伝説の魔物使いも箱庭に来るそうですよ? (60067)
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プロローグ

いつ天×ハイスクールD×Dのクロス作品も手掛けている這い寄る劣等感どぅえーす。

こ、この作品は息抜きじゃなくて本当に書きたいから書いてるんだからね!か、勘違いしないでよね!


「そうか。ご苦労様。もう下がってていいよ」

 

「はっ!」

 

 

とある兵士の報告を聞き、その兵士を下がらせて完全に見えなくなったところで玉座に凭れかかる。

彼はかなり気が滅入っていた。こんなことなら息子とか娘とか魔物たちと遊んでいる方がまだ気楽だった。

 

 

「王よ。そのような格好をしなさるな。あなたは国民に示しをつけなければいけない存在なのですぞ」

 

「そうは言ってもね、オジロン叔父さん。今の今まで旅をしてきた僕に王なんて向いてないと思うんだ」

 

「むぅ、それでもリュカよ。お主は我が兄、パパスの息子なのだぞ?確かにお前は幼き頃より兄に連れられていたから、王族としての勉学をやっていないとはいえやはり王族の責務が発生してだな……」

 

「今回は叔父さんじゃなくて大臣だって注意しないんだね。その方が気楽でいいけど」

 

 

玉座の隣に立ち彼に話しかける男の名はオジロン。

彼の叔父にあたり、尚且つこの国の大臣の職である男だ。

 

 

「そもそもお主がキチンとした手順さえ踏めば誰でも王に謁見できる機会を作ったから忙しいのではないか?それさえなければまだ今よりかは気楽なはずなのだが」

 

「うっ……。そこを突かれると痛いな。やっぱり旅人だとか旅商の人の話は面白いからね。昔……と言ってもそこまで昔じゃないけど、僕自身が世界を巡った事を思い出すんだ。しかも僕の肩書きのお陰で僕と謁見したいという人はかなりいるしね」

 

「お主の肩書き……グランバニアの国王だけでなく、勇者の父親、勇者とともに魔王を退けた傑物。そして伝説の魔物使い、か」

 

「まだ生きているから伝説はちょっとおかしいと思うけどね」

 

 

そう、彼は勇者の父親で魔王を退けた傑物で伝説の魔物使いなのだ。

そんな彼に会いたいと思う人物はかなりおり、そのせいで一日の大半を謁見に取られているのだ。

手順がただ申請をして順番を待つだけ、といった簡易すぎるのも原因だ。

 

 

「しかしこのグランバニアはお主の力のお陰で唯一魔物と共存できている国といった評判も名高い。魔物のイメージは凶暴で人とは相容れないモノといった固定観念があるからな」

 

「そんなことはないのなぁ。魔物も結局は人間と同じで食べて寝て身を守る為に戦う。時折人を殺すこと自体に快感を覚える類もいるけど、それだって人間にもいるしね」

 

「そんな考えを持てること自体が凄いのだ。固定観念を覆すのは容易なことではないのだぞ?しかもそれをまだ齢18のお主が言うのだからな」

 

「本当の年齢は26歳だけどね。確かに肉体的には18歳なんだよな」

 

 

それ以外にも彼は現存する国の中で最も若い王としても知られている。

本来の年齢ならば一番若いのはラインハットのデール王になるが、彼にはある事情がありその結果本来の年齢より8歳も若いということになったのだ。

 

 

「王様ー王様ー。王様宛に手紙が届いてますよー」

 

 

その時に一人の青年が自国の王に対する敬意も感じられないような口調で近寄ってくる。

彼の名はピピンと言い、王を直接守護する親衛隊の一人でもあるのだ。

 

 

「僕に手紙?ヘンリーかな。それとも他の国の王?」

 

「いえ、それが差出人の名が書いていないのです。ですが宛名は王様となっておりますのでこうして持ってきた次第です」

 

「もしそれに呪文的な仕掛けが施されていたらどうするのだ!王を守る親衛隊がそのザマで何とする!」

 

「落ち着いてオジロン叔父さん。ピピン。この手紙には呪文的な要素は一切検知されなかったんだよね?」

 

「それは何度も確認しましたから。中身まで検分するのは流石に出過ぎた真似かと思い。これが荷物ならまた話は別なのですけどね」

 

「それならいいでしょう、叔父さん?呪文的な要素があるなら話は変わってくるけど、そうじゃないのなら読んでもいいはずだよ。えーっと……」

 

 

彼は手紙に付いている封蝋を剥がし、中にある手紙を読む。

 

 

『悩み多し異才を持つ少年少女に告げる。

その才能を試すことを望むのならば、

己の家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨て、

我らの“箱庭”に来られたし』

 

 

それを読み終えた瞬間、彼の体を光が包み、彼はその場からいなくなっていた。

 

 

「リ、リュカ……?」

 

 

その場には大臣の呆然とした声だけが虚しく響いた。

 

 

 

 

 

所変わって上空4000mほどの場所に飛ばされてしまった。

彼は驚きつつも周りを見回せば他にも三人いるらしい。

彼らの共通点はこう思ったこと。

 

 

「ど………何処だここ⁉︎」

 

 

視線の先に広がる地平線は、世界の果てを彷彿とさせる断崖絶壁。

眼下に見えるのは、縮尺を見間違うほど巨大な天幕に覆われた未知の都市。

彼らの前に広がる世界はーーーー完全無欠に異世界だった。




投稿完了!

この作品は書きたいことには書きたいけどって感じでお送りします。
とどのつまりは不定期更新だね!
あくまでメインはいつ天だから!

あっちの方では次話の名前だけは言ってたけどこっちでは言いません。正直思いつかない。
だから簡単な形になりますね。自己紹介とかそんな感じ。


もしこれが原因でいつ天の方が遅れることがあったら多分それはディケイドのせいです。

おのれディケイド!


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自己紹介、及び箱庭の説明

二話目だ二話目だ追い鰹ー。

課題って怠いよね。這い寄る劣等感です。
あんなもんがあるから世の学生達は気儘に生きられないんや……!

それはそうとどぞー。


上空4000mに突如として飛ばされた四人と猫一匹は重力に従うまま、落ちていく。

落下地点と思わしき場所には緩衝材のような薄い水膜が幾重にもあり、それが衝撃を吸収し彼らは湖に投げ出された。

ポチャンと着水。水膜で勢いが衰えていたため、四人は無傷だが、耀とともに落ちてきた三毛猫はそうもいかない。慌てて耀が抱きかかえ、水面に引っ張り上げる。

 

 

「し、信じられないわ!まさか問答無用で引き摺り込んだ挙句、空に放り出すなんて!」

 

「右に同じだクソッタレ。場合によっちゃその場でゲームオーバーだぜコレ。石の中に呼び出された方がまだ親切だ」

 

「…………。いえ、石の中に呼び出されては動けないでしょう?」

 

「俺は問題ない」

 

「そう。身勝手ね」

 

 

二人の男女は互いに罵詈雑言を言った後に鼻をフンと鳴らし服の橋を絞る。

その後ろに続く形で耀が岸に上がり、同じように服を絞る。

 

 

「服が濡れてしまったな。乾かさないと……」

 

 

そんな中でも一人だけ引き摺り込まれたことにしても服が濡れたことにしても何も言わずにそそくさと服を脱ぎ出した。

彼の頭の中にあるのは風邪を引いてはいけないといいった気持ちだけだった。

 

 

「此処…………何処だろう?」

 

「さあな。まあ、世界の果てっぽいのが見えたし、何処ぞの大亀の背中じゃねえか?」

 

 

耀の呟きに十六夜が応える。何にせよ、彼らが知らない場所であるというのは事実だった。

 

 

「まず間違いないだろうけど、一応確認しとくぞ。もしかしてお前達にも変な手紙が?」

 

「そうだけど、まずは“オマエ”って呼び方を訂正して。ーーーー私は久遠飛鳥よ。以後は気を付けて。それで、そこの猫を抱きかかえている貴女は?」

 

「…………春日部耀。以下同文」

 

「そう。よろしく春日部さん。そこの野蛮で凶暴そうな貴方は?」

 

「高圧的な自己紹介をありがとよ。見たまんま野蛮で凶暴な逆廻十六夜です。粗野で凶悪で快楽主義と三拍子揃った駄目人間なので、用法と容量を守った上で適切な態度で接してくれお嬢様」

 

「そう。取扱説明書をくれたら考えてあげるわ、十六夜くん。最後にそこの…………って、あ、貴方は何をしているのよ⁉︎」

 

 

飛鳥ぎ最後にリュカの自己紹介を訊こうとそちらを向いたら彼女の頬は朱に染まった。

何故なら彼は下着を残してほぼ全裸だったからだ。

今まで温室育ちなお嬢様である飛鳥にはとても強い刺激だった。

 

 

「……ん?あぁ、僕かい?僕の名前はリュカ・グランバニア。本当はもっと長いけど、気にせずにリュカって呼んでくれ」

 

「そ、そう。よ、よろしくね、リュカくん」

 

 

上半身は完全に剥き出しになっているリュカをチラチラ見ながら挨拶をする飛鳥。

一方、十六夜はリュカの身体を冷静に観察していた。

 

 

(……へぇ)

 

 

服を着ていてーーーー服と言ってもボロ布当然だったがーーーーわからなかったが、リュカの身体は細身ながらかなり筋肉質だ。

それも全体的に筋肉がついている。全身余さずに均等に筋トレをしたか、或いは実戦を何度もこなしたか。

外人風の名前から前者だと最初は考えるが、それにしては着ている服があまりにもボロい。故に十六夜は彼は後者の人物だと判断した。

 

 

(幸先がいいな。俺と同じく呼び出された奴の中に俺じゃ経験出来なかった戦いを何度もこなしている奴がいるなんてな。後で喧嘩ふっかけてみるか?)

 

 

と、傍迷惑なことを考えていた。

そんなことに気付かずにリュカは自分の身体に起きたことに不思議に感じていた。

確証はないが、確信はある。そんな感じが自分からする。

確信がその通りなら今の自分には使えるはずだ。

 

 

「……メラ!」

 

 

そう彼が言うと彼の掌から小さな火の玉が放たれる。それは地面に着弾し、そこにある草を燃やし小さな焚き火となる。

彼の中の確信が確証に変わる。何故かは知らないが今まで使えなかった呪文が使えるようになっている。だが彼が抱いたのはこれは便利だということだ。

現にこうして焚き火が出来るのだから服を乾かすにはもってこいだ。彼が使えるバギ系呪文ではそうはいかなかっただろう。

 

 

「凄いわね、リュカくん。手から火の玉を出せるなんて」

 

「え?クドーは出来ないのかい?」

 

「クドーってなんで苗字……そう言えば外国の人は名前が前に来ると聞いたことがあるわね。いい、リュカくん?私は貴方たち風に言うのならアスカ・クドウよ。あっちの猫を抱きかかえている女の子がヨウ・カスカベでそっちの凶暴そうなのがイザヨイ・サカマキね」

 

「そうなのか。君たちの国では苗字が前になるんだね。あっ、そうそう。皆も服を乾かしなよ。このままだと風邪を引くよ」

 

「そう。ならお言葉に甘えるわ」

 

 

飛鳥の言葉を皮切りに十六夜に耀も焚き火の近くに寄る。

そんな彼らを物陰から見ていた黒ウサギは思う。

 

 

(うわぁ…………一人を除いて問題児ばっかりですねえ…………)

 

 

召喚しておいてアレだが…………一人を除き彼らが協力する姿は客観的に想像もつかなかった。黒ウサギは陰鬱そうに重くため息を吐くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「で、呼び出されたはいいとしてなんで誰もいねえんだよ。この状況だと、招待状に書かれていた箱庭とかいうものの説明をする人間が現れるもんじゃねえのか?」

 

「そうね。なんの説明もないままでは動きようがないもの」

 

「…………。この状況に対して落ち着き過ぎているのもどうかと思うけど」

 

 

問題児三人が三者三様の罵詈雑言を浴びせている様を見て黒ウサギは怖気づきそうになるが、此処は我慢と思った瞬間声がかけられる。

 

 

「君は何をしているんだい?」

 

「フギャ!」

 

 

突然声をかけられて驚いた黒ウサギはその場で跳び上がる。まさか場所が気付かれているとは思わなかったのだ。

 

 

「なんだ、リュカくんも気付いてたのね」

 

「と言うと、君達も?僕が最初に魔物にかけられる視線と同様なものを感じたからね」

 

「…………へえ?面白いなお前」

 

 

軽薄そうに笑う十六夜だがその目は笑っていなかった。リュカ以外の三人は冷ややかな視線を黒ウサギに向ける。その視線に黒ウサギはやや怯んだ。

 

 

「や、やだなあ御四人様。そんな狼みたいに怖い顔で見られると黒ウサギは死んじゃいますよ?ええ、ええ、古来より孤独と狼はウサギの天敵でございます。そんな黒ウサギの脆弱な心臓に免じてここは一つ穏便に御話を聞いていただけたら嬉しいでございますヨ?」

 

「断る」

 

「却下」

 

「お断りします」

 

「いいよ」

 

 

「あっば、取りつくシマもないですね♪それと最後の方はありがとうございます」

 

 

バンザーイ、と降参のポーズをする黒ウサギ。

しかしその眼は冷静に四人を値踏みしていた。

 

 

(最後の方以外肝っ玉は及第点ですね。この状況でNOと言える勝ち気は買いです。最後の方はよくわかりませんね。しかし、とても澄んだ眼をしていらっしゃいます。間違いなく、この三人より扱いやすいでしょう)

 

 

黒ウサギはおどけつつも、四人とどう接するべきかを冷静に考えを張り巡らせているーーーーと、春日部耀が不思議そうに黒ウサギの隣に立ち、黒いウサ耳を根っこから鷲掴み、

 

 

「えい」

 

「フギャ!」

 

 

力いっぱい引っ張った。

 

 

「ちょ、ちょっとお待ちを!触るまでなら黙って受け入れますが、まさか初対面で遠慮無用に黒ウサギの素敵耳を引き抜きに掛かるとは、どういう了見ですか⁉︎」

 

「好奇心の為せる業」

 

「自由にも程があります!」

 

「へえ?このウサ耳って本物なのか?」

 

 

今度は十六夜が右から掴んで引っ張る。

 

 

「…………。じゃあ私も」

 

「ちょ、ちょっと待ーーーー!」

 

 

今度は飛鳥が左から。左右に力いっぱい引っ張られた黒ウサギは、言葉にならない悲鳴を上げ、その絶叫は近隣に木霊した。

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーーあ、あり得ない。あり得ないのですよ。まさか話を聞いてもらうために小一時間も消費してしまうとは。学級崩壊とはきっとこのような状況を言うに違いないのデス。それにリュカさんはなんで助けてくれなかったのですか!」

 

「子供たちを見ている気分だったからね。ホンワカしたよ」

 

 

子供?と黒ウサギは疑問に思うが、今この時はこの世界についての説明をしなくてはならないと思い、語り出した。

 

 

「それではいいですか、御四人様。定例文で言いますよ?言いますよ?さあ、言います!ようこそ、“箱庭の世界”へ!我々は御四人様にギフトを与えられた者達だけが参加できる『ギフトゲーム』の参加資格をプレゼンさせていただこうかと召喚いたしました!」

 

「ギフトゲーム?」

 

「そうです!既に気付いていらっしゃるでしょうが、御四人様は皆、普通の人間ではございません!その特異な力は様々な修羅神仏から、悪魔から、精霊から、星から与えられた恩恵でございます。『ギフトゲーム』はその“恩恵”を用いて競い合うゲーム。そしてこの箱庭の世界は強大な力を持つギフト保持者がオモシロオカシク生活できる為に作られたステージなのでございますよ!」

 

 

両手を広げてアピールする黒ウサギ。飛鳥は質問するために挙手をした。

 

 

「まず初歩的な質問からしていい?貴女の言う“我々”とは貴女を含めた誰かなの?」

 

「YES!異世界から呼び出されたギフト保持者は箱庭で生活するにあたって、数多とある“コミュニティ”に必ず属していただきます♪」

 

「嫌だね」

 

「属していただきます!そして『ギフトゲーム』の勝者はゲームの“主催者”が提示した賞品をゲットできるというとってもシンプルな構造となっております」

 

「…………。“主催者”って誰?」

 

「様々ですね。暇を持て余した修羅神仏が人を試すための試練と称して開催されるゲームもあれば、コミュニティの力を誇示するために独自開催するグループもございます。特徴として、前者は自由参加が多いですが、“主催者”が修羅神仏なだけあって凶悪かつ難解なものが多く、命の危険もあるでしょう。しかし、見返りは大きいです。“主催者”次第ですが、新たな“恩恵”を手にすることも夢ではありません。後者は参加のためにチップを用意する必要があります。参加者が敗退すればそれらはすべて“主催者”のコミュニティに寄贈されるシステムです」

 

「後者は結構俗物ね…………チップには何を?」

 

「それも様々ですね。金品・土地・利権・名誉・人間…………そしてギフトを賭けあうことも可能です。新たな才能を他人から奪えばより高度なギフトゲームに挑む事も可能でしょう。ただし、ギフトを賭けた戦いに負ければ当然ーーーーご自身の才能が失われるのであしからず」

 

 

黒ウサギは愛嬌たっぷりの笑顔に黒い影を見せる。

挑発ともとれるその笑顔に、同じく挑発的な声音で飛鳥がと問う。

 

 

「そう、なら最後にもう一つだけ質問させてもらってもいいかしら」

 

「どうぞどうぞ♪」

 

「ゲームそのものはどうやったら始められるの?」

 

「コミュニティ同士のゲームを除けば、それぞれの期日内に登録していただければOK!商店街でも商店が小規模のゲームを開催しているのでよかったら参加していってくださいな」

 

「…………つまり『ギフトゲーム』とはこの世界の法そのもの、と考えてもいいのかしら?」

 

 

お?と驚く黒ウサギ。

 

 

「ふふん?中々鋭いですね。しかしそれは八割正解の二割間違いです。我々の世界でも窃盗は禁止ですし、金品による物々交換も存在します。ギフトを用いた犯罪などもってのほか!そんな不逞な輩は悉く処罰しますーーーーが、しかし!『ギフトゲーム』の本質は全く逆!一方の勝者だけが全てを手にするシステムです。店頭に置かれている賞品も、店側が提示したゲームをクリアすればタダで手にすることも可能と言うことですね」

 

「次は僕が質問していいかな?ーーーーこの世界からはどうやったら帰れるんだい?」

 

 

黒ウサギの笑顔がピシリと固まる。流石にこの事態を想像していなかったのだ。

あの手紙を受け取った以上、少なからず捨てる覚悟は出来ているものだと考えていた。が、どうやら彼は違うらしい。

 

 

「えーっと………帰る方法…………ですか。流石にそれは難しいですね。一度こちらに呼び出された以上、それ相応の実力だとかを示さないといけませんから」

 

「それはつまり帰る方法はあるけど帰らせる気はさらさらない、ってことかな?それ相応の実力だなんて、どんな方法で示すのか、どこで示すのか、いつ示すのか誰に示すのか、それら全てをぼかしている以上、そもそも知らないか帰らせたくないかのどちらかしかない。だけど僕はここに呼び出されたのなら帰る方法はあると思っている。その上で訊くね。ーーーー帰らせる気はないんだね?」

 

 

黒ウサギの顔が引き攣る。

マイペースな行動から彼が頭を働かせるということが想像できなかったのだ。故に今この場において黒ウサギは彼に対する返答を持ち合わせていない。

そんな黒ウサギに彼は容赦なく次の質問、と言うよりは確信に近い疑問をぶつける。

 

 

「じゃあ次に何故僕達が呼ばれたかだけど黒ウサギはオモシロオカシク生活できると言っていたから僕達にもそういう風に生活してもらいたいという善意から呼んだと考えていたけど多分違うよね。さっきのコミュニティだっけ?黒ウサギも属しているはずだよね。僕の予想で悪いけどかなり崖っぷちなんじゃないかな、そのコミュニティ。何らかの理由で衰退したコミュニティを再び復興させる為の戦力の増強要員として僕らを呼んだ。違う?」

 

 

今度こそ黒ウサギは悟った。

この青年は賢い。一の言葉から十の全容がわかる人物だ。

だから黒ウサギは諦めた。口ではおそらく敵わない。ならば素直に話す方が吉だろうと考えた。

 

 

「確かにその通りです…………が、どうしてバレました?そのような事一言も言っていない気がするのですが」

 

「必ずコミュニティに属する辺りかな。イザヨイが否定したのに対して君は過剰ともとれるほどの反応を見せていた。だからそうなんじゃないかなって考えたんだ」

 

「そうですか。たったそれだけの事で…………。いいでしょう。精々オモシロオカシク聞こえるように我がコミュニティの内情を話します」

 

 

そうして黒ウサギから語られたのは彼女の属しているコミュニティがいかに凄惨な状況になっているかだった。

名を取られ旗を取られ仲間も取られてもう何も残っていないを形容するに相応しい状況であった。

そしてそれを起こしたのがーーーーーーーー魔王。

その言葉を聞いた時にリュカの顔が強張った。

 

 

「…………魔王?その存在が黒ウサギのコミュニティをどうにかしたとそう言うんだね?」

 

「え、ええ。多分、リュカさんが思い描いている魔王とは差異があるかと思いますが」

 

「いや、そうかもしれないけど別にどうでもいいんだ、そこは。魔王、魔王かぁ。うん、わかった。僕はコミュニティの復興に協力するよ。だけど家族には誤魔化さないといけないよなぁ」

 

「えっ⁉︎本当でございますか⁉︎ありがとうございます!しかし、どうやって連絡を取るのです?」

 

「ああ、それだけどここに来た時に幾つか違和感を感じているからその内の一つを消化する形かな」

 

 

リュカの返答に黒ウサギはキョトンと首を傾げる。

対してリュカはまたもや確信めいた何かを感じ、それを実行に移す。

彼が手を横に翳すと、翳された地面には魔方陣が広がり、そこから見た目はドロドロとした赤い色をした何かが現れた。

 

 

「本当に出来るとは思わなかったけど上手くいったな。いいかい?ジェリー。僕にモシャスして面会者には君が上手く応対してくれ。あとはオジロン叔父さんとビアンカ、ティミーにポピー、それに親衛隊の中でもピピンにはこの事を伝えておいてくれ」

 

 

そう彼が不定形のドロドロの何かに言うと、それは頷いたように上下に動き、煙に包まれる。

煙が収まった時に立っていたのはリュカその人だった。ドロドロの何かが変身したリュカは再び魔方陣に乗りこの場から消えた。

 

 

「…………今のは何?」

 

 

リュカに耀が質問する。その瞳はキラキラと輝いていた。余程知りたくてたまらないのだろう。

 

 

「僕がいたとこに生息しているジェリーマンって魔物でね。モシャスっていう変化の呪文を使えるんだ。で、僕に変化させて送り返した」

 

「…………他にもまだいる?」

 

「魔物が、という意味ならまだまだいるよ。でも後でね」

 

 

とリュカと耀がほのぼのと会話をしていた時に黒ウサギは驚いていた。

 

 

(魔物を使役⁉︎まさか、あり得ないのですよ!魔物を使役することが出来るなんてそれこそ魔王じゃないですか!)

 

 

この事は大変な事実だ。どうせギフトを鑑定させに行くのだからあの人に知らせておいた方がいいのかもしれない。この事が知られたのなら冗談でなくリュカが討伐される可能性さえあるのだ。

 

 

「さて、話はまとまったことだし、俺からもいいか?ーーーーーーーーこの世界は面白いか?」

 

 

最後まで質問をしていなかった十六夜が質問する。

それは手紙に書いてあった内容に見合うだけの催しがここであるのかを問う質問だ。

リュカはともかくとして飛鳥と耀もそれは気になっていたのだ。

黒ウサギは頭の中に浮かんだ嫌な考えを押し殺し、言う。

 

 

「ーーーーYES。『ギフトゲーム』は人を超えた者たちだけが参加できる神魔の遊戯。箱庭の世界は外界より格段に面白いと、黒ウサギは保証いたします♪」




リュカさんが気付いたのが無理矢理すぎると感じる今日この頃。気にしない方向で進めて行きます。


今回の相違点はジェリーマンを仲間にしていること、そしてジェリーマンのモシャスは魔物にしか変われないはずなのに人間にも変われていることです。
まぁ、あれですよ。リュカさんが育てた魔物達はすべからく強力になってるんですよ!


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哀れ、ガルド

只今テスト期間中どころかテスト当日なのね。

つまり私が赤点を取ることになったら全て読者の責任に出来るってことだ!(擦り付け)


10%冗談は置いといてドゾー


「ジン坊っちゃーン!新しい方を連れてきましたよー!」

 

 

箱庭の二一0五三八0外門のペリベッド通り・噴水広場前にて黒ウサギはそこで待ち合わせをしている仲間の元に問題児(一名除く)を連れてやってきた。

待ち合わせをしていた少年は身体と不釣り合いなダボダボなローブを着込んでいた。名前はジンと言うらしい。

 

 

「お帰り、黒ウサギ。そちらの男性一人と、女性二人が?」

 

「はいな、こちらの御四人様がーーーー」

 

 

クルリと振り返りカチンと固まる黒ウサギ。

 

 

「…………え、あれ?もう一人いませんでしたっけ?ちょっと目つきが悪くて、かなり口が悪くて、全身から“俺問題児!”ってオーラを放っている殿方が」

 

「ああ、十六夜君のこと?彼なら“ちょっと世界の果てを見てくるぜ!”と言って駆け出して行ったわ。あっちの方に」

 

 

あっちの方に。と指をさすのは上空4000mから見えた断崖絶壁。

街道の真ん中で呆然となった黒ウサギは、ウサ耳を逆立てて二人に問いただす。

 

 

「な、なんで止めてくれなかったんですか!」

 

「“止めてくれるなよ”と言われたもの」

 

「ならどうして黒ウサギに教えてくれなかったのですか⁉︎」

 

「“黒ウサギには言うなよ”と言われたから」

 

「嘘です、絶対嘘です!実は面倒くさかっただけでしょう御二人さん!」

 

「「うん」」

 

 

ガクリと前のめりに倒れる。それからサッと立ち上がり今度はリュカに食ってかかる。

 

 

「リュカさんもなんで止めてくれなかったんですか!」

 

「特に何も言われてないけど子供達を見ている気分になったからかな」

 

「ちくしょう!リュカさんは問題児で荒んでしまった黒ウサギの心を癒す唯一のオアシスだと思っていましたのに!」

 

 

リュカはリュカでやはり問題児だった。主にマイペースという意味で。

 

 

「た、大変です!“世界の果て”にはギフトゲームのために野放しにされている幻獣が」

 

「幻獣?」

 

「は、はい。ギフトを持った獣を指す言葉で、特に“世界の果て”付近には強力なギフトを持ったものがいます。出くわせば最後、とても人間では太刀打ち出来ません!それに加えて魔物の存在だってあるのに!」

 

「魔物だって?」

 

「魔物はギフトこそ持たないものの幻獣にさえ匹敵する能力を持ち合わせているものです。ですがこれはピンキリでギフトを持たない人間でもあっさり倒せるような魔物もいれば、ギフトを持った人間数人でも倒せないような強力なものまでいます。“世界の果て”にいるのは様々ですが、やはり強力なものに出くわしたら人間では太刀打ち出来ません!」

 

「え?でもリュカ君意のままに従えていたわよ?」

 

「な、何ですって⁉︎そんな事はあり得ません!魔物を従えられるのはそれこそ魔おーーーー」

 

「ジ、ジン坊ちゃん!私が一刻程で連れ戻してきますので御三人様を案内しておいてください!」

 

 

ジンが何かを言おうとしたのを黒ウサギが大声を立てて遮る。

リュカも飛鳥も耀も訝しみこそしたが、特に気に留めることでもないと判断し何も言わなかった。

その間に黒ウサギは艶のある黒い髪を淡い緋色に染め上げる。そのまま外門目掛けて空中高く跳び上がった黒ウサギは外門の脇にあった彫像を次々と駆け上がり、外門の柱に水平に張り付くとそこから一気に跳躍しあっという間に四人の視界から消え去った。

 

 

「…………。箱庭の兎は随分速く跳べるのね。素直に感心するわ」

 

「ウ、ウサギ達は箱庭の創始者の眷属ですので。力もそうですが、様々なギフトの他に特殊な権限も持ち合わせた貴種です。彼女なら余程の幻獣か或いは魔物と出くわさない限り大丈夫だと思うのですが…………」

 

 

そう、と飛鳥は空返事をする。飛鳥は心配そうにしているジンに向き直り

 

 

「黒ウサギも行ったことだし、黒ウサギの言葉通り貴方にエスコートしてもらうわよ?」

 

「え、あ、はい。コミュニティのリーダーをしているジン・ラッセルです。齢十一になったばかりの若輩ですがよろしくお願いします。三人の名前は?」

 

「久遠飛鳥よ。そこで猫を抱えているのが」

 

「春日部耀。そこのボロ布を着ているのが」

 

「リュカ・グランバニアだ。それよりもボロ布は酷くない?その通りだけど」

 

 

ジンが礼儀正しく自己紹介し、飛鳥と耀とリュカはそれに倣って一礼した。

 

 

「さ、それじゃあ箱庭に入りましょう。まずはそうね。軽い食事でもしながら話を聞かせてくれると嬉しいわ」

 

 

飛鳥はジンの手を取ると、胸を躍らせるような笑顔で箱庭の外門をくぐるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー箱庭ニ一0五三八0外門・内壁。

飛鳥、耀、リュカ、ジン、三毛猫の四人と一匹は石造りの道路を通って箱庭の幕下に出る。パッと四人と一匹の頭上に眩しい光が降り注いだ。遠くに聳える巨大な建造物と空覆う天幕を眺め

 

 

『お、お嬢!外から天幕の中に入ったはずなのに、御天道様が見えとるで!』

 

「…………本当だ。外から見た時は箱庭の内側なんて見えなかったのに」

 

 

都市を覆う天幕を上空から見た時、彼らに箱庭の街並みは見えていなかった。だと言うのに都市の空には太陽が姿を現している。天高く積み上げられた巨大な都市を見て首を傾げた。

 

 

「箱庭を覆う天幕は内側に入ると不可視になるんですよ。そもそもあの巨大な天幕は太陽の光を直接受けられない種族のために設置されていますから」

 

「それはなんとも気になる話ね。この都市には吸血鬼でも住んでいるのかしら?」

 

「え、いますけど」

 

「…………。そう」

 

「…………吸血鬼。聞いた事ないけどドラキーみたいなものかな?だとしたら是非とも仲間にしたい」

 

「リュカくんは何を言っているのよ」

 

 

吸血鬼がいるという話を聞き複雑そうな顔をして、リュカの謎な物言いに突っ込む久遠飛鳥。

三毛猫は耀の腕からスルリと下りると、感心したように噴水広場を見回す。

 

 

『しかしあれやなあ。ワシが知っとる人里とはえらい空気が違う場所や。まるで山奥の朝霧が晴れた時のような澄み具合や。ほら、あの噴水の彫像も立派な造りやで!お嬢の親父さんが見たらさぞ喜んだやろうなあ』

 

「うん、そうだね」

 

「あら、何か言った?」

 

「…………。別に」

 

「猫とでも話していたのかい?」

 

 

リュカの一言に耀は目を見開く。と同時に三毛猫の方も驚いたような顔をした。

 

 

「…………どうしてわかったの?」

 

「うん、僕と同じような気がしたから。あ、僕が動物と会話できるとかそんなんじゃないからね」

 

 

このとき彼が感じたのは自分と耀の共通点などではなく周りの視線の奇特さ。

耀は動物と話せる。しかし傍から見れば動物に対して独り言を呟いている痛い子だ。それと同様にリュカは魔物と話せる。いや、正確には魔物の方が人間の言語を理解し話すことが出来る。だが魔物には偏見が抱かれており、先程のジンの話から察せられる通り野蛮なものと認識されてしまっているのだ。更に言えばそもそも発声器官が存在しない魔物もいるため、よりその考えを助長してしまっている故にそんな魔物と話せるなんてあり得ないと言うこととなり、結果奇特な視線で見られると言う共通点ができたのだ。

 

 

「あら、素敵な力じゃない。動物と話せるなんて少なくとも私のよりはずっとマシだわ」

 

 

飛鳥は耀の能力を聞き自嘲気味に笑う。その後自嘲気味な笑いを押し殺しジンに聞く。

 

 

「お勧めの店はあるのかしら?」

 

「す、すいません。段取りは黒ウサギに任せていたので…………よかったらお好きな店を選んでください」

 

「それは太っ腹なことね」

 

 

四人と一匹は身近にあった“六本傷”の旗を掲げるカフェテラスに座る。

注文を取るために店の奥から素早く猫耳の少女が飛び出てきた。

 

 

「いらっしゃいませー。御注文はどうしますか?」

 

「えーと、紅茶を二つと緑茶を一つ。あと軽食にコレとコレと」

 

『ネコマンマを!』

 

「どうしよう知らない料理だらけだ。だがそれがいい!全部頼みたいが懐事情的に無理だろうしラーメン?で」

 

「はいはーい。ティーセット三つにネコマンマにラーメンですね」

 

「猫の耳してたからもしかしたらと思ったけど猫の言葉わかるんだね」

 

「そりゃわかりますよー私は猫族なんですから。お歳のわりに随分と綺麗な毛並みの旦那さんですし、ここはちょっぴりサービスさせてもらいますよー」

 

『ねーちゃんも可愛い猫耳に鉤尻尾やな。今度機会があったら甘噛みしに行くわ』

 

「やだもーお客さんったらお上手なんだから♪」

 

 

猫耳娘は尻尾をフリフリと揺らしながら店内に戻る。

 

 

「…………箱庭ってすごいね、三毛猫。私以外に三毛猫の言葉が分かる人がいたよ」

 

「耀さんは猫以外にも意思疎通は可能なのですか?」

 

「うん。生きているなら誰とでも話は出来る」

 

「やっぱり素敵な力ね。じゃああそこで飛び交う野鳥とも会話が?」

 

「うん、きっと出来…………る?ええと、鳥で話したことがあるのは雀や鷺や不如帰ぐらいだけど…………ペンギンがいけたからきっとだいじょ」

 

「ペンギン⁉︎」

 

「う、うん。水族館て知り合った。他にもイルカ達とも友達」

 

「イルカは見たことあるけどペンギンは知らないなあ。鳥なんだよね?一応」

 

 

と和気藹々とした会話が広げられていたところに一人の闖入者が現れる。

 

 

「おんやぁ?誰かと思えば東区画の最底辺コミュ“名無しの権兵衛”のリーダー、ジン君じゃないですか。今日はオモリ役の黒ウサギは一緒じゃないんですか?」

 

 

品がない上品ぶった声がジンを呼ぶ。振り返ると、2mを超える巨体をピチピチのタキシードで包む変な男がいた。変な男は不覚にも…………ジンの知った者の声だ。

ジンは顔を顰めて男に返事をする。

 

 

「僕らのコミュニティは“ノーネーム”です。“フォレス・ガロ”のガルド・ガスパー」

 

「黙れ、この名無しめ。聞けば新しい人材を呼び寄せたらしいじゃないか。コミュニティの誇りである名と旗印を奪われてよくも未練がましくコミュニティを存続させるなどできたものだーーーーそう思わないかい、お嬢様方」

 

 

ガルドも呼ばれた巨躯のピチピチタキシードは四人が座るテーブルの空席に勢いよく腰を下ろした。飛鳥と耀とリュカに愛想笑いを向けるが、相手の失礼な態度に女性2人は冷ややかな態度で、リュカは観察するような面持ちで接する。

 

 

「失礼ですけど、同席を求めるならばまず氏名を名乗ったのちに一言添えるのが礼儀ではないかしら?」

 

「おっと失礼。私は箱庭上層に陣取るコミュニティ“六百六十六の獣”の傘下である「烏合の衆の」コミュニティのリーダーをしている、ってマテやゴラァ‼︎誰が烏合の衆だ小僧オォ!!!」

 

 

ジンに横槍を入れられたガルドの顔は怒鳴り声とともに激変する。口は耳元まで大きく裂け、肉食獣のような牙とギョロリと剥かれた瞳が激しい怒りを如実に現しその矛先がジンに向けられる。

 

 

「口を慎めや小僧ォ…………紳士で通っている俺にも聞き逃せねえ言葉はあるんだぜ…………?」

 

「森の守護者だったころの貴方なら相応に礼儀で返していたでしょうが、今の貴方はこの付近を荒らす獣にしか見えません」

 

「ハッ、そういう貴様は過去の栄華に縋る亡霊と変わらんだろうがッ。自分のコミュニティがどういう状況に置かれてんのか理解できてんのかい?」

 

「ハイ、二人とも落ち着こうか」

 

 

険悪な様子の二人を遮るように手を上げたのはリュカだった。

 

 

「事情まではわからないけど、君達の仲が悪いのはわかった。それを踏まえた上で何故僕たちのところに来たのですか、ガルド・ガスパー?」

 

 

リュカに訊かれた途端に我が意を得たりといった表情を浮かべるガルド。

 

 

「それはですね、ジェントルマン。彼が抱えるコミュニティの現状とコミュニティの重要性をお教えしようと思いまして」

 

「…………続けてください」

 

「承りました。まず、コミュニティとは読んで字の如く複数名で作られる組織の総称です。受け取り方は種によって違うでしょう。人間はその大小で家族とも組織とも国ともコミュニティを言い換えますし、幻獣は群れ“”とも言い換えられる」

 

「それぐらいわかるわ」

 

 

と、ここで飛鳥が発言。

 

 

「それは失礼しました、レディ。確認をとったまでです。そしてコミュニティは活動する上で箱庭に“名”と“旗印”を申告しなければなりません。特に旗印はコミュニティの縄張りを主張する大事な物。この店にも大きな旗が掲げられているでしょう?あれがそうです」

 

 

ガルドはカフェテラスの店頭に掲げられた、“六本傷”が描かれた旗を指さす。

 

 

「六本の傷が入ったあの旗印は、この店を経営するコミュニティの縄張りであることを示しています。もし自分のコミュニティを大きくしたいと望むのであれば、あの旗印のコミュニティに両者合意で『ギフトゲーム』を仕掛ければいいのです。私のコミュニティは実際にそうやって大きくしましたから」

 

 

自慢げに語るガルド・ガスパーはピチピチのタキシードに刻まれた旗印を指さす。

彼の胸には虎の紋様をモチーフにした刺繍が施されている。

耀と飛鳥とリュカが辺りを見回すと、広場周辺の商店や建造物には同様の紋が飾られていた。

 

 

「成る程…………。ところでガルドさん」

 

「何ですか?ジェントルマン」

 

「僕が事前に聞いた話だとギフトゲームに賭けるのは多種多様なチップのはず。だけど貴方は両者合意のもとでコミュニティを大きくしたと言った。これはコミュニティ自体がチップになっていることを示すのだけど…………ジンくん。こういう事例は珍しくないのかい?」

 

「や、止むを得ない状況なら稀に。しかし、これはコミュニティの存続をかけたレアケースです」

 

「とのことだけど、これについて詳しく教えてくれないかな?“主催者権限”を持たない貴方が何故コミュニティを賭けた大勝負を続けることができたのか」

 

 

リュカの一言にガルドは頬の筋肉を引き攣らせる。目の前にいる青年が未だこの世界について無知だからこそそこに漬け込む隙がある、と見込み話し掛けたのにまさか魔王について知っているなんて予想外だった。

とにかく反論ないし誤魔化そうと口を開きかけたところ

 

 

「あら、リュカくんもそこに疑問を持ったのね。そうね、気になるのはしょうがないことだし彼が直接話してくれるわよ。貴方はそこに座って私の質問に答え続けなさい」

 

 

とそう飛鳥が発言したことにより飛鳥の言葉に力が宿り、椅子にヒビが入るほど勢いよくガルドは座り込んだ。

ガルドは混乱した。手足を動かそうとしているのに全く動かないことに。そして同時に理解した。如何様な理由にせよ、自分は目の前の少女の言葉に逆らえないということに。

 

 

「ちょっ、ちょっとお客さん、店内で揉め事はーーーー」

 

「丁度いいわね。貴女もこの場に居合わせなさい。きっと面白い話が聞けるわよ」

 

 

そこに先程注文を取り料理を運んでくれた猫耳娘が現れる。飛鳥はその娘をその場に居合わせさせた状態でガルドに質問する。

 

 

「さて、それじゃあ訊くけど貴方はどうやって強制的にコミュニティを賭けるような大勝負をすることができたのか教えてくださる?」

 

 

周りの人間もようやく気づき始める。

この女性、久遠飛鳥の命令には…………絶対に逆らえないのだと。

 

 

「き、強制させる方法は様々だ。一番簡単なのは、相手のコミュニティの女子供を攫って脅迫すること。これに動じない相手は後回しにして、徐々に他のコミュニティを取り込んだ後、ゲームに乗らざるを得ない状況に圧迫していった」

 

「まあ、そんなところでしょう。貴方のような小物らしい堅実な手だわ。けどそんな違法で吸収した組織が貴方の下で従順に働いてくれるのかしら?」

 

「各コミュニティから、数人ずつ子供を人質に取ってある」

 

 

ピクリと飛鳥の片眉が動く。言葉や表情にこそ表さないものの、彼女を取り巻く雰囲気には嫌悪感が滲み出ていた。コミュニティには無関心な耀でさえ不快そうに眼を細めている。

だからこそこの中ではリュカは見た目の上では一番冷静なのだろう。嫌悪感を滲み出していないし不快そうに眼を細めるわけでもない。ただ相手をジッと観察しているだけだ。

 

 

「…………そう。ますます外道ね。それで、その子供達は何処に幽閉されているの?」

 

「もう殺した」

 

 

その場の空気が瞬時に凍りつく。

ジンも、店員も、耀も、飛鳥でさえ一瞬耳を疑って思考を停止させた。

ただ一人、ガルド・ガスパーだけは命令されたまま言葉を紡ぎ続ける。

 

 

「初めてガキ共を連れてきた日、泣き声が頭にきて思わず殺した。それ以降は自重しようと思っていたが、父が恋しい母が愛しいと泣くのでやっぱりイライラして殺した。それ以降、連れてきたガキは全部まとめてその日のうちに始末することにした。けど身内のコミュニティの人間を殺せば組織に亀裂が入る。始末したガキ

遺体は証拠が残らないように腹心の部下が食

 

「それ以上その口を開くな下種が!」

 

 

飛鳥も流石にこれ以上は自分の精神的にも聞けないと判断し黙らせようとしたところにリュカがガルドの口を塞ぐ形で頬を掴み上げて持ち上げた。普段温和そうでその実かなり冷静でもある彼が感情的になるなど予想もつかなかったが、それよりも彼が座るという命令で固定されているガルドをそのまま持ち上げられたことに驚いた。

飛鳥の力は支配の力である。彼女の言葉は力を持ち今までの彼女の経験からするとたとえどんな外敵要因があろうともその命令は実行され続ける。が、リュカは座るという命令に縛られ椅子から立ち上がることも出来ないガルドを持ち上げた。それは単純に彼女の命令をも上回る力で持ち上げていると同義だった。

 

 

「父が恋しい母が愛しい?当たり前だ。それを思わない子供はまずいない。だが貴様はそれを踏み躙った。あろうことか殺した。不快ではあるが、労働力として用いるのならまだ眼を瞑ったがガルド・ガスパー。貴様の命、この場で尽き果てても文句はないな?」

 

 

そう言うとリュカは樫で作られた杖の先端をガルドに向ける。本来なら殺傷力がゼロにも等しいものだが今のガルドにはどんな名工が鍛えた剣よりも恐ろしい物に見えた。

 

 

「死ね」

 

「っ!リュカくん止めなさい!」

 

 

飛鳥の命令でリュカが樫の杖をガルドに刺そうとしていた動きが止まり、頬を掴んでいた手は放される。が、そのすぐ後にリュカは体の自由を取り戻し動けるようになっていた。飛鳥はこれにも驚くがこのほんの僅かな時間がリュカの怒りを鎮めるのに十分な時間であった。

 

 

「…………すまない、アスカ。お陰で冷静さを取り戻せた。ここでこいつを殺したら僕までこいつと同類になってしまうところだった」

 

「一体全体どうしたのよ?確かにさっきの話は聞くに耐えない話だし怒るのも当然だとは思うけど、流石に殺そうとするまでは思わないわよ」

 

「僕はこんな形だけど二児の父親なんだ。そんな僕の目の前で子供を殺したなんてとても看過できない内容だったからね」

 

 

リュカの言葉に飛鳥は理解する。彼が子供たちと言っていたのは自分の子供の事だったのだと。だがそれと同時に疑問に思う。ガルドを殺そうとしたことから自分の子供を愛しているだろうに何故全てを捨ててまでこの世界に来たのだろうか。

どの道今は関係のないことだが。

 

 

「ジンくん?今の証言で彼を箱庭の法で裁けるかしら?」

 

「厳しいです。吸収したコミュニティから人質をとったり、身内の仲間を殺すのは勿論違法ですが…………裁かれる前に彼が箱庭の外に出てしまえばそれまでです」

 

 

それはある意味では裁きだった。リーダーであるガルドがコミュニティを去れば、遅かれ早かれ烏合の衆でしかない“フォレス・ガロ”は瓦解する。

しかし飛鳥はそれでは満足出来なかった。

 

 

「そう。なら仕方がないわ」

 

 

苛立たしげに指をパチンと鳴らす。それが合図だったのだろう。ガルドを縛り付けていた力は霧散し、体に自由が戻る。怒り狂ったガルドはカフェテラスのテーブルを勢いよく砕くと

 

 

「こ…………この小娘がァァァァァァァァ‼︎」

 

 

雄叫びとともにその体を激変させた。巨躯を包むタキシードは膨張する広背筋で弾け飛び、体毛は変色して黒と黄色のストライプ模様が浮かび上がる。

彼のギフトは人狼などに近い系譜を持つ。通称、ワータイガーと呼ばれる混在種だった。

 

 

「テメェ、どういうつもりか知らねえが…………俺の上に誰がいるかわかってんだろうなァ⁉︎箱庭第六六六外門を守る魔王が俺の後見人だぞ‼︎俺に喧嘩を売るってことはその魔王にも喧嘩を売るってことだ!その意味が「黙りなさい」

 

 

またもや飛鳥の言葉にて黙らせられるガルド。しかし今度は黙らせただけなので体は動く。ガルドはその太い腕を振り上げて飛鳥に襲い掛かろうとする。だがその行為に割ってはいるように耀が腕を伸ばした。

 

 

「喧嘩はダメ」

 

 

耀が腕を掴む。更に回すようにしてガルドの巨躯を回転させて押さえつけた。

 

 

「ギッ…………!」

 

 

少女の細腕には似合わない力に目を剥くガルド。飛鳥だけは楽しそうに笑っていた。

 

 

「さて、ガルド・ガスパー。僕たちは貴方の上に誰がいようと関係ない。黒ウサギから事前に僕たちが入る予定のコミュニティの情報は聞いているからその目標が“打倒魔王”だからね。そうなんだろう?ジンくん」

 

 

ジンは驚いていた。自分たちのコミュニティはまさに崖っぷちの状態にある。そんな状態ではまず入るような人間なんかいないから黒ウサギとともに情報は伏せておいて入ったという証拠を得てから話そうと思っていたのに。

だがそれよりもその情報を知ってなお入ろうという彼らに驚いていた。

 

 

「…………はい。僕達の最終目標は、魔王を倒して僕らの誇りと仲間達を取り戻すこと。今更そんな脅しには屈しません」

 

「そういうこと。つまり貴方には破滅以外のどんな道も残されていない」

 

「く…………くそ…………!」

 

 

どういう理屈かは不明だが、耀に組み伏せられたガルドは身動き出来ず地に伏せている。

そこにリュカが膝を折りガルドの顔に自らの顔を近づけて言い放つ。

 

 

「僕達は貴方のコミュニティが瓦解した程度では満足出来ない。貴方のような下種は己の罪を自覚し後悔しながら罰せられるべきだ。ーーーーだが僕達も鬼ではない。故に提案しよう。ーーーーーーーー僕達と『ギフトゲーム』をしよう。貴方の“フォレス・ガロ”存続と“ノーネーム”の誇りと魂を賭けて、ね。僕個人は全ての親の代表として貴方に天誅を下すつもりだけどね」




サブタイトルの意味だが早い話リュカ達は前話で既に事情は聞いているからその上で聞いてるんだよね。

要はNDK?NDK?既に知っているのに得意そうに話すなんてNDK?ってことを心の中で思ってたってこと。

次回はお待ちかねのギフト公開だー!
ん?どんなギフトかって?無駄に長い名前にはなるかなルビ振るのは考えてないけど。そもそもめんどい


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邂逅、白夜叉

二週間ぶりの投稿だと思うなー。
今後はもうちょい早めのスペースでできると信じてくだすぇ!


