【連載版】えとろふびより ―艦娘社会更生法― (山の漁り火)
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プロローグ

お世話になります。
こちらは以前に短編で投稿した「えとろふびより」の連載版となります。
(短編とは設定を微妙に変えています)

前作である「ナナカン」とは世界観は別になります。
シリアスは過去に置いてきたので、基本的にはほのぼのです。たぶん。

のんびりと書いていくので、よろしくお願いします。


 ――艦娘(かんむす)社会更生法。

 

 それは“深海棲艦”との戦いにて開発された生体兵器“艦娘(かんむす)”を退役させて人権を与え、平和な人間社会へと溶け込ませる為の法律。

 

 自立的に人間社会への進出を望めない、または難しい艦娘――主に一部の駆逐艦娘および海防艦娘の為に成立したこの法律が施行されて、まだ半年余り――

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 ――夜勤明けの朝日は目に染みる。

 

 初夏の日の出の太陽の眩しさと熱さを感じながら、俺は少々年季の入ったマンションの階段を一段ずつ昇っていく。

 疲れた足取りで辿り着いたのは、俺が勤める警備会社の待機室。マンションの一室を借りたそこは、警備員の待機室と事務員の事務室として使用されている。

 

「戻りましたー……っと」

 

 俺が待機室に入ると、既にそこには先客がいた。

 

「おお、お疲れさん。今日の仕事は大変だったろ?」

 

 煙草をぷかりと吹かしながら、そう言ってからからと笑うのは先輩の山田さんだ。

 年齢は50代半ばのおじさんで、警備員歴としては既に十五年以上のベテラン。この会社に勤め始めたのは五年前かららしいが、新人指導から厄介な仕事まで色々とこなせる便利屋として、社長や事務員さんにも重宝されているお人である。

 

「ええ、大変でしたよ。深夜なのに交通量は多いし……」

 

 そう言って、先ほどまで行っていた現場を思い返す。

 俺が今日――いや、昨晩から行っていたのは住宅地から少しだけ離れた道路の工事現場。

 そこでの交通整理の仕事だったが、深夜になっても車が引っ切り無しにやって来て、その対処でだいぶくたびれる羽目になってしまった。

 割と細い道なので誘導もかなり大変だった。

 

「あの道はなあ、県道から国道への抜け道なんだよ。地元民はよく知ってるから通勤やら買い物やらで使いたがるし、ちょっと詳しいタクシーの運ちゃんやらはまず通るしなあ。しかも昨日は金曜ときたもんだ」

「……なるほど」

 

 白髪交じりの頭を掻きつつ煙を燻らせる山田さんの話に相槌を打ちながら、俺は事務室へと向かい、机の上のペン立てからボールペンを借りる。

 

 ――そういや「早く行かせろっ!」と俺に怒鳴りつけてきた、厳つい車に乗ったヤンキー風のあの男も地元民だったのだろうか。

 

 少し嫌な記憶を思い出しながら、俺は業務の報告書を拙速に書き上げて事務室の机の上に置く。ボールペンもペン立てに戻して、これで本日の仕事は終了だ。

 事務員さんはまだ早朝なので出勤しておらず、代わりに部屋の鍵を預かっている山田さんがいたという次第である。

 もう少し遅ければ、出勤してきた事務員さんに口述で報告書を書いて貰う事も出来たのだが……まあ、書くこと自体はそれ程の手間でも無いので別に構わない。

 

「んじゃ、これで帰ります。山田さんは、これからどこの現場ですか?」

「おお、お疲れ。俺は、あれだ。スーパーワカミヤの駐車場警備だってよ」

「ああ、あの新しく出来た……そりゃまた大変そうですね。頑張ってください」

「まあな、今は遠山と渡部さん待ちよ。んじゃお前もしっかり休めよ。最近暑くなってきてるからな」

 

 遠山さんと渡部さんか……どうやらうちのベテラン三人で向かうらしい。

 この辺りでは有名なチェーン店“スーパーワカミヤ”は本日十時に新しい店舗が開店し、それを記念した割引セールのチラシもかなり大規模に配っていたはずだ。

 遠方からも客が押し寄せて大混雑するであろう駐車場の光景を想像し、山田さん達の健闘を祈りながら俺は待機室を出た。

 山田さんは俺に手を振りつつ、新しい煙草に火を点けていた。

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 最寄りのコンビニでおにぎりと菓子パンとお茶だけの簡単な朝食を買い、俺は愛しき我が家であるボロアパートの一室へと帰宅した。

 

「足痛え……」

 

 痛む右ひざの()()を撫でながら、汗と埃で汚れた衣服をざっくばらんに脱ぎ捨て、洗濯籠へと放り込む。

 

「眠い……でもシャワー位は浴びとくか」

 

