「貴方がカミーユビダン君ね?」 (クソザコぎつね)
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黒い使徒 壱

カミーユ君が大人達を修正しまくるのが見たくて書きました。


時は西暦2015年 場所は第三新東京市

 

いつもなら車や人でごった返すはずが、そこには人影はひとつも見当たらない。それもそのはず、今ここには特別非常事態宣言が発令されており、皆シェルターにいるのだ。

 

第三新東京市のひらけた道路を青い車が全速力で疾走する。

 

「よりによってこんな時に見失うだなんて〜、参ったわね」

 

その車を動かす彼女が探している人物、それはここにいた。

 

 

 

 

 

 

 

受話器の中から先程も聞いた音声が再度流れてくる。

 

「・・・クソッ!来るんじゃなかった!」

 

乱暴に受話器を戻し、手元の写真を見る。

その写真にはとある美女が写っていて、その女性との待ち合わせの時に使うものだった。ご丁寧にキスマークも付いている、破廉恥この上ない。

 

「待ち合わせは駄目か・・・仕方ない、シェルターに行くか」

 

顔を上げると、道路に少女が立っていた。

 

(何だ・・・あの女)

 

鳩が突然飛び去り目を奪われると、先程の道路には誰も立っていなかった。

 

(何だったんだ?)

 

「うぐッ!!」

 

その瞬間、耳をつんざく爆音と衝撃波が体を襲った。

 

(今度は何だ!)

 

後ろを振り返り、山の方を見ると、軍のVTOLが数機ほど見えた。それを追ってか、山の間から黒い巨体がその姿を表した。

 

「は?」

 

考えている暇もない、その巨体の腕から放たれた槍により一機のVTOLがこちらへ墜落してきた。間一髪目の前に落ちたは良いものの、巨体に踏み潰されたVTOLが爆発し、思わず両手で顔を覆う。

 

だがその爆発が自分の方へと危害を与える事は無かった。何事かと思い顔を上げると、そこには写真に写っていた美女が車を滑り込ませていた。

 

「ごめーん、おまたせ」

 

(誰なんだ?この女・・・)

 

ここは危険地帯、一刻も早く離れなければ踏み潰されてミンチより酷いことになるだろう。

 

「早く乗って!」

 

(この子が司令の息子・・・随分中性的ね)

 

 

 

 

 

 

 

どれぐらい走っただろうか、周りには先ほどまであった高層ビルなどはなく、山が広がっている。双眼鏡を取り出し、女性が先程の巨体を覗きながら一言叫ぶ。

 

「ちょっとまさか、N2地雷を使うわけ⁉︎」

 

(N2地雷・・・軍のアレか・・・マズイ!)

 

「伏せて!」

 

その言葉と共に激しい閃光が視界を奪う。あとに残ったのは夕焼けより真っ赤な空と、焼け爛れた大地だった・・・

 

「大丈夫だった?」

 

「おかげさまで、口に砂が入る程度で済みましたよ」

 

「そいつは結構、じゃ、行くわよ、せーの!」

 

ひっくり返ってしまった車をなんとか元に戻した。

 

「どうもありがとう、助かったわ」

 

「いえ、お互い様ですよ。葛城さん」

 

「ミサトで良いわよ、改めて宜しくねカミーユビダン君」

 

「あまりその名で呼ばないで下さい・・・」

 

「んじゃぁ、ビーちゃんってのはどう?」

 

「・・・まぁ、いいですよ」

 

(父親に似て、若干頑固ね・・・)

 

ミサトは少し苦笑いするのだった。




補足 カミーユ君、何故碇が入っていないのかですが、親戚に預けられる時に親戚の名前がビダンで、外国が関係してるみたいな解釈でお願いします。


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黒い使徒 弐

早速みんな見てくれてウレシイ・・・こんな時どんな顔すればいいかわからないの。


(・・・心配だなぁ)

 

先の爆発で吹き飛ばされた車を何とか応急処置し、目的地に向かっているが、ガムテープで止めたせいかあちこちからギシギシと今にも壊れそうな音が響いている。

 

そんな中、ミサトは片手で運転しながら連絡を取っていた。

 

「ええ、心配ご無用。彼は最優先で保護してるわよ。だからカートレインを用意しといて、直通の奴。そう、迎えに行くのは私が言い出した事ですもの。ちゃんと責任持つわよ、じゃ」

 

(しっかしも〜、最低。折角レストアしたばっかなのに、以下略)

 

「ミサトさん、聞いてますか?」

 

「何?」

 

「いくら非常時とはいえ、いいんですか?こんな事して」

 

そういうカミーユの視線の先には、周りの車から拝借してきたバッテリーが繋がれていた。

 

「あ〜いいのいいの、カミーユ君のお陰で予定よりバッテリーの数少なく済んだし、動かなきゃしょうがないでしょ?それに私、国際公務員だしね。万事OKよ」

 

「大人のやり方ですね、小賢しいですよ」

 

「うっ・・・可愛い顔して、意外と落ち着いてるのね」

 

「・・・車の中じゃなかったら、今頃殴ってますよ」

 

「ごめんごめん♪男の子だもんね〜」

 

「ミサトさんこそ、もっと大人らしくいてくださいよ」

 

その言葉がミサトの逆鱗に触れたのか、車は有り得ないスピードでジグザグに動きながらトンネルの中へ入っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

カートレインに乗り込み、目的地へと向かう。

 

「特務機関NERV?」

 

「そう、国連直属の非公開組織」

 

「・・・あの人のいる所ですね」

 

「まぁね〜。お父さんの仕事知ってる?」

 

「知りませんよ、人類を守るとかそういうのしか聞かされてません」

 

(こりゃ、相当嫌ってるわね)

 

「これからあの人の所へ行くんですか?」

 

「そうね、そうなるわね」

 

カミーユの脳裏に捨てられた時の記憶がフラッシュバックする。

 

(アイツ・・・会ったら修正してやる・・・!)

 

「そうだ、お父さんからID貰ってない?」

 

「ありますよ・・・ほら」

 

そう言ってカミーユが渡してきたのは、プロフィールとゲンドウからのメッセージが書かれた一枚の紙だった。そのメッセージとは

 

『来い』

 

(こんなんじゃ嫌われても当然ね・・・)

 

「じゃあ、これ読んどいてね」

 

ミサトが渡してきたのは、『ようこそNERV江』と書かれた冊子だった。

 

「で、何かしろっていうんですか?僕が」

 

ミサトは答えてくれない。

 

「そうですよね、用もないのにあの人が手紙をよこす筈ないですから」

 

「嫌いなのね?お父さんが」

 

「あんなの親じゃありません!」

 

「ちょっち言い過ぎなんじゃない?」

 

「いけませんか⁉︎こんなこと言って!」

 

「まぁまぁ落ち着いて。・・・私と似てるわね」

 

「・・・どこがですか」

 

 

 

 

 

 

 

少しすると、長いトンネルを抜けて、巨大な地下空間がその姿を表した。

 

「あれがジオフロント・・・」

 

「そう、アレが私達の秘密基地、NERV本部。世界再建の要、人類の砦となる所よ」

 

森に包まれた地下空間は夕焼けに染まっていた・・・

 




カミーユ君ぐらいなら車の修理もお手のものなんじゃ無いでしょうか。大会にも優勝してましたし。


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黒い使徒 参

今更ですが、こちらはTV版準拠となっております。


「おっかしいなぁ〜、確かこの道の筈よね」

 

あれから施設に入ったは良いものの、ミサトの言うように進んでも一向に目的地へ着かないのだ。

いわゆる迷子である。

 

「ごめんね?まだ慣れてなくって」

 

「さっきもここ通りましたよ」

 

「でも大丈夫、システムは利用する為にあるものね」

 

「使う側が駄目ならダメですよ」

 

カミーユは渡された冊子に目を通していた。

 

 

8-28

あれからエレベーターにのっていると、ドアが開き、金髪の女性が姿を現した。

 

「うえぇっ⁉︎あ、あらリツコ・・・」

 

リツコと呼ばれた女性がエレベーターに乗ると、ドアが閉まり、更に下層へと向かう。

 

「何やってたの葛城一尉。人手も無ければ、時間も無いのよ」

 

「ごみんっ!」

 

リツコは、呆れたように溜息を零す。

 

そしてカミーユへと視線を移す。

 

「例の男の子ね?」

 

「そう、マルドゥックの報告書によるサードチルドレン」

 

「よろしくね」

 

「・・・はい」

 

冊子から顔を上げると、カミーユは不機嫌そうに返事をする。

 

「これまた父親そっくりなのよ、可愛いげの無いところとかね〜」

 

「・・・何か言いましたか?」

 

「いやっ、何も言ってないわよ(汗)」

 

(これが碇司令の息子・・・少し凶暴ね・・・)

 

(このリツコとかいう人・・・何処かで聞いた事ある声だな・・・)

 

先程とは違うエレベーターに乗り、スピーカーからの知らせの中目的地へと向かう。

どうやら第一種戦闘配置らしい。

 

「・・・ですって」

 

「これは一大事ね」

 

「で、初号機はどうなの?」

 

「B型装備のまま、現在冷却中」

 

「それ本当に動くの〜?まだ一度も動いた事ないんでしょ?」

 

「初号機?動く?一体なんの話ですか?そんなの聞いてませんよ」

 

「大丈夫、この後分かるわよ」

 

 

 

自動ドアを抜けると、周りの電気が消え、自分がどこにいるかも分からなくなる。

 

「あの、停電ですか?真っ暗ですよ」

 

かなり広いのだろうか、声が辺りに響き渡る。すると一瞬にして電気がつき、目の前には巨大な鬼の様な顔が現れた。

 

「顔?・・・なんなんですこれ、巨大ロボットの様に見えますけど。しかもこの資料に載ってないですし」

 

「人の創り出した究極の汎用人型決戦兵器、人造人間エヴァンゲリオン、その初号機。建造は極秘裏に行われた。我々人類の最後の切り札よ」

 

「まさか・・・これがあの人の仕事ですか?」

 

「そうだ」

 

声が聞こえ、咄嗟に上を見ると、そこには髭を生やした親父が突っ立っていた。

 

「久しぶりだな」

 

「父さん・・・」

 

口元に笑みを浮かべ彼の父親 碇ゲンドウが一言命令を下す。

 

「出撃」

 

「出撃ぃ⁉︎」

 

「零号機は凍結中の筈でしょ⁉︎、まさか初号機を使うつもり⁉︎」

 

「他に道は無いわ」

 

「ちょっとぉ、レイはまだ動かせないでしょ?パイロットがいないわよ!」

 

「さっき届いたわ」

 

「・・・マジなの?」

 

「・・・つも・・・そうだ・・・」

 

「カミーユビダン君?」

 

リツコの言葉が耳に届いていないのか、カミーユはゲンドウへ叫んだ。

 

「いつもそうだ!いつもそうだ!いつもそうやって、あなたは何やってんです!そんなとこで!」

 

「「「えっ」」」

 

「今すぐ降りてこい!この卑怯者!修正してやる!」

 

そう言いながらカミーユは階段を登り、ゲンドウのいる部屋へと突撃する。

 

「おおお落ち着くんだカミーユ!」

 

「うるさいっ!歯ぁ食いしばれッッッ‼︎」

 

その一言ともにゲンドウは殴り飛ばされ、コンクリートの壁に背中をうちつけるのだった。

 




その後、ゲンドウは静かに語ったという・・・

「これが若さか・・・」


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黒い使徒 肆

本当は修正のシーンもっと長く書きたいけど・・・文章力が無さすぎる


「貴様ッ、貴様ッ、貴様ッ‼︎」

 

壁に打ち付けられたゲンドウに跨り、二発三発とその拳を振るう。

 

「いまさら出てきてなんなんだその態度は!それが親の言う事かよ‼︎」

 

「ッ・・・カミー・・・ユ・・・」

 

「うるさい!アンタは許せない奴だ‼︎」

 

ゲンドウの声など耳には入って来ず、ただただ執拗に顔面を殴りつけまくるカミーユ。

そこには憎しみ等の負の感情のオーラが辺りを支配し、誰も近づく事が出来ない。

 

数十秒も長い間本気の修正を加えられた顔は原型をとどめておらず、アザのない箇所は無いだろうと思える程に殴られていた。ただでさえカミーユは空手を習っている。そんな者の拳を何発も喰らえば、後遺症も出るだろう。

現に今、ゲンドウはほとんど喋ることも出来なくなっている。

 

「辞めるんだカミーユ君!」

 

「離せっ!コイツには、分からせてやらなきゃなんないんです‼︎」

 

慌てたスタッフが取り押さえるものの抵抗は激しい。

 

その数分後、十人かかりでようやく抑えられたと言う。

それを見ていたスタッフ達は後にこう思った。

 

(怒らせちゃ駄目だ、怒らせちゃ駄目だ、怒らせちゃ駄目だ)

 

 

 

 

 

 

その後エヴァの格納庫前に戻り、ゲンドウは医務室へと運ばれていく。それを見るカミーユの顔は少しニヤけていた。

 

「・・・時間が無いからさっきのことは無しにして言うわよ、カミーユビダン君、貴方が乗るのよ」

 

「でも、綾波レイでさえエバーとシンクロするのに七ヶ月もかかったんでしょ?今来たばかりのこの子にはとても無理よ・・・」

 

「座っているだけでいいわ、それ以上は望みません」

 

「座ってるだけ?随分と簡単なんですね」

 

「まさか乗るつもりなの・・・?」

 

その時だった、NERV本部を突如落下してきたビルが襲い、あたりは轟音と振動に包まれる。そして破損した照明がカミーユ目掛けて落下してきた。

 

「危ないッ!」

 

咄嗟に自らを手で守るものの、そこには何も落ちて来ない、上を見るとそこには巨大な紫色の手が自分を庇っていた。

 

「まさか!あり得ないわ!エントリープラグも挿入してないのよ、動く筈ないわ」

 

「守ったの・・・?彼を・・・」

 

「事情は分かりました・・・僕が戦いますよ」

 

 

 

 

 

エントリープラグがエヴァの首に挿入されると、オレンジ色の液体がせりあがり、あっという間に全身を包み込んだ。

 

「なんですかこれ」

 

「大丈夫、肺がLCLで満たされれば、直接血液に酸素を取り込んでくれます」

 

その言葉を信じて口を開けると、肺が満たされる感覚を感じ取れる。溺れるのに近かったが。

 

「オエッ・・・あまり良い気分じゃありませんね」

 

「我慢なさい、男の子でしょ!」

 

「前時代的ですね・・・」

 

A10神経接続と共に周りを様々な色が遠ざかっていき、最後には周りの景色が映し出された。

 

(凄い・・・どうなってるんだ?)

 

その不思議な構造にカミーユは少し興味が湧いた。

 

 

 

 

司令室にて

 

「発進準備完了」

 

「了解・・・構いませんね?」

 

司令に振り返り、確認を取る。

 

「勿論だ、使徒を倒さなければ人類に未来は無い」

 

「碇・・・本当にこれで良いんだな」

 

カミーユからの暴行により包帯で覆われた口元は少しニヤけていた。

 

「発進!」

 

大きく張り上げられた声と共に、強烈なGが押し潰さんと迫ってくる。

そのGに耐えていると、それは突然止み、既に敵の目の前に出ていた。

 

目の前の使徒の赤い部分が怪しげな光を発する。

 

今ここに人類と使徒との闘いの火蓋が、切って落とされた。

 

(お願いカミーユ君、死なないでよ・・・)

 




とりま1話はここまでとなりますね。今後も分割して上げていきますので気長に見てください。


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見知らぬ、再会 壱

早速お気に入り登録や感想ありがとうございます。

※エヴァの操縦に関して、少しオリジナル要素が出てきます。ご容赦ください。


「エヴァンゲリオン初号機、リフトオフ!」

 

その言葉と共に最終拘束具が外れ、自由になる。

 

「カミーユ君、今は歩く事だけを考えて」

 

「リツコさん、考えるだけで動くのならこの手元にあるレバーはなんなんです?何に使うんですか」

 

「それは手動操縦装置、MTモードをオンにすればそれを使って操る事が出来るようになるわよ。そこの黄色いスイッチを押せばオンになるわ」

 

「なるほど・・・取り敢えずは考えてやってみます」

 

カミーユがエヴァの歩行を頭でイメージすると、その通りに一歩踏み出す。

 

「「「おぉ・・・(驚)」」」

 

「歩いた!」

 

「歩いただけでその反応はないでしょう、馬鹿にしてるんですか?それと、これじゃやりにくいです。MTに変えさせてもらいますよ」

 

カミーユがMTモードをオンにし、動かしてみると、先程よりもスムーズに動いた。

 

(すごい・・・何処でそんな技術を・・・)

 

「やっぱりこっちの方が良いですね。うわっ⁉︎」

 

目の前の相手、第三使徒サキエルが光の槍を自分めがけて突き刺してきた。

 

「危ない・・・ん?あれは!」

 

カミーユが足元に視線を移すと、そこには小さな幼女が瓦礫に押し潰されそうになっていた。

咄嗟に手で覆い、瓦礫をぶつけない様に気をつけながら叫ぶ。

 

「ミサトさん、救護班を呼んでください!女の子が‼︎」

 

「今は無理よカミーユ君。ひとまずその子を守りながら戦って!」

 

「クソッ!」

 

幼女を守らんと、初号機がサキエルを押しながら高層ビルへと叩きつける。

 

「これは・・・、初号機のシンクロ率89.3%まで上昇!」

 

「まさか、怒りの感情がエヴァとのシンクロ率を高めているの・・・?」

 

「貴様、子どもを傷つけたな!死んでしまえ‼︎」

 

カミーユは怒りと共に弱点であろう赤い部位に拳を叩きつける。が、謎の壁に阻まれてしまう。

 

「何⁉︎ビームのバリアがあるのか!」

 

「ATフィールド!それがある限り、使徒への接触は出来ないわ!」

 

「ならどうすれば良いんですッ⁉︎」

 

「こちらもATフィールドを出して、中和するのよ」

 

「それだけの事ならッ‼︎」

 

カミーユの言う通り、初号機は難なくATフィールドを展開し、着々と中和していき、ビニールの様に破り去った。

 

「あのATフィールドをいとも簡単に・・・」

 

「リツコさん!武器は⁉︎」

 

「右肩のウェポンラックにナイフがあるわ!赤いコアを狙って!」

 

「よし!」

 

即座にナイフを取り出し、肋骨の様な部位を引きちぎった後にコアへと何度も突き刺す。

 

「うおおぉぉぉぉぉ!!!!!!!」

 

鬼の様な断末魔をあげながらナイフを振りかざすと、コアが砕けちり、使徒はピクリとも動かなくなった。先程の幼女の安否を確認するために後退する。

 

だが最後の力を振り絞ったのか、身体を丸め使徒の黒い身体が光りだした。

 

「自爆する気⁉︎」

 

その通り、使徒は自爆し真っ暗な夜空に緑色の十字架が突き上げた。

幼女ごと自分にATフィールドを貼り、爆発を耐え抜く。

 

 

「・・・ッ、エヴァは・・・?」

 

爆発で赤色に染まった風景をバックに、心配な幼女に手を伸ばす紫色の巨人。

 

それは見るものによっては恐怖、見るものによっては希望を感じる様な光景だった・・・

 




補足 エントリープラグにあるあのレバー・・・、イメージで戦うんならいらないよなぁ、折角だしロボットのレバーみたいな設定で行くか!的なノリで考えたのがMTモードです。
特徴としては、イメージで動かすよりも反応は悪いが、確実な操作が可能になる感じです。車のミッションみたいなものですね。
尚、ATフィールドは出せます。


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見知らぬ、再会 弐

カミーユ君曰く、「エヴァのATフィールドって何にまで使えるんだろう・・・」らしいです。(フラグ)


「・・・退屈だなぁ・・・」

 

あの激戦の後、回収されたカミーユは検査の為に入院していた。カミーユの助けた幼女もここにいる筈だが、会おうとはしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

会議室にて

 

そこでは秘密組織ゼーレからゲンドウがお叱りを受けていた。

 

「NERVとエヴァ、もう少し上手く使えんのかね」

 

「君達が初陣で出した初号機、ひどい損傷は見当たらなかったというところだけは褒めてやろう」

 

「聞けばその顔、息子にやられたそうでは無いか」

 

「左様、親として情けないと思うがね」

 

「人、時間、そして金。子どもに比べて、君はいくら使ったら気が済むのかね」

 

初戦で無傷に終わらせたサードチルドレンを、彼らは高く評価していた。

 

 

 

 

「本当に何も無いな・・・」

 

廊下を歩いてみるが、辺りには蝉の鳴く声しか聞こえなかった。

 

(・・・ん?)

 

振り返ってみると、何やらゴツイベッドに寝かされたまま少女が運ばれていた。

 

(何だ・・・この感覚は・・・会った事あるかの様な・・・)

 

だが特に止まる理由も無く、少女を乗せたベットは静かに通り過ぎて行った。

 

(・・・・・・・・・)

 

ふと窓を見ると、そこに中庭は無く宇宙が広がっていた。

普通、こんな事が起きれば動揺するものだが、カミーユはすぐに馴染み、心地よいとまで感じていた。

 

 

 

 

 

 

ロビーで椅子に座っていると、ミサトがやってきた。

 

「ごめ〜ん、待った?」

 

「別に、慣れてますから。でも時間ぐらいは守ってくださいよ」

 

「ごみんごみん」

 

エレベーターのボタンを押すと、頭包帯の怪しいオッサンが出てきた。この前ボコボコにされたゲンドウその人である。

 

(ざまぁ無いぜ・・・フフフ・・・)

 

(司令・・・ご愁傷様です・・・)

 

二人とも、内心笑っていた。

 

 

 

 

 

 

エレベーターを降り、エスカレーターを登った後に入った部屋でミサトは少し驚いていた。

 

「一人暮らしですか?」

 

「そうだ、彼の個室はこの先の第五ブロックになる、問題なかろう」

 

「それで良いの?」

 

「構いませんよ、いつも一人でしたし」

 

そう言うカミーユの顔は、ミサトにはすこし寂しげに見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「何ですって⁉︎」

 

先程からリツコに電話しているが、バッチリ怒られていた。

 

「だーかーらー、カミーユ君は私の所で引き取る事にしたから。上の許可も取ったし」

 

「心配しなくても、子供に手出したりしないわよ」

 

その冗談で、リツコの怒りは更にヒートアップした。

 

 

 

 

 

 

その後、結局カミーユはミサトの家で住む事になり、現在ミサトの家へと向かっていた。

 

「さあっ〜てぇ〜、今夜はパーッとやらなきゃね」

 

「何をです?」

 

「勿論、新たなる同居人の歓迎会よ♪その為に今から食べ物買いに行くから、好きなもの買ってね♪」

 

「・・・料理、出来ないんですね」

 

「ギクッ!・・・どうしてそれを・・・?」

 

「なんとなくですよ」

 

(ビーちゃん・・・なんて恐ろしい子ッ!)

 

 

 

 

 

 

 

 

コンビニで粗方買い揃えた後、夕焼けの中ミサト達は車を走らせていた。

 

「すまないけど、ちょ〜ッち、寄り道するわよ♪」

 

「何処にです?」

 

「うふん♪イ・イ・ト・コ・ロ♪」

 

「ちゃんと答えて下さい」

 

「・・・すぐに分かるわよ。そんなに怒らないで?」

 

 

 

 

 

ミサト達がついたのは、第三新東京市全体を見渡せる高台だった。

 

「意外と、なんにも無いんですね」

 

そこから見る第三新東京市はどこか寂しげだった。

 

「時間だわ・・・」

 

ミサトの一言と共に街はサイレンに包まれ、何も無いと思っていた平地の下から、次々とビルが姿を表す。

 

「すごい・・・ビルが生えてくる・・・」

 

「これが、使徒迎撃用要塞都市第三新東京市。私たちの街よ・・・、そして、あなたが守った街」

 

街を見つめるカミーユの目には覚悟の炎が燻っていた・・・

 




なんでビルがわざわざ生えるんですかね?これがワカラナイ


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見知らぬ、再会 参

ゲンドウ君の内心

(おかしいな・・・シナリオ通りならあんな凶暴な筈がない・・・。まぁエヴァの操縦上手かったし、誤差の範囲だろう。意外と痛かった・・・)


あれから日は暮れ、もうすっかり夜になったものの、無事ミサトのマンションへ着いた。

 

「カミーユ君の荷物はもう届いてると思うわ。実は私も先日この街に越してきたばっかりでね?」

 

「にしては、結構馴染んでますね」

 

「まあね♪」

 

部屋のロックが解除され、ドアが開く。

 

「さぁ、入って」

 

「お邪魔します」

 

そう言ってカミーユはスタスタと家に入って行ってしまった。

 

「ちょっと、今日から貴方の家なんだから!」

 

「分かりましたよ・・・ただいま。これで満足ですか?」

 

「良いわよ♪」

 

不機嫌ながらも、カミーユは答えてくれた。

 

「うわっ!なんですかこのゴミ屋敷」

 

その部屋には足の踏み場も無いほどゴミが散らかっていた、明らかに先日越してきた量ではない。

 

「うっ、なかなか効いたわよ今の・・・取り敢えず食べ物冷蔵庫に入れといて」

 

「はいはい、分かりましたよ」

 

肝心の冷蔵庫の中身はというと・・・

 

一段目

 

「氷・・・」

 

二段目

 

「つまみ・・・」

 

三段目

 

「ビールだけ・・・、ミサトさん!あんたどんな生活してるんです⁉︎」

 

「ハハハ・・・」

 

その言葉にミサトは苦虫を噛み潰したような顔で答えた。

 

「はぁ・・・、ん?あっちの冷蔵庫は何です?」

 

カミーユが指さす方には、灰色のもう一つの冷蔵庫が鎮座していた。

 

「あぁーそっちは良いの、まだ寝てると思うから」

 

「寝てる?ペットかなんかですか?」

 

「おっ、鋭いわね〜。似たようなものよ」

 

ミサトが着替え終わると、レンジで食べ物を温めてテーブルに並べる。

 

「いっただっきまーす!」

 

「・・・いただきます」

 

ミサトがビールをゴクゴクと音を立てて飲み干す、随分美味しそうだ。

 

「ぷっはぁぁ〜、くぅ〜!やっぱ人生この時の為に生きてるもんよね〜」

 

「分かりますけど、もう少し静かに食べて下さいよ」

 

「わーってるわよ。ところで・・・楽しい?こうして他の人と食事するの」

 

「悪くはありませんね・・・行儀が良ければ」

 

「もうッ!」

 

 

食事を終えた後、生活当番を決める為にじゃんけんが行われていた。

 

「それじゃ行くわよ・・・じゃんけん、ぽん!」

 

「・・・案外弱いんですね」

 

「も〜、なんで〜⁉︎ひとっつも勝てないじゃない!」

 

まるで何を出すのか分かるかの様に、カミーユはじゃんけんで全勝してしまった。よって、当番はミサトオンリーとなったのだ。

 

「ま、良いわ。やな事はお風呂に入って、パーッと洗い流しちゃいなさい♪風呂は命の洗濯よ♪」

 

「んじゃ遠慮なく使わせてもらいます」

 

そういうと、カミーユはさっさと風呂場に行ってしまった。

 

(ほんとに遠慮無いわね・・・)

 

 

 

 

「・・・なんだお前」

 

「クエッ?」

 

浴槽の扉を開けると、そこにはペンギンが立っていた。

 

「もしかして、君がペットか?」

 

「クエッ⁉︎クエッ!」

 

何か抗議している様だ

 

「ん?・・・もしかして違うのか?」

 

「クエッ!」

 

カミーユには何が言いたいかなんとなくわかったが、念の為ミサトに聞いてみることにした。

 

「ミサトさん、このペンギンペットじゃないんですか?」

 

ドア越しに尋ねると、返事が返ってきた。

 

「あぁ、彼は新種の温泉ペンギンのペンペン。同居人よ♪」

 

「そうなのか?」

 

「クエッ!」

 

(もしかしてだけど・・・ビーちゃんって動物の言葉がわかるのかしら・・・)

 

 

 

 

 

 

 

風呂の後電気を消し、新しく与えられた部屋で静寂の中、カミーユは考え事をしていた。

 

(俺がここにいるって事は、使徒はまた来るんだろう・・・)

 

「だとしたら、あのままのエヴァじゃ不安だな・・・」

 

運ばれて来た荷物の中からコンピューターを取り出して机に設置する。

 

(リツコさんにでも頼めば・・・なんとかなるかもしれない」

 

机に向き合い、プログラムをいじっていると、背後からミサトの声が聞こえてきた。

 

「カミーユ君?開けるわよ」

 

襖が静かに開けられる。

 

「一つ言い忘れていたけど・・・貴方は人に褒められる立派な事をしたのよ・・・胸を張って良いわ」

 

