ウマ娘 プリティダービー 歴史を塗り替える女王 (けんき)
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ここから始まる伝説

ウマ娘

彼女たちは、走るために生まれてきた。
ときに数奇で、ときに輝かしい歴史を持つ別世界の名前と共に生まれ、その魂を受け継いで走る――。
それが、彼女たちの運命。

この世界に生きるウマ娘の未来の結果は、まだ誰にもわからない。
彼女たちは走り続ける。
瞳の先にあるゴールだけを目指して


雪や寒さが段々と無くなり北海道の札幌市内もやっと春の陽気がやって来た

私は昼食のシチューを片手にテレビを見ていた

普段なら食事に集中したいから、あまりテレビを見ないんだけど、今日は違った

母がたまたまリモコンでつけた、横20センチ、立て15センチの小さな画面から聞こえる熱気と観客の声

その声に応えるようにどんどんウマ娘を抜いていくウマ娘が一人。アタシはその姿に目が離せなかった

 

『4コーナーを回ります。4コーナーを回った!最後の直線後方も一気にやって来た!!』

 

アタシは昼食そっち向けにテレビに夢中になる

その一人のウマ娘は前を走るウマ娘をあっという間に抜かし1位に躍り出た

 

『ルドルフ、並ぶことなく抜き去っていく!もう誰も追いつけない!これは強い!』

 

「凄い……凄い!!」

 

アタシは思わず、スプーンをテーブルに落とし、前屈みになる

彼女はそのまま誰も抜かされる事は無くゴールした

 

『シンボリルドルフ、今ゴールイン!見事に17人のウマ娘を従え6連勝、無敗で二冠を制しました!!』

 

「こんな興奮したレース初めて見た!」

 

アタシがこんなに興奮したのは、久しぶり……いや初めてだ

走りきった彼女は声援やテレビに向け天高く2本指を上げた

 

『日本のスターウマ娘から世界のスターウマ娘に飛躍するためにまずは世代の頂点へと立ちましたー!』

 

「うわぁ……スゴィ……」 

 

アタシの言葉に隣にいた母は、

 

「……興味あるのかい?」

「え、うん!」

「やはり、ウマ娘の血は抗えないか……」

 

母は意味深な事を口走ると立ち上がり、リビングを後にする

 

 

そして数分後、私がシチューを口にしていると、祖母は帰ってきた

 

「あなたも小4何だし、そろそろ将来の事を考えてもいいんじゃない?」

 

母は手に持つパンフレットを私に見せてきた

 

「ん~……トレセン学園?」

「ええ、さっきのシンボリルドルフもここに通っているわよ」

「ええ~!じゃあ私も、ここに行ったら……」

「会えるかもしれないね」

「じゃ、行く行く行く行く!!!」

 

私は母の言葉に即答した。早くあの人と同じ場所で走りたい。その考えだけしか今は無かった

 

「……そういう事なら、入学願書を出しとくね」

「うん!ありがとうお母さん!」

 

私はシチューをペロリと平らげ

 

「ごちそうさま~」

 

手を合わせると、お皿を台所の流しに下げた

 

「ああ~楽しみだな」

 

私は今すぐにでもシンボリルドルフさんと一緒の場所で走りたい。その気持ちだけしかが今の自分に無かった

 

 

 

 

 

 

あれから3年が過ぎた

他の人から早いと感じるかもしれないけど、私からしたらやっとだ

最初はトレセン学園に入学すると友達に言った時にはみんなから驚かれた

友達から『かわいいから、トレセン学園で走るよりもアイドルとか女優になった方がいい』て言われたけど、でも私は皇帝(シンボリルドルフ)と走りたい。その気持ちだけで、走る特訓やウマ娘の特徴をいろいろ勉強をした

そして、やっとこの場所に立ったんだ

 

「着いたね……東京」

 

私は水色のキャリーバッグを引っ張り空港の空気……東京の空気を大きく吸う

ん~なんか汚い……

 

「って!そんな事よりも……トレセン学園行きの……まあいいか!もう少し空港を散策してからトレセン学園に行こうかな」

 

私は重いキャリーバッグを引っ張り、空港の散策を始めた

札幌空港に比べて人が多くて目が回りそう……

私は人やウマ娘に押しつぶされそうになりつつも、前へ進んだ

 

やっと人混みから抜けだし、思わずほっとしてしまう

 

「なんか……疲れたな……」

 

私は思わずその場に座り込んだ。こんな所で疲れていたら皇帝と走るなんて夢のまた夢。

 

「……頑張らないと」

 

私は立ち上がり、売店に行くのをとりあえず諦めて、空港の出口を探した

 

「あれ、見つからない……」

 

人混みもあって見えないのもあるかもしれないけど、その前にこの空港広すぎ!!

……こんなん売店どころか出入り口すら見つからないぞ……

 

「ヤバいかも……」

 

とにかくマップだ!マップを見ればわかる

私は空港のマップがありそうな所をひたすら見渡したが、これがまた人混みでよく見えない。

156センチてそんなに低くないと思うんだけどなぁー

 

「とりあえず、どうしようかな……」

 

途方に暮れていると、トモに不思議な感覚が走った。握られるような……その後すぐに撫でるような感覚が走った

私は恐怖を感じ思わず鳥肌……いや馬肌が走った

私は恐怖を抑えつつぎこちなく後ろを振り向いた

振り向いた先には30代くらいの髪を束ね、あご髭がちらほら見える少し清潔感の無い男性が私のトモを触っていた

 

「……なかなか、良い足をしている」

「キャァァァアア!!!」

 

私は思いっきり男性を蹴り飛ばした。男性は簡単に数10メートル後ろに吹き飛んだ

 

「な、何なんですか!?」

 

私は思わず声を荒げた。男性は痛そうに頭を押さえ起きあがる

 

「痛ぇな……」

「自業自得でしょ!!」

「にしてもお前、こんなん所で何をしてるんだ?」

「え、えっと……」

 

急に冷静にならないでよ!

 

「わ、私は……出口を探してて」

「そうか、ようは迷子だな。出口は右奥の方にあるから」

「あ、ありがとうございます……」

 

以外と親切な人なのかな

私は(へんたい)に軽く頭を下げると出口の方へと行こうとした瞬間、男が再び声をかける

 

「あっ、そうそう、いい足をしてる。お前ならすぐに強くなれる」

「え、あっ、はい……」

 

前言撤回!この人、絶対ヤバい

まあ~いいや、トレセン学園に向かおう

私は教えてもらった出口の方に足を進めるのだった

 

 

 

 

空港を出てから、まずはバスに乗って最寄りの駅まで向かって、そっから東府中行きの電車に乗らないといけないんだけど……

 

「う~ん……わからん……」

 

入り組んだ路線図。赤、青、黄とカラフルな路線図に私を混乱させる

 

「どうしよう……」

「お困りのようですわね」

 

私はその透き通った声の方に思わず視線を移した

そこには透き通るようなさらさらした長い芦毛

顔はとても整ってて美しいをそのまま型したようなウマ娘が私の真後ろに立っていた

私はその人を見て思わず背筋に緊張が走った

 

「あっ、えっと、その……」

 

彼女は私は見回すように上下に眼を動かすと

 

「もしかして、トレセン学園新入生?」

「え、まあ、はい」

「なら、この電車だとトレセン学園がある東府中に行けますわ」

 

黄色路線か……

 

「あ、ありがとうございます!」

「いいですわ」

 

何て親切なウマ娘なんだ

 

「そ、それでは!」

 

私は軽く頭を下げ言われた路線の電車に乗った

結構ギリギリで、発進の放送とベルが流れていたので、私は飛び乗った

飛び乗ったのはよかったんだけど……

 

「(うわぁ、狭い!!)」

 