 風呂場には小さいものの浴槽があるが、疲れた体で今から風呂を用意するのは面倒だった。

 シャワーだけ軽く浴びて多少なりとも身綺麗にし、干した後ハンガーに掛けっ放しだったよれよれのシャツとトランクスに着替える。

 

「……いただきます」

 

 経年劣化で色褪せた畳の上にどっかと座り、小さなテーブルの上に置いた朝食のおにぎりにもしゃりと(かぶ)り付く。

 

「………」

 

 無言で昆布の具のおにぎりを丸ごと口に含んだ後は、クリームパンの入った袋を破いて中からパンを取り出し、その合間にお茶を飲み口中に残った飯を胃へと流し込んでいく。

 続いてクリームパンを頬張って再びお茶を流し込むという、流れ作業を繰り返す。

 一人きりの実に味気ない食事だが、腹だけは満たされていく。

 外には車の走る音と、それに紛れて子供たちの声も聞こえてくる。

 今日は土曜なので、平日程の騒がしさではないが……みんな朝からお元気な事で。

 

「ふぁあ……寝るか」

 

 そして腹が満たされると、急激な眠気が襲ってきた。シャワーを浴びて多少は寝覚めた俺の体も、本能である睡眠欲求には勝てないようだ。

 テーブルの上に散らばった朝食のゴミや、昨晩仕事に出る前に食べた夕食のゴミを片付けるのもめんどくさい。

 ……起きたらやろう。

 

 

 ――そういや、こないだ()()から手紙が届いていたな……封を開けてないや……

 

 ――そうだ、実家に今月分を振り込まないと……

 

 

 他にも色々と考えなければならない事は山ほどあるが、とりあえず今は兎にも角にも眠い。

 

 よし、寝よう。

 

 

 ――こうして俺は薄汚れた敷布団にばたりと倒れこむと、すぐさま深い眠りへと落ちていった。

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 ――そんなくたびれた彼が穏やかな眠りについた頃。

 

「ええっと……コーポ五十六(イソロク)は……こっちでしょうか……」

 

 一人の幼い少女が、地図を片手に住宅街を彷徨っていた。

 

 

 

 ――青年と少女が出会うまで、あと四時間。



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第一話 ふつつかものではありますが

 ――たまに昔の夢を見る。

 

 予報を裏切り、異常に荒れる海。高まる波と激しい揺れにこみ上げる吐き気。

 

「――深海棲艦!? 戦闘準備!!」

 

 雨に濡れながら叫ぶ同僚の海兵の声。彼が指し示す先を見ると、そこには海上に浮かぶ赤く光る眼をした()()らしき姿。

 その直後に凄まじい爆発音と共に船が大きく揺れる。

 

「敵の砲撃だ! 応戦しろっ!」

 

 その声と共に始まる激しい砲撃と銃撃戦。飛び交う銃弾と砲弾を避けて俺は必死に逃げる。

 

 ――突如、右足に赤く熱せられた鉄の塊を押し付けられたかのような熱さと痛みが襲い、俺は甲板へと倒れ伏す。

 

 敵の弾か、それとも味方の誤射か。そんな事は分からない。

 どくどく、どくどくと――赤くて暖かい液体が、太腿に開いた穴から溢れ出しズボンに大きな染みが広がっていく。

 

「嘘……だろ……畜生…っ!」

 

 熱い、痛い、こんな所で死にたくない――ただそれだけの思いで、敵の砲撃で傷ついた甲板を必死に這いずり回る。

 

 

 

 ――ああ、なんて情けない。

 

 両親に反対されてでも家を飛び出し、念願の海兵になった俺。

 

 それがどうだ。命を惜しみ、甲板を這いずる虫のような今の有様に涙が出る――

 

 

 

 ――これは、あくまで夢だ。気付いた時には場面は変わる。

 

 銃撃戦が止み、少しだけ静かになった甲板。

 俺は痛む右足を押さえながら、ただ一点を見て――いや、(にら)んでいた。

 

 尚も荒れる海上を(はし)るのは、果敢に……そして可憐に深海棲艦と戦う年端も行かぬ()()()()

 

「あれが、艦娘(かんむす)……」

 

 そう思わず呟いたのは、隣で負傷者に応急処置を行う衛生兵か、それとも俺自身なのか。

 今となってはよく分からない。

 

 ――なにせこれは過去の夢で()()()()。何もかもが曖昧だ。

 

 

 

 ……少なくとも、その時の俺は様々な感情が煮え(たぎ)っていたのは確かだが。

 

 

 

 

*

 

 

 

 

「――また、嫌な夢見ちまったな」

 

 この夢を見た後は、目覚めが悪い。

 海兵を辞めて二年が過ぎた今になっても、この夢は月に数回――多い時で週に何度も見る。

 最近は頻度も減ってはいるが、それでも気分はよろしくは無いのが正直なところだ。

 