「はる胸ないですよ」

 

キーボード片手間に短く答える。

 

「そういう事じゃないわよ・・・、んじゃおやすみ」

 

(ちょっち心配だったけど、大丈夫そうね。でもあの画面、映っていたのは何かしら・・・エヴァの様に見えたけど)

 

襖が閉まり月明かりに照らされた部屋の中、キーボードをせわしなく叩く音が響いていた・・・

 




補足 NTが動物の頭の中を見る事が出来るかは分かりませんが、カミーユ君だったら言いたい事が少し分かるんじゃないでしょうか。
若干のオリジナル要素ですみません。


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プラグの中 壱

お久しぶりです、少し空いてしまって申し訳ありません
、もうすぐ夏休みが終わってしまうので更新頻度は下がりますが何卒よろしくお願いします。


静かなエントリープラグの中に、機械から音声が響く。

 

「おはようカミーユ君、調子はどう?」

 

「特にはありませんよ、ところで渡した例の物見てくれましたか?」

 

前回の出撃の後、カミーユはエヴァのドライブに取り付けるためのとある物を徹夜して作っていた。

 

「エヴァの出現位置、非常用電源、兵装ビルの配置、回収スポット・・・ここまでの情報を視覚化させるとは、凄いわねこのデータ」

 

カミーユが作っていたのは、エヴァを操縦するときに必要になるであるだろう情報をミニマップ等で分かりやすくした物である。

早い話、FPSゲームのHUDだ。

 

「これでやりやすくなるってもんですよ」

 

「分かってると思うけど、一応おさらいしとくわね。エヴァの外部電源が無くなると、内蔵電池に切り替わる。内蔵電池では、フルで1分、出力を抑えて5分しか保たないわ」

 

「それが今の科学の限界って訳ですか・・・」

 

「そうね、貴方だったらなんとか出来るんじゃないかしら?」

 

「あまり期待しないで下さいよ」

 

(((え、出来るの⁉︎)))

 

その言葉に、リツコ含めたメカニックは心底驚いた。

 

「で、では昨日の続き、インダクションモードを始めるわよ」

 

その言葉と共に内部電源へと切り替わり、パレットライフルを構えた。

 

「目標をセンターに入れて、スイッチオンよ」

 

スイッチを入れると、銃弾が敵へと迫り命中。目の前の標的が爆散した。

 

「いいわ、そのまま続けて」

 

「それにしてもカミーユ君、よく乗る気になってくれましたね」

 

「初戦の時の少女、覚えてる?」

 

「はい、カミーユ君が守っていた子ですよね」

 

「あの子が傷つけられた時、カミーユ君はひどく激昂していた・・・、他の人が傷つけられるのが嫌なのかもしれないわね」

 

そんなカミーユの練習風景をミサトは真剣に見つめていた。

 

 

 

 

 

スズメの鳴く朝方、カミーユがミサトの部屋を開けるとそこには布団にくるまったミサトが。

 

「ミサトさん、もう朝ですよ」

 

制服に着替えたカミーユが尋ねる。

 

「ん〜、さっきまで当直だったの〜。今日は夕方までに出頭すれば良いの・・・」

 

「何言ってるんです!今日は貴方がゴミ出す日ですよ!」

 

「えっ⁉︎、今日木曜日だっけ‼︎」

 

凄まじい勢いでミサトが起き上がる。

 

「そうですよ、ちゃんとして下さい!」

 

「で、でも今日ぐらいは〜・・・」

 

カミーユの返事は、酷く重いプレッシャーが物語っていた。

 

「わ〜ったわよ、もう!・・・ところで、学校の方はもう慣れた?」

 

「友人なら、出来ましたよ」

 

「そう、良かったわね。いってらっしゃい」

 

「いってきます」

 

カーテンから覗く眩しい日差しが、ミサトの部屋を明るく照らしていた・・・

 




余談 練習後にて

「リツコさん、ATフィールドがあるんだからパレットライフルなんてあまり役に立たないのでは?」

「・・・その通りね」

「しかも実戦だったら煙で前が見えなくなる筈ですよ」

「おっしゃる通り・・・、今度技術局と話をつけてみるわね」


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プラグの中 弐

カミーユ君、同年代との絡みが薄いから難しいなぁ。


カミーユのプレッシャーによりゴミを全て掃除し終えたミサト。そんな所に一本の電話が。

 

「はい、もしもし。なんだリツコかぁ〜」

 

「どう?彼氏とは上手くいってる?」

 

「彼?あぁカミーユ君ね、ちょっち厳しいけどよくやってくれてるわ」

 

「私生活がだらしない貴方にはちょうど良いんではなくて?」

 

「まっ、そうかもね〜。何はともあれ、学校でも楽しくやってるみたいよ〜」

 

 

 

 

 

 

 

少し人数が減った教室の扉を開けて、カミーユが入る。二週間前にここへ転校してきたのだ。

 

「ケンスケ、うるさいぞ」

 

カミーユが声を掛けたのはメガネをかけた茶髪の男子、相田ケンスケだ。

軍事オタクであり、カメラマニアでもある。機械系も好きなので、似たようなカミーユとはすぐ友人になった。

 

「何だ、良いだろ別に。ところで昨日頼んでたプログラム、出来たのか!?」

 

「未完成だけど、一応使えるぞ。ほら」

 

「ひゃ〜、さっすがビダン!持つべき物は機械オタクだな!」

 

「まったく・・・」

 

そう言ってカミーユが手渡したのは、謎のUSBメモリ。友人であるケンスケに頼まれて作った物だがその中身はというと・・・

 

「ムフフフフフ♡」

 

AIによる画像解析と分析、3D出力等を駆使した男子学生の夢。いわゆるR18モザイク消しである。

だがその背後に忍び寄る黒い影・・・

 

「げっ!な、何?委員長・・・」

 

そう呼ばれたのは学級委員長の洞木ヒカリ、そばかすがトレードマークの真面目な女子だ。

 

「昨日のプリント、届けてくれた?」

 

「あぁ・・・いや、トウジの家留守みたいでさ」

 

机の奥にプリントを突っ込みながら答える。

 

「嘘をつくな。ヒカリさん、そのプリントならぼくが届けておきましたよ」

 

「本当⁉︎ごめんなさいねカミーユ君」

 

「いいんですよ、このくらい」

 

カミーユは自分の席へと戻っていく。

 

気難しいカミーユだったが、委員長にだけは少し尊敬の念を向けていた。

 

その時、ガラガラっと教室のドアが開かれた。

 

「トウジ・・・」

 

「鈴原・・・」

 

「なんや、随分減ったみたいやなぁ・・・」

 

そう呼ばれたのは鈴原トウジ、ジャージがトレードマークで、関西弁の使い手だ。

 

「疎開だよ、疎開。みんな転校しちゃったよ」

 

「喜んでるのはお前だけやろな。ところでお前さんは?見慣れない顔やけど・・・」

 

「カミーユビダンだ」ムスッ

 

「そうか、ほなよろしくな」

 

(何やこいつ・・・えらい不機嫌やな)

 

「ところでトウジ、どうしたの?こんなに休んじゃってさ」

 

「妹のやつがな・・・妹の奴が瓦礫の下敷きになりそうになってな、少し入院しとったんや。でも、うちの親は忙しいから俺が面倒見とったってわけや。しっかし、あのロボットのパイロットには感謝やで。うちの妹を守ってくれたんやからな」

 

あの時カミーユが守っていた幼女は、トウジの妹だった。

 

「それなんだけど、聞いた?カミーユの噂」

 

「カミーユがどないしたんや?」

 

「あいつが転入してきたの、その事件の後なんだよ」

 

 

 

 

 

授業中、カミーユの授業用パソコンにメールがかかってきた。

 

(何だ?いきなり)

 

そこには質問が書かれていた。

 

:ビダン君があのロボットのパイロットというのはホント? Y/N

 

(ミサトさんが別に無理して隠さなくて良いとか言ってたし・・・)

 

YES

 

「「「ええぇぇぇーーーー⁉︎」」」

 

教室中に、生徒達からの質問が飛び交った。

 

「ねぇねぇ、どうやって選ばれたの?」

 

「ねぇ、テストとかあったの?」

 

「怖くなかった?」

 

「操縦席ってどんなの?」

 

「うるさいよ‼︎」

 

雷の様な一言と共に、教室中が静かになった。

 

(((やべぇ、怒ったか?)))

 

「俺はただのパイロット!それだけだ‼︎文句あるか⁉︎」

 

「「「いえっ、ありません‼︎」」」

 

(((質問はやめておこう・・・)))

 

密かにみんなそう思った。

 

 

 

 

授業後 体育館裏にて

 

「すまん転校生!わしはお前に謝らないかん!謝らなきゃ気がすまへんのや!」

 

「・・・」

 

「わしの妹、お前さんに助けてもらってな。この通り!すんまへん‼︎」

 

トウジが土下座した。

 

「・・・もう良いから、顔を上げてくれ。それと、次からは目を離すなよ・・・」

 

「本当にありがとな!」

 

そんな場面に、この前の美少女 綾波レイが入って来た。

 

「非常呼集・・・・・・先に行くから」

 

「待て、僕も行く」

 

「そう・・・付いてきて」

 

常夏の第三新東京市に、非常事態宣言のサイレンが鳴り響いていた・・・

 




てなわけで、カミーユ君は殴られずに済みました。やり返されてトウジ死にかけるからね、しょうがないね。
クラスの人達から見ると、カミーユ君は怒らせると怖いけど、良い奴 みたいな感じです。



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プラグの中 参

また遅くなってしまい申し訳ありません!
ところでパレットライフルって劣化ウラン使ってるらしいけど大丈夫なの?


冬月副司令による第一種戦闘配置により、第三新東京市は迎撃要請を整え、来るべき使徒との戦いに備えていた。

そんな中とあるシェルターでは・・・

 

「・・・まただ!」

 

「また文字だけなんか?」

 

「報道管制って奴だよ、僕ら民間人には見せてくれないんだ。こんなビッグイベントってだっていうのに」

 

 

 

 

 

 

 

ついに上陸してきた第四使徒 シャムシェル それに対して、偽装型ミサイルポッドから迎撃ミサイルが放たれるものの、傷一つつかない。

 

「税金の無駄遣いだな」

 

「委員会から再び、エヴァンゲリオンの出撃要請が来ています」

 

「うるさい奴らね、言われなくても出撃させるわよ」

 

初号機にエントリープラグが挿入され、出現準備が整った。

 

(とっとと終わらせてやる・・・!)

 

 

 

 

 

シェルターに地響きが鳴る

 

「ねぇ、ちょっと二人で話があるんだけど」

 

「なんや?」

 

「ちょっと、な?」

 

「(笑)しゃーないな」

 

「委員長!」

 

「何?」

 

「わしら二人、便所や」

 

「もう、ちゃんと済ませときなさいよ」

 

 

 

 

 

 

 

シェルターにあるトイレだが、あまり綺麗ではない。アンモニア臭もかなり漂っている。

 

「んで、何や?」

 

「死ぬ前に、一度だけでも見ておきたいんだよ」

 

「上のドンパチか?」

 

「今度いつまた、敵が来てくれるか分かんないし」

 

「ケンスケ・・・お前なぁ・・・」

 

「なぁ頼むよ、ロック外すの手伝ってくれ!」

 

「外見たら死んでまうで⁉︎」

 

「ここにいたって分かんないよ。死ぬのなら見てからが良い」

 

「アホ、何の為にNERVがおんねや」

 

「NERVの決戦兵器ってなんだよ。カミーユ君のロボットだよ、この前も彼が俺達を守ったんだ」

 

「彼がどんな風に君の妹の事を守ってくれたか、気にならないか?」

 

「・・・しゃーないなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プラグ内

 

「カミーユ君?出撃いいわね?」

 

「問題なし、いつでもいけます!」

 

「いい?敵のATフィールドを中和しつつパレットで一先ず様子見して頂戴」

 

「了解、カミーユ行きます!」

 

「発進!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっ、待ってました!」

 

初号機が無事地上へと射出された。

 

「ATフィールドの展開確認、作戦通りいけるわね?」

 

「はい!」

 

ビルに体を隠しながらATフィールドを中和し、相手へと銃弾を一つ浴びせる。

だが、単発で何度撃っても傷はつかない。

 

(やっぱりか・・・!)

 

「効果なし・・・ッ危ない!」

 

シャムシェルが突然光の鞭を飛ばしてきた。目にも止まらぬ速さで遮蔽物にしていたビルが真っ二つにされる。

 

「不味いわね・・・今のところライフルしか用意できないわ!」

 

「あてになりませんよ!そんな物‼︎」

 

息をつく暇もなく光の鞭が飛んでくるものの、カミーユは難なくそれを交わしていく。

 

「抵抗するのならッ!」

 

シャムシェルへと肉薄し、格闘戦に持ち込もうとする。

 

「何ッ⁉︎」

 

だがまだまだ未熟、忍ばされていた鞭に足を取られ山へと投げ飛ばされた。

しかしアンビリカルケーブルはまだ切れていない。

 

「カミーユ君大丈夫?カミーユ君⁉︎」

 

「ぐっ・・・まだ行けます!ん?」

 

エヴァの開かれた手の隙間に二人の少年が身を寄せ合ってこちらを見ている。

ミサト達のHUDに鈴原トウジと相田ケンスケのデータが写される。

 

「カミーユ君のクラスメイト⁉︎」

 

「なぜこんなところに!」

 

だが避難させている時間はない、シャムシェルは目の前まで迫って来た。

光の鞭がトウジを狙う。

 

「させるかっ!」

 

トウジを狙った光の鞭を掴み取りそのまま・・・投げ飛ばした!

下手すればトウジ達を踏み潰してしまう所だったが、そこはカミーユ。持ち前のセンスで避けた。

 

「カミーユ君!そこの二人を操縦席へ!」

 

「言われなくても!」

 

カミーユは外部マイクに切り替え、トウジ達へと呼びかける。

 

「そこの二人!一方的に殴られる痛さと怖さを教えて欲しくなかったら、入ってこい‼︎」

 

エントリープラグが一番排出され、トウジ達は乗り込んだ。

 

「なんやこれ、水やないか!」

 

「カ、カメラが・・・!」

 

「つべこべ言うな!」

 

「神経系統に異常発生!」

 

「異物を二つも取り込んだからよ、神経パルスにノイズが混じってるんだわ」

 

「そんなもの・・・やってみなくちゃ分からないだろ‼︎!」

 

「これは・・・神経系統の異常、全てロスト!ノイズは多々有るものの、俄然維持しています!」

 

「・・・嘘でしょ・・・」

 

「よし!これならいけるわね!」

 

初号機がシャムシェルに飛びかかった!

光の鞭がその体を狙うもののあえなくかわされていく。

 

「効くかよ!そんな物ッ!」

 

肩からプログレッシブナイフを取り出し、コアへと突き刺す。

 

「うおおぉぉぉぉぉぉぉおおおお‼︎‼︎」

 

カミーユの叫びと、ナイフがドリルのようにコアを削り取る音がハーモニーを奏でる。

 

30秒弱たつと赤いコアがついに音を立てて割れた。

 

「目標は完全に沈黙しました」

 

「カミーユ君、よくやったわ!・・・カミーユ君?」

 

カミーユが不敵に笑う。

 

「ククク・・・はははははは、ざまぁないぜ!」

 

(((怖っ)))

 

夕焼け蝉が鳴く頃、沈黙したままのシャムシェルはどこか哀愁が漂っていた・・・

 




カミーユ君ならこれくらい出来るんじゃね、というわけで今回もほぼ無傷です。原作なら次回は逃げ出すところだけど、今回戦績良かったから免除!

UA7000突破ありがとうございます!
お気に入りや感想など、感謝しかないです!


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家具の裏側

今回カミーユ君は逃げ出す訳じゃないんで、日常回的な感じです。


雨が降り出す中、ミサトは時計のアラームに起こされた。

うるさいそれを足で器用に止め、のそっと起き上がる。

 

「ハァ・・・」

 

洗面台の前に行くと、自分の髪が湿気で凄いことになっているのが分かる。

 

歯磨きを終えた後カミーユの部屋へと向かい、ノックした。

 

「カミーユ君?起きなさい、いつまで籠ってる気?たまには顔見せて〜」

 

先のシャムシェル戦後、カミーユは学校には行っているもののミサトと顔を合わせず部屋に籠ることが多くなった。

 

「もう5日ぐらい顔見れてないのよ?心配だわ」

 

応答がない。

念の為覗いてみることにした。

 

「・・・すぅ・・・すぅ・・・」

 

机に突っ伏し、カミーユが気持ち良さそうに寝ていた。

部屋を見渡すと何やら資料などが散乱し、コンピューターには謎のプログラムが書き込まれていた。

 

(・・・もう少しだけ、寝かせときましょうか・・・)

 

ミサトはその幸せそうな寝顔を見て、少し可愛いと感じた・・・

 

 

 

 

 

 

 

「・・・で、これどうしたもんかしらねぇ・・・」

 

この家にいるのはカミーユとミサト、それとペンペンのみ。カミーユは引きこもり、ペンペンは論外。

そう、この家はカミーユの部屋を除きゴミ屋敷と化したのだった。

 

「と、取り敢えずゴミは出しておきましょうか・・・」

 

棚からゴミ袋を取り出し、ビールの缶などを突っ込んでいく。

改めて凄まじい量だ、あっという間に10袋も消費されてしまった。

 

「こんなに飲んだ覚えないんだけどなぁ・・・トホホ・・・」

 

食べ終わった食品のトレーを持ち上げると、その下からゴキブリが這い出て来た。

 

「キャァァァーーーーー‼︎」

 

家中にミサトの絶叫が響き渡る。

 

「うるさい!人が寝てるでしょうが‼︎」

 

絶叫で起きてしまったのか、襖をピシャリ!と開けカミーユが怒鳴った。

 

「ビ・・・ビーちゃん・・・」

 

ミサトがテーブルに乗っかり、涙声で何かを指差している。

 

「ハァ・・・何だそんな事ですか・・・」

 

「何だとは何よ!あんな恐ろしい物見たくないわ!」

 

カミーユの視線は冷たい。

どうやらゴキブリは平気なようだ。

 

「まったく・・・」

 

新聞のチラシを丸め、装備する。

 

「無駄な殺生を・・・またさせる!」

 

最早凶器と化したチラシがゴキブリに直撃、一撃で仕留めた。

 

「あ、ありがとうビーちゃん、感謝するわ・・・」

 

「いや、まだ終わっちゃいません」

 

「へ?」

 

「遊びでやってんじゃないんだよ!」

 

それからのカミーユの動きは早かった。家具の裏に潜んだゴキブリを叩き殺し、卵を見つければ焼却処分した。

これによりミサトの家からゴキブリは完全に居なくなったのだった・・・

 




次回も日常回にするつもりです。
UA9000突破ありがとうございます!
お気に入りや誤字報告、感想など感謝しております!


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カミーユの病欠

ヒエッ・・・あ、赤い評価バーだぁ・・・
ありがとうございます!


先日とは違い雨は降って無いが、今日は湿度が高かった。

 

「まったく、やんなっちゃうわね」

 

湿気は髪の大敵だ。

 

カミーユの部屋へと行き、ノックする。

 

「ビーちゃん?起きてる?」

 

返事はない。念の為、襖を開けるとそこにはカミーユは居なかった。

あるのはあちこちに張り巡らされた配線と、謎の設計図らしき物だけだ。

 

「まさか・・・ん?何かしらこれ」

 

そんな中、唯一整頓された机にポツンと置かれた紙に気づいた。

 

「え?」

 

紙に書かれた言葉を見た時、ミサトは目を丸くした。

 

 

 

 "病欠します"

 

 

 

 

それしか書かれていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で?本当にそれしか書かなかったの?」

 

「そうだ。文句あるか?」

 

「大アリだよ!」

 

「うせやろ・・・」

 

カミーユ達三馬鹿トリオはススキが辺りを覆う野原の中、キャンプしに来ていた。

 

「まぁ、良いや。取り敢えず二人共何か持ってきたか?」

 

「「何も」」

 

「嘘だろオイ」

 

「まぁまぁ、そんな落ち込まんでも」

 

「そんなに気にすることか?」

 

「気にするよ!僕が三人分用意してなかったらどうするつもりだったの⁉︎」

 

「ケンスケだしなぁ・・・」

 

「せやせや、お前さんを信じとったで」

 

「ハァ・・・とにかく二人共森に行って薪を取ってきてくれ。出来るだけ多く」

 

「ワイに任せんしゃい!どっさり持ってくるで」

 

「面倒臭い・・・」

 

「まぁそう言わずに」

 

 

 

 

 

 

 

 

森の中、手頃な木を集めながらトウジとカミーユは話していた。

 

「んでな?妹がずっとエヴァの話してくるんや。毎日話すもんだから流石に厳しいわ」

 

「それだけ心に残ったって事だろ・・・でも二人揃ってとはな、お前それでも兄かよ!」

 

「その件についてはホント申し訳ないと思っとる!なんなら殴ってくれてもかまへん!」

 

「そうか、んじゃ遠慮なく」

 

カミーユの不意打ち右ストレートがトウジの顔面を襲う・・・!

 

 

 

 

 

 

「帰ったぞ」

 

「おぉ、お帰・・・お前ら何やってたんだ」

 

「気にすんな、男のケジメってもんや」

 

トウジの右頬には隕石でもぶつかったのかというぐらいの痣が出来ていた。

 

「そうか・・・薪の量も充分。んじゃ火ぃつけるぞ」

 

辺りもそろそろ暗くなって来ている。ケンスケは慣れた手つきで火を付けた。

飯ごうに米と水を入れ、持って来た串で肉を突き刺し、両方とも火にかけた。

 

「・・・夜は良いよなぁ」

 

「なんや急に」

 

「あのうるさい蝉が鳴かないから」

 

「毎年増えてるらしいぞ、生態系が戻ってるってミサトさんが話していた」

 

「ミサトさんねぇ・・・」

 

「あんなべっぴんさんと一つ屋根の下暮らしてるとか、お前ほんと幸せなやっちゃで」

 

「しかもエヴァンゲリオンも操縦出来て・・・一度でいいから思い切り操ってみたい!」

 

「物好きやな」

 

「・・・冗談でもそんな事言うなよ?」

 

カミーユは見るからに怒っている。命をかけて必死にやっているのだ、そんな遊び半分に言われても困るのだろう。

 

「あぁ悪い・・・お!そろそろ出来上がるぞ」

 

「待ってました!」

 

飯ごうからは溢れた水がこぼれおち、焼いた肉はいい焦げ具合だった。

 

 

 

 

 

 

テントに三人共、川の字で寝ることにした。

 

「ケンスケはいつもこんな事やってるのか?」

 

「ん〜まぁな!」

 

「こいつは筋金入りのミリオタやからな」

 

「あ!そういえばこの前の戦いでお前の使ってた銃、使徒には効かなかったよな」

 

「傷一つも付かなかった」

 

「それでちょっと考えがあるんだけど・・・」

 

この時カミーユとケンスケが考えた、とある物が活躍するというのは後の話・・・

 

 

 

 

 

 

 

キャンプを終え、カミーユは自宅へと帰った。

 

「ただいま〜」

 

「ビーちゃぁぁぁぁん‼︎心配してたのよ!」

 

「・・・酒臭いですよミサトさん」

 

心配だったのか、ミサトはカミーユに抱きついて離れない。

だが鬱陶しいと思いつつも、悪い心地はしなかった・・・

 




補足 原作だとカミーユは家事とかそういうのがてんで駄目なわけで、ファにやってもらってたんですけど、流石に自分の部屋ぐらいは掃除できるんじゃないかなと考えたので、その設定にしてます。

ちなみに料理は作る人、今はいないからレトルトやインスタントで済ませてるらしい。


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母と子と・・・ 壱

Foo〜↑もう夏休みが終わってまう。更新速度が亀になってしまいますので、覚悟の準備をしておいて下さい!




ここは先の使徒 シャムシエルが敗れた場所。

大きなプレハブが建てられ、使徒のサンプルの回収と分析を行なっていた。

 

「アイツが・・・僕の敵」

 

エヴァに乗っている時はそうでもなかったが、間近に見てみるとやはり大きい。

 

「なるほどね、コア以外は殆ど原型を留めているわ。ホント理想的なサンプル・・・ありがたいわ」

 

「で、なにか分かった訳?」

 

リツコがコンピューターを操作すると、601という番号が出された。

 

「なにこれぇ?」

 

「解析不能を示すコードナンバー」

 

「つまり訳わかんないって事?」

 

「そう、使徒は粒子と波両方の性質を持つ、光のような物で構成されているのよ」

 

「で、動力源はどうです?見つかりましたか?」

 

「らしき物は有ったわ・・・でも、その作動原理がさっぱりなのよ」

 

「まだまだ未知の世界が広がってるって訳ね」

 

「とにかくこの世は謎だらけよ、例えばほらこの使徒独自の固有波形パターン」

 

「どれどれ?」

 

ミサトは画面に顔を近づける。

 

「ミサトさん邪魔です、もう少し右に寄ってください・・・」

 

「おっと悪いわね・・・これって⁉︎」

 

「そう、構成素材の違いはあっても信号の配置と座標は人間の物と酷似しているわ。99.89%ね」

 

「99.89%って・・・」

 

「猿よりも人間に近いって事ですか」

 

「そうね、改めて私達の知恵の浅はかさってものを思い知らせてくれるわ」

 

カミーユ達の隣を人影が通り過ぎる。

気になって見てみると、ゲンドウと冬月だ。

ゲンドウが手袋を外し、何やらコアをペタペタ触っている。よくみると、その手には謎の火傷跡が。

 

「どうしたの?」

 

「大した事では無いんですが、父さんの手に火傷跡があったんです。何か知りませんか?」

 

「火傷ねぇ・・・」

 

「カミーユ君、貴方が来る前に零号機が暴走して実験中止になった事は話したかしら?」

 

「えぇ、聞きましたよ」

 

「その時パイロットが閉じ込められてね」

 

「パイロット・・・レイの事ですか」

 

「碇司令が救出したの・・・加熱されたハッチを強引にこじ開けてね」

 

「信じられませんね、父さんがそんな事するとは思えません」

 

「無理も無いわね・・・でも、手の火傷はその時のものよ」

 

カミーユにはその言葉が信じられなかった。あんなにも冷酷な父親がそんな無理をしてまで助ける筈が無い。

 

「まぁそれはそれとして、カミーユ君。あの使徒が出していた光の鞭、覚えてるわね?」

 

「勿論覚えてますよ、かなり苦戦しましたから」

 

「それは結構。その光の鞭、エネルギーは謎だけれどそれをどうやって鞭の形に留めていたのかが今日分かったわ」

 

カミーユは身を乗り出す。

 

「本当ですか⁉︎」

 

「本当よ、これで貴方の提出した例の装備が作れるようになったわ。無傷で倒してくれたおかげよ」

 

「リツコ、その装備って?」

 

「超高エネルギーを放出し、その形を整えたまま相手を溶断する武器 ビームサーベル よ」

 

プレハブ内は、いつにも増して湿気がこもっていた・・・

 




ランキング入ってる・・・、ええ・・・?(困惑)
めちゃくちゃ喜びましたよ、喜びすぎてコロニー落としました。
感想は返せませんが、全部見させて頂いております!


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母と子と・・・ 弐

感謝以外何も書くことがない・・・
いつもありがとうございます!


蝉の鳴く真夏のプールに、女子達の黄色い声が飛び交う。

 

グラウンドにも、野郎どもの野太い歓声が響き渡っている。

 

現在カミーユのクラスでは、女子は水泳 男子はバスケをしていた。

 

そんな中カミーユ達のグループは休憩で、一同揃ってプールの女子達をいやらしい目で見つめていた。

もしここに邪悪なミンキーモモが居たら、彼らは俗物として貶されるだろう。もっとも、それがご褒美かもしれないが。

 

「皆、ええ乳しとんなぁ・・・」

 

「何か鈴原って目つきやらし〜」

 

「お、カミーユ。何熱心な目で見とんねん」

 

「もしかして綾波か⁉︎」

 

「違うぞ」

 

「まったまた〜、あ、や、し〜」

 

「あ、綾波の胸・・・綾波の太もも・・・あやn(殴」

 

カミーユの拳がトウジの頬にダイレクトアタック!

 

「違うと言ってるだろ!」

 

「だったら何見てたんだよ」

 

「殴った所でワシの目は誤魔化されへん!」

 

「・・・ここだけの話だぞ」

 

そう言ってカミーユは彼らに一つの写真を見せた。

 

「何やこれ」

 

「女性の写真?」

 

「この顔どっかで見た事あるような・・・」

 

「これもうわかんねぇな、お前どう?」

 

「ナオキですね・・・(熱中症)」

 

「それにしてもこの人可愛いな」

 

皆見ても、誰の写真かは分からずじまいだ。

 

「・・・この写真に写っているのは、俺の母さんだ」

 

「スッゲー美人やな」

 

「本当に羨ましいよ」

 

「いいなービダン」

 

そしてカミーユはもう一枚、綾波レイの写真を隣に置いた。

 

「分かるか?」

 

その二つを見比べた瞬間、彼らに電流走る。

 

デデン!何とカミーユの母と綾波レイの顔が瓜二つなのだ!