「な、なんであの短時間に“フォレス・ガロ”のリーダーと接触してしかも喧嘩を売る状況になったのですか⁉︎」「しかもゲームの日取りは明日⁉︎」「それも敵のテリトリー内で戦うなんて!」「準備している時間もお金もありません!」「一体どういう心算があってのことです!」「聞いてるのですか四人とも!」

 

 

「「「ムシャクシャしてやった。今は反省しています」」」

 

 

「反省も後悔もしていない。あのような下種はこの世からいなくなるべき奴だ」

 

 

「黙らっしゃい!!!」

 

 

誰が言い出したのか、まるで口裏を合わせていたかのような言い訳に激怒する黒ウサギ。リュカに至っては反省すらしていないという始末だ。

それをニヤニヤと笑って見ていた十六夜が止めに入る。

 

 

「別にいいじゃねえか。見境なく選んで喧嘩売ったわけじゃないんだから許してやれよ」

 

「い、十六夜さんは面白ければいいと思っているかもしれませんけど、このゲームで得られるものは自己満足だけなんですよ?この“契約書類”を見てください」

 

 

黒ウサギの見せた“契約書類”は“主催者権限”を持たない者達が“主催者”となってゲームを開催するために必要なギフトである。

そこにはゲーム内容・ルール・チップ・賞品が書かれており、“主催者”のコミュニティのリーダーが署名することで成立する。黒ウサギが指す賞品の内容はこうだ。

 

 

「“参加者が勝利した場合、主催者は参加者の言及する全ての罪を認め、箱庭の法の下で正しい裁きを受けた後、コミュニティを解散する”ーーーーまあ、確かに自己満足だ。時間をかければ立証できるものを、わざわざ取り逃がすリスクを背負ってまで短縮させるんだからな」

 

 

因みにだがリュカ達のチップは“罪を黙認する”だというものだ。それは今回に限ったことではなく、これ以降もずっと口を閉ざし続けるという意味である。

 

 

「でも時間さえかければ、彼らの罪は必ず暴かれます。だって肝心の子供達は…………その、」

 

 

黒ウサギが言い淀む。ガルドの証言通りならば子供達は既に死んでいるからだ。そしてその事実こそがリュカが最も憤る点でもある。

 

 

「そうだ。既に人質はこの世にはいない。その点を責めたてれば必ず証拠は出るだろう。だけどそれには時間がかかる。あのような下種を裁くのにそんな時間はかけたくない」

 

 

リュカもまた子持ちの親だ。自分に置き換えたらどうなるかを考えただけで既に死んでしまった子供達の親の為にも早急に裁きたいと思っている。

…………同様に自分の息子娘ならば人質になったところでどうしようもできないだろうと考えるのもまた事実だが。

 

 

「それにだ、黒ウサギ。僕は全ての親の代表とおこがましくも名乗って参加するわけだがアスカたちは違う。恐らくだが活動範囲内にあのような下種がいること自体が許せないんだと思う。ここで逃がしたらいつかまた狙ってくるとも」

 

「あら、わかってるじゃない」

 

「僕もガルドを逃したくないと思っている。彼のような悪人は野放しにしちゃいけない」

 

 

ジンも同調する姿勢を見せ、黒ウサギは諦めたように頷いた。

 

 

「はぁ〜……。仕方がない人達です。まあいいデス。腹立たしいのは黒ウサギも同じですし。“フォレス・ガロ”程度なら十六夜さんが一人いれば楽勝でしょう」

 

「何言ってんだよ。俺は参加しねえよ?」

 

「当たり前よ。貴方なんて参加させないわ」

 

 

フン、と鼻を鳴らす二人。黒ウサギは慌てて二人に食ってかかる。

 

 

「だ、駄目ですよ!御二人はコミュニティの仲間なんですからちゃんと協力しないと」

 

「そういうことじゃねえよ黒ウサギ。いいか?この喧嘩はコイツらが売った。そしてヤツらが買った。なのに俺が手を出すのは無粋だって言ってるんだよ」

 

「あら、わかっているじゃない」

 

「…………。ああもう、好きにしてください」

 

 

丸一日振り回され続けて疲弊した黒ウサギはもう言い返す気力も残っていない。

どうせ失う物は無いゲーム、もうどうにでもなればいいと呟いて肩を落とすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえばお前子供がいるそうじゃねえか。何歳だ?」

 

「十歳の男の子と女の子の双子だよ。男の子の方はティミーで女の子の方はポピー。どっちも可愛らしい子供だよ」

 

「へえ…………。で、お前何歳なんだ?見た目じゃ俺らとタメ張るくらいに見えるが」

 

 

その疑問は十六夜だけでなく飛鳥も耀も黒ウサギもジンも考えていたことである。

その質問になんでも無い風に彼は答える。

 

 

「ああ、僕は26歳だよ。肉体的な年齢となると18歳になるけども」

 

 

「「「「「26歳⁉︎」」」」」

 

 

リュカが何でも無い風に言ったことが十六夜達には驚きであった。見た目は高校生程度であるにも関わらずその実年齢は26歳。一体何があったのかと考えてしまうレベルである。種族的に長寿な黒ウサギですら驚いてしまう。

 

 

「おいおい、お前の世界はどんな面白いことがあったんだよ教えろよオイ」

 

「別に今は乗り越えているからいいけど、今から話したら“サウザンドアイズ”の閉店時間に間に合わなくなるんじゃないかなあ?」

 

「確かに気にはなりますが、それもそうですね」

 

 

黒ウサギも気になってはいたがそれを押し殺し振り返る。どうやら店に着いたらしい。商店の旗には、蒼い生地に互いが向き合う二人の女神像が記されている。あれが“サウザンドアイズ”の旗なのだろう。

日が暮れて看板を下げる割烹着の女性店員に、黒ウサギは滑り込みでストップを、

 

 

「まっ」

 

「待った無しです御客様。うちは時間外営業はやっていません」

 

 

かけることすら出来なかった。黒ウサギは悔しそうに店員を睨めつける。

流石は超大手の商業コミュニティ。押し入る客の拒み方にも隙がない。

 

 

「なんて商売っ気の無い店なのかしら」

 

「ま、全くです!閉店時間の五分前に客を締め出すなんて!」

 

「いや普通閉店時間五分前とかに来る僕らの方が異端なんじゃ?」

 

「文句があるのならどうぞ他所へ。あなた方は今後一切の出入りを禁じます。出禁です」

 

「出禁⁉︎これだけで出禁とか御客様舐めすぎでございますよ⁉︎」

 

「いやだから閉店時間五分前に来る僕達の方が店側を舐めていると思うんだけど」

 

「なるほど、“箱庭の貴族”であるウサギの御客様を無下にするのは失礼ですね。中で入店許可を伺いますので、コミュニティの名前をよろしいでしょうか?」

 

「…………う」

 

 

先程までキャーキャー喚いていたのが一転して言葉に詰まる黒ウサギ。しかしそんな黒ウサギを意にも介さずに十六夜は何の躊躇いもなく名乗る。

 

 

「俺達は“ノーネーム”ってコミュニティなんだが」

 

「ほほう。ではどこの“ノーネーム”様でしょう。よかった、旗印を確認させていただいてもよろしいでしょうか?」

 

 

ぐっ、と黙り込む。黒ウサギが言っていた“名”と“旗印”がないコミュニティのリスクとはまさにこういう状況のことだった。

 

 

(ま、まずいです。“サウザンドアイズ”の商店は“ノーネーム”御断りでした。このままだと本当に出禁にされるかも)

 

 

力のある商店だからこそ彼らは客を選ぶ。信用できない客を扱うリスクを彼らは冒さない。

全員の視線が黒ウサギに集中する。彼女は心の底から悔しそうな顔をして、小声で呟いた。

 

 

「その…………あの…………私達に、旗はありま」

 

「いぃぃぃやほおぉぉぉぉぉぉ!久しぶりだ黒ウサギィィィィ!」

 

 

黒ウサギは店内から爆走してくる着物風の服を着た真っ白い髪の少女に抱き(もしくはフライングボディーアタック)つかれ、少女と共にクルクルクルクルと空中四回転半ひねりして街道の向こうにある浅い水路まで吹き飛んだ。

 

 

「きゃあーーーーー…………!」

 

 

ボチャン。そして遠くなる悲鳴。

十六夜達は眼を丸くし、店員は痛そうな頭を抱えていた。

 

 

「……おい店員。この店にはドッキリサービスがあるのか?なら俺も別バージョンで是非」

 

「ありません」

 

「なんなら有料でも」

 

「やりません」

 

 

真剣な表情の十六夜に真剣な表情でキッパリ言い切る女性店員。二人は割とマジだった。

フライングボディーアタックで黒ウサギを強襲した白い髪の幼い少女は、黒ウサギの胸に顔を埋めてなすり付けていた。

 

 

「し、白夜叉様⁉︎どうして貴女がこんな下層に⁉︎」

 

「そろそろ黒ウサギが来る予感がしておったからに決まっておるだろに!フフ、フホホフホホ!やっぱりウサギは触り心地が違うのう!ほれ、ここが良いかここが良いか!」

 

 

スリスリスリスリ。

 

 

「し、白夜叉様!ちょ、ちょっと離れてください!」

 

 

白夜叉と呼ばれた少女を無理やり引き剥がし、頭を掴んで店に向かって投げつける。

くるくると縦回転した少女を、十六夜が足で受け止めた。

 

 

「てい」

 

「ゴバァ!お、おんし、飛んできた初対面の美少女を足で受け止めるとは何様だ!」

 

「十六夜様だぜ。以後よろしく和装ロリ」

 

 

ヤハハと笑いながら自己紹介する十六夜。

一連の流れの中で呆気にとられていた飛鳥は、思い出したように白夜叉に話しかける。

 

 

「貴女はこの店の人?」

 

「おお、そうだとも。この“サウザンドアイズ”の幹部様で白夜叉様だよご令嬢。仕事の依頼ならおんしのその年齢の割りに発育が良い胸をワンタッチで引き受けるぞ」

 

「オーナー。そへでは売上が伸びません。ボスが怒ります」

 

「わかっておるわ。ほんにおんしの頭は固いのう。…………ん?そこの身形が貧相なおんし、そうおんしじゃ。名前は?」

 

「僕の名前はリュカだけど…………どうして名前を聞いたんだい?」

 

「…………いやちとばかし古い知り合いと似ておったからな。取り敢えず名前を聞いてみたまでじゃ。それはそうとお前達が黒ウサギの新しい同士か。異世界の人間が私の元に来たということは…………遂に黒ウサギが私のペットに」

 

「なりません!どういう起承転結があってそんなことになるんですか!」

 

 

ウサ耳を逆立てて怒る黒ウサギ。何処まで本気かわからない白夜叉は笑って店に招く。

 

 

「まあ良い。話があるなら店内で聞こう」

 

「よろしいのですか?彼らは旗を持たない“ノーネーム”のはず。規定では」

 

「“ノーネーム”だと分かっていながらも名を尋ねる、性悪店員に対する詫びだ。身元は私が保証するし、ボスに睨まれても私が責任を取る。いいから入れてやれ」

 

 

むっ、と拗ねるような表情を浮かべる女性店員。彼女にしてみればルールを守っただけなのだから気を悪くするのは仕方がない事だろう。女性店員に睨まれながら暖簾をくぐった五人と一匹は、店の外観からは考えられない、不自然な広さの中庭に出た。

 

 

「生憎と店は閉めてしまったのでな。私の私室で勘弁してくれ」

 

 

五人と一匹は和風の中庭を進み、縁側で足を止める。

障子を開けて招かれた場所は香の様な物が焚かれており、風と共に五人の鼻をくすぐる。

個室と言うにはやや広い和室の上座に腰を下ろした白夜叉は、大きく背伸びをしてから十六夜達に向き直る。気がつけば、彼女の着物はいつの間にか乾ききっていた。

 

 

「もう一度自己紹介しておこうかの。私は四桁の門、三三四五外門に本拠を構えている“サウザンドアイズ”幹部の白夜叉だ。この黒ウサギとは少々縁があってな。コミュニティが崩壊してからもちょくちょく手を貸してやっている器の大きな美少女と認識しておいてくれ」

 

「はいはい、お世話になっております本当に」

 

 

投げやりな言葉で受け流す黒ウサギ。その隣で耀が小首を傾げて問う。

 

 

「その外門、って何?」

 

「箱庭の階層を示す外壁にある門ですよ。数字が若いほど都市の中心部に近く、同時に強大な力を持つ者達が住んでいるのです」

 

 

此処、箱庭の都市は上層から下層まで七つの階層に分かれており、それに伴ってそれぞれを区切る門には数時後与えられている。

外壁から数えて七桁の外門、六桁の外門、と内側に行くほど数字は若くなり、同時に強大な力を持つ。箱庭で四桁の外門ともなれば、名のある修羅神仏が割拠する完全な人外魔境だ。

黒ウサギが描く上空から見た箱庭の図は、外門によって幾重もの階層に分かれている。

その図を見た三人は口を揃えて、

 

「…………超巨大タマネギ?」

 

「いえ、どちらかといえばバームクーヘンではないかしら?」

 

「そうだな。どちらかといえばバームクーヘンだ」

 

 

うん、と頷き合う三人。それに対してリュカは、

 

 

「バームクーヘン?それは一体どんな食べ物なんだ?甘いのか?苦いのか?実に気になるな」

 

 

と、こんな場違いな事を考えていた。元の世界で聞いたことのない物だから余計に反応してしまうのだろう。取り敢えず食べ物ということはわかっているらしいが。

 

 

「ふふ、うまいこと例える。その例えなら今いる七桁の外門はバームクーヘンの一番薄い皮の部分に当たるな。更に説明するなら、東西南北の四つの区切りの東側にあたり、外門のすぐ外は“世界の果て”と向かい合う場所になる。あそこはコミュニティに所属していないものの、強力なギフトを持ったもの達が棲んでおるぞ。まあ、ギフトこそ持たぬが強いこともある魔物なんてのもいるがな」

 

 

呵々と哄笑を上げて二度三度と頷き補足を付け加えながら説明する。魔物を語る時に少しばかり懐かしむ様な顔をしていたがそれも一瞬だけだった。

 

 

「して、一体誰が、どのようなゲームで勝ったのだ?知恵比べか?勇気を試したのか?」

 

「いえいえ、この水樹は十六夜さんが此処に来る前に、蛇神様を素手で叩きのめしてきたのですよ」

 

「なんと⁉︎クリアではなく直接的に倒したとな⁉︎ではその童は神格持ちの神童か?」

 

「いえ、黒ウサギはそう思えません。神格なら一目見れば分かるはずですし」

 

「む、それもそうか。しかし神格を倒すには同じ神格を持つか、互いの種族によほど崩れたパワーバランスがある時だけのはず。種族の力でいうなら蛇と人はドングリの背比べだぞ」

 

 

神格とは生来の神様そのものではなく、種の最高のランクに体を変幻させるギフトを指す。

蛇に神格を与えれば巨躯の蛇神に。

人に神格を与えれば現人神や神童に。

鬼に神格を与えれば天地を揺るがす鬼神と化す。

更に神格を持つことで他のギフトも強化される。箱庭にあるコミュニティの多くは各々の目的のため神格を手に入れることを第一目標とし、彼らは上層を目指して力を付けているのだ。

 

 

「白夜叉様は蛇神様とお知り合いだったのですか?」

 

「知り合いも何も、アレに神格を与えたのはこの私だぞ。もう何百年も前の話だがの」

 

 

小さな胸を張り、呵々と豪快に笑う白夜叉。

だがそれを聞いた十六夜は物騒に瞳を光らせて問いただす。

 

 

「へえ?じゃあオマエはあのヘビより強いのか?」

 

「ふふん、当然だ。私は東側の“階層支配者”だぞ。この東側の四桁以下にあるコミュニティでは並ぶ者がいない、最強の主催者なのだからの」

 

 

“最強の主催者”ーーーーその言葉に、リュカを除く三人は瞳を輝かせた。

 

 

「そう…………ふふ。ではつまり、貴女のゲームをクリア出来れば、私達のコミュニティは東側で最強のコミュニティという事になるのかしら?」

 

「無論、そうなるのう」

 

「そりゃ景気のいい話だ。探す手間が省けた」

 

 

三人は剥き出しの闘争心を視線に込めて白夜叉を見る。だがそんな三人を諌める声を上げる者がいた。

 

 

「落ち着いて三人とも。余程のハンデをつけてくれるのならともかく、ここにいる四人が一斉にかかっても彼女には勝てないよ」

 

 

もちろんリュカである。だがその言葉に問題児三人はカチンとくる。折角闘争心剥き出しにしていたのにそれに水をかけられた気分になったのだ。

 

 

「なんだ?怖気付いたのか?俺らがこいつに負けるとでも?」

 

「そう言ってるんだ。僕達は知り合ったばかりで連携のれの字も知らない。一人司令官役を設けてその命令を素直に聞くのならまた話は違ってくるけど…………君達はそんな聞き分けのいい子供というわけではないのだろう?」

 

「ハッ、当然だ。俺らが素直に命令を聞くいい子ちゃんに見えるか?」

 

 

十六夜とリュカは真っ向から対立しあい互いに剣呑な雰囲気が流れる。

そんな時に高らかな笑い声を上げる者がいた。闘争心剥き出しの三人に視線を向けられていた白夜叉その人だった。

 

 

「ふふ、そこのリュカとやらはどうも私の力がわかっているようだが他の三人はそうではなかろう?丁度いいではないか。私も遊び相手には飢えていたところだからな」

 

 

そう言うと白夜叉は着物の裾から“サウザンドアイズ”の旗印ーーーー向かい合う双女神の紋が入ったカードを取り出し、壮絶な笑みで一言

 

 

「おんしらが望むのは“挑戦”かーーーーーーもしくは、“決闘”か?」




前話でギフトが分かると言ったな?
スマンがありゃ嘘だ。…………いや、マジでさーせん。次話の展開的にここで一旦区切らないと自分がとてつもなくめんどくさかったんすよ。


次話!次話こそギフトが判明すっからね!


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伝説の魔物使いVS元魔王

「ンァッ! ハッハッハッハー! この私ンフンフンッハアアアアアアアアアアァン! アゥッアゥオゥウアアアアアアアアアアアアアアーゥアン! コノワタシァゥァゥ……アー! 私の投稿頻度を……ウッ……ガエダイ!」


ってふざけたところで許されないでしょうがようやく完成しました。


それではどぞー


「おんしらが望むのは“挑戦”かーーーーもしくは、“決闘”か?」

 

 

刹那、四人の視界に爆発的な変化が起きた。

四人の視界は意味をなくし、様々な情景が脳裏で回転し始める。

脳裏を掠めたのは、黄金色の穂波が揺れる大草原。白い地平線を覗く丘。森林の湖畔。

記憶にない場所が流転を繰り返し、足元から四人を呑み込んでいく。

四人が投げ出されたのは白い雪原と凍る湖畔ーーーーそして、水平に太陽が廻る世界だった。

 

 

「……なっ…………⁉︎」

 

 

余りに異常な光景に十六夜達は息を呑む。

箱庭に招待された時とはまるで違うその感覚は、最早言葉で表現できる御技ではない。

遠く薄明の空にある星は只一つ。緩やかに世界を水平に廻る、白い太陽のみ。

まるで星を一つ、世界を一つ創り出したかのような奇跡の顕現。

 

 

「今一度名乗り直し、問おうかの。私は“白き夜叉の魔王”ーーーー太陽と白夜の星霊・白夜叉。おんしらが望むのは試練への“挑戦”か?それとも対等な“決闘”か?」

 

 

魔王・白夜叉。少女の笑みとは思えぬ凄味に、息を呑む三人。

“星霊”とは、惑星級以上の星に存在する主精霊を指す。妖精や鬼・悪魔などの概念の最上級種であり、同時にギフトを“与える側”の存在でもある。

十六夜は背中に心地いい冷や汗を感じ取りながら、白夜叉を睨んで笑う。

 

 

「水平に廻る太陽と…………そうか、白夜と夜叉。あの水平に廻る太陽やこの土地は、オマエを表現してるってことか」

 

「如何にも。この白夜の湖畔と雪原。永遠に世界を照らす太陽こそ、私が持つゲーム盤の一つだ」

 

 

白夜叉が両手を広げると、地平線の彼方の雲海が瞬く間に裂け、薄明の太陽が晒される。

“白夜の星霊”。十六夜の指す白夜とは、フィンランドやノルウェーといった特定の経緯に位置する北欧諸国などで見られる、太陽が沈まない現象である。

そして“夜叉”とは、水と大地の神霊を指し示すと同時に、悪神としての側面を持つ鬼神。

あまたの修羅神仏が集うこの箱庭で、最強種と名高い“星霊”にして“神霊”。

彼女はまさに、箱庭の代表とも言えるほどーーーー強大な“魔王”だった。

 

 

「これだけ莫大な土地がゲーム盤…………⁉︎」

 

「如何にも。して、おんしらの返答は?“挑戦”であるならば、手慰み程度に遊んでやる。ーーーーだがしかし“決闘”を望むなら話は別。魔王として、命と誇りの限り戦おうではないか」

 

「…………っ」

 

 

飛鳥と耀、自信家の十六夜でさえ即答できず返事を躊躇った。

白夜叉が如何なるギフトを持つかは定かではない。だがリュカの言ったように勝ち目がない事だけ一目瞭然だった。しかし自分達が売った喧嘩を、このような形で取り下げるにはプライドが邪魔をした。

しばしの静寂の後ーーーー諦めたように笑う十六夜が、ゆっくりと挙手し、

 

 

「参った。やられたよ。降参だ」

 

「ふむ?それは決闘ではなく、試練を受けるという事かの?」

 

「ああ。これだけのゲーム盤を用意出来るんだからな。アンタには資格がある。ーーーーいいぜ。今回は黙って試されてやるよ、魔王様」

 

 

苦笑と共に吐き捨てるような物言いをした十六夜を、白夜叉は堪え切れず高らかと笑い飛ばした。プライドの高い十六夜にしては最大限の譲歩なのだろうが、『試されてやる』とは随分可愛らしい意地の張り方があったものだと、白夜叉は腹を抱えて哄笑をあげた。

一頻り笑った白夜叉は笑を噛み殺して他の二人にも問う。

 

 

「く、くく…………して、他の童達も同じか?」

 

「…………ええ。私も、試されてあげてもいいわ」

 

「右に同じ」

 

 

苦虫を噛み潰したような表情で返事をする二人。満足そうに声を上げる白夜叉。白夜叉はリュカにも問う。

 

 

「して、おんしはどうするのだ?リュカよ」

 

「勿論、“決闘”で」

 

 

リュカの一言に問題児達と黒ウサギに衝撃が奔る。

黒ウサギは今にも気絶しそうなぐらい顔を青ざめさせて、問題児達は先程彼が言ったことと矛盾していることに訝しんだ。

 

 

「おい、どういうことだよリュカ。オマエは自分自身で『勝てない』と明言したんだぜ?なのになんで“決闘”を選んでんだよ」

 

 

十六夜がリュカに問う。十六夜からすれば喧嘩を売った時にリュカに窘められカチンときたがそれが事実だったからリュカの観察眼に一目置いていたのだ。が、勝てないと言った本人が“決闘”を望む。その事に十六夜は疑問を抱き、問題児を代表して聞いた。

 

 

「イザヨイ。僕の発言をもう少し思い出して欲しい。僕は『この四人で挑んでも勝てない。司令官役がいれば話は別』と大体こんな風に言ったはずだ。白夜叉は確かに強い。が、戦い方さえちゃんとしていれば勝てない相手ではないはずだ」

 

「ならオマエは勝てるって言うのか?」

 

「勝てると断言できたら格好いいんだろうけど、未来は不変のものだから断言はできない。ゲームの内容にもよるとしか僕には言えない」

 

 

つまりは負けるかもしれないし勝てるかもしれない。玉虫色の解答に十六夜はムッとなるが、その後にニヤァっと笑い、リュカに言った。

 

 

「そこまで言うなら見せてくれよ。オマエの勇姿ってやつをよ」

 

「わかった。気に入るかどうかはわからないけど、僕の戦い方を見せてあげるよ」

 

「話は纏まったかの?」

 

「ああ。僕は貴女に“決闘”を望む」

 

 

リュカは毅然とした態度で白夜叉に改めて返答する。

白夜叉はその返答に笑みでもって応えた。

 

 

「よかろう!ならば本気と本気でぶつかり合おうではないか!おんしの本気とやらが大言壮語でないことを願うぞ?…………さて、それではおんしとの“決闘”の前におんしらの“挑戦”を済ませるかの。しかしいいゲームはあったものか……………」

 

 

白夜叉が考えていると獣とも鳥ともつかぬけたたましい叫び声が聞こえた。その声を聞き白夜叉は平手に拳をポンと打ちつける。

 

 

「おお、そう言えばあやつがおったの。あやつならばおんしらを試すのに打って付けかもしれんの」

 

 

湖畔を挟んだ向こう岸にある山脈に、チョイチョイと手招きをする白夜叉。すると体長5mはあろうかという巨大な獣が翼を広げて空を滑空し、風の如く四人の元に現れた。

鷲の翼と獅子の下半身を持つ獣を見て、春日部耀は驚愕と歓喜の籠もった声を上げた。

 

 

「グリフォン…………嘘、本物⁉︎」

 

「フフン、如何にも。あやつこそ鳥の王にして獣の王。“力”“知恵”“勇気”の全てを兼ね備えたギフトゲームを代表する獣だ」

 

 

白夜叉がグリフォンの説明をしているそばでリュカは別の事を考えていた。

 

 

(見た目で一番近いのはゴールデンゴーレムかな?アンクルホーンは大分違うだろうし。ゴールデンゴーレムなら浮かんでいるんだけどこのグリフォンとか言う幻獣はどうなんだろう?見た限り立派な翼が付いているからアレで飛んでいると言われてもおかしくないけどそれだけだとジンくんが言っていた事の説明にはならないよな。翼が付いている事がギフトだと言われたらそれまでだけど)

 

 

リュカはグリフォンと言う初めて見る幻獣の特徴を眼で捉え、自分が知る魔物の中でどれに類似しているか考えて、相手のギフトを考察しようとしていた。流石に見ただけの情報だと少な過ぎて考察するには至らなかったが。

 

 

「さて、肝心の試練だがの。リュカを除くおんしら三人とこのグリフォンで“力”“知恵”“勇気”の何れかを比べ合い、背に跨って湖畔を舞う事が出来ればクリア、という事にしようか」

 

 

白夜叉が双女神の紋が入ったカードを取り出す。すると虚空から“主催者権限”にのみ許された輝く羊皮紙が現れる。白夜叉は白い指を奔らせて羊皮紙に記述する。

 

 

『ギフトゲーム名 “鷲獅子の手綱”

・プレイヤー一覧 逆廻 十六夜 久遠 飛鳥 春日部 耀

・クリア条件 グリフォンの背に跨り、湖畔を舞う

・クリア方法 “力”“知恵”“勇気”の何れかでグリフォンに認められる

・敗北条件 降参か、プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します

“サウザンドアイズ”印』

 

 

 

「私がやる」

 

 

読み終わるや否やピシ!と指先まで挙手をしたのは耀だった。彼女の瞳はグリフォンを羨望の眼差しで見つめている。比較的に大人しい彼女にしては珍しく熱い視線だ。

 

 

『お、お嬢…………大丈夫か?なんや獅子の旦那より遥かに怖そうやしデカイけど』

 

「大丈夫、問題ない」

 

「ふむ。自信があるようだが、コレは結構な難物だぞ?失敗すれば大怪我では済まんが」

 

「大丈夫、問題ない」

 

 

耀の瞳は真っ直ぐにグリフォンに向いている。キラキラと光るその瞳は、探し続けていた宝物を見つけた子供のように輝いていた。隣で呆れたように苦笑いを漏らす十六夜と飛鳥。ただリュカだけが真顔であった。

 

 

(ヨウのギフトは確か動物と話せるモノ。だが恐らくだがそれだけではないだろう。何と言うか、ヨウからは複数の命があるみたいな感じがする。それが何なのかまではわからないが、ヨウはそれを上手く用いてこのゲームはクリアするだろう)

 

 

 

 

 

 

 

 

結果だけ言えばリュカの予想通りとなった。耀は見事にグリフォンを乗りこなし、更にそのギフトまで自分の物としてみせたのだ。耀が他の生き物の特性を手に入れるギフトは後天性のもので白夜叉が大変興味を示していたがそんなのは些細なことだ。

今大事なのはこれから行われるリュカと白夜叉の本気の戦い。双方が本気をぶつけ合い、その上で勝者を決める戦いだ。

 

 

「まず聞いておこうかの。そのような貧相な形で本気で私に勝てると思うのか?」

 

「確かにね。こんな装備では僕の本気とは言えない。僕の本気の格好なら今からお見せするさ」

 

 

そう言ってリュカは腰紐に括り付けていた袋を外し地面に置く。その袋から龍の装飾がなされた杖、太陽のような輝きを放つ冠、光をたたえた盾、そして王者が羽織るに相応しいマントを取り出した。

 

 

「いやちょっと待て」

 

 

取り出したところで十六夜からストップが入る。リュカは何事かと十六夜の方を向く。

 

 

「オマエどうやって収納してたんだよ。なんだその袋。四次元ポケットか?物理法則を完全に無視してやがるぞ」

 

「…………?何を言ってるんだい?袋は全部こんな感じだろう?」

 

「いやまだ大きいのならわからなくはないが、明らかにその袋杖よりも冠よりもマントよりも盾よりも小さいよな?普通入らねえよ」

 

「そ、そうでございますよ!ギフトであるのならともかく、リュカさんの言い方だと誰でも持ってる事になりますよ!」

 

 

黒ウサギも突っ込む。

 

 

「と言っても物心つく前から持ってたからなあ…………。他の人が袋を持ってるかは知らないけど僕の世界の旅人なら全員持ってるんじゃないかな」

 

 

十六夜と黒ウサギはまだ何か言いたそうにしていたが諦めて口を閉ざした。

リュカはそんな二人を不思議に思い、装備を身につけ始める。太陽の冠を頭に被り、王者のマントをその背に羽織り、光の盾を腕に通して、ドラゴンの杖を手に持ち構える。その姿は正しく王者の如き出で立ち。先程のボロ布を纏った彼の姿からは全く想像もつかない身形だった。

白夜叉も雰囲気が変わったのを感じ取ったのか、表情を引き締める。

 

 

「ほう…………!おんしのその姿、まるで一国の王のようだ。いや、正しく王なのかもしれんのう?」

 

「そうだよ。僕はグランバニア国現国王、リュカ・グランバニアだ」

 

「「「「ハァァァァァァァァ⁉︎」」」」

 

 

リュカの言葉に問題児達と黒ウサギが反応する。耀も大声を出して反応しているのが余程信じられないといった証拠なのだろう。

 

 

「ちょちょちょちょっと待ってください!え、リュカさんは王様だったんですか⁉︎」

 

「だったじゃなくて現時点でそうなんだけど…………ああ、そういや言ってなかったっけ?」

 

「聞いてませんよ!アレ、てことは黒ウサギは呑気にも一国の現国王を呼び出してしまったのですか⁉︎」

 

「そうなるねえ。だからさっきまでは僕の国の大臣とかそこら辺は皆慌ててたんじゃないかな。だって目の前で消えられたわけだしね」

 

「だからジェリーだとかいうあの不定形なドロドロしたのを自分に化けさせて向こうに送ったのか?」

 

「そういうこと。影武者は立てとかないとね。国が混乱してしまう。それ以外にも理由はなくはないけどね」

 

「待って。なら貴方は手紙をどうやって手に入れたの?」

 

 

ここで飛鳥が質問する。自分と同じように密室内に封筒があったのか。十六夜のように荷物に飛び込んできたのか。耀のように空から落ちてきたのか。そのような非常識な感じで手紙がきたのならまだ納得できる部分もあるというものだ。

 

 

「差出人の名前が書かれていない手紙が親衛隊所属の兵士を通じて僕のところにきました。因みに中身までは検分させてないけど呪文とかそういうのが仕込まれていないかはちゃんと確認させてます。まさかかかってたのがギフトだとは思わなかったけどね」

 

「うわ…………これは黒ウサギは有罪ね。それよりやも差出人の名前がない手紙をどうして読もうと思ったの?親衛隊がちやんと確認してそんな要素がなかったから安心したってのもあるのでしょうけど」

 

「いい具合に僕の親友に差出人不明にして手紙を出しそうな輩がいるんだよねぇ…………。あ、因みにその親友は王兄殿下だよ」

 

「王兄殿下?普通そういうのは長男がなるもんじゃねえのか?…………ああーいや待て。迂闊だったな」

 

「察しが良くて助かるよ。イザヨイが考えている通り継承に関するイザコザで本来なら王となるはずだったんだけどなれなかったんだ。ま、今はそんなことより白夜叉と本気で戦わせてよ。彼方もやりたくて仕方が無いみたいだし」

 

「ようやく話が終わったか。私が何となく言ったことに反応するなよおんしら。まあ良かろう。さて、では始めるとするかの?」

 

 

白夜叉は耀の時にも出した羊皮紙を取り出し再び指を奔らせる。

 

 

『ギフトゲーム名 “白夜の王と魔物の王”

・プレイヤー一覧 ・リュカ・グランバニア

・クリア条件 白夜叉にマトモに一撃を喰らわせる

・敗北条件 降参か、上記の勝利条件が満たせなくなった場合

 

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します

“サウザンドアイズ印”』

 

 

「このマトモに一撃を喰らわせるというのは?」

 

 

リュカが早速ゲームのクリア条件について訊く。

 

 

「うむ。本気で戦いはするがそれ相応のハンデというものがあるべきと思うてな。私が腕や足で防げずに頭や腹、胸に背に一撃当てさえすればおんしの勝ちとするというわけだ」

 

「なるほど。最初からハンデありの戦いというわけか。まあ僕は勝てさえすればいいから別にいいか」

 

「ほう?おんしもあの問題児どもと同じでハンデを無しにしてくれと言うと思ったのだがのう」

 

「わざわざハンデをくれるんだ。ありがたく貰っておくよ。使えるものは全て使って勝つ。それが人でも物でも場所でも条件でもだ」

 

「その勝利に対する直向きな貪欲さ。実に素晴らしいぞ!では、早速始めるとするかのう」

 

「ああ。さあ、出ておいで。スラりん、ピエール、ゲレゲレ」

 

 

リュカが何らかの名前らしきものを言うと言われた数だけ魔方陣が現れてそこから魔物が現れる。

青い雫のような形状をしたスライムのスラりん。そのスライムが黄緑になったものの上に小さな騎士が乗っているスライムナイトのピエール。黄色い毛皮に黒い斑がいくつもついて背には赤い鬣があるキラーパンサーのゲレゲレだ。

 

 

「あら、可愛らしいのがいるわね」

 

「でもゲレゲレとかいうのは凶暴そうだぜ?お嬢様は喰われちまうかもな」

 

「大丈夫よ。十六夜くんより凶暴なんてそうそういないから。…………あら、耀どうしたの?」

 

「スラりんにピエールとゲレゲレ。彼らとお友達になりたい」

 

「春日部のギフトか。あいつらからは何が手に入るんだろうな」

 

 

と、問題児達は各々好き勝手なことを言っている。

 

 

「兄貴!会いたかったぜ〜!」

 

 

スラりんが急にリュカに飛びかかってくる。リュカは自分の膝ほどもない大きさのスラりんを体全体で受け止め頭を撫でる。

 

 

「ハハハ、ゴメンゴメン。急に異世界に召喚されてしまってたからね。連絡を入れれただけでもだいぶマシだとは思うけど」

 

「いやもう兄貴がいなくなったからオイラも他の魔物の皆も奥方様にティミーとポピーも不安がってたんだ。けどモシャスで兄貴に化けたジェリーが来たから取り敢えずの無事は確認できたってわけさ。で、どんな用でオイラを呼んだんだい?」

 

「向こうを見てみればわかるさ」

 

 

スラりんはリュカが向いている方に自分も体の向きを帰る。すると視線の先には白い髪の見た目は幼く見える女の子がいた。だがスラりんは

 

 

「ははーん。彼奴人間じゃねえな?しかもめっちゃ強いと見える。だけど…………ミルドラース以下だな」

 

「貴方もそう見えましたか、スラりん。この私もかの大魔王ミルドラースよりは弱いと見えました」

 

 

スラりんの言葉にピエールも反応する。下のスライムが喋っているのか上の騎士が喋っているのかは定かではないが。

 

 

「今回君達を呼んだのは彼女と戦い勝つためだ。勝利条件は彼女にマトモに一撃を喰らわせる事。敗北条件は僕達の降参か勝利条件を満たせなくなった場合とあるが…………これはありえないね。ああ、あと最初は君達だけだけど、状況に応じてメンバーを変えるからその気でいてくれ」

 

「了解!兄貴の為なら死中にも飛び込んでやるぜ!」

 

「死んだのを蘇生するのにも魔力を用いるのですよ?なるべく死なないようにしましょう」

 

「グワォォォォォォォォ」

 

 

三者三様の返事を返してくる。リュカはその様子に満足そうに頷き、改めて白夜叉に向き合った。

 

 

「さあ、勝負だ、白夜叉!スラりん!スクルト限界まで!ゲレゲレ!力溜め後攻撃!ピエールは僕と一緒に白夜叉と戦うぞ!」

 

 

彼らは散開し各々の行動を始める。

スラりんは全体守備増強呪文スクルトを唱える。唱える。唱える。ゲレゲレは体を力ませて次の攻撃に備えている。ピエールはリュカと一緒に前に出て白夜叉と対峙した。

リュカはドラゴンの杖で突きを放つ。その突きは真っ直ぐ白夜叉の喉元に吸い込まれそうになったが白夜叉はこれを手の甲で払う事で回避。そこにすかさずピエールが飛び込み手にしている吹雪の剣で斬りかかる。だがそれは足で受け止めた。

 

 

「いいコンビネーションだ。一朝一夕で身に付くものではない。何度も何度も戦いを乗り越えてきた証拠でもある。だがその程度ではまだまだ私には届かんぞ?」

 

 

白夜叉は不敵に笑い、挑発するかの如く手をクイックイッと曲げる。そこに力溜めを終えたゲレゲレが牙を剥き出して襲い掛かる。だがそれすらもしゃがみ込み回避した後アッパーカットでゲレゲレのボディを思い切り打ち上げた。

ゲレゲレは大きく上に飛ばされたが空中で体勢を立て直し地面に着地する。

 

 

「ゲレゲレ、大丈夫か?」

 

「ニャフン」

 

 

ゲレゲレは首肯し白夜叉を敵意を向ける。見た目ほどダメージは喰らってないようだ。

 

 

(ふむ?殺すつもりこそないが意識を刈り取る気はあったのに全く堪えておらんな。あの地獄の殺し屋が装備している防具も一躍をかっているのだろうがそれでも説明がつかぬ。となると…………)

 

 

白夜叉は思案し、自分の一撃がそんなにダメージとして相手に与えられなかったことに考える。そしてスラりんの方を見やる。

 

 

(先程リュカがあのスライムに指示していたスクルトとかいう何か。これが防御力を上げているとみた。しかしだとすると厄介だの。アレの効力がいつ切れるか私にはわからん。まあ、わざわざ防御力を上げているくらいではあるから何れ効力は切れるとは思うのだが。ま、難しく考えても仕方ないかの)

 

 

軽く息を吐くと白夜叉は構えを取る。目標は目の前の一人+三匹。

 

 

「さあ、これをどう対処する!」

 

 

白夜叉は迸る火炎を相手に放った。火炎は直様リュカ達を飲み込み爆炎と化す。

その光景を見た黒ウサギは顔面蒼白になる。

 

 

「リュカさん⁉︎」

 

「落ち着け黒ウサギ。彼奴らは無事だ」

 

 

今にもリュカ達の元に駆け出しそうだった黒ウサギを十六夜が押し留める。黒ウサギはえ?と言った感じで十六夜を見るが十六夜はずっとある一点、リュカ達が爆炎に飲み込まれた場所を注視していた。

 

 

「ケホッケホッ。まったく、太陽の星霊とは言っていたけど炎を操るなんてね。僕の装備とシーザーがいなかったら大変な事になってたよ」

 

 

リュカ達は無事だった。だが先程と変わっている点がある。それはリュカの隣に金色の大きな龍がいること。この龍はグレイトドラゴンのシーザー。何故シーザーを呼んだのかというと

 

 

「いや、ゴメンね?炎ならシーザーが盾には適任だったからさ。炎に耐性があるのは装備で固めた僕とシーザーとあともう何体かいるけどそこまで余裕なかったしなぁ」

 

「成る程。咄嗟に炎に耐性のあるグレイトドラゴンを呼び出しそれを仲間を守る肉の壁となしたか。おんしの装備は装備で大概だがの」

 

「ハハハ。さて、と。ゲレゲレ。いくよ!」

 

 

リュカは一声ゲレゲレに声を掛けてゲレゲレに飛び乗る。騎馬ならぬ騎豹。これでリュカはより速く動けるようになった。

 

 

「さあ、第二ターンの開始だ。スラりん、灼熱!ピエール、イオラ!シーザー、輝く息!」

 

「おうよ、任せな!」

 

 

スラりんは大きく息を吸い込むとそれを一気に炎として白夜叉に噴出した。流石の白夜叉もまさか魔物の中で最弱と確実に言えるスライムがこれ程までの規模の炎を吐けるというのは想定外だったようだ。だが驚きは束の間で済ませ、拳で炎を横薙ぎにする。すると灼熱は雲散霧消した。

 

 

「熱した後は冷やさないとね!」

 

 

次にシーザーが口から輝く白い息を吐き出す。今度は先程のスラりんが放った灼熱の熱気とはベクトルが真逆な冷気。だがそれも拳の横薙ぎで掻き消してしまう。

 

 

「どうした!こんなものではなかろう!」

 

「当たり前!ピエールを忘れてないかい?」

 

 

突如、白夜叉が立っていた場所が爆発を起こす。ピエールが中級爆破呪文を唱えたのだ。だが勝利とはならなかった。白夜叉はガードしつつ、爆風の勢いを利用し大きく後方に下がっていたのだ。

 

 

「中々よい一撃であった。だが惜しいのうまだ届かんぞ?」

 

「いいや。これでいいんだ。時間は稼げたからね」

 

 

