僕のヒーローアカデミア with EX-AID (ムジョー555)
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第1話 I'm a 仮面ライダー!

ことの始まりは中国・軽慶市から発信された「発光する赤児」が生まれたというニュース。
以後各地で「超常」が発見され、原因も判然としないまま、時は流れる。
世界総人口の八割が何らかの特異体質である超人社会となった現在。
生まれ持った超常的な力「個性」を悪用する犯罪者・敵(ヴィラン)が増加の一途をたどる中、同じく「個性」を持つ者たちが『ヒーロー』として敵(ヴィラン)や災害に立ち向かい、人々を救ける社会が確立されていた。



降りしきる雨の交差点……

横断歩道の上に、小さい緑色の傘がひとつ、横たわる。

 

『……もし、この世界に真の『ヒーロー』が存在するとすれば、それは彼らのことを言うのだろう』

 

「患者は緑谷出久くん、4歳。交通外傷で搬送。腹部損傷、重症です!」

 

『どんな逆境でも、決して諦めずに立ち向かい……』

 

「血圧低下、心音微弱」

 

「本当にこんな状況でオペするんですか!?」

 

「大丈夫、絶対救けるから……」

 

『人の命を救う。そんな『ヒーロー』に、僕たちは守られている……』

 

〜10年後〜

 

「そのざわざわがモブたる所以だ! !俺は模試もA判定!雄英の合格圏内!!」

 

とある中学校の教室。

ホームルームの途中で突如として机の上に立ち上がった少年『爆豪勝己』の声が響く。

 

「あのオールマイトをも超えて、俺はトップヒーローと成り!! 必ずや高額納税者ランキングに名を刻むのだ!!」

 

「そういや、緑谷も雄英志望だったな」 

 

担任の教師がふいにそんな事を口走ると、教室中の視線がひとりの少年『緑谷出久』に集中した。

 

「……あぁん?このデク!!」

 

爆豪は怒りの形相で右掌を出久の机に叩きつけた。

出久は咄嗟に回避するが、それと同時に机が爆発に包まれる。

 

「没個性どころか無個性のてめぇが……何で俺と同じ土俵に立てるんだ!? お医者さん志望のお利口さんだからって、調子のったか?あぁっ!」

 

「別に……雄英ヒーロー科入試要項の受験資格項目に『個性』の有無は記載されていないよ。だから『無個性』だからといって受験しちゃいけない理屈はない。それに医療活動とヒーロー活動を両立している人たちだって、たくさんいる。寧ろ、ヒーロー資格があるからこそできる医療活動も……」

 

「ごちゃごちゃうっせぇんだよ!!」

 

怒りに震え、個性による爆破を乱発する爆豪だったが、内申点を餌に担任が宥め、とりあえずその場は落ち着いた。

 

……そして放課後。

帰ろうとした出久の前に、爆豪が取り巻きたちを連れて現れた。

 

「話はまだ済んでねぇぞ、デク」

 

そう言うと爆豪は、机に置かれた出久のノートを取り上げ、爆破。

嘲笑いながら、焼け焦げたノートを窓の外へと投げ捨てた。

 

「一線級のトップヒーローは大抵、学生時から逸話を残してる。俺はこの平凡な市立中学から初めて!唯一の!『雄英進学者』っつぅ箔を付けてぇのさ」

 

落ち行くノートには目もくれず、爆豪は出久を睨みつける。

 

「無個性のてめぇがヒーロー科の実技に受かるとは思っちゃいねぇが……お利口さんだから筆記は訳ねぇもんなぁ。だから、てめぇは雄英受けるな。医者志望のクソナード!!」

 

そう言い放つと、満足したのか。

爆豪は教室を後にしていく。そして……

 

「そんなにヒーローに成りてぇなら、効率良い方法あるぜ。来世は個性が宿ると信じて……屋上からのワンチャンダイブ!!」

 

「……今、なんて言った?」

 

ハハハ!と高笑いする爆豪だったが、出久の低い声を聴き取り、彼の方に目を向けると……一転、顔を青ざめた。

 

そこには恐ろしくも冷たく、鋭い怒りを帯びた視線を向ける出久の姿があった。

 

「個性蔑視は構わない。思想は自由だし、僕が無個性なのも事実だ。でも……命を軽率にする発言は許されない……」

 

出久はその視線を逸らすことなく、爆豪へと歩み寄る。

 

「……命を愚弄するな!!」

 

「す……すまねぇ……言い過ぎた……」

 

爆豪はそれ以上は何も言えず、逃げ去るようにその場をあとにした。

出久はふぅ……と息を吐き出し、冷静に窓の外のノートを眺める。

 

「まったく、かっちゃんったら……」

 

〜衛生省〜

 

豪華な調度品に囲まれた一室。

スーツ姿の女性『仮野明日那』から渡された書類に、衛生省審議官『日向恭太郎』が目を通していた。

 

「ハンドルネーム『M』……本名不明。数多くのゲーム大会で好成績を記録……か」

 

「はい。天才ゲーマーMなら、きっと『ゲーマドライバー』の適合者に成れるはずです」

 

明日那はそう言うと、デスクに置かれたアタッシュケースに軽く目を向ける。

 

「しかし、あの一件以来、公安も慎重になっている。我々は同じ過ちを繰り返すわけにはいかない……」

 

考え込む審議官を尻目に、明日那はアタッシュケースを手に取る。

 

「とにかく、わたしは天才ゲーマーMを探してきます」

 

明日那はそう言い残し、一礼すると足早に部屋をあとにした。

 

〜イベント会場〜

 

綺羅びやかなステージ。

巨大スクリーンを背に、爽やかな笑みを浮かべた青年が姿を現す。

 

「お集まりの皆さま。幻夢コーポレーションCEOの檀黎斗です。大変永らくお待たせいたしました」

 

檀黎斗は軽く会釈すると言葉を続ける。

 

「制作発表から5年以上の開発期間を経て、ついに、あの伝説のゲーム『マイティアクションX』が完成しました!」

 

―マイティアクションX―

 

どことなくポップでコミカルな一等身のキャラクター・マイティが、お菓子の国を冒険する、典型的な横スクロールアクションゲーム。

マイティの得意技はジャンプとキック。

ステージに隠されたお菓子アイテムを食べることでパワーアップすることができる。

 

……マ○オ?カー○ィ?……なんですか、それは?ゴホッゴホッ

 

イベント会場に設置された試遊台には老若男女問わず多くの人々が押し寄せていた。

 

その様子を眺めていたのは、明日那。

 

「……きっとこの中に、天才ゲーマーが来ているはず」

 

「ぐっ……!」

 

そのときだった。

試遊台の列に並ぶ少年が、突如苦しみ、倒れ込んだ。

 

それに気づいた明日那が少年に駆け寄ろうとしたとき、彼女よりも早く少年のもとに駆けつけた者がいた。

 

「君、大丈夫!?」

 

それは出久だった。

声かけ、状態確認、体位保持……

衛生省職員である明日那の目から見ても完璧な初期対応をテキパキとこなしていく。

 

誰かに119番通報をお願いしようかと思案していた出久と目があい、明日那は改めて駆け寄った。

 

「初期対応ありがとう。君の名前は?」

 

「緑谷出久です。あなたは……?」

 

「わたしは衛生省職員の仮野明日那。あとは任せて!」

 

明日那が倒れ込んだ少年の容態を確認しようとしたとき……それは起こった。

まるで『何かが産まれる』かのように、少年の輪郭が歪み始めた。

 

「これって……まさか!?」

 

その歪みは少年を飲み込むと、その姿を変えた。

それは緑色の流動体の塊でありながら、その中に瞳があり、ギョロリと明日那と出久を見つめている。

 

「ヘドロ状の異形個性!?なんで突然!?」

 

驚く出久の横で、明日那は呟く。

 

「発症……」

 

突如として現れたヘドロヴィランに会場は騒然とする。

人々は暴れるヘドロヴィランに怯え、慌てて逃げ惑う。

 

明日那はなんとか被害を食い止めようとするが、ヘドロヴィランの猛攻を回避するのに精いっぱいで手も足も出ず、物陰に隠れて様子を窺う。

 

「仮野さん!」

 

出久はそんな中でも逃げることなく、明日那に話しかけた。

 

「あなた、まだいたの!?ここは危ないから早く逃げて!!」

 

「逃げません!!」

 

出久は強く叫ぶ。

 

「彼は……明らかに弱ってて……救けを求めてた。『発症』ってなんですか!?」

 

「……『超常』……今でいう『個性』ね。かつて突如として人々にもたらされた謎の変異。一説では未知のウイルスがネズミを介し、世界へ拡がったと言われている。でも、実態はネズミではなく、コンピュータが原因だったの」

 

「コンピュータが……?」

 

「ゲームから発生したコンピュータウイルスが人体に直接感染するように進化したの。それが『バグスターウイルス』……人体はバグスターウイルスと共生することで『個性』を獲得した。でも、その共生関係に綻びが生じようとしているの」

 

明日那は暴れるヘドロヴィランを眺めながら話を続ける。

 

「世代を経るごとに混ざり、より複雑に、より曖昧に、より強く膨張していく『個性』……その容量の膨らむ速度に身体の進化が間に合わず、コントロールを失う現象。それが『個性特異点』よ。容量に身体を適応させなければ、人はウイルスを制御できなくなる。その兆候は第4世代からあった。そして、最終的に患者の身体は……『バグスター』に乗っ取られる」

 

「そんな……何か、何かできることはないんですか!!」

 

事実を聞かされた出久は驚きを隠せない。

それでも、その驚き以上に強い感情が彼を突き動かしていた。

 

これは本来よくないことであろう。

しかし、明日那は目の前の少年『緑谷出久』の発する思いに、彼女もまた、何か突き動かされる気がした。

 

「……救ける手はあるわ」

 

明日那はアタッシュケースを開け、中の物を取り出す。

 

ひとつは大ぶりで蛍光グリーン&蛍光ピンクという派手なカラーリングのベルトのバックル。

何かを差し込めるような仕掛けも見える。

 

もうひとつは幻夢コーポレーション製のゲームソフトに似通ったアイテム。

通常のゲームソフトにはないグリップのようなものが付いている。

 

「ゲーマドライバーとライダーガシャット。これがあれば、患者からバグスターを切り離し、暴走する個性の治療ができる……でも……」

 

「仮野さん。これ、お借りします!」

 

「ちょっと、緑谷くん!?」

 

出久はゲーマドライバーとガシャットを手に取ると、ヘドロヴィランの元へと向かう。

 

「無茶よ!それはただのゲームじゃないのよ!!」

 

「……ゲーム?」

 

出久は改めてガシャットを見つめる。

そのラベルには『マイティ』のイラストが描かれていた。

 

ふっ……と軽く息を漏らした出久はどことなく口元に笑みを浮かべているようだった。

 

出久は手にしたガシャットのスイッチを押す。

 

『マイティアクションX!』

 

ゲームタイトルを告げる電子音声が鳴り響く。

出久の背後にゲームタイトルが映し出され、彼の周囲をいくつもの大きな板チョコのようなブロックが飛び交う。

そして、会場中にそのブロックが拡散する。

 

「そんな、ゲームエリアが展開してる!?なんで!?」

 

ライダーガシャットが起動したことに驚く明日那。

 

「大丈夫……『ゲーム』なら、僕に任せてください!」

 

「……え?」

 

出久がゲーマドライバーを腰に翳すと、ベルトが伸び、自然と巻かれていく。

 

「あの子は僕が救けます……変身!」

 

『ガッシャット!』

 

出久はマイティアクションXのガシャットをゲーマドライバーに差し込む。

 

『レッツゲーム!メッチャゲーム!ムッチャゲーム!ワッチャネーム!?』

 

出久の周囲を囲むように、キャラクター選択パネルが表示される。

出久は自分の正面のパネルにまっすぐと手を伸ばした。

 

『アイム ア カメンライダー!』

 

電子音声が止んだとき、そこに現れたのは、逆立った髪の毛のような頭部が特徴のゆるキャラのような、ずんぐりとした体型で可愛らしい出で立ちに姿を変えた出久。

 

―仮面ライダーエグゼイド アクションゲーマーレベル1―

 

「……え、なんだこれ!?僕、本当に変身してる!?」

 

困惑する出久にヘドロヴィランの拳が迫る。

 

「危ない!」

 

明日那の声で危機を察した出久。

軽い身のこなしで跳び上がると、ヘドロヴィランの拳に乗り、さらに高く飛び跳ねる。

 

『ガシャコンブレイカー!』

 

ハンマー状の武器を取り出した出久は、それをヘドロヴィランの頭に叩きつける。

流動体にも関わらず、何故かその打撃は炸裂し、まるでゲームのエフェクトかのように『HIT』の文字が飛ぶ。

 

「効いてる……だったら……」

 

出久はヘドロヴィランに背を向け、走り出す。

 

「ちょっと、どこいくの!」

 

「マイティは、お菓子を食べて強くなるんです!」

 

ヘドロヴィランから距離を取った出久は、会場に展開されたブロックのひとつを砕く。

そこから飛び出したのは、ゲームキャラが疾走する絵柄が描かれたメダルだった。

 

「アイテムゲット!」

 

―エナジーアイテム「高速化」―

使用したキャラのスピードを一時的に上げる黄色のメダル。

 

出久は目に止まらぬ高速移動で、連続攻撃を繰り出す。

 

「トドメだ!!」

 

ヘドロヴィランの脳天に『PERFECT』の一撃が炸裂すると、その姿を消し、元の少年へと戻った。

 

「やった!」

 

「……いや、まだゲームは終わってない!」

 

ヘドロヴィランだった少年は元の姿に戻り、倒れ込んでいる。

しかし、その身体から湧き出るように緑色の流動体が飛び出してくる。

 

「ヘドロヴィランが……分離した!?」

 

ゲーマドライバーの働きによって少年の身体から解放されたヘドロヴィランは、独立した存在となり、再びその猛威を振るう。

 

「緑谷くん、これ以上はあなたには無理よ!戻って!!」

 

「いや、まだやれます!!」

 

出久は何か手はないかと、腰に巻かれたゲーマドライバーを探る。

 

「これだ!大変身!!」

 

出久はゲーマドライバーの正面にあるレバーを開放する。

 

『ガッチャーン!レベルアーップ!』

 

出久が跳び上がると、それに合わせて音声が続く。

 

『マイティジャンプ!マイティキック!マイティマイティアクションX!!』

 

変身音に合わせてジャンプ・キックを行いながら、レベル1のボディから細身ながらも大柄な人型が分離し、決めポーズを取って着地する。

 

―仮面ライダーエグゼイド アクションゲーマーレベル2―

 

「ウソ……」

 

難なくレベルアップに成功した出久を見て、啞然とする明日那。

 

「緑谷出久……MIDORIYA……まさか、天才ゲーマー『M』……?」

 

出久はガシャコンブレイカーから刃を伸ばし、剣状にすると、レベル1のときよりも軽快な身のこなしで、何度もヘドロヴィランへ斬りかかる。

 

「一気に決めます!!」

 

ゲーマドライバーからガシャットを抜き、ふっ……と息を吹きかけると、ベルトの左腰部分に装着されたホルダーへ挿し直す。

出久がホルダーのボタンを2連打すると……

 

『キメワザ!』

 

鳴り響く音声とともに、出久の脚にエネルギーが満ちていく。

そして、その脚のエネルギーを威力に変えて、ヘドロヴィランへと跳び蹴りを放つ。

 

『マイティクリティカルストライク!!』

 

ヘドロヴィランの身体に必殺のキックが突き刺さる。

文字通り『PERFECT』の一撃が炸裂し、ヘドロヴィランの身体は爆散した。

 

「や……やった……」

 

出久は着地するや否や、変身が解け、その場に倒れ込む。

 

『これが、僕の新しいゲームの始まりだった。そして……』

 

「ちょっと、緑谷くん、大丈夫!?」

 

心配する明日那に、出久は無言でグッと親指を立てた拳を示して答えた。

 

『これは、僕が最高のヒーローになるまでの物語だ』

 

 



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第2話 運命のGAME START

【前回のあらすじ】

人類が個性を得るきっかけとなったのは病原体『バグスターウイルス』への感染だった。
そして、より複雑、より強力となる個性はやがて『特異点』を迎え、人体から独立した生命体『バグスター』となる。

ヒーローに憧れる無個性の少年『緑谷出久』は、たまたま訪れたイベント会場でヘドロ状のバグスターと遭遇。
出久は衛生省職員『仮野明日那』から授かった『ゲーマドライバー』と『ライダーガシャット』を使いこなし『仮面ライダーエグゼイド』へと変身。見事、バグスターを撃退したのであった。



ヘドロヴィランを撃退し、明日那へサムズアップする出久。

その様子を見て安心した明日那は、ヘドロヴィランから分離した少年の容態を確認する。

 

「まだ経過観察は必要だけど、大きな心配はなさそうね。ありがとう、緑谷くん!」

 

「そんな、僕はただ夢中で……」

 

出久は改めて自分が手にした力……『仮面ライダー』へ変身するツールに目をやる。

 

「このドライバーとガシャットのおかげですよ……」

 

「それは所詮ただの道具よ。彼を救ったのは間違いなく『あなた』なの。だから……」

 

明日那は出久に近寄り、その手を握る。

不意に女性に手を握られた出久は思わずドキっと身をよじらせる。

 

「本当にありがとう」

 

そう告げた明日那が手を離すと、出久の手には腕時計型のデバイスが残されていた。

 

「わたしはこの子を病院へ連れていくわ。君にはいろいろと聞きたいことがあるから、それを使ってまたあとで連絡する。あと、ゲーマドライバーとガシャットも君に預けとくわ」

 

「いいんですか!?」

 

「ええ、ただし悪用はしないこと。あくまでも『医療機器』だからね、それ」

 

「はい!わかりました!!」

 

興味津々にドライバーとガシャットを観察する出久の姿に、年相応な子供らしさを見つけた明日那はちょっとほっとしていた。

 

〜数時間後〜

 

出久はゲーマドライバーとライダーガシャットについてをノートに書き上げていた。

納得いくノートの仕上がりに満足したのか、足取り軽く道を進む出久。

その途中、高架下に差しかかったそのとき。

 

「……リ・スタートだ」

 

そんな声とともに、出久の足元のマンホールからヘドロ状の何かが湧き出てきた。

 

「さっきのヘドロヴィラン……!?」

 

突然の襲撃に回避も間に合わなかった出久はヘドロに纏わりつかれ、もがき苦しむ。

 

「だいじょーぶ。身体を乗っ取るだけ……落ち着いて。苦しいのは約45秒……すぐ楽になる」

 

ヘドロヴィランに纏わりつかれ、意識を手放しそうになる出久。

そのとき……

 

「もう大丈夫だ、少年!!」

 

力強い声が出久の耳に飛び込んできた。

 

「私が来た!」 

 

マンホールの蓋を吹き飛ばし、巨大な影が飛び出す。

 

「TEXAS……SMASH!!」

 

圧倒的な拳の一撃。

そこから繰り出される凄まじい風圧がヘドロヴィランを吹き飛ばした。

 

「ん……んん……」

 

かろうじて意識を取り戻した出久。

その視線の先には……

 

「トぁあああ!!?」

 

「いやあ悪かった!! ヴィラン退治に巻き込んでしまった。いつもはこんなミスしないのだが、オフだったのと慣れない土地でウカれちゃったかな!?」

 

出久の憧れるNO.1ヒーロー……

HAHAHA! と笑うオールマイトの姿があった。

 

「しかし君のおかげさ、ありがとう!!!無事詰められた!!!」

 

突然の出来事に驚きを隠せない出久。

 

「はっ!そうだ、サイっサイン!どっか……あっ、このノートに……」

 

出久自慢のヒーロー考察ノートを取り出すと……

 

「してあるー!!!」

 

そこには既にオールマイトの名が刻まれていた。 

 

「わあぁぁ!ありっありがとうございます!!家宝に!家の宝に!!」

 

「じゃあ私はこいつを警察に届けるので!液晶越しにまた会おう!!」

 

「え!そんな……もう?まだ……」

 

「プロは常に敵か時間との戦いさ」

 

そう言うとオールマイトは腰を深く沈め……

 

「それでは今後とも……応援よろしくねー!!」

 

その脚力で、空高く跳び上がった。

 

「……って、マジか!?」

 

違和感を覚え、振り返ったオールマイト。

彼の視界に飛び込んできたのは、ビルからビルへ、ときには謎のブロックを足場に、ぴょんぴょん飛び跳ねながら、自分のあとを猛追してくる、ゆるキャラもどきの姿だった。

 

「僕は、どうしてもあなたに直接聞きたいことが!!」

 

「さっきの少年!?熱狂が過ぎるぞ!!」

 

「オールマイトォォ〜!」

 

「……shit」

 

ゴホッと咳込むオールマイトの口元には血が滲んでいた。

 

オールマイトと出久は近くのビルの屋上に着地。

変身を解いた出久にオールマイトが話しかける。

 

「全く……無茶をするな、少年!わたしはマジで時間がないので、本当これで!」 

 

「待って、あの……『個性』が無くても、ヒーローは出来ますか?」

 

出久の問いかけに、立ち去ろうとしたオールマイトは思わず足を止める。

 

「『個性』のない人間でも……あなたみたいになれますか?」

 

「『個性』が……」

 

立ち止まり、何かを考えるオールマイト。

そのとき、彼の身体がドクンと揺れ、オールマイトの全身から煙のような物が噴出し始める。

しかし、出久はそれに気づかず、下を向きながら話し続ける。

 

「もちろん『ヒーロー』だけが人を救ける職業ではないことは理解していますし、今の僕の第一目標は人命を救える『医師』になることです。でも、やっぱり僕の幼いころからの憧れ、人を救うという思いの原点は『ヒーロー』であり『あなた』なんです。『個性』がないせいで、その思いを馬鹿にされることも多かったけれど……それでもやっぱり僕は……」

 

出久は頭を上げ、オールマイトの方を向く。

 

「恐れ知らずの笑顔で救けてくれる。そんなあなたみたいな『ヒーロー』に僕も……おおぉぉぉ!?」

 

出久は目の前の光景に思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。

 

「え、萎んでるぅ!?……え、さっきまで……え?ニセモノ!?細!?」

 

オールマイトが居たはずの場所に立つ痩身の男へ出久は驚きを隠せない。

 

「私はオールマイトさ」

 

男は口から血を流しながら、さらりと言った。

 

「ウソでしょ!!」

 

「プールでよく腹筋力み続けている人いるだろう?アレさ」

 

「ウソだー!!」

 

「恐れ知らずの笑顔ね……見られたついでだ。少年、間違ってもネットには書き込むな?」

 

オールマイトはシャツを捲り、出久に自身の身体を見せた。

 

「5年前……敵の襲撃で負った傷だ」

 

そこにはとても痛々しい傷が刻まれていた。

その傷を見た瞬間、出久の態度は一変した。

冷静さを取り戻し、オールマイトに近づく。

 

「……失礼します」

 

「……少年?」

 

出久はオールマイトの傷口を観察しつつ、障らないように軽く触れながら状態を確認していく。

 

