恐怖の象徴 (ヴェルザ・ダ・ノヴァ)
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設定集(21/8/21追加)

人物紹介などの設定集です。

今は出久とルーシャスしか書いてませんけど、この先増えていく予定です。


 ・緑谷出久/バットマン

 性別:男。年齢:16歳。身長:182㎝。個性:無。CV:通常時は山下大輝。バットマン時は藤 真秀。

 

 普通科に通っていた女子生徒に冤罪を着せられ、雄英を退学。一度、ヒーローへの道は閉ざされたかに見えたが、ルーシャスフォックスとの会話により、もう一度ヒーローを志した。

 

 むしろ、元クラスメイトのヒーロー志望生よりも先に夢を叶えたのでは? とポジティブに考えるようにしている。

 

 バットマンの時は、金のカラーコンタクトレンズを入れ、チョーカー型変声機を使うことで正体を隠しており、犯罪心理学や探偵技術を学んで知識をフル活用し、強靭な肉体による格闘戦術に多数のガジェットでの戦闘を行う。

 

 ルーシャスの家に住み、昼間は筋トレをしているか、正体を隠すためにバイトをしている。

 

 普段着は、キャップを被り、黒いシャツの上にデニムのフード付きジャケット、ジーンズを着て、スニーカーを履いている。

 

 〈バットマンの装備品〉

 ・バットスーツV8.03

 ルーシャスが作ったバットスーツ。元々は、初代バットマンことブルース・ウェインが着る筈だったのだが、ゴッサムに仕掛けられた核爆弾を海の沖で爆発させ自爆したように見せた演技で、バットマンは死んだことになったため、使われることはなくルーシャスの家に飾られていた。

 

 機能性は抜群で、アーマーにチタン合金を使用し、コーティングした防弾防刃使用で、スナイパーライフルの弾も弾く性能。さらに、チタン化合の三層構造で航行能力を高め、6gsまでの加速に耐えられる設計。

 

 また、磁性流体の衝撃に反応して硬化する衝撃吸収を利用し、反撃時のパワーが上昇する。

 

 関節部などに使用されているリキッドアーマーは柔軟性が高く、素早い攻撃を連続して行える。

 

 ・グラップネル・ローンチャー

 空気圧式のフックガン。グラップリングで連続して使えば、非常な高さと速度で飛躍が可能。

 

 ガジェット類は、バットマン:アーカムナイトと同じ11個ある。

 

 ・バットモービル

 アーカムナイト仕様。

 

 ・バットウィング

 こちらもアーカムナイト仕様。

 

 

 ・ルーシャス・フォックス

 性別:男。年齢:65歳。身長:188㎝。個性:並列思考。CV:池田勝。見た目はダークナイトトリロジー。

 

 ウェイン産業のCEO兼会長。十年前に出久と出会い、親睦を深めており、五年前にゴッサムから日本に引っ越してきた。合計で10年の付き合い。

 

 バットマンのガジェットやバットモービル等のビークルなどを作っていた。

 

 個性は〝並列思考〟。物事をいっぺんに考える事ができる。実際、この個性を使って会社の運営とバットマンのガジェット製作を両立していた。

 

 

 ・塚内直正

性別:男。年齢:36歳。身長:180㎝。個性:不明。CV:川島得愛

 

警察官で位は警部。オールマイトとは旧知の仲だが、最近ではバットマンに手を貸していることが多い。その事で、オールマイトに「最近、私に冷たくない?」と言われている。その通りな為、苦笑いで「すまん」としか答えられていない。

 

バットマンの頼み事に頭を抱える事も多く、最近では、バットマンに「敵連合の情報を教えてくれ」と言われているので、さらに頭を抱えている。



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ヴィランプロフィール

バットマンがオールフォーワンに勝つイメージが思い浮かばず、エタリかけてきたので今迄に出たオリジナル敵の情報を書いてみました。


 ・アームズ/連砲 流火(れんほう りゅうび)

 性別:男。年齢:38歳。身長:186㎝。個性:兵器。CV:杉田智和。二話に登場。

 

 傭兵職と武器の密売で生計を立てている。「男なら~」という漢気溢れる言葉が口癖だ。にもかかわらず、戦闘方法が、拳ではなく剣や銃を使う、戦車に隠れる、地雷で爆破、という口癖とは真逆の性格。

 

 元々はアフガニスタンで活躍していた軍人だった。しかし、ある日偶然同僚の不正を見つけ、それを上官に報告したのだが、その上官は不正を行っている者たちのリーダーだった。

 それが理由で彼は軍隊を除隊、現在は孤独に戦うことのできる傭兵として戦っている。

 

 また、武器密売は普段は部下に任せっきりにしており、共に行動しているときは特別な顧客がいる時や品物の価値が高い時である。

 

 個性は、〝兵器〟という体の一部を武器化させる兵器人間。今迄に見てきた武器なら再現可能。銃弾は自身で摂取した飲み物などに含まれる鉄分で精製している。

 

 

 

 ・フレイムスカイ/炎獄寺 空(えんごくじ そら)

 性別:男。年齢:27歳。身長:177㎝。個性:炎鳥。CV:蜂須賀智隆。四話に登場。

 

 街で火事を起こす放火魔。

 

 昔は空を飛びながら火を使うマジックショーをしていた。元々、炎の光が好きな彼にとってこの仕事は天職だった。しかし、ある日犯罪者に捕まってサンドバックされ、挙句の果てに炎で焼かれてしまった。結果、全身90㌫の火傷と憎しみの炎を心に宿す敵フレイムスカイとなった。

 

 その後、フレイムスカイとなって活動し始めた彼は、ヒーローのウォーターホースと出会う。彼はウォーターホースを敵対視し、放火をするもすぐに消火されてしまうため、フレイムスカイは「俺の個性とアンタの個性。どっちが上回るかな?」と言って、放火しては消火の追いかけっこをしていた。しかし、ウォーターホースが死亡した頃にフレイムスカイも姿を消していた。

 

 しかし、彼は敵〝ステイン〟の行動により、数年後の今年に活動を再開した。

 

 個性は〝炎鳥〟という、いわばホークスとエンデヴァーの個性が合体した個性である。

 

 

 

 ・フェイク/報煉 慎誤(ほうれん しんご)

 性別:男。年齢40歳。身長:172㎝。個性:マインドコントロール。CV:菅原正志。

 

 ゴシップ雑誌の記者。どんなことにも証拠を要求し、証拠ないものに話す気なし、というようなスタンスを取っている。

 

 元は真実を追求していく記者だったが、編集長に「こういうつまらない記事いらない」という心無い言葉を言われた結果、「面白ければ捏造だって構わない」という思考に変わってしまった。その思考から、一度だけ捏造記事を作った結果、その記事が飛ぶように売れ、それに快感を覚えてしまった。

 

 その後、フリーの記者として匿名で記事を書き続けた。さらに、二、三週間置きに顔を整形して偽名を使っていたことから警察にも逮捕されなかった。

 

 個性によって、書いた記事は信じられ、あらゆる人間を破滅させてきた。だが、信用が無くなればマインドコントロールは一発で解けるため、ハイリスクハイリターンな個性である。




一つ相談なんですけど、林間合宿からの話を二章にして、一章オリジナルにしていいですか?
このままの出久バットマンじゃ、ボコってから殺気当てて恐怖させて倒すくらいしかAFOに勝つイメージが本当に湧かないんですよ。


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第一章:噂のヴィジランテ
夜の守護者


バットマンがマイブームになったので試しに書きました。

原作を筋にするか、嫌われを筋にするか悩んだんですが、嫌われにすることにしました。

この話と、設定集を書いて、様子見て続けるか考えます。


 暗闇に支配された夜。それを照らす筈の月明りは分厚い雨雲によって遮られている。

 

 その雨の中、ある港である取引が行われていた。取引している物は麻薬で、そこにはコスプレかと思うような派手な格好をしている者もいた。そう、ヒーローである。

 

 彼らは、仕事もなく、退屈な日常に嫌気がしていた。そこで、麻薬を街にばら撒き、それを自分が解決して活躍するという自作自演をやろうとしているのだ。

 

「しかし、よくこんなにヤクが手に入ったな」

「ああ。変な男が融通してくれたんだ」

「おい! そこの二人!」

 

 下っ端の二人がそんな雑談を繰り広げていると、彼等よりも格が上と思われる男が二人に声を掛けた。

 

「コンテナの中にある荷物運べ!」

「「う~っす」」

 

 下っ端二人は気の抜けた返事をしてコンテナの元に向かった。

 

「ったく、やってらえねぇよな」

「全くだ。俺なんか、今日は用事あったんだ」

「どんな用事だよ?」

 

 二人は雑談を続けながら、開いているコンテナから荷物を運び出していく。そこに、カンッという金属同士がぶつかるような音がした。

 

「ん? なんだぁ?」

「俺が見てくる」

 

 一人の男が見に行くと、そこには()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が落ちていた。

 

「こ、これって……!」

 

 男は急いで仲間がいた場所に戻るが、そこには誰もいなかった。

 

「お、おい! どこ行ったんだよ!?」

「後ろだ」

「うわぁあああ!!」

 

 男は、背後の何かに襲われ、倒されてしまった。

 

 そこに、叫び声を聞きつけて(ヴィラン)たちがやって来る。

 

「おい、こりゃ何だ!? 誰がやったんだ!?」

「抵抗した跡すらねぇぞ?」

「たぶん、個性を使う間もなかったんだ。第一、コイツの個性は少し遠くが見えるって言う没個性だ」

「おい、もう一人は!?」

 

 一人の頭に角が生えている男が、もう一人の男が何処に行ったか尋ねる。確かに、ここにはいない。

 

 周りを見渡すと、一人の男が見つけ出した。

 

「コンテナの中でグッスリだ」

「中に引きずり込まれて気絶したのか……」

「そういや、コイツって暗いとこ苦手だったよな」

「個性〝怪力〟なのに、発揮することもできず暗闇に引きずり込まれたか」

 

 そうやって、敵たちが推測の仮説を立てていると、一人の男が上を向いて呻き声を上げていた。

 

「何だ?」

 

 全員が次々と顔を上げる。そこには、黒いマントを背に纏う男が蝙蝠のように頭を下にしてぶら下がっていた。

 

「て、敵襲!」

 

 男は、マントを広げ空中を滑空して敵たちに襲い掛かった。降りてきた瞬間に、近くにいた敵の顎に掌底打ちを決めて一発で気絶させる。そこから、後ろにいた二人の頭を肩と腕を使い、ヘッドロックの要領で掴み、背負い投げの要領で腰を曲げて投げ飛ばし、前にいた集団をボウリングのピンのように倒した。

 

 そこから、配電盤の近くにいた男に蹴りを入れ、よろめい隙に頭を掴み、配電盤に頭を突っ込ませて感電させて倒す。そこに、男が横から突進してきたが、さっき囮に使ったブーメラン〝バットラング〟を喉元に投げ、呼吸困難に陥らせて気絶させる。

 

 敵を倒し終えたことを確認した男は耳のあるところに手を当て、ある場所に電話した

 

『はい、塚内です』

「汚職を働いたヒーロー二人含めたヴィラン十二人。鎖で縛ってある。ヤクも抑えた」

『さすがだ。仕事が早いな』

「回収は任せた」

『ああ、分かった』

 

 男は、電話を終えてスーツの中にしまうと、ベルトに付いた空気圧式のフックガン〝グラップネル・ローンチャー〟を上に向けて発射し、マントを広げて空を飛ぶ。高いビルの屋上に着地すると、男は街を見下ろした。

 

 彼の名は、バットマン。本名を、緑谷出久という。

 

 彼がこうなったのは、一ヶ月半前のことだった……

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 一ヶ月半前、緑谷出久は雄英高校を除籍となった。理由は、普通科の女子生徒を性的暴行を加えた容疑でだ。

 

 しかし、これはただのデマである。

 

 だが、一年A組は、雄英は、それを信じてしまった。

 

 そこからは、虐めと暴言、虐待の嵐だった。オールマイトからはワンフォーオールも取り上げられ、出久は無個性に逆戻りした。残り火も残らぬよう執拗に拷問して。

 

 そうして、雄英を去った先に待っていたのは、母からの拒絶だった。

 

「いい加減にしてっ! アンタに振り回されるのはもうたくさん! 出てって。もう、二度と戻って来ないで!!」

 

 そのあと、出久は大雨の中、かつてゴミに埋もれていた浜辺で体育座りをしていた。今では、ゴミは無くなり綺麗な水平線が続いており、デートスポットとしても有名だ。しかし、今は大雨の影響で大しけである。

 

(僕が何をしたって言うんだよ)

 

 彼は、もう限界だった。信じていた(1A)に裏切られ、(先生)に裏切られ、憧れ(オールマイト)に裏切られた。

 

(………この広い海に飲み込まれても、誰も気にはしないよね)

 

 そう思い、出久は立ち上がって海に向けて歩き始めた。

 

 その時、

 

「────出久君?」

「え?」

 

 声を掛けられたと認識した出久は、後ろを振り返った。そこには、傘を差した老人の男が経っていた。出久は彼を知っていた。よく、ヒーローの話をしたりしていた友人だ。今の出久にとっては唯一の友かもしれない。

 

 名は…

 

「ルーシャス…さん?」

「おお、覚えていてくれましたか。会えて嬉しいよ。でも、何故ここに? 学校はどうしたんです?」

 

 ルーシャスは人の良さそうな笑顔で出久に挨拶をしてから、疑問をぶつけた。

 

 出久は、彼になら話してもいいだろう、と思い今迄にあった事を話した。濡れ衣を着せられたこと。それが理由でいじめられたこと。学校を退学になったこと。母に見捨てられたこと。すべてに絶望し、海に入って死のうとしたこと。

 

 途中から話している場所は、海からルーシャスの家に変わっていた。なんでも、アメリカで社長をしており、日本での暮らしに憧れて今は日本で暮らしているのだとか。

 

 話を聞いていたルーシャスは、ただ一言「そうか」と言って、出久の頭を撫でていた。それで、ずっと張っていた気が緩んだのだろう。出久の涙腺は崩壊した。

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「すみません、見苦しいものを見せて……」

「なに、あれぐらい気にはしませんよ。人間、誰だって辛い事はあるんですから」

 

 そう言って、ルーシャスはココアを二杯持ってきた。一杯は出久に、もう一つは自分に。

 

 ココアの入ったマグカップを出久に渡して、椅子に座ったルーシャスは、ココアを一口飲んで口を開いた。

 

「出久君、前に私にも一番好きなヒーローがいるって話、覚えてます?」

「は、はい」

「実はね、その人ヒーローじゃなくてヴィジランテだったんです」

 

 出久はその事実に驚愕した。そのあと、「まぁ、そのヴィジランテの装備を私が作ってたんですけどね」と言ったルーシャスの言葉にさらに驚愕した。

 

 なんでも、前にルーシャスがいた街〝ゴッサム・シティ〟は犯罪が絶えず、表裏の両方の社会から〝犯罪都市〟と呼ばれていたそうだ。何せ、普通のギャングやマフィアだけではなく、警察にヒーロー、地方検事まで犯罪をしていた。

 

中には、街を破滅に追い込んだテロリストやピエロ姿の愉快犯もいたらしい。

 

 真に正義の心を持つ警察、ヒーローは動けなかった。そこに現れたのが、ルーシャスのいうヴィジランテ〝バットマン〟だった。空を飛んで、ロケットエンジンを積んだスーパーカー並みの速度が出る戦車で街を走り、犯罪者集団を叩きのめしたヴィジランテ。

 

 バットマンの活躍に心打たれた警察やヒーローも動き出し、ゴッサムは小さい犯罪は絶えないが、それなりの平和を手に入れたのだという。

 

「今、そのバットマンって人はどうしてるんですか?」

「さぁ? 何せ、「自分が死ななければ、街は真に平和にならない」なんて言って、死んだ芝居までした男ですからねぇ。今頃、南の島で相棒の執事とバカンスしてるんじゃないですか?」

 

 ちなみに、ルーシャスは冗談で言っているのだが、実際、本当に南の島でバカンスしていたりする。それも、美女に囲まれて。

 

 閑話休題(話を戻す)

 

「けど、そんな凄い事を成し遂げるなんて、きっと、すごい個性を持ってるんだろうなぁ」

「言い忘れてましたけど、バットマンは出久君と同じ無個性ですよ」

「ブフッ!?」

 

 出久は、ココアを噴き出した。幸い、マグカップを口に着けているときに言われたため、床にはこぼれていない。

 

「無個性!? けど、さっき空を飛んでって……!」

「フックガンで空中に飛んで、マントをハンググライダーにして滑空してるだけですよ」

「それに、敵たちを叩きのめしたって……!」

「体を鍛えてれば、個性を持った相手でも戦えますよ」

 

 出久はすごいと思った。憧れたからではなく、平和にしたいから戦う道を選んだ。今時、そんな理由で正義のために戦う人は少ないだろう。どこぞのブドウ頭など〝女子にモテるため〟なんて理由で、ヒーローを志すほどである。

 

「出久君。なんで私がこんな話をしたか知りたいかな?」

「……はい」

「ついてきて」

 

 歩いていくルーシャスとその後をついて行く出久。ちなみにだが、ルーシャスに家はかなりデカい。豪邸と言っても過言ではないだろう。出久がそう思っていると、目的の場所に付いたのかルーシャスが立ち止まった。

 

「ここです」

 

 そう言って、扉を開けると、そこには様々な物が置かれていた。何個もある黒光りしたスーツケース。剣や蝙蝠の形をしたブーメランなどのガジェット。そして、一番目を引くのは部屋の奥、真ん中に飾られている鈍い黒が光る金属で出来たヒーロースーツ。床の商品名のように置かれている三角柱を倒したようなプレートには、『BAT SUIT:V8.03』と書かれている。

 

「凄いでしょ?」

「す、凄いです! 凄すぎる!」

 

 出久は、興奮したように目を輝かせて部屋の物を観察している。それを、ルーシャスは嬉しそうに眺めていた。

 

「やっと笑てくれましたね」

「あ………」

 

 出久は、そういえば確かに、と思った。実際、出久が最後に笑ったのは、冤罪に嵌められる1時間前なのだ。

 

「私が君にこれを見せたのはね、出久君、君にお願いがあるんです」

「お願い……ですか?」

「ええ。ここにあるスーツやガジェットはバットマンが使う筈だった物だ。まぁ、バットマンが死んだ事になって使い所が無くなったんですがね」

 

 実際、スーツに使用してるチタン合金を手に入れるのに100万ドルかかったそうだ。日本円にして、約一億六千万円以上。

 

「これを見せたのは、出久君にバットマンになってほしいからなんだ」

「ええ!? 僕が、バットマンに!?」

「ええ。実際問題、使わないまま飾っておくのは忍びないんでね。それに、貴方もたかがヒーロー学校を退学されたぐらいでヒーロー()を諦められる程大人じゃないでしょ?」

 

 出久は迷った。ルーシャスの言う通り、ヒーロー学校を辞めたぐらいで出久の夢は諦められるモノではない。しかし、いざ、ヒーローになっても、彼等(雄英校の人間)にバレて、あの冤罪を言いふらされてはヒーロー活動などできないだろう。

 

「分かりました。やってみます!」

 

 だが、出久は戦うことを決めた。

 

「僕の力で、どこまで出来るか分からないけど…僕は、困ってる人を救いたい。だから、やります!」

「そう言ってくれると思いましたよ」

 

 ルーシャスは微笑みながらそう言った。

 

