BLEACH Xoversoul (カチドキホッパー)
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1話

今俺はベットに寝ている。

体はほとんど動かない。

気づけば俺の周りにいたみんなはほとんど死んでいた。

気づけば俺も60歳、あの日ボンゴレボスを継いでから今日まで走ってきたけど、生き急ぎすぎたみたいだ。

横に妻のきょうこがいる。

いるのは分かるのに目が霞んでもう姿も見えない。

 

「つっくん、よくがんばったね。

 もういいのよ。」

 

「父さん、あとは俺に任せてくれ。

 11代目を継いでから15年も経つんだ。

 だからファミリーのみんなのことは俺が守るよ。」

 

息子の宗徳もいたのか。

そんなことすらわからない。

もう、声も聞こえなくなってきた…

 

「あぁ…幸せだったな」

 

でもなんでこの歳で30代から見た目変わんねーんだよ、白髪くらいだぞ…

死ぬ時まで外見を弄り続けてきた家庭教師の姿が目に浮かぶ。

妻も少し老けただけで美しさに変わりがなく、陰であの夫婦不老の薬でも飲んでんのかと囁かれ続けたほどだ。

あぁもう限界だ。

 

 

そしてボンゴレ10代目沢田綱吉はその生を終えた。

 

 

ツナの死から1週間が経過した頃、死んだはずの彼は見知らぬ土地に立っていた。

 

「はぁー、死後の世界って本当にあるんだなぁ。」

 

ツナが死んでしばらくして、自分が霊体になったのに気づいた。。

そしてそこに黒い和服を着た男がやってきて、有無を言わさず刀の柄を押し当てられ額に「死生」の字を刻まれた。

魂葬という行為らしいが、やった男は死神と呼ばれる魂の均衡を保つ存在でどうやら初挑戦だったらしく顔は脂汗まみれ、力みすぎて腕は震えていたので現世から消失する時めちゃめちゃ痛かった。

あの顔ちょっと覚えてないけど次あったら覚えてろよ。

なんて思っているがようやく死後の世界で人並みの暮らしができると知って心は躍っっていた。

先に死んだ友人たちを探して呑気に後から来る妻や子供を待つ気でいたのだ。

しかしこの男にそんなことが許されるはずもなく

 

「沢田綱吉さんですね?

 私は護廷13隊・1番隊副隊長伊勢七尾と言います。

 突然で申し訳ございませんが、あなたを捕縛します。」

 

副隊長を名乗る女死神に縄で縛られ誘拐された。

待て待て待て、俺まだこっちの世界きて1週間だから犯罪も何もしてないんだけど⁈

そして引きづられるまま豪華な建物の奥に連れて行かれ放り投げられた。

 

「でっ」

 

強かにうった顎に手をやる。

縄を解かれた勢いで自分が勝手に転倒したみたいだ。

 

「あらぁー、これはまた勢いよく行ったねぇ。

 七緒ちゃん、もうちょっと穏便に運んであげてよ。」

 

声に気づき目の前を見上げると女物の着物を羽織り編み笠を被った年配の男が座っていた。

 

「初めまして、沢田綱吉くん?でいいのかな?

 ぼかぁ、護廷13隊総隊長兼1番隊隊長京楽春水。

 突然だけど君さ、死神にならない?」



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2話

「えぇと、沢田綱吉。

 並盛出身、並盛高校卒業後イタリアのマフィア・ボンゴレファミリーの10代目ボスの座を継ぐ。

 家族は妻1人、息子1人、娘1人。

 享年60歳。

 君の在り方は外見も相まって初代大空の再来と謳われた。

 ここまでで間違っていることは?」

 

「ありませんけど、なぜ俺のプロフィールを調べてるんです?」

 

混乱するのも無理はない。

縄で縛られ連れてこられて、第一声が死神への勧誘に始まり、次が自身のプロフィールの読み聞かせだ。

はっきり言って意味がわからない。

 

「あ、じゃあ続けるね。

 そして10代目候補時代に世界最強のヒットマンリボーンに鍛え上げられ、自分の肉体を乗っ取ろうとする者や同じボス候補、果ては未来の世界で世界を支配するマフィアのボスと戦い生き抜いた。

 さらに何百年も生き続ける亡霊やらにも打ち勝つ。

 うん、文字だけ読んだらどこの漫画の主人公って感じだね。」

 

「あ、そこ間違ってます。

 リボーンに鍛えられたのはボスになってからもです。」

 

反射的に答えてしまうツナ。

隊長の腹の底が読めない。

 

「問題はここだね。

 虹の代理戦争において各強敵を撃破し、さらに夜の炎を扱う復讐者のボスのバミューダ・フォン・ヴェッケンシュタインに対して死ぬ気の到達点に達して勝利した。

 これも間違いないね?」

 

鋭い視線を送ってくる京楽。

これまでの雑談然とした口調から詰問調の口調に切り替わるのを感じる。

しかし嘘をついたところで仕方がない。

 

「…そうですよ。

 そんでバミューダ達にアルコバレーノのシステムを引き継いでもらって、ご存知の通り俺はボンゴレを継いでます。

 可愛い妻子持ちになってね。」

 

「あぁ、やっぱり…

 それはそうと君本当に童顔だよね、妻子持ちって書いてあって一瞬疑っちゃったよ…」

 

「はいはい、何人がその言葉を吐いて後悔したと思ってきてるんですか」

 

ツナから飛んでくる殺気に冷や汗を垂らす京楽と七緒。

獅子の逆鱗に触れるものは何人たりとも許されない。

 

「ごめんねぇ、だから殺気飛ばすのはやめてね。

 さて、本題なんだけどね。

 綱吉くん、君今死んでるのはわかってるよね。」

 

「そりゃまあ。」

 

「それでね今僕や君の体、それからこの世界は霊子ってのでできてんのよ。

 この霊子は人がそれぞれ持つ霊圧っていう生命エネルギーの中でも巨大な霊圧によってとても影響を受けちゃうのよね。」

 

京楽が言わんとしてることが今一わからないツナ。

 

「えっとね、綱吉くんさ。

 霊圧かなりでかいんだよね、総隊長の僕よりも。

 しかもそれが無意識に垂れ流されてるから、今すぐじゃないんだけどしばらく近くにいると影響を受けた霊子が崩壊しちゃうんだよね。」

 

霊圧とやらの平均値がわからないがとにかく悪影響らしい。

 

「でね、このままだと君を処刑しなくちゃいけないんだ。

 霊子の状態で死ぬとチリになって魂の輪の中に戻るからね、安心していいよ。」

 

「何一つ安心できる要素がねぇ⁈

 何言ってるんですか、嫌ですよ。」

 

怒涛のツッコミが冴え渡る。

 

「だよねぇ。

 そんな君が生き残るためにはね、霊圧のコントロールを覚えてもらう必要があるのね。

 そのために死神の養成学校に入って、ついでに死神にならない?

 君に損はないと思うよ、というより申し訳ないけど選択の余地がないよ。」

 

はぁ、死んでも変わらねえのか。

さようなら、俺の平凡ライフ…

 

「わかりましたよ、なりますよ死神に」

 

「へぇ意外だねぇ…

 君はもっと嫌がって渋々納得するかと思っていたんだけど。」

 

京楽の疑問はもっともだ。

元来ツナはそういう人間だ、だが

 

「そりゃマフィアのボス何年もやってりゃ諦めることが肝心だって風にもなりますよ。」

 

そこには童顔の可愛らしい顔からは想像もつかない哀愁が漂っていた。

かくしてツナは死神になることが決まった。



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3話

『続いて霊術院学長からの挨拶です』

 

「僕から教えることはただ1つ、群れたら噛み殺すよ。」

 

「嘘ぉ⁈」

 

話は30分前に遡る。

京楽総隊長の勧めにより死神となることを決めたツナ。

真央霊術院。

そこは創立2000年を誇る死神養成を目標にした学校。

制服である白地に黒いラインが入った着物を着ている。

これより入学式、その後にクラス分けの試験が行われる。

 

「はぁ、この歳になって学生とはね。」

 

イヤイヤの体を取ってはいるが失われた青春を取り戻すことを考えているこの童顔はこの後待ち受けている恐怖を未だ知らない。

 

「ねむてぇ」

 

来賓の挨拶やらどうでもいい話が30分ほど続きツナの眠気はピークだった。

『続いて霊術院学長からの挨拶です。』

 

どんなおっさんが出てくるのやら、もしかして京楽さんか⁈

そんなツナの思考は数秒で砕かれることになる。

出てきたのは切長の目をした死覇装に雲の刺繍がされた薄紫の羽織を羽織った男だった。

そういえば晩年はあんな白髪でアラウディに似てるって言われてたな、うちの雲の守護者は…

は?雲の守護者?

 

「僕から教えることは一つ、群れたら噛み殺すよ。」

 

「嘘ぉ⁈」

 

そこに立っていたのは前世の雲の守護者、雲雀恭弥だった。

 

『それでは入学式を終了します。

 続いて浅打の授与を行います。」

 

いや、発言に突っ込めよ。

突っ込まないってことはそれなりに毒されてるな。

雲雀の挨拶に戦慄しながらもペースは崩さない。

これから渡される浅打は死神となる上で必要な刀で、常に身につけることで自らの魂の写身となりそれぞれの名を得る。

死神はその名を知ることが一人前の条件とされるらしい。

そしてツナが受け取る番がやってきた。

そこには底冷えするような獰猛な笑みを浮かべた恭弥が立っていた。

 

「やぁ綱吉、死神になるんだってね。」

 

「どうも恭弥さん…あなたの死に目以来ですね…」

 

びくつきながらも浅打を受け取るツナ…

 

「あ、君試験受けなくていいよ。

 特進クラス、というか僕が個人授業するから。」

 

「は⁈」

 

そう言いながら自身の斬魄刀を抜き出す恭弥。

いや、他にも渡す学生いるでしょ。

と振り返ると、他の教師が渡していた。

 

「京楽さんからも頼まれているけど、緩くやるわけないよね。

 死ぬ覚悟してきなよ。」

 

「いや、もう死んでますけど⁈」

 

しかし雲雀はやると言ったらやる男だ。

今しがた受け取った浅打をぬき構えるツナ。

次の瞬間には恭弥が目の前に切りかかっていた。

 

「はやっ」

 

受け止めるので精一杯ながらも懸命に食らいつくツナ。

 

「まだまだこんなものじゃないでしょ、本気だしなよ。」

 

霊体になってからツナは死ぬ気モードになれない。

死んでいるからとかではなく、体内の生命エネルギーが霊圧に変わったためうまくコントロールできないので素の力で戦うしかないのだ。

 

「君、まだ霊圧をコントロールできないの?

 そんなんじゃ僕に殺されるよ。」

 

逆手に持ち替えた斬魄刀に霊圧を圧縮して再現するのは

 

「雲の炎⁈」

 

紫炎を纏う鋼が振り下ろされる。

 

「ぐぅ、…がぁ⁉︎」

 

受け止めきれず弾き飛ばされ壁に叩きつけられるツナ。

 

「君が無意識に纏っているもの。

 死ぬ気の炎の様に放出すればいいんだよ。

 君にできるのはそれくらいだろう?」

 

そんなバカ扱いしなくても…

てめーは格好つけてもヒーローになんかなれねえんだ…

そうだ、リボーンが言ってたようにシンプルに

 

ボゥ

 

ツナの浅打にわずかな炎が灯る…

 

「へぇ、やっぱり君は面白い…」

 



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4話

うっすい、ほんとに純度もクソもないくらいの大空の炎が浅打に灯った。

こっちの世界では霊圧だっけ。

そんなことはどうでもいい。

今恭弥と戦える力ならなんでもいい。

 

「流石に死ぬ気モードにはなれないか…」

 

霊圧を刀に流し込めた勢いで起きろ奇跡、とか思ったがそんなにうまくいくわけないか…

しかし恭弥の刀の炎の純度は前世となんら遜色はない。

 

「ふーん、これ以上は始解しないと無理だね。

 見てて綱吉、これが君がまず目指すべき目標だよ。」

 

恭弥は逆手に持った斬魄刀を構え、その腕に交差するように左手を構え霊圧を迸らせる。

 

「我が道を行け、『雲雀』」

 

そう唱えると斬魄刀は紫炎を纏うトンファーに変わっていた。

 

「これが僕の斬魄刀「雲雀」の始解だ。

 君は霊圧コントロールだけさせてもうまくいかないだろうから、今日から始解した僕とスパーリングね。

 リング争奪戦の時も未来でも似たようなことしたでしょ。

 早く霊圧コントロールしないと君、死んじゃうよ。」

 

そしてその日はなんとか炎を絶やすことはなかったがボコボコにされて意識が飛んだ。

起きると医務室のようなところにいて真横にはどでかいリーゼントが死覇装を着ていた。

 

「あぁ草壁さん、死んでも恭弥さんの補佐なんですね。」

 

「沢田さん、お久しぶりです。

 雲雀はあなたに厳しいですが、誰よりもあなたのことを買っています。

 気を落とさず、食らいついてください。

 座学の方は俺が副学長として専任で受け持ちますので気楽に聞いてください。」

 

風紀副委員長として恭弥のサポートしていた男はどうやら死後もその立ち位置を変えるつもりはないようだ。

そしてその晩は多少の座学の後、また地獄の朝を迎えることとなった。

 

「さぁ綱吉、復習の時間だよ。

 君はどれくらい炎を灯せるかな?」

 

始解状態の恭弥がやる気満々で待ち構えていた。

俺は息を吐いて集中する。

 

「シンプルに自分の力をそのまま刀に…」

 

ボゥ

 

昨日よりも大きな炎を灯した、それは誰が見ても澄んだ橙色と言えるほどはっきりとした炎だった。

 

「へぇ、多少はマシにコントロールできる様になったんだね…

 なら手加減はいらない、な‼︎」

 

言い終えるとアホみたい速度で踏み込んでくる。

 

「そんなわけないでしょう⁈」

 

そのまま刀を前にかざすととんでもない衝撃を受け止めることになった。

そんなことを1週間も繰り返すうちに多少は霊圧をコントロールできるようになった。

ついでに日に日に恭弥は加減をしなくなっていっていよいよ4番隊で本格的な治療を毎日受けている。

しかし俺もただでやられる気はない。

今日という今日はぶちのめしてやる。

 

「ふぅん。

 今日はいつにも増してやる気だね。

 そんな殺気を向けられるとやる気になっちゃうな。」

 

「今日こそその済ました顔に一撃入れてやりますよ恭弥さん。」

 

なんせ今日の俺は…刀から炎を逆噴射できるからな…

 

「ワォ

 やっぱり君は面白いね…

 そろそろ次の段階でもいいかな。」

 

始解状態の恭弥と打ち合い一撃入れそうになった瞬間、恭弥が姿を消した。

 

「瞬歩、死神の基本戦術の一つで霊圧操作による高速移動を可能にする。

 そして斬魄刀はそれぞれ固有の能力を持つ。」

 

そういうと高速の弾丸をトンファーで打ち込んでくる。

 

「いやいや恭弥さんギア上げすぎ」

 

高速でくる攻撃に避けるしかないツナ、しかし

 

「あ、やべ」

 

当たると思って目を瞑る、が

衝撃はいつまで経っても来なかった。

 

「ふぅあぶねえあぶねえ。

 雲雀の奴が毎日稽古つけてるって聞いて様子を見にきたら案の定だ。

 やりすぎだぜ。

 おっと、そんなことよりこれ言っとかないとツナにはいけねーよな。

 助っ人とーじょー‼︎」

 

目を開けるといつもの笑顔がそこにはあった。

死ぬ前となんも変わらない…

 

「武ぃ…会いたかったよぉ」

 

雨の守護者山本武が当然のように死覇装を纏って立っていた。

 

「やぁ武、綱吉との相手ばかりも飽きてきてね。

 なら君と僕で綱吉に看取り稽古をさせようよ。」

 

恭弥はものすごい笑顔で言い放った。

 

「それもいいな。

 ツナ、始解まだだろ?

 でもな、お前はすげー奴だからすぐできるさ。

 今は俺らの戦い見てろよな?」

 

そういう笑顔の武が斬魄刀を構える

 

「恵みをもたらせ『蒼燕』」

 



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5話

「恵みをもたらせ『蒼燕』」

 

武の周りを青い炎を纏う燕が飛び回る。

すかさず恭弥がトンファーからトゲの玉を打ち込んでくる。

しかし燕が炎の渦を作り吸い込んでしまう。

あとはトンファーと刀での撃ち合いだった。

 

「そろそろ行くぜ。

 時雨蒼燕流特式10の型・燕特攻!」

 

武の得意技と恭弥がぶつかり合う瞬間

 

「爆ぜろ『紅豹』」

 

2人の間に赤い炎が打ち込まれる。

 

「てめぇら!

 熱くなりすぎて十代目にお怪我があったらどうするつもりだ!

 お怪我はありませんか十代目?」

 

そこには同じ霊術院の制服を着た自分の右腕がいた。

 

「隼人、もう始解できるの⁈

 俺と似たり寄ったりのタイミングで死んだのに早くない?」

 

そう、嵐の守護者獄寺隼人その人だ。

実はツナが死んでから3日後に隼人も死んでおり、雲雀にしごかれた後医務室へ行き来する際偶然出くわしたのだ。

 

「隼人、今は授業中のはずだよ。

 相変わらずなサボり魔かい?」

 

「おい雲雀、単位ならもう全部取って始解もできるようになったんだ。

 十代目の特訓にご助力させろ。

 山本がありで、おれがなしってのは納得いかねーぜ。」

 

死してなお、十代目命な隼人。

 

「隼人、なんでそんなに早く始解ができるの?

 それにその武器って…」

 

隼人の左手には小手と弓が合体したような武器、Gのアーチェリーを強化したような武器が装備されていた。

 

「十代目、みたところですがあなたの浅打には十分な霊圧が吸収されています。

 あとはきっかけ次第で目覚めると思います。

 それから、俺たちの始解の形状について。

 これについてはある仮説を立てるのに十分な根拠があります。」

 

「そうだぜツナ。

 斬魄刀は魂の具現化だ。

 ってことは、もうなんとなくわかってんだろ?」

 

ツナもなんとなく気づいていた。

前世の武器、ボックスアニマル、それらが始解であらわれている。

 

「十代目、あなたの葬儀も含めてですが守護者の火葬の際にはそれぞれのボックスアニマルも望んで共に葬られています。

 その際に魂が融合し、それが斬魄刀に現れていると思われます。」

 

もう10年も前の話、恭弥さんが死んだときにボックスアニマルの扱いについて揉めたことがあった。

このときには継承のためにボンゴレギアはボンゴレリングに戻っていて、ナッツたちアニマルはアニマルリングに戻って俺たちが個人保管していた。 

 しかし持ち主が死んだ以上悪用される恐れが生まれたアニマルリングをボンゴレで封印するかどうするかで生き残っていた十代目ファミリーの幹部たちで話し合った。

だけど、恭弥さんのアニマルのロールが恭弥さんと眠ることを選んだ。

だから恭弥さんの指にアニマルリングをはめて火葬し、そのまま骨壺に納めたんだ。

 これから先残りのファミリーが死んでも同じように葬られるだろう。

 

「ってことは、俺の斬魄刀にはナッツの力が…」

 

「はい、可能性は高いです。

 あとはきっかけ、それさえあればあなたの斬魄刀の名前もいずれわかるでしょう。

 なんたって俺にできたんです、十代目にできないわけがありません。」

 

相変わらず期待が重い。

だけど長い時間を経てこれは信頼だと感じられるようになった。

そんなとき恭弥さんが俺に向かってトゲを打ち込んできた。

咄嗟に刀に霊圧を込めて受け止めるが、棘は増殖し俺を覆うように広がっていく。

 

「ふぅん、隼人の言葉で考えたんだけど、ならきっかけを作ればいいよね。

 綱吉、昔ボンゴレの試練を受けた時と同じ状況を作ってあげるよ。

 ほら、早くしないと球身体の維持に酸素が消費されて死んじゃうよ。」

 

「ツナ!」

 

「十代目!」

 

2人の呼ぶ声が遠くから聞こえる。

あの時もありったけの炎を込めて、仮死状態になってようやく試練を突破したんだ。

なら今回も…

 

ツナ…ツナ…

 

誰?俺を呼ぶのは、

 

俺はいつでも君のそばにいるよ、ツナ…

 

「ナッツ、なんだか久しぶりだね。

 お前と話せる日が来るなんてな。」

 

声のする方を振り返ると俺のボックスアニマル、天空ライオンのナッツが座り込んでいた。

相変わらず手乗りサイズな俺の相棒。

 

ツナ、俺は戦いたくない…君もそうだろ?

 

「そうだね、ナッツ。

 俺もお前も戦うのが好きじゃない。 

 だから俺に始解をさせてくれなかったんだろ?」

 

名を知れば俺は死神になる。

力があれば戦いに巻き込まれる。

だからナッツは俺に力を貸さなかった。

 

君はもう死んだんだ、戦わなくてもいいじゃないか!

それに霊圧はコントロールできてるんだ、もう周りを傷つけることはない!

だから、諦めてくれ。

俺の、君の斬魄刀の名前を知ることを。

 

相変わらず優しいな、俺の相棒は。

でも

 

「名前を教えてくれ、俺の斬魄刀。

 もし誰かが傷つくときに、守れる力があるのに守らなければ俺は死んでも死に切れないよ。  

 俺は人を傷つける力が欲しいんじゃない。

 誰かを守れる力が欲しいんだ。」

 

おれは真っ直ぐな気持ちを伝えた。

ナッツは諦めたような顔をしていた。

 

はぁ、わかったよ。

俺は君の相棒だからな。

再び最高の大空をここに

我は汝、汝は我

汝の眼前の敵を焼き尽くす己が炎

我が名は…

 

 

「…球身体が壊れるね。」

 

様子を見守っていた恭弥たちだが、球身体にヒビが入るのに気づいた。

そして隙間から橙色の炎が溢れていく。

 

「おい獄寺、この炎って…」

 

「間違いねえ。

 これは、十代目の炎だ‼︎」

 

そして、球身体が弾け飛ぶ。

あたりを土煙がまい、視界を塞ぐ。

 

「ツナ!

 無事か⁈」

 

思わず武が叫ぶ。

そして、土煙がはれ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

両手と額に炎を灯す大空が立っていた。

 

「超えろ『獅炎丸』」

 

 




ちなみに山本の始解はそうえん
獄寺はべにひょう
ツナはしえんまる
とそれぞれ読みます


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6話

「超えろ『獅炎丸』」

 

始解したツナは両手にグローブをしていた。

生前と同じ黒地に甲にクリスタルがあしらわれ紋章が刻み込まれていた。

そしてその額にはかつてと同じ炎が灯る。

 

「ようやく至ったね。

 じゃあ、やろうか。」

 

トンファーを構える恭弥、しかし慌てて武が止めに入る。

 

「待てって雲雀、ツナも獄寺も始解ができるようになったんだ。

 霊術院の規定なら始解ができた段階で即時入隊させなけりゃいけねーだろ⁈」

 

だが恭弥は止まらなかった。

グローブとトンファーをぶつけ合いながら恭弥はいう。

 

「何を勘違いしているの?

 君たちはまだ入隊させないよ。

 それに武、君も綱吉と隼人の始解を見て気がついたんじゃない?

 君の始解はまだ完成してないよね。

 君の時は京楽さんに始解がバレちゃったから入隊せざるを得なかったけど、今回は君たちが始解を使いこなすまでは行かせないよ。

 君のとこの隊長には話をつけてあるから任務だと思ってやりなよ。」

 

これには流石の武も口をひらけなかった。

武は自分でも感じていたが、自分がなんとか虚と戦えているのは時雨蒼燕流のおかげであり、始解の力を使いこなせていない。

そしてツナたちの始解を見て気付いた。

自分の始解がまだ完成していないことを。

それにかつてのファミリーたちと鍛えられるのは願ってもいないことだった。

 

「ははっ、サンキューな雲雀。

 ツナたちと修行なんてゾクゾクするよな。」

 

そして修行の日々が始まる。

ツナと獄寺は片方が雲雀とガチンコのスパーリング、もう片方が山本に剣を習いながらお互いに始解への理解を深める。

そんな毎日が一ヶ月ほど続いた。

ツナが死んでから約二ヶ月が過ぎた。

そんな時ふらっと京楽が霊術院に遊びにきた。

 

「やぁ雲雀くん、久しぶりだねぇ。」

 

「京楽さん、総隊長が気軽に遊びにきちゃだめでしょ。」

 

雲雀は呆れるが自分がある程度自由にできるのはこの男のお陰でもあるので、京楽春水には一目置いている。

 

「雲雀くんとゆっくりお茶したいんだけどさぁ、それよりどう?

 綱吉くんと獄寺くんの仕上がりは?」

 

この狸親父、気付いて放っておいたな。

雲雀は内心苦虫を噛む。

京楽はどうやらツナたちが始解していると気がついてあえて修行させていたらしい。

 

「そりゃ山本くんを特別任務で霊術院学長が駆り出しているとなると気にもするよねぇ。

 彼は君たちの同志だったわけでしょ。

 ほら、君仲間って呼ぶと嫌がるから。」

 

恭弥が嫌がるツボを心得ているあたりさすがだ。

 

「雲雀くんは卍解もできるし、更木隊長とサシでやりあえる実力もあるけど群れるのがだめだから隊長は無理。

 零番隊の打診も縛られたくないからって断ったから霊術院の学長ってポジションしか用意できなかったんだよ?

 元隊長としての親心だからねぇ。」

 

そう、雲雀恭弥は元一番隊の人間だった。

圧倒的実力と圧倒的に孤高を好むこの男をコントロールできるのは京楽しかいなかったのだ。

 

「感謝してるよ。

 京楽さんのおかげで僕は何不自由なくこの世界で生きていけるわけだからね。

 それで用件は綱吉たちのことでしょ。

 彼らならある程度の任務なら死なない程度には仕上げたよ。

 もう入隊させるの?」

 

「死神は万年人出不足だからね。

 それに、彼らが始解できるなら戦力になる。」

 

「フゥン。

 それで彼らはどの隊に入れるの?

 隼人は綱吉の忠犬だから、別の隊にするとコントロールができなくなってめんどくさいよ。

 それに彼を従えられるのは綱吉だけだからね。」

 

話を聞いて京楽は驚いた。

 

「やっぱり君たちの絆はとても強いね。

 君がそこまで人のことを話すのなんて見たことがないよ。

 安心して彼らは同じ隊に配属させるよ。

 山本くんと同じ隊にね。

 もうそろそろ副隊長の彼が迎えにくる頃じゃないかな?」

 

それを聞いて恭弥は笑みを深める。

 

「わぁお。

 彼がくるのかい?

