俺の肩に寄りかかられる。

 

「仕方ない。私がお前の背中に立ち、お前を守ろう。

絢爛舞踏があればエネルギーを回復できるらしいからな。

その代わり、しっかり守ってくれ。その百式で」

「あぁ」

 

 

 

「こんなところで何してるのかしら?」

「「おおっ!?」」

 

突然、俺達の後ろから声をかけられた。

 

「鈴!?なななな、なんで!」

「何って、夕食の準備ができたから呼んだだけよ。

それともなに?夕食をすっぽかしてでも何かしたいことがあったわけ?ほ・う・き・さ・ん?」

 

鈴は箒にずずっと近寄り何かを言っている。

 

「そ、そんなことは決して……」

「へーー。手繋いでたのに?」

「そ、それは……」

「顔預けてたのに?」

「う、うるさい……」

 

よく聞こえないが二人は言い合っているみたいだ。

どうも鈴が優勢らしい。

というか鈴は口なら誰にでも勝てる気がする。

 

「もう大丈夫か?」

 

ひとまず2人の話が落ち着いたので声をかける。

 

「なんでアンタは隣にいないのよ」

「だってさ…お前達うるさいじゃん」

 

いつもは女同士の会話だって言って追い出すくせに。

 

「はぁ~。もういいわ。早く戻りましょう。

千冬さんに怒られるのは勘弁だわ」

 

遠くにいる千冬姉と目が合ってしまった気がした。

 

「やべっ。早く旅館に戻るぞ」

 

俺達は走って旅館に戻った。

 

 

 

おまけ

―夕食にて―

 

鈴「そういえばさ、さっき二人でいるところ写真撮ったんだけど」

箒「ぶっ‼」

鈴「汚いわねー。せっかくの料理なのに」

箒「すまない。…でその写真をどうするつもりだ」

鈴「そうね……いる?」

箒「へ?」

鈴「いや、ばら撒いてもつまらないから普通にあげようって」

箒「………」

鈴「なによその目。私をなんだと思ってるのよ」

箒「人の弱みをだしにする魔女」

鈴「画像消すわよ」

箒「すいませんでした」

鈴「で、いるの?いらないの?」

箒「いる」

 

 

――テテテテッテッテッテテーン――

 

箒は一夏との写真を手に入れた。

鈴はゆすりのネタを手にいれた。

 

 

 




霊「おまけは、本当におまけね。雑さが滲みでているわ」
魔「下書きと同等レベルだからな。でもここにも時間をかけると投稿できなくなるんだとか。 あと、鈴はセシリアの時もそうだったがズル賢こくなってるぜ」
霊「まるでアイツね」
文「呼ばれて飛び出てあやややや!清く正しい射命ま……」
作者「まだ出ちゃダメ!」
文「え?嘘、なんで?」
作者「なんでも」
文「子供ですか!あやややや、羽根を掴まないで下さい!
文々。速報をよろしくお願いしま」

――バタン

魔「ちゃっかり宣伝してったな」
霊「というかいたのね作者」

魔「次回、これで7月は終わるぜ。
福音戦が終わったし、次回は短めかもしれないけど大事な回になるからちゃんと見て欲しいぜ」
霊「フラグ建築回だから?」
魔「止めなさい。ここまで読んで頂きありがとうございました」
霊「また次回、会いましょ」



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Your name is


皆さんこんにちは。作者こと黒川 優です。

実は先週、通算UAが7000を突破しました!(ノ゜ο゜)ノヤッター←見たときの私
これも目を通して下さる皆様のおかげです。
これからもよろしくお願いいたしますm(__)m

またTwitterを開設しました「@if_author 」で出ると思います。
ぜひフォローお願いします。

それでは本編へどうぞ♪ヽ(´▽`)/



(千冬side)

 

 

「赤椿の稼働率は絢爛舞踏含めて42%かぁ……。まぁ、こんなところかな」

「初めて使って単一能力を引き出したんだ。十分だろう」

 

私は手すりの上に腰掛ける束に声をかける。

 

「やぁ、ちーちゃん」

 

器用に狭い手すりの上で私に体を向ける。

 

「お前のことだからもうここにはいないと思った」

「まさか。箒ちゃんが活躍する機会があるのに離れることなんてあり得ないよ」

「そうか。ならその妹の活躍に対する例え話をひとつしてやろう」

「へぇー、ちーちゃんが嬉しいね」

 

束は手摺のパイプの上をくるっと回り私の方を向く。

 

「とある天才が、大事な妹を晴れ舞台でデビューさせたいと思う。

そこで用意するのは専用機とISの暴走事件だ」

「うんうん。それで?」

「あの福音相手に互角以上に渡り合える、いや篠ノ之が使い慣れていれば単機で捕縛を行える機体だ。頭のキレる者にはスポットライトを浴びる。妹は華々しく専用機持ちとデビューする」

「ピンポーン!その通り!このラブリー束さんが作ったISなんだから箒ちゃんにも花がないとねー♪」

 

「もうひとつ、お前が妹にISを渡したのは黒川の存在を危惧しているから。

最悪、黒川が裏切った時に対抗、避難できるようにその手段を持たせておきたかった」

「ピンポンピンポン!そのとーり!

だから最悪このタイミングで赤椿を渡さなければならなかったの。流石だねちーちゃん」

 

束は私が自分の考えを当ててくれたことが嬉しかったらしく

パイプを鉄棒代わりにグルグル回っていた。

 

「だが、ISを持てばISISを始め、亡国機業に狙らわれる」

 

ただでさえ同級生は贔屓呼ばわりされてしまった。

それに亡国機業はそれに乗じて面倒事を起こしてきた。

そこまでして渡すほどここでISは重要なのか?

 

「ちーちゃんの言いたいことは分かるよ。

けど、ISを使って強くなることが大事なんだよ。

それは私にとっても、そしてきっと箒ちゃんにととっても」

 

束はいつものように笑いかける。

ただ、その表情にいつもの余裕があまりないことをどこか感じていた。

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

(束………)

束とは長年共に過ごしてきた親友だ。

周りからすれば奇想天外なことばかり行うが、私はアイツが何を思っているのか分からないわけではない。

しかし、ISのことに関しては何かを隠している。

私を驚かせたいからなのか、それとも亡国機業を意識してなのか……。

 

 

「ギャーギャーギャーギャーギャー!」

 

(あぁもううるさい……)

面倒事が立て続けに起こっているというのに考える時間もくれないのか。

 

バスから誰かが降りてくる。

余計な火種を残した張本人、『銀の福音』操縦者、ナターシャ・ファルタスが子供のような笑顔でこっちにきた。

 

どうやら体の方は問題ないらしい。

ガキ共もバス内でだが暴れるほどだし本人達には大きい影響はなかったのだろう。

 

「まったく。面倒事を増やすな。

ただでさえ、毎回毎回面倒なんだから」

「いいじゃない。私は彼のおかげでここにいるのだから。

一夏くんは優くんと違ってかっこいいのね」

 

ナターシャはちらっとバスの中にいる一夏を興味深そうに見る。

コイツは妹の見合い相手でも探しているのだろうか……。

 

「…やはり、夏は嫌いだ」

「別に亡国機業は夏だけ活動するわけじゃないわよ?」

「それでも嫌いだ」

 

奴らはアイツを嫌というほど苦しめる。

 

「ねぇ千冬ちゃん、今回のどう思う?」

「さぁな」

「つれないねぇ…」

「今の私には何もできないさ。だからアイツが決めるだけだ」

 

そう。今の私はただの教員。それ以上でもそれ以下でもない。

 

「もし、優くんが――」

「それはない。アイツはここには残るさ。何があっても」

「まぁ。よく理解してあげてるのね」

「じゃなきゃアイツの保護者など務まらないさ」

「そうね」

 

ナターシャはくすっと笑っていた。

今回のようなことがなければ私を弄りにきただろう。

 

「逆に聞こう。今回のどう思っている?」

「……………」

 

さっきと違い、顔が強張っている。

ナターシャは私が何を指しているのか分っているようだ。

 

「一夏達のISから活動記録を見させてもらった。

軍用機とはいえ、既存のISとは違うのは分かる。

だが、あれは本当の福音の第二形態ではないだろう」

「……そうね。私もあの子に守られて見たけど違和感があったわ」

 

おそらく、違和感を覚えた理由は黒川との戦いがあったから。

一夏達と戦った時には無かったものが黒川との戦いで起こったのだろう。

 

「ねぇ、千冬ちゃん。もし、困ったことがあったら頼んでもいいかしら?」

「私は会いたくないがな。

お前と会うということは碌でもないことが起こっているときだからな」

 

コイツといた時にIS狩りにあったし、今回も面倒なことが起こった。

 

「えー。お願い。千冬ちゃんじゃないと無理なの!」

「あー分かった。好きにしろ」

「ありがとう。千冬ちゃん大好きー!」

 

ナターシャは束と似たような感じで私に抱き付こうとする。

それをひょいとかわして話を続ける。

 

「ただし日本に来い。じゃないと私が自由に使えないからな」

「それは分かってる。まっ、査問委員会のせいでしばらく動けないと思うけど」

 

 

「おねぇちゃ~~ん!」

 

車から降りたアリスが一目散にナターシャの所にむかった。

 

「あら、アリスちゃんがお出迎え?お姉ちゃん嬉しいわ」

 

何か言いたそうな彼女を抱き締め頭をくしゃくしゃ撫でる。

 

「お姉ちゃん、…んん、ケガは?」

「アリスちゃんがいたら怪我なんてへっちゃらよ」

「もう。いつもそうやって無茶する。検査に行くよお姉ちゃん」

 

いつもの姉妹関係が嘘のようにナターシャがアリスにズルズルと引きづられてアメリカ支部御用達の車に連れ込まれる。

 

「頑張ってね」

「言われるまでもない」

 

交わしたその姿には“また"と言っているようだった。

……妹に引きづられてる間抜けな姿だが。

 

 

 

(シャルロットside―国際空港)

 

 

臨海学校から数日後、僕はずっと空港のゲートの前のベンチで降りてくる人を見ていた。

 

織斑先生の話では今日、優がアメリカから帰国する予定らしい。

骨折はしていないものの右腕にギプスを巻いているからきっとすぐ分かるはず。

 

 

一斉にゲートは航空機から降りてきた乗客でいっぱいになった。

 

老若男女。国籍を問わずたくさんの人が乗り降りをしている。

けど、いない……。

 

ギプスをしている人などどれだけ見渡してもいなかった。

そして、優が乗っていた飛行機のゲートから誰も通らなくなった。

 

「あの、私より少し背の高い金髪の日本人通りませんでしたか?」

「金髪の日本人ね…。貴女のような欧米の人はいたけど日本人ではいなかったわ」

「そうですか。ありがとうございます」

 

(やっぱり、怪我が良くないんだ…)

織斑先生の話だと相手したIFの攻撃を受けて重傷って言ってたし……。

 

死んでしまったわけではない。

けど、帰れないほどなら何か後遺症でも残ってしまったのかもしれない。

そう思うと気持ちが暗くなって俯いてしまう。

 

――ほふっ

 

不意に後ろから目を押さえられ、抱き寄せられた。

 

「だーれだ?」

「……………………」

 

僕は知ってるこの声を。この手を。

優しく抱き締めてくれるこの人を。

 

「……優」

「正解」

 

はっと手を放され視界が晴れる。

 

「ただいま」

 

目を開くといつものように優しく微笑む優がいた。

 

「ばか、ばかばかばかばか!」

 

人がどれだけ心配したと思って……。

くしゃくしゃと撫でてくれる。

 

「悪いな。心配かけて。帰るか」

「………うん」

 

 

(国際IS委員会―会議室)

 

 

 

「君が失敗するとは珍しいな」

「すみません」

 

今回の失態は俺の抱え落ちが原因だ。

何も言わずただ頭を下げる。

 

「まぁいい。福音の機密データの流出は防げた。

どんな形であれ我々アメリカに応援に来てくれたことに感謝する」

 

アメリカ支部のトップが米軍を代弁して感謝を述べる。

まぁ、委員会を通さず直接俺に声をかけてきたくらいだ。

福音もだが他の機密を持っているようだし、その言葉には隠れた本音もあるだろう。

 

「それで襲撃したIFの操縦者わかりましたか?」

「はい。黒川 唯という日本人女性です」

「…………」

 

ここにいる人が一斉に俺を凝視し始めた。

名字が一緒。その予想は誰でもあることに結び付ける。

 

「そのものの経歴は?」

「6年前に死亡が確認されています」

 

 

 

 

 

 

 

 

皆さん、改めましてこんにちは。作者こと黒川 優です。

 

7月いかがだったでしょうか?

 

私の視点的には次に持越しって感じですね。

そのため、しっくり来ないというのはあるかもしれません。申し訳ない。

 

 

今回は個人的に辛かった。

閑話もISもしっかりある3巻。非常に良いのですが、アレンジするこっちは手を付けると無駄に字数が増えるし、付けないと原作との差がない。でも内容(買い物→海→ISの流れ)は変えられない…そんなジレンマがありました。

あとね、福音との戦闘シーンが書きにくく感じてました。

正直、手が進まなくて今の6割ぐらいの飛び飛びの文章で投稿してしまおうか本気で悩みました。

 

それでも何とかできたのは読んで下さる皆様のおかげです。

(優とセシリアの食後ジーンぐらいしか個人的なモチベーションが上がらなかった(笑))

 

 

さて、次の8月ですが……飛ばします。

申し訳ありません。

 

というのも最初8月は完全に飛ばす予定で書いていました。

が、最近になって「どうせなら違う視点で書いてみよう」と思い書き始めました。

(本当は別の理由もあるのですが、それは投稿後に)

 

その結果、順番という諸事情ができてしまい、先に9月分を投稿しないと8月が意味不明の話の連続になってしまうのです。

勿論、後で投稿します。それまでは8月の内容は原作、他の投稿者様の小説をお楽しみください。

(勿論、私のもよろしくお願いします)

 

ですので、次回は9月。原作崩壊(ポジティブに言えばオリジナル)です。もしかすると5+6月より長いかも?

エピローグのあれからどうなるのかお楽しみ下さい。

 

ここまで読んでいただきありがとうございました。

また次回会いましょう。

黒川 優



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September―ただ君といる為に……
Contrary to the mission


皆さんこんにちは。作者こと黒川 優(Twitter、@if_author)です。

やっと原作路線から大きく外すことができます。
これからはエンディングを巡って私と皆さんでのなぞなぞ対決です(*^▽^)/★*☆♪
(↑一方的に押し付けといてとは言ってはいけません(笑))

あと、IFシリーズ第2作「IF―変革のLast Jahr」を近日投稿予定です。
ぜひそちらもご覧下さい。

それでは本編をどうぞ♪ヽ(´▽`)/




フォルテ・サファイア

 

3年のダリルと組み、イージス(二人でひとつの生き物のように動き、攻撃を受け流す技)を行うことができるダブルスプレイヤー。

(今作の設定では)お姉さんがいるが、既にお亡くなりになっている。

 

 

サラ・ウェルキン

 

イギリス代表候補生のひとり。

セシリアに操縦技術を教えた人

原作ではそれしか書かれてないと思うが、セシリアが遠距離攻撃主体なので彼女も遠距離攻撃主体にしました。

 

 

(千冬side―委員会日本本部、会議室(外来))

 

 

 

「さて、どうしますか……」

 

現在長官、私、黒川の3人でしかめっ面で話し合っている。

内容は福音の暴走時に現れたIFスターダストと操縦者黒川 唯に対する処置。

彼女によってAIF支部に被害が出始めている。

 

「黒川 唯を拘束し、尋問を行います」

「本気で言っているのか?」

 

黒川の言葉に私は反論する。というのも

 

「お前はどんな理由であれ一度彼女に負けたのだぞ。

拘束するにしても彼女より弱いIF操縦者やISISにするべきだ」

「弱いという点では、彼女も同じ、幹部を拘束するよりは楽です。

彼女なら幹部と接触していてもおかしくありません。

やっと出た尻尾ですし、ここで捕らえれば後に繋がると思います」

 

私と黒川の意見はこのように平行線のまま。

そのため、今回は長官をお呼びしている。

 

「長官。判断をお願いします」

 

このままではらちが明かないので第三者の長官に意見を求める。

 

「…いいでしょう。彼女を拘束して下さい」

「長官!」

 

私の言葉は長官の手に止められた。

 

「ですが、自分の命を賭けてまでするようなことは止めて下さい。君はこのIS界で」

「命運を別ける鋒、でしょ?分かってます」

 

黒川は満足と言いたげに部屋から出ていった。

 

「……なぜ、許可したのですか?」

 

今のアイツのしていることは多大な犠牲を払ってたった一人、しかも私情を挟んだ人間を助けようとしている。

そんなこと、組織で動いている私達にできることにじゃない。

 

「仮に私も異を唱えても彼は命令を無視して彼女を助けるでしょう。

なら、いがみ合うよりこちらが柔軟な立ち回りをした方が利口だと思ったのです」

「ですが、それで黒川にもしものことがあれば本末転倒になります」

「大丈夫です。少なくとも彼は死ぬことはありません。絶対に」

 

 

 

 

(一夏side―IS学園会議室)

 

 

(新学期早々なんで集められるんだ?)

先生方も俺達と似たような感じで何の話行われるのか話し合っていた。

 

「恐らく委員会が非常事態宣言を出したことと関係があるだろう。

ここに私達を来るようにしたのも黒川だしな」

「非常事態宣言ってことは文字通りヤバい状態ってことか?」

「そうだな。亡国機業との戦争準備を本格化させた、と言ったところか」

 

日本ではそう聞くことのない物騒な言葉が飛び出てきた。

委員会の声がすぐに学園に来るのはここには各国のISが集まってしまうからか…。

 

「皆さん、今日は2学期初日なのに集まってもらってすみません」

 

教壇に立ったのは千冬姉ではなく優だった。

時々思うけど千冬姉、隊長なのに優の方が前に出る回数多いよな…。

 

「今回集まってもらったのはご存知の通り、亡国機業の活動が活発化してきたので委員会が自衛のために皆さんにもご協力を願いたいために集まってもらいました」

 

ラウラの言ったことは概ねアタリ、俺達も亡国機業に対し対策を講じなければならないらしい。

けど、言葉のイントネーション的に強制まではいかない。あくまで肝心なところはAIFや自衛隊で何とかするということだろうか。

 

「さてまず一つ目は個人のやつ。今日から楯無さんが護衛も兼ねて一夏と一緒になることになります」

「「「「は?」」」」

 

四人は一斉に俺を見てきた。

いや俺も聞いてないんだけどそんな話。

なんでそんな話を皆の前でするんだ優。

 

「そこの四人質問は後で。次にアリーナで、IFの情報の入ったバーチャルシステムを導入しました。機体持ちの方は非常時に備えて訓練して下さい」

 

これには皆、目を配らせた。

さらっと言ったが凄いシステムだよな、それ。

しかもIFの情報の入ったってことはアインスも少なからず情報公開したってことか。

 

「最後に授業ですが、対IFの実践訓練する関係で俺が先生方の代わりに指導する機会があります」

 

これには教員を含め皆が驚いた。

確かにラウラが言った通り、委員会は非常事態宣言を出した。

けど、学園に対してここまで干渉にしてくるとは思ってなかった。

 

(それだけ状況が良くないってことか)

 

「では、質問がある人は今お願いします」

「一つ聞いていいっすか?」

 

手を挙げたのはたしか…1つ上のフォルテ・サファイア先輩だったかな。

直接の対面はないけど。

 

「何だ?」

「俺らはアンタの下で戦うことになるっスか?」

「千冬さんの下でだな。もちろん訓練は俺がしきさせてもらうことがあるかもしれない程度だし、君達が戦うのは最悪の状態だけだけど」

「そうっスか…。それでもごめんだ。アンタの下にいたくないっス」

「なぜ?」

「今のアンタが昔より弱いから」

 

先輩はキツめの声で優の質問に答えた。

 

「昔のアンタなら以前襲撃したISISに手こずることもアメリカの任務を失敗することもなかったはずっス」

 

その先輩の言葉に耳を疑った。優の実力は俺たち以上だ。それでも弱いというのか。

だが、それは他の上級生や先生も思っているらしく先輩の言葉に頷いている。

 

「…なるほど。じゃあ俺がアンタ達に圧勝すれば認めてくれるか?」

「ああ。アンタが昔のように強かったらな」

 

先輩は代表するかのように答えた。

 

「じゃあアリーナに行くか。千冬さんいいですよね?」

「構わん。第三アリーナでしろ。先生方も参加したければISを出して結構です。

10分後に集まって下さい」

 

千冬姉の言葉にほとんどの上級生、教員数人計20人辺りが一斉に動きだした。

ただ、俺の隣に来た先輩はここに残っていた。

 

「あの……」

「よろしく一夏くん。私が更識 楯無よ」

 

優に紹介された更識先輩はにこっと気軽に微笑みかけてくれた。

けど、優が頼む人ってことは何か特別な人なんだろうな。

 

「更識先輩は行かなくて良いのですか?」

「ええ。結果が見えてるから」

 

 

 

 

(一夏side―第三アリーナ)

 

 

「スゴいな…」

「そうだな。こんなの滅多に見られないものだ」

 

アリーナの片側には各国のISがズラリと並ぶ姿は圧巻だった。

 

それを優は1人で相手しなければならない。

その優が使う機体は今まで見たこともないものだった。

 

「あれがアインスの代名詞ともいえる機体『レッドデーモンズ』だ。

先日、委員会から使用許可が下りたらしい」

 

スターダストとは対象的にその機体は荒々しさが見える機体。

腕部が少しゴツいところを見るとあそこに主要装備があるのだろう。

個人的にあの無人機を連想させるからあまり良い気がしない。

 

「やっぱり近接格闘型なのか?」

 

軍で見たことがあるかもしれないラウラに聞いてみる。

 

「いや、あれは遠距離型だ。重火器が大量に積んである」

「え?」

 

遠距離型という発言は意外だった。

この大人数相手に距離を取り続けることはそうできることじゃないからだ。

 

『あなた本気?一人で倒せると思ったの?』

 

サラ・ウェルキン先輩は優を怪訝そうに見ていた。

 

『気にするな。今のアンタ達が何人いようと変わらない』

『…………………』

 

その言葉にアリーナの雰囲気が固まった。

皆は俺みたいな素人上がりではなく、訓練を受けてきた歴とした代表達なのだ。

そんな言われ方をすれば誰だって怒る。

けど先輩達は特に表情を変えず構え始めた。

どうやら戦いで白黒つけるらしい。

 

『じゃあ千冬さんお願いします』

 

10…9…8…7…

 

カウントダウンと同時にアリーナ中のスラスターが唸りをあげている。

そして――

――0

 

『Absolute Power Force 』

ビィーと開始の合図が鳴った瞬間、アリーナは爆炎に包まれた。

 

 

 

(フォルテ・サファイアside)

 

 

 

「う…そ……」

 

一瞬で、しかも一撃で、後ろで構えていたサラ・ウェルキン達がアインスの近接攻撃によって蹴散らされた。

 

『Absolute Power Force』

 

再び、レッドデーモンズの手が炎に包まれる。

あれを受けたらマズイ。

私を含む全員が接近戦は不利だと考え、射撃に徹底したが――

 

『The End Storm』

 

彼を中心に突如吹き荒れた爆炎の嵐が弾丸を無力化していった。

 

「先輩!」

 

ダリル先輩と連携を取り、アインスを抑えにかかる。

イージスならアインスに対抗することができる。

それを姉さんが証明してくれた。今の私達にだってできる。

 

『無駄だ』

 

イージスに入った途端、火柱から伸びる枝柱に体を貫かれた。

 

『とう…して……』

『まるで生き物のように動くというならば、こっちは狩人の如く狩ればいい。ただそれだけのこと』

「そんな……」

 

こんなにも容易に……。

実力に差がありすぎる。

 

『アンタ達は俺を舐めすぎだ』

「「「!?」」」

 

今まで感じたことのない殺気。その恐ろしさに体を動かせなかった。

 

(嘘……。そんな……)

その時私は理解した。

私達が彼をどう見ようが彼が世界を守り続けていることに変わりはない。

彼の上で胡座をかいている私達が培われた戦いの技術(すべ)を持つ彼に勝つことなどできはしない。

 

『終わりだ』

 

その爆炎は火災旋風のように火柱となり私達を飲み込んでいった。

 

 

 

 

(一夏side―自室)

 

 

「箒ちゃんごめんね。わざわざ移動してもらっちゃって」

「いえ。決まったことなので」

 

そう言っているが表情は不満げな顔で優を見ていた。

 

優が言った通り、楯無さんが付きっきりで俺にISの技術を教えることになった。

それなら同室の方が効率が良いということで楯無さんと相部屋にしようと言うことになった。

よく分からんが箒はこれに反対。最後まで優と粘り強く交渉していた。

が最後は優がキツめに言うと箒は渋々承諾した。

 

その優は素知らぬ顔をして部屋を出て行こうとしたが、ドアのぶに伸ばした手を木刀で叩かれていた。

 

「まぁ安心して。私が一夏くんを襲うことはないから。逆はあるかもしれないけど」

「ちょっと楯無さん!?」

「一夏……お前……」

「わー!待て待て!俺は何も言ってないぞ!っていうか楯無さん!

箒をからかうのはやめてください!こいつ、怒ると止めるの大変なんだから!」

 

俺は鞘から真剣を抜こうとする箒を力尽くで押さえ込んだ。

 

「あらー一夏くんはいい反応してくれわねー。誰かさんとは違って」

「逐一反応してたら体がもたないっての」

 

優は深い溜め息を付きながら答える。

そんなに大変なのだろうか…楯無さんとの生活は。

 

「箒ちゃんの物はまだ残ってるしまた部屋に来てね」

「ありがとうございます。いくぞ黒川」

「いやー、俺はもう少し残りたいかなぁ…って」

「いくぞ黒川」

「……はい」

本当にさっきまでの威厳はどうしたのか別人のようにそろそろと箒の後ろを付いていった。

 

―バタン

ギャー!!バキッ、ドカァ!

 

楯無さんのおかげで俺には被害は及ばなかったが優に対しては効かなかったらしく外では木刀が何かに当たる音がドアの向こうで鳴り響いていた。

でも、そんなこと俺は知らない。触らぬ神に祟りなしって言うしな。

 

「楯無さんと優ってどういう関係なのですか?」

「そーね、元ルームメートかしら。

去年、優くんがまだ女の子としてここにいた時に私が正体見破っちゃったから監視も兼ねて一緒の部屋に入れられたの」

 

あの容姿で男と疑ったのか。

やっぱりただ者じゃないな。

 

「あと今日の優の機体、今までとなんか違ったような」

「あ、一夏くん気付いた?アインスの機能制限が解けたの」

 

え、それって逆に……。

 

「アインスが機能が制限されていた……?」

「えぇ。不思議なことに微妙に性能が良くなっているから周りは機能制限知らないから弱くなったと思うけど数値的には半分にされていたらしいわ。勿論、エネルギーは別だけど」

 

なるほど。だからサファイア先輩達は優が弱いと思ったのか。

 

「でも、それであのIFに渡り合えるかって言ったら微妙なところね」

 

福音の攻撃を零距離で防ぐほどの射撃数による弾幕。

しかもそれは操縦者の意志で操れる偏向射撃。

レッドデーモンズは同じ遠距離型だけど決して有利にはならないと思う。

 

「優はそんな相手に勝てるんですか?」

「勝てるかじゃなくて、勝たなきゃいけないのよ。例えそれが優くんの望まない結果でもね」

 

(勝つことが優の望まないこと?)

どうして優がアインスとして亡国機業に勝つことが望まないことなのだろうか?

 

「さぁ一夏くん、人の心配をしている暇はないわよ」

 

ドサッ―――

 

「えーとそれは…?」

 

目の前に置かれた大量の本に目をぱちくりさせてしまう。

 

「これから一夏くんが覚えなきゃいけない技術の理論よ」

「え?」

「優くん言ってたでしょ?これからは私が一夏くんの専属コーチだって。

まずは理論から覚えてもらうわよ」

 

 

にこりとする楯無さんの笑みは無慈悲な天使にしか見えなかった。

 

 

 

 

 





霊「250円が強いですって!?」
魔「失礼だな。ATKは上だろ」
霊「でも差があり過ぎでしょ……」

スターダスト : レイピアのみ
能力 : (腕を振り回さないとならない)-IS-(インフィニット・ストーム)

レッドデーモンズ : 腕部、ウイングスラスターに熱核拡散弾。収納武器に大剣
能力 : (簡単な操作でできる)The End Storm

魔「仕方ない。作者はジャック、レッドデーモンズの方が好きだから」
霊「ジャック・アホラス……」
作者「霊夢、ギャラ無しな」
霊「なっ!?」

ギャーギャーギャーギャーギャー……

魔「また始まったか。放っておこう。
読者の皆、ここまで読んでくれてありがとうだぜ。
次回は今月がどんなテーマか分かるはずだぜ。
次回かLast Jahrで会おうな。バイバイ」




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Contrary to the mission 2


皆さんこんにちは。
最近、“前略”という便利な言葉を覚えた作者です。

一昨日に第2作、『変革のLast Jahr』を投稿しました。
短い文ながらも多くの人が読んで下さり感謝で一杯です。
本当にありがとうございます。
これからもよろしくお願いいたします。

それでは本編へどうぞ♪ヽ(´▽`)/



(優side―第三アリーナ)

 

 

 

「……………………」

 

(なぜ、あんなにもぶれずに攻撃ができたのだろうか?)

7月の時、アメリカの見えざる基地で交戦したときのことだ。

 

IFにも操縦者保護はある。だが今のアインスの防御力は強くはない。

展開していたとしても死ぬことはある。

 

(恨んでいるのだろうか…)

あの時守れなかったことを、約束を果たせなかったことを。

 

「おい黒川」

「………………」

「おい」

「………………」

 

パーン!!

 

竹刀で地面を叩く音がアリーナに響いた。

 

「黒川、聞いてないだろう」

「え、あ……」

 

千冬さんの声に現実に戻る。

 

「ったく。お前が二刀流で-IS-が使えるようにならないと勝てないって自分で言ったから教えに来たというのに」

「すいません」

「……気持ち悪いな。お前が素直に謝るの」

「じゃあどうすればいいんですか………」

 

普通にしたら気持ち悪いって……。

それってつまり、俺の存在そのものか気持ち悪い?

 

「まぁいい。それでさっきの続きだが――――」

 

絶対俺が言いたいこと分かってたのに“まぁいい"だけでスルーされた。

 

「ん?」

 

なんかあそこの辺に人がいるような……。

 

ブチッ、パシーン!!

 

何かが切れた音がした途端、竹刀で頭を叩かれた。

アインスがあっても無茶苦茶痛い……。

 

「……どうやら私の話など聞く必要はないようだな」

「そんなことないです。続きをお願いします」

「知らん。どちらにしても今日は帰る」

「あー帰らないでー」

 

駄々をこねる子供のように千冬さんの足に掴まる。

 

「待ってー千冬さーん」

「あぁうるさい。そんな女々しいことするな」

 

結局、交渉は成立せずズルズルと引きずられて寮に帰ることになってしまった。

 

にしても、アインス展開したままなのになんで千冬さんは普通に歩いてるの。

あの人、絶対何かがオカシイ。

 

 

(一夏side―)

 

 

 

 

「やっぱりこうなっちゃったか……」

 

楯無さんは苦笑しながら箒、セシリア、鈴、ラウラ、シャルロットいつもの面々を見ていた。

 

なぜか放課後になった途端に来て、「一緒に教えてほしい」とお願いしてきたのた。

箒はともかく他の四人は代表候補生なんだし必要ない気がするんだけど……。

 

「まぁあなた達なら優くんも許すと思うけど、下らない理由で付いてきてほしくはないわね」

「下らない理由!?」

 

自分が軍隊に所属しているせいか「下らない」という言葉にラウラが一番速く反応した。

 

「なんで優くんが授業にまで干渉したりしてるかわかってる?」

「それは自衛のためでは?」

「そうよ。それができないと私達は優くんの足手まといになる」

「足手まとい?」

「一夏くんならわかるよね?この意味」

「……………」

 

楯無さんの言っていること。

つまり、俺達を人質にして優を不利な状況におかせる可能性があるということ。

 

実際、俺が亡国機業に連れ去られた時、千冬姉は暮桜なしで亡国機業と対面しなければならない時があった。

優がいなかったら俺も千冬姉もどうなっていたかと思うと今でもぞっとする。

 

「そーゆーことよ。このことが二の次に出てくるようだったら今すぐ部屋を出てって頂戴」

 

その言葉に5人はしゅんとなってしまった。

 

「楯無さん、ちょっと言い過ぎじゃ……」

「一夏くん」

 

俺の言葉に楯無さんがぐいっと近寄ってきた。

 

「今までは味方の不祥事だったけど、今度は敵意を持った相手と戦うの。

私の言葉を言い負かす程じゃないと困るわ」

「……分かりました!

「あら意外と切り替え早いのね。お姉さん好きよ。即決できる人。

それで皆は――」

 

5人ともしっかり前を見てくれていた。

本人なりに覚悟を決めたということだ。

 

「そう。じゃあさっそく始めましょう」

 

 

 

 

(セシリアside―IS学園図書館)

 

 

イギリス政府が送ってきた顔写真。

それをもとに委員会のサイトから人物から人物の割り出しをしていた。

 

見て目は典型的な黒髪の日本人女性で髪をおろしたシャルロットに似ている。

それはセシリアにとって千人を裕に超える亡国機業のリストから一人の人物を探し出すのには非常に助かった。

 

「…どういうことでしょうか…」

 

一致したものの名前は黒川 唯。詳細データではすでに死亡している。

死亡した方が問題を起こす、そんなことあり得ない。

しかし現に彼女は祖国のAIFを襲撃している。

 

それよりも驚くべきことがあった。

それはこの人がシャルロットさんと同じように義理ながらも優さんの娘であること。

 

優さんのことですから彼女を助ける為にしたことであるのは確か。

でも、どうして亡国機業に招き入れるようなことをしたのか。

頭脳明晰な彼なら亡国機業の危険性をいち早く知り、他の方法を取れたはず。

 

わからない。彼女に対しても優さんに対しても、わからない………。

 

「…ん?セシリアか?」

「黒川さん!?どうして?」

 

消灯時間後の警備の巡回が終わった今、誰にも気付かれないと思っていたのでここに人が来るとは思わなかった。

 

「いや、剣術について調べようと思ってな」

 

黒川さんは私と一緒にパソコンを見る。真っ暗の中でディスプレイは自分の存在を強調するように光ってしまっていた。

 

「…唯のこと調べていたのか」

「あの、唯さんとはどのような関係なのですか?」

 

ここで隠しても仕方ないので試しに聞いてみる。

この不可解な関係を

 

「なぁセシリア……俺が唯を生き返らせるためにIS狩りをしたって言ったら笑うか?」

「え……ご冗談ですよね?」

 

まさか、そんな…そんなこと………。

 

「本当だ。Z-ONEはIS狩りを行うことを条件に唯を生き返らせると言った。

どんな方法かは分からないが結果的に亡国機業はそれをしてくれた」

 

「でも、唯さんとは敵同士ですよね。どうするのですか?」

「勿論捕まえるさ。唯にこれ以上こんなことをさせない為にも。

尋問とかが付いてきちゃうけどな」

「そうですか……」

 

私はそれしか言えなかった。

重い…重過ぎる……。

 

世界と自分の娘を天秤に掛けて自分の娘を取る。

そんなこと血の繋がった親でもできただろうか。もし、自分の両親が同じ立場だったら同じことをしてくれるだろうか……。

 

――そうだな。家族じゃないかな――

 

臨海学校の時、優さんはそう答えていた。

シャルロットさんが優さんのことを好きなように、優さんもきっと……

 

「セシリア?」

 

私の言葉に違和感を覚えたのか、すっとわたくしに歩み寄ってくれた。

 

(一夏さんとは違いますわね。それも唯さんに教わったのかしら…)

根拠のない憶測。けど、それを打ち消せずにいた。

 

「なんでもない…ですわ。」

「セシリア?どうした?」

「なんでもないんです。なんでも……」

「でも、お前…」

「大丈夫です…。先に失礼しますわ」

 

早足で図書館を後にする。溢れてそうな涙と底知れぬ悲しみを抱えて。

 

 

 

 






霊「原作ヒロインが……」
魔「………………」
霊「作者、どういうことよこれ?」
作「これは私の物語だ。優遇したっていいじゃないか」
魔「セシリア、シャルロットファンが怒るぞ」
作「それに関しては申し訳ないです。しかし!娘を大切にすることは間違いではないはずだ!」
霊「当時、娘がいるのがおかしいのよ」
作「それについてはまた今度な」
魔「と言いつつ、これに関する物語を投稿するのは大分先だとか……」
作「世の中、順番というのがあるんだ…」

魔「まぁいいぜ。投稿さえしてくれればな」
霊「次回は原作ヒロインズがどう動くか、ね。
そこそか長く書けると思うわ。ねぇ?作者」
作「だと良いねぇ~。ホント(影分身使えたらなぁ…」
魔「と、言うわけだ。また次回会おうぜ。
ここまで読んで下さりありがとうございます」



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Contrary to the mission 3


皆さんこんにちは。作者こと黒川 優です。

「Last Jahr」今週投稿できず申し訳ないです。
言い訳させてもらうと文才のない私が週に6000字以上の文をポンポン書くのは無理なんです。短期間で何度も投稿してる作者さんはホント凄いです。

近々、この長いタイトルを遊○王のパックのように略称名を作りたいと思っています。
使うのは活動報告、Twitterになると思います。

それでは本編へどうぞ♪ヽ(´▽`)/



(優side)

 

 

以前述べた通り、IF対策として俺も授業に立ち会っている。

と言っても専用機持ち、今は本人の実力を見る為に模擬戦を行うだけになるが。

 

「フォルテ感情的になり過ぎだ。動きがやや直線的になってる」

『…………………』

 

前回の戦いで実力差があることは分かったのだろう。

逆上するようなことはしてこない。

それでも気に入らないと言わんばかりの雰囲気を全面に出して

 

「……もし相方が殺されたらお前はそんな動きをするのか?」

 

――ガキン!

 

フォルテの拳をサイバーのシールドで受け止める。

 

「例え話でもこの有り様。だから甘いって言ってるんだよ」

『言っててことと言っちゃいけないことがあるでしょ!』

 

フォルテはそのまま離れることなく猛攻を繰り広げる。

しかしそれは感情任せで直線的。俺はそれを容易く避けて話を続ける。

 

「そうだな。俺がそれを言うのはナンセンスだ。

けど、それを理由に私情を持ち出すならお前はただのガキだ」

『なっ……!?』

 

彼女は俺の言葉に動きをピタッと止めた。

その隙を突いて今度はこっちから攻撃を行う。

連続展開と荷電粒子砲での支援、物理シールドによる相手の攻撃の遮断。

サイバーの、そして近接系ISの基本戦術だが

 

お前は相方が助けてくれた命をドブに捨てるようなものだ。

それなのにやられた相方のことに囚われれば、足元を掬われる」

 

体勢を崩させ

踵落としをフォルテの顔の横に下ろした。

 

「お前の実力なら一人でもサイバーは倒せるはずだ。

頭を冷やせ。…これこそ俺の言う台詞じゃないが、お姉さんが浮かばないだろう」

「………………」

 

フォルテはそっと俺の手を掴み体を起こした

そっと下がっていった。

 

「同じ“ガキ”である貴方が説教をするなんてね」

「仕方ないだろ。フォルテのことは当事者しか言えないことだからな。

それで親父さんが怒るならその時はその時だ」

 

さすがに楯無相手でサイバーは歯が立たないのでレヴァに換装する。

 

「そうそう。シャルロットちゃんからメールがあったのだけどセシリアちゃんの姿が見えないらしいのよ。優くん知らない?」

「セシリアが?今日は会ってないが昨日の夜なら図書館で会ったぞ」

「どうしてそんな時間に図書館へ?」

「さぁ。唯のことを調べてたしイギリスから何かあったんじゃないか?」

「………そう」

 

楯無は意味深に低いトーンで答えた。

 

「ん?どうした?」

「何でもないわ。後始末は私がするわ」

「ん?あぁありがと」

 

何に対しての後始末かは分からないが

楯無のお礼を言っておいた。

 

 

(セシリアside)

 

 

先日の会話が頭から離れない。

何度も優さんのしていることと自分の両親と比較してしまう。

そして何度も敵わないと感じてしまう……。

 

――コンコン

 

「セシリア?入るよ」

 

声からして入って来たのはシャルロットさん。

わたくしはその声を無視して布団に潜った。

 

「セシリア?」

「………………」

「何かあったの?」

 

そっとわたくしの横に座って様子を伺ってきてくれる。

やはり彼女は布団を剥ぐようなことはしない。その優しさは嬉しい。

けど、今は放っておいて欲しかった。

 

「……シャルロットさんは知ってるのですか?」

「何を?」

「優さんと……唯さんのこと」

「唯さん?誰なの?その人って」

「優さんの、……想いの人」

「そっか…………………」

 

彼女も俯いてこの事実は予想もしていなかったのだろう。

わたくしの言葉にシャルロットさんもしばらく黙ってしまった。

けど、彼女は私に一言良い放った。

 

「………いいじゃないセシリアは」

「それはどういうことですか!」

 

ベッドから飛び出て徐に彼女を壁に押し付けた。

 

「わたくしがどんな気持ちで!そのことを優さんから!」

 

好きな人から想いの人を聞く。

ただ好きって言うならまだしもあんな……世界の誰よりも愛された人って言われたら……自分のこの想いをどうしていいのかさえも分からない。

 

それをいいじゃないの一言で済まされて

 

「だって、セシリアは優と他人じゃん……」

 

ポツリとシャルロットさんが私に呟いた。

 

「セシリアは恋敵としていることもできる。

でも、僕は優の娘だから……。僕は何も邪魔はできない……。きっと留めることもできない……」

「シャルロットさん…」

 

わたくしは自分の身勝手さを恥じた。

わたくしよりもずっと、ずっと彼女の方が辛い。

シャルロットさんにとって優さんはただの親じゃなくて心の拠り所でもあるから優さんを失えば、自分も見失うことになる。

 

「ねぇセシリア。僕はまた独りになっちゃうのかな……」

「大丈夫ですわ」

「僕はどうしたらいいのかな……」

「大丈夫ですわ。大丈夫ですから」

「う……。うぅ……、セシリァ……」

 

私は泣き崩れる彼女をきつく抱き締めた。

 

………………………………………

……………………………

…………………

 

 

「ん?セシリアか。シャルロットはどうした?」

「疲れていたみたいでしたので、わたくしのベッドで横になっていますわ」

 

わたくしの心配をして下さったのはシャルロットさんだけではなく、箒さん、鈴さん、ラウラさんも私の部屋の前に待って下さっていた。

 

「お願いがあります。シャルロットさんのためにもわたくしに力を貸して下さい」

 

 

 

(楯無side―第五アリーナ)

 

 

 

「やっと形になってきたわね」

「楯無」

 

私の存在に気付いていたのか、声をかける前に私の方を向いてくれた。

くたびれた様子だとかなり紺を詰めてやっていたみたい。

 

「織斑先生からの伝言よ。

ロシアのAIFが壊滅。きっと彼女の仕業でしょうね。

さすがにもう待てないって言っていたわ」

「あぁ。ここまでいけば大丈夫だ」

 

優くんは満足そうに答えてくれた。

きっと二刀流での-IS-が使えるようになったのだろう。

 

「ねぇ、唯ちゃんと湾岸アリーナで戦う予定らしいわね」

「そうだけど?」

「なら、私も戦っていいかしら?」

 

海辺での私の能力は彼女のスターダストと相性がいい。

もしかすれば、優くんがこんなに訓練をしなくても彼女を倒すことができる。

それは7月のアメリカでの一戦で明らかなった。

 

「ありがとな。けどこれは俺一人でやりたいんだ」

「どうしても?」

「あぁ。どうしてもだ」

 

 

――バアァァン!

突如、優くんは何かに殴られたかのように吹き飛ばされた。

 

「これは……」

 

優くんが体勢を直す砲弾だけでなくビット、斬撃が優くんを襲う。

見慣れた武装に誰の仕業か理解できた。

 

「やめなさい!」

 

ミステリアス・レディを展開し戦いを止めに入ろうとするが一向に体を動かせなくなっていた。

 

「AIC……」

 

当然、私の後ろにはシュバルツア・レーゲンを展開したラウラちゃんがいた。

 

「貴女までこんなことに加担するなんてね…。何が狙いなの?」

「シャルロットのためだ」

 

ラウラちゃんはAIC使用のままワイヤーブレードを展開し優くんに攻撃を始めた。

 

箒ちゃんは自分の存在を見せつけるように派手に斬撃を放ち

その影に隠れて鈴ちゃんが暗闇の中を暗躍しバレないように衝撃砲を当てようとしていた。

自分の教えたことがこんなところで使われるとは思わなかった。

 

「悪いがお前に動かれれば困る」

「別に動けなくても使えないわけではないのよ」

 

ナノマシン制御のアクアクリスタルは私の意志によるもの。

これによってラウラちゃんのワイヤーブレードを止めた。

 

「なら!!」

 

ラウラちゃんはプラズマブレードを展開し私を止めにかかった。

 

ガキン――!!

