真・ギョウカイ墓場篇 "End of world" and "Fearless world" (烊々)
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Prologue

「ゲイムギョウ界のシステムはやはり不安定だ。

 

 生きとし生けるものたちは幾度となく命の危機に晒され、恐れ、悲しみ、苦しみ、それらが止まることはない。このままでは、滅びの道を進むだけだ。

 

 だから、戻すしかない。

 

 ゲイムギョウ界とギョウカイ墓場、その二つを……かつてのあるべき姿へと」

 

 

 

 

 プラネテューヌの女神、ネプテューヌ。女神候補生のネプギア。

 彼女たちは親友コンパの頼みでバーチャフォレストに薬草採集に来ていた。

 

「……なーんかおかしいなぁ」

「そうだよね、お姉ちゃん」

 

 いつもと違う雰囲気を放つバーチャフォレストにネプテューヌたちは違和感を覚える。

 モンスターが襲ってこないのだ。

 こちらから視認できるモンスターも、茂みに潜みながら何かに怯える様子を見せている。

 

「もしかして強いモンスターがいてそれに怯えてるのかな?」

「でも、ここバーチャフォレストだよ? 強いモンスターなんていないと思うけど」

「だよねぇ…………っ! ネプギア後ろ‼︎」

「えっ⁉︎」

 

 ネプテューヌの声に反応し、ネプギアがその場から跳び退くと、さっきまでネプギアがいた場所に巨大な斧槍が振り落とされた。

 

「一体何が……?」

 

 ネプギアは攻撃してきたであろうモンスターの方向に振り向く。

 そこには、信じられない者の姿があった。

 

「そんな……あなたは……」

 

 その者はここにいるはずはない、なぜなら自分がかつて斃した相手だからだ。

 そんな動揺をしながら声を震わせ、その者の名を呼ぶ。

 

「ジャッジ・ザ・ハード……⁉︎」

 

 『ジャッジ・ザ・ハード』。かつてゲイムギョウ界を危機に陥れた犯罪組織マジェコンヌ四天王の一人。斧槍を携えた、機械仕掛けの黒き巨体。

 かつて、ネプギアが心折れるほどの大敗を喫した忘れるはずもないその姿。後に撃破した相手ではあるが、その印象はネプギアの記憶に強く刻まれている。

 

「はははッ! 久しぶりだなぁ! 守護女神いいいい!」

「どうして……あなたがここに……!」

「知りたいかぁ? なら、俺に勝ったら教えてやるよおおおお!」

 

 ネプギアは直ぐに変身し、M.P.B.Lをその手に構える。

 

「……私を忘れないでもらえるかしら?」

 

 既に変身を済ませたネプテューヌ:パープルハートもその隣に立つ。

 

「はっ! 良いねえ! 久しぶりのゲイムギョウ界で暴れるのに、うってつけの相手だぜええええ!」

「何故復活したかはわからないけど、すぐに地獄に送り返してあげるわ!」

 

 パープルハート、パープルシスターとジャッジ・ザ・ハード。両者の戦いの幕が上がらんとするその瞬間、パープルハートの携帯端末から着信音が鳴り響く。

 

「……何よこんなタイミングに。ちょっと待ってなさい」

「いいぜぇ……早く済ませろよなああああ!」

 

(いいんだ……)

 

「もしもしいーすん、申し訳ないけど今忙しいの! ……え⁉︎」

「どうしたの⁉︎ お姉ちゃん!」

「トリック・ザ・ハードとマジック・ザ・ハードも別のエリアに出現してるって……トリックの方はブランとロムちゃんラムちゃんが、マジックの方にはノワールとベールとユニちゃんが向かったらしいわ」

「他のマジェコンヌ四天王たちも……けど、どうして今更……」

 

 

 

 

 ルウィー領土内、マーリョランド。

 

「アックックック……相変わらず愛らしい姿をしているなぁ幼女たち!」

「トリック・ザ・ハード……相変わらずきもちわるいわね!」

「きもちわるい……」

「妹たちには指一本触れさせねえぞ!」

 

 

 

 

 ラステイション領海上空。

 

「懐かしく、そして忌々しい顔ですわね」

「ほんとよ。今でも夢に見るのよね、こいつに負けたあの時のこと」

「ねえ、マジック・ザ・ハード」

「なんだ?」

「ブレイブはいないの?」

「奴だけは我らが主神によって復活させられなかった。おそらくは貴様ら守護女神に靡くような甘さがあったからだろう」

「そう……なら、心置きなく戦えるわ!」

 

(我らが主神……? 犯罪神のことかしら? けど、マジック・ザ・ハードは犯罪神のことを『犯罪神様』って呼ぶわよね? じゃあ一体……)

 

 

 

 

「ネプギア!」

「わかってるよ、お姉ちゃん!」

 

 プラネテューヌの女神姉妹のとった戦術は、スピードの利を生かした高速戦闘。散開しジャッジ・ザ・ハードの周りを飛び回る。

 ジャッジ・ザ・ハードの強さはそのパワーと耐久力。しかし、スピードの方はそうでもないということをかつての戦いから学んでいる。

 

「てやぁぁぁっ!」

 

 最大まで加速したパープルシスターは、ジャッジ・ザ・ハードの死角から攻撃を叩き込む。

 

「……馬鹿が」

 

 しかし、ジャッジ・ザ・ハードはパープルシスターと同等以上のスピードで斧槍を振り抜いて迎撃してきた。

 思わぬ反撃にパープルシスターは反応できず、回避も防御も間に合わない。その脇腹に斧槍が直撃し思い切り吹っ飛ばされる。

 

「ぐ、う……ぁぁぁぁっ!」

「ネプギア‼︎」

 

 幸い刃の部分は当たっていなかったため命に関わるダメージを負うことはなかった。それでも大きなダメージであることに変わりはなく、脇腹を抑えてその場に蹲る。

 

「今、油断したな? 昔の俺なら反応できなかった速度で攻撃をしたから、油断したよなぁぁぁぁ?」

 

(ジャッジ・ザ・ハード……昔よりも強くなってる……! スピードだけじゃない。今の一撃も昔の比じゃないほどのパワー……!)

 

「これが、俺がギョウカイ墓場であのお方から頂いた力だ! 強くなってるのがお前らだけだと思うなよ?」

「あのお方……?」

「おっと、喋り過ぎちまったか? まぁ良い。さぁて、後はお前だけだぜぇぇぇぇ?」

「ネプギア、あなたは少し休んでいなさい」

「でも……!」

「私はハイパーシェアクリスタルを使うわ。だから大丈夫」

「……わかった」

 

 パープルハートは妹を一蹴するほどの強敵にネクストフォームで対抗しようと、ハイパーシェアクリスタルを顕現させて構える。

 

「……あ?」

 

 しかしその瞬間、ジャッジ・ザ・ハードの身体にブレがかかり消えていく。

 

「クソッ、時間切れかよ」

 

 ジャッジ・ザ・ハードは焦るどころか、納得した様子を見せていた。

 

「ま、今回はてめえらを倒すことが仕事じゃねえからいいだろう」

「どういう……こと……?」

「時が来たらわかる。あばよ!」

 

 そう言ってジャッジ・ザ・ハードはその場から消滅した。

 状況に理解が追いつかず、しばらくパープルハートはその場に立ち尽くしていた。

 

 

 

 

「くっ……強い……!」

「マジック・ザ・ハード……あの時よりも格段に強いわね……!」

 

 自らの記憶の比ではない強さを持つマジック・ザ・ハードに苦戦するラステイションの女神姉妹とグリーンハート。

 

「どうした? こんなものか? やはりあの方の言う通り、守護女神では限界ということか」

「馬鹿にしないでくれる? 私たちはまだ本気を出していないのよ?」

「ええ、正直これを使わずに倒したかったのですが、しょうがありませんわね」

 

 ブラックハートとグリーンハートはハイパーシェアクリスタルを顕現させる。

 

「ふむ……興味深き力だが……どうやら時間のようだ」

 

 マジック・ザ・ハードはハイパーシェアクリスタルを好奇の目で見ながらも、その身体にはブレがかかり消えていく。

 

「逃げる気?」

「勝手にそう思っていろ。それに、今回はあのお方……我らが主神がゲイムギョウ界に降り立つための下調べに過ぎん」

「どういうことですの……?」

「いずれわかる。ゲイムギョウ界の終焉と共にな。では、さらばだ…………」

 

 マジック・ザ・ハードは消滅し、ラステイション領海上空には何もない方に向かってハイパーシェアクリスタルを構えるブラックハートとグリーンハート、そしてその後方のブラックシスターが残った。

 

「……この様子ですと、他の四天王も消滅したと考えるのが妥当ですわね」

「ええ、けどあいつの口ぶりからしてまた来るってことよね」

「とりあえず、みんなで集まった方がいいと思うわ。お姉ちゃんもベールさんも、プラネテューヌに向かいましょう?」

「そうね」

 

 

 

 

「……戻りました」

「ご苦労、マジック。早かったな」

「今は幽世の住人である我々では、あの程度の時間が限界でした」

「なるほど。して、どうだった? 久方ぶりの現世は」

「こちらに慣れすぎたゆえ、あまり良いものではありませんでした」

「窮屈だったか、すまなかったな。だか、次の侵攻の際も頼んだぞ」

「仰せのままに」

「下がれ」

「はっ」

 

 

 

 

 

「……さて、始めるぞ、ゲイムギョウ界よ。

 

 全ての生命を『恐れ』から解放する……

 

 ……()()()()()を」

 

 

 

 

 

 

 

 

      超次元ゲイムネプテューヌ

 

       真・ギョウカイ墓場篇

 

    "End of world " and "Fearless world"

 

 

 

 

 

 

 



