この愚かな悪魔に寵愛を! (有機栽培茶)
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一章
素敵な朝はおはようの挨拶から始まる


執筆初心者な作者による作品です。暖かい目で見守ってください。


静まり返った古びた教会の中、それは突然訪れた。

とてもじゃないが教会におくべきではないと思われる邪悪な悪魔を象った石像から禍々しい瘴気が溢れ出る。

悪魔像に走る亀裂が徐々に、徐々に広がっていく様はまるで孵化寸前の卵を思わせる。

だがそれはヒヨコのような可愛らしい存在ではないだろう。そう、もっと邪悪な存在....この世界にあだなす存在だ。

 

 

ついにその時がやって来てしまった。

石像の全体にヒビが走ると同時に溢れ出す見ただけでも正気を失うであろう邪悪な瘴気。

 

「くくく.....くははははははは!!」

 

そしてもしこの場に人間がいたのならば震え上がり失神するほどの邪悪な笑い声が教会内にこだまする。

 

「憎き人間どもよ!さあ、恐れ慄くがいい!この我、大悪魔ヴェスト様に極上の恐怖を捧げるのだ!」

 

封印されし大悪魔ヴェストの復活。人間ならば誰しもが恐怖のあまり自ら死を望むであろう事実。

もしこの場に生きた人間がいたのならば即刻ここら一帯は地獄と化していたであろう。

だがそれはもし、この場に生きた人間がいたのであればの話だ。

 

「さあ、さあさあさあ!貴様らのきょ....あれ?」

 

ここは大きなヒビが走り天井には穴が開き床のタイルまで突き破り草木の生い茂る古びれた、あまりにもボロボロな教会。いや、おそらく教会だったであろう場所。

そんなほぼ自然に飲まれたこの場には人っ子一人いなかった。

 

「え....ちょ...誰かいないの?え?僕大悪魔だよね?その復活だよ?え......まじでいないじゃん。」

 

悪魔は凹んだ。とても凹んだ。思わず自分が本当に大悪魔なのかを疑うくらいに。

例えるなら友人全員を誕生日会に誘ったら無視されて誰も来なかった時くらい凹んだ。

 

「しかもこの教会全然手入れされてないじゃん。なに?僕封印されてる間に忘れ去られちゃった?」

 

埃が積もっているだとかそういうレベルじゃない。床を突き破って木が生えてしまっているレベルだ。先程言ったようにここは完全に自然に飲まれてしまっている。

 

「......くくく.....ここまでコケにされたのは初めてだ。この我を封印した挙句のような扱いとは....ふふふふふ...覚悟するがいいノイズの民よ。この我が直々に恐怖を与えてやろうじゃないか....!」

 

わなわなと怒りに身を震えさせながら悪魔は教会の扉を蹴り破る。

あまりにも過剰すぎる力で蹴られた扉は普通に開くのでもなく吹き飛ぶのでもなく、消し飛んだ。

さすがは大悪魔といったところだろう、本人は意図していなかっただろうが教会にかけられていた結界さえも消しとばしてしまっていた。

しかし当の本人は結界が消えたことよって周囲一帯を知覚できるようになり...再度呆然とすることとなる。

 

「....あぇ?」

 

彼の感知できる範囲にいる人間は0。

まず元々街があったとされる場所は完全に自然に飲まれ僅かにその名残として石垣のような物がのこっている程度である。とてもじゃないが人が住める環境とは思えない。

この状況では封印明けで思考がまだ鈍っている彼でもいい加減察することができた。

 

「ノイズ滅んでるじゃん....」

 

かつては栄華を誇り大悪魔であるヴェストさえも封印した魔道大国ノイズは面影が感じとられないほどに跡形もなく滅び去っていた。先程の教会が形を残していたのが奇跡のように感じられるほどだ。

ちなみにその貴重な遺跡だったであろう教会は蹴り破った衝撃からか彼の後ろでたった今崩壊した。

 

「えぇ....なにこれ....朝起きたら国滅んでたってか?.....全く笑えん」

 

悪魔にとって人間は美味しいご飯を製造し続けてくれる大切な存在だ。

彼らの悪感情の欲しさからあまりにもうざったい悪さをし続けたあまり、堪忍袋の切れたノイズのお偉いさんによって封印された彼であってもそれは例外ではない。

 

「あー...あれか。魔王のやつとかやばい奴らに滅されたのか?いや、あいつらのことだしもしかしたらアホみたいな兵器作った挙句暴走させて自滅した線もあるな。」

 

その予測はあながち間違いではないがそれを今の彼が知ることはない。

周辺に生きた人間がいないことは確認済みだ。過ぎたことは仕方がない。流石に人類滅亡なんて事態にはなっていないだろう、近くの集落か街にでも行ってみようと羽を広げる。

 

「ん?これは.....」

 

そのとき、感知可能範囲に人間と思われる反応が一つ。それがあり得ないほどの速度で接近してくる。すわ食事が飛び込んできたかと喜ぶのも一瞬。

彼または彼女から感じ取られる僅かな神聖な気配に眉を寄せる。

 

「これは....神の尖兵、勇者か?」

 

かつて魔道大国を発展させたあのバカと天才は紙一重という言葉が似合う男と同じ気配だ。

 

「くくくく....飛んで火に入る夏の虫とはまさにこのこと!貴様の恐怖、怒り、絶望を我のbreakfast とさせてもらおうじゃないか!」

 

悪魔は興奮していた。待ちに待った食事の時間。やっとこの空腹を満たせるというのだ。しかも!悪魔の宿敵たる勇者の悪感情!思わず嬉しさのあまり涙が出てしまう。

決して誰もいなくて寂しかったからではない。

 

近づくにつれその気配は大きくなってくる。

おそらく勇者の中でも多くの神の寵愛を受けているのだろう。かつて悪魔が戦った中でも比べ物にならないほどの神聖さ。全く忌々しい。だがその正義に満ち溢れているであろう勇者が絶望一色に染まる瞬間は実に美味で美しい。

 

「さあ、さあさあさあさあ!くるがいい勇者よ!」

 

悪魔が興奮気味に両手を広げた瞬間。視界が白に染まる。

これほどまでの祝福。実に素晴らしい。

その視界にかすかにだが捕らえられた銀髪の少女(胸はないがおそらく少女だ...多分)、勇者は白銀に輝く短剣を構え飛び込んでくる。

だが、無駄だ。悪魔は過去に「虚像の悪魔」と呼ばれ恐れられた大悪魔。その名の通り彼はそこに存在し、同時に存在しない者。

彼を倒したければノイズの科学者のように特殊な神具を使うか、神が自ら戦わねばならない。

故に、幾ら多くの祝福を受けようと通常の武器では彼に傷一つつけられることはない。

 

「はははは.....は?」

 

はずだった。

 

「なん....だと....!?」

 

痛み。本来彼が感じるはずのない感覚。

ありえない。彼は虚像。その感情さえも虚像で作りあげた彼の心が珍しく本物の『驚愕』という感情を吐き出す。

ちなみに先程の『寂しさ』は虚像である。大事なことだからもう一度言う。虚像である。

 

「く...離れろ!」

「うわっ!?」

 

短剣を突き立てる少女を振り払う。

未だ傷をつけ彼の体から血の代わりに瘴気を吐き出させる短剣を手に取るが、それはどう見ても神具ではないただの鉄製の短剣。魔術的な反応もない。

そんなただでさえ思考が驚愕によってキャパオーバーしている彼に追い討ちをかけるように新たなる感情が襲いかかる。

 

(なんだこの感情は!?怒りでも恐怖でもない....なんだこれは!?)

 

それは目の前の少女からではなく自分から発生した物。だがわからない。こんなものは今まで一度も感じたことがない。

そんな中、刺された虚像であるはずの心臓が高鳴っていく。

 

ふと、ノイズにいた頃の自らを封印した勇者であり科学者な男性との会話が蘇る。

 

 

『おい人間。ここに書いている恋とはなんだ?どんな感情だ?』

『ちょ、お前なに勝手に人の少女漫画読んでんだ。.....だが恋か。そうだな、簡単に言えば好き好き好きーってものだな。』

『なんだそれは気持ち悪いぞ人間』

『お前が説明しろって言うからやったんだろうが!』

『ではこの一目惚れというのは?』

『そうだな...こう、ドキドキしてその子以外誰も見えない!って感じかな』

『気持ちが悪いぞハゲ』

『おい』

 

 

ちなみに余談だが両者とも恋愛のレの字も知らない非リアである。そもそも悪魔は人間の悪感情以外に興味はなく恋愛などとは無縁の存在だった。

だが、たった今その無駄と思われた知識が蘇ったことで悪魔に電流が走る。

 

(ドキドキ、そして目が離せなくなるだと...?まさかこれが....いやいやありえない。相手は人間。しかも勇者だぞ!?ありえない!....だがよく見ると可愛らしい....待て待て待て!)

 

※悪魔は混乱している。

考えれば考えるほどに思考の迷宮に陥っていく。なんだこれは。まさか本当にそうだというのか。

勇者は未だ悪魔の胸に刺さった短剣が唯一の武器だったようで撤退しようとするも、悪魔が頭を押さえ苦しんでいるように見えることから進退を決めかねているようでこちらの様子を見ている。

 

その時、悪魔は視界の隅に友であり、かつて悪魔を封印したあの科学者の姿を幻視した。

 

(いっちゃいなYO!)

 

それは悪魔にサムズアップをしながら消えていった。一瞬のことだ。だがそれが悪魔の迷宮入りしていた思考をゴールへと導いた。

 

悪魔は姿勢を正しく勇者に向き直る。

様子の変わった悪魔を見て勇者は撤退しようと後ずさるも、今逃げたら確実に殺されると感じ取ったのか一歩後ずさっただけで押し止まった。

 

そんな勇者に悪魔はまるで邪悪なる契約を持ちかけるかのようにゆっくりと手を差し出し、頭を下げた。その姿はどこか気品すら感じさせる。

そして悪魔は自らの心の内で形作られたありのままの感情を吐き出した-----!!

 

 

「好きです!付き合ってください!!」

 

「ごめんなさい!!」

 

 

※勇者は逃げ出した。

 



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大悪魔は失恋如きには屈しない

強者どもが夢の後。

生い茂る倒れ伏すやつれた悪魔、だーれだ?

そう、僕だ。

あの可愛らしい勇者はもういない。この僕との実力差を知り(色々な意味で)叶わないと判断したのか逃げ出し、この場に残ったのは、このやつれた悪魔ヴェストだけ。

 

「くくく...やるな勇者よ...この我にこれほどまでの傷を負わせるとは....賞賛に値する。」

 

強がってみたものの一向に気は晴れない。

今まで感情を喰らうことはあっても自らがこのような気持ちになったことがなかったため、ダメージが予想以上に大きい。

大丈夫致命傷だ、というやつだろうか。

しかしまさか人の悪感情を喰らう悪魔自身が絶望という悪感情を生み出すとは、実に滑稽である。笑えよ。なあ。

 

「....だがいつまでもこうしていては何も事が進まないのも事実。いい加減出発するか。」

 

改めて羽を広げてこの朽ち果てた遺跡から飛び立つ。空から見ても封印前とは全く違った景色が広がっている。いったいどれくらいの時間封印されていたのだろうか。

 

目的地は魔王城。

なぜ目的地を人間の街から変えたのか、だと?

それは下手に敵対視されている奴らの街に行くよりも昔幹部をやっていた関係で顔見知りがいる可能性のある魔王城に行った方が安全だと考えたからだ。

つまり、失恋のあまり人間怖い!状態になった、というわけではないことだけは分かってほしい。

 

もしかしたらバニル先輩にも会えるかもしれない。運が良ければあの変態デュラハンにも会えるかもしれない。彼らのことだ。多分未だ健在だろう。...いや、先輩は強い破滅願望をお持ちだったが...まああの人を倒せるようなヤバい奴はそうそういないだろう。

 

◆ ◆ ◆

 

道中は全カットだ諸君!男一人パタパタと空の旅などつまらない描写など書いている方も見ている方もつまらないだろうからなぁ!

....何を言っているんだ僕。どうも変な電波を受信してしまったようだ。

とりあえず今の状況を説明しよう。

一言で言えば魔王のやつに生存報告Nowだ。

略しすぎだと?いいんだよ。謁見なんて大した見所ないんだし。

 

「面をあげよ」

「はっ」

 

一応形式上では上司だかな。例え僕の方が年上だとしても礼儀は弁えるつもりだ。僕は礼儀正しい悪魔なのだ。バニル先輩は....まあこんなことしないだろうな。魔王相手でもあの人は態度を崩さなそうだ。

 

「息災で何よりだヴェストよ。」

「魔王様もお元気そうで何よりです。」

 

正直に言えば昔あった魔王の様子なんて覚えてないし姿さえも覚えてない。だからこういう場面ではこんなふうに返せば失礼にならないかな、程度のことを考えながら返答する。僕はお世辞も言える社会的な悪魔なのだ。

 

「ふん、貼り付けたような気味の悪い笑顔だ」

 

おっと、早速悪口を言われたぞ?この笑顔、結構自信作なんだけどな。

魔王は気に入らなかったようだ。残念。次はもっと自然に笑えるよう努力しよう。僕は向上心もある悪魔なのだ。

 

「まあ良い。ヴェストよ。そなた、未だ結界の維持は行えるようじゃな。引き続き頼むぞ。」

「はっ、魔王様の仰せのままに。」

 

そう、僕は封印されたのであって殺害されたのではない。故に結界とのパスは途切れておらず、引き続き維持に協力しなくてはならない。まあそう負担にもならないし問題はないんだけどね。

 

◆ ◆ ◆

 

そんなこんなで魔王との堅苦しい面談は終わり。僕は顔見知りを探して魔王城内を散策しているのだが...

 

「あれは...!」

 

黒いタキシードの後ろ姿にこの気配!間違えようがない。

 

「バニル先輩!お久しぶりです!」

 

その声に反応したのか振り向いた口元の空いた仮面をつけた人物。やはりバニル先輩だ。僕をこの魔王軍に誘った人物にして七大悪魔の第一席。偉大なる地獄の公爵。

そんな彼は手を振り近づく僕に対しその片手を大きく掲げ....

 

「くらえ!バニル式悪霊退散チョップ!」

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

僕の頭頂部に振りかざした。ダメージはないがその強力な衝撃が脳を揺さぶるっ!!というかなぜ先輩は僕に攻撃を当てられるのだろうか。僕の性質上物理攻撃はほとんど効かないのだが...まあバニル先輩だしできて当たり前か。

 

「一撃で沈まないとは、なかなか強力な悪霊であるな。ならば成仏するまで叩き続けようではないかっ!」

「まって!僕です!ヴェストです!生きてます!待って!死ぬ!死んじゃいますから!」

 

僕の必死の命乞いが届いたのかチョップは止めてもらえたようだ。

しかし痛い。冗談抜きで痛い。

もしこれを受けたのが人間だったのなら脳髄を撒き散らして即死していただろう。うへぇ想像しただけでもグロいグロい。

 

「おお!これはこれは、人間如きに封印されたクソ雑魚悪魔ではないか!気づかなかったのである!」

「呼び方....しかも絶対わかってやってましたよね...」

「しっかし、相変わらず汝は感情の起伏が薄い。つまらん....む?僅かだが絶望の味がするのであるな。一体何があったのだ?」

 

話したくない。絶対にいじられるとわかっていることを話す馬鹿がいるだろうか?いやいない。断言できるね。だが先輩は見通す悪魔。僕が自己申告せずとも煽ってくることは確定した未来だ。ならば自ら打ち明けた方が恥ずかしくない。

 

「.....いや、実は」

「いや!言わなくていいとも!汝恋をしたな!しかも人間の勇者と!そして振られた!ふむ!その悪感情実に美味である!」

 

ほらぁぁぁぁ!言わんこっちゃない。

僕は頭を抱えた。

ちなみにその後小1時間ほどたっぷり煽り散らかされたのは言わなくとも分かるだろう。

ちなみに変態デュラハンことベルディアはいなかった。なんでもアクセルとかいう街の調査だとか。ちなみについでとばかりに僕にもその調査の任が命じられた。

うん....なんで?

 

 




ヴェストはバニルよりも後に魔王へ加入したため先輩呼びです。

ちなみに彼の見た目は赤目に白髪、黒を基調としたスーツと紅魔族が喜びそうな見た目です。悪魔もーど(仮)の口調と服装は魔道大国ノイズの某科学者と一緒に考え、作ったものだったりするそうな。


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夜遅くこんばんは。不審者じゃないよ?悪魔だよ

夜遅く静まり返ったアクセルの街の路地裏を歩く影が一つ。

レインコートのフードを被り顔には可愛らしいニコちゃんマークが描かれた白い仮面。

明らかに怪しい不審者だーれだ?

そう、僕だ。

 

変装用に買ったレインコートと仮面がかえって怪しさを醸し出し、真昼間から出歩けないような格好になってしまった。

顔を隠せればいいや、なんて安易な考えで買ってしまったばかりに...!僕としたことが、こんな凡ミスをするなんてね。

 

ところで...そんな怪しさ満点の「衛兵さん捕まえてください!」とばかりの格好をすればどうなると思う?

当然こうなる。

 

「ねぇ君。ちょっといいかな?」

 

月明かりに照らし出され光り輝く蒼き鎧に腰に下げられた神聖な気配を放つ大剣。

間違いない。アクセルで冒険者についての話を聞くだけで複数回名前が出るほど有名な魔剣の勇者くんじゃないか。

ふっっっざけんなぁ!?なんだよエリス様僕何かあなたに失礼なことしましたか!?悪魔だからって差別しないでその幸運を僕にも分け与えろください!てか寄越せ!

 

くそ!いつもならWelcomeだが今日は違う。たった今僕は情報収集のため隠密行動中なのだ。あまり大事にはできない。

 

「先ほどからボクの魔剣が邪悪な気配を感じ取っているようでね。だからちょっとそのフードと仮面を取ってくれないかな?」

 

なんだそれ!?邪悪な気配って、その魔剣そんな機能もあったのか!?チートやチート!

てかその神具と思われる魔剣(神具なのに魔剣ってなんでや)からめっちゃ殺意が飛んてくるんですが!?

く...作って1日のアンダーカバーが危険人物認定されるのは惜しいが顔割れには変えられない。

よし!逃げよう。

できるだけ威圧感出してそれっぽいこと言って逃げようじゃないか!

 

「...無言を貫くか。仕方ない。お前を不審人物として捕らえる。」

 

相手を見下すように、確実にこちらが格上だとわかるように...つよつよオーラを放つんだ僕。それができずして大悪魔は名乗れない!

 

『.........神に選ばれし勇敢なる愚者よ。』

 

 

◆ ◆ ◆

 

『.........神に選ばれし勇敢なる愚者よ。』

 

その声を聞いた瞬間背筋が凍りついた。

その男とも女とも取れる声はなんの感情さえ感じられない平坦なもので、それがまた恐怖を煽ってくる。

圧が徐々に強くなり体が鉛のように重く感じられる。

今すぐにでも逃げ出してしまいたい。勇者の使命なんてものをほっぽり出して逃げてしまいたい。

何者...いや、あれは一体なんなんだ。

 

『今宵は良い夜だ。貴様のような強者に会えるのだからな。』

 

瞬時に構えた魔剣グラムを持つ手がガタガタと音を立てるように震える。

ありえない。あんなものがこの世に存在してはいけないんだ。

あの恐ろしい笑顔の仮面から覗く真っ赤な、しかし冷ややかな目に全てを見通されているようで、どこ逃げても無駄だということを本能的に察してしまう。

 

『しかし、残念ながら我は今、あまり目立ちたくないのだ。故に貴様との戯れはまた次の機会にしようと思うのだが、どうだろうか?』

 

アレを取り巻く闇が一層深くなりそれと共に自らにかかる圧が増す。体の震えが止まらない。アレが話している内容すら頭に入ってこない。

本能が悲鳴をあげる。アレは人間ごときが勝てるような存在ではない、と。

ボクはその提案に壊れた人形のように頷くしかなかった。

 

◆ ◆ ◆

 

はい、無様に逃げ出してきた大悪魔(笑)です。

はあ...あの程度の勇者相手に逃げ出すことになるとはね。まったく...憂鬱だ。

しかし勇者か。また会いたいなぁあの子に。

ああ、会いたい。君に会いたい。どうしたら会えるだろうか。正義心の強そうな子だった。もしかしたら僕が何かしらの悪さをしたならすぐに飛んできてくれるかもしれない。

そうだぁ!この街の住人を全員虐殺して死体を見せしめとして吊し上げるのはどうだろうか?これなら目立つしきっと彼女は見つけてくれるはずだ。思い立ったが吉日!さあ、この街の住人には僕とPrincessのための生贄となってもらーーー

 

「ぐ...ぅ....はぁ...危なかった。」

 

自らの腹にあのとき彼女が置いていった短剣を突き刺す。それ自体はただの短剣だったようで、僕の体に傷をつけることはできなかった。やはりあの子は特別な存在だったのだろう。

だがこの行為によって思い出させてくれる彼女に与えられた痛みが僕を正気に戻してくれる。

 

「くく...くくく...愛、というのは一方的なものであってはならないんだ...双方が等しく愛し合ってこそ成立するものだ。だから...こんな彼女を傷つけるようなこと、はしてはいけないんだ。」

 

自分に言い聞かせるように呟く今の自分は例えレインコートを身につけていなくとも十分怪しくみえるだろう。だがこれは僕自身に必要な行為なのだ。でなければ突如発生したこの感情がどう暴走するかわかったものではない。

 

「ああ...やはり君は特別な存在だ...!!会いたい...早く会いたいなぁ....」

 

 ◆ ◆ ◆

 

ーーー緊急!緊急!全冒険者のみなさんは、直ちに武装し、戦闘態勢で街の正門に集まってください!....特に冒険者サトウカズマさんとその一行は、大至急でお願いします!!

 

レインコートは怪しすぎる。かといって他の服というと封印前から身につけていたスーツしかない。これでは嫌に目立ってしまう。

ということで僕が昨日の失態を生かし、新たな変装用の服装をそこら辺をふらついていたチンピラ風金髪冒険者を参考に買い揃えていたところ街にこのような放送が鳴り響いた。

 

どうも緊迫した雰囲気だったがどうしたというのだろう。

それにしてもサトウカズマ、ねぇ?

おそらく女神に召喚された勇者の一人だろう。

 

勇者。それは過去に戦ったあいつらのように奇跡とも言える「ちーと」といった能力や強力な神具を頼りに魔物や魔族を狩る者。

どのような能力を使うのだろう?どのような神具を所持しているのだろう?

そしてそれらが一切通じないとわかったとき、彼はいったいどのような感情を魅せてくれるのだろうか。

楽しみだ。

 

 

閑話休題

 

 

しっかし緊急とな?いったい何が起こったのだろう。キャベツの時期にはまだ早いはずだが...

考えてみても仕方がない。ひとまず放送に従って正門に向かってみよう。僕は冒険者ではないが...そこはなんか悪魔的なぱぅわぁーでなんとかしよう。

 

様々な武器を手に走っていく冒険者の後を追い、正門に着いたところで全体を見渡せるところはないかなー、と探し、良さそうなとこもなかったので結局城門の上で見学することに。普通ならアホみたいに目立つ場所だが僕は悪魔だ。普通の奴らと一緒にされては困る。気配の一つや二つ消すことぐらいできるのだ。地味にすごくない?褒めてくれてもいいのよ?

 

さて、ひとまずちょうどいい観覧席に辿り着き、下を見下ろすとそこには戦争でもいくんか?と思わせるくらい多くの冒険者と...向こうの丘の上に見知った顔が一つ。

 

(ベルディアじゃねぇかぁぁぁぁ!?)

 

 え?何やってんの?僕らの任務はアクセルの調査のはずだよね?なんで正面切ってやり合おうとしてるの?偵察任務的なものじゃなかったっけ?あの魔王が注目するほどの不確定要素があるこのアクセルで正面から正々堂々戦おうって?ゔぁかじゃねぇの?

 

「なんで来ないのだ!この人でなしがぁぁぁ!」

 

何やってんだこんの変態デュラハンがぁぁぁ!?




キョウヤとの会話を簡単にすると
「おーこんばんは。君強いねー。でも僕今ちょっと用事あるからまた今度でいい?んじゃ、にーげるんだよぉぉぉ!!」


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駆け出しの町って...なんだっけ?

ベルディアとアクセルの冒険者たちとの戦いが幕を切ってしばらくの時間がったった今、戦場である城門前の平原に立っているのは多少傷を負い数も少なくなっているがなんとか未だ倒れない冒険者どもと水浸しになったデュラハン、ベルディア。

あの冒険者どもがベルディアをここまで追い詰めるとは思わなかった。いや、主に彼を追い詰めていたのはあの茶髪の少年が率いる4人のパーティーだ。

あの少年の機転がこの戦いの勝敗の分け目となったのだろう。まだ若いというのに立派なものだ。

 

だが、一つ言わせてほしい。なんで駆け出しの町と呼ばれるこのアクセルに爆裂魔法使いがいるんだよ!それになんだあの洪水は!?草原一帯が水浸しになるってどんな魔法だよ。城壁も崩れたせいで危うく巻き込まれるところだったし...あ、そういえばベルディアの攻撃を受けて逆に喜ぶ変態もいたな。ああいう手合いは苦手だ。なかなか悪感情を生み出してくれない。何をしても逆に喜ぶんだもん。

 

(そろそろ助けてやるか)

 

ベルディアのやつも面白いものを見せてくれた。奴の感情が僕に向けてのものじゃないことが惜しいと感じるくらいにいい悪感情を放っていた。

せっかくだし助けてやろう。古くからの友人だからな。失うのは惜しい。

それに腹も減った。

レインコートと仮面をつけて準備完了。

さあ、食事の時間としよう。

 

◆ ◆ ◆

 

いくらか死者は出したがもはや魔王軍幹部ベルディアは満身創痍の状態だった。

さらには逃げようにも頭部はカズマたち冒険者に弄ばれ逃げようにも逃げられない状態。

完全に詰みだ。

 

「セイクリッド・ターンアンデット!!」

 

アクアの浄化魔法をくらいベルディアの胴体は白い光に包まれながら消えていく。

 

「それっ!」

「ちょ.....!まっ!?」

 

それに続くようにカズマによって浄化の光に向け投げ飛ばされた頭部も胴体に続き光に飲まれ消えてなくなる....

 

 

 

 

ことはなかった。

 

「うお!?」

「な!?消えた!?」

 

ベルディアの頭部が光に飲まれる直前に消え去ったのだ。冒険者たちは突然のことに驚きながらも頭部の行方を探す。まさか逃げたしたのだろうか。あの状態で?ありえない。

だがそんな冒険者たちの心配をよそにそれはすぐに見つかった。

 

いつからどこにいたのか、灰のレインコートを深く被った仮面の女性とも男性ともとれる人物が効力が終わり消え去っていく光の柱の前に立っていた。その手には鈍く光るマチェット、そしてベルディアの頭部が鷲掴みにされていた。鎧が少し歪んでいるあたり相当な力で握っているようだ。

 

「だ、誰dーぎゃぁぁぁ!?痛い痛い痛い!?死ぬぅぅぅぅ!?」

『おっと、これは悪いことをした。許せ。』

 

平坦な、感情を読み取ることのできない冷たい声が静かな戦場に嫌に響く。

魔王軍の援軍か?とあっけに取られていた冒険者たちが正気に戻り次々と武器を構え音が再び戦場の静寂を破る。

そんな中水色の髪をしたプリースト、アクアが声を上げた。

 

「あなた、悪魔ね?」

『正解だ。青髪のプリーストよ。』

 

悪魔、それは人間の悪感情を糧とし、神と敵対するもの。

それが発している威圧感というのだろうか。それさえも強大で思わず後ずさってしまうものがいるほどだった。

 

『我のことは...そうだな、レインコートとでも呼ぶが良い。どうせ貴様らはここで終わるのだ。我の名を知る価値もない。』

 

高慢な物言いだった。だがそれに殆どの者は言い返すことができなかった。いやできなかったといった方が正しいだろう。

だが、ただ一人。アクアだけは違った。

 

「ふん。寄生虫風情が随分と偉そうな物いいね。できる物ならやってみなさい。返り討ちにしてやるわ。」

「おいー!?アクア!?お前何挑発してるんだよ!?」

『.....随分と大きく出たな勇者よ。我を寄生虫呼ばわりとはな、いくら神に愛されているからといってあまり調子に乗らない方が身のためだ。』

 

売り言葉に買い言葉。流石の悪魔でも寄生虫呼ばわりはイラついたのか少し口調を強めた。だがアクアは全く気にする様子もなく、むしろたった今生まれた疑問を悪魔に問いかける。

 

「神に愛される?何のこと?」

『他の転生者どもと比べれば一目瞭然だ。その身に纏う圧倒的な神気、神の寵愛と呼ばずしてなんと呼ぶか。』

 

「何いってるの?私が神なんですけど。」

 

悪魔は思わず呆然とした。冒険者たちも何いってんのこいつという目でアクアを見つめる。ただ一人他人のフリをしようと距離を取るカズマを除いて。

 

『...............貴様、虚言癖でも持っているのか?大体神がわざわざこの地上に降りてくるわけがなかろう。』

 

悪魔は怒りも驚き通り越してただただ呆れた様子だ。アクアを見る目も心なしか可哀想な子を見るものに変わっている気がする。

だがその様子が気に障ったのかアクアは声を張り上げる。

 

「このっ!言わせておけば!いいわ!やってやろうじゃないの!今更謝ったって許さないわよ!」

 

アクアがなんらかの魔法を発動させようと詠唱を始めた。先程ベルディアに対して使われた『セイクリッド・ターンアンデット』は悪魔には効かない。ならばあの頭のおかしい水量を生み出す『セイクリッド・クリエイトウォーター』あたりを使うのだろうと考えた悪魔は水浸しになるのは嫌だな、とその詠唱と同時に簡易的な結界を自らの周りに貼る。

だが結果から言えばそれは無駄となった。

 

「セイクリッド・ハイネス・エクソシズム!!」

『は....あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?』

 

アクアが放った青白い光線が悪魔を包み燃え上がる。効果は抜群だ!

※レインコートに大ダメージが入った!あと少しで倒せそうだ!

※ベルディアはターンアンデットと勘違いしたのか気絶している!

 

『き、貴様なんだそれは!?我に痛みを感じさせるなど...ありえん!』

「あら、意外と丈夫ね。安心しなさい次で決めるわ。」

 

アクアは自称神とは思えないほど悪い笑みを浮かべながら指先に再び光を集め始める。

その指先は変わらず大ダメージを負い黒い瘴気を煙のように上げるレインコートに向いている。

 

『クソがぁ!覚えていろこのクソプリースト!ここは引かせてもらう!それとこれは戦略的撤退であり断じて敗走などではない!』

 

「セイクリッド・ハイネス・エクソシズム!!」

 

悪魔の姿が突然湧き出た闇に溶けていく。

アクアの放った聖なる光りがそれを貫くもそこにはもう悪魔はいない。悪魔の負け犬の遠吠えともとれる叫び声がこだまするだけだった。




この主人公はイキリ出すと大体手痛いしっぺ返しを喰らう気がする。


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おらさこんな村(町)いやだ

勢いだけで書き始めたこんな作品を案外見てくれる人もいて、しかもお気に入り登録をしてくれる神様までいる事実に思わず涙が出てしまいますよ。
本当にありがとうございます。


「やってられるかぁぁぁぁぁぁ!!」

 

アクセルの客の少ないさびれた酒場の中、悪魔は自棄酒を煽っていた。無論、悪魔である彼がその程度の度数の酒で酔えるはずもなく、これはただ雰囲気によっているだけである。

 

「なんなんだよぉ!なんで駆け出しの町にあんな化け物プリーストがいるんだよぉ!ふざけるのも大概にしろよぉ!」

 

酒瓶が叩きつけられた衝撃で机がミシリと音を立てる。机をそのままの勢いで粉砕、玉砕、大喝采しなかったのは彼の理性がすんでのところで押しとどめたからだ。

 

「なあ、ヴェスト....だよな?久しぶりに会えたのは嬉しいのだが、一体いつまでアクセルにいるつもりなのだ?このことをさっさと魔王様に報告しに行った方がいいんじゃないか?」

 

机の隅に置かれた薄汚い革製の袋、ではなくその中に入れられたベルディア(頭部)が小声で話しかける。胴体は見事アクアに浄化されてしまったためこうして雑な扱いを受け入れるしかないのだ。

 

「いつまでってぇ?んー...飽きるまで?」

「ふざけるな、アクセルの異変ってのは間違いなくあの化け物プリーストのことだろ。それに俺は一刻も早くここから逃げたいんだ。」

 

とてもじゃないが魔王軍幹部とは思えないセリフを吐くベルディア。

だがそれも一理ある。

ヴェストはアクアのセイクリッド・ハイネス・エクソシズムによって存在が消滅しかけるほどの大ダメージを受け、次またアレを食らったら今度こそ消え去りかねない瀕死の状態。ベルディアは胴体が浄化され戦うことすら不可能。普通に考えれば今すぐ撤退すべき状況だろう。

だがヴェストはその考えを一蹴する。

 

「なぜだ?まだこの町ですべきことがあるとでも言うのか?」

「そうだ」

 

ヴェストは酔ったフリをやめ真剣な眼差しでベルディアを見つめる。その顔にはこの男に本来存在するはずのない強い決意が宿っているように感じた。

 

「僕はまだあの子に会えていない。」

「....は?」

「ああ、愛しき我が勇者よ!なぜ再び私の前にそのお姿をお見せしてくださらないのか...まだ...まだ愛が足りないと言うのですか?」

 

ベルディアは法悦の表情を浮かべる友人を見て1分前の自分を殴りたくなった。

恋する乙女(?)の顔というより狂信者のような顔でぶつぶつと何かを呟き続けるヴェスト。いったい会わなかったこの数百年間に何があったというのか。

昔は感情の「か」の字すら知らないようなただただ食欲のままに人々の恐怖を集めるだけの冷徹な悪魔だったはずなのに...

 

「まさかお前、その愛しの勇者とやらに会うために残るっていうのか?」

「Exactly‼︎(その通りでございます)」

「ふざけるな!俺は帰るぞ!」

「その状態で帰れるものなら帰ってみるんだな。」

「クソが!」

 

両者とも瀕死の状態だというのに少なくともこうして馬鹿騒ぎできるくらいには元気なようだった。

そもそもの話、今のヴェストでは魔力のほとんどを回復に当てているため、魔王城へのテレポートが使えない。

つまりこのアクセルでアクアに怯えながら回復するまで過ごすか野宿するかの二択しかないのだ。

野宿となるとヴェストはともかく今のベルディアは野生の魔物やそこら辺の冒険者に狩られる可能性が高い。そもそも魔王城までの長い道のりを生首だけでたどり着けるとは到底思えない。

渋々言いながらも彼はこの提案を受け入れなくてはならなかった。

 

「はぁ...クソ。それで.......その勇者とやらは可愛いのか?」

「ああ、クッソ可愛かった。」

 

さすがは変態デュラハンと恋愛脳な悪魔だ。重要そうな話が終わったとなったら一転して男子高校生のようなくだらない会話へと逸れていく。

緊張感もクソもない。いやそれは最初からなかったが。

 

「銀髪で短髪の美少女でな。元気で活発そうな子だったよ。頰に小さな傷跡があるのだがそれさえも味を出していて僕の心臓に(物理的に)ズキューンときたよ。」

「ほうほう?それで?まだ重要なことを聞いていないぞ?たっぱは?おっ◯はでかかったのか!?」

 

やはりこのデュラハン、変態である。普通いきなりそこから聞くのだろうか?

だが、その問いに少しの間を空けヴェストは申し訳なさそうにしながらも答えた。

 

「ごめんな....僕は、貧乳派だったようなんだ。」

「なん....だと....!?」

 

性癖の違い。時には友情をも崩壊へと導くと言われるそれが彼らの間に立ち塞がる。

貧乳派と巨乳派。長年血を血で流すような激しい争いを繰り広げていた二つの宗派の争いが今この場で発生しようとしていた。

 

残り少ない魔力を費してでも相手を消し去らんと睨み合う二人によってまさに今アクセル全域を巻き込む聖戦が始まろうとしていたところ、ベルディアの視界の隅に青空のような青い髪がなびいたのが映る。

 

「ひぃ!?」

「ねえカズマ?お腹減ったんだけど?」

 

ヴェストもそれに気づいたのか素早くベルディアを袋ごと机の下に隠し帽子の鍔を押さえて深く被り、気配を極力なくす。

ここまでの行動僅か1秒弱。

 

「あら?なんかこの辺臭うわね。」

「そうか?気のせいだろ。」

 

ベルディアは首だけのくせに器用にガタガタと震え、ヴェストは冷や汗をダラダラと垂らしながらも嵐が過ぎ去るのを静かに待つ。

幸い彼女たちはこれから取る昼飯のことで頭がいっぱいだったようでギリギリバレることはなかったようだ。

 

「...........ぁっぶねー!!」

「久しぶりに命の危機を感じた。」

 

こんなところにいられるかとヴェストは荷物(ベルディア)を用意して残った酒を飲み干し金を置いてさっさとその場を離れる。

心臓がドキドキと鳴り響く。だがこれが恋などではないことはヴェストも理解していた。

 

「....逃げないか?」

「や☆だ」

 

ヴェストは冷や汗を流しながらも爽やかな笑顔を返した。彼にとって命の危機よりも初恋の人に会うことの方が重要だったのだ。

ベルディアは絶望した。ちなみにそれはなかなか美味な感情だったらしい。

 

「嗚呼...私は諦めません。あなたのお姿を再び拝むまでは死んでも死にきれない。一体...どこにいるのですか?」

 

ほぼ同じタイミングで何処かで一人の盗賊が可愛らしいくしゃみをしたのはおそらくただの偶然だろう。




ヴェスト君の一人称は我、僕、私の三つがありますが一応使い分けられています。「彼の感情、自我は彼自身が作り上げた虚像、つまりはただの紛い物なので様々な一人称がある」なんて設定も考えましたが、ぶっちゃければ作者が色んな一人称を使いたかっただけなんだよね。
こんな作者でごめんなさい。
基本は「僕」です。


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悪魔という皮を被った変態

迫り来る夏の終わり。未だ減らない宿題の山。とうに擦り切れた精神。タスケテ(自業自得)


魔王軍幹部ベルディアの凶行から約三週間。

ヴェストたちは魔王様直々に命じられたアクセルの街の調査を続行するという名目で極めて私的な人探しをしていた。

もちろん髪も比較的目立たない暗めの茶髪に変色させ服も以前買った地味なものに着替えている。

 

余談だが髪は染めた、のではなく変色させてある。彼の性質上、姿を変えるのはお手のものなのだ。

だが「それならいっそのこと変装せずに顔変えれば良くね?」と思うが、そううまい具合には作られていない。

彼は見通す悪魔バニルの仮面のように本体があるわけでもなく、かと言って肉体があるわけでもない。

どちらかと言えば冬将軍などの精霊などのように実態を持たない精神体だ。

だが素の状態の彼には自我がなく、ただ食欲があるのである。

そしてその自我は現在彼がまとっている虚像に依存しており、つまりは現在の虚像、イメージからかけ離れすぎた姿に変えようとすると自我が崩壊する可能性があるのだ。

 

このように彼は他の悪魔とは少し違った存在であり、一体彼の自我の元となった「虚像」は誰が創ったのか。本当に彼は悪魔なのか。

謎が多い彼だがただ一つわかっていることがある。

それは「虚像の悪魔」の存在が確認されるようになったのは古代ノイズ国に某科学者が現れて以降だということだけである。

 

 

 

閑話休題

 

 

 

彼はベルディア(首)を腰に下げながら街で出会った銀髪の後ろ姿に片っ端から声をかけるというナンパまがいの行為をし、視界に少しでも水色のプリーストが入り込んだら即撤退を繰り返していた。

 

あれはヴェストたちにとって死神も同然の存在。今ではもうその行為が反射的に行えるほどに彼らはアレを警戒していた。

そしてそれを従えるカズマという冒険者に尊敬の意を抱いていたりしていた。

基本職の冒険者だというのにあれほどのプリーストを従えるとは。クズマとかカスマだとか評判は良くないようだが。

 

ちなみになまじ彼の顔がいいせいで相手からあまり悪い反応が返ってこないことにより生じるベルディアの悪感情は実に美味であったらしい。立派な食糧生産機に成り下がっているベルディアである。

 

「あれがお前の探していた勇者とやらなのか?」

「嗚呼やはり輝いておられる...美しい...何故か今はその神々しいまでの力をお隠しになっているようだが私にはわかる....間違いなく彼女だ...‼︎あれの前ではいかなる宝石も美食もくすんで見える...‼︎」

「だめだこりゃ。」

 

そんなこんなでたった今、彼らは銀髪の勇者と思われる女性を発見し....声をかけることなく物陰から様子を見ている。

これでは完全にただのストーカー行為である。

心なしか周囲の目線が冷たいのは気のせいではないだろう。

 

「話しかけないのか?」

「馬鹿を言うな!彼女と私は現在不運な出会いにより残念なことに、とても残念なことに敵対していることになっているんだぞ。」

 

彼は不運な出来事と言っているが悪魔と勇者、いや人間自体が敵対関係にあるのは当然のことでありどのような出会いであってもこのような結果になるのは当然である。

 

「それにな...」

「それに?」

「そんなことをしたら私が緊張のあまりこの街で暴れまわってしまうかもしれない。」

「それは洒落にならないからやめろ。」

 

どうやったらそんなことになるのか。ベルディアはため息をつきたくなった。変態であることを除けば比較的常人であるベルディアは自分よりも変態なこの悪魔に精神的にも物理的にも振り回されるこの状況は非常に疲れるのだ。

ちなみにそこから排出される悪感情のおかげでヴェストは絶好調である。

 

「それにあれを見ろ。あの金髪ドMクルセイダーと話す彼女の顔を。とても美しい...」

「確かに可愛いが近くにいるお前のせいで台無しだよ。」

 

おそらく友人なのだろう茶髪の冒険者、サトウカズマのパーティのクルセイダーと話す彼女の表情は晴れやかだった。

流石の彼もそれを邪魔をしない程度の常識はあったのだろう。だから言ってもこのようなストーキング行為は褒められたことではないが。

 

「む?おい、話終わったようだぞ。」

「っは!?すまない。どうやら見惚れてしまっていたようだ。」

(ほんとにこいつ大丈夫か?あのお嬢ちゃんが可哀想に見えてくるな...)

 

ベルディアが普段虚像ゆえに感情を写さない彼の血の海のような暗く赤い瞳に「歓喜」や「緊張」などと言った感情を幻視するほど今のヴェストはおかしかった。

 

友人と話終わり歩いていく彼女を引き続きストーキングする彼らは明らかに浮いているのだろう。ベルディアは自分たちに集中砲火される視線の雨に今はなき胃が痛んだ気がした。

そのままつけていると彼女は人の気配の少ない路地裏に入っていった。

なんだ?そちらに何かあるのだろうか?それともそこが彼女の目的地への近道なのか?

そのような考えを一瞬考えたがすぐにそれを振り払う。

間違いない、確実に彼女は我々に気づいている。

 

「おいヴェスト。これって....」

「そろそろ出てきてくれないかな?ストーカー君?」

 




某科学者「ヤッベェwwwまじヤッベェwwwボクっ娘メイド作ろうとしたら悪魔っ娘できちゃった!どうしよwwww」

ヴェストは性別不詳外見中世的な悪魔です。なので見ようによっては百合の花が....咲かねぇわ。正確男よりというか男だもん。


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悪魔だって信仰したい!

「おいヴェスト。これって....」

「そろそろ出てきてくれないかな?ストーカー君?」

 

人気のない路地裏に響くソプラノボイス。

普段ならそれを聞くだけでも能面のような笑みが崩れ落ち”にへら“とでもいうように、だらしなく表情が緩んでしまうヴェストもこの時だけは逆に凍りついたように表情が固まった。

冷や汗が滝のように背中を伝うのがはっきりと感じ取れる。

 

(このままやり過ごせないかな?)

(無理だろ)

(でも...)

(行け)

(いやだってさ...)

(関係ない。行け)

 

だが意気地な彼はこのままやり過ごそうとベルディアに相談するも「無理」という冷たい返答しか返ってこない。そんなベルディアに『スゴ味』を感じたヴェストは渋々姿を現すことにした。

 

「やあ。またあったね勇者ちゃん。」

「っ!なんで君がここに!?」

 

ヴェストは一言一言緊張で言葉が震えないように気をつけながら言葉を紡ぐ。

うまく隠しているつもりなのだろう。だがベルディアにはわかってしまう。青髮エセ女神から身を隠し続ける地獄の三週間、伊達に生死を共にしたわけではないのだ。

 

「そんなの決まっているじゃないか!君に会うためさ!しかし僕もこんなところで君と会えるなんて思ってなかった!もしかしてこれは運命というやつではなかろうか!」

「...ストーカーしてきたくせに」

 

彼女のボソリと呟いた小言はヴェストの耳には届かなかった。悪魔の耳は悪魔自身に都合の良いようにできているようだ。

 

「嗚呼、素晴らしき運命!我が想い人にこんなにも早く出会えるとは!感謝を!」

(三週間って短かったっけ?)

 

ベルディアを含む大多数の人々にとって三週間という時間はなかなか長い時間だと思われるが彼にとっては短いのである。いや、もしかしたら結果的に想い人に会えるのであれば彼にとっては1ヶ月も1年だって短いのかもしれない。彼の時間感覚は非常に都合の良い作りのようだ。

 

「一応聞くけど...あたしに会いにきた理由ってあの時の仕返しをするため?」

「否!断じて違うとも!僕は君に会いたいがためにここにきたのだ!嗚呼やはり君は美しい!隠しているのかあの時と比べ神々しさは劣るがその可愛らしさに衰えはない!結婚してくれ!」

「無理」

「グハァッ!!」

 

虚像の悪魔ヴェストにクリティカルヒット!

ベルディアは若干というかとても引いている。銀髪勇者(仮)も引いている。

そんな銀髪勇者(仮)の感情を受けることすら幸せを感じているヴェストはやはり変態なのかもしれない。いや、変態だ。

 

「いや...まだだ。僕はこんなことでは倒れはしない。そう、いつか本で読んだことがあるんだ。結婚するにはまず恋人になる必要があるっ!!そして恋人になるには友達になる必要があるとねっ!というわけで友達からお願いします。」

「やだ」

「ゴハァッ!?」

 

ヴェストは吐血した。と言っても吐き出したのは黒い瘴気だが。

おそらくアクアによるセイクリッド・エクソシズムよりもダメージを喰らっていることは確かだろう。彼の本体は精神体。故にこう言った精神的ダメージの方が効くのだ。

つまり何を言いたいかというと彼は瀕死状態にあり浄化を通り越して消滅しかけているということだ。洒落にならない。

 

「な...なぜ...!?」

「なぜって、君悪魔でしょ?無理だよ。悪魔嫌いだもん。」

「ガハッ!?」

 

心なしか彼が薄れて見えるのは気のせいではない。このまま消滅するんじゃないだろうか。そうなったら道連れになる可能性にあるベルディアは地味に焦った。

 

「じゃ、じゃあ!せめて名前だけでも!」

「いい...けど。.......条件があるって言ったらどうする?」

「なんでも聞こう。なんだってやろう。任せてくれよ。」

 

まさに地獄に垂らされた一本の蜘蛛の糸。

微かな希望の光を見つけたヴェストは速攻で食らいついた。これには彼女も若干引いている。

 

「そ、そっか。えーと....じゃあこの街の人たちに危害を加えないことを約束して欲しいんだけど...」

「了解した。」

「うん...やっぱだmぅえ!?いいの!?」

「もちろん。君の名前は僕にとってそれくらいの価値があるのさ。」

「うわぁ....」

 

ヴェストはさも当然のように言いはなつ。

彼と言う悪魔にとってこれは大きな食糧庫をまるまるひとつ失うことと同意義。だがそれを間髪入れずに了承するとは。最近ベルディア(食料生産機)を手に入れたと言っても普通は迷うものだ。

愛の前にはたとえどんなに強大な悪魔でもここまで盲目になるのか。

またしても勇者はドン引きした。

 

「はあ、わかったよ。私の名前は“クリス”。これで十分かな?」

 

呆れながらも勇者改めクリスは自らの名前を悪魔に明かす。彼女としては悪魔などに名前だって明かしたくはなかったがこれでこの街の安全が確保できるならば安いもの。そう割り切っていたのだが...

 

「....」

「?どうしたの?ちゃんと教えたけど?」

「なぜ....」

 

「なぜ嘘をつくのですか?」

 

その一言にクリスは背中が凍りついたかのような錯覚を感じた。なぜ?彼女の中には疑問が渦巻く。そして同時にこのままではまずいとも。

 

「あまり悪魔を、私を舐めないでいただきたい。たとえ貴方への愛故に盲目となっていたとしても選り好みせず様々な感情を食してきた私にとって感情を読み取りそこから“嘘”を感じ取ることなど容易なこと。」

 

クリスはこの恋という病を患った愉快な悪魔に初めて恐怖というものを抱いた。

今までのアホみたいな行動から忘れがちだが彼は悪魔。それも大昔魔道大国ノイズを危機に陥れ封印された大悪魔だということをクリスは知識として有している。

 

「もし貴方がこのまま嘘を突き通すというならば私はこの契約を反故にされたと受け取ろう。たとえ愛しの君であろうと契約を破る者には悪魔としてそれ相応の対応をせねばならない。」

「...っ」

 

たとえ変態だろうが恋愛脳だろうが悪魔は悪魔。彼らにとって約束や契約は絶対。破るのであればそれ相応の報いを受けることとなるのは誰もが知っていることだろう。

そうなると約束の対象であるこの街アクセルに被害が及ぶのは明白。

有言実行、それが彼だ。

たとえアクアに浄化されかけたヴェストだろうとあれから時間が経ち封印による弱体化の影響も弱まった彼が本気で暴れたらどうなるか。

クリスは決断を迫られていた。

 

 

「....わかった。ちゃんと答えるよ。」

 

 

彼女は契約を履行することにした。

その結果。どのようなことになろうと目の前の救える命を見捨てるわけにはいかない。そんな彼女の正義感がこの選択を選ばせた。

 

 

「ただこれから言う私の本名を口外することは避けて欲しい。」

「了解だ」

 

 

瞬間、彼女の何かが変わった。姿が変わったわけでもなくヴェストの目に写る神気が増大したわけでもない。だが確実に何かが変わったのだ。

 

 

 

「はぁ....約束は守ってくださいね....」

 

 

「私の名前はエリス。」

 

 

「幸運の女神エリスです。」

 

 

 

女神エリス。国教や貨幣になるほどの信者を持つ女神。数百年封印されていたヴェストだろうと知っている。

ヴェストは目を見開いた。悪魔の天敵にして宿敵とも言える女神。その一柱。それが恋した女性だと言うのだから驚くのも無理もないだろう。

 

「...わかっていただけましたか?私が貴方を拒む理由は。女神と悪魔は長年の敵同士。友達、ましてや恋人など...」

 

 

 

 

 

 

「ふつくしい....」

「...はい?」

「今までなぜ人間がただの偽善者に過ぎないと考える神などと言うものを崇めるのかわからなかったが、なるほど。これほどまでに美しいのなら無理もない。納得だ。」

 

神と悪魔。長年の宿敵にして見敵必殺の関係にある彼らだが、ここにいる悪魔は“虚像の悪魔ヴェスト“。

そう、ヴェストはヴェスト(変態)だ。

こんなやつに常識など通じるはずがないだろう。

 

 

「入信します」

「やめてください」

 

一進一退。彼は諦めない。たとえその恋が実る可能性が限りなく0に近かろうと、彼がヴェスト(変態)である限りは諦めはしないだろう。

 

※女神エリスは逃げ出した。

 

※ヴェストは銀髪勇者の本名を手に入れた。

※エリスが彼を見る目が敵意から奇怪なものを見るものへと変わった。

※ベルディアはあることに気づいて絶望した。

 

 

 




ベルディア「ヴェストが相当だって言うほどのあのアークプリーストって...ガチモンの女神なのでは?」

女神エリスが降臨しているのなら他の神々もいてもおかしくない。
ベルディアは真実へと一歩近づいた。


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大きくてガシャガシャしてて妙に子供から人気なアレ

お気に入り50超えていたことに驚きを隠せません。喜びの舞を踊ってしまいました。弟から白い目で見られました。
ありがとうございました。

追記
誤字報告ありがとうございます。
デストロイヤーがデスト“レイヤー”になってました。
絵でも描くつもりだったんですかね...?


「エリス教に入信するには....ふむ、なるほどな。」

「そうだ。何事も小さな善行からと言うからな。」

 

人の行き交う昼間の商店街。

ヴェストはエリス様(クリス)の友人ということで目につけた人間ことダクネスからエリス教の心構えをご教授頂いていた。

御神体とされるエリス様直々に拒否されてしまったためこう言った地道な努力をして認めてもらうしかないと考えたのだ。

ちなみに今の格好はデフォルメの白と黒のツートンカラー。

目立つからと言って変色させていたがめんどくさくなった。やっぱデフォルトが一番落ち着くのだ。

 

「しかし、何もそこまでしなくてもエリス教徒には...」

「だめなんだ。僕はまだ未熟すぎる。このままではエリス様を崇めることすら許されないんだ。」

「なんと...!」

 

『デストロイヤー警報!デストロイヤー警報!』

 

突如鳴り響く警報。

ヴェストはいいところなのに...と眉を顰めるがダクネスは顔を青ざめさせる。ただ事ではない様子。

 

「つ!すまない!私は行かなければならない!ミラーは早く避難するんだ!」

「え?ちょっと...」

 

取り残されるミラーことヴェスト。よく見ると周りの人々もざわざわと騒がしい。

ちなみにミラーというのは偽名だ。これでも一応昔に一度悪い意味で知れ渡った名だ。注意するに越したことはない。

 

「なあベルディア?これって?」

「何言ってんだ早く逃げるぞ!遠くへ逃げるんだ!俺はまだ死にたくない!死んでるけど!」

「だからデストロイヤーってなん「ああああ!なんでこんなところに来るんだ!早く逃げr」落ち着け!」

「ぐあ!?」

 

パニクッっていたベルディアに拳を叩きつける。ゴーンと金属音が鳴り響く。当然素手で兜を殴ったヴェストにも殴られたベルディアにもダメージは入ったがおかげで落ち着いたようだ。

 

「いつつ...で?デストロイヤーってなんなんだ?」

「知らんのか、ってそうか。その頃お前封印されてたんだったな。」

「ちょっとヘマしてな。」

 

「いいだろう。このベルディア様が無知な貴様に直々に....」

「いいから教えろ。」

「あ、はい」

 

もう一度殴ってやろうか、と拳を握ったところでようやくベルディアが説明を始めた。

 

「機動要塞デストロイヤー。魔道大国ノイズによって生み出された魔王軍用の兵器。暴走し今もなお破壊を続け、それが通った後にはアクシズ教徒以外何も残らないという...」

「何それこわ、ってかノイズ?」

「ああ、お前が封印された国だったな。何か関係があるかも知れん。あ、ちなみにノイズはデストロイヤーに滅ぼされてるぞ。」

「えぇ....」

 

ヴェストは突如出てきたノイズの名に過去の友人を思い出す。

偉大な科学者だった彼もそのデストロイヤーに殺されたのだろうか。だとしたら仇くらいはとってやろう。

ヴェストはそんなことを考え「デストロイヤーってもしかしてあいつが作ったんじゃ...」という考えを頭の隅に追いやった。

流石にあいつでも国を滅ぼすことなんてしないだろ。

それがフラグとも知らずつぶやいた。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

「おー集まってる集まってる。」

「よく逃げなかったものだ。蛮勇だな。」

 

いつかと同じように塀の上から集まった冒険者たちをこそこそと隠れながら見下ろす。

あの悪魔感知機な似非女神の前で前回のように堂々と見学するのはあまりよろしくない。

ヴェストが「強キャラムーブができない...」などと呟いていたがベルディアに無視された。

 

「立派なものだ。さすがはエリス教徒といったところか。」

「俺には自分の欲望のためにやってるようにしか見えんが...」

「ふん、エリス教徒である彼女がそんなことするはずがなかろう?」

「というかお前変装した途端キャラ変わるのなんなの?」

「キャラ作りは完璧でないと...な?」

 

最前線でデストロイヤーを待ち構えるダクネスの姿を見てヴェストは賞賛を送る。

それが欲望のためだとしてもその行動は立派なものだ。まあエリス教徒である彼女に限ってそのような邪なことはあり得ないだろうが。ヴェストは満足げに頷いた。

 

「来たぞーーーっ!」

 

視界の奥に映る木々を押し倒しながら侵攻する黒光りする巨体。

この瞬間ばかりはカズマの“デカイ”“速い”“怖い”の三拍子に完全に同意してしまった。

 

「なんだあれ!?デカカァァァァァいっ説明不要!!あんなん見たことないんだが!?そうだった封印されてたんだった!」

「おーいさっそくキャラ崩壊してるぞー?」

 

瞬間。憎き水色に魔力が集まるのを感じとる。

 

「アクア今だやれーーーっ!」

「神の力を思い知れ!!セイクリットスペルブレイク!!」

 

まさに神の御技。光の柱がデストロイヤーを包み込むとともに鳴り響くガラスの割れるような破壊音。デストレイヤーの結界が破壊されたのだろう。

 

「「エクスプロージョン!!」」

 

続いて響き渡る爆音。最高級の破壊力を誇る爆裂魔法がデストロイヤーの8本の足を吹き飛ばした。普通の敵であればオーバーキルである。が、止まらない。勢いそのままに土煙を吹き飛ばしながら等速直線運転を続けるデストロイヤー。

 

「あれ?今のってウィz...おい待て?何をしてる?やめろ。お前が今からすることに予想づいた。」

「よし!じゃあ空の旅行を楽しんでこい!」

「やめろ!いい笑顔でサムズアップするな!ああああああああああ!!!!!」

 

野球選手顔負けな投球によって飛んで行くベルディア。向かう先はもちろんデストロイヤー。

一見訳の分からない行動をしたヴェストは小さく一つのスキルを使用する。

 

『テレポート』

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

「ああああああああああああ!?」

 

迫り来るデストロイヤーに怯みもせず真っ直ぐ見据えるダクネスの耳にそんな叫び声が聞こえた。

城壁から飛来する黒光りする物体。文面だけで見れば例の黒い昆虫であるが大きさからして違う。

 

「ああ!3億エリス!!」

 

アクアだけはその正体が分かったようだがその言葉だけで瞬時にその正体を見抜くことは難しい。

 

そしてその黒光りする飛行物体Bはデストロイヤーに衝突.....する前に黒いモヤに包まれた。

途端に響き渡る轟音。そして少し浮きあがりながらも完全に動きを止めたデストロイヤー。

 

「あ、あれは!!」

 

衝撃のあまり大きく歪んだ装甲に山刀(マチェット)を突き刺すのは黒ずくめの人影。

まさしくあの時のレインコートだった。

 




ようやく強キャラムーブができてご機嫌なようです。


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亡き友の黒歴史「まじで何やってんの?」

ちょっと長めです


窮地に陥った美少女(?)の前に颯爽と現れるイケメン(?)。

ラブコメならば“トゥンクッ”などと言う擬音がつきそうな場面だがそれはラブコメの場合。

 

「邪悪な悪魔め!覚悟しろ!」

「セイクリッドエクソシズム!!」

 

さすがはエリス教徒。そして似非女神といったところだろう。殺意が高い。

 

「エリス様の名の下浄化されるがいい!」

「ちょっとダクネス!?そこはアクア様でしょ!?ねえ!?」

「うぐっ!なかなかやるな!」

「待って!なんであんたもエリスの名前が出た途端当たってんの!?ねぇちょっと!私を信仰しなさいよ!?」

 

侮れないがやかましい。

それがヴェストの正直な評価であった。

今まで置いてけぼりにされていた他の冒険者たちも次々と再起動し戦闘に参加して行く。

いわゆる裏ボス戦の開始である。

が、アクアのある一言によって事態はさらになる混沌へと導かれることとなった。

 

「せっかくデストロイヤーやったのに!いい加減浄化されなさい!」

「おいアクア。知ってるか?”やった“は”やってない“の裏返しなんだ。さらっとフラグを立てるんじゃない。」

 

 

 

ーーこの機体は機動を停止いたしましたーー

 

ーー排熱及び機動エネルギーの消費ができなくなっていますーー

 

ーー危険レベル上昇中。搭乗員は速やかに避難してくださいーー

 

ーー繰り返します。この機体は.....

