神を滅する龍 (小雲八泉)
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神を滅する龍

地球意思「生態系リセットするわ」
大自然「ぎゃー自然がー!」
地球意思「人間がなんか生き残るのうぜえ」
シオ「(*・ω・)ノシ <バイバイ」
地球意思「特異点が月に行ってできないんご……」
地球意思「せや、赤い雨降らせて適当なヤツを特異点にしよう。ついでにアラガミも強化できるやったぜ」
大自然「あーそういうことする? じゃあ自浄作用ドーン!」
地球意思「ぎゃーアラガミがー!?」

続かない(鋼の意志)


 ロミオは走る。

 人丈以上の神機を手に、防雨服を着てひた走る。

 

 彼にとってそれはふと思い出したような、心の片隅に留まっていた出来事だった。

 自身の才能を疑い、それを他人の鼻につく形で詰り、結果蟠りを生み出した。誰が悪いのか自分でも分かっていた。だがその一歩を踏み出す勇気がその時の彼には無かったのだ。

 

 そんな彼を、壁外の老夫婦は残り少ない懐をもって茶を振る舞い、暖かく迎え入れてくれた。細やかなことだが、ロミオにとっては何より大切な思い出になった。

 つまるところ、ロミオは取り残された彼らを助けるために致死の雨の中を走っていたのだ。

 

 周囲を降り頻る赤い雨は触れたら最後、必ず死に至る『黒蛛病』に冒されてしまう。だが未だ姿を見せない老夫婦の安否を確認しなければならないロミオは、そのリスクをあえて冒しアラガミの襲撃の中を走る。

 死の不安と恐怖で体が震えて、しかし足は止められない。足を止めたら後悔するとロミオは確信していた。

 

「ハァ、ハァ……!!」

 

 だがロミオの道を塞ぐように現れる異形の化物、アラガミ。ガルムの名を冠する大型アラガミが巨大なガントレットを付けた前脚を振りかぶる。

 

 ガルムは1匹現れるだけでも小さな支部を壊滅まで追い込むことがある極めて危険なアラガミだ。

 ゴッドイーターの特殊部隊ブラッドの一員だとしても、まだ半人前のロミオが相手取るには大きすぎる壁。

 

 ────その強敵は、横を駆け抜けた剣閃によって退けられる。

 

「ロミオ! 無事か!?」

 

「ジュリウス!?」

 

 シェルターに置いて行った筈のブラッド隊の隊長、ジュリウスが駆け付けていた。単独で行く気だったロミオは目を見開く。

 

 ジュリウスは薄く頬を吊り上げて、正面を見て構えた。ロミオも同じように構える。

 この赤い雨の中で危険を顧みず助けに来たお人好しすぎる隊長を責めたいが、今はそんな暇はない。

 

 目の前には見たこともないアラガミが鎮座していた。

 白い外殻、赤い鬣、ガルムのような出立ちだが存在感が更に大きい。それは複数のガルムを率いて二人を睨み付けていた。

 

「あれは……!」

 

「マルドゥーク……」

 

 ……それは赤い雨の影響を受け進化した『感応種』の一体。

 接触禁忌種と同格以上の危険度を誇る、マルドゥークと呼ばれる危険なアラガミだった。

 

 『感応種』は周囲のオラクル細胞を自身の支配下に置く力を持っている。《血の目覚め》が出ていないロミオではなす術はない。

 そしてマルドゥークは、今最も力を持つジュリウスでも単独で討伐することができる相手でもない。

 

「がっ………!!!?」

 

 瞬時に放たれた横薙ぎが二人を吹き飛ばす。

 

 咄嗟に庇ったジュリウスの意識が刈り取られ、ロミオも無視できない深傷を負った。

 恐らくジュリウスだけならマルドゥークの攻撃を回避できただろう。出来なかったのは、ロミオを庇ったからだ。

 

 ブラッドとは思えない、そう自分で下卑してしまうほど弱い。余りにも足手纏いだ。今も大切な仲間を自分のせいで失おうとしている。

 

「う、ぐっ……」

 

 ロミオは息も絶え絶えに立ち上がった。

 神機は鉛のように重く、身体は痛みに軋む。赤い雨が頬を伝い、ロミオは自分が今ここで死なずとも遠からず死ぬことを理解する。

 

 それでもロミオは神機を構えた。

 それは弱さへの贖罪のつもりであって、ブラッドとしての矜恃でもあった。

 絶対に負けるわけにはいかないのだ。

 

「────うおおおお!!」

 

 どこかで祝福のようにロミオの英譚を讃える声がした。

 

 ────貴方はこの世界に新しい秩序を齎すための礎……。

 

 ────それは世界を統べる王の名の元に。

 

 ────未来永劫、語り継がれていくことでしょう。

 

 ロミオは戦う。身体が引き裂かれそうな痛みすら踏み越えて、余りにも大きな壁に向かっては吹き飛ばされて、それでも立ち上がる。

 

 

 影でほくそ笑む誰か。

 

 己の全てを賭して死闘を繰り広げるロミオ。

 

 絶望の権化マルドゥーク。

 

 

 そして。

 

 ドゴォ────!!!!