 

「「「「エエエェェェェ⁉︎⁉︎」」」」

 

「おい、綾波・・・嘘だよな?」

 

「なんでや!」

 

「嘘でしょ・・・」

 

「嘘だろカミーユ!」

 

「え?・・・え⁉︎」

 

「嘘だ・・・僕を騙そうとしてる・・・」

 

その後、彼らは必死に何故カミーユの母と綾波が似ているのか考察したものの、納得いく結果は出ずにそのまま授業は終わってしまった。

 

 

 

 

その後カミーユと綾波は早退し、NERV本部にてシンクロテストを行っていた。

テストといってもただ座ってるだけだから何もする事は無い、暇だ。

 

(ん?あれは父さん・・・)

 

カミーユの乗る初号機の前には零号機が鎮座している。そのエントリープラグに綾波が乗り込もうとすると、ゲンドウが話しかけた。

 

(???)

 

何やら二人とも、普段は見せない笑顔で楽しく会話しているようだ。綾波はともかく、あの髭面が笑っているのが妙に気持ち悪い。

 

(何故だ・・・?)

 

カミーユにとっての謎がまた一つ、増えたのだった。

 

 

 

 

 

シンクロテストを終えた後、ミサト達の家にひとりの客人が来ていた。

 

赤木リツコだ。

 

「何よこれぇ〜」

 

「カレーよ」

 

「相変わらずインスタントな食事ねぇ・・・」

 

「お呼ばれされといて文句言わない」

 

リツコの皿に、カレーに似た何かがかけられる。

 

「これは文句言えるレベルですよ・・・ミサトさんは?」

 

「あぁ〜私はね〜、フッフ〜ン♪」

 

ミサトの手前にあるカップラーメンの蓋が外される。

 

「じゃーん!ここに入れちゃって、どっばぁっ〜ッと!」

 

ミサトはカレーをよそうカミーユの前にスーパーカップのネギチャーシュー味を掲げる。

 

「本気ですか⁉︎」

 

「や〜ねぇ、いけるのよぉ〜」

 

「ハァ・・・じゃ、かけますよ・・・」

 

謎のカレーだったモノがミサトのカップラーメンに注がれる。

 

「最初っからカレー味のカップ麺じゃ、この風味は出ないのよ〜♪」

 

どうやらご機嫌そうで何よりだ。

 

「いっただっきま〜す。スープとお湯を少なめにしとくのがコツよ♪」

 

「言われなくても、そもそもやりませんよそんな事」

 

豪快な音を立てて麺を啜るミサトを尻目に、リツコとカミーユはカレーとは何かを問いかける液体を口に入れた。

 

「これ作ったのミサトね?」

 

「そうです・・・」

 

「分かる?」

 

「味でね」

 

この世のものとは言えない味だった。まるでジャイアンシチューを2年寝かせて、汚いおっさんが足で踏んだ後に汚水をぶちまけた様な味だ。

 

(レトルトを原料によくここまで・・・)

 

「今度呼んでいただける時は、カミーユ君が当番の時にしてくれるかしら」

 

「僕も料理は出来ませんよ・・・レトルトぐらいしか作れません」

 

「ミサトよりはマシよ」

 

その光景を見ていたペンペン。彼の晩飯にも、カレーを侮辱する様なモノが置かれている。

恐る恐る食べてみようとすると、後ろから止められる。

 

「辞めた方がいいぞペンペン。代わりにこれを食べろ」

 

カミーユはカロリーメイトを差し出してきた。

 

「クエッ♪」

 

カミーユへのペンペンの好感度が少し上がった。

 

その後カミーユはリツコ達の元へと帰っていった。

 

「カミーユ君?やっぱり引っ越しなさい。ガサツな同居人の影響で、一生を台無しにする事無いわよ」

 

「なんだかんだ、気に入ってるんで結構ですよ。ペンペンもいますし」

 

「そうよリツコ、人間、どこでも気に入れば住んでいけるものよ。大体引っ越すったってぇ・・・アラ」

 

ミサトは持っていたビールを既に飲み干したようだ。

 

「ビーちゃん・・・もう一本お願い♪」

 

「嫌ですよ、自分で取ってきてください」

 

「ちぇ〜ケチ〜。んで、引っ越しだけど手続き面倒よ、ビーちゃんセキュリティカード貰ったばっかりなんだもの」

 

「あ、忘れる所だったわ。カミーユ君、頼みがあるの」

 

「なんです?」

 

リツコがカバンから一枚のカードをカミーユに手渡す。

 

「綾波レイの更新カード、渡しそびれたままになってて・・・悪いんだけど本部に行く前に、彼女の所に届けてくれないかしら」

 

カミーユは少し考え込む表情をした。

 

「・・・リツコさんの頼みなら引き受けましょう。一つ貸しですよ?」

 

「ありがとうカミーユ君」

 

「ところで、レイはどんな子なんです?」

 

「いい子よとても。貴方のお父さんに似て、とても不器用だけど」

 

「父さんは不器用ってレベルじゃ無いですよ。レイに失礼です」

 

司令へのストレスが溜まっていたのか、ズバッと切り捨てる様なその発言に、ミサトとリツコは大爆笑したのだった・・・

 




補足 ※オリジナル設定です

ビームサーベルについて
原作ではiフィールドで形をとり、そこにメガ粒子をぶち込む訳なんですが、今作では使徒特有のフィールドで形を取りそこに電力をエヴァの体内で変換したS2パワーをぶち込む形にさせて頂きます。

また、ご都合主義なので色々矛盾とか有るかもしれませんが使徒の謎パワーという事でご勘弁。

バリアは、消費電力云々で無しです。

本当に申し訳ない






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母と子と・・・ 参

カミーユのセリフ選び難しいぞこれ


工事の音が鳴り響き、同じ様な建物がいくつも並んでいる。

だがどの建物もボロボロで、廃墟にしか見えない。ここに住んでいる人がいるとすれば、普通では無いだろう。

 

402 綾波

 

リツコに頼まれた通り、カミーユは綾波の家に来ていた・・・筈だった。

明らかにここは年頃の女子が住んでいいところでは無い、しかも一人暮らしだ。

 

(本当にいるのか・・・?)

 

試しにインターホンを鳴らそうとするも、壊れているのか何度押しても動かない。

 

「・・・」

 

ドアノブを開けてみると、鍵がかかっていないのだろう。すぐに開いてしまった。

 

「レイ、入るぞ!」

 

念の為声をかけてみるも返事はない。

 

目の前にある部屋に入ってみたが、女子の部屋とは思えない。壁はコンクリートのまま、ベッドには血痕と脱ぎ捨てられた制服。段ボール箱には使用済みの包帯が詰め込まれており、冷蔵庫の上には薬と、ビーカーに入った水がある。

 

辺りを見回しても綾波は居ない、別の部屋だろうか。

 

テーブルの上にひび割れたメガネが置かれている。

 

「レイの物か・・・?いや違うな」

 

メガネを手に取ろうとするものの手を止め綾波を探そうとするが、その必要は無さそうだ。

 

(・・・!)

 

背後に気配を感じる、何となくだが綾波の物だと確信できた。

 

「・・・レイか?」

 

振り返らずに質問を振る。

 

「・・・そうだけど、何か用?」

 

ビンゴだ。

 

「もし風呂から上がったばかりなら、すぐ着替えてくれ。今俺はそっちを見れない」

 

「・・・そう、分かったわ」

 

流石に今振り返ればアウトだ。

 

「で・・・何?」

 

「リツコさんに頼まれてね・・・ほら、コレだ」

 

振り返ると、制服に着替え終わったレイがいる。新しいカードを渡し、役目は果たした。

 

「これから本部か?」

 

「そうだけど」

 

「ついでだ、俺も行こう」

 

綾波と共に本部へと向かう事にした。

長いエスカレーターの中、カミーユは問いかけた。

 

「レイ、今日は零号機再起動の実験だろ・・・恐怖とか無いのか?」

 

「貴方、碇司令の子供でしょ?」

 

「・・・そうだ」

 

「信じられないの?お父さんの仕事が」

 

「信じられる訳ないだろ!あんな奴‼︎」

 

綾波が突然振り返り、カミーユの頬をビンタした。ヒリヒリと、痛みが残る。

 

綾波はそのまま行ってしまい、カミーユは一人頬をさすっていた。

 

 

 

 

 

 

その後綾波の実験は成功したものの、第五使徒が出現。

零号機はまだ使えない為カミーユが出撃する事になった。

 

「目標は芦ノ湖上空へ侵入、エヴァ初号機発進準備よろし!」

 

「発進!」

 

初号機が地上向けて射出される・・・が

 

「目標内部に高エネルギー反応!」

 

「なんですって⁉︎」

 

「円周部を加速!収束していきます!」

 

「まさか!」

 

射出された初号機に向けて、使徒が光を胸目掛けて放った。

 

「よけて!」

 

無理だ、まだ最後の拘束具が残っている。避けれるはずもなく、その胸は溶けていく。

 

発令所には、使徒の加粒子砲をモロに食らうカミーユの叫びがこだましていた・・・

 




今回は短いですけど、代わりとして明日投稿します。

ビンタ食らうかどうか悩みました、カミーユ君なら避けれそうですし。まぁでも殴られとかないと成長出来ないからねしょうがないね。


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決戦の日 壱

スッゲェ遅くなった、本当に申し訳ない。


初見殺しの加粒子砲により、初号機は急遽回収。カミーユも集中治療室に運ばれ、治療を受けている。

 

目の前の第五使徒 ラミエルは地上にシールドを突き刺し、本部へと侵入しようとしている。

止めようにも奴の能力が分からなくては無謀だ、試さなくては。

 

初号機を模した1/1ダミーバルーンをラミエルに接近させる。

 

「敵、加粒子砲命中。ダミー蒸発」

 

ある程度接近すると、加粒子砲を発射してくる様だ。初号機がやられたのも近くに射出してしまった所為だろう。

 

機関車により、独12式自走臼砲が運ばれて来た。

使徒に対して発射

ATフィールドによる防御、そこからのカウンタースナイプ。

 

「12式自走臼砲消滅」

 

手強そうだ。

 

作戦室にて、職員達から報告結果が次々とミサトの耳に入って来る。

 

「攻守共にほぼパーペキ・・・まさに空中要塞ね。で、問題のシールドは?」

 

「目標は現在我々の頭上、第三新東京市0エリアに侵攻。直径17.5mの巨大シールドがジオフロント内、NERV本部に向けて進行中です」

 

「敵はNERV本部に直接攻撃を仕掛けるつもりですね」

 

「しゃらくさい。で、到達予想時刻は?」

 

モニターに予想図が表示される。

 

「明朝午前0時06分54秒。その時刻には、22層全ての装甲を貫通してNERV本部に到達するものと思われます」

 

「後10時間足らずか・・・」

 

地面を掘り進んでいくシールドが音色を耳障りな音へと変えた。

 

「敵シールド、第一装甲板に接触」

 

「で、此方の初号機の状況は?」

 

NERV本部内 第7ケイジ

 

リツコがコーヒーを飲みながら答える。

 

「胸部第三装甲板まで見事に融解。機能中枢をやられなかったのは、不幸中の幸いだったわ」

 

「後3秒照射されていたら、アウトでしたけど」

 

目の前で運ばれている、飴の様に溶けた装甲板がその惨状を物語っている。

 

「三時間後には換装作業終了予定です」

 

「了解、零号機は?」

 

タブレットを見ながら、マヤが答える。

 

「再起動自体には問題はありませんが、フィードバックにまだ誤差が残っています」

 

「実戦は・・・」

 

「まだ無理か・・・、初号機専属パイロットの容態は?」

 

「身体に異常はありません、神経パルスが0.8上昇していますが、許容範囲内です」

 

「敵シールドは到達まで、後9時間55分」

 

10時間を切った。

 

「状況は芳しくないわね」

 

「白旗でもあげますか?」

 

「その前にちょっち・・・やってみたい事があるの」

 

ミサトは怪しげな笑みを浮かべる。

 

 

NERV総司令公務室

 

冬月がミサトのとある提案に質問した。

 

「目標のレンジ外からの、超長距離射撃かね」

 

「そうです。目標のATフィールドを中和せず、高エネルギー収束体による一点突破しか方法はありません」

 

「MAGIはどう言っている?」

 

ここNERVには、高性能コンピューターであるMAGIが置かれている。組織の脳と言える物でもあり、効率的な方法か診断もしてくれる。

 

「スーパーコンピューターMAGIによる回答は、賛成2 条件付き賛成が1でした」

 

MAGIは三つの思考で成り立っており、多数決で決まる。

 

「勝算は8.7%か・・・」

 

「最も高い数値です」

 

「反対する理由は無い、やりたまえ葛城一尉」

 

怪しく光るグラサン親父が了承の旨を伝える。

 

「はい」

 

現在我々に残されている手段はこれしか無い、なんとしても勝たねば・・・

 




次回の投稿は来週になります、毎度短いですがお許しください。

p.s

最近バトオペ2で百式を初号機カラーに塗って戦っています、見かけたら遊んであげてね。


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決戦の日 弐

「しかし、また無茶な作戦を立てたものね。葛城作戦部長さん?」

 

リツコがからかう様に言う。

 

「無茶とはまた失礼ね、残り九時間以内で実現可能。それにもっとも確実なものよ」

 

「これがねぇ〜」

 

目の前に流線型の形をした大型の銃らしきものが保管されている。

その横には一目で銃と分かるであろう大型のライフルが置かれている。

 

「うちのポジトロンライフルじゃそんな大出力には耐えられないし、片方の試作ライフルもまだ使える代物では無いわ」

 

「借りるのよ」

 

「借りるって・・・まさか」

 

「そ、戦自研のプロトタイプ」

 

 

 

 

戦略自衛隊 つくば技術研究本部

 

研究員達の目には、堂々と徴発令状を突きつけているミサトの姿が。

 

「しかしそんな無茶な」

 

「可能な限り、原型を留めて返却しますので」

 

「・・・分かりました協力しましょう。ですが一つ頼みがあります」

 

「なんでございましょう?」

 

「私達もエヴァの武装研究に参加させて下さい」

 

それは予想外なものだった。

 

「検討しておきます。ではご協力感謝致します」

 

「頼みますよ・・・」

 

「良いわよーレイ、持っていって!」

 

ミサトが声を張り上げると、天井をひっぺ返して零号機が顔を覗かせた。

 

「精密機械だからそ〜っとね?」

 

「しかし、ATフィールドをも貫くエネルギー算出量は最低1億8,000KW。それだけの大電力を何処から集めてくるんですか?」

 

ミサトが自信満々に答えた。

 

「決まってるじゃない、日本中よ」

 

 

 

 

都内の電光掲示板やテレビに臨時ニュースが伝えられる。

 

「本日午後11時30分より、明日未明にかけて全国で大規模な停電があります。皆様のご協力をお願い致します」

 

全国に向けて、それは発信された。

 

 

 

夕の刻、NERV本部では作戦の準備段階を確認し総出で取り組んでいた。

 

全国から集められる電気 借りたポジトロンライフルの組み立て 加粒子砲用の盾 狙撃地点の確認

 

全てを異常なく確認し、本作戦は開始に向かう。

 

「作戦開始時刻は明朝0時。以後本作戦をヤシマ作戦と呼称します」

 

(後はパイロットの問題ね・・・)

 

 

 

 

 

医療用ポッドが開かれ、カミーユは重い瞼を静かに開いた。

 

「初号機パイロットが目醒めました。検査数値に問題なし」

 

「では、作戦は予定通りに」

 

「でも彼、もう一度乗るかしら」

 

「・・・問題無いわ」

 

 

カミーユの病室に、ひぐらしの鳴き声が寂しく届く。

 

ドアが開き、ワゴンを運んで誰かが入って来た。

 

「レイ・・・」

 

「明日午前0時より発動されるヤシマ作戦のスケジュールを伝えます」

 

綾波が手帳を見ながら書いてある通りに伝える。

 

「・・・分かった、念の為その手帳借りていいかな?」

 

「良いわよ、それと新しい奴」

 

綾波レイがカミーユに新しいプラグスーツを差し出す。

 

「・・・寝ぼけてその格好で来ないでね」

 

今カミーユは全裸だった。

 

「・・・出て行ってくれるか?」

 

「食事は置いて置くわ。じゃ、また会いましょう」

 

病院食を置いて綾波は廊下へと戻って行った。

 

(・・・あの使徒!許せない・・・!!)

 

カミーユは使徒への怒りをさらに強めていた・・・

 



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決戦の日 参

危ない所だった・・・


準備は整えられて行く、あと少しだ。

 

「この野戦向きじゃない兵器・・・役に立つんですか?」

 

カミーユは魔改造されたポジトロンライフルを疑問に思った。

 

「仕方無いわよ、間に合わせなんだから。でも貴方が欲しかったデータには丁度いいんじゃない?」

 

「前向きに考えればですけどね・・・安全性はどうなんです?」

 

「理論上は大丈夫だけど、銃身や加速器が持つかどうかは撃ってみないと分からないわ」

 

「随分大きな博打に出ましたね」

 

「本作戦における各担当を伝達します」

 

ミサトが伝える。

 

「カミーユ君は初号機で砲手を担当、レイは零号機で防御を担当して」

 

「「はい」」

 

二人揃って答える。

 

「これはカミーユ君の方がシンクロ率が高いからよ、今回はより精度が高い方のオペレーションが必要なの。陽電子は地球の磁場等を受け、真っ直ぐには飛ばないわ。それを計算して撃つ必要があるの」

 

「計算も何も、一回も撃った事ないんですよ?」

 

「大丈夫、テキスト通りにやって真ん中のマークが重なった時に撃つだけで良い、後は機械がやってくれるわ。でも外した場合次に撃つまでに時間がかかるの」

 

「じゃあこっちが外して、撃ち返されたらどうするんです?」

 

「余計な事は考えないで、正確に撃つ事だけを考えなさい」

 

(かなりマズイ状況だな・・・)

 

「時間が無いわ、早く二人とも着替えて」

 

 

 

 

 

 

 

更衣室

 

手首のスイッチを押すと、ブカブカだったスーツが体に密着する。

 

「もし失敗したら死ぬかも知れないぞ、自信はあるのか?」

 

カミーユは綾波に質問する。

 

「貴方は死なないわ、私が守るもの」

 

「・・・俺だって君を死なせはしないさ」

 

 

 

世界から光が消え、闇に包まれる。

その闇から星が瞬き普段見せない、いや、見ることを捨てた景色が再び世界を彩っている。

その光景はひどく美しく、魅了される様だった。

 

そんな光景を眺めながら二人は言葉を交わす。

 

「レイは何故エヴァに乗るんだ?」

 

「絆、だから」

 

「絆?」

 

「そう、絆」

 

「父さんとの?」

 

「みんなとの」

 

「そうか・・・君は優しいんだな」

 

「時間よ、行きましょう。さよなら」

 

月を背に立つその姿は、この光景にピッタリと合い何か神秘的な美しさを放っていた・・・

 

 

 

 

 

時は来た

 

「作戦スタートです!」

 

「カミーユ君?日本中のエネルギー、貴方に託すわ。がんばってね!」

 

「はい!」

 

接続が開始され、指示が飛び、それに合わせる。現場には緊張感が走り、人々がそれを見守っている。

 

「撃鉄起こせ!」

 

初号機がレバーを引くと、発射体制が起こされカミーユの目の前に狙撃用のデバイスが被さる。

誤差修正が行われ、二つのマークが居場所を求めて彷徨う。

 

機械はスパークし、タービンは轟音をかき鳴らし、銅線が煙を発する。

 

最終接続が終了した。

 

「全エネルギー、ポジトロンライフルへ!」

 

今ここに、日本中のエネルギーを託され、一大決戦が幕を開けた。

 

カウントダウンが始まる。

 

8

 

7

 

6

 

5

 

「目標に高エネルギー反応!」

 

4

「何ですって⁉︎」

 

3

 

2

 

1

 

「発射!」

 

二つのエネルギーがぶつかり合い、ねじ曲がったのち。

 

二つの光の柱が立ち上った。

 

プラグ内にも衝撃が伝わって来た。後方に加粒子砲が着弾したのだ。

 

「敵シールド、ジオフロント内部へ侵入!」

 

「第二射急いで!」

 

レバーを、引く。

 

「ヒューズ交換!銃身冷却開始」

 

「目標に高エネルギー反応!」

 

「マズイ!」

 

敵の加粒子砲がこちらへ直進し・・・拡散した!

 

 

「カミーユ君!」

 

カミーユが目を開けると、目の前には零号機が。

 

「レイ!」

 

盾が飴細工の様相を示す。

 

「盾が持たない!」

 

「まだなの⁉︎」

 

「第二射まで後10秒!」

 

それは誤差修正までの時間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんなものッ!」

 

デバイスを叩き落とし、感覚の赴くままに。

 

感覚をシャープにし、敵を見据えて。

 

守りたいものがあると強く願い、信じて。

 

使徒への怒りを最大限込めて。

 

その指は動いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

希望の光は直進し、着弾。火を吹く

 

「よっしゃ!」

 

敵機撃墜 任務完了

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

零号機本体には当たらなかったものの、ダメージは深刻だ。黄色の巨体が倒れる。

 

「レイッ!」

 

エントリープラグを取り出し、初号機から降りた後にその扉を開ける。

 

凄まじい温度、スーツを着ていなければ火傷していたであろう。

 

奇しくもそれはあの父親と同じ事だった。

 

「レイッ!大丈夫か⁉︎」

 

レイが瞼を開ける。

 

「さよならなんて冗談でも言わないでくれよ・・・」

 

涙は流さない、だが声は少し震えている。

 

「ごめんなさい、こういう時どんな顔すれば良いか分からないの」

 

「顔なんて良いさ、今はただ無事だった事が嬉しいよ・・・」

 

やはり親子は似た物同士なのだろう、レイの瞳には二人が重なって見えた。

 

肩を撫で下ろし、自然と笑みが溢れる。

 

そんな光景を月は淡く、優しさを込めて照らしていた・・・

 




てな訳で、無事ラミエルはお亡くなりになりました。
少しカミーユっぽく無いセリフがあると思いますが、次回はてんこ盛りなので、許してください、お願いします。

次回は出来れば来週に投稿します。


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JA発進 壱

「ちょっと待って?投稿されて無いやん!どうしてくれんの!」

「すいません、僕がサボっちゃいました・・・」

次回アスカ来日だな!と思ってたらこの回忘れてた、本当に申し訳ない。


何やら髭親父が怪しい電話をしている・・・、どうやら何かの計画の様だ。

 

「君の資料を見る限りでは今の所問題は無かろう」

 

「では、シナリオ通りに」

 

相手はよく分からないが、何となく天パに撃墜されてそうな声だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食パンをトーストにし、かじる

 

ペンペンも干した魚を、かじる

 

結局カミーユは料理ができるわけでは無いので、朝はトーストした食パンとインスタント味噌汁だ。

ペンペンの飯も買って来た物。

 

現在葛城家のリビングでは朝食の時間だ。

 

「・・・おはようございます。また二日酔いですか?」

 

リビングに入ってきたミサトの顔は青い。

 

「ご名答・・・ウプッ」

 

またトイレへと駆け込むのだった。

 

その後帰ってくるものの盛大なあくびをし、ビール缶を開ける始末。

それを一気に飲み干すのだ、懲りないのだろうか。

 

「朝一番はこれよね〜」

 

「そんな訳ないでしょう」

 

「日本人はね、昔っから朝はご飯と味噌汁、そしてお酒って相場が決まってんのよ」

 

「ミサトさんだけです。そんな事やってるから二日酔いが連続するんですよ」

 

「何よ?」

 

ムスっとした顔でミサトが言う。

 

「ガサツで、ズボラだからそういう風になっちゃうんですよ。未だに一人暮らしなのも分かります」

 

カミーユがコーヒーを啜りながら答えた。

 

「うっさいわねー」

 

「所で本当に今日、学校に来るんですか?」

 

「当たり前でしょ?進路相談なんだから」

 

ミサトがパンを口に咥えながら答える。

 

「仕事はどうするんです?」

 

「いいのいいの、これも仕事の内だし」

 

「・・・なるほど」

 

(あっ)

 

どうやらミサトは口を滑らせた様だ。

 

部屋にインターホンが鳴り響く。

 

「はい〜、わざわざありがとう〜。え?少し待っててね♪」

 

猫撫で声で対応するミサト。

 

「ミサトさん、まさかその格好で出ないでくださいよ?恥ずかしい」

 

現在のミサトの格好はまさに下着と言っても過言ではない。思春期の男子が見れば、虹の彼方に行く事だろう。

 

「はいはい♪」

 

ミサトが胸を強調するポーズを取る物の、カミーユには効果がない様だ。

 

 

 

 

玄関を開けると、いつもの二人だ。

 

「「おはようカミーユ君!では、ミサトさん。いってきまーす!!」」

 

何やら笑顔で玄関から顔を出してきた。

 

「いってらっしゃ〜い♪」

 

ミサトが腕を出して答えるとトウジとケンスケが涙を流して喜んでいる。

 

「ほら!早く行くぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

他に誰も居なくなった葛城家で、ミサトが電話した。

 

「今家を出たわ、後のガードよろしく」

 

どうやら監視をつけている様だ。

 

「それなんですが・・・」

 

「どうしたの?」

 

「バレてます」

 

「えっ⁉︎」

 

思わず受話器を落としてしまう。

 

「彼には後ろに目でもついてるんでしょうか・・・」

 

「どうしましょうかね・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

カミーユが教室から外を眺めていると、謎のスキール音が!

 

イニDばりのドリフトを決め、赤い車が駐車してきた。

 

「おほぉ^〜、いらっしゃったでぇ!」

 

トウジが歓喜の声を上げ、ケンスケがカメラを回す。

 

その赤い車から出てきたのは謎の美女!グラサンを外すと、より一層際立っている。

だが、ただのミサトである。

 

「カッコいい!誰あれ⁉︎」

 

「ビダンの保護者⁉︎」

 

「何!ビダンってあんな美人に保護されてんの⁉︎」

 

学校中の男子がミサトに釘付けになる。

 

「馬鹿みたい」

 

女子は、そんな男子を冷ややかな視線で見ていた。

 

「はぁ〜、ああいう人が彼女やったらなぁ〜」

 

「やめといたほうがいいぞ」

 

「「分かってないな、ビダン」」

 

トウジとケンスケの声が重なる。

 

「「よっしゃ!地球の平和はお前に任せた!だからミサトさんは任せい!!」

 

二人とも同じタイミングで肩を叩いてきた。素晴らしいユニゾンだ。

 

 

 

 

 

だがそんな日常もいずれ無くなるかもしれない。

水面下では既に各国でエヴァの建造が始まっていた。

 

一方その頃、本部内では

 

「じゃあ、セカンドインパクトって・・・」

 

「そう、歴史の教科書では大質量隕石の衝突となっているけど、事実は往々にして隠される物なのよ」

 

リツコの口からカミーユにセカンドインパクトの真実が語られる。

 

「偉い人の宿命だものな・・・事態の善悪など分からずにひたすら隠すんだものな」

 

(なかなか効くわね・・・)

 

秘密だらけのNERVにとってそれは来るものがあった・・・

 




所々端折ってます。全部描写はいや〜キツいっす。


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JA発進 弐

カミーユ君により、エヴァ全体が様々に強化されてます。原作よりヌルヌルゲーっぽくなるけど、"全体"だから大丈夫!


今日もいつも通りの朝、朝食のパンを食べているとだらしない格好のミサトが・・・

 

何だこの姉さん⁉︎(驚愕)

 

まるでティターンズの様な制服に身を包んだミサトさんがいるではありませんか!