 

 

「ね...ねえ、コレちょっとヤバいんじゃないかな?」

「ホラ見た事かーーー!!」

「待って待ってコレ私の所為じゃないからーー!!」

 

ヤバい。はっきりいって”マジやば“である。

カズマ少年が「大体この場合この後本体がボンってなったり...」と言っていたが確実にそうなるだろう。機体から現在進行形で増幅しているエネルギーを感知したヴェストは冷や汗を垂らす。

自分一人が生き残ることは容易だ。だがこの街はこの冒険者たちはタダでは済まない。

そう、あのエリス様の友人とその仲間たちが、だ。

エリス様との契約上、ヴェスト自らが危害を与えたわけではないためこのまま放置してもなんの問題もないがエリス様を悲しませるようなことはあってはならない。

それにあくまでついでだがノイズに関する物である以上友人の遺した物もあるかも知れない。

ヴェストに行かないという選択肢はなかった。

 

 

「ちょっと!あの悪魔いっちゃったんですけど!?ねえカズマさんどうs....「行くぞお前らぁぁぁ!!」...へあ!?」

 

 

何故かそれに続く冒険者たち。妙に気迫があり先ほどまで逃げ越しだったカズマまで加わっている。

 

「レインコートに続けぇぇぇぇぇ!!」

「きっとあいつもあの店を!同族を守るために!」

「今まで安くお世話になってきた分ここで恩返ししないと男が廃るぜ!!」

 

「「乗り込めーーーーー!!」」

 

鉤爪を引っ掛け次々とデストロイヤーに乗り込んでゆく彼らの勇姿を女性陣は冷めた目で見ていた。それはあまりの熱量に呆気に取られているのか。はたまたその理由を知っているからなのか。

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

破壊された防衛用ゴーレムが散らかるデストロイヤーのその最奥。動力源であるコロナタイトが輝く中、ヴェストは椅子に座る亡き友の亡骸に黙祷を捧げ、一冊の手帳を手に取った。

ヴェストは手帳を開く。

どうか友人がこいつに関わっていないでくれ。ついでに自分が原因である可能性も思い当たりがありすぎてヤバいのでそれも違うと言ってくれ。そう淡い希望を抱いて。

 

 

ーーある時、友人にちょっと英雄になってみたい。と言った。勇者としてこの世界に来たんだしそれらしいことしたいじゃん、と言う軽い考えから言い放ってしまった言葉だったが今では後悔しかない。

 

ーーそれは友人が暴れ俺が彼を一時的に封印すると言う完全なマッチポンプな計画だった。で、成功した。計画自体は。

そう、彼が暴れた規模が問題だった。

結論から言おう。首都が半分吹っ飛んだ。

 

ーーなんでぇ?国のお偉いさんからチヤホヤされるのは嬉しいけどスッゲー胃が痛い。

ほんとすみませんでした。

しかも忙しすぎて友人の封印を解く暇がない。というかもう解かなくていいかなアレ。

 

 

ヴェストの目が死んだ。まるで死んだ魚の目のようだ。

 

 

ーー国力が下がった今、魔王軍に攻め込まれることを恐れたのか国のお偉いさんが無茶を言い出した。こんな予算で機動兵器を作れと言う。

無茶だ。抗議してみても「お前ならできる」の一点張りで話にならない。恥を捨てて泣いて謝ったり拝み倒してみたがダメだった。

バカになったフリをしてパンツ一枚で走り回ってみたが女研究者に早くそれも脱げよ。いや脱いでくださいと言われた。この国はもうダメかもしれない。

 

 

ヴェストは顔を覆った。

そしてうーうー唸りながらも読み進めて行く。それはまるで大人になって中学生時代の黒歴史ノートを読み返す姿そのものだ。

 

 

ーー〇月×日

目が覚めたらなんか酷い揺れだった。何だろうこれ二日酔いかな?いや、そもそも昨日の記憶が無い。あるのは動力源のある中枢部分に行ってコロナタイトに向かって説教したところまでしか覚えていない。

いや待てよ。その後お前に根性焼きしてやるとか言ってコロナタイトに煙草の火を.....

 

ーー〇月×日

現状を把握。そして終わった。現在只今暴走中。どうしよう。間違いなく俺がやったと思われてる。今更泣いて謝ったって許してもらえないだろうな。やだな...機動兵器から引きずり出されて死刑だろうか。クソッタレめ!

 

ーー〇月×日

やべぇこんな国滅んじゃえばいいのにとか思ってたら滅んだ。国滅んじゃったよ!国民とかお偉いさんとか人はみんな逃げたみたいだけど。でも俺国滅ぼしちゃった!ヤバイなんかスカッとした!満足だ俺。決めたもうこの機動兵器から降りずにここで余生を暮らすとしよう。だって降りられないしな。止められないしな。これ作った奴絶対バカだろ。

 

ーーおっと。これを作った責任者、俺でしt

 

「ほんっとすみませんでしたァァァァ!!」

 

 

ヴェストの叫びは手帳を勢いよく閉じた音とともに機体内に響き渡る。

希望は砕け散った。粉々に。

このアホみたいに傍迷惑な機動兵器に友人が関わっていたどころか自分がそれを作らせる原因になっていたとは。

今なお輝きを増すコロナタイトとは対照的に彼の周囲は暗く沈んでいる。

 

「なあベルディア...どうしよう...」

「知るかぁ!!」

 

ベルディアにも見捨てられたヴェストは地に突っ伏す。完全に力尽きたようだ。

 

「やっと着いた!」

「見つけたわよ悪魔!覚悟しなさい!あと3億エリスよこしなさい!」

「おいあれってここの責任者か?」

「天誅!!」

 

タイミングよくというべきか、ちょうどその時冒険者たちも扉を蹴破り突入してきたようだ。

 

「お、おいレインコート...だよな?そんな落ち込んでどうし...ひっ!?こ、これミイラか?」

「すでに成仏してるわね。未練のかけらもなくそれはもうスッキリと。てことはあんたがやったわけじゃないのね。まあそれはそれとして退治するけど!」

「待て待て!というか未練くらいあるだろこれ...どうみても一人寂しく死んでいったみたいだし。ん?な、なんだよ?手帳?」

「手記かしらこの責任者の....えーと?」

 

ヴェストは手記をアクアたちに投げ渡す。自分のことも少し書いてあるが知ったこっちゃない。今はそれどころじゃないのだ。

この心の傷は深い。容易くは治るまい。まあエリス様をもう一度、一眼でも見れたら復活するのだが....

 

「........お、終わり。」

「なめんな!!」

 

そうこうしているうちに彼らも読み終えたようだ。あの黒歴史ノートを。あ、やばい傷が広まった。

 

「なぜか傷心中のレインコートは置いといて....これがそのコロナタイトか?これを取り出せば暴走は止まるんだよな?」

「おそらくは...」

「おいとくなって言いたいけど今はそれどころじゃないものね。」

 

流石はカズマ少年だ。

瞬時に現状を理解し解決しようと行動し始めるとは。

他の冒険者たちを避難させたのもいい判断だ。あの烏合の衆ではこれをどうにかすることはできないだろう。ヴェストは死んだ目で彼らを観察しながらそう思う。

何やら首ディアの入った袋が騒がしいが放っておくことにした。

しかし人間と(認めたくないが)女神とリッチー。随分と珍しい組み合わせだ。

 

「スティール!!」

 

訂正。やはりカズマ少年もバカだったか...?

先程の賞賛を取り消したくなった。

あまりの熱さに悲鳴をあげるカズマと今なお光力を増しているコロナタイトを見てヴェストはそう思った。

 

「ちょっとウィズ!あんた何とかできないの?」

「で...できない事はないですがそれには魔力が...」

「魔力?......な、なあウィズ?アレって使えないか?」

「ちょ、ちょっとカズマ!?まさかあんた悪魔に手を借りようとしてんじゃないでしょうね!?」

「いや、一応アイツゴーレムを破壊してくれたようだしコイツを止めようとはしてたんじゃないか?だから協力してくれるんじゃないかと。」

「だからって...!」

 

何やら自分の話をしているようだ。

協力ならしよう。喜んでしよう。これは僕の過去の失態だ。ヴェストはそう考え顔をあげる。

ようやく話がついたのか栗色の一人の女性、リッチーとその少し後ろにカズマ少年が向かってくるのが見えた。

 

「あ、あのっ!すみません....レイン...コート?さん?少しご協力いただけないでしょうか...?」

「すまん、俺からも頼む。一応あんたもコレを止めようとしてくれたんだろ?ちょっと魔力を吸わせてくれるだけでいいからさ?」

 

なるほど。おそらくテレポートか何かの魔法で解決しようにも魔力が足りなかったのだろう。そんな事だったら喜んで協力しよう。

ヴェストは黙って手を差し出した。

流石に返答する気力はない。

 

「いいってことか?」

 

頷き一つ返す。

 

「で、では遠慮なくっ!ドレインタッチ!」

 

魔力がぐんぐん吸われて行くのを感じる。本当に遠慮がない。だがこのくらいの責任は取らねばならない。黙って吸われることにした。

 

「お、おい!もう良いんじゃないか?」

「あ!すっすみません!でもコレでテレポートの魔法が使えます!」

 

案の定テレポートを使うようだ。

だが話を聞くと彼女(ウィズと言うらしい。どっかで聞いた名前だな...?)の転移可能な地点は王都などの人が多い場所らしい。ヴェスト自身のテレポート地点も大昔に設定したものばかりで今どうなっているかは分からない。

故にウィズは“ランダムテレポート”を使うようだ。

転移先を指定しない危険な魔法だがこの際致し方あるまい。

 

「だっ大丈夫だ!世の中ってのは広いんだ!人がいる所より無人の場所に送られる可能性の方がずっと高いはずだ!」

「全責任は俺が取る!こう見えて俺は運がいいらしいぞ!やってくれ!」

 

さすが。その決断の速さは素晴らしい。

だがヴェストは考えた。

カズマ少年よ。それは俗に言う“フラグ”と言うものではないのだろうか?

そんな彼の思考をよそに眩い光と共にテレポートは実行された。

 



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ボスってのは無駄にしぶとくてたまに第三段階まである

何と色がつきました!ありがとうございます!応援コメントもありがとうございました!!


 

 

「カズマ!」

「色々あったけど終わったよ。何とかデストロイヤーの心臓を止めてきたぜ。」

 

ダクネスの一声を合図に皆がデストロイヤーから無事降りてきたカズマ一行+αを迎える。街を救った英雄の帰還である。特に男性陣の喜びはすごかった。

 

「あの責任者の遺体も降ろして埋葬するらしいしもう大丈夫だな。疲れたし帰って飯でも食おうぜ。」

「それはこいつを浄化してからよ!さあ!覚悟しなさい!」

「ふっ...我ももう魔力吸われたり黒歴史ノートを読んだりして疲れて早く帰って寝たいのだ。さっさと決着をつけさせてもらおうか!」

「あの、俺抜けても...」

「あんたもよ!3億エリス!」

「ちょ!待て!何言ってるかわからないがやるなら向こうでやってこい!」

 

皆が皆騒ぎ立てこの大きな勝利を楽しんでいる中、ただ一人ダクネスだけは亡骸となったデストロイヤーを見つめていた。

そしてそれ故にその変化にいち早く気づくことができた。

 

「いや...何か様子がおかしいぞ。」

 

その視線の先は変わらずデストロイヤーに固定されたままだ。だがそのデストロイヤーに起こった変化は明確だった。

熱を持っているのか赤く染まり出す金属部。

そしてそれは徐々に亀裂が走り今にも限界を迎えそうだった。

 

「おいおいおいどうなってんだ!?動力源は取り除いたはずだろっ!」

「何よっ!終わったんじゃないの?」

「フザっけんなよ?ボスに第三ラウンドなんて求めていないんだが!?」

 

これには流石にレインコート(ヴェスト)もきれている様子で少々キャラ崩壊気味だ。

 

「これまで内部に溜まっていた熱が外に漏れ出そうとしているんです!このままじゃ亀裂から大爆発を...」

「なあーーーっ!?ここまできて何だよーーー!!」

「もう無理よっ!逃げましょう!」

「業腹だが我もそれに同感だ。流石にもうどうにもできん。」

「俺もそう思うぞ。今や首だけとなったがまだ死ねん。ウィズのパンツを見るまd「静かにしようか」ア、ハイ」

 

悪魔も女神もついでにデュラハンさえも匙を投げ出す惨状の中、たった一人、リッチーのウィズだけは諦めていなかった。

 

「だ、誰か魔力をっ!私に魔力を分けてください!爆裂魔法であの爆発を相殺します!」

「なっ!何言ってんだウィズ!お前が人前でドレインなんて使ったらリッチーだってことがバレて...」

「でも...他に方法が...」

 

確かに爆裂魔法ほどの破壊力を持つ魔法ならアレを爆発ごと消しとばすことも可能だろう。だがその魔力を補うためにドレインタッチなど使ったらウィズがリッチーだということがバレてしまうだろう。あのリッチーは正体を隠したがっているようだし街を守ったとしてもそこに店を再び構えることはできないだろう。本末転倒だ。

そもそもの話ここにいる者達が爆裂魔法などと言う超燃費の悪い魔法を使えるほどの魔力が残っているだろうか。ヴェストは先程の魔力を吸われたばかり。首だけのベルディアとカズマ少年はそもそも足りないだろう。アクアなど論外だ。彼女の魔力は本人が言うように余りにも神聖すぎる。リッチーにとっては毒以外の何者でもない。

だが、そのどうしようもない状況に鶴の一声をあげる者がいた。

 

「し、真打登場!」

 

めぐみんである。

魔力が欠乏しているのか足腰ががくがくと震えているが彼女はやる気である。

場は整った。

ドレインタッチは人の身でありながら修めていたカズマ少年が担当。魔力タンクはアクア。そしてめぐみんが「光と闇の魔力が合わさる時、真の爆裂が生まれるのです!」と言ったせいで渋々参加させられたヴェストである。おそらく紅魔の血がたぎったのだろう。

本人はエリス様を悲しませないためと割り切っているが「ここまでする必要あるか?」と少し疑問に思っている。

 

「ねえ吸いすぎないで!その悪魔のは吸ってもいいけど私のは吸いすぎないでよ!」

「おいカズマ少年、裏ボス戦がしたいなら好きにするがいい。」

「わかったわかりましたからそれは勘弁してくれ!」

 

カズマ少年は二人の背中に(おっかなびくりしながらも)手を当てドレインタッチを開始する。やはり何度やってもこの感覚は慣れないようでアクアなんかは「はうっ!?」などと言う声を漏らしている。

ちにみにヴェストもまた「みょ!?」やら「みゃ!?」やらと言った声を漏らしていたがあらかじめ防音結界を貼っておいたおかげで範囲外にいたアクアには聞こえなかったようだ。

余談だがカズマ少年は結界内にいたようで必死に笑いを堪えていたようだがヴェストがそれに気づくことはなかった。

 

「さあ早く!私にその混沌なる魔力を!」

「わかったわかったから急かすな!ほれ、ドレイン...いや違うな?リバースタッチ?」

「ヤバイです!アクアとその悪魔の魔力ヤバいですよ!これは過去最大の爆裂魔法が放てそうです!!」

 

小柄なめぐみんに膨大な規模の魔力が集まって行く。それと共にデストロイヤーの亡骸も限界に近づいて行くがそんなことは関係ない。これは間違いなくあのデストロイヤーを跡形もなく破壊し尽くすだろう。

もちろん我が友の亡骸も共に消滅することとなるが亡骸は亡骸。友ではない。

 

「....なあヴェスト。間違いなく成功する。これはわかる。だが...明らかにオーバーキルにならないか?」

「そう...だな。自分で渡しておいて何だがアレはまずい。非常に嫌な予感がする。今のうちに撤退しようか。」

 

過去にも類を見ない規模の爆裂魔法が魔法陣の時点で目が痛くなるほどの光力を放つ中、ヴェストとベルディアは静かに撤退を開始する。

その後は幸いになことにアクアやカズマ。その他の冒険者もめぐみんに注目していたおかげで難なく撤退することができたようだ。

 

「エクスプロージョン!!」

 

ちょうどヴェスト達が城壁内に到達したところでそんな叫びと共に鼓膜をつんざくような爆音が聞こえてきた。

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

結末はヴェストの予想通りデストロイヤーはめぐみんの爆裂魔法は跡形もなく粉微塵にされ消し飛ばされた。第四形態や裏ボス戦はなかったようだ。

ただ一つだけ失敗があったとすればその威力だろうか。デストロイヤーの巨体を消しとばしてなお有り余る破壊力はアクセル前方の平原に大きなクレーターを開け、爆風と吹き飛ばされた土や砂が冒険者達を襲った。

人的被害はなかったものの冒険者達が疲れた顔で砂まみれになりながら帰ってきた姿を見てヴェスト達はさっさと撤退してよかった、と素直に思ったそうだ。

機動兵器デストロイヤーとの決戦を飾るは冒険者達を襲う砂と土。何とも締まらない。

だがそんな彼らの様子はどこか晴れ晴れしていてヴェストが喰らうほどの負の感情が見つからないくらい楽しそうだった。



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脱無職。そして砕かれた善意

学校から帰宅したらお気に入り登録が100を超え150も超えてました。
な...何いっているのかわからねーと思うが俺も(ry
色がついたからでしょうか。お気に入り、評価、コメントありがとうございます!!


 

ヴェストは気がついた。

冒険者になってさえいれば前回のデストロイヤー戦の時に無理やり割って入る必要はなかったのではないか?堂々と初めから叩き壊せたのではないか?ベルディアの尊い犠牲も防げたのではないか?

 

「別に俺死んでないからな!?死んでるけど!」

 

思いついたが吉日。

早速ヴェストはギルドに向かい冒険者登録の手続きを踏んでいた。ちなみに前回の黒歴史&ドレインタッチによるダブルパンチはしばらく時間が経っていたために完全回復している。

体が薄れていたりはしない。安心である。

 

「登録料は千エリスになります。」

 

大丈夫だ。どこかの転移者と違い資金なら山ほどある。

軍資金と言う名目で魔王から強奪、もとい下賜して頂いたからだが。ちなみにこの資金。軍資金としてちゃんとと使われたことはない。せいぜい変装用の服装とベルディア用の革袋を買ったくらいだ。

まあ、もとより少なかった魔王への忠誠心はその全てがエリス様へと向けられ命まで捧げる勢いであることを考えれば当然だが。

それにこの貨幣の名は「エリス」。

無駄に使う方がおかしいのだ。

100エリス貯めれば100人のエリス様。

1000エリスなら1000人のエリス様。

当然それ自体はただの貨幣なのだが彼にとってはそれ以上の価値がある。が、必要経費なら仕方がない。彼は大人しく1000エリス払った。

 

「はい確かに。ではステータスの確認を行うのでこの冒険者カードに触れてください。」

「わかりました。」

 

ヴェストは他の冒険者のように受付嬢の大きく開かれた山脈に目を奪われることもなく爽やかな笑顔でカードに触れた。

もちろんステータスは偽装してある。種族悪魔などと出たらタダでは済まないからだ。

能力値もそこら辺の冒険者を参考に調整してある。

 

「ええと...ミラーさんですね。筋力生命力魔力...運が特別低いことを除けばどれも中の上くらいですね。いきなり上級職にはなれませんが中級のものなら大体選べますよ。」

 

調整は案の定うまくいったようだ。

本音を言えばちょっと高めに設定して“俺、何かやっちゃいました?”なプレイがしたかったが彼もそこまで馬鹿ではない。

ただちょっとエリス様のことになると知能指数が低下するだけでむしろ良い方だ。

しかし大体か...ヴェストは迷った。自らの戦闘スタイルを何にするか。

基本的なことなら彼は何でもできる。魔法だって弓だって剣だって使える。ただちょっと考え方が脳筋なだけだ。

 

「じゃあ、剣士でお願いしますね。」

 

生き物は大抵叩き潰せば死ぬ。

そんな脳筋な考えで彼は剣士を選んだ。

そう、叩き“斬る”のではなく叩き”潰せば“だ。

繰り返そう。彼は脳筋だ。故に力任せな戦いを得意とする。だが彼の力は悪魔並み。並の人間の武器では壊れてしまう。そこで友人の科学者が用意したのがこの山刀(マチェット)だ。刃の切れ味は悪いものの頑丈さに特化した逸品。

それならハンマー等でよくないか?と思われるがそこは彼の好みだ。

そんな彼の脳筋な考えを知る由もなく受付嬢は良い笑顔を浮かべヴェストを見送った。

 

「それではこれからの健闘をお祈りしております。頑張ってください。」

 

今まで敵として蹴散らしてきた冒険者に今度は自分がなる。随分と面白い状況である。

ヴェストはマントをバサッと翻しギルドのドアを開ける。いざ、冒険へ!!

 

「いたっ!?」

 

とはいかなかった。

相手は随分と急いでいたのか扉を開けて外に出ようとしたヴェストに盛大に体当たりをかましてきた。そしてその相手というのは...

 

「!?エ、エリs「あーーーー!!ミラーじゃん久しぶりーーー!ちょっと外いこっかーー!!」」

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

場面は変わって薄暗い路地裏。ヴェストとクリスが初めて会った場所と似たようなところだ。

 

「はぁ...で?何のつもり?」

「何のつもりとは?」

「何であなたが冒険者ギルドなんかにいるんですか!?」

 

そこでヴェストは逆壁ドンの形でクリスに問い詰められていた。

トゥンクッ。いやそれを通り越して彼の作り物の心臓は今にも爆発寸前である。

 

「冒険者になるためですが...」

「まさか魔王軍によるギルドの破壊工作のため!?」

「そんなまさか!私の忠誠、いえ信仰はもはやあなた様だけのもの!そんなあなた様が懇意にする冒険者のいるこの街をこの私が攻撃するはずがない!!」

「じゃあなんで」

「ちゃんとした身分があると色々便利かと。あと楽しそうでしたので。」

 

クリスは「はぁーーーー」と長いため息をつく。

何か気に触ることをしたのだろうか?ヴェストは首を傾げた。

 

「確かに君に限ってそんなことはないと思うけど...」

「信用していただけたのですか!?」

「違うよ諦めただけ。」

 

また彼女は盛大にため息をつく。いくら幸運の女神だからといってそんなにため息をつくと幸せが逃げてしまうのではないか?原因であるヴェストは思った。

 

「ところでそんな急いでどうしたのですか?」

「カズマって知ってるよね?」

「ああ、あの自称女神制御装置の...」

「そのことはよくわからないけど、とにかく彼が処刑されそうなの。」

「............はい?」

 

話を聞くにあのカズマ少年があの時ランダムテレポートを使用して転移させたコロナタイトが何でもここの領主の屋敷を吹き飛ばしたらしい。何とまあ運が悪いというか見事なフラグ回収技術というか...

そして彼にかけられた国家転覆罪を取り消させるべく裁判所へ急いでいたらしい。

 

「ふむ...私も彼を失うのは少々惜しいと感じる....よしエリス様。これを持っていってください。」

 

ヴェストがクリスに手渡したのは金属製のベル。つまりはただのベルである。

 

「これは?」 

「少し音色に細工をした呼び鈴です。もしその裁判がよからぬ方向へ進みそうならば鳴らしてください。すぐにでも駆けつけそこら一帯を更地にしましょう!あ、もちろんエリス様個人で使っていただいても...」

 

「いりませんっ!!!!」

「ああ!?」

 

善意から渡された呼び鈴は無常にも地面に叩きつけられ破壊された。最後にチリーンと一声あげてそれは二度とその綺麗な音色をあげることはなかった。

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

次にヴェストが向かったのは鍛冶屋だ。

気づいてしまった。

冒険者をやるにしても得物がなければ溝さらいくらいしかやることがないのだと。

自前の山刀は悪魔レインコートの得物として見られてしまっている。エリス様から頂いた(借りパクの間違いである)短刀は論外だ。アレは家宝とする。

つまりは新しい得物を手に入れなければならない。

 

「おう、何にするんだ?」

 

そこに置いてある武器は一般的な長剣に弓に槍、果てにはモーニングスターまで種類は多岐に渡る。

薙刀や戟などの長物も好んで使ったことはあるがやはり相棒の山刀のような剣状でなおかつ丈夫なものがいい。下手に振り回して壊れましたでは話にならない。

 

「ん?店主、あれは?」

「ああこれかい?作ってみたはいいが重すぎてなぁ。ろくに持てないってんで倉庫の肥やしになってるんだよ。」

 

そこにあったのは剣というにはあまりにも大きすぎt(以下略)

簡単に言えばそれは鉄塊だった。いや、見方によっては墓標にも見える。

見た目からしていかにも丈夫そうで高威力の叩き出せそうな武器だ。

切れ味は悪そうだがそんなことは関係ない。重量も彼の前には関係ない。

 

「店主、アレにしよう。いくらだい?」

「嬢ちゃん本気かい!?せめて一回持ってみた方が...」

「問題ないよ。あと僕は嬢ちゃんじゃない。どちらかと言うと男だ。」

「どちらかと言えば?まあいいか。持てるってならいいが...値段は3000エリスだ。誰にも買われなかったからな。安くしとくよ。」

 

アレほどの鉄塊ならフルプレートぐらい作れそうな物だが安くしてくれる分にはありがたい。ヴェストは素直に3000エリスを支払った。少し手が震えていたようだが問題ない。

 

「ほんとに持ちやがった...」

 

これで得物は手に入った。さあ、初仕事と行こうじゃないか。

 



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二章
カエルは可愛いが集まると怖い。でかいとなお怖い。


再び評価バーが赤く光り輝いていました。
正直ここまで評価していただけるとは思わなかったのでとても驚いています。そしてしっかりと事前に設定を考えず勢いだけで書き出したことを後悔しています。
見切り発車はいけない(戒め)
あ、コメント、評価、お気に入り、誤字報告ありがとうございます。


ヴェストたちは冬が近づき人の子なら少々肌寒く感じるであろうアクセル付近の平原に来ていた。ベルディアを少し盛り上がった丘の上に荷物とともに置き獲物を構える。

 

「えーと...今回の依頼はジャイアントトード五体の討伐?あのでかいカエルか。」

「そうそう。ちょうど受付のお嬢さんに紹介されてね。初心者におすすめのクエストだというしさっさと終わらそう。」

 

そういうとヴェストは地面に大剣を突き刺し小規模の地震を起こす。地味に凄い技術だがこれをカエルを呼び寄せるだけに使ったやつは世界広しといえどいないだろう。

狙い通りゲコゲコと2m以上の巨体が地面の中から這い出てきた。

 

「さーてチャチャっと終わらせましょうか」

 

ヴェストはベルディアを置いた丘の上から切先をカエルに構え、大地を蹴った。

まるでジェット噴射のように飛び足した彼は地面スレスレを滑るように飛び一瞬のうちにカエルに接近する。

 

「あ、ヴェスト知ってると思うがジャイアントトードに打撃はあまり効果がないぞ?」

 

ベルディアが何か言っていたようだがもはや風と化したヴェストには届かない。

ヴェストはカエルとの約数十メートルという距離を一瞬で縮め、その墓標の四角い切先をカエルへと突き刺そうとする。

これぞ必殺の一撃。くらったものは死ぬ!

 

「くらえ必殺デビルブレーーーード!!!」

 

ぽよん。

 

「へ?」

 

ぷるぷる。

 

「えーと.....え?」

 

ヴェストの必殺の一撃は見事カエルへとヒットした。

その結果、カエルの実に柔らかそうなお腹がぷるんっ、と震えた。

繰り返す。ぷるんと震えた。

それだけである。

 

「......」

「......」

 

「.................カエルってよく見ると可愛いと思うな。」

「ムシャリ」

 

「ヴェストぉぉぉぉぉぉぉ!?」

 

奇しくもどこぞの駄女神と同じことを口走った挙句ぺろりと戴かれた悪魔ヴェスト。

だが残念ながらこちらのパーティには餌はあるが処理係はいない。

そう、こうなった以上。ベルディアの結末はいうまでもないだろう。

 

「やめろ!くるな!俺のそばに近寄るなァァァァァァ!!!」

 

ぺろりといただかれた。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

カエルの唾液まみれでベトベトな様子で同じように粘液が滴る首ひとつ入りそうな革袋を下げた人物が大通りを歩く。

そう、ヴェストである。

周りからは「ああ、また新人が犠牲となったのか。」と、憐れみの視線を向けられていた。

ヴェストは考える。今回の敗因は何だったのか。いや負けてはいないのだが、剣士という職業で冒険者をすると決めたというのに魔法を使ってカエルを内側から貫き殺したのだ。これでは勝利とは言えないだろう。

原因の一つとして上がるのはやはり武器だろう。

ヴェストの大剣は頑丈さや重量に特化した代物だ。主に叩き潰すことを目的として作られている。故に切れ味は皆無。

これでは打撃に耐性を持つジャイアントトードに対してあまりにも不利だ。

いや、それにしてもあの打撃耐性はおかしいと思うが。おかしいと思うが!!

 

「はぁ...カエルなんかに食われるのはこれが初めてだ...せめて体があれば...てかあの時絶対体が浄化される前に来れたよな?」

「うん。こっちの方が面白いと思ったからゆっくりお前の醜態を観戦させてもらったんだ。」

「てっめ!死ね!この悪魔め!『死の宣告』『死の宣告』『死の宣告』っ!!」

「悪魔ですが何か?ちょっ!やめろ!いくら弱体化して効かないからって鬱陶しいんだよ!!」

 

さて、どうしようか。

ジャイアントトードには打撃攻撃は効きにくい。だがヴェストには引くという選択肢は残されていなかった。あのような屈辱的なことをされたのだ。許せるはずがないだろう?許せるはずがない。

ヴェストは激怒した。必ずやかの邪智暴虐なるカエルを取り除かねばならないと。

 

「さあ、リベンジだ。待っていろカエルどもめ。」

「まて!また行くのか!?武器は!?」

「今回はたまたま肉質の厚い腹に当てたからダメだったんだ。頭を狙えば問題ない!」

「やめろ!俺はもうよだれまみれになりたくない!!」

 

この日を境にアクセルの街に毎日のように涎まみれになって帰ってくるがクエストは必ず達成する謎の冒険者が現れたそうな。

ちなみにその毎回涎まみれになっている性別の分かりづらい中性的な風貌が一部の冒険者から妙な人気を集めていることを本人は知らない。

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

女神エリスは悩んでいた。それはもう頭を抱えるほどに。

悩みの種は二つ。

ひとつは言わずもがな彼女の先輩である女神アクアの無茶振りである。彼女のわがままによって行われたサトウカズマの二度目の蘇生。それが彼女に多くの仕事を与えた。

そして二つめが最近になって封印から目覚めた悪魔ヴェストである。

生前世界を危機に陥れた大悪魔でも残機を全て削り切られ肉体をも滅ぼされ仮初の体にしがみつき、それによって記憶も失い、とどめとばかりに封印による弱体化によって難なく浄化可能な存在....だったはずだった。

残機が全て削り取られたはずの彼の心臓への刺突は致命傷になり得ず、逆に彼には存在しなかったはずの感情のかけらを与えてしまった。

その後彼が見せた言動から思わず逃げてしまい、まずいと気づいたがもう遅かった。

次に出会った時、彼の力は目に見えるほど回復しており自分一人じゃ対処できなくなっていた。しかも街の人々を人質に取られていたとは言え自分が女神ということを明かしてしまった。

この時点でもうかなりやばいのだが、最も彼女を困らせたのは奴が彼女に“恋”という感情を抱いてしまったことだ。

別にそれ自体は問題ない。ないのだが彼女の同僚である神や上司に当たる上位の神々からかけられた言葉が問題であった。

 

ー悪魔にもやっとエリスちゃんの魅力がわかるものが現れたか。

ー悪魔に恋されるとか、草生える。

ーよくやった女神エリス。じゃ、そいつのことよろしく。

ーそんなことよりおうどん食べたい。

 

要するに丸投げである。

面倒ごとには誰もが関わりたくないものなのだ。

まるで他人事のようだ。いや、実際他人事なのだが。

本当に勘弁してほしい。

好きになってくれるのは嬉しい。

それが悪魔じゃないならという前提条件があるが。

そもそも「困ったら呼んでね♪更地にするから♪」なんていう奴はたとえ人間だとしても神だとしてもお断りだが。

 

というかなぜ他の神々はそんなにも呑気なのだろうか。悪魔が復活したのだ。しかも過去の資料によれば生前人間と魔王軍の両方を己の食欲のために滅ぼしかけ同族をも手にかける悪魔の中の悪魔。そして魂だけになった後も仮初の肉体に乗り移り国一つ滅ぼしかけた脅威。それをなぜ放っておくのか。

 

その答えは思ったよりも早くわかった。

 

サトウカズマの死刑騒動が落ち着いた頃。悪魔ヴェストの様子を見ようと地上に降り立った時にまず目に入ったのは大きなカエル。

そしてその口元からはみ出た一組の足。そしてその周りを他のカエルに追われながらも悲鳴を上げながら転げ回るヴェストが連れていたと思われるアンデットの首。

 

なるほどこれでは脅威と思う方が無茶かもしれない。

 

「はぁ..........あ」

 

もう遅い。彼女は声をあげてしまったのだから。

 

「エリス様ァァァァァァ!!!!」

 

カエルが爆散した。

四肢が吹き飛びモツが飛び散り地肉が飛散する。グロい。グロすぎる。

 

「エリス様お声をお聞きし悪魔ヴェスト華麗に登場!!

「いやァァァァァァ!!!」

 

女神エリスは逃亡した。

記念すべき三度めの逃亡である。

全くめでたくない。




ちょっとしたヴェストくんの設定まとめ
作者も混乱してきたのでまとめます。
もしかしたら後で付け加えるかも。

悪魔ヴェスト(虚像の悪魔)
年齢不明
性別不明(男より)
悪魔特有の能力:幻覚系(なお戦闘スタイルが脳筋のため嫌がらせ以外に使われたことはない。)
得物:山刀(マチェットって響きいいよね)
一人称:僕、私、我

経歴
人間、悪魔、魔族の食べ放題パーティ→お題はあなたの命で→記憶&肉体消失→某科学者の作った美少女ロボにTS(?)転生→ノイズ魔道大国首都半壊→封印→復活&恋の始まり→今ここ

なかなかやばくて波瀾万丈な経歴を持つヴェスト君だがそれが生かされることはないだろう。
だってこれシリアスじゃなくてギャグ小説だもの。


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部屋に入るときは必ずノックをしてください。思春期のお兄さんとの約束だよ

何故かみんな見てくれて匿名解除しようかな。でも図々しい気がするな。という葛藤が続く毎日です。
ほんと皆さん読んでくださりありがとうございます。
なんか最近感謝ばっかりしている気がしますね。


本格的に冬が近くなった頃、ヴェスト一行は宿屋の一室でダラダラと過ごしていた。最近は寒さからかカズマ一行のアクアが静かで平和な時間が続いているが同じようにダクネスも見かけないのでやることがないのだ。あるとしても日課となったジャイアントトードへのリベンジかエリス様への祈りくらいである。

だが、そんな平穏な時を破るものが遂に現れた。

 

「あああああ!エリス様エリス様エリス様エリス様エリス様エr「自称後輩の部屋に突然訪問!我輩がきたのである!!」ピャァァァァ!?」

 

ちょうどヴェストがクリスの短剣(盗品)に頰が切れるほど頬擦りをしてベルディアが遠い目をしていた頃に突然同時に展開されていた防音結界もろとも蹴り破られたドア。

そこに立っていたのは燕尾服を着た仮面の男性。

 

「せっせっせせせせせせ先輩ィィィィ!?」

 

魔王軍幹部にして悪魔たちを率いる地獄の公爵見通す悪魔バニル。そんな大物がそこには立っていた。

どうやって人間の街であるアクセルに?という疑問はない。彼にとって潜入など造作もないことなのだろう。実際ヴェスト程度のものでもできたのだから。

 

「む?汝が持っているその忌々しい神気を放つ短剣は以前言っていた勇者のものか。ものすごい執着であるな。」

「あ、はははは...ところで先輩はなぜここに?」

 

素早く懐に短剣を隠したヴェストは露骨に話を逸らそうとする。その姿はまるでエロ本を隠す中学生そのものだ。

 

「魔王のやつに頼まれてな、この地の調査とポンコツ店主に会いにきたのだ。汝とベルディアが死んだと魔王のやつから聞かされていたが....汝はなんだかんだ生きていると思っていたがまさかベルディアがまで生きているとは思わなかったのである。」

「首だけだけどな...」

 

なるほど。おそらく一方的に魔王城の結界へのパスを切ったため討伐されたと思われたのだろう。ベルディアの場合は弱体化により単純にそれを維持できなくなり切れてしまったからだろうが。

 

「とこれでヴェスト。どこか良さげな遺跡は知らぬか?できれば自ら作りたいのだがポンコツ店主のところの金の集まりが悪くてな。」

「あー...なるほどまたですか。ポンコツ店主のことは知りませんが僕が知っている中ですと“キールのダンジョン“ですかね。最近主人がいなくなったようですし。」

「ほぉ?いいことを聞いた。感謝するぞヴェスト!」

 

おそらくいつもの破滅願望によるものだろう。この人はいつもそうだ。何故か自らが倒されることを望む。それが冒険者たちの絶望を得る手段だとしてもわからない。

そんなまどろっこしいことをせず手足をもぎ仲間を惨殺し心を踏み砕けばいいのではないか?そもそもその感情を生み出す魂ごと食らってしまえば早いのではないか?

ヴェストはそんなことを考えるが口には出さない。

人(悪魔)によって趣味嗜好は変わるものだからだ。

 

「しかし汝随分と感情が豊かになったようであるな?あの勇者のおかげか?その点では我輩も感謝せねばな。さらに美味な感情が手に入るようになった。」

「遂に僕も食べられる側になるのか...」

 

きっとこれから待ち受けているであろうバニルからの嫌がらせを考えヴェストはため息をこぼす。この人の嫌がらせ技術は一点ものだ。 

 

「ああ、そうであった。言い忘れていたが汝、あの勇者に想いを馳せることはやめておいた方がいいだろう。知っていると思うが我々とアレらは相容れない存在である。」

 

見通したのだろう。

だがそんなことはわかっている。

神と悪魔は相容れない。それもあの方ともなればその可能性は0に限りなく近い。

だがーーー

 

「だからこそ面白いのではないですか。決して叶わぬ恋。面白い!僕がその初めの成功例となって見せましょう。

それに、僕はあのような素晴らしい方にこの命を捧げたいのです。この魂がどれだけ穢れていようとも。」

 

胸に手を当て何故か悪魔とは思えないどこか神聖な雰囲気を出しながら語るヴェスト。部屋の窓から刺す光が後光のように輝いて見える。まるで敬虔な信徒のようだ。

 

「汝記憶が...」

「はい?記憶?」

「いや、なんでもない。」

「ああ!そうだ先輩今はエリス様への信仰を深める時間!!儀式を再開せねば!ささ、用事が済んだのなら先輩は帰ってください!」

 

気のせいだったようだ。

依然ただの変態のままである。

 

バニルは自称後輩といえども知り合いの悪魔が天敵である女神に恋するなどというおかしい状況に複雑な顔をしながらも帰っていったようだ。

ベルディアは思った。またあの狂気的な時間が始まってしまうのか。もうこの際バニルでもいいから残ってくれ、と。

 

「エリス様エリス様エリス様エリス様エリス様エリス様ァァァァァァ!!!!」

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

数日後の昼過ぎ。

ヴェストの信仰を深める儀式()がようやく終わりを迎えた頃。

彼らはカエルへのリベンジにヴェストは生き生きと、ベルディアはまたしても死んだ魚の目をしながら歩いていた。彼に救いはないのだろうか。

 

「ん?ミラーじゃないか。久しぶりだな。」

「ダクネス?」

 

突然かけられた声に振り返るとそこにはダクネス。そしてカズマ一行がいた。もちろんアクアもいる。

 

「久しぶりじゃないかダクネス。こんな寒い時にどうしたんだ?カエルか?」

「いや、ちょっと野暮用だ。ミラーこそそんな服装してどうしたんだ?まさか冒険者になったのか?」

「ああ、これでも剣の腕には自信があるんでね。」

「おーいダクネス急ぐぞって、知り合いか?」

 

急いでいたのかカズマ少年が話しかけてきた。こちらとしては随分と見知った顔だが彼にとっては素顔で合うのはこれが初めてだ。

 

「ああ、同じエリス教徒の...」

「ミラーだ。呼び捨てで構わない。よろしく頼むよカズマ少年。」

「え?俺のこと知っているのか?」

「うん。君はある意味有名だからね。アクセルの英雄。あとは....たしかクズマとかカスマとか呼ばれていたっけ?」

「いやー照れ...ねえよ!?なんだよその呼び名!?」

「あはははははっ!ごめんごめん。君随分と面白いね。」

 

思った通りからかいがいのある少年だ。

もう少し話していたいがあのアークプリーストが痺れを切らしてよってくる前に退散しなければならない。まあ行き先くらいは聞いておこうか。そのくらいの猶予はある。

 

「僕も用事があるからそろそろ行くとするよ。ところで君たちはどこに行くんだい?」

「ん?ああキールのダンジョンだよ。ちょっと用事があって...ってどうしたんだミラー?」

「あ、ああ、いや、うん。今そこに行くのはやめておいた方が....」

「カズマぁー!おそーい!早く行くわよー!」

「うるさい!元はと言えばお前のせいだろこの駄女神が!」

「すまないミラー。また会おう!」

 

行ってしまった。

ああ哀れカズマ少年。

あの遺跡にはあの悪名高き地獄の公爵がいるというのに。

もはやヴェストにはせめてあの少年少女たちの心が折れないことを願うことしかできなかった。あとはあのクソ女神をバニル先輩が倒してくれる事を願うしかできなかった。




ちょっとしたメモ

カズマ<<ダクネス<ベルディア<(復活直後)ヴェスト<ウィズ<<アクア・エリス・バニル≦(現)ヴェスト<<<<<<超えられない壁<<<<<<<ジャイアントトード<カズマ

カズマに始まりカズマに終わる。トランプの“戦争”みたいな力量関係です。めぐみんは当たればヴェスト君も死にそうになるが馬鹿みたいに長い詠唱と打った後のデメリットから除外。相性とかもあるから実際はちょっと違くなるがヴェストがジャイアントトードに勝てないのは永遠の理。


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冬は人間も悪魔も動きたくない。

私は自分の欲望に忠実に生きることにします。
たとえこの作品が黒歴史になったとしても、あとで後悔しようとも私は匿名希望を解除するッッッッッ!

ちなみに私は夏と冬、どちらが好きかと問われたら秋が好きです。


「うぅーーーー寒っ!」

 

寒気が我が身を襲う時期になってきたに関わらずアクセルの街は騒がしい。

そんな中ヴェストたちは防寒具として狼の毛皮で作られたマントを羽織り、新しく買い直した同じく毛皮で作られたフカフカの袋に身を包み売られていたナニカの串焼きを貪っていた。もっちゃもっちゃ。

 

「そういやお前も普通に寒がるんだな。」

「この体を構成する情報の元となったのが限りなく人間に近いゴーレムだったからかな。五感は人間に限りなく近いのさ。へくちっ!」

「随分と可愛いくしゃみだなおい。」

「多分この体に釣られてるんだろうね。」

 

雑談をしながら歩くもどうも暇だ。

ここのところ本当にやることがないのだ。

魔王軍襲来やらアンデット大量発生やら楽しそうなイベントも何一つない。

あえて挙げるならあのバニル先輩がカズマ一行に討伐されたことだろうか。

まさかあの人が彼らに討伐されるとは思っていなかった。ヴェストのカズマ一向への認識が「カズマ君と愉快な仲間たち」から「何気に魔王軍幹部二人倒したヤベー奴ら」に変わった。ついでと言ってはなんだがデストロイヤーも討伐しているヤバい集団だ。

 

「先輩を倒すなんて彼ら思ったより強かったんだね。そりゃベルディアも負けるよ。」

「ちがう!俺は単純に相性が悪かっただけだ!あのクソ女神すらいなければ...!」

「はいはい、言い訳乙。」

「お前も一回負けてるんだからなぁ!?」

「君よりは酷くないね!」

「五十歩百歩だろ!」

 

大声で言い合ったらさすがにただの不審者なため小声でどんぐりの背比べのようなくだらない争いを繰り広げる二人。

意外と仲がいいらしい。

向かう先はもちろんギルド。ジャイアントトードへのリベンジだ。ちなみに未だあれを大剣だけで討伐できた試しはない。

 

「お?確かミラーだっけ?久しぶりだな。」

「げぇ!?」

 

噂をすればなんとやら。カエルのクエストを受けるためギルドの掲示板に向かったところ、かけられた声は今地味に会いたくないものの声。カズマ少年である。

 

「げぇ!って言わなかった!?俺嫌われてる!?」

「む、ミラーか。今からクエストか?」

「ああ、カエルをちょっとね。」

「え?無視ですか?ねえ?酷くない俺の扱い。」

 

ヴェストは良心の呵責に耐えながら...ということはなく単純にごまかし半分面白いなーと思いながら無視を決め込んだ。

 

「カエルか。もうこの時期だと冬眠に入るから少ないと思うぞ?」

「ああ、だから最近見かけなかったのか。クエストもないみたいだしどうするか...」

 

本当にやることがないのだ。

なんならエリス様への祈りを午前中丸ごと使ってするくらいしかない。

もういっそ一日中していようか。

そのせいでエリス本人が最近変な寒気を感じていることは彼は知らないし知る由もない。

 

「じゃあ俺らのクエストに来ないか?今からちょっと厄介そうなクエストを受けることになってな。このメンバーじゃちょっと不安なんだ。」

「ちょっとー!何言ってるのよ!私がいるじゃない!女神よ女神!あんなクエスト楽sってくっさぁ!?なにこれあんた悪魔くさいわ!」

「ちょ!お前なに失礼なこと言ってんだこのアホ!」

 

遂に見つかってしまったか。

この憎き似非女神に。

エリス様とは似て非なる神聖さを放つこの女はとてもじゃないが女神には見えない。

だが厄介さは折り紙付きだ。

しかも彼女には悪魔特攻をもつスキルがある。これはまずい状況だ。ここで正体がバレてしまったらせっかく作ったアンダーカバーが無意味になってしまう。

 

「そそそ、そんなわけないじゃないですか!僕はエリス様の敬虔なる教徒ですよ!」

「そうだぞアクア!それはあまりにも失礼だ!」

「ああもううるさい!『セイクリッドエクソシズム』!!」

「ッッッッッ!!!」

 

耐えろ。耐えて耐えて耐え切るのだ。

今のヴェストは封印による弱体化も抜けきり完全体に等しい。残機はないもののこの程度の魔法なら耐え切ることができる。気合いで。

さあ!今こそエリス様への忠誠心を試す時だ!

 

「おかしいわ?全然効かないじゃない?」

「ほら...言っただろう...?僕は、悪魔じゃ、ない...」

「アクア謝るんだ。人間であるミラーにそれを使うのは失礼すぎるぞ。」

「ちょっと待って?なんか効いてない?ミラーさんなんか疲れて...ひっ!?」

 

何かよからぬ事を口走りそうになっているカズマ少年にニッコニコの笑顔で殺気を飛ばす。勘がいいのも困りものだな。

だが第一関門は耐え切った。第二第三の関門がなければいいのだが...

しかしこれでこの姿が悪魔のものでないと思い込ませることには成功しただろう。

危なかった。ベルディアのアンデット臭もヴェストの悪魔臭によって隠されたようでヴェストは内心ほっと息をついた。

ところでそんなに匂うものなのだろうか。毎日しっかり街の風呂には入っているのだが。

 

「じゃあ僕は行くよ。流石にダクネスはともかく君たちとはほぼ初対面だし今回の誘いは遠慮させてもらうよ?」

「そうか...それは少し残念だな。」

「私も残念です。あなたからはただならぬ気配がしたのですが...特にその竜をも殺せそうな大剣!まさか振り回すのですか!気になります!」

「あはは。ま、またいつか見せてあげるよ。」

 

ヴェストは回れ右をしてギルドを後にしようとする。自分に恐怖心を少しでも抱いていると思われるカズマ少年をいじり倒したいが命には変えられない。さっさと退散させてもらおうか。

そうヴェストが踵を返そうとするも何者かに手を掴まれその歩みは止まってしまった。その掴まれた手から伝わってくる圧力ではない痛み。これは...

 

「待ちなさい!やーっぱまだなんか怪しいわ!あんたも一緒に来なさい!まさか来ないなんて言わないでしょうね?悪魔じゃないんだから!」

 

アクアだ。

背中を冷や汗が伝う。

まずい。まずいまずいまずい。

断ったら正体がバレて社会的死。断らずともこのクソ女神とクエストを共にすることになり下手するとバレかねない。

どっちにしろ危険な状況ならば....

 

「お、おいアクア?ミラーさんも迷惑だろうし...」

「いや、僕も同行させてもらうとしよう。これだけで悪魔という疑いが晴れるなら安いものだ。それに君たちとも仲良くしたいしね」

「....え?まじ?」

 

ヴェストは賭けに出た。

断れば疑いが強くなる。だが逆に何事もなくクエストを達成できれば疑いは晴れ信頼も勝ち取れる可能性がある。ならばやるしかないだろう。ベルディアにはもうしばらく我慢してもらおう。だからそんなストレスで吐きそうな気配を出さないでくれ。

しかしカズマ少年はそこまで怯えた目で見つめないでほしい。加虐趣味が露出してし...ん゛ん゛、流石に失礼だろう?

ぐぅぅぅ、と小さく腹の虫がなった。何故か腹が減ったようだ。

 



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カズマと愉快な仲間たち+α

もうすぐテストだと言うのにこんな小説を書いている私は....
やばい。本物の「俺テスト勉やってねー」になってしまう...!

評価、感想、お気に入り、誤字報告等いつもありがとうございます。


「よっし、始めるぞー!準備いいか?」

「こっちはいつでもいいわよー!」

 

今回同行することとなったカズマ少年たちが各自の配置につく。

今回の目標は奥に見えるリザードランナーの群れ、その王様ランナーと姫様ランナーの討伐による解体。

遠目でもわかるほどに集まり群れをなしているリザードランナー。その中から王様と姫様を倒せばいいだけの楽な仕事だ。

どーと突っ込んでぱぱっと片付ければいい。

そう彼はカズマ少年に提案したが即刻却下された。何故か得体の知れないものを見る目から阿呆な子を見る目に変わった気がしたが気のせいだろう。

 

「そんじゃ作戦のおさらいだ!」

 

作戦はこうだ。

カズマ少年が千里眼スキルと狙撃スキルを併用し、王様と姫様を倒す。そして失敗した場合はカズマ少年の愉快な仲間たち+αが対処し、その隙に再び狙撃。それも失敗したらめぐみんの爆裂魔法で全てを消し炭に。

ヴェストが提案したものとは比べるまでもないが、これも案外単純な作戦だ。だがそれゆえに失敗する可能性が低いとも言える。

何せ此方には守りだけは完璧なクルセイダーとカエル以外には大体勝てる剣士がいるのだから。あと優秀なバフ役兼賑やかしと文字通り必殺な爆裂娘が。

 

「じゃあミラーさんも頼む。」

「任せてくれよ。頼まれたからにはしっかりこなそうじゃないか。」

 

どんな悪魔だろうと契約は守る。

ヴェストだろうと例外ではない。

実際魔王とはただの口約束だったため裏切ったがエリス様とのアクセルの街の人間に「危害を加えない」という契約は守っている。

それが「殺さなければいいよね」程度の認識だろうと守っている。

故に彼はカズマ少年を守り通す。ヴェストは大剣...いや、鉄塊『墓標』を強く握った。

 

「そうだ!いい考えがあるわ!一番早いやつが王様になったわけよね?なら、まとめて呼び寄せて一番にここについたのが王様よ!」

 

今の今までヴェストを眼力だけで殺そうとしていると思えるほどに強く睨んでいたアクアが何かを閃いたのか手を天に掲げ何らかの魔法を発動させた。

 

「えっ!?おい待て何を!?」

『フォルスファイヤ!!』

 

カズマの静止を振り切り魔法を発動させた。させてしまった。

アクアの計画通りリザードランナーたちが一斉にこちら目掛けて走り出す。

だがこれはあくまで『アクアの』計画通り。

カズマの計画には一切考慮されていない状況だ。

 

「このクソバカ女神!!お前は毎回何かやらかさないと気が済まないのか!!」

「あーわかったわよ!役に立とうとしてやったのに!どーせこの後ひどい目に遭わされるんでしょっ!さあ!殺すなら殺せーーーーっ!」

「馬鹿野郎!不貞腐れてないで支援しろ!」

「.....なあめぐみんさんや?いつもこうなのかい?」

「認めたくないですが....はい....」

 

めぐみんは遠い目をしながら答える。

何故このような凸凹パーティーがチート殺しのベルディア(+ヴェスト)や機動兵器デストロイヤー、見通す悪魔バニルに勝てたのか。

それはヴェストにとって永遠の謎である。

考えているうちにも群れはものすごい勢いで駆けてくる。なるほど。その名に”ランナー“とつくだけはある。

ダクネスと共にヴェストは墓標を構えた。

 

「よしやった!!って一層凶暴になってるんですけど!?」

「だめですっ!先に姫様を倒さないと次の王様を決める勝負が始まってしまって...!」

 

カズマ少年がスキル狙撃により王様ランナーを撃ち殺すが群れの凶暴さは増すばかり。姫様も怒り狂っているようだ。

めぐみんの爆裂魔法により全てを吹き飛ばそうとするも詠唱が間に合わない。

こうなったら我々タンクの出番だ。

さあ、墓標よ!その名の通りここを奴らの墓場としてやろう!