 

そのプラズマブレードを優くんがレイピアで防いでくれた。

 

「優くん」

「貴様……」

「-IS-」

 

空いた片手で斬撃を放ちAICから私を切り離してくれた。

 

「くっ……放さん」

 

ラウラちゃんは右腕をAICで固定、左腕をワイヤーブレードを腕に絡ませてた。

 

最大威力の熱核拡散弾の『崩山』が優くんに直撃した。

そのまま地面に叩きつけられる。

 

「はぁぁぁぁ!」

 

箒ちゃんが斬撃を纏わせた雨月で容赦無く優くんを突こうとしていた。

 

「単一化」

「くっ」

 

スターダストの装甲が弾け飛び羽織だけの状態になる。

吹き飛んだ装甲をもろに受けた雨月の剣先は僅かに逸れ優くんの顔の横に突き刺さった。。

 

「-IS-」

 

体を立て直しながら体を回転させブレードを振るうことなく斬撃を放つ。

今度は両刀での斬撃。

単一化で能力が増幅した攻撃を受け赤椿のエネルギーを大きく減った。

 

「まだだ!」

 

絢爛舞踏で回復し再び構える。

けど、先に優くんが瞬間加速で箒ちゃんに接近し手刀で気絶させた。

 

休む暇も与えず再び、通常の衝撃砲が暗闇の中を暗躍し優くんを狙う。

 

「優くん!」

「お前は出るな!――The End Storm」

 

機体をスターダストからレッドデーモンズに変え、展開させた火災旋風が明々とアリーナを照らした。

 

「そこか」

「くっ……」

 

鈴ちゃんは苦悶の表情を見せる。

一対一で戦う時、甲龍はレッドデーモンズと相性が悪い。

衝撃砲はThe End Stormの火に酸素を送るようなもの。

接近戦はAbsolute Power Forceがあるから近寄り難い。

 

「Absolute Power Force」

 

右腕の主要装備デモン・ストレートに爆炎を纏って鈴ちゃんに接近する。

 

が、その攻撃は空を切る。ストライクガンナーを纏ったセシリアちゃんが上手くカバーに入った。

 

「セシリア!?アンタは――」

「いいですから」

 

セシリアちゃんが散弾タイプのスターライトでconflictを行い優くんを肉薄する。

支柱から伸ばした枝柱でセシリアちゃんの攻撃を防ぎながら反撃する。

 

「今ですわ!」

「わかってるっつーの!」

 

鈴ちゃんが優くんを覆っている枝柱に龍砲を向ける。

すると枝柱が不規則に膨張し、その先では優くんがAICと似たように全く動けなくなっていた。

 

「ぐっ…何のつもりだ?」

「それはこっちの台詞よ。アンタ、シャルロットの父親としての自覚あるの?」

「あるつもりだ」

「今のシャルロットをもくに見もせずによくそんなことが言えるな」

 

 

箒ちゃんもラウラちゃんも回復していて四人とも優くんに対して武器を構えていた。

これは確実にマズイ。完封なきまで機体を叩き潰すつもりだ。

 

「覚悟なさい!」

「コピーナイト、――――――」

 

その瞬間、彼女達の攻撃は全て消えた。

いや、攻撃だけじゃない。私達全員のISも消えている。

 

何者かが彼女達四人を気絶させた。

 

「痛ぇ。鈴のやつ、龍砲で乱雑に圧力かけて大気を歪ませやがって……。

人相手にすることじゃねぇぞ……」

 

さすがに優くんも長時間の連戦が堪えたのか膝を着きゆっくりと倒れた。

 

 

 

 

(セシリアside)

 

 

わたくし達は織斑先生の前に座らされていた。

 

「お前ら、どういうつもりだ」

「「「「…………」」」」

「言ったはずだ。『ISを浪費してアイツの手間を増やすな』と。

しかも作戦の決行が近い今、それをすることがどんなことか分からないお前達じゃないだろ」

「はい」

「分かっていてやっていたのか。何がしたい?」

「……………………」

「教官。逆になぜ黒川のあのようなことをするのを許すのですか?」

「長官の命令だからだ」

 

織斑先生も苦い表情をしながらラウラさんに答える。

多分、織斑先生も心から納得しているわけじゃないだと感じた。

 

「千冬さん、今回の発端は俺にあります。おとがめなしにしてやって下さい」

「だからっと言ってコイツらは自分の意志で規則違反したのだぞ」

「じゃあ無かったことにして下さい。幸い、スターダストは損傷していませんので」

「………………」

「お願いします」

 

優さんは織斑先生に頭を下げてくれた。

 

「…わかった。早く部屋に戻れ」

「ありがとうございます」

 

優さんとわたくし達はその後何もなく部屋を出された。

 

「なぜ私達を庇った?スターダストが無傷なら私達はまたお前を襲うことになるぞ」

「そうだな」

 

わたくし達の狙いは優さんが唯さんを助けるための機体、スターダストを破壊すること。

それができれば優さんは普通に任務をこなす(≒唯さんを殺す)ことになる。

そうすればシャルロットさんが悩むことは無くなる。

 

「だけど、お前達がいないとシャルが寂しがるからな」

「「「「…………」」」」

「お前達の言った通りだ。

俺はいくつものことをやりくりできるほどの器用さはない。

…だから、代わりにシャルのそばにいてくれないか?」

 

スパーーン!!

 

鈴さんが優さんを思いっきり叩いた。

 

「アンタ本当にわかってんの!

何のために私達が今日アンタを襲ったと思ってんの!

シャルロットは私達じゃなくてアンタに側にいてほしいのよ。何でそれが分かんないの?

だからアンタは親としての自覚も足りないって言ったのよ!」

 

鈴さんは今回のことで思っていたことを爆発させた。

 

 

「もういい。私帰るわ」

 

鈴さんはそのまま荒々しく部屋に戻っていった。

箒さんとラウラさんもそのまま部屋に戻っていく。

 

「優さん……」

 

私がこれ以上言えることはない。

わたくしもそのまま皆さんの後を追い部屋に戻った。

 

 

 






霊「…………」
魔「これに関しては私は何も言わないぜ。人によって色々思うことが違うからな」
霊「そうね。できたらこの話に対して感想が欲しいわ。
物語の改善の為にもコイツ(作者)の為にも」
作者「もし、不快に思うようなことがあったら申し訳ありません。
物語上仕方ないと思って下さい」

魔「さて来週は“Last Jahr”も投稿できると思うぜ。
これと交互に読んでIFの世界を楽しんでくれ」
作「宣伝乙(笑)」
魔「お前が言うな」
霊「Twitterにも是非足を運んで欲しいわ。
他の作者さんの宣伝もしてるから手に取ってみたらどうかしら?」
魔「ここまで読んで頂きありがとうございます。
また次回な。バイバイ」



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Contrary to the world, to save her


皆さんこんにちは。作者です。

実は初めてメッセージを貰いました!
見た時は舞い上がりました(ノ゜ο゜)ノ←こんな感じ
勝手ながらここでお返事をさせて頂きます。

文才が無いと仰っていましたが、私も文才なんてものは欠片もありません。
例えば、「よし、(これを)書こう」と思ってから今日まで約2年半かかってます。
それでいて全く完成していません。
また、この短い前書き、後書きに一時間以上かけてしまう時があります。
もう壊滅的です(笑)

それでもこうしてやっています。
もし創作をしたいと思っていたら萎縮することはありません。
「下(私)がいる」と思って安心して下さい(笑)

中身が無くて申し訳ないですが以上で私の言葉とさせて頂きます。


って2年半もこんなことしてるなんて病的ですね。
「作者は病気」とタグを追加しましょう。
もし良いタグを思い付いたら感想を通して教えて下さい。

それでは本編をどうぞ♪ヽ(´▽`)/




(千冬side―湾岸アリーナ前)

 

 

篠ノ之達によるゴタゴタから二日後、唯を捕縛するための作戦が決行されようとしていた。

作戦と言っても、学園から離れたところにあるこの湾岸アリーナに唯を誘導させ黒川に対処させるだけ。私達教員や機体持ちの生徒の出番は黒川が戦闘不能、もしくは捕縛不可能と判断された時だ。

 

黒川がアリーナに入ろうとしていた。

頬は片方の頬が若干赤いままだ。更識の話だとデュノアのことで凰が引っ叩いたらしい。

それでも今、黒川はここにいる。なら、どうしても聞いておきたいことがあった。

 

「念のため聞いておく。作戦に全うする気はあるのか?」

「まさか。すると思ったのですか?」

「なら、通すわけにはいかん」

 

学園の打鉄を展開し構える。

黒川の私情で彼女を助けることはしたくない。

 

やっと世間も黒川を多少ながら信用してくれるようになった。

それを壊して以前のように苦しむ人生を送ってほしくなかった。

 

「邪魔です。退いて下さい」

「退かせるものならな」

『―――――――』

 

私の纏ったISは黒川によって装甲を全て弾き飛ばされた。

 

(これは………)

 

「唯を助けられるなら俺は貴女に、世界に逆らいます。

それが6年前からの俺の唯一の意志です」

 

優はあんなことがありながらも彼女を助けようとしている。

 

「成功しても失敗してもお前は傷つくことになるぞ」

「助けられないことより傷つくことなんてないでしょ。

それに、ここでやらなくて何が親ですか」

 

黒川はそのまま私の横を通り抜けアリーナに入っていった。

それがこの任務での黒川なりの覚悟を持ってあそこに向かっているのは分かる。

 

(しかし……)

本人に覚悟がある以上死力を尽くさせるか、あるいは早く諭すべきか……。

私にはその決断が出来なかった。

 

 

(優side―ピット)

 

 

(よし。これで完了っと)

一通りチェックして異常は見つからなかった。

エネルギーもフルで入っている。あとは作戦を決行するだけ。

 

圧縮空気の音と共に扉が開き誰かが入ってきた。

 

「シャル……」

 

ラウラと一緒にシャルがいた。

若干いつもより顔が白いのは気のせいじゃないだろう。

ラウラの表情はかなり険しい。やっぱりこの前のことを怒っているんだろう。

 

「助けたいんだよね。唯さんを」

「…知ってたのか」

「うん。教えてもらったから」

 

鈴に言われたこともあって直接顔を合わすのが気まずい。

けど、これは譲れなかった。

 

「………悪い。俺は誰がどう言おうと唯を助けたい」

「………………」

「だから、もうちょっと待っててくれ」

 

きっと、シャルが怒っていない時での初めての沈黙。

答えてくれないこの沈黙が重く感じた。

 

「……いいよ。でも、ちゃんと帰ってきてね」

 

ニコッといつものように微笑んでくれた。

 

「ありがとう。ごめんな」

「ううん。いってらっしゃい」

 

俺は背中を押されアリーナへ飛び立った。

 

 

 

 

(優side)

 

 

 

 

「では、始めます」

 

アインス――ステルス解除

 

コアネットワークにアインスが現れ各ISにアインスの存在に対する警告が発せられる。

 

警告―IF接近――

 

(かなり近いな……)

近くにIS学園があるせいか、それとも……。

 

一機がまるで隕石のように落下してきた。

その衝撃で地面の特殊合金が凹みヒビが入る。

 

「アリーナのシールドを最大にして展開して下さい」

 

アリーナのシールドが何層に形成される。

これで目標は戦闘中、そう簡単に脱出することはできなくなった。

後は俺次第となる。

 

『久しぶりだね、優』

「そうだな」

 

ハイパーセンサーも使い全身を確認する。

バイザーで顔は見えないが唯本人、外見的に変化はないように見える。

 

「部隊の破壊はお前がしたのか?」

『うん。真月の命令だからね』

 

(真月の…)

これは意外だった。なぜなら前から唯は真月が嫌いだったから。

 

「俺を狙ったのもか?」

『それも命令だけど、私の意志でもあるよ』

「……俺のことを恨んでいるからか?」

『ううん。優のことは好きだよ。だから、私が優と一緒にいるために私は優を殺すの』

「…………………」

 

支離滅裂に聞こえる。

真月に何か吹き込まれたか……。

どっちにしても助けなければ確認のしようがない。

 

「悪いけど、俺は死ぬわけにはいかない。

アインスとして、親として、やるべきことを果たす」

『優ならそう言うと思った。

でも、私も私の思うことがある。優、勝負だよ』

「……あぁ」

 

互いにレイピアと砲口を展開する。

 

(やっぱり戦わなきゃダメなのか……)

それでお前の本心が分かるなら――

 

「来い。-IS-」

 

 

 

 

 

(ラウラside)

 

 

 

「シャルロット」

 

ピットに残ったままのシャルロットに声をかける。

 

「いいのか?黒川を行かせて」

「うん。いいの」

 

肩を回してシャルロットをちゃんと見る。

シャルロットは無理をしてても大丈夫というタイプの人間だ。

信用していないわけではないが返答だけでは不安なところがある。

 

「無理はしてないよな?」

「落ち着いてラウラ。

僕は諦めたとかそういうわけじゃないよ。だから大丈夫」

「どうしてそう言える?」

 

黒川 唯に対する事実にセシリアはかなり参っている。

シャルロットにも娘である点で大きくくるはずだ。

 

「だって僕は優の娘だから」

 

けれどシャルロットはいつものようにニコッと微笑んだ。

 

 

 

 

(優side)

 

 

 

 

徹底的に円形制御飛翔で距離を取り続ける。

もし、接近を許せばconflictで24門の砲口が火を噴くのが目に見えてえるからだ。

 

まったく、近接格闘型の機体が接近戦を恐れるとは滑稽な話だ。

 

『-IS-』

 

7月同様、大量の光弾が偏向射撃で俺に向けられる。

 

「-IS- 」

 

地面の合金を切り、風で巻き上げて、仮想的にシールドを作りエネルギー弾を相殺する。

そのまま攻撃に転ずる。

 

機体を損傷させることはできなかったが回避によってバランスを崩した。

 

『………』

 

唯は俺が攻撃に転ずれるほど斬撃があったとこに驚いているようだった。

 

(……ったく驚きたいのはこっちだよ)

このまま行ったら負けるのは俺の方だからな。

 

 






霊、魔「シャルロットは聖人だわー」
霊「笑顔で送り出したよ」
魔「なんであんな奴を好きになったんだろう……。
普通にしてたら告白されるのに……」
作「おおっと主人公の悪口はそこまでだ」

魔「ここまて読んでくれてありがとな。
次回は戦闘の続き…というか当分その予定?らしいぜ」
霊「また来週会いましょう。バイバイ」



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Contrary to the world, to save her 2


こんにちは。作者こと黒川 優です。(Twitterは@if_author)

12月に入りましたね。
後半になるとリア充活動活発時期に入りますのでやり残したものが多い方は早く行動した方がいいかもしれませんね(笑)
私も上旬の内に何とかしないと。

魔「なんだ?彼女いないのか?」
霊「いるわけないじゃんコイツに(笑)」

やかましい。どうせバイトとかで潰れるんです。
クリスマスなんて要らない子です。閉まっちゃいましょう。

それでは本編へどうぞ♪ヽ(´▽`)/





 

-IS-(インフィニット・ストーム)(斬撃型)

 

剣を振るうことで幾つかの斬撃(近いイメージは月牙天衝やサタンスラッシュ)

を展開できる技。当然、高速で振り続けることで大量展開はできるが腕の負担も大きい。

イメージインターフェイスを利用するのが前提なのでイメージ次第で大きく変わる。

習得は難しい。

 

 

□-IS-(射撃型)

 

多くの弾で同時に偏向射撃した状態がこれにあたる。

こちらも習得は難しい。

 

それ以前に偏向射撃の会得に一番近いところにいたのはセシリア。

しかし、唯が先に会得し使っている。

 

 

(楯無side)

 

 

 

(これが織斑先生が優くんに教えたこと……?)

二刀流になっているけど優くんの斬撃数は彼女の光弾より絶対に少ない。

しかし、現実はそれで相手に攻めることができている。

 

そんな不思議な光景が目の前で繰り広げられていた。

 

二人の戦いを注意深く見直す。

優くんの足下の特殊合金の床が削られている。

 

斬撃を一旦下に放ち床を削り上げる。

そして斬撃はそのまま攻撃へ。特殊合金を盾代わりにする。

事実上、一振りで2撃分の斬撃を作っていたのだ。

少しだけミスティルと同じことができるスターダストだからこそできることだろう。

 

けど、この戦術には限界がある。

当然ながら床には削られた跡が残ってしまう。

それはこの戦法に回数が限られており、また必ず地上からしか攻撃しないISでの戦い方と矛盾した戦法だ。

彼女が支部を壊滅させるほどの実力を持つ以上その異変に気付くはずだ。

 

 

(違う……)

あの世界最強と冠される織斑先生がこんな小細工を教えるわけがない。

これは優くんが彼女と戦う前に考えた苦肉の策。

 

本当は追い込まれた彼女が本気になった時の対処法として用意していた。

しかし、現実はこの段階でも彼女の弾幕を対処しきれない…。

このままいけば優くんは劣勢に立たされる。

 

アリーナのシールドに手を置いて意識を集中させる。

 

(お願い。間に合って)

私は祈るように2人の戦いを見続けた。

 

 

 

(優side)

 

 

 

 

斬撃数は絶対的に上回っているわけじゃない。

だから、数で攻めることはできてもダメージを与えられるわけじゃない。

 

『-IS-』

 

再び唯から光弾が放たれる。しかも―――

 

(勘弁してくれよ)

ここからまだ光弾数が増えるのか……。

いくらイメージを基盤に置いているからってその展開面制圧は冗談じゃすまされないレベル。

 

後ろは壁。ここに特殊合金の床はもうない。このままでは……。

 

(ちっ…………)

アリーナのシールドに沿って飛翔し光弾を避ける。

しかし、光弾は偏向射撃によって追尾してくる。

やはり自分の手で相殺するしかない。

 

「-IS-」

 

レイピアから斬撃を繰り出して相殺する。

しかし、光弾の方が多くて全てを相殺できていない。

 

「まだだ」

 

スラスターの出力を上げてその場で回転をする。

斬撃はリボンのように長く湾曲したものとなり唯の-IS-を退けた。

 

『前よりも強くなったね。けど――』

 

――パキ…パキパキ

―パキン!

俺のスターダストの装甲が一部剥がれ落ちた。

 

『それでも、私の-IS-に対抗するには斬撃数が足らないよ』

 

……そう。

2本の剣で24門、しかも偏向射撃を行える銃弾に対応するには絶対的に足らない。

それを補うために地面の合金を斬り上げ盾代わりにしていた。

他にもレイピアを捻らせたり、表面をざらつかせて一振りで多くの斬撃を出せるようにした。それなのに足らないとは……。

 

『-IS-』

 

唯は再び大量の光弾を展開する。

光弾が下から上へ上がるように俺に迫って来る。

やはりネタがバレた以上、地上に降ろしてはくれない。

 

(でも、斬撃を下側に集中させれば地上に戻れるはず……)

しかし俺の思惑など見通すように上からも弾幕が雨のように降りかかる。

 

――Sky Shine。

本来、戦いに不利な地上側で射撃戦で撃った弾を重力で落とすことで擬似的に上空から射撃を行うように見せる技術。

 

(わざわざ実弾装備を着けてるのはこのためか)

元々、劣勢に立たされた時の非常用だったろうが上下からの攻撃になり結果的に自分の首を締めた。

元々分が悪いだけにコレは痛い。

 

 

―パキ…パキン!

 

ついにレイピアも耐えられなくなり折れた。

その好機を唯は見逃すはずがなかった。

 

ダダダダダッ―!

 

まるで滝のように弾幕が押し寄せた。

 

―パラパラ……

――ガランガラン!!

 

「げほっ、げほっ……」

 

レヴァの武装である槍が破片となって地面に落ちていった。

 

斬撃数が足らないことは分かっていた。

それでもスターダストで戦わなければならない以上、何とかしてスターダストを守らなければならない。

だから、さっきの時みたいに盾にできる様に緊急展開できるようにしてあった。

 

だが、これをすればレヴァの戦術は機能しなくなる。

だからできればこれは使いたくなかった。

がさっきの場合は使わざる負えなかった。そうしなければ完全にスターダストは破壊されていた。

 

それでも機体、スラスターは半壊。エネルギーも二桁に入った。

いつもは機体が複数あるからエネルギー残留は気にしないが、

あのスターダストに対抗できる機体は限られている。

この状態はかなりマズイ。

 

『-IS-』

 

容赦なく全方位から一斉に光弾が迫る。

 

(まだ、これでも何とかなる……)

コピーナイトでレヴァを展開するより先に水竜が俺を飲み込み、水流で光弾を強制的に受け流した。

そのまま水のブレスを吐き、唯へ攻撃していっている。

 

『これは……』

 

唯はアリーナを見渡してこの水流の発生者を探している。

楯無だ。恐らくアメリカでの時もこの方法で戦ったのだろう。

圧縮した水にしか見えないブレスを確実に避けに動いている。

 

「邪魔は…するなって言っただろう」

『だって、あれを受けたら貴方死んじゃうじゃない……』

「心配性だな…。相変わらず……」

 

ミスティルをレイピアに纏わせれば二刀流の時と同じくらい展開できるっていうのに。

 

「はぁ」

 

やっぱりオリジナルは強い。

どんなに足掻いてもスターダストでは状況を好転させることはできない。

 

――必ず帰って来てね。

 

(分かってる)

生きてなきゃ意味がないことくらい。

 

(悪いな、唯)

お前が悪いことをしたわけじゃないが、俺は手を挙げなきゃいけないようだ。

そんな非力な俺を許してくれ。

 

 

スターダストを収納しレッドデーモンズに変える。

 

「単一化」

 

装甲が弾け飛び紅の羽織だけになる。

またあの弾幕のような光弾を受けたら機体より先に体がもたないが、これから発動する技に防御は必要なかった。

 

パンっとまるで魔法や錬金術をするかのように両手を合わせる。

 

「Crimson Hell Flare 」

 

いくつもの巨大な炎の花、ブラックローズがアリーナの床を全て覆った。

あまりの熱量に俺を纏っていた水は蒸発して消えた。

 

『……やっと私を殺す気になった?』

 

唯もこの技を知っているだけに警戒が強くなる。

 

この技は使用エネルギーが多いほど威力、数が多くなるもの。

そして今回使用したエネルギーは全体の9割。

普通に考えれば殺す流れだ。

 

「バカ言うなよ。助けるぞ。何があっても」

 

――バチバチバチッ

 

オーディンの瞳を発動し強く唯を見つめた。

 

絶対に唯を助ける。

その為に俺はアインスを使い続けていると言っても過言ではない。

 

「行け」

 

大量のブラックローズが槍の形に変形し唯に向かって放たれる。

 

この赤く燃えるブラックローズはひとつの威力は低い。

しかし花の形を保っている間は実質ほぼ無敵状態。

動かせる速度が遅いことを除けば凡庸性の高い技なのは言うまでもない。

 

これを唯が放つ-IS-より多く展開できている今、かなり有利に状況だ。

 

唯は先ほどとは異なりあまり弾幕をばら蒔かず、回避に専念していた。

槍に形状変化している間は攻撃が通り破壊できることを知っている。

俺が攻めて来た時にカウンターを打つつもりだろう。

勿論、こっちもそれに対しての対応策はある。

 

槍状になっていたブラックローズの周りに花状のブラックローズを纏わせる。

代わりに攻撃を受けた花状のブラックローズは攻撃を受け散ったとように見せてまた花弁が重なり元の姿に戻った。

 

「よそ見はダメだぜ?」

 

槍状になっているブラックローズを投擲する。

それは砲口を貫き、爆発が起こる。

 

(よし)

爆発があったということは火薬の類いがあったということ。

これで実弾装備の砲口を破壊しSky Shineを封じた。

 

そのまま隙も与えずブラックローズを移動させそこから槍を展開する。

いつも使っている-IS-と違い軽い手の動きだけで攻撃できるこの技は唯の攻撃を受けた体にはありがたい。

 

『やっぱりオリジナルは強いね……』

 

唯は槍状のブラックローズを狙うことを止め、ガシャンっとスターダストの装甲の一部が外した。

そこから使っていなかった12門が新たに展開され、使用可能な砲口が32門なる。

それを計32門を2つに、16門ずつにまとめた。

 

(何をするつもりだ?)

何にしてもこの局面で出すということは打開しようとしていることだ。

何輪か自分の手元に戻し唯の攻撃に備える。

 

『Shooting Sonic』

 

実弾とそれを纏う高出力のエネルギー波がブラックローズを散らしていった。

 

(これは高速振動波……!)

しかも中に埋め込まれた実弾を振動させているせいで遠距離でもその威力を十分に発揮している。

 

これはマズイ。

この前の鈴が展開したThe End Stormに対して龍砲を放った時のように暴発する。

いくら火が風に有利でも送り込まれる風が多ければひとたまりもない。

 

「く、そっ!!――The End Storm」

 

支柱から枝柱を伸ばしブラックローズと連結させることで移動速度を上げる。

しかし同時作業が増えたことによって処理が辛くなる。

しかも考慮しないことはそれだけじゃない。

唯がShooting Sonicを撃たれる度にそこを中心に振動が起こる。

その影響を受けるブラックローズを制御できなくなりつつあった。

 

(まだ、……まだ大丈夫だ)

この一撃だけでもいい。

偶然ながらもブラックローズが唯を囲む状況が作れた。

本人は射撃に専念していて気付いていない。

強力でも2門なら数で押せる。

 

(行け!)

前に出した手から紅の衣は光の粒子となった。

―具現化限界。

Crimson Hell Flare とThe End Stormなどの同時処理に追われてエネルギーの残高の確認ができていなかった。

 

制御を失ったブラックローズは暴発した圧力で俺と唯を壁へ吹き飛ばした。

 

「はぁ、はぁ……!?――」

 

俺は何の脈絡もなく吐血した。

 

『……限界だね。優も、アインスも』

 

朦朧とする意識で手を顔に当てる。

右目から血が流れ始めていた。

それは『オーディンの瞳』の過剰使用による神経バランスの崩壊を意味していた。

 

(ここで…かよ……)

体がダルい。吐き気も治まらない。めまいがする……。

 

唯がゆっくり俺に近付き何かを向ける。

恐らくスターダストの砲口だろう。

 

「優、大丈夫だよ。死は怖くないよ」

「………唯」

 

唯は優しく俺をあやすように語りかける。

その言葉に怨みや殺意はない。

だから俺は分からなくなる。唯がわざわざこうして戦う意味が。

俺がここまでして戦う意味があるのか。

 

「……そうだな」

「え?」

「この戦い…、負ければお前といられるらしいからな。

戦わずに負けを認めたらどんなに楽か…」

「優…?」

 

でも………。

 

「でも、それじゃダメなんだ」

 

白黒のツートーンカラーの機体を展開し、俺に向けられていたものを無力化する。

 

「なっ!?」

 

緊急回避で距離をおく辺り、この光闇の『常識の範囲内での事情の無効』の能力を知っていたらしい。

 

「俺はお前がこれ以上誰かを傷つける姿はもう見たくない。

昔の俺みたいに心をすり減らすことはさせたくない。

お前をそんな所じゃなくて『光指す世界』を歩かせたい」

 

「だから――」

 

――今度こそ――

 

「唯、お前を助ける」

『優………』

「Circle Out」

 

手を体にあて光闇の能力を発動させる。

それだけでさっきまでのが嘘のように体は楽になった。大丈夫、機体は機能している。

 

一方唯はShooting Sonicの反動が来ているのかまったく動かず立ったままだった。

理由なら後で聞ける。やるなら今だ。

 

「コピーナイト―レヴァ。白雷」

 

光闇、レヴァ二機とも一瞬で最高速に入る。

更にレヴァを前に置き、スリップストリームで加速する。

 

『-IS-』

「ミスティル」

 

アリーナの床の合金、アキュレスやスターダストの残骸を盾にして唯の攻撃を防ぐ。

長期戦での戦いの布石が今、この、たった一回の好機のために全て繋がった。

そして、やっと唯に触れる。

 

「Claire Out」

 

唯のスターダストはコアを無効化され機体は花のように散っていった。

 

 

 





霊「よく勝てたわねぇ……」
魔「唯のスターダストが強いせいでまた主人公(笑)になってるからな」
霊「どうしてこうなった」
魔「アイツ曰く、“主人公補正はあまり入れたくない”んだと。
あと“優は特別強いという設定ではない”らしい」
霊「メタい…。そして主人公の扱いが酷い」
魔「その理由は過去編で分かるだろ。それじゃ……」
魔、霊「読んで頂きありがとうございました」
霊「来週もよろしくね」



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Doll's stage

皆さんこんにちは。
年末故か、製作時間がなくて困っている作者です。

私は基本的にスマホで書くからスピードも遅いんですよね。
こんなんならノートパソコン買う時、ASUSの安い小さいやつでもよかった……。
どうせスペックあっても使いこなせないし。
(ちなみに私のは高校生がよく持つプラスチックのケースほどの大きさ。ノートとはなんだったのか…)

まぁそれは置いといて、本編へどうぞ♪ヽ(´▽`)/



(優side)

 

 

「Circle Out」

 

機体を失った唯は体の力が抜けたかのように前に倒れ、俺に体を預ける形になる。

久し振りに抱える唯の体は昔と違って大きいが俺は昔と同じように抱えることができた。

それだけ俺達の間にたくさんの時間が流れていたことを改めて感じた。

 

「唯?」

「…………」

 

体を揺すってみるが反応が全くない。

 

「唯?」

 

偏光射撃は同時作業の塊。疲れたのだろうか?すると、

 

『なーんちゃって!!』

「!?」

 

バシッと手を弾かれ距離を取られる。

俺は急に変わった男の声や態度に全く対応できず、ただ呆然と立っていることしかできなかった。

 

『残念だったなぁ。奥の手だったかもしれねーがこの俺様を出し抜くには遠く及ばねーな』

「その声は……真月…」

 

マシンボイスからやっと誰だかは分かった。

しかし、なぜいきなり真月が?

 

『面白いやつだなお前。本当にあのことを…ウィヒヒヒヒ』

「おい……。どういうことだよ………」

『なら見せてやろうかぁ!?もっと面白いものをよぉ!』

 

空中からマリオネットの糸らしいものが現れ唯に繋がる。

糸は唯を包み込み一つの機体を纏わせた。

 

「それは……」

『そう。お前の記憶の中で最も思い出深い機体、オシリスだ』

「……………」

 

Slave Modeによってのみ展開される機体、オシリス。

 

突出しているのはエネルギー量が通常ISの3倍、1800あるということ。

しかも、第三世代の性能は確実に持つ機体。

レッドデーモンズがエネルギー切れの今、真っ向から戦うには分が悪い。

 

だが、なんでオリシスが展開された?

Slave Modeは操縦者が危険な状態の時に発動すると推測されている。

けど、Circle Outは操縦者に危険がない方法で機体を無効化した。

発動する条件は満たしていないはず……なのに。

 

『さぁて、誰を殺そうか?』

 

真月はぐるっとアリーナ中を見渡す。

 

『コイツか?そいつか?それともアイツにしようか?』

 

教員、一夏達、最後にシャルを指差した。

 

ガキン――!!

 

ブレードとオシリスの武装である鎌「デスサイズ」が交わりギリギリと音をたてる。

 

『相変わらず反応が素直だな』

「うるせぇ」

 

ギン!と音をあげ互いの武器を弾き距離を取る。

 

『コイツが出た以上、止めるには破壊しなきゃ止まらねーぞ。

さぁどうする?殺すかぁ?自分の娘をまた見殺しにするのか?』

「こ、の……‼」

 

真月の言葉に俺の中で何かが切れそうになった。

 

『隙だらけだぜ』

 

俺が真月の言葉に反応してる隙にオシリスは突きの体勢に入っていた。

 

『Ruin Rain』

 

バチチチチ――

 

本来、矢に雷を纏わせて放つ技を右腕に集約させる。

右腕に集約され鋭利な刃物になった一撃に鮮血が飛び散った。

 

『サンダーフォース』

 

そして、右腕に集約した雷の矢が放電するかのように一気に外に広がった。

 

『ほう、よく避けたな。まぁ完全じゃないが』

 

俺の体から血が滴り落ちていた。

最初の一撃を辛うじてかわした。そうしなければならなかった。

もしそうしなければ今頃内側から外側へ広がった雷によって肉片にされていただろう。

 

『避けれて当然か。お前はこの技で人を殺したんだもんなぁ!黒川!』

「うるさい………」

 

 

直接顔は見えないが、真月はこの状況を面白がっているのは確かだ。

 

『サンダーフォース』

『ミスティル』

 

持ち上げた特殊合金を盾代わりにする。

が、雷は合金の盾を貫通して俺が纏う光闇を貫いた。

 

「ぐっ…」

『絶縁体じゃねーそれで防げるわけねーだろ。

まぁ、このアリーナ中の合金をかき集めれば防げるだろーが、それは』

 

突然、後ろから雷が俺の真横を切っていった。

 

後ろを見ると帯電した特殊合金とオシリスの鎌「デスサイズ」に繋がっていた。

静電気と同じ原理、プラスとマイナスの電荷が放電したものが繋がっていた。

 

「不利になるって言うんだろ。だったら全部アンタに向ければいい」

 

ミスティルで全ての合金を運びオシリスを覆う。

これで拘束すれば後はまたCircle Outで機体を無効にすれば問題ない。

 

『……わかってねーな。そんなことしたら』

 

パン!と何かに反発したかのように特殊合金がアリーナに広がった。

 

『オメーは終わりだ』

 

弾かれた合金を見ると、全ての合金が帯電していた。

 

『サンダーフォース』

 

その雷撃に俺は逃げる術もなく貫かれた。

 

 

 

(真月side)

 

 

アインスとの戦闘映像をオシリス経由でディスプレイに表示させる。

 

「終わったか」

 

俺は終わってしまった茶番を思い直す。

 

俺の声を聞いた時の黒川の戸惑いと絶望に満ちた表情はそれはそれは素敵なものだった。

これだから人を持ち上げて落とすことは止められない。

特に、長年憎み続けた黒川にこれができたのだ。

こんなにも嬉しいことはない。

 

『――バチチチチチッ』

「ほう…。それを使ってくるか」

 

立ちかけた腰を下ろして黒川を凝視する。

 

それが奥の手であるのなら興醒め。

まだ手があるなら最後、ヤツがどうなるか楽しみではある。

 

「さぁ~てどうなるかな?」

 

俺はまだ終わらぬ茶番を画面越しで意気揚々と見ていた。

 

 

 

(千冬side )

 

 

まるで矢のように真っ直ぐ、容赦無く突き刺さった。

黒川の機体はダメージを負い、強制収納された。

オシリスはそれだけでは飽きたらず、生身となった黒川にも同様に攻撃した。

 

「織斑先生!黒川君が!」

「いや待て」

 

黒川の体の上にマリオネットの糸が垂れ落ちる。

それは黒川の体の至るところに巻き付き無理矢理体を吊し上げた。

 

そこから糸が織り出され乾いた血のように黒い羽織ができる。

更にその上から血を被ったかのように赤い装甲が出来上がり、最後に赤色の兜のアイラインが光った。

 

「これは……」

 

6年前の惨劇を起こした張本人、唯と同じオシリスが黒川にも展開されてしまった。

彼も大型の鎌「デスサイズ」を持ち、彼女に接近する。

 

「この動きは…なんなんですか……」

 

山田先生は2人の戦いぶりに言葉を無くす。

Slave Mode。それで展開されるオシリスは機体に埋め込まれたシステムによって予測し行動を起こす。

つまり全て演算で行われている今の戦いは時にシンプルであり、時に大胆。全くと言っていいほど隙が少ない。

だが、それは技術の賜物ではなく人を殺すという行為のためだけに行われている。

その全貌が解明されていない。私達がアリーナに入れば2機は私達を敵として攻撃してくるかもしれない。

だから私達は不用意に介入できない。

 

問題はそれがアイツの意志ではないこと。それと………。

 

「技術の差か」

「織斑先生どちらに?」

「私もアリーナに出る」

 

最悪の結果にだけはならないように私はアリーナへ向かった。

 

 

 

 

(優side)

 

 

『Protect Mode発動中――敵殲滅中』

 

機体は俺の意志と関係なく動き、アリーナ中に雷が鳴り響かせる。

 

『―左脚部破損。

――ダメージ75。 シールドエネルギー残量、1054。

―右肩部破損。

―腹部破損。

――ダメージ51。 シールドエネルギー 残量、729。

―左肩部破損

――ダメージ98。 シールドエネルギー残量、516。

―胸部破損。

――ダメージ60。シールドエネルギー残量、423。

――ダメージ128。 シールドエネルギー残量、122』

 

やっぱり6年前に作られたものとその後に作られたものでは精度が異なる。

だが、ここまで装甲が削られれば自らの意志でオシリスを動かすことができる。

 

それは福音と戦った時、コズミックブラスター後に展開されたオシリスが俺の手で動かせた時に気付いた。だから、非常時の手段として考えていたがミラーマッチで使うことになるとは思わなかった。

 

 

『サンダーフォース』

 

完全に体勢を崩されたところに雷撃が向けられる。

が、途中から何かに吸い寄せられるようにどこかへ集まって砕けた。

 

(あれは………)

打鉄を纏った千冬さんが腕を挙げていた。

その手にはブレードの持ち手だけが残されていた。

 

千冬さんはブレードを持っていた手を俺の顔にめがけて裏拳をかましてくる。

それを受け止めた。

 

「大丈夫です。ここまで攻撃を受ければSlave Modeの影響は半減しますから」

 

ただSlave Modeはシールドシステムと連動しているため、操縦者保護も半減している状態だが。

 

「Slave Modeで無理やり体を使われてろくに体を動かせずにいるくせに何が大丈夫だ」

「わかりました?」

「お前がヤツの攻撃を受けて装甲だけ削り取ろうとしてる時にな」

 

本来なら頭が理解しても体が動かせない時、私達はその動きはしない。

だが、オシリスには体の各部分に補助装置が付けられてあるせいで、Slave Modeが指示する不可能な動作も可能にさせてしまう。これに付き合わされる体は堪ったものではない。

 

だからと言って打鉄の千冬さんではオシリス相手に戦うのは無理だ。

唯を止めるには俺が何とかしないといけない。

 

「大丈夫です。手は考えてあります」

「Circle Outか?」

「いえ」

 

Circle Outはまだ使えるがスターダストに使ってしまった以上、相手は絶対光闇を警戒してくる。なら別の手で行くしかない。

 

「コピーナイト」

 

スターダストと光闇を展開する。

 

「サンダーフォース」

 

オシリスのウイングスラスターを帯電させる。

そして、そのウイングスラスターを機体から切り離し上に投げ上げる。

その間に光闇を先頭に置き再びスリップストリームでスターダストを肉薄させる。

 

『サンダーフォース』

 

相手のオシリスが雷を発生させるが、相手の雷は全て帯電させたウイングスラスターに集まった。

 

『――!?』

 

今、ウイングスラスターにはプラスとマイナス、両方の電気を帯びている。

そのため、今まで起こしていた雷と同じように放電した雷があれに集まるようになる。

これで変幻自在に攻撃を繰り出すサンダーフォースを無力化することができた。

 

『Ruin Rain』

 

今度は直進する二機に今度は影響を受けない物理の矢が迫るが、

 

「Circle Out」

 

盾代わりにしている光闇の能力で雷の矢を無力化する。

こうしてる間にスターダストが唯に触れる。

 

「ディクテム・サンクチュアリ」

 

唯に纏われていたオシリスの装甲を全て弾き飛ばす。

 

 

―スターダストの単一能力、ディクテム・サンクチュアリ

ゼロ距離でないといけないという大前提があるが触れた機体を無条件に吹き飛ばすことができる。

 

「よっと…」

 

落下する前に唯を抱き締める。

 

(やっと、やっと………)

俺は唯を助けることができた。

 

「唯、大丈夫か?」

 

今度は意識がある唯に話しかける。

 

「…ゆう……」

 

そっと唇を重ねられた。

その時、体が何処かに引っ張られていった。

意識も現実から遠退く。これは――相互干渉意識

 

 

 

 

 




真月『な~んちゃって!』
作者「ふむふむカキカキφ(..)」

実はZEXAL第96(?)話放送前までは普通に書いていたのですが、
あの何とも強烈なシーンを見て「入れないと!」と思いました。
ヒロインを崩壊させても真月の作画に力を注ぐスタッフの姿勢は私大好きです。

先日、ARC-Vでも早くも 見れましたね。
私、前回の予告見てなかったのでいきなり来て「おおぉ!」となりました。
今後どうなるやら(笑)


ここで私からお願いがあります。
書き手の私と読み手の皆様では作品の情報量が違います。
そのため私からしては大丈夫と思っていても皆様からは「わからん」となるところがあると思います。そのようなシーンがあったら遠慮せず感想で述べて下さい。
(なければ「OK」だけでも大丈夫です)
よろしくお願いしますm(__)m

ではまた次回お会いしましょう。
ここまで読んで頂きありがとうございました。



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Heavy desire


皆さん、こんにちは。
リアルが忙しくてまともに作成が進んでいない作者です。
世間には「できるだけ毎日」とか「3~4日に1度」で投稿してる作者さんいますが、アレ凄いことですよ。作成側になって常々感じさせられます。
私が同じことができるようになるにはまず影分身の術で大学のパソコン室を占領してからじゃないと無理ですね(笑)

まぁそれはさておき、本編へどうぞ♪ヽ(´▽`)/



(優side)

 

 

相互干渉意識によって引き寄せられた俺は思いっきり床に叩き付けられた。

 

(ここは……アインスの世界とは違う…)

この世界は唯のスターダストの世界だろう。

しかし、この世界は唯に全く合っていない。

 

血のように紅い絨毯。解れてバラバラになった縫いぐるみ。

配色もものの扱いも唯とは全然違う。

 

(ん?)

ボロボロのタンスの上に綺麗なビー玉がいっぱい入ったビンがあった。

なんとなく、俺はこの部屋の中でビー玉だけは唯のものだと確信した。

そのビンを持って他の部屋も探してみる。

 

今度は黒い部屋、さっきの赤い部屋を大雑把に黒く塗りつぶしたような感じ。

これも唯が好むような部屋ではない。

 

これも、これも…唯のイメージとはかけ離れた場所。

外れと言わんばかりに何も置いてなかった。

 

(後はここか……)

一番奥にある比較的真新しいドアを開けた。

さっきまでの暗い感じとは違い、唯らしい明るい部屋が広がっていた。

ただ、なんとなく委員会で俺がよくいる一室にかなり似ていた。

 

「唯」

 

唯も俺に気付いたのか俺に体を向けてくれる。

にこっと前とまったく変わらない眩しい姿があった。

 

『ありがとう、優。ごめんね。こんなことして』

「いいんだ。もう終わったことだから」

 

そう。もう終わったことなんだ。

 

『私を助けてやるって言った時も、私を生き返ったのは優のおかげだって聞いたときも、嬉しかった。

ずっと前から優と一緒に学校に行きたかった。

二人で外の世界に出て色んな所に行きたかった。そう思っていたから』

「大丈夫だって。Slave Modeも解いた。

すぐにとはいかないかもしれないけど、これからは自由に生きていける」

 

――待って欲しいって言うならできるだけ待ってやるから――

それが亡国機業との戦いに巻き込んでしまったことに対して俺の精一杯の想いだった。

唯もそれにとても喜んでくれた。けど、唯は首を振った。

 

『無理なの。私はDoll。兵器として生き返らせられた私は優を殺さなければいけない。

けど、私には…できなかった。例え優が生き返るとしてもそんなことできなかった』

「おい。何言ってるんだよ……」

 

 

『ゴメンね優。さようなら』

 

唯はもう一度、そっと唇を重ねた。

 

 

「唯!唯!」

 

現実に意識が戻った俺は急いで光闇を展開し、Circle Outを発動させるが表示されるのは「error」の文字だけだった。

 

(頼む…頼むから……)

今度こそ助けたいんだ。

そのためだけに光闇を作ったんだ。だから、だから…いかないでくれ……。

 

「くそ…」

 

Circle Outを発動をさせようとするが依然として「error」と表示された。

 

動けよ……。あと1回使えるだろ。

動け、動け動け動け動け動け動け………!

 

 

突如、腕を誰かに掴まれた。

 

「黒川……」

 

振り向くと千冬さんはゆっくり首を振っていた。

 

「もう無理だ。彼女はもう…」

「…………………」

 

何よりも重い現実をまた、また突き付けられた。

 

 

(思い、重い、想い)

(千冬side)

 

 

 

湾岸アリーナでの作戦から一週間。

 

唯の遺体は本来、調査が一通り終われば処分することになっていたが、今回は黒川の身内であるため。黒川が動けるまで火葬を延期した。

そして黒川が動けるようになった今日、静かに葬儀が行われることになった。

 

 

黒川は唯の棺の前にイスを置きそこに座っていた。

消えて無くなりそうなほど黒川の背中は小さい。

 

 

「…なんですか?千冬さん」

「残念だったな…彼女のこと」

「俺の力が足らなかっただけです」

 

そんなことはない。

換装は肉体的負担がかかるにも関わらずスターダスト、レッドデーモンズ、レヴァ、光闇、オシリスの使用。

そんなことは誰にだってできるわけではない。

特にトラウマがあるにも関わらずオシリスを使ったのは大きい。

 

「…怒らないで聞いて欲しい。

今回の唯の拘束、私は成功しなくて良かったと思っている」

「……どういう意味ですか?」

 

黒川は立ち上がり私に体を向ける。

唯の前のせいか言葉はまだ柔らかいところがあるが、私に向ける眼差しは恐ろしいほど冷たい。

 

「腎臓」

「『circle out』の代償で片方ダメにしただろ」

「………………」

 

――Circle Out――

いくら無効にできる範囲が常識的なものであってもいくつもの過程を飛ばし、序論と結論を強引に結び付けるその能力が4回もノーリスクで行えるはずがない。

 

事実、腎臓のことがなくても本当は黒川はまだ入院していなければならない状態だ。

ISISの活動が活発化しなければ。

 

「亡国機業は必ずお前を殺すための手段を講じていたはずだ。

仮に今回ので助けることができたとしても、それが枷になりいずれお前がダメになる」

 

それにCircle Outの存在を知ったものがそれを利用することは目に見えている。

そうなれば黒川に破滅が迫ることは容易に想像できる。

だから、光闇の能力は成功したとしてもそれよりも評価される作戦などが失敗することで大衆の目を光闇から逸らしたかった。

しかしその初めの作戦が唯に関するものになるとは…現実は無情だ。

 

「……仕事行ってきます」

「機体が大破してるだろ。私が行く」

「予備のパーツで組み立て直しました。

サイバーとアームズエイドがあればISISを倒せます。それに――」

 

黒川は突き放すように言葉を繋げた。

 

「千冬さんは正式なAIFの人間ではありません。前線に出ることなど許可できません」

 

 

パシーン――!!