思わずカミーユとペンペンも目を丸くした。

 

「おはよう」

 

いつになく真剣そうだ。

 

「おはようございます。所でなんです?その服は」

 

「これはNERVの正装よ」

 

「正装?どこか行くんですか」

 

いつもの服装じゃないところを見るに何やら重大な事の様だ。

 

「ちょっと仕事で旧東京まで行って来るわ」

 

「遠いですね」

 

「ええ、帰りは遅くなるだろうから出前でも・・・、そもそも毎日出前だったわね」

 

ミサトは苦笑する。

 

「じゃ、行って来るわね」

 

「気を付けて下さいよ」

 

微かな微笑みを浮かべながらミサトは足早く出ていってしまった。

 

「・・・旧東京か」

 

残ったパンを口に放り込み、PCを起動する。

 

(確か何かがあったはずだ・・・)

 

検索すると、どうやら旧東京で新兵器『JA』のお披露目があるらしい。

 

(何か・・・嫌な予感がする)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お披露目会場には、世界各国からヘリコプターが集結していた。何しろエヴァに代わるかもしれない人型兵器だ、期待したくもなるだろう。

 

だがネルフ御一行様の札が立てられた席にはミサトとリツコのみ。

 

「ご質問のある方は是非どうぞ」

 

一通り説明が終わり、今回の開発責任者 時田シロウへの質問が始まる。真っ先に手を挙げたのはリツコだった。

 

「これは、ご高名な赤木リツコ博士。お越し頂き誠に光栄です」

 

「質問を宜しいでしょうか?」

 

「ええ、ご遠慮なくどうぞ」

 

時田が余裕そうな笑みを浮かべる。

 

「先程のご説明ですと、内燃機関を内蔵とありますが」

 

「ええ、本機の大きな特徴です。連続150日間の作戦行動が保証されております」

 

「しかし格闘戦を前提とした陸戦兵器にリアクターを内蔵する事は、安全性からもリスクが高い事かと思われますが」

 

リツコの言う事はもっともだ。デリケートであるし、リアクターを貫かれ炉心融解でもしたら大惨事になりかねない。

 

「5分も動かない決戦兵器よりは役に立つと思いますよ」

 

この時田という男、嫌な奴だ。NERVが嫌いなのだろうか。

 

「それは過去のデータです。現在ではフル稼働で10分は動かせます」

 

カミーユの作ったプログラムとエネルギー配分により、フル稼働で10分。通常稼働で15分は持つようになったのだ。

その報告に少し会場がざわついた。

時田の顔が少し歪んだが、リツコの攻撃は止まらない。

 

「遠隔操縦では緊急対処に問題を残します」

 

「パイロットに負担をかけ、精神汚染を起こすよりは人道的と考えます」

 

「それならこちらにはMTモードが有ります」

時田の顔がまた歪んだ。

リツコのターンは終わらない。

 

「何と仰られようとこちらの兵器以外、目標は倒せません」

 

「え、ATフィールドですか?それも時間の問題ですよ・・・」

 

十中八九無理だろう、前回のラミエル戦を見ていれば分かる筈だが。

 

「やめておきなさい、大人気無い・・・」

 

リツコの誇ったような顔とは別に、ミサトは呆れたような表情をしていた。

 

 

 

 

 

 

その後

 

「自分を自慢し褒めてもらおうとする・・・大した男じゃ無いわ」

 

リツコはJAの資料をライダーで燃やし、怪しげな笑みを浮かべている。

 

「でもビーちゃんのお陰で恥かかずに済んでよかったわ。でもATフィールドまで知ってるのは驚いたけど」

 

「機密情報だだ漏れね・・・」

 

「諜報部は何やってるのかしら!」

 

NERV用に構えられた部屋にミサトの怒号が響いた・・・




次回 JA暴走

あまり面白みが無いので次回はカミーユ発進ら辺からスタートになります。
そこら辺は原作と同じだからね、しょうがないね。

今作ではエヴァは暴走してないので時田に何か言われることもありません。


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JA発進 参

今回はほぼカミーユ視点となりますので、ミサトさんの活躍はほぼ見れないです。
後今回もご都合主義です。ご勘弁を

今さらですがこの小説あっさりしすぎでは?ほぼダイジェストといっても過言ではない。是非そこら辺も教えてくれるとありがたいです。


初号機を乗せた輸送機が空へ飛び立つ。

 

「目標はJA。5分以内に炉心融解の可能性があるからこれ以上人口密集地に近づける訳には行かないわ」

 

「そんな事、見れば分かるでしょう」

 

急に呼び出されたからかカミーユは不機嫌だ。

 

「いい?カミーユ君。目標に並走して、私を背後に取り付けて。以後は目標の動きを出来るだけせきとめてね」

 

「そんな無茶な作戦、本当にできるんですか?」

 

「無茶は承知よ」

 

だが新たな作戦を考えている暇も無かった。

 

「目標を肉眼で確認」

 

「さ、行くわよ」

 

 

 

 

輸送機の背後から白色に新しくペイントされた初号機が射出される。

 

大幅改修を受け全身に取り付けられたスラスターを巧みに扱い、衝撃を緩和しながら目標の真後ろへ着地した。

 

目標へ片手を伸ばし掴むものの、凄まじいパワー。スラスターを持ってしても引っ張られそうなほどに強力だ。

 

「構わないわ、やって!」

 

片方の手でミサトさんをJAの後部ハッチに送り出す。

 

「ミサトさん、くれぐれも気をつけて下さいよ」

 

それにミサトはピースサインで答えた。

 

「このぉっ!止まれよッ!」

 

JAを正面から押さえつける、すると冷却水であろうものがあちこちから噴き出してきた。

 

JA本体はスラスターを全開にし、足を地面に食い込ませる事でなんとかしているが、冷却水の漏れは不味い。

 

だがそこは初号機は謎の餅のようなものを噴射した。応急処置ではあるが漏れは防げるだろう。

 

(ミサトさんは何やってるんだ!いくらなんでも遅すぎる!)

 

一方その頃ミサトはプログラムが書き換えられていることに四苦八苦していた。本来であれば特定のパスワードを打ち込めばそれで終わりだが、そのパスワードが変えられていた。

 

「動力炉、臨界点まで後0.2!」

 

「制御棒作動しません!」

 

臨界点到達までのタイムリミットも刻一刻と迫ってきている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「神様がいるって信じたくなったよ!」

 

カミーユはおもむろにビームサーベルを肩から取り出す。柄からはピンク色の光の刃が放出され、空気を焼き切るような音が響く。

 

「ただの鉄屑に、帰れぇぇええ!!!」

 

そしてビームサーベルを、JAの頭へとそのまま突き刺した!

 

丁度臨界点到達の時間、誰もが目を閉じJAが炉心融解へ至ると思ったものの、何も起きない。

 

それどころかJAは動きを止め、制御棒も正常に作動していく。

 

「内圧ダウン!全て正常位置!」

 

重化学工業の技術者達が歓声を上げた。

 

奇跡は、起きたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕焼けに包まれたNERV本部 その司令室ではまたもや謎の密会がなされていた。

 

「初号機の回収は無事終了しました。汚染の心配もありません。ですがシナリオよりも少し変わった展開になりました」

 

そこにはリツコの姿も見える。

 

「ご苦労。だがここまでとはな・・・」

 

「はい・・・」

 

(一瞬で電子基部を狙い、強制的に機能停止なんて・・・ありえないわ)

 

(おかしいな・・・まぁ何とかなるだろう)

 

カミーユの異常な行動により、歴史は大きく変わった・・・

 




何で電子基部(人間でいう脳みたいなもん)を狙えたかって言うと、NTだからですね(白目)


* 初号機について

前回の使徒戦の後カミーユの案を取り入れ、初号機の大幅改修が行われた。見た目に派手な変化は少ないかもしれないが、内部は大幅にアップグレードされ、運動性も向上している。
また、カラーも禍々しい紫から変更され白と黒に変わっている。

特徴
全身への各所へのスラスターの配置
肩のウェポンラックに左右共にビームサーベルを2本配置
頭部へのバルカンポッド搭載 
ビームライフルの装備(尚、今回の戦闘では持たされていない)
腕部トリモチランチャー装備



てな訳で初号機がガンダムmk2仕様になりました。
これには使徒も涙目。
でも、何で初号機は紫色なんですかね。ゲンドウ君の趣味?


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アスカの来日 壱

「ML-55輸送ヘリ!こんな事でもなけりゃあ一生乗る機会無いよ!全く、持つべきものは友達って感じ♪」

 

ケンスケが心底嬉しそうに感想を述べた。よっぽど嬉しいのか、機内の彼方此方を食い入るように見ている。ミサト、カミーユ、トウジ、ケンスケの4人は輸送ヘリで太平洋へと向かっていた。

 

「毎日、同じ山の中じゃ息苦しいと思ってね。たまの日曜だからデートに誘ったんじゃないのよん♪」

 

「えぇっ⁉︎それじゃホンマにミサトさんとデートっすか⁉︎この帽子、今日のために買うたんですミサトさん!」

 

「普通の帽子だろそれ。で、どこに行くんです?」

 

カミーユの言う通り、トウジが被っている帽子はなんて事ない普通の白いキャップだ。強いて違うとするなら逆向きに被っているところだろうか。

 

「豪華なお船で太平洋をクルージングよん♪」

 

ミサトがウインクをしながら伝えると、丁度よく眼下の船・・・艦隊が見えてきた。

 

「おぉ〜!空母が5、戦艦4!大艦隊だ‼︎ホント、持つべきものは友達だよなぁ」

 

「これが豪華なお船?」

 

トウジが残念そうに項垂れる。思っていたのと違ったようだ。

 

「まさにゴージャス!流石国連軍の誇る正規空母、オーバーザレインボー!」

 

「よくもあんな老朽艦が浮いていられるものね」

 

「いやいや〜、セカンドインパクト前のヴィンテージ物じゃないっすか?」

 

酷評されたヴィンテージ物も受け入れ準備は済んでいるようで、着陸地点へトラブル無くつく事が出来た。

 

「おおぉお!‼︎スッゴイスッゴイスッゴイスッゴォォォォイ‼︎」

 

どうやらケンスケは周りの化石物に夢中らしく、船員からちょっと引かれながらも、おもちゃを手に入れた子供の様にはしゃぎ続けている。彼の目からすればここは宝石箱なのだろう。いや真珠か?

 

トウジはご自慢の帽子が風にとばされているし、カミーユとミサトは硬いシートに何時間も座っていたせいで肩と首を痛めたようだ。

 

「くっそぉぉお!止まれ、止まらんかい!」

 

必死に逃げ回る帽子を追いかけていると、トウジの目の前で赤い靴を履いた少女に軽く踏み潰されてしまった。可哀想に。

 

「ハローミサト!元気してた?」

 

「まぁね、あなたも背伸びたんじゃない?」

 

「そ、他の所もちゃーんと大人らしくなってるわよ♪」

 

未だトウジは踏まれたままの帽子を引っ張っている。そのままやってたら千切れるぞ。

 

「紹介するわ、エヴァンゲリオン弐号機パイロット。セカンドチルドレンの、惣流・アスカ・ラングレーよ」

 

そう、帽子を踏み潰した赤い靴を履き、風でパンツが見える黄色のワンピースを着たブロンド髪の少女。彼女がアスカだ。

そして今、パンツを見た代金として男にビンタをかましていく。第一印象は最悪だ。だがなぜかカミーユだけは食らわなかった。

 

 

 

「で、噂のサードチルドレンは誰?まさかこの痴漢野郎じゃないでしょうね」

 

そう指されたトウジはどこか遠いところを見つめている。今日は彼にとって厄日のようだ。

 

「違うわ、この子よ」

 

「ふーん、私が言うのもなんだけど、中々の美少女じゃない」

 

「あっ」

 

その時、場が凍りついた。カミーユの額に青筋が立っている、よっぽど怒っているのだろう。アスカは知らなくて当然、カミーユは容姿や名前がコンプレックスなのだ。

 

「舐めるなッッ‼︎」

 

「危なッ!何すんのよ!」

 

「俺は男だよッ!」

 

この喧嘩が後々、長い長い因縁になるとはこの時誰も思っていなかった。

 




お久しぶりで(ryすまんかった。
実は私受験生でして、勉強しなきゃならんのです。アスカの来日だけは最後まで書くのでオナシャスセンセンシャル。


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アスカの来日 弐

 

「なんであんたがここにいるのよ!」

 

「彼女の随伴でね。ドイツからの出張さ」

 

喧嘩と手続きを終え、アスカを含めた一行と、おじさん一人はエレベーターに寿司詰め状態になっていた。

この無精髭を生やしたおじさんは加持リョウジ。カミーユ曰く、目の良さが命取りになりそうな人らしい。

因みにそのカミーユは幸運にもミサトの胸に顔を埋めている。

 

「迂闊だったわ、充分考えられる事態だったのに」

 

誰かが女性陣の尻を触ってきた。

 

「「ちょっと、触んないでよ‼︎」

 

「「仕方ないだろ‼︎」」

 

 

 

 

 

ようやく棺桶から解放され、おじさん含めた一行は特にする事なくくつろいでいた。

 

「今、付き合ってる奴いるの?」

 

ミサトの足をつつきながら、リョウジが訪ねてくる。

 

「それが貴方に関係あるわけ?」

 

「あれ?釣れないなぁ」

 

すると加持の脛にミサトのキックがヒット。声も出せず痛みに悶えている。肩を震わせるしか無い加持だがそんな状態でもカミーユに話を振って来た。

 

「君は、葛城と同居してるんだっけ?」

 

「はい、それが何か」

 

加持は先程までの痛みは何処に行ったのか突然キメ顔になり、得意げに言った。

 

「彼女の寝相の悪さ・・・治ってるかい?」

 

「「「えぇ〜⁉︎」」」

 

「な、何言ってるのよ⁉︎」

 

カミーユ除く三人はドン引きし、ミサトが怒りのあまり顔真っ赤になりながらテーブルを叩いた。あまり知られたく無いようだが。

 

「相変わらずかい?カミーユ・ビダン君」

 

「えぇ。ところでなぜ僕の名前を?」

 

カミーユはまだ加持には名乗っていなかった。

 

「こっちじゃ、君は有名だからね。何の訓練も無しにエヴァを動かしたサードチルドレン。しかもメカニックとしても超一流ときた」

 

「いや、その・・・ありがとうございます」

 

少し戸惑いながらもカミーユは褒められるのを嬉しそうにしている。そんなカミーユをアスカは怪訝そうな目で見つめていた。

 

「それじゃ、また後で」

 

「悪夢だわ・・・」

 

厄日だったのはトウジだけじゃなかったようだ。頭を抱えるミサトを横目に加持は何処かへとスタスタ歩いて行ってしまった。

 

(あの人・・・褒められたのは嬉しいけど、なんか嫌な人だな)

 

何かを隠しているその煮えきらない態度にカミーユはムズムズしていた。

 

 

 

 

 

「どうだ?カミーユ君の感想は」

 

「乱暴な子。あんなのがサードチルドレンだなんて、幻滅」

 

アスカと加持は船のデッキに腰掛けていた。アスカに関しては足をぶらぶらさせて今にも海に落ちそうだ。

 

「しかし、いきなりの実戦で彼のシンクロ率は89.3%。しかもMTで倒したらしい」

 

「うっそぉ⁉︎」

 

アスカは驚愕の事実に目を開きながら、先程殴りかかってきた美少年の事を考えていた。

そこでアスカはいい事を思いついたらしい。

 

 

 

 

「賑やかでしたけど、なんか好きになれませんね。あの加持って人」

 

「昔からああなのよ」

 

ミサトは吐き捨てるように言った。何かあったのだろうか。

 

「サードチルドレン!ちょっと来なさい」

 

一行がエスカレーターに乗っていると、アスカが高圧的に話しかけて来た。

言われた通りついていくと、船の甲板にたどり着いた。アスカぎが甲板にかけられていた布を少し剥がすと、中にエヴァが見える。

 

「赤い・・・エヴァ?」

 

「違うのはカラーリングだけじゃないわ」

 

アスカがヒョイヒョイっとステップし、あっという間にエヴァの頭上に飛び乗った。するとまた高圧的な態度で話しかけてきた。

 

「所詮零号機と初号機は開発過程のテストタイプとプロトタイプ。訓練も無しにシンクロ出来たのが、その良い証拠よ。」

 

一人で語り始めたアスカをカミーユは何か言いたげに見ている。

 

「けどこの弐号機は違うわ。これこそ実戦用に作られた世界最初の、本物のエヴァンゲリオンなのよ!正式タイプのね」

 

「・・・つまりは、僕の設計も入ってるって事になるな」

 

「悔しいけど・・・貴方のスキルだけは認めてあげるわ。よかったじゃ無い、パイロットじゃなくなっても行き場があるわよ」

 

「こいつ・・・」

 

と、アスカがカミーユをまた怒らせて修正を喰らいそうになると都合良く船が揺れた。

なにかと思い外に二人とも出てみると、海面が爆発している。

 

「使徒だ・・・使徒が来たんだ」

 

「あれが本物の・・・?」

 

どうやらアスカは本物を見るのは初めてらしい。すると、またまた何か思いついたらしい。行動力と発想はカミーユに劣らないようだ。

 

「チャーンス」

 

アスカは獲物を見つけた様な目で、また一波乱起こそうとしていた。




てな訳で原作と比べると弐号機が今の初号機くらい強化されており、それによりカミーユはアスカから少し認められてます。
しかし殴ったせいで無駄にライバル意識が増えてしまいました。 


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アスカの来日 参

 

「ちょっとここで待ってなさいよ」

 

「わかった」

 

アスカに連れられ、カミーユは非常階段に来ていた。どうやら使徒が来たようで、艦隊が砲撃や魚雷攻撃を行っているが効いてないようだ。

赤いバッグを抱えたアスカが降りてゆくと、服を脱ぐ音が聞こえてきた。

恐らくプラグスーツに着替えているのだろう、カミーユはそのまま待つ事にした。

 

「さ、行くわよ」

 

着替え終わったアスカがプラグスーツを渡してきた。予備の物だろう。

 

「・・・俺も行くのか?」

 

「あんたバカァ?私達二人であの使徒を倒すのよ!」

 

「勝つ見込みはあるのか?」

 

「なんとでもなるわよ」

 

そう言うと、アスカは自信満々にエントリープラグのハッチを開いた。

 

「さ、私の見事な操縦を目の前で見せてあげるわ。ただし、邪魔はしないでね」

 

「そっちこそ。よく見せてもらうからな」

 

ついにエントリープラグが挿入され、シンクロが始まるもののすぐにアラートの文字が周りを覆った。どうやらバグのようだ。

 

「思考ノイズよ。邪魔しないでって言ったでしょ」

 

「どう言う事だ?」

 

「アンタ日本語で考えてるでしょ、ちゃんとドイツ語で考えてよ」

 

「難しいな、俺はドイツ語を知らないんだよ」

 

「いいわよもう!思考言語切り替え、日本語をベーシックに!」

 

すると周りの画面が正常に映し出された。シンクロ自体は成功のようだ。

 

「エヴァンゲリオン弐号機、起動」

 

かけられたシーツを引っ剥がしながら、ゆっくりと身体を確かめるように動く弐号機。だが今の装備はB型装備。ビームサーベルしか持ち合わせていない。

 

「どうするんだ?水中戦のデータは無いぞ」

 

「落ちなきゃいいのよ」

 

ここでお相手さん登場。海を切り裂きながら水飛沫を上げてこちらに向かってきている。

 

「来た!」

 

弐号機は飛び上がり、そのまま突進をかわした後に近くのイージス艦へと着地した。足場となっている船は、今にも沈没しそうな程悲鳴を上げている。

 

「何処?」

 

「あそこだ」

 

モニター内には先程の使徒と、制限時間が表示された。

 

「5分程か・・・ミサト、甲板に非常用の電源ソケットを用意しておいて!」

 

幸い、改修により弐号機の制限時間は伸びている。落ち着いて戦えばなんて事ないだろう。

 

「さぁ、飛ぶわよ」

 

「飛ぶっていっても、この装備じゃ・・・」

 

「見てなさい!」

 

すると弐号機はあっという間に空は飛び上がり、次々と船を踏み台にしながら非常用電源へと向かう。その動きはまるで牛若丸。シンクロ率の高さとアスカのセンスが生み出す動きだ。

 

「来るぞ!左舷二時方向!」

 

「外部電源に切り替え」

 

無事外部電源に切り替えることが出来た。

 

「でも武装がないぞ、どうやって戦う?」

 

「アンタの作ったこの武器で充分よ」

 

ビームサーベルを構えながらアスカは答える。そこへ使徒がついに水に覆われたその姿を現した。

 

「デカい・・・」

 

「思ってた通りよ」

 

使徒が弐号機に襲い掛かり、船の甲板にダイブしてきた。それを何とか受け止めるがさすがに重さが違う。あっさりと水中に引き摺り込まれてしまった。

だがビームサーベルはまだ手に握り締めている。

 

海の中をみると、かつての横浜が見えてきた。だが観光している時間は無い。弐号機は、必死に暴れる使徒にしがみついたままだ。

何とか離れるものの、今度は弐号機の身体がほぼ動かなくなってしまった。

 

「何よこれ、全然動かないじゃ無い!」

 

「B型装備だからな。とにかくスラスターを吹かすんだ!来るぞ!」

 

使徒がその大きな口を開け、こちらへと突進して来た。

 

「口ィ⁉︎」

 

虚しく弐号機はそのまま釣りの様に食われている。

その衝撃に耐えていると、無線からミサトの声が聞こえてきた。

 

「アスカ、聞こえる⁉︎絶対離さないでね!」

 

大人達もただ見ているわけでは無いのだ。

 

「艦長、ご協力お願いします」

 

ミサトの作戦が艦長に提案される。

 

「生き残った戦艦二隻による、零距離射撃・・・」

 

「そうです、アンビリカルケーブルの軸線上に無人の戦艦二隻を配置し、罠を張ります。その間に、エヴァ弐号機が目標の口を開口。その先に戦艦二隻による主砲含めた全砲撃の後に自爆。目標を撃破します」

 

「そんな無茶な」

 

「無茶かもしれませんが、無理では無いと思います」

 

「・・・分かった」

 

渋々答えた艦長の命令により、全艦への撤退命令が出された。

 

「しかしエヴァはどうする」

 

「心配いりません、あの二人でしたら」

 

ミサトは無線に切り替える。

 

「二人とも作戦良いわね?」

 

「やれるだけやってみます!」

 

「こんぐらいやってみせるわ!」

 

ケーブルが巻き取られ、弐号機と使徒はみるみる上昇していく。

 

「とにかく思考を集中させるのよ」

 

「言われなくても、分かってる!」

 

二人で操縦桿を握り、使徒の口をこじ開けるイメージを思い浮かべる。するとどうだろう、少しずつだが口が開いてきた。

 

「開けえええぇぇぇえええええ‼︎‼︎」

 

「うおぉぉぉぉおおおおお!!!」

 

エントリープラグ内に二人の叫びが響く。弐号機の四つ目が輝き、使徒の口をガパッとこじ開けた。そこに見えるコアへとビームサーベルを突き刺し、使徒の動きを止める。後ろから迫り来る戦艦が次々と突っ込んで来た。

 

「撃てぇ!」

 

口に盛大に突っ込んだ戦艦により、使徒の口へと全射撃が撃ち込まれる。

使徒は内部から爆発し、水上へと大きな水飛沫を上げた。

彼らはまた、やってのけたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「既にここまで復元されています、硬化ベークライトで固めてありますが、生きています。間違いなく。人類補完計画の要ですね?」

 

「あぁ、最初の人間。アダムだよ」

 

 

 

 

 

 

 

HR前 教室

 

「それにしてもホンマ、いけすかん女やったなぁ」

 

「ま、もう会う事も無いだろうさ」

 

「カミーユは仕事やからしゃぁ無いわな。同情するでホンマ」

 

だがそんなトウジの同情虚しく、アスカはこの学校へと転入してくるのだった。

 

「惣流・アスカ・ラングレーです。よろしく♪」




急いで書いたので、所々描写不足かもしれませんし、カミーユらしく無いセリフがあるかもしれません。
そう言う時は迷わず教えて下さい。その方が助かりますので。
ではまた、三月ごろに投稿再開すると思うのでそれまで。


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ワルツ・アタック 壱

アスカが転校して来てから数日、学校中は彼女の話で持ちきりだった。帰国子女でスタイル抜群、誰にでも明るく分け隔てなく接する性格という武器を持つ彼女は正に無敵。

いくつもの男が勇敢にもアタックしたが、結果は…。学校というコミュニティでの噂の広がり具合は凄いものだ。あっという間に尾ひれがつき、事実とは荒唐無稽な彼女の過去が語られている。

そんなんだからケンスケが盗撮したブロマイドは売れるに決まってる。別にアスカだけでは無く他にも人気がありそうな女子もいくつか撮ってはいるんだが、結局はアスカの方が売れ行きが良い。

一枚300円とちょっと中学生には高く感じるが、一度彼女という炎に焼かれた彼らは燃え尽きるその時まで進み続けるだろう。

だが当の本人は決してそんな憧れの存在ではない。ただの我儘な中学二年生ということをケンスケとトウジはよく知っていた。

今日も暑い夏の中、彼らはブロマイドを売る。心の中で彼らを可哀想に思いながら。

 

 

セミが命の合唱を鳴らす中、カミーユは歩道橋を人混みの中渡っていた。そこで後ろから声が掛かる。

 

「Hallo!カミーユ。Guten Morgen!」

 

「…」

 

「ちょっと、無視しない。この私が話しかけてるのよ?ちょっとは嬉しそうにしなさいよ」

 

「なら、その喋り方をやめてくれ。耳障りだ」

 

「はいはい、アンタはほんっと繊細よねぇ」

 

学校ではアスカのあの性格は鳴りを潜め、誰にでもこんな感じに挨拶する様になる。恐らく帰国子女らしさを全面に出してるんだろうが、カミーユにとってそれは卑怯な感じがしてままならなかった。

 

「で、ここにいるんでしょ?」

 

「誰がだ?」

 

「アンタバカァ?ファーストの事よ」

 

「ああ。レイならあそこに」

 

そう言ってカミーユは木陰のベンチに座った綾波を顎で示した。そう言えばアスカはレイと直接話した事は無かった。そんな事を思っていると、アスカは早速読書中のレイに話しかけようと降りていった。

 

文字を追いかけていくと、突如左端から大きな人影が入って来る。読むには邪魔に思い本を右に寄せると影の主から声がかかってきた。

 

「Hallo!貴方が綾波レイね。零号機のパイロット」

 

それに対して綾波は何をいうでも無く、ただ邪魔だと訴える視線を弍号機パイロットに注ぐ。

 

「私は惣流・アスカ・ラングレー。弐号機のパイロット。これから仲良くしましょう」

 

「命令ならそうする」

 

それだけ言うと、彼女はまた知識へと興味を移してしまった。その変わった態度にアスカはちょっと拍子抜けする。

 

(変わった子ね〜)

 

これから一緒やっていくのがちょっと不安になった矢先、ポケットにしまっておいた携帯のアラーム音が鳴る。

何事かと思い手に取ると、画面には非常召集の文字が写されていた。

使徒の襲来だ。

 




お久しぶりです。
いやはや、遅くなってしまい申し訳ありません。
こちら無事に受験が終わりましたので更新を再開したいと思います。


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ワルツ・アタック 弐

「先の戦闘によって第三新東京市の迎撃システムは大損害を受け、現在での復旧率は26%。使い物にならないと考えていいわ」

 

非常召集から一時間程経った後、カミーユとアスカはエヴァ2機による降下作戦の指示を受け現在コクピットにて待機している。

敵はまだ上陸して来ていない為、水際においての波状作戦が採用された。

レイは零号機が改修中な為、留守番である。

 

「せっかく日本でのデビュー戦だってのに、どうして私一人に任せてくれないの?」

 

「仕方ないだろ、作戦なんだから」

 

「言っとくけど、足手まといな事はしないでね?」

 

「俺だって一通りのことは出来る。馬鹿にしないでくれ」

 

「そう?んじゃとくと拝見させてもらうわ」

 

カミーユは何か言いたそうな様子だったが、アスカはその前に通信を切ってしまった。もし通信越しでなかったら今頃殴り合っているだろう。

 

「整備の腕は確かだけど、パイロットとしてはどうかしら」

 

一人呟くと、コクピット内に少し背中側から振動が伝わってきた。肩部ウェポンラックのロックボルトが外され、40m程ある巨体が地面へと落下していく。

背中と脚部に設置されたスラスターを吹かし、着地の衝撃を和らげる。

作戦地域に着いた後、アンビリカルケーブルが接続され作戦は開始された。

今回の作戦にあたって、初号機にはビームライフルが支給される。尚弐号機においては前回の海での戦闘の後改修が行われた為、今回は試運転に近い状態だ。運動性能がいくら向上したかを計測する為、ビームサーベル一本での戦いとなる。

 

「来る!」

 

上陸予定時刻になると、海面から大きな影が姿を現した。その巨体は今までより人らしい姿をしているがヒトデの様な面影も感じさせる。

顔らしき場所には二つの仮面が入り混じった様な器官が見受けられる。

 

「私からいくわ、援護してね!」

 

「は?」

 

「レディファーストよ」

 

「後から来たくせに指図しないでくれ!まったく!」

 

カミーユの文句虚しくアスカは一人突っ込んで行ってしまった。

初号機がビームライフルのトリガーを押すと、瞬く間に光の奔流が使徒の腕にあたる器官を吹き飛ばした。

次にコアへと狙いを定めた後、二撃目。

再び光の蛇が使徒目掛け牙をむくがコアにはヒビを入れるだけしかダメージを与える事が出来なかった。だが本命はそこじゃない。

 