人と壁に挟まれ、香水や加齢臭などが入り交じった匂いと、電車のガタンゴトンとあらゆる所から聞こえる音楽や声に、私は思わず気分が悪くなってきた

これが東京で有名な満員電車か……

そんな生き地獄状態はさらに続く

各駅停車なので出入りがけたたましく行われる。入口にいる私は押し出されないように近くにある手すりに懸命に掴まった

そんな数分、いや体感では数時間かも

府中に近づいてくると人やウマ娘はどんどん少なくなり、ようやく椅子に座れた

 

「苦しかった……」

 

私はシートに思わずも倒れてしまった。マナー的にはよく無いけど、今回だけ許して~

 

『まもなく、東府中、東府中……』

 

ああ、降りないと

私は立ち上がると

 

「そこのお嬢ちゃん~」

 

よぼよぼな声が私の後ろから聞こえる。多分私だろう。今日はよく話しかけられるな

 

「はい?」

「キャリーバッグを忘れておるぞ」

「あっ!すみません。ありがとうございます!」

 

私が倒れていたシートの横に置かれたキャリーバッグを慌てて手に持つ

 

「……にしても、なかなかのべっぴんさんね」

「あはは……よく地元の友達にも言われるんですよね」

「お名前は何て言うのかね」

 

おばあちゃんの言葉と同時に電車は止まり扉が開いた

 

「私はアーモンドアイです!」

 

と言い私は電車を降りた

 

「頑張りなさいよ~」

「はーい!」

 

私はおばあちゃんに手を振りながら電車を降りそのまま勢いよく駆けだした

 

 

 

 

 

 

「何とか着いた……」

 

バスに数分揺られ、やっとトレセン学園目に到着した。到着した頃には夕焼けが巨大な校門を照らしていた

巨大な校門が目の前に私は思わず固唾を飲む

緊張や恐怖、不安……だけじゃなくて、ワクワクとドキドキが同じくらい入り混じった感情が込み上げてきた

 

「遂にここまで来たんだ……」

 

何だろ涙が……

 

「ぐすぅ……ここからだ。ここからなんだ!」

 

私の左手はいつの間にか拳を握っていた

 

「とりあえず、学生寮に行こうかな……てか今何時かな?」

 

私はポケットから銀色のスマホを取り出す。

スマホのデジタル時計には5時59分。

確か寮の門限は……

 

『当日6時にお願いします』

『わかりました!!』

 

「やばぁ!1分前じゃん!」

 

ここから寮は……ヤバい、どうしよう……ど忘れしちゃった……

 

「とりあえず、半径1キロメートルを走れば……」

 

私はキャリーバッグを片手に走り出した

いきなり東京に来てそうそう、痴漢にあったり、路線図に目を回したり、時間ギリギリになったり、初っ端から不運が続いたけど、気を取り直して明日から頑張らないと、ここから始まる新たな学園生活を!




次回くらいにアーモンドアイのプロフィールを出そうと思います

次回も読んでくれると幸いです(いつになるか、わかりませんが……)


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チームスピカ

アーモンドアイ
誕生日:3月10日
身長:154
体重:かなり痩せている
スリーサイズ:B82 W52 H85

シンボリルドルフと同じ場所で走りたいという理由でトレセン学園に入学
普段は少しおっとりした性格で少し抜けており、どちらかというとのんびりとしているが、レースの時やテンションがマックスになると、おっとりした性格が打って変わり、気が強くなり、誰よりも貪欲に勝利を目指す二面性を持つ
レースの時やテンションが上がると長い鹿毛が逆立つ

見た目:ワインレッドのアーモンドアイ、さらさらとした長い鹿毛で下向き矢印のような白い星模様が前髪にある
ハート型の髪飾りを左耳元に付けている

勝負服:雲のようなモコモコした白いマフラーを首に巻き、中世の女王が着るような水色の服に白を基調に赤のラインが入った膝上まであるスカート
背中には赤いマントを着けている


桜舞い散る春の陽気が新たにトレセン学園に入学する新入生を出迎える

そしてトレセン学園の目の前にある寮は静かに時を過ごしていた。そう1人の女の子の声が響くまでは

 

「も~何でいつもギリギリなの!」

 

私は朝がものすごく弱い。いや、ちゃんと6時頃に起きたんだけど、二度寝してしまった。昔からのこうだから仕方無いんだけど……

とりあえず、入学式に間に合うようにとりあえず、校舎へと走った

 

 

 

 

 

何とか全力疾走で校舎に駆け込んだので入学式にはギリギリ間に合った。

まあ、体育館前に集まったウマ娘達から変な目で見られたけど……

私が息を整えた所で体育館の扉が開く

開いた体育館の扉に入ったら、トレセン学園の生徒の一員になるだ

ピリピリと緊張感が走る体育館に私は思わず息を呑んでしまう。私は軽く深呼吸をして開いた扉に足を運び入場するのだった

 

 

 

 

トレセン学園だから入学式は特別という訳では無く。案外普通だ

始まりの言葉から始まり、学園長の話し、来賓の挨拶と……数十分が長い話で過ぎ去っていった

そして、次は……

 

「生徒会長挨拶です!」

 

マイク越しから聞こえた会長挨拶。私は思わずあくびをしてしまう。多分、会長と言うくらいだかなり長い話をされるだろう

そう思っていると1人のウマ娘がステージへと登壇してきた

その姿は威風堂々とした態度で威厳があり、出るだけで周りの人間やウマ娘の空気が変わった

私はこのウマ娘を知ってる

3年前のテレビで2冠を取った皇帝(シンボリルドルフ)だ……

私の曲がった背筋は真っ直ぐぴんっと立つ

そして、皇帝は教卓に置かれたマイクを調整して口元に近づける

 

「あ、あ、あ、ゴホォン。それでは、新入生の方々はこうして面を向き合って話すのは初めましてですね。私はこの学園の生徒会長を務めているシンボリルドルフです!」

 

この人が本物の皇帝(シンボリルドルフ)……

 

「この学校のスクール・モットーにもあるEclipse first,the rest nowhere.。

唯一抜きん出て、並ぶ者なし

この言葉に相応しい活躍が出来るように切に願う」

 

皇帝(シンボリルドルフ)……かっこいい!!

 

「あっ、そうだ。小学校から“進入”してきた“新入”生……」

「え、」

 

私は入学式中に思わず声が漏れる

皇帝(シンボリルドルフ)の言葉に体育館が急に冷凍室に変わったかのように辺りが寒くなった

 

「う~んやっぱり無理矢理過ぎたか……じゃあもう一つ」

 

流石にこれ以上気まずい空気になったら……

 

「ブライアン!!」

 

司会進行の所から少し怒気を含んだ声で呼ぶ声が

そして、1人のウマ娘が登壇し、皇帝(シンボリルドルフ)の制服の首根っこを掴み

 

「ま、待てブライアン!私はまだ話す事が!“校長”の話は“絶好調”とか……」

 

皇帝(シンボリルドルフ)の話を無視してブライアンさんは皇帝(シンボリルドルフ)を引っ張っていき無理やり降壇させた

 

「ええ……お見苦しい所をお見せしました。続けます」

 

もの凄いギャグのようなオチに苦笑いをするしか無かった

 

それから入学式は淡々と進み、昼前には入学式は終わった

私は退場するどっと疲れた

 

「まさかの皇帝《シンボリルドルフ》があんな人だったなんて……」

 

なんか拍子抜けしてしまった

私は少し脱力感を感じながら、他のウマ娘と共に教室に向かうのだった

 

 

 

 

 

 

教室に来た私は指定されたに座る。私が座る席は窓際の1番前だ

前の席で少し残念に思いつつ私は新たな席に着く

みんなが着席し、音が静まり返ると担任の先生が今後についての説明を始める

今日はこれと言ったイベントは無いらしい

しかし、この学校はレースに出るにはどこかのチームに入らないといけないらしく、いろんなチームを見学して、どのチームにするか決める時間に使ってほしいとのこと

今の入学式時期はいろんな所で入部テストをしているようなので、いろいろ体験していってほしいとのこと

私は先生から貰ったチーム名とメンバーの名前が書かれたパンフレットを見ていると

 