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Phase1. Venus of dead world


 その時に違いはあれど、『死』とは何者にも平等に訪れる。

 故に、『死』を司るということは、全てを司るということ。



「というわけで、第一回『復活したマジェコンヌ四天王対策会議』を始めたいと思いまーす! ぱちぱちぱちぱち!」

「あいつらが復活したこともそうだけど、あいつらを復活させた黒幕の方が気になるわ」

「『あのお方』……『我らが主神』……何者なのかしら」

「この作品オリキャラタグが付いてるからオリキャラでしょ。だからわたしたちの知ってる人じゃないんじゃないかな」

「何よそのメタな視点を利用した推理……」

「ま、何が来ても大丈夫! わたしたちなら勝てるよ! だってわたし主人公だもん!」

「はいはい」

「こういう時、ネプテューヌの能天気さは逆に心強いわね」

「とりあえずは、いつでも四天王たちが現れてもいいように準備と警戒は怠らないようにしないといけませんわね」

 

 国家を超えた対策をすることに決まったが、マジェコンヌ四天王はどこから復活したのか、そして黒幕は何者なのか、これらの謎は解けるわけもなく、結局その日はみんなで遊んでから解散した守護女神なのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

          Phase1

 

     『 Venus of dead world 』

 

 

 

 

 

 

 

 

「マジック、ジャッジ、トリック。調整は完了した。次は現世でも制限時間無しで戦えるだろう」

「有り難き幸せ」

「次は我も現世に立つことになる。先に汝らを送り込み、『慣らし』を済ませる必要があるがな」

「『慣らし』……ですか。お任せください」

「では、現世への扉を開く。皆、存分に暴れてくるといい」

「「「はっ!」」」

 

 

 

 

 会議から約一週間。

 

「いーすん、別次元からの反応は?」

「今日も感知されてないですね」

「そっかー」

「ネプギアさんは今日も鍛錬ですか」

「うん。この前ジャッジ・ザ・ハードに重い一撃をもらったのが堪えたみたい」

 

 ネプテューヌはいつものように仕事を怠けているように見えながら、いつ敵が来てもいいように常に警戒をしている。

 イストワールもそれをわかっているため、何も言わないのだった。

 

「気の張りすぎも良くないよね。少しお昼寝でもしようかな」

「どうぞ」

「最近のいーすんやけに優しいね」

「いつもは優しくない、と?」

「そ、そんなことないよ」

「冗談です」

 

 そんな気の抜けた会話をしていると。

 

\ ーーーー! ーーーー! /

 

 プラネテューヌ教会中に緊急事態を知らせるアラートが鳴り響く。

 

「ねぷぅ⁉︎ これは……!」

「ネプテューヌさん! 上空に次元の歪みのようなひび割れと、その中から強大なエネルギーを三つ感知しました!」

「ついに来たね……!」

「それぞれラステイション、ルウィー、リーンボックスへと落ちていきます」

「プラネテューヌには?」

「確認できません。他国へ救援に行きますか?」

「とりあえずまだ様子見かな。プラネテューヌに何も起こらないとは限らないし。ネプギアを呼び戻して、それからプラネタワーの上で準備しとく」

「わかりました」

 

 

 

 

「ラステイションに降りて来るのは、どうやらマジック・ザ・ハードのようね。いつ来てもいいように準備は怠っていないのよ!」

「一番強い奴が来るなんて、あたしたちは当たりを引けたようね!」

 

「ルウィーにはやっぱ変態野郎か。今度は逃さねえ……!」

「今度こそぎったんぎったんにしてやるんだから!」

「頑張ろう……! お姉ちゃん……ラムちゃん……!」

 

「リーンボックスにはジャッジ・ザ・ハードですか。私はマジックを仕留めたいと思っていたのですが……まぁいいでしょう」

 

 復活したマジェコンヌ四天王の急襲に対し、各々の国の女神は迎撃の準備を既に済ませていた。

 

「出し惜しみ無しで行くわよ!」

 

「守護女神の極限進化を見せてやる……!」

 

「最初から全力全開で行かせてもらいますわ!」

 

 そして三人の守護女神はハイパーシェアクリスタルを使用し、女神化を超えた形態『ネクストフォーム』へと変身する。

 戦闘が始まるその瞬間、一つだけネクストブラックの頭には引っかかる点があった。

 

(……待って。ここにはマジックが、ルウィーにはトリックが、リーンボックスにはジャッジが向かっていて、ブレイブは復活していないのよね?)

 

(……じゃあ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()?)

 

 

 

 

「プラネテューヌ、何も起こらないね」

「そうね。ならネプギア、あなたはベールを手伝ってきて」

「えっ……でも……」

「ベールが負けるとは思えないけど、一人だと大変だと思うから。私が行ってあげたいけど、守護女神である私が国を空けるわけにはいかないのよ。お願い、ネプギア」

「わかった。行ってくるね」

「でも、ベールの妹にされちゃダメよ。あなたは私の妹なんだから、流されないように」

「はーい! 行ってきまーす!」

「ええ、いってらっしゃい」

 

 そう言って、パープルハートはパープルシスターの頭を優しく撫でて送り出す。

 リーンボックスの方面へと飛翔していく妹の背中が見えなくなるまでを見届け、プラネテューヌの上空を飛び回る警備を再開する。

 

「さっきは国を空けるわけにはいかないって言ったけど、このままプラネテューヌに何も起こらなければ、私も他の国へ救援に向かおうかしら?」

 

 呟いた、その刹那。

 パープルハートは、まるで時が止まったかのような重圧を感じとる。

 

「ーーーーッ⁉︎ 何……⁉︎」

 

 感じた方向、プラネタワー真上の空がひび割れる。

 そして、ひび割れた中から何者かが現れた。

 

「……久方ぶりだな、現世は」

 

 その者は、背中まで伸びた銀髪のロングヘアで、守護女神に見劣りしない美麗な容姿を持つ女性だった。

 

「やはり、先に奴等を放り込んで慣らしを済ませておいて良かったな。さもなくば現世が保たなかったかもしれん」

 

 言いながら、眼下に広がるプラネテューヌ国内を一通り見渡す。

 

「随分と……派手になったものだ。だが、それも『恐れ』から目を逸らすためのまやかしに過ぎん」

 

 吐き捨てたその者の表情は、侮蔑ではなく悲哀であった。

 

「さて、『鍵』があるのは真下、この塔であったな」

 

 そして、その者はプラネタワーを目指し、緩やかに降下を始めた。

 

 

 

 

「どうした? ブラックハートよ。いや、ネクストブラックか。戦いに身が入っていないぞ?」

「……うるさいわね」

「貴様の考えを当ててやる。プラネテューヌのことであろう?」

「……っ!」

「その反応、どうやら図星のようだな」

「だからどうしたのよ」

「教えてやろう。プラネテューヌには我らが主神が舞い降りることになる。我らの存在は、あのお方が現世に降り立つための『慣らし』に過ぎない」

「『慣らし』……?」

「あのお方は『幽世の神』であるお方。幽世の神である存在が現世に立つと、世界のバランスが崩れかねない。だからこそ幽世の住人である我らを先に現世に送り、現世があのお方の存在に耐え切れるように慣らしたというわけだ」

「幽世の……神……」

「一つ言っておいてやろう。あのお方のお力は、我らの比ではない」

「何ですって……?」

「プラネテューヌの守護女神ではあのお方には勝てぬだろう。たとえシェアクリスタルを超えたハイパーシェアクリスタルの力、ネクストフォームを使おうともな」

 

 

 

 

「あれが……そうなのね」

 

 パープルハートは、その者こそジャッジ・ザ・ハードの言っていた『あのお方』であり、復活したマジェコンヌ四天王の親玉だということを一瞬で理解した。今までに感じたことのない重圧を放ち、復活したマジェコンヌ四天王の比ではない強さを持っていることを感じ取ったからである。

 だからこそ、その者がプラネテューヌに存在することを許すわけにはいかない。

 進行を阻むため、剣を握り飛翔する。

 

「……来たか、守護女神よ」

「あなたは何者⁉︎ 何が目的なの⁉︎」

「我こそは幽世の神。そしてまたの名を……

 

 ……『デルフィナス』」

 

 パープルハートはその名前に聞き覚えがあった。

 デルフィナス、ギョウカイ墓場の主と言われていたゲイムギョウ界屈指の強さを誇るモンスターと同じ名である。

 

「デルフィナスって……」

「そうだな、汝らの知るデルフィナスは、現世に漏れ出た我の力のほんの一部がモンスターの形となったものだ」

「幽世……? 現世……?」

「む? この呼び名では通じんか。汝らの身近な言葉にするならば、現世とは『ゲイムギョウ界』で、幽世とは『ギョウカイ墓場』のことだ」

「ギョウカイ……墓場……!」

 

 その言葉に驚きを隠せないながらも、納得もする。

 ギョウカイ墓場はかつて妹が犯罪神との激闘の果てに犯罪神ごと消し去ったはずだったが、目の前のデルフィナスが放つ重圧が、自らがかつて囚われていた際に肌で感じていたギョウカイ墓場の雰囲気に酷似していたからだ。

 

「かつて現世に出現した『ギョウカイ墓場』とは、現世の人間たちの邪な信仰に引き寄せられ、幽世の一部が現世に浮かび上がったものに過ぎん。そもそも現世と幽世は表裏一体。現世が『生』の世界なら、幽世とは『死』の世界。片方のみが消えることはなく、片方が滅ぶ時はもう片方も滅ぶ、そういうものだ」

 

 守護女神でさえも知らない世界の真実が明かされていく。

 

「……どうやら知らぬようだな。無理もない。幽世の存在は現世に隠すものとしていたからな。歴代の守護女神の中では幽世の存在に気づく者もいたが、だからと言って現世から幽世には干渉する意味も必要もない」

「なら……その幽世の神とやらが、私たちのゲイムギョウ界に何の用なのよ?」

「『救済』だ。そのための『鍵』を取りに来た」

「意味がわからないわ」

「多くを語るつもりはない……とはいえ、黙って我を通す気もなかろう」

 

 そう言ってデルフィナスが手を前に翳すと、ブォン、と言う音と共に剣が出現した。

 

「来るがいい。そして最初から本気で来い。でなければ後悔することになる」

 

 デルフィナスは剣を構える。

 たったそれだけの動作で、並のモンスターなら消し飛ばせるほどの重圧を放つ。

 

「……なら、全力でいかせてもらうわ」

 

 パープルハートはハイパーシェアクリスタルを使用し、ネクストパープルへと変身する。

 

