黒き星と白き翼 (吉良/飛鳥)
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新リベール王国

 

 

高町なのは

 

本作の主人公。

神族の母と、魔族の父を持つ半神半魔の女性であり、背には右肩から魔族の証である漆黒の翼、左肩から神族の証である純白の翼が存在している。(但しこの翼は魔力体なので、自分の意思で出したり消したり出来る。)

両親は、己が生まれる前に起きたと言われている、外界からの侵略者の侵攻の際に、神族と魔族の垣 根を越えて共闘し、戦いに終止符を打ったとされる六大熾天使の1人『高町桃子』と、魔界でも特に力を持つ『魔王』の1人にして、魔剣士の二つ名を持つ『不破士郎』。

共闘した2人は、互いに惹かれ合い結ばれるが、桃子は魔族と結ばれたと言う事で天界を追放となり、10年前に魔族によってその命を奪われ、士郎は魔族だと言う事で『魔族排斥』を掲げる『ライトロード』と、士郎を魔族と知った村人に討たれてしまい、その際に姉も失ってしまった。

双子の妹であるなたねと共に何とか逃げ延びるが、その道中でなたねとはぐれてしまい、天涯孤独となった。

母を追放した神族、母を殺した魔族、父を殺した人間に深い憎しみを抱き、全ての種に対しての復讐を考えていたが、行き倒れかけてた所をクローゼに救われ、人の温かさを知って無差別に復讐しようとしていた考えを改め、『復讐は復讐として、真に為すべき事は、二度と自分と同じような目に遇う者を出さないようにする事だ』と思い、世界を変える為に、似たような境遇の者達や、同じ思いを抱く同志、偏見や差別、迫害に苦しんで来た者達を集って『リベリオン・アナガスト・アンリゾナブル』を結成し、世界に変革を齎さんと動き始める。

自分を助けてくれたクローゼには『貴女が窮地にあるその時は必ず助けに行く』と約束しており、クローゼと出会ってから10年後に幽閉状態だったクローゼをグランセル城から連れ出すと共に、時の国王であるデュナンに宣戦布告をしてその場から去った。

圧倒的な魔力を保持しているだけでなく、空気中の魔力を集める才能もあり、限界まで魔力を集めて放つ一撃は星を砕くと言われるだけの威力を有しているとかなんとか。

デュナンを討ち倒した後、クローゼの推薦でリベールの新たな王となった。

 

 

 

 

クローゼ・リンツ

 

本名『クローディア・フォン・アウスレーゼ』。

急逝したアリシア女王の孫娘で、本来ならばリベールの新たな女王になっていた女性。

しかし、野心家の叔父であるデュナンがクーデター同然の強硬な王位継承を行った事で、皇女と言う立場でありながら幽閉同然の生活を続けていた。

幽閉生活を続けていところに、嘗て行き倒れかけていた少女であるなのはが現れて幽閉生活から解放されると同時に、なのはに連れられてグランセル城から脱出する。

なのはがリーダーを務める『リベリオン・アナガスト・アンリゾナブル』の拠点にて、なのはが用意していた服に着替えると共に髪を切り、名前も『クローゼ・リンツ』と改めた。

クローゼは、本名の最初と最後を合わせたもので、リンツはなのはが考えた性である。

オーブメントを使ったアーツを得意とするが、サーベルやレイピアを使った剣術も中々の腕前だったりする。

デュナンを討ち倒した後は、新たなリベールの王にはならず、リベールの新たな王になのはを推薦し、自分は『クローゼ・リンツ』として、なのはの事を支える道を選んだ。

 

 

 

 

クリザリッド

 

とある軍事組織が世界征服を成し遂げる為に生み出した改造人間で、炎を操る『草薙一族』の遺伝子を移植され、炎を操る力を持っている。

圧倒的な戦闘力を持つ成功例として稼働したが、その直後に施設が神族の襲撃を受け、其れの対処に駆り出された挙げ句に、施設ごと神族諸共爆破処理されてしまう。

辛うじて一命を取り留めたが、信じていた組織に捨て駒扱いされ、生きる意味を失って各地を転々としていた所でなのはと出会い、その戦闘力の高さを買われてリベリオン・アナガスト・アンリゾナブルに勧誘された。

最初は疑っていたが、なのはが純粋に己の力を必要としている事を知り、リベリオン・アナガスト・アンリゾナブルに加入。

なのはに絶対の忠誠を誓っており、なのはの目的を成就させるべく、其の力を振るう。

普段は羽根つきのコートを纏っているが、本気で戦う時にはそのコートを脱ぎ、メッチャセクシーなバトルスーツ姿となる……誰得なのか。

 

 

 

 

サイファー

 

各地を転々としていた隻眼の剣士で、曽祖父が神族で、曾祖母が魔族、両親は夫々のクォーターで、神族・魔族・人間の3種族の血をその身に宿している。

剣士としての腕前は非常に高く、身の丈近い長剣での二刀流を難なくやってのける。

その身に流れる魔族の血の影響か、腕一本くらいならば、斬り落とされても即座に再生する事が出来る、限りなく不死身に近い身体を持っている。

己の仲間になる者を探してたなのはと出会い、そして勝負を挑んで敗北した事でリベリオン・アナガスト・アンリゾナブルに参加して、クリザリッドと共になのはの最側近となる。

根っからの戦闘狂で、自分より強い相手と戦う事を何よりの楽しみにしている。

 

 

 

 

アルーシェ

 

ライトロードによって滅ぼされた都市で暮らしていた少女で、死に掛けていた所をなのはに見つけられ、なのはの血を飲む事で生き長らえるが、後天的に魔族の血が入った事で半妖となり、元々は黒かった髪が赤くなった。

その際に、魔族の血を浴びて邪妖と化した存在を浄化する力を得て、多数の従魔と呼ばれる下僕がいる。

デュナン討伐後は、再編成された王室親衛隊の一員となっている。

 

 

 

 

久我山璃音

 

神族の中でも特に強い力を持った『熾天使』の血を引く少女。

その希少さを知った人身売買を行う一派に誘拐されて、オークションに掛けられるが、なのはが他者が対抗出来ないような高額を提示した事でなのはの元に。

此れから如何なってしまうのかと思って居たが、なのはから『お前の生活は保障する。だが、タダではない……お前には魔法の才能が有るから、其れを只管に高めろ。其れが生活を保障する条件だ。』と言われ、リベリオン・アナガスト・アンリゾナブルの拠点に保管されていた多数の魔導書を読み漁って多種多様な魔法を習得した。

また、魔法だけでなく、彼女の歌声には人を癒す力があり、その歌でリベリオン・アナガスト・アンリゾナブルのメンバーの疲れを癒してたりする。

なのはがリベールを訪れた際に、恋人である洸、そして仲間達と無事に再会した。

 

 

 

 

シェン・ウー

 

喧嘩上等を素で行く無頼漢で、なのはとなたねの父である『不破士郎』に師事していた人間。

なのはとなたねの事は幼い頃から知っており、2人にとっては兄貴分的な存在であると同時に、シェン自身もなのはとなたねの事を実の妹のように思っている。

士郎とその家族が人間によって襲撃されたと言う事を聞き現場に駆け付けるが、時既に遅く、士郎とその長女は討たれた後であった。

しかし、その場になのはとなたねの遺体が無かった事から、2人は生き延びたのだと考え、2人を探しながら各地を転々した結果、10年の歳月を経てなのはと再会して、なのは率いるリベリオン・アナガスト・アンリゾナブルに加入する。

言動は粗暴で粗野だが、兄貴分として周囲を引っ張って行く行動力がある。

 

 

 

 

レオナ

 

其の身に呪われた血を引いている少女。

幼い頃に、その力を利用しようと考えた魔族と、其の力を滅しようとした神族に襲撃され、両親と死別。

その現場を訪れたなのはによって保護され、以後リベリオン・アナガスト・アンリゾナブルの一員となった。

目の前で両親を失ったショックから感情の多くを失っており、基本的に無口で無表情だが、それだけに時折見せる笑顔の破壊力は無限大。

呪われた血の力を開放する事で、絶大な力を得る事が出来るが、その反面理性を失い暴走してしまう事があったが、必死のトレーニングの末に力を制御する事に成功しており、今は暴走せずに其の力を使えるようになっている。

デュナン討伐後は、再編成された王室親衛隊の一員となっている。

 

 

 

 

稼津斗

 

人の手によって封印されていた原初の『鬼』。

鬼族の始祖と有って其の力はすさまじく、殺意の波動を発動した状態の姿は、『鬼』その物であると言える。

元々は人間だったが、余りにも強くなりすぎた事で恐れられ、『鬼』と呼ばれて幾度となく人に殺されそうになり、自らを討とうとした者を返り討ちにしている内に『殺意の波動』に目覚め、真の『鬼』となった。

『鬼』となった事で肉体的な老いが無くなったモノの、『倒す事は不可能』と判断した人の手により特殊な術で祠に封印され異国の村へと放置された。

永き封印の中でも自我を失う事は無かったが、強者との死合が出来なくなった事を悔んでいた。

己が封印されていた祠があった村が、ライトロードに襲撃された際に祠が破壊されて封印が解かれ、その圧倒的な力をもってして襲撃して来た者達を滅殺すると同時に、僅かに生き残った子供達を保護し、戦う術 と生きる術、教養を授けながら生きていた。

己が暮らす場所に現れたなのは達に敵対の意思がない事を見抜き、なのはの目的に同意すると同時になのはの実力を見極めて其の力を貸す事を決め、自分が鍛えて居た者共々、リベリオン・アナガスト・アンリゾ ナブルに加入する。

 

 

 

織斑一夏

 

ハーメル村の生き残りで、稼津斗によって育てられた『鬼の子供達』で唯一の男子。

ライトロードの襲撃を受けた際、妹と仲間を連れて稼津斗が封印されていた『鬼の祠』まで逃げ延びた事で、結果として一命を取り留める事が出来た。(顔の傷はその際に付いたモノ。)

家族は妹を残して全てライトロードによって殺されており、更にハーメル村まで壊滅させられた事でライトロードには深い憎しみを抱いている。

身体能力は生まれ付き高く、武術の才能もあった事で、稼津斗に育てられながらその実力を伸ばして行き、鬼の子供達の中でも特に高い実力を持っている。

夏姫と、妹のマドカ以外の女性陣から恋愛的な意味での好意を寄せられ『如何したモノか?』と悩んでいたが、夏姫に『たった一人だけしか愛してはいけないと誰が決めた?』と言われた事で色々と吹っ切れ、現在は刀奈、簪、ヴィシュヌ、ロラン、グリフィンの五人と交際中。

使用している刀は、姉の形見を打ち直したモノではなく、稼津斗が街の鍛冶屋に頼んで作って貰った、同じタイプの別物。

一番得意なのは剣術だが、体術と気を使った攻撃も得意で、気は『雷』の属性を有している。

ハーメル村跡地にやって来たなのは達を警戒して襲撃したが、なのはの話を聞いて『自分達と同じだ』と思い、仲間達と共に『リベリオン・アナガスト・アンリゾナブル』に加入した。

デュナン討伐後は、再編成された王室親衛隊の一員となっている。

 

 

 

更識刀奈

 

ハーメル村の生き残りで、稼津斗によって育てられた『鬼の子供達』の一人で、簪の双子の姉。

ライトロードの襲撃を受けた際、一夏に連れられて稼津斗が封印されていた『鬼の祠』まで逃げ延びた事で、結果として一命を取り留める事が出来た。

家族は妹を残して全てライトロードによって殺されており、更にハーメル村まで壊滅させられた事でライトロードには深い憎しみを抱いている。

身体能力は生まれ付き高く、武術の才能もあった事で、稼津斗に育てられながらその実力を伸ばして行き、鬼の子供達の中でも特に高い実力を持っている。

一夏に好意を持って居たが、ヴィシュヌ、ロラン、グリフィン、そして妹の簪も一夏に好意を抱いていた為、『誰が選ばれても、恨みっこなし』との条件で全員で告白したが、結果として一夏が『誰も選ばず全員と』と言う選択をして、一夏の彼女の一人となる。

一番得意なのは槍術だが、体術と気を使った攻撃も得意で、気は『氷』の属性を有している。

ハーメル村跡地にやって来たなのは達を警戒して襲撃したが、なのはの話を聞いて『自分達と同じだ』と思い、仲間達と共に『リベリオン・アナガスト・アンリゾナブル』に加入した。

デュナン討伐後は、再編成された王室親衛隊の一員となっている。

 

 

 

更識簪

 

ハーメル村の生き残りで、稼津斗によって育てられた『鬼の子供達』の一人で、刀奈の双子の妹。

ライトロードの襲撃を受けた際、一夏に連れられて稼津斗が封印されていた『鬼の祠』まで逃げ延びた事で、結果として一命を取り留める事が出来た。

家族は姉を残して全てライトロードによって殺されており、更にハーメル村まで壊滅させられた事でライトロードには深い憎しみを抱いている。

姉と比べると身体能力は高くなく、武術も不得手だが、其れを補って有り余る頭脳の持ち主で、鬼の子供達の中では間違いなくトップクラスの頭脳派。

一夏に好意を持って居たが、ヴィシュヌ、ロラン、グリフィン、そして姉の刀奈も一夏に好意を抱いていた為、『誰が選ばれても、恨みっこなし』との条件で全員で告白したが、結果として一夏が『誰も選ばず全員と』と言う選択をして、一夏の彼女の一人となる。

ハーメル村跡地にやって来たなのは達を警戒して一夏達による襲撃の手伝いをしていたが、なのはの話を聞いて『自分達と同じだ』と思い、仲間達と共に『リベリオン・アナガスト・アンリゾナブル』に加入した。

デュナン討伐後は、再編成された王室親衛隊の一員となっている。

 

 

 

ヴィシュヌ・イサ・ギャラクシー

 

ハーメル村の生き残りで、稼津斗によって育てられた『鬼の子供達』の一人。

ライトロードの襲撃を受けた際、一夏に連れられて稼津斗が封印されていた『鬼の祠』まで逃げ延びた事で、結果として一命を取り留める事が出来た。

家族をライトロードによって殺されており、更にハーメル村まで壊滅させられた事でライトロードには深い憎しみを抱いている。

一夏に好意を持って居たが、ロラン、グリフィンそして更識姉妹も一夏に好意を抱いていた為、『誰が選ばれても、恨みっこなし』との条件で全員で告白したが、結果として一夏が『誰も選ばず全員と』と言う選択をして、一夏の彼女の一人となる。

現在知られているキックボクシングとは違い、肘での攻撃と組んだ状態での打撃が認められている『古式キックボクシング』と気を使った攻撃を得意としており、気は『炎』の属性を有している。

ハーメル村跡地にやって来たなのは達を警戒して襲撃したが、なのはの話を聞いて『自分達と同じだ』と思い、仲間達と共に『リベリオン・アナガスト・アンリゾナブル』に加入した。

デュナン討伐後は、再編成された王室親衛隊の一員となっている。

 

 

 

ロランツィーネ・ローランディフィルネィ

 

ハーメル村の生き残りで、稼津斗によって育てられた『鬼の子供達』の一人。

ライトロードの襲撃を受けた際、一夏に連れられて稼津斗が封印されていた『鬼の祠』まで逃げ延びた事で、結果として一命を取り留める事が出来た。

家族を全てライトロードによって殺されており、更にハーメル村まで壊滅させられた事でライトロードには深い憎しみを抱いている。

芝居がかった物言いが特徴的だが、此れは幼い頃は役者を目指しており、毎日の様に演技の練習をしていたからである。

フルネームが無駄に長いので、仲間からは『ロラン』と呼ばれている。

長さの異なる二本の剣を使った剣術と体術、気を使った攻撃を得意としており、気は『風』の属性を有している。

一夏に好意を持って居たが、ヴィシュヌ、グリフィン、そして更識姉妹も一夏に好意を抱いていた為、『誰が選ばれても、恨みっこなし』との条件で全員で告白したが、結果として一夏が『誰も選ばず全員と』と言う選択をして、一夏の彼女の一人となる。

ハーメル村跡地にやって来たなのは達を警戒して襲撃しようとしたが自分が出ようとした直前で稼津斗に止められ、その後なのはの話を聞いて『自分達と同じだ』と思い、仲間達と共に『リベリオン・アナガスト・アンリゾナブル』に加入した。

デュナン討伐後は、再編成された王室親衛隊の一員となっている。

 

 

 

グリフィン・レッドラム

 

ハーメル村の生き残りで、稼津斗によって育てられた『鬼の子供達』の一人。

ライトロードの襲撃を受けた際、一夏に連れられて稼津斗が封印されていた『鬼の祠』まで逃げ延びた事で、結果として一命を取り留める事が出来た。

家族同然に思っていた孤児院の者達を全てライトロードによって殺されており、更にハーメル村まで壊滅させられた事でライトロードには深い憎しみを抱いている。

明るい性格で、鬼の子供達におけるムードメーカー的な存在。

武器を使わない体術と、気を使った攻撃の二本柱での戦いを得意としており、特に拳打と関節技に関しては達人レベル。気は特定の属性は持たないが、天候や風土によって後天的に属性が付加される物になっている。

一夏に好意を持って居たが、ヴィシュヌ、ロラン、そして更識姉妹も一夏に好意を抱いていた為、『誰が選ばれても、恨みっこなし』との条件で全員で告白したが、結果として一夏が『誰も選ばず全員と』と言う選択をして、一夏の彼女の一人となる。

ハーメル村跡地にやって来たなのは達を警戒して襲撃しようとしたが、自分が出ようとした直前で稼津斗に止められ、その後なのはの話を聞いて『自分達と同じだ』と思い、仲間達と共に『リベリオン・アナガスト・アンリゾナブル』に加入した。

デュナン討伐後は、再編成された王室親衛隊の一員となっている。

 

 

 

織斑マドカ

 

ハーメル村の生き残りで、稼津斗によって育てられた『鬼の子供達』の一人。

ライトロードの襲撃を受けた際、兄である一夏に連れられて稼津斗が封印されていた『鬼の祠』まで逃げ延びた事で、結果として一命を取り留める事が出来た。

余りにも幼くして家族を喪ってしまったショックで、暫くは話す事も出来なくなっていたが、稼津斗に育てられる内に、一夏と仲間達が根気良く接した結果、今では多くはないが話をするようになっている。

ナイフの扱いが得意だが、気弾系の技も得意としており、特に複数の気弾を同時に操作する術に長けている。

一夏と交際中の女子五人とは特に仲が良いが、夏姫の事も『夏姉さん』と呼んで慕っている。

ハーメル村跡地にやって来たなのは達を警戒して襲撃しようとしたが自分が出ようとした直前で稼津斗に止められ、その後なのはの話を聞いて『自分達と同じだ』と思い、仲間達と共に『リベリオン・アナガスト・アンリゾナブル』に加入した。

デュナン討伐後は、再編成された王室親衛隊の一員となっている。

 

 

 

蓮杖夏姫

 

ハーメル村の生き残りで、稼津斗によって育てられた『鬼の子供達』の一人。

ライトロードの襲撃を受けた際、一夏と共に仲間を連れて稼津斗が封印されていた『鬼の祠』まで逃げ延びた事で、結果として一命を取り留める事が出来た。

鬼の子供達の中では最年長だが、だからと言ってリーダー的存在を気取る事もなく、あくまでも対等な関係を続けている。

一夏が、更識姉妹、ヴィシュヌ、ロラン、グリフィンに告白されて悩んでいた時に、『たった一人しか愛してはいけないと誰が決めた?』と言って、その背を押して全員と付き合わせた張本人。

使用する武器は、剣と銃を合わせた特殊武器の『ガンブレード』。

斬撃の瞬間にトリガーを引く事で弾丸が剣内部で炸裂して、斬撃の威力を高めてくれるが、扱いが難しい為、現在は使用する者は殆ど居ないレア武器である。

体術も得意だが、気を使った攻撃は苦手で、気はあくまでも自己強化のみに使っている。

ハーメル村跡地にやって来たなのは達を警戒して襲撃しようとしたが、自分が出ようとした直前で稼津斗に止められ、その後なのはの話を聞いて『自分達と同じだ』と思い、仲間達と共に『リベリオン・アナガスト・アンリゾナブル』に加入した。

デュナン討伐後は、再編成された王室親衛隊の一員となっている。

 

 

 

ヴィヴィオ

 

デュナンが作り出した生体兵器の少女。

ベルカの聖王である『オリヴィエ』の遺伝子が組み込まれており、更にありとあらゆる格闘技と魔法をデータとしてインストールされている事で可成り高い戦闘力を誇るが、実戦経験は皆無の為、力に振り回されている節がある。

デュナンの部下としてなのは達の前に立ち塞がったが、なのはとクローゼによって心の不安を取り除かれ、更になのはとクローゼが、『私達がママになる』と言った事で、なのはとクローゼの娘になる事に。

肉体的には16~18歳ほどだが、デュナンは戦闘力にだけ固執して、精神面の彼是は考えていなかったせいで、精神年齢は10歳ほどと、見た目に反して可成り幼い。

 

 

 

エステル・ブライト

 

史上最年少の16歳で正遊撃士になり、これまた史上最速となる正遊撃になってから僅か半年でA級遊撃士へと上り詰めた女性。

天真爛漫なお転婆娘がそのまま大人になったような所があり、考えるよりもまず行動が基本で、その行動力で周囲をグイグイ引っ張っていく。

棒術を使った物理攻撃の他、魔法に関しても、攻撃、補助、回復と幅広く使う事の出来るオールラウンダー。

幼馴染のヨシュアとは、現在恋人同士でもある。

ブライト家の家庭内ヒエラルキーは母であるレナ、姉のアインスに次ぐナンバー3で、父であるカシウス・ブライトですらエステルに逆らう事は出来ない。

驚いた時や怒った時に出る『あんですってー!?』は、エステルの代名詞と言えなくもない。

 

 

 

 

アインス・ブライト

 

10年前にカシウスが保護した女性で、戸籍上はブライト家の長女になる。

自分の名前以外の全ての記憶を失っているが、その戦闘力は凄まじく、多種多様な魔法と、圧倒的な体術を持ってして相対する者を圧倒する。

また、初見であらゆる技を覚えてしまう才能が有るので、その戦闘力は正に無限大と言える。

草薙京とは、互いに高め合う間柄であると同時に、彼氏彼女の関係だったりする。

 

 

 

 

レン・ブライト

 

菫色の髪と金色の瞳が特徴的な少女。

魔族の中でも特異な種族である『死神』と人間との混血であり、物心つく頃には人の魂を狩っていた。

正遊撃士になったばかりのエステルに純粋な魂を狩る目的で近付いたが、その純粋さに心を奪われた挙げ句に暴走し、エステルと一戦交える事に。

結果はギリギリで敗北したが、エステルの『貴女は死神じゃなくて人間だよ』との言葉を聞き、死神の掟に従う必要は無いのだと自覚し、エステルの誘いもあってブライト家の三女となる。

少々生意気な所もあるが、エステルとアインスの事を本当の姉と思っている。勿論カシウスとレナの事だって本当の両親のように思ってます。

お洒落に無頓着なエステルとヨシュアとは違って、お洒落に煩く、現在エステルとヨシュアが使っている仕事着も、実はレンがコーディネートしたモノだったりする。

 

 

 

アガット・クロスナー

 

右頬の十字傷と、赤い髪が特徴的な遊撃士。

エステルとヨシュアの先輩遊撃士であり、『重剣』の異名を持つ実力者で、当然A級遊撃士。

口調は粗野で粗暴な部分があるが、本当は仲間思いの熱血漢で、エステルとは違うタイプだが周囲を引っ張っていく兄貴分的な存在。

身の丈近い重剣を軽々と扱う事から、其の力は計り知れないが、同時に其れを連続で振り回せるスタミナと、打たれ強さもアガットの自慢。

だが、対峙する者にとっての一番の脅威は、己の体力をパワーへと変換してしまう技だと言えるのかも知れない。

 

 

 

シェラザード・ハーヴェイ

 

ロレントに住むA級遊撃士の一人で、エステルとヨシュアの先輩遊撃士。

姉御肌で、物事をハッキリと言う性格で、新米遊撃士から慕われているだけでなく、ロレントの自警団『BLAZE』の面々とも仲が良い。

実は母方の祖父が魔族であり、四分の一だけ魔族の血を引いており、褐色肌に銀髪と言う特徴的な容姿は、魔族の血が影響している。

鞭術を得意としており、通常の鞭打(べんだ)のみならず、物を絡め取ったり、衝撃波を発生させる事も出来る。

無類の酒好きで、ロレントのギルドの受付であるアイナ以外には飲み比べで負けた事はなく、現在の飲み比べの戦績は百二十勝一敗である。

 

 

 

草薙京

 

リベール王国のロレントに住んでいる青年格闘家で、太古の昔『八岐大蛇』と呼ばれる邪神を倒した一族の末裔。

基本的に自信家で、不遜な態度を崩さないが、相手の実力を素直に認める素直さが有ったり、鍛錬は怠らないストイックさも持ち合わせている。

父親同士が旧知の中である事から、幼い頃からブライト家とは縁があり、ブライト家の長女のアインスとは現在交際中の恋人であると同時に、互いに高め合うライバルでもある。

十代の頃にカシウスと手合わせをして完敗し、以来カシウスの事を『親父よりも人間として武道家として尊敬出来る人』と評して慕っている。(京は基本的に相手が年上でも敬称を付けないのだが、カシウスはさん付けで呼んでいるのでドレほど尊敬しているかが分かる。)

自分を付け狙う庵に関しては、鬱陶しいと感じながらも武道家としての実力は認めている。

アインスとレンがエステルと血が繋がってない事は知っているが、アインスはカシウスが、レンはエステルが連れて来た事に関して、『姉や妹ってのは連れて来るモンじゃねぇよな?』と思ってたりする。

 

 

 

八神庵

 

リベール王国のロレントに住んでいる青年格闘家で、太古の昔『八岐大蛇』と呼ばれる邪神を倒した一族の末裔。

しかし祖先が『八岐大蛇』の強大な力に憧れ、その封印を解いて血の契約を交わした事で、オロチの呪われた力をその身に宿すようになり、草薙家に対して深い憎しみを抱くようになる。(オロチが、草薙が時の帝に許しを請う為に八尺瓊(八神となる前の一族の姓)の妻を殺したと吹き込んだ事が原因。)

庵自身は八神家と草薙家の因縁など如何でも良く、単純に草薙京個人を殺す事を目的としている……が、京と戦う事が己の最大の喜びであると言う事も自覚はしている。

二人の妹がいるが、何方も中々に個性が強いので兄としては気苦労が有ったりするらしい。

嫌いなモノは『暴力』だが、此れには庵なりの考えがあり、『己と本気で戦う相手に揮う力は暴力ではない。暴力とは、敵対の意思のない者に揮う誇りなき力だ』との事で、庵自身も敵対の意思がない者に対して力を揮う事は絶対にない。

 

 

 

八神はやて

 

庵となぎさの妹で八神家の次女。

兄の庵とは違い、オロチの力は色濃く出ていないが、代わりに魔法の才能が有り広域殲滅型の魔法を特に得意としている。

兄と姉の事は慕っているが、『私の兄と姉は、何で揃いも揃って中二病発症してんねん』とも思って居る。

 

 

 

八神なぎさ

 

庵の妹で、はやての双子の姉である八神家の長女。

庵とは違い、オロチの力は継承していないが、代わりに魔法の才能が有り、妹のはやてと同様に広域殲滅型の魔法を得意としている。

自らを『王』、慕って来る子供達を『臣下』と称する等、可成り重度の中二病を患っているが、その本質は仲間思いのお姉さんである。

 

 

 

高幡志緒

 

ロレントの自警団『ブレイズ』のリーダーを務める青年。

巨躯で金髪にピアスと言う風貌が厳つく、怖そうな印象を与えるが、実際には義理人情と漢気を併せ持つ好漢で、仲間を引っ張って行く兄貴分。

身の丈以上の大剣を自在に操る、後輩を引っ張って行く、炎属性と、アガットと何かと被る所があるが、アガットとの仲は良好。

素手での喧嘩も極めて強く、アガットと二人で半グレ集団を壊滅させた事は一度や二度ではなかったりする。

実は料理が得意で、カツ丼は一番の得意料理。

 

 

 

時坂洸

 

リベールの自警団『ブレイズ』の一員。

少々ぶっきらぼうな部分があるが、困って居る人を見ると放ってはおけないお人好しな性格で、周囲からは『程々に』と言われるが、洸自身は『此れが俺の流儀だから』と、何があっても其の信念を曲げる事は無い。

志緒とは、互いに背中を任せ合える『相棒』と言った間柄だったりする。

なのはがリベールを訪れた際に、璃音も同行していた事から璃音との再会を果たしている。

 

 

 

柊明日香

 

ロレントの自警団『ブレイズ』の一員。

クールながらも、社交性があり、同い年の璃音とは親友同士の間柄。

卓越した剣技と、射撃魔法を得意とし、総合的な戦闘力は可成り高く、自警団のエースである。

洸とは、友情も愛情も超越した、絶妙な関係を築いており、戦闘では結構いいコンビ。

 

 

 

北都美月

 

ロレントの自警団『ブレイズ』の一員。

類い稀な力を持つ結界士であり、其の力に敬意を込めて『白き巫女』と呼ばれている。(結界の強さは、中級魔族や中級神族の攻撃ならば完全に無効にできる程。)

温厚な性格だが、やる時にはやる人物で、事と次第によっては『絶対零度の笑み』で相手を黙らせる事も厭わない。(志緒先輩の睨みは命の危機を、美月先輩の笑みは社会的抹殺の危機を感じるとは、洸の弁。)

 

 

 

郁島空

 

ロレントの自警団『ブレイズ』の一員。

小柄な体格ながら凄まじい力を秘めており、パワーとスピードを駆使した格闘技は中級の魔族や神族とも互角に渡り合えるレベル。

裏表のない真っ直ぐな性格で、やると決めたらとことんやると言う意志の強さを持っている故に、常に自分のすべきことは成そうと考えている。

実は祐騎と交際しているが、此れだけの真っ直ぐな子が、どうしてあんなに捻くれたインドア派と付き合って居るのかは、ロレント七不思議の一つだったりしている。

 

 

 

四宮祐騎

 

ロレントの自警団『ブレイズ』の一員。

IQ180の超天才児で、ロレントだけでなくリベール王国全土のセキュリティシステムを開発する一方で、各都市のデータバンクにアクセスして機密情報を閲覧したりもするハッカー。

空と交際しているが、如何して其処に至ったのかは一切謎である。

 

 

 

ダンテ

 

二千年前に悪魔でありながら、正義の心を理解し、魔帝に反逆した伝説の魔剣士『スパーダ』の血を引くデビルハーフ。

嘗ては、母を殺した大悪魔への復讐の為に生きて居たが、復讐を果たした後は『趣味』、『暇潰し』で悪魔を狩っていると言うとんでもないオッサン。

現在はルーアンに、何でも屋『Devil May Cry』を展開して、ヤバい依頼をメインにして活動している。

カシウスとは旧知の中で、度々酒を酌み交わして居たりする。

 

 

 

不動遊星

 

独特な髪型が印象的な不動家の長男で、遊里とレーシャの兄になる。

ツァイスで技術者として働いていると同時に、カードに封印された精霊の力を使って戦う『精霊召喚士』でもある。

技術者としての技術力と類まれなる頭脳を備えているだけでなく、精霊召喚士としても高い実力を持っており、『シンクロ召喚』を使った戦術は他の精霊召喚士を凌駕している。

最強精霊は『スターダスト・ドラゴン』。

 

 

 

不動遊里

 

栗毛と蒼い目が特徴的な不動家の長女。遊星の妹でレーシャの姉。

ツァイスで技術者として働いていると同時に、カードに封印された精霊の力を使って戦う『精霊召喚士』でもある。

遊星には劣るが技術者としても、精霊召喚士としてもその実力は高く、本人曰く『兄さん以外の精霊召喚士には負ける気がしない』との事。

レーシャの事を溺愛しているシスコンで、レーシャを泣かせる者が現れたら速攻で殺意の波動に目覚めてその相手を滅殺するとは本人の談。

料理は得意で、基本的に作る料理は美味しいのだが、本人の嗜好は激辛&激甘であり、危険物として知られる『言峰麻婆』をペロリと平らげると言う恐るべき人物でもある。

基本的にライダースーツにレザージャケットと言う格好だが、レーシャからは『お姉ちゃんも女の子なんだからもっとお洒落しないとダメでしょ。』と言われていたりする。

最強精霊は『プリンセス・ヴァルキリア』。

 

 

 

不動レーシャ

 

黒目黒髪が特徴的な、不動三兄妹の末っ子。

遊星と遊里とは血は繋がっておらず、遊星と遊里の母がスラムで保護して、遊星と遊里の『妹』として連れて来た。

連れて来られた当初は心を閉ざしていたが、遊星と遊里が粘り強く接した結果、笑顔を見せるようになり、何時の間にかお兄ちゃんとお姉ちゃん大好きっ子になっていた。

格闘技を習っており、若干10歳にして大人顔負けの実力を持つと同時に、精霊召喚士としても高い実力を備えている。

最強精霊は『銀河眼の光子竜』。

 

 

 

アラン・リシャール

 

王国軍の情報部隊の隊長を務める人物で、階級は大佐。

デュナンがクーデター同然の方法で強引に王位に就いた後は、真の王位継承者であるクローディアの事を気に掛けながらも、表面上はデュナンを立てつつ、水面下ではデュナンを倒す準備を進めていた。

カシウス経由でなのはと知り合い、なのはが幽閉状態にあったクローディアを連れ出してくれた事、志を同じにしている事などから協力関係に。

カシウスが王国軍に在籍していた頃は彼の部下であり、カシウスが退役した後は、彼の後を継ぐ形で部隊長となり、その部隊を発展させたのが情報部である。

 

 

 

ユリア・シュバルツ

 

元王室親衛隊の隊長を務めていた人物で階級は大尉。

デュナンが王位に就いた際に、王室親衛隊は解体され、エルベ離宮警護の任に付いていたが、裏ではリシャールと内通しており、彼の計画に元王室親衛隊のメンバーと共に手を貸していた。

クローディアがグランセル城から連れ出された事には驚き、その身を案じていたが同時に『幽閉生活から解放された』と安堵してもいた。

デュナンのロレント襲撃の際に援軍として駆け付け、其処でクローディアの無事を知り、クローディアを連れ出してくれたなのはには感謝している。

カシウスから剣の手解きを受けており、其の実力は王室親衛隊の中でもトップクラスであると同時に、王室親衛隊の隊長に伝わる秘技も習得している。

デュナン討伐後は、再編成された王室親衛隊の隊長を務めている。

 

 

 

クラリッサ・ハルフォーフ

 

リシャール率いる情報部の副隊長で、階級は中尉。

士官学校を学問、武術の双方トップの成績で卒業しており、その有能さはリシャールが自身の副官に指名した事からも疑いようが無いのだが、極度のオタクで厨二病を患っているのが玉に瑕。

左目の眼帯も中二病の一種だと思われていたが、実は『停止結界』と言う異能を発動する事が出来る『ヴォーダン・オージュ』の力を制御する為に装着していたモノだった。

銃器とナイフでの戦闘を得意としている他、暗殺術の心得もあり、複数の暗器を常に身体に仕込んでいる。

 

 

 

プレシア・テスタロッサ

 

最強クラスの実力を持つ『魔女』。魔法使いのように、魔法を使う人間ではなく、正真正銘の魔女。

元々は人間だったが、師事していた魔女から『魔女の力』を継承する事で新たな『魔女』となり、以降、歴史の裏で人知れず生きて来た。(『魔女』は他者に『魔女の力』を継承させない限り死ぬ事が出来ない。)

既に500年以上生きているが、魔女となったその時から肉体は若いまま。外見がずっと若いと言うのも、『魔女』が『魔女』と呼ばれる由縁である。

自身は衰えたと言っているが、実際にはそんな事は全然なく、魔界の魔王達と余裕でタメ張れるだけの力がある。

2人娘のフェイトとレヴィは、不治の病で亡くなった実子『アリシア』の願いを叶える形で、アリシアの細胞から作り出した魔導生命体だが、そんな事は関係なしに愛情を注いでいる。

但し、レヴィが如何して力が強く頭の弱い、所謂『アホの子』になってしまったのかは、プレシア本人にも分からないらしい。

 

 

フェイト・テスタロッサ

 

プレシアの娘で、レヴィの双子の姉。黄金の稲妻を操る『金雷の魔導師』。

魔導師ではあるモノの、射撃や砲撃戦よりも、スピードを生かした高速の近接戦闘を得意としており、その実力は人間界の大国が有している『聖騎士』にも匹敵するレベル。

クールな性格だが心根は優しく、『動』のレヴィに対して、フェイトは『静』であり、其処ら辺でバランスが取れている感じ。

戦闘服のデザインは、如何にも『魔女』と言った感じのプレシアとは違い、黒い軍服の様なデザインの物の上に白いマントを羽織っている。

滅多に怒りを面に出さないが、その分、一度怒りのスイッチが入ると手が付けられない位におっかない。(レヴィ談)

 

 

レヴィ・テスタロッサ

 

プレシアの娘で、フェイトの双子の妹。蒼銀の稲妻を操る『蒼雷の魔導師』。

魔導師ではあるモノの、射撃や砲撃戦よりも、スピードを生かした高速の近接戦闘を得意としており、その実力は人間界の大国が有している『聖騎士』にも匹敵するレベル。

力は強いが、頭が弱い、所謂『アホの子』だが、裏表のない性格故に誰からも好かれる愛されキャラ。(本人は色々とカッコつけてる心算。)

戦闘服のデザインは、如何にも『魔女』と言った感じのプレシアとは違い、動きやすさ重視で、レオタードの様なデザインの物を着用している。

徹底的にアホの子で、思った事をストレートに口にするが、其れが時として核心を突く事も少なくないらしい。(フェイト談)

 

 

リニス

 

プレシアの使い魔で、使い魔になる前は何処にでもいる山猫だった。

魔女の力を継承するには、魔女の使い魔が必要であったため、プレシアによって使い魔契約を結ばれて使い魔となる。

以降は使い魔としてプレシアに仕えつつ、フェイトやレヴィの教育係も務めていた。

冷静で理知的な女性だが、主であるプレシアに対しては、歯に衣を着せぬ辛口な事を言う事もしばしば。

尤も、そんな事が言えるほどにプレシアとの信頼関係が出来ていると言う事だろう。

 

 

 

 

魔界

 

 

ルガール・バーンシュタイン

 

魔界に住む魔王の一人で、魔王の中では悪魔将軍と同等クラスの戦闘力の持ち主。

己の強さに絶対的な自信を持っている反面、更なる強さを得る為には手段を選ばず、他者の技も『使える』と思ったら躊躇なく自分の技として使用する部分が有る。

技でなく力に関しても同様で、過去に自分の右目を奪ったオロチオロチの力に目を付け、其の力を取り込むも身体が力に耐え切れず肉体が消滅してしまった事もある……が、何の言い訳もなくサラッと復活している。

上記の件を含め、なのはが認知しているだけでも二度死んでいるがその都度復活し、復活するたび強くなっている。

何の言い訳もなく復活出来るのは、趣味が『復活』との事らしいが詳細は不明。

 

 

 

アーナス

 

嘗て『夜の王』と呼ばれた妖魔の王の蒼い血に触れた事で、不老の半妖となってしまった女性。

不老である為に、寿命による死が存在せず、歴史の裏で人知れずに、人に仇なす邪妖を狩りながら何百年も生きている。

およそ100年前には、ベルカ皇国の聖騎士を務めていた事も有り、その存在は皇国で半ば伝説として語り継がれている。

外世界からの侵略者との戦いにも参加し、その功績から『伝説の半妖騎士』と言われている。

自らの血で生成した剣などで戦う他、依り代を用いて『従魔』と呼ばれる存在を召喚して戦力としたりするなど、戦い方の幅が広い。

表沙汰になってはいない歴史だが、『夜の王』を倒してその力を得た『聖女』を倒した存在。その際に『夜の王』の力をその身に宿している。(その影響で、瞳がオッドアイに変わっている。)

現在は魔界にて『魔王』の一人として数えられるほどの存在になっており、魔界の統治に一役買っている。

 

 

 

悪魔将軍

 

魔界に住む魔王の一人で、純粋な戦闘力のみならば魔王の中でも最強を誇る。

圧倒的な巨躯、白銀の鎧と金属製のマスク、長い金髪と魔王然とした佇まいをしており、見る者を圧倒する迫力がある。

純粋な戦闘力では自身に劣る士郎が、技術で自分と互角以上に戦った事に一目置き、士郎が魔界から去るまでは互いに己を高め合う間柄だった。

『悪魔将軍』と言うのは、魔王として名乗っている名前で本名は『ゴールドマン』。

出自については謎が多く、曰く『無始無終』。現在の姿でこの世に誕生し、老いる事も無ければ終わる事もないとの事で、一体何時から魔王だったのかすら謎。

部下ですら、マスクの下の素顔を見た者はおらず、『既に肉体は滅び、魂が鎧に憑依して動いており、鎧に覆われていない部分は、霊体を固着化させているのではないか?』との噂もある。

 

 

 

 

その他

 

 

高町なたね

 

神族の母と、魔族の父を持つ半神半魔の女性であり、なのはの双子の妹。

ライトロードの襲撃を受けた際になのはと共に命からがらに逃げ出すも、その途中でなのはとはぐれて天涯孤独となる。

母を天界から追放した神族、母を殺した魔族、父を殺した人間に深い憎しみを抱いており、全ての種を皆殺しにして復讐を成さんと考えている。

当てもなく各地を転々としていた際に、同じ様な境遇のネロと出会い、意気投合して復讐の準備を着々と進めている。

 

 

 

ネロ

 

1/4だけ悪魔の血を引いたデビルクォーターで悪魔の右腕を持っている。

幼い頃に暮らしていた町がライトロードの襲撃を受けて壊滅し、その際に両親を失って天涯孤独になり、ライトロードへの復讐を誓って各地を転々としている時になたねと出会って意気投合し、目的を達成する為に動き始める。

 



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本編
Chapter1『Vorspiel von Dunkelheit und Licht』


新たな物語のByなのは     始まり始まりですね♪Byクローディア    本編との温度差が凄いなByサイファー


空には鈍色の雲が広がり、その雲からは冷たい雨が降り注いでいる。

そんな冷たい雨が降り注ぐ路地の一角には少女が膝を抱えて蹲っている――栗毛の髪をツインテールに纏めた少女の歳の頃は八~十歳位だろうが、そんな幼い少女が、一人で雨に打たれていたら、誰か声を掛けそうなモノだが少女に声を掛ける者は誰も居なかった。

その理由は、少女の右肩から生えた黒い翼と、左肩から生えた白い翼だろう……この一対の翼が少女が人間でない事を現していた――白き翼は神族の、黒き翼は魔族の証だから。

此れが、一対の翼がどちらも白かったのならば、声を掛けた者も居ただろう……だが、魔族の証である黒い翼を持っていた事で、少女に声を掛ける者は居なかった。

人間にとって、魔族とは畏怖する存在でしかなかったからだ。

否、そもそもにしてこの翼は魔力体であるので、少女の意思で消す事は可能なのだが、彼女は其れをせず、己が魔族の血を引いているのだと言う事を周囲に知らしめて居るかのようにも見える。其の雰囲気が、余計に彼女に声を掛けるのを躊躇わせていた。

加えて少女の瞳には、大凡子供が宿して良いモノではない、煉獄の炎が、暗い復讐の炎が宿っていたと言うのもあるかもだ。

 

 

「……大丈夫ですか?」

 

「え?」

 

 

身を打つ冷たい雨が無くなったので、何事かと思った少女が顔を上げると、其処には己に傘を掛け、そして傷を治療する為の治癒にアーツを使ってくれている、スミレ色の髪が特徴的な、己と同じ位の歳の少女の姿があった。

身なりは良く、従者と思われるモノが一緒なのを見る限り、可成り身分が高い者なのだろう。

 

 

「……貴女は自分が何をしてるか分かってるの?この翼を見れば分かるよね?私は魔族の血を引いてるんだよ?其れなのに助けるの?」

 

「黒い翼は魔族の証……ですが、其れが助けない理由になりますか?

 私はお祖母様から、『此の世界には種による優劣は存在しない。神族も魔族も人間も、全ては平等である。』と教えられました。ならば、貴女も私も同じ存在です。

 其れ以上に、私が貴女を助ける理由が必要でしょうか?」

 

「…………」

 

 

自分を助けた少女の言葉に、傷だらけだった少女は答える事が出来なかった。

少女は、神族である母を魔族に殺され、魔族だった父を人間に殺され、母を天界から追放した神族、母を殺した魔族、父を殺した人間に深い憎しみを抱き、全ての種に復讐する事を考えていたからだ。

 

 

「貴女の様な人間も居るんだ……人間は、全て魔族を忌み嫌って居ると思って居た。私達が暮らしていた村の人間も、お父さんが魔族だと知った途端に、掌を返してライトロードに加担してお父さんとお姉ちゃんを殺したから。

 でも、貴女みたいな人も居るんだね……!!」

 

「家族を……其れは、私には想像も出来ない位に苦しく悲しい思いをした事でしょう……」

 

 

スミレ色の髪の少女は栗毛の少女を抱きしめる……と同時に、栗毛の少女は此れまで保って来た感情が決壊し、スミレ色の髪の少女の胸で泣いた……家族を全て失ったその日から涙を流す事をしなかった栗毛の少女は、自分でも何時振りになるか分からない程に泣き、声を上げて泣く栗毛の少女を、スミレ色の少女は只優しく抱きしめていた。

 

 

その後、栗毛の少女は、スミレ色の髪の少女から『私の家に来ませんか?』と言われたが、栗毛の少女は『貴女の家の人間が全て貴女と同じとは限らないから止めておく』と言って断った。

スミレ色の髪の少女は、栗毛の少女の気持ちを汲むと『ピクニックに来たんですが、まさかの俄雨で取りやめたので、良かったらどうぞ』と持っていた弁当を渡し、更に『少しですが』と十万ミラの大金を渡された。

勿論、栗毛の少女は『お弁当は兎も角、こんな大金は受け取れない』と言ったのだが、スミレ色の髪の少女は、『なら、生きていつか返しにくて下さい。』と言って微笑んで見せた。

 

 

「……私を助けてくれた、この恩は絶対に忘れないよ。

 だから約束する。貴女が窮地に陥ったその時は、私が必ず助けに行くから!私は高町なのは。貴女は?」

 

「クローディア・フォン・アウスレーゼです。なのはさん。」

 

 

そうして二人の少女は別れた。互いに、再会する時がいつか来ると信じて……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter1

『Vorspiel von Dunkelheit und Licht』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………何時の間にか眠っていたのか私は。」

 

「お前が居眠りするとは珍しいな、なのは?何か夢でも見たか?」

 

「あぁ、少しばかり懐かしい夢をな。」

 

 

黒衣を纏い、栗毛の髪をサイドテールに纏めた女性、高町なのはは移動中の車の中で目を覚ました……彼女は、ある目的の為にとある場所に向かってるのだが、その道中で少しばかり眠ってしまったらしい。

 

 

「懐かしい夢、ですか?」

 

「十年前にクローディアに助けられた時の事をな。お前と会う前の事だよクリザリッド。」

 

「あぁ、彼女の夢ですか。」

 

 

車を運転するのはクリザリッドと呼ばれた大柄の青年――ある組織によって作り出された存在だったが、十年前に組織がライトロードの襲撃を受けた際に、半ば捨て駒同然の扱いをされ、辛くも生き延びたモノの生きる目的を見失っていた時になのはと出会い、『其の力を私の為に使ってみないか?』と言われて、己の力を必要としてくれていると感じ、なのはの手を取り最初の仲間になった者で、なのはに絶対の忠誠を誓っている。

 

そしてもう一人、なのはと共に後部座席に座っている褐色肌に金髪、右目の眼帯が特徴的な女性の名はサイファー……数年前に仲間を探していたなのはと出会い、勝負を挑んだ末に敗北し、そしてなのはの仲間になった女性だ。

 

この二人は、現在なのはがリーダーを務めている『リベリオン・アナガスト・アンリゾナブル』におけるなのはの最側近と言える存在だ。

 

 

「しかし、お前を助けたクローディアと言うのも酔狂な奴だな?魔族の血を引くお前を助けるとは……助けたお前に襲われるとは思わなかったのか?」

 

「全く思って居なかっただろうな。

 だが、もしも彼女と出会わなかったら、私は私の中にある復讐心に駆られるがままに全ての神族と魔族と人間に対して復讐を行い、己の命が尽きるまで殺戮を続けていた事だろう……お前達と出会う事なくな。

 彼女のおかげで、私は只の復讐者にならず、己と同じ思いをする者を無くしたいと考える事が出来るようになった……最も、その目的を果たす為にも、私から家族を奪った者達には因果を応報させるけれどね。」

 

 

クローディアと出会った後、なのはは貰った十万ミラで服と当面の食糧、そして骨董屋でアーティファクトのインテリジェント・デバイス『レイジングハート』を購入し、魔族の血を引いている事を隠しながら、魔獣退治等を行って金を稼ぎ、それと同時に己と同じような境遇にある者を集めて『リベリオン・アナガスト・アンリゾナブル』を組織し、世界に対して反逆の狼煙を上げる時の為の力を蓄えていた。

 

 

「してなのは様、本日はどのような用件でこの街に?」

 

 

目的地に着いた一行は車を降り、なのはの先導である場所へと向かって居る際にクリザリッドがなのはに、『目的は何か?』と聞いていた――此処に行く事は聞いていても、目的までは聞いていなかった様だ。

 

 

「私がアルーシェに従魔を使って情報収集をさせている事は知っているな?

 その従魔の一体が、今日此の町でオークションが行われるとの情報を持って来たのだ……其れも只のオークションではない。人間が一人だけ出品物の中に居ると言うな。」

 

「オークションの名を借りた人身売買か……!」

 

「正解だサイファー。

 しかも、その情報が入る数日前には、リベールのロレントと言う街で一人の少女が誘拐されると言う事件が発生している……無関係とは思えまい。」

 

「その少女を誘拐した者達が、少女を売って金にしようとしていると言う事ですか?」

 

「十中八九間違いあるまい。

 誘拐された挙げ句、何処の馬の骨とも知れん奴に売られる少女を放っておく事は出来ない……私が買い取って保護すべきだろう。――勿論、私の目的を果たす為の力となりそうならば、其の力を借りるがな。」

 

 

目的はオークションの名を借りた人身売買にあった。

誘拐された上に売られる少女と言うのも、中々に理不尽な目に遭った者故に、なのはには救わないと言う選択肢は存在して居なかったのだろう。――誰よりも、理不尽と不条理を知っているなのはだからこそ。

 

程なくして、オークション会場に一行は到着。会場と言っても何処かの建物を使ってる訳ではなく、屋外の広場にある簡素なステージだが。

既にオークションは始まっており、貴金属や骨董品などが次々と競売に掛けられては競り落とされて行く……此の貴金属や骨董品も偽物か、或は盗品だろうが、オークションの参加者は競売に熱狂しており、そんな事は気にも掛けて居ないだろう。

 

 

「それじゃあ本日の目玉商品だ!

 コイツは神族の中でも特に強い力を持っている『熾天使』の血を引いてる娘っ子だ!神族との混血は其れなりに居るが、熾天使との混血ってのは可成りのレア物だろう?だから、コイツの競売開始額は五十万イェンからだ!」

 

 

此処で『本日の目玉』として、なのはが目的としていた少女が登場。

桜色の髪と琥珀色の瞳が特徴的で、十人が十人とも『美少女』だと言う容姿をした少女だ……オークションに参加している男共からしたら喉から手が出る位に欲しい存在だろう。競り落として奴隷にすれば、好きな様に出来るのだから。

 

だが、なのはは『熾天使の血を引いている』と言う事に興味を持った――少女に付加価値を付けたい売る側のブラフである可能性もあるが、魔族だけでなく神族の血も受け継いでいるなのはには、其れが本当だと分かったのだ。

 

 

「二百万イェン!」

 

「二百五十万イェン!!」

 

「……三千万ミラだ。」

 

 

だからこそ、此処でなのははトンデモない額を提示した。

他のオークション参加者が口にしていた『イェン』とは異なる『ミラ』と言う通貨単位だが、為替ルートでは『一ミラ=十イェン』なので、なのはが提示した三千万ミラは、イェンに換算すると三億イェンになるのだ。

 

 

「……すまんな、手持ちの金はミラしかなかったのだが、ミラではダメだったか?」

 

「いえいえ、ミラと言えばイェン以上に信頼がおける貨幣なので何も問題はございません!三千万ミラならば、三億イェン……さて、此れ以上に出すお客様は居られますか?……居ないようなので、この少女は彼女が競り落としました!」

 

「では、有り難く貰って行くぞ。クリザリッド。」

 

「は、此方に。」

 

 

少女を競り落としたなのはは、クリザリッドに大きなバッグを持って来させて、オークション主の前に置く。

 

 

「この少女の三千万ミラだけでなく、総額で六千万ミラある。此れを全て貴様にくれてやるから、今日のオークションで出品する筈だった武器やアーティファクトを全て出せ。

 武器やアーティファクトは使ってこそ価値があるからな。私が全て有効活用してやろう。」

 

「ろろろ、六千万ミラ!!分かりました、武器やアーティファクトは全て貴女にお渡ししましょう!」

 

 

更に金を積んで、なのははオークションの主から、出品予定の武器とアーティファクトを全て買い取る――そして、それ等を全て受け取ると、買い取った少女と共に車に乗り込むと街を後にした。

 

 

「…………」

 

「……そう怯えるな。私達はお前を奴隷の様に扱う気は全く無い。寧ろ、お前の衣食住は保証する……お前が愚劣な男達の物にならなるのを避けるために競り落としたのだからね。」

 

「え……そうなの?」

 

「そうなの。」

 

 

車の中で、少女は脅えていたが、なのはが『奴隷の様に扱う気はない』と言い、彼女を競り落とした理由を話すと、少女は安心したのか『ホッと』息を吐いた。誘拐されただけでなく、オークションに出されたと言うのは矢張り怖かったのだろう。

 

 

「だが、タダではない。

 私も神族の血を引いているから、あの男が言っていた『熾天使の血を引いている』と言うのが嘘ではない事が分かる……お前の中に秘められている聖属性の魔力の大きさが其れを示しているからね。

 だから、お前には魔法を覚えて貰う……異論は有るか?」

 

「魔法を覚えるだけで良いなら、異論なんてないわ!……出来れば、ロレントに帰して欲しいんだけどね。」

 

「……私の目的を果たした暁には、ロレントに帰す事を約束しよう。魔族は嘘を吐く事が出来ない故に、私の言葉を信じて貰うしかないのが哀しい所だがな。」

 

 

その少女に、『魔法を覚える事が条件』だと言うなのはだが、其れもまた少女ならば出来ると見越しての事だろう。

 

 

「さて、そろそろ自己紹介をしておこうか?私の名は高町なのは。世界を変革する組織『リベリオン・アナガスト・アンリゾナブル』のリーダーを務めている。お前は?」

 

「璃音。久我山璃音だよ。」

 

「璃音か……良い名だな。」

 

 

互いに自己紹介した後は、リベリオン・アナガスト・アンリゾナブルの拠点に着くまで、なのはと璃音は談笑していた――歳が大きく離れていないと言う事もあり打ち解けるのも時間はそんなに必要なかったのかもだ。其の中でなのはは璃音に『何処かの街に行く時には、私かクリザリッド、サイファーに声を掛けてくれ』と注意だけはしていたけどね。

 

そんな訳で一行は岩山の洞窟を改造して作られた、リベリオン・アナガスト・アンリゾナブルの拠点に到着だ。

洞窟を改造したとは言え、中には照明や空調設備、水道にキッチンと、生活する為に必要なモノは一通り揃っている上、マジックミラーを利用した窓もあるので、洞窟の中に居ながら、外の景色を見れたり、日光を取り込んだり出来る、結構快適な拠点なのである。

車を降りて、拠点に入ろうとしたのだが……

 

 

「あ、おかえりなのはさん。なのはさんにお客さんが来てるよ。」

 

「私に客だと?」

 

「セスさんだよ。取り敢えず、リベールの調査が終わったみたい。」

 

「そうか……分かった、直ぐに行く。」

 

 

其処には半妖の少女であるアルーシェが待っていて、なのはに来客があった事を告げる。

其れを聞いたなのはは、璃音の事をクリザリットとサイファーに任せて、来客と面会する為に応接室へと足を進めた――そして、応接間の前まで来ると……

 

 

「レイジングハート。」

 

『All right.Divine Buster.』

 

 

行き成り直射砲をフチかまして、応接室の扉を粉砕!玉砕!!大喝采!!!の『砕』の三段活用と言うのは実に見事です……まあ、其れ以前に普通に扉を開けろって事なのだが、此の拠点にある扉は全て自己修復機能を備えた『形状記憶合金』で出来ているので問題はない。と言うかそうじゃなかったら、なのはだってこんな事しないだろうしね。

 

 

「相変わらず豪快だな君は高町なのは?」

 

「一日一度はバスターを撃っておかないとどうにも調子が出なくてな。それで、何が分かった?」

 

「其れはコイツを見てくれ。今回の調査報告書だ。」

 

 

応接室で待っていた褐色肌に銀の……此れは何て言えばいいんだ?『チョンマゲ』か、『ザンギエフ擬き』か、『成長途中のヘタレモヒカン』か?的確な表現が思い付かないな。

まぁ、其れは其れとして、セスと呼ばれた男は調査報告書をなのはに手渡し、なのはも其れを読み始めたのだが、読み進めて行くほどになのはの顔は険しくなって行く……如何やらあまり良い内容ではないらしい。

 

 

「セス、お前を疑う訳はないが、敢えて聞くぞ?『デュナン王がクローディア皇女の暗殺を企てている』、此れは本当か?」

 

「あぁ、本当だとも……今のリベール王のデュナンは人気が無いだけでなく、幽閉生活を送っているクローディア皇女の方が圧倒的に支持されているからね……此のままでは革命が起きてしまう事を危惧したのだろう――ならば、その革命の旗印となり得る彼女を殺してしまおうと言う訳さ。

 クローディア皇女の死の理由を、『突然の重い病』にするのか、外部の暗殺者をでっち上げるのか、其処までは未だ分からないがね。」

 

「冗談にしても笑えない話だが、冗談だったらどれ程良かっただろうな……!

 特にクローディアの死の理由、前者なら兎も角、後者は隣国との戦争に発展しかねんモノだぞ?……本当は、もっと準備が整ってからにしたかったがそうも言ってられないな。

 予定の大幅な前倒しになるが、十年前の約束を今夜果たしに行くとするか。」

 

 

報告書に掛かれていたのは『クローディア皇女の暗殺』を現リベール王のデュナンが企てて居ると言うモノだった。

確かにデュナンは国民からの支持は低く、『クローディア皇女が王位を継ぐべきだ』と言う意見は非常に多い――前リベール女王であったアリシア・フォン・アウスレーゼが病気で急逝した後に、殆どクーデター同然に王位を強引に継いだのだから国民の支持が得られる訳がないのだが。

序に言うと、クーデターの際に使用した傭兵団を自身の親衛隊とし、其れまでの女王親衛隊を解体して一般兵として王国軍に左遷すると言う事までやっているのだ。

まぁ、王位に就いた以上は一応の政は行っているようだが、アリシア女王時代と比べると国民からは不満のある政治だろう――税金は引き上げられ、酒を始めとした嗜好品も、高級品はグランセル城で全て買占め、国民には二流品しか与えられなくなったのだからね。

 

 

「いっそデュナンをぶち殺して……否、一時の感情で先走るな私。

 クローディアを幽閉生活から救い出した後には、デュナンに戦いを仕掛け、奴を倒してリベールを解放し、私の目的を達成する為の足掛かりにする心算だったが、今は未だデュナンを倒す時期ではない……下準備を怠ってはならないからね。

 だが、クローディアは今助け出す。彼女が死んでしまっては本末転倒だからな。

 セス、クローディアが幽閉されているのは城の何処だ?」

 

「空中庭園の女王宮だね。

 彼女が女王宮から出て来ない事には国民からも疑問の声が上がっているが、表向きには『アリシア女王の急逝にショックを受けて精神的に不安定だから』と言う事になって居る様だ。」

 

「自分で閉じ込めておいて良く言う。あの、タヌキオヤジめ。」

 

 

セスからクローディアの幽閉場所を聞いたなのはは吐き捨てるように言うと拠点の外に出て、その背に魔族の証である黒い翼と、神族の証である白い翼を出すと、レイジングハートを握りしめ一気に飛翔すると、一路リベール王国の王都グランセルに向かって行った。

 

尚、グランセルに向かいながら、拠点に通信を入れた際に、クリザリッドから『行くのならばそう仰ってからにして下さい!』と言われたのは御愛嬌だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてその夜。

 

 

リベール王国の王都グランセルにあるグランセル城の上空になのはの姿はあった。

なのはは上空からサーチャーを飛ばし、空中庭園の警備状況と、女王宮のバルコニーからクローディアの様子を観察していた……上空から直射砲ぶちかまして警備を全滅させても良かったのだが、其れだとクローディアを連れ出すのに面倒な事になるので止めたようだ。

 

 

「女王宮の警備を行っている兵士は二名、女王宮の中にはクローディアのみか……ならば、バルコニーから入ってクローディアを連れ出すのがスマートなのだが、其れでは、私の意思をデュナンに伝える事は出来ないか。

 では、此処は正面から行くか。十年振りの再会だから、少しばかり派手に行った方が良いかも知れないからね。」

 

 

空中庭園と女王宮の状況を観察し終えたなのはは、警備兵の死角となる場所に降りると、其処から女王宮に向かって歩みを進めて行く。

となれば、当然女王宮の前で警備兵に見つかってしまうのだが……

 

 

「貴様、何者だ!何処から入った!」

 

「止まれ!止まらんと撃つぞ!!」

 

「…………」

 

 

なのはは警備兵の言う事を聞かずに無言で歩みを続ける……そんななのはに警備兵は、手にしている魔導自動小銃を発砲するが、なのははレイジングハートをバトン運動させてその銃撃を全て弾き飛ばすと、一足飛びで間合いを詰め、警備兵の一人にレイジングハートの柄でボディブローを叩き込んで昏倒させると、残る一人には魔力を込めたアッパー掌底を叩き込んで意識を刈り取る。

 

 

「三下に用はないから其処で寝ていて。」

 

 

其れだけ言うとなのはは女王宮に入り、最奥の扉を手元で魔力を炸裂させて破壊する……だから、普通に開けようね?言っても無駄かもしれないが。

勿論、行き成り扉が弾け飛んだ事に、中に居たクローディアは驚いた訳だが。

 

 

「い、一体何事ですか!?」

 

「スマナイ、少し驚かせてしまったな……十年前の約束を果たしに来たぞ、クローディア。」

 

「え?……貴女は若しかして、なのはさん、ですか?」

 

「あぁ、そうだ。十年前のあの日、お前に助けて貰った魔族の血を引く高町なのはだよ。」

 

 

だが、その扉の向こうから現れたのが十年振りの再会となる相手だったと言うのには更に驚いた様だ――まさか、再会出来るとはクローディアは思って居なかったのだろう。

 

 

「な、何故此処に?」

 

「お前を助けに来た。

 お前が幽閉状態にあるのは知っていたから、私の準備が整ったら助けに来る心算だったのだが、デュナンがお前の暗殺を企てて居ると言うの知ってな……計画を前倒しして、お前を此処から連れ出しに来たんだ。」

 

「叔父様が、私を!?」

 

「私が絶対の信頼を寄せている情報屋が持って来た情報だから間違いはないよ――お前が幽閉状態にあると言う情報を掴んだのも彼だからな。

 お前はこのまま此処に居たら間違いなく殺されるぞ?……女王親衛隊が存在しない今、お前を守ってくれる者は居ないからな――だから、私と一緒に来ないか?

 そして、準備が整ったら共にデュナンと戦い、あのタヌキオヤジからリベールを解放しないか?そして、私と共に、私の理想を実現して欲しい。」

 

「貴女の目的、ですか?」

 

「あぁ、そうだ。

 私は、もう二度と私と同じ目に遇う者を出したくない……私は、魔族も神族も人間も、全ての種が種の垣根を越えて平和に暮らせる世界を作りたい――そして、リベールをその始まりの地にしたいんだ。お前の故郷であるこの国を。」

 

 

クローディアからしたら、自分の暗殺を叔父が企てて居ると言うのはショッキングな事だっただろう。

なのはの言うように、このままでは殺されるのを待つばかりだが、なのはが自分を助ける理由が単純に自分を助ける為だけでなく、己の理想を共に叶えて欲しいと言うのを聞いてクローディアの心は決まった。全ての種が、争う事なく平和に暮らせる世界と言うのは、クローディアも考えていた事だったから。

 

 

「なのはさん……貴女の理想は、私の理想でもあります。なので、どうか私を此処から連れ出してください。不自由な幽閉生活は、もう十分です。」

 

「ならば決まりだな。――済まないが、私の事を知らしめる為に、城を少し壊すぞ。」

 

 

クローディアの答えを聞いたなのはは、彼女を所謂『お姫様抱っこ』すると、レイジングハートをバルコニーに向け、一撃必殺のディバインバスターでバルコニーを破壊すると同時に夜空に飛び出し、そしてこの破壊音を聞いた兵士達が集まって来るまで夜空で待つ。

 

 

「今の音は貴様か!!皇女をどうする心算だ!!」

 

「気付いてから到着するまでが遅すぎるぞノロマ。

 どうするかだと?見たままだ、白き翼たるクローディア皇女は、魔王の一人である不破士郎の娘である高町なのはが貰い受ける。白き翼に窮屈な鳥小屋は似合わないからな。

 あの無能なタヌキオヤジに伝えておけ、そう遠くない未来に、高町なのはがクローディア皇女を旗印とした一団を率いて貴様に戦いを挑むとな!」

 

 

そして、集まって来た兵士達に其れだけ言うと、レイジングハートから直射砲を放って、兵士達を一撃で鎧袖一触!!其の力の差は圧倒的であり、一騎当千と言うのは此の事だろう。

 

 

「完全に悪役ですね、なのはさん?」

 

「魔族の血を引いている時点で、私は悪役全開だ。ならば、悪役らしいやり方でやらせて貰うだけだ。寧ろ、悪役上等だ。私は魔神とも言うべき存在だからな。」

 

「魔神ですか……確かにそうですね。では、連れて行って下さいなのはさん。貴女が今いる場所に。」

 

「あぁ、確り捕まっていろクローディア。」

 

 

クローディアを女王宮から連れ出したなのはは、デュナンに対して盛大な宣戦布告をすると共に夜の闇へと消えた。

 

十年の時を経て再会したなのはとクローディア……この時から歴史は動き、新たな物語が紡がれていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 




補足説明


イェン

此の世界でミラと同じ位に信頼されている通貨で、為替レートは1ミラ10イェンと言った所。
1イェン、5イェン、10イェン、100イェン、500イェンの5種類の硬貨と、1000イェン、5000イェン、10000イェンの3種類の紙幣で構成されている。



レイジングハート・エクセリオン

なのはの相棒であるインテリジェントデバイス。
原作とは違い、待機状態は存在せず、常にエクセリオンモードの形態でいる。原作よりもちょっと辛口になるかも。


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Chapter2『反逆者の拠点に舞い降りた白翼』

私達は反逆者だ。Byなのは     理不尽と不条理への反逆ですねByクローディア


グランセル城からクローディアを連れ出したなのはは、クローディアを抱えたまま新月の、星明りしかない夜空を飛んでいた――デュナンが追跡命令を出してもなのはを見つける事は困難だっただろう。

なのはは黒いバリアジャケットを纏って、夜空に完全に同化していた訳だからな――クローディアは白を基調とした服を着ていたが、人一人分の大きさと言うのは、存外夜空では目立たないモノなのでこれまた見つかり辛いのだ。

なので、城を襲撃してから十分後には、なのはとクローディアは完全にリベールの領空から離脱していた。

 

 

「この姿勢、辛くはないかクローディア?」

 

「いえ、大丈夫です。

 辛いどころか、貴女に抱えられていると言う事に安心感を感じますよなのはさん。」

 

「そうか……ならば良かった。

 もう少しだけ、夜の空中散歩を楽しんでくれ――後二十分もあれば、私達の拠点に到着するからな。」

 

 

新月の夜なので月明りはないが、だからこそ逆に星の明かりが映える夜空をなのははクローディアを抱えて飛び、そしてなのはが組織したリベリオン・アナガスト・アンリゾナブルの拠点に向かって居るのだ。

月は無くとも、星が瞬く夜空と言うのも良いモノである。

 

 

「『私達』と言う事は、なのはさんは一人ではないのですか?」

 

「あぁ、私には仲間が居る。

 私と同じように、世界の理不尽、不条理に晒された者達がな……十年前のあの日、お前と会った事で私は私がなすべき本当の事を見付ける事が出来た。これから向かうのは、その始まりとなる場所さ。」

 

 

其れから程なくして、なのははリベリオン・アナガスト・アンリゾナブルの拠点に到着し、お姫様抱っこしていたクローディアも地面に下ろし、クローディアも周辺を確認して、何処に連れて来られたのかを把握しようとする。

 

 

「此処は、岩山?此処がなのはさん達の拠点……ですか?」

 

「こんな荒れた岩山が拠点と言うのは解せないか?