「ねえねえ」

 

私に話しかけているのかな

私は声がした方に振り向く。私が振り向いた先には、青眼で栗毛のショートカットで、左に流れる耳まで届きそうな長い前髪が特徴のウマ娘だった

 

「え、え~と」

 

私は思わずどう返すか迷っていると

 

「あっ、名前がまだだったね。私はラッキーライラック」

「私はアーモンドアイだよ」

「えへへ、よろしくねアイちゃん」

「うん。よろしく」

 

私はぎこちなく頭を下げる。初めて会う人はやっぱり緊張するな~

 

「それで本題に入るんだけど、どのチームに入るつもり?」

「え、私!う~ん……」

 

全く知らないチームばっか、正直かなり悩んでいた

そう思いつつ、パンフレットの方に目線を戻すと、ある1チームに私がよく知る名前が書いていた

 

「チームリギル……」

「ああ、チームリギルだよね。トレセンでも屈指のチームみたいだよ」

「へぇ~」

「私、リギルに入ろうと思っているんだよね」

 

リギルには皇帝が所属している。私がこの学校に来た理由は皇帝こと、シンボリルドルフさんと同じ場所で走りたいから、同じチームなら一緒に走れるかもしれない

 

「私も……リギルにしようかな……」

「え、じゃあ今から入部テスト受けに行こう!」

「え、今から!?」

「うん。学校見るついでにさ!」

 

特に今からやることは無いから……

 

「う~ん。いいよ」

「よし、じゃあ早速!」

「うん」

 

私は席から立ち上がり、ライラックさんと共に教室を後にした

 

 

 

 

 

 

トレセン学園にはいろんないろんな施設があってトレーニング施設だったり、プールとレースに出るための設備がかなり整っている

私とライラックさんは学校を散策しながらチームリギルが普段練習を行っている芝のグランドに訪れた

 

「ここが、チームリギルのテストがある所……」

 

芝の上には準備体操をするウマ娘の姿が見える。そして、それを見守るようにチームリギルのメンバーが鋭い目線を向けていた

そんな光景に私の背筋は凍りついた

そんな心臓がバクバクの私を横目に隣にいたライラックさんは芝の方に走り出し

 

「おーい!早く行こうよ!」

 

と言い芝の方へと走って行った

 

「……緊張とかしないのかな」

 

思わず思っていた事が口に出てしまった

 

 

 

私とライラックさんは更衣室を借りると赤色の体操服に着替える

私とライラックさんは皇帝が待つ芝へと向かい、軽く準備運動をする

一通り体を伸ばした所で

 

「それでは、テストを受ける方はここにお名前をお書きください!」

 

ロングヘアーの栗毛ウマ娘が声をかける。その元には机の上にプリントが置かれていた

テストを受けに来たウマ娘達はプリントの元にぞろぞろと集まる

私もプリントが置かれた机に向かった

そして、順番を待ちプリントに名前を書き込んだ

それから数分、名前を書いた私達はグレーのパンツスーツを着こなす厳しそうな女性の前に集められた

辺りにはチームリギルのメンバーが鋭い目線を向けていた

目の前に立つ女性の怖さもあって息が詰まりそう

 

「それじゃあ次、アーモンドアイさん」

「あっ、はい!!」

 

緊張のあまり何も聞いてなかった

 

「え、何の話を……」

「……意気込みとか、入ってからの目標とか、なんか無い?」

 

もの凄く呆れたような言い方されたんだけど……

でも私の目標はただ一つだ

 

「皇帝……シンボリルドルフさんと同じ場所で走ることです!」

 

私の言葉にみんなはシーンとなる

あれ、変なこと言ったかな……

すると黒鹿毛の褐色のいいウマ娘が私の肩に組んできた

この人は確か……うちの寮の……

 

「おまえ、面白いな!昨日門限破ったのに!」

「そ、その話は辞めてください!」

「アマゾン。それくらいにしとけ」

 

ヒシアマゾン先輩を止めたのは鹿毛の鋭い目をした威厳のあるウマ娘。確か入学式の時に司会してたような……

そのウマ娘は私の肩を組むヒシアマゾン先輩の首根っこを掴み引きずりながら元の位置に戻った

怖そうな女性は気を取り直す

 

「あなた。それがどれ程大変なのかわかって言ってる?」

「はい、もちろんです!」

「……そう」

 

緊張のあまり返した言葉はたった8文字……それに何も言い返さなくなった……もしかして、機嫌を損ねたかな……

 

「まあ、いいわ。とにかくこれから走ってもらうから」

「はい!」

 

それから、みんなの意気込みを一通り聞き終わり、用意されたゲートに入る

 

ゲートは鉄製で出来ており、扉に入るというより檻に入るような感覚に近いかも……

辺りにはチームリギルに入部しようと目指すウマ娘が真剣な眼差しでゴールを見つめていた

ライラックさんは私から見て左2番目の所にいる。ライラックさんはこっちがチラ見したのが見えたのか私にウィンクをした

勝負ごとに自分の事に集中しないのもどうかと思うけど、でもライラックさんのウィンクのおかげで少し肩の力が抜けた気がした

私は軽く息を整えると真っ直ぐレーンを見て集中する

そして息を整えてから数秒後、パンッとゲートが開いた

急にゲートが開き私はピクリと驚いてしまった。隣にいたウマ娘達はゲートが開いた瞬間にみんな走り出していった

 

「って、出遅れた!!!」

 

みんなはもうコーナーを曲がっていた

私も急いで、走らないと!

数10秒遅れでのスタート。距離的にも1位を取るのは難しい

と、考えている内に最初のコーナーへと来ていた。他のほとんどのウマ娘はゴールまで後半分まで来ていた

かなり絶望的だな……

私は目線の先を観客が見守る方に映した。そこには腕を組んでレースを眺める皇帝の姿。そんな皇帝と目が合う

私は思わず、笑みがこぼれてしまう

 

……こんな所でビリでゴールしたら、皇帝と同じ場所には一生立てない

……何してるんだろうな私。私ならもっと早く走れるでしょ。アタシなら!

 

アタシの足はどんどんと加速していく

 

 

 

 

 

 

私に憧れるウマ娘は決して少なくは無い。今までいろんなウマ娘がそう言って走ったが、私と共に走ったのは指で数える程しかいない

そう。あのアーモンドアイて子もきっとそうだ

そう、そう思っていた。そう彼女と目が合うまでは

彼女は私と目が合った瞬間、何かのスイッチが入ったかのごとく髪は逆立ち、一気に加速した。まるでさっきとは別のウマ娘が走っているような

彼女は一気に前にいるウマ娘を抜かし中盤まで押し上がった

ゴール前の直線に差し掛かると再び一気に加速する

私は起死回生という言葉が似合う彼女に目が離せなかった

 

 

 

 

 

 

楽しい時間はあっという間に終わる……気持ちいい風がすぐに吹き終わるように楽しい時間も一瞬で終わる

 

アタシの目の前にはもうゴールが見えていた。そして、アタシの目の前にはライラックさん、その先にはライラックさん以外はいないのでどうやら2位までのし上がっていたみたいだ

目の前のライラックさんから「うそ……」という驚いた声が微かにした、それくらいしかアタシとライラックさんの差が無いんだ

アタシは残りの力を全力に足に注ぎ込もうとした瞬間

 

「ゴーーール!!」

 

ヒシアマゾン先輩の声がアタシの耳に響き渡った

アタシはゆっくりとスピードを落とし足を止めた。息切れが激しい……でも、その分楽しかった

アタシはどさっとダートに座り込んだ

 

「久々に本気で走ったな……」

 