 部下を鍛えたんだから、お礼をもらわないとね。」

 

バトルマニアの血が騒いじゃってるなぁ。これ言っちゃだめな奴だったなぁ。

ごめんね。

心の中で自身の失敗を嘆き、恭弥が思い描いている人物に心の中で詫びる京楽。

 

ところ変わって修練場。

ツナと隼人と武が刃禅を組んでいた。

斬魄刀との対話により更なる力を求める修行だ。

精神修行のためその場は静まり返っていた。

しかしその静寂を破るものが現れる。

スパァーン‼︎

 

「山本ぉ‼︎

 一ヶ月も帰って来ずに何やってんだテメェは⁈」

 

「うぉ、副隊長⁈」

 

武が思わず驚いて呼んだ副隊長と呼ぶ男は逆光のせいで顔が良く見えなかった。

 

「雲雀が鍛えるとか言ってたけどちゃんと強くなったみたいだな。

 それで、そいつらが新しい隊士だな?

 沢田綱吉と獄寺隼人、今日からお前らは俺と山本と同じ13番隊だ。

 お前らの面倒は俺が見るからな、よろしく頼むぜ。」

 

「あぁん?

 テメェいきなり出てきて10代目になんて口聞いてやがる⁈」

 

「ちょ、隼人だめだよ。

 すみません、俺が沢田綱吉です。

 お世話になります。」

 

副隊長は笑って気にもした様子はない。

 

「確かに、俺も名乗ってねぇから無作法だったな。

 俺は山本の上司でお前らの上司にもなる。

 名前は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黒崎一護、13番隊副隊長だ。」

 

そしてあらわになった男の姿はオレンジ髪の体格のいい男だった。

その背には身の丈ほどの大刀を背負っていた。



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7話

「待っておったぞ、貴様らが沢田と獄寺だな!

 山本も逞しくなって帰ってきたな。

 うむうむ、期待しておるぞ。

 

隊舎に入ってすぐ死覇装に着替え会議室に通されたところ死覇装の上に白い羽織を纏った女性が待っていた。

艶やかな黒髪をサイドテールにし、顔は凛々しい美人だが

 

「んだ?このちんちくりんは?」

 

そう、かなり小柄だった。

獄寺の言い放った一言に山本が凍りつく。

ついでに空気も物理的に凍りだした。

そこで爆笑しながら一護が突っ込む。

 

「バッカおまえ、こいつが隊長の朽木ルキアだよ‼︎」

 

「よいよい、生意気で生きがいいのは強くなるからな。

 そこは副隊長が証明しておるからのぅ、一護?」

 

笑いながら一護を見るルキア。

どうも昔の一護はヤンチャだったらしい。

それを裏付けるように脂汗を浮かべる一護。

 

「そ、それでルキア。

 恒例のアレ、やんのか?」

 

一護が話題転換のように話を振る。

 

「おう、当然ではないか。

 2人とも炎熱系の斬魄刀らしいからな、楽しみだ。」

 

ツナが思い切って切り出す。

 

「あのー隊長、さっきから一体なんの話を?」

 

「うむ、良く聞いたな沢田。

 新入隊士恒例、隊長の私との手合わせだ。」

 

そしてあれよあれよという間に隊舎裏にある訓練場に連れて来られ斬魄刀を抜かされる。

 

「さて今回は2人の新入隊士がいるのでな。

 先ず沢田と私、その後に獄寺と一護の手合わせを行う。」

 

「えぇ⁈

 俺と隊長がですか⁈」

 

そう叫ぶツナの肩に一護が手をかける。

 

「まぁ肩の力抜いて行け。 

 あいつも見てくれはあんなんだが実力は隊長の名前に恥じないからな。

 思い切って自分の力を試してみろ。」

 

一護の言葉で少しだけ吹っ切れたツナ。

そして斬魄刀をルキアに向けて構える。

 

「それでは行くぞ、沢田‼︎」

 

そして瞬歩でお互いに距離を詰めつば競り合う。

 

「ん、初手は及第点をくれてやろう。

 だがここからだぞ。」

 

そしてルキアの剣戟をツナがどんどん受け手に回る。

やばい、このままじゃ推されて終わる。

超直感で太刀筋を予想、大振りの一瞬の隙に背後に回るが

 

「破道の33、蒼火墜」

 

後ろに手だけを伸ばし、霊圧の炎をぶつけ近づけさせないルキア。

 

「ほぅ、新人にしてはなかなか戦い慣れているではないか。

 沢田、貴様始解ができるのであろう?

 よもや、隊長の私相手に始解を出さず迫れるとでも?」

 

そこでルキアから感じる覇気と殺気が跳ね上がる。

この人は隊長なんだ。

改めて感じる隊長の力のデカさ。

ならば

 

「超えろ『獅炎丸』」

 

始解と同時に霊圧が炎となりツナを包み込む。

あまりの熱気に視界が潰されるルキア。

そして炎の中から伸びてきた拳を斬魄刀で受け止めるルキア、だが

 

「ぬぉ、」

 

あまりの勢いに吹き飛ばされるルキア。

 

「アレが沢田の始解か。

 ルキア吹っ飛ばすなんてやるじゃねーか。」

 

一護がひとりごちる。

そしてルキアが飛び出してくる。

 

「やるではないか沢田‼︎

 あまり長引かせるのもなんなのでな、一撃勝負と行こうではないか。」

 

そして静かに刀を構え

 

「舞え『袖白雪』、次の舞・白蓮」

 

始解したルキアの斬魄刀は純白に染まり、柄に長い布が出現する。

そして切先から莫大な冷気の塊がツナを目掛けて迫る。

やばい、これは逆噴射でも避けきれない。

直感で悟ったツナは修行の成果を試すことにした。

 

「獅炎丸、攻めの型

 一式、炎獅子」

 

右手のグローブに炎が集中し、一世のガントレットに似た形状に変形し、莫大な炎の塊を生み出す。

 

「バーニングアクセル」

 

そして冷気と炎の塊がぶつかり合い、あたりを閃光が染め上げた。



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8話

「新人隊士か…面白い男が来たものだ。」

 

ルキアが呟いてみる先には痛がりながらも立ち上がる綱吉がいた。

いくら多少手加減したとはいえ隊長相手に始解させ気絶もせず痛がるだけで終わる新人など稀を通り越してありえない。

しかし、現実は目の前に拡がるものだけだ。

 

「さて、俺らもやるか獄寺。」

 

「テメェ黒崎、10代目のご無事を確認するまで稽古なんかできるわけないだろうが⁉︎」

 

一護が稽古を切り出すもあいかわらず10代目バカは予想通りかみついてきた。

 

「お、おい獄…」

 

武が嗜めようとするのを一護が手で制した。

 

「獄寺、お前死んだときいくつだ?

 いくら見た目が若返ったっつっても外見に引っ張られすぎだ。

 それにお前のボスだった沢田は礼儀を教えないような恥知らずだったのか?

 右腕に一から十まで心配されないといけないような奴なのか?」

 

「ふざけんな、10代目はそんなお方じゃねえ‼︎」

 

「お前の一挙手一投足が沢田に恥かかせてんのがわかんねーのかって聞いてんだよ。

 それに黒崎じゃねえ、黒崎副隊長と呼べ。

 サシなら気にもしねーが、ここは13番隊でお前は俺やルキアの守るべき部下だ。

 俺らが指導不足で恥かくのはかまわねーが、さっきも言ったように周りで見ている奴はお前が誰と親しいかみてんだよ。 

 沢田だけじゃなく、先輩隊士である山本まで恥かくのが目に見えるぜ。」

 

そう言って一護はツナのところまで歩いっていった。

 

「沢田、怪我はねーか?

 ルキアとあそこまでやれるなら上々だ。」

 

「黒崎副隊長、大丈夫です。

 それより隼人がすみません。」

 

「なんだ聞こえてたのか…すまねえがちょっと獄寺にはきつくいって聞かせねえといけないから手荒くなるぜ…」

 

一護はツナに断りを入れるとルキアが立っていた位置まで移動し斬魄刀を構えた。

 

「来いよ獄寺。」

 

「んにゃろう。

 目にもの見せてやる…は、10代目お怪我は?」

 

一護への敵対心で我を忘れかけたがツナを見て平静に戻った隼人…

 

「うん、隼人はちょっと痛い目を見ておいで…

 俺は武と観戦してるから」

 

そういって冷たくあしらうツナ…

割とツナが怒ったときは塩対応なのだ。

冷や汗をかきながら訓練ばへ向かう隼人。

稽古は稽古と切り替える。

 

『爆ぜろ『紅豹』」

 

素早く始解してアーチェリーから炎の矢を射る、が一護は一刀の元に切り捨てる。

 

「あんたは始解してくれねーのか」

 

多少言葉遣いは反省し直す隼人。

 

「ん?

 ああ、俺の斬月は常時始解した状態なんだ。

 能力も他の奴らみたいに器用なもんじゃねーよ。

 俺の斬月は振る時に霊圧をくって斬撃を飛ばすんだ。

 こんなふうにな。」

 

そして一護は刃先から斬撃を飛ばす。

あまりの速さに見ていたツナと武は直撃の爆炎が見えるまで何が起きたかわかっていなかった。

 

「しまった…

 流石に加減ミスったか?」

 

一護の心配は

 

 

現実のものにはならなかった。

爆炎が晴れた先には傷一つない隼人が立っていた。

 

「紅豹守型・紅骸盾」

 

そこにはシステーマCAIを赤くした盾が浮いていた。

 

「それもお前の始解か?

 なかなかユニークだな。」

 

「見た目だけじゃないぜ。

 一撃を切られるならこいつだ、ガトリングアロー‼︎」

 

連続で炎の矢を放つ、が切られるか避けられるかで全て袖にされてしまう。

 

「はっ、そのいきおいは口だけじゃねーみたいだな。

 なら、こっちも連続だ。」

 

そして瞬歩で高速移動し様々な角度から連続で斬撃を飛ばしてくる一護。

だが

 

「紅骸盾だけじゃねー。

 守型・蒼・翠・黄・紫骸盾」

 

さらに四つの盾が現れ斬撃を防ぐ。

 

「てめーまだ盾を隠し持ってやがったのか。」

 

「俺のこの盾たちは俺の前世の戦い方による影響を受けている。

 盾ごとに強度が違ったりするが特性もそれぞれ異なる。」

 

それを聞いたツナと武は色と大空の属性の特徴が一致していることに気づいた。

そしてそれは正解だったようで隼人も一護に説明した内容と同じだった。

曰く、蒼は鎮静

紅は分解

翠は硬化

黄は活性

紫は増殖だそうだ。

 

「器用な斬魄刀だな、だが肝心の攻めは一辺倒かよ?」

 

「そいつはどうかな?」

 

そこからの隼人の攻めは変幻自在だった。

矢は思わぬ軌道で曲がったり、それまで弾き飛ばれていた弓の威力や速度、数までもが掴めなくなり、ついには一護が放つ斬撃を押し返してしまった。

 

「へっ、どうだ。

 これが俺の怒涛の攻めだぜ。

 これで終わりだ、フレイムアロー・クインテット」

 

その矢は5種類の死ぬ気の炎を一本に纏めたもの、赤炎の矢・五重奏。

5種類の炎を纏った矢をつがえ放とうとした瞬間、一護が頭を下げた。

 

「すまねぇ獄寺、俺はどっかでお前のこと見くびっちまってたみたいだ。

 お前がただのチンピラじゃねーってのはわかった。

 俺も加減はするが全力は出させてもらう。」

 

そういって斬月を上段に構えると

 

「月牙天衝」

 

これまでとは比べ物にならないほどの圧縮された斬撃が飛んできた。

隼人も迎え撃つが矢は一瞬の均衡を保つもすぐに敗れた。

そして全ての盾を重ねて防いだが…

 

「グァっ」

 

殺しきれずに吹き飛ばされ壁に叩きつけられた隼人は気を失った。

 

 

 

 

 

 

 

隼人が目を覚ますと病院のベットのような場所だった。

 

「よう、目が覚めたか。」

 

隣にいたのは一護だった。

 

「すまねえな、俺も熱くなっちまって最後は月牙まで出しちまった。」

 

「一つ聞かせてくれ…

 最後の一撃、あれはそれまでの斬撃とはものが違った…

 ありゃなんだ?」

 

隼人は稽古の中で気が付いたことを聞いてみた…

 

「あれは月牙天衝つってな、斬月の斬撃の中でもいわゆる必殺技みたいなもんだ。

 それまでのはただの剣圧に霊圧込めてたくらいだからな。

 新人であれを出させたのはお前と山本くらいか。」

 

「はぁ、結局俺はあんたに手も足も出なかったわけか。」

 

凹む隼人に一護は力強い言葉をかける。

 

「んなことねーよ。

 最初俺はお前に稽古をつけるつもりで行ったが、途中からそんな考えはどっかいっちまってた。

 力加減はしたが、手加減はしてねーんだわ。

 胸を張れよ獄寺、お前は副隊長をその気にさせたんだぜ。

 お前みたいに強い奴が来てくれるのは素直に頼もしいよ。

 これからよろしく頼むぜ、獄寺。」

 

一護が右手を差し出し、隼人がためらいながらも握り返す。

 

「あ、あぁ。

 よろしく…お願いします。

 黒崎、副隊長…」



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9話

「さて、獄寺も目覚めたことだし医務官と沢田たちも呼んでやんないとな。」

 

「な、10代目もいらっしゃるんですか?」

 

「いるよ、てか横で寝てる。」

 

そして横のカーテンをずらすとツナが寝ており、武がつき沿っていた。

 

「沢田、寝すぎだ。

 ぼちぼち起きれるか?」

 

「あぁ、副隊長おはようございます。

 ちょっときついです。」

 

体を起こすのもやっとの様子だった。

 

「まぁ俺らの稽古見ながら気絶してたしな。

 俺は担当医務官呼んでくるからしっかり休んでろ。

 今日はここに泊めてもらえるように手配しているから、宿舎に入るのは明日だな。

 山本は今日は帰ってもう休め、明日はこいつらの手伝いしてもらうからな。」

 

「了解っす。

 ツナ、獄寺、また明日な。」

 

そういうと武は宿舎の方に帰って行った。

 

「10代目、ここは…」

 

「あぁ、ここは4番隊の救護所らしいよ。

 俺もこの医務室の方に入るのはさすがに初めてだけど。

 それより隼人、頭は冷えた?」

 

「はい、副隊長には色々と教えられました。

 明日、隊長の方にも詫びを入れてきます。」

 

うちの忠犬は素直でよろしい。

なんて内心思っているとパタパタと足音が聞こえた。

 

「あぁ、2人ともちゃんと起きれてるね。

 怪我はそこまでひどくないけど隊長たちの霊圧をもろに受けているから今日はゆっくり休まないとね。」

 

そう言いながら入ってきたのは茶髪の優しげな女性死神だ。

死覇装の上からでもわかるナイスバディでその穏やかさからみんなに慕われている。

本名は知らないが姫ねーさんと呼ばれている。

 

「あ、姫ねーさんだ。

 ありがとうございます。」

 

「綱吉くんは少し凍傷にもなっちゃってるからしばらく痛いよぉ。

 えっと、横の子が獄寺くんだったっけ。

 君も傷は浅いけど擦過傷だったり、頭を打ったりしてるからね。

 傷は治したけど、頭打ったのまでは直せないから何か異常があったらすぐ言ってね。」

 

「え、えぇ

 ありがとう、ございます…」

 

隼人はこの勢いに驚いている。

見た目はおっとりしているがその早口な喋りに驚いていた。

 

「全く、一護くんのことも叱っといたからね。

 いくら新人くんが強いからってやりすぎだよ。

 大怪我したらどうするんだか。」

 

ぷんぷんと聞こえそうな感じで怒っている姿に和んでいたが、ふと気になったことがある。

 

「姫ねーさん、一護君って?」

 

「ん?

 君たちのところのフクタイチョーさんだよ?」

 

「あ、あの黒崎副隊長とあなたは、お親しいのでしょうか?」

 

隼人も気になってつい聞いてみると、ちょうど渦中の人物がやってきた。

 

「おぉ、2人とも起き上がってたのか。

 織姫、2人がうちの新隊員だ。

 もし任務で怪我をしたら頼むぜ。」

 

「もう、副隊長さんなんだから気をつけてよねー。

 綱吉君は雲雀さんとの特訓でよく怪我をしていたから知ってたよ。

 獄寺君はよろしくね。」

 

ツナは思い切って聞いてみる。

 

「副隊長は姫ねーさんと結構お親しいんですね。

 どれくらいのお付き合いなんですか?」

 

「姫ねーさん?

 あぁ織姫そういえばそんなあだ名で呼ばれてたな。

 てか、ちゃんと沢田に自己紹介してねーのか?」

 

「あ、そういえば。」

 

思い出したかのようにクスクス笑い出す姫ねーさん。

呆れたようにため息を吐いてからツナたちに一護がむきなおる。

 

「あぁ、こいつは4番隊の第5席でな。

 名前は黒崎織姫、俺の嫁さんだ。」

 

「はぁーい、私が一護くんのお嫁さんでーす。」

 

あまりの衝撃に固まるツナと隼人。

それに構わず「ゆっくり寝ろよー」と軽く手を振って腕を組んで出ていく黒崎夫妻。

美男美女でお似合いすぎてなんともいえない気持ちになるが、なんとなく腑に落ちて安心したのかすぐ2人とも眠りにおち、そして夜は老けて行くのだった。



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10話

『任務ぅ⁈』

 

隊舎に荷物を入れ終わった1週間がたったある日、突然一護から言われた内容に思わずハモるツナと隼人。

 

「ハモってんじゃねーよ。

 仲良しだなお前ら。

 現世で虚の不自然な霊圧を、多数感知したらしい。

 一応オレもついていくが基本手出しはしねぇ。

 行くのは沢田、獄寺、山本な。

 一時間後に出発、気持ちの用意しとけよ。」

 

 

そして一時間後、4人は現世に降り立っていた。

 

「…隼人、武。

 なんかすごい既視感ない?」

 

「十代目、それ多分気のせいじゃないですよ。」

 

「だな。

 ツナ、ここは並盛だ。」

 

降り立った場所は自分たちの生まれ故郷だ。

懐かしさや自分の家族が今どうしてるとか気になること山の如しだ。

 

「なんだ、お前らの地元かよ。

 なんならさっさと任務終わらせて、家族の様子を少しみてきてもいいぜ。」

 

一護の言葉にやる気と霊圧を溢れ出させる3人。

そして指令のあった場所へ向かうと…

 

「…なぁ、沢田」

 

「…なんですか副隊長」

 

「指令のあったポイントが目の前の場所なんだけどよ、沢田家の墓って書いてある気がするんだが」

 

「書いてありますね。

 なんだったらここ、オレの墓ですね。」

 

「あぁ、だよなぁ。

 で、任務詳細みると異変を感知し出したのが2ヶ月前。

 それってお前が死んだタイミングだよな。」

 

「ですね。

 多分原因は、目の前の墓跡からでてるこれですよね。」

 

沢田家の墓から死ぬ気の炎のようなオーラ、もといエネルギーが滲み出ていた。

虚は霊圧や生命エネルギーに群がる。

そして発生のタイミングやら場所を総合すると…

 

「…これ完全にオレの遺骨からアホみたいな量の霊圧と生命エネルギーが出てますね、つまり原因オレですねゴメンナサイ!」

 

両手で顔を覆ってしゃがみ込むツナ。

そんな棚の方に優しく手をおく一護。

しかし空気を読まない連中がやってくる。

 

「この霊圧…やべえな

 肉体と魂が共鳴してエネルギー量がはねあがってら。

 集まる虚の数も想定より多いな。

 第一陣が40体くらいか。

 お前らに投げていい量じゃねえな、俺の月牙で吹っ飛ばすか。」

 

そして斬月に手をかけようとする一護を武が止める。

 

「いいっすよ、副隊長。

 この程度の奴ら副隊長が手を出すまでもないっすよ。

 ツナと獄寺もだぜ。

 多分この後のでかい分はお前らの一撃がいるからな。

 露払いはオレに任せとけって、な?」

 

そして武は虚がやってくる空を見上げながら

 

「恵みをもたらせ『蒼燕』」

 

ゆっくり始解し、斬魄刀を構える。

そんな武を標的と決めたのかセロを放ってくる。

そして

 

 

直撃の爆炎が武を包み込んだ。

 

「十代目…あいつ」

 

「わかってるよ隼人。

 武が抜いたね。」

 

爆炎が晴れた先には死覇装に誇り一つついていない武がいた。

 

「さて、やるか。

 時雨蒼燕流攻式五の型 

 五月雨・最上川」

 

そして武が斬魄刀を振ると巨大な雨の炎を思わせる霊圧が流星のように目の前の虚を薙ぎ払った。

 

「ツナと獄寺のおかげだな。

 オレはずっと蒼燕が小次郎の力を使える斬魄刀だと思ってた。

 でもそれだけじゃねえんだよな。

 俺の蒼燕は

 

 時雨蒼燕流を強化できる斬魄刀だったんだ。」

 



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11話

「山本、ちゃんと始解を物にして帰ってきやがったな。

 さて第二陣は…二箇所か。

 こっちに出てくんのは霊圧からしてメノスか、沢田、獄寺。

 山本は大物をお前らにやらせるための露払いに徹するらしいからおまえらでメノスを倒せ、やれるか?」

 

 一護からメノスと呼ばれる大虚の討伐命令がくだされた。

 その間一護はもう一つの出現ポイントを叩くらしい。

 

「やれます!」

 

「ま、十代目と俺、ついでに山本も入れりゃその程度なら倒せますよ。

 見ててください副隊長!」

 

その返事に頼もしさを感じながら一護は瞬歩でその場から消える。

そしてその直後空間を切り裂いて巨大な虚が出てくる。

カオナシのような見た目に虚の面、そして見上げなければならないほどの巨大な図体。

だが、そんな物十代目ファミリーにとってはただのハリボテでしかない。

 

「隼人、でかいので仕留めるから足止めお願い!

 武、露払いは頼んだよ!」

 

 そしてツナは大技の用意に入る。

 

「任せてください十代目!

 ガトリングアロー・トリアイナ!」

 

 嵐、雨、雷の炎を纏った矢を連続で足元に叩き込む隼人。

 さしもの大虚もたじろいだ。

 まとわりつく雑魚どもは武が瞬歩で移動し霊圧で巨大化した刃による篠突く雨で薙ぎ払っていく。

 そしてツナは…大虚の真上にいた。

 

「やはり感覚だと調整に手間取るな…

 こいつなら炎圧は30万くらいで跡形もなく消えるな。

 生きている間も感覚で50万までは加減して使えたんだ、これくらいなら…

 よし、スタンバイ!

 隼人!武!離れろ!」

 

 2人が近くから離れたのを確認して大虚と周りの雑魚に向けて放つのはボンゴレ十代目の代名詞とのちに呼ばれる一撃必殺の大技だった。

 左手の炎を支えにし右手の莫大な炎を相手に放つ奥義、名を

 

「うぉぉぉぉ!

 Xバーナー!」

 

 そして極大な炎がすべての虚を焼き尽くし、後には何も残っていなかった。

 

「久しぶりに打つと疲れる〜…」

 

 打った後、疲労で始解が解けたツナ。

 2人も解いてツナに走り寄る。

 

「お疲れ様でした、十代目!

 流石の威力、まさか死んでも見れるとは…」

 

「ははっ、やっぱでかいのは任せて正解だったな!

 ツナさすがだぜ!」

 

「何いってんの⁈

 隼人も武も本気出したらあの程度なら倒せるでしょ?」

 

 どれだけ年月が過ぎても、たとえ死んでファミリーから同じ隊士に変わっても3人の絆だけは変わらない。

 そこにはいつもの光景が広がっていた。

 静寂はいつも突然にさかれるものだ。

 

「なんだぁ?

 うまそうな匂いがしてきてみれば、先に行った虚ども全滅してんじゃん。 

 やったのはお前らか?あん?」

 

 気配はなかった。

 しかし凶々しい霊圧だけは現れた瞬間から感じていた。

 3人は即臨戦大勢に入るが、霊圧だけで相手が格上だと分かる。

 振り向くとそこには上下白い学ランのようは服を着て、顔の一部に虚の仮面をつけている男が空中に立っていた。

 

「武、こいつって…」

 

「あぁ、おれも話でしか聞いたことないけど間違いねえ。

 こいつはアランカルだ。」

 

 破面、それは大虚を超えた存在。

 仮面を剥ぎ取り、人型となっているが強すぎて隊長格でないと歯が立たないほどだ。

 そして破面の男が喋り出す。

 

「俺はジョニー・ハードロック。

 見ての通り破面だ。

 しかしお前ら、新人隊士?

 その割にはいい霊圧してんじゃねえか。

 喰いごたえありそうだな。」

 

 ジョニーはにぃっと口角を釣り上げると予備動作なしに大量のセロを放ってきた。

 小ぶりながらも一撃一撃が全て大虚を超える霊圧を放ち、着弾した場所から大きな土煙が舞う。

 

「あらぁ、消し飛んじまったか?

 あいかわらず加減下手か俺。」

 

 しかし土煙が晴れた場所には巨大なマントを翻すツナの姿があった。

 

 「獅炎丸、守りの型

  一式・獅子纏」

 

 そしてその左右から無傷の2人が飛び出してくる。

 当然3人とも始解済みだ。

 武が三本の小刀から炎を逆噴射させ切り込む。

 

「蒼燕・二式

 大太刀・雨月」

 

 小次郎と斬魄刀が重なり合い大太刀となる。

 これも修行の成果の一つだ。

 そしてその勢いのまま

 

「時雨蒼燕流、1の型

 車軸の雨・逆流星」

 

 青い炎の塊が強力な突きとなってジョニーに吸い込まれる、が

 

「な、硬ぇ⁈」

 

 その刃は薄皮一枚傷つけて溜まっていた。

 

「うぉ、こわ⁈

 でも残念、この程度じゃかすり傷だぜ。

 三人がかりでいいから、もっと楽しませろよ」

 

「隼人、武!

 硬いなら動きを止めるぞ!

 3人で撹乱してきめる!」

 

ツナの掛け声で3人は高速で移動しヒットアンドアウェイを繰り返す。

最初のうちは黙って受けていたジョニーだったが少しずつダメージが通るようになったようで途中から刀を抜き迎撃を始めた。

そして武が仕掛ける。

 

「時雨蒼燕流総集奥義

 時雨之化!」

 

 莫大な量の雨の炎によりジョニーの動きは鎮静化する。

 そこへ隼人が位置を変えつつ複数属性の矢を叩き込み、

 

「果てな、赤炎の矢・五重奏廻」

 

 5属性の炎を捩れるように束ね、回転を加えた新技できめる。

 流石のジョニーも鎮静されたせいか硬さも少し落ちてガードした左手が吹き飛ぶ。

 そして

 

「これで終わりだぜ。

 Xバーナー!」

 

 ダメ押しのXバーナーを叩き込むツナ。

 本日2発目の大技のせいでもはや気力も尽きかけていた。

 爆炎が晴れるまで倒したかはわからない。

 そう思っていると爆炎が晴れ

 

 

 

 白く大柄な鎧に身を纏ったジョニーが無傷で立っていた。

 しかも吹き飛ばされたはずの左手まで生えていた。

 

「危ねぇ、確かにお前ら3人合わせると隊長格にも匹敵するな。 

 でもな、俺もまだ奥の手を出しちゃいなかったからな。

 俺の帰刃『爆炎蜥蜴』を思わず出しちまうほどにはお前ら強かったぜ。

 じゃあ、殺すわ」

 

 気づけば3人ともコンクリートの上に叩きつけられていた。 

 

「がぁ!