 だが、此れはそう見えているに過ぎん……其れにオカシイと思わないか?光源の一切ない新月であるのに、如何してお前は此処を『岩山』だと認識出来ている?」

 

「……そう言えば、何故でしょうか?光源はないのに、此処は明るい?」

 

「答えは、こう言う事だ。」

 

 

なのはが指を鳴らすと、山肌がグニャリと歪み、そして金属製の大きな扉が現れた――此れには、クローディアも驚き、思わず口に手を当てて固まってしまった。誰だって、目の前の景色が歪んだ次の瞬間に全く別の景色が現れたら驚くだろうがな。

 

 

「拠点の入り口付近には特殊な結界が張られていてね、外見的には只の岩肌にしか見えていないんだ。言うなれば『ステルス迷彩結界』かな。

 此処が明るかったのも、結界自体が一種の照明になっているからでね――しかもこの明かりは1m先までしか届かないから、遥か遠くから此処が見つかると言う事は先ずない。」

 

「登山客が此処に来る事もあるのではないのですか?」

 

「その点も問題はない。

 此の拠点の入り口があるのは断崖絶壁3000mの岩場の上だから……そしてこの山の岩肌は杭が打ち込めない程に硬い岩盤で出来ている上に、岩肌の表面は1mmの突起もない位につるつるだから、空を飛ぶ手段でもなければ此処に到達する事は出来ん。私は飛べるし、拠点には空陸両用車もあるから問題ないがな。」

 

 

リベリオン・アナガスト・アンリゾナブルの拠点は可成りトンデモない所にあったらしい……そして、車は空陸両用車って、可成りぶっ飛んでるな?昼間、璃音を連れて来た時も、途中からは実は空を飛んでいたと言う訳だ。

 

 

「改めてクローディア、ようこそ我がリベリオン・アナガスト・アンリゾナブルに。此処がお前の新たな生活の場だ。」

 

「はい、改めまして……此れから宜しくお願いします、なのはさん。」

 

 

なのははクローゼの手を取ると、荘厳な金属製の扉を開けて拠点の中に――黒き星と白き翼が、反逆者の拠点に揃った、その瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter2

『反逆者の拠点に舞い降りた白翼』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

扉を開けた先にあったのは、広いロビーだった。

其処にはソファーと机が完備され、ラウンジを思わせるカウンターが存在し、ブロンズ像や絵画と言った調度品の他、グランドピアノまで揃えられている――しかも、其れ等はグランセル城にあるモノと遜色ないレベルの一流品だ。

 

 

「なのはさん、此れはドレも一級品の物では……?」

 

「私は、如何も凝り性な所があるみたいで、どうせやるならば徹底的にやらなくては気が済まんらしい……故に、これ等の物も一級品で揃える事になってしまったよ。

 岩山の洞窟を改造して造った拠点も、ライフラインを整えるだけじゃなくて、皆が快適に、そして楽しく過ごせるように家具や調理器具も徹底的に揃えていった結果として全て一級品になってね。

 まぁ、洞窟をこの様に造り変えるのは簡単ではなかったけれど、内装を如何しようかとか考えての作業は楽しかったかな。

 其れに、私と同じような理不尽で不条理な目に遭った者達の為と思えば、苦労も苦労ではなかったさ。……此の拠点を整備するのに消えたミラが十桁になったと言うのは、少し予想外だったが。」

 

「なのはさん……頑張ったのですね。」

 

「……あの時、お前と出会っていたからこそ出来た事だよクローディア。

 お前と出会わなかったら、私はどす黒い復讐心に身を焦がし、その衝動のままに力を求め、そして無差別に復讐と言う名の殺戮を行っていただろう……お前の優しさに触れた事で、その復讐の炎は大きく治まった――しかし完全に鎮火した訳ではなく、復讐すべき相手には復讐するがな。」

 

「己に理不尽で不条理な事をした相手に因果を応報させるのは、当然の権利ではないでしょうか?

 無差別な八つ当たりはダメですが、真に復讐すべき相手に復讐の牙を剥くと言うのは、決して間違ってはいないと思いますよ。」

 

 

ロビーで軽く言葉を交わしたなのはとクローディアだったが、この僅かな会話でなのはは益々クローディアに好感を抱いた。

十年前に『種族の違いが助けない理由にはならない』と言った少女が、『真に復讐すべき相手に復讐するのは間違いではない』と言ったのだ……世の中は綺麗事だけではやって行けないと言う事を理解しているのだ。

だが、其れも当然かもしれない……アリシア前女王が急逝してから、実に三年もの間、クローディアは不当な幽閉生活を強いられていたのだから、『人の醜さ』って言うのを知るには充分な時間だったのだろう――その『人の醜さ』を知る切っ掛けになったのが、血縁関係にある叔父だったと言うのは皮肉極まりないが。

 

 

「ふ……益々お前の事が好きになったよクローディア。

 先ずは仲間達を紹介しよう。此処に来る前に通信を入れておいたのでな、大広間に集まっている筈だ――若しかしたら、お前を歓迎する用意をしているかもな。」

 

「此のロビーでも驚きましたが、大広間もあるんですか?……此処は最早、岩山を改造して造られたお城ですよ。」

 

「言い得て妙だな。」

 

 

ロビーから大広間に向かう廊下も、岩肌はつるつるに磨き上げられ、壁には銀製の調度品が飾られ、天井には導力を使った照明が使われて廊下全体を明るく照らしているのだ……此処だけを切り取って見せたら、誰も此処が岩山の洞窟とは思うまい。

唯一、一般的な城と違うのは、一般的な城が最上階に王の間があるのに対し、リベリオン・アナガスト・アンリゾナブルの拠点は、最下階に主の間が存在していると言う事だろう。

 

ロビーから大広間に到着し、なのはが大広間の扉を開けると……

 

 

「おかえりなさいませなのは様。そして、ようこそいらっしゃいましたクローディア皇女殿下。」

 

 

其処にはクリザリッドをはじめとしたリベリオン・アナガスト・アンリゾナブルのメンバーが全員揃っており、テーブルの上には料理と飲み物が――なのはの予想通りにクローディアを歓迎する準備は出来ていたようだ。

 

 

「ふ、準備が良いなクリザリッド?」

 

「なのは様が、リベールの皇女殿下をお連れすると言うのならば、此れ位のもてなしはしなくてはなりますまい……蟹だけは準備段階でシェンの馬鹿野郎が全部喰い尽くしてくれやがりましたので無くなってしまいましたが。」

 

「あぁ?パーティ用だって言わねぇのが悪いんだろうが!良い感じに茹でられた蟹が目の前にあったら喰うだろ!蟹が『俺を喰ってくれ』って言ってたんだよ!!」

 

「喰わぬわ馬鹿者!其れと、都合の良い幻聴を聞くな!早々手に入らない高級食材を一人で食い尽くしよってからに!

 其れも充分に許せない事ではあるが、其れ以上に貴様の様なチンピラが、なのは様を呼び捨てするのが許せん!!」

 

「こちとらなのはとはガキ頃からの付き合いで、俺にとっちゃ妹みてぇなモンなんだよ!其れを呼び捨てにして何が悪いってんだ、このモケモケ野郎!!」

 

「モケモケとは、このコートの羽根飾りの事か?……貴様、死にたいようだな?良いだろう、我が力を目に焼き付けて死ぬが良い。」

 

「喧嘩上等だこら!!」

 

「……喧嘩はダメ。」

 

 

 

――ドッガーン!!

 

 

「何だとぉ!?」

 

「こんな筈はぁぁぁ!!」

 

「……任務完了。」

 

 

其処で、クリザリッドとシェンが不穏な空気になったが、其処にレオナがイヤリング型小型爆弾を投げ込んで、両者を仲良く(?)爆破した事で喧嘩にはならなかった。

そして、爆弾を喰らってKOはされても死んでないクリザリッドとシェンの頑丈さは大したモノだと言えるだろう。

 

 

「レオナ……今のは良い止め方だったぞ。」

 

「貴女がバスターでこの二人を止めるは何度も見ていたから。口で言って止まるシェンとクリザリッドではないから、物理的に止めるだけ。」

 

「其れはとっても正しいぞレオナ。シェンとクリザリッドは物理的に止めんと止まらないからな。」

 

 

この爆弾攻撃を喰らっても、数秒後にクリザリッドとシェンは復活し、そして改めてクローディアにリベリオン・アナガスト・アンリゾナブルのメンバーを紹介して、クローディアも自己紹介をして、その後は盛大な宴が始まり皆が心行くまで楽しんだ。

 

その宴の最中……

 

 

「クローディア、此れからお前は私達と共にある訳だが、此処で誓いを交わさないか?」

 

「誓いですか?」

 

「そうだ、此れから先何があっても私はお前を、お前は私を決して裏切らないと言う誓いだ。此れは、魔族の誓いの儀によって執り行う事で、その誓いに背くのは、其れ即ち『死』を意味するのだがな。」

 

 

なのはは、クローディアに魔族式の誓いを交わす事を提案する――其れは何があっても決してお互いを裏切らないと言う誓いだ。魔族式の誓いを破ったら、その先に待っているのは『死』と言う結果だ。

魔族は、『闇に生きる邪悪な種族』だと思われているが、実は『約束』と言う事に関しては人や神族よりも重要だと考えている所があり、約束を違えるのは、魔族に於ては最も唾棄する行為だとされているからね。

 

 

「互いに裏切る事だけは絶対にしない……その誓い、此処で交わしましょうなのはさん。」

 

「お前ならばそう言ってくれると思っていたよ――リベールでは二十歳未満の飲酒は厳禁だった筈だが、此処ではそんな物は関係ないからな。

 此の酒の入った杯を、お前に渡す。」

 

 

そう言ってなのはから渡された杯を持ったクローディアは驚いた――渡された杯は、長く持って居られない程に熱かったから……そして其れは、杯に注がれている酒がそれ程までに熱せられていると言う事だから。

『此れを飲めと言うのか?』と言う思いがクローディアの中に湧き上がるが、だがしかしその想いを押し留めて彼女は火のように熱くなった酒を一気に煽った。熱い酒を冷ましてから飲むと言う野暮な事は出来なかったから。

そして、そんなクローディアを見たなのはも、口元に笑みを浮かべると火の様な熱い酒を一気に飲み干す。

 

 

「ふぅ……父が、他の魔王であるアーナス、ルガール、悪魔将軍と同盟を結ぶ時にやっていたのを真似してみたが、これ程までに熱した酒と言うのは一種の凶器ではないだろうか?喉が焼けると思ったぞ……」

 

「此れは、キツイですね……ですが、だからこそ此の誓いは破る事は出来ないのかもしれません。」

 

「かもな……こんな思いをしてまで誓った事を破ったら、其れこそ殺されても文句は言えないだろうからな……だが、此れで契約はなった。私は、何があってもお前の事だけは、絶対に裏切らないよクローディア。」

 

「其れは、私もですなのはさん。」

 

 

その後も盛大な宴は続き、クローディアはリベリオン・アナガスト・アンリゾナブルに迎え入れられた。

宴の最中に、リベリオン・アナガスト・アンリゾナブルの主要メンバーである、クリザリッド、シェン、サイファー、アルーシェ、レオナ、そして本日加入した璃音との顔合わせを行い、宴は終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

そして翌日、なのははクローディアを、拠点内にある『散髪からパーマまで引き受けるサロン』に連れて来ていた――幽閉生活を強いられていた影響で、真面な手入れが出来ていなかったのか、大分傷んでいたのでクローディア本来の髪の美しさを取り戻そうとなのはは考えたのだろう。

因みにサロンで働いている美容師も、『腕の良さを先輩美容師に妬まれて、有りもしない罪をでっち上げられて解雇されて行き場のなくなった者』、『新しく出来た店に嫌がらせをされた挙げ句に事実無根の悪評を流されて店が潰れて路頭に迷って居た者』、『性的マイノリティーを理由に何処にも雇って貰えなかった者』等、これまた理不尽な理由で職を失った者達なのだが、そんな彼・彼女達をなのはが連れて来たのだ。

 

 

「いらっしゃいませなのは様、本日はどのような御用件で?」

 

「彼女の髪を手入れしてやって欲しい。長い幽閉生活で碌に手入れが出来ていなかったのか、大分傷んでいるのでね……彼女本来の美しい髪に戻してくれるか?」

 

「勿論。髪は女性の命ですから、精魂込めて調髪させて頂きます。」

 

「よ、宜しくお願いしますね?」

 

「では此方に。

 なのはさまも、宜しければ髪の手入れをして行きませんか?」

 

「いや、私はまだ良い。最近は髪が傷む様な事もしていないからな――其れよりも、彼女の方に集中してやってくれ。私は、部屋の外で待たせて貰うよ。」

 

「畏まりました。」

 

 

美容師に用件を伝えると、なのははサロンの外で待つ事に……ただ待っているのも暇なので、読書をする事に。

読むのは『Legendary Dark Knight SPADA』――二千年前に起きたとされている、人と悪魔の戦いを描いた壮大な物語であり、悪魔スパーダが人の優しさを知って正義の心に目覚め、逆に悪魔の軍勢に人と共に立ち向かい、悪魔の軍勢を打ち倒し、そして魔帝をも滅ぼして人の世を守り、そして悪魔の世界を平定して、現在の『魔界』の礎を造ったと言うモノだ――今現在の魔族が、破壊と殺戮を好む悪魔とは異なる闇の住人となったのは、スパーダが魔界を作り、其処に法を作り、知恵のある悪魔に『正義の心』を教えたからだと。

 

なのははこの物語が好きだった……邪悪な存在である悪魔のスパーダが、人の優しさに触れて正義の心に目覚めると言うのが、人の優しさを知って道を誤らなかった自分に重なっているのかも知れない。

 

そして待つ事三十分。

 

 

「お待たせしました、なのはさん。」

 

「終わったか。」

 

 

髪の手入れが終わったクローディアがサロンから出て来たのだが、髪の手入れが終わったクローディアに、なのはは思わず目を奪われた。

背中まであった長い髪は、ショートカットになっているのだが、其れが逆にクローディアの魅力を引き立てている――ショートカットと言うのは、ボーイッシュな印象を与えるモノだが、クローディアの場合はボーイッシュにはならず、寧ろ女性としての魅力を際立たせているのだ。

 

 

「此れは、随分と大胆な事をしたモノだな?」

 

「毛先が大分傷んでいたとの事なので、思い切ってバッサリ行ってみました。

 其れに、髪型も変われば印象も大分変るので、私がグランセルから居なくなったクローディアだとバレる可能性も低くなりますから――それと、髪型を変えるだけではなく、私は此れから『クローゼ』と名乗る事にします。クローディアと言う名前のままでは正体がバレてしまいますので。」

 

「成程、確かにな……クローゼか、良い名だな。」

 

「『クロ』ーディア・フォン・アウスレ『ーゼ』の最初と最後を繋げて、クローゼです。親衛隊のユリアさんが付けてくれた愛称ですが、ユリアさん以外に私をその名で呼ぶ人は居ないので、早々バレる事はないと思います。」

 

「ふむ……だが、そうなるとアウスレーゼとは別の性も必要になるか――では、『リンツ』と言うのは如何だ?『クローゼ・リンツ』と言うのは語感も良いと思うが。」

 

「良いですね。其れでは、私は本日よりクローゼ・リンツと名乗る事にしましょう。」

 

 

大胆に髪型を変えただけでなく、己の素性がバレるのを防ぐために名を変えると言う事までしてくれた――クローディア改め、クローゼは割と大胆な部分もある様だ。

でもって、髪を整えた後は服も幽閉生活を送っていた時の物から、白と菫色を基調とした物に着替えた……なのはが、クローゼを幽閉生活から解放した時を見越して用意したモノだったが、此れがサイズもバッチリでクローゼに良く似合っているのだ。

 

 

「良く似合っているよクローゼ。私の見立ては中々だった様だな。」

 

「はい、サイズもピッタリなので驚きましたが、其れ以上になのはさんのセンスの良さに驚きです。――王族のドレスの華やかさと、動き易さの両方を兼ね備えた此の服は見事ですよ。」

 

「気に入って貰えたのならば良かった。

 そして、最後に……」

 

 

なのはは着替えたクローゼの髪にティアラを、胸元にブローチを飾ると、金と黒で彩られた鞘に入った、金色のグリップのレイピアを渡す。

 

 

「なのはさん、此れは?」

 

「ティアラは魔法攻撃から、ブローチは物理攻撃からお前を守ってくれるバリアアイテムだ――そしてレイピアは、お前はただ守られているだけの姫ではないだろう、クローゼ?

 レイピアだけでなく、戦術オーブメントとクォーツも用意してある……私と共に、此の世の理不尽と不条理に反逆してくれないか?」

 

「……是非もありません。此の世の不条理と理不尽への反逆、喜んで参加させて頂きますよなのはさん。」

 

「お前ならばそう言ってくれると思ったよクローゼ。

 ありとあらゆる理不尽と不条理に反逆し、そして魔族も神族も人も、種族の違いなど関係なく、誰もが平穏に暮らせる世界を作ろう――もう二度と、私と同じ思いをする者が出ない為にもな。」

 

「そうですね……全ての種が平和に暮らせる世界と言うのはお祖母様の理想でもありましたから。お祖母様の理想と、なのはさんの目指す世界は同じ物です――であるのならば、私が力を貸さない理由はありません。」

 

「……ありがとう。」

 

 

目指す世界はなのはもクローゼも同じだ――故に、其処を目指して共に歩む事に迷いはなく、白き翼は黒き星と共にこの世の理不尽と不条理に徹底的に反逆すると言う道を選んだのだ。

闇属性のなのはと、聖属性のクローゼが手を結んだと言うのは、此の世界にとっての起爆剤になるかもしれないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

クローゼが、リベリオン・アナガスト・アンリゾナブルの拠点で決意を固めていた頃……

 

 

・ロレント市郊外、ブライト家

 

 

リベールの片田舎であるロレントの郊外にあるブライト家の庭では、一組の男女が激しい組手を行っていた。

男の方の名は『草薙京』。炎を操り、千八百年前に邪神『八岐大蛇』を封じた『草薙一族』の末裔であり、草薙家の現当主である青年だ――己の実力に絶対の自信を持ち、不遜な態度を崩さないが、実は誰よりも努力家で強くなる為の研鑽は怠らないストイックさを併せ持っている。

 

女の方の名は『アインス・ブライト』――ブライト家の面々とは血は繋がっていないが、ブライト家の長女である女性で、多彩な魔法とキレのある体術の二本柱で凄まじい戦闘力を誇る戦士だ。

 

 

「おぉぉぉ……喰らいやがれ!!」

 

「穿て……ナイトメアハウル!!」

 

 

その組手も、京が『裏百八式・大蛇薙』を、アインスが『ナイトメアハウル』を放ち、そして其れが相殺して終わりを告げる事に――こんだけガンガン遣り合ってるが、京とアインスは現在交際中だったりするのだ。――交際中でありながら、ガチバトルとか大分バイオレンスなカップルだな。

 

 

「ち、引き分けか。」

 

「通常の大蛇薙ではなく、秘奥義の方の大蛇薙だったらお前が勝っていたかもな。」

 

「八神の馬鹿ならいず知らず、テメェの彼女にスパーリングとは言え、ガチの炎を浴びせる事は出来ねぇよ……武闘家としては甘いかも知れないけどな。」

 

「ふふ、私はそうは思わないぞ京。その優しさは、お前の強さでもあると私は思って居るからな。」

 

「……恥ずかしい事言うなっての。」

 

 

手加減ではないが、京がガチの大蛇薙を使わなかった事でドローだったらしい……其れはまぁ、テメェの彼女にガチの炎を浴びせる事は出来んわな。下手したら、火傷で一生物の傷を負わせる事になるからな。

京もアインスも、スパーリング後の良い感じの空気だったのだが――

 

 

「あんですってーーー!?」

 

 

其れは、家の中から聞こえて来た絶叫によって霧散してしまった。

 

 

「そんな大声を出して、品が無いわよエステル?」

 

「そ、其れはそうかも知れないけど、この記事には叫ばずには居られないわよレン!」

 

 

声の主は、ブライト家の次女である『エステル・ブライト』だ――エステルだけは、ブライト三姉妹で唯一両親と血が繋がって居るのだ。エステルに『品がない』って事を言ってくれたレンは、ブライト家の三女で元々は死神の系譜であり、エステルの純粋な魂を狩ろうとしたのだが、エステルに負けて魂を狩る事を断念して、エステルの妹としてブライト家の一員になった少女だ。

 

だがしかし、エステルが大声を出した記事と言うのは、確かにトンでもないモノだった。

記事が掲載されているのは『リベール通信』と言う、リベール王国全土で広く読まれている雑誌なのだが、エステルが目にした記事には、写真付きで『クローディア皇女が誘拐されたかもしれない』と言う事が書かれていたのだからね。

 

 

「此れが本当だったら、とんでもない事になるわよ、間違いなく。」

 

「えぇ、確実に一波乱あるでしょうね。」

 

 

そして、其れを読んだエステルは、そう遠くない未来に、確実に『何か』が起きるであろう事を感じ取っていた――と同時に、京とアインスもその記事を読み、『近い内に何かが起こる』事を予想ししたらしい。

 

 

「一波乱でも二波乱でも上等だ。全て俺の炎で焼き尽くしてやるぜ。」

 

「ふ、頼もしいな京。」

 

 

其れが何時になるのか分からないが、しかし決して年単位で遠い未来ではないだろう――反逆の狼煙は、少しずつ、しかし確実に上っている様だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter3『拠点の平和な日常と、新たな戦力探し』

反逆の為には仲間を集めねばなByなのは     反逆するには戦力が必要ですからねByクローゼ


・リベール王国・ロレント市の郊外のブライト家

 

 

エステルが持って来たリベール通信の記事には皆が驚愕したのだが、実にタイミングよく朝食の時間になったので、其処で京達の話は終わったのだが、朝食後のブライト家の庭には、肩までの伸びた黒髪と、立派な髭、そして東方の着物を彷彿とさせる服を纏った男と、短めの茶髪で口元に髭をたたえた男が対峙していた。

黒髪の男の名は『草薙柴舟』。草薙家の前頭首であり、京の父親で武闘家としては一流の実力の持ち主なのだが、京は其れ以上の実力の持ち主だったため、京からは『親父も大した事ねぇな』とか言われちゃってる哀しい親父だ。……口では生意気言ってますが、京は柴舟の事が嫌いな訳じゃないけどね。

 

対する茶髪の男は『カシウス・ブライト』。嘗てはリベール王国軍に所属していた軍人で、現在は凄腕の遊撃士として活躍しており、娘達からは当然として、どんな時でも不遜な態度を崩さない、『俺様』な京からも慕われていると言う凄い親父だ。基本的に敬称を付けない京が『カシウスさん』って呼んでる時点で大分凄いわ。

 

 

「いやはや、此れはまた大変な事になりましたなカシウス殿?」

 

「よもや皇女殿下が誘拐されるとは……一体ドレだけ城の警備が甘かったのか。其れを糾弾せずには居られますまい。」

 

「うむ、確かに其の通りなのだが、この写真を見て何か気付きませんかなカシウス殿?

 見出しは『皇女殿下誘拐?』とありますが、この写真を見る限り、皇女殿下は殿下を攫った賊の首に手を回している様に見えましてな……もし、本当に殿下が誘拐されたのだとしたら、殿下は意識を刈り取られている筈なので、こんな体勢にはなりますまい。」

 

「柴舟殿も気付かれましたか、確かに、クローディア皇女殿下が意識を刈り取られていたのならばこんな体勢にはならないでしょうな。

 いや、仮に意識を刈り取られて居なくとも、本当に誘拐されたのであればもっと抵抗しようとする筈……にも拘らず、この写真の殿下は、己を攫おうとする者に抵抗している様には見えない。寧ろ、安心して己の身を委ねている様にすら見えますからな?

 其れを考えると、殿下を抱えている女性は、殿下の顔見知りであり、誘拐と言うよりも幽閉状態にあった殿下を解放しに来たと言うべきでしょう。」

 

「この記事から其処まで読み取るとは、流石ですなカシウス殿。」

 

 

そして、柴舟もカシウスもこの記事を読んで、今回の事が只の『皇女誘拐事件』ではない事に気が付いた様だった――カシウスは柴舟よりも更に先を読み、なのはが幽閉状態にあったクローゼを助けに来たと言う事にまで考えが及んだようだ。

流石は元王国軍の軍人で、退役前は将軍に次ぐ地位に在籍していた事もあり、物事の本質を見極める能力は極めて高いと見える……現実に、カシウスが軍に在籍していた時に、その能力を駆使して隣国からの軍事的侵攻を事前に喰い止めたり、国内で計画されていたテロ活動を潰したりしていたのだから。――カシウスが退役していなかったら、デュナンが行ったクーデター紛いの強引な王位継承も止められたのではないかとすら言われているのである。

 

 

「ハッ、其れ位読み取るのは当然だろ親父?

 俺やエステルですら、その写真を見て『翼が生えた女は、皇女様の知り合いで、皇女様を助けに来た』って事に気付いたんだぜ?カシウスさんが気付かねぇ筈ない

 だろ?……つか、そんな事も分からねぇとは息子として情けないぜ。」

 

「き、京!わ、ワシだって気付いとったわ!カシウス殿に先に言われてしまっただけだわい!!」

 

「いや、そんなに動揺すると逆に怪しいぜ親父?本当に気付いてたんならもっと堂々としてろよな?そんなに動揺すると、『やっぱり気付いてなかったんじゃないか』って思われちまうぜ?」

 

「ぐぬぬぬぬ、相変わらず生意気な!!武術大会で二連覇したからって、思い上がるなよ京!!」

 

「おーい、今度はお前が相手してくれよエステル!一本やろうぜ。」

 

「無視かーーー!!!」

 

 

そして逆に憐れなり柴舟。実の息子にサラリとディスられた上に、これまたサラッと無視されてしまったからな……誤解のないように言っておくと、柴舟の実力は決して低くなく、寧ろ中ボスクラスの強さなのだが、京の強さは其れ以上で、更に家では妻の静の尻に敷かれている状態な上に良くふらりと居なくなり、月単位で帰ってこない事もあるので、京からすると『尊敬出来る父親』と言うモノではないらしい――其れを言ったら、カシウスも妻のレナには頭が上がらないのだが、イキナリ居なくなる事はないからなぁ。

 

 

「柴舟殿、お互いに父親と言うのは大変ですなぁ……私も何度エステルに『此の極道親父!』と罵倒された事か。」

 

「ですが、エステルさんは心の底ではカシウス殿を慕っておられるではありませんか!京の奴は、ワシに対して敬意とかそう言うの一切ないんですぞ!?

 確かにワシは、真の大蛇薙も、無式も会得はしておらなんだが、其れでも草薙の歴代頭首の中ではトップクラスの実力者と謳われておるのに……そもそも、真の大蛇薙と無式の両方を会得した者など、長い草薙家の歴史でも京だけでありましてなぁ!!」

 

「柴舟殿……彼は類稀な天才と言う事で諦めましょう。天才と言うのは、得てして性格が捻くれていると相場が決まってます故に。」

 

「だとしても、だとしても、カシウス殿には敬意を持って接していると言うのが父親としてなんだかとっても納得出来ない!何故だ、何故だ京ーーーーー!!!!」

 

 

親父と言うのは、中々にして肩身の狭い生き物の様である。

特に柴舟は、京に実力で越えられて居ると言うだけでも可成り凹み案件なのだが、実の父である自分よりもカシウスの方を慕っていると言うのは凹むを通り越す事実だろう……逆に言うと、カシウスと言う人間は、其れだけ人間的に魅力的って事なんだろうけどね。

そして、絶叫した柴舟には、京が『暴走した八神みたいな絶叫してんじゃねぇ。』と、草薙流踵落とし『轟斧 陽』を叩き込んでKOした!……親父よ、強く生きてくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter3

『拠点の平和な日常と、新たな戦力探し』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・リベリオン・アナガスト・アンリゾナブルの拠点

 

 

クローゼが新たに加入したリベリオン・アナガスト・アンリゾナブル(以降『リベリオン』と表記)だが、しかしすぐに何か行動を起こすと言う事はせずに、拠点では訓練場でのスパーリングや、サロンでの髪の手入れ、温泉で一息入れたりと各々が自由に過ごしている。(リベリオンが拠点にしている岩山は、五百年ほど前に噴火した火山であり、山のふもとには多くの温泉が湧き出しており、拠点ではその源泉を引いた温泉施設がある、序に、サウナも。)で、リベリオンのリーダーのなのははと言うと――

 

 

「其れでは、今日はお待ちかねの魔法の勉強の続きだ。」

 

「「「「「「「「「「わーい!」」」」」」」」」」

 

 

子供達を相手に、魔法の授業を行っていた。

この子供達も、戦争で親を失ったり、悪魔によって親を殺されたり、ライトロードにって家族を喪ってしまった『理不尽な目に遭ってしまった』子供達だ――そう言った子供達は、通常は孤児院に預けられるのだが、全ての子供が孤児院に入れる訳ではなく、定員や事情によって受け入れを拒否されてしまった子供達を引き取って、なのはは生きる術や戦う術を教えながら育てているのだ。

 

 

「さて、それでは前回のおさらいからだ。

 魔力と言うモノは、魔族、神族、人と種族に関わらず全ての者が持っているのだけれど、人は魔族や神族と比べると魔法を使える者は非常に少ない。其れは、何故だった?」

 

「はい!

 人は魔族や神族と違って、魔力を魔法として使う為に必要な『リンカーコア』を持ってる人が圧倒的に少ないからです!」

 

「正解だ。

 では、リンカーコアを持たない人が、魔法を使うには如何すれば良いんだっけ?」

 

「はい!其れは、戦術オーブメントを使う事です!

 戦術オーブメントを使えば、リンカーコアがなくても『アーツ』と言う形で魔法を使う事が出来ます!そしてその場合は、戦術オーブメントに装着するクォーツで、ドレだけ強いアーツが使えるかが決まって来ます。」

 

「そうだ。戦術オーブメントを介して使えるようになるアーツは、組み込むクォーツの質が高ければ高い程強力なアーツが使える様になる。」

 

 

で、本日行っているのは『魔法』に関する授業らしい。

魔力と言うモノは、誰もが持っているが、其れを魔法として使うには『リンカーコア』と言うモノが必要で、魔族と神族はリンカーコアを持って生まれて来る事が、略100%であるのに対し、人がリンカーコアを持って生まれてくる確率は0.01%以下と、魔法が使える人と言うのは可成りのレアなのだ。――実は、ブライト家のアインスとエステルは、激レアな『魔法を使える人間』だったりするのだが。

 

 

「だが、戦術オーブメントを使う以外にも、リンカーコアを持たない者が魔法を使える様になる方法がある。其れが『精霊と契約する』と言う方法だ。

 此れは、契約した精霊と同じ属性の魔法しか使えないと言う制約がある代わりに、その属性の魔法に関しては、先天的に魔法が使える者や、アーツを使う者を遥かに上回る力を発揮出来る。」

 

 

授業は進み、戦術オーブメントを使う以外の方法で、リンカーコアを持たない者が魔法を使う方法として、『精霊との契約』があると言う事を教え、そして夫々の属性の精霊の性格的な特徴を教えて行く。

『炎は直情的な激情家』、『水(氷)は冷徹な断罪者』、『風は温厚な自由人』、『地は寡黙な守り人』、『光は残酷なロマンチスト』、『闇は無邪気な殺戮者』……これが精霊の主な特徴だ。水(氷)と闇が若干恐ろしいな。

 

 

「精霊と契約する場合、契約する精霊と己の先天属性が同じ場合や、精霊の属性が自分の先天属性に対して相生の関係であった場合はより強い魔法を使う事が出来るが、相克の関係であった場合は其の力は半減するから注意が必要だ。

 精霊と契約する場合は、先ずは己の先天属性を知らねばだ。」

 

「なのは先生、自分の先天属性って知る事が出来るんですか?」

 

「あぁ、出来るよ。

 戦術オーブメントを使う事になるが、水が入ったグラスに戦術オーブメントを介して魔力を送り込む事で、グラスの水がどう変化したかを見るんだ。

 『水の温度が上がれば火属性』、『水の温度が下がった、又は水が凍った場合は水属性』、『水の表面が動いたら風属性』、『水が濁ったら地属性』、『水が光ったら光属性』、『水が黒く染まったら闇属性』だ。」

 

「なーるほど!」

 

 

なのはの授業は分かり易いモノで、此の授業を見て居たクローゼも、なのはの教え方の旨さには感心していた――ともすれば、なのはの教え方の巧さと言うのは、リベールが世界に誇る学習機関である『ジェニス王立学園』の教師をも凌駕していたのだから。

まぁ、なのはもなのはで、『子供は、キチンと教えてやれば、その分だけ身になる』と考えているので、子供達の指導にはつい熱が入ってしまうのかも知れないが。

 

 

「其れでは、今日は此処まで。」

 

「「「「「「「「「「先生、ありがとうございました。」」」」」」」」」」

 

 

本日の授業も終わり、子供達は此れから自由時間だ。

岩山の洞窟を改造して作られた拠点ではあるが、子供達が退屈しないように娯楽施設もバッチリ整備されており、ボーリング、カラオケ、カードゲームやボードゲームが出来るフリースペースと、可成り考えられている様だ。

 

 

「子供達の教育までしているとは、大変ですねなのはさん?」

 

「確かに少し大変ではあるが、此れもまた未来の為に必要な事だからね。

 あの子達は、私達の次の世代を担う事になる存在だから、其れを確りと育てて行かなければならないだろう?私達が目的を達成し、理想の国を作っても、其れを次ぐ者達が育っていなければ、その国を存続させる事は出来ないからな。」

 

「確かに、その通りですね。」

 

 

子供達の教育に熱が入るもう一つの理由として、『子供達と言うのは、此の世界の未来を担う存在だから』と言うのもある様だ。

確かになのはの言うように、次の世代を任せる為にも子供達の教育は必要不可欠なのだ――なので、保護した子供達には、様々な知識や戦い方、人との交渉の方法と、分野を問わずに教えていると言う訳だ。

序に言うと、なのはは持論として『欠点を補ってる暇が有ったら、長所を伸ばす事に努力しろ』と言う考えがあり、子供達も得意分野を伸ばすように育てていたりする。

なのは自身も、欠点に目を瞑って長所を伸ばした結果、遠距離砲撃型でありながら近距離型の前衛を必要としない『単騎で戦える遠距離砲撃型』と言う、他に類を見ない戦闘スタイルと確立している訳であるし。

 

 

「話は変わるがクローゼ、お前は精霊を宿しているんじゃないのか?

 其れも、魔法を使う為に後天的に契約した精霊ではなく、生まれながらにその身に宿していた先天的な精霊が。」

 

「分かるんですか?」

 

「あぁ、分かる。

 先天的に精霊を宿している者は、自身の魔力の他に精霊の魔力もその身に宿しているから、言うなれば一つの身体から二人分の魔力を感じるからね……と言っても、其れが分かるようになったのは此処二~三年の事だけれどね。」

 

 

此処でなのはは話題を変え、クローゼに『精霊を宿しているんじゃないか?』と聞いて来た。クローゼは肯定こそしなかったモノの『分かるんですか?』と聞いたのを見る限り、精霊を宿しているのは事実なのだろう。……クローゼの魔力だけではなく、クローゼが宿している精霊の魔力まで感じ取れるなのはも凄いと思うが。

 

 

「お前の魔力の大きさから考えると、その精霊は相当に強い力を持っている筈なのだが……お前から感じる精霊の魔力は極めて小さいのが少しばかり気にはなるけれどな。」

 

「……実は、私に宿っていた精霊は途轍もなく強力で、ともすれば私自身を喰らって暴走してしまう程に強かったんです。

 なのでお祖母様が、その精霊を五つに分解した上で石板に封じ、当時の女王親衛隊に命じてグランセル城の地下と、リベール各地にある『四輪の塔』に封印したらしいんです。

 私の中に残っているのは、精霊の核だけなので弱い魔力しか感じないのかもしれません。」

 

「前女王陛下が危惧して封印する程の精霊とは……今もまだ、其の精霊を自分の力で制御する事は出来ないのか?」

 

「いえ、アーツを学ぶのと並行して、私の魔力を精霊のコアに馴染ませて来たので、今の私なら制御する事は出来ると思います……封印の解き方も、お祖母様が亡くなる前に教えてくださいましたし。

 ですが、余りに強い力なので滅多な事では使いたくないと言うのが本音ですね。」

 

「強過ぎる力は、新たな争いの火種になり兼ねないからな……と言うか、其れだけの強力な精霊を五つに分解するとは、前女王陛下も中々に凄いお方だったのではないか?精霊を分解する等と言う話は、十九年間生きて来て初めて聞いたぞ?」

 

「お祖母様は、武術の心得はありませんでしたが魔術、特に『封印系』の魔術には長けていましたので……」

 

 

……如何やら、アリシア前女王陛下も中々どうして凄いお方だったらしい。恐らくだが、クローゼの精霊の力をある程度封じた上で、分解して封印したのだろう。

だが、其の精霊は今のクローゼならば制御出来るとの事なので、いざと言う時の切り札にはなるだろう――果たして、此の可憐な美女が宿している精霊はどのような姿をしているのか気になる所ではあるが、其れは封印を解かれて召喚されるまで楽しみにしておこう。

 

 

「それにしても、戦術オーブメントと言うモノは、如何して種類があれ程豊富なのだろうか?クローゼに渡したモノの様に、1ラインのモノだけあれば事足りるだろう?」

 

「確かに1ラインの戦術オーブメントならば強力なアーツを組む事が出来ますが、強力なアーツを使うにはそれ相応の魔力が必要になるんですが、そうなると保有している魔力が少ない場合、ラインの最後まで魔力が届かずにオーブメントが機能しない事があるんです。

 なので、人によって使用するオーブメントは異なって来るのではないでしょうか?」

 

「アーツだろうと魔法だろうと、強力なモノを使う為に必要なのは本人の魔力の大きさと言う訳か。

 時にクローゼはドレだけのアーツが使えるんだ?クォーツも可成り上等なモノを用意したが……」

 

「1ラインで、用意して頂いたクォーツも最上級レベルでしたので、クォーツを入れ替えれば、現在までに発見されているアーツは略全て使う事が出来ますよ?」

 

「……略全てのアーツか。用意した自分で言うのも何だが、凄いな。」

 

 

その後も、こんな感じで話をしながら、そろそろ昼時なのでなのはとクローゼは食堂でランチに。

食堂で働くスタッフもまた、サロンのスタッフ同様に、『腕は一流だが、理不尽・不条理な理由で職を失った者達』だ。中には高級レストランの料理長を務めていた者まで居たりする。――序に言うと、組織運営の資金調達の為に、『宅配食堂・翠屋』の名前でフードデリバリーをしていたりする。

 

 

「あら、レオナさんもランチタイムですか?」

 

「クローゼ、それとなのはも……そう、此れから昼食。」

 

「そうか。良かったら一緒に如何だ?」

 

「……そうする。」

 

 

なのはとクローゼは、食堂でレオナと出会い、其のまま一緒にランチを摂る事に。

本日のランチは、なのはが『海鮮あんかけ焼きそば、焼売、モズクと春雨のスープ』、クローゼが『チキンカレードリアとシーザーサラダ』、レオナが『塩ラーメンの大盛りチャーシュー抜き野菜マシマシ』である。……レオナのラーメンは丼から見えるのが野菜の山だと言うのには突っ込んではいけないのだろう。

そして、三人とも着席してランチタイムがスタートだ。

 

 

「うん、今日も良い味だな。」

 

「とても、美味しいです。お城の料理にも引けを取りませんよ。」

 

「美味しい食事は、其れだけで元気が出る。」

 

 

一流の腕前の料理人が揃っているので、この食堂の料理は一級品なのだ。其れこそ、グランセル城のお抱え料理人が作る料理にだって決して引けは取らないのである。

そんな料理を堪能していた訳だが――

 

 

「時になのはさん、仲間集めは如何する心算なのでしょう?」

 

 

此処でクローゼがなのはに『仲間集めは如何するのか?』と聞いて来た。

なのはとクローゼの目指す理想は同じだが、その理想を果たす為には現リベール王であるデュナンを打ち倒す必要がある――であるのなら、当然相応の戦力って言うモノが必要になってくるだろう。一国を相手にすると言うのは、その国が有する軍隊と戦う事になる訳だから。

 

 

「仲間集めか……其れは勿論考えているよ。

 もしも必要な仲間が集まらなかったその時は、父が同盟を結んでいた魔王達を頼ろうかとは思っている――が、其れはあくまでも最終手段だ。先ずは、自分の力で共に戦う仲間を集めなければなるまい。」

 

「アテはあるのですか?」

 

「……あると言えばある。

 リベールの王族であるお前ならば、『ハーメル村』と言う場所は知っているな?」

 

「ハーメル村……!十年前に、ライトロードによって滅ぼされた村ですよね?

 リベールの近郊で起きた事なので知っています――あの悲劇に関してはお祖母様も心を痛めていました。『軍を派遣していれば、あの悲劇が起こる事を阻止する事が出来たのではないか』と。」

 

「アレは誰にも如何にも出来ない事だったから仕方ない……よもや、あの小さな村をライトロードが襲撃するなどと言う事は誰にも予想が出来なかっただろうからな。

 だが、ハーメル村の一件には不可解な部分もある。ハーメル村が壊滅したのは確固たる事実だが、ハーメル村を襲撃したライトロードの部隊も全滅しているんだ。」

 

「襲撃をした側も、全滅ですか?」

 

「一体何が起きたのか、その真相を知る者は居ないが、ハーメル村には『鬼』を封印したと言われている、『鬼の祠』なるモノが存在して居たらしく、ライトロードの襲撃でその祠が壊され、『鬼』が封印から解放され、ライトロードの部隊を全滅させたと言う話がまことしやかに囁かれていてな。

 更にそれだけでなく、ハーメル村の住民は全滅したのではなく、本当に僅かな子供だけが生き残ったとも言われているんだ――もしもそれが真実で、生き残った子供達が、封印から解放された『鬼』に育てられていたとしら其れはとても魅力的な戦力になるとは思わないか?」

 

「『鬼』と『鬼に育てられた子供達』ですか……確かに、其れが真実であるのならば是非とも仲間にしたいですね。」

 

 

なのはも其れには目星を付けていたらしく、十年前にライトロードによって滅ぼされた『ハーメル村』の跡地に注目していた――あくまでも噂レベルの事ではあるが、ライトロードの部隊が全滅したのは事実であるので、此れ等の噂が只の噂ではないと考えたのだろう。

ライトロードの一部隊を全滅させた『鬼』の力は戦力として申し分ないし、『鬼の子供達』と言うのも間違いなく高い実力を持っていると見て間違いないだろう。

 

 

「明朝、ハーメル村の跡地に向かう予定だ。」

 

「でしたら、私もご一緒させて下さいなのはさん。理想を同じにするのであれば、仲間集めを手伝わない理由はありませんから。」

 

「勿論だよクローゼ。

 安全な場所ではないが、お前は自分の身は自分で守れるだろうからね……場合によっては戦闘になるかもしれないが、お前の剣術とアーツの腕前ならば、勝てずとも負けない戦いは出来るだろうからな。」

 

 

なので、なのはは明朝ハーメル村の跡地に向かう予定で、其処にはクローゼも同行する事になった――だけではなく、一緒にランチを摂っていたレオナが『私も一緒に行く』と言って同行する事になった。

ランチ後に、其れを聞いたクリザリッドが『私も一緒に!』と言って来たが、其れはなのはが『お前には私が留守の間、拠点を守っていて欲しい』と言うと、驚く程にアッサリと『分かりました』と退き下がった。クリザリッドにとてなのはは絶対の存在なので、なのはの言う事に意を反するって言う考えがそもそもないのかも知れないが。

 

取り敢えず今後の方針は決まったので、午後は夫々が夫々の時間を過ごす事になった――なのはは、午後は子供達に料理や裁縫を教え、クローゼはなのはをサポートしていたけれどね。

だがしかし、そのなのはとクローゼの姿は、何も知らない第三者が見たら長年一緒に居た親友のように映っただろう――それ程までに、なのはとクローゼの仲は、十年振りに再会したとは思えない程に馴染んでいるのである。

若しかしたら、十年前になのはとクローゼが出会ったのは偶然ではなく必然であったのかもしれない……なのはとクローゼは出会うべくして出会ったのだろうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

――翌日・明朝

 

 

なのは、クローゼ、レオナの三名はハーメル村の跡地に来ていた。

村の跡地にあるのは、ボロボロになった建物と、犠牲者を弔う為の小さな石碑だけだ――が、其れが逆になのはに『ハーメル村の噂』が真実だと言う事を確信させるに至った。

ボロボロの建物の中には、幾つか修理が行われて生活出来るレベルになっているモノがあるし、犠牲者を弔う為の石碑と言うのも、ハーメル村に生き残りが居ないと存在しないモノだから。

 

 

「此の石碑の存在が、ハーメル村には生き残りが居る証明だな。……だがしかし、生き残った者達からすると、私達は招かれざる客らしいな?クローゼ、レオナ感じているか?」

 

「はい……感じます、此の上ない濃密な闘気と殺気を。」

 

「囲まれている……何時襲われてもオカシク無い。」

 

 

と同時に、なのはもクローゼも、そしてレオナも己に向けられている殺気と闘気を感じていた。――隠す気がまるでない、純粋な殺気と闘気。並の人間ならば、受けただけで卒倒してしまうレベルのモノだ。

なのはとレオナは、戦いの中で生きて来たので耐える事が出来るのは当然だが、クローゼが耐えきったと言うのは見事であると言わざるを得ない。――将来的に、リベールを治める身にあったクローゼは胆力も鍛えていたのだろうな。

 

 

其れは兎も角として、なのは達は何時襲われても良い様にその場に止まって警戒を続ける……そして、其れからドレだけの時間が経っただろうか?実際に経過した時間は五分にも満たないだろうが、其れでも体感的には一時間にも感じただろう。

 

 

 

――ガサ!

 

 

 

其処で唐突に起きた物音!

其れは、藪の中で何かが動いた音であるが、其の音が藪を移動する動物が出したモノなのか、其れとも藪に潜んでいた何者かが動いた音なのかを判別するのは至難の業と言えるだろう。

 

 

「今のは?」

 

「分からない。」

 

 

経験豊富ななのはとレオナも、藪から発せられた音の正体は分からないのだ。――だが、次の瞬間!!

 

 

「ハァァァァァ!!」

 

「!!」

 

 

藪の中から何かが現れてなのはを攻撃して来た!!

なのはは咄嗟にその攻撃をレイジングハートでガードする――あと刹那遅かったら、なのははシャレにならないダメージを喰らう事になっていたのかも知れないな。

だが、此れで襲撃者の姿も露わになったのだ。

 

なのはに攻撃を仕掛けたのは、顔に大きな傷跡のある少年だった。――少年は、茂みから一気に飛び出して、なのはに得意の居合を放ったのだ。尤も、必殺の一撃はなのはに見事にガードされてしまった訳だが。

 

 

「お前、鬼の子供達か?」

 

「!!」

 

「ふ、ビンゴか。」

 

 

だがしかし、なのはが少年に問うと、少年は自ら飛び退いて、改めて剣を構える――自分の素性を言い当てたなのはの事を警戒しているのだろう。或は、なのは達を『生き残りを排除しに来た人間』だと思っているのかも知れないな。

尤も、なのはにはそんな邪で最低な考えはなく、純粋に戦力を求めてただけなのだが……此れだけの洗礼を受けたのならば、其れには応えねばならないだろう。

 

 

「ハーメル村の事は知っていたが、『鬼の子供達』が実在していたとは、正直驚きだ。

 私の目的は、お前達を仲間にする事だが、仲間にする前にその実力が如何程であるのかを知るのもまた一興――良いだろう、少しばかり遊んでやる。持てる力の全てを出して掛かってくるが良い。」

 

 

此処でなのはは、敢えて挑発的な物言いをして襲撃者を煽る、

だが、其れを聞いた少年は、激怒する事はなく、しかし冷静に状況を見極めて、なのはと如何戦うかを考えて居る様だ――それから暫くして考えが纏まったのか、少年は改めて居合の構えを取ってなのは達に向き合う。

そして――

 

 

「行くぜ?」

 

「来い!」

 

 

少年が神速の居合でなのはに切り込んだ事でバトルスタート!!

少年の放った白刃の居合と、なのはのレイジングハートが交錯して火花を散らしていて、その光景だけを見ればラストバトル的な雰囲気が満載だが、実際にはバトルは始まったばかりなので何方が優勢とは言えないが、しかし『鬼』と『鬼の子供達』に己の存在を認知させる事が出来たと言うのは大きいだろう。己の存在を認知させると言うのは、其れだけ印象に残る事でもあるからね。

 

 

「やるな少年、見事な居合だ。此れを初見で見切れる奴は早々居ないだろう――否、私も父の剣術を見ていなかったら先の一撃で両断されていたかも知れん。

 名を聞いておこうか?此れだけの実力者の名前を知らないと言うのは如何かと思うのでな。」

 

「……一夏。俺の名は『織斑一夏』だ。」

 

「一夏か、良い名だな。

 ならば私も名乗っておこう。私の名は高町なのはだ。」

 

「なのはか……アンタも悪くない名前だ。」

 

 

少しばかり強引だが、自己紹介を終えた後は再びなのはと一夏は鍔迫り合いを続け、何方が勝ってもオカシク無いバトルが展開されて行くのだった――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter4『鬼と鬼の子供達を仲間にしよう!』

鬼か……最大奥義は弱P、弱P→弱K、強PだなByなのは     そのコマンドは瞬獄殺ですね♪Byクローゼ


ハーメル村を訪れたなのは達を取り囲んだ闘気と殺気……そして其処から斬りかかってきた少年、『織斑一夏』となのはは交戦状態になり、互角の戦いを行っているのだが、なのはと共に来たクローゼとレオナはなのはに加勢出来ずにいた。

『加勢しない』のではなく、『加勢出来ない。』のだ――襲撃を掛けて来たのは一夏一人だが、彼女達を取り囲む殺気と闘気は未だあるからだ。

 

 

「気を抜かないでクローゼ。何時仕掛けて来るか分からない。」

 

「分かっていますよレオナさん。」

 

 

だからクローゼもレオナも何時仕掛けられても良い様に、なのはには加勢せずに周囲の警戒を行っていた――まぁ、加勢しないのはなのはの実力を信じてるのと、なのはが本来の戦闘スタイルではない近距離戦で互角に戦ってるからだ。

なのはは本来、遠距離砲撃型なのだが、一夏とは近距離戦で互角に戦っているので、本気を出せば負ける事はないのだ――レイジングハートを『槍』とすれば、『槍に刀で挑むには三倍の実力が必要』と言われているので、一夏の実力もハンパなモノではないのだろうけどな。

 

 

「疾!!」

 

「!!!」

 

「ハァァァ!!!」

 

「……!!」

 

 

此処で新たな存在が茂みから現れてクローゼとレオナを強襲!

クローゼを強襲したのは蒼い髪と赤い目が特徴的な少女で、其の手にした槍で突きを放ち、レオナを強襲した少女は緑色の髪と褐色肌が特徴的な少女で、まるで鞭の如くしなる蹴りでレオナを強襲する。

 

が、クローゼは槍の一撃を咄嗟の『アースガード』でやり過ごすとレイピアを抜刀して槍を弾き、レオナも得意の手刀で蹴りを止める――レオナは兎も角、実戦経験皆無のクローゼが蒼髪の少女の一撃を捌いたと言うのは驚きだ。

実戦経験は無く、ここ数年は幽閉生活を送っていたクローゼではあるが、幽閉される前は親衛隊のユリアと剣の鍛錬を行っていたし、幽閉後も女王宮内であっても出来る鍛錬は続けていたからこそ咄嗟の対応が出来たのだろう。

 

其のままクローゼは青髪の少女と、レオナは緑髪の少女と交戦状態に。

クローゼはレイピアを使った剣術とアーツ、レオナは手刀をメインにした格闘術で夫々対応していく――レオナは、緑髪の少女に力では劣るモノの、素早さで勝るので互角の戦いをしているが、クローゼの方はアーツも使っているとは言え、槍に対してレイピアと言う圧倒的不利が付く武器を使っているせいで若干押され気味と言う感じに……如何に鍛錬を続けていたと言っても、武器による不利を覆すと言うのは簡単な事ではないのだろう。

このまま続けたら、クローゼの方が先にジリ貧になってしまうが……

 

 

 

――ドォォン!!

 

 

 

「きゃあ!!」

 

 

蒼髪の少女の足元でイキナリ爆発が起きた――なのはが遠隔操作した魔力弾と、レオナが放り投げたイヤリング型爆弾が着弾したのだ。なのはもレオナも戦い慣れているだけあって、己の相手と戦いながらもクローゼの方にも意識を割いていた訳である。

 

 

「刀奈!……クソ、何時の間に魔力弾を……!!」

 

「戦闘でのマルチタスクは基本中の基本だぞ少年。

 眼前の相手に集中しつつ、だが戦場全体の状況も把握出来なくては一流とは言えない。今回の様なマルチバトルでは必須となるスキルだ、身に付けておいた方が良い。自分の為にも、仲間の為にもな。」

 

「言ってくれるぜ。」

 

 

とは言え、状況はなのは達の方が不利だろう。

数の面では、此の三人以外にもまだ姿を隠している者が居るのだから……残りの者が全員現れて攻撃してきたら、流石に拙いだろう。如何に、なのはの必殺砲撃魔法が一騎当千の破壊力があると言ってもだ。

 

 

「其処まで!!」

 

 

だが、この戦いは、突如響いた一喝によって強制的に停止させられた――一夏達が動きを止めたのは勿論として、なのは達も思わず動きを止めた。其れだけ迫力のある声だったのだ。

全員が声のした方に目を向けると、其処に居たのは全身を黒で固めた、左目の下に大きな切り傷痕のある黒目黒髪の男が居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter4

『鬼と鬼の子供達を仲間にしよう!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒いボトムズに黒いシャツ、そして背中に赤で大きく『天』と入った黒い上着……正に全身黒尽くめの男から発せられているオーラは凄まじく強く、ともすれば魔王に匹敵すると言っても過言ではなく、一般人なら此のオーラに当てられただけで気を失ってしまうだろう。……其れに当てられて、冷や汗を掻きながらも意識を保っているクローゼは、精神的に相当強いと言える訳だが。

 

 

「街に買い出しに行って戻って来たら戦いが起きているとは、一体何事だ?それと、彼女達は誰だ?」

 

「カヅさん……アイツ等、行き成り此処に現れてさ。武器を持ってたから俺達の事を殺しに来たのかと思ったんだ。――十年前に、ライトロードが来た時みたいに。」

 

「ふむ、其れで攻撃したと言う事か。

 だが、攻撃する前に彼女達の気を読むべきだったな?気を読めば、彼女達には敵対の意思がない事が分かっただろう――お前達と戦ってはいたが、しかし彼女達からは敵対の意思は感じられなかったからな。」

 

 

現れた男に問われ、一夏はなのは達を襲撃した理由を話す――如何にも、なのははレイジングハートを手にし、クローゼはレイピアを腰に差し、レオナは腰にナイフと手榴弾を搭載していたので、此のハーメル村跡地を襲いに来た相手だと思ったらしい。

其れでも『気を読むべきだった』と言われ、先走った行動だったと男に咎められてしまったが。

 

 

「隠れている者達も出て来い。彼女達に敵対の意思はない。」

 

 

男がそう言うと、茂みの中から五人の少女が姿を現す。

綺麗な銀髪をショートカットにした少女、クローゼを襲撃した少女と何処か似ている蒼髪で眼鏡の少女、一夏によく似た小柄な少女、ポニーテールにした蒼髪と蒼い目が特徴的な褐色肌の少女、長い茶髪を首の辺りで一本に纏めた眼鏡の少女だ。

 

 

「……俺の子供達が迷惑を掛けたようだな?先ずは其れを詫びよう。」

 

「いや、武器を手にしていた此方にも非はある。この村に生き残りが居ると考えた以上、少なくとも見える形で武器をもって来るべきではなかった――私達が、見た目には丸腰であったのならば、襲撃されなかったかも知れないからな。」

 

 

男は此度の襲撃について詫びるも、なのはも『自分達の方にも落ち度があった』と言い、相手の方が一方的に悪かったとは言わず、結果として『今回の事は、双方落ち度があった』と言う形で済ませる事にしたようで、男も『そう言う事ならば』と納得したようだ。

 

 

「だが、其れよりも――お前は『鬼』か?」

 

「……如何にも。

 俺は『鬼』。名を稼津斗と言うが……その名前は今や一夏達以外に呼ぶ者は居ない。俺が『鬼』となって以降、人々は俺の事を恐れ、強き鬼『豪鬼』と呼ぶようになったからな。

 まぁ、其れは良い……その問いを聞くに、如何やら俺に用があるらしいから、詳しい話を聞くとしようか?立ち話もなんだから、俺達の家に案内しよう。

 一夏、刀奈、家に戻ったら客人に茶を用意しろ。夏姫と簪は、菓子の用意を。」

 

「「「「は、はい!!」」」」

 

 

なのはの問いに、男――稼津斗は答え、己が『鬼』だと言う事を認め、詳しい話を聞く為に己が暮らす家になのは達を招く――一夏達に、『家に着いたら、茶と菓子を用意しろ』と指示を出すのも忘れずにな。

 

で、稼津斗の案内で到着したのは、ハーメル村の跡地で一際大きな建物――村がライトロードによって滅ぼされる前は、村長宅として使われていた建物だ。

此処で稼津斗達は暮らしているのだろう……村の跡地にある、修復がされた建物は、居住スペースではなく、別の目的で修復されたのかもしれないな――此れだけの大きな家ならば、九人でも充分に生活出来るだろうからね。

 

そんなこんなで、その家の応接室に招かれたなのは達の前には良い香りのする緑茶と羊羹が用意され、なのはもクローゼも、そしてレオナも迷わずに緑茶を一口飲んだ――先程まで戦っていた相手から出されたモノを迷わず飲んで見せる事で、未だ自分達に対して警戒感を露わにしている一夏達の警戒心を解こうとしたのだ。

そして、其れは効果があったらしく、一夏達の警戒心は薄くなったようだ……『あの人達、普通に飲んだわよ?』、『俺達が、一服盛った可能性もあるのに。』、『私達を油断させる為には見えない。』、『本当に、アタシ達には敵意がないみたいだな。』と言った会話が聞こえてしまったのは御愛嬌かも知れないが。

 

 

「では、改めて自己紹介をしようか?私の名は高町なのはだ。」

 

「クローゼ・リンツです。」

 

「……レオナ。」

 

 

茶を一口飲んだ所で、先ずはなのは達から自己紹介だ。名前だけを言って、此処に来た目的を言わないのは、一気に情報を出すべきではないと思ったからだろう。

 

 

「なのはに、クローゼに、レオナか。覚えたぞ。

 では、改めてこちらも……とは言っても、俺は既に名乗っているから、お前達も彼女達に名を名乗れ。相手が名乗ったのに、此方は名乗らないと言うのは無礼となってしまうからな。」

 

 

其れを聞いた稼津斗も、一夏達に名を名乗るように言う――一夏だけは、なのはに尋ねられて答えていたのだが、稼津斗に『もう一度名乗り直せ。』と言われ、もう一度名を名乗る事になったのは致し方ない事か。

 

 

「そんじゃ、改めて。俺は一夏。織斑一夏だ。」

 

「……マドカ。織斑マドカ。」

 

「私は、更識刀奈よ。宜しく。」

 

「更識簪。刀奈の妹……と言っても双子だけど。」

 

「ヴィシュヌ・イサ・ギャラクシーです。」

 

「グリフィン・レッドラムだよ。」

 

「蓮杖夏姫だ。」

 

 

一夏が改めて名乗ると、他のメンバーも己の名を名乗る。

クローゼを強襲した蒼髪で赤目の少女は『刀奈』、レオナを強襲した緑髪で褐色肌の少女は『ヴィシュヌ』、蒼髪で眼鏡を掛けた少女は『簪』、一夏によく似た小柄な少女は『マドカ』、蒼髪をポニーテールにした褐色肌の少女は『グリフィン』、長い茶髪を一本に纏めた少女は『夏姫』と夫々名乗った。

 

 

「私の名は、ロランツィーネ・ローランディフィルネィさ。以後お見知りおきを。」

 

 

最後に銀髪をショートカットにした少女が名乗ったのだが……

 

 

「「え?」」

 

「?」

 

 

その名はとても長い上に、最後の方が非常に聞き取り辛かったのか、なのはとクローゼは思わず声が出てしまい、レオナは無表情のまま首を傾げる事態に……名前の長さならば、クローゼの本名も相当に長い十五文字だが、この少女は更に長い十八文字、しかも若干発音し辛い部分が有るので仕方ないかも知れないが。

 

 

「あぁ、私の名前は矢張り分かり辛いか……性のローランディフィルネィの時点で既に分かり辛いと言うのに、何故私の両親は更に長い名を付けたのか未だに理解が出来ないよ。

 とは言え、この名は今は亡き両親が付けてくれたモノだから気に入ってはいるさ……特徴的な名前の割に覚えて貰えないと言う哀しさはあるが。

 だが、私とてこの長い名を呼ぶのは大変だろうとは思っている――だから、私の事は『ロラン』と呼んでおくれ。一夏達も、私の事はロランと呼ぶからね。」

 

 

『ロランツィーネ』と名乗った少女は、芝居掛かった仕草で己の事は『ロラン』と呼んでくれと言って、お互いに自己紹介は終了だが、ロランの芝居掛かった仕草が実に見事だったので、なのはもクローゼもレオナも思わず拍手を送り、ロランもまた舞台俳優が拍手を送ってくれる観客にするように礼をしていた……数分前までガチで戦っていたとは思えない馴染み具合と言えるだろう。

 

 

「さて……お前達は何が目的で此処に来た?まさか、物見遊山ではないだろう?ライトロードによって滅ぼされた村に、見るべき所などないからな。」

 

「……私の目的はお前だよ稼津斗。そして、お前だけでなく『鬼の子供達』も此処に来た目的だ。」

 

「俺と、俺の子供達が目的、だと?」

 

「そうだ。

 回りくどいのは好きではないので単刀直入に言うが、お前達全員、私の仲間にならないか?」

 

 

自己紹介が終わった後、稼津斗はなのは達に『此処に来た目的はなんだ?』と聞いたが、なのはは其の答えとして行き成りド直球のストレートを投げ込んで来た。

なのはは『回りくどいのは好きではない』性格なのだが、それでも駆け引きとかそう言うモノを半ばガン無視してド直球を投げ込んで来る奴は早々居ないだろう。

逆に言うなら、だからこそ相手に響く物があるとも言えるのだが。

 

 

「俺達を仲間に、だと?」

 

「稼津斗よ、そして鬼の子達よ、此の世は理不尽と不条理に満ちているとは思わないか?

 戦争によって家族を喪った者、ライトロードによって家族を殺された者――そして、種族による差別と、余りにも理不尽で不条理な事が多過ぎるだろう?此のハーメル村も、理不尽に滅びてしまった場所だ。

 そして、私もまた神族と、魔王の座を狙っていた魔族によって母を殺され、ライトロードによって父と姉を殺された過去がある――故に、奴等への復讐心はあるし、復讐は必ず成し遂げるが、其れ以上に、私は理不尽と不条理に満ちた此の世界を変えたいと思っている。

 魔族も神族も人間も、種の違いなど関係なく平和に暮らせる世界を作りたいんだ。その為に、お前達の力を私に貸して欲しい。」

 

 

『自分達を仲間に』と言う提案を怪しむ稼津斗に対しても、嘘偽りのない本心を曝け出す――『魔族は嘘を吐けない』と言う特徴は、なのはにも受け継がれてるので、なのはの言っている事には一切の嘘偽りはないのだ。魔族にとって『嘘を吐く』と言うのは、死活問題だから。嘘がバレた魔族は、その瞬間に消滅してしまうのだからな。――二千年前にスパーダが制定した『魔族の法』は可成り厳しいみたいだ。

 

だが、このなのはの話に誰よりも反応したのは、稼津斗ではなく、一夏だった。

 

 

「アンタもライトロードに家族を殺されたってのか?……って事は、アンタが暮らしてた場所もハーメルと同じく壊滅したって事か?」

 

 

一夏はハーメル村の数少ない生き残りだが、『鬼の子供達』が生き残る事が出来たのは、実は一夏が妹のマドカと仲間を、稼津斗が封印されていた『鬼の祠』まで連れて来た事が大きく、もしも逃げる事が出来ていなかったら一夏達は間違いなくライトロードに殺されていただろう――それだけに、一夏はなのはもまたライトロードの被害者であった事に敏感に反応したのだろう。そして、暮らして居た場所も壊滅したのだろうと予想したのだ。

 

だが、なのはは一夏の問いに首を横に振って異を示すと……

 

 

「私が暮らしていた村は壊滅していないよ……その村の人間は、父が魔族だと知った瞬間にライトロードに加勢して、私達を殺す側に回ったのだ――其れまでは、父の事を慕っていたくせにな。」

 

「「「「「「「「「!!!」」」」」」」」」

 

 

一夏の予想以上の答えを返して来た。

なのはが暮らしていた村は、確かにライトロードの襲撃を受けたが、なのはの父である不破士郎が魔族であると言う事を知った村民は、此れまで好意的に接していた態度を一変させて、ライトロードと共になのは達を殺しに掛かったと言うのだ。

 

 

「なん、だよ其れ?魔族と分かった瞬間に手の平返しをしたって事か?ふざけんなよマジで!!」

 

「……下衆だな。」

 

「理不尽とか不条理って言うレベルではないわ……その村の住人は、心底性根が腐り切ってるとしか言いようがないわ!魔族だと知ったら殺すだなんて……!!」

 

「ライトロードは許せないけど、其れと同じ位その村の住民も許せない。」

 

「魔族は決して悪ではないと言う事は稼津斗さんが教えてくれました。封印される前に魔族の武人と戦い、闇の住人ではあるけれど誇り高き者達が多かったと……」

 

「魔族と悪魔は違うと言う事を、まだ多くの人が理解出来ていない……魔族とは基本的に誇り高き闇の住人であり、悪魔とは本能のままに破壊と殺戮を行う存在だからね?

 そうであるにも拘らず、魔族と知った瞬間にライトロードと共に殺す側に回るとは……その村の住民は、人の皮を被った醜悪な化け物だな。」

 

「或は、ライトロードに加勢せねば自分達も殺されると思ったのかもしれないが、自己の保身の為に他者を犠牲にするなど心底反吐が出る行為だ……同じ人間として恥ずかしいぞ……!」

 

「でも、やっぱり許せないのはライトロードだよ!『魔族排斥』って言ってるくせに、ハーメル村は私達を残して全滅させたんだもん!魔族だけじゃなくて、人も殺してるじゃん!なのはさんだって、ライトロードさえ来なければお父さんとお姉さんは死なずに済んだ訳だし……ライトロード許すまじ!!」

 

 

其れを聞いた一夏は、『信じられない』と言った顔をした次の瞬間には怒りを顕わにし、他の少女達も夫々の想いを口にしながらも怒りを顕わにする……業火の怒りに静かな怒り、抑えきれない怒りとタイプは様々だったが、自分達もライトロードによって奪われた側だからこそ、なのははある意味で自分達と同じか、其れ以上の経験をした事を感じ取ったのだろう。

 

 

「成程な……ライトロードによって父と姉を殺されたと言うのは分かったが、お前は神族と魔王の座を狙う魔族によって母を殺されたと言っていたな?其れは一体?」

 

「母は、神族の中でも特に強い力を持った『六大熾天使』の一人で、二十年以上前に起こった外界からやって来た侵略者との戦いの際に、父と共に種族の垣根と言うモノを越えて力を合わせて侵略者を退け、そしてその事が切っ掛けで父と愛し合うようになり、やがて結ばれた。

 だが、神族の連中は母の功績は一切考えずに『魔族と結ばれた』と言う理由で母を天界から追放した!

 そして天界を追放された母は、私達と共に魔界で暮らしていたが、父が不在の時に魔王の座を狙う野心家の魔族が寄越した暗殺者によって殺されたんだ……あの程度の相手、母が本気を出せば返り討ちに出来ただろうが、まだ幼かった私と妹を守る為に母は己を盾にして、そして暗殺者を道連れにして死んだ。

 母を殺した暗殺者を送り込んだ野心家の魔族は、父によって粛清されたが、そもそもにして神族が母を追放しなければ母が殺される事はなかった……そして、父によって粛清された魔族は、粛清されはしたが未だ生きているのでな……奴等は纏めて私が何れ断罪してやるがな。」

 

 

そして稼津斗の質問に答える形でなのはの口から語られたのは、更なる衝撃の事実だった……其れは、此の世界では知らぬ者は居ないであろう、魔王・不破士郎と、六大熾天使・高町桃子のラブロマンスであり、そして多くの人が知らないであろうその悲劇の結末だったのだから。

 

 

「俺が思っていた以上に、重い過去がある様だ……其れこそ、お前の心は憎しみで満ちていてもオカシク無いだろう。

 だが、お前は確かに復讐心を持っているにも拘らず、復讐をして終わりではなく、理不尽のない世界を作りたいと言う復讐の先を見据えているのは何故だ?どうしてお前は、復讐心に心を蝕まれていない?」

 

「……其れは彼女、クローゼのおかげだよ。

 十年前、行き倒れかけていた私に、クローゼは手を差し伸べてくれた。回復系のアーツで私を癒し、食べ物と金を渡してくれた……魔族の証の一つの『黒い翼』を持っていたにも拘らずだ。

 私は、クローゼの真なる『慈悲の心』に触れた事で、復讐心に蝕まれずに済んだ……もしもクローゼと出会ってなければ、私は復讐心に突き動かされるままに、無差別の殺戮を行う破壊者になっていたかも知れん。」

 

 

更に、己が『復讐心に蝕まれていない』理由も話す。仲間にしようと思っている相手には一切の隠し事は無しと言う事なのだろう。

 

だが、だからこそなのはの言う事は『鬼の子供達』には響いた。

 

 

「アンタも俺達と同じ目に遇っても、復讐だけじゃ終わらないのか……良いぜ、俺はアンタの提案を受ける!理不尽のない世界の実現に協力してやろうじゃねぇか!」

 

「……私も、やる。」

 

「そうね……私達みたいな思いをする人達が此れ以上出ないためにも!」

 

「貴女の理想には共感出来る所が多いから、私達も協力する。」

 

「魔王と六大熾天使の血を引く者と共に世界に変革をもたらすもまた一興……私達の力で良ければぜひ使っておくれ!!」

 

「全ての理不尽と不条理を排除して、平和な世界と言うのは、とても良い事だと思いますから。」

 

「その理想を実現する為になら、幾らでも力を貸すよ!!」

 

「全ての種が偏見や差別がなく暮らせる世界か……普通ならば『夢物語』と笑い飛ばす所だが、貴女ならば其れを夢物語で終わらせる事はないと感じた――私達の力で良ければ存分に使え。」

 

 

一夏をはじめとした全員が協力の意を示したのだ。

幼くして全てをライトロードによって奪われた一夏達だからこそなのはの想いと理想に共感出来たのだろう――理不尽と不条理による偏見さえなければ、一夏達も此の様な目には遭っていなかったのだからな。

 

 

「なのはさん……!」

 

「仲間が増えた。」

 

「あぁ、『鬼の子供達』は仲間になってくれるらしいな。」

 

 

一夏達は、なのはに協力の意を示すと、なのはは満足そうな顔をし、そして稼津斗を見やる。稼津斗だけは、己の意を示して居ないので当然と言えば当然の事かもしれないが。

 

 

「さて、『鬼の子』は私に力を貸してくれるようだが、お前は如何する稼津斗?」

 

「お前の理想、確かに素晴らしきモノだとは思うが、逆に言うのならば理想だけを掲げた弱者の戯言の可能性も否定は出来ん……だから、お前の力を先ずは見極めさせて貰うぞ?