 

叩いた音が狭い部屋に鳴り響いた。

 

「お前が私を除名したんだろ……」

 

前からこのことに対して気になっていることがある。

 

――唯を助けられるなら俺は貴女に、世界に、神に逆らいます。

それが6年前からの俺の唯一の意志です――

 

この言葉。まるで唯が生き返ることを知っていたかのような台詞。

そして、それに都合の良い能力を持った光闇。

 

「何のために私をAIFから除名した?今回のようなことを想定してか?」

 

今まで疑問に思っていた言葉が初めて黒川に対して形になる。

が、黒川は特に表情を変えることなく淡々と話を続けた。

 

「それは否めないです。俺は敵対しながらもZ-ONEの言葉を信じて唯を助けられるように光闇を作りました」

 

私は優の胸ぐらを掴む力が強くなる。

 

「が、別にそのことで千冬さんを除名する必要はありません。

非常時を除いてIFと戦うのは俺だけですから」

 

それは黒川の言う通りだ。

特に、日本においてその可能性はほぼ確実になる。

 

「なら何が理由だ」

「千冬さんには一夏がいるからです」

「なに?」

 

いきなり出てきた一夏という言葉に私は理解できなかった。

 

「AIFは言わばIS界の警察ですが、俺が正当な理由で生きるために戦う場所でもあります。

そんなところでもし、亡国機業の戦いを通して千冬さんが亡くなれば一夏が悲しみます」

「………………」

 

その言葉に私はもう何も言えなかった。

 

―これ以上誰かを失いたくない―

 

唯を無くしたからこそ黒川のこの言葉は何よりも現実的で、重く、想いに満ちていた。

 

「では」

 

黒川は私の手を払い外へと向かっていった。

私はその姿を見ることしかできなかった。

 

 

 

 

 

「ギャハハハハハ!」

 

真月は先日のアインスと唯の戦いを見て笑っていた。

それが彼にとって本当に面白いものらしくイスから転がり落ちるものの、そこで床をバンバン叩いていた。

 

「はははっ!『くそ…』だってさ。バカ過ぎて笑いがとまらねぇ」

「真月。俺にそんなものを見せるために呼んだのか?」

 

真月と同い年くらいの青年が部屋の入り口に立っていた。

銀髪、赤眼、片目に眼帯。見た目はラウラに似ているのかもしれない。

もっとも彼は男で背は高いが。

 

「まぁ見てみると面白いぜ?この希望に満ちた表情が一気に崩れる様は。

なかなか見れるもんじゃないぜ」

「俺にそんな趣味はない。帰る」

 

苛立たしいように部屋を出るフラシドを真月が引き留める。

 

「おっとと。本題だ。ISISを借りたい」

「つまり貴様にあげろと?」

 

フラシドは露骨に嫌悪感を出す。

ISISを貸したところで返ってくるわけがない。

彼はそのISISで研究を行っていることもあり、不用意に貸したくないのだ。

 

「まあまあ、それでアインスを殺せるなら安い。

それに実験中に出た欠陥機で構わない。それならいいだろう?」

「…わかった」

 

フラシドはこんな下らないことに付き合えないのでさっさと部屋を出ようとした。

けど、真月が「殺せるなら」と言ったことに確認を入れた。

 

「真月、俺達はアインスを殺してはならない。わかっているな?」

「しつけーな。わかっている。いたぶるだけだ」

「…いつか痛い目を見るぞ」

「ふっ。それができるのはお前達だけだ」

 

真月の持つウリアはレッドデーモンズのコピー機。

その真月に勝てるのは彼より高性能な機体を持つフラシド達幹部、そして今のリーダー、パラドックスだけ。

レッドデーモンズが最大戦力のアインスに負けることはない。

 

「さぁ始めようか。良からぬことを」

 

画面の光を受けて映るその表情はどこまでも黒かった。

 

 



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August―ただ貴方といる為に
Reminiscent for the dead her


メリー妬ミマス
皆さん、こんにちは。今年も独りの作者です。

今回は持ち越した8月でございます。
ただの番外編ではなく、今後もストーリーに関係するキャラも登場します。
見逃してはいけませんよ?

それでは本編へどうぞ♪ヽ(´▽`)/




(唯side)

 

 

 

「外に出たい?」

 

フラシドが私を不思議そうに見ていた。

確かに今までそんなこと言ったことないけど、別にニートとかじゃないし。

アンタ達が私に仕事押し付けるせいだし。

 

「だって、フラシド達は優のスターダストの解析するから私暇じゃない」

 

オービタルが優の治療と一緒にスターダストのデータをコピーしていたみたい。

それを聞いたフラシドが血相を変えて私のスターダストを寄越せと言ってきた。

うん。フラシドが何したいのか分かんない。

そんなこんなでスターダストがない私に潜入任務などあるわけなく、ただただ暇なのである。

 

「そうだな」

「だから、その間気分転換にでも外にいこうかと」

「で、それを口実に黒川の様子を見ると」

「う…………」

 

やっぱり私の魂胆は見え見えなのか……。

 

「真月が何を企んでいるかは知らんがアイツは任務以外で外に出してくれないだろう」

「だからフラシドに頼んでるんじゃない。

フラシドがあの変身術教えてくれれば絶対バレないし」

「変装だ」

「どうやって銀髪の変な格好してるフラシドが茶髪のカッコいい執事みたいになるのよ」

 

ドイツ軍に潜入した時にはあまりの変貌ぶりに驚いた。

あと言葉使いが丁寧過ぎる。

あれを間近で見た時はあまりの猫被りに引いた。

 

「まぁいい。お前のことだからそう言うと思った」

 

フラシドは収納していたものを引き出しひょいと何かを投げてきた。

慌ててそれを受け取る。

 

「あっ、これって」

「お前の言葉で言えば変身セットだ」

「へぇ。前よりも小さくなったね」

 

前のやつは変にデカい端末だったから身に付けてる時は動きにくくて仕方なかった。

けど、今は普通のネックレスにまで小さくなった。

これなら絶対バレない。

 

「試運転も兼ねて1回使ってみろ」

「うん。わかった」

 

ネックレスに意識を集中すると機体を展開する時と同じように光の粒子が私を包み込んだ。

 

鏡で自分の姿を確認する。

 

長い紫髪の先をリボンでまとめられていた。

服装は紫と薄紫の縦じまが入った、ゆったりとしたやつに薄紫の服を羽織った感じ。

全体的にゆったりとしていて寝巻きみたいだ。

 

「……なんで髪の色が紫なの?」

 

色もだけど髪がとにかく長い。普通に腰辺りまである。

参考にする人を完全に間違ってる感が否めない。

 

「分かりやすいからな」

「バレやすいの間違いじゃないの?」

「……………」

「やだー。私、前の赤髪のがいいー」

「あれのデータはない」

「なんでー?」

「奴にバレたかもしれないからだ」

 

誰にか、と言うと優にである。

どうも変身しててすれ違っただけなのに振り向いたとかとか

別にいいよ。可能性の話は。

私的にはバレた方が好都合だし。

 

「外出許可取り下げるぞ」

「やめて下さい。死んでしまいます」

「そんなんで死ぬわけないだろ」

「精神的によ。そんなこと言っていると彼女できないよ?」

 

まぁここにはあまり女の人はいないから気にしないかもしれないけど。

 

「あとこれを持っていけ」

 

一見どこにでもある茶封筒を渡された。

 

「何これ?」

「AIF事務員の面接の為に必要な物諸々だ。なくすなよ」

 

茶封筒を開けると偽物だと思うけど長官からの推薦状が入ってる。

よくこれを作ったなぁと染々感じた。

フラシドがスゴいのか、AIFが緩いのか。

 

(まぁいっか……)

バレても困るのは真月だし。

これで私は優の所に行けるし。

 

「ありがとフラシド」

「早く行け。面接に遅れる」

「はーい」

 

私はまるでピクニックにでも行くかのように軽い足取りで委員会に向かった。

 

 

 

 

(唯side)

 

 

「へぇー。これが国際IS委員会AIF本部か……」

 

大都会の中にあるガラス張りのビル……なんかではなく、都心からやや外れていて、

まるで大学のような感じだった。

 

あれかな?

襲撃者に備えて都心は避けたのかな。

チラッと見える防壁システムも都心には置けないだろうし。

 

受付で教えて貰った部屋に入る。

 

「失礼します………」

 

入った時に私は固まってしまった。その部屋にいたのが先月、優を血まみれにした『銀の福音』の操縦者、ナターシャ・ファイルス。

 

 

「こんにちは。座って頂戴」

「あ、はい……」

 

できるだけ平常心を装う。

 

(違う……。この人は自分の意志でやったわけじゃない)

分かってはいる。けど、この人が優を……。

手に力が入ってしまう。

 

「レナ・ローラレイさん、でいいのかしら?」

「はい。あとこれを渡すように言われました」

「ありがと。……………」

 

彼女は私が持ってきた書類をにらめっこしていた。

もしかして怪しまれた?

 

「凄いわね貴女。長官からの推薦状貰えるなんて。

なかなか貰えないのよ。あの人、完璧主義だから」

「いえ、私は特に何もしてないです」

 

どうやらバレてないみたい。フラシドGJ。

 

 

「まぁそれは置いといて。付いてきて」

 

ナターシャさんは席を立って案内を始めてくれた。

私、事務員になるだけだし、実践的な面接はいいのかな?

 

「素敵な髪ね」

「い、いえ。周りにいないので無駄に目立つだけです」

 

ここに来るまでスゴい不思議がられたし、いつかまた使う機会があったらフラシドに文句言おう。

 

「私もねー、妹がいるけど髪色全然違うのよ。

私は金髪だけど、アリスちゃんは金混じりだけど基本茶髪よー」

 

いつから日本人になったのかしらね、私の家族なんてナターシャさんはぼやいている。

 

「しかも、友達なんて言ったと思う?

親子だってよ。失礼しちゃうわね、私まだ21よ!アリスちゃんと1つしか年の差ないわ」

 

(あー……、これ話長くなるやつだ)

そのあともナターシャさんは移動中ずっと話してくれた。

 

出てくるのは妹さんの話がほとんど。

そのアリスって妹のことが本当に好きなんだなーって思った。

 

優もあんな嬉しそうな表情で私のこと話してくれるのかな。

私は亡国機業にいる身だし肩身が狭いかな……。

 

 

「さぁ入って」

 

ナターシャに促されてやや緊張しつつも中に入る。

やっぱり外観通り広い部屋ではないけど、部屋にはレクス・ゴドウィン長官と織斑 千冬、そして優が……

 

「zzz………」

 

(あれ…?)

部屋にいたのは堂々と机に寝ている金髪の人だけだった。

それが優なんだけど。

 

「寝てますね……」

「最近調子悪いとはきいてたけど、流石にこれはダメね……」

 

 

「起きなさい!」

「へぶっ!?」

 

ボードで叩かれた優は勢いそのままにイスからひっくり返った。

 

「おはようございます。お昼寝はどうだったかしら?」

「え?あー…ナターシャさん?」

 

優は寝惚け眼な様子で辺りを見ている。

これは貴重なシーン。できたら写真に収めたい。

 

「シャキッとしなさい。今日、新しい方が来てくれるって言ったでしょ。

ほら挨拶して」

 

アリスさんの面倒見てるせいか、後ろでせっせと世話をしている。

アリスさんと親子と見られておかしくないかも。

 

「あぁお手伝いさんね。初めまして、黒川 優です」

 

ニコッと笑うその姿は、昔と変わらない眩しいものだった。

 

 

 

 

(唯side)

 

 

 

今日は委員会内の施設の紹介と私がする仕事内容の説明だけで、仕事に入ることはなかった。

 

 

「宿舎希望だったよね?」

「はい。独りなのでその方が仕事の都合がいいかなぁと」

「熱心だね。助かるよ」

 

ふわっと優が微笑む。

 

あぁ、幸せ……。

 

これだけでも長年の苦労が癒される。

 

そのまま宿舎のマンションを案内してもらう。

 

「はい。これがレナさんの部屋。

聞いてると思うけど一通り家具や電化製品は揃ってるから。

何かあったら一階の管理人に言ってね」

「はい。ここまでありがとうございました」

「いえいえ。明日からよろしくね」

「はい。こちらこそよろしくお願いします」

 

優はニコニコしながら手を振って帰っていった。

その姿を最後までしっかり見てから部屋に入る。

 

「~~~~~////」

 

ベッドに飛び込み、言葉にならない声をあげる。

 

久し振りに、本当に久し振りに優と会話ができた。

優は私を初対面の人って思ってるから口調はやや固かったけど

それでも、それでも声が聞けた。

 

「♪♪~~」

 

また優に会える。

そう思うと明日が楽しくて仕方なかった。

 

 

 

 





なぜ8月を飛ばしたか、と言ったらこれです。
8月が唯ちゃんの月だからです。

なんでって?
だって1ヶ月しか出れないなんて可哀想じゃないですか。

霊「殺したの誰だと思ってるの?」

……はい。では次回もお楽しみに。ばいばい(^^)/




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Reminiscent for the dead her 2


Happy New Year!

皆さん。お正月ゆっくりできてますか?
私は寝正月になりそうです(今日、正午に起床)

しかし、お正月スペシャル的な感じで木曜日の投稿とは別に元日に投稿しようと思ったら元日が木曜日だったという……。
まぁそれは追々考えましょう。

それでは本編へどうぞ♪ヽ(´▽`)/



(唯side)

 

 

 

「随分幸せそうな顔だな。そんなに仕事好きなのか?」

「えへへ」

 

優と久し振りのお昼ご飯。これが嬉しくなかったら人生なんてそこら辺に捨てた方がいいと思う。

 

けど、優は私の正体を知らないのでどこまでもご機嫌な私を不思議そうに見つめていた。

 

 

「痛っ」

 

持っていた箸を落として右手を押さえていた。

 

「優!?」

「大丈夫だって。放っとけば治るから」

 

そうは言ってるけど優の手は痙攣して止まらなかった

 

「ダメです。医務室に向かいましょう」

「大丈夫。最近調子が悪いだけだから」

「調子も悪いなら尚更です。私、車椅子借りてきますので」

 

適当な所から車椅子を借りて優を医務室に連れていった。

 

 

…………………………………

………………………

………………

 

 

「はっきり言います。しばらく休んで下さい」

「そんなにひどいんですか?」

 

優に関することなのについ私が聞いてしまった。

 

「悪いも何も、『銀の弾丸』を受けて大丈夫なわけないでしょう。

生身で実弾を受けているようなものです。

よく生きてられますね。ホント」

「当たり前じゃないですか。千冬さんすら殺すことができなかった私が福音に負けるなんて―――」

「ご自分の操縦技術の無さを体で払っているだけでしょう」

「冗談で言ってたのに……」

 

保険医の永琳さんは容赦無く優の言葉を返す。

 

「まぁ、貴方のことですから絶対安静にしてくれないので強めの薬を出します。

副作用で強い眠気に襲われるのでとっととくたばってて下さい」

「はいはい」

 

保険医の永琳さんがかなり辛辣なことを言ったのに優はさらっと流した。

きっといつもこんな感じなんだろうな……。

優はさっさと医務室から出ていった。

 

「レナさんはあの子の近くにいるかしら?」

「はい。夏の間だけですけど」

「悪いけど、明日から彼のおもりもしてくれない?

困った時は私にバンバン言ってくれていいから」

「分かりました」

 

 

早速薬を飲んで眠けに襲われていたので私が車で優を自宅に返した。

 

優の部屋ってIS学園にあったんだね。

初めて知った。今度この姿でお邪魔しよーと。

 

私はそんな妄想を広げながら優が早く治ってくれることを願った。

 

 

 

(唯side)

 

 

「呆れた………」

 

検診の翌日、薬の副作用で体が怠くなり眠りやすくなるにも関わらず優はAIFに来て仕事をしていた。

今日、早めに来たのは正解だったと沁々思った。

 

「少しはご自分の体を大事にしたらどうですか?」

 

って、優の上司の織斑 千冬はどこいるの?

私ここに来てから一度も見てないんだけど。

 

「安静にしろって言われたってこの忙しい時期に休めないでしょうが」

「それは…そうですが……」

 

今、委員会は亡国機業に対して非常事態宣言を宣告するための準備でどこも慌ただしい

それの引き金を引かせたのは私なだけあってなかなか強く言えない。

 

「じゃあ、自宅に帰る気はないのですか?」

「んー?あぁ…ない」

 

気だるそうに、でもはっきり優は答える。

まぁ別にないなら私は優が寝てる間に寝顔でも納めさせてもらうだけだけど。

 

けど、今の仕事をさせてたらいつになっても治らない。

私が何とかしないと……。

 

「なら私が黒川さんの手となり足となります」

 

 

(フラシドside)

 

 

 

一人の男が俺の部屋に入ってきた。

 

――パラドックス

今の亡国機業のトップに立っている者だ。

 

「研究所の破壊はどうなっている?」

「ヨーロッパを中心に着々と行えている。

これでアイツはアジアに移らざる負えなくなったはずだ」

「よく、ろくに機体を使わずにできるな」

「機体以外に制限はないからな。相手も相手だ。

加減しない位がちょうどいい」

「……………」

 

これが戦争での前線経験者の度胸か。

俺がその方面の力を付けるにはどれだけ時間がかかるか……。

 

「それでそっちはどうなんだ?フラシド」

「ざっと見終わって、今は唯のスターダストと比較している」

「その結果は有益になるのか?」

「有益も何もアンタが開発してるものが要らないくらいだ」

「なに?」

 

パラドックスが作ろうとしているものは簡単に言えば、確実にISを回収できるシステム。

それでISの解析するのが俺達の目的たった。

 

だが、この情報を得れただけで数年分作戦を繰り上げることができるかもしれない。

そのくらい今回スターダストのデータを得れたことは大きい。

 

「アインスには所々にIF化(Improve Features:形質改善=スペックアップ)が施されていた。

皮肉にも黒川の向かう先も、俺達の向かう先も同じだったということだ」

「そうか……」

 

パラドックスはどこか遠くを見ながら俺の言葉に応えていた。

恐らくZ-ONEなら何を言うのか考えていたのだろう。

 

「なら、私達も戦うことができるということか」

「あぁ。すぐにとはいかないが冬前には第3世代のものは造れるだろう」

「そうか」

 

パラドックスはさっきと違い強く頷いた。

これでFの名を失敗、偽物を表す「Failure」の名を削ぎ落とすことができるのだから。

 

 

 

(唯side)

 

 

 

「……………」

 

先日、優の手となり足となるって豪語したは良いけど

 

バサバサバサ―――

 

書類を捌ききれません……。

 

というかISに対する規則作り過ぎなのよ。

あの長官と議長、張り合うようにポンポン国際法作って…。

何かあるなら直接言いなさいよ。

 

「やっぱりやろうか?」

「ダメです!黒川さんは休んでないとダメです」

「そう?でも……」

「ダメです」

 

強い口調で優を止める。

けど、このままじゃ支障が生じちゃうし…。そうだ。

 

「あの、スケット呼んでいいですか?」

「スケット?」

「私の家事を支えてるロボットなんだけど」

「情報漏洩は?」

「させる前にバラします」

「……まぁいいよ」

「ありがとうございます」

 

さっそくミリータからオービタルを展開する。

 

『オイラ、参上であります!』

 

久し振りに展開されたのが嬉しいのか、わざわざクルッと1回転してカッコつけて登場してきた。

 

「へぇー。ペーパーって言うんだっけ?初めて見た」

『オイラをあんな変な奴と一緒にしないで欲しいであります』

「他者を明確に見分けることができるのか」

 

やっぱり目新しいものに目がない優は子供のようにオービタルを触っていた。

 

「オービタル、ちょっとこっち来て」

『カシコマリ』

 

優から見えないところで首を掴んで小声で忠告する。

 

「(いい?勝手にフラシドにデータ送ったらスクラップの山にするから)」

『(それが組織に属する人の台詞ですか……)』

「(当たり前よ。優か亡国機業かって言ったら優を取るに決まってるじゃない)」

『(…なぜオイラはこの人に仕えているのでしょうか……)』

 

明らかに頭を抱えたような表情で私を見ていた。

 

「じゃあお願いね」

『(もうやだこの人……)』

「聞こえてるわよ」

 

手を放してあげて仕事を再開させてあげる。

 

『優様、この仕事は普段どのように対処しているのでありますか?』

「そうだな。ものによるけど基本的には―――」

『了解であります』

「漏洩させないならオービタルがやってもいいぞ」

『ありがとうございます!』

「……………」

 

私と違って丁寧に話す優にオービタルは嬉しそうに応えていた。

けど、作業に入る前にもう一度呼ぶ。

 

「(ねぇ早く教えてよ)」

『(別に優様は許可下さったのですしオイラがやっても)』

「(ヤダ。そしたら私が優といる時間が減る)」

 

たたでさえオービタルが動く姿を興味津々で見てるんだから。

“やってもいい”って言ってしまう辺り、解体するまで調べ尽くす気だろうなぁ。

そうなると悪いんだけど置いてきぼりにされてつまらない。

 

『(呼び出しといてヒドイ扱いであります)』

「(あとで大好きな溶融塩電池買ってあげるから)」

 

 

 

(唯side)

 

 

仕事を引き受けてから数日。

事務レベルの仕事は私が完璧にこなしているので優をゆっくり休ませることができたと思う。

 

 

「はい。もしもし――え?アリス来るの?

はいはい。了解しました」

 

電話を切ると優は急いでクローゼットの所に行き、何かを引っ掻き回していた。

なんか凄い人が来るのかな?

 

「黒川さん?」

「レナさん、悪いけど着替え手伝ってくれる?」

「え……、黒川さんって女装の趣味あったんですか?」

 

優が持ってきたのは女性もののスーツ。

パンツタイプだし、男性のとは大して変わらないけど同じ女性から見たらすぐわかる。

 

「これから来るやつが男性恐怖症なのにさっき電話してきたやつは俺を女として紹介したわけ」

「部下に振り回されてどうするのですか……」

「それは言わないで……」

 

IS関係の機関である以上、やっぱり女の人が強くでれるのかな。

でも、まさかこんな形で男の人が対応するとは夢にも思ってなかっただろうけど。

 

「あと、そいつには俺の名前は井上 酉花で通ってるから間違えないで」

「了解です」

 

(井上 酉花か……)

苗字は真紀さんから取ったんだろうなぁ。

 

後ろからスーツの袖を通してあげて全体を見る。

あぁ、どう見ても女の子だ。

パッドでも入れたら世の男性にプロポーズされてもおかしくない。

 

普通、男の人にはできない珍しい姿なはずなんだけど私としては複雑な気持ちになった。

 

 

――コンコン

 

「はい、どーぞ」

「失礼します」

 

 

ドアを開けて中に入ったのはThe 子供って感じの女の子。

その背の低さ、金茶混じりの茶髪。なぜか私も知っている気がする。

 

(あぁ、この子がナターシャさんの言っていたアリスちゃんね)

名前もアリスよりロリスの方がしっくりきそうなくらい幼い。

でもここにいるってことは人は見かけによらないわね。

 

「……先輩、なんでわざわざ隣り合って仕事してるんですか?」

「私が黒川さんの手足になってるからです」

 

私は自信げにアリスさんの言葉に答えた。

手足と言っても基本的に書類に判を押しているだけだけど。

 

「アリスはどうしてこっちに来たんだ?」

「ゴドウィン長官の指示で黒川さんと非常事態宣言に対する事務レベルの会談をするように言われました」

「そう。でも今は私よりそこにいるレナさんの」

 

私と優で見る目が変わらない。

本当に彼女も優のことを女の子だと思ってるみたい。

即座に高めの声と口調を変える優も凄いけど。

 

「あと、シャルロットさんが来てるそうですよ」

「分かった。レナさん、ちょっと休みにしましょう」

「あ、はい……」

 

(シャルロット……?)

仕事を切り上げて会いに行くくらいだからかなり大事な人なんだろう。

優はすぐに部屋を出ていった。

 

そうなると私はほぼ初対面の彼女とここに残ってしまった。

 

 

「…………………」

「あの、私の顔に何か付いてますか?」

「そうね。

が付いてるわ」

「えっ、うそ!?」

 

余程甘やかされて育ったのか、あの姉より色々抜けている。

フラシドの話だと、あの暴走は篠ノ之 束のせいらしいから目の前の彼女達を邪見しても仕方ないんだけど。

 

「比喩よ比喩。何もついてないわ」

 

私も部屋を出て優の後を追うことにした。

シャルロットって人はここのAIFのリストにはいなかった。

なら1階のロビーで会っているはず。

 

柱の影からそっと覗いてみる。

同じように金髪でまだ幼さが残る感じの女の子としゃべっていた。

優が女性的に走っているせいで男女が逆転しかけてる……なんて言ったら色々失礼だけど本当にそうなのだから困ったものだ。

 

「なんで女性のスーツ着てるの?」

「今、男性恐怖症の奴が来ててな。仕方なくな。あんまり気にしないでくれ」

「似合ってるよ酉花さん」

「な!?なんでその名前!」

「楯無先輩が教えてくてたの。去年、その名前で学園にいたんだよね」

「まったく。あいつ碌な事教えないな…」

 

 

冗談を交えながら二人は楽しそうに笑いあっていた。

 

(はぁ…………)

私は優がいないと全然ダメ。今まで任務をこなせば優と一緒にいれる日が来ると思って何とか自分を動かしてきた。

でも優は色んな人に囲まれてて私がいなくても何とかなりそう……ってもうなってるんだよね。

そう思うと胸が痛かった。

 

 

「あれ?レナさん?もしこれからお昼なら奢るよ」

「あ、ありがとうございます。そちらの方は?」

「彼女はシャルロット・デュノア。

まーちょっと色々あってな。今は俺の娘として収まってる」

 

「初めまして。シャルロット・デュノアです。優がお世話になってます」

「初めまして。レナ・ローラレイです。短い間ですが黒川さんの近くで仕事をさせてもらってます」

 

(優が、ね……)

優のことを父と呼ばない辺り、私と一緒な気がした。

 

「あの、優が何か失礼なことしてませんか?」

「え?」

「レクス長官にお会いした時、優が長官に銃を向けたって聞いたので……」

 

 

その一言でこの子が元々デュノア社の養子だということに気付いた。

そして私と一緒だってことも。

 

(相変わらず常識外れなことをしてるのね)

チラッと優に視線を送ると「なんのことでしょう?」って顔をしている。

でも優。普段そんなことしないから、その顔をする時は何かあったって言ってるようなものなんだよ。

 

「大丈夫ですよ。居眠り以外してませんから」

「いいのですか?」

「今だけね。その為に私がいますから」

「そうですか。では優をよろしくお願いします」

 

シャルロットちゃんは私に丁寧に頭を下げて帰っていった。

 

「どっちが親かわからないくらい良い子ですね」

「どうせ俺はトラブルメーカーですよ」

 

優は子供みたいにそっぽを向いて頬を膨らましてた。

その表情に私は嬉しくなった。

優は昔に囚われてばかりじゃないって分かった気がして。

 

「じゃあ黒川さん。お昼行きましょう。

私、ミスチー亭のハヤシライス食べたいです」

「おっ、分かってるな。

あそこのランチのハヤシライスは格別なんだよ。

じゃ行くか」

「はい!」

 

私は昔のように優と隣り合って歩いていった。

 

 

 




今年初投稿なのにちょっと雑な仕上がりになってしまいました。

例えば、唯がアリスに言った比喩のやつとか思い付かなかった……(;つД`)
まぁ影響はないので許して下さい。

次回も新キャラ登場です。
お楽しみ下さい。

ここまで読んで頂きありがとうございます。
今年もよろしくお願いします。


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Reminiscent for the dead her 3



皆さん、お久し振りです。黒川 優です。

年明けから全く更新できなくて申し訳ありません。
少し忙しくて投稿できませんでした。

今後は何とか週一はキープしたいですね。
書き留めは全くできてないのですが……(笑)

それでは本編へどうぞ♪ヽ(´▽`)/




 

 

(唯side)

 

 

 

「来月に発令される非常事態宣言に伴って、君達の出番は増えるだろう。

という訳で、殺す気でやるから覚悟しろよ?」

「「「……………」」」

 

AIFに所属している火焔猫 燐さん、霊烏路 空さん、古明地 こいしさんがジトーっとした目で優を見ていた。

 

「いや冗談よ?アインスでそんなこと出来るわけないじゃないですかー」

「黒川さん、説得力皆無です」

 

優はIS狩りの時に人を殺めちゃったらしいし。

ジョークにはできないよ。

 

「今回は学園に導入するバーチャルシステムの試験稼働でもあるからあんまり気抜くなよ?

それじゃあ打鉄を1~3機、一人で相手してもらう」

「「「え……」」」

 

演習に呼ばれた人は皆、優の言葉に少し困惑していた。

組織である以上相手に多勢で任務にあたるのが普通だ。

 

(優………)

個人の力を伸ばしたいの?それとも劣勢に立たされる場合を想定してるの?

それとも自分がいなくなった時の為にこんなことをしてるの?

 

「皆も知ってるだろうがサイバーはほぼ打鉄と同じだ。

機能制限が解けた状態だけど皆なら何とかなるだろう。

じゃあまずお空(おくう)からで」

 

ここにいる中で一番背が高く、長い髪をした彼女を指差した。

なぜか、これからISの訓練をするのに白のブラウス、緑のスカートといった私服を着たままだけど。

 

「え~なんで私から」

「えっ⑨だから」

「「「………………」」」

 

優が上司にあたるせいか、皆口では何も言わないけど非難の眼差ししかなかった。

 

「まぁそれは冗談で。

日本機とお空の主力戦術が噛み合ってないんだわ。でも必要な技術だからこの際教えとく」

「は~い」

 

霊烏路さんが緊急展開で準備する。

 

「それじゃARビジョンオープン」

 

数字の羅列からサイバーが作られた。

おぉスゴい。映像が質量を持っているみたいにISへ攻撃している。

 

「無理矢理制御するなー。日本の機体は少ない労力でも動けるようになってるんだぞー」

 

霊烏路さん、かなり四苦八苦してる。と言うか相性が悪い。

右腕のある大型砲口を中心に使う戦術。

対してサイバーはちょこまかと動いている。

そもそもサイバーが4機あるけど……

 

「うんうん。正常っと……」

「……………」

「……鬼め」

 

わざとだ。絶対わざと4機出してる。

サイバーは機数が多いほど厄介になるって知ってるくせに。

 

「お空―。大局を見るって言うのは相手だけじゃない。自分だけでもない。

それが分かるだけで戦術は広がる」

『そんなこと言われたって分かんない!はっきり言って!』

 

彼女から当たり前の声が返ってきた。

私でもそれだけ言われても分からない。

 

「……スターダスト」

 

機体を展開し、彼女の所に来る。

私は射撃武器しか使ってないので、優の接近戦には興味がある。

一体とうするんだろ?

 

「例えば――」

「ちょっ!?」

 

優は空さんに足をかける。

突然足を掛けられ体勢を崩した彼女はそのまま投げられる。

その先には接近してきていたサイバーがいて見事ぶつかって壁で絡まっていた。

 

「こんな感じで片手片足だけで2機を相手できる。

この時にできた隙を突けば楽に仕留めることができるな」

「……私を投げるな」

 

ごもっともな意見です。

投げられたら見れません。

 

「悪い……」

 

ちゃんと手を引っ張って起き上がらせてあげる。

 

「とりあえず、お空は1回休み。

次、お燐。その次にこいし。最後にさとり…ってあれ?」

「お姉ちゃん休みだよー」

「お姉ちゃん?」

「こいし様のだよ。お姉さん」

 

赤髪を三つ編みにしてその根元と先に赤いリボン。全体的にゴシックロリータを連想させそうな人が私に合いの手を入れてくれた。

 

それにしても私がお姉さんだって嬉しいなぁ。

しばらくお姉さんという言葉の余韻に浸ってた。

 

――コテッ

 

後ろからボードで軽く頭を叩かれる。

 

「こらこら。手を動かしなさい」

「そんなこと言ったって私には機体がありません」

 

あっても展開したら正体バレるし。

 

「じゃあさとりを呼んで来てくれ。

どうせまだカフェテラスで何か飲んでるはずだから」

「はい」

 

しかし一口にカフェテラスと言ってもここには3ヶ所あり、それぞれ結構距離がある。

 

勘に近いが簡単に推測を立てる。

前線に出る人だから給料は多いからメニューの価格には困らない。前線の人は事務の人ほど多くはいないから大きい所は使わない。それにISを使う人は空を見たがるはず。

つまりAIFの事務室から一番近く、グレードも高い。できたら窓際がお洒落な所だ。

 

勘が当たったらしく、カフェの窓際で一人コーヒーを飲んでいる人がいた。

見た目もやや癖っ毛の薄紫色の髪に水色のフリル、ピンクのスカート。

古明地 さとりさんだ。

 

「あら貴女は……」

「はじめまして。レナといいます。黒川さんからの伝言で早く来てほしいとのことです」

「…………………」

 

さとりさんは私を見つめたまま動かなくなってしまった。

 

「あの…」

「ありがとう唯さん。場所は第二演習場ですね」

「え……」

 

(どうして…)

だってちゃんとレナって名乗ったし、場所を伝え損ねたのに彼女は知った。

 

「では、また後でお話しましょう」

 

呆然としている私の反応が面白いのかさとりさんは微笑みながら私の横を通り過ぎて行った。

 

 

 

 

(唯side)

 

 

 

「お疲れさん。後は自由にしてくれていいぞ」

「「「はーい」」」

「いや仮にも上司の言葉なんだしもっとちゃんとした返答をな」

「「「はーい」」」

「……もういいや。じゃあな」

 

優は少しフラフラしながら演習場を出て行った。

本当なら安静にしなきゃいけないのに最後の方バリバリにアインス使ってたしなぁ…。

大丈夫かな…。逆に考えればあれだけ動かせるならまだ体力が残ってるってことなんだけど。

それに……

 

「レナさん、これから少しお茶しませんか?」

 

目の前にいるさとりさんのことが気になってしまう。

どうしてこの人が私の本名を知っているのか。

 

「えー!お姉ちゃん私も行きたい~」

「今回は我慢してねこいし。その代わり夕御飯には来てもらえるように頼みますから」

「約束だよ。お姉ちゃん」

「レナさん次第だけどね」

 

「お姉さん、さとり様に気に入られたみたいだね。

お姉さんにも人に言えない秘密があるのかな?」

「お燐~!緊急展開の時ってどうやって収納するんだっけ?」

「あ~はいはい。ちょっと待ってねーお空。

じゃあね。また夕食にでも」

「あ、はい……」

 

お燐さんにちょっと意味深なことを言われた。

けど、ここにいる人達はさとりさんの異常を何とも思っていないみたい。

 

「それでは行きましょうか唯さん」

 

私はさとりさんに連れてかれて演習時にいたカフェに移った。

 

「飲み物はレモンティーでいいですよね?」

「はい」

 

まただ。レモンティーなんてまだここでは口に出してないのにさとりさんは先回りされてしまった。

 

「自己紹介がまだでしたね。

私は古明地 さとり。お空達と同じここの者です。

単一能力で心を読むことができます。

素直で無防備な貴女の心は本当に読みやすいですね」

 

なるほど。だから先回りすることができたのか。

でもさっきのレモンティーから察するに心を読むだけじゃなくて心の奥底にあるものも読み取れると考えた方が良いかもしれない。

 

「…どうするつもりですか」

 

正体がバレてしまったらここは私にとって四面楚歌。

置かれている立場に危機を感じてる私に対してさとりさんはふっと笑っていた。

 

「安心して下さい。私は正義感でここにいるわけではないです。

私はただこの能力をもってしても対等に渡り合う人と戦いたいだけです」

 

ならどうして私を呼んでそんなことを言ってくるのだろう?

 

「貴女と話したかったのは伝えたいことがあったからです」

「伝えたいこと…」

 

私とさとりさんは今日会った人だ。

なら、私に言いたいことは彼女自身が思っていることではないはず。

 

「彼は去年からとても熱心に働いています」

「優のことですか?」

「えぇ」

 

さとりさんは窓を見ながら私に声を紡ぐ。

 

「私の能力を使わなくてもわかるくらいに。

貴女の存在を知って、貴女を助ける為に。貴女が誇れる人になる為に」

 

さとりさんはただ微笑んでいるだけではない表情をしていた。

きっと心を読むことで全てを理解できる彼女にとって一心不乱に何かができる優が羨ましいのかもしれない。

 

「貴女はどうしますか?

彼の努力を、彼の願いを、貴女は応えますか?」

 

(そんなこと言われたら……)

応えたいよ。応えたい。けど――

 

『分かってるよな?亡国機業はアイツの首をはねることぐらい容易にできる。

つまりお前が俺達に従わなかったらアイツは終わりだ』

 

真月の高笑いが脳裏に蘇る。

 

「…………………」

「……どうやら貴女を監視する者がいるらしいですね」

 

さとりさんはまた私の心を読んだのか、言うより先に言われてしまった。

 

「さとりさんは伝えてくれないのですか?」

「私は伝えないですよ。

それで貴女が私に敵意を持つなら私は大歓迎です。

私は是非とも貴女とも戦ってみたいですからね」

「性格悪いですね」

「えぇ。おかげで長官との仲は最悪です」

 

 

でも、大切なことは自分で伝えろってことなのかな。

 

「貴女はどこまでも楽観的ですね。

まぁ私は嫌いではないですけど」

 

 

 

「私はこれで失礼します。

そろそろ貴女を入れたことを後悔する仲間から連絡があるでしょうから」

 

伝票を持って去るさとりさんを私は半ば呆然と見ていた。

何だろう…付け入る隙がないっていうか、こっちのペースにもっていけない

亡国機業のもこんな人はいなかった。

まぁ心が読める時点で色々おかしいか。

 

――プルプルプルプル

 

さとりさんの言う通りフラシドから電話がかかってきた。

 

『おい。聞こえてるか?』

「…うん」

『どうかしたのか』

 

私の受け答えが変だったのか、いつもより言葉が優しい。

 

「もし私が優に正体を伝えたら、フラシドは…どうする?」

『俺達の計画の妨げになるなら、お前でも殺さなければならない』

「そうだよね……」

 

亡国機業は私の願いを叶えてくれる魔法の場所じゃない。

でも私にとってここはまるでボロ雑巾のように扱われたあそこから救い出してくれた場所。

私には優のような選択はできない。

 

「それで話って」

『お前が口を割るとは思っていないがそこには面倒なやつがいる。

悪いが長くはいられないとパラドックスに言われた』

「ううん。十分だよ」

 

独断で、しかも一番反乱分子になりかねない私にこんなことをさせてくれたんだから。

 

人が動く非常事態宣言直後に帰還してもらいたいから早く仕事を終わらせろってことぐらいで淡々と事務連絡を聞いて電話を切った。

 

 

「ただいま戻りました」

「おっ、お帰り」

 

優がニコッと微笑みかけてくれた。

 

「さとりさんとの話は変な気分だったろ?」

「あっ、……はい」

 

その裏で私の為に懸命に働いてくれる。

昔も、今も銀の弾丸受けて休んでなきゃいけないのに…。

そう思うと涙が溢れてきそうだった。

 

優が私の頭に手を置いてくれた。

 

「え……」

「そんな泣きそうな顔するなって。

あの人は人をからかうのが趣味なんだから適当に流した方がいいぞ。

余計なお節介だからな」

「優……」

「あっでも彼氏ができたら本当に避けた方が良いぞ。

読み取って変装してからかってくるからな。それもずっと」

 

優の言葉を聞いてたらなんだかおかしな気分になった。

私が悩んでることとは全然違うけど、私を思ってくれてることだけはちゃんと伝わったから。

 

「あの……」

「ん?」

「黒川さんって大胆なんですね」

「ここ二人しかいないし、レナさんが気にしなきゃいいんじゃない?」

「私は気にしてないですよ」

 

というかご褒美です。本当にありがとうございます。

 

「あっでも私これからさとりさん達と夕食を頂くんです」

「え、……マジ?」

「はい。マジです」

 

それを聞いた優はうなだれ始めた。

さとりさんの嫌がらせは本当に嫌らしい。

 

「大丈夫ですよ。二人でちゃんと弁解すればさとりさんも分かりますって」

 

しかし現実は甘くなく、会った瞬間さとりさんはニヤニヤとした顔で優を見ていたり、大量の嫌がらせチャットを送ったり、わざとお空さんやお燐さんの頭を撫でたり、私の時以上にスゴかった。

 

 

 

 

 

(唯side)

 

 

――翌日

 

「おはようございます」

「うん……おはよう…」

 

優はダルそうに答える。

一目で分かった。今日の優は体調が良くない。

 

「優さん、薬は?」

「飲んではいる。…もう1錠くらい飲んどこうか……」

「ダメです。元々強い薬なんですから」

 

これ以上飲んじゃったら体がもたない。

 

「では今日は休んで下さい」

「それは…無理……」

「どうして」

「長官、支部のトップの方達がここに来て話をする。

何が何でもでも倒れたりするわけにはいかない」

 

最終調節にして最大の難関。

非常事態宣言がちゃんと各国で機能できるようにする会議だ。

でもそれが今日だったなんて……

 

「絶対に介抱に回るなよ」

「………はい」

 

ガチャっと会議室を開けた時に表情をきりっと変えた。

 

「皆さん、忙しい中お集まり頂きありがとうございます。

早速ですが来月から発令する非常事態宣言の基本方針と各国の軍事事情を考慮した詳細事項の確認を行いたいと思います」

「そちらの方は?」

「私の秘書です。今回の会談の要点を記録してもらいたいと思い呼びました」

「では、始めましょうか」

 

オーディンの瞳を展開する。

1秒でも早くこの会談を終わらせるつもりだ。

 

 

 

……………………………………

…………………………

…………………

 

 

「以上で会議を終わりにします。ありがとうございました」

 

 

いつもより少し駆け足で部屋に戻っていく。

ズルッと

 

「優―」

「…悪い……部屋に鍵かけてくれ」

「はい」

 

歩いて進めないのかアインスを使ってソファまで移動していた。

 

 

「スポーツドリンクです。飲んでください」

「サンキュ……」

 

一口飲むとまるでバッテリーが切れたロボットのように倒れた。

 

私の膝掛けを優にかけてあげ、優の頭を膝の上に乗せ顔にかかってる髪をそっとどかす。

 

(優……)

さすがに口調は大して変わっていないけど仕草や態度は昔と違って女の子のに近い。

それだけ私のせいで無理して、亡国機業から出て色々あったっということなんだろう。

 

「オービタル」

『はい。なんでしょうか?』

「今日の会議の内容をまとめといて」

『カシコマリ』

 

(……………)

私はあの時の無力をどうしたら償えるのだろうか。

 

結局、真月の言う優を後ろから狙える人は見つけられなかった。

今のままじゃ、私が真月の条件を吞んでも優が私を助けてくれても安心はできない。

このまま優の前に姿を現さない方が良いのだろうか?