「どのくらい寝たんだ……?」

 

 外はまだ明るい……というか少し眩しいくらいだ。

 近くに置いてあった目覚まし時計を見ると、そろそろ正午という時刻だった。

 

「いつもなら、夕方までグッスリなんだけどな」

 

 嫌な夢を見た日は、いつも眠りが浅い。困ったものだ。

 ぽりぽりと頭を掻いていると、次第に頭の中がはっきりとしてくる。

 

「……眠いっちゃ眠いが、もう一眠りって気分にもならねえんだよな」

 

 中途半端に目覚めてしまったお陰か。喉が渇いたので、水を飲むついでに顔でも洗おうと台所へと向かうが……。

 

 

 ――コン…コン。

 

 

「……ん?」

 

 部屋の入口の方から、小さく何かを叩く音が聞こえる。何の音……

 訝しげに入口に近づくと、その音の正体はすぐに分かる。

 これは……扉を叩くノック音だ。

 

「……誰だ?」

 

 ――コンコン。コンコン。

 

 小さなノック音が繰り返される。

 外に誰かが来ているのだろうか。扉の近くにはチャイムが設置してあるはずだが、それを鳴らさずに扉を叩いているのはなぜだろう?

 

「……猫か?」

 

 以前に野良猫が悪戯で扉を叩いていたのを思い出しながら、俺はノブを回した後慎重に扉を押した。

 

 ――ギィィイ。

 

 軋んだ音を立てながら、外開きの扉がゆっくりと開いていく。

 扉の目の前には人の姿も、人の声も無かった。

 

(――誰もいない。という事は)

 

 やっぱり猫の悪戯か。困ったものだ。

 ……とここで俺は()()がいる気配を感じ、ふと通路の左横に視線を移すと……。

 

「………あ」

 

 その視線の先――俺の部屋の扉と、通路に乱雑に積まれたダンボールの間のスペースにちょこんと座っていたのは、俺が予想していた野良猫(もの)では無かった。

 

「……ふぅ」

 

 そこにいたのは膝を抱え込んで座り込む、帽子をかぶった年端もいかない赤毛の少女。

 見たところ年齢は十歳程度――小学校の中学年くらいだろうか。

 少しくたびれた様子で俯く彼女は、小さく溜め息をついている。

 

 やがて俺の視線に気づいた彼女は、上方を向き俺の顔を見た。

 まじまじと俺の顔を見つめたまま、僅かな沈黙の後。

 

「……あ………」

 

 それだけを呟いた彼女はどこかほっとした表情を見せた。

 その彼女のあどけない顔には、俺は全くもって見覚えが無い。

 

 ――何処かで会っただろうか?

 

 ……仕事で?

 覚えがあるとすれば、警備員の仕事で小学校の校門前の道路工事に行った位だが……。

 俺がよく行く店――と言っても飯屋くらいだが――こんな子はいなかったはずだし、このアパートにもこの年頃の女の子はいなかったはず。

 

「……お、おう」

 

 そんな事を考えながら足元に座る謎の女の子に向けて、俺は返事にもなっていない返事をする。

 

「んしょっと……は、はじめまして」

 

 少女は通路の床からすくりと立ち上がると、俺に向けて挨拶をした。

 持ち物は桃色のリュックサックと、小さく(いかり)の模様が描かれたショルダーバッグのみ。

 手には買ったばかりなのか、新しめの地図を持っている。

 

(さて……)

 

 彼女は何者なのか、どうしてここにいるのか。それを尋ねようとした俺だったが……。

 そんな彼女から放たれたまさかの()()()()に、俺は思考を停止する事になる。

 

「私は海防艦娘、択捉(えとろふ)型一番艦“択捉(えとろふ)”です。ふ、ふつつかものではありますが……今日からお世話になりますっ!!」

 



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第二話 オムライス

投稿時間を変えてみます。


「――そっか、チャイムは押せなかったんだな」

「は、はい。ちょっと届かなくて……それでノックはしていたんですけど」

 

 正午を過ぎた住宅街を、俺は年端もいかない少女――択捉(えとろふ)と名乗った艦娘(かんむす)と歩く。

 初夏ではあるが、本日は真夏並みに日射しが強い。

 半日かけてその日射しを浴びたアスファルトは十分に熱せられ、その上を歩く俺たちに熱をじわじわと伝えてくる。

 

「……何時に俺の家に着いたんだっけ?」

「えっと……確か九時くらいだったと思います……」

 

 とすると約二時間半くらいか。

 俺が帰って来たのはその一時間くらい前だから……たぶん俺が寝てすぐにこの子は部屋の前に着いたんだな。

 

「すみません。ちゃんと事前に連絡しておけば良かったんですけど」

 