 なに…が…」

 

 息も絶え絶えにジョニーを見るツナ、そこにはマンモスの前足のような腕から煙が出ていた。

 おそらく3人ともアレで殴られたのだろう。

 しかし、誰一人捉えられなかった程の速さ。

 厄介極まる能力に対応策を巡らしていると隼人と武の腹部に隕石のような極炎の岩が撃ち込まれる。

 明らかにすぐ治療しないといけないレベルの怪我だが、目の前のジョニーがそれを許すとは思えない。

 

「おれの『爆炎蜥蜴』はこのでけえ手の穴から熱々の岩を打ち込めてよう、残念だけどもうお前さんらに勝ち目はねえわ。 

 諦めて死んでくれ。」

 

 そしてツナにも岩が打ち込まれ

 

 

 

 

 たが、その岩は空中で静止する

 そして、岩は凍りだす。

 

「あん?

 おいチビ助、てめぇなにしやがった?」

 

 死ぬ気の零地点突破・初代エディション

 ボンゴレボスに伝わる奥義にして、ツナがこの1ヶ月修行して取り戻した技だ。

 しかし、もうツナも限界。

 次を防ぎ切る自信はなかった。

 

「テメェは燃えてるから炎熱系だと思ってたんだがな。

 氷を使うなら仕方ねえ、セロで終わらすか」

 

 そして腕から大量の虚閃をツナに向けて打ち込む。

 これは流石にダメだわ…

 諦めた瞬間巨大な刀をツナは見た。

 

「…変な霊圧感じてきてみれば。

 てめぇ、どこのアランカルだ?」

 

 そこには一護が斬月を構えていた。

 虚閃は斬月で弾き飛ばしてしまったらしい。

 そしてツナを見るといつものように一護が笑った。

 

「沢田ぁ、獄寺、山本!

 よくやったなお前ら!

 あいつらは鋼皮ってめちゃめちゃ硬い皮膚を持ってて硬いんだがそれでもお前ら3人で帰刃まで引き出したか。

 しかも沢田、お前氷まで使えるとか聞いてねぇぞ!」

 

 怒涛の如く褒めた一護は一息ついて

 

「まぁ、こっからは隊長格案件だ。

 俺に任せとけ。」

 

 そういってジョニーに向き直った。

 

「ジョニー・ハードロックだ。

 初めましてだな、黒崎一護。

 嬉しいぜ、かの伝説の英雄とやりあえるとはな」

 

「うるせぇよ、テメェはネルやハリベルのとこのアランカルじゃねえな?

 どこの回しもんだ、テメェのボスはだれだ?」

 

「ほう、奴らの名を知ってるのか。

 ご想像通り、俺は奴らの配下じゃねえ。

 それだけは教えといてやるよ、さあ、殺し合おうぜ。」

 

 そしてジョニーは霊圧を高ぶらせる。

 

「獄寺と山本が早く治療しねえとやばいか。

 悪いが速攻で決めさせてもらうぜ。」

 

 そして一護はツナにチラッと視線を投げて

 

「沢田、元気がありゃ俺の戦いを見とけ。

 今から見せるのは普段の特訓じゃ絶対に見れねえもんだからな。」

 

 そして斬月の切先をジョニーに向けると静かに、だが確かに莫大な霊圧を放ち、目の前の破面を葬るが如く力強い言葉を発した。

 

「卍解

 

 

 『天鎖斬月』」

  

 



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12話

「卍解

 『天鎖斬月』」

 

吹き荒れる霊圧が晴れた時、一護の死覇装はスタイリッシュになり、その右手には刺々しい黒い太刀が握られていた。

 

「卍…解…?」

 

聞き慣れぬ単語に働かない頭で答えを探そうとするツナ。

確かにわかるのは一護の霊圧が比べ物にならないほど上がっていることだけだ。

 

「ほぅ、これが伝説の…

 十刃や愛染を葬った卍解を拝めるとは光栄だね。

 だが急ぐなよ、黒崎一護。

 どっちかが死ぬまでの殺し合いだ、もっと楽しもうぜ!」

 

戦いの愉悦に身を委ね、岩石砲を連続で飛ばしとどめはセロを混ぜた特大の玉を飛ばしてきたジョニー。

だが一護は

 

「遅ぇよ」

 

黒い斬月を一振りすると全て斬り伏せてしまった。

 

「おいおい、事前情報とカケラも同じとこがねえぞ。

 聞いてたよりも強いじゃねえか。」

 

冷や汗をかきながら一護の実力を見誤ったことを後悔するジョニー。

次の一手を思案しようとするが

 

「悪ぃな、テメェのせいで部下が死にかけてんだ。

 最初から斬り合いしようとか思ってねえんだよ。」

 

言い終わると同時にジョニーの目の前に移動した一護は斬月を上段に構えると黒い霊圧を凝縮し、纏わせ…

 

「これで終いだ。

 月牙、天衝ぉ!」

 

ジョニーをカケラも残さず消滅させた。

ジョニーが倒されたのを見届けたツナは緊張の糸が途切れ、意識を暗闇へと落としたのだった。

 

 

 

「…以上が現世派遣任務の顛末です。京楽総隊長。」

 

ところ変わって一番隊舎。

一護はツナたちを連れ帰り四番隊に放り込んだあと、ルキアと総隊長への報告に訪れていた。

 

「ご苦労だったね一護くん。

 しかし、所属不明の未確認破面ねぇ。

 一護くんが、定期的に虚圏に偵察に行ってくれてるのにそんなことが起こり得るとは考えづらいんだけどねぇ。

 あり得るとするなら…」

 

「愛染に従わず、虚圏の果てに逃れたというやつらってことですかね。

 だが、なんの情報もこれまで入ってきてないんっすよ。

 総隊長…いや、京楽さん。

 早いとこ調査行ったほうがいいと思うんで、任務にしてもらっていっすか?」

 

一護は考えていた可能性を口にするが、行ってみないとわかんないものはわかんないと結論付ける。

そしてその言葉に京楽は考え込むが…

 

「うーん…

 それについては別の人にお願いしちゃおうかなって考えてるんだよねぇ。

 ルキアちゃんと一護くんには別のこと頼みたいんだよね。」

 

京楽の言葉に疑問を持ったルキアが尋ねる。

 

「私と一護に、ですか?

 それは一体…」

 

「うん。

 綱吉くん達を鍛えて欲しいんだ。

 彼ら始解で3人とは言え、帰刃まで戦えたんでしょ?

 なら、相手が何者であるにしろ戦力の増強は必須なわけだよね。

 一護君の報告が本当なら彼らは戦力としてカウントできるし、どうせなら卍解まで習得させちゃおうよ。

 準備期間は偵察隊の任務も考えると3ヶ月くらいかな。

 どんだけ無茶しても君の奥さんが治せちゃうし、足りないなら雲雀くんも投入していいよ。

 必要なら他の隊も巻き込んでいいからね。

 それに何人か戦力になりそうな若手もいるみたいだから、その子達もついでによろしくー。」

 

「そいつは願ったり叶ったりだな。

 京楽さん、偵察には誰が行くんすか?」

 

「な、い、しょ」

 

悪戯なウインクを残して京楽は執務室に戻っていった。

 

「しかし一護、奴らにそれほどの力が本当にあるのか?

 確かに将来性は感じるが、山本も経験が浅いし、沢田と獄寺に至っては始解してまだ2ヶ月もたたぬであろう。

 俄には信じられぬが…」

 

「そう考えんのが普通だろうよ。

 でもな、あいつら3人は共通して戦いのスタイルがもう見つかってる。

 それに、沢田の斬魄刀な。

 ありゃただの炎熱系じゃねーぞ。

 敵の攻撃を凍らして止めやがった。

 破面と初対面で、あそこまで奴らが追い詰めたんだ。

 なら、卍解まで行っちまえばほんとに戦力になるぜ。」

 

一護の顔は自慢の弟たちのことを語るかのように嬉しそうだった。

これはひょっとするのか?

そう考えながらルキアは隊舎への道を歩き始めた。

 

 

 

「起きたか沢田。

 お前以外の2人はまだ寝てるよ。

 安心しろ、治療済みであとは起きるだけだからよ」

 

ツナが目を覚ました時に一護が隣に座っていた。

 

「おれ、は…」

 

「起きなくていいから寝てろ。

 あの任務から10日過ぎた。

 お前らのダメージがなかなか抜けなくてようやく起きれるようになった感じだな。

 ざっとしたことだけ伝えとく。

 今別働隊を奴等の本拠地捜索の任務にあててる。

 情報が集まれば今から3ヶ月後に攻め込む。

 お前らにはもっと強くなってもらうからな。

 休める時に休んだけよ」

 

言うだけ言って一護は部屋を出て行った。

聞きたいことは山ほどあった。

破面、卍解。

だかやることは生きてた頃と変わらない。

仲間を守るために、死ぬ気で鍛えるだけだ。

 

 

 

 

 

「はぁーあ

 浦原さんも急にすごい頼みしてくるよなぁ。

 俺ももう見た目ほど若くないんだけどなぁ。

 ついでに顔でも見に行こっかなぁ、元気にしてるかなぁ。

 父ちゃんと母ちゃん」



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13話

綱吉が目を覚まして3日が過ぎた。

隼人も武もすぐ目を覚ましたため、今は隊舎裏にある修練所で訓練に励んでいる。

そして一護がやってきた。

 

「お前ら体は大丈夫だな?

 これからの鍛錬はお前らに卍解を習得してもらうぞ」

 

「副隊長、卍解ってなんですか?」

 

ツナが手を挙げて聞く。

 

「そうだな。

 卍解は斬魄刀戦術の最終戦術。

 始解をめちゃくちゃ強化したもんだと思ってくれ。

 沢田はおれの卍解は見てんだろ?

 俺のは力を凝縮、全身に纏うからあの形だけどみんな巨大な力の塊みたいになるんだよ。」

 

ようは斬魄刀の超強化らしい。

 

「卍解の条件は斬魄刀を具象化して倒すこと。

 今回は時間がないから具象化できる道具を使うからな。

 そいつらを倒すこと、そんでそれ以外は俺と稽古だ。

 とりあえずやってみるか。

 沢田、この腕輪をつけろ。 

 つけただけで斬魄刀の魂が具象化する」

 

そして腕輪をつけた瞬間斬魄刀から死ぬ気の炎が吹き上がる。

そして…現れたのは…

 

『また会えたな、デーチモ』

 

ツナを金髪にした外人の男がいた。

 

「は⁈プリーモぉぉぉ⁈」

 

そうそこにいたのはボンゴレ一世、ツナの御先祖だった。

 

「ナッツじゃねーの⁈

 死後の世界でなんで刀に宿ってんの⁈」

 

『アニマルリングとボンゴレリングが強く結びすぎてな。

 お前たちの魂の一部に混じったわけだ。

 さぁ、始めようか。

 ボンゴレの試練だ、私を、倒せ』

 

そして額とグローブに同時に炎を灯すツナと一世。

拳のぶつかり合いが始まる。

 

「なぁ、山本。

 俺は夢でも見てんのか?」

 

「残念だけど獄寺、これは頭の悪い現実だな。

 俺らの斬魄刀の具象化は…初代ファミリーみてぇだな。」

 

隼人はG、武は雨月が立ちはだかる。

それぞれ始解してぶつかりあった。

 

「あいつら斬魄刀とそっくりすぎるだろ。

 俺の時とはちょっと似てるか…」

 

一護は部下たちの成長を期待していると、背後から小さい塊が抱きついてきた。

 

「サプラァーイズ!」

 

一護に抱きついてきたのは赤毛の温和そうな男の子だった。

髪は前髪ツンツン、伸ばした襟足を縛っている。

年は6歳くらいだろうか。

 

「あ?…

 

 はっ⁈一輝(いっき)⁈

 お前なんでここにいんだ⁈

 パパとママはどうした⁈」

 

「うん?

 パパはね、ご用事済ませてくるって言ってたから先に来ちゃった!

 途中でね、セカイ兄ちゃんにあったから連れてきてもらったんだ。」

 

そういって一輝が振り返る先には赤髪の死神が立っていた。

 

「兄貴!

 遅くなりました!

 たまたま一輝と出会ったんで連れてきました!」

 

「おぉ、世界か。

 悪いな、こいつ連れてきてもらって。

 お前にも卍解は習得してもらうからな。

 よろしく頼むぜ」

 

赤髪の死神の名前は

志波世界(しば せかい)

一護の従兄弟にあたる死神だ。

世界が斬魄刀を具象化する準備に入る様子を見ながら

 

「にしてもあいつ、一輝まで連れてきてなんのようだ?

 どうせ挨拶回り終わったらこっちにも顔出すか。」

 

と、呟いて思考を訓練の方に戻した。



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14話

「その程度で、卍解させれないな(ねぇな)(でござるな)」

 

ツナ、隼人、武の3人は初代たちに同じことを言われた瞬間同時に気を失っていた。

目を覚ますと空には月が登っていた。

 

「嘘…もう夜かよ」

 

自分の不甲斐なさに頭を抱え、体を起こそうとすると痛みで動けなかった。

 

「起きたか沢田。 

 またコテンパンにやられたらしいな。」

 

横には火に薪をくべているイチゴが座っていた。

 

「おぉ、初めての特訓でこんなに早く目が覚めるなんてやるなぁ。」

 

その横には見慣れない赤毛の死神がいた。

 

「こいつは志波世界。

 俺の従兄弟で9番隊のやつだ。

 こいつも卍解の修行のために来てもらった。

 沢田と獄寺、お前らは炎熱系だからこいつから学ぶことは多いぞ。

 そんでこいつも卍解は習得訓練中だからな、そんだけ難しいんだからあんまり気負うなよ。」

 

そして起きた隼人と武とも顔合わせをしてその夜は更けていった。

翌朝突然一護から

 

「獄寺と山本は卍解の修行な。

 沢田は世界とスパーリング、そっから卍解の修行だ。

 理由?んなもんねぇよ。

 強いていうなら気分だ。」

 

なんてどこぞの家庭教師を思わせることを言い出したため突如スパーリングが始まることとなった。

 

「ツナ!

 小手調なんかせずに最初から始解でやろうぜ!」

 

世界はそう言うと霊圧が当たりを焦がし始める。

元から赤い髪が霊圧を受けて真紅に染まる。

余力なんか残してやれる相手じゃない。

ツナも斬魄刀を構えた腕を交差し霊圧を高め…

 

「超えろ『獅炎丸』」

 

始解したグローブと額に炎を灯す。

そして世界も

 

「焼き切れ『剡斬』」

 

斬魄刀から火柱が上がり刃の厚い短刀になる。

 

「世界、それがお前の斬魄刀か。

 霊圧に触れただけで焼け焦げそうだぜ」

 

「それはお前もだろツナ。

 正直ビビって手元が震えるよ」

 

お互い一瞬視線を交わすとその場から姿を消す。

刃とグローブがぶつかり合い、その熱があたりの草木を蒸発させる。

それを頬杖ついて見守る一護。

 

「…そうだ、それでいい。

 てめぇらはそれでどんどん霊圧をあげろ。

 それなら卍解に近づけるはずだ。

 あとは山本と獄寺か…どうしたもんかなぁ」

 

 

武は突然の大雨に打たれていた。

目の前には初代守護者が立っている。

天候を支配する力、これが蒼燕の力の一つなのか。

大空の7属性の一角、雨の属性にふさわしい刀だ。

 

「山本武、お主に問おう。

 なぜ更なる力を求める。」

 

初代守護者・浅利雨月が太刀を構えて問いかけてくる。

武もすでに大太刀・雨月に変形させ構えている。

 

「理由か…考えるまでもねえよ。」

 

 

隼人は砂嵐に巻き込まれていた。

視界が安定しない。

この空間に自分と初代嵐の守護者がいることしか認識できない。

これが俺の斬魄刀…飛んだじゃじゃ馬じゃねえか。

 

「獄寺隼人、なぜ卍解を手にしたい。

 またデーチモのためって言って命を投げ出すんだろ?

 そんな力やるわけねえだろうが。」

 

若い頃の隼人のことを指していっていることはすぐ察しがついた。

ならば言わねばなるまい。

 

「はっ、初代守護者ともあろう者が随分古い話持ち出すじゃねえか。

 あたりめえだろ、十代目をお守りするのが守護者たる俺の役目だ。

 だがなぁ、卍解が欲しいのは別の理由だ。

 それはなぁ」

 

隼人と武の声が重なる。

 

『ファミリーや仲間と一緒に笑って過ごせる明日を作るためだ!』

 

2人の覚悟を受け止めた初代守護者たちは笑みを深くする。

 

そして

 

 

『合格だ。

 これより試練を始める。

 俺たちを倒してみろ、十代目嵐(雨)の守護者よ!』

 

譲れない大一番が始まる。



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15話

剡斬

超圧縮した炎を刃のうちに潜ませる斬魄刀。

始解状態は刃の厚い短剣になり、リーチは不利になるが

 

『リーチの意味がない⁈

 まとった炎が距離を潰してくるし、短剣のみがるさとはやさがやばい!』

 

ツナの得意な速度で翻弄することができずにいた。

しかし世界とて、同じことだった。

 

『体感だと天鎖斬月と近い速さだな。

 正直打ち合うのがやっとか…

 近接戦だとツナの方が経験値は上、ならば』

 

「纏・黒曜剡斬」

 

途端に黒曜石を固めたような大剣に変わる焔斬。

さっきまで捌くだけだった世界がツナの拳を受け止める。

 

「これでパワー負けはしないよな!

 いくぜ、月牙、

 炎衝!」

 

受け止めた体制で大出力の炎を纏い、袈裟に切り上げる。

咄嗟にかわすツナだが、あまりの威力に警戒して空中で距離を取る。

 

「副隊長と同じ技だと⁈

 世界、お前…」

 

「言ったろ、一護の兄貴は親戚なんだ。

 だから俺たちの技が似通ってもおかしくはねーさ。

 しかしツナよく避けたな!

 あの体制で避けれたやつなんかほぼいないぞ!

 でもツナの本気、まだ見てねーからな。

 ガンガン行くぜ!

 覇炎流、奈落炎牙!」

 

そう言って炎を纏わせた斬魄刀を地面に突き刺す世界。

そうするとツナの真下から炎の竜の顎がゆっくりと姿を表す。

でかい、空中にいるツナすら飲み込もうとするその力に恐怖を覚えさらに高く逃げようとするも

 

「覇炎流、旋風嵐炎斬り!」

 

世界から放たれた炎の竜巻により進路を妨害され、2発目の竜巻が下から現れ吸い寄せられる。

そして炎の顎が一気に閉じられる。

 

「ありゃぁ、やりすぎたかな。

 でもさすがだなツナ。

 逃げそうになるから咄嗟に嵐炎斬りを出させるとはな。

 初見で出させたのなんかほとんどいないぜ。

 でも、俺の勝ちだな。」

 

そう言って一護の方を振り返ろうとする世界、だが

 

「おい

 まだ終わってないぜ…

 俺との戦いに集中しろ。」

 

声が聞こえて慌てて振り返る世界、そこには無傷のツナと凍りついた炎の顎、もとい氷の顎があるだけだった。

 

「おいおい、奈落炎牙を吹き飛ばされるのは経験あるけど凍らされるのは初めてだぜ…しかもツナ、お前炎熱系だろ⁈

 なんで氷が使える⁈」

 

「さて、なぜだろうな。

 それより、まだ奥の手があるんだろ?

 まさかこんなもんじゃないよな。」

 

煽るツナに燃える世界。

こうなってはもう誰も止められない。

 

「いいぜツナ!

 とっておき同士の一発勝負といこうじゃねーか!

 覇炎流奥義!」

 

「見せてやるぜ、俺の本気を!」

 

世界は全身から霊力を炎に変え、刀に集める。

ツナも特大の炎を後方に放ち右手に炎を溜める。

 

「おいおい、

 これじゃ演習場ぶっ壊れるぞ。

 流石に止めるか。」

 

そして一護が動き出そうとした瞬間、世界とツナからそれぞれ大技が放たれた、が…

 

「写せ『満月』

 雪月花」

 

2人の一撃が放った瞬間凍りつく。

そして2人の間に1人の死神が降り立った。

 

「ふぅ、間一髪!

 隊舎に来たらすごい霊圧感じてきてみて正解だったね!

 お、探したよ!ここにいたんだね!」

 

その死神は明るい茶髪の死神で、どこかで感じたことのあるような温かい霊圧だった。

始解が解けてその場にへたり込むツナと世界。

 

「誰、なの?

 あ、の、人」

 

息も絶え絶えに世界に尋ねるツナ。

しかしその正体は一護から明かされることとなった。

 

「一勇!

 相変わらずマイペースなのはいいけどよ!

 一輝1人で昨日遊びに来てたんだぞ、ちゃんと見とけ!

 それから止めてくれたのはナイスだ!」

 

「ごめんよ、父ちゃん。

 一輝は目を離したらいなくなってたんだけど、ルキアさんが連れてきてくれたよ。

 ほんとは昨日顔出そうと思ってたんだけど、恋次さんたちとお屋敷でゆっくりしてたら今日になっちゃった。」

 

え、今父ちゃんって言った?

その疑問を感じたのか一護がツナに説明してくれる。

 

「あぁ、沢田は初めましてだな。

 こいつは黒崎一勇、俺と織姫の息子だ。

 ちなみにまだ生きてるから死神代行だな。

 昨日お前らがのされてる間に遊びにきてた一輝の親父で、あいつは俺らの孫になるな。」

 

え、黒崎ファミリーって死神一家なの?



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16話

 卍解の修行を始めてから3ヶ月がすぎた。

 あの時乱入した副隊長の息子さんは別任務とかでしばらく滞在して旅立っていった。

 まさかあの人たちがあんなところで繋がりがあったなんて…

 おっと、これはあんまり大きな声で言うなって言われてたんだっけ。

 そして俺たちはというと

 

『各隊対抗新人隊士トーナメントぉ⁈』

 

 副隊長たちから言われた催しに俺と武と隼人は声をそろえる。

 

「やっぱ仲良しじゃねーか。

 お前らはじめ、有望な新人やらが多いらしくてな。

 新しい戦いの前に、似た世代の連中で競わせてみようって魂胆らしい。

 ちなみに3人制の団体戦らしいから、うちの隊はお前らな。」

 

 そこにツナがおずおずと手を挙げる。

 

「あのー、副隊長?

 因みに優勝できなかったら…?」

 

「あ?

 んなもん、鍛錬50倍に決まってんだろ。」

 

 ですよねー!

 どうしよう、と涙目で頭を抱えるツナに一護が肩を叩く。

 

「ったく、相変わらずびびりだな。

 確かにきたばからの頃のお前らなら無理だ、だけどな。

 今はお前らを認めてるやつがたくさんいるんだ、自信持っていけ。

 ルキアや俺、それに、な?」

 

 そこに守護者たちも乗っかる。

 

「そうそう、自信がないのはお前の悪いところだぜツナ?

 見せてやろうぜ、俺たちの新しい力をよ。」

 

「野球バカのいう通りです十代目。

 今の俺たち3人だったら、なんでもいけますよ!」

 

 守護者たちに励まされ前を向くツナ。

 

「…うん。

 やろう、目指すは優勝だ!」

 

「あー、盛り上がってるとこ水刺して悪いんだけどよ。

 因みに開会式30分後だからな。」

 

『はぁ⁈』

 

 どうやらこの催し、前々から連絡が来ていたが稽古を付ける方に意識が行きすぎて忘れてしまっていた一護。

 急いで会場の一番隊訓練場へ向かう。

 

 

 

 

「うはぁ…遅刻3分前だぁ

 中学の時思い出したぁ。」

 

 なんとか滑り込みで開会式に間に合ったツナたち、そこへ

 

「おーいツナ!3ヶ月ぶりだな!

 遅刻ギリギリかよ!」

 

 そう言って笑いながら手を振るのは9番隊の列の後ろに並んでいたセカイだった。

 

「あ、セカイ!

 副隊長が教えてくれるの忘れてて30分前に知らされてさ、慌ててきたよ…」

 

 へたり込みながらいうツナ

 

「まぁイチゴの兄貴はアレで抜けてるからなぁ。」

 

 なんて語っていると同じ列から金髪の男が出てきた。

 

「ふん、自分のスケジュールすら人頼みとは。

 よき副隊長の下についても、部下がダメでは隊の名を堕とすという実例だな。

 沢田綱吉、私は貴様を認めぬ。

 試合で格の差を見せつけてやろう。」

 

「いきなり出てきて誰だテメェは?

 10代目になんて口利きやがる。」

 

「今回は獄寺にゼンメンドーイってやつだな。

 それに、ツナはすげーやつだ。

 ダメダメなんて言わせねーぜ。」

 

 武と隼人も流石に頭にきたようで喧嘩腰だった。

 

「ふん、私の名は春日飛鳥。

 9番隊の18席だ。

 貴様らと隊士になった時期は5年も変わらん。

 そして私は貴様らが気に食わん。

 獄寺隼人、山本武。

 そして沢田綱吉よ、あの英雄黒崎一護の部下としてふさわしいのはこの私だと、見せつけてくれよう。」

 

 正面からの宣戦布告だった。

 理由が単なる妬みなのは気に食わないが。

 それだけ言うと春日は元の列に戻っていった。

 そして開会式が終わり、伊勢副隊長から組み合わせとルールが説明される。

 

「本試合は3対3の勝ち抜き戦で行います。

 ルールは唯一、相手の命を奪わないこととします。

 それでは皆さん、奮闘を期待します。

 みなさんお待ちかね、最初対戦は…」

 

 ドラムロールが聞こえる。

 え、そこ凝るところ?

 

「9番隊対13番隊です。」

 

 うちかい!

 

「ほほう、なら先鋒は私が出るとしよう…」

 

 そう言って前に出る春日だったが

 

「春日18席、あなたが出るまでもありません。

 私がいきましょう。」

 

 そして前に進み出てくるのは

 

「幻騎士⁈」

 

 武が驚く。

 確かに幻騎士にそっくりだ。

 

「いえ、我が名は霧幻。

 霧咲霧幻(きりさき むげん)です。

 あなた方を我が迷宮に招待しましょう。」

 

 どうやら別人のようだが油断はできない。

 それに

 

「おう、ツナ!

 修行の時の決着、つけようぜ?」

 

 向こうにはセカイがいる。

 あれからどれだけ強くなったんだろう。

 考えるだけで身震いがする。

 だけど、負けられない理由はこっちにもある。

 

「おれが」

 

「一番手は俺が行く、譲ってくれツナ」

 

 珍しく武がツナの言葉を遮る。

 

「あいつ幻騎士っぽいだろ、なんか疼いちゃってさ!

 それに、生きてる時も切込隊長は俺だったろ?