 此の俺が力を貸すに値するか否か……其れを見させてもらう。」

 

「……言ってくれるじゃないか。良いだろう、お前の提案を受けてやる。」

 

 

だが、稼津斗はすんなりと仲間になる気はないらしく、なのはに『力を貸すに値する相手かどうかを見せて貰う』と来た。

普通なら『挑発されている』、舐められていると思うモノだが、なのはは稼津斗の提案をアッサリと受け入れた――封印されていた『鬼』を仲間にするのは、そう簡単な事ではないと考えていたので、此れ位の事は予想していたのだろう。

 

稼津斗の家から外に出ると、開けた場所まで移動し、其処でなのはと稼津斗は向き合い、なのははレイジングハートを構え、稼津斗も左手を腰に、右手を顔の下辺りに置いた構えを取り(イメージはストリートファイターZEROシリーズの豪鬼のニュートラル。)何時でも戦える状態だ。

 

 

「高町なのは、お前の最も得意とする技を俺に打って来い。その一撃を持ってして、俺が力を貸すに値する相手かを見極めさせて貰うぞ。」

 

「私の得意技をか……最強の技と言わない所にお前の真意を感じるぞ稼津斗よ――最強の技が強いのは当然の事だからな。最強技よりも得意技が如何程かと言う事の方が相手の実力を見極める事が出来るからね。

 だが、そう言う事ならば出し惜しみなく行かせて貰う――レイジングハート!」

 

『All right.Master.』

 

 

稼津斗の言葉の真意を理解したなのはは、レイジングハートを稼津斗に向けて魔力を集中し、レイジングハートの先端には桜色の魔力球が形成されて行く……此れぞなのはの得意技である直射魔力砲『ディバインバスター』だ。

己の目的を果たす為には、まず強くならねばならないと思ったなのはは、レイジングハートを手に入れたその日から徹底的に魔法の鍛錬を積み、自分が『遠距離の砲撃型』だと分かってからは、徹底的にその才能を伸ばす事に勉め、砲撃と射撃の能力を高めると共に自身の防御力を高め、一瞬の高速移動を磨く事で『前衛が居なくとも単騎で戦える遠距離砲撃型』と言うトンデモナイ戦闘スタイルを確立し、其の中で生まれたのがこの技であり、なのはが絶対の自信を持つ得意技なのだ。

 

 

「此の一撃、お前に受けられるか稼津斗よ?行くぞ!ディバイィィィィン……バスタァァァァァァァァァァ!!」

 

『Divine Buster.』

 

 

「滅殺……!!」

 

 

レイジングハートの先端から桜色の砲撃が放たれて稼津斗に向かい、稼津斗も両手に気を集中すると内に眠る『殺意の波動』を発動して強烈な気功波を放つ――殺意の波動を発動した稼津斗は、髪と目が赤くなって目からは黒目が消え、肌も浅黒くなって『鬼』と言える姿に成っていたが。

 

ぶつかった魔力砲と気功波は何方かが押し込むと言う展開にはならずに完全に拮抗した状態となった……なのはは魔力を、稼津斗は気を更に送り込むが、それでもこの拮抗状態は変わらず、二つの異なるエネルギーがぶつかっている場所では火花放電が起き、余波で地面が抉られている。それだけで、なのはと稼津斗がドレだけの力を持っているのかが分かると言うモノだ。

 

 

 

――バガァァァァァン!!

 

 

 

だが、余りにも大きな力がぶつかり合った結果、エネルギーが飽和状態になり、遂にはエネルギーの衝突地点が限界を迎えて爆発を起こして周囲に粉塵が舞う結果に……だが、粉塵が晴れるとなのはも稼津斗も無傷だった。

 

 

「ふ……」

 

「ふむ……」

 

 

なのはも稼津斗も、其の顔に浮かぶのは笑みだ。

 

 

「今の一撃、申し分ない!俺の滅殺剛波動と拮抗する一撃を放てる相手は、お前が初めてだ!」

 

「其れは私もだ。私のディバインバスターを真正面から相殺したのはお前が初めてだよ稼津斗……して、私の力はお前の眼鏡に適ったかな?」

 

「無論だ……お前ならば、その理想を必ず実現出来るだろう!その理想を実現する為に俺の力が必要だと言うのならば、存分に使え!」

 

 

この全力のぶつかり合いで、稼津斗はなのはの力を認め、己の力を貸す事を決め、そして此れによってなのはは目的であった『鬼』と『鬼の子供達』を仲間とする事が出来た訳だ。

 

 

「頼もしい仲間が増えましたね、なのはさん?」

 

「あぁ、此れで理想を果たす為に一歩前進したよ。」

 

 

此れにより、リベリオンの戦力は増強され、なのはとクローゼの理想を実現する為に一歩前進したと言えるだろう――その後、一行はリベリオンの拠点に向かった。

空を飛ぶ手段がなければ辿り着けないリベリオンの拠点なのだが、稼津斗達は全員が気を操って空を飛ぶ術を会得していたので問題はなかった。……そして、拠点では、クリザリッドとシェンが模擬戦と言う名の喧嘩をしていたので、なのはがバスターをぶち込んで強制的に終わらせた。

 

その後で、稼津斗達の紹介になったのだが、全員がリベリオンの新た仲間として受け入れらた……リベリオンのメンバーは来る者拒まずなのだ。

そしてその夜は、新たな仲間を歓迎する宴が行われ、反逆者達の拠点は大いに盛り上がったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

・リベール王国ツァイス地方、レイストン要塞

 

 

リベール王国の軍事施設としては最大規模のこの要塞には、デュナンからの通信が入っていた。

 

 

『ええい!クローディアを城から連れ出した賊の行方は未だ掴めんのかリシャール!!』

 

「情報部の総力を結集して探していますが、未だにその足掛かりは掴めておりません……クローディア殿下が攫われた時間帯が夜だと言うのも厄介でして、夜の闇に紛れてしまい、その詳細が掴めないのです。」

 

 

デュナンからの通信に、レイストン要塞の最高指揮官である『アラン・リシャール』は今現在の状況を伝えると『引き続き調査を続行します』と言うと通信を切り、溜め息を一つ吐く。

 

 

「陛下は、随分と焦っておられるようですね大佐?」

 

「あぁ、相当に焦っているみたいだよクラリッサ君……デュナン陛下にとって最も恐れる相手はクローディア殿下だったからね――故に幽閉していたのだが、其の殿下が幽閉状態から解き放たれたと言うのは、陛下にとっては脅威以外の何物でもないさ。

 クローディア殿下の人気は絶大だからね……殿下が、己を解き放ってくれた女性と共に戦力を整えてリベールに攻め込んできたら、民衆の多くは殿下の味方になる筈だから。」

 

「成程、納得です。」

 

 

リシャールの側近の眼帯の女性、『クラリッサ・ハルフォーフ』とそんな会話を交わしながらも、リシャールはこの先に待っている事態を予想していた。と、同時にその時が来たら、クローゼに加勢する事をリシャールは決めていた。

 

そう、リシャールは秘密裏にデュナンを倒してクローゼを王にする計画があったのだ――そう言う意味では、クローゼがなのはによって女王宮から連れ出されたと言うのはリシャールにとっても好都合だったと言えるだろう。

 

なんにしても、なのはが反逆の牙を研いでいる時に、リベールでは水面下での動きが加速しているのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter5『ちょっとした日常と、まさかの真実!』

此れは、まさか予想外だったなByなのは     十年前の事は、誰かによって仕組まれたモノだなんて…!Byクローゼ


『鬼』と『鬼の子供達』を仲間にして数日、リベリオンの拠点にある訓練場では、『鬼の子供達』の一人である一夏がシェンを相手にスパーリングの真最中なのだが、其の戦いは熾烈を極めていた。

パワーでは圧倒的にシェンの方が上なのだが、一夏はスピードと手数の多さでシェンを上回るので、総じて戦えば五分……リベリオンでもトップクラスの実力者の持ち主であるシェンと互角に渡り合えるだけの実力を持っているとは、『鬼』に育てられたと言うのは伊達ではないようだ。

 

 

「シェンと互角に渡り合うとは、矢張り鬼の子供達の実力は相当に高いな?

 其れに一夏は、己の気に雷の属性を付与する事が出来る様だ――魔力の属性変換資質と言うのは此れまでも幾つか見て来たが、気の属性変換と言うのは初めて見たぞ?

 一夏は雷属性、刀奈は水&氷属性、ヴィシュヌは炎属性、ロランは風属性、グリフィンは固定属性はなく、周囲の環境によって変わる特殊属性と来たからな。」

 

「気と言うのも、奥が深そうですね。」

 

 

此のスパーリングを見ていたなのはとクローゼも、思わず感嘆する位だ。

なのはは此れまで歩んで来た人生の中で、何度も強者と言うモノを目の当たりにしており、クローゼも幽閉されるまでは、毎年祖母のアリシア女王と武術大会を観戦していたので『闘う者』、『戦う者』を見る目は可成り肥えているのだが、そのなのはとクローゼが見ても鬼の子供達の実力は相当に高く、特に『気』を使った技は実に見事なモノに映ったようだ――気を操る戦い方を見た事がない訳ではないが、その多くは自己強化が多く、稼津斗や一夏達のように『気弾』や『気功波』として使うと言うのは見慣れていないのだろう。

リベリオンにも気を操る者として、クリザリッド、シェン、レオナが居るが、シェンは基本的に自己強化のみ、クリザリッドは竜巻を起こしたり炎を纏ったりはするが気弾や気功波として使う事はなく、レオナはエネルギー球を発生させる事は出来るがそのエネルギー球はその場に止まったままであり、基本的には気を相手に送り込んで爆破させる使い方なのである。

因みに、クリザリッドは炎を使えるが、此れは気に炎の属性を付与しているのではなく、体内に移植された草薙一族の遺伝子によるモノで元々が炎属性であるので属性付与とはまた別なのだ。

 

 

「『鬼』と『鬼の子供達』……本当に存在してるかどうかは不明だったが、存在している可能性に賭けてハーメルまで行った甲斐はあったと言うモノだな。」

 

「そうですね……頼もしい仲間が増えて何よりです。」

 

 

稼津斗達の加入により、リベリオンの戦力が大きく底上げされたのは間違いない――特に、ハーメル村を襲ったライトロードの軍勢を一人で全滅させた稼津斗の力は計り知れないモノがあるのだから。

 

さて、其れは其れとして一夏とシェンのスパーリングは佳境に入り、一夏が『電刃錬気』を使って全身に雷を纏うと、その両手に気を集中し……

 

 

「電刃……波動拳!!」

 

 

必殺の気功波を発射!!

普通の気功波ならばガードは出来るが、雷の属性が付与された気功波はガードしても痺れてしまうので事実上のガード不可能技だったりする――序に、炎属性は火傷し、氷属性は凍傷、風属性は鎌鼬で斬られるので、属性付き気功波は基本ガード不能なのである。

一夏の攻撃が放たれる前に潰そうとしてたシェンは、ガードも回避も間に合わず、結果其れを真面に喰らう結果になってしまい、全身が痺れて勝負ありだ。

 

 

「ククク……す、すまんクローゼ。完全に私の空耳なのだが、一夏の技が『原人波動拳』に聞こえて少しツボに入った……なんだ原人波動拳って。原始人を発射して攻撃すると言うのか?」

 

「原始人を発射して攻撃……そ、想像すると途轍もなくシュールな光景ですね?」

 

 

その一方では、なのはが謎の空耳アワーを発動してツボに入ったらしく、クローゼはクローゼでなのはが言った事を想像して少しばかりツボに入ってしまったようだ。

……なのはとクローゼは、似たような感性をしているのかも知れないな。

 

一夏との一戦を終えたシェンは、クローゼにアーツで回復して貰い、刀奈、ヴィシュヌ、ロラン、グリフィンともスパーリングを行ったのだが、生来の頑丈さと、喧嘩好きな性格のおかげで本人はマッタク全然平気だったようである。

尚、夏姫のスパーリングの相手はサイファーが、稼津斗のスパーリングの相手はクリザリッドが務めたのだが、稼津斗とクリザリッドのスパーリングは、余りにも激し過ぎてリベリオンの拠点が壊れそうな勢いだったので、なのはが拡声器を使って強制的に終了させる結果となった……強過ぎると言うのも、スパーリングでは問題なのかも知れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter5

『ちょっとした日常と、まさかの真実!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

訓練場でのスパーリングを観戦し終えたなのははクローゼを連れてリベリオンの拠点の最深部……主の間に来ていた。

人の世界の城や、天界の宮殿が最上部に最も位の高い存在の間があるのと異なり、尤も深い場所に主の間があると言うのもまた、なのはが魔族の在り方と言うモノを好んでいるからだろう。

魔族では、地下のより深い場所に居る者こそが強い力を持っていると考えられているのだ――此れは、スパーダが定めた法によって、心と言うモノを理解した悪魔が魔族になる前から続いていた、魔界のより深い場所に棲んでいる悪魔ほど強大な力を持つと言うモノが関係しているのだろう。

事実、現在『魔王』を名乗っているルガール、アーナス、悪魔将軍の三名も、己が居住する場所は魔界でも最も深い場所なのだから。

 

 

「さてとクローゼ、私達の準備が整った暁にはデュナンに戦いを仕掛ける訳だが、その際にリベールで私達の側に付いてくれる戦力に心当たりはあるか?」

 

「そうですね……元王室親衛隊の皆さんとリシャール大佐率いる情報部は味方になってくれると思います。特に親衛隊のユリアさんと、情報部のリシャール大佐は、私が幽閉された後も、小まめに面会に来て下さいましたから。

 ユリアさんは、親衛隊が解体されてしまったので、私との面会は難しかった筈なのに……」

 

「お前を慕う者は、矢張り多いのだな。」

 

 

其処でなのはは、クローゼに『何れデュナンと戦う事になった際に、リベールで自分達の側になってくれる戦力はあるか?』と聞いたのだが、行き成り中々に大きな戦力が出て来てくれた。

クローゼを幽閉した後、デュナンによって解体された『王室親衛隊』だが、その隊員は王国軍の兵士として活動しており、大部分はリシャールが率いる情報部に吸収されており、隠れてその牙を研いでおり、リシャールもまた水面下ではデュナンを倒さんと画策しているのだ……幽閉生活を送っていたクローゼに余計な心配を掛けたくないからと、ユリアもリシャールも話していない事なので、クローゼは水面下での動きは全く知らないのだが。

 

 

「王国軍の部隊の一つが味方となってくれればありがたいが、其れとは別に戦力になりそうな者は?」

 

「其れでしたら、先ずは遊撃士の方々ですね。

 リベールにはS級の遊撃士が一人、A級の遊撃士が五人も居ますから。」

 

「A級の遊撃士が五人も居るだけでなく、幻と言われるS級の遊撃士まで居るのかリベールには!?」

 

 

更なる戦力はリベールの遊撃士なのだが、S級遊撃士が一人、A級遊撃士が五人居ると言う事を聞いてなのはは驚いた――遊撃士制度を導入している国は、リベールの他に、隣国のエレボニアとカルバードがあるが、エレボニアにはA級遊撃士は存在せず、カルバードにはA級遊撃士が一人しか居ないのだから、リベールにはA級遊撃士が五人も居て、更にS級が一人居ると聞いたら驚くのは当然と言えるだろう。

 

 

「はい。

 S級の遊撃士はカシウス・ブライトさん――元王国軍の軍人で、軍を退役した後は遊撃士となったのです。お祖母様からの信頼も厚く、幼い頃は私も随分とお世話になった記憶があります。」

 

「カシウス・ブライト……聞いた事がある。

 生前の父が、酒が入ると良く其の名を口にしていた……『人間の身でありながら、魔王と称される自分と互角に渡り合ったのは、後にも先にも彼だけだ』、と言っていたよ――魔王たる私の父と互角に渡り合うとか、カシウスは本当に人間か?魔王と渡り合える人間など、私は見た事がないぞ?」

 

「人間だと思います、多分。」

 

 

そのS級遊撃士のカシウス・ブライトは、嘗て魔王であるなのはの父である『不破士郎』と戦って互角だったらしい……普段は妻と娘の尻に敷かれている親父ではあるが、その本気の実力は魔王に匹敵るモノである訳か。うん、普通に人間じゃないわあの親父。

 

 

「そして、カシウスさんの御息女のエステルさん、エステルさんのパートナーであるヨシュアさん、エステルさんとヨシュアさんの先輩遊撃士のシェラザードさんとアガットさんとクルツさんがA級の遊撃士になりますね。」

 

「カシウス・ブライトは娘も相当か。」

 

「因みに、エステルさんには姉妹が居まして、姉のアインスさんと妹のレンちゃんも其の実力は可成り高いと思います――幽閉前に、カシウスさんに誘われて、お忍びでブライト家を見に行った事があるのですが、アインスさんとレンちゃんも其処で高い実力を見せてくれましたので。

 あぁ、其れと、アインスさんと交際している草薙京さんも戦力としては期待出来るかも知れません。勝負は付かなかったとは言え、カシウスさんと三十分一本勝負を行って、押され気味とは言え引き分けましたから。

 尤も、その時はお忍びだったのでエステルさん達とは顔は会わせる事も話もする事もありませんでしたが。」

 

「まぁ、一般家庭に次期国王となる人物が来たとなれば大騒ぎだから仕方ないだろうさ。

 しかし草薙とは……千八百年前にオロチを封じたと言われている草薙の末裔か?確かに、戦力としては申し分ないな。」

 

 

更に、軍と遊撃士以外にも戦力になるモノは多いので、デュナンと事を構える際の戦力は問題ないだろう――何よりも、リベールの民は現国王であるデュナンには不満しかなく、『幽閉されているクローディア皇女殿下を解放して新たなリベールの王に!』と言う意見も少なくないので、多くの民はリベリオンの味方になって、デュナンに対して反旗を翻す反旗を翻す筈だ。

なので、今の内に味方となる戦力をピックアップしておくに越した事はないのである。

 

主の間でのなのはとクローゼの意見交換は其処からも白熱して行われた――意見交換と言うのは大事な事なので、其れはトコトンまでやるべき事だろう。――尤も、其れで貫徹となってしまっては笑えないがな。

なのはもクローゼも、翌日は徹夜したとは思えない程に元気で、訓練場でシェンとサイファーを相手にスパーリングを行い、見事勝利を収めると言う結果を出した。リベリオンのリーダーと、元皇女殿下のタッグは思いのほか強力だったらしい。

実戦経験は乏しいクローゼだが、それだけに強者との戦いは即骨身になると言う事なのだろう……実際に、クローゼの動きはスパーリングの最中に凄まじい勢いでよくなっていたのだから。

そして、スパーリングが終わる頃には、クローゼはサイファーと互角に戦えるまでになっていた……其れは即ち、クローゼには元来『闘う者』の才能が秘められていたと言う事なのだろう。

幽閉されていた皇女殿下は、戦う力を持った姫騎士でもあったのだ。

 

 

「サイファーと互角に渡り合うとは、やるなクローゼ?」

 

「守られてるだけのお姫さまではありませんから♪」

 

「ふ、そうだったな。」

 

 

スパーリングを終えた後は、なのははクローゼの頬にキスを落とす……『女性同士で何してんの?』と思うかもしれないが、頬へのキスは『親愛の証』なので、同性であっても問題はない!母親が子供の頬にキスを落とす事は決して珍しい事ではないのだから。

 

 

「頬、ですか……お祖母様からして貰った事がありますが、最後にして貰ったのは何時だったか……」

 

「あ~~……すまん。良く母からされていたモノでついやってしまった。」

 

「いえ、嫌ではなかったので謝らないで下さい。其れに、少し嬉しかったのも事実ですから。」

 

「そうか……其れならば良かった。」

 

 

親愛の証をされて不快になる者は早々居ないだろう……野郎同士で同じ事をしたら、一部の腐女子を除いてドン引きだろうが。

なんにしても、なのはとクローゼは互いに相手に対して友情よりも強い感情を持ってるのは間違いない――己が只の復讐者にならずに済んだ切っ掛けをくれた少女と窮屈な鳥籠から連れ出してくれた女性と、お互いに感謝してもしきれないモノがある訳なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

・リベール王国:ロレント市郊外・ブライト家

 

 

「おおぉぉぉぉ……喰らいやがれぇぇぇ!!!」

 

「んな!きゃぁぁぁぁ!!」

 

「へへ、燃えたろ?」

 

 

ブライト家の庭では、最早日課となっているスパーリングが行われており、今は京とエステルがスパーリングを行い、京がエステルの金剛撃にカウンターの七拾五式・改を叩き込んで、追撃に大蛇薙をぶちかましてターンエンド。

A級遊撃士のエステルの実力は相当に高いのだが、そのエステルをも圧倒するアインスと互角の実力を持つ京にはマダマダ敵わないらしい――京は、歴代の草薙家頭首の中でも最強と言われているほどの実力者であり、若干十五歳で父を越えてしまった天才だからな。

……尤も、其れを言うのならば史上最年少でA級遊撃士になったエステルと、その恋人であるヨシュアも間違いなく天才なのだけれどね。

 

 

「相変わらず強いわね京?」

 

「まぁな……でもまだまださ。今の俺じゃカシウスさんと引き分ける事は出来ても、勝つのは難しいだろうからな……マジであの人は強いぜ。」

 

「あ~~……父さんは別格だからね。

 そう言えば気になったんだけど、どうして京は父さんには敬称を付けて敬語を使うのかしら?柴舟さんにはため口で敬称もないのに。」

 

「あ~~~……其れは、俺の過去に関係してるな。」

 

 

スパーリング後に、エステルは此れまで気になっていた事を京に尋ねたのだが、京は意外とアッサリその口を割ってくれた。

 

 

「ガキの頃なんだけどさ、俺は近所の悪ガキとの喧嘩が絶えなかったんだ――だけど、俺が喧嘩をしたと知った時、親父は喧嘩の原因も聞かずに、俺が喧嘩したって事だけでぶん殴るだけだった。お袋は話を聞いてくれたけどな。

 だけど、カシウスさんは違った。

 カシウスさんは喧嘩を止めるだけじゃなく喧嘩の理由を、俺の話を聞いてくれた――そんでもって、『確かに悪いのは彼等の方だが、だからと言ってイキナリ手を出してはダメだ』って諭してくれたんだ。

 でもって、その後俺はカシウスさんと戦ってボロ負けしただろ?そん時にさ、カシウスさんは俺の中で『親父よりも人として武道家として尊敬出来る存在』になったって訳だ。」

 

 

其れは、カシウスを慕うようになるわ京も。

喧嘩は確かに良くない事だとは思うが、『喧嘩をした』と言う事実だけで、息子を鉄拳制裁すると言うのは間違い極まりないだろう――下手したら、京はグレてトンデモない事になっていたかも知れないのだから。

 

 

「理由を聞かずにぶっ飛ばすのは確かに無いわ……って、京がやたらと柴舟さんに辛辣で口が悪いのって……」

 

「ガキの頃に理由も聞かずにぶん殴られた事への意趣返しだな。

 序にこの前、お袋と『サバの味噌煮に砂糖を使うか否か』で言い合いになってたから、お袋の『砂糖は使わない』って意見に賛同したら逆ギレして、『稽古を付けてやる』とか言って来たから……」

 

「どうしたの?」

 

「毒咬み→荒咬み→九傷→七瀬→七十五式・改→轢鉄→大蛇薙→神塵のコンボ叩き込んでKOした。ぶっちゃけ、もう親父には負ける気がしねぇ。」

 

 

京が柴舟に対して口が悪いのも、子供の頃に喧嘩をしたと言う事実だけで、理由も聞かずに殴られていたのが原因だった様だ……そら、理由も聞かずに殴られたら、不平不満も溜まるってモノだからな。実の父親であっても、辛辣な態度を取りたくもなるだろう。

柴舟は武道家としては一流であっても、父親としては残念な人だったのかもしれないな――尤も『草薙の拳を喧嘩に使うな』と言う思いはあったのかも知れないが、それも口に出さんと子供には伝わらんだろうて。

 

 

「ふふ、絶好調みたいだね京さん?今度は僕の相手をして貰っても良いかな?」

 

「ヨシュア、お前も来てたのか……良いぜ、掛かって来な。」

 

 

そしてブライト家の庭では、今度は京とヨシュアのスパーリングが開始され、炎の剛撃と神速の瞬撃による凄まじいバトルが展開されるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

・リベリオン拠点:応接室

 

 

リベリオンの拠点である応接室にて、なのはは情報屋のセスと対峙していた。

と言うのも、セスが『お前さんの耳に入れておきたい情報がある』とリベリオンの拠点を訪ねて来たからだ――なのはもまた、セスの諜報能力の高さは信頼しているので、そのセスが持って来た情報には価値があると判断したのだ。

そして、その情報は共有しておいた方良いと考えてクローゼも此の場には同席している。

 

 

「其れでセス、私の耳に入れておきたい情報と言うのはなんだ?」

 

「其れはだな、十年前の士郎氏がライトロードと暮らしていた村の住民によって殺された一件に関しての事だ。」

 

「あの時の出来事に関してだと!?」

 

 

挨拶もそこそこに本題を切り出したなのはに対してセスが口にしたのは、『十年前の不破士郎がライトロードによって討たれた一件』に関する事であり、思わずなのはも身を乗り出してしまった。

父と姉を失い、双子の妹と生き別れる事になった事件に関する事ともなれば当然の反応かも知れないが。

 

 

「お前さんから話を聞いて、個人的な興味からあの事件の事を調べてたんだが、如何にも不審な点が出て来てな。

 当時、士郎氏は魔族である事を隠し、姓も妻の桃子氏の『高町』を名乗り、髪の色も変えていて、村の住民もライトロードが士郎氏が魔族だと言う事を明らかするまで、士郎氏が魔族である事は知らなかった……にも拘らず、如何してライトロードはあの村に『魔王』の一人である士郎氏が居る事を知ったのだろうな?」

 

「……言われてみれば、確かにそうだな?」

 

 

だが、セスから言われた事を考え、なのははあの日の事を疑問に思った。

ライトロードは『魔族排斥』を掲げる過激派の一団なので、魔族である父の事を討ちに来たのだと思っていたが、そもそもにして如何してライトロードはその村に不破士郎が居るのかを知ったのかは謎だったのだ。

当時士郎が暮らしていた村は、地図にも載らないくらいの辺境の小さな村であり、ライトロードでもその存在は感知していないレベルのモノだった――にも拘らず、ライトロードの襲撃を受けて、なのはは父と姉を喪った。改めて言われると、釈然としないモノがあるのだ。

 

 

「此れはあくまで俺の考えなのだが、恐らくはライトロードに士郎氏があの場所に居ると言う事をリークした奴が居るんじゃないか?そうじゃなければ、ライトロードがあの村を襲う理由がまるでない。」

 

「!!」

 

 

其処でセスの私見を聞いてなのはは衝撃を受けた……十年前のあの襲撃が誰かによって手引きされたモノだと言うのなら、復讐する相手は変わって来るのだから。

 

 

「父の存在をライトロードにリークした存在が居るだと?

 だが、当時の村の住民は父が魔族である事は知らなかった……だとしたら、そんなまさか!!」

 

「なのはさん?」

 

 

そして、其処まで考えた時、なのはには最悪の可能性が頭に浮かんでしまった……其れは絶対に信じたくない事でもあり、その事実に辿り着いたなのは自身が否定したい事だったのだから。

余りにショックだったその事実に、なのは額に手を当てて天井を仰ぎ、クローゼもそんななのはを心配そうに見やる……それ程までに衝撃だったのだ、辿り着いてしまった事実は。

 

 

「何故、今まで気付かなかったのだろうな。

 父と姉は死に、なたねとも生き別れたが、なたねとは別に生死不明になっている人物が一人だけ居た事に……父と姉はライトロードに殺され、遠巻きに遺体も確認したが、其処には居なかった人物が居た事に……!」

 

「なのはさん、何か分かったのですか?」

 

「クローゼ、セスの話を聞いて私は復讐すべき相手はあの村の住民でないと理解したよ。

 父は魔族である事を隠し、魔王である事を知られないために母の姓を名乗っていたにも拘らず、ライトロードによって居場所を特定されて討たれた――だが其れは、セスの言ったように、誰かがライトロードに父の存在をリークしなければあり得ない事だ。

 村の住人はライトロードに言われるまで、父が魔族であった事は知らなかった――其れを踏まえると、父の存在をライトロードにリークしたのは、さて誰だろうな?」

 

「それは……そんな、まさか!!」

 

「そう、ライトロードに父の存在をリークしたのは身内と言う事になる。」

 

「!!」

 

 

その衝撃の事実は、士郎の存在をライトロードにリークしたのは身内だったと言う事実だ。

大凡信じたくない事ではあるが、セスの言った事と照らし合わせて考えると、其れがシックリ来てしまうのもまた事実であると同時に、あの襲撃の後で生死不明になっていると言う事もまた、なのはにとっては充分な事であった。

『魔族や神族が情報をリークしてライトロードを利用した』と言う可能性は考えていないようにも思えるが、魔族と神族は基本的に『己の軍勢を使って戦う』事を考えると魔族や神族がライトロードを利用した可能性は先ず有り得ないのである。

 

 

「よもや復讐すべき相手が身内に居るとは思わかなったが……此れが事実であるのならば、私は貴方を討たねばならないな兄さん――否、不破恭也!!」

 

 

その相手は、兄である『不破恭也』だったのだから。

 

 

「なのはさんのお兄様が、お父様をライトロードに売っただなんて……そんなの、余りにも酷過ぎます!!如何して、自分の父親を売る事が出来るんですか!!」

 

「兄さんと父は直接的には血が繋がっていないんだ……兄さんは、父が拾った孤児だったらしいからね……父に拾って貰わなかったら野垂れ死んで居たかも知れないと言うのに、恩を仇で返す此の所業を許す事は出来ん。

 奴には、父と姉の命を散らした報いを徹底的に叩き込んでやる!!」

 

 

復讐すべき相手は、ライトロードに加勢した村人ではなく、ライトロードに士郎の存在をリークした兄であり、恩を仇で返すと言う外道極まりない所業をした兄に対し、なのははその怒りを燃やし、先ずは兄を討ち倒す事を決意したようだ。

 

 

「セス、不破恭也の居場所はドレだけあれば特定出来る?」

 

「一週間……いや、五日あれば特定出来ると思う。」

 

「五日……充分だ。特定出来たら教えてくれ。」

 

「うん、了解だ。」

 

 

まさか復讐すべき相手が身内に居たとは驚くべき事だが、だがだからと言ってなのはは容赦はしない――最愛の父と姉を喪った原因となる者は、例え身内であったとしても明確に『敵』なのだから。

 

 

「人の業と言うモノは深く、時に醜いモノですね……勿論、人の大多数は清らかなモノなのですが、極一部にはこう言う醜い存在が居るのですね――叔父様がそうであったように。」

 

「だからこそ、そう言ったモノは一掃する。

 全ての種が何の偏見もなく平等で平和に暮らせる世界に、そう言った存在は邪魔でしかないからな。」

 

「そうですね。」

 

 

若干過激な思想であるかも知れないが、全ての種が争わずに平和に暮らせる世界を実現する為には、先ずは偏見をなくす事が第一であり、偏見を持つ者を排除するのが一番の近道なのである――偏見と言うモノは、一番の障害となるモノだからな。

 

まぁ、何れにしても期せずして、なのはが復讐すべき相手が誰なのかと言うのが分かったのは悪くなかっただろう――『復讐すべき真の相手は誰なのか?』って事が分かれば、余計な血を流さずに済むのだから。

 

だが、其れとは別に、セスによって居場所が割れたら恭也は覚悟すべきだろう……最強にして最恐の妹が、トンデモナイ戦力を引き連れてやって来る訳なのだから。

なのは自身初となる断罪を行う時は、着実に進んでいる様だった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter6『裏切者は本物?偽物?其れとも鏡像?』

裏切者は、本当に兄だったのだろうか?Byなのは     其れは、如何でしょう……Byクローゼ


セスから十年前のまさかの可能性を聞いてから三日後、なのはとクローゼはリベリオンの応接室にてセスと対峙していた――セスが此処に来たと言う事は、この三日で、恭也の居場所を掴んだと言う事なのだろう。

 

 

「お前が来たと言う事は、恭也の居場所が掴めたと、そう思って良いのだなセス?」

 

「あぁ、バッチリと掴めたよ。

 奴さんは、ウミナリって小さな村で剣術道場を開いて生計を立てているみたいだ……彼の剣術は、護身にも使えると言う事で大変評判みたいだね。」

 

「剣術道場だと?確かにアイツは剣士としての実力は高かったが、その剣は父さんから習ったモノだ……父さんを裏切っておきながら、その剣をもってして生計を立てていると言うのか?……何処までも許しがたいな。

 幼い私となたねに向けていたあの笑顔も、全ては偽りだったと考えると、其れだけで腸が煮えくり返る思いだ。」

 

 

恭也の現状をセスから聞いたなのはは秒で怒り爆発!!……と同時に、その背に黒と白の一対の翼が現れる。――普段は隠しているのだが、気持ちが昂るとどうにも出て来てしまうようだ。

しかし、それ程激昂するのも当然と言えば当然だ……血は繋がっていないとは言え、兄と慕っていた人物が父をライトロードに売り、其れだけではなく売った相手の剣を教える道場を開いて生計を立てていると言うのは、父を裏切っただけでなく馬鹿にした話なのだから。

 

 

「いっそ殺さずに、生かさず殺さずの苦痛を永遠に与えてやろうか?……とは言え、私はあまり拷問には明るくないが。クローゼも、拷問の類は詳しくはないだろう?」

 

「そうですね……リベール王国の歴史はとても長いのですが、その歴史において拷問が行われた事はないようですし、過去の戦争で捕虜にした敵国の兵士にも拷問を行うどころか、収容施設で生活させると言う事以外は可成りの好待遇だったようです。」

 

「敵国の捕虜をも手厚く扱うとは、リベールの歴代の王の品格の高さと人格が良く分かると言うモノだ。それに引き換え、あのタヌキオヤジは……。

 まぁ、今は奴の事よりも恭也の事だな……拷問には明るくないとは言え、そうであるのならば簡単に死なせなければ良いだけの事――父も姉も、ライトロードと村人に切り刻まれて死んだ。その苦しみの一万分の一でも、味わわせてやらねばな……!」

 

 

なのはの瞳に宿るのは煉獄の炎……十年前のあの日、クローゼに救われるまでなのはの瞳に宿っていたモノと同じ、いや其れ以上だ。

愛する父と姉を死に追いやったのは、血が繋がっていないとは言え兄だったと言う残酷な事実に、家族を裏切った者が今ものうのうと生きていると言う現実に、怒りにも憎悪にも火が点いてしまったのだ――尤も、其れを爆発させずに、己の中で燃やしているのが逆に恐ろしいが。

 

 

「クローゼ、お前は今回此処に残っていてくれ……血が繋がっていないとは言え、家族だった者を討つと言う光景を、お前には見せたくない。」

 

「……いえ、私もご一緒しますなのはさん。」

 

「クローゼ……そう言ってくれるのは嬉しいが、今回ばかりは……」

 

「……私も、何れ血縁関係のある叔父を討たねばならない身です。なので、大丈夫です……私も連れて行って下さい。」

 

「……そうだったな。お前は何れ、血の繋がった叔父と戦うのだったな――ならば、一緒に来てくれクローゼ。私が恭也を討つ姿を見て、デュナンに対する一切の情を捨て去ると良い!」

 

「……はい!」

 

 

なのはとしては、今回の一件にクローゼを同行させる気はなかったのだが、クローゼの想いを聞き連れて行く事を決めた……デュナンに戦いを仕掛けると言う事は、クローゼも身内と戦う事になるのだから、己が兄を討つ姿を見せて、デュナンへの情を完全に捨てさせた方が良いと思ったのだろう。

『叔父への情を捨て去れ』と言うのは、些か酷かもしれないが、クローゼは既に『デュナンが自分の暗殺を画策していた』と言う事を知っている……故に、デュナンへの情を捨て去る事に躊躇いはない。……其れは、普通ならば越えてはいけない一線なのかも知れないが、クローゼにとっては越えるべき一線でもあるのだ。

 

 

「皇女殿下は、中々に肝が据わっているお方みたいだねなのは?」

 

「ふ、彼女は十年前に魔族の血を引いた者だと知りながら私に声を掛けて来たんだぞ?僅か九歳であれだけの度胸があったんだ、大人となった今では大抵の事には怯まんだろうさ。」

 

「確かに、大抵の事には驚きませんが……物陰から現れて、マッハの速度で移動する黒いアレにはどうしても怯んでしまいますね……」

 

「其れは仕方ない……アレは、人間、魔族、神族問わず敵だ。あのサイファーでさえ、アレを見たら悲鳴を上げるからな?……尤も、サイファーの場合は悲鳴を上げたあとでアレを惨殺するが。

 殺虫剤をぶっ掛けた後でスリッパで叩き、更にバーナーで燃やすと言うのは流石にやり過ぎではないかと思うのだが、お前は如何考える?」

 

「明らかにオーバーキルですね。」

 

 

……ドレだけ肝が据わっている女性であっても、大抵の場合『奴』を見たら怯むだろうから、其れは仕方がないだろうが、クローゼの胆力に目を見張るモノがあるのは事実であり、リベリオンのメンバーも其れは全員が認めている事でもある。

不撓不屈の闇属性のなのはと、不撓不屈で光属性のクローゼのコンビは、絶対値を同じにする闇と光でバランスが取れているのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter6

『裏切者は本物?偽物?其れとも鏡像?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「其れでなのはさん、私の他には誰を連れて行くんですか?」

 

「クリザリッドやサイファーを連れて行くのがベストなのだろうが、今回は新戦力を連れて行く事にする――鬼の子供達と璃音を連れて行く心算だ。」

 

「稼津斗さんは?」

 

「稼津斗にはクリザリッドと共に私が留守中の此の拠点を守って貰おうと思っている……如何に見つかり難く、到達するのが困難な場所とは言え、だからと言って何者も来ないと言う訳ではないからな。」

 

 

セスによって恭也の居場所を知ったなのはだが、今回連れて行くメンバーは既に決めていた……リベリオンの新たな戦力である璃音と鬼の子供達だ。

璃音は競り落としたその日から魔法を勉強して、其の力を開花させて行っただけではなく、己の特技である『歌』を使った戦い方も身に付けており、鬼の子供達の実力は折り紙付きなので、連れて行くには充分過ぎる戦力だと言えるのだ。

 

 

「なのは、恭也をぶっ倒すってんなら俺も連れてけ。」

 

「シェン?」

 

 

其処に声を掛けて来たのはシェンだ。

『十年前の真実』を、なのははリベリオンのメンバー全員に話していたのだが、其れを聞いて誰よりも腸が煮えくり返ったのがシェンだった……シェンは士郎に師事して居たのだから、当然と言えば当然なのだが。

 

 

「恭也は、俺にとっては兄弟子でもあるからな……その兄弟子が、師匠を裏切ってライトロードに売ったと聞いちゃ俺の拳が黙ってられねぇんだ!恩を仇で返す真似をしやがった、道を踏み外した兄弟子に、一発かましてやらねぇと気が済まねぇんだよ!」

 

「シェン……分かった、お前も一緒に来てくれ。」

 

 

粗野で粗暴なシェンだが、『漢』として筋の通らない事は大嫌いなので、恭也の裏切りは到底許せるモノでは無いのだ……シェン自身、恭也の事を兄弟子として慕っていたからこそ許せないのだろう。

『愛は転じて憎しみに変わる』と言うが、其れと同様に『尊敬は転じて殺意に変わる』と言う事なのかもしれない。――同時に、恭也に向けられている怒りや殺意と言う物が、逆に士郎が如何に慕われていたかと言う証であると言えるだろう。

 

シェンの参戦を認めたなのはは、今度は璃音と鬼の子供達に『一緒に来てくれるか?』と聞くと、全員が二つ返事で『OK』してくれた……普通は少し戸惑うモノだと思うのだが、少しも戸惑わずにOKしたのはなのはのカリスマ性があってこそかもな。

 

 

「では、準備が出来次第出発するが……一夏、マドカはレオナと何をしているんだ?」

 

「あ~~……無言で会話してるんじゃねぇ?」

 

「無言で会話とは、矛盾が凄過ぎるな……」

 

 

マドカもレオナも、幼くしてライトロードによって家族を喪ったために、感情の多くを失ってしまったのだが、其れだけに無言でも何か通じるモノがあるらしい……少なくとも、一般人には分からないだろうが。

で、暫し見つめ合った後に、レオナとマドカは別れた……冗談抜きで無言の会話をしていたらしいな。一体何を話していたのかは、彼女達のみが知ると言った所だろうな、間違いなく。

ともあれ、出発準備は万端な訳だが――

 

 

「なのはさん、少し待って。」

 

「簪か……如何した?」

 

 

此処で簪が声を掛けて来た。

鬼の子供達の中では武力面では最弱の簪だが、其れを補って有り余る頭脳があり、リベリオンに参加した後もその頭脳を遺憾なく発揮して、クリザリッドのバトルスーツやサイファーの武器の強化案を次々と提案し、そして其れを実現させた実績がある――故に、なのはも簪からの意見は何か重要なモノがあると判断しているのだ。

 

 

「アーティファクトについて少し調べていたんだけど……『映し身の鏡』って知ってる?」

 

「映し身の鏡?聞いた事がないが、それが如何した?」

 

「この鏡は、鏡に映り込んだ対象を鏡の中に引きずり込んで、引き摺り込んだ対象とは真逆の性格の鏡像を現実として生み出すモノみたい……若しかしたら……」

 

「此れから討ちに行く恭也は、その鏡が作り出した偽物である可能性があると、そう言う事か?」

 

「可能性の一つとして考えておいて欲しい。」

 

 

その簪が齎してくれた情報はとても大きなモノだった――なのはも知り得なかったアーティファクト『映し身の鏡』には、鏡面に映り込んだ人物と真逆の鏡像を作り出して、本物を鏡の中に閉じ込めて鏡像を現実に送り出す力があると言うのだ…と言う事は、十年前にライトロードに父を売った恭也は、その鏡が作り出した鏡像だって言う可能性は決して低くないのである。

 

 

「簪、鏡に捕らわれた者を救うには如何すれば良い?」

 

「鏡像を倒して、鏡を砕けば助ける事が出来るみたい……鏡の中に捕らわれた人物は死ぬ事は出来ないみたいだから、救い出す事は出来ると思う。」

 

「そうか……先ずは、恭也が本物であるか否かを見極める必要があるか。」

 

 

簪が齎してくれた情報では、父を売った恭也は本当の恭也でない可能性も出て来た……簪が調べたアーティファクトによって作り出された恭也の鏡像がやったと言う可能性の方が寧ろ高いと言えるだろう。

だが、なのはのやる事は変わらない……本物の恭也が父をライトロードに売ったのならば倒すだけであるし、鏡像の恭也がやった事であるのならば、其れをぶち殺して、鏡の中から本物の恭也を取り戻すだけなのだからね。

 

そして、全員が準備万端なので恭也が営む道場を目指してリベリオンの拠点を出発!!

シェンと鬼の子供達は全員が空を飛ぶ術を身に付けており、璃音もまた己に発現したソウルデヴァイスの『セラフィムレイヤー』で空を飛ぶ事が出来るのだけれど、クローゼだけは飛ぶ術を持っていないので、なのはが抱き抱えて飛んで行く事になった。今の所、空を飛べるようになるアーツは存在していないのが、アーツが魔法に劣ると言われている原因なのかもしれない。

 

 

「それにしても、鬼の子供達は、マドカと夏姫を除く女性陣全員が一夏と恋人関係にあると言うのには流石に驚いたな?……確かに一夏は整った容姿だと思うが、其れでも、恋人五人と言うのは流石に如何かと思うのだが?」

 

「本人達が幸せであるのならば、其れで良いんじゃないでしょうか?愛の形は人夫々ですよ、なのはさん。」

 

 

目的地に向かうまでの間は、特に他愛もない話をしたりするのだが、稼津斗達が仲間になって数日、更識姉妹、ヴィシュヌ、ロラン、グリフィンの五人はマドカや夏姫よりも一夏との距離が近い事に気が付き、何となく『一夏と仲が良さそうだが、特別な関係か?』と聞いてみたところ、此の五人は何と全員が一夏と交際中である事が判したのだ……此れには流石のなのはも驚いてしまった。

しかも、更に驚く事にこんな状態になっているのは、五人から思いを告げられて悩んでいた一夏に、夏姫が『たった一人の女性しか愛していけないとは誰が決めた?』と言って後押ししたからなのだと言うのだ……確かに、『一夫一妻でなければならない』とは誰が決めた事かと言えばそうなのかも知れないが。

 

 

「愛の形は人夫々か……私の両親も、魔族と神族と言う、本来相容れない種族同士が夫婦になった訳だからな。……そして考えてみると、魔界には決して少なくない数の『女性同士のカップル』も存在していたよ。

 まぁ、其処は魔族は女性同士でも子を生す事が出来るという事情もあるのかもしれないが……」

 

「魔族は女性同士で子供を生せるのですか?」

 

「あぁ、可能だ。

 魔族の女性は己の遺伝子情報を他の女性に送り込み、妊娠させる事が出来るんだ……その方法に関しては、内容がアレ過ぎるので今は割愛するがな。」

 

「あ、何となく察しました。

 因みになんですが、なのはさんの恋愛対象は何方ですか?」

 

「さて、何方だろうな?……だが、私がお前の事を愛おしいと思っていると言ったら、お前は如何するクローゼ?」

 

「其れは……直ぐに応える事は出来ないと思いますが、真剣に考えてちゃんとなのはさんに返事をしようとは思います――因みに、私が同じ事をなのはさんに言ったとしたら如何します?」

 

「ふ、私もお前と同じさ。」

 

 

其処から『魔族では女性同士のカップルもいた』と言う方向に話題が進み、更にはなのはとクローゼ自身の事にも話が……なのはもクローゼも、少なくとも現段階で互いに『友情』以上の感情を持ってる事は間違いないだろうが、そん感情が『愛情』に発展するかは未知数と言った所だろう。

尤も、事情を何も知らない第三者が、なのはがクローゼを抱き抱えて飛んでいる姿を見たら、『只の女友達ではない』と思うだろうが。

 

そんな感じの空中散歩を行う事凡そ三十分、目的地である『ウミナリ』が見えてきた。

 

 

「アレがウミナリか……直接街に降りたら大騒ぎになるだろうから、近くの林に下りて、其処から歩いて行くとしよう。」

 

「了解だぜ、なのはさん。」

 

 

目的地を目視したなのは達は、余計な混乱を避けるためにウミナリの近くの林に降下して、其処から徒歩でウミナリへと向かう事にした。飛行魔法や、気を使用した飛行術……『武空術』があるとは言え、行き成り空から人が下りて来たとなれば街の人々が驚くのは目に見えているので、この判断は妥当であると言えるだろう。

尤も、璃音だけはセラフィムレイヤーの力で、地面から数センチだけ浮いて移動していたが。

 

五分ほど歩いた所でウミナリに到着し、街には特に門番等も居なかったのでスンナリと街に入り、先ずはウミナリの住民に恭也の道場について聞いて情報収集だ。情報と言うのは最大の武器になるので、情報収集は基本なのだ。

……その情報収取をしている最中に、クローゼと一夏の彼女達が街のチャラ男にナンパされる事が何度かあったのだが、其れはなのはと一夏が、ディバインバスターと電刃波動拳の合体攻撃を喰らわせて撃退した……一応手加減はしたので死んではいないが、ナンパ男達は暫く桜色と雷がトラウマになる事は間違いないだろう。

 

さて、そうして恭也の道場についての情報を集めたのが……

 

 

「恭也の道場に入門した者は、例外なく入門前とは見違える位に強くなっているか……此れだけならば何の問題もないが――」

 

「入門者の全員が、『感情表現が乏しくなってしまった』と言うのは問題がある様に思います……剣術に集中して他の事には興味が無くなったと捉える事も出来ますけれど、入門者全員がと言うのは流石に有り得ないと思います。」

 

「いや、マジであり得ないぜ?

 俺達もカヅさんに武道を習ってるし、武道に集中はしてるけど他の事に興味が無くなるなんて事はないからな……てか、そうじゃなかったら俺に五人も彼女出来てないし。」

 

「うん、お前が言うと物凄い説得力だな一夏。」

 

 

恭也の道場に入門した者は、全員が入門前とは見違える位に強くなっているのだが、その強さと引き換えに『感情を失った』に等しい状態になっていると言うのは、幾ら何でもオカシイと言わざるをないだろう。

だが、この情報だけでも恭也の道場が普通でない事は明らかだ……其れに疑問を抱いても、具体的に何かをしようとはしない街の住人も少しオカシイのかもしれないが、其れは其れとしてなのは達は恭也の道場に足を運んでいた。

そして、道場に到着すると……

 

 

「たのもー!!道場主の不破恭也は居るか!!」

 

 

なのはは道場の扉をレイジングハートで粉砕!玉砕!!大喝采!!!……ディバインバスターで吹っ飛ばしたのではなく、レイジングハートでブッ叩いてぶっ壊したと言うのだから恐ろしい事この上ない。

当然、このトンデモナイ事態に、道場内に居た門下生は黙ってはおらず、『道場破りか?』と思ってなのは達に向かって来たのだが、ドレだけ強かろうと道場の門下生では、数々の修羅場を潜って来たなのはと鬼の子供達の敵ではないだけではなく、静かに牙を研いでいたクローゼと、ロレントの自警団の一員として荒事になれていた璃音の敵でもなく、あっと言う間に鎧袖一触!

圧倒的な力の差を見せ付ける結果になったのだった。

 

 

「何の騒ぎだ?……って、お前は!!」

 

「十年ぶりだな兄さん?十年前のあの日に死んだと思っていたが、クタバリ損なったようだな?……まぁ、私も死に損なった訳だが、お互い悪運が強かった様だな?」

 

「ふ、確かにな。」

 

 

そして、この騒ぎを聞きつけて道場主である恭也が現れ、なのはと十年ぶりの再会を果たす……とは言え、其れは感動の再会とは言えないモノであり、軽口の応酬となってしまったのだが。

 

 

「お前が来るとは思っていなかったが、良く俺が此処にいると分かったな?」

 

「信頼できる情報屋が仲間に居るのでね……ソイツに依頼した訳ではないが、ソイツが十年前の事に興味を持って調べてくれてな……其処で、兄さんが生きていると言う事を知って、会いに来たんだ。

 なたねも生死不明になってる以上、兄さんは私の唯一の家族だからな。」

 

「そうか……俺も、お前が生きていてくれたのは嬉しいと思うよ。」

 

 

恭也の言う事に、なのはは『父を売っておいてどの口が言う』と思ったが、その感情を表には出さずに恭也と対峙する……怒りの感情をコントロール出来るのもまたなのはの強みであるのかもしれないな。

 

 

「私も兄さんが生きていた事は嬉しく思うよ……兄さんが生きていなかったら私は天涯孤独の身になっていたからな。」

 

「なら、泥水啜ってでも生きてきた甲斐があるってものだな……俺が生き抜いて来れたのは、何時かお前達と再会出来るって信じていたからだからな。」

 

 

だがしかし、この恭也と話をしても、なのはには恭也の真意を掴む事は出来なかった……目の前の恭也は、自分となたねの事を大切に思ってくれていた兄と何ら変わらなかったからだ。

だが――

 

 

「(恭也の右腕に傷痕?あんなの有ったか?)」

 

 

此処でなのはは恭也の右腕の傷痕に気が付いた。

恭也の腕には傷痕はあったのだが、其れはなのはの記憶では左腕にあった筈なのだ……であるにも拘らず、目の前の恭也の左腕には傷痕はなく、右腕にだけ傷痕があるのだから、違和感を覚えるのは当然であると言えるだろう。

 

 

「兄さん、その右腕の傷は如何した?半グレにでも襲われたか?」

 

 

なので、なのはは此処で恭也にカマを掛ける事にした。――疑わしい相手にカマを掛けるのはある種の基本であると言えるだろう。カマを掛けた事で、真実が顕わになると言う事は珍しい事ではないのだからね。

 

 

「何を言ってるんだなのは?この傷痕は、お前を守った時に付いたモノだろう……忘れてしまったのか?」

 

「いや、覚えているよ……凶悪な魔獣に襲われた時に、兄さんはその身を挺して私となたねを守り、そして腕に一生消えない傷を負った……だが、兄さんが魔獣の攻撃を受けて負傷したのは左腕なのだがな?……貴様、何者だ?」

 

 

そしてそのカマ掛けは大成功で、目の前の恭也は見事なまでに自爆してくれた……本物恭也ならば左腕にある筈の傷痕が右腕にあると言う時点で、怪しい事この上無かったのだが、なのはの質問に答えた事で、その正体が明らかになったのである。

 

 

「成程、俺は試されていたと言う訳か……渋いねぇ?アンタマッタク持って渋いぜ!!」

 

「貴様、『映し身の鏡』によって映し出された鏡像だな?……貴様、何故ライトロードを手引きした!何故、父さんと姉さんをライトロードに殺させた!!」

 

「バレてたって訳か……そんなもん決まってんだろ?俺が恭也の鏡像だからさ。

 アイツは不破士郎を慕っていたが、鏡像である俺には其れが嫌悪と憎しみになるって訳さ……だからよ、ライトロードに情報をリークして、士郎と美由希をブチ殺してやったんだ……お前は生き延びたみたいだけどな!!」

 

「兄さんが反転した存在故にか……だが、其れを聞いて安心したよ……此れで、私も戸惑わずに貴様を殺す事が出来るからな。本当に兄さんが父を裏切ったと言うのならば悩みもしただろうが、兄さんの姿を模した鏡像が黒幕だったと言うのならば私も一切悩む事無く貴様を滅してやる事が出来る訳だからな……覚悟は良いな貴様?」

 

 

この恭也は、簪が調べたアーティファクトの『映し身の鏡』によって作り出された鏡像であり、不破恭也とは似ても似つかない外道だった……そして、其れを知ったなのは、偽恭也にレイジングハートの先端を向けて戦闘開始とも言える一言を口にする。

 

 

「覚悟を決めるのはお前の方かも知れんぞ?……俺の道場の門下生は、俺の僕だからな……起きろ下僕共、敵を殺すぞ。」

 

 

それに対し、偽恭也が指を鳴らすと、既にKOされた筈の門下生がゾンビの如く立ち上がってなのは達を見やる……のだが、その目には生気がない――その姿はまるで、死して尚戦い続ける『ゾンビソルジャー』の如しである。

偽恭也は、門下生を鍛えると同時に、洗脳して己の手駒として居たのだろう――其れならば、恭也の道場に入門した者が『感情欠落者』になったと言うのも頷ける。

偽恭也によって、洗脳されたのであれば人間らしい感情と言うモノを失ってしまったとしても何らオカシイ事はないのだからね。

 

 

「門下生は手駒か……いや、門下生だけでなくウミナリの住人も洗脳しているな貴様?……ウミナリの住民は、入門者の異常な強化と感情欠落に疑問を抱きながらも、其れを言及する事はなかった――お前が洗脳していたからだ、違うか?」

 

「頭の良い子は好きではないな……聡過ぎて目的を達成し辛いからね――そして、後悔しているよ……十年前に、君が生き残ってしまったと言う事にね。」

 

「ならば、その後悔を抱いたまま溺死して地獄に落ちるが良い……尤も、貴様には地獄すら生温いがな!」

 

 

まさかのウミナリの住民全員を洗脳していると言う事実を肯定された事によって、なのはの怒りは限界を突破して、その背に白と黒の翼が顕現して、なのはの周囲に魔力のオーラが発生して、飽和状態になった魔力が火花放電を起こしている――それ程に、なのははブチ切れている訳であるのだ。

 

 

「覚悟は良いな?……貴様は骨の欠片も残さない位に滅殺してやる!!兄さんの名を騙って愚行を行った報い、受けて貰うぞ!!」

 

「やってみろ、出来るモノならば。」

 

 

そして、戦闘開始!!

なのはは偽恭也に突撃したが、偽恭也は其れを受け流すと同時に、手駒となった門下生を操って、なのは達を殲滅しようするが……

 

 

「覇ぁぁぁぁぁぁ……其処です!!」

 

「行くぜ……真・昇龍拳!!」

 

「行くわよ?……疾風迅雷脚!!」

 

「灼熱……波動拳!!」

 

「行くよ……ハイパートルネード!!」

 

「ロラン、お願い!!」

 

「了解だ璃音。」

 

「Uh~~……」

 

 

クローゼも一夏達も、その門下生を鎧袖一触!

クローゼは見事なレイピア捌きで門下生を打ち倒し、一夏は強烈な拳打で門下生をKOし、刀奈は目にも止まらぬ連続蹴りで門下生を打ち倒し、ヴィシュヌは烈火の波動で門下生を燃やし、グリフィンは乱打からの旋風脚で門下生をボコボコにし、璃音とロランは合体攻撃で門下生を粉砕!!

『歌』を武器にした璃音は、風の気を持つロランと共に必殺技を考えていたのだ――其れは、璃音の歌の両脇に気で作った圧縮空気の壁を作ってやる事で璃音の歌声に指向性を持たせて撃ち出すと言うモノだ。

そして其れは見事に成功して、偽恭也の軍団に決して小さくない損害を与える……指向性を持った璃音の歌は『音の槍』とも言うべき物であり、不可視の攻撃なのでこの損害は当然と言えば当然なのかもしれないが。

そして其れだけでなく、マドカは無数の気弾で門下生を翻弄し、夏姫はガンブレードで門下生の意識を刈り取って行く……戦う姫騎士、熾天使の末裔、鬼の子供達の戦闘力は相当に高いようだ。

シェンはと言うと……

 

 

「三下はすっこんでろオラァ!!」

 

 

これまた我流の喧嘩殺法で門下生をフルボッコ!!士郎に師事していたのは伊達ではない。

 

 

「馬鹿な、俺の門下生達が……!!」

 

「ふ、私達を舐めるなよ?

 貴様の手駒達は確かに強いのだろうが、戦う姫騎士であるクローゼ、熾天使の力を受け継いだ璃音、鬼に育てられた鬼の子供達に比べたらハナクソでしかない。

 そもそもにして、洗脳して支配した存在と、私と絆を紡いだ仲間では勝負にならん……だが、貴様は簡単には殺さん。

 父さんと姉さんが受けた苦しみを味あわせるだけでなく、本当の兄さんが捕らわれている『映し身の鏡』が何処にあるのかを話して貰う必要があるからな。」

 

 

そう言うとなのははレイジングハートの先端を偽恭也に向けて威圧する……そして、其の威圧を喰らった偽恭也は思わず身震いし、僅かに後退る。それ程までに、今のなのはから発せられる威圧はハンパなモノではないのだ。

家族を亡くしたあの日から、なのはは己の中にある修羅を磨いていたのだから、鏡によって作り出された偽物風情にはあまりにも巨大過ぎる相手だろう。

 

 

「このまま、この街一つを乗っ取り、何れはもっと大きな一団にする筈が、こんな所で……貴様ら全員殺してやるぞ!!」

 

「やってみろ。お前では出来ないだろうがな。」

 

 

それでも偽恭也に『退く』と言う選択肢はないらしく、互いに闘気が爆発して一気に戦闘状態に!!

此処に、なのはの復讐の第一弾となる戦いが始まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

――同じ頃……

 

 

「ったく、此れだけの悪魔が現れるとかマジかよ?ま、儲かるから良いけどよ。」

 

 

ある街は突如現れた悪魔によって蹂躙されていたのだが、その街を訪れた銀髪の青年と栗毛の女性によって悪魔は逆に蹂躙される事になった。

 

 

「馬鹿な真似はよせ!死ぬぞ!!」

 

「あぁ?うるせぇポリだな?死に損ないは、其処で見てな!」

 

 

其れだ言うと、銀髪の青年は背負った剣で悪魔を切り裂くと、剣で斬り裂けなった悪魔を異形の右腕で捕らえると、地面に何度も叩き付けた後で投げ飛ばして滅殺する……その圧倒的な力に、悪魔に対処していた警察官すら言葉が出ないようだ。

 

 

「あ、アイツは一体?」

 

「彼は、悪魔をボコるのが趣味なんです。」

 

 

銀髪の青年は悪魔を一掃し、栗毛の女性も、悪魔を得意の魔法で蹂躙していたのだから、最早突っ込みは要らないだろう……取り敢えず、この二人の相性はバッチリだと言っても過言ではないだろうね。

程なくして、銀髪の青年は悪魔を一掃して、栗毛の女性に『GJ』のサインを送り、栗毛の女性も其れに応えるようにサムズアップして見せた……取り敢えず、此のコンビは相当な実力者あるのは間違いないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter7『偽物を、粉砕!玉砕!!大喝采!!!』

偽物は マジで本気で ぶち殺すByなのは     実に見事な5・7・5ですねByクローゼ


「そんで、此れから如何すんの?」

 

 

その場に居た悪魔を全滅させた後に入ったレストランで、銀髪の青年――ネロは、スペアリブを齧りながら栗毛の女性にそう訊ねている。ネロと女性が悪魔を狩ったのは、単純に『悪魔が現れて街が酷い事になっているから助けて欲しい』との依頼を受けたからだ……尤も、女性は兎も角として、ネロは悪魔を見るとそんな依頼などなくても即フルボッコにしに行くのだが。……女性が言っていた『悪魔をボコるのが趣味なんです』と言うのは、あながち間違いではないだろう。

この二人が、何故悪魔退治をしているのかと言うと、其れは単純に生きる為には金が必要になるからだ――シャワーとキッチンと冷蔵庫の付いた車で各地を移動しながら、『悪魔退治』の依頼が入ったら、その場所に向かって悪魔を倒す。そんな生活をしているのだ。

 

 

「そうですね……前にも言いましたが、私の目的は神族と魔族とライトロード、そしてライトロードに加担した人間達への復讐です……ですが、復讐心だけでは復讐を成し遂げる事など到底不可能です。

 なので、私と同じ復讐心を持つ者と同盟を結ぶのが最適でしょう。」

 

 

栗毛の女性は、豪快にスペアリブに齧り付くネロとは対照的に、ナイフとフォークで上品に魚料理を口に運ぶ……その姿には、一種の気品すら感じられ、何も知らない者が彼女を見たらその佇まいに目を奪われるだろう。

だが、見る者が見れば分かるだろう……彼女の瞳の奥底には、暗く、しかし確かに燃えている、復讐の冷たい炎が宿っている事に。

 

 

「同盟ねぇ?あんまり集団行動は得意じゃねぇんだが、俺達二人だけでライトロードやその他諸々に喧嘩売るってのは確かに現実的じゃねぇよな?クソッタレな悪魔をぶっ倒すのとは訳が違うし。

 けどよ、同盟結ぶ相手に心当たりとかあんのか?」

 

「えぇ、ありますよ。姉の生存が確認出来ましたので。」

 

 

ネロの問いに対して、女性はそう答えると街で買ったのであろう雑誌の一つのページを開いてネロに見せる……其処に書かれているのは、『リベール王国にて、前代未聞の大事件発生!?クローディア皇女殿下、誘拐される!?』との見出しと共に、リベール通信で使われていたのと同じ写真が掲載されていた。……恐らく、リベール通信に許可を得ずに無断でリベール通信から転用したのだろうが。

 

 

「姉って……リベール王国の皇女様を誘拐したのが、お前の姉貴って事か?」

 

「はい、そう言う事です。

 この写真のクローディア皇女殿下を抱えているのは、大人になって幾分雰囲気が変わっている上に、望遠なので鮮明さに欠けていますが、間違いなく私の双子の姉の高町なのはです。」

 

 

写真でクローディア皇女を抱えている女性を指差して、『其れは双子の姉』だと告げる女性の名は『高町なたね』……十年前に生き別れたなのはの双子の妹だ。

彼女もまた、此の十年、静かに復讐の牙を研いでいたのだろう……憎き者達に復讐の刃を振り下ろす為に。

 

――だが、なたねとなのはには決定的な違いもあった。なのはが復讐の先を見据えているのに対し、なたねは復讐のみを目的としていてその先がないのだ……なたねには、なのはにとってのクローディア――クローゼに当たる人物が居なかったために、完全に復讐に囚われてしまっているのである。

 

 

「こいつがお前の……だけど、何だって皇女様の誘拐なんぞしたのかねぇ?リベールに喧嘩売る気かお前の姉貴は?」

 

「若しくは、皇女殿下を人質にして、リベール其の物を己の物とする心算かもしれません……国一つを手中に収める事が出来れば、神族にも、魔族にも、そしてライトロードにも対抗出来る戦力を確保出来る事になりますからね。

 特にリベール王国の王国軍の力は、周辺の隣国と比べても頭一つ飛びぬけていると言えますから。」

 

 

だが、だからこそ気付かないし考えない……クローゼがなのはの首に腕を回している事に。なのはが大切そうにクローゼを抱き抱えている事に……そして、なのはと自分の考えは決定的に異なってしまっていると言う可能性に。

十年前に生き別れた姉妹の再会が何時になるのか、其れは分からないが、その再会はきっと穏やかで感動的なモノにはならないだろう……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter7

『偽物を、粉砕!玉砕!!大喝采!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・ウミナリ

 

 

 

――バッガァァァァン!!!

 

 

道場の入り口が派手に吹っ飛び、其処からなのはと偽恭也が飛び出し、偽恭也が放って来る剣を、なのははレイジングハートを使って見事に捌いて行く……なのはの本来の戦闘スタイルは遠距離の射撃・砲撃型なのだが、こうして近接戦闘も熟せると言うのだから正に隙なしと言えるだろう。尤も、流石にガッチガチの近接型に勝つ事は出来ないが。

 

 

「疾っ!」

 

「!!」

 

「バスター!!」

 

『Disappear rotten outer road.(消え去りなさい腐れ外道。)』

 

 

レイジングハートの柄で恭也の剣を弾いて間合いを離すと、其処に得意の直射砲をぶちかまして偽恭也をブッ飛ばす……姿形は兄であっても、偽物であるのならば戸惑う事など何もなくブッ飛ばせるのである。――なのはならば、本物であっても父である士郎を裏切った相手であるのならば容赦なくブッ飛ばすだろうが。

 

 

「く、中々やるな?だが、此の街の住民は既に俺の手下だ!やれ、下僕共!コイツをぶち殺せ!!」

 

 

バスターでブッ飛ばされても生きていた偽恭也は、洗脳した街の住民を使ってなのはを襲わせる……如何になのはが一騎当千の実力を持っているとは言え、街の住人全部を相手にすると言うのは多勢に無勢と言うモノであり、普通ならば絶体絶命のピンチなのだが――

 

 

「行きます……アラウンドノア!!」

 

「電刃……波動拳!!」

 

 

なのはに襲い掛かろうとした街の住民に、クローゼが水属性のアーツを発動してびしょ濡れにし、其処に一夏が電刃波動拳を叩き込み一撃でスタン!雷属性の波動拳は、元々相手を気絶させる事が出来るのに、水で良く濡れてる所に叩き込まれたら堪ったモノではないだろう……このコンボを喰らった住民は、皆頭がアフロになって口から煙を出して居るが、身体が痙攣してるので生きてはいるのだろう。

いや、街の住民だけでなく、道場の門下生も倒しはしたが、しかし命までは奪っていない……暫くは病院のベッドと仲良くする事になるのは間違いないが、全員が生きているのである。

街の住民は偽恭也に操られているだけで何の罪もない人々であり、なのは達もそんな操られているだけの人間の命を奪う心算は毛頭ないので相当に手加減しているのだろう……『水で濡らした所に電撃』で手加減しているのかと思わなくはないが、一夏がフルパワーで電刃波動拳を放って居たら、喰らった住民は全員が感電死して居たのは間違いないので、手加減は一応しているのだ。

 

そして、手加減をしながらも数で勝る相手に対して優勢を保つ事が出来ているのは、個々の能力が住民達よりも高いのは当然として、なのは達のチームはバランスも取れているからだ。

夏姫とシェンは気功波も魔法も使えないので、気で自己強化をして戦う完全近接型だが、ここに居る他の鬼の子供達は近接戦闘と気弾・気功波を柱として戦う為に不得手間合いは基本存在せず、クローゼもメインはアーツだがレイピアを使っての剣術も出来るので苦手な間合いはないし、璃音もセラフィムレイヤーから放たれるビームとセラフィムレイヤーを使っての近接戦闘、そしてリベリオンのメンバーになってから覚えた魔法を駆使して戦うので矢張り不得手な間合いはない。

なのはに至っては、本来の戦闘スタイルは完全遠距離型であるにも拘らず、レイジングハートを槍代わりにした近接戦闘まで熟すと言うトンでもなさだ。

つまり、シェンと夏姫以外は全員がどんな間合いでも戦う事が出来るのだが、一夏達『鬼の子供達』とシェンが前衛を務めてくれている事で、クローゼはアーツに、璃音はビーム攻撃と魔法に集中する事が出来て、なのはは恭也以外の相手には砲撃と誘導弾で楽に相手をする事が出来ていた。

 

 

「ぐ……洗脳するだけでなく、気による強化も行っていたと言うのに、其れが全く役に立たないだと!?」

 

「阿呆か貴様?

 道場の門下生ならばいざ知らず、街の住民の多くは戦闘経験もなく、武術に関しても素人だろうに……そんな奴等を幾ら気で強化した所で、其の力は高が知れていると言う事も分からんのか?