 

「っ!!??」

 

 未だ立ち上がろうとするロミオに苛立ち、今度こそ殺そうと腕を振り上げるマルドゥークを、大きな黒い影が襲い掛かった。

 それは前脚を地面ごと踏み割らんかというほどの力でマルドゥークを叩きつけ、凄まじい勢いで投げ飛ばす。

 

「へ、ぁ……!?」

 

 ロミオといえば、あまりの展開に目を白黒させながら、その乱入者を目を見開いたまま凝視していた。

 

 それは黒く荒々しかった。

 全身を棘のような甲殻で覆い、特に四肢と翼に異常に大きな棘が生えている。

 シルエットは首の短いドラゴンのそれだが、みてくれが余りにも邪悪で、神というより悪魔のようだ。

 その乱入者の頭部には誇るように一対の巨大な角が生えていた。

 

「グオオオオオオオオ!!!」

 

 それは威圧的な咆哮をあげ、マルドゥークや周囲のガルム達に見境なく襲い掛かった。

 

「なんだよ、コイツ!?」

 

 ロミオは息を整えながら、化け物達の激しい戦闘を信じられない気持ちで見ていた。

 その黒いドラゴンはアラガミ達の攻撃を一切顧みず自分自身をぶつけるように殴り付け、叩き潰していた。

 

 アラガミ同士の争いはロミオも見た事はあるが、大型のアラガミであるガルムを一方的に蹂躙するアラガミなど見たことがない。

 そしてかの黒いドラゴンの自身の傷を顧みないかのような苛烈な戦い方が目を引いた。

 

 まるで、何もかもを破壊し尽くさんとしているかのように。

 

「っ、今なら……ジュリウス!」

 

 何故あの黒いドラゴンがマルドゥーク達を襲うのかは分からないが、とにかく今はここを離れるのが先決だ、そう判断したロミオは意識を失ったままのジュリウスを背負って走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 結果として、老夫婦達は無事であった。

 ロミオの決死の捜索で周囲のアラガミ──特に最も危険なマルドゥークの群れの気を引いたお陰で、老夫婦達の避難がスムーズに進められたのだ。

 

 だが喜ばしいことばかりではない……。

 

「馬鹿野郎……なんで無茶しやがった!?」

 

 赤い雨にさらされたロミオは、例に漏れず『黒蛛病』を発症していた。

 病室で眠りにつくロミオを罵倒する"ギルバート・マクレイン"。ブラッドの一員であり、捻くれつつも実直な性格からロミオと幾度も衝突していた。

 そんな蟠りがつい最近解けてきて、ようやくブラッド全員で笑えるようになってきたというところにこの事態だ。

 

 ただの怪我や病気ならまだ良かった。神機を扱うゴッドイーター達は基本超人的な身体を持ち、怪我なども常人より治りが早かったりする。

 しかし『黒蛛病』という未知の病には流石に対抗できなかった。

 

 彼らの副隊長"鳴神ユキ"は歯がゆい思いをしながらロミオの身体に浮かび上がった"黒い蜘蛛"を睨んだ。

 

「どうにか、なりませんか?」

 

「どうにかしたいと思うのは私も同じさ。だが出来るなら既に多くの患者にもやっている」

 

 悲しそうに目を伏せて問いかける"シエル・アランソン"に静かに首を振る"ペイラー榊"。延命こそある程度できるが完全な治癒方法は未だ発見されていない上、確実に感染者が死亡するのが『黒蛛病』の恐ろしいところだった。

 

 オラクル細胞由来と思われる『黒蛛病』は赤い雨の他、発症者との接触によっても感染する。このままではロミオは誰にも触れられぬまま短い生涯を終えることになるのだ。

 

 しかし、とマッドな科学者は続けた。

 

「全力は尽くすつもりさ。丁度興味深い話も聞けたからね。ブラッドの諸君、少しばかりお手伝いをしてくれないかね?」

 

 

 

 

 

 贖罪の街。

 黒い巨影が中型アラガミ"ヴァジュラ"を叩き潰す様子を、ブラッド隊の一同は影から覗き込み目に焼き付けていた。

 

『ジュリウス君とロミオ君が交戦したマルドゥークと新種のアラガミ……。これの調査をお願いしたい。特に新種の方をだ』

 

『新種のアラガミ……?』

 

『先日、新種のアラガミが残しただろう棘を回収、解析した。全てではないが、大まかに分かったことがある』

 

『新種のアラガミを構成する細胞は、他種のオラクル細胞だけを偏食する傾向がある。不思議なことに、オラクル細胞由来のモノ以外は捕食しないんだ』

 

『……それは、そんなアラガミが?』

 

『いた、としか言えないね。兎も角、このオラクル細胞を積極的に食べる新種の細胞が黒蛛病の治療に使えるかもしれない』

 

『ブラッドの諸君。頼まれてくれるね?』

 

 ────ここまでの会話を思い出す。アレがペイラー榊の言葉通りであれば、オラクル細胞で構成された神機に対しても特攻性を持つといえる。

 

 

「総員配置に着いたね?」

 

「はい。副隊長」

 

「ああ」

 

 シエルとギルバートは緊張の面持ちで返す。それにユキは頷いた。神機を持つ手に力が籠る。

 人であれば恐ろしいヴァジュラをハエの様に踏み潰した黒影に向かって一歩を踏み出した。

 

「いくよ!」

 

『ブラッド1、戦闘開始!』

 

 黒いドラゴンが振り返った。

 矮小な生き物が目を鋭く光らせる様を不愉快に思ったか、ヴァジュラに乗せていた腕をブラッド隊の方へと一歩、地響きをたてて踏み出した。

 

 ─────GAAAAAAA!!!

 

 空をも破りそうな咆哮が全員を劈いた。

 




ライズやりたいです。


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