「なんて酷い怪我……恐らく内臓まで損傷してる……適切な処置がされてるとはいえ、普通なら日常生活にも支障が出るレベルのはず……屈強なオールマイトだからこそ現状で済んでいて、痩せ細った身体は増強系の個性の出力が低下したため……?」

 

「流石は医者志望だね、少年。素晴らしい見立てだ。ほぼ正解だよ。呼吸器官半壊、胃袋全摘。度重なる手術と後遺症で憔悴してしまってね。私のヒーローとしての活動限界は今や1日3時間程なのさ」

 

「そんな……でも、オールマイトにそこまでの深手を負わせたヴィランなんて、聞いたことありませんよ!?」

 

「これは世間には公表されていない……私が公表しないでくれと頼んだ。人々を笑顔で救い出す『平和の象徴』は、決して悪に屈してはいけないんだ。私が笑うのは、ヒーローの重圧。そして内に湧く恐怖から己を欺く為さ」

 

「そんな……」

 

あまりの告白内容に言葉を失う出久。

だが、オールマイトは尚も言葉を続ける。 

 

「プロはいつだって命懸けだよ。たしかに君の持つ、そのサポートアイテムの性能は素晴らしい。でも、どんなに素晴らしいアイテムも所詮は道具だ。それを使う人間自身に『個性』がなくとも巨悪に立ち向かう『ヒーロー』として成り立つとは、私にはとても言えないな」

 

そう、オールマイトは出久に告げた。

 

出久はそのオールマイトの答えを聞き、改めて彼と向き合った。

 

「そうですよね、オールマイト。ありがとうございます。僕は……少し浮かれていたのかもしれません」

 

出久は自分の持つゲーマドライバーに視線を移す。

 

「ある人からこのアイテムを借りて、無個性の僕にもできることがあるんじゃないかと思っていたところ、憧れのあなたにも出会えた幸運……出来すぎです。まるで、ゲームのストーリーを左右する重大イベントみたいに思ってしまいました」

 

そう語る出久に、オールマイトは優しい声で語り返す。

 

「夢を見ることは悪いことじゃない。憧れも立派な原動力だ。だが、その一方で現実と向き合うことも大切さ」

 

オールマイトは自分の腹部の傷を押さえながら、言葉を続ける。

 

「大丈夫。君が理想を追い求めるだけではなく、きちんと現実を見定めて努力していることはよく分かる。さっきの診断は見事なものだった。君の言う通り、医者も誰かを救うことができる立派な職業だと思うよ」

 

「ありがとうございます、オールマイト……あなたにそう言ってもらえるだけでも……僕は……僕は……」

 

思わず下を向く出久。

高まる感情とともに、瞳からは涙が溢れ出す。

 

「ここで会えたのも何かの縁だ。いつか君が立派なお医者さんになったとき、改めて私の身体を診てもらえるかな?」

 

「……はい!!」

 

涙を拭い、力強く返事をする出久。

その強い意志を感じる声と表情にオールマイトは胸を撫で下ろす。

 

「……頑張りなさい、少年」

 

そう言うと、オールマイトはその場をあとにした。

 

ひとり残った出久は空を見上げる。

雲ひとつない青天を眺めながら、物思いに耽っていた。

 

『流石はNo.1ヒーロー、言葉の重みが違ったわね……』

 

「そうですね。でも、これでなんだか気持ちがスッキリしたような……んっっ……?」

 

聞こえてきた女性の声に答えた出久だったが、ふと我にかえる。

自分は誰と話しているのか?と……

 

「よいしょ!っと……」

 

そのとき、出久が左手首につけていた腕時計型デバイスの画面から、明日那が飛び出してきた。

 

「は!?はぁぁぁぁ!?」

 

突然の出来事にただただ驚く出久。

 

「ちょっと、そんなビックリしないでよ。そのデバイスで連絡するって言っておいたでしょ!」

 

「いやいやいや!ビックリしますよ!?普通、連絡っていったら何かしらの通信が入ると思うでしょ!!画面使って本人がワープしてくるなんて思いませんよ!?」

 

「ふふふ……これくらいで驚いてもらっちゃ困るわね……」

 

困惑する出久をよそに、不敵な笑みを浮かべる明日那。

 

「コスチュームチェーンジ!!」

 

その言葉とともに光に包まれる明日那。

そして、光の中から姿を現したのは、スーツ姿から一転、ポップでカラフルなコスチュームに身を包み、髪色もピンクの女性だった。

 

「仮野明日那は世を忍ぶ仮の姿……然してその正体は……ポッピーピポパポだよー!!」

 

明るく軽やかにそう宣言するポッピー。

一方、出久は痩せ細ったオールマイトを見た以上の衝撃を受け、言葉もなくただ口をパクパクさせるのみだった。

 

〜数分後〜

 

「少しは落ち着いたぁ〜、出久ぅ〜?」

 

「は、はい。要は仮野さんは本当はポッピーさんで、仮面ライダーをアシストするためのナビゲートキャラのようなもので、画面を使ったワープはそういう個性みたいなものだと……」

 

「その通り!流石、天才ゲーマー、話が早い!!」

 

何か釈然としないなぁと思いつつも、とりあえず受け入れる出久。

 

「それでポッピーさん、何か話があるから来たんですよね?」

 

「そうそう!忘れてた!!出久が倒してくれたヘドロのバグスターなんだけどね、どうやらまだ仕留め切れてないみたいなの!」

 

「あぁ、それならオールマイトがさっき捕まえて、警察に連れてくって言ってましたよ」

 

「そうなんだ!さっすが、オールマイト!!だったら、あとは警察から衛生省に話がいくはずだから大丈夫ね。よかったよかった!!」

 

ポッピーは少しオーバーリアクションぎみに安心した様子を見せる。

 

「じゃ、わたしは警察から連絡入るまで待機しとくね。じゃあまったね〜!!」

 

「あ、ポッピーさん!?」

 

出久の静止も聞かず、ポッピーは出久の左手首のデバイスに飛び込み、姿を消した。

 

「……ゲーマドライバー、返そうと思ったのに」

 

ポッピーが去ったあと、出久は爆発音と人のざわめきを聞きつけ、ヴィラン騒ぎが起きていた商店街に立ち寄っていた。

 

これまでのような単なるヒーローへの憧れではなく、改めて現実として自分にできることを見定めるために、出久はこの場に来た。

 

そして、出久は目の前の光景に驚きを隠せなかった。

 

商店街で暴れていたのは、あのヘドロヴィランだった。

 

オールマイトが捕らえたはずなのに何故?

まさか、変身して追いかけ回したせいで逃した?

 

そうこう出久が考えているうちに、周囲の人々の会話から状況を知ることができた。

 

捕まっているのは中学生で爆破系の個性を持っている。

 

多くのプロヒーローたちも既に到着している。

 

しかし『巨大化』の個性を持つMt.レディはその巨体故に現場に近づけない。

 

『樹木』の個性を持つシンリンカムイは、個性が生み出す炎との相性が最悪。周辺のケガ人救助で精一杯。

 

バックドラフトも周辺の消火で手一杯。

デステゴロは純粋にパワー不足でヘドロヴィランとの相性が悪く、爆破のせいで近づくことも出来ない。

 

プロヒーローたちは誰ひとりとして、囚われた中学生の救助へ向かえず、相性のいいヒーローが来るのを待つことしか出来ずにいた。

 

そんなとき、出久の目と、ヘドロヴィランに囚われた少年『爆豪勝己』と目が合い……

 

気がつけば、出久は考えるよりも先に、ただただ衝動的に走り出していた。

 

「馬鹿ヤロー!!止まれ!!止まれ!!」

 

出久を止めようと、プロヒーローたちの声が響く。

それでも出久は止まらない。

 

「かっちゃん!!」

 

「何でてめぇが!?」

 

「何でって……」

 

爆豪の問いかけに出久は答える。 

 

「君が……救けを求める顔をしてた!!」

 

出久は、先ほどまとめたばかりのノートの記述を思い出す。

 

最初からゲーマドライバーのレバーを解放していれば、レベル1を経由せず、直接レベル2に変身可能……!

 

出久は走りながらゲーマドライバーをセットする。

 

『マイティアクションX!』

 

「大変身!!」

 

『ガッチャーン!レベルアーップ!』

 

『マイティジャンプ!マイティキック!マイティマイティアクションX!!』

 

―仮面ライダーエグゼイド アクションゲーマーレベル2―

 

「ダメ!!」

 

出久が変身したのも束の間、何処からともなく現れた明日那が、ゲーマドライバーのレバーを戻し、出久をレベル1に強制レベルダウンさせた。

 

「ポッピーさん!?何するんですか!?」

 

「この姿のときは明日那って呼んで!それから、いきなりレベルアップしちゃダメ!」

 

「どうしてですか!レベルアップしたほうが強いじゃないですか!!」

 

「あのバグスターは強い個性と肉体を求めて

彼に『再感染』した。バグスターを患者から分離させるのはレベル1しかできないの!!」

 

「……ごちゃごちゃうるさい」

 

揉める出久と明日那へとヘドロヴィランが爆破を放つ。

出久はとっさに明日那を庇うも、その衝撃で吹き飛ばされて変身も解除してしまう。

 

「……まずい」

 

ふらつきながらも、再変身を試みる出久。

しかし、その手元は覚束ない。

 

そこに、颯爽と飛び込んでくる者がいた。

 

「情けない。君を諭しておいて、己が実践しないなんて!!」

 

出久の前に立つのは、No.1ヒーロー、オールマイト。

 

「プロはいつだって命懸け!!!!」

 

大きく振りかぶって、地面に向かって拳を一撃。

 

「DETROIT SMASH!!!!」

 

巻き起こる暴風。

走る抜ける衝撃。

 

ヘドロヴィランは吹き飛び、爆豪は出久の元へと解放される。

 

オールマイトの一撃は上昇気流を生み、商店街には雨まで降り出した。

 

右手一本で天気も変える……これが『オールマイト』……

 

「仮野さん……拳一発でバグスター分離されてますけど……?」

 

「あぁ……あれは規格外ね……」

 

出久と明日那は、その常識外れの所業にただただ笑うしかなかった。

 

その後、オールマイトの一撃で散ったヘドロヴィランはヒーローらに回収され、明日那が衛生省へと持ち帰った。

 

「君が危険を冒す必要は全くなかったんだ!!」

 

出久は周囲のヒーローたちにお叱りを受け、 

 

「すごいタフネスだ!それにその個性!!」

 

「プロになったら是非、ウチの相棒サイドキックに!!」

 

爆豪は逆に賞賛された。

 

そしてようやく帰路についた出久。

 

「デク!!」

 

爆豪が出久を呼び止める。

 

「てめぇに救けを求めてなんかねえぞ……!救けられてもねえ!!あ!?なあ!?一人でやれたんだ。無個性の出来損ないが見下すんじゃねえぞ。恩を売ろうってか!?見下すなよ、俺を。クソナードが!!」

 

言いたいことを言うだけ言って去っていく爆豪。

出久はそんな爆豪のタフネスさに驚きつつ、改めて今後の自分の進路について考えようと決めた。

 

そんなとき……

 

「私が来た!!」

 

「わっ!オールマイト!?なんでここに……さっきまで取材陣に囲まれて……」

 

「あの程度の包囲、抜けるくらいワケないさ!!何故なら私は、オールマゲボォッ!!」

 

オールマイトはまた身体が萎み、口から血を吹き出した。

しかし、オールマイトは口元を拭うと、言葉を続ける。

 

「少年、礼と訂正、そして提案をしに来たんだ」

 

「え……?」

 

「君がいなければ……君の身の上を聞いていなければ、私は…口先だけのニセ筋になるところだった! ありがとう!!」

 

「そんな… …そもそも僕のせいですし、なにより……『無個性』の僕が出しゃばったから……」

 

「そうさ! 」

 

うつむく出久へオールマイトは語る。

 

「あの場の誰でもない『無個性』の君だったから!! 私は動かされた!! トップヒーローは学生時代から逸話を残している……彼らの多くが話をこう結ぶ!

 

『考えるよりも先に体が動いていた』

 

と。君も、そうだったんだろう!?」

 

オールマイトは力強く、その思いを言葉にする。

 

「君は『ヒーロー』になれる!」

 

『そこからは、あっという間に時間が流れた……』

 

「君なら私の『力』、受け継ぐに値する!!」

 

『個性を譲渡する個性……ワン・フォー・オール。僕はオールマイトの力を受け継ぐことになった』

 

『力を受け継ぐための器、即ち肉体の鍛錬……医者になるための勉強と、得意のゲームしかしてこなかったひ弱な僕には心底堪えた……』

 

『そして、迎えた雄英高校入試当日。まさか、髪の毛を食べるとは思わなかったな……なんかこう、もっと、光がフワァーみたいなイベントを想像してた』

 

『それでも、僕はなんとか力を受け継いた。そして……』

 

〜雄英高校〜

 

『今日、僕は雄英高校一般入試 実技試験に挑む!!』

 

【GAME START】

 

 




【デクの現在所持ガシャット】
 ・マイティアクションX


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第3話 逆風からのtake off!

【前回のあらすじ】

無個性の少年、緑谷出久は憧れのヒーロー『オールマイト』に出会う。
無個性でもヒーローになれるかと訊ねるも、その答えは現実的なものだった。

帰路につく出久は再びヘドロヴィランと遭遇。
爆豪の身体を支配するヘドロヴィランに立ち向かうも返り討ちにあう出久を救ったのは、他ならぬオールマイトであった。

考えるよりも先に爆豪救出へ身体が動いた出久の姿にヒーローの素質を見出したオールマイトは一転、出久を自らの後継者に指名したのだった。



雄英高校ヒーロー科……そこはプロに必須の資格取得を目的とする養成校

全国同科中、最も人気で最も難しくその倍率は例年300を超える。

 

言わずと知れたNo.1ヒーロー「オールマイト」

 

事件解決数史上最多、燃焼系ヒーロー「エンデヴァー」

 

ベストジーニスト8年連続受賞「ベストジーニスト」

 

栄光あるトップヒーローには雄英卒業が絶対条件とも言われている。

 

〜2月26日〜

オールマイトとの訓練を終え、大急ぎで帰ってシャワーを浴びて、荷物をまとめて地下鉄乗り継ぎ40分。

出久は雄英の一般入試実技試験に挑む。

 

校門前に立ち、出久は試験への決意を固める。

 

「どけ、デク」

 

そんな出久の後ろから声をかけてくる爆豪。

 

「俺の前に立つな、殺すぞ」

 

「お早う、かっちゃん。お互いがんば……」

 

と、出久は声をかけるが爆豪は無視して会場へと入っていく。

 

「かっちゃんは相変わらずだなぁ……」

 

ヘドロヴィランの一件以来、出久は爆豪と口をきいていない。

彼にも思うところがあるのだろう。

 

「まぁ、仕方ないか。気を取り直して……踏み出せ、ヒーローへの第一歩を!」

 

一歩踏み出そうとする出久だったが、気負っていたのか盛大につまずく。

 

しかし、出久は転ぶことなく、何故か宙に浮いている。

 

「……へ?」

 

「大丈夫?」

 

驚く出久に少女が声をかけてくる。

 

「私の個性、ごめんね勝手に。でも、転んじゃったら縁起悪いもんね」

 

そう少女が言うと、体制を整えた出久の浮遊は解け、地面に着地する。

 

「ありがとう。重力操作系の個性?凄いね、助かったよ!」

 

「うん、転びそうだったからフワァ!っとね。試験って緊張するよねえ。お互い頑張ろう!」

 

そう言うと少女も会場へと去っていった。

 

「……僕も行くか!」

 

出久は改めて会場へと一歩踏み出した。

 

〜試験会場〜

 

「今日は俺のライヴにようこそー!エヴィバデセイヘイ!!」

 

唐突な試験官の挨拶に、会場に座する受験生たちは困惑し、返答もできず静まりかえる。

 

「こいつあシヴィー!受験生のリスナー。実技試験の概要をサクッとプレゼンするぜ、アーユーレディ!?」

 

試験官『プレゼント・マイク』はそんな静けさを気にもせず、話を始めていく。

 

「入試要項通り、リスナーにはこの後10分間の模擬市街地演習を行ってもらうぜ。持ち込みは自由、プレゼン後は各自指定の演習会場へ向かってくれよな」

 

「同校同士で協力させねえってことか……てめぇを潰せねえじゃねえか」

 

爆豪は説明を聞き、出久に露骨な舌打ちをしていく。

 

一方の出久は『持ち込み自由』の案内から、思いを馳せていた。

 

〜10ヶ月前……緑谷家 出久の部屋〜

 

「本当に僕がゲーマドライバーを持っていていいんですか?」

 

話があると自宅に突然ワープしてきたポッピー。

母親の目を逃れ、自室に籠もった出久は、ポッピーからの申し出に対して問いかける。

 

「うん、もちろん!……というか、ゲーマドライバーの適合者ってなかなか見つからなくってね。実質、今は出久しか使えないの!」

 

なかなかの重要事項をさらっと言うポッピーに、出久は戸惑いつつも問いかけを続ける。

 

「でも……こういうアイテムって、通常はヒーローの資格をもってないと使用できないんじゃ……」

 

「そうなんだけど、何事にも例外ってものがあるの。たとえば第4世代以降、個性特異点の兆候が見えてからは特に『個性』と『身体』が合ってない人ってのが出てきてね。そういう『個性』が日常生活に支障をきたすような人は、国の審査を受ければヒーローじゃなくてもアイテム着用が認められるんだよ。まぁそのへんは衛生省がいろいろと処理するから問題なし!!」

 

「国家権力!?」

 

ポッピーの口から矢継ぎ早にさらっと飛び出す内容に驚きっぱなしの出久。

 

「それにほら、前も言ったけどゲーマドライバーって元々対ヴィラン戦闘用アイテムじゃなくて『医療機器』だしね。この前のヘドロの一件みたいに出久が緊急時に街中で使ったとしても、民間人がAEDを使って心肺蘇生するのと同じ理屈で通せるのよ」

 

「……なんか、もうどこからツッコんでいいのかもわかりません……」

 

「とにかく!出久はもっと自信をもって!!」

 

ポッピーは戸惑う出久の肩をポンと叩く。

 

「入試近いんでしょ?雄英高校に入学して、最高のヒーローになってね。仮面ライダーエグゼイド!!」

 

〜再び現在……試験会場〜

 

ポッピーの話はともかく、持ち込み自由の試験であるならば、尚更ゲーマドライバーの使用は問題ない。

出久は少し安心して、プレゼント・マイクの話の続きに耳を傾けた。

 

「演習場には仮想ヴィランを三種・多数配置してあり、それぞれの『攻略難易度』に応じてポイントを設けてある。各々なりの個性で仮想ヴィランを行動不能にし、ポイントを稼ぐのが君達の目的だ。もちろん、他人への攻撃等アンチヒーローな行為はご法度だぜ!?」

 

プレゼント・マイクがそこまで説明すると、一人の受験生が手を挙げる。

 

「質問よろしいでしょうか!?」

 

眼鏡をかけた、如何にも優等生的風貌の少年が声を上げる。

 

「プリントには四種のヴィランが記載されております。誤載であれば、日本最高峰たる雄英において恥ずべき痴態。我々受験者は規範となるヒーローのご指導を求めてこの場に座しているのです」

 

「オーケーオーケー、受験番号7111くん、ナイスなお便りサンキューな」

 

そう言うと、プレゼント・マイクは受験生からの質問に答える。

 

「四種目のヴィランは0P、そいつは言わばお邪魔虫。マイティアクションやったことあるか?あれのお邪魔キャラみたいなもんさ。各会場に一体、所狭しと大暴れしている、要は『ギミック』よ」

 

会場のどこからか、まるでゲームみたいだとの声が漏れる。

出久もそれに同感した。そしてこうも思った。

 

『ゲーム』なら自分は負けない……と。

 

「俺からは以上だ。最後にリスナーへ我が校校訓をプレゼントしよう。かの英雄ナポレオン=ボナパルトは言った。

 

『真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていく者』……と。

 

プルスウルトラ、それでは皆良い受難を!!」

 

プレゼント・マイクはそう告げて、解説を終わりにした。

 

〜実技試験会場 模擬市街地演習場〜

 

出久たち受験生は試験会場に移動した。

出久が辺りを見渡すと、先ほど助けてくれた女の子や質問していた眼鏡くんも同じ会場のようだった。

 

『ハイ、スタートー』

 

そんな放送が突如として聞こえてくる。

 

「……え?」

 

出久含め、戸惑う受験生たち。

 

『どうしたぁ!?実戦じゃカウントなんざねぇんだよ、走れ走れぇ。賽は投げられてんぞ!?』

 

「設定はゲームっぽいのに、変なとこだけリアル思考!?」

 

慌ててゲーマドライバーとガシャットを取り出す出久。

他の受験生たちも一斉に走り出す。

 

ドン!

 

押し寄せる人波に突き飛ばされ、出久はガシャットを落としてしまう。

 

「……嘘だろ」

 

人波に巻き込まれたガシャットを、出久は完全に見失ってしまった。

 

「大丈夫、これぐらいの遅れはまだ挽回できる……慌てるな……」

 

数々の大会で好成績を出してきた『天才ゲーマー』としての判断力が、出久に冷静さを与えてくれる。

受験生たちの動きを思い出し、ガシャットが飛ばされたであろう方角を予想し、そちらへと走っていく。

 

数分後。読みが的中し、出久は落ちていたガシャットを拾いあげる。

 

『標的補足!!』

 

そこにやってきた1Pヴィラン。

出久へと鉄の拳を振り上げる。

 

「ここからようやくゲームスタートだ!」

 

出久は手にしたガシャットのスイッチを押す。

 

『マイティアクションX!』

 

「変身!」

 

『ガッシャット!』

 

『レッツゲーム!メッチャゲーム!ムッチャゲーム!ワッチャネーム!』

 

『アイム ア カメンライダー!』

 

―仮面ライダーエグゼイド アクションゲーマーレベル1―

 

変身を終えた出久は1Pヴィランへ飛びかかる。

 

「据え膳」

 

しかし、出久の攻撃が届く前にどこからか放たれたレーザーがヴィランを撃ち抜いた。

出久がレーザーの発射方向を見ると、腰に巻いたベルトから発射痕らしき煙を上げる少年の姿が目に映った。

 

「君も素敵なベルトをしてるね!縁があったらまた会おう!!」

 

そう告げると、少年は足早にその場を去っていく。

 

『あと6分2秒〜』

 

鳴り響くアナウンスに出久は若干の焦りを覚える。

気がつけば周りの他の受験生たちはすでに多くのポイントを獲得している。

 

「思ったより……敵がどんどん減ってる。マズイな……」

 

別室でモニター越しに試験の様子を見ている雄英高校教師たちは口々にコメントを発していく。

 

「この入試はヴィランの総数も配置も伝えていない。限られた時間と広大な敷地、そこからあぶり出されるのさ」

 

「状況をいち早く把握する為の情報力、遅れて登場じゃ話にならない機動力、どんな状況でも冷静でいられる判断力、そして純然たる戦闘力。市井の平和を守る為の基礎能力がP数という形でね」

 

「今年はなかなか豊作じゃない?」

 

「いやー、まだわからんよ。真価が問われるのはこれからさ」

 

「圧倒的脅威、それを目の前にした人間の行動は正直さ……」

 

ビル群の隙間から顔を出したのは30m級の大型ロボット ―0P仮想ヴィラン―

 

一歩歩くごとに瓦礫を生み、辺りに被害を撒き散らすその巨体を見た受験生たちは一目散に逃走していた。

 

「嘘だろ。シャレにならん……逃げつつPを稼がないと……」

 

出久も急いでその場を離れようとしたとき、視線に飛び込んできたのは足をくじいて動けなくなった女の子の姿。

それは校門で自分を救けてくれた少女だった。

 

気がつけば、出久は0Pヴィランへ向かって走っていた。

理想的なプレイングを求めるゲーマーとしても、合格を狙う受験生としても、おおよそ無意味な行動。

それでも尚、出久は立ち向かっていた。

 

「大変身!!」

 

出久は走りながら、ゲーマドライバーの正面にあるレバーを開放する。

 

『ガッチャーン!レベルアーップ!』

 

0Pヴィランの頭上目掛けて、出久が高く跳び上がると、それに合わせて音声が続く。

 

『マイティジャンプ!マイティキック!マイティマイティアクションX!!』 

 

―仮面ライダーエグゼイド アクションゲーマーレベル2―

 

変身を終えた出久はハンマー状の武器『ガシャコンブレイカー』を取り出す。

そして、ゲーマドライバーからガシャットを抜き、ガシャコンブレイカーへと挿し直す。

 

『キメワザ!』

 

鳴り響く音声とともに、出久の握るハンマーにエネルギーが満ちていく。

 

『マイティクリティカル……』

 

ヴィランに立ち向かいながら、出久はオールマイトの言葉を思い出していた。

 

『細かな説明をする時間はないからこれだけ。ワン・フォー・オールを使う時は、ケツの穴グッと引き締めて心の中でこう叫べ!』

 

ハンマーを握る右手にも稲妻が走り、並々ならぬ力が満ちる。

 

「スマッシュ!!」

 

0Pヴィランの脳天に必殺の一撃が叩き込まれる。

 

『PERFECT』

 

強い衝撃が走り、巨大ヴィランが粉砕され、頭から崩れ落ちていく。

 

ドクン!

