江戸窓翔也の怪異譚 (小説太郎DAZE)
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【第一話:視えないストーカー(Invisible stalker )】

怪異蒐集家・解決人、江戸窓翔也(えどまど しょうや)となし崩し的に助手を務める女子大生岸戸夢美(きしど ゆめみ)のところにある依頼が舞い込む。
その依頼は都内の私立高に通う女子高生(紅咲(べにざき) いろは)。
彼女は、ある被害にあっていた・・・。

その被害を解決するべく、二人は動くことに。


「はぁはぁ・・・こ、ここまで来れば大丈夫だよね・・・」

 私は、荒れている呼吸をゆっくりと整える。『ナニカ』から逃げていたからだ。

(あれは何なんだろう・・・。)

 私は頭の中で反芻する。10月頃からだろう。気が付いたら『ナニカ』がいる気配に気付いた。

『ナニカ』は視界に映らないけど、『確かに存在する』のは分かる。

ジャリ・・・。後ろで、誰かが砂利を踏む音が聞こえた。

「!?」

 私は慌てて後ろを振り返るが、誰もいない。また、私は慌てて走り、近くの交番に駆け込むのだった。

 

 

「先生!いい加減起きてください!もうお昼ですよ!」

 誰かの声が室内を満たす。

「・・・ふわぁぁぁ・・・。うん?夢美君じゃないか。どうしたんだい?大学は?」

ソファーで眠っていた男があくびをしながら起き上がる。

「今日は、授業はありません!それに、先生が呼んだんですよ!私の事!」

「ん?そうだったかな?」

「そうだったかな?っじゃないですよ!先生が昨日夜に私のスマホにラインしてきたんじゃないですか!『今日依頼人が来るから、手伝ってくれないか』って!」

「あ~。そうだった。そうだった。うん。良く起こしてくれたね。ありがとう」

「もう!・・・それで、ご依頼人はいつ頃、お訪ねになられるんです?」

 夢美と呼ばれた彼女は、憤慨しているようだった。

「え~と、うん。い」

 彼女の疑問に先生と呼ばれた男が答えようとした時・・・。

『ピンポーン!』っとインターフォンが鳴った。

「・・・。」

「・・・今だ」

 ジトーと睨む彼女を前に男はバツが悪そうな顔で言った。

 時は少しさかのぼり・・・

「え~と、地図アプリだとこの辺なんだけど・・・。どこだろう」

 私は辺りをキョロキョロと見回す。周りは雑居ビルに囲まれていた。

「・・・あった!」

 少し歩くと、雑居ビルの間に『不自然』に存在している一軒家があった。

「なんで、こんなビル街に一軒家が?」

 私は不思議に思ったが、思い切ってその家のチャイムを押した。表札には「江戸窓」と書かれていた。

「・・・はーい!」

 家の中から若い女性の声が聞こえた。

 「ガチャ」っと玄関が開く。開いた女性は、明るい色の髪色をした長髪の女性だった。思わず、綺麗で見惚れてしまった。

「え~と、依頼主さんかな?」

「・・・あ。はい!」

 

 

「あ~、お嬢さん?すまないね。少々散らかっていて。まぁ、そこのソファーに腰を掛けておくれ」

「はぁ~。全く、常日頃からちゃんと資料は整理してくださいと言っておりますでしょう?」

「いやぁ~・・・耳が痛い。それより、夢美君。お嬢さんにお茶うけを」

「もう出しています。先生はもう少しちゃんとなさってください。髪がボサボサですよ?」

「・・・」

 私はいったい何を見せられているのだろうか・・・。目の前では夫婦漫才みたいなことが行われている。

「あ、あのう・・・」

「うん?どうかしたかね?」

「い、いえ。本当に貴方は『解決人』なんでしょうか?」

 私は、思わずポッと疑問に思っていた事を声に出してしまった。だって、目の前の男性は、ヨレヨレのシャツに先ほど起きたのか、寝ぐせでボサボサの髪をしていたからだ。はっきし言って『胡散臭い』。しかし、なぜだか不快感は抱かなかった。

「・・・ああ、『解決人』だとも。そこは安心してくれても良いよ。お嬢さん」

 目の前の男性は、『本当に胡散臭い笑顔』を浮かべた。

 

 

 

 

 

 

「さて、お嬢さん。自己紹介といこうか。僕の名前は、江戸窓 翔也。そして、隣の彼女が」

「岸戸 夢美と申します。甚だ遺憾ですが、先生の助手をしております」

夢美と呼ばれた女の人がにっこりと優しい笑顔を浮かべ挨拶してくれた。

 

 

「んっ!夢美君?遺憾とは如何ともしがたい言葉だね。まぁ、それより・・・だ。お嬢さんの名前は何て言うのかな?」

「あ、紅咲 いろはと申します」

「紅咲 いろは・・・さんね。で、今回はどんなご用件かな?」

 翔也と名乗った男の人はそう言うと、目は閉じられてるはずなのに、視線を私に向けた。

「・・・」

 私がしばらく黙っていると・・・

「大丈夫ですよ。私たちを信じてお話ししてください」

 夢美さんが優しく声をかけてくれた。

「・・・はい。あれは、10月頃だったか。気が付いたら『いた』んです」

「『いた』?」

「はい。信じてはもらえないかもしれないんですけど、目には視えない『ナニカ』が」

 私は重くした口を出してもらった、紅茶を飲み話し出した。

「学校からの帰り道。時刻は夕刻。10月の中頃でしたから、辺りは暗く、明かりは弱々しい街灯の明かりだけでした。私は、生徒会の副会長でして、学校に会長と一緒に少々事務仕事をしていました。事務仕事が終わり、会長と最寄り駅まで一緒に帰りました。その日は少し冷えていて、足早に家路に向かったんです。すると、後ろから視線を感じて振り返ってみたんです。でも誰もいなかった。私は不思議に思ったんですが、その日は気にせずに家に帰ったんです」

「・・・・」

「・・・それで?」

 夢美さんがそう聞いてきた。

「その日は、特に何も」

 私は一息つく。

「それから、何日か経ってまた気配を感じたんです。今度は明らかに私を視ている・・・そんなネットリとした気持ちの悪い視線でした」

「・・・・話の腰を折って申し訳ないんだがお嬢さん。それは普通にストーカーではないのかな?それなら警察に」

「それは両親に言ってもうやりました!でも、実害がないと動けないって言われて・・・」

 私は江戸窓さんにそう言われ、ついカッとなって怒鳴ってしまった。

「・・・ふむ。申し訳ない。続けてくれ」

 江戸窓さんは対して気にしていないようで、話を促してきた。

 私は申し訳なさがあったが、好意にのせてもらった。

「その視線を感じた日から、確実に視られてるです。でも、ある日、視線だけじゃなく後ろに『ナニカ』いる。そんな不気味な気配を感じたんです。それから、私の後ろをついてくるようになったんです。だから警察の人にもう一度言って見回りをしてもらうようにしたんです・・・」

「・・・いろはさん。もしかして、部屋の、そうベランダにその『ナニカ』は現れませんでしたか?」

「えっ!?なんで分かったんですか!?」

 私は、夢美さんの発言にびっくりした。そうなのだ。一回、私の部屋のベランダに『ナニカ』の気配を感じたのだ。その時の私は、慌てて一階にいる両親のもとへ走っていった。

「・・・ふむ。もしかしなくとも夢美君には『視えた』のかな?」

「はい。本当にうっすらとですが・・・非常に存在感は希薄なのに明らかに『います』ね。私の力をもってしても『視えない』ぐらいには」

「え・・・どういうことですか?『視えた』のに『視えない』って・・・それに、夢美さん・・・貴女はいったい」

 夢美さんと江戸窓さんがそんな会話をしていた。私は不思議に思い、夢美さんに言った。

「ふふふ。私そういう『体質』なの。いわゆる霊感体質っていうやつ。だから、普通の人には『視えない』ものも『視えて』しまうの」

 夢美さんはそう言って笑った。

「先生。進言いたします。『今すぐ』に処置した方が良いかと」

「・・・く、くくくく。君がそう言うなら事態は一刻も争うということだね。まぁ、『私』にも分かった。ネタが知れたら興覚め。さっさとお嬢さんの不安を取り除いてあげよう。して、お嬢さん。僕に依頼をした時点で理解していると思うけれども・・・『君』は一体見返りに何を提示してくれるのかな?」