 

「ふんっ!」

「吹き飛べぇっ!!」

 

ダクネスは剣が当たらないからかその身を呈し勇敢に群れの勢いを止めた。

そしてそれをヴェストが吹き飛ばす。力任せの時間稼ぎだがこれでカズマ少年が姫様を狙撃することができるはずだ。

 

「か、カズマ!さあ今のうちだっ!早く!いややはりできるだけ引き伸ばして...わぷっ!?」

「カズマ少年やれ!このクソトカゲどもの脳天を射抜いて...へぶっ!?」

 

トカゲたちを吹き飛ばしていたヴェストたちだが突然その頭に衝撃が走る。

姫様ランナーだ。

しまった!僕を踏み台に...!?

ヴェストがいち早く気づくがそれはもう跳躍し、カズマ少年めがけて襲いかかっていた。

ヴェストは駆け出す。

カズマ少年を守らなければならない

彼はその功績こそ本物だがレベルはこの中で一番低いのだから。

 

「うわわっ!?狙撃っ狙撃っ狙撃っ!!」

「爬虫類風情が!空を飛ぶなぁ!」

 

カズマ少年が撃ち抜くと同時に振り落とされトカゲを地に叩きつける鉄塊。

だが忘れてはいけない。彼が立っていた場所は木の枝の上。非常に足場の悪い場所だ。そんな中慌ててバランスも考えず弓を連射したらどうなるだろうか。

もちろん剣を振り下ろした状態のヴェストは助けに来れないものとする。

 

「えっ?」

 

ゴキィ!!

転落死である。

魔王軍幹部二体に機動要塞を討伐した英雄の最後がこれだ。

不死身と言われたかの大英雄アキレタウスノロもアキレス腱を弓で射抜かれ死んだという。

英雄の最後は皆、案外あっけないものかもしれない。

ところでアキレス腱の由来はどこから来たのだろう?

 

「カズマ少年!?」

 

その話は置いておいて、ヴェストは慌てていた。悪魔にとって契約は命の次に大切と言っても過言ではない。もしかしたら命よりも重いかもしれない。それを破ってしまったのだ。正体がバレること承知で無理やり生き返させるか。いっそアンデットにしてしまうか。彼はこんな事を真剣に考えるほど焦っていた。現在進行形で心の中で「ヤッベ」を連呼している。(体だけとはいえ)生みの親の影響か。

 

「しっかたないわねー。はいっ、『リザレクション』」

 

しかし仲間達も少しは焦っているものの死人が出たにしては落ち着きすぎている。

普通泣き出すものの一人や二人いそうなものだが。

そんな事を思うと徐にアクアがカズマ少年の死体に近づき慣れた手つきで魔法をかける。

なるほど蘇生の魔法が使えたのか。

だがこの落ち着き方はどこか違う気がする。どちらかと言うと“慣れている”ような....

 

「まさかと思うけど...2回目?」

「ええ...まあ、はい。」

 

なるほど。慌てないわけだ。

ん?まてよ?人間の蘇生は1回が限度のはずだが。何か裏技でもあるのだろうか。

 

「カーズーマー聞こえるー?」

 

アクアが死体のそばで空に向かって話しかける。

こんなことで通じるのか。

しかしこれで本当に天界に通じると言うなら今度アクセル外の冒険者でエリス様に話しかけられるのか試してみるのもいいかもしれない。いや普通に嫌われそうだ。やめとこう。

 

「リザレクションは掛けといたからエリスに門を開けてもらって帰ってきて!」

「エリス様ぁ!?いるのですか!?そこにいるのですか!?」

「うわっ!?何よあんた!ちょ!邪魔なんですけど!?」

『ゔぇ、み、ミラー!?』

「はいっ!ゔぇ...ん゛ん゛、ミラーです!あなたの敬虔なる信徒ミラーです!!」

 

そんな邪な考えはアクアの一言、「エリス」という尊き御名前によって吹き飛ばされた。

ヴェスト暴走モード再来である。しっかりと偽名を使ったのは奇跡と言っていい。エリス様がそう呼んだのはただこの場がこれ以上拗れるのを防ぐために空気を読んだのだと思われる。

 

「ああ!エリス様エリス様エリス様ぁ!!」

「うるさいっ!!あんたは黙ってて!カズマ聞こえるわよね!?さっさと帰ってきなさい!」

 

熱に浮かれたヴェストをどうにか押しのけアクアは天界のカズマ少年に話しかける。

が、少し間を開けて帰ってきたのは『帰らない』の一言。

 

「ふざけないでよ!私が天界に帰れなくなるじゃない!」

「なるほど...死を迎えた魂はエリス様のお膝元へ....ヨシっ!」

「やめろミラー!”ヨシっ“じゃない!」

 

混沌は加速する。

あくまでこのパーティは仲間を一人失った直後である。それを忘れてはいけない。

この場に第三者がいたのなら仲間を失ったショックで気が触れたのだと思われるだろう。

 

「ちょっとめぐみん?何してるの?えっ、カズマの服をどうする気っ.....!」

 

だがそれも今まで静かだっためぐみんの起こした行動によって終止符が打たれた。

服をめくりあげズボンを少し下げる。

そして下腹部にペン(油性と思われる)を近づけ....

 

カズマ少年が起きた。

彼の名誉のため何をされたのかは書かないでおこう。自分の息子に自信があるのはいい事だ。

 




勉強してきます。。。:(;゙゚'ω゚'):


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悪魔ヴェスト、買収される。

最近しおりの便利さに気づいてマイページが栞でいっぱいになっています。見にくいことこの上ない...
お気に入り、評価、コメント、誤字報告等いつもありがとうございます。


ヴェストはまたしても薄暗い路地裏を歩いていた。暗いところが好きなのだろうか?

だが今回は違う。彼が好んできたのではなく誘われてきたのだ。

“話がしたい”と。

 

「ふむ。こんなところに呼び出して何のようかな?」

 

 

「カズマ少年」

 

彼が話しかけた先にいたのは緑のマントに茶髪の少年。先の冒険で共にしたカズマ少年である。

あのあと別れ際に妙に真剣な顔で話しかけられたのだ。

『後で校舎裏に来い...』と。

 

「いやそんな呼び出し方してねーよ!?」

「そうだっけ?」

 

呼び出し方なんてこの際どうでもいいのだ。

重要なのは内容だ。

まさかとは思うが正体がバレたのだろうか?だとしたらめんどくさい。エリス様との契約でカズマ少年たち人間に危害を加えることはできない。人間ではないと思われるアクアには危害は加えられるが女神アクアとエリス様は先輩後輩の関係にあると聞く。そうしたら最後。エリス様からは絶交宣言が出るだろう。(未だされていないのは奇跡に等しいが)

 

「それで?わざわざこんな人気のない薄暗い“何か起こっても気づかれないような場所”に僕を呼び出して、いったい何のようかな?」

 

 

カズマ少年が肩をびくりと振るわせた。

厄介ごとの匂いがするがここはあえて様子を見よう。その方が面白いし。

ヴェストはその様子を穏やかな笑みで見つめ続けた。聖母を思わせるその笑みは味方によっては正反対のナニカに見えるだろう。

 

「...お、俺はお前の正体を知っている。」

 

おや?いきなり本題か。

しかも正体を知っているときた。以前のクエストではそのような素振りは見えなかったが。アクアの戯言を信じ込んだかエリス様の入れ知恵か。どちらにせよめんどくさい(面白い)ことになっているには変わりはない。

だが何故それを明かすのか。しかもこんな人気のないところで。口封じされるとは思わなかったのか。はたまた何か策があるのか。

それともただ単にバカなだけだろうか。

 

「はて?僕の正体?何のことやら。」

「しらばっくれるなよ。こっちは神様から直接聞いたんだレインコート。いや、虚像の悪魔ヴェスト。」

 

そこまで知られていたとは。

エリス様も困った悪戯をなされる。

ヴェストは驚いたように目を見開く。

だがそれも束の間。口は弧を描きカズマを見下すような目つきに変わった。

それはまるで新しいおもちゃを見つけた子供のようにも見える。

 

「これはこれは...いやまいったね。そこまでバレていたなんて。エリス様も困ったお方だ。」

「い、いやにあっさり認めたな。」

「ああ、そうさ。僕が悪魔ヴェスト。元魔王軍幹部にして今はエリス様に忠誠を誓う悪魔。しかしカズマ少年。いいのかな?こんな場所でその話をして。口封じとか考えなかったのかな?」

「お前はエリス様との契約でアクセルの人間に危害を加えることはできないはずだろ?」

「そうさ。よく知ってるね。でも危害を加えないと誓っただけで君たちを傷つけるなとは誓ってないよ?」

「っ....」

 

危害、それは生命・身体を失うような危険のこと。ならば四肢と命さえあればどれだけ拷問しようと傷つけようと問題ない。ヴェストは本気でそう思っている。

カズマ少年はいくら賢くとも所詮は人間の子供。拷問でもすればこのことは大人しくお口チャックしてくれるだろう。

ヴェストがどこからともなく取り出した山刀を光らせ一歩踏み出すと共にカズマ少年は一歩後ずさる。

形勢逆転だ。そもそも最初からヴェストは追い詰められていなかったのでただ状況が悪化しただけとも言う。

 

「ま、待て!動くなよ、こいつが目に入らないのか?」

「は?何を言って......!?」

 

ヴェストはその足取りを止め硬直するほどに驚愕していた。

あれは一体なんだ。彼の手に握られている白く光り輝くあの神聖なる像は。

ありえない。あのようなものが存在するはずがないのだ。

あんな...あんな.....

 

「エリス様人形1/6スケールだとぉぉぉ!?」

 

カズマ少年の手ににじられた白く光り輝くそれ。それはそこらへんに建てられている石像のような偽物ではなく正しく表現されたエリス様の像。ヴェストにとってはいかなる美食よりも優先すべき逸品。

ちなみに彼が何度か作成に挑戦するも『あの方の美しさを再現できないッ!!』と断念したものでもある。

 

「何故貴様がそのようなものを...っ!!」

「うちのアクアが直々に制作したエリス様石鹸人形だ!再現度はバッチリ。直接見た俺でも納得の出来栄え。それが後2種類!」

「なぁ!?」

 

さらに二つのエリス様を懐から取り出し地面に並べる。

その一柱一柱がそれぞれ全く違う造形となっていた。そしてそのどれもが恐ろしいまでの再現度をしていた。

 

「いつものエリス様にちょっとラフな格好のエリス様、そして寝巻き姿のエリス様ッ!!」

「がぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?」

 

あまりの美しさに目をやられたヴェスト。

効果は抜群だ。気のせいかシュゥゥゥゥゥという効果音と共に消えかかっている。エリス様人形にさえも浄化効果があると言うのか。

彼の頭にあるのは『尊い』の2文字。

まさに今、彼は尊死しようとしていた。

 

「はいここまでー」

「あ、ああ.....」

 

カズマ少年は釣れたと確信し人形を袋にしまってゆく。それをヴェストは世界の終わりのような目で見つめていた。先程までの威厳のある姿は嘘だったのだろうか。

ヴェストは完全にその人形に夢中になっていた。時折カズマ少年が袋から人形を取り出すたびにビクッと反応するほどだ。

 

「欲しいよな?欲しくないわけがないよなぁ?悪魔のくせに熱烈なエリス狂信者のお前が我慢できるはずがないよなぁ?」

「く、何という...これしきのことでぇぇぇ!!」

 

今すぐでも奪い取りたい。この世界を滅ぼしてでも奪い取りたい。だが下手に動くとあのとてつもない芸術的価値を持つあの像が壊れてしまう可能性がある。ヴェストにはどうすることもできなかった。

 

「なあミラー...いやヴェスト?取引をしないか?」

「...何を求める」

「お前うちのパーティに正式に入らないか?」

「..............................は?」

 

唐突な提案にヴェストの頭が真っ白になる。

悪魔である自分をパーティに?わけがわからない。気でも狂ったのだろうか?

ヴェストは混乱している。

 

「うちのパーティってさ、ぶっちゃけバランス悪いじゃん?」

「...ああ」

「受けることしかできないクルセイダーに一発打ったら終わりな爆裂オンリー娘。あと宴会芸の神様。俺は狙撃ができるけどレベルが低い。ちゃんとしたアタッカーがいないんだ。」

「...そうだな」

「そこで!お前が現れた!あの時はうっかり俺が死んじゃったけど高い攻撃力も出せて守りもある程度いける。アクアとダクネスや他の冒険者相手に一人で立ち回れる実力。」

「...うん」

「正直めっちゃ欲しい。悪魔ってところとエリス狂信者なこと除けば完璧じゃん...あれ?意外とダメだった?」

「おい」

 

何故か上げて落とされた。

悪魔なことはともかくエリス狂信者なとこのどこが悪いのか。話に聞くアクシズ教よりはまともだと思うのだが。

 

「とにかく、お前はうちに欲しい人材なんだ。どうだ?」

「うむ.....」

「そうだな、乗ってくれたらこの三体にプラスして新作ができたらアンタにまっ先に渡そう。」

「乗った」

 

少し渋るもさらなる魅力的な提案に即刻堕ちたヴェスト。エリス様人形の前にはいかなるヴェストも無力と化す。だがもう少し耐えて欲しかった。これでは即堕ち二コマではないか。

像の入った袋を受け取り目を輝かせる彼の姿はとてもじゃないが悪魔には見えない。

どちらかと言うとただの変態だ。

 

「ところでさ、エリス様って可愛くない?」

「それな」

 

目にもとまらぬ速さで振り返り、カズマ少年の差し出された手を堅く握るヴェスト。

彼らは思った。こいつとは仲良くやってけそうだな、と。

やはり可愛さは全てを解決するのだろう。

今この瞬間二人の間に強固な絆が作りだされた。



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いざゆかん!美しき水と温泉の都アルカンレティアへ!

ここから先の話ではなかなかエリス様を登場させられずただヴェストがエリス様への愛を語るだけになりそうな予感...
原作でもこの辺りの話でエリス様出なかったと思いますし...
この素晴らしいエリス様orクリスにもっと出番をッ!!

今回は少し多めだと思います。


ヴェストが新たな同志を得たあの騒動から少し経った頃。彼はカズマ少年達が買ったという屋敷に来ていた。

目的はもちろんエリス様人形。流石にこの短期間で新作を作れるとは思っていないが協力できることがあるならしようと思ってきたのだ。

それに一応仲間という関係上あれから一度もギルドに姿を表さないのは流石に心配する。

せっかく得た同士に何かあったら大変だ。

 

そんなことを考えながら屋敷に入ってゆく。

あのクソ女神が貼ったのか意外と強い結界があるが壊すと悪魔だとバレてしまうため、壊さないよう自らの体力を削りながら入って行く。自らを守る障壁は貼ってあるがなかなか痛い。

ベルディアは耐えられないためお留守番である。

もちろんドアノッカーは叩いたが反応がなかったのでズカズカと進む。気配はあるためいるはずだ。

 

奥に進むにつれ話し声が聞こえてきた。

口論でもしているのだろうか?

しかしそんなことは関係ない。

 

「突撃隣の晩御飯ッ!ミラー様の登場だー!」

「まだ昼だし隣でもないだろ!?」

 

何という反応速度!扉を蹴り開けると共に放たれたボケにこうも早く反応するとは。某二刀流の黒い人でも真似できまい。

反応というよりはもう反射に近いのだろうか。おそらく普段からおかしな奴らと暮らしているからそうなってしまったのだろう。かわいそうに。

 

「いいところに来てくれましたミラー!もうこのパーティはダメになってしまったようです。」

「僕はあの素晴らしく尊いエリス様人形があるならそれでいい。」

「この人もダメな部類でした!」

 

何と失礼な。エリス様を崇め奉ることの何が悪いのか。

そうヴェストは目で抗議するも彼は忘れている。

何事にも限度があるということを。

めぐみんはあの場でヴェストの信仰の一端を見ていたためそれを無視した。

 

「と言ってもな、俺はあの時首がぽっきり逝ったんだ。せめてこの古傷が癒えるまでは安静にさせてくれよ。あ、ミラー新作はまだだぞ?」

「なん.........だ....と.....」

 

絶望のあまり膝から崩れ落ちたヴェストをアクアがプークスクスと笑う中、めぐみんに“ぴーん”と天啓が舞い降りた。

 

「...わかりました。ならカズマの傷を癒しに行きましょう」

 

めぐみんはゆらりと立ち上がりカズマを見据えた。何かいいアイデアが思いついたのだろうか。だがヴェストにはその目に何か怪しい光が灯っているようにも見えた。

 

「湯治ですっ!湯治に行きましょう!水と温泉の都アルカンレティアへ!!」

 

なるほど湯治か。

確かに温泉は傷ついた身と心によく効くという。悪魔でありほぼ心だけの状態に近いヴェストにはよくわからないが。そもそも温泉に入ったことがない。

そのめぐみんの意見にカズマ少年達は乗り気のようで特にアクアなんかはカズマ少年の胸ぐらを掴んで揺さぶる始末。首が折れていたのではないのか。

しかしアルカンレティア....どこかで聞いたことがある名だがどうも思い出せない。ヴェストは首をひねりながらもカズマ少年に一緒に行こうぜと誘われてついて行くことに決めた。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

「へい!いらっしゃ...おや、小僧にヴェストではないか。今はレインコートだったか?」

「先輩!?あ、いや、ミラーでお願いします。」

 

カズマ少年が用事があると言って抜け出したのについて行ってみたところ、そこにいたのは先輩悪魔のバニル。この街に住んでいるとは聞いていたがまさかこんなにも堂々と店を構えているとは思わなかった。

ヴェストは驚いた。

さすが先輩だ。僕が宿暮らしでカエルとの毎日を過ごしている中、一国一城の主となっているとは。

しかしこの床に転がっている見覚えのあるリッチーは何だろうか。名前は確か....

 

「何だそんなことか。構わんぞ。ゆっくり羽を伸ばすなり混浴を期待するなりしてくるが良い。」

「きき期待してねーーーし!?」

「それとミラー、それはうちの店主である。あまりツンツンするでない。」

「ウィズ!?」

 

どうやら黒焦げた...そう、ウィズをツンツンしている間に彼らの話は終わったらしい。

しかしここの店長はウィズだったのか。

だが話を聞くに彼女が赤字を出し続けるあまり先輩がお仕置きとして例の光線を放ったらしい。

店主を尻に引くとは、さすが先輩だ。

ヴェストは満足げに頷き、そしてあるものを手に取った。

いったいこれは何だろうか。

見たところ瓢箪のようにも見えるが鑑定によればトイレと出る。しかし発生する音がかなり大きく設定されており、さらには水を生成する機構が強めに作られているようだ。

とてもじゃないが本来の使用方法では悲惨な目に遭うだろう。だが工夫をすれば囮にも水責めにも使えそうだ。買わないが。

 

それはそうとヴェストが商品とは名ばかりのガラクタを鑑定し回っていた間にまたしても彼らの話は終わっていた。

どうやらウィズも連れて行くこととなったらしい。ところでカズマ少年が少し興奮気味なのは何故だろう。先輩が先ほど言っていた通り混浴を期待してだろうか?

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

「あ、きた。」

「ま...待たせたな」

 

カズマ少年がえっちらおっちらウィズを背負いながらやっとのことでアクア達と合流した。あまりにも辛そうだったので「変わろうか?」とヴェストが聞くも彼は断固としてそれを譲らなかった。なんでも「素晴らしいものが背中に....なんでもない。」だそうだ。

ちなみにヴェストはその途中でベルディアを宿から回収してきた。動けなくて暇なのか未だに寝ていたようで袋の中でぐっすりである。今度デストロイヤーのような足でもつけてみようか。頭に直結するように。

そして案の定ウィズを連れてきたことによってアクアと少々揉めていた。

ウィズがアンデットだからということもあるがヴェストが入ったせいでただでさえ一人席が足りなかったのにまた追加されたせいでもう一人足りなくなったらしい。

“ならば僕がウィズを背負って走ってゆこう“とヴェストが提案するもふざけてんのかと却下された。ヴェストはおかしいな、人間でもそのくらいできそうだが、と思ったが一部の例外を除いてそんなことはない。

身体能力系のチート転生者が過去にいたがあれはもはや人間とは呼べなかった。友人の博士ですら「何あれ」と驚いていたのを彼は覚えていなかったようだ。

 

「ここは公平にジャンケンで行こう。」

 

ほう、ジャンケンときたか。

ヴェストは手をパキパキっと鳴らしジャンケンの構え(?)をとる。

 

「自信があるみたいだな?」

「ああ、自慢じゃないけど僕....生まれてこの方ジャンケンで”勝った“こと...ないんだぜ...」

「じゃあなんで自信満々なんですか...」

 

なぜだろう。

彼は極端に運が悪いのか記憶にある限りジャンケンに勝ったことがなかった。ステータス上で運はそこまで低くなかったはずなのだが。

やはりエリス様に嫌われているのだろうか。

だとしても僕は諦めないが。

ヴェストは決意を固めた。

 

「それじゃ行くぞ、じゃーんけーん」

 

「「「「「「ポン」」」」」」

 

チョキが一人にパーが五人。

もちろんヴェストはパーでカズマ少年がチョキである。いきなり一抜けとは随分運がいい。その運を少しでもいいから分けてほしい。

 

「よっしゃ!一抜けだ!」

「ちょ...ちょっと待ちなさいよ!」

 

何とここで”意義ありっ!“とばかりに声を張り上げるものがいた。我らが駄女神アクアだ。何とまあ往生際の悪い。ヴェストは冷めた目で彼女を見つめていた。

 

「なら俺とサシで勝負するか?」

「え?マジですか....ねえ?確率の計算って知ってる?カズマが3回連続で勝つとかすごく無茶振りなんですけど!」

 

 

「ーーー俺....ジャンケンで負けたことねーから」

 

 

 

 

 

3回勝負で一度でもアクアが勝てたら席を譲るという勝負。非常にカズマ少年が不利なルールだが....

アクアが負けた。

悔しいがアクアのズルしたでしょ!という叫びには同意できる。見ていたがズルした素振りは見られなかった。が、あれはおかしいだろう。3回連続って、どんな確率だ?1/27?おかしいだろう。

 

「お願い!もう一回!もう一回だけだから!」

「本当だな?次負けたら荷台行きだからな!」

 

結論から言おう。

アクアは負けた。で、泣いた。以上ッ!!

本当にあの運の良さは何なのだろうか。

なんですか?エリス様贔屓しちゃってます?羨ましい!

だがそんなヴェストの驚きとも嫉妬とも取れる感情はアクアのあまりにも無様すぎる醜態を見て吹き飛んだ。

ブレッシングまで使って負けるとか...

「はっ」

「あー!あんた笑ったわね!許さな...あー!ほおをひっぱらないれっ!」

 

駄女神の負の感情はなかなか美味だったとか。

あと普通にヴェストはジャンケンに負けた。アクアと同じお荷物扱いである。

解せない。



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初めての遠征。平和にはじまるわけもなく

台風2連続できましたね。もっとこう、いいタイミングで来てほしかった。体育祭とか。インキャの引きこもり予備軍にはきついんです...


ある程度舗装されているとはいえ荒野を走る馬車の乗り心地は控えめに言って良くない。

客席に乗る自分たちでもこうなのだから荷台に乗る彼らはどれほどのものなのだろう。

 

「ふっふふ、どーよこの作品!」

「何と素晴らしい...!!」

 

意外と楽しそうだ。

カズマは荷台で石鹸人形を通して何故か仲良くなっているアクアとヴェストを眺めてそう思った。

平和だ。この世界に転生されてからこんなにもまともな旅はしたことがあっただろうか。いや、ない。

日々借金返済に明け暮れひと段落ついたと思ったらまた借金。息を吐く暇もなかった。

めぐみん達も別の馬車に乗っているという貴族のペットのドラゴンに変な名前をつけながらもゆっくりとしている。

平和だ。

 

「おお、おお、エリス様ぁ!!」

「ちょっと!エリスのじゃなくて私のはいらないわけ!?」

「あ、いいです。」

 

そんな中、カズマはヴェスト達を横目に一冊の絵本を取り出した。ウィズを預かった時バニルからもらった何の変哲もない子供用絵本だ。

内容は神様に選ばれた勇者が悪い悪魔を打ち倒すごく一般的なものらしい。

だがそれはただの絵本ではない。最近仲間になったミラー、虚像の悪魔ヴェストに関するものでもある。

 

カズマはページをめくった。

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

昔々、魔界と呼ばれる恐ろしい場所から一人の悪い悪魔がやってきました。

 

悪魔は常に腹ぺこで、感情だけに飽き足らず魂をも喰らってしまうのです。

 

悪魔は食べました。人間を。

 

悪魔は食べました。魔族を。

 

悪魔は食べました。同族(悪魔)を。

 

そして神さえも。

 

それに困った偉い神様達は一人の人間の青年に聖剣を分け与えこう言いました。

 

ーあの邪悪な悪魔を倒し人々を救うのですー

 

青年はそれに応え剣を取りました。

 

そして青年はその力を使い激闘の末についに悪魔を打ち倒しました。

 

体を切り裂き、魔力を打ち消し、復活しないように魂さえも切り刻みました。

 

ー憎き勇者よ人間よ。我は死なぬ。いつの日か今度こそ貴様らを喰らい尽くしてやろうー

 

悪い悪魔は勇者によって討ち取られました。

 

しかし悪魔はしぶとくその魂の一部を切り離し逃げてしまいました。

 

そこで勇者はこう言ったのです。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

「貴方たちにこの聖剣を託します。そして備えるのです、悪魔が復活した時、再びこのような悲劇を起こさないために。」

 

「うぉ!?めぐみん!?」

「暴食の悪魔の物語ですか。結構有名ですよね。何でもその聖剣、実在するもので王都に保管されてるようですよ。」

 

読んでいるので夢中になっていたのか気づかないうちにめぐみんがカズマの横に座りその絵本を覗き込んでいた。

その手には先程のドラゴンの幼体が入った籠を持っている。

 

「へー本当にあるのかその聖剣。」

「ええ。何でもそれらしきものを王都での魔王軍迎撃戦で王族の方が使っているのを見たことがある人が何人かいるそうです。」

「ふーん。じゃあ聖剣が存在するってことはその悪魔も...」

 

「その可能性は低いですよ。そこまでやばい存在がいたのならもっと多くの書物に書かれているはずです。実際その悪魔が描かれているのはその本だけです。.....まあ記録が残らなくなるほどの被害が出ていたのなら別ですが。」

 

記録に残らなくなるほどの被害。

それはどれほどのものだったのだろうか。

どれほどの人が死んだのだろうか。 

カズマはチラリと荷台に乗っているヴェストを見た。

 

うん、ないな。これは完全な創作だ。

 

カズマはいい笑顔でそう結論付けた。

こういう言葉を知っているだろうか。

 

“争いは同じレベルのもの同士でしか発生しない”

 

彼はアクアと揉めていた。お互いの頬をつねりながら。どうしてこうなった。

 

「おーいアクア、ミラー何やってんだ。」

「カズマ少年!聞いてくれ!こいつが、こいつがエリス様を馬鹿にしたんだ!パットだと、ひんぬーだと!それのどこが悪いというのか!」

「あんただって私に!へっぽこ女神だって!脳内お花畑だって!ああ!もうゴッドブローするわよ!?いいわよね!?」

「やめろ!席変わってやるから一回落ち着け.....ん?」

 

二人を止めようと身を乗り出した時、カズマの視界の隅に何かが映った。

なんだろう。砂埃?

 

「砂埃ですか?おそらく走り鷹鳶だと思いますよ。おっと!自分がつけたわけじゃないですよっ!」

 

走り鷹鳶。

タカとトンビのハイブリットであるそれは飛べない代わりにものすごい脚力を持ち繁殖期に入ると本能的に硬い獲物を探しだしそれを使ったチキンレースによって求愛行動を取る変わった生物らしい。

危険はないと言われたが、こうしている間にもそれらはこちらに近づいてきている。ものすごいスピードで。

 

「お、おかしいですね確かにあれは走り鷹鳶のようですがどうしてこっちに...」

「カッカズマっ!ものすごく早い生き物が真っ直ぐこちらに向かってきている!というか連中が私を凝視している気がするぞ!」

(お前かーーーーーっ!!)

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

馬車が止まると同時にカズマ少年たちは打って出た。あの鳥どもを迎え撃つつもりだろう。というか尻拭いをするつもりだ。

まさかダクネスをピンポイントで狙ってくるとは。しかも自分が持つ『墓標』に目もくれず彼女に食いつくとは。いったいどれほどの硬度なのか。

ヴェストはダクネスの硬度に戦慄しながらも墓標を担ぎ彼らの後に続く。

 

「っておい!危ないぞ下がれって!」

 

元凶であるダクネスはというともうすでに歓喜の感情を浮かべながら突撃していった。

悪魔だからこそわかる。今の彼女は責任感20%に80%の欲望から動いている。

思わず「うわぁ...」と心の声が漏れてしまった。

何故かほかの冒険者たちはあの姿に感激しているしなんなんだこの状況は、とヴェストは軽く引いていた。

 

「うおおおおおおー!すまねぇ!身を挺して標的が俺になるのを阻止してくれたのか!許してくれ!許してくれぇぇ!!」

 

ダクネスが一人の冒険者が放ったバインドをその身に受けたことでさらなる勘違いが生まれてしまった。

今のは絶対違った理由から彼の放った”バインド“に突っ込んだと思うのだが。そこらへんどうなのだろうかカズマ先生。

ヴェストさえも驚きを通り越して呆れを吹き飛ばし乾いた笑みを浮かべていた。

 

 

「すみません!!すみません!!うちの変態が本当にすいませーーーーーーんッ!!!」

 

 

 

のちの彼はこう語ったという。

”実に見事なDOGEZAだった“と。

 

あとその悪感情はうまかった、が自分も当事者だったせいで非常に微妙な味わいだった、とも。




暴食の悪魔なんて呼ばれているのはただめっちゃ食べたからでヴェスト(過去)本人が名乗ったわけではない。


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アクシズ教の総本山?魔界の間違いでは?

アンデットについての解釈は独自のもので間違っているところもあるかもです。
いつもお気に入り登録等ありがとうございます!


その後は走り鷹鳶を蹴散らしたりアクアに引き寄せられたアンデットを蹴散らしたり順調な旅だった。あとついでにアクアのターンアンデットでベルディアが死にかけたりと。ほぼあの水色のせいだ。

順調とはなんなのか。

あ、マッチポンプで食べる飯は美味しかったです。

とまあ色々あったがカズマ一行はなんとか目的地であるアルカンレティアに到着した。

しかしいざ観光と意気込んだのも一瞬。

彼らは唖然としていた。

平然としているのはアクアくらい。ヴェストまでもが呆然としていた。

というのも...

 

「ようこそいらっしゃいましたアルカンレティアへ!入信ですか?冒険ですか?洗礼ですか?やっぱり入信ですか?」

 

勢いが強いのである。

ヴェストは半ば停止しかけた思考をフル回転し思い出した。

そうだここ、アクシズ教の総本山だ。

その答えを導き出すと同時に頭痛を感じ頭を抑える。彼は知っていた。ここは魔王軍であろうと魔道大国ノイズであろうと悪魔であろうと近寄ろうとはしなかった真の魔境。

過去のヴェストも興味本位で近づきその洗礼を受けたことがあった。

随分と昔のことだったとはいえこんな重要なことを忘れていたなんて。

変わり者が多いなんてそういう次元ではないのだ。

口を開けばアクシズ教。差し出されるのは入信書と石鹸洗剤。女子供までアクシズ教の素晴らしさ(笑)を説くのに精を出す魔界が裸足で逃げ出す真の魔界。

 

「カズマ少年。帰ってもいいだろうか。」

「やめろ俺を置いていくな。」

 

彼らはウィズを宿屋に寝かせアクアとめぐみんと別れカズマ、ダクネス、ヴェストの三人でこの街を観光していた。

もちろん手に持つのは石鹸洗剤に入信書。

ヴェストに至っては最近装備を新しくして「より冒険者らしい格好をしよう!!」とポーションなどさまざまなものが持てるようにポーチやポーション入れつきベルトなどを身につけていたせいで衣服の隙間、ベルトの間にまで挟まれていた。

 

「っ....すまないカズマ少年本当に僕はもう限界みたいだ。先に帰らせてもらうよ...」

「ミラー...ごめんな、俺が無理に外に出ようと言ったばかりに...」

「もう戻るのかミラー。もったいない...」

 

同じく憔悴しきったカズマ少年となぜかツヤツヤしているダクネスを置いて宿に進路変更する。魂を削られたことはあるが(なお本人の記憶にはない)ここまで彼の精神が削られたのはこれで二度目だった。ちなみに一度目は某科学者とアルカンレティア観光に来た時だ。

つまりアルカンレティアはヴェストの第1の天敵というわけだ。第2はカエル。

 

「もがもが、大丈夫かヴェスト。あとできれば、もが、この袋に突っ込まれた入信書をとってくれもが。」

「....ああ、すまんいたんだなベルディア」

「いるも何もお前が無理矢理連れてきたんだろうが!!」

 

最近空気が薄くなりつつあるベルディアの入った袋から入信書を抜き捨てつつそろそろこいつに体作ってやろうかな、と考えていると進んでいる先から耳障りな悲鳴と足音が聞こえてきた。ヴェストはまたかとため息をつく。

 

「きゃぁぁ!助けてくださいそこの方!あの凶悪そうなエリス教徒と思しき男が私を無理やり暗がりへ引き摺り込もうと...っ!」

「おいそこのお兄ちゃんお前はアクシズk...」

 

 

「薄切り輪切り半月切りにみじん切りぃ....好きなのをぉぇらぇらばせてぇあげるよぉぉぉぉ!!!」

 

 

「「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!?」」

 

黒光りする山刀(墓標は宿屋に置いてきた)を抜き放つと同時逃げ出すアクシズ教徒。

ヴェストは色々限界だった。

精神的にも、エリス教徒への罵倒への忍耐的にも。

 

「エリス教をぉ、エリス様を馬鹿にするのは許されざる大罪ぃぃぃぃ!!!エリス様は人が死ぬのを嫌われなさるから極力避けてきたがもぉう限界だァァァァァァ!!滅ぼそう!滅してしまおうこんな場所ぉ!!」

「やめろヴェスト落ち着け落ち着けぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

ヴェストたちは一悶着二悶着と言わず二十悶着くらいありながらようやく宿屋にたどり着いた。最後の方では疲労したベルディア入り袋と何よりヴェスト本人から“話しかけたら斬る”とばかりのオーラから話しかける人が激減していたためこれでも早く到着した方である。

 

「あ、ヴェストさん。お帰りなさい。」

「ん?ウィズさん?なんで僕の名前を?」

「バニルさんから聞きました。まさか同じ魔王軍幹部だったなんて気づきませんでしたよ。今は元でしたっけ?あ、私のこと知ってます?」

「いんや?こんなふわふわしたやつが魔王軍幹部だとは思わなかった。」

「ふわふわ!?」

 

リッチーというのは知っていたが魔王軍幹部だとは思わなかったヴェストは多少驚くも疲労からかそっけない返答しかできない。

というかこれで幹部が務まるのか。話に聞く限りポンコツだというし本当に大丈夫なのだろうか。

 

「まあ、私は結界の維持に関わっているだけのなんちゃって幹部なので...」

 

なんちゃって幹部。なるほど。そう考えると封印されている間結界の維持だけしかしていなかった(できなかったがする気もなかった)自分もなんちゃって幹部なのだろうか。

なんか嫌だ。今はもう結界の維持すらやめたので幹部ですらないのだが。

 

「そういえばベルディアさんもいると聞いたのですが..」

「ここにいるぞ。ほら。」

「ウィィィィィズゥゥゥゥゥ!!あいたかったぜぇぇぇぇ!!」

「きゃぁぁぁぁ!?」

 

袋を開けた途端にウィズのスカートの下に転がり込むベルディア。首だけになってからマシになったと思ったがその変態さは健在である。ただ周りにヤバいやつがいるせいで目立たないだけであった。

ヴェストはそれを素早く足で蹴り上げ鷲掴みから流れるように袋にしまった。そして袋をきつく締め手をパッパと払う。まるで汚いものを触ったかのような対応である。

 

「そ、そんなところに....油断してました、さっさと成仏すればいいのに」

 

さらっと言って退けたウィズのこの言葉からも彼が普段からどれだけの悪事を働いているのか把握できる。

 

「あの、お願いがあるのですが、できる限り戦闘に関わらない人間は殺さないでください。私が悪魔であるあなたに勝てるとは思いません。でもその時は持ちうる全ての力を使ってあなたを倒します。」

「ふーん?」

 

魔王軍幹部のくせに妙なことを言う、とヴェストは思ったがリッチーは元を正せば人間。しかも彼女から感じる敵意は本物だ。

これは本気だ。たとえ勝ち目が薄かろうと彼女は人間を守るために自分に立ち向かってくるだろうと簡単に予想できる。

 

「なぜ我が貴様如きのお願いとやらに従わねばならない?我は悪魔。契約以外に縛られるつもりはない。」

「っ!」

 

ウィズが冷や汗を垂らしながらもうその膨大な魔力を集め始める。ここでやりあう気だろうか。ヴェストは予想を大きく上回りその余裕を崩しそうになるほどの魔力量の多さに若干の恐怖心を抱くもそれを上回る感情を抱いた。

 

「く、ははははははは!」

「え?」

「おかしいにも程がある!リッチーのくせして人類の守護者気取りか貴様?これほどおかしなやつは初めて見た。」

 

アンデットというものは本来生者にあだなすもの。恨み辛み悲しみ怒り等の負の感情から生まれしもの。たとえ意思の残るリッチーなどの高位のアンデットであろうとその思考は生者への憎悪に多少なりとも変質させられているものだ。

それがどうだろう。このリッチーは生者を殺すなと、従わないなら敵対するとまで脅してきた。おかしくないわけがない。

 

「安心してよ。エリス様との契約によってアクセルの人間に危害は加えられない。それに僕はエリス様が悲しむようなことはしたくないんだ。だから君が心配するようなことは起こらない。」

 

アルカンレティアでのストレスが吹き飛ばされるほど笑ったヴェストは笑顔でそう告げた。エリス様を悲しませたくないというのも事実だがウィズと敵対したくないというのもそう言った理由の一つ。あんな膨大な魔力からくる魔法なんてぶつけられたら無事じゃ済まない。

 

「なら良かったです...ふぅ、驚かさないでくださいよもう...」

「ごめんごめん、これからもよろしく頼むよ?」

 

ヴェストは仲直りとばかりに手を差し出す。

若干の恐怖心を抱きながら。ほんとなんなんだあの魔力量。絶対人間じゃないよこいつ。あ、リッチーだったわ。てかリッチーでもありえない。

 

「そういえば先程宿のお風呂をいただいたのですが混浴のお風呂がとても広くて」

「へー?じゃあ僕も入ってみようかな?」

 

そうか、ウィズは混浴に入ったのか....

カズマ少年が聞けば血涙を流して「さっさと帰っていれば!!」とか言いそうだな。と思いながらヴェストはウィズと別れ入浴の準備をする。

彼個人としても混浴があるのは嬉しい。別に下心がどうとか関係なく彼の体は某科学者の友人が作った美”少女“型ゴーレムを原型としたもの。しかし彼の精神は性別がないとはいえ男性より。

つまりはまあ、そういうことだと。

性別:悪魔、なんてないだろうか。

ないな。

 

そうやって準備を済ませついでにベルディアも入れるように不可視化の魔法をかける。ひゃっほぉぉぉい!!と叫びそうなほど喜んでいた。

そんな中聞こえてきた男女の声。

一つは知らない声だが女性の方は知っている。そして微かに聞こえたその内容から察するに...楽しいことになりそうだ。

 

 

 

ヴェストは扉を蹴破った。




キールはいいやつだった。


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悪夢の石鹸洗剤、溢れ出る入信書

コメントや評価ってもらうと顔を変えたアンパンマン並みに元気出ますね。ありがとうございます!
...ですのでもっとコメントを....ああ!痛い痛い!やめて!ごめんなさい調子乗りました!低評価で叩かないで!

コメントお気に入り登録評価誤字報告等本当ありがとうございます。

追記
何故かこの話を2話投稿してしまっていたので修正しました。
いつのまにかこの小説も20話までいったんですね。


「開けろ!アクセル市警だ!!」

 

異界から流れ着いた『一度は言ってみたいセリフ』と書かれた本の第3位にランクインしていたセリフを叫びながら風呂場の扉(横開き)を蹴破ったのは...そう、虚像の悪魔ヴェストである。

ちなみに2位は「知らない天井だ...」1位は「だが断るッ!!」だ。

なぜこんな順位になったのか。どう言った基準でつけられたのかは誰もわからない。

 

「ヴェスト!?」

「知ってるのか!?」

 

驚きからか半ば戦闘態勢に入りかけている2人の元に蹴破ったドアを立て直してから近づいていく。

そこにいたのは筋肉隆々の大男と赤毛の神聖な雰囲気を醸し出す女性、ウォルバクだった。

二人ともちゃんと律儀に待っていてくれているのがありがたい。

 

「やあやあ邪神ちゃんに...君は誰だい?筋肉くん?」

「誰が筋肉だ!てかそういうもんはまず自分からすべきじゃないのか?」

「ああ、そうだったね。僕はヴェスト。ウォルバクは知っていると思うけど元魔王軍幹部にして虚像の悪魔!よろしくね。」

 

大男は怪訝そうにヴェストを見て、その後確認のためかウォルバクを見た。

ウォルバクは彼の“元”という言葉に疑問を抱きながらも頷く。おそらくヴェストからの結界維持が消えたという情報が伝わっていなかったのだろう。

 

「....ハンス。魔王軍幹部デットリーポイズンスライムのハンスだ。」

「へえ!スライム、しかも変異種か。面白い。」

 

スライム。

転生者たちにはなぜか雑魚敵と思われがちだが物理攻撃はほとんど効果をなさず魔法にも強い耐性を持つなかなか厄介なモンスター。

呼吸をせずそもそも体が自らの魔力で構成されているヴェストにはめんどくさい半獣程度の存在だったが人間にとっては消化液で溶かされ口を塞がれ窒息死させられるモンスター。しかも変異種で魔王軍幹部と来た。害獣程度の存在では済ませられない。

そんなやばい存在だとヴェストは目の前の筋肉manを認識した。

 

「名前からして即死級の毒を持つタイプ、そして街で聞き集めた温泉の水質悪化から考えるに...君ここの温泉からアルカンレティアを潰す気かい?」

「...ああ、そうだが、よくわかったな。」

 

この街の狂人どもに気付かれぬよう奴らが入る温泉に毒を入れ徐々に徐々に街を主ばんでゆく。さらにはこの街の財源を潰すことによってもダメージを与えられる。なかなかいいセンスだ。

 

「ねえ、ヴェスト?あなたさっき元魔王軍幹部って言ってたけど...」

「ん?ああ、僕はもう幹部じゃないよ。裏切ったからね。」

「なっ!?」

「おっと、落ち着きなよ。裏切ったって言ったって君たちと敵対するわけじゃないからさ?」

 

何故かいきなり殺気だって立とうとした二人をどうどうと落ち着かせる。

まあいきなり裏切ったなんて言ったらこういう反応を返されるのは普通だろう。

 

「...なんで裏切ったのかしら?」

「うん、そうだね。話せば36時間くらい必要になるんだけど...」

「手短に話してもらってもいい?」

「おっと辛辣。いいけどさ。君のお望み通り話すと......恋を、知ったんだ。」

 

「へ?」と二人から気の抜けたような声が聞こえてきた。

だがそれももうヴェストには届かない。

彼の脳内は重い他人のことでいっぱいだ。それ以外のことに割くリソースなどあるはずがなかった。

 

「あの方のためだったら僕はなんだってできる。してみせる。彼女が殺せというなら殺そう。彼女が生かせと言うなら生かそう。彼女が滅ぼせと言うなら跡形も残らず消し去ろう。彼女の障害となるものは存在すらも否定してみせよう。彼女のためなら僕はなんだってしよう!」

 

彼らはヴェストのその瞳に確かに狂気と粘りつくような熱を感じ取った。

狂っている。愛というのは人を狂わせるというがここまでとは。

ハンスは折角外の狂人どもから逃げてきたのにまた狂人か、と気が狂いそうだった。

 

「ま、今は彼女がいないから僕は僕の楽しみを堪能するつもりだけどね。」

 

彼らの警戒を説くためかはたまた素でやっているのか『キュピーン』と擬音がなりそうなポーズをしながら明るくそう言った。

だが彼は気付かない。それが彼らの警戒心に追い討ちをかけていることに。

それはおいておいて、ハンスが先程からこの温泉に微に鳴っていた違和感に気づいたようだ。

 

「なあ、なんかかあらい鼻息が聞こえる気がするんだが...」

「おや、解除していなかったか。ほい」

「ウォルぅバクゥぅぅ!」

「ひっ!?」

「落ち着こうか。」

「まっ...ゴボゴボゴボゴボ」

 

ヴェストの軽い掛け声から現れたのは風呂場にもかかわらず黒光りする甲冑を身につけた生首。ベルディアだった。

が、登場するのも一瞬。次の瞬間にはそれは水中に消えていった。

哀れベルディア。日に日に扱いが雑になって行く彼だがその変態さゆえに同情はできない。

役に立つ時(主にヴェストが暴走しそうになった時のストッパー)は役に立つのだがそれ以外だとなぜかこうなってしまう。

 

「とまあ、こいつのことは置いておいて、混ぜてくれないか?君たちの作戦とやらに。そんな楽しそうなことほっておけないじゃないか。」

「お前魔王軍幹部辞めたんじゃないのか?」

「ああ、でもそれは関係ない。僕は僕のやりたいことをする。悪魔は自由なのさ。」

 

そんなことを言っているがただ単にこの街に仕返しをしたいだけである。

この邪教徒どもならエリス様もそこまで悲しまないのではないか?だがあの方は優しすぎる節があるから念のため彼らに便乗した形にしよう。そんな考えからそう提案したのだった。

 

「いや遠慮しておく。そもそも俺はお前のことを完全に信用できたわけじゃない。」

「そうかい? 君は石鹸洗剤に恨みを持つ同志だと思ったのだけど...」

「その点だけは同意してやる。」

 

パシッと手をかわす二人。やはり石鹸洗剤は悪だ。悪い文明だ。なんなんだ食用石鹸って。たとえ食べれたとしても食べたくない。

 

「ウォルバク、君も僕のことを信用してくれないのかい?」

「無理ね。忘れてるかもしれないけど私は元々神だったのよ?悪魔であるあなたを信用なんてできない。」

「そーいえばそうだったね...おや?」

 

そんな話をしているとヴェストは扉の方から聞こえてきた音に反応し振り返った。

誰か来たのだろうか?まさか今の話を聞かれていた?

やがて勢いよく開かれた扉から出てきたのは...

 

「...」

 

カズマ少年だった。

 

(おい...今の聞かれたかと思うか?)

(わからないわ...でもこっちをジッと見ているわよ)

(いや、あれは違うね。好奇の視線だ。童貞臭がぷんぷんするね)

 

今一瞬カズマ少年がピクッと震えた。童貞と言われたことが傷ついたのか美人であるウォルバクに見つめられて緊張したのか。

多分前者だ。彼はなかなか耳がいい。というか五感全般が優れていると言っていいだろう。鈍感系主人公にはなれそうにないな。

 

「...先に上がる。お前はゆっくり入っているといい。」

「おー元気でねー」

「貴方は残るのね...」

 

ハンスが引き戸をピシャリと占める音が鳴り響きその場に静寂が訪れる。

カズマ少年は一緒に入っている一応晒しを巻き見た目だけは少女なヴェストには見向きもせずただただウォルバクを、というかウォルバクのある一点を見つめている。

やはり人間の男は大きい方がいいのだろうか?ヴェスト的には小さい方が好みだったが。

ウォルバクが困っているのかチラチラとこっちを見てくるがニヤニヤと揶揄うような笑みを返すとため息をつきカズマ少年に話しかけた。

 

「あなた...この街の住人じゃなさそうね?ここには旅行に来たのかしら?」

 

しばらくカズマ少年とウォルバクは世間話のようなものをしていたがその間カズマ少年の視線はある一点に固定されたまま。

たまに助けを求めるような視線を感じるもヴェストはそれを無視し、彼女の羞恥心の味を楽しんでいた。やはり元とはいえ神聖なる存在から感じる負の感情は美味である。

 




私は小さい方が好きです。(誰得情報)


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温泉っつったら覗きだよな?え?しない?お前それでも男か?

コロナ予防接種行ってきました。
注射自体は痛くないのですがその後2時間後くらいですかね。打ったところあたりが筋肉痛みたいな感じになってきました。
明日には聞いた通り上がらなくなっているかもしれません。
インフルとかではもうはならないのですがなんでですかね。面白いですね。

今回はちょっと少なめかもです。


「いやー綺麗なお姉さんだった。」

 

ウォルバクがそそくさと出ていった後、温泉に浸かりリラックスするカズマ少年。

混浴に入り女体を視姦するというよからぬ目標は達成されたようで満足げだ。

しかしこの様子。ともに入っているヴェストには気づいていないのか。そんなことは流石のカズマ少年でもないだろう。

 

「やあカズマ少年。彼女の肉体を視姦した感想は?」

「実に大きいおっp...ってヴェ...ミラー!?いたのか!?」

「流石にそれは僕も傷つくな。いや、ここは君の視線を釘付けにした彼女の胸部の大きさを褒めるべきか。」

「みみみみみみみ、みてねーーーし!?」

 

いや見ていただろう。はっきりとがっつりと。

 

「と、ところでお前あいつらと知り合いなのか?思い出してみれば何か話していたようだし。」

「旧友だよ。ガチムチは...仕事仲間だったやつ」

「仕事仲間って....m...っ!」

「静かに。それは大声で話していいことじゃない。」

 

指でカズマ少年の口を塞ぐ。

魔王軍など大声で叫んでいいことではない。

それに万が一自分も含め彼らの正体がここの狂人たちに露見してしまったら楽しいパーティが台無しだ。

 

「....何を企んでるんだ?」

「楽しいことさ」

「...っ、エリス様が悲しむぞ。」

「冗談を」

 

そんなことはありえない。

たとえあの慈悲深きエリス様だろうとありえないだろう。

 

「あの下等生物どもに同情?ありえない。あろうことかあの水色を信仰しエリス様を貶す愚か者どもだぞ?」

 

口を開けば石鹸洗剤入信洗礼アクア様。二言目にはエリス様の悪口など、愚の骨頂でしかないだろう。

愚か者には罰を与えねばならない。

エリス様が先輩であるアクアにそれを阻まれているというのなら私が代わりに下そう。

 

「だとしても...」

 

「ほら!ものすごく広いお風呂ですよっ!ダクネス!」

 

カズマ少年の声をかき消すように隣の風呂、つまりは女風呂から聞こえる聞き覚えのある声。

めぐみんだ。

会話の内容からしてダクネスもいるらしい。

 

二人は気づいた頃には混浴と女風呂を阻む鉄壁に耳を当てていた。

 

(おいヴェスト。お前まで何やってるんだ。)

(男たるもの温泉に入ったならばしないわけにはいかぬだろう?)

(お前って結局性別どっちなの?)

(性別:ヴェストだ)

 

かつての友人が言っていた。

 

”男に生まれたのなら壁に耳当て隙間に目を近づけ、覗くべし。これ、常識だから。じゃあちょっと俺温泉行ってくるからあとの仕事よろしく”

 

ならば実行しないわけにはいかない。

流石に覗きはしないが。

 

「本来は物臭なカズマ達を外に連れ出しアクアに引き寄せられたアンデットでも狩ろうと思っていたのですが...」

 

ぶちぃっ!

カズマ少年から何かが切れたような幻聴がした。

しかしあのハプニングもといマッチポンプは計画されていたものだったのか。ならば感謝せねばならない。そのおかげでカズマは美味しい(心情的にはどうかわからないが)ご飯をただ同然で食べられ、ヴェストはそのカズマ少年から溢れ出る負の感情を食することができたのだから。久しぶりにベルディア以外の負の感情を食したヴェストはご機嫌だった。

 

「シッ!待ってくださいダクネス!この隣は混浴になっています。男湯と混浴カズマが選ぶとしたらどちらだと思いますか?」

「混浴だな!小心者で肝心な時にはへたれてしまうアイツだがこう言った大義名分がある場合は堂々と混浴に入るだろう。」

 

はっきりと言った。キッパリと言い切った。

信頼されているな。カズマ少年は。

ヴェストはそう思って妙に温かい視線でカズマを見て(ヘタレ)と小さくつぶやいた。

ブッチィっ!!と幻聴が聞こえた。

 

「...本当にいないみたいですね。」

「みたいだな。一方的に決めつけてしまっていたか。」

「申し訳ないことをしました。あとでお詫びにジュースでも奢ってあげましょう。なんだかんだ言ってあれで結構頼りになる人ですから。」

 

おや、何か変な方向に話が入っている。

困った。もう少しカズマ少年をいじめてほしいのだが。せっかくのベルディア以外の悪感情だというのに...ヴェストは不可視化しながら反対側でプカーと浮いているベルディアを見ながら思った。

しかし、何故だろう。どこか嫌な予感がする。

ヴェストは気まずさからか仕切りから離れるカズマ少年と共に風呂に戻る。

 

「ああっ?ちょ!めぐみんやめっ!そこは....あああーーーっ!!」

 

途端にしきりとの距離を一瞬で詰め壁に張り付くカズマ少年。さっきまでのいい雰囲気はどこ入ったのか。

嫌な予感がヴェストの脳内で耳障りな警報を鳴らす中、ヴェストはすすすーとベルディアの方へ退散した。

 

「今ですっ!」

「ふんっ!!」

 

突然風呂の仕切りが強烈な力で叩きつけられたのかカズマ少年は殴り飛ばされたように宙を舞い風呂に落ちてきた。

やはり罠だったか。たまには予感というものも役に立つものだ。

 

「ほら見たことか!やっぱりいましたよこの男!」

「やはりな!私の目に狂いはなかった!日頃あんなエロい視線で凝視してくる男が混浴にいないはずがない!!」

「ぶっ殺!!!」

 

ひどい信頼のされようだ。

というかやはりカズマ少年の“エロい視線”は気付かれていたようだ。気にするなカズマ少年。思春期とはそういうものだ...

あ、キレた。

 

『クリエイトウォーター!!』

「ひゃあああああ!?」

「ハハハ!俺をコケにした罰だ!これ以上冷水を浴びせられたくなかったら...」

 

カズマ少年のとても勇者とは思えないセリフがいい終わらぬうちに塀を越え飛んでくる数々の物体。桶に石鹸、タオルに猫.....猫ぉ!?

 

「ぶへらっ!?」

「に゛ゃーーー!?」

「ミラーもいたのですか!?」

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

顔面に飛びついたと思ったら引っ掻くわ引っ掻くわ。かといってひっぺがそうとすると水を恐れてか強めにしがみついてくる。

おかげで顔中が痛い。

ゆっくり風呂を満喫できなかったヴェストであったがカズマ少年の悪感情と、その後帰ってきたアクアの女神の威厳ゼロの醜態で満足の満足、大満足である。

 

「.....フッ」

「ミリャァァァァァァァ!!!」

 




作者は覗きを行ったことはありません。というか覗けるような温泉を見たことがありません。まああったとしても覗く勇気なんてないんですけどね。へっ


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思い人からの願いなら聞かないわけにはいかないよね。じゃけん裏切りましょうねぇ

こねこねこねこね

ぺたぺたぺたぺた

 

「....」

「.....」

「....なにこれ」

 

この個室に立ち込めていた静寂を最初に破ったのは首だけになったベルディア、通称首ディアだった。

 

「なんかすごい不名誉な紹介をされた気がする。」

「気のせいだ」

 

そして彼の目の前で何やら人間大の泥を粘土のようにコネコネしているのは先程嫌がる黒い猫ちょむすけをわしゃわしゃと洗った際にできた名誉の傷に絆創膏もどきを貼り付けたヴェストだった。通常の傷なら一瞬で治ると言うのにあの猫の攻撃は何故か神聖力を纏っていたためなかなか消えないのだ。

 

「で、これなんなんだ?」

 

彼らの目の前にある泥は所々角ばっていて機動要塞デストロイヤーのように子供に人気の出そうな見た目だった。

それには首がなく、天高く稀に異世界からの書物に載っている“銃”と言うものを握った右手を突き上げている。

 

「ガン◯ム」

「おいなんか伏せ字入ったぞ?」

「気のせいだ」

 

それはまさにガン◯ムのラストシュー◯ィングだった。

引き金に指がかけられ今まさにその銃砲から膨大なエネルギーの塊が射出される瞬前のシーンのそれはたとえ色がついてなくとも一級の芸術品として取り扱われるかもしれない出来栄えだった。

 

「動くのか?」

「こいつ....動くぞ!」

 

ベルディアの疑問にヴェストは若干のめり込んで答える。

実際それは悪魔バニルの泥人形を模倣して作ったもので見た目以上に動く。ぬるぬる動く。

ただ装甲までもがぬるぬる動いてしまうのは玉に瑕だが。

というかこんな悪夢の魔法を使った代物などここアルカンレティアで作る代物ではない。

 

「なんでこいつ頭がないんだ?」

「それはこいつがラス◯シューティング時のものだと言う訳もあるが、」

「が?」

「こいつに、」

「こいつに?」

「お前の首を乗せる。」

「.....は?」

「つまり“ベルパンマン!新しい胴体よ!それー!”ってことだ。」

 

異世界の書物を読んだことのないベルディアには全くわからない話を進めながらもしれは着々と出来上がってゆく。

そしてついにヴェストはベルディアの首を持ち上げ....