「ぬあぁぁぁああああ‼︎」

 

海面に突出した廃ビルを踏み台に、弐号機は跳躍した後その光の剣で上から下へと相手を真っ二つにした。

 

(おかしい…あの使徒にはまだなにかある筈だ)

 

カミーユは少し訝しむ目で二つにお別れした巨体を見る。

 

「いい?戦いは常に無駄なく、美しく、よ」

 

勝ち誇った顔でアスカが自信満々に言うが、当の被害者はその発言を許さなかった。

二つになった巨体の右側に着いていた仮面に似た器官が入れ替わり、もう片方の残骸にも同じような器官が瞼を開ける様にして現れた。

その後二つの残骸を突き破り、生物が脱皮する様に現れたのはもう一体の同型の使徒。

 

第七使徒 イスラフェル。つまり、こいつは分裂したのだ。

 

「なんてインチキ!」

 

これには作戦を指示したミサトも目が点になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦いを終えた二人のチルドレンの前にスライドが流れる。それは文字通り真っ逆さまに地面に突き刺さった二機のエヴァだった。

 

『無様ね』

 

無線越しにE計画責任者であるリツコからの一言が添えられた。

 

「もう!アンタの所為でせっかくのデビュー戦が滅茶苦茶になっちゃったじゃない!」

 

「なんだと⁉︎アスカが勝手な真似しただけだろ!」

 

「勝手な真似ぇ⁉︎どうしてアンタがそんな事言えるのよ!図々しいわね」

 

「お前が一人で無闇に突っ込むからだろ!そんな事も分からないのか!」

 

最初は言い合いで済んでいたが、段々とエスカレートし殴り合いへと発展していくその様子はもうNERV職員にとって日常茶飯事であった。

 

「まったく恥をかかせおって」

 

NERV 1の苦労人である冬月もこの結果には眉を顰める。二機のエヴァが沈黙した後国連軍によるN2爆雷で使徒への攻撃が行われたが結局は足止めに過ぎなかった。

構成物質の82%を焼き払う事に成功するものの、肝心のコアは無傷。

 

「ま、立て直しの時間が稼げただけでも儲け物っすよ」

 

尚今回の報告には加持も出席していた。どうやら出向の指令が来た様で日本支部でしばらく滞在するらしい。

そんな事お構い無しに殴り合う二人へ、元教師でもある冬月は少し叱る事にした。

 

「いいか君達。二人の仕事は何か分かるか?」

 

途端に殴り合いを止める二人。二人も冬月先生の話はは真剣に聞くべきだと思った。

 

「エヴァの操縦」

 

「民間人を守る事」

 

「違う、使徒に勝つ事だ。こんな醜態を晒す為に我々NERVは存在しているわけではない。その為には君達が…」

 

「「なんでこんな奴と‼︎」」

 

「もういい…」

 

頭を抱えながら冬月は一人、部屋を後にした。

 

「どうしてみんなすぐに怒るの⁉︎」

 

「大人は恥をかきたくないからさ」

 

「ところで、ミサトさんはどこです?」

 

「ああ、ミサトなら後片付け。責任者は責任取る為に居るからな」

 

その通りミサトの目の前には山積みになった紙の山が机中に置かれていた。なんならいくつかはみ出している。

 

「関係各所からの抗議文と被害報告書。でこれがUNからの請求書。広報部からの苦情もあるわよ」

 

「はぁあ〜」

 

余りにも多すぎる量にミサトは頭を抱えた。

 

「今回の件で副司令はカンカンよ。次ヘマしたらそれこそ左遷ね」

 

「分かってるわよ、でも碇司令が出張してたのは不幸中の幸いだったわね」

 

椅子に腰掛けたミサトは皮肉気味にゲンドウのポーズを取った。リツコが、少し笑みをこぼすと白衣のポケットから一つのカセットテープを取り出した。

 

「何それ?」

 

「貴方の首の皮をつなげておくものよ」

 

その言葉を聞くとミサトの顔がぱぁっと明るくなる。

 

「さっすが天下のリツコ博士!持つべき物は心優しき旧友ね♪」

 

「残念ながらピンチを救うのは旧友じゃないわ。このアイデアは加持くんよ」

 

リツコがテープをひっくり返すとそこには、マイハニーへ♡と書いてある。

 

「加持の…」

 

ミサトはまた頭を抱え、苦い顔をした。どうやら何か思う事がありそうだ。何にせよ一週間の内に使徒を倒さなくてはならないのだ。選んではいられない。

 




弐号機について

今作での弐号機は日本支部での改修を受け、性能と見た目が大きく変わっています。
見た目においては、弐号機の後ろに百式のバインダーと似た物が付いている様な感じです。
性能についてですが、アスカの要望により運動性能を極限まで高めています。

それでは感想やご指摘、質問等お願いします。


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ワルツ・アタック 参

原作だと多分これが一番明るい回だと思います。


「何だこれ」

 

学校も無事終わり、家に着いたカミーユが自室の部屋を開けると目の前には大量の段ボールが山積みになっていた。

足の踏みどころもない程敷き詰められた段ボールを凝視していると、キッチンから風呂上がりであろう格好のアスカが出てきた。

 

「失礼ね、私の荷物よ」

 

手に持った缶コーラをグイッと飲み干し、アスカは続けた。

 

「アンタこそまだいたの?」

 

「まだ?どう言う事だ」

 

「アンタ、今日からお払い箱よ」

 

その発言にカミーユは首を傾げるしか無かった。目の前の少女が言っている事を整理しようとするものの、いまいちクビになる要素が見当たらない。

 

「ミサトは私と暮らすの。まぁ、どっちが優秀か考えれば当然の選択よね。本当は加持さんと一緒の方がいいんだけど」

 

「優秀?お前が俺よりも?笑わせないでくれ」

 

アスカも部屋を見回すと、段ボールの山を見て不満そうに口を溢した。

 

「しっかし、どうして日本の部屋はこうも狭いのかしら。荷物が半分も入らないじゃない」

 

クレームを並べるアスカの後ろに目を凝らすと、自分の部屋にあった機材一式諸々が部屋の片隅に寂しそうにほったらかされていた。

思わず近寄って見てみると、幸いにも傷はない様だ。だがカミーユの拳は怒りで震えている。

 

「貴様!優秀だからってなんでもして良いと思っているのか!」

 

思わず振りかぶった拳がアスカの綺麗な顔面にクリーンヒット。空手の有段者からのパンチを貰ったんだ、アザになる事間違い無し。

 

「何よいきなり!精々アンタはそこのスクラップ共と一緒に一人部屋でうずくまってるのがお似合いよ!」

 

アスカもお返しとばかりにカミーユの頬にビンタをかます。パァンと威勢のいい音と共にカミーユの頬には真っ赤な紅葉が。

 

「こら!何やってるのアンタ達は!」

 

いつの間に居たのか、ミサトは今にもおっぱじめようとする二人の腕を取りあげた。

お仕置きとばかりに二人ともゲンコツを貰った。

 

「「ミサト(さん)…」」

 

「この調子じゃちょっち心配ね…」

 

「「何が(ですか)?」」

 

「今度の作戦準備よ」

 

「「どうして?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「第七使徒の弱点は一つ!」

 

資料をぶちまけたテーブルの上に一口飲んだビール缶を置くと、部屋着に着替えたミサトは作戦概要を説明し始めた。

 

「分離した二つのコアに対しての二点同時の加重攻撃。これしか無いわ」

 

それを聞く二人のチルドレンは目をパチクリさせる。

 

「つまり、エヴァ二体のタイミングを完璧に合わせた攻撃よ。その為には二人の協調。完璧なユニゾンが必要なの」

 

二人のチルドレンは互いの顔を見ると、同じ表情をした。

 

「そこで、貴方達にはこれから一緒に暮らしてもらうわ」

 

これには二人とも驚いた。なにせよすこぶる相性が悪いのだ。誰だ、この作戦考えた奴。

 

「使徒は現在修復中。第二波は6日後で時間がないの」

 

「そんな…無茶な」

 

「で?どうするんですか。こんなのと協調とかそれこそo9システムですよ」

 

「方法ならあるわ。二人の完璧なユニゾンをモノにする為、この曲に合わせた攻撃パターンを覚えるのよ」

 

そう言ってミサトが取り出したのは一つのカセットテープだった。

 

「6日の内に、1秒でも早くね」

 

二人とも先程同様顔を見合わせるが、すぐにそっぽ向いてしまった。

 

(加持…本当に大丈夫なんでしょうね?)

 

ミサトも内心では苦い顔をするしか無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかし、カミーユの奴どないしたんやろ」

 

「学校休んでもう3日か…」

 

トウジとケンスケは、急に学校に来なくなったカミーユを心配してミサトのマンションへと向かっていた。

目的の階に着いたエレベーターから出ると、同じく隣から出てきたヒカリと出くわした。

 

「あれ?委員長やんか」

 

「三馬鹿トリオの二人?」

 

「なんで委員長がここにおるんや」

 

「惣流さんのお見舞い。そっちは?」

 

「カミーユ君のお見舞い」

 

歩いて行くと、三人共同じ部屋で止まってしまった。何か悪い予感がしながら恐る恐るインターホンを鳴らすと、アスカとカミーユの返事が聞こえ、ドアが開かれる。

ドアから出て来たのは色違いではあるが同じ服装に身を包んだアスカとカミーユだった。

 

「う…裏切り者…」

 

「またしても今時ペアルック…。イヤーンな感じ」

 

三人共顔を顰めた。

二人がなんとか誤解を解こうとすると、ちょうど良くミサトが綾波を連れて帰って来た。

取り敢えずは三人を招き入れ、話をすることにした。

 

 

 

 

 

 

リビングに招かれた三人は二人に合っているとは思えない作戦に思わず笑ってしまった。

 

「で、ユニゾンは上手くいってるんですか?」

 

結果は何となく分かるが、念の為ヒカリはミサトに聞いた。

 

「それは見ての通りよ」

 

全員が視線を二人に向けると…まぁ結果はお察しの通りだ。因みに何で練習してるかだが、リズムに合わせて地面の丸を押す…まぁツイスターゲームの亜種みたいなものだ。詳しくは見てくれ。

基本部屋でパソコンをいじっているカミーユだが、運動神経は人並み以上な筈だ。一応アスカの動きに付いてはいけるはずだろうが、やはり合わない。

何度やってもすぐ失敗するんで、アスカは怒りのあまりヘッドホンを地面に叩きつけた。

 

「当たり前じゃない!根本的にカミーユと合わせるのが無理な話なのよ!」

 

「じゃあやめとく?」

 

ミサトはジト目で質問した。

 

「他に人、いないんでしょ?」

 

アスカは高らかに言うが、それは目の前の少女を見てから言ってほしいものだ。

 

「レイ。やってみて」

 

「はい」

 

恐らくはこの為に呼んだんだろう。ヘッドホンをつけ最初からスタートするが、圧倒的にこっちの方が向いているだろう。寸分の違いも無く二人はゲームを終えてしまった。

綾波が合わせているのか、カミーユが自然と合わせる事が出来ているのか、どっちにしろパーフェクトだ。思わず三人は拍手するものの、アスカは自分以外に適している人物がいると知り、動揺する。

 

「こりゃ、変えた方がいいかもしれないわね」

 

ミサトが意地悪そうに言った。

 

「もうイヤ!」

 

扉を強く開いたアスカは足音を鳴らしながら何処かへと行ってしまった。どこか心の隅で自分が要らないと感じてしまったのだろう。

 

「カミーユ君!追いかけて!」

 

「は?」

 

「女の子泣かせたのよ⁉︎責任取りなさいよ!」

 

ヒカリの訴えにカミーユは内心自分に関係ないだろと思いつつ、アスカの跡を追う事にした。

 

 

 

何となく直感の赴くままコンビニに入ると、飲み物コーナーでしゃがんで品定めするアスカが居た。

いや、見ているのは飲み物ではなくもっと別の何かだろう。それは自分か、それとも周りの人の事か。

 

「何も言わないで」

 

話しかけようとするも、そう言われては何も出来ない。だがカミーユも少しはアスカの考えている事は分かっているつもりだ。

 

「分かってるわ、私はエヴァに乗るしかないのよ。」

 

気持ちに整理がついたのか、アスカは立ち上がった。

 

「やるわ、私」

 

そう言って、アスカは扉を閉めた。

 

 

 

 

 

 

「こうなったら、何としてでもレイやミサトを見返してやるのよ!」

 

コンビニで買い物をした後、二人は高台に来ていた。前に来た所と一緒だ、ここからは夕焼けがよく見える。どこぞの宇宙人が風情を感じる程に。

 

「見返す…か」

 

「甘い事は言ってらんないわ!傷つけられたプライドは倍返しするのよ!」

 

サンドイッチを頬張りながら語るアスカの目には闘志が満ちていた。その炎に、カミーユは少し好感を持つ。

 

「その気持ちだけは同じだな」

 

 

 

 

 

 

それからは二人の暮らしは一層激しさを増していった。

ゲームでミスする事が有れば互いに蹴り合い、歯磨きの後に互いを睨みつけ、テレビのチャンネルを譲らない為に互いに手を引っ叩いたり、寝るのも一緒で、食べる動きも互いに同じ。

彼らは究極のユニゾンを目指した。そこに恥など無い、あるのは目標へと向かう意志だ。二人ともそこは同じだった。

日にちは過ぎ、遂に作戦前日も終わりを迎えた。

 

カミーユは風呂も終わり、リビングで一人布団の上で手持ちのS-DATの音楽をリピートしていた。

 

「アレ、ミサトは?」

 

今風呂から上がったばかりのアスカは、時間を過ぎても帰ってこないミサトが気になった。

 

「仕事だ。今夜は徹夜だってさっき電話が来たぞ」

 

「それじゃあ今夜は二人きりね♪」

 

そう言うと、アスカはもう一つの布団を抱え、向かいの部屋へと持っていった。

向かいの部屋で寝るつもりなんだろう。

先程布団を持っていった時に閉めた扉を開け、アスカは顔を覗かせる。

 

「これは決して崩れることの無いジェリコの壁」

 

「ベルリンの壁?」

 

「ジェリコよジェリコ!この壁をちょっとでも超えたら死刑よ。子供はさっさと寝なさい!」

 

まるで母親の様に言うと、アスカは扉をピシャリと閉めた。自分にも母親がいたらあんな感じだったのだろうかと、カミーユは内心想像した。自分の母は実験の途中、事故で死んだのだと昔父さんが言っていたのを思い出した。

だがすぐに父さんは自分を捨て、自分に残ったのは今手に持っているS -DATだけだった。

それからは父さんを憎み続けた。何故親をやってくれなかったのだろうと。そんな事が何年も続いたあの日、手紙が来た。それからは…

 

ピシャリと音がした。思わずS-DATの電源を切ってしまう。

背を向けていて分からないがアスカだろう。足音をヒタヒタ聞こえる。トイレに向かっていったようだ。

閉じていた目を開け、時計を見るともう11時だ。早く寝ないとなと思い、再度目を閉じる事にした。

 

だがすぐ目の前で倒れる音が聞こえる。何事かと思い目をまた開けると、そこにはアスカが居た。驚いて今度はS-DATを逆再生にしてしまう。

寝ぼけて部屋を間違えたのだろうか。近くで見るとその整った顔がよく分かる。

彼女もシャツ一枚しか上に来ていない為、中学生とは思えない豊満なバストが露わになっている。

 

「マ…マ…」

 

寝言だろう。鈴の鳴るような声で呟くのが聞こえる。閉じた瞼からは少し涙が流れているのが見えた。

カミーユは少し、彼女への考え方を変える事にする。

彼女はどんな過去を過ごして来たのか。彼女の幼い姿にカミーユは思うところがあった。

 

カミーユはそのまま何もする事なく瞳を閉じた。一人じゃないと誰かに言い聞かせる様に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

作戦当日

 

再生を終えた第七使徒はVTOLに囲まれる中、本部目指して俄然進行中だった。

 

「音楽開始と同時にATフィールドを展開。後は作戦通りに、二人ともいいわね?」

 

「「了解」」

 

「カミーユ、最初からフル稼働、最大戦速で行くわよ。」

 

「分かってるさ、62秒で終わらせる」

 

外部電源が解除され、リフトオフ。作戦は開始された。

 

地下という檻から抜け出し、鳥の様に空は浮かぶ二機のエヴァ。

 

回転と勢いを乗せた槍。

 

分裂させた使徒へむけてのビームライフルとガトリングガンを用いた弾幕の嵐。

 

テンポに合わせたバク転で次々と攻撃をかわす二機のエヴァ。

 

最後の攻撃はビルを盾にし、すかさず相手への弾幕を張り続ける。

 

NERVの全施設からミサイルが放たれ、使徒が隙を見せると、チャンスとばかりにアッパー、からの回し蹴り。

 

狙い通り使徒は融合し、コアは二つ。

 

全身とスラスターを使った跳躍。

 

太陽を背にした二機のエヴァは二つのコアへと全体重と力学的エネルギーを乗せ、意志を持って山へと押し出して行く。

 

その作戦名はワルツ・アタック。

 

美しく鮮やかな踊りは、使徒の爆発にてここに幕を下ろしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あちゃー」

 

「無様ね」

 

…オチは美しいとは言えなかった。モニターに映し出されたのは踊りを終えたダンサーではなく、互いにぶつかったような倒れ方をした二機のエヴァだった。

 

ズームアップすると、電話越しに喧嘩する二人が見える。結局はこうなった。

思わず司令部は笑いに包まれた。

 

「また恥をかかせおって…」

 

冬月は頭を抱えながら、自分の胃が限界に近づくのを自覚した。

 




62秒について

JAの時フル稼働で10分と書いたのは覚えていますか?
この作戦はなぜ62秒で終わらせたのかというと、設定的な感じで言うなら、曲の時間が62秒しか無いからそれに合わせる為とかそういう理由です。チャンスは一瞬なので緊張感を持たせるためでもありますね。

まぁメタ的に言うならこの小説プロット云々全く無しなので私のミスです。よく考えずに書くもんじゃねぇわ。
あと言っておくと、大体の流れは決まってます。まごころを君にまで書くのでお楽しみを。
こんなペースじゃ夏に終わらねえよ。

カミーユの隣でアスカが寝る場面あるじゃないですか。悩みました。でもみんなに笑顔にさせたいんで、解釈違いでも許してくださいな。

では感想ご指摘お願いします!


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灼熱のダイバー 壱

「えぇ〜⁉︎修学旅行に行っちゃダメ?」

 

急遽ミサトから悲報を伝えられたアスカを横目に、カミーユはコーヒーを啜っていた。なんでも使徒が来た時にすぐ対応できるようパイロット達はここから出られないらしい。

 

「ちょっとアンタ!コーヒーなんか啜ってないでなんか言ってやったらどうなの?」

 

「こうなると思ってたさ。実際使徒がいつ来るかは分からないからな」

 

正論をぶつけてやるとアスカは鼻を鳴らして言ってきた。

 

「諦めてたってわけね」

 

「…」

 

今の発言は少しイラっとくるぞ。無言でテーブルの下の足を蹴り飛ばしてやると、向こうも蹴り飛ばしてきた。

 

「いつも待機待機!守ってばっかりじゃない。たまにはこっちから居場所を突き止めて攻めたらどうなのよ」

 

「出来たらやってるわよ」

 

ため息混じりに投げられた質問にミサトが苦笑いで応じると、カバンから二つのカセットを取り出してきた。PC用であろうそれには俺とアスカの名前が書かれている。…嫌な予感がしてきたぞ。

 

「ま、これをいい機会だと思ってみなさいな。少しは勉強出来るでしょ?貴方達が学校のテストで何点取ったかなんて情報ぐらい筒抜けなんだから」

 

やっぱりそうか!ミサトの発言に頬が引き攣るのが分かるぞ。恐らくあのカセットにはこれまでのテストの点数や成績が諸々入ってるんだろう。マズイな、国語と社会は絶望的だった筈だ。登場人物の心情なんか分かるわけないだろ!人によって感じ方や考えは違うんだから。

考えるだけでも憂鬱になってくるぞ、これは。

 

 

 

─────

 

 

 

そんなわけで結局国語と社会の勉強をする事になった俺はNERV本部に設けられているプールの片隅でPCと睨めっこするはめになってしまった。ミサトからのせめてもの厚意で今日一日プールを貸し切らせてもらってるわけだが、正直いって興味は無い。

それよりも目の前の問題だ。ドッチボールを上手くなりたい弟に対しての兄二人それぞれの教え方が書かれた問題だが…

 

「何してるの?」

 

「国語の勉強」

 

「ったく、お利口さんね」

 

「そんな事いってもやらなきゃいけないだろ…」

 

ふと顔を上げると、先程プールから上がってきたであろうアスカが仁王立ちしていた。なんとまぁ、派手な水着だな。14歳にしては大きい胸を強調するように胸周りのフリルは一切つけられていない。むむ、いつも我慢しているとはいえ刺激が強いぞ。

 

「どれどれ?…ここの事柄で詰まってるのね。この問題だったら少年の兄二人の優しさと厳しさの対比を表していると書くのが正解よ」

 

本当か?と思いながら答えを見てみると、物の見事に当たっていた。やっぱり国語は分からないな。俺はてっきり二人目の兄の様に教えるのが正しいと言う事を伝えてると思っていたぞ。

 

「こんなにパッと出て来るならどうしてテストの点数が低かったんだ?」

 

「問題がなんて書いてあるか分かんなかったのよ。漢字はまだ全部覚えてないしね。向こうの大学じゃ習わなかったし」

 

「大学?」

 

ここに来て新事実だ。ドイツでは飛び級制度があるんだったか?14歳で大学を卒業となると、相当頭が良い事になる。アスカに教えてもらった方が進むんじゃないか?

 

「ここはなんて書いてあるの?」

 

「2000年9月13日以降の条約についてだ」

 

そう言ってアスカが指差したのはセカンドインパクト後の世界情勢に関連した設問だった。ここら辺は色々起こりすぎて全部覚えるのが難しいんだよな。

ええいままよ。癪だがここはプライドを捨てるしかない。勉強が終わらない事には何も始まらないからな。

 

「あー…良かったら教えてくれないか?イマイチ勉強が進まないんだ」

 

「…ええ、良いわよ」

 

少し驚いた顔をすると、アスカは了承の返事を寄越してきた。アスカの事だからこれを貸しと思うかもしれない。

ふと山積みの国語問題集を取りページをパラパラとめくってみると、苦虫を噛み潰したような気分になった。例えばこの走れメロスとかいうやつだが、ツッコミ所が多すぎる。太陽の十倍速いとかあり得ない。このディオニスとやらもそんな簡単に心を入れ替えるわけないだろ。作者が何を伝えたいかと問われても、よく分からん。肝心の作者が借金そっちのけで将棋を指す奴だから説得力の欠片もないぞ。

少し後悔をしつつ、カミーユは目の前の問題に取り組むのだった。




お久しぶりです。
久しぶりすぎて書き方すら忘れてしまいました。
カミーユのセリフを考えるのが一番難しいんですよね。


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灼熱のダイバー 弐

アスカ推しの方々には申し訳ありませんが、この話はだいぶ飛び飛びで書くことになってしまいました。
なので開始はダイブするところからです。

ふざけんじゃねぇよお前オイ!誰が手ェ抜いていいっつったオラァ!


「いつでもどうぞ」

 

無線での呼びかけに応じながらアスカは自分のプラグスーツの感触を再度確かめていた。むむ、やっぱり動きづらいぞ。ここまでの事を簡潔に整理すると、浅間山内部に使徒の蛹を見つけた為人類史上初の攻勢に打って出るべくその蛹を回収するのが目的だ。

でもこうなるとは思ってなかったな。耐熱性に全振りしたこのD型装備とプラグスーツは…なんていうかまんまるなのだ。すごくまんまる。でも立候補してしまった以上仕方ない。加持さんに見られないのが幸いだな。

 

「発進」

 

ミサトの指令により冷却剤を含んだ耐熱ケーブルに吊るされた弐号機が段々と灼熱の海に落とされていく。うひゃー、見た目だけでも十分熱いぞ。本当に大丈夫なんだろうか、大気圏にも耐えられる素材らしいが不安になって来る。そうだ、ここは一発景気付けついでにアレをやろう。

 

「みてみてカミーユ!」

 

「?」

 

「ジャイアントストロングエントリー!」

 

「…真面目にやってくれ」

 

そう言うと同時にエントリープラグ内の視界がオレンジ色に染まっていく。ちぇっ、つまんないの。…あれ?ストライドだっけ。まぁいいか。

中に入ると、温度はあまり感じない筈だが視覚的に熱いと脳が錯覚するのか少し生暖かいな。

 

「何も見えないわね」

 

ひとまずは溶けずに済んだのを確認したところでCTカメラに切り替えてみるものの、あまり変化は感じられない。若干手持ちのケージが見えやすくなったぐらいだ。透明度120でこれだとすると、見つけるのも一苦労かも知れないぞ。

 

『1000、1020、安全深度オーバー』

 

『アスカ、何か見える?』

 

「視界は絶不調。レーダーにも反応は無いわよ」

 

ブリーフィングだと大体ここら辺だった筈だけれど…どっかに流されたのか?もっと深くまで潜るのは御免なのになぁ。そう思いつつ深度メーターを睨んでいると背後から嫌な音がした。

なんだ今の。ピキッて言ったぞ、ピキッて。

 

『第二冷却パイプに亀裂発生』

 

流石にそのぐらいは起きるか。でも少し驚いちゃうぞ。

 

『アスカ、どう?』

 

「まだ持ちそう。早く帰ってシャワーでも浴びたいわ」

 

『近くにいい温泉があるわ。終わったら行きましょう』

 

お、楽しみだ。温泉とかパンフレットとかでしか見た事ないからな。どんなところか想像していると、それを中断させる様にまた嫌な音がした。今度は何処だ?

 

『エヴァ弐号機、ビームサーベル喪失』

 

マズイな、保険用のサーベルが持っていかれたらしい。だがここで止めるわけにはいかない。

 

『深度1850。目標修正地点です』

 

「…いた」

 

見つけたぞ。よりによってこんな奥に居るだなんて。マグマの中だからだろうか、それとも蛹だからだろうか。見た目は使徒らしさはあまり無い。というか黒い楕円形の形をしているな。

手持ちのケージのスイッチを押すと左右へと枠が伸び切った。いよいよ捕獲だ。

 

『お互いに対流しているからチャンスは一度しか無いわ』

 

「分かってる。任せて」

 

そんぐらいお茶の子さいさいよ。プールに流される様な感覚を味わいながら使徒に近づくと、さっき伸ばした枠から出たバリアが使徒を覆い尽くした。丁度長方形の形になる。

これでおしまい、後はケージを持ったまま待つだけだ。

 

「使徒の捕獲完了。これより浮上します」

 

無線越しに安堵の声が聞こえてきたぞ。やっぱりあっちも相当気をつかってくれていたらしい。ちょっと嬉しくなるな。

ん?カミーユからの無線だ。

 

『アスカ、大丈夫か?』

 

『大丈夫よ、案ずるより産むが易しってね。やっぱ楽勝じゃん」

 

『それなら良かった』

 

いつも通り不機嫌そうな声色だが、声を掛けてくれるだけあの凶暴犬にも優しさがあるのだろうか。…いや無さそうだな。この前もプリン勝手に食べた癖に逆ギレしてきたし。

 

…嘘でしょ?嘘嘘嘘嘘!勝手にケージが動いてる!