「はぁぁぁっ! 『ネプテューンブレイク』ッ!」

 

 最初から必殺技、出し惜しみはしない。

 紫の閃光が、プラネテューヌ上空で煌めいた。

 

 

 

 

 復活したマジェコンヌ四天王の力は強くなっているものの、ネクストフォームに届くまでではなく、決着となるのも時間の問題であった。

 

「『ビットズコンビネーション』!」

 

 ネプギアの必殺技、ビットとの連携攻撃により隙を強引に作り、

 

「『インフィニットスピア』!」

 

 その隙を上手く突くように、ネクストグリーンの最強必殺技『インフィニットスピア』の槍が降り注ぐ。

 

「ぐぅあああああああっ!」

 

 悲鳴と共に、ジャッジ・ザ・ハードの身体は砕かれていく。

 

「ちぃぃぃぃっ! まだ勝てねえかぁっ! くそぉぉぉぉっ! だが、次は勝つぜええええ!」

「『次』? 次などありませんわ。あなたはここで完全に消し去ってあげるのですから!」

「はっ! 俺たちは幽世、死の世界の住人だぜぇ? 現世で死んでも幽世に帰るだけだ。そして、あのお方のお力があれば何度でも現世に蘇るぅ……!」

「何ですって……?」

「今回は俺の負けだ。だが、次はどうかなぁぁぁぁ? ははははははッ…………」

 

 笑い声を上げながら消滅していくジャッジ・ザ・ハード。

 勝者であるはずのベールとネプギアはなんとも言えない後味の悪さを感じていた。

 

 

 

 

「『ノーザンクロス』! 『サウザンクロス』!」

「『アブソリュートゼロ』ーーッ!」

「ぬぉっ!」

 

 トリック・ザ・ハードは、ホワイトシスターたちの必殺技で繰り出された魔法陣と氷塊に閉じ込められる。

 

「消えてなくなれ『ブラスターコントローラー』」

 

 ネクストホワイトの最強必殺技『ブラスターコントローラー』の照射ビームが、トリック・ザ・ハードの巨体に風穴を開けた。

 

「いやぁぁぁぁっ! ……まぁ、いいか」

 

 一瞬だけ断末魔をあげるものの、消滅していく自分の身体を対して興味がなさそうな反応をするトリック・ザ・ハード。

 

「あのお方が現世に降り立った以上、吾輩たちの役目はもう無い。このまま死んで幽世に帰らせてもらう。ではさらばだ、幼女たちよ! アクククク…………」

 

 そのままトリック・ザ・ハードは消滅していった。

 

「勝った……のかな?」

「でも、そんな気がしないね」

「……ロム、ラム、少し休んだらプラネテューヌに向かうわよ。何か胸騒ぎがするわ」

 

 

 

 

「行きなさい! 『ナナメブレイド』!」

 

 ネクストブラックのソード型ビット兵器ナナメブレイドは、まるで意思を持っているかのような精巧な動きで、マジック・ザ・ハードを追い詰めていく。

 

「くっ….こんなもの……!」

 

 対するマジック・ザ・ハードも、ナナメブレイドを的確に迎撃していく。

 しかし、

 

「残念、それブラフよ」

 

 本命は、ネクストブラック本体の剣技。

 

「『インフィニットスラッシュ』!」

 

 ネクストブラック必殺の高速剣舞が、ナナメブレイドごとマジック・ザ・ハードを斬り裂いていく。

 

「トドメは任せるわ、ユニ」

「オーライ! エクスマルチブラスター最大出力! 狙い撃つわ‼︎」

 

 そして、ブラックシスターのエクスマルチブラスターから放たれたビーム砲がマジック・ザ・ハードを貫く。

 

「くぅ……ここまでか。だが良い。既にプラネテューヌにはあのお方が降り立っている」

「あのお方だかなんだか知らないけど、ネプテューヌは負けないわ」

「ふふっ、負けない……か」

「何がおかしいのよ?」

「現世の四つに分かれたうちの一つしか統べぬ女神が、幽世そのものを統べるあのお方に敵うはずなかろう。さて、我は幽世に帰る。貴様らはあのお方が世界を手にした時の身の振り方でも考えておくんだな…………」

 

 笑いながら消えていくマジック・ザ・ハード。

 

「……負け惜しみを」

 

 ノワールはそんな嫌味を、言いたいことだけ言って消えていったマジック・ザ・ハードに対して呟く。

 

「ネプテューヌ……」

 

 プラネテューヌの方向に目を向けると、遠くの空に紫の閃光が煌めいた。

 

「戦っているのね。今すぐ救援に……っ」

「無理しちゃダメよお姉ちゃん! ナナメブレイドを使いながらインフィニットスラッシュを使えば身体にすごい負担がかかることなんて、アタシでもわかるわ」

「……わかった。少し休んだら、プラネテューヌに向かいましょう」

「うん!」

 

 

 

 

「ふむ」

 

 デルフィナスの左手にはネクストパープルの刀身が握られ、右手には振り抜いた後であろうデルフィナスの剣が握られていた。

 

「こんなものか」

 

 あまりにも迅速かつ的確な反撃、洗練された剣技。

 故にネクストパープルは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に気がつくのに、少しの時間を要した。

 

「……ぅ……けど、まだよ……!」

 

 ネクストパープルがデルフィナスの手から刀を引こうとするも、

 

「いいや、終わりさ」

 

 その間に、デルフィナスの刃が二度交差する。

 

「か……は……っ……!」

 

 たった三度の斬撃で、ネクストパープルの耐久値はほぼ全てが削り取られ、変身を維持できないほどのダメージとなった。

 

「そん……な……」

 

 変身が解け飛行能力を失ったネプテューヌはそのまま落下していく。

 

「殺しはしていない。女神である汝ならば、その傷でも生き延びることができるだろう」

 

 落ちていくネプテューヌを見つめるデルフィナスの表情は、先ほどプラネテューヌを見渡した時と同じような悲哀の表情であった。

 

「……『鍵』を、取りに行くとしよう」

 

 地面に落ちたネプテューヌは、プラネタワーに侵入していくデルフィナスをただ見ることしかできない。

 身体に力が入らないように斬られており、精神的な問題ではなく、物理的に立てないのだ。

 

「はぁ……っ! ぐ……ぅ……はぁっ……!」

 

 数分後もしないうちに、プラネタワーから出てくるデルフィナス。

 その右腕には、

 

「……あれは……いーすん?」

 

 ジタバタと暴れるイストワールが抱えられていた。

 

「やめてください! 離して、離してください!」

「暴れるな、手荒な真似はしたくない」

「何故私を連れていくんですか⁉︎」

「汝が『鍵』であるからだ、教祖イストワールよ」

「『鍵』……?」

「だからこそ、傷つけるつもりはない。だが、過ぎた抵抗をすれば、汝の愛するものたちを傷つける必要があるかもしれん」

 

 その言葉を聞くと、イストワールの抵抗はピタリと止む。

 

「……っ、なら私が付いて行けば、ネプテューヌさんやプラネテューヌには何もしないと約束してくれますか?」

「あぁ、約束しよう」

 

 地面に這いつくばるネプテューヌには上空にいるデルフィナスとイストワールの会話は聞こえない。しかし、イストワールが連れ去られようとしていることは理解できていた。

 

「いーすん! ダメ‼︎」

 

 声をあげるも、イストワールに届くことはない。

 

「行くぞ、教祖イストワールよ」

「……はい」

 

 デルフィナスが幽世へ続くゲートを開く。

 

(どうしていーすんを連れて行くの⁉︎ ううん、理由なんてどうだっていい、いーすんを助けないと!)

 

 なんとかしてそれを妨げようとするも、ネプテューヌは起き上がることはできず、地面を這い手を伸ばしながら届かぬ声をあげることしかできない。

 

「いーすん! いーすん‼︎」

 

 そして当然、そんな行動に意味はない。

 

「……ぅぅぅぅぁぁあああああああッ!」

 

 完膚なきまでに敗北し、大事な者が連れ去られるのを見ていることしかできなかった無力さを思い知らされたネプテューヌの慟哭が、プラネテューヌに響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 デルフィナス。
 オリキャラではありますが、名前の元は言うまでもなく、容姿もリバ1トゥルーエンドの人間体マジェコンヌ、勇ネプのクロムも同じに設定しているため、完全なオリキャラというわけではありません。性格や一人称と二人称が違いますが。



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Phase2. Fearless world


 過ぎ去った時が戻ることはなく、いつかあなたも、私の過ぎ去った時になるのだろう。

 だからこそ、私たちは未来に想いを馳せる。



 

 

 

「ネプテューヌの容態は?」

「傷は深いですが、命に別状はないです」

「そう。流石コンパ、腕の良い看護ね」

「いいえ、ねぷねぷの傷は深かったですけど、命に関わらない怪我の仕方だったからです」

「ねぷっちが手加減された上で負けたってことかよ……」

「ごめんなさいうずめさん。私とお姉ちゃんがうずめさんにも声をかけていれば……」

 

 『復活したマジェコンヌ四天王対策会議』には出席していなかった、プラネテューヌの過去の守護女神『天王星うずめ』。

 ネプテューヌたち当代の守護女神は、今のゲイムギョウ界は自分たちで守り抜くと、世界の守護に関しては過去の女神であるうずめと距離を置くことにしていたため、今回の事態を後から知った形となっていた。

 しかし、ネプテューヌが負傷しイストワールが捕まったと聞いたら即プラネテューヌ協会に駆けつけて来た。

 

「こっちこそ悪かったよ。そんなこと気にせず俺も戦えば良かったんだ。過去の女神だなんてのはもう関係ねえ! 俺も参加させてもらう! ……てなわけで、イストワールはどこに連れて行かれたんだ?」

「おそらく、四天王が言っていた幽世……死の世界ってところね」

「しかし、死の世界の者がどうしてイストワールを連れて行く必要があるのでしょう?」

「そもそも幽世とか死の世界ってどういうことなのよ……?」

「それは……」

 

 女神たちは、知識も情報もないのでこれ以上何も言うことはできず、皆その場で黙り込む。

 

「ねークロちゃん、なんか知らない?」

 