「けど、一つ気になることが……」

「ん? なんです?」

「バットマンやってて顔バレとかしませんよね?」

「ああ、それなら心配は無用だよ。バットマンの仮面なら、眼の虹彩を鑑定するぐらいでしか顔は特定されませんからね。それも、虹彩を鑑定するとなると静止することが大事だ。激しい動きをするバットマンなら顔バレなんてしないでしょう」

 

 こうして、出久はバットマンになる決意を固めた。

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「ところで、僕はなんで筋トレを?」

 

 バットマンになる覚悟を決めた翌日。出久は、ルーシャスの家のトレーニングルーム*1で筋トレをしていた。

 

「身長が足りないんです」

「身長?」

「ええ。バットスーツの身長は182㎝。けど、出久君の身長は166㎝と小さいんですよ。そこで、さっき飲ませた薬品の出番というわけです」

 

実は、出久は筋トレを始める前にルーシャスにある薬品を飲まされていた。効果は後で説明すると言われたので、その時は聞かなかった。

 

「あの薬品は、前にウチの会社が作った身体増強薬でしてね。さっき飲ませたのは、それを効果を薄めて身長を伸ばすだけに留めた物なんです」

「ちなみに、効果をそのままにしたらどうなったんですか?」

「速い話、量産型のオールマイトですな」

「なにそれ、こわっ」

 

実際、敵にこの薬品を盗まれて、使われたときは前代のバットマンは結構苦労したらしい。

 

こうして、半月の間筋トレをして身長を伸ばした出久は、見事身長182㎝の体を手に入れた。某盾が武器のヒーローもビックリの身体改造である。

 

その後、出久はバットマンとして活動を始めた。

*1
開いてる一室に、5時間でトレーニング器具一式をそろえた部屋。金持ちってすごい



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共同戦線

メチャクチャ高評価だったんで続けます!応援ありがとうございますm(__)m

今回の話は、出久が雄英を退学して三週間ぐらいです。雄英で期末テストが終わって一週間後あたりです。


 熱い七月の太陽が地面を照らす昼頃、あるミニサーキット場で、大砲のついていない戦車のような黒い車両が猛スピードで走っていた。ドリフトをしたり、ロケットブースターでスピードをあげたり等、試運転のような事をしている。

 

 サーキットを二、三周すると、ピットのところにドリフトしながら停車した。すると、フロントガラスの部分とボンネットとバンパーが融合してる部分が前にズレ、運転席が現れる。そこには、緑がかった癖毛とそばかすのある青年、出久がいた。

 

 出久は、車から降りるとピットに向かって歩いていき、車の走行データを取っていたルーシャスが話し掛けてきた。

 

「バットモービルの運転はどうでした?」

「結構楽しかったですよ。けど、16の僕が車を運転って大丈夫なんですか?」

「バットマンの時は顔が見えませんし、身長が180もあれば成人男性と見間違えられるから大丈夫でしょう」

 

 ルーシャスはそう言いながら、ノートパソコンで作業をしていた。そこには、出久が乗っていたバットモービルのデータが映っており、車体の中心から後方にかけて赤く点滅している。

 

「違法運転の問題よりも、バットモービルの機能の方が問題ですよ。再燃焼装置は吹っ飛びかけてて、いつ爆発するか分からない状態で、武器システムはイカれてて、使える武器はイモビライザーだけ。こりゃ、直すのに結構かかるな」

「やっぱり、五年も眠らせてたからですか?」

「でしょうな。帰ったら改修作業を始めますか……」

 

 ルーシャスはそう言ってパソコンを閉じるとバッグに入れ、出久はバットスーツのガントレットでバットモービルを遠隔操作して、運んできたトラックのトレーラーに積んだ。

 

 その後、出久は助手席に座り、ルーシャスは運転席に座って家に戻った。

 

 

 

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 その日の夕方、スポーツウェアを着た出久は何時もの様にトレーニングルームで筋トレをしていた。体を鍛え始めたあの日から、ただ単に楽しいからという理由で日課になってしまったのである。

 

 そこに、ルーシャスがタブレット端末を持ちながら入ってきた。

 

「出久君、ちょっとこれ見てください」

「え? 何ですか?」

 

 出久がタブレットを覗き込むと、そこには数人の男がトラックやバンに武器を大量に積み込んでいる所だった。

 

「これは!?」

「一昨日の夜の港の監視カメラの映像です。昼頃に、バットコンピュータが警察のデータベースから見つけてました。どうやら、他のヴィラン組織に銃を売って儲かりたいみたいですね」

 

 出久は顎に手を当て、睨むように画面を見ていると、一つ気になるモノがあった。

 

「この右肩にあるエンブレムは?」

 

 そこには、アサルトライフルを二丁重ねた上にナイフを置いたようなエンブレムがあった。

 

「それも確認済みですよ。このヴィランのマークみたいですね」

 

 ルーシャスは、タブレットの画面を横にスライドする。そこには、銃火器と融合したような左腕を持つ、赤と青のアーマースーツに包まれた男が映し出される。タブレットの上部には『ARMS』と綴られていた。

 

「アームズ……」

「ええ、彼の本名は知りませんが、この様子を見る限り前科者でしょうな」

 

 ルーシャスは画面を先ほどの映像に戻して再生した。アームズは的確な指示を出し、部下に銃をトラックに積み込ませている。その手際の良さは、初犯とは思えない。

 

「アームズのことを調べた後、ヤツ等の潜伏場所を探したら、ある街の繫華街の監視カメラにこれが映ってました」

 

 ルーシャスがタブレットを操作して、別の映像を画面上に映す。そこには、下っ端であろう男が映っていた。肩にはエンブレムが書かれている。

 

「どうやら、この男は最近ここを周回しているみたいです。で、どうします?」

 

 ルーシャスは、答えが分かりきった質問を出久に投げかける。

 

「もちろん、出動だ」

 

 そう言う出久の目は、ヒーローの目をしていた。

 

 

 

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 暗闇を月明りが照らす夜。街の中である男が物陰に隠れながら歩いていた。

 

 男の名は、塚内 直正(つかうち なおまさ)。警察官である。

 

 現在、塚内はある男を尾行していた。その男──名を猪名 進太郎(いな しんたろう)という──は、ある組織の一員のようなのだ。この組織以外にもヴィラン連合も追っている塚内は休む暇もない。

 

(コイツを押さえれば、情報が少しは掴めるか……?)

 

 すると、猪名が路地裏に入っていくのが見え、見失わないように小走りでその後を追って物陰に隠れた。

 

 そこには、先ほどまで追っていた猪名がマントを背負うヒ-ロ―の姿をした男に首を掴まれて尋問されていた。

 

「アームズの本拠地と運んだ武器は何処だ?!」

「お前に言う事は何もねぇよ! コスプレ野郎!」

 

 猪名はそう言って殴ろうとするが、その拳を掴まれて地面に叩きつけられた。拳から腕に掴むところが変え、捻り上げている。

 

「言え! 言わなければ、全身の骨を折ってやろうか?!」

「わ、分かった! アームズさんは武器の売買のために、中華街の倉庫に人を集めてる!」

「他には!?」

「日時は明後日で、そ、そこには集めた武器が一纏めにしてあるんだ! 大量の銃火器が備蓄されてる!」

「礼を言う」

 

 マントの男は、膝で猪名の顎を蹴って気絶させた。

 

 塚内は疑問に思った。〝アームズ〟とは、本名は連砲 流火(れんほう りゅうび)のヴィラン名で、塚内が追っているヴィラン組織のボスである。それを、なぜ彼が追っているのか。知る方法は一つしかないだろう。

 

 塚内は、物陰から出て男に近づいた。

 

「おい君!」

 

 声を掛けられたと認識した男は、塚内の方に振り向いた。

 

「なんだ?」

「なぜ、君がアームズを追っている?」

「ヤツは、敵組織に銃を売り捌こうとしている。この武器が、日本で出回っては危険だ。だから追っている」

「ヴィジランテはご法度だ」

 

 塚内がそう言った時、後ろから一台のバンが突っ込んできた。

 

「な!?」

 

 塚内は突然の出来事に対応できず、轢かれる光景が脳裏に映った。だが、そこにバットマンが飛び込んで塚内の腕を掴んで回避した。

 

 バットマンは塚内の体を一瞥して、怪我がないことを確認するとバンの方に目を向けた。

 

 バンは、壁に突っ込んでいて壁に赤い液体とタイヤ付近に千切れた腕があることから、目的は裏切り行為の粛清と敵の排除だろう。バンからは、6人ほどの男たちが出てきており、その中でも一人だけ二メートルはありそうな身長の筋骨隆々の大男が出てきた。

 

「お前が噂のコウモリ野郎か」

「ヒーロー気取りが! 身の程ってものを教えてやんよぉ!」

 

 そう言って、一人の男が殴りかかってきた。それを右腕で受けとめ、カウンターの左フックを決めてぶっ飛ばし、そこから跳躍して移動し、一人の男の後ろに回ると、スライディングのように足払いを掛けて男を転ばせ、バットマンは逆に立ち上がって少しジャンプしてから転んだ敵の鳩尾に拳を叩き込んで気絶させる。

 

 そこに、突進してきた男を横に飛んで回避した。だが、そこに敵が後ろから抱きつくように抑えつけてきた。バットマンは、それを後ろから両肘を敵の両頬に何十発と打ち込んだ。この攻撃で頭が揺さぶられないわけがなく、目眩を起こした敵は手を緩めてしまう。それを見逃すバットマンではなかった。手が緩んだ隙に後ろに手をやり、胸ぐらを掴んで一本背負いのように投げ、一人巻き込みながら前に吹き飛ばす。

 

 そこに、さっき突進してきた男がヤクザキックを繰り出そうと、足を上げ前に突き出した。その足を、バットマンは掴んでハンマー投げの要領で放り投げ、頭が壁に当たり気絶した。

 

 すると、横から大男が殴りかかってきた。だが、バットマンは臆する事無くマントを大男の目の前に広げて目くらましと同時に平衡感覚を失わせ、よろめいている所にパンチラッシュを叩き込む。

 

 最後に、アッパーカットを打ち込んで気絶させた。

 

「圧倒的だな」

 

 塚内が男にそう言うと、男は背を向けて去ろうとした。

 

「あっ、待ってくれ!」

「……どうした?」

「そこまで強くて、どうしてヒ-ローにならなかった?」

 

 辺りの音も聞こえず、塚内と男の間に静寂が訪れる。僅かな沈黙の後、男は口を開いた。

 

「ヒーローになろうとヒーロー学校に通った結果、全てに裏切られてしまった。だが、その程度で諦められるほど、この夢は消えはしなかった。それだけだ」

 

 そう言って、マントの男は今度こそ去ろうとした。が、またも呼び止められた。

 

「おい、ちょっと待ってくれ!」

「……今度は何だ?」

「メルアドを交換してもいいか? 君に興味が湧いた」

「犯罪者と連絡を取ってもいいのか?」

「そこは、内緒にしておくよ」

 

 そう言って片目を瞑って口に人差し指を立てる塚内に、男は少し微笑んで「分かった」と言って連絡先を交換した。その途中で、塚内はある疑問を投げかけた。

 

「そういえば、君の名前は?」

「コードネームか?」

「ああ」

 

 連絡先の交換を終えると、男は少し下がっって、腰に付いた銃のようなものを上に向ける。

 

「バットマンだ」

 

 そう名乗ったバットマンは、引き金を引く。すると、銃口からワイヤーフックが飛び出して建物に固定されると、ワイヤーがまかれてバットマンの体が宙に浮く。そのまま、建物から急速に飛んで去っていった。

 

 塚内は、バットマンが去るところを見届けると、一言ポツリとと呟いた。

 

「バットマンか……」

 

 その後、塚内は署に連絡して迎えと護送車を呼び、程無くしてきた迎えで署に戻っていった。

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 あれから三日が経ち、アームズの組織が銃の売買を行う日となった。

 

 出久は、夕方頃に準備をして、バットスーツを装着してバットマンとなって屋上から飛び立ち、手に入れた情報を元に例の中華街に向かった。

 

 中華街にたどり着いたバットマンは、屋上から通風孔を使って入り込み、天井裏の金網から中の様子を探った。そこには、大量の銃が倉庫のような場所に保管されており、大勢の手下たちによって守られていた。

 

「ふむ、意外と厄介だな」

 

 バットマンは、マスクのレンズを降ろして捜査モードに切り替えた。これにより、どこに敵がいるかやその人間の骨格、どこに何が隠されているかなどが判明する。

 

 どうやら、敵は十一人。しかし、アームズは居ないようだった。

 

「アームズがいないのが気になるな。私や警察に情報がバレたことを知って逃げたか?」

 

 バットマンは、アームズがいないことを気にしながら、横にある通風孔を潜って隣の部屋に向かった。

 

 そこには一本の鉄骨があり、下に扉と通風孔があるのだが、一台のセントリーガンによって守られていた。セントリーガンの後ろにある扉に向かうには飛距離が足りず、通風孔はセントリーガンの餌食になってしまう。

 

 そこでバットマンは、ベルトからガジェットの一つである〝遠隔ハッキング装置〟を取り出し、セントリーガンの視覚センサーを無効化した。しかし、これは三十秒で解けてしまう。

 

 そこからは迅速だった。バットマンは床に飛び降りるとセントリーガンの元へ走って、セントリーガンの後ろ部分の蓋を引っぺがして、バットラングを刺して破壊した。

 

 そして、通風孔の柵をこじ開けて中に入り込み、手下たちの下にきたが出られる場所がなく、そのまま飾られていた絵画の裏側に向かった。

 

 そこには出口があり、通風孔を出たバットマンは脆い木の板と絵画をぶち破って、手下二人の頭を掴んで地面に沈め、その周りにいた敵たちの足を払い転ばさる。

 

 そこから立ち上がったバットマンは、突進してくる敵にバットラングを投げて気絶させ、瞬間移動のような速さで次の敵に攻撃を繰り広げていく。中には、全く鍛えていないのか、一撃で沈んでいく敵もいた。

 

 敵を倒し終えたバットマンは、塚内に敵の拠点を制圧したことを報告しようとスマホを取り出した。すると、後ろからのドパンッ! という発砲音と共に、スマホが吹き飛んでいった。

 

 バットマンが後ろを振り向くと、そこには左腕がリボルバー拳銃のようになっているアーマースーツを着た男が立っていた。

 

「アームズ……!」

「ほう? 俺を知っているのか? なら、話は早い。よくも、俺のアジトをメチャクチャにしてくれたな!? 死で償わせてやる!!!」

 

 アームズはそう言って、左腕をリボルバーから普通の手に変え、背中の剣を引き抜いた。そのまま、アームズは剣をバットマンに振り下ろすが、なかなか当たらない。

 

「チッ! 男なら避けずに立ち向かえ!!」

「そう言うなら、お前は素手で立ち向かうんだな」

 

 アームズの支離滅裂な言動を論破するバットマン。その態度が気に食わないのか、攻撃に一瞬の隙が出来た。それを見逃すはずもなく、剣が外側に向けて振り回された瞬間に横腹に蹴りを放ち、よろめいたアームズ。しかし、それはただの前座だった。よろめいたアームズに避け切れる筈もなく、バットマンの回し蹴りは顔面に叩き込まれた。

 

「グハッ!」

 

 アームズは見事に床に沈んで伸びきっている。バットマンは、ガントレットのテレビ電話を起動した。すると、隣の中を見ていない部屋から音が鳴りだした。

 

 扉を開けて中を見てみると、そこには塚内が椅子に縛られて、口に布を噛ませられていた。バットマンは、急いで塚内の元に向かうと椅子の縄を斬って塚内を解放した。

 

「大丈夫か?」

「ああ、なんとかね。捕まって半日くらいしかたってないしな」

「そうか」

 

 バットマンはそう一言呟くとその部屋を出て、塚内がそれについて行く。すると、塚内は周りの光景に驚いた。自分を拘束した敵が全員のされているのである。

 

「また、ド派手にやったなぁ」

 

 感想のように呟く塚内の言葉を耳に入れながら、バットマンは敵たちを拘束していった。

 

 塚内は、バットマンの背中を見て礼を言った。

 

「ありがとう、助けてくれて」

「偶然、貴方がそこにいただけだ」

「だとしてもだよ。ありがとう」

 

 敵を拘束し終えたバットマンは、塚内の方に振り返ると、少し頭を下げた。きっと、礼は受け取った、と言う事だろう。

 

「では、私はこれで失礼するよ」

「ああ、それじゃあな」

 

 塚内と別れて建物から出たバットマンは、帰っていった。

 

 

 

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 翌日の夜。

 

 警察署の屋上で、雲にライトアップされたコウモリのシンボルがあった。それを付けたのは塚内である。

 

 あの後、バットマンについて調べたら、どうやらバットマンのいたゴッサムでは、警察署の屋上にバットシンボルを付けてバットマンを呼んでいたらしい。

 

 そこで、塚内は同じことが出来るかと思い、真似てみたのである。

 

 効果は、塚内の後ろでバットシンボルのライトをコンコンと叩く音から推して知るべしである。

 

「来てくれたか」

「こんなもので呼び出そうとするとは、上司に絞られただろう?」

「そりゃ、思いっきりやられたさ。けど、メリットの方が大きいからな」

 

 バットマンは一言「そうか」と呟いて、警察署の屋上から飛び立った。

 

 こうして、塚内とバットマンこと出久の信頼関係は築かれたのだった。



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再会

今回は前後編に分けようと思います。

というのも、途中で想像力と語彙力が死にました。
おのれリドラー!(濡れ衣)


 ある日の朝。雄英高校1年A組では、お通夜でもやっているのか? と思うような空気が流れていた。

 

 事の経緯は一ヶ月前。ある事件にまで遡る。

 

 一ヶ月前の夕方頃。ある事件が起きた。ヒーロー科の緑谷出久が性的暴行を普通科の女子生徒に行ったというものだ。それが発覚したとき、A組女子たちは普通科の女子を助け、男子は出久を袋叩きにした。

 

 その後、出久は除籍処分が下り、雄英を退学した。

 

 しかし、その三日後に事態は一変した。その事件を詳しく調べた結果、女子生徒の個性が感情増幅系の個性だというのが発覚した。さらに、その女子生徒本人が自慢するかのように口を滑らして真相を普通科の教室で語ったことから全てが発覚した。

 

 当然、女子生徒は除籍。雄英は出久に復学してもらおうと考え、相澤とオールマイトが彼の自宅を訪れた。

 

 しかし、そこはもぬけの殻だった。

 

 唯一あるのは、一室の壁にかけられた『IZUKU』と書かれた色褪せたオールマイトのネームプレート。その部屋の中には、雄英の制服、教科書類や〝将来の為のヒーロー分析 №13〟と書かれたノートに筆記用具がぎっしり詰め込まれた黄色のリュックサック。大量のオールマイトグッズ等が散乱していた。

 

 大家さんが言うには、緑谷一家の息子の方は帰ってきて一時間足らずで外出し、戻っていないという。母親は、荷物を纏めて夫の元へ高飛びしたそうだ。大家さんは、出久を気に入っており、母親に「捨ててしまって構わない」と言われた部屋の所持品をそのままにして、そのルームには新しい入居者は入れないようにしているとのことだ。

 

 詰まる所、探し人である緑谷出久は絶賛、行方不明中だった。

 

 これを、プレゼント・マイクが1Aにうっかり口を滑らし、放課後は出久大捜査である。ちなみに、マイクは相澤に絞められた。

 

