超異世界要塞マクロス (サモアオランウータン)
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プロローグ
──ビーッ!ビーッ!ビーッ!
「座標設定数値、全て0!再入力…受け付けません!」
「船体、下方へ45度傾斜!姿勢制御出来ません!」
「バイオプラント艦、接続部破断!…ダメです!"アーク"からもぎ取られます!」
空から落ちてきた異星人の宇宙船を人類が手にしてから半世紀。
人類同士による『統合戦争』、異星人と間で勃発した『第一次星間大戦』を乗り越えた地球人類と巨人型異星人『ゼントラーディ人』は手を取り合い、新天地を求め大規模な移民船団を率いて果てしない星の海へ漕ぎ出した。
そんな移民船団…新マクロス級超長距離移民船団の中で16番目に宇宙へ漕ぎ出した『マクロス・アーク』は今、消滅の危機に瀕していた。
「首相…もう、この船団は終わりです。フォールド断層から脱出出来た例はありません。我々はこのまま、5000万の市民と共に時空の狭間に…」
「あ…諦めるんじゃない!まだ出来る事はある筈だ!」
移民船団の中核であり、多くの人々が暮らすシティ艦のほぼ中央部に位置する首相官邸の危機管理対応室では、アーク船団代表である首相が顔を青くした官房長官へ励ましの言葉を投げかけていた。
──ガゴンッ!
「きゃぁぁぁぁぁ!」
「うぐっ!っぁぁ!」
「た、助けてくれぇぇぇ!」
部屋全体が大きく揺れ、機材と各所へ対応を指示していたオペレーター達が宙を舞う。
どうやら人工重力発生装置が損傷し、無重力状態となってしまったようだ。
「くっ…まさか短距離フォールドでフォールド断層に出くわすとは…!」
ふわふわと浮かび上がる体を必死に制御し、どうにかデスクに戻ろうとする首相だがその顔には濃い後悔の色が浮かんでいる。
フォールド断層…それは移民船団の天敵である。
各移民船団は居住可能な惑星を探索する為に通常航行の他にもフォールドと呼ばれるワープを使用し、遠く離れた宙域へ移動するのだが、そのフォールド航行中に通る空間に稀に次元の裂け目が現れる事がある。
これこそがフォールド断層であり、これに飲み込まれて帰還出来た者は居ないとされているのだ。
──ウーッ!ウーッ!
「しゅっ…首相!大変です!」
「今度は何だ!これ以上大変な事なぞあるか!」
先程までのブザーとは違うサイレンが響き、額から血を流すオペレーターが驚愕の表情のまま首相に顔を向ける。
「デフォールド反応です!フォールド断層から抜けます!」
「なっ…それはどういう…」
「シティ艦底部、温度上昇!これは…断熱圧縮!?馬鹿な…た、大気圏に突入してます!」
「重力が…戻ってる…?…はっ!重力観測システム、重力を感知!地球相当の重力を感知しています!」
「な…何が起きて…」
「分からん!だが、フォールド断層から抜け出せたようだ!大気圏と重力があるなら一か八か降下するしかない!」
どうやら絶体絶命の危機は脱したようだが、いきなりどこぞの惑星へ降下する羽目になってしまった。
しかし、フォールド断層に飲まれたままよりは遥かにマシであろう。
そう判断した首相はオペレーター達へ指示を出した。
「総員、大気圏突入に備えよ!」
因みに年代はフロンティアから少し後ぐらいです
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1.ファーストコンタクト
まだプロローグしか書いてないのに、少々気が早すぎるのでは…?