 

「何よこれぇー‼︎」

 

『マズイわ、羽化を始めたのよ』

 

そんなの聞いてないわよ!悍ましい呻き声と共に先程までの楕円形がみるみる姿を変えていく。所々新しく生えた触手がケージのバリヤを突き破ってきた。

 

『捕獲中止。ケージを破棄!』

 

ミサトに従って緊急用の赤スイッチを押すと、手元から爆発したケージは羽化を始めた使徒を乗せて落下していった。

 

『作戦変更、目標は使徒の殲滅。弐号機は即座に戦闘準備!』

 

「待ってました!」

 

意気揚々と宣言するものの、言った後で気づいた。サーベルは遥か地下深く。素手で戦えるかと言うと、捕獲用の簡易アームに換装してあるので使い物にはならない。

 

重りであるバラストを外して機動性を上げようとするものの、今しがた突っ込んで来る使徒を避けるのにもスレスレだ。というか掠ったぞ。

相手は予想以上の速さだが今の所はこれで時間を稼ぐしか無い。

視界は悪い、やたらと暑い、スーツは汗でべっちょりとして気持ちが悪い。最悪だな。

 

次の攻撃に備えるべく姿勢を整えていると、嬉しい知らせが入って来た。

 

『アスカ、今のうちに初号機が貴方の所にサーベルを投げるわ。受け取って』

 

「了解」

 

頼むぞカミーユ。アンタの投擲技術次第で私の命に関わるんだから。

 

『使徒、急接近中!』

 

遅い!もっと早く投げられないの⁉︎目の前から来る突進に身を守ろうとするものの、あっという間にガードは崩される。

 

「来た!」

 

やっと来たサーベルに手を伸ばして掴み取り、胸に飛び込んできた使徒に突き立てるものの、火花を散らすだけでまるで歯が立たない。

 

「こんちきしょおぉぉお‼︎」

 

何度突き刺しても駄目だびくともしない。しかも口を開けて噛み砕こうとしてきたぞ。マグマに耐えてるんだからそりゃ効かないだろうが、どうすればいいって言うんだ。

 

何か無いのか?この際何でもいい!使えそうなモノは…。…そういえばこの前読んだ本で銃が熱膨張で撃てなかったと書かれていたが…、熱膨張?そうか熱膨張だ!ふと思い出したぞ。

手頃な冷却パイプを千切り、使徒の口へと突っ込む。

 

「三番の冷却パイプの圧力を最大にして!」

 

消防のホースの様にぶち撒けられたそれは使徒の体内へと入っていき、その硬質化した外皮はお湯が注がれたカップが氷水につけられた様にビキビキと割れていく。

その外皮の境を狙ってサーベルを突き刺すと…ビンゴ!

後は格段に柔らかくなった体をバラバラに切り刻んでやると、使徒はその体を朽ちらせ藻屑へと化していった。

 

だがこっちも終わりそうだ。何てったってさっきの使徒の攻撃で残りの冷却パイプが千切られ、冷却液は乾いてしまった。

冷却液を失った装甲が次々と凹んでいくのが分かる。

 

「せっかくやったのに…ここまでなの?」

 

重量の底に堕ちていき、絶望を覚えた空に手を伸ばすと、動きが止まる。思わず見上げると、紫の巨人が私を見つめていた。私の腕を掴んで。

ああ、無理しちゃって。

装備も無しで、全身火傷レベルの痛みを背負っているだろうに。

 

その巨人の顔は、あの映像と同じだった。ドイツで私が資料として見た、炎に揺らめきながらも民間人を守ったあの顔と。

 

そこに私は安堵を覚えながら、深い意識の底へと落ちていった。

 

 

─────

 

 

風呂上がりでポカポカした気分の中、赤木リツコは売店で買ってきたコーヒー牛乳を嗜んでいた。やはり風呂上がりは格別だな、これからの残業も苦もなくやれそうだ。マヤとカミーユも手伝ってくれるそうだし、話題には事欠かなそうだ。

おっと、着信だ。テーブルの上の端末に手を伸ばして見てみれば、相手はレイだった。

 

「…もしもし、赤木博士」

 

「あら、どうしたの?こんな時に」

 

「…その、温泉はいかがでした?」

 

「ええ、とっても気持ちよかったわよ。日頃の疲れがごっそり取れたわ」

 

「…そうですか」

 

「…」

 

もしかして

 

「レイも来たかった?」

 

「…」

 

やっぱりそうか。なんとなく分かったぞ。

 

「次機会があれば一緒に行きましょうか」

 

「…」

 

「それじゃ切るわね。おやすみ」

 

「…おやすみなさい、赤木博士」

 

端末をテーブルに置き背もたれに背中を預けると、どっと息が出た。レイにも寂しいという感情はあるのだろう。罪悪感が出てくるな。せめてひとりぼっちにさせない様に何かしてあげられれば…。カミーユ君の影響か、前よりレイにも情が湧いてきた気がするな。喜ぶべきなのか否か。

…お、いいアイデアが思い付いたぞ。ふと浮かんだアイデアをメモりつつ、赤木リツコはコーヒー牛乳をグイッと飲み干すのだった。

 




はい、という訳で温泉のシーンはカットです。申し訳ない。
ちゃうんすよ、面倒くさかったとかじゃないんすよ。
本当なんです!信じてください!
てな訳で次回、アレがちょろっと出て来ます。


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白き闇の中で 壱

今回の話は、カミーユ視点となっています。是非原作も一緒に見てください。


 

「遅いな……」

 

自分の爪を噛みながら、カミーユは電話に出ない事にイラついていた。そろそろ切ろうかと言ったところで、相手は受話器を取る。

 

「なんだ」

 

「それが一言目に言う言葉か?」

 

相手は髭面の強面 碇ゲンドウである。本来なら電話するほど仲がいい訳では無いのだが今回に至ってはとある用事があった。

 

「早く要件を言え」

 

「来週、こっちで進路相談の面接があるんだよ。親が同伴しなくちゃいけないんだ」

 

「そういう事は葛城君に一任してある。そんな事で電話するな」

 

「そうかよ!」

 

勢いよく受話器を戻してやると、カミーユは自分の頭に血が昇る感覚がして来た。はなから期待などしていなかったが、流石にこれはムカついたのだ。

今からでもぶん殴りに行こうかと思い、電話に入れたテレフォンカードを取ろうとするも一向に戻ってこない。

 

「まさか故障か?」

 

さっき叩きつけたせいで壊れたのならマズイが、実の所もっとマズい状態にあった。エレベーターは止まり、電気は消え、今日行われていた零号機の実験も中止。……決して金髪がボタンを押したからでは無い。

 

第三新東京市は停電したのだ。

 

 

 


 

 

 

「それはまぁ、災難だったけど。碇司令も忙しかったんじゃ無い?」

 

「そんな事ないぞ。きっと副司令に丸投げだ」

 

結局あの後テレフォンカードは出てこなかった。特に思い入れがある訳でも無いので見捨てたが、後46回は使えたから少しもったいない気もするが。

何はともあれ、現在はアスカとレイと一緒にNERV本部へと向かっている……筈だった。

 

「何よこれ!壊れてんじゃないの⁉︎」

 

本部へ行く入り口の一つとしてID認証の改札があるのだが、アスカがカードをくぐらせても何も反応しなかった。試しにレイとカミーユもやってみるが、ピコンとも言わない。

 

「どうなってるんだ?」

 

「とにかく、あっちから行きましょう!」

 

アスカについて行くと指紋認証セキュリティのドアが見えて来た。だがボタンを押してみるもこっちも全然動かない。

こじ開けようと思いっきり引っ張って見るものの、やはりダメだ。

 

「これも動かない。おかしいわ」

 

「どの施設も動かない」

 

レイがちょっぴり俯いてボタンを押し続ける。そんなに押しても動かないだろうに。

こう言う時は本部に直接連絡するのが一番だが……、ダメだ。非常用の有線回線も繋がらない様だ。

 

「とにかく、本部に行きましょう」

 

手早く緊急マニュアルを読んだレイの指示に従って、ここは別のルートから行くべきだろう。

 

「それならあっちのドアが一番近いわね」

 

「俺がやるのか?」

 

「こういうのなら、カミーユが適任でしょ?」

 

「どうだか」

 

アスカが指差したドアは手動の非常用ドアだった。カミーユがハンドルを回すと、若干の錆びついた様な音と共に鉛製のドアが開いた。

だが電気が通っていない為、道の先は真っ暗だ。

 

「……誰か懐中電灯持ってる?」

 

「これ」

 

「なんで持ってるんだ」

 

「こんな事もあろうかと」

 

レイが誉めて欲しそうにしているのを横目に、カミーユは一足先に闇へと足を踏み入れた。

 



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白き闇の中で 弍

「ここ、本当に通路なのか?いつもなら2分で着くぞ」

 

懐中電灯で照らされた闇の中、カミーユ達はNERV内を彷徨い歩いていた。いざ入ってみたはいいものの、実際は迷路の様な構造になっていて10分程経った今でもまだ着いていない。しかも所々に配管が見えるところからすると、整備用の道だろう。どこで間違えてしまったんだろうか。

 

「あそこまで行けば、きっとジオフロントに出られるわ」

 

「四回目だぞ。そのセリフ」

 

意気揚々と前を進むアスカに着いていってはいるが、そろそろ先頭を変えた方がいいかもしれない。本当に道を覚えているんだろうか?

 

「いちいち細かいわね!つまんないことばっかこだわってさぁ!」

 

「こだわって何が悪い!」

 

「静かにして」

 

アスカがカミーユの頬をつねっていると、レイが待ったをかけた。

 

「人の声よ」

 

それを聞いて耳を澄ましてみると、確かに上の方から声が微かに聞こえて来た。よく分かったもんだ。

 

「日向さんの声だ」

 

「日向さーん!おーい!」

 

アスカが大声をかけるも反応はない。だが声は近づいて来ている様だ。だんだんはっきりして来た声の内容に耳を傾けてみると。

 

『報告、使徒接近中!使徒接近中!』

 

「使徒⁉︎」

 

「来たのか……」

 

こんな状況で来られてはエヴァの発進も危ういだろう。それ以前にジオフロントにつかなければ発進できない。

 

「時間が惜しいわ。近道しましょう」

 

「リーダーは私よ。で、近道はどこかしら?」

 

レイが無言で指差した先は、伏せていけば通れるサイズの小さな通気孔だった。幸いにも蓋の部分は空いていた為すんなりと入る事が出来た。

独特な匂いの中を進んで少し経った後、カミーユは二人に質問を投げかけた。

 

「なぁ、使徒がどんな存在か知ってるか?」

 

「何よこんな時に」

 

「いや、急に気になったんだ。エイリアンなのか、そもそも本当に敵なのか」

 

「アンタバカぁ?訳わかんない連中が攻めて来てんのよ。降りかかる火の粉は払うのが当然じゃない」

 

「どんな存在だろうと、命令に従うだけ」

 

「そうか」

 

カミーユが少し考え込んでいると、通気孔の終わりが見えて来た。だがようやく立ち上がった先は二つに分かれた通路だった。

 

「右ね」

 

「左だと思う」

 

「左だ」

 

「……左でいきましょうか」

 

こういう時、レイとカミーユの勘はよく当たるのだ。それを知っているアスカは左を選んだ。

しばらく進んだ後、今度はアスカがレイに質問を投げかけた。

 

「率直に聞くけど、アンタって碇司令に可愛がられてるの?」

 

「いいえ」

 

「贔屓されたりとかも?」

 

「ないわ。自分で分かるもの」

 

「本当に?」

 

「ええ」

 

アスカはそこで話題を終える事にした。このまま続くと、いつあのメカニック爆弾が爆発するか分からない。もし馬鹿にするような発言をすれば、すぐにボカンだ。前にその事で壮絶な死闘になったのを思い返しつつ歩くと、今度は瓦礫で塞がれた通路に出た。周りにも、排気管等が散乱している。

 

「どこか通れそうな所はあるか?」

 

「ダクトを破壊して、そこからいきましょう」

 

「手際いいわね」

 

テキパキとその辺のガラクタでダクトの蓋を破壊し、中へと侵入する。中は本当に狭い、一人ずつでなければ無理だ。

 

「いい?絶対に見ないでよ!」

 

「分かってる。ん?」

 

「今見たでしょ!」

 

順番を考えるべきだった。下着を見られたと勘違いしたアスカに頭を蹴られるが、実の所カミーユはダクトの違和感に気づいていた。先ほどよりも音が反響しているのだ。

思いっきり叩いてみると……ビンゴだ。

ダクトに収められていた体が放り出され、エヴァのケージ内へとアスカとカミーユは不時着する。一方レイは綺麗に両脚で着地した。

 

「貴方達……」

 

顔を見上げると、見慣れた金髪博士が感心した顔でこちらを見ていた。

 

「準備の方はどうです?」

 

「スタンバイ出来てるわ」

 

リツコが後ろを親指で指す。そこにはエントリープラグが固定され、パイロットの搭乗を待つ初号機達が鎮座していた。

 

「機械も動かないのに、どうやったんですか」

 

「古き良き人力で引っ張って来たの。碇司令のアイデアよ」

 

「父さんの……」

 

頭上の足場で珍しく的確な指示を出すゲンドウを見ながら、カミーユは腹パンで勘弁してやろうと思うのだった。



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白き闇の中で 参

 

「も〜!カッコ悪〜い!」

 

竪穴への狭い通路をエヴァで這いながら、アスカは愚痴をこぼしていた。アスカはなるべく美しい方法を取りたがるのだ。

カミーユとレイ二人がそれを無視して少し行くと、目の前に大型のハッチが現れた。弍号機で思いっきり蹴飛ばしてやると、そのハッチは一発で吹き飛び、奈落の底へと落ちていった。

 

通路から這い出し、3機とも壁に張り付く姿勢で作戦位置につく。説明を省いて申し訳ないが、実は零号機は既に改修が終わっていた。

 

「またしてもカッコ悪〜い!」

 

「うるさいよ!」

 

うんざりしたのだろう、カミーユが無線越しに怒鳴って来た。言い返すため口を開こうとするも、真上から何か液体のような物が降って来た。

ソレが下にいる零号機の肩部ウェポンラックに当たると、煙を発しながらみるみる内に溶けていくではないか。

 

「いけない、避けて!」

 

「!」

 

だが今度降って来た量は先ほどよりも多い。レイの警告虚しくあっという間に弍号機の手の装甲が溶かされ、落下してしまう。それに巻き添えになる形で零号機、初号機も底知れぬ闇へと落ちていく。

 

「クソっ!何やってるんだ!」

 

一番下の初号機が四肢で踏み留まってやると、火花を散らしながら少しずつスピードを緩め、最後には2機を背中に乗せたたまま停止した。このままではまずいと思い、脇に空いているの通路へと3機共避難する。

 

「目標は強力な溶解液で本部ごと溶かすつもりね」

 

「どうやって倒すんだ?ライフルは無いぞ」

 

さっきの落下の途中でライフルは初号機の手を離れ、落ちてしまっていた。

 

「作戦ならあるわ。ここに留まる機体がディフェンス。ATフィールドを中和しつつ、溶解液からオフェンスを守り抜く。バックアップは下降して、落ちたライフルをオフェンスに渡す。そしてオフェンスはライフルを受け取った後、使徒に射撃。これでいいわね?」

 

「ディフェンスは私がやるわ」

 

「お生憎様、私の役よ」

 

「いいのか?かなり危険だぞ」

 

「いいのよ。アンタにさっさと借りを返さなきゃ、気持ち悪いし。カミーユがオフェンス、優等生がバックアップ。それでいいわね?」

 

「了解」

 

「分かったわ」

 

「それじゃ、行くわよ!」

 

アスカが一声上げると、3機一斉に飛び出し、作戦の通りに動く。弍号機は使徒に背中を向ける形で踏ん張り、溶解液を受けた。背骨が溶ける感覚に顔を歪める。

スラスター全開で降り立った零号機は轟音と土煙を上げながら着地し、ビームライフルを初号機へと投げ渡した。

 

「レイ!」

 

パシッと受け取ったビームライフルを使徒に構え、ロックオンする。

 

「アスカ、避けろ!」

 

素早く脇へと逸れた弍号機を確認した後、ビームライフルを使徒目掛け乱射する。トリガーを引くたびその黒い体に当たったところからは空が覗く。やがて跡形もなく溶け去った胴体を置いて、脚と思われる器官も静止した。そして落ちる弍号機を初号機は身体で受け止める。

 

「これで借りは返したわよ」

 

「ああ」

 

作戦は成功だ。

 

 

 

 

 

 

 

その頃ミサトはエレベーターで加持と取っ組み合っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦いの後、パイロット達は気分転換に街を見下ろせる高台へと来ていた。

 

 

「人工の光がなけりゃ星がこんなに綺麗っていうのは、皮肉だな」

 

「でも、明かりがなけりゃ人が住んでる感じはしないわ」

 

アスカがそう言うと、タイミングよく第三新東京市に文明の光が灯される。

 

「ほら、こっちの方が落ち着くもの」

 

「人は闇を恐れ、火を使い、闇を削って生きてきたわ」

 

「てっつがくぅ〜」

 

「その内、あの星の中に人の居場所が浮かぶ時が来るかもしれないな」

 

「なんかアンタが言うと、説得力あるわね」

 

空……いや、宇宙を見ていると、カミーユは何だか湧き上がってくるものがある。好奇心でもなく、恐怖でもない。安心に近いものだ。生まれた時から、幻覚かもしれないが宇宙が見えた。人の考えが分かった。そんなカミーユの居場所は地球では無いのかもしれない。

だが彼はそれについていつか深く考える事になるだろう。自分と向き合い、未来を決めるその日が……。

 




零号機改

第五使徒との戦闘において中破した零号機を弍号機のデータをフィードバックし、改良した機体である。
元の零号機とは外見が大幅に変更されている。主な相違点は、モノアイからバイザーにツインアイを内蔵した形への変更。腹部ミサイル、ブルーのカラーリングである。
ビームライフルとサーベルも併用が可能。





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BELIEVE SIGN

今回は短編です。


 

「ジェネレーター出力を7.82%上げて。それからプラグ接続回路をg3タイプに変更」

 

忙しく動くモニターの数値を確認しながら、リツコは零号機の調整を確認していた。先の使徒との戦闘に置いてレイから零号機のレスポンスが悪いと指摘が出たのだ。データ上では変わりない筈なのだが、レイが慣れたという事だろうか。

 

「レイ、動きはどう?」

 

「問題ありません」

 

「そう、なら良かったわ。上がっていいわよ」

 

三時間に及ぶ調整の末、なんとかレイの好みに合う設定が完了した。具体的に言うなら前の設定より30%ほど反応速度を上げている。

 

「お疲れ様でした」

 

「ああ、ちょっと待って。ついてらっしゃい」

 

プラグスーツからの着替えが完了したレイを呼び止め、自分の研究室へと案内する。

 

「ええと確かここに……あった!これよ」

 

「何ですか?これは」

 

謎のジャンク品や資料にコンピューターが計算を刻む中、繋がれていた配線を取り外しながらリツコは機械の山からの出土品をレイに差し出した。

 

「自律思考型球体状ロボット。名前はハロよ」

 

「ハロ……?」

 

ハロと名付けられたそれは緑色の球体をしており手の甲で叩くとコンコンと音がした。見た目に反して軽いが頑丈そうだ、銃弾を防いだりも出来そう。

 

「オハヨウ、オハヨウ」

 

「喋った……」

 

手元から離れ、地面を跳ねながら挨拶してくるハロにレイは目をパチクリさせていた。なんせこんな物に会うのは初めてなのだから。

 

「それ、貴方にあげるわよ。その為に作ったんだもの」

 

「私の為に?」

 

「ええ」

 

そう言ってリツコは満足そうに頷いた。何故くれるのかレイは疑問に思ったが、すぐにそれは排した。何かリツコには考えがあるのだろうと思ったのだ。

 

「…ありがとうございます」

 

「礼ならいいわ。言うならカミーユ君に」

 

「カミーユ君に…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの後レイは自宅に帰ってきていた。勿論ハロも一緒だ。連れて歩いていた為か道端でよく話しかけられたが、ロボットだと答えると相手は大体納得してくれた。青い猫型ロボットと一緒だと考えたのか?黒服さんがたまに追っ払ってくれるのもちょびっと頼りになった。

 

「ココ、レイノ家?」

 

「そうよ」

 

「サップウケイ、サビシイ」

 

「何も置いてないもの」

 

一先ず帰ってきて最初は風呂に入ろうと浴室のドアに手を掛ける。

 

「……入る?」

 

「ハイル、レイトイッショ」

 

「お湯は大丈夫なの?」

 

「ダイジョーブ、モンダイ、ナイ」

 

手早く下着を脱ぎ、浴槽に浸かる。少ししてハロもちゃぷんと着水してきた。お湯に浮かんでいるぞ、どうなってるんだ。

10分程浸かった後、浴槽から出てシャンプーを手に取る。

 

「ハロは洗わなくていいの?」

 

「アラウヒツヨウアル。アラッテホシイ」

 

望み通りにシャンプーを泡立て、ハロの全体にわしゃわしゃしてやる。シャンプーであっているかは分からないが文句は無さそうだ。気分よさそうに目を閉じている様子に何処か心が温かくなる。こんな気分初めてだ。

 

シャワーで泡を流してやると、満足したかの様に再度お湯に浸かってしまった。そんなに風呂が好きになったのか、ハロ。

 

それから自分も髪、体、顔を洗い、風呂を出る。タオルでハロを拭いていると、何処かペットのようにも感じてきた。犬や猫を飼うとこんな感じなのだろうか?

 

セカンドインパクトが起きてから常夏となったこの国でも、いつもより暑い日はある。今日がその日だ。

棚から出来るだけ薄い物を身につけ、ハロと共にコンビニへ行く事にした。

最近買い物に出掛けていなかった為、冷蔵庫が空だったのだ。

 

「車道にあまり出ないでね」

 

「ワカッテル、キケン、キケン」

 

フンスと澄ました様な顔がその球体から感じ取れる。ただの鉄仮面かと思えるがこんなに表情豊かなのは赤木博士の賜物だろう。

 

サンダルと、ぽよんとした二つの足音が、自動ドアをくぐる。

だがカゴに冷凍食品を入れている最中、店内に見知った人が入ってきた。

 

「レイじゃないか」

 

「…カミーユ君」

 

少し戸惑いながらも挨拶を返す。

 

「ハロの調子はどうだ?」

 

「ええ、問題無いわ。……ありがとう」

 

「礼なんかいいよ」

 

そういってハロを撫でるカミーユの顔はいつもより柔らかかった。ハロもどことなしか気が抜けているようだ。

 

「でも、悪いわ」

 

「気にしないでくれ。……どうしてもって言うんなら今から家に来てくれるか?アスカがカレーを作りすぎたんだ」

 

顔を上げてカミーユはそう言う。他人の手料理なんて初めてだ、すごく気になる。

コクリと頷くと、カミーユは先に会計を済ませて出ていった。

それからレイはカゴの中に入れていた冷凍食品をボックスに戻し、何も買わずハロと一緒にミサトの家へと歩みを進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「いただきます」」」」

 

パクッ

 

「何これ辛ッ⁉︎水取って水!」

 

「ゲホッ、ゲホッ。分量間違えたな⁉︎だからレシピ通りに作れと…痛ッ」

 

「何よ!そんなに言うなら貴方が作ればいいじゃ無い‼︎」

 

「なんだと⁉︎」

 

「それよりミサト!水!」

 

「」(あまりの辛さに白目を剥いている)

 

「ミサト⁉︎」

 

「ミサトさん‼︎」

 

「舌が……ヒリヒリする」

 




え、レイはこんなに喋るのかって?感情が豊かなカミーユと会って何か変わったんでしょう。だがその他一切のことは分かりません。
カミーユがコンビニに来たのは、ニュータイプ的直感で水を買いに行った方が良いと感じたからです。


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氷の大地より愛を込めて

西暦2000年 南極にて

 

世間はミレニアムイヤーでお祭り騒ぎとなるはずだった。その記念すべき年にこんな大事故が起きてしまうとは。

そんな事をぼんやりと思い浮かべながら、一人の男は嵐の吹き荒れる雪の大地を踏み締めていた。

雪の大地と言っても、今はそれほど白くない。辺りに散らばる灰色の残骸と所々に垂らされた赤い雫があるばかりである。本来なら晴天であるはずの天気は雲が遮っており、オレンジ色の光が南極を淡く照らしている。

 

「ハァ……!」

 

歩いて少し経つと、男は崩れ落ちてしまう。吹雪が傷に染み渡る痛みでなんとか意識を繋いでいるが、長くは持たないだろう。

それほどまでに今回の事故で重傷を負ってしまった。皮膚は溶け、赤い肉は茶色く変色。腹にも一つ鉄骨の破片が突き刺さっている。肋骨も4本程折れているであろう。

うつ伏せの状態から、ぐるんと身体を回転させ、仰向けになる。

すると視界の奥に二つの柱が見えて来る。と言っても普通の柱ではない。橙色を灯した光の柱だ。

あれが事の発端。あれが暴走したため、男は今蹲る他無い。

 

「ちく……しょう…ッ!」

 

ふと手を見やれば、爛れた黒いグローブは真っ赤な血で染まっており、手首に付けられた腕時計もひび割れて使い物にならなくなっている。大事な娘からのプレゼントを台無しにされ、男はひどく心の底が燃え上がっている。

その怒りが男を再び立ち上がらせた。息も絶え絶え、頭痛も止まない。満身創痍とはこの事だろうなと考えながらふらふらと身体を起こす。

 

「……!」

 

その執念の意識が彼に見させる。それはひとりの少女。瓦礫に倒れ伏している我が娘。

思わず男は走り出す。溶けた両足で、右脚を引き摺りながらも走る。痛みなどとうに忘れた。男にはそれほど衝撃的だった。

 

近くに寄り添い状態を確認すると、それはある一点を除けばとても良かった。恐らく瓦礫が防護してくれたのだろう。娘には男の様な溶けた箇所もなく、肉が露出している所もない。だが腹に、三日月上の大きな傷が出来ていた。幸い命に別状はない程だが、それでも一生残るであろう大きな傷だ。

男は憤怒する。大事な娘にこんな仕打ちをする巨人に、果てには自分の組織、そして世界まで。

 

そんな叫びが、彼に更なる力を与える。自分の事などどうでもいい、娘さえ助かればそれで良いのだ。娘を大事に抱え、一歩一歩前へと進み出す。

 

怒りと悲しみが、男を動かす。男は電気信号ではなく、思いで動く。

 

いくつ歩いたかも分からぬ。だが目の前に一つ、一人用の緊急PODが鎮座している。

 

男はPODに娘を移し、その頬を優しく撫でる。

 

「お父……さん?」

 

娘が目を開く。声を発する。

 

それに男は笑顔を浮かべる。

 

だが無情にも、PODの蓋は締まり、世界は閉ざされる。

 

それと同時に、激しい爆発が親子を襲う。

 

爆発の波に意識を流される中、彼が最後に見たのは、初めて抱いた時の、娘の無邪気な笑顔だった……

 

男の名は葛城 ただひとりの父親である。



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宇宙からの使者 壱

 

「すまんなカミーユ、雨宿りさせてもうて」

 

「ミサトさんは?」

 

「まだ寝てるんじゃないか?徹夜が多いって愚痴こぼしてたからな」

 

大雨が窓を叩きつける中、いつもの三人はあまりの湿気に鬱屈としていた。なんでも急に降ってきたもんだから、仕方なく今は雨宿りさせている。

 

「ああ〜、最近大変そうやからな」

 

「ミサトさんを起こさない様に、静かにしてようぜ。静かに」

 

カミーユが二人にタオルを渡すと、わしゃわしゃと髪を拭きながらケンスケとトウジが口に人差し指を立てた。言われなくとも、カミーユは静かに自室で過ごすだろう。最近、ようやく新しい装備が完成した所為で内心少し浮き足立っているのは内緒だ。

 

「あぁー!アンタ達何してんのよ!」

 

静かにしろと言ったのに。アスカが廊下から顔を出してきた。今帰ってきたのだろう。

 

「うるさいな。ただの雨宿りだよ」

 

アスカが鼻で笑う。

 

「私目当てなんじゃないの?着替えてんだから、見たらコロスわよ」

 

そう言ってアスカは自室へと戻っていった。

 

「じゃかしいわアホンダラッ!だれがお前なんかの体なんか見たいっちゅうんや」

 

「自意識過剰な奴」

 

声を抑えて愚痴っていると、ミサトが襖を開けて入ってきた。これから仕事だろう。ピシッと服を着こなしたミサトが二人に挨拶をかけてくる。

 

「あら、二人ともいらっしゃい」

 

「おお、お、お」

 

「お邪魔してます!」

 

「お帰りなさい。今日はハーモニクスのテストがあるから遅れない様にね」

 

「分かりました」

 

「アスカも、分かってるわね?」

 

「は〜い」

 

何を思ったのか、ケンスケがミサトの襟をじっと見つめると、突然姿勢を正した。

 

「こっ、この度はご昇進おめでとうございます」

 

「お、おめでとうございます!」

 

ケンスケに倣ってトウジも礼をした。よく見てみれば、なるほど。襟に付いたバッジが少々装飾が増えているのが見てとれる。

 

「おめでとうございます」

 

「あ、ありがとう……」

 

流石にカミーユに言われると思わなかったのか、ミサトも戸惑っている。

 

「それじゃあ行ってくるわね」

 

「「いってらっしゃーい」」

 

トウジとケンスケが手を振りながら見送る。

 

「いつの間に昇進したんだろうな」

 

「中学生二人を抱え込んどるんやからな。認められたっちゅう事やろ」

 

「あの若さで一尉から三佐ってのは凄い事だぞ」

 

そのことに少し感心しつつ、カミーユは身支度を整えようと自室へ戻るのだった。

 

ーーーーーー

 

二時間程経った後、三人のパイロットはNERV本部にてハーモニクステストを受けていた。テストと言っても、プラグの中で集中するだけだが。

 