 私は『いきなり』雰囲気が変わった江戸窓さんにビクッとして震える声で言った・・・。

「・・・私の全てを。」

「・・・ふむ。合格だ。条件を変えよう。こう見えても、僕は世間一般で言えばニートでね。生きるのにやはり生活費は必要だ。だから少しのお金と・・・そうだな。今回の『事象』をもらおう」

「『事象』?」

「僕は『怪異蒐集家』なんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は学校からの帰り道を歩いている。周りは暗く、先を照らしているのは、おぼつかない街灯だ。

「・・・・」

 私はとぼとぼと歩く。でも今日はおかしかった。何がおかしいというと、『進んで』ないのだ。歩いているのに最寄り駅を少し出た所から、少しも進まない。

「・・・・」

 私は、ふと歩みを止める。あの『視線』を感じる。今日は後ろからではない。『前』からだ。私は『前』を視る。気が付くと、おぼつかなかった街灯はなくなっており、真っ暗だった。まるで、私を取り込もうとしているかのように。

 

 

 暗闇が一歩、近づいた気がした。それは気のせいではなく明らかに、迫ってきている。

私は体が動かなかった。あわや、『暗闇』が私を取り込もうとしたとき・・・。

 

 

「・・・霊剣抜刀。『ごめんね』斬らしてもらうよ。この娘は『さらわさせない』」

 私の目の前に、夢美さんが美しい剣を抜いて『暗闇』を斬っていた。

「・・・先生!」

「・・・くくく。これは【まずそう】だ。まぁ、『私』の口に入るのだから光栄に思いたまえ」

そんな声が聞こえたら、『暗闇』が一気に霧散していた。

あれほど気持ち悪かった『視線』も感じない。

「・・・ふぅ。もう大丈夫。いろはさん、よく頑張りましたね」

「ゆ、夢美さん・・・あれは一体・・・?」

「あー、あれh」

「それはだね、『呪い』だよ」

「・・・先生?」

「いやいや。すまないね君。ここは僕のお株だよ」

 夢美さんは私に説明してくれようと口を開いたが、かぶせ気味に江戸窓さんが私の質問に答えた。

「の、呪い?」

 私はそう気が抜けた感じで言った。

「そう、呪い(まじない)とも言われる。対象者を呪う方法だね。日本でメジャーなのは、丑の刻参りかな?あぁ、確か、古代中国では蠱毒(こどく)と言うんだったかな?とにかく、呪いだ。お嬢さんを悩ませていたのは、ネタが知れたら全くもってつまらないものだったね」

「先生?そんな言い方はないんじゃないですか?もしよろしければこの霊剣の錆にして差し上げますが?如何なその出鱈目な『特性』でも問題なく斬れますが?」

「・・・おっと、怖い怖い。久しぶりに夢美君の逆鱗に触れてしまったみたいだ。いや、悪かったね。確かに無神経な発言だった。お嬢さん。すまないね」

 夢美さんは見ていて冷えるような笑顔を江戸窓さんに向けている。今にも持っている剣が鞘から抜かれそうだ。というかすでに抜く準備に入っていた。

「い、いえ・・・それより」

 私は、慌てて江戸窓さんに先をうながした。

「あぁ。『呪い』だね」

「・・・」

「では、答え合わせといこうじゃないか。そうだね・・・お嬢さん。君の周りで最近なにか変化は起きてないかな?」

「・・・そう言えば、会長が最近、学校を休みがち・・・まさか・・・?」

 江戸窓さんに問われ、私はふと思い返す。

「ふむ。『そのまさか』だね。その会長君が今回の事件の犯人『視えないストーカー』・・・だ」

「えっ?でも何で?何で、会長が私なんかに呪いを・・・?」

「呪いを掛ける理由なんて人それぞれさ。羨望、嫉妬、恋慕、恨み、妬み・・・そのどれかに当たっているのかもしれない。人を呪わば穴二つ。会長君は『やり方』を間違えた。だから、自分で呪ったのに少しづつダメージを受けていったのさ」

「・・・」

 私は、言葉が出なかった。まさか、会長が私を呪うなんて思わなかったからだ。

「・・・いろはさん。貴女が気に病むことはないですよ。私たちが対処していなくとも・・・いえ、私たちが対処していなければ、救えなかった」

「え?」

「その会長さんは無事ですよ。まぁせいぜい一週間といったところでしょうか。先生が『食べて』くれましたから」

「くっくっく。大変まずかったがね」

 夢美さんは苦笑していて、江戸窓さんは相変わらず『胡散臭い笑い』を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

――――――後日

「この度は、娘を救っていただきありがとうございます」

「いえいえ。そんなにかしこまって頂くほどの事ではありませんよ」

「むしろ、こんな『胡散臭い』人を信じることが出来る娘さんのお心が綺麗なほどですよ」

「・・・君。毒がえげつなくないかい?僕は何かやってしまったかな?」

 彼が、笑っていると、隣にいる女の人が客人用に出されたカップを持って、刺すように言った。

「・・・えぇ、思い出してくれませんか?ここ一週間の『しでかし』を」

「・・・大変お世話になりました」

 彼は、女の人に謝る。

「全く。先生ときたら生活能力が皆無すぎです!何で私が、お世話しなくちゃいけないんですか!?」

「ゆ、夢美君。今は抑えて・・・」

「・・・・おほん。失礼いたしました。その後、いろはさんのご様子はいかがですか?」

「・・・えぇ、一時、凄く落ち込んでいましたが、生徒会長とお話して今ではわだかまりもなくなったようです」

「・・・それは良かったです。ちゃんと出来たのですね」

「・・・今回は、軽く済みました。今後も何かございましたらご連絡ください。これ『私』の名刺です」

「ありがとうございます。あと、謝礼金なんですが・・・本当にこんなに安くてよろしいのですか?」

「問題はございません。この度は、興味深いモノを回収させて頂きましたので」

翔也はいろはの両親からもらった封筒を鞄にしまう。

「では、夢美君。ここいらでお暇しようか」

「・・・えぇ。先生。帰りましょう」

 

 

 

 

 

 

――――――江戸窓翔也の怪異譚【第一話:視えないストーカー(Invisible stalker )】完




初めて、書きました。良かったら感想など頂けると励みになります。
なお、作者は豆腐メンタルの持ち主なので取り扱い注意です。


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【第二話:殺人ピエロ(Murder clown)】

しがない『人間』、江戸窓翔也のもとに刑事であり、幼なじみの累月清美が訪れる。『いわく』不自然な殺人事件が起きている……と。その殺人事件はニュースでも騒がれており、奇怪で、残忍な殺人であると。

なお、登場人物は架空の人物であり、現実には関係ありません。


 チョキチョキ。チョキチョキ。何かを刻む音が聞こえる。チョキチョキ。チョキチョキ。

 

 

 

「またか。これで三件目だ」

 私はため息を吐く。『今回』は皮膚を細切れにされている遺体だ。一件目は首が切断されていた。しかも、悪趣味な事に『机に綺麗に装飾』されていた。二件目は両手、両足を切断。ご丁寧に『遺体を椅子の上に置き、周りに両手、両足を置く』。犯人は余程『アタマがおかしい』と思える。

「で、『また、関係者は完璧なアリバイがある』か?」

「……はい。『アリバイ』は完璧です」

「………怨恨の線も今のところ出ていない。被害者達は全員、評判が良い。誰もが恨まれる人間ではないと証言しているし……だが、まだ怨恨の線は外せないが」

「累月警部。犯人は何でこんなに残忍な事が出来るんですかね?まるで『愉快』だという感じです」

「………死亡推定時刻は?」

「『深夜のニ時から深夜の三時』の間の一時間だそうです」

「………これもまたか。何故犯人は『深夜の二時から深夜の三時』に犯行に及ぶんだ?しかも、普通そんな時間に人を招きはしまい。無論室内に入れるなどもっての外だ」

 私は『初めから怨恨の線は考えてない』しかし、可能性として外せはしない。死亡推定時刻が深夜な事もあり、余程親しい友人、または親類を犯人として睨んでいたのだが。理由としては初めに上げたのと、『被害者が抵抗した様子』がないからだ。この時点で、物取りの線は消える。そもそも、被害者宅からは『物色された』形跡はない。

「死因は?」

「『心臓発作』です」

「これもか……では、犯人の遺留品なども無いんだな?」

「はい。しかも、『いた』という痕跡もありません」

「………部屋は完全に窓も出入口も鍵がされていた。つまり完璧な『密室』だ。しかも、被害者は何故だか『一人暮し』。………ここまで共通点は『八』点…………いよいよもって、『あいつ』の出番か」