 戦いのイロハも知らん筋肉達磨では、武術の達人たる老人に勝つ事が出来ないのと同じだ。」

 

「俺の兄弟子の姿パクっておきながら、そんな事も分からねぇのかテメェは、あぁ!?」

 

 

如何に住民の数は物凄いとは言え、其処は戦いの素人が大半であるので、そもそもなのは達の敵ではない――偽恭也以外の実力は、精々『一般人に毛が生えた』程度であり、実力の差が有り過ぎるのだ。ドレだけ強い蟻が居た所で、ドラゴンに勝てないのと同じだ。

そして、偽恭也の剣もまたなのはには届いていなかった。

揮う剣は、確かに恭也の、士郎の剣其の物であり、本物の恭也が揮った剣であったのならば、なのはも対処するのに苦労しただろうが、偽恭也の剣は完璧なコピーでしかない上に、其の実力は十年前のモノなので、此の十年間で己を鍛えて来たなのはの敵ではないのだ。

 

 

「クソ!何故だ、何故当たらない!此の剣は不破士郎の、魔王の剣だぞ!俺は其れを左右反転しているとは言え完全にコピーしたと言うのに、何故その剣がお前には通じない!

 遠距離砲撃型の魔導師であるにも関わらず近接戦闘も出来るとは、そんな事がある筈がない!!!」

 

「遠距離砲撃型の魔導師が、単騎での戦いに向かない事など百も承知なのでな、私は防護服の防御力を極限まで上げる事で其れに対応したのだ――乱暴な言い方をするならば『攻撃を耐える事が出来るのであれば避ける必要はない』だな。

 攻撃を耐える事が出来れば、必殺砲撃のチャージ中に攻撃されても攻撃を中断する事は無くなるからな。

 そして、お前の攻撃が私に当たらないのは、お前の剣は所詮借り物に過ぎないからだ。

 確かにお前は完璧に兄さんの、父さんの剣を模倣しているが、模倣は所詮模倣であり、父さんに鍛えられた本物の兄さんの剣と比べれば重さが全く無い……その剣は、貴様の様な出来損ないのデッドコピーに使い熟せるモノではない。愚直なまでに己を鍛えていた兄さんにしか、使い熟せない力なんだよその剣は!!」

 

 

偽恭也の剣をレイジングハートで弾くと、其処にカウンターでの近距離砲撃、クロススマッシャーを叩き込んで再び吹き飛ばす……砲撃魔法はレイジングハートを使わねば撃つ事が出来ないと思っていた偽恭也にとって、レイジングハートを使わずに掌から発射された砲撃と言うのは完全に虚を突かれた形と言えるだろう。

 

 

「オラ、寝てる暇なんぞねぇクソがぁ!!」

 

「がはぁ!?」

 

 

更に、ダウンした偽恭也を、シェンが胸倉を掴んで強引に立たせると、其の顔面に情け容赦ないヘッドバッドを叩き込む!

人体の最も鋭く硬い部分は膝と肘だが、人体の最も固い部分となると其れは額だ……大切な脳を保護する為の頭蓋骨の強度は全身の骨の中で最強であり、古代の闘志達によって行われたベアナックル時代のパンクラチオンにおいては、相手の拳打を己の頭で受けると言うのはメジャーな防御法であったりするのだ……そして、その場合は殴った側の拳が砕けると言う結果が待っているのである。

そんな人体の最も固い部分で攻撃されたら大ダメージは不可避だろう――特にシェンは石頭を越えたダイヤモンドヘッドであり、頭突きで瓦十枚は楽に粉々に出来るのだから。

 

その攻撃を喰らった偽恭也は額が割れ、其処から鮮血が流れ出す……鏡が作り出した偽物であっても、其処は流石に普通に人体を再現しているので、怪我をすれば出血もするらしい。

 

 

「ぐが……馬鹿な、こんな馬鹿な!!俺は、此の街を支配し、ゆくゆくは此の世界の全てを支配する筈だったんだ、其れがこんな所で貴様なんぞに!……クソ、自分の技で死ね!!」

 

 

満身創痍の偽恭也は、此処でなのはの十八番の砲撃魔法を放って来た……鏡写しの偽物だけに、真似るのは大得意のようだ。

だが、なのははその砲撃を片手で弾き飛ばすと、偽恭也との間合いを一足飛びで詰めると同時に、レイジングハートでの強烈な突きを繰り出して偽恭也を串刺しにしてから釣り上げる……大の大人をレイジングハートの先端に吊るした状態で持ち上げてしまうとは、なのはは腕力も可成りの物である様だ。

そして、この間に街の住民クローゼと一夏達でほぼ制圧してしまったので、勝負は決したと言って良いだろう――一夏達が近接戦闘を行っている所に、クローゼが強力なアーツを叩き込むと言うコンビネーションは単純ではあるが、途轍もなく強力だったのである。

 

 

「覇ぁぁ……真・昇龍拳!」

 

「行くわよ!神龍拳!!」

 

「行きます……昇龍裂破!!」

 

「これに耐えられるかい?真空竜巻旋風脚!!」

 

「ファイヤー!オリャリャリャリャリャリャ!破壊力ーーー!!……今だよ、お姫様、璃音!!」

 

「行きます……グランストーム!!」

 

「喰らえーー!エアロガ!!」

 

 

そして残った住民も、一夏の強烈無比の拳打、刀奈の錐揉み回転するジャンピングアッパーカット、ヴィシュヌの連続昇龍拳、ロランの超高速旋風脚、グリフィンの肘打ち→裏拳→超高速連続パンチ→アッパーカットのコンボを叩き込まれた所に、クローゼと璃音の風属性最強クラスのアーツと魔法が炸裂して完全KO!!

辛うじて、ダメージを受けなかった住民も夏姫のガンブレードによる峰打ちと、マドカのナイフと誘導気弾によって意識を刈り取られているので完全に全滅した訳だ。

 

 

「こんな、馬鹿な……」

 

「魔王と熾天使の双方の血を引く私と、私の仲間達を舐めるなよ貴様?

 私は己を最強だ等と言う心算はないが、其れでも十年間鍛えてきた力は、魔王であるアーナス、ルガール、悪魔将軍に負けないモノが有るとは自負している……鏡如きが作り出した貴様の様な偽物に負ける筈がないだろう?

 まぁ、其れは良いとしてだ……貴様は一体何時生まれた?そして貴様を作り出した『映し身の鏡』は一体何処にある?」

 

「俺が何時生まれたかだと……十年前だよ。

 本物の恭也が士郎と訪れたアンティークショップに俺を作り出した鏡があり、其処に偶々映り込んだ恭也の鏡像を作り出して俺が生まれたのさ……俺を作り出す程に恭也は、鏡に気に入られたらしいな?あのアンティークショップには、かなり昔から存在しているが、鏡像を作り出したのは俺が初めてだからな。

 そして鏡が何処にあるのか……其れを俺が言うと思ってるのか?」

 

 

満身創痍の偽恭也を地面に投げ捨てると、なのははレイジングハートの先端を偽恭也に向けて問う……ただレイジングハートの先端を向けているだけではなく、其処には桜色の魔力が集中していると言うのが恐ろしい。答えによっては、即刻至近距離での砲撃が炸裂するだろう。

だが、そんな状況においても偽恭也は自分が生まれたカラクリは口にしても、映し身の鏡其の物が何処にあるのかまでは口を割らなかった……今も件のアンティークショップにあるのか、其れとも別の誰かの手に渡っているのかを言う気はないらしい。

 

 

「思っていないさ。だが、己の命が係っている状況ならば口を割るかも知れないと言う希望的観測から聞いただけだ……言う気が無いのならば、もう貴様に用はない。

 兄さんの姿をしたモノが無様に散る様と言うのはあまり良い気分ではないが、此れ以上貴様に兄さんを穢される事の方が我慢ならならないのでな……もう、死ね。」

 

 

其れを聞いたなのはは、表情を一切変える事なく、無慈悲なまでの直射砲撃を至近距離からぶちかまして、偽恭也を一撃で粉砕!玉砕!!大喝采!!!して、父と姉の仇とも言える偽恭を文字通り、欠片も残さずに撃滅したのである。

 

 

「あの、倒しちゃって良かったんですかなのはさん?倒してしまったら、本物のお兄様が囚われている映し身の鏡の在り処が分からないのではないでしょうか?」

 

「いや、そうでもない。

 『鏡によって作り出された鏡像』と言う事を考えれば、100%正解とは言えないが限りなく正答に近い答えを導き出す事が出来る……さて、此処で此の場に居る全員に問題だ。

 奴の様な『鏡によって作り出された鏡像』にとって、最も恐れる事は何だろうな?」

 

 

偽恭也を倒した後、『偽物を倒してしまって良かったのか』とクローゼが聞くと、なのははこんな問題と言うか、質問をして来た――其の答えが、なのはの辿り着いた『限りなく正答に近い答え』なのだろう。

其れを聞いた一同は真剣に考える……脳筋で喧嘩上等なシェンだけは頭の上に『?』が大量発生しているみたいだが。シェンは決して馬鹿ではないのだが、基本的に直感で動く為、物事を深く理論立てて考えるのは苦手なのだ。『算数は出来るけど数学は出来ない』と言った感じだ。

 

 

「若しかして、鏡を砕かれる事かしら?」

 

 

その中で、いち早く答えを口にしたのは刀奈だった。何処から取り出したのか、手にした扇子に『鏡が砕かれたら自分も消える』と表示してだ。そして、其れだけではなく、次には『若しかして正解?』と別の文字を浮かべていたのだから謎である。

 

 

「刀奈、お前のその扇子は一体如何なっているんだ?」

 

「なのはさん、其れは聞くだけ無駄だって。十年以上一緒に居る俺達でも、其れこそカヅさんでも刀奈の扇子が如何言う絡繰になってるのか全然分からないんだからな……アーティファクトの類かも知れないぜ?」

 

「だとしたら、完全に古代技術の無駄遣いですね……」

 

「マッタク持ってその通りだなクローゼ……が、其れは其れとして、正解だ刀奈。

 奴が映し身の鏡によって作り出された偽物だと言うのならば、その創造主たる映し身の鏡さえ無くなってしまえば鏡像は存在出来なくなる……尤も、簪が調べた結果によれば、映し身の鏡に囚われた本物を助ける為には、鏡像を倒した上で鏡を砕く必要がある様なので、直接鏡を砕いた場合には囚われた者を救う事は出来ないのだろうが、単純に鏡像を倒すだけならば鏡其の物を砕いてやれば良い。

 さて、そうであるならば鏡像は己を作り出した映し身の鏡を如何すると思う?」

 

「其れは勿論、砕かれる可能性が低い場所に保管するのではないでしょうか?……あ、と言う事はつまり、映し身の鏡はあの道場の何処かにあると言う事ですね?」

 

「其の通りだよクローゼ。

 鏡像にとって、映し身の鏡は最大の弱点だ……ならば、奴が何らかの形で其れを自分の手元に置いておいた可能性は極めて高い。件のアンティークショップから買い取ったのか、其れを買い取った者から買い取った、あるいは譲り受けたのか……買い取った者を殺して奪ったのか、其れは分からんがな。」

 

 

刀奈が口にした答えは正解だったらしく、其処から映し身の鏡が何処にある可能性が最も高いかにまで辿り着く……リベリオンの武闘構成員は、戦闘力だけでなく知力や洞察力にも長けた者が多いらしい。

そして、其処まで分かれば充分なので、一行は偽恭也の道場に入り、道場の奥の部屋の前に……他の部屋とは違い、扉は頑丈な鉄製である上に、ダイヤル式のロックまで施されていると言う厳重さから、この扉の向こうに映し身の鏡があるのは略間違いないだろう。

 

 

「シェン、頼んで良いか?」

 

「おうよ、此処は俺の出番だな?覇ぁぁぁぁ……体重×握力×スピード=破壊力!!」

 

 

その鉄製の扉も、シェンの必殺の拳打で粉々……どころか、一部は砂鉄レベルにまで砕けてしまっている。……並の人間がシェンの本気の拳を喰らったら、一撃で骨は砕かれて内蔵は破裂して即死だろう。己の力を極めた脳筋と言うのも中々に恐ろしいモノがある様だ。

シェンによって砕かれた扉の向こうから現れたのは、アンティーク調の鏡台……此れこそが偽恭也を生み出した『映し身の鏡』なのだろう。

 

 

「私とクローゼと璃音以外は部屋の外で待っていろ……この鏡、恐らくは己よりも低い魔力を持つ者の鏡像しか作り出せないと見た。剣士としては超一流だが、魔力は低かった兄さんがコピーされたのがその証だからな。」

 

 

そしてなのははシェンと鬼の子供達に『部屋に入って来るな』と言うと映し身の鏡の前に立ってレイジングハートを構える。そして――

 

 

「不破流剣術奥義の壱……牙突零式!!」

 

 

得意の砲撃ではなく、レイジングハートを槍に見立てての零距離の突きをぶちかまして、映し身の鏡を文字通り粉々にぶち砕く!鏡面だけでなく、鏡台其の物が跡形もなく粉々になってしまったのだから、相当な威力だったのは間違いないだろう……なのはは本当に遠距離型の砲撃魔導師なのかを疑いたくなるが。

だが、映し身の鏡が砕かれた後には気を失った恭也が……映し身の鏡に囚われている間は時が進まないのか、恭也の姿は十年前のままで、服装も映し身の鏡に囚われた当時のモノだった。

 

 

「そう言えばライトロードによって父さんと姉さんが殺されたあの日は冬で、兄さんも長袖を着ていたな……だから左腕の傷が隠されていて、誰も奴が偽物だったとは気が付かなった訳か。

 まぁ、本物の兄さんを取り戻す事は出来た訳だが、だからと言ってこのまま此処から去ると言うのも良い気分ではないからな……クローゼ、街の住民を回復してくれるかな?」

 

「了解ですなのはさん。

 光よ、その輝きで傷つきし翼達を癒せ。リヒトクライス……!」

 

 

映し身の鏡から恭也を開放したなのは、街を去る前にKOしてしまった住民の回復をクローゼに頼み、頼まれたクローゼはアウスレーゼ家に伝わる秘術である『リヒトクライス』を使って住民だけでなく恭也をも回復する……尤も、恭也も住民も回復はしても目を覚ますのはまだ先になるだろう――十年間映し身の鏡に囚われていた恭也と、完全KOされた住民の意識は未だ飛んだままなのだから。

因みに、アウスレーゼの秘術のリヒトクライは癒しの秘術だが、クローゼのリヒトクライスは死者の蘇生をも可能にするモノであり、『真のリヒトクライス』とも言うべき物だったりする……このリヒトクライスを使う事が出来たのは、アウスレーゼ家の始祖たる女性だけだと言われていたのだが、クローゼは長いアウスレーゼ家の歴史の中で初めて始祖以外に、真のリヒトクライスを会得した存在となる訳である。

 

取り敢えず、此れで恭也も街の住民も回復出来た訳だが、此処で新たな問題が発生!それは、恭也をどうやってリベリオンの拠点まで運ぶかと言う事だ。

クローゼはなのはが連れて行くので、恭也は他のメンバーが連れて行く事になるのだが、シェンと一夏は『野郎が野郎を抱えたくない』と言う理由で拒否し、女子組は『女の子が男の人を抱えるってどうなの?』と言う理由から拒否っていた……まぁ、何方の場合も絵面的には微妙だろう。前者は一部の腐女子が喜びそうではあるが。

 

 

「仕方ない、此れを使うか。」

 

「なのはさん、何それ?」

 

「お前を買ったオークションで手に入れたアーティファクトだよ。神聖な生き物であるドラゴンを呼び寄せる事が出来るらしい。確か『ドラゴンを呼ぶ笛』だったかな?」

 

 

此処でなのはは、レイジングハートに収納していたアーティファクトである『ドラゴンを呼ぶ笛』を取り出して、その笛を奏でた……そしてその音色は美しく、そして何処か哀しみを感じさせるモノだった。

そして――

 

 

『グガアァァァ!!』

 

 

その音色に誘われたかのように一体のドラゴンがなのは達の前に現れた……眉唾な力を謳ったアーティファクトではあったが、如何やら本物だったらしい。

なのは達の前に降り立ったのは、黒い身体に紅い目のドラゴン――闇の属性をその身に宿したドラゴンであり、其の力は相当に高いだろう……闇属性のドラゴンが召喚されたのは、ドラゴンを呼ぶ笛を奏でたのが闇属性のなのはだったからだろう。

 

 

「お前が笛の音に応えてくれたドラゴンか……ならば、此れから先頼りにさせて貰うぞ?」

 

『グルル……』

 

 

現れたドラゴンの背に恭也を乗せると、一行はリベリオンの拠点に戻って行った――取り敢えず、なのはの復讐の第一幕は見事な結果であったと言っても過言ではあるまい。

父と姉の仇を討っただけでなく、本物の兄を取り戻す事が出来た訳だからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

・リベール王国:ロレント市郊外

 

 

 

「ウイッと……今夜はちと飲み過ぎたかな?」

 

 

ロレントの酒屋で晩酌を心行くまで楽しんだ柴舟は、家路に付いていた。如何やら今夜は少し飲み過ぎたようであるが。――晩酌については妻である静と、息子である今日も何も言わないが、帰りが遅くなるとなれば話は別だ。

帰りが遅くなれば、其れだけ静と京からの追及は激しくなるのだ……って事はつまり、『外に女がいるんじゃないのか?』と疑われていると言う事であり、夫であり父親である柴舟としては否定すべきなのだが、『一々説明するのも面倒くさい』との理由で放置してたりするのだ――そら、実の息子から尊敬も何もされる訳ないわな。

 

 

「失礼。貴殿は草薙柴舟ととお見受けするが、間違いないか?」

 

「如何にもワシが草薙柴舟だが、ワシに何用かな?」

 

 

そんな柴舟の前に突然現れたのは、眩い衣を纏った褐色肌の女性だった――如何やら柴舟に用があるらしい。

 

 

「如何にも……私と戦ってくれはしないだろうか?伝説の草薙の技、是非ともこの目で見ておきたいからな。」

 

「ほう?ワシと戦いたいとな?良かろう、その挑戦は受けて立とう――じゃが、火遊びは危険じゃぞ?」

 

 

女性の提案を受け入れた柴舟は、女性とのバトルとなり――そしてその五分後には、血みどろになって柴舟は倒れ伏していた。身体に刻まれた傷痕が、戦闘の激しさを物語っていると言える。

 

 

「伝説の草薙の力、確かに貰い受けたぞ。」

 

 

柴舟と戦っていた女性は、其れだけ言うと柴舟の身体を掴んでその場から転移したのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter8『Nächstes Ziel und Zweck』

其れでは、次行ってみようByなのは     そうですね、次に行きましょう!Byクローゼ     本編との温度差は……言うだけ徒労かBy稼津斗


・リベール王国 ロレント市 草薙家

 

 

「ふわ~~……少しばかり寝坊しちまったな――此れも、真吾の奴が夜な夜な『アドバイスください』ってメールして来やがったせいだ。ったく、武闘家としての覚悟はないクセになまじ才能があるってのが面倒だよな。」

 

 

少しばかり遅めの起床をした京は、愚痴りながら着替えると座敷に向かう――本日の京の服装は、ブルージーンズに中割れした十字模様の入った黒いシャツに白いジャケットと言うモノなのだが、此れは嘗て謎の組織に拉致られた際に、其処から逃走する際に組織内からパクったモノだったりする……京は京で中々にハードな人生を送っているようだ。

因みに、その謎の組織はなのはの最側近であるクリザリッドを作り出した組織だったりする。――何と言うか、妙な縁がなのはと京にはあるみたいである。

 

 

「おはよう京。少し寝坊だぞ?」

 

「真吾の奴がメールで煩くて遅くまで起きてたんでな……って、何してんだアインス?つか、何時もの格好にエプロンってのは中々に破壊力があるな?」

 

 

其れは其れとして、座敷で京を待っていたのは、エプロンを着たアインスだった。あの独特な服(劇場版の騎士服)にエプロンの組み合わせと言うのは破壊力がハンパないらしく、京も思わず見惚れてしまったらしい。

 

 

「ふふ、アインスさんは私に料理を習いに来て居るのですよ京。貴方の好みの味を知りたいって言って来たのです……健気で良い人を見つけたようですね京?」

 

「お袋、からかうなっての。ま、確かにアインスは俺には過ぎた彼女かもしれないけどな――美人で格闘技も強くて、料理も上手いからな……この時点で、既に八神に勝ってるな俺は。

 ……まぁ、アインスが居るのは良いとして親父は?昨日の夜飲みに行ってなかったっけか?午前様になるのは間違いねぇと思ってたけど、帰って来てねぇの?」

 

「えぇ、帰って来ていませんねぇ。」

 

 

それはさて置き、京は座敷に柴舟が居ない事に気付き、『帰って来てないのか』と母の静に尋ねると、静も『帰って来ていない』と答える……普通ならば、心配するモノなのだろうが、柴舟が突然居なくなる事は此れが初めてではないので京と静は『またか』と言った感じだ。

『息子と妻なら心配しろよ』と言うなかれ。柴舟が外出して家に戻らなかったのは此れが初めてではない上に、最大で二年と言うトンでもなく長い間家に帰ってなかった事があるので、柴舟が家に帰って来てないとしても『またか』と言った感じになってしまい、最早『心配するのがバカクセェ』と言うレベルにまで達しているのだ。

家に戻って来なくても、妻からも息子からも心配されない親父……其れは親父として如何なのだろうか。

 

 

「こんな事聞くのは如何かと思うんだけどさ、お袋は何で親父と結婚したんだ?親父は特別イケメンでもねぇだろ?」

 

「私とあの人は見合い結婚ですが……草薙の次期頭首の見合い相手に選ばれた時点で人生決定なのですよ京。」

 

「……お袋、なんかごめん。」

 

「若干、草薙家の闇を見た気がするが、そうなると私と京の様に男女交際をしていると言うのは可成りのレアケースと言う事になる訳か……そう言う意味では、自由恋愛を認めてくれた柴舟さんに感謝かな?」

 

「其処だけは、親父に感謝だが……俺の世代で草薙家も変えて行かないとかもな。」

 

 

そして、草薙家には若干の闇がありました……古くからの家故に跡取り問題があるのだが、草薙家の場合は『確実に草薙の血を残さなければならない』ので、養子縁組は行われず、嫡子が男児ならば嫁を、女児ならば婿を取る事で其の血を繋いできた歴史がある。

なので、草薙の血を絶やさぬために望まぬ結婚をした男女も多く、静もその一人なのだが、柴舟への愛はなくとも京への愛は持っている――妻としてはアレでも、母としては最高なのだ静は。

 

その後は京、静、アインスの三人で朝食を摂った……アインスが手伝った本日の草薙家の朝食は、ご飯、味噌汁、ホッケの一夜干しの炭火焼きと言ったメニューで、焼き魚が大好きな京としては大満足の朝食だった。

味噌汁は少し味が濃かったが、其れもアインスが作ったと言う事を聞いて納得……慣れていなかったので、少しだけ味が濃くなってしまったらしい。――其れに気付けたのは京が毎日静の料理を食べていたからで、そうでなかったら気付く事は出来まい。

 

取り敢えず、平和な朝食タイムだったのは間違いないだろう……今この場に居ない柴舟が、何者かに連れ去られたと言う事を、京達は知らないからこその平和ではあるのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter8

『Nächstes Ziel und Zweck』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・リベリオン拠点

 

 

アーティファクト『映し身の鏡』によって生み出された偽恭也をぶちのめし、十年もの間鏡に閉じ込められていた本物の恭也を開放したなのはは、拠点に戻ってくると、リベリオンの医療チームに連絡を入れ、到着した医療チームに恭也を預けて即治療を施すように指示。

クローゼがリヒトクライスで回復させたとは言え、十年間も鏡の中の異空間に閉じ込められていたのだから、完全に回復していない可能性は充分にあるので、この指示は的確だったと言えよう……実際に、恭也は未だ意識を取り戻していないのだから。

 

 

「ミニマム。」

 

『ギョワ?』

 

 

医療チームに指示を出した後は、『ドラゴンを呼ぶ笛』で呼び出した黒竜に縮小魔法を掛けて、小型の猛禽類サイズにしてから拠点内部に入って行く……呼び出した黒竜の大きさは全長約10m、両翼幅約15mの大きさなので、小さくしないと中に入れる事が出来ないのだ。

外に置いておくにしても、入り口を隠している結界からはみ出してしまうので小さくして拠点内部に連れて行くしか黒竜をリベリオンで面倒を見る方法はないのである。

 

 

「縮小魔法……確かに、此れなら中に連れて行く事も出来ますね。」

 

「此方の都合で呼び出したのだから、責任を持って世話せねばならないからな。

 其れに、ドラゴンは自然界に於いては頂点に君臨する生き物である上に、上位種が放つブレス攻撃は上級魔族や上級神族の攻撃にも匹敵するからな……戦力として見た場合にも心強い。」

 

「闇属性のドラゴンを従えた、反逆者達のリーダー……ふふ、何だかとてもカッコいい気がします。」

 

 

黒竜を小さくし、クローゼと話をしながらなのはは医務室に向かうと、医師から恭也について、『衰弱しているが命に別状はない』と聞いて取り敢えず胸を撫で下ろした。

だが其れも、クローゼのリヒトクライスがあったからだろう――リヒトクライスで失われた体力を全部ではないにしろ回復したからこそ、『衰弱しているが命に別状はない』状態で済んでいたのであり、リヒトクライスでの回復がなかったらもっと急を要する状態になっていたかも知れないだろう。

 

 

「兄さんが目を覚ましたら教えてくれ。色々と話さねばならない事があるからな。」

 

「承知いたしました。」

 

 

其れだけ言うと、なのははクローゼと黒竜と共に最深部の主の間……に向かう前に、食堂に寄って『ワンポンドステーキ用のステーキ肉』を一枚貰ってから主の間に。

このステーキ肉は黒竜の餌だろう。

 

 

「私の都合で呼び出して悪かったな。お前が何を食べるのかは分からないので取り敢えず肉だが、此れで良かったか?」

 

『グルゥゥ……!』

 

 

 

――ボッ!!

 

 

 

「上手に焼けました~~……と言った所でしょうか?」

 

「生肉ではなく、ステーキがお好みだったか……恐らくだが、此れまでも獲物は今の黒炎で葬ってから食していたのだろうから、生肉よりも火の通った肉の方が好みと言う訳か。」

 

「そうみたいですね。」

 

 

その肉を黒竜に与えると、黒竜は口から黒炎を発射して肉を良い感じに焼いてから食した……黒竜には黒竜の拘りと言うモノがあるらしい。因みに、黒炎によって焼かれたステーキ肉は、表面はこんがり、中はジューシーと言う見事なレアステーキになっていたりする。黒い炎の温度がドレほどかは分からないが、少なくともレアステーキを良い感じに仕上げる事が出来るのは間違いないだろう。

本気の黒炎は、レアステーキでは済まず、対象を消し炭にするだけの威力があるのだろうが。

 

 

「そう言えばなのはさん、其の子に名前は付けて上げては如何でしょう?アナライズで解析した所『真紅眼の黒竜』と言うドラゴンである事は分かりましたが、其れはあくまでも種族名であり、個体を識別する名前ではありませんので。」

 

「……確かに名前は必要だな。ふむ……『ヴァリアス』と言うのは如何だろうか。」

 

「ヴァリアス……良いと思います。」

 

 

其れは其れとして、クローゼの提案を受けて、なのはは黒竜を『ヴァリアス』と命名した……矢張り、個体を示す名は合った方が愛着も沸くと言うモノだろう。人も魔族も神族も、己の子やペットに名前を付けるのは、其れによって識別しやすくなるからであると同時に、愛着が沸くからだ。

実際に『ペットに固有の名前を付けた場合と付けなかった場合では、愛着が異なる』と言う実験結果も存在していたりするのだ……只単純に名前が思い付かないから猫を『猫』と呼んでいた場合と、『こいつは猫って名前だ』って決めて『猫』と呼んでいた場合には愛着度がまるで違うと言うのだから、名前と言うのは矢張り大事なモノなのだろう。

 

 

「其れでなのはなさん、お兄さんは助け出す事が出来ましたが、此れから如何しましょうか?」

 

「事情を話せば兄さんは力を貸してくれるだろう。

 兄さんは、一流の剣士であり武人であった父さんの事を誰よりも尊敬していたから、その父さんがライトロードによって殺されたと知ればライトロードを許しはしないだろうからな……兄さんは、兎に角曲がった事が大嫌いだったからね。

 だが、其れは其れとしてもう少し戦力を増やしたい所だな?ヴァリアス一体で、並の兵士百人に匹敵するだけの力はあるが、国一つ、そしてライトロードを相手にするにはもう少し戦力を増強したいと言うのが本音だ。」

 

 

黒竜に名を与えた後は、今後の方針だ。

戦力面で言えば、リベリオンの戦力は可成り充実していると言えるのだが、デュナンが治めているリベールと、復讐対象であるライトロードと遣り合うには数の上の不安があるのもまた事実――ドレだけ優秀であっても、数の暴力には勝てない事もあると言う事をなのはは十年前に、圧倒的な力を持っていた父の士郎がライトロードと村の住民と言う数の暴力の前に屈したと言う事から、嫌と言う程理解しているのだ。

なので、質だけでなく量も揃えたいと思うのは致し方ないだろう。

 

 

 

――コン、コン

 

 

 

「俺だ。稼津斗だが、入っても良いかなのは?」

 

「お前か……あぁ、構わん。」

 

 

此処で、稼津斗が主の間を訪れ、ノックした後に、なのはからの了承を得て主の間に入って来た。――態々、此処に来たと言う事は、稼津斗にはなのはに対して何かしら重要な事があったのかもしれない。五百年以上生きてきた『鬼』だからこそ、出来るアドバイスもあるのかもね。

 

 

「失礼するぞ。

 なのは、お前は己の目的を達成する為に仲間を探していると言っていたが……プレシア・テスタロッサに接触した事はあるか?」

 

「無いな。そもそも、プレシア・テスタロッサとは何者だ?」

 

「プレシア・テスタロッサ……聞いた事がない名前ですね?どの様な方なのでしょうか?」

 

「魔女だ。」

 

「「え?」」

 

「だから、魔女だ。」

 

 

そんな稼津斗の口から告げられた『プレシア・テスタロッサ』と言う名前に聞き覚えのないなのはとクローゼだったが、稼津斗が口にした『魔女』と言う言葉に少し驚いた様子だ……『魔女』などと言う存在は、御伽噺の中だけに存在してるモノだと思っていたらしいなのはとクローゼだが、その『魔女』が存在していると言われたら驚くのも当然と言えば当然の事だろう。

加えて、稼津斗の性格から嘘や冗談でそんな事を言うとも考え辛い。なのはの目的を知り、その目的を達成する為に仲間を探している事を知っているのだから。

 

 

「俺が封印される前に、其れなりの回数会っていてな……その時は未だ人間だったが、『何れ師から魔女としての力を継承して、新たな魔女になる。』と言っていたのを思い出したのだ。

 彼女が魔女になっているのであれば、戦力として申し分ないと思うぞ?人間であった頃ですら、彼女の魔力は上級の魔族や神族に匹敵するモノがあったからな。」

 

「其れが本当であるのならば、是非とも仲間にしたい所だが……お前が封印される前に会ったと言う事は最低でも五百年前の事だ。流石に生きてはいないだろう?」

 

「いや、魔女となった者は『魔女の力』を他の誰かに継承させない限り死ぬ事が出来ないらしいから生きている筈だ。『私が新たな魔女となったら、最低でも千年はこの力を他の誰かに継承させる心算はない』と言っていたしな。」

 

 

しかも、『魔女は魔女の力を他の誰かに継承させない限り死ぬ事はない』とまで言い、五百年以上経った今でも生きていると言うのだ……だとしたら、其れはなのはにしてみれば喉から手が出るほど仲間にしたい存在だと言えるだろう。

不死と言う時点で相当だが、魔女になる前から上級の魔族や神族に匹敵するだけの魔力があったと言うのであれば、魔女となった現在ならば魔王クラスの魔力と実力を備えているのは略間違いないし、五百年以上生きて来た中で蓄積された経験と知識と言うモノも魅力であると言えるだろう。

 

 

「プレシア・テスタロッサ……確かに仲間に出来るのならば仲間にしたい存在だな?『鬼』の推薦と言うのも大きい。

 しかし、魔女と言うと如何しても御伽噺のイメージから、黒いローブを纏って尖がった帽子を被った老婆の姿を思い描いてしまうのだが……」

 

「御伽噺の魔女は、例外なくその姿で描かれていますからね……其の、プレシアさんと言う方は容姿はどのような感じなのでしょうか稼津斗さん?」

 

「魔女となった時点で身体の老いは止まると言っていたからな……俺が最後に会った時からそれ程経たずに魔女になったのだとしたら三十代半ばと言った所だが、外見的にはもっと若く見えるだろうな。

 黒目黒髪の美人だったよ……杖を変化させた鞭を持つ姿は、魔女と言うよりも女王様だったがな。」

 

「「うわ~~……」」

 

 

稼津斗から聞いた事をイメージし、なのはもクローゼも若干引いてしまったが、其れが逆にプレシア・テスタロッサへの興味を大きくし、なのははプレシア・テスタロッサとコンタクトを取る為に、今何処に居て、何をしているのかを調べるために、レイジングハートの通信機能を使ってセスに連絡して、プレシア・テスタロッサの居場所を探すように依頼する……この行動の速さもなのはの強みの一つと言えるだろう。

 

 

「しかし、五百年以上も一人で生きて来たと言うのは、流石に孤独で過ぎるのではないだろうか?」

 

「其れに関しては大丈夫だろう。

 魔女の力を継承して新たな魔女となるには、魔女の使い魔となる存在が必要らしいのでな……少なくとも使い魔と一緒なのだろうから一人ではなかった筈だ。」

 

「詳しいですね?」

 

「彼女は、『鬼』となった俺の事を恐れず、普通に接してくれた数少ない存在なのでな……彼女の事を、無意識の内に知りたいと思って、色々と聞いていたのかもな。」

 

「もしや、惚れていたとか?」

 

「さて、其れは如何だろうな?」

 

 

其処からは暫し他愛のない話をする流れに。

その中で『稼津斗は弟子は取らなかったが、『勝手に見て居ろ』と言った相手が多く居る』、『一夏もまた殺意の波動をその身に宿しており、五人の恋人の存在が、その力が暴走する事を抑えている』、『なのはの服は己の魔力で構成した魔力体であり、実は実体の布は全く纏っていない事』、『クローゼはホラーとサスペンスとミステリーが好きだった』と言った事が明らかに……なのはの服の真実と、クローゼの好みが大分衝撃的ではあった。サスペンスとミステリーは兎も角として、ホラー好きの女子と言うのは相当に珍しいと言えるだろう。

其れを聞いたなのはが、『尤も好きなホラー作品は?』と聞けば、『エルム街のナイトメアと、十三日のフライデーです。』と答えたのだから、可成りのガチホラー好きと言っても過言ではあるまい……人に悪夢を見せる顔が崩れた鉄の爪の男と、不気味なマスクを被って鉈で人を惨殺する殺戮者ってのは、ホラー界の二大トラウマキャラであるのに、其れが登場する作品が好きってのはマジだからね。

因みに好きなサスペンスは『羊達のサイレンス』で、好きなミステリーは『金田一ボーイのミステリーファイル』だった。

 

 

 

――コンコン……

 

 

 

そんな話をしていた所で、扉をノックする音が。

 

 

「なのは様、医療チームリーダーの磯野です。恭也様が目を覚ましました。」

 

「!!……そうか。分かった、直ぐに行く。」

 

 

ノックしたのは医療リームのリーダーであり、『恭也が意識を取り戻した』と言う事を伝えに来たのだ……リベリオンの医療チームもまた、『知識は蓄えていたが、貧しさ故に医療免許取得の試験を受けられなかった者』、『医療ミスの責任を押し付けられて医師の道を閉ざされた者』、『学院教授に否定的な意見を言った事で、試験は満点だったにも拘らず医師免許を取得する事が出来ずに、無免許の闇医者として生きて来た者』と言う、この世の理不尽と不条理によってその才能を潰された者達で構成されている……この世は、マジで理不尽と不条理で満たされていると言っても過言ではあるまい。

 

それはさておき、『恭也が目を覚ました』と言う事を聞いたなのはは、即医務室へと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「(此処は、何処だ?)」

 

 

目を覚ました恭也が最初に思ったのは其れだった。

『目が覚めたら知らない天井だった』と言うのは、小説などでよくある展開だが、恭也はまさか己が其れを体験するとは思っていなかったのだろう……体験すると思えってのが可成りの無茶振りではあるが。

 

 

「目が覚めたか、兄さん?」

 

 

其処で、部屋に入って来た女性から声を掛けられて恭也は驚くと同時に警戒を強める……目の前に現れた、栗毛をサイドテールにして黒衣を纏った女性の事を、恭也は全く知らなかったからだ。――しかも、その女性が己の事を『兄さん』と呼んだのならば尚更だ。恭也の記憶では、こんなに大きな妹は存在しなかったのだから。

 

 

「兄さんだと?俺には、貴女の様な妹は居ない!

 美由希は大人だったが、其れでも貴女と比べればまだ子供だったし、なのはとなたねは其れこそ十にもならない子供だったからな…一体何者だお前は?」

 

「十年も経っていれば分からないか……私は貴方の妹のなのはだ。貴方の記憶とはだいぶ異なって居るだろうがな……生きていてくれて、良かったよお兄ちゃん。」

 

 

疑問を持つ恭也に対して、なのはは自分が恭也の妹である『なのは』だと告げると、恭也に抱き付いた――今や唯一の生き残りである家族との再会に、『リベリオンのリーダー』の仮面を脱ぎ捨てて、恭也に抱き付いたのだ。

『兄さん』ではなく、『お兄ちゃん』と呼んでいるのが、その証と言えるだろう。

 

 

「なのは、なのかお前は?……それに十年って、一体如何言う事だ?」

 

「其れは、此れから説明するよお兄ちゃん。」

 

 

そして、其処からなのはは恭也に全てを話した。

恭也は『映し身の鏡』によって鏡像を作り出されて、映し身の鏡の中に十年間も囚われていた事、偽恭也がライトロードを手引きして士郎と美由希を殺した事……そして今、自分は復讐を考えながらも、復讐の果てに『種族の垣根を越えて、全ての種が平和に暮らす事が出来る世界を作りたい』と言う事を恭也に話した。

 

 

「俺の偽物が、ライトロードを手引きして父さんと美由希を殺し、逃げ延びたお前となたねは生き別れてしまったとは……魔族の血を引くお前は嘘を吐く事が出来ないから全て真実なんだろうな。

 父さんと訪れたアンティークショップで、こんな事が起きたとは驚きだが……そう言う事であるのならば、俺は父さんと美由希、そしてお前となたねに対しての贖罪をしなくてはならないだろう――偽物とは言え、俺が父さんと美由希を殺し、お前となたねから家族を奪ったのは俺だからな。

 俺の力で良ければ存分に使えなのは。お前の理想の実現の為ならば、俺は此の力を思い切り揮おうじゃないか。――妹の役に立つ事が出来ると言うのは、兄として最高の喜びでもあるからな。」

 

「そう言って来ると思っていたよ、お兄ちゃん――否、兄さん。其の力、私の目的成就の為に揮って貰うぞ。」

 

「ふ、是非もない。」

 

 

其れを聞いた恭也は、迷う事無くなのはに力を貸す事を決めた――復讐は兎も角として、『種族の垣根を越えて、全ての種が平和に暮らせる世界を作りたい』と言うなのはの目指す理想を聞いたからだろう。

その理想は、士郎と桃子が抱いていた理想であり、なのはは其れを実現させようとしていたのだから、血は繋がっていないとは言え『兄』として力を貸さないと言う選択肢は存在していなかったのだろう。

 

 

「父さんの後を継いだのか……今のお前は、正に魔王だななのは?」

 

「父さんだけでなく、母さんの力も継いでいる……私は魔王ではなく、神魔だよ兄さん。」

 

 

更に此処で、なのはは恭也に背を向けると、その背に魔族の証である漆黒の翼と、神族の証である純白の翼を顕現させて見せた――その姿は、魔族と神族の混血でありながら、魔王も上級神族をも超越した存在だった。

其の力は圧倒的であり、士郎と言う魔王の強さを知っている恭也ですら、若干気圧される程だったが、其れを見て恭也は笑みを浮かべていた。十年前は守るべき存在だった妹が強く逞しく成長した事が嬉しいのだろう。

同時に、その圧倒的な力を放つなのはの横に平然と立っているクローゼにも頼もしさを覚えて居た……なのは自身が強くなっただけでなく、仲間にも恵まれたと言う事も兄としては嬉しい事だったのである。

 

 

「しかし、お前と共に戦うにしても十年間もアーティファクトの中で眠っていたのなら相当に鈍って居るだろうから、先ずは戦いの勘を取り戻さないとだな。」

 

「其れならば大丈夫だ。此処にはトレーニング相手は幾らでも居るからね。

 剣士に武道家、槍使い、暗殺術の使い手に喧嘩屋、果ては改造人間に鬼まで……自分で言うのも何だが、よくもまぁ此れだけ集めたモノだと思うよ。」

 

「確かに凄いな……だがまぁ、今日は大人しくしているとしよう。目覚めたばかりで無理をして、倒れてしまっては本末転倒だからな。」

 

「其れが良い。其れじゃあ、また後で来るね?これから、子供達の勉強時間だから失礼するよ。」

 

 

其れだけ言うと、なのははクローゼと共に医務室を後にし、子供達の待つ勉強部屋へと向かって行った。

 

 

「頼れる仲間を、ゲット!ですね、なのはさん?」

 

「あぁ、兄さんの剣士としての腕は、頼りになるからな。」

 

 

恭也と言う新たな戦力を得た事でリベリオンの戦力は底上げされたが、だからと言って、戦力の増強が終わった訳ではなく、マダマダ次の新たな戦力を欲しているのが今のリベリオンだ。

戦力はあるに越した事はないのだからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

・リベール王国 ルーアン市郊外

 

 

ルーアンは、リベール王国でも三本の指に入る都市であり、同じく三本指に入る都市のボースが商業で栄えている都市だとしたら、ルーアンは観光と漁業で栄えている都市と言えるだろう。

だが、その繁栄の裏では街道に現れる魔獣と悪魔が問題になっているのだが……

 

 

「ハッハー!この程度かい?これじゃ、おやつにもならないな。」

 

 

ルーアン周辺に現れた魔獣も悪魔も、赤いコートを纏った銀髪の男の前では赤子同然に葬られてしまい、其の力を発揮する事は出来ていなかった――と言うか、此の男は文字通りの無双をしており、ルーアンで其の名を知られている、嘗ては半グレ集団、今は街の自警団になっているレイヴンですら入り込む隙が無かったのだ。

 

 

「やれやれ、相変わらずお前さんは凄いねぇ?ギルドの依頼を受けて来たんだが、俺は要らなかったか?」

 

「おぉっと、少しばかり遅かったなカシウス?粗方、俺が食い散らかしまったぜ――とは言え、まだ少しばかり残ってるから手伝ってくれや……魔獣と悪魔が凶暴化してるってのも気になるからな。」

 

「其れは、俺も感じていた事だが……その原因は分からん。だが、狂暴化した魔獣や悪魔と言うのは危険極まりないからな――殲滅するぞダンテ。」

 

「Oh Yes!伝説の遊撃士様とこうして出会えた上に、共に戦える!こんな幸運、滅多にあるもんじゃないからな……其れじゃあ、少しばかりイカレタパーティを始めようじゃないか?

 但し、此処からはR指定のライブだがな!」

 

 

そして、其処にカシウスが現れ、其処からはダンテとカシウスによる、いっそ魔獣と悪魔の方に同情したくなるほどの蹂躙劇が展開された……カシウスが棒術で滅多打ちにした所に、ダンテがエボニー&アイボリーの超連射を喰らわせてからスティンガーをぶちかませば、スティンガーからのミリオンスタブ→ハイタイムのコンボを決めた所にカシウスが通称『親父フェニックス』を叩き込んでターンエンド。

 

 

「オイオイ、もうお終いかい?未だ足りないぜ?」

 

「俺と戦うには、マダマダだったな。」

 

 

そして、最強のオッサンと親父は魔獣と悪魔を滅して勝利のポーズ!ダンディな、オッサンと親父ってのも中々に絵になるモノだな。

 

 

「マダマダだが、魔獣は兎も角悪魔の力が増してやがる……何か、トンデモナイ事が起きる前触れじゃないと良いんだがな。」

 

「其れは、お前さんの杞憂である事を願うしかないだろうな。」

 

 

だが、其れとは別にダンテもカシウスも悪魔の力が増している事に気付いており、其れが大事が起きる前触れではないのかと危惧していた――が、その危惧は良い意味で現実になると言う事は、ダンテもカシウスも予想していなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter9『Gehen wir die Hexe sehen』

魔女と言うとどんなイメージだ?Byなのは     黒いローブと帽子を身に付けた、鷲鼻の老女でしょうか?Byクローゼ     大抵の場合はそのイメージだろうなBy稼津斗


燃え盛る村、鼻を突く血の臭い……そして、身体中を貫かれた士郎と美由希。

既に瀕死の二人を、ライトロードの騎士は持ち上げ、そしてその命を狩る為に、その首を――

 

 

「止せ……止めろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!

 ……はぁ、はぁ……夢か。十年経った今でもあの時の事を夢に見るとは……クローゼをリベリオンに迎え入れてからは見る事がなかったが、其れだけに堪えるモノがあるな?……久しぶりに、最悪の気分の目覚めだ。」

 

 

刎ねられる直前で、なのはは目を覚ました。今の光景は全て夢だったのだ。

ライトロードによって父の士郎と、姉の美由希が殺されて以来、なのはは幾度もその光景を悪夢として見て来た……そのせいで、此の十年間、なのはが熟睡出来た回数など、数えるほどしかないだろう。

其の悪夢も、クローゼと再会してからは見る事が無くなっていたのだが、今日は久しぶりに見てしまったらしい。其れは、朝から最悪の気分にもなるだろう。

 

 

 

――コンコン

 

 

 

「なのはさん、朝から良いでしょうか?何時もより起きるのが遅いので心配だったのですけれど。」

 

「その声はクローゼか?……寝坊してしまったのか私は。なに、少しばかり夢見が悪かっただけの事だから心配はいらない。入って来てくれて構わないぞ。」

 

「では、失礼しますねなのはさん。」

 

 

ドアをノックする音が聞こえ、扉の向こうからはクローゼの声が聞こえたので、なのはは『入って来てくれて構わない』と応え、其れを聞いたクローゼも主の間に入ったのだが、其処には予想外の光景が広がっていた。

 

 

「な、なのはさん!?如何して何も着ていないんですか!」

 

 

ベッドで身体を起こしたばかりのなのはは、一糸纏わぬ姿で居たのだ……主の間にやって来たのが女性であるクローゼだったから良かったようなモノの、此れが野郎だったらきっと恐ろしい事になっていただろう。主に野郎の方が。

 

 

「如何してって……私は寝る時は何時もこうだぞ?服も、こうして一瞬で構成出来るしな。」

 

 

其のなのははと言うと、魔力で何時もの服を構成し、これまた魔力で作ったリボンで髪をサイドテールに結って着替え(?)を完了。一糸纏わぬ姿から、一瞬で服を着た状態になってしまうとは、魔力で構成されている服と言うのは中々に便利である。

 

 

「なのはさん、寝る時は何時もこうって……パジャマ持ってないんですか?」

 

「持っていない。と言うかそもそも布で出来た服は一着も持っていないんだ私は。

 十年前、お前から貰った金を使って食料や風呂は何とかなったが、服となると話が別でな……レイジングハートに収納すれば良いから量は兎も角、洗濯の手間、成長に合わせて買い直す手間を考えた時に、『いっそ魔力で構成すれば、一番楽なんじゃないか』と思ってな。

 何より、自分の魔力で作れば完全に自分好みの服に出来るという利点もある。」

 

「なら、パジャマも魔力で作りませんか?」

 

「昔は作っていたんだが、どうせ誰も見てないし、寝るだけだから何時の頃からか面倒になってしまってね……少なくとも、五年は寝る時に何も着ていない生活をしている筈だ。

 まぁ、流石に寝起きに尋ねて来たのが男性ならば服を構成してから中に入れるが、同性ならば別に構わないだろう?」

 

「いや、其処は構いましょう。なのはさんは、女性から見ても魅力的な方なのですから、人によっては欲情してしまうかもしれませんよ?そんな事になったら、流石に如何かと思うのですが。」

 

「その時は速攻で撃退するから問題無いぞ?……まぁ、その相手がお前であればまた話は別だがなクローゼ?」

 

「え?あの其れは……」

 

「さて、如何言う事だろうな。」

 

 

服を纏ったなのははレイジングハートを手に取ると、クローゼの頬にキスをする……此のところ、なのははクローゼの頬にキスを普通にするようになり、クローゼも其れを普通に受け入れるようになっていた。……頬へのキスは、挨拶みたいなモノだから一々気にするでもないのだろう。

 

 

「改めて、おはようクローゼ。」

 

「はい。おはようございます、なのはさん。」

 

 

悪夢を見て、朝から最悪の気分だったなのはだが、クローゼと会った事でその最悪の気分はもうすっかり吹き飛んでしまっていた――クローゼをグランセル城から連れ出したのは、クローゼだけでなく、なのはのメンタルにとっても良い事だったのは間違いないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter9

『Gehen wir die Hexe sehen』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なのはとクローゼは一緒に朝食を摂ると、リベリオン内部の訓練場を訪れていた。(ヴァリアスも朝食のステーキを平らげ、なのはの肩に停まって一緒に移動だ。)

訓練場は、二十四時間オープンで、誰が何時でも使えるようになっている――そして、この訓練場は、完全防音処置が施されているので、訓練の音が外に漏れる事と言う事もなく、何時でも使用出来るのである。

そんな訓練場では、現在恭也とサイファーが戦っている。

恭也は小太刀二刀流を、サイファーは長剣の二刀流を使っての戦闘だ……この試合は、恭也のリハビリも兼ねており、医務室から出たばかりの頃は、身体が思うように動かせずに苦戦していたのだが、五日目になる本日はサイファーと互角に戦えるまでに回復していた。

『昔取った杵柄』ではないが、十年間も映し身の鏡の異空間に囚われて大分鈍って居たとは言え、逆に言うと記憶と肉体は十年前のままだったので勘を取り戻すのにそれほど苦労しなかったみたいである。

 

 

「ちぃ、同じ二刀流でもお前が相手だとやり辛いな恭也……!!」

 

「俺に言わせて貰えば、身の丈ほどの長剣での二刀流を難なく使い熟す貴女も大概だと思うけどな……そんな馬鹿デカい武器、小太刀の間合いになれば封殺出来ると思っていたのだが、こうして対処しているんだから驚いているよ。」

 

「ふ……なのはも強かったが、兄であるお前も相当だな?魔族でも神族でもない、只の人間に私と遣り合える奴が居たとは驚きだ!」

 

 

打ち合いは更に激しさを増し、絶え間ない剣戟の音が訓練場に鳴り響く……神族、魔族、人間と全ての種の血を引き、特に魔族の血が特に色濃く出ているサイファーと互角に戦う事が出来ている純血の人間である恭也は中々に強いと言えるだろう。――純血の人間は、如何したって魔族や神族との混血の人間と比べると身体能力で劣る部分だあるのだから。

なので、サイファーがこの様に言ってしまうのも仕方ないだろう。

 

 

「サイファーさんと遣り合える只の人間……カシウスさんだったら、互角に遣り合うだけでなく圧勝してしまう気がします。」

 

「魔王であった父さんも、カシウス・ブライトの事を大層評価していたが……其れはつまり、父さんが其の力を認めたと言う訳であって、父さんが力を認めたと言う事はカシウス・ブライトは父さんと戦って其の力を認めさせるに至ったと言う事だよな?

 父さんが負けたとは思えないが……痛み分けと言う結果だったのかも知れん――魔王と痛み分けとか、カシウス・ブライトは本当に純血の人間か?」

 

「人間だと思います……アウスレーゼ家は、遡ると始祖様は天界から下天した神族に行き着くらしいのですが。」

 

「下天した神族……神族である事を捨てて人間になった存在だったか?

 ……お前の巨大な魔力を考えると、その話は王族の威厳を誇示する為の作り話ではないのだろうな……元は神族であったからこそ、其れだけの魔力を有していると言う訳か。

 ……其れは其れとして、デュナンとお前に同じ血が流れていると言うのは、絶対に嘘だと思いたいがな。」

 

「お父様の弟である叔父様が、どうしてあぁなってしまったのか、マッタク持って謎です。」

 

 

サイファーのセリフを聞きながら、二人はカシウスは本当に人間なのか、と語り合っていた。

尤も、ロレントにはカシウスだけでなく、京にブライト三姉妹、ヨシュア、自警団『BLAZE』のメンバーと言った、『純血の人間でありながら、神族や魔族と互角以上に戦える人間』が居るのだけれどね。

其れはさて置き、試合は更に激しさを増し、恭也が逆手二刀による、『左右二択一瞬六斬』の攻撃を仕掛ければ、サイファーも長剣を逆手に持って其れを的確にガードしたのだが、激しい連続攻撃によって腕が少しばかり痺れてしまった。

その隙を恭也は逃がさず、サイファーに肉薄すると掌底で顎を打ち抜く!恭也は、剣術だけでなく無手の格闘戦も強いのだ。

 

此の一撃を喰らってもすぐさま立ち上がったサイファーは大したモノだが、完璧に顎を打ち抜かれた事で脳が揺れ、立っているのがやっとと言った所だ……神族と魔族の血を引いていても、脳を揺らされると思ったように動けなくなるのは人間と変わらないようだ。

 

 

「其処まで。この勝負、兄さんの勝ちだ。」

 

「なのは、私は未だ……」

 

「立っているのがやっとの状態で、どうやって戦う心算だ?此れが本物の戦闘であったら、お前は首を落とされてゲームエンドだぞサイファー?」

 

「……心臓さえ無事なら、頭を落とされても私は再生する事を忘れたかお前?寧ろ頭を落としてくれれば、頭が再生し、再生した頭の脳は揺らされてないから、寧ろ有利になるぞ。」

 

「……魔族であっても、頭まで再生出来る奴はいないのだが、此れも神族と魔族と人間の全ての血を引いている故の事か?ある意味でバグキャラだなお前は。」

 

 

此処でなのはが試合終了を宣言して、この試合は恭也の勝ちとなった。――恭也は、ほぼ完全に嘗ての実力と実戦の勘を取り戻したようだが、此れはなのはにとっても嬉しい事だろう。頼りになる戦力が増えたのだから。

 

 

「時にクローゼ、兄さんは十年前のままで、其れはつまり今の私と同じ年と言う事になるのだが……同い年の兄の事をどう呼ぶべきだろうか?しかも、誕生月は私の方が早いのだが……」

 

「其処は、なのはさんの呼びたいようにで良いのではないでしょうか?」

 

「なら、此れまで通り兄さんと呼ぶか。」

 

 

……十歳も年上だった兄が、同い年になってしまうと、呼び名で困るらしい。双子でもなければ、同い年の兄妹と言うのは存在しないからね――双子以外で同い年となると親の再婚相手の連れ子が同い年でなければならないからね。

因みに、なのはは恭也の事をプライベートでは『お兄ちゃん』と呼んでいるのだが、クローゼ以外の誰かが居る時には『兄さん』と呼ぶようにしていた……一組織の長たる者が、兄の事を『お兄ちゃん』と呼んでいたら、威厳もへったくれもないので仕方ないと言えば仕方ないのだけれどな。

 

訓練場での試合を見届けたなのはとクローゼは、リベリオンの拠点の最上部にある展望台にやって来た。

此処からの眺望は絶景の一言であり、気温の低い日には雲海が、気温の高い日には蜃気楼が拝めると言う希少な場所なのである……本日は、気温が低めだったので見事な雲海が広がっている。

 

 

「プレシア・テスタロッサさんの事をセスさんに依頼してから五日ですが、まだ何も連絡はありませんか……余程、難しい案件だったと言う事なのでしょうか?」

 

「恐らくな。

 五百年を生きて来た魔女を探し出すと言うのは並大抵の事ではないのだろうさ……だが、私達もセスからの報告をただ待っているだけではダメだ。己の手でも戦力を増強せねばならないからな。

 と、言う訳で此れを吹いてみないかクローゼ?」

 

 

そんな場所で、なのははレイジングハートからドラゴンよ呼ぶ笛を取り出すと、其れをクローゼに『吹いてみないか?』と言って差し出した――ドラゴンの力は、正に一騎当千なので、ヴァリアスだけでなくもう一体、出来ればクローゼと同じ聖なる属性のドラゴンを戦力に加えたいと思ったのだろう。

尤も、『だったら、其れで手当たり次第にドラゴン呼びまくれば即戦力増強ではないか』と思うかもしれないが、『ドラゴンを呼ぶ笛』で呼び出したドラゴンは、基本的に己を呼んだ者と其の者よりも大きな魔力を持った者の言う事しか聞かないので、余りに高位のドラゴンばかりを呼び出しても管理が難しくなってしまうのだ。序に、縮小魔法で小型化しても、其れなりに餌は食べるの餌代も馬鹿にならないのである。

 

 

「吹いてみても良いんですか?」

 

「あぁ、お前ならばきっとヴァリアス以上の高位のドラゴンを呼び出せる筈だ。」

 

 

笛を渡されたクローゼは、少し戸惑いながらも、しかし笛を吹く事を拒んではいない……なのはが闇属性の黒竜を呼び出したのならば、自分ならばどんな竜を呼ぶ事が出来るのか興味もあるのだろう。

なのはから笛を受け取ったクローゼは、其れに口を付けると――

 

 

 

――~~~♪

 

 

 

なのはが吹いた時とは異なる、軽やかな音色を奏でた。

なのはが奏でた笛の音が『黒き星の輝き』であるとすれば、クローゼが奏でた笛の音は『白き翼の飛翔』と言った所だろうか?闇と光、其の存在を其のまま笛の音にした感じであった。

そして、クローゼの笛の音に呼応して現れたのは……

 

 

『グルル……』

 

 

純白の白き巨躯に青い眼が特徴の龍だった。

 

 

「此れが私が呼び出したドラゴン……アナライズで調べてみたら、『青眼の白龍』と言う光属性のドラゴンですね?……なのはさんのヴァリアスとは対になるドラゴンと言った所でしょうか?」

 

「其れは名前と属性で言えばだろう?

 ヴァリアスも相当に高位のドラゴンではあるが、コイツの力はヴァリアスを遥かに上回る。まさか、此れほどのドラゴンを呼び出すとは……お前の魔力は、私と同じくオーバーSであるのは間違いないんじゃないか?」

 

「そうかも知れません。

 因みに、アナライズで調べると、対象の簡単な説明もされるのですが、其れによると此のドラゴンは『高い攻撃力を誇る伝説のドラゴン。どんな相手でも粉砕する、その破壊力は計り知れない。』との事です。」

 

「成程。因みにヴァリアスは?」

 

「ヴァリアスは、『真紅の眼を持つ黒竜。怒りの黒き炎はその眼に映る者全てを焼き尽くす』ですね。」

 

 

クローゼが、『ドラゴンを呼ぶ笛』で呼び出したのは、なのはのヴァリアスをも上回る光属性のドラゴンであった……その身から発せられる圧倒的な力は、神にも匹敵するレベルであり、新たな戦力としては申し分ないどころか、お釣りが来るレベルだと言えるだろう。

 

 

「まぁ、取り敢えず……ミニマム。」

 

 

だが、このままでは拠点内には入れないので、なのはが縮小魔法を使って小さくすると、白龍はクローゼの肩に停まる……己を呼び出したクローゼの事を、主だと認めたのだろう。

神聖な生き物とされるドラゴンを、こうも簡単に手懐けてしまったなのはとクローゼは、何か特別なモノを持っているのかも知れないな。

 

 

「ふふ、何だかジークを思い出しますね。」

 

「ジーク?」

 

「親衛隊のユリアさんが飼っている白ハヤブサで、私の友達です。親衛隊の間では、通信傍受をされない通信手段としても使われていました……ジークの本気の飛行速度は時速300㎞を突破しますから。」

 

「亜音速で飛行するハヤブサと言うのも凄いな……其れよりも、そいつに名前を付けてやったらどうだ?個体を識別する名前はあった方が良いだろう?」

 

「そうですね。

 ……では、『アシェル』と言うのは如何でしょうか?」

 

「アシェルか、良い名だな。」

 

 

クローゼが呼び出した龍の名前も決まったようだ。

 

 

『Master.Communication from Mr. Seth.(マスター、ミスターセスから通信です。)』

 

 

此処で、レイジングハートからセスからの通信が入ったとの連絡が……レイジングハートはなのはの相棒の武器であるだけでなく、通信機としての機能も備えていると言うマルチデバイスなのだ。

アーティファクトの持つ力と言うのは正に無限大だと言っても過言ではないだろう。

 

 

「繋いでくれ。……セスか。お前から連絡があるとは、プレシア・テスタロッサの情報を掴んだのか?」

 

『いや、プレシア本人の情報を掴む事は出来なかったが、彼女の関係者と思われる人物の情報を得る事は出来たよ。』

 

「プレシアの関係者、だと?」

 

 

セスは、プレシア本人の情報を得る事は出来なかったが、プレシアの関係者と思しき人物の情報を得るに至っていたようだ。

なのはが詳しく聞くと、プレシアの情報を探っている時、マッタク一切何も掴む事が出来ずにいた際に、『ミッドチルダ』と言う場所で、三人の女性を見掛けたとの事……其れだけならば大した事ではなかったのだが、其の三人の女性の内、茶髪でショートヘアーの女性が金髪の女性と青髪の女性に『フェイトとレヴィが選んだ物ならば、どんな物でもプレシアは喜びますよ』と言って居たとの事だった。

 

 

「成程……プレシアと言う名前はそれ程ある名前ではないから、プレシア・テスタロッサの関係者である可能性は極めて高いが、確証が欲しい所だな?」

 

『そう言うだろうと思ってね、街頭インタビューを装って彼女達に声を掛けてみたんだよ……茶髪の女性と金髪の女性は少しばかり警戒していたが、青髪の女性は全くの無警戒でな、名前を聞いたらアッサリと『レヴィ・テスタロッサ』と名乗ってくれたよ。

 更に、『おかーさんに、みどりやのシュークリームをかっていってあげるんだ!』とも言っていたよ。……テスタロッサ姓を名乗る女性の親がプレシアな訳だ。』

 

「……そう言えば、ミッドチルダに翠屋の商品を卸している店があったな。

 ふむ……確かに、姓も名も一致するのであれば、プレシア・テスタロッサの関係者――少なくともレヴィと名乗った女性は娘である可能性は極めて高くなるな?何とかその女性とコンタクトを取りたい所だが……」

 

『悪いが、彼女達の所在までは聞き出す事が出来なかった……ただ、ミッドチルダには良く買い物に来るんだそうだ。』

 

 

セスの情報は可成り有益なモノではあったが、プレシア・テスタロッサ本人に至るには、まだ足りないと言った所だろう。なのはの言うように、プレシアの娘であると思われるレヴィと名乗った女性とコンタクトを取る事が出来れば道は開けるのだろうが。

 

 

「なら、私達もミッドチルダに行ってみては如何でしょうかなのはさん?ミッドチルダに数日滞在していれば、若しかしたら会えるかもしれませんよ?」

 

「クローゼ?……いや、確かにその方法はありかもしれないな?此方からコンタクトを取るのが難しいのであれば、向こうから現れてくれるのを待つと言う訳か。

 ミッドチルダ全体にサーチャーを飛ばしておけば、件の女性が現れるのを感知するのも難しくはないからね……ならば、早速ミッドチルダに行ってみるとしよう。

 セス、お前もミッドチルダで待っていろ。現地で合流したら、行動開始だ。」

 

『了解だなのは。』

 

 

其れもクローゼの提案で、アッサリと解決した。

ミッドチルダに良く買い物に来ていると言うのであれば、ミッドチルダで張り込むのが最も効率よくかつ確実にレヴィ他二名とコンタクトを取る方法であると言えるのだからね……向こうから来てくれるのを待てば良いとは、正に逆転の発想と言えるだろう。

 

 

「ミッドチルダに赴く事で、私とお前の事がデュナンに感知される危険性はあるが、プレシア・テスタロッサとコンタクトが取れるのであれば、寧ろ利の方が大きい。

 早速準備をして、ミッドチルダに向かうとしよう。」

 

「はい、そうしましょうなのはさん。」

 

 

其処からのなのはの行動は早く、リベリオンのメンバーに『ミッドチルダに行く』と言う事を伝えると、同行する者を募った――そこで真っ先に手を上げたのは稼津斗だ。

なのはがプレシアの事を探している以上、プレシアと面識のある自分が行かないと言う選択肢は無かったのだろう……五百年振りとなる友との再会を果たしたかったと言うのもあるのかも知れないが。

 

なのはも稼津斗の同行には異論はなかったので、其れに同意したが、次に手を上げたのは一夏だった。

 

 

「お前も来るのか一夏?」

 

「カヅさんが行くなら、俺が行かない理由はないぜ!

 俺はカヅさんに育てられた鬼の子だ。魔女の子供に会うって言うなら、鬼の子供も行った方が良いんじゃないのか?――本音を言うのなら、刀奈達も一緒に行きたいけど、大人数での行動ってのは動きが重くなるから、俺が代表で付いて行かせて貰うぜ。」

 

「鬼の子供達の代表としてか……良いだろう、お前も来てくれ一夏。」

 

「おうよ!」

 

 

一夏の言ってる事は、若干意味不明な部分ではあるのだが、『子供同士の方が話が合うかも』とかそう言う意味合いがあったのだろう多分。単純に、己の育ての親であり師でもある稼津斗の友人であるプレシアの顔を見たかったと言うのもあるだろうが。

 

 

「あ~~、ずるいわよ一夏!私達も連れて行きなさいな!」

 

「一人だけで行くなんてダメ。」

 

「連れないな一夏……稼津斗さんの友人にして稀代の魔女たるプレシア・テスタロッサ女史に会いに行くのに私達を連れて行ってくれないとは。」

 

「其れに、人数が多ければ観察の眼も多くなりますからメリットもありますよ?」

 

「ま、ぶっちゃけて言うと私等も行きたいってだけなんだけどね。」

 

 

だが、此処で一夏の恋人達である刀奈、簪、ロラン、ヴィシュヌ、グリフィンも一緒に行くと立候補!

ハーメル村がライトロードによって滅ぼされてから十年もの間一緒に居たと言うだけでなく、恋人同士と言う事もあって、一夏が何処かに行く時には此の五人は必ず一緒だったりする……普通に考えると、一夏に依存している様に感じるかも知れないが、ライトロードによって家族を奪われた彼女達にとって恋人である一夏は命と同じ位大切なモノであり、それ故に一夏が出掛ける時には一緒に居ないと不安になってしまうのだ……また、大切な存在が居なくなってしまうのではないかと。

理不尽に家族を奪われたら、そう言う心理状態になってしまうのも当然と言えるだろう。寧ろ、なのはの様に『喪う事』に恐怖ではなく、怒りと憎悪を覚える事の方がレアケースと言えよう……此れも、人間と神魔の違いなのかも知れないが。

 

 

「ふむ……ならばお前達も一緒に来い。現地でセスと合流しても十人だからな、其処まで大人数と言う事でもあるまい。

 私はクローゼと、一夏は刀奈達五人と、稼津斗とセスは単独行動をするようにすればフットワークの重さも解消されるし、十人で固まって動くよりも効率が良いと言うモノだからね。」

 

「ならばなのは様、私も同行させて頂けませんか?」

 

「クリザリッド、稼津斗だけでなくお前まで一緒に来てしまったら、拠点の戦力が著しく下がるから今回は留守番を頼む……見つかり難い場所であるとは言え、賊が迷い込む可能性はゼロではないからね。

 私の不在時を安心して任せる事が出来る存在の筆頭はお前だ……拠点の警護を任せたぞ。」

 

「なのは様……そう言う事でしたら。」

 

 

なのはは、刀奈達の同行を了承すると、クリザリッドに拠点の警護を任せ、そしてミッドチルダへと向かって行った……クローゼをお姫様抱っこして。

クローゼは『アシェルに乗って行けば良いんじゃないですか?』と言っていたのだが、なのはが『ミッドチルダの郊外に降りるにしても、其れは流石に目立つ』と言う事で却下し、なのはがお姫様抱っこしていく事になったのだ。

まぁ、アシェルはクローゼの肩に停まり、ヴァリアスはなのはの頭に停まってるのだが。

 

 

「ヴァリアス、何で頭の上なんだ?」

 

「主の頭の上に乗ると言うのは、若しかして……」

 

『ピカチュウ。』

 

「嘘吐けぇ!」

 

 

ミッドチルダまでの空の散歩では少しばかり愉快な遣り取りがあったが概ね平和であった――ミッドチルダを目前にして、空中型の魔獣の襲撃に遭ったが、其れはヴァリアスとアシェルをフルサイズに戻す事で余裕だったからね。

ヴァリアスが放つ火炎弾と、アシェルの放つブレスの前では魔獣如きは粉砕!玉砕!!大喝采!!!される以外の選択肢などなかった訳である。

そして、なのは達一行はミッドチルダの地へと降り立ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

・時の庭園

 

 

時の庭園……其処はプレシア・テスタロッサによって作り出された、外界とは隔絶された特殊空間だ。

その隔絶された空間には枯山水の庭があり、錦鯉が泳ぐ池が存在し、そしてワビサビの風情が満点の家屋が……って、何でだよ!何だって、東方の国独特の文化が此の場所に展開されてるのか謎だわ。

 

 

「……何か、大きな力が動こうとしているみたいね。」

 

 

その家屋の一室、畳張りの茶室で、この時の庭園の主であるプレシアは、抹茶を点てながらそんな事を言っていた――『ザッツ魔女』な出で立ちのプレシアが、茶室で正座をして抹茶を点てていると言うのは何ともシュールな光景である。

 

 

「大きな力、ですか母さん?」

 

「えぇ、とても大きな力よ……其れこそ、私の魔力よりも遥かに大きいわ。そして、其の力は世界に大きな影響を与える事は間違いないでしょうね。貴女達も用心しておきなさいフェイト、レヴィ。」

 

「はい、心に留めておきます母さん。」

 

「あ~っはっは!なにがおきても、僕とヘイトがいればたいてーのことはなんとかなる!僕とヘイトのタッグはさいきょーだー!どこからでもかかってこーい!」

 

 

プレシアは、娘のフェイトとレヴィに『用心しておけ』と言ったのだが、フェイトの方は普通に其れに応えたのに対して、レヴィの方は些か思考がぶっ飛んでいるみたいだった。

そして、其れだけはなく、レヴィは茶室の壁をぶち抜いて行ってしまったのだから相当だろう――直後にフェイトが追いかける羽目になったのだが。

 

 

「リニス、私は時々レヴィの事を途轍もない大物だと思う事があるのだけれど……」

 

「其れは多分気のせい……だと思いたいです。」

 

 

その場に残されたプレシアとリニスは、レヴィについての意見交換をしていたが、レヴィが大物であると言うのはまず間違いないだろうね――パワーとスピードにステータスを全振りしてしまった愛すべきアホの子が大物じゃない筈がないからね。

 

でもって、時の庭園を飛び出したレヴィとフェイトはミッドチルダへと向かって行った……此れは、なのはにとっては『良い意味での予想外』になるのかも知れないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter10『Begegnung mit den Töchtern der Hexe』

魔女の子供達の片割れはアホの子だった!Byなのは     此れは悲報なのでしょうか?Byクローゼ     いえーい!僕さいきょーByレヴィ


リベリオンの拠点から飛び立ったなのは達一行は、ミッドチルダの近郊に着地してから、ミッドチルダ本土へと向かって行った――『ドラゴンがやって来た』と同じレベルで『人が空から降りて来た』ってのは、大注目になってしまうので、近郊に降りたと言う事なのだろう。

 

ミッドチルダに向かう際に、なのははクローゼの手を取り、手を繋いでミッドチルダに向かったのが、其の手の繋ぎ方が所謂一つの、五指を絡めた『恋人繋ぎ』だったのには突っ込んではいけないのだろう。

逆に言えば、なのはもクローゼも、無意識下で互いに友情以上のモノを感じているのかも知れない。

 

 

「此処がミッドチルダ……魔女の子供達が現れる場所か。私が思っていた以上に都会であるみたいだな?」

 

「これは、グランセル、ボース、ルーアンをも上回る都会であるかも知れませんね。」

 

 

其れは其れとして、一行が訪れたミッドチルダは、リベールでも三本の指に入る都会である、グランセル、ルーアン、ボースをも上回る大都会だった……道路が整備されているだけでなく、空中に建設された高速道路まで存在しているのだから、技術レベルの高さも相当だろう。

 

……尤もミッドチルダの技術レベルは、リベールのツァイスに住んでいるラッセル博士と、その弟子である『不動兄妹』によって開発されたモノが元になっていたりするので、独自の技術と言う訳ではないのだが。

 

 

「さてと、先ずはセスと合流だが……」

 

『Master.Communication from Mr. Seth.(マスター、ミスターセスから通信です。)』

 

「……ナイスタイミングと言った所だねセス?なのはだけれど、ミッドチルダに到着した。今何処に居る?」

 

『お、中々良いタイミングだったみたいだね?駅前の広場に居る。そこで落ち合おう。』

 

「了解だ。」

 

 

先ずはセスと合流しようと考えていた所で、セスからの通信が入り、先ずは駅前の広場で合流する事に――ミッドチルダに到着したのを狙ったかのようにセスの方から連絡があると言うのもタイミングが良すぎる気がするが、なのはとセスは其れなりに長い付き合いなので、連絡を入れるタイミングなんかが割と分かる部分が有るのだろう。

 

一行は指定された駅前の広場へと移動を開始したのだが――

 

 

「……何だか、注目されている気がするんだが……気のせいか?」

 

「確かに、視線を感じますね……大人数なので目立つのでしょうか?」

 

「其れもあるかも知れないけどさ、俺達の見た目も要因の一つかも。」

 

「ふむ、如何言う事だ一夏?」

 

「いや、俺の彼女達は当然として、なのはさんとクローゼさんも凄く美人だろ?