ともかく、書けたので投稿します
この世界にはいくつもの国があり、それには明確な序列が存在する。
先ずは『列強国』と呼ばれる誰しもが認める5つの先進大国。
次に『文明国』と呼ばれる中小先進国。
そして『文明圏外国』と呼ばれる雑多な取るに足らない後進国。
この序列は絶対的なものであり、如何に文明圏外国が束になろうとも文明国には太刀打ち出来ず、また文明国が束になろうとも列強国に対抗する事はほぼ不可能である。
そういった事もあり、この世界では格下の国家から財産や人材を搾取する事が当たり前とされており、それを実現する為に日夜骨肉の争いが繰り広げられていた。
そんな血生臭い争いの空気は、東の果ての海に浮かぶ『ロデニウス大陸』をも飲み込もうとしているのだった。
──中央暦1639年1月24日、ロデニウス大陸東方の海上──
「んー…。本当にこの方角でいいのか?」
ロデニウス大陸北東部を治める農業国家『クワ・トイネ公国』の竜騎士であるマールパティマは、"愛騎"のワイバーンに跨って凪いだ海の上空500m辺りを飛行していた。
「星が落ちたのは10日ぐらい前だった筈…。となると、やはりもう海に沈んでしまっているのだろうな」
ロデニウス大陸から東は果てしない海だと信じられており、行けども行けども小島の一つも無いとされている。
普段ならそんな海へ視線を落とす必要も無いのだが、今回ばかりは勝手が違った。
「むぅ…。何も見当たらないな。やはり、ロウリア王国は関係ないのか…?」
去る1月14日の深夜。
日付が変わる瞬間に、夜空が急に明るくなるという現象が各地で観測され、そのすぐ後に空から幾つもの星が東の海へと落ちて行くのが目撃された。
これを受け、クワ・トイネ公国政府は古くからの敵国であり近年更なる軍拡を推し進めている隣国『ロウリア王国』が何らかの大規模魔法を使用したと推測。
その正体を確かめる為、クワ・トイネ公国及び同盟国である『クイラ王国』はワイバーンや軍船を繰り出して東の海で哨戒活動を行っていた。
しかし、政府の推測とは別に民間人の間ではとある噂が囁かれている。
「隣のオヤジは"魔帝が復活した!"だの、"あの星の落下は復活した魔帝に対して神々が下した神罰だ!"だの言ってたが…。本当に魔帝が復活したら10日も沈黙してる訳ないだろ。それに、神話によれば魔帝が復活した時は世界が闇に覆われるらしいが…。今回のは光だったよなぁ…」
それこそが魔帝…『古の魔法帝国』或いは『ラヴァーナル帝国』が復活したという噂だ。
神話に語られるその国は圧倒的な技術力とそれによる強大な軍事力を振るって文字通り世界征服を果たし、帝国民である『光翼人』以外の種族を奴隷にした恐るべき帝国なのである。
さらに魔帝はそれだけでは満足せず終いには神々にまで弓を引いたとされ、それに激怒した神々が"星を落とす"という最終手段に出たとされている。
しかし、魔帝は国土である『ラティストア大陸』に結界を張り大陸ごと未来へ転移して滅びを回避し、その跡地には遠い未来で魔帝が復活する事を予言する不壊の石版が残されていたという。
その事から人々は、空が明るくなったのは魔帝復活の証であり、星が落ちたのは神々が復活した魔帝を攻撃したものと推測していた。
「…?何だ、あれ…?」
ずっと下ばかり見ていたせいで首が凝り固まってしまったマールパティマが顔を上げ、首筋を揉みほぐそうとした瞬間だった。
雲一つない青い空にポツンと小さな黒点が見えた。
「鳥…じゃないな。ロウリアのワイバーン…いや、ロウリアからここまでワイバーンが飛べるとは思えん」
目を細め、それの正体を確かめようとするがよく分からない。
だが、少なくとも陸地が無いとされる海の果てから鳥が飛んでくるとは考え難い。
かと言ってロウリア王国軍のワイバーンによる偵察ではないだろう。
何せワイバーンの飛行距離ではここまで飛んで来る事なぞ出来ない。
「司令部。こちら、マールパティマ。東の海上に謎の飛行物体…未確認騎を発見。どうやら鳥やワイバーンでは無いらしい。指示を頼む」
ワイバーンの鞍に取り付けられた魔導通信機、通称『魔信』を使って所属基地の司令部へ指示を求める。
《こちらマイハーク司令部。可能であれば接近し、正体を確かめてくれ。ただし、くれぐれも無理はしないように》
「了解」
そう指示を受けたマールパティマは手綱を握り直し、徐々に接近してくる飛行物体へワイバーンを向かわせた。
(これならすれ違いざまに"あれ"の正体を確認出来るな。それにしても…何だあれ?鏃に皿が乗っているような…。ん?何でこんなハッキリ見え…)
ふと気付けば未確認騎の姿がハッキリ見える程に近付いていた事に驚く。
確かに未確認騎も此方も互いに接近するコースを取っているため想像よりも早く接近する事は承知の上だが、それを考慮しても早すぎる。
だが、マールパティマは更に驚く事となった。
──キィィィィィィン…
「なっ…!」
まるで矢の先端に取り付ける鏃のような物に大皿が乗ったような"それ"は、暴風の中で無茶苦茶に回る古びた風見鶏が発するような甲高い音を立て、高速でマールパティマが乗るワイバーンを抜き去って行った。
「は、速い!?」
未確認騎の圧倒的スピードに目を見開くが、マールパティマとて素人ではない。