 その沈黙を破ったのは、うずめと行動を共にしていた大きい方のネプテューヌ。

 

『あ? 幽世ってのはギョウカイ墓場のことだろ。そして対する現世がこのゲイムギョウ界だ』

 

 クロワールがさらっと答えた『ギョウカイ墓場』という単語を聞いた女神たちは表情が変わる。

 

「そんな、ギョウカイ墓場って……!」

「ギョウカイ墓場はネプギアが犯罪神を倒した時に消えたはずじゃ……!」

『多分、その消えたってのは現世に漏れ出た一部だよ。世界っつーのは現世と幽世のバランスで成り立ってる。つまり現世と幽世は表裏一体、もしギョウカイ墓場が消えちまえばゲイムギョウ界だって滅ぶんだぜ?』

「知らなかったそんなの……」

『知らなくて当然だろうよ。現世側が幽世を知ってると現世と幽世のバランスが崩れやすくなっちまうから、現世側には幽世の存在が知られてないってことは、ゲイムギョウ界に限ったことじゃなく現世と幽世に別れているタイプの世界では良くあるルールなんだよ。たまに例外はあるけどな』

 

 女神たちはクロワールの解説を、素直に関心しながら聞いていた。

 

「じゃあどうして幽世の神がいーすんさんを連れて行ったんでしょうか?」

『そこまでは知らねーよ。気になるなら相手に直接聞きに行けばいいだろ。俺が幽世へのゲートを開けてやるからよ』

「おっ、流石クロちゃん! じゃあみんなで助けに……」

『いや、ネプテューヌ、お前は幽世に行くのはやめろ』

「え?」

『やめとけ、じゃねえ。やめろ、だ』

 

 クロワールの表情は、いつものような人を小馬鹿にしたものでなかった。

 

『幽世ってのは死の世界、女神は良いが人間なら足を踏み入れた瞬間に死ぬ。入ったその瞬間に死んだことになるから、抵抗なんてできねえ。お前はただの人間ってわけじゃねえが、一応まだ人間の域にいる。だから、死にたくなけりゃ幽世には行くな』

「はーい」

 

 だからこそ、ネプテューヌはクロワールの忠告を素直に聞き入れた。

 

(なら、私たちも行けないってことね……)

(お留守番です……)

 

 それを聞いていたアイエフとコンパも同行を断念する。

 

『俺も幽世なんて何もなくてつまんねえとこには行きたくねえからよ。女神の方のネプテューヌが回復したら、ゲートだけ開けてやる』

「感謝するわ」

「さて、ネプテューヌが目覚めるまで私たちは何をしましょうか?」

「幽世に行って国を空けることになるから、一時的に女神の業務を教会員に委任する手続きがいるわね」

「なら、一旦国に戻らないと」

「じゃあ、お姉ちゃんが起きたら皆さんに連絡します」

「ありがとうネプギア」

 

 ノワールたち他国の女神はプラネテューヌ教会を後にした。

 

「クロちゃんがこんなに協力的なのって意外だね」

『幽世が関係することってのは、だいたい世界がつまんなくなることなんだよ。俺は面白いことが好きだからってだけさ』

「……そっか」

 

 

 

 

「ここは……どこなのですか?」

「幽世。ギョウカイ墓場だ」

「ギョウカイ墓場……」

「現世に比べると殺風景だろうな」

「いえ、そんなことは……」

「良い。事実だ」

 

 デルフィナスの言った通り、イストワールは傷つけられないどころか丁重に扱われていた。

 故に、自らがデルフィナスの計画にとって大きな役割を担っていることを理解できた。しかし、その心当たりは微塵もない。

 

「……あなたの目的は何ですか?」

「知ってどうする」

「わからないことに協力はできません」

「汝の意思に関係なく役割だけは果たしてもらう。だが、知りたいのならば教えてやろう」

「……お願いします」

「少し長くなるぞ。何故なら、汝自身のことや世界の成り立ちについて話すことになるのだからな」

 

 イストワールは何も言わず、話を聞く姿勢となる。

 

「はるか昔のこと、現世と幽世は一つであり、世界には生も死もなかった。その世界は三人の神となる存在に統治されていた。そのうちの一人が我。そして……」

 

 そう言ってデルフィナスはイストワールを見つめる。

 

「まさか……私も……ですか?」

「そうだ。だが、汝であって汝ではない。『史書イストワール』。汝の元となった存在だ」

「……!」

 

 イストワールは世界や自らのルーツをより知るために、デルフィナスの話に更に意識を向ける。

 

「そして、最後の一人は、今は亡き我が友、ゲイムギョウ界における初代守護女神のことだ。汝も知っているだろう」

「あの方が……」

 

 イストワールの記憶に残る、自らを生み出したその人物。

 しかし、その過去までを知ってはいなかった。

 

「その初代守護女神が、世界に革新を求め、世界を『正』と『負』、つまり『生』と『死』に分けることを提案したのだ。生が現世、ゲイムギョウ界であり、死が幽世、ギョウカイ墓場といった風にな。それにより、当時は我ら神々しか持ち得なかった感情を人々も得ることができて世界はもっと発展していく、彼女はそう言っていたな」

 

 二度と戻らぬ遠き過去に想いを馳せながら語るデルフィナス。

 

「しかし、変化とは良き方向にのみ向かうものではない。感情が生まれ善意が生まれると同時に悪意もまた生まれる。もし悪意が伝播していけば、人々は滅びの道を突き進むことになる。我はそう懐疑していた。だが、友の提案を無下にできず、現世を我が友に任せ、我は幽世の守護を担うことにしたのだ。そして、イストワールの『史書の力』を使い、世界は分かたれた」

「史書の力……?」

「世界の全てが記された書を持ち、その中身を書き換えることで世界そのものを改変する。それが史書イストワールの能力だ」

「恐ろしい力ですね……」

「そうだな。だからこそ、その力が悪用されぬように、とイストワールは自らの力と記憶を封印することを選んだ。その際に、自らの容姿と性格を模した人工生命体を初代守護女神と共に作り上げ、代々守護女神を補佐することにしたのだ。ここまで言えばわかっただろう?」

「……はい。それが、私ということですね」

 

 デルフィナスは頷き、

 

「現世に残った我が友には、今までに存在しなかった死の概念が生まれたことにより、永き時が経つとその生涯に幕が降りた。だが、その意思は後進となる女神たちに受け継がれていった……と思っていたのだがな」

 

 失望したような悲哀の表情でその続きを吐き捨てた。

 

「さて、ここまでがこの世界の成り立ちだ。次は我が目的と汝の役目だったな。我が目的、それは再び史書の力を使って世界を書き換えることだ」

「ですが、史書の私は封印されたと……」

「その封印を解くための『鍵』が、汝こと教祖イストワールなのだ」

 

 イストワールはもう驚かなかった。なんとなく、そんな予想はできていた。

 

「……なるほど。では、史書の私を使って世界をどう書き換えるつもりなのですか?」

「救済だよ」

 

 『救済』という言葉は予想していなかったイストワールは、目を丸くして声を失う。

 

「教祖イストワールよ。何故人々は幸福を追求するかわかるか?」

 

 イストワールの反応をよそに、デルフィナスは語り始める。

 

「それは『死』という逃れられぬ絶対的な『恐れ』があるからだ。人々はその『恐れ』から目を逸らすため、自らの『生』に価値を見出そうとし、幸福を追求する。だが、過ぎた幸福の追求は他者との軋轢を生み、そこから憎しみ、争いが生まれ、そしてまた、悲しみ、苦しみも生まれる。争いが繰り返されてきたゲイムギョウ界の歴史とは、悲しみ、苦しみの歴史なのだ」

 

 イストワールはデルフィナスの言葉を否定しきれなかった。

 国同士の対立から始まった守護女神戦争、犯罪神マジェコンヌの誕生、反女神市民団体の出現とタリの女神による暴虐、そして『暗黒星くろめ』。

 そんな苦しみや悲しみの歴史が、ゲイムギョウ界で引き起こされたことは事実だったからだ。

 

「今のままではゲイムギョウ界は滅びへと突き進む。だからこそ、我は再び世界を一つにし、生と死を消し去り新たな世界を創る。人々が苦しみ悲しむ必要のない新たな世界を」

 

「それこそが……『恐れのない世界』だ」

 

 

 

 

 

 

 

          Phase2

 

       『Fearless world』

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ん、わたしは……」

「あっ! ねぷねぷ、目覚めたですか」

「コンパ……あいちゃん……」

 

 身体の傷が塞がったネプテューヌが目を覚ます。

 

「ごめんね。わたし、負けちゃった。わたし……女神なのに……みんなを守らなくちゃいけないのに……」

「ネプ子……」

 

 しかし、完敗したという心の傷はまだ塞がっていなかった。

 

「起きたのね、ネプテューヌ」

「ノワール様? さっきラステイションに戻ったんじゃなかったんですか?」

「ねぷねぷのことが心配で戻って来てくれたです?」

「べ、別に私は……! ……いえ、そうね。心配だから仕事を終わらせてすぐに様子を見に来たら、案の定ね」

 

 いつもの溌剌さを微塵も感じられないネプテューヌを見て、呟く。

 

「ノワール、わたしを怒りに来たの? それとも、笑いに?」

「いつになくネガティブね。ちょっとネプテューヌと二人きりにしてもらえる?」

「構いませんけど……」

 

 部屋の外へ出るアイエフとコンパ。

 

「……行ったわね。いい機会だからずっとあなたに言いたかったことを言おうと思って」

「なに……?」

「一度しか言わないからね」

 

 ネプテューヌは不安げな表情でノワールの顔を見て、すぐに俯く。

 今のネプテューヌはどうにもマイナスの方向へ物事を考えてしまうため、ノワールの言葉が怖くてしょうがなかった。

 

「ネプテューヌ、今の私がいるのはあなたのおかげなの。私たちがまだ争っていた頃、最初に争いをやめて手を取り合おうって言い出したのはあなたで、私たちの心を絆で繋いでくれたのは他でもないあなただった。あなたは私の心を散々引っ掻き回してくれたわよね。でも、そうやって凝り固まってた私の心をほぐしてくれたから、私の視野が広がったの。あの頃の私は国のことで精一杯でユニのこともよく見えていなかったけど、今はあの子とも上手くやれるようになれた」