 其れだけでも充分注目されると思うんだけど、その美人軍団と一緒に居る野郎二人は顔に大きな傷があるってんだから余計に注目されてるんじゃないか……良い見方をすれば良いトコのお嬢様達とその用心棒、穿った見方をすればそっち系の野郎が美女侍らしてるように見えてるのかも。」

 

「実際に美女を侍らせているのはお前だけだがな、一夏よ。五人の恋人が居るとは、お前は一体何処のハーレムモノ小説の主人公なのか……」

 

 

道行く人々に注目されている様だった。

その理由は一夏が言った事で略間違い無いのだが、実は一番注目されていたのはなのはとクローゼだったりする……此の場に居る七人の女性達は、誰もが『絶世の美女』と言えるのだが、なのはとクローゼは纏っているオーラが違うのだ。

魔王と熾天使の血を引くなのはと、リベール王国の王族として正統な血統を受け継いでいるクローゼは、其処に居るだけで圧倒的な存在感を周囲に感じさせてしまうらしく、其れで注目されているのだ……なのはは左手にレイジングハートを持ち、クローゼは腰にレイピアを差していると言ると言う事と、なのはは頭に、クローゼは肩に小さなドラゴンが乗っている言うのも要因の一つかも知れないが。

そして、なのはとクローゼと同じ位に注目されているのが稼津斗だ――顔の傷もさる事ながら、この一団の中では一際大きい185cmと言う身長は注目を集めるらしい。

 

とは言え、注目されているだけで特に害はないので、なのは達は駅前の広場へと足を進めて行った……その途中、何人かの通行人に『写真を撮らせて下さい』とお願いされたが、其れは丁重に断った。

写真を撮られる事よりも、その写真が流出して自分達が何処に行ったのかをデュナンに知られる事を嫌ったのだ……ミッドチルダに来る事で、デュナンに存在を感知される危険性は考えていたが、だからと言って自らその危険性を高める必要はないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter10

『Begegnung mit den Töchtern der Hexe』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

十分後、なのは達一行は駅前の広場に到着し、セスと合流していた。

 

 

「此れは此れは、随分と大所帯で来たモノだね?」

 

「人数が多ければ、その分だけ魔女の娘達を見つける為の目が多くなるからな……チーム分けをしてミッドチルダの各所に散らばればフットワークが重くなると言う事もないだろう?」

 

「確かに其の通りだね。」

 

 

そして早速、『魔女の娘達』と接触するべく行動を開始。

先ずはチーム分けだが、此れは迷う事無く即決した――なのはとクローゼ、更識姉妹、ロランとヴィシュヌとグリフィンがチームとなり、稼津斗と一夏とセスは単独行動と言う事になった。

女性陣が二人または三人組なのは、ナンパとかされた時に一人よりも対処が容易になるからだ――一般人ならば、其れでも危ないかも知れないが、なのは達はそんじょそこ等のナンパ野郎如きは何人来た所で余裕でぶっ倒せるので問題ないのだ。

十年間牙を研いでいたなのは、鬼に育てられた刀奈達は言うに及ばず、クローゼもリベリオンの一員となってからは急速に其の実力を伸ばしているのだからマッタクもって問題無いのだ……尤も、クローゼをナンパしようとしたらその時は、問答無用でナンパ師になのはの直射砲撃が炸裂するかもしれないが。

 

 

「それじゃ、この前撮った『魔女の娘達』の画像を全員の端末に転送するぞ?」

 

『Image data received.(画像データ、受信しました。)』

 

「こっちも受信出来たぜ……魔女の娘達って双子だったんだ。」

 

「一卵性だと、二卵性の私と簪と違って瓜二つね?違うのは髪の色位だわ。」

 

 

続いてセスから、なのはのレイジングハートと、クローゼ達の携帯通信端末に『魔女の娘達』の画像が送られ、此れで『魔女の娘達』の容姿も全員が把握出来た。

因みにクローゼ達が使っている携帯通信端末は、ツァイスに住んでいる不動兄妹の発明だったりする。此れが発明されるまでは、通信手段は有線の電話か手紙だったのだが、無線通信技術の開発に成功した事でこうした携帯通信端末を作る事が出来るようになったのだ――その無線通信機能がレイジングハートには備わっているので、アーティファクトが存在していた太古の昔には、今以上の文明が発展していたのかも知れないが。

其れでも、この携帯通信端末は極薄で、片手で操作出来る程の大きさでありながら、電話通信だけでなく写真を撮ったり、メッセージを送ったり出来るのだから驚きである。

 

セスから画像を受け取った後は、夫々がミッドチルダの色んな場所に散らばって『魔女の娘達』が現われるのを待つ事になった。

そして、待つだけでなく、なのはは自身が展開出来るサーチャーの最大数である50基をミッドチルダに展開して索敵の目を増やす……ミッドチルダは、可成り広いので50基でも足りないかも知れないが、其れでも目が増えると言うのは其れだけ『魔女の娘達』を発見する確率が高くなるので展開しておくに越した事はないのだ。

其れでも見つからない時は見つからないが、元より張り込みと言うモノは成果が出るまではじっくり待つのが基本なので、『魔女の娘達』がミッドチルダに現れるその時までは兎に角我慢するしかない。張り込みに必要なのは忍耐力なのである。

 

 

「ではなのはさん、私達は何処に行きましょうか?」

 

「そうだな……ミッドチルダには、翠屋の商品を卸している店があるから其処で張り込む事にしよう。確か、カフェスペースのある店だった筈だから張り込みをしていても怪しまれる事はないだろうからね。

 多少長居しても『女性二人のお茶会』ならば、店に長居するのは珍しい事ではないからな。」

 

 

そんな中で、なのははミッドチルダにある翠屋の商品を卸している店で張り込む事にしたようだ。

カフェスペースのある店で、『お茶会』を装って張り込んで居れば、確かに怪しまれる事もないだろう。――コーヒー一杯で何時間も居座ると言うのであれば極めて迷惑な客だが、適度に注文をして長居するのであれば何も問題はないからな。

 

 

「此処か。」

 

「何だか良い雰囲気のお店ですね。」

 

 

駅前の広場から歩く事五分程で目的の店に到着。

店の名前は『アクロスカフェ』。何処かレトロな雰囲気が漂う良い感じの店だ。基本的にはコーヒー豆や紅茶、スウィーツなんかを販売しているのだが、カフェコーナーも併設されており、淹れたてのコーヒーや紅茶、作りたてのスウィーツやスナックが味わえる店になっているのだ。

 

店に入ったなのはとクローゼは、テラス席へと移動してその一角に腰を下ろした――窓際の席よりも、更に広く周囲を見渡せると言う事でテラス席を選んだのだろう。

 

 

「ご注文は?」

 

「キャラメルミルクティーとクリスピーチキンバーガーのハバネロホット、其れから翠屋のシュークリームで。」

 

「エスプレッソとローストビーフサンド、其れからチーズケーキでお願いします。」

 

「畏まりました。」

 

 

ウェイトレスに注文を出し、なのはとクローゼは少しリラックスした雰囲気だ。ヴァリアスとアシェルも椅子の下で大人しくしている。

張り込みと言うのは普通は緊張感をもって行うモノだが、今回の張り込みは重篤な犯罪を犯した犯罪者を張り込む訳ではないので、其処まで緊張する必要はないと言う事だ――寧ろ必要以上の緊張は邪魔になると言っても良いだろう。

 

注文を出してから約五分後には、注文の品が届けられ、ウェイトレスが『ごゆっくりどうぞ』と言って去って行った。

 

 

「クリスピーチキンバーガーのハバネロホットは兎も角、キャラメルミルクティーとシュークリームと言うのは少し意外でした……なのはさんなら、エスプレッソやブラックコーヒー、スウィーツもティラミスやビターのガトーショコラだと思ったのですか。」

 

「思いの他子供っぽかったか?

 確かに子供っぽいかも知れないが、キャラメルミルクティーとシュークリームは私にとっては母さんの味でね――特に此処のシュークリームは、母のシュークリームを再現した翠屋のモノだから頼まないと言う選択肢はないよ。

 子供の頃は、母さんはよくおやつの時間にキャラメルミルクティーとシュークリームを用意してくれたんだ……只、なぜか何時もシュークリームの数は奇数だったので、最後の一つを巡って妹とじゃんけん勝負をしていたよ。

 結局、何時も相子が続いて決着がつかないので、最終的には母さんが平等に半分こにしてくれたのだけどね。」

 

「お母様の味ですか……其れは確かに、頼まないと言う選択肢は無いですね。」

 

「そう言う事だ……お前も一口如何だクローゼ?母さんのシュークリームは天下逸品だからな……母さんのシュークリームを一度食べたら、二度と他のシュークリームを食べる事は出来なくなるぞ。」

 

 

『シュークリームは母の味だ』と言う事を言いながら、一口大にカットしたシュークリームをクローゼに勧めると、『では、失礼して』とクローゼは其れを口にする……普通に『あ~ん』をしているのだが、女性同士であるのならば羨望や嫉妬の視線は向けられまい。

そして、シュークリームを口に入れた瞬間クローゼの表情が驚きのモノに変わった――其れが『翠屋のシュークリーム』の味のレベルの高さを示していると言える。

 

 

「……確かにそうですね。このシュークリームを食べたら、他のシュークリームを食べる事は出来ないかも知れません。

 シュー皮の上にパイ生地を重ね、更にその上に薄くクッキー生地を重ねて異なる三種の『サクサク感』を演出した皮の中には、絶妙な甘さの生クリームとカスタードクリームが詰められていて、そして生クリームにはバニラの、カスタードクリームにはキャラメルの風味が加えられていて、とても味わいが深くなっています。

 何と言うか、お口の中が幸せです。」

 

「ふ……母さんのシュークリームは最強だ。」

 

 

そして、なのはが注文したシュークリームは、なのはの母である桃子のレシピを完全再現したモノであるらしく、その味は舌が肥えてるであろうクローゼが賞賛するレベルであった――アクロスカフェの一番の売り上げとなっているスウィーツは、このシュークリームだったりするのだ。

 

その後、なのはとクローゼは追加の注文をしながら張り込みを続けた。――追加注文では、ピザを頼んだのだが、クローゼが『クアットロチーズ』と注文したのは可成り攻めた注文であると言えるだろう。

『クアットロチーズピザ』とは、つまり『四種のチーズピザ』なのだが、此の店のクアットロチーズピザにはゴルゴンゾーラを使用しているとメニューに表記されていた訳だからね……ゴルゴンゾーラと言うのは最高級のブルーチーズなのだが、ブルーチーズはクセが強く万人受けするモノではないのだ。

 

 

「ふむ、ゴルゴンゾーラ特有の風味が良い感じのアクセントになっているな?ワインが欲しくなるピザだな此れは。」

 

「ゴルゴンゾーラは、この独特の風味が良いんですよね。あ、そう言えばリベールにはゴルゴンゾーラのカマンベールチーズがあるんですよ。」

 

「其れはとっても美味しそうだな。」

 

 

しかし、そのブルーチーズの独特のクセも、なのはとクローゼには何のそのだったみたいだ――寧ろブルーチーズの味が分かる時点で、その舌は相当に越えた大人のモノであると言っても過言ではあるまい。因みにカマンベールのブルーチーズは絶品である。

 

そんなこんなで、なのはとクローゼはカフェでの一時を満喫していた。

スウィーツを互いに食べさせあう光景には、他の客が赤面していたりしたのだが……同性であっても、極上の美女が其れをやるって言うのは可成りの破壊力があったと言う事なのだろう。

其れに加えて、二人が連れていた小型のドラゴンがスウィーツを美味しそうに食べていたと言うのも客の注目を集めていたけどね。――取り敢えずアクロスカフェのチキンナゲットは、ヴァリアスもアシェルも気に入ったみたいだった。

 

そんなカフェタイムを満喫していたのだが――

 

 

 

――チリンチリン

 

 

 

此処で、来客を告げるベルが鳴り、なのはとクローゼも其方に意識を向けたのだが、入って来た人物を見て思わず固まってしまった――何故ならば、店に入って来たのは、セスから受け取った画像データの『魔女の娘達』だったからだ。

 

 

「彼女達は……」

 

「あぁ、間違いない。如何やら此処は当たりだったみたいだな。」

 

 

そして、今日ミッドチルダに『魔女の娘達』が現れたと言うのは嬉しい誤算だったと言えるだろう……最悪の場合は、数週間の張り込みを覚悟していた身とすれば、張り込み初日でターゲットを見つけたと言うのはとてもラッキーな事であるのだからね。

先ずは怪しまれないようにあまり其方を見ずに様子を覗う事にし、自然な感じでお茶会をする事に。

 

 

「ん?おー!みてみてへいと!ちっちゃいけどドラゴンがいるぞ!すっごいなー、僕ほんもののドラゴンなんてはじめてみた!この子たちって、君達のドラゴンなの!?」

 

「ちょ、行き成り失礼だよレヴィ!す、すみません妹がイキナリ!!」

 

 

と思っていたら、青髪の女性――レヴィがヴァリアスとアシェルを見て突撃して来た!更に、そのレヴィを追って金髪の女性もやって来た!

まさか、相手の方から接触してくると言うのは予想外の事だったのか、なのはもクローゼも少しばかり反応が遅れてしまった……いや、行き成りこんな感じで『グワ!』っと来られたら、大抵の場合は怯んでしまうモノだと思うが。

 

 

「いや、良いさ。

 ドラゴンは神聖な生き物で、一生に一度出会えるかどうかと言うレアな生き物だからね……サイズは小さいとは言え、ドラゴンが二体も居れば興奮する人も居るだろうさ。

 何故か、今の今までこうしてやって来た人は居なかったがな。」

 

「そう言えば何ででしょうか?」

 

「私とお前が美人過ぎて、其れに圧倒されて声を掛ける事が出来なかったと言うのは如何だ?あながち間違っては居ないと思うぞ私は。」

 

「むむ、じぶんでじぶんのことを美人というとは、そーとーに自信があるんだなおまえ!よっしゃー、あとで僕としょーぶしろ!!」

 

 

其れでも、直ぐに再起動して対応したのは流石と言うべきだろう。

その対応で、更にレヴィが盛り上がってる訳だが。

 

 

「こらこら、初対面の人に失礼だよレヴィ?初対面の人には、まずちゃんと挨拶をして名前を名乗ってから話をしないとダメだって、お母さんにも言われたでしょ?」

 

「へいと、それっていつの話だっけか?」

 

「何時のとか、そう言う問題じゃないの。其れから、ヘイトじゃなくてフェイト。」

 

「ふむ……ファフィフフェフォと言ってみろ。」

 

「ふぁ、ふぃ、ふ、へほー!」

 

「……『フェイト』と呼ばせるのは諦めた方が良いかも知れん。

 此れはマッタク持って私の予想であり失礼を承知で言わせて貰うのだが……彼女は頭があまり良くないと思われるのでな?名前を正しく呼ぶ事が出来ないと言うのは中々にヤバいぞ?」

 

「レヴィは、頭脳と引き換えに凄まじいパワーと圧倒的なスピードを手にしているんですよ。

 改めて、行き成りすみませんでした。私は、フェイト・テスタロッサと言います。」

 

「僕はレヴィ・テスタロッサだよ!いえーい!」

 

「いや、気にしなくて良い。私は高町なのはだ。」

 

「クローゼ・リンツと言います。」

 

 

其処から自然な流れで会話をして、金髪の女性の名前が『フェイト・テスタロッサ』であると言う事が判明した――特に狙ってやった訳ではないのだが、自然と欲しい情報を得てしまうと言うのも中々に凄い事と言えるだろう。

そして、この間もなのはは念話でレイジングハートに指示を送り、稼津斗達に『ターゲットと接触した、アクロスカフェに来られたし』とのメッセージを送らせているのだから抜かりもない。

 

 

「そう言えば、此のドラゴン達は私達のドラゴンなのかと言っていたが、答えはYesだ。

 黒い方が私のドラゴンで、名はヴァリアスと言う。」

 

「そして白い方が私のドラゴンで、名はアシェルと言います。」

 

「ばりあすと、あせるか!」

 

「ヴァとシェもダメなのか?」

 

「基本的に小さい字が付くのはダメみたいです。だから、こう言う場所でメニューを注文する時が大変なんです。フィッシュバーガーはヒッスバーガーと言う感じになってしまいますので。」

 

「其れはまた何とも……時に二人は今日はどんな用事で此処に?」

 

「今日は母からお使いを頼まれてやって来たんです。其れで、母へのお土産に此処で売ってる翠屋のシュークリームを買って行こうと思って――前に一度買って帰ったら、すっかり気に入ったみたいで。」

 

「ほう、其れは嬉しい話を聞いたな?此の店にシュークリームを卸している翠屋は、私がオーナーを務めている店でね。

 自分がオーナーを務めている店のシュークリームのファンが居ると言うのはとても嬉しい事だ……デリバリーだけでなく、契約した店に商品の卸しをすると言う事をした甲斐があったと言うモノだな。」

 

「貴女が翠屋のオーナーなんですか!?」

 

 

更に自然な流れで話をして、自分の方にペースを持って行くと言うのも中々に見事であると言えるだろう――或は、なのはは魔族の血を引いている影響で『嘘を吐く事が出来ない』故に、口から出る言葉は全て真実だからこそ、己のペースに引き込みやすいのかも知れない。真実のみを口にしているのならば、何もやましい事はない訳で、常に堂々としていられる訳だから、ペースも握り易いだろう。

 

 

「えっとね、僕はチキンカレーをちょもらんま盛りで!それがごはんで、おかずはチキンナゲット15ぴーすとフライドポテトのえるさいずとそーせーじで!のみものはかヘおれで!!」

 

「す、凄い量ですね……」

 

 

そのすぐ横では、レヴィが物凄い量の注文をしてクローゼが若干引いていた――並盛の五倍の量となるチョモランマ盛りのカレーを注文しただけでなく、更にチキンナゲットの15ピースと、ポテトのLサイズってのは相当だろう。

レヴィは、見た目は細身なのだが、実は可なり食べるらしい……痩せの大食いと言う奴なのだろう。

 

そんなレヴィに呆れつつ、フェイトも『エビカツサンドイッチとカプチーノ。其れと、テイクアウトで翠屋のシュークリームを四個』と注文をしていた――レヴィが突撃した事でテラス席でなのは達の隣になった訳だが、此れはなのはにとっては嬉しい誤算だと言えるだろうね。

 

 

「時にフェイトよ、プレシア・テスタロッサと言う名に聞き覚えはないか?お前もテスタロッサと名乗っていたので、気になったのだけれど。」

 

「!?」

 

 

此処でなのはは直球の弩ストレートでプレシアの事をフェイトに聞いた。

魔族の血を引いているが故に嘘を吐く事が出来ないなのはだが、其れは抜きにしても細かい駆け引き等は得意ではないので、こうして真正面からストレートに切り込む事にしているのだ。

 

 

「プレシア・テスタロッサは、私とレヴィの母ですが……母に何か用ですか?」

 

「そう警戒するな。私にはある目的があってね、その目的を果たす為に五百年を生きる魔女であるプレシア・テスタロッサの力を是非とも貸して欲しいと思っている。私達をプレシア・テスタロッサの所まで連れて行っては貰えないか?」

 

「……貴女の目的とやらを教えてくれるのならば。其れを聞いた上で判断します。」

 

「ふ、賢明な判断だ。」

 

 

『母に何や用か?』と聞いて来たフェイトに、なのはは『目的を達成する為に力を借りたい』と言うと、己の目的に付いて包み隠さずに全てを話した――復讐すべき相手に復讐はするが、その先には種の垣根を越えて、誰もが平和に暮らせる世界を作りたいと思っている事を、そしてその始まりの地として考えている場所がリベール王国であると言う事まで包み隠さずに全てをだ。

 

 

「種族が違うと言うだけで差別や偏見が生まれると言うのは、実に下らなく、そして哀しい事だとは思わないか?魔族も、神族も、そして人間もその命の重さに違いはない筈だろう?

 ならば、全ての種が種の垣根を越えて平和に暮らす事が出来る世界が必要だろう?そうは思わないか?」

 

「其れは確かに……お母さんも言ってた。『種の垣根など下らないわ』って。

 ――でも、だからこそ貴女の言う事も理解出来る。いいよ、お母さんの所に案内してあげる。」

 

「ふ、其れは助かるな。」

 

 

其れがフェイトに通じたのだろう、割とアッサリとプレシア・テスタロッサの元を訪れる事になったのだが、此れは此れで嬉しい誤算だと言えるだろう――最悪の場合、数日の張り込みと高難易度の交渉を考えていた訳だからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

・リベール王国 レイストン要塞

 

 

「クラリッサ君、ハーメル村の方の調査は如何なっているかね?」

 

「ハーメル村には、もう誰一人も居ない状態になっていましたが……其の数日前に、女性の三人組がハーメル村に向かって行ったと言う証言は取れています。

 そして、其の三人組の女性の一人は、菫色の髪をショートカットにして、腰にレイピアを差していたと言う事も複数の人物から聞いています――その女性は、十中八九クローディア殿下ではないかと思うのですが……」

 

「その可能性は極めて高いと言えるだろうね。」

 

 

リベール王国のレイストン要塞では、情報部のトップであるリシャールと、副官のクラリッサがハーメル村の調査結果について話し合っていた――其処で、クローディア殿下と思しき人物が目撃されていたというのは無視出来ない事だった。

 

 

「……クラリッサ君、此れより君に特別任務を与える。君は此れより、リベール通信のナイアル君とコンタクトを取って、ハーメル村の事を徹底的に調べ上げて欲しい。

 其処から、殿下の足取りを掴む事が出来るかも知れないからね。」

 

「ハッ!了解いたしました!」

 

 

なので、リシャールはクラリッサにメール村で何があったのかを徹底的に調べる事を命じ、そして程なくしてハーメル村に住んでいたらしいと言われた『鬼』と『鬼の子供達』がハーメル村から姿を消したと言う事を知るに至ったのだ。

 

 

「(ハーメルに居ると言われている『鬼』と『鬼の子供達』が姿を消した?……クローディア殿下、貴女はもしや『鬼』と『鬼の子供達』を仲間にしたと言うのですか?)」

 

 

そして、リシャールの考えはあながち間違ではない――『鬼』と『鬼の子供達』を仲間にしたのはなのはだが、其れは同時にクローゼの仲間になったと言う事でもある訳だからね。

 

 

「良い調査結果だったよクラリッサ君。――時に君のその眼帯はなんなのかね?」

 

「この眼帯は、右目に宿った魔を封印する力が込められているので、おいそれと外す事は出来ないのですよリシャール大佐。

 この目を開放する事は、早々ないと思いますが。」

 

「……そうか。」

 

 

其れは其れとして、副官のクラリッサは、若干中二病を拗らせているみたいだった――だが、其の能力はとても優秀なのでリシャールの副官になっているのだけどね。

中二病思考は、時として確信を突く事もあるので、無碍にする事も出来ないのかも知れないな。

 

何にしても、リベール王国でも水面下での動きは其れなりに大きくなっている――クローゼが挙兵をしたその時は、リシャール率いる情報部と、嘗ての『王族親衛隊』のメンバーが配属された部隊が味方になってくれるのは間違いないだろう。

 

そして其れは同時に、今の国王であるデュナンに不満を持っている者が軍内部にも多いと言う事の証だと言えるだろう……軍からの支持を得られないとか、デュナンはマジで終わってるだろう。

軍の支持を得られない国王は、軍事クーデターが起きて倒されると相場が決まっているからね。

 

 

「クローディア殿下、貴女が立ったその時は、私は全力で支援しますよ。」

 

 

だがリシャールは軍事クーデターには踏み切らず、クローゼがリベールに、デュナンに戦いを挑むまでは待つ事に徹するようだ――尤も、其の時が来たら遠慮なく本気を出すのだろうけどね。

 

リベール王国では、水面下で改革の時が来た時の為の準備が着々と進んでいる様だった――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter11『魔女との邂逅と新たな仲間と』

Q:『魔女のプレシア』の一文字を変えて別な感じにしなさいByなのは     A:『マジのプレシア』で如何でしょう?Byクローゼ     本気のおかーさん?どゆこと~~~?Byレヴィ


『魔女の娘達』との接触を果たしたなのはは、『アクロスカフェ』に仲間達を呼び、そして魔女ことプレシアの元に行く心算だったのだが――

 

 

「……如何してこうなった?」

 

「すっかりお茶会ですね……」

 

 

アクロスカフェでは絶賛『お茶会』が開催されていた!

と言うのも、合流したメンバーの稼津斗を見たレヴィが、『おまえみたことあるぞ?おかーさんとのしゃしんにうつってた『鬼』だよな?でも、鬼っぽくないぞー』と言ったのを切っ掛けに、稼津斗が殺意の波動を開放して『鬼』の姿となり、其れを見たレヴィが感激して、そしてお茶会に……いや、マジで如何してそうなったんか分からんて。

因みにセスは、『プレシア・テスタロッサの元に向かうんなら、俺の仕事は此処までだ』と言って帰って行ったので、お茶会には参加していない。翠屋のシュークリームはキッチリとテイクアウトしていたが。

 

 

「うわ、何だよこのシュークリーム!メッチャ旨い!!」

 

「シュー皮のサクサク感と、クリームの甘さが絶妙ね……あぁ、蕩けそうだわ。」

 

「これは、正に究極のシュークリーム。」

 

「至高のスウィーツとは、正にこの事だね。口から全身に幸せな気分が広がっていく、そう思えてならないよ。」

 

「このシュークリームを食べたら、確かに二度と他のシュークリームを食べる事は出来ないかも知れません――それ程の美味しさですから。」

 

「う~ん、とっても美味しいね此れは!冗談抜きで、ほっぺが落ちるかと思ったよ。」

 

 

唐突に始まったお茶会だったが、翠屋のシュークリームは一夏達『鬼の子供達』にも好評だった――熾天使の桃子が考案したシュークリームは、最強無敵のスウィーツであるのは間違いないだろう。一夏達だけでなく、ヴァリアスとアシェルも顔をクリームだらけにして堪能しているし……ドラゴンすら虜にするとは本気で凄いとしか言いようがないだろう。

 

 

「うむ……確かに旨いな?お前も同じモノが作れるのかなのは?」

 

「作り方は母から教えて貰ったから一応は作れるが、母の味の再現率は85%と言う所だな。其れでも充分に旨いが、プロの職人が再現したモノには及ばんよ……まぁ其れでも拠点に居る子供達には好評だけれどね。」

 

「『なのは先生のシュークリーム』は、子供達も楽しみにしているみたいですから♪」

 

 

なのはもシュークリームを作る事は出来る様だが、マダマダ桃子の味には及ばないらしい。

其れでも、リベリオンの子供達に偶に作る事があるのは、自分の腕の向上と、子供達の喜ぶ顔を見るのが嬉しいからだろう……自分が、子供の頃に辛い経験をしているので、子供達には辛い思いをせずに笑顔で居て欲しいと思っているのかも知れない。

 

尚、リベリオンの食堂のメニューには現在シュークリームは存在しておらず、不定期にセットメニューのデザートとして付くに留まっている――と言うのも、元はレギュラーメニューだったのだが、余りに人気が出たために追加注文が相次ぎ、砂糖も小麦粉も卵もクリームも無くなると言う事態が発生し、食堂が一時営業停止となったのである……シュークリームだけに食材を使う事は出来ないので、シュークリームは惜しまれつつもレギュラーメニューから除外される事になったのだった。

 

 

「では、今度こそ行くとしようか?フェイト、案内を頼んで良いか?」

 

「うん、付いて来て。レヴィ、行くよ。」

 

「も?」(ハムスターほっぺ)

 

「……すみません、此れ残りは全部テイクアウトでお願いします。」

 

 

お茶会も一段落したので、改めてプレシアの元に行こうとしたら、レヴィがまだ食べていたので残りはテイクアウトする事に……先程あれだけ食べていたと言うのに、追加で更に『クリームコロッケバーガー』、『焼き肉ライスバーガー』、『タンドリーフライドチキン』を注文していたのだ。

本当によく食べるモノだが、テイクアウト用に包んで貰って此れで本当に準備は万端となり、なのは達はフェイトに案内されてミッドチルダを後にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter11

『魔女との邂逅と新たな仲間と』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミッドチルダを発ってから凡そ十分、なのは達は人気のない森の中に来ていた。道中、レヴィはテイクアウトした料理を食べていた。ゴミはヴィシュヌが燃やして灰にした――紙は自然に分解されるが、灰にした方が分解が早いのである。

この森は結構深く、道中では魔獣や悪魔ともエンカウントしたがこの面子の敵ではなく、瞬く間に魔獣はセピスに、悪魔はオーブへと姿を変えるだけだった……そして、縮小サイズであってもヴァリアスとアシェルの力は健在で、ヴァリアスの黒き炎とアシェルの滅びの威光は、襲って来た敵を容赦なく撃滅したのである。

 

 

「……強いんだね、なのは達は。」

 

「己の目的を果たす為に、十年間鍛えて来たからな――魔王や上級神族が相手でも負けないだけの力があると自負しているよ。

 其れよりもフェイト、何故こんな森の奥にやって来たんだ?」

 

「転移する所を誰にも見られたくないから。

 お母さんの居場所を知られたくないんだ……どんな輩が『魔女』の力を欲してるか分かったモノじゃないし、若しも後を付けられて『魔女の所へ連れて行け』なんて言われたら、レヴィがその相手に何をするか分からないから。」

 

「なにをするだって?そんなのきまってるじゃないかへいと!おかーさんをりよーしよーとするヤツなんて、この僕がボッコボコのフルボッコにして、あの世にセイグッバイさせてやるだけだって!

 そう、僕は強い!」

 

「……頭はメッチャ弱そうだけどな。」

 

「一夏、其れは言っちゃダメよ。」

 

 

そして、こんな深い森にやって来たのは、転移する所を誰にも見られたくないからだった様だ。

五百年と言う時が経っているとは言え、稀代の『魔女』の名を知る者は決して少なくなく、其の力を己の欲望の為に利用しようとする輩が居るのもまた事実であり、そんな輩からプレシアを守る為に、フェイトは自分達の家まで転移する際には人気の無い場所を選んでいるのだ――魔獣や悪魔が徘徊している深い森は、転移するには打って付けの場所と言う訳だ。――同時に、そんな輩をレヴィが手加減抜きでフルボッコにしてしまう事態を避けると言う目的もあったらしい。

もしもそんな事をしてしまったら、逆に目立ってしまい、逆にプレシアの力を利用する者達に目を付けられてしまう事態になりかねないからね。

 

 

「其れじゃあ、行くよ。」

 

 

フェイトは、首から掛けていたペンダントを手に取ると、其れを大鎌へと変え、そして魔方陣を展開する。

 

 

「バルディッシュ、時の庭園に私達を転送して。」

 

『Yes sir.』

 

 

フェイトがそう言うと同時に魔法陣が光り、光が治まった時には周囲の景色は一変していた――鬱蒼とした森の中から、東方の文化が満載の場所になっていたのだ。

 

 

「此処は……?」

 

「『時の庭園』。お母さんが作り出した、現実とは隔絶された空間だよ。」

 

「現実から隔絶された空間を作り出すとは、流石は魔女と言った所だが……何故に東方の文化が満載なのだろうか?」

 

「しかも、絶妙かつ微妙に間違ってますね?池に錦鯉が居るのは良いとして、如何して一緒に金魚まで居るのでしょうか?金魚は、金魚鉢で飼うモノであって、鯉と同居はさせませんよ?」

 

「其れから、此の盆栽も間違っているな?

 兄さんが盆栽が趣味だから分かるのだが、盆栽とは決して大きくするモノではない。小さな鉢の中で、小さなワビサビを表現するのが盆栽だ。大きく育ててしまったら盆栽の意味はないぞ?」

 

「……五百年経った今でも、東方文化の間違った知識は直っていなかったかプレシア。」

 

 

 

だが、その東方文化は色々と間違っている部分が有り、なのは達も少しばかり頭に手を当てる事態に――特に五百年前にプレシアと交流のあった稼津斗は、五百年経った今でも、プレシアの間違った東方文化知識には少しばかり呆れているみたいだ。

『稀代の魔女は、東方文化を間違って覚えていた』なんてのは、三流のゴシップ紙が喜んで飛びつきそうなネタではあるな。ネタにした所で、都市伝説になって終わりかも知れないが。

 

それはさて置き、フェイトに案内されて、なのは一行はこれまた東方風の建物までやって来ていた。

 

 

「お母さんとリニスには連絡を入れてあるから、貴女達を迎える準備は出来ていると思う。」

 

「既に連絡をしていたのか?……その手際の良さには好感が持てるなフェイト?私としても、物事はスムーズに進むに越した事は事はないと思っているのでね……お前がプレシアに連絡を入れていたと言うのは有り難い事この上ない。礼を言うぞ。」

 

「……き、気にしなくていいよ。当然の事をしただけだから。」

 

 

既に連絡を入れていたと言うフェイトに、なのははニヒルな笑みを浮かべて礼を言ったのだが、其れを見たフェイトは少し顔を赤くしてなのはから顔を背けた……なのはの浮かべたニヒルな笑みは、同性であっても直視出来ない位に魅力的なモノだったみたいだ。

黒衣を纏った美女の偽悪的なニヒルな笑みってのは可成りダークな魅力があるからね……此れで、なのはが背に翼を展開していたら更にその魅力は高まっていた事だろう。

 

 

 

――ギュム!!

 

 

 

「!?……クローゼ、イキナリ何をするんだ!?」

 

「さて、何でしょうね?」

 

 

でもって、なのははクローゼに思い切り背中を抓られる事になった。

クローゼ的に、フェイトがなのはに赤面したのが少しばかり面白くなかったのだろう――なのはとクローゼが再会したのは最近の事だが、其れでも互いに十年間、一度も相手の事を忘れた事はなかったので、会えない期間は長くとも縁は途切れていなかったのだ……其れなのに、ついさっき知り合ったばかりのフェイトがなのはにと言うのは、クローゼからしたらちょっとした案件な訳だ。

……なのはもクローゼも気付いては居ないが、互いに相手に友情以上の感情を持っているのは間違いないだろうね。

 

 

「クローゼ、若しかしてフェイトに嫉妬したのか?」

 

「……そうです、と言ったら如何しますか?」

 

「なら、こうする。」

 

 

此処でなのはは、クローゼを抱きしめた。

そしてただ抱きしめるだけでなく、その背に四枚の翼を展開し、その翼でクローゼを包み込むと言う事までやってのけたのだ。――その光景は、一種の神々しさまで感じるモノであり、絵画のモチーフになるレベルだった。

 

 

「なのはさん?」

 

「私がこうしたいと思う相手はお前だけだよクローゼ。そして、お前の事は他の誰にも渡したくないと思っている……其れでは足りないか?」

 

「……いえ、充分です。」

 

 

クローゼもなのはに抱きしめられて、更に翼で包みこまれた事で気持ちが落ち着いたようだ……なのはもクローゼも、さっさと自分の気持ちに気付いて付き合ってしまえと言うのは下世話な事なのだろう。この二人の今後は、温かい目で見守っていくが吉だな。

 

そんな事がありつつも、建物の中に入り、フェイトの案内で奥まで進み……

 

 

「お母さん、フェイトです。高町なのは達を連れて来ました。」

 

「……入って良いわよ、フェイト。」

 

「僕は?」

 

「勿論、貴女も入ってらっしゃいなレヴィ。」

 

「よっしゃー!」

 

 

奥の間の扉がオープン!……扉が障子だった事には突っ込んではいけないのだろう。

其れは其れとして、扉が開いて現れたプレシアは、正に『魔女』と言った佇まいだった……畳張りの部屋故に、荘厳な椅子は無かったモノの、畳張りの部屋でも違和感はない、竹作りの椅子に坐したプレシアは、胸元が大きく開き、スカートには大胆なスリットが入った漆黒の衣装を纏い、手には金色の杖を携えていたのだからね。

 

 

「お初にお目に掛かる、プレシア・テスタロッサ殿。『稀代の魔女』と言われている貴女と、こうして出会えた事を光栄に思う。」

 

「其れは私もよ、高町なのはさん。『魔王』として、そして稀代の武人としても名を馳せていた、『不破士郎』と、全ての神族の中でもとりわけ慈愛に満ちていた熾天使『高町桃子』の娘と会う事が出来るとは思っても居なかったわ――そして貴方と再び会う事が出来るとも思わなかったわよ、稼津斗。」

 

「其れは俺もだプレシア。

 あのまま永遠に封印されたままだと思っていたのだが……よもやこうしてまた会う事が出来るとは思っていなかった。俺を封印していた祠を壊した事だけは、ライトロードに感謝すべきかも知れん。」

 

 

先ずは、互いに腹の探り合いと言った感じだが、プレシアと稼津斗は旧知の仲であるので、逆に久しぶり、五百年ぶりの再会と言う事で、自然と言葉が出て来てみたいである。

五百年が経った今でも、『鬼』と『魔女』の友情は健在であるみたいだ。

 

 

「其れはそうかも知れないわね。

 さて……其れで、私に一体何の用があるのかしらなのはさん?」

 

「貴女に用があるのは確かだが、五百年を生きて来た貴女から見て、今の世界は如何見えるプレシア殿?あまりにも不条理と理不尽に満ちてはいないだろうか?

 種の違いによる差別と偏見、力の弱い者や正直者、地道に努力をして来た者達が、力だけが強い者や狡猾に嘘を吐き、小手先で巧く立ち回る連中によって本当の力を発揮する事が出来ずにいる……無論全てがそうだとは言わないがね。

 中でも、戦争や強盗で親を喪った子供達の現状は目を覆いたくなるモノがある……ストリートチルドレンとして生きているのならばまだ良い方だ――治安の悪い場所になるとマフィアに犯罪の片棒を担がされたり、女児の場合は売春紛いの事をさせられて十代で妊娠などと言う事すらある……そして、最悪の場合は命を落として路地裏にゴミ同然に放置される。

 そして、私自身も種の違いによる偏見と差別で両親と姉を喪った……母は魔族と結婚したと言うただそれだけの理由で天界を追放され、そして魔界で父の魔王の座を狙う魔族が放った刺客に殺された。

 父と姉は、魔界を出てから移り住んだ村で、『魔族が居るから』と言う理由だけで村を襲ったライトロードと、父が魔族であると知った途端に父に刃を向けた村人達に殺された……こんな理不尽と不条理が蔓延る世界を、貴女は如何思うプレシア殿?……いや、プレシア・テスタロッサ!」

 

「貴女の言う通り、この世は不条理と理不尽に満ち溢れていると思うわ。

 力の無い者は虐げられ、力の有る者だけが良い思いをする――そして種の違いによる差別と偏見もそうよ。差別と偏見は、お互いに相手の事をよく知らない、正しく知らないからこそ起こるモノだわ。

 スパーダが魔帝を打ち倒して二千年が経った今でも、魔族と悪魔を神族と人間が正しく区別出来ていないのが、魔族が偏見を持たれている原因だと思うわ……だからこそ、ライトロードの様な歪んだ正義を掲げて、『魔族を絶対悪』とする存在が生まれてしまったのでしょう。……歪んでいるのよ、此の世界は。

 貴女が生まれる前に起きた、外界からの侵略者との戦いの時は、人も魔族も神族も一致団結して侵略者に立ち向かい、最終的には貴女の両親が力を合わせて侵略者を倒した訳だけれど、其れも戦いが終われば自然と忘れられてしまい、全ての種が共に生きる事が出来る世界は実現されなかった。世の中、儘ならないモノね。

 でもなのはさん、貴女もまた種の違いによる差別と偏見で家族を喪っている……貴女の目的は、家族を奪ったモノへの復讐なのかしら?」

 

「復讐も目的の一つだが……しかし、無差別に復讐する訳ではない――否、父と姉が殺された後は、母を追放した神族、母を殺した魔族、父と姉を殺した人間全てに復讐してやると思っていたが、彼女と、クローゼと出会った事でその考えは変わったよ。」

 

 

其処から、なのはとプレシアの話が始まり、プレシアが『目的は復讐か?』と聞くと、『其れも目的の一つだ』と答えながらも『クローゼと会った事で、全てに復讐する気は無くなった』言った。

其れを聞いたプレシアは、少しばかり訝し気な表情を浮かべるが――

 

 

「行き倒れかけていた私に、クローゼは声を掛けて、そして食べ物と金を渡してくれたんだ……そして、其れだけでなく『此の世界に種による優劣は存在しない』と言ってくれてな――其れで、人間全てが魔族を忌み嫌っている訳ではないと知った。

 もしもクローゼと出会わなければ、私は煉獄にその身を落とし、己の命が尽きるその時まで無差別に殺戮を行う殺人マシーンになっていただろう……だが、クローゼのおかげで、私は復讐の先に自分が何を望んでいるのかを知る事が出来た。

 私は、もう二度と私と同じ存在を生み出したくなかったんだ……種の違いなど関係なく、全ての種が共に笑いあって平和に暮らせる世界こそが、私の望んでいたモノだと言う事に気付いた。

 私から家族を奪った者達に対しての因果は応報するが、其れで終わりではない――私は、全ての種が平和に暮らせる国を作りたい。そして、恩人であるクローゼの出身地であるリベールをその始まりの場所としたいんだ。

 だが、その為には、リベールを今の無能な王から解放しなくてはならない。そして、リベールと言う一国に戦いを挑むには相応の戦力が必要になる……私の組織にも戦力はあるが、しかし一国と事を構えるには未だ足りないのもまた事実。

 だから、貴女の力を貸して欲しいんだプレシア!此の世界を変えるには、貴女の力が必要なんだ。」

 

 

此処でなのはが一気に此れまでの事を話し、『復讐は復讐として、最終的には全ての種が平和に暮らせる世界を作りたい』と言う目的を告げる――魔族は嘘を吐く事が出来ないので、なのはの思いは全て本物なのだ。……嘘を吐く事は出来ないが、戦闘中のトリックプレイなんかは出来るってんだから些か謎ではあるけどな。

 

 

「フフフ……アハハハハ!!

 全ての種が平和に暮らせる世界ね……其れは私も嘗て目指していたけれど、実現は不可能だと判断して諦めていたわ――でも、其れを本気でやろうとしているとは驚きだわ。

 言葉は悪いけれど、貴女は馬鹿よなのはさん。でも、其れは此の世界を変えるのに必要な馬鹿だわ――魔女になって五百年、退屈な日々だったけれど、五百年の時を経て貴女の様な存在に出会う事が出来るとは思わなかったわ。

 私が理想としながらも、実現は無理だと判断して諦めてしまったモノを実現しようと言うのならば、喜んでこの力を貸すわ。」

 

 

だが、なのはの真の目的を聞いたプレシアは、高らかに笑った後で、なのはに力を貸すと言ってくれた――プレシアも、全ての種が平和に暮らせる世界を目指した事があったみたいだが、『実現は不可能』と諦めた過去があったのだ。

其れから五百年もの時が経った今、その理想を本気で実現させようとしているなのはと出会い、嘗ての理想を現実にするべく己の力を貸す事を決めたのだ――稀代の魔女の協力を取り付けるだけのモノが、なのはの目的にはあった訳である。

 

 

「そして、私だけでなく娘達とリニスも貴女に力を貸すわ……魔女の力、貴女に託すわね。」

 

「プレシア……ありがとう。其の力、存分に発揮して貰うぞ?プレシアだけでなくお前達にもなフェイト、レヴィ、リニス。」

 

「任せてくれていいよなのは。私もレヴィも、貴女の話を聞いてやる気は充実してるから。」

 

「さべつとへんけんはよくなーい!そんでもって、それでひとがしぬなんて言うのはごんごどーだーん!そんな奴らは、この僕がいっぴきのこらずにくちくしてやる~~!

 さぁ、かかってこーい!」

 

「よもやこんな事になるとは思いませんでしたが、嘗てプレシアが諦めてしまった理想を実現すると言うのであれば、此の力を存分に使って下さい。」

 

 

更にプレシアだけでなく、フェイトとレヴィとリニスもなのはに力を貸す事に――レヴィが一抹の不安要素ではあるが、レヴィには弱い頭を補って有り余るパワーとスピードがあるので、多分何があっても大丈夫だろう。アホの子は、色々と無敵だからね。

 

 

「決して裏切ってくれるなよプレシア?魔族の掟に於いては、裏切り者には死の制裁が待っているからな……私は、お前を死なせたくはないからな。」

 

「絶対に貴女達に対する裏切りだけはしないと誓うわ――魔女は嘘を吐く事は出来るけれど、『仲間を裏切る事』出来ないの。仲間を裏切った魔女は、その代償として他者に魔女の力を継承する事が出来ず、死ぬ事が出来なくなるのよ。

 でも、裏切りをした魔女には不死が残り、不老は消える……つまり、醜く老いた姿で生き続けなければなならないと言う訳……御伽噺の魔女の多くが悪役で、老婆の姿で描かれているのは、裏切りの魔女をモチーフにしているからかも知れないわね。」

 

「魔女に裏切りは許されない、か。其れを聞いて逆に安心したよプレシア。裏切られないと言う事が分かっただけでも儲けモノだ――では、此れから宜しく頼むぞ?」

 

「えぇ、此方こそね。」

 

 

そして此処に同盟が締結され、リベリオンの戦力は大きく増強されたのだった。

 

同盟締結後は、時の庭園の庭でバーベキューパーティが開かれて大いに楽しんだ――良い感じに焼き上がった骨付き肉をレヴィが豪快に齧り付き、グリフィンも負けじと特大のステーキ(400g)六枚を平らげていた。特大の骨付き肉を齧り付くレヴィと、400gのステーキを六枚、つまり2400gをペロリと平らげたグリフィンは相当な健啖家と言えるだろうな。

 

 

「……青髪って健啖家なのか?」

 

「私と簪の食欲は普通だと思うのだけれど?」

 

「寧ろ、私は少し小食かも。」

 

「だよな……あの二人が良く食べるだけか。」

 

 

取り敢えず、グリフィンとレヴィはなんか仲良くなれそうである。

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

・リベール王国:ロレント市・草薙家

 

 

「態々ツァイスから来て貰って悪いな遊星?」

 

「気にするな京、此れも仕事だからな。」

 

 

草薙家の庭先では、京のバイクを修理している蟹の様な髪型をしている青年の姿があった――青年の名は『不動遊星』、ツァイス在住の技術者で、ラッセル博士の弟子でもあるツァイス屈指の技術者だ。

そんな彼がロレントに来ているのは、京から『バイクの調子が悪いから見てくれ』との依頼を受けたからだ。

京と遊星は互いに知り合いなので、こう言った依頼もしやすいのかもしれない――京と遊星が出会ったのは、ルーアンでの倉庫街だったのだが、其処でジェニス王立学園の女子生徒に何やらしようとしていたチンピラ一味を一緒にぶちのめした事が切っ掛けで、ダチ公関係になっているのである。

 

 

「んで、直りそう?」

 

「直す事は出来るが、モーターが焼き付いて、ブレーキベルトも大分減ってるから、此れは全体的にレストアした方が良いかもしれないな。」

 

「ならそうしてくれ。

 俺は機械の詳しい事は分からねえからよ――でも、お前に任せときゃ安心って位にはお前を信頼してんだぜ遊星……お前なら、ぶっ壊れる前の状態に戻す事位は容易いだろうからな。」

 

「なら、その期待には応えないとだな。」

 

「ま、お前に任せときゃ大丈夫だろうけどよ……時によ、お前の妹……下の方は血が繋がってねぇんだよな?確かお袋さんが連れて来たって事だったが……カシウスさんにしろ、お前の所にしろ、妹ってのは連れて来るモンなのか?カシウスさんの所は、妹だけじゃなく姉もだけど。」

 

「母さんもカシウスさんも、困ってる孤児を放っておく事が出来なかったんだろうな……流石に『妹連れて来たわよ!』って言うのには、俺も遊里も驚いたが。」

 

「そりゃ、驚くのが普通だろ?しかも、お前と遊里とは結構歳離れてるんだろ?」

 

「あぁ、今十歳だから、俺とは九つ、遊里とは八つ離れてるな。だが、レーシャは俺と遊里に懐いてくれているからな……血は繋がってないが、可愛い妹さ。」

 

「……兄弟の居ない俺には分からねぇ感情だな。」

 

 

取り敢えず、姉や妹は普通は連れて来るモノではないだろう。

特にブライト家の場合、カシウスがエステルに『お姉ちゃん連れて来たぞ』とアインスを連れて来たかと思えば、その数年後には、エステルが『妹連れて来たわ』とレンを連れて来ている訳だからね……カシウスの血は、間違いなくエステルに受け継がれていると言えるだろう。

 

京と話をしながらも、遊星の作業の手は止まらず、的確に京のバイクを修理していく。

ジャンクパーツからバイクを一台作り上げてしまうだけの技術を持っている遊星にとって、京が自分用にカスタマイズしているとは言え、一般に売られているバイクの修理なんぞは朝飯前なのだろう。

 

 

「良し、此れで大丈夫だ。

 モーターのコイルをより強力なモノへと変えておいたから、此れでもう早々焼き付く事はないと思う。ブレーキベルトも最新素材のモノと交換しておいたから効きが違う筈だ。」

 

「相変わらず見事な手際で。んで、幾ら?」

 

「京のバイクはマニアの間ではプレミアム価格が付いてるモデルだ、俺としても貴重なモノを見させて貰ったから、その分を差し引いて三万で良い。」

 

「儲けは度外視かよ……俺としては助かるけど、個人の修理業を展開してるなら、その辺はシビアになった方が良いと思うぜ?儲けが出なくなって廃業しましたなんてのは笑えないからな。

 つっても、お前の場合、その技術力があれば修理業を畳んだ所で、ツァイスの中央工房での仕事もあるから大して問題じゃないのかも知れないけどな。んで、この後も予定が入ってるのか?」

 

「はやてに頼まれて、八神家のキッチンの修理だな。

 何でも、コーヒーを淹れる為に湯を沸かそうとしたら、中々火が点かなかったので、庵がコンロに琴月 陰を叩き込んだらしい。」

 

「何してやがんだよ八神……つか、やるにしても其処は闇払いにしとけよ。琴月かましたら、そらぶっ壊れるってモンだぜ。」

 

 

京のバイクの修理が終わった後は、八神家のキッチンの修理の予定が遊星には入っているようだ――京の宿敵である庵が、ぶっ壊したようだが。因みに、八神家の末っ子のはやては、遊星が修理に来るたびにお茶やお菓子を出して労っているとても良い子である。

遊星の事を労っているのは、はやてが初めて遊星にあったその日に一目惚れをして、そして何とか距離を縮めようとしているからなのけどね。

 

 

「取り敢えず助かったぜ遊星、仕事頑張れよ。」

 

「あぁ、任せておけ。」

 

 

京のバイクの修理を終えた遊星は、お代を受け取ると次の仕事場へと向かい、京は一人となったのだが……

 

 

 

――ボッ!

 

 

 

突如として、右手に炎が宿る。

 

 

「(またか。

  このところ血が騒ぐ……オロチと戦った時とも違うこの感覚――そう遠くない未来に、何かが起きるって事なのかもな。でもって、俺が此れだけの事を感じてるなら、きっとカシウスさんも何かを感じ取ってる筈だ。

  近い内に、カシウスさんと話をしてみるか。)」

 

 

京は京で、此れから起きるであろう世界のうねりと言うモノを、草薙の血で感じ取っていたみたいだ――そして、京が何かを感じたのならば、京よりも遥かに高い実力を持っているカシウスが何かを感じ取るのもまた必然と言えるだろう。

 

だが、其れは裏を返せば、なのはが動いたと言う事はカシウスや草薙がその余波を感じるほどに大きい事だったのだろう。――世界が動く時は、それほど遠くは無いのかも知れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 

 




補足説明


・此の世界で使われている主なエネルギー


基本的にはラッセル博士によって開発された『オーブメント』を使った導力エネルギーが主となっているが、不動兄妹によって開発された新エネルギー機構『モーメント』も一部では、実験的に使用されている。
『オーブメント』に関しては、魔族が済む魔界、神族が済む天界でも使われている。


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Chapter12『神魔が動く、その時は何時か?』

さて、そろそろ仕掛けるかByなのは     今こそ、頃合いかも知れませんねByクローゼ     よっしゃーいっくぞー!?Byレヴィ


・リベール王国:ロレント市郊外・ブライト家

 

 

ブライト家のガーデンテラスでは、ブライト家の大黒柱であるカシウスと、草薙流の現正統後継者である京が向かい合う形でガーデンテーブルを挟んで座っている……ガーデンテーブルの上にはカシウスの妻でエステルの母にして、ブライト家のヒエラルキーのトップに君臨するレナお手製のフレンチトーストと、アインスの淹れたキャラメルカプチーノが置かれている。

 

 

「それで、朝早くから何の用かな京?」

 

「……このところ血が騒いで……俺の意思とは無関係に炎が滾るんです。

 前にオロチと戦った時も、似た様な事が有ったんですけど、今回は其の時の比じゃないモノを感じる……カシウスさんも、何か感じてるんじゃないんですか?……って言うか、俺が感じてるんだから確実に何か感じてますよね?」

 

「……そうか、お前さんも感じ取ったか。或は、草薙の血がお前さんに教えたのか。

 何れにしても、お前さんが感じた其れは決して気のせいではないと言う事だけは間違いないぞ京……そう遠くない未来、確実にリベールを大きく動かす何かが起こる事は確定していると言っても良いだろう。ダンテも、何かを感じ取っているみたいだったしな。」

 

 

京は自分が感じ取った予感をカシウスに伝えると、カシウスもまた同じモノを感じ取っていたみたいだ……そして、ルーアンに住む便利屋のダンテもまた同じようなモノを感じているらしい。

 

 

「ダンテって……ルーアンの胡散臭い便利屋のオッサンでしたっけ?……胡散臭いクセに、実力だけは確かなんですよねあのオッサン。『勝てる気がしない』んじゃなくて『倒せる気がしねぇ』ってのは初めての感覚でしたよ。」

 

「ん?お前さん、ダンテと知り合いだったのか?」

 

「偶々ですけどね……前にルーアンに行った時に、港で怪しげな遣り取りをしてる奴等を見掛けたんで成敗してやろうと思ったら、ダンテと鉢合わせて、お互いに相手の事を敵だと思って遣り合ったんですよ。

 俺とダンテが遣り合った事で、その余波で怪しげな事してた奴等は纏めて消し炭になりましたけどね。」

 

「お前さんもダンテも何やってんだい……」

 

 

そして、京とダンテもまた知り合いだったみたいだ……遊星の時もそうだが、京は何やら面倒事を通じて初対面の誰かと知り合いになるパターンと言うモノに恵まれているらしい。其れを恵まれていると言って良いのかは知らないが。

 

 

「とは言え、具体的な事が分からない以上は静観するのが吉だろう……下手に藪を突いて蛇を出す必要はないからな。」

 

「藪を突いて大蛇が出て来ても、其れは燃やしてやりますけどね。――降りかかる火の粉は祓う、其れが俺のやり方ですから。」

 

 

取り敢えずは静観と言うのがカシウスの意見だったが、京は『藪を突いて蛇が出てきたら燃やすだけだ』との考えを持っているらしい――とは言っても、詳しい事が分かるまで京も動く心算はないのだが。

 

 

「か、カシウスさん、京さん……た、助けて!」

 

「ヨシュア?」

 

「お前、一体何があったんだ?ボロボロじゃねぇか!!」

 

 

と、此処でヨシュアが乱入!

京の言うように、可成りボロボロなのだが……

 

 

「昨日の夜からレーヴェが家に来てて、それで昨日は家に泊まったんだけど、レーヴェが居る事に気合を入れた姉さんが朝ごはんを作って、其れをレーヴェが食べて暴走しちゃったんだよ!」

 

「朝飯食って暴走って……ヨシュア、お前の姉ちゃん若しかして……!」

 

「姉さんは、料理だけはダメなんだ!

 不味いとかそう言うレベルじゃなくて、口にしたら一瞬で昇天レベルなんだよ姉さんの料理は……レーヴェだから昇天はしなかったけど、その代わりに理性を失って暴走してるんだ!

 だから何とかして京さん!京さん、暴走してる人を相手にするの得意でしょう!?」

 

「な、何とかしてって言われても冗談じゃねぇよ!暴走すんのは八神だけで充分だっての!暴走レオンまで面倒見切れねぇって!」

 

 

其れには深い事情があったらしい。

この後、京とヨシュアの間ですったもんだの押し問答が躱されたのだが、其れを行っている間にカシウスが、暴走しているレーヴェの延髄に一発良いのを叩き込んで正気を取り戻させていた。

『調子の悪いモノは大抵叩けば直るんだ』と言っていたが、それで人間を直せるのは世界広しと言えどカシウスだけだろう……この親父、正に最強であるな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter12

『神魔が動く、その時は何時か?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・時の庭園

 

 

プレシアが作り出した、現実世界とは隔離された空間である『時の庭園』には、リベリオンの全メンバーが集結していた――と言うのも、協力関係を締結した後、プレシアから『もし良かったら、此処を新たな拠点にしてみない?』と言われたからだ。

 

其れを聞いたなのはも、今の拠点よりも此方の方がより居場所が割れる事がないので、プレシアの提案に乗ったと言う訳だ……其れだけならば、拠点を移しただけなのだが、時の庭園内部には、新たに此れまでのリベリオンの拠点の内部を其のまま移し替えた地上二階、地下五階の施設が出来上がっていたのだ。

時の庭園のテスタロッサ一家の家同様に、此れもまたプレシアが魔力で作った建物なのだが、その建物の内部にリベリオンの拠点内部を其のまま移し替えてしまうとは、流石は五百年を生きて来た稀代の魔女と言った所だろう。

 

 

「まさか、空間を丸ごと転移させる事が出来るとは……保有魔力は私の方が大きいが、魔法の運用技術に関しては彼女の方が遥かに上か。……五百年も生きている彼女に、齢十九の小娘が知識と技術では適う筈もないな。

 だがしかし、彼女の技術は確かに凄い事は認めるが……新たなリベリオンの拠点となる建物の外観に関しては大いに突っ込みを入れたいのは私だけか?」

 

「其れは私も完全に同意ですなのはさん。」

 

「鬼の子供達の意見を纏め、そんでもってその代表として俺も同意見だぜ。」

 

「そうかなぁ?私はカッコいいと思うけど。」

 

「アルーシェ、その感覚ちょっとおかしいよ!?」

 

 

だが、その建物の外観はレトロな雰囲気たっぷりのレンガ造りのビルで、一階にある入り口には『Rebellion』のネオンサインが輝いていたのだから突っ込むなと言うのが無理と言うモノだろう。

此れを『カッコいいと思う』と言ったアルーシェに、璃音が更なる突っ込みを入れたのも致し方あるまい……プレシアの魔女としての実力は確かなモノであるが、センスに関しては若干怪しい所があるのかも知れない。プレシア自身が纏っている衣装も、胸元が大きく開いてるトップスに、大胆なスリットが入ったロングスカートと言う可成りぶっ飛んだモノだからね。

 

その後、なのは達は新しい拠点に戻り、なのははクローゼと共に最深部の主の間に。

 

 

「まぁ、次元の狭間に存在している此の場所ならば、前の拠点以上に誰かに見つかる可能性は低いがな。

 其れに、只拠点内部を転移させるだけでなく、訓練場も頑丈な結界で強化してくれたからな……此れで、私も本気でスパーリングを行う事が出来る。前の訓練場では、本気でバスターをぶちかましたら訓練場が壊れて私もスパーリング相手も生き埋めになってしまう可能性があったからな。」

 

「……なのはさんが本気で直射魔力砲を撃ったらドレだけの破壊力があるのでしょう?」

 

「取り敢えず、グランセル城くらいならば一撃で瓦礫と化す事が出来るだろうな。

 そして、切り札の集束砲ならば……グランセル城どころか、王都其の物を灰燼に帰す事が出来るかも知れん。限界まで魔力を集めれば、世界其の物を破壊する事すら出来るかも知れん。」

 

「凄まじいですね其れは……して、その最強の集束砲の名前は?」

 

「スターライトブレイカーだ。」

 

「……星を砕かないで下さい。」

 

 

訓練場は、プレシアの結界によって保護され、なのはが本気で戦っても壊れないレベルにはなったらしい……と言うか、本気の直射砲でグランセル城を瓦礫と化す事が出来て、切り札の集束砲ならば王都其の物を灰燼に帰す事が出来るとか、なのはの必殺技の破壊力が可成りハンパない。

まぁ、必殺技と言うのは読んで字の如く『必ず殺す技』なので、其れ位の破壊力があっても……良くないな。明らかに過剰威力だろう。

 

 

「復讐すべき相手には、其れ位の一撃を喰らわせてやらねばならないと思って技を磨き続けた結果だよクローゼ。

 それはさておき、プレシアとその娘、そして使い魔も仲間にする事が出来た。リベールでお前に力を貸してくれるであろう者達の事を考えると戦力は充分に整ったと言える訳だが……問題は、その者達と如何やってコンタクトを取り、そして協力を取り付けるかと言う事だ。」

 

 

なのはの必殺技のトンデモなさは兎も角として、テスタロッサ一家+リニスの協力を取り付け、更にリベールにはクローゼの味方になってくれる者達が其れなりに居るので戦力的には充分なのだが、クローゼの味方になってくれる者達とコンタクトを取る手段が今のなのはには無かった。

セスを通じて手紙を出すと言う方法もあるのだが、見ず知らずの相手からの手紙なんてのは怪しい事この上ないだけでなく、その内容が要約して『デュナンをぶっ倒すから力を貸せ』と言うモノであれば、普通ならば読んだ時点でゴミ箱行きは間違い無いのだから。

 

 

「でしたら、ロレントに行きましょうなのはさん。」

 

「ロレントに?何故だクローゼ?」

 

「前にも話しましたが、ロレントにはカシウスさんが居ます。

 カシウスさんならば、此方の事情を説明すればきっと味方になってくれる筈です……そして、カシウスさんは元王国軍の軍人ですので、今でも軍内部に顔が聞くと思うんです。

 であるのならば、情報部のリシャール大佐ともコンタクトを取り易いと思うんです。」

 

 

此処で、クローゼがロレント行きを提案して来た。

面識のあるカシウスとコンタクトを取って、其処から王国軍情報部のリシャールに話しを伝え、更にはカシウスの娘にしてA級遊撃士のエステル達――更にはエステルの姉であるアインスの彼氏である京をも戦力に加える心算なのだろう。

因みに京を仲間にした場合、もれなく八神家も付いて来るのでお得です。

京と庵は壊滅的に仲が悪いが、しかし共通の敵がいる場合には共闘する事は出来るので、実は戦力としては可成り期待出来るのだ――京も庵も、現リベール国王のデュナンに対しては不満しかもっていないしね。

京は『アイツは国王の器じゃねぇ』、庵は『権力を盾に、逆らう事の出来ない国民に無自覚の暴力を振るう下衆』と思っているのだ……圧政とまでは行かないが、デュナンの政策は、一部の富裕層を優遇し、其れ以外の者には可成り厳しい税を課すと言う矛盾しているモノであり、庵の『無自覚の暴力』と言うのはあながち間違いではないのである。庵は一見すると、只の危険人物にしか見えないが、其の内には確りと己の正義ってモノを持っているのだ。

 

 

「父さんが評価していたカシウス・ブライトか……確かに彼ならば、事情を説明すれば協力してくれるかもしれんな?

 尤も、私が事情を説明せずとも何故かあの村で起きた事の詳細を知っているような気がしてならないのだが、お前はその辺をどう思うクローゼ?何だか、独自の情報網とか持ってる感じがする。私の気のせいかもしれないが。

 私が『不破士郎の娘だ』と言った瞬間に、全てを察してしまうのではないかと思うのだが……?」

 

「なのはさん……若干否定出来ません其れ。」

 

「お前もそう思うか。

 だが、察してくれると言うのならば有難い事ではあるか……察してくれるなら其れで良し、そうでなければ此れまで同様に私の過去と目的を話せば良いだけの事だからな。

 何れにせよ、理不尽と不条理、種の違いによる差別が蔓延する世界なんてモノはもう沢山だからな。あんな思いをするのは、私となたねだけで充分だよ。」

 

 

取り敢えず、カシウスの所に向かうのは確定として、改めて未来への決意を固めたなのはの拳が硬く握られ、余りにも強く握りしめた事で拳から血が溢れたのは致し方ない事だろう――クローゼによって『全ての種に復讐する』と言う思いは中和されたが、だからと言ってなのはの中にあった復讐心が消えた訳ではなく、復讐すべき相手には必ず裁きの鉄槌を下すと考えている。

同時に、己と同じ思いをする人を無くしたいと言う思いもあり、其れが『差別や偏見がなく、全ての種が平和に暮らせる世界の実現』と言う目標に繋がって行ったのだ。

 

 

「其れよりもクローゼ、情報部と元親衛隊の隊員を合わせると、王国軍の何割程になる?」

 

「え、そうですね……リシャール大佐が組織した情報部は少数精鋭の部隊ですし、親衛隊も選りすぐりの精鋭のみで構成されていたのでそれ程人数は多くはありませんでした。

 情報部と元親衛隊を合わせても、王国軍全体の四分の一程度ではないかと思います。」

 

「四分の一か……リベリオンの戦力と、お前に力を貸してくれそうな者達を入れても数は王国軍の方が上だが、数の差は質で上回る事が出来るから然程問題ではないか?私も、纏めて倒す方が得意だしな。

 参考までに、情報部を纏め上げているリシャールの強さは、大体ドレ位だ?」

 

「リシャール大佐の強さですか?