 そう言って択捉は申し訳なさそうに頭を下げた。

 

 ……申し訳ない気分になるのはこっちの方である。いやホントに。

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 ――さて、俺が択捉とこんなクソ暑い町中を歩いているのは、昼飯を食べるためだ。

 

「ふつつかものですがよろしくお願いします!!」

 

 いくら艦娘とは言え、見ず知らずの幼い少女に突然そんな事を言われても事情がさっぱり分からない。

 なんのこっちゃと詳しい話を聞く前に、もうお昼時であるからまずは腹ごしらえを……と思い、我が家の冷蔵庫を開けたら何も無い。

 

 入っていたのはパック半分ほど残った牛乳と、酒のつまみにと思い買ってきた魚肉ソーセージ……の残りが1本のみ。

 

 見事なまでに何も無い。

 そもそも何も無いのが分かっていたからこそ、今朝はコンビニで食料(あさめし)を調達していたわけなのだが。

 

「……外に飯食いに行くか」

 

 もはや迷うまでも無かった。

 俺の提案に、冷蔵庫を興味深そうに覗き込む少女も「はい」と言って頷いた。

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 汗を掻きながら約十分ほどの道のりを歩いてやってきたのは、俺が行きつけにしている小さな食堂である。

 

 “御食事処 迅鯨(じんげい)”とガラスの表面に白い文字で描かれた引き戸。

 俺が取っ手に力を入れると、ガラガラとだいぶ年季の入った音を立てながら、戸が横にスライドしていった。

 

「おっ、すずし――」

 

 店内の冷えた空気が不意に俺の顔を擦り、俺は思わずほっとした気分になる。やっぱり今日の陽気は初夏というには暑すぎるらしい。

 

「あら、いらっしゃい」

 

 そう言って俺たちを笑顔で出迎えたのは、この小さな食堂のおかみさんである。

 白いエプロンと赤いバンダナを巻いた、笑顔が素敵な女性。年齢は四十代前半という事だが、顔も体型もだいぶ若々しく見える。

 ……と、一緒に店に入ってきた択捉の姿を見て、彼女は少し訝しげな顔をして俺に尋ねる。

 

「誰だいその子」

「ん、あー……昔の()()()()……みたいなもんかな」

 

 とりあえずそういう風に答えておいた。

 艦娘は海軍の所属なのだから、俺の言うことは間違ってはいない。

 

 ……まあこの子とは、基地や戦場(げんば)では会った事も無いはずだけど。

 俺は訓練期間を終えた後は、殆ど巡視艇での船上勤務。彼女は艦娘を運用するどこかの“鎮守府”に所属していたのだろうから。

 

「……お嬢ちゃん、お名前は?」

「はい、択捉(えとろふ)と言います!!」

「……ふーん。 まあいいでしょ」

 

 俺達二人を見比べた後に一言呟いて、おかみさんは空いていたテーブル――といっても俺達以外にまだ客はいないのだが――へと案内し「お冷やだよ」と静かにコップを置いた。

 

 おかみさんは俺の()()()()を知っている。

 択捉が艦娘である事も伝えなかったし、おかみさんからも深く追及は無かったが……とりあえず今の説明で納得はしてくれたらしい。

 まあおかみさんに説明しようにも、残念ながらまだ自分も彼女の事情についてはさっぱり分からないのだ。

 食事の後に択捉に詳しい話を聞き、その上でおかみさんには後日改めて伝えるとして、今日の所はさらっと流して頂きたい。

 

 そう思いながら、俺はテーブルの傍らに置かれていたメニュー表を開く。

 

「日替わりランチ……はそっか、土曜だから無いのか」

 

 メニューを眺めるが、この食堂の人気メニューである日替わりランチは平日のみ。

 ちなみに値段は580円。ボリュームもそこそこで昨今の物価の値上がりに対してなかなか良心的な価格である。

 

「ごめんねぇ。でもそれ以外のメニューならどれでもイケるよ」

 

 そう言っておかみさんは壁に掲げられたメニューの一覧を指し示す。

 

 

 ――野菜炒め定食680円。

 

 ――豚の生姜焼き定食780円。

 

 ――ミックスフライ定食880円。

 

 

 ……うーむ。今日の気分は生姜焼き定食だろうか。

 ひと眠りしたせいか、腹も良い具合に空いている。ちょっとばかりガッツリした物が食べたい気分なのだ。

 さて、択捉は何をご所望だろうか……と、テーブルの向かい側をちらりと見ると、彼女は真剣な顔でメニュー表とにらめっこしていた。

 

「どうした? 別に何でも頼んでいいんだぞ」

「いえ、そのあの……迷ってしまって」

 

 俺に問われて択捉はしどろもどろにそう答える。

 