 

 そんな不安を振り払うように、ノワールは優しく語りかける。

 

「だから、私は決めた。あなたがもし進めなくなった時は、私が背負ってでも進むって。今も、これから先の未来も、私たちが死ぬまでずっと」

 

 その言葉を聞き、ネプテューヌの沈んでいた表情が、光を取り戻していく。

 

「ノワール……それ、プロポーズ?」

「なっ! ち、違うわよ‼︎」

「冗談だよ冗談」

「もう……! ……その様子じゃ、立ち直ってくれたようね」

「まだ、ボロボロにやられて凹んでるけどね。でも、ノワールたちが一緒ならもう負ける気はしないよ」

「その意気よ、ふふっ」

「あははっ」

 

 笑い合う二人。

 もう、不安も迷いもなかった。

 

「みんなを呼ぼう。そしていーすんを助けに行こう!」

 

 

 

 

「完全復活パーフェクトネプテューヌだよ!」

 

 既にネプギアが集めていた仲間たちの前で、元気いっぱいにネプテューヌは復活を宣言する。

 

「これで、準備完了だな」

「じゃあ、クロちゃん。お願いね」

『わーったよ。開くぜ』

 

 クロワールの力で、次元を超えるゲートが生成される。

 その先にあるのは幽世。守護女神にとっても未知の世界。

 

「さぁ、行こうみんな。真・ギョウカイ墓場へ!」

「何よその『真』って」

「だって、私たちの知ってるギョウカイ墓場と今から行くギョウカイ墓場は別だから、それっぽく付けたわけだよ」

「私は良いと思うわ」

「私も良いと思いますわ」

「おぉっ! ブランもベールもノリがいいね〜! それに比べてノワールは……」

「あーはいはい、『真』でもなんでも勝手にしなさいよもう」

「よし、じゃあ気を取り直して! 真・ギョウカイ墓場へ、出発‼︎」

 

 

 

 

「……む? どうやら来たようだな」

「来た……?」

「汝を助けに、守護女神が幽世へと堕ちてきた。マジック、ジャッジ、トリック」

 

 その声と共に、幽世に漂う魂を呼び出し、四天王の身体を顕現させる。

 

「いかがされましたか?」

 

 マジック・ザ・ハードが四天王の代表をして、跪きながら用件を伺う。

 

「守護女神が幽世へ堕ちてきた。もてなして来い」

「かしこまりました」

「その前に、今まで汝らは現世で死んだから何度も蘇ることができた。しかし、幽世で死ねば我の力を以ってしても蘇ることはない」

「わかっています。しかし、現世が奴等のフィールドならば、幽世は我らのフィールド。女神に遅れを取ることはありません」

「そうか。では任せたぞ」

「はっ!」

 

 

 

 

 幽世、真・ギョウカイ墓場。

 その景色は、女神たちの想定していたものとは異なっていた。

 ゲイムギョウ界に現出していたギョウカイ墓場は、廃墟や瓦礫の広がった大地であった。

 しかし、真・ギョウカイ墓場は、赫い空と黝い大地がどこまでも広がっていた。例えるなら、死という概念の果てを表したような世界だった。

 

「なんか、よくわかんないところね」

「うん……」

 

 わかりやすい恐ろしさではないため、ラムとロムはあまり怖がっていなかったが、

 

「……」

 

 逆に、ブランはその壮大さに圧倒されていた。

 

「なんとなく、イストワールが囚われている方向がわかるわね」

「ええ、この世界に来てから、嫌というほど感じるプレッシャー……その方向に行けばおのずと会えるでしょうね」

 

 幽世の神であるデルフィナスの放つ重圧は、遠く離れていても女神たちに感知できた。

 だからこそ、迷うこともなかった。

 

「行こう、みんな」

 

 真っ直ぐデルフィナスの元へ向かう女神たちに向かって、急速に接近してくる巨大な影が二つと、女神と同じぐらいな大きさの影が一つ。

 

「….…やっぱりまた現れたわね」

「貴様ら女神を斃すまで、我らは何度でも蘇る」

「いい加減あんたたちにはもう飽きたわ」

 

 そう吐き捨てたユニは、ノワールに視線を向ける。

 

「お姉ちゃん。ここはあたしたちに任せて先に行って」

「ユニ……でも……」

「敵の親玉にはお姉ちゃんたちじゃないと勝てないと思うから、こんなところでお姉ちゃんたちを消耗させるわけにはいかないわ」

「……わかった。任せるわね」

「ネプギア、ロム、ラム、それでいいわよね?」

「いいよ!」

「勿論よ!」

「わかった……!」

 

 妹の意を汲み、姉たち守護女神は先へ進む。

 四天王たちがそれを妨げようと襲いかかるが、

 

「あんたたちの相手はあたしたちよ!」

 

 変身したユニたちの攻撃により、姉たちの道が切り拓かれる。

 

「ちっ……そんなに死にたいのなら貴様らから殺してやろう……!」

「ったくよぉ〜、候補生どもじゃつまんねえぞ!」

「アククク……吾輩は幼女がいるから構わんけどな」

 

 四天王たちは守護女神を追うことを諦め、候補生に意識を向けた。

 

「……さぁ、来るわよ。準備はいい?」

「みんなと一緒なら負ける気はしないよ」

「言うじゃないネプギア……あたしもよ!」

 

 女神候補生vsマジェコンヌ四天王。

 幽世にて、一つの戦いの幕が上がる。

 

 

 

 

 





 ここで折り返しです。


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Phase3. Beginning of end


 私たちは行く。

 手を取り合い、誓い合い。



 

 幽世の中心部。

 そこで、デルフィナスは封印されていた史書を顕現させる。

 

「これが……『史書』の私……」

「封印された際に肉体は失われ、今は一冊の本だけだがな。さて、鍵である汝を使い、史書を開くとしよう」

「させると思いますか?」

「汝の意思は関係ない。汝がここに来た時点で、史書の鍵は開く」

 

 デルフィナスの言葉通り、史書はイストワールの意思に関係なく、イストワールを感知すると起動した。

 

「これで、我が悲願も果たされる」

 

 そのままデルフィナスは起動した史書のページを開いていく。

 

「……む?」

 

 しかし、その手は途中で止まった。

 

「ふっ……奴め。我の知らぬうちに封印解除の条件を付け足していたとはな。これでは史書が半分しか開かず、世界を書き換えることができん」

「もう半分の条件とは?」

「どうやら、史書を完全に開くには現世の大国と同じ数のシェアクリスタルが必要らしい。となると、今は四つか」

 

 思い通りに物事が進まないことに、デルフィナスは戸惑いでも苛立ちでもなく、笑みを浮かべていた。

 まるで、長い時を超えた友人とのコミュニケーションを喜ぶかのように。

 

「……良いだろう、受けて立つ。此方に向かって来るあの女神たちを倒し、史書を完全に開くとしようか」

 

 そう言って顔を向けた先には、ちょうど守護女神たちが到着した。

 

「ようこそ。我が幽世、ギョウカイ墓場へ」

「こいつが……デルフィナス……」

「意外と綺麗な顔をしていますのね」

 

 あのネプテューヌを倒した存在だからどんな恐ろしいビジュアルなのか、と思っていた守護女神たちは意外そうな表情でデルフィナスを見つめる。

 

「……っ! 逃げてください! 彼女の狙いはあなたたちのシェアクリスタルなんです!」

 

 イストワールが声を振り絞り、逃走を促す。

 

「ごめんいーすん。わたしは逃げないよ」

「ネプテューヌさん……」

「ほぅ。身体ではなく心まで斬り砕いたつもりだったのだがな。まぁ良い」

「ねぇ、デルフィナス。あなたはどうしていーすんをさらったの? どうしてわたしたちのシェアクリスタルが必要なの?」

「……教祖イストワールにも話したし、汝らにも教えてやろう。我の目的、それは…………」

 

 

 

 

 候補生vs四天王。

 戦いを有利に進めていたのは候補生側だった。

 その理由とは、

 

「邪魔だトリック‼︎」

「邪魔なのは貴様だジャッジ!」

 

 四天王側の連携ができていないからである。

 ロムとラムばかりを狙おうとするトリックと、目の前の敵しか見えていないジャッジ。

 その中で冷静さを保てているマジックであるが、仲間の巨体に阻まれ思うように戦えない。

 

「ラムちゃん、お願い」

「おっけー!」

 

 そんな相手に油断することなく、候補生たちは少しずつ敵を削っていく。

 

「調子に乗るんじゃ、ねぇぇぇぇええええッ!」

 

 ジャッジ・ザ・ハードの怒りの叫び声が上がる。

 

「トリック! てめえは小せえやつだけを狙うのやめろ! 奴らは機動力の高いマジックに任せんだよ! てめえはそのタフさと無駄に多彩な能力を活かせ!」

「何ぃ?」

「ほぅ。我らも連携を取るということだな? 貴様らしからぬ良い作戦ではないか、ジャッジよ」

「てめえらに合わせんのは気に入らねえが、奴らに好き勝手されんのはもっと気に入らねえんだよ」

「それもそうだな」

「分断さえすりゃ、後はタイマンなら負けはしねえ」

「では、行くぞ」

 

 マジック・ザ・ハードがロムを目掛けて飛ぶ。

 

「させない!」

「おおっと、貴様の相手は吾輩だ」

 

 ネプギアがカバーに入ろうとするも、トリック・ザ・ハードに阻止される。

 

「吾輩の眼を見ろぉ〜?」

「……っ!」

 

 ネプギアはトリック・ザ・ハードの目から放たれる洗脳能力を知っており、咄嗟に目を逸らすことはできた。

 

(これじゃ、ロムちゃんを守りに行けない……っ!)