 任せとけって、勝つからさ!」

 

 かくして初戦第一試合

 

9番隊       対     13番隊

先鋒 霧咲霧幻         山本武

中堅 司波セカイ        獄寺隼人

大将 春日飛鳥         沢田綱吉

 

の対戦が決まったのだった。

 

 

 

 

 



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17話

先鋒戦 vs霧咲霧幻

 

「恵みをもたらせ『蒼燕』」

 

 初っ端から始解で備える武。

 燕が飛び交い、辺りに雨が降り視界を覆う。

 

「これが貴様の始解か…

 面白い、視覚を奪うのが貴様のお家芸ではないことを教えてやろう。」

 

 霧幻が太刀を抜く。

 

「惑わせ『骸霧』」

 

 そして辺りが霧に包まれ、晴れたところに四本の刀を持った霧幻がいた。

 

「お前やっぱり…幻騎士!」

 

「久しぶりだな、山本武…

 また無惨に切られにきたか。」

 

 そして斬り合いが始まる。

 

「相手、確かに幻騎士に似てるけど…

 なんか違うきがする」

 

 ツナの超直感が何かを感じ取る。

 ならばコイツは一体…

 

「さっきから十代目も山本も何を言ってるんです?

 あいつのどこが幻騎士なんですか?」

 

 隼人の一言でハッとするツナ。

 まさか…

 

 

「ふっ、ずいぶんやるようになったな。

 しかし、この程度で息が上がるのでは相手にならんな。」

 

 変幻自在な四刀流に息を上げる山本。

 

「ふっ、このままでは霧幻に勝つのは無理だな。

 やはり、黒崎一護の配下にふさわしいのは私たち…」

 

 戦況を見てつぶやく春日、しかし

 

「おいおい、冗談だろ。

 お前が幻騎士?

 太刀筋が全然違うぜ。

 お前の能力は大体わかった。

 相手が最も脅威に感じる相手だと思わせることだろ?

 この霧も能力の一部なんだろ。

 なら、小次郎!」

 

 雨燕が降らず雨が霧を減らしていく。

 

「俺の属性は雨、その本質は沈静だ。

 小次郎が降らす雨は少しずつ力を弱らす。

 っと、でも外見は元々幻騎士に似てるみたいだな。

 ちょっと縮んだがな。」

 

 霧がかき消された先には先ほどまで見ていた姿より少し縮んだ霧幻がいた。

 刀も一本に戻っている。

 

「くっ、まさか僕の骸霧を見抜くとは…

 山本さんあなた、かなりできますね。」

 

 言葉遣いすら変わる。

 

「あんたがホントの霧幻だな?

 こっからが本番だな!」

 

 刀を構え直す武、しかし

 

「あなたなら本気を見せてもいいかもしれません。

 僕は剣術は得意じゃないですが、それでもあなたに勝たなければならない理由はあります。

 今までは春日18席に止められていましたが、躊躇していては勝てないような気がします。

 いいですね、18席?」

 

 後ろの控え席をふりかえる霧幻。

 春日は

 

「ふん、負ければ承知せぬぞ。」

 

 尊大な態度で了承した。

 

「それでは、山本武殿。

 あなたを我が宿敵と定め、お命を奪う気で行かせていただきます。」

 

 ヤイバを構えて左手を添える。

 霊圧が霧のように辺りを、霧幻を包み込む。

 

「おいおい、この霊圧…

 訓練で見た黒崎副隊長に近いが、まさか⁈」

 

 そして

 

「卍解

 

 紫骸骨・霧幻宮」

 

 紫色の髑髏の兵たちが武の周りを囲い、その中には四体の巨大なガシャ髑髏が上から覗き込んでくる。

 そして霧幻は、紫色の甲冑に髑髏の面、先ほどまでは持っていなかった巨大な一本の刀を持っていた。

 

『山本殿、これが僕の卍解です。

 あなたが卍解を使えるという情報は聞いていません…

 卑怯者と言われても構いません、あなたに勝つにはこれくらいしないと…』

 

 悔しそうな顔をする霧幻。

 しかし、武は

 

「ははっ、やっと本気か!

 いいぜ、ゾクゾクするよな。

 八回裏、ツーアウト満塁のサヨナラ逆転のタイミングと同じだよな。」

 

 そして構える武。

 

「行くぜ

 時雨蒼燕流・特式10の型改

 蒼燕特攻・螺旋龍」

 

 青い竜巻となって霧幻に突っ込む武。

 

『守れ、髑髏ども』

 

 盾となる髑髏兵たちが集まるが、

 触れた瞬間に弾け飛ぶ。

 そしてガシャ髑髏四体でようやく受け止められる威力だが、山本を止めた段階でそれも崩れ落ちる。

 

『まさか、これほどとは…

 ならこちらも』

 

 ガシャ髑髏や、髑髏兵が復活。

 さらに霧幻すら分裂した。

 その数8人。

 

「おいおい…これじゃ骸レベルの術師だな。」

 

 そしてそれらが一斉に切り掛かってきた。

 山本の力でなんとか捌いて反撃して切り倒すがキリがない。

 しかも数が多すぎて技に入るためすら作れない。

 

「はぁ、はぁ…

 こりゃ参った、な!

 時雨之化を使うにもためがいるし、形態変化しても逆に小回りが効かない!

 こうなったらもう…

 ツナァ!いいかぁ?」

 

 捌きながら厳しくなってきた山本はある事をツナに打診する。

 ツナも意図を汲み

 

「わかったぁ!

 その代わり、怪我さすなよぉ!」

 

「まかせとけぇ!

 さぁ、霧幻!

 こっからは俺も全開で行くぜ!

 二式、大太刀雨月!

 時雨蒼燕流守式7の型・しぶき雨!」

 

 形態変化した斬魄刀で伸びたリーチを生かし、広範囲にしぶきあめを使い一体の敵を払う。

 そしてその瞬間、爆発的に霊圧を高める。

 その色は、混じり気のない青色だった。

 

「行くぜ…

 

 

 

 卍解、燕犬纏・蒼叢雨」

 

 




霧幻の斬魄刀は骸霧(むくろぎり)
卍解は紫骸骨・霧幻宮(ゆかりのむくろぼね・むげんきゅう)
山本の卍解は読みが
燕犬纏・蒼叢雨(えんけんまとい・あおむらさめ)
です


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18話

あけましておめでとうございます
今年も不定期ですが進めていきますのでよろしくお願いします


 会場は雨の音で満たされていた。

 それ以外の音を奪われたからだ。

 この男、山本武によって。

 

「卍解

 燕犬纏・蒼叢雨」

 

 10数秒降り続いた雨が止んだ後の空には虹がかかるが誰もその美しい架け橋など見てはいない。

 全員の視線の先には、柄が二つついた馬鹿でかい大剣を肩に担いだ武が涼しげな顔で立っていた。

 武の首元、腕、足にはそれぞれ金に輝く装具を纏っていて、形態変化と一護の還元術状態の死神の姿をあわせたような見た目だった。

 世界は卍解した山本を冷静に分析する。

「これが山本の卍解…

 なんだかんだで一護の兄貴に似た姿になったな。

 って、ツナと獄寺は何であんな顔してんだ?」

 

 反対側に座っていたツナと隼人の顔は、一言で言うとポカーンとしていた。

 

「…ねえ、隼人。

 俺たち2ヶ月前に卍解の見せ合いしたよね?」

 

「そうですね十代目。」

 

「その時ってボンゴレギアの形態変化と同じ二刀流でやっぱりなーとかって話たよね?」

 

「そうですね十代目。」

 

「じゃあさ、あれって何?」

 

「そうですね十代目」

 

 隼人は既に物言わぬ骸…もとい処理落ちして何も答えれない状況になっていた。

 しかし、現実は目の前に広がるものが全てだった。

 現に武の霊圧は卍解していなければ出せないほど高密度なものだった。

 ツナと隼人はさておき、お互い卍解した状態での第二ラウンドが幕を開ける。

 

「さぁ、霧幻!

 これで卍解したのはお前だけじゃないぜ!

 こっからは延長戦だ!」

 

「それが山本殿の卍解…

 なるほど、黒崎一護副隊長と似ておられる。

 しかしでかいだけの刀ではこの霧幻宮からは出られぬよ。」

 

 霧幻は新たな髑髏兵を生み出し、あっという間に武を取り囲む。

 その上から四体のガシャ髑髏が刀を振り上げてくる。

 

「悪いな、霧幻。

 有幻覚だろうと、霊圧の幻だろうと克服済みなんだ。

 時雨蒼燕流、特式12の型

 霧雨・霧斬」

 

 武が刀を振ると立ち所に髑髏兵とガシャドクロは消え去っていった。

 あまりの驚きに霧幻は動揺する。

 

「貴様何をした!

 我が髑髏兵が一瞬で消え去るなど…」

 

「答え合わせをしようか。

 特式12の型は対幻覚奥義。

 本来なら右太刀、左太刀で完成する技だ。

 俺の斬魄刀には2匹の獣の力が宿ってんだ。

 そのうちの1匹、犬の次郎が斬撃の通った箇所の匂いで霊圧と力の核の部分を解析した。

 そんで燕の小次郎の力でそれを全て射抜いただけだよ。

 んで、今俺の刀は馬鹿でかいから一瞬で2回振り抜いたのさ。」

 

 簡単なように言うがとんでもない卍解だ。

 それだけではなくそれをやってしまう武の技量がとんでもない。

 

「ふっ、やはりとんでもない男だ。

 貴方には小手先の技で勝てないのか…

 だけど負けるわけにはいかぬのです!

 我が斬魄刀よ、呪われし我が魂よ!

 理に背き、あるべき人の形を捨て真なる夜叉へとその身を写せ!」

 

 そして藍色の炎が霧幻を包み込み、その形を変える。

 ツナは直感でその正体を突き止めた。

 

「まさかとは思ったけど、間違いない!

 霧幻の魂には、ヘルリングの一部が宿ってる。

 しかも幻騎士の使ってた、骨残像のリングだ。」

 

 そして炎を振り払った先には、死覇装の上にスタイリッシュな鎧と髑髏の仮面を被り、2振りの大型の刀を構えた霧幻だった。

 

『はぁぁぁ…

 思い出した、思い出したぞぉ山本武ィ!

 我が魂には貴様を斬るために心を我に食わせた幻騎士の魂も混じっておる。

 憎い、憎い憎い憎い憎いぃぃぃ!

 なぜだ!

 なぜ貴様の主人は貴様を裏切らない!

 なぜ私は、白蘭様に、神に屠られたのだぁぁぁ⁈

 おのれ、許さぬぞボンゴレデーチモォォ!」

 

 もはや魂に自我が飲み込まれ、暴走し始めた霧幻。

 相対する武は

 

「そっか、やっぱりお前も幻騎士なんだな。

 未来の世界でお前を切ったのは俺だ。

 お前の憎しみを、俺が清算するよ。」

 

 そして柄を両手で持つと、斬魄刀が大剣と小太刀に分かれた。

  

「もう、終わりにしよう。

 攻式9の型、写し雨」

 

 太刀筋から波を起こし霧幻を包んでいく。

 霧幻は水面に映った武を斬り、武が写し雨を決めた。

 かに思えたが、しかし

 

『ふはっ!

 その技など等に見切っておるわ!

 今度こそ切り刻んでくれよう!』

 

 水面の反対側、本来の武にあり得ない数の太刀筋を浴びせていく霧幻。

 綱と隼人は思わず目を逸らす。

 だが

 

『なんだ、この手応えのなさは?

 なぜ血が出ない?』

 

 斬撃は全て武をすり抜けていた。

 そして霧幻の足元から武の声が聞こえる。

 

「確かに、以前までの俺なら今のであんたに負けてたろうぜ。

 だけどな、俺はツナや獄寺、13番隊のみんなと笑って過ごすために強くなり続けなきゃなんねーんだ。

 そしてこれがその到達地点、俺が作り上げた型のその先だ。

 攻式9の型真打、うつし雨・雨写身(うつせみ)」

 

 切られていたはずの武は波へと消えた。

 そして霧幻の刀が弾き飛ばされる。

 

『ぐっ

 また私を斬るのか、山本武ぃ!』

 

「あぁ、今のあんたは幻騎士の亡霊だ。

 だけどその体は霧咲霧幻のもんだ。

 返してもらうぜ。

 時雨蒼燕流8の型

 篠突く雨!」

 

 二刀から繰り出された篠突く雨が幻騎士の亡霊を切り裂き、全てを洗い流していく。

 後に倒れていたのは安らかな顔をして束の間の眠りについた霧幻だった。

 そして武はツナと隼人の方を振り返り、リング争奪戦の時から変わらない、いつもの笑顔で一言だけ拳を突き出し言った。

 

「勝ったぜ!」

 

 

 



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19話

「敗れたか…

 まあ良い、志波!

 貴様の出番など回ってこぬから準備なぞ不要だ。

 この私1人でやはり十分だということを知らしめてくれる。

 しかし、山本武か…

 あやつは我が部下に欲しいな」

 

 そう言って春日は試合場へと向かっていく。

 その背中を見ながら世界は

 

「いや、無理だろうな。

 あの人が弱いんじゃないけど、きっと俺とツナが大将同士で決着をつけることになるだろうな。

 出番までは見学だなぁ。」

 

 武は次の対戦相手を目の前に卍解を解かず構えていた。

 自分の手の内を見せてしまっている今、卍解なしに席官に勝てる保証はない。

 しかし、卍解を使っての初の実戦と緊張により思った以上にきつい状態だった。

 

「山本武、先の試合見事だった。

 しかし、貴様は私には勝てん。

 私の武久丸(むくまる)には今の貴様では刃が立つまいよ。」

 

「言ってくれるっすね…

 でも俺も、負けるわけにはいかねーんでね。」

 

 そして試合開始の合図がなると同時に春日が始解する

 

「瞬け『武久丸』」

 

 斬魄刀に眩いばかりの光が集まり、気づいた時には身の丈ほどの片刃のの大剣を構えていた。

 

「見ろ、これが私が英雄黒崎一護を追い求め手にした力だ。

 いざ、参る!」

 

 春日は大剣を持っていることを感じさせない速度で攻め、武が防戦一方になるという展開が流れていた。

 時雨蒼燕流を繰り出そうとするが

 

『やべえ、見た目以上に一撃が重すぎる…

 衝撃の瞬間になんかしてんのか⁈』

 

 ならばと刃がぶつかる瞬間相手より早く渾身の力で刀をぶつける武。

 すると衝撃で春日のうごきがとまり、瞬歩ですぐ距離を取る。

 

「貴様、何をした。

 今までの流派とは違う技か?」

 

 「そいつはアタッコディスクアーロっつってな。

  渾身の力で相手の刀に叩きつけて衝撃で痺れされるって技だ。

  俺の斬魄刀の鎮静の力も込めてな。

  そんであんたの斬魄刀の能力、わかったぜ!

  ほんの一瞬動きを加速させんだよな。

  だから、速さの分威力が上がって予想以上のダメージになるんだろ」

 

 武の予測に春日は

 

「ふっ、この僅かなやり取りでそこまで気づくか。

 山本武!

 我が元に来い、私は貴様が気に入った!

 そして此度の任務を完遂させ、春日小隊の名を響かせようではないか。」

 

 武の推測を事実と認め、あまつさえ勧誘する春日。

 しかし

 

「お言葉はありがたいんっすけどね。

 俺が仕える男はもう決まってんすよ。

 そいつは誰よりも優しくて、戦いが心の底から嫌いだけど、仲間が傷つくと自分のことなんか放り出して来ちまうような奴っすよ。

 そしていつだって祈るように拳を振るう、そんなツナだからこそ、俺はあいつのダチで雨の守護者になったんだ!」

 

「そうか、残念だ。

 貴様に卍解を見せてもらったのだ。

 私も卍解して貴様を屠るのが礼儀というものだな。

 卍解、極翔武久丸(きょくしょうむくまる)」

 

 斬魄刀の鍔の部分に巨大な金の翼が生え、それに呼応するかのように甲冑のような金色の鎧が形成される。

 そして肩当てが変形し、巨大な虹の翼を広げると

 

「虹滅翼刀・怒来武(コメット・ドライブ)」

 

 気がつけば春日が武の眼前に巨大なオーラを纏った刀を振り上げていた。

 普段の武であったならば、まだ対応できたであろう。

 かろうじて座り込んで一撃は避けたものの二撃目を構える春日。

 卍解を使った初の戦闘で連戦により武は反撃する余力すらなかった。

 武の疲労はピークに達し頭の中でやられると思い、目を閉じた。

 

 

 

 

 しかし、約束された衝撃は武には届かなかった。

 

「聞こえるか1番隊、13番隊は大将が先鋒の山本の棄権をそちらに申請した。

 よって、中堅の俺がこのまま試合を引き継ぐ。」

 

 そこには盾を広げ春日の斬撃を受け止める隼人が立っていた。

 

「獄、寺…」

 

 負けたの怒られっかな…なんて心配する武を尻目にどんどん隼人が近づいてくる。

 そして手を振り上げ、

 

 

 

 

 

 

武に差し出していた。

 

「立てるか山本?」

 

 その手を握りながら起き上がる武。

 

「わりぃ、獄寺。

 負けちまった。」

 

 謝る武、しかし

 

「はっ、何言ってやがる。

 1人倒して、なおかつ目上の席官に十代目の守護者として啖呵きったんだ。

 目上に対する礼儀とかをきちっとするてめーがだぞ?

 よくやった、山本。

 後は、右腕の俺に任せろ。」

 

 そう言って慌てて降りてきたツナに武を託し、春日に向き直る隼人。

 そして試合のゴングがなる。

 

「はっ、チンピラ風情に我が刀を止められるとは少々加減をしすぎたか。

 山本武は見所があり、なおかつ切り甲斐があったから卍解したはものの沢田綱吉が棄権させた故、あまり楽しめなんだ。

 しかし疲労で限界とはあっけない幕切れだったな、私はあの男を少々買い被りすぎていたようだな。

 あの程度のやつ、やはり私の部下にはいらぬよ。」

 

 そう言って高笑いする春日。

 会場にも嫌な空気が流れる。

 審判の1番隊士が注意しようとした時

 

「そうだな、あいつはいっつもスケジュール通り行動しねえ。

 休めと言っても野球と剣の鍛錬で余計に疲労を溜め込むわ、休みの十代目を誘って野球するわ、ファミリー対抗野球大会を開くわ、こっちでも13番隊の野球チームを作ろうとか言い出す筋金入りの野球バカだ。」

 

 だけどよ、と続ける隼人。

 

「誰よりも努力して、普段切らねえような啖呵もファミリーのために切っちまう仲間思いな、俺のダチなんだよ!

 てめーの下に着くほど、アイツは安い男じゃねーんだ!

 取り消せよ、あいつへの侮辱をよ!」

 

 そう言って地面が割れるほどの赤い霊圧を迸らせる隼人。

 

「ならばチンピラよ

 私には勝てぬだろうから、そうだな…

 膝をつかせて見せろ。

 そうすれば土下座でも何でもしてやるわ、はっはっはっは!

 しかしハンデをやるつもりもないから、卍解は解除しない。

 貴様程度にできるかな?

 出来るといいなぁー?」

 

 そう言って煽る春日。

 しかし隼人は

 

「はじめっからそのつもりだ、地べたと親友にさせてやるぜ。

 卍解ものそのままにしとけ。

 俺の、いや、俺たちの前でダチを馬鹿にしたことを後悔させてやるよ。

 

 

 卍解

 

 

 

 

 

 

 爆嵐紅蓮豹(ばくらんぐれんひょう)!」

 



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20話

 卍解

 斬魄刀戦術の局地として伝わるそれは、才あるものが圧倒的な努力を積み重ねた末に掴み取るいわば選ばれたものだけが手に入れる力。

 霊圧が他の死神と比較しても巨大なかの4大貴族ですら卍解に至る者は数世代に1人と言われており、卍解を習得した者は例外なくその名をソウルソサエティの歴史に例外なく刻まれる。

 一つ例外があるとすれば、黒崎一護が死神の力に目覚めて数年の間のことだ。

 後に千年血戦とよばれた滅却師との大戦において数名の死神が卍解を習得したことを除けば、やはり卍解とは特別なものと言える。

 また隊長就任の条件の一つとして卍解の習得が挙げられるほどなのだ。

 9番隊18席春日飛鳥も学校時代は神童と呼ばれた男だ。

 名門貴族春日家の跡取りとして生まれた飛鳥は才能に溺れない努力家であり、上級貴族特有の高い霊圧から次期隊長格候補として学校時代から名前が響いていた。

 そしてその始解の形からポスト黒崎一護と持て囃されていた。

 本人も当然、英雄黒崎一護を尊敬していたし、ゆくゆくは一護と同じ隊で活動し一護の右腕を目指すべく努力していた。

 しかし実際の配属は9番隊であり、成績トップの自分の要望が叶えられなかったことが納得いかなかった。

 そして自らの実力を示そうと努力し、席官にもなり卍解も習得した。

 並大抵の努力ではないし、その努力に見合う結果を得ていた。

 そして数名の部下からやはり黒崎一護の右腕に相応しいのは春日しかいないというもてはやしが春日を増長させていた。

 そんな時だった。

 沢田綱吉という落ちこぼれと獄寺隼人というチンピラが黒崎一護の直属の部下として配置されたと聞いた。

 たまたま春日の部下に綱吉たちの同級生という死神がおり(そいつは三十代死んだので死神歴は長いが能力が低く努力もしないので万年ヒラ)その者から聞くとダメツナと呼ばれる程全てがダメで、獄寺は教師すら手がつけられないほどの不良だった。

 どう考えても黒崎一護の部下としてふさわしくない。

 なぜ、なぜだ?

 私こそが、黒崎副隊長の部下にふさわしいのに!

 その嫉妬が、春日のまなこを曇らせた。

 アランカルをツナたちが退けたという話が聞こえてきても、

 きっと黒崎副隊長が倒した時にすぐそばにいただけなのだろう

と聞く耳を持たず、その他の任務の成功も山本の手柄だと思っていた。

 であるから自身が手塩にかけた部下の一人である霧幻が山本に倒されても

 あいつは見所があるな、それでこそ黒崎副隊長の部下にふさわしい

としか思わなかった。

 そしてその疲弊した山本と斬り合っても

 筋はいい、だがまだまだだ。

 自分の部下として育てたい、やはり13番隊には私が必要ではないか。

としか思わなかった。

 このトーナメントですら、敬愛してやまない黒崎副隊長に自身の実力を見ていただきたいとしか考えていなかった。

 故に、負けることはおろか自身が追い詰められることすら想像していなかった。

 山本武すら倒せば、沢田と獄寺に負けることはあり得ない。

 だから山本が棄権した瞬間から春日は気を抜いていたのだった。

 死神になって半年しかたたぬ相手、しかも落ちこぼれたチンピラ風情の相手に卍解など使う必要はない。

 しかし、圧倒的な力を見せつけたい。

 もちろん誰が相手だろうと手を抜くことすらしたくないという考えもある。

 だがそれ以上に、自身が誰より有能であると示したいと思っていた。

 傲慢、その一言に尽きる。

 だから夢にも思わなかった。

 現実だと受け入れたくなかった。

 目の前のチンピラ、獄寺隼人が放つ霊圧を。

 そして放った言葉を。

 

「卍解」

 

 吹き荒れる霊圧はさながら赤い、いや、さらに濃く鮮やかな真紅の嵐。

 思考停止する春日をよそに獄寺を包む嵐がとけた。

 まず目を引くのは左手に装着された髑髏を模した小手。

 そして腰を覆う小さな匣が装着されたベルト。

 死覇装はよりスタイリッシュになり、和装とスーツの中間のような少し大きめのジャケットのような服に。

 死覇装の裾から見え隠れする大量のボムと左目についたモノクル。

 その傍に控えるのは真紅の炎が体から噴き出した巨大な豹。

 

「卍解、爆嵐紅蓮豹。

 こいつを出す気はなかったがしょうがねえ。

 てめえにはケジメをつけてもらうぜ、春日飛鳥!」

 

「ありえぬ、ありえぬありえぬありえぬ!

 なぜ貴様のようなカスの分際で卍解が使える⁈

 私があれほど努力して、手に入れた力をやすやすと!

 私が望んでも手に入れられなかった居場所を得ている貴様がぁ!」

 

 春日はコメットドライブの虹の羽を広げ高速移動を始める。

 そして隼人に刀を振るうが

 

「おせぇ、てめえの攻撃なんぞ見切ってんだ。

 山本の刀に比べたら雲泥の差だな。」

 

 左手の小手から噴き出す真紅の炎が斬撃を受け止める。

 春日は攻撃を繰り返すが全ていなされる。

 

「けっ、盾を使うほどでもねえ。

 次はこっちから行くぜ。」

 

 隼人は右手を2回振るう。

 その手に刀はない。

 春日は距離を取ろうとした瞬間、背後からの爆発に吹き飛ばされた。

 体制を立て直そうとした春日の眼前には隼人が立っていてアッパーを食らわす。

 のけぞった春日に隼人は左手を構え

 

「真紅炎の矢(クリムゾン・フレイムアロー)」

 

 超高密度の炎の矢を放つ。

 場外ギリギリまで吹き飛ぶ春日、その黄金の鎧はすでにボロボロで形は失われかけていた。

 

「おいおい、瓜の出番がねえじゃねえか。

 こんなもんであいつを貶したのかよ、拍子抜けだぜ。」

 

「なん、なのだ、貴様の卍解は…

 なぜ私の動きを止めることができた!」

 

 ふらつきながらも立ち上がる春日。

 そして隼人が語り出す。

 

「おれの卍解の能力だよ。

 俺の特性は嵐、性質は分解。

 嵐の守護者たる俺の使命は常に攻撃の核となり、休むことのない怒涛の嵐だ。

 そして俺の卍解は、俺の使命を体現するための力になっている。

 攻撃方法も生前の力を強化したもんで、一番の特徴は風を読めることだ。

 このモノクルが空間を満たす風のわずかな揺らぎすら感じ取る。

 だからどんだけてめーが早く動こうが、風を切る時点で動きは筒抜けなんだよ。」

 

 隼人の説明に戦慄する春日。

 そんなもの無敵ではないか。

 奥の手を出すしか…

 

「貴様相手に奥の手を出すことになるとは思わなかったがやむをえん!

 風をよめたところで、圧倒的な暴風の前には意味をなさんだろう!

 喰らえ我が奥義!

 鳳滅翼翔!」

 

 春日の大剣が巨大な羽になり、まとう風の斬撃が放たれる。

 空間を風が削り取っていく。

 しかし隼人は

 

「いいぜ、覚悟の差を見せてやらぁ!

 嵐の厄災(テンペスタ・カタストロフィ)!」

 

 真紅の巨大な嵐を一つの矢に束ね放つ。

 分解の性質と嵐の勢いであらゆる物を削り、滅ぼしていくその様はまさに厄災。

 春日の奥義を飲み込むまで止まることはなかった。

 

「私の奥義が…

 しかし、今ので貴様も霊圧を絞り出したはず!

 ならば後は我が剣技で!」

 

「気にならなかったか?

 なんで最初に背中が爆発したのか?

 答え合わせの時間と行くか。」

 

 隼人の言葉に戸惑う春日。

 言われてみればそうだ、隼人はあの時矢を放っていなかったはず。

 

「簡単な話だ。

 てめーは瓜と俺の炎の矢を攻撃手段とおもっていたみてーだがそれだけじゃねえ。

 俺は元々爆弾が獲物でな、斬魄刀になってもそれは変わんねーよ。

 炎と霊圧で、投げた爆弾の軌道を曲げて背中にぶつけたのさ。

 嵐の炎と卍解の霊圧で跳ね上がった威力は最大出力なら一撃必殺ってな。

 種明かしは終わりだ、これで果てろ!