ダートに寝そべった私は北海道にいた時の事を思い出す

北海道では、こんなに本気で走った事は無かったかもしれれない、そんな感じがした

私が青い空を見つめていると私の目にライラックさんが飛び込んできた

 

「大丈夫?」

 

ライラックさんの言葉に私は起きあがった

 

「あれ、結果は……」

「1馬身差。にしても、あんな後ろからよく追いつけたね!」

「あはは、楽しんで走っていたら、いつの間にか2位だったんだよね」

「なにそれ!」

 

私の言葉にライラックさんは笑っていると、さっきの怖そうな人がライラックさんに近づいてきた

 

「ラッキーライラック。合格よ!」

「ありがとうございます!」

「これから、びしばし鍛えていくわよ!」

「よろしくお願いします!」

 

ライラックさん合格か……なんか悔しいな

私は立ち上がると更衣室に戻った

 

 

 

 

 

 

「はぁ~皇帝と同じチームに入れなかったな~」

 

空があかね色に染まろうとしていた

私は重い足取りで寮に戻ろうとしていた

私はふと横を向くと土に埋まった足のイラスト……写真?が私の目に飛び込んできた

 

「入部しないとダートに埋めるぞって……チームスピカ……絶対にヤバい……」

 

そう断言しつつ私は視線を下に向け寮へと歩いて行く

数歩歩いた所で何かにぶつかった。視線を下に向けていたので全く前を見てなかった

私はゆっくりと顔を上げると

マスクとサングラスを付けた怪しい8人のウマ娘が私の辺りを囲った

 

「え、あの……」

「ウォッカ、スカーレット、スペ、テイオー、マックイーン、キタ、ダイヤ、やっておしまい!」

「え、名前を言ったら……ハゥ!!」

 

私の目の前は真っ暗になった。そしてすぐに誰かに抱え上げられた感覚を感じた

……なんか嫌な予感がする。てか誰か助けて!!

 

 

 

 

 

 

体が揺られて数分。やっと光が私に目に飛び込んだ。なれない光にパチパチと目蓋を動かし目を慣らす

やっと慣れてきた所で私の目の前には8人のウマ娘の姿があった

そして、8人のウマ娘は笑顔で

 

「「「「「「「「ようこそ!チームスピカへ!」」」」」」」」

「チームスピカって……あの看板の!」

 

私は思わず後ずさりして、扉を開けようとガチャガチャ動かすが

 

「……開かない」

「ちょっと、お前逃げようとするなよ!」

「だって、入らなかったらダートに埋めるんでしょ!」

 

私の言葉にチームスピカは笑った

 

「あなた。かなり純粋なのですね」

「ん。あっーーー!!!あなたは!?」

 

私は思わず指を差した。私が指を差した先には私に路線図を教えてくれたウマ娘の姿があった

 

「昨日ぶり以来ですわね」

「はい。昨日はありがとうございました!」

「いえいえ、困っているときはお互い様ですわ」

 

すると後ろの扉からドンドンとドアを叩く音が部室内に響き渡る

 

「おーい!開けろ!」

 

ドア越しから聞こえる男性の声……あれ、でもこの声聞き覚えがある

黒髪ボブのウマ娘が扉の鍵を開ける

 

「全く……俺を忘れるな!」

「あっーーー!痴漢の人!」

「「「「「「「「痴漢!?」」」」」」」」

「いや、誤解だ!!!」

 

全力で男性は首を横に振る。いや、あれはどうしても痴漢でしょ

男性は頭を抱え

 

「なんか……スペと似たようなくだりだな……まあ、本題に入るが、どうだスピカに入らないか?」

「え、でも私は……」

 

正直、もう一度チームリギルの試験を受けようと思っていた。だけど、この人の熱意がもの凄く伝わってくる。なんか断るのが申し訳ない気がしてきた

 

「……別に入るのは考えますが、なんで私をスカウトしたんですか?そこを聞かないと納得できません」

「……お前の走りが気に入ったから」

「はぁ!」

 

それだけの理由でスカウトしたの!?

 

「まずは、10秒遅れでよくあそこまで追い抜いたな。普通のウマ娘じゃあ無理だ!」

「そうですか?」

「それに、お前の走りはリギルよりもスピカにいた方が合っていると思うぞ」

「……なんでですか!」

 

確かにあの女の人怖そうだけど、でも、私の夢が叶いそうなんだよ!ここでスピカに入ったらなんか夢から遠くなりそうな気がする……

すると、男性が少し息を吐くと、重い口で

 

「……俺のチームにな、走る事を楽しむ奴がいて、今そいつはここにはいないが。一時期リギルに所属していたんだ」

「え、リギルってことは皇帝と同じ場所に……でもどうして、リギルを辞めたんですか?」

「楽しい走りを出来なかったからな」

 

楽しい走りが出来なかったから……

私はふと走っている時の自分を思い出す

走っている時はもの凄く楽しかった。風になったようで、自分以上のウマ娘が前を走っていたから、テンションが上がった。だから、力を発揮出来ていた

でも……

 

「……私は……」

「シンボリルドルフと同じ場所で走りたいだったな……」

「え、なんで!?」

「聞いていたからな。確かになかなか大きな夢だ。だがな……その先は?」

「え、その先は!……」

 

私は男性の言葉に何も言い返せなかった

確かにその先の事……何も考えてなかった……ただただ皇帝と同じ場所を走りたい。それだけの理由でこの学園に入学してきた

リギルに入ればその夢は一瞬で叶う……だけど、その先ってなんだ

その先をリギルで見つける事が出来るの……

 

「……正直、夢が叶った後の先はわからないです……」

「だったら、その先の夢。俺達と一緒に見つけないか!」

 

男性の言葉に下を向いていた目線は上を向く

どうして、そこまで私に固執するんだ

私の頭には『?』しか出てこなかった。だけど一つだけわかるのは

 

「……この人なら夢の先に一緒に行ってくれるかも……」

「ん?なんか言ったか?」

「いえ何も、熱意は伝わりました」

 

私はにこやかな笑みを浮かべ

 

「私、チームスピカに入ります!」

 

私の言葉にスピカのみんな嬉しそうだ

 

「そうか。よろしくな!え~と、確か……」

「アーモンドアイです!」

「俺はスピカのトレーナーだ!」

「これからよろしくお願いします。トレーナー!」

 

私はトレーナーの大きな手を握った

 

「じゃあメンバーの紹介をだな」

「はいはい!それはゴルシちゃんに任せとき!じゃあ早速!」

 

私の目の前に長髪の芦毛のウマ娘が現れると、私の目の前はいきなり真っ暗になる。てか、ここに来る時と同じ状況じゃん!

 

 

 

 

 

 

再び体が揺られて数分。やっと光が私に目に飛び込んだ。なれない光にパチパチと目蓋を動かし目を慣らす

やっと慣れてきた所で目の間にはリギルのテストで走ったレーンが飛び込んできた

てか、またここ!

ギャラリー、リギルのメンバー、ライラックさんはもういない

その代わりにスピカのメンバーが少し距離を置いて立っていた。メンバーの半分は堂々立っていたが、残り半分は頬を赤らめていた

そんな中、昨日路線図を教えてくれたウマ娘が私を誘拐したウマ娘に向けて

 

「本当にやるのですか、ゴールドシップ!!」

「やるに決まってるだろ。新入生が入ってきたらやるて決めただろ!」

「ですが……」

「後で、ショートケーキ買ってやるから……」

「その話、聞きましたわよ!!」

 

何だろ。話を聞いているだけだとあの人をかなり単純なんだ……

 

「じゃあ、みんな行くぞ!練習の成果を見せるぞ!」

 

ゴールドシップさんの言葉にみんなは跳び上がると位置につく

 

「祭りがあれば私あり!お助け大将!キタサンブラック!」

 

拳を強く握りしめ、力強さを見せつける。てか、太陽のように眩しい!