 

「ぐぽーん」

 

ガン◯ムに乗せた。

謎の効果音を自ら付けながら。

別にベルディアの目が発光するなどと言うことはなかった。

 

「俺が、ガン◯ムだ!!」

「お前じゃねぇしなんなんだよこれは!?」

 

混乱のあまり怒鳴るように突っ込むベルディア。

そしてそれに呼応するかのように動き出すガン◯ム。

 

「...こいつ、動くぞ!?」

 

ベルディアが驚いてしまったのも無理もないだろう。

なにせ失ったはずの体を紛い物ながらも再び手にしたのだから。

 

「体だ!体がある!!」

「よかったなぁ」

 

嬉しさのあまり謎の踊りを始めるベルディアを暖かい聖母のような笑みで眺めるヴェスト。

 

「お前悪魔なのにいいところあったんだな!」

「僕はいい悪魔だからねぇ」

 

そう、妙に慈愛に満ちた笑みで。

 

「ああ、いってなかったけどそれ、僕の魔力じゃないと動かないから。」

「え?」

 

笑みが深まっていく。

 

「あと僕の命令に叛いたら爆発する仕組みだから。」

「....」

 

ベルディアの顔(鎧で見えないが)は徐々に青ざめていく。

それに反比例してヴェストの笑みは徐々に深まって、口は弧を描いてゆく。

聖母から悪魔へ、彼の笑みは邪悪なものへと変わっていった。

 

「じゃ、よろしくね!奴隷1号君!!」

「ちくしょうめぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

ベルディアの悲痛な叫びはこの部屋に貼られた防音結界に消えていった。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

ベルディアが部屋の隅でぐすんぐすんと肩を振るわせる中、ヴェストは恒例のエリス様への祈りの準備を進めていた。

彼が持ってきた少ない荷物の中にしまわれた持ち運び用のくせに妙に立派な折りたたみ式祭壇を荷物の中から取り出し設置する。

ちなみに彼の自宅(宿屋)に置かれたものは純金製で光り輝いている。

そして仕上げとばかりに例の短剣を某ソシャゲの雷属性の将軍のようにあの時刺された胸元から抜き出す。ちなみに彼は将軍とは違ってあのたわわな胸はない。

彼は取り出したそれをまるで割れ物のように丁寧に祭壇の上に置き、準備完了。

いつものようにあの祝詞が上がり出す、と思った瞬間...

 

『ヴェスト、悪魔ヴェスト。聞こえますか?』

「ッッッ!!!!!!」

 

突如脳内に響き渡る聞き覚えのある声。

聴いただけで幸福感に包まれるあの方の声。

そして同時に襲いかかってくる普通の人間では耐え切れないほどの快楽。

さすがはエリス様。声だけでここまで人を幸せにするなんてっ!!

 

『ヴェスト?聞こえますか?』

「あ....ぐぁ....」

『ヴェスト??』

「え...エリス様ぁ....」

『ヴェスト!?!?!?』

 

彼の語尾にハートが付くような声に鳥肌を立たせるエリス様を幻視する。

だがそんなエリス様も悪くない。むしろ良い!!

 

「んん....申し訳ありませんエリス様。まさか貴方様が答えてくださるとは、あまりの快楽に耐えきれず醜態を見せてしまいました。」

『ええ...私が話しかけただけでこんな反応をしたのは貴方が初めてです...』

 

まさかエリス様の初めてをいただけるとは。

若干意味が違うと思ったがヴェストは喜んだ。

 

「それで、私になんのようでしょうエリス様?誠に残念なことですが貴方様はただ私の祈りに答えてくださったわけではないのでしょう?誠に残念なことですが。」

『そうですね。本来なら私は貴方に話しかけることすら嫌ですが今回は要件が要件です。そう、今回は仕方なくなのです。そう仕方なく!」

 

エリス様、それでは若干のツンデレ味を感じます。

ヴェストはそう言いかけた口をつぐんだ。

彼女が本気で彼のことを嫌っていることを理解しているからだ。

だが、まあ、それでもいい。エリス様がエリス様だということは変わらないのだから。

 

『本題に入りますが...ヴェスト、貴方はここで何を企んでいるのですか?』

「パーティですよ。そう、楽しい楽しいパーティ。」

 

悪魔である自分がエリス様の先輩であるアクアのアクシズ教徒の聖地であるここにきた時点で彼女が心配するのは理解できていた。

だがきっと私が今からしようとしていることを知ったらエリス様もきっと喜んでくださるはずだ。

なにせ先輩というだけでエリス様にあのような横暴な態度を取ったあの邪神に罰を与えられるのだから。

 

『やめてください』

「...........え?」

 

だがエリス様から帰ってきたのは否定の言葉だった。

何故だ?何故何故何故?わからない。

 

「何故です?何故ですか?貴方に横暴な態度をとるあの水色に罰を与えられるというのに」

『水色?たしかにアクア先輩は私に少し....少し?無理強いをしてくることはあります。』

「ならば何故!」

『それでも先輩は先輩です。昔お世話になった方の信徒にそのようなことをするのは許せません。』

 

なるほど。昔お世話になったからといってあそこまでやらなくてもいいとは思うが、この誠実さがエリス様の魅力の一つでもある。

いや、違う。エリス様はアクアの信徒であるという理由だけでこのようなことを仰ったのではないだろう。

これはエリス様の慈愛。つまりエリス様はこの異教徒どもにまで慈愛の心をお持ちなのだ。ならば私はエリス様に従うまで。

アクシズ教への恨みはまだあるがこれはあくまで私怨。

エリス様がやめよというのならそれに従わないという選択肢は私にはない。

 

「わかりましたエリス様。アルカンレティアでパーティを開くことは中止にしましょう。」

『わかってもらえたようで何よりです』

 

ああ、素晴らしきエリス様。

この地に住む異教徒が苦しむことで貴方様が心を痛めるというのなら私はその原因を除くまで。

私のするべきことはただ一つ。

エリス様を傷つけようとする不届きものを処理する。

それだけだ。

 

いつのまにかエリス様の御声は聞こえない。

だが彼の方は私に進むべき道を示してくださった。

 

「く、くくくくくくく....」

 

あの二人には悪いが犠牲となってもおう。

エリス様のために働ける。エリス様のためとなる。

ヴェストの頭の中はただそれだけで埋まっていた。



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突撃ッ!隣の朝ごはん!!(もうすぐ昼食)

久しぶりに投稿したと思ったら5人くらいお気に入り登録解除されてショボーンとしながら学校に行って帰ってきたら何故か72人くらい登録が増えていました。しかも皆さんめっちゃ読んでくれてました。
嬉しいんです。とても嬉しいんですが...

なんでいきなりこんな増えたんですか!?
やすみでもないのに....え、怖い(失礼)

お気に入り登録、評価、誤字報告いつもありがとうございます!

追記
日間ランキングで36位にランクインしてました!
え、すごいことですよね、これ。多分。知りませんが。
でもすごくなくともランクインしたのはこれが初めてだと思うのでとても嬉しいです!!ありがとうございます!!


さんさんと光り輝く太陽の光。

そして宿屋から一歩出た瞬間になすりつけられた石鹸洗剤が憂鬱な気分で歩く彼らの体を包んでいた。

朝っぱらからこのような悲劇に出会ったヴェストは後にこう語ったと言う。

“安置から一歩出た先がモンスターハウスだった時を思い出した。”

微妙にわかりづらい例えである。

同じく非常にどんよりとしたベルディアも体を手に入れてしまったおかげでこのような天災に襲われてしまっていた。

これも体を手に入れた代償だと言うのか。

ちなみにボディはガン◯ムではなくちゃんとした人型である。

 

「なぁ...ベルさんや....石鹸って食べ物だっけ?」

「違う.....はずだ....たぶん。」

 

衣服の中では収まり切らず口にまで“食べれる石鹸だから!!”という理不尽な理由で突っ込まれたおかげで彼らの口内は上手くもなく不味くもない非常に微妙な味覚に包まれていた。これもまた彼らの気分をどん底に陥れる原因となっているのだろう。

というか石鹸って食べ物じゃなくてものを洗ってきれいにするものだったような気がするのだが気のせい....いやいやいやいや。そんなわけあるか。石鹸はものを洗うものであって食べ物ではない!

やばい。徐々に浄化に自分たちの感覚がアルカンレティアに汚染されていっている。

まさかアクシズ教徒は悪魔までも洗脳するような強力な精神魔法が使えるんじゃないだろうか。一週間でもここに滞在したら完全に揉まれてしまうのではない。

ヴェストは危機感を覚え身を震わせた。

 

「ソンナネェンダヨォ....オレニハアラウモンガソンナネェンダヨォ...」

「ん....?」

 

ふと川の方から耳に届く呪詛のような微かな声。

 

「ッ石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤.....」

 

そこには石鹸洗剤への確かな怒りと憎しみを感じ取れた。

 

「石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤.....」

 

それはまさしく怒りに肩を振るわせる同志の姿だった。

 

「ノメルカァァァァァァァァァァ!!!」

 

魔王軍幹部が石鹸洗剤にあそこまで追い込まれるとは....恐ろしやアルカンレティア。

というか飲める石鹸洗剤ってなんだ?

石鹸は食べ物ではない。

ないはずなのだ。

石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤......はっ!?

危ない....呑まれるところだった。

 

「キレイニナッチマウワァ....」

 

二人は静かに黙祷を捧げ、そして....

 

「「ぅおらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」

 

石鹸洗剤を力一杯投げ入れた。

環境問題なぞ知ったこっちゃない。

敵対する予定の彼だが、今だけは同情を送ることにした。

 

あーめん

 

 

ちなみにその帰りにアクアがメガホンを持って馬鹿らしい演説をしていたので他人のふりをして宿へ逃げ帰った。

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

「おっはよぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?」

 

ドアを蹴破る音とともに鳴り響くヴェストの大声。

次の日、ヴェストは昨日の夜魔法の応用で盗聴もどきのことをすることで今日カズマたちがこの街の異変解決に動き出すと言うことで早朝、ではなくそこから少し経った昼頃にカズマたちの宿へと襲撃をかけていた。

朝はエリス様への祈りで忙しいのだ。別に朝に弱いとかではない。

ちなみにベルディアは体が馴染んでいないためお留守番である。

 

「な、なんだよヴェスト。まさかお前邪m」

「そのまさか!君達に協力しに来たのさ!まあパーティなんだから当然...え?カズマ少年?僕が邪魔しに来ただって?いくらなんでも酷くないかい?」

「そうですよカズマ。仲間なんですからそんなことを言うのは流石にひどすぎます。」

「いや、ちが...ああもう、うるせー!!」

 

突然のことに対応できていないのか混乱しているのか声を張り上げ髪を掻きむしるカズマ少年。そんなことををしていたら禿げてしまうぞ?

するとカズマ少年はヴェストの耳元に近づいて小声で話し始めた。

 

(なんのつもりだ?お前確かあの時パーティがどうやらって...)

(んー?そんなこっと言ったかな?)

(てめっ!誤魔化す気か?)

(冗談冗談、エリス様からの天啓があったのさ。)

(天啓?)

(そう、ここアルカンレティアを魔の手から守りなさいってね。)

 

怪訝な顔をしながらも離れていくカズマ少年。

一応嘘は言っていないのだがちゃんと納得してくれたのだろうか。

 

「はぁ、わかった。でもまだ信用はしねーからな!!」

「カズマはツンデレですねぇ」

「ちげーよ!?」

 

なるほどカズマ少年はツンデレ。

ヴェスト理解した。

 

「それで?今は一体どう言った状態なんだい?」

「源泉に原因があるのではと目星をつけたところだな。」

「それでカズマ少年が行きたくないと駄々をこねていたと。」

「そう言うことだ。」

「俺の扱い酷くない!?」

 

そして彼の扱いはこのくらいでちょうどいいと。

ヴェスト学んだ。

 

「ねえなんかミラーが学んでほしくないこと学んでる気がするんだけど!?」

「みんな!それぞれ準備万端でいくわよ!!」

「無視!?」

 

こうして我々アクアと愉快な仲間たちは未開の大地(源泉)へと旅立った。

出てくるのは蛇か、鬼か。それとも猛毒を持つスライムか。

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

「つ、つかれた....」

 

道中アクアがまたもや醜態を晒し、

仕事熱心な門番にダスティネス家の威光を示し、

何者かがやったのかドロドロに溶けた初心者殺しを見つけたりなど色濃い旅の末、(主にカズマ少年が)ヘトヘトになりながら源泉付近に辿り着くことができた。

きっとこの先にあるのは透き通った美しい源泉に花をつくような硫黄の匂い。

だがそこにあったのは美しい透き通った源泉ではなく...

 

「って!コレッて!」

 

コポコポと音を立てて時折謎の気体を吹き出すドロドロとしたドス黒い液体。

一目で毒とわかるヤバさ。

魔力体であるヴェストは入浴したって大丈夫だろうがカズマたちが入ったのなら骨のかけらすら残らないほどドロドロに溶かし尽くされることだろう。おそろしい。

 

「毒なんですけど!!これ思いっきり毒なんですけど!!わああああ!熱ーーい!火傷!火傷するー!!」

「バカ!源泉に手を突っ込む奴がいるか!!」

「だって!熱い熱ーい!」

 

女神であるアクアが触れても一瞬で解毒されないことからそれは尋常じゃない危険性を持った毒素だとわかる。

というかアクアの浄化に耐える毒もすごいが源泉に手を突っ込んで無事なアクアも相当だ。

ウィズ(+カズマ)にフリーズをかけてもらっていたが普通ならそれでも無事では済まないだろう。

 

「ふぅ...」

 

しばらくしたら毒は完全に抜けきった。

パイプなどは浄化しきれていないようだが十分な働きだろう。

そんなときヴェストの視界の端に一つの人影が映る。

 

「あれは....」

「!カズマあそこ」

 

どうやらめぐみんも気づいたようで彼らはその人物の元へかけていく。

そんな中ヴェストもまた、ゆっくりとその後をつけていった。

 

「....天罰を」

 

そんな彼らがヴェストのその小さな呟きと弧を描いた口元に気づくことはない。



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思い出せそうで思い出せない。こんなもどかしい状態よくあるよね。え?ない?

投稿遅れて、ほんとすみません....
最後まで見てくれる人がいるか分かりませんが多分失踪はしないんで.....たぶん.....
い、言い訳をさせてくださいっ!!
学業やらコロナじゃなくて普通の風邪にかかったり忙しかったんです!
.....本当は指揮官兼ドクターやコールでビューティーなFPSしてたなんて言えない....
え?聞こえてた?あ、ちょ、やめ、あーーーー!!

本当すみませんでした....
今回は主人公調子乗ってるんで厨二成分多めだと思いまする。たぶん


「ハンスハンスと俺の名を気安く呼ぶなクソどもがーーっ!!なんでここにウィズがいやがるんだーーっ!!」

 

ハンスと呼ばれた色黒の男性は先ほどまでの丁寧な物言いから打って変わって乱暴な言葉を発し、怒りのあまりキレ散らかしていた。

うまく擬態していたようだが残念。

ここには天然魔王軍探知機である魔王軍幹部(笑)のウィズがいる。

それにこの俺、カズマさんの慧眼を持ってすればそのようなお粗末な偽装など意味をなさない。奴が人外の敵であることなどお見通しなのだ。

カズマ少年はそのようなことを考えながらウィズの前に庇うように立ち、自慢の相棒、ちゅんちゅん丸を構えた。

いつもビビリで仲間の影に隠れているカズマさんが、だ。

 

(さっきウィズが言ってた。デットリー何とかと物騒な名前がついているがあいつはスライムだって。)

 

それにはもちろん理由があった。

ビビリで臆病なヘタレカズマさんが理由もなく勇姿を見せるわけがない。

 

(スライムって言えば雑魚モンスターの代名詞。ここでこいつを倒して俺の株を上げるっ!)

 

打算しかなかった。

スライムは弱い。

スライムは雑魚だ。

ただの序盤専用の経験値だ。

そんな考えからカズマ少年はハンスの前に立ち塞がっていた。

 

ただよく考えてみて欲しい。

カズマ少年の世界のゲームではスライムは雑魚の代名詞だったのだろう。

だがここはカズマ少年にとって異世界。

それもゲームではなく現実。

つまり....

 

「クク....この俺を前にして一歩も引かないとはな....いいだろう、相手をしてやる。」

 

 

「俺の名前はハンス!魔王軍幹部デットリーポイズンスライムの変異種、ハンスだ!覚悟してかかってこい小僧!!」

 

 

スライムが雑魚だなんて、誰が言ったんだ?

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

(え、今なんて?)

 

カズマ少年の背中を冷や汗つたる。

いま、奴はなんて言ったのか。

マオウグンカンブ?魔王軍、幹部.....

 

(魔王軍幹部!?)

 

冷や汗が滝と化した瞬間であった。

 

「カズマさんっ!ハンスさんは魔王軍幹部の中でも高い賞金がかけられていますッ!気をつけて!」

 

「え゛?」

 

おかしい。

スライムは雑魚。

お約束だろう?

スライムが幹部だなんて現実。あってたまるか。

 

「な、なあダクネス?スライムってのは雑魚だろ?雑魚だよな?」

 

引き攣った笑みで縋るようにダクネスへと問いかける。

 

「はあ!?そんなバカな話誰に聞いたのだ!?」

 

だが帰ってきたのは残酷な事実の数々。

曰く、スライムは物理攻撃が効かず、魔法にも強い耐性を持つ。

曰く、張り付かれたら消化液で溶かされ死亡、または窒息死へと導かれる。

曰くデットリーポイズンスライムは触れれば即死級の毒を持つ。

曰く.....捕食されれば蘇生も不可能。

 

「......ふっ」

 

数はにはその忠告を聞いた時からある決心がついていた。

奴は町一個を毒に沈められる程の強敵。放っておいたら多くの人々に被害が出るであろうことは容易く想像がつく。

故に、カズマ少年は駆け出した。

 

「ああああああああああ!!!」

 

ハンスのいる、反対側へと。

走った。

振り返る暇もなく、それはもう見事なフォームで走った。

後ろから何やら罵声やら悲鳴やらが聞こえてくるが気にしている余裕はなかった。

早く逃げなければ。

あんなのに勝てるわけがない。

源泉の入口が見えてきた。

このまま逃げれば助かる。

カズマ少年の心に余裕ができてきた。

 

だが彼は一つ、重要なことを忘れていた。

ここにきたメンバーは6人。

さっきまでいたのはウィズを含めて5人。

あと一人足りないのである。

 

だがそんなことに気づかずカズマ少年は走り、走り、走り....そして

 

『エンチャント・ヘルフレイム』

 

悪魔()を見た。

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

正門の虎後門の狼という言葉はまさにこの時のためにあるのだろう。

カズマ少年は遠い目をしながらそれを見ていた。

どす黒い炎を纏った人の背丈ほどある墓標を手に、狂気的な笑みを浮かべこちらへと歩みを進める姿はまさに悪魔。

いつもの少し抜けている雰囲気は行方不明のようで、思い人であるエリス様のために働けるという喜びに満ち足りたヴェストの頭にはハンスを討伐し、エリス様に貢献するということ以外、頭になかった。

地獄の業火とも取れる黒炎を纏った墓標は岩石をも瞬時に融解させる。

歓喜に包まれたヴェストは道の端で怯えているカズマ少年に目も暮れず、ただ前に前に、獲物の元へと向かっていった。

 

「天罰を!エリス様のお望みのままに!!」

 

物理攻撃が効かない?

魔法に強い耐性を持つ?

そんなことは関係ない。

その耐性を上回る力で叩きのめせばいいだけの話。

それすらも効かぬというのなら全て喰らって仕舞えばいい。

スライムというのは液状化した魔力と少しの不純物の塊だ。

亜種だろうと変異種だろうとそれは変わらない。

ならば喰らって仕舞えばいい。

本体が精神体であるヴェストにとって体やなぜか欠けている魂を補強する魔力は何よりも重要で、時に人間の悪感情に次ぐご馳走となる。

さあ、喰らって喰らって、我が一部としてくれよう。

 

「見ぃつけたぁ....」

 

カズマ少年を追いかけてきたのかこちらにものすごい勢いで駆けてくる仲間たち。

そしてその向こうに佇むスライム(ご馳走)

ヴェストは地面が砕け散るほど強く蹴り、突進した。

アクアたちの間を吹き抜く熱風。そしてハンスに目に見えないほどの速さで飛来する黒い影。

 

「いただぁきぃまぁぁぁぁぁぁす!!」

「なぁ!?」

 

瞬間、ハンスの体に突き刺さる墓標。

そして遅れて耳に届いた大地を震わせるほどの轟音。

カズマたちは瞬時には何が起こったのか理解できなかった。

ただ、飛び散る側からその激毒ごと干からびるようにヴェストに吸収されていくスライムが、ただただハンスの死を告げていた。

 

「ぁぁああああああ.....おいしい、おいしいヨォ.....美味、とても美味だ....」

 

そこに佇むヴェストはその魔力の味に身を震わせていた。

流石は魔王軍幹部。

その内包する魔力量も質も最上級だ。

ベルディアやカズマ少年の悪感情をも上回る幸福感。たまらない。

だが、そんな幸福感も束の間。

彼は一つの違和感を覚えた。

 

「なんだ....?」

 

この体が自分のものではないかのような違和感。

後ろから知らない(知っている)人間たちからかけられる名前、それは誰のことを指しているのかがわからない。

ミラーというのは一体誰のことなのか。

記憶の片隅に残るヴェストというのは誰のことなのか。

いや、どれもこれも自分のことを指していることは分かりきっている。

だがそれでも違和感は拭えない。

まるでそれは自分の名前ではないような。自分は他の名前を持っていたような。

そしてこの空腹感はなんだ。

魔力はたった今沢山食したはずだ。

悪感情だってベルディアやカズマ少年で満足している。

しかしこの空腹感は消えていない。

疑問は増えていくばかり。違和感も絶えず膨らんでゆく。

今まで自分は何をしていたんだ?

なぜ人間(ご馳走)なんかと共に行動していた?

なぜ....憎き()などに信仰を捧げていた?

 

「あれ?あれれれれ?なんだこれ?おかしい、おかしい、おかしいなぁ?」

「お、おいミラー?」

 

膨れ上がる違和感と比例するように、自らの力が増大するように感じてきた。

いや違う。増えてきたんじゃない。

馴染んできたんだ。

使い方がわかってきたんだ。

 

「違う、違う違う。僕は虚像(ミラー)でも、あいつの最高傑作(ベスト)でもない....僕は、僕は.....」

 

『おおお!流石は俺がベストを尽くして作り上げた最高傑作!!でもまさかプログラムを入力する前に動き出すとは.....なんで?』

 

頭の中に親友()の懐かしい声が響き渡る。

誰だこいつは?なぜ人間如きが僕に馴れ馴れしく接している?

 

『私の名前はエリス。幸運の女神エリスです。』

 

頭の中に愛しい彼の方(憎き敵)の声が響き渡る。

なぜ僕は神などという敵に信仰を、愛を捧げている?

理由は簡単。エリス様が美しいから。

いや違う。何を言っているんだ僕は。

神は僕の食事を邪魔する憎き敵、滅ぼすべき敵、愛おしい思い人。

違う違う違う。そうじゃない。

なんだこれは。

 

「あああああああああ!!!うるさい!神は滅ぼすべき敵!愚かにも僕の食事を邪魔する憎悪の対象!信仰対象ではない!僕は信徒じゃない!」

 

「....ああ、思い出した。僕は悪魔、虚像でも信徒でもない。僕は暴食....世界を喰らうもの....さあ!パーティを始めよう!前菜は君たちだ!」

 

 

世界を喰らいし古き暴食、虚像の悪魔ヴェスト(?)が現れた!!




間が空いたため設定を残しときまする。
ヴェスト君(?)
はるか昔に世界を恐怖に陥れた大悪魔....だったもの。
ヤバイぐらい強い勇者君に滅多ぎりにされて半壊した魂のみで記憶やらなんやらを失う。
残りカス状態だったがハンスさんの魔力を吸って記憶やらなんやらを一部取り戻した模様。
ちなみに本人は暴食と言っているが悪魔特有の特殊能力は精巧で実体すら持たせられる幻術の類を操ること。
ちなみに本人が不器用なせいで今の自分の体を作り上げるのに使っている程度。暴力は全てを解決する。


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Q.オリ主が調子に乗る時は本当に覚醒した時か、噛ませにされる時か。

模試とかクソだと思います。
お排泄物ですわっ!!



「さあ!パーティを始めよう!前菜は君たちだ!」

 

周囲が闇に包まれる。

すでに消えかかっていた灯火は潰え、帷が降りる。

目の前に佇むのはその背から黒き双翼を広げ、世界絶望をもたらす古き者。

狂気に染まり切ったその者はまさに死の具現者。

 

カズマの額を一筋の汗が伝った。

周囲の温度が岩船付近ということもあり、周囲が高温に包まれているせいではない。

彼はただ、目の前の存在に恐怖という感情を抱いていた。

 

「ああ、素晴らしい感情だ.....もっと、もっとだ!恐れ、慄き、恐怖せよ!!」

 

狂気に染まったその笑みは生ける全てのものに恐怖を植え付けるだろう。

その膨大な邪悪なる魔力は、存在感は命なきものどもすらも本能的に“終わり”を感じるであろう。

それほどまでに、目の前の存在は規格外だった。

あんなものがこの世に存在していいはずがなかった。

 

「...なるほど、そういうことだったのね!」

 

その時、アクアが一際大きな声を上げる。

カズマはいつものようにこんな時にふざけないでくれ、と彼女の方を見るが、それは彼の間違いであったと知ることとなる。

 

「ミラーから悪魔のくっさーいにおいがしていたのはこのせいね。まさか悪魔に取り憑かれていたなんて.....」

「何を言っている?青色」

 

そう、彼女は.....

 

「そりゃ人の体の中に隠れているんだもの、私の魔法も効きにくくなるわよ。でも、それがわかった今じゃもうあなたは私の敵じゃないわ!」

 

彼女こそは....

 

「この女神アクアの前に平伏しなさい!」

 

正真正銘の女神(悪魔の天敵)なのだから。

 

「ふん、多少の魔法は使えるようだが、堕天した女神風情がこの僕を止められるとでも?」

 

それに対し、悪魔は悠々とした態度で彼女達へと近づいていく。

その命を刈り取るため、全てを絶望に突き落とすため。

その一歩一歩ですら、この命が削り取られていくような錯覚を感じる。

事実、この現状に皆が皆絶望を覚えていた。

一眼見ただけでもわかる。

圧倒的な力の差。

これがあの神話に残る大悪魔だというのか。

神さえも食い殺したとされるあの。

 

それでもなお、アクアは悪魔に不適な笑みを浮かべたまま睨みつけていた。

 

一歩、また一歩と彼らとの距離は縮まっていく。12メートル、11メートル、10メートル....

そして....

 

「セイクリッド・ハイネス・エクソシズム!」

 

仕掛けたのはアクアだった。

そして悪魔はそれと同時に地面を蹴り上げ、アクアの魔法を避けた上で彼女との距離を一瞬で詰める。

聖なる力を含んだ光線は迫り来る悪魔には当たらず、そのまま巻き上げられた砂埃を貫通し、彼方へと消えていく。

悪魔もアクアの魔力がこれでもかというほど詰められた光線にあたればタダで済まないことぐらいわかっているからこそ避け、アクアにお返しとばかりに彼女へ零距離にも等しいほどの至近距離で魔法を発動。

 

「インフェルノォッ!!」

「セイクリッド・クリエイトウォーター!!」

 

至近距離で放たれた全てを溶解する膨大な魔力の込められた最上位魔法。それをアクアは桁違いな水量で相殺しようとする。

しかし高温の物体と大量の水が接触した瞬間に起こる非常に危険な現象、水蒸気爆発、それが圧倒的に条件が揃いすぎているこの状況で起こらないはずがない。

瞬間、両者を爆裂魔法にも匹敵しかねない威力の衝撃が包む。

おそらくこの程度では両者とも倒れることはないだろう。

だが、アクア、そして悪魔はその程度の爆発には耐えられるがカズマ達は違う。

 

「ッ!テレポート!!」

 

彼らの先頭に圧倒され動くことのできなかったカズマ達は何とか立ち直ることのでき、咄嗟に発動されたウィズの魔法により岩陰に逃れ、誰も負傷することはなかった。

だが、岩陰から覗く景色は先ほどまでの源泉とはまるで変わって、まるで隕石が落ちたように大きなクレーターが生成されている。

 

「悪魔のくせに、なかなかやるわね!」

「君こそ堕天しその力のほとんどを削がれたというのになかなか良く耐える。褒めてあげるよ。駄女神。」

「あんた!言っちゃダメなこと....っ!!」

 

アクアの駄女神呼ばわりの訂正を求める声は驚愕にとって途切れることとなった。

アクア、又は悪魔の計算によるものか、ただ単に偶然起こったものか。先程の水蒸気爆発は両者に少なからずのダメージを与えて、両者の距離を放すという働きをした。

アクアでさえも一瞬の隙を作ってしまうほどのダメージ。

そんな格好の隙を悪魔が見逃すはずがなかった。

 

決して浅くない傷から瘴気を漏れ出しながらも顔面の直前まで迫り来る悪魔の掌。

そして赤黒い光が解き放たれる時を今か今かとと待ち侘びるように輝く魔法陣。それはまさにこの一撃で勝負が決することを表していた。

 

「だけど、ここまでだ。Good-bye♪」

 

 

その声と共に解き放たれた魔力は容赦なくアクアを跡形もなく消しとばし、皆の希望は潰える...

 

 

 

ことはなかった。

 

「なっ!?これはッ!?」

 

悪魔は驚愕に目を見開いた。

魔法陣を構成する悪魔の魔力を乱し、無効化しながらもその動きを封じて見せた巨大な氷塊。

放たれる冷気は徐々に悪魔の動きを鈍らし、その腕から全てを飲み込まんと侵食する。

 

「はぁ...はぁ.... カースド...クリスタルプリズン...ツ!」

 

「邪魔をするなリッチィィィィィィィィィィィィ!!!」

 

「俺も一応フリーズかけたんだけど...」

「弱すぎて無視されたのでしょう。よかったじゃないですか。目をつけられなくて。」

「よかったよ!よかったけどさぁ!!」

 

悪魔の怒りを含んだ叫びが響き渡る。

テレポート先の岩石の上に佇むウィズ(+α)に向けられた悪魔の顔にはたしかな憎悪が浮かべられている。眼力だけで殺せそうなほどだ。

ウィズが自身の残る全魔力を注ぎ込んだ氷塊は悪魔によって亀裂が走り、次の瞬間には呆気なく砕け散った。

それが果たした役割といえば悪魔の魔法を阻止し、その動きを一瞬止めたくらいだろう。

 

だが、それでも。

 

それはたしかに、一瞬悪魔の動きを止め、しまいにはこちらへと意識を集中させるという見事な働きを果たした。

つまりそれは...

 

「よそ見なんていい度胸じゃない...」

 

決定的な隙を作ったことに他ならない。

 

「しまッ...!?」

「食らいなさい!!これぞ女神の必殺技ッ!相手は死ぬッ!」

 

アクアの強く握られた拳はかつてないほどの光を放つ。

全ての闇を浄化せんと。

この素晴らしい世界に救いを与えんと。

 

 

『ゴットブロォォォォ!!!!!』

 

 

 

悲鳴をあげることすら許さぬほどの強力な拳。それ即ち女神の慈愛と悲しみ、後ついでにこの悪魔の宿り主への個人的な恨みつらみが乗った拳が悪魔の顔面に突き刺さり、悪魔は空を舞った。

その日、アルカンレティアの住民達は突然空を覆う黒き闇と、源泉方面で起こった地を揺るがすほどの衝撃。

そして源泉から漏れ出す聖なる光と、天高く空を舞う何かを見たという。

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

「ミ°(絶命)」

 

ゴキリ

そんな明らかに大丈夫じゃない音と声にならない悲鳴を立てながらヴェストは地面に突き刺さった。

だがその身からは先ほどまでの邪悪な気配は消し去られている。

それはつまり、あの悪魔が討伐されたことを表していた。

 

 

 

◆古き大悪魔〜討伐完了ッ!!




A.噛ませ犬


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猫様は素晴らしい!あのモフモフ!気ままな性格!その全てが素晴らしい!

え?犬派?よしならば戦争だ。(わんこも好きです)

皆さんのおかげでなんとかアニメ二期の時点まで漕ぎ着けました。ありがとうございます!


「石鹸洗剤石鹸洗剤....置いてきやがったなあのクソ悪魔!!」

 

 

どこかでそんな幻聴が聞こえた気がした。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

がたり、がたりと体を揺らす振動に意識が目覚め始める。

自分が今どのような状況に置かれているのかも理解できず、こうなる前までの記憶も妙に霧がかかったように思い出せない。あとなんか首が痛い。

 

「ん.....?んー.......」

 

自らの現状を把握するため瞼を開け、外からの光を取り入れる。

そこに映ったのは視界いっぱいに広がるどこか難しそうな顔をする水色。

 

それに僕は勢いよく頭突きをかました。

 

「いったぁーー!?」

 

よくあるハーレム系主人公が膝枕に驚いて思わず起き上がってしまったなどのお決まり展開などではなく、わざとである。

わざわざ少し貯めてから射出されたその頭部は見事水色(アクア)のおでこを粉砕玉砕大喝采したのだった。

自らの頭にも伝わった鈍い痛みが意識を完全に覚醒させる。

周りの様子を見るにどうやら馬車のようだ。

自分が寝ている間にあの地獄を脱することができていたとは。何か忘れている気がするが。

しかしこの周囲の様子に疑問が残る。

なぜ皆が皆臨戦体制に入っているのか。

敵が近くにいるのか?

いや、彼らは皆自分の方を向いている。

自分に警戒を向けている。

まさか悪魔だということがバレたのだろうか?

ヴェストは非常に焦った。

 

そんな時、一人の少年が前に出た。

カズマ少年である。

 

「ミラー...だよな?」

 

その声からは怯えを感じる。

普段なら美味な悪感情に喜んでいたところだが状況が状況だ。

本当に僕が寝ている間何があった!?

流れるはずのない冷や汗が背中を伝ったような気がした。

どうもベルディアと共に大量の石鹸を川に投げ込んだあの日からの記憶がない。酒を飲んだりしたような記憶もない。というか悪魔を酔わせられるような強い酒は見たことも聞いたこともないが。

こうして思考している間にも彼らからの警戒は強まるばかり。

とりあえずなんらかの反応をせねば。

 

「えーと......みんな大好きミラーちゃんだよっ!よろしくね!!(裏声)」

 

特に何も思いつかなかったヴェストは目の横でイエイ!とでもいうようにVサインをした。警戒をつく目的で行なったもし男がしたらドン引きもののこの行為は彼の中性的な見た目からムカつくも、様になっている。

しかし彼がこの状況が飲み込めないという焦りと混乱から回復した際に猛烈な羞恥を与えることだろう。

 

「カズマ、どうやらミラーは頭を強く打ち付けてしまったようだ。」

「ああ、残念ながら手遅れのようだ...」

「ちょっと待ってくれないかい!?どうしてみんなそんな可哀想な子を見るような目を僕に向けるんだ!?」

 

本当にどういうことだ!?

ヴェストは混乱した。僕が寝ている間に何があったのか。

ただ彼らがそんな目で見てくるのはあきらかに先程の行動が原因なのだが彼はそれに気づかなかった。

 

「ところでミラー、お前昨日のことって何か覚えていないか?」

「昨日?いや、どうも霧がかかったように思い出せないんだ。酒でも飲んだのかい?」

「い、いや。覚えていないならいいんだ。特に何もなかったしな。」

 

その返答にとてつもなく違和感を感じる。

この返しは絶対何かあった時の反応だ。ヴェスト知ってる。

....!まさかこれが我が親友研究者Aの言っていた“酒の勢いで”という奴なのか!?しかも悶絶しているアクアを除き全員がこの反応....まさか!?

いやいやあり得ないだろう!?

親友の話した通りだとしたら全員といわゆる肉体関係を持ったことになる。それこそあり得ない。悪魔である僕には性別は存在せず、この体も僕の魔力で生み出した作り物のため生殖器も存在しない。親友がこの体の原型となったアンドロイドには雌型の物をつけていたようだが再現する必要がなかったため今は付けていないはずだ。

そもそも悪魔をまともな思考が困難になる程酔わせる酒など存在しないはずだ。少なくとも僕は見ていない。あったら悪魔殺しとかいう名前がついていそうだ。

いや、酒ではなくそう言った魔法が存在する可能性は否定できないか?

そうなると僕がよった勢いで生殖器を作ってしまったという可能性も否定できなくなる。何せ酔いというのは恐ろしいものと聞く。最悪な状況を想定しなくては。

 

「.....」

「.....」

「にゃー」

 

非常に気まずい。

たとえ悪感情を喰らう悪魔だろうと、こうも複雑に絡まった感情はあまり好きではない。腹は膨れるが。

さらにはちょむすけが自分の頭によじ登ってこようが気にする余裕がないほどヴェストは精神的に追い詰められていた。

この水色はともかく、仲間である彼らとの関係が面倒くさいものになった可能性が浮上した上、この身をエリス様以外の者に捧げてしまった可能性まであるのだ。

それが可能性から事実へと変貌した時、ヴェストは償いとして魔王とついでに魔界を滅ぼしてから小指を切って焼き土下座をして十字架に貼り付けられて焼かれギロチン台に掛けられて首を飛ばされ電気椅子に座らされ通電した上でなお償いきれない己の罪に押しつぶされてアクセル周辺を巻き込みながら消滅するだろう。

そしてカズマ達はそんなことを考えるヴェストとは別の意味で追い詰められていた。

アクアとウィズがいたため案外あっけなく討伐されたが彼女達がいなかったらアルカンレティアのみならず世界に影響を及ぼしかねない悪魔を宿した本人が目の前で何やら難しそうな顔をして唸っているのだ。

本当に彼にあの時の記憶がなかったのか、本当に彼は悪魔に飲まれていないのか、それを知らないカズマ以外の二人は戦々恐々としていた。

そしてその3人よりも彼の正体に近いカズマ少年のストレスは胃に穴が開くを通り越して胃が爆発、いや、爆裂四散する勢いだった。

何せそのやばいやつ(爆弾)の頭の上に登り切ったちょむすけが彼の頬を尻尾で叩きながらその頭をふみふみし始めたのだ。

 

「にゃー」

「.........................」

 

ねこは気ままな生き物である。

飼い主の子持ちなど考えずに好き勝手行動する。

そこがお猫様の魅力なのだが、時にそれが飼い主に計り知れない負担を与えることもある。

現にめぐみんは顔面蒼白で超振動を起こしている。

空気は悪くなるばかり。

そしてその沈黙を破ったのは....

 

「いたたたたー....」

 

水色(アクア)である。

 

「何すんのよ!まさかあんたまだ抜け切ってないんじゃないでしょうね!まだなんか臭いし!!」

「く、臭い!?昨日は一体何があったんだ....

「アクア!?ちょっとこっちこい!!」

 

カズマは即座に回復したアクアを鷲掴みし引き寄せる。

彼としてはあまりヴェストを刺激したくないのだ。

 

(アクア、教えてくれ。ミラーは今()()()だ?)

 

彼が、その場にいるアクアとヴェスト以外の全員が知りたいのはそれだった。

今の彼は仲間として冒険を共にしたミラーなのか。それともあの悪魔なのか。初めからミラーが悪魔ヴェストだと知っていたカズマもアレは明らかに様子がおかしかったことくらい分かっているため今の彼がミラー(ヴェスト)なのか、それとも別の何かなのか知りたかった。

本人は記憶がないと言っているがそれも嘘かもしれない。

 

(それなんだけどね...なーんか微妙な状態なのよ。アレは完全に浄化したと思ったんだけどなーんかまだ悪魔の匂いがするし....でも昨日みたいな危険性はもうないと思うわよ。)

 

アクアからの返答にカズマは胸を撫で下ろした。

アクアは微妙な状態と言っていたが元々彼は悪魔であり、それが普通の状態だと知っているからだ。

カズマとウィズを除く二人は少し不安そうだが、彼女達は彼の正体を知らないため仕方がない。

となると先ほどからうんうんと唸っている彼はなにを悩んでいるのか。

記憶がないと言っていたがそのためだろうか。

 

「..,.ミラー?さっきから唸ってどうしたんだ?」

 

念のためと思いカズマ少年はそのことについて聞いてみた。

先に言っておくとその選択は間違っていなかった。

いや、ベストアンサーと言ってもいい。

 

「なあ....カズマ少年.....僕は、君たちと肉体関係を持ってしまったのか....?」

 

なぜならこの勘違いに気づくことができたのだから。

そして何より、その勘違いによって起こりうる悲劇を未然に防いだのだから。




未然なのでボーイズラブ(?)はつきません。


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無理難題な仕事を押し付けられながらも健気にこなそうとする女神様は可愛いはっきりわかんだね

もうすぐテスト....控えめにいってマジヤバですわ。
小説なんて書いてる場合じゃねぇ!!(カキカキ)


文字数稼g...ん゛ん゛、思いつきで書いた物語は本編とは特に関わりのない物なので飛ばしてくださっても問題ありません。ちょっとシリアス風味ですしお寿司。


とある宿屋の一角。

明らかにこんな宿屋に使われることのない最高級の結界が何重にも展開されたある意味聖域とも言えるその部屋に一人の少女が頭を抱えていた。

その顔は青ざめ、焦り困惑恐怖、さまざまな感情がうかがえる。

少女の名前はクリス。

あの国教ともされるエリス教のエリス様のお忍び姿である。

常にそのご尊顔に慈悲深き笑みを浮かべる彼女の面影はもはやない。

彼女は今、例えるなら大事なテストで終わった後に回答を一マスずれて書いてしまっていたことに気づいてしまった学生のよう...いや、この例えは失礼か。まあ、とにかく彼女の心境はだいぶ荒れていた。

 

「なんなんですか!あんなの私一人でなんとかできるわけないじゃないですか!!」

 

若干涙目で彼女が叫ぶ“あんなの”とはもちろんあの馬k....違った。あの悪魔、ヴェストのことである。

 

「なんとなくやばいことは聞いてましたが、そんなやばいなんて聞いてませんよ!」

 

やばいやばいと連呼する彼女は今まで知らなかった。

アレがどのような存在かを。

 

悪魔ヴェストに余計なことをしないようにと言う意味を込めて忠告を行ったあの日から、女神エリスは彼を監視していた。

アレが忠告程度で大人しくしているとは思わなかったからだ。

だが彼らがいたのはアクシズ教の聖地アルカンレティア。

エリス教である自身が安易に干渉できる場所ではないため、せめて見張っていようと言う気持ちから。

そして案の定彼は問題を起こした。

なんと彼は元同僚であるはずの魔王軍幹部に剣を向けたのだ。

それ自体はまあいい。デットリーポイズンスライムであるハンスはカズマ達一行には少々荷が重い相手であり、死者が出る可能性だってあった。

だが問題はその後だ。

彼がハンス相手にドレインタッチのような魔力吸収を行なったのが悪かった。物理及び魔法に耐性を持つスライムに対してはなかなかいい戦法なのかもしれないが、それは使用者が彼でなかった場合だ。

 

エリスが先輩の神(アクアではない)に聞いたところ、あの悪魔は過去にとある勇者によって討伐された大悪魔の残り滓だと言う。

そんな残り滓が残った魔力を使い、なんとかその存在を保っているのが彼の現状だ。

そしてそんな彼が一度に自身の存在を保つために使用する魔力を大幅に上回る莫大な魔力を得た。

それによって引き起こされたのがあの中途半端な復活。

余剰分の魔力によって復元された魂は彼の力をより一層全盛期のものへと近づけ、その記憶の一部を呼び起こした。

 

最終的にそれは女神アクアと、認めたくないがアンデットのウィズによって打ち倒されることとなったが、もしあの場にどちらかがいなかったら悲劇は免れなかっただろう。

それほどまでに危険な存在だったのだ。

 

その後悪魔ヴェストの危険性を再確認したエリスは上司に当たる神に彼の討伐の話を持ちかけた。

だが帰ってきたのは良い返答ではなかった。

“以前と変わらず悪魔ヴェストへの過度な接触行為は禁止されている。だが幸いにも奴に好意を持たれている女神エリスはそのまま監視、可能であれば制御を続行しなさい。”

 

要約すると“下手に刺激するのは怖いけどなんかエリスちゃん好意持たれてるみたいだし彼女に丸投げでいっか。”といったところだろうか。

 

ふざけないでください、と言いたいところだが基本神と悪魔は敵対関係にあり、下手に他の神が接触するよりかは好意を持たれている彼女が担当する方が良いのは事実であった。

しかし依然としてなぜ上司が彼の討伐を許さないのかは分からなかった。

 

そこで彼女は彼の過去の資料を調べることにした。

彼が一度討伐されたのは自分の誕生する前、つまり人間では想像もできないほど遥か昔ということだ。

そして見つけ出したのは禁書のように厳重に保管された一冊の本。いや違う。これは報告書だ。あまりにも分厚かっために本と勘違いしてしまった。

報告書の題名は「悪夢」。

あの時の彼の言動からおそらくこれが彼の過去について書かれた書物なのだろう。やっと見つけた達成感のまま彼女は表紙をめくった。

 

だが彼女は後悔している。

これを読めばあの悪魔について知ることができる。

そんな軽い気持ちから表紙をめくった過去の自分に。

 

 

被害報告。

そう書かれた欄に並ぶのは予想を遥かに上回るものだった。

国単位で書かれた死者の数。

破壊し尽くされ生物の住むことのできなくなった土地の数々。

何よりそれらに並んで記入された()()()()()

それがこの報告書の異常を表していた。

 

どれもこれも彼女にとって聞き覚えのない名前ばかりだが、本来戦火の及ばない神々にまで被害が出ていることから、この事件の甚大さが察せられた。

そして何より彼女の目を引いたのがその中に並ぶ一つの名前。

その名前だけは彼女の記憶に存在していた。

 

軍神アーレス

 

それは人間界に今でも伝わる偉大な一柱の神の名前。

戦を司り、当時の神々の中で最も悪魔を滅ぼしたとされる英雄。

 

その名前がここに載っている。

 

その事実はエリスを、神々を震え上がらせるには十分すぎた。

そしてそんな爆弾をエリスは丸投げされたのだ。

 

「本当にそんなの私にどうしろって言うんですか....え?」

 

布団に顔を埋め、若干泣きそうになっていたその時、彼女は何か異常を感じ取った。

どたどたどたどた、と聞こえてくるテンポが早く、規則的とは言えない物音が徐々に、徐々に大きくなってゆく。

その音に何だか嫌な予感を覚えた彼女は布団から飛び起きた。

冷や汗が顔を伝った。

物音が、足音がだんだん大きくなってくる。

そして.....

 

「エリス様ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」

 

何重にも鳴り響く結界の破壊音とともに扉を蹴破り侵入してきた招かれざる客(ヴェスト)

その姿を確認したクリスは即座に回れ右をして...

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

窓から飛び出した。

余談だが破壊された窓代と扉代はヴェストが責任を持ってしっかりと払ったと言う。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

これは誰も知らない、知ることもない。本当にあったかさえも、もう解からないとある昔話。

 

昔々、名もなき小さな村の外れにに一人の少女が住んでいました。

少女には知り合いはいませんでした。友達はいませんでした。話す相手はいませんでした。

唯一いた母親は数年前に魔女狩りによってどこか遠くへ行ってしまいました。

少女は一人でした。

ぼろぼろのベットで目覚め、かつては畑だった場所に育った植物から果実をもらい、たまに生きるために必要な物を交換するため、村へ行き、目も合わせてくれない村人と物々交換をし、家に帰っては虫食いだらけの本を読み、くたくたになった体をベットに沈める毎日でした。

 

そんな毎日の中、少女は一冊の虫食いもない、しかしどこか邪悪な気配を纏った一冊の赤黒い本を見つけました。

母の遺品らしきそれには少女には全く読めない文字列と、少女には到底理解できない謎の記号で埋め尽くされていました。

絵も載っておらず、色もところどころに付着した茶色の斑点以外は白黒で、少し開いてすぐに読む気が失せてしまいます。

 

そして少女が本を閉じようとしたその瞬間。

たまたま開かれていたページの記号が不思議な光を放ちだしたのです。

あまりの眩しさに少女は目を瞑ってしまいます。

そして少女がその目を開くとそこには、一人の悪魔がいました。

 

「可愛らしいお嬢さん。汝の願いを言いなさい。そうすれば私が叶えてあげましょう。しかし代償はいただきます。それは汝の魂、そして絶望。その命が途絶えるその瞬間、汝は深い絶望に包まれることになるでしょう。さあ、汝の願いを口にしなさい。」

 

少女は答えました。

“お友達になって”

 

その日から少女は一人ではなくなりました。

朝目覚める時も、ご飯を食べる時も、本を読む時も、いつもは辛い村に行く時だって、少女はもう一人ではありません。

美味しいご飯だって悪魔に願えば作ってくれます。難しい本だって悪魔に願えば読み聞かせてくれます。一人で寂しい時も悪魔に願えば一緒にいてくれます。

 

少女は徐々に笑顔を取り戻していきました。

少女にとって悪魔は友達のようで、母親のようで、父親のようで、何よりも大切な物でした。

 

しかし平和という物は唐突に崩れ去る物なのです。

ある時、村に何人もの騎士と聖衣に身を包んだ神官がやってきました。

母が連れて行かれたあの日にも来た神官達が来たのです。

 

少女は悪魔に願いました。

 

“街に行って美味しい果物を買って来てほしい”

 

優しくしてくれた悪魔が神官達に連れて行かれることを、少女は何よりも恐れたのです。

たとえ裏があったとしても、優しくしてくれた悪魔を失うことが何よりも怖かったのです。

 

時期に少女の古びた、しかし温かった家は冷たい鉄を纏った騎士達と、冷たい心を持った神官達に囲まれることになるでしょう。

それでも少女に後悔はありません。

何故なら少女はもう、大切な物を失わなくていいのですから。

 

 

 

 

悪魔が村に戻った頃には新たに焼け焦げた十字架というモニュメントが一つ作り出されていました。

悪魔に悲しみはありません。後悔も憎しみも、何もありません。

少女は所詮、悪魔にとってただの贄だったのですから。

 

「....不愉快だ。」

 

ただ、ほんの少しの怒りがあっただけでした。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

これは大地を悲しみに包み込んだあの惨劇の前日談。

これは誰も知らない、知ることもない。それ故にあったかもなかったかも解らない、そんな物語。

 



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始まりはいつだって勘違いから

え?勉強?
HAHAHAワタシニホンゴワカリマセンネ

今回からこのすば映画回(?)に突入です。


「カズマさんの子供が欲しい!!」

 

そんなブッ飛んだセリフが鳴り響き、後に残るのは誰かが浄化された紅茶、つまりは水を吹き出す音とパチリパチリとボードゲームの駒を動かす音だけである。

 

「チェック」

「ああ!」

 

あとついでにどっかの駄女神とどっかの愚悪魔の声だけであった。

エリス様が自分の話をしている!?という謎の予感を感じ取ったヴェストは彼女の宿を襲撃もとい訪問したあと、あまりにもやることがなさすぎたためカズマ宅に訪れ、アクアとボードゲームをしていた。

そこにこのゆんゆんの暴挙である。

一見興味ないようにアクアとのボードゲームを楽しみ当たり前のようにチェック(王手)を取っているが実際はその耳に全魔力を集中させ、これから彼女が話す一言一句を全て聞き逃さないようにする準備は万端であった。

 

(そう、これぞ我が奥義。デビルズイヤーッ!!)

「ううーん...こう行けば取られるし....むむむ」

 

ちなみにアクアとの戦況は6対0。

圧勝なのだがおそらくこれはめぐみんや他のメンバーがやっても結果は同じことだっただろう。

 

「....今なんて?」

 

まさか聞き逃したというのかカズマ少年!?

いや、これは再度彼女に先程の発言をさせることでさらなる羞恥を生み出させる高等テクニック....!

さすがは僕が見込んだ男だ。

ヴェストは真面目にゲーム板を眺める裏側でこんなことを考えていた。

 

「カズマさんの子供が欲しいって言いました!!」

「....俺としては最初は女の子がいいんだけど」

「だ、ダメです!最初は男の子じゃなきゃ....!」

「いやしかし俺にだって譲れないものがあってだな...」

「私だって男の子じゃないと絶対ダメなんです!」

「聞いてくれゆんゆん。男なら娘にパパとか呼ばれたいもので....」

 

あ、ゲーム板が取られた。

 

パリコンとカズマ少年の頭に炸裂するゲーム板。

無常にもめぐみんによってヴェストの作り上げた詰みの陣形は崩されてしまった。

 

「男の子だとか女の子だとかいきなりなんの話をしているんですか!!」

「おい、ゆんゆんと言ったな!カズマと何があったか知らんが騙されているぞ!!」

「失敬な」

 

騒ぎ出したらもうとまらない。

しかしカズマ少年欲望に素直すぎないか?

ボブは訝しんだ。

 

「ミラーも一回やらない?」

「おーけー」

 

その後ヴェストは聞き耳に全集中しながらアクアに全勝したという。

アクアは泣いた。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

「それで?いったいなんなのですか?魔王だの世界だの...」

「そうなのよ!聞いてめぐみん!紅魔の里がなくなっちゃう!」

 

アクアが泣いたことにより中止されたゲーム板を片付け終わり、浄化されていないちゃんとした紅茶を嗜んでいたその時。

ヴェストのデビルズイヤーがある単語に反応した。

 

(紅魔の里....?)

 

ヴェストは脳....というか魂をフル回転させ、記憶の奥底からその単語を掘り起こした。

そして辿り着いたのは古き親友との記憶。

 

(ああ、思い出した。そーいやそんなん作ったっけな)

 

紅魔族。

それは親友と共に作り出した最高傑作の一つ。

作成者と被験者のロマンと少しの悪魔的ぱわーを詰め込んだ強化人間。

そんな彼らの子孫である。

強大な魔法を扱うことのできる彼らだがほとんどがロマンで作られていたため、その赤目とレジでピッとやるようなバーコードはただの飾りであり、まったくと言っていいほど意味はない。

元々は高い魔力が仇となり、自然放出が上手くいかず下手をすると自らが爆裂ッしてしまうなどの欠点があったがそこは親友の超頭脳とヴェストの悪魔的ぱわーによってなんとかした。

 

「これは....」

「そうなのよ!魔王軍が里に攻めてきたのよ!」

 

ほう、なるほど魔王軍が。

そしてピンチになった紅魔族がゆんゆんにこの手紙を託し、“頼りなく何の力もなくヒモ同然の男”つまりはカズマ少年とゆんゆんの子供がいつの日か魔王軍を打ち破るという予言を残したと。

うんうん、なるほどなるほど。

 

「おいミラー。お前いま失礼なこと考えなかったか?」

「いんや、なにも?」

 

しかしこのカズマ少年の子供があの魔王を打ち破る。

それは面白いことになりそうだ。

僕やバニル先輩であれば魔王など余裕のよっちゃんイカなのだがそれをただの人間でありそれもニートとぼっち....(これは失礼か?)の間に生まれた子がそれを倒すとなると随分と難しいだろう。

腐ってもあれは魔族の王。

並の人間如きが相手になるものではない。

 

まあ?僕がやれば?10秒もかかりませんがぁ?ねぇエリス様?(チラッ

 

完全に魔王を舐め腐った上にさりげなくエリス様へのアピールを欠かさないヴェストであった。

 

しかし未だ生まれてさえいない人間の子が魔王を打ち倒すなどという2、3年ではすまないほどの遠い未来を予言するとは何者なのか。

神や悪魔ではないのかそれは。

カズマ少年には悪いがいささか嘘くさい気がする。

 

「こちらの手紙には最後に“紅魔族英雄伝・第1章 著者:あるえ”と書いてあるのですが...」

「....え?」

 

うん。やっぱ嘘だった。

めぐみんがいうにはあるえという紅魔族の作家が書き上げたまるっきし嘘の話である、とのことだ。

まあそんな簡単に面白い話に出会えるわけがないのだ。

上げて落とされた気分だ。

カズマ少年、ドンマイ。卒業ならずだ。

ヴェストはズズズズと熱い紅茶を慎重に口に含んでいる。

実はヴェストは猫舌なのだ。

彼の魔力による“虚像”で作られた体だというのに。

 

いや、しかしよくよく考えてみればその創作は後半のもう一つの手紙だけであり、前半の村長からの手紙は...