すぐさまワイバーンを反転させ、マイハーク方面へ向かう未確認騎を追尾しにかかる。
「くっ…馬鹿な!追い付けない!」
しかし、追い付けない。
ワイバーンは最高で時速235kmを発揮出来るが、それでも追い付くどころか寧ろどんどん引き離されてゆく。
「司令部、緊急事態だ!未確認騎はワイバーンより速いスピードでそちらへ向かっている!至急、迎撃準備を!」
《なっ…ワイバーンより速いのか!?何かの間違いでは…》
「間違いなくワイバーンより速い!鏃に皿が乗っている妙な奴だ!奴に敵意があればマイハークに被害が及ぶぞ!」
《わ、分かった!こちらは迎撃準備を整える。そちらは可能な限り未確認騎を追跡してくれ!》
「了か…クソっ!もう見えなくなった!」
慌てふためく司令部からの命令を実行に移そうとしたマールパティマであったが、未確認騎は既に遠くまで飛び去り、その姿を見る事は出来なくなってしまっていた。
因みにいつもの如くノリと勢いで書いてるので、ノープランです
ですので、良ければアンケートの回答をよろしくお願いします
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2.領空侵犯
序盤はスラスラ書けるんですがね…
これが話が進むにつれて拗れてくるんですよ
──中央暦1639年1月24日、クワ・トイネ公国経済都市マイハーク──
クワ・トイネ公国最大の港町にして公国経済の柱と名高いマイハークは、普段とは違う喧騒に包まれていた。
未確認騎が領空侵犯をする可能性があると言う話を防衛隊の騎士達から聞いた市民達が野次馬根性丸出しで見物に来ているのだ。
「お、おい!あれがそうじゃないか!?」
大通りで犇めく人々は皆一様に空を見上げており、その内の視力に優れた何名かが遠くの空を見上げて指を差す。
「…あれか。遠くてよく分からないが…確かに羽ばたいていないな。ワイバーンや火喰い鳥ではなさそうだ」
マイハークの中でも一際背の高い砦の見張り台で、マイハーク防衛隊長である女騎士イーネが、木製の筒と磨いた水晶で作られた望遠鏡を覗いて空の彼方を睨み付けていた。
彼女の目に映るのは、青空に浮かぶ異質な黒点…それは徐々にその姿を顕にしてゆく。
「な…何だあれは…?あんな形で飛べるのか…?」
ハッキリとその姿を視認したイーネの口から出たのは、驚愕と戸惑いの声であった。
色は青みがかった緑であり、全体的に鏃を思わせる形をしている。
また、その鏃の先端辺りには濃い鼈甲色の部分があるのが見て取れるが、それよりも目を引くのは未確認騎の背である。
「それに…何だあの皿は。あんな物を背負う意味が分からない…」
未確認騎の背中らしき部分には巨大な"皿"のような物が柱を介して載せられており、よく見ればその皿はゆっくりと回転しているようだ。
《イーネ隊長!未確認騎、間もなく本土上空へ侵入します!》
「分かった。魔信で最終通告を行い、応じないようであれば…撃墜せよ」
未確認騎の謎に頭をひねるイーネであったが、上空に展開するワイバーン部隊の隊長からの通信に応え、指示を出す。
《了解。…あー、あー。未確認騎、応答せよ。こちら、クワ・トイネ公国マイハーク防衛隊である。貴騎は我が国の領空を侵犯している。これ以上、我が国の空を侵すのであれば敵意があると見做し、実力で貴騎を撃墜する事になってしまう。もし敵意が無いのであれば応答し、我々の指示に従え》
《………》
《駄目です、イーネ隊長。うんともすんとも言いません。…仕方ありませんが、撃墜します》
「あぁ、許可する」
ワイバーン部隊長からの呼び掛けにも応じ無い無礼な輩を本土上空へ入れる訳にはいかない。
確かにクワ・トイネ公国は世界全体から見れば取るに足らないような後進国であろうが、それでも自らの足で立つ主権国家なのだ。
例え相手が列強国であっても領空・領土侵犯に対しては毅然とした態度を取らなければならない。
《全騎、攻撃準備!》
隊長の命令が下された瞬間、総勢12騎のワイバーンが横一列に並び、首を真っ直ぐに伸ばした。
ワイバーンによる必殺の一撃、導力火炎弾の一斉射撃体勢だ。
基本的にワイバーンは上昇力に劣っており、急上昇により攻撃を回避する事は出来ない。
それ故、攻撃を避ける場合は左右へ旋回するか急降下するかになるが、殆どの竜騎士は高度を取り戻す苦労を知っているため急降下をする事はほぼ無い。
だからこそ横隊による一斉射撃は、ワイバーンによる空戦の基本である。
《行くぞ!3…2…い…!?》
攻撃タイミングを揃える為、カウントダウンをしていた隊長は"1"を言う事が出来ず、攻撃も出来なかった。
「なっ…!?」
驚愕に染まるイーネの表情。
おそらくは上空の竜騎士達も、また地上でざわめく市民達も同じような表情となっているだろう。
──キィィィィィィン…
「何だあの上昇力は!?」
信じ難い事に未確認騎は"垂直に急上昇"したのだ。
しかもとんでも無く速く、恐ろしい程の速度で高度を上げて行く。
おそらくはワイバーンの限界高度である4000mなぞ軽々と超えているだろう。
《お、追え!あの無礼な輩を逃がすのは竜騎士の恥…》
「待て!…もういい。無理はするな」