 

「ダイヤモンドのような強き意思!好奇心の塊!サトノダイヤモンド!」

 

次はウマ娘は中腰になると右手の拳を握りしめ胸元に、左手を横一直線に伸ばした

なんか、凄い蹴られそうな勢いなんだけど

 

「名家、メジロ家の令嬢!私はメジロマックイーンですわ!」

 

印を結ぶポーズをするマックイーンさんと同時に禍々しいオーラが出てきた

え、何……禍々しいオーラ!?

 

「僕は皇帝を越える帝王になるもの!トウカイテイオーだー!」

 

テイオーさんは横を向くと、右足を前に着きだし中腰の姿勢になる左手を着き出した右膝に置く

 

「そして、アクセル全開で常識を突き破る!ウオッカ!」

 

ウオッカさんは、左拳を私に向けて突きつけてきた

なんか、喧嘩にされそうなんだけど……

 

「さらに、私は1位を狙う優等生!ダイワスカーレットよ!」

 

スカーレットさんは手を銃の形にして私に差してきた

 

「優等生ねぇ……」

「何よウオッカ!文句ある!」

 

ウオッカさんとスカーレットさんがいきなり喧嘩を始めた。喧嘩というよりじゃれ合いに近いかもしれない……

じゃれ合いはお互いそっぽを向く形で終わった

 

「え~とじゃあ、ニンジン大好き。スピカの大食い担当!スペシャルウィーク!」

 

スペシャルウィークさんは左手を右斜め前に着きだしてお腹辺りに右手を添える

大食い担当って……

 

「そして、ハイパーウルトラスーパースター!ゴルシちゃん!」

 

右手を大きく回し、左手を右斜め上に着き出した

 

「我ら、9人揃って!「「「「「「「チームスピカ!」」」」」」」

 

みんなが再びポーズを取ると、爆発音と共にカラフルな煙が立ち上がった

いろいろツッコミどころはあるけど、凄くかっこいい

 

「よし!決まった!」

「「「決まった!じゃあない!!」」」ですわ!」

「結構恥ずかしかったのよ!」

「結構ノリノリだけどな」

「うるさいわねウオッカ!」

「ゴールドシップさん!スカーレットちゃんの言うとおりかなり恥ずかしかったんですよ!」

「ゴールドシップ……これの恥に関しては落とし前を付けさしてもらいますわよ!」

「なんか、格好良かった……」

「なんかダイヤちゃんが目覚めそうなんだけど……」

 

みんなが一斉に喋り出して何言っているのかよくわからないけど、なんか楽しそうだな

 

「……これからよろしくお願いします……先輩!」

 

私は一斉に喋る先輩達に向けポツリと挨拶をするのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

「それではお先に失礼します」

 

エアグルーヴの声がした瞬間、バタンと扉が閉まる音が会長室に響いた

私はふと机の上に置いてある時計に目を向けた

 

「……もうこんな時間か……時間が経つのは早いものだな……」

 

時計の針は9の数字を刺していた

寮長のヒシアマゾンにはもう遅くなる事は伝えている。

私は残る提案書を目を通す。……普段ならこんなに時間はかからないが、今日走った彼女の姿が頭から離れず、いつもより集中出来ないでいた

正直、エアグルーヴやブライアンにもう少し手伝ってもらえばよかったと軽く後悔している

 

『皇帝……シンボリルドルフさんと同じ場所で走ることです!』

 

「……私と同じ場所で走るかぁ……」

 

そういや、昔テイオーにも似たような事を言っていたな……

彼女の言葉が私に纏わり付く。いや、私はもしかしたら恐れていて考え込んでいるだけなのかもしれない。一緒に走って負けることを……あのスピードと追い込みはトレセンの中でもずば抜けている……もしかしたら……1対1で走ったらあるいは……

 

「フゥ……私らしくないな。早く作業に戻ろう。遅くなったらヒシアマゾンにいろいろ言われそうだ……」

 

物音一つしない静かな校舎にプリントをめくる音だけが響く

今度、彼女とは“本当”の意味で同じ場所で走ろう

私はそう決意するのだった




アーモンドアイのプロフィールを前書きに載せています
ちょこちょこ変えるかも

仮面ライダー好きはBMWの仮面ライダーネタをやりたくなるよね~
ってな感じで、後半のライダーネタを入れました

てな感じですが、呼んでくれると幸いです


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私がリーダーです!!

『さあ、始まりました!皇帝シンボリルドルフと女王アーモンドアイのスペシャルマッチ!実況の私もかなり興奮しております』

 

実況の熱の入った声と観客の熱い声援が、芝の匂いと入り混じった風がアタシの髪を靡かせる

隣には皇帝がゲートに立っている

やっとアタシの夢が叶ったんだ!

アタシは深呼吸をして構える

そして目の前のゲートが開く

 

「よし!……あれ?」

 

駆け出そうした瞬間、足が急に動かなくなる

 

「あれ、なんで、なんで、動かないの!!」

 

アタシが戸惑っている間に皇帝はどんどん先へ走っていく

 

「ま、待って……」

 

芝は段々と闇になっていき、私を引き込んでいく

アタシはいつの間にか弱々しい声を出してしまう。でも、皇帝は私の言葉を無視するかのようにどんどん走っていく

 

「待って……待ってよ!!皇帝!!!」

 

 

 

 

 

 

「アイ!!」

 

私は自分を呼ぶ声に目が覚めた。私は勢いよくベッドから起きあがる。息がかなり上がって、かなり汗をかいていた

 

「ゆ、夢……」

「大丈夫。かなり魘されていたみたいだけど……」

 

私に話しかけてきた鹿毛のショートで髪が全体的に逆立っているウマ娘。彼女はフィエールマンさん

私と同じ1年生。クラスは違うけど……

 

「ありがとうフィエールさん」

「まあな。てか、大丈夫?かなり魘されているみたいだったけど」

「うん……大丈夫」

 

とは、言ってもあんな夢を見ると……気持ちは落ちるよね

私は思わずため息をつく

 

「まあ、とにかく。早くしないと遅刻するぞ」

「え?遅刻」

 

私はベッドの隣に置いてあるデジタル時計に目線を向ける

 

「もう8時半前じゃん!?」

 

これ絶対に間に合わないじゃん!

私は茶色のパジャマを脱ぎ捨て、紫を基調としたセーラー服に急いで着替え、登校用のカバンを片手に部屋を飛び出した

いつもギリギリの登校。流石に今日は先生に怒られるかな……

てか、私は朝に弱いわけではないんだけど、早く起きたら二度寝しちゃうんだよね……今日最初起きたの6時だし……まあ、二度寝してあんな夢を見たら最悪だけど

と心の中で思っている頃には自分のクラスの前に立っていた

それから教室に入るも、予想通りこっ酷く怒られるのだった

 

 

 

 

 

 

「はぁ~朝からついてないな……」

 

食堂で思わず大きなため息をついてしまった。それもライラックさんの前で……

 

「大丈夫アイちゃん?」

「え、うん……まあ……」

「なんか、昨日より元気無いね?やっぱりリギルに入れなかったの気にしてる?」

「いや、それは別に」

 

昨日のリギル試験は確かに落ちたのは気にしてたりするけど、そんな事で気にしている訳では無いんだよね……

まあ、ライラックさんに言っても大丈夫か

 

「実はね」

 

私は今日の夢の事を話した。ライラックさんは最初は興味深そうに聞いていたが、後半は深刻そうな顔をしていた

 

「……それは災難だね……正夢にならない事を祈るよ」

「本当、正夢だけにはなってほしくないよ……あっ、サラダバーでサラダお代わりしてくるね」

「うん。てか、アイちゃんはサラダ好きだよね。それもドレッシング無しの」

「え、生野菜美味しくない?特に葉物」

「う~んそうかな……私も食べれるけど、アイちゃんほど好き好んで食べないよ」

「そうかな……?まあ、私はとりあえずサラダ行ってくるよ」

「は~い」

 