そう言ったリュカの手には太鼓があった。この太鼓の名前は戦いのドラム。戦場において味方を鼓舞する為に用いられる太鼓だ。この音色を聞いた味方は攻撃力が二倍となる。

 

 

「さあ、聞けこの音を。そして猛ろ精鋭達よ!」

 

 

リュカは戦いのドラムを打ち鳴らした。味方を昂揚させる音色が辺りに響く。これで取り敢えず今この場にいるリュカ、ゲレゲレ、スラりん、ピエール、シーザーは攻撃力が二倍となった。

音色を聴き終えたピエールが真っ先に白夜叉に斬りかかる。白夜叉は先程と同じ様に剣を止めようとした。だが止められなかった。

白夜叉は余計な体力を使わないタイプだ。相手が攻撃に5を振るなら白夜叉もまた防御に5を振る。つまり余計な力を使わないで必要最低限の力で相手の攻撃をいなすのだ。が、それ故に先程ピエールの剣を足で受け止めたのが仇となった。先程と同じ力で斬りつけてきたと思ったから先程と同じ力で対処しようとしたのに実は二倍になっていた。故に受け止め切れずに体勢を崩された。そこを見逃すリュカではない。ゲレゲレに騎乗したリュカは疾風の如く駆け出し、白夜叉に上から襲い掛かり杖で突こうとした。だがそこは東側最強と呼ばれている白夜叉だ。崩された体勢からでも拳を放とうとする。

 

 

「スラ・ストライク!」

 

 

その白夜叉の脇腹目掛けてスラりんが体当たりを仕掛ける。スラ・ストライクはスライムが限界まで体を伸ばし、それを一気に戻すことにより得られる反動で体当たりをする技である。体当たりと違うところと言えば単純に威力とスピードが段違いというところである。

白夜叉は拳を放つ事を断念し、炎をボンっと自分を中心に出し、その反動で場を脱しつつリュカ、ゲレゲレ、スラりんにダメージを与える。

白夜叉は着地し、息をフウッと吐く。

 

 

「いや、今のは危なかった。スライムナイトの攻撃力が上がったのは先程打ち鳴らした太鼓の効果か?おんしはギフトを大量に持っているのう」

 

「お望みとあらばまだまだ出せるよ。僕が持っている道具はこれだけじゃないからね」

 

 

とリュカはまだまだ手はあるぞ、と言ってみせたが内心はそろそろキツくなってきたと考えていた。

 

 

(参ったな。スラりんのスラ・ストライクでどうにかなると思っていたのに。他にも手はあることにはあるけども果たしてそれは効くのだろうか)

 

「兄貴!考えすぎるのはよくないぜ。俺たちゃ兄貴の命令には従うからよ!偽太后の時の戦いを思い出すなぁ、オイ。あんときゃヘンリーのマヌーサがよく効いてたな」

 

「そうか。ありがとう、スラりん。…………ならシーザーに向かって灼熱。シーザーはスラりんに向かって輝く息だ」

 

「おうよ!いくぜシーザー!」

 

「ガァァァァァァァ!」

 

 

スラりんとシーザーは命令された通りに灼熱、輝く息をお互いに向けて吐き出した。白夜叉はその行動に僅かに眼を見開くがすぐに行動の意味を理解する。

灼熱と輝く息がぶつかり合い、たちまち白い煙が爆発的に出た。

 

 

(上手いな。これは水蒸気か。私の眼を潰そうという魂胆なのだろうが…………)

 

「そうは問屋が卸さんぞ!」

 

 

白夜叉は扇子を懐から取り出し思い切り前方を払う。すると暴風が巻き起こり水蒸気は一気に吹き飛んでしまった。すぐにリュカ達の姿が露わとなるがまた違う点があった。腕が4本、足が4本あるライオンがいたのだ。

このライオンはアームライオンという魔物で彼の名前はアムール。何故アムールを呼び出したのかというと

 

 

「アムール!マヌーサだ!」

 

「任せとけ!オラっ、マヌーサだ!」

 

 

これを唱える為である。

マヌーサとは幻惑呪文。相手に幻惑を見せることで相手のミスを誘う呪文である。勿論、この呪文が必ず効くわけではない。効く時もあるし効かない時もある。ましてやそもそも効かない相手だっているのだ。

だが白夜叉には見事に効いた。

 

 

「なにっ?リュカとその他の魔物が大量におる、だと?成る程、幻影か!」

 

「あ、因みにそれ五感全て騙くらかす幻惑呪文だから眼を閉じたところで無意味だよ」

 

「むぅ、小賢しい!」

 

 

リュカはマヌーサが通じて安心してはいたが慢心はしていなかった。恐らくだがマヌーサが効いたのは白夜叉がマヌーサを今の今まで受けた事がなかったからだ。白夜叉程の実力者なら一回受ければ今後は二度と効かないということになってもおかしくはない。更に言えば本来ならマヌーサが効いた場合は数分は保つものだが白夜叉相手だと20秒保てばいい方だろう。

 

 

「行け!ゲレゲレ、スラりん、ピエール、シーザー、アムール!」

 

 

魔物達を全て攻撃に回す。作戦で言うのならガンガン行こうぜ、だ。

アムールが爪を振り下ろす。ゲレゲレが牙を突き立てる。ピエールが剣で斬りかかる。シーザーが丸太の様に太い尾を叩きつける。スラりんがスラ・ストライクを仕掛ける。

だがそれらの全てを白夜叉は防ぎ切った。途中何も無い場所で拳を振ったり足を上げたりと意味の無い行動をがしていたところからすると恐らく幻影からも攻撃されていてそれも含めて全て防ぎ切ったのだろう。やはり強い。

そうこうしている内にマヌーサの効果が切れる。白夜叉が見えていたであろう幻影は全て消え、残されたのは実体を持つ者だけ。

 

 

「効果が切れたか!ならばらこちらのもの!」

 

 

白夜叉は手始めにスラりんに肉薄した。スラりんは咄嗟に回避行動を取ろうとするが、時既に遅く白夜叉は肉薄しておりスラりんはまず掌打を受けた。吹き飛ぶスラりんの小さな肉体。だがそれが落ちる事を白夜叉は許さない。スラりんが吹き飛ぶスピードよりも速くスラりんに追い付き、アッパーカット。今度は大きく上に吹き飛ばされる。白夜叉、更に追撃。またもや飛ばされるスピードよりも速く跳躍し空中で踵落とし。スラりんは地面に凄い勢いで叩きつけられて二度と起きる気配を見せなかった。

 

 

「まずは一匹」

 

 

白夜叉の無慈悲な宣告。恐らく、いや確実にスラりんは倒されただろう。それが気絶にしろ死亡にしろ。

白夜叉が次にターゲットにしたのはゲレゲレだ。当然、先程スラりんがやられたのでゲレゲレも警戒していた。白夜叉のスピードはゲレゲレと同等かそれ以上。しかしゲレゲレは地獄の殺し屋という異名を持つキラーパンサーとしての本分を大いに発揮した。

それは殺す事。自身が殺しに特化しているからこそ殺される事にも敏感になれたのだ。

白夜叉が攻撃する。それに込められた殺気を感じ取りなんとか避ける。それを繰り返していた。其の間にアムールにシーザー、ピエールが救援に駆けつける。これで四対一だ。数の上ではこちらが有利。だがそれを有利にさせないだけの実力を白夜叉は兼ね備えていた。

ここでリュカはある決断をした。

 

 

「ゲレゲレ!ピエール!アムール!シーザー!スラりんも含めて君達を送還する!代わりに彼等を呼び出す」

 

 

リュカの一言で彼が何をしようとしているのかを魔物達は悟る。ならば後は身を任せるだけだ。

彼等の足元に魔方陣が展開される。彼等はそれによりリュカがいた世界へと送り返される。代わりに別の四体の魔物が呼び出された。

地獄の帝王エスタークの息子(自称)であるプチタークのターク。今でこそ可愛らしい容姿だがかつて彼が物見塔の上で戦い封印しなおしたがうっかり彼が蓋を開けてしまい封印を解いてしまったプオーン。人の上半身に山羊か羊の下半身で全体的に紫の色調で染められているヘルバトラーの○○。スライム系ではあるがかなり大きく黄緑色で王冠を被っているスライムベホマズンのベホズンだ。

その中で白夜叉はタークの存在に驚く。小さいし可愛らしい感じはするが、その容姿はかつて箱庭で破壊の限りを尽くした魔王エスタークに瓜二つであった。その事実に白夜叉は戦慄する。リュカは如何様な方法かは知らないがエスタークに連なる者を仲間としているのだ。それだけで彼のカリスマ性か、或いは力を認めざるを得ない。

 

 

「旦那様。此度の相手はこの星霊でよろしいのですかな?」

 

 

とても丁寧な口調でリュカに話し掛けるのはヘルバトラーのバトラー。旦那様と言うところからして地獄の執事かと問いたくなる。

 

 

「僕が知らなかった星霊の存在をよく知っていたね」

 

「執事の嗜みにございますから」

 

 

どんな嗜みだと小一時間程問い詰めたくなる。

 

 

「さあ白夜叉。これが僕の最強パーティだ。その力をとくとご覧あれ!ターク、プオーン、バトラーは白夜叉に攻撃!タークはプチスラッシュ、プチスパークを使用する事を許可する!プオーンは皆殺しを許可!バトラーは好きな様に動け!ベホズンは皆の体力がかなり減ってきたら適宜回復を!」

 

「え?オイラの技使っていいの?やったー!オイラが早くお父さんみたいになる為の糧となれー!」

 

 

タークは子供の様に嬉々として白夜叉に襲い掛かる。手に持つ双剣に雷を宿しそれを白夜叉に放つ。タークの固有技の一つであるプチスラッシュだ。放たれた雷は地面を砕きながら白夜叉に襲い掛かる。それに対し白夜叉は炎でもって迎撃する。威力は互角なのがタークの恐ろしいところだがその均衡は破られた。タークがもう一方の剣に宿していた雷を放ったのだ。白夜叉が放った炎の威力をアッサリと超え雷が白夜叉に迫る。これを白夜叉は横に大きく跳ぶ事で回避する。だがそこにはいきり立ったプオーンがいた。

 

 

「死にさらせぇっ!」

 

 

プオーンの拳が白夜叉を砕かんとする。白夜叉は相手の攻撃の危険さに気付いたのか今度は後ろに大きく跳ぶ。先程まで白夜叉が立っていた場所にプオーンの一撃が放たれる。

ドゴォーンッ!

プオーンの拳が触れた場所を中心に大きくクレーターが出来上がる。十六夜なら簡単に作れそうなクレーターではあるが特筆すべきはプオーンが封印されていたせいで全盛期の力ではないというところである。全盛期でなくともこの威力。末恐ろしいものであった。

 

 

「おいコラ!私のような美少女を防御ごとぶち殺そうとしただろ!防御していたら今頃死んでおったわ!」

 

「ぬかせ。少女なのは見た目だけでその実数百どころではないだろう貴様の年齢は。それにワシら魔物は殺すか殺されるかの世界だ。貴様の道理を持ってこられても困る」

 

 

リュカは手に持つ杖の力を感じている。この杖はこの世界で言うならば龍造の杖。更に作った龍の力が込められている一品である。今までにこれを使ったのはミルドラースの時しかない。だがこれ以外に手がないのもまた事実。

 

 

「ドラゴンの杖よ!今こそその力を我に宿したまえ!」

 

 

瞬間、リュカから爆発的な閃光が迸る。突然の閃光に背を向けていた魔物達以外は目を細める。目を細めて何とかリュカのシルエットだけは見えたがそれに変化が如実に現れた。人から人じゃない何かに。腕は太くなり、口は裂けて、翼が生えて、尾も生える。閃光がおさまった時にその場にいたのはリュカではなく蒼白の鱗に身を包んだ龍そのもの。

 

 

「オイオイオイオイ。面白い奴だとはわかっていたが…………まさか龍になるなんてな!」

 

「リュカくんが龍に…………?いえ、それよりもなんて神々しいのかしら…………」

 

「リュカの正体は龍…………?なら、リュカと友達になれば龍の力が手に入る?」

 

「リュカさんが龍になってしまったのですよ!箱庭の最強種の一角を担う龍に!」

 

 

問題児と黒ウサギは各々の感想を言う。物騒に聞こえてしまうもの。見惚れているもの。なんか場違いなもの。リュカがなったものに驚愕の声を上げるもの。

そんな事を彼等が言っている中で白夜叉は黒ウサギ以上に驚愕していた。

 

 

(あの姿はマスタードラゴンのものではないか!箱庭の三桁に拠点を構える押しも押されぬ強豪コミュニティ“天空城”の長!だが、マスタードラゴンよりは力を感じないな…………。とすると彼奴の眷属と考えるのが妥当だろう。黒ウサギもまた面白い奴を仲間にしたのう)

 

「さあ、白夜叉。この姿になったからには貴女には確実に勝たせてもらおう。行くぞ!」

 

 

龍となったリュカが白夜叉に強襲する。確かにマスタードラゴンよりは弱いと言えど、リュカの今の力は白夜叉と同等だ。何故なら白夜叉が最強種の星霊と神霊の二つを兼ね備えているのならリュカは龍と神霊の二つを兼ね備えているからだ。少なくとも種族の差は無いも同然だった。

リュカの動きに合わせて魔物達も動く。バトラーは上級爆破呪文イオナズンを。タークは地獄より呼び出した雷を相手にぶつけるジゴスパークのターク版であるプチスパークを。プオーンは激しい稲妻を呼び寄せた。

魔物達の攻撃を躱したり弾いたりいなしたりしていた白夜叉だがそこにリュカの拳が振るわれる。その拳を腕を交差させる事でガードはしたがそのまま大きく上空に吹き飛ばされてしまった。ガードを崩されずにいたのはただの幸運でしかない。

上空に吹き飛んだ白夜叉を噛み砕かんとリュカぎ迫る。ようやく重力に従った落下をし始めた白夜叉はそれを迎え撃たんと両手から炎を出しグングンとスピードを上げながら蹴りを放つ。

リュカの牙と白夜叉の足。それがぶつかろうとした瞬間龍であったリュカの姿が消えた。

 

 

「なんじゃと⁉︎…………グホッ⁉︎」

 

 

驚いた白夜叉の背中に衝撃が奔る。全く予期していない状態での一撃だったから普段よりは効いたがそれで崩された体勢もすぐに元に戻った。いまだ落ち行く中で白夜叉が空を見上げればそこには人の姿をしているリュカその人がいた。

 

 

「僕の、勝ちだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、実に見事!いつの間にやら私の後ろにいたとはな!どうやって私の背後を取ったか訊いても構わんかのう?」

 

「ほとんど一か八かだったけどこれのおかげだよ。ターク」

 

 

リュカが声を掛けるとエスタークの縮小版のようなプチタークのタークがトテトテと手に何かを持って歩いてくる。その何かをリュカは持ち上げ白夜叉に見せる。

 

 

「これは…………?」

 

「ラーの鏡。鏡に映した者の真の姿を映し、その姿に強制的に戻す鏡だ。実は僕の頭にタークがその鏡を持った状態で龍となった僕の頭にしがみついていたんだ。で、白夜叉と交差する際にラーの鏡を僕の眼前に持ってきて僕は元の姿に戻ったんだ」

 

「成る程な。あの時消えたように見えたのは龍だったのが一気に人の姿に戻ったからだったのか。いやはや実に良き戦いであった!久しぶりにこの私も楽しませてもらったぞ!今度もまたやらないか?」

 

「勘弁してくれ。今回は貴女が見た事のない道具や呪文を色々と駆使してからどうにかこうにか勝てたんだ。二度目以降は僕の負けになるよ」

 

「むう、詰まらんな。…………まあ、よい。私とのゲームに勝ったおんしらには何か褒美を与えねばなるまいが…………そう言えば黒ウサギは何用でここに来たのだ?」

 

「あ、ハイ。白夜叉様にギフトの鑑定をお願いしようと思いまして」

 

「よ、よりにもよってギフト鑑定か。専門外どころか無関係もいいところなのだがの」

 

 

そうボヤきつつも白夜叉は四人の顔を両手で包んで見つめる。

 

 

「どれどれ…………ふむふむ…………うむ、四人ともに素養が高いのは分かる。しかしこれではなんとも言えんな。おんしらは自分のギフトを の力をどの程度に把握している?」

 

「企業秘密」

 

「右に同じ」

 

「以下同文」

 

「寧ろ僕にギフトあるの?」

 

「うおおおおい?いやまあ、仮にも対戦相手だったものにギフトを教えるのが怖いのは分かるが、それじゃ話が進まんだろうに。あとリュカ、おんしはキチンとギフトを所持しているぞ」

 

「別に鑑定なんていらねえよ。人に値札を貼られるのは趣味じゃない」

 

「まあ、何にせよ“主催者”として褒美を与えねばならんしな。リュカが私との“決闘”に勝利したからこれを与えても贅沢にはならんだろう」

 

 

白夜叉がパンパンと柏手を打つと四人の眼前に光り輝く四枚のカードが現れる。

カードにはそれぞれの名前と、体に宿るギフトを表すネームが記されていた。

 

 

コバルトブルーのカードに逆廻十六夜・ギフトネーム“正体不明”

ワインレッドのカードに久遠飛鳥・ギフトネーム“威光”

パールエメラルドのカードに春日部耀・ギフトネーム“生命の目録”“ノーフォーマー”

アメジストパープルのカードにリュカ・グランバニア・ギフトネーム“魔を統べる王”“ドラゴンの杖”“太陽の冠”“王者のマント”“光の盾”“袋”“龍神の加護”

 

 

それぞれの名とギフトが記されたカードを受け取る。

黒ウサギは驚いたような、興奮したような顔で三人のカードを覗き込んだ。

 

 

「ギフトカード!」

 

「お中元?」

 

「お歳暮?」

 

「お年玉?」

 

「トランプ?」

 

「ち、違います!というかなんで皆さんそんなに息が合っているのです⁉︎このギフトカードは顕現しているギフトを収納できる超高価なカードですよ!耀さんの“生命の目録”だって収納可能で、それも好きな時に顕現できるのですよ!」

 

「つまり素敵アイテムってことでオッケーか?リュカさまさまだな」

 

「だからなんで適当に聞き流すんですか!あーもうそうです、超素敵アイテムなんです!」

 

 

黒ウサギに叱られながら四人はそれぞれのカードを物珍しそうに見つめる。

 

 

「我らの双女神の紋のように、本来はコミュニティの名と旗印も記されるのだが、おんしらは“ノーネーム”だからの。少々味気ない絵になっているが、文句は黒ウサギに言ってくれ」

 

「ふぅん…………もしかして水樹って奴も収納できるのか?」

 

 

何気なく水樹にカードを向ける。すると水樹は光の粒子となってカードの中に呑み込まれた。

見ると十六夜のカードは溢れる程の水を生み出す樹の絵が差し込まれ、ギフト欄の“正体不明”の下に“水樹”の名前が並んでいる。

 

 

「おお?これ面白いな。もしかしてこのまま水を出せるのか?」

 

「だ、駄目です!水の無駄遣い反対!その水はコミュニティの為に使ってください!」

 

 

チッ、とつまらなそうに舌打ちする。黒ウサギはまだ安心できないような顔でハラハラと十六夜を監視している。白夜叉はその様子を高らかに笑いながら見つめた。

 

 

「そのギフトカードは、正式名称を“ラプラスの紙片”、即ち全知の一端だ。そこに刻まれるギフトネームとはおんしらの魂と繋がった“恩恵”の名称。鑑定は出来ずともそれを見れば大体のギフトの正体は分かるというもの」

 

「へえ?じゃあ俺のはレアケースなわけだ?」

 

 

ん?と白夜叉が十六夜のギフトカードを覗き込む。そこには確かに“正体不明”の文字が刻まれている。ヤハハと笑う十六夜とは対照的に、白夜叉の表情の変化は劇的だった。

 

 

「…………いや、そんな馬鹿な」

 

 

パシッと白夜叉はすぐさま顔色を変えてギフトカードを取り上げる。その雰囲気には尋常ならざるものがあった。真剣な眼差しでギフトカードを見る白夜叉は、不可解とばかりに呟く。

 

 

「“正体不明”だと…………?いいやありえん、全知である“ラプラスの紙片”がエラーを起こすはずなど」

 

「何にせよ、鑑定は出来なかったってことだろ。俺的にはこの方がありがたいさ」

 

 

パシッとギフトカードを白夜叉から取り上げる。だが白夜叉は納得できないように怪訝な瞳で十六夜を睨む。それほどギフトネームが“正体不明”とはありえないものなのだろう。

 

 

(そういえばこの童…………蛇神を倒したと言っていたな)

 

 

生来の神々や星霊ほどではないものの、神格保持者は種の最高位。嵐を呼び寄せるほどの力を持つ蛇神が人間に打倒されるというのは、まずあり得ないことだ。

 

 

(強大な力を持っている事は間違いないわけか。…………しかし“ラプラスの紙片”ほどのギフトが正常に作動しないとはどういう…………)

 

 

ギフトが正常に機能しない。そこで白夜叉の脳裏に一つの可能性が浮上した。

 

 

(ギフトを無効化した…………?いや、まさかな)

 

 

浮上した可能性を、苦笑とともに切り捨てる。

修羅神仏の集うこの箱庭において無効化のギフトなど対して珍しくもない。だが、それは単一の能力に特化した武装に限られた話。

逆廻十六夜のように強大な奇跡を身に宿す者が、奇跡を打ち消す御技を宿しては大きく矛盾する。その矛盾の大きさに比べれば“ラプラスの紙片”に問題があるという結論の方がまだ納得できた。

 

 

「それよかリュカのがスゲえじゃねえか。なんだよ、このギフトの数は。それになんだ?この“魔を統べる王”ってのは。略したら魔王になるじゃねえか」

 

「本当なんなんだろうねぇ。それよりも僕としては袋がギフトだったことに驚きなんだけど」

 

「そりゃ違いねえ」

 

 

 

 

 

 

 

問題児三人とリュカに猫一匹は店前で待ってもらうことにした。待たせている間に白夜叉は黒ウサギと話をする。

 

 

「さて、ここに呼んだのは他でもない。リュカについてだ」

 

「やはり…………リュカさんは魔王なのでしょうか?少なくとも黒ウサギは魔物を意のままにできるのを魔王以外には知りません」

 

「そうだな。だがそれは半分正解で半分不正解だ。正確には魔王の中でも取り分け特別な者しか魔物を従える事はできぬ」

 

「特別な者…………?それは一体…………?」

 

「おんしも名前だけは聞いた事があるだろうが夢幻の王・デスタムーア。魔族の王・デスピサロ。魔界の王・ミルドラース。少々変則的ではあるが、地獄の帝王・エスタークもこれに当てはまる。他にもいるにはいるがこれらが魔物を従える事ができる魔王だ」

 

「確かに聞いた事はありますが…………名前を挙げた魔王には共通点があるのですか?」

 

「如何にも。名前を上げなかったのにもまあ共通点がなくはないのもいるが、取り敢えず名前を挙げた者は全て“魔界”というコミュニティの長だった者だ」

 

「それとリュカさんの関連性は?」

 

「うむ。実は私はデスピサロ…………今はというか元からピサロという名前ではあったがそれと知己でな。リュカはピサロに似ておったのだ。無論、これだけではただの推測でしかなかったのだがな。彼奴のギフトを見て確信した。リュカはピサロの関係者だ」

 

「リュカさんのギフトというと…………“魔を統べる王”ですか?」

 

「ああ。だがそれにもちょっとした違いがあるせいで私自身100%信じているわけではない。本来ならギフトネームは“魔物を率いる王”なのだ。だがそれがあのように変化しているとなると…………寧ろ、リュカの方がそれらの魔王より酷いものとなるやもしれん」

 

 

白夜叉はリュカのギフトを見た瞬間からある種の考えが頭にありそれが離れなかった。実に荒唐無稽な話でありそれが真実だとするならばそれこそリュカはその気はなくとも本気で魔王認定されかねない。

 

 

「彼奴のギフトは…………恐らくではあるが人間以外の種全てに作用するギフトだ。正確には人間にもある程度は効くのだろうがな。その効果には龍も星霊も神霊も例外はない。条件さえ満たせばそれら全てを仲間にする事が可能だろう。更に言うならそれらを強くするというのも含まれているな」

 

「それは…………別にいいのではないですか?戦力増強は何処だってやっておりますし、特に咎められる理由は無いと思いますが?」

 

「あのギフトには“主催者権限”も含まれておるぞ。彼奴がその気になれば無差別にゲームを仕掛ける事も可能と言うわけだ。今はともかく、本格的に星霊や龍なぞを仲間にすれば出る杭は打たれるの理論でリュカは魔王認定されるであろうな。例えどんな悪事も働かなかったとしてもだ」

 

「そんな…………そんなのって…………!」

 

 

黒ウサギは絶句する。出る杭は打たれる。それはつまりいつか無差別に襲う可能性があるからそれまで何もやってなくてもぶち殺す。そう言っているようなものだ。

 

 

「何の話してるの?」

 

 

そんな場に闖入者が現れる。白夜叉と黒ウサギは驚き闖入者の方を見遣るとそこにはタークがいた。

 

 

「そう言えばおんしにも訊きたい事があったな。おんしの身内にエスタークなる者はおるか?」

 

「え?お父さんの事?お父さんはとても立派な魔王だよ!僕もいずれああなるんだ!」

 

 

リュカよりもこの子をどうにかした方がいいかもしれないと思ったのはこの二人だけではないはずだ。

 

 

「まあ、今お父さんら眠っているからリュカとティミーにポピーが今のところ起きている親族って事になるのかなオイラの場合は」

 

「…………待て。今なんと言った?」

 

「え?オイラの場合は?」

 

「違うその前だ」

 

「リュカとティミーにポピーが今のところ起きている親族?」

 

「何じゃと…………。リュカはエスタークの子孫だと言うのか…………!」

 

「?うん、そうなるね。えーっと、曽孫くらいかな?」

 

「…………黒ウサギ。この事は他言無用だ。分かったな?」

 

「アッハイ」

 

 

白夜叉はタークから訊いた事実を他に漏らす事を禁じた。それもそのはず、エスタークは魔物を率いた魔王の中でも特に破壊の限りを尽くした魔王だからだ。それがかなり昔の話だとしてもその名前は未だに知れ渡っており、箱庭においては一桁に入る程の実力者ではないかという話となる。

そんな存在の曽孫。ハッキリ言って当時から生きている者にとっては恨み骨髄に徹している。その恨みはただ親族というだけで向けられる事もあり得るのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く…………黒ウサギも厄ネタを掴ませおってからに。これは黒ウサギには三食首輪付きの生活を送ってもらうしかないのう?」

 

「絶対にNoです!」

 

 

チェッ、と舌打ちする白夜叉。それを警戒した眼差しで見る黒ウサギ。だが両方ともリュカを危険な眼にあわせない事だけを考えていた。

当のリュカはどこ吹く風ではあったが。

 

 

「へっくし!…………うーん、風邪でも引いたかな?」




皆さん正直に答えてください。



長かったでしょ?私もそう思っているから。


ま、まあ、遂にリュカのギフトが判明して色々と謎設定が出ていますけど細けえ事は気にすんな!……気になるのなら答えますけどねー。


あとこの物語は名前とかそういうチョイチョイとした設定は小説版からですが、基本的にはゲームの設定でいきます。つまり子供達を守って死んでしまったガンドフさんはいませんヤッタネ!


一応、今言っておくか。


ザオラル、ザオリクは蘇生呪文としてドラクエでは扱われております。
当作品におきましては条件を満たしているなら蘇るということにします。


①死後一時間以内である事
②死体になるべく欠損がない事
③対象に生きる意思がある事


の三つですね。

①は死後一時間を過ぎてしまうと問答無用で魂がバイバイするから
②は例えばですけど腹にボコっと穴が空いていてその状態で蘇ってもすぐに死ぬよね?って事でなるべく欠損がない事。腕がもげたくらいならOK
③は漫画にあった設定ですが対象に生きる意思がなかったら対象が拒否してしまうんですよねぇ


とまあこんな感じかな。
え?魔力?
バーロー、それは条件じゃなくて当たり前の前提だ!


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ノーネームVSガルド

おっくっれったっぜ!


今回遅れた理由
・寝落ち
・書き溜めのデータがしめやかに爆発四散×3

こんな感じ。
あれかな?平将門公を将門って呼び捨てにしたのがいけなかったのかな?
この場合お祓いって寺?神社?


取り敢えず確実に前話よりクオリティの低い今回のお話どぞー


白夜叉とのゲームを終え、噴水広場を越えて五人は半刻ほど歩いた後、“ノーネーム”の居住区画の門前に着いた。門を見上げると旗が掲げてあった名残のようなものが見える。

 

 

「この中が我々のコミュニティでございます。しかし本拠の館は入口から更に歩かねばならないので御容赦ください。この近辺はまだ戦いの名残がありますので…………」

 

「戦いの名残?噂の魔王って素敵ネーミングな奴との戦いか?」

 

「は、はい」

 

「ちょうどいいわ。箱庭最悪の天災が残した傷跡、見せてもらおうかしら」

 

 

飛鳥は純粋な好奇心からその言葉を発した。箱庭における天災の魔王。白夜叉は元魔王らしいが、リュカに負けた。なら現役の魔王の実力がどの程度のものか知りたいと思うのも無理はない。

黒ウサギは躊躇いつつ門を開ける。すると門の向こうから乾ききった風が吹き抜けた。

砂塵から顔を庇うようにする四人。視界には一面の廃墟が広がっていた。

 

 

「っ、これは…………⁉︎」

 

 

街並みに刻まれた傷跡を見た飛鳥と耀は息を呑み、十六夜はスッと目を細める。リュカは何かを考えるそぶりをしていた。

十六夜は木造の廃墟に歩み寄って囲いの残骸を手に取る。

少し握ると、木材は乾いた音を立てて崩れていった。

 

 

「…………おい、黒ウサギ。魔王のギフトゲームがあったのはーーーー今から何百年前の話だ?」

 

「僅か三年前でございます」

 

「ハッ、そりゃ面白いな。いやマジで面白いぞ。この風化しきった街並みが三年前だと?」

 

 

そう、彼ら“ノーネーム”のコミュニティはーーーーまるで何百年という時間経過で滅んだように崩れ去っていたのだ。

美しく整備されていたはずの白地の街路は砂に埋もれ、木造の建築物は軒並み腐って倒れ落ちている。要所で使われていた鉄筋や針金は錆に蝕まれて折れ曲がり、街路樹は石碑のように薄白く枯れて放置されていた。とてもではないが三年前まで人が住み賑わっていたとは思えない有様に三人は息を呑んで散策する。

 

 

「…………断言するぜ。どんな力がぶつかっても、こんな壊れ方はあり得ない。この木造の崩れ方なんて、膨大な時間をかけて自然崩壊したようにしか思えない」

 

 

十六夜はあり得ないと結論付けながらも、目の前の廃墟に心地良い冷や汗を流している。

飛鳥と耀も廃屋を見て複雑そうな感想を述べた。

 

 

「ベランダのテーブルにティーセットがそのまま出ているわ。これじゃまるで、生活していた人間がふっと消えたみたいじゃない」

 

「…………生き物の気配も全くない。整備されなくなった人家なのに獣が寄ってこないなんて」

 

「…………魔王とのゲームはそれほどの未知の戦いだったのでございます。彼らがこの土地を取り上げなかったのは魔王としての力の誇示と、一種の見せしめでしょう。彼らは力を持つ人間が現れると遊び心でゲームを挑み、二度と逆らえないよう屈服させます。僅かに残った仲間達もみんな心を折られ…………コミュニティから、箱庭から去って行きました」

 

「これならまだ問題ないな…………。思ったより早く済みそうだな…………」

 

「な、何がでございます?リュカさん」

 

「あれ?聞こえてたんだ。なら言うけど正直僕としてはこの傷跡ですらこの程度のものか、って感想なんだけど」

 

 

リュカの一言に四人は目を見開く。十六夜だけは種類が違うようだが、根幹にあるのは驚愕には間違いないだろう。

 

 

「こ、この程度…………ですか…………?」

 

「うん、この程度。確かに大地は痩せ細り、水は涸れ果てて、建物は風化しきっている。でも、僕が経験してきた事と僕の立場から言わせてもらえばこの程度なんだよ」

 

「経験してきた事と立場?聞かせてもらおうじゃねえか」

 

「そうだね。僕は王となる前に村に住んでいたんだけどその村がある理由で焼き討ちされたんだ。ご丁寧に毒まで撒かれていた。規模だけで見ればこのコミュニティの惨状よりは酷くはないようにみえるけど、実際は人が住むには適さない環境になっていたんだ。けどなんとか復興したよ。二十年という月日をかけて。そこから言わせてもらえばここは人が住めるだけまだいい環境だと言える。この分なら二十年とかけずに元通りになるんじゃないかな」

 

「経験はわかった。寧ろ凄えな。お前の世界の話を聞いてたらそこまで技術は高くないように思えるのにたった二十年で村一つとはいえ復興できるなんてな」

 

「村人達が頑張った結果だよ。次に立場から言わせてもらうと僕は王だけど、王一人だけじゃとても国とは言えないよね。なら国が国たり得る条件は何かわかるかな?」

 

「国民、領土、主権の三つだな。この場合主権は政府とも置き換えられるけどな」

 

「政府って元老院とかそういう感じの機関と考えていいのかな?まあ話を進めるけどこのコミュニティを国とするなら子供達、国民がいて領土がある。あと足りないのは主権或いは政府だけだ。この政府はつまりトップを含めた幹部連中になるんだろうけど…………子供達という人材もあり僕はともかくとしてイザヨイやアスカにヨウといった面々もいる。これも僕がこの程度だって言った理由。まあ要するに深い手傷を負っているように見えるけど、本当はそうでもないって感じだね」

 

 

リュカの言い分に彼らは納得する。成る程、確かに三年前に起こった魔王の襲撃で受けた傷はとても大きな存在が行ったとわかる。が、ゲームを行える仲間はともかくとして子供達は生きていて土地もある。これなら再起する分には簡単に済みそうだ。尤も、再起以上の事をするのなら話は変わってくるが。

 

 

「それにだ。本当に心が折れているのなら黒ウサギ達は僕達をここに呼ぶ必要は無かったはずだ。それでも呼んだのは気概があったからだろう?このコミュニティを取り戻すための」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は進みリュカは書庫にいた。かつて栄えていた現在の“ノーネーム”が所蔵している蔵書の数々。それらを数冊程取り出しそれを読んでいた。

 

 

(この世界には様々な世界の修羅神仏などが集まっている。イザヨイ達の世界の事を訊ねてみたけど、少なくとも僕が知る限りアマテラスだとかスサノオだとかそんな神の名前は聞いた事がない。アスカやヨウも同じ神の名前を口にしていたから三人は同じ世界の出身なのだろう。だが僕は違う。魔物関連の知識なら兎も角として他の知識はイザヨイ達に遥かに劣っているのだから今の内に詰められるだけ詰めないとな。…………それにしても文字が普通に読めるな。僕がいた世界なら兎も角、他の世界まで言語が同じだと言う事はないだろう多分。箱庭には自動翻訳機能でも付いているのかな?)

 

 

リュカは書物を読み漁り、取り敢えずではあるが知識を詰め込む。彼の世界は一神教…………と言うよりはそもそも神と呼べる存在が一人…………一匹?しかいないから自然、崇拝されるのもその神だけとなるのだ。地域地域では精霊信仰もあるだろうが、それ自体も神の配下なのだから結局は神を祀っている事になるのだ。

ズドガァン!

突如、轟音が鳴り響く。それに衝撃も伴っていたのか、書架から幾つか書籍が飛び出してしまう。

 

 

「あらら…………本は大切に扱わないといけないのにな。イザヨイかな?多分、遊んでいるんだね」

 

 

リュカは落ちた本を拾いに向かう。拾った本を書架に戻しそれを幾度か繰り返し最後の一冊を拾う。だがリュカはその一冊を書架に戻す事をしなかった。何故か。本のタイトルが気になったからだ。

 

 

『呪文極みの書 著者 大魔導師ポッピン』

 

 

…………正直言えばタイトルよりも著者名の方が気になったと言えなくもない。ポッピンという自分の娘と似通った名前の人が書いたというのも戻さなかった要因かもしれない。

リュカは何気なくその本を読んでみた。

 

 

「これは…………凄いな。僕が知りうる限りの全ての呪文が載ってあるし、僕が聞いた事もない呪文も載ってある。しかも全て解説付き。これさえあれば適性がある人はある程度の呪文は覚えられるだろうな。ただ問題があるとすれば…………」

 

 

リュカはそこで言葉を区切る。そして誰も聞いてはいないが喋る。

 

 

「見た限りだと何故か僕が使えそうはないと思う呪文が載っていない。少なくとも僕がいた世界で僕はメラ系統の呪文もヒャド系統の呪文も使えなかったはずだ。まあ、イザヨイ達と会った時にメラは使ったけどね」

 

 

そう、問題があるとすれば今のリュカに使えそうにない呪文が載っていないと言う事。これは明らかにおかしな事である。

少なくとも彼がいた世界においては呪文には向き不向きがあり、その時のリュカは攻撃系の呪文だとバギ系統の呪文しか使えなかったはずだ。

だがこの箱庭に来てから何故かメラ系統の呪文が使えるようになったし、この本を見る限り載っている呪文は全て使えそうなのだ。

 

 

「…………まあ、おいおい考えるとするか。…………あれ?この本、最後の方何枚か白紙だな。落丁本なのかな?…………今は明日のガルド戦だけ考えておくか」

 

 

リュカは明日に控えているガルド戦に向けて取り敢えず明日のゲームに使えそうな幾つかの呪文をそれはもうアッサリと覚えて眠りにつくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、皆さん!見えてきました…………けど、」

 

 

黒ウサギは一瞬、目を疑った。他のメンバーも同様。それというのも、居住区が森のように豹変していたからだ。ツタの絡む門をさすり、鬱蒼と生い茂る木々を見上げて耀は呟く。

 

 

「…………。ジャングル?」

 

「虎の住むコミュニティだしな。おかしくはないだろ」

 

「いや、おかしいです。“フォレス・ガロ”のコミュニティの本拠は普通の居住区だったはず…………それにこの木々はまさか」

 

 

ジンはそっと木々に手を伸ばす。その樹枝はまるで生き物のように脈を打ち、肌を通して胎動のようなものを感じさせた。

 

 

「やっぱりーーーー“鬼化”してる?いや、まさか」

 

「ジン君をここに“契約書類”が貼ってあるわよ」

 

 

飛鳥が声を上げる。門柱に貼られていた羊皮紙には今回のゲームの内容が記されていた。

 

 

『ギフトゲーム名 “ハンティング”

 

・プレイヤー一覧 久遠 飛鳥

春日部 耀

リュカ・グランバニア

ジン・ラッセル

 

・クリア条件 ホストの本拠内に潜むガルド・ガスパーの討伐

・クリア方法 ホスト側が指定した武具でのみ討伐可能。指定武具以外は“契約”によってガルド・ガスパーを傷つけることは不可能

・敗北条件 降参か、プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合

・指定武具 ゲームテリトリーにて配置

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下“ノーネーム”はギフトゲームに参加します

“フォレス・ガロ”印』

 

 

「この条件だと僕達ではガルドを傷つけられない事になるね」

 

「そ、そうです!ガルドは自分の命を“契約”に組み込む事で皆さんの力を克服したのです!」

 

「観客的には面白くていいけどな。命張って五分にまで…………ああ、いや、リュカがいるからどう足掻いても一分もねえな相手の勝率」

 

「お褒めの言葉ありがとうイザヨイ。けどそれは過剰評価過ぎるよ。ま、ここでクヨクヨしててもしょうがないから早いとこ入ろうよ」

 

 

そう言ってリュカは臆する事なく門を開け、リュカを先頭に四人は中に入って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、ガルドだが本拠にいるだろう」

 

「どうしてそう言い切れるのかしら?」

 

「経験則。だけじゃあ納得出来ないだろうから言っていくよ。ガルドは明らかに僕達より実力が下なんだ。ならば守りに入るのが当然。ここで攻勢に出る事はまずないだろう。したところで少々手傷を与えられるだろうけど動かなくさせる事は出来るからね」

 

「だけど他の場所に隠れている可能性だってあるじゃない。そこのところはどうなのよ?」

 

「確かにそれもあるだろう。けど、それなら門の入口近くに潜んでおいてゲーム開始の瞬間にこちらを奇襲すれば少なからず被害を被るんだ。だがそれをしてこない以上、一番可能性が高いのは本拠だ」

 

「こっちでも確認した。ガルドは本拠にいる」

 

 

耀が鷹の眼を用いてガルドが本拠にいる事を確認する。飛鳥はリュカの推測が当たっていた事に感心する。そして同時に実感する。リュカは自分達がいた微温湯に浸かったような世界出身じゃない事を。

一同はリュカの推測と耀の確認に基づき、警戒しながら本拠の館へ向かい始めた。侵入を阻むように道を侵食している木々はまるで命じられたかのように絡み合っている。

 

 

「見て。館まで呑み込まれてるわよ」

 

 

“フォレス・ガロ”の本拠に着く。虎の紋様を施された扉は無残に取り払われ、窓ガラスは砕かれている。豪奢な外観も今では見る影も無い。

 

 

「ガルドは二階にいた。私と飛鳥が二階に行くから、リュカとジンは一階で武具のヒントがないか探してて」

 

「ん。適材適所だね。いい判断だ。ついでに退路を守る役目も担わせるとはね」

 

「待ってください!適材適所と言うのならお二人よりもリュカさんの方がいいのでは?黒ウサギから聞きましたよ。ハンデがあったにしろ白夜叉様に一撃を与えたと。そのような実力を持っているのなら不意の事態が起こっても対処出来るのでは?」

 

「確かにそうなんだけどね。言ってしまえば二人と僕の違いなんて経験の差だよ。で、今回はいい具合にほぼ死ぬ心配のない相手がきたんだ。こういう時にこそ経験を積ませないと。それに仮に死んでも蘇らせれるしね」

 

「ちょっと待ってください。リュカさんは死んだ仲間を蘇生する事が出来るのですか⁉︎」

 

「え、うん、出来るよ。まあ確率は五割だけど」

 

 

この事実にジンは驚愕する。魔物を従えるギフトですら魔王認定されてもおかしくないものなのにその上蘇生系のギフトまで持っていたとは。予期せずしてかなりの戦力を拾ったのかもしれない。

 

 

「あら、私達が死んだら蘇らせてくれるのかしら?」

 

「蘇らせるけどこんなとこで死んだら徹底的に扱くからそのつもりでいてね。あと不甲斐ない結果でも扱く」

 

 

飛鳥に耀はニコニコ笑いながらもその実眼が全く笑っていなかったリュカに僅かながら恐怖を覚えそそくさと二階に上がったのだった。

 

 

「リュカ君、怒らせると怖いタイプなのかしら」

 

「…………多分。でも、とても優秀。今は確実に私達よりも強い。その上で私達を行かせた」

 

「ええ、とても悔しいわね。彼ならそれこそ簡単に終わらせられるのでしょうけど」

 

「なら結果を出せばいい。私達二人でガルドを仕留める」

 

「ええ、じゃあ行くわよ。1、2…………3!」

 

 

飛鳥の号令と共に階段を上った先にあった最後の部屋の扉を勢い良く開けると、

 

 

「ギ…………」

 

「GEEEEEYAAAAAaaaa!!!」

 

 

言葉を失い、理性も失った虎の怪物が、白銀の十字剣を背に守って立ち塞がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

目にも留まらぬ突進を仕掛ける虎を受け止めたのは、飛鳥を庇った耀だった。

辛うじてガルドの突進を避けた耀は、階段に突き飛ばした飛鳥に向かって叫ぶ。

 

 

「逃げて!」

 

 

互いに後の言葉は続かない。ガルドの姿は先日のワータイガーではなく、紅い瞳を光らせる虎の怪物そのものとなって三人を待ち構えていたのだ。階段を守っていたジンにリュカはガルドの姿を見るや否や、彼がどうなったかを察する。

 

 

「鬼!しかも吸血種!やっぱり彼女が」

 

「つべこべ言わずに逃げるわよ!」

 

 

飛鳥はジンの襟を掴んで階段から飛び降りる。

 

 

「ま、待ってください!まだ耀さんが上に!」

 

「それなら僕に任せて先に行け!」

 

「いいから逃げなさい!」

 

 

飛鳥の命令に、ジンの意識は津波に巻き込まれたように途切れた。

ジンは館から逃げ出す事だけ神経が集中していくのを感じた。ジンは飛鳥の手を握ると、

 

 

「一気に逃げます」

 

「え?」

 

 

飛鳥を腰から抱きかかえ、壁を蹴破って外に出た。

リュカはそれを見送るとすぐさま上に向かう。彼女は無事…………ではなかった。右腕に裂傷を負っている。傷の深さはともかくとしてあの流血だと命に危険がある。だがこの場での治療は無理だ。いや、正確には出来るが今やると問題がある。ので、

 

 

「失礼」

 

 

リュカは耀を軽く持ち上げそのまま走り去る。リュカの身体能力は決して耀に劣らない。寧ろ優っている。だがリュカは油断しない。だから、

 

 

「ピオリム」

 

 

自身に敏捷向上呪文を掛ける。これは昨日覚えた呪文の一つで少なくとも自分がいた世界には無かった呪文だ。効果の程はざっと体感からして一回掛けただけでも本来の素早さの1.5倍近くはありそうだ。下手すると2倍かもしれない。

そうして耀を抱えたリュカは一目散にジン達を追っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

二人の傍の茂みが揺れる。

 