 そんな訳で出久を探しているのだが、これがなかなか見つからず、難航していた。そこに、期末テストをぶち込まれ、出久を探すのに大部分の時間を使った彼らのテスト結果は、中間テスト一位の八百万でさえ危ういものとなった。後半九人は終わったと見ていいだろう。

 

 そんな訳で現在、教室はお通夜状態なのだ。

 

 そんな中、教室の扉が開き相澤が入ってきた。

 

 そして、試験結果について発表される。

 

 やはりというか、赤点は出たらしい。それを聞いて、暗くなる教室。お通夜を超えて墓地である。

 

「したがって……、全員林間合宿に行きます」

 

 見事などんでん返し。しかし、クラスの雰囲気はお通夜に戻るだけだった。

 

「そんなことより緑谷は……?」

 

 そう呟いたのは切島だった。他の生徒も、合否より出久の行方が知りたいらしい。

 

「緑谷はまだ見つかっていない。今も全力で探してる」

 

 相澤の言う通り、警察、ヒーローが総出で探している。あのグラントリノでさえも事務所に何日も帰っていないのだ。

 

「取り敢えず、君たちは林間合宿の準備をしておいてくれ」

 

 そうして、その日の放課後。切島たちは教室で話をしていた。

 

「もう一ヶ月近いってのに、なんで見つからねぇのかな?」

「隠れてるからでしょ? 世間には公表されてないけど、ネット世界じゃ緑谷のことが噂されてるよ。ヴィランだの被害者だの」

 

 上鳴と耳郎の会話に俯く一同。

 

「もう二度と、デク君と会えんのかな……」

「う、麗日くん、そんなことは!」

 

 飯田が励ますもお茶子の顔は晴れず、今にも泣きだしそうである。

 

 そこに、蛙吹が口を開く。

 

「このまま、私たちだけで調べていくのも限界だと思うの。一回、何かでリフレッシュできればいいんだけど」

「それじゃあ、明日林間合宿の用意するためにショッピングモールに行く? あんな大きいところだから、もしかしたら知ってる人がいるかもしれないよ?」

 

 葉隠の提案に一理あると考えた彼らは、翌日ショッピングモールで買い物をすることに決めた。その効果か、場の雰囲気が少しだけ和らいだ気がした。

 

 しかし、この時は誰も想像しなかった。明日、その探している男に会えることを……

 

 

 

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 翌日、お茶子は現在ナンパに遭っていた。

 

 経緯を話すと、今日は約束通り1年A組でショッピングモールへ買い物に来ていた。ちなみに、轟は母のお見舞い。爆豪はネットで出久の目撃情報を漁るようだ。

 

 そうして来たものの、それぞれ買うものが別の人がいるため、三時まで自由行動となったのだ。お茶子は蛙吹と葉隠と共に行動していたが、途中でトイレに行きたくなり、その帰り道にナンパに出くわしたという訳だ。

 

(早く梅雨ちゃんと透ちゃんのとこに行かなアカンのにぃ~!)

「ねぇ、いいでしょ? 俺達とお茶するだけだからさ~」

「いえ、結構です」

「チッ、いいから行くぞ!」

 

 痺れを切らしたのか、いよいよ強硬手段に出た茶髪の男は声を荒げてお茶子の腕を掴もうとする。いきなりの事に恐怖心が勝ってしまい、目を瞑るお茶子。

 

 しかし、衝撃は来ず代わりに男の呻き声が聞こえてきた。

 

 お茶子は恐る恐る目を開けると、そこには帽子の上にフードを被った高身長の青年がお茶子の腕を掴もうとしていた男の腕を握りしめて捻り上げている。

 

「この手は何ですか?」

「あぁ? なんだお前は?」

「質問に答えろ! この手は何だ!」

 

 青年の()()()()()が、ナンパ男たちを睨む。その眼光は、正に怒れる獅子だ。

 

「チッ! ウゼェんだ……よ!!」

 

 男は、掴まれていない方の手で顔を下から叩こうとする。しかし、それを顎を引くだけで回避した。いきなりの騒ぎに、周りの買い物客が野次馬の如く集まってくる。そこには一年A組の面々もいた。

 

 しかし、それが問題だった。

 

 顎を引いて回避したということは、その先に出ている帽子の鍔は当たるという事。上に被っていたフードごと帽子が外れ、その素顔が露わになる。

 

 その顔は、精悍さが増して大人びてはいるものの、絶対に忘れはしない顔……

 

「デク君……?」

『緑谷!?』

 

 緑谷出久本人だった。

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 時は少し遡り……

 

 太陽が真っ直ぐより、やや東に傾く昼頃。出久は、ショッピングモールで暇潰しをしていた。

 

 というのも、現在、フォックス邸は改築の真っ最中なのだ。主に、地下室作りで。そんな訳で家を一時的に追い出された出久は、バイトもないため、ショッピングモールで暇潰ししていた、という訳である。

 

 お小遣い代にしては結構な額をルーシャスに渡されていた出久は、何か自分の趣味になるモノを探そうか、と考えたわけである。ヒーロー観察は、家にノートを置いて来てしまった時から書く気が無くなってしまった。グッズ集めも同様だ。

 

 そんな訳で出久はいろんなものを試しているのだが、趣味を見つけるのは中々に大変だった。

 

 釣りは違う、射的も違う、プラモ作りも違うetc…

 

 結局のところ、出久がお金を使ったのは新しい靴や服、この前吹っ飛ばされたスマホの買い替え等だった。

 

 出久は、この後どうしようかと新しく買った最新機種のスマホでいろいろと調べていると、声が聞こえてきた。

 

 明らかな拒絶が含まれる女の声。それと、男の声が複数。

 

 出久が声が聞こえてきた方角に顔を向けると、頭を茶髪や金髪に染めてる俗に言うチャラ男がいた。おそらく、ナンパをして女性がそれを嫌がっても強引に事を進めて丸め込もうとしているのだろう。

 

 困った人は放っておけないのが出久クオリティー。出久は即座にその場所に向かった。

 

 案の定、男たちが女子を囲むように立っており、一人の男が女子の腕を掴もうとする。それを横から入り込み、腕を思い切り握りながら捻り上げる。

 

「この手は何ですか?」

「あぁ? なんだお前は?」

「質問に答えろ! この手は何だ!」

 

 出久は、嫌がっている女子に何をしている、という牽制でその言葉を放った。しかし、それは相手を逆上させるだけだったようだ。

 

「チッ! ウゼェんだ……よ!!」

 

 男は、掴まれていない方の手で弾くように手を下から振り上げてきた。

 

 しかし、バットマンとして活動する出久にとって、この攻撃は遅すぎる。顎を引いて避けるには十分だった。だが、ここで誤算が生じる。避けた腕は帽子を弾き、必然的に帽子にかかっていたフードも剥がれ落ちたのだ。

 

 民衆の前に己の顔が晒される。後ろの女子と周りが何か言っているようだが、出久は気にせず戦闘態勢に入った。

 

 腕をダランと下げ、されど脇を広げてどんな動きにも対応できる姿勢を取る。

 

 しかし、それが舐められてるように見えたのか、相手はさらに怒り出した。

 

「テメェ、舐めんじゃねぇぞゴラァ!」

「ならせめて、その三下発言をやめたらどうだい?」

 

 男が殴りかかってくるが、それを右に一回転して避け、その時に折っていた肘を伸ばし、裏拳を後ろから男の左頬に繰り出す。

 

 その後、出久は上着の前にあるジッパーを外してヒラヒラとマントのようにする。それを、一人の男にバットマンのマントを敵の目の前に広げて目くらましと平衡感覚を無くすあの技を長さの短い上着で実践した。

 

 結果は成功。男の一人は、目眩を起こしてフラフラする。そこに、パンチラッシュを叩き込んで沈めた。

 

 最後の一人は玉砕覚悟で突進してきたが、出久はそれを横に避けて首元にラリアットを叩き込んで気絶させた。

 

「「「「おおおおぉぉぉぉぉ!!」」」」

 

 周りの野次馬はすごい試合を見た。と言わんばかりの歓声を上げ、終わったと認識した野次馬はどんどん減っていった。

 

 出久は帰ろうと思い帽子を探すと、背中を突かれた気がした。後ろを振り向くとそこには、出久が被っていた帽子を持つお茶子がいた。

 

 今思えば、ナンパ男との会話の時の女子の声は麗日さんと同じだった、と思った出久。しかし、今はそこよりもこの問題である。

 

「デク君……だよね」

「あぁ~、Noって答えはあり?」

「無しだ!」

 

 出久の質問の答えは後ろから聞こえてきた。後ろを見れば、切島が先頭に立って爆豪と轟を除いた一年A組が勢ぞろいしている。

 

「緑谷! あの時は、お前のことを信じなくて悪かった! すまねぇ!」

 

 切島の謝罪を皮切りに次々と謝罪の言葉が送られてくる出久。しかし、反対に出久は突然の謝罪に混乱していた。それもそのはず、人目のあるところで謝罪の大合唱。混乱するな言われる方が無理がある。

 

「と、取り敢えず、人目のつかないところに行こう、か?」

 

 そんな混乱状態でやっと発せた言葉はそれだった。



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それぞれの道

 あの後、出久たちはショッピングモールから近い公園に来ていた。

 

 出久は彼等に背を向けており、それを1年A組の面々が不安そうに見ている。一応、帽子は返してもらったので、それを被っている。

 

 沈黙を破ったのは、切島だった。

 

「み、緑谷…その」

「さっきの切島君たちの謝罪だけどさ、許すよ」

「なら! 「けど、雄英に戻る気はない」ッ!?」

「それは、何でですの?」

 

 八百万の言葉に、出久は元クラスメイトの方を向いて答えた。

 

「今の僕はもう、ヒーローじゃないから、かな?」

「ヒーローじゃないって、君はさっき麗日君を助けたじゃないか! 十分ヒーローだ!」

「あれは偶々だ。困ってる人を助けるのは誰だってできるさ」

 

 そう言って、出久はA組に背を向けて歩き出した。

 

「もう君たちが()と会うこともないだろう。さよならだ」

 

 出久は別れを告げて歩き出した。A組はそれを止めようとするが、声が出なかった。出久の孤独のような背中に、なんて声を掛ければいいのかわからなかったのだ。

 

 そのうち、出久が見えなくなり、出久が去ったと理解した。

 

 出久も、このあとショッピングモールに買った物を取りに行って、帰宅した。

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 一方で、雄英では塚内がオールマイトと話をしていた。

 

「悪いな、時間取っちゃって。塚内くん」

「別に構わないさ。けど、どうしたんだい?」

 

 オールマイトは一呼吸入れて話を始めた。

 

「なに、個人的な話さ。最近、君が今までより忙しそうにしているのが見えてな」

「最近じゃあ、敵連合に感化されて暴れ出す敵組織が多いんだ。忙しくもなる」

 

 塚内はオールマイトにそう言うが、これはただの誤魔化しだ。塚内は、バットマン、つまりは、出久の無茶ぶりに答えるのにいろいろと捜査情報を提供している。

 

 勿論、その分塚内が追っている他の敵組織はバットマンが片付けていた。今までにバットマンが検挙した敵組織の数は15件。倒した敵は、チンピラ含め100人は軽く超えるだろう。

 

 もはや、バットマンを知らないのは日本以外の国と全世界の刑務所だけである。

 

「塚内くん。君はバットマンに協力してるだろ?」

「何を言ってるんだ? オールマイト。アイツはヴィジランテだ。警察は逮捕を方針にしてるよ」

「なら、警察署のあのサーチライトはなんだい?」

「設備の故障だろ? 署に帰ったら、整備係に言っとくよ」

 

 オールマイトが問い詰めるも、塚内はのらりくらりと交わしていく。

 

 このままだと平行線だと思い、オールマイトは本題をだした。

 

「仮に、君がバットマンと繋がってるとして、彼に会うことはできるかな?」

「なぜ?」

「少し、話をしてみたいんだ]

 

 塚内は溜息を吐いて「時間をくれ」と言って部屋を出た。

 

「塚内くん……」

 

 オールマイトの声が部屋に寂しく響いた。

 

 

 

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 その日の夜。

 

 塚内はバットシンボルを照らし、屋上である人物を待っていた。

 

 すると、何時ものように後ろから足跡が聞こえてきた。塚内が後ろを振り向けば、そこにはバットマンがいた。

 

「来てくれたか」

「用件は?」

「実は、今日の昼頃にショッピングモールで、雄英生徒の一人が敵連合の死柄木弔と接触したんだ」

「生徒の名前と時間は?」

「生徒の名前は言えないが、時間は言える。午後の二時ちょっと前だ」

「そうか」

 

 バットマンはそう返事するが、内心は荒れ狂っていた。

 

(僕が、もう少しあそこに残っていれば……!)

 

 バットマンである出久は、あのショッピングモールを一時半頃に去って帰宅していたのだ。

 

 塚内は、怒っているように見えるバットマンが心配になり声を掛ける。

 

「大丈夫か?」

「ああ、大丈夫だ……次の雄英の行事は何だ?」

「え? ああ…来週から夏休みの様で、特に行事は……あぁ! 一年が夏休み後半の一週間で林間合宿だそうだ」

「その合宿先を調べてくれ。それと、敵の情報は?」

「ああ」

 

 塚内からUSBメモリーを受け取ってベルトのポーチに入れながら、塚内の死角に向かうバットマン。

 

 そこで、塚内は思い出したように声を上げる。

 

「ああ! そう言えば、君に会いたいって人が……」

 

 しかし、塚内が言い終わる前に、バットマンは消えていた。塚内は「またか」と落胆しながら、屋内の階段を降りていった。

 

 

 

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 翌日、出久は塚内から貰ったUSBメモリーから情報を抜き取り、バットコンピュータで整理していた。

 

 現在追っている犯罪者は、敵名は「フレイムスカイ」。本名は、炎獄寺 空(えんごくじ そら)。彼の個性は、炎鳥。名の通り、炎を出し、背中の翼で飛ぶ個性だ。さしずめフェニックスと言ったところだろう。

 

 彼は、この個性を使って夜な夜な火事を起こしていた。今までに彼が起こした火事で、老人一人と子どもが三人死亡している。そのうち、一人は赤子だそうだ。

 

 二年前に犯行が止まったそうだが、最近になって放火を再開したらしい。犯罪レポートの一言コメみたいなところには、「敵連合に感化されて活動を再開した可能性有り」と書かれている。

 

 データでは、この敵はウォーターホースというヒーローを敵対視していたそうだ。放火をするもすぐに消火されてしまうため、フレイムスカイは「俺の個性とアンタの個性。どっちが上回るかな?」と言って、放火しては消火の追いかけっこだったそうだ。

 

 しかし、ウォーターホースが死亡した頃にフレイムスカイは消えたらしい。恐らく、フレイムスカイはウォーターホースを敵対視と同時にライバル視もしていたのだろう。その為、ウォーターホースが亡くなったショックで犯罪を辞めたのだ。

 

 しかし、最近では消防署を狙って放火をしているそうだ。既に三署やられているらしい。

 

 出久は、炎獄寺の犯行時の事を調べ始めた。すると、分かったことがあった。どうやら、フレイムスカイは毎週土曜日に放火しているようだ。さらに、狙った消防署は全て〇▽社製の消防車を使っているようだ。

 

 そして、襲われていない消防署はあと一署で、今日は土曜日である。つまり、今日の夜に犯行が起きるということだ。

 

 それに気づいた出久は、時計を見た。現在時刻は午後5時19分。もうすぐ夜だ。

 

 出久は急いでバットスーツに着替えてバットマンになり一階に向かった。

 

 バットマンはガレージに向かうと、そこにはルーシャスがいた。

 

「ルーシャスさん、バットモービルの改修は?」

「昨日終わりました。出動ですか?」

「ああ」

「なら、目的地まではオートドライブにして、取扱説明書を読んでください」

「分かった」

 

 バットマンは、そう言ってバットモービルに乗り込み、ガレージを出た。

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 バットマンが消防署に着いた時には、時間は午後7時ごろ。

 

 消防署は燃えていた。周りには、消防車や報道メディアに野次馬、ヒーローなどがいる。幸い、消防署から結構離れており、バットモービルが入るスペースは十分ある。

 

 バットモービルは、近くのスロープになっている頑丈な木の板で、そこへジャンプした。当然、バットモービルは注目され、上空を飛ぶヘリがその姿を照らす。

 

 しかし、バットマンはそんなこと気にせず、消防署をスキャンしている。

 

「消火システムの電源が切れている。オンラインにつなぎ直さなければ。バットモービルの出番だな」

 

 バットマンは、バットモービルをバトルモードにして、剝き出しになっている発電機にパワーウィンチを発射し、回転数を増加させて発電機を起動させた。

 

 それに伴って消火システムも復旧し、消防署はスプリンクラーがの雨に打たれて消火される。ヒーローや野次馬が歓声を上げた。

 

 しかし、安心するのはまだ早かった。消防署の壁をぶち破って敵が出てきたのだ。口にガスマスクをして、両手から炎を出し、背中の翼で飛行している。

 

「フレイムスカイ……!」

 

 バットマンがその名を呟く。それが聞こえてたのか、フレイムスカイは自身の下にあるバットモービルを見下した。

 

「貴様が、噂のバットマンか…! お前が、俺の炎は消すことはできない!!」

 

 そう言って、フレイムスカイは逃げていく。それを、バットモービルが追った。勿論、マスメディアのヘリも。

 

 フレイムスカイは、中華街を突っ切って東に向かった。それを、ドリフトや再燃焼装置のブーストで追いかけるバットモービル。

 

「燃えろ! アツく燃えろ!!」

 

 しぶとく追いかけてくるバットモービルにしびれを切らしたのか、フレイムスカイは掌の炎をバットモービルが通る道に放っていく。

 

 バットモービルは、それを横にズレる〝サイドスワイプ〟で避け、スピードを上げる。

 

 しばらく追いかけっこを続けていると、突然フレイムスカイの飛翔スピードが落ちた。

 

「クッ! 翼が!」

 

 いくら強い個性でも、疲労には勝てない。飛び続けたフレイムスカイの翼は、限界だったのだ。

 

 フレイムスカイとバットモービルの距離が縮まっていき数メートルになったところで、バットモービルからバットマンが飛び出してフレイムスカイに飛びつき、地面に墜落させる。

 

 そのフレイムスカイの上に片足を乗せて固定し、首を掴んで、顔面にラッシュを繰り出した。

 

 数発のラッシュの後、フレイムスカイが声を出した。

 

「俺は…終わらない…! 炎は……消えは…しない……!!」

「いいや、消えるさ。私が燃えさせはしない」

 

 バットマンはそう言って、頭突きを打ち込んで気絶させた。

 

 そのフレイムスカイを担ぐと、バットモービルの荷台に積み込み、荷台のドアを閉めた。

 

「おい待て! ヴィジランテ!」

 

 バットマンがバットモービルに乗ろうとすると、進行方向にヒーローがいた。どうやら、追いついてきたようだ。

 

「なんだ?」

「そ、その敵をどうするつもりだ!?」

「警察署に連れていく。分かったら、退け」

 

 バットマンの威圧感に怯み、ヒーローは道を譲った。バットマンは、それを見て「ありがとう」と一言言って、バットモービルに乗り込んで、警察署に向かった。

 

 警察署では、案の定マスメディアと野次馬、ヒーローでごった返していた。おそらく、行先を公言していたことから、先回りしたのだろう。

 