 

 しかし、トリックに足止めの役割を果たされることになる。

 

「ロムちゃんはわたしが守るわ!」

「あたしも!」

「行かせるかよぉっ!」

 

 ユニとラムの前にはジャッジ・ザ・ハードが立ち塞がる。

 

「さぁ、助けは来ないぞ? ルウィーの女神候補生よ」

「……っ」

 

 今までステータスで劣る候補生が有利に戦うことができたのは、連携が上手くいっていたからである。

 それに対して、四天王側も連携し、候補生を分断することに成功した。

 そうなると、戦いの利を握るのは……

 

「ふっ、貴様らの命運はここで尽きたということだ」

 

 マジック・ザ・ハードは小さく笑みを浮かべた。

 

 

 

 

「…………ということだ」

 

 デルフィナスがイストワールに話した『恐れのない世界』の内容をそっくりそのまま聞いた守護女神たち。

 

「そんなのただのディストピアよ……! 恐れだけじゃなくて、幸せもなくなるってことじゃない!」

 

 ノワールが、デルフィナスの思想をはっきりと拒絶する。

 

「汝らは人々の願いが込められた存在。幸福や善意といった感情を尊び、その裏にある不幸や悪意を真に理解することはできん。故に我々は分かり合えんさ」

「何よそれ……私たちには人の心がわからないって言うの⁉︎」

「真に理解できれば、歪な信仰により犯罪神なる存在が生まれることはない」

「……っ!」

 

 痛いところを突かれ、ノワールは黙り込む。

 

「これ以上言葉を交わす必要はないだろう。我々にはわかり合う必要はない。心を通わせる必要もない」

 

 そう言ってデルフィナスは剣を顕現させ、手に持つ。

 それに応じるように、守護女神たちは直接ネクストフォームへと変身し、うずめはオレンジハートへと女神化する。

 

「汝らを打ち砕き、今度こそ我が悲願を果たす」

「させはしないわ。今ここにある世界を私たちは守る!」

 

 正面からはネクストパープルとネクストホワイト、オレンジハートが、後方からはネクストブラックとネクストグリーンが。数の利を活かすために、五方向から攻撃を仕掛ける。

 

「甘い」

 

 デルフィナスはネクストパープルとネクストホワイトの攻撃を剣で受け止め、オレンジハートの拳を掌で受け止める。

 そして、展開された魔法陣が後方から攻撃を防ぐ。

 

「ちぃ……っ!」

 

 ネクストホワイトを超えるパワー、ネクストグリーンを超えるスピード、剣技の洗練さはネクストブラックを超え、太刀筋の鋭さはネクストパープルを超える。

 以前その身をもって体感したネクストパープル以外の守護女神たちは、これが『幽世の神デルフィナス』の力だと理解した。

 

「けど、そのためにうずめがいるんだよね〜!」

 

 オレンジハートは左腕を掲げ、シェアエネルギーを解放した。

 

「『シェアリングフィールド』、展開‼︎」

 

 フィールド展開後、先程と同じように守護女神たちは再び散開して攻撃を仕掛ける。

 

「何度来ても無駄だ」

 

 デルフィナスは、守護女神が一度通じなかった戦法を二度行うことに呆れた表情を見せるが、

 

「っらぁ!」

 

 ネクストホワイトの斧の一撃をデルフィナスは剣で受け止められず大きくよろけた。

 

「……何?」

 

 背後からの攻撃に魔法陣を展開して防御するも、その魔法陣を突き抜けて背中に攻撃が届く。

 

「ぐぅ……っ!」

 

(先程受け止められた攻撃を受け止められん……)

 

 デルフィナスは防御に徹するのは難しいと判断し、一度距離を取る。

 

(……それに、身体が重いな。なるほど、この領域が原因か……!)

 

「攻撃が通るようになったわね。流石うずめ」

「このまま一気に畳みかけるわよ!」

 

 守護女神たちはこの好機を逃すまいと、攻めの姿勢を崩さない。

 

「……守りができんなら、攻めに転じれば良いだけのこと」

 

 そう言ってデルフィナスが剣に魔力を込めると、刃が光り数十メートルに伸びる。

 そして、斬撃を横に薙ぎ払う。

 

「……跳ぶわよ!」

 

 守護女神たちは飛翔し、上に逃げる。

 

(今のも避けられるとは……我の速度が落ちていながらも、敵の速度も増しているようだな。厄介な領域だ)

 

 

 

 

「ははははッ! どうした⁉︎ その程度かぁ⁉︎」

 

 連携が阻まれた途端に形勢が不利になった候補生たちは追い込まれていた。

 

「はぁ……はぁ……」

「ぅぅ……」

 

 特に痛めつけられているのは、遠距離攻撃の得意なユニとロムとラム。

 

「みんな……!」

 

 ネプギアだけはかろうじて持ち堪えているが、押し切られるのも時間の問題だった。

 

「さぁてぇ? 先にこいつをぶっ殺してやるとするぜええええ!」

 

 ジャッジ・ザ・ハードの斧がユニに振り落とされる。

 

「…………っ!」

 

 だがその斧は、謎の光によって阻まれた。

 

「あぁ?」

「え……?」

 

 ジャッジはおろか、ユニも何が起こったかわからずに戸惑う。

 

『……間に合ったようだな』

「その声……もしかしてブレイブ⁉︎」

『そうだ』

「確かに……あんたはここにいてもおかしくないわね」

 

 『ブレイブ・ザ・ハード』。

 犯罪組織マジェコンヌ四天王の一人で、かつてユニと心を通わせ、自ら討たれたその男(ロボ)。

 何故か一人だけデルフィナスによって復活させられることはなく、その魂は幽世を彷徨っていた。

 

『ユニ、確かに俺はお前とわかり合うことができた。しかし、あの三人も俺の同志であったことに変わりはない。あの三人は、その魂をデルフィナスに利用されているだけなんだ』

「ブレイブ……」

『だからこそ、三人の魂を解放して、楽にしてやってくれ……! 俺も力を貸す!』

「わかったわ! 力を貸して!」

 

 ブレイブの意思がエクスマルチブラスターに宿り、ユニの力も増していく。

 

「何をする気かわからんが、妨害させてもらおう」

「終わりしてやるぜええええっ!」

「アククク! 悪あがきすらもさせんぞぉ〜!」

 

 四天王の狙いが一斉にユニへと向かう。

 

(ラムちゃん……!)

 

 ロムは、マジックが自分から離れたこの瞬間を狙い、言葉にして気づかれないようにラムにアイコンタクトを送る。

 

(ロムちゃん……? うん、わかった!)

 

 それだけで、ラムはロムの策を理解し、シェアエネルギーと魔力を身体中から振り絞る。

 

(わたしたちの全てを……!)

(この一撃に賭ける!)

 

「『エンドレスコキュートス』‼︎」

「『氷剣 アイスカリバー』ーーッ‼︎」

 

 ロムとラムの最強必殺技が放たれる。

 

「む? まだそんな力が……だが、そんなボロボロの身体で放つ魔法など、恐れるに足りん……!」

 

 トリックの言うことは正しく、万全の状態ならまだしも、満身創痍の状態で放つ魔法では四天王を倒すほどの威力はない。そんな魔法には目もくれず、マジックたちはユニを潰しに行く。

 

「……ぬぉっ⁉︎ 動けん!」

「ちぃ……! 狙いは足止めか……!」

「うおおおおっ! 動けええええっ!」

 

 ロムとラムの真の目的とは、ダメージを与えることではなく、氷の塊に相手を閉じ込めることであった。

 

「ユニちゃん! 今のうちに!」

 

 おそらく拘束できる時間は十秒も保たない。

 

「……っ」

 

 しかし肝心のユニに、エクスマルチブラスターを持ちながら技を放つほどの体力が残っていない。

 

「……ユニちゃん。私も支えるよ」

 

 ネプギアがユニを支えながら、手を取り、共にエクスマルチブラスターを構える。

 

「ネプギア……ありがとう。一緒に行きましょう」

 

 ネプギアとユニの想いが重なり、更にエネルギーが増していく。

 

「「いっけええええっ! ネプギア(ちゃん)! ユニちゃん!」」

 

 ラムだけでなくロムも、大声で親友に全てを託す。

 

「「はぁぁぁっ! 『ブレイブカノン』‼︎」」

 

 銃口から閃光が放たれた。

 そして、閃光は四天王たちを呑み込んだ。

 

「馬鹿な……我らが……こんな……ところ……で……」

 

 死闘の果ての決着。

 候補生たちは体力が尽きてその場に倒れ込む。

 今すぐにでも姉たちの加勢に行きたいが、身体がそれを許さない。

 

「少し……休みましょ」

「うん……」

「疲れたぁ……!」

「動けない……(くたくた)」

 

 仰向けになりながら、幽世の赫い空に向かって、

 

「あんたもありがとう、ブレイブ……」

 

 ユニはそう呟いた。

 

 

 

 

 現世の頂点、守護女神。

 幽世の頂点、デルフィナス。

 シェアリングフィールドの影響により、彼女たちの戦況は拮抗していた。

 拮抗、つまり数の利が大きく作用する。

 

「『シレットスピアー』!

「『レイシーズダンス』!」

「『テンツェリントロンペ』!」

 

 この機を逃すまいと、守護女神たちは攻撃を絶やさない。

 

「ほにゃぁぁぁっ…………!」

 

 うずめは戦闘に参加せず、シェアリングフィールドの維持と強化に尽力する。

 ダークメガミとは次元の違う強さをもつデルフィナスに確実なフィールドの影響を与えるためには、普段のフィールド展開より正確なシェアエネルギー操作技術が必要であるためだ。

 

「『ハードブレイク』!」

「『スパイラルブレイク』!」

 

 畳みかけるように、ネクストホワイトとネクストグリーンの必殺技が炸裂する。

 

「こんなもの……」

 

 デルフィナスは回避と反撃を織り交ぜ、的確に捌いていく。

 

「『インフィニットスラッシュ』!」

 

 すると、ネクストブラックが時間差で必殺技を仕掛ける。

 

「……ちぃっ」

 

 三人の女神による隙のない連撃。

 故にデルフィナスは、ネクストパープルが戦闘にいないことから意識が外れていた。

 

(……む? 待て、一人足りん)

 

 ネクストパープルは、他の守護女神によってデルフィナスの死角となる位置で、太刀を構えていた。

 ネクストパープルが構えるは、自身の最強必殺技『次元一閃』。

 

(……あれは!)