 リシャール大佐は剣の使い手なのですが、腕前はなのはさんのお兄様よりも上かと……恐らく、二刀流相手に一刀流で圧倒出来るだけの力があります。『リシャール大佐の居合いは常人の目には映らない。剣を持つ手が一瞬ぶれたかと思ったら、次の瞬間には藁の束が真っ二つになっていた』と言う逸話がある位です。

 其れから、元親衛隊隊長のユリアさんも、リシャール大佐には敵いませんが剣士としては超一流ですし、親衛隊の隊長にのみ伝えられてきた奥義も会得されていますから、なのはさんの眼鏡には適うかと。」

 

「兄さん以上の剣士と、其れには敵わないが親衛隊長秘伝の奥義を会得している元親衛隊長か……申し分ないな。

 其れに加えて、カシウス・ブライトとその娘達、遊撃士に草薙の末裔……数の差を覆すには充分だ。」

 

 

なのはとクローゼは更に話を詰めて、デュナンと自分達の戦力差と言うモノを考えて行く。

数の面では王国軍の四分の三を有するデュナンの方に分があるが、質の面で言えばなのは達の方に分がある……尤も、其れはカシウスを始めとするリベールの戦力全てがなのは達に味方をしてくれた場合の話ではあるが。

だが、なのはには彼等が味方になってくれると言う確信があった。

己の過去は兎も角、自分の理想とする未来の形には、カシウスは必ず賛同してくれると、そう信じているからだ――カシウスと面識がある訳ではないが、尊敬していた父が評価していた人物ならば、自分の理想を理解してくれる、その理想を実現する為ならば力を貸してくれると。

 

 

「早速ロレントに赴いて、カシウスと会う事にしようか?此方の準備が整ったのならば、事は早い方が良いからな。」

 

「あの、私からロレントに行きましょうと提案しておいて言うのもアレですが、先に叔父様との決着を付けても良いのでしょうか?なのはさんのお母様を追放した神族と、お母様を殺した魔族……其れにライトロードの事は……?」

 

「勿論そっちもカタを付けるが……クローゼよ、お前だったら自分に恨みを持ってる者が居た場合、何を一番恐れる?お前には、其れなりの戦力があると仮定した場合の話、其れこそ個人の攻撃ならば如何にでも出来る場合には、だ。」

 

「其れは……私に恨みを持つ相手が、自分が保有する戦力では対抗出来ないだけの力を持つ事、でしょうか?」

 

「正解だ。もっと正確に言うのであれば、戦力と後ろ盾だ。

 戦力で言うのならば、母さんを追放した神族と、母さんを殺した魔族に復讐するには充分なモノがあるが、今の私には後ろ盾がない……私設組織のリーダー等と言う肩書は、ハッキリ言って何の役にも立たん。

 だが、デュナンを打ち倒してリベールをお前の手に取り戻したとしたらどうだ?少なくとも、デュナンの政治に不満を持っていた国民からの支持は得られる筈だ。

 そして、そうなればリベール通信も私の事を記事にしないと言う手はないから、私の名は広く知れ渡る事になるだろう――そして、其れは結果として私に『リベール王国』と言う後ろ盾を与える事にもなる。

 デュナンを倒した後は、お前がリベールの正統な王として即位する事になる訳だが……だからと言って、お前との関係が終わる訳ではないだろう?『新たな女王が懇意にしている』と言うだけも私にとっては強烈な後ろ盾になる。

 そして、私のバックにはリベール王国があると言う事は、ライトロード以外の連中にとっては脅威となる――母さんを追放した奴等も、母さんを殺した奴も、国家レベルの戦力を持ってる訳ではないからね。

 だから、奴等は私のリベールにおける立場等は考えずに、『高町なのはは、やろうと思えばリベール王国軍を動かす事が出来る』と短絡思考する訳さ……そして、其の時に感じる恐怖は並大抵のモノではないだろうさ――己に恨みを持っている者が、自分を殺せるだけの戦力と後ろ盾を得ているのだからね。

 母さんを追放した連中と、母さんを殺した奴を葬るのは簡単だ……だが、簡単には殺さん。奴等には、自分が何時殺されるかも分からない恐怖を存分に味わわせた上で葬ってやる。其れ位しなければ私の気は治まらん。

 

「なのはさん、目の色が反転してますよ?」

 

「……すまない、少しばかり魔族の血が騒いでしまったようだ。

 つまり、そう言う訳で先ずはリベールの方を先に終わらせてしまった方がいいんだ――そして、ライトロードだが十年間探しても奴等の拠点を見付ける事は出来なかっただけでなく、十年前に私達が暮らしていた村とハーメル村を襲撃したのを最後に、活動がほぼ停止しているんだ。

 凶悪な魔獣や悪魔退治はしている様なのだが、十年前までのような大規模な活動はしていない――ハーメル村を襲撃した部隊が、稼津斗によって全滅した事で、ライトロード全体の部隊の立て直しが必要になったのかも知れないがな。

 何れにしても、奴らの動向はセスでも掴む事が出来ていないからな……動向を掴む事が出来ないのならば、向こうから出てくるようにしてやるまでだ。

 先程も言ったが、私達がデュナンを倒せば、私の名は一時的に世界に響き渡る事になる――そして、其れはライトロードの連中の耳にも入るだろう?――『魔族が居るから』と言うだけで、私達が暮らしていた村を襲ったライトロードは、さて如何するかな?」

 

「リベールに攻め込んでくる……!!」

 

「そう言う事だ。

 お前の愛する国を餌にするのは心苦しいが、此れがライトロードを誘き出すには最も効果的なのでな……だから、約束する。ライトロードとの戦いでは、誰一人死なせないと――私を、信じてくれるかクローゼ?」

 

「貴女を信じていなければ、私は今此処には居ませんよなのはさん――ですが、そう言う事でしたら、叔父様を倒したら私ではなくなのはさんが新たなリベールの王となると言う選択肢もあるのではないでしょうか?

 寧ろ、其方の方がインパクトがあると思います。」

 

「私がリベールの新たな王だと?……だが、正統な王はお前だろうクローゼ?」

 

「叔父様を打ち倒すと言う事は、アウスレーゼによる国家統治の終わりを告げるモノにもなりますから、なのはさんが新たなリベールの王になると言うのもアリではないでしょうか?

 勿論、其の時は私もなのはさんの補佐としての立場に収まる心算ですが。」

 

 

更に話は進み、最終的にはクローゼがなのはに『新たなリベールの王になっては?』とまで言って来た……確かにクローゼの言うように、なのはが新たなリベール王になれば、此れまでのアウスレーゼによる国家統治の黒歴史であるデュナンを倒した上で、新たなリベールの始まりと言うモノをアピール出来るし、ライトロードに対しても強烈なアピールとなるだろう。

其れは、リベールがライトロードの襲撃を受ける可能性を高める事でもあったのだが、クローゼはなのはが言った『誰一人死なせない』と言う言葉を信じているし、最悪の場合は、己の内に眠っている精霊を完全開放すればライトロードを一網打尽に出来ると言う確信があったからこそ、なのはを新たな王にと言う選択肢があったのだろう。

 

 

「私がリベールの新たな王で、お前がその補佐か……其れもアリかもな。」

 

「そして親衛隊は再編成して、稼津斗さんとクリザリットさんとサイファーさんと、鬼の子供達とレオナさんとシェンさんをぶち込みましょう♪」

 

「う~ん、大分カオスだな其れは。」

 

 

『捕らぬ狸の皮算用』と言うなかれ……なのはもクローゼも、デュナンとの戦いには最終的に勝つ事が出来ると言う確信があるからこそ、こんな事を言いあう事が出来るのだ。

 

そして、その後主の間にクリザリッドが現れ、『嘗て自分が所属していた組織の一部の機能がまだ健在で、草薙京のクローンを三体完成させている』と言う事を聞いて、早速その場に向かって、完成していた草薙京のクローン三体に『自分に従うように』と最終プログラミングをした上でロールアウトを完了し、そして己の配下とした。

名前に関しては、クローン一号を『草薙京-1』、クローン二号を『草薙京-2』、クローン三号を『KUSANAGI』と命名したのだが、KUSANAGIは京-1と京-2よりも完成度は高かったのだが、人格面で大分別人になっているみたいだった。

 

 

「ビビってんのか?あぁ!!」

 

「……クローゼ、アイツは本物の草薙京と比べたら……」

 

「別人28号です。」

 

 

そしてマジで別人だった。

何れもオリジナルの京と比べたら実力的は劣るが、其れでも八岐大蛇を葬った草薙の力を持つ者が仲間として増えたと言うのは心強い事だろう――星の意思である『オロチ』にすら対抗出来る力が、増えた訳だからね。

 

 

「時の庭園に戻り、そしてロレントに向かうぞクローゼ……デュナンを倒して、リベールをあるべき姿に戻す!!」

 

「はい……行きましょうなのはさん。」

 

 

三体の京のクローンを回収したなのはは、時の庭園に戻ると、プレシアに『先ずは自分とクローゼをロレントに転移させてほしい』と頼み、其れを聞いたプレシアも快諾したが、ロレントに直接転移すると目立つと言う事で、ロレント郊外のミストヴァルトに転移する事に。

そして、転移する際になのはとクローゼだけでなく、稼津斗と鬼の子、シェンとクリザリッドにサイファー、璃音も一緒に転移させたのはプレシアも考えての事だろう。

璃音に関しては、なのはから故郷がロレントだと言う事を聞いていたので、故郷に戻してやろうと言う気持ちが働いたのかも知れないけどな。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな訳で、ミストヴァルトに転移したなのは達だったのだが、ミストヴァルトに住んでいる魔獣如きはハッキリ言って準備運動にならないレベルで余裕のよっちゃんイカだった。

なのはが出張るまでもなく、鬼の子供達で事足りるレベルだったからね……まぁ、鬼の子供達も並の武術家なんぞは凌駕する位に強いんだけどね?

 

 

「真・昇龍拳!」

 

「行くわよ……昇龍裂破!」

 

「喰らえ……神龍拳!」

 

「これで決めます……疾風迅雷脚!」

 

「真空……波動拳!!」

 

 

一夏達、鬼の子供達はミストヴァルトの魔獣を粉砕!玉砕!!大喝采!!――直接戦闘が得意でない簪は情報解析を的確に行い、魔獣の情報を一夏達に伝えて、戦闘を有利に進めていたのだ。

そして其れだけではなく、円夏はナイフで魔獣を葬り、夏姫はガンブレードで魔獣を屠ってセピスへと変えて行く――加えて、稼津斗とクリザリッドとサイファーも、己が持てる力の全てを解放してミストヴァルトの魔獣を鎧袖一触!

特に、稼津斗が瞬獄殺で二桁の魔獣を葬ったと言うのは圧巻の一言に尽きるだろう。

 

 

「では、行くかロレント郊外のブライト家に!」

 

 

ミストヴァルトを抜けたなのは達は、ロレント郊外のブライト家に向かって行ったのだが――

 

 

「アイツは……あの黒衣のサイドテールは、クローディア殿下を女王宮から連れ去った賊か?……もしそうであるのならば、陛下の耳に入れておかねばなるまい。」

 

 

其処をデュナンの配下に目撃されてしまっていた。

ミストヴァルトは一般人が寄り付かない場所ではあるが、其れだけに『外部からの侵入者にとっては都合の良い場所』なので警備員を増やしており、なのは達は運悪くその警備員に見つかってしまったらしい。

 

 

「無粋な事はするな……暫し寝ていろ。」

 

「え?」

 

「うおりゃぁぁ……シャァア!!」

 

 

その警備員は、なのはがアイアンクロをぶちかましてから地面に叩きつけて大ダメージを与えると、其処に一夏がトドメとなるキングコングダイビングニーを叩き込んでターンエンド……実に見事なコンビネーションであると言えるだろう。

そんでもって、KOした警備員は制服を引ん剥いた上で、亀甲縛りにして木の枝に吊るしておいた……此れだけの羞恥を曝したら、彼等が警備員として再起する事は出来ないだろうな――なのはも中々にエグイ事を考えてるみたいだな。

 

 

「ゴミが……その程度で私の前に立つな、不愉快極まりないからな。」

 

「……本気で、お世辞抜きで強いですねなのはさん。」

 

「十年間、鍛えて来た賜物だよクローゼ。」

 

 

取り敢えず、デュナンの配下と思われる連中は余裕でぶっ倒して、なのは達はカシウスの居るブライト家へと向かって行ったのだった――リベールに、変革の風が吹き荒れるのはそう遠くない事なのかも知れないな……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter13『最強の仲間と、愚者の動向……!』

カシウス・ブライト……鼻下の髭がダンディーだなByなのは     ダンディーと言えば……Byクローゼ     ゲッツ!ってか?Byシェン


プレシアの時の庭園からミストヴァルトに転移したなのは達は、デュナンの配下である警備員を片付けてミストヴァルトに放置すると、街道を進んでブライト家へと向かって行った――ミストヴァルトに放置された警備員も、地上型の魔獣では手の届かない木の枝に吊るしておいたので魔獣に襲われて死ぬ事はあるまい。運が良ければ他の警備員に見付けて貰えるかも知れないからね。まぁ、羽虫型や鳥型の魔獣も多数居るので絶対とは言えないが……其れ等に襲われたその時は己の不運を呪えって所だろう。

 

 

「眼前の敵を焼き尽くせヴァリアス!ダーク・メガ・フレア!」

 

「私達に仇なす者に裁きを与えなさいアシェル!滅びのバーストストリィィィム!!」

 

 

その道中には、魔獣も出現するのだが、その魔獣はヴァリアスの黒き火炎弾と、アシェルのブレス攻撃で粉砕!玉砕!!大喝采!!肩乗りサイズであっても、闇属性と光属性の最上級のドラゴンの力は計り知れないようだ。

ミニマム状態で此れだけの力があると言うのならば、フルサイズでは如何程の力を持っているのか、考えると恐ろしい物があるな。

 

 

「愚かな……恥と知れ!我こそ、拳を極めし者!」

 

「大層な図体してこの程度かよ?テメェなんぞに、俺の喧嘩相手は務まらねぇ!出直して来やがれ三下が!」

 

 

そして稼津斗とシェンも、そして鬼の子供達と璃音も魔獣を相手に大ハッスルしていた。――特に、一夏と刀奈が魔獣をハンマースローで投げてぶつかり合わせ、其処に一夏のシャイニングウィザードと刀奈の鋭い飛び蹴りが炸裂したサンドイッチ攻撃は強烈無比だと言う他ないだろう。尤も、一夏と一夏の嫁ズのツープラトンはドレも強烈無比だけどね……一夏が水面蹴りで浮かせた所にグリフィンがアッパーと叩き込んで更に浮かせ、トドメに一夏が遠心力たっぷりの蹴りを叩きむとか普通に一撃KOレベルだからな。

 

 

「魔獣も大した事ないな?それともカヅさんに鍛えられた俺達が強いのか?」

 

「一夏、其れは多分両方よ♪」

 

「まぁ、ロレント周辺の魔獣は確かにあんまり強くないかも。BLAZEに居た時に何度か退治した事あるけど、最終的には志緒先輩が出張るとビビって逃げるようになっちゃったからね。」

 

「その先輩とやらは、何者なのでしょう……」

 

 

と、こんな感じで中々にバイオレンスな道中だったのだが、一行はある分岐点にやって来ていた。分岐点の看板には、『直進:ロレント市』、『左:ブライト家』と記されて居るのだ。となれば、なのは達が向かうべきは左の分岐路なのだが……

 

 

「璃音、お前はロレントに向かえ。ロレントに戻って、仲間に顔を見せて安心させてやれ。此方に用があるのは私だからな、お前は仲間の元に行くと良い。」

 

「なのはさん……ありがとう!」

 

 

此処でなのはの粋な計らい。

璃音はロレントにある自警団『BLAZE』のメンバーであったのだが、何者かに誘拐されて行方知れずになって居たと言うのがロレントでの認識であり、BLAZEのメンバーも璃音の身を案じている筈だ。ならば、先ずは己の無事を知らせてやるべきだとなのはは考えたのだろう。

こう言った決断を瞬時に出来るのもまた、組織のリーダーには必要な能力だと言えるな。

 

璃音を見送ったなのは達は、分岐点を左に入ってブライト家に。

天然の木のトンネルが続く道を歩くこと五分……突如として視界が開け、目の前には門がある家が姿を現した。

 

 

「此処が、ブライト家か……中々立派な家に住んでいるみたいだな?」

 

「カシウスさんはS級の遊撃士で、エステルさんもA級の遊撃士ですので、親子で可成り稼いでいるみたいです――只、カシウスさんが割とお酒を飲む方なので、其方が結構馬鹿にならないかも知れませんが。」

 

「カシウス・ブライトは飲兵衛か?ならば、手土産として酒の一本でも持って来るべきだったかも知れんな。」

 

 

そんな事を話しながら一行は門をくぐり、なのははブライト家のドアを軽く叩いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter13

『最強の仲間と、愚者の動向……!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なのはがドアを叩いてから十秒ほど経って扉が開かれ、中から現れたのは長い栗毛の髪と黒い瞳が特徴的な女性だった。

 

 

「お待たせして……何か御用でしょうか?」

 

「突然すまない。私は高町なのはと言う者だが、カシウス・ブライト殿はいらっしゃるだろうか?」

 

「夫ならば居ますが……あら?……少し、お待ち頂けるかしら?」

 

 

その女性、レナ・ブライトは何の連絡も無しに突然現れたなのはの事を訝し気に見るが、なのはの隣にいる人物――クローゼに気付くと、『少しだけ待って』と言うと、家の奥に。

そして、待つ事数分後……

 

 

「いやはや、お待たせしたようでスマナイな?高町なのは殿。そして、御無事であられたようで何よりです、クローディア皇女殿下。」

 

「……ふむ、中々の先制パンチだ。」

 

「矢張り貴方にはバレてしまいますか、カシウスさん。レナさんも、私の正体には気付いた様でしたが……」

 

 

現れたカシウスは、イキナリ結構大きめの先制パンチを繰り出してくれた。

人と言うのは、髪の長さを変えただけでも別人になってしまう場合があり、今のクローゼは以前と違い髪の長さだけでなく前髪のスタイルも変えているのだが、カシウスには一発でクローゼがクローディアだと分かってしまったらしい。S級遊撃士ともなると、此れ位の観察眼は持っていて当然なのかもしれないが。……いや、其れよりも先に気付いた先程の女性――レナも、相当な観察眼の持ち主と言うべきだろう。

 

 

「殿下の事は幼少期より知っておりますからなぁ?髪型を変えた位では分かると言うモノです。

 そして、高町なのは殿……不破士郎殿と高町桃子殿の御息女でしたかな?士郎殿から聞いていた、双子の娘の長女の名がなのはだったかと……ふむ、桃子殿の面影がある。」

 

「父とは姓が異なるのに、私が不破士郎の娘だと見抜くとはな……母とも面識があったようだから、『高町』の名も知っていたのだろうが、貴方と同じ情報を持っていても、私が不破士郎と高町桃子の娘だと言う事を初見で見抜く事が出来る者が果たしてドレだけ居るか。

 父から貴方の事は聞いていたが、実際に会ってみて、父が貴方の事を高く評価していた理由が分かった気がする……成程、貴方ほどのキレ者は魔界や天界でも中々お目に掛かる事は出来ないからな。

 アポなしでスマンな?クローゼから飲兵衛だと聞いたのだが、其れは此処に来てからの事だったので手ぶらだ……そうと知って居たら、酒の一本でも持参したのだがな。

 其れと、堅苦しいのは無しで行こう。魔族と神族の両方の血を引いている私だが、魔族の血が濃く出ているのか堅苦しいのは苦手なのでな……年上の貴方には、本来ならば敬語を使うべきなのだろうが、悪いが此のままで行かせて貰うよ。」

 

「ふむ、士郎殿もそのような事を言っていたな……なら、俺も畏まらずに地で行かせて貰うとしよう。

 中々の人数の様だから、テラスの方で話をするとしようか?あそこならば、全員が座る事が出来るからな。」

 

 

カシウスの観察眼の鋭さに驚いたなのはだが、其れを表には出さずに冷静に対処すれば、カシウスも其れに答えるかのような対応をして、取り敢えずテラスでの会談と言う流れに。

そう言う流れになったのだが……

 

 

「行くぜ!喰らえ!ボディがお留守だぜ!うおりゃぁぁ!おら!受けろ、此のブロウ!遊びは終わりだ、俺からは逃げられねぇんだよ!」

 

「フ!ハッ!せいや!!」

 

「ヨシュア、何が起こってるのか分かる?」

 

「京さんが、毒咬みから荒咬みに繋いで、其処から琴月の肘打ちを入れてから轢鉄の一段目に繋いで百八拾弐式を叩き込んで、更に天叢雲を使ったんだけど、アインスさんは、その全てをブロッキングしたみたいだね。」

 

 

テラス前の庭先では、京とアインスが割と人外のバトルを行っていて、エステルとヨシュアがそのバトルに関しての感想を述べていた……京もアインスも割とガチになっているのだが、其れでも母屋には一切の影響が出ていないので、白熱しながらも考えてはいるようだ――庭の芝は見事に灰になっているけどね。

まぁ、雑草も燃やされてしまったので、芝を張り直せば元通りなのでそれ程問題ではないだろう。

 

 

「強いな彼等は……草薙京の事は知っているが、他の三人は貴方の子供か?」

 

「いや、銀髪の娘とツインテールの娘――アインスとエステルは俺の子供だが、エステルと話していた青年は俺の子じゃない。

 エステルと話をしていたのはヨシュア・アストレイ……京はアインスと、ヨシュアはエステルと交際関係にある奴だ。アインスもエステルも中々に気が強いから嫁の貰い手はないんじゃないかと思っていたが、如何やらそれは杞憂だったみたいだ。

 其れより、京の事は知っていたのか?」

 

「クローゼから聞いている。其れと、此方には彼のコピーが三人ほど居るのでね……一人は、クローゼが『別人』と言う程に性格が違うみたいだが。」

 

「性格だけじゃなくて、声も全然違いますけどね。」

 

「何だかトンデモナイ事を聞いちゃった気がするなぁ俺は。京と同じのが更に三人も……庵の奴が発狂しそうだな。」

 

 

軽い雑談をしながらテラスのガーデンテーブルのベンチに腰を下ろすと、タイミングを見計らったのかのようにレナが現れて、焼きたてのチョコチップスコーンが入ったバスケットを置き、各人にコーヒーを配って行く。

スコーンが割と甘めのモノだったので、コーヒーはエスプレッソだったのだが、なのはの前に置かれたのはエスプレッソではなく、キャラメルカフェオレだった。

 

 

「私だけ、特別扱いか?」

 

「士郎殿から、『長女の方はキャラメルミルクが好きだ』と聞いていたのだが……お気に召さなかったかな?」

 

「いや、キャラメルミルクのカフェオレは大好きだから問題ない……その心遣いに感謝するよ、カシウス殿――して、私の事は知っているみたいだから、ともすれば十年前の事も知っているのだろう貴方は?」

 

「……ライトロードによる襲撃で、二つの村が崩壊した……そして、その内の一つの村には、魔王として名を馳せた不破士郎殿がいたが、士郎殿はライトロードによって討たれ、長女も共に討たれた、そしてまだ幼かった息女二人は生死不明になっている。

 だが、生死不明の筈の息女の一人は、こうして生きて俺の目の前に居ると言う訳か。」

 

「そう言う事だ。」

 

 

カシウスの心遣いに感謝しつつ、なのははキャラメルカフェオレを一気に飲み干すと、マグカップをガーデンテーブルに叩きつけ、ガーデンテーブルに罅を入れる……マグカップが割れずに、ガーデンテーブルに罅を入れるとは、マグカップの強度を魔力で補っていたのだろう。

 

 

「カシウス・ブライトよ、この世は余りにも理不尽と不条理に満ちていると感じた事はないか?

 人間の世界だけで見ても、真面目に生きて来た者が、小手先だけ器用で碌に能力のない者が巧く立ち回った事で馬鹿を見る事は少なくない――そして、其れ以上に種の違いによる差別と偏見の強さには目を覆いたくなる物がある。

 だが、権力者の多くは、そう言った問題にはノータッチで、現状を何としようと言う姿勢は見受けられん……だから、私はそんな世界に楔を打ち込みたい!父と母が理想としていた『種の垣根など関係なく誰もが平和に暮らせる世界』を実現したいと思っている。

 そして、その足掛かりとなるのがこのリベールだが……其れを実現する為には貴方の力は必要不可欠だカシウス殿。是非ともあなたの力を貸してほしい!!」

 

 

でもって、なのはは己の思いをカシウスに真正面からダイレクトアタックをぶちかました!全力全開で、全力全壊でブチかました!

魔族と神族の血を引くなのはだが、魔族の血のを色濃く受け継いでいるからなのかは分からないが、嘘を吐く事が出来ない故に、その言葉には真実しかないって訳なのである。嘘を付けない魔族の方が人間や神族よりも信頼出来るのかもしれないな。

 

 

「……成程、悪魔達の力が増していたのは、お前さんが動く事による大きなうねりを感じ取っての事だったと言う訳か……俺とダンテの危惧は杞憂で、寧ろ良い方向に向かって居たって事か。

 分かった。そう言う事なら力を貸そう。俺自身、今のリベールをなんとかしないといけないと思っていたからな……アリシア前女王陛下が急逝した後、今のデュナン王がクーデターを起こし、殿下を幽閉してからと言うモノ、デュナンに胡麻を擦るのが巧い奴だけが良い思いをし、逆に苦言を呈する者は即排除されると言うのが現状だからな。

 アリシア前女王が心血を注いで構築した、周辺諸国との信頼関係も、そろそろ危なくなって来ているからな……リベールを立て直すのは正に今なのかも知れん。」

 

 

カシウスもカシウスで、今のリベールを何とかしなければいけないと思っていたらしく、なのはの申し出をアッサリと受け入れてくれた。なのはが、己の本心をブチかましたと言うのも大きいだろうが、カシウス自身、リベールを何とかするには個人の力では限界があると考えていたのもあるだろう。

自分の娘達と京とヨシュア、力を貸してくれそうな遊撃士、BLAZE、そして軍人だった頃の部下であるリシャール……優秀な人材は揃っていたが、国を相手にするには戦力が不足していたし、デュナンを国王の座から引き摺り下ろしたとしても、其れまで幽閉されていたクローゼを行き成り新たな女王にと言うのは幾ら何でも乱暴であると思い、行動に移す事が出来ていなかったのだ。

だが今は、こうして新たな戦力が現れた上に、クローゼは自由の身となりなのは達と一緒に居る――クローゼが、いわば『革命軍』の旗印になってくれれば、彼女が新たな女王になったとしても何ら不自然ではないので、カシウスとしてもなのはと協力するのは利がある訳だ。尤も、カシウスの場合は、損得勘定抜きで物事を決めるだろうが。

 

 

「ふぅん、なんか面白そうな話をしてんじゃん?その話、俺も一枚嚙ませろよ?あの豚親父をぶっ倒すんだって?……俺の炎で焼き豚にしてやるぜ。不味そうだけど。」

 

「止めておけ京、あんなのを食べたら腹を壊す。其れに、デュナンを豚親父と言うのは豚の方に失礼だ。」

 

「アインスの言う通り、比較するのが豚に失礼極まりないわよ。ペット用に作られたマイクロ豚とかめっちゃ可愛いし♪其れに豚って意外と頭良いんだから!」

 

「ネコサイズの豚とか驚きだよね……其れは其れとして、その話、僕達にも聞かせて貰えますか?」

 

 

更に、京とアインス、エステルとヨシュアも話に乗って来た……彼等もまた、今のリベールを如何にかしないとならないと思っていたのだろう――京が言ってる事が若干物騒だが、デュナンは国民に其れだけの思いを抱かせるだけの愚王だと言う事の証と言えるだろう。よく今の今まで民の反乱が起きなかったモノである。

 

 

「貴様の家に行ったら、此処に行ったとの事だったので来てみれば……中々に興味深い話をしているな?その話、俺も一枚噛ませろ。拒否権はない。」

 

「八神……お前、何で此処に!」

 

「貴様の家に行ったら留守だったのでな、何処に行ったかを聞けば此処に居るとの事だったので態々出向いてやったのだ。

 本来ならばこの場で貴様を殺してやる心算だったが気が変わった……貴様よりも先に、あの愚かな王を殺さねばなるまい……大した力もないクセに、権力に胡坐を掻いて好き勝手しているのは俺が最も嫌う暴力そのものなのでな。」

 

 

序に、呼んでも居ないのに京のライバルである八神庵が現われて、話に乗って来た……可成りヤバめの雰囲気のある庵だが、取り敢えず戦力が増えるに越した事はないので特に問題はないだろう。

そして、其処からレンが参加を表明し、なのはは死神の血を引く者が居る事に驚いていたが、エステルが『アタシが妹にしたの』と言い、レンが『エステルが、死神の掟に縛られる必要はないって教えてくれたの』と言うのを聞いて納得していた……死神の血を引く少女をも己の妹にしてしまうとか、ブライト家の血統に不可能は無いのかも知れないな。

何れにしても、カシウスとの協力関係は締結出来たのだった。

 

 

因みに、その後なのはがプレシアに、京のクローン三体を転送して貰い、京が驚き、庵が暴走した事を追記しておく――暴走庵は、京が荒咬み→九傷→七瀬のコンボを叩き込んで吹っ飛ばしたところに、カシウスが棒術でホームランして正気に戻したけどな。

普通だったら、気絶もののコンボを喰らっても、暴走が治まった直後に動いてた庵も可成り頑丈なのだろうね。

 

其れは其れとして、カシウスは軍人時代の部下であったリシャールに連絡を入れて、なのはと話をさせて協力を取り付けて『革命軍』の戦力を固めて行く……この判断力と行動力は流石と言う他はないだろうな。

反乱の準備は、なのはとカシウスが出会った事で急速に進んで行くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

なのは達がカシウスと会談してた頃、璃音はロレントに到着していた。

誘拐され、なのはに買われ、そしてこうしてロレントに戻って来た……ロレントを離れて一カ月程ではあるが、璃音は何年も帰って来てない感覚を覚えていた。其れだけロレント暮らしが長かったと言う事なのだろう。

 

 

「え?……アンタ、若しかして璃音?」

 

「へ?……あ、シェラザードさん!」

 

 

そんな璃音に声を掛けて来たのは、ロレントに居る三人のA級遊撃士の一人であるシェラザード・ハーヴェイ。姉御肌な女性で、ロレントの自警団『BLAZE』とも仲が良く、璃音が居なくなった事を心配していた人でもある。

 

 

「アンタ、無事だったのね!?良く戻って来てくれたわ……でも、良く戻ってこれたわね?」

 

「ただいま、シェラザードさん……その辺は、此れから話すよ。……洸君達は?」

 

「ギルドに居ると思うわ。」

 

 

シェラザードは璃音を抱きしめ、璃音もシェラザードに身を預ける……美女と美少女が抱擁する様は実に絵になるな。――そして、再会の抱擁を終えた璃音とシェラザードはロレントのギルドに向かい、其処で璃音はBLAZEのメンバーと再会だ。

 

 

「心配かけてごめんね皆!久我山璃音、只今戻ったよ!!」

 

「璃音……無事だったんだな!マジで心配したぜ……お帰り、璃音。」

 

「ただいま、洸君。」

 

 

でもって、恋人関係だった璃音と洸が再会の抱擁を交わしたのは当然と言えるだろう……愛する人と短くない期間離れ離れになっていた訳だからね。――まぁ、流れでキスしようとした所で、BLAZEのリーダーである高幡志緒が『甘い時間は、二人だけの時にしろや』と言った事で、キスはお預けだったけな。

 

其れから璃音は、自分が誘拐されてからの事を全て話し、その話を聞いたBLAZEのメンバーとシェラザードは、リベリオンに協力する事を決めた――ロレントだけでもデュナンに不満を持つ者は多いと言う事なのだが、果たしてリベール全体で見れば反デュナン派はドレだけ居るのか分かったモノではないだろうな。

 

 

「あのクソッタレを漸くぶっ倒す事が出来る訳か……俺の炎が滾ってるぜ!」

 

 

 

――バガァァアン!!!

 

 

 

「あの、気持ちが昂ってるのは分かるんすけど、机壊さないで下さい志緒先輩。」

 

「机が粉々に……一体ドレだけのパワーが?」

 

「パワーだけなら、レオンハルトさん以上かもね志緒先輩は。」

 

 

そんでもって志緒は拳で、机を粉砕していた……木の部分だけでなく、補強の為に入れられている金属パーツもひん曲げるとか、志緒のパワーはトンデモナイモノがあるのは間違いなさそうだ――まぁ、其れもなのはにとっては頼もしい戦力になるのだけどね。

 

其れから数時間後、なのは達がロレントのギルドを訪れ、そしてカシウスの口添えもあってギルドとBLAZEとも協力関係となり、反逆者達の戦力は一気に増大したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだと、其れは真か!?」

 

「はい。……ロレント方面を警護していた警備兵が中々戻らないので、探しに行ったら、其の警備兵はミストヴァルト内で木に吊るされ、魔獣に襲われて瀕死の状態だった様です。

 其処に向かった兵が言うには、息を引き取る直前に、『クローディア殿下を攫った黒衣の魔導師が……』と言っていたそうです。」

 

 

そのころ、グランセル城ではデュナンが驚愕の報告を受けていた。

なのは達がぶちのめした警備兵は、仲間に発見されるまでギリギリ生きていて、己が事切れる前に、助けに来た兵になのはの事を伝え、そしてその情報がデュナンの耳に入ったのだ。

 

 

「して、そ奴の行方は?」

 

「王都に向かう為の関所では其れらしい女性は見なかったとの事なので、恐らくロレントに向かったのではないかと……」

 

「そうか……クローディアは確認できたのか?」

 

「いえ、クローディア殿下が居たかどうかまでは……一瞬の出来事だったようですので分からなかったようです。」

 

「……ならば、ハーケン門のモルガンに連絡を入れろ!ロレントにクローディアを連れ去った輩とクローディアが居ると言うのであれば、其れを潰さない理由は何処にもない!

 此の国の王はお前ではなく余なのだクローディア……だが、お前が生きている限り、余は真の王にはなれぬ――余が真の王となる為にも、お前には死んでもらうしかないようだクローディアよ。

 恨むのならば、余ではなく、王族の一族として生まれてしまった事を恨むのだな……ロレント諸共、消し去ってくれようぞ!!」

 

 

其れを聞いたデュナンは、大凡国王とは思えない事を言ってくれた――なのはとクローゼを始末する為に軍を動かし、更にはロレントを焦土と化しても問題ないとまで言って言ってくれたのだ……庵が聞いたら、秒で八稚女をかましていただろう。

今のデュナンは、権力の力に魅了され、そして憑りつかれてしまった憐れな存在なのだ……そして、そうなってしまった者を救う術は存在しない――権力の虜になってしまったからこそ、ロレントを滅ぼしかねない命令を下す事が出来たのだ……だが、そうであるのならばり、デュナンとなのはの激突は、もう避けられないだろう。

だって、和平交渉をせずに、デュナンは武力行使をした訳だからね……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter14『戦闘開始のオープンコンバットである!』

変革の時は来た!Byなのは     派手に行きましょう!Byクローゼ     直ぐ楽にしてやる……其のまま死ね!By庵


・ツァイス地方:レイストン要塞

 

 

カシウスからの通信を受け、そしてなのはとも会話をしたリシャールは指令室にてソファに身を預けていた……リシャールも、何れリベールの未来の為に水面下での準備はしていたのが、まさか一気にそれを行動に移す時が来るとは思っても居なかっただろう。

魔王と熾天使の血を受け継いだなのはと、正統な王族であるクローディアが一緒に居ると言うのは、リベール通信のあの記事を読んだとしても、早々辿り着く事が出来るモノではないから。

まして、クローディアをグランセル城から連れ出した、黒衣の女性が高町なのはであったなど、其れこそ連れ出した本人と、連れ出して貰ったクローディア、或はなのはの家族でもなければ分からない事なのだから。

 

 

「クラリッサ君、此れから少しばかり忙しくなるかも知れない。」

 

「其れは少しばかり嬉しくない事態ですね?軍人と遊撃士と医者が廃業する位の方が、世界は平和であると言われていますので……近い内に、始めるのですね?アリシア前女王陛下が急逝し、クローディア殿下が幽閉されてから進めて来た計画を。」

 

「早急にではあったが、機は熟した。

 しかも、カシウスさん関連以外の戦力が加わったと言うのは嬉しい誤算だよ……稀代の武人としても名を馳せた魔王・不破士郎と、慈愛の熾天使として名を馳せた高町桃子、その娘の高町なのは率いる一団の加入と言うのはね。」

 

「魔王と熾天使の混血……其れだけでも私にとってはとても魅力的です。右目が騒ぎます。」

 

「クラリッサ君……まぁ、良い。

 通信機越しではあるが、高町なのはと言う人物の人となりはある程度分かったし、殿下が無事で一緒に居ると言うのならば一先ず信頼には値するからね……あとは実際に会って細かい所を詰めるとするさ。」

 

 

水面下で行っていたデュナンを国王の座から引き摺り下ろす為の作戦を、実際に行うとなれば協力関係にある勢力と、デュナンに感付かれないように細かい作戦等を詰めて行かねばならないので、リシャールの言うように此れから忙しくなるのは間違いないだろう。

尤も、其の忙しさもリベールの為と思えば何ら苦ではないのがリシャールと言う男だ。リシャールこそ、真に国を思う軍人の鑑だと言えるだろう。

 

 

「し、失礼しますリシャール大佐!」

 

「む、何事かね?」

 

 

其処に駆け込んで来たのは、情報部の部下の一人……情報部の人間と言うのは、総じて冷静で取り乱す事はあまりないのだが、その情報部の人間が目に見えて慌てていると言うのは、只事ではないだろう。

 

 

「は、ハーケン門のモルガン将軍が、ロレントに向けて進軍を開始したとの報告が、ハーケン門に潜り込んでいた諜報隊員から入りました!

 しかも、只兵を派遣するだけでなく、導力砲を始めとした、複数の兵器が搭載された移動要塞を三台も出撃させたとの事!あんなモノが三台も出たら、ロレントは一瞬で焦土と化してしまいます!」

 

「何!?(まさか……彼も殿下がロレントに居ると言う情報を得たと言うのか?……そして殿下を亡き者にする為に、ロレントごと消し飛ばそうと、そう言う事か!)

 ……クラリッサ君、大至急特務隊をロレントに!レイストン要塞にある、高速航空輸送艇を全て使ってだ!私もカシウスさんに事の次第を知らせる!」

 

「了解!同時に、高速航空輸送艇の一機をエア=レッテンに向かわせ、其処に居るユリア中尉を始めとした元親衛隊の隊員も回収してロレントに。」

 

「頼む。」

 

 

そして、その隊員が告げたのは、『モルガンがロレントに向け兵を出した』と言う事だった――其れも、移動要塞と言う超兵器を三台も伴ってだ。

その報告を聞いたリシャールは、クラリッサに指示を出すと、自分もカシウスに『緊急事態』を告げるべく連絡を入れる……なのは達によって倒された警備兵が、絶命する前に発見されてしまったのは、デュナンにとっては幸運で、なのは達にとっては不運だったとしか言い様がないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter14

『戦闘開始のオープンコンバットである!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――時は少しだけ遡り……

 

 

・ロレント市:遊撃士協会ロレント支部

 

 

カシウスの口添えもあり、BLAZEとギルドの協力を取り付けたなのは達は、BLAZEとシェラザードと談笑していた。カシウスはやる事が終わると家に帰って行った。

掲示板に来ていた依頼を確認していたが、受けた訳ではないのは、エステルとヨシュアに受けさせる心算なのかも知れない。カシウスはカシウスで、『この辺で世代交代だ』と考えているのかも知れないな。

 

 

「改めて礼を言わせてくれなのはさん。玖我山を助けてくれて、ありがとよ。」

 

「例を言われる程の事ではないよ志緒。其れに、純粋な慈悲の心で彼女を下衆な男達に渡さなかった訳ではないからな……私は、彼女が戦力になると考えて買ったに過ぎないからな。

 彼女を己の目的の為に利用すると言う点では、下衆な男共と大差ないかも知れん。」

 

「大差ねぇって、そんな事はねぇだろ?確かにアンタも、自分の目的の為に玖我山を買ったのかも知れないが、其れは己の欲望を満たす為じゃなかった……何より、アンタは、カシウスさんのとこに行く時に、玖我山をロレントに向かわせてくれたんだろ?

 アンタが下衆共と同じだったら、玖我山は無事に俺達の所には戻って来てねぇよ。」

 

「……ふ、自警団のリーダーは流石の慧眼と言った所だな。魔族は嘘は吐けないが、悪ぶる事は出来る。尤も、私程度の猿芝居では、直ぐに分かってしまうかもしれないがな。」

 

「あぁ、バレバレだ。俺はプロの不良だから、本物のワルかワルぶってるだけかなんぞ直ぐ分かるぜ。」

 

「プロの不良って……不良にプロとかアマチュアがあるのか?」

 

 

リベリオンのリーダーのなのはと、BLAZEのリーダーである志緒はリーダー同士で話をしており、一夏達はBLAZEの他のメンバーと話をしている様だ……鬼の子供達とBLAZEのメンバーは歳も近いので、話が合うのだろう。

 

 

「それでね、刀奈ちゃんと簪ちゃんとヴィシュヌちゃんとロランちゃんとグリフィンは一夏君の彼女なんだよ!」

 

「はぁぁ!?彼女五人とか、マジかお前!!?」

 

「大マジだけど、何か問題あるか洸?夏姫姉は言いました『たった一人の女性だけを愛してはいけないと、一体誰が決めた?』と。……この言葉は、五人から告白された俺にとっては天啓だったぜ……そうだよな、一人だけじゃなくても良いんだよな。

 でもって、よくよく考えてみると、自然界に目を向ければ、一匹の雄が複数の雌を囲ってるってのは珍しくもないって事に気が付いた!ライオンは四~五匹だけど、アザラシやセイウチに至っては数十頭の雌が一頭の雄を囲ってるんだぜ?

 種の保存って言う観点から考えたら、一夫一妻の方が異常なんじゃねぇかな?ぶっちゃけて言うなら、種の保存の為には、一匹の雄に対して百匹の雌が居れば充分であって、雌が優秀な雄を欲するのは自然な事だと思う訳だけど、その辺は如何よ?」

 

「……言わんとする事は分かるけれど、幾ら何でも表現が生々し過ぎるわよ織斑君。」

 

 

……その中で、璃音が投下した核爆弾により、一夏と洸の恋愛観の違いが明らかになった――璃音一筋の洸と、五人の恋人がいる一夏……純愛と一夫多妻と言うモノは、本来相容れないモノなのだが、一夏は『一夫多妻でも、全員と純愛を貫く』と言う、本来ならば不可能なんじゃないかと言う事を実現しているので、言う事に妙な説得力があるのだ。――明日香の言うように、少しばかり表現が生々しいが……一夏は童貞を卒業しているので、致し方あるまい。

 

 

「はい、チェックメイト♪」

 

「そ、そんな……僕がチェスで負けるだなんて……!!」

 

 

その一方では、刀奈が祐騎をチェスで圧倒していた。BLAZEの頭脳とも言われている祐騎は、『ロレント始まって以来の天才』とも言われており、頭脳だけならばカシウスにも匹敵するとまで言われて居るだが、刀奈はその上を行っていたようだ。

単純な知能指数で言えば祐騎の方が上なのだが、刀奈は兎に角己の頭脳を100%使う事に長けており、知能指数では負ける相手であっても、潜在知能指数で勝る事が出来るのだ……なのはとクローゼですら、チェスで刀奈には大幅に負け越している訳だからね。

 

 

『Master,Communication.(マスター、通信です。)』

 

「繋いでくれ。……カシウスからか。」

 

 

穏やかな時間を過ごしていた所に、カシウスからの通信が入り、なのははレイジングハートの通信機能を起動してそれに対応する――そのスピードは、僅か0.3秒!!

通信に対して迅速に対応すると言うのは大事である。

 

 

「如何したカシウス?」

 

『なのは、慌てずに聞けよ?

 先程、リシャールから通信が来てな……ハーケン門のモルガン将軍が、ロレントに向けて兵を派遣したらしい――其れも、移動要塞を三台も持ってしてだ。俺もエステル達と共に急いでロレントに向かうが――』

 

「移動要塞三台とは穏やかではないな?

 私とクローゼを排除する為にしては些か過剰戦力な気がするが……其処まで私はデュナンに恐れられていると言うのか?」

 

『真に恐れてるのは殿下の方だろうが、お前さんの事も見過ごせない相手と見ているのは間違いなかろうな。

 何せ、たった一人で城に侵入し、警備兵を倒して殿下を城から連れ出してしまったのだからな……しかも、お前さんは士郎殿の、魔王の娘と来ている。彼が己に対する脅威として認定するには充分だろう?』

 

「それにしても移動要塞三台とは……私は何か?太古の時代に暴れ回ったと言う怪獣か、其れとも遥か昔に滅んだと言われている、月を見ると大猿に変身すると言う戦闘民族か何かか?」

 

「なのはさんの場合、そう言った存在ですら一撃で倒してしまいそうですけれどね……必殺技は一つの街を消し去る破壊力があるそうですので。」

 

『……其れが本当で、デュナンが其れを知って居るなら、移動要塞三台も納得出来るか。……お前さんは何か、歩く大量破壊兵器か?』

 

「其れは、若干傷付くぞカシウス……取り敢えず状況は理解した。此方もすぐに動けるようにしておく。」

 

 

カシウスから、『ハーケン門からロレントに向けて兵が出された』と言う事を聞き、更には移動要塞が三台も出て来ていると言う事に、些か過剰戦力ではないかと思うなのはだったが、カシウスの言う事を聞いて一応納得は出来ていた。

確かに普通に考えれば、たった一人でグランセル城に乗り込み、警備兵を無力化してクローゼを城から連れ出すなど到底無理な話なのだから、其れをやってのけたなのはの事を脅威と認定するには充分だろう――加えてなのはは、クローゼを連れ去る際に、デュナンに宣戦布告とも言えるセリフを残しているのだから。

 

 

 

――バガァァァァァァァァァン!!

 

 

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

 

なのはが遊撃士協会の外に出ようとした瞬間、轟音と共にロレントを三つの閃光が襲い、教会と時計塔、そしてホテルを一瞬で瓦礫と化した。

時計塔は普段は無人なので瓦礫になっただけだが、教会とホテルは常時誰かしら人がいる場所だ……其処が瓦礫と化したと言う事は、其処に居た人達は一瞬で生き埋めになったと言う事だ。――そして、その生存は絶望的だろう。

教会とホテルの瓦礫は数mに達しているから、生存者が居たとしても、瓦礫に埋もれた被災者の生命のリミットである七十二時間以内に救出する事は極めて困難であると言わざるを得ないのだから。

 

 

「そんな、ロレントが!!」

 

「デュナン……何処までも下衆なようだな貴様は!!」

 

 

まさかの事態に困惑するクローゼだったが、その隣では、なのはが怒りを爆発させ、同時に魔族と熾天使の血の両方が解放され、右目は赤く、左目は金色に変わっていた……十年前のライトロードへの怒り以上の怒りによって神魔の力が覚醒したのだ。

デュナンからしたら、目の上のたん瘤であるクローゼを排除しようと言うのは当然の流れなのかも知れないが、そのやり方が気に喰わなかった。

デュナンは、クローゼと真っ向から勝負しないで、ロレント諸共クローゼの抹殺に舵を切った訳だから……実力ありきの魔界であっても、全く無関係の第三者を殺してしまう事は滅多にないと言うのに、デュナンはアッサリとその方法を選択した。其れが何よりもなのはの怒りを燃え上がらせた。

そして、デュナンが行った事は、『魔族が居る』と言う、其れだけの理由で村を一つ滅ぼすライトロードの所業と何ら変わりはない――なのはの怒りの針が振り切れる理由には充分だったのだ。

 

 

「私やクローゼだけを狙って攻撃してくるのならば未だしも、無関係の人間まで巻き込むと言うのであれば、此方とて相応の対応をさせてもらうだけだ……デュナン、矢張り貴様にこの国を治める資格はない!ヴァリアス!!」

 

『ガァァァァァァァ!!』

 

「叔父様……私だけならばいざ知らず、民の命を犠牲にすると言うのならば、私も容赦はしません!!其の力を存分に発揮して下さい、アシェル!!」

 

『ゴアァァァァァァ!!』

 

 

此処でなのははヴァリアスの、クローゼはアシェルの縮小魔法を解除し、本来の姿の青眼の白龍と真紅眼の黒竜が降臨する――その迫力はハンパなモノではなく、ドラゴン特有の威圧感を発していた。

 

なのはとヴァリアスは飛翔し、クローゼもアシェルの背に乗って飛翔すると、移動要塞に向かって行く。

突然の事に困惑するロレントの市民達は、鬼の子供達とBLAZE、シェラザードが地下水路に避難させているので二次被害は防ぐ事が出来るだろう。

 

 

「プレシア、ロレントが王国軍に攻撃された!

 至急、クリザリッド、サイファー、アルーシェ、レオナと兄さんをロレントに転送してくれ!そして可能ならば、瓦礫が撤去出来る者と、治癒魔法を使える者も!少なくない市民が瓦礫の下敷きになっている!」

 

『分かったわ……フェイトとレヴィとリニス、そして私が造った魔導人形も送りましょう。魔導人形のパワーならば瓦礫の撤去も直ぐに出来るでしょうから。』

 

「其れは心強いな!」

 

 

移動要塞に向かう間に、なのははプレシアに通信を入れて増援を要求。

プレシアは其れを快諾しただけでなく、フェイトとレヴィとリニス、更には瓦礫撤去に力を発揮してくれるであろう魔導人形まで転送してくれると来た……レヴィが若干の不安要素ではあるが、アホの子は敵と見なした相手は全力でぶっ倒してくれるので多分大丈夫だろう。

 

 

「ちぃ、しゃらくさい!!アクセルシューター……アラウンドシフト!!」

 

「行きます……全ての不浄を洗い流せ!アラウンド・ノア!!」

 

『ゴォォォォ……ガァ!!』

 

『グゴォォォ……ゴガァァ!!』

 

 

要塞に向かうなのは達には、容赦ない攻撃が浴びせられるが、その攻撃は全てなのはの射撃魔法、クローゼのアーツ、ヴァリアスの黒炎、アシェルのブレスで相殺されてなのは達には届かない……光属性と闇属性の最上級ドラゴンに加えて、魔王と熾天使の血を引くなのは、『先祖返りか?』と疑ってしまう位に高い魔力を有している上に、アリシア前女王が其の力の強大さを危惧して、五つに分けた上で封印した精霊を宿しているクローゼの前では、移動要塞の攻撃も決定打にはなって居なかった……なのはとクローゼで、世界を手中にすると言うのはやって出来ない事ではないのかも知れないな。

 

程なくして、なのはとクローゼは移動要塞の前に到着した。

 

 

「矢張り、いらっしゃいましたかクローディア殿下……御無事なようで何よりですな。」

 

「……大凡、殺そうとしていた相手に向ける言葉とは思えませんね、モルガン将軍?

 まして、私一人の命を奪う為に全く無関係なロレントの市民まで巻き込むとは……軍人の本分は、民の命を守る事の筈!であるにも拘らず、民の命を奪うとは、貴方には王国軍人としての誇りは無いのですかモルガン将軍!!」

 

「言うだけ無駄だクローゼ……コイツの目は濁って腐り切っている……アリシア前女王が健在だった時には、軍人としてその本分を果たしていたのかも知れないが、デュナンが王になった事で、甘美なる蜜の味を知ってしまったのだろう――デュナンの言う通りにすれば、金と権力を手に出来ると言う美蜜の味をな。」

 

 

其処で、この部隊の指揮官であるモルガンと対峙したなのはとクローゼだったが、慇懃無礼なモルガンに対して、なのはとクローゼは容赦ないカウンターを秒でブチかます!

なのはもクローゼも、無関係な人間が巻き込まれて命を落としたと言うのは、大凡無視出来る事ではないのだ。

 

 

「貴様、私を愚弄する気か!!」

 

「愚弄だと?事実を言って何が悪い。

 アリシア前女王の時代ならばいざ知らず、今の貴様はデュナンの言いなりになっている老害以外の何者でもない――何よりも、何の疑問も感じずにクローゼの命を奪おうとしている時点で、貴様は無能でしかない。

 だが、貴様の首はデュナンにとっての最高の土産になるかもしれんからな……リベールを本来の姿に戻す為の一手として、先ずは貴様の首を狩らせて貰うとしようかモルガン?」

 

 

そんでもって、なのははモルガンを煽る!煽って煽って煽りまくる!

『貴様等等瞬殺出来るぞ』と言わんばかりの不敵な笑みを浮かべて、手招きをするなのはは、究極至極のダークヒーローと言っても過言ではあるまい……その隣ではアシェルの背に乗ったクローゼが、手招きをした後にサムズダウンをして兵を煽っていた。

クローゼも、大分アウトローな世界に染まって来ているようだ。

 

 

「だが、貴様等の目的は私とクローゼだろう?

 ならばロレントには兵を向かわせるな。ロレントの民は、無関係の筈だ。」

 

「其れは出来ん相談だな……確かに殿下とお前は、こうして私の前に現れたが、ロレントにはお前達の仲間も居るのだろう?ならば、其れを根絶やしにせねばならんからな――抵抗する者は皆殺しだ!

 貴様の仲間達も、まとめて葬り去ってくれる!!」

 

「まぁ、そう来ると思っていたよ……だが、貴様の部下程度でリベリオンの戦力を如何にか出来ると思って居るのならば、貴様は私達を舐め過ぎだ。リベリオンの戦闘要員の実力は、A級の遊撃士以上だから、ヘタレの軍人程度では相手にならん。

 まして、カシウスはお前達の動向を把握していた……其れはつまり、カシウスと関係のある遊撃士もまた私達の味方だと言う事だ。――否、遊撃士だけではない。

 アインスとレン、草薙京に八神庵とその妹達も我等の戦力となっている……数では劣るが、質では勝る。」

 

「何だと?」

 

「百聞は一見に如かずだ。」

 

 

そう言ってなのはが指を鳴らした瞬間、移動要塞の主砲が吹き飛んだ!

 

 

「!?」

 

 

突然の事に驚くモルガンだったが、主砲を破壊した相手は直ぐに分かった。

 

 

「任務完了。」

 

「恥と知れ!」

 

「アンタじゃ燃えねぇな?」

 

 

主砲を破壊したのは、時の庭園から転移して来たレオナと、カシウスと共にロレントに向かっていた稼津斗と京だった。

レオナはVスラッシャー、稼津斗は禊、京は大蛇薙で移動要塞の主砲を破壊したのだ……レオナと稼津斗は主砲を切り落としたのだが、京は大蛇薙で主砲を焼き溶かしたと言うのだからトンデモナイ。草薙の炎の前では、鋼ですら紙と同じであるらしい。

 

 

「私とクローゼが目的ならば、ロレントの市民には手を出すなと言いたい所だが、貴様は既にロレントの市民の命を多く奪ったので言うだけ無駄だが……その罪は、その身を持って償って貰うぞモルガン!」

 

「貴方に軍を率いる資格はありませんモルガン将軍……お祖母様が買っていただけに残念ですが、貴方には此処で散って頂きます!何よりも、民の命を守る事を優先すべき軍人が、迷わずに民の命を犠牲にすると言うのを黙って見過ごす事は出来ません!」

 

「貴様等……如何やら余程死にたいようだな!

 ロレントに兵を向け、住民を残らず抹殺しろ!クローディア殿下を城から連れ出した奴の仲間が居るだろうからな!ロレントの住民を全て抹殺してしまえば、デュナン陛下の脅威は何一つとして無くなる!全てはリベールの未来の為に!!」

 

「リベールの未来の為とは、聞いて呆れるな?

 無関係の民を殺しておきながら、其れもリベールの未来の為だと言うのか?……だとしたら、実に唾棄すべき事だな。民の犠牲の上に成り立った未来など、そう遠からず瓦解するのは目に見えている――私は、人を犠牲にする未来など認めない!

 だから、其れを当たり前のように選択する貴様等は今此処で滅する……覚悟は良いなモルガン?民に命を捨てろと言うのであれば、先ずは貴様自信が己の命を賭けた戦いに臨め!」

 

 

そして、なのははレイジングハートの切っ先をモルガンに向けて殺気を放つ!――此の殺気を、素人が喰らったら一撃で意識が飛んで失禁する事間違いないだろう。

それ程までに、なのはの殺気は強くて濃密なのだ……齢十九にして、此れだけの殺気を放てると言うのもまた恐ろしい事ではあるのだが、逆に言うとその殺気を若くして会得してしまう程に、なのはのライトロードへの殺意は強かったと言う事なのだろうな。

 

 

「前々からアンタの事はなんか気に入らなかったが、ロレントを攻撃してくれた以上、アンタは俺の敵だぜ将軍様よ?デュナンの前に、先ずはアンタを丸焼きにするってのも良いかもな?

 ……尤も、アンタの丸焼きなんぞは不味過ぎて、八神でも食わねぇかもしれないけどな……何にしても、アンタ達はやり過ぎたぜ?俺の炎で焼き尽くしてやるから覚悟するんだな。」

 

「貴方では勝てない……」

 

「我こそ拳を極めし者……うぬらが無力、その身を持って知るが良い!」

 

 

京も闘気を爆発させ、レオナはオロチの血を開放し、稼津斗は殺意の波動を覚醒させる……なのはとクローゼ、ヴァリアスとアシェルに加えて、伝説にその名を残す草薙と、オロチの正統な血を引くレオナ、殺意の波動をその身に宿しながらも其の力を使い熟している稼津斗ならば戦力として申し分ないだろう。

移動要塞からは、武装した兵がロレントに向かっているが、ロレントにはリベリオンの戦闘メンバー、BLAZE、ブライト一家、カシウスの息が掛かった遊撃士、八神一家と戦力が揃っているので、王国軍の兵程度では揺るがないだろう。

 

 

「そんじゃなのは、戦闘開始のゴングを高らかに宣言してくれよ。」

 

「私がか?」

 

「アンタほどの美人さんに命令されれば、やる気も出るってもんだ……アインスが居れば頼んだんだけど、アインスはロレントの方に対応してるからさ――なら、アンタに頼んでも罰は当たらないだろ?アインスも、『高町なのはならば、信頼に値する』って言ってたからな。」

 

「そう来たか……だが、そうであるのならば、其れに応えようじゃないか。

 全員遠慮は要らないから、思い切りやってしまえ――だが、殺すなよ?コイツ等、特に将軍様には聞きたい事がまだあるのでね。」

 

「へへ、了解だ!」

 

「任務確認、遂行します。」

 

「死合うに値する相手か、其れを見極めさせて貰う!」

 

 

そして、なのはが右腕を大きく掲げ、手首だけを動かすゴングサインを出すと同時に、戦闘再開!

その戦闘は、移動要塞の周辺のみならず、ロレントにまで波及していたのだが、ロレントに入り込んだ軍人は、ブライト三姉妹とヨシュアによって無力化されていた……あらゆる面で隙が無く、全てのステータスが高いアインス、物理攻撃に限定すればアインスを上回るエステル、魔法攻撃に限定すればアインスを上回るレン。

此れだけでも充分に強力なのだが、其処に神速の双剣士であるヨシュアが加わったのであればより強力になった事だろう。

 

 

「貴様の首をデュナンに送り付けて、宣戦を布告する……そしてデュナンに教えてやるとしよう、貴様は王の器ではなとな!」

 

 

此処でなのはレイジングハートの切っ先を、モルガンに向けて殺気を放ったのだ……此れで気絶しなかったのは、腐っても軍人と言う所だろう。

 

 

「貴様……!」

 

「精々、貴様が信じる神に祈れ。」

 

 

なのはは、レイジングハートを構え直し、モルガンもまたハルバートを握り締めて臨戦態勢を取ると同時に、空中戦用の小型飛行デバイスに乗って浮遊し、空中戦に備える。

 

 

「そんな玩具で私と空中戦を行う心算か?舐められたモノだな……」

 

「何処までその余裕を貫けるか……戦いにおける年季の違いと言うモノをその身に叩き込んでくれるわ小娘が!」

 

 

そして、デュナンとの全面対決の前哨戦となる戦いが、本格的に開始されたのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter15『見せてやる、ロレントの底力を!』

喧嘩を売る相手を間違えたと、後悔しろ!Byなのは     後悔しても、遅いですけれどね?Byクローゼ     アンタじゃ燃えねぇなBy京


突如ロレントを襲った王国軍の奇襲攻撃――宣戦布告もなく放たれた一撃は、教会とホテルと時計塔を一瞬で瓦礫と化し、教会とホテルに居た人々は、瓦礫の下敷きになってしまった。

瓦礫に埋まったからと言って、生存率がゼロではないのだが、其れでも全てが助かるとは言えないだろう――救えなかった命と言うモノは如何したって出てしまうのだから……だが、その犠牲が天災によるモノだったとしたら、其れは仕方のない事だと、ある意味で諦める事も出来るだろうが、その原因が天災ではなく人災であると言うのならば、諦める事は出来ない。

寧ろ、その人災を起こした者に対して怒りを覚えるのが当然だと言っても過言ではないだろう。

 

 

「私とクローゼが目障りだと言うのならば、私達だけを狙えば良いだろうに……其れにも関わらず、全く無関係なロレントの市民を犠牲にするとは、大した正義だなモルガン将軍殿?

 己の正義を遂行する為には人の命など簡単に斬り捨てる事が出来るとはご立派過ぎて、どんな賞賛の言葉を投げかければ良いのか分からんよ――貴様の言う、唾棄すべき独善的な正義に掛ける賞賛の言葉など、永遠に分かりたくはないがな。」

 

「ほざけ、小娘が!!不穏分子は全て排除するのが国の為!!その為には多少の犠牲は必要経費よ!!」

 

「老害が吠えるな!!」

 

 

ロレントを襲った移動要塞の上空では、なのはとモルガンが激しい空中戦を行っていた。

なのはのレイジングハートと、モルガンのハルバートが幾度となく激突して、その度に激しいスパークが発生しているのを見るに、相当に激しい戦いが繰り広げられているのは間違いないだろう。

 

 

「アシェル、敵を蹴散らせ!滅びのバーストストリーム!!」

 

『ゴガァァ……ゴォォォォォォォォ!!』

 

 

一方では、クローゼがアシェルに攻撃命令を下して、モルガンと同じ飛行ユニットに乗っている兵を次から次へと撃墜して行く……手加減はしている上に、兵達はパラシュートも装備しているので、飛行ユニットが破壊されたからと言って地面に激突して人生にピリオドと言う事にはならないだろう。

ヴァリアスもまた、可成り加減した黒炎弾で飛行ユニット兵を撃破して行き、地上では京、レオナ、稼津斗の三人が武装した歩兵を相手に大立ち回りを演じている。

数が数なので、歩兵全員を足止めする事は出来ず、京達が到着する前に出撃した兵も居るので、可成りの数の兵がロレントに向かってはいるのだが、ロレントにはロレントで精鋭達が揃っているので問題ないだろう。

 

 

「く……!」

 

「ふん、中々にやる様だがワシと戦おうなど十年早いわ!!」

 

 

なのはとモルガンの方はと言うと、何度目かのぶつかり合いでモルガンがなのはをハルバートで吹き飛ばしていた……年老いたとは言え、若い頃は第一線で腕を振るっていただけあって、パワーはモルガンの方に分があるらしい。

 

 

「……其れは如何かな?」

 

 

だが、次の瞬間、モルガンを無数の魔力弾が襲った。

全く予想していなかった攻撃に、モルガンは驚くも何とか回避行動をとって被弾を最小限に止める……回避に集中してしまった事で、ハルバートで防ぐと言う事は出来なかったみたいだが。

 

 

「此れはアーツ……いや、魔法か!!まさか、ワシと戦いながら魔力弾を空中に設置していたと言うのか貴様!!」

 

「其の通りだ。

 そして、私の本領は近接戦闘ではなく魔法……そう、私は魔導師、其れも遠距離型の砲撃魔導師と言う奴さ。――さて、魔導師が近接戦闘で略互角に貴様と戦ったと言う事に関して、感想を聞かせてくれるとありがたいな?」

 

「貴様……!!」

 

「将軍とやらが如何程の実力を持っているのかと思い、お前の流儀に合わせてやったが……貴様の実力は最早底が知れたのでな、此れからは私の流儀で戦わせて貰うぞ?

 さて、その玩具に乗った状態で、何処まで私の本気に付いて来れるか……力の限り足掻いて見せるが良い!」

 

 

なのははモルガンの実力を推し量る為に、敢えて近接戦で遣り合っていたのだが、だとしても魔導師が戦士と略互角に近接戦が出来ると言うのは恐るべき事だろう。

近接戦も出来る砲撃魔導師と言うのは、言うなれば不得手な距離が存在しないと言えるのだから――加えてなのはは、『単機で戦える砲撃魔導師』と言う独特のスタイルをも確立し、近接戦闘が出来なくとも戦士と互角に戦う事が出来るのだが、その戦闘スタイルを確立した後に、戦士に勝てずとも負けないレベルの近接戦闘技術を身に付けているので正に隙なしと言えるだろう。

 

そして此処からは、なのはの本領である空中での魔法攻撃が解禁される……なのはの魔力を受け取ったレイジングハートが、一層強く金色の輝きを放ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter15

『見せてやる、ロレントの底力を!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃ロレント市内でも、ロレントの精鋭達と、軍の兵士による戦闘が行われると同時に、美月が破壊されたホテルと教会に結界を張って、無事な市民達の手で瓦礫の下敷きになった人達の救助活動も行われていた。

不幸中の幸いだったのは、マルガ鉱山で働いている力自慢の鉱員達が、今日も今日とて鉱山での作業に勤しんでいた事だろう――なので、璃音がマルガ鉱山まで文字通り飛んで行き、鉱員達に話をして、今度はリベリオンで身に付けた転移魔法で鉱員全員をロレントまで転移させ、そして救助活動に参加して貰ったのだ。

鉱山に行く際に転移しなかったのは、璃音の転移魔法はまだ初期レベルであり、『一度行った場所にしか転移出来ない』からである。

 

 

「美月の結界は、多少の攻撃ではびくともしないからな……救助現場の安全が確保されていると言うのならば此方も思い切り戦う事が出来る!

 咎人の血を啜りし呪われた楔よ、その呪いで更なる血を己に注ぐが良い……ブラッディ・レイン!!」

 

 

救助現場の安全が確保されているのならば、其方を気にせずに戦う事が出来るので、ロレントの精鋭達は此処からが本領発揮だ。

先ずはアインスが、自身が得意としている広域攻撃魔法『ブラッディダガー』のバージョン違いとも言える『ブラッディ・レイン』を使って、王国軍の兵の頭上から無数の魔力の刃を降らせる。一応非殺傷で放っているが、先端が尖っている鋭利なナイフが空から避け様がない位に降ってくると言うのは脅威だろう。

無論、兵達はその場から逃げようとするが……

 

 

「楽には死ねんぞ!」

 

 

其処に庵が『裏百八式・八酒杯』を叩き込んで兵達を拘束する――千八百年前に八岐大蛇の動きですら封じてしまった炎に囚われては、人間では指一本動かす事は出来ない訳で、兵達は無慈悲な『血の雨』を喰らう事に。

 

 

「エステル、今だ!」

 

「うおりゃぁぁぁぁ……オータニショーヘイ!!」

 

 

別の場所では、ヨシュアが持ち前のスピードで兵を攪乱して、更に体勢を崩すと、其処にエステルが重い一撃をぶちかまして五~六人の兵を纏めてホームラン!ブッ飛ばす際の掛け声が若干謎だったが、其処は突っ込み不要だろう。

エステルとヨシュアのコンビは、男女コンビでありながらスピードを男性のヨシュアが、パワーを女性のエステルが担当すると言う少しばかり珍しいタイプのコンビでもあるのだが、此れが初見の相手には『男の方が攪乱するのか!?』と混乱させる効果があって中々に良い感じなのだ。――因みにロレントでエステルに腕相撲で勝つ事が出来るのは現状志緒だけである。

戦闘技術とか知識、総合力ではカシウスの方がエステルよりも遥かに上だが、パワーだけに関して言えばカシウスでもエステルには敵わないのだ……庵が暴走した場合はまた話が違うだろうが。

 

 

「うふふ、レンからは逃げられないわよ♪」

 

 

更にレンが大鎌を振るう度に兵が崩れ落ちて行く……レンは兵を殺した訳でなく、死神の能力を使って、身体を傷付ける事なく、大鎌で直接魂にダメージを与えて意識を刈り取っているのだ。

魂を直接攻撃されると言うのは、延髄を攻撃される以上の効果があり、ドレだけ屈強な男であっても一撃で気絶してしまうのだ……魂の質が強ければ耐える事も出来るのだが、それでも『脳を揺らされた』のと同じ位のダメージを与える事が出来るのだ。

 

美月以外のBLAZEのメンバーも的確に兵達を倒しており、特に志緒が獅子奮迅の活躍っぷりだ……兵の一団の中に飛び込んだかと思ったら、必殺の『イグニス・ブレイク』を叩き込んで、一気に十人は戦闘不能にしてしまっているのだ。

身の丈以上の大剣……いや、重大剣とも言える得物を軽々とぶん回すって時点で相当な剛腕なのだが、その剛腕から繰り出される一撃と言うのも相当な破壊力があると言う事なのだろう。

 

そんな彼等に負けていないのが一夏達、『鬼の子供達』だ。

『殺すな』との事だったので、武器は使って居ないが、稼津斗に鍛えられた一夏達は無手であっても充分に強いのだ――無手の格闘が得意でない夏姫は、ガンブレードの峰打ちで兵を倒しているが。

 

 

「合わせろ刀奈!!」

 

「お任せあれ!!」

 

 

一夏が蹴り飛ばした兵を、刀奈が蹴り飛ばされた勢いを利用して投げ飛ばし、其処に一夏がトドメとなる飛び蹴りを突き刺す!――だけでなく、別の兵に蹴りを叩き込んで昏倒させると其れをハンマースローで投げる……兵に追われているグリフィンに対して。

其れを見たグリフィンは、口元に笑みを浮かべると一夏がハンマスローで投げた兵に対してドロップキックを繰り出し、一夏はグリフィンを飛び越えて追って来た兵に跳び蹴りを叩き込む……グリフィンは追われていたのではなく、自身を追わせていたのだ。この合体攻撃を決める為に。

 

 

「一夏、一曲如何だい?」

 

「そうだな、乗らせて貰うぜロラン。」

 

 

今度はロランの手を取ると、まるでダンスをするかのような動きで兵を蹴散らして行く……戦いの舞踏とは、正にこの事だろう。華麗なバトルダンスは、兵を次々とダウンさせて行く。

 

 

「行くぜヴィシュヌ!」

 

「はい!!行きますよ……炎神……」

 

「雷龍……」

 

「「波動拳!!」」

 

 

続いて発動したのは、ヴィシュヌとの合体攻撃――一夏の『電刃波動拳』とヴィシュヌの『灼熱波動拳』を同時に放つ『炎神雷龍波動拳』だ。灼熱の炎と、閃光の雷の合体攻撃を喰らって立って居られる者は居ないだろう。

因みに、一夏は簪以外の嫁とはヴィシュヌ同様に『合体波動拳』を使えたりする。氷の波動が使える刀奈とは『氷牙雷龍波動拳』、風属性のロランとは『風雷神撃波動拳』、属性が周囲の環境によって変わるグリフィンとは『超真空波動拳』を放つ事が出来るのだ。

 

 

「何の罪もない人を勝手な理由で殺すか……ハーメルを滅ぼしたライトロードを思い出してムカつくぜ、お前等を見てるとな!!」

 

 

そして、一夏はロレントの一般市民を巻き込んだ攻撃をした王国軍に、ハーメルを滅ぼしたライトロードを重ねて怒りのボルテージが可成り上がっていた……そして、その怒りが一夏の力を底上げしていた。

一夏は、最も稼津斗の技を身に付けており、『鬼の子供』達の中では最強とも言えるのだが、その一夏が怒りによって強化されたと言うのは凄まじいだろう。

 

 

 

――ドッガァァァァァン!!