 私はそう呟いた。普通共通点が『八』もあれば謎は残るがある程度犯人像は絞り込める。専門家のプロファイリングもした。しかし、プロファイルした結果は『分からない』だ。専門家の話しによると、一見して共通点は多い様に思えるが、『どれも、今までの犯罪者の思考と合わない』らしい。

「はぁ。死因が『心臓発作』ってどういう事だ。被害者達は、それほどショッキングなものでも見たのか?」

「………被害者達はみんな、持病などの疾患を持っていませんからね。『心臓発作』になる理由が分かりません。解剖医の先生も不審がってました」

「……上からも早く事件を解決しろと言われている……こんな『奇っ怪な事件を解決できる人間などあいつしか居ない』」

「は?け、警部?」

「この事件は『我々では解決』できない」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で?久しぶりに連絡してきたと思ったら『殺人事件』を解決して欲しい?はっ。それはキミの仕事だろ?清美」

「それが無理だから、お前の所に来たんだよ。それに、この件は『お前の領分で大好物』なはずだ」

 私は、翔也に向かって言う。

「………へぇ?それはそれは。興味が惹かれるね。分かった。話を聞こう」

 翔也は、『胡散臭い笑顔』を更に深くして言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で、だ。話しは今から三週間前。都内に住む男性が首を切られた状態で発見された。死因は首を切られた事による出血死ではなく『心臓発作』。心臓発作を起こして亡くなった後に首を切られ『机に綺麗に装飾』されていた」

 私は事件の事を話し始める。

「死亡推定時刻は『深夜の二時から三時』つまり、その間に首を切断された。部屋は当時ドアも内側から施錠されていて窓も施錠されていた。犯人と争った形跡はなく、犯人の『遺留品』も一切なかった。いや、『いた』痕跡が全くないと言った方が正確だな」

「ん?『いた』痕跡がない?『遺留品』が見つからなかった=『いた』痕跡がないにはならないんじゃないか?実際に被害者は死因はどうあれ『首を切断』されている。つまり、何者かがいたという事だ」

 翔也は疑問に思ったのかそう言った。

「そうだな。しかし、事実だ。『首を切断』されているという事象は起きているのにそれを行った者の痕跡は見つけられなかった」

 私は真顔で翔也を見る。翔也の表情は変わっておらず、いつもの『胡散臭い』笑顔のままだ。

「……続けるぞ。二件目の被害者は女性。こちらも、一件目と同様、密室。死因は『心臓発作』。死亡推定時刻は『深夜の二時から深夜の三時』。今回は四肢を切断され、体は椅子の上に置かれ、切断された四肢はその周りに立てて置かれていた。犯人と争った形跡はなく、遺留品もない。これまた一件目と同様『いた』痕跡がない」

 私はため息をつく。全くもって理解し難い。実際に遺留品を残さないという事は出来なくもないが、普通は残る。しかも、今回も『切断』という行為を行っている。痕跡があるのが普通だ。しかし、現場は綺麗さっぱり被害者がいた以外の情報は出てこなかった。

「………三件目も、」

「あー。良いよ。どうせ『三件目も同じ』なんだろ?なら聞く必要はない。同じならそれ以上の情報は得られない」

 翔也は清美の説明を止める。

「ふむ。君たちプロが何も発見できないのであれば、確かに『奇っ怪な事件』だ。でもな?清美。僕は不思議に思っている点がある」

 翔也はそう清美に言った。

「………何だ?」

「『なぜ。心臓発作を起こした』?」

 翔也はそう私に質問してきた。

「………それは、何かショッキングなものでも見たんだろ」

「深夜の二時から深夜の三時に?だったら被害者は『ナニ』を見たんだろうね?」

「…………」

「被害者達は、『死ぬ前に疲れた様子』はなかったかい?」

 翔也は、そう言った。

「………確かに、そんな証言もあったな。いや、まて。だから何だ?まさか」

「そうだ。それが『心臓発作』を起こした原因だよ」

 翔也はそう言った説明を続ける。

「君たちプロなら分かると思うが、『心臓発作』は心臓に上手く血が運ばれなくなり、心停止をする病気だ。世間一般では『心臓発作』と『心臓麻痺』は分けて考えてる人達が多いが、医療的には『心臓麻痺』とは使わない。なので、ここは、あえて『心臓麻痺』を使わせてもらう。そうだな、『心臓麻痺』もイメージ的には心臓の疾患であり、心停止して死ぬ病気というイメージだろう。けれど『心臓麻痺』は『精神的負荷』が強くかかった時においちるというイメージがあると思うが」

「………つまり、被害者達は何かしらの強い『ストレス』を抱えていたということか?」

 私はそう言う。

「あぁ。その通りだとも。被害者達は『何かしらの強いストレス』を感じていた。その『ストレス』こそが『犯人』だよ」

 翔也はそう言って紅茶も口に含む。「……やはり、夢美君に入れてもらった方が美味いな」などとのたまっていた。

「…………待て待て。『ストレス』が『犯人』だと?訳がわからん!もう少し理解できるように話せ!」

 私はそう怒声を発した。

「ん?何を怒っている清美。もう、更年期か?」

 翔也は、首を傾げ失礼なことを言い出した。

「あん?誰が更年期だ!?そうではない!『ストレス』が『犯人』とはどういう事だと聞いている!」

「そのまんまさ。被害者達は『ストレス』によって殺されたんだよ」

「ならば、なぜ被害者達は惨たらしく発見されている!?『バラす』行為は何者かが行わなければ起こりえないだろうが!?」

「………清美。僕は君に『事件解決の協力』をしてくれと言われた。だから、こう『解決』してみせたじゃないか。これ以上の事があるのかい?」

「…………」

「はぁ。清美。僕の『やっている事』はなんだい?」

 翔也は溜息をつきそう言った。

「………怪異蒐集家。解決人だろう?」

 私は、少し沈黙してそう言った。

「その通り。僕はあくまで怪異蒐集家。本来なら事件を解決する人間じゃないんだよ。とにかくだ。被害者の死因と『バラす』行為を行ったモノは関係していない。いや、関係はしているか。とりあえず、放っておいたらまた被害が出るだろうね」

「なら、どうしろと言うんだ!また、被害者が出るのでは、本末転倒だ!」

 私は、怒鳴る。だってそうではないか。『解決出来ない』では意味がない。

「…だから、ここからが本題だよ。清美。僕に『解決』しろと頼むのであれば、報酬が必要だ。さて、清美。君は何を報酬にくれるんだい?」

 翔也は威圧感を出す。

「……『お前の言う事を何でも一度だけ聞いてやろう』これでどうだ?不服か?」

「くくく。いや、いいとも。交渉は成立だ。さて、夢美君にも協力してもらう必要があるな」

 そう言って、翔也はポケットからスマホを出し、『あの子』に連絡をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 初めは意識がなく、『無意識』から生まれた。徐々に意識が芽生え始めた。『俺』は実体を持たない存在。ただ漂う、『ナニカ』の集合体。初めは『ニンゲン』に手は出せなかった。ただただ『眺めている』しかなかった。初めはそれで良かった。なぜなら俺自身が『存在の意味』を理解していなかったからだ。

 それから少し時間が経ち、俺は自分の『存在の意味』を見出していった。そう。俺は『ニンゲン』を殺害する為の存在。あぁ、今までなぜ気付かなかったのだろう。これではまるで『道化』だ。笑える。ならば俺はこう名乗ろう『殺人ピエロ』……と。

初めて、人を『殺せた』。俺…いや、『ボク』は最高の快楽を感じていた。どう『殺したのか』。初めは夢に入り込んで『悪夢』を見させた。そうしたら、あまり時間を置かずに『ニンゲン』は弱っていった。悪夢を見せる時間は『深夜の二時から深夜の三時』決まってその時間に悪夢を見せていた。そして、限界がきた時、『ボクは初めて実体』を出現させる。『ニンゲン』はいきなり現れた『ボク』を見て恐慌状態に入り、パニックを起こして『心臓麻痺』で死んだ。『ボク』は『殺人ピエロ』。『ピエロ』は『客人』を楽しませてこそ、真価を発揮する。だから『ボク』は自分好みに死体を『イジった』。