 

 デルフィナスの反応は遅れていた。

 

(く……間に合わん……!)

 

 その一瞬の隙を突き、

 

「『次元一閃』‼︎」

 

 誓いの刃がデルフィナスに炸裂する。

 

「ぐ……ぅ……」

 

 デルフィナスは、そのまま次元一閃後に発生するシェアエネルギーによる爆発に呑まれていった。

 

「やったねねぷっち!」

「ありがとううずめ。あなたの……いえ、みんなのおかげよ」

「そうだね!」

 

 その瞬間。どすり、と鈍い音が鳴る。

 

「何?」

 

 オレンジハートは自らの腹部に違和感を持ち、見下ろすと、

 

「……え?」

 

 剣に貫かれていた。

 

「か…………は…………っ」

 

 そしてその後ろには、何事もなかったかのようにデルフィナスが剣を持ち立っていた。

 剣が引き抜かれると、オレンジハートは変身が解除され意識を失いその場に倒れ込む。

 

「殺しはしていない。女神であれば死なぬ傷だ。しかし、其奴の能力は厄介故、少し眠っていてもらう」

 

 守護女神たちは、一瞬思考が固まった。

 うずめが戦闘不能にされたこともだが、それ以上にデルフィナスがそこに立っていたことに驚きを隠せなかった。

 ネプテューヌの次元一閃は確かに当たった。そして次元一閃をまともに食らえば無事で済むわけがない。

 

「良い一撃であった。我に『死』があれば、汝らの勝利であっただろう」

「死があれば……?」

「我は死の世界、幽世の神だぞ? 死の概念など存在しない。故に、初めから汝らに勝ちの目など存在しないのだ」

「何……ですって……」

「……っ、死なねえなら、負けを認めるまで倒し続けるだけだ!」

「そうですわ! たとえシェアリングフィールドがなくとも……!」

「その心意気は褒めてやろう。だが、それも不可能だ」

「やってみなければわからないわ」

 

 守護女神たちは武器を構え、再び戦闘態勢に入る。

 

「……汝らは強い。歴代の守護女神でも、その領域の強さを持つ者はいなかった。それに敬意を表し、我が真の力で相手をしよう」

「真の力……まだその上があるっていうの……?」

「何を驚く? 汝らと同じだ。汝らが女神化し戦闘力を増すように、我も同じように変身をして戦闘力を増すことができる。ただそれだけのこと」

 

 守護女神たちは言葉を失った。

 決死の戦いにてようやく打ち勝ったと思っていた相手は、微塵も本気を出していなかったのだ。

 

「そして、先程の戦闘の最中に行っていた、史書の力との融合も完了した。こちらは半分しか開いていない故、完全なものではないがな」

 

 そう言ってデルフィナスは闇に包まれ、変身する。

 容姿は変わらないが、プロセッサユニットのようなものが装備され、史書の力で更にエネルギーを高めていく。

 その様を見る守護女神たちは、今にも折れそうな心をなんとか繋ぎ止めることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

          Phase3

 

       『Beginning of end』

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 おそらく次でラストです。最後までお付き合いいただければ嬉しいです。


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Final phase. Inherited soul " friendship , affection , Bifröst "

 守りたい人たち、愛する世界、紡がれた絆。

 そしてあなたも、その一部。



 槍は折れ、ベールが倒れた。

 斧は砕け、ブランが倒れた。

 

「……これが、汝らにとっての絶望というものだろう? 敬意を表すると言った。故に容赦はせん。完膚なきまでに叩き潰させてもらう」

 

 自らの目的を果たすため、その凶刃は残った二人へと向けられる。

 

「諦めはしないわ……!」

「絶望なんて、何度も乗り越えてきたのよ!」

 

 

 

 

 

 

         Final phase

 

       『Inherited soul

   

    " friendship , affection , Bifröst " 』

 

 

 

 

 

 

 

 死力を尽くし、刃を振るうネクストパープル。

 しかし、その刃は軽く受け止められる。

 

「技名こそ口に出さなかったが、今のが『クロスコンビネーション』であろう?」

「……っ⁉︎」

 

 ネクストパープルは刃を受け止められたこと以上に、技を出していたこと、そして技名すらも看破されたことに驚きを隠せない。

 

「次はどう来る? 『32式エクスブレイド』か? それとも『デルタスラッシュ』か? 『頑張れファイトファイト』や『主人公補正』で能力を上げるのも良いだろう。それとも『ハードネプテューヌ』を使ってみるか?」

 

 見せていないはずの技ですら、その全てが知られていた。

 

「史書の力のもう半分『改変』は得られなかったが、『全知』は既に我が物。今の我は現世と幽世の全てを知っている」

 

 世界の全てが記された史書の力を取り込んだデルフィナスには、世界の全てを知り、全てを見通すことができる。

 

「だからこそネクストブラックよ。汝が後ろから『トルネードソード』を仕掛けてようとしていることも知っているぞ」

「……!」

「そして、女神候補生たちが回復を済ませ、此処へ来ることもな」

 

 ネクストブラックの剣を砕き、ブラックシスターの遠距離射撃を手で弾き飛ばす。

 

「……絶望を乗り越える、と言ったか」

 

 死ぬことはない。

 全ての技を知られている。

 そして、ステータスの差も歴然。

 

「汝らは乗り越えられたもののみを絶望と呼んでいるに過ぎない」

 

 そんなデルフィナスへの抵抗も虚しく、一人また一人と女神たちは倒れていく。

 

「真の絶望とは、このように乗り越えられぬほど、黯く淀んだものだ」

 

 そして遂に、最後の一人、ネクストパープルが倒れた。

 

「……終わりだな。守護女神たちよ、良く戦った」

 

 デルフィナスは倒れる四女神の胸に手を翳し、シェアクリスタルを取り出していく。

 

「これで、世界は変わる」

 

 そしてシェアクリスタルを史書に翳し、史書を完全に起動させる。

 

「『恐れのない世界』においては守護女神も必要ない。戦う必要の無くなったただの娘として生きていくがいい」

「デルフィナスさん……あなた……は……」

 

 史書の起動にエネルギーを吸われ、イストワールも意識を失った。

 

「イストワール、汝……いや、君もおやすみ」

 

 

 

 

「空が……赤くなってく……」

『あーあ。あいつら負けちまったのか。この世界も終わりだな。どうするネプテューヌ? 別の次元に逃げるか?』

「ううん、逃げないよ」

『あ? どうしてだよ? 死にてーのか? いや、死にはしねえけどよ』

「わたしならなんとかするよ。だって主人公だもん」

『……そうか』

 

 

 

 

「長いな……いや、世界が変わるのだ。長くて当たり前か」

 

 起動していく史書を眺めながら、物思いに耽るデルフィナス。

 その瞬間背後から、じゃり、と靴が地面と擦れる音が鳴る。

 

「……まだ立ち上がるか」

 

 無論、デルフィナスは振り向くことなくネプテューヌが立ち上がったことを知る。

 

「しかし、シェアクリスタルを失い変身能力も失った汝に出来ることなどは無い」

「それは……どうかな?」

「何……?」

 

 そう言ってネプテューヌは懐から菱形の物体を取り出す。

 

「何だ……それは……?」

 

 世界の全てを知るはずのデルフィナスは、その物体を知らない。

 

「もうわたしには必要ないと思ってたけど、持ってて良かったよ」

 

 その物体の名は『女神メモリー』。

 超次元ゲイムギョウ界には存在せず、神次元のゲイムギョウ界に存在する物質で、人が女神になるためのもの。

 

「言ったでしょ? 絶望を乗り越える、って」

 

 そう言ってネプテューヌは女神化し、ハイパーシェアクリスタルを使用して再びネクストパープルへと進化を果たす。

 

「…………だから、何だ?」

 

 その様子を見て、デルフィナスは呆れる様子を見せた。

 

「変身ができるから、何だ? 今更変身ができたところで、我と汝の如何ともし難い力の差が埋まるとでも思っているのか?」

 

 ネクストパープルの刃はデルフィナスに届くことなく、圧倒的な力で蹂躙される。

 それでも、ネクストパープルは倒れない。

 

「……っ! わからないのか! 希望などがあるから絶望も生まれるのだ! そんなものに縋るから世界は歪んでいく!」

 

 力の差を何度も見せつけられたにも関わらず、最後まで諦めずに抵抗を続けるネクストパープルをデルフィナスは理解が出来ず、声を荒げる。

 

「心などがあるから、恐れ、悲しみ、苦しみ、憎む! 汝らが世界を愛そうが、世界が汝らを愛するとは限らないということはわかっている筈だろう!」

 

 遂にネクストパープルの変身が解ける。

 しかしそれでも、ネプテューヌは倒れない。

 

「それでも……私は今ここにある世界で、みんなと共に生きていきたい! 笑い合いたい! みんな大好きって思いを、失いたくない!」

 

 その言葉を聞いて、デルフィナスは一瞬だけ動きが止まる。

 

「……殺す気はないと言った。だが、最後まで抵抗するというのなら、存在そのものを消し去る他ない」

 

 しかし、デルフィナスの心を動かすには至らない。

 デルフィナスは掌にエネルギーを集める。

 

「せめて痛みを感じる暇もなく、終わらせてやろう……!」

 

 そして、それをネプテューヌに向かって撃ち出した。

 

「…………っ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、そのエネルギー砲は、突如飛んできた物体によって防がれた。

 

「……え?」

 

 その物体とは、一冊の本であった。

 否、一冊ではなく、一冊の方の半分であった。

 

「何故……史書のもう半分が……」

 

 史書の力同士は干渉し合わない。

 故に、『全知』を持つデルフィナスであっても、その理由を推測するしかない。

 

「まさか……意思なき力である筈の君が、その女神に力を貸すというのか‼︎」

 

 デルフィナスの推測は少し異なっていた。

 何故なら。

 

『……ネプテューヌさん』

「その声、いーすん?」

 

(……成程、教祖イストワールか……!)