 

それと同時に、出久の全身に激痛が走る。

胸に表示されたHPゲージが一気に減り、変身が解除される。

 

「……な!?」

 

全身を襲う鈍い疲労感とズキズキとした頭の痛みに耐えながら、出久はオールマイトの言葉を思い出す。

 

『器は成したが、それはあくまで急造品の器。肉体への反動は覚悟しておけよ』

 

「……そうか、バカか、僕は。オールマイトの力だぞ!?たった10ヶ月、ギリギリ扱えるレベルになっただけなんだ……」

 

頭を押さえながら、落下していく地面を見つめる。

 

「借り物の個性が、僕の身体に辛うじて収まっただけ……僕はまだ、ゲームの電源ボタンを押す権利を与えられただけだ!」

 

迫りくる地面との激突まで、あと僅か。

出久は考える。

 

「どうする?再変身してる余裕はない。生身でスマッシュを地面に向かって撃つ……?タイミングが早すぎても遅すぎても死ぬ。成功してもまだ0P……一発で変身解除するような衝撃。もし、僕の身体が耐えられなかったら……合格は絶望的!」

 

そんなことを考えながら落下していく出久の頬を、ロボットの残骸に掴まりながら宙に浮かんできた少女が張り手する。

 

「さっきの女の子!?そうか、重力制御!!」

 

状況を理解した出久。

彼女の個性で浮遊することができたため、個性解除に合わせて穏やかに着地する。

 

出久は、自分を救けてくれた少女の様子を確認する。

少女は個性使用の反動か苦しそうに倒れ込む。

 

「大丈夫!?……とりあえずケガはないか。そんで、ありがとう」

 

感謝の言葉を伝えた出久は周囲に目を配る。

 

「あとは、せめて1Pでも……」

 

『終了〜』

 

そのとき、試験終了を告げるアナウンスが鳴り響いた。

 

「あいつ、何だったんだ?」

 

「いきなりギミックに飛び出したりして」

 

「変身する個性だろうけど規格外だ」

 

「とりあえずすげえ奴だってのは間違いねえよ」

 

周りの受験生たちは巨大ヴィランを粉砕してみせた出久について噂する。

 

「はい、お疲れ様〜」

 

そこにひとりの老婆が現れた。

 

「はい、ハリボー」

 

老婆は受験生たちにグミを配って回る。

その老婆が出久のとこにやって来ると……

 

「リ……リカバリーガール!!」

 

出久はハイテンションで大声を上げる。

 

「おや、あんた。若いのにわたしのこと知ってるのかい?」

 

「はい!妙齢ヒロイン『リカバリーガール』!!個性は『治癒力の超活性化』で、口吻した相手の自然治癒力を高め、怪我を癒やす力。あの、僕、ヒーロー免許だけじゃなくて、医師免許も取得して、人の命を救えるヒーローになりたくて……それで……」

 

興奮して話す出久の口に、リカバリーガールはハリボーを投げ込む。

 

「それだけ元気なら大丈夫だね。怪我もなさそうだし、気をつけて帰りな」

 

そう言うと、リカバリーガールはまた他の受験生たちへと回っていった。

 

〜数日後〜

 

出久は改めて入試の出来を振り返っていた。

筆記の方は問題なし。自己採点ではほぼ満点。

けれど、実技はそれを帳消しにする圧倒的0P……

そして、入試以降オールマイトと連絡がつかなくなった。

 

「出久、来たよ!?」

 

母親が雄英からの通知がきたことを告げる。

 

出久は自分の部屋へ戻ると、母から受け取った通知書を開く。

 

「私が投影された!!」

 

「ええ!?雄英からだよな!?」

 

封を開けた途端に投影されたオールマイトの姿に驚く出久。

 

「諸々手続きに時間かかって連絡取れなくてね、いやすまない。私がこの街に来たのは他でもない。雄英に勤めることになったからなんだ」

 

映し出されたオールマイトが語りかけてくる。

 

「ええ、何だい!?巻きで!?彼には話さなきゃいけない事が……後がつかえてる!?あーあー、わかったOK」

 

軽く咳払いしたオールマイトは、いよいよ本題に入る。

 

「筆記は見事、満点だ!凄いな、少年!!しかし、実技は0P、当然不合格だ……」

 

オールマイトはそう告げていく。

 

「シンプルにそう来るか……想定はしてたけど悔しいっ……」

 

出久がそう感じていると……

 

「それだけならね」

 

オールマイトは言葉を続ける。

 

「私もまたエンターテイナー、こちらのVTRをどうぞ」

 

オールマイトがそう告げると、映像が一転。

試験中に出久が救けた女の子の姿が映される。

 

「彼女、試験後すぐ直談判しに来たんだってさ。何をって!?続きをどうぞ」

 

『あのぉ、頭もっさもさの人。そばカスのあった。わかりますか?っと〜地味めで〜でも派手な姿に変身できる〜、その人に私のP分けるって出来ませんか!?』

 

少女は懸命に語り続ける。

 

『あの人「せめて1P」って言ってて。私聞いてて、だからまだ0Pだったんじゃって思って……せめて私のせいでロスした分。あの人、救けてくれたんです!』

 

「……個性を得て尚、君の行動は人を動かした。先の入試、見ていたのはヴィランPのみにあらず!人救けした人間を排斥しちまうヒーロー科などあってたまるかって話だよ。きれい事!?上等さ……命を賭してきれい事実践するお仕事だ」

 

オールマイトは言葉強く、出久へ発する。

 

「レスキューP、しかも審査制。我々雄英が見ていたもう一つの基礎能力、緑谷出久60P、ついでに麗日お茶子45P……合格だってさ。来いよ、緑谷少年」

 

画面の中のオールマイトが勢いよく指差す。

 

「ここが君のヒーローアカデミアだ!」

 

「……オールマイト」

 

出久はその言葉を聞き、心の底から震え、静かに涙を流した。

 

『多くの救けを受けて僕の人生は変わっていく……そして、夢の高校生活が始まる』

 

 




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第4話 入学式はno thank you?

【前回のあらすじ】

雄英高校一般入試実技試験に挑んだ緑谷出久。

他の受験生に巻き込まれてガシャットを紛失し、出遅れたところに現れた巨大ロボット。

足を挫いた少女を巨大ロボットから救うために個性全開で敵を粉砕した出久は、見事合格を掴み取ったのだった。



〜雄英高校実技試験 審査室〜

 

「実技総合成績出ました」

 

「レスキューポイント0で1位とはなあ」

 

モニターに映し出される試験結果に、雄英教師陣たちは感想を口々にする。

まず、関心が集まったのは1位となった爆豪についてだった。

 

「1Pや2Pは標的を捕捉し近寄ってくる。後半他が鈍っていく中、派手な個性で避けつけ迎撃し続けた、タフネスの賜物だ」

 

「対照的にヴィランポイント0で7位」

 

次に注目を集めたのは出久。

 

「アレに立ち向かったのは過去にもいたけど、ブッ飛ばしちゃったのは久しく見てないね」

 

「思わずYEAHって言っちゃったからなー」

 

「しかし、自身の衝撃でサポートアイテムが停止し、一時的行動不能。相当な負荷だな」

 

「細けえことはいんだよ、俺はあいつ気に入ったよ」

 

「YEAHって言っちゃったしなー」

 

他の教師陣がわいわいと盛り上がる中、ひとり冷静に画面を見つめる者がいた。

 

〜合格通知開封翌日 夜8:00〜

 

オールマイトの連絡を受けた出久は、トレーニング場所として使っていた海浜公園を訪れていた。

 

「合格おめでとう」

 

痩せ細った姿―トゥルーフォーム―のオールマイトが、出久へ語りかける。

 

「一応言っとくが、学校側に君との接点は話してなかったぞ。君そういうのズルだとかで気にするタイプだろ」

 

「お気遣いありがとうございます」

 

出久は一礼すると、話を続ける。

 

「オールマイトが雄英の先生だなんて驚いちゃいました。だから、こっちに来てたんですね。だって、オールマイトの事務所は東京都港区六本木6-12……」

 

「やめなさい」

 

出久がベラベラと話していくのをオールマイトは静止する。

 

「学校側から発表されるまで他言は出来なかったからね。後継を探していた折に雄英側からたまたまご依頼があったのさ」

 

『後継を探していた』

 

その発言に、出久は察する。

本当は自身の後継者を、雄英高校の生徒の中から選ぶ予定だったのだと。

 

「ワン・フォー・オール……必殺技の一振りで変身が解除されました……僕にはてんで扱えない」

 

「それは仕方ない。突如尻尾の生えた人間に『芸を見せて』と言っても操ることすらままならんって話だよ」

 

「って、ああなることわかってたんですか!!?」

 

オールマイトの言葉を聞き、思わずツッコむ出久。

 

「いや、本当はもっと酷い状況も想像してたよ。手足砕けるくらいの反動とか……まァ、時間なかったし。でも、あのサポートアイテムはやはり素晴らしい性能だね。肉体損傷を完璧に抑え込めている。結果オーライ、結果オールマイトさ!」

 

「えぇ……」

 

オールマイトの口からさらっと飛び出す想定に出久は若干引く。

 

「まぁ、今はまだ100か0。だが、調整が出来るようになれば身体に見合った出力で扱えるようになるよ。器を鍛えれば鍛える程、力は自在に動かせる」

 

そう言うと、オールマイトは全力で海岸を走り出す。

 

「ちょっと、オールマイト!なんか都合悪いからって逃げてません!?」

 

HAHAHAと笑いながら疾走するオールマイト。

 

聖火の如く、譲渡した火はまだ火種。

これから多くの雨風に晒され大きくなっていく。

そして、老兵はゆっくりと衰え、火も消え入り、役目を終える。

 

オールマイトはやがて訪れるであろう世代交代を静かに感じていた。

 

〜そして春〜

緑谷出久の高校生活が始まる。

 

「扉、デカ……ダンジョンかな?」

 

1-Aの教室の前。

出久はその扉を開ける。

 

「机に足を掛けるな!雄英の先輩方や机の製作者に申し訳ないと思わないのか!!」

 

「思うわけねぇだろうが!てめぇどこ中だ、この端役が!!」

 

いきなり飛び込んできた光景に出久は言葉を失う。

入試会場で質問していた眼鏡くんと爆豪が激しく言い争っていた。

 

「ボ、俺は私立聡明中学出身、飯田天哉だ」

 

「聡明〜!?くそエリートじゃねえか、ブッ殺し甲斐がありそだな」

 

「な!?口が悪いな、君本当にヒーロー志望か?」

 

そんなやりとりを呆然と見ていた出久。

飯田は扉のそばに立ち尽くす出久に気がつくと、そちらへと向かう。

 

「これは、進行の邪魔をしてすまない。俺は……」

 

「聞いてたよ!僕は緑谷出久。よろしくね、飯田くん!」

 

謝りながら挨拶をしようとする飯田にかぶせるように、出久も自己紹介をしていく。

 

「あぁ、よろしく。実は入試でも同会場だったから、君には一目置いているんだ。他の受験生の救助へ向かう判断力、敵を粉砕する戦闘力……どちらも素晴らしかった!」

 

「そんな、あれで僕も結構ギリギリで……」

 

「あっ、そのモサモサ頭は!地味だけど変身したら派手な人!!」

 

出久と飯田がそんなやりとりをしていると、新たに教室へと入って来た一人の少女が声を上げた。

入試の際に出久が救けた少女『麗日お茶子』が、にこやかな表情で駆け寄って来た。

 

「プレゼント・マイクの言ってた通り受かったんだね。そりゃそうだ、あのハンマー凄かったもん。0Pヴィランをバチコーン!だもんね!!」

 

そんな出久と他生徒のやりとりを見ながら、爆豪は入学前のことを思い出していた。

 

〜中学校 校舎裏〜

 

「なんで無個性のてめぇが受かるんだ、あ!?あの妙なアイテムで強くなったつもりか、ふざけんな!!史上初、唯一の雄英進学者、俺の将来設計が早速ズタボロだよ。他に行けっつったろーが!!」

 

ブチギレながら出久に掴みかかる爆豪。

出久はそれをなんとか捌き、爆豪から距離をとって話す。

 

「言ってもらったんだ。『ヒーロー』になれる!って。僕にもできることがあるって……だから……」

 

出久はまっすぐと爆豪を見つめる。

 

「僕は雄英に行くよ、かっちゃん!!」

 

〜再び現在〜

 

「今日って式とかガイダンスだけかな?先生ってどんな人だろうね、緊張するよね」

 

お茶子はニコニコと出久に語りかける。

 

「お友達ごっこしたいなら他所へ行け。ここは、ヒーロー科だぞ」

 

そんな楽しげな雰囲気に水を差すように、怪しい男が声をかけてくる。

その異様な光景に教室が静まりかえる。

 

「ハイ、静かになるまで8秒かかりました。時間は有限、君たちは合理性に欠くね」

 

そう言うと、怪しげな男は教壇に立つ。

 

「担任の相澤消太だ、よろしくね」

 

「担任!?」

 

「早速だが、体操服着てグラウンドに出ろ」

 

〜雄英高校グラウンド〜

 

「個性把握テストォ!?」

 

グラウンドに出た生徒たちが素っ頓狂な声を上げる。

 

「入学式は!?ガイダンスは!?」

 

「ヒーローになるならそんな悠長な行事出る時間ないよ。雄英は自由な校風が売り文句。そして、それは先生側もまた然り」

 

相澤はボール状の機械を準備しながら、話を続ける。

 

「ソフトボール投げ、立ち幅とび、50m走、持久走、握力、反復横とび、上体起こし、長座体前屈、中学の頃からやってるだろ?個性禁止の体力テスト。国は未だ画一的な記録を取って平均を作り続けてる。合理的じゃない。まぁ、文部科学省の怠慢だよ」

 

そう言うと、相澤は爆豪へボールを投げ渡す。

 

「爆豪、中学の時ソフトボール投げ何mだった」

 

「67m」

 

「じゃあ、個性を使ってやってみろ。円から出なきゃ何してもいい、早よ。思いっ切りな」

 

「んじゃまあ、球威に爆風をのせる……」

 

爆豪は大きく振りかぶると、掌に個性を滾らせる。

 

「死ねぇ!!!」

 

宣言通り、爆破の個性を使って思い切りボールを投げる爆豪。

 

「まず自分の最大限を知る。それがヒーローの素地をつくる合理的手段」

 

相澤のもつ記録計に「705.2m」という値が表示された。

 

 

「なんだこれ、すげー面白そう!!」

 

「705mってマジかよ!」

 

「個性思いっきり使えるんだ。流石ヒーロー科!!」

 

騒ぐ生徒たち。

 

「面白そうか……ヒーローになる為の三年間、そんな腹づもりで過ごす気でいるのかい?よし、トータル成績最下位の者は見込み無しと判断し除籍処分としよう」

 

「はあああぁぁ!?」

 

「生徒の如何は先生の自由。ようこそ、これが雄英高校ヒーロー科だ」

 

驚く生徒たちに相澤はそう言い放った。

 

「最下位除籍って……入学式初日ですよ!?いや、初日じゃなくても理不尽すぎる」

 

お茶子は相澤の宣言を聞き、慌てふためく。

 

「自然災害、大事故、身勝手なヴィランたち。いつどこから来るかわからない厄災。日本は理不尽にまみれてる。そういう理不尽を覆していくのがヒーロー。放課後マックで談笑したかったならお生憎。これから三年間、雄英は全力で君たちに苦難を与え続ける。プルスウルトラさ、全力で乗り越えて来い」

 

相澤はそう告げた。

 

「さて、デモンストレーションは終わり。こっからが本番だ」

 

〜第1種目 50m走〜

 

飯田天哉 個性「エンジン」

見たまんま脚からエンジン。脚が速い。

50m走を3秒04で走り切る。

 

飯田と一緒に走った『蛙吹梅雨』は5秒58を記録する。

 

麗日お茶子 個性「ゼログラビティ」

触れたモノにかかっている引力を無効化する。

ただし、キャパオーバーすると激しく酔う。

お茶子は、靴や服を軽くするように個性を使い7秒15の記録を出す。

 

青山優雅 個性「ネビルレーザー」

へそからレーザーが出る。持続時間がネック。

 

「一秒以上射出するとお腹壊しちゃうんだよね」

 

そう言いながらも、レーザーの反動を利用し、5秒51の記録を出す。

 

出席番号17、18

爆豪勝己と緑谷出久がスタート位置につく。

 

出久は考える。

きっと皆、個性を活かして普通じゃない記録を出してくる。

対して自分は一度使えば身体が壊れてしまい、変身すら一発で解除される力。

ならば、自分はなるべく個性は使わず、仮面ライダーの力で負担なくクリアする。

 

そう考え、出久はゲーマドライバーをセットする。

 

『マイティアクションX!』

 

「大変身!!」

 

『ガッチャーン!レベルアーップ!』

 

『マイティジャンプ!マイティキック!マイティマイティアクションX!!』

 

―仮面ライダーエグゼイド アクションゲーマーレベル2―

 

「なんだあれ!?」

 

「変身する個性か!?」

 

出久の変身にざわめく生徒たち。

並び立つ爆豪は露骨に嫌な顔をする。

 

スタートの合図とともに走り出す2人。

変身した出久は、その身体能力をいかんなく発揮し、一気に走り抜ける。

 

緑谷出久 1秒60

 

「デクに……負けただと……!?」

 

爆豪は爆破の個性を使い、4秒13の好記録を出すも、出久に及ばぬ事実に苛立ちを隠せない。

 

〜第2種目 握力測定〜

 

レベル2は敏捷性に優れるものの、単純なパワーはレベル1が勝る。

出久は敢えてレベルを下げて、握力計を握る。

 

バキッ!!

 

「あ……」

 

計測モニタには『測定不能』の文字が表示された。

 

「ゆるキャラみたいな見た目してえげつねぇー!!」

 

辺りからはそんな声が飛んだ。

 

〜第3種目 立ち幅跳び〜

 

再びレベル2へと姿を変えた出久。

 

「マイティジャンプ!!」

 

自慢の脚力で跳び上がる。

 

記録『43.1m』

 

〜第4種目 反復横跳び〜

 

レベル2の敏捷性で難なく回数を稼ぐ出久。

 

記録『114回』

 

〜第5種目 ボール投げ〜

 

「えいっ!」

 

お茶子の投げたボールは、フワっと浮かび、宙を漂う。

 

記録『∞(無限大)』

 

「無限キター!!」

 

衝撃の記録にざわめく一同。

そんな中、出久の番がやってきた。

 

ボール投げのような動作は、単純なパワーのみならず繊細な身体の動きが必要と判断した出久は、レベル2の状態で円の中に入る。

 

ここまで好記録を連発する出久へ、クラスの皆が視線を向ける。

 

「いっけぇぇぇ!!」

 

豪快なフォームから放たれた一投。

記録『378.2m』

 

思ったよりも伸びなかった記録に首を傾げる出久。

投球フォームが良くなかったのか、いっそエナジーアイテムやキメワザを使ってみるか……

そんなことを考え、出久が第2投の準備に入ったときだった。

 

「待て、緑谷」

 

出久が振り返ると、そこには凄まじい形相でこちらを見つめる相澤の姿があった。

 

「たしかに『個性』は消したんだが……つくづくあの入試は合理性に欠くよ。おまえのような奴も入学出来てしまう」

 

「……『個性』を消した?そうか、そのゴーグル!視ただけで人の個性を抹消する個性、抹消ヒーロー・イレイザーヘッド!?」

 

出久は相澤の正体に気づき、声を上げる。

 

「俺のことはどうでもいい。それよりも今はお前の『個性』の話だ……」

 

相澤は強い口調で言葉を続ける。

 

「緑谷、俺は『個性』把握テストだと言ったはずだ。サポートアイテムのお披露目会がしたいなら他所へ行け。入試を見る限りじゃお前、自分の個性を制御できないんだろ?自分の『個性』を満足に使えないような奴にヒーローは務まらん」

 

「それは……」

 

「ボール投げは2回だ。とっとと済ませな」

 

相澤はそう告げると、出久を強く見つめる。

 

玉砕覚悟の全力投球で変身解除か……

はたまた性懲りも無くサポートアイテム依存か……

どっちに転んでも見込みはない。

相澤はそう考えていた。

 

一方、出久はオールマイトの言葉を思い出していた。

 

〜三週間前 海浜公園〜

 

オールマイトが出久に語る。

 

「調整のコツ、それは感覚だ。君はもう既に100%を引き出した」

 

「一発で変身解けましたけど」

 

「そうなれば話は早い。感覚を覚えたハズだ、どうだった!?」

 

「バチっというかドカッというか、えっとーそうだ、RPGで呪いの装備を身に着けたせいでHP削られたような感覚です」

 

「ファンタジーでユニーク!」

 

オールマイトは血を吹き出しながら笑う。

 

「それが君のイメージなら『呪いを解く』、『対抗呪文を唱える』……何でも良いがHPが削られないイメージを反芻するんだ。入学まで三週間、ひたすらイメージを続けなさい。一朝一夕にはいかないかもしれんが、君なら出来る。必ずね」

 

〜再び現在〜

 

出久は考える。

呪いを克服するイメージ、個性を発動してもHPが削られないイメージ。

それが、まだはっきりと湧かない。

RPGにおいて、そういうものは地道にレベルアップしてこそ叶うもの。

それを、この一投で「出来る可能性」に懸けるのか?