 だが、バットマンは気にすることなくバットモービルを路肩に止め、荷台を開けて降りる。

 

 フレイムスカイを肩に担ぎ、警察署の入り口にいる警官に引き渡した。

 

「すみません! 一言コメントを!」

 

 記者の一人がそう言ったのだろう。しかし、バットマンは一言も喋ることなく、バットモービルに乗ってその場を去った。

 

この出来事が、日本にバットマンがいることが、世界に、ゴッサムに知れ渡った。



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幕門:世界の反応

 翌日、昨晩の出来事は話題を呼んだ。

 

 日本では、アメリカで活動していたヴィジランテが、日本で活動を始めたというもの。

 

 日本でもコアなヒーローファンにしか、バットマンは知られなかった。しかし、別の場所は違かった。

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 小さな争いはあれど、平和になった街。ゴッサム・シティ。

 

 その街に聳える時計塔〝クロック・タワー〟の中では、椅子に座った眼鏡の女性が、時計塔に仕込んだバットコンピュータで街の平和をチェックしていた。もし何かあれば、仲間に知らせて向かわせるのだ。

 

「よし! 今日も問題はなさそうね」

 

 これが、バットマンが亡くなった後の彼女〝バーバラ・ゴードン〟の仕事だった。彼女は、バットマンが死亡した後の五年間で下半身不随を治していた。

 

 そんな彼女は、一通りチェックし終えたため少し休憩をしようと、冷蔵庫からドリンクを出そうと立ち上がった。

 

 そこに、この部屋の出入り口であるエレベーターが動き出し、何者かが昇ってきた。それは、ゴッサムを守る人間のうちの一人、ロビンというヴィジランテだ。本名を、〝ティム・ドレイク〟という。彼は、普段着の恰好で、走ってきたのか額に汗を流していた。

 

「バーバラ! ビッグニュースだ!」

「どうしたの? ティム。そんなに慌てて」

「取り敢えず、これを見てくれ!」

 

 ティムは、バットコンピュータに今朝のニュースを映し出した。そこには、ゴッサムの人気キャスターであるヴィッキー・ベールがニュースを報道していた。

 

『今日の朝6時、日本時間にして午後7時頃、日本でヴィランとヴィジランテによるカーチェイスが発生しました。その際の映像がコチラです』

 

 ニュースは、ヴィッキーの顔からカーチェイスの映像が映し出される。その映像にバーバラは目を見開いた。ヴィランの個性にではなく、ヴィランを追いかけるヴィジランテの乗り物に。重厚なフォルムの砲台のない四輪の戦車のような姿をしている。それに、バーバラは見覚えがあった。

 

「なんで……バットモービルが……!?」

「驚くのはまだ早いぞ」

 

 ティムはそう言って、映像を早送りして警察署の映像を見せる。

 

 そこには、突如現れたバットモービル。その入り口が開かれ、中から人が出てきた。尖った耳に漆黒のマント。胸には羽を広げたコウモリをイメージしたシンボルがある。

 

 そこに映ったのは、紛れもなくバットマンその人だった。

 

『すみません! 一言コメントを!』

 

 映像の記者の一人がそう言うが、バットマンは気にも留めずにバットモービルに乗って去っていった。

 

「この寡黙な感じ、完全にブルースだろ?」

「え、ええ…でも、何で日本に?」

「さぁ? 日本でバットマン抜きの生活してたけど、バットマンが必要になったとか? ルーシャスが日本で暮らしてるし」

 

 二人が、何故バットマンが日本にいるのか? と考えていると、屋根の方の入り口が開き、腰に二丁拳銃を携えている赤いフードを被った男が現れた。

 

「おい! なぜ、バットマンが日本で活動してる!? アイツは引退したはずだろ!?」

「よう、レッド。俺達も何でか考えてんだ」

 

 ティムに〝レッド〟と呼ばれた人物は、かつて〝アーカム・ナイト〟と呼ばれた敵だ。今は、考えを改めてヴィジランテ〝レッドフード〟として活動している。彼等、バットファミリーで唯一殺人を行うヴィジランテで、ゴッサムのヒーロー協会の悩みの種である。ちなみに、本名は名乗りたがらないので割愛とする。

 

「ん? おい、バットマンの顔が映ってるところがあるだろ。映してくれ」

 

 レッドフードは、何かに気付いたのかそう指示する。バーバラが、バットマンの顔が映っている所を出すと、レッドフードは解析を始めた。

 

 やがて、一つ不可解な部分が浮かんだ。

 

「バットマンの眼、金色だぞ? たしか、アイツの眼は碧だったはずだ」

「なに!? ……本当だ。だとすれば、コイツは偽物……?」

 

 段々と推測が浮かび上がってくる。このままでは、何もわからない。バーバラは腹を括った。

 

「確かめる方法は一つね。日本に飛ぶわ」

「バーバラ!? マジで言ってんのか…!?」

「ええ。なにか不満?」

「お前の親父さんはどうすんだ?」

 

 レッドフードの疑問は尤もである。娘を溺愛しているバーバラの父親が、バーバラを一人で日本に行かせるわけがない。

 

「……〝日本に旅行に行きたい〟じゃ、ダメかしら?」

「ダメだ。一人じゃ、行かせないぞ」

 

 そんな声が響き、三人が後ろを振り向けば、噂をすればで、バーバラの父親である〝ジェームズ・ゴードン〟がいた。

 

「行くなら、俺含めて三人までだ」

「「……レッド(フードは)留守番な(ね)」」

「なんでだ!?」

「だって、日本じゃ銃を乱射できないでしょ?」

 

 バーバラの尤もな正論に、レッドフードは「この銃が仇になるとは……クソッ」と怒りで震えている。

 

「分かった。今回は仕事してるさ。行くのは、バーバラとロビンとジムか」

「だな。いつ行くんだ?」

「明後日には行こう」

「なら、明後日に集合ね。荷物纏めなくちゃ」

 

 バーバラは家に帰るのか、エレベーターに乗り、それに続くようにジムとティムが入っていく。

 

 そこに残されたレッドフードは、「今度、ゴム弾を開発しよう」とボソリと呟いて、屋根から出ていった。

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 一方でアリゾナ海では、一隻の大型客船が航行していた。そのうちの一室で、ある男が本を読んでいた。男の名は、ブルース・ウェイン。かつて、バットマンと呼ばれていた男だ。

 

 現在、彼は昔に自分の家の執事だった男と二人旅をしているのだ。

 

 そんな中、部屋のドアが開き、その元執事〝アルフレッド・ペニーワース〟が入ってきた。

 

「ブルース様、お話ししたい事が」

「え? ああ」

 

 ブルースは、本にしおりを挟み、アルフレッドの話に耳を傾けた。

 

「それで、話ってなんだ?」

「前に、ルーシャスから「体の鍛え方と戦闘のやり方を全て教えてくれ」と言われたのを覚えていますか?」

「ああ。ルーシャスも身体を鍛え始めたかとは思ったが、それがどうかしたのか?」

「なぜ、彼がそんな事を言ってきたのか、その理由が分かりました」

 

 アルフレッドは、そう言ってスマホをブルースに手渡した。そこには、何かの映像が再生一時停止の状態で止まっている。

 

 ブルースが再生を押すと、映像が流れ始めた。

 

 そこには、炎をばら撒く羽が生えた敵と、それを追うバットモービルが映っていた。

 

「バットモービル!? あれは、破壊したはずだろ!?」

「ええ。ですが、フォックス氏は残していたみたいですね。そして、それを新たなバットマンに与えたようです」

 

 アルフレッドは、スマホの画面をダブルタップして時間を進める。そこには、金の瞳を持つバットマンがいた。自分も見たことない金属製バットスーツを着ている。

 

「いろいろ言いたい事があるけど、まず一つ。私はあんなバットスーツ知らないぞ!? 完全に防弾防刃仕様じゃないか!」

 

「私がたくさん怪我したのは、何だったんだ?」と憤慨するブルース。実は、バットマンが死んだことにならなければ、ルーシャスからクリスマスプレゼントでバットスーツV8.03を貰えたことなど、知る由もないことである。

 

(※つまり、ブルース・ウェインはバットスーツV7.43*1でアーカムナイト事件を解決し、ライジングでベインと戦った……)

 

 閑話休題。

 

 この動画の下には関連動画があり、日本のバットマンが公に知られる前に偶然取られた映像が上がっている。それを、ブルースは食い入るように見た。

 

 格闘戦術、尋問のやり方、扱うガジェット。まさに、ブルースの動きをトレースしたような動きだった。本物かどうかの区別の仕方など、眼の色だけである。

 

 恐らく、ゴッサムで活動していた時のバットマンの動画を見て覚えたのだろう。

 

 そこで、ブルースは疑問に思った。なぜ、この男はバットマンをやっているのだろうと。ヴィジランテをやるにしても、なぜバットマンを選んだのか。元々、悪を憎み、倒すための手段としてブルースはバットマンとして戦ってきた。

 

 彼はなぜバットマンになったのだろうか? その理由を聞かなければならない、とブルースは思った。実は、ルーシャスが唆したなどとは全く知らないブルースである。

 

そうと決まれば、行動あるのみ。ブルースはアルフレッドに話し掛けた。

 

「アルフレッド、この船が次に港に止まるのは何時だ?」

「明日の昼10時ですが、どうかしましたか?」

「日本に飛ぶ。この男に会いに行くぞ」

 

 ブルースはそう言って、アルフレッドに金瞳のバットマンが映るスマホの画面を見せ、不敵に微笑んだ。

*1
強化する前のスーツ



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敵、暗躍

アンケートに答えてくれてありがとうございます!「オリジナル」の声が多かったので、オリジナルを書いていきます!

今回はヴィラン大量放出です。もしかしたら、正体が分かるのもいるのかも?

ヴィランだけなのと、キャラがあんまし思いつかなかったので超少なめです。


 夜。

 

 それは、最も闇が深くなる、(ヴィラン)が暴れ始める時間。

 

 ある場所では暴力事件が起きる。ある場所では窃盗事件が起きる。ある場所では殺人事件が起きる。

 

 数を挙げればキリがない。

 

 それは、ここでも起きていた。

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 様々な人が笑いあって賑わいを見せる繁華街。その路地裏で一人の少女が歩いていた。少女は、黒いロングヘアでボロボロの()()()()()()()を着ている。

 

 彼女は、雄英高校で冤罪事件を起こして除籍となり、それを親に責められて家出。現在、幽鬼のように路地裏をさ迷い歩いているのである。

 

「どうして……どうして私がこんな目に…?」

 

 彼女は虚ろな目で己に問うた。なぜ、自分がこんなことになっているのか。親に怒られたこと。雄英を除籍されたこと。そして、正解(不正解)に辿り着いた。その答えに、少女はくぐもった笑い声をあげて叫んだ。

 

「アイツが…悪い…焦凍君や勝己君に! ヘラヘラ近づくアイツがッ!! アッハハハハハ!」

 

 彼女の眼には、一人の男が、ボサボサの緑色の髪の少年が映っていた。

 

 彼女の眼に生気と狂気が宿る。すべては、己を陥れたあの男に、復讐するために。

 

「凄まじい感情だね。怒りと…喜び、いや、楽しいかな?」

「!?」

 

 少女は突然聞こえてきた声に驚いて周りを見渡す。しかし、声の主は何処にもいない。

 

 すると、

 

「上だよ、上」

 

 という声が聞こえ、言葉通り上を見れば、そこにはスーツ姿にハンチング帽を被った口だけ見えている男が空中に浮いていた。

 

「何なのよ、貴方?」

「僕は君の味方さ。大丈夫だよ」

 

 男は少女の頭に手を伸ばす。個性を()()()()()ために。

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 薄暗いガレージの中で、一人の男が金属を加工していた。男の見た目は、サラサラの茶髪、百八十センチメートル近い高身長に細身ながら引き締まった体。目は瞳孔が収縮して興奮状態に陥っている。

 

 中にはマネキンがあり、それに白と金で塗装された鎧を飾っている。

 

 その他にも、壁には地図が貼られ、デスクの上にはパソコンが置かれており、デスクの前の壁には大量のバットマンの写真が貼られている。よく見れば、他にもオールマイトやエンデヴァー等のヒーローたちの写真も張られている。だが、全てズタズタに引き裂かれていた。

 

「お前じゃない……ヒーローは、勇者は俺だけで十分だ……!」

 

 男がそう言っていると、加工が終わったようで電動ヤスリから離して出来を確かめる。その出来に満足してマネキンに着けてある他の鎧と組み合わせる。

 

「後は、剣だ……」

 

 男はそう言うと、ガレージを出て裏社会の武器屋に向かった

 

 全ては、自分がバットマンを越えた勇者になるために……

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 夜が最も更けた真夜中。それども街の灯りは消えはせず、様々な灯りをが光っている。

 

 そんなビルのテナントの一つで、二人の男が話し合っていた。テナントの中は薄暗く、宙に吊られた電球数個が部屋を照らしている。壁には日本酒やウイスキーボトルなどの酒瓶が置かれている。

 

 その部屋で、一人は無精髭の生えた銀髪の男が煙草を吸いながらソファに深く座り込み、もう一人の眼鏡をかけたスーツ姿の爽やかそうな男は指を合わせながら謙虚そうに前のめりで座っていた。

 

「薬が入手できなくなった? どういうことですか義爛」

「どうもこうもねぇさ。最近活動を始めたヴィジランテがヤクを仕入れてる港で暴れたのさ。まぁ、警察が来る前にアンタの分のヤクは手に入った。危なかったぜ」

 

 義爛と呼ばれた男は面倒そうに顔をしかめて説明する。それを聞いて男は不満そうな態度を隠さずに表に出した。

 

 そもそも、この男が日本に来たのは、ある街を恐怖に陥れようとして失敗し、この国で再起を図るためだった。

 

 そこに、この邪魔である。苛つくのも無理はない。

 

「……そのヴィジランテの名前は分かりますか?」

「え? アンタ知らないのか? ここら関東でヴィジランテっつったら、()()()()()以外いねぇよ」

「なるほど、分かりました。では、薬が再び手に入るようになったら言ってください。では」

「ああ。病院のお仕事頑張ってな。先生」

 

 先生と呼ばれた男は人の良さそうな笑顔で部屋を出ていき、廊下を歩いてトイレに入った。顔を洗って鏡に映る己の顔を見る。その顔は憤怒で彩られていた。

 

「ここでも私の邪魔をするか…! バットマン!!」

 

 男は鏡に拳を打ち付ける。鏡はヒビが入り、彼の姿が無数に映し出された。



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追跡

今回は一話の話が出てきます。


 晴れやかな青空の下、今日も警察署は通報の電話のコール音や捜査会議の声が鳴り響く。

 

 そんな中、個性犯罪対策課ではある騒ぎが起きていた。

 

「え!? 薬の数が合わない!?」

 

 部屋の中で、デスクで資料整理していた塚内の驚愕が含まれた声が響く。それを、報告してきた玉川三茶は肯定するように頷いた。

 

「はい。例のあの人(バットマン)が港を片付けて去った後に我々が到着しましたが、その間の20分くらいで薬の三分の一が消えてました」

「三分の一? じゃあ、どっちが減ってるかも分かってはいるんだな? 薬の成分分析結果は?」

「はい、分かっていますし、分析も終わってます。しかし…」

 

 三茶が言葉を濁した。それを怪訝に思い、塚内が怪訝そうに尋ねる。

 

「なんだ? 何か問題か?」

「その成分が、幻覚剤のような物だったんです」

「幻覚剤? ってことはLSDか?」

 

 〝幻覚剤〟という単語だけで最も使用例の高い薬を即座に当てた塚内。個性犯罪を担当しているとしても、麻薬の種類や名前を憶えているのは、警官としての技量故だろう。

 

 しかし、その予想は外れていた。

 

「いえ、全くの新種です。データベースに何もありませんでした」

「そうか…ってことは、今夜呼び出すか…」

 

 塚内はそう言いながら、ため息をついて資料整理を再開した。

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 その日の夜。

 

 夜になったことを確認した塚内は、部屋を出て足早に屋上に向かった。屋上に着くとバットシンボルのサーチライトを点灯した。

 

「来てくれるといいが……」

 

 塚内が、そんな事を口にすると、後ろから何かが着地した音がした。振り返れば、そこにはバットマンがヒーロー着地をしている。

 

「来てくれたか」

「ヤクの三分の一が行方不明だ。警察はこの件は?」

「僕も昼間に聞いた。このことを調べられないか?」

「尋問しないのか?」

 

 バットマンの言う事は尤もである。関係者がすでに逮捕されているのだ。地道な足取り捜査よりも敵を取り調べるほうが圧倒的に合理的だ。

 

 だが、そんなものは誰だって思いつくものだ。それを行っていないのは、警官の尋問では効果がなかったのである。

 

「ヤツ等は口を割らなかったんだ、地道にやるしかない」

「……なら、私がやろう」

「君が?」

 

 バットマンの提案に、塚内は不安そうな顔になる。警官でない者が取り調べを行うというのだ。普通の人ならば、ある意味許されたかもしれない。だが、バットマンのやり方も尋問された敵の姿も塚内は見たことがあるのだ。威圧的に脅すバットマン。さらには、敵の腕をへし折る事もある。

 

 しかし、ドラッグが出回っては後の祭り。塚内は仕方がなく許可を出した。

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 二日後の夜。

 

 対面用の机がある灰色の質素な少し広めの取調室の中で、汚職を働いていた元ヒーローエアーマンこと天仁 空(あまひと そら)は囚人服で椅子に座っていた。外では何人もの警官がその様子を見ている。

 

 なぜか、偶に電気が消えたり点いたりしている所に、取調室のドアが開いて塚内が入って来る。

 

「すまないね、待たせてしまって」

「別に大丈夫ですよ。けど、この電気は何なんスか?」

 

 塚内の謝罪に気にしていないと言って己の疑問をぶつける天仁。それに、塚内は律儀に答えた。

 

「ああ、ちょっと前に暴走車が発電機に突っ込んじゃってね。予備発電が上手く回らないみたいだ」

「そうっスか」

 

 こうして、尋問が始まった。だが、難航していた。全く情報を喋らず世間話しかしない。

 

 そこで、塚内は切り札を使うことにした。

 

「ちょっと飲み物を取って来るよ」

「そうスか」

 

 塚内がそう言って部屋を退出した瞬間、警察署の照明が()調()()()()()だけ消えた。突然の暗闇に何も見えず、天仁はパニックになりかける。

 

 そこに、廊下から声が響いてきた。

 

「なんで、電気消えてんだよ!」

「今すぐ復旧してこい!」

 

 天仁は、どうやら、不慮の事故の様だと分かって安堵して、胸をなでおろす。

 

「直りました! 復旧します!」

 

 天仁は「やっとか」と呟くと照明が再び点いた。そして、そのことを一気に後悔した。照明がつくと、目の前にバットマンがいたのだ。

 

「う、うわあああぁぁぁあああ!! グハッ!?」

 

 今や、犯罪者にとってバットマンはオールマイト以上の恐怖である。それは、この男も例外ではない。バットマンに恐怖して叫ぶ天仁は殴られて椅子から転げ落ちる。

 

 そもそもこの部屋は、部屋に穴をあけてマジックミラーを取り付けただけの急造の取調室なのだ。その理由はバットマンが脅しやすくするためだが。

 

 バットマンは殴り飛ばした天仁に近づいて胸ぐらを掴んで引っ張る。

 