《しかし…》
どうにか頭を切り替え、未確認騎を追尾しようとする竜騎士であったが、イーネがそれに待ったをかけた。
「あんな高さまで登られては追う事は出来ない。…悔しいだろうが、帰投してくれ」
《…はい》
イーネの指示を受けた竜騎士達は降下し、飛行場の方へ進路をとる。
「……」
──ピュンッ
それを見届けたイーネは背負っていた先祖代々伝わる名弓を手に取り、矢を番えぬまま弦を弾いた。
未確認騎はそのまま空の遥かなる高みへと消えてしまった為に、もはや目で見る事は出来ない。
それ故に矢を当てる事なぞ出来る筈も無いが、騎士としての矜持が指を咥えて見ているだけな事を許さなかったのだろう。
「…奴は何者だ」
ポツリと呟いた言葉は風と共に虚空へと消え去った。
──中央暦1639年1月27日、クワ・トイネ公国政治部会議場『蓮の庭園』──
クワ・トイネ公国の首都。
その中心にある森の中にある蓮の花が咲き誇る池の中央に浮かぶ小島。
これこそがクワ・トイネ公国の政治の中枢『蓮の庭園』である。
そんな蓮の庭園に置かれた円卓には、各地から呼び寄せられた諸侯が集まっていた。
「では皆、資料は読んでくれたか?件の未確認騎について心当たりがある者は…」
頭を抱え、どこか諦めたような口調で告げるのは首相であるカナタだ。
一国の首相がそのような態度を見せていては下々の者に示しがつかないと叱責されかねないが、それを指摘するであろう他の参加者もカナタと似たりよったりな態度である。
「もしや…ロウリアの新兵器ではありませんか?彼の国は近年、我が国を侵略する為に軍拡を進めています。その軍拡の一環で新兵器を開発し、その実戦試験としてマイハークの偵察を行ったのでは?」
参加者の一人が挙手し、自らの考えを述べる。
だが、それに対してカナタは手元にある羊皮紙を一瞥し、首を横に振った。
羊皮紙に描かれているのは、3日前に領空侵犯を行った未確認騎のスケッチだ。
青緑色で鏃の様な形をし、背には巨大な皿の様な物を背負う姿…こんな物が空をワイバーンよりも速く飛ぶなぞ考えられないし、ましてや自国と技術レベルがそう変わらないロウリア王国がこの様な物を作れるとは思えない。
「いや、それは考え難いだろう。ロウリアにこんな物を飛ばすだけの技術力があるとは思えない」
「首相、よろしいですか?」
否定の言葉を口にするカナタへ目を向けながら挙手する軍務局将軍のハンキ。
「これはあくまでも私見なのですが…遙か西の地、第二文明圏の盟主であるムーの"飛行機械"に酷似しているように思います。彼の国の飛行機械は羽ばたかない上下2枚の翼を持ち、回転する物を持っているとの噂です。この未確認騎も見ようによっては2枚の翼を持っているように見えますし、背の皿は回転していたと…もしやこれはムーの飛行機械なのでは?」
「いや、ハンキ将軍。申し訳ないが、私は違うと思う」
ハンキの言葉を否定したのは、外務卿のリンスイだ。
「ムーの飛行機械は鼻先に風車の様な物を持ち、それを回転させていると聞く。それに対してこの未確認騎は鼻先に何もないようだ。それに、ムーがわざわざこんな東の果てにくるとは思えん。万が一ムーだとしても、彼の国は列強国とは思えぬ程に温厚だという話だ。高慢ちきなパーパルディア皇国ならまだしも、ムーが何の通告も無しに領空へ立ち入るとは考えられない」
「むぅ…確かに」
リンスイは外交の為に多くの国々を巡っており、諸外国の情報を集めてきた実績がある。
そんな彼の言葉は、何とも説得力があるように思えた。
「ふぅ…ロウリアでもムーでもないとなると、振り出しに戻ってしまったな。他に何か手掛かりは…」
「会議中失礼します!」
手詰まりとなった議題をどうにかしようとするカナタだが、彼の思考を遮るように軍の若手士官が駆け込んできた。
「騒々しいぞ!いくら緊急の用でも許可ぐらい…」
「まあまあ、ハンキ将軍。どうやら彼の様子を見るに、そうも言っていられない事態が発生したらしい。君、彼に水を一杯出してやってくれ」
慌てふためく若手士官をハンキが叱責するが、カナタは落ち着いた様子で側仕えに対して息を切らす若手士官へ水を出すように指示した。
「あ…ありがとうございます…」
恐らくは全力疾走してきたのだろう。
額から汗を垂らし、掠れた声で感謝の言葉を述べると差し出されたコップを手に取り、中の水を一息に飲み干した。
「んぐっ……はぁ…はぁ…と、東方海域を哨戒中の軍船『ピーマ』からです!」
息を整えた若手士官は背筋を伸ばし足を揃えると、参加者全員に聴こえるようなハキハキとした通りの良い声で報告を始めた。
「読み上げます!《我、哨戒中に不審船を発見。500mを超える全長を持ち、全てが金属で出来ている模様。これより停船を命じ、臨検を行う》…以上です!」
若手士官の報告にカナタを始めとした面々は、顔から目玉が溢れ落ちそうな程に目を見開いた。
アズレンクロスの方もちゃんと書かないと…
あとアンケートは9月1日の6時までの受け付けとなります
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3.生きる為に
久々にマクロスFの劇場版を観ましたが…やっぱりクォーターの機動は最高ですね!