 ビックバンロケットボム!」

 

 隼人の両腕が振るわれ、合計八本のボムが高速で春日に迫り、会場を揺るがすほどの爆発を引き起こした。

 会場を守っていた結界もヒビが入り、やがて砕け散る。

 爆炎が晴れたのちに立っていたのはボロボロの春日と卍解が解けた隼人だった。

 

「確かに俺は元々ただのチンピラだ。

 てめえみたいになにかに打ち込んだこともほとんどねえ。

 そんな俺でも、ダチや仲間を守るためなら死ぬ気になんだよ。

 ボンゴレ、いや…

 

 

13番隊舐めんじゃねえ!」



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21話

「隼人、始解できる?」

 

 春日戦を終えた隼人にツナが尋ねる。

 

「余裕っすよ十代目!

 見ててください!

 爆ぜろ、紅豹!」

 

 気合を入れる隼人だが、斬魄刀の形は全く変わらない。

 

「な⁈

 どうした瓜!お疲れなのか?」

 

 テンパりすぎてボックスアニマルの名前を呼び出す隼人。

 そんな隼人を見てため息をつくツナ。

 

「隼人、もう限界だよ。

 霊圧が空になってるの気づいてないでしょ?

 卍解してあんだけ暴れたらそりゃ空になるでしょ。

 次の相手は世界なのにそんなんじゃ無理だよ。

 俺に任せて休んでて。」

 

 そういって隼人の棄権の申請を出しにいってそのまま試合場に向かうツナ。

 目の前に立つのは共に卍解の修行をした赤髪の死神。

 

「よぉツナ。

 あの日一勇に止められた稽古の決着つけようぜ。」

 

 見た目は世界の方が僅かに若いが、世界にとって一勇は甥にあたる。

 そしてツナもこの時を何度も想定していた。

 

「世界、ごめんだけど負けられない。

 俺の友達が頑張ってくれたのに、俺が情けないところなんか見せられないよ!」

 

 そして試合の開始の音が告げられる。

 その瞬間に始解した2人の刀と拳がぶつかり合う。

 辺りを霊圧の熱が覆い、貼り直した結界を無視するように観客たちにも熱気が伝わる。

 ツナの拳に流れ込んでくる、世界がこれまで積んだ修行の成果。

 同時に世界の刀にも同様に流れ込んでくるツナの成果。

 一時とはいえ、共に修行した身だからこそわかる互いの力量。

 

「やっぱりな!

 春日さんじゃツナには勝てねえ!

 刀を交えて改めてわかるぜ、おまえの力が!

 覇炎流・紅蓮流星斬!」

 

 唾競り合った状態から飛び退き、空中から真紅の流星となり斬撃を浴びせる世界。

 ツナも紙一重で飛び上がり避ける。

 

『速い…!

 前までは俺のアドバンテージだった速さの差がそこまで出ない!』

 

 ツナは戦慄する。

 だがこんなことで諦めていられない。

 

「攻めの型一式

 炎獅子!」

 

 ガントレットに変形させ特大の火球を高速回転させて世界に放つ。

 バーニングアクセル、白蘭すら退けたツナの大技の一つ。

 虚をつかれた世界に避ける余裕はなかった。

 しかし世界は落ち着いていた。

 

『わかるぜツナ!

 お前の修行の成果が!

 霊圧も比べ物にならねえし、この攻撃も避けれねえ。

 だけど!』

 

「変わったのはお前だけじゃないぜ、ツナ!

 

 

 

 卍・解!」

 

 世界が特大の炎に包まれる。

 そして次の瞬間にはバーニングアクセルが両断された。

 両断されたことで起こる爆発が視界を奪う。

 爆炎が晴れた時、空中にいた世界は炎の鎧を纏っていた。

 死覇装は鮮やかな赤へと変わり、肩、胸部、膝を覆う鎧から獄炎が噴き上がる。

 手には灼熱を纏った大太刀。

 

「卍解、豪剡斬華(ごうえんざんか)。

 ツナ、これが俺の卍解だ。

 さぁ、俺も本気を出すからお前の本気も見せてくれ!」

 

 炎の斬撃をツナがいなし、防ぐ。

 高速のやりとりが続く中でツナは世界の卍解の脅威度を改めて即座に倒すべきと判断した。

 そして世界が大ぶりの構えを見せた時、ツナが拳を振り抜く。

 炎獅子のまま振り抜いた拳には、バーニングアクセルを放つために貯めていた炎が蓄積してある。

 振り抜いた拳が世界を襲うその瞬間、世界の姿が掻き消えた。

 

「なっ⁈」

 

 次の瞬間、背後から世界が現れて斬られ地面に激突する。

 

「覇炎流、鏡波・陽炎。

 炎と動きの緩急で姿をくらます技だ。

 そしてこれが、

 覇炎流、鏡波・蜃気楼。」

 

 その場で世界の姿が溶け出す。

 高熱の炎で辺りがぼやけ出す。

 世界が複数人に分裂したように見える。

 

『いくぜ、月牙炎衝!』

 

 分散した世界が放つ炎の斬撃がツナを襲う。

 かろうじて避けるが2発ほどくらいよろける。

 蜃気楼を生み出すほどの高熱と、食らったダメージのデカさがツナの意識を奪いつつあった。

 フラフラしながらもなんとか立ち上がるツナ。

 しかし世界は追い打ちをかける。

 

「ツナ、もう限界かよ!

 加減なんかする気はないぜ。

 覇炎流、断罪・灼炎流星!」

 

 世界が大太刀を天に掲げると、特大の炎の流星がツナを目掛けて落下してくる。

 避けようと範囲外へ飛ぼうとするツナは辺りが炎に包まれていたことに気づく。

 違う、これはただの炎じゃない!

 

「気付いたかツナ。

 奈落炎牙、修行中にも見せたことがあるよな。

 卍解状態の威力は跳ね上がり、ここまででかい技になっちまった。

 俺は炎の鎧で通り抜けられるから炎牙の外で待ってる。

 流星と炎牙をツナが何とか出来たらまた会おうぜ。」

 

 そして世界は牙の外へ抜け出した。

 朦朧とする意識の中、遂に始解も解ける。

 斬魄刀を杖に何とか倒れないように耐えるツナ。

 徐々に閉じ、その牙をツナに突き立てようとする炎牙。

 逃げるためには空中に飛ぶしかないが、上空からは巨大な流星が迫る。

 

 もうダメだ…

 

 諦めかけたその時杖にしていた獅炎丸が震える。

 その振動で意識が鮮明になるツナ。

 そうだ、俺にはまだ相棒がいる!

 

 

 世界は会場の端で炎牙と流星がぶつかろうとする様を見ていた。

 しかし世界はこれでツナが終わるとは思っていなかった。

 こんなもんじゃないだろ、ツナ!

 そして世界の予想は現実のものとなる。

 会場を押しつぶそうとしていた流星と地上から生えていた炎の顎が一瞬にして消えた。

 その光景に審判や観客はおろか隼人と武すら口が開かなかった。

 ただ1人、世界を除いては。

 

「…ようやくかツナ!

 待ってたぜこの時を!」

 

 渦中の中心、そこにはいつも通りのツナが立っていた。

 前髪が目を覆い表情はわからない。

 始解が解けたことで額に灯していた炎も消えていた。

 それでもなお、この戦いを見ている人たちにはツナの敗北を感じている者は1人もいなかった。

 そして裾が風ではためき、硬質な蒼いグローブが露わになる。

 

「世界はやっぱりすごいよ。

 でも、何度でも言うけど負けられないよ。

 俺の仲間に、誇りに賭けても!

 

 卍解、凍獅子死炎丸(いてじししえんまる)!」

 



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22話

「卍解、凍獅子死炎丸!」

 

 ボンゴレギアのグローブを澄み渡る硬質な蒼で染め上げたが手甲部分が鎧のように繋がっている。

 それ以外は普段のツナだ。

 しかし、そこから放たれる覇気は見ている者が冷や汗を禁じ得ない程の圧があった。

 

「待ってたぜツナ!

 どんなカラクリで俺の流星と炎牙を消したかしらねーが、まだまだこれからだぜ!

 くらっとけ!

 月牙、炎衝!」

 

 焔の三日月がツナに迫るが

 

「死ぬ気の零地点突破、ファーストエディション」

 

 ツナが手をかざして受け止めた瞬間、斬撃が凍りついた。

 見ていた世界は震えた。

 

「まじかよ…

 お前の卍解は、炎の対極の氷だってのか!」

 

 俯いていたツナが顔を上げる。

 その瞳は、先ほどまでのオレンジ色ではなく、グローブと同じ澄み渡る蒼に染まっていた。

 

「そうだよ、俺の卍解は俺の魂に宿る祖先の力を解放したものだ。

 俺の先祖、ジョットが生み出した炎を凍らせる奥義、零地点突破を卍解で解放した。

 代償としてこの状態では炎は使えない、けど。」

 

 瞬時に世界の前にツナが移動する。

 

「今の俺には瞬歩がある。

 零・アクセル!」

 

 ツナの拳には圧縮した吹雪が渦巻いており、それが世界の腹にめり込む。

 その螺旋は塞ごうとする炎の鎧すら凍てつかせ、腹部を削っていく。

 たまらず場外際まで吹き飛ぶ世界。

 しかし

 

「まだだ!

 俺の奥義も出さずに終われるかよ!

 受け取れツナ!

 これが正真正銘、全力全開!

 覇炎流奥義!鳳凰、炎王斬!」

 

 振り抜いた斬撃から炎の鳳凰が羽ばたき、ツナに襲い掛かるが

 

「俺だって負けられない!

 死ぬ気の零地点突破・凍獅子氷牙!」

 

 三角を描くように構えたツナの手から氷の獅子が飛び出していく、そして炎の鳳凰とぶつかり合い…

 

 

 辺りを閃光が包む。

 

 

 そこに立っていたのはツナだった。

 世界は刀を地面に突き刺しひざまづいている。

 

 これは沢田の勝ちだな。

 

 誰もがそう思っていた。

 だが、

 

「ねぇ世界?

 まだ全力じゃないよね?」

 

 ツナはそう思ってはいなかった。

 思わずツナを見上げる世界。

 周りもどよめく。

 卍解になった時点で全力だ、普通ならば。

 しかし、ツナは確信している。

 超直感、見透かす力の前で嘘はつけない。

 

「…なんで、わかったんだ?

 俺は、少なくとも全力だったはずだぜ?」

 

 世界は申し訳なさそう聞く。

 ツナはそれに烈火の如く怒った。

 

「全力なのは知ってたよ。

 本気じゃないことに気がついたのは、俺の呪われた血のおかげだよ。

 俺の前で、誰も隠し事はできない。

 それよりも…

 

 

 

 

 

 

 ふざけるな!

 みんな全力で戦っているんだぞ!

 うちのメンバーも、お前のところのメンバーも!

 ここは修行の成果を出すところだろ!

 舐めるなよ!俺はまだ世界、お前に勝てたと思ってないぞ。

 出せよ、本気を!」

 

 たたかいをきらうツナが、相手が本気になっていないことに怒っている。

 稀を通り越して守護者ですら見たことのない光景だった。

 それだけ許さなかったのだ。

 共に修行をしたライバルとも言うべき男が底を見せてこないと言うことが。

 そしてその想いは世界に届く。

 

 

「…悪かったなツナ。

 別に手を抜いたわけじゃないんだ。

 ただ、この力は危険すぎるし俺自身まだ制御できていないんだ。

 でも、そうじゃないよな。

 お前に勝つには、これしかない。」

 

 そして世界は卍解したまま刀を体の前で横に構える。

 そして炎の温度が徐々に跳ね上がる。

 気づけばその炎は、赤色から青い炎に変わっていた。

 

「卍解、第二階層

 蒼炎斬華。

 悪いなツナ、これは手加減できねーぞ。

 月牙、炎衝!」

 

 先ほどよりもはるかに早い炎の斬撃がツナに迫る。

 

 これは、凍らせられない!

 

 そう判断して瞬時に避けるツナ。

 斬撃は結界を瞬時に焼き切り壁を貫通する。

 

「わかったろ?

 俺にはこの炎が制御できない。

 もう止めよう。

 俺は、勝ちたくてもお前を殺したいわけじゃないんだ。」

 

 確かにこの炎は止められない。

 下手をすれば観客にも被害が出かねない。

 審判が中止の声をかけようとした時

 

「…で、なくっちゃな。

 さっきまでの世界の卍解が本気だったら拍子抜けだ。

 だけど、待っていたぜこの時を。」

 

 その瞬間、ツナの額に炎が灯る。

 始解ではない、それは霊圧を見れば分かる。

 沢田綱吉の卍解は氷を操るものだ。

 誰もがそう思っていた。

 彼の守護者以外は。

 

「山本、出るぞアレが。」

 

「あぁ、俺たちの大空の、本当の姿、だな!」

 

 その言葉に呼応するようにツナのグローブの表面が、なんと溶け出した。

 

 そして、真紅のグローブが太陽に反射して輝く。

 その瞳は澄んだオレンジ色をしていた。

 

「俺の卍解は、俺に宿る先祖の力を解放した氷の力だ。

 だけど、この卍解は俺本来の魂の力だ。

 止められないなら、焦がすだけだぜ。

 

 

 

 

 卍解、天獅子死炎丸(あまつじししえんまる)」

 

 ツナを守るように炎のオーラが円となり漂う。

 そして先程の卍解ではなかったベルトと装飾品が付いていた。

 世界が叫ぶ!

 

「見てくれが変わっただけじゃ俺には勝てないぜ!

 俺の炎は止まらない!

 月牙炎衝乱れ咲!」

 

 乱れ舞う炎の斬撃がツナをおそう。

 

 しかしツナを前にして、炎は勢いを失い、なんと灰になり足元に落ちる。

 

「誰が、見てくれだけだって?

 俺の炎の特性は調和、俺の領域に入ったものは調和によりて灰となる。

 霊圧も、その身を焦がす炎も限界だろ?

 次の一撃で終わらせる。

 ナッツ、形態変化!」

 

 ツナが両手を交差して構える。

 ここで応えなきゃ男じゃねえ!

 世界も刀を鞘に収め力を貯める。

 2人の高まる霊圧に会場の壁すら焦がされていく。

 そして、全力の2人一撃が放たれた。

 

「ダブルイクスバーナー!」

 

「真打奥義、終焔散華!」

 

 2人の炎がぶつかり合い、あたりはホワイトアウトを起こした。



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23話

 そっと目を開くと見慣れない天井があった。

 そして視界に揺れ動くオレンジ色の髪。

 そっちに目を移すと一護が心配そうに俺をみていた。

 

「…沢田、目が覚めたか?

 体、痛くねえか?」

 

 答えようとするけど声がうまく出ない、てかめちゃめちゃ体が痛い。

 初めてハイパーモードになった時の筋肉痛の比じゃないくらい痛い。

 

「んなわけねぇか。

 喋りづらそうだから、大将戦の後のこと教えとくぞ。

 お前と世界の大技のぶつかり合いの余波で会場がぶっ飛んでな、大会は中止だ。

 ていうかな、九番隊とうち以外卍解使えるやついなかったみたいで、全員棄権したらしいわ。」

 

 大笑いしながら一護が続ける。

 

「結果的にお前らが優勝って扱いになってな、そのうちご褒美があるらしいぜ?

 しかし、最後の技は俺の月牙でも勝てねえかもな。」

 

 笑いながら立ち上がる一護。

 

「獄寺と山本はもうすっかり元気だぜ、お前が治り次第祝勝会やるからな!

 だからのんびり治せよ。」

 

 手を振りながら立ち去る一護を見ながらツナは意識を飛ばした。

 

 

 それから5日後、13番隊舎で祝勝会が行われていた。

 隊長のルキアが音頭をとる。

 

「沢田、獄寺、山本!

 優勝と卍解習得おめでとう!

 今日は無礼講だ、ジャンジャン飲め!

 乾杯!」

 

 隊士たちと酒の入った盃をぶつけ合い、飲み干すツナたち。

 ボンゴレボス時代に酒を浴びるほど飲まされザルだった。

 1時間ほど他の隊士と飲み食いしてると、隊長と副隊長に呼び出された。

 

「お前たち、よく頑張ったな。

 総隊長と話し合ったのだが、大会優勝もさることながら、卍解の習得、そしてそれぞれの大技は隊長格レベルではないかと言う意見も出ておってな。

 そして各隊長、さらに私と一護の意見も取り入れられてお前たちへのご褒美が決まった。

 まず山本、12席に昇格。 

 もっと上でもいいのではとの意見もあったが、お前の日頃の事務処理の関係が問題になってな…」

 

 そう、山本は天才肌でなんでもできるのだが事務処理はてんでやる気を出さず遅々として進んでいないことがほとんどだった。

 苦笑いのツナと獄寺。

 

「次に獄寺、11席だ。

 9番隊の席官を倒したこと、日頃の事務処理や任務での功績も加味されたが、お前の場合は最初の頃よりは落ち着いたが多少振る舞いも改めてもらいたいところであるな。

 わたしたちや沢田たちだけではなく、誰にでももう少し優しくしてやってくれ。」

 

 隼人が照れ臭そうにほおをかく。

 あまり認められ慣れていないが、それでも最近は素直になってきたところだ。

 

「最後に沢田、二形態の卍解の使い分けも驚かれたが、それ以上に最後の大技が話題を呼んでいたぞ。

 だぶるいくすばぁなぁだったか?

 志波の技も大したものだが、沢田のも隊長クラスの技と絶賛されていた。

 そして、日頃の他の隊士たちへの優しさや気配り、獄寺や山本にいうことをきかせているのも見事なものだ。

 よって沢田、お前を10席へ命ずる。」

 

 席官への昇任。

 なかなかやろうと思ってできるものではないが、なおかつ末席ではなく中盤のポジションだ。

 

「当然、おまえらへのやっかみもあるだろう。

 しかし、それだけの実力を示したと言うことだ。

 胸を張るがいい!」

 

 朽木隊長からの激励で締められた祝勝会。

 だけど俺たちはこの時何も気づいていなかったんだ。

 実力を示し、卍解を習得したとはいえ、なぜ10席に昇格したのか。

 俺たちを待ち受けるものに。

 そして再び、俺たちの炎が引き合っていることに。

 

 

 俺たちは、自らの業と向き合うことになる




 のんびりやらせていただいております。
 次回から新編・因果虹炎編を始めますのでちょっと短くしました。


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因果虹炎編
24話


 昏い、どこまでも続いていて光を飲み込むほどの闇。

 何もない暗闇かと思われたがそうではなかった。

 

「…フ、生粋の破面とやらも大したことはありませんでしたね。

 あっさりやられてしまうとは情けない。」

 

「いやー、相手が悪かったと思うよ。

 愛染くんを倒したあの黒崎一護くんが相手だからね♪」

 

「ハッ、カスがやられた。

 それだけのことだ…」

 

 三者三様の意見の話題は一護に倒された破面、ジョニー・ハードロックのことだった。

 つまりこの声の主たちがジョニーを現世へ送り出したということだ。

 そして声の主たちが闇のさらに奥を見つめる。

 

「まだ彼の目覚めは遠そうですね。

 有象無象の魂だけでは埒があきません。

 一狩り行きましょうかね…かまいませんか?」

 

 その声に沈黙を保っていた存在が答える。

 

『カマワナイ。

 アァ、嫉妬モツレテイケ。

 ヤツラガクレバ宣戦布告シテコイ強欲。」

 

 そして強欲と呼ばれた者の足跡は闇に吸い込まれていった。

 

 

 ところ変わって十三番隊舎。

 それぞれ席官になったツナたち、業務量は格段に増えたのだが…

 

「終わったー!

 ボスの時の事務処理に比べたら余裕!」

 

 ボンゴレボスの時の事務作業は六徹くらいの時もあったなぁとしみじみ感じるツナ。

 今は業務時間内に全ての作業を終わらせられている。

 元々容量の良い獄寺は当然として、山本もなんとか30分程度の残業でこなしていた。

 

 席官任命から半年、頻繁に現世で虚討伐に行くことはあったが、脅威にされていた破面の出現の報告はなかった。

 そう思っているとツナの執務室に隼人が入ってきた。

 

「十代目、今晩ご予定はいかがですか?」

 

「なにもないよ?

 どうしたの隼人?」

 

 キョトンとするツナに辺りを見回すと声を潜めて話を続ける。

 

「実はお話ししたいことが…

 山本も誘って個室のある居酒屋を予約してます。

 詳しくはそこで。」

 

 少年時代の無鉄砲さは形を潜めたが、物事をはっきり口にする隼人にしては珍しく歯切れが悪い。

 厄介ごとか

 瞬時に感じ取ったツナは仕事道具を片付けると二つ返事で了承し、私邸へ着替えに向かった。

 

 3人とも普段着用の和服に着替え、店に集まっていた。

 ツナは明るめの茶色、隼人は黒地に赤色の刺繍で豹が描かれており、武の水色の和服には燕の模様があしらわれていた。

 

 3人で仕事の労を労い、ちびちびと肴に仕事の愚痴を言いながら酒を入れていく。

 生きていた頃からの3人の飲み方は変わらない。

 そして小一時間ほど経ったころにツナが切り出した。

 

「隼人、話があるんだよね?」

 

 和やかだった雰囲気が一瞬で張り詰める。

 

 隼人は恐る恐る口を開く。

 

「俺たちの任官の件です。

 確かに隊の中で卍解を使えるのは隊長、副隊長を除いて俺たちだけです。

 ですが、それだけで死神になって4、5ヶ月だった俺たちを席官にするでしょうか?」

 

 隼人のことなに眉を顰めるツナ。

 

「違うって言いたいの?

 隼人のことだから、この話を俺たちにするだけの根拠を掴んでいるんだよね?」

 

 ツナは目で、さぁ話せと訴える。

 隼人は一瞬言いづらそうにしたが、次には覚悟を決めて口を開いた。

 

「…実は、新人トーナメントの直前に任務に出た席官数名が消えているんです。

 変な噂が立たないように長期任務の扱いとなっていますが、当人たちがいた部屋は秘密裏に荷物を整理されています。

 そして消えたのは8番隊の7席、8席。

 9番隊の13席、15席。

 そしてうちの、10席、11席、12席。」

 

 武が思わず立ち上がる。

 

「なんだよそれ!

 俺は3年もこの隊にいるんだぞ!

 気づかないわけがねえ!」

 

 武が動揺するのも織り込み済みなのか、冷静に隼人が続ける。

 

「落ちつけ山本。

 お前も長期任務で一年くらい帰ってこないやつを見たことがあるだろ。

 現世駐留とかって言われたら誰も違和感を持たねえ。

 そんでもって俺らの出した結果だけを見ればどう考えたって功績を認めてって話になる。

 実際の意図だけは上の人間に聞いてみないとわかんないけどな…」

 

「ですって。

 その辺どうなんですか?副隊長。」

 

 ツナの言葉にハッとする二人。

 

 集中きて感知してみれば、わずかだが障子の向こうに一護の霊圧を感じた。

 

「バレちまったか。

 バレねえようにかなり霊圧を抑えてたんだがな。

 それが見透かす力、ボンゴレの血ってやつか。」

 

 後頭部をかきながら一護が個室に入ってくる。

 

「そこまで知ってるんだったら、俺たちが生前何者だったかもわかってますよね?

 てか、なんで知ってるんですか?」

 

 いつもの柔らかい空気でもなく、戦闘時のような空気でもない、言うなればボスとしての威圧感をツナから感じた一護は誤魔化そうと考えていたのをやめて正直に話すことにした。

 

「京楽さんに聞いた。

 雲雀の生前の知り合いって噂だけならなんも思わなかったんだけどな、あいつが素直にいうこと聞くってなると別だろ。

 それに卍解の修行見てても明らかに戦い慣れしてやがるから一般人な訳ないと思ってな。

 そんで少し調べた。

 悪かったな。」

 

 一護の言葉に嘘がないとわかると圧はすぐに消えた。

 

「そんじゃ次は俺がお前らの疑問に答えねーとな。

 失踪については、事実だ。

 正直生死も確認できてねえ。

 いなくなった奴らは情報収集に長けたやつでな。

 虚圏への偵察任務に行ってんだ。」

 

 虚圏(ヴェコムンド)

 それは破面たちが住む虚の世界。

 常に夜の世界であると言われている。

 

 それはつまり

 

「破面絡みってことですよね?」

 

「あぁ、間違いねえ。

 今は何が起こっているのかわかんねえ。

 隊長格ですら行くことを禁じられてる。

 現状はどうしようもねえ、が。

 もし何か起こった時に先遣隊としては卍解を習得したお前らが行くことになるだろうな。

 確かに穴埋めって思うかも知れねえが、もしもの時にお前らならなんとかできる、自信を持って送り出せる奴らだって信じてるからルキアと俺はお前らを席官に押したんだ。

 そこだけは信じてくれ。」

 

 この人ほど真っ直ぐな目でこっちを見てくれる人は他にはいない。

 裏社会で多くの人間と物理的に、また精神的に戦ってきた3人にはそれだけで一護を信じる理由としては十分だった。

 

「分かりました、黒坂副隊長。

 期待に応えてみせます、俺たちに誇りにかけても。

 仲間の、あなたからの信頼も俺たちの誇りですから。」

 

 ツナの言葉を聞いた一護は、生意気言うじゃねえかと笑いながら酒の席に加わった。

 本当の意味で仲間になった瞬間だった。

 そして決意を新たにする。

 いつ何が来てもおかしくない。

 再び修行を始めたツナたち。

 しかし、現実は物語よりも奇なり、というやつだ、

 飲んだ一週間後の出来事だった。

 

 

 緊急伝令!緊急伝令!

 並森町にて、大量の死傷者発生!

 霊圧計測の結果、中級以上の破面2体と断定!

 黒崎副隊長、沢田10席、獄寺11席、山本12席は至急一番隊に集合願います!

 

 準備を整えて5分後には全員が集まった。

 

 

「ごめんねぇ、今動ける人が君たちしかいないんだ。

 それに場所は君たちの故郷っていうじゃない、しっかり守っておいで。」

 

 京楽の言葉に気合が入る。

 

 そして現世に降り立った四人が見たのは地獄絵図だった。

 付近の家屋は火事に飲み込まれ、人々は悲鳴を上げていた。

 そして何十もの虚が人々を襲っていた。

 だが、一護を驚愕させたのはそこではない。

 ツナが、怒っていた。

 表情は前髪に隠れていて見えないが、怒気が霊圧となって溢れ出し、周囲の外壁を砕いていく。

 

「…武、小次郎で火を消して。

 虚は、俺が殺す。

 隼人、ごめんけど京子たちの様子を見てきて。

 副隊長、卍解禁止で霊圧抑えろって言われましたけどすみません。

 抑えきれません。」

 

 

 そういうと、ツナは瞬歩で上空へ飛ぶ。

 そして、

 

 

「卍解!凍獅子死炎丸!

 霊圧知覚全開、ターゲットロック!