と言いサラダバーに向かうのだった

基本的に皿の中が緑と目に優しい彩りのサラダを持って元いたテーブルに戻ろうした時に私が座っていた席の隣にさらさらした黒鹿毛に前髪に流星模様白い前髪のウマ娘が座っていた

彼女は確か……うちのクラスの……

 

「お~いアイちゃん!リスちゃんも一緒に食べていいかな?」

 

あっ、思いだしたリスグラシューさんだ

 

「や~、授業以来だよね~」

 

相変わらず、落ち着いているというか私よりおっとりしているよね

 

「てか、リスグラシューさんはチームどこに入るとか決めたの?」

「決めてないな~まあ、そのうち決めるさ~」

 

本当マイペースだよね

私達は昼食を食べ終わり、午後の授業に向け教室に戻るのだった

 

 

 

 

 

 

「よーしトレーニング頑張るぞ!」

 

授業が終わり、チームスピカの部室へと向かっていた

今日から初のスピカでの練習。今からワクワクしていた

私はスピカ前の扉を開け

 

「こんにちは!」

 

と大きな挨拶をする

部室内はみんな揃っており、どうやら私が1番最後に来ていたようだ

 

「おっ、来たか!」

「なんだ来たのか……せっかく逃げたとき用のずた袋を用意してたのに」

 

え、もしかして逃げてたら、昨日みたいに誘拐されてたの……

ゴールドシップ先輩の言葉にゾッとしてしまった

 

「まあ、アイの練習は……とりあえず、これ付けろ」

 

トレーナーから渡されたのは『私がリーダーです』と書かれたタスキ

え、てか、私いきなりリーダーなの!なんか嬉しい

私はタスキをつけ鼻を鳴らす

 

「おー似合ってるじゃん!」

 

ゴールドシップ先輩の言葉に思わず照れてしまった

 

「じゃあよろしく!」

 

ゴールドシップ先輩から渡されたのはタオルが入った洗濯カゴ

 

「よろしくー!」

 

テイオー先輩から同じような洗濯カゴを上に重ねられる

 

「はーい!」

「よろしくお願いしますわね」

 

マックイーン先輩からも同じような洗濯カゴを上に重ねられる

 

「はーい!」

「よろしく頼むわよリーダー!」

 

スカーレット先輩同じような洗濯カゴを上に重ねられる

今のところ積み重なった洗濯カゴは4つ

 

「はーい!」

「よろしくね。アイちゃん!」

 

次はスペシャルウィーク先輩から同じような洗濯カゴを上に重ねられる

 

「はーい!」

「じゃあ、頼んだぜ!」

 

ウオッカ先輩から同じような洗濯カゴを上に重ねられる

 

「はーい!」

「じゃあ、よろしくね。早く行こうダイヤちゃん!」

「うん。じゃあよろしくお願いしますね」

「はーい!」

 

キタ先輩とダイヤ先輩から同じような洗濯カゴを上に重ねられる

 

「そんじゃ、その洗濯物を洗っておいてくれ」

 

キタさん達に続くようにトレーナーも部室を出て行った

1人、タワーのように積み重なった洗濯カゴを持つ私。もうすぐで天井につきそうだ

 

「って……リーダーて、完全に雑用じゃん!!!」

 

怒りのあまり投げ飛ばした洗濯物は宙を舞い、私の頭上へと雨のように落ちてきた

私は逃げようとしたが、落ちてくるタオルの方がスピードが早く私はタオルに下敷きされてしまった

以外と量があるのでタオルで下敷きになった体は動かなかった

 

 

 

 

 

 

「トレーナー!!これはどういうことですか!?」

 

私はいきなりの雑用に文句を言いにトレーナーの元に訪れた

あっ、タオルは全部元に戻したよ

 

「どういうこととは?」

「なんで、雑用なんですか!!」

「そりゃー、最初は下積みからでしょ」

 

まあ、そりゃよく聞く話だけど……

 

「でも、走らせてください!」

「まあ、待て。こういう事は大事だぞ!先輩達の事を知るのも大事なトレーニングだ」

「わ、わかりました……」

 

 

 

 

トレーナーに言われた通り大量のタオル洗濯する

8人分の洗濯は纏めて洗えないので、1人1人ひたすら洗濯機にかけ、待つという作業をひたすら繰り返した

その間、私はものすごく暇なのでスマホで漫画読んだり、お菓子を食ったりして洗濯が終わるのを待っていた

そして、全部の洗濯を回した所で

 

「……あれ……寝てた」

 

私は窓の方へと向くと日が落ち、空は茜色に染まっていた

てか、いつの間に寝てたんだ

 

「あれ……何してたんだっけ……」

 

私は寝る前の記憶を辿る……すると、洗濯機からかん高い音が響いた

洗濯機……あっ!

 

「まだ洗濯物干してない!」

 

私は洗濯機の洗濯物を急いで取り出し8つの洗濯カゴを持ち外に飛び出した

てか、もう夕方だから乾くか怪しいよね……

 

「まあ、干すだけ干しますか……」

 

私は大量のタオルを干し続け、干し終わった頃には夕食を知らせるチャイムが鳴り響いた

私は脱力を感じつつも達成感を感じていた

 

「そうだ……トレーナーに干したこと報告しないと……」

 

私は洗濯カゴを片手に部室に戻るのだった

 

 

 

 

 

 

「終わりました!」

「お~ありがとな。以外とかかったな」

「まぁー……はい……」

 

寝てたなんて口が裂けても言えない……

 

「まあ、とりあえず今日はありがとな!」

「はい、お疲れさまです!」

 

私は洗濯カゴをドア付近に置き、軽く一礼をしてドアに手をかけた

 

「あっ、そうそう。居眠りもほどほどにな」

 

バレてた……

私は特に返事を返さずに部室を後にするのだった

 

 

 

そしてあっという間に1日が立つ

昨日と同じようにライラックさんとリスグラシューさん。今度はフィエールさんが入り4人で昼食を囲んだ

ライラックさんは話のがうまいから、自然と盛り上がる

 

「そうだ、そうだ。スピカのトレーニングはどうだった?」

「え!?……スピカのトレーニング……」

 

え、昨日の洗濯の事言っていいのかな。なんか話したらスピカの評判が下がりそうだしな……

 

「どうしたの~アイちゃん?なんか、かなり曇っているみたいだけど?」

「え、そんな事……」

 

どうやら表情に出てたみたい

 

「そ、そんな事よりも、ライラックさんはスピカのトレーニングはどうだったの?」

「ライちゃんでいいよ~アイちゃん」

「確かに僕も気になる。他チームよりもかなりキツいらしいな」

「フィエルンもか。う~ん。昨日は走り込みだったな。ひたすら」

 

走り込みってトレーニングらしいトレーニングしてるじゃん……

 

「まあ、キツいて言われたらキツいけど、先輩達が優しいからやってはいけそう。まあ、トレーナーさん厳しいけど、的は射ているから、強くなってるな~て思うよ」

「へぇ~ライラックさんはトレーナーの事を信じているんだ」

「そうだよ。てか、アイちゃんはトレーナーさんの事信じて無いの?」

 

信じていないわけじゃ無いけど……

いや、どうなんだろ。正直わからない……

 

「まあ、きっとスペシャルウィーク先輩やトウカイテイオー先輩が所属しているチームなんだから。……もっと信じていいんじゃないかな?」

 

確かに、有力なウマ娘を輩出しているチーム。もしかしたら雑用も何か意味があるかもしれない……

 

「……確かに信じて無かったかも……もっと信じてみるかな」

「あっ、アイちゃんの表情が晴れた~」

「確かに、さっきよりも明るくなったかも」

「よかった。よかった」

 