 

 

 

そんな戦場に、突如として上空から何かが突っ込んで来た!

突っ込んだ場所は、王国軍の兵の集団だったので、ロレントの戦力にはマッタク持って被害は無いのだが、流石に行き成り上空から何か突っ込んで来たとかマッタク持って意味が分からない。よもや隕石が降り注いだと言う事でもないだろうからね。……着弾点には、隕石が衝突したようなクレーターが出来てる訳だが。

 

 

「あ~っはっは~~!らいこー散らして僕さんじょー!!あくとーどもめ、僕がきたからにはもう逃げられないぞ!さぁ、かかってこーい!!」

 

「掛かって来いと言っておきながら、自分から攻撃するのってどうなのかな?」

 

 

クレーターから飛び出して来たのは、プレシアの子供の一人であるレヴィだ。――隕石宜しく地面に激突しておきながらマッタク持って無傷と言うのは呆れた頑丈さだと言えるが、そもそもにして『アホの子』には、並大抵の事では大したダメージにならないのかも知れないな。アホの子マジで最強ですわ。

そんなレヴィに、姉であるフェイトが突っ込みを入れていたが、此れはテスタロッサ姉妹にとっては最早日常の事なので気にする事でもないだろう。そもそもにしてアホの子には突っ込みは要らんのですよ!だってアホの子だから。

 

取り敢えず、テスタロッサ姉妹が戦線に加わり、同じく転移して来たリニスは救助現場に赴いて、怪我人の治療に当たっていた。その間、魔導人形は瓦礫撤去を手伝って、まだ生き埋めになている生存者を探している。

 

 

「あの人形凄いっすね……アイツ等が二、三体居てくれたら鉱山での仕事も大分楽になるんじゃねぇか?」

 

「馬鹿言ってんじゃねぇ!鉱員はテメェの手で鉱石掘り出してナンボだろうが!其れにな、機械使って掘ったり、ダイナマイトで吹っ飛ばしたりすると、鉱石の純度が落ちるんだ、覚えとけ!

 んな事よりも今は瓦礫だ!鉱山から鉱石掘り出すんじゃなく、瓦礫の山の中から犠牲者掘り出すのが今の俺達の仕事だ!!」

 

「「「「「「「「「「うっす!!」」」」」」」」」」

 

 

鉱員達も負けじと瓦礫を撤去し、まだ息のある者をリニスの元に連れて行く……無論生存者だけでなく、事切れてしまった者も居るのだが、其れもちゃんと瓦礫の外に運び出して行った。物言わぬ骸になったと言えども、瓦礫の中に閉じ込めたままでいい筈がないからだ。

其れでも、身体の損傷が軽微な物であれば、蘇生魔法で蘇らせる事も可能だが、そうでない場合は……な。犠牲者は、不届き者を始末した後でキチンと弔ってやらねばならないだろう。

 

 

 

 

「しかし、殺さないように戦うと言うのも中々に面倒なモノだな?

 この程度の連中には負ける気は全く無いが、手加減をし過ぎるとすぐまた向かって来るし、だからと言って加減を間違えれば殺してしまう……いっそ腕や足の一本でも斬り飛ばしてやるか?

 傷口を焼き固めてやれば死ぬ事もないだろうし、流石に腕や足を失えば戦う事は出来んだろう?私の様な再生能力を持っていない限りはな。」

 

「サイファーよ、切り落とされた四肢の処理が面倒だからやめておけ。コイツ等の肉など、犬畜生でも食わんだろうさ。」

 

 

市長邸の前では、サイファーとクリザリッドが市長邸に群がる敵を叩きのめしていた。

長剣二刀流の峰打ちで戦うサイファーは、己の再生能力にモノを言わせて、銃で撃たれようが剣で斬られようが、そんなモノはお構いなしに兵達を刀身でブッ叩いて行き、クリザリッドは大ぶりの蹴りから横倒しにした竜巻の様な技『テュフォンレイジ』で兵を吹き飛ばして行く。通常の竜巻とは違い上空に吸い上げられる事はなく、横方向に強烈に吹っ飛ばされるだけなので殺傷能力はあまり高くないので、『殺すな』と言うなのはの命令を守るために使って居るのだろう。

 

どんなに攻撃しても倒れないサイファーと、竜巻で吹き飛ばして来るクリザリッドのコンビは、其れだけでも兵達からしたら恐怖の存在なのだが、更に兵達を震え上がらせているのが、攻撃を受けても居ないのに突然と倒れる兵が少なくない数居た事だ。

此れは恭也が気配を完全に消した上で『神速』を使って完全に意識外から延髄に的確に手刀を叩き込んで意識を刈り取って居るのだ……日々の鍛錬で戦いの勘を取り戻した恭也の実力は相当なモノがあるのだ。

 

だが、其れでも兵は次から次へと現れる……モルガンはハーケン門に詰めている兵隊を全て連れて来たのだろう――つまり今はハーケン門は警備が手薄になってる訳なのだが、この隙にハーケン門を攻められたらどうする心算だったのだろうか?……多分其処までは考えてないのだろうな。

 

 

「あぁ、ったくうざってぇな!一体何匹出て来やがんだテメェ等は、あぁ!?灯蛾の如く燃え尽きろぉ!!」

 

 

KUSANAGIが悪態を吐きたくなるのも無理はない。次から次へと兵が現れ、ハッキリ言って倒しても倒してもキリがない『無限討伐』状態なのだから。最悪の場合はロレント勢の方が先にスタミナ切れを起こしてしまう可能性すらあるのだ。

 

だが――

 

 

「ウオォォォォォ……ドラゴン、フォーーーーール!!!」

 

 

此処で空から炎の龍が兵達に向かって突撃し、兵達を鎧袖一触!!

 

 

「アンタは……アガットさんか!如何して此処に?」

 

「オッサンに呼ばれたんだよ。……しかしまぁ、王国軍の奴等がロレントに攻め入ってくるとは、中々にトンでもねぇ事になってるじゃねぇか高幡よぉ?久々に一緒に暴れんぞ!遅れるなよ!!」

 

「ウッス……!」

 

 

その正体は、リベールのA級遊撃士の一人でボース地方のラヴェンヌ村に住むアガット・クロスナーだった。

赤い髪と頬の十字傷が特徴的で、言動は粗野で粗暴だが、その実は頼りになる兄貴分と言った人物だ――大柄な体格、炎属性、使用武器が重剣、頼れる兄貴分と、何かと志緒と似通った部分が有るのだが、志緒との仲は良好で、『リベールの重戦車コンビ』との呼び名も高かったりする。

 

そして援軍はアガットだけではなく、アガットに続く形でロレントの上空に現れた高速輸送船から多数の兵士が飛行ユニットを使って降下して来たのだ。

 

 

「王国軍諜報部特務隊、此れよりロレントに加勢する!」

 

「貴様!王国軍の人間でありながら、我等の邪魔をすると言うのか!この逆賊が!!」

 

「逆賊は貴様等だろう!皇女殿下を幽閉した愚王に従う不届き者共が!!」

 

「そうだな……クローディアを幽閉したと言うだけでも、デュナン公は万死に値する。」

 

 

其れは情報部の特務隊と、元王族親衛隊の隊員達だ。

特務隊は特務隊としての戦闘装備を身に付けているのだが、元王族親衛隊の隊員達は王国軍の軍服ではなく、王族親衛隊の隊服を着用している――此れは、リシャールが用意したモノだ。

『リベールに新たな王が誕生しようとしているのならば、王族親衛隊はまた必要になる』と言って、表向きには廃棄された事になっていた隊服を元王族親衛隊の隊員達に届けたのだ。何とも粋な計らいだと言えるだろう。

 

だが、特務隊と元王族親衛隊の隊員達が戦線に加わった事で数の差は略無くなり、質で上回るロレントの勢力が徐々に兵達を抑え込んで行った。

 

 

「此れで決めるで!響け終焉の笛、ラグナロク!!」

 

「無敵!無限!!我こそが王よ!吼えよ巨獣!ジャガーノート!!」

 

「クズ共が、精々祈るが良い……遊びは終わりだ!泣け!叫べ!そして、死ねぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 

でもって、庵、はやて、なぎさの『八神三兄妹』は絶好調だった。――『死ね!』と言いつつ殺していない辺り、庵も相当に手加減しているのだろうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

移動要塞上空でのなのはとモルガンの戦いは、なのはが本来の戦闘スタイルを解禁した後は一方的な展開となっていた。

縦横無尽に飛び交う魔力弾に動きを制限された所に超威力の直射砲を叩き込まれ、モルガンは既に満身創痍だった――魔力弾をかいくぐってなのはに肉薄して一撃を与えた事もあったが、渾身の一撃を叩き込まれてもなのはは全く涼しい顔をしていたのが、モルガンには信じられなかった。

なのはは、自分の得意分野の弱点も把握しており、『攻撃に耐える事が出来るのならば避ける必要はない』と言う極端な考えで、己の防御力を極限まで強化しているので、ハルバートの一撃を喰らった程度では碌にダメージを受けないのだ。

先刻吹き飛ばされたのは、モルガンに己の愚かさを分からせる為だったのだろう。

 

 

「……此れ以上やっても無駄だなモルガン。大人しく降参しろ。今降参すれば、此れ以上痛い目に遭わずに済むぞ?」

 

「小娘が……生意気にも降参しろだと?貴様の様な小童に対して負けを認めて降参する位ならば、ワシは戦場で命を散らす事を選ぶ!軍人の覚悟を舐めるでないわぁぁぁぁ!!」

 

「……ヤレヤレ、自分が生かされている事にも気付かないとは、哀れだな。

 お前が背負っているパラシュートは既にアクセルシューターで破壊してある……そして、飛行ユニットを破壊すればお前は地面に向かって真っ逆さまだ――が、そうなって居ないのは、私が飛行ユニットを破壊していないからだ。

 分かるか??パラシュートを破壊した時点で、私は何時でもお前を殺す事が出来たんだ……其れでも、まだ負けを認めんか?」

 

「んな!?」

 

 

更になのはは、モルガンに対して『いつでも殺す事は出来たが、今まで殺さないでやっていた』と言う事を明らかにする――パラシュートを破壊された上で、飛行ユニットを破壊されたら、其れはもうお陀仏間違いなしだが、なのはは敢えて飛行ユニットを破壊せずにいたのだ。モルガンが自ら降参するのではないかと考えて。

 

 

「だが、如何あっても貴様に降参すると言う選択肢は無いらしいのでな……決定的な一撃で強制的な敗北をくれてやる!

 なに、非殺傷だから死にはしないから安心しろ……尤も非殺傷であっても無機物は破壊出来るから、移動要塞の中にいる連中には避難を促した方が良いかも知れないぞ?瓦礫の下敷きになったら、命の保証はないからな。

 レストリクトロック!」

 

「なにぃ!!」

 

 

だが、モルガンが降伏しない以上、なのはにはモルガンを完全に叩き伏せる以外の選択肢は存在せず、モルガンをバインドで拘束して身動きを封じると同時に、周囲の魔力をかき集めて、必殺の一撃を放つための準備をしていく。

集められた魔力は、やがて巨大な桜色の魔力球を生成する……此れこそが、なのはが十年間己を鍛えて来た中で会得した究極奥義『スターライトブレイカー』だ。

周囲の魔力の残滓をかき集めて放つ、なのはの魔力が略枯渇した状態であっても放てる、正に究極の切り札!

 

 

「此れで終いだモルガン……全力全壊!スターライトォォォ……ブレイカァァァァァァァァ!!」

 

「アシェル!ヴァリアスもお願いします!」

 

『ゴガァァァァァァァ!!』

 

『ギシャアァァァ!!』

 

「おぉぉぉぉ……燃え尽きろぉ!!」

 

「さよなら……」

 

「滅殺……ぬおりゃぁぁぁぁ!!」

 

 

スターライトブレイカーが放たれると同時に、アシェルのブレス攻撃、ヴァリアスの黒炎弾、京の最終決戦奥義・十拳、レオナのリボルスパーク、稼津斗の滅殺剛波動が炸裂して移動要塞を粉砕!玉砕!!大喝采!!!

 

飛行ユニットごとスターライトブレイカーを喰らったモルガンは完全に意識を失って地面に落下して行ったのだが、地面に激突する寸前でなのはが回収して一命を取り留めたようだ……尤も軍服が全て消し飛んでパンツ一丁の状態だったのを考えると、地面に激突してセイグッバイした方がマシだったかも知れないが。

 

何れにしても、この部隊の最高司令官であったモルガンが戦闘不能になった今、最早ハーケン門から出撃した兵達はコントロールを失った烏合の衆に過ぎないので、鎮圧は簡単だった。

 

 

「この程度か……余興にもならん。」

 

「此れでお終いです。」

 

「ち……アンタじゃ燃えねぇな?」

 

「任務……完了。」

 

「我こそ、拳を極めし者!」

 

 

勝利ポーズも実に見事に決まり、勝利宣言だ。

 

こうして、ロレントを襲った一件は陽が沈む頃には全ての兵を鎮圧して終息した。

だが、ロレントの被害は決して小さなものではなく、時計塔とホテルと教会が全壊し、死者十四名、重傷者二十名、軽症者十二名、重体者五名と言う人的被害が出てしまったのだった……

 

そして、この悲劇は程なくしてロレント全域に知れ渡る事になるのであった――デュナンと言う愚王が起こした、国民の虐殺行為として。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter16『When raising the signal of rebellion』

宣戦布告前のワンクッションか?Byなのは     ワンクッションですねByクローゼ     キョォォォォォ!By庵     ……何で暴走してんだ手テメェは?By京


なのはの最大級の集束砲に加え、光と闇のドラゴンの攻撃、草薙の奥義と殺意の波動の滅殺技、レオナの暗殺術の超奥義によって移動要塞は三機とも全て、其れはもう見事なまでのスクラップとなり、モルガン将軍以下、戦闘に参加したハーケン門の兵士は略全てが捕縛されていた。

移動要塞内の兵の中には、スターライトブレイカーが放たれる前に逃げた者も多く、全ての兵とは行かないが、其れでも此度出撃した兵の八割を捕縛出来たのは成果としては充分と言えるだろう。

 

 

「将軍達を倒しはしたが、連中の人的被害は重傷者が最大であるのに対し、リベールの人的被害は死者が最大であり……其れも十四名もか。

 しかも其れが、戦いとは無縁なロレントの市民であった事を考えると心が痛むな……だが、だからこそ私の為すべき事は増えた――無慈悲に奪われた命の叫び、必ず、あの無能な王に届けてやらねばな。

 せめてそれ位の事をしなければ、死者は浮かばれんだろう。」

 

「なのはさん……そう、ですね。」

 

 

だが、ロレントの被害として、ホテルと教会、時計塔が全壊し、十四名もの死者が出たと言うのは決して小さな被害であるとは言えないだろう――敢えて、不幸中の幸いと言うのならば、ホテルが満室でなかった事と教会がお祈りの時間ではなかった事で人が少なく、死者の数が十四名で済んだと言う事だろう。

これがもし、ホテルが満室で、教会がお祈りの時間だったらと考えると、死者はもっと増えていたのかも知れないのだから。

 

 

「だが、先ずは死者を丁重に弔ってやらねばならないのだが……さて、どうやって魂を冥界へと送ってやるかが問題だ。」

 

「死者の魂は、自然と冥界へ渡るのではないのですか?」

 

「老いや、病気で死を迎えた場合は、魂が死を受け入れている場合が多いので自然と冥界に渡る事が出来るのだが、今回のように突然の形で死を迎えた場合、己の死を受け入れられない、自分が死んだ事に気付いてない事があるんだ。

 そう言った魂は冥界に渡る事が出来ずに現世に留まってしまい、やがて自らを現世に縛り付けて地縛霊となる。

 死んだ事に気付いていない場合は其処で終わりなのだが、己の死を受け入れられない魂は、生者に対する羨望と嫉妬、なぜ自分が死ななければならなかったのかと言う思いに囚われ、其れ等の負の感情が募り募って生者に害をなす悪霊、最悪の場合は悪魔にまで身を墜としてしま。

 そうならないようにする為にも、今回の犠牲者の魂に己の死を納得させて冥界に送ってやらねばならないだろう?」

 

「其れは、確かにその通りですが……ですが、一体如何やって?」

 

「そう言う事なら、レンの出番ね♪」

 

 

先ずは死者を弔うのが先なのだが、今回の一件の犠牲者の多くは突然訪れた死を受け入れられない、或は突然過ぎて死んだ事に気付いていない可能性があるだけでなく、そう言った魂を放置しておくと良くない事になるので、如何したモノかと考えていたところで声を上げたのがレンだった。

 

 

「レン……そう言えば、お前は死神の系譜だったか。」

 

「うふふ、その通りよ。

 エステルとの約束で、生者の魂を狩る事は止めたけど、死神として死者の魂が迷わずに冥界に渡れるようにする事は止めてはいないわ――死神の大鎌は、元々死者の現世への強い思いを断ち切って、冥界に渡らせる為の物だもの。」

 

「えぇとレンちゃん、大鎌で強制的に現世への思いを断ち切っても大丈夫なんですか?」

 

「大丈夫よクローゼ。死者の魂は、現世への思いを断ち切られた瞬間に己の死を受け入れて、あるいは自分が死んだ事に気が付いて冥界に渡るから……じゃあ、久しぶりに一仕事してくるわね。」

 

 

レンは元々死神の系譜であるので、死者の魂から現世への執着を断ち切る事位は造作も無い訳で、レンは次々と犠牲者の魂を現世と切り離して冥界へと渡らせて行く……その姿は美しくも何処か哀しさを感じさせる、『葬送の舞』のようにも見えた。

レンによって現世との繋がりを絶たれた魂は、次々と冥界へと旅立ち、程なくして十四個の光の塊が天へと昇って行ったのだった。

 

 

「如何やら、全員無事に冥界に渡る事が出来そうだな。」

 

「レンちゃんが居てくれて良かったですね。

 ですが、彼女が死神の系譜だと言うのは良いとして、レンちゃんの様な可憐な死神も居るのに、どうして世間一般の死神のイメージと言うのは、骸骨が黒いローブを纏って大鎌を手にしている姿なのでしょうか?」

 

「其れは恐らくだが、『デス・サイズ』と言う悪魔のせいだろう。

 牛の頭蓋骨を依り代にしている悪魔で、何かを依り代にして人間の世界に現れる悪魔の中では飛び切り強い力を持っているのだが、其れに襲われて、何とか逃げ延びた人間が、『死神に襲われた』と言った事が幾度となく重なって、死神のイメージが出来上がってしまったのだろう。」

 

「本物の死神にとっては、はた迷惑な風評被害ですよね其れ?」

 

「マッタクだ。デス・サイズ相手に、名誉棄損で訴訟を起こしたら勝てるレベルだ。」

 

 

こんな事を言いながらも、なのはは天に登って行く光に右手を高く上げ、クローゼは胸の前で指を組んでいた――なのはは魔族の、クローゼは人の、夫々死者の魂を送る際の『祈り』を行っていたのだ。

そして、祈ると同時に『その無念は必ず晴らす』と心に誓ってもいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter16

『When raising the signal of rebellion』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魂を冥界へと渡らせた後に、遺体を収めた棺は斎場へと運ばれ、其処で焼いてお骨にした後に夫々の墓へと埋葬されるのだが、流石に一気に十四名もの遺体を焼く事は出来ないので、一度に五体ずつ焼くにしても、一体をお骨にするのに必要な時間は大体二時間~三時間なので、全てがお骨になるまでには六~九時間と言う時間が必要になる訳であり、斎場はフル稼働状態だろう。

 

 

「臨むのなら、俺の炎で送ってやっても構わんぞ?」

 

「……いや、其れは止めとけ八神。八尺瓊本来の紅い炎なら未だしも、オロチが混ざった紫炎で焼かれとなったら仏さんも浮かばれねぇって。」

 

「ならば、矢張り貴様をあの世に送るしかないようだな京!」

 

「いや、何でそうなるんだよテメェは!?」

 

 

ロレントから運び出されて行く棺を見ながら、庵が何やら不穏な事を言って、其れに京が突っ込んだら、如何言う訳か『京を殺す』と言う理論に落ち着いてしまったみたいだが、その直後になぎさが『何をしておるか此の愚兄が!』と、はやてが『京さん、毎度毎度兄が迷惑かけとります!』と突っ込みの直射砲をぶちかまして庵を吹っ飛ばし、庵は『此のままでは終わらんぞ!』と絶叫していた……死者を見送る場で何をやっているのかだ。

 

 

「……父ちゃんと母ちゃんに、最後の挨拶はしなくていいのか?」

 

「……もう、さっき済ませて来た。」

 

「そうかい。」

 

 

そんな中、シェンは一人の少女の事を気に掛けていた。

その少女は十歳ほどで、肩まで伸びたウェーブの掛かった金髪と、東方の国で見られる『袴』によく似た白い服が特徴的だが、アメジストを思わせる紫色の瞳からは光が消え、深い悲しみを抱えている事が見てとれる。

 

 

「シェン……十年前も、私となたねに良くしてくれたが、今度はその娘とは、お前若しかしてロリコンだったのか?」

 

「不穏な事言ってんじゃねぇなのは!誰がロリコンだ誰が!俺は単純に、目の前で両親が死んじまったコイツの事を放っておけなかっただけだ!……十年前、お前達の時には間に合わなかったら、せめて今回位はコイツの側に居てやろうと思ってよ。

 何より、コイツの親父さんとお袋さんが、ホテルの下敷きになるのを俺はコイツと一緒に見ちまったからな。」

 

「……ロリコン疑惑は、重い空気を吹き飛ばす為の冗談だから真に受けないでくれ。

 だが、この子は目の前で両親を亡くしてしまった訳か……此の子の思いは、痛い程に分かってしまうな。」

 

「なのはさん……」

 

 

其処にやって来たなのはは、シェンと軽口を交わしながらも、この少女の思いが痛い程に、怖い程に分かってしまった――なのはもまた、突如として理不尽に家族を喪った経験があるからだ。なのはの壮絶な過去を知るクローゼもまた、この少女の思いが分かってしまったのかも知れないな。

 

 

「お前、名前は?」

 

「……ユーリ。ユーリ・エーベルヴァイン。」

 

「ユーリか、良い名だな……お前は、お前の両親を殺した奴等の事が憎いか?」

 

「……分からない。でも、お父さんとお母さんを殺した人達の事は、許せない……絶対に。」

 

「ふ、其れは当然の思いだ――誰しも、己の家族を殺した相手を許す事など出来る筈もない。その家族が、己にとってはどうしようもないクズな集団であったと言うのならば話は別だがな。

 だが、そうでないのならば家族を殺した相手を許してはならないんだ絶対に……だが、子供のお前では相手を許す事は出来なくとも、その相手に鉄槌を下す事は出来ないだろう?……だから、その思いを私に預けてくれ。

 その思い、必ずやデュナンに届け、奴に己の愚行を後悔させると約束しよう!」

 

 

だからこそ、なのははユーリと名乗った少女の『許せない』と言う感情を放っておく事は出来なかった。――あまりにも突然の事で、『憎悪』には至ってない感情だが、しかし、だからこそ純粋に『家族を理不尽に奪われた怒り』が其処には有ったのだ。

故になのはは、其れを汲み上げて、『必ず、お前の両親を殺した相手にお前に代って鉄槌を下す』と約束したのだ。嘘を吐く事の出来ない魔族の約束と言うモノは絶対であるから、なのはのやるべき事は一つ増えたのだが、其れもまたなのはにとっては己を奮い立たせる要素になるので問題はない。

寧ろ背負うモノが多い程、なのはは強くなるのだ。リベリオンの仲間の思い、そして理想の実現と既に大きく沢山の思いをなのはは背負っているからね。

 

 

「シェン、ユーリはお前に任せる。両親の死のショックで閉ざされた心を、如何にか解き解してやってくれるか?」

 

「難易度たっけぇなオイ!……だが、俺としてもコイツの事を放っておく事は出来ねぇと思ってたからよ、出来るかどうかは分からねぇが、やるだけやってやるぜ!其れに、お前の事だ、ユーリの事も仲間に迎え入れる心算なんだろ?

 コイツが内に秘めている魔力は、俺でも分かる位には馬鹿デカいからな。」

 

「其れは否定せんよ。……リベリオンに招き入れるかは、彼女の意思を尊重するけれどね。」

 

 

なのははシェンにユーリの事を任せる事にしたが、ユーリの中には途轍もなく大きな魔力が存在しているので、其れを戦力としてリベリオンに引き入れる事も視野に入れての事だった。

『目の前で両親を喪った子供を、大きな魔力があるから自軍に引き入れる』と言う事だけを考えるとトンデモナイ事かもしれないが、なのはは此れまで普通に子供も保護しているので、ユーリが戦う事を望まないのであれば他の子供達と同様に、普通に保護するだけだ――無論、戦う道を選んでくれるのであれば心強い事は間違いないのだが。

 

 

「其れと、時間があったら彼女を連れて此処に行けシェン。此の場所には、私のレイジングハートに匹敵するアーティファクトが埋まっているとの噂だ――其処で、彼女の武器を見繕って来てくれ。

 リベリオンに入るにしろ入らないにしろ、両親を喪ってしまった彼女には、自分の身を守る為の力が必要だからな。」

 

「こんな情報を何処から……って、セスの野郎か。OK分かった。なら、デュナンをぶっ倒した後にでも行ってみるわ。」

 

 

なのははシェンに、とある村の地図を渡して、『時間があったらユーリを連れて行ってこい』と言った……レイジングハートに匹敵するアーティファクトが眠ってるとか、相当にトンデモねぇ場所なのだが、あまり一般には知られていない場所なので、実はお宝は荒らされてなかったりするのだ。

 

 

「オイオイオイ、何が起きてるのかと思って来てみりゃ、街が滅茶苦茶じゃねぇかよ!一体如何なってやがる!?」

 

「ホテルも教会も時計塔も粉々になっちゃってますよ、先輩~~~!」

 

 

と、其処に現れたのは無精ヒゲと短めのボサボサ頭が特徴的な男性と、眼鏡とピンクの髪が特徴的な、何処かフワフワした雰囲気の女性だ。

男性の方は手にペンとメモ帳を、女性は一眼のカメラを持っているのを見るに、報道関係の記者と言った感じに見えるが、だとしたら何故ロレントに居るのだろうか?ロレントが王国軍から攻撃を受けたと言う事は、少なくとも今回の一件に関わった者達以外は誰も知らない筈だが……?

 

 

「ナイアル!其れにドロシーも!!」

 

「お二人とも、如何されたんですか?」

 

「おぉ、エステルにヨシュアじゃねぇか!

 如何もこうも、ボースでメイベル市長を取材しててな、近くまで来たからお前さん達の顔でも見てこうかと思ってたら、ハーケン門からロレントに向かって移動要塞が出てくのが見えてよ。

 兵士に見つかったらメンドクセェから、迂回してロレントまで来てみりゃこの有り様だ……まさかと思うが、王国軍がやったのか、この惨状は?」

 

 

ナイアルと呼ばれた男性は、矢張り記者だったらしく、ドロシーと呼ばれた女性と共にボース市の市長を取材して帰る前にロレントに寄ろうとした際に、ロレントに向かう王国軍を見掛け、見つからないように迂回してロレントにやって来たのだと言う。

そして、到着したロレントでは自分達と入れ替わるように、犠牲者を収めた棺が運び出され、中に入ってみればホテルと教会と時計塔が崩壊していたと言うのだ……一体何があったのかを察するには充分だったようだ。

 

 

「其の通りだ。

 此度の事は、王国軍がやった事だ……私とクローゼを殺す為だけにな。」

 

「私となのはさんだけを狙えば良いのに、無関係なロレントの人々を巻き添えにするとは……民を守る為の王国軍が、民の命を奪う等、悪夢であるとしか言い様がありません。」

 

 

ナイアルの問いに答えたのはエステルとヨシュアではなく、なのはとクローゼだった――口調は静かだが、其れが逆に恐ろしいと感じさせるほどには、二人の身体からは『怒気』と『覇気』が漏れ出していた。

感情をコントロール出来るとは言っても、コントロールし切れない場合と言うのもあると言う事なのだろう。

 

 

「ん?(。´・ω・)ん?……あ~~~~!!センパーイ、此の人グランセル城からクローディア皇女殿下を連れ出した人ですよ!!」

 

「あんだとぉ!?って事は若しかして……クローゼって呼ばれた其方の女性は、クローディア皇女殿下だったりするのか!?」

 

 

此処でドロシーがなのはの正体に気付き、其処からナイアルがクローゼの正体に辿り着いた……実は、以前にリベール通信に掲載された『クローゼを城から連れ去るなのは』の写真を激写したのが、他ならぬドロシーであり、記事を書いたのがナイアルだったのだ。

 

 

「今更隠す事でもないから、其の答えはイエスだと言っておくが……エステル、ヨシュア、彼等は?知り合いみたいだが?」

 

「この二人は、ナイアルとドロシー。リベール通信社の記者とカメラマンの名物コンビよ。」

 

「僕達も、過去に何度かお世話になってるんだ――記者独自の情報網を使って、重要な情報を得てくれたり、重要な証拠を写真に収めてくれて居たり、ナイアルさんとドロシーさんには、足を向けて眠れないよ。」

 

「ほう……リベール通信の記者とカメラマンか……」

 

 

エステルとヨシュアから、ナイアルとドロシーが何者であるかを聞いたなのはは、少しばかり考えると、まるで『此の上なく面白い悪戯を思いついた悪ガキ』宛らの『悪い笑み』を浮かべてナイアル達を見やる。

 

 

「ナイアルとドロシーと言ったな?

 もしも時間あるのならば暫し私に付き合わないか?付き合ってくれたら、飛び切りの特ダネを提供出来る自信があるのだが……如何だ?」

 

「飛び切りの特ダネと聞いちゃ、黙ってられねぇが……黙ってられねぇから付き合わせて貰う!!」

 

「……ナイアルって、本気でリベール通信に命懸けてるわよね。」

 

「ぶっちゃけ、今のリベール通信ってナイアルさんの記事と、ドロシーさんの写真で成り立ってる部分が多いからね。」

 

 

でもって、『特ダネを提供出来る』と行ってみたら、見事に食いついて来たので、なのははクローゼと共に、ナイアルとドロシーを連れて此度ロレントを襲撃した王国軍の兵士達をレイストン要塞に輸送する為の輸送機までやって来た。

今回出撃した兵士は、ハーケン門からやって来ていたので、このままレイストン要塞まで運んでしまったら、国境の警備が手薄になるのだが、其処は現場のクラリッサが、応援として寄越した特務隊の隊員を国境警備に当たらせる事で対処した。

必要最低限の人員として残ったハーケン門の兵士は、『特命により、暫くは国境警備は情報部特務隊が務める事になった』と言って、可成り強引ではあるが納得させたのだ……時には力業も大事だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

レイストン要塞に到着した輸送機から降ろされた兵士は独房にて取り調べを受ける事になったのだが、ハーケン門の最高責任者であるモルガンは、独房ではなく、リシャールの司令官室へと送られていた。

その司令官室に居るのはレイストン要塞の最高責任者であるリシャールと副官のクラリッサ、なのはとクローゼ、リベール通信の記者であるナイアルと、カメラマンのドロシー、そしてモルガンだった。

 

 

「こうして直接会うのは初めてだね高町なのは君……改めて自己紹介をしよう。私はアラン・リシャール。レイストン要塞の全権を任されている者だ。」

 

「直接会うのは初めてだが……成程、カシウスがお前を評価していたのが良く分かったよ。矢張り、直接会わねば分からぬ事の方が多いと実感しているよ。」

 

「百聞は一見に如かずとはよく言ったモノさ――先ずは、礼を言わせてくれ。

 幽閉されていたクローディア殿下を開放してくれた事、誠に感謝する。私達も機を伺っていたのだが、中々機会が訪れなくてね……よもや、あの様な方法で殿下を連れ出すとは思って居なかったが。」

 

「私は細かい事を彼是考えるのは得意ではないのでな……だから私なりのやり方でやらせて貰っただけだ。何よりも、デュナンがクローゼの殺害を計画していると知っては、一刻も早くクローゼを城から連れ出さねばならないと思ったからな。

 恩人の命を、ムザムザ散らせる事は出来んよ。」

 

 

先ずはなのはとリシャールが改めて自己紹介をして、握手を交わした。

通信機越しでは言葉を交わした事はあるが、矢張り実際に直接会ってこそ分かる事もある訳で、直接会った事でなのはもリシャールもお互いに『信頼に足りる相手だ』と思えたようだ。

 

 

「さて……其れでは、始めるとするか。」

 

 

リシャールとの挨拶を済ませたなのはは、拘束されているモルガンにレイジングハートの切っ先を向けてそう宣言する……その姿は、紛れもない『魔王』だ。一般人がこのなのはを見たら、其れだけで失神してしまう位に、今のなのはが纏ってるオーラは凄まじいのだ。

其れを間近で喰らっても意識を保っているモルガンは、腐っても将軍と言った所だろう。

 

 

「改めて問うがモルガンよ、お前達の目的は私とクローゼだったのだろう?ならば、私とクローゼを殺す為の暗殺者を放てば事足りる筈なのに、何故移動要塞まで駆り出してロレントに無差別攻撃を仕掛けた?

 戦いとは無縁の市民を巻き込む事に抵抗はなかったのか?」

 

「全ては陛下の為!そしてこの国の未来の為よ!

 貴様等はリベールの未来の不安要素となる存在……そうであるのならば確実に排除せねばなるまい!その為には、多少の国民の犠牲は致し方あるまい――犠牲になった者達は、リベールの未来に貢献出来たと、寧ろ誇るべきであろう!」

 

「貴様……」

 

 

なのはの問いに対してのモルガンの答えは、唾棄すべきモノだった。

確かに国の安定の為には、多少の犠牲が必要になるのかも知れないが、だからと言って戦いとは無関係な市民を軍が虐殺して良い理由にはならない――今回モルガンが選択したのは『十を救う為に一を犠牲にする』、最悪の二択にもならない事だったのだからね。

 

そして、そんな答えを口にしたモルガンは、横っ面をレイジングハートで殴りつけられて指令室の壁にブッ飛ばされて、頭が壁にゴールイン!横っ面でなく、顎を打ち抜いていたら、天井にぶら下がっていただろうな……魔法なしで、大の男をブッ飛ばすとか、なのはの腕力は侮れない。

まぁ、魔族は子供であっても、人間の成人男性並みの力があるので、大人になれば女性であっても相当な力がある訳だがな……

 

 

「嘗ては、英雄と言われた将軍が此処まで堕落してしまうとは嘆かわしい事この上ないが……人は変われば変わってしまうと言う事か。もしも、カシウスさんが軍に残っていたら、こんな事にはならなかったのだろうか?」

 

「さて、其れは分からんが……少なくとも今のモルガンには、軍人の誇りと言うモノは微塵も存在しない――只只管に、デュナンに言われるがまま、何の疑問もなく任務を遂行する、デュナンにとって都合の良い駒に成り果てているのは間違いない。

 兵士の中にはモルガンの命令だから、不本意ながらも命令に従った者も居るかもしれないが、コイツは己の意思でロレントを攻撃して、十四名もの尊い命を奪ったのだからもはや極刑は免れんだろう――リシャール、この救いようのない愚者に判決を下してやってくれ。」

 

「なのは君……そうだね、モルガン将軍への沙汰は、私が直々に下すとしよう!

 モルガン将軍、ロレントの市民を十四人も殺害した罪は決して軽くなく、そして軍人として決してしてはならない事を貴方はしてしまった……故に、その罪は死罰を持って償う以外に方法はない!!」

 

 

モルガンをブッ飛ばしたなのはは、最終的な判断をリシャールに委ねたが、そのリシャールが下した判決は『死刑』だった……ロレントの市民を十四人も殺した張本人なのだから、この判断は当然と言えるだろう。

殺人罪は、三人以上殺して居たら死刑が確定と言われている訳だから、十四人も殺したら、其れは死刑以外の判決はなかろう――死刑が存在せず、量刑のみの国だったら『懲役十四万年と終身刑三回』とか言う訳分からん判決が下されそうだけどね。

 

 

取り敢えずデュナンには死刑が宣告されたが、兵士達には『命令には逆らう事が出来なかった』と言う事が考慮され、その多くが二年以下の自宅謹慎の処分で済んだのだった。此れは、モルガン率いるハーケン門が縦割りだったからこその事だろう。

縦割りの社会では、上の言う事は絶対で、下の人間は其れに意見する事すら許されないからね。

 

 

「さて、ネタとしては如何かなナイアル?」

 

「コイツは特ダネなんてもんじゃねぇ!早速デスクに戻って記事にするぜ……こりゃ、間違いなくリベールにとっての起爆剤になるんじゃねぇか?……アリシア女王が急逝してから、リベールは暗黒時代にあったが、其れも終わりが見えて来たかも知れねぇ!」

 

 

此れまでの事をメモ帳に書き写したナイアルは、写真を撮っていたドロシーと共にレイストン要塞を後にして、グランセルのリベール通信社に戻って行った……王国軍がロレントを襲撃してロレント側に多数の死者が出たとなれば、其れは国民の反感を煽り、やがてその思いは軍を統括する立場である現国王のデュナンに向かう事になるからね。そうなれば、自然と革命の炎は上がるだろう。

 

だが、其れとは別に、死刑を宣告されたモルガンは、レイストン要塞の演習場に連れ出され、即時刑が執行されようとしていた。

 

 

「最後に何か言い残す事はあるかモルガンよ?」

 

「……貴様等では、陛下に勝つ事は出来ん。陛下は、其れだけの力を持っておられるのだからな――!!」

 

「本気でそう思っているのだとしたら、貴様の目は濁っているどころの話ではないな……私とデュナン、本当に強かったのは何方か、精々あの世で見届けるが良い。」

 

 

その状況にあっても、デュナンの勝利を信じているモルガンに対し、なのははリシャールから刀を借りると、見様見真似の居合いを放ち……そして納刀すると同時にモルガンの首は胴を離れて地面に転がり、残された胴体部分は切断箇所から噴水の如く血が噴き出している。

そして、なのはは其の血に濡れる事を厭わずにモルガンの首を手に取り――

 

 

「これが私の、私達からの宣戦布告だデュナン……精々、戦いの準備を怠らぬ事だな!」

 

 

其れを掲げて、デュナンへの宣戦布告を口にする。

モルガンの生首を手にし、全身を血で濡らしたなのはの姿は、背徳の絵師が血と腐肉で描き切った、ある種の狂気的な美しさを秘めていた――此の場にドロシーが居たら、間違いなく激写していただろう。

尤も、余りにも過激なのでリベール通信の写真には使えないだろうが。

 

 

 

 

そして、其れから数時間後、グランセル城のデュナンの元には、『高町なのは』と『クローディア・フォン・アウスレーゼ』の連名でモルガンの首が届けられたのだった。

『三日後に、グランセルに攻撃を行う。精々、戦力を整えておくんだな』との、なのは直筆のメッセージカードと共に。

 

 

「ぐぬぬ……全ての兵をグランセルに集めよ!そして、アレも何時でも使えるようにしておけ!……余は、こんな所で終わりはせぬ。リベールだけでなく世界の王となるべきが余なのだ。

 その邪魔をすると言うのならば、姪っ子と言えど容赦はせん……今度こそ、確実にその命を貰うぞクローディア!」

 

 

其れを見たデュナンもまた、合戦の準備をしているだけでなく、何やら切り札があるみたいだが……果たして何があるのか?

 

 

 

そして、その三日の間にリベール通信が『特別号』を発行して、リベールの国民の多くが王国軍がロレントを攻撃した事実を知り、其れがデュナンの指示だったと言う事も明らかなって、一気に『反デュナン』の気運が高まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter17『It's the beginning of the revolution』

いよいよ戦の時だな……Byなのは     叔父様、覚悟願います!Byクローゼ     精々楽しませてくれよ?By京


・リベール王国ルーアン市

 

 

ロレントがモルガン率いるハーケン門の部隊に襲撃された翌日、カシウスはルーアンの街の裏通りにある便利屋――ダンテが営む『Devil My Cry』にやって来ていた。

手土産にアンチョビのピザとジンとトニックウォーターを持って来てる辺り、カシウスはダンテの事を分かっている様だ。

 

 

「邪魔するぞダンテ。」

 

「カシウス……アンタが此処に来るとは珍しいな?俺に何か頼み事か?それとも、デカい仕事でも入ったか?」

 

「まぁ、その両方と言えるかもしれん。」

 

 

『取り敢えず土産だ』と言って、カシウスはピザとジンとトニックウォーターをダンテの机に置くと、自分もソファーに腰を下ろしてポケットから、ウィスキーのポケット瓶を取り出して一口。

タバコで一服しても良いのだが、ダンテはタバコが嫌いなので遠慮したのだろう。

 

 

「両方ってのは如何言う事だ?」

 

「ロレントが王国軍に襲撃されたのは、リベール通信の号外でお前さんも知ってるだろう?

 そして、何故そんな事が起きたのかと言うと、ロレントにクローディア殿下と、殿下をグランセル城から連れ出した奴が居たからだ……デュナン公は、其の二人を恐れて、亡き者にする為に、モルガンにロレントを攻撃させた訳だ。

 だが、其れは失敗し、此の号外で王国軍がロレントを攻撃したと言う事が国民に知れ渡って、デュナン公を倒せと言う気質が高まるのは必至だし、俺もロレントをアリシア女王の頃に戻したいと思ってるんだ――その為に、お前さんの力を貸して欲しいんだがどうだ?勿論、正式な仕事としての依頼だ。相応の報酬は払うぞ?」

 

「カシウス、アンタも知ってるだろ?俺は、人間同士の争いなんぞには興味はねぇ。てか、デュナン程度が相手なら、アンタが出張れば俺の出る幕は無いだろ?」

 

 

カシウスが、『デュナンに戦いを挑むから力を貸せ』と言うも、ダンテは難色を示す……『Devil My Cry』は便利屋だが、クライアントの依頼を受けるか否かは、完全にダンテがその依頼を気に入るか如何かなので、本当の意味での便利屋とは言い難いのだ。

特にダンテは、人間同士の争いと言うモノは徹底してスルーする傾向にあるからな。

 

 

「お前さんならそう言うと思ったが、デュナン公を調べている内に少しばかり妙な事が分かってな……如何にも最近、デュナン公はお前さんが持ってるような悪魔の武器を集めているみたいなんだ。」

 

 

だが、このカシウスの一言にダンテの眉が動く――『悪魔』と聞いては、黙って居られないのだろう。

嘗ては、母親の仇を討つ為に悪魔を狩っていたダンテだが、目的を果たした後は、最早趣味で悪魔狩りをしているようなモノだが、逆にだからこそカシウスの言った事を捨て置く事は出来なかったのかも知れない。

 

 

「何だそりゃ?悪魔の武器なんざ、下手に手を出せば命を落としかねないんだが……そんなモンを集めて、博物館でも開く心算か?」

 

「其れだけじゃない。人工的に悪魔を作ってるって言う話まである。」

 

「なら、一緒に動物園も開園だな。」

 

「あんまり集客は見込めそうにないが……その本当の目的は、そう言ったモノを使ってリベールを支配しようとしているとしたら、如何する?」

 

「……少なくとも、暇潰しにはなりそうだ。」

 

 

アンチョビのピザを齧りながら、ダンテは不敵な笑みを浮かべてそう答え、カシウスも『お前さんならそう言うと思った』と言わんばかりの笑みを浮かべる――取り敢えず極めて強力な仲間が出来たのは間違いないだろう。

そしてダンテは、愛用のリベリオンを背負って、カシウスと共にレイストン要塞へと向かって行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter17

『It's the beginning of the revolution』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・ツァイス地方:レイストン要塞

 

 

リベール王国最大の軍事要塞であるレイストン要塞には、なのは率いるリベリオン、リシャール率いる情報部、ユリア率いる元王国親衛隊、志緒率いるBLAZEだけでなく、エステルとヨシュアを筆頭にした遊撃士、京や庵と言った武闘家、更にはリベール国外からもエステルとヨシュアが嘗て一緒に仕事をした仲間、京の格闘仲間、ダンテの仕事仲間などに加え、其れ以外にも多くの人物が集まっていた。

 

 

「よもや此れほどの人数が集まるとは……リベール通信社が出した号外は、思った以上の起爆剤になったみたいだが、此れだけデュナンに不満を持つ者が居ると言うのに、何故此れまで国民が暴動を起こさなかったのか不思議だ。」

 

「叔父様は、一部の富裕層を優遇する政策ばかりを行っていたみたいですが、ですがだからと言って国民に対して圧政と言う程の事まではしていなかったらしく、叔父様に不満はあっても、生活が困窮している訳ではなかったので、此れまでは何とか爆発しないで済んでいたみたいです。」

 

「ならば何故、あの号外の後で其れが爆発したのだろうな?」

 

「それは、今回の一件で、叔父様は私となのはさんを殺す為だけにロレントを攻撃し、結果として十四名もの死者を出しました……しかも、其れを実行したのは国民を守る立場である筈の王国軍――己の脅威となる者を排除する為ならば国民の命を簡単に犠牲にすると言う事が明らかになりましたから、そんな暴君を打ち倒そうと考えるのは当然ではないでしょうか?」

 

「そうだな、マッタク持ってその通りだと思うよクローゼ。

 だからこそ、私達は確実にデュナンを打ち倒してリベールをあるべき姿に戻さねばならない……そうでなければ、奴によって奪われた十四人の命に報いる事は出来ないからな。」

 

「えぇ、そうですね……十四人もの尊い命を奪った罪に対する罰、叔父様には其れを受けさせねばならないでしょうし。」

 

 

こんな事を話しながら、集まった人物を見渡して、なのはとクローゼは戦力的には充分デュナンと渡り合えるどころか、確実に上回る事が出来ると確信していた――ロレントでの攻防で、デュナンの最大戦力であろうハーケン門の一団はほぼ壊滅し、情報部と元親衛隊を除いた王国軍の戦力は数だけは多くとも、質では大きく劣っていると言わざるを得ないからだ。

本来、王国軍の兵士は、士官学校で厳しい訓練を全てクリアした者だけがなる事が出来る『選りすぐりの努力のエリート』の集団なのだが、デュナンが国王に就任してからは、『年間所得が一千万ミラを超え、納税額が百万ミラを超える家の人間は、士官学校を卒業せずとも王国軍の尉官になり、国王直属の部隊に配属される』と言うトンデモナイ事をしてくれたので、デュナンを守る兵は金の力でその地位につき、碌に戦った経験もない烏合の衆なのだ。

カシウスがダンテに言っていたように、その烏合の衆も悪魔の武器で武装すれば強化されるし、人工的に生み出した悪魔も居るのであれば、其れなりの戦力にはなるのかもしれないが、なのは達の戦力とは雲泥の差が有るのは否めない。

 

なのは率いるリベリオンの戦闘要員は、なのはが己の目的を果たす為に集めた選りすぐりの強者であり、リシャール率いる情報部と、ユリア率いる元親衛隊のメンバーは、士官学校の厳しい訓練を潜り抜け、そして王国軍の軍人となってからは実際に何度も現場に足を運んで来た、経験豊富な叩き上げだ。『選りすぐりの努力のエリート』なのに、現場の叩き上げと言うのは些か矛盾するかもしれないが、要するにデュナンの息が掛かった兵士達とは一線を画す存在だと言う事だ。

 

其れだけでも充分なまでの差が有るのだが、エステルとヨシュアを筆頭とした遊撃士集団も、此れまで幾多の修羅場を駆け抜けてきた猛者であるし、志緒がリーダーを務めるBLAZEも、ロレントの警備や、ロレント周辺の魔獣退治で経験は豊富であり、京や庵の様な武道家は戦う事には慣れているのでマッタク持って問題なしなのである。

 

……特に京と庵は、日常的に殺し合いみたいな戦いをしているからね――京は『俺は八神庵としてのお前と純粋に戦いたい』と思ってるのに対し、庵は『草薙も八神も関係ない。貴様が気に入らん、だから殺す』と思ってるので、其処に滅茶苦茶温度差がある訳だが、京も庵もお互いに戦う事其の物は楽しんでいるみたいなので、あまりとやかく言うべきではないのかも知れないな。

 

 

「いやぁ、其れにしても草薙さん、凄い人の数ですねぇ?この人達で、今の王様に戦いを挑むんすよね?」

 

「まぁ、そうなるだろうが……まさかお前が来るとは思ってなかったぜ真吾?お前の事だから、軍人と戦うって聞いたらビビッて萎縮しちまうんじゃねぇかと思ってたんだけどな?」

 

「見損なわないで下さい!

 確かに俺はマダマダ未熟かもしれないですけど、俺は草薙さんの弟子なんですよ?草薙さんがやるって言うのに、弟子の俺がやらないでどうするんですか!俺だってやる時にはやるんすよ!

 其れに、草薙さんの無式を俺なりにアレンジした技も開発しましたし!」

 

「……草薙流の最終決戦奥義を勝手にアレンジするなよ。」

 

 

京と庵の関係はさて置き、レイストン要塞の一角では、京の弟子を自称する『矢吹真吾』が、京の前でやる気を見せていた。

二年前の武術大会で優勝した京を見た事で、京に憧れて半ば押しかける形で京に弟子入りした真吾は、此れまで戦いとは無縁の人生を送って来た事で、戦いに関しては若干ビビりな部分があるのだが、いざ覚悟を決めたその時は中々の実力を発揮してくれるのだ。

京から教わった技も、炎こそないが型は完璧にマスターしており、『草薙京直伝草薙流古武術』を名乗るまでになっている――其れでも、妹弟子のノーヴェには、スパーリングでは微妙に負け越しているのだけれどね。

 

 

「おい、遊星。」

 

「庵か、如何した?」

 

「家のテレビの映りが悪いので、轟斧陰・死神を叩き込んだら完全に映らなくなったので今度直しに来い。そして、はやてに昼飯を用意させておくから食って行け。妹贔屓をする心算はないが、はやての料理は可成り旨い。」

 

「修理の依頼は有り難いが、あまり壊すなよ?機械にだって、魂はあるんだからな。」

 

「その魂も、はやての恋路に貢献出来るのであれば、さぞ光栄だろう……百鬼夜行にもなる事が出来ないモノ等、精々この位でも役に立たねば存在した意味が無いと言うモノだ。」

 

 

その一方では、庵が遊星にテレビの修理を依頼していたのだが、映りの悪いテレビに渾身の踵落としをブチかませば、其れはトドメになるわな――尤も、庵がテレビにトドメを指したのは、全部はやての為なんだがな。

サラッと、『はやての飯を食って行け』と言ってる辺り、只の危険人物に見えて、実は『妹思いの良いお兄ちゃん』なのかもしれないな庵は。

遊星の妹の一人であるレーシャは、めっちゃ『お兄ちゃん大好きっ子』なので、庵が言った事を聞いたらキレて噛みつきそうだが、今回は格闘技の先輩であるノーヴェと話をしていた事で庵と遊星の会話は聞こえては居なかったらしい……聞こえていたら、レイストン要塞で小バトルが勃発していたかも知れない。

 

 

「そう言えばなのはさん、如何して叔父様と戦うのを三日後にしたのですか?ロレントの一件の後でも、直ぐに攻め込む事は可能だったと思うのですが……?」

 

「確かにそうかも知れないが、其れはデュナン側の戦力が整っていない所に攻撃を仕掛ける事になる――十全の力を発揮出来ない相手を攻撃すると言うのは、決して褒められたモノではないと私は思って居てね。

 十全の相手を叩きのめしてこそ、真の勝利だ。だから、私はデュナンに三日間の猶予を与えたんだ……奴が、十全の戦力を揃える事が出来るようにな。」

 

「真の勝利を収めるためにですか……成程、納得しました。」

 

 

庵と遊星が彼是やっている最中、クローゼはなのはに、『何故デュナンに三日間の猶予を与えたのか』と聞いて来たが、なのはの答えを聞いて妙に納得してしまっていた。

『十全に力を発揮出来る相手を叩きのめしてこそ意味がある』と言うのは正にその通りなのだ――己が最強と信じた者達を真っ向から叩き潰せば、其れだけで相手の心をぶち折るには充分な事であり、仮にデュナンが何とか生き延びたとしても再起する事は出来なくなる訳だ。普通ならば、自分が信じた最強の戦力を真っ向から叩き潰してしまった相手に恐怖を覚え、もう一度戦おうと言う気持ちは中々起きないモノだから。

特にデュナンの様に、自らは前線に出ないで後方から指示だけを出しているタイプの人間は尚更だろう。

 

 

「なのはさん、其れではソロソロ……」

 

「そうだな、始めるか。」

 

 

此処でなのはとクローゼが一団の前に歩み出ると、リシャールが情報部の隊員を、ユリアが元親衛隊の隊員を整列させ、其れを見た軍人でない者達もなのはとクローゼに注目する。

 

 

「反デュナンの思いを持った同志諸君、本日は良くこうしてこのレイストン要塞に集まってくれた。

 私の名は、高町なのは。私設組織『リベリオン・アナガスト・アンリゾナブル』のリーダーを務めている者であり、此度のデュナンへの反抗作戦に於いてもリーダーを務めさせて貰う事になったので、宜しく頼む。

 そして私の隣に居るのは、クローゼ・リンツ。彼女には、我等の旗印となって貰おうと思って居る。」

 

「ご紹介に与りました、クローゼ・リンツです――が、此の名前は世を忍ぶための名です。

 私の本当の名は、クローディア・フォン・アウスレーゼ。前リベール女王の、アリシア・フォン・アウスレーゼの孫であり、前女王が急逝した後に、現在のデュナン王によって女王宮に幽閉されていた者です。」

 

 

其処でなのはが挨拶をした後にクローゼの事を紹介したのだが、此処でクローゼが特大の爆弾を投下し、その場にいた多くの者達を驚かせた――先日のロレントでの戦いに参加していた者達はクローゼの正体も聞かされていたのだが、そうでない者達にとっては、正に寝耳に水と言ったレベルの衝撃的な情報だからね。

まぁ、普通に考えれば、何者かに攫われた筈の自国の皇女殿下がこうして目の前に居るとは中々信じられるものではないから仕方ないかも知れないのだから――ツァイスのギルドの受付であるキリカは其れほど驚いて居なかったが、彼女は独自の情報網を持っているので、クローゼの事は知って居たのだろうね。

 

 

「アンタがクローディア皇女殿下だって?……確かに、アリシア女王の面影があるな?

 幽閉された上に、何処かの誰かに攫われたって聞いてたが、そんな皇女殿下がこうして目の前に居て、そんでもって一緒に戦える!こんな幸運滅多にないぜ?」

 

 

驚いて絶句している者達の静寂を破ったのは、ダンテだった。

大袈裟で、ともすればワザとらしいとも言える位のオーバーリアクションで振る舞った後は、空に向かって愛用のハンドガンを一発ぶっ放して場を盛り上げようとする。クレイジーなパーティは、ダンテの大好物なので、此れ位は普通にやってしまうのだ。

 

 

「嗚呼、確かに貴方の言う通りだな名も知らぬダンディーな小父様よ。

 かの皇女殿下が我等の旗印となって、リベールを私物化している現愚王に戦いを挑むと言うのは、極めて素晴らしい革命劇であると言わざるを得ない……何よりも、高町なのはは闇、クローディア殿下は光であり、夫々が闇属性と光属性の龍を従えていると来た。

 闇と光は相反する属性であるが、だからこそ力を合わせたその時は、何者をも寄せ付けないカオスの力を呼び覚まし、全てを呑み込んでしまう程のモノが生まれると言うからね……デュナン王の運命は、此の戦いの火ぶたが切って落とされたその時が終わりの時さ。」

 

 

そして、其れに乗っかる形でロランがかましてくれた。

女優志望で日々己の演技を磨いて来たロランは、ダンテ以上に芝居掛かった所作とセリフで注目を集め、挙げ句の果てには『気が合うなお嬢ちゃん、名前は何て言うんだい?』と聞いて来たダンテに対し、『女性に名を聞く時は、まず自分から名乗るべきではないかなミスター?』と返し、名を交換した後はダンテが『気が合いそうだな嬢ちゃん?お近付きの印に、一曲如何だい?』と言うと、ロランも『余興としては、ありかもしれないね』と若干悪乗りして、ちょっとしたダンスを披露し、ダンテがロランの背を抱える形でフィニッシュ!その場のノリと勢いとは、かくも恐ろしい物がある。序に『何処から音楽が流れて来たのか?』とかは聞いてはいけない。

ダンテは、ダンスの最中に『無刃剣ルシフェル』を装備していたらしく、口には薔薇が咥えられており、フィニッシュ後にはその薔薇を上空に投げ、其れをハンドガンで撃ち抜く……

 

 

「電刃……波動拳!」

 

 

前に、一夏が電刃波動拳で粉砕した。

ロランが乗っかったのは良いとして、ダンテが当たり前のようにロランとダンスを披露した事が少しばかり気に入らなかったのだろう……まぁ、テメェの彼女が見知らぬオッサンと一曲踊ったってのは、黙ってられるもんじゃないからな。

ロランがダンテの誘いに乗っかったのも、『ロランだからなぁ……』と思いつつも、少しばかり面白くない部分が有ったのだろうが。

 

 

「おぉっと、ロラン嬢ちゃんはお前さんの彼女だったのか坊主?そりゃ悪い事をしちまったなぁ……まぁ、今回の事はちょっとしたパフォーマンスって事で勘弁してくれ。」

 

「パフォーマンスじゃなかったら、アンタに直接電刃波動拳ブチかましてるぜオッサン。

 其れと、ロランだけじゃなくて、刀奈と簪とヴィシュヌとグリフィンも俺の彼女だから、手を出したら誰であろうとタダじゃ置かねぇ……最悪の場合、殺意の波動に身を委ねても、俺はそいつをぶっ殺す!」

 

「あら、嬉しい事を言ってくれるわね一夏ったら♪」

 

「一夏は、サラッとそう言う事を言うのが反則過ぎる。」

 

「まぁ、そんな所も好きになった訳ですが。」

 

「一夏って、本当にスペック高いよね~~♪」

 

「ふふ、私も少しばかり悪乗りしてしまって悪かったね?君のそんな情熱的な所も大好きだよ一夏。」

 

 

そして、一夏は嫁ズへの愛の深さをぶっちゃけて、嫁ズは其れを聞いて全員が頬を染めて一夏に惚れ直しており、一夏達の師匠兼育ての親である稼津斗は、『殺意の波動はそう簡単に制御出来る物ではないぞ一夏』と言っていた。

ダンテの一言から、場は正にカオスディメンジョンな状況になってしまったのだが――

 

 

「ククククク……あはははは!!

 まさか、こうなるとは思わなかったぞ?まさかの寸劇の果てには、恋人達の惚気が待って居たとはな……普通ならば、『惚気は他所でやれ馬鹿者共』と言ってやる所だが、こうも堂々とやられると文句を言う気にもならん。いっそ清々しさすら感じてしまうよ。」

 

「其れじゃ、アタシも洸君とイチャ付いてもいいですか~?」

 

「璃音…好きにしろ。尤も、洸が公然とイチャ付けるかどうかの方が問題かもしれんがな……」

 

 

それに対してなのはは高笑いを上げると、此れまでの一連の流れを許容した上で、更には悪乗りして来た璃音にも対処し、『リーダーとしての器』と言うモノを、レイストン要塞に集まった者達に見せ付けていた。

 

 

「高町なのは、彼女にならば俺達の未来を預ける事も出来ると確信した。

 俺達の未来を、彼女に預けてみようじゃないか――彼女ならば、きっとリベールに明るい未来の光をもたらしてくれる筈だからな。」

 

「私も兄さんの言う事に賛成だわ。

 デュナンが、クーデターを起こして強引に王になってから、リベールは暗黒の時代を送る事になったけど、その暗黒時代ももう終わりにする時が来た!私達の手で、リベールを取り戻すのよ!」

 

「やろう、私達の手で!」

 

 

そして、此処で遊星、遊里、レーシャの『不動三兄妹』が声を上げて、カードに封印されている精霊を開放する。

遊星と遊里は技術者、レーシャは幼い武道家だが、『精霊召喚士』としての能力も持っており、遊星と遊里の場合は技術者としての裏方も、精霊召喚士として前線に出て戦う事も出来るのだ。

そんな不動三兄妹がカードから解放した精霊は、遊星が、絶対的な守護の力を有した『スターダスト・ドラゴン』、遊里が聖なる力を宿した神姫『プリンセス・ヴァルキリア』、レーシャが果てなき銀河を飛翔する『銀河眼の光子竜』と、何れも高位の精霊だった。

特にレーシャの『銀河眼の光子竜』は、クローゼのアシェルに匹敵する程の力を有しており、その圧倒的な力でレイストン要塞に集まった人々を震撼させていた。

 

 

「……へへ、コイツはトンデモナイ奴が出て来たもんだが、此れだけのものを見せられたら俺の炎だって黙ってる事は出来ねぇ――見せてやるぜ、草薙流の真髄って奴をな!」

 

「そうだな、見せてやろうじゃないか京、デュナンに私達の力と言うモノをな――そして後悔させてやろうじゃないか、クーデターを起こしてクローディア殿下を幽閉して強引に王になった事をな。」

 

「そうね!思いっきり太極輪を叩き込んでやるわ!」

 

「それで済ませてあげるだなんて、優しいわねエステルは。

 私だったら、魂に直接致命傷を与えて植物状態にしてやっているところよ……死神は、死者の魂を黄泉へ送るのが本分だけれど、外道の魂に永遠の苦しみを与えるのも仕事のウチですもの♪」

 

「……其れは笑顔で言う事ではないと思うよレン。」

 

 

其れを受けた京は炎を滾らせ、アインスは其れに同意し、エステルは何やら物騒な事を言い、レンは其れ以上に物騒な事を言って、ヨシュアは其れに突っ込んでいた。

だがしかし、此処までの一連の流れで、レイストン要塞に集まった者達の心は一つになり、此処に反デュナンを掲げる反抗軍として『リベリオン・オブ・トゥルーリベール』が結成され、デュナンからリベールを取り戻す為の戦いの準備を進めて行くのだった。

 

 

「デュナンの次は貴様の番だ京……其れを忘れるな。」

 

「はいはい、分かってるって。だが、先ずはデュナンだ。後れを取るなよ八神?」

 

「ふん、誰にモノを言っている?ふざけた事を言うと殺すぞ?」

 

「そもそも、俺を殺す気満々のお前に言われても、実感がねぇな。」

 

 

一抹の不安要素は、京と庵の不仲だが、この二人は普段はいがみ合っていても、共通の敵がいる場合には共闘は辞さない程度の柔軟さがあるので、多分大丈夫だろう。庵が何らかの原因で暴走したらヤバいかも知れないけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

挨拶を終えたなのはとクローゼは、レイストン要塞の作戦会議室で、如何にしてデュナンに攻撃を仕掛けるかと言う事を話し合っていた――と言うのも、グランセル城は正面門以外の三面は、湖に囲まれており、正面から攻め入る事が出来る戦力が可成り制限されてしまうのだ。

攻め入る手段が限定されてしまうのは喜ばしい事ではないのだが……

 

 

「正面以外の三方は湖に囲まれているとは言え、この程度は私達にとっては障害にはなり得んよ……少なくとも、リベリオンの戦闘要員は、全員が空を飛ぶ術を習得しているからな。」

 

 

其れをなのはは一蹴する。

此度のデュナンへの反抗作戦に参加した者達の多くは空を飛ぶ術を身に付けているので、三方が水に囲まれている程度では、マッタク持って障害にすらならないのである。

 

 

「リシャール、正面からの攻撃、任せたぞ?」

 

「任されたよなのは君――全てはリベールの、そしてこの世界から差別と偏見をなくすために!」

 

 

 

そして、リシャールはなのはから直接の任務を受けて其れを是として、グランセル城への真正面からの攻撃の役割を担う事になった――可成り危険な任務ではあるのだが、リシャールは迷う事無く其れを受け入れた。それ程までにリシャールの愛国心は深いのだろうな。

そして、その愛国心は今は革命のリーダーであるなのはに向かっているが故に、なのは達が負ける事はないだろう。リシャールの愛国心を、その身に受けたなのはが率いる一団が負けるなどと言う事は、絶対にあり得ないと、そう言っても良い事だからね。

 

 

其れから、二日が経過し、遂に決戦の時がやって来たのだった――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter18『It's the beginning of the rebellion』

さて、始めるとしようか?Byなのは     派手に行きましょうか?Byクローゼ     へへ、燃えさせてくれよな?By京


決戦当日の朝、なのはは何時もより早く目を覚ましていた。――なのはは無意識だったのかも知れないが、今日と言う日を迎えた事で気分が昂っており、その為に何時もよりも早く目が覚めてしまったのかも知れない。

 

 

「いよいよ、私の目的を果たすための第一歩となる戦いの始まりか。」

 

 

目を覚ましたなのはは、一糸纏わぬ姿のままベッドから起きると、其のままの姿で窓から飛翔し、登り始めた朝日の陽を浴びながら防護服を構築する……まるで、太陽の力を自分の中に取り入れて行くかのように。

実は、太陽は登り始めてから数分間だけ、光と共に非常に高い魔力を放出している――正確には、其の数分間だけ太陽の魔力が此の世界に届くので、その光を浴びるだけでリンカーコアを大きく活性化させ、己の魔力を高める事が出来るのだ。

太陽の魔力を受けながら構築されたなのはの防護服の強度は、此れまでとは比べ物にならないレベルになっている事だろう。

『太陽の魔力』と聞くと、魔族とは相性が悪そうに思えるが、太陽の魔力は『超自然エネルギー』からなる『純魔力』なので、ナイトウォーカーと呼ばれるヴァンパイアなど一部の例外を除き、魔族であってもその恩恵を十分に得る事が出来るのである。

 

 

「いよいよですね、なのはさん。」

 

「あぁ、遂にこの時が来たよクローゼ。」

 

 

そんななのはに声を掛けて来たのはクローゼだ。

彼女もなのはと同様にいつもより早く目が覚めてしまったらしく、アシェルを通常のサイズに戻し、その背に乗って飛んで来たのだ――もっと言うならば、何時もよりも早く目が覚めてしまい、何気なく窓の外を見ていたら飛翔して行くなのはの姿が見えたので追いかけて来たと言う訳だ。

そんな彼女達が居るのはレイストン要塞の上空。決戦日前日、レイストン要塞の軍人以外の『リベリオン・オブ・トゥルーリベール』(以下『反抗軍』と表記)のメンバーもレイストン要塞に集まって、決戦前の宴を行い、其のままレイストン要塞で一夜を過ごしたのだ。

 

 

「デュナンを打ち倒してリベールを本来の姿に戻し、そして私の、私達の理想を現実にする為の始まりの場所とする、その日がやって来た……此の戦い、絶対に勝つぞクローゼ。」

 

「はい、勿論です!必ず勝って、私達の理想を実現させましょう!」

 

 

なのはとクローゼの瞳には、『絶対に勝つ』と言う強い意志が宿っており、其処に迷いは一切ない……魔王と熾天使の血を引く者と、リベール王族の正統なる王位継承者がこうして共に戦う日が来るなどと言う事は、彼女達の御先祖様もきっと想像すらしなかっただろう。

クローゼの言った事に、なのはは微笑んで頷くと、アシェルの背に降り立ってクローゼの手を取る。

 

 

「此の戦いに勝ち、リベールを取り戻したその時は、私が王になるか、お前が王になるかは分からないが……此の戦いが終わった後でも、お前にはずっと私の側に居て欲しいと思うのだが、如何かな?