 

「誰?」

 

 

飛鳥は最悪の事態を想定して一応ではあるが問いただしてみた。

 

 

「僕だよ。ヨウを連れてきた」

 

 

そこにはリュカの姿があった。一安心したのも束の間、リュカの腕に抱えられている耀の右腕が血塗れなのを見て悲鳴のような声を上げた。

 

 

「か、春日部さん!大丈夫なの⁉︎」

 

「大丈夫じゃ…………ない。凄く痛い。ちょっと、本気で泣きそうかも」

 

「ま、まずい!傷そのものよりも出血が!このままだと…………!」

 

「慌てるな!治療なら僕が出来る」

 

「え?」

 

 

リュカが耀を丁寧にその腕から地面に下ろすと耀が傷を負った右腕に自らの右手を翳した。

 

 

「ベホイミ」

 

 

リュカの右手から淡い緑色の光が出る。その光にさらされた傷は見る見るうちに塞がっていき、遂には完全に塞がった。先程まで泣きそうと言っていた耀も痛みが引いたのか、リュカの治癒に鎮痛作用でもあったのかケロリとしていた。

 

 

「凄い。ここまで高度な回復は僕達のコミュニティにある治療用のギフトを黒ウサギが使う事でしか出来ないのに」

 

 

ジンは更に驚愕する。蘇生もできて回復も出来る。これは途轍もない事だ。極端な話、リュカさえいれば他のメンバーはいらないのではないかと思ったくらいだ。

 

 

「…………どうして?」

 

「ん?何がだい?」

 

「治療出来るのなら、どうしてあの場でしなかったの?そんなに、私が信用できなかった?」

 

 

耀は淡々とリュカに訊く。それに対しリュカは、

 

 

「ああ、信用できなかった」

 

 

と、バッサリ返す。

 

 

「ちょっと幾ら何でもそんな言い方は…………」

 

「じゃあ、ヨウ。逆に訊くけど、血を流した後或いは流している最中に身体を動かした経験、ある?」

 

 

飛鳥がリュカを窘めようとした時にリュカが耀に訊き返す。それに対し耀は、

 

 

「…………ない」

 

 

僅かな沈黙の後に無いと答える。

 

 

「それが答えだ。僕が信用できなかったのは君の人柄とかそういうのではなく、君自身の経験だ。僕のように怪我を負いながらも戦ったとか、死にかけでも尚戦った経験があるのならその場で回復しただろう。だが君は違う。少なくともアスカみたいな貴族の出ということはないだろうが、それでも戦闘どころか喧嘩すら経験した事がなさそうな子だ。そして、君は聡い子でもある。血を流した後に動いたらどうなるかは、わかるよね?」

 

「…………脳貧血が起こる。脳に回る酸素が少なくなって立ちくらみや下手すれば失神もあり得る」

 

「そうだ。僕のさっきの呪文は傷を塞ぐだけ…………少しは鎮痛作用とかあるのかもしれないけど、別に血を作ってくれるわけではないし、失った体力が戻るわけでもない。あの場で回復をすれば君は死の危険すらあったんだ。いくら蘇生出来るとはいえ、仲間が目の前で死ぬのは見ていられない。…………少し長くなってしまったが、話は終わりだ。不甲斐ない結果なら扱くと言ったが、今回はガルドの変化を見抜けなかった僕にも落ち度がある。だから、OHANASHIはしない。でも、ヨウはもう少し仲間に頼る事を覚えた方がいい。アスカは確かにあの場では君より弱く、頼りなく写ったのかもしれないけど、仲間に頼る事は決して恥じゃない。…………ヨウ、君はリタイアだ。残り少ないゲームの時間でも横になっていた方がいい。僕とアスカでガルドを討伐しに行く。ジン君、ヨウの事は任せたよ」

 

「え?あ、ハイ!」

 

 

リュカは耀をジンに任して飛鳥と共に本拠の館まで戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、アスカ。あんな目にあったが、僕は君に三つの選択肢を与える。それのどれを選んでもらっても構わない。君の好きなようにするといい」

 

「三つの選択肢?聞かせてもらってもいいかしら」

 

「一つ目、僕が討伐する。最もリスクが少ない方法だ。耀がこの剣を持ってきてくれたんだ。幸い僕は剣の扱いに慣れていてね。十分に活かす事が出来る。

二つ目、アスカをメインに据えて僕がサブで行動する。僕がアスカの身体能力を底上げするから一つ目に比べると若干リスクが増すがまだ安全だ。

そして三つ目、アスカだけで討伐する。これが最もリスクが高い。僕は身体能力を向上させる事もしない。まあ、ほんの少しだけなら手伝ってもいいけどね。さあ、どれを選ぶ?」

 

「そんなの、当然三つ目よ。貴方は春日部さんに仲間を頼れと言った。けどその上でそんな選択肢を与えるということは私だけでも勝てる見込みはあるってことでしょう?そして、その方法を思いついたからほんの少しだけ手伝ってもらうわね」

 

「了解、お姫様。貴方の期待に僅かながら応えてみせましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガルド・ガスパーは屋敷の二階で蹲っていた。

先程の戦いで男に連れ出された少女に左足を斬りつけられ、流血が一向に止まらないのだ。

原因は銀の剣で斬られた事だろう。銀には破魔の力が宿っており、悪魔に魂を売り払ったお陰で今この結果があるというわけだ。

彼が獣として生きていた時には怯えという感情は一切無かった。だが今ではどうだ。力を、金を、権力を手に入れ感じたのは上には上がいるという事実。今では“ノーネーム”となっているコミュニティに“箱庭の貴族”がいるという事に対する嫉妬。

いずれも獣だった時には存在すらなかったものだ。たが今は獣としての野生を取り戻しつつあった。

屋敷に異変が起きたのもその直後であったが。

 

 

(………………………⁉︎)

 

 

鼻を刺激する異臭。遥か昔、森で嗅いだ事のある臭い。しかしそれが何時だったか、どういう状況だったかが思い出せない。ただ胸騒ぎだけが本能をくすぐっている。

侵入者がいない限り部屋からは出ないという決意が揺らぐほどの不安が押し寄せる。堪らず飛び出たガルドは一階の惨状に唖然となった。

 

 

(屋敷が…………燃えている…………⁉︎)

 

 

怒りより先に湧き上がるは恐怖。火を恐れる獣としての習性。それは彼が虎児だった時に焼き付いた恐怖の記憶。

 

 

「GEEEEEYAAAAAaaaa!!!」

 

 

一目散に屋敷を飛び出し、蘇った森を駆ける本能だけが今の彼を突き動かしていた。

 

 

「…………待っていたわ。思っていたよりも早かったのね。それにしても、リュカ君のベギラマって言うの、凄いわね。一階部分を全部包む程の炎なんて」

 

 

虎はそこで足を止める。警戒心からではなく、標的の持っていた瓦礫に灯した炎と、白銀の十字剣に対しての恐怖だった。

 

 

「あら、今更尻込み?“フォレス・ガロ”のリーダーとして積み上げた物はもう何も残っていないはずでしょう?ならせめて、森の王者として勇ましく襲い掛かってくるべきじゃないかしら?」

 

 

そんな挑発も今や虎の身である彼にはわからない。

そもそも理性が残っていたのなら、森の異変に気付いたはずだ。侵入者を阻むように伸びていたこの木々が、まるで導くように左右に分かれて一本道になっていた事を。

 

 

「…………。言葉を通じないのかしら?それもそうよね。今の貴方は完全に虎だもの」

 

「アスカ。獣にも理性はあるよ。本能の方が基本上回るだけで」

 

 

飛鳥の言葉をリュカが窘める。飛鳥は言葉に小さくごめんなさいと言う。リュカはそれに気にしなくていいから君が考えた方法を見せてごらんと言った。

 

 

「ホント、リュカ君ったら私の事子供扱いしているわね。まあ、実際の年齢が十歳ほど離れていたら当然か。さあ、ガルド。一対一です。来なさい」

 

「ーーーーGEEEEEYAAAAAaaaa!!!」

 

 

ガルドは一本道を駆ける。理性があったのなら気付けただろうが、道を限定されるということは動きを限定されると言うこと。

 

 

「はっ…………!」

 

 

正面から飛び込んだガルドに、同じく真正面から飛び込む飛鳥。だが飛鳥の細腕でガルドを斬る事は出来ない。リュカにバイキルトでも掛けてもらったら別なのだが、今回はそれはない。白銀の十字剣が輝きを放ち始めたのはその時だった。

飛鳥のギフトはほぼ手付かずの原石の才能だった。

高い素養と飛鳥の強い意志が力と成り、無意識に様々な動植物や現象に力を与えていたのだと、昨夜の本拠で黒ウサギは論じた。

黒ウサギ曰く、飛鳥のギフトは“支配する”という属性に傾いているらしい。だが飛鳥は人を支配する力が強くなる事を拒んだ。それも全ては逆廻十六夜や春日部耀、リュカ・グランバニアのように、支配する事なく戯れられる友人への想いからだ。…………一名ほど自分を子供扱いしているような人もいる気はするが、まあいいだろう。

今ある才能は捨てられず、一から育てるには余りにも時間がかかる。

だから疎ましく思っている支配の属性を彼女は受け入れた。

そしてもう一つの可能性ーーーー“ギフトを支配するギフト”として開花させ始める。

 

 

「今よ、拘束なさい!」

 

 

一喝、鬼種化した木々が一斉にガルドへと枝を伸ばした。一直線に道を絞ったのは、逃げ場をなくすため。如何に契約で身を守ろうとも、両脇から圧迫されれば動きは鈍る。身体能力で遥かに劣る飛鳥が、勝利の為に生み出した知恵だった。

 

 

「GEEEEEYAAAAAaaaa!!!」

 

 

鬼化した樹を振り払う様に絶叫を上げる虎の怪物。だがそれより速く、飛鳥の支配によって破魔の力を十全に発揮する白銀の十字剣が、正眼に構えられた飛鳥の手によって額を貫く。

 

 

「GeYa…………!」

 

 

十字剣の眩しい光と、歯切れの悪い悲鳴。それが虎の怪物の最期。

最期の抵抗で吹き飛ばされた飛鳥は木々に背中を打ち据えられる前にリュカがその身を受け止める。その後リュカに回復呪文をかけられながら飛鳥は苦笑を交えた皮肉げな顔で言葉を掛ける。

 

 

「今更言ってはアレだけど…………貴方、虎の姿の方が素敵だったわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、リュカ君はどうするの?」

 

「僕はここで死体蹴りもといガルドを火葬するから先に行っておいてくれ。そろそろヨウもまともに動けるようにはなっただろうし」

 

「そ、そう。わかったわ。なら先に行っておくわね」

 

 

リュカの返答に口元を引き攣らせながら飛鳥はガルドの死体がある場所を立ち去る。リュカはそれを見送った後に考え込んだ。

 

 

「さて、と。何故僕が放ったベギラマがあれ程までの威力を発揮したのだろうか。あれではまるでベギラゴンじゃないか。魔力の過剰供給?これが一番あり得るか。でも僕の世界だと覚えたら覚えたって感じで頭に浮かぶものだし、それを何度使おうとも魔力の過剰供給なんて起きた覚えがないな…………」

 

 

考え込んだ後にガルドの死体を見る。リュカはそれに近づき、

 

 

「ガルド。君には個人的な恨みは無い。あるとすれば、君が行った下種な行為に対しておこがましくも親達の代表とか言ったあれだけだ。だから悪いとは思うが死体蹴りをさせてもらう。…………メラミ!」

 

 

リュカは中級火球呪文を放つ。本来であるならばダメージをそこそこの値与えこそすれ、自分の父親がモロに受けたメラゾーマみたいに完全に塵すら残らずに燃え尽きる事はない呪文だ。時間をかければ別として。

リュカの手の平から放たれたのは中くらいの火球どころかかなり大きな火球。リュカが知る限りメラゾーマと呼ばれる呪文そのものだった。

大きな火球はガルドを焼き焦がし、遂には塵一つ残らなくなる。そこでリュカは一つの仮説を立てる。

 

 

「僕が使う呪文はこの世界においては全て一段階上のものとなる。だが、今後はどうなるかわからないな。もしかしたらメラがメラゾーマになるかもしれない。この世界に来てから僕自身がわからないものとなりつつある。これがいい前兆ならいいのだが」




はい、おわりー。


つまり今回でわかったことといえばドラクエ世界の主人公パーティはマジキチ。血流れようと打撲しようと骨が折れようと死にかけだろうと戦う狂戦士。
頭に酸素回らなくなってぶっ倒れたこと普通にありそうなんだけどなぁ。


今回のお話書きながら考えた設定。

魔物の痛恨の一撃は防具を全て掻い潜って当たった魔物の一撃。一応防具はつけてっから多分こんな感じ。
スライムナイトとかそこらへんの痛恨とか痛いってレベルじゃねえよなぁ。
会心の一撃もまあ似たような感じだと思う。イラスト的に防具つけている魔物普通にいるし。こっちはより致命傷に近くなる箇所に当たった感じかな?


まさかガルド戦がこんなに長くなるとはこのリハクの眼をもってしても見抜けなんだ。


次回は お坊ちゃん登場回になるのかな?
一巻はあと2〜3話で終わりそうな予感。小ネタという名前の本編に関わるネタでも書こうかな合間合間に


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邂逅、ルイオス

皆の者!待たせてあい済まなかった!


この話単品で見ると2ヶ月の遅延、私が今のとこ新しく更新したものだとしても1ヶ月の遅延だ!許されざるな私!


夏休みって……何もしたくなくなるよね!


リュカは一人コミュニティの本拠内にある森の中を歩いていた。

その行為に特別な意味はなく、強いて言うならただそうしたかったから歩いていたのだ。

今頃は十六夜がジン・ラッセルが率いる“ノーネーム”の名を広めるために何らかの行動を起こしているだろう。そこにヨウにアスカもいるはずだ。

 

 

「ドラ吉」

 

 

リュカがポツリと呟くと虚空に魔方陣が浮かびそこから黒い何かが飛び出す。それはドラキーと呼ばれるコウモリによく似た魔物だった。

 

 

「少しここいらを偵察しておいてくれ。何もなければそれでいいが、何かがいる気がする。何かが此方に害を与えてくるような輩なら全力でもって排除しろ。そうでないのなら戻ってきて」

 

「任せるキー!」

 

 

ドラ吉は快諾しパタパタと小さな翼をはためかせ森の暗がりに姿を消す。ドラ吉の戦闘力はそれほど高くはない。が、高くはないといってもあくまでリュカが仲間にした魔物の中では弱い方というだけであり普通のドラキーどころかかなり格上の魔物とも十分に渡り合える。更にこの場は夜の森。ドラキーが持ち前の戦闘力を発揮するには相応しすぎる場だ。惜しむらくはドラ吉が覚えているドラゴラムが発動できない場であるということであろうか。

 

 

(さて…………鬼が出るか蛇が出るか。出来ることならその何方でもないのがベストだが)

 

 

願わくば悪い予感が外れてほしい。そう思うリュカだった。暫くしてドラ吉が翼をはためかせ戻ってくる。戻ってきたということは少なくとも害意を与えてくるような輩ではないということだ。

 

 

「どうだった?」

 

「金髪の小さな女の子がいたキー。遠目から観察している分だととても優しい眼をしてたキー。だから害は与えないと判断して戻ってきたキー」

 

「そうか、とても優しい眼を…………」

 

 

魔物は総じて人間よりもそういうのには敏感というか読み取るのがうまい。ドラ吉が優しい眼をしていたというのならその金髪少女は心根が優しい人物なのだろう。

 

 

「あと、同族の匂いがほんのちょっとだけしたキー」

 

「ふむ、同族…………。となると文献に載っていた“箱庭の騎士”ってやつかな。確か、吸血鬼っていう種族みたいだけど」

 

 

吸血鬼は箱庭においては“箱庭の騎士”と呼ばれている。なんでも平穏と誇りを胸に生活できる箱庭を守る姿からその呼称が与えられたとか。他にも吸血鬼についての情報はある程度入手した。

太陽に晒されると灰になるとか、十字架が弱点とかそんな感じのをだ。

太陽の光に関しては箱庭内部のみ平気らしい。どうも天幕が関係しているらしい。他の情報に関しては眉唾とまではいかないまでも信憑性に少しばかり欠けるところがある。

 

 

「まあ、何もないならそれでよかった。鬼が出るか蛇が出るかとか考えていたけどどうやら心優しい鬼だったみたいだし」

 

 

そう安心して踵を返そうとした時、轟き渡る雷鳴と稲光が箱庭の天井を照らし出す。これは一体何事だとリュカが考えていたら、

 

 

「なんか光の槍みたいなのが飛んでいったキー!それに出てきたところ丁度さっきの女の子がいた方向だったキー!」

 

「何?とすると何か厄介事が起きているみたいだね。ドラ吉は戻ってて。僕はあの場まで走って行く!」

 

「了解だキー!」

 

 

ドラ吉の返事を聞くやいなやリュカは光の槍が投げられた方向に向かって走る。木々の間を駆け抜け、開けた場所に出たと思ったらそこには十六夜と黒ウサギがいた。

 

 

「何があった?ここから光の槍が飛んでいくのが見えたんだが」

 

「ああ、それは黒ウサギが投げたやつだ。何があったと聞かれたらこの“ノーネーム”の元仲間が石にされた挙句連れ去られた」

 

「それは金髪の小さな女の子のことかい?」

 

「ど、どうしてレティシア様の事を…………」

 

「嫌な予感がしてドラ吉…………ドラキーという魔物に偵察に行かせたんだ。てっきりその女の子が嫌な予感の正体だと思っていたが、成る程、そういうことか」

 

「なら話は早いな。他の連中も呼んで来い。お嬢様だけでもいい。どうもキナ臭い。最悪その場でゲームをなることだってあり得る。なら頭数はいた方がいいだろ」

 

「イザヨイ一人で済みそうな気はするけどね」

 

「ヤハハハ、当たり前だ」

 

 

結局、ジンと耀は留守を預かると言って十六夜、飛鳥、リュカ、黒ウサギの四人は“サウザンドアイズ”の支店を目指すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんなにいい星空なのに、出歩いている奴はほとんどいないな。俺の地元なら金とれるぜ」

 

「空にある星を眺めるのに金を徴収するのか?見るのは自由なのに」

 

「そこらは文化の違いってやつだ」

 

 

今からカチコミ…………ではないが諸々の原因なり何なりを知りに行くのにいまいち緊張感が感じられない。実際十六夜は緊張感など一切感じてはいないのだろう。

そうこうしているうちに“サウザンドアイズ”の門前に着いた四人を迎え入れたのは例の無愛想な女性店員だった。

 

 

「お待ちしておりました。中でオーナーとルイオス様がお待ちです」

 

「黒ウサギ達が来る事は承知の上、ということですか?あれだけの無礼を働いておきながらよくも『お待ちしておりました』なんて言えたものデス」

 

「…………事の詳細は聞き及んでおりません。中でルイオス様からお聞きください」

 

 

定例文にも似た言葉にまた憤慨しそうになる黒ウサギだが、店員の彼女に文句を言っても仕方が無い。店内に入り、中庭を抜けて離れの家屋に黒ウサギ達が向かう。

中で迎えたルイオスは黒ウサギを見て盛大に歓声を上げた。

 

 

「うわぉ、ウサギじゃん!うわー実物初めて見た!噂には聞いていたけど、本当に東側にウサギがいるなんて思わなかった!つーかミニスカにガーターソックスって随分エロいな!ねー君、うちのコミュニティに来いよ。三食首輪付きで毎晩可愛がるぜ?」

 

 

…………中々盛大な口説き文句があったものだ。あのガルドですら一応は取り繕っていたのにルイオスは取り繕う素振りすらない。

 

 

「これはまた…………分かりやすい外道ね。先に断っておくけど、この美脚は私達のものよ」

 

「そうですそうです!黒ウサギの脚は、って違いますよ飛鳥さん‼︎」

 

「そうだぜお嬢様。この美脚は既に俺のものだ」

 

「そうですそうですこの脚はもう黙らっしゃい!!!」

 

「よかろう、ならば黒ウサギの脚を言い値で」

 

「売・り・ま・せ・ん!あーもう、真面目なお話をしに来たのですからいい加減にしてください!黒ウサギも本気で怒りますよ‼︎」

 

「だったら黒ウサギの脚を30000Gで売ろう」

 

「リュカさんまでボケないでください!というかここでの通貨はGじゃありません!」

 

「え?そうなの?」

 

「問題ない!私ならばGでも揃えられるぞ!よし、待っておれ今すぐ持って来」

 

「来なくていいですよこのお馬鹿様!」

 

 

スパァーン!ハリセン一閃、今日の黒ウサギは短気だった。

 

 

「あっはははははははは!え、何?“ノーネーム”っていう芸人コミュニティなの君ら。もしそうならまとめて“ペルセウス”に来いってマジで。道楽には好きなだけ金をかけるのが性分だからね。生涯面倒見るよ?勿論、その美脚は僕のベッドで毎夜毎晩好きなだけ開かせてもらうけど」

 

「お断りでございます。黒ウサギは礼節も知らぬ殿方に肌を見せるつもりはございません」

 

「へえ?俺はてっきり見せる為に着てるのかと思ったが?」

 

「ち、違いますよ!これは白夜叉様が開催するゲームの審判をさせてもらう時、この格好を常備すれば賃金を三割増しすると言われて嫌々…………」

 

「ふぅん?嫌々そんな服を着せられてたのかよ。…………おい白夜叉」

 

「なんだ小僧」

 

 

キッと白夜叉を睨む十六夜。両者は凄んで睨み合うと、同時に右手を掲げ、

 

 

「超グッジョブ」

 

「うむ。…………そこなリュカよ。おんしも同好の同胞であろう?私にはわかるぞ。おんしが素晴らしい衣装を持っているということをーーーー!」

 

「これは…………流石、白夜叉だ。ではご開帳しよう」

 

 

そう言ってリュカが袋から取り出したのはどんな言葉で表現すればいいのかわからないくらい際どい、余りに際どすぎる下着だった。

 

 

「此方はエッチな下着にございます。我が国の宝物庫に納められていた一品でこんなのでも絶対に破れない一品となっております」

 

「これは素晴らしい…………!黒ウサギ、これを着て審判をしてくれれば賃金を五割増しにしてやろう」

 

「絶対に着ませんよ⁉︎」

 

「何?八割か?八割増しじゃないといかんのか?ん〜、このイヤシンボめ!持ってけ泥棒!」

 

「だから着ないって言ってるじゃないですか!そんな事より話をさせてくださぁぁぁぁぁぁぁぁい!」

 

 

黒ウサギの悲痛な叫び声が辺りに響き渡り一度仕切り直すことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーー“ペルセウス”が私達に対する無礼を振るったのは以上の内容です。ごりかいいただけたでしょうか?」

 

「う、うむ。“ペルセウス”の所有物・ヴァンパイアが身勝手に“ノーネーム”の敷地に踏み込んで荒らした事。それらを捕獲する際における数々の暴挙と暴言。確かに受け取った。謝罪を望むのであれば後日」

 

「結構です。あれだけの暴挙と無礼の数々、我々の怒りはそれだけでは済みません。“ペルセウス”に受けた屈辱は両コミュニティの決闘をもって決着をつけるべきかと。“サウザンドアイズ”にはその仲介をお願いしたくて参りました。もし“ペルセウス”が拒むようであれば“主催者権限”の名の下に」

 

「嫌だ」

 

 

黒ウサギが言った真実と嘘をにべもなく切り捨てるルイオス。まあ当然であると言える。

そもそも態度からわかるようにルイオスには此方の話を聞く気が一切無い。アレに話を聞かせたいのなら身内だけで用意した状況証拠だけじゃ余りにも弱過ぎる。出来ることなら物証、最低でも第三者による証言が必要なのだ。その何方もあればベストなのだが。

更にとばかりにルイオスは筋が通った正論ばかりかどうしてレティシアがあの場にいてギフトの質が暴落したのかを言う。そこに黒ウサギ自身に隷属する事を条件にレティシアの身柄を引き渡す取引を持ち掛ける。

 

 

(成る程…………本能に訴えかけているのか。中々やるな)

 

 

本能とはバカにできないものである。ガルドと戦った時も火を恐れるという獣の本能を利用して飛鳥のもとまで導いたのだ。

黒ウサギ…………というよりは黒ウサギの種族の本能である献身を計算に入れて取引を持ち掛けている。

黒ウサギからすれば恐らくその程度であるのなら、とか考えている事だろう。それが黒ウサギの美点でもあり欠点でもある。

結局、この“サウザンドアイズ”を介した話し合いは実りらしい実りを見せずに幕を閉じるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イザヨイ」

 

 

“サウザンドアイズ”の支店を去り噴水広場に着いたところで十六夜に声をかける。

 

 

「あん?なんだよ」

 

「イザヨイなら知っていそうだけど、伝説を掲げたコミュニティにはその伝説に則ったゲームを下層コミュニティに常時解放しているらしい。それらのゲームをクリアする事によってそのコミュニティへの挑戦権を得るわけだ」

 

「…………つまり俺をパシろうってか?」

 

「うん。何の衒いもなく言えば。期限は一週間しかないから時間との勝負になる。イザヨイには出来るか?」

 

「ヤハハ、その挑発買ってやるぜ。だけど貸し一だからな」

 

「お手柔らかに頼むよ。僕は僕でイザヨイがちゃんと仕事をこなす事を信じて準備を進めておくからさ」

 

「その準備ってやつが気になるが…………お前の事だ。何か面白い事するんだろう?」

 

「それこそ神のみぞ知るだ。…………さあ、下層コミュニティと侮っている事を後悔させてやる」




今回はわかるかもだが手抜きだ!

だが次話には力を入れるぞ!なんせアルゴールとのバトルだからな!どうせ仲間に……ゲフンゲフン。


そういや幾つかコメントでモンスターズ+でリュカのお弟子さんがいるとかそんな話を聞いて私は調べてみたらなんか知らないけどリュカと思われるとこに『時を失った英雄』と書かれていた!これってバッドエンドじゃね?と思った私がいる!
家族と生きる時を失った英雄なのか世界で生きる時を失った英雄なのか……。謎は深まるばかりぞな!


ま、次回、待て!だ


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FAIRYTALE in PERSEUS”

まwwwwwwたwwwwwwせwwwwwwたwwwwwwなwwwwwwww


ま、こうしたら分かる通り遅れた理由はこれも書いていたせい。


流石に白夜叉とのバトルよりかは見劣りがする、かも?


『ギフトゲーム名 “FAIRYTALE in PERSEUS”

 

・プレイヤー一覧 逆廻 十六夜

久遠 飛鳥

春日部 耀

リュカ・グランバニア

・“ノーネーム”ゲームマスター ジン・ラッセル

・“ペルセウス”ゲームマスター ルイオス・ペルセウス

 

・クリア条件 ホスト側のゲームマスターを打倒

・敗北条件 プレイヤー側のゲームマスターによる降伏

プレイヤー側のゲームマスターの失格

プレイヤー側が上記の勝利条件を満たせなくなった場合

 

・舞台詳細・ルール

*ホスト側のゲームマスターは本拠・白亜の宮殿の最奥から出てはならない

*ホスト側の参加者は最奥に入ってはならない

*プレイヤー達はホスト側の(ゲームマスターを除く)人間に姿を見られてはいけない

*姿を見られたプレイヤー達は失格となり、ゲームマスターへの挑戦資格を失う

*失格となったプレイヤーは挑戦資格を失うだけでゲームを続行する事はできる

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、“ノーネーム”はギフトゲームに参加します。

“ペルセウス”印』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“契約書類”に承諾した直後、五人の視界は間を置かず光へと呑まれた。

次元の歪みは六人を門前へと追いやり、ギフトゲームへの入口へと誘う。

門前に立った十六夜達が不意に振り返る。白亜の宮殿の周辺は箱庭から切り離され、未知の空域を浮かぶ宮殿に変貌していた。此処は最早、箱庭であって箱庭でない場所なのだ。

 

 

「で、だ。面白い事用意してくれたんだろうな?リュカ」

 

「勿論。このゲームの内容に実に相応しい準備をしてきたよ」

 

 

十六夜がリュカにニヤリと笑いかけリュカもそれに応える。それを見た黒ウサギ達は何か悪巧みしてるんだろうなーと考えた。

リュカが十六夜に頼み事をして五日経った時に黒ウサギ達が話し合いをしていた際に二人が突撃してきた。十六夜が提示したのは“ペルセウス”への挑戦権を示すギフト。リュカが話したのはギフトゲームに役立つ何か。恐らくリュカがボカした役立つ何かを今この場で見せてくれるのだろう。

 

 

「本当は一気にやった方が魔力の消費が少なくて済むんだけど…………効果の程を見せる為にもまずは僕だけでやってみせよう。…………レムオル!」

 

 

リュカが呪文を唱えるとリュカの体が段々と透明になっていく。それを目の当たりにした十六夜を除く四人は目を見張る。十六夜は面白そうに眼を輝かせていた。そして完全に透明になり少なくとも視覚ではリュカを認識する事は出来なくなった。

 

 

「へぇ!こいつは凄えな。彼方さんの使っているギフトのレプリカと同じ効果か?」

 

「さあ?僕に分かっているのは透明になるっていう事実だけだから。ヨウならもう少し詳しく調べられるんじゃないかな?」

 

「…………熱源反応はほんの少ししかない。心臓の鼓動もあまり聞こえない。匂いもあまりしない。多分、色々と分かりにくくなっているんだと思う」

 

「ふむ?という事はこれはトヘロスと似たようなものか。友達になったもののギフトというか特性をそのまま自分のものにしているヨウが言うくらいだし。魔物の中にも眼が良いの、鼻が良いの、熱で探知するのと色々いるからねえ」

 

 

トヘロスという呪文がリュカ以外には一体何の事だかわからないが、前後の繋がりから考えて多分敵を寄せ付けないだとか敵と遭遇しなくなるタイプだとは推察できる。

黒ウサギはその呪文の効果の程を知りかなり動揺する。

 

 

(耀さんですら注意しないと聞こえないレベルの消音性能ですって?しかも蛇に備わっているピット器官でもほんの少ししか反応しないなんて…………!それじゃあ“ペルセウス”が所有しているハデスの兜のレプリカの上位互換じゃないですか!)

 

 

“ペルセウス”が所有しているギフトであるハデスの兜。そのレプリカの効果は姿を見せなくする事。要は透明になる事だ。だがあくまでレプリカである為、原典程の効果はない。原典ならば完全な消音、消臭などなど如何に強大な神仏が相手でもバレない性能をほこる。それでもタネさえ分かれば何処にいるのかを把握する方法はあるのだが。

それに対してリュカのレムオルとかいう呪文はどうだ。消音性能、消臭性能など全てにおいて完全にレプリカを上回る。これがギフトならまだ良い。だがこれは一個人が有する技術だ。ギフトではなく技術。

 

 

(リュカさんは万能すぎます!回復、蘇生だけでも凄いのにその上透明にさえなれるなんて…………!)

 

 

リュカが魔王の雛形とでも言うべき存在だからこのように凄いのだろうか。だとしても万能にすぎる。黒ウサギは運が良いとしか言えなかった。その反面運が悪いとも。

呼び出した存在の一人が一人で何でもこなせそうな人材で。だけど魔王の雛形で。

 

 

「黒ウサギ?」

 

「あ、ハ、ハイな⁉︎何でしょうか⁈」

 

「何をそんなに驚いて…………。取り敢えず黒ウサギはゲームに参加出来ないみたいだし、黒ウサギ以外にレムオルをかけようと思うんだけど」

 

「そうですね。今回のゲームは見られなければいいのですし、それでいいかと」

 

「了解。じゃあレムオル!」

 

 

リュカが再び呪文を唱える。今度は十六夜に飛鳥、耀にジンが透明になっていく。

 

 

「お?リュカの姿が見えるようになってんな。同じ境遇になったら見えるのか」

 

「黒ウサギの眼には皆さん方は見えてませんので成功していますよ」

 

「なら突撃といこうか。皆はルイオスの処へ向かってくれ。僕は少しだけ野暮用を済ませてくる」

 

「あら、一体何をすると言うの?」

 

「僕達を“ノーネーム”だからと嘲り侮辱している奴等にーーーー痛い目に遭わせてあげるんだよ」

 

「それは面白そうだな。こいつの効果はいつまで保つんだ?」

 

「大体30分ってとこかな。見たいのなら好きにすればいいけど…………アスカとヨウにジン君はあまり見ない方がいいと思うよ」

 

「「「?」」」

 

 

リュカの言葉に三人はそれぞれ疑問符を浮かべる。普通に考えたら分かりそうなものだが三人には少しばかり想像力が足りなかったようだ。リュカは多分分かっていないなと理解しつつも警告はしたから別にいいかと考えた。

 

 

「そんじゃ景気付けにド派手なのぶちかますか!」

 

 

そう言うと十六夜は轟音と共に、白亜の宮殿の門を蹴り破るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最初に異変に気付いたのは一人の騎士だった。“ノーネーム”のメンバーを探している最中に見つけた青い水滴のような形をした魔物。そう、スライムだ。ゲームを開始した際にたまたま本拠に紛れ込んでいたのだろうか。こういう風に紛れ込んでいるのは稀に良くある事だ。今回はそれに該当したのであろう。

スライムを見つけ立ち止まっている騎士のもとに続々と他の騎士達も集まってくる。とはいっても全体の五分の一にも満たないが。そのうち一人の騎士がこう申し出た。

 

 

「おい、このスライムで肩慣らししておこうぜ」と。

 

 

彼等は五桁の外門に本拠を構える“ペルセウス”の騎士達だ。当然、エリート意識を持っている。が、それでもやはり人間、サボりたいという気持ちがあった。所詮は名無し、取るに足らない相手だという考えが彼等の根底には根付いているのだ。この場合の肩慣らしというのもスライムを使ったボール遊びのようなものだ。弱者を甚振るのは強者の権利とでも言うかの如く騎士がスライムを蹴ろうとした瞬間、

 

 

ドスッ。

鈍い音が彼等の耳に響いた。何が起こったのかわからずに蹴ろうとしていた騎士を見るとその騎士は白眼を剥いてその場に倒れた。

広がる動揺。まさかスライムが騎士を倒したのか?いやバカなそんな事はあり得ない。じゃあ一体どうしてーーーー?そのようなざわめきが騎士達に立ち始めたところで声を発した者がいた。

 

 

「おめーら弱すぎ。こんな体たらくで騎士名乗ってんのかよ。こんなんじゃグランバニアの国軍のがマシだな。特にピピンは強い」

 

 

誰だ?今誰が喋った?低い所から聞こえたぞ?何?と言うことはーーーー。

騎士達が下を見る。そこには肩慣らしに使おうとしていたスライムがいた。そのスライムが口を開く。

 

 

「よう、“ペルセウス”の騎士さん達よ。オイラはスライムのスラりんってんだ。よろしくな」

 

「何だとっ⁉︎魔物が喋った⁉︎そんなバカな!」

 

 

誰かの口火を皮切りに更なる動揺が彼等に広がる。それもそのはず、魔物とはこの箱庭においての一般常識だと知能を持たない上、喋る事などまずあり得ないのである。

 

 

「そういやよ。オイラ達の世界にゃこんな言葉があるんだぜ」

 

「…………?」

 

「アームライオンは一角ウサギを狩るのにも全力を尽くすってな。この場合、どっちがアームライオンでどっちが一角ウサギなんだろうなぁ…………?」

 

 

この時点である程度は察する事が出来た。いや、出来ない方が良かったのかもしれない。まさか目の前のスライムが、魔物の中でも最弱とされるスライムが、自分達より強いということなど。

だがそこはエリート、立ち直るのも早かった。

 

 

「あのスライムを囲んで袋叩きにしろ!そうでないと我等はやられる!」

 

「ありゃりゃ、流石にこの数は対処しきれないなー…………とでも言うと思ったか?オイラの後ろを見てみな。何が見えるよ?」

 

 

そう言われて騎士達はスラりんと名乗ったスライムの後ろを見た。そこには砂煙が立ち込めていた。何があるのか確認しようとしたら烈風が吹き荒ぶ。騎士達はまともに砂煙を浴び視界が一時的に潰された。

視界が元に戻り改めて確認したらそこにあったのは認めたくない現実であった。

スライムの後ろにいたのはブラウニーの群れ。ただの群れならまだいい、どうにでもなる。だが、目の前にいる群れは大群と呼ぶに相応しい数である。目算で百はくだらない。それだけの数がいるだけでも認め難いのにその上ブラウニーの大群は全て異常だった。

普通ならばその手に持っているのは自らの背丈を超える大きな木槌。だが今のブラウニー達が持っているのは背丈を超えるという点では同じだが木槌ではなくボウガンであった。

 

 

「撃ち方用意!…………撃ぇ!」

 

 

虚空から響いた号令に四列に並んでいたブラウニーの一番前の列が反応しボウガンの矢を射出する。放たれた矢は騎士達の肩、腕、腹、膝、膝、膝、膝と刺さっていく。哀れ、膝に矢を受けた騎士は衛兵にジョブチェンジをするしかにい。

 

 

「す、進めぇ!とにかく前に進むんだ!」

 

 

一人の騎士の号令。成る程、相手がボウガンであるならばその有利性ーーーー遠距離からの一方的な攻撃をどうにかすべく犠牲をもってしてでも近付くのが最善であろう。そう、普通ならば。

 

 

「前列、矢を受け取りに後退!二列目、前進!撃ち方用意!…………撃ぇ!」

 

 

再び虚空から号令。その号令に従い矢を撃った前列が後退し、その後ろにいた二列目が前進する。そしてボウガンを構え矢を射出する。それが幾度となく繰り返され、前に進もうと思っても間隙無く吹き荒ぶ矢吹雪に騎士達は完全に戦意を喪失し、動く事すらままならなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ…………」

 

「あぁ…………」

 

 

などの様々な小さな呻き声が織り成すコーラスを透明になっているリュカ達が睥睨している。尤もジンに飛鳥に耀は複雑そうな表情を浮かべていたが。

 

 

「だから見ない方がいいって言ったのに」

 

「いえ、結局見てしまった私達が悪いのよ。…………でもやり過ぎではないかしら?」

 

 

飛鳥は動く事すらできない騎士達を見つめ言う。確かにこの状態はまさしく生かさず殺さずの状態と言えるだろう。全ての騎士達は膝を撃ち抜かれていたりしているのでまともに動けずその上で死なない程度に痛めつけられたのだ。はっきり言ってサクッと殺してくれた方がマシだと思う位には。

 

 

「何言っているんだい?いわばこれは戦争だよ?しかも内容は向こうが自国の奴隷が其方に逃げ出したのでそれを捕えに来ました。けど逃げ出した先の国は自分達より国力とか色々弱いし別に打診しないでいいよねというか打診なんかしたら此方が舐められるしそんなもんする気ありませんって感じで此方の領地に不法に侵入した挙句、此方の国の人間を侮辱したんだよ?国のトップが屑だとしても末端までは屑じゃないなんて良くある事だけどここは末端もある程度は屑だったんだ。侮辱さえしなかったら膝を撃ち抜くだけで済ましたんだけどね」

 

「そういや最初の方は肩とか腕とか中ってたのに中盤以降ほぼ膝しか中ってねぇな」

 

「そこはブラウニーの大きさ的に考えて膝が尤もいい感じのポジションにくるからねー。しょうがないでしょ」

 

 

そう言うとリュカはイオラを空中に向けて唱えた。何もないところで爆発が起き勿論爆発の際に生じた音が響く。それこそ宮殿内に響く位に。

 

 

「成る程な。釣り餌ってわけか」

 

「向こうは此方を見つけるだけの簡単なお仕事状態だからね。音とかそういうのに敏感にならざるをえないだろうし、何より爆発ってのが釣れるだろうね」

 

「それはどうして?」

 

「ここが相手の本拠だからさ。このゲームの勝敗がどうであれ本拠がボロボロになるというのは捨て置けないからね。こうして爆発音響かせておけば相手から寄ってくるって寸法さ。…………ほら、話をしているうちに団体様のお出ましだ」

 

 

リュカの指が示す先、上に続く階段から騎士達が降りて来た。普通ならばドカドカという靴の音でも聞こえそうなものだがそのような音は聞こえなかった。理由は簡単、その音を鳴らすべき靴に翼が生えていたからだ。成る程、空を飛んで来たのなら風切り音こそすれど地を踏み鳴らす音はしないだろう。

 

 

「ヘルメスの靴のレプリカだな。本物は風より速く動けるって話だからアレだと遅過ぎる。だが陸にいるブラウニー部隊のビッグボウガンで中てるのは骨が折れそうだぜ?」

 

「いや、空を飛んでいるのなら話は余程簡単になる。ーーーーバギクロス」

 

 

突如として前方に巨大な竜巻が出現する。いきなり現れた竜巻に騎士達はブレーキを掛ける事もままならずにそのまま竜巻に突っ込んで行ってしまう。するとズタズタに切り裂かれ色んな方向に飛ばされ壁にぶち当たってヘルメスの靴のレプリカを履いていた騎士達は全滅した。

 

 

「はいこの通り」

 

 

リュカにとってはたったの一動作でやってのけた事であるからあまり感慨はないようだが飛鳥や耀にとってら十二分に凄い事であった。

彼女等は殲滅能力に乏しい面がある。それを言うなら十六夜だって乏しそうなものだがアレはそもそもの地力が違いすぎるのでノーカンだ。そこそこ頑強な何かを投げるだけで投げた方向の敵全て消し飛んでもおかしくないレベルだ。

 

 

「じゃあ次呼ぼうかー」

 

 

再びイオラを使い爆発音を鳴り響かせるリュカ。気分は爆釣してホクホクな釣師だ。まあ爆釣が文字通りと言うか言葉通りの意味になっているのだが。

間も無くして音が聞こえてきた。もうヘルメスの靴のレプリカが無いのだろうか。リュカ達は待つが一向に姿を見せる気配がない。音は大きくなっているのに。

 

 

「ハデスの兜、そのレプリカだろうな。透明にするだけで音までは消せていないからな」

 

「これは参ったな…………。姿が見えているのなら狙いもつけやすいのにこれだと適当に撃つしかないぞ」

 

 

音が鳴る方に撃ったにしろ撃ち零しは出るだろう。それ以前に一応は一人も殺さずにやろうとしているのに姿が見えなかったらどこに急所があるかもわからないのでわざと外して撃つ事が出来ない。聴覚や嗅覚が鋭い魔物なら良かったが残念ながらブラウニーは視覚も含めどれも秀でてはいない。だがここで騎士達がミスを犯す。

 

 

「何だと⁉︎ブラウニーどもが本拠の中に⁉︎」

 

「くそ!紛れ込んでいやがったのか!それにしても数が多すぎる!」

 

「しかも見てみろ!奴等、木槌じゃなくてボウガンを装備してやがる!特異型か!」

 

 

彼等は何のレプリカも装備していなかった騎士達に比べるとよりエリート意識が強かった。職務を忠実にこなす事だけを考えていたのだ。だがそんな彼等でもこれはあまりにも予想外すぎたのだろう。本拠に魔物が潜入。それも十や二十じゃない膨大な数。いつの間にこんなにも侵入を許したのかと騎士達は臍を噛む。リュカが魔方陣を介しブラウニー達を呼び寄せただけで彼等の仕事には何の落ち度も無いのだがリュカ達が自分らと同じく透明になっている以上、そう考えるのも仕方がない。

 

 

「こっちも透明だってバレるのはマズイかな…………。…………いや、別にいいか。どうやって元に戻すかわからないだろうし。凍てつく波動を使ってくるような相手でもないしね。ブラウン!ブラウニー達を後退させて!」

 

 

自分の言の中で意見を翻しつつブラウニー達に撤退を支持するリュカ。ブラウニー達の先頭の真ん中にいたブラウニーが身振り手振りで撤退を促す。するとブラウニー達はテケテケという音がつきそうな感じで走って後退した。

 

 

「今人の声がしたぞ!」

 

「“ノーネーム”の連中も透明になってやがるのか!」

 

「いや、それより今魔物に命令して魔物どもが命令を素直に聞いたぞ?そんな事が出来るのは魔王しかいないはず…………」

 

「なっ、バカな!敵に魔王がいるっていうのか⁉︎冗談キツイぜオイ!」

 

 

敵方がざわめき始めた。それもそのはず、この箱庭での常識だと魔物は人間の言う事を素直に聞かない。聞くにしたって痛めつけて無理矢理言う事を聞かせているようなものだ。だが虚空から響いた声は声だけで魔物を動かしてみせた。ムチの音も無く、炎が燃え盛る音も無く。そんな芸当が出来るのはーーーー魔王のみ。

 

 

「なんかよく分からないけど混乱しているみたいだし出ておいで、ロビン!」

 

 

宮殿の床に魔方陣が現れる。騎士達はそれに注目した。そこから出てきたのは彼等にとって想定外なモノだった。

それは殺人機械と称され箱庭においても恐れられているキラーマシン。スライムならばギフトを持たない子供一人でも倒せるがキラーマシンとなるとギフト持ちが数人、下手すれば数十人必要なレベルだ。勿論、そこら辺の木っ端ギフトならばだ。が、今騎士達が所有しているのはハデスの兜のレプリカ。木っ端とは言えないかもしれないがキラーマシンを倒すにはあまりにも意味がない代物。

 

 

「ロビン。透明になっている集団がいるはずだからサーチして殺さない程度で全滅だ」

 

「了解、マスターカラノ命令ヲ受諾。コレヨリオペレーション『ヒャッハー、汚物ハ消毒ダー!』ヲ開始シマス」

 

 