 

「めぐみんさんや?最初の手紙って....」

「ええ、はい。こっちは多分本当だと思いますよ。紅魔族って魔王軍の目の敵にされてますし。」

 

なんと。

やはり紅魔の里が魔王軍に侵攻されているというのは事実っぽいようだ。

バニル先輩のように見通す能力があればここから紅茶を啜りながらでも現状を把握できるかもしれないが残念ながらヴェストにそんな便利な機能は備わっていなかった。

あえて言えばデビルズアイ(ちょっと目が良くなる)があるくらいだ。

これだから骨董品は使えない....

 

(なんか理不尽に呆れられた気がする...)

 

だが手紙の内容が事実だとすると自分も開発に関わった紅魔族。つまりは自らの子のような者達(暴論)が危険にさらされているということになる。

 

これはうかうかしていられない。

紅茶なんて飲んでいる場合じゃねぇ!

 

とはいかないのがヴェストである。

最近ではパーティメンバーを助けたり何気に神であるアクアと仲良くなっていたりするのだがあくまで彼は悪魔なのである。悪魔だけに。

 

(あれ?なんか部屋が寒くなった気がするのだが...気のせいか?)

 

まあそんなこんなで彼は自身の子供(のような者)が危険に冒されていようと必要があるか何か面白そうなことがない場合は助けに行くことはないだろう。

 

「めぐみんどうしよう里のみんなが!!」

「ズズズズ」

「我々は紅魔族ですよ?そう易々とはやられません。」

「ズズズズ」

「それにゆんゆんがいる以上紅魔の血が絶えることはありません。こう考えればいいのです。里のみんなはいつまでも私たちの心の中に....」

「ズズズズ」

「めぐみんの薄情者!!」

「ズズズ「ミラー、シャラップ」......ズズ(了解)」

 

カズマ少年に怒られてしまった。

むぅ、僕は大人しく紅茶を嗜んでいただけだというのに。

いくらDT卒業の機会を逃したからってそう苛立つことはないじゃないか。

ヴェストはいつのまにか眠っていたアクアを真似して自分も一眠りすることにした。

あーそふぁーふかふかー

 



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三章
雑草は駆除する。当たり前なんだよなぁ


しばらく投稿できなかったのは前にも言ったようにテスト期間だったからです。流石に勉強しないとやばかったので....

失踪したと思った?失踪しちゃったって?ぷぷぷー!この私が失踪するなんて.....ちょ!やめて!ごめんなさい低評価で殴らないでぇ!!

すみませんでした。


「と、いうわけでみんなで紅魔の里に里帰りすることになった。お前も来ない?」

「まじか」

 

どういった風の吹き回しだろうか。

ヴェストがいつものようにエリス様人形の再現を試みながら“なーんか忘れている気がするなぁ“とか呟いていたその時。

唐突に部屋の木製のぼろっちいドアが勢いよく蹴破られたと思ったらカズマ少年がそのようなことを言いながら入ってきた。

紅魔の里へは昨日の話し合いで行かないことが決定したのではなかったのか。

 

「どうしたんだい?いかないんじゃなかったのか?」

「めぐみんがどうしても里帰りしたいっていってな。全くこれだからツンデレ小娘は素直じゃねえよなぁ。」

 

なるほどツンデレ...

 

「ふーん?毎回イヤイヤ言いながらもなんだかんだ言って彼女たちのために動いている君も十分ツンデレの素質があると思うけど?」

「つつつつ、ツンデレちゃうわ!」

 

なるほどこれがツンデレ....!

できればエリス様で見たかった....

 

「はははは...うん、そうだね。僕も同行しよう。」

「悪魔院」

 

二人はがっちりと固い握手を交わした。

流石にカズマ少年も仲間のためとは言え魔王軍に襲撃を受けている里に行くのは怖かったのだろう、手が少し強張っていた。

そんな意外と覚悟を決めているカズマ少年だが、彼と握手を交わすヴェストはただ単に楽しそうだからという理由なのだったりする。だが、彼は悪魔であって人とは違うためしょうがないとも言える。

少しは心配しているとは思ったのだが実際の彼の頭の中はピクニック気分の気楽なものだった。

 

 

「カズマ少年...何故わざわざアルカンレティアへ行く必要があったんだい....?」

 

ピクニック気分でルンルンとしていたヴェストは一転、ずぅぅぅんとでも効果音が鳴り響きそうなほど気落ちしていた。

せっかくあの魔界顔負けの地獄から(気を失っているうちに)脱出したというのに数日もしないうちに再び訪れることになるとは思っていなかった。

やはりアルカンレティアは狂信者どもに溢れかえっており、石鹸を押し付けられそうになるのを全力で逃走し、なんとか振り切った時には彼の目から光は消えていた。

どこからかかすかに「ちょ....ま....!おいてk.....もう魔力が.....うごけな.......」などと聞こえてきたが気のせいだろう。

ちなみにヴェストがどこかのデュラハンに作った義体に込められた魔力は数日で枯渇し彼本人による供給がない限り半永久的に再び動くことのない置物になるという仕様があるのだがこれは全く関係のない話だ。

 

「ウィズのテレポートでアルカンレティアに向かってからの方が里には近いからだよ。」

「しかし私ももう二度とあの街の住人には関わりたくないというのは同感です。誰かテレポート使えませんでしたっけ?紅魔の里についたら念のため設定してくれませんか?」

「あ、僕使えるよ」

「なんで使えるんですか!?剣士ですよね?」

「あ!えーーっと......なんか使えた」

「は、はぁ....」

 

一応剣士としてギルドに登録していたことをすっかり忘れていたヴェストだった。いっそのこと魔法剣士とかにでも転職してしまおうか。

 

「ねえなんで紅魔の里までわざわざ歩いていかなくちゃいけないのかしら?」

「里までの道中は危険なモンスターが多くて馬車が出せないんです。紅魔族の人たちはテレポートで行き来しているので必要ありませんし。」

「こう考えると紅魔族って随分とやばい一族なんだな。」

「当然だろう?」

「なんでお前が威張ってるんだよ」

 

しまった...つい!などとバカなやりとりを行いながら話中に出てきたような危険なモンスターの出かねない林の中を歩く中数十分。

向こうの木陰にこんなところにいるはずがないほど小さな人影がチラリと見えた。

紅魔族だろうか。

それにしては里との距離がいささか遠すぎる。

それなら我々のような冒険者か。

それこそあり得ないのではないか。

見えた人影は一つ。しかもめぐみんと同じかそれ以下並みの大きさの子供だと思えるもの。そんな子供がパーティも組まず一人でいるなんてまずあり得ない。

普通なら見間違いかモンスターだと警戒するものだがそれは消えることもなくこちらに向かってきたり林の中に逃げたりするのでもなくただそこに座り込んでいた。

 

「む、誰かいるぞ」

 

ダクネスも気づいたようでそれを指差してそういった。

やはり幻覚でも見間違いでもなく実体を持った人らしい。

だがどこかその様子に不快感を覚え、ヴェストは自分でも気付かぬうちに僅かに顔を歪めた。

 

「あの子ひどい怪我をしているわ!大変!すぐにヒールをかけないと!」

「おいちょっと待て、あれ多分擬態したモンスターだ。敵感知にも引っかかってる。」

 

その傷ついた姿を見て咄嗟に駆けつけようとしたアクアをカズマ少年が引き止めた。

なるほど、やはりモンスターだったか。

そういえばいつだったかは忘れたが人間の少女に化け、釣られてきた者を養分にして育つモンスターがいると聞いたことがある。

確か....

 

「安楽少女....その植物型モンスターは物理的攻撃を加えてくることはない....が、通りかかる旅人に対して強烈な庇護欲を抱かせる行動を取りその身の近くへと旅人を誘う。その誘いは抗い難く一度情が移ってしまうとそのまま死ぬまで囚われその死体を養分にし、枯れるまで吸い尽くす。これを発見したグループは辛いだろうが是非とも駆除してほしい....だってさ.....」

 

人間の情を利用し、栄養を得る。

その策略にまんまとはまった愚か者はもれなく少女の栄養となるわけだ。

しかしあのような幼い少女の姿を利用するのど....何故かは知らないが不快である。

エリス様は悪魔が人間の害になるからだとか仰っていたがその前にこの害悪植物を駆除した方が良いのではないだろうか?

いや、わざわざあの方の手を煩わせる必要もない。

この私自らが滅してくれる。

何故か先ほどから感じていた不快感が拍車をかけ、ヴェストはそれを駆除するため一歩踏み出そうとする、が。

 

「あの子が泣き出しそうなのを必死に堪えるような笑顔で手を振っているのですが...なんだか居た堪れなくなってきたのでちょっと抱きしめて....」

「だからやめとけって!ああやって人の気を引いて取り入ろうとしてんだよ!」

「だ、だめだ!モンスターとはいえ怪我しているものを放ってはおけん!」

「そうよ!物理的な攻撃をしてこないってなら大丈夫でしょ!」

「こら待てって!」

 

....ここにもまんまと策略にはまった愚か者が三人

 

「おい、ミラーもなんか言って、うわなんかすごい顔してる。」

 

「もう大丈夫よ。今傷を治してあげるからね、ってあれ?これって怪我しているわけじゃないわ?包帯もそれっぽく見えるだけなのね。」

「ほらだから言っただろ?少女の姿も服も血の滲んだ包帯も人を惹きつける擬態なんだって。」

 

「後ろの木になっている実があるだろ?それもそのモンスターの一部で空腹になった旅人に与えるそうだ。でもその実には栄養なんてなくて、毒によって痛みや空腹、眠気などの感覚も麻痺していき夢見心地になって栄養不足になり衰弱し、死んでいくんだ。」

 

なかなかにえぐいモンスターだった。

その名称の所以も年老いた老人が安らかな死を求めて奴等の生息地に行くことから“安楽少女”などという名前がつけられたそうな。

やはり滅ぼした方がいいのでは?

ヴェストには人の心がなかった。

 

だがしっかりと人間の心を持つ彼らはその存在のあり方を知ってなお駆除という選択肢を選ぶことはできそうになかった。

それどころか今にもアレに向かって駆け出してゆきそうだ。

いつもはカズマ少年やその仲間によってあまり感じることがなかったがこの世界のモンスターは本来こう言った害のある存在なのだろう。

だからこそ”怪物(Monster ) “などと呼ばれているのだろうが。

自然界は厳しく残酷なものである。

 

そんな今にも駆除欲(?)が溢れ出しそうなヴェストとは逆にアクアたちはアレに庇護欲を持ってしまい、どうするか決めかねているようだった。

悪魔である彼のように”そんなの駆除一択だろ?“などという考えに行き着くわけもなく、これが普通の人間がアレに抱く感情なのだろう。

 

するとそんな彼らの様子を見た安楽少女はその顔に儚い笑みを浮かべた。

目の淵にかすかな涙を浮かべ、まさに完璧なタイミングで。

 

キュ〜〜〜〜ン

 

見事アクアたちの心は穿たれたようだ。

それどころかここにキャンプを張ろうなどと言い始める始末。

ダクネスなんかはあの実を食べようとしているがそれに依存性がないとも限らない。というか十中八九そう言った効果があるのだろう。

馬鹿なのか?

 

「.....なあミラー....」

「.....やれ」

 

「ってなにすんのよ馬鹿ニート!!」

「ええい邪魔すんな離せ!」

「おおおおお前はこんな少女の姿をしたモンスターにも手にかけるのか!?」

「カズマはなんだかんだで優しいところがあると思ったのに!見損ないましたよ!」

「俺だって好きでこんなことしたいわけじゃねーよ!ミラーもなんか言ってくれ!」

「もう僕がやっていいかい?」

「ちょ!あんたまた悪魔に乗っ取られたんじゃないでしょうね!?」

「また?」

 

話が進まない。

てか”また“ってなんだ。悪魔に乗っ取られたってなんのことだ。

気になることはたくさんあるがもうさっさと駆除してしまおう。

そう思い、ヴェストが愛用の大剣”墓標“を握ったところで思わぬことが起こった。

 

....コロス....ノ?

 

なんと安楽少女が口を開いたのだ。

 

ゴメンネ....ワタシガイキテルカラダネ....

 

そのか弱い声で言葉を紡いで行く。

 

ワタシハモンスターダカラ....イキテルトメイワクカケルカラ.....

 

泣きそうになるのを必死に我慢しながら絞り出すように。

 

ウマレテハジメテコウシテニンゲントハナスコトガデキタケド.....サイショデサイゴニアエタノガアナタデヨカッタ....

 

その顔が崩れないよう泣かないよう相手を心配させないように。

 

モシウマレカワルノナラ......

 

植物が枯れる寸前に素晴らしい花を咲かせるように、少女も儚く、美しい笑みを浮かべながら。

 

ツギハ....モンスタージャナイトイイナァ....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『インフェルノ』

 

 

少女の体を炎が覆い隠す。

まさに悲劇。

地獄の業火が少女の骨も残さんとばかりに燃え上がる。

 

「あ、あんた!ふざけるんじゃないわよ!人の心ってものがないの!?」

「ああ、ああ!何やってるんですかミラー!こんな、こんなのってないですよ!」

「そうだぞお前!モンスターだからって!流石にこれは.....っ!」

「俺も殺さなきゃって思ったけどお前、今の言葉を聞いて何も思わなかったのかよ!!」

 

その残酷すぎる行為を行ったヴェストへと当然のように非難が殺到する。

何気に先ほどまでこちら側だったカズマ少年も混じっているが仕方がないことなのだろう。

あまりにも見事な()()、人間如きには見破れるはずがなかった。

猿芝居でも極めればあそこまで人の心を操れるものなのか。

 

「あっっっっっつぅぅぅぅぅぅ!?!?!?!?!?!?!?」

 

突然燃え盛る炎の中から飛び出してきた先程の少女のものとは思えないような絶叫に皆の視線が集まる。

 

「ふざっけんな!普通あの場面でやる奴がいるかよ!クソが!あっつぅ!!」

 

そこには先程の儚さなど全くなかったように乱暴な言葉を吐き散らしながら転げ回る安楽少女。

だがその体は一片も焼け焦げておらず、よく感じてみるとあれほど高々と燃え上がっているのにも関わらず一切こちらに熱が届かない。

そう、これは偽物だ。

忘れられがちだがヴェストは虚像の悪魔。

虚像、つまりはありもしない偽物を作り出すのは彼の十八番である。

実際アレはただの魔力の塊。熱もそれによって灰にされることもなんにもない、ただの虚像である。

ただ受けた側はあまりの出来栄えに本物の炎と勘違いし、ありもしない熱を感じてしまう、というわけだ。

 

「あっつ....あれ?熱くない?........あー......」

 

 

 

イマノハナカッタコトニ....デキマセンカ....?

 

 

カズマ少年のレベルが3上がった。




安楽少女ビジュアルは可愛いのになぁ。
別にああいう裏のあるけどちょっと残念な子は好きなんだけどさ、ほら、雑草は燃やさないと。


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理想のハーレムなんてものはこの素晴らしき世界には存在しない


ついにこの作品も30話ですね。
処女作でしたがここまで続くとは....
ほんと皆さんありがとうございます。


テスト?うん、まあ、ぼちぼちですよ...(目逸らし)




「いぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「あぁん♡まってぇぇぇ!!まちなさぁぁぁぁぁい!!!」

 

立ち上がる砂埃。

先頭にはカズマ少年。

そしてその後方には夥しい量の女。

字面だけで見れば何というハーレム、けしからん、と思うだろう。

しかし現実は非常なり。

 

人間のカズマ少年を追いかけるのはオークの女。

自らの種族のオスを絞り殺したサキュバス顔負けな豚頭ども。

まさに地獄絵図である。

...そういえばアクセルでもバニル先輩以外の悪魔の気配がしたっけな。サキュバスっぽかったが今度行ってみようか。

 

「走れ走れー!ほらほらぁ!追いつかれちゃうよー!?カズマ少年のちょっといいとこ見てみたい〜〜〜!!」

「黙れミラァァァァァァ!!てめ!あとで覚え、てろ、よっ!!」

 

ちなみに悪魔には性別がない。

故にヴェストはこうしてカズマ少年の愉快な姿をゆっくりと観戦できるのだ。

そういえば昔ゴブリンに襲わせた女騎士は実にいい悪感情を見せてくれたな。結局は親友に見つかっていいところで止められたが...

 

「カズマ少年!」

「なんだよッ!」

「期待しているぞ!!!」

「何がッ!?」

「あ」

 

カズマ少年がこちらを向きツッコミを入れたその瞬間。

一体のオークが地面を揺らすほど強く踏み込み....

 

飛んだ。

 

「やぁっとつかまぇたぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「ま、待って!話をしよう!!」

「ふふふ、エロトークなら喜んで!!」

 

その勢いのままカズマ少年を押しつぶしたオークは彼の手を強く掴んで離さない。

 

「ちょ、ちょっと!本格的にやばいですよ!!」

「カズマが!カズマが汚されちゃう!!」

「ま、まて、もう少し、もう少しだけだから....フヒヒヒヒヒ」

「どうしたんですかミラー!?最近おかしいですよ!?」

「いない....オスのオークはもういない.....」

 

もうちょっと!あと少しで!今いいところなんだ!

涎を垂らしている欲望に忠実なだらしない悪魔とオスオークがいないことを知って失念中のドM騎士は放っておいて普通にカズマ少年はピンチだった。

このままでは彼の使うことのないカズマ棒があの悍ましいメスオークで初めてを迎え、一気にそのまま枯れ切ってしまうだろう。

大ピンチ。

実力はあるくせに肝心な時に役に立たない悪魔は悪感情に絶賛トリップ中。宴会芸の神様は慌てふためき戦力外。一発少女はカズマ少年を巻きこんでしまうためコレまた戦力外。ドM騎士は論外。

一切の希望は無くなった。

 

そう思われたその瞬間...!

 

「ボトムレス・スワンプ!!」

「な、なんだいこれは!」

 

突如現れた底無し沼がオーク達を捕らえた。

 

「わ、我が名はゆんゆん!!アークウィザードにして上級魔法を操るもの!!オークたち!近所のよしみで見逃してあげるわ!さあ仲間を連れて立ち去りなさい!!」

 

救世主の登場である。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

「ゆんゆ〜〜〜〜ん!!」

 

ゆんゆんのスカートに顔を押し付け泣き喚くカズマ少年。

怖かったのは理解できるが明らかに下心がこもった行動だろう、それ。

一方ヴェストといえば非常に機嫌が悪かった。

まるでおやつを横取りされた子供のように拗ねていた。

その理由はそんな可愛らしいものではないのだが。

 

「あの、ところで皆さんはなぜここに?」

「...妹が、妹が心配になりまして」

「そ、そうね。魔法も使えないのに好戦的な子だもんね」

 

あらあら、照れ隠しなのかはっきりと里のみんなが、ゆんゆんが心配だからとは言わないなんて。

かわいいねぇ、と皆でニヤニヤしていたら怒られてしまった。

やはりめぐみんはどこか小動物の感じがする。

その身長のせいもあるが性格が素直じゃないところがどことなく猫のよう...

 

「ミラーなんか失礼なこと考えていませんか?」

 

この子は超能力者なのではないだろうか。

 

「顔に出てるんですよ」

「おっと、コレは失礼」

 

僕こんなにも表情に出たっけか、と自分の顔を揉んでみるもよくわからない。こういうものは自分ではわからないものなんだろう。

 

「それで?何を考え....」

「静かに、誰か来るぞ!!」

 

「へへへ、いたぜ」

「紅魔族の子供に冒険者風の人間だ」

 

草むらをかき分け出てきたのは褐色肌の二人の角を生やした人間(?)だった。

何だあれは。

かすかに同族の気配は感じ取れるが非常に薄い。

なんというかそこら辺にいるような下級悪魔を水で割って薄めてさらにそれを蒸留したような感じだ。

まあつまりはほとんど悪魔の気配がしない悪魔もどきだった。

 

彼らの発言からアレは魔王軍の雑兵だと予想できるが...

あ、そういえば今僕らは魔王軍に襲撃を受けている里に向かっているんだったな、と今更ながら気付くほどにアレらからも周囲からもなんの脅威も感じなかった。

これならまだヴェストがカズマパーティに所属していなかった頃の水色の闊歩する魔都アクセルの方が緊迫感はあった。

 

「貴様ら!紅魔族二匹以外は見逃してやろうと思ったが皆殺しだ!!」

 

カズマ少年はアレらに挑発するアクアに焦っているようだがおそらくあの二人組はアクアのゴットブロー一発で消し飛ぶほど弱い。

ジャイアントトードよりも弱い。

心配する必要は全くない。

たとえそれが何十人といようとだ。

 

そんな奴らが?この僕らを皆殺し?

 

「舐めやがってますねぇ?」

「み、ミラー?」

 

「大きく出たな下級悪魔モドキ!貴様らのような雑兵が?この僕をぉ?殺すぅ???????????随分と舐められたもんだなぁ!!」

 

モドキ如きが本職の悪魔を殺すなど、随分と舐めたことを言ってくれる!

魂だけの魔力体である自分のことを棚に上げてヴェストは怒りを露わにした。

ただでさえカズマ少年の愉快なショーがいいところで中断され不機嫌だったのだ。このイライラをぶつけられるなら誰でもよかったのかもしれない。いつのまにかいなくなっていた全自動悪感情製造機(ベルディア)がいないせいか空腹感も限界まで高まっていた。もう限界だ。

 

「さぁ!!!it'sショウ....」

「エクスプロージョンッ!!!!」

 

ヴェストの不機嫌度up

彼から何やら瘴気のようなものが漏れ始めているように見えるのは幻覚ではないだろう。

 

「どうですかカズマ?今の爆裂、何点ですか?」

 

元凶であるめぐみんはぱさり、と崩れ落ちた。

実にいい笑顔で。やり遂げたような清々しい笑みで。

瘴気が立ち籠める。

 

「マイナス99点をくれてやる馬鹿野郎がぁ!!みろよミラーが暴走寸前だ!ちょっとは空気読め!!」

「くっ!今の増援を聞きつけて更なる増援が来たぞ!!」

「また現れたわねこの引きこもり悪魔!さっさとミラーから出てきなさい!綺麗さっぱり浄化してやるわ!!」

「馬鹿野郎!さっさと逃げるぞ!!」

 

彼を中心に植物が生命力に溢れた緑から茶色、白へ。水々しく咲き誇っていた草木がミイラのように乾き枯れ果ててゆく。

瘴気は空間を蝕み狂った虚像に染まってゆく。

ノイズが走る。

空間に歪みが生じる。

ハンズを食らったことにより全盛期へとさらに近づいた魔力とその異能と呼ぶべき虚像が暴走してゆく。

空腹空腹空腹空腹空腹空腹空腹空腹空腹空腹空腹空腹

腹が減った。

遠くに見える魔王軍(翼を生やしたおやつ)をその紅き眼光が捉えた。

黒き翼が展開される。

その手に握られた大剣はその名の通り彼らの墓標となり得るだろう。

深き漆黒の炎が灯った。

 

「it's showtime‼︎」

 

森の一角が偽りに包まれた。

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

その様子を影から見つめるものが数人。

奇しくも彼と同じ紅き眼光がそれを見つめていた。

 

「アレこそ我らが目指すべき理想形...」

「黒き翼に全てを燃やし尽くさんとする黒き炎...」

「我ら紅魔族と同じ紅き瞳を持ち、しかし漆黒とは正反対の純白の髪を持つ者...彼は我ら魔王軍遊撃部隊の新たなメンバーに相応しい...」

「ふふふ...魔王軍に新たなメンバー...面白い宴になりそうだわ」

 

彼らは闇へと消えてゆく。

全てはきたるべき時に備えるために....!




どんなに強くなろうがヴェストは所詮ヴェスト
カエル>ヴェストの法則は変わらない。


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薄い本って時々やばいもの出てくるよねって話

もうすぐクリスマスですね。
皆さん何か用事はありますか?
私はあります。
一人で寂しくゲームするという大事な用事がねぇぇぇぇ!!!


自分で言ってて悲しくなってきた


「聞け!大いなる闇を操るものよ!我が名はぶっころりー!紅魔族随一の靴屋のせがれ!魔王軍遊撃部隊員筆頭、アークウィザードにして上級魔法を操る者ッ!!」

 

 

あらかたゴミ掃除を終え、後始末をしていたヴェストの前には大袈裟にマントを翻し紅魔族特有の名乗りをあげる青年が立っていた。

その背後には同じような格好をした3人の男女が期待するような目で見つめていた。

なるほど。これは...

 

 

「名乗られたのなら名乗り返さねば失礼というもの......我が名はミラーッ!見習いエリス教徒にしてカズマパーティアタッカー担当ッ!大いなる闇を操り邪悪を駆逐せし者ッ!!」

 

 

こちらも身につけていたマントを翻すのは忘れずに。

 

 

「うおおおおお!素晴らしい、実に素晴らしいよ!」

「やはり我々が見込んだ者だ。ここまでかっこいい名乗りを上げられるとは」

「本当に嬉しくなるわね」

 

 

反応は上々。

この選択は正解だったようだ。

人間第一印象が大事だと聞く。初対面での出来る限り好印象を残すことは大事なのだ。

ヴェストの場合は計算ではなく楽しそうだからという理由でやっているみたいだが。

実際自分の名乗りを褒められて少し上機嫌になっている。

 

 

「そこまで褒めてくれるなんて嬉しいね。それで?僕に何かようかい?」

「ああ、そうだ。」

 

 

不敵な笑みを浮かべながら差し出された手をヴェストは見る。

 

 

「俺たち魔王軍遊撃部隊に入らないか?」

「あ、勧誘はお断りです」

 

「なん....だと....!?」

 

 

ぶろっこりーと名乗った男は思いっきり膝をついて倒れ込んだ。

いちいち反応が大袈裟だ。

そうしないと死んでしまう病気にでも罹っているんだろうか。

 

 

(そういえば初代紅魔族の奴らもこんな感じだったような)

 

 

まさか遺伝?そんなわけないか。数百年経ったんだ。紅魔族にもゆんゆんのような(比較的)まともな奴はいるだろう。

紅魔族がアクシズ教徒と並んで奇怪な目で見られる理由を知らないヴェストはそうやって思いこくことにした。

 

 

「なぜだ!?」

「僕はカズマ少年のパーティメンバーだからね」

「やめればいいじゃないか!」

「そこまでして君たちの仲間になりたいとは思わないかな...」

 

 

カズマ少年たちのような面白いパーティを離れる気はヴェストにはさらさらなかった。それにエリス様との交流が唯一あるアクセルを離れるなんて彼にとっては論外としか言えなかった。

実際エリス様もといクリスが活動しているのは主に王都なのだが彼はそれを知らない。

 

 

「く...すまない取り乱してしまったな...残念だが遊撃隊に入りたくないというなら仕方ない。ここは素直に諦めよう...」

「お、案外あっさり引き下がってくれるんだね」

「だが覚えておくといいミラー!我々はいつでも君を遊撃隊に歓迎するということをッ!」

 

 

そんな捨て台詞を吐きながら彼らは一箇所に集まり...

 

『テレポート!』

 

光に包まれ消えていった。

所々焼かれた跡の残る森に残されたのはヴェスト一人。

散々暴れ回ったせいで里の方向も向かってきた方向も北も南も何もわからない。パーティメンバーのカズマ少年たちはとっくにめぐみんやゆんゆんの案内によって里にたどり着いているだろう。

ヴェストは完全に置いていかれた。

 

 

「え....どうしよ」

 

 

迷子である。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

「テレポート!!」

 

 

最後の強硬手段。

対デストロイヤー戦でベルディアに行ったことと同じ容量であらかじめカズマ少年に座標を指定していたテレポートを彼らと合流すべく発動させる。

景色は光に包まれ一転する。

そして次の瞬間に目に入った光景は白い湯気のたつ木製の建物の中、つまりは浴場の中だった。

 

 

「キャァァァァァァァァァァァァ!?」

 

 

女性が上げるような悲鳴が上がる。

しかし残念。そこにいたのは猫型ロボットが出てくるアニメのお風呂好きな静かな女の子ではなく、茶髪の少年。カズマ少年だった。

全くもって嬉しくないラッキースケベである。

これがエリス様だったらなぁ。そんな目でヴェストはカズマ少年の裸体を見下した。

 

 

「な、ななななななんだよお前ぇぇぇ!!覗きか!?覗きなのか!?てかなんだよそのゴミを見るような目ぇ!俺被害者なんだけど!?ねぇ!?」

「すまん、つい....」

「ついじゃねぇよぉぉぉぉぉぉ!!!さっさとでていけぇぇぇぇぇ!!」

「どうしたカズマ不審者か!?」

「いぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

続いて突入してくるダクネスと紅魔族の女性。

風呂場にカズマ少年の悲鳴が響き渡った。

ヴェストの鼓膜は破壊された。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

「では、ミラーさんはダクネスさんとアクアさんと一緒に、カズマさんはめぐみんと一緒に、ということでいい夜を〜」

 

 

傷心中のカズマ少年を放っておいてダクネスとミラーの必死の言い訳&弁護によって誤解を解くことはできた。男の体を狙ってテレポートで浴場に侵入してくる変態だなんて烙印を押されたその日にはそれを聞いた者全員を滅ぼして口止めしなくてはなどと考えていたためなんとかなってよかった、とヴェストは胸を撫で下ろした。

ヴェストは悪魔であってもサキュバスなどの夢魔の類ではないのだ。性欲はほとんどない。

エリス様に向けている思いはなんだって?

アレは愛だ。純粋なる愛。そこにエロスなどの不純物は一切含まれていない。ヴェスト本人はそう宣っている。

それ故にタチが悪いのだが。

 

 

「うーん.....」

 

 

そんな愛を得たい悪魔ヴェストはめぐみんの母ゆいゆいにかけられた魔法で眠りこけるダクネスと酒に飲まれて眠るアクアの横で部屋の隅に積まれた一見ガラクタの山のようなものを漁っていた。

確かここの主人であるひょいざぶろーはあのウィズが経営する店に置かれる面白おかしく、その奥が致命的な欠陥を抱える面白商品を作っている張本人だと聞く。

ヴェストも一度行ってみたがどれもろくに使える物ではなかった。

しかしその一部は欠陥を除けば十分に使える者であったり、本来の目的以外に使えばなかなかの効果を発揮しそうなものなど、使い用によっては豹変する...かもしれないアイテムも含まれていた。

片っ端から鑑定魔法をかけて調べて行く。壊したりうっかり起動させないように慎重に。

そしてついにとあるものを見つけた。

 

 

「これは.....」

 

 

[神さえも狂わす薄い本のチート媚薬(発掘品)]

ヴェストが決める!価値ランク!:マジヤバ

効果:象だろうが一滴で発情...などというレベルではなく神や地獄の公爵級悪魔にさえ効果を発揮する。飲料水などに混ぜて使えば気になるあの子もイチコロ。さあ君も薄い本の主人公になろう!

※常人が使えばその匂いだけで意識が飛びます。使用には十分注意しましょう。命の保証はありません。

 

 

製作者:謎の天才先生科学者X

 

 

 

「..........」

 

 

明らかな危険物である。

作成者もひょうざぶろー氏ではなくどこかみたことのある人物。

魔神でも封印していそうなほど厳重に魔術と未知の材質で作られた物質によって封印されていた時点でわかっていたがここまでとは思わなかった。

普通の人が見つけたら即ボッシュート案件。下手したら神器並みの危険物。

しかしヴェストの頭には迷いが生じてしまった。

 

 

(これを使えばいけるのではないか?)

 

 

ナニをとは言わない。

先程まで純粋な愛がどうとかの賜っていたのは嘘だったのか。

一筋の汗が彼の頬を伝った。

 

 

『どうせ神と悪魔は正当法じゃぁ結ばれねぇんだ!やっちまえよ!』

『いけません。悪魔ヴェストよ...考え直すのです....性欲にまみれた関係などただ虚しいだけです。そこに愛など無いのです』

『お前本当に僕か?』

 

 

脳内で天使と悪魔の囁きが聞こえてくる。

たしかにこのままじゃあの方の愛を得るなんて不可能に近いだろう。だが、これを使ったとしても真実の愛など得られないだろう。

目先の欲望に従うか、叶うかもわからない夢のためここは我慢するか...

 

 

「...は、僕は悪魔だ。そんなこと最初から決まっているじゃないか」

 

 

ヴェストはビンを握りつぶした。

人間の悪感情を食とする悪魔がいっときの感情からくる欲望に流されてどうするんだ。

待って待ってただひたすらにその時を待つ。

人間の悪感情も共に時間をかけて積み上げた幸せを、信頼を裏切って手にする物の方がより濃厚で、甘美な物のように、我慢すればするほど、それを得た時の喜びは大きくなるものなのだ。

僕は正当法であの方の愛を勝ち取ってみせる。

 

 

「.....あーー飲み足りないわ!もっと持ってきなさーい!...むにゃ...」

 

 

咄嗟に自分の握りつぶした手を結界で覆い媚薬の流出を防ぐ。

危なかった。ここには自分以外にもいたのだった。

このまま気づかなかったらゆいゆい氏のいうような“何か”が起こってしまうとこだった。この時ばかりはこの酔っぱらい宴会芸の神様に感謝しなくては。

 

 

 




ヴェスト「勢いで壊しちゃったけど...似たような見た目の媚薬(効果は普通並み)を作っていれときゃばれへんか」


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過去のトラウマは思いもよらぬところでやってくる

お気に入りがなんと990に...!
もう少しで1000いくんじゃないですか!?
皆さん読んでくださり本当ありがとうございます!

うちのクラス何個分だこれ...


「その腕どうしたんだ?」

「...気にしないでくれ」

 

翌日、ヴェストはその腕に明らかにヤバそうな血文字の呪文が書かれた包帯を巻き付けてゆいゆいさんが用意した朝ごはんを食べていた。

勢いだけで昨晩握りつぶしてしまった媚薬は手に染み付いてしまいなかなか落ちない。

一度手だけ再構成し直そうとも匂いは残ったままだった。

このままでは非常にまずい。特にカズマ少年のカズマ少年のが。

彼は普段ヘタレだが媚薬にやられた、などの大義名分があったら堂々と手を出すタイプの人間だ。間違いない。悪魔の勘がそう囁いている。

しかし常時結界を展開し続けるわけにも行かない。そこであの瓶に巻き付けられていた封印具を模倣したこの魔道具を作り上げ、巻き付けているというわけだ。

非常に厨二臭い格好だが、一般的な服装が厨二臭いこの紅魔の里では逆にしっくりきている。コレで髪を白髪から黒髪にしたら完全に紅魔族だ。なんか嫌だな。

そんなこんなで朝食を食べ終え、めぐみんの提案で里を回ることとなった。なんでも御神体やら聖剣やら面白そうなものがあるらしいが...

 

「...なにこれ」

 

なんだこれ

それ以外の言葉が出てこなかった。

昔親友が故郷の神殿と言って再現していた”神社“らしき建造物に丁重に祀られた...

 

「どう見ても猫耳スク水少女のフィギュアなんですけど」

 

もう、なんというか、訳がわからない。

めぐみんもこれを御神体だと言い張るし、これを崇め始めた理由も昔助けた旅人が”これはこれの命よりも大切な御神体なんだ“と言っていて、なんの神かは知らないけどなんか御利益ありそうだったからという適当すぎる理由。

ふざけんな。そんな適当な理由で存在しない神(神かさえもわからない)を崇めるくらいだったらエリス様を崇めろや。

ヴェストは怒り....というか呆れた。

 

次に訪れたのは岩に刺さった大剣。

聖剣などと大層な名前を付けられているそうだがヴェストの得物である墓標よりも小さく細く薄く弱そうだ。いつぞやのヨツルギ?少年が持っていた魔剣グラムのような神聖さも全く感じられない。

 

「これは観光客寄席として鍛冶屋のおじさんが作ったもので丁度一万人目に抜ける魔法がかけられています。ちなみに挑戦料もかかります」

 

ここまでくるといっそ清々しい。

刺さっている岩ごと抜くなり突き刺さっている刃先を折って取ったことにしてやろうか。

 

「ミラーはやめてくださいね」

「え?どうして」

「折る気満々じゃないですか」

「...チッ」

 

そして次はなんの変哲もない池....な訳がない。

 

「ここは願いの池と呼ばれる泉です。斧やコインを捧げると金銀を司る女神を召喚できるとか」

 

まあただの噂なんですけどね。

一瞬でも期待した僕が馬鹿だった。

投げ込まれた斧やコインは女神の元に召し上げられるのではなくそのまま鍛冶屋のおじさんに鉄の山にされるそうな。

いい性格してるよ鍛冶屋のおじさん。

 

「わ、ちょ、アクア水かけないでくれないかい?」

「へっへっへ、悔しいならやり返してみなさいよ!」

「あ?やんのか?」

「次行きますよー」

 

そして最後は....

 

「ここは世界を滅ぼしかねない兵器が封印されている近い施設です」

「いきなり物騒なのきたな」

 

うん、すごい見覚えある。

というかこれ僕と親友が作ったやつだし。

国に国家予算使ってゲーム作ってることバレたくないからって作り上げた秘密基地の一部だもん。そりゃー見覚えありますよ。

でもおかしいな。この中にはゲームと彼の作り上げた数個の兵器が入ってるだけ。そのどれもが殴れば停止するようなもので世界を滅ぼしかねないものなんて入っていないはずなんだが。

あえてあげるのなら「魔術師殺し」か?

あれなら魔法を一切通さない性質から紅魔族に取っては天敵となり得るからな。と言ってもアレはコストがかかりすぎたせいで廃棄された失敗作だったはずなんだけど...

 

他にも「邪神が封印されていた霊」だの「なもなき女神が封印された土地」なんてものもあったそうだが二つとも色々あって解けた...らしい。

ザル封印すぎないか?僕もここに封印されていればもっと早く目覚めれたかも知れないまである。

というかアルカンレティアで出会ったウォルバクって確かこの辺に封印されてたはずだったような...

 

「おい!その世界を滅ぼしかねない兵器とやらは大丈夫なのかよ」

「だ、大丈夫ですよ!あそこの封印は誰にも読めない古代文字で書かれていますから!さ、さて、観光はこれくらいにして行きたいところがあるのですが...」

「ほんとかよ...」

 

これがのちのフラグになるなんて、その時の僕たちは思いもしなかった...

 

 

「不吉なこと言うな!」

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

「昔ゆんゆんにもらったローブなのですがこれ一着だと何かと不便でして...これと同じものはありますか?」

「ああ、そのタイプのローブならちょうど染色が終わったやつがあるよ」

「とりあえずここにあるもの全部ください」

「おお!あのめぐみんがずいぶんブルジョワに...冒険者として成功したんだね?」

「ええ、そろそろ私の名が里に聞こえてきてもおかしくないくらいに...と言うことでお金持ちになる予定のカズマ、お金を貸して...カズマ?」

 

成功しているにはしているのかも知れないがそこまでお金は持っておらずカズマにたかろうとするめぐみんを放ってカズマ、アクア、ミラーの3人は皆が皆一つのものに視線を送っていた。

洗濯物を干す物干し竿がわりにかかけられた黒く金属光沢を帯びた所々凸凹している細長い筒状の何か。

 

「どう見てもライフルなんですけど...」

 

ライフルである。

地球に存在するあの長距離から敵を射抜くことのできる兵器、ライフルである。

なんでこんな物騒なものが物干し竿がわりにかけられているのか。2人の疑問は尽きない。

しかしヴェストはそれどころじゃなかった。

 

「な、なんでレールガン(仮)がここに....!?」

 

顔面蒼白冷や汗ダラダラ。

声を押さえているため二人にはバレていないが明らかに異常である。

 

(レールガン(仮)....初代紅魔族がバッテリー不足でうんともすんとも動きもしない「魔術師殺し」の対抗策として作ってほしいとか言ってごねて作らされる羽目になった化け物兵器...!)

 

ちなみにレールガン(仮)は(仮)までが名前である。

 

(そして親友が「お前どうせ簡単には死なねぇし人体実験しよ(笑)」とか言って僕の体を半分吹き飛ばしたクソ兵器ッ!!)

 

そう、ヴェストはこの兵器で一度殺されそうになっていたのだ。

レールガン(仮)から放たれる超高密度の魔力で体の半分以上を吹き飛ばされた挙句、弾道上に残留した魔力によって体を再構成する自分の魔力を阻害されて死にかけた。本物の肉体を持たないヴェストにとっての天敵とも言える兵器だった。

ちなみに封印前の首都決戦でも容赦なく使われた。

あの時は本気で命の危険を感じたものだ。

 

「おや?お客さんそれが何か知っているのかい?それはうちに代々伝わる由緒正しい物干し竿でしてね、錆びないから重宝しているんですよ」

 

なんつーもん物干し竿に使ってるんだよ...

ヴェストが紅魔族に少しの恐怖を覚えた瞬間であった。

 

 

「ふう、あらかた名所は回り終えましたかね」

「見晴らしのいい場所ねぇ。風が気持ちいわ」

 

めぐみんのローブの会計を済ませた後、アクアの「ムーディーな場所に行きたい」と言う提案でむかったのは里を囲む山々の緩やかな草原。カズマ少年も言っているが弁当を食べたくなるような場所だ。風が気持ちいい。

 

「もっといい景色が見たいなら山の頂上に展望台がありますよ。超強力な遠見の魔道具が置かれていますから魔王の城とか覗き見し放題です。おすすめの監視スポットは魔王の娘の部屋らしいですよ」

「お前ら魔王の城ですら商売にすんのか」

 

そんな紅魔族の恐ろしさを垣間見える会話にまたしてもヴェストが顔を顰める。今度は恐怖、と言うよりも不快感のようなものを感じ取れた。

 

「お?どうした?」

「いや、ちょっとね...」

 

彼女は少し苦手だな。

ヴェストは心の中で小さくつぶやいた。

 

「ん?あのあたりめぐみんの実家の近くだよな?魔王軍の連中が入り込んでるぞ?」

 

おっとこれはこれは、あんな目に遭ってもまた来るなんて懲りないな。

ヴェストは自慢の”でびるずあい“で魔王軍の姿を確認する。

相変わらず下級悪魔もどきで構成された雑兵ばかり。

 

「早く行くぞ!」

「りょーかい」

 

掃除の時間だ。



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古い記憶との再会

あけおめです(激遅)
最近バタバタしていてなかなか書く暇がありませんでした。
主にテストとかテストとかテストとか....
うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!

と言うわけで更新です。
...みてくれる人いるかな


「....どーしよ、あれ」

 

“掃除の時間だ”などと格好つけていたヴェストはとある問題に直撃していた。

それはダクネスが対峙する悪魔もどきの中に厄介生物が見られたのだ。

触手を纏った黒い大きな目玉、その名のゲイザー。

観察者の異名をもつ異形がフヨフヨと漂っていた。

見た目は気持ち悪くSAN値チェックの入りそうなものだが問題はそこではない。

先程述べたようにゲイザーは”観察者“だ。

その巨大な目で見た景色を他者に伝える能力を持っている。

例えば群れの仲間に、術者が使役しているものならば術者へと。

そして何より、ソレからはとても見覚えのある魔力が感じられた。

 

(うっわ...どうしよう...)

 

こうしている間にもカズマ少年たちはダクネスへの増援へと走ってゆく。仲間である自分がそれに続かないわけにはいかない。

ならば...

 

(ここから排除すればいい)

 

大気の熱が一点に集まってゆく。

うねり、歪み、形作られてゆく。

魔力を凝縮、凝縮、圧縮し...放つ。

ただそれだけの荒技。

 

「緋槍」

 

赤く燃え盛る聖槍は緋色の軌道を描いて、異形の目玉を見事貫いた。

 

「スットラァァァァァァァァァァァァィクッッ!!」

「ソレがなければカッコよかったのに...」

「ふぅ、ダクネスに当たらなくてよかった」

「ちょ!?」

 

あれ?お前剣士じゃなかったの?という今更すぎるツッコミは入らない。

悪魔に不可能はないのだ。

念のためサイドポーチから帽子を取り出し、深めに被っておく。

念のため。念のためだ。

観察者一体破壊されたからってアイツがここに来ることは考えにくい。

だがアレの執着は異常だ。

最後にあったのが封印される数百年前だというにもかかわらず、先程のゲイザーから感じられた魔力には溢れんばかりの執着が感じられた。

絶対に見つけ出してやるという。

魔王城へ挨拶に行った時もアイツにはあっていないはずだ。ソレどころか見つからないよう細心の注意を払っていたはずだ。

まさか封印された数百年前からずっと....

 

やばい、鳥肌たった。

 

流石にないと思うが...会いたくないなぁ...

まあそれは置いといて、

とにかくまずは目の前の問題から解決するとしよう。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

「悔しいけど今日は引かせてもらうわ....私の名はシルビア。また会いましょう?ミツルギ」

「魔王軍幹部シルビア...か」

 

「さすがだカズマ少年、大根役者の称号をやろう」

「るっせぇ!!」

 

いや確かにあの青年なら言いそうだが、カズマ少年がいうと...ねぇ?

 

強キャラ感を出して登場した魔王軍幹部シルビアは名乗るだけ名乗ってそのまま尻尾巻いて逃げていった。

結局何がしたかったのかはわからないがとりあえず危機(?)は去った。

あとでこっそり処理しに行こうか。厄介ごとは事前に処理するのが一番だ。

格好をつけているカズマ少年には少し悪いことをするが....

 

 

 

 

 

と思っていた時期が僕にもありました。

 

「いやー明日には帰る予定だったから格好つけてみたかったんだよね」

 

多分いもしないお父さんお母さん、僕を飲み込んだ仲間は、想像以上のクズでした。

これぞ人間!自分の意思で自分の好きなように生きる!さすがはカズマ少年だ!

※ヴェストの好感度が一上がった

 

「あ、皆さんお風呂が沸きましたよ」

「あ、どうも先入らせてもらいますね」

「待てクズマ!話は終わってないぞ!!」

 

代わりに仲間の好感度は下がったようだ。

 

「じゃあ明日には帰るってことでいいのかな?」

「はぁ...魔王軍幹部相手に爆裂魔法を打ち込みたかったですが仕方ありませんね」

「そっか、確かにこの里の人たちだったら魔王軍ぐらいどうということなさそうだしね。よかったじゃないかめぐみん。心配が杞憂で終わるっていうことはいいことなんだよ」

「そ、そういうことじゃありません!!」

 

扉に手をかける。

 

「どこに行くんだ?こんな時間に」

「せっかくここまで来たんだしさ、せっかくならもう少し里を回ってみようと思ってね」

 

主に工場とか工場とか工場とか工場とか工場とか工場とか。

あそこは確か“げーむ”を作る工場だったはずだがデストロイヤーみたいな黒歴史が埋まっていないとも限らない。

何せ彼と共に作り上げたトンデモ兵器はデストロイヤーや魔力が足りず起動できなかった魔術師殺しやレールガン(仮)の他にも沢山あるのだ。

“汎用人型兵器がんだぬ“やら”対巨龍用迎撃杭“やら”星殺し“やら。あとあの媚薬やら。明らかに悪用されたらまずいものが盛りだくさんだ。

あまりの危険さにノイズにすらその存在を隠し通したソレがひょんなことから掘り起こされたらまず言ったらありゃしない。

流石のヴェストもそのくらいの良心と常識は持ち合わせているのだ。

...昔面白半分にそのうちの一つを敵対国家に送りつけて戦争を起こさせようとしたのは内緒だ。あの時使われた親友の必殺技、聖拳“お仕置きパンチ“は痛かった。

 

とにかく、そういったヤバい奴がないかを確認しにいかなければならない。村の謎施設にあるという魔術師殺しは...別に放置でいいだろう。魔力の枯渇で動かないアレを使えるものがいるとは思えない。この自分ですら数分で魔力が足りなくなり存在が薄れるレベルだったのだ。

 

「たーしかパスワードは...リバースカードオープン!!エネミーコントローラー!ライフを1000払い、左!右!A!B!」

 

ちなみに「リバースカードオープン!!」からがコマンドだ。勢いよくいうことも重要だったりする。

重い音を立てながら鉄の扉はゆっくりと開かれる。

内部に閉じ込められた古い空気が懐かしさを感じながら噴き出され、光が内装を明らかにしていった。

あの頃のままだ。

紙などは食い散らかされたり風化したりと原型をとどめていないが非常に見覚えのある景色だった。

 

「懐かしいな」

 

手に取った設計図は塵となって崩れ去った。

しかしそこには確かに親友と自分が生きていた証があった。

懐かしく、暖かかったそれが、確かにそこにあった。

 

 

『のわぁ!?動いたぁ!?何これこわい。まだ俺動力源入れてないんだけど?』

『え!?まじ!?悪魔!?ええー!どうしよう!悪魔はダメって神様に言われたんだけどな...まあとりあえず俺の名前は◼️◼️◼️◼️だ。よろしくな』

『うぉぉぉぉ!!すっげ!動いた!こいつ!動くぞ!』

『なあ聞いてくれよ!あの魔道帝国の国王直々に“うちで働かないか?”って誘いを受けちゃったよ!いやー俺のチート人生が始まっちゃうかなぁ!?』

『やべぇ、税金で飲む酒がうめぇ』

『このまえ◼️◼️◼️に教えてもらったんだけどよ。近くにめっちゃかわい子ちゃんのいるHな店があるらしいんだ.....行ってみねえか?』

 

 

『なあ、ヴェスト。お前がなんでそこまで人間を嫌うのかはしらない。けどさ、もう一回ちゃんと見てほしいんだ。人間ってのを。俺みたいな屑も確かにいるかもしれない。けどみんながみんなそうってわけじゃないんだ。少なくともお前の周りの奴らはみんな優しくて暖かいだろ?』

 

 

『人間ってのもそこまで捨てたもんじゃないんだ』

 

 

「.......そうだな。捨てたもんじゃない」

 

壁を手でなぞる。

数々の傷のつけられたその中に一つ。

二つの名前が刻まれていた。

 

「...進もう」

 

所々崩れち瓦礫の散乱する廊下を歩いてゆく。

 

「確かこの先はあいつの部屋だったか」

 

「所長室」と書かれた立派な扉がかつての形のまま残されている。

よく入る時は「ノックしてね!」と言われたソレはかつてのように叩くと役目を終えたように崩れ去る。

その先にあったのは崩れた天井からさすが月光に照らされた親友の部屋。

無駄に凝った装飾の机と椅子、座ったら二度と立ち上がれなくなるような心地よさを持っていたソファー、親友が読み漁っていた本の数々。その残骸。

 

そして穴だった。

 

「...なに?」

 

正面に置かれた机と椅子の残骸の奥の壁に広がる真っ暗な穴。

施設の最奥にあるこの部屋にはあるはずのないソレが大きく口を開いていた。

 

「地下室への階段かな...?」

 

老朽によって崩れ去ったであろうソレの奥には下に続く螺旋階段があった。底の見えないほど真っ暗な。

エロ本の隠し場所か?それとも...まさか秘蔵の酒の隠し場所か!?

ヴェスト足を踏み入れる。

しかし親友の秘密を暴けるとウッキウキなヴェストは気づかなかった。

あまりにも長い年月が経ち、扉や天井が崩れ去っているように、この階段が無事なはずがない...ということに。

 

「うわぁぁぁぁぁあ!?」

 

ヴェストは闇の中に消えていった。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

「いてててて...」

 

体についた埃を払う。

人間だったら落下し確実の高さだが悪魔である彼に取ってはどうということはないのだ。どちらかと言うと一緒に落下した瓦礫に埋もれる方が鬱陶しくて嫌だったりする。

 

「ここ...は............なんだあれ」

 

落下した先は光の届かぬ暗闇、と言うことはなく、未だ稼働し続ける光の魔道具によって明かりは確保されていた。

そこは一言で言えば簡素な私室。

床には魔法で保護された“畳”と呼ばれるものが敷き詰められ、同じく壁も保護の魔法をかけられた木製の暖かそうな印象を与える一室だった。

 

そして何よりも目を惹くものが一つ。

 

「日記帳か?」

 

使い古された小さな日記帳。

ヴェストは静かにページを捲る。




魔王の娘ちゃんって調べても全然情報が出てこないんですよ。
私も最後まで読んだことないですし...やべぇ!にわかがバレちゃう!
なんか知っていることがあれば教えてください(読者に頼る屑)
もしないんだったら多分このまま半オリキャラ化すると思う。


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とりあえず親友、てめーは一発殴る

とあるタワーディフェンスゲーでドクターやってました。
ところでみなさんソシャゲって何やってます?
私はcodとアークナイツ
このファンはたやってない(じゃあなんでお前このすばの小説書いてんだよ)


⚪︎月×日

 

計測器が過去に類を見ないほどの魔力群を感知した。

初めは計器の故障を疑ったが何度測り直しても同じ結果しか出ない。

マジでなんなの?アクシズ教の祭壇に酒をお供えした時以上の反応だわこんなん。ちなみにお酒は気に入ってもらえたのかいつの間にかカラになってた。でもあそこ信者怖いから二度と行かない。なんで石鹸押し付けてくんだよ。嫌がらせか?

あれほどの魔力群を放置したままだと多分、と言うか確実に魔力災害が起きるから少しずつ収集してくことにする。

昔へましてあたり一面更地にしちゃったことを俺は忘れない。

得体の知れないものを触る怖さとこれで開発が捗るなぁ!と言う嬉しさが半々と言ったところだろうか。

 

 

⚪︎月◇日

 

作り上げた美少女型ロボットと戯れていた時のことだ。

計器が突然一斉にアラートを鳴らし始めた。すわ何事かと思って確認したら例の魔力群に変化が起こって一部に集まり出している。

うっわー、だめだありゃ。非常にまずい。バルカン半島並みにやばい。

爆発寸前だよ。あんなん爆発したらここら一帯更地どころじゃ済まねーぞ。多分俺も無事じゃ済まない。この建物は丈夫に造られているが流石にあれには耐えられまい。

....逃げるか。

ここら辺には俺以外に人はいないはずだ...多分。

責任感は無いのかって?あ?んなもんねーよ!命よりも大切なものはない!

そうと決まったら急げ急げ。多分あと数日のうちにパーンだからとりあえず回収&結晶化した魔力と計器とうちの嫁たちと.....

 

 

⚪︎月×日

 

なにこれ。

マジなにこれ意味わからんたすけて。

 

なんだよ“汝が私を呼び起こした者か”って。

 

こえーよ。お前なんか呼んでねーよっつったらなんか黙った。

拗ねてる?

意味わからん

 

 

⚪︎月△日

 

とりあえず状況を整理しよう。

昨日はいきなりの展開にテンパってそのままベットインしたからその分も書いていこうと思う。

 

話をしよう。

あれは36万...いや、6時間三十分前だったか。

まあいい

私に取ってはつい昨日の出来事だが...って普通に昨日の出来事だったわ。

とにかく、昨日俺が逃げるための身支度をしてる時、それは起こった。

嫁たちをあらかた脱出用のトラック(自作)に突っ込んで俺は気づいた。

あ、あのコーヒー飲みかけじゃんってね。

俺はそう言うの無駄にしないタイプだから。ご飯粒とか一粒も残さないタイプだから。

んで手に取ったのよ。でも色々重いもの運んでたせいか手が疲れててね?こう、手がツルッと...わざとじゃ無いんだ!

そのままコーヒーカップは地面に激突、無惨にも砕け散り中身のコーヒーはあたりに飛散。俺の白衣も悲惨なことに。

そして拾い上げたコーヒーカップでたまたま手を切ってしまい、たまたまその血がコーヒーの散らばったところに落下。

 

突然床に魔法陣のようなものが現れ発光し始めた。

 

何事かと思いよく見るとつながってんのねこれ。片付けのために一旦散らかした物たちとコーヒーの液が見事なサークルを描いていたんだ。

そして気づいたときにはもう遅し。偶然に偶然が重なりたまたま、中央に置かれた(しまい忘れで制作途中だった)嫁の体に光が集中した。

そしてそれは開くはずがない目を開けて俺をじっと見つめてこう言い放ったんだ。

 

“汝が私を呼び起こした者か”

 

いやしらねーよ?俺なんもやってないもん。たまたま偶然に偶然が重なった結果だもん。これで責任取れとか言われたら怖いじゃん。

だから俺はこう言ってやった。

 

“違います”ってね。

 

俺頑張った。めっちゃ怖かった。ただの人間なはずな俺でも感じ取れるほどの濃厚な魔力と殺気?を放ってたもん。

でも言ってやったんだ。流石に死を覚悟したにねあの時は。

次の瞬間にはエリス様が目の前に立ってんじゃないかと思ったもん。

 

でも俺の予想に反してやつはなにもしなかった。

それどころかじっとこちらを見つめてそのまま部屋の隅っこに行ってうずくまった。すみっコぐらしかよ。え?なに?拗ねてんの?え?可愛いじゃん。

そんなこんなで色々な感情がごちゃ混ぜになって状況が理解できないままそのまま意識を手放してそのままベットイン(床)。

まあここまでが昨日までのこと。

 

そんなこんなで目を覚ました俺の前には光の灯ってない瞳&表情が抜け落ちたような無表情で見つめる美少女。ちょっとちびった。

俺が作り上げた美少女ぼでーでもそれは怖い。

ちなみにそいつはこうやって日記を書いて状況を整理する俺の隣にくっついてじっと眺めてる。ひんやりとする。

日本語で書いてるから読めないと思うけど...大丈夫だよね?