「残りのヤクは何処に行った!?」

「し、知らないって言ってんだろ!? 神に誓うよ!」

「私に誓え!!」

 

 バットマンは胸ぐらを掴んだまま持ち上げて壁に投げつけた。天仁は壁に叩きつけられて床に落ちる。そこに、バットマンがもう一度胸ぐらを掴んで引っ張り自分に近づける。

 

「話す気になったか?」

「あ、ああ! た、たしか、別の売人が買主に渡したんだ。アンタが去ったのを見計らって! 売人の場所は分からねぇけど、その買主の場所は分かる! な、鳴羽田だ! 鳴羽田にいる! あそこは犯罪の温床だ! ヒーローだって近づかない!」

「私がヒーローに見えるか?」

 

 バットマンは、顎を殴りつけて脳震盪を引き起こさせ、部屋から出てきた。そこに塚内が近づいてくる。

 

「バットマン! 何か分かったか!?」

「どうやら、ヤクと、それを買った人間は鳴羽田にいるようだ」

「うっ、鳴羽田か…」

「その街でなんかあったのか?」

「ちょっとね。一応言っとくと、僕はあの町に行けないから、頑張って」

「? まぁ、分かった。警察の救援は考えないことにしよう」

 

 バットマンがそう言うと、その場を去っていった。その後ろ姿を見て、塚内は溜息を吐いた。

 

「アイツに電話入れとくか……」

 

 そんな塚内の声がポツンと廊下に零れた。

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 数分後、バットマンはバットウィングで警察署から鳴羽田に向かって飛行していた。雨が降り出し、土砂降りとなっている。

 

 鳴羽田上空に着くと、バットウィングから飛び降りてマントを広げてハンググライダーのように飛行を始め、高いビルの屋上に着地する。鳴羽田は高いビル群や薄暗い路地が多い下町だ。高速道路が開通してから、治安もあまりよくないらしい。

 

 バットマンは、ビルから飛び降りて飛行を再開した。マスクの眼の部分を捜査スキャンモードにして探索をすると、程無くして怪しいマンションのような建物を見つけた。

 

 バットマンはマントを元に戻して急降下でガラスの割れた窓から部屋に侵入した。中は散乱しており、食器や本が所狭しと置かれている。その部屋に箱が数個置いてあった。

 

 中を見れば、そこにはドラッグの袋が入っている。つまり、ここで辺りということだ。

 

 すると、そこに三人の男が入ってきた。一人は、眼鏡をかけたスーツ姿の爽やかそうな男。他二人は屈強そうなチンピラのような男である。

 

「ここも用済みですね」

「ってことは、始末すんですか?」

「ああ。全部燃やせ」

 

 スーツの男がそう命令すると、二人は油やガソリン、アルコールを部屋に撒き始めた。そのうちの一人がガソリンを撒いていると、トイレを見つけてそこに入っていく。

 

 ガソリン缶を床に置いて用を足そうとしていると、ふと横に鏡があるのに気付いた。鏡に目を向ける男は、次の瞬間、物陰に隠れていたバットマンに頭を鏡に叩きつけられていた。

 

 二人はそれに気づいて、チンピラ風の男はライターの火をつけて辺りを見渡す中、スーツ姿の男がどこかに行く。

 

 チンピラ男が何もないと思ってニヤリと笑うと、横からバットマンが現れてライターを持つ腕をへし折り、頭を殴りつけて気絶させる。

 

 バットマンが上体を上げた瞬間、先ほどどこかに行ったスーツ姿の男が頭に布を被ってバットマンの顔に掌をかざした。掌には穴が開いており、そこからガスが飛び出してバットマンに降りかかる。

 

 バットマンの、出久はそのガスを喰らって幻覚を見始める。

 

 そこには、眼が紅く光った1年A組に襲われる幻覚だった。爆豪に顔面を爆破され、背中に飯田の蹴りが飛ぶ。

 

「お前が日本にいると聞いて、驚いたよ」

 

 そんな声が響く中、障子の六腕のラッシュが胴体に叩き込まれる。それを避けようとして横へ体を向ければ、峰田のモギモギを踏んでしまって足が動かなくなる。

 

 そこに、耳郎のイヤホンジャックが胴体に刺さり、爆音の衝撃波が体を襲う。

 

「今度こそ、理解させてやろう。お前がただの人間だってことを」

 

 その言葉と共に、体に何かが掛けられる。前を見れば、八百万がアルコールのビンを持っていた。そこに、轟が現れて左手に炎を出現させる。一方で、現実ではスーツ姿の男がライターに火を灯した。

 

『燃えろ、緑谷』

「消えろ、バットマン」

 

 そう言われた瞬間、轟に炎を放たれ全身が燃え始める。

 

「うっ!? ウオオオアアアアア!」

 

 全身が炎に包まれていることにパニックを起こした出久は窓から飛び出して地面に転がった。炎を消すために地面を転がって消火する。

 

 その間に、野次馬が少し集まってきた。バットマンはそれらに視線から逃れるために、路地裏に逃げ込む。フラフラとおぼつかない足取りでなんとか逃げられたバットマンは、上にグラップリングしてどこかの天井に昇る。

 

 しかし、そこで力尽きてしまい、雨に打たれながら倒れ伏す。

 

「誰か…助けて……」

 

 仰向けに体を向けて点にそう呟きながら手を伸ばす。

 

 しかし、

 

『アンタを助ける人間なんて、どこにもいないのよ!』

 

 そんな母の声に出久は意識を手放そうとする。すると、そこに誰かが来たようで、何かを言っている。

 

「助……求め…声…手……ばす男! ザ・…ロウ……!!」

 

 しかし、少ししか聞き取れず、それも意識が朦朧としている故に聞き取れない出久は、いよいよ意識を手放した。




前話で言ったように、あんましオリジナルのヴィラン思いつかなかったんで皆さんにアイデア貰いたいです。ジョーカー役とかはすでに決めてるんですけど、日ごろ出てくるボス敵が思いつかないんです。※仮面ライダーオーズのヤミーみたいなヤツ。

https://syosetu.org/?mode=kappo_view_list&uid=304573

活動報告に置こうと思うんで、よろしくお願いしますm(__)m


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守護者対帝王
合宿開始


今回と次回はA組メインで、出久はサブです。けど、ヴィランが暴れたら、バットマンも暴れるんで、ご期待ください。

バグ修正、大変だった……


 ヴィジランテ騒動から時は過ぎ、雄英高校一年A組は現在、バスに揺られていた。

 

 というのも、一年A組は林間合宿の行先に向かっているのである。その行先は、市街の離れにある山岳地帯だ。

 

 雄英高校襲撃。(元)雄英生徒の行方不明。ショッピングモールでの轟焦凍と敵ヴィラン死柄木弔の接敵。これ等の出来事の結果、雄英は予定していた合宿先をキャンセル。今回、林間合宿に力を貸してくれるヒーロー集団の持つ私有地の山も正直不安であった。

 

 そう悩んでいた雄英に、一通の電話が来た。「うちの森を使用しないか?」と。最初は勿論疑ったが、そう言ってきた人物は信用に値する人物だったのだ。

 

 雄英校は、有難く使わせて頂くことになった。

 

 最初は乗り気ではなかったA組生徒も、息を吹き返すかの如く活発的になった。今、A組を乗せてるバスの車内がお祭り騒ぎ状態だということから、それが分かる。

 

 しばらくバスが揺れ、A組のバスが停車した。A組生徒は、パーキングエリアに付いたと思いバスを降り、ずっと座っていたために固まった体を伸ばしている。

 

 しかし、そこは少し広いだけの空き地で、停まっているのはバスのほかに乗用車一台だけである。峰田は、バスの中でジュースを飲み過ぎた結果、トイレを我慢している状況だ。だが、ここにはトイレはない。

 

「何の目的もなくでは、効果が薄いからな」

 

 相澤がそう言う。すると、乗用車の扉が開き、中から声が響いてきた。

 

「よう、イレイザー! 久しぶり!」

「ご無沙汰しています」

 

 相澤は、そう言って車から降りてきた二人の女性に頭を下げる。

 

「煌めく眼でロックオン!」

「キュートにキャットにスティンガー!」

「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!」

 

 猫をイメージしたメイド服コスチュームと猫の手グローブを身にまとった女性二人の名乗りに面食らったA組は、ただ無言で二人を凝視した。

 

「今回の合宿でお世話になるプッシーキャッツのお二人だ」

「誰それ?」

「あぁ~、ちょっと待って」

 

 切島の問いに耳郎は待ったをかけて、バッグからノートを取り出した。そのノートには、〝将来の為のヒーロー分析 №7〟と書かれている。

 

 実は、緑谷家の家にあった出久の所有物は、雄英が引き取って保管しているのである。それも、綺麗に磨き、色褪せた業者に頼んで新品同様にしてもらう徹底ぶりである。

 

 しかし、ノートは傷んでしまう可能性があるため、そう言う保管が得意な耳郎が所持しているのである。

 

 探していた項目はすぐに見つかり、耳郎が音読する。

 

「あったよ。えっと『ワイルド・ワイルド・プッシ―キャッツ。連盟事務所を構える四人一組のヒーロー集団。山岳地帯の救助を主に担うベテランチーム。ヒーロー名は、マンダレイ、ピクシーボブ、虎、ラグドール』だってさ」

 

 耳郎の説明に、「へぇ~」となるA組。そのA組に、マンダレイが説明を始めた。

 

「ここら一帯はある人の私有地なんだけどね、あんたらの宿泊施設はあの山のふもとね」

『遠っ!!?』

「っていうか、ある人って誰ですか?」

「それは、お楽しみだ」

 

 相澤の含みのある言い方に、嫌な予感を覚えた一同。

 

「ま、まさか…」

「アハハ…バス戻るか……」

「そうだな、そうすっか!」

 

 次々と現実逃避を始め、バスに乗ろうとするA組。そこに、追い打ちをかけるかの如く、マンダレイの声が響いた。

 

「今は午前九時三十分。速ければ十二時前後かしら?」

「ま、まずい! 全員バスに戻れ!!」

 

 切島の叫びに、全員がバスに戻ろうとする。

 

「十二時半までに到着しなかったキティ達はお昼抜きねー」

「悪いね、諸君。合宿はすでに……」

 

 しかし、そこにピクシーボブが立ちはだかった。

 

「始まっている!!」

 

 相澤の声と共に、地面が隆起しA組生徒を崖下に吹っ飛ばした。

 

「私有地につき、個性の使用は自由だよ! 今から3時間、自分の足で施設においでませ!! この、魔獣の森を越えてね!!」

 

 マンダレイの言葉に、全員が森の中を見る。

 

「魔獣の森!?」

「なんだ!? そのFFめいた名称は!?」

 

 切島と上鳴の叫びが響く。耳郎が愚痴を零した。

 

「雄英、こういうの多すぎ…ノート無事でよかったよ……」

 

 段々と立ち上がるA組だが、一人大急ぎで木陰に入ろうとする者がいた。峰田である。あの土流に流されて尚、漏らさなかったのだ。

 

「耐えた! オイラ耐えたぞ! 木陰に隠れて!」

 

 峰田は涙目になりながら、木陰で用を足そうとする。

 

 しかし………

 

「グゥルルル……」

 

 峰田が隠れようとした場所には、黄土色の四足獣がいた。

 

「「ま、魔獣だああああ!!!」」

 

 彼等の合宿、最初の試練が訪れた。

 

 この後、彼らが昼食前にたどり着けたかは、日が地平線に沈みかけたところで到着したことから、推して知るべし。

 

 なお、峰田のプライドはズボンの染みとなった。

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 だいぶ疲労を感じさせながら、森を抜けてきたA組。制服は泥まみれでボロボロだ。

 

「何が三時間ですか!」

「ああ。それ、私たちならって意味。悪いねぇ~」

 

 マンダレイの言葉に不満を零すA組。

 

「実力差自慢かよ。やらしいなぁ」

「腹減ったー! 死ぬ!」

 

 その光景に、楽しそうに笑うピクシーボブ。

 

「ねこねこねこ。でも結構早かったね。私の土魔獣が簡単に攻略されちゃった。特にそこの3人!」

 

 ピクシーボブはそう言って、飯田、轟、爆豪を指さした。

 

「躊躇のなさは経験値によるものかしら?」

 

 そこで区切り、ピクシーボブは舌なめずりした。

 

「三年後が楽しみ! 唾つけとこぉ───!!!」

「・・・・・マンダレイ、あの人いつもあんな感じでしたっけ?」

 

 言葉通り本当に唾を四人に向けて吐きかける様子を見て、相澤は内心頭を抱えたくなった。

 

「彼女、焦ってるのよ。ほら、適齢期的なアレで色々とね」

「適齢期って言やぁ、その子どもは誰の子なんだ?」

 

 轟がそう質問すると、マンダレイが慌てて否定した。

 

「ああ、違うの。この子は、私の従兄の子どもだよ。洸汰こうた! ほら、挨拶しな。1週間一緒に過ごすんだから」

 

 だが、洸汰という少年は声を発さず、ただA組を睨みつけている。

 

「ほら、洸汰!」

「…ヒーローになりたい奴らなんかとつるむ気はねぇよ!」

 

 そう言い捨てて洸汰は、屋敷の中へ走って行ってしまった。

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 バスから荷物を取り出して屋敷の中に入っていくA組生徒達。その広さは少なく見積もっても普通の家屋の四倍はある。

 

「「「で、デケエエエエエエ!!!」」」

 

 その大きさに生徒たちが突っ込んでいると、二階から一人の男性が降りてきた。

 

「フフッ、最近の若者は元気がいいですね」

「あ、すみません」

「いえいえ、誰しも元気が一番ですから」

 

 相澤が謝罪するも、そう言ってにこやかに笑ってそう言った男。その男性は誰なのか疑問に思った生徒たち。そのうちの一人がその疑問を口にした。

 

「相澤先生。その人って誰っすか?」

「上鳴、いい質問だ。今回、この林間合宿時の私有地の森と別荘を貸して下さるルーシャス・フォックスさんだ。ちゃんと挨拶しとけよ」

 

 そう、この場所を貸し出したのはルーシャスだったのである。勿論、あの男の考えでだ。その紹介を聞いた一同は、眼を見開いた驚愕している。

 

「ルーシャス・フォックスさん!?」

「たしか、アメリカの大企業のウェイン産業の社長だよな!?」

 

 その騒ぎに、相澤の髪が逆立ち、眼が紅く光る。

 

「おい、お前ら……挨拶しろっつったろ…!」

『よろしくお願いします!!!!』

 

相澤の威圧に、A組は慌てて挨拶をした。

 

「いえ、こちらこそよろしく。先に説明しとくと、君たちが使用できるのは一階の男子部屋と女子部屋、食堂に使うダイニング。それと、男女別の風呂です。二階は立ち入り禁止にしているから、気を付けてください」

「質問してもよろしいでしょうか!」

 

 ルーシャスが一通り説明を終えると、飯田が手を伸ばして質問の許可を求めた。相澤が止めようとするが、それをルーシャスが手で制する。 

 

「構いませんよ。何でしょう?」「この建物は二階建てですが、なぜ二階は立ち入り禁止なのでしょうか!?」

 

「それを今から説明しましょう。実は、私は今、一緒に暮らしてる青年がいましてね、ここは別荘ですが、二階は彼のトレーニングルームや自室があるんです。だから、立ち入り禁止にしてます。それと、一階のガレージも立ち入り禁止です。一応、張り紙を張っておきますけど、気を付けてください」

「ありがとうございます!! 失礼致しました!」

 

 説明を終えたルーシャスは、「では、失礼します」と言って二階に戻っていった。

 

 それを見送った相澤は、A組に指示を出し始めた。

 

「よし、荷物を部屋に運んだら食堂にて夕食。その後入浴、そして就寝だ。本格的なスタートは明日からだ。さあ早くしろ」

『はい!!』

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 同時刻、出久は屋敷の二階の巨大3モニターのバットコンピュータで、その様子を見ていた。

 

「皆元気そうで良かった。前は酷い別れ方したからな」

 

 出久は、そう言いながら他のモニターをチェックする。中央モニターには屋敷と一定範囲の森の中をエリアごとに分けたマップ、右モニターには無数に仕掛けた監視カメラの映像、左モニターにはバットマンとしての他の仕事のファイルが映されている。

 

 すると、後ろのドアからルーシャスが入ってきて、出久の横に立った。

 

「しかし、思い切ったことをしましたね。彼等に見つかったら、緑谷出久は終わりですよ?」

「分かってます。けれど、少しでも彼等の夢は応援したいですから。余計な邪魔を敵共に加えさせたくない」

 

 出久にとって、A組は〝夢を追う者たち〟だ。夢に破れ、歪に夢を叶えた自分とは違う。夢を見ることはできない。けど、守ることはできる。

 

 出久は今、全力で彼らの夢を守っていた。

 

 その後ろで、ルーシャスが「貴方だって、夢を追えるでしょうに……」と零す。しかし、それは出久には聞こえていなかった。

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 その後、A組は夕食の絶品さに感動して数人泣きかけたり、峰田が風呂で覗きを働こうとして爆豪に爆破されたり、いろいろあった。

 

 そうして、気付けば皆が就寝した頃、洸汰は中々寝付けず、屋敷の中を歩き回り、気付けば二階に来ていた。

 

「あ、クソッ、ここは……?」

 

 道に迷った事に気付いた洸汰は、衝動的に愚痴を履いて、周りを見渡した。階段が何処にあるか分からない以上、歩いて探すしかない。

 

 洸汰は先に進もうとした。

 

「そこで、何をしている?」

 

 背後から声が聞こえたことに驚き、バッと振り返る洸汰。そこには、長身と思われるマントを付けた男がいた。

 

「な! なんd「シッ! 静かに。大声を出して、他の人に迷惑はかけたくないだろう? 階段なら、この先を少し行ったところで右だ。分かったな?」

 

 大声を出そうとした洸汰の口を押えて、道案内する男。洸汰は、男の問いに縦に頷いた。それを見て、男は「よし、では」と言って、反対方向に歩いて行こうとする。

 

 それを小声で呼び止めた。

 

「な、なぁ、アンタ!」

「どうした?」

「アンタが、ルーシャスっておじさんが言ってた青年なのか?」

「ああ」

「名前は……?」

「いつか、分かるさ」

 

 男は、そう言って去っていく。

 

 その後、洸汰は一階に戻り、部屋で就寝した。



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ヒーロー嫌いの少年とヒーローを諦めた男

 翌日。まだ日も昇りきらぬ5時30分頃。

 

 A組の面々は、欠伸をするものやウトウトしながらも眠気を堪えて、ジャージ姿で野外の広場に立っていた。

 

「おはよう、諸君」

 

 その場に、相澤の声が響く。

 

「本日から、本格的に強化合宿を開始する。この合宿の目的は、全員の強化とそれによる仮免の取得。具体的になりつつある敵意に立ち向かう為の準備だ。心して臨むように。という訳で爆轟」

 

 相澤はそこで話を一旦区切り、爆豪にボールを投げ渡す。

 

「そいつを投げてみろ」

「これ、体力テストの……?」

 

 爆豪に渡されたボール。それは、他クラスが入学式を行っているときに、校庭でやっていた個性把握テストに使用するボールだった。

 

「入学直後の記録は、705.2m……どんだけ伸びてるかな」

 

 そう言う相澤の前を横切り、広い場所に向かう爆豪。今までの成長具合の確認として、爆豪にボールを投げさせるのである。

 

 それに気づいた芦戸たちが声を上げる。

 

「おぉ! 成長具合か!」

「この3ヶ月、色々濃かったからなぁ! 1㎞とかいくんじゃねぇの!?」

「いったれ爆豪おおお!」

 

 その声に調子づいた爆豪は、ニヤリと不敵な笑みを浮かべて振りかぶった。

 

「んじゃあ、よっこら…………くたばれええええええええええ!!!!! 