オールマイトも言っていた。「一朝一夕にはいかない」と。

 

……それならただ全力で!

 

出久は勢いよく振りかぶる。

 

「見込みゼロ」

 

それを見た相澤はそうつぶやく。

 

出久は思う。

自分は、まだゲームを始めたばかり。

人より何倍も頑張らないといけない。

 

だから「最大限で最小限に」

 

だから「全力で今出来ることを」

 

ワン・フォー・オールが発動し、ボールを握る腕に力が漲る。

 

消耗上等……HPを『発動コスト』に!

 

「攻撃魔法……スマッシュ!!」

 

空を裂き、ボールはまっすぐと飛んでいく。

 

出久の胸のHPゲージが僅かに欠ける。

頭に軽く痛みが走るも、入試のときほどではない。

 

「相澤先生……僕はまだやれます!」

 

変身を維持したまま、出久はそう言い放つ。

 

「体力消費は避けられないものの、この土壇場で個性出力を調整してきたか」

 

相澤はそう呟くと感心し、『1308.7m』という記録に驚いていた。

 

〜個性把握テスト 残り3種目〜

 




【デクの現在所持ガシャット】
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第5話 ヒーロー!お衣show time!!

【前回のあらすじ】

無個性の少年、緑谷出久は雄英高校ヒーロー科に入学した。
入学初日に突如として行われた『個性把握テスト』
トータル最下位は除籍処分の難題。
まだ個性を制御できない出久は仮面ライダーの力で挑むも、担任の相澤に『個性を使えない者はヒーローになれない』と指摘される。
その言葉に一念発起した出久は、不器用ながらも個性を発動させた。



「心配になっちゃって来たけど、なんだよ少年」

 

グラウンドの片隅。

オールマイトは物陰から静かに様子を窺っていた。

 

「ゲームが得意とは聞いていたが、想像以上だ。体力の消耗自体を防ぐことはまだ出来ない。行動不能になるわけにもいかない。ならば、体力を『個性』発動の必要経費と割り切り、消費した分だけワン・フォーオールを出力させた。さながら、MPを支払って魔法を使うRPGのキャラクターのように……なんだよ少年、かっこいいじゃないか」

 

「何だあれ……」

 

出久の投球を見た爆豪は驚愕する。

これまでのようなサポートアイテム頼りの力ではない。

明らかにそれに上乗せされた『個性』の力。

しかし、個性の発現はもれなく4歳までのはず。

 

「ありえねぇ……どーいうことだ、こら。ワケを言え、デク!てめぇ!!」

 

怒り心頭、爆発乱発で出久に向かっていく爆豪。

しかし、その突進は布のようなものが身体に巻き付き、止められる。

 

「んだ。この布、固っ……」

 

「炭素繊維に特殊合金の鋼線を編み込んだ捕縛武器だ。……ったく、何度も個性使わすなよ。俺はドライアイなんだ」

 

そう言うと相澤は自らの個性と捕縛布で爆豪を止める。

 

相澤消太 個性『抹消』

視た者の個性を消す。瞬きすると解ける。

 

「さて、時間がもったいない。再開するぞ」

 

文字通り身を削りながらも個性を使えるようになった出久。

その後も危なげなく、好成績を維持したまま全種目を終えた。

 

そして、最終成績が表示される。

出久はトータルで1位を記録した。

 

「ちなみに除籍はウソな」

 

「はあああぁぁ!?」

 

相澤がさらっと告げると、再びクラスが湧く。

 

「君らの最大限を引き出す合理的虚偽」

 

相澤はこともなげにそう言い放つ。

 

「今日はこれにて終わりだ。教室にカリキュラム等の書類あるから目ぇ通しとけ」

 

そう言うと、相澤はグラウンドから去っていった。

 

「相澤くんのウソつき!」

 

一部始終を見ていたオールマイトが、相澤に話しかける。

 

「オールマイトさん、見てたんですね。暇なんですか?」

 

「合理的虚偽って、エイプリルフールは一週間前に終わってるぜ。君は去年の一年生、一クラス全員除籍処分にしている。見込みゼロと判断すれば迷わず切り捨てる。そんな男が前言撤回っ。それってさ、君も可能性を感じたからだろう!?」

 

「君も?ずいぶんと肩入れしてるんですね?先生としてどうなんですか、それは」

 

相澤の指摘に思わずたじろぐオールマイト。

 

「ゼロではなかった。それだけです。見込みがない者はいつでも切り捨てます。半端に夢を追わせることほど残酷なものはない」

 

「君なりの優しさってわけかい、相澤くん」

 

オールマイトはそう呟いた。

 

こうして出久たちの高校生活初日が終了。

下校時間を迎えた。

 

「……疲れたぁ〜」

 

個性使用の反動で疲労困憊の出久はトボトボと校門を歩く。

 

「大丈夫かい?」

 

「あ、飯田くん。すごく疲れたけど、ケガとかはないからね。大丈夫だよ」

 

「そうか、ならよかった。しかし、相澤先生にはやられたよ。俺は『これが最高峰』とか思ってしまった。教師がウソで鼓舞するとは!」

 

「あながち全部ウソってわけでもなかった気はするけどね。僕なんか、あのまま個性使わなかったらどうなってたか……」

 

「お〜い!お二人さ〜ん!!」

 

そこに駆け寄るのはお茶子。

 

「君は∞女子」

 

「麗日お茶子です!えっと、飯田天哉くんに緑谷……デクくんだよね?」

 

「デク!?」

 

「え?だって、テストの時爆豪って人が「デクてめェー」って……」

 

「あぁ……あの、本名は出久で、デクはかっちゃんがバカにして……」

 

「蔑称か!」

 

「えー、そうなんだ、ごめん」

 

憤る飯田に謝るお茶子。

 

「でも『デク』って『頑張れ』って感じで、なんか好きだ私。響きが」

 

「デクです」

 

「緑谷くん!?」

 

顔を真っ赤にしながら即答する出久。

思わずツッコむ飯田。

 

こうして、出久は帰路についたのだった。

 

〜出久 自宅〜

 

「わ〜た〜し〜がぁ〜きたー!!」

 

「だから、いきなり来るのやめてくださいよ!!」

 

部屋で休んでいた出久のもとに、突然ワープしてきたポッピー。

出久のツッコみも意に介さず、勝手に部屋でくつろぎ始める。

 

「まぁまぁ、それより出久。入学おめでとー!聞いたよ、初日から大活躍だったって。個性発現したばっかりなのにスゴイね!!」

 

ポッピーはお世辞ぬきに喜びながら話しかける。

 

「ありがとうございます。ゲーマドライバーがあったおかげですよ……」

 

ワン・フォー・オールのことはポッピーにも伝えていない。

この年齢での個性発現は極めて稀な事例だと驚きつつも受け入れてくれたポッピー。

オールマイトとの約束とはいえ、自分を支えてくれるポッピーへウソをついていることに出久は少し複雑な気持ちを抱えていた。

 

「あ、そうそう。今日はこれを持って来たんだ〜!」

 

そう言うと、ポッピーは大きな箱を取り出した。

 

「出久、雄英高校入学おめでとー!!」

 

「えぇ!?ありがとうございます!」

 

突然のプレゼントに驚く出久。

ポッピーに急かされ、箱を開ける。

 

「これは……!?」

 

その中身は、聴診器の形をしたアイテムだった。

 

〜翌日〜

 

午前は必修科目・英語等の普通の授業。

昼は大食堂で一流の料理を安価で食べられる。

初日に比べれば、比較的普通の学校生活。

 

そして、午後の授業「ヒーロー基礎学」の時間!

 

「わーたーしーがー普通にドアから来た」

 

オールマイトが教室に入ってくる。

 

「ヒーロー基礎学、ヒーローの素地をつくる為、様々な訓練を行う科目だ。早速だが今日はコレ、戦闘訓練!そして、そいつに伴ってこちら」

 

オールマイトは人数分の衣装ケースを示す。

 

「入学前に送ってもらった個性届と要望に沿ってあつらえたコスチューム。着替えたら順次グラウンド・βに集まるんだ。格好から入るのっても大切な事だぜ、少年少女!自覚するのだ、今日から自分はヒーローなんだと!」

 

被服控除……それは、入学前に「個性届」と「身体情報」を提出すると、学校専属のサポート会社がコスチュームを用意してくれる素敵なシステム。

「要望」を添付することで便利な最新鋭のコスチュームが手に入る。

 

「始めようか、有精卵共。戦闘訓練のお時間だ!!」

 

オールマイトがそう宣言すると、雄英生たちはみなコスチュームを身につけてやってきた。

 

「いいじゃないか、みんな。カッコイイぜ!!」

 

オールマイトの言葉に、皆どこか誇らしげになる。

 

「あ、デクくん。カッコイイね!お医者さんみたい!!」

 

お茶子の言う通り、出久は医者の白衣をベースにしたスタイリッシュな出で立ちをしている。

首には昨日ポッピーに貰ったばかりの聴診器型デバイスがぶら下がっている。

 

「ありがとう。麗日さ……うおお!!」

 

「要望、ちゃんと書けばよかったよ。パツパツスーツんなった。はずかしい……」

 

そう言って照れるお茶子を出久は直視できなかった。

 

「先生、ここは入試の演習場ですが、また市街地演習を行うのでしょうか!?」

 

まるでロボットのようなメタルスーツを着込んだ飯田が質問する。

 

「いいや、もう二歩先に踏み込む」

 

オールマイトは力強く答える。

 

「屋内での対人戦闘訓練さ。ヴィラン退治は主に屋外で見られるが、統計で言えば屋内のほうが凶悪ヴィラン出現率は高いんだ。監禁・軟禁・裏商売、このヒーロー飽和社会、真に賢しいヴィランは屋内にひそむ……君らにはこれから『ヴィラン組』と『ヒーロー組』に分かれて2対2の屋内戦を行ってもらう」

 

オールマイトは、そう説明する。

 

「基礎訓練もなしに?」

 

蛙吹が訊ねると、オールマイトはすかさず答える。

 

「その基礎を知る為の実践さ。ただし、今度はブッ壊せばオッケーなロボじゃないのがミソだ」

 

そう言うと、オールマイトはモニターに映った図を示して説明する。

 

「いいかい!?状況設定は、ヴィランがアジトに核兵器を隠していて、ヒーローはそれを処理しようとしている。ヒーローは制限時間内にヴィランを捕まえるか、核兵器を回収すること。ヴィランは制限時間まで核兵器を守るか、ヒーローを捕まえること。そして、コンビ及び対戦相手はくじ引きで決定だ」

 

「適当なのですか!?」

 

「プロは他事務所のヒーローと急遽チームアップする事が多いし、そういう事じゃないかな」

 

ツッコむ飯田に出久が補足する。

 

「そうか、先を見据えた計らい、失礼致しました」

 

出久の説明に納得する飯田。

 

そして、始まる1組目。

Aコンビ『緑谷・麗日』ペアがヒーロー役、Dコンビ『爆豪・飯田』ペアがヴィラン役となる。

 

「ヴィランチームは先に入ってセッティングを。5分後にヒーローチームが潜入でスタートする。他の皆はモニターで観察するぞ」

 

オールマイトがそう告げていく。

 

「飯田少年、爆豪少年はヴィランの思考をよく学ぶように。これはほぼ実戦、ケガを恐れず思いっきりな。ただし、度が過ぎたら中断するけど」

 

オールマイトの言葉を受け、爆豪と飯田は屋内に向かう。

 

「訓練とはいえヴィランになるのは心苦しいな……これが核兵器。これを守ればいいのか」

 

ポジションに着いた飯田がつぶやく。

 

「おい、デクは個性があるんだな?」

 

飯田に問いかける爆豪。

「?……あの超パワーを見たろう?サポートアイテムだけでも大したもののようだが……しかし、君は緑谷くんにやけにつっかかるな」

 

「この俺をだましてたのか!?クソナードが」

 

飯田に返答せず、爆豪はひとりブチギレる。

 

「相澤先生と違って罰とかないみたいだし安心したよ」

 

そう語るお茶子だったが、出久の様子を見ると、

 

「……安心してないね」

 

思わず息が漏れる。

 

「いや、その、相手がかっちゃんだから、飯田くんもいるし。ちょっと身構えちゃって」

 

出久は視線を遠くに移す。

 

「凄いんだよ、嫌な奴だけど。目標も自信も体力も個性も僕なんかより何倍も凄いんだ……でも、だから今は負けたくないなって」

 

そう語ると、出久は拳を強く握った。

 

「麗日さん、僕に考えがある。聞いてくれる?」

 

一方、その頃。

同ビル地下モニタールームでオールマイトと生徒たちによる訓練観戦が始まっていた。

 

ガヤガヤと予想を立てる生徒たちの傍ら、オールマイトは静かに見守っていた。

 

出久とお茶子はビルに潜入。

屋内、狭い通路を警戒しながら慎重に進んでいく。

 

「死ねぇ!!」

 

ある曲がり角、死角からいきなり現れる爆豪。

溜めていたのであろう爆破の威力で一気に加速しながら奇襲を仕掛けてくる。

 

「敵襲!」

 

しかし、出久はまるでそれを予期していたかのごとく、冷静に回避。

お茶子に指示を出しながら、爆豪と距離を取る。

 

「デクこら、避けてんじゃねえよ!」

 

「やっぱりね。かっちゃんが敵ならまず僕を殴りに来ると思った」

 

「爆豪ズッケぇ。奇襲なんて男らしくねえ」

 

「奇襲も戦略。彼らは今実戦の最中なんだぜ」

 

感想をもらしながら観戦する生徒へ、オールマイトがそう告げる。

 

再び勢いよく殴りかかる爆豪。

しかし出久は、またもその動きを読み、殴りかかってきた爆豪の右腕を掴んで投げ飛ばす。

 

「スゴイ……達人みたい……」

 

出久の立ち回りに、素直に関心するお茶子。

 

「かっちゃんは大抵最初に右の大振りなんだ……どれだけ見てきたと思ってる。凄いと思ったヒーローの分析は全部ノートにまとめてるんだ、君が爆破して捨てたノートに!」

 

投げ飛ばされて倒れ込む爆豪に、出久は語りかける。

 

「いつまでも雑魚で出来損ないのデクじゃないぞ、かっちゃん。僕は……『頑張れ』って感じの『デク』で……」

 

拳を握り直した出久はファイティングポーズをとり、力強い視線を爆豪に向ける。

 

「……『仮面ライダーエグゼイド』だ!!」

 

そう高らかに言い放った。

 




【デクの現在所持ガシャット】
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第6話 猛れ!クソNerd!!

【前回のあらすじ】

生徒たちによる実戦訓練が始まった。

緑谷・麗日ペア vs 爆豪・飯田ペア

いきなり奇襲を仕掛けてきた爆豪だったが、出久はそれを予測し、対処。
今、幼なじみたちによる宿命の闘いが始まろうとしていた。


『家が近所だったってことで、僕とかっちゃんは幼馴染だ。何でも「やれば出来てしまう」タイプでガキ大将の乱暴者』

 

『善し悪しはともかく自信に満ちたかっちゃんの背中は僕にとってかっこいいものだった』

 

『けれど、個性が発現してからはそれらが悪い方向へ加速した。人は生まれながらにして平等じゃない。これは齢4歳にして皆が知る社会の現実』

 

 

「ムッカツクなああ!!!」

 

投げ飛ばされた爆豪は腹の底から不快感を露わに叫ぶ。

 

『オイ爆豪くん、状況を教えたまえ、どうなってる!?』

 

「黙って守備してろ。ムカついてんだよ、俺ぁ今ぁ!」

 

飯田にそう伝え、通信を切る爆豪。

 

「アイツ何話してんだ?定点カメラで音声ないとわかんねえな」

 

観戦している生徒のひとりがそう呟く。

 

「小型無線でコンビと話してるのさ。持ち物は、無線機と建物の見取り図。そして、この確保テープ。コレを相手に巻き付けた時点で捕えた証明となる」

 

オールマイトは周りの生徒たちへ説明していく。

 

一方、戦闘中の出久たち。

再び爆豪が爆破の威力で加速しながら突っ込んでくる。

 

「麗日さん行って!」

 

出久が叫び、お茶子は戦線を離脱する。

 

「ノートNo.1018P、生で見れてよかった……」

 

出久の白衣から白く長い布が伸び、突進する爆豪の脚に絡みつく。

 

「くっそがぁ!またこれか!!」

 

出久の装備のひとつ『捕縛包帯』

イレイザーヘッドの捕縛布を参考に、緊急時は通常の包帯としても使用できる強化包帯。

ヒーローとして闘える医師を目指す出久の考えたアイテムだ。

 

纏わりつく包帯を爆破で強引に払い、突撃する爆豪。

 

「焦ってまた右の大振りだよ、かっちゃん!!」

 

その爆豪の動きを予測していた出久は難なく回避する。

 

「すげえなあいつ。個性も使わず、変身もせず、渡り合ってるぞ、入試一位と」

 

観戦する生徒からも出久へ賞賛の声が上がる。

 

オールマイトも出久の動きに素直に関心していた。

たしかにヘドロの一件からしても、元々とっさの判断には優れていた。

さらに、サインをしたノート。

何年にも渡って書き溜め、頭に染み込ませたであろうヒーロー知識。

それが今、報われているのだろう。

 

爆豪の体制が崩れたのを確認すると、出久は一旦その場を離れようと逃走する。

 

「おい、待てコラ、デク!」

 

そんな出久に爆豪が叫ぶ。

 

「なァオイ、俺を騙してたんだろォ!?楽しかったか?あ!?ずいぶんと派手な個性じゃねぇか!?使ってこいや!変身もしてみろや!俺の方が上だからよぉ!!」

 

そうブチギレながら追いかける。

 

一方、出久は走りながらブツブツと呟き、考える。

 

「麗日さんはガン無視で僕を狙い撃ち。やっぱりだ。尖兵出すなら機動力の高い飯田くんの方が良いし、飯田くんならそれはわかっているハズ。だから、これはかっちゃんの暴走で二人は連携がとれてないってことだ」

 

出久は事前に考えていた策と、現状を照らし合わせる。

 

「うん、これでいい。後は麗日さんが核と飯田くんを捕捉次第、僕もそっちに向かって2対1。これがベストな勝ち筋」

 

その頃、爆豪はブチギレながら昔のことを思い出していた。

 

 

『周りの連中を見ていると思う。何で知らねーの?何で出来ねーの?』

 

『あ、そっか、俺がすげーんだ。皆、俺よりすごくない。それだけだ』

 

『そして、無個性のデクがいっちゃんすごくない』

 

そんなとき、爆豪は橋の上で足を滑らせ、川へと落ちてしまう。

幸いにも川は浅く、なんともなく立ち上がる。

 

そこに『あいつ』が手を差し伸べてきた。

 

『本当に大丈夫だったんだ。何ともなかったんだ』

 

『頭打ってたら大変だよ』

 

それでも『あいつ』は手を差し伸べる。

 

『やめろ……俺をそんな顔で見てんじゃねえ!!』

 

 

「……俺の方が上だ」

 

爆豪はそう呟き、出久を追う。

 

その頃、お茶子は核を守る飯田を発見する。

飯田に気づかれないよう、静かに観察するお茶子。

 

すると、飯田は何かを語り始めた。

 

「爆豪くんはナチュラルに悪いが今回の訓練に関しては的を射ているわけだ。ふむ、ならば僕もヴィランに徹すべきなのだ、そうだ。これも飯田家の名に恥じぬ立派な人間となる為の試験、なりきれ……ヒーローになる為、悪に染まれ……」

 

そう言うと、飯田は姿勢を敢えて崩し、声色も変え、懇親の台詞を絞り出す。

 

「俺はぁ、至極悪いぞぉお!!」

 

「真面目や」ブッ

 

それを見たお茶子は思わず吹き出してしまう。

 

そのせいでお茶子を発見した飯田。

 

「来たか、麗日くん。君が一人で来ることは爆豪くんが飛びだした時点で判っていた」

 

飯田はそう言うと、両手を広げ、高らかに叫ぶ。

 

「触れた対象を浮かしてしまう個性。厄介だ。だから先程、君対策でこのフロアの物は全て片付けておいたぞ!これで君は小細工出来ない。ぬかったなヒーロー、フハハハハハ!!」

 

一方、その頃。

出久と爆豪の戦闘が再開していた。

 

出久に右の大振りを2度も回避された爆豪は、出久の動きを警戒し、蹴り主体の戦闘に切り替えていた。

見慣れぬスタイルに、出久は辛うじて対応し、ギリギリで回避していく。

 

『デクくん!飯田くんに見つかっちゃった、ごめん!!』

 

そこにお茶子から通信が入り、出久は思考を切り替える。

 

「場所は!?」

 

『5階の真ん中フロア』

 

「……ほぼ真上か」

 

「余所見とは余裕だなぁ、デク!!」

 

一瞬、視線を上にズラした隙をつき、爆豪が突っ込んでいく。

 

「しまった、避けられない……反撃っ、タイミング、ここ!」

 

爆豪のパンチにタイミングを合わせ、カウンターを叩き込もうとする出久。

それを見た爆豪は爆破を利用し、空中機動で出久の背後に回り込む。

 

「目眩しを兼ねた爆破で軌道変更。そして、即座にもう一回……考えるタイプには見えねえが意外と繊細だな」

 

観戦していた生徒のひとりがそう呟く。

 

「慣性を殺しつつ有効打を加えるには左右の爆発力を微調整しなきゃなりませんしね」

 

女子生徒がそれに続き、爆豪の動きを説明する。

 

「ホラ行くぞ、てめェの大好きな右の大振り!!」

 

爆豪は回り込んだ背後から出久を思い切り殴りつける。

 

「くっ……」

 

モロに一撃を浴びた出久。

倒れ込みそうになりながら、なんとか着地し、体制整える。

 

「麗日さん、個性使えそう?」

 

『いや、デクくんの言ってた通り。キレイに片付けられてる!』

 

「よし、じゃあプランBだ。任せたよ!」

 

「……無視かよ。何で個性使わねぇんだ、俺を舐めてんのか!?。ガキの頃からずっと、そうやって……俺を舐めてたんか、てめェはぁ!!」

 

ブチギレる爆豪に、出久は答える。

 

「君が凄い人だから、勝ちたいんじゃないか……勝って超えたいんじゃないか、バカヤロー!!」

 

「そのツラやめろや、クソナード!!」

 

叫ぶ出久。ブチギレる爆豪。

 

「てめぇもご存知。俺の爆破は掌の汗腺からニトロみてぇなもん出して爆発させてる……」

 

爆豪はそう言うと、出久に手を向ける。

 

「要望通りの設計なら、この『籠手』はそいつを内部に溜めて……」

 