でも優は私を助ける為に一生懸命頑張ってるって……。

 

どうしていいか分からなくなる。

一緒にいたい。でも、現実は…これが限界……。

他人に成りすまして近付くのが……。

優を傷付けることでしか自分の存在を証明するしかできないことが……。

やっぱり私が優といたいというのはワガママなのだろうか。

 

『本日の活動報告終了しました』

「うん…。ありがと」

『それで優様をどうするのですか?』

「んー。マンションに連れて行きましょ。ここにいても風邪ひいちゃうし」

『アシストは?』

「大丈夫よ。女の子みたいに軽いはずだから」

 

背負ってみると私でも軽々と抱き上げるほど軽かった。

男なのに。

 

部屋に戻りベッドに寝かせてあげる。

とりあえずスーツを脱がせてサイズの大きいスエットにさせてあげる。

それで布団にいれてあげて、あとは……

 

「あと、お粥……」

『それはオイラが作ります』

「…………………」

 

ジトーと批難の目でオービタルを見る。

 

『失敗したやつを食べさせたくはないではありませんか?』

「まぁ…そうだけど……」

 

お世辞にも料理は上手いとは言えないし、でも私が作ってあげたい……。

けど……うぅ………

 

「…お願い。作って」

『カシコマリ』

 

オービタルは簡易キッチンでお粥を含めて私達の料理の準備を始めてくれた。

はぁ…。こんなんなら小さい時から優が料理するの手伝ってればよかった。

 

 

「優、ゆう」

「あ……。レナさん…?」

「口開けて。お粥作ったから」

 

ふーふーして十分に冷ましてから優の口にいれる。

 

「大丈夫?」

「ん……」

 

ほっとしたのか食べ終わった優は少し表情がよくなった気がした。

 

『何をしてるでありますか?』

「え?もうできることはないし寝ようかと……」

『ただ一緒に寝たいだけでしょう』

 

いいじゃない。私は昔のように一緒に寝たいの。

 

『相手は病人ですし』

「わかったよ。もう」

 

以前教えて貰った番号をかける。

 

「もしもしレナです。永琳さんですか?」

『あら久し振りね。あまりにも電話がかかってこないから心配してたのよ』

「あの、優のことなんですけど……」

 

私は今日までの優の様子を事細かに伝えた。

まさか、ここでオービタルに撮らせてた映像が役に立つとは思わなかった。

 

『分かったわ。それで今はどこに?』

「宿舎で私の部屋にいます」

『すぐに行くわ』

 

その後、永琳さんとうさみみをつけた変わった人が部屋に来て優を連れていった。

 

 

(優side)

 

 

 

 

「ん……レナさん」

「なんでしょうか?」

「お粥……もうちょっと…ちょうだい……」

「大丈夫ですよ。すぐに治りますから」

 

―――ガチャガチャガチャ

 

「ちょっ!?なにこれ!?」

 

自分のいる所が照らされる。

診察台に体をぐるぐると拘束されている。

 

「なにこれ、じゃないわよ」

 

奥から永琳さんと助子のうどんげさんが奥から見える。

ここが医務室だということが分かった。

 

「ドクターストップかけてるのに仕事して。

本当に自分の体を大事にする気あるのかしら?」

「それは仕事が滞っていますし……」

「だから、早く治してあげようと思ったのよ」

 

治すって言ってるにも関わらず永琳さんの手にはカードのようなものを持っていた。

 

「だったら点滴とか……」

「いやよ。貴方すぐどこか行くし、こっちの方が楽なのよ」

 

ちょっと待って、やめて…

 

蘇活「生命遊戯‐ライフゲーム」

 

――ピチューン

 

 

「お疲れ様。残機減っちゃったけどこれなら明日から大丈夫よ」

「…………………」

「師匠、返答がありませんが…」

「大丈夫よ。最悪またピチュらせればいいんだから。

もしダメだったら今度は貴女が弾幕式ショック治療してちょうだい。

もし残機が無くなったらこの1upキノコ食べさせるなりコンティニューさせるなりして」

「分かりました」

 

―――ピチューン……

――ピチューン…

―ピロリン♪

―ピチューン…

――コンティニュー

ピチューン

ピチューン

 

………………………

………………

………

 

 

 

 

 






新キャラ(キチガイ)の登場です。(原作は違いますよ)
まさかこの話で心を読める人が出るとは……。

因みに、書いてるキャラではけっこう好きな方だと思います。
今後、どのような活躍をするか(できるのかな?スペックの良さ的に)楽しみにして下さい。


それではまた、ここまで読んで頂きありがとうございました。



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Reminiscent for the dead her 4



皆さん、こんにちは。作者こと黒川 優です。
結局週1は無理でした。というかそれはパソコンのせ…ゲフンゲフン。

しかし、こんな作品ながら毎日見てる方がいるとは嬉しい限りです。
新年度から皆様の貴重な時間を楽しまられるよう頑張りたいと思います。

それでは本編をどうぞ





(唯side)

 

 

 

「それじゃ体は大丈夫なんですか?」

「あぁ。荒療治されたけどな」

 

ぱくっと優はデザートにみかんを食べる。

けど、今まで隠してたくらいだしホントにそうかは微妙。

ちゃんと無理させないようにしないと。

 

――パクっ

 

「んー…やっぱり旬じゃないから普通かなぁ」

 

霊烏路 空さんが優の手からみかんを取って食べていた。

 

「か・え・せ」

 

モグモグ食べてる霊烏路さんの頬を手で挟む。

そりゃあ大好物を盗られたら怒るよね。

 

「ん~‼んーんー!」

「まず俺のなんだから食べるな」

 

優はひょいとみかんを取り戻した。

 

「お燐~。優がパワハラするよ~」

「あーよしよし。でも勝手に食べたお空が悪いんだよー」

 

以前私をお姉さんと言ってくれた燐さんがお空さんをなだめる。

きっといつもこんな感じなんだろうなぁ。

 

「すいませんね。私のペットがお邪魔して」

「いえ。ええっと…」

 

くるっと体を回すとさとりさんが私を見ていた。

なんか……

 

「私が四苦八苦しているのを楽しそうに見ている、ですか?」

「いつ機体を部分展開したのですか…」

「いつもしてますよ。これがそれです」

 

さとりさんは体の周りに浮かぶ目を指差している。

それ気味の悪いアクセサリーじゃなかったんだ……。

 

「そういえば優が考えてることも分かるんでよね?」

「えぇ。……貴女は本当にそういう欲望に素直ね」

「はい。お願いします」

 

さとりさんの第三の目(?)はじぃーと優を見つめる。

 

「今、頭の大半がみかん関連で埋め尽くされてますね」

 

まぁ優の好物だし。

 

「それとお空が自分を男と意識せずに接することに困っているそうです」

「へぇ……」

 

まぁ…

 

「優、今度お祭り行こう~」

 

空さんは後ろから抱き着いて優と話している。

そうなると体に触れるから分からなくもない。

じゃあなんで私と隣り合ってるいるときは今みたいに慌てないのよ。

私はそんなに魅力がないのって言いたくなる。

 

「行かない」

「なんで~」

 

お空さんはぶーぶー言いたそうな顔で優を見ていた。

 

「お前の祭に行くって裏方の仕事をすることじゃん」

「えぇ~。裏方も楽しいよ?」

「そりゃあ珍しく機体が使える機会だからな」

「私の機体の能力を何だと思ってるの?」

「花火を打ち上げる程度の能力」

「むー……」

「だって威力がデカくて競技用にも使えないじゃん」

 

やっぱり右腕の武装は非常時以外使えないほどのものなんだ。

どうみてもあれが主力装備なのになんか可哀想。

 

「そんなことないもん!時間かければ威力も規模もちゃんと小さくなるもん!」

 

「はいはい。お空、優はドクターストップをかけられてたぐらいなんだから休ませてあげましょう」

「えー」

「お祭りは9月下旬にもあるから誘うのはまた今度にしましょう」

「はーい」

 

さっきまで駄々をこねてたのが嘘のようにお空さんはさとりさんの言葉に頷いていた。

 

 

「レナさん、次のお祭りは日曜日ですよ。体は大丈夫ですし、誘ってみたらどうですか?」

「さとりさん……」

「では」

 

心見透かしてからかうタチの悪い人かと思ったけどそれだけじゃなかったんだ。

 

「あっ……」

 

あることに気づいてしまった。

 

「他のみかんも無くなってる」

「あ!?」

 

テーブルに置いてあったみかん(私にくれたのも)がなくなっていた。

前、演習の時見たことあるなぁこの能力……。

 

 

「はいお空。みかん貰ってきたよー」

「こいし様ありがとうございます」

 

(それって盗って来たって言うんじゃないかな……)

チラッとさとり様をみると、

 

「まぁ大丈夫でしょう。箱買いしてあるはずですから」

 

(それだったらこいし樣の手から強いみかんの香りはしないんだけどなぁ…)

 

 

お燐の予想通り、優達が部屋に戻ると置いてあった箱の中のみかんはひとつもなくなっていた。

 

 

 

(唯side)

 

 

 

「これに判子押せば終わりなんですよね?」

「あぁ。面倒な仕事はそれで終わり」

 

――ポン

 

書類に優の承認の判を押す。

 

「やったー!」

 

ボンとソファーに身を預ける。

やっとあの面倒くさい書類作業が終わった。

あの長官、今度あったらただしゃ済まさない。

 

 

「黒川さん。羽を伸ばしにシャルロットちゃんと一緒にお祭り行きましょうよ」

「今日は待って……。体がダルい」

「ドクターストップかかってたのに働くからですよ」

 

けど、一夜であんなに苦労した症状治しちゃうんだからやっぱりお医者さんってスゴいなぁ。

もしものために私も教えてもらえないかな?

 

 

夕食の時さとりさんに教えてもらった強行策に出る。

 

まずは机に置きっぱなしの端末を拝借。

パスワードはさとりさんが言ったやつを…っとよし突破。

 

『もしもし』

「こんにちはシャルロットちゃん。レナよ。

突然だけどシャルロットちゃんお祭りに行かない?もちろん、優も一緒で」

「ちょ、俺まだそんなこと……」

『本当ですか?』

「えぇ。本当よ。優も楽しみにしてるわ」

『行きます!行かせて下さい!」

「はいはーい。じゃあまたあとでねー」

 

わざと聞こえるようにしていたスピーカーを切って優を見る。

 

「黒川さんも行きますよね?娘さんも楽しみにしてますし」

「…はいはい。じゃあ行きましょう」

「ありがとうございます」

 

なんだかんだ最後まで付き合ってくれるんだから優は優しい。

まぁ今回はシャルロットちゃんがいるからだろうけど。

 

「じゃあ私、1回宿舎に戻ります」

「なんで?」

「着替えるからですよ。さすがにスーツでは行きたくありません」

「そう」

「黒川さんもちゃんと着替えて下さいね」

 

 

 

 

(唯side)

 

 

 

「やけに早いな。いつもはギリギリなくせに」

「ふふん。いつも同じだと思っちゃいけませんよ」

 

ファッションとか苦手な私でもこの日の為に取っておいた勝負服のひとつやふたつあるんですよ。

ただ、今のこの紫の髪に合うかが分からないけど……。

 

「というかなんで現地集合なんですか。

黒川さんも1回家に戻ったならシャルロットちゃんと一緒に来ればよかったじゃないですか」

「いや、シャルが準備あるから先に行っててって」

「この人混みじゃ合流できないですよ」

 

まったく。娘を待ってあげるのが親でしょう。

 

「大丈夫だよ。コアネットワークで場所が分かるから」

「ゆうー!」

 

浴衣姿のシャルロットちゃんがこっちに手を振っている。

あまりの可愛さに回りの方もシャルロットちゃんに釘付けです。

 

「あらシャルロットちゃん、気合い入ってるね」

「友達が貸してくれたんです」

 

シャルロットちゃんは恥ずかしそうにモジモジしてた。

 

「んーいいね。似合ってるよ」

「本当ですか?」

「えぇ。黒川さんもそう思いますよね?」

 

シャルロットちゃんに見えないところで抓って、返答を催促させる。

まったく。優が最初に言わなきゃダメでしょうが。

 

「いたた…。そうだな。とても似合ってる」

「ありがとう」

 

ニコッと微笑む。

あぁ可愛い。髪セットしてなかったらなてなでしたい。

 

「シャルロットちゃんはお祭り初めてかしら?」

「はい。だから着物を着るのも初めてです」

「あら。じゃあ足元気を付けてね」

 

 

学園にいるから一般的な日本の家庭料理は分かるようだけど、たこ焼きみたいに中々家庭で作らないものは知らなかったみたい。

目を輝かせて食べていた。

 

「シャルロットちゃん、あっちで射的しよ。

勝った方が優に一つお願いを叶えてもらいましょ」

「おい。俺は……」

「よーい、ドン!」

 

 

2人並んでコルク銃を構える。

しかし、私達は機体の操縦をしてるだけあって彼女も簡単に的に当ててしまう。

 

「む~、シャルロットちゃん普通に当てちゃってつまんない!邪魔しちゃお」

「あっ……」

 

シャルロットちゃんが撃ったコルクを隣からピンポイントで当てて軌道をズラした。

日頃の訓練の賜物である。

 

「ふふん。油断しちゃダメよ、シャルロットちゃん」

 

その後も2、3発妨害してシャルロットちゃんが

間に私が撃ち続けた分、私の方が有利にゲームが進んでった。

このままいけば私が勝てるわね。

 

「あらっ」

 

撃ったはずコルクが横から狙われて軌道がずれてしまった。

 

 

………………………………

………………………

………………

 

 

「負けた……」

「付け焼き刃で勝てるほどお姉さんは甘くないわよ」

 

と言ってもかなり僅差だったけど。

シャルロットちゃんは器用ね。羨ましいわ。

 

「じゃあ、私のお願いを叶えて下さい」

「俺は承諾した覚えはないんだけどなぁ」

「いいじゃないですか。世話するの結構大変だったんですよ」

 

優はそれを持ち出されると参るのか口が閉じられた。

私としてはあんなことやこんなことができて苦じゃなかったけど。

 

「……はいはい。それじゃあ何をすればよろしいのですか?」

「じゃあ写真撮りましょう。写真」

「そんなんでいいのか?」

 

優はキョトンとしながら私の顔を見ていた。

いつもどんな過激なお願い引き受けてるのよ。

 

「シャルロットちゃん、よろしくね」

 

私の端末を彼女に渡す。

今はフラシドから連絡は来ないはずだから大丈夫なはず。

 

「はい。チーズ」

 

シャッターを切る前にぎゅっと優に抱き付いた。

 

――カシャ

 

「えへへ~~~」

「…………………」

「あーシャルロットちゃん!そんな無表情でデータ消そうとしないで!」

 

操作される前にシャルロットちゃんの手から端末を取り上げる。

ふぅ。危ない危ない。

 

「黒川さん、シャルロットちゃんとのも撮って下さい」

「はいはい」

 

シャルロットちゃんと並んでカメラに視線を送る。

けど、シャルロットちゃんは不機嫌な表情のままだった。

 

「ほら笑って笑って」

「じゃあ、写真」

「それはイヤ」

 

むーっとさらにご機嫌斜めな顔が返ってきた。

 

そんなシャルロットちゃんを見て心の中でくすっと微笑んだ。

ホント優のことが好きなんだなぁって感じて。

まぁ私も負けないけど。

 

「代わりにシャルロットちゃんのもちゃんと撮るから」

「…………」

「ね?」

「……はい」

 

 

優と並んで撮ってあげると一転してご機嫌になってくれた。

たぶん優は自分で手一杯だし、シャルロットちゃんも一緒にいれるだけで気持ちが良い意味でいっぱいいっぱいだし

 

私は他の所でもたくさん写真を撮ってあげた。

あとちゃんと連絡先も交換した。

 

 

回りがざわつき始めた。

 

「ん?何かあるのか?」

「そろそろ花火が始めるんですよ」

「花火って、あの?」

「えぇ。シャルロットちゃんももっと近くで見たい?」

「はい!」

「そうよね。じゃあレッツゴー!」

 

逆に人込みから離れて行った。

 

「こっちでいいのか?」

「大丈夫です」

 

お空さんとお燐さんお墨付きの場所だから。

 

小さな林を抜けるとそこにはうち上がる花火が一望できた。

 

「キレイ……」

「シャルロットちゃんは初めて見た?」

「はい。友達から聞いてたけど本当にキレイ…」

「そう言ってくれると嬉しいわ」

 

 

……………………………

…………………

…………

 

 

 

「送り迎えまでありがとうございます」

「いいって。それより悪いな。いきなり明日異動なのに何にもお礼できなくて」

「いいですよ。今日、お祭り行けましたから」

 

助子席で寝ているシャルロットちゃんの頬にそっとキスをする。

 

「よくできるな」

「女の子同士ですし、黒川さんもしてるんでしょ?」

 

きっと優なら愛情表現としてしてあげているはず。

なにしろ昔、私にもしていたんだから。

 

「まぁ…な……」

 

予想通りの反応が帰ってくる。

けど知られるのは恥ずかしいのか顔を逸らしている。

 

「あっ!黒川さん、流れ星です!」

「おっ、本当か!?」

 

―――ちゅ

 

そっと顔を出した優の頬にキスをした。

 

「え……」

「私からのお礼です。シャルロットちゃんには内緒ですよ?」

 

聞いたらきっと怒るから。

 

「黒川さん、今までありがとうございました」

「あぁ…。うん、ありがとうな」

「では、失礼します」

 

半ば呆然といている優を置いてその場を離れた。

 

 

「……もういいのか」

 

前のように茶髪の青少年のように変装しているフラシドが声をかけてくれる。

 

「いいかダメかって言ったらダメだよ。

でも、そろそろ限界だったんでしょ?」

「まぁな」

「ありがとね、フラシド」

「気にするな。ただの罪滅ぼしだ」

「フラシド何かしたっけ?」

「あぁ、今も昔も……」

 

その口調は“これからも”とフラシドは言いたそうだった。

 

「大丈夫だよ。私は私の意志で動いてるから」

 

結局、ここに紛れているはずの亡国機業の人間は見つけられなかった。

私達の身の安全は完全じゃない。

けど、あんな体がボロボロになっても働かせるようなことはもっとダメだ。

なら、やっぱり私は私なりに優をあそこから引き抜くしかない。

 

 

「それより、私がAIFの仕事手伝ってよかったの?」

「その点に関しては問題ない。それも計画通りだ」

「敵に塩を送るのが?」

「あぁその通りだ」

「変なの」

 

ウチは一体何がしたいんだろうね?

まぁ聞いてもどうせ。

 

「お前は与えられた任務をこなせ」

「はいはい。そう言うと思いましたよーだ」

 

私が幹部じゃないせいか何度か聞いても答えてくれない。

まぁ私はその大層な目的なんて興味ないからいいんだけどね。

 

 

 

 

――翌日、AIFは非常事態宣言を行い本格的に亡国機業と敵対することになった。

 

 

 

 







雑ながら8月終了です。
まだ9月がありますし……(震え声)。

さとりさんやお空、お燐、こいしを忘れないで下さいね。

では来週?1週間以内にはまた出したいと思います。
ここまで読んで頂きありがとうございます。




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September―After having had a dream
Reminiscent for the dead her 5





皆さん、こんにちは。
頭のネジがマズイことになっていることを自覚した作者です。

特に話すこともないので本編へどうぞ。





 

 

(唯side)

 

 

 

それから数日後、9月に入り優とシャルロットちゃんは新学期が始まった。

どうも学園の生徒達と少し揉めたっぽい。

 

それと残しておいた盗聴器で聞いた話だとAIFは私を何とかしたいらしい。

まぁちっとも外に出ないフラシド達を狙うくらいなら任務で出入りの激しい私を狙った方が楽って言えば楽だ。

 

それを渋々(とりあえず上司だから)ベクターに伝えたら“適当にやれ”だって。

なんか7月と対応が全然違う……。

それなら私の勝手で動こう。ということで学園の上空から優を探してます。

 

勿論、優を見たいという理由もあるが真面目な理由としては優の実力を知らないからだ。

全力で-IS-をしたらアメリカの時と同じ結果になりましたーとか洒落にならない。

何より今以上に傷付く優を見たくない。

もし殺るとしならほぼ無傷で痛みもないようにしてあげたい。

 

その優の居場所を間接的に示してくれるコア・ネットワークの座標。

探すと世界各地の委員会支部でアインスらしい反応がある。

全てしらみ潰しに当たるのは時間がかかってしまう。

けど、私との圧倒的な手数の差を埋めるには、優は織斑千冬に私と戦う術を教えてもらうしかない。

予想通りアリーナに優と織斑 千冬がいた。

見た目通り虎のように鋭い視線で優を見ていた。

 

(あれ…)

今、目があった……?

 

バシーン!

 

竹刀が思いっきり優の顔に当たっていた。

あれは痛そう………。

 

その後何か話した後ズルズルと引きずられていった。

なんか駄々をこねる子供みたい。

その相手をかつて敵だった織斑 千冬にしちゃうんだからスゴいよね。

 

そんな何気ないはずの姿を私は新鮮な感覚でみていた。

 

 

(唯side)

 

 

 

(んーー………)

ここ数日優を観察していたが普通の生活をしていないらしい。

どうも学園の授業には出ずにずっと整備をしているみたい。

睡眠時間は4時間あるかないか。しかもその睡眠の取り方も問題ありそう。

ベッドでしっかり寝ている姿が見れない。

 

このままだと先月のようなことになりかねない。

だけど私は異動したことになってるし、そもそも今のことを知っていることがおかしいし……。

 

 

 

 

「こんばんは。さとりさん」

『まさか貴女からかかってくるとは思いませんでした』

「常識に捕らわれてはいけませんよ」

 

私は亡国機業に忠誠を誓ってるわけじゃないから安易な行動ができるだけなんだけどね。

そうだ。電話なら直接会ってないんだし心を読まれずに話せるんじゃないだろうか?

 

「では、私は何を思っているでしょうか?」

『I love yuu(優)でしょう。どうせ』

「どうして……」

『貴女からそれを取ったら何が残るんですか?

それに能力を使わなくても心理学や読心術に長けているので電話越しでも分かります』

 

ちぇ。今の時代テレビ電話が普通だから表情でも分かっちゃうのか。

 

『それでどのようなご用件ですか?』

 

私は優の生活に関して一通り話した。

 

『貴女のストーカー具合には脱帽します』

「一言目がそれですか……」

『当然じゃないですか。アレの為に敵対組織のAIFに潜入し、それが終わってもそうやって追いかけているのですから』

「あの、真面目に答えてくれませんか?」

 

碌なこと言わないし、優のことアレ扱いするし。

こんなことになるならお燐さんに聞けばよかった。

 

『先月見てたでしょう?

ドクターストップがかかっているにも関わらず仕事して、機体も展開してしまう人です。

それを気にして様子を見に行っても誰も不審に思いませんよ』

「なるほど」

 

適当に帰国できたとでも言えば大丈夫か。

今の優は猫の手も借りたいぐらいなはずだし。

 

「意外とすぐ答えてくれましたね」

 

しかもかなり適格な返答を。

 

『ずっと答えない方が良いですか?』

「それは…困ります」

『でしょう?

ずっとそんな答え方していると次に嫌がらせする機会が無くなってしまいますので』

 

つまり、次の悪巧みの為にあえて真面目なことを言うと…。

ホント性格悪いなぁこの人…。

 

『すぐそばにいるのですし、そのまま行ったらどうですか?』

「どうしてそれを……」

『逆探は当たり前です。まぁ面倒なので報告はしませんが』

「……そんなんでいいんですか?」

『私は強者と戦いたい。これが貴女の助けになるなら喜んでしますよ。

嫌がらせも兼ねてね』

「順番的に優の後になるのに良いのですか?」

 

ベクターから「殺せ」と言われていることもさとりさんは知っているはず。

いくら何でも優が居なくなるのは都合が悪いはずだ。

 

『別にアレが死んでも私が前線に出ればいい話なので私は大歓迎です』

 

私を煽る為と分かっていてもそのセリフにはカチンときた。

 

「あーそうですか。そんなに戦いたいなら首洗って待ってることですね!」

『クスクス。えぇそうしてますね。では』

 

笑っているさとりさん

乱暴に通話を切る。

 

(あーイライラする)

しかもアレを意図的に、常習的に行っているのだからタチが悪い。

 

とりあえず周りを見て誰もいないことを確認する。

うん。大丈夫。

 

――コンコン

 

「こんばんは。レナです。黒川さんいますか?」

 

………………

 

あれおかしいな。この整備室に入ったのはちゃんと見たのに。

 

「黒川さん?入りますよ」

 

ガチャとドアを開けて中を見渡す。

しーんとしていて人の気配がしない。

 

 

(すごい………)

整備室の壁という壁に機体の資料、性能改善の実験結果や今後すべき実験などが貼られていた。

その中で特に取り上げられているのが…

 

(光闇………)

昔、こんな歪(いびつ)な機体はなかった。

基本スペックはサイバーを下回って最低。

回数に制限はあるけど、事情を無効にできる能力。

もし、この能力が適用されれば私は……。

 

ガタッ――ビクッ!

 

急に物陰が動きだしてビックリした。

 

恐る恐る振り返ると優が機材に寄りかかって横になっていた。

その周りには嫌いなはずのブラックコーヒーが散乱していた。

眠気を我慢してたけど資料を見ている間に寝ちゃったみたい。

ソファーの近くには色々書き込まれた資料が散乱していた。

 

「いくら9月でも風邪ひいちゃうよ」

 

私のミリータから布団を取り出して体にかける。

 

「優、ありがと」

 

そっと、唇を重ねた。

この気持ちだけでも私には十分過ぎたから。

 

 

(唯side)

 

 

優を観察して一週間ちょっと。

相変わらず優は不摂生な生活をしている。

けどそれは私の為だし、こうなると優は止まらないことも分かっている。

だから他人に見られないように部屋の掃除などしてあげる。

 

 

数日で二刀流の‐IS‐を使えるようになるんだからその成長は計り知れない。

 

 

あれは……。

 

水色のショートカット。

優くんって言ってたから歳は近いと思っていたけどまさか学園の生徒だったなんてね…。

これは次に優と戦う時厄介になりそう……。

 

(ん……?)

その後を金、銀、茶、黒髪の女の子達が追いかけて行った。

 

「あれは……」

 

シャルロットちゃんの友達。けどもう消灯の時間だし、皆、ISの展開準備ができている。

この後、何かしらの形で戦闘を行おうとしているのは確か。

 

 

そのうちの一人がこう問いかけた。

 

『それはこっちの台詞よ。アンタ、シャルロットの父親としての自覚あるの?』

 

その言葉で全て理解した。彼女達は私の正体を知ったのだ。

きっとシャルロットちゃんも。

 

彼女達のISの能力は高い。けれど、優には届かないのは確かだ。

問題はここにいる彼女達より…

 

 

………………………

…………………

……………

 

 

――コンコン

 

「シャルロットちゃん。私、レナよ。ちょっとお時間あるかしら?」

「……優はいませんよ」

「いいの。私はシャルロットちゃんと話したいから。今、大丈夫?」

「……はい」

 

ガチャと扉が開く。

やっぱり目が赤くなっていた。

 

「お邪魔します。あっ、お茶はいいわよ。

さっき下で買ってきたから」

「あ…ありがとうございます」

 

 

「……………」

 

転身万欄な先月と違って、暗くて見てられないくらいだった。

 

「自分はいつか見放される。なんて思ってるかしら?」

「―!?」

 

「どうして……」

「そのくらいお姉さんはお見通しよ」

 

彼女の前では強がってみる。

どうして分かったのか。それは私もいつもそのことに怯えていたから。

優はそんなことしないって分かっていても私もそのことに怯えていたから

 

「大丈夫よ。優はそんなことで貴女を見放したりしないわ」

「そんな気休めな言葉はいらないです。

そんな無責任な言葉………」

 

私はシャルロットちゃんの頭に手をのせる。

 

「無責任なんかじゃないわ。

だって、私は貴女と同じたもの」

「え……?」

 

下にうつ向いたままだった顔を上げてくれた。

 

「……ごめんなさい。よく意味がわからないです」

「んー。まぁいきなりそう言われてもそうよね」

 

けど言葉で説明するにはちょっと無理があるし。

 

「シャルロットちゃん約束してくれない?今日のことを誰にも言わないって」

「…はい」

「ん。えらいわね。じゃ……」

 

変身を解いて本当の自分の姿を晒す。

 

「改めて挨拶するね。黒川 唯、貴女と同じ優の娘よ」

「え……」

 

目の前で起こったことも私のことも理解できずに目を丸くしていた。

目の前で変身させられたらそうなるよね。

 

「大丈夫?」

「あ、…はい」

 

「私はIS狩りが始まるずっと前に優に引き取られたの」

「じゃあ……」

「私はシャルロットちゃんの義理の姉ってことになるわね」

 

ここでやっと彼女は落ち着きを取り戻してくれた。

きっと私のことを細かく言ってなかったみたい。

だから外にいる彼女らは優に奇襲をかけていたのね。

 

「昔ね、亡国機業に真希さんって人がいたの。

その人はもう結婚してたけど、女の、その時は小さい私でも素敵な人って思った。

そして、いつか優の前にもそんな人が現れてしまう。

そう思うと私は怖かった。私は優の娘だから止めることはできないから」

「……………」

 

賢いシャルロットちゃんならすぐ分かる。

昔と私とシャルロットちゃんは同じ立場だということに。

 

「けどね、優はIS狩りをすることで私を救おうとした。

その時、私はもう死んでいたのに。

優は優し過ぎるの。私を本当の意味で助けだそうとしている。

でも安心して。優から見たら私は娘の一人。

一度私が救われれば、私はシャルロットちゃんから優を引き離すほど魅力的な存在にはなれないわ」

 

私が一通り話すとシャルロットちゃんはポロポロ泣き出してしまった。

 

「ごめんなさい……。僕、ワガママ言って」

「優しいわね。シャルロットちゃんも」

「だって、唯さんは何年も優に会えなかったのに……」

 

シャルロットちゃんをぎゅっと抱き締める。

 

「別にいいのよ。

シャルロットちゃんは妹なんだからワガママ言っていっぱい私達に甘えればいいの」

「うっうっ……うわぁぁぁぁ」

 

まるで溜め込んでいたものを吐き出すかのように泣き始めた。

そんな彼女を優しく包んであげる。

 

「………それに、そんなこと言ったら私はもっとワガママよ」

「……そう…なんですか?」

「えぇ。そうよ」

 

今こうして生きていること自体、私は誰よりもワガママだ。

私は人の理を破って今も生きているのだから。

 

「さて、そろそろ帰らないとね。

じゃないと人のいるここで貴女のお父さんやその保護者と戦わないといけないから」

 

そろそろさっきの騒動も収まってると思うし。

 

「……シャルロットちゃん、また遊びましょうね」

「はい」

 

別れる最後、シャルロットちゃんは笑ってくれていた。

 

 

――バタン

 

ドアをゆっくり閉じた。

 

まったく。優も優ね。

こんな大事なこと何も言わなかったなんて。

やっぱり言えないものなのかな……。

 

「お前……」

「こんばんわ織斑先生」

 

(あ、変身し直すの忘れてた)

まぁこの人なら変身してても見破るだろうけど。

 

「デュノアに何をした?」

「安心して下さい。ただ挨拶に来ただけですよ」

「……………」

 

私の言葉が信じられないのかもの凄い剣幕で私を見つめる。

けど、今の彼女はISを持っていない。

今より強く、私を刺激するようなことはないはず。

 

「………織斑先生」

 

躊躇いながら言葉を繋げる。できれば言いたくない。

シャルロットちゃんに約束した直後だし、何より言ってしまったら私は自分が助からないことを暗に認めてしまうから。

けど、言わなきゃいけない気がした。

 

「……優をよろしくお願いします」

 

私は深く、深く頭を下げた。

 

「お前……」

「では」

 

私は踵を返してここを後にした。

 

 

 







Last Jahrの続編(夏)を1から書き直してるせいでここの進行も遅れております。
これもドン・サウザンドって奴のせいなんだ……。
ホント、ドンさんには困ったものです。

たぶん次回で終わるでしょう。
じゃないとグダグダになってしまいます。

魔「もう手遅れだ」

ではまた次回。ここまで読んで頂きありがとうございます。




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Reminiscent for the dead her 6



皆さんこんにちは。
最近「終末編(仮)」(続編)の作成が楽しくて楽しくてこの現代編を全く書いていないダメな作者です。

投稿している部分とは異なるところを書きたくなる気持ち、きっと作者さんなら分かるはず!
(。-∀-)ネ ワカルダロウ? (^_^; イヤ ワカラン

………それでは本編へどうぞ。





(唯side)

 

 

「ここは……?」

 

本部とは似たような造り。だけど、あそこのような暖かみが感じられない。

それにここにいる人達が少なすぎる気がする。

 

「フラシド?ここは?」

「亡国機業の支部だ。本部は崩れた」

 

辺りを見回して

 

「ねぇ優は?優はどこなの?」

「アイツはここにはいない」

「なんで?」

「アイツはお前を蘇らせる為に世界を敵に回した。

今は俺達の対策組織に捕えられている」

 

 

それじゃ優殺されちゃうじゃない!

すぐに待機状態の

を持って外に向かう。

 

「どこに行く?」

「決まってるじゃない!優を助けに行くの!

来て、スターダスト!」

『――――――――』

 

私の機体は何も反応してくれなかった。

 

「なんで……」

「言ったはずだ。“アイツはお前を蘇らせる為に世界を敵に回した‴と」

 

「死人にその機体は扱えない」

「そんな………」

 

 

 

 

 

 

 

 

ピピッピピッピピッ――

 

(あれは…昔の……)

もう6年も前。IS狩りが収束して、敵対していた組織が攻撃してきて……。

 

信号を受け取っているスターダストを確認する。

 

(アインスがコアネットワークに介入か…)

ダミーの信号もない。

優は私を誘き出そうとしている。

つまり、優は優なりに私との戦いを終わらせようとしている。

 

なら行こう。私は私なりの解決方法で優といるために。

 

信号の発信場所は湾岸アリーナ。

注意しなければならないのは7月の時に会った水を操る機体。

あれは私の機体でも厳しいものがある。

けど、優のことだから――

 

私がアリーナに入るとシールドが展開されていった。

そして、目の前には優が一人で立っていた。

 

愛して止まないと言っても過言ではない貴方。

遠くから見て感じてはいたけど、もう銀の銃弾の傷は癒えたみたい。

 

そして、これから愛していきたい私の妹。

このアリーナの中で一人だけ私に対して不安を感じているみたい。

 

(…………………)

優を連れていけばシャルロットちゃんが一人になってしまう。

私はどうしたらいいだろうか?

織斑 千冬の存在がない今なら力づくでできるかもしれない。

けど、シャルロットちゃんはそれを望むのだろうか?

 

「久しぶりだね、優」

『そうだな』

 

静かなんだけどどこかピリピリしている。

私達は喧嘩しなかったけど親子喧嘩の前ってこんな感じなのかな?

 

『部隊の破壊はお前がしたのか?』

「うん。ベクターの命令だからね」

 

あんな奴の話に乗らないといけないのは癪だけど。

 

『俺を狙ったのもか?』

「それも命令だけど、私の意志でもあるよ」

『……俺のことを恨んでいるからか?』

「ううん。優のことは好きだよ。だから、私が優と一緒にいるために、私は優を殺すの」

『…………………』

 

優は怪訝そうな表情で私を見る。

けど、狼狽することはなく隙がない。

やっぱり優は芯が強い。今も、昔も。

 

「悪いけど、俺は死ぬわけにはいかない。

アインスとして、親として、やるべきことを果たす」

『優ならそう言うと思った。

でも、私も私の思うことがある。優―勝負だよ』

「……あぁ」

 

そうだ。私が私として生き続ける為にはここで優を亡国機業に連れていくしかない。

じゃなければシャルロットちゃんとの約束も果たせない。

 

 

 

視界がぼやけながらもトリガーを引き続ける。

 

――優

 

私は、貴方が引き取ってくれた、私に暖かい居場所をくれたあの日から迷惑をかけたくなくて、私なりに頑張ってきた。

けど、やっぱり私は優の足引っ張っちゃってIS狩りなんて辛いことをさせてしまった。

 

今、私は同じ過ちを繰り返そうとしている。

止めることができるというのに。

だから、本当は……こんなことしちゃいけない。

とっとと自分で命を断つべきなのかもしれない。

 

でも、ごめんなさい。

私は貴方ともっと一緒にいたいの。

例え、貴方が親子だと言っても貴方と笑いあって、一緒に寄り添って生きていきたい。

そう思って止まないの。

 

――パキン!

 

スターダストのレイピアが折れ、防げなくなった優は弾幕の滝に撃たれてしまった。

 

(優…!?)

 

 

とりあえず…大丈夫。機体は半壊で済んでる。

 

 

 

『Crimson Hell Flare 』

 

いくつもの巨大な炎の花がアリーナの床を全て覆った。

 

「……やっと殺す気になった?」

 

この技は使用エネルギーが多いほど威力、数が多くなるもの。

以前見たことがあったがこの数を見るのは初めてだ。

優は短期決戦で私を倒そうと思っている。

 

『バカ言うなよ。助けるぞ。何があっても』

 

――バチバチバチッ

 

オーディンの瞳を発動し力強く私を見ていた。

 

(…そうだよね)

だから光闇を作ったんだもんね。

だから、そのCrimson Hell Flareは私との約束を守って本来とは違う形をしているだもんね。

 

『行け』

 

優の声に紅の花は私を囲むように比較的ゆっくり移動する。

本来ほどじゃないけど紅の花が槍の状態じゃないと攻撃が有効にならないのは辛い。

それを抜きにしてもCrimson Hell Flareはレッドデーモンズの単一能力。

やっぱり強い……。

Sky Shineのために実装した実弾の砲口はダメにされた。

このままいけば他の砲口もダメにされる。

 

「やっぱりオリジナルは強いね」

 

けど、今なら最大砲口数で戦える。

新しく12門の砲口を展開し1つ16門の大型ものにする。

 

(ごめんね……)

私は勝ちに拘るよ。

 

「Shooting Sonic」

 

高速振動の実弾とそれを纏うエネルギー弾を放つ。

私のスターダストの単一能力。

そして、皮肉にもCrimson Hell Flareに対する有効打である。

高速振動によって起こる空気の振動はCrimson Hell Flareを行う繊細なコントロールを確実に妨害する。

 

 

レッドデーモンズのエネルギーが切れ、紅の花が暴発し、その勢いで私はアリーナの端へ吹き飛ばされた。

けど、私のことなんて今はいい。優は生身のまま壁に激突してしまったのだ。

視線を戻してすぐに確認する。優は吐血しただけでなく痙攣を起こしていた。

 

「……限界だね。優も、アインスも」

 

優のオーディンの瞳は適量とされているナノマシンの2倍入れられている。

元々成功するかも分からないものを脳に近い目に入れているのだ。

その副作用は計りしれない。

 

そっと優に近寄る。

優には悪いけど、私はこの時を待っていた。

神経バランスが崩れた今、優はほぼ動けない状態にあり、確実にキズを付けずに殺せるから。

(ごめんね……)

大型の砲口から1門切り離し背中に当てる。

心臓に一発だけなら真月が蘇らせることができるはず。

 

「優、大丈夫だよ。死は怖くないよ」

「………唯」

 

あやすように言いかける。

もう無理はしなくていい。私を助けたいだけなら無理する必要なんてないから。

そう言いたい。だけど私達は敵同士だから戦うしかない。

傷付け合うしかない。

 

「……そうだな」

「え?」

「この戦い…、負ければお前といられるらしいからな。

戦わずに負けを認めたらどんなに楽か…」

「優…?」

「でも、それじゃダメなんだ」

 

白と黒のツートンカラーの機体を展開して砲口を無効化する。

 

「なっ!?」

 

(ここで…光闇…!?)

もう体を動かすことも辛いはずなのに……。

とにかく光闇の能力が連発されるのは困るので距離を取る。

 

「でも、それよりお前がこれ以上誰かを傷つける姿はもう見たくない。

昔の俺みたいに心をすり減らすことはさせたくない。

お前をそんな所じゃなくて『光指す世界』を歩かせたい」

 

「だから――」

 

優は真っすぐ私を見る。

 

「唯、お前を助ける」

「……………………」

 

何も言えなかった。

涙が止まらなくて。気持ちが溢れてしまって。

 

こんなに優を傷つけてるのに。

こんなに迷惑かけてるのに。

 

それでも私を助けようとしてくれる。

 

警告―………警告―………

 

機体のアラームによって目の前に意識が戻される。

レヴァを先頭にして白雷で接近していた。

 

「-IS-」

『ミスティル』

 

私が条件反射で展開した-IS-はアリーナの床だった特殊合金やレヴァの武装の欠片によって防がれた。

優は

 

 

『Circle Out』

 

優の手が私に触れた。

 

 

 

(唯side)

 

 

Circle Out……。

意味合いはきっと円環の理を立ち切る。

だから事情を無効にするということ。

やっと私は解放される。そして……

 

『ったく、そんだけの機体を持ちながら下らない落ちを作りやがって』

 

ベクター!?なんで……

 

『あ?忘れたわけねーだろ?

俺様は命令の最初に“アインスを殺せ"って言ったんだぜ。

お前がしないなら俺がやってやるよ』

 

 

私を殺した機体オシリスが私の体に纏わりついた。

 

なんで…この機体が私の中に……!?

 

『アイツはどんなことがあってもお前を助けようとするだろが、

レッドデーモンズは具現化限界。オーディンの瞳も満足に使えない。

頼みの綱の光闇はオシリスには遠く及ばねぇ。

そんなアイツがこのオシリスをどうするのか楽しみだぜ。

これからアイツが苦渋の選択としてお前を殺すのか、それとも無様にお前に殺されるのか』

 

はははははっ!とベクターは高笑いした。

 

 

―パキン!

 

私のいた世界はまるで一瞬にしてガラスが砕かれたかのように崩れ、現実世界に引き戻された。

 

そこで見えたのはコピーナイトで展開されたスターダストと光闇。

地上でボロボロになりながらもオシリスを纏う優。

一体どうやって私を助けたのか容易に理解できた。

 

優はまたしても自分だけ傷ついて私を助けてくれた……。

でも、力が入らない……。

私を殺すってこういうことか……。

 

「優………」

 

残った力で優に近寄りキスをする。

私達の意識は現実から遠ざかっていった。私のスターダストの世界へ行くために。

 

 

 

 

(ここは相変わらず汚いなぁ……)

昔は青空の見えるキレイな砂浜だったのに、

今は小さな地下牢のような部屋。

解れて綿が出ている縫いぐるみが床に転がり幾つもの紅いカーペットが壁にまでかかっている。

これは剥がしてたくても剥がせない。

これは私の罪の象徴だから。

 

本当はこんな所を優に見せたくない。

でも、現実ではもう体は動かない以上、精神世界でもある機体の世界に入るしかない。

 

手当たり次第周りにあるドアを開ける。

どの部屋も赤いか黒いかで以前の面影は欠片もない。

こんな所で話したくはない。

 

最後に一番新しい奥にある部屋のドアを開ける。

委員会の優の部屋みたいにきれいな、でも書類だらけの部屋が広がっていた。

 

「唯」

 

後ろから優の声が聞こえた。

 

『ありがとう、優。ごめんね。こんなことして』

「いいんだ。もう終わったことだから」

 

あんなに傷だらけになったのに何でもなかったかのように応えてくれる。

やっぱり優はやさしい。

 

『私を助けてやるって言った時も、私を生き返ったのは優のおかげだって聞いたときも、嬉しかった。

ずっと前から優と一緒に学校に行きたかった。

二人で外の世界に出て色んな所に行きたかった。そう思っていたから』

「大丈夫だって。Slave Modeも解いた。

すぐにとはいかないかもしれないけど、これからは自由に生きていける」

 

 

 

『無理なの。私はDoll。兵器として生き返らせられた私は優を殺さなければいけない。

けど、私には…できなかった。例え優が生き返るとしてもそんなことできなかった』

「おい。何言ってるんだよ……」

 

 

倒れるように優に抱き着く。

 

『ゴメンね優。さようなら』

 

 

さようなら、私の愛しき貴方。

もう2度と会えないなら、せめてこの時だけ永久に……。

 

私はもう一度、そっと唇を重ねた。

 

 

 

 






上げて、上げて上げて、上げてあげーて、

……落としました。
まぁオチはもう分ってましたからね。

しかし、唯の為だけに光闇を作ったのにあの結末である。
ひどい。

魔理沙「誰か書いたと思ってるんだよ」
霊夢「しかも最初からこの結末にしてたんだと」
唯「鬼!悪魔!このピーー!」

……えー
唯ちゃんがどんな人か分かったところでもう一度9月(『ただ君といる為に』の方)を読んで頂けたらと思います。

次回はちょっと変なものを入れます。
ここまで読んでいただきありがとうございます。



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(Review)



皆さんこんにちは。作者こと黒川 優です。

すいませんが今回は本編の進行はありません。
というのも元々今日投稿する予定のものじゃなかったんですよね。

理想は……

1月 : 唯ちゃん編 完結
2、3月 : バイトで死んでるので投稿できない。
4月 : 内容を忘れた人はこれを読んでお復習してもらおう!
………と思っていたのですが。


現実

1月 : (0w0)ウェーイ!

(0M0)オレノカラダハボロボロダ! (風邪)

そのまま試験

となり後ろにズレてしまった為、このタイミングでの投稿になりました。
別に飛ばしてもいいのですが、本編とは違う意味で力を入れた場所だったので(自己満足でも)投稿しました。

意味無いと思いますが復習用に御覧になって下さい。
それではどうぞ♪ヽ(´▽`)/





1:霊夢ちゃん大好き罪袋

20XX/9/19(土)22:04:52.14 ID:???.net

【亡国機業】AIF IF操縦者の捕獲をを行うも失敗

 

 

AIFのトップ、レクス・ゴドウィン長官が日本某所の湾岸アリーナにてIF操縦者の捕獲計画を行っていたことを報告した。

報告によると、操縦者は幹部ではないがIS狩り時から亡国機業に属していた可能性があった。

そのため、織斑 千冬を始め協力を受諾して戴いたIS学園の教員と連携し計画を実行したという。

 

結果はIF操縦者の死亡により失敗に終わった。

操縦者の捕獲を優先したため、機体(IF)はアインス(スターダスト)の単一能力により事実上破壊してしまった為、機体の解析は困難を極める。

 

なお、今回の計画ではアインスのみが戦闘を行った為、AIF、IS学園の教員などに負傷者、死亡者は存在しないと重ねて報告された。

 

AIF報告書全文htt……

ソース:トレインライター

 

 

 

遊戯王ARC-V毎週日曜17:30から放送中!

 

次元を超える2つの力、重なりい出しは新たなる存在!エクシーズ召喚!

『覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン』!!

クラッシュ・オブ・リベリオン 4月25日発売!

 

遊戯王ARC-V毎週土曜41:30から放送中!