「くふ、ふふふふ、あははは!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、夢美君。事情は電話で話した通りだ。今回の事件……『殺人ピエロ』を僕と一緒に『殺し』てもらう」

「……お話しを聞いてみれば、今世間をにぎわらさせている殺人事件の解決とは。それで、先生。その『殺人ピエロ』とやらの次のターゲットは分かっているんですか?」

 夢美はそう嘆息する。

「勿論だとも。今日の『深夜の二時から深夜の三時』に必ず『ここに』現れるよ」

「……はぁ。『囮』……清美さんも大変苦労なさってるんですね」

 夢美は『ある方向に視線を移し』言った。

「何を言ってるんだい?民間人を守るのが警察官の仕事だろ?ならば、ドラマよろしくの『囮』捜査ぐらいやってもらわなければね」

「清美さんの『心』は守っているんですね?」

「当然だ。さすがに幼なじみを『殺さ』れる訳にはいかないからね。彼女には『私』の『力』を使っているからね。『殺人ピエロ』はまんまと、『私』の作戦に嵌っている」

 翔也はニヤッと笑った。

 

 

「さぁ、『お仕事』の時間だ。夢美君。『やつ』が現れるぞ」

 寝ている清美の中から『殺人ピエロ』が飛び出してくる。

「ぐああああ!!!!な、何だ!?何が起こった!?」

「おはよう、いや、こんばんは『殺人ピエロ』君。君を『殺し』にきた者だ」

「あん!?誰だ、お前たち!」

「だから、君を『殺し』にきた者だよ。まぁ、実際に『殺す』のは、彼女だがね」

「おはようございます、いえ、こんばんは。そしてさようなら『殺人ピエロ』さん」

 夢美は霊刀を抜刀し、殺人ピエロを切り刻む。

「ば、ばか…な」

「さて、『まずそう』だが、『私の口に入って』もらおうか」

 殺人ピエロは霧散し、消えた。

「さて、終わったな。清美、起きてるだろ?終わったぞ」

「………全く、実際に見たのは初めてだが、信じられんな」

「清美さん、大丈夫でしたか?先生が『力』を使っていたとしても、キツかったのでは?」

「いや、そうでもない。案外『そこの男』は優しい奴でな、『殺人ピエロに私が悪夢を見ているという幻想を見せていた』から、私はキツくはなかったよ」

 清美はそう言って優しく笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――後日

「で、翔也。本当にこんな事で良いのか?」

 私は休日を使い、二人を映画館が入った、大型ショッピングモールに連れてきていた。

「ん?あぁ、いいとも。丁度この映画が観たかったんだ。夢美君もだろ?」

「えぇ。私もこの映画には興味がありました」

「………わかった。ありがとう。翔也」

 清美は改めて優しく笑った。

 

 

 

 

――――江戸窓翔也の怪異譚【第二話 殺人ピエロ(Murder clown)終】

 

 




第二話 殺人ピエロ(Murder clown)投稿完了です。
今回は、ミステリー風で残酷な描写があります。良かったら読んで見てください。


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【第三話:九尾の狐(nine tailed fox)】

しがない『人間』、江戸窓翔也と岸戸夢美はとある喫茶店である女性に出会う。そこから二人は怪異を狩る者『怪異狩り』とその女性との戦いに巻き込まれていく。
なお、登場人物は架空の人物であり、現実には関係ありません。


「………何者じゃ?そなたは」

 わしは、前方に構えるフードを被った男に聞いた。

「………いきなり、襲われる理由がわからんのじゃが」

「………お前は人間じゃないだろ?」

「……ほぅ。ならば、わしは何だというのかの?」

「『怪異』だ」

「……ふむ。わしがその『怪異』としてもいきなり襲われる謂れはないのじゃが?」

「そんな事は関係ない。ただ、従前たる事実があれば良い」

 玖音にハンターが襲いかかる。

「『十全なる神たるモノよ。目の前の邪悪を屠(ほふ)りたまえ』」

 わしは呪文を唱える。ハンターと名乗るフードを被った男の目の前に聖なる雷(いかづち)が落ちる。

「!?」

 ハンターは慌てて後ろにひく。

「……っち。少々、分(ぶ)が悪いか。さすがは『九尾の狐』。『怪異』の中でも最上位に君臨するモノか」

 ハンターは身をひく。

「………ふむ。少々、茶をしばこうと思ったのじゃが……気分が削がれたの。まぁ、良い。このまま『社』に戻っても迷惑じゃろう。どれ『すまほ』を使って、巫女に連絡するとしよう」

玖音わしは、懐にしまってある『すまほ』を取り出し、巫女に連絡するのじゃった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

某所。

「………分かっている。『依頼』はこなす。ちゃんと『九尾の狐』は狩る……別に『あんた』らの計画には興味などない。金だけ用意しておけ」

 ハンター俺は、定期連絡をすませる。今回、何故、俺が『九尾の狐』を狩るかと言うと、話は簡単だ。『依頼』されたからだ。それでなくとも『怪異』の存在は許せない。『怪異』は存在するだけで『悪』だ。

「………それにしても、『九尾の狐』とはな。難度は高いが、狩れなくもない」

 ハンターは乱雑な室内にあるソファに体を沈めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

江戸窓事務所

 

「先生?調子でも優れないのですか?」

「……いや、夢美君。なんでもないとも。多少、ぼーっとしてしまっただけだよ」

「……先生が?やはり、体調でも崩されたのではありませんか?」

 夢美は、まるで信じられないといった顔で翔也を見る。

「夢美君。僕も一応人間なんだが?」

 翔也はそれに対して、少し不満げに唇を尖らせた。

「そうですが……先生?今日は依頼の方はあるのですか?」

「いや?ないけども」

「それでは、今日は出かけましょう」

 夢美は翔也に笑いかけ言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある喫茶店

「んー!美味いの〜。この『いちごぱふぇ』とやらは」

 わしは、あれからとある都市に来ていた。

 カランコロン。客が来店する音が聞こえた。

 

「ほら、先生。ここのパフェ美味しいんですよ」

「ほぉ。夢美君がそう言うなら、ここは名店なのだろうね」

 

「(あの者……何者じゃ?人間にしては『こちら』に近い?しかも、そばに居るおなごも、霊力が異常に高いのぅ)」

 わしは、今入ってきた者達を横目で見る。すると、そのもの達はわしが座っている、かうんたー席の横に座った。

 

「マスター、私は今日のお勧めセットを。先生はどうなさいます?」

「ふむ。ここは夢美君がおすすめしてくれたパフェでも頼もうか。夢美君、パフェの中で何がおすすめなのかな?」

「んー、どれもおすすめですが……そうですね、先生ならば甘いより、少しアクセントのある甘みが良いかと。なので、いちごパフェですかね」

「ふむ。ならば、いちごパフェを頼もうか。ご主人、僕にはいちごパフェを」

 

 二人が注文をする。

 

「……ん?失礼。僕の顔に何かついてますか?」

「い、いや。失礼したのじゃ。わしは初めてこの都市に来たのでな。都市部の男性がもの珍しかっただけなのじゃ」

 先生と呼ばれた男性がわしの視線に気付き声を掛けてきた。

「……そうですか。いや、こちらこそ失礼しました」

「まぁ、先生はもの珍しいですからね」

「…夢美君?それは失礼ではないかな?」

「あら。これでも褒めてるんですよ?」

「褒められてる気がしないね」

「……その、聞いてもいいかの?『主(ぬし)』らは一体何者じゃ?」

 二人の動きが止まる。二人の視線が玖音に向かう。

「………まさか、『そちら』から訊(たず)ねてくるなんて」

「…………逆に聞きましょう。なぜあなたのような『オオモノ』の怪異がここにいるのです?」

 翔也がそう言った時、二人が注文したメニューが目の前に置かれた。

 

 

 

 

 

 

「……ほぉ。わしの正体を『一発』で見抜くとは……ますますもって興味深い。これでも、『完璧』に人間に化けておるのじゃぞ?」

 わしは、そう言った。『一発』でバレる程の擬態をしていない。まぁ、『あの者』にもバレはしたが、わしの『眼』で過去を少々覗いたが、『わしの正体をあらかじめ知らされていた』ようじゃった。なので、今は姿を変え、存在感も変えている。

 