 

 

⚪︎月⭐︎日

 

結局ごまかすことはできなかったようで今もそいつは俺のことをマスターやら主やら呼んでついてくる。

なにこれ可愛い。でもこいつの正体、多分あの魔力群だよな。その証拠にアレは跡形もなく消え去ってたし。

多分精霊とかそう言う実態を持たない種族だと思う。

でも今はそんなことどうでもいい。だってめっちゃ可愛いもん。俺のベストを尽くして持ちうる技術や性癖やらを詰め込んだ美少女がこうやって意思を持ってトコトコとついてくるんだよ!?いやー三次元も捨てたもんじゃないな。可愛いは正義だ!でもなんでか胸が縮んでるんだよね。それだけは解せない。

 

 

⚪︎月◆日

 

悪魔でした。

この子悪魔でした。

あーアクア様エリス様お許しをー

どーしよ。悪魔とか聞いてないんですけど。

でも不幸中の幸いか、この子種族以外の以前の記憶がないらしい。

おっしゃぁぁぁぁ!!テメェをこれから俺好みの悪魔つ娘に仕立て上げてやんよ!

名前も覚えてないらしいけどなんかヴェストって名乗ってた。

多分俺が昨日言ってた“ベストを尽くした”ってとこのベストを鈍ってるんだと思う。あんま可愛くないなー...アリスとかレイチェルとかが良かった。けどま、いっか。ところでさ...たまたまとはいえ記憶喪失の美少女に名付けるってさ....よくない?悪魔だけど。

 

ちなみに胸がなくなったのは、悪魔で性別がないため、俺の美少女ゴーレムを元に体を再構成するにあたって不要なものとして削ぎ落とされたらしい。解せぬ。

 

 

⚪︎月▲日

 

やばい、この子の記憶障害、俺のせいかもしれん。

この子みたいな精神体って魔力と魂が強く結びついてるらしくって、それが減ると存在自体に影響が出かねないんだって。俺の美少女ゴーレムを元に体を構成したのもただでさえ足りない魔力を体の構成とかで無駄にしたくなかったかららしい。

そこで俺は考えた。

 

”あれ?それって記憶とかにも影響するのでは?“

 

 

うん。確実にするだろこれ。

俺のせいだわ。この子の記憶ないの。

返せるっちゃ返せるんだけど....ぶっちゃけ返したくない。

こんな可愛い子でも悪魔は悪魔。元々はどんな邪悪な性格をしていたのか知れたもんじゃない。それに俺が召喚主だから対象外らしいが、なんでかこいつは人間に対して極端な嫌悪感、それどころか殺意すら持っている。しかもあれほどの魔力を本来持っていたんだと思うと無理。魔王を越える裏ボス誕生しちゃう。

あの時全体の約3分の2くらい回収してたにも関わらずこの存在感。

無理っしょ。とりあえず回収した魔力結晶は封印決定。

絶対にあの子に見つかっちゃだめだ。

あの子以外にも見つかっちゃだめだ。絶対悪用される。

俺だけしか知らないところの隠そう。

幸いにも候補はいくつか既に確保している。

今度隠しに行くことにする。

 

 

封印場所はこのノートの最終ページに記す

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇー?いいこと見つけちゃったな」

 

とりあえずあいつは天国か地獄かは知らないが見つけ次第一発殴る。そう決意してヴェストは本を閉じた。

それとちょうど同時に大きな衝撃がが地下室を襲う。

感じる魔力はあのグロウキメラのシルビア、そして滅したはずのスライム、ハンスの魔力。

また懲りずに襲撃を仕掛けてきたらしい。

 

「まあ、まずは目の前の問題を解決してからにしようか」

 

何も無い、虚像の翼が羽ばたいた。

 

 

 

 

世界は再び虚像に包まれる

悪夢の再来は近い




ヴェスト君のスペック紹介のコーナー

固有能力:虚像
・相手に限りなく本物に近い幻覚を見せる。実害はない。(安楽少女に使用)
・自分の魔力塊を別のものに見せる。ちゃんと触れるけど硬度や重量は違う。(ベルディアの体作成時に使用)
・現実改変。そのまま。真実は虚像に覆い隠される、現実を自分の思った通りに変えるとか言う厨二&チート技。(紅魔の里魔王軍襲撃時に使用、森の一部が消滅。その復元にも使用)
・ギャグ漫画系オリ主補正。どんなピンチもなんらかんだ生き残るゴキブリ並みの生命力を獲得。しかし同時に肝心な場面で役に立たないorやること全てがマナイナス方向へ影響するクソ雑魚なめくじ系オリ主へと変化する。なおこれらの補正はシリアスな場面以外で常時発動状態となる。←new

魔法
炎属性。御三家だと赤トカゲタイプ。
あれ実は地獄の公爵特有の固有能力じゃないんです。

得物
『墓標』
剣の皮を被った鈍器。殴れば相手は大体死ぬ。


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ヴェストクオリティ

少し(一週間)遅れてしまいました。
やる気が起きなかっt...すみません。


前回のヴェスト君のキャラ設定に重要な一点が抜けていたので追加です。今話の途中でも出てきます。

ヴェスト「なんでや!?」


一面に広がる清々しいまでに美しい青空。

そこには雲ひとつなく、空気も地上付近に比べ圧倒的に綺麗だった。

雲や塵に邪魔されることなく一面に美しい星空がうかがえる。

そしてそんな美しい景色に異物が一つ。

本来頭があるべき場所からドス黒い瘴気を撒き散らしながら高速で飛行するデュラハンもどき。

 

そう、ヴェストである。

 

え?ベルディアじゃないのかって?あの状況でどうやったらこうなるんだよ。(30話参照)その点で言えばヴェストもどうやったらこうなったのかと言うツッコミが入りそうだが、それは置いておいて...

置いておくな?

わかったわかった。

じゃあ少し時間を遡るとしよう。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

「ここでぇ!ここで終わらせてなるものか!!ここからぁ!!私の人生を始めるぅぅ!!その先に行ぐ!!」

 

「やばいやばいやばいやばい!!!」

 

ヴェストが青筋を立てながら日記を読んでいた間に討伐完了したと思われる魔王軍幹部シルビア。それはアクアの立てたフラグによって見事復活を遂げた。

ラスボス戦の第二形態のように魔王軍幹部シルビアはパワーアップして三途の川から這い戻ってきた。

その身はアルカンレティアで討伐したはずのデットリーポイズンスライム、ハンスに包まれ、さらにそれをおそらくアクセルで頭部だけ討伐し損なったデュラハン、ベルディアの胴体部分と思われる漆黒の鎧が包んでいる。

まさに悪魔融合、正真正銘化け物の誕生である。

アクアのフラグ回収能力には毎回驚かされてばっかりだ。

 

「危うく魂が持ってかれるところだったわ!あんたたちは絶対に潰す!!」

 

四つ足の形状し難い化け物となったシルビアは自分の生えているスライム部分から大量の酸を津波のように吐き出した。

 

「やばいやばいやばい!はしれはしれはしれぇぇぇぇぇ!!」

「カースドクリスタルプリズン!!」

 

しかしそれは何者かによって放たれた魔法によって熱を奪われ凍りつくことで動きを止める。

 

「カズマさん!これは一体どう言うことですか!?」

「ウィズ!?どうしてここに!?」

「姑息な生活の知恵に長けた小僧よ、汝のアイデアグッツを商品化するためにこの里の職人に会いにきたのだが....うん。我が身可愛さで魔道兵器の封印を解き放ったと...」

「フォワ!?」

「見通す悪魔に隠し事はできない」

 

ここにいるはずのないウィズ、そしてバニルによってこの現状の元凶を見破られたカズマ少年は奇声をあげ、じっとりとした視線が向けられた。

 

「しかし里がなくなってしまっては商売も不成立...いやーこれは困った困った...」

「ちょっと!カズマの小狡いパテントでたっぷり贅沢させてもらえるんじゃなかったの!?」

 

アクアがそう叫んだ次の瞬間、固められたはずの氷が叩き割られ、そして裏切り者どもの存在を知ったシルビアによって地形ごと破壊された。

 

巨大化したベルディアの剣(以下ベルディアブレードとする)を振り回し、打撃を無効化するスライムボディーに魔術師殺しの魔法無効化。

鉄壁の防御は気持ち悪いほどにまとわりついたバニル人形の一斉起爆によっても傷一つ負うことはなかった。

ウィズの魔法による連撃も全て無効化され撃つてなし。

今はポンコツクルセイダーことダクネスに憑依したバニルによって抑えられているがあの巨体と所詮は人間のみであるダクネスではいずれ限界が来ることは明白。

 

(くそ!いったいどうすれば...!)

 

その時カズマ少年の頭に一人の人物が思い浮かんだ。

機動要塞デストロイヤーの装甲を一撃で大きく損傷させ、魔法、そして物理攻撃すら無効化する魔王軍幹部ハンスを単独撃破し、仮にも女神であるアクアとお互いに不完全ながらもタメを張り、そして何よりあのエリス様がまじめに敵に回してはいけないと言った悪魔。

彼がいれば...

 

「ミラー...どこにいるんだよ!!」

 

その声が戦場にこだましたその瞬間。

黒き炎を纏った大剣が化け物を貫いた。

 

 

 

「呼んだかい?カズマ少年」

 

 

 

 

まさに救世主。彼の真後ろから現れた英雄は爽やかな笑みでカズマ少年に話しかけた。

 

「ッ!遅いわ!」

「悪い悪い。でもヒーローは遅れてやってくるものっていうだろう?」

 

 

シルビアは突如現れた乱入者の危険度を瞬時に測り、ダクネスinバニルを無視し、即座にこちらに突撃してきた。

しかしヴェストはその笑みを崩すことなく、振り下ろされた巨大な手を片手で受け止める。

何もかも溶かし尽くす粘液は彼の手を溶かすことはなく、彼を潰すどころか逆に押し返されてしまっている。

 

「やあ悪魔もどき。またあったね。僕の仲間を傷つけた責任はきっちりと取ってもらおうか。もちろん!君の命でね!」

「あ、あなた何者なn!?」

 

シルビアは驚愕の声を最後まで放つことはできなかった。

ヴェストから解き放たれたどす黒い威圧感に圧倒されたのだ。

 

「僕?ただの剣士だよ」

 

ヴェストは余裕の表情でシルビアの振り下ろされた手に力をかけていく。

 

「じゃあ悪いけど僕も君を相手している時間はないんだ。さっさと終わらそうか」

 

ヴェストの腕に魔力が集中し始める。

このままシルビアを吹き飛ばすつもりだろう。

 

 

 

 

しかし、そんな簡単にボス戦が終わるはずもなかった。

 

「....奇遇ね!私もあなたの相手をしている時間はないのよ!!」

「はっ、無駄な強がりd」

 

 

横凪に振り抜かれたベルディアブレード。

カズマ少年が目で追えないほどの速さで振り抜かれたそれは既に鋒を天に向けていた。

そしてその軌道上にいるはずの人物がいない。

 

「....飛んでった」

 

唯一見えていたであろうアクアがつぶやく。

 

「あいつあんだけ強キャラ感出しておいて瞬殺されたんですけどぉぉぉぉぉ!?!?!?!?!?!?!?!?!?」

 

 

これが、ヴェストクオリティである。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

『ギャグ漫画系オリ主補正』

 

どんなピンチもなんらかんだ生き残るゴキブリ並みの生命力を獲得。しかし同時に肝心な場面で役に立たないorやること全てがマナイナス方向へ影響するクソ雑魚なめくじ系オリ主へと変化する。なおこれらの補正はシリアスな場面以外で常時発動状態となる

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

以上がことの顛末である。

 

.....何しに行ったんだろうねこいつ。

そんなわけで現在着地点不明、安全か着陸方法未確立な空の旅を続けるヴェストはベルディアブレードによって吹き飛ばされた頭部を復元しながら勢いに任せたまま鳥になっている。

このくらいの怪我なら即座に治せるのだが、流石の彼も先ほどの失態は恥ずかしかったらしく、超微速で修復活動をすすめている。

そりゃあんだけイキってこの結果なんだからね。

彼の感情が虚像だとしても(自称)恥ぐらい感じるのだろう。

おそらく今顔があったら真っ赤になって湯気が噴き上がっていることだろう。

なおこの光景は終始エリス様にとって監視されていたのだがそれを彼が知ることはない。あのお人好しのエリス様が漏らすことがなければの話だが。

もしそのことを彼が知ったその日には自害などしなくとも自動的に天に召される、いや、今度こそ魂の一欠片も残さず蒸発することだろう。

これまでにも恥を重ねきた彼だが今回のことはそれほどまでに恥ずかしかったのだ。

 

そしてそんな彼の羞恥に塗れた空の旅も彼が気付かぬうちにそろそろ終わりを告げようとしていた。

進行方向に見えてきたのは黒い塔のような影。

それがいくつも立ち並んだような巨大な建造物。その周りを囲むようにして貼られた膜のようなものに彼は頭...はないから首を打ち、パキンッパキンッという気持ちいい音を鳴らしながら進んでゆく。

そしてついにヴェストはその建造物の一角の壁をぶち抜くことで飛行を停止した。

 

頭部を回復させ周囲を見渡した彼の目に映ったのはくずれて崩れてあたりに散らばる頑丈そうな黒い外壁に、対照的な真っ白な部屋とそこらじゅうに置かれた見覚えのある人物を模した人形にポスターに写真に...あれは抱き枕?

そしてその中央に座った雪のような白髪に黒いツノを生やした絶世の美少女とその手に握られた....首。

 

「助けてくれヴェストぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

「あぁ...ヴェスト...

 

 

 

や っ と 見 つ け た

 

 

 

「ヒェ....」

 

 

ここは魔王城。

ヴェストが最も会いたくないと思える人物の住む場所でもある。




特に情報なかったんでもうオリキャラコースへGO。
ユルシテ


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ヤンデレ(?)の描写ってむずくない?

魔王の娘ちゃんのキャラ付けが不安定なまま投稿。いつか直したい。
本当は無口+依存にしたかったけどなんか戦闘狂が追加された。


「会いたかった....会いたかったよヴェスト」

 

”ひぇぇぇぇぇぇぇ“と超高速バイブレーション中の生首ことベルディアを抱えてヴェストは目の前の少女を見据える。

雪のように美しい銀髪に逆さに生えた漆黒の双角。

真紅の瞳は飲み込まれるような錯覚を覚えるほどに美しかった。

だがそれだけだ。

()()を一言で言い表すとすれば“化け物”だ。

人知を超えた存在。生みの親とされる現魔王をも圧倒する化け物だ。

いわゆる”やべーやつ“の一人でもあるヴェストでさえも冷や汗を垂らす。

 

「...一年前、この世界に再びあなたの存在を感じるようになってから、ずっと...ずっと探してた。」

 

ベルディアのバイブレーション機能がより強力になってゆく。

 

「私がここから出ることは許されてないから手下を使って...でも見つからなかった....どこを探しても...でもやっと先日、手がかりを見つけた」

 

真紅の瞳が手元の生首を捉えるとビクンッ!とひときわ大きく震えた。

 

「あの狂人の巣窟で、それを拾った...そしてあなたの情報を手に入れた..................わざわざあの地獄に行った甲斐があった」

 

ベルディアの真上からも二つ目の冷めた視線が向けられる。

それは暗に“てめぇ余計なことしてくれたな?”と語っていた。

 

「明日、私も行こうと思ったけど...よかった。これで約束を破らずに済んだ」

「....まさか僕が今ここに来なかったら君が直接郷に来るつもりだった...と?」

 

頷き一つ。

 

「お父さんとの約束を破ってまで?」

 

頷き一つ。

 

「だって、私にとってあなたが全てだから」

 

「あなたがここに、幹部の称号をもらうため、それだけに襲撃してきたあの時、私は、外を知った。お父様との約束で、外に出れない私に世界を教えてくれた」

 

「何もない私に、色を与えてくれたのは、あなただけだったから」

 

「それに......」

 

ほおをほんのり赤く染め、呟いた。なんか良さげな空気をぶち壊す一言を。

 

「私はあの時、初めて負けた。それはもう、ボロボロに、けちょんけちょんに、乱暴されて、押し倒された」

 

だいぶ誤解を生むような表現だがこの場においてツッコミ役は存在しなかった。純ツッコミ役であるベルディアは機能停止中だ。

ちなみにヴェスト監視中のエリス様は良からぬ妄想をしたのか天界で顔を真っ赤にしていらっしゃる。

 

「あの時の感覚を、私はまだ覚えている。自分より強い者はいない、だから、みんなに恐れられている、という傲慢な考えを抱いていた私を容赦なく、笑顔で叩きのめしてくれたあの時のこと」

 

「初めてだった。悔しかった、ムカムカした、イライラした。でも、なによりも嬉しかった。あそこまで真っ直ぐ私を見てくれた人はいなかった」

 

 

 

 

 

「だから.....もう一回、私と遊んで?」

 

「ッッ‼︎”鉄の処女(アイアンメイデン)“」

 

 

強烈な殺気を感じ取ると同時にヴェストは地面に手を着き能力を発動さる。

『鉄の処女』

かの有名な拷問器具の名を関するそれは瞬く間に大理石のような一面真っ白な部屋を赤黒く錆びつき、一面に針の生えた鉄製の部屋へと姿を変化させる。

 

『閉じろ』

 

その一言で虚像で作られた空間は彼女を包み込むように収縮する。

彼の能力『虚像』によって現実を改変させる荒技はいわゆる「固有◯界」や「生◯領域」に似たようなものに近い。

仮にも元世界を滅ぼしかけた&大国を半壊させた大悪魔。

それをよぶるのは不可能に近い...のだが

 

「アハハハハ!!すごい!すごいよヴェスト!そんなこともできるなんて!」

 

彼女は無傷で、ほおを赤く染め興奮気味に崩壊する虚像の中から姿を現した。

あばばばばばばば、と震えるベルディアはもはや残像を生み出していた。

 

「やっぱ、ヴェストは最高だよ....あ!私が勝ったら私のものになるって約束も忘れちゃダメだよ?だって、あなたは、私、だけのものなんだから。他の人なんかに渡さない。でも、今は、やっと再会できたんだもん。もっともっともっともっともっともっと!楽しいこと...しよ」

 

(逃げろベルディア)

(え...?)

(君用に即席だが足(デストロイヤー型)を作成しておいた。それでカサカサと逃げ切ってくれ)

(だがお前は...!)

(大丈夫、策はある。そしてその策には君がここから逃げ出すことが必須事項だ。奴は魔王城から出られない。どうか、頼んだぞ。)

 

「......っ!すまん!」

 

カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサと音を立て黒光りする生首は部屋から去っていった。

改めて使用してみるが転移系の魔法はほとんど阻害されている。というか設定した転移地点の座標すらリセットされている。

一体どうやったらこんな芸当ができるのか。

妨害は力ずくでなんとかなるが座標点がわからないんじゃどうしようもない。ランダムテレポートは最終手段だ。さすがに“ヴェストはいしのなかにいる“になったら洒落にならない。

死なないとは思うが。

 

「やっと、二人きりになった...ね?」

「ハハハハ、あまりおかしな事を言わないでほしいな。僕には思い人がいるんだ」

「......へー...そっか....じゃあ、お掃除もしなきゃね」

 

「やれるものならやってみろ。その時は私が全力で貴様をこの世から一片も残さず消滅させてくれる」

「アハハ、あなたの手で、死ぬなら、本望。でも、あなたが手に入らないのは絶対に嫌」

 

ヴェストの手には久しぶりに握られた相棒の山刀が姿を現し、彼女が放つ存在感は一層大きくなった。

 

「さあ、行くぞ魔王の娘...いや、アリス」

 

 

後にこの騒動をヒヤヒヤしながら見守っていた女神エリスはこう語る。

「この瞬間()()を切り取ったら彼は本物のおとぎ話に出てくるような英雄だった」と。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

「くそ!クソクソクソ!本当にすまんヴェスト!」

 

廊下を巡回するメイドたちのスカートを旋風のように捲り上げながら爆走する黒光りする謎の物体ベルディアはその奇行とは逆に後悔の念を叫んでいた。

 

「俺に力がなかったばかりに...お前を....!」

 

俺の体がこんな生首だけじゃなければあいつの...

あれ?俺の胴体が消えた理由って....いやいや落ち着け。

くそ!あいつはあんなんだけどいい奴だったんだ。

俺の首を袋詰めにして振り回しながら「半自動食糧生産機〜」とかほざいたり、俺の頭で暇つぶしにヘディングし始めたり、袋いっぱいに食用石鹸を詰め込んだり、面白いからと言ってわざと俺の胴体が浄化されるのを見逃したり.......................

すぅーーーーーー↑

別にこれでよかったかもしれません。

つーか俺首だけになったけど魔王軍幹部だよな?別にこのままここから逃げなくても....いやだめだ。敵対勢力にあのクソ女神とクソ悪魔×2、内側にはあの気狂いお姫様。魔王軍にとどまっても生き残れる気がしねぇ。仕方がない。今はあいつに従って逃げるしかない。あいつの策とやらにかけるしかない。

 

「くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!なんで!俺が!こんな目にぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」

 

苦労人兼変態枠のベルディアは走る。今日を生き残るため。

そして何より

 

「ウィズのパンツを再び拝むまで死ぬことは許されないッッ!!」

 

魔王城の廊下に黄色い悲鳴が響き渡る。

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

「まだ...まだだよ....もっとやろ?もっともっともっともっともっともっと!!!!」

 

純白の長髪を所々赤く染め、儚げだったその顔を獰猛に歪めながら笑うアリス。方やヴェストはもがれた片腕から瘴気を垂れ流し、せっかく回復した頭部を含む全身のところどころにヒビが入ってしまっている。

魔力残量の低下からか回復速度も遅くなっている。

 

「.......もう、だめ?限界?私、しってるよ?あなたが、封印の影響で本調子じゃないこと」

 

ぱきり、ぱきりと体が崩れ落ちてゆく。漏れ出す瘴気の量も減少してきた。

 

「だから私は、あなたを早く見つけようと、頑張った。本当は全力のあなたと戦いたいけど、それだとあなたが手に入らないから」

 

 

「もう降参しよ?今のあなたでは私に勝つのは、不可能。早く、私のものになーーーーー

 

 

「まだだ」

 

 

「まだ動く。手も一本残っている。足だって2本ともくっついている。無理?限界?不可能?そんなもの関係ない。エリス様への愛の前では障害物にすらなり得ないッッ!!!!」

 

だがヴェストの瞳からは光は消えていなかった。

いつもはハイライトオフなくせにギラギラと光っている。

 

「....はは....嫉妬、しちゃうじゃん....でもそれでこそヴェストだよ!」

 

もう一回り、アリスのまとう存在感が大きくなる。

次で決める気だろう。

ヴェストの目的は時間稼ぎだ。だが、あれは全力でやらないとまずいな。

なら....

 

「次で決める」

 

作戦は失敗だろう。

流石にこれ以上の時間稼ぎはできない。

おそらくここで負けたら私はこのまま一生監禁生活で彼女の遊び相手として飼われ続けるのだろう。

ならいっそ、この身を犠牲にしても一矢報いてやろう。

エリス様以外の飼い犬になるなんてごめんだ。

 

「アハハハハ!!!ヴェストヴェストヴェストヴェスト!!」

「アリスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!」

 

解き放たれた二匹の化け物は拳に残った全ての力を込め、殴りかかる。

凄まじい二つの力はアリスの部屋を原型すら残さず吹き飛ばし、魔王城の一角を消し飛ばしながら接近し合い......

 

 

『ヴェスト!逃げ切ったぞ!!!』

 

 

「あ、すみません。撤退の時間なんで落ちます」

 

片方が消え去った。

オンラインゲームでよく使われるような去り際のあいさつを残しながら。

 

「...........ど....こ....?」

 

瓦礫の山には少女が一人、ぽつんと取り残されていた。




魔王の娘ちゃん(アリス)
作者によってオリキャラ化されてしまった哀れな子。故にキャラが不安定。
ヴェストが勇者らしいことしたいという親友の頼みで「それなら魔王軍幹部とか称号持ちのやつ倒した方が勇者っぽいよね?」といういらん気遣いからわざわざ魔王城に幹部の座を貰いに凸ったら際に遭遇。
防衛の時にボコられた。笑顔で。
魔王さんを圧倒する力から怖がられて幽閉されていた。
しかし魔王さんは一応父親としての愛情は持っているようで、ヴェストが嫌いな理由のうち一つが彼女が彼に夢中になっていること。
初めて自分のことを恐れずまっすぐ見てくれた彼が好き。みんなに怖がられる自分よりも強い彼が好き。化け物ではなく1人のアリスとしてみてくれるあなたが好き。
実はちょっとM気質
年齢がおかしい?知りません

Q.ヴェストの秘策って?テレポート使えないんじゃないの?
A.妨害されているだけで座標がわかれば無理やり使えます。そして彼はテレポート先を動く物体に設定することができます(デストロイヤー戦参照)...あとはわかりますね?(わかってください)


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シリアスパートは唐突に

誰得のシリアスです。
急な温度差!風邪ひいちまうよ!
これも全部作者ってやつが悪いんだ。
はい、すみませんでした。


「ヴェスト...すまねぇ...!!お前はまじ一回痛い目にあったほうがいいとは思っていたが...本当一回死んだほうがいいと思っていたが....本当に...すヘブッ!?」

 

「ーーーーー外....か?」

 

テレポート特有の空間の歪みが魔王城の結界を抜け走り続けるベルディア(ですとろいやーもどき形態)の頭上に現れた次の瞬間、所々欠けボロボロのボロ雑巾のようになったヴェストがライダーキックことアクロバティックテレポート着地しながら現れた。

仮にも元魔王軍幹部。

それによって潰れることはなかったが舌を噛んで悶絶中だ。

おそらく踏まれたのがカズマ少年のような人間であったのならそこには真っ赤なお花が咲いていたことだろう。ただしダクネスは例外とする。

 

ノルマとも言えるベル虐をこなしたヴェストはそのまま地面にダイブもとい顔面から倒れ込んだ。

流石に今回はキツかったのか呼吸も荒い。

その表情にも普段浮かべている笑みはなく、ただひたすらに大気中の魔力を吸収することによる回復に努めていた。

 

「ぜぇぜぇ......はぁーーー.....いやまじ...生きてる?....生きてるよな....」

 

修復が完了した右腕を上げ、ぐっぱぐっぱと握ったり開いたりを繰り返す。Rで18になるような部分は吹き飛んでいなかったため後回しにした衣服は修復中だがなんとかある程度は治せたようだ。

 

「................生きてるーーーーーーー!!!!」

 

ヴェスト目頭に涙を浮かべながらも両手を天に掲げ喜びを露わにした。

スリルとか闘いへの高揚とかそういうがどうでも良くなるほどに追い詰められたのはいつぶりだろうか。親友との首都決戦も結局はデキレースだったし(相手にとっては本当にそうであったかはわからない)、クリス(エリス様)との出会いは確かに致命傷を負いそうになったがあれは命の危機より恋心が優った。デストロイヤーは羞恥心とか罪悪感の方が大きかった。ハンス?知らない子ですね。アクアとの全力の戦い?そんなことありましたっけ?僕の記憶にはありませんね。と言ったように彼にとって生まれて(復活して)この方ここまでの死闘を行ったのはこれが初めてだった。

だが自分の中のどこかでこの死闘に懐かしさを感じ、そして知らない(知っている)誰かの怒りと悲しみに満ちた顔が、喜びと快感に満ちたアリスの顔と重なった見えたことを思い出す。

 

「ッ......」

 

最近頭痛が増えたことも悩みの種の一つだ。

ありもしない記憶を見ることも、たまにカズマ少年やその仲間たちが全くの別人、それも見覚えがない者に見えることも、そして一体何へ向けられているのかがわからない怒り、悲しみ、苦しみといったそこのしれないどす黒い、僕にはあるはずのない感情が渦巻くことも、悩みの種の一つだ。それらがアリスにあってから、またさらに増したような気がする。このどす黒い感情のままに仲間を手にかけようとしたことは何度もあった。今この状態であったらどうなるのか。僕らしくはないが彼らのことは結構気に入っているのだ。できれば失いたくない。

このままではまずいという自覚はある。あの愛するエリス様ですら別の誰かに見えてきてしまっている。そしてそれでもなお私が彼女(彼女たち)に向ける愛は変わらず、それどころが増大していることも異常だ。

不思議と舌を噛んで悶絶している生首には何も見ることはなかったが、このままいけば僕はどうなってしまうのか。

まるで自分が書き換えられるような感覚だ。

だがそこに不快感はなく、まるっきり別のものへと変えられるのではなく正しく元あるべき形に継ぎ足され修正されていくような感覚がなんとも不気味だ。

私は自他共に認める大悪魔だというのに。

 

「ぐ.....くそ!俺の頭にテレポート先を設定してたのかよ!そういう作戦なら先に言えよもう!」

 

「ん....ああ、すまない。あの場で作戦を言ってバレてしまったら彼女は僕らを全力で邪魔してきただろうからね。いい仕事だったよ。それで?低目線からの眺めはどうだった?」

 

「おう、そりゃもう美人メイドたちのおパンティーが見放題のパラダイス...って何言わせとんじゃボケ!!」

 

「はははは、ごめんごめん」

 

「その様子じゃお前も大丈夫そうだな。それで?これからどうするんだ?またあのクソ女神のいるパーティに戻るのか?あ、俺の体は直してくれよ?」

 

「わかってるわかってる、君の体はきちんと治してあげるから...今度はガ◯ダム....いや、◯クも捨てがたい...ここはいっそモビ◯アーマーで...」

 

「ちゃんと作ってくれよ!?人型だぞ!?HITOGATA!!」

 

「冗談はさておき、カズマ少年たちの元へ戻るか否か.....」

 

おそらくカズマ少年たちのことだからなんだかんだやってあのでっかいキメラも討伐してしまったことだろう。多分あいつには僕と違って正当な主人公補正がかかっているはずだ....はず....だ......

不安になってきたがまあ彼らのことだ。問題ないだろう。

そして無事化け物討伐を終えた英雄一行は健闘虚しく化け物の卑怯な一手によって吹き飛ばされた僕の身の心配でいっぱいになっているはずだ。心配で心配でたまらないはずだろう。もしかしたらおゆうや状態かもしれない。

そこに変装して僕と一緒に吹き飛ばされて真っ二つになっていた大剣『墓標』を遺品として持っていったらどうなるだろう。墓標の名を持つ大剣が正真正銘僕の墓標となるのだ。多分最高の悲しみと言った悪感情が得られることだろう!!なんだかんだ彼らとは仲良くやってきたからな!

 

 

 

◆その頃のカズマ一行

 

「ミラー大丈夫でしょうか?結構な勢いで吹き飛ばされていきましたけど...」

 

「大丈夫だろう。彼は私に負けず劣らず頑丈だ。...私も彼のように雑な扱いを受けたかった.....」

 

「まああいつのことだ。しばらくしたらケロって戻ってくんだろ.....あれ?ミラーが飛んでった方角って魔王城の方向じゃ....」

 

「大丈夫大丈夫!なんだかんだ上手くやってるわよ!...多分」

 

「不安になるようなこと言ってんじゃねーよ!!」

 

 

 

だが今はそれよりも優先するべきことがあることも事実。

あの工場で見つけた親友の日誌。あそこに書かれた事実は全僕を激震させるものだった。

いや、生み出されたわけでもないんだから召喚前のことが一切合切思い出せないのはおかしいと思ったんだよ。

まさかあいつが原因だったなんてなぁ...

思い出しただけでも苛立ってきた。

 

とにかく、まずはこの日誌に書かれた場所へ、記憶を取り戻しにいくことを優先すべきだと僕は考えた。

おそらくこの記憶障害などの原因もそこにあるはずだ。

召喚前の自分は一体どのような人...いや、悪魔だったのか。

一体私に何があったのか確かめるべきだ。

 

不安になってきた。

その僕の分身とも言える魔力を取り込んだら自分はどうなってしまうのか。僕は僕のままでいられるのか。あるはずがない恐怖や不安などの感情が次々と湧き出てくる。

だけどこれだけは確信していた。

このエリス様への恋心だけは変わることはないのだろう、と。

きっと、僕も、私も、彼女という存在だけは好きでいられる。

根拠自分の感情だけ。ないも同然だな。

 

「何笑ってるんだ?」

 

「いやー...あるはずもない自分の感情を根拠にするなんて、僕も馬鹿だなぁと思ってね」

 

「?なんのことだ?」

 

「なんでもないよ」

 

親友に召喚されたあの時に比べ増大した魔力を使って虚像の悪魔の権能「虚像」を発動、ベルディアの体を構成してゆく。

無論、ガン◯ムでも◯クでもモビ◯アーマーでもない至って普通の人間の肉体だ。

 

「がちょーん」

 

「その気の抜ける効果音は必要か?」

 

「うん」

 

「うんじゃねーよ」

 

ヴェストはふざけながらも遠くを見ていた。それはカズマ少年たちがいるであろう紅魔の里ではなく、王都でもアクセルでもない。

 

「...ベルディア。いま君の体には大量の魔力が入れられている。それも節約すれば何十年も稼働できるほどの。僕の魔力しか受け付けないと言うロックも解除した」

 

「....それで?」

 

「僕は彼らの元へは帰らない。紅魔の里にもアクセルにも帰らない。」

 

「...」

 

「ここからは僕1人で行く。君は自由だ。どこへでも行くといい」

 

「.....何考えてんだか知らんが言われなくてもそうする。もうてめーみたいな悪魔と一緒にいるなんざ懲り懲りだ」

 

「....」

 

「だがこれだけは言わせてもらうぜ。無理だけはするなよ。気づいてないと思うがお前、酷い顔してるぜ。」

 

「....ひどい顔って....ひどいな、僕の顔はそこまでブスじゃないと思うけど。それどころか美人の顔に分類されると思うんだけど」

 

「そう言うことじゃないんだが、すごい自信だなオイ」

 

「....へへへ、それほどでも....あるかなー?」

 

「ほめてねーよ......じゃあ、またな」

 

「....うん」

 

背を向け、僕とは逆方向のアクセルへと足をすすめるベルディアを見つめる。

また....か。

またがあるといいんだけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、言い忘れてた!歯はちゃんと磨けよ!!」

 

「せっかく振り向いて言うのがそれかい!?台無しだよ!!」

 

「布団もちゃんと腹までかけるんだぞ!!いっつも俺が直してたんだからな!!」

 

「うるさい!君はおかんか!さっさといけよ!!」

 




いっぱい詰め込んだ設定のせいでなんか収集つけんのがめんどくさくなってきてます。プロットとか作んないからこんなにも急にギャグパートからシリアスパーティに突入することになるんだよな。
すみませんでした。

結構壮大な設定をぶち込んだせいで突入する最終章(多分)はっじまっるよー(多分その前に小話とか入るかも)

これからもこの黒歴史確定な小説を生暖かい目で見守ってやってください。よろしくお願いします。


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間章&最終章
参上!銀髪盗賊団!!


シリアス編に突入する前に間章です。
あまりにもエリス様との絡みが少なすぎ!!ということで。
なんでオメェタグにエリス様の名前つけつけとんじゃわれ。全然出て来んやんけ、ってわけです。
このままじゃベルディアかカズマくんがヒロインになっちゃう!♂
やめろ!はなせ!私はノンケだぞ!!あ、でも百合は好き...男の娘も可...アーーーー↑
失礼しました


「貴族宅の警護ぉ?」

 

いかにも嫌そうな声と顔を向けられた受付嬢はなんとか笑みを保ちながら目の前の期待のルーキーこと“冒険者ミラー”に向かい合っていた。

貴族に少なからず悪印象を抱くものがいるのは周知の事実だがここまで露骨な反応を返されるとは思っていなかったのだろう。

それも冒険カズマとその仲間たち以外とはパーティを組まず、セクハラまがいな(ダスト)の勧誘を笑顔で、しかも丁寧に断り、その美貌とよくカエルの唾液まみれになって帰ってきて数多の少年少女の性癖を壊したとされるミステリアス僕っ娘美人という謎の肩書きを持つミラーにだ。

形だけの笑顔を保ち続けているが少しほおがひくついている。

 

「え、やだよ。貴族ってあれでしょ?可愛い子を金と権力に物を言わせて手篭めにしてイヤーンなことするブタ野郎どものことでしょ?」

 

しかも思ったよりも口が悪いことにも驚きだ。

 

「まあまあ...貴族と言ってもそう言う人だけじゃないですし...それにせっかくの指名依頼ですよ?報酬も弾むそうですし...」

 

「えー...やだよ」

 

「お願いしますよ、ここのギルドもその方に結構な金額支援してもらってるんです。」

 

「えぇー....僕には関係ないし....」

 

「どうか!この通りです!」

 

机に頭がぶつかるほど深く頭を下げても彼は“えぇーやだよー”と拒否し続けていた。

やばい、どうしよう、このままじゃ仕事が増える。

受付嬢の頭が焦りに支配されかけたその瞬間、天啓が舞い降りた。

 

(確かこの人は狂信的なエリス教徒だったはず....!)

 

以前酒の席で他の冒険者にエリス様をかたどった精巧な人形をもって熱弁していたのを思い出す。あの時はあのミラーさんが、珍しいな程度にしか思っていなかったが今思えばあれが素だったのだろう。

 

「ミラーさん、もしこの依頼を受けてくださるのなら特別にこのエリス様像をーーーー

 

「よし引き受けよう」

 

ーーーーー即答!?」

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

私ヴェストさん、今お貴族さんの家にいるの。

 

冗談はさておき冒険者ミラーことヴェストは以来の貴族の家にいた。

場所は王都。現在時刻は深夜。

お貴族様とのファーストコンタクト、依頼内容の確認兼世間話はもちろんカットだ。彼の名誉のためにブタでも変態でもなく普通に紳士だったとだけ言っておく。ただちょっと胡散臭かったが貴族社会とかいう闇の深そうなところで暮らしている以上仕方がないことなのだろう。

 

依頼内容は普通に警護。

不審者を見つけたら捕縛せよとのことだ。

そんくらいのことだったら普通に警備雇った方が良くない?とヴェストは思ったがなんでも“例の盗賊”がここと狙っているという情報を仕入れたらしい。

貴族の家に盗みに行っては貧しい人々に金品を分け与える銀髪が特徴的な義賊。別名“銀髪”

そのままである。

しかしその腕は本物で一度の捕縛もなく幾つもの貴族たちが襲撃を受けている。富裕層には恐れられ貧困層には英雄視されているとかいないとか

そんな盗賊がこの屋敷を襲うというのだ。

普通の警備では役に立たないのだからある程度腕が立ち新人のため依頼金も安く済むであろうミラーに声がかかるのは別におかしくない。

ヴェスト自身もそんな盗賊に少し興味を持ち楽しみにしていたりする。

しかし...

 

「あー....暇だ」

 

いかんせん暇なのだ。

明かりの消えた屋敷の中1人で魔法のランタンの明かりのもと一人二役のチェスをするのも飽きてきた。多分これで十五回目だ。ちなみに相手として思い浮かべているのはもちろんエリス様。結果は0対15。エリス様の圧勝だ。

警備はどうしたのかって?そんなものは自身の魔力を線のようにし屋敷の中に張り巡らせることで完成している。映画とかでよく見るレーザーの警報装置みたいなものだ。効果が切れるたびかけ直さなくてはならない索敵の魔法よりも効率がいいから重宝している。

 

「ひーまーだー」

 

机に突っ伏してみる。

チェスの結果は今負けた分も含め0対16だ。

こんなことになるならあの元生首野郎も連れてこればよかった。

今頃すやすや安眠中であろう仲間(下僕)への文句を言っても届くことはない。まあせいぜい謎のテレパシーを受診して悪夢を見ることになるくらいか。

 

「はーーーーーひぃーーーーまぁーーーーd

 

ヴェストが少し顔をあげ、再度同じことを気怠そうに口にした、その時だった。

ゴンと鈍い音を立て机の上に崩れ落ちる。

その衝撃で机の上に置かれたランタンが床に落ち光が消えるがヴェストが反応することはない。それどころかピクリとも動かない。

 

「よし!警備の人はもういないかな?初めて使ってみたけど意外と便利だねこの吹き矢」

 

明かりも消えて静かになった部屋に1人の白髪の人物がやってきた。

その顔は布に隠され、手には吹き矢と思われる筒が握られている。

 

「うん、ちゃんと寝てる。体に害はないはずだから、ごめんね?」

 

規則的な呼吸と背中の動きを見て盗賊、銀髪の少女はつぶやいた。

おそらく即効性の睡眠薬の塗られた針を刺されたのだろう。

警備員は起きることはないが死んでいるわけではないようだ。

 

「よし、多分神器は向こうの部屋に....え!?」

 

そう呟きながら奥の扉に向かおうとした少女の腕が突然強力な力で引っ張られ、体勢が崩される。

突然のことに驚きながら振り返ろうとするも、そのまま腕を背中に回して押さえつけられてしまう。

 

「なんで!?」

 

「あいにく僕は毒物の類が効かない体質でね」

 

先程眠らせたはずの警備員の力はその細身に似合わず異常なほど強く、少女の力では抜け出せない。

 

「さーて、噂の盗賊さんの素顔ご開帳と行こうか」

 

「つ....!」

 

まずいと思って必死にもがくも逃げ出すことは叶わない。

暗闇の中真っ赤に双眼を光らせながら警備員は少女の顔を隠す布を下ろし....固まった。

 

「........?」

 

そして

 

「ゥゥゥゥェエリィス様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

奇声を上げながら飛び去った。

 

「へ?」

 

思わず素っ頓狂な声が出てしまった少女は仕方がないと思う。

だって先程まで自分を絶体絶命のピンチに陥らせていた敵がこんなおかしな行動をとったにだから。

そして何より、()()()()()()()を言い当てたのだから。

 

「え?...え!?ちょ、なんで知って!?」

 

「自分です!僕です!私です!ヴェストです!」

 

「ええええええ!?」

 

警備員ことヴェストの作り出した魔法の光に照らされ明らかになったその顔を見て少女は悲鳴にも似た声を発することとなった。

思いも寄らぬ人物に出会った驚きと、最も会いたくなかった変態に出会った恐怖(?)の混ざった声であった。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

「落ち着きました?」

 

「う、うん。なんとか...って、誰のせいだと思ってるの!?」

 

「私だって貴方様が例の盗賊だなんて思いませんでしたしおあいこですよ」

 

「ぐぬぬぬ....それでもあの抑え方はなかったんじゃない?」

 

「....申し訳ありません」

 

やっと落ち着きを取り戻した2人は向かい合って正座をしていた。

あまりの出来事に思わず大声をあげそうになったエリス様ことクリスの口を抑えたのは流石のヴェストでも反省しているようで、少し申し訳そうにしていた。赤く腫れた頰を嬉しそうに撫でているのは気のせいだ。

 

「それで、エリ....クリス様はこんなところで何を?」

 

「呼び捨てでいいよ」

 

「クリ......ぐはぁ!?」

 

「ヴェスト君!?」

 

吐血である。エリス様の前になるとこの悪魔は色々限界になるのだ。

いわば限界オタクと同じだ。

 

「なんでって、ここの貴族が悪徳貴族って聞いてね。悪さをして稼いだお金を苦しんでいる人たちに分けてあげようと...」

 

「私に嘘が通じないのはご存知でしょう?クリ.......ィス。あ、私のことはミラーとお呼びください。もちろん呼び捨てで」

 

「あ、うん......はぁ、仕方ないか。君には言いたくないんだけどな。実はこの屋敷に神器があるって聞いたんだ」

 

「神器ですか」

 

神器。それは地球からの転生者、いわば勇者が女神アクアから召喚時に授けられるチートアイテムのことだ。

その種類は多岐に渡り天すら切り裂くものから持ち主の癖に特化しすぎたおかしなものまで。しかしそのどれもが使い方によっては恐ろしい効果を発揮する代物だ。

 

「しかしあれらは転生者本人にしか使えないはず。別に在庫がなくなったわけではないんですよね?なら放っておいても問題ないのでは?」

 

そう、神器は転生者本人にしか真価を発揮することができない。

あの魔剣グラムガカズマ少年の手に渡った瞬間鈍に早変わりし、即刻質に入れられたように。

だが....

 

「でもそれは真価を発揮できないだけで使い用があるんだ」

 

「というと?」

 

「たとえば岩盤とかでも溶かしちゃうような業火を出すアイテムがあって、それが本来の持ち主から別の持ち主へと渡ったとする。」

 

「はい」

 

「するとそれは本来の持ち主が使ってた時みたいな炎は吐けなくなるんだ......でも、ファイヤーとかの魔法で出せるような炎は生み出すことができる」

 

「.....つまり?」

 

「効果が弱体化するだけで完全になくなるってわけじゃないんだよ」

 

驚きの新事実だ。

ヴェストはこれまで何度かチートアイテムを持った転生者を倒し、そのアイテムを手にしたことがあったがそのどれもが本人にしか使えないと思ってポイ捨てしてしまっていた。なんと惜しいことをしていたのだろう。

 

「しかも今回ここにあるって聞いた神器が結構厄介な能力持ちでさ。悪用される前に回収しなきゃいけないんだ」

 

「なるほど」

 

確かにいくら弱体化しようとも元の効果が『効果範囲内の生物死亡』なんてとんでもなものなら弱体化しても『範囲内の生物が病気になる』とかただ単に範囲が縮小するだけだったりと危険なままの可能性がある。

ならば放っておくわけにはいかないだろう。

 

 

 

 

 

「よし!私も手伝いましょう」

「遠慮しときます」



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突入!銀髪盗賊団!!

オリキャラ注意っす!
あとシリアス少々注意っす!
このすば世界の神様がやってることって勇者召喚くらいしか知らないから少し独自設定(?)を少々。注意っす!!


「はぁ....なんでこんなことに...じゃあ話をまとめるよ?」

 

結局ヴェストに押し切られてしまったクリスは大きくため息をつく。

ヴェスト曰くこの先には地下施設が広がっており、さらに生体反応もいくらか確認できた。それもヴェストになかなかと言わせるものも少々いるというので、プライドより安全性と確実性を追求した結果、こうなったのだ。

決してこの変態変人アホ悪魔に心を許しかけているとかそういうのではない。悪魔は滅すべき悪。そう決まっているのだから。

 

「この屋敷の主、ヴィンターハイム伯爵が悪魔信仰の信者である可能性があり?彼に渡った神器の能力は『月に一度神の許す範囲でなんでも願いを叶えるもの』?そしてその弱体化の結果、予想される能力は『一定期間のクールタイムをおき、代償を捧げ、それに見合った願いを叶える』。近年急激に成長したとされるヴィンターハイム家はその神器を使用した可能性があり、さらに本来の使用者が生存していた際、送られてきた願いの許可を求めるメッセージがこなかったことから『神の許す範囲内』という制約が変化により外されている可能性がある....と」

 

「そして貴方の情報が正しければ数十人もの人々がこの地下に集まっている....」

 

「これは...不味いかもしれませんね」

 

「うん、彼が本当に悪魔を信仰しているのなら今行われようとしているのは....」

 

 

「「悪魔召喚」」

 

 

 

「ま、この程度の生贄でくる悪魔なら私の敵ではありませんが」

「でも止めるに越したことはないでしょ?」

「まあ...そうですね....」

 

自分が少しでも役に立つところをアピールしたかったヴェストは項垂れているがクリスはそれを無視して地下へ続く部屋の扉を開く。

途端に流れ出した匂いに顔を歪める。

錆の匂いに苔や水の匂い。そして血の匂い。

 

「クリ....ス...さっきに比べて感じ取れる生命反応が減少していまーーー.....いる」

 

「!急ごう」

 

薄暗い地下通路の中、2人の靴音がこだまする...ことはない。

クリスは盗賊スキルで、ヴェストは某猫型ロボのように少し浮くことで隠密行動を可能にしていた。

方や名の知れ渡った凄腕の盗賊。方や人間種を超越した上位の存在悪魔。この程度朝飯前のことだった。

 

「....楽そうだねそれ」

 

「クリスもやればいいじゃないでーーー........か」

 

「いや....今はいいよ」

 

あと口調は無理しなくていいよとクリスが伝えるとヴェストはありがとうございますと返す。思い他人相手にいつも通り話すのは少し難しかったようだ。悪魔は意外とシャイだった。

 

「クリス」

 

「数は?」

 

扉にかけたクリスの手をヴェストが押さえる。

この先が最深部だ。彼は暗にそう言っていた。

 

そして生命感知を行なったヴェストは指で結果を示す。

その数は.....

 

 

 

「遅かった!!」

 

 

 

蹴り開けられた扉の先には死体、死体、死体、死体。

命で作られた赤い水溜まりが床一面に貼られていた。

中央に立つスーツを着たやつれ気味の男が振り返る。

 

「ああ、誰かと思っていたら。やっと来たんですね」

 

アレストリアス・フォン・ヴィンターハイム伯爵

ぴっちりきめられていたオールバックの金髪は乱れ所々赤く染まっている。

 

「...貴方がやったの?」

 

「いえいえ、これは彼ら自身の意志による尊い行いの結果です」

 

「どういうこと?」

 

「彼らは自ら進んでその命を捧げたのですよ」

 

膝をつき伯爵を囲むように命を散らした亡骸は皆、その顔に憎悪を浮かべているものの、皆が皆自ら自らの胸に短剣を突き刺し絶命していた。

 

「まさか全員悪魔信者!?」

 

「悪魔信者とは失礼な。かの者こそこの世界の王、主、救いの手。彼らこそ真の神なのです」

 

「ッ....!」

 

「何言ってんだこいつ悪魔は悪魔だろ」

 

ヴェストが真顔で突っ込むが伯爵は意に関していない。

 

「....なぜそのようなことを....」

 

「私もかつては敬虔なるエリス教信者だったのですよ。そして我が娘といとしの妻は私以上に信仰していた。可愛らしい娘と美しい妻でした」

 

「....」

 

「だが娘はある日を境に姿を消し、数日後、みるも無惨な姿で、何もかも犯され奪われ尽くした姿で見つかった。犯人を探し出そうと行動した妻は翌日小分けにされ送り届けられた。そのことが事件になることはなかった。新聞に載ることもなかった。何者かに、おそらく私よりも地位が高い貴族による犯行か、はたまたコレのような超常の力を神に与えられた勇者によるものなのか」

 

「うーわ...」

 

伯爵は首にかけた十字のネックレスを持ち上げる。

そこには真新しい血の他に、いつつけられたのかわからないほどに古い血痕と先の細い剣でつけられたような傷がついていた。

 

「妻たちの信仰は厚かった。だというのに神は救いを与えず、奴らに罰を与えなかった」

 

「.....」

 

「ふざけるな!何が神だ!何がエリス様だ!」

 

「......ちが....」

 

「神は救いを与えない。ただ見ているだけの傍観者だ。対価次第で願いを叶えてくれる悪魔の方がよっぽど神らしいではないか!」

 

「.......ごめん....なさい

 

「この薄汚れた世界に災いあれ!!神を気取った傍観者どもに失墜

 

 

 

 

「いい加減にしろよお前?」

 

 

 

ぐぼぁ!?」

 

「...ぇ?」

 

突然来た横からの衝撃に伯爵は吹っ飛び壁に体を打ち付ける。

突き出された拳は彼を所詮悪魔と心のどこかで思っていたクリスにとっては意外な人物であり、第三者からは簡単に予想できたであろう人物。

虚像の悪魔ヴェストであった。

 

「神は傍観者だ?何当たり前のこと言ってんだ。そもそもお前ら人間は魔王軍に対抗する切り札として勇者や神器を送ってもらっているんだから感謝するべきだろ?それがなきゃお前らとっくに魔族に滅ぼされてるんだから」

 

「な、な、何様だ貴様ァァァァァァ!!!」

 

怒りに任せて突き出されたレイピアは、しかし精密さと速度を失わず狙いは正確にヴェストの眉間を捉えていた。だがそれは彼に届くことはない。

 

「君の恨みつらみはよーくわかる。でも君の妻と娘が殺されたのは君が弱かったからだ。弱かったから失った。強者は奪い弱者は奪われる。弱肉強食。世界は残酷なんだからさ。まあ、あとは君の運がなかっただけ。それを神様のせいにするってには酷なものだよ。あの方は十分頑張ってるし、君たちのことを考えて十分苦しんでいる」

 

「くそっ!!」

 

指先でレイピアの先端を掴んで離さないヴェストは真っ直ぐ伯爵の目を見て淡々と話す。

 

「まあこの世界がクソってことには激しく同意するよ。この世界は残酷で救いもない。何よりエ...クリスと結婚することもできない」

 

ヴェストの赤黒い血のような目に気圧された伯爵は地面に尻餅をついてしまう。その手にはもはやレイピアは握られていなかった。

 

「こんなクソみたいな世界を変えたい、終わらせたいと思うならそれ相応の覚悟と犠牲がなきゃ。ほら、この世界に災いを...だっけ?なら君の同志の命だけじゃ足りないな。これは君の復讐だろ?なら自分の命をかけるくらいの覚悟がなきゃ」

 

神器は未だ光を発しない。

胸に突きつけられたレイピアの切っ先に伯爵は小さく悲鳴を漏らす。

 

「この程度の覚悟もないのに復讐を語ってんじゃねぇよ。神を侮辱してんじゃねぇ.....よ?」

 

 

伯爵は復讐を語っておきながら自らを犠牲にすることもできない腰抜け野郎。そう決めつけたヴェストの予想は.....

 

 

「うう...うわあああああああああああああああああああああ!!!!」

 

 

まあ、うん。外れるに決まってるよね。だってヴェストだもん。

 

傷がつくことも御構い無しにレイピアを握りしめるという予想外の行動にヴェストが思わず握る力を弱めてしまった隙をついて伯爵はそのまま切っ先を自らの胸に突き刺した。

 

 

「悪魔よ!私は願う!この世界に!この腐った世界に大いなる災いを!!!」

 

 

神器は使用者の願いを叶えるべく光を放ちこの薄暗い地下室から影を取り除いた。

 

 

 

 

 

 

 

「..........ごめん」

「ごめんじゃないよ!?」




アレストリアス・フォン・ヴィンターハイム伯爵
かつては領地の開発に自分の資産を惜しみなく使ったり、領民を見下さず親しく接していた優しく領主だったがある事件をきっかけに頻繁に王都の別荘へ通うようになり、たまに領地に戻っても屋敷にこもって出てこなくなった。かつて浮かべていた優しい笑みは貼り付けられたような作られた笑顔になり、誰が見てもわかるほどにやつれていった。
しかしそれに反比例するように彼の領地は発展し、彼の権力も増長した。
金髪碧眼オールバックのダンディーなおじさま。
ちなみに過去闘技場をレイピア一本で優勝まで上り詰めた。

なんていう裏設定があったりする完全オリキャラなおじさま。


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撤収!銀髪盗賊団!!

これで間章は終了です


夜の闇を打ち払わんとするほどの光が生み出したのは、それとは正反対のあまりにも禍々しいものだった。

剥き出しの骨と申し訳程度につけられた筋繊維と皮。臓物は確かにそこに収められているのものの、それを覆うものがないためにグロテスクなその姿を露わにしていた。

そして何より、四足歩行の獣は巨大だった。

地下室をぶち破り、その上に建てられた屋敷を崩すほどに巨大だった。

 

「無事ですかクリス!?怪我は!?」

 

「だ、大丈夫....あれは....?」

 

語源化できない奇妙な咆哮が王都に響き渡る。

月光を背に佇むその姿はまさにこの世の怨念を詰め合わせたような禍々しさがあった。

 

「ソウルイーター、魔界に住む魔物の一種です」

 

ソウルイーター

魔界にする魔物の一種であり魔界の魔力によって強化された悪魔さえも獲物とする凶暴さを持ち合わせた狼型の獣である。

主食は魂、それに連なる魔力とされており奴に囚われた悪魔はたとえ残機が残っていようといまいと奴に()()されることとなる。

しかしその実態は従来の生物とはかけ離れており多くが謎に包まれてーー

 

「説明終わり!そのくらいはわかってるよ!でもさ、あれはちょっと....」

 

 

 

 

大きすぎない?