 

 爆撃でボールを投げ飛ばした爆豪。会心の一撃だったのか、残心状態でフッと鼻で笑った。しかし、次の一言でその余裕も崩れ去った。

 

「709.6m」

 

「あれ? 思ったより……」

 

 その結果に、誰かがそう口に出した。爆豪本人でさえ、有り得ないと言いたそうな顔をしている。

 

「入学からおよそ三ヶ月。様々な経験を積んで、確かに君らは成長している。だがそれは、あくまでも精神面や技術面、あと多少の体力的なのがメインで、個性自体は今見た通りで、そこまで成長していない。だから、今日から君らの個性を伸ばす!」

 

 相澤はそこで区切り、三日月のように歯を出して笑った。

 

「死ぬほどきついが、くれぐれも………死なないように♪」

 

 そう弾んだ声で言った相澤は、生徒達からは正に悪魔に見えたことだろう。

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 一時間後。A組が集まっていたところにはB組生徒たちが集まっていた。皆、眠そうである。否、一人〝小森 希乃子(こもり きのこ)〟が寝ている。それを、〝拳藤 一佳(けんどう いちか)〟が腕を掴んで地面とキスしないように引っ張っりながら、オウム返しした。

 

「個性を伸ばす?」

「ああ、そうだ。A組はもうやってる! 早く行くぞ!」

 

 B組担任のブラドキングがそう言って、森の中を歩いていく。それに、B組生徒が続いた。

 

「前期はA組が目立っていたが、今期は我等B組の番だ。いいかぁ、A組ではなく! 我々だ!!」

(((不甲斐ない教え子ですみません! ブラキン先生!!)))

 

 B組生徒たちが心の中でそう謝罪する。一部、泣いている者もいた。

 

「突然、個性を伸ばすと言われても、二十名二十通りの個性があるし、何をどう伸ばすのか分かんないんすけど……」

「具体性が欲しいな……」

 

 そう述べる生徒に、ブラドキングは説明した。

 

 曰く、筋繊維は酷使することで壊れ、強く太くなる。それは身体能力の一部である個性も同様。であれば、鍛え方は簡単だ。個性を使い続ければいい。

 

 つまりは。

 

「限界突破ああああああ!!」

『!?』

 

 森を抜けた先には………地獄が待っていた。

 

 爆豪は煮え滾る熱湯に両手を突っ込んでは抜いて上に超大規模爆破を繰り返し、轟は五右衛門風呂に浸かって、周りを凍土、炎海に交互に変えていく。

 

 飯田は訓練所を駆けずり回り、お茶子は坂道を巨大バルーンに入って坂道をゴロゴロと転がっていく。顔の絵面が非常にまずい! 

 

 洞窟の中では、常闇と個性の黒影(ダークシャドウ)を大喧嘩している。立ち入り禁止! 

 

 砂藤と八百万は、それぞれ物を食べながら、筋トレ、創造をしている。

 

 耳郎は岩壁をイヤホンジャックで掘削し、その横で芦戸が自身の皮膚が解ける程の強酸を岩壁に出している。二人とも涙目だ! 

 

 その他のA組も地獄を見て阿鼻叫喚の嵐である!! 

 

「キャパのある発動型は上限の底上げ、異形型・その他複合型は“個性”に由来する器官・部位の更なる鍛錬。通常であれば、肉体の成長合わせて行うが……」

「まァ時間が無いんでな。お前等も早くしろよ」

 

 相澤がブラドキングの言葉を引き継ぎ、そう締めくくった。

 

「でも、私たちも入ると40人だよ? そんな人数の“個性”、たった6名で管理出来るの?」

「だから()()()だ」

 

 拳藤の疑問に対し、相澤は答えになっていない答えを返す。

 

「そうなの! あちきら四身一体!」

 

 そこに、4人の集団が現れた。

 

「煌めく眼でロックオン!!」

「猫の手手助けやって来る!!」

何処からともなくやって来る…

「キュートにキャットにスティンガー!!」

 

『ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!!』

 

 そう声高に(約1名ドスの効いた声で)名乗り、ビシッとポーズを決めるワイプシ。

 

 100人まで現在位置や弱点まで見通す〝サーチ〟を持つラグドール、地面を操り、様々な物を創る事が出来る〝土流〟を持つピクシーボブ、複数の人間に同時にメッセージを送れる〝テレパス〟を持つマンダレイ、そして、柔らかい身体で敵を殴る〝軟体〟を持つ虎。短期強化合宿には、これ以上無い程に適したメンバーである。

 

「単純な増強型は我の元に来い。我ーブートキャンプで体を鍛え上げてやる!」

(((いや、古っ!)))

 

 虎の我ーズブートキャンプに心の中でツッコミを入れるB組生徒たち。

 

 

 こうして、A組B組の個性圧縮強化合宿がスタートした。

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 日が沈みかけている夕方。ピクシーボブとラグドールが大量の食材をテーブルに乗せ、声高に宣言した。

 

「さぁ! 昨日言ったね? 世話焼くのは今日だけって!」

「オノレで食う飯くらいオノレで作れ! カレー!」

 

 特訓が終わって疲れ切ったところにでそう言われ、A組生徒もB組生徒も物理的に白くなっていた。

 

「アハハ、全身筋繊維ブッチブチ! だからって雑なネコまんまつくったら駄目ね!」

 

 その光景に、ラグドールが笑っている。子どもがボロボロのところを見て笑ってる辺り、性格が知れるというものである。そもそも、自分で食事を作れと言っている癖に、雑なネコまんまはアウト。酷い話である。

 

 が、ここで超ポジティブ思考の飯田がハッとする。

 

「確かに災害時に要救助者の心と腹を満たすのも、救助の一環。流石雄英無駄がない! 世界一ウマいカレーを作ろう皆!」

 

 この時相澤は、こう思ったらしい。

 

 〝飯田、マジ便利〟

 

 飯田の説得? のような応援? のようなものでやる気が出た一同は、汚れたジャージから私服に着替え、カレーの調理を始めた。

 

 轟や八百万が火をつけ、爆豪が野菜を斬るところで才能マンを発揮したりして、なんとかカレーは完成した。

 

『いただきまーす!』

「店で出したらビミョーかもしんねぇけど! この状況も相まって美味ええええ!!」

 

 そう言ってカレーを貪る切島や瀬呂を筆頭に、生徒たちは訓練後の疲れが最大の調味料となり残さず食べ切った。

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 一方その頃。

 

 洸汰は、屋敷から少し離れた所にある高台のような場所で寝っ転がりながら星を見ていた。

 

「こんな場所に来るとは、物好きだな」

 

 そんな洸汰に、声を掛ける男がいた。昨日の夜、二階にいた青年だ。月明りに照らされて姿が完全に見えている。だが、顔はキャップに隠されて見えなかった。

 

「何故ここに!」

「森の中に入っていくのが見えてな。腹が減ってると思って貰ってきた」

 

 男はそう言うと、懐から焼きそばパンを取り出して洸汰に差し出した。

 

「すまない。本当はカレーを貰ってこようと思ったんだが、全部食われてしまってな」

 

 男が申し訳なさそうにそう話すと、洸汰は、男の腕からパンを取って袋から出して噛り付いた。それを見て、男は嬉しそうに微笑む。

 

「バッカみてぇ。“個性”を伸ばすとか張り切っちゃってさ……気味悪い。そんなにひけらかしたいかよ、“力”を」

「……昨日、あのあと少し調べたが、君の両親はウォーターホースだろう?」

「ッ! 何で気づいた!?」

「先月あったフレイムスカイ事件。あの敵を調べたらウォーターホースの事も出てきた。事件自体は良く知っていたがな……」

 

 洸汰は、ギリッと歯ぎしりして男を睨みつけてきた。

 

「皆イカレてるよ……馬鹿みたいにヒーローとか敵とか言っちゃって殺し合って……結局力をひけらかしてるからそうなるんだよバーカ……」

 

 洸汰は、ヒーローだけではなく、個性を、超人社会そのものを憎んでいた。

 

「少し……私の話をしてもいいかな…?」

 

 洸汰は、なんの反応もせずパンを貪っている。つまり、聞くということだ。

 

「私の友達な…無個性なんだ」

「え……?」

 

 それを聞いた洸汰は、一瞬呆気にとられた。無理もない、今の世の中では、無個性の人間にそうそう出くわすことはない。

 

「先天的な物みたいでな……今の世の中、個性で優劣が決まってしまう。ソイツは、友達とヒーロー遊びをするとき、いつも敵役をやらされて、ボコボコにされてた」

「やっぱりな……結局、力をひけらk「だが、諦めなかった。いや、諦められなかった」え?」

「憧れてしまった故に、諦めきれず、ヒーローの分析をして将来役立てられるようにと研究していた」

「……その人、結局どうなったんだよ?」

「さぁな。今もヒーローを志してくれてるといいが……おっと」

 

 男は、腕時計を見るとそれなりに時間が経っていたのか、結構遅い時間になってしまった。

 

「私はそろそろ戻るよ。君も、早く戻った方が良いぞ」

 

 男はそう言って、屋敷の方へ歩いて行った。

 

「何が言いたいんだよ……」

 

 洸汰のその言葉が、その場に呟かれた。

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 夜も更け、常人なら寝静まる頃。雄英高校が林間合宿を行っている私有地を見渡せる高台。そこは、林間合宿が始まる前にA組がマンダレイとピクシーボブに会った場所だ。そこに四人の集団がいた。

 

「て言うか、コレ嫌! 可愛くないです!」

 

 自分に支給された装備に文句を言う女子高生の見た目をした少女。造形が気に入らないらしい。

 

「裏のデザイナー、開発者が設計したんでしょ。見た目はともかく、理に適ってる筈だよ」

「そんな事聞いてないです! 可愛くないって話です!」

 

 ガスマスクを付けた学ラン男の言う事を、手を上下に振って一刀両断する女子高生。そうとう気に入らないようだ。

 

「お待た~」

しほとぉ~(仕事~)しほとぉ~」

 

 そこに、アロハシャツを着た鉄骨を持つ明らかにオネェな男、上半身を拘束衣で縛られ、歯茎を剥き出しにした男、何時ぞやのヒーロー殺しの恰好をしたリザードマンが合流した。

 

「どうでも良いから早くやらせろ! ワクワクが止まんねぇよ……!」

「黙ってろイカレ野郎共。まだだ…決行は…10人全員、揃ってからだ」

 

 マントから左手を出し、ゴキゴキと関節を鳴らすマスク巨漢。その巨漢を、リーダーと思われる全身継ぎ接ぎの男が、命令する。

 

「口だけのチンピラを幾ら集めようが、ただリスクが増えるだけ……やるなら、経験豊富な少数精鋭……」

 

 ここまでくれば大体わかることだ。経験とは(ヴィラン)としての経験値だろう

 

 継ぎ接ぎの男が、口を開く。

 

 

 緑谷出久が、バットマンが予見した悪の脅威は──────

 

「まずは思い知らせろ……テメェ等の平穏が………俺達の、掌の上だと言う事を………」

 

 

 ───すぐそこまで、迫っていた……




次回、バットマンが大暴れ!!


の予定です。


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ヴィラン連合、襲来

なんか、ハードモード不評だったみたいなんで、書き直しました。


 翌日。

 

 合宿三日目。今日も強化特訓である。朝昼夜と自分で食事を作らなければいけないため、それも疲労に直結していた。

 

 そして日が暮れ、すっかり暗くなった夜。

 

 今日の夜は、クラス対抗肝試し大会を開催するらしい。

 

 だが。

 

「補習連中は、これから俺と補習授業だ」

「うそだろ!!」

「日中の訓練が思ったより疎かになったので、こっちを削る」

 

 補習組の上鳴、切島、砂藤、瀬呂、芦戸、青山は、相澤に捕縛布で巻かれて連れて行かれた。

 

「やめてくれええええ!」

「肝試させてくれええ!」

 

 補習組の叫びは空しく響いたのだった。

 

 その空気を払拭しようと、ピクシーボブがパンパンと手を叩き、注意を向けた。全員が己に注意を向けたことを確認し、ピクシーボブはルール説明を始めた。

 

「はい! と言うわけで、脅かす側先攻はB組。A組は二人一組で3分置きに出発。ルートの真ん中に名前を書いた御札があるから、それを持って帰ってくること!」

「闇の狂宴・・・」

 

 常闇がそう言う。よほど楽しみにしていたのだろう。

 

「脅かす側は直接接触禁止で、個性を使った脅かしネタを披露してくるよ!」

「創意工夫で、より多くの人数を失禁させたクラスが勝者だッ!!」

「やめてください! 汚い!」

 

 虎の最後の言葉に苦言を申す耳郎。たしかに、女子は嫌な言葉である。

 

 こうして、肝試し大会がスタートした。

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 12分後。

 

 森の中は、A組女子の悲鳴に包まれていた。

 

「じゃ、5組目・・・ケロケロキティとウララカキティ、GO!!」

 

 ピクシーボブが、そう言って少し経つと、次の瞬間、ウゥ──ンというサイレンが鳴り響いた。

 

「え!? 何っ?」

 

 マンダレイがそう言って周りを見渡す。どうやら、ピクシーボブや他の皆も状況を把握できていないようだ。

 

 すると、尾白が何かを発見した。

 

「あれは……?」

「黒煙?」

「何か燃えているのか?」

「まさか山火事!?」

「うわっ!? な、なに!?」

 

 すると、突然ピクシーボブの体がピンク色に光り、茂みに吸い寄せられる。そこに、側頭部に布にまかれた鉄骨で頭を叩かれ、そのまま地面に押し付けられて伏してしまう。

 

「なんで…? 万全を期したはずじゃぁ……なんで敵がいるんだよぉおお!」

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 広場が混乱に陥ってる頃、モニターでも出久が冷や汗を流していた。サイレンを鳴らしたのは出久だった。

 

「やっぱり来たか!」

「嫌な予感が当たりましたねぇ! どうするんです?!」

 

 そこに、ドアを開けて走って来るルーシャス。

 

「ルーシャスさんは、地下シェルターを開けて皆を避難させて! 私は出て戦う」

「分かりました! 気を付けてくださいよ!」

 

 ルーシャスはそう言って、入ってきたドアから出ていく。

 

 それを見送った出久は、モニターの横に置いてあるバットスーツを着始める。

 

 首に変声機を付け、眼にカラコンを入れ、アンダースーツを着込んでその上にアーマーを装着していく。最後に、マスクを被り、うなじにあるボタンを押して取れぬようにきつく固定する。

 

 着替え終わったバットマンは、憤怒の形相で呟いた

 

「ただでは置かないぞ! 敵連合!!」

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 一方、一階では補習組が教室に使われている一室に到着する。

 

「あれ~!? おかしいなぁ!? 優秀な筈のA組から赤点が五人も出るなんて! おかしいなぁ!? あはははははは!!」

「テメェ! どういうメンタルしてやがる!?」」

 

 物間の煽りにそうツッコむ切島。実は、この煽り言葉。昨日言われた時と全く一緒だったりする。

 

 不満そうに物間の後ろの席に着く六人。

 

 相澤は、ブラドキングに今日の補習内容を相談する。

 

「ブラド。今日は、演習入れたいんだが?」

「俺も思っていたぜ。言われるまでもなk」

 

 すると、突然補習教室にいた全員の体に電気が走る。

 

『みんな!』

 

 それに反応する一同。

 

「マンダレイのテレパスだ」

「あたし、これ好き~。なんかビクッてして」

「交信できるわけじゃないから、ちょい困r「静かに」

 

 相澤は上鳴の話を遮り、マンダレイのテレパスに耳を傾ける。

 

『敵が二名襲来! 他にもいる可能性有り! 動ける者は、すぐに屋敷へ! 会敵しても、交戦せずに撤退を!』

 

 そこまで聞くと、相澤は意識を切り替えた。

 

「ブラド。ここ頼んだ! 俺は生徒の保護に出る!」

 

 そう言って、相澤は教室から出て、廊下を駆け外に出る。

 

「ッ!?」

 

 そこには、蒼い炎と黒煙が舞っていた。

 

「マズいな」

「心配が先に立ったか? イレイザー」

 

 相澤が生徒の心配をした隙を狙って、継ぎ接ぎの男が蒼炎を噴出しようとする。

 

 だが、その男の横に黒い影が舞い降りた。

 

「何っ!?」

「ふんっ」

 

 舞い降りてきた男の腕に付いた三枚の刃で、継ぎ接ぎの男の首が刈られる。すると、継ぎ接ぎの男は泥になって消えた。

 

「な!? バットマン!? 殺したのか!?」

「いや、これは人形だ」

 

 バットマンが相澤にそう言うと、木にグラップネル・ローンチャーのフックを発射し、相澤に問いかけた。

 

「貴方はどうする?」

「このまま、生徒の保護に向かう」

「なら、戦闘は任せてもらおう」

 

 バットマンはそう言うとローンチャーの糸を巻き、グライドして空を滑空した。

 

 空を飛んで少しすると、敵とマンダレイたちが接敵しているのが見えた。バットマンは、そこにマントをたたんで急降下した。

 

「この子の頭ぁ。潰しちゃおうかs「そいつを放した方が身のためだぞ」な、グハッ!?」

「マグネ!」

 

 マグネと呼ばれたオネェのような男の後ろに着地したバットマンは、横腹に中腰状態で鋭いミドルフックをいれた。それにより、ピクシーボブが解放され、バットマンが彼女を抱えてマンダレイたちの後ろの木にローンチャーを射出して、そこまで移動する。

 

「バットマン!? 何故ここに!」

「偶々だ。飯田天哉、彼女を頼む」

 

 バットマンは、マンダレイに返答しながら飯田にピクシーボブを預ける。

 

「マンダレイ、他に行方が分からぬ者は?」

「……五歳くらいの男の子がいないの!」

 

 バットマンは、それを聞いて理解した。

 

(あの子だ。洸汰くんだ!)