この機械は一体何処でこんなよく分からない言葉を覚えてくるのだろうか。コレを作ったドクターデロトとやらを小一時間問い詰めたい。

 

 

「熱源探知…………反応アリ。喰ラエー、目カラビーム」

 

 

合成された音声で随分とまあ気の抜ける事を言いつつ目からレーザービームを放つ。それは透明になった騎士達の足下を薙ぎ払い、そこからマグマのようなものが吹き出す。それは騎士達を焼き尽くした。

 

 

「見ロ!人ガゴミノヨウダ!」

 

「いや、ゴミのようだじゃないから。アレ、殺してないよね?」

 

「大丈夫Deathマスター。火力ハ抑エマシタ」

 

「『です』が何かおかしかった気が…………」

 

「気ノセイダト思ワレ…………アイタァッ⁉︎」

 

 

どう見ても漫才にしか見えない会話の遣り取りの最中にロビンが痛みを訴える。その際に金属に金属がぶつかる甲高い音がした。つまりまだ透明になっている敵が残っていたのだろう。しかしロビンの目をどうやって掻い潜ったのだろうか。

 

 

「ダメージ確認…………損傷軽微。熱源探知…………反応ナシ。音源確認…………反応ナシ。臭源確認…………反応ナシ。ウソーン、確認デキニャーイ」

 

「本物のハデスの兜か!アレは熱も音も匂いも勿論姿だって隠す代物だ!リュカ、別の手段を使え!」

 

「ロビン!イザヨイが言った条件に従ってもう一度確認だ!」

 

「了解シマシタ。赤外線センサー発動…………反応アリ!ウオリャ、イテマエ小僧ー!」

 

 

ロビンが赤外線センサーを発動し、本物のハデスの兜を使った騎士を見つける。ロビンはそれに対しボウガンから矢を放ちそれが当たってから斬り上げた。斬り上げた際に兜に引っかかりそれを弾き飛ばす。それにより騎士の姿が見えるようになった。それはルイオスの側に控えていた側近だった。

 

 

「命令ヲ遂行シマシタ。コレヨリ帰還シマス」

 

「ん、ご苦労。ブラウニー達も帰還せよ」

 

 

ブラウニー達とロビンの足下に魔方陣が光り、その場から消え去る。残されたのはその場に倒れ伏す騎士のみ。

 

 

「“ノーネーム”だと見誤っていたのは私もだったか…………。まさか、魔王を仲間にしているとはな…………」

 

「その魔王に貴方達の長は屑と認められているんだ。先に無礼を働いたのは其方だ。僕は仲間を侮辱する者を絶対に許さない。それ相応の罰は受けてもらう」

 

「我等のコミュニティから名を…………旗を奪うのか?」

 

「誇りを奪うような真似はしない。ただ暫くの間活動出来なくなるだけだ。“ペルセウス”の騎士は全滅。全治どれくらいかかるかはわからないが少なくとも二週間はマトモに動けないだろう。その間貴方達は運試しだとかそういったゲームはともかく体を動かすこういったゲームには参加出来ない。よしんば参加したところで万全ではないから負ける事となる。ただ、それだけだ」

 

 

リュカは側近の騎士にそう告げる。そして十六夜達の方に振り返り、

 

 

「それじゃ、ルイオスの処へ行こうか。此処まで僕の我儘に付き合ってもらったしイザヨイもフラストレーションが溜まっているだろうしね」

 

 

ニッコリと微笑みそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルイオスがいる場所に向かう途中十六夜がリュカに訊ねる。

 

 

「あの側近の奴が魔王とか言ってたがお前はそれに気付いてたのか?」

 

「うん、まあね。どうもこの箱庭では魔物を意のままに従える存在は魔王しかいないみたいなんだ。まあだからといって僕と魔物達の絆が変わるわけでもなし、それなら精々その悪名を利用してやろうかなって」

 

「ジン・ラッセル率いる“ノーネーム”は魔王を、それも現役の魔王を従えているって?いや、自由に“主催者権限”を行使出来ない点じゃ元魔王か?確かにそりゃいい感じに目立つし、お前が実例だと勘違いされるかもな。そういやお前の世界にはお前みたく魔物をどうこうする奴はいなかったのか?」

 

「モンスター爺さんっていう僕が仲間にした魔物を預かってくれている人はいるけど…………従えさせてるわけじゃなかったしなぁ。モンスター闘技場も調教した結果だろうし」

 

 

つまりいないという事である。寧ろリュカのような存在が何人もいる方が困る。魔物を三桁をも一度に従える人間なんて一人だけで十分と言うかそもそもいない方が心も安まる。

 

 

「どうやら此処にルイオスがいるみたいだ。じゃあ開けるよ」

 

 

リュカが扉に手をかけ開け放つ。そこにはコロッセウムのような空間が広がっており、やはりルイオスがいた。ついでに黒ウサギも。

 

 

「ふん…………役立たずどもめ。これで誰がこのコミュニティを支えているか解ったようだな」

 

「それはギャグで言っているとしたらとても面白いよ。君こそ漫才師にでもなった方がいいんじゃないかな?ああいや、道化師の方かな?」

 

「ハッ、言ってろ名無しの雑魚風情が。まあいいか、何はともあれ、ようこそ白亜の宮殿・最上階へ。ゲームマスターとして相手をしましょう。…………あれ、この台詞を言うのって初めてかも」

 

 

そう言いながら彼は“ゴーゴンの首”の紋が入ったギフトカードを取り出し、光と共に燃え盛る炎の弓を取り出した。

そのギフトを見て黒ウサギの顔色が変わる。

 

 

「…………炎の弓?ペルセウスのギフトで戦うつもりはない、という事でしょうか?」

 

「当然。空が飛べるのになんで同じ土俵で戦わなきゃいけないのさ。そしてメインで戦うのは僕じゃない。僕の敗北はそのまま“ペルセウス”の敗北。そこまでリスクを負うような決闘じゃないだろ?」

 

 

黒ウサギは慢心しないルイオスに対して焦り始めていた。もしも彼女の想像通りならば、ルイオスの持つギフトはギリシャ神話の神々に匹敵するほど凶悪なギフトだろう。

ルイオスの掲げたカードが光り始める。星の光のようにも見間違う光の波は、強弱を付けながら一つ一つ封印を解いていく。

十六夜は咄嗟にジンを背後に庇い構えた。いつでも戦えるように臨戦態勢をとって。リュカも同様に飛鳥と耀を背後に庇い樫の杖を前方に押し出すように構えた。

光が一層強くなり、ルイオスは獰猛な表情で叫んだ。

 

 

「目覚めろーーーー“アルゴールの魔王”‼︎」

 

 

光は褐色に染まり六人の視界を染め上げる。

白亜の宮殿に共鳴するかのような甲高い女の声が響き渡った。

 

 

「ra…………Ra、GEEEEEEYAAAAAAaaaaaaaa!!!」

 

 

それは最早、人の言語野で理解できる叫びではなかった。

冒頭こそ謳うような声であったが、それさえも中枢を狂わせるほどの不協和音だ。

現れた女は体中に拘束具と捕縛用のベルトを巻いており、女性とは思えない乱れた灰色の髪を逆立たせて叫び続ける。女は両腕を拘束するベルトを引き千切り、半身を反らせて更なる絶叫を上げた。黒ウサギは堪らずウサ耳を塞ぐ。

 

 

「ra、GYAAAAAaaaaaaa!!」

 

「な、なんて絶叫を」

 

「避けろ、黒ウサギ‼︎」

 

 

えっ、と硬直する黒ウサギ。十六夜は黒ウサギとジンを抱き抱えるように飛び退いた。リュカは飛鳥を抱き抱えて飛び退き、耀は事前に察知できて上手く飛び退いた。

直後、空から巨大な岩塊が山のように落下してきたのだ。二度三度、と続く落石を避けるリュカ達を見てルイオスは高らかに嘲った。

 

 

「いやあ、飛べないなんて不便だよねえ。落下してくる雲も避けられないんだから」

 

「く、雲ですって…………⁉︎」

 

 

ハッと外に眼をやる。雲が落下しているのはこの闘技場の上だけではない。

“アルゴールの魔王”と呼ばれた女の力は、このギフトゲームに用意された世界全てに対して石化の光を放ったのだ。

瞬時に世界を満たすほどの光を放出した女の名を黒ウサギは戦慄とともに口にする。

 

 

「星霊・アルゴール…………!白夜叉様と同じく、星霊の悪魔…………‼︎」

 

 

ーーーー“アルゴル”とはアラビア語でラス・アル・グルを語源とする、“悪魔の頭”という意味を持つ星の事だ。同時にペルセウス座で“ゴーゴンの首”に位置する恒星でもある。

ゴーゴンの魔力である石化を備えているのはそういう経緯があるのだろう。

一つの星の名を背負う大悪魔。箱庭最強の一角、“星霊”がペルセウスの切り札だった。

 

 

「本来なら此処に来る奴は一人もいないと思ってたんだけど…………まあこれも彼奴らが無能すぎただけか。これもいい体罰だろう」

 

 

ルイオスの口振りからしてどうやら騎士達は全員石化しているらしい。それに対しリュカは何も思わなかった。正確にはルイオスに対しては何も思わず、騎士達に対しては哀れだと感じた。

 

 

「…………済まない、イザヨイ。貸しを二つにしておいてくれないか」

 

「それはどうしてだ?俺を納得させるに足る理由があるんだろうな?」

 

「アルゴール…………彼女が泣いている。いや、彼女の悲嘆の念が僕に伝わってくると言うのが正しいのか。そして何故かはわからないがあの悲しみを癒してあげられるのは僕だけだと確信している」

 

「なんだ、お前読心能力者だったのか…………って冗談は置いといてしょうがねえな、貸し二つだぞ。覚悟しとけよオイ」

 

「ありがとう。恩に着るよ」

 

 

リュカは十六夜に礼を言い改めてアルゴールと対面する。その髪は乱れに乱れ、拘束具も今にもはち切れそうだ。だがその瞳には悲嘆の念が見受けられた。彼女の気持ちがリュカに伝わる。

こんな奴にいいように使われたくない。このまま縛られるのは嫌だ。いっその事殺してほしい。

そんな思いがリュカに伝わる。ならば、リュカが取るべき行動は一つ。

 

 

「アルゴール。君の負の感情、全て僕が受け止めよう!」

 

 

リュカはアルゴールに向かい走り、アルゴールもまたリュカに向かい襲い掛かる。

 

 

「向こうは向こうで始まったみたいだな。じゃ、こっちも始めようぜ。ペルセウスの名を背負う期待外れの三下さんよお」

 

「僕が負ける事はあり得ないが…………その侮辱、貴様の血をもって贖え!」

 

 

此方でも十六夜とルイオスがぶつかる。ここにこのギフトゲームにおける勝敗がかかっている一戦が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

 

リュカが樫の杖で殴りかかる。勢い付いたそれはしかしアルゴールの硬い皮膚に弾かれる。やはり樫の杖では決定的な一打はおろか手傷を与える事すら難しいだろう。

 

 

「ra、GYAAAAAaaaaaaa!!」

 

 

アルゴールはリュカを潰そうと大きく手を振り上げ振り下ろした。風切り音が唸るその一撃をリュカは余裕をもって躱す。対象を見失った一撃は地面に当たり地面を砕く。リュカに当たれば頭は柘榴のように弾けるだろう。

 

 

「やはり強い…………!バイキルト!ピオリム!スカラ、スカラ、スカラ!」

 

 

攻撃力倍加呪文、加速呪文、守備力増強呪文を重ね掛けする。ここまでしてもリュカには相手が危険な存在にしか思えなかった。それは杞憂なのかそれともその通りになるのか。今の段階では誰にもわからなかった。

再び駆けるリュカ。走っている最中に魔力を練り上げ火球の形状にし掌から放つ。

 

 

「メラミ!」

 

 

顔面に向かって放たれたそれはしかし手によって阻まれる。だがリュカはそれこそが狙いだった。そもメラミ程度の火球でダメージを与えられるなど一片たりとも思っていない。せめてメラゾーマならまだマシなのだが流石に上級呪文はまだ覚え切れなかった。

ではメラミの意図は何にあるのか?答えは目潰しだ。顔面に向けて放った。それをアルゴールは手を顔に翳す事で自らの視界を自ら潰したのだ。その間にリュカは速くなった脚でアルゴールの死角に入る。彼女からすれば目の前にいた相手が急にいなくなったと感じるだろう。少なくとも今の状態では。

 

 

「ハァァァァァァァ!」

 

 

リュカは今度は樫の杖を地面と平行に構え突いた。先程は杖で叩いた。今度は突き。一般的に面積が小さい方がかかる圧力は大きくなる。要は与えるダメージは叩くよりも突く方が大きくなるのだ。

 

 

「gi…………」

 

 

事実、アルゴールは叩かれた時は発しなかった声を発した。が、どうも蚊に噛まれた程度でしかないようだった。それならばと再び突こうとするが、少し欲張りすぎた。樫の杖をアルゴールにガシッと握られたのだ。引き抜こうとするが力が強く引き抜けない。引き抜こうと動けないリュカに拳を振り下ろす。リュカは仕方がなく杖を手放し横に転がる事で事無きを得た。

彼女はそれを見てから樫の杖をいとも容易く折った。蚊に噛まれたらウザいと感じるような感情が彼女にもあるのだろうか。

 

 

「クソッ、樫の杖が折られた。旅をするにはあの杖かなり良い物だったのに」

 

 

変な事を毒吐きながらアルゴールを観察する。彼女の皮膚はとても硬く樫の杖程度だとダメージすら与えられないらしい。ならば硬い皮膚をも切り裂く何か…………と考えて剣が頭に思い浮かんだ。更に少しばかり悪どい事も。

リュカは腰に提げてある袋から一振りの剣を取り出す。それには銘が無い。いや、リュカが銘を知らないだけで本当はあるのかもしれないが、今は便宜上『パパスの剣』と呼んでいる。

リュカの父親であるパパスが扱っていた剣。今や父親の形見の一つとなった一振りだ。その刀身は剣と言うよりは刀に近い形状をしている。つまり片方だけにしか刃がないのだ。それが理由か、或いは良質な鋼を使っているからか、それともその両方か。どれかは判らないがこの剣は鋼の剣よりも強いという事実があった。

その剣を構えアルゴールを睥睨する。アルゴールもまたリュカを睥睨する。駆ける両者。煌めく白刃。鈍く唸る腕。

ボトッ。

音がしてそこに落ちていたのはーーーーーーーーアルゴールの拘束具の一つだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルイオスは焦っていた。

確かに目の前の不敵に笑う少年は此処まで来れたからある程度の実力を兼ね備えているとはわかっていた。だがそれでも自分を倒すには至らないどころか自分に傷一つ付けられないと。だが結果は全くもって違った。悔しいし認めたくはないがアルゴールがいてようやく勝てるレベル。そう考えを改めていた。

だが本当に焦っているのはそこではなくアルゴールと戦っている青年が起こした事。

彼は手に持つ剣を用いてアルゴールの拘束具を…………星霊をも縛り付ける拘束具を斬り落としたのだ。あの剣はそれほどまでのギフトなのか?それともあの青年のギフト?疑問は尽きる事はない。が、現実に起こりうる問題として最も危ない事が起ころうとしている。

それは星霊の暴走。ルイオスはまだ未熟である。だからこそ星霊を拘束具なんかで縛り付けているのだ。そうしないと制御出来ないから。このままだと自分含め無差別に攻撃するだろう。いや、下手すればこの本拠を飛び出して箱庭にいる無辜の民をも襲うだろう。そうすれば“ペルセウス”の信用は地に堕ちる。それだけで済めばいいが最悪、箱庭追放だ。それだけはなんとしてでも避けなければならない。

 

 

「アルゴール!宮殿の悪魔化を許可する!目の前のそいつを殺せ!」

 

「RaAAaaa!!LaAAAA!!」

 

 

謳うような不協和音が世界に響く。途端に白亜の宮殿は黒く染まり、壁は生き物のように脈を打つ。宮殿全域にまで広がった黒い染みから、蛇の形を模した石柱が数多にリュカに襲い掛かる。

その全てを蛇蝎の如く変幻させた宮殿がリュカに襲い掛かーーーー

 

 

「不愉快だ…………!高々一騎士風情が王と王の決闘に茶々を入れるな!蛇よ!大人しくその場に待機しろ!」

 

 

リュカが自分に襲い掛かってきた千の蛇に命令を下す。普通であるならば創造主たるアルゴールの命令しか聞かない。そう、普通であるならば。

ボトボトボトッ。

蛇が空中から飛びかかった姿勢のまま地面に落ちたのだ。つまりリュカの命令が効いたという事である。創造主たるアルゴールよりも上位の存在としてリュカが上書きされたという事である。

 

 

「なっーーーー!」

 

 

その結果にルイオスは驚愕する。あの時の会談で見た彼はちょっとアレな青年としか思ってなかった。支配のギフトは自分を一瞬だけ縛ったあの少女が使っていたがこの男も使えるとは。しかも少女より遥かに強度が高いモノを。

 

 

「ヤハハハハ!やっぱ彼奴面白えな!貸し使っていつか戦ってみてえもんだ」

 

 

十六夜が哄笑しながらリュカを見る。装備こそ貧相だがその身に纏う気迫は王者そのもの。千の蛇も絶対の支配者としてリュカを見ているかのようだった。

その間にもう一本拘束具を斬り落とすリュカ。いよいよ本格的にマズい事態となる。

 

 

「もういい、アルゴール。終わらせろ」

 

 

獰猛な笑みを浮かべてアルゴールに命令をする。アルゴールはその瞳から褐色の光線を放ちそれがリュカに真っ直ぐ突き進む。

それは石化の光線。先程見たのと同じものだ。先程はルイオスにその気がなく石にはならなかったが今回はそうではない。ルイオスは此方を完全に石にする気で放っている。光線がリュカに当たる。

 

 

「リュカさん!」

 

 

黒ウサギの悲痛な叫びが響き渡る。また目の前で仲間が石になるのを見なければならないのか。こんな時審判である自分が恨めしくなる。誰もがリュカは石になった。そう思った時、

 

 

「勝手に人を殺さないでくれるかな?僕はこの通りピンピンしてるんだけど」

 

 

普通にその場に立って返事をした。どこにも石化の跡は見受けられず、全くもって石になってないという事になるのだろう。

 

 

(ギフトを無効化した?魔物を従えているギフトは“魔を統べる王”だとすると無効化したギフトは“龍神の加護”ということですか?確かにマスタードラゴン様ならそれも可能な気はしますが…………)

 

 

リュカは装備していた物を除いて二つギフトを所持している。“魔を統べる王”と“龍神の加護”だ。この内黒ウサギは“龍神の加護”が石化を無効化したのだと判断するが何か引っ掛かる。そう、喉に小骨が刺さったかのようなそんな感じだ。

 

 

「さあ、アルゴール。これで最後だ」

 

 

リュカは周りの事は気に留めず残った拘束具を斬り落とす。これでアルゴールを縛る物はなくなった。アルゴールは解放されたのだ。最早、ルイオスにはアルゴールをどうする事も出来ない。

突如としてアルゴールの身体を銀の光が包み込む。その光に相対していたリュカを除く全員が目を細めた。徐々に光が弱まり全員の眼が見開いた。

そこにはあの醜かったアルゴールの姿はなく、代わりに長い銀髪の美しい女性が立っていた。

 

 

「それが貴女の本当の姿なのか?」

 

「ええ。礼を言わせてもらうわ、新たな魔王よ。だけど“ペルセウス”に最後の義理くらいは果たさせてちょうだいな。今こそ、全身全霊をもって戦いましょう?」

 

「異論は無い。行くぞ!」

 

 

拘束具を外させる事。それはアルゴールを解放し、ルイオスがどうしようもできない状況を作る事と同義ではあった。だが同様に自分にもどうにもできないようになるかもしれないという事でもあった。

 

 

「がはっ…………!」

 

 

拘束具に縛られていた時にはあった鋭い爪が今は無いのにそれでも風切り音を出し胸を殴打される。リュカは思い切り吹き飛び壁に叩きつけられる。

そう、拘束具は文字通り拘束する道具だ。それがなくなれば自然元の力を振るえるだろう。少なくとも攻撃を受けた限りだと力と速さは縛られてた時より遥かに強かった。

 

 

「あら、ミンチにするつもりで叩いたのに頑丈なのね。ま、魔王だから当然でしょうけど」

 

「どう…………も…………!頑丈なだけが…………取り柄でね…………!」

 

 

血を吐きながら自身の状態を分析する。血を吐いている事からして内臓に傷が付いている。恐らくは肺。肋骨が折れて刺さっているのだろう。少し頭がふらつくが叩きつけられた時の衝撃で一時的に平衡感覚がおかしくなっているだけだと判断。結論、余裕で運動可能。足の骨が折れていたのならベホイミなりベホマなりかけたがそっちは大丈夫なようだ。

リュカは口に溜まった血を吐き捨て剣を構える。そのまま肺に肋骨が刺さっているのに気に留めず駆け抜けアルゴールを斬りつける。浅くはあったが確かに手傷は与えられた。

この時リュカは勘違いを二つ程していた。

一つ目はアルゴールが斬られた事に関して。確実に速くなったはずのアルゴールが何故斬られるのを許したのかその理由を自身がかけている補助呪文のお陰だと思っていた。確かにそれも理由の一つではあるが最大の要因はアルゴールに与えられた傷である。

アルゴールはリュカに樫の杖で叩かれて突かれた。リュカの主観からすればダメージが通ってないように見えていたがその実しっかりとダメージは通っていたのだ。そのため挙動をする際に鈍痛が走り回避行動が僅かに遅れてしまった。故に浅いながらも斬られてしまったのだ。

そして二つ目は自身の傷が僅かながら治った事。これを自身が遂に魔王らしくなってきたとそう考えた。確かに彼が知る魔王ならば自己治癒を備えてはいたがそうではない。まだ彼に自己治癒能力など存在せず、よって傷が癒えたのも別の要因があるという事だ。では何か。答えはリュカが使う剣にある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、ここで唐突だがグランバニア建国の際の話をしよう。

グランバニアを建国する際に…………と言うよりは全ての国にしても建国する際には様々な問題が付き纏う。水源の確保、脅威の排除、作物が育つ土壌かどうかetc、etc…………。

その点においてはグランバニアは非常に良い土地だった。北を除く三方を非常に険しい山に囲まれ北には水源となる河が流れている。森もこれでもかというほど繁っていた。水源の確保、作物が育つ土壌かどうかに関しては問題なくクリアー。脅威の排除にしても天然の要塞とでも言うべき有様なので外敵からの脅威はほぼ排除されたと言ってもいい。

なら残るのは内敵…………魔物だ。それに関しては自分達の手で排除せねばならず何十人何百人と死傷者を出してようやく建国出来たのだ。

その魔物討伐の際に尽力した者がいた。それが後の初代グランバニア国王であり建国王と称された男であった。

その男にはもう一つ別の呼称があった。それは建国王が国を建てた偉大なる王者として讃えた呼び名であるのならそれと対を成すように畏怖をもって恐れられた呼び名である。

その名を不死王。その名の通り不死であるという事だ。建国する前に行った大規模な魔物討伐において男は最前線に立ち魔物達を屠りまくった。その際に幾度となく傷を負ったはずなのだが終わった際には傷なんて欠片も見えずただ魔物の返り血で紅く染まっているだけだった。勿論、回復呪文を扱える者は何人も同行した。だがその誰もが彼には呪文を一切かけてないと言う。ならば何故怪我が無いのか?その疑問に一人の討伐参加者がこう言った。曰く「魔物の血を吸い自らの傷を癒している」のだと。その根も葉もない噂は瞬く間に広まり建国王に逆らおうという気を起こす人物は存命の際にはいなかった。

さて、ここまで長々と話をさせてもらったが何が言いたかったのか。それは建国王が持っていた剣の事である。別に彼が血を吸って傷を癒したわけではなく剣の効果により傷を癒していたのだ。

その剣は片方にしか刃がない剣だった。それは特殊な鋼で鍛えられ、相手に与えた傷の半分自分の傷を癒すという効果を持っていた。数値化するならば相手に100のダメージを与えたらその半分の50自分が回復するといった感じだ。そういう意味では魔物の血を吸って自分の傷を癒すというのも強ち間違いとは言い切れない。

その剣の銘はーーーー“王家の剣”。何を隠そうリュカが現在使っているパパスの剣そのものである。

だがリュカが王家の剣…………パパスの剣を手に入れ用いた際には回復効果なぞ無かった。故にそこに勘違いの原因があったのだ。

この剣をこの剣として扱うには条件がある。それは建国王の血統というのも条件ではあるがそれ以外にもある。それは王としての覚悟。民を守り抜くとその心に誓った者のみ剣の力を引き出す事が出来るのだ。

建国王は自分が傷付いても仲間は傷付けさせない覚悟から。パパスは妻一人救えず民を救う事は出来ないといった覚悟から剣の力を引き出していた。だがリュカがこれを手にしたのはまだ王となっていない時。王となってからも父親よろしく嫁を攫われて八年間石像となり二年間妻を探してその後魔王退治…………ハッキリ言って王としての覚悟を出す機会が一切なかった。だが魔王を退けてからようやく余裕が持てて王としての統治をなしていくうちに民を守る覚悟ができたのだ。これでようやくリュカは名実共に王となったのだ。王家の紋章が名を得る為の試練なら王家の剣の認められる事こそ実を得る為の試練。今のリュカは真の王者だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「星霊だから硬いかと思ってたけど…………そうでもないみたいだね」

 

「硬いわよ私は。けど全く攻撃を受け付けないわけじゃないわよ。一定以上の力があれば私に手傷を負わせるのは可能よ。あとはルイオスが持っている星霊殺しの鎌・ハルパーとかでしか傷付かないわ。魔王と魔王が戦うならばより地力が強い方が勝つ。自然の道理でしょ?それに私はお姉様達と違って普通に死ぬしね」

 

「貴女の姉妹は不死なのか。戦いたくない相手だ」

 

「あら、不死ですら追い付かない程の一撃を与えればいいだけよ。私には無理だけどね」

 

 

お互いに軽口を叩き合いながら間合いを詰める。リーチはリュカが剣を持っているお陰でリュカのが上。パワーとスピードは拘束具から解放されたアルゴールのが上だ。

先に動いたのはアルゴール。拳を握り締め持ち前のスピードでリュカに迫る。対するリュカはその場に留まる。補助呪文をかけた上でスピードが敵わないのなら最初から動かなければいい。そう考えての行動だ。それをアルゴールは鼻で笑う。自分相手に立ち止まるのは愚の骨頂。動き回るのならまだマシになっていたのかもしれないのに。少しの失望とともに殴り飛ばーーーー

 

 

「え…………?」

 

 

殴り飛ばしたと思っていたら自分の脇腹が斬られていた。一体何が起こったのか彼女にはわからなかった。

リュカは剣を振り抜いた状態で自分の後ろに立っていた。つまりこれは、

 

 

「「カウンター」」

 

 

リュカとアルゴールが同時に声を発する。彼女は納得すると同時にしかし自分の眼ですら追えないのは何故か考えた。単純に考えれば速さが急に増した、という事だろう。ギフト?或いは緩急強弱をつけた?恐らくは後者。だがそのタネがわからない。

 

 

「さっき僕が貴女にやられた事をそのままやり返しただけだ。貴女の枷を外した後貴女は僕が知覚できない、いや、スピードの違いで僕に近付き殴り飛ばした。だけど一回受けたら頭じゃなくて身体が相手のスピードとかパワーとか覚えるからね。だから立ち止まっていた時にピオリム…………素早さを上げる呪文をもう一回重ね掛けさせてもらった」

 

「それで急にいなくなったとか勝手に勘違いしたのね…………。今まで慣れていたスピードじゃなくなったから。でもいいのかしら?タネを割っても」

 

「僕が一回攻撃を受けたら貴女のスピードに順応したように貴女も僕の攻撃を受けて順応するだろうからね。もう使えない手を晒したところで全く痛くない」

 

「まあ確かにその通りか。なら行くわよ!」

 

 

彼女は再びリュカに駆ける。リュカもまた彼女に向かい駆ける。リュカの剣がアルゴールを斬ろうとするがそれを左の拳でいなし右の拳で殴ろうとするとリュカは上体を捻る事で躱しとそんな事を繰り返していた。

その際にリュカは斬り、アルゴールは殴りを成功させているので互いに血が飛び交い確実に体力は消耗しているはずなのだがそれを彼等は気力で補っている。何よりリュカは傷を剣の効果で癒し、アルゴールは不死とは言えずともあまりにも高い回復力で傷を治している。正直なところ千日手になりかけていた。

 

 

(このままじゃ埒があかないな…………。こうなったら使いたくはなかったがあの技を使うか)

 

 

リュカは腰を低くして剣を地面と平行にして構える。アルゴールは何か自分にとって良からぬ結果を齎す何かをしてくると直感で判断しそれを起こさせまいとリュカに駆け寄る。

 

 

(足に魔方陣を展開…………使用呪文、バギクロス…………収束、収束、収束…………今だ!)

 

 

彼女の貫手がリュカの心臓を突こうとした瞬間、リュカの剣がアルゴールの右胸を貫きそのまま根元までズップリと入り込む。それだけでは飽き足らずリュカの足から放出されている小さな、それでいて強烈な竜巻がリュカの身体をアルゴールごと壁にまで一気に押しやる。そのまま剣は壁に突き刺さりアルゴールはその衝撃で口から勢いよく血を吐いた。

 

 

「かはっ…………!なに…………よ、決め技…………あるんじゃ…………ないの…………」

 

「ここぞという時に使ってこそ決め技だ。正直、あのままだとただの不毛な戦いにしかならなかったからね」

 

「それも…………そうね。ねえ、どうして私を殺さなかったのかしら?わざと右胸を狙ったでしょう?」

 

「僕は“ペルセウス”の騎士達…………と言っても一部だけだけどあとルイオスに対して怒りは抱いてもアルゴール、貴女に関しては何も抱いていない。いや、憐憫の感情なら持ってるかもしれない」

 

「憐憫…………か。私の心でも読んだのかしら?」

 

「貴女の感情が此方に伝わってきた。これ以上縛られたくないといった感情がね」

 

「そっか…………。伝わっちゃってたか」

 

「やはり…………最後の義理と言っていたのは死ぬつもりだったんだね?」

 

「ええ。今ここで隠しててもしょうがないしね。私は死ぬつもりだったわよ。私はペルセウス座のゴーゴンの首に当たるアルゴルの星霊・アルゴール。そのせいかメデューサの記憶とかギフトが私の物としても扱えているんだけど…………貴方には悪魔化も石化の魔眼も通用しなかったしね。それなら必然、私が負けるでしょう?魔王なんてギフトがあまりにも凶悪なだけってのが多いのよ?」

 

「…………まあ確かに僕は石化しなかったけども。それでも星霊としての力があるだろう?白夜叉さんとかかなり強かったけど」

 

「白夜叉って…………白夜王の事⁉︎ちょっと、私とあの人を一緒にしないでよね。あの人は星霊の中でも特に強いわよと言うか仏門に帰依してあの人弱体化しているからね?あの今の幼女然とした姿は弱体化した証よ」

 

「ああ、やっぱり弱くなっていたのか。それであんなに強いんだから凄いよね。…………あ、剣引き抜くよ」

 

 

まるでちょっとそこらのコンビニ行ってくるみたいな感じで無造作に剣を引き抜く。喋っている間に傷は剣が刺さっていた部分以外は治っていたが抜いた事で完全に治った。

 

 

「ありがと。…………そういや、なんで白夜王が弱体化してるって気付けたの?アレ、事情を知らなければわからないと思うんだけど?」

 

「僕のギフト“魔を統べる王”の条件…………みたいなものかな。まあ、憶測でしかないけどこのギフトは人間以外の別種族なら魔物だろうと星霊だろうと神霊だろうと僕の仲間にできるギフトだ。更にそこに強くなれる可能性もプラスされる。で、条件なんだけどこれも恐らくでしかないけど相手と本気で戦う事…………なんだよね」

 

「え、なに?いや待ってそのギフトおかしい。それって何?ゲームの勝敗とかそんなの関係無しに貴方に隷属させられるってこと?しかもより強くなれるかもしれないって…………。やっぱ貴方魔王だわ」

 

「いや、確かにゲームの勝敗は関係無いけどこの仲間にするのはお互いの同意が必要なんだよ。魔物とかなら実力主義だからかなり簡単に仲間になるけど星霊はまだ試した事がないというか試せる機会もないというか…………。まあ、単刀直入に言うと僕は貴女の力が欲しい。僕と一緒に戦ってくれないだろうか?」

 

「…………随分な口説き文句ね。くすっ、いいわ。私を貴方の配下に、いいえ、仲間にさせてくださいな?」

 

 

アルゴールが仲間になりたそうな目で此方を見ている!仲間にしますか?

 

→はい

いいえ

 

 

→はい ピッ

いいえ

 

 

アルゴールが仲間になった!これからは石化の魔眼や悪魔化を駆使して活躍してくれるに違いない!

 

 

「ヤハハハハ!彼奴マジで最高だろ!星霊を仲間にしやがった!…………さて、お前の切り札は彼奴に浮気したようだぜ?こっちもいい加減ケリをつけようか?」

 

 

ルイオスはその日悪夢を見た。圧倒的な力で蹂躙される、悪夢を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここは“ノーネーム”の本拠の敷地内。行われるは新たな仲間の歓迎と同時に祝勝パーティ。だがそこには今回の件をほぼ一人で片付けた男の姿がなかった。

 

 

「おいおい、リュカの奴はどうしたんだ?彼奴がいないと折角のパーティがシラけちまう」

 

 

ニヤニヤしながら黒ウサギに訊ねる十六夜。それに黒ウサギは呆れ返った顔で、

 

 

「十六夜さん知ってて訊いてますよね?リュカさんは全身筋肉痛でここまで来れません。今はアルゴールさんが看病してくれてます」

 

 

と答える。

 

 

「オチまでつけてくれるなんて最高だよな!あの脚から竜巻出して相手に突貫する技、全身の筋肉をいい感じに痛めつけるんだとさ!彼奴、今度この技を使う時はデメリットを無くすんだ…………とか言ってたぜ」

 

 

そう、リュカは全身筋肉痛に苛まれてパーティに出席できない状態にある。

本拠内のリュカにあてがわれた部屋からは

 

 

「あいたたたたたた!も、もうちょっと優しく!」

 

「何よマスター。湿布貼ってるだけじゃないのよ。ほーら、もう一枚」

 

「ギャァァァァァァァァァァァ!」

 

 

痛みを訴える叫び声が響き渡っていた。




なんや、また長いやんけ!


これ二万を超えているんだぜ?文字数。落差が激しすぎるんよー。


えー、まあ私は色んな影響を受けて作品に注ぎ込むバカでっせ。
知りたかったのはパパスの剣の材質なのに王家の剣とか出てきたら書いてしまいますよねー?
あとは、ブラウニー部隊の三段撃ちっぽいの。前列25体超え中列25体後列25体補給25体の内訳となっております。計100体。




次はリュカがこの世界に来てと言うよりは元の世界含めて初めて手に入れた特技。分かる人には分かると思うけど『聖剣の刀鍛冶』のセシリー・キャンベルが魔剣アリアを用いて使う自身の体を矢として突撃する技ですな。モチーフ元は。
ゲーム的に表すとどうなるんやろ?

敵一体に風の力をもって突撃する。これを使った3ターン後にその戦闘中は力、素早さ、防御の値が半分になる


多分こんなの。その分強力。いずれデメリットもなくなる模様。

誰かこの特技に相応しい名前をつけてくれませぬか⁉︎
私が考えたら『風突』になったんだけどどっかで聞いたことあんなと思ったら疾風突きじゃーんと気付いた模様。
カッコいい名前募集中!気に入った名前を送ってくれた人には感謝の念を捧げてやろう!


はっはっは、超絶上から目線じゃんこれー。



というかアルゴール口説いたねリュカさん。いつからギャルゲーになったんだろう。これじゃあペストちゃんも口説かなければ(使命感)になるやんけ!


えー、コホン。今後の展開としては二、三話ほど本編にもつながる小ネターーーー小ネタになるかはともかくとしてーーーーを投稿する予定。
考えているのだと作者の妄想を垂れ流せ!ドキドキ、ドラクエ講座!と天空城に訪問!なんとそこには驚きのあの人が!と元の世界に戻ってみよう!とか?


ま、また気長に待ってくれれば幸いです。そいじゃさいなら


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小ネタ 教えて!リュカ先生!

ほぼ会話文だよ!


いきなりすぎてわかんないよね、けどアタイ知ってるよ!森永○業ってグ○コの事でしょ?えー違うのー?アタイ知らなかったーじゃあなんのことー?


唐突な東方ネタはこんくらいにしとくか。最近ニコ動をアプリでダウンロードして東方陰陽鉄にはまっている作者でーす。

ブロントさんがカッコよすぎるのよ。流石ナイトは格が違った…………!


「…………すまない。もう一度言ってくれないか?」

 

「だから貸し一つ使ってやるからお前の世界の事詳しく教えろよ」

 

 

リュカは突然の十六夜の物言いに困惑していた。正確には十六夜がわざわざ二つもある貸しの一つを使って情報を得ようとしているとこにだ。十六夜ならばそんな事をせずとも何処からか情報を仕入れてくるのは明白であるから。

 

 

「確かに仲間である以上、情報の交換は必須ではあるけど…………しかし、何故わざわざ僕に?」

 

「本で学ぶのもいいんだけどよ、実際に見た奴から聞いた方がよりわかると思ってな」

 

「成る程。確かに本で読むのと実際に体験した人に聞くのでは重みが違うしね。わかった、なら教えようか」

 

「あら、二人して何の話をしているのかしら?」

 

 

十六夜にリュカが住んでいた世界の事を教える事が決まった時に向こうから飛鳥と耀が歩いてきた。

 

 

「リュカに魔物だとか呪文だとかを教えてもらおうと思ったんだよ。何ならお嬢様達も参加するか?」

 

「する!絶対に参加する!」

 

 

強く参加の意を表明する耀に少しばかり面食らうリュカ。普段の彼女からは考えられないほどのハイテンションだ。それは一体何故かを考えてそういえば耀のギフトはそういう類のモノだったと思い出す。恐らく耀は特に魔物の事を聞きたいのだろう。

 

 

「耀が参加するのなら私も参加するわ。私も貴方の世界の文明とか興味あるし」

 

「なら三名様ご案内だね」

 

 

こうしてリュカによる講義が始まるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、こうして壇の上に立ったはいいが、僕は教師の真似事をしたことがないからね。知りたい事を僕に教えてくれないか?」

 

 

リュカは壇の上に立っていた。理由はもちろんその方が気分が乗ると言う問題児達の言からである。リュカ自身もそこまで悪い気はしないのでこうして立っているわけだ。

 

 

「ならまずはお前の世界について教えてもらおうか」

 

「うん、いいよ。そうだね、何から話せばいいか…………。取り敢えず、街とか村について話そうか。

僕が住んでいた世界では街や村、国が点在しているんだ。イザヨイ達から聞いた隣街とかいうのはまずない。寧ろそっちの方が驚きだ。よくもまあ街同士が隣接出来たね。余程君達の世界は平和らしい。羨ましい限りだ。…………コホン、話が逸れたね。で、そのように街と街が離れているから最低でも一日かかるかな。まあ、その限りじゃない場所もあるにはあるけどね。言っておくけど流石に睡眠とかも含むよ?」

 

「そんなに時間がかかるのね…………。街同士の交流なんかはどうしているのかしら?」

 

「そうだね。街同士の交流はそこそこ盛んに行われているよ。船便なんかもあるし、何より一度行った場所なら何処にでも行けるキメラの翼というアイテムもあるしね」

 

「そんな便利な物があるのか。でもメリットだけじゃねえよな?デメリットだってあって然るべきだ」

 

「デメリットとしては街か村、国とか洞窟の前に限定されるとこだね。あまりそうは感じないかもだけど要は大雑把な設定しか出来ないんだ。細かな、例えば街の中にある宿屋だとかそういう風には出来ない。あとはキメラの翼を以ってしても行けない場所とかもある。山奥の村とチゾットという山中にある村がそれに当てはまるんだ」

 

「要はあまりにも秘境的なスポットには飛べないってわけか。じゃあインフラ整備とかはどうなってんだ?」

 

「…………?インフラってなんだい?」

 

「ああ、そうかインフラって言葉がないのか。インフラっていうのは上下水道、道路の整備…………まあ、そこに住んでいる奴らにとっていいと思う事だ」

 

「ああ、成る程ね。上水道って言葉は知らないけど、恐らく井戸の事かな。個々人で井戸から水を汲み上げて使うんだ。下水道はちゃんと整備されているよ。仕組みはよくわかっていないけど、紐を引くと水が流れるようになっているんだ。まあ、村以外はだけど」

 

「村以外?それはどうしてかしら?」

 

「うん、村だと糞尿は貯めて肥料として使っているんだ。だから臭いかと言われるとそういうわけでもないんだけどね。あれはどうやって消臭しているんだろうか…………?」

 

「そういやお前らの世界魔物がいるんだったよな。どうやって街への侵入を防いでるんだ?」

 

「それは街の周囲に聖水を振り撒いているんだよ。聖水には魔物を寄せ付けない効果があるからね。とは言っても振り撒いた人より弱い魔物が寄り付かないだけだからその街や村の中でも取り分け実力者が撒く事になっているね」

 

「街についてはもういいから魔物について早く…………!」

 

「ハハハ、耀はせっかちだね。じゃあ魔物の説明に入ろうか。

まず覚えておいてほしいのは魔物とは決して不倶戴天の敵ではないということだ。寧ろ僕ら人間の方が魔物にとっての害悪だ」

 

「それはどうして?」

 

「ここ箱庭では魔物とは人間なり兎に角異種族を見掛けたら襲い掛かってくる、という印象が持たれているらしいがそれは間違いだ。そもそも魔物にだってスライム族や獣族、自然族といった違いがあるのに何故そう思うんだろうか。ナンセンスだ。じゃあ何故襲い掛かってくるのかと言うとそもそもあれは襲い掛かっているのではなく防衛のために動いているんだ」

 

「防衛のため?それは一体どういうことかしら?」

 

「僕の世界でも魔物を研究している学者は殆どいなかったからこれは僕の持論だけどね。魔物とは人と獣の丁度中間の存在なんじゃないかと思っているんだ。勿論、根拠もある。魔物は一見見掛けたら即座に襲い掛かってくるように見えるけど実はただ自分達の縄張りを守りたいがために戦っているんだ。何故かと言うとそもそも僕がいた世界においてどの街にしろ村にしろ国にしろ魔物が元々住んでいたところを奪い作ったものだからね。魔物としては元々自分の縄張りだった街とかを奪い返したいのだろうけどそこは聖水のせいでどうしようもないって状況かな。故にもう二度と縄張りを取られまいと襲い掛かってくるんだ」

 

「魔物は防衛行動を起こしているだけって事か。けどそれだけじゃまだ獣と人の中間だって事が証明出来ていないぜ」

 

「まだ説明していないことがあるしね。さて、そうやって防衛行動を起こした魔物だが時折逃げる事がある。これを何故かと考えてみたら敵わないとわかっているからじゃないかと思ったんだ」

 

「つまり怖気付いたって事?」

 

「身も蓋も無く言えばね。前に出てきたは良いもののよく見れば明らかに実力が上じゃないか、これは敵わないと悟って逃げ出すんだろうね」

 

「でもそれだけだとやっぱり人間と同じだよ?昂揚感に酔って前に出たけど実力の差を思い知ってビビって逃げる。人間と同じなんじゃ…………?」

 

「うん、僕も最初は彼等は人間と生態は兎も角として変わらないんじゃないと考えていたんだ。けど仲間にした魔物達から聞いてみればどうも防衛行動自体が本能で行われている事らしいとわかってね。本能で動く獣と理性を持つ人との中間だと考えたんだ。…………まあ、多分に人寄りな気はするけどね」

 

「理性があるってことは魔物にも文明とか社会とかってあるの?」

 

「文明はない…………かな?いや、正直わからないんだ。社会は実力主義って事はわかっているんだけど…………」

 

「わかっていない?それはどういう事かしら?」

 

「うん…………イザヨイ達も一回見ただろうけど、キラーマシンのロビンとかそういう存在についてなんだけどね。他にも似たような存在がいるもんだからちょっとわからないんだ」

 

「そういやあの愉快な機械一応魔物の扱いになってんだよな…………直接訊いたらいいんじゃねーか?」

 

「それもそうか…………じゃあ特別講師として呼ぶか」

 

 

リュカが手を前に突き出すと床から魔方陣が現れてそこから青を基調とした機械が現れる。

 

 

「キャッ!イキナリ呼ビ出シテ何ヲスルツモリナノ⁉︎乱暴スル気ナノネ!薄イ本ミタイニ!薄イ本ミタイニ!」

 

 

相変わらずリュカには意味がわからない言語を習得しているようだ。

 

 

「ヤハハハハ、やっぱ面白いな此奴。機械のくせにAI…………人工知能は一丁前ってか?」

 

「ソラモウアテラを造ッタ造物主ハンハトテモ頭ガ賢イデオマ。割ト変態チックカモデスケドネーン」

 

「…………待て、お前人工知能って言葉わかるのか?さも当然のように受け答えていたが」

 

「?何言ッテイルンデスカエート…………十六夜サン?マスターノ記憶ヲデータトシテ読ミ取ッタンデ間違イジャナイト思イマスガ」

 