 

 

 

 

「ですよね?」

 

本来のソウルイーターの大きさはおおよそ2〜3mだ。

しかしあれはどこからどうみても10mは余裕で超えている。

さながら超大◯巨人もとい超大型わんちゃんだ。ただし見た目はグロテスクなものとする。

 

「例の神器の影響でしょう。しかし捧げられた命だけでは明らかに足りない。おそらく漫画とかでよく見る『思いの力』とかいうクソ仕様に引っかかったんでしょう」

 

ただしその思いはどす黒いものとする。

 

「そんな...」

 

「気を落とさないでください。クリス、貴方のせいではない。それほどまでにあの男の思いが強かっただけのことです」

 

「でも...」

 

「しっかりしてください。神とて万能ではないのは神であるあなた自身が何よりも知っているはずです。ですからあの男の怒りを受けるべきは少なくともあなたではない」

 

「....でも、彼が妻子を失ったのは...」

 

「たとえきっかけがあなたの転生させた勇者によるものだったとしても、です」

 

「...........ありがとうございます

 

「え?なんて?」

 

「なんでもありません!!」

 

 

人の心がないんすか?とでも問われそうなほど辛辣な言葉をヴィンターハイム伯爵にこれでもかというほどぶつけていたヴェストだが不思議と彼の憎しみには理解を持っていた。ただエリス様を侮辱されたことに対する怒りがまさってしまっただけで多少の共感もできた。

だからこそわかる。この怒りが真に向くべきは目の前の可愛らしい神様ではなく、妻子を葬った犯人。そして神でさえも救うことのできなかったこの残酷な世界(運命)だ。

 

「あ、ああ!動き出した!」

 

その巨体が周囲の建物を無視して動き始める。

それも近くにヴェストという魔力の塊のような極上の餌があるにも関わらずだ。

 

「明らかに習性を無視した行動。確実に召喚者の意思が反映されてますね」

 

その獣が向かう先は貴族の家家と王城、そしてエリス教の教会が聳え立つこの王都の中心地。

 

「そんな!」

 

もしアレがそこに辿り着いたらどうなるかもわからない。ただでさえ移動するだけでこれだけの被害を出している獣がここよりも住人の多いだろう中心地に行ったのならその被害は計り知れない。

 

「どうすれば....」

 

「クリス、僕を使ってください」

 

「え?」

 

「おそらく神器を持ってしてもアレだけの巨体を一度に召喚することはできなかったのでしょう。不完全なあの体がその証拠です。アレなら今の私でも討伐は可能でしょう」

 

「でもっ!」

 

「...貴方が悪魔に力を借りたくないというなら無理強いはしません。ですが...」

 

「違う!そうじゃ....!!」

 

建物の崩れる轟音と共に悲鳴が上がり始めた。

 

「....早くお決めになった方がよろしいかと」

 

こうしている間にも獣はその侵攻を止めることはない。被害は拡大し死者が出るのも時間の問題だろう。

 

「命令を」

 

 

 

 

「ーーーっ!!!わかりました!悪魔ヴェストに命じます!ソウルイーターの討伐...いえ、悲しみに包まれた哀れな魂に救いを!」

 

 

「了解」

 

 

その姿を瘴気に包み姿形を変えながら、悪魔は神の命を受け闇夜に飛び立った。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

憎悪、憤怒、恨み、辛み

理性は崩壊し溶けて混ざり合った。

計47名もの命は一つになり歪な獣を生み出した。

獣が望むは悲劇への復讐。理不尽への報復。そして更なる悲劇。

なぜ俺の友は苦しまなければならなかったのか。

なぜ私達の子供はいなくなってしまったのか。

なぜ私の妻子はあのような目に遭わなければならなかったのか。

なぜ神は救ってくれなかったのか。

なぜ

なぜ

なぜ

なぜ....

なぜ貴方たちは笑ってられる?

 

自分達をこんな目に合わせた元凶が憎い。

自分達が祈りを捧げたにも関わらず救いを与えなかった神が憎い。

自分達が悲しんでいる間にも幸せそうな笑みを浮かべていた他人が憎い。

 

増大しすぎた憎しみは方向性すら失い、ごちゃ混ぜになった憎しみと獣としての本能と一際大きかった神への憎しみが混ざり合った結果。獣は神の住処とされる教会と、多くの貴族や権力者の住む中心地へと足を進め始めた。

足元に獣としての本能が刺激されるほどの魔力量を持った存在がいたが、それらは更なる虐殺を望む多くの魂の怒りによってかき消された。

それが間違いだと気づかずに。

 

「!?」

 

背後からかすかな風切り音を耳にした獣は反射的に振り返り、そして餌を認識した瞬間口を開けた。自らその魂を捧げにきた哀れな餌を噛み砕かんとする。

しかし感じたのは鋭い痛みと血の味。

 

「浅いか」

 

獣は敵を認識した。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

レインコートに仮面で顔を隠したいつぞやの姿で悪魔は空をかける。

我が使命はかの獣に救いを与えること(かの獣の討伐)

ヴェストは普段使いの大剣ではなく、相棒の山刀に炎を纏わせ獣の頬から首へ切り裂く。

しかしその傷口は修復を鈍らせる炎がまとわりついているにもかかわらず瞬時に修復された。

やはり奴の本体は捧げられた魂そのものか、もしくは...

 

「...っ!」

 

見た目に反して俊敏。

考える暇はなさそうだ。

 

いっそこのまま大規模魔術で魂ごと消し飛ばしてしまおうか。

いや、そんなことをすれば周囲一帯が焦土になってしまう。そしてエリス様が悲しむ。

では以前ハンスとかいうスライムやったように魔力を吸い取ってしまうか?却下だ。リスクが高すぎる。僕はその後の記憶を保持していない。ゆえになにが起こるかわからない。

僕としては尺の都合...ん゛ん゛、人にあまり見られたくないからさっさと終わらせたいのだか。

身バレ防止のため咄嗟にいつぞやの格好をしているが、こいつもだいぶやばい設定を背負った姿だったことを思い出した。

 

野次馬だか討伐に来た冒険者かは知らないが人も集まり始めている。

なかなかまずい状況。

 

(...なんだ?)

 

獣が一瞬自分から目を外したことに気づく。

なんだ?戦闘中に相手から目を離すとはいい度胸ーーー

 

「ーーーくそっ!!!」

 

獣の口元が醜悪に歪む。

目線の先には1人の子供。

堕ちるとこまで堕ちたな伯爵。

 

「おかあさーん!!」

 

僕を無視して獣は子供を飲み込まんと口を開く。

 

「全くいい性格をしているよ!!」

 

だがそんなことさせるわけがないだろうが畜生め。

子供を抱きかかえ避ける。足を一本犠牲にしてしまったがこの際仕方がない...

いや...なぜだ?

別にこんなガキ1人死んだって構わないはずだ。

例え再生するからってそんなことに自分を犠牲にしようとするなんて。

僕は悪魔だぞ?

それにさっきからこいつが他の誰かに被って見え...

 

「お姉さん!!」

 

「お兄さんだバカ!!」

 

振り下ろされた獣の前足を山刀で弾く。

そんなことは今は考えるべきではないな。

だがこいつの攻略法は見えた。

この子供を食おうとしたその瞬間、喉の奥に見えた苦悩の顔に歪んだ伯爵とその首元で光り輝く神器。

確実にアレだ。

 

問題はどうやってそこまで辿り着くかだ。

さっきは奴が油断していたから傷を入れられたが完全に餌から敵へと認識された今は少しばかり難しい。

 

「お姉さん」

 

「だからお兄さんだって....」

 

「頑張って!」

 

「っ!」

 

まったく、僕はどうにかなってしまったらしい。

こんな人間の子供の言葉が心に響くなんてな。

ただの虚像、ありもしないものだと思っていた心は確かにあったらしい。

 

「こんなガキにいれる以前にこっちは彼の方に願われてるんだ。諦めるなど、論外だ」

 

だが決め手に欠くのも事実。弱点がわかってもそこを攻撃できないんじゃ意味がない。

再び振り下ろされた前足を回避。

それを足場に切り裂きながら駆け上がる。

しかし傷は即座に修復され首元に到達する前に振り払われる。

『緋槍』を生成、投石。

首を貫通。即座に再生。

薙ぎ払うように出された腕を跳躍し回避。

 

「なんて馬鹿力....なぁ!?」

 

続けて開かれた口部に高濃度の魔力が集まるのを感知した。

まさか熱線(レーザー)でも撃つつもりか!?

そんな行動ソウルイーターはしないはずなのに!

いや、まさかあの神器が同時に複数の願いの行使が可能だとしたら...

なんでもありかよクソ神器!

翼を生やして離脱....間に合わない。

緋槍で相殺....間に合わない。

山刀で消し飛ばす...多分無理。

だが、こんなところで!

 

 

 

 

「私は終われない...!!!」

 

「『スキルブレイク』ッ!!」

 

 

瞬間、集められた魔力は露散した。

そしてできたのは誰が見ても明らかなほどの好機。

 

 

「ーーーーーっ!!!」

 

「いっっけぇぇぇ!!ヴェストォォォ!!!」

 

 

 

 

狙いは一点、首元の願いの神器。

 

 

 

 

 

 

「安らかに眠れ」

 

 

「あ゛....ぁ......えりー......ぜ..............ら...いら...........やっと...あえた...」

 

 

 

ぼとり

 

◆ ◆ ◆ ◆

『ベルゼルク新聞

 

真夜中の王都を騒がせた巨大怪獣対仮面の英雄騒動は英雄の勝利に終わった。

怪獣によって破壊されたヴィンターハイム家はのちの調査により悪魔信仰者であることが発覚。しかし依然として騒動の主犯とされるアレストリアス・フォン・ヴィンターハイムは発見されていない。

また関係者と思われる46名を除き今回の騒動での死傷者は出ていない。

これも全て仮面の英雄の功績である。

 

そして彼の戦闘中に一部で人気を誇る義賊『銀髪』が魔法による援護をおこなっていることも目撃されていることから彼女たちの関係性も注目されている。

また姿形が似通っていることから以前アクセルに現れた魔王軍幹部『レインコート』ではないかという声も上がっているがこれは彼女のファンによって上がった瞬間から潰されている。』

 

 

「だってさ」

 

「...」

 

「どーするのこれ...すごい目立ってるじゃん」

 

「神器は回収しましたし、結果オーライでは...?」

 

「良くないよ!君があんな格好で出るから私が魔王軍幹部と繋がってるって一部の人たちから思われちゃってるじゃん!」

 

「す、すみません」

 

「でも.....あ、あ、あ.....ありがとね!ちょっと、ほーんのちょっとだけ見直したかも...」

 

「!じゃあ今度また一緒にやります!?」

 

「それは嫌」




何処かの丘の下に石が積み上げられただけの小さなお墓があるのだとか。
そしてそこではたまに銀髪の可愛らしい少女とそれを影から眺める白髪の不審者が見られるらしい。


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記憶

最終章(シリアス)突入です!!
と言いたいのですが多分数話で終わるので間章と統合しちゃいます。すみません。ほんと、3話くらいで終わると思います。オリジナルシリアス展開とか小説初心者作家には無理なんですよ。
でも頑張って終わりまでは持ってきます。



「ーーーーーなーんてこともあったっけな」

 

木々に覆われた森の中たった1人で思い出に耽りながら行き先のない(ないとは言っていない)旅をするイケメン悪魔はだーれだ!?

 

「僕だ!!」

 

誰も見る人のいない無駄に良いドヤ顔とこだまする無駄に大きい声が薄暗い森の中に消えていく。ああ、なんだか悲しくなってきた。

ほとりと一筋の水玉がほおを伝って地に落ちる。

まったくこんなところで僕はなにをやっているんだか。

 

「っ...いたた....」

 

原因不明の頭痛が早く足を進めろとばかりに頭に響いた。

 

「はいはい、行きますよ!行けば良いんでしょ!!」

 

足をすすめるごとに、手帳に書かれた目的地に近づくにつれ頭痛の頻度と大きさも大きくなっていく。一か八か全身の痛覚を無くしてみたがやはり効果はないようだった。おそらく肉体的な問題ではなく精神的、僕の欠けた魂に関係するものだ。それも親友にこの世界へと呼び出される以前の、失われた記憶に関するもの。

普通こういう時『記憶取り戻せるヤッター』と喜ぶものなのだろう。

確かに今の私にそう言った感情が芽生えていることは否定できない。

だが、それ以上に僕は怖かった。

もし、このまま記憶を取り戻してしまったら、今の僕はどうなるのか。

そんな不安が頭からずっと離れない。

元魔王軍幹部にして冒険者カズマの仲間であり、女神エリスを愛する客観的にみたら少し(?)おかしな悪魔ヴェスト。

それは一体どうなってしまうのか。

消えてしまうのだろうか。

それは....ちょっと嫌だな、と思う。

別に生への執着というものではない。先輩のような破滅願望は持ち合わせていないが、もしそうなった場合は“仕方がない”“そういう運命だったんだ”と受け入れることができる。

あるとすればそれは心残りだろう。

もっと美味しい“食事”がしたかった?もっとたくさん“楽しいこと”をしたかった?.......それとももっとたくさん仲間たちと”平和“を謳歌したかったのか?

 

わからない。

 

でもただ一つ。これだけは言える。

 

「.....エリス様とイチャイチャラブラブしたかっt、イデ!?」

 

何かにぶつかったような鈍い音と当日に発生した頭痛とはまた違った痛みを知覚する。

とっさに前方を確認するも何もない。

テンプレのように電柱や木々にぶつかったわけでもない。

 

「だとしたら....」

 

伸ばされた手はそのまま中をきる....ことはなく、何かに触れた。

 

「結界」

 

物や生物の侵入を阻む障壁こと結界。

それがこのような何もない森に不自然に張られていることに気づく。

 

「もしかして...」

 

手帳の地図を見る。

バツがついていた。

 

...考え事をしているうちに着いてしまったようだ。

 

「しっかし...かったいなこれ」

 

試しにコンコンと手で叩いてみるも硬質な音が帰ってくるばかり。

一般的な術者によって貼られた結界程度ならこれだけでも破れるのだが。

 

「よーし」

 

一方下り、腰をひき、腕を構えてーーー

 

「はァァァァァァ........!」

 

突き出すッ!!

 

ーーーーーペチ

 

「ミ゜(絶命)」

 

ダメだったみたいだ。

破壊するために込めた渾身の力はそのまま跳ね返り...あとは言うまでもない。ヴェストは腕を押さえて転げ回った。

 

「ハァ....ハァ.....な、なかなかやるな!」

 

ヴェストは再び拳を構える。

彼の辞書には諦めという言葉は入っていないのだ。(ヴェスト辞書、本体価格3500円)

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーー

 

 

 

 

ーーーーースキルブレイク」

 

しかし工夫という言葉は入っているようだ。

魔法を無効化する術によってパキンという音を立てて結界は崩れていく。

ガラスのように光を反射して落ちていくその景色は幻想的で美しかった。

 

「さーて...この先はなに...が........?」

 

そんな美しい景色を生み出した結界の先にあったのは幻の妖精たちの楽園や古代人の遺した超文明ーーー!!などではなく、

 

「廃村?」

 

朽ち果てた村の跡だった。

木々は結界に沿って生えており内部にはまた別の、見たこともない木々が生えていた。

あるのは村の建物の土台であっただろう所々風化した石積みとこれまた他の場所ではみないような植物たち。

特に変わったところはない風景だった。

ただあえていうのであれば()()()()()()

あまりうまく言い表せないのだが、例えるなら綺麗な森の中から急に戦地の中へと踏み入れたような違いだった。

あまり気分のいい空気ではない。

 

「だけど...どこか懐かしい」

 

一筋の涙が垂れていることに気づく。

どうも今日は涙腺が脆いようだ。

 

「...いこう」

 

進むごとに次々と新しいものが見えてくる。

朽ち果てた家だったものに続きとある場所を囲むようにして染み付いていた()()()()、所々に盛られた土とつき建てられた謎の()()()、そして一本の大きな()()()

 

「....痛い」

 

頭痛の感覚も短くなってゆく。

きっとこの先だ。この先に私はある。

そう信じて足を進め続ける。不安はある。恐怖もある。

しかしそれ以上に本能がそれを欲していた。

だから私は足を止めることなく進み続けるのだ。

村の終わりと思われる石積みを超え、小さな丘を頭を押さえながら登る。

増えていく木の枝に、いつからだろう、前を歩く小さな少女。

ついてこいとでもいうかのように時折振り返り無表情に見つめてくる彼女を追うように歩みを進めていく。

誰だという問いはない。

何が目的だという問いもない。

あるのは確信。きっとこの先に私はいるという確信。

 

早く

 

「はは、そんなせかさないでよ」

 

進むごとに足は重くなり視界は歪む揺れている。

色白の少女は進み続ける。

ボロボロの剣を持った少年も、汚れのついた鎧を着た青年も、杖をついた老人も、桑をもった老婆も、欠けたツノを持った悪魔も、光を失った輪を浮かべた天使も、彼と共に進み続けた。

 

あそこ

 

「ああ....そうか....」

 

指の先にあったのは小さな小屋。

木製の小さな、しかし自然の中に放棄されていたとは思えないほど綺麗な小屋だった。

見覚えがある。

全ての始まり。

私が私となったあの場所。

忘れてはいけなかったものだ。

頭痛はもうしない。

 

「しかし...なるほどね。どうやって知ったかは知らないけど、親友もなかなか乙なことをしてくれる」

 

ヴェストは木製の扉に手をかけた。

恐怖も不安も何もない。小屋の中から自分を呼ぶ声に応えるために、()()を取り戻すために。

私が成せなかったことを、今度こそ成し遂げるために。

 

私は扉を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神々と悪魔の大戦では記録することのできないほど多くの命が奪われた。しかしそれらを管理する神は不在で、それらがいくべき場所すら用意されてはいなかった。

どこにもいくことのできなかった死者たちが望むのは平和などではなく理不尽への復讐。

何故私が死ななければならなかったのか。

もっと生きたかったのに。

許せない。

そういった負の感情に満ちた魂は膨大なエネルギー、魔力となり、宿主に使われるだけの存在に成り果てる。

しかしいずれ彼らの器たり得る宿主が彼らと同じように絶望を知ったその時。彼らは世界へ復讐を開始することになるだろう。

 

 

ーーー天界のとある禁書より




この二次創作では魔力=魂やら感情やらによって生まれるなんかすごいエネルギー
という謎の独自設定がありまする。
作者は原作を完全に読みきってさらに何回も読み込んだというわけではない、言ってしまえば”にわか“なので独自設定盛りだくさんです。
多分原作とはぜんっっっっっっっっぜん違うので、これはこういう作品なのだと、生暖かい目で見守ってください。

ちなみに最終回迎えても後日談とかいろいろそのまま続くと思います。
ので、もーちょっとグダグダシリアス展開にお付き合いください。
ほんとすぐ終わるんで。


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開幕

成績がやばいよやばいよです。
下り坂です。ファー↑

学力が欲しいです。
小説を書く文章力も欲しいです。




悪魔は困惑していた。

悪魔にとって人間とは神などという存在を盲信する愚かな存在であり、そして同時にその神すらも時に裏切るほどの欲深い存在であった。

故に久しぶりの召喚に応じた時はどんな馬鹿が召喚主か、彼、又は彼女がどれほど私を楽しませ、素晴らしい最後を迎えてくれるのかを期待していた。

しかし召喚陣を抜けた先にいたのは幼い、とても幼い少女1人だけ。

召喚された悪魔に普通ではあり得ないような純粋な期待の眼差しを向ける少女に、悪魔は好みである“もう少し成熟し、この世の不条理を十二分に理解し、その上で自分は例外だと自惚れる愚者”ではないと理解するが、それでもこのような幼い少女がどれほど愚かな望みを口にするのか気になった。

悪魔召喚を行うものは愚者か自暴自棄になった廃人寸前の人間だ。そう相場が決まっているのである。

故に悪魔は期待した。

幼さ故の愚行。それを理解した時彼女はどのような反応をするのか。はたまた幼少期から悪魔に頼るという神を裏切る同然の行為をしたこの少女は無知故にどのような願いを口にするのか。そして神を崇める同族の中でどれほど悲惨な最後を迎えるのか。

ああ、楽しみだ。楽しみで仕方がない。戦争(弱いものいじめ)もいいがやはりこうやってじっくり絶望に落とし、その過程を観察するのが一番だ。

()()も楽しみで仕方ないだろう?嘲笑ってきた屑どもが、傍観してきた観客が、幸せを謳歌してきた連中がこちら側へと堕ちてくるのは。

また1人、()()の仲間が増えることとなるな。

 

『友達になって』

 

....はい?

 

 

 

 

 

 

 

 

「遊んで」

 

「はいはい、ちょっと待ってくださいね...ってちょ!?今料理中なんですよ!?危ないです!わあああ!?登らないでくださいーー!?」

 

悪魔は辟易していた。

あれ以来、悪魔が叶えた願いは『遊んで』『抱っこして』『本読んで』『遊んで』........

おまけに彼女の両親はいない、兄弟もいない、そもそも周りに人がいない。この丘の下にある村へ向かったとしてもなぜか白い目で見られ石を投げられる始末。

生きるために必要な食事もそこらへんの謎果実をむしって食べる毎日。

このままではいずれ死んでしまう。絶望もなにも知らぬまま。それは悪魔にとって望むものではない。

それ故にこうして悪魔は少女のご飯を作ったりと世話をしているというわけだ。

 

「魂を対価に願うものが願うものがこれって...無知とは本当に恐ろしい....」

「早く、早く」

「...ご飯抜きでいいんですか?」

「それは嫌」

「じゃあ待ってください」

「む.....なんでも願い叶えるって言った」

「................そこの分身体と遊んでいてください」

「や。あれつまんない」

『!?』

 

権能を使用して生み出した分身体がショックを受けているが無視。

何故かこの少女にとっては悪魔本人でなければダメらしい。

なんと厄介なことか。

 

「....そこの貴方、ご飯をお願いします。焦がさないように....絶対にです」

『.......』(約:おk)

 

料理を分身体に任せ悪魔は少女のご機嫌とりに集中することにした。

もっとこう、復讐!!だとか金!!暴力!!女!!だとかそう言ったいかにも悪魔に願うような邪悪な願いをしてくれればいいのに。

例えば石を投げてきたあの村に復讐だとかそう言ったものであればその後の展開に期待できるというのに。

そんなこの時代には異様なほど平和な毎日に悪魔は頭を抱えたくなる。

以前と変わらずどこからか聴こえてくるあの更なる悲劇を望む呪詛の数々は無くなることはないがその数とそこに込められた怨念は確実に小さくなっていた。それどころかあの分身体に込められた魔力()のように少女に対して好印象を抱いているものも多くなっている。

 

『殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ』

『あー幼女ちゃんかわゆす』

『こっちこいヨォ....お前もこっちこいヨォ....』

『もっと、もっとだ。絶望を、更なる絶望をよこせ』

『なんか...こう...母性を刺激されるよね』

『殺せ殺せ殺せ殺せ.....わかる』

『頭よしよししたイ』

『これが真の天使...私などただの羽の生えたゴミだということですね』

『もっと、もっとだ!可愛い幼女ちゃん成分をよこせぇ!!!!』

『でも村の奴らは許せねぇ....あいつら人間じゃねぇ!!』

『彼らには天罰を与えなければなりませんね....』

『幼女ちゃんペロペロしたい』

『悪魔さんこいつです』

『天罰を』

 

 

「..............」

「大丈夫?頭痛い?」

「......なんでもないです」

 

もう...ダメかもしれない。

悪魔は天を仰いだ。今日も空は黒雲に覆われていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ずっと思ってた。悪魔さん、名前ないの?」

「名前ですか?ありますけど...」

 

小屋のそばに作った小さな畑で悪魔は十分に育った人参と格闘しながら少女の言葉に答える。そういえば自分の名前を名乗っていなかったな、と。

ちなみに分身体‘sは早々にリタイアしてそこらへんに伸びている。

 

「なんていう?」

「縺ゅ>縺?∴縺」

「...?」

「人間のような矮小な生物には理解できない名前です。これまでのまま、悪魔とお呼びください」

「む...」

 

返答が不満だったのかポカポカと小さなその両手で人参をその手に鷲掴みした悪魔を叩いてくるがノーダメージ。悪魔にとっては痛くも痒くもない。

 

『ふざけんなてめぇ!名前ぐらい教えろやゴルァ!?』

『そうだそうだ!!』

『しかも天使ちゃんを矮小な存在だとか....殺す』

『天罰です。天罰確定演出です。貴方は生きていてはいけない存在です』

『悪魔なんかが天使様を見下すナ。頭が高いゾ』

『ペロペr』

『天罰を』

 

もうこいつらきらい。

悪魔は手元のニンジンを握りつぶした。もったいない。

 

「しかし貴方も自分の名前を名乗っていませんよね?」

 

そう、これが悪魔とその他諸々が少女のことを“幼女ちゃん”だとか“天使ちゃん(様)”というあだ名で呼んでいる理由だ。

なんとこの2人、出会って数ヶ月も経っているにも関わらずお互いの名前すら知らなかったのだ。

そして今この時、初めて謎に包まれた少女の名が明かされるのだ。

 

「名前.......ない」

「ないちゃん?」

「違う、ない」

「.......ノーネーム?おk?」

「おーけー」

 

明かされることはなかった。

というか明かすものがなかった。

全くの斜め上の解答。これには悪魔も予想外。

両親は今よりもっと小さい頃にはいたと聞いたが、まさか育児放棄だろうか?とんだクソ親だ。まあ悪魔信仰で処刑されたらしいしろくな人間ではなかったのだろうが。

 

『クソ親がヨォ...』

『こんな天使を置いて逝くとは...この世界、よくあることですがその理由が悪魔信仰となれば別です。天罰を....』

『ペロペロ...できる空気じゃない...ヨシヨシしてあげたい』

『珍しく空気を読んだ!?』

 

「.........ではこれまでのように呼べばよろしいですか?」

 

悪魔は頭を押さえながら問いかける。

実際これまでお互いの名前を知らずに暮らしてきたのだ。彼らにとって名前などなくてもよかったのだが....

 

「.......付けて」

「はい?」

 

「名前、付けて」

 

少女は悪魔を見上げてこう呟いた。

名前をつける。つまりは名付け親になれと。

これまた予想外の願いだ。

 

「...それは”願い“ですか?」

「うん」

「む.....」

 

悪魔は悩んだ。思わず少女のような口調になってしまうほど悩んだ。

悪魔という存在はそもそも基本的奪う側の存在だ。

契約により契約者に与えることがあろうとも最終的にはそれ以上に大切なものを奪っていく。そんな彼が名前などという大切なものを与える。初めての経験だった。

 

「むー.....むむむむむむむーんむんむん....」

「ふざけてる...?」

 

思いつかない。

ヨサク?むさじろう?よっちゃん?ぱぴー?ぽにゃっこ?

ピンとくるものが一向に出てこなかった....

 

『こりゃひでぇ...』

『大丈夫カ?こいつのネーミングセンスハ』

『...動物などに例えて考えてみてはどうでしょうか?』

 

なるほど。動物か。

普段はうるさいだけの連中が珍しく役に立った瞬間であった。

悪魔は考える。眠くなってきたのか目の前で時折あくびをしながらも悪魔の答えを待っている目の前の少女は動物に例えたらなにになるだろうかと。

外見的特徴は一言で言えば白。銀髪青目で癖っ毛が特徴的な真っ白なチビ。性格面で言えば好奇心旺盛で自由気まま。あと寒いのが苦手で暖かいところが好き。熱々の飲み物は飲めない。結構甘えん坊。

 

『これはもう分かりましたね?』

『にゃんにゃん』

 

そう、これはまさに.....

 

 

 

「カポポか」

 

『なんで!?』

「??」

 

 

いやカポポしかないだろ。

色は白じゃないが好奇心旺盛で甘えん坊って言ったらカポポしかないだろ。ほら思い出せあの可愛らしいフワッフワしてそうな鳥を!そっくりだ!特にこのふわふわサラサラで顔を埋めたくなるような髪の毛とか!

もうこれはカポポしかないだろう。

 

『そこだけじゃん!?』

『どっちかというと猫だよね。白猫』

『ほんとどうしてそうなった?』

 

なん......だと.......

まさかのバッシングに悪魔は困惑した。

ありえない....カポポではないというのか.....もっとちゃんとみてくれ....ほらだんだんカポポにみえて......

 

「全然違うな」

「???」

 

悪魔は正気に戻ったようだ。

しかし猫か。確かに猫だ。

この子は亜人ではない普通の人間のため猫耳や尻尾はついていないが付けてみたら....ありだな。

そうなると名前はやはりタマ......

ブーイングが来た。ダメみたいだ。

だとすると猫...キャット、カッツェ、ガット、アイルーロス....はなんかやばそうだからなしで...

 

「フェーリス......フェリスでどうですか?」

「ん....わかった.......ふふ

 

気に入っていただけた...のか?わからない。

 

『わかれ』

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ」

「なんですかフェリス?」

「肉まん食べたい」

「突然ですね。というか肉まんってこの辺にはないのによく知ってますね」

「風の噂」

 

本当に突然のことだった。

いつものように悪魔がすっかり来慣れてしまったエプロンを身につけて昼食を作ろうと準備している最中のこと。

無茶振りはいつものことだったが、なんだかんだご飯など作業中のそれは迷惑だとわかったのか最近は少なくなってきていたのだが。

 

「じゃあ明日買いに行くますか」

「今日がいい」

「今日...そうなりますと昼食が遅くなりますよ?」

「大丈夫」

 

何かを隠しているように見える。

だがなぜかは知らないが彼女には悪魔の“目”が効果を発揮しなかった。

嘘を見破る目が。初めは少女が純粋に事実しか言わないからだと気にしなかったが流石にここまで反応しないのは異常としか言えなかった。

それに...今の彼女は確実に嘘をついている。

 

「“お願い”」

 

....ここでそれを使いますか。

 

「....わかりました。ではしばらくしたら戻りますので家から出ないでくださいね?絶対ですよ?」

 

まったく。一体どんな悪戯を企んでいるんだか。

そういえば召喚されてから今日で1年か。もしかしたらサプライズでも考えているのかもしれないな、と悪魔はらしくもない笑みを浮かべた。

やはり彼も同様に少女に毒されてしまったのかもしれない。

 

「肉まん、楽しみにしてる」

 

悪魔は飛び立った。

 

『....』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

肉の焼けるような匂い。

村いっぱいに響き渡っていた歓声と、笑い声。

罪人はたった今、神による罪罰を小さなその体に与えられた。

 

「フェリス」

 

向けられた美しい蒼眼は閉じられ、かけられた短い言葉も聞こえない。

雪のように美しかった長髪は黒く焼き焦げ、きめ細やかな肌もまた黒く染まっていた。

 

「起きてください」

 

表情をあまり露わにしないその顔は嫌に穏やかな微笑みを浮かべたまま眠ったように動かない。

 

「冗談が過ぎますよ」

 

悪魔は少女に触れた。いつも猫にように摺り寄せてきた柔らかく温かい頬に。

しかしそこには熱は宿っておらず、冷たく、いつものように押し付けてくることもなかった。

 

「起きてください。さあ、家に帰りましょ.......う」

 

「あたった!!」

「罪人に罰を!!」

「憎き悪魔に天罰を!!」

「我ら人間を惑わす神敵に天罰を!!」

 

痛みはない。貫かれた胸が空っぽで、考えるための頭も空っぽで、壊れたラジオのように垂れ流され続けていた呪詛の数々も聴こえず、村人たちと教会の者共(取るに足らない塵芥)の耳障りな歓声も何も聴こえない。全てがクリアになり、あたりは静寂に包まれていた。

 

心音は、聴こえない。

 

彼女は最後に何を思って何を願ったのか。

 

『肉まん、楽しみにしてる』

 

最後の願いがそれって、本当に...くだらない。

 

 

 

「たった今!!我らが主に仇なす神敵と愚かにも主を裏切った大罪人の処刑が完了した!!我らの偉大なる主に感謝をささげーーー

 

 

 

「喋るな」

 

 

ああ、貴様らのような塵芥どもが、貴様らがこの世界で会話し行動し呼吸をしているだけで腹が立つ。神などという偶像に縋る愚者が。愚かにも(支配者)を自称する独裁者が。それに対し盲目的に敵対する者達も。(私達)から大切なものを奪い去った貴様らが(全てが)

 

「不愉快だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪魔縺ゅ>縺?∴縺の顕現を確認」

「女神エリスは失敗した」

「奴はこの世に存在してはいけない存在だ」

「この世界には貴様も悪魔も不要な存在だ」

「これより縺ゅ>縺?∴縺の討伐を開始します」

 

 

「.......ただいま、素晴らしき世界」




フェリスfelizはスペイン語で「幸せな」、Feliz Navidad! 「メリークリスマス!」のようにも使うそうです。
Wikipediaより



追記
ペンタブゲットだぜ!!
画力ぅがほすぃぃですね。
うちの子君ちゃん

【挿絵表示】

ワイングラスに意味なんてないんや...


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エリス様

今回ちょっとながいです。
追記:一部分が抜け落ちていました。すみません。


(どうか....間に合ってください....!!)

 

女神エリスは焦っていた。

ことの始まりはエリスの熱烈なストーカーと化していた悪魔ヴェストが普段腰に身につけていた巾着に入っていたと思われるデュラハンのアンデッド、魔王軍幹部として知れ渡っていたはずのベルディアがヴェストの異常を彼女に伝えたその時だった。

突如起こった違和感を、世界が書きかわるような巨大な何かが現れたような気配を感じ取った彼女はベルディアから聞き出した悪魔ヴェストの行方を辿るため、彼の気配と、過去の資料から調べ出していた情報からとある場所へと転移していた。

 

始まりの場所 ベレット村

 

かつて魔女が処刑され、“真なる悪魔”が誕生した場所。

かつて神々の願いに応えた勇者がその命を犠牲に悲劇に終止符を打った場所。

悲劇の始まりとされ、同時に全てが終わった場所へと足を運んだ。

長年術者不明の結界によって近づくことも、認知することすらできずにいたその場所は解き放たれ、まるで過去がそのまま持ってこられたように外界との違いを明確に示した聖域のようにも見えた。

 

しかし青々としげる植物やその神秘を感じさせる景色とは真逆に、その場所は生きる者がいないかのような静寂に包まれそれが一層不気味さを感じさせる。

何より聖域に充満する思いはその表現とは真逆。

生きとし生けるもの全てを憎み恨み、更なる悲劇を望むかのような怨念が溢れかえっている。

 

おそらくここに来ているであろうヴェストの気配も、自分と同じように気配を察知した天界の者達もいるはずにも関わらず周囲は異様な静寂に包まれていた。

 

エリスは浮かび上がってきた恐怖に強く蓋をし歩みを進める。

それに合わせて溢れかえっていた怨念もまた散っていくのが感じとられた。エリスを避けるようにして左右へと。

これが彼女を恐れてのものではないことは容易にわかった。

彼らの怨念は神などを畏れないほどに深く濃くドス黒かった。

あの伯爵を彷彿とさせるものまで感じ取れた。

にも関わらず避ける様子はまるで道を開けるようにも見え、同時に誘っているようにも見えた。

 

(...この先にいるのですね?ヴェスト...)

 

進むにつれ周囲に見られる十字架の数も増えていく。

怨念は深くなっていき、次第に人の形をかたどり始めた。

小さな子供の姿から腰の曲がった老人の姿。

頭にツノを持つものや背に翼を持つもの.....悪魔や魔族、天使に...神、と思われる姿まで。

それらに共通するものは生気を失った虚な目でコチラをじっと見つめてくることだった。

 

(でも....)

 

そこに込められた思いは何なのか。

気分を悪くするほどの怨念に包まれているにも関わらずその方向性は自分には向いていない。しかしその視線だけは何かを訴えかけるように彼女へと向いていた。

彼女は視線から感じ取れる感情の正体は掴めないでいた。

自分に向けられた感情は、恐怖や憎しみ、怒りなどの負の感情か。それとも憐れみ?興味?喜び?期待?

わからない。

 

「!!」

 

再会は突然だった。

遠くに見えたのは一際大きな黒い十字架。そしてそこに佇む普段の冒険者ようの服装ではなく、スーツのような黒尽くめに身を包んだ白髪の彼の背中。

 

「ヴェスト!」

 

駆け寄ってくる彼女に気がついたのか振り返った彼の顔にはいつもと変わらない胡散臭い笑みが張り付いていたがそれもエリスの姿を見ると驚いたように崩れた。その次に現れたのは先ほどの胡散臭い笑みとは比べ物にならないような弾けたような明るい笑顔。犬耳と尻尾を幻視させるようないつもと変わらない彼の笑顔。

 

「エリス様!!どうしてこんな辺鄙なところへ!?まさか()を心配して!?」

 

「違います!!....でも...よかった、あなたが無事で....ハッ!」

 

「やはり()の心配を......!?」

 

「違います!今のは忘れてください!!」

 

いつもと変わらない彼との会話。

神と悪魔の会話としてはちょっとズレたもの。

しかし彼女たちにとってはいつもの平和な日常会話。

 

「まったく!こんなところで何をしているんですか?早く帰りますよ!」

 

普段通りの少し抜けた彼の様子を見て少しエリスは心の余裕を持つことができた。ここの怨念は元々のものであり、あの時感じた違和感はただの勘違い。彼は全くの無関係だと決定づけた。

....人は自分の望むものを事実と思い込もうとするものだという話しがある。それは神であるはずのエリスも例外とは言えないのかもしれない。

 

「帰りません」

 

「.................え?」

 

瞬間、空気が変わった。

彼の笑顔は変わらなかった。

しかしそれはもうもはや自然なものだとは思えなかった。

いつも彼女以外に向ける笑み以上に作り物らしく、一見人にしか見えない精巧な人形が人形とわかった時、それをもう人として見れなくなることと同じように、エリスはもうそれを自然な笑顔とは見えなかった。

 

「ヴェスト....?」

 

「エリス様、恨みというのは恐ろしいものですね」

 

「なにを...いっているの?」

 

「何十、何百、何千年と時間が経過しようともそれが失われることはないのです」

 

ヴェストはエリスに背を向け、十字架に触れる。

黒く染まっていたそれは、目を凝らしてみるとまた別のものに見えた。

そこに含まれる色はよく見ると赤が含まれており、無機物のように見えたそれはよく見ると小さく動いていた。

その動きは一定のリズムを刻み、まるで脈動しているようで....

 

「人々に、神々に忘れられるような年月がたった今でも確かにここにあった。私はやっと、私を私たらしめるものを見つけ出したのです」

 

「..........ください」

 

「そして何万年前から生を強要され続けているこれは、私の起源と言えるもの....」

 

「...解いてください。幻術を」

 

エリスは絞り出すような声で、しかしはっきりと言い放つ。

 

「...バレてしまいましたか」

 

途端、世界が変化する。いや、あるべきものへと戻ったという方が正しいのだろう。

 

「そんな....」

 

周囲に現れたのは乱立する黒い十字架と、それに身を貫かれる天使達。そして彼女の上司に位置する人物であった神が正面の十字架に磔にされている光景だった。

 

「.....あなたは....だれ、ですか....?」

 

「ひどいですね、お忘れですか?私はあなたの敬虔なる信徒...ヴェストですよ?」

 

「ごまかさないでください!!」

 

あれはもう彼じゃない。

悪魔としては異常で、なかなかどうして嫌いにはなれず、いけないとわかっていても少し心を許してしまっていた彼ではない。

 

「いえいえ、私は間違いなくあなたの敬虔なる信徒()()()。記憶を、()()を取り戻すまでは」

 

もう彼はいなくなってしまったんだ。

 

「やはり...すでに記憶を....」

 

「そうです。これが本来の私。かつて世界を包み込んだ悲劇、その元凶。あなたを愛した愚かな悪魔なんて初めから存在しなかったのです」

 

姿も、そこから発せられる声も変わらない。しかし自分に熱烈な愛を向けていたあの愚かしい悪魔がもういないのだという事実がエリスにのしかかる。当たり前のように、しつこいと思ってしまうほどに自分を追っかけてきた彼はもういない。その事実は予想以上に重く、大きな喪失感を与えたことに彼女は驚かなかった。薄々わかっていたのだ。

彼もアクア先輩やダクネス、そしてカズマ少年やその仲間達のように自分にとって身近で大切な存在になっていたことに。

 

「この世界は再び悲劇に包まれることになります。これは決定事項。変えられぬ結末なのです。どうあがいても、私という執行者を打ち倒しても。もう誰にも止めることはできない。誰にも止めさせない。これは私の使命であり、私達の望むこと..........何をしているのです?」

 

しかしそんな事実を簡単に受け入れるほどエリスは素直ではなかった。

 

「止まってください。貴方には止めることなどできない。精々この世界が終わる瞬間を見届けることくらいしかできない」

 

そんな言葉は届かない。

 

「それ以上進まないでください。私は貴方だろうと容易に手を下すことができる」

 

聞き入れる必要がない。

 

「...止まれ。これ以上近寄るな」

 

歩みを止める必要はない。

 

「......!このっ....!!」

 

「やりなさい」

 

エリスの首に黒い炎で形作られた長剣を向けられるも、彼女は意に関しないよう、悪魔の目を真っ直ぐと見つめる。

 

「貴方が本当に彼ではなく、そしてこの世界を滅ぼすというなら、やりなさい」

 

剣は動かない。

エリスはさらに悪魔との距離を近づけた。

やはり剣は動かない。

一歩足を進める。

悪魔は後退り距離をとる。

また一歩近づく。

再び悪魔はエリスから離れようとするがーーー

 

「な....!?」

 

「もう逃しません」

 

エリスは悪魔はしっかりと逃がさないように抱きしめて離さない。

彼女の力は悪魔にとっては非力で容易に振り払えるものだ。

しかしその手に力が込められることはなく、彼女の方に置かれた手も、すぐに力が抜けるようにだらんと下がった。

カラン、と金属が地面に落ちる音が静かな廃村の中嫌に目立った。

 

「.....私は...私たちは理不尽の中死に、何かを成し遂げることもできず、生きた証すらのこすこともできずに悲劇の中死んでいきました」

 

「....はい」

 

「...かつてそんな悲劇はありふれたもので、当たり前でした。そしてそれは大戦が終わった今でさえ、存在します。今日もまた1人、2人と理不尽の中消えていく」

 

「....はい」

 

「...(人間・魔人)は生きるため、(悪魔)は自由を求めて、()は平和を求めて...それを得ることもできず消えていきました。そして私もまた....」

 

「....はい」

 

「...種族の違い...考え方の違い.....悲劇は...人が、魔人が、神が、悪魔が、知性あるあらゆるものが生きている限りなくなることはないのです。平和は...訪れることはないのです」

 

「.............はい」

 

「.........だから、私は、私たちは全てを壊すのです。人間も魔族も、神も悪魔も...カズマ少年達も、アクセルの人々も、アクシズ教の狂信者も、アリス(ヤンデレちゃん)も、ベルディア()も、全てを無に返すのです...もう、あの子の様な悲劇を生まぬ様に」

 

「......」

 

「だから、離してください..................貴方を傷つけたくない」

 

力無く彼女に身を預けるように項垂れる彼の顔には笑みはもう無く、その顔は悲痛に歪んでいた。

いつの間にか彼女達を囲んでいた影達もまた何かしらの感情を含んだ視線をエリスに送り続けていた。

 

「.....駄目です」

 

しかしエリスは断った。はっきりと。

 

「私は貴方達の生きていた時代を知ることはできません。だから、貴方達がどれほど辛い目にあったのかを知ることはできませんし、貴方達がやろうとしていることが間違っていると否定することもできません」

 

「...」

 

「ですが、今を頑張って生きている人たちを亡き者にするなんてことを許すことはできません」

 

「.....」

 

「私はこの世界を任された神様ですから」

 

えっへんと精一杯の笑顔を浮かべて胸を張る。

 

「だから...私に任せてはくれませんか?きっと貴方達の望む“平和”を実現してみます。悪魔の皆さんとだって....できる限り頑張るつもりです。だから、私を頼ってはくれませんか?」

 

えへへ、と笑いかける彼女を彼は見つめる。

影達も見つめる。

 

「...それは....簡単なことではありません」

 

「そうですね。ですがいつかはきっと実現できるはずです」

 

「...........なぜ、そんなことを言い切れるんですか?」

 

彼女の語ることは実際簡単なことではない。

今まで争い戦争まで起こしてきた彼らが、彼ら全員が平和を得るなんて夢物語だ。でもーーー

 

「だって、もうできているじゃないですか」

 

彼女は指を刺した。

その先には...

 

「やっべ!」

「バレてますよ!?」

 

見知った顔がいた。

 

「....え?」

 

爆裂魔法しか打てない爆裂娘。

剣が当たらないドMクルセイダー。

知能以外は無駄にいい駄女神。

なんだかんだ仲間思いな勇者の卵。

商売のできないポンコツリッチー。

破滅願望を持った性格の悪い悪魔。

そして文句を言いながら来てくれたツンデレデュラハン。

 

「あれが、貴方達の望んだ平和なんじゃないですか?」

 

「あ.....ああ....」

 

「探していたものは案外近くにあるものですよ?灯台下暗しです!」

 

本当に彼女の言った通りだった。

探して探して、見つけ出したいものはすぐ近くにあった。

様々な種族がいるにもかかわらず、ああやって争いが起こることのない平和な世界が小さいながらもそこにはあった。

 

「あ....」

 

少女が笑っていた。

悪魔が守りたかった笑みが、そこにはあった。

もう手を伸ばしても届かないと思ったそれが。

 

「....は、はは....わかり...ました。私は、私たちは貴方を、エリス様を頼ってみることにします」

 

「ーーーー!!!...はい!!任せてください!!」

 

 

 

 

「は、ははは......やはり、美しい」

 

 

影はもういない。周囲に充満した怨念ももう晴れていた。

そして太陽の様に笑う彼女はやはり美しかった。

それは彼個人の感情だったのか。はたまた()()()の感情だったのか。

 

「『『エリス様尊い』』」

 

『ええー.......』

 

少女の小さな呆れ声はエリス様の尊みの中消えていった。




先輩神様&天使“s(放置...?)

悪魔特製オブジェ<罪人の肉十字>
とある少女の命を奪った十字架を軸にベレット村の住民と教会の人々を悪魔合成したエグい代物。材料は今も苦痛の中生き続けている。普通に呪いのアイテム。その後の運命はエリス様次第。


もうちっと続くんじゃ


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終幕

本日2話目の投稿!!
前話を読んでいない人はできれば読んでいただけると幸いです。

追記
お気に入り1111ありがとうございます!
ポッ○ーですね!!


「なになに?ミラーはヴェストっていう虚像の悪魔で?お供に魔王軍幹部の首をぶら下げた元魔王軍幹部で?悲劇がこれ以上生まれるのを防ぐためにかつて世界を滅ぼしかけたやばいやつと....そしてそれを愛とかで頑張って止めたのがクリスに憑依したエリス様....?うーんなるほど?わからないということがわかったぞ」

 

「とりあえずこいつをゴッドブローすればいいのよね!?」

 

「「待って待って待って待って」」

 

 

人知れず世界が救われたあの日、世界を救った女神エリスはさらに讃えられるようになり、それに一役買って出たベルディアやカズマ一向もまた英雄として持て囃されるようになる.........ということは別になかった。

いつもと変わらぬ日常。いつもと変わらぬ風景。そんな平和なひとときが変わらずそこにあった。

あえていうならエリス様が賞状という名の爆弾(ヴェスト)の首輪を天界連中から受け取ったことだろうか。

そして何より変わらなかったことで意外なものは、ミラーこと、ヴェストの処遇。

 

「カズマ少年、すまないが助けtゴボゴボゴボ」

「ヴェストぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」

「いやぁぁぁぁぁ!!ちょっとカズマさん!?そんなやつ放っておいて早くこいつをなんとかしてぇぇぇぇ!!!!....あ」

 

彼は今日も変わらず、カエルに丸呑みされていた。

ベルディアがヴェストの元へ向かう最中アクアによって浄化されかけたり、ことが終わった後、ヴェストに向けてとりあえずの感覚でゴッドブローが放たれそうになったなど、ちょっとしたことはあったが、彼に対する対応は意外なほど変わらなかった。

なんでも「エリス様がなんとかしてくれるから大丈夫!!」とのことだった。彼女のストレスが増えること間違いなしであろう。

天界もまたその意見で統一されており、悪魔達もバニル曰く「好き好んで爆弾を持ちたい奴はいない」だそうだ。

つまり、全会一致でエリス様へと丸投げされたというわけである。

ちなみにギルドにも明かされていたりするが、サキュバス店やら対カラス用決戦兵器バニルさんなど前例がありすぎるアクセルの町ではこれまた予想以上にすんなり受け入れられた。

なお、その影響か、悪魔っ子が男冒険者の中で少しブームになったとかなんとか。

 

※店でヴェスト様を夢で指名するのはおやめください。私どもが殺されてしまいます。

 

 

 

 

 

「あ!エ....クリス様!!」

「やめて近寄らないでくっつかないで!!」

「そんな.......」

「ち、違う違う、初めの頃は君のこと変な悪魔って思って嫌ってたけど今は...って違う!せめてその全身に滑ってるカエルの涎を拭いてからにしてほしいなーって」

 

エリス様の代理として彼の手綱を握るようになった(設定の)クリスとの関係もまた良好.....?に見える。

以前はその姿を見ただけでスキルを全力で駆使し、逃走を図るクリスを脚力だけでいい勝負に持ち込むヴェストとの全力大人の鬼ごっこを行っていた彼女達の関係も、こうして見るとだいぶ進展しているように見える...だろう。もうあの行われるたびに街の石畳に足跡がくっきり一人分付けられた職人泣かせの鬼ごっこが行われなくなったのだから。

その見た目から(見た目だけ)百合の誕生か!?と期待に目を輝かせる人たちがいることを彼は知らない。

 

「そういえばヴェスト、君冒険者達の間で結構有名だけど知ってる?」

「いえ...そこまで目立っているつもりはないんですが...」

 

ベトベトに粘りついたカエルの涎を魔法で落としながら彼は答える。

 

「優しい笑みを常に浮かべるミステリアスな美女」

「女性達のボーイッシュな王子様」

「カエル以外のクエストは無傷で難なくこなす期待の新人」

「毎日のようにカエルの粘液塗れになってくる子供の性癖クラッシャー」

 

「...............」

 

思ったよりもひどい噂に流石のヴェストも顔から表情が抜け落ちる。

よく視線を向けられていたとは思ったが、まさかこんなことになっているとは。あと何故性別が女だと思われているのかがわからない。悪魔は性別などないが、自分は男寄りの性格だったはずだ、と。

というか子供の性癖クラッシャーってなんだ。妙に最近前屈みになっている人がいるとは思ったが.....

 

「噂ではこの街のどこかにあるサキュバスのお店で君の夢を見せるように注文する人たちもいたらしいよ。でも安心して。その問題はもう解決したから」

「え?なんか勝手にヤバいことになって勝手に沈静化していたんですけど...」

 

思わず悪魔でさえ引き気味になる惨状である。

 

「でもまだ問題は山盛りだよ。天界や悪魔達はいいとしても、この街以外の人間や魔族達にはあまり知られない方がいい」

「ですねぇ...私も平和は願いますけど政戦のネタにされたりドロドロとした問題に巻き込まれるのはごめんです」

 

人間同士の醜い争い。権力や金、力を求め、欲望のまま行動する人間の習性はいつの時代も変わらないことを知っている。あの伯爵のように、人間の黒い部分を知っている。神を信仰する陰で自分の欲望のために動いていたもの達を知っている。だからカズマ少年達を巻き込まないように気をつけなければならない。

 

「できる限り私も広まらないようにするけど...無理だろうね」

「人の口に戸は立てられませんからねぇ......はぁ....」

「それもこれも君があんな大勢の前で暴露したからだからね!?」

「いやー...もう隠すのいいかなって...」

「よくないけどね!?」

 

はぁーっとクリスは深くため息をついた。

 

「はぁ...なんにせよ今はどうしようもないことだしね。君はこれからどうするつもりなの?」

「これからもクリス様のお隣で四六時中365日貴方をおm」

「却下」

「....冗談です。これからも変わらず、冒険者をやりながら自由気ままに生きていこうかなと」

「うん、それがいいと思うよ。私をストーキングするよりかはよっぽどね」

 

「............エリス様、私たちの願いを聞き入れていただきありがとうございます」

 

「...うん。平和を願うのは私も同じだからね。難しいことだけど、頑張るよ」

 

責任重大だなぁと笑うエリス様は美しかった。

その目には光が宿っており、強い決意が窺える。

彼女なら、エリス様ならそんな夢物語もなし得るのだと納得させるものがそこにはあった。

やはり、可愛いは全てを解決するのである!!

 

「最後の一文で台無しだよ!?」

「あ、声に出てました?」

「うん、がっつりと」

 

少し照れながらそういうエリス様はやはりかわ...なに!?照れ...だと!?

ヴェストに会心の一撃。これまでに見る機会の少なかった“照れ”にヴェストのライフは半分以上吹き飛ばされた。

死なないでヴェスト!あんたが今ここで倒れたら(以下略

 

「ところでクリス様、もう一つお願いがあるのです」

「ん?なに?私にできることならなんでも言ってよ!」

 

 

 

 

「好きです。付き合ってください」

 

 

 

 

顔を見てはっきりと。初めて会った頃のような勢いに任せたものではなく、彼の思いのこめられたもの。普段の少しおちゃらけたような様子ではなく、落ち着いて、自分の気持ちをそのまま口に出すようにして告げた。

 

 

 

「.......」

 

 

 

 

「おーい!ヴェストー!飯行かねーかー?」

 

 

 

 

 

「......ははは、まあ、無理ですよね。一度断られてるのに。はは、なーに言ってんでしょうね私は。あー恥ずかしい。カズマ君が呼んでますしここら辺で失礼します」

 

 

 

しかし帰ってきたのは沈黙。

ヴェストは軽く自嘲気味に笑いながら去ろうとする、が。

 

 

 

 

 

「...............とは言っていません

 

「?」

 

 

 

 

 

 

 

「........いやだ.....とはいっていません」

 

 

 

 

 

 

 

......

.........

............

...............

 

 

「へぁ?」

 

 

 

 

「おーーーーい!置いてくぞー?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『この愚かな悪魔に寵愛を!』終わり




これにて「この素晴らしい世界に祝福を!」の二次創作、「この愚かな悪魔に寵愛を!」最終回とさせていただきます!
ここまでこんな二次創作にお付き合いくださり本当にありがとうございました。
いつもコメントを送ってくださった皆様、いつも温かい言葉をありがとうございました。
誤字報告をしてくださった皆様、本当誤字多くてすみませんでした。今回もあるかもしれません。すみません。今までありがとうございました。
こんな作品に評価をつけて下さった皆様、おかげさまでここまでモチベーションが保てました。ありがとうございました。
ここまで読んでくださった皆様のおかげで私は二次創作ですがこの作品を完結まで持ってくることができました。
本当にありがとうございました。


この後もちまちま、おまけやら後日談やらを続けていくつもりですが、よかったらこれからもよろしくお願いします。


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蛇足編(おまけor後日談)
めりーくるしみます!!


私はクリぼっちじゃない。家族がいるからクリぼっちじゃない。
そうだよねーアレキサンダー(金魚)?

ん?クリスマスに用事があるかだって?
それ以上は聞いてはいけない。

追記
お気に入り登録数が1000を超えて、UAが50000を超えていました!なるほどこれがクリスマスプレゼントか!本当ありがとうございます!


 

「さて、みんなは“くりすます”という言葉を知っているだろうか」

 

ここは暖炉にくべられた薪がパチパチと音を立てるカズマ邸の居間。そこではいつものカズマさん一行とヴェスト、そしてウィズとバニル、ゆんゆんなどが各自寛いでいた。

ちなみにこたつはカズマ少年とちょむすけによって占領されている。

 

「そのくらい知っていますよ。確か真っ白なお髭を生やした真っ赤な不審者が煙突から不法侵入してきて良い子にはプレゼントを、悪い子には石炭をプレゼントする日ですよね」

「ああそうだ....一般的にはな」

 

所々悪意のある言い方の混じっためぐみんの説明をヴェストは両肘を机の上に立てて両手を口元で組む諸相ゲンドウポーズをしたまま否定した。みょうに神妙な空気を纏っている。

 

「幸せいっぱい頭お花畑な一般ピーポー共には知れ渡っていないようだが、実はクリスマスにはもう一つの側面がある」

「それは...?」

 

 

 

「苦離酢魔酢」

 

 

 

 

「つまりは街中でいちゃついているカップルにお酢をぶっかけて別れさせてやろうという行事であり...」

「あーはいはいもういいです」

「待て待て待て待て」

 

何が来るのか期待して見守っていたカズマ少年もみかんを剥いて食べ始めた。ちょむすけが欲しがっているが猫ってみかん食べれたのだろうか。

 

「外を見ろ!こんな寒い中!奴らは!一人ぼっちで温まることのできない我々に見せつけるように!イチャイチャしてやがる!一つのマフラーを共用したり!わざわざ手袋を外してまで手を繋いだり!わざわざ我々に見せつけるためだけに!あのような非効率的な行為をしているのだ!ああ!あの脳内真っピンクどもめ!これでは聖夜ではなく性夜ではないか!かーっぺっ!甘い!甘い!甘すぎる!こんな暴挙を許してはなるものか!そうだろう?めぐみん!そしてカズマ少年!......ハァ...ハァ」

 

「...長文お疲れ様である」

 

息を切らすヴェストにバニルが剥かれたみかんを差し出した。所々理不尽なものもあるが確かにその気持ちはわからんでもない。カズマ少年は彼に同情し、そして自分はあんなふうにならないように気おつけようと反面教師にした。とりあえずみかんうま。このままじゃあ肌が真っ黄色になっちまうよ。

 

「確かにその気持ち、わからんでもない。クリスマスは少々甘ったるい感情が多すぎるのである」

「でぇすよねー!さすが先輩!わかってらっしゃる!」

「しかしな、周りを見てみるのだミラー」

「周り?ですか?」

 

ヴェストは周囲を見回した。

そこにいたのはこたつに食われたカズマ少年や暖炉前を占領する駄女神。ダクネスと共にホットミルクを飲むウィズなど、各自がそれぞれの方法でくつろいでいる光景だった。

しかしそれは表面上の話。内面は...