 

「了解した。すぐに探す!」

 

 バットマンがそう言うと、高い木にグラップリングして空を飛んでいった。

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 急降下してマントを広げることでスピードアップして、昨日会った高台に向かう。そこには、怯える洸汰と洸汰に殴りかかろうと拳を振り上げる黒マントの巨漢が見えた。

 

 バットマンは、巨漢に向けて飛来し、滑空状態で巨漢の横っ面に蹴りを入れ、その反発で洸汰の元に近づく。

 

「大丈夫か?」

「う、うん……」

 

 バットマンは、捜査モードで傷の有無を確認し、無いことが分かると、巨漢に体を向ける。

 

「お前、知ってるぜ。この前、ニュースにでてたろ? バットマンだっけか」

「貴様のような人間に知られても、嬉しくないな。マスキュラ―。いや、今筋 強斗(いますじ ごうと)!」

「人の名前、勝手に言ってんじゃねぇ!!」

 

 マスキュラ―は、そう怒って筋繊維に包まれた腕で殴りかかってきた。それを避けようとバットマンは身をかがめる。だが、マスキュラ―はそれを上回る速度で、横に来てパンチを打ってきた。

 

「クッ!」

 

 それを避け切れず、バットマンは壁に叩きつけられる。

 

「クッ(ヤツの個性は筋肉増強。体に収まりきらない筋繊維でパワー、スピードを出してくる。この力で、洸汰くんの両親は、ウォーターホースは亡くなった!)」

 

 そう、マスキュラ―こそ、洸汰の両親を奪った張本人だった。だからこそ、洸汰は恐怖心から逃げ出すことが出来ず、高台にいた。

 

「なんだぁ? もう終わりかぁ? やっぱりヒーロー気取りの雑魚って訳だ!」

「いいや。今、貴様をどうやって倒そうか考えてる所だ」

「チッ! 減らず口叩いてんじゃねぇ!」

 

 マスキュラ―は、豪速の拳をバットマンに振り下ろした。しかし、それをバットマンは避けた。

 

「同じ手が二度も通用するわけないだろう」

「なにっ!? てッ、手がっ!?」

 

 おまけに、力加減を知らないマスキュラ―は、常に全力で拳を打ってくる。故に、下に向けて打てば、拳が地面に突き刺さって抜けなくなるのは当然だった。

 

 片膝をついて腕を引っこ抜こうとするマスキュラ―。しかし、意外とガッチリ固定されたのかなかなか抜けない。

 

 その隙をバットマンは見逃さなかった。

 

 バットマンは、頭から上半身の上半分目掛けてパンチのラッシュを叩き込む。

 

「こんの鬱陶しい!」

 

 マスキュラ―は、埋まっていないもう片方の腕で横に払うが、バットマンは屈んで回避してラッシュを打ち込む。

 

「いい加減にしろおおおおお!!」

 

 マスキュラ―は、怒りに身を任せて体を捻じる。それにより、埋まっていた腕が抜けた。

 

「さっきはよくもやってくれたなぁ!! 倍にして返してやらああああ!!!」

 

 次の瞬間、マスキュラ―の雰囲気が変わった。さっきまでとは比べ物にならないほどの怒りだ。恐らく、この男にとって、さっきまでのは遊びだったのだ。

 

 マスキュラ―は、もはや筋肉の塊と言えるような状態で、瞬速の拳を打ってきた。それをバットマンは素早い動きで避けていく。

 

「(さっきと同じような地面や壁に固定する方法はもう通用しないだろう。なら、凍らせるか)

 

 考え付いたバットマンは、ベルトからガジェットの一つである敵を凍らす手榴弾〝フリーズブラスト〟を数個マスキュラーに投げつけた。それが当たったマスキュラーは全身が氷漬けになっていく。

 

「あぁ!? 氷!?」

「そこだ!」

 

 バットマンは、フリーズブラストで筋繊維が凍り、収納もできず動きが悪くなったマスキュラーにスマッシュの連撃を打ち込み始めた。

 

 ドンドン筋繊維と共に寒さで体力も削られるマスキュラー。そこに一気に畳みかけるようにラッシュして、最後に打った顔面への拳が決定打となり、マスキュラーは地面に沈んだ。

 

 この時、マスキュラーに勝利したその姿は、洸汰にとって最高のヒーローそのものだった。



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ヴィラン連合、襲来 2

一日遅れてすみませんでした!
碌にストーリーも作れず寝落ちしてもうた!!

ヴィラン襲来はこの回含めて後二話続きます!


 マスキュラーに勝利したバットマンは、やはり苦戦だったのか肩で息をしていた。

 

「(なんとか、この子を屋敷まで連れていかなくちゃ……!)大丈夫か?」

「う、うん……」

「よし。今から君を屋敷まで送り届ける」

 

 洸汰の具合を確認したバットマンは、ガントレットに文字を打ち込む。すると、真上からエンジン音が聞こえてきた。

 

 実はこの場所、道路の真下に位置しているのだ。故に、バットモービルが駆け付けられる。

 

 洸汰を抱えながら上にグラップリングで上に昇り、バットモービルのコックピットに座らせる。

 

「私は、他の人を助けに行かねばならない。この車は、屋敷まで君を送ってくれる。だから、安心してくれ」

「う、うん」

「では、後で会おう」

 

 そう言ってバットマンは、バットモービルから降りてガントレットのボタンを押し、コックピットを閉じて発進させた。

 

 それを見送ると、ガントレットが紅く点滅し始めた。誰かから通信が来たのだ。

 

 バットマンは、ガントレットにディスプレイを展開し、テレビ電話モードにする。通話相手はルーシャスだ。

 

『大丈夫ですか?! すごい地鳴りのような音がしましたが?』

「ああ、問題ない。それより、生徒たちは?」

『シェルターで大人しくしていますよ。飯田君が上手く誘導してくれてます』

「さすがは、委員長。他の敵は?」

『虎がマグネという敵と、マンダレイはスピナーという敵と交戦してます。森の奥では、蒼炎を出してる男とタイツスーツを着ている男が一緒にいます。あ~、ガスの敵の方に急いだ方が良いですよ、脳無が襲ってます!」

「わかった。すぐに向かう」

『ガスマスクを忘れずにお願いしますよ』

 

 ルーシャスがそう言って通信が切れると、空からバットウイングが飛来し、バットマンの眼の前に向かって何かを射出した。それは、バットマンの装備を輸送する箱〝バットポッド〟である。

 

 バットポッドが開き、中には装備が入っていた。口と鼻を覆う型のガスマスクだ。見た目的に一番近いのは、ラーズ・アル・グールがゴッサムの敵〝スケアクロウ〟のガスを吸わないために使っていたマスクだろう。

 

 バットマンは、それを取って装着し、崖となっている道路から飛び降りてスピードを上げマントを広げて急加速し、ガスが渦巻く森に向かった。

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 数分前。

 

 B組の鉄哲と拳道はピンク色のガスに突進していた。先ほど、相澤から戦闘許可が出たのとお同時に鉄哲が突撃し、それを拳藤がついてきたのだ。

 

「聞いたか拳藤! ぶん殴る許可が出たぞ!」

「待てって鉄哲! このガス分かってんのか!?」

 

 そこで鉄哲は立ち止まり、拳藤の方に振り返った。

 

「ヤベェって事だろ?! 俺だってバカじゃねぇ!」

「バカ! マンダレイのテレパスに、ガスの事はなかった!」

 

 実は、先ほどの戦闘許可はマンダレイがテレパスを使って通達したこと。それにガスの情報がなかったということは、そこにガスはないということ。

 

 さらに、このガスは拡散する事無く止まっていた。

 

 そこまで聞いた鉄哲が、あまり理解できず問う。

 

「つまり、なんだ?」

「発生源を中心に、ガスが渦を巻いてる。台風的な感じでさ。つまり、その中心にガスを放出、且つ操作してるヤツがいるってこと」

「なぁるほど~! 拳藤すげぇな!」

 

 鉄哲のその言葉に、ジト目で「だから私だけついてきたんだよ……」と愚痴を零す拳藤。

 

 だが、そうなると時間の問題である。ガスマスクのフィルターがガスを無効化するのにも限度がある。ガスの濃度が高いということは、それだけガスマスクのフィルターが消耗するということ。本来では、そういう時はフィルターを交換すれば済む話だ。しかし、この突然の事態にフィルターの替えがあるわけがない。

 

 その説明を聞いた鉄哲は、眼を細め、ガスをかき分けながら走り出した。

 

「つまり! ガスが濃い方に全力で走って! 全力でぶっ飛ばせばいい!!」

「端的に言えばそうだけど! (なんちゅう単細胞っぷり!)」

 

 拳藤は、鉄哲の言う事に若干呆れている。だが、理解はできた。クラスメイトが、友達がガスのせいで苦しい目に遭った。そんな事、許せるわけがないのだ。

 

「頑張るぞ拳藤!!」

「うん! (そういうとこ、嫌いじゃないよ!)」

 

 

 だが、鉄哲と拳藤の事は、敵にはバレていた。

 

 濃すぎて若干紫が混じっているピンクのガスの中心で、学ランを着たガスマスクの敵〝マスタード〟が何かに気付く。

 

「真っ直ぐこっちに向かってきてるな。三…いや、二人かな。やっぱり、切り抜ける奴はいるんだね。流石名門校かな? でも悲しいかなぁ…どんだけ優秀な個性でも……」

 

 マスタードはそう呟きながら、学ランの内側を漁った。すると、マスタードの横のガス幕がかき分けられ、鉄哲が出てきた。

 

「見つけたぞ!!」

「人間なんだもんね」

 

 マスタードは学ランからリボルバー拳銃を取り出し、鉄哲に向けて発砲した。

 

「ああ! 体育祭の中継で見たよ! いたねぇ、硬くなるヤツ!」

 

 鉄哲の個性は〝スティール〟。言わば、金属化だ。この体なら、銃弾なんてものは大して効果はない。だが、今つけているガスマスクは別だった。

 

 ガスマスクは真っ二つに割れガスに晒される鉄哲。口を押えてガスを吸わないようにする。

 

「まぁ、関係ないよ! このガスの中で、どれだけ息止められるかって話だし!」

 

 そう余裕そうに話すマスタードに対し、鉄哲は冷や汗を流していた。

 

「(拳銃とかマジか…! しかもマスクを狙い打ち! それに、何だこのチビ!? 学ランって、タメか年下くらいじゃねぇか! 舐めやがって…!)」

 

 鉄哲は片手で口を押えながらマスタードに向けて走り出す。しかし、拳銃の銃弾に弾き飛ばされてしまった。

 

「ターミネーターごっこ? 硬化だからって、突進ってバカでしょ?」

 

 マスタードは、拳銃を持っていないもう片方の手で、自分の頭を指で突いた。

 

「名門校でしょ? 高学歴でしょ? 考えろよ?」

 

 そう嘲笑うマスタード。だが、その横から拳藤が現れた。

 

 しかし……

 

「二対一で一人は身を隠して不意打ち狙い。負けちゃうな……()()()()()()

「避けろ拳藤!」

 

 マスタードの言葉と、拳藤の横にいる人影から鉄哲が口を押えながら警告する。

 

 しかし、拳藤は反応できず、脳が剥き出しの怪人〝脳無〟に口ごと首を掴まれ、捕らわれてしまった。

 

「僕は遠距離型なんだから、近距離個性に有効なヤツ連れてるに決まってんじゃん! だから、言ったんだよ。バカってね。アヒャヒャヒャヒャ!」

 

 マスタードはそう言って二人を嘲笑った。その笑い声に合わせて拳藤の首が絞まっていく。鉄哲は警告したときにガスを吸ってしまったのか、倒れかけている。

 

「(アタシがコイツ(脳無)に気付いてれば……!)」

 

 拳藤はそう悔やんでマスタードと脳無を睨む。しかし、それで首が絞まるのが止まるわけではない。

 

 段々と意識が朦朧としてきた拳藤。意識が朧げなのと、命の危機だったのもあるのか、こんなことを思ってしまった。

 

「(お願い…! 誰か…助けて…!)」

 

 その姿を見たマスタードが嘲笑う。

 

「あのさぁ、将来ヒーローになる人間が泣くとか、噓でしょ? ヒーローはヒーローらしく敵に敵意向けて死ねよ」

「その言葉、そっくり返すぞ」

「ゴハァッ!?」

 

 次の瞬間、マスタードの顔はガスマスクごとゴシャァッと生々しい音を立てて潰された。マスタードは、殴られて気絶した。その影響でガスが晴れていく。これをなしたのは、急降下したバットマンの拳だった。

 

 そのバットマンを見た脳無は拳藤を投げ捨てて殴りかかった。投げ捨てられた拳藤は、咳き込みながら涙で滲む目で脳無が向かっていった方を見る。

 

 そこには、脳無の攻撃を躱しながら、脳無の全身をパンチラッシュして殴るバットマンの姿があった。

 

 バットマンは、最後に脳無の顎を蹴り上げる。それを受けて活動限界となったのか、脳無は動きを停止した。周りを見渡して敵を片付けたことを確認したバットマンは、ガスマスクを外して拳藤に近寄る。

 

「怪我はないか?」

「は、はい…」

 

 怪我の有無を確認すると、ガントレットを操作して洸汰を屋敷に運び終えたであろうバットモービルを呼び寄せる。丁度ここは、屋敷に続く砂利道の一つなのですぐに来るだろう。

 

 案の定十分もしないうちに走ってきた。そのバットモービルの後部座席に二人を乗せオートドライブで屋敷に運ばせ、バットマンは、目測で一番高い木にグラップリングしてグライドした。

 

 空から他の敵を探していると、空中を飛ぶマジシャン風の敵とそれを追う轟と障子の姿があった。

 

 バットマンはそれを追った。



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ヴィラン連合、襲来 ~決着~

 バットマンが、空を移動する敵とそれを追う轟と障子を見つける数十分前。

 

 森の中で轟、障子、蛙吹、お茶子は敵と会敵していた。元々は常闇もおり、爆豪を護衛していたはずだったが、姿を消していた。

 

「彼なら、俺の()()()()()()()()()()()()

 

 だが、マント・ハット・手袋・マスクというマジシャンのような出で立ちの敵〝Mr.コンプレス〟に何らかの方法で爆豪と常闇が捕えられていた。手には何か小さなビー玉のようなものがある。

 

「コイツは、ヒーロー側にいるべき人材じゃない。もっと輝ける舞台に俺たちが連れてくさ」

「返しやがれっ!」

「返せ? 妙な話だぜ。爆豪君は誰の物でもねぇ。彼は彼自身のモノだぞ? エゴイストめ!!」

 

 轟がそう叫ぶ。しかし、それをコンプレスはさも当然のように言い放った。

 

「んの野郎!」

 

 轟は右の氷を使って捉えようとするが登っている木に到達する前に敵は跳んで回避する。

 

「我々は、凝り固まった思考に、〝それだけじゃないよ〟と道を示してあげるだけ。今の子たちは価値観に道を選ばされている」

 

 木の上に着地し、演説めいた言葉を発するコンプレス。その手にある玉は二つに増えた。

 

「それと、常闇君もね。ムーンフィッシュは「歯刃」の男でな、あれでも死刑判決控訴棄却されるような生粋の殺人鬼だ。それを一方的に蹂躙する暴力性。彼も良い、と判断し、アドリブで頂いた」

「貰ってんじゃねぇ!」

 

 轟は背負っている人をお茶子に預け、大氷壁を発生させて攻撃した。体育祭でも見せたあの大氷壁。それをコンプレスは回避していた。

 

「悪いが俺ぁ、欺きと逃げ足だけが取り柄でね。ヒーロー候補生なんかと戦ってたまるか! 『開闢行動隊! 目標回収達成だ! 短い間だったがこれにて幕引き! 予定通り、この通信後5分以内に回収地点へ向かえ!』」

 

 そう通信しながら、コンプレスは器用に木の枝を跳躍して逃走する。

 

「幕引き…だと…!?」

「駄目だ!」

 

 それを、轟たちは全力疾走で追いかけた。

 

 しかし、敵の移動速度が速く、なかなか追いつけない。このままでは見失い、逃げられてしまう。

 

「くっ、何か追いつける手は…!」

「……麗日! 俺と障子を浮かしてくれ! それを、蛙吹が舌でぶん投げる! 障子は複製腕で軌道修正だ!」

「なるほど! 人間弾か!」

「わ、わかった」

 

 麗日は自身の“個性”で二人を軽くする。そして二人を蛙吹が舌を使ってしっかりと固定する。

 

「二人とも、爆豪ちゃんたちをお願いね」

 

 蛙吹の言葉に二人は頷くと投げ飛ばした。

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 その一方。

 

 森の獣道の一つで、泡瀬 洋雪(あわせ ようせつ)が八百万を抱えながら走っていた。

 

「やばいって やばいって!! やばいってこいつぅ!!!」

 

 それを、頭にバイザーを付けた2mほどの身長の大男の背中に、チェーンソーやドリルがついた腕を計五本くっ付けた様な見た目の脳無が追いかけている。

 

「八百万!? 生きてるか?! おい! 頼む走ってくれ!」

「すみません…泡瀬さん……」

 

 そう呼びかけられる八百万は、頭から血を流しており、かなりの重症である。

 

「チクショウ! チクショウ……! ッ!」

 

 泡瀬が歯を食いしばりながら走っていると、走ってる先に人影が見えた。シルエット的に男である。

 

「まだ…敵g「ここまで走れ!」

 

 何者かはわからない者のその声に励まされ、泡瀬はそこまで走りきる。男は泡瀬とすれ違うと、腰に携えている刀を取り出した。鞘はないため、腰にしまったとしても刃は丸見えである。

 

 その刀で円を描き、脳無のチェーンソー等が生えている腕を斬り落とした。

 

「ギェエエエアアアア!?」

 

 泡瀬はその光景を傍観していた。男が脳むと戦っているおかげで余裕ができた泡瀬は、男の恰好をよく見た。

 

 その姿は、黒い鎧に黒いマント、頭には鋭く尖った耳がある。泡瀬もニュースを見たため、正体は分かっていた。バットマンである。

 

 しかし、ここで疑問が生まれる。

 

「(なんで……耳が短いんだ…?)」

 

 その他にも、よく見れば他にも違うところがあった。マスクの形や、スーツの素材。胸のバットマークも微妙に違っている。

 

「……中に誰かいるな」

 

 その声を効いて、泡瀬は思考の海から引き揚げられた。気づけば、男、バットマンは脳無を倒しており、片膝をついて全身を見ていると、そんな事を言ったのだ。

 

「誰かって…誰がいるんだ?」

「それを、今から確かめる」

 

 バットマンは、刀を脳無の腹に当てて斬り開いた。すると中から緑の長髪の女性が裂け目から吐き出される。

 

「ラグドール!?」

「……知り合いか?」

 

 そう聞くバットマンに、泡瀬が頷く。すると、脳無の腹の傷が塞がっていき、斬られた腕が背中の中に収納され、立ち上がった。

 

「ま、まだ立つのかよ!?」

「だが、戦う気はないみたいだな」

 

 バットマンがそう言う通り、脳無はバットマンたちに背を向けて、どこかへ去っていく。

 

「どこに行く気だ?」

 

 泡瀬の疑問は尤もだ。そもそも、敵の目的は爆豪だ。つまり、あの脳無が引き返していくということは。

 

「帰る…? 役目を…果たしたということ…?」

「ふむ、そういう事か」

 

 八百万の言葉を聞いたバットマンは、立ち上がって腰に装着されている折り畳み式のライフルを取り出した。

 

 それを脳無に構えて引き金を引く。銃口から飛び出したのは、ただの弾ではなく追跡装置だ。

 

「これで、ヤツを追える。が、それは()()()に任せよう」

 

 森に風が流れ始めた。次の瞬間、空からジェット機体〝ザ・バット〟が飛んできてバットマンの頭上で停止した。

 

 バットマンはそれにグラップル・ガンのアンカーを発射して乗り込み、空を飛んで去った。

 

 ザ・バットの中では、アルフレッドから通信が繋がっている。

 

『日本のバットマンに挨拶をしなくてもいいのですか? ()()()()()

 

 泡瀬たちを助けたのは、バットマンはバットマンでも、中身はブルース・ウェインだった。嫌な予感が頭をよぎり、飛んできたのだ。場所に関しては、ルーシャスのパソコンから出久のバットコンピュータをハッキングしたのだ。

 

「別にいいだろう、忙しそうだったからな。それに、いつか訪問しに行く予定だしな」

『分かりました』

 

 通信が終わり、ザ・バットは速度を上げて、去っていった。

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 一方その頃。

 

 蒼炎に焼かれた森の開闢行動隊の集合地では、荼毘とトゥワイスが集まっていた。そこへトガが現れる

 