 

 

 

4:咲夜さん大好き罪袋

20XX/9/19(土)22:8:42.25 ID:96146

大きい進展はなしか

 

23:優曇華大好き罪袋

20XX/9/19(土) 22:16:11.75 ID:72233

とりあえず最低限仕事はしたって感じだな

 

25:パルスィ大好き罪袋

20XX/9/19(土) 22:17:64:21 ID:31658

また失敗かよ。仕事しねーな

 

32:⑨大好き罪袋

20XX/9/19(土) 22:22:44.01 ID:24540

国連にしては仕事してる方だよ。

 

86:サニー大好き罪袋

20XX/9/19(土) 22:36:28.89 ID:30320

≫25

以前ISで連合軍作ろうとしてたけど、利権絡みでダメになった。

それに比べれば動いてるだけマシ

 

91:八橋大好き罪袋

20XX/9/19(土) 22:38:76.28 ID:37829

国連のトップは途上国のみだがISを持ってるのは基本先進国だからなぁ…。

時代にあってないんだよ。

 

98:夢子ちゃん大好き罪袋

20XX/9/19(土) 22:42:17.13 ID:58759

ゴドウィンの統制力が凄いというのもあるけどな

 

120:サラちゃん大好き罪袋

20XX/9/19(土) 22:46:56:84 ID:94628

非常事態宣言なんて出すからヤバいのかと思ったらアインスだけで倒しているという

 

171:小悪魔大好き罪袋

20XX/9/19(土) 22:49:38.36 ID:74354

≫1

いやいや共闘しろよ。

何の為に学園が協力したんだよ

 

 

297:雲山大好き罪袋

20XX/9/19(土) 22:59:02.86 ID:98122

なんで機体の解析が出来ないんだ?

物はキレイに残っているんだろ?

 

306:アリスちゃん大好き罪袋

20XX/9/19(土) 23:03:12.88 ID:46487

≫297

出来ないことはない

ただ時間がかかる。それなら雑魚から機体を回収した方が速い

 

373:メディスン大好き罪袋

20XX/9/19(土) 23:15:62.67 ID:51037

≫297

何も知らない子供に部品はあるから車を作れと言ってるようなもの

設計図無しな

 

 

 

 

 

 

1:霊夢大好き罪袋

20XX/9/22(火) ::. ID

【緊急速報】各国にISIS大量出現

 

 

世界各地でほぼ同時刻にISISを目撃する事態が相次いで発生した。

 

AIF日本本部は各国でISISを破壊するために特別チームを結成し事態の収拾を図っている。

幸いにもAIFが早急に対応したため被害にあった機体はない。

 

国連IS委員会AIFレクス・ゴドウィン長官は諸国に対し、ISISの活動を警戒し、IS操縦者に使用の制限を促していたことが分かった。

 

このようなISISの活発的な活動は去年に続き2度目であることからハーバード大学、岡崎 夢見教授は「ISISを製造している亡国機業は各国から厳しいマークを受けながらもこのような活動をしていることから独自のルートがあると思われる。それを解明しない限り、私達は安心して研究ができず、ISの技術の恩恵を世に与えることが難しくなってしまう。AIFが尽力して下さることを望むばかりである

」とコメントを述べた。

 

 

 

 

 

最高のSatisfactionを貴方に

         ホイール・オブ・フォーチュン

 

 

 

2:魔理沙大好き罪袋

20XX/9/22(火) ::. ID

被害無し。珍しく良い仕事している

 

5:フラン大好き罪袋

20XX/9/22(火) ::. ID

ISISだからな1国1機投げ入れるだけで効果が出ちゃうからな。

それだけ真剣

 

 

12:妹紅大好き罪袋

20XX/9/22(火) ::. ID

対応って各国のAIF?

 

32:チルノ大好き罪袋

20XX/9/22(火) ::. ID

≫12

アインス

 

 

56:正邪大好き罪袋

20XX/9/22(火) ::. ID

これ、早く亡国機業の場所マークしないとまずくないか?

 

 

62:メリー大好き罪袋

20XX/9/22(火) ::. ID

≫56

かなりヤバい

 

 

85:スター大好き罪袋

20XX/9/22(火) ::. ID

≫56

 

どう見てもアインスは寝てない

 

144:運松大好き罪袋

20XX/9/22(火) ::. ID

≫85

うわぁ…ブラック過ぎる

委員会ってブラックだったのか

 

238:ぬえ大好き罪袋

20XX/9/22(火) ::. ID

一般の人はそうでもない

アインスは代用が効かないから今回のことになった

 

274:わかさぎ姫大好き罪袋

20XX/9/22(火) ::. ID

去年もあったんだからちゃんと対策しろよ

 

288:リリカ大好き罪袋

20XX/9/22(火) ::. ID

委員会としてはアインスの情報を使って第2、第3のアインスを作りたい

 

296:カナ大好き罪袋

20XX/9/22(火) ::. ID

≫288

委員会は国ではなく、コアがないのでできません

 

307:レミリア大好き罪袋

20XX/9/22(火) ::. ID

≫288

できてもロシアが許さないだろ

アメリカの私物化に繋がりかねないから

 

 

322:美鈴大好き罪袋

20XX/9/22(火) ::. ID

アインスの弱体化が狙いかもな

アインスしか対処できないことを良いことに数で押し始めている

 

341:雛大好き罪袋

20XX/9/22(火) ::. ID

なんでアインスってあんな働いてるわけ?

とっとと情報公開して前線から引けばいいのに。

 

355:マミゾウ大好き罪袋

20XX/9/22(火) ::. ID

そしたら自分が存在する意味が無くなるだろう。

人を殺したにも関わらずおとがめなしでAIFにいれるのは機密にしているアインスのデータのおかげ

 

 

369:ルナサ大好き罪袋

20XX/9/22(火) ::. ID

≫355

正しくはアインスしか使えないから。

おとがめなしなのはアインスの意志でなくSlave Mode のせいで起こったから

 

395:幻月大好き罪袋

20XX/9/22(火) ::. ID

にしても公的に人権が保護されてないよな

 

415:こころ大好き罪袋

20XX/9/22(火) ::. ID

テロリストに人権があると?

 

421:もみじ大好き罪袋

20XX/9/22(火) ::. ID

≫415

そもそもIS狩りそのものがアインスは強要されたもの

お前の日常を守っているのはお前の言うテロリスト

 

429:輝夜大好き罪袋

20XX/9/22(火) ::. ID

≫415

そもそもIS狩りそのものがアインスは強要されたもの

 

453:永琳大好き罪袋

20XX/9/22(火) ::. ID

生命線が一人の人間に握られているのはおかしいわね

 

 

 







以上となります。

なぜ2ch形式にしたのかといいますと2chがネット社会の象徴のひとつと思ったからです。
私達より発達した技術を持つこの世界なら2chでこんなスレがあってもおかしくはないはず…。

もう1つ、優の社会的立ち位置の特殊性から物語では出てこない一般人に与えられている情報とその視点を書きたかったからです。

まぁこの究極の自演はかなり面倒なのでもう書くつもりはないですが。
(ホント大変なんですよ、これ)

ですので今後は何とか短期間で投稿できるようにしたいと思います。

では次回は10月をお楽しみ下さい。
ここまで読んでいただきありがとうございます。


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第二章ーOctober 相容れない二人―策略の糸の先は?
(Foundation setting)


 

 

 

わたくし、作者黒川 優。

この物語を投稿して約1年になりますが大事なことを忘れていました。

それは

 

 

IFシリーズの基礎設定を話していない

 

 

下記しているように過去編も中々ボリュームがありますのでその都度説明を追加できるとは思っているのですが、さすがにIS以前の話まで作るのは無理です。

 

 

 

この世界の始まりは未来、第3次世界対戦(未来なら4でも良いです)から。

 

簡単に言えば中国vsアメリカ。

(原因は想像にお任せします。上記二国にした理由特に意味はありません。

ただ資本主義国家と共産主義国家だから程度)

 

戦争中の各国の動きは――

ロシアが中国に対し物資支援。

中国周辺のアジア諸国は日頃の恨みとばかりにアメリカと一緒に戦う。

日本は上記のことがありアメリカに参加を強要されることはなく、安全地帯で物資支援。

韓国は(要約すると)場所が場所なだけに戦地にされた。

 

全体的に戦争はアメリカ&アジア諸国(特亜以外)の連合軍が優勢で進行する。

その為に劣勢に立たされた中国は扱ってはいけないものを使う。

その惨状は悲惨としか言えなかった。

 

これをいち早く察したロシアは停戦への調印という形で賠償金を払って戦争から退く。

(しかし物資支援で儲けていたので痛くも痒くもない)

 

日本は国民レベルで中国に対する嫌悪感が膨れ上がりオレハオマエヲムッコロス状態に。

(後に9条を含む憲法や自衛隊の立ち位置に疑問を持つ世論が大きくなる。

※あくまでこの世界では)

 

残された中国はロシアの支援が無くなり世界から総スカンを食らい侵攻される。

ここでは原爆を使いませんでしたが技術の発展により通常兵器でも多く中国人が亡くなってしまいます。

これにより中国は降伏。戦後処理が行われた。

 

 

まぁここまで書いて何が言いたいかというと、資本主義第一国アメリカは絶対的とも言える力を世界に見せつけ、共産主義第一国ロシアはしたたかに富を増やし、日本は唯一の被爆国となり、中国は途上国と先進国の狭間に立たされた。

 

要は『現代とほぼ同じ(国別の力関係的に)』

 

まぁ強いて言えば今後、中国は復興も兼ねて建物をバンバン立て不動産バブルを起こすので一夏達が物語に出るころには国力はリアルの中国と大差ないでしょう。

(不動産バブルの後はISバブルになるのでデフォルトはしません)

 

――――――――――――――――――――――――――

 

魔理沙「完全にデフォルトした前提で話すなよ」

作者「作品の世界よりリアルの世界の方が物事が早く進むので先読み(適当な勘)しないと設定が遅れるのです」

魔理沙「リアル世界にISを投入したような世界観にしたせいだろ」

作者「お笑いのネタを作れない私に全部ファンタジーにしろというのは無理な話だ(開き直り)。それにこの方が面白い(主に私が)」

 

※この物語には政治的に思われる部分がありますがご都合主義が前提なので全く意味をなしません。作者が変なこと言ってる程度に思って下さい。

 

魔理沙「大事な注意事項を1年間放置するな!」

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

アメリカも後々アルカディアムーブメント(亡国機業)の存在を危惧して中東に福音を派遣したりするので外国の勢力的な面では大体200X年位になるんじゃないかと思います。

当時私は子供(今もですが)なので断言はできいですけどね。

 

 

さて、肝心な日本ですが原爆により長崎が混沌の相と化してしまいます。

(この世界ではWW2で2県の被害はありません)

リアルのWW2と違い、戦勝国としての地位と技術により被害者の治療は何とかなりました。

 

ただし死亡者を生き返らせることは不可能です。

やはり多くの命を奪うその兵器は非人道的という声が出ました。

そして、その声を一番大きく挙げていたのがイリアステル(後の亡国機業)のトップ、Z-ONEである。

彼は世界各地を回り原爆は何を生み出してしまったのか、こんなものを各国が持っている事実を述べていった。

 

彼の演説に感銘を受けたものは多かった。

人々は何をしていけば争いを避け、兵器を使わなくていいか考え始めていた。

 

だが彼の活動時期は約一年と短く、ローマでの演説を最後となった。

彼を慕った信者とも言える人達も何も言わなくなった。

なぜなら彼の演説に参加した者は殺されたからだ。

 

広い広場は一瞬にして人々の残骸と血の海に化した。

もし生き残った人間がいたとしたらそこは地獄だと言うでしょう。

 

この世界ではそれを『血の演説』と呼ぶ。

この演説後、某動画サイトにその時の映像を流す者が現れた。

各国はその投稿者を特定。

投稿者は自らの組織を『アルカディアムーブメント』と名乗りイリアステルは血の演説の為のマスコットに過ぎないと述べた。

その後も各国はこの残虐な行為に怒りを表し血眼になって捜査をしているが有力な情報は手に入っていない。

 

 

そのような暗い雰囲気が世界を覆っていた最中、篠ノ之 束がISを開発した発表した。

 

原作でご存知の通り、篠ノ之 束が最初にISを公表した時、世間は絵空事だと嘲笑った。

篠ノ之 束は誰にでも理解できるようにしなければならないと分かった。

 

そこで彼女は「兵器」としての利用を思い付いた。

兵器はどの国も導入しなければならない。

でなければ非常時、国民を守れないからだ。

つまり兵器というのは“世界共通のものさし”のひとつである。

 

彼女は白騎士にブレードと試作品の荷電粒子砲を搭載。

そして、世界の軍のシステムをハッキング。白騎士に向けてミサイルを放たせた。

予定通り、白騎士はミサイルや各国の兵器を踏襲し、それは白騎士事件と呼ばれ、ISの名は世界に広まった。

 

 

篠ノ之 束、織斑千冬以外の人間から見れば、戦争や血の演説。このように暗い雰囲気の中発表されたIS。

 

その本来の目的は戦うためじゃない。宇宙進出という人類の長年の夢を叶えるもだった。

白騎士事件でのISはあの軽装で恐ろしいほど自由度の高い動きをしたのだ。

あれが宇宙でも行えるなら………。

これにどれだけの人がISに希望を感じたかは言うまでもない。

世界の研究者は新しい玩具を与えられた子供のように目を輝かせて研究に惜しんだ。

 

だが、現実は上手くいかない。

 

ISを扱うには適性があること。

具体的には女性しか乗れないこと。

これだけならまだいいが、根本的にISには宇宙へ行くには不完全であること。

この2つが研究によって分かった。

 

勿論、ISの発明は宇宙部門では画期的なものだ。

しかしそのまま宇宙に持って行って使えるかと言ったらNOである。

宇宙でISの活動が見れるにはあと何十年と掛かるだろう。

ISの宇宙進出は見送りになり、ニュースなどで表に出る頻度は下がってしまった。

 

その間このISを研究段階の代物として留めておくのは勿体ない。

各国は密かにISを兵器としての転用を考え始めた。

 

――兵器は世界共通のものさし。

ISを世界に知らしめるためとは言っても白騎士事件でISを使ったのは良策とは言えなかった。

 

アメリカも似たようなこと(ハッキリ言うと資本主義第一国存続の危機)を感じたのか、ISの潜在能力の危険を感じ原作にあるIS条約が作らせる。

(後にゴドウィンとメリーが議会を通し条約に付けたしを行っている)

これにより“表向き”ではISは兵器として扱うことができなくなった。

 

第一回モンド・クロッソ後にはIS狩り(「IF―The first one(適当)」と何か)

第二回モンド・クロッソ後にはセカンドアメリカン(「??のSecond American(要はまだ未定)」)

などなど(「変革のLast Jahr」)

を通じ、この「IF―切り開かれる現代、閉ざされる未来」があるわけです。

 

全部書けるんかなぁ……これ。

 

 

そんなこんなでこれからもIFシリーズをよろしくお願いします。

 

 

 

 



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Intrigue Catastrophe


こんにちは。作者こと黒川 優です。

今回から第2章となります。
と言っても区切りをつけたいだけなので深い意味はありません。

それでは本編をどうぞ。




(ラウラside―IS学園体育館)

 

 

「さて、キャノンボール・ファストを1月に行うのは知っているだろう。

今日全校生徒に集まってもらったのはその訓練機部門で一年生を交えた縦割りのグループでの顔合わせを行うためだ」

 

教官の言葉が体育館中に響く。

 

「やはりこうなったか」

「やはり…とは、こうなることを予想していたのですか?」

「そうだな。私がここに来たばかりの時、私は他の者をどう思っていたと思う?」

「雑魚」

「……お前、黒川に会えなくてイラついているだろう」

「そんなことないですわ」

 

(図星だ……)

絶対図星だ。その証拠に普段は見せないイライラしているような指で叩く動きが止まらない。

 

「訓練機の数が有限である以上、生徒全員の向上レベルが平等であるわけではない。

それは仕方がない。中には整備科に行きたい者もいるしな。

それを抜きとして、学園に来たというのにレベルが低い点が多々ある。

ISという機密情報の塊を持つには非常時の対応ができないという致命的欠陥を補えない者

が多くない」

 

故に私のようにここに来たばかりの時は高飛車気味でなる傾向がある。

 

「そこで黒川が提案したのがコレというわけだ。

大会出場者は操縦技術と整備技術を養うことができる。

縦割りにすることで一年に早い段階でISの知識をインプットできる。

「なるほど。訓練機部門も全員参加にしたのはそのような理由があったからですね」

「まぁ、そういうことだ」

 

確かに即戦力になる生徒を育成すると言えば聞こえは良い。

学生は知識を早く吸収できる。学園を卒業後、研究職に就いても力になれるだろう。

企業も教育に金がかからない。

ここまではいい。

 

問題はその後だ。キャノンボール・ファストで作ったものをただ学園で賞賛するだけか、それとも違うことに転用するのか。

この線引きは間違えば学園はその存在意義を大きく変えることになってしまう。

 

黒川にここまでの権力はない。

必ず何か利権が絡んでいる。

少なくとも今の私では大局が見えない。

私一人で動くべきではない。いや、動けないと言うべきか。

 

それよりも懸念しなければならないのは未だに黒川の“代用”をこなせる人間がいないこと。

このまま黒川を酷使すればいつか壊れISISへの対抗策がなくなる。

 

(教官……。貴女は一体何を考えているのですか?)

 

 

 

(◇

(一夏side)

 

「さて、キャノンボール・ファストを1月に行うのは知っているだろう。

今日全校生徒に集まってもらったのはその訓練機部門で一年生を交えた縦割りのグループでの顔合わせを行うためだ」

 

千冬姉の言葉が体育館中に響く。

専用機持ちは訓練機部門のようにグループで行うことがないためこの授業はぶっちゃけ意味はない。

なので、体育館の2階で皆の様子を遠めに眺めていた。

 

「今年度から一年生もなんだよな」

「えぇ。そのせいでこの有り様よ。

そこまでする意味はあるのかは知らないけど」

「その提案は黒川が―んんっ!?」

「バカ。優の話をするなって」

「……………………」

 

箒の言葉にシャルロットは俯いてしまった。

優は世界各地に現れたISISを破壊するために場所を転々としている。

それは以前にもあったことだが今回のは規模が違う。

 

優を苦しめるかのように。

 

しかも、ラウラの予想ではそれが続くらしい。

それは優が6年前に亡国機業を壊滅させた張本人であるため、唯さんを亡くしたことによって精神的に余裕のない時期に乗じて始末したいらしい。

 

「悪いわね、シャルロット。箒があんなこと言っちゃって」

「ううん、優なら大丈夫だよ」

 

鈴の言葉にシャルロットは笑って答える。

けれど、シャルロットの表情はいつもより暗かった。

 

(優………)

きっと優はAIFで色々なことがあった。それでもここまで乗り越えていった。

だから、今度も大丈夫だよな?)

 

 

 

 

(優side)

 

 

 

グランエル、ワイゼル、スキエルの3種類のISISによる世界同時侵略。

それは小規模ながら去年もあった。

 

ただ去年と異なるのは配色が赤いものと白いものがあること。

赤いものはオシリスを、白いものはスターダストを連想させる為にわざと施されたものだ。

 

『ごめんね、優……』

 

唯の最後の時が頭から離れない。

 

「何か、言いたいことがあるんだろ………」

 

(分かっている。俺が無力だってことは…)

分かってるんだよ……そんなこと……。

 

俺が世界を捨ててまで得たかったものは手から離れていってしまった。

残ったのはIS狩り起こして、世界混乱させた“現在”という現実だけ。

 

「こんな回りくどいことをするなら今すぐココに来い!ベクター!」

『イヒヒヒヒヒ・・・。それはできねぇな。そこに行くのに日が暮れちまう』

 

ISISを通して憎々しいベクターの声が聞こえてくる。

 

『それに……』

 

―ザクッ

 

ワイゼルの腕部に着けられたブレードが俺の腹に突き刺さった。

 

『俺様が出るまでもねぇ』

「ぐっ……」

 

-IS-で蹴散らそうとすると先にブレードを収納して俺から遠ざかった。

 

『いい表情してるじゃねぇか』

『いつも気高くとまっていたお前が―』

『『『ズタボロだぁ~!』』』

『『『『ヒャーハハハハハハ!』』』

 

何機ものISISから同じ声が響いて共鳴する。

これほどウザイものはなかった。

 

―――キィィィィ

 

ここにいるISISの荷電粒子砲が一斉に俺に向けられる。

これは……避けれない。

 

――バチチチチチチ

 

自動的に展開された雷撃が放たれ荷電粒子砲を相殺する。

 

『Protect Mode発動―アインスProtect Modeに移行します』

 

上空から現れたマリオネットの操り糸が俺に絡まり一気に俺に纏わりつく。そして―

 

『サンダーフォース』

 

雷撃によってISISは一撃で破壊された。

 

『破壊完了―南西の方角 新たにIS4機を確認」

『黒・魔・導・爆・裂・破!』

 

アリスの機体:ブラック・マジシャン・ガールから巨大なエネルギー弾をくらい地面に落とされた。

その衝撃で動けない時を狙って残り3機が俺を拘束して一時的にアインスを取り外す。

 

「……わりぃな…アリス」

「いえ…。大丈夫ですか先輩…」

「まぁな……」

 

今回、アリス達は援護で来ているというより異常時、俺を止めるためにいると言っていい。

それだけ今、俺は不安定な状態にある。

 

「予備パーツでの組み立ては私達がします。先輩は少しでも寝て下さい」

「いい……。大丈夫だから………」

「何が大丈夫なんですか?そんなふらふらでボロボロで」

「……………………」

「お願いです。休んで下さい」

「……貴女の言い分は聞けないわ」

 

警告―ISIS接近…警告―ISIS接近……

 

再び大量のISISが先輩に敵意を向けて接近してきていた。

 

「アリス。貴女は後退してISを収納しなさい」

「…………いやです」

「アリス」

「私だって戦いたいです。私はそのためにAIFに入ったのに……」

「いくら貴女でもダメ。下がって」

 

 

――ギンッ!

 

さっき刺されたところが痛く、中々力で押し返すことができない。

 

 

このISISごと俺を撃ち抜こうとしていた。

相手は機械の量産機。狙うことに躊躇がない。

 

『マジカルシルクハット』

 

クエスチョンマークがついたハットに入れられ強制的に後退させられた。

 

『黒・魔・導・爆・裂・破!』

 

さっきと同じ巨大なエネルギー弾が放たれ何かが破壊される爆音がした。

その後、音がしなくなり戦闘が終わったのかマジカルシルクハットが消える。

ブラック・マジシャン・ガールを展開したアリスが立っていた。

 

「先輩………」

「バカ……何で来た………」

「ごめんなさい」

 

――ドスッ

 

腹に痛みを感じた俺はそのまま意識を失った。

 

 

 

 

(アリスside)

 

 

 

「おい…………」

 

気絶する先輩を抱きかかえる。

やっと、と言っては失礼ではあるが眠ってくれた。

今の先輩はずっと自分を責めていて見ていられなかったから。

 

「アリスさん、何を!?」

「今すぐ先輩を後退させて」

「ISISはどうするのですか?」

「…私がアインスを使う」

「しかしそれは……」

 

報告ではアインスは先輩しか使えない。

けど、アインスのコアはISのコアに代用できる。

なら逆にアインスを私のISに合わせることができるはず。

 

ピピッピピッ――

 

警告―ISIS接近。収納と現座標からの移動を推奨します。警告―……

 

再び遠くから2、3機のISISがこっちに向かって来ていた。

 

「皆は先輩を連れて下がって」

「ですが…」

「大丈夫。私の機体は遠距離攻撃ができるから」

 

AIFの他の皆は下がってくれた。

急いで自分のコアとアインスの接続に入る。

 

(これは……)

意外だった。まさか…。でもこれなら私もアインスで戦える。

 

「来て!レヴァ!」

 

私の体に淡橙の羽織に淡緑の装甲が展開された。

 

 

 

(ベクターside)

 

 

 

 

偵察用にしたISISからアインスとの戦闘映像が送られてくる。

 

「ち………」

 

これはかなりよからぬ展開だぜ。

あのままあのチビ女がアインスを使い続けるのはかな~りマズイ。

せっかくアイツが黙秘していたっていうのにAIFに黒川以外でもアインスが使えると公にされる可能性があるからな。

 

「仕方ねぇ」

 

外でISISの展開準備をしているオータムに回線を繋ぐ。

 

「俺だ。今すぐISISを回収しろ」

『あぁ!?テメーふざけんなよ!』

「あ?また死にてぇのかテメェ」

『ちっ……。だが全部は無理だ。広すぎる』

 

当然である。

休移動手段の速度を計算してアイツが休めないようにISISを配置しているのだ。

なら仕掛ける側もかなり重労働である。

だから俺はオータムにやらせているのだが。

 

「あぁ分かってる。だが、できるだけ多くだ。

無駄遣いはフラシドがうるせえし、他の作戦に使う」

『へいへい。わかりました』

「さて……」

 

どう殺そうか。

いや、殺せる機会はいくらでもある。

そう。例えば、たった2週間後にもな。

 

 

 

 

(優side)

 

 

 

「ん……あぁ…」

 

重い目を開ける。見えるのは見覚えのある白い天井。ここは…病院か。

 

「お目覚めかしら?」

 

顔を横に向けるとナターシャさんが横で本を読んでいた。

 

「ISISはアリスちゃんが破壊したわよ」

「……ISでか?」

「他に何があるのよ」

「……まぁそうですよね」

「アリスは?」

「アリスちゃんも隣の病室で寝ているわ。あの娘に不眠不休は堪えたのかもね」

「…………」

 

いくら遠距離機体であっても無傷で勝つことはほぼできない。

特にアリスの機体は能力故に攻撃パターンが分かりやすいのが欠点だ。

となると……。

 

適当な所から紙とペンを引き出し一筆する。

 

「起きたらそのバカにコレを渡して下さい」

「これは?」

「2週間の自宅謹慎の通知です」

 

身支度を整えてさっさと病室から出る。

 

「ねぇ優くん。貴方が全部背負い込む必要はないのよ」

「………寝言は寝てから言って下さい」

 

俺はそのまま病室を出ていった。

 

 

 

 




今回はこれで以上です。

どうでもいいことですがなんとこの『IF‐切り開かれる現在、閉ざされる未来』投稿して1年が経つとか何とか……。
途中で話を統合したり、投稿できなかった時期がありましたから話数が特別多いわけではないんですよね。

内容の薄い話の連続になるかもしれませんがこれからもよろしくお願いします。

ここまで読んで頂きありがとうございます。




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Having wounds all over one's body



皆さん、こんにちは。黒川 優です。


前回を見直して1つ(?)大事なこと忘れてました。
この世界のシールドエネルギー、絶対防御は飾りです。
弾にはそれなりに対応しますが、刺されたり切られたりすると血がドバドバ出ます。
仕方ないよね。じゃないと人が死なないんだもん。

代わりにミリータ(AIF職員などが持つ銃などを収納する端末)のPower Wallは仮面ライダー剣の畳(Turn up シュピーンって出てくるやつ)並みに硬いです。
ISと併用できないですけどね。
(併用できると試合が不公平なものになるため。
また、あくまでもISは兵器(と言うだけ言っている)ではないため。)

それでは本編をどうぞ♪ヽ(´▽`)/





(一夏side)

 

 

 

「はぁ……」

 

さっき授業でラウラと模擬戦をしたのだがぼっこぼこにされた。

先月のような優や唯さんの域にたどり着くには全然届きそうにない。

 

 

(単機がこっちに接近…?)

百式が警告を出さないということは俺の知っている機体。

上空を確認すると優は5月の時のように空からアインスを使って学園のグランドに着陸した。

 

「優。帰って来たのか」

「あぁ。やっと帰ってこれた」

 

(…………)

前、5月の時と全然違う。

なんというか、重い。暗い。

 

「丁度いい。黒川、織斑と模擬戦を行え」

「了解です」

 

千冬姉の指示通りレヴァを展開する。

単一化されて一瞬しか見えなかったがレヴァも先日までの戦いの跡が色濃く残っていた。

 

「一夏」

「なんだ優?」

「お前にISISの分解し方教えておく」

 

優は剣の形に近いアキュレスを展開する。

大空に飛翔することはなく、剣道の手合いのように向かい合う。

 

ジリ―――――

 

模擬戦であるにも関わらず息苦しさと重い緊迫感があった。

 

「よく見ろよ」

 

警告――

 

ギィ――――!!

 

火花と共に百式の胸部と腰部の装甲に横一線の削り跡ができる。

そして、最後の一閃が、アキュレスの矛先が俺の首に触れていた。

 

(マジかよ……)

あまりの出来事に嫌な汗が吹き出る。

一瞬だった。

下手をすれば自分にも刺さる槍を上手く自分の方だけ収納して、

その収納した部分から空いた手に再び展開して槍を水平回転させていた。

百式が緊急回避してくれなかったら装甲の跡だけでは済まなかったかもしれない。

 

 

スパッーン――!!

 

千冬姉が思いっきり出席簿を優の頭にぶつけた。

 

「馬鹿者。模擬戦でそんなことをするな」

「…………………」

 

いつもなら適当にボケたり笑ったりして誤魔化す優だけど、今は何も言わなかった。

 

(やっぱり振り切れたわけじゃないんだな……)

唯さんのこと。

 

「優、お前………」

「大丈夫だ」

 

どこか自分に言い聞かすようにつぶやいていた。

けれど、その暗い表情は誰がどう見ても大丈夫と言えるものではなかった。

 

「黒川、もういい。

今、山田先生が別件に取り掛かってる。お前もそっちに行け」

「了解」

 

その様子を俺だけじゃなく千冬姉も心配そうに見ていた。

 

 

 

(優side)

 

 

 

「ふー……」

 

今まで高い能力故、捕縛することができなかった。

しかし、前回に限りそうではなくIFを手に入れることができた。

なのでどれだけ時間が掛かっても分解され原型を留めていない機体を復元、解析、情報収集を行う。

 

どうやらこのスターダスト(射撃型)はレッドデーモンズの構造を真似たものらしい。

違いは威力か手数どちらかに比重を置いているか。

なるほど。だから昔は使いこなせなかったのか。

今更になってそんなことに気付くなんてな……。

 

「なんだ。まだここにいたのか」

 

学園の人間でここに入れる人は俺の他に一人しかいない。

千冬さんだ。

 

「ISISのせいで残りの仕事が滞っていたので」

「だからといってあれからずっとしろとは誰も言わん」

「今はここにいる方が気が楽なので」

 

普通に何かに対して笑ったりなんてできない。

何もかも溢れてきそうで嫌になる。だから一人でいたい。

 

「優、部屋に戻れ」

「でも…」

「解析なら私でもできる。それよりお前は少しでも寝てそのクマを取れ。いいな?」

「…はい」

 

 

 

「ふぅーー」

 

もう10月。この時期になると夜の外は寒い。

けれど、寝る分には暑さがなく心地よいだろう。

 

(寝ろと言われてもな、寝れないんだけどな…)

寝れてもこの前の出来事を、起きればその現実を思い知るだけ………。

そんなんだったら死んだり、倒れた方がまだマシだと思う。

魅力的な手段にすら感じる。

 

「……、…う、…って。……ゆう。優!」

 

振り変えるとシャルが俺の後ろに立っていた。

どうやら気付かないうちに一般のスペースにいたらしい。

 

「どうしたの?何度も声かけても返事なかったけど」

「あぁ。ちょっと……考え事してた」

 

何をまでは言わなかった。

けどシャルは何かを感じてどこか決意したかのように俺を見た。

 

「話があるの。部屋に行ってもいい?」

 

 

 

 

(シャルロットside)

 

 

 

「散らかってるけど気にしないでくれ」

 

――部屋に行っていい?

優の顔を見た時、無理だとおもったけど普通に通してくれた。

 

部屋は前、僕がいた時とは大違いだった。

あちらこちらに資料が散乱している。

まだ足の踏み場はあるけどテーブルやソファまで使える状態にはなっていなかった。

 

「で、話ってなんだ?」

 

僕をベットに、自分は床に座ってソファに寄りかかりながら僕が話すのを待ってくれていた。

何事もなかったかのように話す優は大人なのかもしれない。

けど、僕にはその姿は痛々しかった。

 

「優、どうして無理してるの?」

「別に――」

「してる」

 

優は無理をする時無表情になる。

それはきっと感情の起伏で体力を使いたくないからだと思う。

 

「ねぇ、どうして?」

「…………」

 

優は僕の言葉を無視して部屋の片付けをし始めた。

光闇の資料とスターダストやレッドデーモンズのデータ。

どれも先月のためのもの。

 

(そっか、だから優は…)

 

「優、怒らないでね」

 

優に飛び掛かる。抵抗されながらもポケットから待機状態のアインスを取り出す。そして、それをゴミ箱に投げ捨てた。

 

「シャルロット!お前!……」

 

優は憤慨したけどそれ言葉を荒げることはなかった。

僕が優を抱きしめたから。

 

優は唯さんがいなくなって死ぬほど苦しいはず。

だけど、優は泣けない。アインスだから。唯さんは敵になってしまったから。

 

でも、そんなのはあんまりだ。

戦場に出る人が涙なんて言うかもしれないけど、そんなの辛過ぎる。

 

「優、今は僕しかいないから…」

「………」

「だから、泣いてもいいよ」

「……悪い…」

 

優は静かに僕に体を預けてくれた。

 

優はきっと泣くことに慣れていない。

だから無表情になるんだと思う。

僕には弟や妹はいないけど、大切な人がいなくなる悲しみはわかる。だから――

 

「僕がそばにいてあげる」

 

いつかその悲しみが埋まるように、またいつもの優が戻ってくるように

そうねがってきゅっと少し強く抱き締めた。

 

 

 

(優side)

 

 

 

 

「……………」

 

 

「あれ……」

 

全然力が入らない。

そのままコテンと座り込んでしまった。

 

メチャクチャ腹減って力が出ない。

そういえば最後に飯食ったのいつだ?

まず学園で食った記憶がない。

となると今日は17日だから……5日位食ってないことになるかもしれない。

しかも食ったって言っても食欲ないからゼリー食で済ませていた気が……。

 

とにかく飯を食わないと……。

でも今の状態じゃ食堂に着く前に倒れてしまいそうだ。

しばらく空けてたから冷蔵庫はカラだし……。

 

「ん……?」

 

この部屋、微かに食べ物の匂いがする。

 

よく部屋を見ると書類が片付けられていて食堂の料理がテーブルに置かれていた。

キレイにラップで封をしてある。

料理がのったトレーの近くに置き手紙も置いてあった。

 

『 優へ

 

しばらく起きそうにないのでここに夕御飯を置いておきます。

電子レンジも借りたので冷めてたら温めて。

食べ終わったらちゃんと食堂に戻してね。

 

                  シャルロット』

 

 

「はぁ……」

 

(ホント…ダメな親だな……俺)

今年は文化祭とキャノンボール・ファストが平行して準備を行うからこの時期はかなり忙しいのにここまでしてくれるなんてな…。

どっちが親なのかわかったもんじゃない。

 

――チン

………パクパクパク

 

「……ご馳走様」

 

 

日付的に2日は確実に寝てたからな。やっぱり一食じゃ足らない。

とりあえず死ぬことはなさそうだ。

でもここで餓死したら学園七不思議の1つになれるかもしれない。

いや、ダイエットルームに悪用するポジティブ思考の奴がいるかもしれない。

 

シャワー室で体を洗い身支度をする。

先日の気怠い感じが嘘のように体が軽い。

本当、感謝しきれないな。お礼に何かあげないとな。

 

 

 

食堂にはチラホラと人が集まり始めていた。

皆は俺が復帰したとは知らないらしく、いつものように数人がグループになって一緒に朝食をとっていた。

 

シャル達も食堂に入ってきた。俺のことには気付いてないらしくラウラと話したまま別のテーブルへ進んでいった。

 

「あー。ゆーりん帰ってきたんだー」

「本音…」

 

相変わらずノロノロと俺のいるテーブルまで歩いてくる。

今回はいつも一緒にいる2人はいないらしい。

 

「どうしたのー?でゅっちーばかり見て」

「…そんなに見てたか?」

「うん。えっちぃーな目で――」

「嘘だな」

 

仮にも親だし…そんなことはない…はず……

思春期の女の子に思いっきり抱き着いてしまったのはマズかったかもしれないが。

 

「あら優さん。大丈夫なのですか?」

「あぁセシリア。もう大丈夫だ」

 

セシリアは食堂に入ると一直線でこっちに来てくれた。

よく気付くなぁ。遠目から見たらこの長髪のせいで周りと大差ないのに。

 

「ではシャルロットさんも呼びますか?

きっと優さんの無事な声を聞きたいでしょうし」

「あっ、いや…セシリア。それは」

「まさか…シャルロットさんと何か…」

「そんなことは断じてないから安心してくれ」

「本当ですか?」

「あぁ。命を賭けてもいい」

 

なんで子供みたいに「命賭ける」とか言ってるんだ俺。

 

「そうですか。ではその言葉を信じましょう」

「助かるよ」

「ゆーりんよゆーないねー」

「楯無の真似はやめろ。本音」

「はーい」

 

本音はニヤニヤしながらゆるーく敬礼のポーズをした。

楯無に知られるのは時間の問題だろう。

 

「優さん。もしよければどうぞ」

「ん?普通のお茶じゃない?」

「はい。ハーブティーでございます。

優さんは仕事に追われてましたからこれで少し落ち着けるかと」

「ありがとうセシリア」

 

カップを近付けるとハーブのいい香りがする。

いやこれオレンジとレモンかな。柑橘系の爽やかな香りもする。

朝から贅沢だ……。

 

噂話だとセシリアは料理全般が苦手らしからな。

きっと何度も練習したんだろうなぁ。有難い。

 

「もしセシリアがウチ来ても大丈夫そうだな」

 

そう言った途端、セシリアは立ち上がる動作とそのまま座る動作を同時に行ったせいでイスから落ちそうになった。…よくそんな器用なことできるな。

 

「ゆ、ゆゆゆゆ、優さん!?」

「だって俺にもシャルにも気を遣ってくれるし、シャルとはもう二人は押し倒すほどの仲だし。ずっと仲良くできそうだなぁって」

「………優さんはシャルロットさん中心なんですね……」

「家族だからな」

「…そうですわね。家族は大切ですものね」

 

ん?セシリアのトーンが上がったかと思ったらすぐ下がった。

どうやら何か勘違いをさせてしまったようだ。

一夏と違ってすくに誤解が解けたからいいけど。

 

「 ゆーりん。そーゆー時はー他の女の子の名前だしちゃーだめー」

「だって普通結婚したらウチに来てくれるわけだし……。

あっ。セシリア家は名家だから婿養子に入れってことか」

「全然ちがーうー」

 

その後、本音にベチベチ叩かれたり、突然批難を浴びたり散々な朝食となった。

何がいけなかったんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

(鈴side)

 

 

 

 

「贅沢な悩みだな」

 

珍しく思い悩むシャルロットから話を聞いたラウラの第一声である。

というかセシリアが聞いたら発狂するんじゃないかしら?

 

「よくそれを口にできたよね。あたしには無理だわ。さすが西洋人ね」

 

私が溜息交じりに言葉をこぼす。

それはもう呪いでも掛けるかのように虚ろな顔で。

 

シャルロットの悩みは言う分には簡潔したものだ。

 

――黒川が自分にキスをしてくれない――

 

これだけ。

そもそも普通の人間にはないものである。

普通ならシャルロットが優に挨拶のキスをしてくれないというのは贅沢な悩みだ。

しかし、二人は親子関係であり愛情表現の一つだった。

 

それが切れてしまった今、不安が広がるのは分からなくもない。

特にあの唯という女の存在が分かった今、不安は広がって止まらないのかもしれない。

 

「シャルロット。お前はどうしたいんだ?」

「……優がどう思っているのか知りたい」

「そうか。無理はするな。

相手あってのものだからな」

「うん」

 

ラウラの言葉を聞いたシャルロットは

 

「止めなくていいの?

アイツのことだから悪くは思ってないんだし、今優の心情を無理に聞くのは得策じゃないんじゃない?」

「アイツを待っても意味はないだろう」

「どうして?僕念人だから?」

「それもだが、アイツは私に似ている気がする」

 

(ラウラが…優に…?)

何の共通点が……。

広義で言えば軍関係?

それとも小さい頃から仕事をしていること?

 

「ねぇアンタって自分のこと嫌い?」

「嫁は私を認めてくれた。嫌いなわけない」

「あっそう」

 

なんで西洋人って自信持ってそう言えるのかしら……

 

「何か言ったか?」

「じゃあ自分の嫌いなところは?」

「………胸」

「まぁ…そうね。悪かったわ」

「……貴様に言われたくはない」

「謝ってるでしょ。悪かったって」

「許さない……」

 

ラウラはジリジリと歩みよってくる。

 

――乙女の悩みは山より高く谷より深い

そして逆鱗に触れた龍の如く暴れたらひとたまりもない。

 

(ったく。なんで私なのよ。

一夏でしょ普通)

とにかく……逃げる!

 

「待てぇぇぇ!鈴!」

「だーかーらー!謝ってるでしょ!」

 

 

 

 

(優side)

 

 

(んー食った食った)

久しぶりに美味しいものを食べた気がしてつい2人分食べてしまった。

あとはこの栄養が身長にいけば大満足だ。

 

「待てぇー!」

 

いつも携帯しているナイフを持ったラウラが廊下を走り回っている。

前から見る光景なので皆は道を開けてその姿を見ていた。

 

ラウラが暴走してるってことは相手は一夏か?

ひょいと音のする方を覗くと一夏ではなく鈴が走って俺の所まで来た。

 

「優!何か案出しなさい!アンタ、これに慣れてるでしょ」

「はぁ…」

 

まず何が起きてるか知らされてないし。

なんで俺が処理しなきゃアカンの。

面倒くさいからプライベートチャネルでラウラに場所教えよ。

どうせ相手はラウラだろうし。

 

「(ラウラー、鈴ここにいるぞー)」

『了解した』

「止まっている暇はないようだぞ」

 

バン!と勢いよくドアが開く。

そこには青筋を立てたラウラがこっちを見ていた。

鈴、一体何をしたんだ?俺でもここまでキレさせることはないぞ。

 

「り~ん~!」

「ならアンタも走りなさい!」

「安静にしないといけない身なので」

「あぁもう!役に立たないわね!」

 

散々言うだけ言った鈴は走って教室から出ていき、ラウラもそれを追っていった。

うん。どうやら今日も平和なようだ。

後は約束された出席簿アタックがあるだろう。

 

プルプルプルプル――

 

(ん?)

通話相手を確認する。よく見たら不在着信が山のようにあるな。

そんな大事なことあったっけ?

コホンと喉を整え電話に応答する。

 

「はい。井上で―――」

『先輩!私が自宅謹慎ってどういうことですか!』

 

耳から携帯端末を離す。

電話の相手はアリスだ。こんなに怒った声を出すのは珍しい。

というか初めてか?

 

「貴方、勝手にアインスを使ったでしょ」

『それは…』

「私より上手く使おうが条約違反に変わりないわ」

 

それにアインスは不用意に使うと体に負担がかかる。

体を休ませるという意味でもアリスに謹慎処分は必要だった。

 

「私はもう平気よ」

『………分かりました。』

「じゃあしっかり休みなさい」

『はい。失礼しました』

 

はぁ。フランスで話した時も思ったが姉妹揃って前線大好きっ娘ですか。

いつか1つの枠を取るために争いそうだなぁ。

しかもお互いがお互いの為に戦っているのがまたややこしい。

 

「優、大丈夫?大きな声が聞こえたけど」

 

あぁ俺の良心シャル。

目の前にある頭をくしゃくしゃーっと撫でる。癒される。

シャルは驚いたような嬉しいような表情をしていた。

 

「部下からの電話でな。休養として与えた謹慎に不満があったそうだ」

 

そもそも社会人って休み貰えたら喜ぶもんじゃないの?

なんで俺あんな怒られたの?ワケわからん。

 

「優ってさ、レナさんと時もだったけど上司の威厳ないよね」

「そもそも19の子供が国際組織のNo,3にいるのがおかしいんだけどな。

で、どうしたんだ?」

「えっとね……」

 

 

……………………………

…少女説明中……

…………

 

 

「それでレゾナンスに?」

「そ。文化祭に使う燕尾服とメイド服を借りに行くの」

「行ってらっしゃい」

「何言ってるの?優も行くの」

「なんで?」

「なんでって、優も燕尾服着るからだよ」

 

いや、そんな話一度も聞いてないんだけど……。

この流れだと俺らの組、喫茶店っぽいな。

 

「はぁ…そんなに僕のこと嫌い?」

「いや、そんなことはない」

「じゃあなんで僕のこと避けるのさ」

「それは…」

 

この前のことがあったからなんとなく気恥ずかしいのだ。

 

(なんて言えないよな……)

つくづく思うが、俺とシャルロットって肩書きと立ち位置が逆だよな。

嫌いでもないのに娘を避ける父親なんて普通はいない。

 

「もう。一夏もいるからちゃんと一時間後に正門前に来てね」

 

それだけ言うとパタパタと歩いて行ってしまった。

 

(んー…。やっぱりちょっと怒ってるよな……)

でもシャルにこの親心(?)を理解してくれっていうのも無理な話だし。

まぁまずは着替えよう。それから考えるか。

 

 

 






え?ハーブティーを作るのに練習も何もあるかって?
考えてみて下さい。あのセシリアさんですよ。
ビットで料理したり、まるで絵具のように調味料を使う人ですよ?

きっとハーブをミキサーで混ぜて投入したり、白ワインを使いだしたり……。
きっと素晴らしい毒薬を作ることでしょう。

セシリア「表現に悪意がありますわ。
ですが!今のわたくしは一夏さんの教えを得て料理の基本を身に付けましたわ!」

鈴にズバッて言われて泣きましたけどね。

セシリア「なぜそれを言うのですか!」

ボツにした(内容を話さないとは言ってない)から。


それではまた。
次は運びがキレイに進むよう頑張ります。
ここまで読んでいただきありがとうございました。





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Sweet love? Bitter love?