「マジか、かっちゃん!?」

 

説明の途中だが、状況を理解した出久は身構える。

 

『爆豪少年ストップだ。殺す気か!』

 

オールマイトも思わず止める。

 

「当たんなきゃ死なねぇよ」

 

爆豪はそう言うと、溜め込んだもの全てを一気に放出し、爆発を引き起こす。

 

爆豪勝己 個性『爆破』

掌の汗腺からニトロのような汗を出し爆発させる。

溜まれば溜まる程その威力は増していく。

 

籠手いっぱいに溜め込まれた火力は凄まじく、出久を吹き飛ばさんと迫りくる。

 

『マイティアクションX!』

 

「大変身!!」

 

『ガッチャーン!レベルアーップ!』

 

『マイティジャンプ!マイティキック!マイティマイティアクションX!!』

 

―仮面ライダーエグゼイド アクションゲーマーレベル2―

 

「……噴出する爆発。スゴイね、かっちゃん。それなら遠距離にも対応出来る」  

 

出久はゲーマドライバーからガシャットを抜き、ふっ!と息を吹きかけ、ベルトの左腰部分に装着されたホルダーへ挿し直す。

 

『キメワザ!』

 

鳴り響く音声とともに、出久の脚にエネルギーが満ちていく。

それはゲーマドライバー本来の効果のみならず……

 

『マイティクリティカル……「スマッシュ」!!』

 

個性『ワン・フォー・オール』も上乗せされた一撃。

迫りくる爆炎を、その廻し蹴り一発で完全に消し飛ばし、さらにその余波で爆豪をも吹き飛ばす。

 

「……なっ!?」

 

自慢の一撃を蹴り一発で対処されたことに驚く爆豪だったが、すぐに取り直し、出久へ語りかける。

 

「やっと変身しやがったか……その姿のてめぇをぶっ潰す!」

 

「望むところだ!……って言いたいところだけど、今回はいろいろとタイムアップみたい……」

 

出久の胸のHPゲージが一気に無くなり、変身も解けて倒れ込む。

 

『ヒーローチーム WIN!』

 

オールマイトがヒーローチームの勝利を告げたのは、出久が倒れたのとほぼ同時のことだった。

 

「な……!?」

 

状況を飲み込めない爆豪のもとに、飯田から通信が入る。

 

『すまない。完璧にしてやられた……』

 

「あぁ!?てめぇ、なにあの丸顔オンナひとりにやられてんだ、このクソが!!」

 

「本当にすまない。まさか、急に『障害物』が現れるとは……」

 

「あぁん?障害物……?」

 

「……マイティアクションX」

 

倒れ込む出久がか弱い声を発したのに気づき、爆豪はそちらを見る。

 

「ガシャットを起動すると、周囲にゲームエリアが展開される。今回は、麗日さんたちのいる上のフロアもゲームエリアにした……」

 

「そういう……ハナっからてめェ……」

 

状況を察した爆豪。

出久の狙いは始めから自分との戦闘ではなかった。

 

変身時に展開されるゲームエリア。

そこには無数のブロックがバラ撒かれる。

 

そう、飯田が片付け、キレイになったはずのフロアに、お茶子が有効活用できる障害物が発生するのだ。

それを利用し、お茶子単独で核を奪取する。

 

これが『プランB』、出久の奥の手だった。

 

「やっぱ舐めてんじゃねえか」

 

爆豪がそう呟く。

 

「個性は使わないつもりだったんだ。まだ使えないから、体が衝撃に耐えられないから。でも、これしか思いつかなかった」

 

出久は息も絶え絶えに答えた。

 

「負けた方がほぼ無傷で勝った方が倒れてら」

 

「勝負に負けて試合に勝ったというところか」

 

消耗し、倒れ込む出久の姿を見て、生徒たちはそう口にした。

 

「デクは全部読んでた。読んだ上で訓練に勝つ算段を……そりゃつまり、ガチでやり合っても、俺完全にデクに……」

 

「戻るぞ爆豪少年、講評の時間だ」

 

考え込む爆豪の肩を、オールマイトは優しく叩き、声をかける。

 

「勝ったにせよ負けたにせよ、振り返ってこそ経験ってのは活きるんだ」

 

オールマイトは爆豪にそう告げた。

 

〜モニタールーム〜

 

「さぁ、今戦のベストは誰かな?わかる人!?」

 

オールマイトがそう聞くと、推薦入学者の女子『八百万百』が手を挙げる。

 

「それは緑谷さんですね。一番、状況判断と予測が適切でしたから」

 

そうハッキリと告げる。

 

「次点で飯田さん。結果的には敗北したとはいえ、状況に対応していたという意味では緑谷さんに勝るとも劣らないものでした」

 

八百万の言葉はまだ止まらない。

 

「爆豪さんの行動は戦闘を見た限り私怨丸出しの独断。論外です。麗日さんは中盤の気の緩み。そして、最後の攻撃が乱暴すぎたこと。ハリボテを核として扱っていたらあんな危険な行為出来ませんわ。相手への対策をこなし且つ核の争奪をきちんと想定していたからこそ、飯田さんは最後対応に遅れた。ヒーローチームの勝ちは訓練だという甘えから生じた反則のようなものですわ」

 

めちゃめちゃ詳細に解説され、たじろぐオールマイト。

 

「ま、まあ、正解だよ、くう」

 

「常に下学上達。一意専心に励まねばトップヒーローになどなれませんので」

 

八百万はそう言い放った。

 

〜授業終了後 保健室〜

 

「入学間もないってのに。何で止めてやらなかった、オールマイト。大きなケガはないとはいえ、疲労だって溜まったらバカにならないんだよ。全く、力を渡した愛弟子だからって甘やかすんじゃないよ!」

 

「……返す言葉もありません」

 

リカバリーガールの言葉に頭を下げるしかないオールマイト。

 

「彼の気持ちを汲んでやりたいと躊躇しました。して、その、あまり大きな声でワン・フォ・オールのことを話すのはどうか……この姿と怪我の件は雄英の教師側には周知の事実ですが、個性の件はあなたと校長、そして親しき友人、あとはこの緑谷少年のみの秘密なのです」

 

「トップであぐらかいていたいってわけじゃないだろうがさ……そんなに大事かね、ナチュラルボーンヒーロー、平和の象徴」

 

「いなくなれば超人社会は悪に勾引かされます。これは力を持った者の責任なのです」

 

「……それなら尚更、導く立場ってのをちゃんと学びんさい」

 

リカバリーガールはそうささやいた。

 

〜放課後〜

 

目覚めた出久が教室に入ると、心配する者、賞賛する者、激励する者……訓練の興奮冷めやらぬクラスメイトたちに厚く出迎えられる。

 

「……かっちゃんは?」

 

「あぁ、止めたんだけど、先に帰っちまった」

 

出久はそれを聞くと、爆豪の元に急いだ。

 

「かっちゃん!!」

 

校門前、爆豪を呼び止める出久。

 

「なんだよ、デク。勝者が自慢でもしにきたか?」

 

「……これだけは君には言わなきゃいけないと思って」

 

出久は爆豪に視線を向ける。

 

「僕の個性は……人から授かった個性なんだ。誰からかは絶対言えない。でも、ゲームみたいな話だけど本当で。おまけにまだろくに扱えもしなくて全然モノに出来てない状態の借り物で……」

 

出久の言葉に何と返答してよいかわからない爆豪。

出久は言葉を続ける。

 

「だから、使わず君に勝とうとした。けど、結局勝てなくてソレに頼った。僕はまだまだで、だから……いつかちゃんと自分のモノにして僕の力で君を超えるよ!」

 

出久はそう宣言する。

 

「何だそりゃ?借りモノ?わけわかんねえ事言って、これ以上コケにしてどうするつもりだ、なあ!?だからなんだ!?今日、俺はてめェに負けた。そんだけだろが、そんだけ」

 

爆豪は授業を振り返り、声を絞り出す。

 

 

「他の奴の個性見てっ、敵わねえんじゃって思っちまった。クソ、ポニーテールの奴の言うことに納得しちまった。クソが、クッソ!なあ、てめェもだ、デク。こっからだ俺は、こっから、いいか!?俺はここで、一番になってやる。俺に勝つなんて二度とねえからな、クソが!!」

 

爆豪はそう言い放ち、その場をあとにした。

 

そこに颯爽とオールマイトが現れ、爆豪の手をとる。

 

「少年。言っとくけど自尊心ってのは大事なもんだ。君は間違いなくプロになれる能力を持っている。君はまだまだこれから……」

 

そう励まそうとするオールマイト。

 

「放してくれよオールマイト、歩けねえ。言われなくても俺はあんたをも超えるヒーローになる」

 

「あれ!?立ち直ってた。教師って難しい……」

 

オールマイトはただ去りゆく爆豪の背を見ていた。

 

『かっちゃんの導火線に火がついた。やる事は変わらない。僕は背中を追うだけ』

 

ガシャットを見つめ、出久もまた歩き出した。

 

『そしてこの数日後、僕らは知ることになる……オールマイトの言っていた真に賢しいヴィランの恐怖を』

 

〜とある酒場〜

 

「見ろよ。オールマイトが先生だってさ」

 

怪しげな風貌の者たちが、オールマイトの記事が載った新聞を眺めていた。

 

「なァ、どうなると思う?平和の象徴が……敵に殺されたら」




【デクの現在所持ガシャット】
 ・マイティアクションX


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第7話 社長・投票・happening

【前回のあらすじ】

実践訓練で激突した出久と爆豪。
爆豪の猛攻を仮面ライダーと個性の力でなんとかしのぐも力尽き倒れ込む出久。

しかし、すべては出久の読み通り。
作戦が見事決まり、訓練は出久たちヒーローチームの勝利となった。

出久に敗北した事実に落ち込む爆豪であったが、その悔しさを乗り越え、先に進む決意を新たにしたのだった。

一方、その頃。
闇に蠢く敵たちの魔の手が、雄英高校に迫ろうとしていた……



『オールマイトの授業はどんな感じです?』

 

校門前、出久を始めとする生徒たちはオールマイトについて、マスコミからインタビューを受けていた。

 

オールマイトが雄英の教師に就任したというニュースは全国を驚かせ、連日マスコミが押し寄せる騒ぎになっていた。

 

「ちょっと、もう少し話を聞かせて!」

 

マスコミの女性が校門に近づくと……

 

ブーブー

 

警報が鳴り響き、突如シャッターが閉まる。

 

「どぅわぁ!危ない!?何よこれ!?」

 

シャッターに挟まれそうになった女性が声を上げる。

 

「雄英バリアーだよ、俺らはそう呼んでる。学生証とかさ、通行許可IDを身につけてない者が門をくぐるとセキュリティが働くんだ。校内のいたるところにセンサーがあるらしいぜ」

 

女性のそばにいたマスコミの男性が説明した。

 

〜ホームルーム〜

 

「昨日の戦闘訓練お疲れ、Vと成績見させてもらった」

 

相澤が生徒たちに話しかける。

 

「爆豪、おまえもうガキみてえなマネするな、能力あるんだから」

 

「……うっす」

 

「で、緑谷はまた体力使い果たして一件落着か。個性の制御、いつまでもアイテム頼りの『結果オーライ』じゃ通させねえぞ。俺は同じ事いうのが嫌いだ」

 

「……はい」

 

ふたりが反省したのを確認し、相澤は話を続ける。

 

「さて、ホームルームの本題だ。急で悪いが、今日は君らに学級委員長を決めてもらう」

 

「学校っぽいのきたー!!」

 

沸き立つクラス一同。

 

唐突な話にも関わらず、ほぼ全員が委員長になりたいと手を上げた。

普通の学校なら他の誰かに押し付ける役割だが、ヒーロー科では集団を纏めるトップヒーローの基礎を鍛えられる重要な役職となる。

 

「委員長!!やりたいです、それ俺!」

 

「オイラのマニフェストはスカート膝上30cm!!」

 

「僕のためにあるヤツ☆」

 

「リーダー!やるやる!!」

 

皆、我こそはと、こぞって手を挙げる。

 

「静粛にしたまえ!!」

 

そんな教室に飯田の声が響く。

 

「多を牽引する責任重大な仕事だぞ。『やりたい者』がやれるモノではないだろう!周囲からの信頼あってこそ務まる聖務。民主主義に則り真のリーダーを皆で決めるというのなら、これは投票で決めるべき議案!!」

 

飯田は皆に熱く問いかける。

 

だがしかし……

 

「なら、その手はなんだ?」

 

「お前がそびえ立ってんじゃねーか!!」

 

「説得力ねぇぞ!!」

 

まっすぐと伸びた飯田の腕が、誰よりも学級委員長を志願していることを表していた。

 

「日も浅いのに信頼もクソもないわ、飯田ちゃん」

 

「だからこそ、ここで複数票を獲った者こそが真にふさわしい人間という事にならないか!?どうでしょうか、先生」

 

「時間内に決めりゃ何でも良いよ」

 

飯田の問いに面倒臭そうに返す相澤。

 

そして、投票の結果……

 

「僕に3票!?」

 

驚く出久。 

 

「俺に1票!?一体誰が入れたんだ!?」

 

「……他に入れたのね」

 

「お前もやりたがってたのに、何がしたいんだ」

 

まさかの他者に投票した飯田に皆が呆れた。

 

こうして、委員長は出久、副委員長は八百万に決まった。

 

〜昼休み〜

 

お茶子と飯田に誘われ、食堂へ行こうとした出久。

そこにポッピーから通信が入った。

 

いつものような唐突なワープではなく、テキストメッセージであったことにホッと胸を撫で下ろし、内容を確認する。

 

「デクくん、どうしたん?」

 

「麗日さん、ごめん。知り合いから呼び出しがかかったから、ちょっと話をしてくる。先に行ってて」

 

そう告げると、出久はサポート科の工房へと向かった。

 

〜サポート科 工房〜

 

普段はサポート科の生徒たちが創意工夫に取り組む場であるが、昼休みということもあり人影は疎ら。

出久はポッピーに指定された個室に入った。

 

「出久、突然ごめんね!」

 

「ポッピーさん、どうしたんですか急に……」

 

「私が呼んだんだよ」

 

そう言うと、個室の奥からひとりの青年が現れた。

 

「はじめまして、緑谷出久くん」

 

「あ、あなたは……!?」

 

姿を現した青年のことを出久はよく知っている。

 

「幻夢の、檀黎斗社長!?」

 

出久は驚きの声を上げながら、黎斗に駆け寄る。

 

「あ、あの、いつも御社のゲームをプレイさせていただいております!どれも、とても、最っ高ぅに素晴らしいです!!」

 

「天才ゲーマーに褒めてもらえるとは、ひとりのクリエイターとして光栄だな。こちらこそ、いつもプレイしてくれてありがとう!」

 

黎斗の爽やかな笑顔に心奪われる出久。

しかし、ふと我にかえる。

 

「……ところで、檀社長がなんでここに?」

 

「私はここのサポート科のOBでね。校長に頼んで、通してもらったんだ。いやぁ懐かしいなぁ……」

 

そう言いながら辺りを見渡す黎斗。

 

「……と、そういう意味ではないね。すまない、本題に入ろう。ポッピーピポパポ、例の物を」

 

指示を受けたポッピーは出久にゴーグルを手渡す。

 

「率直に言おう。緑谷出久くん、君の『仮面ライダーエグゼイド』としての戦闘データを採らせてほしい」

 

「僕のデータを?」

 

状況が飲み込めない出久に黎斗は話を続ける。

 

「ゲーマドライバーは、幻夢コーポレーションと衛生省が共同で開発したサポートアイテムなんだ。だが、適合者がなかなか現れず、実運用データが不足しているのが現状……」

 

説明の途中に割り込むように、ポッピーが飛び出してくる。

 

「そこで使うのが、そのゴーグル。仮面ライダー戦闘シミュレーションゲーム『ヴァーチャルオペレーション』だよ!」

 

そう言うと、ポッピーは出久へゴーグルを装着する。

 

「それじゃあ早速、ゲームスタート!!」

 

「え!?ちょっと待っ……」

 

 

―GAME START―

 

 

気がつくと、出久は一瞬にして別の場所に移動し、ひとり立っていた。

よくよく見るとそこは、初めて仮面ライダーに変身したイベント会場であった。

 

「これがシミュレーション……?スゴイ……こんなリアルなの、初めてだ!」

 

目に映る光景。

身体を動かす感覚。

いずれも普段の生活となんら遜色ないレベルの再現度に驚く出久。

突然のことで驚きこそしたものの、ゲーマーの血が騒ぎ出す。

 

『緑谷くん、今からその仮想ゲームエリアに敵キャラを出す。ポッピーピポパポの指示に従って闘ってくれ』

 

「分かりました!」

 

黎斗の通信に出久が答えると、目の前に緑色の流動体が現れた。

かつての敵―ヘドロヴィラン―を模したその敵キャラは、再現度の高い瞳でギョロリと出久を見つめている。

 

『出久ぅ〜、じゃあまずはガシャットのスイッチを押して!』

 

出久は手にしたガシャットのスイッチを押す。

 

『マイティアクションX!』

 

『次に、ゲーマドライバーを腰に巻く!』

 

出久がゲーマドライバーを腰に翳すと、ベルトが伸び、自然と巻かれていく。

 

『そして、ガシャットを刺して、変身!!』

 

「変身!」

 

『ガッシャット!』

 

出久はマイティアクションXのガシャットをゲーマドライバーに差し込む。

 

『レッツゲーム!メッチャゲーム!ムッチャゲーム!ワッチャネーム!?』

 

出久の周囲を囲むように、キャラクター選択パネルが表示される。

出久は自分の正面のパネルにまっすぐと手を伸ばした。

 

『アイム ア カメンライダー!』

 

―仮面ライダーエグゼイド アクションゲーマーレベル1― 

 

ハンマー状の武器『ガシャコンブレイカー』を取り出した出久は、それをヘドロヴィランの頭に叩きつける。

 

『よし!じゃあ、ゲーマドライバーのレバーを開放して、レベルアップ行ってみよ〜!!』

 

ガシャコンブレイカーを放り投げ、出久はゲーマドライバーの正面にあるレバーを開放する。

 

「大変身!!」

 

『ガッチャーン!レベルアーップ!』

 

出久が跳び上がると、それに合わせて音声が続く。

 

『マイティジャンプ!マイティキック!マイティマイティアクションX!!』

 

―仮面ライダーエグゼイド アクションゲーマーレベル2―

 

『それじゃあ、キメワザでFINISHだよ!ガシャットを抜いて、ホルダーへ装填!』

 

出久はゲーマドライバーからガシャットを抜き、ベルトの左腰部分に装着されたホルダーへ挿し直す。

 

『ボタンを押して!』

 

出久はホルダーのボタンを押す。

 

『緑谷くん、君の個性の反動も把握したい。仮想空間だから人体への影響もない。遠慮なく全力を出してくれ!』

 

『というわけで、もう1回押して!』

 

黎斗とポッピーの言葉を受け、出久はワン・フォー・オールを発動しつつ、ホルダーのボタンを押す。

 

『キメワザ!』

 

鳴り響く音声とともに、出久の脚にエネルギーが満ちていく。

そして、その脚のエネルギーを威力に変えて、ヘドロヴィランへと跳び蹴りを放つ。

 

『マイティクリティカル「スマッシュ」!!』

 

ヘドロヴィランの身体に必殺のキックが突き刺さる。

 

『PERFECT』

 

初めて闘ったときには無かった『個性』ワン・フォー・オールの力が上乗せされた必殺の一撃。

ヘドロヴィランの身体は文字通り、跡形もなく爆散した。

 

 

―GAME CLEAR!―

 

 

「お疲れ様〜!」

 

ポッピーの声とともにゴーグルを外され、出久の視界に広がるのは元の工房の光景。

出久は手をグーパーグーパーと動かし、現実に戻ってきたことを実感する。

 

「緑谷くん、お疲れ様。実に素晴らしい。ゲーマドライバーをここまで使いこなせるとは流石、天才ゲーマーだな!」

 

黎斗は記録したデータをパソコンで確認し、カタカタとキーボードを叩きながら出久へ語りかける。

 

「……よし、できた!」

 

そして、黎斗はパソコンに繋げられた機械から、ガシャットを取り外す。

 

「緑谷くん。これは君の個性反動を考慮した新しいガシャットだ」

 

そう言うと、黎斗はメタリックレッドの輝くガシャットを出久に手渡す。

 

―ゲキトツロボッツ―

 

それが新しいガシャットの名前。

ガシャットのラベルにはゲーム内の主人公機である赤いロボットが、端子部にはロボットやネジや配線といった機械を連想させる絵柄が描かれている。

 

「ゲキトツロボッツは、ロボット同士が殴り合うSF・ガチンコ・ロボットアクションバトルゲーム!エグゼイドにも超絶ロボットパワーがやってくるよー!!」

 

ポッピーが派手な身振り手振りでゲームの内容を説明する。

 

「スゴイ……これが新しいガシャット!?」

 

光輝く新しいガシャットを出久は興味深く眺める。

 

「まだ完璧ではないが、これでエグゼイドをレベルアップさせれば君の個性の反動を少しは抑制できるはずだ。ぜひ使ってみてくれ、緑谷くん」

 

「はい、ありがとうございます!!」

 

出久が黎斗に返事をしたその瞬間。

 

ウーウー

 

校内に警報が鳴り響く。

 

『セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんはすみやかに屋外へ避難して下さい』

 

そのような放送も入る。

 

「バカな!雄英のセキュリティが突破された!?」

 

驚く黎斗に出久が問いかける。

 

「檀社長、セキュリティ3って……?」

 

「雄英高校セキュリティレベルの上位だ。私が在学中には、こんな警報聞いたこともない……」

 

人影疎らで食堂などから離れている工房にいても、生徒たちが騒ぐ声が耳に入り、校内がパニックになっていることが予想できた。

 

「みんなが心配だ……僕、友達のところに行ってきます!」

 

「緑谷くん、気をつけたまえ。検討を祈る!」

 

「出久、いってらっしゃい!」

 

黎斗とポッピーに見送られ、出久はお茶子たちのいる食堂へ向かった。

 

「いったい何が……」

 

走りながら様子を窺う出久。

外を確認すると、どうやら侵入したのが報道陣だと気づく。

 

〜食堂〜

 

一方、その頃。

食堂にいた飯田も外の様子を確認し、状況を把握していた。

 

「何かと思えばただのマスコミ。先生方は!?対処に追われてるのか!?。この場で大丈夫なことを知ってる者は!?皆気付かずパニックに陥っている……」

 

飯田は考える。

こんなとき、尊敬するヒーローたちならどうするか?