「値段なら気にしなくていいぞ。……まああんまり高いのは困るけど」

「は、はい……でもこういう……食べる物を選ぶってのはあまり経験が無くて」

「そうなのか?」

「はい。私のいた鎮守府(いえ)は毎日献立が決まってましたし……」

 

 なるほど、そういうもんか。

 確かに鎮守府の宿舎での暮らしとなれば、食べる物は大体決まっている。

 休暇で外出でもしていれば食事をする機会もあるのだろうが――空母級の艦娘がおめかしして外出している姿を、海兵だった頃に一度だけ見た事がある――択捉を見れば分かるが、海防艦娘は他の艦娘に比べてだいぶ……いやかなり幼く見える姿をしている。

 

 連日のように良からぬ輩による事件も報道される昨今だ。

 外出先での余計なトラブルを防ぐ為にも、単独で外に出る機会もなかなか無かったのだろう。

 

(さて、となると何を食べさせたら良いのやら)

 

 目の前に一旦置いたメニュー表を再び手に持ち、択捉と一緒に頭を悩ませる俺だったが……。

 

 

 

 

 

「――オムライス。食ってみるか?」

 

 厨房の奥からぬっと顔を出し、白髪頭の店主がぼそりと呟いた。

 

 

 

 

*

 

 

 

 

「わあ……」

 

 目の前に置かれた()()を見た択捉の瞳は輝いていた。

 真っ白な大きなお皿の上に、ででんと築かれたチキンライスの小山――表面は薄焼き卵に覆われて、少な目ながらもケチャップがかけられている。

 付け合わせとばかりに、お皿の傍らには赤色のウィンナーとブロッコリー。

 山の頂上には、ご丁寧にも日の丸の旗が突き立っている。

 

「……冷める前に食っちまいな」

「は、はい! いただきます!!」

 

 店主にそう促され、銀色のスプーンを装備した択捉は果敢にオムライス山攻略作戦を開始した。

 

「おいしい……です」

 

 彼女は小さな口にスプーンで掬ったチキンライスを放り込み、もぐもぐと口を動かしては呑み込んでいく。そして再びスプーンはチキンライスの麓へと……。

 美味しそうに頬張る択捉の様子に、おかみさんもニコニコと笑っている。

 

 ――こう見ると、やっぱり年相応だな。

 

 しかしまあ食堂にこんな小洒落た裏メニューがあったとは、知らなかった。

 

「……久々に作った。今はもう息子も娘もすっかりデカくなっちまったからな」

 

 俺の心の中を読んだかのように、おかみさんの横で腕組みをする店主がでそうボソリと呟く。

 店主とおかみさんの間にはお子さんが二人いる。確か今は大学生と高校生だったはずだ。

 この洒落たオムライスも、元々は子どもたちの為に作り方を覚えた物なんだろうな。

 

 ――心なしか、いつもはぶっきらぼうな店主のオヤジさんの口角も少し上がっているように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そういや、俺の生姜焼き定食は?」

 

「……今作る」

 



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第三話 歴史の勉強の時間です

「……なるほどな」

 

 長い択捉の話を聞き終えた俺は、背筋をぐっと伸ばしながらそう呟く。

 俺達が座る四阿(あずまや)の外に見える空は、憎らしい程に雲一つない晴天だった。

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 ――馴染みの食堂で昼食を終え、おかみさんにも「また来てね」と手を振られながら店を出た俺たちが辿り着いたのは、近くの公園だった。

 

 公園入口に設置されていた自販機で俺と択捉の分の飲み物を買い、何組かの親子連れが遊ぶ公園へと足を踏み入れる。

 園内には小さな池と、その傍にはゆっくりと腰を落ち着けられる四阿(あずまや)がある。

 その四阿へとやって来た俺たちは、テーブルに向かい合わせになる形で椅子に座った。

 そして俺は缶コーヒーを開封して、まずは一息に飲み。

 

「――さて、()()()()()()()()詳しく説明してもらおうかな」

 

 俺は択捉にここにやって来た事情を聞くことにした。

 ……流石におかみさん達がいる食堂で話すのは気が引けたしな。

 物珍し気に缶ジュースを両の掌で転がしていた択捉は、俺のその言葉を受けすぐさま()()()()へと変わる。

 

「はい。それではお話しします――」

 

 こうして目の前の少女は語り始めた。

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 ――艦娘(かんむす)社会更生法。

 

 正式法令名は『艦娘等の日常生活と社会生活の支援及び更生手続に関する法律』。

 

 長ったらしいが、要するに「引退した艦娘を色々と支援しますよ」という法律だ。

 この法律について語るには、まずは人類と深海棲艦との戦いの話をする必要がある。

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 ――今を(さかのぼ)る事、十数年前。

 

 太平洋や大西洋にて原因不明の遭難や海難事故が多発した事で、海に面する各国はその原因を突き止めるべく調査を開始。

 彼らはやがて謎の敵性存在に気付くことになった。

 