──西暦2060年1月24日、マクロス・アーク首相官邸──
「では首相、各省庁からの報告です」
「うむ…」
超長距離移民船団『マクロス・アーク』の中枢である首相官邸。
その執務室では、官邸の主であるトーマス・バレーノ首相が官房長官であるジョンソン・ハスラーから報告を受けていた。
「先ず、都市計画省ですが…。建物の凡そ60%が損傷を受けています。しかしこれは窓ガラスの破損や、ドアの建て付け悪化等の軽微な損傷も含みます」
「では、重大な損傷を受けた物は?」
「全体の30%となります。そのうち半壊判定は70%、全壊判定は25%、倒壊は5%です」
「…これだけで済んで良かったと思う事にしよう」
頭を抱え、肩を落とすバレーノ首相。
フォールド断層への落下と、突然の大気圏突入、海面への着水を準備不足で行った割には軽微な損害であると言えるだろう。
「次は環境省からです。えー…自然再現区での山体崩壊及び人工湖決壊により周辺の自然公園が水没との事です。これにより、上水道供給能力が半減するとの事です。ですが、不幸中の幸いと言って良いのかは分かりませんが、現在は経済活動が停止中ですので上水道使用量は平時を大きく下回ります。これなら現状の上水道供給能力と、この惑星の海水を淡水化する事で暫くは凌げそうです」
「とは言っても何時までも経済活動を停止させる訳にはいかん。人は水が無ければ最長でも3日しか保たない。上水道の復旧を最優先とせよ」
アーク船団はフロンティア船団と同じく自然保護の意識が高く、どちらかと言えばリベラル派に属するイデオロギーを持った船団だ。
それ故にシティ艦を始めとした居住可能な艦には人工森林や人工湖を持つ自然公園が設置されており、それを利用した貯水システムにより5000万もの市民が利用する上水道を運用している。
しかし、この方式は人工湖が破損するなどして決壊すると上水道システム全体の機能が低下する危険性があると指摘された為、改修する予定だったのだが結局それを待たぬままこのような事態に陥ってしまった。
「しかし、首相…。より深刻なのは農産物を生産していたバイオ艦の喪失です。農水産省の試算によりますと…食料自給率は60%減、特に穀物の自給率は80%減との事です」
「不味いな…私の記憶が正しければアークの備蓄食料は1年程しか持たなかった筈だ。今からシティ艦の自然再現区を農地にしたとしても…」
難しそうな表情を浮かべ、手元のメモ帳に様々な数字を書き込んで計算するバレーノ首相だが、ハスラー官房長官が申し訳なさそうに口を開いた。
「首相…食料は…長く見積もっても半年しか持ちません…」
「なん…だと…?」
「備蓄食料はシティ艦底部の専用倉庫に保管していたのですが…着水の衝撃で浸水が発生していたようで、備蓄の凡そ半分が…」
「何だと!?何故もっと早く確認しなかった!」
「そ…それが…負傷者救助に人手が割かれていた上に、倉庫への通路が瓦礫等で塞がれてしまっていてそれの撤去に…」
状況は絶望的だ。
有事の際は各所の自然公園を開墾して畑にする事も想定しているのだが、それはあくまでも十分な備蓄がある事を前提とした想定である。
開墾にかかる時間と作物が実る時間…いくら品種改良によって生育速度が早い作物があるにしても、半年あるか無いかという時間は余りにも心許ない。
「っ…!…すまない、怒鳴ってしまって」
「いえ、連日の激務お疲れなのでしょう。少し休まれては如何でしょうか?」
「いや、君も…他の閣僚や官僚も似たようなものだろう。私だけ休む訳にはいかん。それに…」
「それに…?」
「今寝たら、3日は起きない自信がある。それで良ければ休むが?」
「では、先程の発言は撤回します。首相、このままでは我々は餓死するかもしれませんので、解決策を考えて下さい」
軽口を言い合えば、張り詰めた空気が若干ながら和らいだ気がする。
しかし、だからと言って問題が解決した訳ではない。
どうにかして解決策を見出さなければ船団は全滅してしまうだろう。
──コンコンッ
知恵を絞る為、バレーノ首相が濃いめに淹れたコーヒーに口を付けようとした瞬間、執務室の扉がやや強くノックされた。
──「私です。トレノです」
「トレノ大臣か、入ってくれ」