「その『あからさまに人間です』という主張をされれば、誰でも分かりますがね?そうだろ?夢美君」

「そうですね。私の場合は『ほんの少し』だけ、漏れ出ている『霊力』で判断しましたし、流石に先生のように『正体』までは分かりませんでしたよ」

二人は何ともなさげに、普通に会話をしながら食事を始めていた。その姿に玖音は戦慄を『初めて』覚える。

 

「…………あからさまにって『普通』の人間には分からぬはずじゃが……」

玖音はため息をつく。

 

「ふむ。確かに美味いな。ここのパフェは」

「でしょう?良かったです。先生に気に入ってもらえて」

「………で、食事も終えたところですし、わざわざ『お待ち』頂いたという事は、僕に何か『用事』でも出来ましたか?」

 翔也はパフェを食べ終えると、玖音に声をかける。

「……ふむ。話しを聞いてもらえるのかの?」

「『聞かせる』為に残ったのでしょ?」

「くくく。察しが良いの。さて、『主』は、わしの正体は知っておるのかの?」

 わしは『先生』とやらに聞いた。

「その前に自己紹介を。お互い名前が分からなければ話しずらい。僕の名前は、江戸窓翔也。それで、彼女は」

「岸戸夢美と申します。先生の助手をやらせて頂いております」

「玖音じゃ。して、ショウヤと呼んでも良いかの?」

「お好きに」

 翔也はいつもの『胡散臭い笑顔』を浮かべた。

「では、そうさせてもらうの。さて、もう一度問おう。ショウヤ達はわしの正体を知っておるのかの?」

 翔也は少し間を置く。

「……そうですね。色々な伝承を持ってる…。日本では神獣と言われているが、一方、邪悪な狐とされる九つの尻尾を持っている狐の妖。『九尾の狐』ですね?」

「…正直びっくりじゃよ。なぜショウヤはそこまで『見通せる』のじゃ?分かってると思うが、わしは『怪異』の中でも『最上位』の存在じゃ。そう簡単に正体を見抜けられるほどの存在ではないのじゃが」

「それで、そんな存在がなぜいらっしゃるのです?あなたは、伝承通り『神獣』のようだ。ならばどこかに『違う名』で祀られているのでは?」

「その通りじゃ。わしは、とある地方で祀られている狐の神。お稲荷様じゃ。わしはな、たまーに、息抜きがてら人里に降りて人の文化に触れるのが好きなんじゃよ」

 玖音は楽しそうに言った。

「じゃが、それを『邪魔』する者がおっての。その者は我々『怪異を狩る』者らしいのじゃ」

「『怪異を狩る』?」

 翔也は首を傾げる。

「それで?それと何が関係しているんです?」

「ふむ。一つここは『怪異』とは何か。人間はどのように『解釈』しておるのかの?」

「……『怪異』……その名の通り怪しい異なったモノ……あるいは、事象でしょうか?」

 夢美は少し考え、そう言った。

「大方、夢美君の解釈で間違えはないよ。しかし、もう少し考えを進めると、『人工的に作られる』、『自然に発生する』、『元となる話がある』、『人々の信仰により実体を得る』だ。つまり、『怪異』とは人の望みによって、その『質』を変えるものなんだよ」

 翔也は補足の説明を行う。

「その通りじゃ。生まれ持って悪な人間がいないように、『怪異』もまた『悪』からはじまる事はないのじゃよ」

「レアなケースとして、以前、解決した『殺人ピエロ』があるがね。あれは『自(みずか)ら進化した事象』だ。そう言った『自然に発生し、自ら意志を持つ怪異』も存在する」

「ほぉ。本当に詳しいのぉ。もしや、ショウヤが『ウワサ』に聞く『怪異蒐集家』なのかの?」

「へぇ。先生は有名なんですね」

 夢美がほへぇーという感じで翔也を見る。

「それで、なぜそんな存在たる貴女が狙われるのです?」

 玖音は少し沈黙して答える。

「……恐らく、『もう一つのわし』の復活が狙いじゃろう」

「『箱猫理論』の改造版という訳ですか?」

「察しが本当に良いのう」

「つまり、箱猫の猫が死んでいるか、生きているか。今現在、いい猫が生きていて箱に入っているのは悪い猫。ならば『入れ替え』てしまえばいいって事ですか?」

「そうじゃな。分かりやすく言えば、『わし』という存在がいるから『悪い方面をもっているわし』が封印されている。逆説的に言えば『良い方面をもっているわし』を殺せば『悪い方面をもっているわし』が出てくるという訳じゃな」

 玖音がそう言った。すると、夢美が疑問を発する。

「でも、『怪異』とは人の意志、つまり『集合体』でその質を変えるのですよね?ならば、玖音さんが『九尾の狐』ならもう一つの『九尾の狐』は存在出来ないのでは?」

「そこが『怪異の解釈』の違いじゃな。わしは、『九尾の狐』じゃが、すでに『別の名』を持っている。つまり、わしは『九尾の狐でもあり九尾の狐ではない』という矛盾が発生しているのじゃよ。それでも、わしが存在出来ているのは『元々の知名度』があるが故じゃ」

 玖音は夢美の疑問に答える。

「『怪異』には『二面性』を持ってるモノもあるんだよ。夢美君」

 玖音の返答に翔也は少し説明を足す。玖音は頷く。

「……そこで、ショウヤ達にお願いがあるのじゃ。『悪い方面を持っているわし』を復活させる訳にはいかぬ。つまり、わしは『死ねぬ』のじゃ。なので、わしと一緒に『怪異狩り』を撃退してほしい」

「………まさか、『怪異』から依頼されるとは。まぁ、依頼は依頼。ならばこう言わなければいけない。『九尾の狐』玖音。貴女は『私』に何を与えてくれる?」

 翔也は珍しく『胡散臭い笑顔』を浮かべていない。

「ふむ。そなたの『使い魔』になる…というのはどうじゃ?」

 玖音は不敵に笑う。それに対して翔也も不敵に返す。

「何とも『高い』報酬だ。その依頼受けさせてもらいますよ。夢美君も協力を頼みたいのだが」

「はぁ。どうせ、断る事は出来ないのですから、そう聞くのは卑怯ですよ。先生」

 夢美はため息をつく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

某所。

「……来おったな」

 玖音は後ろを振り返る。

「今夜がお前の命日だ」

「話しを聞く気は……」

「ない!」

 玖音の言葉に食い気味に、否定の言葉を発し、ハンターは玖音に近づき、拳を打つ。

「……」

 玖音は冷静にハンターの攻撃を交わし、距離を取る。ハンターは『人間離れしたスピードで玖音に近く』

「死ね!」

「…ふっ!」

 玖音はハンターの攻撃を受け流し、霊力を込めた拳を放つ。

「ちっ!」

 ハンターは玖音の拳を受け、後退するが、同時にナイフを投げる。

「……ほぉ。『概念否定』をもつナイフか」

「多少は『効く』だろ?」

 ハンターは不敵に笑う。しかし、玖音は余裕もった笑いを浮かべる。

「………何を笑っている?」

「さてな、ところで『背後』に気を使わなくてもよいのか?」

「!?」

 ハンターは突如、背後に感じた気配に慌てて振り返る。そこには、『美しい長髪をした美女』が『剣』を構えていた。

「はっ!」

「くっ!」

「先生!」

 夢美の攻撃を受け、更に後退した所に一人の男が立っていた。

「さて、終いだ。『怪異狩り』君」

 翔也から『得体の知れない気配』が溢れる。そして、ハンターは力を失ったかのように膝を着く。

「!?貴様何者だ!?」

「『怪異蒐集家』だよ。まさか、『怪異狩り』が『怪異』を使っているとはね」

 ハンターは翔也を睨みつける。

「……そなたは何故、『怪異』を憎んでいるのじゃ?」

「………からだ」

「ん?なんじゃ?」

「妹を『殺された』からだよ!」

 ハンターは憎悪が篭った目で睨みつけ、怒鳴る。

「お前たち『怪異』は存在するだけで、人間に『害悪』だ!『怪異』に『善』なんて存在しない!!」

「………」

「…それで、『復讐』ですか?」

「あ?小娘、貴様に何が……」

「勝手に決めつけて、『怪異』に価値観を押し付ける。あなたの行っている行動と、妹さんを『殺した怪異』に何か違いはありますか?」

 淡々と話す夢美に対し、翔也が止めにかかる。

「夢美君。『怪異狩り』君。君は一つ勘違いをしている。『怪異に善し悪し』も初めから存在しない。『怪異』は人の解釈により質を変えるものだからだ。そして、君がたまたま出会った『怪異はすでに悪意』を人に持たさられたモノだっただけだ」