 

「そう!貴様の周りにはこんなにも独身であることにコンプレックスを抱き極上の負の感情を生み出す人間がいるではないか!」

 

「私は今の生活に満足しているからな。特に感じないぞ?」

「そ、そんなことありませんよ?」

「確かにカップルはむかつきますがそこまでイライラしているわけでは...」

「今は一人じゃないですから別に...」

 

「そそそそそそそそ、そんなことねーし!?別にリア充爆発しろとか思ってねーし!?」

 

「...特にこの男からな」

 

まんまと釣られたカズマ少年だった。

逆に全くと言って負の感情を感じないアクアは暖炉の前で溶けていた。女神って溶けるんだな。

 

「べ、別に俺もリア充滅びろとか思ってねーし!?」

 

そしてバニル先輩の言葉に過剰に反応したものが一人。

 

「...さっきから思ってましたがその大男誰ですか?」

 

そこには黒色のロープを纏った男性がヴェストの横で作り上げたトランプタワーを盛大に崩していた。

 

「ん?ああ、こいつはベ.......ベルさんだ。僕の下僕の」

「そうだ。俺の名前はベルさ...ってお前!下僕ってお前!」

「だって事実じゃん」

 

ベルディアであった。

根城とした廃城に目の前の小娘自慢の爆裂魔法を打ち込まれ、嬉々としてカズマ一行をで迎える準備をしたにも関わらず無視され、かけた呪いは駄女神に解かれ、カズマ少年のスティールで頭部を奪われ、挙句の果てにサッカーボールにされ、胴体を浄化され、それでも終わらず今度はヴェストの悪感情生成装置にされ、やっと失った胴体を作ってもらえたと思ったらアルカンレティアに忘れられて狂信者どもの餌食になったベルディアさんである。

まあとりあえずかわいそうなベルさんは置いておいて...「おい」

 

「そういうわけじゃないんですよ先輩。確かにこの部屋には極上の負の感情が充満し...んん、している“かも”しれませんがそういうわけじゃないんです。あと僕は別に人間の悪感情目当てじゃないんですよ。僕悪魔じゃなくて人間なんで」

「そういう設定であったな」

「せ、設定じゃないです」

 

自分の正体を隠していることをギリギリ思い出したヴェストは否定する。

だが実際彼の目的は人間の悪感情ではなかった。というかそれなら悪感情食べ放題なこの部屋で満足している。

 

「そんなことより!僕はカップルが!リア充が苦しむ姿が見たい!とくに修羅場が見たい!もう悪感情とかどうでもいいんですよ!!」

「えぇ...」

 

誰が放ったつぶやきだったのか。呆れを含んだそれはヴェストの欲望にかき消された。

よくみると例の瘴気が少しだが漏れ始めている。

最近ゆるゆるすぎないか?ちゃんとガス栓は閉めてほしい。

 

「あのように幸せの絶頂にいる人間を見るとどうしても抑えられないこの衝動!ああああああああああ!あの方との契約がなければ今すぐにでも....」

「今すぐにでも?」

 

 

「...............へぁ?」

 

 

ギギギギ、と音が鳴るようにヴェストの首はゆっくりと後ろを向いてゆく。まるで壊れたブリキのような動きで向いた先にいたのは...

 

「今すぐにでも....なにかな?」

 

満面の笑みを浮かべたクリスが立っていた。

 

「あ、え、いや、ちゃうんすよクリス様。決して悪いことをしようとしていたわけじゃぁ」

「じゃあなんでそんなに戸惑ってるのかな?」

 

いつもは女神(事実女神なのだが)のような彼女だが今は一転して凄まじい恐怖を感じた。愛しの女神クリスに問い詰められるなど普段ならその尊さから即成仏√let's goなのだが、今は嬉しさを「クリス様に嫌われてしまうのでは」という恐怖が飲み込み、一歩後退りしてしまうといういつものヴェストならば考えられないような行動をとってしまっていた。

「悪魔のくせに契約すら守れないなんて最低ですね」という幻聴まで聞こえてきてた。

なに?元々好感度はゼロ何だからこれ以上減らないだろって?

そ、そんなことないかもしれないじゃないか!

たとえ可能性が1%未満でも希望を捨ててはいけない。

え?1%も0.1%もないって?ゼロだって?

...そんなこと言わなくてもいいじゃない

 

「ユルシテ...ユルシテ...」

 

一人勝手にダメージを負ったヴェストはついに最終奥義DOGEZAを繰り出すまでに追い詰められていた。気のせいか頭身も縮んで弱々しくなっている。

 

「はぁ、わかったよ。次からは気をつけてね。少し殺気と瘴気が漏れ出てたから」

「アリガトゴザイマスモウシマシェン」

 

カズマ少年は思った。この二人はどのような関係なのだろうかと。

やはりペットと飼い主だろうか。ペット側はもちろんヴェストで。

 

「ところでクリス、突然訪ねてきてどうしたんだ?」

「ふっふっふ...よくぞ聞いてくれたねダクネス!」

「ヒィ!?」

 

そう言うとクリスは背中に背負っていた大きな袋を床に置いた。

小型化しているヴェストのすぐ横に重量のありそうなそれをドスンとおいたのはわざとだろう。

 

「サンタさんからのプレゼントだよ!」

 

「な、なんだってー!?」

「プレゼント!?」

「しゅわしゅわ!?」

 

その一言に縮んだヴェストと溶けかけていたアクアまでもが瞬時に復活した。

プレゼント、その一言はそれほどまでに魅力的なものだった。

 

「はいはい落ち着いて!めぐみんにはこれ!」

「マナタイト!?」

「ダクネスには....」

 

次々と袋から取り出されていくプレゼントに歓声が上がる。

そのどれもがマナタイトや新しいチェストプレート(ミスリル使用)など、大変値の張るものばかりだ。

クリス曰く「銀髪盗賊団で手にはいっ...こう言う日ぐらい贅沢しないとね」だそうな。

ちなみにバニルとウィズにはなかった。

ウィズが少ししょんぼりしていたので彼らには後で僕がプレゼントを持って行こう。ゴブリンの剥製とかどうだろうか。

ヴェストのセンスは致命的に悪かった。

 

「よし、みんなに配り終えたかな....」

「クリス様」

 

全てのプレゼントを袋から取り出し終わりふぅ、吐息をついたクリスの足元から声がかかった。

 

「この私にもどうかお恵みを...」

 

視線を向けてみるとそこには主人から褒美を受け取る騎士のようなポーズをしたヴェストがいた。

それは物語の一場面を切り出したようにムカつくくらい様になっていた。

これなら悪魔嫌いのエリス様でもきっとプレゼントを与えてくださるはず。

 

「いやないよ?」

「へ?」

「だからないって」

 

 

そんな儚き希望は打ち砕かれヴェストは灰になった。

 

ああサンタよ!どうかこの哀れな悪魔にプレゼントを!

メリークリスマス!

 




翌日ヴェストの止まっている宿屋に彼宛になぜかラップングされた短剣が送られていたのだとか。
明らかに殺意だとかそう言うものがこもってそうなそれを彼はもう一本の短剣と共に祭壇に飾っているのらしい。


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襲来アクシズ教徒!!

蛇足編突入です。
はい、完全におまけです。ネタが尽きるまで続きます。多分。
あと投稿頻度が不定期になります。多分。
今まで週一程度の感覚で投稿してきたけど実はこの小説、不定期投稿タグ付いてるんだよね....

ちなみに今回エリス様回ではありません。
イチャイチャとかって他の人のを見る分にはいいけど自分で書くのは黒歴史化しそうで嫌なんですよね。好きなものを書くのは難しいんです。
もう既にこの作品が黒歴史になりそうだけどね。はは。

注意:今回珍しくヴェストくんが活躍します。


「あの偽乳パッド女神のどこがいいというのですか!!断崖絶壁!まな板!このひんぬー教徒が!!アクア様の方が数倍もでかくぁwせdrftgyふじこlp!!!!」

「はぁああああ!?乳なんて所詮ただの肉塊!!アクアなど所詮乳に賢さステを吸われた駄女神!エリス様の方がよっぽどくぁwせdrftgyふじこlp!!!」

 

「何やってんだあいつら」

 

「んだとごるぁ!?超えましたね!?越えちゃいけない一線越えましたね!?」

「じょーとうだ狂信者どもめが!!こんくらい反復横跳びで超え続けてやんよ!!」

「こんのっ!!くらえ!『エクソシズム』!!!」

「死に晒せ!『ラグナローーー

 

 

「カズマカズマ!明らかにやばいですよアレ!!」

「ストォォォォォォォォォッッッッッッッッッップ!!!!!」

 

 

どこかの道端でのアクシズ教徒とエリス狂悪魔の言い争いであった。

 

 

「何をやってるんだヴェスト...気持ちはわかるがもう少し大人な対応をだな...」

「ダクネス...エリス様が貶されるのを黙って見ていろというのですか?」

「そうではなくてだな.....流石に魔法は....」

 

「ちょっとー!?あんたが私のこと『乳に賢さステ吸われた駄女神』って言ったことばっちし聞こえてたからね!?」

「やはりアクシズ教はこの世界から滅すべき....」

「殴っていい!?殴っていいわよね!?」

 

 

ヴェストの正体が判明してから数ヶ月。世界は極めて平穏です。

カズマ少年の胃の環境を除いて。

 

(キリキリするぅ....)

 

以前と変わらない対応をすると決めたカズマ少年一行。

事実以前と同じような態度で接し、内心も特に大ごとに受け取っていなかった。

あ、あいつ悪魔だったんだ。ふーん。的な感じだ。

ただちょっとめぐみんがよくヴェストを魔力タンクにして爆裂魔法を連発しようとするようになっただけだ。

あまりにも周囲に前例がありすぎたことが今回の敗因だろう。

 

しかしカズマ少年の胃は別だった。

以前から彼の正体に気づいていたため、ダメージは軽減されたが、それも元ダメが大きければ意味がない。80パーのダメージがカットされようとも、元のダメージがHPの五倍...いや、十倍、百倍も大きければ意味がないのだ。

カズマ少年の今までの内心を見てみよう。

 

 

 

 

ミラー(初期)ーよっしゃ、まともな前衛ゲット!!ちょっと怖いけど...

 

ミラー(中期)ー悪魔やん...でもエリス狂信者...なんで?でも他と比べればマシ...?それにエリス教徒に悪い奴はいない。

 

ミラー(後期)ー意外と使える。アクアとタメはるとかやるやん。使用方法注意すればめっちゃええやん!エリス様人形で釣れるし。

 

ヴェストーあ、無理。

 

 

 

特大の爆弾を抱えたカズマ少年だった。

いわば裏ボスが味方のタイプのゲームで初っ端からその正体を知りながらも機嫌を損ねないよう気をつけながら接する系主人公の気持ちだ。例えが悪いか。

言ってしまえば自分の部署に社長が遊びで部下として入ってきて命令を下さねばならない上司の気分だ。...伝わるか?

 

まあいい。そんなカズマ少年は自分の胃を労わりながら今日も冒険に出かける。頑張れカズマ少年!負けるなカズマ少年!

 

 

「見つけたぞサトウカズマ!!そして邪悪な悪魔め!!」

 

 

負けるかもしれない。

 

「あら?あなたは確かーーーーー

「私も知っているぞ。こいつは確かーーーー

 

 

「「ヨツルギね!!!(ミツルギだな)」」

 

 

「ミツルギです!!そして何でアクア様が間違って貴様が覚えてるんだ!!」

「子鹿のように震える姿が印象的だったから」

「な!なぜそれを!!まさかアレは貴様か悪魔め!!」

「そうだけど今更...?」

 

 

ヴェストはこの少年、ミツルギキョウヤのことを知っていた。というか覚えていた。そう、アレは月が言うほど綺麗ではなかったあの夜のこと。ヴェストは偵察のため隠密行動に徹していた際にこの正義感に溢れた少年に運悪く目をつけられてしまい、全力で威圧する事で平和的解決(?)をして見せたのだ。

その時の生まれたばかりの子鹿のように足をガタガタ振るわせ首を音速の域に達するほどの高速で上下運動させたあの姿と溢れ出る恐怖と絶望の感情が滑稽で今も彼の脳内に鮮明に記録されていた。(4話: 「夜遅くこんばんは。不審者じゃないよ?悪魔だよ」参照)

 

「まったく...子鹿くん、今日はなんなんだい?」

「こ、ここここここ、子鹿呼ばわりするな!!」

 

「いやめっちゃプルプルしてるじゃんサンケンさん。ヴェストお前何やったんだ?」

「ミツルギだ!!」

「君たちと会う前にちょっと絡まれてね。カズマ君は彼のことを知ってるのかい?」

「ああ、ちょっと前アクアのことで絡まれてな...」

「アクア様とよべ!!」

「...災難だったね」

 

いや現在進行形で災難にあってるけどな?

災難の原因多分お前だからな?

カズマ少年は唇まで出かけた言葉を飲み込んだ。

 

「飲み込めてない、飲み込めてないから」

「まじ?口に出てた?」

 

しまった出ていたらしい。

 

「ーーーーーっ!!ふざけるのもいい加減にしろ!!貴様よくもまあ抜け抜けと!!」

「へ?」

 

ぷっちーん!と何かが切れる音がした。

そう、ミツルギ少年の堪忍袋の尾が切れた音だ。

本人を無視して話を進めすぎたせいで温厚な彼でも我慢ならなくなったらしい。人の話は聞いてあげよう。悪魔さんとの約束だ。

まあ、私は影が薄いんで話しかけられること少ないんですけど(by??

 

「シラを切るな!!貴様らよくもアクア様を苦しめたな!!」

「へぇ?」

 

アクアを含め全員から空気の抜けるような声が出た。

アクアが苦しんでいる?この明日も数分後のことすら考えてなさそうな駄女神が?

 

「神敵たる悪魔と仲良しごっこを強制するなど!!きっとアクア様にとっては苦痛でしかない!一体どんな拷問を受けているのか.....くっ!!」

 

大丈夫かこいつ。

珍しく全員の意見が合致した瞬間だった。

後ろのツレ2人も同意するように頷いているがどこに同意できるのか。

たしかに敵同士で仲良しこよしを強制されていると言うことであれば苦痛でしかないだろう。だが実際この2人はそれほど険悪な中ではない。バニルや他の悪魔と比べれば親友と言っていいほど仲がいいとも言える。その原因はエリス様人形にあるのだがミツルギ少年が知ることはないだろう。エリス様は全てを解決する。

ちなみに苦行や拷問と言えばヴェストの方が食らっているのかもしれない。毎日悪魔めっすべしとか言って挨拶がわりにゴッドブローを食らわされそうになり、エリス様人形を餌にシュワシュワをおごらされる毎日........

本人はエリス様人形がもらえてご満足のようだが。

 

「正々堂々勝負しろ!!俺が勝ったらアクア様を解放してもらう!!」

「結局こうなるのか....」

 

カズマ少年の胃は崩壊寸前だった。穴が開くどころの話ではなかった。

 

「ふ、スティール対策は万全だぞサトウカズマ!」

 

そう言ってミツルギは鎧の裏を見せた。

そこには........袋詰めにされた数多くの石がーーーーっ!!!

 

「カズマ少年の運の前には無力では?」

「魔剣を売ったお金で焼肉行きましょ!」

「お!いいですね!」

「お前たち....」

 

「さあ!勝負だサトウカズマ!!!」

 

えーーー

受けて当然だとでも言いそうなほど堂々と魔剣をカズマ少年に向けるミツルギ少年に彼はとても、とっっっっっっっっても嫌そうな声を漏らす。めんどくさいんだもの。

 

「いや、ここは私が行こう」

「悪魔院!!」

 

そこに待ったをかけたのはヴェストだ。

その姿に再びミツルギ少年の足腰高速バイブレーション機能が発動しそうになるが、耐えた。コツは気合いだ。

 

「すーーーーー......いいだろう、邪悪な悪魔め。邪悪を打ち倒すのは勇者の使命だ」

 

アクアへの変な思い込みがなければいい勇者になったんだろうな。惜しい人をなくした。カズマ少年は合唱を捧げた。

 

「僕のこの魔剣グラムは質屋で買い戻した後!アクシズ教の教団で対悪魔用の祝福をかけてもらった!悪魔なんて一刀両断してやる!!」

 

「きゃーカッコいい!!」

「やっちゃえキョウヤー!!」

「やってしまいなさい魔剣のなんとかさん!!」

「なんでお前までそっちサイドなんだよっ!!」

 

騒がしい外野をそっちのけで2人の間に生まれた空気はピリピリとしていた。片や神に選ばれた勇者。片や(元)神にあだなす悪魔。

宿敵同士の戦いである。

 

(あー....エリス....エリス様成分が足りない....最近会えてないから...)

 

そうでもなかった。

 

「さあ!行くぞ!!!」

「はやく来たまえ勇者くん。気合いを入れようが結果は変わらないよ」(なんか最近エリス様に会いに行っても途中からの記憶がなくなるんだよな...そんでもって次の瞬間にはベットの上でカズマ少年たちに看病されている....なぜだ?)

「な、舐めるなぁーーーーー!!!!」

(そー言えば私の告白が失敗したあの時エリス様何か言っていたような...思い出せない....確実に何か言っていたはずなのに....)

 

ミツルギ少年の魔剣グラムが真っ直ぐ振り下ろされる。

その軌道は挑発に乗ってしまったせいで大きく、普段のヴェストなら容易く避けられる速度だ。あくびが出そうになるほどに。

しかし今の彼は違う。

彼はエリス様のことについて考える時、絶大な集中力を発揮して、アクアのゴッドブローでさえも彼の集中を止めることはできない。

故に....

 

ミツルギ少年剣は受け止められることもなく、ヴェストを切り裂く軌道でそのまま地面に振り下ろされた。

途中で受け止められることも避けられることもなく。

 

「やった...!!」

 

ミツルギ少年はその顔に笑みを浮かべ、喜びをあらわにする。

そして、つい、うっかり『例の言葉』を口にしてしまったのだ。

 

「ん?ああ、戦闘中だったね今は」

 

『フラグ』である。

 

「な...なんで....」

「あー....今の神器ってこんな脆いんだね」

「....え?」

 

ミツルギ少年は手元の愛剣、魔剣グラムに視線を向ける。

そこには神から授けられた完璧な愛剣の....

 

「な、な........」

 

半ばで真っ二つにおられた無残な姿が。

これでもヴェストは魔剣グラム以上の神器や力をもった神々や勇者たちとやりやっていた戦争真っ只中の時代のの悪魔だ。

昔に比べ平和なこの時代の神器如きで傷がつけられるような存在ではなかった。

 

「よーし」

「ちょ...ま.....!」

 

くらえ必殺ヴェスト弱弱手加減パンチ!

 

「ぐえ」

 

 

「はい、これで私たちの勝利ね」

「....」

「....」

 

「ねえ、ヴェスト...神器を壊されるのは私としても困るしエリスも多分....」

「........直しておこう」

 

 

この後めちゃくちゃ修繕した。

 

 

 

 




パッドでもいいですよ?むしろ大好物で(殴


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ラブコメは難しい。

最終回の続きです。
年齢=彼女いない歴の私には非常に難しいジャンルなのです。
なのでこんな回になっちゃったけど...許して♡(殴りたくなるような笑顔)

調子乗ってシィリィアァスゥな作品を描き始めてみたけど無理っす。
ギャグが恋しくなったのでただいま。


「クゥリィスゥ様エネルギーがぁぁぁあ足りなぁぁぁあい!!!」

 

道端で正気を疑うような絶叫が響き渡る。が、訓練されたアクセルの住人たちはこの程度のことじゃ日常茶飯事として振り向かない。

 

「うるさいなぁ....なんだよヴェスト、お前いつもクリスに会いに行ってるじゃん」

 

無論、転生者であるカズマ少年もまた例外ではない。

彼も訓練されしこのすば世界の住人なのだ。

 

しかし今回ばかりは少し違った。

 

この悪魔(バカ)がクリスに執着しているのはいつものことだ。

冒険の最中にも『クリスクリスクリスクリスエリスクリス....』などとぶつぶつ呟きながら気付かぬうちに近づいてきていた初心者狩りにアームロックを決めているのをこの前目にしたばっかりだ。

そしてその様子の通り、冒険が終わった次の瞬間には瞬間移動かと見間違うほどの速さと、ワンちゃん顔負けの嗅覚でクリスの居場所を嗅ぎつけ走り出していく。

 

それがこのパーティのいつもの日常であり、この街のいつもの日常であった。

 

誰だよ。こいつが他のメンバーに比べればマシとか思ってた奴。

 

俺だよ。

 

そんなこんなで毎日のようにクリスの元に赴き、なぜか帰りは気を失った状態で玄関先までクリスによってお届けされるという形で帰宅している彼は、向かった先でいつも何が起こっているのかはわからないがクリスとは会っているはずなのだ。

しかし....

 

 

「は?何を言っているんだい?私はもう1週間以上もクリスと会った記憶がないのだけど」

 

 

彼の記憶は違うようだ。

彼がいうにはクリスの元に向かおうとするまでは覚えているのだという。

しかし気がついた時にはもうベットの上に寝かされており、カズマ少年や仲間たちの家にいるのだという。

クリスの元に向かったたった数時間の間に一体何があったというのか。

 

まさか誰かから魔法か催眠でもかけられている?

 

そんなことを考えたカズマ少年だが、即座にその考えを否定する。

こんな馬鹿みたいなやつでもこいつはエリス様お墨付きの大悪魔だ。

大昔に世界を滅ぼしかけたとかいうヤバいやつ。

それが洗脳や魔術にかかるとしたらかけた相手は相当の手練れどころの話ではない。

なにせエリス様の話ではアクアやエリス様自身、そしてその上司たちだって今の彼には傷をつけることすら難しいのだという。

よって外部からの干渉の線は消える。

もしかしたら彼が心を許しているエリス様やクリスなら可能かもしれないが、悪魔嫌いなエリス様はともかく、最近話していてヴェストへの評価が爆上がりしていることがわかったクリスならそんなことはしないだろう。

 

とすると問題は本人にある可能性が高い。

気付かないうちに自分に記憶消去の魔法でも使ったのかもしれない。

こいつならあり得る。だってヴェストだもの。

 

「いえ、さすがの私でもそれはあり得ませんよ。記憶消去など高等で危険な技術です。そう言った記憶や感覚などに干渉することが得意な権能を持つ私でも安易に使えないようロックぐらいかけていますので」

「へぇー。『虚像』だっけ?そんなこともできるんだ。つーか自分が馬鹿にされてることは否定しないのな」

「はい、虚像の真価は現実の書き換えなどですが、相手にありもしない幻術を見せたりありもしない記憶を植え付けることも可能です」

「うっわ、チートじゃん。例え性能が良くっても使用者がダメじゃただのゴミになることが証明されたな」

「なんです?さっきから私のこと馬鹿にしてます?」

 

手の上で器用にデフォルメされたエリス様の虚像を生み出しながらヴェストはカズマ少年をジト目で睨む。そーいうとこなんだよ。

 

「まー今の現状じゃ分からん。とりあえずクリスのとこ行ってみようぜ」

 

実際の様子を見なきゃ分からない。とりあえずこいつとクリスを合わせるところからやってみよう。

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

「よーし見つけたぞ」

「クリス様....今日も美しい....」

 

遠くで歩く銀髪の女性、いや、女神クリスを見つけた。

それを見るカズマ少年、そして完全ステルス状態と化したヴェスト。

 

「....なんで潜伏してんだよ」

「潜伏ではない。私は今権能を全力行使し、この世界すら欺くほどのステルスを展開しているのだ。この状態の私を見つけることは、神でさえも不可能だ」

「じゃあなんで俺は認知できるんだよ」

「私にも分からん」

 

 

自称世界を欺く潜伏状態のヴェストをなぜか正確に捉えたカズマ少年は腕を構え堂々と分からんと言って退けた彼の腕を正確に掴み前に出す。

 

「ほら、隠れてないでさっさと行ってこいよ」

「やめろぉ!!離せぇ!!」

「なーんでそう意地になるんだ!!」

「だって、だって恥ずかしいじゃん!!」

「ヴェストが恥ずかしがった!?誰だお前!?」

「失礼だな君!!」

 

「ねえ君たちこんなところで何してるの?」

 

そんな中、2人に明るい声がかけられた。

ヴェストが視線を向ければ視界が光に包まれた。

目が潰れるほどの光量からなんとかその本体を見つけ出そうと目を凝らす。

そしてやっとの思いで捉えたそれは美しい銀髪と碧眼を持つ女性、いや...

 

「メガmッ!!!」

 

「ヴェストォォォォォォォォォォォ!!!!!」

 

口から瘴気を吐き出して地に倒れ伏す。

気のせいかもしれないが体も透けて見える。

 

「ヴェスト!しっかりしろヴェストォォォォォォォォォォォ!!!!」

「トオ.....ト..........イ.....................」

「ヴェストォォォォォォォォォォォ!!!???」

 

「あーやっぱこうなっちゃうか....」

 

それを見てクリスは呆れた風に苦笑いする。

その様子はコレを何度も見慣れているようだ。

そしてカズマ少年はそれを見て察する。

彼が毎回気を失ってクリス急便によって配達されているのって...

 

「まさか....」

「うん、毎回会いに来るけどそのたびにこうなっちゃうんだ...」

「そりゃぁまた.....」

 

そう言いながらカズマ少年はヴェストの頬へ拘束往復ビンタを食らわせる。

彼もだんだんヴェストへの遠慮がなくなってきた。

距離感が近くなったとも取れるが。

 

「おーきーろ。ほら、お前の女神様だぞー?」

「ちょ!?カズマくん!?女神って...」

「........んぁ?知らない天井だ...」

 

ちなみにカズマ少年はまだクリスとエリス様が同一人物であるとは気付いていない。

 

「あ、あなたは...エリス...様?」

「ちょ!?違うよ!?人違いだよ!?ほら私!!クリスだって!!」

「................はっ!?もももももももも申し訳ありませんクリス様!!」

 

「なんでお前らそんなに必死になってるんだ?」

 

“わちゃわちゃ”という表現が似合うような2人の動きにツッコミが入る。

確かに事情を知らない人からしたら気が狂ったようにしか見えないだろう。それもヴェストはいつものこととしても、もう1人は常識人キャラとして通っているクリスがやっているのだから。

 

「で?なんでお前は倒れたんだ?クリスを前にした瞬間顔を真っ赤にして倒れやがって。思春期の高校生でもそうはならないぞ?」

「ああ、確か何かを思い出したんだが...なんだったか.....」

 

記憶を失うなんて相当だなというカズマ少年の言葉はもっともだ。

記憶を失うなんてトラウマや思い出したらまずい事でもあったのか。

 

「あ.........も、もしかしてあの時のこと?」

「あの時?」

「......そうです!!!あの時の返事が本当かどうか気になって眠れい」

「おーい早速眠りそうになってるぞー?」

 

お前が話さないと話が進まないんだ。

そう言ったカズマ少年の思念の詰まった超高速往復ビンタが炸裂する。

そして同時に彼は感付き始めていた。

この場において自分は邪魔者だということに。

長年引きこもりニート童貞を続けていた彼は感じ取ることができるのだ。

「ラブコメの波動」を。

湯気が立ち上るほどに顔を真っ赤に染め倒れたヴェストとなぜか顔を赤らめ少しモジモジしているクリス。

あーはいもうわかりました。かんっぜんに俺おじゃま虫ですね、と。

 

しかし今すぐこのリア充予備軍どもから逃げてサテライトキャノンでも打ち込んでやりたいが、そうもいかない理由が彼にはあった。

 

そう、その理由は

 

 

「話が進まねぇじゃねぇかぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

 

 

ペチペチペチペチ。

 

目を覚ました瞬間に即刻天に召される馬鹿と自分で口にするのは恥ずかしいのか見ているだけの女神様。

このラブコメ(?)はどうやったら終わらせることができるのか。

 

 

カズマ少年の苦労はまだ無くなることはない。




ラブコメッテ...ナニ.....?
コイッテ....ナニ...?
セイシュンッテ....ナニ...?


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浮気は大罪よ!!!

まだ見てくれている人がいるかわからないけど、こんにちは。
久しぶりです。有機栽培茶です。生きてます。
最近別の小説を新しく書き始めました。

ジャンルは正反対(シリアス)
原作は全く違う(アークナイツ )
相変わらずの駄文。

よかったら見ていってください(宣伝)


今回オリキャラ注意(!?)


万物を欺き、真実を嘘に。嘘を真実に書き換える。

かつて世界を塗り替えんとした大悪魔は、人間達には忘れ去られ、天使達には封じられ、しかし悪魔達には今日まで恐れ敬われ伝えられ続けていた。

 

曰く彼の者の前では神でさえも赤子同然である。

曰く彼の者はあらゆるものを操り、生と死さえも操った。

曰く彼の者が一声あげれば天と地は反転し、光と闇は入れ替わる。

 

悪魔達は天敵である神をものともせず、悲劇を終わらせるため、悲劇を生み出し続けた大悪魔を。

かつての伝説を。

恐れ敬っていた。

 

 

「聞いてくれよ....僕は...僕はぁ.....」

「なるほど、なるほど.....」

 

 

()()()()伝説を.....

 

 

「まぁすたぁー!!もういっぱい!!」

「はーい!!!」

 

 

絵本や言い伝えによって知識にあった伝説上の存在は、今やただの飲んだくれに成り下がっていた。

彼は既にこのアクセルの街のどこかに存在するサキュバス店の常連だ。

ちなみにメインの夢のご奉仕(直訳)ではなくお酒を飲みにきているだけである。

 

悪魔を酔わせる酒は!!!存在した!!!

 

 

「マスター、水を一杯お願いします」

「はーい!」

 

 

ちなみに彼の目の前で水を飲んでいる人物は常識枠なカズマ少年やベルディアでも、非常識枠のアクアやめぐみん、ダクネス達でも、ヴェストキラー枠のエリス(クリス)でもない。

 

そう、新キャラである。

おまけ章にまで来てオリキャラである。

大丈夫かこの作者と思ったそこのあなた方。

大丈夫、ただの脇役だ。(大丈夫ではない)

この話以降に出ることはないだろう。多分。

 

 

アルベルト・ヴィンターハイム

 

覚えている人がいるかはわからないが、かつてヴェストが倒したアレストリアス・フォン・ヴィンターハイム伯爵(長いので以下アレス)の弟........の皮を被った悪魔仲間である。

 

アレスが妻と娘を失うより以前に、とある事件に巻き込まれ、残った魔力で召喚した悪魔に“生きたい”と願ったために、精神を破壊され体だけ“生かされた”というなんか暗い過去があったりするがそれはまた別の話。

 

ヴェストと違って普通に悪魔悪魔していたりする。

 

ちなみにアレスが復讐に悪魔召喚を使用したのも彼が関係しているのだとかないのだとか。

 

 

「はぁ...それで?貴方が好いたお方から好意を伝えられたけど緊張のしすぎで気を失ってYESを返せないでいると」

「んにゃ!?YESを返すとはいっへないりぇしょ!?」

「じゃあNOって返すのですか?あと呂律が回っていませんよ。」

「んにゃわけにゃいりゃろ!!!!!」

「なんなんですか貴方....あ、ありがとうございます」

 

 

水と酒を持ってきてくれたロリなサキュバスさんにアルベルトはお礼を返した。

ロリキュバスちゃんの様子からアルベルトもなかなか高位の悪魔のようだ。

少なくともエリス様命なバカ悪魔とこうして気軽に話せるくらいの地位はあるのだろう。

さらに言えばここまでベロンベロンに酔って本性剥き出しになった彼の相手をできるくらいには高い能力を持っている。

この状態の彼はあのベルディアでさえも手を焼くだろう。

 

 

「しかも最近はエリス様のアタックが重くなってきたというか...いや、僕としてはウェルカムなんですけどね!!!」

 

 

ヤンデレエリス様......!!!良い!!!!

ヴェストは謎の悟りを開いた。

 

 

「はァァァァァァ..............もうさっさと告ってくださいよ。同じアクセルに住む身としては、ものすごい神聖オーラを纏って毎日のように貴方を探している神様を見るのは心臓に悪いんです」

 

 

何度目だろうか。

アルベルトは大きなため息を吐き出した。

 

 

「無理無理無理無理っ!!!!!蒸発してしまいます!今の私はエリス様に出会っただけで浄化されてしまいます!!!!!」

 

 

昨日見かけた目の光を失ったエリス様の表情を思い出しただけでヴェストは姿が薄れてゆく。

記憶を取り戻した後、よく漂っていた瘴気も徐々に黒から白に、そして透明になって消えていく。

これが......浄....化......

 

 

「戻ってきてください」

「っあぅ」

 

 

チョップによって現世に引き戻された。

おかえり。

 

 

「ので!!!君がなんとかしてくれ!!」

「何が“ので!!!”ですか。無理です。マジ無理です。無理無理無理。私も初めの頃は人間たちでエンジョイしていましたが、今は貴方達のような悪魔(考えなし)とは違って静かに、のびのびと、ゆっくりと人間達を楽しみたいんです。女神なんて厄介ごとの爆弾には関わりたくないんですよ」

「そんなこと言わないでよー....僕と君の仲じゃないか...」

「なーにが私と貴方の中ですか。今日会ったばかりでしょう」

「メタはダメ、絶対」

 

 

ペチリとアルベルトの頭を叩きつける。

ちなみに彼らの出会いはバニルと同じくらい長い。

 

 

「そういえば貴方魔王城の...確かアリスでしたっけ?そんな娘にも好かれていませんでした?」

「やめろ、その話はしないでくれ」

 

 

思わず真っ赤に染まっていた顔が青ざめる。

彼と彼女の間に一体何があったのか。

それは当事者にしかわからない。

 

その時だった。

店の扉が3度、コンコンコンと、叩かれたのは。

 

軋む音をたて扉が開く。

外から流れ込んでくる光は神々しく、しかしどこか重々しく闇を含んだものだった。

次々と小さな悲鳴をあげ、店員であるサキュバス達が店の奥に隠れてゆき、アルベルトもいつの間にかいなくなっていた。

残ったのはソファーに座るヴェストのみ。

 

 

「ヴェースートー?」

 

「ヒィ!?」

 

 

どうしてこんなになるまで放っておいたんですか?

 

 

 

 

 

 

 

 

人々の行き交う街の中。

たった1人の女性に人々の視線は集中していた。

 

 

「どこにいったのかな?」

 

 

彼女はとある人物を探している。

それは悪魔。

大罪人。

盗賊の姿をとりながら下界を散歩する神である彼女にとって敵対関係にあるはずの人物を、彼女はひょんなことから探すようになっていた。

 

 

「いつまで待ったら返事を聞かせてくれるのかな?」

 

 

あの日の告白から何日経っただろう。

毎回のように彼が囁いてくれていたあの告白の言葉は、こんなにも恥ずかしいものだったと、あの時初めて知った。

それを私は今まで冗談として碌に受け止めてこなかった。

だからこうなっているのも仕方がない...と彼女は思った。

 

しかしもう我慢の限界だ。

 

あの日から彼女の姿を見るなり彼は逃げるように隠れる。

もしくは自らやってきたと思ったら急に気を失うなど。

 

彼女はあからさまに避けられていた。

 

今では立場が反転して逆に彼女が彼を追うようになっていた。

 

どうして?

 

もう飽きてしまったのか。

 

前言っていた魔王の娘とやらに気移りしてしまったのか。

 

考えれば考えるほど嫌な予想が思い浮かぶ。

 

だから、直接会って確かめなければならない。

 

 

 

「....見つけた」

 

 

彼の魔力の痕跡は非常にわかりやすい。

常に漏れ出る瘴気が彼の居場所を教えてくれる。

まるで亡霊達が“くっつくならさっさとくっつけ”とでも言うように。

 

彼女はその痕跡を辿って歩く。

 

続いてゆくのは薄暗い路地裏の奥。

 

まさか彼はこんなところを住処にしているのか?と一瞬思ったが、以前彼が寝床にしている宿を訪れたことがあったため即座に否定する。

 

進むにつれて瘴気は濃くなってゆく。

 

そして、同時にもう一つ、別の気配もおおきくなってゆく。

 

彼とよく似た邪悪な。しかしよく見てみると違うもの。

 

甘ったるく、誘うような臭い。

 

 

「悪魔....しかもこれは.....!!!」

 

 

エリスは駆け出した。

目にも止まらぬほどの神速で。

 

見えてきた木製のドアに手をかける。

 

一見ただの民家の扉の様に見える。

うまく偽造したものだ。

しかし女神の目は誤魔化せない。

 

 

エリスは躊躇なく、その扉を.....

 

 

 

蹴破った。

 

 

 

 

 

「浮気の現行犯だよ!!!」

 

 

「ピッ」

 

 

 

 

違う。

 

そう弁解を行う暇もなく、ヴェストは昇天した。




まさかの完結後に登場したオリキャラ君。
アルベルト
元々はこの作品の主人公予定だった。
ヴェストプロトタイプ。
色々設定は練ってある。
が、ギャグには合わないなと却下。
糸目敬語キャラな胡散臭い子。
前書きの小説の主人公とは別人。
多分もう出ない。


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恋は戦争

久しぶりですお茶です。
誕生日を迎えたので初投稿です。
いえい



ここは数々の男たちが、時にストレス発散に、時に癒しを求めて、時に最後の希望に縋るように、さまざまな思いを抱いて訪れる幻の秘境。

朝まで営業していることで有名なこの喫茶店は、しかし『本日閉店』の看板が架けられ、その扉を閉ざしていた。

その原因は従業員の不調や社員旅行など、簡単な物ではなかった。

 

 

「さーあ!始まりました!第一回サキュバス喫茶店修羅場論争!!」

 

「司会はわたくし受付サキュバスことレベッカと〜!」

「ロ、ロリーサとぉ〜」

「アルベルト〜....って巻き込まないでくれませんか!?」

 

 

彼の悲鳴に似たツッコミももっともである。

何せたった今この空間には、悪魔にとって天敵である女神エリスから発生したてほやほやの聖なるオーラが、彼女の内心を言い表すかのように、嵐となって吹き荒れていたのだから。

 

 

「おおっと〜!!結界がミシミシなっています!アルベルト様限界か〜?」

「少し黙っていてください!あなたそんなキャラじゃなかったですよね!?変なスイッチ入ってますよね!?ああもう!前話で退場する予定だったのに!くそ!こうなったらやけくそだやってやラァ!!!」

 

 

ヴェストが幻術及び暴力。バニルが心理掌握を得意とすると言うならアルベルト・ヴィンターハイムは結界術に精通した悪魔だ。

故に彼の作り上げる結界は最高級。

最上位の悪魔や神々だろうとそう簡単には突破できないほどの代物。

そんな彼の潜伏結界及び対聖魔法用不浄結界はミシミシと音を立てて崩れ去ろうとしていた。

ちなみに元々は10層構造だったがこの数分で2枚残すまでに減った。

 

 

「というかなんであいつはこの嵐の中平気なんですか!?というかそもそもどうしてこうなったぁ!?」

「質問が多いぞ〜アルベルト様〜!!」

「いえ、待ってください!もっとよく見てください!」

「はい!?」

 

「すごい冷や汗かいてます!!」

 

「いやそれだけで済むのも相当すごいと思いますよ!?」

 

 

たしかによく見ると仁王立ちするクリス姿の女神エリスの前で正座して俯いている彼の顔は青ざめ、体は高速バイブレーションを起こし、大量の冷や汗が滝のように流れ出していた。

 

 

「おおっと〜!?ここまで振動が伝わってくるぞ〜!!」

「あれは...武者震いですね!さすがヴェスト様です!」

「んなわけあるかぁ!!」

 

 

実のところ、アルベルトを含む高位悪魔は神や天使と対等に張り合うことができるほどの力を持っている。厄災とまで称された大悪魔、ヴェストもそうだ。

だが、現実はどうだろう。

たった一人の女神に、こうして威圧され何もできないままでいる。

つまり、あれだ。

女怖い。

 

 

『ねえ、ヴェスト君』

『ひゃい....』

 

「おっとぉ〜!ついにエリス選手が動いた〜!!」

「あ、え、えーと....結界外の会話は二重鉤括弧でお送りします?」

「どっから出しましたそのカンペ!?」

 

 

エリスが一歩前へ足をすすめると同時にヴェストが変な声と共に萎縮する。気のせいか物理的に小さくなっている気がするが特に気にすることではない。そういうものだ。

それよりも外の嵐がさらに強くなったことの方が問題だ。

 

 

「きゃ!?パリンって!パリンってなりましたよ!?先輩!アルベルト様がもう限界です!早く逃げましょう!!」

「ダメよ!かの大悪魔ヴェスト様と忌々しいエリス教の信仰対象女神エリスの一戦!見逃せないわ!」

「ファーーーーーーーwwwwwwもうやってやりますよ!持ってくれよ魔力!不浄結界三倍だーーー!!!」

 

 

『ヴェスト君さ、君、なんでこんなところにいるの?』

『いや、その....友人と.....』

『友人と...なに?友達とだったらこんなところに来てもいいの?』

『そ、そういうわけでは....』

『ダメだよね?』

『あ......』

『ダメだよね?』

『...はい』

 

 

「押されているぞヴェスト様!押し返せ〜!!」

「が、頑張れー!」

「いや無理でしょ....ってウぉぉぉぉぉ!?結界パゥワァァァァァァ!!」

 

 

『ねえ、わかってる?』

『はい』

『これ、浮気だよね』

『は....い?』

『愛してくれるって言ったよね?ずっと私だけを見てくれるって言ったっよね?』

『エリス....様...?』

『なのに....なんで君はこんな汚らわしい場所にいるのかな?』

 

 

「修羅場だァァァァァァ!!!!!!」

「アーーーーーー↑アーーーーーー↑」

「頑張ってくださいアルベルト様!」

「アーーーーーーーーーーーー!!」

 

 

『毎日のように言ってくれた愛の言葉は嘘だったの?昔はあんなにも沢山言いに来てくれたよねでも今では会いに来てもくれないよねなんでかな忙しいのかなそんなわけないよねカズマ君から聞いてるよ?なんでなの?もうあきちゃったの?ぜんぶ一時の気まぐれだったの?それともアレかな?記憶が戻っちゃったからかな?そっか。それなら仕方ないよね。前のヴェスト君に直さなきゃ。私を愛してくれたヴェスト君に。ほら、逃げないでよ。これでみんな幸せになるんだからさ。私を愛してくれないヴェスト君なんていちゃいけないんだ』

 

 

「怒涛の言葉責め〜!!これがヤンデレか〜?そこんとこどう思いますかアルベルト様!」

「くぁwせdrftgyふじこlp」

「なるほどそういうことですね!」

「もうやめてください先輩!アルベルト様のライフはもうゼロですよ!」

 

 

『そんなわけないじゃないですか!!』

 

 

「おっとヴェスト様の反撃か〜!?」

「ア、ア、ア、ア、ア」

「アルベルト様ーーー!!!!」

 

 

『僕はずっとあなたのことを愛しています!それは昔も今も変わらない!』

『あ、愛して』

『愛しています!』

『ピッ!?』

 

 

ガシッと肩を掴んでのゼロ距離反撃。

普段なら恥ずかしさのあまりオーバーヒートしてしまうところだが、今この場所はエリスが放つ極寒0度のオーラによって包まれている。

よって湧き上がる熱も全て即座に冷却されるのだ。

 

 

『私が貴方の元へ向かうことができなかったことは謝ります。しかしどうか許してください。これには深いわけがあるのです』

『......言ってみなよ』

 

『貴方が!眩しすぎるのです!!』

 

『へ?』

『前まで会う度に向けられてきた嫌そうな顔!それだけでも相当な尊さがあるというのに!最近の貴方は私を見るたびに花が咲いたような美しい笑顔を向けてくる!こんな!こんな尊さ!耐えられるわけがないじゃないですか!!!』

 

 

「惚気だーーーー!!!!」

 

 

『ここに来ていたのは貴方にこの思いを伝える方法を考えるためでした。この貴方への愛を。でも、今なら伝えられる』

『ヴェスト...君?』

 

 

 

 

 

 

『貴方のことを、愛しています。どうか付き合ってください』

 

 

 

『ひゃ、ひゃい....』

 

 

 

「決まったァァァァァァァァァァァァ!!!!!!」

 

 

キュウと煙を上げて倒れるエリス様を優しく受け止めるヴェスト。

決まった。ついに!この戦いに決着がついたのだ。

 

 

「勝者は!ヴェスト様だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

「ヒュウ......ヒュウ......ア....ア.......オワ....ッタ.........?」

「はいっ......終わりました....やっと....終わったんですッ!!」

 

 

吹き荒れる嵐はもう治まっていた。

全てを使い果たしたアルベルト(犠牲者)はミイラなように干からびながらそのまま倒れ込み、ロリーサはそれを支えながら静かに泣きながら自分の命があることに感謝した。

ちなみにレベッカは興奮冷めやまぬ様子で雄叫びをあげていた。

マジで何やってんだこいつ。

 

 

 

 

 

「キュウ.....」

 

 

 

 

「あ、ヴェスト様も倒れた」



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はっぴーえんッ..........ど?

もう忘れられたであろう頃に投稿ポンッ!!!
そしてついに50話目!
今度こそ間違いない!
正真正銘50話目だ!
やったーーー!!!


「おめでとう」

 

「おめでとう」

 

「おめでとう」

 

「ニャー」

 

「おめでとう」

 

 

雲ひとつない快晴の青空の下。

見渡す限り何もない。しかしどこか美しい光景が広がる中で、僕はたたずんでいた。

そんな僕を囲み、皆んなは笑顔で拍手し、祝ってくれていた。

何を?

それはもちろん..........いや、思い出せない。

 

 

「「「「おめでとう」」」」

 

 

ハゲ散らかした今は亡き親友。

友人であるデュラハン。

仲間の少し抜けてる少年。

爆裂少女。

ドM。

水色。

仮面の先輩(仮)悪魔。

色々でかいポンコツリッチー。

いつぞやのイケメン勇者。

猫。

石鹸に包まれたスライム。

男女キメラ。

でっかい(意味深)神様(魔属性)

悪魔信仰者貴族のおっさん。

友人悪魔A。

サキュバス数人。

魔王のおっさん。

ヤンデレ戦闘狂お姫様。

などなど...........

 

故人であるはずの友人や打ち倒したはずの魔王軍幹部。

それに『あんたを殺して私も死ぬ』をしそうなお姫様や頭のネジが一本抜けた駄女神など、なんとも奇妙で不思議な光景である。

 

 

「みなさん....ありがとうございます....!」

「!?」

 

 

そして、そんな声を上げたのは僕じゃない。

 

 

「エリス様ッ!?」

 

 

そして隣にはエリス様。

やはり今日も美しい。

いとうつくし。

 

え、ちょっとまって?

 

手を、手は、手が繋がれているだとぉぉぉぉぉ!?!?

 

待て待て待て待てまずいまずいまずい

 

体温の上昇を検知。

 

手から伝わる柔らかさを検知。

 

心拍数の上昇を検知。

 

なんかいい匂いを検知。

 

 

「私たち、やっと結婚できましたね」

 

 

.....

 

............

 

..................

 

 

けっこん?

 

ケッコン?

 

KEKKON?

 

زَواج?

 

Matrimonio?

 

결혼?

 

 

結婚ンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンン!?

 

 

 

「一緒に幸せになりましょうね?」

 

 

 

 

 

僕がこの尊き女神エリス様とKEKKON?

 

夢か?夢なのか?

 

ああ....だめだ。

状況に理解が追いつかない。

 

だが、たった一つだけ、わかっていることがある。

 

 

それは─────

 

 

 

 

 

 

いつだってエリス様は尊いということだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何か、とてもいい夢を見ていた気がする。

 

ぬるま湯のような安眠から意識が浮上する。

未だ瞼は重く、倦怠感が身体中を包み込んで離さない。

今は何時だろうか。

僕はいったいどれほど眠っていたのだろうか。

そもそもここはどこだろう。

確かアルベルトのやつと喫茶店に行ったのだったか。

そこから先の記憶がどうも、もやのかかったようで思い出せない。

 

ひとまずは起きよう。

この心地の良い眠気から脱することは、ある意味拷問と呼ばれてもおかしくない苦行だが、起きねばなるまい。

 

錆びついたシャッターのようにゆっくりと開き、光を取り入れていく瞼。

 

しかしそこに映ったのはいつもの見覚えのある自室の天井でも、見覚えのない天井でもない。なにか、白いものだった。

 

目が光に慣れていないのかぼやけて見えにくい。

 

しかしそれは次第にその影、形がはっきりとしてゆく。

 

先ずわかったのは、周囲が純白のカーテンのようなものに囲まれているということ。しかし白一色に見えたそれの天井部分は少し赤みがかった部分もあり、二つの青色の綺麗な宝石が真っ直ぐこちらを見つめるように.....

 

 

 

「..................」

「.................おはよう....かな?」

 

 

 

 

ああ....そうか.....これは..............

 

 

 

 

「夢か」

「夢じゃないよ!?」

 

 

聞き心地のいい声が耳に響いた。

頰を軽く叩いたり、揉んだりするような感触が伝わってくる。

なんだ、妙にリアルな夢だな。

 

 

「いいや夢だ。これは夢に違いない。目が覚めたら目の前にエ、クリス様がこんにちはなんてそんなラノベの主人公のような出来事はあり得ないのだ。あり得ていいはずがないのだ。でなければ僕の理性は瞬時に零を突き破りマイナスに届いてしまう」

 

「何を言ってるのかわからないけど起きて!」

 

 

目を開く。

エリス様だ。

クリスでエリス様だ。

エリス様でクリスだ。

何言ってんだ僕。

 

瞬きひとつ。

エリス様だ。

瞬き二つ。

エリス様だ。

瞬き三つ.....

 

 

「だから夢じゃないよ!」

 

 

確かに夢じゃない。

僕のクソみたいな妄想力の生み出す夢ではここまでの尊さは再現できないだろう。権能を最大限使用したとしても不可能だろう。

これぞ神々...いや、創造主の生み出したる最高傑作。

他の贋作(神々)とは違う真の唯一神。

 

うん。これが現実だということは理解できた。

だがしかし...

 

 

「いったいどういう状況だこれは....?」

 

 

目の前にいとうつくしきエリス様のご尊顔。

これだけでも浄化案件である。

 

今にも消えそうになっている僕に説明を求む。

 

 

「あー...それは....その...あはは....」

 

 

誤魔化そうとしているのかもしれないがエリス様は苦笑いも可愛らしい。

しかし今はこの状況を説明願いたい。

このままでは訳のわからぬまま浄化されてしまう。

 

 

「それは.....その...........ほら、私たちってこ、ココココココココ、恋人になったんだよね......?」

 

「クリス様、落ち着いてくだsここここここここここ恋人ぉ!?」

 

 

kkkkkkkkkkkkkk、KOIBITO!?

なんだそれは。

やはりこれは夢ではないか?

いや、まて。

思い出してきた。

そうだあのあと、エリス様が突撃!隣のいかがわしい店!してきてそれから..............

 

ッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!

 

よくやった僕!過去の僕!よく耐えた!

よくぞ.....!よくぞぉ.........!

 

 

「そそそ、それで.....ね?こ、こっこここ、恋人になったらららrrrrrrr」

 

「お、おおおお、おおおおお、もちついてくだひゃいクリス様!」

 

 

く、まずい!

動揺のあまり僕まで言葉が変になってしまっているッ!!!

落ち着け!こういう時は...そうだ!素数を数えるんだ!確か素数は2、4、6、8、10、12、14.......

 

いやなんか違うな。逆に冷静になれた。

 

 

「スゥーーーー.......ハァーーーーー......」

 

「お、落ち着きましたか?」

 

「は、はい......すみません、少し取り乱してしまいました....」

 

「エリス様が出てますよ?」

 

「あ」

 

 

深呼吸によってエリス様もなんとか落ち着きを取り戻したようだ。

まだ若干顔は赤いが。

 

 

「..........い、言わなきゃだめかな....?」

 

「はい気になって夜しか眠れません」

 

「寝れてるじゃん!」

 

 

よし、つっこみもいつも通り。

いつものクリスモードに戻れたようだ。

見た限りここはどこかの宿屋。

僕はもうバレているからいいがエリス様は違う。

万が一盗聴されていたら一大事だから気をつけねば。

 

 

「.....うー.......わかったよ............その...................私たちって恋人......になったんだよね?」

 

「そうですね。夢みたいですが、どうやらこれが現実のようです」

 

「う、うん......それは嬉しいんだけどさ............その、恋人になったら..........することがある......よね............?」

 

「?すること....ですか?」

 

「う、うん」

 

「それは一体?」

 

「そ、それは............」

 

「それは?」

 

 

 

 

「っ.............................せ...................」

 

「?」

 

「せ.............セ................」

 

「セ?」

 

 

 

 

 

「[規制済み]ッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

.....

 

.........

 

.............

 

 

 

「夢か」

 

「待って待って待って待って!」

 

 

夢だこれは。

夢であってくれ。

エリス様がそんな言葉を使うはずがない。

あっていいはずがないこんなこと。

エリス様はトイレもしないしそんな変なことも言わないのだ。

 

 

「まってって!私だって言いたくなかったんだよ!でも君の察しが悪いから!」

 

「僕のせいですか!?誰だってあなたの口からそんな言葉が出るとは思いませんよ!?正統派ヒロイン枠の貴方から!」

 

「正統派ヒロイン枠ってなんですか?貴方のヒロインは他に

もいるんですか?いないですよね?」

 

「急にハイライト消すのやめてもらっていいですか?」

 

 

非常に心臓に悪い。

というか[規制済み]ってなんだ[規制済み]って。

 

 

「ヴェストは私と[規制済み]したくないの?」

 

「いや、別にいいんですよ?いいんですけど......」

 

 

そう嫌な訳じゃない。むしろウェルカム。大歓迎だ。

でも僕らは神と悪魔。

人々の信仰や欲望やらよくわからんものから産まれる我々は、人間など定命のものと違って繁殖を必要としない。そのため[規制済み]をする必要はない。種族によるが、少なくとも僕とエリス様は性的欲求も少ないはずだ。

だから、できるにはできるかもしれないが、why?という話になる。

 

 

「その.......先輩があ、愛する人と.......せ、[規制済み]するのは当たり前って....」

 

「駄女神ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!」

 

 

貴様か!汚れなきエリス様に余計な知識を吹き込んだのは!!

 

 

「〜〜〜ッ!ほら!私だけが脱いでるの恥ずかしいんだよ!?早く脱いで!」

 

「いやー!?待って待って待って!まだ心の準備が!てか服!?今更だけどクリス様エッッッッッッッッッッッッッッッ!!!???」

 

 

しかしもうすでにエリス様はヤル気のようだ。いろいろな意味で。

よく見ると身に纏っている服....というか布も、一緒に入っていた毛布一枚だけ。

ミロのヴィーナスに勝るとも劣らない芸術品が如き裸体がそこにはあった。

つまり先ほどまでその状態で一緒に寝ていたわけで.....

 

っ!まずい意識が飛びかけた!今はだめだ!

気をしっかりと保て!このままでは僕の僕がエリス様を汚してしまうことになる。それだけは絶対に避けねばならない!

 

頑張れヴェスト!

お前ならやれる!いややっちゃダメだ!

 

落ち着け!僕は悪魔だ!本来性別はない!故に生殖器も自ら作り出さない限り存在しないのだ!そして!万が一作り出してしまったとしてもこの体の元となった素体から考えて女性器の可能性が高い!つまり!エリス様を汚してしまうことはないのだ!

いや待てだめだ!たとえ女性どうしであろうともそのような行為に至った時点でエリス様は汚れてしまったというわけで.........

 

 

「ヴェスト♡」

 

 

くぅぅぅぅぅ!!!耐えろ我が理性!!

 

そうだ、落ち着け、こういう時はベルディアの頭を数えるのだ!

ほら見えてきた!向こうから転がってくるリア充への憎悪剥き出しのベルディアの頭が!ベルディアの頭が1つ。ベルディアの頭が.....

 

 

 

 

 

「..............私じゃ、ダメ....なの?」

 

 

 

 

 

 

あ、無理だわこれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゆうべはお楽しみでしたね!」

 

 

 

 

 

 

後日、妙にツヤツヤしているクリスと少しやつれたヴェストが町で見られるようになったのはまた別の話。

 

ちなみにあーんな声やそーんな声は全部丸聞こえだったらしい。

主にヴェストのが。

 




残念だったな。
ヴェストは、受けだ。

ちなみに”その時“の彼がどっちだったかはみなさんの想像にお任せします。

というか50話目がこれって.........百合タグつける?



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