「それで合っているぜ。だがお前が住んでいる世界観だと人工知能なんて言葉は存在しないはずだ。お前の造物主とやらは一体何者だ?」

 

「マ、別ニ教エテモ良イデスヨ?私達ヲ造ッタDr.デロトハサッキモ言ッタヨウニトテモ賢クアラセラレマス。ドレクライカト言ウト異次元旅行ヲシテルシ姿ハジジイノママナノニ人間ニシロ魔族ニシロトックニ寿命ガキテモ可笑シクナイノニシブトク生キテイルシソモソモ私ノ動力源永久機関デスヨ?頭オカシインジャネーノ?」

 

「いやちょっと待て。幾つか気になる事はあるが永久機関だと?それがお前の動力源だって言うのか?」

 

「信ジラレナイッショー?ケドマジナンデスヨネェ…………。私別ニ光エネルギーモ熱エネルギーモマシテヤ位置エネルギーサエ使ッテナイデス」

 

「俺達の世界でも到底造るのは無理な代物だぞオイ…………。擬似的でいいのなら造れなくはないが完全な物となると無理だぞ」

 

「何だか話が凄い方向に進んでるって事しかわからない。まあいいか。ロビン、魔物には文明とかあるのかい?君の姿を見てたらそう思ってくるのだけど」

 

「アー…………コレハDr.デロトガ凄スギルダケデス。Dr.デロトハ…………何ナンデショウネェ魔物ジャナイノハ確カデスケド。人間トモ思エナイシ…………。マ、今ハホットキマショウ。エート、魔物ノ文明ニツイテデスカ?ソレナラ実例ヲマスター見テルジャナイデスカ」

 

「え?見てたっけ?」

 

「ジャハンナデスヨマスター。ド忘レシナイデクダサイヨ」

 

「あー…………そういえばあの街の住民全て魔物だったっけか一応。殆ど人間の姿だからすっかり忘れていたよ」

 

「ダトシテモ私カラ言エル事ハ魔物ニトッテ文明ハアッテモイイケド無クテモイイ程度ノ代物デシカナイ、ト言ウ事デス。正直、ナクテモ別ニ支障ハ無イデスシ」

 

「文明は作ろうと思えば作れるけど現状する必要がないから作らないってことか。じゃあ次はお前が使役していた魔物のいわば軍隊…………とまでは言わないが編隊だがそれお前の世界でも使っているのか?」

 

「いや、あれは僕の世界では使えない。理由としては魔物であるというのがどの理由にしても大きい。まずは魔物が表面的にはともかく裏では認められていないんだ」

 

「それはどういう事?」

 

「僕の世界にはスライムレースや魔物同士を闘わせる闘技場とかがあるんだけど、あれはあくまで自分自身の安全が確保されていて、賭事だから目を瞑っているに過ぎないんだ。だから賭事の対象としては認めてはいるけども実際自分に危害を与えるかもしれない存在だから完全には認めないってとこかな」

 

「他の理由は何?」

 

「僕にしか仲間にする事が出来ないから。言い方を変えれば僕にしか絆を感じていないとも言えるかな。ただそれも僕の関係者であるならば一定以上は敬意なり何なり抱くようではあるけど。一番高いのは僕の嫁さん。二番目は子供達。三番目に僕の友達といった具合にランク付けがなされているらしくてね。で、それを踏まえると…………どれだけ長く保っても曾孫の代までは続かない。曾孫までくるともう僕が生きているかもわからないから曾孫の人間性がどんなものかがわからない。魔物達だって僕が死んでまで僕の関係者に協力しようとは毛頭思わないだろうしね」

 

「成る程、子供孫は兎も角曾孫がとんな人物に育つかわからない、と。そりゃそうだわな。下手すりゃ魔物を自分の力と勘違いする暗君、暴君になるかもだしな」

 

「だからこそ組織立った行動を教えはしたけど使う気は毛頭無い。使うには問題を抱えすぎている」

 

「まあ、固定観念がぶち壊される事は確実だろうな。んじゃ次は呪文について教えてくれ」

 

「呪文だね。呪文の起源から教えた方がいいのかな。そも呪文とは最初はあくまで生活をより良くするためだけに開発されてきたんだ。メラなら簡単に火をつけるため、ヒャドなら冷凍保存をするため、バギなら木材を切るためとかそんな具合かな」

 

「あら?確かバギクロスとかいう呪文を貴方は使ってたけどアレは巨大な竜巻を出してたわよね?ならバギというのは小さな竜巻を出す呪文なのじゃないかしら?」

 

「おっ、中々鋭い所をつくね。もう少し後に教えようと思ってたけどこの際今話すか。幾つかの呪文は開発された当初と今では中身が違うっていうのがソコソコあるんだ。バギなんかいい代表例だね。最初は真空の刃で切るだけの呪文だったけど年代を重ねるに連れて段々と今の形になっていったんだ。あとはギラとかもだね。あの呪文はメラの派生系呪文となっている」

 

「そういう事だったのね…………。貴方の世界では呪文とは貴重なモノなのかしら?例えば使える人が限られているとか」

 

「そういうわけでもないんだよね。僕がいた世界だと呪文は割と知られているし、使える人もたくさんいる。まあ同じくらいとは言わないけど呪文の素養が無い人もいるけどね。大体の人はホイミ程度なら使えはするんだけどね」

 

「ホイミって私がリュカにかけてもらったベホイミの…………劣化版?傷を治す効果なの?」

 

「ま、そういう事だ。正確に言うと自然治癒力を活性化させて傷を治しているらしいんだが…………医学には疎くてね、そういうモノとしてしか捉えてないんだ」

 

「ん?だけどそれなら魔物にしても如何にも無機物な奴等には効果ないんじゃないのか?」

 

「ソレハ私カラ説明シマスト私のボディニ使ワレテイル素材ハ生体金属デスノデホイミデ治リマスタ。Dr.デロト謹製ノ作品ハ生体金属デスノデソコイラハ心配御無用デス。デ、ゴーレムヤストーンマント言ッタDr.デロト謹製以外ノ無機物系ノ魔物ハ誕生スル際ニアル意味生体金属ニ近クナリマスノデホイミヲカケル事ガデキマス」

 

「誕生の際にってそもそも魔物ってどうやって生まれるの?」

 

「さっきも言ったように魔物には色々と種類があるからね。けど大体は有性生殖だよ。ゴーレムとかストーンマンとかは魂が石材とかに宿って生まれるから一概に有性生殖とは言えないけどね」

 

「呪文ってのは魔力を介して行われてるんだよな?お前の世界にはそもそも魔力が無い奴とかいないのか?」

 

「それはいない。呪文の素養が無い人がいても魔力の素養が無い人はいない。仮に自分は魔力を持っていないとか言っている人も恐らくは気や精神力といった言葉で代用されているはずだ」

 

「それじゃあ私達が呪文を使おうと思えば使えるのかしら?」

 

「それは…………そうだね、僕からは何とも言えない。僕がいた世界じゃ魔力は誰しも持ってた物だけど、君達の世界じゃあ魔力なんて存在があったかどうかはわからないからね。だが恐らくは使えると思う。どうもこの箱庭においては君達の世界にある神話や逸話の方が多いからね。その中に魔法使いに関する物なんかも普通にあるだろうから、どれだけ低くとも魔力自体は持っているとは思う。だからもし呪文を学びたいと思うのなら僕のとこに来てくれれば、懇切丁寧に教えてあげるよ」

 

「呪文を使う際に気を付ける事とかあるのかしら?」

 

「イメージを確固たるものにする事だ。と言うか呪文は別に詠唱をする必要はないんだ。イメージさえしっかりしてさえいれば無詠唱で発動できる」

 

「それでなんで…………いや、成る程な。そういう事か」

 

「あら、十六夜くん何かわかったのかしら?一人だけ納得しないで教えて欲しいのだけど」

 

「恐らくイザヨイの想像通りだよ。呪文はイメージが重要になってくる。だがそのイメージがあやふやだったりすると呪文が発動せず、下手すれば魔力だけ無駄に消費する形になるんだ。だから僕らは呪文を詠唱するんだ」

 

「明確な形を与える為に唱えるわけか。じゃあお前が唱えていたバギクロスとかレムオルとかもそういった形を与えたものってわけか。呪文って簡単に作れるものなのか?」

 

「それは流石にそんな簡単には作れないよ。まあでもイザヨイの頭の良さだったらある程度の時間さえあれば作れなくもないかな?」

 

「そうかそうか。それを聞いただけでも価値はあったな。俺は聞きたい事は全て聞いたから止めようと思うがお前らはどうする?」

 

「私も知りたい事は聞けたわ。私も止めにするわ」

 

「私はまだ魔物について知りたい…………!」

 

「ハハハ、ヨウは本当に友達になろうとしてるんだね。じゃあ、この後ヨウは一緒に僕の仲間達を見ようか」

 

「うん…………!」

 

 

この後めちゃくちゃ魔物を見た。




突っ込みどころたくさんかもだがそんなもん棄て置いちまえ!

デ○ズニーではステ○ッチが好き、あんなネズミなんて目じゃない…………おや、出前はとってないのにこんな時間に客が。はいはーい、今出ますy(グシャ








復活!まー、他にドラクエのこんなこと聞きたーいってのがあったら言ってください。一週間以内にホンモノの妄想ってやつをお見せしますよ。


次の小ネタは天空城訪問にしとこう。邂逅、Dr.デロトでもいいけどね!


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小ネタ 訪問、天空城!

小ネタもこれで二回目やの。


あと一個だけ小ネタは投下予定なりぃ…………。
最近モンハン4gが面白すぎて困ります。けど友達に誘われたのでネタを求めにドラクエ9を購入予定。

東方陰陽鉄にもはまっていますね。ブロントさんかっこいいタル〜


リュカはポカポカと暖かい陽だまりの中で日向ぼっこをしていた。

ほんわかと身体を暖めてくれる陽射しはリュカを優しく包み込み、ついついリュカも微睡んでしまいそうだった。

 

 

「いやー、いい天気だ。こんな時は日向ぼっこもいいけど、何処か出掛けるのも悪くないな…………」

 

 

リュカは基本的にはやりたいと思った事をすぐさまやってしまいたいタイプだ。故に寝転がっていた状態から飛び起きてついでとばかりに袋を漁る。

 

 

「確かここら辺に…………あったあった、“天空のベル”」

 

 

“天空のベル”とはマスタードラゴンより賜った掌サイズの小さなベルだ。これを鳴らせばマスタードラゴンがやって来てリュカ達を乗せて空を悠々自適に飛んでくれる。

リュカは単純な好奇心でこの箱庭でベルを鳴らせばどうなるかを試してみたかったのだ。

 

 

「そうと決まれば早速…………」

 

 

リュカはベルを手に持ちチリンチリンと鳴らした。それから一分程した後に大気を震わせるかのような咆哮と羽ばたきの音が聞こえる。

段々と近づいてきたそれは龍であった。それも以前リュカが白夜叉と戦った時に変身した龍そのものの姿であった。

その龍はリュカの目の前に降り立ち鎌首を擡げる。

 

 

「…………やはり、この箱庭に来ていたか」

 

「知ってたんだ?」

 

「私が管理する世界からお前の存在だけ急にいなくなったからな。何処か別の世界に、それの有力候補として箱庭に行ったのであろうというのが私の見解だ。…………本来ならお前の死後、この箱庭に招いて私のコミュニティに入らないかどうかを聞こうと思っていたんだがな」

 

「ハハハ、今では“ノーネーム”の一員だからね。まあ、こっちの問題が粗方片がついたら考えてもいいかな?」

 

「是非ともそうしてくれ。…………しかし、この箱庭においては“天空のベル”の使用は極力控えてくれ」

 

「ああ…………そうか。コミュニティって言っていたし、コミュニティのリーダーだからそんなホイホイ出て行かれるとマズイのか。うん、極力使わないようにするよ。今回使ったのも好奇心故だし」

 

「うむ、わかってくれてありがたい。こうして呼び出された事だ。お前を我がコミュニティ“天空城”まで連れて行こうではないか」

 

「“天空城”ってあの“天空城”?」

 

「ああ、それで合っている。一応は三桁の外門に位置するコミュニティとはなっているが、本拠は空高く浮いているからな。外門の位置などあまり意味がないものだ」

 

「いや、三桁って…………。大分凄い規模、或いは勢力のコミュニティなんだね。こっちはしょうがないとはいえ、土地はともかくとして人材とか全然足りてないからなぁ…………」

 

「まあ、積もる話は我が本拠に来てからでも遅くはあるまい。さあ、私の背に乗れ。これより飛翔するぞ」

 

「うん、それじゃあよろしく頼むよ」

 

 

リュカはマスタードラゴンの尾から乗り込みしっかりと背中に跨った。それを確認したマスタードラゴンは翼を二度三度はためかせ、空高く飛翔した。

 

 

「あわわわわわわ、やっぱりリュカさんはマスタードラゴン様と知己であらせられたのですか。黒ウサギは知らないとはいえ何て事を…………!」

 

 

そこに一人、自身が仕出かした事の重大さに気付き、しなくてもいい心配をしている黒ウサギがいるとも知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここは雲の遥か上。そこに浮かぶは絢爛さこそ見受けられないが、しっかりとした造りをしている城だった。そこの入り口に降り立ち、リュカは改めてその城を見る。

 

 

「うん、やっぱり天空城だね」

 

 

その城はかつてリュカが浮遊させる事に協力した城だ。

この天空城を浮かせる要であるゴールドオーブにシルバーオーブ。その内のゴールドオーブが魔物に襲撃された際に転げ落ち、幼少の身であったリュカ達の前に落ちてきたのだ。

子供の頃は単なる綺麗な玉だとしか思っていなかったが実は天空城を浮かせていた重要な代物と知り、妖精の女王と出会い、過去に戻り、すり替えておいたのさ!をしたわけだ。

兎に角、並々ならぬ苦労を以ってこの城を再び浮かび上がらせる事に成功したのだ。

 

 

「けど、なんで此処にあるのかな?僕がいた世界にもあるはずなんだけど」

 

「それと全く同じ物だ。正確には同じ素材、同じ設計図で作った物と言うべきか」

 

「ああ、つまり言ってしまえば天空城2って事か。確かにこっちの方が少しばかり新しく感じるね。あっちの天空城は水没してたからかもだけど」

 

「それで合っている。彼方の世界では希少な素材も此方では希少でない場合も少なくはないしな。新しく建造させてもらったよ」

 

「へぇ…………。じゃあ色々と話そうか。僕がこの世界に来てから何をしたかを」

 

 

そう言うとリュカはこの天空城においてマスタードラゴンが座すべき場所に向かい歩を進める。何も考えずに上に行けば着くのだが。

そしてリュカは話した。まだ短い滞在の中で自分がどんな行動をしたかを。マスタードラゴンはそれを柔和そうな微笑みをもって聞いていた。

 

 

「そうか、星霊・アルゴールを仲間としたか。魔王を仲間にするとはリュカも中々だな」

 

「自分のギフトを自覚すればまあ、仲間には出来たね。けど、まだ僕のギフトには能力があるような気がするんだけどね」

 

「ほう…………。それは頼もしいな。やはり私のコミュニティにお前は欲しい存在だよ」

 

「今は“ノーネーム”所属だからね。すぐにその要望には応えられないかな」

 

「…………時にリュカよ。お前は今のコミュニティの現状をしっかりと把握しているのか?“ノーネーム”とは何らかの理由によって、まあ大抵は魔王だがその名を、旗を奪われたコミュニティの総称だ。当然、色々な困難がお前を待ち受けているだろう。名が無いと言うのはまさしくネームバリューが無いということ。それは信用ができないということでもある。そんなとこには誰もゲームに招待してくれない。幸いにもお前達の“ノーネーム”は白夜叉とも懇意であるから仕事やゲームは何とかなっているがな」

 

「うん、だから話した通り僕らはコミュニティのリーダーであるジン君を担ぎ上げる事でネームバリューを得ようとしてるんだ。ジン・ラッセル率いる“ノーネーム”って感じでね」

 

「だがそれと同時に掲げた目標。大層大きく出たな。魔王討伐だなどと。これが意味する事は解っているのだろうな?」

 

「勿論、解っている。確実に目を付けられるだろうね。だがそれを全て打ち倒す事で僕達は確実に、着実に目標へと近付けるんだ。その為には立ち止まるわけにはいかない」

 

「…………うむ、お前の覚悟、しかと見受けた。さて、長話も済んだ事だ。城の中を見回ってみればどうだ?今は丁度客人が来ているぞ」

 

「客人?それってこのコミュニティと懇意にしているコミュニティからの客人って事?」

 

「ああ、そうだ。因みにだがそのコミュニティからの客人は私達と似通った世界から来ている。要は魔物や呪文とか言った具合の世界からな」

 

「おぉ〜…………」

 

 

リュカはその言葉にかなり反応を示す。自分と似通った世界からやって来た人物。それ自体にも興味があったし、何よりどんな魔物が生息しているのかとかを聞きたかった。寧ろそれだけでいいとすら思っていた。

それもこれも彼が伝説の魔物使いと呼ばれているからであろうか。本人はやんわりと否定はしているが。

 

 

「それじゃあその人に会ってくるよ。いったいどんな人物なんだろうなぁ」

 

 

とは言っているが頭の中では魔物八割人物二割程度の興味しかないのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天空城にあるバルコニー。そこに件の客人がいた。それも二人。

一人は黄色い旅装を身に纏い、赤いバンダナを頭に巻き付けた如何にも冒険者といった青年。もう一人は頭になんかよく分からない棘が生えた帽子…………兜?をかぶり、無精髭が生えており、恰幅のいい肉体をした中年。

 

 

「おっ、兄貴!彼奴がマスタードラゴンの野郎が気にかけてた男じゃないでがすか?」

 

「ああ、そうみたいだな。じゃあ仲良くなりに行こうか」

 

 

二人は互いに顔を見合わせて頷き合いリュカの方に近付いてくる。そして眼の前で立ち止まると握手を求めるように手を差し出した。

リュカはその手をガッチリと掴み、握手をする。とても力強い握手だった。

 

 

「よろしく、僕はエイト、エイト・トロデーンだ」

 

「僕はリュカ、リュカ・グランバニアです」

 

「あっしはヤンガスってんだ。これから頼むぜ、ご同輩!」

 

 

三人は固い握手を交わし、二人はリュカを、リュカは二人を見やる。

そして三人ともそれぞれが高い実力を兼ね備えている事を見破った。着ている物が如何に貧相な物でも、実力までを隠し切る事は出来ない。まさしくそんな具合だろう。

 

 

「今ここにはいないが僕には仲間が後二人いる。一人はゼシカといって、もう一人はククールという。ゼシカは腰に鞭を提げている女の子で、ククールは赤い修道服を身に纏った青年だ。見たら多分、わかると思うよ」

 

「そうですか、それは是非とも会いたいものです。僕にも仲間と呼べる者は沢山いますが、元の世界に置いてきてしまってね。まあ、好きで置いてきたわけではないけど」

 

「ああ、リュカはあっしらと違って直接召喚された口か。あっしらは元の世界じゃ死んでから呼ばれたからなぁ」

 

 

どうやら二人は初代ペルセウスと同じく死後、箱庭に招かれた形でやって来たらしい。招いたのがマスタードラゴンじゃないのだけは確かなのだが。

 

 

「それは大丈夫なのかい?残してきた者達の事なんかはどうしてるんだ?」

 

「僕の仲間にジェリーマンっていう魔物のジェリーがいて、その子はモシャスという対象に変化する呪文を得意としているんだ。その子を此方に呼び出してから手紙を持たせて僕に変化させてから向こうに送り返したから暫くは大丈夫だと思う」

 

「ああ、モシャスってあのリーザス村の女の子が使っていた…………。成る程、確かに問題はなさそうだ」

 

 

リュカ以外は老衰において死亡した後に箱庭に招かれた形で此処にいる。が、リュカはそうではなく黒ウサギが呼び寄せた形で此処にいる。文面においては全てを捨てて此処に来いみたいな内容だったが、十六夜みたくカバンに勝手に入ったわけではないし、飛鳥みたく密室状態にあった部屋にあったわけではなく、耀みたく猫が持ってきたわけでもない。厳正な検閲をクリアして近衛兵から渡されたのである。まさか異世界にバシルーラされるとは微塵も思ってなかったのである。

以上の事からリュカは望まずに妻子や国民達を捨ててこの箱庭に来た形となり、それの対処にリュカは追われたのだ。今はモシャスで化けたジェリーがどうにかこうにか頑張っているらしい。頑張れ、ジェリー。

 

 

「その背に背負っている剣…………数打ちですか?」

 

「よく気付いたね。これは兵士の剣と言って僕が住んでいる国の兵士に支給される剣なんだ」

 

「兄貴、住んでいるじゃなくて統治していたじゃないでがすか」

 

「えっ。て事は貴方はトロデーンという国の王だったのですか」

 

「いや、まあ、そうなんだけどね。実際入り婿だからね?僕が統治していたなんて事実これっぽっちも…………」

 

「姫さんと仲良く治めてたじゃないでがすか。兄貴の中にある王族の血が目覚めた瞬間とでも言うべきでがすかねえ。兵士王だなんて呼ばれてたし」

 

「そりゃ、そうでしょ。僕は元々近衛兵だったんだから。一応、愛称として兵士王だからまだ気が楽だけどね」

 

「貴方も王だったんですか。僕もグランバニアという国の王でしてね。いや、ホント呼び出された時政務とかどうしようかと悩んでました」

 

「あー…………政務ってキツイよね意外と。それはそうと丁寧に話さなくてもいいよ。歳は近いだろうし」

 

「ん。ならそうさせてもらうよ」

 

 

三人はそれからも歓談しあった。其方にはどのような呪文があるのか、魔物としてどんなのがいるのかなどなど。

 

 

「やっぱお前にはわかるか!ゼシカの奴はあっしの語るも涙聞くも涙の話を聞いても何ら感動してなかったからなあ」

 

「そりゃあね。最初の君達の関係は魔物同然の姿にされて王と馬にされた姫を引き連れ歩く兵士とその一行に襲い掛かる山賊だった。まあ、山賊がどれほど過激かは知らないけど最低でも身包みは剥ぐだろうね。そんな事をしようとする輩の命も救うだなんて中々出来る事ではないよ」

 

「いや、身体が勝手に動いただけなんだけどね…………」

 

「それでも、だよ。勝手に動いたって事は頭で考えるより身体が人助けにはしる。それほどまでに根っからの善人という証拠だしね。しかし、其方の世界には僕が聞いた事のない魔物が沢山いるなぁ」

 

「こっちも驚いたよ。同じような世界だから魔物も似たようなモノだろうと思ってたのにいざ蓋を開けてみれば全くと言っていいほど別物だったなんてね」

 

「しかし意外な共通点でがすな。リュカも兄貴も魔物を従えさせられるなんてよぉ」

 

「いや、リュカの方が僕より何倍も凄いよ。僕の場合は一時的な協力を何度もお願いする形だけど、リュカは何時でも何処でも魔物達が付いてきてくれる。そこまで魔物に慕われる人間なんて僕達の世界だと七賢者の一人であるクーパスくらいじゃないかな」

 

「是非ともその人に会ってみたいところではあるが…………この箱庭に招かれているかなぁ?」

 

「それは何とも言えないな。僕自身、未だ嘗てこの箱庭で彼らを見た事がない。まあそもそも七賢者の一人のクーパスは存在を知っているだけで姿すら見た事ないんだけどね」

 

「そうか、非常に残念だ。まあ、魔物とか文化とか色々と驚いたけどそれよりも特技という存在に驚いたね。僕の世界じゃそんなのは使用していなかったよ。唯一、僕が特技と呼べるモノもこの箱庭に来て開発したモノだしね」

 

「それがあっしは理解できねえんだよなあ。特技あった方が何かと魔物も倒しやすいってのによぉ。あっしだと鈍器…………まあ、棍棒とかハンマーとかだな。それを用いて発動する相手の動きを止める事があるマインドブレイクとか悪魔系や物質系の魔物に特攻ダメージ与えられるデビルクラッシュとかさあ。後は斧使ってやる相手の守備力を下げれる兜割りとか麻痺らせる事がある蒼天魔斬とかな」

 

「随分と多彩なんだね。それに話を聞いていると武器ごとに違う特技を備えているみたいだ。エイトも特技を持っているんだろう?」

 

「僕の場合は剣だとドラゴン系に特攻ダメージのドラゴン斬り、メタルスライムとかそういうのに確実にダメージを与えられるメタル斬り、相手に二回斬撃を与える隼斬り、斬ったら体力を回復するミラクルソードとかかな。あとは槍、ブーメランかな。武器を用いた特技があるのは」

 

「メタル斬りが普通に便利だね。隼斬りは隼の剣と同じ効果を特技で再現したのか?ミラクルソードは奇跡の剣、或いは王家の剣といったとこか。うん、やはり特技は必要かもしれないね。僕のはまだ未完成だし」

 

「気になってたがいってえどんな特技だ?」

 

「一応、剣を使った特技になるのかな?その気になれば杖でも槍でも出来そうなんだけどね。バギクロスを足から収束させて展開、その勢いを利用して相手に突貫するって特技だけど」

 

「うわ、何それエゲツない。未完成って言ってたけどどういう風に未完成なんだ?」

 

「全身の筋肉をいい感じに痛めつけてね。まあ、それだけ無茶な運動をしているのだから当然ではあるけども暫くしたら本当立てないほど筋肉痛に苛まれるよ」

 

「うっわ、想像してみたが酷えなそりゃ。だが確かに強力ではあるわな…………。そうだ、兄貴!リュカに特技を教えるってのはどうでがすか?」

 

「えっ?僕としては構わないけど一体どういった風の吹き回し?」

 

「ま、何となくでがすよ。あっしらだって特技に何度といわず救われてんだ。ならご同輩に教える事になんらおかしな事はないでがしょ?」

 

「ふ…………む、それもそうだね。けど聞いた話だとリュカは剣と杖だからなあ使っているの。僕から剣の特技は教えられるだろうけど杖はなぁ」

 

「おい、リュカ」

 

「ん?何だいヤンガス」

 

「お前杖を補助具として使っているわけじゃないだろ?あくまで武器として使ってんだよな?」

 

「それはもう。突くもよし、叩いてよしといい武器だからね。愛用させてもらってるよ」

 

「なら兄貴の槍の特技と俺の打撃の特技も教えられるな。兄貴、それで構わないでがしょ?」

 

「ああ、うん。そっか、ゼシカとククールは補助として使ってたなそういや。よし、時は金なり。早速始めようか」

 

 

エイトはそういうと剣を抜き放ちリュカによく見えるように構える。リュカはその一挙手一投足を見逃さぬよう注視した。

他にも槍や打撃の特技を見せてもらい、リュカはその全てとまではいわないが特技を覚えた。実に数時間に及ぶ訓練だった。

リュカはドラゴン斬り、火炎斬り、メタル斬り、疾風突き、一閃突き、薙ぎ払い、ハートブレイク、ドラムクラッシュを覚えた!

 

 

「流石に隼斬りとか五月雨突きは無理か。まあ、でも凄い成長スピードだ。けどミラクルソードはよかったのか?覚えられそうだったのに」

 

「魔力を消費しないミラクルソードみたいなのを持っているから無意味っていうか…………。隼斬りに五月雨突きは要修練だね。あともう少し時間を掛ければコツを掴めそうだ」

 

「いやけどたった数時間で覚えられるたあなー。あっしらの教え方が余程良かったかそれともリュカがそういった類のギフトでも持ってんのか…………。ま、どっちでもいいか。おい、リュカ。最後に一つだけ教える事があるから出来るだけギフトを多く身に付けて俺の前に立て」

 

「? 意図はよく分からないけどやれと言うのなら」

 

 

リュカはヤンガスに言われた通りにドラゴンの杖、太陽の冠、王者のマント、光の盾を装備する。その装備を見たエイトにヤンガスは感嘆の息を漏らす。

 

 

「これは…………凄い装備だね。僕の竜神装備と互角なんじゃないかな?」

 

「それにあの杖…………マスタードラゴンの力をヒシヒシ感じやがる。彼奴の力が込められてんな?成る程、だから杖を使うって言ってたわけだ。こんな杖がありゃそこらの剣や斧なんて鈍当然だ」

 

 

エイトにヤンガスは持ち前の知識と装備から感じる力から少なくとも店で買えるような物より数段強いと判断した。いや、下手すればそれより更に上の可能性もある。

ドラゴンの杖ばかりでなく、太陽の冠や王者のマント、光の盾にも同様に凄味を感じていた。

 

 

「よし、リュカ。盾で防御しとけよ。今から特技を喰らわせるからな」

 

「えっ」

 

「えーっと、あったあったこいつだ」

 

 

ヤンガスが袋を漁くって中から巨大な薙刀を取り出した。斬る物全てを粉砕しそうなその薙刀を粉砕の大鉈といった。ヤンガスが装備できる鎌系統の武器では最高の攻撃力を誇る武器だ。実際はそれどころでなく彼らがスライム系しか出ない山で手に入れた斧よりその斧を素材として用いて錬金して作った槌よりもより強力な物である。ヤンガスは少し複雑な気分だ。

 

 

「よーし、行くぞー。大泥棒の鎌!」

 

 

節子、それ鎌とちゃう、巨大な鉈よくて薙刀や!と突っ込む暇もなくただ盾を構えるリュカ。刹那の後甲高い金属音が鳴り響く。光の盾に粉砕の大鉈がヒットした音だ。リュカはあまりの衝撃に思わず後ずさる。

 

 

(お、重い…………!盾で防いだにも関わらずこの衝撃…………!生身で受けていたら大怪我どころじゃ済まないかもしれない…………!)

 

 

そう考えた後に冷や汗がブワッと出る。よくよく考えれば危ない事この上ない。

 

 

「おっし、防いだな?で、リュカ。何かなくなっている物ないか?」

 

「なくなった物?そんな物あるわけが…………」

 

 

そう言いつつリュカは確認する。冠はかぶっている。マントも羽織っている杖と盾はしっかりと握っている。袋もちゃんと腰に提げてある。なくなった物などどこにもーーーー、

 

 

「あ、炎のリングが…………ない?」

 

 

大商人ルドマンの娘の一人フローラとの結婚する為の条件として提示された二つのリング。火山の中に眠ると言われた炎のリングと水に囲まれた洞窟にあると言う水のリング。それを済し崩しに手に入れる事になってしまったリュカ。人集りがあるので何だろうと思って近寄った結果フローラと結婚する気概のある男になってました。なんで?

まあそのお陰で幼馴染で現在は妻のビアンカと再会し、ビアンカと結婚まであり付けたのだ。それまでにかなり色々あったけどね!

そんな想い出の品とでも言うべき炎のリングがなくなっていたのである。落とすなどまずあり得ない。キチンと指に嵌めていたのだから。

 

 

「それは俺の手の中にあるぜ」

 

 

ヤンガスがそう言いながら手を開くとそこには小さな赤い宝石が組み込まれたリングがあった。紛れもなく炎のリングだった。

 

 

「一体どうやって…………?」

 

「俺の特技の一つ、大泥棒の鎌。こいつぁ、二回に一回の確率で相手から物を盗む特技…………だったはずなんだが、この箱庭に来たらどうもギフトを盗む特技になったみたいだ。つっても、ゲームが終わったら自動で相手に返却されるし、こういったリングみたいな身に付けるタイプのギフトは奪ったところで奪い返される心配もあるがな。ま、何が言いてーかってっと」

 

 

そこでリングをリュカに投げ返しながら言葉を一旦区切る。そして次の言葉に繋げる。

 

 

「俺達みてーな世界出身の奴の特技や呪文は一部変質している場合がある。まあ、大抵良い方向に変質してるんだけどな。今回あっしが使った大泥棒の鎌はわかりやすく伝える為のいい例だったんでな。聞いた話じゃインパスっつう呪文は相手のギフトを解析できるようにもなっているみたいだぞ。凶悪だな。ま、頭の片隅にでも入れておけ。何時か役に立つ時が来るかもしんねえからな」

 

「…………わかった。この事はしっかりと覚えておくことにするよ。今回はとてもためになったよ。良ければ再び相見えたいものだね」

 

「それなら僕達は“集いし英雄”ってコミュニティのメンバーだから何時か会う時が来るかもしれないね」

 

「“集いし英雄”か。英雄は英雄で偶像崇拝される対象だけど勇者よりかはマシだろうね」

 

「それじゃあ僕達はこれで。いやはや、中々楽しい一時だったよ」

 

「それじゃあな、リュカ。次会う時はゲームの相手としてだといいな」

 

 

エイトは懐から小さな光り輝く珠のような物を取り出し、それが一層強い光を放つと彼らは光輝く鳥となって天空城から飛び立っていった。

それを見送ってから一言、

 

 

「ルーラ覚えているだろうにアレ使う意味あるのかなぁ…………?」




今回も今回で地の文は少なめ。
本編じゃないから致し方ないこともあり。
次回の小ネタで最後ですがその時にリュカのギフトの全容が判明予定。まあ、もしかしたら追加されるかもしれないんですけどね、効果が。

なんや、十六夜よりもカオスになってるなーリュカさん


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小ネタ リュカのギフト

無駄に筆がのった!


いや、書いてみてここまで速く書けるとはこのリハクの目をもってしても見抜けなんだ…………!

ついに明かされるリュカのギフトの内容!今後追加されるかも!(待て


“ノーネーム”本拠の敷地内、そこにある森でリュカは鍛錬に勤しんでいた。

先日、エイトにヤンガスから教えてもらった特技の復習と教えてもらったが覚え切れなかった特技を覚えようとしているのである。…………まあ、尤も覚えた特技も幾つかは教えてもらった特技の劣化版ではあるが。

 

 

「…………ふっ!」

 

 

リュカは目の前の木に向かって一呼吸で二回斬りつけた。木には十字の傷跡が残り、リュカはその成果に満足する。

 

 

「…………うん、隼斬りは完成したね。中々習得するのに時間が掛かったが、それでも覚えられた。これで戦闘を主軸に置いたゲームの際に切れる手札が増える」

 

 

ギフトゲームは様々なジャンルがある。運が絡んだものや単純にレースなど。今の所リュカは戦闘が絡むゲームしかした事がなかった。“ペルセウス”とのゲームは戦う必要はなかったのだが。

 

 

「マスター?此処にいるのー?」

 

 

一息ついていた所に日光を照り返して美しく輝く長い銀髪をたなびかせる女性がやって来た。

彼女の名前はアルゴール。かつて“ペルセウス”のリーダー、ルイオス・ペルセウスにより使役されていた存在。だが今はリュカのギフトのお陰で余計な束縛から解き放たれリュカの仲間となっていた。…………本人は自身を配下的立ち位置として考えているようだが。

 

 

「ああ、アルゴール。此処にいるよ」

 

「あら、鍛錬中だったのね。お邪魔だったかしら?」

 

「いや、丁度一息ついている最中だったから構わないよ。それで何の用だい?」

 

「もうそろそろ昼飯時だから呼びに来たのよ。時間も忘れるほど鍛錬してたのね」

 

 

そう言われてリュカの腹が急に音を鳴らす。どうやら体は自身の空腹を正直に訴えているらしい。

少し恥ずかしそうな顔をしながら頬をポリポリと掻き、アルゴールに身体ごと向き直る。

 

 

「ハハハ、どうやらそうみたいだね。ならすぐ行くよ」

 

「はーい、言質とったー。じゃ、行きましょっか。…………それにしてもここら辺の木大分ズタボロにしたわねえ。穿った跡とか斬った跡とか何だか痛々しいわねー」

 

「実際の感覚を身体に覚え込まさないといけないからね。まあ、実戦じゃあ相手は立ち止まってはくれないけど」

 

「そりゃ怪我するかもしれないから立ち止まるわけないじゃない。ま、そんな事より早く行きましょ。リリの料理すっごく美味しいからついつい食べてしまうわ」

 

 

リリとはこの“ノーネーム”の中でゲームに参加できない子供達の中でも取り分け年長の狐耳を生やした少女の事だ。何でも親を魔王に攫われたらしくその行方は未だ判っていないらしい。

今現在は“ノーネーム”の家事をこなしている。最早“ノーネーム”に欠かせない存在となっている。

 

 

「わかったわかった。それじゃあ早速食べに行こうか」

 

 

アルゴールに手を引かれながらリュカは予期せずして残してきてしまった家族について考える。考えてそういやルーラって人間界から魔界に行けたんだから異世界移動出来るんじゃね?という考えに至り優先順位を下げて昼飯を食べに向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼飯を食べ終わったリュカは自室に戻り大魔導師ポッピンが著したとされる呪文書を読んでいた。まあ、どうせポッピンの方は偽名なのだろうがこの際気にしない。この本からピオリムやレムオルなどといった有益な呪文が幾つか覚えられたのだから。

しかしこの本は問題があった。

 

 

「最後の方の何ページか白紙なんだよなぁ…………」

 

 

そう、最後の方のページが印刷を最初からしなかったかのように白紙なのだ。尤もこの本は恐らく手書きだろうから印刷云々ではなく単純に書き忘れの可能性が否定できないのだが。

 

 

「うーん、眼を凝らせば文字が見えてくるとか?流石にそれはないか…………。まあ、物は試しだ。ふっ…………!」

 

 

リュカとしては冗談半分で眼を凝らしたのだが、そうしたら何と文字が浮かぶように急に現れたのだ。流石のリュカさんもこれには苦笑い。

 

 

「いや、まさかこんな単純な事で見えるようになるとは…………」

 

「マスター?って、あら座学中だったの…………ってその眼!」

 

「え?何?ああ、凝らしていたんだけど眼付き悪くなってたかな?」

 

「いや、違うわよマスター!その瞳…………!」

 

 

アルゴールが驚いたのはリュカの瞳が縦に細長くなっていたからだ。そう、まるで猫か蛇のようにだ。アルゴールはそれを伝えようと手鏡を持ってきてリュカの顔の前に差し出す。

リュカは鏡を覗き込んでようやく瞳の異常に気が付いた。

 

 

「おおっ。蛇蝙蝠みたいな眼になっているね。眼を凝らしたのが原因かな?まあお陰で本が読めるから別にいいんだけど」

 

「いや、別に良いって…………」

 

 

アルゴールが驚いたのは何もリュカの瞳孔が急に蛇のそれになったからではなくその瞳の本質に気付いたからだった。

 

 

(あの瞳…………どう考えても私のギフトと同じモノよね…………)

 

 

私のギフト、つまりはアルゴールのギフトという事になるのだがつまりは石化の魔眼。任意で発動でき任意で対象を選択できるため今の所危険度は無いがそもそもリュカがそれを持っているという事自体がおかしいのである。

 

 

(私のギフトが奪われた?…………いえ、どうやら違うみたいね。私もちゃんと発動できる。なら一体どうして…………?)

 

 

考えても考えても答には至らず只々堂々巡りとなるだけだった。

リュカはリュカでフィンガー・フレア・ボムズだとかメドローアだとかボゾボソ言っているのだが。

 

 

(考えてもわからないなら兎に角行動するしかないわね)

 

「マスター。それどういった呪文が書いてあるの?」

 

 

考えてもわからないのなら行動に移せばいい。そう考えたアルゴールは手始めにリュカに読んでいる本の内容を訊いてみた。リュカは本から眼を離さずに、

 

 

「新しく読んでいる内容だと中々狂った呪文しか載ってないね。特にメドローアなんて強力ではあるがその分習得も難しそうだ。フィンガー・フレア・ボムズに至っては寿命を削るかもしれないとか書いてあるし…………少なくともリスク無しで放てる呪文ではないようだ」

 

「ふーん。私の記憶…………と言ってもメドゥーサの記憶だけどそれには呪文とかの記憶はなかったからねー。まあ、メドゥーサをメドゥーサたらしめたのは呪いみたいなモノだしある意味呪文と呼べるのかしらね?」

 

「そう言えばアルゴールの記憶はメドゥーサの記憶だと前に言っていたね。他にはどんな記憶があるんだい?」

 

 

リュカがそこで話に食いつく。しめた!と思ったアルゴールはメドゥーサの記憶を語っていく。

 

 

「そうね…………。メドゥーサを退治したペルセウスの実力は認めていても納得ができない、みたいな感情があるわね」

 

「それはどうして?」

 

「いや、だってペルセウスに神がこぞって自分の神器貸し与えたんだしねー。空を翔ける靴とか姿が見えなくなる兜とかピッカピカに磨かれた青銅の盾とか星霊殺しの鎌とかねー。ぶっちゃけ、課金によって最高級のレア装備を身に付けて挑んできたようなもんよ。技量があるのは認めるけどさあ」

 

「課金とかよく分からない言葉があるけど…………何となく言葉のニュアンスは伝わったよ。確かにそれは納得できない部分があっても仕方がないね」

 

 

リュカは自分の経験に置き換えて考えてみた。要はゲマ(1回目)をドラゴンの杖、太陽の冠、王者のマント、光の盾を装備しつつ倒しに行くかのようなものだ。その装備が全て揃っていたらゲマなど恐るるに足りない。

 

 

「でしょー?まあ化物の姿に成り果てたのは割と自業自得な部分があるけどさあ…………。どっちの理由にしてもアレなのよねえ…………。神をキレさせたのが原因だものねえ…………」

 

「神を怒らせたのかメドゥーサは…………。中々命知らずのようだね。殺されなかっただけマシと言えるのだろうか」

 

「代わりに盾にされたけどね!今もアテナが持ってるんじゃない?アイギスの盾。あ、そうだ。それよりマスター。最近身体の調子とかどう?」

 

 

少し、いやかなり無理矢理臭いが話題を転換させてリュカから話を引き摺り出そうと画策する。恐らくリュカも把握していないだろうから感覚的なモノでいいから情報が手に入ればいいと考えた結果だ。

 

 

「身体の調子?そうだね…………この箱庭に来てから頗る調子が良いね。何だか身体が軽くなったと言うか、それでいて一撃に重みが増したと言うか…………。あ、そうそう。アルゴールが仲間になってから更に強くなったような気がするよ。まあ、魔王と呼ばれていたアルゴールを仲間にした心強さからそう感じているだけなのかもしれないけどね」

 

「そ、そう。そうなのねー…………」

 

 

アルゴールを仲間にした途端より強くなったと感じた。これは明らかに原因の一端だろう。ならばどうやって強くなっているのか?

キーワードは仲間にしてから。ここから連想させて…………と考えたアルゴールに一つ最悪の考えが思い浮かんだ。まさか、いやそんなバカな事が。だがこれだと辻褄は確かに合う。だけどそれだとしたらーーーー?

 

 

「…………あー、ゴメンマスター。ちょっと所用を思い出したから出掛けてくるわね」

 

「うん?ああ、いいよ。と言うか一々僕の許可を取らずとも行っていいのに」

 

「何となくそうしたかったのよ。そう、何となく、ね…………」

 

 

アルゴールは顔に僅かな憂いを帯びて部屋から出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここは“サウザンドアイズ”の支店。その入口前にアルゴールは来ていた。入口前を何時もの愛想がない店員が箒で掃いている。

 

 

「白夜叉様にお取り次ぎ願いたいのだけど、よろしいかしら?」

 

「何処の何様か言ってくださいませんとお取り次ぎできかねますが」

 

 

元とは言え魔王相手によくもまあこういった物言いができるものである。きっと鋼のメンタルをしているに違いない。

 

 

「あら、それは失礼したわね。ジン・ラッセル率いる“ノーネーム”のアルゴールと伝えてちょうだいな。まさか、“ペルセウス”をくだした“ジン・ラッセル率いるノーネーム”を知らないとは言わせないわよ?」

 

「…………少々お待ちください」

 

 

店員は諦めたのか、それともアルゴールの迫力に気圧されたのか店に入る。それから暫くして店員が出てくる。

 

 

「今は丁度時間が空いているとの事ですのでどうぞお入りください」

 

「じゃあ失礼するわね」

 

 

アルゴールは店の中に入り店員に案内されるまま白夜叉がいる和室に向かう。その部屋の目の前につくと店員は、

 

 

「白夜叉様。お客様を連れてきました」

 

 

と言い、そそくさとその場を退散した。面倒事に関わりたくないからか、それとも茶を淹れにいったのかは判断しかねる。

 

 

「よう来たのアルゴール。して、何用だ?頼み事であるならばそのたわわに実ったπをタッチさせてくれるだけで叶えてやるぞ!」

 

 

相変わらず変態だった。見た目幼女になってもこの変態性は変わらずか!思わず眉を顰める。

 

 

「いえ、今回はそういった事じゃないわ。ーーーー私のマスターのギフトについてよ」

 

「ーーーーほう?今回はという事は次回以降する可能性があると言うわけだ。ま、おふざけはこの程度にしておこうかの。して、リュカのギフトと言うと“魔を統べる王”だったか?普通ならギフトカードに載ったら何となくは解るのだがリュカのは何処か要領を得なかったからの」

 

「そう。なら結論から言わせてもらえばハッキリ言って最悪よこのギフト。今はまだマスターがそんな意思を持ってないからいいとして下手すれば白夜叉、いえ、白夜王でさえ敵わないかもしれない」

 

 

それを聞いた白夜叉の眼が見開かれる。白夜叉は白夜王と呼ばれる星霊が仏門に帰依して神霊を得る事で寧ろ弱体化してなった姿だ。だがそれならば兎も角白夜王ですら敵わないギフトとは一体ーーーー?