 翔也はハンターにそう言った。

「………ち。今更あり方など変えられん。俺はこれからも『怪異』を狩る」

「………」

「だが、もう一方的には狩らん。そこの『九尾の狐』は、お前達の言う『良い面』が定着した『怪異』らしいからな。今回は引いてやる。だが、気をつける事だ。『お前が存在するのを良しとしない者がいる』」

 ハンターはそう言うと、闇へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日談

「世話になったの。さて、ショウヤ、これを」

 玖音は懐から何かを取りだし、翔也に渡す。

「それは、わしの霊力が篭った、鏡じゃ。それによって『わしとショウヤの間にパス』が繋がり、連絡、呼び出しが可能じゃ。これにてわしとの契約となす。それと、ユメミ、お主にはわしの加護を付与する。これにより、更に能力が向上する」

 玖音はそう言い、鏡から空間を繋ぎ帰って行った。

「……能力向上って嬉しくないんですが」

「まぁ、あの『九尾の狐』の加護だ。能力以外にも夢美君に利するものがあると思うよ」

 翔也と夢美はお互いに笑いあった。

 

 

ーーーーーー【江戸窓翔也の怪異譚 第三話 九尾の狐(nine tailed fox)】終

 




第三話目です。暖かい目で見てください。


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【第四話:自殺駅(Suicide station)】

あらすじ

しがない『人間』、江戸窓翔也の元に春川累という人物が訪ねる。いわく、付き合っている彼女がいきなり、『自殺』した…と。

今回はR-15指定ものぐらいの内容となっております。
なお、この作品は犯罪を助長する為のものではありません。


 今日も来た。何が来た?『自殺したい』人間だ。ホームに一人きり。寂しく立っている。

 ーーーーーー『わし』が走っていく。一人きりで立っている人間が『わし』を見る。その顔は『安心』した顔じゃった。だから『わし』は『轢いた』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翔也の事務所

「先生、私今日はバイトの日なんですが?」

 夢美はそう不満を漏らす。

「はっはっは。夢美君。僕は知っているぞ。君の職場の人達は『理解があって』キミの事を優先してくれるということを」

 翔也は人が食えない笑いをする。

「……それで、バイト代も出して下さる、職場の店長に大変申し訳ないのですが……?先生はお金を出してくれませんよね?」

「キミの所の店長は言っていたぞ?『夢美君は凄くいい子で、良く働いてくれている。お客さんからも評価が高くて、固定客もついてくれて万々歳だ』とね」

「…………は?先生?」

「ん?何だね?」

「………もしかしなくとも、私のバイト先の店長と連絡取ってます?」

 夢美は翔也を睨みつける。

「あぁ。夢美君は知らないのか。君の所の店長とは友達なんだよ」

 翔也は何でもないように言った。

「………はぁ。どうにで『私』について理解があるばず。普通なら信じられないですからね」

「ん?夢美君は何か勘違いしていないかね?あいつは、紛れもない一般人。僕については『理解』はしてくれていない。それでも友達付き合いをしてくれる良い奴ではあるが。あいつが信じるのは一重に、君の性格が起因しているのだよ?」

 翔也ははぁ、とため息を吐く。

「夢美君は自己評価が低いみたいだね。もう一度君の存在価値を考え直すといい」

「それだと、私がナルシストみたいじゃないですか……。ところで、先生。私を呼んだのはそんな戯言を言う為じゃないですよね?」

 夢美は翔也に向かってそう言った。

「あぁ。ちゃんとした用事だとも。今日、依頼人が訪ねてくる予定でね。例のごとく君には僕の手伝いをして欲しい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 片手にスマホを持ってその画面を見ている男性がいた。

「……たく、一体どこにあるんだ?アプリじゃこの辺りなんだが」

 男性は悪態をつく。

「それにしても、何であいつはいきなり『自殺』なんてしたんだ……」

 男性はここ先月の事を思い出していた。

「……考えていても仕方ない。その答えを確かめにここまで来たんだ」

 男性は顔を上げると驚いた声を上げる。

「え?あれ?いきなり、『家』が」

「……『江戸窓』ここだ」

 そう呟くと、インターフォンを押した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 インターフォンを押すと、自分と同い歳ぐらいの女の子が出てきた。

「はーい。どなたですか?」

「あ、えっと」

「もしかして、依頼主様ですか?」

 目の前の女の子が首を傾げそう言った。

「あ、はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どーも、こんにちは。江戸窓翔也と言います。君が依頼主の春川累君かい?」

「え、えぇ。あなたが噂の…?」

「どんな噂かは知らないが。そうだね。僕が『怪異蒐集家』だよ」

 翔也は胡散臭い笑顔を浮かべる。

「どうぞ。紅茶です」

 女の子がカチャっと音を少し立て、俺の目の前にカップを置く。そして、男性の横に座った。

「それで、今日はどんな用事なのかな?」

「……実は先月、彼女が自殺したんです」

「ふむ。それで?」

「その理由が知りたいんです。彼女は『自殺』する『理由が見当たらない』遺書も無かったんです」

「『理由が見当たらない』とは、随分と決めつけているね。君の知らない『理由』があったかもしれないではないか?」

 翔也はそう言った。その言い方に春川はキレた。

「……あなたに、何が分かるんだ!俺と彼女の関係もろくに知らない癖に!」

「……ふむ。では拝聴しよう。君とその『彼女』との関係を」

 春川はまだ怒ったように説明をする。

「……分かりました。俺と彼女は幼なじみでして。昔から仲が良かったんです」

 春川は説明をし始める。

「高校の時に俺から告白して付き合いました。それから大学も一緒で……学部も一緒でした」

「ふむ。それで?」

「彼女は、活発でテニスサークルに入ってました。俺は運動音痴だったので天文サークルでしたが」

「その時、彼女は何かあったりはしなかったのかい?例えばお酒の席で無理やり飲まされたとか」

「先生?何が仰りたいのですか?」

「ん?簡単な話だよ夢美君。彼女はその時に誰にも『言えない』目にあった。それこそ、そこの彼にも言えないような……ね」

 翔也はあっさりと言った。それにまた春川がキレる。今度は座ってるソファーから立ち上がって。

「それは何ですか!?あいつが…雪が襲われたとでも言いたいのか!?」

 夢美は春川の気持ちが分かった。その一方で納得もできる話だ。確かに襲われたのであればなかなか言えないだろう。

「…春川さん。お気持ちはよく分かりますが落ち着いて下さい。先生もご推理は良いですが、もう少し気を使って下さい」

 夢美が翔也に釘を刺す。

「しかし、可能性としては一番だろ?さて、春川君。彼女、雪君は『いつから』無理をしていたのかな?」

 翔也は攻めを緩めなかった。

「……くっ、確かにある日からどこか思い詰めた表情をすることもありました。でもそれも一瞬でしたから聞くに聞けませんでした。でも!それだったら尚更『遺書』がないのが不自然だ!」

「ふむ。『遺書がない』のは特段不自然ではないよ。確かに、自殺する前は『遺書』を残す者がほとんどだろう。それこそ、その者が唯一、犯人を『告発』する機会だからね。しかし、『遺書』とは何も『告発』するためだけのものでもない。後悔の念やらも含まれる」

 翔也はそこまで言うと一息つくかのように紅茶を飲む。

「しかし『遺書』を書く余裕すらなく『突発的』に自殺してしまったら『遺書』がないのも納得できる話だ」

「…………」

 春川はソファに座り込む。

「……春川さん。すみません。先生はあくまで『中立の立場』でお話しをされています。なのでこんな言い方になってしまっただけなんです。……先生。今から私がお話しを聞くので『少し黙っていて』頂けますか?」