嬉しそうに頷くライラックさん……ライちゃんに移されたように笑みがこぼれ

 

「じゃあ、私、サラダのお代わり行ってくるよ。ライちゃんさ、戻ってきたらトレーニングしている時の皇帝の話を聞かせて!」

「うん!……って今、ライちゃんって……」

 

私はライちゃんが言いきる前に立ち上がりサラダバーへと向かった

 

 

 

 

 

 

それから月日が流れた。私は相変わらずの雑用メインだけど……

だけど、前に比べて走らせてくれるようになったから、前みたいな不満はだいぶ無くなった

他にもレースの後にあるファンに感謝を送るウイニングダンスの練習をテイオーさんに教えてもらったりとかなり充実した時間が過ごしていた

 

そして7月が終わろうとしていた。本格的に熱くなり始めた時

 

「「「「「「「「デビュー戦が決まった!!!」」」」」」」」

「ああ、アイのな。それも1番人気!」

「いつなんですか!?」

 

私は前のめりにトレーナーに聞く。入学してから3カ月。やっとのデビュー戦これに関してはちゃんと聞いておきたい

 

「来週だ」

 

来週って事は8月て事か……

 

「なあトレーナー、なんか遅くねぇか?アイの実力ならもう少し早くてもよかったんじゃないか?」

「そうね。ウオッカの言う通りよ」

「まあ、それもそうなんだが、なかなかいい感じの所が見つからなくてな。てか、これでも他の1年生より早いんだぜ!」

 

確かにライちゃん達はまだデビュー戦はまだだったから、そう考えたら私が1番乗りなのか……

 

「1週間は早く過ぎる。今日から急ピッチに仕上げるぞ!」

「わかりました!」

「他の奴らもアイにサポートしてもらった分、全力サポートで恩返しするぞ!」

「「「「「「「おー!!!」」」」」」

 

みんなが意気投合した所で私のレビュー戦の練習が始まった

 

 

 

 

 

 

「え、なんでいきなり……体育館?」

 

私はウオッカさんにいきなり体育館に連れてこられた

トレーナーは今日はメンバーにトレーニングを全部任せるとの事……トレーナーがやることとは思えない……

 

「じゃあまず、1番最初は俺の地獄の特訓に付き合ってもらうぜ!」

「地獄って……危な!」

 

ウオッカ先輩はいきなり私の足元に竹刀を振り下ろしてきた

振り下ろした竹刀はパチンとかん高い音が鳴り響いた。これ、マジのやつだ……

 

「厳しく行くぞ!まず腕立て100回!」

「ヒィ~!」

 

ここからウオッカ先輩の厳しい特訓が始まった

朝から腕立て100回、腕立てはどうにかなった腕立ては

 

「う、腕立て100回……終わりました……」

「よし!次は!」

「つ、次!?」

「腹筋100回!」

「フニャーッ!!」

 

思わず猫みたいな声を出してしまった……

 

「お、終わった……」

「よし!次、背筋100回!」

「ま、まだやるの……」

 

ウオッカ先輩のスパルタトレーニングに腕はガクガク。お腹はズキズキ痛い

もう……立てない……。だけどそんな私にウオッカ先輩は竹刀を倒れる私の目の前で振り下ろし

 

「早く立て!もも上げ100回!」

「はひ~」

 

私は振るえる手に力を入れて起きあがるともも上げ100回を始めた

 

100回到達したころにはいつの間にか目の前は茶色に染まっていた

多分、疲れで倒れてしまったようだ。

 

「よく、頑張ったな!」

 

私は耳をピクリとウオッカ先輩の方に向ける

 

「あ、ありがとうございます……」

 

私には立つ力すら残っていないので、床に顔をつけた状態で私は感謝?の言葉を言う

 

「じゃあ、次スカーレットの番だな」

「ええ、任して」

 

そういやスカーレット先輩、ずっといたな……

 

「じゃあ少し休憩したら校門に来てもらうわ!」

「え?」

 

私はウオッカ先輩からドリンクを渡され、粗方休憩が出来た所でスカーレット先輩に言われた通り校門に来ると、校門の前で準備運動をしながらスカーレット先輩が待っていた

 

「おっ、来たわね」

「これから、何するんですか?」

「走り込みよ!」

「走り込み!?」

 

まだ足が痛いんだけど……

 

「じゃあ早速走り込むわよ!」

「え、ま、待ってください!」

 

私はスカーレット先輩に後を追うように走り出した

さっきのウオッカ先輩のトレーニングで全身が痛いせいで、うまいこと走りに集中出来ない

疲れているのも相まってスカーレット先輩かなり距離が離れた

スカーレット先輩との距離が3、4バ身離れた所でスカーレット先輩が立ち止まった

 

「キツそうね」

「まあ、はい……」

「ウオッカの筋トレはスパルタ過ぎなのよ」

 

確かに……あんないきなりやられても……

 

「じゃあ、引き返しましょうか」

「あっ、はい!」

 

スカーレット先輩の言葉に思わず嬉しそうな笑みを浮かべるのだった

 

 

 

 

 

 

デビュー戦が決まった瞬間。入部当時とは思えないくらいトレーニングの激しさを増した

ウオッカ先輩やスカーレット先輩はいつものように筋トレと走り込みで、テイオー先輩はダンスと体感のトレーニング、スペ先輩は高速で階段の駆け上がり、マックイーン先輩は一緒にコースを走ってくれて、キタ先輩はなぜかカラオケで演歌を教えてくれて、ダイヤ先輩はデビュー戦についていろいろ教えてくれたり、ゴルシ先輩は「ウマ娘は度胸だ!!」ってプールに飛び込まされた

毎日のスパルタトレーニング。よくわからないトレーニングがあるけど……何とか乗り越え、デビュー戦前日となった

今日は明日に向けての作戦会議だ

 

「芝1400メートル。コースの半分だな。まあ、リギルのテストよりも少し長いくらいだ」

「なるほど……」

 

部室のホワイトボードに描かれた簡単なコースに納得するように頷いた

 

「で、作戦はー?」

「やっぱり先行で前線をキープして……」

「いや、追い込みで最後に気持ちよく勝つのが1番だ!」

「いやいや、ここは逃げる1択ですよ!」

 

先輩達がああだこうだと言っているとトレーナーの口が開いて

 

「作戦は……特に無し!!」

「「「無し!?」」」

「ああ、無しだ」

 

言いきったトレーナーの目の前にマックイーン先輩が静かに現れる

 

「いくらなんでも無責任過ぎませんこと!」

 

トレーナーに向けてアイアンクローをお見舞いする

ぱっと見、普通の女の子と変わらない見た目だけど、ウマ娘の力は人間の数十倍。本気で蹴れば何メートルも飛ばせるし、激突すれば何十メートルと飛ばせる

なんなら、マックイーン先輩は現役のウマ娘、本気で鷲摑めば男の人でも絶叫する痛みだろう

実際、トレーナーもかなり痛がってるし

 

「そ、そろそろ、離してあげても……」

「それもそうですわね」

 

マックイーン先輩はトレーナーをぼとっと物を落とすように落とした

まあ、トレーナーがしばかれるのはいつもの風景だから、段々何も思わなくなってきた

 

「痛ぇな……」

「で、どうしてそんなにテキトウなアドバイスしたのですの?」

 

マックイーン先輩の言葉にスペ先輩はトレーナーを庇うように

 

「多分……自由に走ってほしかったんじゃないですか?」

「え?」

「そうだスペ。それ!」

 

トレーナーは咳をしながらゆっくり立ち上がると

 

「アイ、無理に考えるな、感じてほしい。お前には“本当”のレースを知ってほしい」

「“本当”のレース?」

「ああ勝ち負けのあるレースを知ってほしい」

 

今の私にはそれの言葉は理解出来なかった

レースは楽しい、そりゃ、負けたらちょっと悔しいけど。その他に何があるんだ……

私が自問自答している中、レースのミーティングは終わった

 

 

 

 

 

 

今日は早めに部活を切り上げさせてもらい、寮で蹄鉄を明日走る靴に取り付けていた。隣にはフィエールちゃんがベッドに寝そべって雑誌を読んでいた

すると雑誌を読んでいたフィエールちゃんが私に話しかけてきた

 

「明日、デビュー戦なんだよね」

「うん」

「頑張れよ~!」

「うん」

 

こんな簡単な一言でも1位を取ってほしいという熱意は伝わった

私の金槌を持つ手は強くなり、さっきよりも蹄鉄を強く打ちつけた




今回はリスグラシューとフィエールマンの登場させました

今回の場面の移り変わりが激しいので、文が結構めっちゃめちゃな気がします……

こんな感じですが読んでくれると幸いです



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いざ、デビュー戦!