「0番2番共に汚染区域に突入。限界です」

 

「1番の方はどうかしら?」

 

「既に汚染区域ギリギリです。やはりムラがありますね」

 

「ええ、前回の時はまだ行けたはずだったけれども。二人に比べると何かが違うわね」

 

「波……というべきでしょうか。平均的にいえばシンクロ率、ハーモニクス共にアスカを越える可能性はありますね」

 

「気難しい子ね」

 

モニターに映るカミーユの表情を見ながら、ミサトは呟く。

 

「あの子は、戦い続けられるかしら」

 

何はともあれ、ハーモニクステストは無事終わった。

 

「カミーユ君、今回はあと少しだったけど次に期待しておくわね」

 

「今んとこ、私が一番ね」

 

「あら、そうやって慢心しているといつか追い越されるわよ」

 

「アスカ、ナマケモノ、ナマケモノ」

 

すっかりハロも馴染んできた。

 

「なによこのガラクタ!」

 

「ハロをいじめちゃ、駄目」

 

何やらレイとアスカが取っ組み合っているが、それは置いてカミーユはリツコに聞きたいことがあった。

 

「フライングアーマーの方はどうです?」

 

「順調も順調。戦自研の協力もあって予定より早く進んでるわ」

 

「それなら良かったです。ところで、シャトル用の外壁なんてよく手に入れましたね」

 

「そこは言えないわね。とにかく、貴方はもっと集中しなさい?」

 

「わかってますよ」

 

そういうと、カミーユはアスカとレイを追いかけに行ってしまった。すると、タイミングを見計らったかの様にミサトが声をかけてくる。

 

「リツコ?ちょっといいかしら」

 

「何かしら」

 

「カミーユ君に褒められた事ってある?」

 

「あら、いくつかあるわよ。最近よく一緒にいるもの」

 

「えぇ……?」

 

正直言って、ミサトはカミーユの事が少し分からなくなってきた。

 



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宇宙からの使者 弐

事情により、サブタイトルが変わります。ご容赦ください。


 

「「「「おめでとうございまーす!」」」」

 

「ありがとう♪皆」

 

一人だけ缶ビールだが、それも一興。コツンと乾杯の合図がなる。

ハーモニクステストから帰ってきた後、玄関を開けると揃いも揃ってクラッカーを吹かしながら大勢による昇進パーティーが開催された。

リビングには至る所に花等の飾り付けがされており、テーブルには大量のフライドチキンやピザが並べられている。

 

「ありがとう鈴原君」

 

「ちゃうちゃう、言い出しっぺはコイツですねん」

 

コイツコイツとトウジはケンスケを片手で指差す。

 

「今回の主催者は私、相田ケンスケ。相田ケンスケでございます!」

 

シャキッと背を伸ばして立つとケンスケはよく通る声で言った。

 

「ありがとう相田君♪」

 

「いえ〜、礼を言われる程のことは何も。当然のことですよ」

 

照れ臭そうに頭をかいているが、実際今回のパーティはケンスケが言い出さなきゃすることもなかっただろう。友人の行動力に少しの敬意を払いながら、カミーユは一口コーラを口に注ぐ。

 

「せやけど、なんで委員長がここにおんねん?」

 

「私が誘ったのよ」

 

「「ねー?」」

 

アスカの発言に頷く様に、ヒカリに抱えられたペンペンも声を上げた。

 

「レイも、よく来てくれたわね」

 

「ハロも行きたいって言ってたから」

 

このような場面にレイが出席してきた事に一同は少し驚いていた。

 

「レイ、タノシイカ?」

 

「ええ、とても。ありがとうハロ」

 

そう言いながらレイはハロを優しく撫でた。以前まではこんな姿は見られなかったであろう。

 

「加持さん、遅いわね」

 

アスカが腕時計に目を通すと、予定より10分程遅れていた。

 

「そんなにカッコイイの?加持さんって」

 

「そりゃもちろん!そこの芋二人に比べたら月とスッポン。比べるだけ加持さんに申し訳ないわ」

 

「なんやと⁉︎」

 

トウジがアスカに掴みかかり、より一層賑やかになってきた。それを見ながらカミーユはまた一口、コーラを飲む。

 

「苦手?こういうのは」

 

右手側に座ったミサトが小さく話しかけてきた。それにカミーユは少し考えながら応じる。

 

「苦手っていうのは少し違いますよ。仲間とはしゃいだり馬鹿な事をするのは好きですから。ただ、少し混乱しやすいんです」

 

「混乱?」

 

「暑苦しいって言った方が近いかもしれません」

 

「ふ〜ん」

 

ミサトが空になったビール缶をカラカラと揺らしながら探っていると、今度はカミーユから質問が投げかけられた。

 

「ミサトさんは何の為に戦ってるんです?昇進の為じゃないんでしょう?」

 

その質問にミサトは目を少し見開いた。同時にカラカラとした缶も動きを止める。

一瞬の沈黙が流れた後、苦笑いしてミサトは答えた。

 

「大正解。でも、昔の事なんて忘れちゃったわよ」

 

そこでキリよく会話を打ち止めする様に、インターホンが鳴る。

 

「きっと加持さんだわ!」

 

アスカの顔が笑顔に満ちるが、すぐにそれは消えてしまった。残ったのは訝しむ気持ちである。

 

「本部から直なんでね。そこで一緒になったんだ」

 

「「怪しいわね」」

 

ミサトとアスカの声が重なる。玄関先に立っていたのは、オレンジのシャツを着こなしたリョウジと、いつもよりラフな格好で身を包んだリツコだった。

 

「あら、ヤキモチ?」

 

「そんな訳ないでしょ」

 

ミサトは平静を装おうと、空のビール瓶を口付ける。

 

「いえ、この度はご昇進おめでとうございます」

 

それに続いて、リツコも軽く礼をする。二人とも親友の昇進とも有れば心の底からめでたく思えるのだ。

 

「これからはタメ口聞けなくなったな」

 

「なぁに言ってんのよ、バーカ」

 

「しかし、司令と副司令が揃って日本を離れるなんて前例の無かった事だ。これも留守を任せた葛城を信頼しての事さ」

 

「こんな時に副司令は何処に行ってるんです?」

 

流石にゲンドウは出ないだろうが、副司令は来そうなものだ。一体何処に行ったんだろうか。

 

「今は南極よ」

 

ーーーーー

 

「いかなる生命の存在も許さない死の世界、南極。いや、地獄と言うべきかな」

 

空にはオーロラが舞い、赤い海と塩の柱が連なるその地を真っ直ぐ進む船団がいる。その船団の中央、一際大きな船に司令と副司令はいた。

 

「だが我々は立っている。生物としての形を保ったまま」

 

「科学の力で守られているからな」

 

冬月は嘲るように言った。

 

「科学も人の力だ」

 

「その傲慢が15年前のセカンドインパクトを引き起こした」

 

冬月は辺りの地獄を見渡し、溜息をついた。

 

「その結果がこの有様、与えられた罰にしては重すぎる。まさに死界そのものだよ」

 

「だが原罪なき浄化された世界だ」

 

「それでも、私は罪のある人が溢れる世界を望むよ。たとえ滅びるとしてもな」

 

無数の空の星が瞬く宇宙を見上げながら冬月は呟いた。

 

『本部より入電。使徒らしき不明物体が大気圏外に出現した模様』

 

遥か彼方より、それはやってきた。

 



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宇宙からの使者 参

 

「2分前に突然現れました」

 

『第六サーチ、衛星軌道上へ。接触まで後2分』

 

「目標を捕捉、モニターに出ます」

 

青葉がそう言うと、本部の大型モニターにデカデカと大きな目をした使徒が映される。監視衛星の大きさから推測するに、全長は何百mもあるだろう。

 

「「「おぉ……」」」

 

あまりの巨大さにNERV職員も動揺を隠せない。

 

「こりゃすごい」

 

「常識を疑うわね」

 

「目標と接触します」

 

分析を開始する為使徒を取り囲む様に監視衛星が近づくと、ぐしゃりと視界が歪み、やがて砂嵐へと変わってしまった。監視衛星がスクラップになったのだ。

 

「ATフィールド?」

 

「新しい使い道ね」

 

残ったのは遠方で待機していた一機だけだ。その衛星からの確認では、使徒は自らの体の一部を切り離し、落下させている事が分かった。

数時間後、分析報告室の監視モニターへ落下地点が送られてきた。

 

「大した破壊力ね、流石ATフィールド」

 

「落下とATフィールドの相乗効果です。使徒自体が大きな爆弾ですね」

 

「とにかく、初弾は太平洋に大外れ。でも数時間後の落下地点がここ。確実に誤差修正してるわね」

 

リツコが指で差した先には、数キロ毎に第三新東京市へと連なるクレーターが点在していた。

 

「学習してるって事か……」

 

「N2航空爆雷も、傷ひとつつきません」

 

日向が提示した写真はついに堕とされた最後の衛星からのものである。そこには画角いっぱいの爆発に身を覆われながらも俄然とこちらを見つめる使徒の姿が写されていた。

 

「以後使徒の消息は未だ不明」

 

「次で……来るわね」

 

「ええ、本体ごとね」

 

MAGIによる落下地点の予測が始まる、と言っても本部狙いだろうに決まってるが。因みに第三新東京市は箱根にある。

 

「その時は、第三芦ノ湖の誕生かしら?」

 

「富士五湖が一つになって太平洋と繋がるわ」

 

「碇司令の方は?」

 

「使徒の放つジャミングによって連絡は困難です」

 

「MAGIの判断は?」

 

「全会一致で撤退を推奨しています」

 

「どうするの?今の責任者は貴方よ」

 

少し考え込んだ後、ミサトは凛とした声で命令を下す。

 

「日本政府各省に通達、NERV権限による特別宣言D17を発令。半径50圏内の全市民は直ちに避難。松城にMAGIのバックアップを頼んで」

 

「ここを放棄するんですか?」

 

「いいえ、立ち向かうのよ。私達で」

 

そう言うミサトは胸から下げた十字のペンダントを強く握りしめていた。それから数時間の後、市内のビルは全て格納、全市民の避難も確認された。

 

ーーーーー

 

NERV職員トイレにて

 

「やるの?本当に」

 

洗面台に立つはリツコとミサト。蛇口から流れる水が激しく打ち付ける。二人は鏡を見つめながら、お互い最後になるかもしれない会話を交わしていた。

 

「ええ、勿論よ」

 

「エヴァ三機を捨てる気?勝算は0.00178%。万に一つも無いのよ?」

 

「でもゼロじゃ無いわ。エヴァに賭けるだけよ」

 

「葛城三佐!」

 

「現責任者は私です」

 

リツコの発言を遮りながら言う。

 

「それに……やってみなくちゃ分からないわ。使徒殲滅が私の仕事ですもの」

 

すると、リツコは少し呆れた様に笑う。

 

「仕事?笑わせるわね。自分の為でしょう、貴方の使徒への復讐は」

 

ミサトは返事を返さなかった、それが彼女の答えなのか。鏡に写っていたのは……

 



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大気圏突入 壱

後編です。正直こんな長くなるとは……


 

「えぇ〜⁉︎て、手で受け止める……?」

 

作戦を伝えるべく、パイロット三人は部屋に集められていた。だだっ広く何も置かれていない空間にアスカの声がよく響く。

 

「そう、落下予測地点付近にエヴァを配置。ATフィールドによって使徒を食い止めるのよ」

 

「いくらなんでも無茶苦茶が過ぎますよ」

 

流石にカミーユもこの作戦には難色を示していた。

 

「ふふん、そんなこともあろうかとコレを拝借して来たわ」

 

ミサトが得意げに鼻を鳴らすと、ガラス張りの床に映像が映し出された。

 

「フライング……アーマー?」

 

「これって、カミーユがよくイジってたやつじゃない」

 

そこに映っていたのは、先日完成したばっかりのフライングアーマーだった。

 

「そしてこのフライングアーマーを……こうよ」

 

ミサトが手元のタブレットを操作すると、フライングアーマーに続々と装甲が追加されミサイルポッドも増設された。原型はほぼ真ん中部分にしか残っておらず、追加された装甲によって全長も二回り以上大きくなっている。

 

「カミーユ君、戦自研とJAの開発グループは覚えてるかしら?」

 

「ええ、覚えてますよ。片方には苦労させられましたからね」

 

「そこ二つの部署が徹夜で作り上げたフライングアーマーの強化、発展案がこの兵器よ。名前はGディフェンサー」

 

「G……ディフェンサー」

 

「でも、これをどう使うって訳?」

 

すると、初号機によるシミュレーション映像が流れ始めた。

 

「まず初号機が単独でGディフェンサーに接続と変形、残り2機が落下予測地点付近に待機。初号機はカタパルトにて発進の後大気圏へ突入。宇宙へ到達後速やかに変形解除し使徒への攻撃を始めるわ」

 

映像内の初号機は迫り来る使徒に対してロングライフルによる射撃とミサイルの弾幕により、じっくりと使徒の落下速度を落としているのが分かる。

 

「あわよくば撃墜と行きたいところだけど、残念ながらジェネレーター出力とATフィールドの関係上落下速度を落として、誤差を減らすしか出来ないわ」

 

もし攻撃し続けた場合、要求されるエネルギー量に残量電池とジェネレーターが耐えきれず初号機は、自壊。宇宙の塵となるだろう。

 

「そして落下速度が落ちた使徒を二機のエヴァで受け止め、どちらかがトドメをさす作戦よ」

 

腰に手を当て、胸を張るミサト。

 

「勝算はいくつあるんです?」

 

「神のみぞ知るってところね」

 

「こんな作戦が上手く行ったら、それこそ奇跡ね」

 

「奇跡は人の手で起こして価値があるのよ」

 

「つまり、なんとかしろってこと?」

 

「すまないけど、作戦はこれしか無いわ」

 

ミサトは申し訳なさそうに俯く。彼女だって、本当はもっといい方法があると信じたいのだ。

 

「こんなの作戦と言えるの⁉︎」

 

「言えないわ。だから今回の作戦は辞退できるわ」

 

だがパイロット達は揃って誰も手を上げようともしない。彼らだって遊びでやっている訳では無いのだ。その目には覚悟が見受けられる。

 

「そう……良いのね。一応規則だと遺書を書くことになってるんだけど」

 

ミサトがポケットから茶封筒を取り出した。

 

「別に良いわ、そんなつもりないもの」

 

「要りませんよ。死んだら父さんを殴れないでしょう?」

 

「私も、良いです」

 

「分かったわ」

 

ミサトは手に持っていた茶封筒をビリビリに引き裂いた。

 

「終わったら、皆にステーキをご馳走するわ」

 

「本当⁉︎」

 

「たまりませんね、素敵だ」

 

「期待しててね♪」

 

背を向けミサトは部屋から去っていった。カミーユが口を開く。

 

「ご馳走はステーキで決まりか……」

 

「今時の子供がステーキで喜ぶと思ってんのかしら?これだからセカンドインパクト世代って貧乏臭いのよね」

 

「仕方ないだろ、あんな事があったんだ」

 

「なによ素敵だ、なんて言っちゃって。ステーキに掛けてるの?」

 

アスカが脇を突きながらにししと笑う。

 

「そんなつもりじゃ無い。別に良いだろ、ステーキでも」

 

カミーユが口を尖らせる。

 

「さてと、折角のご馳走なんだもの。ど、こ、に、し、よ、う、か、な♪」

 

何故入れているのか、カバンからルルブを取り出して早速アスカは店を探し出した。

 

「レイも来るでしょ?」

 

「私、行かない」

 

「どうして?」

 

「肉、苦手だもの」

 

レイは少しはにかみながらそう告げた。

 



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大気圏突入 弐

私の文章能力の所為で盛り上がる所の筈がかなり短いですが、こうした方が良いとかあったら教えてください。



 

第三新東京市郊外に位置する一つの山。その山が震えると、パックリと二つに割れ中身を表してきた。

 

「こんな所にカタパルトが……」

 

「そこの担当者が趣味で付け加えたのよ」

 

山の中に隠されていたカタパルトが姿を表す。緑の中で目立つ灰色の道が、日光をギラギラと反射している。

 

「サポートOS設定完了、ハーモニクス汚染濃度正常」

 

「A10神経接続確認、ジェネレーター臨界点」

 

「パワーフロー共に正常。クルーズリンクシステム更新」

 

「これで全ての準備が整ったわ、後はカミーユ君。任せたわよ」

 

プラグスーツの上から少々分厚い宇宙服とヘルメットを着たカミーユが答える。あまり着心地は良くなさそうだ。

 

「分かりました。そっちも頼むぞ」

 

「はいはい分かってるって」

 

「気をつけて」

 

モニター越しにアスカとレイに通信を送った所で、カミーユは覚悟を決めた。

 

「エヴァ初号機、行きます!」

 

変形状態のまま初号機は離陸し、大出力のスラスターであっという間に高度を上げていく。その速度はついにマッハへと達し、音を置き去りにする。

 

「くっ……!」

 

前方向から掛かる急激なGに身体が押し付けられる。バランサーを配置し、プラグスーツを着込んだ所で結局の所それは14歳の子供にとっては果てしない衝撃だ。

思わず千切れてしまいそうになる意識を気合いで繋ぎ止め、視界がだんだん狭まる中、スロットルを全開にする。

 

雲を突き抜け、地上の街が蟻ほどに小さくなって来ると、高度を表すメーターは50kmを差していた。

 

ここまでくると雲などの目印となる物が無いため中々上がっている感覚は感じられないが、それでも着実に近づいている。

何故なら、目の前にはあの使徒が今か今かと待ち構えているのだ。大きな体を広げ、こちらを見つめる使徒。情報通りかなりの大きさだ。

 

『高度間もなく80kmに到達、作戦区域へ突入します』

 

無線越しにオペレータの声がが聞こえると、気が軽くなっただろうか。段々とGが弱まっていくように感じる。

先程まで押し付けられていた思考が自由を取り戻していくと、ついにその高度メーターは100kmを指した!

 

『ロングライフル射程圏内、変形解除せよ』

 

コクピット右手に急遽増設された赤色のレバーを力一杯引くと、大型の戦闘機の姿をしていたエヴァが羽を開くように装甲を展開させる。機体下部にマウントされたロングライフルがバレルを初号機よりも長く延長し、Gディフェンサー本体のパイプと接続させた。

そして各所に備え付けられた放熱板が開き、冷却ガスを噴射すると同時にその変形は完了する。

 

「ここが宇宙なのか……、とても懐かしい感じがする」

 

初めて触れる筈の宇宙。だがその感覚に、カミーユは生まれ故郷の様な安心感を覚えていた。

 

「何だ?このプレッシャーは……」

 

だがそのプレッシャーは決して作戦を成功せねばならぬという物ではなかった。まるでこちらを殺そうとするような、それこそ野獣のような殺意が自分を指している。

 

「あの使徒からなのか?」

 

いつもは感じていなかったこのプレッシャー、カミーユはその主を目の前の使徒からだと推察する。

 

「だからって!」

 

『ジェネレーター出力最大、収束値7.54まで上昇』

 

ロングライフルを構え、目の前の大型使徒へと狙いを付けた初号機。次第にそのバレルが熱を帯び、発射体制へと移行する。

 

「そこだ!」

 

トリガーを押すと、直径30m程もある巨大な光の奔流が使徒へと迫りくる!その輝きに思わずカミーユは目を瞑るが、それでもトリガーを押し続ける。

使徒は咄嗟にATフィールドを出し、そのビームを防ごうとする。ただ一点、使徒の中心目掛けて発射されたそれはホースの様に延々と流れる。

次第にビームは使徒の落下の勢いへと抵抗し始め、徐々に徐々にその速度を緩くしていく。

 

『冷却剤を絶やすな!ジェネレーター出力最大を維持せよ』

 

『目標の落下速度後退中!』

 

一体何分ほど撃ち続けたであろうか、時が遅く感じる。だが一定して抵抗を続けるビームは確実に目標を足止めしていた。

しかし、次第にその時間稼ぎも終わりに近づく。コクピット内にアラート音が響き渡った。

 

「エネルギーが……!」

 

遂に初号機は全部のエネルギーを使い果たした。これ以上はもう撃てない。

 

「クソッ!」

 

思わずカミーユはレバーを叩く。いくら機体の性能上仕方ないとしても、彼には悔しさが残った。

 

『初号機、帰還せよ』

 

「……了解」

 

もし次があるのなら、必ずや討ってみせる。その決意を胸に抱きながらカミーユは作戦区域を離脱した。




Gディフェンサー

カミーユとNERV武装開発部門により開発されたフライングアーマーを戦自研とJA開発グループが発展させた試作戦闘機である。
単体でも遠隔操縦で攻撃が可能な他、エヴァと合体させる事で大幅なパワーアップを果たす。本機のベースとなったフライングアーマの部分は基部にしか残っておらず、ほぼ魔改造とも言える。
武装はロングライフルとミサイルポッド。バルカンとなっており、今回の作戦ではロングライフルのみが使われた。
尚、地球へと帰還した後本機は損傷が激しかった為、分解されNERVへと引き渡された。

作者の一言

序盤の部分はウルトラシリーズの防衛隊、中盤はガンダムWの最終回をイメージしてます。


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大気圏突入 参

サボってました、すみません。それにしても最近は暑かったですね。エアコンのない我が家は死にかけです。


 

「おいでなすったわね」

 

あちこちで報告と対処が行われる司令室で、警告の文字が大きく映し出されたモニターをミサトは見つめていた。

カミーユによる第一波が行われてから数分後、使徒は大気圏への再突入を開始、間もなく作戦区域に突入する。

 

「二次的データが当てにならない以上、現場各自の判断を優先します。貴方達に全て委ねるわ」

 

落下予測地点をカバーできる範囲に置かれたエヴァ二機へと無線を送る。今回の作戦では使徒がどこに落下するか、コンピューターの計算では追いつかないため、パイロット達の判断が重要になる。

ただでさえ二人だけなのだ。

 

「では作戦開始」

 

背部に接続されていたアンビリカルケーブルが高温の水蒸気を噴出しながら地面へと落下する。

 

「発進」

 

エヴァ2機はクラウチングスタートの姿勢から、思わず滑りそうになる程脚を早く動かす。大きく踏み込み地面が抉れると、その40mある巨体は前は前へと進み出す。

最早周りの被害などお構い無しだ。川からは派手な水飛沫が飛び、アスファルトを砕く。

 

零号機は山を軽やかにステップし、頂上を超えると大きく踏み込みジャンプした!あまりの高さに、一瞬コクピット内が無重力になる。地面へ着地すると、田んぼは大きく陥没する。

 

弐号機は送電線で編まれた柵をハードルの要領で飛び越え、更にはその背部と脚部の大出力スラスターを蒸すと、地面、或いはビルを蹴り始めた。

スラスターの最大出力を維持し、反作用を使う事で更にエヴァの速度は上がる。その速度、見る物が見れば三倍速く錯覚するであろう。その機体ペイントも相まり、まさに赤い彗星。

 

「目標、ATフィールド変質!予測地点に変更あり!」

 

「これでも間に合わないの⁉︎」

 

使徒は大気圏から脱出すると身体を硬化させ、そのATフィールドをより本部落下へと適したものに変えさせる。

 

「私が何とかする」

 

アスカの悲痛な叫びに応じたのはレイだった。レイがレバーを握り、更に身体を前のめりに倒す。

もっと速くと望むレイに応える様に零号機はその速度を音速へと近づける。

 

『…………』

 

一瞬零号機のバイザーがほんのり赤くなったかと思えば、背部バックパックから更にスラスターが出現し、零号機の速度を飛躍的に高めた。

遂にはそれは音速へと達し、途轍もなく大きな破裂音が辺りに響く。遂には音の壁を突破すると衝撃波が発生する。

零号機が通った道の半径2kmの建築物は軒並み吹き飛ばされ、その速度がどれだけ異常か物語っている。

 

遂に使徒も肉眼で大きく確認出来た。脚を大きく前に突き出し、零号機は地面へ跡をつけながらブレーキを掛ける。使徒の中心に位置する巨大な目がじっとこちらを見つめている。まるで止めてみろと挑発するようだ。

 

「ATフィールド全開!」

 

レイが拒絶を最大限意識し集中すると、それに呼応する様に大地が割れ、風景が赤く染まった。両腕を天に翳してみればそこには直径200mはある巨大なATフィールドが展開される。

 

「ッ!」

 

するとATフィールドに使徒が激突し、円を描いた衝撃波が街を襲う。余りの重さに零号機が踏んだ大地は陥没し、腕からもギシギシと嫌な音が聞こえる。恐らく零号機内部の骨がアラートを知らせているのだろう。

その痛みはレイにもフィードバックされ、思わずレイは歯を食いしばる。

 

「……弐号機、コアを………ッ⁉︎」

 

「分かってるわよ!」

 

ようやく着いたアスカが返事を返すと、弐号機はウェポンラックから突き出されたビームサーベルを右手で掴み起動する。

金色の刃が辺りを淡く照らすと、使徒のATフィールドを容易く切り捨て、コアへ向け一突き!