扉の向こうから聴こえる声は、アーク船団に駐屯している統合軍を纏めるケンジ・トレノ防衛大臣であった。
それを確認したバレーノ首相は入室を許可する。
「失礼します。首相、いいニュースと悪いニュースがあります。どちらを先に聞きたいですか?」
入室するや否や、足早にバレーノ首相へ歩み寄ったトレノ大臣は古い映画の言い回しを彷彿とさせる質問を投げ掛けてきた。
「…いいニュースからで」
ここ最近悪いニュースばかりを聞いてきたバレーノ首相は、この後に悪いニュースが待っているとしても、とりあえずはいいニュースを聞いて気分を上げたい心境だった。
「では、いいニュースを。各方角に飛ばした偵察機…『RVF-171』が南西方向に陸地を発見しました。平坦な土地が広がる大陸規模の陸地であり、地表には高等植物が生い茂っているそうです」
「ほ…本当ですかっ!?」
トレノ大臣の言葉にハスラー官房長官は飛び上がらんばかりに歓喜した。
確かに船団内の人工森林を開墾するのは時間がかかるが、平坦な土地であれば開墾の負担は遥かに軽い。
そうなれば、作物が育つ時間を稼ぐ事が出来る。
「ほう…で、悪いニュースは?」
一方のバレーノ首相は、悪いニュースが気掛かりらしい。
すると、トレノ大臣は自らの端末を持つとホログラムディスプレイを表示させた。
「"先住民"を確認しました」
「はぁ〜…やはり、そう美味い話はないか…」
ホログラムディスプレイに表示されていたのは、翼の生えた爬虫類の背に乗った鎧姿の人間らしき存在に、石造りの建物が立ち並ぶ港町らしき小規模な都市とその通りに犇めく人々、その都市の郊外には区画整備された麦畑らしき農地が広がっている様が映し出された画像だ。
「あ、明らかに知的生命体ですよね…?何らかの単細胞生物が群体となってたまたま人型をしているとかは…」
「その可能性は低いでしょう」
一縷の望みに縋るようなハスラー官房長官だが、その望みはトレノ大臣の言葉によってあっさりと絶たれた。
超長距離移民船団の主目的は居住可能な惑星を探索し、発見次第船団ごと降下して開拓するというものだ。
しかし、そう言った惑星には往々にして生命体が存在するものであり、時には独自の文化・文明を築くレベルにある知的生命体が存在している場合もある。
「うーむ…この、竜鳥らしき生命体を使役して航空戦力としているのか?であれば、我々は彼らの領空を侵犯してしまったのかもしれん」
「はい、パイロットもその可能性に気付き、最低限の偵察活動のみに留めたそうです。…しかし、最低限にしても領空侵犯は領空侵犯です。彼らの我々に対する心象は悪くなったかと…」
超長距離移民船団はある程度の自治権を持ち、統合政府の総本山である地球から遠く離れて航行する事から政治思想は移民船団によって大きく事なり、それは移民予定惑星に知的生命体が存在した際の対応にも表れている。
基本的には先住民と交渉するのだが、中には有無を言わせず武力によって制圧したり、不平等条約を押し付けるような船団も少なく無い。
しかし、アーク船団は先住民を尊重する方針を執っており、先住民が移民を拒否すれば大人しく退去するという事になっている。
それ故、先住民からのイメージが悪くなるというのは船団全体の不利益に繋がってしまうのだ。
「しかし、首相。先住民が我々の居住を拒否したとしても、今の状態では宇宙へ飛び立つ事は出来ません。バイオ艦の再建造やシティ艦の補修と補強…それにはどんなに急いでも3年は必要でしょう。それに加え、建造と修理に必要な資源やその間の食料を確保せねばなりません。ですが、幸いな事に発見された大陸は見る限り肥沃な土地のようです。ここは、彼らに誠意を込めて謝罪し、食料と資源の輸入交渉をすべきだと考えます」
「私もそう思う。そうなると、再び彼らと接触しなければならないだろう。大臣、次は船を使ってゆっくりと近付いてコンタクトを取ろう。使えそうな船は?」
ハスラー官房長官の言葉に同意するバレーノ首相は、そのままトレノ大臣へ問いかけた。
「はっ!彼らが極端な排他的思想を持っていた場合、戦闘に突入する可能性があります。それを考慮すれば、ある程度の戦闘力を持つ軍艦を派遣すべきでしょう」