デビュー戦当日。私はいつもより早く目が覚めていた

 

「まだ5時か……」

 

フィエールちゃんは昨日読んでいた雑誌をアイマスクにして寝ていた。多分、寝落ちしたんだろう

普段なら二度寝する所なんだけど、今日はあまり眠たくならない。それどころか目がバッチリ覚めている

 

「まだ、レースまで時間あるから走るか」

 

私は今日レースで履く靴の感触を確かめるついでに朝走る事にした

 

 

 

「朝から走るって気持ちいいんだね」

 

トレセンから数メートル離れた河川敷、川の流れが聞こえるくらい静かで、なんか心地良い

あまり朝早く起きないから新鮮に感じる。まあ、二度寝がほとんどの原因なんだけど……

 

「……蹄鉄も今のところ問題はなさそう。よ~し、もうひと走りして、寮に戻ろ!」

 

私は走るスピードを少し上げて寮に戻るのだった

 

 

 

 

 

 

 

東京から数時間間かかりデビュー戦の舞台である新潟の会場に到着した

私は車の窓から新潟の会場を見つめる。車の中に居るのにもの凄い熱気が伝わってきた

 

「着いたぞ!」

 

トレーナーの声に寝ていたスペ先輩達は目を覚まし目を擦る。てか、みんな寝てたんだ……

私は車から降りると大きく深呼吸をする

観客のざわめき、観客の熱気、そしてこれから走るウマ娘の絶対に勝つという意志が伝わってきて押しつぶされそうになる

てか、こんなに押しつぶされそうになったのは初めてかも……

これが昨日のトレーナーが言っていた“本当”のレース……

 

「どうだ会場は?」

「なんか押しつぶされそうです……」

「そうか……お前は自分の走りをすればいい!このプレッシャーに勝てばお前はもっと強くなる」

 

トレーナーの言葉に私は頷く

 

「よーし!スペ達はアイを全力で応援だ!」

「「「「「「「「おー!!!」」」」」」」ですわ!」

 

みんなの声に私の不安が少し取れたような気がした

 

 

 

 

 

 

 

「それでは呼ばれるまで待っていてください!」

 

体操服に着替えた私に20代くらい女性なが現れ何も知らない私をステージ裏に案内した

微かに漏れるステージの光だけがステージ裏を照らす。ステージ裏は特に物は無く、さっきの女の人どころかウマ娘や人の気配すら感じられない、本当に何も無い空間にぽつんと置かれた感じだ

 

「え、何?」

 

戸惑う私に前に垂れ下がる赤いカーテンが開く

 

「続いて6枠、12番、アーモンドアイ!」

 

カーテンが開く観客の目が私に一斉に向いた。私の背筋に一気に緊張が走った

これに関しては何となくトレーナーに聞いていたけど、実際どうすればいいかわからない

私はゆっくりステージを足を進める。ゆっくり進む私の足が震えているのが感じる。そんな状態でふと目線を上に向けた。目線の先にはスピカのみんなが私に向けて手を振っていた

……なんかみんなを見たら緊張が解けるなー

手を振るみんなに振り返した。すると沈黙していた観客が息を吹き返すように盛り上がった

 

「あれ……なんか急に盛り上がったんだけど……」

 

もしかしたらみんなのおかげなんかな?でも、おかげ変な力は抜けたかも

私はそのままカーテンの方へと戻った

 

 

 

 

 

 

一通りウマ娘の紹介が終わると今回出場するウマ娘がゲート前に集合する。みんな、深呼吸をしたり、軽く腕を動かしたりとレースに向けて気持ちを落ち着かせていた

そういう私も深呼吸をして気持ちを落ち着かせる

そしてウマ娘達は順番にゲートに入る。私は6枠12番なので、5人入った所で次に私が入った

全てのウマ娘がゲートに入り準備が完了

リギルの試験の時とはまた違うゲートの景色。初めてのレースに緊張する反面、私は楽しんでいた。ホントに“アタシ”の悪い癖だな……

 

 

 

 

 

 

俺はスペ達と共に静かにアイのデビュー戦を見守る。正直不安だ。練習不足と言われれば練習不足だし、もう少し早く練習をさせとけばよかったなと思う

しかし、俺の目に入るアイは全くオーラが違う。新潟に来た時は頼り下なさげだったけど、今のアイツは長い鹿毛が逆立ち、真っ直ぐ何かを狩るように睨みつけ、口元は笑みを浮かべていた。まるで別のウマ娘のように

リギルの試験の時は気づかなかった……

 

「おい、なんかアイツ雰囲気違い過ぎないか?」

「そうですか?」

「ええ、ゴールドシップの言うとおりですわ。まるで別のウマ娘……」

 

どうやら気づいている奴もいるようだ。まあ、マックイーンの言うとおりだな……もしかしたら、二面性を持っているかもな

おっと、そろそろ始まるようだ

 

 

 

 

 

 

 

アタシは低い体勢になり走る体勢になる

そして、スターターピストルの音と共にゲートが開いた。今回は出遅れずにスタートがきれた。スタート練習をしたおかげだ。あまり音には慣れないけど……

アタシは順調に前へと進んでいく。とは言っても、後ろの方で他のウマ娘の様子を見るんだけど

まあ、あまり様子見しすぎるとあっという間に終わるから次のコーナーで一気に詰める

コーナーに差し掛かった所で、私は加速する

……目の前のウマ娘が邪魔で走りづらい……

アタシはそう思いつつ直線へと差し掛かる。差し掛かったと同時に外側に思わずヨレてしまったけど、前に進むウマ娘をジグザグに避ける

よし、あと一人!先頭に走るウマ娘を抜かせばゴールも寸前1位は確定する

アタシの足はどんどんと加速して、先頭のウマ娘に近づいていく

 

「あと少し……」

 

あと少しで手が届きそうな所で先頭のウマ娘はゴールに入り逃げ切れられた

アタシも2着でゴールに入ったものの、その場で地面に手をついた

込み上げてきた思いが涙となり、ぼとぼとと新潟の芝に落ちる

手で拭いても拭いても出てくる涙と今まで感じた事の無いほどの悔しさが溢れ出る

これが“本当”のレース

 

「うわぁああああ!!!」

 

会場に響く私の声は観客の熱気に負けないくらい大きな声が出た

 

 

 

 

 

 

コースを離れとぼとぼと帰っているとスピカのメンバーがみんな揃って私を出迎えてくれた

みんなの表情は嬉しいそうに笑っていたけど、どこか腑に落ちない感じがした

 

「どうだレースは?」

「悔しかったです……次は勝ちます!」

 

頬につたう涙を拭い私は楽屋へと早歩きで戻った

泣きじゃくる顔を正直、誰も見せたくなかった

私は楽屋に戻ると鏡に向けて数10分間泣き続けるのだった




マジでレースシーンだけです

今回は一人称視点ですが、レースの書き方はころころ変わると思います

こんな感じですが、読んでくれると幸いです


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