委員長に相応しいと思い、自らの一票を投じた緑谷くん……

最も尊敬すべきヒーロー、兄『インゲニウム』……

 

そして、飯田が叫ぶ。

 

「俺を浮かせろ、麗日くん!」

 

そう言って、飯田はお茶子に触れる。

 

飯田はお茶子の個性で浮遊した状態で自身の個性を発動。

エンジンから噴き出すターボを使い、目立つ位置へ。

食堂出入り口の非常表示に飛び乗る。

 

「皆さん、だいじょーぶ!ただのマスコミです!なにもパニックになることはありません、だいじょーぶ!」

 

飯田は高い位置から、慌てふためく生徒たちに呼びかける。

 

「ここは雄英、最高峰の人間に相応しい行動をとりましょう!」

 

飯田は生徒たちに思いのたけを伝えていく。

 

その頃、やっと食堂に辿り着いた出久は飯田の奮闘を目にし、落ち着きを取り戻す生徒たちを見て安心していた。

 

その後、警察が到着してマスコミは撤退。

学校には再び平穏が戻った。

 

〜放課後〜

 

1-Aの教室で会議が始まろうとしていた。

 

「ホラ、委員長始めて」

 

八百万の言葉を受け、出久が発言する。

 

「では、他の委員決めを執り行って参ります。……けど、その前にいいですか」

 

出久の言葉に教室の皆が耳を傾ける。

 

「委員長はやっぱり飯田くんが良いと思います。今回の食堂での一件、あんな風にかっこよく人をまとめられるんだ。僕は飯田くんがやるのが正しいと思うよ」

 

出久のまっすぐと強い発言に、教室の雰囲気が変わる。

クラスの他の生徒たちもその意見に納得していく。

 

「委員長直々の指名とあっては……僭越ながら引き受けさせていただこう!」

 

こうして、晴れて飯田が委員長になったのだった。

 

 

〜雄英高校 校門〜

 

 

「ただのマスコミがこんなこと出来る?」

 

集まった教師たちの目の前には無惨にも崩壊した雄英バリアー。

砂のように崩れ去った防衛装置の残骸があった。

 

「そそのかした者がいるね」

 

雄英高校校長が呟く。

 

「邪な者が入り込んだか……もしくは宣戦布告の腹づもりか……」

 

教師たちは、その惨状を前に静かに今後の対策を考えていた。

 

 




【デクの現在所持ガシャット】
 ・マイティアクションX
 ・ゲキトツロボッツ


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第8話 UsoじゃないMajiでヴィラン

【前回のあらすじ】

幻夢コーポレーションCEOである檀黎斗が雄英高校にやって来た。
出久の戦闘データを解析した黎斗は、個性反動を緩和するためのレベルアップガシャット『ゲキトツロボッツ』を製作し、出久へと渡した。

一方、時を同じくして、校内セキュリティが破られる騒動が発生。
マスコミの暴走かと思われた一件だったが、その背後にはヴィランの気配が漂っていた。



〜AM7:35 水曜日〜

 

「そこ退かねえと、この家族がどうなっても知らねえぞ!!」

 

「卑怯な!」

 

連続強盗殺人犯「僧帽ヘッドギア」が町中で暴れていた。

人質をとっており、集まったヒーローたちも思うように手が出せない。

 

そんなとき……

 

「もう大丈夫だ、ファミリー。何故なら私が通勤がてら来た!」

 

そう告げるはオールマイト。

 

「ミズーリースマッシュ!!」

 

颯爽と現れたや否や、チョップ一発でヴィランを瞬殺する。

 

「ありがたいけど……」

 

「我ら廃業してしまう」

 

そんな光景を見て、周囲のヒーローたちは静かに嘆いていた。

 

「遅刻するとやばいんでそれじゃ」

 

その場を去ろうとするオールマイトの耳にまた別の声が飛び込んでくる。

 

「轢き逃げー!」

 

「ん〜、遅刻するとやばいんだけどナー」

 

オールマイトは腰を深く沈め、その勢いで轢き逃げ犯の元に飛び出す。

 

……が、オールマイトは宙を舞う自身の動きに思いを馳せる。

 

……明らかに「速度が落ちた」と。

 

個性を渡した後、力は衰えつつある。

それに加え、ヘドロヴィランの一件の無理がたたり、活動可能時間も以前より短くなっていた。

 

オールマイトは出久との会話を思い出す。

 

 

「すみません、母にも言ってなかったのに何でか。かっちゃんには言わなきゃって……本当にすみません」

 

戦闘訓練後、出久は爆豪へ個性譲渡の話をしてしまったことを、オールマイトへ謝っていた。

 

「幸い爆豪少年も戯言と受け取ったようだし、今回は大目に見るが、次はナシで頼むぞ。この力を持つという責任をしっかり自覚してくれ。知れ渡れば力を奪わんとする輩が溢れかえる事は自明の理……この秘密は社会の混乱を防ぐ為でもあり、君の為でもあるんだ、いいね?」

 

オールマイトは出久にそう伝えた。

 

 

オールマイトは思う。

 

後継者として相応しかったと言っても、まだ15歳の少年。

もっと私がしっかりせねば……

 

そう考えながら、次の事件現場に向かっていた。

 

〜PM0:50 1-A教室〜

 

「今日のヒーロー基礎学だが、俺とオールマイト、そしてもう一人の3人体制で見ることになった」

 

相澤がそう告げる。

 

「なにするんですか!?」

 

「災害水難なんでもござれ、レスキュー訓練だ」

 

生徒の質問に答えた相澤は、さらに説明を続ける。

 

「今回コスチュームの着用は各自の判断で構わない。中には活動を限定するコスチュームもあるだろうからな。訓練場は少し離れた場所にあるからバスに乗っていく。以上、準備開始」

 

『救助訓練』

 

その言葉の意味を、重みを、出久は確かに感じていた。

ヒーローはヴィランと闘うだけの仕事ではない。

人の命を護り、救ける。

憧れのオールマイトや医者の方々のように……最高のヒーローに近付くため。

出久は意気込んで、自身のコスチュームである白衣に袖を通した。

 

〜移動中 バス車内〜

 

「私、思った事を何でも言っちゃうの。緑谷ちゃん」

 

蛙吹が出久にそう話しかける。

 

「なに、蛙吹さん?」

 

「梅雨ちゃんと呼んで」

 

そう言うと、蛙吹は出久をまじまじと見つめる。

 

「あなたの個性、オールマイトに似てる」

 

「そそそそ、そうかな!?いや、でも僕はその、え〜……」

 

唐突かつ鋭い指摘に明らかに動揺する出久。

 

「待てよ梅雨ちゃん。たしかに超パワーだけど、オールマイトはスマッシュ一発で倒れねえし、サポートアイテムで変身もしねえよ」

 

そう告げる少年『切島鋭児郎』

 

「しかし、増強型のシンプルな個性はいいな。派手で出来る事が多い。俺の硬化は対人じゃ強えけどいかんせん地味なんだよなー」

 

切島鋭児郎 個性『硬化』

身体を硬くすることができる。

 

「そんな、僕は十分プロでも通用する個性だと思うよ」

 

出久は素直にそう評していく。

 

「僕のネビルレーザーは派手さも強さもプロ並み」

 

「でも、お腹壊しちゃうのはヨクナイね」

 

隣の女子に即座にツッコまれる青山。

 

「派手で強えっつったらやっぱ轟と爆豪だな。氷と爆破だもんな!」

 

切島はそう語る。

 

爆豪と並び評されたのは、第2の推薦入学者『轟焦凍』

先日の戦闘訓練では、ビル一棟まるまる凍結させるという桁外れの所業をやってのけた。

 

「でも、爆豪ちゃんはキレてばっかだから人気出なさそ」

 

「んだとコラ、出すわ」

 

蛙吹の指摘にさっそくキレる爆豪。

 

「この付き合いの浅さで既にクソを下水で煮込んだような性格と認識されるってすげぇよ」

 

「なんだその語彙はァ!!」

 

さらなるイジりにますますキレる爆豪。

 

「低俗な会話ですこと」

 

「でも、こういうの好きだ、私」

 

呆れる八百万の言葉をよそに、笑っていくお茶子。

 

そんなこんなで出久たちは訓練場に到着した。

 

〜訓練場内〜

 

「すげぇ〜、USJみてぇ!」

 

数々の災害を想定して造り込まれた場内を見た生徒のひとりが、そんな言葉をもらす。

 

そんな生徒たちの前に宇宙服を着込んだ教師『スペースヒーロー13号』が現れ、話し始める。

 

「水難事故・土砂災害・火事・etc……あらゆる事故や災害を想定し、僕がつくった演習場です。その名もUso(ウソ)のSaigai(災害)やJiko(事故)ルーム、略して『USJ』」

 

「本当にUSJだった……」

 

生徒たちから驚きと呆れのツッコみが入る。

 

「13号、オールマイトは?ここで待ち合わせるはずだが」

 

「先輩、それが通勤時に制限ギリギリまで活動してしまったみたいで、仮眠室で休んでいます」

 

「おいおい、不合理極まりないな……」

 

13号の回答に呆れる相澤。

 

「まあ、念の為の警戒態勢。仕方ない始めるか」

 

相澤のその言葉を受け、13号が語り出す。

 

「えー、始める前にお小言を一つ二つ三つ四つ。皆さんご存知だとは思いますが、僕の個性はブラックホール、どんなものでも吸い込んでチリにしてしまいます」

 

「その個性でどんな災害からも人を救い上げるんですよね!」

 

出久はそう話しかける。

 

「ええ。しかし、簡単に人を殺せる力です」

 

13号のその言葉に、クラスの空気が変わる。

 

「皆の中にもそういう個性がいるでしょう。超人社会は個性の使用を資格制にし厳しく規制することで一見成り立っているようには見えます。しかし、一歩間違えれば容易に人を殺せるいきすぎた個性を個々が持っていることを忘れないで下さい」

 

13号はなおも語り続ける。

 

「相澤さんの体力テストで自身の力が秘めている可能性を知り、オールマイトの対人戦闘でそれを人に向ける危うさを体感したかと思います。この授業では心機一転、人命の為に個性をどう活用するかを学んでいきましょう。君たちの力は人を傷つける為にあるのではない。助ける為にあるのだと心得て帰って下さいな。以上、ご静聴ありがとうございました」

 

13号が説明を終えると、その直後、USJ全体の照明が一瞬消える。

そして、広場の中央の噴水が歪み出す。

歪みの原因となった漆黒の闇から、ぞろぞろと蠢く大群が湧き出してくる。

 

「なんだあれ?また、入試みたいな本番は始まってるってやつか?」

 

押し寄せる軍勢を前に切島が素直にそう呟く。

 

一方、相澤は即座にゴーグルを装着。

 

「一かたまりになって動くな。13号、生徒を守れ」

 

素早く指示を出す相澤。

 

「皆動くな、あれはヴィランだ」

 

相澤の指示を受け、13号も動き出す。

 

「皆さん後ろから出ないように!これは演習などではありません。完璧な非常事態です!」

 

まだ何が起こっているか分からないという風な生徒たちはきょとんとしていた。

しかし、ただならぬ雰囲気を察し、すぐに13号の背後へ集まっていた。

 

状況を察した出久はポッピーから貰った聴診器型デバイス『ゲームスコープ』を、黒い渦から湧き立つ軍勢へとかざす。

 

―ゲームスコープ―

 

体内のバグスターウイルスを検知することが出来る聴診器型デバイス。

本来はバグスターウイルスの活性状態を診断するためのアイテムだが、ウイルス種を表示するアイコンによって個性の種類や強度を把握することも可能。

また、以前に借りていた腕時計型デバイスに代わる衛生省(ポッピー)との通信手段でもある。

 

出久はゲームスコープのモニターを眺める。

遠巻きにざっと診るだけでは詳細はわからないが、おおよその傾向は掴める。

 

「相澤先生、ざっと診たところ射撃系の個性や異形型なんかが多いです。主犯格らしき奴らの個性はこの距離だと詳細不明ですが、反応は異常に強い強度を示してます!」

 

「合理的な報告ご苦労、緑谷。前情報でそれだけ分かれば充分だ」

 

そう言うと、相澤はいつでも取り掛かれるよう戦闘態勢に入る。

 

「13号にイレイザーヘッドですか。先日頂いた教師側のカリキュラムではオールマイトがここにいるはずなのですが」

 

黒い煙のようなヴィランがそう語る。

 

「やはり先日のはクソ共の仕業だったか」

 

相澤は呟く。

 

「どこだよ。せっかくこんなに大衆引きつれてきたのにさ……オールマイト、平和の象徴いないなんて。子どもを殺せば来るのかな?」

 

ヴィランの中でも特に異彩を放つ、全身に手をつけた白髪の男はそう言い放った。

 

「先生、侵入者用センサーは?」

 

八百万が13号に問いかける。

 

「もちろんありますが……」

 

「現れたのはここだけか?学校全体か?何にせよセンサーが反応しねぇなら、向こうにそういうこと出来る個性がいるってことだな。校舎と離れた隔離空間。そこにクラスが入る時間割。バカだがアホじゃねぇこれは。何らかの目的があって用意周到に画策された奇襲だ」

 

轟は冷静に状況を分析していく。

 

「13号避難開始、学校に連絡試せ。センサーの対策も頭にあるヴィランだ。電波系の個性が妨害している可能性もある。上鳴、緑谷、おまえらも連絡試せ」

 

相澤が次々と指示をしていく。

 

「先生は!?一人で戦うんですか!?」

 

出久は臨戦態勢に入った相澤に声をかける。

 

「あの数じゃいくら個性を消すっていっても……イレイザーヘッドの戦闘スタイルは敵の個性を消してからの捕縛。正面戦闘は……」

 

「いいか、緑谷。覚えとけ。一芸だけじゃヒーローは務まらん。13号、あとは任せたぞ」

 

そう言うと、相澤はヴィランの大群に単身突っ込んでいく。

 

「射撃隊!行くぞ!」

 

「情報じゃ13号とオールマイトだけじゃなかったのか!?ありゃ誰だ!」

 

「知らねぇ!が、一人で正面から突っ込んで来るとは……大間抜け!!」

 

そう言うと、ヴィランたちは射撃しようとするが、個性が発動せずに困惑。

その隙に相澤はヴィランたちを捕縛布で捕まえ、分銅のように振り回す。

 

「馬鹿野郎!あいつは見ただけで個性を消すっつぅイレイザーヘッドだ!」

 

「消すぅ~~?へっへっへ、俺らみてぇな異形型も消してくれるのか?」

 

そう言うと、四本腕のヴィランが相澤へ殴りかかる。

しかし、そのヴィランの拳が届くよりも前に相澤のパンチが敵に入った。

 

「それは無理だ。発動系や変化形に限る。が、お前らみたいなやつらのうまみは統計的に近接格闘で発揮されることが多い」

 

殴り飛ばした敵の脚に捕縛布を巻きつけ、後ろから来る別の敵にぶつけた。

 

「だから、当然その辺の対策はしている」

 

相澤はそう言いながら、ヴィランたちを近接戦闘で圧倒していく。

 

「肉弾戦も強く、その上ゴーグルで目線を隠されていては誰の個性を消しているのかわからない。集団戦においてはそのせいで連携が遅れを取るな……なる程。嫌だな、プロヒーロー。有象無象じゃ歯が立たない」

 

リーダー格と思しき白髪のヴィランがそうつぶやいていた。

 

相澤が戦っている隙に13号が引率し、避難しようとする生徒たち。

 

「させませんよ」

 

しかし、出口に黒いモヤの敵が突如として立ちはだかる。

 

「初めまして、我々はヴィラン連合。僭越ながら、この度ヒーローの巣窟雄英高校に入らせて頂いたのは平和の象徴オールマイトに息絶えていただきたいと思ってのことでして」

 

黒モヤのヴィランはそう語る。

 

「本来ならばここにオールマイトがいらっしゃるハズですが、何か変更があったのでしょうか?まぁ、それとは関係なく、私の役目はこれ……」

 

敵が何かを言おうとした途端、爆豪と切島が飛び出す。

 

「その前に俺たちにやられることは考えてなかったのか!?」

 

ふたりの攻撃を難なくかわすヴィラン。

 

「危ない危ない……そう……生徒と言えど優秀な金の卵」

 

「ダメだ。どきなさい、二人とも!」

 

13号が注意した途端、敵の黒いモヤが生徒たちを覆うように広がった。

 

「散らして、嬲り殺す」

 

そう告げると同時に、生徒たちの視界は闇に呑まれて歪んでいき……

 

 

「っ!?」

 

出久が次に目にしたのは水であった。

目の前を一面、水が張っている。

 

「ここは……水難エリアの上か!?」

 

事態を察した出久は空中で体制を立て直し、ゲーマドライバーとガシャットを取り出す。

 

『マイティアクションX!』

 

「変身!」

 

『ガッシャット!』

 

出久は迫りくる水面を目前に、マイティアクションXのガシャットをゲーマドライバーに差し込む。

 

『レッツゲーム!メッチャゲーム!ムッチャゲーム!ワッチャネーム!?』

 

『アイム ア カメンライダー!』

 

―仮面ライダーエグゼイド アクションゲーマーレベル1― 

 

変身した出久はブロックに跳び移り、水には落ちることなく、近くの船の甲板に降り立った。

 

「ゲームスコープの反応が大きかったひとりの個性……ワープだったのか。それにしても、オールマイトを殺すだって……?」

 

変身を解除しながら出久がそう思っていると蛙吹が脇にブドウ頭の少年『峰田実』を張り付けて現れた。

 

「蛙吹さん!それに峰田くん!」

 

「カエルの割になかなかどうして……おっぱぐげ!?」

 

峰田がどさくさ紛れに蛙吹の胸の感触を味わっていたため、甲板に投げつけられる。

 

「蛙吹さんたち、無事だったんだね!」

 

「梅雨ちゃんと呼んで。それより大変なことになったわね」

 

蛙吹梅雨 個性『蛙』

蛙っぽいことはだいたい出来る。

 

「カリキュラムが割れてた。単純に考えれば先日のマスコミ乱入は情報を得る為に奴らが仕組んだってことだ」

 

出久は蛙吹と峰田に語りかける。

 

「轟くんが言ったように、虎視眈々と準備を進めてたんだ」

 

「でもよでもよ、オールマイトを殺すなんて出来っこねえさ。オールマイトが来たらあんな奴らケッチョンチョンだぜ!」

 

「……殺せる算段が整ってるから連中こんな無茶してるんじゃないの?そこまで出来る連中に私たち嬲り殺すって言われたのよ?オールマイトが来るまで持ちこたえられるのかしら?オールマイトが来たとして無事に済むのかしら」

 

蛙吹は冷静に、峰田へそう伝える。

 

そうこうしていると、船の周りにヴィランの群れが現れる。

出久はその様子を見て、口を開く。

 

「奴らにはオールマイトを倒す算段がある。多分その通りだ。それ以外考えられない。でも、何で殺したいんだ?……いや、今は理由なんていいか……」

 

出久の口調が段々と強まり、気配が変わりつつあることに蛙吹と峰田は気づいた。

 

「人の命を軽々しく奪おうなんて考える奴らを放って置くにはいかない……オールマイトを倒す術があるっていうなら、僕らが今すべきことはただひとつ……」

 

出久はゲーマドライバーとガシャットを取り出し、ヴィランたちを見つめる。

 

「戦って阻止する事!!」

 

そこにはふたりがこれまで見たこともない、決意に満ちた緑谷出久の姿があった。

 




【デクの現在所持ガシャット】
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第9話 夢と幻のnew entry

【前回のあらすじ】

USJにて行われる救助訓練。
そこに突如として乱入してきたヴィラン連合。
オールマイトの命を奪うと宣言し、生徒たちをワープ個性で分断させた。
水難エリアに飛ばされた出久は蛙吹、峰田と合流。
ヴィラン連合と闘うことを決意した。



「何が戦うだよ、バカかよぉ!?」

 

決意溢れる出久に対し、峰田が思わずツッコむ。

 

「オールマイトブッ倒せるかもしれねー奴らなんだろ!?矛盾が生じてんぞ、緑谷!雄英ヒーローが救けに来てくれるまでおとなしくが得策に決まってらい!!」

 

「いや、それがそうとも限らないんだ」

 

出久は峰田へ語りかける。

 

「まず、奴らにオールマイトを倒す算段があることと、僕らが奴らに抗えることは、必ずしも矛盾しない。それは『オールマイト用』の対策が、そのまま僕らに当てられた戦力と一致するとは限らないからだ」

 

出久はそう言うと、自分たちの下の水面にいるヴィランたちを指し示す。

 

「下の連中は明らかに水中戦を想定してるよね?」

 

「……敵はこのUSJの設計を把握した上で人員を集めたってこと?」

 

蛙吹が出久に訊ねる。

 

「そう。そして、そこまで情報を仕入れておいて周到に準備してくる連中にしちゃおかしな点がある」

 

「ここに今、私がいるという点ね」

 

順番に発言する出久と蛙吹を交互に見やりながら、話を聞く峰田。

 

「そう、この水難ゾーンに蛙す……っつぅ……梅雨ちゃんが移動させられてるって点から察するに、奴らは個々の生徒の個性はわかってないんじゃないかな?だからこそきっと、バラバラにして数で攻め落とすって作戦にしたんだよ」

 

「なるほどね、緑谷ちゃん。つまり、下にいるのはオールマイトを倒せるような精鋭部隊なんかじゃなくて、単に数に頼ってるだけの集団……という読みね」

 

「そういうこと。現に敵は船に上がろうとしてこない。もし、本当にオールマイトに対応できるような実力者集団なら、僕らの個性が未知でも問題なく攻め込んでくるはず。この現状が仮説を裏付けてる」

 

出久はそう説明する。

 

「そして、このまま何もしないでプロヒーローの先生方の応援を待つのが得策かというと……そこまで悠長にしてる暇はないと思う。僕のゲームスコープの通信機能が動作してない現状、そんなにすぐに救けが来るとは思えない。いくら下の連中が精鋭部隊ではないとはいえ、数で勝る相手にあまり時間を与えるべきじゃないと思う」

 

出久の説明を聞く蛙吹と峰田。

 

「何もここで水面の敵たち相手に死力を尽くそうってわけじゃない。この場をなるべく最小限の被害で切り抜け、可能であれぱ他のみんなの状況を確認しつつ、脱出経路を確保する……それがベストだと思う」

 

パチパチパチ

 

出久がそう言うと、船の奥から手を叩く音が聞こえてきた。

そして、ゆっくりと黒い影が近づいてきた。

 

「誰かいるのか!?」

 

音のする方向に声を上げる出久。

やがて、船の物陰から、その音の状態が現れた。

 

「素晴らしい判断だ、緑谷出久。いや……天才ゲーマーM、と呼ぶべきかな?」

 

機械で処理されたような曇った音声を発するのは、出久にも見覚えのある姿。

 

「……黒い……エグゼイド……?」

 

自分の変身した姿、仮面ライダーエグゼイドによく似た、黒い仮面ライダーが現れたのだった。

 

「緑谷出久、君の読みは正しい。ここで水面の雑魚相手にグズグズしていると、広場で犠牲者が出るかもしれないぞ?『オールマイト用』の戦力相手に、イレイザーヘッドはひとりで切り抜けられるかな?」

 

黒いエグゼイドは出久にそう語りかける。

 

「ここは私に任せて、君はお友達と一緒に船から離れたまえ。時間はあまりないぞ」

 

ドン!