 

 ――人類に敵対し、群れを成して人類の艦船や港湾施設を襲撃すること。

 

 ――旧世代の艦船を模した武装や艦載機らしき装備を持ち、それらが小型ながら凄まじい破壊力であること。

 

 ――現代の兵器による攻撃では、有効なダメージが与え辛いこと。

 

 

 数年の調査により判明したのはたったそれだけであったが、その敵性存在は国連の会議にて“深海棲艦”と呼称される事になる。

 こちらからの問い掛けには一切応答せず、無差別に船舶を襲う深海棲艦。各国がその対応について協議を重ねるも、その間にも船舶の被害は増えるばかり。

 深海棲艦に襲われた大型タンカーの爆発炎上という悲惨な事件が起こった事で、悠長な会議を続けてはいられなくなった各国は、本格的に軍を出動させる。

 

 こうして深海棲艦との長い戦いが始まるのだが……現代兵器による攻撃が効きづらい事や、彼らが神出鬼没である事も相まってその殲滅には至らず、双方膠着状態のまま約十年が過ぎ去った。

 その一方で官民問わず船舶に被害は出ていたが、それでもまだ許容範囲には収まっていたのだ。

 

 風向きが変わったのは五年前。月当たりの深海棲艦の出現報告数が、この年に入り一気に増大した。

 それも一カ所だけでなく、世界的にである。

 

 急増する船舶の被害に、各国の海軍は慌てて戦力を増強するも、流れはそう簡単には変わらず。

 投入できる人類側の戦力にも限界があり、海運の最重要拠点であるスエズ・パナマ運河や港湾都市を重点的に守る方針へと変わったことで、海を自在に闊歩する深海棲艦はますます勢いづく。

 深海棲艦による被害は指数関数的に増え続け、深海棲艦の群れが蔓延(はびこ)った為に実質的に封鎖となる海域も増えていく。

 

 物流は途絶えがちになり、物価は際限なく上がる。

 石油や天然ガスが思う様に届かず、電力や燃料といったインフラが一時的に途絶える国も現れ始めた。

 そして現状に不安を覚えた民衆によるデモが起き、都市の治安も悪化していく――

 こうして世界は深海棲艦により、衰退の危機を迎えたのだ。

 

 そんな状況下で現れたのが、我が国の海軍が生み出した生体兵器――“艦娘(かんむす)”である。

 

 旧世代の艦船の主砲や魚雷発射管を模した武装――“艤装”を纏った生体兵器(しょうじょ)たち。

 その艤装による攻撃は、深海棲艦に対し非常に有効であった。

 

 海軍の総力を挙げて開発されたとされる彼女たちは、深海棲艦に対する切り札として太平洋の各地へと部隊単位で派遣され、深海棲艦と壮絶な戦いを繰り広げた。

 その後ドイツやイタリアやイギリス……そして米国にも我が国から技術提供が行われ、艦娘は世界各地で誕生していく。

 七つの海を取り戻すべく、誕生した艦娘は矢継ぎ早に激戦地へと投入されていった。

 

 ――こうして人類による反抗作戦が始まった。

 

 そして約一年半前に太平洋上で行われた多国籍軍と深海棲艦との一大決戦――“オペレーション・ゼロ”。

 決戦の為に世界各地から集結した精鋭の艦娘たちは、深海棲艦の首魁(ボス)と思わしき個体を、護衛の深海棲艦諸共に殲滅する事に成功。

 司令塔を喪った深海棲艦は、同時にその統制を喪った。

 残された深海棲艦の群れは、海軍と艦娘に追撃を受けつつ四方八方に散り散りとなっていった。

 

 ――こうして戦いは終わった。終わってしまったのだ。

 



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第四話 “艦娘(かんむす)社会更生プログラム”第一期生

 ――戦争は終わった。

 

 深海棲艦の首魁(ボス)は艦娘や艦艇の少なくない犠牲と引き換えに、太平洋ハワイ諸島沖の水底(みなそこ)へと沈んだ。

 残された深海棲艦もその統制を喪い、ハワイ沖に集結していた群れは散り散りとなった。

 その後の各国海軍による執念の追撃により、その数は更に減る。

 

 だが、その追撃から見事に逃げおおせた個体は少なくはない。

 そもそもハワイ沖に集結せずに自らの支配する海域に留まっていた個体もおり、その生き延びた個体同士が合流し、再び群れを作り始めたという報告も出始める事になる。

 

 しかしながら――決して放置は出来ない存在ではあるが、これからは以前よりも小規模の艦艇や艦娘の部隊で彼らに対応できるだろう――というのが、概ねではあるが各国間で共有している見解であった。

 