皆さん、こんにちは。作者こと黒川 優です。


前回のまとめ

次回予告無視
初投稿から一年後にIFシリーズの基礎設定を報告

霊夢「これはひどい」

別に現代を舞台にしてもいいんですけどねぇ…。
(実際に作成初期は現代を舞台で書いてました)
これからもなかなか本編では書ききれない設定を書こうと思います。

それでは本編をどうぞ。




(シャルロットside―レゾナンス)

 

 

 

 

「……………」

「……………」

 

(気まずい………)

いや、無理やり連れてきたのは僕だけど何か気まずい。

 

(やっぱりごみ箱に投げたのは不味かったかな………)

いくら優のためとは言え、仕事道具を乱雑に扱ったことを怒られてもおかしくないし……。

一夏の話だとあの後探し回ったらしいし……。

 

「手、繋ぐか?」

「え?」

 

優の手と顔を交互に見て今言われた言葉を噛み砕こうとする。

 

「前よく言ってたじゃん。『手繋ぎたい』って」

「僕のこと、嫌いじゃなかったの?」

「だから違うって言っただろ」

「ホント?」

「ホント」

 

優の腕に飛び付く。がすぐにデコピンされた。

 

「きゃん!?」

「だからってそんな胸を当てるような腕の組み方をするな」

「えへへへ」

 

そんなことなんて気にせず手を繋いで優と一緒に歩いていく。

 

優は気付いてくれたかな?

前と違って恋人繋ぎしてるのに。

わかってくれたら嬉しいな。

 

「ん?どうした?」

「ううん。なんでもない」

 

僕は優にニコっと笑った。

 

 

 

(一夏side)

 

 

 

「なぁラウラ、あの二人普通に仲良いじゃん」

「そうだな」

 

二人の様子を後ろからそっと覗いてみる。

 

行く前までは二人の様子(正確には優の様子)がおかしいとか何とか言ってたが、あの二人を見る限り杞憂で終わったらしい。

 

「……………」

「ん?どうした?」

「…私も手を繋ぎたい……」

 

なぜそんな切実そうなのだろうか?

 

(……あっそうか)

ラウラにはその相手がいなかったのか。

なら俺でいいなら叶えてあげたい。

 

「いいぞ」

「本当か!?」

「おう」

 

ラウラの表情は花が咲いたかのように晴れ笑顔になった。

 

 

 

 

 

 

「シャル、後ろ見てみろよ」

 

目に入ったのは一夏とラウラが手を握っている姿だった。

 

「おおーラウラ積極的」

「でも、心の中で思ってることは違うんだろうな」

「ホント二人共ね」

「そうだな」

「優、勘違いしてるのに納得しない」

「?」

「はぁ…」

 

自分の道のりの長さを改めて知ったシャルロットだった。

 

 

 

(一夏side―@クルーズ)

 

 

 

 

「こんにちは。店長さんをお願いしてもいいですか?」

「店長の言ってた金髪執事さんね。今、呼んでくるわ」

「金髪執事?」

「いや、何でもないよ!?何でもない!」

 

シャルロットは優の前で手をぶんぶん振って否定していた。

けど、あれじゃ何かあるって言ってるようなものだな。

 

(ん?金髪執事……@クルーズ………)

 

「……銀髪メイド」

 

見事なボディブローが飛び出るが、ラウラの性格上反応するとき手が出るのは分かっていたので上手く抑える。

 

「いきなり何を言う!?」

「夏の強盗事件を解決したのラウラとシャルロットのことだったんだな」

「…………」

「何で今まで隠してたんだよ。別に隠すことじゃないだろ?」

「それは、そうだが……」

 

何か言っているようだがまごまごして答えてくれなかった。

 

 

「お久しぶりね。……その状態でくるのは私への当て付けかしら?」

 

店長さんがジトっした目で俺達を見る。

手を繋いだままだったからか。

 

「壁殴ります?」

「先にあなたを殴りたくなったわ」

「ははは……おっと。ホントに殴りに来ます?」

 

優はしっかり店長の拳を捉えてい追撃を避けた。

 

「なんかイラッとしたから」

 

(今の台詞は火に油を注ぐようなものだったからな……)

よくそんなこと言えるよなホント。

まぁ優が本気で恐れるのは千冬姉くらいか。

 

「では改めて。私が@クルーズレゾナンス支店長、十六夜 咲夜よ。

よろしくね」

 

髪型は銀髪のボブカットで今の時代には珍しく、もみあげ辺りから三つ編みを結っている。 髪の先に緑色のリボンを付けている。

従業員とは違い青と白の二つの色のメイド服を着ており、頭にはカチューシャを付けている。

 

なんだろう。千冬姉とは違う感じで『できる女』を具現化したような人だ。

きっとプライベートでも瀟洒な振る舞いをするだろう。

 

「「「「よろしくお願いします」」」」

「はいはい。まず男の子ね。

これに着替えてくれないかしら?男性の更衣室はあっちね。

荷物は空いてるロッカーに入れていいわ。

着替え終わったら戻ってきてちょうだい」

 

更衣室で渡されたものを広げると燕尾服だった。

ラウラが言うから冗談かと思ったが思った以上しっかりしたものだった。

 

 

「着替え終わりました」

「一夏君だっけ。やっぱり背が高くてカッコイイだけあるね。

よく似合ってるわ」

「ありがとうございます」

 

お世辞でも似合うと言ってくれるのは嬉しい。

 

いきなり手の甲をつねられた。

 

「つっ!なんだよ」

「ふん」

 

つねったラウラ本人はツンとそっぽを向いてしまった。

なんでそうお前が怒るんだ?しかも褒められたのに。

 

後ろからカーテンが開く音がした。

 

「着替え終わりました」

「「「……………」」」

「……似合わないわねぇー」

 

俺達が絶句してる中、咲夜さんがかろうじて優の姿に一言漏らした。

というのも今の優は“無理して男装した”ようにしか見えないからだ。

 

「いやいや。一夏よりはってのは無理って分かってるけど、そんな絶句するほどじゃないでしょ」

「いや、……ラウラちゃん鏡で見せてあげて」

「はい」

 

ラウラが持ってきた鏡を見ると似合ってないことに気付いたみたいだ。

でも、男として認めたくはないらしい。

 

「正直、後でメイド服にさせようかと思ってたけど貴方は最初からメイド服の方が良いわね」

「そんな……」

 

ちゃっかりオーディンの瞳を使って打開策を探しているが、優が何も言わない辺り、全知全能の眼も「無理」と判断したらしい。

 

「シャル、この姿でも大丈夫だよな?」

「流石に髪が長過ぎるかな…」

 

ラウラより少し背がある分、優の方が髪が長いかもしれない。

優も俺くらい背が高ければ話は別だったかもな。

 

「シャルまで……」

 

シャルロットの言葉が一番効いたのか、その場でがっくり膝をついてしまった。

 

「残念だけど貴方はメイド服。

シャルロットちゃん、悪いけどまた燕尾服着てくれる?」

「あっ、はい……」

「はい……」

 

優はガックリ肩を落として更衣室に戻っていった。

 

 

 

―――おまけ

(一夏side)

 

 

「このダーツ盤みたいなのなんですか?」

「あぁ。これナイフ投げの盤よ?」

「え?」

 

ダーツじゃないのか……。

 

「お嬢…いえ、社長が言うにはメイド力はナイフ投げの上手さに比例するらしいわ。

試しにやってみる?」

「はい」

 

盤からナイフを持ってきてくれた。

 

「ナイフっていっても刃物じゃないから安心して」

 

それなら変な所にいっても平気だな……。

 

―シュ

――キィン

 

投げたナイフは盤に弾かれてしまい液晶画面に大きく“0”と表示された。

 

「あれ?」

「まぁメイド力だからね。男の子はこれが普通の結果よ」

「なるほど」

 

刺さっちゃったらおかしいもんな。

 

「お疲れラウラ。やってみるか?」

「なんだそれは?」

「ナイフ投げでわかるメイド力判定だと」

「ふっ。任せろ」

 

―サクッ

 

投げたナイフは真っすぐ刺さり画面に“85”と表示された。

 

「おぉ~。流石だな」

「当然だ。ナイフに関することでは私は無敵だ」

「あら。軍人だったの。通りで初めての割に慣れた手つきしてるわけね」

「シャルロットもどうだ?」

「うん。やってみるよ」

 

―サクッ

 

シャルロットの投げたナイフもキレイに刺さり“76”と表示された。

不慣れでもあそこまでいくのか。咲夜さんが言ってたのは本当なんだな。

 

「優もしてみる?」

「………」

「大丈夫だよ。メイド力判定だから。ね?」

「まぁ。そうだよな」

 

―サクッ

 

「「「あれ?」」」

 

ナイフはキレイに盤に刺さりデカデカと“82”と表示された。

 

「貴方……男装してるの?」

「いや。正真正銘男です」

 

千冬姉の話だと男性恐怖症の人に嫌悪感を示さなかったようだけど。

体の構造は俺と同じである。

 

「仕事に困ったらウチに来なさい。優遇してあげるわ」

「もう職に就いてます……」

「あら?それは残念ね」

 

 

 

(シャルロットside)

 

 

 

「……………ぐすっ」

「優、大丈夫だって。髪の毛短くすれば似合うんだから」

 

接客中は仕草とか声とか本当の女の子のように振る舞ってたから割り切ったのかと思ったけど、休憩室にいる時死んだように横になっていた。

一生懸命仕事した分、男としてのプライドを傷付けてしまったみたい。

それにメイド力判定の結果が良かったダメ出しで心にきちゃったみたい。

余りにも可哀想だったので咲夜さんも午後は厨房中心の仕事に変えてあげていた。

 

「あれ?あそこにあるのなんだ?」

 

一夏が指差したのは前、夏休みラウラと行った公園に止まっている車。

つまり―――

 

「クレープ屋さんだ!行こ!」

「ちょ!?シャル!」

 

手を繋いでた優を引っ張ってグレープ屋さんへ急ぐ。

 

「ストロベリーとブルーベリー下さい!」

「おぉ。嬢ちゃん久しぶりだな!」

「決まりなのか?」

「うん。絶対これ!」

「ほいよ嬢ちゃん。幸せにな」

「はい!」

「?」

 

優は僕達が何を言っているのか分からないままベンチに座る。

 

「はいあーーん」

「んーーん?」

 

優は僕が伸ばしたクレープをぱくっと食べた。

 

「ふふっ。美味しい?」

「ん?」

「優のも頂戴」

「あ、あぁ」

 

優もクレープを差し出してくれて2人でミックスベリーを食べる。

初めての間接キス。

嬉しさでどうにかなりそうだけどここは我慢ガマン。

 

「おいしい。違うクレープを一緒に食べるのがこんなにうまいと思わなかった」

 

優はミックスベリーをモグモグ食べる。

やっぱり甘いものは人を幸せにしてくれる。

 

「でも、なんで知ってたんだ?メニューにはなかったし。店長が教えてくれたのか?」

「それはヒ・ミ・ツ」

 

僕はミックスベリーのおまじないは伝えずにウインクした。

 

 

(シャルロットside)

 

 

 

 

クレープで心が満たされた優は

 

 

「あれ?ラウラと行かなくていいのか?」

「優の部屋広いから1回置いて欲しいんだ」

「まぁいいけど。

「大変なんだよ。あのクローゼットに荷物全部入れるの」

 

僕の服が多くて空きが少ないのも原因なんだけどね。

優は「いや、だって……」って顔をしている。

 

「ラウラは軍服しかないから、とか思ってるでしょ」

「思ってる」

 

夏休みの時、軍服で買い物に行こうとするくらいだから否定はできない。

お金はいっぱい持ってるのにねぇ…ラウラ。

 

「洋服は少ないけど代わりにナイフとか砥石とか非常時用携帯食料、無線、バッテリーとか一杯あって部屋の収納から溢れはじめてるんだよ」

 

学園にはちゃんと非常用に貯蔵してるって言っても

―地下シェルターが占領されたらどうする?

―対応に追われる私がそこに行けるわけがない。

―多くあって困るものではない。

などなど、全然取り合ってくれない。

それが強ち事実なのがまた言い返せない。

 

「まぁすぐ返すし、いいか。

クローゼットに入れていいよ」

「ありがと」

 

クローゼットを開けメイド服を入れるついでに中を整理する。

時々思うけど優の服ってボーイッシュを思わせる服が多いんだろ?

 

「優なら僕の着てもいいよ」

「勘弁してくれ……。もうあんな思いはこりごりだ」

 

用件が済んだので優は僕を見送るために玄関へ歩き出した。

 

(何も…してくれない……)

前はしてくれたのに……。

 

優を思いっ切り後ろに引っ張りベッドに寝かせ、間髪入れずにその上に乗り押さえつけた。

 

「シャル!?」

「……優。優は僕のこと嫌い?」

「どうしたいきなり」

「だって前はおやすみの時、どんなに遅い日でも疲れてる日でもキスをしてくれた。

なのに…最近は夜会ってもしてくれない。

優は僕のこと嫌いになった…?」

 

ずっと胸の中で思っていたことを口にする。

唯さんは僕も大事にしてるって言ってくれたけど、どうしても割り切ることができなかった。

 

「悪いなシャル。そんな風に思ってたなんて考えもしてなかった」

「うん……」

 

優、それが普通だよ。

でも僕は考えて欲しい。娘としてではなく1人の女性として。

 

「シャルのせいじゃないんだ。

ただちょっとだけ、ちょっとだけ、前と同じようにするのが気恥ずかしくなったんだ」

 

優はすこしだけ顔を背けてそう言ってくれる。

それって、僕を意識してくれてるってこと?

 

止まらない。優の気持ちを確かめたいって想いが。

 

「優。キス…して。してくれないなら僕からする」

「シャル……」

 

両手で優の頬を包み、唇に重ね

 

――ちゅ

 

ようと思っていた。

けど先に頬にキスをされた。

 

「優………」

「シャル。それは本当に好きな人にしなさい」

「でも……」

「間違っても俺にしてはいけないよ。

どんな理由でも娘を置いていってしまう俺には」

「…やだ。僕は優がいいの……」

 

それがどんな歪んだものでも僕には優にしかいないの…。

他の人とか考えられないの。

 

「やだ。やだやだ。やだぁ……」

 

おもむろに優に抱き付く。

優はきっと困った顔をしているかもしれない。

 

「シャル、俺はお前のことは嫌ってなんかいない。

お前を唯の代わりとも思ってない。だから安心して」

 

優は僕の頭を優しく撫でてくれた。

 

「送るよ」

「…うん」

 

優は手を差し伸べてくれた。

その手を握って隣を歩く。

 

「ごめん…優」

「いいって。俺の方こそゴメンな。おやすみ」

 

そっと前のように頬にキスをしてくれた。

 

「うん。おやすみ」

 

あぁ、僕はなんて我儘なんだろう。

優は僕の気持ちを汲み取ってくれたのに“嬉しいけど嬉しくない”そう思ってしまう。

この胸の切なさが消えることもない。

 

「つらいなぁ……恋愛って」

 

遠く離れていく優を見ながら自虐気味にそう呟いた。

 

 

 

(楯無side)

 

 

「はぁ~……」

 

目の前の書類の山を虚ろな目で見つめる。

まったく誰かさんが文化祭とキャノンボール・ファストの準備期間を被せるせいで生徒会室に缶詰状態である。

 

―コンコン

 

「はい。どうぞ」

 

噂をすればこの事態を引き起こした張本人が入ってきた。

 

「あらどうしたのかしら?」

「虚さんいる?」

「私に話したっていいじゃない」

「お前だと茶化すから」

「それは私への宣戦布告と見ていいのかしら?」

 

私だって内容しだいではまともなこと言うわよ。

けど、それじゃつまらないので去年の写真をチラッと見せる。

ネコミミフードを被った今の優くんには考えられない姿である。

 

絶賛発売中でコアなファンは必ず持っており、限定会員は寝顔が納められた写真も持っている。

(なぜ限定会員だけかというとこの写真は表に出ると取り合いが始まるから)

しかし本人はそんなこと知らないのでこれで何でもできる。

 

優くんは私をジト目で見て重い口を開けてくれた。

 

「ふーん。そういうこと。

良いじゃない。全部受け止めてあげれば」

「あのなぁ俺は親なの。

いくら願いを叶えさせてあげたくてもそれは無理ってことは分かるだろ」

「何とかなるわよ」

「何を根拠に」

「女の勘よ」

 

それを聞いた瞬間、優くんは露骨に嫌な顔をした。

確かに貴方は勘って言葉が嫌いらしいけどそんな顔しなくたっていいじゃない。

養子解消すればいいんだし。

 

「天下のアインス様の情報は流出しないんだから手出してもいいんじゃない?

親子って言っても他人なんだから」

「やっぱりお前に相談したのは間違いだった」

 

流石にふざけ過ぎたのか優くんはくるっとドアへ向かい部屋を出て行った。

 

「優くん」

「なに?」

「貴方が尽力してくれたこと、シャルロットちゃんは絶対分かってくれるわ。だから上手くやっていけるわよ。ずっと」

「……そりゃどうも」

 

優くんは一瞬驚いた顔をしたけど、ぶっきらぼうな声を返して部屋から出ていった。

 

「いいなぁ~」

 

本来なら距離を取って冷たく接するのにああやって相談しに回って彼女の気持ちを尊重しようとしてるんだからホント大切にされてる。

私にもあんな人できるのかな~。

 

「ではお見合いでもしますか?」

「虚!いつから」

「会長が恋をしたそうな声を漏らした時から」

 

虚はニコニコしながら私を見る。

虚もお父様も私に見合いをさせようと躍起になっているのだ。

 

「それでどうしますか?」

「私にペコペコ頭を下げる人と付き合いたくありませんよーだ」

 

顔色を伺う人と居たって詰まらない。

いーとして困った顔をしている虚にプイッと顔を背けた。

 

 

 

 




シャルロットは若干ヤンデレが入ってもいいんじゃないかな。
原作でも「嘘付いたらクラスター爆弾のーます」とか言ってるし。

ユベル「なら僕がその神髄を――」

やめて下さい。本当に手に負えなくなります。
(なんで18時に放送されたんですか)

楯無さんは俺様系の人と付き合わせて振り回されるのもいいかもしれない。
明日パーティードレスを着なきゃいけないのに首筋にキスマーク付けられたらどんな反応するのかなぁ。

――コンコンコンキュピーン

うん。いい。

魔理沙「変態め」
霊夢「恋愛小説に毒されてるんじゃない」

否定はしない。
ラッキースケベ的な展開よりそっちの方が良いではないか(開き直り)

次回は学園祭。
優のメイド姿をもう一度お楽しみ下さい。

優「――!?」

ここまで読んで頂きありがとうございます。



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School Festival―Approach Operation

皆さん、こんにちは。黒川 優です。

前回のあらすじ

私の個人的な考えと妄想が若干暴走した。そして色々捗った。
あとやはり私にこの手の話を書くのは苦手だと感じた。
(前話投稿が遅れた理由の1つですね)

魔「ちょっと待て。これは元々ラノベだぞ」
知らん。
魔「おい」
本来なら茶番無しで殺伐した感じにしたかった。
おかげで優が幸薄い人になってない。
魔「(唯殺しといて…)セシリアとシャルロットが取り合いをしてる時点でそれは無理だ」
(否定できない…)……後でフレーバー程度に優のキャラ説明をしよう。うん。
魔「(あっ逃げたな)じゃあ本編へいくぜ。どうぞ♪ヽ(´▽`)/」





(シャルロットside―IS学園寮)

 

 

 

――コンコン

 

「ゆーうー、起きてるー?」

「あぁ、今出る」

「か、髪切ったんだね」

 

見とれていたことを隠したくて何とか言葉を紡ぐ。

出てきた優は長かった髪を切り、甘い顔をした男の子みたいな感じになっていた。

 

「あぁ。流石にここまで切れば今の格好に合うと思ってな。シャルも似合ってるなメイド服」

「ホント?衣斐服よりも?」

「もちろん。メイド服の方がかわいい」

「かっ、かわいい…」

 

そんなストレートに言われると思わなかった。

顔が一気に赤くなるのが触らなくても分かる。

 

「さぁ、早く行くぞ」

「あっ!待ってよ優!」

 

 

 

(オータムside―IS学園内)

 

 

 

「ったく、うるせーな」

 

隣にいる金髪の青年、ベクターはこの雰囲気をかなり不快に感じていた。

 

「なぁベクター、騒ぎを起こす前に訓練機にされているISを破壊する方が穏便にいくんじゃないか?」

「バカかオメーは」

「あっ!?――」

 

何だとごらぁ!と言おうとしたが、私の声はベクターによって止められた。

 

「そんな大声で騒いだら怪しまれるだろーが」

「ちっ……」

 

「こういう時は非常時戦闘員になっているヤツがIS常備してるんだよ。

当然相互連絡できるシステムも持っている。そんな状態で戦闘しても意味ねぇだろ」

「でも、それならこれからすることに対しても向こうの対応も早いだろ?」

「向こうは足枷を着けて今日を迎えてるんだ。それを使わない手はないだろ」

 

先月のことといい、今回のことといい、ベクターという男は悪だくみに関しては右に出るものはいないと思う。

(噂では直接手を下さず内部情報撹乱と信頼関係の崩壊で敵対組織を壊滅させたことがあるらしい)

それでいて見た目はともかく態度も好青年のように振る舞うことができるというのだからタチが悪い。

 

まぁどうせ私は自分の意志ではどうしようもないので両手を上げて手をひらひらさせる。

 

「はいはい。お好きにどうぞ」

「もとからそのつもりだ」

 

ベクターは黒い笑みを浮かべていた。

 

「さぁ、よからぬことを始めようか」

 

 

 

(セシリアside)

 

 

 

「優さん、こちらです」

 

私が手を振ると優さんも手を振って来てくれた。

いつも違って短髪なんですね。それはそれで似合ってますね。

これは一度でも写真に収めたいですね。

 

「突然無理を言ってすいません」

 

前日、それも就寝前にお願いしたのだ。

失礼な訪問ながら優さんは笑って了承して下さいました。

そういえばその時はまだ髪は長かったですね。自分で切ったのでしょうか?

 

「別にいいよ。そう知り合いがいるわけじゃないから一人になりやすいし」

「そうなのですか?」

「留年者って悲しい目で見られるんだよ…」

「ではその分私達と一緒にいましょう」

「あぁ。――!?」

 

優さんは何かに反応して二度見をしていた。

 

「優さん、どうかしましたか?」

「いや、何でもないよ」

 

そうは言うものの優さんは珍しく動揺しているようにも見えた。

 

「気になるなら行きましょう」

「でも、そしたら時間が……」

「このまま分からずモヤモヤするよりいいのではないでしょうか?」

「でも…」

「私は逃げませんよ」

「……ごめん。ちょっと行ってくる」

 

 

………………………………………

………………………………

………………………

 

 

「どうでしたか?」

 

わたくし達は休憩も兼ねて2年生のドーナツ屋さんで一休みしていた。

服装が服装なだけに周りの人は私達を見てますね。

私的にはこの上なく嬉しいですが。

 

「見逃した。悪いな。せっかく時間割いてくれたのに」

「構いませんわ。もしよければどんな方か教えてくれませんか?」

「……………」

 

(やっぱり亡国機業のことは気にしてるんですね…)

けど、どこで産まれたなんてわたくし達ではどうしようもない。

それで優さんを追及するのはお門違いに他ならない。

だから、わたくしはこうつけ加えた。

 

「世間ではなく、優さんの価値観で」

「昔の友達だよ。俺とソイツともう一人は不真面目でな、いっつも先生に怒られてた。

まぁ仕方ない。俺はその時にはオーディンの瞳を持っていたし、神童とも言われてたりした。

小学生レベルの問題なんて朝飯前。高校生レベルの問題も夕飯前だったかもしれない。

ISが世間に発表されるまではそんな感じでワイワイやってた気がする」

「そうだったのですね」

 

席を立って話を区切る。

これ以降を聞くのは私も辛いですね。

IS狩りもありましたし……。

 

「それで、どこに行きたいんだ?」

「そうですね……」

 

その友人を探すことがなければ別の所に行こうと思ってましたがあそこはここから遠くて移動だけでせっかくの時間がなくなってしまいますし。

 

「優さん、あそこはどうですか?」

 

わたくしが指差したのは最上階の端に置かれる部屋、音楽室。

 

「吹奏楽?何してたっけ?」

「たしか――」

「それはそれは吹奏楽の定番、楽器の演奏体験ですよー!」

「「――!?」」

 

後ろからひょこと誰かが首を伸ばしてきた。

 

「おやおや!噂の絶えない酉花ちゃん。それに機体持ちの期待の新人のセシリアちゃん」

「酉花ちゃん?」

「(後で話すよ)」

「?」

「これはこれは、ムフフ。それでは2名様ごあんなーい!」

 

私と優さんは何の抵抗もできないままズルズルと先輩に引っ張られた。

 

「それで酉花ちゃんとは?」

「去年の俺の名前。男だと目立つから女装してたんだけどねぇ…。誰かさんのせいで……」

 

(あぁ…更識会長ですね)

あの人、見た目と家系に反して自分の知らないことによく首突っ込みますよね。

しかもその後一年同室だったなんてうらやま…けしからんですわ。

 

「良かったではありませんか。一夏さんもいてくれたことで優さんは優さんとして生きれているのですから」

 

わたくしとしては黒川 優という殿方に出会えて本当に良かった。

できればその秘密はわたくしだけが知っていたらロマンチックなのですが…。

 

「あらあら。随分熱い密談をするのね。私の前でするなんて大胆過ぎない?」

「そう思うなら覗いてないで楽器持ってきて下さいよ」

「怒らない怒らない。

なにしろ今回、ウチの出し物は準備室にあるからね。さぁご覧あれ!」

「おぉ……」

「素晴らしいですわ」

「でしょでしょ?琴など昔のから現代の人気者エレキギターやベースまで!

何でも揃ってるよ。もし奏でたい楽器があったら入部してね♪」

 

ウィーン以外でここまで多くの楽器を揃えるとは……。

学園の生徒だけしか使えないのは勿体ないですわね。

 

「さぁさぁ。何がいい?

吹奏楽と言ったらトランペットかな?

酉花ちゃんは男の子だしドラムとか一回してみたいとかあるのかな?」

「う~ん…。セシリア何がいい?

いっぱいあって何にすべきか分からない」

「そうですね。優さんはどんなジャンルのものを演奏したいですか?」

「ん~ジャズとか?渋くてカッコよさそう」

「では、先輩。サックスをお願いします」

「はいはーい。そうだね。サックスはⅢ世のが有名かな。

テンポも調節しやすいしソロでもできる」

「なんですかそのⅢ世とは?」

「有名な盗人だよ。セシリアちゃんの国でも映画上映するくらい人気じゃないかな?」

 

あっ。実在する方ではないのですね。

 

「はいはい。アルトサックス。ついでレクチャーすると大体アルト、テナー、バリトン、ソプラノがあってソプラノのは真っすぐなやつもあるね」

 

先輩は私達にサックスを渡す。

やはりバイオリンに比べると重いですわね。

 

「で、念のため聞くけどお二人共経験は?」

「ない」

「わたくしも管楽器は……」

「了解了解。それじゃあ譜面に沿って一から説明しようか。

これがミ。これがファ。またミ。これがソ。これがラ。ラ……」

 

 

「よしよし。じゃあここまで弾いてみようか。

ミファミソーラファミー。ミ……」

「♪♪♪♪♪~」

 

一通り弾き終わると優さんはキラキラした顔をしていた。

それはもう子供のように。

わたくしもこの気持ちを忘れてはいけないですね。

 

「はいはい。残念だけど演奏体験はこれで終わり。

もう一度弾きたいならまた並ぶかウチに入ってね。入部大歓迎だよ」

 

待機場所兼二年の出し物になっている音楽室に戻された。

そこでは吹奏楽の体験会の順番待ちの人で賑わっていた。

先輩が客引きしてくれたのは幸運だったのかもしれませんね。

 

そして、ここ音楽室には必ずある楽器があった。

 

「なぁセシリア。サックスの譜面でも弾けるかな?」

「弾きますよ。ただハ長調の部分しか弾けませんが」

 

優さんは勝手にピアノのカバーを開け、軽く音を奏でる。

その指の動きは演奏経験のある人の独特のものだった。

 

「ご自宅にあるのですか?」

「前、弾きたいものがあって教えて貰ったけどサッパリだった。

ホントに才能云々を言うものなんだなって痛感したよ」

「優さんにもできないことってあるのですね」

「できないことだらけだよ。

洗濯機の使い方とかダメだったな。

見事に壊して一夏に怒られた」

 

ふふふっ。

優さんはもっと大人のイメージがありましたが意外とお茶目ですね。

 

「その弾けなかったという曲、教えて下さりませんか?」

「いいのか?」

「はい。せっかく目の前にピアノがあるのですから」

「じゃあコレを頼む」

「あら?聞かない名前の曲ですね」

「B級ものって思ってくれればいいよ。これ譜面」

 

(魔法使いの夜?)

譜面を見る限りはメロスピ系に近い曲であることが分かりますね。

優さんがこのタイプの曲を聞くとは意外。

優さんの知らない一面を知ることができる。それも楽しい。

 

「では、弾きますね」

 

―♪♪♪

低音で疾走し始め、転調しつつもその疾走感を保っているメロディ。

魔法使いという割にはアグレッシブですね。

新鮮で弾いているこっちも楽しい。

 

―パチパチパチパチ

弾き終えると優さんだけではなく音楽室にいた皆さんからも拍手を貰った。

 

「セシリア、もう1回。もう1回頼む」

 

自分の聞きたかった曲を生で聞けたのが嬉しいのか、優さんは目を輝かせていた。

その姿につい、くすっと笑ってしまった。

 

「セシリア?」

「いえ。酉花ちゃんに子供らしい1面があるとは思わなかったので」

「年上にそう言うなよ…」

「ふふっ。可愛いところも素敵ですよ」

 

わたくしが微笑むと優さんは照れ隠しにそっぽを向いた。

 

 

 

(箒side)

 

 

いつもは着ないタイプの服にどうもソワソワして仕方がない。

一夏が燕尾服を着るということもあって勢いで接客係になったが他の女子にも褒めてくれたし、たぶん一夏も悪くは言わないだろう。

あとはあの軍人ウサギからどう一歩踏み出すべきか……。

 

「優さんお久し振りです」

 

後ろを振り返るとそこには赤髪の少女が立っていた。

私に比べると少し幼いか…?

私の顔と分かると彼女は困惑した表情をしていた。

 

「あ、すいません……。知り合いに似ていたもので…」

 

(この人もか……)

――私と優が似ている。

男女や生まれの違いから直接そう言われないが今の彼女のように間違う人が少ないわけではない。

嫌でも思わされる。私と優では“差”が大きすぎる。

優の前では私の存在など…消えてしまいそうだ。

 

「優…。お前、一夏の知り合いか?」

「あ、はい…。あそこにいる赤髪の男が同級生で、私はその妹です」

 

少女が指差す先には一夏と同じ背の赤髪の男子が立っていた。

確かに私達と年が近い気がする。

 

(ふぅ……)

心の中で一旦深呼吸して落ち着かせる。

気にしたって容姿は本人の意志では仕方のないことだ。

それを私がどうこう言うことはできない。

もっとポジティブに。私だって努力すれば優のようになれる。

そう思おう。せっかくの文化祭をこんなことでふいにしたくない。

 

「そうか。一夏も喜ぶだろう。付いてきてくれ。案内する」

「はい!お願いします!」

 

 

 

(弾side)

 

 

 

「はぁ……」

 

俺達を案内してくれた人も美女。教室前で客引きしている娘も美女。

そして、メイド姿で奉仕してくれる娘も美女。

なんだここ?夢の世界か?アイドルグループでもこうはならないだろ。

そこに……

 

「蘭ちゃん、久しぶり」

「優さんお久し振りです!」

 

コイツらはいるんだよな。

俺は「リア充爆発しろ」とは言わないがコイツらには言われても文句は言えないと思う。

 

「(蘭ちゃん、一夏に『執事にご褒美セット』頼みな。一夏が良いことしてくれるよ)」

「(どんなのですか?)」

「(それはお楽しみに)」

 

(はぁ……)

俺的には一夏より優といてくれた方が安心なんだけどコイツは人の気持ちを察知しちまうからなぁ。蘭の気持ちを尊重して自分は引いてる。

 

「なぁ弾。俺はこれから休憩だから一緒に回ろうぜ。

(お前のタイプの人と思われる人紹介するよ)」

 

後ろの言葉をこっそり俺に伝えてくる。

これも目の前で妹の色恋沙汰を見せないように俺ら兄妹に配慮してる。

どうやったら2歳差でこうなるんだよ。

絶対俺はこんな風になれないわ。

 

「あぁそうだな。蘭、俺は優と回るわ。何かあったらメールなり何なりしてくれ」

「りょーかーい」

 

優は燕尾服のまま裏側から出てきた。

どうやら休憩と言っても短時間らしい。

 

「なぁ優。お前さ、さっきの美人メイドさんと似てないか?」

「…すまん。誰のことを言ってる?」

「あぁ…すまん」

 

そういえばここ美人揃いだったな。美人だけじゃ誰かわからねぇ。

 

「あれだよ。ちょっと気が強そうだけど大和撫子って感じのやつ」

「箒か」

「そうそう!俺達を案内してくれた女子」

 

俺がそう言うと優は苦笑いした。

もしかして、俺意外の奴も言ってるのか?

 

「箒はどこの生まれか分からない俺と違ってちゃんとした家柄の娘だよ」

「けど、いつもの髪の長いお前があの娘みたいに結ったらかなり似てると思うぞ。

身長もお前が低いせいで近いし」

「だとしても他人の空似ってやつだよ。さっ、ここだ」

 

「あっ、黒川くんだ!」

「友達も一緒だ!」

「えっ、ウソ!」

「どこどこ!?あっホントだ!」

 

教室に入った途端クラスの皆が俺達を見てきた。

ホント男子ってだけでここでは目立つな。

 

「ほら一歩前」

 

バンっと後ろから背中を叩かれて俺は前に出る。

 

「初めまして!」

「きゃー!かっこいい!」

「織斑君とは違うカッコよさが」

「アンタ……弾?」

 

俺を呼ぶ声がしたと思うといくらか背の低い女子がいた。

目の前に真っ赤なチャイナドレスの、しかも一枚布のスカートタイプ。

スリットが深く入っていて大胆だ。

シニョンもしてあって本場の人に見えると思う。俺は本場の人の知らないけど。

 

「……誰だ?」

 

――バン!

 

俺の顔はトレーか何かがめり込んでいた。

そういえば前、一夏のことでからかったら同じことをされたわ。

 

「てめ……鈴だな…」

「久々にあった幼馴染みにその態度はなによ」

「悪かったって」

 

文化祭でチャイナドレス着ているとはいえ、1、2年でここまで変わるとは思わなかったんだよ。

 

「まぁいいわ。席空いてるから座りなさい」

「サンキュ」

 

俺は裏方の部屋に近いテーブルに案内された。

鈴も注文したものを持って向かいに座った。

 

「で?一夏とはどうなんだ?」

「別に。ふつーよ。相変わらずハーレムを量産してるわ」

「そうじゃなくて。進展はあったのかって話だよ」

「ふつーに友達としてやってるわ」

 

(やっぱりか…)

親父さんとおばさんが離婚したことまだ引きずってるな。

 

「鈴、お前はお前だ。アイツは気にしないと思うぞ」

「そのためだけに近づくのも失礼でしょ」

「まぁそうだけどよ…。そしたらお前誰とも付き合わねぇじゃん」

「ありがと。そういうこと言うのアンタぐらいよ。

まぁ、あとはウチの人達と遊んできなさい。

はいはい。好きにしてどーぞ」

「え?おおぉぉぉぉお!?」

 

いきなり後ろから引っ張られて裏方の部屋に運ばれて、いやこれもう誘拐レベルだよな。

しかも足と抑えられちゃったし。

 

「鈴ちゃんといつ会ったの?」

「鈴ちゃんとどんな関係なの?」

「ねぇねぇ、……」

 

 

…………………………………………

…………………………………

…………………………

 

 

「あー………」

 

一件目だったのに1時間近くいた気がする。

嬉しいけど、質問の嵐で少し疲れた。アイツら毎日これなんだろうな。よく体もつな。

 

……まぁ蘭もこれでIS学園に行くなんて無謀なことは言わないだろ。

あのちんちくりんが1年でここの美女と同じラインに立てるわけないからな。

っていうか優はどこ行った?途中から見えなくなったんだが…トイレか?

 

「貴方が五反田 弾君でよろしいのかしら?」

「はい!?」

 

不意に声をかけられて、びくっと背筋を伸ばす。

振り返った先に立っていたのは容姿は眼鏡にヘアバンド、三つ編みと自由度の高い学園にしては校則をしっかり守った格好をしておりお堅いイメージがするが、美人だ。

大事なことだからもう一度言う。美人だ。ストライクゾーンのド真ん中だ。

 

「あ、はい。そうです」

「実は黒川さんからこれを届けるように、と」

 

中学生の時流行ったメモを折りたたんで蓋をする手紙を渡された。

 

(女子かアイツは)

ペラッと開けると優にしては珍しい走り書きの文字の文面だった。

 

『  弾へ

 

用事ができたから席外すわ。

どうせお前はどのクラス行っても俺ヒマだし頑張れ。

代わりに先輩と回ってくれ。

 

PS, その先輩は布仏虚先輩って言ってフリーだから頑張れ』

 

(やかましいわあのアホ)

コレ本人が先に見たらどうするんだよ…。

ていうか先輩をそんなことに使うな。

 

 

(ん?……待てよ)

そんな知られたら困る内容があるのにこの人はここにいる。

つまりこの人は別口でここにいるってことになる。

誰かが俺とこの人をくっ付けようとしている?

 

「それでは…どこかご要望はありますか?」

「じゃあ…先輩のクラスに行きたいです。先輩もその方が楽でしょう?」

「えぇ。ありがとう。ウチのクラスはこちらです」

 

 

 

 

(優side)

 

 

 

メッセージで言っていた所に行くとメイド姿のままのシャルがきょろきょろと俺を探していた。

 

「お待たせ。待った?」

「ううん。お友達大丈夫だった?」

「他の女子に囲まれてウハウハしてたから平気だろ」

「そうなの?」

「虚さん呼んだし大丈夫だよ」

「そっか。じゃあ行こ」

 

俺の体をグイグイ引っ張ってどこかへ連れて行く。

だから胸が当たりかねない腕の組み方はやめなさいって…。

 

「どこに行く?」

「料理部」

「料理部?」

「うん、日本の伝統料理を作ってるんだって。せっかくだから作れるようになりたいなぁって」

「シャル、料理うまいもんな」

 

母子家庭の娘だったから料理をする機会が多かったこともあるけど、それを抜きとしても旨い。しかももう日本食も作れるっていうんだから花嫁修業の点では完璧だろうな。

 

「ホント?じゃあまた今度作ってあげるね」

「おう。サンキュー」

 

「おお!黒川君。ここにいたのね」

「あっ、黛先輩」

「いやー向こうで一夏君のお友達がいるって言うから男子勢はそこにいると思ったけど違うのねー。探すの大変だよ。まだ一夏君見当たらないし」

「一夏はクラスで執事してますよ」

「ホント!?これで念願の執事シーンが撮れるわね!じゃ!」

 

黛先輩は人混みの中をダッシュで走り去って行った。…と思ったらそのままの速さで帰ってきた。

 

「あっ、そうだ。黒川君、デュノア君をお姫様抱っこしてよ」

「お姫様抱っこですか?」

「うん。二人共丁度良い格好してるし、一夏君には出来ないことだからね」

 

ほら、他の子がうるさいからと付け足す黛先輩。

それで、親子関係でもある俺らに頼んでるわけね。

 

「どうする?」

「いいよ!やろ!ね!」

 

いつにも増してシャルはやる気満々だ。やっぱりフランスの子もお姫様抱っこは夢なんだろうか。

 

「じゃあいくぞ」

「うん」

 

ひょいっとシャルの体を持ち上げる。

見た目から分かるけど軽いな。

 

「いいね。デュノアさん、黒川君の首に回して」

 

シャルはしゅるっと腕を伸ばし首に回す。

 

(う、これはまずい…)

体が近づくことでふわっと甘い香りが広がる。

「ゆう……」

 

シャル本人を見るとうっとりしたような顔で俺を見つめていた。

親の贔屓目無しでもそれは蠱惑的で魔法に掛かったのように目が離せない。

 

「シャル…」

 

俺はシャルの頭を引き寄せる。そして、そのまま――

 

パシャ――

 

「いやーいいのできたわ」

「えっ、……あ、はい」

 

ぱっと顔を離し反射的に黛先輩に対応する。

が、先輩が何を言っていたのか全然頭に入らない。

 

「二人共ありがとね。じゃあねー」

 

かき回したこっちの心境など知らんと言わんばかりに黛先輩はもういなくなっていた。

嵐のような人である。

 

「シャル?」

「あ…ぅ…」

 

シャルはパニックを起こしたような顔をしたが、なぜか体は何の行動も起こさない不思議な状態になっていた。

仕方ないこのまま調理室行くか。腕も回されたままだし。

そのまま抱っこしたまま料理部の所まで向かった。

 

 

……………………………………

……………………………

……………………

 

 

無事、料理部に入ることができた。

やっぱりお姫様抱っこの状態は目立つらしく、部長さんらしい人がこっちに来てくれた。

 

「おおっ、黒川くんだ!そして一度は男子だったと噂のデュノアくんだ!」

「どうも」

「…にゃ…」

「デュノア君、大丈夫?」

 

声をかけてくれた料理部長さんは不思議そうにシャルを見ていた。

しかし、それにしてもまるで夢の中にでもいるような感じだな。

 

「シャル、シャル」

「ふにゅ……え、優?」

「やっと戻ってきたか、」

「僕は…」

 

シャルは何かを思い出したらしく一気に顔が赤くなった。

まぁさっきの写真は恥ずかしかったが。

 

「おやおや?二人共皆に隠れて何をしてたんだい?

執事とメイドの秘密の逢い引き?っていってもミンチじゃないわよ?合挽だけに!なんちゃって」

「「………………」」

 

(この人、一夏と同じタイプの人間か……)

どうやらシャルも一気に現実に戻ったらしく料理部長さんを冷たい目で見ていた。

 

「さあさあ、食べていってよ。その代わり写真撮らせて~。あとうちに投票して?」

「投票ですか?まぁそれくらいなら――」

「ダメだよ優。不正勧誘だから」

「そうなの?」

「あちゃー。娘さんの方が厳しかったか」

 

一瞬、シャルがピクッて反応したけどいつも通りの感じに戻った。

特に普通のやりとりだったと思うが。

 

「じゃあ、肉じゃがいただけますか?」

「はーい、どうぞ~」

 

お金を払い肉じゃがを頂く。向こうのご厚意でご飯も頂けた。

2人で教室内に置かれたベンチで並んで食べた。

しっかりした味付けになっているがくどくはない。

いい味付けってやつだ。部活のものでここまで美味いものがでるとは思わなかった。

 

「そういえば、肉じゃがって昔は女性の必須スキルだったらしいぞ」

「そうなの?」

「なんでも肉じゃががうまい相手も結婚しろというのが昔の風習だったらしい」

「け、結婚……」

「変な話だよな」

 

因みにウチ(俺、一夏、千冬さん)で無縁の話をなぜ知っているのかというと、ナターシャさんが千冬さんを弄る時のネタのひとつだったからだ。

千冬さんも手を抜かなければちゃんとした料理ができるんだけどね……。

相変わらず家の中ではずぼらである。

 

「結婚…けっこん……」

「シャル?」

 

またさっきのようにフリーズしたような状態になってしまった。

もしかしてさっきの肉じゃが、合わなかったのか?

 

「あらあら遠回しに結婚の催促?見せつけるわね~」

「楯無…」

「ちゃお。優くん、シャルロットちゃん」

 

楯無さんの姿はシャルや箒達と同じメイド服姿。

一体、どうやって店の服を仕入れたのやら……。

 

「何か用ですか?楯無さん」

 

シャルが不機嫌そうに聞いてきた。

こらこら、まだ何もしてないでしょう。

 

「貴方逹もう交代の時間だから声かけるようにって言われただけよ」

「仕方ない。一回戻るか。」

 

料理部の皆さんにお礼を述べ、俺達は自分のクラスに戻ることにした。

その時、楯無にこっそり耳打ちする。

 

「ところで向こうはどうなんだ?」

「順調よ。今、自分のクラスを案内してるわ」

「へぇ~さっそく見せつけですか。虚さんも大胆ですね」

「そうねぇ。案外、早くことが進むかしら」

「じゃあ尾行よろしく」

「了解」

 

いたずらをしている子供のような顔をして俺達と逆の方向へ去って行った。

 

 

 





すいません。投稿が大分遅くなりました。

なぜかと申しますとセシリアのシーンをどうしても入れたかったからです。
(もう忘れられているだろう)Conflictの特訓をカットしてしまったので2度目は避けたかったのです。
いい加減書くなり何なりしたいですね。

しかし、やっぱり音楽の知識がないのは辛いです……。
東方を知った後はホント後悔しましたね。楽譜見て演奏できるようになりたかった。

ではではまた次回。
ここまで読んで頂きありがとうございました。




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School Festival―Invasion


皆さんこんにちは。黒川 優です。
先週「Last Jahr」を更新出来ました。
これから交互に更新できたらいいなぁ…と思っています。

それでは本編をどうぞ。




(優side)

 

 

入れ替わりで一夏が箒、ラウラを連れてどこかへ行ったこの頃。

このお昼の時間帯は皆、ボリュームのある料理を展開する料理部や教職員のブース、午後から劇が始まるため、その席取りの関係もあって必然的にお客さんが減るはずなんだけど……。

 

「黒川くん!」

「黒川くん、――」

「黒川くん、写真撮ってあげて!」

 

 

他の教室に比べて相変わらずの長蛇の列を作りだしている。

よく見ると、ここにいる人上級生の人が多い気がする。

どうしてこうなった。

 

「ニーズが違うのよ」

 

クラスのしっかり者にしこの『ご奉仕喫茶』を仕切る鷹月さんがエッヘンと隣で胸を張っていた。

 

「ニーズ?」

「そ。皆が1人のアイドルを好きになるわけじゃないでしょ?