 

 

「恐らく、いいえ確実に彼のギフトの能力は『人類という種に害を及ぼす存在を管理する能力』よ。この場合の“魔”とは人類に危害を与える存在の事。マスターはある意味人類の傲慢の象徴。個人的には人類の為の人身御供の方が良いんだけどね。まあ皮肉にも人類ですら人類に害を与えるから効果の範疇に半分は入ってるみたいだけど」

 

「『人類という種に害を及ぼす存在を管理する能力』だと?それは何か。人類に危害を加えると判断された場合はリュカの管理下に置かれるということか」

 

「それで間違いないわ。例を挙げるなら妖精。ピクシーだとかは本人は悪戯のつもりでしょうけどそれでもその無邪気さで人を殺す事がある。これでもうアウト。妖精という種はマスターの管理下に置く事ができる条件が整ったわ」

 

「何と…………!そのようなギフトであったか!」

 

 

アルゴールが白夜王でさえ敵わないと言っていた理由がわかった。それは白夜王が星霊だから。少なくとも魔王と呼ばれた存在であった星霊だから条件が整う。

 

 

「いや、だが何か制約があるのではないか?私は一度この姿でリュカとゲームをして負けた。だが私は管理下に置かれてないぞ」

 

「それはマスターが言っていたけど本気で戦っていなかったから。この本気はマスターではなく相手側がという事になるわ。つまりその時点でマスターは白夜王を管理下に置くだけの実力が備わっていなかった。故にゲームで勝っても管理下に置かれるなんて事はなかったのよ」

 

「ふむ、成る程な。まあ統べるとなっている以上自分より力が上の者を従えさせるなど到底不可能であるからな」

 

「…………それだけならまだマシなのよ。管理下に置くだけだったら」

 

「何だと?まさか、他にもあると言うのか?」

 

「そのまさか、よ。第二の能力とでも言いましょうかね。管理下に置いた存在。『その存在のステータスをそのまま自分に上乗せする』。それが二つ目の能力」

 

「なん…………だと…………?それは、真か?」

 

「ええ。今日来たのはそれが発端だからよ。マスターの瞳が私のそれになっていた。つまりは“石化の魔眼”。今はまだ眼がそれになっている程度の感覚なんでしょうけど、いずれ気付くわよ」

 

 

大体がおかしかったのだ。

彼女がリュカから聞いた話だと白夜叉に対しては持っている中でも最高の装備で挑んでいた。それでいてダメージが軽微だったのはわかる。が、彼女に対しては拘束されていた時も解放された時も武器はともかくとして防具はマトモな物を身に付けていなかったのだ。ともすればボロ布にしか見えない服と頭に巻いた布のみ。そんな貧相な装備なのに星霊である自分の攻撃が肋骨が折れた程度?あり得るわけがない。

だが、素のステータスが高ければどうだ?例えば逆廻十六夜。今の状態ならともかく拘束されていた時ならばダメージを与える事は難しかっただろう。着ているものはただの服なれど、肉体があまりにも頑強すぎてだ。それと同じ事がリュカに起こっているのではないか?

 

 

「むむむ、そうなのか…………。“龍神の加護”の力もそこそこあるのだろうが、それでも確かに危険である事に変わりはないな…………。あやつはどうしてそう厄ネタを抱えたがるのだ!エスタークの曾孫にこのギフトとか洒落になっとらんぞ!」

 

「え、エスタークの曾孫なんて初耳なんだけど」

 

「そりゃそうだろう。本人さえ知らぬ事実だからな。しかし、となるとリュカが魔王になるとしたらどうなるのだろうな?」

 

「そうね…………多分、マスターあんな性格だから箱庭初の享楽だとかで行動しない魔王になるんじゃないかしら?きっと彼が魔王となるのなら、善意で動くわね」

 

 

二人の元魔王は雁首を揃えて悩み合った。結論として今はまだ静観する事に決まった。と言うかどうしようもないと言うのが正しいだろう。

新たに抱えた問題。果たしてリュカはそれに気付いた時にどう行動するのだろうかーーーー?




多分意味がわからなかった人がいると思う(偏見)から後書きでわかりやすく解説

①前提としてその種族のうちのどれでもいいから人類に危害を及ぼしている
②その種族のどれでもいいから対峙して相手が本気の状態で打ち勝つ
③自身に相応の実力(適正レベル)があれば仲間に(管理下に)できる(置ける)
④仲間となった際にそのステータスがギフトを含めてまるまる自分にも上乗せされる


大体こんな感じ。
因みに種族ごとに上乗せとかじゃなくて個体ごとに上乗せであるからしてつまりリュカは本気でチートオブチート。
これからも順調に仲間を増やしていけば誰もリュカには敵わなくなります。


質問があったんですが特技を数時間という短い時間でいやに早く覚えてましたよね?あれもこのギフトが原因です。
要は害を与える存在をより手っ取り早く管理下に置くために成長率が異常になってるんです。ゲーム的にいうと常に貰える経験値が2〜3倍とかそんな感じ。故に特技習得も早く覚えてしまいます。


二巻が始まる前にこれとかリュカくん一体どこにいくんでしょうね?小ネタはこれで終了ですので次からは本編に入ります。

待て、次回!


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訪問、箱庭の北側

風邪引いてしまった!

それだけです。ええそれだけですとも。それがこう遅れた理由ではないんですけどもね。やっぱこっちは書きやすい。書きやすいからといってクオリティが高いとは口が裂けても言えないが。


サブタイトルのセンスのなさェ…………。あの街なんか公式で名称がないんですかねぇ…………


“ノーネーム”の敷地内にある農園跡地。

その場に黒ウサギとメイド服に身を包み、美麗な金髪を特注のリボンで結んでいるレティシアと同じくメイド服に身を包んでこちらは銀髪を特に手を加える事をしていないアルゴールが来ていた。

 

 

「…………酷いな。ここがあの農園区とは、にわかに信じ難い。石と砂利しかないじゃないか」

 

 

レティシアの記憶では三年ほど前までは豊潤な土壌があったはずだった。それが最早今では見る影もない。

 

 

「申し訳ありません。せめて水の都合が付けば子供達でも手を入れる事が出来たのですが」

 

 

黒ウサギが沈鬱そうに顔を伏せながら言った。

だがむしろ黒ウサギはこのような状態となったコミュニティを問題児+αが来るまでどうにか保たせてみせたのだ。賞賛こそすれど、非難する理由はない。

 

 

「黒ウサギを責めている訳じゃないよ。そも、これは人の手でどうこうできる代物ではない」

 

 

そう言ってレティシアは足元の砂利を一握り掬って零し、土壌の状態を確かめる。

 

 

「もうこの土地は死んでいる。水があったからといって、生き物が巣食う余地が無い。…………しかし、驚異的な力だ。私も長生きはしていたつもりだが、これほどの力を持つ魔王となると片手の指程しか会ったことがない」

 

「そう?私はそこそこあるんだけど。私も霊格さえ縮小されていなかったらこの程度ーーーーゴメンゴメン、嘘だからそんなに睨まないで」

 

 

アルゴールがいらない口を出すが、そこでレティシアが睨めつける。アルゴールは慌てて言葉を否定して土壌を確認する。

 

 

「時間操作による土地の自壊…………ねぇ。なんだかクロノスみたいな奴ね。あいつ豊穣神と時の神といるし」

 

「これ程までに大規模な事が可能なのは“星霊”級以上、それも星の運行を支配する類でしょう」

 

「星の運行を司る星霊となれば、最強のフロアマスター・白夜叉か…………もしくはかの黄金の魔王、“クイーン・ハロウィン”と同クラスの怪物という事になる」

 

「箱庭“最強種”の魔王ーーーーでございますか」

 

「そういう事になるな。…………最悪の冗談だ」

 

「それ一応星霊で魔王だった私に対する当て付け?」

 

 

アルゴールが横で何か言っているが二人は無視して考えを馳せる。

この修羅神仏の集う箱庭の世界において尚、最強と謳われる三大最強種。

 

ーーーー生来の神仏である神霊。

ーーーー鬼種や精霊、悪魔等の最高位である星霊。

ーーーー幻獣の頂点にして系統樹が存在しない、龍種の“純血”

 

箱庭の最強種と呼ばれるこの三種は最早人智の及ぶ相手ではない。

ましてやその最高位となれば、外界ではお目にかかる機会すらないだろう。そんなものに眼をつけられたこと自体、ある意味では誇れるかもしれない。かつては魔王と呼ばれていたレティシアでさえも、その三種とは距離を取っていたほどなのだ。

…………その三種の一つに該当するアルゴールは横で「いいもん、アルちゃんちょー美人だし…………」と不貞腐れている。こちらもある意味見る影もない。

 

 

「しかしこれほどの力を有しているのなら、コミュニティの名前ぐらいは聞きそうなものだが…………何かわかった事は?」

 

「いえ。白夜叉様に聞いても、東側のコミュニティではないだろうという程度です」

 

「そうか…………白夜叉がそう言うなら、そうなのだろうな」

 

 

レティシアは苦笑しながらも、土地を荒廃させた凄惨な御技に身震いしていた。

そんな彼女を元気付けるつもりなのだろう。黒ウサギは苦境にもへこたれず、力強く笑う。

 

 

「だ、大丈夫でございますよ!今のコミュニティには強力なギフト保持者が四人もいるのですから!皆様が力を合わせれば、この荒廃した土地を復活させるなど容易いのです!」

 

「其の内一人が魔王候補ってなっているけどね〜」

 

 

いつの間にやら復活していたアルゴールが横から口を出す。その言葉に黒ウサギもグッと黙り込む。

レティシアは逆に考え込んだ。

 

 

「あの“ペルセウス”のゲームを実質一人で攻略したのだろう?アルゴールが出ていたにも関わらず」

 

「そうなのですよ。黒ウサギは審判だから直接見てはいませんが、ジンぼっちゃんが見聞きしたのを聞いてみました。私達のために怒ってくれるのはありがたいのですが、少々やり過ぎなような気も…………」

 

 

やり過ぎというのは“ペルセウス”のメンバーは全員全治二〜三週間はかかる大怪我を負わせられた件である。まあ、金さえ払えば期間も短くなので気にする事ではない。

 

 

「なに、奴等に現実の厳しさを教え込んだだけだろう。しかし魔物を意のままに出来るギフトとはな…………。箱庭の中ですらそこまで数は確認されていないだろう?更に確認された者はどれもが強力な力を有していたと聞くし」

 

(ギフトの内容が仲間にした分だけ強くなるって事は言わない方が良いよね?そんな事知られたら霊格が縮小されているとはいえ星霊の私を仲間にしてるんだしその分の力が追加されているってわかっちゃうし)

 

 

アルゴールは白夜叉にだけ話した自分が主と定めた人物のギフトについて考える。敵を騙すにはまず味方からというが、今回はその限りではなく、あくまで仲間に危害を及ばせないための配慮であった。

…………この情報を聞けばリュカを狙って様々なコミュニティが“ノーネーム”に仕掛けてきてもおかしくないものだからだ。

誘い文句は「ただでさえ、“ノーネーム”という事で困窮しているのに、魔王候補を抱えるのは大変だろう。資金援助をするからその人材をこっちに寄越せ」。

こういう事を言ってくる輩がいるとしたら大方洗脳をかけるから大丈夫と思っているのだろう。だが残念だがリュカにそれは効かないし、仲間をバカにされて黙っているほど冷淡でもない。

 

 

「まあいいんじゃないの?別にマスターが魔王候補だろうと気にしなければ。寧ろマスターからすれば自分を体良く利用してくれみたいな感じだし」

 

「利用ってそんな…………。私達は仲間ですのに…………」

 

「仲間だからこそよ。このコミュニティは復興する為とはいえ途方もなくデカい事掲げたんだからそれぐらいはやらないと。少なくとも魔王候補一に元魔王が二と信憑性をます材料だけはあるんだし」

 

「まあその話はそこまでにしておけ。そんな話は後で好きなだけ出来る。今はコミュニティの今後の事を考えるべきだろう」

 

「そうですね…………。理想的なのは生活のサイクルが確立できることでございます。それが出来れば備蓄を蓄える事も、組織力を高める事も出来るのですよ!」

 

「ああ。まずは土地の再生…………となれば、南側で行われる収穫祭が目下の目標」

 

「YES!今は皆さんと一緒に力を蓄えておく時期なのです!」

 

「だが北側の大祭はどうする?収穫祭まで時間もあるし、主殿達が聞けば喜ぶと思うぞ?」

 

「お金が無いので行けませんってやつね。どうにかこうにか工面して一回分が限度だしねー」

 

「…………と言うわけでございます」

 

「…………貧乏は辛いな」

 

「で、ですがもう少しの辛抱でございます!十六夜さん達なら必ず南の収穫祭でギフトを」

 

「く、黒ウサギのお姉ちゃぁぁぁぁん!た、大変ーーーー!」

 

 

叫び声に振り向く三人。走ってやってきたのは割烹着姿の年長組の一人ーーーー狐耳と二尾を持つ、狐娘のリリだった。

 

 

「リリ⁉︎どうしたのですか⁉︎」

 

「じ、実は飛鳥様が十六夜様と耀様を連れて…………あ、こ、これ、手紙!」

 

 

パタパタと忙しなく二本の尾を動かしながら、リリは黒ウサギに手紙を渡す。

 

 

『黒ウサギへ。

北側の四〇〇〇〇〇〇外門と東側の三九九九九九九外門で開催する祭典に参加してきます。

貴女も後から必ず来ること。あ、あとレティシアもね。

私達に祭の事を意図的に黙っていた罰として、今日中に私達を捕まえられなかった場合三人ともコミュニティを脱退します。死ぬ気で探してね。応援しているわ。

P/S ジン君は道案内に連れて行きます』

 

 

黒ウサギは手紙を読んでまずは言葉を咀嚼するのに十秒。次に内容を吟味するのに十秒、そして飲み込むのに十秒とキッカリ三十秒掛けてから、

 

 

「な、ーーーー……何を言っちゃってるんですかあの問題児様方ああああーーーーーーーー!」

 

 

盛大に叫び声を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここは地下三階にある書庫。

リュカは今日も今日とて読書に勤しんでいた。いつものように呪文書を読んでいるわけではなく、今回は医学書のようだった。

 

 

「ペスト…………別名は黒死病。齧歯類がまず感染して感染した齧歯類の血をノミが吸ってそれから人に感染する、と。何ともまあ、恐ろしい病気だ。あれ?そういえば奴隷だった時に皮膚が段々黒ずんでいた人がいたような…………?気のせいか」

 

 

彼が如何に丈夫な体をしているかが手に取るようにわかる発言をしていたが今はそんな事はどうでもいいだろう。

暫く医学書を読んでいたら物凄い勢いで書庫に誰かが近付く音が聞こえた。

バァァァンッ!と扉が勢いよく開かれる。下手すれば壊れそうな勢いだった。

 

 

「黒ウサギ。書庫では騒音は禁止だよ」

 

「あ、はい。申し訳ありま…………って違います!今はそれどころじゃないんです!」

 

 

リュカに窘められつい謝りそうになった黒ウサギだが即座に自分の目的を思い出し側から見たらドン引きされそうになるくらいの剣幕でリュカに近寄る。

 

 

「リュカさん!問題児様方を見ませんでしたか!」

 

「さっきまで此処にいたけどえーっと何だっけか?そうそう、“火龍誕生祭”って招待状を見て凄く興奮したのかジン君を連れて何処かに行ったよ」

 

「くっ、蛻の殻でしたか。ですが今ならまだ間に合うはず…………!」

 

「盛り上がっているところ悪いんだけど何があったんだい?」

 

「ああ、それはですねーーーー」

 

 

黒ウサギは一旦平静を装ってリュカにこれまでの顛末を説明する。それを聞いたリュカは少し考え込む。

 

 

「成る程…………十中八九冗談なんだろうけど、それでも言って良いのと悪いのがあるよね。今回は明らかに悪い方だ。よし、なら黒ウサギ。君は外門に行くんだ。確か“箱庭の貴族”は境界門の起動に金が掛からないはずだ。それで今すぐ祭が行われる場所で待ち伏せをしておくんだ」

 

「はいな!…………って、リュカさんはどうするのです?招待状を送っていただいた以上、私達“ノーネーム”も今回の祭には参加する事となりますが」

 

「まあ僕は僕なりの手段で其処に行かせてもらうよ。気にしなくていい。さ、行った行った!」

 

 

黒ウサギの背中をそっと手で押してやり、黒ウサギが行動を起こすように促す。

黒ウサギはリュカの思いを受け取り、問題児達にOHANASHIをするべく外門へと急ぐ。

その様子を確認してからリュカは再び椅子に座りなおす。

 

 

「いや、まさかそこまで大胆な行動を起こすとは予想外だった。こういう事があった以上、一人につき最低一匹見張りさせておく必要があるかな…………?」

 

 

一人につき最低一匹とは勿論仲間である魔物の事である。

リュカと共に鍛え上げられた魔物達ならば十六夜は流石に無理でも今の耀のレベルなら抑え込む事は出来るだろう。飛鳥は言わずもがなだ。

 

 

「まあ気にする必要ないんじゃない?それでマスターはどうやって目的の場所に行こうとしてるの?」

 

「アルゴールか。いやなに、ちょっとばかしコネを使うだけだよ」

 

 

リュカが考え終わった瞬間アルゴールが現れた。まあ彼女は蛇であるからしていつの間にやら現れてもおかしくはないだろう。

 

 

「さて、それじゃあ僕も出掛けてくる。アルゴールは…………今回は留守を任せていいかな?子供達だけだと防衛に不安があるからね」

 

「ん、りょうかーい。まあこんな辺鄙な場所に押し込み強盗する輩なんてそうそういないでしょうけどねー」

 

「ありがとう。必要に応じて呼ぶかもしれないからそこのところはよろしく頼むよ」

 

「任せなさい。なんたってアルちゃんはちょー美人だし、ね」

 

 

アルゴールに“ノーネーム”を任せてリュカは外へと出る。今からやる事は外に出ないと間抜けな絵面になるからだ。

 

 

「ルーラ!天空城へ!」

 

 

リュカの体を青い光が包み込みそのまま空高くへと舞い上がる。目的地は天空城。その場まで亜光速で向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………っと、到着っと」

 

 

天空城へと着いたリュカはそのまま歩を進める。目指す場所はこの天空城にはある“旅の扉”と呼ばれる場所だ。

“旅の扉”とは彼の世界にあった移動距離を短縮するためにあったものである。箱庭における“境界門”との違いは金銭を支払う必要がない事と、移動場所が限定されている事だろう。

此処からリュカは先日知り合ったエイトが所属しているコミュニティ“集いし英雄”の本拠へと赴きエイトないしヤンガスに連れてってもらおうと思っていた。エイトにヤンガスは今から向かいたい場所に行った事があるらしいのでルーラないしキメラの翼で行けるだろう。

兎に角、そうしようと暫く歩いていた時に前方から人がやってくる。そしてそれはリュカの知り合いだった。

 

 

「あっ!リュカだー!久しぶりー!」

 

「やあ、ベラ。こんなとこで会うとは奇遇だね」

 

 

かつて妖精の世界において雪の女王を倒すために協力した仲間である妖精のベラがそこにいた。因みにリュカがその気になれば仲間にできない事もない。

 

 

「ところでリュカはどうやって此処に?箱庭の世界にまで来れるなんて…………」

 

「今所属しているコミュニティのメンバーに召喚されたんだ。ベラは何か用事でもあったのかい?」

 

「私は流石に“サウザンドアイズ”には劣るけれどそれでもそこそこの規模は誇っている商業系コミュニティ“妖精達の庭”に所属しているのよ。で、懇意にしているコミュニティの一つである“天空城”に品物を納入しに来たの」

 

「成る程…………。あ、そうだ。今から北側で行われるという火龍誕生祭に行きたいんだけど開催場所をベラは知っているかい?」

 

「知っているも何も丁度今から向かおうと思っていたところよ!私もお祭り騒ぎがしたかったからね!」

 

「そうだったのか。それなら…………と、そうだ。キメラの翼を今持っているかい?」

 

「持っているけどそれがどうしたの?」

 

「じゃあそれを僕が買い取ろう。この箱庭における値段で構わないよ」

 

「えっ。そんなの悪いわ。私達は友達だから別にタダでいいのに」

 

「いやいや、僕としては連れてってもらえるだけで嬉しいんだからせめてこれくらいはさせてよ。それに祭の時に使えるお小遣いが増えるよ?」

 

「むむむ…………。しょうがないわね。キメラの翼は私達にとっては貴重な代物というわけでもないんだけど箱庭全体で見たらとても貴重なアイテムよ。でも卸売店を仲介していないからこれだけ引いて、あとは私達は友達だしそれで割り引くと…………まあこんなものかしらね」

 

「どれどれ…………。うん、確かに僕達の世界に比べてかなり高くなっているけど問題はないね。はい、じゃあこれ」

 

 

リュカは財布から銀貨を数枚取り出しベラに手渡す。

ベラはそれを受け取ると腰に付けていたポーチの中に入れて代わりにキメラの翼を取り出す。

 

 

「そう言えばどうしてキメラの翼が割高になっているんだい?」

 

「それは流通経路を私達が独占しているからよ。それに魔物のキメラを退治したところで完成品であるキメラの翼が落ちてくるのなんて極々稀なことよ。だから私達はちょくちょく依頼を出してまだなんの手もつけられていないキメラの翼を加工して私達がよく知るキメラの翼として販売しているわ。その分の手間とあとは一度行った場所でさえあれば境界門より安く済むからこその値段ってとこかしら。本当はもっと安くてもいいんだけど境界門が一人通る度に金貨一枚なのに実際本来の値段だと銅貨数枚ないし十数枚程度にしかならないわよ」

 

 

「需要はあるけど境界門というシステムがある以上余りに安すぎるのも考えものって事か…………。商売って難しいんだね。僕には国を治めるだけで精一杯だよ」

 

「いや寧ろ国を治めれる事の方が凄いわよ⁉︎話には聞いていたけどあんなに小さかったリュカが一国の王になるなんてね…………。まあ、今は取り敢えず向かいましょうか」

 

 

ベラは取り出したキメラの翼を天高く放り投げる。するとキメラの翼は青い光を放ちリュカとベラを亜光速で飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リュカとベラは飛んでから大凡数秒だと思われる時間で目的地に到着する。

 

 

「別に私がこの街を仕切っているわけじゃないけど言わせてもらうわね。ようこそ、リュカ。東と北の境界壁へ。心ゆくまで楽しんでね!」




ま、こんなもんでさぁ。

酷いサブタイトルの裏切りのような内容だったような気がするが、すまんな。頭がボーッとしてるんだ。一々覚えていられない。

あと質問の中でどうもアルゴールが原作において池田ァ!臭がするキャラクターと化したらしいので今作もそれに合わせていく風潮で。ちょいちょい口癖的なアレを入れておきます。
つーか、記憶が確かなら小ネタで勝手にペルセウスに〜〜〜〜〜〜みたいな事を書いた記憶が…………うん、仲間にはなったけど嘘をつかないとは言っていない。これでいいや。


次回のお話はまあ火龍誕生祭をリュカさんも楽しむってだけなんじゃないですかね?ではでは皆さま良いお年を


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“ノーネーム”vs“ウィル・オ・ウィスプ”

皆様あけましておめでとうございます。


今年度から受験生。面倒な限りです。
今までも大分遅筆でしたが、今年はより遅くなると思われます。

それでもいいぜ!という方がいてくれたら幸いです。

それではどうぞ


「ーーーーへぇ。そんな事があったのか」

 

 

リュカは此処に来てからの事のあらましを黒ウサギから聞いていた。

正直に言って途方もない事ばかりだったが、彼はこの世界ではそれが当然だと認識し話を全て理解していた。

 

 

「そうなのですよ。この“火龍誕生祭”に魔王が現れるとの情報がありまして…………。それはそうとどのようにして此処まで来られたのです?それにこんな深夜にやってくるなんて」

 

 

黒ウサギはショボンとウサ耳を垂らした後にピンと伸ばしてリュカに此処まで来た方法を訊ねる。

 

 

「ああ、それは一旦ルーラで“天空城”に行ったんだ。で、其処にある旅の扉って呼ばれる物から“集いし英雄”に行こうとしたんだけど、天空城でたまたま“妖精達の庭”に所属している知り合いのベラに会ってね。彼女も行く途中みたいだったからキメラの翼を使って此処まで来たんだ。こんな時間になった理由はまあ単純に祭りを楽しんでいたんだよ」

 

 

リュカの口からポンポンと黒ウサギも知っている、それも“ノーネーム”よりも高層に位置するコミュニティの名前がポンポンと出されて改めてリュカの人脈に戦慄する。

 

 

(いやいやいやいや⁉︎“天空城”に“集いし英雄”⁉︎加えて“妖精達の庭”って‼︎前者二つは言うまでもなく、後者に至っては“サウザンドアイズ”には一歩劣るもののそれでもかなりの規模を誇る商業系コミュニティじゃないですか⁉︎これもうリュカさん一人だけで私達のコミュニティの復興とか成し遂げられるんじゃないんですかね?)

 

 

黒ウサギの頭の中にいけない考えが幾つもポンポンと浮かんでくるが、それらを全て振り払う。

 

 

「それで明日…………と言うかもう今日になるのか。予定はどうなっているんだい?」

 

「ああ、それは“造物主達の決闘”というギフトゲームの決勝戦が行われる予定です。なんと耀さんも予選を勝ち抜いて決勝に残っているのですよ!ですので、決勝のルールで補佐が認められているのですが…………」

 

「それなら大丈夫だろう。ヨウにはガルドの時に仲間を頼れと言っておいたからね。イザヨイかアスカ。そのどちらかを頼るんじゃないかな。それじゃあ僕は軽く汗を流してから寝るとするよ。おやすみ、黒ウサギ」

 

「あ、はい。良い夢を」

 

 

リュカは黒ウサギに告げてから浴場へと向かう。

脱衣所では最早ボロ布と呼べるくらい草臥れた服を脱ぎ、温泉へと入る。

温泉は何時ぞや入った山奥の村の温泉と同じくらい気持ちいいものだったが、そこにお呼びでない人物があられる。

 

 

「いぃぃぃぃぃぃぃやっほぉぉぉぉぉぉぉぉぉうぅぅぅぅぅぅぅぅ‼︎」

 

 

奇声を大きく上げながら温泉へと勢いよくダイブしてきたのは白髪の幼女。こんな形でも一応東側最強のフロアマスターと称される白夜叉であった。

 

 

「ここ男湯なんだけどなんでこっちにいるのかな?」

 

「ふふふ、幼女と二人きりで入る風呂は格別であろうと思うてな?どうだ、嬉しいだろう?」

 

「娘がいる身からすれば娘と一緒に入っているようにしか感じないよ」

 

「なんだ、つまらない奴」

 

 

そう言って普通に温泉に浸かる白夜叉。

本当にこんなのがフロアマスターで大丈夫かと思わなくもないリュカであった。

 

 

「それで、わざわざ男湯に来てまで何の用件かな?」

 

「気付いておったのか。まあ大した事ではない。耀が今日の決勝の補佐にお前を指名してな。共同開催の主催者側としては特に断る理由もないのでそうしておいたぞ」

 

「ああ、僕だったのか…………。来れるかどうかも定かじゃないのを補佐に指名したのか…………。ある意味信頼されていたわけだ」

 

「まあそうなるの。で、おんしはどうするのだ?これはあくまで指名であり任命ではない。今ならば断る事も可能だ」

 

「いや、やるよ。ヨウが僕を信じて指名してくれたと言うのなら僕はそれに応える責任がある。だったら長風呂はしていられないか。僕はそろそろあがらせてもらうよ。少しでも長く睡眠時間は確保しておくべきだからね」

 

「うむ。今日のゲーム、楽しみにしておるぞ」

 

 

リュカは白夜叉に断りをいれてから温泉から出る。そして自分に充てがわれた部屋へと向かい、早速ベッドに入る。今日行われるゲーム。その展開を色々と夢想しながら彼は床についた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、ヨウ。“ウィル・オ・ウィスプ”と戦うわけだが…………大丈夫かい?」

 

「大丈夫。私とリュカなら勝てる」

 

「お褒めの言葉をありがとう。さあ、僕達名無しの底意地を見せつけてやろうか」

 

 

『それでは入場していただきましょう!第一ゲームのプレイヤー・“ノーネーム”の春日部耀、その補佐であるリュカ・グランバニアと、“ウィル・オ・ウィスプ”のアーシャ・イグニファトゥスです!』

 

 

二人は黒ウサギの声に従い、通路から舞台に続く道に出る。

その瞬間ーーーー二人の眼前を高速で駆ける火の玉が横切った。

 

 

「YAッFUFUFUUUUUuuuuuu!!」

 

「わっ…………!」

 

「おっ…………と。大丈夫かい、ヨウ」

 

「うん、大丈夫」

 

 

転けそうになった耀を支えるリュカ。

頭上には先程眼前を駆けた火の玉の上に腰掛けている人物がいる。

あれが対戦相手であるアーシャ・イグニファトゥスなのだろう。

ツインテールの髪と白黒のゴシックロリータの派手なフリルのスカートを揺らしながら少しばかり悔しそうな表情を浮かべていた。

 

 

「ちぇー。“ノーネーム”の女が無様に尻もちつくのを見たかったのになあ。お前もそう思うだろ、ジャック?」

 

「YAHOHOoooooUuuuu!」

 

 

高笑いをしたのは火の玉の中心にいたシルエット。それはリュカにはあまり馴染みがなかったが、耀には馴染みがあるものだったらしい。

 

 

「その火の玉…………もしかして、」

 

「はぁ?何言ってんのオマエ。アーシャ様の作品を火の玉なんかと一緒にすんなし。コイツは我らが“ウィル・オー・ウィスプ”の名物幽鬼!ジャック・オー・ランタンさ!」

 

 

アーシャが腰掛けている火の玉へ合図を送る。すると火の玉は取り巻く炎陣を振りほどいて姿を顕現させる。その姿に耀のみならず、観客席の全てがしばし唖然となった。

 

 

「成る程…………。それがジャック・オー・ランタンか…………。ふん、笑わせてくれる」

 

 

ククッと低く笑う声がアーシャの耳に入る。

その声を発したのはリュカだった。

 

 

「あぁ?なんだテメー。アーシャ様の作品をバカにすんのかよ?」

 

「貴様の作品をバカにしたのではない。と言うよりもそもそもそれは貴様の作品ではあるまい。この私にはわかるぞ。貴様はそれを借り受けているだけだ。それを如何にも自分の作品だとほざく貴様のその道化っぷりに笑ってしまったのだよ」

 

 

アーシャはカチンときたが言葉を出すことはなかった。何故なら事実だからである。

彼女が今自分の作品としたジャック・オー・ランタンは本当は“ウィル・オー・ウィスプ”のリーダーである大悪魔の作品である。

アーシャはそれを借り受けてこのケームに参加しているのだ。

 

 

「ん?どうした。名無し風情にここまで言われて悔しくないのか?やはり、貴様は道化だな。いやはや、実に楽しませてもらっているよ」

 

「…………さっきから黙って聞いてりゃいい気になりやがって!だったらお前は一体何者なんだよ!」

 

「何?まさか知らないと?この私の存在を?仕方あるまい。無知の貴様のためにわざわざ教えてやろう、この私が何者かを!」

 

 

リュカが手を大きく上に向けると彼を中心に大きな竜巻が巻き起こる。

それは観客にまで思わず手で顔を隠すくらいの暴威を見せつけた。

その竜巻がおさまると、リュカの姿には変化が表れていた。

頭には冠をかぶり、背にはマント。左腕には盾を装着し、右手には龍の装飾が施された杖を持っていた。

その風貌、威厳はまさしく王者そのもの。思わずアーシャも後退りしてしまった。

 

 

「私こそは王の中の王!私は世界にある全ての国を全て征服し、支配下に置いたリュケイロムとは私の事だ!…………まあ魔王としては新参で、箱庭における知名度では低い方であろう。が、実力ならばかつて暴れ回った魔王どもに劣らぬという自覚があった。あったのだが真に残念だがこの“ノーネーム”に負けてしまった。かつていた世界では負けなしのこの私がまさか名無しに負けるとは夢にも思わなかったぞ。さて、元ではあるが魔王であったこの私が敗れたこの“ノーネーム”。その栄えある一戦目に選ばれたことを光栄に思うがいい」

 

『正位置に戻りなさいリュカ・グランバニア!あとコール前の挑発は控えるように!』

 

「ふむ。“審判権限”を有する“箱庭の貴種”に言われては仕方あるまい。道化よ、その仮面いつまで付けておけるかな…………?」

 

 

リュケイロムと名乗ったリュカはマントを翻し耀の近くに戻る。戻った際に耀から

 

 

「リュカの方がよっぽど道化だったね」

 

「実は結構楽しかった」

 

「そう言えばリュケイロムって?」

 

「僕の略していない名前。正確にはリュケイロム・エル・ケル・グランバニア。けど一々言うの面倒でしょ?だから皆には愛称のリュカって呼ばせてる」

 

 

と言われこんな会話が交わされたりした。

運営側の特別席にいた他の“ノーネーム”メンバーは、特に十六夜は爆笑していた。

 

 

「ヤッハハハハハハハハ!アイツくっそ面白えな!しかもちゃっかり俺らの宣伝までしていたしよ!」

 

「ええ、ホントに。プ…………ッククククク。アレで王様だったのだから彼の王国はとても面白い国だったんでしょうね」

 

「行けるようだったら行ってみてえな。アイツに聞いてはみたがやっぱ自分で見ると違うように感じるかもだしな」

 

「彼の奥様に子供達もいるのよね。どんな人なのかしらねー」

 

 

こっちもこっちでほのぼのとした会話が繰り広げられていた。

そんな事があっているうちに第一ゲームの準備が整っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ギフトゲーム名 “アンダーウッドの迷路”

・勝利条件 一、プレイヤーが大樹の根の迷路より野外に出る

二、対戦プレイヤーのギフトを破壊

三、対戦プレイヤーが勝利条件を満たせなくなった場合(降参含む)

・敗北条件 一、対戦プレイヤーが勝利条件を一つ満たした場合

二、上記の勝利条件を満たせなくなった場合 』

 

 

「“審判権限”の名において。以上が不可侵で有ることを、御旗の下に契ります。皆様には、どうか誇りのある戦いを。此処に、ゲームの開始を宣言します」

 

 

黒ウサギの宣誓が終わる。それが開始のコールだった。

 

 

「さあ、本性を現せ。カボチャの幽鬼よ。そなたはそこな小娘に御せるような力をしていないはずだ。もし見せぬと言うのであれば此方は勝利条件三でいかせてもらうぞ」

 

 

勝利条件三。それは相手プレイヤーが勝利条件を満たせなくなった場合勝利するというもの。

それをするとはどういう意味だろうか。

 

 

「そうか、見せぬか。では一旦見せしめを行うぞ」

 

 

そう言うとリュカは文字通り眼を光らせ、怪光線が放たれる。

それはアーシャに当たり、彼女の手を石としていく。

 

 

「何だこれ⁉︎私の手が⁉︎」

 

「早速仮面が剥がれたな。元はと言え魔王だという言葉を聞き流していたのか?力の程度くらい感じ取ることは出来るだろうに。このギフトはそうさな…………確かアルゴールと言ったか、それから簒奪したギフトだ。私は簒奪という言葉を好いていてな。そこな小娘の命をどのように簒奪してやろうかと考えているところだ」

 

 

実に邪悪な笑みを浮かべるリュカ。実に見事な道化っぷりである。十六夜達がいた世界だったら主演にしろ助演にしろ俳優賞間違いなしであろう。

その行為に思うところがあったのかアーシャ作となっていたジャック・オー・ランタンがマトモに言葉を発する。

 

 

「これでよろしいでしょうか。貴方もいい加減そのお芝居を止めてはいかがでしょうか?」

 

「やっぱりバレてた?楽しかったからもう少し続けていたかったんだけどもな」

 

 

いきなり今までの演じていた元・魔王の仮面を剥がす。剥がした後に残ったのはいつものリュカであった。

 

「中々のモノでありましたが、貴方より永き時を生きているのです。その程度見抜けなくては生と死の境界に顕現せし大悪魔ウィラ・ザ・イグニファトゥス製作のこの私の立場がありませんからねえ」

 

「デンタザウルスの甲より年の功。流石にこれは覆せないか。では命を軽々しく簒奪するなどという言葉を使ったことを謝罪しよう。僕なりに調べたところ、貴方が所属するコミュニティは彷徨う御霊を導く功績で霊格にコミュニティを大きくしてきたというのがわかりました。そんな貴方達からすれば命を奪うという言葉は冗談だとしても言ってはならない事だと思いまして。ですので、ここに謝罪を」

 

 

リュカは深々と頭を下げる。

それを見てジャックは

 

 

「ヤホホホホ…………。わかっているのならいいでしょう。報われぬ魂とは存在するもの。そのような魂を増やしそうな行為、言葉は私どもが最も嫌う事です。まあうちのアーシャが貴方達をバカにした手前、強くは出られないのですけどね」

 

「んだよ、ジャックさんってば…………。つーか、この手どうにかしてくんね?なんでこんな中途半端に石化させんだよ」

 

「いや本当に魔王っぽく演じるの楽しかったから…………。割と本気で魔王になったらあんな行動が出来るのかーって心が揺れているところ」

 

「そんな事になったら私達がリュカを倒さなければならなくなる」

 

 

耀からのツッコミ。それにリュカは苦笑しながらアーシャの手にかけた石化を解く。

 

 

「きっと観客は焦れているでしょうねえ。私達がまだゲームを始めていないから」

 

「まあ黒ウサギは中の様子をわかっているだろうから今から始めればいいんだよ。僕も補佐としてヨウをサポートするし」

 

「そう言えば貴方は一応補佐なのですねえ。貴方のその杖。それもこのゲームに参加するには十分な代物でしょうに」

 

「その時はこの場にいなくてね。ヨウを含めた三人の問題児達が先行してこっちに来ちゃったからね。僕は後からなんだ。…………ああ、そうそう。実は割と僕、魔王に近いんだよね」

 

「ヤホ?それは一体、」

 

 

ジャックが疑問の言葉を投げかける前にリュカが魔方陣を二つ出す。

そこからキラーパンサーのゲレゲレとホークマンのホーくんが出て来た。

 

 

「なっ…………⁉︎」

 

 

アーシャは驚きのあまり声が出ないようだ。ジャックも表情は読めないが、驚いているように見える。

 

 

「箱庭では魔物を意のままに出来るのは一部の魔王のみなんだってね。僕もそれに該当するみたいなんだ。行け、ヨウ!君ならばゲレゲレにホーくんも一応言う事を聞いてくれるだろう」

 

「わかった!」

 

 

耀はリュカの言葉を聞いてすぐにゲレゲレに跨る。

ゲレゲレは一声吠えてから一気に走り出す。

 

 

「おっと、少しばかり驚いてしまいましたがゲームの勝利は譲りませんよ!」

 

 

ジャックがランタンの篝火を耀の向かう先に放つと瞬く間に轟々と燃え盛る炎の壁となる。

耀は圧倒的な熱量と密度に面食らったが、ゲレゲレにホーくんは迷わず突貫する。

 

 

「傷付く事を恐れないのですか、あの魔物は⁉︎」

 

「ヘッ!バカ言っちゃいけねえよ!勿論俺らだってこんな自殺紛いの行為本来ならゴメンだね!だがよ。俺ぁボスを信じてんだ!仮に俺らが犠牲になったとしても!ボスがどうにかしてくれるってな!うっしゃ、嬢ちゃん風だしな風!俺も出すからよぉ〜!バギクロス!」

 

 

ホークスが業火の壁に向かって巨大な竜巻を放つ。それに合わせて耀が風を起こす。

合わさった風は業火の壁に直撃し、その勢いをいくらか弱める事に成功した。だがそれでも通り抜けるには厳しいものがある。

 

 

「そこまでの期待はしなくてもいいんだけどね!フバーハ!」

 

 

リュカが新たな呪文を耀達に向けて放つ。それは光の衣となり彼女達を優しく包み込んだ。

光の衣が包んだ瞬間に耀達は業火の壁に突っ込み、その姿は炎に阻まれ見えなくなった。

 

 

「ジャックさん!急いであいつらを追わねーと!」

 

「…………いえ、どうやらここでゲームオーバーのようですよ。アーシャ」

 

 

ヤホホと笑うジャックの視線の先にいるのは絶対に誰も通さないとばかりに仁王立ちするリュカの姿。

彼がいる限り、いかにジャックであっても簡単にすり抜けることは不可能に近いだろう。

そしてそれはつまり、

 

 

「僕達の、勝ちだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやいや、完敗でしたよ。まさか魔物を服従させているとは。貴方は本当に魔王に近かったようですね」

 

「服従って言い方はよしてくれないかな。彼らもまた僕の大切な仲間なんだ」

 

「おや、それは失礼。しかし一つお聞きしてもよろしいですかな?」

 

「うん、何だい?」

 

「どうしてアーシャの全身を石にしなかったのです?私は貴方が考えている通りあくまでアーシャのギフトとして参加しているので貴方がその気になればそれこそ貴方達に勝利条件三が適用されるでしょう。しかし貴方はそれを良しとしなかった。それは一体何故ですか?」

 

 

ジャックからの疑問。

確かにリュカがアーシャを一気に石にしてしまえば、彼女達の勝利条件は一が潰れて二しかなくなってしまう。だがリュカという強者がいる以上、その二も簡単にはいかなかっただろう。

リュカはその疑問に対し

 

 

「それだと僕一人だけが悪目立ちするからね。いや、もうあの演技からして遅いのかもしれないけども。あくまで今回の主役はヨウ。僕はその引き立て役にすぎないからね。補佐役は主役のギフトが十全に発揮できるようにいるべき存在だ。ヨウのギフトはあらゆる異種族と会話が出来、友達となったならばそのギフトを使うことが出来るというもの。そんな彼女だからこそ、魔物達も心を開く。…………多分」

 

「ヤホホホホ!最後は締まりませんでしたねえ。いやはや、これは注意すべき人材が現れました。コミュニティに帰ったら早速対策を練らねば…………おや、何か降ってきましたね?」

 

 

ジャックの言葉を聞いたリュカは空を見上げる。

すると遥か上空から黒い封書が雨のようにばら撒かれていた。

リュカもそのうちの一枚を取り、笛を吹く道化師の印が入った封蝋を開封すると中には“契約書類”が入っており、そこにはこう書かれていた。

 

 

『ギフトゲーム名 “The PIED PIPER of HAMELIN”

 

・プレイヤー一覧

・現時点で三九九九九九九外門・四〇〇〇〇〇〇外門・境界壁の舞台区画に存在する参加者・主催者の全コミュニティ

 

・プレイヤー側 ・ホスト指定ゲームマスター

・太陽の運行者・星霊 白夜叉

 

・ホストマスター側 勝利条件

・全プレイヤーの屈服・及び殺害

 

・プレイヤー側 勝利条件

一、ゲームマスターを打倒

二、偽りの伝承を砕き、真実の伝承を掲げよ

 

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します

“グリムグリモワール・ハーメルン”印』

 

 

それは魔王のゲームの開催を告げる内容。

一瞬の静寂の後、一人の観客が叫び、周りに感染する。

そんな中、リュカは思わず笑ってしまう。

 

 

「道化道化って言ってたらまさか本物が現れるとはね…………それも魔王として」

 

 

リュカは笑う。クツクツ、クツクツと。




リュカさんって結構お茶目なのかな(困惑)
書いててキャラが暴走する時がありますね。

当初の予定だとアーシャ一気に石化させて終わりだったりしたんだけどな…………。


次回ついに魔王が現れます。まあ幼女なのか少女なのか童女なのか区分がわかりませんが


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魔王襲来

二ヶ月待たせて申し訳ない!

これも全て期末試験ってやつのせいなんだ……!