 

黒いエグゼイドの言葉に続くように、ヴィランたちの攻撃が始まった。

船を破壊し、出久たちを水へと誘う算段だろう。

 

「貴方が何者か知りませんが……信じていいんですね?」

 

出久は黒いエグゼイドに問いかける。

 

「見ず知らずのプレイヤーとの協力もゲームの醍醐味……違うかな、天才ゲーマー?」

 

黒いエグゼイドは答えになっているのか、いないのか、そんな返答をする。

 

「行こう、梅雨ちゃん、峰田くん。なんであれ避難できるなら、それに越したことはない」

 

そう言うと、出久はゲーマドライバーを構え、動き出した。

 

 

「ガキどもが動き出したぞ!」

 

仮面ライダーに変身した出久が打つのは逃げの一手。

蛙吹と峰田を抱え、生成したブロックを足場に跳び跳ね、船から脱出していく。

 

「逃がすなぁ!!」

 

それを追いかけようとするヴィランたちだったが……

 

「……待て」

 

彼らの視界に映ったのは、船首に立つ黒い仮面ライダーの姿。

 

「お前たちの相手は私がする」

 

「あぁ?てめぇひとりで、この軍勢を相手にできるとでも?」

 

ヴィランのひとりが荒れた口調で挑発する。

 

「勿論、君たちには新しいガシャットの実験に付き合ってもらおうか」

 

そう言うと、黒いエグゼイドはガシャットを取り出す。

 

『シャカリキスポーツ!』

 

「グレード3……」

 

黒いエグゼイドは新しいガシャットを空きスロットに装填し、レバーを操作する。

 

『ガッチャーン!レベルアーップ!』

 

『マイティジャンプ マイティキック マイティーアクショーンX!』

 

『アガッチャ!シャカリキ!シャカリキ!バッドバッド!』

 

『シャカッと リキッと シャカリキスポーツ!』

 

―スポーツアクションゲーマーレベル3―

 

頭部に自転車競技用ヘルメットのようなパーツが付き、上半身全体にも黄緑色を主体とした自転車モチーフの装甲を纏い、肩の大きな車輪が特徴的な姿。

 

「……一気に決めようか」

 

『キメワザ』

 

『シャカリキクリティカルストライク!』

 

黒いエグゼイドは、肩の大きな車輪『トリックフライホイール』を取り外すと、それを投擲する。

 

キメワザのエネルギーを纏った車輪は、まるでブーメランのように宙を舞い、水面のヴィランたちに次々と襲いかかる。

 

「なんだよ、これ!?うわあァァァ!?」

 

奇想天外な動きをする車輪に、ヴィランたちは為す術もなく弾き飛ばされ……数分後には、全てのヴィランはただ水面に浮かぶのみであった。

 

 

岸辺へ辿り着いた出久たちは、身を隠しながら移動しつつ、今後のために互いの個性の確認をしていた。

 

「私は跳躍と壁に貼りつけるのと舌を伸ばせるわ、最長で20m程。あとは胃袋を外に出して洗ったり、毒性の粘液、といっても多少ピリッとする程度のを分泌できる。後半2つはほぼ役に立たないし忘れていいかも」

 

「薄々思ってたけど強いね」

 

「分泌……!」

 

蛙吹の個性を素直に評する出久。

何か言葉にし難いことを考える峰田。

 

「僕は超パワーだけど、反動もとびっきり大きい諸刃の剣的なアレです。その反動を抑えるため、この姿に変身するけど、まだ100%全開の出力は保たないかな」

 

出久はエグゼイドレベル2の姿で、そう説明する。

 

峰田は自身の頭から生えてる球体をもぎ取り、地面に押し付ける。

 

「超くっつく。体調によっちゃ一日経ってもくっついたまま。モギったそばから生えてくるけど、モギりすぎると血が出る。オイラ自身にはくっつかずブニブニ跳ねる」

 

峰田はそう説明する。

 

「なるほど、ヴィランの拘束・無力化に最適だし、今回のような対集団戦闘における奇襲にも使える。行動制限は地味だけど有効なデバフ。面白い個性だね!」

 

あまり褒められ慣れていないのか、照れた様子の峰田。

 

「それで、次どうするかじゃないかしら?」

 

蛙吹はそう問いかける。

 

「そうだね。とりあえず救けを呼ぶのが最優先。このまま水辺に沿って、広場を避けて出口に向かうのが最善」

 

「そうね、広間は相澤先生が敵を大勢引きつけてくれてる」

 

出久の言葉に、蛙吹が答える。

 

「だから、ふたりはこのまま出口に向かって」

 

「ふたりは……?」

 

出久の言葉に峰田が首を傾げる。

 

「緑谷、まさかお前……」

 

「やっぱり敵が多すぎる。先生はもちろん制圧するつもりだろうけど、僕らを守る為にムリを通して飛び込んだと思うんだ。それに『オールマイト用』の隠し玉もあると考えると……」

 

「いやいや、緑谷。バカバカバカ、何考えてんだよ。お前も一緒に逃げるんだよ!」

 

ビビりながらも出久のことを心配して声をかける峰田。

 

「逃げないよ」

 

それに対し、強く言い返す出久。

 

「人の命を軽々しく奪おうなんて考える奴ら、放って置くわけにはいかないよ。それに、相澤先生の邪魔になるようなことは考えてない。ただ隙を見て、少しでも先生の負担を減らせれば……」

 

そう言うと、出久は広場の方へ視線を向ける。

 

「だから、僕は行くよ」

 

「そう。でもそんな貴方をひとりで行かせると思う、緑谷ちゃん?」

 

蛙吹はそう言うと、出久のあとに続く。

 

「えぇい、わかったよ!オイラも行くよ!オイラだってヒーロー志望の端くれだぁ!!」

 

そして峰田も決心し、ふたりの後に続いた。

 

 

〜広場〜

 

一方、その頃。

ある程度、有象無象のヴィランたちを制圧し終えた相澤は、リーダー格の白髪男に突撃していた。

 

「……動き回るのでわかり辛いけど、髪が下がる瞬間がある」

 

白髪の男はそう言うと、相澤の横手に回り込む。

 

「一アクション終えるごとだ。そして、その間隔は段々短くなってる。無理をするなよ、イレイザーヘッド」

 

白髪の男が相澤の肘を触れると、その箇所がまるで砂のように崩れていく。

 

「崩壊する個性かっ!?」

 

慌てて距離をとる相澤。

そこに詰め寄り、語りかける白髪の男。

 

「その個性じゃ集団との長期決戦は向いてなくないか?普段の仕事と勝手が違うんじゃないか?君が得意なのはあくまでも奇襲からの短期決戦じゃないか?」

 

そう言いながら、さらに距離を詰めていく。

 

「それでも真正面から飛び込んできたのは生徒に安心を与える為か?かっこいいなあ、かっこいいなあ……ところでヒーロー、本命は俺じゃない」

 

白髪の男がそう言うと、その背後から筋骨隆々の黒い肉体をもち、頭部は脳が剥き出しの異形が姿を現した。

 

「……改人・脳無。こいつが本命さ」

 

脳無と呼ばれた異形のヴィランは、相澤を地面に叩きつける。

 

「個性を消せる。素敵だけどなんてことはないね。だって、圧倒的な力の前ではつまりただの無個性だもの」

 

脳無はねじ伏せた相澤の腕を小枝でも折るように軽々と粉砕する。

 

相澤はやられながらも考えていた。

自分の個性なら、相手の身体の一部でも見れば消せる。

つまり、この改人とやらは個性無しの素の力がコレ。

オールマイト並みのパワー。

 

「クソっ……」

 

そのバカ力で頭を押さえつけられ、もがき苦しむ相澤。

 

「じゃあね、さよならヒーロー」

 

白髪の男の声に合わせ、脳無がさらに力を強めようとした、そのとき。

 

『マイティクリティカル「スマッシュ」!!』

 

飛び込んできたのはピンクの閃光。

突き刺さるのは必殺の一撃。

 

稲妻走る仮面ライダーの飛び蹴りが、無防備な脳無の胴体に炸裂し、その巨体を吹き飛ばす。

 

「あぁん?なんだ、お前?」

 

突然現れた存在に、白髪の男は嫌悪感向き出しで問いかける。

 

「ヴィランめ、よくも先生を……」

 

出久は軽く痛む頭を押さえながら、白髪の男と向き合う。

 

「これ以上、好き勝手はさせないぞ!」

 

「……緑谷」

 

相澤を守るように、今、仮面ライダーエグゼイドが巨悪と対峙する。

 




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第10話 激突の果てのlevel up!!

【前回のあらすじ】

突如USJを襲撃したヴィラン連合。
ワープ個性により、生徒たちは散り散りとなる。

水難エリアに飛ばされた出久たちの前に現れたのは謎の仮面ライダー、黒いエグゼイド。

黒いエグゼイドにその場を任せ、逃走する出久たち。

水難エリアのヴィランたちはレベルアップした黒いエグゼイドによって一掃された。

そして、広場に辿り着いた出久たちが目の当たりにしたのは、ヴィランに叩きのめされる相澤の姿だった。



「梅雨ちゃん、峰田くん。相澤先生をお願い!」

 

出久はふたりに指示を出し、相澤の避難を頼む。

そして、目の前のヴィラン相手にファイティングポーズをとり、構える。

 

「あぁ〜、そうかそうか……お前が衛生省の『仮面ライダー』か。脳無を蹴り飛ばせるなんて、なかなかいい動きをするなあ」

 

白髪の男が出久に語りかける。

 

「でも、残念。無意味だよ」

 

そう言うと、何事もなかったかのように脳無が再び動き出し、白髪の男と出久の間に割って入る。

 

「そんな……さっきのキメワザが効いてないのか!?」

 

出久は目の前のヴィラン『脳無』のあまりのタフネスぶりに驚きつつも、ゲームスコープを取り出し、その個性を確認する。

 

脳無を対象にし、画面に表示されたのは『バリアを張る姿』と『栄養ドリンクを飲む姿』の『2つ』のアイコン。

 

「ウソだろ!?個性2つ持ち!?」

 

驚き叫ぶ出久。

 

「へぇ。便利な道具を持ってるな。そう、脳無はショック吸収と超再生。オールマイトの100%にも耐えられるよう改造された超高性能、サンドバッグ人間さ」

 

白髪の男はまるでお気に入りのおもちゃを自慢する子どもかのように、脳無について説明する。

 

「……改造?」

 

その説明を聞き、拳を握る出久。

 

「死柄木弔」

 

そこへやって来たのは、ワープ個性をもった黒いヴィラン。

白髪の男『死柄木弔』へ話しかける。

 

「黒霧、13号はやったのか」

 

死柄木は『黒霧』へそう返す。

 

「行動不能には出来たものの散らし損ねた生徒がおりまして、一名逃げられました」

 

黒霧がそう伝えると……

 

「は?……はー……はあー」

 

死柄木は露骨にため息を吐き、不快感を露わにする。

 

「黒霧……おまえ……おまえがワープゲートじゃなかったら粉々にしたよ。さすがに何十人ものプロ相手じゃ敵わない。ゲームオーバーだ、あーあ。今回はゲームオーバーだ。帰ろっか」

 

そう諦めを呟く死柄木。

 

「……ふざけるな」

 

「あァ?」

 

「人を改造した?ゲームオーバー?……ふざけるな。何考えてるんだ、お前ら……」

 

出久の感情が声から漏れ伝わる。

それは明らかな怒り。

 

「人の命を何だと思ってるんだ!!!」

 

「熱いな、仮面ライダー。いいぜ……平和の象徴としての矜持を少しでもへし折るためだ」

 

死柄木がサッと手招きすると、脳無が出久へと襲いかかる。

 

「殺れ、脳無」

 

脳無が一度地面を蹴ると、周囲に風圧が巻き起こる。

その加速を勢いに、筋骨隆々とした肉体は剛腕の一撃を放つ。

 

「……そんなの予想済みだよ」

 

しかし、出久はその一撃を軽く跳躍して回避すると、お返しとばかりに蹴りを喰らわせる。

そして、その蹴りの反動で再び跳び上がり、落下に合わせてまた蹴り込み……

この繰り返しで、脳無の攻撃を避けながら、何度も何度も蹴り込んでいく。

 

「個性が防御特化ってことは、素の力がオールマイトと競えるレベルだってことは想定できる。わかってれば、そんなの素直に喰らうほど間抜けじゃ……ないっ!!」

 

エグゼイド特有の軽やかな身のこなしに、ブロックを足場とする変則的なジャンプを使いこなし、出久は一方的にヒットアンドアウェイな立ち回りを継続する。

 

「でも……本当に全然効いてないな……」

 

それでも驚くべきは脳無の耐久力。

出久の連続攻撃を浴び続けているというのに、殆どダメージを受けている様子が見えない。

 

「オールマイトの攻撃にも耐えるショック吸収だって言ったろ?脳無にダメージを与えたいなら、ゆぅっくりと肉をえぐり取るとかが効果的だね。それをさせてくれるかは別として」

 

そう呟く死柄木。

彼の表情にはどこか余裕が見える。

 

「それに、いつまでもチョロチョロできると思うなよ」

 

跳び回る出久の背後に黒い靄が立ち込める。

 

「ワープ個性、しまっ……!?」

 

ワープゲートに阻まれ、動きが止まる出久。

そこに脳無が迫ってくる。

 

出久は必死に対処法を考えるも思い浮かばない。

そうこうしている間にも、脳無の拳が迫る。

 

 

「どっけ、邪魔だ!」

 

そのとき、響く爆音とともに、黒霧を殴りつける拳があった。

 

「てめェらがオールマイト殺しを実行する役とだけ聞いた」

 

そして、地面を走る氷が脳無にも亘り、その肉体を凍らせる。

 

「緑谷、大丈夫か!?」

 

ワープゲートが解除され、落下する出久を肉体を硬化させた切島が受け止める。

 

「切島くん、かっちゃん、轟くん!」

 

戦場へ駆けつけた3名の名を叫ぶ出久。

 

「出入口を押さえられた。こりゃあピンチだなあ」

 

そう呟く死柄木。

 

「このウッカリヤローめ、やっぱ思った通りだ。モヤ状のワープゲートになれる箇所は限られてる。そのモヤゲートで実体部分を覆ってたんだろ!?そうだろ!?全身モヤの物理無効人生なら『危ない』っつー発想は出ねぇもんなあ」

 

そう言いながら、爆豪は黒霧を押さえつける。

 

「っと、動くな!『怪しい動きをした』と俺が判断したらすぐ爆破する」

 

動きを押さえ、黒霧を脅す爆豪。

 

「攻略された上に全員ほぼ無傷。すごいなぁ、最近の子供は。恥ずかしくなってくるぜ、ヴィラン連合」

 

死柄木は頭をポリポリと掻きながら呟く。

 

「脳無、爆発小僧をやっつけろ。出入口の奪還だ」

 

死柄木がそう命令すると、脳無は凍りついた体を崩しながら、無理やり動き出す。

崩れた傷口からはみるみるうちに新たな肉が湧き出し、身体を再構成していく。

 

「なんだあいつ!?」

 

信じられない光景に驚く切島。

 

「超再生……あのレベルで回復するなんて、いくら蹴ってもビクともしないはずだ……」

 

冷静に脳無の能力を見定める出久。

 

「轟くん、もう一度さっきの凍結できる?」

 

「できるが……どうするつもりだ、緑谷?」

 

「動きが止まったところに、これでいく」

 

出久は赤く輝くガシャットを取り出す。

 

「策があるってわけか。分かった」

 

動き出した脳無に、轟は再び氷を走らせる。

 

出久はそれに合わせ、ガシャットのボタンを押す。

 

『ゲキトツロボッツ!』

 

「大・大・大変身!」

 

出久は新しいガシャットを空きスロットに装填し、レバーを操作する。

 

『ガッチャーン!レベルアーップ!』

 

『マイティジャンプ マイティキック マイティマイティアクショーンX!』

 

『アガッチャ ぶっ飛ばせ! 突撃! ゲキトツパンチ! ゲ・キ・ト・ツロボッツ!!』

 

―仮面ライダーエグゼイド ロボットアクションゲーマーレベル3―

 

頭部はロボットのような形状に変わり、左腕にも大きな強化アームが装着されて剛腕となった、エグゼイドのレベルアップした新たな姿。

 

「すげぇ……」

 

感嘆のあまり、切島の口から思わずそんな声が漏れる。

 

出久は脳無の顔めがけて左腕を振るう。

 

「どんな姿になろうと、脳無に効くわけが……」

 

呆れながら呟く死柄木。

その目の前で、出久が放った一撃は脳無の顔面を潰すように炸裂し、凍りついた手脚を打ち砕きながら宙へと浮かばせた。

 

「なっ!?」

 

特別な動作などない、ただのパンチ一発。

これまでなら脳無はビクともしなかったはず。

意外な光景に、死柄木の口からは思わず間抜けな声が出てしまう。

 

一方、出久もたしかな手応えを感じていた。

キメワザでもない、ワン・フォー・オールでもない。

通常のパンチで、この威力。

これならいける。

 

出久は左腕にワン・フォー・オールの力を纏わせると、宙を舞う脳無へ跳びかかる。

 

「攻撃魔法、スマッシュ!」

 

そして、緑のスパークが走る剛腕でそのまま殴り付け、脳無を地面へと叩きつける。

レベル2なら反動ダメージを受けていたほどの高出力。

しかし、レベル3なら耐えられる。

 

脳無はそのまま体勢を立て直す暇も与えられずに、何度も、何度も、出久の左腕で大地へと叩きつけられていく。

 

「肉体を改造された貴方も、ある意味では被害者だ。この一撃で終わりにしましょう……」

 

そう呟き、出久はガシャットをスロットに刺し直す。

 

『キメワザ』

 

「その個性、無効じゃなくて吸収ならば限度があるはず」

 

出久の左腕にガシャットとワン・フォー・オールのエネルギーが集中する。

 

「オールマイト対策……100%に耐えるなら、さらにその上からねじふせる!」

 

『ゲキトツクリティカル「スマッシュ」!!』

 

閃光走る剛腕が脳無の肉体に突き刺さる。

その衝撃はUSJ全体にも駆け抜け、大気を震わせる。

 

そして、まるで爆心地のごとく陥没した地面にめり込むように突き刺さった脳無。

吸収も回復もしきれなかったダメージにより、その活動を完全に停止していた。

 

「……よし」

 

それを見届け、安心したのか。

出久の胸のHPゲージが一気に無くなり、変身も解けて倒れ込む。

 

「ウソだろ……あの脳無が……」

 

信じられないといった様子で、地面に倒れ込む脳無を見つめる死柄木。

 

「緑谷、大丈夫か!?」

 

倒れ込む出久の下に駆け寄る切島と轟。

 

「大丈夫、ちょっとまた個性出しすぎて、頭と身体の節々が痛いくらいかな……」

 

そう言いながら頭を押さえる出久を切島が抱き起こす。

 

「何が策があるだ。ただのゴリ押しじゃねぇか。無茶しやがって」

 

そう呟く轟に、出久は軽く頭を下げて謝罪の念を示した。

 

「素晴らしいな、緑谷出久」

 

そこに響き渡る曇った声。

気づけば、いつの間にか出久たちのそばに近寄っていたのは、黒いエグゼイド。

 

「貴方はさっきの……ありがとうございます。おかげで間に合いました」

 

出久がそう答えると、黒いエグゼイドはガシャットを取り出す。

 

「礼は要らない。まだ実験は終わっていないからな」

 

『シャカリキスポーツ!』

 

黒いエグゼイドは、そのガシャットを起動すると、おもむろに放り投げる。

 

そのガシャットが向かう先は、依然として倒れ込む脳無。

 

「なっ……!?」

 

驚く出久の目の前で、ガシャットが脳無の頭部、剥き出しの脳に突き刺さる。

 

「グレード3……起動」

 

黒いエグゼイドがそう呟くと、脳無が立ち上がる。

そして、その屈強な手脚がまるで自転車の車輪のような形状に変化していく。

 

「緑谷出久、ゲームはまだ終わっていない。これが、このステージのボス『シャカリキ脳無』だ。楽しんでくれたまえ」

 

「SYAKAAaaaa!!」

 

USJに響き渡る咆哮が、さらなる闘いの幕開けを告げた。

 

 

 




【デクの現在所持ガシャット】
 ・マイティアクションX
 ・ゲキトツロボッツ


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第11話 All right 私が来た

【前回のあらすじ】

強力なヴィラン『脳無』と闘う出久は苦戦を強いられていた。
防御に特化した個性をもつ脳無を倒すため、出久はゲキトツロボッツを使い、レベルアップ。
個性出力全開で脳無を打ち破った。

しかし、安心したのも束の間。
黒いエグゼイドは脳無へシャカリキスポーツのガシャットを投入。
脳無はガシャットの力によって、さらなる成長を遂げてしまった。



「肉体が変化した……!?」

 

頭部にガシャットが刺さった影響で、さらなる異形へと変貌した脳無。

やっとの思いで倒した強敵の復活に、出久は驚きを隠せない。

 

轟はすかさず氷を走らせ、シャカリキ脳無の凍結を試みる。

しかし、シャカリキ脳無は車輪と化した脚を巧みに使い、轟の放つ氷を回避していく。

 

「こいつ、さっきより速くなってる……」

 

轟は先程までの脳無との違いに気づき、静かに焦りを感じる。

 

「シャカリキスポーツ、自転車ゲームの力で機動力が上がってるんだ。なんでこんなことを!」

 

出久は黒いエグゼイドへ問い詰めるように叫ぶ。

 

一方、黒いエグゼイドはそれには答えず、死柄木の隣へと跳び移る。

 

「遅い。オールマイトが来る前にゲームオーバーになるところだったぞ……?」

 

死柄木は黒いエグゼイドへそう語りかける。

 

「すまない。ガシャットの最終調整をしていたんだ。だが、結果は上々!」

 

黒いエグゼイドは高らかにそう叫ぶ。

 

「シャカリキ脳無!ガシャットの力を吸収した脳無は、プロヒーローはおろか、オールマイトさえも敵ではないっ!!」

 

「そういうわけで、いけ脳無。今度こそ帰り道の奪還だ……」

 

死柄木の指示を受け、シャカリキ脳無はこれまで以上の超スピードで爆豪へと迫る。

 

「クソが!!」

 

黒霧を押さえる爆豪は、その突撃に対応できず、大きな激突音が鳴り響く。

 

「かっちゃん!!」

 

叫ぶ出久。

衝突により巻き起こる砂煙が徐々に晴れていくと、そこに立っていたのは無傷の爆豪。

 

「かっちゃん!!?避っ避けたの!?すごい」

 

再び叫ぶ出久。

 

「違えよ、黙れカス」

 

それに吐き捨てるように返す爆豪。

 

「……加減を知らんのか」

 

砂煙の中から、そんな声が聞こえる。

 

「その声……そうか」

 

死柄木はそう呟き、砂煙の方に顔を向ける。

 

「もう大丈夫。私が来た」

 

完全に晴れた砂煙。

そこから現れたのは、シャカリキ脳無を受け止めるオールマイトの姿。

 

オールマイトは車輪と化した脳無の両腕を、しっかりと握り締め、その動きを止めていた。

 

「来る途中で飯田少年とすれ違って何が起きているか、あらましを聞いた。もう大丈夫、私が来た」

 