そういうことよ。ほら、次5番テーブルお願い」

 

メニュー表を持たされて次のお客さんの応答に向かう。

 

「お待たせしました。『執事にご褒美セット』のお客様ですね」

 

この執事にご褒美セットは自分が食べるのではなく食べさせるものである。

よくこんなことを考えるよな。よくそれを注文するな……。

蘭ちゃんに勧めたけど。

 

「はい!お願いします」

 

相手は○ッキーを逆に持って俺の口に運んでくる。

その表情は目を輝かせて何かを期待しているようだった。こっちも何となく察した。

まぁご奉仕喫茶だし、ここは乗ってあげましょうか。

 

俺は○ッキーをポリポリ食べ、最後にチョコのついた指を舐めた。

 

「―!」

「「「――!?」」」

「ご馳走様」

 

どっかの生徒会長を真似て妖しく微笑んだ。

このセリフは執事らしくないがどこか禁断の関係を思わせてくれるだろう。

現に相手の娘は顔を赤くして呆然とこっちを見ていた。

 

「すいません!執事にご褒美セットお願いします!」

「私も!お願いします」

「―――!」

 

一部始終を見た人達から一気に注文が加速した。

あぁ、やっぱりやり過ぎたかな…。

 

「シャルロットちゃん、セシリアちゃん、早いけど次の子と変わって。

癒子(ゆこ)、すこし客席を絞って」

「鷹月さん、どういうことですか!」

「これ以上見てたら貴女達暴れるでしょ?」

「う……」

「否定はできませんが」

「まっ、その辺の文句は黒川くんに。

私はこのチャンスを有効に使わせてもらうけどね」

 

鷹月は遠くで微笑んでいた。

あれ、こんな黒い人だったっけ?

 

その後1時間ほどずっと餌付けされた。

さすがにもう○ッキーは当分いらないわ。早く歯磨こう。

 

「優…お疲れ」

「シャル。なにか…?」

「分からない?」

 

シャルはにこっと微笑む。

けど何か違う。この前と違ってその笑顔に癒されない。

よく分からないが避けるべきと感じた。

が、後ろに下がっても誰かに止められた。

 

「優さんがそこまで接客熱心だとは思いませんでした。

それならわたくしにもして下さりますよね?」

「いやー…流石にお腹いっぱいかな」

「殿方たる者が言い訳をしてはいけませんよ」

「そうだよ優。今更1本や2本変わらないよ」

「いや…ね?」

「「優(さん)」」

 

 

――ダダダダダダダッ!!

 

「きゃあああっ!」

 

悲鳴と共に教室には割れた窓ガラスが床に広がった。

急いで外を見る。

 

(嘘だろ…)

そこにはオシリスに酷似した機体が学園上空を飛翔していた。

相違点は機体のカラーが黄色であることぐらいか。

その操縦者は大鎌『デスサイズ』を振り回す。

 

『Ruin Rain 』

「Power Wall 」

 

疑似絶対防御で校舎から雷の矢を守る。

ひとまず何とかなったが残りエネルギー的にこれ以上は無理だ。

元々コイツは所持者を守るものに過ぎないからだ。

 

『緊急事態発生。来場者の皆さんは教員の指示に従って地下シェルターへ向かって下さい。―繰り返します…』

 

「優、これは…」

「シャル。今すぐ一夏達と合流して襲撃者を足止めしてくれ。俺はここにいる人達を避難させてから行く。セシリアも頼む」

「わかった」

「わかりましたわ」

 

二人は一夏達と合流しに教室の外へ出た。

 

(……………)

今のはオシリスの「Ruin Rain」

そのオシリスはSlave Mode時でしか使えない。

始めから通常の機体として使うことは今の解析レベルでは無理なはずだ。

 

「優くん」

 

二人と入れ替わるように楯無が教室に入り、ディスプレイを見せてくれた。

 

「ISISよ。IFとは逆側から学園に侵入してきているわ」

「ちっ……」

 

(こんな時に………)

ここでISの数が減るのはマズイ。

 

「俺はそっちに向かう。楯無、皆の避難を頼む」

「わかったわ」

 

今回は訓練された生徒だけでなく一般市民の人達もいる。

学園としてはその人達の救出、保護に回らざる負えないはず。

とてもじゃないが侵入者を撃退する戦力を揃えることは不可能だ。

早く増援を呼ばないと……。

 

『こちらAIF日本本部』

「さとりか!」

『いえ…只今さとりさんは席を外しています』

「学園で非常事態が発生した。学園内だけじゃ対処できない。さとり達を寄越してくれ」

『しかし私達は裏守防衛でなければ……」

「あ?」

 

状況が状況なだけについ低めの声で相手を脅すような声が出てしまう。

以前あったデュノア社襲撃事件や先日のISIS騒動では俺がいなくても話を進めてくれる有能なEU各支部だったおかげで・・日本・の・・・・システムを忘れてた。

 

 

俺をここに置いているのは学園の防衛が最たる目的である。

意思疎通に問題のない日本人が好ましいのは言うまでもない。

それを少数の人間で行うのは無理がある。

故に切り捨てれる人間。俺のように“非国民”であることも望ましいのが暗黙の了解だったりする。

特に自由国籍の俺は義務を果たすことはないが権利を得ることはない。憲法で保護されることもない。そして他人は過失を擦り付けることができる。

 

厄介事にならないと動けない日本の憲法に縛られてしまったAIF日本本部。

その大元を作ったのがあの無能な輩の遺産である。

 

それが学園、日本を守っている組織の正体である。

まったく機能しない。

それでいて被害が出れば文句を言う。

そんな頭の堅い連中が作った組織だ。

これでも長官が緩めてくれた方だが俺一人で対応できない事態に対して初動が取れないことに代わりはない。

 

まったく。綺麗事ばかり並べやがって。

それで信用がなくなるのが自分の国だって分かっちゃいない。

 

「じゃあなんだ。誰かが人前で殺されないと動けないとでも言うのか。

人を助ける機関が。あ?」

『それは……』

「もういい。さとりに変われ。お空でもお燐でもいい」

『少々お待ちくだピー――』

 

 

ノイズが入り始め通信が出来なくなった。

 

「電波ジャックもか……」

 

これは本格的にマズイな。

奴等学園を乗っ取るつもりか。

 

 

(一夏side)

 

 

 

「これで全員か」

「うん。ありがとうラウラ」

 

ジャミングのせいで通信機器が上手く機能しない中、ラウラがEmergency Callを意図的に誤作動させることで合流していなかったシャルロットとセシリアに位置を教えたのだ。

IFにはない安全面の機能を使った手段。相手に知られないという点では最良の方法だと思う。

 

「ISISの反応もあるこの状況、あの機体は私達が処理しなければならない」

 

建物の影から相手を盗み見る。

相手が行う技を見る限りオシリスと同機体と言ってもいい。

 

「Ruin Rainなら私のAICで何とかなる。

一夏は雪羅と零落白夜でサンダーフォースを無効化しろ。

鈴と私は接近戦でセシリア、シャルロットは遠距離でヤツを攻撃。

箒は基本一夏の側にいて燃費の悪い百式をカバーだ」

 

『てめぇ達だけで勝てると思ってんのか?』

「貴様こそ一人で勝てると思ってるのか?」

『さぁどうだろうな!』

 

さっきの指示通りラウラ、鈴の接近ペアが相手する。

 

デカい鎌にも関わらず2人の攻撃を捌ききる。

しかし、ワイヤーブレードを搭載しているラウラ

大鎌に巻き付き

相手にとって大鎌は重要なものなのか手を放さない。

体勢を崩され引っ張られる。衝撃砲をチャージしている鈴の所に。

 

『くらいなさい!』

『サンダーフォース』

 

相手は雷を鎧のように纏う。

しかし、雷では衝撃砲を防ぎようがない。

それが分かったのか被弾覚悟で鈴への攻撃に転用してきた。

 

「零落白夜」

 

エネルギー攻撃の雷を無力化し俺も近接戦に参加する。

3対1。先月から連携訓練も行ってるから足を引っ張りあうなんてことはい。

圧倒的な手数の多さはこの女を追い詰めていた。

 

『ちっ!面倒だな。ならコイツだ。――スコール親愛なる貴女』

 

大鎌を振るうと雷を帯びたナイフがRuin Rainを雨のように降らす。

この広範囲、無差別攻撃じゃAICで防げない。

何より一つ一つが小さくてAICなどで止めることができない。

 

「どうするんだよ?範囲外まで下がるしかない!」

『一夏!範囲外にはISISがいるのだぞ』

『ラウラ!―――』

『シャルロット!バルムだ!相殺してくれ!』

『でも、それだけじゃ』

『それでいい!早く!』

 

シャルロットはラウラの指示通り相殺するために平行切替でバルムを放ったが押し戻され爆風によって土が舞い上がったことで辺りは煙に包まれた。

 

『全員ステルスモードへ変更。今から提示するポイントへ移動してくれ』

 

再びEmergency Call によるモールス信号で集合場所が記される。

 

「大丈夫か?」

「問題ない」

「まだまだいけるよ」

「そうか。これは鈴の案だ。私も問題ないと思う。いいか―――」

 

「俺はどうすればいいんだ?」

「ISISが乱入した時のためだ。私達には対抗する手がない。頼むぞ」

「あぁ」

「全員持ち場につけ。合図はEmergency Call。見逃すな」

「「「了解」」」

 

全員散開しそれぞれの持ち場に就く。

 

シャルロットは再びバルムをSky Shineで展開。

下から、または重力によって上から攻撃を図る。

しかも自身の意志で爆発できる。

バルムの爆発によって土は舞い続けシャルロット達の身を隠していた。

 

『ちっ。みみっちいことしやがって』

 

相手の動きがガクンと止まった。

レーゲンのワイヤーブレードが相手を捕らえたからだ。

 

『下にいるのは私だけではない』

『ならぶっ殺してやるよ!』

 

相手はRuin Rain とサンダーフォースを織り混ぜた雷を放つ。

あれではAICでもワイヤーブレードでも防げない。

派手な音と共にグラウンドの土が吹き飛んだ。

 

『はっ!馬鹿め!そんな見えるもので拘束するから――』

『ふっ。だからといって真下にいると思ったら大間違いだ』

 

オープンチャネルからラウラの声が聞こえ相手のワイヤーブレードの拘束は解けないままだった。

 

実はラウラはこの女の真下にはいない。

拘束成功時にワイヤーブレードを機体から切り離したのだ。

ただしAICでワイヤーブレードを固定したため拘束を続けながら自分は移動することができる。

 

――ガシャン

 

なぜ直接AICを掛けなかったかというと相手の性格上、相手はさっきのように攻撃する。

そうすれば必ず隙ができる。ラウラも攻撃に参加できる程の隙が。

 

『ラウラ、シャルロット。タイミング合わせなさい』

『合わせるのは鈴の方でしょ?』

『間違って最大威力で撃つなよ?火も風が強すぎれば消えてしまうものだ』

『あー!分かってるわよ!いくわよ!』

 

ラウラはレールカノン、シャルロットはバルム、少し遅れて鈴が龍砲を放つ。

 

元々一撃で致命傷レベルの威力を与えるレールカノンにバルム。

さらに衝撃砲による高密度の空気を得て大爆発を起こした。

絶対防御という装甲を突破するためのエクスプロージョンブリッド。

あまりの威力に爆風で相手は地面に叩きつけられる。

 

『くそっ!このクソアマ共がぁ!許さねぇ!ぶっ殺してやる』

 

相手は汚い言葉を吐いているが肝心の機体は装甲がほとんどは吹き飛んでいる。

エネルギーも少ないのは確かだ。

 

『終わりだテロリスト』

 

箒は相手の肩の上に降りたった。

高速で移動してきたISを二点で受け止めた相手は再び倒れる。

箒は容赦なく空裂を首筋に当てた。

 

『動くな。スナイパーはお前の頭を捉えている。

貴様の機体では防ぐことはできん』

『舐めたことしやがって』

『姉さんを殺そうとしたその罪、死んで償え』

 

箒がそう伝えると相手はピクッと反応し俺達を嘲笑った。

 

『ふふっ。ふはははは!

私達がテメェの姉を殺そうとした?

随分被害者面するんだなぁ。あ?』

『なに?』

『知らねえのか?――――――』

 

あの女が何を言ったのか分からないがその言葉に箒は目を大きく開き動きが止まってしまった。

 

警告―――

 

『箒!そこから離れろ!』

 

何かが高速で箒の所に向かっていた。

瞬間加速より速い。白雷か!?

 

(くそっ!間に合え…!)

 

――キィン!ザクッ

 

第二形態になり大型、推進力アップとなった百式はここでその本領を発揮し、箒をそこから押し出し向かってくるものの攻撃を雪羅で防ぎ零落白夜で突き刺した。

 

『よく反応できたな。だが、無意味だ』

 

反撃に突き刺した雪片は相手のウイングスラスターに挟まれる形になってしまった。

マズイと思った時には雪片を持つ手を引くよりも先に灰色のローブを被った操縦者に掴まれる。

 

『くたばれ――Absolute Power Force』

 

(な……!?)

防ぐ間もなく俺は腕部から放たれる業炎に包まれた。

 

 

 

(蘭side)

 

 

 

ISISはISを吸収する。

と言うことは学園の人が私達を助けてくれる望みは低い。

 

「お兄走って!」

 

でもどこに?

このまま私達がシェルターに向かったらこのISISも来てしまう。

 

『そこの二人。頭を下げて!』

 

誰かの声がすると同時にISISの一体に砲弾が当たり後方に吹き飛ばされた。

 

「お空。そんなデカイ砲弾使ったら敵に居場所を知らせるようなものよ。

近接武器にしなさい」

「さとり様、…それは無理ですよ。

生身で倒すには不意討ちの一撃で破壊するしかないんですから」

 

目を開けると長身で長い黒髪に緑の大きなリボンをしている女性と短身で薄紫のボブに深紅の瞳を持ち、変な目を巻き付けている女性2人が立っていた。

 

 

「あの、………」

「…そうね。なら手榴弾にしましょう。あの空洞になっている胸部に近づければ問題ないわ」

「え?」

「気にしないでちょうだい」

「さとりか!?」

 

どこからともなく誰かが飛んで来たかのように私達の前に現れた。

その人は私達の前にいる人がいることが意外だったみたい。

 

「さとりさん。どうしてここに?まさか――」

「自力で来ました。おかしな反応をキャッチしましたので何かあったのかと」

「あのEmergency Call、モールス信号みたいになってるんだよねー。

てっきり私達に対してかとおもったんだー」

「お空も……。正式なものじゃない。防衛は厳しいか。俺がそっちに行く。

大方破壊したつもりだが残っていたら頼む」

「そのために私達が来たんですよ。

勝手に来た身なので大きくは出られないですけどね」

「頑張ってねー優」

「黒川…さん……?」

 

お兄も言葉を失ったまま黒川さんを見ていた。

 

この場面で銃刀法違反なんてレベルを軽く超える武装を持っていられるのはAIFの職員のみ。

けれど、ISは一夏さん以外女性にしか使えない。

つまり、目の前にいるこの人がアインスなのだ。

 

「あぁ。2人とも間に合って良かった」

 

黒川さんはほっとした顔で私に手を差し伸べる。

 

――人を殺めたその手を

――世界を壊したその手を

 

私は恐くて後退りしてしまった。

 

「……………」

「ごめんなさい…。私……」

「気にしなくていいよ。慣れてるから。さとりさん、お空、後はよろしく」

 

それだけ言うと黒川さんは壁をかけ上がりいなくなってしまった。

 

 

 






あまり聞きなれないエクスプロージョンブリッドについて。
一例は弾頭に空洞があってその中に水銀の粒が入っている弾丸を撃つことです。
当たった時、慣性で水銀が弾道を破裂させる…らしいです。
(見たことないので詳しく言えません。あるのも問題ですが)
火薬を減らして水銀を入れるので威力は変わらないだとか何とか。まぁ銃弾は重いから意味がありますしね。BB弾で撃たれても死ぬほど痛くないのを考えると分かりやすいのでは。

しかし、これで燃料タンクでも撃てばヘリを落とせるとか。
つまり専ら対機械の銃弾ってわけです。
特に甲龍の衝撃砲は元をたどれば空気(酸素)なので爆発に相性がいい。
今回はそれで絶対防御を超えようとしたのです。やだ、立案者鈴ちゃん怖い…。

こう書くとISの銃弾って基本的にエクスプロージョンブリッドになりますね。
っとどうでもいいお話でした。

次回、やっとテーマを日本語にできると思います。
やっぱり英語のテーマって分かりにくくて取っつきにくいですよね。
考える私も大変なんですよw
それでも使う理由は次回に。

ここまで読んで頂きありがとうございました。




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ジャンジャジャ~~ン!今明かされる衝撃の真実ゥ~!


―前回のあらすじ

亡国機業が攻めてきた(何回目だよ)
だから原作では京都とか行ってるんですよ。

では本編をどうぞ。




(一夏side)

 

 

 

「くそ………」

 

相手はたった一人なのにこんなにも力量が違うなんて……。

先月、優と戦った先輩達と同じようにThe End Stormで一掃された。

 

「がっ!あぁぁぁぁああ!」

 

さっき俺達を攻撃した金髪の男がラウラを踏みつけていた。

 

「こんなのが代表候補生か。大したことねーな」

「その足を離せー!」

 

ファントムで百式を展開しラウラを助け出す。

相手は灰色のローブの上から再びレッドデーモンズに似た機体を展開してきた。

 

『ウリア―Absolute Power Force』

「零落白夜」

 

物理刀からエネルギー刀を展開しヤツの攻撃を無効化する。

 

『防いだな』

 

雪片を掴まれ、逆に動きが制限される。

ガシャンとウイングスラスターが開き砲口が現れた。

 

『デモン・メテオ』

 

熱核拡散弾が零距離で連射される。

雪羅のシールドモードで防ぐがこれではエネルギーがすぐに尽きる。

雪片のエネルギーの放出を断ち距離を置こうとする。

が、ヤツの尻尾のような装甲が腰に巻き付いて俺を離してくれなかった。

 

「こ、のぉ…」

『格好のチャンスを逃がすわけねぇだろ。苦しみ悶えろ』

 

ウイングスラスターから熱核拡散弾が放たれる。

ただそれは一発ずつ。ダメージで俺が苦しむ様子を見るかのように、少しずつ威力が落ちていた。

 

「おっと、Slave Modeを使われても困るからな」

 

デモン・メテオは止まったが尻尾でギリギリと締め付けられた。

 

『オータム、やれ』

『Ruin Rain』

 

この男が暴れたことで回復した女の方が空を覆うほどの雷の矢を上空に展開した。

 

「止めろ!――がはっ」

 

地面に叩きつけられ頭を足で踏みつけられた。

 

「てめぇは自分の無力さを嘆きながら学園が崩れるのを見てろ」

「ぐっ………」

 

『くたばれ。クソウサギの犬め』

 

オータムがデスサイズを振り下ろした。

雷の雨は明確な意志を持って容赦なく降り落ちる。

 

 

 

 

 

――Chaos Zone

 

避難シェルターを狙った雷の矢は全て収納された。これは……

 

『よく来たな。俺の計算通りに』

 

俺を踏みつけているヤツがニヤッと顔を歪ませる。

そこには光闇を展開した優が二人と対峙していた。

 

 

 

(一夏side)

 

 

 

「久しぶりじゃねぇか。黒川」

「……………-IS-」

 

優は機体をスターダストに切り替え斬撃を容赦無く金髪の男をに放つ。

ウリアはそれを避けるために俺の拘束を解き後退した。

 

「一夏。大丈夫か?」

「ファントムのお陰で何とかな」

 

優はウリアの操縦者を睨み付けていた。

 

「おいおい。何もこれだけで怒ることはねーだろ」

「これだけだと?」

「まだこれは余興だぜ?まぁ俺にとってだがな」

「…………………………」

 

この男、優と何か関係があるのか。

しかも唯さんと違って良い関係ではない。

そもそも先月の優と唯さんの会話からしてあの惨劇を作ったのはコイツなのは確かだ。

なのに優よりも相手の敵意の方が大きいように感じる。

 

「一夏、皆をここから離れた所に避難させてくれ」

「それじゃ2対1だ。優が不利になる。

オータムという奴なら俺達でも相手できる。だから――」

「行け」

「…わかった」

 

模擬戦の時よりも重い優の声に俺は従わざる負えない気がした。

 

 

 

 

(優side)

 

 

 

「ほう。雑魚達を退けたか」

「俺の問題だ。俺がケリを付ける」

「あぁ…。そうだな。くくくく…」

 

ベクターは俺が言っていることが可笑しいとでも言うかのように笑っていた。

俺はスターダストからレッドデーモンズに換装する。

 

「ベクター。どこまでが余興だという?

ここにいる皆を傷つけることかがか?

世界にISISをばらまくことがか?

それとも唯のように人を操り人形にすることがか?」

『ほう……。俺が開発したDollの存在が分かったか』

 

(やはりコイツが・・・)

それだけわかればもういい。これ以上コイツを生かす必要はない。

 

『あれはな。言わばお前の願いを――』

「Absolute Power Force」

 

瞬間加速で奴の懐に入り奴を殺す。

だが、その考えはベクターも同じ。

結果的に最初の一撃は直線的に交差し、その後のデモン・メテオまで流れが一緒だった。

 

「おいおい。俺とお前は同じ機体を使っているようなものだぞ?

それで俺様に勝てると思ったら大間違いだ」

「ちっ」

 

口調こそふざけているがコイツがレッドデーモンズを扱う為にどれだけ時間を割いているのか、それは同じ機体を持っているから分かる。

口調と行動が違って先が読めないのは面倒だ。

 

(だから何だっていう)

向こうの機体は一機。こっちは複数。

この機体がコピー機なら最悪同士討ちになる。

コイツがこうして表に出た以上殺す(・・)殺す。絶対に逃がさん。

 

 

大剣を展開し瞬間加速で接近する。

 

『単身で来るとは愚かな。―The End Storm』

 

ベクターは一斉に枝柱を展開する。

それらを減速せずに避けそのまま接近する。

 

枝柱だけの動きは速いが直線的になるのがこの技の弱点だ。

アインスに越壁の瞳があればこの攻撃は避けれる。

本来は大元の後ろに展開される火柱も動かさなければならないのをベクターは分かっていないらしかった。

 

『くそ。なんで…』

「はっ!」

 

大剣から炎の斬撃を放つ。

が、当然それは伸びていた枝柱が縮み盾になったことで防がれた。

大元の火柱の前にいることから技の発動者への攻撃は通りにくい。

この後瞬間加速で更に後ろから攻撃しても無駄だろう。

 

大いに結構。防御に回せばその分何もない空間が広がるからな。

それが狙い。それが奴を還付なきまでに殺す一手。

 

「The End Storm」

 

攻撃と同時に仕込んでおいた3ヵ所から巨大な火柱があがる。

それらは直接ベクターに攻撃するのではなく、1度枝柱でドーム状に囲う。

充分な空間がなければ新たにThe End Storm は展開できない。

今度は真似なんかさせない。3ヵ所同時展開という無理ができる今この物量差で押しきる

 

『てめぇ…!』

「くたばれ」

 

互いの火柱が激突し熱風が吹き荒れる。

が、それは一瞬。

圧倒的な物量で押し潰す。

残った枝柱はベクターに対し豪雨のように振りかかるが決定的な攻撃にはさせない。

 

―俺の手で直接、殺す。

 

腕部の重火器を逆向きにしてスラスター代わりにする

その勢いのまま大剣をベクターの首に向け振りきった、

 

 

 

 

 

 

――ズシャァァァ

 

機体の絶対防御を打ち破り、刃が肉を切り鮮血を散らした。

 

 

 

 

 

 

「……!?」

 

コピーナイトのように唯に似た人がいきなり現れ、間に入り俺の一太刀を防いできた。

ぐっと少女は俺の腕を掴んだ。

 

『よくやった―Absolute Power Force』

 

ベクターは俺の攻撃を防いだ子ごと攻撃してこようとしていた。

早くここから離脱したい。しかし、さっきの子が俺の腕を掴んだまま放してくれない。

 

(ちっ。仕方ない…)

奴の手首に横からウイングスラスターをぶつけることで軌道を変えた。

 

『かかったな?』

ベクターの進行方向が変わったことにより眼前にはウリアのウイングスラスターが

砲口を展開し俺を狙うウイングスラスターが。

 

『デモン・メテオ』

 

砲口から熱核拡散弾が無差別に放たれた。

これを受ければエネルギーを大きくもっていかれる。

俺はさっきの子を抱え上げそこから離れた。

 

――ザクッ

 

「ぐっ……」

『わざわざ敵である奴を助けるとはな』

 

離脱の際に庇った子にブレードで深々と刺された。

それでも助けることができた。――

 

『あの小娘に似ている奴を、てかぁ?』

「……分かってやっているのか」

『イッヒヒヒヒヒ。そんなに知りたいか?』

 

 

『ジャンジャジャ~~ン!今明かされる衝撃の真実ゥ~!』

 

ベクターはまるでお楽しみを発表するかのように今までで一番生き生きとした声を出した。

 

『The End Storm』

 

俺はベクターの攻撃に防御の構えをしたが、ベクターは俺ではなく唯に似た少女の頭を切り飛ばした。

人間がそこをやられたらISを纏った状態でも死ぬ。

彼女は膝をつき、そのまま動かなくなった。

 

『Dollって言うのは人工心臓とSlave Modeの役割がある』

「……何…だと」

 

ベクターの言葉を裏付けるように、攻撃を受けた少女は先月の唯のようにオシリスが展開される。

 

『そうだ。機体や操縦者が使い物にならなければオシリスが展開され、

どんな手段であろうとオシリスが使い物にならなくなればDollは死ぬ』

「……つまり唯を殺したのは他でもなく俺だと言いたいのか」

『あぁ。その通りだ』

 

ベクターはもう一度少女にThe End Stormの枝柱を突き刺す。

その少女は先月の唯と同じように唯に似た子も動かなくなった。

 

『イッヒヒヒハハハ、おかしくって腹痛いわぁ~。

助けられなかったって嘆いてる奴が、実は直接自分の手で殺したんだからなぁ~。

なぁどんな気分だよ?

なぁ今どんな気持ち?今どんな気持ち?ウッヒャハハハハ!』

「この……!!」

『ほぉ?お前が望んだんだろう?あの小娘を生き返らせるっで。

俺様はそのくだらねー願いを叶えたんだぜ。羨めよ』

 

(ふざけるなよ・・・!)

誰が、お前なんかに!

 

「ベクター!!」

『いいぜ、その顔。サイコーにキてるぜ』

 

 

 

 






どこにも言えることだけど、挿絵ほしい…。
絵上手かったらなぁ。
まずは文の方頑張ります。

ではまた次回。ここまで読んでいただきありがとうございます。




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またまた明かされる衝撃のしんじ~つぅ!



お久しぶりです。作者こと黒川 優です。

投稿遅れてしまいもうしわけありません。
また…データが飛んだんですよ………。
以前飛んだ時の教訓でバックアップを取るようにしたのですが、同時に
編集データ入りのSD:「フォーマットしてください」の通知
バックアップのPC:1分で強制シャットダウンと再起動のループ→ログイン後画面真っ黒

幸いにもこのシリーズのデータは救出できましたが完全ではないですし、裏で作っていたオリジナルなどは綺麗に飛び、記憶とメモ書きを頼りに書き直しています。

そんなわけで更新ペースはアレかもしれませんがよろしくお願いしますm(。≧Д≦。)m



前回のあらすじ
優のナッシュ化。殺意しかない。

あと、想像するとグロイ描写あります。注意して下さい。
では本編をどうぞ。





(優side)

 

 

 

 

「がはっ!」

 

ベクターに踵落としを決められた俺は地面へ急落下した。

 

『ゆうちゃ~ん、ちょっとイケてないんじゃな~い?』

「うるさい…!」

 

俺の近くには頭がない少女達の体が転がっている。

ベクターは俺が遠距離から攻撃するたびにコピーナイトのように展開し肉盾代わりにしているのだ。

問題は俺がその後攻撃しなかった時。ベクターは俺に当たるかどうか関係なく少女に攻撃が当たるように攻撃するのだ。

首を斬られた者、そのうえ体を焼かれた者、深く見たくない姿になってしまったものがおりグラウンドは地獄絵図に近い状態になっている。

 

俺は

この状態で彼女達を展開させないようにするには、ベクターがそれを使う目的に従いThe End StormやCrimson Hell Flareのような遠距離支援攻撃を行わず、接近戦で戦うことでベクターに彼女達を展開させなくても勝てると思わせることが重要だ。

 

こっちはこの布陣で勝てる戦局ではないということ。

これは自殺行為だ。自己満足と言ってもいい。

だが、それでも………。

 

『The End Storm』

 

ベクターは再び大きな火柱から枝柱を伸ばす。

 

(その手にはもう乗らない)

外側から陽動かけ中央で全方位攻撃をかける。

これがベクターの基本攻撃パターンだと分かった。

これはチェンジオブペースでスピードを落としつつ逆にこっちから誘導し最後最高速で離脱すれば回避できる。

 

『―!?』

「Absolute Power Force」

 

豪炎の一撃を向けるとさっきと同じように唯に似た少女がコピーナイトのように現れ、俺の攻撃を受け止めようとした。

俺は攻撃を止め、彼女がベクターの反撃によって殺されないように遠方へ投げ飛ばす。

 

『ほう。今度は先に止めるか。まぁ―』

 

体勢を持ち直した少女達はガチャと自分の首の横に刀を置く。そして―

 

『それでも殺すけどな』

「やめろ!」

 

また彼女達は自分の首を切り飛ばした。

飛ばされた頭が地面に転がる。

 

「おい……なんでこんなことをする………」

 

この子達が何をしたっていうんだよ。

なんで、お前は人の命をそんな粗末に扱えるんだよ…。

 

『なんでも何も、そいつらは自分の娘と同じ、お前が救えなかった奴らだろう?』

「……………」

『もう一つは、勿論

――お前を殺す為だ』

 

倒れた少女達がオシリスを展開して俺に襲いかかって来た。

 

『『『Ruin Rain』』』

 

至近距離で雷を纏った鋼の矢を放たれる。

ウイングスラスターを中心にそれらが突き刺さり完全に身動きが取れなくなった。

 

『無人機を作る技術があるんだ。人の首がないから動かせないDollなわけないだろう?

――やれ』

 

――ザクッザクッザクッザクッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

―――バタッ。バタバタバタッ

 

 

The End Stormを展開し、コアのある心臓を突き刺すことで彼女達を止めた。

 

「はぁ……はぁ……」

『躊躇なく殺したか。流石だな』

「Dollはオシリスが展開された時点で助ける手はない…。お前がそう言ったんだろ…」

『しかし、お前は冷たいよなぁ。

自分の娘には傷を負いながらもディクテム・サンクチュアリで無傷だったのに。

ダメと分かれば鬼のように瞬殺か』

「じゃあ……どうしろって、いうんだよ」

『簡単な話さ。お前がとっととくたばればいいんだよ』

 

 

反射的に大剣を展開し盾代わりにする。

 

呆気なく砕かれた。

 

「げほっげほっ……」

『しぶてーな。早く死んじまえよオラァ!』

 

 

自分は学園を守る為に真月と戦っているのに、

彼女達の表情が見えると自分のしていることが合っているのかどうか分からなくなる。

 

『おいおい。まさかこの程度のことでダメになったのかぁ?』

「…………………」

 

(この程度のこと…?)

ベクターが一体何を基準にしてそんなことを言うのか俺には分からない……。

 

『なら見せてやろうか?もっと面白いものを!』

 

ベクターは俺よりも上空に上がり俺を見下す。

 

『またまた明かされる衝撃のしんじ~つぅ!―じゃじゃじゃじゃ~ん』

 

ベクターの声に反応して数多の投影ディスプレイが俺を覆うように展開された。

 

「これは……ドイツの軍人」

『あぁそうだ。お前が織斑 千冬と共にドイツに行った時「セカンドアメリカン」を起こした軍人共だ』

 

ただ、この画像の人達は行方不明なはず……。

 

「………まさか」

『そのまさかだ。その軍人共を殺したのはテメェの愛娘だ』

 

『コイツらだけじゃねぇ。コイツも、コイツも、コイツもだ!』

 

投影ディスプレイではなく実際写真が大量に真月の手からばら撒かれる。

その中に軍関係者と思えない幼い男の子の写真があった。

 

『そいつ、お前によく似た顔をしているだろ?

Doll越しに見てて面白かったぜ。

任務故に排除は確定だが、お前に似てたこともあって殺すに躊躇しててな。

最後は泣きながらトリガーを引いてたんだぜ。「ごめんなさい。ごめんなさい」っていいながらなァ』

 

こうしてベクターが話している間も写真は空から落ちてきて積もってくる。

 

「………………」

 

唯が殺したと思われる人物は任務のターゲットだけでも多いはずだ。

もし、任務に支障の出る者がいたらその者も殺していただろう。

コイツはそれをご丁寧に一人ひとり記録していたのだ。

唯に人を殺すという道徳から外れた行為を再確認させる為に。

例え、俺が唯を助け出せたとしても人を殺した罪から自分を卑下させる為に。

その指示を出しているのは他でもなくコイツだというのに……。

 

「ふざけんなよ…おい……」

 

どうして唯のスターダストの世界があんなにも荒廃したものだったのか分かった。

あの赤い絨毯は血だ。解れた人形という殺した人からの帰り血。

あの黒い部屋は血が固まったことで変色したもの。

コイツは唯にそういうことをさせて唯の世界を壊したのだ。

 

「どうして……唯を利用した」

『決まってるだろう?それがお前の弱点だからさ。

お前の心に宿る優しさと正義こそがな。

俺はお前のその悶え苦しむ姿をたっぷり拝みたいのよ。ハッハッハッハ!』

 

俺はギリギリと握っていた手に爪が食い込んでいた。

 

「それが…先月、俺の所に唯を送った理由か…」

『あぁ。アイツも本望だろう?お前の腕の中で死ねたんだからなぁ』

「…もし、俺が負けていたら、どうするつもりだ……」

『お前の体にDollを埋め込み、アイツを殺すように命じる。それだけだが?』

「………………」

『いやぁ本当に苦労したぜ。アイツは元々俺を嫌っていたし、お前の状況を確認できなかったからな。しかし、お前達は単純だよなァ。Z-ONEの口から出たでまかせを全部信じちまうんだからなァ!

唯を助けるぅ~?光さす世界ぃ~?

ウッヒャハハハハ!見てて楽しかったぜェ、お前達の家族ごっこォ~~!』

 

ベクターは俺

もう俺はベクターに対するドス黒い感情を抑えることが出来なかった。

 

「…覚悟しろよ……このクソ野郎!」

 

瞬間加速で一気にベクターへ接近する。

 

『そう言うのは勝手だが―お前、後ろがお留守だぜ』

 

俺の後ろでオータムがRuin Rainを展開しデスサイズを振り下ろしていた。

 

 

 

(一夏side―ビッド)

 

 

 

 

5人を一番近いアリーナのビットへ連れて行き、自分も含めISのエネルギーを補給する。

これなら俺が手に負えない負傷をしていてもISの操縦者保護でなんとかなるはずだ。

 

 

警告―高エネルギー反応あり―警告―……

 

百式の警告から辺りを警戒するがIFもISISも確認できない。

突如、熱風が吹きここまで及んで来た。

 

(なんだ…!?何が起こってるんだ)

熱風だけなら機体が似てる2人どちらでもあり得る。

でも、千冬姉の話では先月の唯さんとの戦いが優の全力。

その時、こんな現象はなかった。

熱源で吹いて来た方を確認する。

エネルギーの上昇…なんてレベルじゃない。

膨れ上がって有り余るエネルギーが熱風としてただ漏れしてるような感じだった。

 

――ガアァァン!

 

何かがものすごい勢いで壁に激突した音がした。

もし、この現象を起こしているのがベクターで優が後手に回っているならまずい。

俺は百式を展開して優のいる所へ戻った。

 

 

 

『ぎゃゃゃぁぁ!』

 

オープンチャネルが無くても耳に響く、女性の悲鳴。

よく見ると優がオータムと呼ばれていた女性を足で踏み潰している。

さっきの衝突音は優が彼女にぶつけた音だったのか。

 

『……誰が喋っていいって言った』

 

ガシッと優は彼女の首を掴む。

彼女は首を掴まれたことで声は出てないが、依然として何かに苦しみもがいているようだった。

 

(蹴られたところの装甲が溶けてる……)

まさか、優があの超高温の熱を出しているのか。

あれじゃあ自分が発生させている熱で機体がダメになる。

それにあのオータムとか言うやつが死ぬ。

 

『Absolute Power Force』

 

オータムを掴んでいた首辺りで大きな爆発が起こる。

優が手を放すと彼女は独りでに膝を着き倒れた。

 

上空にいるベクターを見る。

 

―バチッ、バチチチチ

 

オーディンの瞳と越壁の瞳が発動し目から電気が迸っていた。

その目は今まで見たことがないくらい冷酷な眼差しをしている。

 

『次はお前だ。ベクター』

「やめろ優!」

 

 

吹き荒れる熱風に押し戻された。

 

(熱い!)

これだけでシールドエネルギーがもってかれる。

零落白夜でもこれは無効化できない。

 

『遂に堕ちて暴走し始めたか…』

『Crimson Hell Flare』

 

先月の湾岸アリーナの時みたいに一面、紅く覆われる。

だけど、先月と違って紅の華が展開されてない。

展開されたのは全て花びらの状態だ。

それはベクターを球状に覆い始めた。

 

(マズい!)

Crimson Hell Flareは唯さんとの戦いを見る限り、花びらの状態しか攻撃は通らない。

つまり優だけが一方的に攻撃できる。

 

現にベクターもCrimson Hell Flareで紅の花を展開しているが攻撃は全く通っていなかった。

 

『ちっ、どういうことだ!黒川ァ!』

『これが本当の“悪魔の華” ブラック・ローズ。ただそれだけのこと』

 

ブラックローズに対して優の瞳はどこまでも冷たい。

そして、その瞳が映す意志は……

 

「やめろ優!それ以上はダメだ!」

『消えろ』

 

――バアァァァン!

球状に覆っていた紅の花びらは凝縮され一気に紅の華が咲き乱れた。

 

 

 

 

(優side)

 

 

 

 

「………しぶとい野郎だ」

 

 

ベクターの周りに大量のISISが展開されていた。

それらの絶対防御を盾にして攻撃を防いだということか。

まぁ全て黒ゴケにしてやったんだが。

 

ここで彼女達を展開しなかったのは俺の予想通り、一度に彼女達を動かせる数がおよそ6機と少ないためである。

これはわざわざオシリスにして俺に攻撃させた時、動いていた数から推測できた。

また、数が多いほど単純な命令しか出せない。

でなければオシリスほどの機体なら至近距離の攻撃でも防いでいたはずだからである。

 

 

一部のブラックローズを押し固めブレードを形成する。

 

ベクターはもう動けない。戦意もない。しかし、そんなことは関係ない。

コイツがしたことは絶対に許さない。死ですら緩い。

 

 

「死ね」

 

 

 

 

『そこまでだ』

「――!?」

 

俺が動くよりも先に一本のブレードが俺の首元に向けられていた。

 

「フラ…シ…ド……」

「コイツの底力を見誤るとは哀れだな。ベクター」

 

ベクターに肩を貸す人物。

ラウラのような銀髪に紅い瞳。

間違いない。俺がいた時神童と言われたフラシド・ドミンゴ。

昔と違うのは∞が刻まれた眼帯のような機械を埋め込んでいるくらいだった。

 

 

―キュゥゥ

突如エネルギーの供給が切れ、ノイズが入り始め、復旧のためのコンソールがきかなくなった。

具現化限界じゃない。これは…コアがイカれ始めた。

 

「やっとSin Paradigm Shiftが切れたか」

「けほっ、けほっ……」

 

なんだ……。さっきと違って体が重い。

頭痛もするし目眩で上手く歩けない。

 

「どうして来た………」

「ベクター。悪いが俺達はお前の復讐劇を付き合うつもりはない。

ここは逃げる。コイツの他にも狂犬が近くにいるからな」

「ふざけるな!」

 

ここで逃げるだと?

ここまでしといて、唯にあんなことして……。

 

「Sin Paradigm Shiftは切れた。後は副作用だけしか起こらない。

その体で何ができる?」

「アンタらを蹴り飛ばす!」

 

俺の意志に呼応するかのように再びレッドデーモンズにエネルギーが入る。

2人に向かって飛翔しAbsolute Power Force のように脚部に業炎が集約していった。

 

「バーニングスマッシュ」

 

高速前転宙返りによる遠心力で蹴りの威力を高める。

更にデモン・ストレートにより蹴り下ろした所は巨大な火柱が立った。

 

「ほう。ここまで来てまだそんな技が使えるか」

「な……!?」

 

フラシドは俺が叩き落とした足のすぐ真横に平然と立っていた。

 

「お前も怒りで視野が狭くなってるな。そんなんだから」

「――ぐふぅ!?」

 

剣の腹で思いっきり吹き飛ばされた。

斬られたわけではないが、この行為は完全に手を抜いていることを明確にしていた。

 

「大事なことを忘れる」

「この……」

 

――ザクッ

 

体を起こす前に足元と顔の真横にナイフを投げられていた。

完敗だった。完全に手が読まれている。

もし、フラシドが機体を展開していたら死んでいたかもしれない。

 

「じゃあな。お前の気持ちも分からなくないがこれ以上そんなことをするな」

 

それだけ言うとフラシドはベクターを抱えて異次元の空間に消えていった。

 

「待て!逃げるな!俺と!俺とたたか………」

 

――戦え

そう言い切る前にさっきより酷い目眩が再発する。

俺はその場で自分を支えることもできずになり気を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 








ここで10月終了となります。

中途半端な気もしますが…まぁたまにはいいのではないでしょうか?
少なくとも手抜きではないですよ。

では11月もよろしくお願いします。


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November-
(Foundation setting2)


 

 

 

皆さん、こんにちは。さくしゃーこと黒川 優です。

 

投稿期間が空いてしまって申し訳ないです。

普通休みになると更新ペースが上がるはずなのになぜ私の場合遅くなるのでしょうか?