 夢美は有無を言わさない程の圧を翔也にかける。翔也は肩をうずくめて「どうぞ」と言った。

「……春川さん。雪さんと『もう一度』お話ししたいですか?」

「……は、ははは。何言ってるんですか?そんな事出来るわ」

夢美「出来ます」

 夢美は食い気味に言った。

「は、は?あんた、何言ってんだ?」

「ですから、『出来る』と言ったんです。ただし、春川さんが『死ぬ気』で雪さんの事を思えば、ですが。どうなさいますか?」

 夢美はあくまでも真剣な表情をしている。そこに翔也が口を出す。

「黙っておけと言われたが、これだけだ。春川君、夢美君は『嘘』をついていない。君も知りたいんだろ?彼女が死んだ理由を」

「……出来るなら、お願いします。俺はどうしても雪が死んだ理由を知りたい!」

「では、約束して下さい。『真実』がなんであろうと『受け入れる』。あと、『復讐』は絶対にしない……と。それが出来るなら雪さんとお話しさせてあげます」

「……『復讐』をしない?もし、雪が死んだ理由が『誰か』にあるんだったら、復讐するに決まってるでしょ!?仮に貴女が俺と同じ立場だったらするでしょ!?」

 春川は夢美を殺さんばかりの勢いで睨みつけ怒鳴る。

「でしたら、出来ません。『彼女がそれを望んでいません』から」

「は、はぁ?雪が望んでいないだって?あんたに雪の何が分かるんだよ!」

「……雪さんは背が、あなたより少し低くて、髪は肩まで綺麗に揃っているショート。時々眼鏡をかけますね」

「!?」

 春川は息をのむ。

「そのご様子だと当たっているみたいですね。もう一度言います。『雪さんはあなたに復讐など望んでいません』これでも約束して頂けませんか?」

「……わ、分かりました。約束します。だから雪と話をさせて下さい」

 夢美は真面目な目で春川を見る。

「…約束を破れば『雪さん』の『在り方』が変わってしまいます。そう言った意味で『死ぬ気』で雪さんを思って下さい」

「分かりました。それでどうすればいいですか?」

「春川さんは特段何もしなくて大丈夫です。さっき言った『真実がなんであれ受け入れる』と『復讐はしない』を守って頂けるのなら。では始めます」

 夢美は両手を合わせて祈りはじめた。春川と翔也は静かにその様子を見守る。

 しばらく経って、夢美が口を開いた。

『……久しぶりだね、累くん』

「せ、雪なのか?」

『……うん。今はこの人…夢美さんの体を貸りる形で話してるんだ。私は死んでからもずっと累くんの側に居たんだよ。悲しかった。後悔した。自殺した事。相談出来なかった事を』

 雪は悲しい声で言った。

『……出来れば累くんには悲しんで欲しくなかった』

「悲しんで欲しくなかった……て、悲しむに決まってるだろ!?大事な人が死んだんだぞ!?」

『…うん。分かってる。私は最低な事をしちゃったって。お父さんも、お母さんも悲しませて……本当にごめんね』

 夢美の目から涙が零れ落ちる。

「……それで……どうして、死んじまったんだよ?何も相談もなく」

『ーーーーそれは……うん。話すね。でも復讐なんてしないでね……私はそんなの全然望んでないから』

『あの日、テニスサークルの飲み会があったの。普段は断るんだけど、その日は先輩に無理やり参加させられて……』

 雪が話し始める。

 

 

 

 

 

『サークルが終わって私は体育棟のシャワールームで汗を流して帰り支度をしてた。そうしたら、いつも飲みに誘ってくる先輩……ではなく、『女の先輩』に誘われた。私は断りきれずに行ったら、いつも飲みに誘ってくる先輩もいた。女の先輩は、その飲みに誘ってくる先輩の横に私を座らせた。そこから何度も断ってるのに、意識が無くなるほど飲まされた。それから気がついたら知らない部屋に居て、複数の男の人が『裸の私』の周りで裸で寝てた。私は感ずいた。あぁ、襲われたんだって……。私は慌てて大雑把にほっぽりだされた服を着て逃げるように部屋から出た。そこからは、何も考えられずに気がついたら家に着いてて、お父さんとお母さんに心配したぞって言われて、咄嗟に友達と飲んでて、そのまま友達の家で眠っちゃったって嘘をついた。そこから私の『地獄』は始まった。億劫な気持ちで、累くんと大学に行った。私は累くんに心配をかけたくない一心で気丈にいつも通りに振舞った』

『そこからテニスサークルを避けるようにしたけど、『先輩』が私を逃がしてくれなかった。あの日、私を襲った所を写真や動画に残してて、ばらまかれたくなければ言う通りにしろって言われて、従うしか無かった。そこから私は何人もの男の人と行為におよんだ。時には先輩達のお小遣い代わりにもされた。私の精神はもうズタボロだった。耐えられなかった。逃げたかった。そう願って願って……そうしたら『ある場所』に居たの。その場所は『駅』だった。ちょうど駅のホームに立ってて、遠くから列車が近ずく音が聞こえてきて……その方向を見ると眩くて暖かい光が見えたの。それでその列車がそのまま私の前を通り過ぎて行ったの。そこでまた意識を無くして、気が付いたら自分で首筋をカッターで切ってた……これが私の自殺の真相』

 雪はそこで話しを終えた。そのあまりにも受け入れ難く、信じられない真相に春川は頭が真っ白になった。

『ごめんね。相談できなくて……相談したら軽蔑(けいべつ)されるかもって思ったのと優しい累くんの事だからきっと先輩達を殺しちゃうと思って……』

「軽蔑なんてする訳ないだろ!!何だよ!雪が何したっていうんだよ!そいつら人間のする事じゃないだろ!普通に犯罪だぞ!?」

「……」

「……やっぱり納得出来ない!そいつら許せねぇ!!絶対に復讐してやる!」

『やめて!累くん!私はそんな事望んでない!』

 春川は激昂する。当たり前だろう。自分の大事な人がそんな目にあっておきながら自分は気が付かなかったのだから。

「雪さん少しすみません。春川さん?私は言いましたよね?『どんな真実でも受け入れる』、『復讐はしない』と」

「でも!」

「でもではありません。『どんなに酷い真実』だろうと受け入れないと人間は生きていけません。『真実を受け入れない』人は生きてないも同義です」

「…それに、あなたがやる事ではありません。それは警察が捜査をしてあきらかにすることです。罪を犯したのなら法の下で裁かれなければいけません。あなたまで犯罪者になるつもりですか?」

 夢美が諭す。

「……でも、雪が死んだのは先月です。時間が経ってます。その『クズ』共が証拠を残してるとは思えません」

「そこら辺は私たちに任せて下さい。良いですよね、先生?」

「……今回だけだよ?流石に『私』もキレている」

「何をするつもりですか?」

「何、『少しお灸をすえる』だけだよ。それと今回だけだ。依頼料は要らない。君は夢美君の言ったように『真実を受け入れ』、『復讐をしない』真っ当な人生を歩むことだ。それが『彼女の力』にもなるのだから」

「え?それはどう言う……」

「本当に春川さんは愛されてますね。雪さん。あなたもどうか、あれ程酷い経験をされたのにその『在り方』が出来るのはすごい事です。これからもその『在り方』を忘れないでくださいね」

「では、話はここまで。春川君は帰りなさい。親御さんに話をするかは君次第だ。まぁ、信じてもらえるとは限らんがね……」

 翔也がそう言うと背後から『女』の声がした。

「ならば、この『ねっくれす』を付けると良い。さすれば、お主にもそこにいる女子の姿が見え会話も可能!しかも『触れられる』という高性能!」

『………いつから聞(いてた・ました)!?』

 二人がいきなり現れた玖音にツッコミを入れる。

「ん?『始め』からじゃが?さて、小童ほれ、この『指輪』はその女子の両親にくれてやれ。機能は一緒だが、小童のものより一段階権限が低い。基本、見え、話せて、触れられるが『暴力』は振るえない。小童のお仕置の方が余程その女子には効くだろうて」

 玖音は回廊明快に『カッカッカ』と笑った。

 俺はあれから雪の『告白』を聞いて真実を知った。その時は頭が真っ白になって数秒間を置き怒りが爆発した。俺が必ず復讐してやるって言ったら夢美さんにきつく諭された後、謎の女性が出現して俺に三つの道具を渡してきた。それは『見たいと思ったモノを見れたり、触れたりする事』が出来るそうだ。俺は渡された『ネックレス』をしたら、本当に雪が見えて、声が聞こえて、触れ合えた。すごく泣きそうになりながらもお礼を言った。女性は『神の気まぐれじゃぞ?本来なら世界のルールに違反し排除されるのじゃが、まぁ、『それ位の事など瑣末な事。世界のルールを作った神には適応されん』等と快活に笑って言っていた。俺は江戸窓さんの事務所を出て直ぐに雪の家と向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 また一人、ホームに人が立っている。『わし』はまたかとため息をつく。ここに来る者は皆死にたい者ばかりじゃ。『わしという存在』が呼び寄せてしまうらしい。『わし』はまた『轢こう』としたが、『今回』は様相が違った。