オールマイトは、そう言い放つ。

 

「待ったよヒーロー、社会のごみめ」

 

死柄木はそう言う。

 

オールマイトは死柄木を睨みつけながら、出久たちへ指示を出す。

 

「皆、入口へ。早く!」

 

「オールマイト、だめです。あの脳ミソヴィラン、ワンっ……僕の個性100%出力にも耐える『ショック吸収』と、砕けた肉体がすぐに元通りになる『超再生』っていう個性2つ持ちです!おまけに、個性抜きの素の力がバカ力だし、頭に刺さったアイテムのせいで高速移動まで出来るようになりました。いくらオールマイトでも一人じゃ無理です!!」

 

出久はそう伝えるが……

 

「緑谷少年、大丈夫。プロの本気を見ていなさい」

 

そう答えるオールマイト。

 

「脳無、やれ。俺たちは子どもをあしらう」

 

死柄木がそう指示すると、シャカリキ脳無は腕の力を強める。

押さえつけた車輪が再び回転を始めようとするのをオールマイトは必死に堪える。

 

オールマイトは考える。

爆豪を庇った際のダメージが予想以上に大きい。

残された時間は少ない。

力の衰えは思ったよりも早い。

しかし、やらねばならない。

 

「……何故なら私は、平和の象徴なのだから!!」

 

オールマイトの全身から覇気が放たれる。

 

「うおおぉぉぉ!!」

 

オールマイトはシャカリキ脳無の両腕を押さえつけたまま、地面へと押し倒そうとする。

しかし、シャカリキ脳無の予想以上の怪力のせいで、押し込み切れずにいた。

 

一方、死柄木、黒霧、黒いエグゼイドに囲まれた出久たち。

 

体力に不安のある出久は変身せずに切島が庇い、爆豪と轟が中心に迎撃している。

 

出久のゲームスコープにより、死柄木が即死系の崩壊個性を持つと判断した彼らはそれに警戒し、互いに死角が生じないように目を配りながら、反撃のチャンスを窺っていた。

 

「どうするよ、このままじゃオールマイトも、俺たちも、ジリ貧だぜ!?」

 

叫ぶ切島。

 

「もう少しで応援が来るはずだ。それまでなんとか持ちこたえよう!」

 

思うように身体が動かない自分の無力に不甲斐なさを感じつつ、出久はそう叫び、考える。

なんとか少しでもオールマイトの援護ができれば……

 

「SYAKAAAAaaaaaa!!」

 

シャカリキ脳無は徐々にオールマイトを押し返していく。

オールマイトの口元にはうっすらと血が滲んでいる。

 

「切島くん、フォローありがとう。もう大丈夫……」

 

「おい、緑谷!?」

 

切島の支えから離れ、出久は走り出す。

 

「嫌だよオールマイト。教えてもらいたいことがまだ、山程あるんだ!」

 

痛む身体を引き摺り、出久はゲーマドライバーを構える。

 

『マイティアクションX!』

 

ゲームタイトルを告げる電子音が鳴り響き、ブロックが飛び交う。

 

「……変身!」

 

『ガッシャット!』

 

出久はマイティアクションXのガシャットをゲーマドライバーに差し込む。

 

『レッツゲーム!メッチャゲーム!ムッチャゲーム!ワッチャネーム!?』

 

『アイム ア カメンライダー!』

 

―仮面ライダーエグゼイド アクションゲーマーレベル1―

 

ブロックを足場に跳ねる出久。

死柄木たちを飛び越え、オールマイトの元へ向かおうとする。

 

「調子に乗るなァ!」

 

そんな隙を逃すはずもなく、ワープゲートを介して自らの手を伸ばす死柄木。

 

触れれば崩壊させるその手が、出久に迫ったその瞬間。

 

ズキュン

 

死柄木のその手を撃ち抜く弾丸。

 

「何ィ!?」

 

誰もが振り向いた、その先には。

 

「1ーAクラス委員長飯田天哉、ただいま戻りました!」

 

そう叫ぶ飯田。

そして、雄英高校の教師陣の姿があった。

 

プロヒーローのひとり『スナイプ』は続けて弾丸を発射。

死柄木の動きを止めるため、その手脚を撃ち抜いていく。

 

「あーあ、来ちゃったな、ゲームオーバーだ。帰って出直すか」

 

そう呟く死柄木。

 

「死柄木弔、あの脳無のデータは取得済みだ。放置して問題ない」

 

「そうか、平和の象徴の最期を目の前で見られないのは残念だけど、あとは任せるか」

 

黒いエグゼイドの言葉に頷くと、死柄木は脳無に指示を出す。

 

「脳無、ここにいる奴ら全員やれ」

 

そう言うと、死柄木と黒いエグゼイドは黒霧とともにワープして消えていった。

 

「一番面倒な奴を残していったな……」

 

オールマイトはシャカリキ脳無と組み合い続けている。

 

宙を舞う出久は、その様子を見ながら、ある決心をする。

 

「スナイプ先生!オールマイトが闘ってるヴィランの頭に刺さってるモノを撃ってください!!」

 

そう叫ぶ出久に答えるように、スナイプは弾丸を放つ。

 

その弾丸はシャカリキ脳無の頭部のガシャットを捉える。

命中した衝撃で外れたガシャットは宙を舞う。

出久はブロックを足場に跳び回り、そのガシャットをキャッチする。

 

「大・大・大変身!」

 

出久は手にしたガシャットを空きスロットに装填し、レバーを操作する。

 

『ガッチャーン!レベルアーップ!』

 

『マイティジャンプ マイティキック マイティマイティアクショーンX!』

 

『アガッチャ!シャカリキ!シャカリキ!バッドバッド!』

 

『シャカッと リキッと シャカリキスポーツ!』

 

―仮面ライダーエグゼイド スポーツアクションゲーマーレベル3―

 

自転車モチーフの装甲を纏い、肩の大きな車輪が特徴的な姿に変身した出久。

 

「オールマイトォぉ!!」

 

出久は叫びながら、自らの力を両腕に込める。

 

『キメワザ』

 

『シャカリキクリティカル「スマッシュ」!』

 

出久は、肩の大きな車輪『トリックフライホイール』を取り外すと、それにワン・フォー・オールの力を乗せて投擲する。

キメワザのエネルギーを纏い、スマッシュの力で放たれた車輪は、オールマイトに組み付いたシャカリキ脳無の両腕を一刀両断する。

 

「緑谷少年……全く、君って奴は……」

 

オールマイトはシャカリキ脳無から解放された自身の腕を回し、そして大きく振りかぶる。

 

「その心意気、応えねばならんな!」

 

オールマイトはシャカリキ脳無へ、ひたすらにラッシュを叩き込んでいく。

 

「血を吐きながら全力で……ただ闇雲に撃ちこんでるんじゃない。一発一発が全部100%以上の……」

 

着地した出久はそう呟く。

 

「ヒーローとは常にピンチをぶち壊していくもの。ヴィランよ、こんな言葉を知ってるか!!?」

 

オールマイトはそう言うと、懇親の一振りをシャカリキ脳無へと叩き込む。

 

「Plus Ultra!!」

 

痛烈な一打はシャカリキ脳無を場外へと吹っ飛ばしていく。

 

「やはり衰えた。全盛期なら5発も撃てば充分だったろうに……300発以上も撃ってしまった」

 

そう言い放ちながら、オールマイトは勝利を宣言するように手を掲げた。

 

 

〜ヴィラン連合アジト〜

 

「両腕両脚撃たれた。完敗だ」

 

アジトへと帰ってきた死柄木はそう呟く。

 

「手下共は瞬殺だ、子どもも強かった」

 

「死柄木弔、悪い知らせだ。脳無がオールマイトにやられた。平和の象徴は健在だったようだ」

 

倒れ込む死柄木に、黒いエグゼイドはそう語る。

 

「なんだと……話が違うぞ」

 

『違わないよ。ただ見通しが甘かったね』

 

『うむ、なめすぎたな。ヴィラン連合なんちうチープな団体名で良かったわい』

 

アジトに置かれたモニター越しに、そんなふたりの声が聞こえてくる。

 

『ところで、ワシと先生の共作脳無は?回収してないのかい?』

 

「ドクター、心配は御無用。あの個性はガシャットを刺した時点で自動的にバックアップされている。私の手にかかれば、復元は容易だ」

 

『流石は社長。バグスター理論による個性のデータ化か。おかげで個性研究が数十年分は進歩したわい』

 

ドクターと呼ばれた男は、モニター越しにそう語る。

 

「それともうひとつ。オール・フォー・ワンとドクターにお伝えしたいことがあります」

 

黒いエグゼイドはそう言うと、変身を解除する。

 

「オールマイトの継承者、次期平和の象徴……恐らくは『例のモルモット』ですよ」

 

変身を解除した『檀黎斗』は、妖しい笑みを浮かべながらそう呟いた。

 

『なんだと!?』

 

驚きを隠せないドクター。

 

『そうかそうか、全く運命とは面白いものだ』

 

オール・フォー・ワンと呼ばれた男は、どこか楽しそうに呟く。

 

『死柄木弔、今回のことは悔やんでも仕方ない。決して無駄ではなかったハズだ」

 

そして、優しい口調で語り続ける。

 

「精鋭を集めよう、じっくり時間をかけて。我々は自由に動けない。だから君のようなシンボルが必要なんだ。死柄木弔、次こそ君という恐怖を世に知らしめろ」

 

オール・フォー・ワンはそう告げた。

 

 




【デクの現在所持ガシャット】
 ・マイティアクションX
 ・ゲキトツロボッツ
 ・シャカリキスポーツ


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第12話 そして来るnext stage

【前回のあらすじ】

ガシャットによってレベルアップした脳無強化体『シャカリキ脳無』
その力はオールマイトに勝るとも劣らないものだ。

クラス委員長の飯田の働きにより、現場に駆けつけたプロヒーローたち。
その助けをうけ、出久は新たなガシャットでレベルアップ。
オールマイトと共闘し、シャカリキ脳無を撃破した。



 

「なんてこった。これだけ派手に侵入されて逃げられちゃうなんて……」

 

「完全に虚をつかれたね」

 

ヴィラン連合撤退後のUSJの惨状を目の当たりにした教師陣は、そう口々にする。

 

「それより今は生徒らの安否さ」

 

校長はそう言うと、視線をオールマイトへと向ける。

 

その頃、活動限界を迎え、普段の姿に戻ってしまったオールマイトは焦りを感じていた。

 

「緑谷ぁ、大丈夫か!?」

 

そう叫び、出久とオールマイトの元に駆け寄ってくるのは切島。

 

「切島少年、なんて素晴らしい心持ち。しかし待って、バレてしまう。やばい待って、くっそおおおおお」

 

焦りまくるオールマイトと切島の間に、突如として巨大な壁がせり上がる。

 

「生徒の安否を確認したいからゲート前に集まってくれ。ケガ人の方はこちらで対処するよ」

 

壁を生成したヒーロー『セメントス』は、切島にそう伝えていく。

 

「それもそうっすね。あとお願いします!」

 

そして、その場を去っていく切島。

 

「ありがとう、助かったよ。セメントス」

 

オールマイトは礼を伝える。

 

「俺もあなたのファンなので。このまま姿を隠しつつ保健室へ向かいましょう。しかしまァ、毎度無茶しますね」

 

セメントス 個性「セメント」

触れたコンクリを粘土のように操る。

現代社会じゃ鬼強。

 

 

「16、17、18……うん、中の彼以外は全員無事だね」

 

ヴィラン連合のメンバーを警官たちが連行していく中、生徒たちはトレンチコートの『塚内警部』の前に集められ、安否確認をされていた。

 

「とりあえず生徒らは教室へ戻ってもらおう。すぐ事情聴取ってわけにもいかんだろ」

 

「刑事さん、相澤先生は……?」

 

蛙吹は塚内へそう訊ねる。

 

「両腕粉砕骨折、顔面骨折。幸い脳系の損傷は見受けられません。ただ、眼窩底骨が粉々になってまして、眼に何かしらの後遺症が残る可能性もあります。だそうだ。13号の方は背中から上腕にかけての裂傷が酷いが命に別状はなし。オールマイトも同じく命に別状なし。彼に関してはリカバリーガールの治癒で充分処置可能とのことで保健室へ」

 

塚内はそう伝える。

 

「緑谷くんは!?」

 

叫ぶように強く問いかける飯田。

 

「緑……ああ、彼も保健室で間に合うそうだ。私も保健室の方に用がある。山茶、後頼んだぞ」

 

そう伝え、塚内は保健室へと向かった。

その道中、他の刑事が話をする。

 

「塚内警部、約400m先の雑木林でヴィランと思われる人物を確保したとの連絡が」

 

「様子は?」

 

「外傷はなし。無抵抗でおとなしいのですが、呼びかけにも一切応じず口がきけないのではと」

 

「校長先生、念のため校内を隅まで見たいのですが?」

 

「ああ、もちろん」

 

塚内の打診に、校長は快く返事する。

 

「一部じゃとやかく言われているが、権限は警察の方が上さ。捜査は君たちの分野、よろしく頼むよ」

 

 

〜保健室〜

 

「今回は事情が事情なだけに小言も言えないね」

 

リカバリーガールはオールマイトの容態を確認すると、ため息混じりに言葉を漏らす。

 

「多分だが、私また活動限界早まったかな。一時間くらいはまだ欲しいが……」

 

そう語るオールマイト。

 

「オールマイト、久しぶり」

 

そこに声をかけながら現れる塚内。

 

「早速で悪いがオールマイト、ヴィランについて詳しく……」

 

「待った、待ってくれ。それより、生徒は皆無事か!?相澤、イレイザーヘッドと13号は!?」

 

「生徒はそこの彼以外で軽傷数名。教師2人はとりあえず命に別状なしだ」

 

塚内はベッドの上で寝ている出久を見ながら、そう語る。

 

「3人のヒーローが身を挺していなければ生徒らも無事じゃあいられなかったろうな」

 

「そうか。しかし、一つ違うぜ、塚内くん」

 

オールマイトはそう言うと、力強い視線を塚内へ向ける。

 

「生徒らもまた戦い、身を挺した。こんなにも早く実戦を経験し生き残り、大人の世界を恐怖を知った1年生など今まであっただろうか!?」

 

出久の様子を見つめ、他の生徒たちのことも思い浮かべながら、オールマイトはさらに語る。

 

「ヴィランも馬鹿なことをした。1ーAは強いヒーローになるぞ!」

 

オールマイトは、そう言い放った。

 

 

『翌日は臨時休校となったけど、全然気は休まらなかった。そして……』

 

 

〜1-A教室〜

 

「皆、朝のHRが始まる。席につけー」

 

そう叫ぶ飯田。

すると、そこへ全身包帯グルグル巻きの相澤が入ってくる。

 

「先生!?もう大丈夫なんですか!?」

 

「俺の安否はどうでも良い。何よりまだ戦いは終わってねぇ」

 

相澤の発言にクラスがざわつく。

まさかまたヴィランが……

 

「雄英体育祭が迫ってる」

 

「体育祭、クソ学校っぽいの来たぁぁ!!」

 

一転、歓喜の声で沸き立つ一同。

 

「待って待って、ヴィランに侵入されたばっかなのに大丈夫なんですか!?」

 

そんな発言も飛び出す。

 

「逆に開催することで雄英の危機管理体制が盤石だと示すって考えらしい。警備は例年の五倍に強化するそうだ。何より雄英の体育祭は最大のチャンス。ヴィランごときで中止していい催しじゃねぇ。ウチの体育祭は日本のビッグイベントの一つ。かつてはオリンピックがスポーツの祭典と呼ばれ全国が熱狂した。今は知っての通り規模も人口も縮小し形骸化した。そして、日本に於いて今、かつてのオリンピックに代わるのが雄英体育祭だ」

 

そう説明していく相澤。

 

「年に一回、計三回だけのチャンス。ヒーロー志すなら絶対に外せないイベントだ」

 

相澤は、1ーAの面々にそう伝えていった。

 

 

〜雄英高校会議室〜

 

「死柄木という名前、触れたモノを粉々にする個性。20〜30代の個性登録を洗ってみましたが、該当なしです」

 

塚内はヴィラン連合の調査結果を報告していた。

 

「ワープゲートの方、黒霧という者も同様です。無戸籍且つ偽名ですね。個性届を提出していない、いわゆる裏の人間。黒い仮面ライダーに至っては名前も不明。衛生省と幻夢コーポレーションの見解としては、流出した試作品をヴィランが悪用したのではないかとのことでした」

 

順にそう説明していく塚内。

 

「何もわかってねえって事だな。早くしねえと」

 

「死柄木という主犯の銃創が治ったら面倒だぞ」

 

教師陣はそう口々にする。

 

「主犯か……」

 

「何だい、オールマイト?」

 

オールマイトの呟きに気づいた校長が話を振る。

 

「思いついても普通行動に移そうとは思わぬ大胆な襲撃。用意は周到にされていたにも拘わらず、突然それっぽい暴論をまくしたてたり、自身の個性は明かさないわりに脳無とやらの個性を自慢気に話したり、そして思い通りに事が運ばないと露骨に気分が悪くなる」

 

「ふむ、対ヒーロー戦で個性不明というアドバンテージを放棄するのは愚かだね」

 

「もっともらしい稚拙な暴論。自分の所有物を自慢する。思い通りになると思っている単純な思考。襲撃決行も相まって見えてくる死柄木という人物像は幼児的万能感の抜け切らない子ども大人だ」

 

「力を持った子どもってわけか。で!?それが何か関係あんのか!?」

 

教師のひとりがそう問いかける。

 

「先日のUSJで検挙したヴィランの数72名。どれも路地裏に潜んでいるような小物ばかりでしたが、問題はそういう人間がその子ども大人に賛同し付いて来たということ。ヒーローが飽和した現代。抑圧されてきた悪意たちはそういう無邪気な邪悪に魅かれるのかもしれない」

 

塚内はそう語る。

 

「まァ、ヒーローのおかげで我々も地道な捜査に専念出来る。捜査網を拡大し引き続き犯人逮捕に尽力して参ります」

 

「子ども大人……逆に考えれば生徒らと同じだ。成長する余地がある。もし優秀な指導者でもついたりしていたら……」

 

校長はそう危機を感じていた。

 

 

〜昼休み〜

 

体育祭の話を聞き、1-Aのクラスの皆はノリノリになっていた。

 

出久は飯田からは兄『インゲニウム』への憧れの話、お茶子からはヒーローになってお金を稼ぎ、父母に楽をさせるといった話を、それぞれ聞いていた。

 

「ところで、デクくんは?やっぱりオールマイトへの憧れ?」

 

「もちろん、それもある。でも、もうひとつ大事なことがあって……」

 

「おお、緑谷少年!」

 

そこにやって来たのはオールマイト。

 

「ごはん一緒に食べよ?」

 

そう言ってお弁当を手に話しかけてきた。

 

〜別室〜

 

「50分前後!!?」

 

「ああ、私の活動限界時間だ。無茶が続いてね。マッスルフォームはギリギリ一時間半くらい維持出来るって感じ」

 

驚く出久へオールマイトはそう説明する。

 

「それより体育祭の話だ。ぶっちゃけ私が平和の象徴として立っていられる時間って実はそんなに長くない。悪意を蓄えている奴の中にそれに気付き始めている者がいる」

 

オールマイトはどこか歯がゆそうに拳を握り締める。

 

「君に力を授けたのは、私を継いで欲しいからだ。体育祭、全国が注目しているビッグイベント」

 

オールマイトはそう言うと、まっすぐと出久を見つめる。

 

「今こうして話しているのは他でもない。次世代のオールマイト、象徴の卵。君が来たってことを、世の中に知らしめてほしい」

 

 

〜幻夢コーポレーション 社長室〜

 

「期は熟した……」

 

檀黎斗のデスクの上に置かれているのは3つのゲーマドライバー。

 

そして、新たなガシャット。

 

『タドルクエスト』

 

『バンバンシューティング』

 

『爆走バイク』

 

「ついにnext stageだな」

 

それぞれの思惑を胸に、新たなステージが始まろうとしていた。

 

 

 

 




【デクの現在所持ガシャット】
 ・マイティアクションX
 ・ゲキトツロボッツ
 ・シャカリキスポーツ


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お詫び

エタらない宣言しながらエタってしまいました。
すみません。


諸事情により、続きは投稿できませんが、考えていた案の一部を列挙して供養します。

 

…体育祭

出久は心操に洗脳されるがパラドの人格が身体を制御して勝利する

パラドに人格が切り替わっていることにお茶子だけ気づく

お茶子の説得+爆豪戦を経て出久の人格が復帰

檀黎斗がドラゴナイトハンターガシャットを出久へプレゼントする

轟戦は出久の反則負け

(全力を出すと約束してドラゴナイトハンターを使った結果、暴走して自滅)

入賞景品はゲーマドライバーとガシャット

仮面ライダーブレイブ→轟

仮面ライダースナイプ→爆豪

仮面ライダーレーザー→常闇→飯田(ステイン戦で譲渡)

 

・職場体験

エグゼイドLv5(共闘)

スナイプ&ブレイブ&レーザー参戦によりドラゴナイトハンター暴走せず

脳無が檀黎斗によって強化されているので原作よりハードモード

ゲンムLv10乱入するもステインの返り討ち

黎斗正体バレするも死のデータ入手

仮面ライダーの力は個性ではないのでステイン戦のお咎めは原作よりも軽め

 

・劇場版

メリッサは個性とバグスターに関する研究を進めてリプログラミングガシャットを試作していた

・リプログラミングプロトガシャット「マイティパーティX」(マリオパーティ系のゲーム)を使って皆の個性を増強して勝利

 

…林間合宿

ショッピングモールで死柄木から黒いデュアルガシャットを貰う出久

マスキュラー戦でマイティアクションXXが覚醒

「コンティニューしてでも君を守る!」

死柄木パラドクス参戦

 

・爆豪救出後

AFO不在でゲンムが暴走

ゲンムLvXがガシャット狩り開始

「緑谷出久ぅー!……」

メリッサの力を借りてエグゼイドLv99へ

黎斗ゲームオーバー

 

…ヴィランvs異能解放軍

死柄木パラドクスLv100覚醒

 

※冬休みインターン終了後の辺りで新檀黎斗が仲間になる

 

・最終章

仮面ライダークロニクルによる混沌

一般人もライドプレイヤーになって戦えるがゲームオーバーになると個性強制剥奪

奪われた個性は全てAFOの下に自動転送

死柄木パラドクスとAFOクロノスがヴィランたちを率いる

 

…クライマックス

ホッピーから教わったレベル1のバグスター分離能力を使って死柄木からAFOを分離する

 

・最終決戦

AFOクロノスのリセットにより世界の時間が1話まで戻る

仮面ライダー変身経験者だけがリセット前の記憶を残す中、ヘドロヴィラン戦前の出久をAFOが強襲

貧弱な装備で戦わざるを得ない出久たちの元に現れるのは原作エグゼイドライダー勢

 

…エピローグ

決着の末に永夢から出久へ語られるこの世界の真実

ダブル主人公の交流によって物語は幕を閉じる

 




エタらせてしまって本当にごめんなさい。


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