 こうして各国の協議の結果、七つの海に展開していた各国の艦艇は段階的ではあるが本国の港へと帰還していく事になる。

 軍艦は展開しているだけで金が掛かる為、人類を脅かす強大な敵が消えた以上は当然の流れではあった。

 なお“一斉”にではなく“段階的”なのは、各国の軍事バランスを考慮した政策であり。

 『任務を終えた大半の艦艇が母国へと無事に帰還す』と報道されたのは、“オペレーション・ゼロ”から約半年後の事である。

 

 ……さて出動していた艦艇については蹴りが付き、世界が落ち着きを取り戻しつつある中で……決して見逃しようのない問題が浮上してくる。

 

 それは“()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()”という話であった。

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 ――敢えて、誰も深くは考えなかった。

 

 いや、考えないようにしていた。

 それとも、目を逸らしていたというのが正しいのか。

 

 世界を一時存亡の危機へと追い込んだ深海棲艦。その対抗兵器として生み出された艦娘(かんむす)

 

 彼女たちは()()()()()()()()()()姿()であるのだ。

 

 我が国でも、国民がその異様さにようやく気付き始める。

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 海軍の艦艇の帰還と共に、艦娘たちもその多くがそれぞれの母国へと帰還していった。

 我が国の艦娘たちも、自らが所属する“鎮守府”と呼ばれる母港へと続々と帰還する。

 そしてひと時の休息を得た彼女たちは、すぐさま彼女たちの上役から自らの去就を決めるように……と決断を迫られることになった。

 

 ――深海棲艦との戦いで生き残った艦娘たちを引退させ、社会へと送り出す。

 

 これは“艦娘社会更生法”が施行される前から、政府と海軍の間で概ね決まっていた方針だった。

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 ――ある艦娘は「私にはまだ戦う理由がある」と告げ、鎮守府に残る事を決めた。

 

 ――ある艦娘は、彼女等の指揮官であった“提督”と呼ばれる軍人と結婚し、家庭を築いた。

 

 ――ある変わった事例では、何人かの僚艦(なかま)と共に()()()()()を設立し、芸能界へと殴り込んだ艦娘(アイドル)もいた。

 

 こうして艦娘は自らの意思で軍に残留するか、または新天地へと旅立っていく。

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 ――問題は、一部の駆逐艦娘や海防艦娘である。

 

 艦娘の開発に携わった海軍の研究室曰く――艦娘(かんむす)とは「半世紀前の大戦期に存在した“艦船(ふね)”の力を、依代(よりしろ)となる存在に宿した生体兵器(もの)」と言う。

 

 その()()となる存在は、決して誰でも良い訳では無い。

 

 戦艦であれば、強力な巨砲と装甲に相応しき強靭な肉体を持つ者。

 航空母艦であれば、数十もの航空機を扱えるだけの状況判断能力と、しなやかな肉体を持つ者。

 艦船に相応しい依代が海軍によって慎重に()()され、艦娘となった。

 なお求められる条件に合わない力を手に入れた依代は、身にそぐわぬ力に振り回された結果……最悪の場合は命を喪うという。

 

 

 

 そして、小型艦である駆逐艦や海防艦の依代となる者は――

 

 ――より()()()()()()()が求められた。

 

 

 

 従って大半の駆逐艦娘や海防艦娘は少女の姿であった。

 生体兵器となった彼女たちには、法律上“保護者”と呼ばれる存在はいない。そんな彼女たちを、そのまま世に解き放つことは倫理上(はばか)られる。

 また、去就をどうするかを自分で判断出来ない子も多かった。

 

 そこで海軍は行き先の決まらない艦娘たちを収容可能な“保護施設”を造ろうと考えた。

 各地の鎮守府に散らばるよりは一か所に集め、彼女たちの去就が決まるまではそこで管理して(まもって)いこう……という至極単純な考えである。

 別の言い方をすれば問題の先送りとも言う。

 

 しかしこの考えは女性議員を中心とした国会議員の超党派により猛反発を受ける事になった。

 曰く「保護施設とは何事か」と。

 深海棲艦と戦ってくれた彼女たちに教育の機会を与え、社会へと羽ばたかせるのが我々銃後の役目では無いかと。

 その意見を聞きつけて、深海棲艦の脅威が去り冷静になったマスコミや国民も騒ぎ始める。

 

 こうして全てはひっくり返った。

 マスコミに散々叩かれまくった海軍と内閣主導の会議が大慌てで開かれ、集められた有識者がそこで様々な議論を交わし、幼い艦娘たちを穏やかに社会に復帰させるべく政治は動き出した。

 

 ――やがてそれは“艦娘社会更生プログラム”と名付けられ。

 

 ――約半年前に“艦娘社会更生法”として成立。そして異例の早さで施行される事になる。

 

 

 

 

*

 

 