 零地点突破ファーストエディション・乱れ雪!」

 

 ツナの霊圧が吹雪となり、触れた虚を氷漬けにしていく。

 呆気に取られていた武と隼人も動き出す。

 一護も次々と虚を切り倒していく。

 そして全ての虚を氷漬けにしたところで、空間が開いていく。

 中から二人の破面が出てくる。

 上下真っ白な衣装、二人とも多少のデザインの違いはあるもののほぼ同じと言っても良かった。

 そして特徴的なのは顔を覆う仮面、わざと被っているような仮面だった。

 一人は意地汚い笑いを浮かべた仮面、もう一人はムンクの叫びをより悲壮にしたような仮面だった。

 

「おや?おやおや?

 なんということでしょう、まさかこんなにも早く現れるとは!

 君たちが出てくるのを待っていましたよ、ボンゴレ十代目。

 我々はセッテペッカート。

 我が名は強欲、隣の男は嫉妬。

 以後お見知り置きを、と言っても無駄ですね。

 あなた方はここで死ぬのだから。」

 

 十刃とも違う新たな破面の集団ということなのか?

 疑問を考える一護だが、その思考をツナが遮る。

 

「お前たちが誰だろうと関係ない。

 何が目的か知らないが、関係のない人を傷つけたことを後悔しろ!」

 

 その額には炎が灯る。

 卍解・天獅子死炎丸

 ツナは既に臨戦体制でいた。

 そして先手必勝と言わんばかりに突っ込むが直線的すぎたためカウンターを食らう。

 地面に叩きつけらる前に炎で体制を立て直す。

 そして強欲から、聞き覚えのある笑い方が聞こえてきた。

 

 

「…フッ。

 フフフフフ。

 クッフフフフ、愚かですねぇ、ボンゴレ十代目。

 あまりノロノロしてるとグサリ、ですよ。」

 

 そして強欲がゆっくりと仮面を外す。

 そこにいたのは

 

「なっ、お前は!

 なんでお前がそんな格好でこの街を傷つけているんだ!

 答えろ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 六道骸!」

 

「気安く名前を呼ばないでください、マフィア風情が。

 いえ、今は死神風情が、が正しいですかね?」

 

 そこにいたのは藍色のナッポーヘアー、霧の守護者の片割れ六道骸だった。

 

 



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25話

「なんでだ…!

 どうしてこんなことをしてるんだ…

 答えろ!

 

 

 

 

 骸!」

 

 ツナの叫びが並森の空に響く。

 かつての自分の守護者が、破面として牙を剥く。

 

「何度も同じことを言わせないでください、ボンゴレ10代目。

 気安く僕の名を呼ぶな、マフィアの分際で。」

 

 かつて黒曜ランドで初めて向かい合った時のような冷たい殺気。

 自分はファミリーではないと言いながらも、時に守り合い、時に酒を酌み交わした時の温かさはまるで感じなかった。

 

 俺にファミリーは、友は殴れない…

 

 ツナの炎は次第に小さくなり、形として卍解を維持してはいるがまるで始解程度の力しか出なくなっていた。

 そこへ骸が霊圧を込めた有幻覚の火柱でツナを焼こうとする。

 炎の逆噴射でかろうじて避けるツナ、しかし次第に袖や、髪を焦がしていく。

 

「おやおや、かつて僕を倒したことのあるマフィアのボスがこの程度とは。

 君の肉体をまた手に入れる算段でしたが、その程度では不要ですね。

 いや、今は魂だけの状態でしたね、クハッ。」

 

 今の骸はツナを相手にして笑う余裕がある。

 右目を覆う虚の面の中から赤い瞳が光る。

 そこへ卍解した一護が突っ込んで骸と鍔迫り合いになる。

 流石の骸も一護相手に幻覚を維持できないようで火柱が瞬時に消える。

 

「来ましたか、黒崎一護。

 彼らと共にあなたが来たのは嫌な誤算でした。

 あなた相手では、僕も手加減ができませんからね。」

 

「うるせえよ。

 テメーが誰だか知らねえが、うちの部下馬鹿にしてんじゃねえよ。」

 

 そういうと、刀身に月牙を纏い骸を弾き飛ばす一護。

 そして地面に叩きつけられた骸の首に刃を添える。

 

「答えてもらうぜ、テメーは愛染の手下の生き残りか?

 それとも別もんか?」

 

 しかし骸の表情は変わらず不敵な笑みを浮かべていた。

 

「やれやれ、虚化もせずにこの強さとは…

 男子3日会わざればかつ目してみよ、とは正にこのことですね。

 ジョニーハードロックとの戦闘データも当てにはならなさそうだ。」

 

 ジョニー、つまりあの破面はこいつが…!

 

 その時上空から殺気を感じた一護はその場から飛び退く。

 次の瞬間、その場には一振りの剣が刺さっていた。

 

「…六道骸、黒崎一護の相手は私がしよう。

 貴様はあれの回収を…」

 

「おやおや、やはりあなたも剣士ですね。

 わかりましたよ、雑用は僕が引き受けましょう。」

 

 そう言って霧の中に消える骸。

 

「私も生前は剣士として多くの者と立ち会ってきた。

 貴様の剣、見せてもらおうか。」

 

「わりーけど、ご期待には添えそうにないぜ。

 一瞬で終わらせる。」

 

 そして嫉妬と名乗る破面と一護がぶつかり合う。

 

 

 場所は変わり並森墓地。

 そこは骸は降り立っていた。

 そして、以前とは比べ物にならないほどツナの墓からはオレンジ色の炎が噴き上がっていた。

 骸は墓を蹴り倒すと骨壷の中から肋骨を拾い上げる。

 

「神はアダムの肋骨からイヴを作り上げた。

 そして肋骨にはその者の起源が宿る。

 クフッ、どうにも馬鹿にできない話ですねえ。」

 

 それを持ち去ろうとする骸の前にツナが追いつく。

 

「骸、俺の墓から骨を取り出してなにをするきだ!」

 

「答える必要はありませんが…まぁ、いいでしょう。

 見ての通り君の遺骨は生命エネルギーを垂れ流している、それも莫大な量をね。

 そして、肉体と魂が近づく時その力は跳ね上がる。

 その力を少し借りるだけですよ、彼を目覚めさせるためにね。」

 

 彼?

 いかぶしむツナの表情を見た骸は

 

「おっと喋り過ぎてしまいましたね。

 僕はこれで帰るとしましょう。

 もっとも、君が立ちはだかるのなら別ですがね。」

 

 相手は骸だが、何かを企んでいる以上そんなことは言っていられない。

 

「お前は俺が止める!

 卍・解!」

 

 再び天獅子死炎丸になるツナ。

 しかし、やはり霊圧はそれほど上がらない。

 

「クフフ、君の卍解はなんとも矮小ですね。

 その霊圧をみればかろうじて至っていると言うのが丸わかりですよ。

 どれ、遊んであげましょうかね。」

 

 その仮面を闇色のオーラで覆い、骸の刀とツナの拳がぶつかり合う。

 何度か撃ち合うが

 

「惰弱な。

 そんなもので僕を倒せるのですか?」

 

 とうとう地面に叩き落とされる。

 霊圧の出力が違いすぎる。

 何よりツナは思うように力を発揮できていなかった。

 

「はぁ、まぁいいでしょう。

 君との遊びもこれで終わりにしてあげましょう。

 堕ちろ、輪廻」

 

 刀を解放しようとした骸が一瞬で弾き飛ばされた。

 

「…ねえ、綱吉。

 なにやってんの?」

 

 刀を振り抜いたままの恭弥が立っていた。

 喋ることままならないツナに再び語りかける。

 

「君の炎は、仲間を守る時に燃え上がる。

 だから骸の姿をしたあれを前に死ぬ気で戦うのなんかできないはずだよ。

 破面の霊圧感知の報告を受けて飛び出してきて正解だったね、あとは僕に任せな。」

 

 そして骸に向き直る恭弥。

 

「おやおや、アヒル君…雲雀恭弥ですか。

 もう一度、僕が桜を咲かせて跪かせてあげましょうか。」

 

「よく喋る南国果実だね。

 生前はファミリー内での不殺の掟なんてのをボスが作ったから困ってたけど、今ならいいよね。

 六道骸、君を噛み殺す。」

 

 

 



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26話

「六道骸、君は僕が噛み殺す。」

 

 現霊術院学長にしてボンゴレ十代目ファミリー最強の雲の守護者、雲雀恭弥が始解したトンファーを構える。

 

「クフフ、死んでもその武器で戦うのですね。

 思い出してください、雲雀恭弥。

 いかに並中ケンカランキング1位だった君でも、結局僕には手も足も出なかったじゃないですか。」

 

「ワォ、随分と懐かしい話を出してくるね骸。

 確かに本気で殺し合ったのはあれが最後だったからね。

 主にうちのボスのせいで。」

 

 そう、ファミリー時代に喧嘩っ早い連中(主に恭弥と骸、ヴァリアー)が私闘をちょくちょく繰り広げてくれていたおかげで本部を壊しまくられて、修繕予算が莫大になりツナが不殺の掟という名の私闘禁止ルールを定め平和に余生を送ったと言う心温まるエピソードがあったりしていた。

 

「クフフ、何を言っているのかわかりませんが…

 ボンゴレ十代目の前にあなたから消してあげましょうかね。」

 

 そしてぶつかり合う恭弥と骸。

 何度も激しい打ち合いが行われるが、次第に劣勢になるのは骸だった。

 

「おやおや、随分と腕を上げたようだ。」

 

「?

 君一体何を言っているんだい?

 とうとうその頭のヘタに養分吸い取られてボケたのかい?」

 

 ブチっ!

 

 なにかがキレる音が鳴り響いた。

 

「いいでしょう、雲雀恭弥!

 君には手加減は必要なさそうだ。

 僕を怒らせたことを後悔しながら魂を食べられるといい。」

 

 骸はそう言うと刀を自らの右目に当てる。

 

「堕ちろ!輪廻…」

 

「オチツキナヨ、強欲。」

 

 その声が聞こえた刹那、卍解を解いていたツナが地面に叩きつけられる。

 ツナの上には誰もいない。

 しかし明らかに何かの力が働いていた。

 

「おやおや、今日は随分と刀剣開放を邪魔されますね。

 しかしまさかあなたが出てくるとは思いませんでしたよ、暴食。」

 

 暴食と呼ばれた男はその名に反して細身だ。

 白い服は学ランのようで、巨大な口を開けた仮面をかぶっている。

 隙間から見える髪の毛は赤毛だ。

「僕も出るつもりはなかったんだけどね、死神になった守護者たちが集まっていたから挨拶に来たんだ。

 だけど、僕らは強くなりすぎたみたいだ。

 まさかこの程度で立ち上がれなくなるとは思わなかったよ。

 その点君はさすがだね、雲雀恭弥くん。

 まさか始解のままで抗えるなんて。」

 

「…この力、覚えがあるよ。

 まさか君までそっちについているなんてね、もう一人の小動物。」

 

「懐かしいな、君にはそう呼ばれていたね。

 相手をしてあげてもいいのだけど、今日は忙しくてね。

 もしその気があるのなら僕たちの聖域、虚圏までおいでよ。

 あと3ヶ月は何もしないから、それまでにもっと強くなっておいてね。

 じゃあね…ツナくん。」

 

 地面にうずくまりながら暴食と呼ばれた男に手を伸ばすツナ。

 

「待て…待てよ!

 なんでお前までそっちにいるんだ!

 言えよ!

 

 

 

 

 炎真!」

 

 ツナの叫びは破面達がいなくなった、雨空に響いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 それから2日後のソウルソサエティ。

 隼人と武は無事だったものの、ツナは体のダメージと心のダメージが共に大きく入院していた。

 

「どういうことだ雲雀!

 敵の、破面の正体が骸と古里炎真だと⁈

 なぜ守護者と同盟ファミリーが死んだ後に牙をむいてんだ!」

 

「落ち着けよ獄寺、雲雀もわかんねーだろ流石に。

 でも雲雀、本当にあいつらで間違いねーのか?」

 

 隼人と武は心の中でそれが真実だとわかっていた。

 そうでなければ体のダメージはともかく、ツナが心にまでダメージを負う説明がつかない。

 雲雀は一つため息を落とすと、そっぽを向きながら話す。

 

「落ち着きなよ隼人。

 今死神のファミリーの中で一番長生きしてたのは君でしょ。

 少なくとも君が死ぬまで彼らは生きてたの?」

 

「…それは間違いねえ。

 十代目の通夜で二人とも顔を合わせてるからな。」

 

「なら、あの二人本人である可能性は薄い。

 だけど、あの破面が魂の一部は保有してると見るべきだろうね。」

 

 武が首を傾げる。

 

「多分武はわかんないだろうから隼人が理解して。

 破面はどんな虚でもいきなりはならない。

 多くの魂を食べて成長した末の姿だからね。

 だからここ一年以内に死んでてもあんなことにはならないはずだよ。

 もちろん彼は特殊な人間だから断定はできないけどね。」

 

 つまり、現状は何もわからないと言うのが一番正確な話だ。

 そこへ一護が割り込む。

 

「恭弥、つまりなにか?

 あの破面どもはお前らの知り合いだけど本人かどうかは断定できねえってことだな。

 その二人の力を教えてくんねーか?」

 

「そうだね。

 まずはパイナップルヘアーの六道骸。

 あいつは六道輪廻全ての世界を回った記憶があってその力を使える。

 あとは幻術だけならこの世界でも三番の指に入る術者で格闘もできる。

 次に赤毛の古里炎真。

 彼の力は僕たちの使う大空の7属性と対をなす大地の7属性の炎を使う。

 7属性の炎ってのは綱吉が大空、隼人が嵐、武が雨、僕が雲でそれぞれの力が天候になぞらえられているんだ。

 綱吉は卍解で見せた調和、隼人が分解、武が鎮静。

 そして古里炎真が使う大地の炎は重力を操る。

 だから、最後に謎の力が働いたのは重力操作だよ。」

 

「マジかよ…それならまだまだ強くならねえと戦いにならねえぞ。

 それに沢田、あいつの心にダメージってのはシャレになんねえレベルだからな。

 なんかしてやらねえと。」

 

「はーい、ちゅうもーく。

 おじさんから発表だよ。」

 

 そこに来たのは京楽。

 

「綱吉君なら大丈夫だよとっておきの人達が来てくれてるからね。

 それから、破面の話聞いたよ。

 攻め込む時はお前さんたちの力も借りるからもっと強くなってもらわないとね。

 だから個別にパワーアップしてほしいんだ。

 一護くんは別メニューね。

 雲雀くんは、なんとかなるでしょ。

 獄寺くんと山本くんは稽古を別の隊の隊長に頼んでるからね。

 あ、あと君たちには彼らを鍛えてほしいんだ。」

 

 そして奥から新たに二人の死神が入ってくる。

 その姿を見てボンゴレ守護者たちが驚く。

 

「お、お前らは…」

 

 

 ツナはベッドに座り日が暮れる空を眺めていた。

 手も足も出なかった。

 それに、また骸と炎真と戦わないといけないだなんて。

 かつて命懸けの戦いを超えて友となった二人を、死してまた殺さねばならない。

 ツナの心は引き裂かれそうだった。

 その時背後から抱きしめられた。

 柔らかい、人の温もりを感じて我に帰るツナ。

 

「…1人で、苦しまないで。

 どんなことも私が受け止めるから…

 

 ボス。」

 

 ボス。 

 女性の声でそう呼ぶ人間は俺が知る中でただ1人。

 後ろを振り向けないまま声を絞り出す。

 

「…なんで、ここにいるの。

 俺が死ぬ前に、長く生きて子供たちを見て、戦いのない世界で幸せに過ごしてって約束したじゃないか!

 なんでもう、こんなところに来てるんだよ、凪!

 

 

 いや、クローム髑髏!」

 

 ツナの背中にいたのはかつての霧の守護者の片割れ、クローム髑髏だった。

 なんでこんなに早く死んでこっちに来ているんだ。

 ツナの頭はいよいよ限界だった。

 

「ったく、死んでも相変わらずだな。

 なんの因果か他の守護者たちもここ最近死んでこっちに流れてきてるんだ。

 やはりお前らは、危機を乗り越える時に引き合う定めなんだろうよ。」

 

 病室の入り口から声が聞こえた。

 相変わらずきっちり黒スーツに身を固め、ボルサリーノの鍔で目元を覆っている。

 

「なんでお前までここにいるんだ、リボーン⁈」

 

「チャオ、ダメツナ。

 相変わらずCHAOSなことに巻き込まれてんな。

 死ぬ気になる時間だぞ。」

 

 そこにいたのはツナの家庭教師、世界最強のヒットマンにして黄色のアルコバレーノ、成長したリボーンだった。



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27話

「獄寺、ちょっと来い。」

 

 隼人が執務中に呼ばれたのは、京洛から修行を言い渡された2日後だった。

 修行の前に残った事務を片付けるべくツナと武、隼人はそれぞれ事務机に向かっていた。

 残るメンバー、新規に追加された人物たちは一旦置いておくとして、この時一護に声をかけられた理由になんとなく見当がついていた隼人は黙って立ち上がった。

 そして一護の執務室へ入り5分の沈黙が続く。

 お互いに互いが何を聞きたいのか理解している二人だが、内容が内容だけに踏み込むタイミングを窺っていた。

 

 しかしいつまでも黙っているわけにはいかない、一護が切り出す。

 

「忙しいのに呼んじまって悪いな。

 お前に聞きたいのは」

 

「わかってます。

 十代目、沢田十席の事ですよね。

 俺たちもどこから説明していいのか、困ってまして…」

 

 一護はこんなにも言い淀む隼人を見たのが初めてだった。

 故に事はデリケートであることを窺わせた。

 だが、事態は急を要する。

 

「長くなっても構わねえ、始めから聞かせてくれ。

 一体どうしちまったんだ沢田のやつは?

 後四六時中ついて回ってるあの藍色の髪のお嬢ちゃんは誰なんだ?」

 

 そう、あの翌日からツナの背後には見慣れない死神の女性が付き従っていた。

 一見して地味、しかし可憐さと儚さを持つ、そんな美しさを持った女性であった。

 女性の表情は気恥ずかしさを纏っているが、その頬の紅潮が好ましい感情であることを周囲に示していた。

 一方ツナといえば、とにかく顔色が悪いの一言に尽きた。

 嬉しさ反面、苦悩するような表情を浮かべたかと思えば絶望したかのような表情を浮かべ周囲の隊士からは死相が浮かんでいるとまで言われているほどだ。

 一護も一日寝れば元に戻るだろうと思っていたが蓋を開ければ2日以上続いていた。

 残務が片付き次第、ある場所へツナたちを連れて行くつもりだった一護は問題解決を優先することにしたのだった。

 

「沢田ぁ!

 今晩空いてるか?空いてるな?

 サシで呑むぞ、安心しろ俺の奢りだ。

 悪いなお嬢ちゃん、こいつ借りるぞ。」

 

 ツナの執務室に入るとツナだけではなく付き従うように件のクロームドクロがいたためそのように声をかけた。

 

 そして時は過ぎ夕方、個室のある店にツナを引き摺り込んだ一護は酒をちびちびと飲みながら語りかける。

 

「無理矢理に誘って悪かったな沢田。

 お前と腹割って話したくてな。」

 

「いえ…

 あの、副隊長…今日呼ばれたのって、クロームの事、ですよね?」

 

 流石に察しはつくか。

 前置きをやめて面と向き合う事にした一護。

 

「なかなか察しがいいな。

 先に謝っとくが、大体は獄寺に聞いた。

 今は大事な時期でお前は戦力だ、だから俺が無理矢理に聞いたんだから獄寺はむしろ被害者だから責めてやるなよ。」

 

「はい、あいつは俺の右腕ですから。

 きっと気を使って話したんでしょう。

 そうですね、副隊長にはお話ししとかないとですね。」

 

 そしてツナの口から過去が語られ始めた。

 

 まだ二十代の頃、それこそ京子と結婚の話が出ていた頃のことだ、

 とある友好ファミリーとの食事中、ボンゴレボスの妻の座を手に入れるため、友好ファミリーのボスの娘が料理に強力な媚薬を入れた。

 うっかり超直感が発動せずその料理を食べてしまったツナは発情してしまったらしい。

 その時護衛として付き従っていたクロームが異変に気づき真実が発覚、そのボス令嬢をからツナを引き剥がしたが時すでに遅し、発散しなければ過剰なホルモン分泌で死に至る可能性すらあった。

 ツナの鋼の理性が崩れかかっていた時に、ツナに好意を持っていたクロームが相手になりツナを救ったと言うことだった。

 当然、ツナとしてはクロームも妻に迎えて責任を取るつもりだったが京子との結婚話を公表しており、伝統あるマフィアのボスが側室を持つなどマフィア界ではありえないことだった。

 そして、クロームがツナの子を授かってしまった。

 クロームは出産、子育てで子供が5歳になるまでは表から姿を消した。

 その間は骸が一人で霧の守護者を務め、ツナの追及にも関わらず頑としてクロームの居場所を答えなかった。

 

『綱吉くん、全てを明かすには時期尚早です。

 しかし、クロームは君のために姿を消したとだけ言っておきましょう。

 その意味を、考えなさい。

 僕は君の守護者で友ですが、それ以前にあの子の家族です。

 あの子が僕の最優先であることを、お忘れなきよう。』

 

 そういった骸だが、6年後に答えを知った時にはツナは京子と結婚し子供をもうけていた。

 全てを知った後も常識破りと言われようともクロームを妻に迎えようとしたが、クロームは首を縦には降らなかった。

 そして、ツナは代わりに可能な限り父親としてクロームの子と接する時間を作り、愛することにしたのだった。

 

「これが彼女との全てです。

 俺は死に際に、彼女の幸せを祈り、長生きして世界を見守ることを願いました。

 だけど、こんなにも早く彼女はこちらへ来てしまった。

 俺の家庭教師が言うには、守護者として引き合ったが故だそうです。

 俺は、彼女の幸せを全て奪ってしまったんです。」

 

 涙を流しながら話し終えたツナ。

 事前に聞いていたにしろ、やはり凄まじい内容であることに変わりはない。

 

「沢田、お前の過去はわかった。

 それであの様子も納得だ。

 で、お前はどうしたい?」

 

 弾かれたように首を上げるツナ。

 

「お、俺は…

 許されるなら、彼女のそばにいたい!

 今度こそ幸せにしたい!」

 

「そうか、一応席官はこっちでは準貴族の扱いだ。

 正妻と第二婦人って形で暮らしてる人たちもいるにはいる。

 その上で聞くが、お前はどうしたい?」

 

 ツナは呆けた顔をした後に真っ直ぐ一護を見据えて言った。

 

「もし許されるなら、死後の世界でもあの子を幸せにします!」

 

「だとよ。

 聞いたな織姫、お嬢ちゃん。」

 

 一護がそう言うと個室の扉が開き織姫と泣きじゃくるクロームが入ってきた。

 

「わりいな、おっさんが余計な世話焼いたぜ。

 会計は俺につけといてくれって店主に言ってある。

 あとは二人でゆっくり話な。」

 

 そう言って一護は織姫を伴って店を出て行った。

 ツナはクロームに声をかけようとする。

 

「あの、クローム、」

 

「ごめん、なさい。

 私があなたの、ボスの心に、思い十字架を背負わせてしまった…」

 

 泣きながら語るクローム、この時ツナは苦しんでいるのが自分だけではないことにようやく気がついた。

 そしてゆっくりと抱きしめる。

 

「そんなことない!

 むしろ俺の方こそ!

 もう俺たち死んじゃってるけど、それでも俺は君を今度こそ幸せにしたい。

 俺と、生きてくれ。」

 

 ハッとしたクロームが泣き止む。

 そしてそれはそれは綺麗な笑顔で

 

「se!

喜んで、ボス。」

 

 2人は儚く明けていく夜を語り明かして過ごしたのだった。

 

 そして翌朝。

 隊の朝礼が始まった。

 司会は一護だった。

 

「お前ら新しい隊士を紹介するぞ。

 お前ら出てこい。」

 

 そしてまず出てきたのはクロームだった。

 

「コイツはクローム髑髏、」

 

 紹介しようとした一護を手で制したクローム。

 

「否、我が名は凪。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 沢田、凪。

 そこにいる沢田綱吉の霧の守護者にして、妻。」

 

 一般隊士は当然のこと、隼人と武だけではなくツナも度肝を抜かれたのは言うまでもなかった。




 なかなか好みの分かれる展開なのは承知の上ですが、本作のメインヒロインということでご納得ください


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28話

先日BLEACH原画展に行って参りました。
織姫さんの「人生が後5回あったらよかったのにな〜」のくだりが最推しでその原画の前で泣きそうになり、モチベーション上がったのでぼちぼち書きます。


「オイ、ダメツナ。

 話が進まねえからシャキッとしやがれ。」

 

 クローム、もとい凪の沢田姓名乗りの衝撃から回復しないツナの後頭部に土踏まずがフィットし、ツナは宙を舞った。

 隊の朝礼に乱入してきた男を見た一護が盛大にため息をつく。

 

「リボーン、沢田はお前の元生徒なんだろうが、ここではそいつも一応席官っつー幹部だ。

 あんまりぞんざいに扱うんじゃねーよ、下の奴らに示しがつかねーからな。」

 

「わかってるぞ一護。

 だがこいつはこういうことでフリーズすると復旧までなげーんだ。

 クロームのことで手一杯だったこいつには他の守護者のことと持ってきた土産についても話しとかねーとならねえ。

 3ヶ月しか時間がねえなら、なおさらにな。」

 

 そうリボーンがいうとツナに向き直る。

 

「いいか、よく聞けツナ。

 死んでこっちにきたのはクロームだけじゃねえ。

 了平、ランボも来て今は雲雀のところで始解の修行を始めさせてる。

 もちろんこの後からクロームも参加だぞ。」

 

 衝撃を受けたツナ。

 他の、ファミリー最高幹部までも命を落とし、この死後の世界での新たな戦いに巻き込まれようとしている。

 そして、この因果の鎖に巻き込んだのは、自分だ。

 

「そんな…俺のせいでみんな…」

 

 そう呟くツナの胸ぐらを掴み鼻と鼻が触れ合うほどの距離まで顔を近づけるリボーン。

 

「悲劇のヒロイン症候群か?

 変わらねーなダメツナ。

 確かに、あいつらは守護者の宿命で引き寄せられた関係で命を落としたのかも知れねえな。

 だが、獄寺も山本も最近こっちにきた奴らだって誰も後悔なんてしてねえ。

 なんなら新しい戦いに備えて修行を始めてるぞ。

 今お前がやるべきなのは悲嘆に暮れることじゃねえ。

 ボスとして、あいつらの信頼に応えることだぞ。

 昔俺が言ったことを忘れやがったか?