 

まず、大事な変更点が1つ。

主人公黒川 優くん。5月ではモデルが魔理沙×???と説明しましたが『妹紅』×???に変更したいと思います。

理由としては主力機がレットデーモンズ=火であるなら妹紅の方が適任ではないかと思ったのです。外見の話なので読者的には嫁を想像して読んで下さっても構わないですけどね(笑)

 

 

以降は舞台が新しいステージに移るためその為の知識……。いや、私がただ説明したいだけなのですが、これを読んで少しでも何かが分かればいいなと思います。

新しく疑問ができてしまったら……すいません。読み直したり私に質問したり続編を待って下さい。

では、どうぞ♪ヽ(´▽`)/

 

 

 

 

――AIF――

 

正式名称『 Against Infinite Features』

国際IS委員会を構成する組織の1つである。

簡単に言えば、国連Э国際IS委員会ЭAIF、裁判、議会

 

Againstは対という意味にあたり対IF≒対亡国機業と思われがちになっているが、そんなことはなくISに関わる諸問題を解決しに回る。つまり“IS界の警察”である。

また、テロや暴動の鎮圧に出されることがたまにある。

 

(実質軍が単独で存在するのは現実的ではないと勝手に判断し)議会と裁判による三権分立によって活動は限定的に抑えられている。

 

AIFの構成は大きく2つに別れている。

一つは優達がいる実戦部隊。もう一つは運営課からなる。

このトップに立つ人物は運営課からの人間、要はISを持たない人間である必要がある。

しかし、AIFは設立時方針が定まっていなかったため、軍人(ゴドウィン兄弟など)が入り組織構成をしたまま在籍している。

文民統制が上手く機能しているかは少々微妙…。

 

拠点は日本本部の他にアメリカ、ロシア、フランス、イギリス、オーストラリア、中国が支部になっている(仮)

※他の先進国は軍の中にISの部隊があり、基本的に自国内で解決を行っている。

(ex)ドイツ軍シュヴァルツェ・ハーゼ(ラウラ所属の軍隊)

 

本来なら日本には本部と支部(在日アメリカ人)もしくは本部は日本人とアメリカ人の構成にすべきなのだが、前者はISのコアが足らない。1、2機なら回せるが中東の方が優先度が高いこと。日本は日本で機体を持っていることからわざわざ回すことはないと判断させた。

後者は機密情報の塊を自国以外に置くのは危険であると判断したからである。

 

 

以下に『切り開かれる現在、閉ざされる未来』前の各支部と優の関係は以下の通り。

無表記は特に関係が無かった支部である。

 

――アメリカ支部

トップ:ルドガー・ゴドウィン支部長(裁判のトップである裁判長を兼任)

ゴドウィンがアメリカ人ということもあり、上層部はアインス(優)に熱心にラブコールを送っている。優が幼少期から気を許したナターシャを使ってアメリカに招いたりしている。

おかげで日本とアメリカには太いパイプができている。

 

 

――ロシア支部

トップ:マエンベリー・ハーン支部長(議会のトップである議長を兼任)

優がアメリカ寄りであることから(正しくはアメリカからプライベートなアプローチを受けていることからであるがロシアから見れば上記の通り)優のことをアメリカの犬と思っておりかなり警戒している。

また、唯がロシア支部の実戦部隊を壊滅させたことから優にヘイトが溜まっている。

 

 

――フランス支部

トップ:ミスティー・ローラドレン支局長

シャルロットの件を通じて接点を持ち始める。

優が日本で買った漫画のおかげで職場に憩いの場ができたと皆は喜び神と称える人が現れた。

 

 

――イギリス支部

トップ:カーリー・アトラス支局長

優は支部の構成メンバーと直接面識はない。が噂で支部建設時

 

○○「何よこの箱」

業者「建設予定の支部です」

○○「設計し直しなさい」

業者「え?」

○○「私はこんな風情の欠片もない所に働きたくないし住みたくもない」

業者1「(えっ貴女近くに別荘あるのにここに住むんですか?)」

業者2「(これ貴女の別荘じゃないんですが…)

○○「とにかく!この私に相応しい紅い城を造りなさい」

 

ということがあったらしく碌でもないやつがいると思っている。

それを裏付けるようにメンバーは支部内で一番少なく。現地の人にも場所を知られていない。

 

 

 

職場環境等――

IS関連の職場であるため男女比は2:8と男性が少ない。

しかし、トップがゴドウィン(男性)であること。優君保護運動(適当。名称募集)から男性の地位が女性に近くなったこと。女性に囲まれて仕事ができること。から就職の競争率が高い。

しかし、ゴドウィンの作る就職試験(SPIみたいなやつ)が鬼畜で通過者は少ない。

(勿論その後面接、ISを使った実技試験が待っている)

 

AIF一部メンバーの試験結果と簡略したキャラ説明を行う。

 

――お空、お燐

お燐は3回目、お空は5回目にしてSPIを通過。

2人共自衛隊のIS小隊であるため実技は問題なく通過。

(2人が自衛隊でありながらAIFに入ろうとしたのは、当時のイカレタ首相が「自衛隊がISを持つのは……」と言うことが目に見えていたため所持が正当化される道を進んだ)

 

専用機:出た時にでも…

 

 

――古明地 さとり

元々、日本代表(世界ランキング4位)であったがIS狩り以前の彼女の言動を止めることができる人物は日本にいなかった。

そこでIS日本代表は彼女を“推薦”という形で選出し、ゴドウィンに任せた。

(そういう意味ではコネに近い形で入ったと言える)

と言ってもISに関する(のみの)知識、戦闘技能は恐ろしく高い。

余裕で試験を通過しAIF 発足時にメンバー入りしている。

 

専用IS:

(第1世代→第2世代→第2.5世代)

 

 

※2.5世代とは

単一能力を強引に別け、その一つをイメージインターフェイスに降格させたものである。

主にオーストラリアや南米の国の最先端機はこれになる。

この手の機体の操縦者は機体のことを熟知しているので下手に第三世代機に移るより強かったりする。

さとりの場合、○○がイメージインターフェイス。第三の目が単一能力にあたる。

 

そして、さとりは(IS条約を完全に無視し日常でもISを使用したことにより)ほぼエネルギー0消費で第三の目だけを展開できるようになった。

 

 

――古明地 こいし

お空お燐同様、自衛隊の一員。しかし、彼女は防衛の戦場に立ったことはない。

SPI試験は2回目、3回目で通過している。

実技は2回とも合格ラインに達しなかったが、それが機体の能力が希有のものであり公にしたくないことをゴドウィンは見抜き2回目の試験後AIFに受け入れた。

姉と違い経歴がパッとしないが本人は気にしていない。

 

専用IS:

 

 

――ナターシャ・ファルタス

今作にはアリスという妹がいる。

アリスがAIFを受ける前に試験を受け、2回目に合格している。

原作同様アメリカ軍、福音の操縦者でもある。つまり掛け持ちしている。

なぜ掛け持ちをしているかというと『アリスに席を一つも渡さないため』である。

それだけアリスに命を賭けた仕事だけはさせたくないのである。

 

専用IS:銀の福音(凍結中)

第三世代

 

――アリス・ファルタス

AIF正式加入者の中で最年少。背も一番小さい。

AIFに加入したがったのは『姉の負担(仕事のではなく命の)を減らすため』である。

(つまり、お互いがお互いを想っているために争っている)

姉を追う為にアメリカ軍に志願したがこれは姉の根回しによって入れなかった。

そこでアリスはまだ姉が入って日の短いAIFに志願。

見事一発でSPI、実技をクリアした。

周りは期待の新人として見ているが、姉の圧力もあり仕事では厄介者のような扱いを受けている。もちろん支部のメンバーは嫌っているわけではないのでプライベートでは皆に慕われている。

 

専用機:ブラックマジシャン・ガール

 

 

――レクス・ゴドウィン

IS狩り対策室(後のAIF)を作った張本人。

IS狩り後、体制を整えAIFとして設置した。

彼は正しき手順で長官となった。

上記の通り優に対して差別せず、さとり達にも放任主義で伸び伸びと仕事をさせている。

 

上層部の人間にしては珍しくマキュベリズムを保持し続けている。

(ここで「としては」と表現しているのは皮肉ではなく、トップにたどり着いた人間が地位の保持の為に行動しているわけではないことを言いたいだけである)

そのため解決には自分が行う分には手段を選ばず、裏の人間には「AIFの悪魔」と恐れられている。

 

AIFの三権の一つ、裁判のトップに兄ルドガーがいる。

 

 

 

――アインス

 

IF初号機にして優専用機。

6年前、ISが第一、第二世代の中作られた機体ではあるが現在の環境でもトップを走る。

その要因として、1つ、戦闘中機体を変更できる『変形万能対応機』であること。

2つ、個々の機体の能力が高いこと。最低でも打鉄同等の力を持つサイバーである。

3つ、自身以外にも無人機状態で機体を展開するコピーナイトシステムが存在すること。

しかし防御面は脆く、IS以上に近接武器に対しては紙装備と化す。

 

優以外の人間にはIS狩りの元凶を作り出した機体、レッドデーモンズを扱うことができない。

(上記の結果はAIFの検査研究によるもの)

なお収納状態でも条件が揃うと雷が身を守ってくれるという謎の過剰防衛システム付き。

 

魔理沙「誰だよ。そんな代物作ったの」

作者「その情報は貴女のクリアランスには公開されていません。(不明なだけです)」

 

 

……とあるが、現実は福音に負け、唯に辛勝、ベクターに対して はSin Paradigm Shift(限定解除)による勝ちである。

あぁ、この人は本当に主人公なのだろうか……。

 

作者「いいぞーもっと負けてしまえー」

霊夢「コイツは本当に作者なんだろうか……」

 

 

以下に、登場した機体の説明となる。

 

優製作機体

――サイバー

第二世代(IS換算)

 

優が初めて作った機体である。

前述の通り、打鉄同等の力を持つとされているがブレード、物理シールドと荷電粒子砲一門とバランスに富んだ機体であり、使いやすさは打鉄を上回るかもしれない。

しかし単一能力無し。

モデル:サイバー・ドラゴン

(一言:サイバー流は素晴らしい。なので裏サイバー流もお願いします)

 

 

――スターダスト

第三世代(IS換算)

 

百式同様、ブレードしか積んでいないピーキーな接近戦特化機体。

イメージインターフェイス『シャウロン』によりレイピアに内蔵されているエネルギーを消費することで-IS-を放つことができる(注意:これは-IS-の正規の攻撃方法ではない)。

 

霊夢「接近戦特化とはなんだったのか…」

作者「気にするな」

 

単一能力「ディクテムサンクチュアリ」は対象に直接触れることで対象を無力化できる。

モデル:スターダスト・ドラゴン

(一言:発売当初、ゴヨウの方が強く感じた。)

 

 

――光闇(ライダー)

第三世代(IS換算)

 

IF、IS全機体で基本スペック最低値という不名誉な称号を持つ機体。

しかし、その代償で得たイメージインターフェイス『Circle Out』は自然の摂理の範囲内ならばその事象を無効化できる。しかし、これは一定時間に対する使用回数に制限がある。何より体の負担が大きい。

体の負担無しに行えるのが単一能力『Chaos Zone』である。これはCircle Out より広範囲に働く。しかし、一定時間に対する使用回数は1回のみ。

(一言:使った時いつもレヴァに装備されてた)

 

 

以下、製作者不明の機体

――レヴァ

第二世代(IS 換算)

 

槍を中心にバラエティに富んだ武装を積んだ機体。また、機体の性能も第二世代後期から第三世代初期と申し分ない。

よく『ミスティル』が使われるがこれは単一能力である。

 

 

なお、日常ではサイクロン掃除機や扇風機、荷物の移動などなどかなり便利に使える。

モデル:(一言:渓谷返して下さい。あと、ドゥクス!みたいなガード増やして下さい)

 

 

――レッドデーモンズ

第三世代(IS換算)

 

同調機体。遠距離射撃機。

登場機の中ではトップの性能を持った機体と言える。

IS狩りにより存在を騒がせた機体でもある。

 

イメージインターフェイス『デモン・ストレート』による炎属性を得て腕部からはAbsolute Power Force、足からはバーニングスマッシュと四肢に取り付けられた武装からの攻撃はかなり危険である。

 

魔理沙「遠距離機体とは……」

作者「Conflictにより解決されました」

 

ウィングスラスターには追撃に使われる熱核拡散弾「デモン・メテオ」を搭載。

簡単に言うと甲龍のパッケージの『崩山』と一緒。

 

単一能力『Crimson Hell Flare』は(簡略して言うと)炎の造形技ですかね。

槍の状態じゃないと破壊できないとかチートか、と言われそうですが

移動が鈍足。手掌で操っても速度は上がらない。十分な威力にするにはかなりのエネルギーが必要。遠距離、同時平行作業の攻撃のため防御は紙。……と微妙になるはず。

 

モデル:レッドデーモンズ・ドラゴン

(一言:スカーライト出ましたね。いつここで登場するか…未定です)

 

 

――オシリス

第三世代(IS換算)

 

アインスの機体のスペックが同調機体>通常機体である中、No2の性能を持つ機体。

しかしSlave Mode時にしか使えず、そのSlave Modeも具体的な発動条件は分かっていない。

(現状分かってるのは死ぬことを回避するために発動することぐらい)

通常の約3倍、1800ものシールドエネルギーを保有しているが、これは零落百夜に似て技の発動にシールドエネルギーを要するからである。

 

イメージインターフェイス『サンダーフォース』は雷属性を付加する。

無形なため斬撃のするもよし、電気の特性を使うのもよしと攻撃方法は多岐に渡ると思われる。(しかし、自分の意志では使えない)

単一能力『Ruin Rain』は雷を纏った鋼の矢を大量展開する技。

物理物質を持っているため、攻撃だけでなく防御にも使える。

 

モデル:オシリスの天空竜

(一言:ドジリスぇ……)

 

 

――コピーナイト

 

無人機状態で機体を展開するシステム。

一機多く展開する度に同調率はかなり落ちるため、同時展開で満足に戦うには100%以上の同調率が必然的になる。また操縦は全て手動になるので使いこなすには膨大な時間がかかる。

 

勿論、自分に機体を纏わなければ同調率は下がらない。

が、スタンドごっこ中は自身が生身の状態なのを忘れてはならない。

 

 

――Sin Paradigm Shift

 

コアからエネルギーが溢れるほど流れ出ている状態。

コアのリミッターも外れるため、このエネルギーを利用し爆発的な戦力を持って戦闘を行うことができる。

(要はチートです。ありがとうございます)

 

なお、機体を通さずに使うとゼロ・リバースに近い被害を出すらしい。機体を通しての使用が必須である。

 

魔理沙「機体がないのにどうやって発動するんだよ」

作者「……だよな。でも、放っておいてもエネルギーが回復するシステムがコアにはあるんだよ。絶対一人は『既存のものの代替エネルギーになる』って言う」

 

コアを破壊することで起こる現象なため、使用前と同じ水準の操縦者保護は受けられないにも関わらず、機体はエネルギーをもて余すほど持っている状況になる。操縦者はこれを最大限利用しようとするため必然的に動きは急加速、急停止の連続で身体的負担は大きい。

 

使用後はコアの機能を果たさずスクラップと化す。

絶対防御があるため死ぬことはないので使う奴はISのコアの価値が分かっていない馬鹿か、アブナイ状態の人間くらいである。

 

ちなみにIS使用時での火事場の馬鹿力は100%これが関係している。

簡単に言えば数秒だけ解放されている状態である。

このことから数秒レベルならコアに損傷はない、もしくは回復するが、なぜ一次的に解除されるのかは全く分かっていない。製作者の性格が反映されたようなものに見えるため「篠ノ之 束の気まぐれ」と呼ぶ人がいる。

 

実はそれによってChaos Zone と同じ効果を使える。ただしエネルギーの供給と併用はできない。

またこちらは身体的負担は少ない。

 

 

 

 

 

――とまぁこんな感じです。

また機会があったら書こうかなと思います。ネタバレにならないように。

 

あと、近日ルールブックを買うのでこのIFシリーズを一部のみでもTRPGにできないかと模索しています。

 

魔「なんでクトゥル○なんだ?」

私「無慈悲なSANチェックがしたいからです(ニッコリ)」

魔「…………」

私「というには冗談でして、せっかく手に掛けたのでラノベ二次創作ではなく、(痛かったり、厨二的なのがありながらも)大人も読めるものにしたいと思ってるだけです」

魔「その一つがクトゥ○フと……」

私「SANに関する概念や技能<IS>も作成も大変なことになるでしょう。

  あとメモの量。あとキャラの多さから周回しなきゃいけない気が……。

これってTRPGになるのだろうか?」

魔「知らん」

私「ですよねー。まぁ公開はシリーズ終了後なのでゆっくり練りたいと思います。

  では皆さん。次回は本編で会いましょう。ここまで読んで頂きありがとうございます」

 

 

 

 



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不幸への選択


皆さんこんにちは。
全話で話していたルールブックが手に入り既存シナリオをいじったのですが、改変がラク。
自分の少ない知識に対してどれだけ風呂敷を広げてしまったか…。実感しました。
頭良い人になりたい。

あっ、福音戦中の百式第二形態前のシーンを変更しました。
短いですが大事なシーンになりました。
では本編をどうぞ。




(さとりside)

 

 

 

「まったく。あの長官。自分の仕事を押し付けてきやがって…」

「まぁまぁ、仕方ないじゃないですか。長官は長官で他にも仕事があるのですから」

 

ぶつぶつと文句を言う私をお燐がなだめてくれる。

私はこうして文句を言っているが仕事は慰霊碑の手入れと簡単(と言っては失礼だが)だ。

 

慰霊碑というのは戦争や災害で亡くなった人の魂を鎮めるもの。

AIF、特にゴドウィン長官は『血の演説』の被害者をこれに当てはめ作った。

しかし、その被害者の中には現在亡国機業、アルカディアムーブメントとして悪事を行っているメンバーの仲間がいることは確か。

長官は「どんな人物であれ、核兵器の廃絶を訴えた唯一の集団です。弾圧されたからといってそれを風化させるようなことは防がなければなりません」と言ってはいたが、なぜ私達がするのか?

 

慰霊碑の中の仲間達と対立する私達ではなく彼等の思想を継いでくれるような人達にさせればいいのに……。

 

「あれ?あそこにいるのお兄さんかな?」

 

お燐が顔を向ける先には黒川さんが慰霊碑に花を添え、静かに手を合わせていた。

 

「どうしますか?」

「あそこには唯さんがいますし、少し一人にさせてあげましょう。

私達は昼食でも取って適当に時間を潰しましょうか」

「そうですね。今日は卵アレルギーのお空いませんしミスチー亭であの絶品オムライス食べませんか?」

「えぇ。貴女が運転してくれるなら」

「また、第三の目を通行人に使うのですか。

勘弁して下さいよ。運転してる私も怪しまれるんですから」

 

と言いつつ、言う本人も隠れて機体を使っているのでこれは形式上の注意である。

正直ISの能力は便利だ。

私は人の本心が分かる。

お空は会社と契約しなくても電気が使い放題。

お燐も座ってるだけで簡単な事務作業ができる。

黒川さんに関しては何でもできると言っていい。

条約で禁止されていてもそれを使うなというのは少々無理がある。

本部ですら適当な理由をこじつけてお空の能力を使わせている。

他国でも同じようなことはしているだろう。

 

「なんで篠ノ之 束はISに兵器なんて入れたのかしら?」

 

煙草を吸うのを一旦止め、ミスチー亭で絶品オムライスを頬張りながら何度目かになる話題を繰り返す。

 

「仕方ないですよ。当時の篠ノ之博士の年齢とその論文内容から“共通のものさし”でないと信じてもらえませんでしたから」

「まぁね……」

 

15、16.まだ日本の高校過程も終了していない人間がアレ(IS)を出しても信用されないことが分からない人間ではないだろう。

せめて大学生の卒業研究で出せばよかったものを。

 

「まぁいいじゃないですか。私達はこうして良い職に就けたんですから。

こいし様から聞きましたよ。『勉強ができなくてお姉ちゃんの進路を決めるのは大変だった』って」

「あれは『できない』んじゃなくて『しなかったの』。興味がなかったから」

 

早めの昼食を取り終えた私達は再び車に乗り、お燐の運転で慰霊碑の場所に戻る。

 

「その証拠にISに関するものなら人並み以上にものが言えるように勉強したわ」

「教える私達も苦労しましたけどね」

「同級生だったことを後悔しなさい」

「なんでそんな自信満々に言うのですか」

 

お燐は溜息を付く。

そう言いながら車は運転してくれるし、何故か“様”まで付けて話す。

私の方が貴女達に“様”を付けるべきなのですがね。

 

バンバンと車のドアを閉め、再び慰霊碑の場所に戻る。

さて、かなり時間かかりましたしとっとと済ませて本部に帰りましょう。

 

「……さとり様。優くん動いてませんよ」

「まさか――」

「本当です!1歩も歩いた様子がないんです」

 

お燐が指指した場所を見る。

この時、第三の目を閉じるべきべきだった。

彼から恐ろしいほどの感情の塊が私に流れてくる。

 

―ごめん

―あの時守れなかったから

―殺してしまったから

―あの人の期待に背いてしまったから

―勝てなかったから

―俺はどうしたらいいのですか……

―俺は死んだ方がいいのですか?

―ごめんなさいごめんなさいごめんなさい………

 

 

「おぇ……」

「さとり様!?」

 

吐き気には襲われるがISの特性上吐き出すことはない。

だが、脳裏に見せられた見せられた光景から押し寄せる感情の波は脳裏に焼き付いて離れない。

目の前にいるあの人が今ああしているのが異常だ…。

 

「早く黒川さんをあそこから引き剥がしなさい…」

「え?」

「早く!」

「は、はい!」

 

 

彼を強引にそこから連れ出し病院に連れ出させた。

 

 

 

 

 

(シャルロットside)

 

 

 

「はぁ……」

 

ラウラと一夏は先日の戦いを見直してはすごい機嫌悪くなるし、箒も箒で何か神妙な顔でずっと考え込んでいるし、特に優に関しては機嫌が悪いとかではなく、もっとドロドロしたような何かがある気がする。

セシリアや鈴は「気にすることない」って言ってくれたけど、あまり良い表情ではなかった。

中国はIS狩りの時背中から刺されてるから楽観視できないんだね。きっと。

 

「あらあら。乙女が溜息なんてしてどうしたの?幸せが逃げちゃうわよ」

「楯無さん……」

 

優達と違っていつものようにニコニコと笑っている楯無さん。

先日のことなんて無かったみたいだ。

 

「楯無さんは優のことが心配じゃないですか?」

「まぁ心配じゃないって言ったら嘘だけど、そこまで気にしてないわよ。

優くんなら知らない内に私に溜息付きながら帰ってくるわ」

「でも……」

「大丈夫だって。優くんはSecond Americanを解決したし、IS狩りを行え世界に影響を与えたスペックがある。

他にもAIFには織斑先生以外にも『狂人』や『緋色の女王』、強い人はいっぱいいる。

無闇に怖がる必要はないわ。貴女は貴女のすべきことをすればいいの」

 

楯無さんは優しく、諭すように言ってくれた。

だけど、それは暗に僕達はそれ以上関わってはいけないと言っているような気もした。

 

「…ところでその恰好はどうしたのですか?」

 

文化祭の時と同じメイド服を着ている。

なんか文化祭のイメージが悪いイメージが先行してたからこうしてくれるのは嬉しい。

 

「そうそう。シャルロットちゃんにこれを渡そうと思ったの」

「これは何ですか?」

 

渡されたのは真新しい本と乱雑に書かれた紙のコピーの束。

そこそこ分厚い気がする。

 

「これはね、文化祭に間に合わなかった文学部の出し物の本…という名目で売ろうとしてる優くんと唯ちゃんのお話よ。そしてこのコピーがノンフィクションの原案」

「優と唯さんの話?」

「確かにあのベクターという男は唯ちゃんを利用したわ。でもだからと言ってあの優くんがあそこまで殺気立つには理由としては弱い。それを知ってもらうための本ってわけ」

 

この人こういう気配り上手なんだよね。

しかもこのタイミングで出せるのはホント凄いよね。

そういうところは見習わないと。できたら盗聴器とか無しで。

 

―プルルルル

端末から電話が来たので話を一旦置かせてもらって対応する。

 

「はい。―そうです。え、優が……」

 

電話の内容に戸惑っていると手で僕の目を覆われた。

 

「大丈夫。落ち着いて。まず深呼吸して」

 

言われた通り深呼吸を繰り返す。

楯無さんがすぐ横にいることもあって少しだけ落ち着けたような気がした。

 

「それで電話の内容は?」

「優が病院に搬送されたって……」

「そう。じゃあまずは部屋に行かないとね」

「でも……」

「大丈夫。搬送は知り合いの人がちゃんとしたらしいわ。

なら今は医師が治療している。

まずは一日病院で生活できる物を持って行ってあげましょう」

「あ、はい……」

「じゃあまずはタクシー呼んでその間に荷物の用意をしましょう。

鍵はまだ持ってるでしょ?」

「はい…」

「じゃあ行ってらっしゃい」

 

僕は楯無さんに見送られて一旦優の部屋に向かった。

 

 

 

(さとりside)

 

 

 

吐き気は収まった。けど、一度に多くの感情が逆流したあの感覚が拭いきれない。

つい手を口元に運んでしまう。

 

どうやらあの時黒川さんを見た私の様子が思ってた以上にひどかったらしくお燐に検査するように言われてしまった。

 

昔の彼が内気に近い態度をとり続けたのは身勝手な政治家達のせいかと思っていたけど、どうやら違うようね。

 

「さとり様。優くん、目覚ましましたよ」

「そう。じゃあ行くわ」

 

お燐に付いていき病室に向かう。

中に入るとそこには普通にシャルロットさんと話す黒川さんの姿があった。

見る限り、慰霊碑の前にいた時のような何かに取りつかれたような様子はない。

 

「すいません。なんか面倒をかけちゃったみたいで」

「大したことじゃないわ。強いて言えばその時のお燐の運転が荒かったけど」

 

(…………)

第三の目で彼を見るが今はあの時のような光景が見えない。

それどころか何も見えない。まるで鋼の表面でも見ているように映しだされるのは自分の目だけだった。

 

「――1回学園に戻るね。他に何か必要な物ある?」

「いや大丈夫だよ。すぐ退院できるから」

「そっか。じゃあ学園で待ってるね」

 

そう言うとシャルロットさんは私達に頭を下げ病室から出た。

健気な娘。

能力を使わなくても彼女には好意があることがわかる。

だが、落ち着いている。……誰かに支えて貰えているからかしら?

 

「じゃあ私も戻りますね。さとり様はどうしますか?」

「私は少し残ります。適当な方法で帰りますので戻って平気ですよ」

「はい(あぁ。この人IS使う気ですね)」

 

お燐は諦めたらしく何も言わずに病室を出てくれた。

私はシャルロットさんが座っていた椅子に座り優さんに目を向ける。

 

「…黒川さん。ハッキリ言います。しっかりして下さい。

シャルロットさんだって辛いんです。それでも明るく振舞っているのよ。

貴方がそれでどうするのですか」

「分かってる…。けど……」

 

優さんは後ろになるにつれぼつぼつと聞き取れないような声になってしまう。

 

「何か発散したいのでしょう?

変に抑えるなんてことは止めなさい。私のように気が狂いますよ」

 

『自らを抑圧する汝でもそれは許されたものだろう?』

誰の台詞かは分からないが彼の心からこの一言だけ拾えた。

 

(やはり抑圧していることが原因ですか…)

この人、さっき心を読んだ時もアレだったですし、抑えることに関しては基本的に完璧なんですよね。そのせいで心が上手く読めない。

何が原因でしょうか…。何よりこれでは人として問題がある。

 

まぁ、ここはAIFの管理地。お空の誤爆でも耐えられるようになってますし大丈夫でしょう。

 

「……黒川さん」

 

 

―ガシャン!パリーン!

 

私は機体を展開し優さんが横になっているベッドを窓へ向けて蹴り上げた。

黒川さんはそのまま窓ガラスを割り、外へ出る。

複数階のここではそのまま落下。しかし、彼はアインスを持っているため無傷で空中に留まる。

 

「何か思うところがあるのでしょう?

なら、してみればいいじゃないですか。せっかく目の前に私がいるのですから」

 

それだけ言うと私はまだ構えていない優さんに接近し容赦なくブレードを振るった。

 

 

 

 

(ラウラside)

 

――ガキン!

 

プラズマブレード

 

 

『悪くはないけど私には相性が悪いわね』

「なら、コイツはどうだ?」

 

レールカノンを楯無に向け放つ。

更に一度収納し再度展開する。冷却など無視だ。

それでも私はコイツに勝たなければならない。

それをもう一度繰り返し、計3発。これでミステリアスレディのナノマシンシールドで全て防御に使わせる。

 

黒い煙が立ち込めた。

16全てのワイヤーブレードも攻撃に回す。

黒煙で正確に捉えることはできないが関係ない。これは使うことが大事なのだ。

 

 

私の予想通り楯無は前に出る。

持てる遠距離武装を使った今、肉薄には絶好のチャンスだからな。

 

『いくら威力が高くてもごり押しは無理……』

 

楯無の声が後になるほど小さくなる。

何しろ目の前にさっきまで攻撃していた私がいないのだから。

 

確かにレールカノンは直線攻撃になる。しかし、ワイヤーブレードは私の意志で操れる。

私は先に彼女の後ろへ回ってから攻撃。一度彼女の横を通過させ360度向きを転換させることでさもそこから攻撃しているように錯覚させたのだ。

だから私は……

 

『ここにいる』

 

私は楯無の後ろ、レールカノンの連撃で作った黒煙の中から奇襲を駆ける。

これなら楯無がISを通して見ても黒煙しか見えないわけだ。

 

 

『AICを使わずここまでできるなんて上出来ね。

けど、私相手にその距離は良くないわ』

 

私を中心に突然爆発が起こり私のシールドエネルギーは無くなってしまった。

 

 

…………………………………………

……………………………………

………………………………

 

 

「うんうん。最近また一層操縦が上手くなったんじゃない?

おねーさん嬉しいな」

「…………」

「もーそんな不機嫌な顔しなくてもいいでしょー。

ラウラちゃんにはOK出したじゃない」

 

そう。私だけだ。

一夏達もこの実戦レベルの訓練を頼んだが却下された。

なぜ私だけがこうして彼女から許可を得られたかというと私が「軍人」でもあるからだ。

代表候補生の本文はあくまで機体データの確保、つまり「次の研究の為のデータ集め」でしかない。

亡国機業が何をしてようがAIFが何をしてようが関係ないのだ。

 

これに対しては様々な意見があるだろう。

特に一夏のように被害に遭った者にとっては納得のいかない話かもしれない。

そう正義を、正論を掲げることは誰にもできる。

しかし、そのためには政争に加わることができる立場でなければならない。

そしてそれは少なくとも代表生などではない。

 

勿論、それを黙って聞く一夏じゃないのは確かだ。

今頃一人で訓練に励んでいるのだろう。

それが不幸になることと知らずに。

 

 







ゲロイン誕生
さとり「やめろ」

そしてやはり主人公はどこかヤバい。
優「誰のせいだ」
私「だって主人公補正あるじゃん。だからいつまでも苦しめることができる」
優「クソ野郎」
私「その代わり良い思いもしてるのです。ではまた次回。
  ここまで読んでいただきありがとうございました」




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Demerit



皆さんこんにちは。黒川です。

先日、お気に入りのシリーズが投稿されていて舞い上がってました。
どこが適当なんでしょうね…(笑)

私はネタは無理なので(そんなことは5月の時点で分かってる?)フレーバーであたかも皆さんがこの世界の住人かのように物事を知っているように頑張りたいですね。

では本編をどうぞ。





(優side―食堂)

 

 

 

「あーーねみ………」

 

止まらないあくびを手で押さえながら朝食を頂く。

病院であの後10戦ほど模擬戦をさせられた。

燐さんが永琳さんを呼び、止めてくれたおかげで途中で止まったから良かったが

あの人自分が模擬戦をしたいが為に嗾(けしか)けただろ絶対……。

 

ただ、助かったことがある。

Sin Paradigm Shiftの効果は一時的なものであるということ。

他の機体には何も影響を与えていないということ。

つまり、他人に絶対防御を超えるダメージを与えることはないようだ。

 

ただ、問題が一つ。

――レッドデーモンズが使えなくなった。

 

原因は分かっている。ベクターと戦った時に発動されたSin Paradigm Shiftだ。

具体的に言えばコアに存在するエンジンの役割を持つモーメントへの燃料エネルギーの輸送を制御している遊星ギアが傷み、2度と正常に働かなくなると言われている。という仮説だ。

 

その為修理をせざる負えないのだが、俺はアインスのコアの遊星ギアについて知識がない。もし開示することができても何が遊星ギアでどう直せばいいのかさっぱり分からない。

 

遊星ギアについては海馬コーポレーションの面々も詳しい原理を世に伝えてなく、論文も特許や最近の問題からあやふやになっている。

しかも、遊星ギア云々は仮説だ。「今存在する技術で永久的にエネルギーを作れるのがモーメントしかないから」という曖昧な根拠を頼りにこの前提が作られている。まぁ…

 

『凖おじちゃん。この光って回っているのは何ですか』

『モーメントっていうんだ。人の感情を汲み取る不思議なエネルギーって感じだ』

 

その前提は当たってるだろうな。

 

(オーディンの瞳を使うか……)

目に負担はかかるが仕事もあるしこれ以上時間かけるわけにもいかない。

 

 

「あ~~。ゆーりんだー」

「あぁ本音か」

「ゆーりん一人なんて珍しいねー。どうしたのー?」

 

他所では普通の光景であるがここは基本的に女子しかいないIS学園。

そんな所にいる女子達が男がひとりでいるところを見逃すはずがない。

が、俺はひとりでゆっくり朝食をとっていた。

 

小耳を挟んだ話によるとこの前のベクターとの戦いが原因らしい。

あの時は怒り狂ってたから怖がられてもおかしくない。

 

「まぁこんなもんだろ。逆に本音とか楯無とか虚さんみたいに接している方が変わってるぞ」

「そーーお?」

「そう。アインスはテロリストだって考えの人が大半からな」

「でも、ゆーりんはやさしーよ」

「そりゃあどうも」

 

鮭の切身を箸でつまみ本音に向けると嬉しそうにパクっと食べた。

ほんと喋るペットだよな。

 

 

―バァン!

ドタドタと一気にたくさんの女子が食堂に入って来た。

俺が言っても説得力の欠片もないが君達そろそろ授業始まるぞ。

 

「黒川くん!」

「ん……え……」

 

さっきまでの静けさが嘘のようにたくさんの女子が俺を囲っていた。

 

「あ、あの、何か?」

 

今までにない状況に困惑する。

そんな俺の手を目の前の娘がしっと手を握った。

 

「あのね黒川くん。もし辛いことがあれば私達に言ってね!」

「は、はぁ…」

「こ、これね私のアドレス。メールでも大丈夫だからね」

「黒川くん―――」

「黒川くん……」

「黒川くん―――」

 

俺は聖徳太子じゃないのに何人も同時に話かけてたり、腕を引っ張ってきた。

女子特有の押しの勢いに押し潰されそうだった。

 

(一体何が……)

 

「ゆーりん、ゆーりん、これ」

「ん?」

 

同じように押し潰されかけている本音に渡されたのは一冊の本だった。

 

………………………

…………………

……………

 

「ゆーりんー待って~」

 

服の裾をつかんで半場引っ張られながらの本音を連れて生徒会室のドアを開ける。

 

「あら優くんじゃない。どうしたの?」

 

俺が来るとは思わなかったかのように楯無は意外そうに俺を見ていた。

 

「これ」

 

さっき本音が俺に渡した本を書類で埋まっている机の上に置く。

 

「なんで俺と唯が出てるんだよ」

 

しかも、俺許可してないのにまるで許可したかのように生徒会公認って書いて出してるし。

 

「すごいでしょ?

私達の記憶と薫子ちゃんの情報収集、文学部の総力が1つになった大傑作よ。

学園の8割強が買ってくれたわ」

 

扇子には「大繁盛」と書かれていた。

 

「楯無……」

「まったく、あんなの相手に『Sin Paradigm Shift』使っちゃって。

あれじゃどっちが悪者かわかったものじゃないわ」

「…………………」

「他の生徒が怖がってたわよ。

勿論、優くんだって怒りたい理由はある。

だから、その理由を本にして皆に理解してもらおうと思ったわけ」

 

再び扇子を勢い良く広げる。

その文字は「代弁者」に変わっていた。

 

「今回はマジメにやったわ。だから本の内容マシだったでしょ?」

「……まぁ」

 

強いて言えば女の子が喜びそうな甘い表現が多くて事実と異なりそうな気がするが……

まぁ全員が知っているのも恐い話だし、あのくらいが丁度良かったのかもしれない。

 

「…それはどうも」

「なら今度デートということで」

 

どうやら今回のは貸しになってたらしい。

 

「まぁお好きにどうぞ」

 

両手を上げ降参のポーズをとる。

どんなに逃げても目を付けたら放さない。

逃げれば泥沼にはまらせる。それが更識 楯無である。

 

 

 

 

(優side―IS学園正門前、集合一時間後)

 

 

 

「メガネ?」

「はい……そうです……」

 

出発前ながら半ばがっくりとうなだれながら答える。

 

「ついに優くんから本格的にオシャレをしてくれるようになったのね。お姉さん嬉しいな」

 

楯無は余程俺の言ったことが嬉しいのか楯無の嬉しそうな声と一緒にさっそく眼鏡関連のサイトを調べ 想像を膨らましている。

 

(……どうしようか…)

メガネを買う理由がただの視力低下だからなんて……もう言えない気がする。

 

「じゃあ洋服の方にもすこーし力を入れて欲しいなぁ」

 

ため息混じりに俺の全身を見る。

ちゃんと雑誌を買って頑張ってるはずなんだけど、毎回楯無に指摘される。

今回も集合してから服を指摘されて直されて今に至っている。

シャルや千冬さんが何も言わないから俺のセンスが変な方向に飛んでいるわけではないはずなんだが……。

 

何が悪いのだろうか?

まさか、楯無と同じ服じゃないといけないとか言わないよな?

 

「じゃあ行きましょう、そうしましょー」

 

するっと俺の腕を掴む。

時々思うが楯無は日本人じゃないよな。

 

「…なんでお前まで腕を組む」

「いいじゃない。デートなんだから」

「…………………」

 

前からの主張で本人曰く『下心はない』らしい。

前例があるから“信用してない”が、言い合ってもしょうがないし、外なら大丈夫だろう。

 

そのままレゾナンス行きのバスに乗り込んだ。

 

 

 

(ラウラside)

 

 

 

――ピローン

 

携帯端末がメッセージを受信する。

どうやら更識かららしい。

また、奴のメッセージを消す手間が増えたと思いながら本文を見る。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

Sub :ラウラちゃんへ

From: Kerl(奴)

 

今日はアリーナが使えないらしいので優くんと出かけてきます。

せっかくの機会だからちゃんと休んでね☆

 

                    楯無

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

(あの女……)

先日、一夏達にあそこまで言って自分は呑気にデートか…。

シャルロットに言いつけるぞ。

 

「ん?」

 

セシリアがアリーナの方へ歩いていく。

今日は整備も兼ねての休みらしいなため開いてはいない。

彼女はそれを知らないのか正面の玄関を無理やり開けようとしたり裏口のドアノブを無理矢理引こうとする。

手が滑ったのか後ろにぺこんとお尻を着いた。

 

(……何をしているのだアイツは?)

彼女はドアに対し文句を述べるとアリーナを離れどこかへ歩き始めた。

すかさず彼女を尾行する。

彼女が歩く先には何もないはず。にも関わらず意志を持ってまっすぐ歩いていたからだ。

 

彼女が行き着いた先は学園の私有地の端にある砂浜だ。

 

砂浜に立つと機体を展開し海に向かって光弾を放っていた。

ただ撃っているわけではない光弾は少しだけ三次元に軌道を描く。偏光射撃。

 

「目指す先は-IS-か」

「――!?」

 

私がいると思わなかったのか、セシリアは反射的にスターライトMK-Ⅲを私に向けてきた。

 

「私だ。別に敵意はない」

「ラウラさんでしたか…。すいません」

 

彼女はすぐさま機体を収納し、まるで悪いことをしたのがバレた子供のように微笑んだ。

 

「どうしてここにいる?」

「どうしても何も特訓ですよ」

「それをわざわざここまで来てする理由を聞いているんだ」

「時間がないからですよ。先日の戦いからも明らかです。

亡国機業は強いです。いえ、わたくし達が弱いのです」

「……………」

「ですからわたくし達は黒川さんのように強くならなければならないのです」

 

彼女はまっすぐと私を見つめた。

どんなことにしろアイツが関わると目の色が変わるな。

 

「あの女はお前達がそう思うことを読んでいた」

「例えそうだとしてもそれを決めたのはわたくし達自身です。

その想いだけはわたくしのです」

「そうか……。無理はするなよ」

「えぇ」

「そう嫁に伝えてくれ」

「わたくしじゃないいんですか!?」

「当たり前だ。勝手に死なれたら困るからな。嫁もここに来るのだろう?」

 

辺りを見回すと嫁、箒、シャルロットの姿が木陰から見えていた。

まったく。あれでは追跡になっておらん。今度隠密機動について教えてやらんとな。

 

――ジュ

何かが私を横を通る。

毛先がそれに触れてしまったらしく焦げた匂いがした。

せっかくシャルロットが手入れをしてくれたというのに……。

視線を戻すと彼女はワナワナと震えていた。

 

「えぇ、そうですか……。そうですよね……。

貴女は初めからわたくしのことを無下に扱っていましたものね……。

いいですわ。その体、蜂の巣にしてあげましょう」

「ほう。またあの時のように苦杯を舐めたいと言うならそうしてやろう」

 

私もレーゲンを展開しセシリアと対峙する。

私は不器用な人間だ。

シャルロットのように器用な人間でなければ上手く私を操れないだろう。

 

なら拳を合わせる方が性に合う。

そうすることで互いに上進できるからな。

 

 

 

 

(楯無side―@クルーズ)

 

 

 

「優くんってそんな目悪かったっけ?」

 

買った縁のない眼鏡をする優くんをまじまじと見る。

私的は縁のある眼鏡の方が似合ってたと思うけど、優くん曰く、似合っている方向が違うらしい。

どうやら“かわいい”から似合うということにはすぐ気付いてしまったらしい。

残念。こっそり優くん完全乙女化計画進行さしたかったのに…。

 

「最近だな」

「目の力を無理して使い続けたからじゃないの?」

 

ちゅーとストローでジュースを飲みながら指で目を指す。

 

唯ちゃんやベクター、ISISとの戦い。

使わざる負えない場合は多かったはず。

それに対してほとんど休めなかったのも原因かもしれない。

 

「お前さ。自分の飲み物頼めよ」

「一口だけ」

「そう言って半分近く飲んでるよな」

「あっ、バレてた?」

 

優くんは予め私が勝手に飲むことを感づいたサイズの大きいものにしたけどすでにカラに近い。

 

「だって、全然飲んでないじゃない」

「楽しみは最後にとっておくの」

「オレンジジュースを?優くん幼稚園児みたい」

「うるさい」

 

はっと取ってストローでオレンジジュースを飲み始める。

 

「あっ……」

「何?」

「いや何でもないわ」

「?」

 

(織斑先生はどんな教育をしたのかしら?)

一夏くんにしても優くんにしても女の子の夢見ることを無意識にしてくれる。

天然と言えばそれで済むかもしれないけど、二人共向かっている方向が違う。

 

「で、この後どうするんだ?行き着けの所で洋服買うのか?」

「遊ぶわよ」

「え?」

「ここにもRound zeroができたのよ。行くしかないわ」

 

私は優くんが文句を言い始める前にズルズルと引っ張っていった。

 

 

 

(優side)

 

 

 

俺達はお互い、普通の高校生と違ってお金には全く困らない。

機体を使う身なので身体能力も悪くはない。

始まったら勢いは止まることなく

 

そして――

 

「zzz………」

 

一通り遊んで疲れた楯無はバスに乗るとすぐに俺の肩を枕代わりにぐっすり眠っていた。

 

「子供だな」

 

寝てる分にはホント普通の高校生。さっきとは大違いだ。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

一休みのためにベンチでアイスクリームを並んで食べる。

 

「なぁ。どうしてお前はそう、俺に気をかけてくれるんだ?」

「知りたい?」

「それは、まぁ」

「そう………」

 

――ダン!

 

楯無は無言になったかと思うといきなり足を踏みつけ何かを喉元に突き付けた。

それはさっきまで食べていたアイスを食べるのに使ったプラスチックのスプーン。

しかし、それがナイフのような凶器に思えるほど迫真に迫っていた。

 

「前言ったよね?私の仕事、一緒に行ってみないって」

「あぁ。断ったけどな」

「あの時そう言ったのは貴方に知って欲しかったから。

世の中には手を血に染めることがあるってことを」

「……………」

「私の仕事が特殊で参考にならないかもしれない。

けど軍人や自衛隊、時には警官も“するのよ”。

それは確固たる意志を持った人間にしかできない」

「……………」

 

『サンダーフォース』

昔の嫌な記憶が甦る。

 

「そうだとしてもどうして、それで普通にしていられるんだ?」

「私達の世界を理解できない人も知って嫌う人もいるわ。

それは仕方ないことよ。

でも、理解をしてくれるのなら私は受け入れてくれる人を信頼するわ」

 

楯無はそっと俺に寄り掛かった。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「はぁ……」

 

今まで凝り固まっていたものを紐解いて貰ったのと同時に思い知らされた気がした。

 

アインスを持ったことを後悔した。

やっぱり齢12の子供が兵器を持つことは間違いだった。

知るべき現実を知らないというのは罪に成りかねない。

必要なんだ。覚悟が。

 

 

「ありがとな」

 

俺はそっと手を頭に置いた。

 

 

 

(シャルロットside)

 

 

 

「あれ?優?その眼鏡どうしたの?」

 

縁のないタイプのメガネ。

優に合っていてスッキリしていて、知的に見えてカッコいいと思った。

 

「あぁこれは……」

「私が買ってあげたの」

 

後ろからひょっこり現れた楯無さんが優の言葉を紡いだ。

 

「え?」

「優くんが目悪くなったって言ってたからレゾナンスで眼鏡買ったの」

「っというわけだ」

「どう?貴女のお父さんは?」

 

楯無さんはニコニコしながら私を見ていた。

 

「…………似合わない」

「ん?」

「優にメガネは合わない!」

 

僕は優からすっとメガネを取った。

 

「とにかく優はメガネしちゃダメ!」

「いや、それだと視界がぼやける…」

「いいよ。僕がいるから。行くよ、優」

「いや根本的な解決になってない………」

 

優はメガネを取り返す形で僕の後ろを歩いて行った。

 

僕は楯無さんにあっかんべーして食堂から優を連れて行った。

 

 

 

(楯無side)

 

 

「ふふふっ」

 

離れていく優くんとシャルロットちゃんのやり取りを眺めていた。

 

「会長。あまりからかうのはよろしくないかと」

「いいじゃない。見て」

 

ひょいっと私に向けられた顔を二人に向ける。

 

「優くんの表情大分柔らかくなったわ」

 

去年の時の表情とは大違い。

普通の男の子と女の子のやり取りをしている。

 

優くんは心に鎧を着けることで自分を守る。

だから唯さんが亡くなった時、泣かずに表面上淡々と仕事をこなしていく彼を見て“危ない”と感じていた。

けど私には出来なかった。1年間一緒にいて色々引っ掻き回して彼のことを知ってたのに、私はワガママばっか言って迷惑かけてばかり。

受け止めることはできなかった。

 

「いいなぁ……」

 

つい本音が漏れてしまった。

 

「クスッ」

「なによ虚」

「いえ、失恋の感傷に浸ってるのかと」

「そんなわけないでしょ。」

 

だって私は男として優くんが好きなわけじゃないし。それにちゃんと……

 

「会長は優さんに“お友達”と本人に仰ってましたので」

「……なんで知ってるのよ」

 

恥ずかしいから誰にも言ってないのに。

 

「さぁなぜでしょう?」

 

年上独特の余裕と言わんばかりに私に微笑んでいた。

 

 

 

 





―小さな回想時―
?「鉄の意志も鋼の強さも………」
私「楯無に言わせるのはちょっと無理がありました」

今作での黒崎さんの登場は少ないです。
やっぱりISの特性上、遊戯王男性陣を出しにくい…。
キャラによる遊戯王成分をお楽しみの方は先人様に任せます。



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