「あれ? まだ集まってるの、これだけですか?」

「イカレ女。血は取れたのか? 何人分だ?」

 

 荼毘の問いに、トガは「一人分取れました!」と声を弾ませて報告する。それにトゥワイスが反応した。

 

「一人ぃ!? 最低三人分取ってこいって言われてたよなぁ!?」

「仕方ないのです。殺されるかと思いました」

「っていうか、テンション高いな?! 何かあったのか?」

 

 トゥワイスの質問に、トガは幸せそうに話した。

 

「お友達ができたました!」

「おお! それって俺?! 嫌だね! 仲良くしよう!」

「うるせえ、少し黙れ。っ!」

 

 荼毘が、トガと支離滅裂なトゥワイスの会話を黙らせようとしたその時、空から轟、障子に踏みつけられながらコンプレスが落下してきた。

 

「爆豪と常闇を返せ!!」

 

 轟がそう叫ぶ。

 

「オイオイオイィ~! 知ってるぜ? この餓鬼共! 誰だッ!?」

 

 二重人格だろうか、またも正反対の言葉をいうトゥワイス。

 

「Mr.避けろ」

「了解っ!」

 

 コンプレスは荼毘の指示通り、姿を消すことで避ける。そこに、荼毘の蒼炎が放たれた。

 

「グッ! ウグゥウ!?」

「障子!」

 

 炎に焼かれる障子を心配する轟。轟の場合、炎に耐性があるため効果はない。だが、炎に耐性のない障子は違ったのだ。

 

 そんな轟に、トゥワイスが接近しメジャーの武器で斬りにかかってきた。

 

 しかし。

 

「グべッ!?」

「何とか間に合ったか!?」

 

 そのトゥワイスの横腹を、バットマンがグライドキックした。

 

「バットマン?!」

「なぜここに!?」

 

 バットマンの登場に驚く轟と障子。だが、バットマンは気にせず周りを見渡した。

 

「(『爆豪と常闇を返せ』と言ってたな、轟君。ってことは、この中に誘拐できる個性がいる。そして可能性が高いのは…)」

 

 バットマンの脳裏に描かれたのは、先ほどの轟と障子に炎が放たれる場面。あの時、仮面の敵コンプレスは体を圧縮して球体上にすることで炎を逃れていた。そして、今。その球体状態から元の体に戻っている。

 

 己の体にできることを、他人にかけられないというのは考えにくい。そこでバットマンの方針は決まった。コンプレスを攻撃し、二人を奪還する。

 

 そうと決まれば話は早い。バットマンはコンプレスの方へ走り移動する。しかし、そこにチューブのついた針のような物が飛来し、回避する。元を辿れば、トガがナイフ片手に走ってきた。

 

「私! 貴方の血を見てみたかったんです! 血ぃ流して、バットマン!」

「断る。自分の瘡蓋でも剥がしてろ」

 

 バットマンはトガのナイフを振り回す軌道を読んで回避し、ナイフを持つ腕を掴んで吹っ飛ばす。

 

「まったく、飛んで追って来るなんて、発想が飛んでる!」

「貴様ほどではないだろう」

「!? 速、グホォ!?」

 

 トガを吹っ飛ばしたバットマンは、スーツの性能に物を言わせて超スピードで接近し、コンプレスの顔面にフックを入れ、体勢を崩させる。

 

「バットマン! 右ポケットだ!」

 

 障子の言葉を受けて、右ポケットを探るとビー玉が二つあった。爆豪と常闇だろう。

 

「よし」

 

 バットマンは、それを確認してコンプレスから離れ、障子の元に近寄る。

 

「これか?」

「ああ。さっき見せびらかしていた、これが爆豪と常闇だ!」

 

 爆豪と常闇を奪還した障子たち。そこへ黒霧が現れ、ゲートを開く。

 

「合図から五分経ちました。行きますよ」

 

 黒霧は、それぞれトガ、トゥワイス、コンプレスと荼毘の所にワープゲートを開き、その中に入っていくトガとトゥワイス。

 

「待て、まだ爆豪が」

「いいや、大丈夫さ。マジシャンの悪い癖でね、モノを見せびらかす時は、そりゃ大体───」

 

 そう言ってコンプレスは仮面を外す。その口の中には、ビー玉が二つ入っていた。

 

「───見られたくないモノがあるからだぜ」

 

 その言葉と同時に、障子が握っていたビー玉が圧縮解放され、中のモノが現れる。それは、轟の氷だった。

 

「俺の氷!?」

「さっきの大氷壁で、逃げながらダミー作ってたか!」

 

 障子と轟が走り出し、奪い返そうとするが間に合う距離ではない。

 

「そんじゃ、お後が宜しいよう───」

 

 お後が宜しいようで。そう言おうとしたコンプレスの顔になにかが当たる。その正体は、バットマンのバットラングだ。

 

「掴め!」

 

 コンプレスの口からビー玉が吐き出される。それを障子と轟が手を伸ばして掴もうとする。

 

 障子は掴んだが、轟は掴めず、荼毘に奪われてしまった。

 

「クッ!」

「悲しいな、轟焦凍」

 

 荼毘は轟を見下ろしながらそう言った。

 

「確認だ。“解除”しろ」

「あの野郎! 俺のショーが台無しだ!」

 

 Mr.コンプレックスが指を鳴らすと個性によって囚われていた二人が解放される。

 

 障子が手にしたのは常闇の方であった。そして敵連合の手には爆豪がいた。

 

「問題無し」

 

 そう呟いて、ワープゲートに消えていく荼毘と爆豪。

 

 それを見てバットマンは走り出し、手を伸ばした。

 

 突然だが、人間とは裏表がはっきりしない生物だ。だからこそ、焦った時などはその人間の本性が出る。

 

 だからだろう。バットマンが言うには、有り得ない言葉が口から飛び出した

 

()()()()()!!」

「!? お前、デ……?」

 

 バットマンが、出久が手を伸ばすもそれは届かず、爆豪は連れ去られてしまった。

 

 この日。出久は、バットマンとして初めての完全敗北をした。




さて、今回の話でどれだけのA組生徒がバットマンの正体に気付くのか!

「かっちゃん!」を聞いていた爆豪、轟、障子、常闇にはバレてそうですが……


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葛藤

少し忙しくなってきたため、投稿できませんでした!
すみませんでした!

今回は短めです。正直言って、あんまし思いつかんかった……


 爆豪の手を掴み損ね、棒立ちになるバットマン。もう少し早くあの手が伸びていればと、内心は嵐の如く荒れていた。

 

「かっちゃん?」

「お前…まさか、緑谷か?」

 

 その意識を取り戻させたのは、障子と轟の言葉だった。爆豪勝己をかっちゃんと呼ぶのは緑谷出久だけ。バットマンの、出久の致命的なミスだった。

 

 弁明の言葉が浮かばず障子たちに背を向けていると、轟が痺れを切らしてバットマンに近づき、体ごと目線を自分に向けさせる。

 

「おい! なんとか言、!?」

 

 すると、バットマンの体が倒れ、轟に倒れかかった。

 

「少し……休ませて……」

「緑谷? おい緑谷!?」

 

 バットマンは、出久はそう言って俯き、気絶した。

 

 この後、出久は病院に運ばれた。

 

 医師の話では、右腕に罅、肋骨が二本折れている状態だった。その状態で激しい動きをしたために気絶したのである。森で動いていた時はアドレナリンがドバドバ状態だったために動けていたのだが、敵連合が去り、そのアドレナリンが切れて倒れたのである。

 

 ちなみに、出久が病院に運ばれたときは私服である。さらに言えば、A組と雄英にはバットマン=緑谷出久ということが完全にバレてしまった。

 

 その他にも、三十九名の生徒のうち、ガスによって意識不明が十五名。重軽傷者重軽傷者十名。無傷で済んだのが十三名だった。そして、行方不明者一名。

 

 また、プロヒーローは六名中二名が意識不明の重体になっていた。

 

 一方で、敵側は、マスキュラ―、マスタード、ムーンフィッシュの三名が現行犯逮捕。彼等を残して、他の敵は姿を消した。

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 雄英校に敵連合襲来から二日後。

 

 出久はボロボロの体に鞭を打ち、病院の屋上に私服姿で立っていた。右腕には、バットマンのガントレットを付けている。昨日、ルーシャスにリュックサックに入れて持ってこさせたのだ。

 

 屋上から街を眺めていると、ルーシャスから通信が入る。

 

『本気でやるんですか?』

「ええ。バットウィングを関東県内上空に飛ばし、ガントレットが録音していた荼毘、Mr.コンプレス、トガヒミコ、スピナー、マグネ、トゥワイス、黒霧の声紋を照合して、奴等の拠点を暴き出す」

『バットウィングに光学迷彩機能をつけといて良かったですな。やりますよ?』

「ええ。お願いします」

 

 出久は、ガントレットにモニターとキーボードを出し、バットウィングを関東圏内の街中の上空で飛行させる。それにより、あらゆる人間の声がスキャンされていく。

 

 しばらくして、ようやく見つけ出した。

 

「神奈川県の横浜市、神野区……」

『夜の街で有名な場所ですね。一度行ったことがありますが、私は好みじゃありませんでした』

「ありがとう、ルーシャスさん」

 

 出久は通信を切り、ガントレットを背後のベンチに置いてあるリュックサックに入れた。

 

 すると、屋上への出入り口が勢いよく開いた。そこには、A組の皆がいた。

 

「緑谷! ここにいた!」

「緑谷君! 安静にと医者「私は大丈夫だ。退いてくれ」

 

 上鳴と飯田の話を遮って、A組の中を通って出口に向かう出久。その手を切島が掴んでいた。

 

「なぁ緑谷。一人で無理すんなよ! 少しは俺達にも頼ってくれよ!」

「………どうやって頼れというんだ? 私はヴィジランテ。犯罪者だ。犯罪者がヒーローに頼れるわけないだろう」

「ああ、確かにお前はヴィジランテだよ。でも、それは俺たちがヒーローになるのを邪魔したから! ヴィジランテになるしかなかったんだろ!?」

 

 切島の叫びが屋上に響く。出久が少し振り返って彼の顔を見ると、泣いていた。悔しいのだ。合宿襲撃の時に屋敷のシェルターにいた間、もう雄英とは関係のない出久が戦って、傷ついたことが悔しいのだ。

 

「そうだとして、君たちに何の関係がある?」

「!?」

 

 出久の言葉に、気付けば轟が出久の頬を殴っていた。よろめく出久の胸ぐらを轟が掴む。

 

「関係あるだろ! お前、職場体験行く前に飯田に言った事覚えてっか? 今、お前に行ってやる。辛いときは頼れよ! 俺たちは()()だろうが!」

「……だとしても、君たちを巻き込むわけにはいかない。話は終わりだ」

 

 出久は轟の腕を振り払って出口に進んでいき、そのまま病院を去った。

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 フォックス邸に戻った出久は、屋敷地下のバットケイブで戦いの準備を進めていた。塚内にメールで、爆豪勝己が攫われている場所に向かうと送り、その際、ある場所の座標も送った。その場所は、脳無の倉庫だった。

 

実はこの座標、誰かも分からない相手からある周波数がメールで届き、それを追った結果見つけたのである。最初はこのメールを疑ったが、ルーシャスが信用できると言ったため、出久も信用したのである。

 

 敵襲来時の戦闘でボロボロになったバットスーツは、改修不可になる程に傷ついていた。そんな出久に、ルーシャスは新たなバットスーツを用意していた。

 

 デザインと機能は同じまま、腕力補助強化装置や脚力補助強化装置を付けてパンチやキック、ジャンプ力を強化してある。その名も〝バットスーツV8.04〟である。

 

 準備を進める出久に、それを手伝うルーシャスが声を掛けた。

 

「しかし、良かったんですか?」

「何がですか?」

「出久君の友達への冷たい言葉ですよ」

「……聞いてたんですか」

「というより、聞こえてしまった、というのが正しいですな。出久君。私は説教みたいなことを言うのは得意じゃないんですが、敢えて言わせてもらいますよ。もう少し友達に心を開いてもいいと、私は思いますよ」

「バットマンに友達はいない」

「バットマンにはね。けど、貴方は緑谷出久という一人の少年です。少しは弱音を吐いたって、罰が当たったりはしないんじゃないですか?」

 

 出久は黙り込んでしまう。少し悩んだが、出久の考えは変わらない。彼等を、友達を危険に巻き込めない。だから、一人で戦うのだ。



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雄英謝罪会見

今回も少なめです。

少し遅れてすみませんでしたm(__)m


 雄英の謝罪会見は始まった。

 

「この度、我々の不備からヒーロー科1年生に被害が及んでしまった事。ヒーロー育成の場でありながら敵意への防衛を怠り社会に不安を与えた事、謹んでお詫び申し上げます。誠に申し訳ございませんでした」

 

 相澤が代表して発言する。

 

「NHAです。雄英高校は今年に入って四回、生徒が敵に接触していますが、今回、生徒に被害が出るまで各ご家庭にどのような説明をされたのか、また具体的にどのような対策を行ってきたのかお聞かせください」

 

 記者の問いに対して根津が答えた。

 

「周辺地域の警備強化、校内防犯システムの再検討、〝強い姿勢〟で生徒の安全を保障する……と説明しております」

「生徒の安全……と仰いましたね。イレイザーヘッドさん。事件の最中、生徒に戦闘を促したらしいですねぇ……。その意図について是非、お聞かせ下さい」

 

 先ほどの記者が質問を続けていた。

 

「私どもが状況を把握しきれなかった為、最悪の事態を避けるべくそう指示いたしました」

「最悪の事態とは? 多数の被害者とは最悪では無いと仰るので?」

 

 粘着するように、質問を続ける記者。

 

「……私が考えた最悪の事態とは……生徒たちが成す術もなく殺されてしまうことでした……」

「被害の大半を占めたガス攻撃……これについては、判明しており、敵の個性によるもの。催眠ガスの類だったそうです。生徒たちの迅速かつ適切な判断により、全員、命に別状はなく、また生徒達のメンタルケアも行っておりますが、深刻な心的外傷などは今のところ見受けられません」

 

 根津が相澤の発言を繋ぐようにそう述べる。その回答が気に入らないのか、記者は少し敵意を混ぜた質問をした。 

 

「……不幸中の幸いだとでも?」

「未来を侵されることが一番の最悪だと考えております」

「……緑谷出久君についても同じことが言えますか?」

 

 緑谷出久の名前が出た途端、場の空気は一気に変わり、ザワザワと話声が広まっていく。

 

「彼は過去に、冤罪事件により、その未来を潰されました。そして、現在では行方不明となっています。彼に対しても同じことが言えますか?」

「(分かってはいたが攻撃的だ……! ストレスをかけて、粗野な発言を引き出そうとしている……! これはマズいぞ……恐らくイレイザーのメディア嫌いを知っての挑発か……!? ダメだイレイザー! 乗ってはいかん!)」

 

 相澤の言動を気にするブラド。

 

「……行動については私の不徳の致すところです」

 

 だが、予想はいい意味で裏切られ、相澤は綺麗に頭を下げた。なんとか気持ちを抑えていることを確認し、ブラドが安堵するも……

 

「私は一つの仮説を立てました。最近、噂になっているヴィジランテのバットマン。彼が活躍し始めたのは緑谷出久が行方不明になった一週間後です。偶然にしては出来過ぎではないですか? 彼の正体は、緑谷出久。そして、もしや彼は、ヴィラン連合側の内通者だったのでは? バットマンは今回の合宿襲撃にも顔を出していますが、その場の敵達に生徒たちの個性を知らせ、有利に進めて行くためでは? 今までの事件や、マスキュラーの件も油断させるための策だと考えると、成立しないわけではありません……これが、私の考えた仮説です」

 

 自信満々に話し終えた記者。その周りは大きくざわめいた。

 

 そこに、

 

「私に、言いたい事があるようだな?」

 

 そんな言葉が会場に響く。全員がそこを見ると、バットマン本人が立っていた。

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 遡る事三十分前。

 

「出久君、これ見てください!」

 

 バットスーツを装着し、出撃しようとするバットマンは、ルーシャスの方に振り返った。ルーシャスは、タブレットの画面を見せてくる。

 

 そこには、手だらけの男〝死柄木弔〟が記者のような男に金を渡している所が映っていた。

 

「これは?」

「監視カメラの映像です。この記者が、さきほど雄英の謝罪会見場のに入っていくのが目撃されました」

「……仕事が増えるな。塚内警部にメールで遅れると伝えてくれ」

「分かりました」

 

 ルーシャスは、引き返してバットコンピュータからメールを送信し、その他のパソコン作業を行っている。

 

 バットマンはバットウィングに乗り、謝罪会見の場所に向かった。

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 バットマンの登場に周囲がざわめく中、バットマンは記者の元に歩いていく。それを記者の男は、目を見開いて興奮したような顔でバットマンを見た。

 

「そして今、私の仮説が真実だという証拠に、彼はこうして私の元に歩い、グハッ!」

 

 バットマンは、記者が言い終わる前に首を掴んで持ち上げた。その光景に周囲の記者たちが、「本当に内通者なのか!?」と騒ぎ始める。

 

 だが、バットマンの次の言葉で、その話題は別のモノとなった。

 

「お前の素性は調べてある。表ではゴシップ記者の報煉 慎誤(ほうれん しんご)。裏では敵名フェイクとして、敵から得た情報と金で記事を捏造し、政治家やヒーローを破滅させてきた」

「な、なるほど…ですが、証拠は? 証拠がなければ、貴方は暴行罪の罪に問われ「一時間前の映像だ。お前が、敵連合の死柄木弔から金を貰っているところだろう?」な!?」

 

 証拠を要求した報煉に、バットマンは会見場にあるテレビをジャックして証拠映像を流した。これにより、他の記者たちが怒鳴り始めた。

 

「ふざけんなよ! クソ野郎!」

「報道を舐めてんのか!? ゴラ゛ァ゛!」

「バットマンの事を敵とか言って、お前が敵じゃねぇか!」

 

 周りの声に怯えだした報煉は、バットマンの体を蹴って手から解放される。バットマンは蹴られたところが痛むのか、動くのが僅かに遅れた。

 

 その隙に逃げようとするが、その先には、他の報道関係の記者やカメラマンが壁のように並んでいた。そのうちの一人の女性記者が、笑っていない笑顔でマイクを向ける。

 

「今のお気持ちをお聞かせください♪ 真実を皆に届ける仕事をする、我々記者を馬鹿にしたお気持ち、をっ!」

 

 生々しくグシャッという音が響く。この後、報煉がどうなったかは、独房で「報道怖い。女性怖い」とリピートしながらもうない股間を抑えていた事から推して知るべしだ。

 

 報煉がマスメディアに囲まれる一方で、バットマンは蹴られた所に鎮痛剤を注入して我慢する。そこに、相澤たちがやってくる。

 

「おい、み「この場ではバットマンと」…バットマン。お前病院は?」

「昼に抜け出してきた」

「リカバリーガールが治癒したとはいえ、君は肋骨を二本骨折していたんだから、動かない方がいいのさ」

 

 根津がバットマンに「ゆっくり休むべき」と提案するが、バットマンはそれを頭を振って拒否し、入り口へ向かう。それを呼び止める人がいた。相澤だ。

 

「バットマン、どこに行く?」

「長い夜になる。今夜は、まだバットマンが必要だ」

 

 バットマンはそう呟いてその場を去っていった。



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