 お前は物語の主人公になんてなれねえんだ。

 京子を守ったミルフィオーレとの戦いで初めて炎をリングに灯した時、何を願った?」

 

 そしてツナは自分の原点へと立ち返る。

 

「…あの時は、ただ京子を守りたかったんだ。

 そうだよな、リボーン。

 死んでも、俺のやることは変わらない…」

 

 そして斬魄刀に橙色の炎が灯る。

 

「俺はみんなを守るんだ。

 ガムシャラに、死ぬ気で!」

 

 そのツナの様子を見てニヤリと笑うリボーン。

 

「多少はマシな顔つきになったな。

 さて本題を話す、つもりだったが朝礼が終わるまでは待つぞ。

 終わったら隊長室に来い。」

 

 そして颯爽と出ていく家庭教師。

 その後何事もなかったように一護が朝礼を終わらせる。

 

 そして一護に連れられ隊長室へ向かうことになった。

 

「すみません副隊長、リボーンのやつ大体に馴れ馴れしくて。」

 

「気にしてねーよ、俺も大概だからな。

 一応リボーンからこのあとのことはある程度聞かされてる。

 まぁ、お前も聞いたらある程度何をするかわかるさ。」

 

 そして隊長室へ着いた2人をリボーンが迎える。

 

「きたか、2人とも。

 隊長殿には席を外してもらったぞ。

 そんでまずはおれがきた理由から説明するぞ。」

 

 そしてリボーンはツナの前に持ってきたアタッシュケースの中身を見せる。

 そこにはそれぞれの属性の色をした琥珀が置かれていた。

 

「これは便宜上、虹の欠魂(カケラ)と呼んでる。

 説明が長くなるんでかいつまんで説明するが、お前らの火葬が終わってから発見されたもんだ。

 一言で言うと一緒に燃やしたアニマルリングとそこに混じったトゥリニセッテの一部、そしてお前らの遺灰やらが混ざって結晶化したもんだな。

 お前を皮切りに守護者が後を追うように死んじまってな、クロームの火葬後に骸が気付いたんだ。

 そんでまさかと思って全員の遺骨を確認したら各属性分出てきたってわけだ。」

 

 その言葉の中に聞き捨てならない言葉を聞いた。

 

「骸⁈

 今骸が生きてるって言ったのか⁈

 じゃあ、あの破面は…」

 

「そいつはわかんねーな。

 炎真も生きてるぞ。

 だから、お前らの遭遇した奴らは本人ではないのは間違いねぇ。

 だが、聞いた限り全くの偽物でもねーのは確かだが現時点では分からねえことだらけだから考えるだけ無駄だ。

 続けるぞ?

 そんでこの虹のカケラが見つかってからユニから呼び出されてな。

 アルコバレーノの名代として、こいつをお前らに届ける役目と修行を見るように言われたんだ。

 元虹の人柱である俺たちは、大空属性のアルコバレーノの要請をソウルソサエティが承諾した場合にこちらで客人として自由に動けるって掟があるようでな。

 歴史上履行されたのは初めてらしいがな。

 そんで聞く限りの強さだと、例の破面たちがレス・レクシオンした時にツナ達の今の卍解の霊圧だと太刀打ちできねえと見るが、どうだ一護?」

 

 考え込んでから一護は口を開いた。

 

「無理、だな。

 正直あいつらは開放前の状態でも以前戦った破面のトップであるエスパーダレベルの実力だ。

 もちろんエスパーダの解放前と比べてだけどな。

 今の沢田たちの卍解だと、霊圧を比べてもおそらく総力で1人倒せるくらいか…」

 

「そうか、まだ卍解を完全習得してないツナ達ではそうだろうな。

 だが、骸に炎真が出てきた上でセッテ・ペッカートと名乗ったんだろ?

 日本語で七つの大罪、と言う意味から考えればあと5人、そしてお前たちにゆかりのある人物の可能性が高いとなれば、必然的にお前らが戦うべきだと俺は思うぞ。

 なら戦うべき時だ、ツナ。

 もう一度、俺たちでお前を鍛え直すぞ。

 そのためにもこのカケラを持ってきたんだからな。

 だが、問題は使い方が分かってねーってことだな。

 こいつらはお前らのパワーアップに必要不可欠だが、別に魂に吸収されるわけでもねぇ。

 了平で試したが吸収されなくてな、なんとか加工の当てがあればいいんだが…」

 

 そう言ってリボーンはカケラを顎で示す。

 

「そいつの加工なら、俺にアテがある。

 沢田、お前もついてこい。」

 

「え、どこへ行くんですか?」

 

 首を傾げるツナに、一護は笑って返す。

 

「王族特務・零番隊。

 そしてそこにいる男、刀神・二枚屋王悦に会いにな!」

 



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29話

「頭が高い、頭が高い、すなわち、

 頭が、so-highーーーぃ!

十、九、八、七、六、五枚!

 終いに三枚、二枚屋oh-etsu!

 シクヨロでぇーーす!」

 

 零番隊・鳳凰殿まで連れてこられたツナが最初に目にしたのはやたらテンションの高いDJ風な死神だった。

 

「久しぶりだな王悦さん。

 相変わらずで何よりだよ。

今日は頼みがあってきたんだ。」

 

「随分ご無沙汰じゃないka!

 しかし、ちゃん僕に頼みがあるなんてNE!

チャン一にはあの時の借りがあるからSA!

頑張っちゃうZE!」

 

 零番隊と和やかに話す一護をみて、改めて一護の存在のデカさを感じる。

 千年血戦と呼ばれるクインシーとの戦いで英雄と呼ばれた男は伊達ではないと改めて知らされる。

 そして、不意に王悦と目が合う。

 

「なぁチャン一、この坊やはなんでここにいるのかNA?」

 

「あぁ、コイツはウチの隊員の沢田で、今回の頼みもこいつに関係が」

 

「違うよチャン一。

 チャン僕が聞いてるのは、

 なんで斬魄刀の魂をちゃんと見てない雑魚がここにいるのかって聞いているんだYO」

 

 瞬間王悦から放たれる殺気と霊圧に即座に始解して警戒するツナ。

 王悦がその場で空を掴む。

 その刹那、始解は解け、ツナの手に握られていた斬魄刀が掻き消える。

 次の瞬間、王悦の手に獅炎丸が握られる。

 

「沢田ちゃん、最初に言っておくぜ。

 アイアム、ナンバーワン斬魄刀クリエイラァー。

 十、九、八、七、六、五枚!

 終いに三枚、二枚屋oh-etsu!

 雑魚に握らす刀は無ぇ。

 てめぇの斬魄刀の魂の在り方すら理解できてねぇうちには、ここに立つ資格はねえZE」

 

 そして獅炎丸を持ち去ろうとする王悦。

 

「ま、待ってください!

 獅炎丸は、ナッツは俺の!」

 

「魂?斬魄刀?

 どっちも間違いじゃねえ。

 それが分かっているのに、何故沢田ちゃんの斬魄刀の魂は泣いているんだろうNA。

 なんで簡単にチャン僕の手元に来たんだ?

 見な、短期間でこんなに刃がこぼれてやがる。

 その意味が、魂で理解できるまでは斬魄刀はお前の元に戻らねえYO。

 考えな。」

 

 そしてツナの目の前が暗闇に包まれる。

 

「沢田!」

 

 急に意識を失ったツナに一護が駆け寄る。

 そこへ王悦が語りかける。

 

「大丈夫さ、そいつは今斬魄刀の中へ潜っている状態DA。

 チャン一、この坊やはとんでもない力を持っている。

 だからこのままじゃダメなのSA。

 何があったかはしらねぇが、あいつの魂も斬魄刀も弱ってやがる。

 その状態が理解できてねえのに、本当の卍解に辿り着くのは無理だ。

 だから今一度向き合わせるZE。

 あいつらの中に眠ってる、本当の力を目覚めさせるためにNA」

 

 かつて王悦の試練を体験した一護には、ツナが新たな力を得るために必要なことだと信じた。

 

「わかった。

 なら先にあんたへ頼みたいことの話をしたい。

 この虹の欠魂で、あいつら7人を強化する方法を考えて欲しいんだ。

 世界創造の力、魂に宿る獣、そんで持ってあいつらの遺灰と命の炎の結晶らしいんだが、魂に溶け込むわけじゃねえんだ。

 だから、斬魄刀を強化するのか、あいつらを強化するのかわかんねえがこれの存在自体に意味があるはずなんだ。

 あんたにしか頼めねえ。

 浦原さんにも聞いてみたんだが、あんたの方が適任だろうってさ。」

 

 王悦は七つの琥珀を手に取る。

 

「ほぅ、コイツはなかなかに難しいお題だNA。

 これが斬魄刀の力と融合できるようにか。」

 

 斬魄刀を作り出した男が、死ぬ気の炎という概念に触れた瞬間だった。

 

 

 

 暗い、どこまでも暗い。

 落ちていくような闇。

 ツナは自身の魂が奥底へ沈んでいくのを感じていた。

 

 そしてたどり着いたのは、落ち葉が降り積もる山の中の東屋だった。

 その東屋に腰掛ける1人の男が話しかけてくる。

 

『やっと来たか、デーチモ。」

 

「プリーモ、貴方が獅炎丸の本体ってことなんですか?」

 

 座っていたのはボンゴレプリーモことジョット。

 ツナの卍解の修行で具象化した際に現れたため斬魄刀の中にいるのは知っていたが、あらためてそう問いただした。

 

『そうとも言えるし、そうでないとも言える。

 俺は、お前がボンゴレリングを継承した時から常にそばにいる。

 そして、ボンゴレギアから元に戻した時、アニマルリングにも我ら初代ファミリーの魂が混じった。

 そしてお前と共に葬られ、魂の一部として存在している。

 だがデーチモ、いや綱吉。

 お前にはもっとも近しい相棒がいたはずだ。

 先日の霧の守護者との戦いで深く傷ついたお前と心を共有する優しき獣が。

 向き合ってくるといい。

 今の卍解は、俺の力とお前の力が混じり合ったものだ。

 更なる力を欲するなら、あの獣を従えるといい。』

 

 プリーモはそういうと再び椅子に腰掛け眠り始めた。

 この世界に着いた時から感じている。

 この森の奥に、あいつが、ナッツがいる。

 まずは何から話そうかな。

 そう考えながら一歩を踏み出した。

 



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30話

 心の森を抜けた先、滝のある場所にナッツはいた。

 

「ナッツ…」

 

 ツナの呼びかけにゆっくりと顔を上げるナッツ…

 

『…何をしにここへきた』

 

 ナッツらしく無い物言いにツナは思わず立ち止まる。

 

『ツナ、俺は君に最初に言ったよな。

 もう闘う必要はないって。

 それでももう一度、守るために力が欲しいと求めたから俺はあの時に名を教えたんだ。

 なのに、どうして君はまだ1人で戦おうとするんだ?

 どうして自分自身の力だけで戦おうとするんだ、俺は君なのに!』

 

 ナッツは一体何を言っているんだ?

 混乱するツナをよそにナッツは会話を続ける。

 

『君はかつての仲間の魂のかけらを持つものと闘うのだろ?

 やめた方がいい、君の炎は仲間を傷つけるためには燃えないのだから…

 話は終わりだ、帰れ!』

 

「待ってくれナッツ!

 俺にもわからないんだ、骸が、炎真が敵になって…

 あいつらが破面になってるけど本人じゃ無いかもしれないって説明を聞いても、倒すべき敵って言われてもどうするべきなのか…

 言い訳になるかもしれないけど、忘れてたんだよ。

 ナッツの心が俺と合わせ鏡になっていることを!

 斬魄刀になったことで魂レベルで一緒なんだもんな、お前が凹んでないわけないよ…だから!」

 

 そう言ったツナの前を炎が掠めた…

 

『何か勘違いしているね…なるほど、あの零番隊の死神の言う通りだ、何も理解していない…

 それがわからないうちは話にならない、帰れ。』

 

 気づけばナッツは真紅の鎧を纏う大獅子となって目の前に立ち塞がる。

 

「おい、ナッツ⁈

 やめろよ、俺はお前と…」

 

『ナッツ?

 違うな、俺の名前は天獅子死炎丸だ。』

 

 炎を纏った爪が連続でツナめがけて降り注ぐがかろうじて避ける。

 

『なぜ戦わない?

 かつての仲間と戦うつもりの男が、自身の斬魄刀すら屈服できなくてどうする?

 ここは君の心の中なのだぞ。』

 

 どうやら今のナッツ、死炎丸には言葉で語る気はないらしい。

 

 しかし、何か引っ掛かる。

 心の中…そうか!

 

「そういうことか!

 こっちも、卍解!」

 

 ツナはその額と拳に炎を灯す。

 天獅子死炎丸、卍解状態での死神と斬魄刀がぶつかり合う。

 しかし、勝負は拮抗しているとはいえなかった。

 ナッツの纏う炎の爪をツナの炎のオーラのリングでは相殺しきれず、炎の逆噴射でかろうじて避けているだけだ。

 

 このままじゃジリ貧だ…!

 

『どうしたツナ、それが、その程度が君の卍解か?

 なら諦めろ、今の君は他の守護者にすら劣る!』

 

 とうとうナッツが口元でチャージしたビックバンアクセルがツナをとらえる。

 岩肌に叩きつけれたツナは、卍解は解けてしまったかのように額の炎が消える。

 下を向くその顔に表情は見えない。

 そしてなかなか立ちあがろうとするものの、震える膝が邪魔をするツナにゆっくりと歩み寄るナッツ。

 

『君は、何もわかっていない。

 俺が卍解を託した意味を、その力を。

 俺は君に修行をつけるつもりで戦ってるわけじゃない。

 君の心を折って、もう戦えないようにするためさ。

 じゃあねツナ、死神なんてやめちゃいな。』

 

 そして炎を纏った前足を振り上げ、ツナに振り下ろす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、約束された感触はナッツには伝わらなかった。

 

「…確かに俺にはナッツの言ってることの意味はわかんないよ。

 でも、ここで引いたら、死んでも死に切れねえ!」

 

 ナッツの前足はツナの青色に輝くグローブに白刃どりされ、凍りついていた。

 

『凍獅子…だと⁈

 馬鹿な、ビックバンアクセルを加減せず打ったんだ!

 立ち上がれるはず、いや卍解を切り替える余裕なんて!』

 

「ナッツ、俺がお前と戦ってきた間に何度も使った力を忘れたの?

 死ぬ気の零地点突破・改。

 久々すぎてちょっとくらっちゃったけどね。」

 

 ことの真実は至極簡単で、当たる直前に直感で零地点突破のタイミングを取り戻し、技を喰らいながら三分の一程なんとか吸収したということだ。

 

 ナッツは戦慄する。

 そうだ、俺たちの大空は今を常に超える男。

 故に死炎丸の解号は『超えろ』。

 忘れていたのは俺の方だと言うのか…

 

「ナッツ、いや死炎丸。

 俺は君の力だって使ってるはずだ。

 第一、天獅子にならないとダブルイクスバーナーは打てないし。

 形態変化だって!」

 

 そういうツナの口を凍っていない前足で遮る。

 

『ツナ、それでも君は俺の力を使っていないよ。

 技も、戦い方も、全て君自身がこれまで積み上げてきたものだ。

 俺の卍解が君にとってそれを発揮しやすいから、そう言う形だと君が思い込んでいるだけだよ。』

 

 もしかして…

 

「もしかして死炎丸の能力の、俺はまだ上澄を使っているだけだってことなの?」

 

 ゆっくりと頷く天獅子。

 そうか、そんな独りよがりな戦いで、かつての仲間に負けてボロボロになったら…俺と合わせ鏡のナッツは耐えられなかったんだろうな。

 

「そっか…

 ほんとに俺は、君とプリーモが託してくれた力の意味を理解してなかったんだね。

 でも、今からでも俺と一緒に戦ってくれないか?

 俺さ、こっちに来てから守りたいものが増えたんだ。

 正確には戻った、といえなくもないんだけど…

 だけど、今の俺じゃ守りたいもの全部守れないんだ。

 虫のいい話だってことはわかってる、それでも!」

 

 気づけば目の前の獅子は、いつもの小さなナッツに戻り泣いていた。

 そして前足をツナの心臓に当てる。

 気づけばプリーモもツナの肩を抱いている。

 ナッツが口を開く。

 

『もういいよ。

 君の覚悟、確かに受け取った!

 俺たちの全てを君に預けるよ。』

 

「あぁ、デーチモ。

 俺の真の後継者であるお前にしてやれることは少ないが、今一度その力で己が目指す理想へ死ぬ気で辿り着くといい。

 その先が滅びでも栄えでも、何かを守るだけでも、手を貸そう。」

 

 自身の斬魄刀から託された想いを胸にツナはゆっくりと目を閉じる。

 

「ありがとう、死炎丸。」

 

 

 

 

 そしてゆっくりと目を開くと一護と王悦が死炎丸を結界で包んでいた。

 

 

「馬鹿野郎、チャン一!

 もっと霊圧込めろYO!

この辺りが吹き飛ぶZE、部下の不始末は拭えYO!」

 

「知らねえよ!

 なんで急に斬魄刀からアホみたいに霊圧が漏れてんだよ!」

 

 見ると死炎丸から炎の霊圧が溢れ出している、と言うか垂れ流されている。

 

 あるぇ⁈

 おっかしーな、うまく和解してきたはずなのに。

 

 そうしていると王悦がこちらに気づく。

 

「起きたらこっち手伝えYO!

うまく行ったはずなのに、こんなこと初めてSA。

 どんだけ馬鹿でかい力DA」

 

 よくわからないけど、うまくはいったみたいだ。

 でも、とりあえず俺も残った霊圧を結界に流し込むと刀身が輝いて…

 

砕けた。

 

「んなぁ!

 えっ、うそ、なんで⁈」

 

 狼狽するツナと困惑する一護。

 しかし王悦は1人何かを考え込む。

 一護は思う。

 

 誰でもいい、この空気をなんとかしてくれ…

 

 



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31話

あけましておめでとうございます
今年もぼちぼち書いていきます
早速全部書き終えたあと文章が全て消えると言うアクシデントに見舞われましたが気にせず楽しんでください


 「お、折れた…」

 

 王悦の試練で内面で斬魄刀と殴り合い、本当の意味で分かり合った、はずだった。

 しかし現実に戻ってみれば斬魄刀から溢れ出す霊圧を二人が抑えていて…そしてツナも霊圧を込めた瞬間、刀身が砕けた。

 だが王悦はそれを見て何かがあるのか、考え込んだまま動かない。

 何かを言わねばと焦った一護が話し出す。

 

「だ、大丈夫だ沢田。

 俺の時は折れた卍解直してもらいにきたくらいなんだ、きっとなんとかなるさ。

 な、王悦さん?

 …頼むからなんか言ってくれよ。」

 

 元気付けるつもりで王悦に話をふるも聞こえていないのか無反応で、次第に一護も焦り出す。

 

「…チャン一、ちょっと黙っててくれないKA?

 沢田ちゃん、その虹の欠魂にちょいと全力で霊圧を込め続けNA。

 それからチャン一、和尚が呼んでたからさっさと行きなYO。」

 

 和尚、名を兵主部一兵衛。

 零番隊の中心にして、この世で最初に卍解に至り、全ての名前を見通す死神。

 和尚が呼ぶならきっと大事な用事なんだろう。

 一護はこの場にツナを一人残して大丈夫かとその表情を覗き込むが…

 

「…悪くねぇ顔つきだ。

 沢田、頑張れよ。」

 

 ツナの覚悟を決めて霊圧を込める表情に何かを感じたのか、エールを残し瞬歩でその場を離れる一護。

 目指すは和尚の待つ離殿。

 

 

 

 その頃地上では…

 

「時雨蒼燕流、攻式八の型『篠突く雨』!」

 

「霜天に坐せ!『氷輪丸』!」

 

 打ち上がる水の斬撃と宙からそれを喰らおうとする氷の竜がぶつかり合う。

 せめぎ合う二つの力は、やがて紙一重で氷の竜に軍配が上がった。

 

「俺の始解に真っ向から技でぶつかり合うとはな。

 これが時雨蒼燕流、聞きしに勝る技だ。

 山本武、稽古相手に白羽の矢が俺に立ったことを幸運に思うぞ。」

 

 そう言うのは白髪の小柄な男性、しかしその白い羽織が隊長であることを示す。

 日番谷冬獅郎十番隊隊長。

 氷雪系最強と謳われる氷輪丸を持つ、千年血戦を生き抜いた猛者の一人。

 

「俺の方こそありがとうございます、日番谷隊長。

 隊長の氷を、俺の技で凍らされず斬れるようになればもっと高みを 目指せるって総隊長が勧めてくれたおかげっすね。」

 

「俺の方こそ、斬魄刀だけじゃなく斬術を磨いているところでお前とやり合えるのは渡りに船だ。

 更木に持っていかれずにすんでよかった。

 だが、この氷輪丸は氷雪系最強だ。

 そうそう簡単に斬れると思うなら、見当違いもいいところだぜ。

 先ずはお前の卍解を見せてみな、それが俺の始解の手に負えないと思えば俺も卍解で稽古をしようか。」

 

 そして日番谷の放つ凍てつくような霊圧に一瞬押される武。

 だが、

 

「へっ、いいっすね!

 こう言うの燃えるっす。

 だから、アンタから卍解を引き出すのが修行の第一関門ってとこか!」

 

 その霊圧を押し返すように爆発的に蒼い霊圧を迸らせる。

 

「卍解!燕犬纏・蒼村雨!」

 

 一方その頃隼人はというと

 

「だーっ!

 芝生!アホ牛!

 ちったぁクロームを見習え!

 始解するために斬魄刀と語り合えって言ってんだろうが!」

 

「極限やかましいぞ、タコヘッドォ!

 俺は座って刀と座禅を組むなど出来んことを、貴様はまだ理解できんのかぁ!」

 

「はぁ、獄寺氏、笹川氏も落ち着いてください。

 俺もやっては見てるんですが、なかなかこのZAZENというのがしっくり来ない。」

 

 隼人と言い争っているのは晴の守護者・笹川了平と雷の守護者・ランボだった。

 了平は10年後の姿から少し老けた30の姿、ランボは当時でいう二十年後の姿だった。

 元々イタリア人のランボがなぜこちらの尸魂界にきたのか、難しい話はなく、中学に上がる前に沢田家に養子に入り日本国籍を取っていたと言う理由に他ならない。

 

 そして揉めていた理由、それは始解に至る修行における刃禅が二人の肌に合わないと言うものだった。

 理論派の隼人、優等生のクロームは当然そのやり方を重視していた。

 一護やツナのような戦闘中に始解をおさめるというのは稀を通り越して奇跡のようなものだ。

 しかしそのやり方の前例がある以上、全く荒唐無稽な話とは言えない。

 だが、昔よりはマシとはいえ、依然として頭の硬い隼人と型破りな了平がぶつかり合うのは火を見るより明らかだった。

 

「…しゃーねえか。

 二人とも表に出ろ!

 どうせお前らのことだ、ギリギリまで追い込まねえと始解できねえだろ。

 俺とガチンコバトルだ!

 あくまで始解の修行だからな?

 刀使わねえと進まねーんだよ!

 クロームはそのまま、多分二、三日以内にはできるようになるはずだ。

 行くぞ!」

 

 そう言って外に出ていく3人を見送るとクロームこと凪は

 

「…相変わらず、騒がしい人たち。」

 

 そう呟くと自身の修行に戻っていった。

 以前と違うのは、その口元に僅かな微笑みを浮かべていたことだろうか。

 

 

 そして別の場所では…

 

「…珍しい。

 兄が、誰かと鍛錬したいなどと。

 わたしを訪ねてきた理由について問いたい。」

 

「別に、たまには強い相手とやり合いたいと思っただけさ。

 京楽さんの勧めもあったし、何より君とは一度戦ってみたかったのさ…朽木白哉。

 君の千本桜、どうにも噛み殺したくなる。」

 

「ふっ、更木とは違う静かなる獣といったところか。

 ならばその駄賃、ほとんどの者が知らぬ兄の卍解ではらってもらおうか。

 来い、雲雀恭弥。」

 

 恭弥の修行相手は六番隊隊長、朽木白哉。

 多彩な技を持つ斬魄刀・千本桜を有する強者。

 四大貴族の当主であり、誰かと修行というとなかなかに稀なことだった。

 始解した二人の戦いは苛烈の言葉に尽きる。

 舞う刃の花びらを次々と紫炎の霊圧を纏ったトンファーで防いでいく恭弥。

 余裕なように見えるが

 

『厄介だね、この刃の数。

 だからこそ噛み殺しがいがあるけど、始解でこの量、もっともそれを操り命に届かそうとする技術は感嘆に値するね。

 朽木白哉、思った通り君は面白い。』

 

強い敵である程燃え上がる恭弥でなければ心が折れるだろう。

 白哉も千本桜を操りながら

 

『始解でかろうじてとは言え、千本桜を捌き切るとは…

 黒崎一護の卍解のような高速戦闘が能力ではないだろうに。

 雲雀恭弥、恐ろしい男だ。』

 

始解とはいえ千本桜を全力で操る自分と互角にやり合うその姿に徐々に愉しみを感じ出していた。

 

「雲雀恭弥、そろそろ駄賃を頂こう。」

 

「…へぇ、ってことは君の卍解を見せてくれるのかい?

 君の力次第では見せてあげるよ。」

 

「ふむ、ならば早々にその言葉を後悔させよう。

 卍解。」

 

 白哉が斬魄刀を切先を下に向け落とすと、地面に溶け込んでいった。

 次の瞬間、白哉の背後に巨大な刀身がそそり立つ。

 さながら、桜並木のように。

 

「卍解・千本桜景厳。

 この億の刃を止めたのは圧倒的速さや冷気など何度かあったが始解程度で止まれるものではない。

 今一度言う、卍解することを勧める。」

 

 白哉の言葉に不適な笑みを返す恭弥。

 

「そうだね、その言葉通りなら流石の僕も卍解しないとまずいね。

 だけど、これだけの力は始解じゃないと味わえないからね。

 まずは味わってから、かな!」

 

 そして駆け出す恭弥を迎え撃つ千本桜景厳。

 仕込み武器で最初は余裕で渡り合っていた恭弥の顔にも次第に脂汗が浮かぶ。

 

「わぉ。

 これは予想以上だね。

 だからこそ、戦い甲斐がある。」

 

 しかし、次第に刃はその体へ届く。

 2分経たないうちに、恭弥の体には多数の切り傷ができていた。

 

「…驚嘆、と言う言葉はこう言う時に使うのであろうな。

 まさか始解でこれほどまでに刃を防ぎ切るとは。

 私も兄を侮っていたようだ、これよりは殲景で相手をしよう。」

 

 その言葉に恭弥の目が見開かれる。

 

「嬉しいね、まさかその技まで見れるなんて。

 気が変わったよ、君には見せてあげる。」

 

 辺りを焦がすほどの紫炎の霊圧が吹き荒れる。

 

「行くよ、卍・解」

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから2日後の昼下がり、一護は和尚のもとで修行を進めていた。

 

「…そろそろ頃合いかの。

 一護、ちょっとこっちゃこい!」

 

「なんだよ和尚。

 あれから2日間、ずっと霊圧をこの高濃度の霊圧が漂う空間で放出し続けるのが修行かよ?

 結構きつかったぜ?」

 

 一護の霊圧を持ってしても、この空間での修行はなかなかの苦行でしかなかった。

 

「ほっほ。

 それくらい弱った方がお前さんには都合がええじゃろ。

 現霊王、いや、おんしの前ではユーハバッハというたがよいかのぅ?