 

「外したっ⁉︎ちょこまかと!」

 

当たったかに思えたが、実の所使徒は直前でコアを移動させ回避していた。

クルクルと中心部分を高速で回転するコア。予想外の動きにアスカは戸惑ってしまう。

 

「はや……く…!」

 

「ええいままよ!」

 

直感に任せて左へ切り上げると、運良くコアが引っかかり、コアの半分ほどまでサーベルが届いた。

サーベルが突き刺さるコアは少しひび割れ、火花を散らしている。

 

「もういっちょおおおぉぉぉおお‼︎」

 

その姿勢から更に弐号機は左足でコアを右方向へ蹴った!サーベルへと追い打ちを食らったコアは真っ二つに割れ、赤く脈打つ鼓動を停止する。

 

すると先程まで怪しく蠢いていた使徒の身体が、脱力したかの様にエヴァへと覆い被さり、その生命活動は完全に終了した。

 

 

ーーーーー

 

「碇司令から通信が入っています」

 

「繋いで」

 

南極からの通信に、ミサトは内心肝を冷やしていた。なんせ三機共多大なダメージを負ったのだ。お叱りを受けるだろう。

あちこちで損害報告が飛び交う司令室の中、ミサトは姿勢を正した。

 

「申し訳ありません。私の独断でエヴァ三機及びパイロットに大きな損害を与えてしまいました」

 

『いや、良くやってくれた。葛城三佐』

 

「ありがとうございます」

 

だが通信越しに聞こえる声には怒りなど含まれておらず、いつもと変わらないトーンで司令は言ってきた。信頼しているのか、それともこうなると知っていたのか。相変わらずよく分からない人だ。

 

『初号機パイロットに繋いでくれるか?』

 

「分かりました」

 

実の息子へ何を伝えるのか。気になりながらミサトは回線を繋ぐ。

……だがカミーユからの反応が無い。ゲンドウは不思議に思った。何回か呼びかけても返事が聞こえないのだ。

 

「カミーユ、いるか?」

 

「碇……もしや」

 

「いやそんな筈は」

 

『大気圏外より飛翔体が接近中!ここに来ます!』

 

「え」

 

その報告に首を傾げると、ゲンドウ達の船の近くへその飛翔体が墜落してきた。その衝撃で船は大きく揺れ、悲鳴を上げる。ゲンドウが手すりに捕まり姿勢を立て直すと、窓の外に移ったソレに思わず目を見開く。

 

「初号機が何故ここに……」

 

そこに立っていたのは、全身ボロボロの初号機だった。装甲は焼け爛れ、隅々が黒く焦げている。大気圏再突入の際に酷く損傷したのだろうか、その姿はお世辞にも大破では済まないだろう。

 

「何をしている?」

 

初号機がゲンドウ達の船の背後へ近寄ると、窓からは見えなくなってしまう。

不可解な行動に戸惑いながら、カミーユとの通信回線を確認するがまだ反応はない。

 

「お前を殺しに来たのかもしれんぞ、碇」

 

冬月からの一言でゲンドウは余計焦った。どうしたものか、脱出できないものか。そんな事を考えていると廊下のドアが開いた。

 

「探しましたよ、父さん」

 

「か、カミーユ」

 

「こんな時に、何やってるんです!そんな所で‼︎」

 

「ま、まっ(ry」

 

驚愕の表情に染まるゲンドウの顔を二発三発と空手有段者であるカミーユの拳が叩く。次第に顔はアザが増えていき、両目も開けられなくなってしまった。

 

「碇……」

 

またもやゲンドウはカミーユに殴り飛ばされ、顔を包帯で覆う事になったのだった。

 



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母の亡霊 壱

ほぼ原作と同じです。(チルドレン達の出番はほぼ)ないです。



 

「るるぶの隅っこにあった奴だけど、意外と美味しかったわよねあのラーメン屋」

 

「メニューが変わり種しかなかったのは考え物だけどな」

 

数日前の第十使徒戦後立ち寄った屋台だったが、フカヒレチャーシューやイカ墨ラーメン等中々愉快な味が楽しめた。

ふとレイの方を見やると、その時の味を思い出しているのか少し表情が柔らかくなっている。肉嫌いなレイが楽しめたでだろう事は良かったが、そこでカミーユは一つ質問を投げた。

 

「ところで、レイはいつも何食べてるんだ?」

 

「前はNERVの保存食。たまに……コンビニ」

 

その発言にカミーユとアスカは少し引いた。なんせNERVの保存食というのは味がとてつもなく酷い。今はアスカが料理当番を担っているが、彼女がまだ未熟だった頃料理代わりに出してみたところ、口にした三人共々吐き出す始末だった。

内容は様々な味のペーストが幾つかと、水のみ。もし世界が滅んだとして、これを食べるNERV職員が可哀想でならないと二人は思っていた。

 

「レイ……、保存食の味はどうだった?」

 

カミーユが恐る恐る聞くと、レイは即答した。

 

「おいしくない」

 

「「やっぱりか……」」

 

そうして三人が歩いているとNERV本部内の更衣室へと着いた。今日の予定はハーモニクステストであったが、なんでもリツコが言うにはいつもと少し違うらしい。

 

2人と別れて指定された個別の更衣室に入ると、アスカは奥に一つ扉が設置されているのを見つけた。近づいてみると、それは水密扉と似た形をしている。

 

(まさかここに入れって言うんじゃないでしょうね……)

 

少し顔を顰めながらもアスカはシャワーを浴び、着替え用の下着を履く事にした。いつもはプラグスーツが置いてあるはずだが。

 

『着替えが終わったら、奥にある扉へ入ってちょうだい』

 

部屋に設けられたスピーカーから出た声はリツコのものだった。言われるがまま、少し力みながら水密扉もどきを開けるとそこは真っ白な小部屋が広がっている。

 

『そこで下着を脱いでくれる?』

 

小部屋で下着を脱ぐと、左右から消毒スプレーらしきものが全身に吹きかけられる。あまり良い気分はしない。

恐らく他の更衣室もここと似たような部屋に繋がっているのだろう。小部屋を出ると三人ともそれぞれ別の白い大部屋へと通じた。

 

『後はAIが滅菌処理をしてくれるから、その指示に従ってもらうわ』

 

「えぇ〜⁉︎また消毒?」

 

『そこから先は超クリーンルームですからね、シャワーを浴びてちょっとスプレーをかけただけじゃ足りないのよ』

 

「なんでオートパイロットの実験でこんな事しなきゃいけないのよ」

 

アスカは項垂れるように言った。

 

『技術の世界は日々進歩しているの、新しいデータはすぐにでも必要だわ』

 

それからというものの全身に先ほどのスプレーを10倍近くかけられたり、明らかに台風レベルのエアシャワーを浴びたり、熱風でサウナ状態になった後冷風で寒暖差にやられたり、しまいには消毒プールという名の水責めにあったりと、散々であった。総滅菌処理回数は17回、潔癖症の楽園だ。

 

「……もう二度とやりたくない」

 

アスカはヘトヘトだった。

 

「同感だ」

 

「私も」

 

三人は思った。このシステムを考えた人はきっと余程のドSなのだろうと。身近に1人やりかねない人がいるが、そんな事は後回しだ。

 

『では三人とも、その姿のままエントリープラグに入ってちょうだい』

 

「……何が望み?」

 

もうアスカに言い返す気力は無い。

 

『このテストはプラグスーツの補助無しでどれ程のハーモニクスが可能かが主旨なの。大丈夫、カメラ映像は切ってあるから』

 

(そういう問題じゃ無いわよ……)

 

疲弊した体に羞恥心という名の火が灯った。

 

 

 

『全パイロット所定位置につきました』

 

「テスト開始」

 

『了解』

 

開始の旨を伝えた後、リツコはガラス越しの模擬体3つに目をやる。模擬体には多数のケーブルが繋がれており、胴体と腕部のみしか存在しない。専用の液に浸されたソレは見るものに不気味な印象を与える。

今チルドレン達にはその模擬体の中のエントリープラグへと入ってもらっている。

本来であればちゃんとエヴァを使うべきなのだが、生憎二機は修理中。残る一機は時田シロウ等JA開発部門や戦自研が合併した新技術研究部門へと改修に回されている。

 

『オートパイロット異常無し』

 

『システムを模擬体と接続します』

 

「シミュレーションプラグ、MAGIの制御下に入りました」

 

マヤが報告した通り、モニターにはMAGIの演算処理の過程が早送りの様に流れていく。

 

「おぉ〜早い早い、MAGI様様だわ。初実験の時が嘘みたい」

 

その速度にミサトも称賛の声を上げる。手持ちのマイクを口に近づけ、リツコはパイロットに呼び掛けた。

 

「気分はどう?」

 

『何か違うわ』

 

『慣れない感じがします』

 

『感覚がおかしいのよ。右腕だけはっきりしてて、後はぼやけた感じ』

 

「レイ、右手を動かすイメージを描いてみて」

 

『はい』

 

そう言うと、レイが乗り込んでいる模擬体の右腕が少し動いた。

 

「問題なさそうね。MAGIを通常に戻して」

 

すると、先程までの処理過程から通常の審議状態へとモニターが切り替わる。

 

「ジレンマか……。作った人間の性格が窺えるわね」

 

「何言ってんの、作ったのはあんたでしょ?」

 

「貴方何も知らないのね」

 

リツコは呆れながらに言った。

 

「リツコが私みたく自分の事ベラベラ話さないからでしょ」

 

ミサトが不貞腐れながら呟く。

 

「そうね」

 

ミサトの言い分を肯定した後、先ほどの答えを教える。

 

「基礎理論と本体を作ったのは、母さんよ」

 

そこで区切るかの様に、設置された電話が鳴り響く。マヤがそれを手に取り内容を聞くと、少し困った表情になった。

 

「どうやら侵食の様です。この上のタンパク壁からだそうで」

 

「参ったわね。テストに支障は?」

 

「今の所は」

 

「では続けて。このテストはおいそれと中断する訳にはいかないわ。碇司令もうるさいし」

 

「了解」

 

マヤが受話器を置くと同時に今度はけたたましい音量のアラートが鳴り響いた。耳をつんざくあまりの音量に思わずビクッとする。

 

「どうしたの⁉︎」

 

「シグマユニットAフロアに汚染警報発令!」

 

「第87タンパク壁が劣化、発熱しています!」

 

「第六パイプにも異常発生」

 

「タンパク壁の侵食部分が増殖していきます!……ッ、爆発的スピードです!」

 

瞬きする間に、タンパク壁を表すハニカムがオセロの様に次々と塗り替えられてしまう。

 

「実験中止!第六パイプを緊急閉鎖!」

 

言われるがまま全閉鎖のスイッチを押すとパイプは物理的にシャッターで区切られ、完全に閉鎖する。

 

「60、38、39、閉鎖されました」

 

「6の42に侵食発生!」

 

「ダメです!侵食は壁伝いに発生しています。閉鎖では止められません!」

 

「ポリソーム用意!」

 

侵入者迎撃用遠隔操縦機銃POLYSOMEが壁面から姿を表し、侵食してくるであろう部位へと照準を移す。

 

「侵食部6の58に到達、来ます!」

 

辺りは緊張に包まれ、今か今かと使徒を待ち続ける。だが10秒経っても何の物音もしない。不思議に思ったその矢先、今度はレイが悲鳴をあげた。

 

「レイ⁉︎」

 

レイの模擬体が右手をぎこちなく動かし、壁を叩く。

 

「そんなまさか!」

 

身体中のコードを、まるで拘束から逃れる様に次々と引きちぎる模擬体。それと同時に先程の侵食部位が動きを見せる。

 

「侵食部さらに拡大、模擬体の下垂システムを犯していきます!」

 

身体中を身震いさせながらリツコ達のいる制御室へと次第に腕を伸ばし続ける模擬体。

咄嗟にリツコは手元の緊急用と書かれたガラスを叩き割り、その中に埋め込まれたレバーを目一杯引いた。

 

すると模擬体に仕込まれた爆砕ボルトが起動し、右腕を吹き飛ばした。吹き飛ばされた右腕が制御室のガラスへと勢いをそのままに衝突、室内を大きく揺らす。

 

「レイは⁉︎」

 

ミサトが声を上げる。

 

「プラグを緊急射出!レーザー急いで!」

 

「はい!」

 

マヤへと指示を飛ばすと、即座にエントリープラグのジェットが起動し、実験室上部のシャッターが開く。

 

「三人とも衝撃に備えて!」

 

リツコが手元のマイクで注意を促した後、すぐにプラグはジオフロント内部へと射出された。

プラグスーツ無しのチルドレン達へかかる衝撃は凄まじいだろうが、命を失うよりはマシだ。

 

一方機銃。侵食を再度開始した部分へとレーザーを放つと、特徴的な音と共にそれは遮られ、目標には傷一つつかない。

 

「ATフィールド……?」

 

「分析パターン青……間違いなく使徒よ」

 

リツコが告げると、本部内隅々に警報が発せられる。それは司令室にまで届いた。

冬月が電話を取り、ミサトに誤報では無いか確かめる。

 

「使徒の侵入を許したのか⁉︎」

 

『申し訳ありません』

 

「言い訳はいい」

 

冬月は受話器を片手に指令を出す。

 

「セントラルドグマを物理閉鎖、シグマユニットと隔離しろ!」

 

冬月へと確認の旨を送ると、ミサトは制御室内の職員へと呼びかけた。

 

「ボックスは破棄します!総員退避!」

 

監視用のガラスは次々とひび割れ、今すぐにも実験室内の液体が侵入してきそうだ。

 

「なに突っ立ってんの!早く逃げるわよ!」

 

呆然とした表情で実験室内部に視線を注ぐリツコの手を取り、ミサトはギリギリ制御室から脱出する事に成功したのだった。

 

 

 

 

 

片手に持ったディスクを落とさぬ様に慎重にパイプを渡ると、先程まで鳴っていた警報が鳴り止んだ。

 

「誤報って言っても信じちゃくれないですよ、あの人達は」

 

頭上を見上げてみれば、怪しい影が赤い光を発しながら蠢いているのが確認できる。

 

「あれが使徒か……、どさくさに紛れて逃げられそうだな」

 

パイプを降り、確保しておいた逃げ道へと着地すると、加持リョウジは闇の中へと消えていった。

 

 




遅れてしまい、大変申し訳ありません。サボってたのと、ストーリーを一部考え直してました。
いやほんとすいません。


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母の亡霊 弐

 

「ほら、ここが重水との境目。酸素が多いところよ」

 

あれから数分、司令室に集まった面々はモニター越しに使徒の出方を窺っていた。

リツコが言う通り、実験室の下に流し込まれていた重水の方には使徒が侵入する様子は無さそうだ。

 

「好みがはっきりしてますね」

 

その様子にマヤは好き嫌いの激しい子供を思い浮かべた。

 

「無菌状態を維持する為にオゾンを流し込んでいた所までは汚染は進んでいません」

 

「つまり、酸素に弱いって事?」

 

「らしいわね」

 

早速実験室内へ酸素を供給する事にした。室内の駅へと次々に酸素を送り込む。

 

「オゾン注入、濃度上昇していきます」

 

「お、効いてる効いてる」

 

青葉が汚染区域を見やると、段々と汚染されていた部分が気泡を潰す様に減っているのが分かる。

 

「いけるか?」

 

冬月も予想外に早く終わりそうで、胸を撫で下ろしながら呟いた。

 

「0Aと0Bはそろそろ回復しそうです」

 

「パイプ周り、正常値に戻りました」

 

「やはり中心部は強いですね、ここだけまだ残っています」

 

「よし、オゾンをもっと増やせ」

 

しかし、今度は先程までの勢いは無く次第に回復速度は遅くなっていってしまった。

 

「変ね……」

 

「あれ?増えてるぞ」

 

「変です!発熱が高まってます!」

 

「汚染区域、さらに拡大中!」

 

モニターに映された使徒のハニカムは次第に増殖し、遂には重水付近の酸素濃度が高い方へも汚染を始めてきた。

 

「ダメです、まるで効果がありません」

 

「今度はオゾンをどんどん吸っていきます!」

 

「オゾン止めて!」

 

別のモニターに映された使徒の信号には、先程とは別の様子があらわれた。

 

「凄い……、進化してるんだわ」

 

酸素を食い、即座に環境へと適応してみせた使徒。思わず称賛の声が出てしまう。

すると信号が突如乱れ、アラートが鳴り始めた。

 

「どうしたの⁉︎」

 

「サブコンピューターがハッキングを受けています!侵入者不明!」

 

「こんな時に……!Cモードで対応!」

 

「防壁低下、擬似エントリー展開!」

 

「擬似エントリー回避されました!」

 

「逆探知まで後16秒、防壁展開!」

 

「防壁突破されました!」

 

「こりゃ人間技じゃ無いぞ……」

 

思わず日向は愚痴をこぼした。

 

「逆探知に成功!場所は……B棟の地下、実験室です!」

 

B棟の地下実験室、つまりハッキングの犯人は使徒ということになる。

使徒への監視カメラに目をやると段々とその模様が変わっていくのが目に取れる。

 

「光っている模様は電子回路だ、こりゃコンピューターそのものだ!」

 

「擬似エントリー展開!……失敗、妨害されました!」

 

「メインケーブルを切断」

 

モニターに写った使徒を睨みつけながら、ミサトは指示を飛ばす。

 

「ダメです!命令を受け付けません!」

 

「レーザー打ち込んで!」

 

「ATフィールド発生!効果なし!」

 

ミサトは顔を曇らせた。

 

「保安部のメインバンクにアクセスしています、パスワード操作中。……12桁、16桁。Dワードクリア!」

 

様々な回数を試行し続け、パスワードを次々と強引に当てていく使徒。

 

「保安部のメインバンクに侵入されました!」

 

その報告に冬月は目を見開いた。背筋を冷や汗が伝わる。

 

「メインバンクを読んでいます!解除出来ません!」

 

「奴の目的は何だ……」

 

「メインパスを探っています。このコードは……やばい!」

 

青葉は声を張り上げ、司令室全体へと伝わる様に使徒の目的を伝える。

 

「MAGIに侵入するつもりです!」

 

その報告に一同は思わず手が止まる。NERVのメインコンピューターであるMAGI。それを乗っ取られるという事は……

 

「I/Oシステムをダウンしろ」

 

碇指令から直接指示が下る。考えるよりもまずは食い止めることが先だ。日向と青葉は机から鍵を取り出し、デスク下の装置へと差し込んだ。

 

「カウントどうぞ!」

 

「3!2!1!」

 

2人同時に鍵を回すと、確かに感触はあったものの未だ状況に変化は無い。

 

「電源が切れません!」

 

「使徒、メルキオールへの接触を始めました!」

 

次々と、正常状態を表していた緑が山火事の様に消えていく。

 

「使徒、MAGIへ接触します!メルキオールがリプログラミングを受けました!」

 

『人工知能メルキオールにより、自律自爆が提訴されました』

 

MAGIからの報告にミサト達は目を見開いた。

 

『否決』

 

すぐにそれは却下されるも、使徒は更なる手を繰り出してきた。

 

「バルタザールがメルキオールにハッキングを受けています!」

 

提訴画面に映るバルタザールは次第にハッキングの影響を受け、隅からカビが生える様に赤色に染まっていく。

 

「なんて計算速度だ!」

 

必死に妨害プログラムを打ち込むものの、MAGIの一つが敵に回った今、その計算速度は人間では到底届かない程にまで進化していた。リツコは額に汗を浮かべながら何か策は無いかと脳内を走り回る。

 

「ロジックモード変更!シンクロコードを15秒単位にして!」

 

「「了解!」」

 

言われた通り、青葉と日向がMAGIに対して操作を行うとアラートは次第に弱まり、それと同じくしてハッキングも緩やかになっていった。

 

「どのくらい持ちそうだ?」

 

一息落ち着いた冬月が訪ねる。

 

「今までのスピードから考えて、ざっと二時間くらいは」

 

あまり余裕は無い。一刻も早くMAGIを取り返さなければここは塵と化すだろう。

 

「MAGIが敵に回るとはな……」

 

予想していたのかそうで無いのか、碇ゲンドウはいつもと変わらず落ち着いていた。

 

 

 

あれから数十分後面々は分析室に集まり、使徒がどうやってハッキングを仕掛けたのか、リツコの口から説明を聞いていた。

 

「彼らはいわゆるナノマシン。細菌サイズの使徒と考えられます」

 

回収された模擬体の侵食を受けた部位を写したスクリーンショットが出される。

 

「それらが群れをなして集まり、知能回路を形成した事でこの短時間に爆発的な進化を促したのです」

 

「進化か……」

 

「彼らは常に自分自身を変化させ、いついかなる時でも生きる為の道を模索し続けています」

 

「まさに、生命の生きる為のシステムそのものだな」

 

生物は道を探す。いつぞやの映画にそんな言葉があった。

 

「使徒が進化を続けるなら、私にいい考えがあります」

 

リツコは少し得意げに言い放った。

 

「進化の促進かね」

 

「はい」

 

「進化の先にあるもの、それは自滅。死そのものだ」

 

ゲンドウは鼻筋を揉みながら重い口を開いて言う。

 

「でもどうやって?」

 

「相手がコンピューターなら、わざとカスパーに繋ぎこちらから自滅促進プログラムを送る事が出来ます、が」

 

「同時に、使徒への防壁を解除することに繋がります」

 

マヤが付け加えたそれは、中々重い代償であった。肉を切らせて骨を断つという言葉そのものだ。

 

「カスパーを堕とされるとされるか、こちらが堕とすかだな」

 

「で、そのプログラム間に合うんでしょうね。カスパーがやられたら終わりなのよ」

 

別に実力を疑っているわけではないが、極めて危険な策だ。ミサトが心配するのも無理はない。何より、頼りの一つでもあるカミーユもここには居ないのだ。

 

「約束は守るわ」

 

少し逡巡した後、リツコは言い切った。

 

ーーーーー

 

司令室中央の床。ネジを取り一部分を剥がすと、レバーが中にあるのが分かる。それをカチッと動かしてやると、なんとミサトやリツコがいつも立っていた場所が上昇し、埋められていた超巨大コンピュータが姿を表した。

再度ネジでコンピュータ内部へ入る為のハッチを開けると、目の前にはおびただしいほどのメモが貼り付けられていた。

 

「開発者のいたずら書きね……」

 

人の脳を模した様に隅々まできっちり詰められたパイプと、それに貼り付けられた殴り書きの数々。

 

「凄い!これMAGIの裏コードですよ!」

 

その一つを手に取り、目を通したマヤが興奮しながら言った。

 

「さしずめ、MAGIの裏技大特集ってところね」

 

書いてある内容はイマイチよく分からないがミサトはマヤのはしゃぎ具合を見てこの殴り書きは役に立ちそうだと感じた。

 

(……碇のバカヤローって書いてあるのは気のせいよね、多分)

 

ミサトは見なかったことにした。

 

「レンチ取って?」

 

床に置いておいた工具一式の中から充分な重さのレンチを見つけ、リツコに手渡す。

 

「大学の頃を思い出すわね」

 

特に出来ることも無いのでこうやってリツコに言われるがまま工具を手渡すやり取りは、何も初めてではなかった。大学の頃は、よくわからないジャンク品を漁ってはこれまたよく分からない機械を作るのが当たり前の日々だった。

10徹した末に粒子加速機を作って時間逆行を引き起こそうなどと言われた日にはすぐさま仮眠室にこの金髪をぶち込んだのも良い思い出である。

 

「25番のキーボード」

 

25と白いシールが貼られたキーボードを手渡す。受け取ると、リツコはすぐさまタイピングに移った。

 

(ビーちゃんとどっちが速いのかしら)

 

そんなことを考えていると、さっきの実験中には聞けなかったことが頭をよぎった。

 

「ねぇ少しは教えてよマギの事」

 

「長い話よ。そのわりに面白くない話」

 

手元のボードを脇に置き、リツコはその面白くない話をする事にした。勿論作業の手は緩めない。

 

「人格移植OSって知ってる?」

 

「ええ、第七世代の有機コンピューターに個人の人格を移植して思考させるシステム。エヴァの操縦にも使われている技術よね」

 

「MAGIがその1号らしいわ。母さんが開発した技術なのよ」

 

「じゃあ、お母さんは自分の人格を移植したの⁉︎」

 

「そう」

 

肯定すると、手元の丸鋸を起動しCASPERと書かれたバスケットボールサイズのカプセルに向かってそれを慎重に当てる。奥深くに埋め込まれていたそれの一部分を正方形にカットすると、中を覗いてみると人工の脳が埋め込まれていた。人のモノとは違い、血が通っていなく、黄ばんでいる。

 

「言ってみればこれは、母さんの脳みそそのものなのよ」

 

「それでMAGIを守りたかったの?」

 

「違うと思うわ。母さんの事あまり好きじゃなかったから。科学者としての判断ね」

 

針に似た接続ケーブルをカスパーに刺す。ぐにゃりとした嫌な感触が伝わってくる。すると、狙い澄ましたかの様にアラートが司令室の方から聞こえてくる。バルタザールが完全に乗っ取られたのだ。

 

『人工知能により、自律自爆が決議されました』

 

「始まったの⁉︎」

 

ミサトがコンピューター外へ身を乗り出して確認すると、自爆の範囲が通達された後、起爆までのカウントダウンが発表された。マヤもプログラムの仕上げへと移るが、その時間なんと20秒。明らかに避難させる気はない。

 

「リツコ、急いで!」

 

「大丈夫。カスパーが乗っ取られるまで1秒近くも余裕がある」

 

「1秒って……!」

 

「0やマイナスじゃないのよ。賭ける価値はあるわ」

 

リツコは脇に置いておいたボードを操作し、焦る事なく最終段階へと移行する。

 

「マヤ?」

 

「行けます!」

 

3秒

 

2秒

 

1秒

 

「押して!」

 

マヤとリツコが同時にエンターキーを押すと、使徒はカウント0秒を告げる。

司令室一同はまるで時が止まったかの様に静まり返り、今か今かと待ち続ける。

 

『人工知能により、自律自爆は解除されました』

 

カスパーの一片が提訴画面中の赤を、押し返す様に染めていく。そして移るは否決の文字。

 

「いよっしゃあぁああ!」

 

上の方からその一声が聞こえると、ミサトはマヤと顔を見合わせ互いに頷きあう。

最大の功労者であるリツコはというと、全身汗だくになりながら硬いパイプの床へと突っ伏していた。

 

こうして正真正銘のヒトとシトとの決戦は、ヒトの勝利で一旦は終わったのだ。

 

ーーーーー

 

「もう歳かしらね。徹夜が体に応えてきたわ」

 

「また約束、守ってくれたわね。おつかれさん」

 

パイプ椅子へ気だるげに座ったリツコに対し、ミサトは労いのコーヒーを淹れてきた。

 

「ありがと」

 

そう言って、リツコは熱々のコーヒーを一口。乾いた喉に流し込む。喉の奥から、独特の良い香りが鼻を通り抜けるのが分かる。

 

「ミサトの入れてくれたコーヒーをこんなに美味いと思ったのは初めてだわ」

 

苦笑いが止まらない。

 

「死ぬ前の晩、母さんが言ってたわ。MAGIは三人の自分なんだって。科学者としての自分、母としての自分、女としての自分。その三人がせめぎあっているのがMAGIなのよ。人の持つジレンマをわざと残したのね」

 

黒い水の底に自分が写っている事を確認する。

 

「実は、プログラムを微妙に弄ってあるの。私は母親になれそうもないから、母としての母さんは分からないわ。だけど科学者としてのあの人は尊敬していた。でもね……女としては憎んでさえいたの」

 

また一口。

 

「今日はやけにお喋りじゃない」

 

「たまにはね」

 

MAGIを一瞥すると、リツコはまた黒い鏡を見つめる。

 

「カスパーにはね、女としてのパターンがインプットされていたの。最後まで女でいる事を守ったなんて、母さんらしいわ」

 

ぐいっとコーヒーを飲み干した後、リツコはパイプ椅子から腰を上げた。

 

ーーーーー

 

「何かまずい事が起きたんじゃないだろうな⁉︎司令部は何やってるんだ!」

 

「……」

 

「ちょっと!忘れてるんじゃないでしょうね!早く助けにきなさいよ!」

 

30分後、三人のチルドレンは無事回収された。しかし誰が回収に行くかで揉めたのはまた別の話である。

 




次回からOPが変わります。

また、アンケートを設置する事に決めました。Zとエヴァ、両方ともハッピーエンドとバッドエンドありますし。期限は今は設けないので自由に選んでくださいね。


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Who are you?

短編です


 

「……?」

 

カミーユは暗い病室の中、目を覚ました。どのくらい眠っていたのだろうか。辺りに時計がない事を確認すると、深くため息をつく。

何があっただろうか、使徒の攻撃を受けたわけでもない。今日は互換性実験で、零号機に搭乗していた筈だ。

だが嫌な感じだった。

何かが頭に入って来るような。

 

「目、覚めたのね」

 

「オハヨウ、オハヨウ」

 

そう言ってドアから入って来たのはレイとハロだった。盆に乗せられた病院食を手に持っているが、どうやら食事を持って来てくれたらしい。

 

「ハロ、今は何時だ?」

 

「19時34分」

 

「思ったよりだな……」

 

てっきり深夜かと起きた時思ったが、意外と眠っていたのは短い時間のようだ。

 

「なんでレイが持って来るんだ。普通は職員の誰かじゃないのか?」

 

「赤木博士が、私なら何か聞き出せるかもって」

 

「リツコさんが」

 

「何か思い出した?」

 

レイはベッドに備え付けられた簡易式のテーブルへ病院食を置くと、隣の椅子へ腰掛けた。どうやらこのまま聞くつもりらしい。食べながら話すとしよう。

 

「具体的にはなにも……ただ」

 

「ただ?」

 

「何かがいて、……繋がったような、頭を共有しているような感じがした」

 

「そう」

 

「何かあったのか?零号機に」

 

「零号機がカミーユ君を侵蝕した」

 

その言葉に驚くと、カミーユは手に持っていたスプーンを落としそうになった。零号機が、エヴァがパイロットを侵蝕した。これまでに初号機では無かった事だ。

 

「大丈夫?」

 

「あ、ああ……すまない」

 

どうやらレイはカミーユの手から零れ落ちたスプーンを拾ってくれたようだ。

受け取ろうとカミーユは思わずレイの指に手が触れる。すると脳に電流のようなモノが走り、激しく焼け付く。

 

「カミーユ君?」

 

レイが話しかけるも、今はそれどころではない。痛みは無いのだ、ただあるのはとてつもない嫌悪感のみ。

 

「レイ……?」

 

脳内に溢れ出すは綾波レイの記憶。文字通りだ、自分のでは無い。自分から見た綾波レイでは無い。

文字通り他人の記憶。

笑顔のレイ、悲しむレイ、怒るレイ、様々なレイがカミーユの頭に流れ込んでいく。

カミーユが知っているのは14歳のレイな筈。だがどうだ、映り込んだのは全て7歳かそこらの姿だ。

 

「うわぁぁぁぁァァァァァ‼︎」

 

 

ーーーーー

 

「今はそっとしておきましょう。幸い汚染はないと出たから」

 

「分かりました……」

 

何処か心配そうレイが研究室から出たのを確認した後、リツコはコーヒーメーカーを起動し、頭を抱えた。

何故零号機のコアがカミーユに接触しようとしたのかは分からない。だが考えられる内で最もあり得るのは、カミーユを人質にしようとした、それだけだ。なんたって零号機がカミーユを侵蝕し、暴走を始めた時。その振り上げた拳は全て自分を狙っていたのだから。

 

「今更謝っても無駄よね……」

 

ミサトからも、今回の件で大分怒られてしまった。当たり前だ。家族に近しい存在が自分のせいで危ない目に遭ったのだ。コア……いやブラックボックスと言った方が正しいだろうか。

開発したのは大方ゼーレだろう。老人達が強制的に搭載してきた為、手を加える事も出来ない。

 

EXAMシステム、それと開発中のダミーシステム。その二つの事を考えながら、リツコはいつにも増して苦いコーヒーで頭を濁した。

 

「せっかく初号機が帰ってきたのに、申し訳ない事をしたわ……」

 

ーーーーー

 

「……」

 

広いケージの中、すっかり変わり果ててしまった初号機をレイはじっと見つめていた。

確かにさっき思い出したのだ。カミーユに触れた時、自分が初号機の中で見たものを。

 

「貴方は誰?」

 

白く染まった巨人は今宵も眠り続ける。

 




おや?カミーユの様子が……

帰ってきた初号機が活躍するのはもうちょい先になりそうですね。


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