そう述べたトレノ大臣は、ホログラムディスプレイに表示されている画像を切り替えた。
「バイオ艦の護衛を担当していた『ウラガ級護衛空母』の『イズモ』を派遣しようと考えています。イズモは70機のバルキリーを搭載し、搭載する火砲も巡洋艦並みですので多少のイレギュラーが発生しても単艦で対処可能でしょう。それに、イズモのクルーはバイオ艦を守れなかった事を酷く悔やんでいます。このまま待機させたままでは、責任感に押し潰されかねませんので、何卒彼らに任務を…」
「分かった。では、そうしよう。それと、謝罪と交渉の為に各省庁の人員を同行させる必要がある。官房長官、悪いがもう一働きしてくれないだろうか?」
「勿論です、首相。孫が飢えて痩せ細る様なぞ見たくはありません。直ぐにでも関係省庁へ指示を出しましょう」
頭を下げるトレノ大臣へ承諾の言葉をかけたバレーノ首相は、疲労の色が濃いハスラー官房長官へ伺いを立てる。
それに対してハスラー官房長官は自らの頬をパンッ!と叩いて気合いを入れ直すと、何とも頼もしい笑顔を浮かべて見せた。
ちょっと色々と強引ですが、さっさと宇宙へ飛び立ってしまうと話にならないので…
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4.臨検
回路焼付機様、ジンギ様、シンナイト様、okara様、フツーのテートク様、MaoAl様より評価9
茜。様、mothi様、爆裂斎様、稲村 リィンFC会員・No.931506様、匿名既望様、朱点様より評価8
藤堂伯約様より評価7
SEVEN様より評価5
を頂きました!
久々の更新ですね
他の作品の執筆が忙しくて中々更新出来ずに申し訳ありません…
──中央暦1639年1月24日、ロデニウス大陸東方沖──
いくつかの雲が青空に浮かび、程よい風が吹く絶好の航海日和。
何時攻めてくるか分からないロウリア王国海軍の軍艦を警戒しつつも、どこか長閑な哨戒活動をしていたクワ・トイネ公国海軍所属の軍船『ピーマ』は巨大な島を前に帆を畳んでいた。
否、正確にはピーマの前にあるのは島ではない。
全体的に直線が多く、地表は大きな段差がある以外は殆ど平坦であり、外周部は砂浜や磯が無い反り返った断崖絶壁のようになっており上陸なぞ出来そうにない。
というか明らかに人工物であろう事が見て取れる。
「これは…船…なのか…?」
口寂しさを紛らわせる為に咥えていた火の点いていないパイプを甲板に落としぎこち無い言葉を紡ぐのは、ピーマの船長であるミドリだ。
彼の部下であるピーマの見張り員が海図に載っていない島を見付けたと報告してきたのが凡そ1時間程前。
その報告を受けたミドリは、対ロウリア海軍戦の拠点になるかもしれないと判断し、上陸しての調査を命じたのだ。
しかし、島に接近するにつれてその"島"は向きを変えて向こうから近付いてきた。
「動く島なんて聞いた事ないぞ」
「まさか、デカい海魔じゃないのか?」
「リーン・ノウのエルフから聞いた事があるんだが…魔帝には海に浮かぶ城があるって…」
当直の水兵のみならず、夜勤明けで寝ていた水兵までも甲板に上がって"島"を眺めて口々にその正体を推測している。
「皆、落ち着け。自然界にはあんな直線や真っ平らな物はそうそう存在しない。おそらくは人工物…船だろう。君、あの船からの応答は?」
「ありません。先程から何度も呼び掛けているのですが…」
未知の存在を前にして徐々に広がる不安を払拭する為に自らの考えを示し、水兵達を落ち着かせつつも通信士に問いかけるミドリ。
しかし、操舵輪の隣に置かれた魔信を操作する通信士は、半ば諦めたようにそう応えた。
「ふむ…もし、あれが船だったとしたら相当高い技術力を持った国家の持ち物だろう。となればムーか神聖ミリシアル帝国か…しかし、魔信が通じないというのは…」
《あー、あー。そこの帆船、聴こえますか?言葉は通じますか?聴こえて通じるのであれば、帽子を振って下さい》
この世界における標準的な通信手段すら受け付けない相手にどうコンタクトを取ろうか考えていたミドリだが、彼の心配は直ぐに払拭された。
まるで巨人が話すような大音声が"島"から鳴り響いたからだ。
「や、やっぱり人が居るのか!?」
「なんてデカい声なんだ!」
「キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!!」
「落ち着け!…こうか?」
慌てふためく水兵達を一括して鎮めたミドリは、声に従って帽子を取ると頭の上で仰ぐように大きく振った。
《……。ありがとうございます。言葉が通じるのでしたら一安心です。そちらに指向性マイクを向けるので、そのまま話されて下さい》
"シコウセイマイク"とは何だろうか?そんな疑問はあるが、ともかく話をしなければ埒が明かない。
「こちらはクワ・トイネ公国海軍所属のピーマである。そちらは?」
《こちらは、アーク船団所属の護衛空母イズモです。我々はフォールド断層に落下し、偶発的にこの惑星に降下してしまいました。侵略の意思はありませんが、再び宇宙に戻るにしても修理等が必要であるため、暫くは停泊しようと考えています。それにあたって食料が必要となるため、よろしければ貴国と食料輸入についての会談の場を設けたいのですが…》
「ま…待ってくれ…」
一度に様々な情報を叩き付けられ、頭が混乱しそうだ。
信じるかどうかはさて置き、侵略の意思が無い事はとりあえず安心出来る要素であるが…
「あー…その、なんだ…。そちらは…船…でよろしいのか?」
《はい、広義の意味では船という認識で間違いないかと…》
「何と…」
島と見紛うこの巨大な物体が船…そうではないかと思っていたが、肯定されるとやはり驚愕してしまう。
《と、とりあえず直接会って話しませんか?如何せん、この状態では話し難いので…》
「う…うむ、そうであるな。我々としても我が国の主権を維持する為にそちらを臨検せねばならない。しかし、どう乗り込めば…?」
《整備用のゴンドラリフトを下ろします。それに乗れば、甲板まで直ぐに行けますよ》
その声と共に、反り返った壁の上端から鉄製の大きなカゴが太いワイヤーに吊るされて降りてきた。
「君、本国に未確認船を臨検すると伝えてくれ」
「り…了解」
「それと…君と君は私と共にあの船を臨検するぞ。…あれだけ大きな船だ。剣ではなく、槍を持った方がいいだろう」
「はっ!」
「承知しました」
通信士へ指示を出し、護衛の兵士を2名指名したミドリは小舟を降ろさせると、それを使ってゴンドラへと乗り込んだ。
──ウィィィィィ…
「おぉ…」
ゴンドラによって吊り上げられるミドリと護衛達。
クワ・トイネ公国にもロープや滑車を使う原始的なクレーンはあるが、こんな巨大なゴンドラを軽々と持ち上げるだけの力は無い。
それだけでも驚愕に値するというのに、ゴンドラの終着点に辿り着いた彼らは更なる驚愕を覚えた。
「うぉっ!何だこれは!?」
槍を担いだ護衛の一人が目の前に広がる光景に思わず声を張り上げた。
「こ…これが船…?馬上試合が出来そうな広さではないか!」
ミドリは若かりし頃から水兵として船に乗ってきたが、眼前に広がる光景は彼の常識では考えられないものだった。
殆ど凹凸の無い甲板にはマスト等は無く、縁に鉄棒のような物が幾つも生えており、唯一右側に砦のような建造物が聳え立っているだけだ。
(確か…文明国や列強国には竜母と呼ばれる洋上からワイバーンを飛び立たせる船があるらしいが…これもそうなのか?竜母は平らな甲板を持つという噂だが…)
──イィィィィィィィン…
何とも殺風景な甲板の風景を見渡していたミドリの耳に届く微かな音…海風に掻き消されてしまいそうな音の源に目を向けると、奇妙な乗り物らしき物が此方に向かって来るのが見えた。
「はじめまして、貴方があの帆船の船長ですか?」
「そうだが…そちらは…?」
馬の居ない馬車のような物に乗って現れた男は一目見て分かる程に上等な仕立ての服を着ており、朗らかな笑顔であった。
敵意なぞ微塵も感じないが、それでも警戒感を抱くミドリへその男は掌に乗る程の小さな厚紙を差出しながら名乗る。
「申し遅れました。私はアーク船団外務省の外交官、カルロス・田中と申します。田中、とお呼び下さい」
マクロス作品は色々と設定が深いので、調べても出てこなかったりするんですよね…
マクロスクロニクルを買うべきか…
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