 奴から力を取り戻したくはないかの?」

 

 一護の眉がぴくりと動く。

 千年血戦時、自身の持っていた虚の力を母から受け継いだ滅却師の力と共に奪われた一護。

 あれから何十年も過ぎたが、いまだに回復する兆しもない。

 当然だ、根こそぎ奪われたのだから。

 

「…そんなこと、できんのかよ?

 それにあいつが奪った力は俺だけじゃねえはずだ。

 その中で俺の力だけを奪うなんて…」

 

「もう用意はできとるぞ。」

 

 そう言った和尚は懐から掌大の玉を取り出した。

 崩玉に似た見た目だが、感じるこの力は…

 

「…え、まじで俺の力かよ!

 返せ、さっきまでの葛藤とかを!

 しかしアンタホント仕事早いなおい!」

 

 そして懐かしさすら感じる力にゆっくりと手を伸ばす。

 おかえり、俺の

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瀞霊廷の午後は穏やかな陽射しが差し込んでいた。

 しかし、その静寂を引き裂くように警鐘がなる、

 

『緊急伝令!

 瀞霊廷上空に虚の霊圧を確認!

 記録上の霊圧とは一致しませんが、十刃クラス相当。

 落下予想地点は十三番隊修練場跡地。

 十三番隊長並びに獄寺十一席、山本十二席は直ちに討伐に向かってください。

 その他、卍解可能な副隊長以上については周囲の結界設置後向かってください。』

 

 突然の緊急事態に騒がしくなる瀞霊廷。

 そしてルキアと隼人、武が修練場跡地へ辿り着く。

 

「隊長、これまでこんなことって。」

 

「いや、わたしも知る限り初めてだ獄寺。

 !くるぞ、構えろ!」

 

 遮魂膜を突き破り力の塊が落ちてくる!

 最も目立つのは頭部から突き出した2本の角だ。

 だが、それよりも目を引いたのは

 

「…バカな!

 その髪、その霊圧…

 それに、天鎖斬月だと⁈」

 

 仮面の後ろからは腰にまで届くオレンジ色の髪。

 そしてボロボロな死覇装から見える肌は白い。

 その手には黒崎一護の斬魄刀があり、その霊圧こそ虚なものが混じっているが、紛れもなく一護のものだった。

 

 あまりの出来事に隼人と武は見ていることしかできなかった。

 晴れていたはずの空はいつからか雨が降り出してきた。

 その時見えたルキアの顔に流れていた水は雨だったのかそれとも…

 

「…おまえなのか?

 答えろ、一護!」

 

 ルキアの叫びすら目の前の虚の咆哮にかき消され行った。

 

 



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32話

 13番隊の敷地内に降り立った虚、それは二対の角を生やし死覇装を纏っていた。

 そして仮面の隙間から見える腰まで届くほどのオレンジの長髪。

 その白い手に握られているのは一本の黒刀。

 細身ではあるがどこか存在感を感じさせるその刀は卍の形をした鍔をしていた。

 ここに立ち会ってしまった朽木ルキアはその刀、斬魄刀の銘を知っていた。

 その後ろで斬魄刀を構えていた獄寺隼人と山本武も知っていた。

 知っているが故に刀を構えてはいられなかった。

 ルキアの口から、その名が明かされる。

 

「…馬鹿な!

 それは、天鎖斬月ではないか⁈」

 

 そう、その名は天鎖斬月。

 英雄と呼ばれた十三番隊副隊長、黒崎一護の斬魄刀の卍解の名前だった。

 幾多の危機をその刃で振り払ってきた斬魄刀が今目の前にいる人型虚が携えている。

 問題はそこではない、その霊圧は虚なものがノイズのように混じってはいるが3人のよく知る霊圧だった。

 

「まさか、お前なのか?

 答えろ…

 

 

 

 一護!」

 

 ルキアの副官にして長年の相棒、数多の戦いをともに潜り抜けてきた唯一無二の戦友、黒崎一護の霊圧だった。

 

『織姫に聞いてはいたが、まさかこれが例の完全虚化というやつか?

 しかし、一護の虚は奴の中に眠っていた滅却師の力と結びついていたが故にユーハバッハに奪われたと聞いていたが…?」

 

 考えるルキアの背後に舞い降りる影、それは総隊長京楽春水だった。

 

「はぁ、嫌な予感ってのは当たるもんだねぇ。

 ルキアちゃん、残念なお知らせだ。

 アレは一護君で間違いないよ、零番隊の和尚からさっき連絡が来たんだ。

 ユーハバッハから取り戻した力が暴走したみたいで和尚の離殿はボロボロみたいだよ」

 

 京楽の話をまとめるとこういうことだ。

 ・ 現霊王ユーハバッハは零番隊にて安置されている。

 ・ その中で新たな戦いに向けてユーハバッハに奪われた一護の滅却師としての力を取り戻すため和尚が研究、抽出し球体状にして一護に吸収させた。

 ・ しかし、ユーハバッハに取り込まれた他の滅却師たちの力と融合していた際に、虚の力が生き残るため強化されて当初想定されていたより遥かに強い力で一護が吸収したために加減ができずに暴走中

 

ということらしい。

 

「彼が虚化を取り戻した影響なのか、平子隊長達にも影響が出始めててね。

 強すぎる力に呼応してるようなんだ。

 他の隊長格も滅却師との戦いの時に卍解を虚化させてるから、影響がないと判断できるまでは戦わされないんだ。

 現状この場で戦えるのは君たちしかいないのさ、ごめんね。

 そんでルキアちゃんの卍解も今の一護君とは相性が悪い。

 援軍が来るまで獄寺くんと山本くん、耐えちゃくれないかい?」

 

 そこまで言われて、目の前の脅威が勝てない相手と分かってなお撤退するほど二人の守護者は腐ってはいない。

 

「分かりました!

 いくぞ、山本!」

 

「あぁ、久々のコンビプレーだな!

 やるぜ、獄寺!」

 

『卍解』

 

 二人の守護者が卍解を携え、圧倒的な暴力の化身へ向き直る。

 

「先ずはどうする獄寺?」

 

「俺が矢を打って、副隊長の動きを止める。

 お前は時雨之化をぶつけて動きを止めろ。

 虚閃打たれる前に大技で決めるぞ。」

 

「おう!

 ツナが斬魄刀使えない以上は俺らでやるしかねえ!」

 

 そして作戦始動、風を読む獄寺隼人の前ではあらゆる矢が変幻自在に曲がり標的を捉える。

 卍解状態の赤炎の矢は一撃がかそれぞれにクレーターを穿つほどの威力を誇り一護の足場を削っていく。

 その状況でも微動だにしない一護。

 好機と捉えた山本武の時雨蒼燕流総集奥義が放たれる。

 

「総集奥義・時雨之化!」

 

 雨の炎と酷似した力を纏う斬魄刀・蒼燕の霊圧は鎮静の力を余すことなく一護の全身へと発揮した。

 刀を構えようとする一護の腕がぎこちなくゆっくりと構えられる。

 

 今しかねえ!

 

 隼人は全霊圧をその弓に込める。

 武も自らの最大の威力を誇る大技の構えに入った。

 

 

「果てろ!

 嵐の厄災!」

 

「時雨蒼燕流特式10の型・燕特攻!」

 

 一護が防げないように放ったロケットボムが先着して四方から遅い、ついに二人の大技が炸裂した。

 修行で力を伸ばしたとは言え、全力の一撃に二人の力は消耗され始解へと戻っていた。

 だが、一護の自我を飲み込んだ虚の力はすでに二人の想像の域など超えていた。

 

「んな、アホな!

 俺ら二人の攻撃で片腕すら落とせてねえだと⁈」

 

 脇腹から出血はある程度で未だ健在の一護。

 そして両角の中央に真紅の光が溢れ出す。

 

 虚閃、しかも特大だ。

 とても始解で防げるものではない。

 その時だった。

 

「卍解、白霞罸」

 

 例圧の塊ごと一護が凍りついた。

 底冷えするような冷気を感じ振り返ると、そこには純白に染まるルキアがいた。

 

「獄寺、山本、こちらまで下がれ!

 私の卍解で凍らせたが長くは持たん、今のうちに立て直すぞ。」

 

 そういうと卍解を解くルキア。

 以前に一護から「ちなみにルキアの卍解は冷気そのものになる感じなんだが、反面ずっとその状態の維持が難しい」との話は聞いていた。

 これが全死神の中で最も美しい卍解と呼ばれる力。

 感慨に耽る暇はなく、即座にルキアの元まで下がる二人。

 そして数秒が過ぎると氷が割れ、再び一護が動き出す。

 その際に左腕が氷の塊となり落ちたが即座に再生する。

 

「…かつて一護が今と同じ完全虚化になった時、その場で目撃していたあやつの妻の話では角を折れば元に戻ったらしい。

 今回もそれに賭けるしかないか…」

 

「いや、大丈夫だよ。

 どうやら援軍が間に合ったみたいだ。」

 

 京楽の言葉と共に炎の斬撃と霊圧の斬撃が一護を襲う。

 

「遅くなりました、総隊長!

 一勇連れてきました!」

 

 降り立ったのは一護の親戚の志波世界、そして一護の息子一勇だった。

 

「京楽さん、約束通り親父を止めにきました。

 まさか、こんな約束が本当になるとは思ってませんでしたけどね。」

 

「ごめんね、一護くんも万が一の話で言ったんだと思ってたけどね。

 君に親殺しを背負わせたくなかったんだけど。」

 

「安心してください、母からも聞いていますが角をおればもどるらしいので、さくっとやってきます。

 世界くん、いつでも蒼炎になれるように卍解しといてね。」

 

 そして一勇が斬魄刀を手に駆け出し、一護と鍔迫り合う。

 

「…何やってんの父ちゃん?

 早く起きなよ、母ちゃんカンカンだよ?」

 

 その問いかけへの返答は、距離をとっての虚閃で返された。

 しかし

 

「月牙天衝!」

 

 斬魄刀・満月から放たれた月牙がそれを切り裂く。

 隼人達では介入できない戦いに、ただ悔しさに拳を握るしかない。

 だが、あくまで拮抗で決定打には結びつかない。

 次第に一護の霊力に押され出す。

 戦闘開始後六回目の月牙を放って一護を吹き飛ばした一勇がた 呼吸を整えつつため息を吐く。

 

「はぁ、しんどっ!

 京楽さん、最悪この辺壊れるけど許してね。

 このままじゃジリ貧だからね、爺ちゃんみたいに炎熱系だったら凍らせれるのに…」

 

 そして一護に突きつけるように満月を構える一勇、あたりから月の光のような淡い霊圧が溢れ出す。

 

「うわぁ、こりゃまずいぞ。

 みんな離れるよ!」

 

 京楽の慌てように何かを感じとり状況が確認できる空中へ避難するルキアと獄寺アンド山本コンビ。

 そして力ある言葉を放つ。

 

「卍解・天眼満月」

 

 直後吹き荒れる霊圧の奔流、それを切り裂き現れた一勇。

 右手には天鎖斬月のような黒い太刀、左手には肉厚の黒い刀。

 そしてその両目は金色に輝いていた。

 

 それ見ていた世界がゆっくり語りだす。

 

「一勇の斬魄刀、満月の能力は水流系と炎熱系を併せ持っていて相手の力に対する反射なんだ。

 だから、俺とツナの修行の時は炎のぶつかり合いを凍らせて止めたんだ。

 卍解を見るのは初めてだから何が起こるかわかんないから、この戦いは見るだけじゃなくて自分の身を守るようにした方がいい。」

 



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33話

 黒崎一心 剡月

 黒崎一護 斬月

 

 自らの魂の写し身たる斬魄刀に、代々月の文字をいただく黒崎家。

 そして現世の当代たる黒崎一勇の斬魄刀もまた月の名を冠する。

 満月、満ち欠けの果てに現れる月の名を持つ斬魄刀。

 そしてその卍解の名を

 

 天眼満月(てんがんまんげつ)という。

 

 

 

 一勇の天眼満月の二刀が宙を舞う。

 天女の舞のような連撃に虚化した一護は荒々しい一刀を持って振り払う。

 一進一退、されど大技を打たせる隙もなく浴びせられる斬撃に一護は仮面の奥の喉から吼えた。

 誰が見ても、これまでにない有効打といえる。

 だが、誰の目にも拮抗以上の姿は写らない。

 状況の拮抗は明らかで、だが誰もこの戦いに割って入れるものはいなかった。

 入ればその瞬間に自らが消し炭になるうことが目に見えていたからだ。

 

 だが拮抗は長くは続かなかった。

 その瞳が何を思っているのかはわからない、それほど深く窪んだ仮面の目の部分の暗闇は何も写さないが一勇は一護が限界を迎えたのに気付いた。

 ただし、我慢のである。

 

 

『があぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎』

 

 正眼の構えの天鎖斬月と両角の3点から黒く重い霊圧が滲み出し、中心点で濃密な球体が出来上がる。

 その場にいたすべての死神が咄嗟にその場から離れる。

 直感的に触れれば自らが抗えないと感じたからだ。

 しかし一勇だけは違った。

 

「もー、霊圧限界‼︎

 いい加減にしろよ父ちゃん、そろそろ怒るぞ。」

 

 恐怖はなく、ただ真っ直ぐに虚となった父を見据える。

 そして、二刀が宙で交差した。

 

 「月牙十字衝‼︎」

 

 一勇が斬撃を放つと同時に一護が黒い球体を切り付け特大の虚閃を放つ。

 澱んでいるとはいえ、親子の霊圧同士。

 ぶつかりあい、そして絡み合う。

 閃光で辺りがホワイトアウトする。

 

 

 

 

 視界が戻った後に見えたのは、片角が折れて刀を支えにひざまづく一護の姿だった。

 

 これで全てに片がつく、一勇は仮面が剥がれかけた一護にゆっくり近づく。

 そしてゆっくりと一護の仮面を剥がすために手をかけた一勇の右手が力を入れると

 

 

 

 

 

 

 

 

 その手が宙を舞っていた。

 

 一護の手にした天鎖斬月が切り上げの形で振り抜かれたまま止まっている。

 仮面が剥がれて見えるその左目は、ホラー映画のワンシーンに出てくる怨霊のように深く黒く染まっていた。

 

 

「ぐっ、まだ戻っていないのかよ⁉︎

 セカイ、もう片方の角を頼む。」

 

 その声にセカイが霊圧を迸らせながら飛び出す。

 

「卍解・蒼剡斬華」

 

 炎の色が深みを帯びた蒼に染まり、刀身に炎が渦巻く。

 残った片角にセカイの斬魄刀が食い込む。

 ぶつかりあい火花をあげる刀とそれを無機質に見つめる一護。

 

 おいおい、本当にこれ兄貴の霊圧なのかよ。

 

 心の中で毒づきながらも、セカイの中には一護との思い出が流れる。

 本当に切れるのか、一護を。

 迷いを断ち切るように、セカイの斬魄刀が爆発的な炎をあげて新技を解き放つ。

 

「兄貴、すまねえ。

 月牙・蒼炎衝‼︎」

 

 

 この技があればツナにも負けなかっただろう。

 ダブルイクスバーナーを断ち切れる威力の斬撃がその技には秘められていた。

 仮面はかけらを弾き飛ばし、一護を揺らす。

 だが、そこまでだ。

 一瞬で体勢を戻し、顔ごとセカイに向ける。

 斬月がセカイを捉えるも刀で受け止める。

 それも一度が限界だ。

 受け止めた体が跳ね上がって伸びる。

 ゆっくり、スローモーションのように自身の体に一護の斬月が迫る。

 

 

 その瞬間、蒼穹より一筋の矢が降り注ぎ斬月を弾く。

 一護は脅威を感じたのか咄嗟にその場からバックステップで下がる。

 地面に突き刺さっていたのは斬魄刀だった。

 刀身は鉛の鈍い光に輝きながらも温かなオレンジ色を帯びていた。

 そして気づけば誰かがその斬魄刀の柄に手を置いていた。

 

 セカイはその人物が誰か気づいていた。

 

 

「よぅ、待たせるじゃんか。

 後は頼んだぜ…ツナ」

 

 そこには額に炎を灯したツナがいた。

「すまない。

 後は任せろ。」

 

 セカイはそれを聞くと安心したように意識を飛ばした。

 

 それと時を同じくして、全守護者とリボーンがツナの霊圧を感じて駆けつける。

 

「10代目、お待たせし…

 な、その指輪は⁉︎」

 

「おいおいツナ…

 それって霊圧じゃなくて、まさか」

 

「ボスの…炎…」

 

「うむ、懐かしいな…

 極限に沢田の炎ではないか…」

 

「確かに、懐かしいですね。

 あの時、世界の命運を変えた時と同じ若き日のボンゴレの炎だ。」

 

「ワォ、綱吉。

 君がそうなるのって久々じゃないか、これが終わったら僕ともやろうよ。」

 

 最後にリボーンが人差し指でボルサリーノの縁をクイっとあげてニヒルに笑う。

 

「遅えんだよ、ダメツナが。

 もう一度見せてみろ、お前の死ぬ気を。

 死ぬ気の到達点をな。」

 

 

 リボーンの言葉を聞いた直後に額の炎を激しく燃え上がらせる。

 

「みんな、遅くなってごめん。

 黒崎副隊長、あんたを死ぬ気で止めて見せる。」




遅くなった上に短い文ですがまたちょこちょこやっていきます。


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34話

 一護は暗い水の底にいた。

 懐かしい、退廃したビル群が水に沈んでいる光景を見るのはどれくらいぶりだろう?

 最後に訪れたのはいつだったか…いや、そもそもどうやって、何のために訪れていただろうか。

 まとまらない思考の果てに、微睡に落ちるかのようにゆっくりと意識を手放し始めた。

 

 もう、いいじゃないか…

 

 思考を手放した刹那、海面を照らす強烈な光に意識をもどす一護。

 

 そうだ俺は、ユーハバッハにとられた力を取り戻して… 俺の虚に体を

 

「取り戻さねえと‼︎」

 

 だがどうやって?

 再び鮮烈な光を感じて上を見上げる一護。

 

 これは霊圧じゃねえ、だけど知っている気がする。

 

 水面すら焦がそうと橙色の炎が乱舞しているが不思議と恐怖心はなく、そこから感じるただ暖かい感覚がその炎の正体を明らかにしている。

 

「すまねえ、頼むぜ…沢田。」

 

 

 

 

 場面はソウルソサエティに戻る。

 完全虚化一護に相対するのは、その額に炎を灯す沢田綱吉だ。

 見ようによってはいつもの斬魄刀を解放したツナの姿にしか見えないが、斬魄刀は先ほどから原型を留めたまま地面に突き刺さっている。

 さらに

 

「なんだ、この沢田から感じる尋常ではない力は…?

 それにこの炎、霊圧ではないのか?」

 

 朽木ルキアは知らない、いや死神は知らない。

 彼のファミリーであった者以外は。

 その炎の名は、死ぬ気の炎。

 一部の人間のみが知るその炎は、人体を駆け巡る波動が特殊な鉱石に触れた場合反応し生命エネルギーを糧として生成される。

 達人が発する闘気やオーラと違い、万人に可視化されているがその理由は、それ自体が質量を持った超高密度のエネルギーであるからに他ならない。

 そしてその究極系が存在する。

 その名は死ぬ気の到達点。

 全細胞が死を覚悟し純度の高い炎が全身に溢れた、死ぬ気を超えたその先に宿る真の炎。

 

 ツナは中学生の際にこの境地に至ったことがある。

 そして今再び、武器を不要とする、死ぬ気の境地へ至った。

 

「しかし十代目、なぜそのお姿に?

 今の俺たちの体は霊視で構成されているので、その状態はもとより死ぬ気の炎すら灯せないはずでは?」

 

 守護者の頭脳である隼人がおもわずと言った様子で問いかける。

 隼人が今気にしているのは、炎を使う際のリスクだ。

 しかしツナは、振り向いて少し笑うと一護の刀と己の炎を纏った拳をぶつけ合い始めた。

 

 

「心配すんな獄寺。

 ちゃんとタネはあるし、あれが現状の最善だ。

 ツナの右手を見てみろ、見慣れたもんがついてるはずだぞ。」

 

 そう言われて守護者全員が戦闘中のツナの右手を見るとそこには

 

「ぼ、ボンゴレリング⁈」

 

 その手には現世にあるはずのボンゴレファミリーの至宝、世界創生の一端を担ったボンゴレリングだった。

 

「ガワはな。

 厳密にはボンゴレリングであってボンゴレリングではないもんなんだ。」

 

「リボーンさん、とおっしゃいますと?」

 

 隼人の問いに、ニッとニヒルな笑みで返すリボーン。

 

「お前らにも見せた虹の欠魂を覚えてるな?

 あれは、前にも言った通りお前らの遺灰とボックスアニマル、そこに含まれていたトゥリニセッテの欠片が琥珀状に結晶化したもんだったんだ。

 そこで斬魄刀の始祖、0番隊の刀神二枚屋王悦に斬魄刀と欠魂をツナの死ぬ気の炎で溶かして鍛え直したんだ。

 もちろん炎圧はボンゴレギアを目覚めさせた時よりももっと多かったけどな。

 だがその結果、ツナの斬魄刀は進化を遂げた。

 その進化の一端として、あのリングがあるんだ。

 あのリングは、霊圧を死ぬ気の炎に変換できるんだ。

 元々死ぬ気の炎とリングの関係性を考えればできてもおかしくないんだけどな、だがその恩恵を受けた結果、あいつは死ぬ気の到達点に至ったわけだ。

 残念ながら生きている人間とは違ってあいつの体を構成する霊子が生存できるギリギリまでしか使えねえから実質は5分だけと見ていい。」

 

 やはりあれほどの力はリスクを伴う、ツナを止めに行こうとする守護者たちの足元に土煙が舞う。

 見るとリボーンが愛用の拳銃を構えており、銃口からは煙が上がっていた。

 遅れて銃声が聞こえる、これが世界最強のヒットマン・リボーンの早撃ち。

 そしてリボーンは底冷えするような殺気を込めて低い声を出す。

 

「勘違いすんじゃねえ。

 5分ありゃツナはこの戦いにケリをつけられる。

 てめーらがでしゃばって怪我でもしてみろ、それこそツナは集中力を欠いてあの状態を維持できなくなるぞ。

 てめーらの中であの戦いについていけるとしてもヒバリだけだ。

 なら黙って見てろ。」

 

 厳しいが、確かに戦いの様子を見ていても今の自分たちではとても太刀打ちできないだろうということはわかっている。

 だが、それでも忠誠を誓ったボスが戦っているのにただ見ているしかない自分たちにもどかしさを覚える守護者たち。

 

「今は見てろ。

 いずれお前たちも手にする力の一端を、ボンゴレハートの力をな。」

 

「ボンゴレハート、ですか?

 確かに今までとモノが違うので名前が変わるのはわかりますが、なぜハートなんです?」

 

「確かに、獄寺の言う通りだぜ小僧。

 ハートってなんか心臓的な意味だろ?」

 

 隼人に続き武も疑問の声を上げる。

 新武器の名称がギアではなくハートとは、ツナのリスクの話も含めて名称にも不安を感じる。

 まさか修羅開口のような人体と融合する武器なのか?

 

「確かにこれまではボンゴレリング、ボンゴレギアと姿に合わせて名前を変えてきたな。

 今回のボンゴレハートってのは他でもねえツナの命名だ。

 これまでは着脱可能な装備だったのに対して、今回はボンゴレの力とお前らの魂の写し身である斬魄刀の融合だ。

 そこで自らの力で戦う、装備ではない己自身の新たな力という意味でそう名付けたみたいだな。

 それに、ツナの感覚だと自身の霊圧を炎に変換して全身に回している感じが心臓が血液を全身に回す感覚と似てるのもあったんだろうな。

 っと、言ってる間にカタがつくな。」

 

 リボーンの言葉に戦っているツナの方に注視すると、ゴーラモスカを手刀で切り裂いた時のように。炎を纏った手刀で一護の面の角を叩き折っていた。

 周囲からはあんなに簡単に…と声を漏らす者もいるほど圧巻の様子だった。

 

 たまらず痛みに叫び声を上げるが、なおも敵意を抑えず斬魄刀を振りかぶってくる一護。

 

「まだ元には戻らないか。」

 

 そうツナは呟くと刀をいなし、強烈なアッパーを一護に見舞う。

 顎にクリーンヒットを喰らった一護は上空10メートルほどまで飛び上がったため、その威力を周囲にまざまざとみせつけたツナは、空中へ炎の逆噴射で飛び上がると、虚の面を鷲掴みにしその手に炎を燃え上がらせる。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉ‼︎」

 

そのまま流星の如く地面に叩きつけるように急降下しながら死ぬ気の炎の浄化を行う。

 

 

 頼む副隊長、元に戻ってくれ‼︎

 

ツナの願いは叶い、虚と一護を引き剥がし地面に叩きつけるツナ。

 そこで死ぬ気の炎は限界なのか消え、その場に跪くツナ。

 

「副隊長、黒崎副隊長‼︎」

 

 よびかけるツナに答えるように微かにうめく一護。

 

 よかった無事だ。

 

 安堵するのも束の間。

 

「危ない十代目‼︎」

 

 隼人の声で見ると小型のセロが自身の脇腹に打ち込まれていた。

 

「なっ、あいつまだ…」

 

 見ると一護と分離したはずの虚がこちらに向けて手をかざしている。

 もうツナに戦う余力は残っていない。

 ボンゴレハート制作のためや、死ぬ気の到達点に至ったためツナの中の霊圧と炎は完全にガス欠状態でもはや歩くのも困難な状態だった。

 他の死神やファミリーたちも満身創痍だ。

 そして虚がもう一発、先ほどよりも大きめのセロを放つ。

 

 あ、死んだ。

 

 誰もが目を閉じた、が

 

 ツナにダメージは入らなかった。

 

「ヨォ、世話かけたな沢田‼︎」

 

 そこにはセロを片手で受け止める一護が立っていた。

 いつもの、あの太陽のような笑顔で。

 

「久々に出てきてはしゃいでんじゃねぞ、斬月。

 せっかくだからちょっと試し撃ちに付き合えよ。」

 

 そういうと斬月に赤い血管状の線が浮かび上が理、黒い弓へと変貌する。

 一護は、ダメージで動けないであろう虚に向かって霊糸の弦を引くと

 

「月牙、天穿」

 

 螺旋状の黒い矢を放つ。

 

 虚も満足したように両手を広げその弓を受け入れると、一気に体が崩れ灰になり風に舞うように一護の体に吸い込まれていった。

 

 

 前にも言ったはずだぜ、王よ。

 油断が見えたらその体をいつでもいただくってな。

 

 一護の声に似たどこか歪な声がどこからか聞こえてきた。

 だが一護は虚空を見上げてその声に応えるように言った。

 

「そっちこそ忘れてんのか、前にも言っただろ。

 させねえ、ってな。」

 

 そしてしゃがんでツナの頭をくしゃくしゃと撫でた。

 

「俺は一人じゃねえ、仲間がいる。

 そうだろ、沢田?

 ありがとよ、俺を助けてくれて。」

 

 



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