ーーーー境界壁・上空2000m地点。

遥か上空、境界壁の突起に四つの人影があった。

一人は露出が多く、布の少ない白装束を纏う女。白髪の二十代半ば程に見える女は二の腕程の長さのフルートを右手で弄びながら、舞台会場を見下ろす。

 

 

「プレイヤー側で相手になるのは…………“サラマンドラ”のお嬢ちゃんを含めて五人ってところかしらね、ヴェーザー?」

 

「いや、四人だな。あのカボチャは参加資格がねえ。特にヤバイのは吸血鬼と火龍のフロアマスター、あとはカボチャを抑えていたあの魔王名乗っていた小僧だな。ーーーーついでに偽りの“ラッテンフェンガー”も潰さねえと」

 

 

白装束の女に答えたのは、対照的に黒い軍服を着た、短髪黒髪のヴェーザーと呼ばれた男。

その手に握られていたのは自らの身長程もあろうかという大きな笛であった。

そして三人目は、外見が既に人ではない。

陶器のような材質で造られた滑らかなフォルムと、全身に空いた風穴。全身五十尺はあろうという巨兵のその姿を

安易に例えるならば、擬人化した笛というところだろう。顔面に空いた特に巨大な風穴は、絶えず不気味な鳴動を周囲に放っていた。

その三体に挟まれる形で佇む、白黒の斑模様のワンピースを着た少女。

斑模様の少女は三体の顔を一度ずつ見比べ、無機質な声で宣言する。

 

 

「ーーーーギフトゲームを始めるわ。貴方達は手筈通りお願い」

 

「おう、邪魔する奴は?」

 

「殺していいよ」

 

「イエス、マイマスター♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは大変な事になったものだね」

 

 

などと言いながら未だくつくつと笑うリュカ。その様子は子供が新しい玩具を見つけたかのようなものであった。

 

 

「…………このような事態であるというのに随分と落ち着いていますね」

 

「それは違うよ、ジャック。こんな事態だから落ち着かないといけないんだ。僕達は力を持つ者だ。今この状況をもしかしたらなんとか出来るのは僕達しかいない。だけどそんな僕達が慌てふためいらより混乱を煽るだけとなってしまう。そんな事になったら勝てるものも勝てなくなる」

 

「ほう?勝機があるとおっしゃるので?」

 

「相手を見ないことにはなんとも言えないけどね。ただうちには幼いながらも聡明なリーダーに、多大な知識を有効に活用できる頭脳を持ち、尚且つ武勇に優れる副官的立場の少年がいる。それにあらゆる種族と心を通わす事の出来る少女に、ギフトを操り、ともすれば人間ですら操る事が出来る少女もいる。これだけのメンバーが揃っていて出来ない事の方がそこまでないはずだと僕は考えているよ」

 

「魔物を意のままに従える事の出来る貴方は含まれていないので?」

 

「場合によっては頭数に入れてもいいかもだけどね。マトモに指示する事を放棄すればそれこそ数百体は魔物を呼び出せるとは思うし。まあ今回はああして逃げ回っている観客に魔物による先導をしても逆効果にしかならないけどね」

 

 

今は魔王と思しき者達の一味が襲ってきている最中。そんな状況で魔物達を呼び出せば更なる混乱が巻き起こる事は容易に想像できる。

と、そんな事をリュカが考えていたら十六夜達が舞台に降りてきた。元いた場所を見れば、黒い風が吹き荒れており、どうやら吹き飛ばされたらしい。

 

 

「よう、リュカ。道化を演じていたら本物が現れたがどうするよ?」

 

「僕なんかに訊かなくても既に頭の中で考えは纏まっているんじゃないのかい?ただ、そうだね…………。僕なら迎撃組と防衛組に分かれるかな。あの黒い風。恐らくだけど白夜叉と関係しているのだろう?“サラマンドラ”の方は観客席に飛ばされていたのは見えていたけど、白夜叉だけは姿を確認できていない。何らかの理由で白夜叉が動けなくなっている。ーーーー違うかい?」

 

「いいや、正解だよ。防衛する必要があるかはわかんねえが、まあ迎撃する奴は必要だよなあ」

 

 

ヤハハと何時もの如く笑う十六夜だが、その瞳には何時もの余裕が見られない。真剣な瞳のまま、黒ウサギに視線を向ける。

 

 

「白夜叉の“主催者権限”が破られた様子は無いんだな?」

 

「はい。黒ウサギがジャッジマスターを務めている以上、誤魔化しは利きません」

 

「なら連中はルールに則った上でゲーム盤に現れているわけだ。…………ハハ、流石は本物の魔王様。期待を裏切らねえぜ」

 

「取り敢えず黒ウサギは“サラマンドラ”の人達を捜しに行って。イザヨイとレティシアの二人で魔王勢に備えて、僕とジンくん、アスカにヨウは白夜叉のもとへ向かおう」

 

「承ったぞ、主殿」

 

「分かりました」

 

 

リュカが提案した行動案にレティシアとジンが頷く。対照的に飛鳥の顔が不満の色に染まる。

 

 

「ふん…………また面白い場面を外されたわ」

 

「そう言うなよお嬢様。“契約書類”には白夜叉がゲームマスターだと記述されてる。それがゲームにどんな影響を及ぼすのか確かめねえとーーーー」

 

「では私達も手伝いましょう。いいですね、アーシャ」

 

「う、うん。頑張る」

 

 

“ウィル・オ・ウィスプ”のジャックにアーシャが協力を申し出た。否定する理由がないうえに寧ろありがたいのでその申し出を受け入れた。

 

 

「では御二人は黒ウサギと一緒にサンドラ様を捜し、指示を仰ぎましょう」

 

 

一同は視線を交わして頷き合い、各々の役目に向かって走り出す。

逃げ惑う観客が悲鳴を上げたのは、その直後だった。

 

 

「見ろ!魔王が降りてくるぞ!」

 

 

上空に見える人影が落下してくる。

十六夜は見るや否や両拳を強く叩き、レティシアに向かって振り返って叫ぶ。

 

 

「んじゃいくか!黒い奴と白い奴は俺が、デカイのと小さいのは任せた!」

 

「了解した主殿」

 

 

レティシアが単調に返事をする。十六夜は嬉々として身体を伏せ、舞台会場を砕く勢いで境界壁に向かって跳躍した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー大祭運営本陣営、バルコニー入り口扉前。

リュカ達はバルコニーに通じる通路の前で立ち往生していた。

吹き飛ばされた時と同じ黒い風が、彼等の侵入を阻んでいたからだ。

進むことも出来ずに歯噛みする飛鳥は、リュカに訊いた。

 

 

「この風をどうにかできないの⁉︎」

 

「一瞬ぐらいなら吹き散らせることは出来るかもしれないけど、通ろうとした瞬間に元に戻ると思うよ。そうしたらまた吹き飛ばされるなんてことにはならないと思う。良くて全身ズタズタ。悪くて四肢切断かな」

 

 

そんなセリフを何時も通りの口調、何時も通りの声音でリュカが言った。

それに飛鳥は少しばかりゾッとしながら、今度は扉の向こうにいる白夜叉に向かって叫ぶ。

 

 

「白夜叉!中の状況はどうなっているの⁉︎」

 

「分からん!だが行動を制限されているのは確かだ!連中の“契約書類”には何か書いておらんか⁉︎」

 

 

ハッとジンが拾った“契約書類”を取り出す。

ふると書面の文字が曲線と直線に分解され、新たな文面へと変化したのだ。

飛鳥は風で舞い上がる髪を押さえながらも、すかさず羊皮紙を手に取って読む。

 

 

『※ゲーム参戦事項※

・現在、プレイヤー側ゲームマスターの参戦条件がクリアされていません。ゲームマスターの参戦を望む場合、参戦条件をクリアしてください』

 

 

「ゲームマスターの参戦条件がクリアされてないですって…………?」

 

「参戦条件は⁉︎他に何が記述されておる⁉︎」

 

「そ、それ以上の事は何も記述されていないわ!」

 

 

白夜叉は大きく舌打ちした。彼女の知る限り、この様な形で星霊を封印出来る方法は一つしかない。白夜叉は続けて叫んだ。

 

 

「よいかおんしら!今から言う事を一字一句違えずに黒ウサギへ伝えるのだ!間違える事は許さん!おんしらの不手際は、そのまま参加者の死に繋がるものと心得よ!」

 

「いや、言わずとも問題ないよ。白夜叉。貴女を封印した方法は兎も角として、このゲームについてはそこそこ解った」

 

 

白夜叉が緊迫した声で何かを伝えようとするのを遮るリュカ。

リュカは解っていると言い、次の言葉を口に出した。

 

 

「恐らくだけど、このゲームは作成段階で故意に説明不備を行っている可能性がある。最悪、ゲームのクリア方法が存在しないゲームなのかもしれない。次に今回襲ってきた魔王のコミュニティは新興のコミュニティの可能性が高い。少数精鋭と言えば聞こえはいいけども、あの“フォレス・ガロ”も魔王のコミュニティの傘下コミュニティだったんだ。それらが参加していないとなると、そもそも傘下コミュニティ自体がまだ存在していない可能性がある。ただ単に邪魔だったからかもしれないけどね。これで合ってる?」

 

「…………その通りだ。では私を封印した方法だがーーーー」

 

「そこから先は話させないわよぉ〜?」

 

 

ハッと白夜叉はバルコニーに振り返る。

其処には白装束の女が三匹の火蜥蜴を連れ立っていた。

その三匹が“サラマンドラ”の同士だというのは一目瞭然だが、一体どうしてか、敵であるはずの女に付き従っている。操られているのであろうか。

 

 

「あら、本当に封じられているじゃない♪最強のフロアマスターもそうなっちゃ形無しねえ!」

 

「おのれ…………!“サラマンドラ”の連中に何をした⁉︎」

 

「そんなの秘密に決まってるじゃない。如何に封印が成功したとしても、貴女に情報を与えるほど驕っちゃいないわ。…………ところで、一体誰と話をしていたのかしら?」

 

 

女は扉に視線を向けて、手に持つフルートを指揮棒のように掲げる。すると、火蜥蜴達が一斉に襲い掛かった。

 

 

「きゃあ!」

 

「あら、人間?てっきり“サラマンドラ”の頭首だと思っていたのに…………ま、いっか」

 

 

女は興味なさそうな視線を向け、再度フルートを振るう。

火蜥蜴は血走った瞳を向けて飛鳥達に跳びかかった。

 

 

「ヨウ!アスカにジンくんを連れて今すぐ逃げろ!」

 

 

リュカは耀に飛鳥とジンを連れて逃げ出すように言い、自らは火蜥蜴を食い止めるために前に出る。

耀はリュカの言葉に素直に従い、飛鳥とジンの手を掴んで旋風を巻き起こす。

女は鷲獅子のギフトを行使した耀に少しだけ驚く。

 

 

「あら、グリフォンの力かなにかかしら?随分と変わり種の人間ねえ。よく見てみると顔も端正で中々可愛らしいし…………よし、気に入った!貴女は私の駒にしましょう!」

 

 

嬉々とした声を上げる女を耀は無視して、二人を抱えて廊下に飛び去る。

女はその後ろを追わず、艶美な笑みを唇に浮かべ、フルートに息を吹き込む。

宮殿内に高く、低くーーーー妙なる魔笛が響く。

その音色は甘く誘うような響きで中枢器官を刺激する。

とりわけ優れた五感を有する耀には絶大な効果があり、歯噛みしながら耐えていたが遂には落ちてしまう。

 

 

「くっ…………!逃げきれなかったか…………!」

 

「私の魔笛からはだーれも逃げられないわよ…………って言いたかったんだけどねー。あの金髪の小僧には何故か効かなかったのよね。貴方はどうなのかしらね?魔物を従えることのできる自称魔王さん?」

 

「残念だが、僕にはその魔笛は効かないと断言できるよ。四対一…………中々絶望的な状況だ」

 

「よく言うわよ。火蜥蜴を殺さないように手加減しつつ全て抑えている貴方が今更私なんかが増えたところでどうにかできるわけないでしょ?」

 

 

リュカは今後の“ノーネーム”と“サラマンドラ”の関係を考えて火蜥蜴を殺さないでいた。

実際そんなことをする義理はリュカにはないが、“ノーネーム”にはあるのではないかと判断したためだ。

 

 

「まあ、話し合いによる時間稼ぎはこの程度でいいだろう。ジンくんにヨウは逃げ切れたわけだし」

 

「は?」

 

 

女が間の抜けた声を出す。

見れば、確かに耀にジンはこの場から立ち去っているようだ。

 

 

「うっそ、みすみす逃しちゃった…………。けど、うん。貴女も中々良いわね。本当、いい人材が大量だわ!」

 

「あら、随分と余裕じゃない。四対二ではあるけども、実質二対一よ?」

 

「貴女のギフトからすればそうなるわよねー…………。そこの自称魔王さんもかなり強いわけだし。だから私はマトモに戦わない」

 

 

女は魔笛を吹き鳴らす。すると、女の背後から何千何万ものネズミの大群が現れる。

それらはリュカ達に四方八方から一斉に跳びかかる。

 

 

「バギクロス!」

 

 

リュカは自分を起点にバギクロスを使う。

巨大な竜巻がリュカから発せられ、跳びかかっていたネズミ達は吹き飛ぶか切り刻まれた。

 

 

「大丈夫か、アス…………カ…………?」

 

 

リュカが飛鳥がいたはずの隣を振り向くとそこに彼女はいなかった。

どうやらネズミによって視界を塞がれた一瞬で連れ去られたらしい。

その事に気付いたリュカは顔を手で覆う。

 

 

「ああ…………またか。また、僕の手は届かないのか…………」

 

 

手は届かない。これはリュカが今まで体験してしまった事だ。

最初は敬愛する父を手助けしようと遺跡に向かった時だ。

あの時のリュカは自分には父を手助けするだけの力があると自惚れていた。結果は寧ろ自身を人質に取られ父をメラゾーマによって細胞の一片も残さずに焼き殺されてしまった。

二度目は行方が知れなかった母を助けようとした時だ。

父の仇に重賞を負わされ、仇を倒したはいいがそこを魔王に殺された。

そして、今だ。

二度あることは三度あるとは言うが、こんな三度あるはいらない。リュカはそんなことを思いながら顔を手で覆った。

 

 

「力が…………力が足りない…………。僕の大切な仲間に危害が及ばない程の圧倒的な力が…………!」

 

 

リュカは自身のギフトがどういったものか薄々感づいていた。感づいてはいたがそれでも尚力が足りない。そう感じてしまう。

そんな事を考えていた時に雷鳴が響き渡る。

それは黒ウサギが帝釈天から授かったギフトーーーー“疑似神格・金剛杵”を用いて起こしたものらしい。

 

 

「“審判権限”の発動が受理されました!これよりギフトゲーム“The PIED PIPER of HAMELIN”は一時中断し、審議決議を行います!プレイヤー側、ホスト側は共に交戦を中止し、速やかに交渉テーブルの準備に移行してください!繰り返しますーーーー」




闇堕ちフラグみたいなのが進行中っぽい?
まあ、気にせんといてくださいな。計画通りですから。

そういやドラクエヒーローズでしたっけ?ドラクエ無双的な。面白そうですね。機体持ってないから意味ないけども。

次回はゲーム再開する……はず!


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新たな力

最後の方が意味不明になった感を抱えながら実に2ヶ月ぶりの更新でござい。
いやまあ、全体的に見たらそこまで遅い更新ではないんですよ、一応。

んだらばどぞやでー


リュカは一人、街を歩いていた。

十六夜達が魔王・ペスト率いる“グリムグリモワール・ハーメルン”からゲーム再開まで一週間の猶予をもぎ取り、現在その一週間の内三日が過ぎていた。

この三日で起きたことと言えば、ゲームに参加していた他コミュニティのメンバーからペストを発症した者がチラホラと現れてきたことだろう。

そのペストに仲間である耀も発症してしまい、今は隔離部屋に移されている。

仲間の容態は気になるが、ペストの性質上近寄っていいものかどうか判断がつかずにこうして街を彷徨いている次第だ。

だが、普段のリュカならそんな事は気にしなかっただろう。

仲間の一人である久遠飛鳥が相手に攫われたのだ。それも自らの手の届く範囲で。

これで優しい、優し過ぎるリュカが冷静でいられるはずも無い。

もっと力が、力さえあれば護れたはずなのだ。

リュカは自身のギフトの詳細は兎も角、大雑把な内容は把握していた。

誰でもいいから仲間にすればするだけ強くなれる能力。

今からでも仲間を増やすか?

否、増やせたとしても相互理解の時間が無いので却下。

今から鍛えるか?

確かに強くはなれるが、仲間を増やすのに比べるとどうしても微々たる変化でしかないため却下。

ならばどうすれば?どうすれば強くなれる?

どんな代償を支払ってもいい。一気に強くなるためには…………。

そう考えながら歩いていためか、注意力が散漫となっており、結果人とぶつかってしまった。

 

 

「おっ…………と。すいません、考え事をしながら歩いていたもので…………」

 

「なに、私も周りを見ていなかったようだ。ここはお互い様、ということにしようではないか」

 

 

リュカが長い銀髪の美丈夫に謝ると、彼も自分に非があるとした。

そう言えば自分はよろめいたのに彼は微動だにしなかった。

体格にそこまで差はないように思えるのにだ。

 

 

「それにしてもゲームで自らを魔王と宣った輩が周りが見えなくなるほど考え込むとはな。よほど、自分にとって大事な事柄らしい」

 

「あのゲームを観戦していたのですか?ハハ、少し恥ずかしいですね」

 

「恥ずかしがることはない。あのジャック・オー・ランタンを抑え込んだあの手際。実に素晴らしかった。アレも油断はあったのだろうが、ああもアッサリと決まるゲームは久し振りに観た。…………それで、それ程の実力を持っているお前が何を考えていたのか、私は興味がある。どうだ?私にその心の内を話してみないか?」

 

 

ここでリュカは不思議な感覚に襲われる。

普通ならばたまたまぶつかってしまった人に己の悩みを曝け出すだろうか?いや、あり得ない。

だがリュカは曝け出したのだ。

まるで目の前の存在が、知己以上の存在であったかのように。

 

 

「…………成る程な。力を欲してるのか。それはこの箱庭ならば誰もが思い、願っていることだろうな。かつての私もそうであった」

 

「貴方が…………?失礼ですが、かなりの力を持ち合わせているように思えますが」

 

 

抑えているようだが、リュカには彼の実力がヒシヒシと感じられた。

単純なステータスならいい勝負かもしれないが、経験、技量には大きな差が開いていると。

 

 

「かつてと言っただろう。…………それで、お前はどうしたいのだ?あの若輩魔王のゲームが再開されるのは三日後だ。お前は力を手に入れる為ならどんな代償も支払うだのと言ったが、その言葉に偽りはないか?」

 

「ええ、勿論でーーーー」

 

「ならばお前の妻子の命を奪っても構わんということだな?」

 

 

銀髪の美丈夫がそう言った瞬間、リュカに怒気が漲る。

彼にとってとても大事なもの。それを奪おうという発言はとても看過できるものではなかった。

 

 

「ここでお前がそれでもいいと言うのなら、私はお前を斬り捨てただろうな。軽々しくどんな、やなんでも、といった言葉を口にするんじゃない。反吐がでる」

 

「…………すいません」

 

「ふん、解ったのならいい。ーーーー合格だ。お前に強くなる術を授けてやろう。ついてこい」

 

 

そう言って銀髪の美丈夫は歩き出す。

リュカはそれに何の疑問も覚えることなくついていく。

 

 

「そう言えば貴方のお名前は?」

 

「私の名か。私の名はーーーーピサロだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピサロと名乗った男につられてやってきたのは何かの建物の前だった。

ピサロが扉を開け放つと、そこにはリュカにはそこそこ見慣れたものだった。

 

 

「これは、旅の扉…………!」

 

 

それはA地点とB地点を繋ぐゲートのようなもの。

箱庭の外門と違って、好きな門から出ることは出来ないが、それでも利便性の高いものではある。

しかし、この男がこれの存在を知っていたということは、リュカと同じような世界出身である可能性が非常に濃厚になってきた。

繋がっていた場所はただただ広い空間だけがあった。

それなりに明るいが、照明の類が一切見当たらないので、恐らくギフトなり呪文なりが関わっているのだろう。

 

 

「ここでお前に力を授けるが、それに際し幾つか条件がある。それを飲めるのなら渡そう」

 

「条件、ですか…………。ええ、構いません。それで一体どのような?」

 

「俺がお前に出す条件は二つだけだ。一つ目だがーーーー俺と戦ってもらう」

 

 

殺気。

まるで濁流のような殺気がピサロの身から迸る。

リュカはそれを感じ取り、咄嗟に後ろに跳躍し、袋から王家の剣を取り出す。

 

 

「知ってか知らずか、どちらでもいいが剣士に剣で挑むか。では、改めて名乗るとしよう。私はピサロ。魔剣士ピサロだ」

 

 

彼が再び名乗り、袋から剣を取り出す。

だがその剣は、リュカが未だかつて目にしたことがないほど大きく、且つ何処かで見た事のあるような感じの剣だった。

そう、確かカジノの景品になっていたメタルキングの剣と似ている。アレをそのまま大きくすればあんな感じになりそうだ。

 

 

「来ないのならこちらから行くぞ」

 

 

ピサロが大剣を担ぎ、リュカに向かい一気に踏み込んでくる。

そのままの勢いで縦に斬りつけてくる。

リュカはどうにか剣で受け止めるが、その威力に足が地面に減り込む。

足がミシミシと嫌な音をたてる。下手すれば足の骨にヒビが入ってるかもしれない。

だが休む暇をピサロは与えてくれない。

続け様に横から、斜めから、真っ直ぐと剣戟を放ってくる。

それら全てをいなし、躱し、受け止める。

一見リュカに余裕が出てきたようにも見えるが、実際はそうでもない。

それらの動作をするだけで手一杯なのだ。守勢から攻勢に移れない。

それほどまでにピサロの一撃は重く、疾く、鋭かった。

兎にも角にも、一旦態勢を立て直そうと斬撃を弾き、バックステップする。

そこで息つく間もなくリュカは自身に補助呪文を重ね掛けする。

 

 

「ピオラ、ピオラ、スカラ、スカラ、バイキルト!」

 

 

素早さを上げる呪文、防御力を上げる呪文、攻撃力を上げる呪文をそれぞれ唱える。

ピオラはここ最近リュカが覚えた呪文の一つだ。

全体の素早さをほぼ二倍にするピオリムとは違い、こちらは個人の素早さを1.5倍にするものだ。

ピオラ二回でピオリム一回の魔力消費となるので、実の所ピオリム一回掛けるだけの方が面倒は少ない。

だが敢えてピオラを選んだのには理由がある。

リュカは魔物を召喚して戦うスタイルだ。

その際に魔物を呪文で強化させる。が、その場その場に応じて魔物を変える必要が出てくるだろう。

その時に出てきた魔物は、当然ながら強化されていない。だがその魔物のためだけに全体にかかる補助呪文を掛ける。それは無駄が多い。

故に単体に作用する呪文を覚え、今回はそれを使用することで今後のために慣れようとしているのだ。

 

 

「成る程、自己強化か。確かに基本中の基本だな。だが、私の前では無意味と知れ」

 

 

そう言ったピサロが前方に手をかざすと、そこから何かが迸る。

その何かはリュカに掛かっていた補助呪文の効果を全て打ち消し、リュカは元の状態に戻ってしまった。

 

 

「凍てつく波動か…………!」

 

 

凍てつく波動。

相手に掛かっている全ての補助効果を打ち消す技である。

その性質上、ボミエ系やマホトーンなどのこちらが不利になる呪文も打ち消されるが、基本それらの呪文を使えて且つ凍てつく波動を使える者は少ない。

ピサロがどちらかは知らないが、これで状況は振り出しに戻ってしまった。

このままジワジワと削り取られていくのか。それだけは勘弁願いたい。

 

 

「足を止めていてはただの案山子にすぎんぞ」

 

 

再びピサロが接近してくる。

このままでは先程の繰り返しとなってしまう。何か良い手がないものか。

ピサロが迫り来る前に考えに考えて、あることを思いついた。

リュカはすかさずそれを実行する。

 

 

「ピオラ!」

 

 

リュカが唱えたのは先程唱え、無意味と化した補助呪文だった。

だが対象が違った。

対象はリュカではなくーーーーピサロだ。

ピサロが一気に速くなり、リュカに肉薄する。それこそがリュカの狙いだった。

ピサロが大剣を振り下ろそうとするが、大剣の切先はおろか、根元にもリュカの身体はない。

彼の想定よりも速くリュカに近付き過ぎて、振り下ろすタイミングを外したのだ。

リュカは振り下ろされる腕を左手で掴み、右手に持った剣でピサロを貫こうとする。

これで勝負がつけば話が早いが事はそう簡単には運ばない。

ピサロが左足でリュカを蹴り飛ばしたのだ。

お陰でリュカの剣は軽く胸部に刺さる程度に終わった。

 

 

「ゴホッ、ゴホッ…………。凍てつく波動!」

 

 

リュカもまた手から凍てつく波動を迸らせ、ピサロに掛かっていたピオラの効果を打ち消す。

ダメージで言えば明らかにこちらの方が大きいが、回復をしようと思えるほど喰らってはいないので、放置。

 

 

「今のは中々良かったぞ。私の意表をついてくるとはな。では私も魔剣士が魔剣士たる理由をお見せしよう」

 

 

ピサロが大剣を構えると、身体から黒い魔力が滲み出す。

リュカも剣を構える。が、その時には既にピサロの間合いに入っていた。

 

 

「何っ…………⁉︎」

 

 

反応できたのはマグレと言ってもいいだろう。

薙ぎ払われる大剣をリュカは剣の腹で受け止めーーーー切れなかった。

 

 

「ぐぅっ……………⁉︎」

 

 

リュカはピサロの力に耐え切れず、大きく横に吹き飛ばされた。

体勢を立て直すことが出来ずに、地面にぶつかり、少しの間地面と擦れていく。

ようやく止まってからリュカはベホイミを唱え、傷を治した。

急にピサロの力が強くなり、速くなったのは滲み出した黒い魔力が原因だろう。

強くなったのなら、補助呪文かそれに類するものだろうと思い、再び凍てつく波動を放つ。

ピサロは凍てつく波動をマトモに浴びるが、黒い魔力は収まる気配を見せない。

 

 

「補助呪文じゃないのか…………⁉︎」

 

「これはただ魔力を解放しただけだ。そら、まだ終わりではないぞ」

 

 

ピサロが地を蹴る。

ただそれだけの動作なのに、一歩だけで相手の間合いに捉えられる。

それが解ってはいたが、具体的に対策を立てることが出来なかった。

こうなったら、と苦肉の策としてリュカは自らの身体を中心にバギクロスを放つ。

ピサロならばすぐにでも突破してくるだろうが、その突破する時間内に何か考えつく。考えつかねばならない。

 

 

「無駄なことを。真空波」

 

 

ピサロが大剣を一振りすると、荒ぶる風の刃が無数に放たれる。

それはリュカのバギクロスを容易に相殺し、リュカの姿は曝け出された。握り拳をピサロに向けた状態で。

 

 

「メ・ラ・ゾ・ー・マ」

 

 

ピサロに向けた握り拳の指を一本ずつ開くと同時に小さな火球が現れる。

だが見た目が小さいだけでこの火球は、一つ一つがメラゾーマ級の威力である。

 

 

「五指爆炎弾!」

 

 

接近していたピサロに、メラゾーマの実に五倍の威力はある五指爆炎弾が放たれる。

ピサロはそれに向けて自らも呪文を放つ。

 

 

「ドルマドン」

 

 

巨大な暗黒の雷と五指爆炎弾とぶつかり、爆発が起きる。

爆風が、二人の身体を焦がしていく。そんなものは微々たるダメージしかないが、爆風が収まった時、それが次の勝負所となるだろう。

そしてついに爆風が止む。

煙が晴れ、見えたのは未だ黒い魔力を滲ませているピサロにーーーーいつの間にそんな技法を覚えたのやら、紫の魔力を滲ませていたリュカがいた。

 

 

「五指爆炎弾…………とか言ったか。それだけでもそれなりに驚いたが、まさか魔力解放を使えるようになっているとはな」

 

「そうしないと貴方に一方的にやられるだけですからね…………かふっ」

 

 

リュカは咳き込み、口の端から血を流す。

先程の爆風で小さな飛礫でも飛んできて口の中を傷付けられたのだろうか。

それだと咳き込んだ理由がわからないが。

 

 

「やはりな。五指爆炎弾とやらは全くの代償なしに使える呪文ではあるまい?少なくとも今のお前にとっては、だ」

 

「その通りですよ。本に載っていたのを思い出して今ぶっつけ本番で撃ちましたから。下手すれば寿命を縮めると書いてましたが、これがその兆候なんですかね?」

 

 

流れる血を手で拭いつつ、剣を構える。

ピサロもそれに応じ、大剣を構える。

二人は一秒ほどの間睨み合い、お互い同時に駆け出した。

リュカはピサロの左脇腹目掛けて斬りかかる。

それをピサロは大剣の腹で受け止めて、弾き返す。

リュカはその反動を利用し、今度は右側頭部に峰打を叩き込もうとする。

これをピサロは大剣での防御が間に合わないとわかるやいなや、右手だけ大剣から外し、裏拳によって剣を弾いた。

弾かれた剣ごと身体が持っていかれ、体勢を崩す。

そこにピサロの強烈な蹴りが腹目掛けて放たれた。

 

 

「ちぃっ…………!イオラ!」

 

 

リュカはイオラを地面に向かって発動。

威力はともかくとして中規模の爆発が爆風を巻き起こし、それに乗じてピサロの蹴りを回避する。

時間にして五秒にも満たないが、その中で激しい攻防を繰り広げる二人。

距離がまた開き、再び睨み合う形となった。

 

 

「私の動きについてくるか。凄まじい成長ぶりだな。…………では、ある女戦士が使ってた技でも披露するか」

 

 

ピサロは大剣を上段に構え、そこに氷の魔力が集い始める。

魔力が溜りきると、大剣を振り下ろした。

 

 

「ダイヤモンドダスト」

 

 

大剣から放たれたのは、氷の竜巻。

全てを呑み込み、凍らせ、切り刻む暴威の塊。

無視してピサロに突っ込むか?

否、あれは追尾性能があるだろう。

ピサロと氷の竜巻の挟み撃ちだなんて考えたくもない。

ならば迎え撃つのみ。

 

 

「右手にメラゾーマ、左手にバギクロス。合成!唸れ、炎の竜巻!メラゾロス!」

 

 

リュカは呪文同士を合成して新たな呪文として放つ。

先程の五指爆炎弾の時に浮かんでいた考えを実行したのだ。

結果は見事なものだった。

炎の竜巻と氷の竜巻がぶつかり合い、水蒸気が生み出される。

それは視界を覆い、またもや二人の姿は見えなくなってしまった。

 

 

(眼を潰しにきたか。だがこの程度ならば真空波でーーーー)

 

 

 

そう考えていたピサロが、咄嗟に大剣で防御行動をとった。

それから瞬きほどの間に、大剣を伝いピサロに衝撃がはしる。

その衝撃は断続的に金属音を鳴らせながらピサロを水蒸気の外に出させる。

 

 

「風神突きぃぃぃぃぃぃぃ!」

 

 

ピサロに衝撃を与えたそれは、足元から収縮したバギクロスを放つことにより爆発的な推進力を得て、己の身体そのものを矢となして突撃してきたリュカであった。

 

 

「ぐっ…………!」

 

 

ピサロが眉を顰め、魔力を更に解放する。

そうしなければ、リュカの風神突きに対抗できないのだ。

それに呼応するようにリュカもまた、バギクロスに注いでいる魔力を増幅させる。

矛が勝つか、盾が勝つか。

一瞬の油断が命取りとなる鍔迫り合いが今行われていた。

 

 

「ハァァァァァァァァァ!」

 

「オォォォォォォォォォ!」

 

 

互いに咆哮を発しながら、魔力をガンガン消費していく。

未だ均衡は保ったままであったが、遂にその均衡が崩れる。

 

 

「バイキルトォォォォ!」

 

 

リュカがこのタイミングでバイキルトを発動したのだ。

しかし、これほど素晴らしいタイミングもないと言える。

相手は防御に徹しているため、凍てつく波動が使えない状態にある。

使おうとすれば、片手を外す必要があり、そんなことをしてしまえば一気にリュカの一撃が決まるだろう。

バイキルトの結果、リュカの力が一気に増幅し、ピサロの大剣を弾き飛ばすだけじゃ飽き足らず、ピサロの右胸を貫きそのまま壁まで突き進んで行き縫い付けた。

 

 

「がはっ…………!…………見事、だ…………!」

 

 

口から血反吐を吐きつつも、リュカに賞賛の言葉を贈るピサロ。

急に始まったこの戦いは、一応の終了を迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ベホマ。…………うむ、傷は癒えたな」

 

 

リュカが剣を抜いた後にピサロは自前の回復呪文を行使し、貫かれた右胸の傷を塞ぐ。

回復呪文が使えるのに、どうして先程までの戦いで使わなかったのかと疑問に覚えるが、今気にすることではないと頭の隅に追いやった。

 

 

「それで、戦いましたがこれで強くなる術を授けてくださるのですか?」

 

「ああ、授けてやるとも。…………だが、お前はこの戦いにおいて新たに札を得た。それでも尚、足りないと言うのか?」

 

「…………ええ、まだ足りません。この程度ではダメなんです。もっと、もっと圧倒的な力でないと…………」

 

 

少しの間考え込むが、リュカは力を欲することを選んだ。

リュカとしては自分はあまりにも弱い存在だと思っている。

だからこそ、力を欲するのだ。

 

 

「ならばこれを授けよう」

 

 

ピサロは懐からオレンジ色に輝く玉を取り出し、リュカに手渡した。

リュカがそれを受け取ると、掌程度のサイズだと言うのに、大瀑布のような力の奔流を感じ取ることができた。

 

 

「これは…………?」

 

「進化の秘法と呼ばれるものだ。それを使えばお前は確実に強くなれるだろう。だがこれの使用に際して条件をつけさせてもらう。戦う前に言っていたもう一つの条件だ」

 

「それは、一体?」

 

「これを使うのならば、覚悟を決めることだ。そうでなければお前はこれに呑み込まれるだろう。少なくとも今回のゲームで使うのは止めておけ。碌なことにならんぞ」

 

「…………わかり、ました。今回のゲームでは使いませんし、使うとしても覚悟を決めます」

 

「うむ。ではな、リュカよ。再び会うことがあるかもしれんな」

 

 

そう言い残してピサロは旅の扉に入り、何処かへと行ってしまった。

暫くしてからリュカはある事に気付き、訝しんだ。

 

 

「僕はあのゲームではリュケイロムとしか名乗ってないのに、どうやって僕がリュカって呼ばれている事を知ったんだ…………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒い風によって身動きが取れない状態となっている白夜叉。

そんな彼女の元に向かう人影が一つあった。

気配を感じ取り、彼女が眼を覚まして人影がいる方を見やると、そこには懐かしい顔があった。

 

 

「久しいな、白夜叉。今回は随分と間抜けを晒したものだ」

 

「やかましいぞ、デスピサロ。そもそも何しに来た」

 

「間抜けなお前を肴にして、この月の下で酒を飲もうと思ってな。あと、デスピサロの名はもう捨てた。今の俺はただのピサロだ」

 

 

ピサロは白夜叉の隣にどかっと座り込み、袋からグラスと酒を取り出して、グラスになみなみと酒を注いだ。

 

 

「って、おま、それはルラフェンの地酒ではないか⁉︎くそっ、動けない私に対する当てつけか⁉︎」

 

「それも多分に含まれているな」

 

 

ゴクッ、と喉を鳴らして酒を胃の腑に収めるピサロ。

その様子を心底悔しそうに見る白夜叉だったが、急に目つきを鋭くしてピサロに訊く。

 

 

「おんし、今まで何をしていた?」

 

「ふむ、範囲が広すぎて答えきれんが、ここに来るまでの間にリュカと戦ってきた」

 

「…………おんし、リュカとはどういった関係だ?親族であるというのは目星がついておるのだが」

 

「私の孫だ。私の一人娘のマーサが人間との間につくった子供だ」

 

「孫だと?つまりお前はエスタークの息子と言うことか。どうしてこうも短期間にエスタークの息子と二回も出会わねばならんのだ」

 

「私以外にも息子がいたのか。まあ、いい。あとは進化の秘法を渡してきた」

 

「おい、おんし…………!あれは不完全な代物であろう⁉︎第二のエスタークを生み出す気か!」

 

「そうなったらあいつはそれまでの輩だったというだけだ。だが私はリュカが進化の秘法で新たな可能性となるのではないかと思っている。白夜叉よ、私の孫をあまりり見くびるな。仮にエスタークのような無差別な破壊を齎す化物になったら、責任を持って私が殺すさ」

 

 

ピサロはグラスを月に翳し、こう言った。

 

 

「我が孫リュカの未来に幸があらん事を」




ピサロおじいちゃーん!

前話でのリュカくん力を欲してたのを早速回収してみました。
っかしいな、本来なら番外編の話だったはずなのに。

で、皆大好きな進化の秘法だよ。リュカくんもいずれこれを使うよ。どんな姿にゲフンゲフンどんな力を手に入れるか、タノシミダナア。

リュカくんがフィンガーフレアボムズ使って吐血してましたが、それだけで済んだのは僥倖ですな。
つーかポップでも最初3発だけだったのにぶっつけ本番で5発出す事に成功してるしね。


長々と書いてもあれだからここいらで失礼つかまつります。
次回更新は未定。執筆速度が向上することを教会で祈っておいてくださいな


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決戦の日

とか言いつつ決着はつけない


リュカ達は遂に決戦の日を迎えた。

この日に至るまでにあらゆるコミュニティのメンバーがペストに罹患し、隔離されてきたが、それでもかなりの人数がいた。

耀もその一人であったが、リュカのキアリーによって今はピンピンしている。

ピサロと戦った後に、ヤンガスの言葉を思い出し実行した結果だ。

呪いということだったので、シャナクの使用も考慮に入れていたのだが、ペストに罹るまでが呪いでそれ以降はただの病気だったらしい。

お陰で対象の体内から身体を蝕む毒を抜くキアリーで対処出来た。

 

 

「リュカ、私はどうすればいい?」

 

「ヨウは治したとは言え、病み上がりだ。ステンドグラスを壊すことに専念してほしい。勿論、敵が攻めてきたのなら迎撃していい。期待してるよ、ヨウ」

 

「ん、わかった」

 

 

耀は短く返事をして、ステンドグラス捜索隊に合流しに行った。

リュカの役割は特に定まっていない。

ステンドグラスを探すのでもなければ、魔王ペストと対峙するわけでもない。

だがやろうと思っていることはある。

ラッテンと名乗る女に攫われた飛鳥。

ラッテンを締め上げて彼女が何処に幽閉されているか訊く必要がある。

あの女が何処に現れてもいいように、魔物で偵察部隊を結成し、捜索させている。

暫く時が経つと、一匹のスライムが此方に近づいてくる。

 

 

「兄貴!こっから大体西の方角に兄貴が言ってた特徴の女がいたぜ!」

 

「ありがとうスラりん。さて、始めようか。僕達のゲームを」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ、行きなさいシュトロム!」

 

 

ラッテンが陶器の巨兵に命令を下す。

シュトロムと呼ばれた巨兵は唸り声をあげ、ゲーム参加者に襲い掛かる。

その数は十を軽く超えていた。

レティシアが影で対抗する。

影で構成された牙がシュトロムを三体噛み砕く。

ラッテンはその攻撃を見て彼女が魔王ドラキュラであると確信する。

現在その霊格は劣っているようだが、だがらと言って油断出来ない相手だ。

そう思い距離を取るとーーーー、

 

 

「うりゃ!スラ・ストライク!」

 

「ーーーーッ⁉︎」

 

 

死角からのスライムによる不意打ち。

どうにか身体を捻り躱すが、かなり危なかった。

スライムは子供でも倒せるほど弱い魔物だ。

だが今のはどうだ?

パワー、スピード、存在感。

どれをとっても通常のスライムとは一線を画している。

いや、一線どころではない。

危険を感じたラッテンはシュトロムを一体スライムに向かわせる。

大きさで言えば圧倒的にシュトロムの方が上である。

体格差からくるリーチやパワーの差は如何ともしがたいものである。

普通ならば。

 

 

「ハッ!すっとろいなオイ!こんなんじゃ眼を瞑ってても躱せらぁ!」

 

 

シュトロムの剛腕は空を切るばかり。

スライムの攻撃はシュトロムに確実に傷を与えている。

寧ろスライムは遊んでいるようであった。

 

 

「シュトロム!嵐で吹き飛ばしなさい!」

 

 

シュトロムは命令に従い、嵐を巻き起こす。

だがーーーー、

 

 

「一羽でチュン!」

 

「二羽でチュンチュン!」

 

「三羽揃えば」

 

「「「バギクロス!!」」」

 

 

いつの間にやら空から近づいていた三匹のホークマンがそれぞれバギクロスを唱える。

三匹が同時に放ち、更に巨大な竜巻となったバギクロスはシュトロムの嵐を吹き散らし、逆にシュトロムを砕いてしまう。

 

 

「くっーーーー!」

 

 

ラッテンはその場から逃げ出す。

スライムやホークマン。

この魔物共をけしかけている相手がわかった。

わかったが故に逃げるのだ。

彼女では到底その相手には敵わない。

ラッテンからすれば今回のゲームの勝利条件の特性上戦う必要などないのだ。

ただ自分が愉しみたいから“サラマンドラ”の同志に襲わせたり、シュトロムを出したりしただけだ。

ならば今から全参加者から逃げる。そういう作戦に移行してもいいだろう。

だがそうは問屋が卸さない。

 

 

「ガァァァァァァ‼︎」

 

 

横合いからキラーパンサーが噛み千切ろうと飛び掛ってくる。

ラッテンは反射的にキラーパンサーがを蹴り飛ばした。

だがそこは地獄の殺し屋とまで呼ばれたキラーパンサー。

蹴飛ばされてもたいしてダメージを受けているようには見えない。

そもそもラッテンはヴェーザーほどの戦闘技能は有していない。

故にその攻撃力も高が知れているのだ。

そこからはスライム、ホークマン×3、キラーパンサーの猛攻が相次ぎ、ラッテンは何とか躱しながら逃げていた。

そこであることに気づく。

 

 

(これ、私誘導されている……⁉︎)

 

 

そう、明らかに一つの方向に移動させられているのだ。

それ以外の方向に行こうとすれば、魔物共が邪魔をしてその方向にしか行かせられないようにしている。

どうにかしたいと思えど、操ることも無理なのではどうしようもできず、とうとうその時が来てしまった。

 

 

「やあ、僕の招待に応じてくれてありがとう。歓迎するよ、盛大にね」

 

「別に応じてないわよ、イヤミなのかしら?」

 

「とんでもない。僕は貴女に訊きたいことがあって招待したんだよ。さあ、素敵なパーティにしようじゃないか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラッテンには勝ち目がない。それは純然たる事実である。

自慢の魔笛もリュカには効かず、戦闘能力においては言うまでもないほどの差があった。

仮に、仮に勝てるとするならば、パーティと称されるこの遊戯にラッテンを味方する乱入者が現れてくれることである。

だがそれは望むべくもない。

ヴェーザーはあの時の少年と戦っていて、魔王様もフロアマスターと“箱庭の貴族”に足止めされている。

逃げようにも魔物共が周りを取り囲んで目くらましでもしないと逃げ出せそうにない。

それならばーーーー

 

 

「目覚めなさい、シュトロム!」

 

 

ラッテンの背後から陶器の巨兵が一体だけ現れる。

先程の戦闘で全部出したものと思われたがまだ隠し持っていたらしい。

 

 

「嵐を!」

 

 

シュトロムが嵐を巻き起こす。

リュカはもちろんそれに対抗するためにバギクロスを放とうとする。

リュカのバギクロスはリュカが持つギフトの効果でバギクロスを覚えている魔物の数だけ強化されている。

故に、バギクロスで充分にシュトロムの嵐を吹き散らし、且つ破壊することができるのだがリュカはそれを止めた。

 

 

「いや、こうだな。バギ……ムーチョ!」

 

 

リュカはイメージした。

バギクロス数本が一斉に襲い掛かり、一つに纏まって超巨大な竜巻として相手を切り刻み、巻き上げるのを。

そしてイメージしたものをそのままシュトロムに放つ。

結果、それは成功した。

バギムーチョ自体は普通に存在する呪文の一つである。

ただ、リュカの世界にはその呪文は存在しない。

ひとえにそれが使えたのはリュカのギフトの特異性故である。

仲間が増える度に強化されるリュカだからこそ、複数本の竜巻が襲い掛かり、一つに纏まり超巨大な竜巻となるイメージができたのだ。

使える世界の者が使えばただの超巨大な竜巻にしかならない。

普通それだけで充分なのだが。

シュトロムの嵐は虚しく掻き消され、シュトロム自体は粉微塵となる。

それにめげずにラッテンは次なる策を講じる。

再び魔笛を吹き鳴らし、今度は飛鳥を攫った時と同じようにネズミの大群が現れる。

これには魔物達も思わずその物量に面食らい、ラッテンを逃す隙を許してしまう。

だが魔物だけだ。

 

 

「ぐっ……⁉︎」

 

 

突如として自分の体が重くなったのを感じたラッテンは何事かと周囲を見る。

特に変化はないように見える。

それでは自分自身に何かが起きたのか?

否、そうでもない。

では、一体何がーーーー?

 

 

「僕が君の周りの大気を石化させた。あの時のゲームで雲を石化させていたからもしかしたらと思ってやってみたが、どうやら正解だったようだ」

 

「そっ、んなデタラメをーーーー!」

 

「何を言っている?知らない方が悪い。ただ、それだけのことだろう?」

 

 

その通りだ。

空を飛ぶことが必須とされるゲームで翼を持たない猿が喚いても、それは持たない方が悪いのだ。

それがこの箱庭の流儀。

人であれど、悪魔であれど、神であれど、否定することなぞ出来ない。

 

 

「さて、君には訊きたいことがある。僕の仲間、君が攫った女の子、アスカは何処にいる?」

 

「知らないわよそんなの。いつの間にか逃げられていたからね」

 

 

ラッテンは嘘を吐くことなく真実のみを言った。

 

 

「そうか。それならばしょうがない。君の存在はもう不要だ」

 

 

リュカは右の掌に魔力を溜める。

それは次第に青白く色付き、辺りにスパークを奔らせる。

それは聖なる雷。

限られた血統の者、或いは極少数の魔物にしか扱えぬ破邪の技。

 

 

「ギガーーーー」

 

「あら、それを放つのは早計じゃないかしら?リュカくん」

 

 

呪文を唱え切る直前に聞き慣れた声が耳に入る。

深紅のドレスを身に纏った少女が、紅い巨人の肩の上に立ち、こちらを見ていた。

 

 

「遅かったじゃないか」

 

「あら、ヒーローは遅れてくるものと相場は決まっているのよ?」

 

 

少女、久遠飛鳥はニヤリと微笑んだ。




耀は治すが活躍の場は与えない。というか話が思いつかない。明らかに作者の実力不足。

えー、今回使いましたバギムーチョですが簡単に言いますと

普通の 150〜250のダメージ
リュカの 80〜130のダメージ×バギクロスを覚えている魔物の数+150〜250です。
リュカのギフトはこういうことにも使える。いやー、チート万歳!
ラッテンがアッサリと退場してペストをペロペロ( ^ω^ )するのは次回ってことでサラダバー


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