「…ふむ。『そなた自身』にその気はないみたいじゃの。さすれば『付加』してやればよいか」

「『自殺駅』これはあるネットの一部の界隈から広がり、存在を持ったみたいですから、その対処でよろしいかと」

「ふむ。では『私』はその『概念』を回収しよう」

 ……一人かと思ったが三人じゃったか。

「さて、『自殺駅』君の『概念』を回収させてもらおう」

 男がそう言うと『わし』の走るスピードが極端に遅くなる。

「それ、付加じゃ」

 はじめに立っていた者が『わし』に触れてそう言った。

「さて、もうそなたは『人間を自殺に追い込む』事は無い。むしろ逆に『そう言った人間』の救いになるじゃろうて」

「終わりましたね。先生、玖音さん帰りましょう」

 そう言うと『三人』は消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日談

「…ふむ。清美は早速仕事をしてくれたらしい」

 翔也は新聞の一面に掲載された記事を読み言った。

 ―――――時間は遡り、自殺駅の件を解決した頃。

「さて、やる事はまだある」

「そうですね。『彼ら』の悪事を暴いて白日のもとに晒してやらないといけませんね」

「……玖音、春川君が言っていたように『彼ら』は雪君が自殺してから『すぐ』に証拠品を処分した筈だ。その復元はできるかな?」

「そんな事造作もない。本来なら『わし』という存在は世界に影響を与えてはいけないのじゃが『今回』だけは因果律を曲げても大丈夫じゃろ」

 玖音がそう言うと、『ポン』と音を立てて、彼女の手に『スマホ』が出現した。

「ほれ。『これ』があれば良かろう?後はショウヤ達がやる事じゃ。わしは帰るぞ」

「玖音さん、ありがとうございました」

 夢美が玖音にそう言うと、玖音は手を上げながら自分の社に帰っていった。

「さて、清美に相談しよう」

「今度は先生が借りを作ってしまいますね」

 夢美が笑ってそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――【江戸窓翔也の怪異譚 第四話 自殺駅(Suicide station)】終




今回で4話目です。いかがだったでしょうか。次回も頑張って作成します。


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閑話 原点

『怪異蒐集家』になる前のお話し。翔也の過去の物語。


ーーーーーとある地域の屋敷。そこには1人の少年が『牢』に入れられていた。3食は与えられていたが、決して『人間』らしい扱いではなかった。

「…………」

「……だれ?何で『ここ』にいるの?」

 翔也は無表情で虚空に向かって話しかける。

『……気にしないで良い。私は古(いにしえ)より、この地にいるモノだ』

「……ねぇ、それなら僕の話し相手になってよ。家族は僕の事『忌避子(きひこ)』って言って会いに来てくれないんだよ。唯一、隠れて会いに来てくれるの妹の桜子だけだ」

 そう言って虚空にイル存在に話しかける。

『(……こやつが、私の事を『認識』できるとは……神降ろしの子供がゆえか)よかろう。私で良ければ話し相手になってやる。……しかし、今はその必要はなさそうだがな』

 謎の存在はそう言うとすっと消えた。

「……お兄様。今日もお姿を見に参りました。なにやら『高位な存在』がいたようですが……大丈夫そうですね。良かったです。お怪我がないようで」

 そう言うと桜子は兄、翔也に向かって笑顔を浮かべる。ここで、なぜ桜子が兄の存在を知っているかと言うと、生まれ持った複数あるうちの能力『過去視』が五歳の時に開眼し見たからである。ちょうど桜子と翔也との歳は五歳離れていた。その際に、家族が翔也にした仕打ちと、実際に翔也に会い、その人間性を把握した為、家族の事は嫌い、反対に『空虚』な翔也をどうにかしたいと思った。そして、話をしていくうちに『異性』としてみてしまうのと同時に凄まじいブラコンを発生させてしまった。

「お兄様。今日はこんな日でした……」

 桜子はいつも、翔也に会いに来る時は必ずその日あった事を話していく。ちなみに勉強などの内容も話すと翔也は瞬時に飲み込むので、学力は桜子と同等であった。そう。ここに翔也の『忌避子』としてのある意味才能が発揮される。1を聞かされれば『瞬時に内容を理解』する。つまり、難解な問題でも歳を関係なく『法則』を知れば『瞬時に』理解する。

「………家の者が私を探しているようです。気配を完全に『残しつつ』来たのですが、もう『嘘』だとバレてしまったようです。また来ますね。お兄様。私が家の実権を握った時は、是非ともお力にならしてくださいね」

 そう言うと桜子は地下を別ルートで戻りバレないように出ていった。

(桜子はどうやってこの後の事をせつめいしているんだろうか。素直に僕に会いに行っていったなんて言わないだろうし。さて、お腹も減ったな……うん。今日はどんなご飯だろうか)

 翔也は地下に閉じこめられているが、ちゃんと食事は出されている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 桜子は辟易(へきえき)していた。両親からはどこに行っていたかなどもう、分かりきったことを何度も聞かれる。兄たちはどうせあいつの所だろと言い苦笑(くしょう)を浮かべている。この家族は翔也を腫れ物扱いにしているが別に虐待をしている訳では無い。ちゃんと食事も与えれば、係のものがお湯を持っていき翔也の衛生面もちゃんとしている。なので、素直に言えば両親も嫌な顔はするが反対はしないだろう。ではなぜ、翔也は閉じこめられているのか……。それは翔也が『神降ろし』であるためである。

「お父さん、お母さん。分かってるでしょ?私がどこに行ってたかなんて」

 桜子がそう言うと両親は黙る。

「……私がこの一族で1番強い霊能力を持ってるのは分かってるし、お兄ちゃん達のお手伝いもしてるよね?私たちは『怪異』を祓う一族。だからちゃんとやってる。それなら文句ないよね?」

 桜子は両親にプレッシャーかける。

「……第一、お兄様を早く外に出してあげて欲しい。いくら『神降ろし』でも……まぁ、私の『未来視』ではここを離れてちゃんと暮らしてるみたいだけど……何人か『女狐』もいるけど」

 桜子はそう言うと、お茶をすする。そう、決して家族は翔也を嫌っている訳では無い。『忌避子』だが、ちゃんと愛情はある。ならどうして地下に閉じ込めているかと言うと、まだ、『選んで神を降ろす』ことが出来ないからだ。『悪神』を降ろしてしまったら、たちまち悪い方向にいき命の危機に陥る。そう、地下は封神の術が張られている。『神降ろし』が生まれた場合は『その封印』に拒まれず、存在できる『善き神』が現れるまではそこに閉じ込めておくのが一族のしきたりだった。

(まぁ、『その条件は達成している』けど、あの存在がお兄様の中に入ってしまった場合、今のお兄様では『存在が消えてしまう』……はぁ。全くこの両親はなぜ『あんな言葉』を言ったのか……まぁ、地下に閉じ込めるためと、その後会いに行かないのは、自分たちの決意が揺らがないためでしょうが……もっとやりようはあったでしょうが)

桜子は心のうちでため息をつく。そう許せない仕打ちとは『言葉』と『行動』であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地下。

「……ねぇ。『アナタ』はなんなの?」

 翔也はまた虚空に声をかける。

『……私は……そうだな、少し気の合わない連中がいてね。そこから離れてきたものさ。名前は……ふむ。翔也、君がつけてくれないか?』

 謎の存在は翔也にそう言った。

「………じゃあ、あなたの名前は……だ」

『ふふふ。気に入ったよ。翔也。君は『絶対に』私のものにする。そうだね。後五年…後五年で君の力になろう』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー五年後。

「それじゃあ、行ってくるよ桜子。元気でな」

「そんな今生の別れみたいに言わないで下さい。父たちが言ってました。東京の方に家と高卒資格を取れる環境に、大学卒業までの学費は用意してある。いつでも電話してこいって」

「……わかった。ありがとうと伝えておいてくれ桜子。あと僕はあなた達を恨んでなんていないってね」

「……分かりました。伝えておきます。それでは行ってらっしゃいませ、お兄様。私もいずれはお兄様の元に行くかもしれませんのでその時はよろしくお願いしますね」

翔也と桜子は抱きしめ合い、それが終わると翔也を見送ったのであった。

 

江戸窓翔也の怪異譚「閑話(原点)終」




凄く短いですが、閑話なので。暖かい目で見てください。


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