 

 イストワールは意識を史書の中に移し、史書にアクセスしていた。

 そして、デルフィナスが取り込めていないもう片方の史書の力をネプテューヌに託すように設定したのである。

 

『私にできるのはこれぐらいですが……』

「ううん、ありがとういーすん!」

『ネプテューヌさん……あなたに力を……!』

 

 ネプテューヌは託される。

 史書の力のもう半分と、その能力『改変』を。

 

「だとしても、我には届か……」

 

 言いかけて、少しよろける。

 

「ぬぅ……これは……」

 

(……やはり、真の力に加え、『改変』抜きで『全知』を使うと、我であれここまで疲労するものか……っ)

 

 加えて、抵抗を続けるネプテューヌたちに対して冷静さを欠いていたことも、自らの疲労に気づけなかった原因でもあった。

 

「とりゃああああっ!」

 

 デルフィナスがよろけた隙に、ネプテューヌが斬りかかる。

 

(奴が『改変』を手にした今、我が『全知』では奴の動きを知ることはできんか……! ……だが!)

 

「我との力の差は埋まらんぞ!」

 

 デルフィナスが前方のネプテューヌを迎撃しようとするが、斬られたのは背後からであった。

 

(……っ、前から斬りかかることを後ろから斬りかかるように事象を改変したのか……!)

 

 ネプテューヌは『改変』を上手く使い、ステータスでは大きく劣るデルフィナス相手に互角の戦いを繰り広げる。

 しかし、次第にデルフィナスは『改変』を持つネプテューヌの動きにすら対応しつつあった。

 

「『フォールスラッシュ』!」

 

 すると、その戦いに割って入る女神が一人。

 

「ノワール!」

「言ったでしょ、あなたを背負ってでも進むって! あなたが戦っているのに、寝てられないわ!」

 

 『全知』を持つデルフィナスは、ノワールが目覚めてから戦いに乱入してくることは勿論知っていた。そして、変身能力を失ったノワールが自分の相手にすらならないことも知っている。

 

「……ちぃっ!」

 

 しかし、ネプテューヌの持つ『改変』で、ネプテューヌとノワールが瞬時に位置を動かしながら戦うため、対応しつつあったはずの動きが更に読めなくなった。

 

(馬鹿な……何故ここまで動きを合わせることができる……?)

 

 史書の力は本来『全知』と『改変』がセットである。つまり、『改変』を他者に使うには、制御のために『全知』が必要。

 故に、『改変』の持ち主の思考を覗きでもしない限り、動きを合わせることなど不可能である筈。

 しかし、ノワールはネプテューヌに絶対の信頼を置き、『改変』の位置変えを即座に対応する。

 

「ぬぅ……っ!」

 

 『全知』を持つはずのデルフィナスは翻弄されていた。

 それは『改変』には『全知』が及ばぬことが原因ではない。

 自らの命運を他者に託す者たちの意思を、知ることはできても理解はできないからだった。

 

「……そこかっ‼︎」

 

 それでも、デルフィナスの卓越した反応速度が遂にネプテューヌを捉えた。

 

「……かはっ……でも残念、ネプテューヌじゃなくて私よ……っ」

 

 ……かのように見えた。

 デルフィナスの攻撃を受けたのを、ネプテューヌではなくノワールと改変したのだ。

 

(ノワール……どうしてこんな無茶な作戦を……!)

(私……は……平気……よ、だから……やって……やりなさい……‼︎)

(……わかった!)

 

 ネプテューヌの攻撃を確実に届ける隙を作るために。

 

「……っ! 『次元……一閃』っ‼︎」

 

 再び炸裂する誓いの刃。

 史書の力の半分を得た今のネプテューヌには、ネクストフォームでしか使用できない必殺技も使用が可能。

 そして、次元一閃は物事の概念すらも斬り裂く技。

 それにより、デルフィナスと史書を分離させ、加えて、史書を分離させたことにより、『改変』がデルフィナスにも効くようになる。

 

「ぐっ……おおおおぉぉぉぉ!」

 

 死の概念が無いためダメージが通らないデルフィナスにダメージが通るように、と。

 

「ぬぅ………ぅぅ…………!」

 

 今まで感じたことのない衝撃に怯むデルフィナス。

 そこへ、ネプテューヌは最後の一撃を繰り出さんとする。

 

「はぁぁぁぁっ!」

 

 デルフィナスは、ネプテューヌが繰り出す技を知っていた。

 それは『全知』を持っていたからではない。

 その技はかつての親友が最も得意としていた技だったからである。

 

「『クリティカルエッジ』‼︎」

 

 瞬間、デルフィナスの頭の中に、かつての親友との会話の記憶が溢れ出す。

 

 

 

 

 

『世界を二つに分ける……?』

『ええ。今の世界は零。それを正と負……生と死に分けることで、私たち神以外の生命も感情を持つことができるわ。私たちが持つ友情、愛情、絆。それを人々が持つことにより、世界はいい方向へと変わるはずよ』

『だが、それにより、悪意や、悲しみ、苦しみ、そしてそれを拒む恐怖も生まれてしまうよ?』

『そうね。ただ、今の世界には恐怖はないけど、それに立ち向かう勇気もない』

『勇気……か。君がやりたいことなら、私は止めはしないさ。しかし、生の世界と死の世界に分け、君が生の世界に残るなら、君にはいつか死が訪れることになる。君の崇高な思いも、君の死後、時代の流れと共に悪意に呑まれて消えていくかもしれない』

『大丈夫よ』

『どうしてそう言い切れる?』

『私がいなくなっても、私の意思を継ぐ子たちいるから』

『……そうか。だが、君のいなくなった後に、世界が滅びに向かうようなら、私は世界を一つに戻す』

『構わないわ。多分、私の後を継いだ子があなたを止めてみせるだろうし』

『ふっ……それは、楽しみだ』

 

 

 

 

 

(…………ああ、そうか)

 

 ……君の意思は……

 

 確かに、受け継がれていたんだな……!)

 

 友の意思を受け継ぎ、友の力を託されたその女神の一閃を、デルフィナスは両手を広げて受け入れる。

 

 そして……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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Epilogue

 かの激戦から数週間後。

 ゲイムギョウ界は平穏であった。

 幽世であるギョウカイ墓場での激戦を、現世であるゲイムギョウ界の人々が知ることはなかったからである。

 

 結局、世界は何も変わることはなかった。

 勿論、現世と幽世が一つになることはなく、変わりない日常が続いていた。

 それこそが、かの激戦の勝者であるネプテューヌたちの願いだった。

 史書の力は、融合しかけていた現世と幽世を再び分つために使用され、そして再び封印されたのだった。

 

 

 

 

「……で、今日も我……いや、もう私でいいか。今日も私の元に来たのか、ラステイションの女神よ」

「いい加減ノワールって呼んでくれるかしら? デルフィナス」

 

 死力を尽くした激戦を繰り広げた守護女神とデルフィナスだったが、どうやら戦いが終わってからは良好な関係を築いていた。

 

「む、済まんな。しかし、一国の女神とあろう者が、国を開けて良いのか?」

「できる女神っていうのは、少しぐらい自分がいなくても国が回るシステムを作れるものよ」

「ふむ、そういうものなのか」

「さて、剣の稽古を付けてくれるんでしょ? さっさと始めましょ……その前に、あなたの後ろで山積みになってるそれは何?」

 

 ノワールの問いに対し、困ったようでもあり楽しそうでもある笑みを浮かべるデルフィナス。

 

「一つ目の山はルウィー……いや、ブランから勧められた書物だ」

「……すごい量ね」

「読んでから感想を聞かせろと言われたな」

「……頑張ってね。じゃあ、もう一つの山は? まぁ、もう大体わかるけど……」

「うむ。ベールから譲り受けた、彼女のおすすめのゲームというやつだな。これもプレイ後に感想を聞かせろと言われた」

「……あなたそれなりにハードスケジュールね」

「だろう? まぁ、汝……いや、君との約束は果たすよ。早速剣の稽古を始めようか」

「ありがとう。じゃあ、行くわよ!」

「あぁ、来い!」

 

 

 

 

「さて、ノワールも帰ったことだし、ブランから勧められた本を読むか……それともベールから譲り受けたゲームをやるか。ふふっ、まさか私が今の世代の女神と友になるとはな。これも全て、プラネテューヌの女神のおかげ、か」

 

 

 

 

 

『何故私を殺さない? 今の君ならば、「改変」によって私に死を与えることも可能だ』

『だって、あなたは悪い人じゃないもん。やり方は良くないと思うけど、世界のことを思っていたのは本当だし。それに、わたしたちを傷つけている時、あなたはずっと悲しそうな顔をしてたから』

『……』

『わかり合う必要はないって言ってたけど、本当は最初からわたしたちはわかり合えてたと思うんだよね』

『…………ふっ、私の負けだ。君たちが守護女神である間は、世界も大丈夫であろうな』

『当然だよ!』

『だが、君たちの後の代で世界が滅びへ向かうのならば、その時に私は再び現世へと立つ』

『大丈夫! その時はわたしの意思を継ぐ子たちが何とかすると思うから!』

『…………!』

『あれ? どうしたの? もしかしてわたし変なこと言っちゃった?』

『いや……なんでもないよ』

 

 

 

 

 

 

「まさか、あの女神が君と全く同じことを言うとはな。それに、一番驚いたのは、私を止めたプラネテューヌの女神の名が、君と同じ名だったということだよ…………

 

 

 …………『ネプテューヌ』」

 

 

 

 

 プラネテューヌの女神、ネプテューヌ。女神候補生のネプギア。

 彼女たちは親友コンパの頼みでバーチャフォレストに薬草採集に来ていた。

 

\ ぬらぁ〜! / \ ぬららららぁ〜〜! /

 

 そんな彼女たちに、野良モンスターのスライヌが次々と襲いかかる。

 しかし、ネプテューヌとネプギアは笑っていた。

 

「うんうん! やっぱりバーチャフォレストはこうじゃないとね! 行くよ、ネプギア!」

「うん! お姉ちゃん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      超次元ゲイムネプテューヌ

 

       真・ギョウカイ墓場篇

 

    "End of world" and "Fearless world"

 

           -完-

 

 

 

 

 




 ここまで読んでくれてありがとうございました。これにて完結です。
 気が向いたらあとがき的なものを書こうかな。


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