 

 

「――私は、その『艦娘社会更生プログラム』の第一期生です」

 

 ずっと話していて喉が渇いたのか、択捉は手に持った缶を傾け、缶の中のジュースを小さな口の中にこくりと流し込んだ。

 それに釣られて俺もテーブルの上の缶を持ち口を付けるが、缶に半分ほど残っていたコーヒーはだいぶぬるくなっていた。

 

「……それで、今までは軍の更生施設にいたんだな」

「はい。そこで日常生活と社会生活に関する知識を半年掛けて習得しました」

 

 択捉と同じ基本教育を受けたのは、その更生施設にいる駆逐艦娘及び海防艦娘の三分の一程度。

 そして半年間の教育で問題無しと判断され、プログラムの第一期生に選ばれたのはその中でも数人しかいないという。

 

「プログラムの第一期生に課せられた最後の任務……いえ研修内容は『実際に社会生活及び日常生活を送る』事です」

 

 第一期生を一般家庭に送り出し、そこで問題なく日常生活と社会生活を送れるかどうかのモニタリングを行う。

 択捉が誰の案内も受けずに俺の住むアパートへやって来たのも、『日常生活で使用する交通網を利用して目的地に辿り着けるか』という、ある種の試験であるという。

 

 彼女たちの生活の状況は、定期的に海軍の担当部署へとレポートとして報告されるらしい。

 そして問題が無い事が判断され次第、プログラムの第二期生が続けて研修を開始する……という手筈とのこと。

 

 そして何故その一般家庭として俺の家が選ばれ、彼女がやって来たかと言えば……

 

「『軍の知り合いから距離を置いており、しかしながら軍とはある程度の繋がりが維持できている人間』がモニタリング対象として最適との事です。初回ということもありますので」

 

 ――確かに()()()()退()()()()()()()()()()も尾を引いて、海軍を辞めてからは当時の友人とは、殆ど連絡を取っていない。

 ただ退役軍人かつ傷痍軍人である為、恩給を貰う上で海軍とは定期的な連絡は取っていたし、今も手紙が来ている。

 ……先日届いた手紙は忙しくてまだ開封もしていないが。

 

 択捉曰く、他の第一期生も似たような条件の家庭に向かっているらしい。

 元自衛隊員の祖父がいる三世代の家庭が選ばれたり、元海軍関係者の母と子一人のシングルマザーの家庭が選ばれたりと、微妙にシチュエーションは違うようだが。

 とにかく、艦娘の今後の為にも様々なサンプルが欲しいというのが軍の意向らしいが。

 

「……なるほどな」

 

 長い択捉の話を聞き終えた俺は、背筋をぐっと伸ばしながらそう呟く。

 俺達が座る四阿の外に見える空は、憎らしい程に雲一つない晴天だった。

 

「――突然やって来た上に、不躾(ぶしつけ)なお願いなのは重々承知しております」

 

 択捉は俺に向かって姿勢を正した上で、此方の目を真っ直ぐに見て静かに告げる。

 

「……ですが、私をどうかあなた様の家に“研修生”として受け入れていただけますでしょうか」

 

 

 

 

*

 

 

 

 

「……とりあえず、その海軍の担当部署に電話だな」

 

 担当者と話す内容は、当然“お断り”の連絡である。

 

 

 

 ……いや、確かに択捉の話は聞いたけども。

 いきなりやって来た艦娘を

 

「なるほど、それなら今日から俺たちは家族だ。よろしく頼むぞ!(涙ながらに抱きしめる)」

 

 ……なんてテレビドラマみたいには受け入れられませんて。

 

 そもそも俺は、日々の生活で精一杯の一人暮らしである。

 警備員という仕事の関係上、夜勤もある為生活は不規則。

 実家とは親父と大喧嘩して、半ば勘当同然で飛び出してから折り合いが悪く、今もまともに連絡を取れているのは、お互いに携帯番号を知っている妹とのみ。

 この街に引っ越してきてからは、悲しい事にプライベートな人付き合いも殆ど無い。

 

 そんな俺が、いくら艦娘とはいえ少女と一緒に暮らす?

 

 ……あり得んだろ。

 どう見てもお互い不幸になる結末が待っている。

 

 ここは彼女には申し訳ないが、身を引いてもらった方がいい。

 俺はそう決意した。

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 ――なお択捉に連絡先を聞き、早速担当部署に電話してみるも

 

「担当者が本日は休日で不在の為、月曜に改めてご連絡ください」

 

 とのこと。

 

 

 

 

*

 

 

 

 

「……お役所仕事だなあ」

 

 俺は思わず空を見上げて唸り、そして隣で不安そうにする択捉に気付いて思った。

 

 ――せめて今夜と明日の夜の彼女の寝る場所だけは確保しなきゃな、と。

 



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