 いや、この言い方は卑怯だな……クローゼ、此の戦いを前にして、私はお前を愛おしいと思っている事に気が付いた……此の戦いが終わったら、私のパートナーになってくれないだろうか?」

 

「なのはさん……奇遇ですね、私も同じ事を言おうと思ってました。

 以前に私に聞きましたよね?『私がお前の事を愛おしいと思っていると言ったら如何する?』と。……其の時が来たら、私は如何答えるべきだろうと考えていたのですが、私もなのはさんには友情以上の感情を、愛情を抱いてしまったみたいです。

 前にフェイトさんがなのはさんに赤面した時、少し面白くなかったのですが……なのはさんに笑顔を向けられるフェイトさんに嫉妬していたんですね。

 なのはさん、私も貴女を愛しています。私で良ければ、是非貴女のパートナーにして下さい。」

 

 

そして、己の気持ちをぶつけると、クローゼも其れに応え、二人は無事に結ばれる事になり、なのははクローゼの肩を抱くと口付けをし、クローゼも其れを静かに受け入れる……朝焼けが照らす中、なのはとクローゼは決戦前に、暫しの穏やかな時を過ごしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter18

『It's the beginning of the rebellion』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイストン要塞では、朝食を終えた反抗軍のメンバーが演習所に集まり、作戦の最終確認をしていた。

先ずは正面からリシャール率いる情報部が攻め込んでデュナン軍の注意を引き付け、その隙に港からユリア率いる元王室親衛隊のメンバーと、BLAZE、なのはとクローゼ以外のリベリオンのメンバー、遊撃士達や武道家達、その他リベールの勇士達で構成された主力部隊がグランセルに乗り込んでデュナン軍を挟撃すると同時に、グランセル城に攻め込み、なのはとクローゼはヴァリアスとアシェルを引き連れて空からグランセル城を攻めると言うのが本作戦の基本的な流れだ。

 

空からの戦力がなのはとクローゼ、そして夫々が従えるドラゴンだけと言うのは些か戦力が不足しているように思うかもしれないが、なのはの魔法攻撃とクローゼのアーツは人、魔族、神族の全ての種を全て合わせてランキングしてもトップ5に名を連ねるレベルで強力である上に、ヴァリアスは闇属性の、アシェルは光属性のドラゴンとしてはトップクラスの力を備えているので、この二人と二体でも充分な戦力となるのだ。

 

 

「此方の準備は出来た。ナイアル、王都の住民は如何なっている?」

 

『そっちの方は抜かりねぇ。

 王都の住民は、俺とドロシー以外の全員がエルベ離宮かツァイスに避難してるから、城の人間と兵隊以外は誰もいやしねぇ。だから、遠慮なくやってくれていいぜ……だが、出来るだけ建物は壊さねぇようにしてくれや。』

 

「其れは善処するとしか言えないのが辛い所だな。」

 

 

加えて、なのはは王都の住民が巻き込まれないように、ナイアルに頼んで、住民を王都から避難させていた――戦いとは無関係な一般市民を巻き込まないようにすると言う時点で、デュナンとは雲泥の差が有ると言えるだろう。

ナイアルとドロシーは王都に残っているようで、なのはがその事について問うと、『ペンの力であるべき事を民衆に伝えるのが俺達の仕事だ!俺は戦場記者として、ドロシーは戦場カメラマンとして、此の戦いの一部始終を記録する義務があるんだよ!』との答えが返って来た……リベール通信社の凸凹コンビとして有名なナイアルとドロシーだが、過去には最優秀ジャーナリスト賞を受賞した事もあり、そのジャーナリスト魂は本物であり、今回も戦いの一部始終を余す事無く記録し、リベールが新たに生まれ変わる瞬間も逃さずに記録すると言う覚悟を持って王都に残った訳だ。マッタク持って見上げたジャーナリスト魂だと言えるだろう。

 

其れを聞いたなのはは、『ならば、私がデュナンを討ち取った事は精々盛大に書いてくれ。捏造にならない程度であれば多少話を盛ってくれても構わん』と返していたので、此の戦いの全容はリベールの国民に派手に伝えられる事になるだろう。

 

 

「此れで王都の方は問題無いが……此れから出撃前の挨拶をしようと思ったのだが……大丈夫かそいつは?と言うか、何があった?」

 

「キョォォォォォォォォ!!」

 

「おい、何で暴走してんだよ八神!」

 

「の朝飯ぃぃぃぃ……旨かったぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「紛らわしい事してんじゃねぇ、このタコ!!受けろ、此のブロウ!」

 

「グハァ!此のままでは終わらんぞ!!」

 

「なぁ姉やん、何で兄やんは時々意味不明なボケかますんやろか?」

 

「知るかタヌキ。我に聞くな、本人に聞け。どうせ真面な答えは返ってこないだろうがな」

 

 

なのはが出撃前の挨拶をしようとした所で、庵が暴走していると思いきや、レイストン要塞の食堂で食べた朝食の美味しさに感激していると言う極めて謎な行動をしており、其れに京が突っ込みを入れて、八神姉妹は若干呆れていた。

出撃前に何をしてるんだと言う所だが、こんな遣り取りが出来るのも心に余裕我ればこそであり、同時に反抗軍のメンバーは適度な緊張感を持ちつつも心の余裕はあると言う事なのだろう。

そして、心の余裕があると言う事は己の力を最大限に発揮して最高のパフォーマンスが出来ると言う事でもあるので、出撃前にこんなコントの様な遣り取りが行われても、其れは咎める事ではないのである――まぁ、突っ込みが突っ込みの範囲を超えた威力であり、京の百八拾弐式を喰らった庵は、即座にアインスが回復する事にはなったのだが……回復した庵が京とバトらないように八神姉妹が確りと拘束はしていた。

 

 

「では、改めて。

 諸君!遂に来るべき時が来た!本日、我々はデュナン率いる現王国軍との戦いを行い、そしてデュナンを打ち倒して奴の手からリベールを解放して、リベールをあるべき姿へと戻す!

 此処に集った者達は、何れも劣らぬリベールの精鋭故にデュナンが集めた烏合の衆に負けるとは思わないが、デュナンも何かしらの切り札を用意している筈……なので、決して油断せずに戦いに臨んでくれ。

 そして、誰も死ぬな!全員生きて、リベールをデュナンの手から奪還するんだ!」

 

「リベールを取り戻す為に、皆さんの力を貸して下さい。エイドスの加護が、皆にあらん事を……!」

 

「「「「「「「「「「おぉーーーーーーーー!!」」」」」」」」」」(鍵カッコ省略)

 

 

改めてなのはが出撃前の挨拶をして、クローゼが其れに続いて一言言った後にリベールではお馴染みとなっているセリフを口にすると、反抗軍のメンバーからは歓声が上がり、同時に士気も爆上がりする――なのはとクローゼ、この二人のカリスマ性と言うのは、民衆を引き付ける事が出来る真のカリスマ性だと言って間違いないだろう。此れが、『上に立つ者の器』と言う奴なのだろうな

そして、士気が上がった反抗軍は、王都に向けて進軍を開始するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

反抗軍がレイストン要塞を出発してから一時間後には、リシャール率いる情報部が王都の入り口に到着し、そして派手に王都に攻め込んでいた――ライフルを装備した特務兵がライフルを乱射し、鉤爪を装備した特務兵がデュナン軍に切り込んで行くと言う、見事な前衛・後衛のフォーメーションでデュナン軍を圧倒して行く。

デュナン軍の兵士の多くは、金で地位を得た者達で、最低限の戦闘訓練しか行って居なかった烏合の衆でしかないので、精鋭揃いの情報部の敵ではなく、次々と意識を刈り取られて戦闘不能になって行く。

 

 

「大佐、御無事ですか?」

 

「クラリッサ君……あぁ、大丈夫だ。しかし、今の相手の動きは他の兵士とは随分と異なるようだったが……?」

 

「矢張り大佐も気付きましたか……私も、コイツは少しばかり他の兵とは違うと思いましたので、自分の手で倒して正体を確かめようかと。」

 

 

そんな中で、デュナン軍の兵士の一人が、大凡人間とは思えない動きでリシャールに襲い掛かり、其れをクラリッサが撃退したのだが、クラリッサが撃退した相手の兜を蹴り外すと、中から現れたのは大凡人間とは掛け離れた外見の頭部だった。

其れは、言うなれば人間と爬虫類を融合したような見た目であり、普通の兵士でない事だけは誰の目にも明らかだった。

 

 

「此れは……まさか、『デュナン公が人工的に悪魔を作っている』と言う、あの噂は本当だったと言うのか?」

 

「これを見る限り、噂は本当だったと言う他はないと思います。」

 

 

同時に其れは、カシウスがダンテに『デュナンは人工的に悪魔を作っている可能性がある』と言った事が、噂ではなく真実であったと言う事を示していた――『爬虫類人間』と言うべき存在は、自然に現れる事は先ずない存在だからね。

そして、此の爬虫類人間は恐らく人間の兵隊に悪魔の因子を融合させて作り出した存在だろう……そんな悍ましいモノを作らせるとは、人としての倫理観と言うモノをデュナンは失ってしまっているのかも知れない。

だが、そうであると言うのならば、デュナン軍のメンバーを『烏合の衆』と言うのは些か危険であると言えるだろう……悪魔の力を得たのであれば、其れは決して侮る事の出来ない戦力であるのだから。

 

 

「人外の存在が相手とは……如何やら、この目の封印を解く時が来たみたいですね……」

 

「……クラリッサ君、流石に今はそう言うのをやっている場合では……」

 

「いえ、何時も言っていた事は只の冗談ではないのですよ大佐。見せて差し上げましょう、封印されし私の左目、『ヴォーダン・オージュ』を!」

 

 

此処でクラリッサが、何時もの中二病を発症したかと思ったら、眼帯を外して左目を顕わにする――そして、眼帯の下から現れたのは、右目とは異なる金色の瞳を持った目だった。

左右で目の色が異なるオッドアイと言うモノは、其れなりに存在して居るモノではあるが、クラリッサの様に黒と金と言う極端なモノは非常に珍しいと言えるだろう。

 

 

「この目の力、其れは私の視野に入る範囲での前方10mに相手の動きを一切停止させる『停止結界』を展開する事――無論私に掛かる負荷も決して小さいモノではないのですが、戦闘中に相手の動きを止める事が出来ると言うのは大きなメリットでしょう?」

 

「確かに。戦闘中に相手の動きが確実に5秒止まれば、その相手を殺す事が出来ると言うからね……だが、負担が大きいのならば乱用は控えたまえ。

 敵は未だ大量に居るのだからね。」

 

「大丈夫です。消耗した時の為に『ファイト一発!』でお馴染みのアレを持って来ていますので。」

 

「……まぁ、無理だけはしないでくれ。」

 

 

その眼の能力は中々にトンデモないモノであり、クラリッサによって動きを封じられた王国軍の兵士……もとい人造悪魔達は情報部の精鋭達によって次々と狩られ、その身をレッドオーブへと変えて行く。

普通の人間の兵士達は、情報部のあまりの強さに恐れ戦き、武器を捨てて逃亡する者が続出……金で地位を買ったに等しい軍人では、戦場で戦う覚悟ってモノは備わって無いと言う事なのだろう。デュナンが行った軍の入隊条件の改革は、王国軍を弱体化させるだけのモノだった訳である。

 

 

「これでも、喰らえ!」

 

 

クラリッサ自身も、停止結界を発動しながら大口径の導力ランチャーで敵を蹴散らして行く……此の導力ランチャーだけでも相当に強力なのだが、クラリッサはこの他にも、腰のホルダーにデザートイーグルを二丁、肩にはショットガンをぶら下げ、軍靴にはナイフを仕込み、耳のイヤリングは小型爆弾と、『歩く武器庫』と化しており、相当な戦闘力を有していると言えるだろう。若干過重装備であると言えなくもないが。

何にしても、情報部の正面攻撃は大成功し、デュナンに対して先ずは先手を取る形になったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

情報部が正面からの攻撃に成功したころ、港からの主力部隊を乗せた高速巡洋艦は港を目視出来る場所まで来ていた――奇襲を気付かれないように、ヴァレリア湖畔から出艇してグランセルの港までやって来たのだ。

だが、港にはなのはの予想を裏切って結構な数のデュナン軍の兵士達が集まっていた。

情報部の正面攻撃は成功したが、其方に戦力を回しても、港の警備を行う兵は確保出来ていると言う事だったのだろう。……人工的に作った悪魔が居ると言うのであれば、確かに数の面では何とかなるだろうからな。

 

 

「リシャールさん達がもっと引き付けてくれると思ってたんだけど、結構な数が居るな?……こりゃ、結構派手なバトルになるかも知れないけど、やるからには派手にやってやろうじゃなないか!」

 

「そうよね?派手に行きましょ……派手なの、好きでしょ一夏?」

 

「まぁな。」

 

「派手なのが好きなのか?ソイツは何とも良い事だと思うぜ一夏。」

 

 

だが、其れを見ても奇襲部隊のメンバーは慌てる事なく、それどころか『派手にやってやるぜ』とやる気が充実していた――予想外に港の戦力が多い程度の事では怯む事は無いのである。

何よりも、戦いに於いて予想外の事が起こるのは当然であり、そんな事に一々驚いていては戦いにならないのである。

 

 

「アイツ等……人間じゃねぇな?カシウスが言ってた事はマジだったって訳か。

 なら、手加減なんぞは必要ねぇよな……そんじゃ、始めるとしようぜ、楽し過ぎて狂っちまう位のイカレタパーティって奴をな!準備は良いか?Let'sRock!!」

 

「滅殺……おぉりゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「電刃……波動拳!」

 

「氷結波動拳!」

 

「灼熱波動拳!」

 

「風神波動拳!」

 

「真空波動拳!」

 

 

先ずは先制攻撃としてダンテがエボニー&アイボニーでの超高速連射を、稼津斗と鬼の子供達が夫々の波動拳で港に居る兵を攻撃すると、船は一気に接岸して主力部隊が港に降り立ち、デュナン軍の兵士と交戦を開始!

港に配置されていた兵は、全てが人工の悪魔だったので、ダンテも遠慮なく其の力を発揮して次々と悪魔を屠って行く……『悪魔も泣き出す男』と言う評判は伊達ではないようである。派手にやり過ぎて、港にある重機やコンテナを破壊してしまっているのが玉に瑕だが。

 

港には、情報部が相手をした『爬虫類人間』とは異なる人工悪魔、氷の身体を持つフロストと、雷の身体を持つプラズマが配置されていたのだが、其れもマッタク持って問題ではなかった。

フロストは氷の身体を結晶化させて再構築する事で、瞬間移動めいた事が出来る上に、氷の爪を飛ばしたりと高い戦闘力に加え、傷付いた身体を氷で覆って回復する力も有しているのだが、氷だけに高熱には弱いのだ――でもって、主力部隊にはフロストの天敵である炎使いが九人も存在しているので余裕でぶっ倒せるし、プラズマに関しても、一夏とテスタロッサ姉妹が雷属性なので問題は無いのだ。

一夏とテスタロッサ姉妹は、プラズマの攻撃を受けたら逆にパワーアップする位だからな……属性吸収能力と言うのは何とも恐ろしい物があると言えるだろう。

 

勿論、他のメンバーも其の力を遺憾なく発揮して港の兵達を次々と撃破して行く。

 

 

「見せてやるぜ、草薙流の真髄!おぉぉぉりゃぁ!燃え尽きろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

「遊びは終わりだ!泣け!叫べ!そして、死ねぇぇぇ!!」

 

 

予想外に戦力が集結していた港だったが、しかしそれも大した問題はなかったらしく、港での戦いも反抗軍が優位に進めて行った……志緒が敵陣に突撃して、イグニスブレイクで、大量の敵を蹴散らしたのは圧巻の一言だったが。

 

 

「目に焼き付けて、死ぬが良い。」

 

 

此処でクリザリッドが本気モードになり、コートを燃やしてバトルスーツ姿になる……そのあまりにもセクシーでインパクトのある姿に、主力部隊もデュナン軍も一瞬目が点になってしまったが、即座に正気を取り戻して戦闘を再開した。

 

精鋭揃いの主力部隊の前では、デュナンの人工悪魔も次々と狩られて行くだけなのだが、此れは属性の相性と言うモノも大きいだろう――特に、上級悪魔に匹敵する力を持ったフロストの天敵である炎使いが九人も居たと言うのがデュナン軍の誤算であったと言わざるを得ず、反抗軍の戦力分析を怠った事が原因だとも言えるだろう。敵戦力の分析と言うのは、戦いに於いては何よりも大事なモノであるからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてグランセル城の上空では――

 

 

「いよいよこの時が来たか……クローゼ、準備は良いか?」

 

「はい、準備万端です。」

 

 

なのはとクローゼ、ヴァリアスとアシェルが臨戦態勢を整えていた――今回は戦闘なので、クローゼはなのはにお姫様抱っこされずに、アシェルの背に乗っている。ドラゴンの背に乗る美女と言うのも中々に絵になるモノであるな。

 

まぁ、其れは其れとして、グランセル城の上空には、城の警護として多数の悪魔と魔獣が飛び交っており、普通ならば城に近付く事は出来ないだろう。

 

 

「よくもまぁ、此れだけの悪魔やら魔獣を集めたモノだと感心するが、その程度の戦力では私達を止める事は出来ないと言う事を、その身をもって知るが良い!奴等に黒き炎の裁きを与えろヴァリアス!

 焼き尽くせ、ダーク・メガ・フレア!」

 

「リベールを蝕む者に光の裁きを……眼前の敵を蹴散らしなさいアシェル!滅びのバーストストリーム!!」

 

 

だが、なのはもクローゼも普通ではないので城に近付くのは難しくないのだ……城の警護を行っていた悪魔と魔獣をヴァリアスとアシェルの一撃で蹴散らすと王城に降り立つ――なのはとクローゼは、作戦開始から僅か十分足らずでグランセル城に降り立ったのだ。正に圧倒的な力であると言えるだろう。

 

 

「城の上空は魔獣と悪魔で防衛しておきながら、城其の物には兵が居ないのか?城に降りた瞬間に、城内の兵が襲って来ると思ったが……何とも不気味なまでに静かなモノだな?」

 

「叔父様は空中庭園の女王宮ではなく、城内の玉座の方に居るのではないでしょうか?

 恐らくですが、城内の兵の殆どが其方の警護に回っている可能性は高いと思います……或は、叔父様は既に城から抜けて何処かへと逃亡してしまったのか――叔父様に僅かでも王としての誇りが残っているのならば、後者だけはないと思いたいのですが。」

 

「……まぁ、此処で幾ら考えても仕方ない。実際に城内に入って確かめてみれば良いだけの事だ。」

 

「そう、ですね。」

 

 

二人はヴァリアスとアシェルを縮小魔法で小さくすると、空中庭園からグランセル城内部へと進んで行くのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter19『Destroy the hell gate!Break it down!』

地獄門……名前に中二病センスを感じるByなのは     なのはさん、其れは言ったらだめですByクローゼ


港から上陸した主力部隊は、多数の悪魔と交戦しながらも、其れを全て退けてグランセルの市街地に突入し、リシャール率いる情報部の方も正面入り口を制圧して市街地に突入したのだが……

 

 

「鎧を纏った騎士……王国軍の精鋭が出て来たのか?」

 

「いや、ありゃ悪魔だぜ坊主……あの鎧の中には、無数の悪魔の魂が詰め込まれてやがる。――ムンドゥスの野郎も大概なクソッタレだったが、デュナンも負けず劣らずのクソッタレみたいだな?」

 

 

其処で一行を待ち構えていたのは、純白の鎧に身を包んで盾と槍を装備した兵士と、薄い金色の鎧に身を包んで剣を装備した兵士だった。

外見だけを見れば、王国軍の精鋭に見えるが、悪魔専門のハンターであるダンテが言うには、此れもまた悪魔であるとの事。しかも、鎧中に複数の悪魔の魂を詰め込んだ存在だと言うのだから、トンデモナイ事この上ない。

其の力は上級悪魔にも匹敵するだろうが、だからと言ってこの面子が苦戦するかと言われたら其れは否だろう。

稼津斗、カシウス、ダンテと言った絶対強者は言うに及ばず、反抗軍のメンバーは全員の戦闘力が極めて高いので、余裕で新たに現れた悪魔をも屠って居るのが現実だ――デュナンが作った悪魔は決して弱い存在ではないのだが、しかし反抗軍の戦力は其れを遥かに上回っていたと、そう言う事なのだろう。

 

 

「にしても数が多いな……一体何処にこんだけの悪魔を飼ってたんだよデュナンの奴は?如何考えたって城に入り切る量じゃねぇだろ此れは……!」

 

「何処かから呼び出しているとでも言うのか?」

 

 

だがしかし、如何せん数が多過ぎる。京が言ったように、現れる悪魔の数が、城の許容量を遥かに超えているのだ……仮に、グランアリーナに収容しているにしても収まり切る数ではないのだ。

如何に実力的に負ける事はない相手でも、倒しても倒しても現れると言うのは厄介な事この上なく、最悪の場合は反抗軍の方が先に疲弊してしまうだろう。

 

 

『皆、聞こえる?悪魔達が何処から現れるのか分かったよ。』

 

 

しかし、此処でレイストン要塞でバックアップに回っている簪から、反抗軍全員に広域通信が入り、『悪魔の出現場所が分かった』と伝えて来た――レイストン要塞に残った簪は、自身の携帯端末で王都中にある防犯カメラをハッキングしてその映像から、何処が攻め入り易いか等の情報を分析していたのだ。

 

 

「簪、其れは何処だ?」

 

『街中に、黒くて大きな石板みたいな建物があると思うんだけど、如何やら悪魔は其れをゲートにして、別の場所から王都にやって来てるみたい。

 ゲートの数は全部で三つ。東街区、西街区、北街区に夫々一つずつだね。』

 

「成程、何処かで見た事があると思ったら地獄門だったか……あんなモンまで作っちまうとは、こりゃ最悪の場合、デュナン自身が悪魔の力を身に付けちまってるかも知れねぇな?」

 

「悪魔の力って、マジかよ……つか、そんな事して平気なのか?」

 

「巧く制御出来ればな……制御出来なかったら、悪魔に魂喰われてそんで終いだ。……まぁ、今のデュナンは人の姿を保ってんだから制御は出来てんだろうけどな。」

 

 

簪が言った建物は直ぐに見つかり、其れをよく見ると、確かに其処から悪魔が現われていた……戦いに集中していて気付かなかったと言う事なのだろうが、灯台下暗しとは正にこの事であろう。

だが、悪魔が何処から現れているのか分かってしまえば話は早い。其れを破壊してしまえば、少なくとも王都に現れる悪魔は、建物――地獄門を破壊するまでに現れた数を上限にする事が出来るのだから。

 

 

「そんじゃ、地獄門を破壊する為のチーム結成だが……鬼の兄ちゃん、此の坊主達を少し借りて良いか?ちょいとばかり、コイツ等と一緒に遊びたくなっちまった。」

 

「一夏達が其れで良いと言うのならば俺は何も言わん……が、少なくともお前の足手纏いにだけはならん位には鍛えてあると自負している。」

 

「アンタが何を考えてるかは分からないけど、俺達で良いってんならご一緒させて貰うぜオッサン?皆も其れで良いか?」

 

「「「「勿論!」」」」

 

「私とマドカは此処に残るよ一夏。地獄門は、お前達に任せる。」

 

「私達は露払い……頼んだぞ、兄さん。義姉さん達もな。」

 

「おうよ、任されたぜ夏姫姉、マドカ!」

 

「其れじゃあ、行くわよ皆!」

 

 

結果、地獄門破壊のチームが結成され、西街区は稼津斗とレオナとサイファーとリシャールとアガットが、東街区は京とブライト三姉妹とヨシュアと庵が、北街区はダンテと一夏と一夏の嫁ズが担当する事になり、残りのメンバーは引き続き王都に現れ続ける悪魔との戦いを続ける事になったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter19

『Destroy the hell gate!Break it down!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・王都グランセル:西街区

 

 

西街区の地獄門は、北街区に続く通路付近に設置されており、稼津斗達一行は群がる悪魔を蹴散らしながら地獄門へと辿り着いた……彼等を無視して飛んで行った悪魔も居るが、其れ等は西街区で戦闘中の反抗軍のメンバーが倒してしまうだろうから問題はない。

 

 

「近くで見ると凄まじい大きさだ……これを破壊するのは、些か骨が折れそうだが……」

 

「地獄門なんて大層な名前だが、所詮は人の作ったモノだろう?ならば壊せないなどと言う事はあり得んだろうよ……尤も、そう簡単に壊させてはくれんようだがな?」

 

「まぁ、こんだけ大相なモンだから、門番の一匹くらいは居るだろうよ。」

 

「……来る。」

 

「……」

 

 

 

『シャァァァァァァァァァァァァ……!』

 

 

 

そんな彼等の前に、地獄門から巨大な何かが飛び出して来た。

長大な身体の其れは、一見すれば巨大な蛇、或は龍の様だが、上空から彼等の前に降り立つと、頭部の部分がまるで花のように開き、その中から女性の上半身のような姿が現れる――現れたのは、高い知性を持ち人語を解して操る、『エキドナ』と言う上級悪魔だった。

 

 

『強い闘気を感じたが、何だ人間か……とは言え、少しばかり遊ぶには丁度良いかも知れぬな?』

 

 

稼津斗達を見たエキドナは、イキナリ見下したような発言をするが、此れが魔族と悪魔の決定的な差であると言えるだろう。

魔族も悪魔も、人間よりも高い力を持って居る者の方が圧倒的に多いのだが、魔族が人間の力を認め、同等の存在であると考えている者が多いのに対し、悪魔は基本的に人間を見下し、自分達によって蹂躙される存在だと考えている者が圧倒的に多いのだ。まぁ、悪魔の中にも『力』を示せば人間の事を認めて、己の力を貸す者も居たりするのだが、少なくともエキドナはそう言った悪魔ではないのだろう。

 

 

「大きな力を感じたが、出て来たのは下賤な蛇女か……俺と死合うにはまるで値しない相手だったか。

 其れに、俺達を只の人間と思うとは、物事の本質を見抜く事も出来ないと見た――リシャールとアガットは確かに普通の人間ではあるが、其の実力は悪魔などとは比べ物にならんレベルだ。

 そしてサイファーは魔族と神族の血を引いており、レオナもまた闇の眷属の血を引いている……そして、俺もまた人間ではなく『鬼』だ。

 そんな事も分からぬとは、お前の実力は高が知れていると言うモノ……命が惜しければ門の向こうに帰れ。俺の滅殺の拳によって、魂までも滅されたいと言うのであれば別だが。」

 

 

そんなエキドナに、稼津斗もまた挑発的に返すが、プライドの高いエキドナにとってこの発言は到底許せるモノではない。言外に、『お前は弱い』と言われたのと同じなのだから。

 

 

『人間風情が……先ずは貴様から葬ってやろう!』

 

 

激高したエキドナは、再び龍の姿となり、大口を開けて稼津斗に襲い掛かり、その身を丸吞みにしてしまったのだが、其れを見たリシャール達に慌てた様子はない。

この程度でやられる稼津斗ではないと分かっているからだ。その証拠に――

 

 

「俺を喰らおうとするとは中々の美食家の様だが、俺を喰うには貴様では器が小さすぎると知れ!」

 

 

喰われた筈の稼津斗が強引にエキドナの口を開き、蹴り飛ばして出て来たのだ。流石は『鬼』と恐れられ、遂には封印されるに至っただけの事はあると言えるだろう。

そして着地すると、殺意の波動を発動し、『鬼』へとその姿を変える――と同時に、リシャール達も闘気を全開にしてエキドナと対峙する。レオナに至っては、己の中に眠るオロチの力を覚醒させ、髪と目の色が赤く変化しているほどだ。

 

 

「我こそ拳を極めし者。ウヌが無力さ、その身をもって知るが良い……!」

 

「……貴女では勝てない。」

 

「随分と舐めた口を利いてくれたが、私達を甘く見た事をお前は直ぐに後悔する事になるぞ。」

 

「人間を舐めるとどうなるか、いっちょ教えてやろうじゃねぇか、大佐さんよ!」

 

「アガット君……だが、其れもまた一興。今宵は君の提案に乗らせて貰おう!」

 

 

そして放った豪波動拳を合図に戦闘開始!

先ずはエキドナが長大な身体を縦に伸ばして、地上からの攻撃が届かない位置から女性の上半身が攻撃を仕掛けたが、その攻撃はレオナが繰り出したボルテックランチャーに相殺され、更に稼津斗が縦に伸びた身体に回転上昇する旋風脚、『滅殺豪螺旋』を叩き込んで上半身まで到達すると、間髪入れずに無数の気弾を空中から発射する『天魔豪斬空』を放ってエキドナにダメージを与える。

これによって、『高所からの一方的な攻撃は出来ない』と判断したエキドナは伸ばした身体を地面に埋め、上半身部分のみが地面から出る様な格好になると、地面に埋めた身体から触手を伸ばして、地下からの攻撃を行う。

何処から襲って来るから分からない地下からの攻撃と言うのは、脅威となるモノだが……

 

 

「何処から攻撃が来るか分からねぇってんなら、まとめて全部ぶっ潰しちまえば問題ねぇ!」

 

「同時に、攻撃をしに現れた現れた所に的確にカウンターを叩き込む事が出来れば脅威にはなり得ん。」

 

「生憎と、死角からの攻撃なんぞ、これまで掃いて捨てるほど見て来たんでな……今更、こんな幼稚な攻撃なんぞは屁とも感じん。」

 

 

アガットは触手が現れる前に地面ごと抉って触手を刈り取り、リシャールは触手が現れた瞬間に其れを神速の居合いで刈り取り、サイファーは触手の攻撃を受けた上で其れを狩ると言う、不死身の肉体があればこその戦い方で触手を切り裂いていく……身体は直ぐに再生しても、服が穴だらけになるのは大問題だと思うが。

 

 

「滅殺……ぬぅぅぅん!!」

 

 

更に稼津斗が、気を込めた拳を地面に叩きつけて衝撃波を発生させる『金剛國裂斬』を使ってエキドナを無理矢理地面から引っこ抜くと、其処にレオナがVの字型に相手を斬りつける『Vスラッシャー』を叩き込んで爆発させ、大ダメージを与える。

そして、其れでは終わらず――

 

 

「そろそろ終いにしようぜ!せい!でやぁ!おぉぉりゃぁあ!!行くぜ!ドラゴォォォォン……フォール!!」

 

「散り逝くは叢雲…咲き乱れるは桜花… 今宵、散華する武士が為、せめてもの手向けをさせてもらおう!はぁぁっ…!せいや!秘技、桜花斬月!」

 

「見下した相手に良い様にやられるってのはどんな気分だ?逝っちまいなクソババア……クレイジーダンス!」

 

 

アガット、リシャール、サイファーも己の必殺技をエキドナに叩き込みダメージを与えて行く……特にアガットの一撃は、只でさえ思い重剣の一撃に、落下速度とアガットと重剣の重量がプラスされた攻撃だったので、相当に効いた事だろう。

 

 

『馬鹿な……何故、何故私が人間如きにぃ!!』

 

「この期に及んで、人間如きと見下す貴様の性根が敗北の原因よ……最早此れ以上戦う価値はない故、此処で散れ。ウヌを黄泉に送る技……瞬獄殺!!」

 

 

蹂躙する筈だった相手に、逆に一方的に攻められている事に納得出来ないエキドナに対して、稼津斗はその原因が何であったのかを告げると、トドメとなるであろう瞬獄殺を発動!

音もなく、残像が残るほどの超高速でエキドナに近付くと、その身を掴んだ瞬間に激しい閃光が起きると同時に、無数の打撃音が聞こえ、そして光が治まると稼津斗の足元にはエキドナが倒れ伏し、稼津斗の背には『天』の文字が現れていた。

此れこそが殺意の波動の究極奥義である『瞬獄殺』――肉体は滅び、魂だけの存在となったモノまでもを殺し、この技で相手を葬るほどにその威力を増す呪われた奥義であり、その威力は相手が『悪』であるほどに高くなる。悪魔であるエキドナを葬るには、確かに相応しい技だと言えるだろう。

 

 

「瞬きの間に地獄を見る、故に瞬獄。……悪鬼ほど地獄を見るとは、憐れよ。」

 

 

此れで残すは地獄門なのだが、その地獄門はレオナがリボルスパークを喰らわせて爆発させると、アガットとリシャールとサイファーが、その破片を夫々の得物で器用に積み上げ、最後は稼津斗が飛び上がってからの渾身の手刀、『禊』で粉砕してターンエンド!

西街区の地獄門は、見事に破壊されたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

・王都グランセル:東街区『グランアリーナ』

 

 

東街区の地獄門はグランアリーナ内にあり、京達はアリーナ内部の競技場に来ていたのだが――

 

 

「何が待ってるかと思ったら馬鹿デカいカエルかよ?微妙にやる気が出ねぇな。」

 

「やる気が出ないと言うか……出来れば触りたくないな?」

 

「ブ、ブサイク……」

 

「う~ん、手の平サイズだったらキモカワだったかも知れないけれど、其処まで大きいとダメね。」

 

「ふん、下らん……」

 

「あの、もう少し緊張感を持った方が良いと思うんだけど……」

 

『ボケが!誰がカエルじゃい!』

 

「「お前。」」

 

「いや、アンタ以外に居ないでしょ?」

 

「そうねぇ、貴方しか居ないわね?」

 

「貴様、自分が何者であるかも自覚出来ていないのか……雑魚め。」

 

「……まぁ、見た目だけなら確かにカエルかもしれないけど。」

 

 

其処に現れたのは、カエルのような見た目の巨大な悪魔『バエル』。

エキドナ同様に人語を解して操るが、知能の方はお世辞にも高いとは言えないだろう……京達に『カエル』と言われた程度で激高してるとか、知能が高くないだけでなく、沸点も高くないらしい。

 

 

『貴様等、ワシを舐めてると痛い目に……っ!?』

 

 

激高したバエルは、一行に詰め寄ろうとしたのだが、庵の鋭い眼光を見た途端、何故か身体が動かなくなってしまった……いや、動かなくなってしまったどころか、詰め寄ろうとしていて筈なのに、僅かに後ろに退いたのである。

此れには京達も、『何があったのか?』と言う表情だ――自分達を襲う気満々だった相手が、何かに怯んで後退したとなれば、確かに不思議ではあるだろう。

 

 

「……まさか貴様、俺が怖いのか?」

 

『……!!』

 

 

庵がそう言いながら一歩前に出ると、バエルも一歩下がる……バエルが庵の事を恐れているのは間違い無いようである。

 

 

「あ~~……成程、そう言う事か。」

 

「何か分かったのか京?」

 

「要するに、あの化け物はマジでカエルだったって話だ。

 八神の野郎はオロチの血を引いてるだろ?オロチってのは、蛇な訳で、そんでもって蛇はカエルの天敵だからな……あのカエル野郎は、八神の背後に天敵の蛇、其れも頭が八つもある蛇を感じ取ってビビっちまったって訳さ。」

 

「正に『蛇に睨まれたカエル』っていう訳だね。」

 

 

バエルは庵其の物を恐れている訳でなく、庵がその身に宿しているオロチの力に恐れ戦いたようである……京の言うように、蛇はカエルの天敵なので、此れは恐れるなと言う方が無理であろう。

しかもこの恐怖は、理性で如何こう出来るモノではない、生存本能にダイレクトに訴えかけて来るモノなのでそう簡単に乗り越えられるものではない。

 

 

「俺が怖いのか?」

 

『……!』

 

「俺が怖いのか?」

 

『――!!』

 

「俺が……怖いのか?」

 

『グガァァァァァアッァアァァァァ!!!

 

 

庵に詰め寄られたバエルは、遂にアリーナの壁まで追い詰められて、これ以上後退する事が出来なくなり――恐怖を振り払う為に、生きるために半狂乱の状態で庵に飛び掛かる!

 

 

「ふん!!」

 

『ゲゴォ!?』

 

 

だが庵は、バエルに対して蹴り上げからの踵落とし、『外式・轟斧 陰゛死神"』をカウンターで叩き込むと、百弐拾七式・葵花を二段目まで喰らわせてから、百式・鬼焼きへと繋ぎ、外式・百合折りで蹴り飛ばす!

 

 

「恐怖が限界を超えて八神に襲い掛かったみたいだが、ビビってる状態じゃ八神には勝てねぇよ……とは言え、アイツにだけやらせるのも悪いから、俺達もやるとしようじゃないか?

 アイツにだけ美味しい所持ってかれるってのも癪だしな。」

 

「本音はそっちか。」

 

 

更に此処で京達も参戦し、京がR.E.D.KiCKでバエルをダウンさせると、其処に庵が参百拾壱式・爪櫛を叩き込んで宙に浮かせ、浮いた所に京が裏壱百八式・大蛇薙をブチかまして大ダメージを与える。

そして攻撃の手は緩まず、ヨシュアが圧倒的なスピードにモノを言わせた、『一発の威力は低いが手数によって其れを補う』連続攻撃を行い、エステルはその逆とも言える『手数は少なくても一発が重い』攻撃でバエルにダメージを与えて行く。『男女の役割が普通逆じゃね?』と思うだろうが、エステルとヨシュアの場合は此れで良いのである。

 

加えて此処に、アインスの多種多様で強烈な魔法攻撃と、レンの大鎌による攻撃が追加されるのだからバエルとしても溜まったモノではないだろう……バエルの最大の過ちは、庵に恐れをなして地獄門に逃げ帰るのではなく、庵に襲い掛かってしまった事だろう。

生きる為に脅威を排除しようとした行為が、逆に己の首を絞める結果になったのだから。

 

 

「「遊びは終わりだ!」」

 

 

そして、此処で京が伍百弐拾四式・神塵を、庵が禁千弐百壱拾壱式・八稚女を叩き込んでバエルを派手に燃やす!正にカエルの丸焼きと言った感じだ……其れを食べる者が居るかどうかは分からないが。

此れだけでも充分に大ダメージなのだが……

 

 

「そろそろ終わりにしましょうか?」

 

 

レンが大鎌を両手に装備すると、踊るようにしてバエルに斬撃を叩き込んで行く。

 

 

「ポイッとな。」

 

 

そして大鎌を上空に放り投げると、大鎌は更に分裂して六つになり――

 

 

「イッツ、ネメシスパーティ!」

 

 

レンが指を鳴らすと同時に、六つの大鎌が振り子運動を開始してバエルの身体を切り刻んで行く……カエルの挽肉なんてモノは、どんな肉屋でも引き取ってくれないだろうが、大鎌はバエルを切り刻んでレッドオーブへと変えてしまったのだ。

一番年下のレンが、一番凶悪な技を使ったという衝撃的な光景が展開された訳でもあったが……まぁ、レンは元死神だから攻撃方法がエグくなるのは仕方あるまい。

 

 

「アインス……お前の妹の攻撃エゲツネェな?」

 

「まぁ、レンは元々死神故に、手加減とかそう言う事は苦手なのかも知れん。」

 

「レーン!良くやったわ!お疲れ様!」

 

「戦闘終了。さぁ、市街地の方を手伝おうか。」

 

「ククク、ハハハハ……ハァ~ッハッハッハッハッハッハ!!」

 

 

こうして門番であった筈のバエルは庵にビビって何も出来ずに打っ倒され、東街区の地獄門は、最終的には京の百八拾弐式によって粉砕されるのであった……此れで、残る地獄門は北街区だけとなったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

・グランセル城:城内

 

 

反抗軍が王都での戦いを行っている中、なのはとクローゼはグランセル城の中に押し入って、デュナンを探していたのだが……

 

 

「デュナンどころか、兵士が一人もいないとは……デュナンは、城外に逃げたとでも言うのか?」

 

「いえ、その可能性は低いと思います。

 流石に叔父様も、正面から逃げ出せば見つかると言う事は分かっている筈なので、城の外に出るとしたら、地下水路を使う筈ですが、地下水路に通じる扉はカギが掛けられたままでしたので、城の外に出たとは考え辛いですね?少なくとも、まだ城内の何処かに居ると思いますが……」

 

 

城内にはデュナンどころか、兵士の姿すらなかったのだ。

此れだけ見ると、既にデュナンは城外に退避したと思えるのだが、クローゼが『秘密の地下水路は使われた形跡がない』と言うので、デュナンが城外に脱出した可能性と言うのは低い。寧ろ、クローゼの言うように未だ城内に居ると考えて然るべきだろう。

 

 

「だが、だとしたらデュナンは何処に?」

 

「……若しかしたら、叔父様は地下に逃げたのかも知れません。グランセル城の宝物庫には、奥に大きな扉があって、その扉の先にはグランセル城の地下に行く事の出来るエレベーターが設置されているんです。」

 

「地下にか……ならば、そっちに行ってみるのが正解かもしれんな?クローゼ、宝物庫に案内してくれ。」

 

「勿論です、なのはさん。」

 

 

此処でクローゼが、デュナンは地下に逃げたのかも知れないと言う事を示唆して、其れを聞いたなのはは地下に行く事を速攻で決めて、クローゼに宝物庫に案内してくれと頼み、クローゼも其れを快諾して二人は宝物庫に。

そして、宝物庫に辿り着くと、一番奥の扉を開けて、地下に通じるエレベータホールに到達したのだった。

 

 

「……エレベーターがつい最近使われた形跡がありますね――此れは、略間違いなく、叔父様はこの先に居ます。」

 

「では、鉄槌を下してやろうとしようか?黒き魔導師と、白き聖女による愚者への鉄槌と言うモノな……此れ以上逃げる事の出来ない地下に潜った事を後悔すると良いさデュナン!」

 

「はい、行きましょうなのはさん。……叔父様、もうこれ以上は逃げられませんよ……!」

 

 

なのはとクローゼは堅く手を握り合うと、エレベーターに乗り、グランセル城の地下へと降りて行くのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter20『最後の地獄門の戦いと、そして……』

何だかんだで20話だなByなのは     マダマダ、これからですよByクローゼ


・王都グランセル:北街区

 

 

西街区の地獄門は稼津斗達に、東街区の地獄門は京達によって破壊され、残るはグランセル城に続くゲートがあるこの北街区の地獄門だけだ。

此処を担当するのは、悪魔専門のハンターであり、最早趣味で悪魔を狩っている『悪魔も泣き出す男』と噂されるダンテと、稼津斗によって鍛えられた『鬼の子供達』の一夏と一夏の嫁ズであり、戦力的には問題ないだろう。

 

その北街区には、既に巨大な悪魔が姿を現していた。

神話に登場する、半人半馬の怪物『ケンタウルス』に酷似した身体をしているが、その大きさは頭の高さまでで軽く5~6mはあるであろう巨躯で、頭は人のモノではなく、獅子に似た頭の口からは鋭い牙が覗き、頭には鋭い角が二本生えている。手にした巨大な剣は、一撃で人間どころか象ですら両断出来るだろう。

更に其の身には灼熱の炎を纏い、周囲に陽炎が現れている――この悪魔の名は『ベリアル』。西街区に現れたエキドナ、東街区に現れたバエルも上級悪魔だが、ベリアルは其の二体とは格が違う。

実力絶対主義で、種族の格など関係ない悪魔界に於いて、『炎獄の覇王』と呼ばれていると言う時点で其の実力の高さが分かると言えるだろう――属性の相性的には不利となるバエルが相手であっても、余裕で勝てると言えば分かり易いか。

 

 

『人間風情が悪魔を使役するか……其れだけならば未だしも、悪魔の力を其の身に宿そうなどとは、身の程知らずも甚だしい。』

 

「その意見については、俺も諸手を挙げて賛成だね。」

 

『!……貴様、何時の間に!』

 

 

グランセル城の方を向いてそう呟いたベリアルに対して、其れに相槌を打ったのは、他でもないダンテだった。燃え盛るベリアルの尾に涼しい顔で座っている辺りに余裕と言うか、若干ベリアルを馬鹿にしている感じが見え隠れしている。

ダンテの存在に気付いたベリアルは、激しく尾を振ってダンテを振り落とそうとするが、ダンテはその尾から華麗に飛び降りると、コートの端の炎を掃って消す。

 

 

「さっさと気付けよ間抜け。コートが燃えただろ?」

 

「自分で燃えてる身体に座っておいて、その言い草はなくないかオッサン?」

 

「燃えたと言うよりは、焦げたの方が正しいわよね此れ……つまり、このコートは本革製の高級品って事よね?安い人工革だと、焦げないでホントに燃えるって言うか、溶けるから。」

 

「嬢ちゃん、一流の男ってのは金が無くても身に付けるモンは一流品じゃなきゃならねぇ……って、そんな事言ってるから、金が貯まらないのか俺は。」

 

「自覚されているのでしたら、生活を改めてみては如何なモノかと……」

 

「家計を管理してくれる奥さんが居た方が良いのかも知れないね?」

 

「この小父様の破天荒っぷりに付いて行く事の出来る女性が、果たして存在するのか、問題は其処だろう……其れこそ、『普通じゃない生き方上等』と言う位の女性でなければとても無理だろうさ。」

 

 

其処に一夏達が現れ、上級悪魔を前にして此の遣り取りだ。

ダンテはデビルハンターだから今更上級悪魔を前にして怯むと言う事はないのだが、一夏達もまた幼い頃にライトロードの襲撃を受けて命の危機を感じ、其れから生き延びた事と稼津斗に鍛えられた事で肝が据わっており、上級悪魔が目の前に居ても怯みはしないのである。

 

 

『赤い服の男……貴様、スパーダの血筋か?……其れに、そっちの人間も、人間にしては可成り高い力を持っていると見える。此れは、久しぶりに腕が鳴る。』

 

「意外だな?悪魔のくせに人間の力を認めるのかい?」

 

『裏切り者のスパーダは許せんが、逆にスパーダが同胞を裏切ってまで守ろうとした人間の力と言うモノには些か興味もある……人間とは、果たして本当にスパーダが同胞を裏切ってまで守るに値する存在であったのか、我が直々に確かめるのもまた一興。』

 

「そうか……なら、ゲップが出るまで喰わせてやるよ、人間の力って奴をな!」

 

 

エキドナやバエルとは違い、ベリアルは人間の持つ力と言うモノに興味があるだけでなく、相手の実力を見抜く事も出来るらしい……如何やら、グランセル城前の地獄門の門番は、文字通り別格の存在であるらしい。

だが、其れでもダンテは余裕の態度を崩さずに愛用の二丁拳銃『エボニー&アイボリー』を構えて不敵な笑みを浮かべ、一夏達は気を開放して戦闘力を上昇させる。

最後の地獄門を巡る戦いの火蓋が、切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter20

『最後の地獄門の戦いと、そして……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

北街区での戦闘は、機動力で勝るダンテ達がベリアルに対して攻撃を叩き込んでいるのだが、ベリアルはマッタク堪えた様子が無く、その顔には薄い笑みすら浮かべている。

ダンテがリベリオンで切り付けても、エボニー&アイボニーでマシンガンの如き超連射を叩き込んでも、一夏達が夫々必殺の波動拳をブチかましてもベリアルには大したダメージにはなっていないのだ。

 

 

「だったら、コイツは如何だ?」

 

 

エボニー&アイボリーではダメージを与えられないと判断したダンテは、コートからショットガンを取り出して至近距離から一発ぶっ放す!

ダンテのショットガンに使われている弾は、通常のショットガンに使われている小さな弾が詰め込まれた散弾ではなく、ビー玉サイズの大粒の弾が詰め込まれた特別製で、近距離での破壊力は抜群で、其れこそ鉄製の扉ですら破壊する程の威力があるのだが――

 

 

『ふん、温いな。』

 

「マジかオイ。」

 

 

其れを喰らってもベリアルはマッタク持って余裕其の物。

手にした剣で、ダンテに斬り付けたが、ダンテは其の攻撃を、ジャンプ→エアハイク→スカイスターのコンボで華麗に回避すると、攻撃後の隙に渾身の兜割りを叩き込むが其れもまた大したダメージにはなっていないみたいである。

 

 

「攻撃が効かないって、そんなの有り?攻撃が効かないんじゃ、どうしようもないわよ?」

 

「無敵や不死身って訳じゃないだろうが……俺達の攻撃が効かないのは、アイツが身に纏ってる炎のせいだろうな。

 アイツが纏ってるのは、普通の炎じゃなくて悪魔界の炎だ。水でも消せないその炎が、奴を守る鎧になっていやがる。……ち、ケルベロス持ってくりゃ良かったぜ。」

 

 

その原因は、ベリアルが身に纏っている悪魔界の炎にあった。

炎と言うモノは、本来であれば固体として存在するモノではないので、物理的な攻撃に対しての防壁にはならないのだが、ベリアルが纏う悪魔界の炎は岩石ですら溶解させるだけの熱量があるので、銃弾も本体に到達する前に略溶けてしまい、大したダメージにはならないのだ。

例え速度が同じでも、鉄球と綿では威力が大きく異なるのと同じと言う訳だ――だがしかし、攻撃が効かないのは冗談抜きに笑えない状況だ。有効打を当たる事が出来ないのでは、倒し様がないのだから。

 

 

「なら、アイツが纏ってる炎さえ無くなっちまえば、俺達の攻撃は効くって事だよな?……なら、此処は俺の出番だな。」

 

「坊主、何か秘策があるのか?」

 

「まぁね。

 コイツは千冬姉が編み出した必殺技で、俺はちゃんと教えて貰った訳でもないから見様見真似にもならないモノかも知れないけど、技の特性だけはちゃんと理解してるから、アイツが身に纏った炎の鎧を吹き飛ばす事くらいは出来ると思うぜ?」

 

 

此処で一夏が雪片弐型に手を掛け、居合いの構えを取る。

一夏には、まだ不完全ながらも、其れでもベリアルの炎の鎧を吹き飛ばす事が出来る技があるとの事で、其れを此れから使うのだろう――居合いの構えなのは、確実に当たる為には、己の最速の剣を使うべきだと考えたからだ。

その状態で爆発的に気を高めると、一夏はレーザービームの如き勢いでベリアルに突撃!地面を蹴ると同時に気や魔力の塊を足元で炸裂させて、爆発的な推進力を得るイグニッションブーストと呼ばれる高等技法を使ったのである。

イグニッションブーストによる加速は、其れこそ使われた側からしたら瞬間移動かと思う程に速く、ベリアルも一夏の姿を捉えたのは、自身の目の前で抜刀しようとしている時になってからだった。

 

 

『見事な動きだ小僧……だが、其の攻撃も獄炎を纏う我には効かぬ!』

 

「あぁ、未完成な俺の技じゃアンタには効かないだろうが、アンタが纏ってる炎の鎧は如何だろうな?力を貸してくれ千冬姉……此れでも喰らえ!!」

 

 

そして渾身の居合いを放つ!

抜刀された雪片弐型の刀身は一夏の気でコーティングされて光を放ち、更に稲妻を纏っている。気で強化された刃と、電撃のコンボは其れだけで充分に強力だが、其れが最速の剣術である居合いで放たれたとなれば、威力は更に数倍となる事だろう。

 

 

「…………」

 

 

その居合は見事にベリアルにヒットし、居合いを決めた一夏は雪片弐型を一振りすると逆手に持ち替えて納刀する。――が、この居合いもベリアルにダメージを与えたようには見えないが。

 

 

『小僧……貴様、一体何をした!?』

 

 

しかし、ベリアル自体にダメージはなくとも、ベリアルの身体を覆っていた灼熱の炎は綺麗サッパリ消え去り、ベリアルの漆黒の本体が完全に顕わになっていた……一夏は、見事にベリアルの炎の鎧を吹き飛ばして見せたのだ。

 

 

「物理的な盾や鎧に対しては強化された斬撃に過ぎないけど、気や魔力みたいな物理的じゃない、エネルギー体で構成されている鎧や盾なら問答無用にぶっ壊して、同じモノを使えなくしちまう千冬姉の必殺技……零落白夜を叩き込んだんだ。

 本来なら、エネルギーで構成された防御体だけじゃなく、本体にもダメージを与えるモンなんだけど、今の俺には防御体を吹っ飛ばすのが精一杯だけどな。」

 

 

其れこそが、一夏の姉である織斑千冬が編み出した必殺技、零落白夜だ。

一夏は幼い頃、何度も千冬がこの技で炎を消したり、魔法を斬る場面を見て来た……千冬からは、『お前が十歳になったら教えてやる』と言われていたのだが、十年前のライトロードのハーメル襲撃で、その約束は果たされる事はなかったのだけれど、一夏は独学で零落白夜がどんな技であるのかを考え、そして稼津斗に修業を付けて貰う中で気の扱い方をマスターして、自分なりに零落白夜を、千冬には及ばないながらも使えるようになったのである。

 

 

「だけど、これでもうアンタを守る鎧は無くなった……だからさ、改めてその身で味わって貰うぜ人間の力って奴をな!喰らえ、神龍拳!!」

 

 

炎の鎧が剥がれたベリアルに対し、一夏が錐揉み回転する昇龍拳、『神龍拳』を叩き込むと、ベリアルは僅かに後退する……其れは、炎の鎧が無くなった事で攻撃が効くようなった証でもあった。

 

 

「もう無敵ではない訳ね……なら改めて喰らいなさい!覇ぁぁぁぁぁ……氷龍波動拳!!」

 

「此れが人間の力です!タイガァァァ……キャノン!!」

 

 

追撃として刀奈とヴィシュヌが強烈な気功波を叩き込む!

刀奈の氷属性の波動拳は炎の鎧が無くなったベリアルには効果抜群だろうが、ヴィシュヌの気は炎属性なのでベリアルに逆に力を与えてしまう気がするが、ヴィシュヌは無属性の気弾や気功波も放てるので、稼津斗の滅殺豪波動を自己流にアレンジしたタイガーキャノンを放ったのだ――先刻の攻撃の時も、無属性の波動拳を使って居たのだが、其れは炎の鎧に阻まれてしまったが、其れが無くなれば攻撃は有効なのだ。

 

 

「炎の鎧が無くなれば攻撃は有効……ならば、此処からはずっと私達のターンだ!」

 

「ファイヤー!オリャリャリャリャリャリャリャリャリャリャ……破壊力ーー!」

 

 

更に追撃としてロランが気で作った竜巻を喰らわせると、グリフィンが肘打ち→裏拳→連続パンチ→アッパーカットのコンボを叩き込んでベリアルにダメージを叩き込んで行く……グリフィンが使った技の技名が『バリバリバルカンパンチ』と言うのが、若干ダサい気もするが、グリフィンのパンチは確かにバリバリだったので技名に関しての突っ込みは入れるべきではないのかも知れない。

 

 

『ぐがぁぁ……此れが、人間の力……スパーダが同胞を裏切ってでも守ろうとしたモノか……!』

 

「そう言うこった……Catch This!Rising Dragon!!」

 

「コイツで決めるぜ……真・昇龍拳!」

 

 

トドメは、ギルガメスを装備したダンテのリアルインパクトと、一夏の真・昇龍拳だ。

ダンテは強烈な右のショートアッパーを叩き込み、その拳を一気に振り抜いたジャンピングアッパーを繰り出し、一夏は右のショートアッパーを喰らわせた後で左のショートアッパーに繋ぎ、其のまま左のジャンピングアッパーに繋ぐ技だが、その破壊力は凄まじく、ベリアルの巨躯を数メートル後退させるだけのモノがあったのだ。

其れでも、炎の鎧があればこの猛攻にも耐える事が出来ただろうが、炎の鎧が無くなった今、ベリアルにはダイレクトにダメージが叩き込まれて、もう真面に戦う事は出来ないだろう。

 

 

「決まったな……お前さんの負けだよ。汚いケツ見せてさっさと帰んな。大人しく帰るってんなら、命までは取らねえよ。」

 

『逃げ帰るなど、そんな事が出来ようか……逃げる恥を曝す位ならば、いっそ貴様等を道連れに!!』

 

「……悪いが、地獄は一人で楽しんでくれ。俺はまだ死ぬ気はねぇんだ。」

 

 

戦闘不能になったベリアルは、しかしダンテ達を道連れにすべく、己の頭に全ての力を注ぎこんで突撃したが、其れはダンテのハンドガンによって粉砕されてしまった。

炎獄の魔王も、『悪魔も泣き出す男』と『鬼の子供達』が相手では分が悪かった、そう言う事なのだろう。

 

 

「そんじゃ、コイツをぶっ壊すか。」

 

 

そして、最後の地獄門を前に、ダンテは『無尽剣ルシフェル』を展開すると……

 

 

「いきり立ったモノを、突き刺す!

 ピストン!

 角度を変えて、ピストン……からの激しいグラインド!最後の一突き!」

 

 

若干R指定になりそうな事を言いながらルシフェルの剣を地獄門に突き立て、その中心に最後となるであろう剣を突き立てる――でもって、着地した時には薔薇を咥えて居た事には突っ込み不要だろう。

そのダンテが手を打つと、中心に刺さった以外の剣が炸裂して、地獄門をハート型に型抜きする。

 

 

「そして全て終わった時、俺は言う……満足したら帰んな。」

 

 

最後にその薔薇を地獄門に刺さったままになっている剣に向かって投げると、薔薇が当たった瞬間に剣が炸裂してハート形の地獄門は綺麗に真っ二つに割れ、割れた先にはグランセル城の姿が。

 

 

「此れで地獄門は全部ぶっ壊した。……後はアンタだけだぜ、王様。」

 

「おい坊主、そいつは俺が言おうと思ってたセリフなんだが、何でお前が言っちゃうかねぇ?」

 

「地獄門をカッコ付けてぶっ壊したのは良いとしても、その最中のセリフが女の子がこの場に居る事に全く配慮が無かったからさ……また、R指定になりそうな事を口にする前に俺が決めただけだ。」

 

 

一夏がグランセル城に向けて拳を固めて行ったセリフに、ダンテが若干物申したのだが、確かに地獄門破壊時のダンテのセリフは、この場に居たのが野郎だけなら兎も角、女性が居る場で言う事ではなかっただろう。結構直接的な表現もしている訳であったし。

そんな一夏に、ダンテは『一夏君の意地悪ぅ。』と、とっても気持ち悪い声を出し、一夏と嫁ズをドン引きさせただけでなく、『自分で言っといてなんだが、気持ち悪いな?悪乗りはし過ぎるもんじゃねぇか。』と言っていた……四十過ぎのオッサンが、裏声で甘えた声出すとか、大分アウトである。

 

 

「取り敢えず、これで此れ以上悪魔共が王都に出て来る事はねぇ訳だから、俺達は一足先にお城に乗り込むとするか――きっと城では、俺達の為のイカレタパーティが準備されてるだろうからな?」

 

「どうせなら派手に行こうぜオッサン?……コイツで城に突撃するってのは如何だ?」

 

「荷台付きのジープか……悪くないセンスだ。」

 

 

此のまま城に乗り込む事にした一行だが、一夏の提案で道端に止めてあった荷台付きのジープに乗り込んで城に突撃する事に……キーは刺さってないが、ダンテがキーボックスを破壊して、直接スイッチを動かす事でエンジンを掛け、一夏が助手席に、嫁ズが荷台に乗り込むとアクセルを踏み込んで一気にグランセル城を目指して驀進!

進路上に居た悪魔や魔獣は、『避けるのもメンドクサイ』と言わんばかりに轢き殺して行く……そんな時でも、只突っ込むのではなく、ドリフトやら急旋回を入れてスタイリッシュに決めるのがダンテらしいが。

 

 

「あはは、此れは大迫力ね?」

 

「見事なドライビングテクニックだよ小父様。」

 

「ですが、此れ持ち主に怒られませんかね?」

 

「もしも壊れちゃったら、悪魔に壊されたって事にすれば大丈夫じゃない?」

 

 

此れだけのアクロバット運転をしていたら、荷台に乗った刀奈達はキツイだろうと思いきや、マッタク持って余裕綽々であり、寧ろ此の状況を楽しんですら居る様にも見える位だ……心臓の強さが本気で相当だと言えるだろう。

そんな一行の前に、三体のフロストが行く手を阻まんと現れるが……

 

 

「このまま突っ込めオッサン!!」

 

「確り捕まってろよ坊主、嬢ちゃん!イィィヤッハー!!」

 

 

問答無用で轢き殺しアタックをブチかまして氷の身体を粉砕!玉砕!!大喝采!!!し、砕けた破片はヴィシュヌがキッチリと灼熱波動拳で溶解させていた……ダンテと一夏達のチームは、中々良い化学反応を起こして強力なチームになっているようだ。

こうして一行は、グランセル城前広場を突っ切って城門の前まで到着したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

・グランセル城地下

 

 

エレベーターで地下に降りたなのはとクローゼは、迷宮のような地下空間を進んでいた。

その道中には、機械兵や悪魔が居たのだが、その程度ではなのはとクローゼを止める事は出来ない――なのはの魔法とクローゼのアーツがクッソ強いだけでなく、ヴァリアスとアシェルと言う上級のドラゴンも居るので、機械兵と悪魔程度は敵ではないのである。

 

 

「城の地下にこんな物があるとは思わなかったが、一体如何して城の地下にこんな物を作ったんだ?」

 

「いえ、この地下空間はグランセル城が建設されるよりも前に存在していた古代の遺跡で、その遺跡の上に城を建てたらしいんです……私は、お祖母様からそう聞きました。」

 

「アリシア前女王がそう仰ったのならばそうなのだろうな……そして、五つに分けられたお前の精霊の一つも、此処にあると言う事か。」

 

「そう言う事になりますね。」

 

 

地下室と言うには、余りにも複雑な構造なのだが、其れが城を建設する前から存在していた古代遺跡だと言うのならば、其れも納得出来る話だろう――その遺跡を守る為に、遺跡の上に城を建てて一般の目に触れないようにすると言うのは、遺跡保護の方法としては最善とも言えるのだから。

 

そんな地下迷宮とも言える場所を進んで行くと、突然開けた場所に辿り着いた。

其処はちょっとしたホールくらいの広さがある場所だったのだが、其れは特に問題ではない。問題は、其処に誰が居たかだ。

 

 

「デュナン……!」

 

「叔父様……!」

 

「ぐぬ、もう追い付きよったのか!!」

 

 

其処に居たのはデュナン。

この階層には、更に地下に降りる為のエレベーターが存在しているので、此処が最深部ではないのだが、最深部ではない場所で一体何をしていたのやらだ……何をして居たのかは分からなくとも、此処でなのは達に追い付かれると言うのは、あまり良い状況とは言えないだろう――単純な戦闘力で言うのであれば、なのはとクローゼの方が、デュナンよりも圧倒的に上なのだから。

 

 

「チェックメイトだなデュナン?

 王国軍の兵士の他に、悪魔まで王都に配備していたようだが、残念ながら私達の敵ではなかったようだ……何よりも、城内に一人も兵を配備していなかったのは悪手過ぎたな?」

 

「先程、広域通信で簪さんから悪魔を呼び出している装置があると言う事を聞きました……ならば、其れが破壊されれば悪魔の召喚は止まり、何れ全てが王都から消え去る事になります。

 叔父様、もう貴方に勝ち目はありません。大人しく降参して下さいませんか?」

 

 

なのはとクローゼ、そして夫々が従えているドラゴンに対し、デュナンは一人であるので、如何考えてもデュナンが勝てる筈はないので、クローゼは無用な戦いをしないようにする為に降参するように言う。

普通ならば、この圧倒的な戦力差を前にしたら勝機はない事を悟り大人しく降参する、或はこの場では降参して生き延び、暫くは息を潜めて再起を図ると言う二つの選択肢の何方かを選ぶ事だろう。

 

 

「降参……何故余が降参などしなくてはならないのだクローディア?

 お前達は余を追い詰めた心算かも知れぬが、其れは逆だ!お前達は此処に誘い込まれたのだ、余に殺されるためにな!」

 

 

だが、デュナンはその何方も選ばずに笑みを浮かべると、足元に巨大な魔法陣を展開し、其処から無数の悪魔を呼び出す。

呼び出されたのは、背びれと尾びれが鋭い刃になっている魚のような悪魔、刃の翼を持つトカゲのような悪魔、鉄のような体に炎に包まれた頭部を持つ犬のような悪魔だった。

 

 

「魔力を有した剣と魚を融合させた『カットラス』、魔力を有した剣とトカゲを融合させた『グラディウス』、魔力を有した銃と猟犬を融合した『バジリスク』……こ奴等が徒党を組むと中々に厄介だぞ?」

 

「人造悪魔か……デュナン、貴様一体何処で人工的な悪魔の作り方など覚えた?悪魔を作り出すなど、スパーダによって打ち倒された魔帝ムンドゥスでなければ出来ない芸当の筈だが?」

 

「其れもですが、ロレント襲撃時に使った移動要塞、アレは一体何処で手に入れたのです?少なくとも、お祖母様はあんなモノを軍に配備して居なかった筈です。」

 

「其れは、この場を切り抜けて最深部に居る余まで辿り着く事が出来たら教えてやろう。」

 

「この程度で私達を足止め出来ると思っているのか?数だけの烏合の衆など、私達の敵ではない……其れに、此処は其れなりに広いので、ヴァリアス達も本来の力を発揮出来るからな。」

 

「そうですね。」

 

 

自ら生み出した悪魔を大量に呼び出してご満悦なデュナンに対し、なのはとクローゼはヴァリアスとアシェルに掛けていた縮小魔法を解除し、黒と白の二体のドラゴンは本来の姿を現す。

 

 

『ガァァァァァァァ!!』

ヴァリアス(真紅眼の黒竜):ATK2400

 

 

『ゴガァァァァァァ!』

アシェル(青眼の白龍):ATK3000

 

 

……二体のドラゴンの下に何か表示されたような気がするが、デュナンが『アナライズ』を使って、その情報の一部が表示されたと言う事にしよう、そうしよう。

 

 

「魚とトカゲと犬、其れで二体のドラゴンと、そして黒き神魔と白き聖女を止められると思うのか?貴様が作り上げた人造悪魔は、ソコソコの力があるみたいだし、これだけの数が居れば、並の人間ならば脅威になり得るだろうが、私達の前では塵芥……いや、其れ以下でしかない。」

 

「時間稼ぎと言うのであれば、往生際が悪いですよ叔父様?」

 

 

ともあれ、デュナンが呼び出した悪魔は三種で其の総数は百を超えるのだが、なのはとクローゼにとっては全く問題ない相手だった。

ヴァリアスとアシェルの攻撃で撃滅出来るだけでなく、なのはの砲撃魔法は一撃必殺であるし、クローゼもトレーニングを積んで、あらゆるアーツを駆動時間なしで放てる様になっているので、数の差なんてモノは問題にもならないのだ。

 

 

「結論を急ぐな、カットラスとグラディウス、バジリスクはあくまでも本命の尖兵に過ぎん……貴様達の真の相手はコイツよ!」

 

 

真の姿を開放したヴァリアスとアシェルに怯む事無く、デュナンが指を鳴らすと魔法陣が展開され、其処から人が一人入りそうなポッドが現れる……そのポッドには複数のコードが接続されており、何とも嫌な予感しかしない。

この手のポッドに収容されているのは、大抵トンデモナイ力を持ったグロテスクな生態兵器と言うのがお約束なのだ……其れを踏まえると、同じようなポッドから誕生したと言うのに、割かしイケメンなクリザリッドは稀有な存在であるのかも知れない。

 

 

「さぁ、目覚めの時だ!千年の時を経て、蘇るが良い、古代ベルカの聖王よ!」

 

 

デュナンがそう言うと、ポットに罅が入り、次の瞬間に砕け散った。

 

 

「…………」

 

 

その砕け散ったポッドの中から現れたのは、漆黒のボディスーツを身に纏い、ハニーブロンドの髪をサイドテールに纏めた、翠と紅のオッドアイが特徴的な女性だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter21『聖王とのガチバトル~私達がママだ~』

オリヴィエだと聖王、オリビエだと帝国のお調子者か……Byなのは     温度差がハンパないですねByクローゼ


王都グランセルに設置されていた、悪魔召喚装置『地獄門』は全て破壊され、悪魔の絶対数は全ての地獄門が破壊されるまでに召喚された数となる訳なのだが、だとしても如何せん数が多過ぎる。

地獄門が破壊されるまでにひっきりなしに召喚されていた事もあって、その数は余裕で四桁に達して居るだろう。

 

 

「ったく、いい加減鬱陶しいなこんだけ居ると……遊星、お前エネコン持ってたっけか?」

 

「いや、俺は持ってないな。」

 

「アタシは持ってるよ京さん!」

 

「ならレーシャ、八神を対象にしてエネコン発動してくれ。」

 

 

そんな中、京は遊星にエネコン……エネミーコントローラーを持ってないかと聞き、遊星は持ってないが遊星の妹であるレーシャは持って居たので、其れを庵を対象にして発動して貰う事に。

精霊召喚士は、カードに封印された精霊を使役するだけでなく、精霊をサポートする為のカードや、敵を妨害する為のカードも使用し、精霊のカードと其れ等のカードで構築されたデッキを持っているのだ。

そして、本来はカードの力は己の魔力によって引き出す物なのだが、『其れでは召喚士の負担が大きい』と考えた不動兄妹が、精霊召喚士用の専用デバイス『デュエルディスク』を開発し、精霊召喚士の負担は大幅に減る事になったのだ。

そして、デュエルディスクを使って発動されたサポートカードは、ソリッドヴィジョンと言う技術によって実体化され、レーシャが発動したエネミーコントローラーも、大型のコントローラーが実体化されたのだ……但し、カードイラストの2ボタンではなく、CボタンとDボタンが追加された4ボタン型だったが。

 

 

「でも、これで如何するの京さん?」

 

「←→←→←→A+Cってな。」

 

 

「キョォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!」

 

 

でもって、京がコマンドを入力すると、エネミーコントローラーの対象となった庵が暴走し、手当たり次第に悪魔を屠り始めた……暴走前から、容赦なく悪魔を屠っていた庵だが、理性が打っ飛んだ暴走状態では其れに拍車が掛かっていると言えるだろう。

理性が吹っ飛んで本能のままに戦うってのは、中々に恐ろしいモノがあるな……其れでも、味方には襲い掛からずに、悪魔だけを撃滅しているのだから、敵か味方かを判別する事だけは出来ているのだろう。

 

ともあれ、王都の市街地に現れた悪魔達は確実にその数を減らしているのは間違いないだろう――反抗軍の戦力は、人工悪魔では止める事が出来るレベルではなかったと言う事だった訳だ。

二千年前に魔帝を討ち封印したスパーダの息子と、千八百年前に八岐大蛇を討った草薙と八尺瓊の末裔に加えて、リベールの精鋭達が集まった反抗軍であれば、此の結果は当然であったと言えるだろう。反抗軍のメンバーに、多少の負傷者は居る者の何れも軽症であり、死者は一人も居ないと言うのも凄まじい事である。

 

程なく、王都に現れた悪魔は全て葬られ、遊星が庵に『魔法解除』を発動してエネミーコントローラーの効果を解除して正気に戻し、倒された王国軍の兵士達は全員拘束される事になった。

そしてその様子はバッチリとドロシーがカメラに収め、ナイアルが記事に必要な事柄をメモに纏めており、市街地での様子を一通り取材し終えると、グランセル城へと向かって行った。

同時に、京、庵、ブライト三姉妹、ヨシュア、BLAZEのメンバーもグランセル城に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter21

『聖王とのガチバトル~私達がママだ~』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一足先にグランセル城の城門前に辿り着いたダンテと、一夏と一夏の嫁ズは、意外な事にまだ城内には入っていなかった……と言うのも、城門がバカでかい上に非常に重く、更に機械仕掛けであるせいで、ダンテが本気でこじ開けようとしてもビクともしないのだ。

此れが、マフィアのボスの豪邸とかならば強引に破壊してでも乗り込む所なのだが、此れはグランセル城の城門であり、此の戦いが終わった暁には新しきリベール王の居城となる事を考えると、破壊すると言うのは流石のダンテであってもやろうとは思わなかったのだろう。

一夏達が空を飛んで空中庭園から城内に入って内側から門を開けると言う方法もあるのだが、門のを操作する装置が何処にあるかも分からない上に、手分けして探している内に城内で迷ってしまい、孤立した所を攻撃される危険性がある事を考えると、この方法もリスクの方が高いので行う事は難しいのだ。――実際には、城内に兵士は居ないのだが、一夏達は其れを知らないので仕方ないだろう。

 

 

「なんだよダンテ、まだ城に入ってなかったのか?アンタの事だから、城に一番近い場所の地獄門なんてさっさと片付けて、とっくに城に突入してると思ったけどな?」

 

「俺としてもそうする心算だったんだが、思った以上に門が重くてな。

 流石にお城の門をぶっ壊したら不味いだろうから、如何したモンかと足りねぇ頭を捻って考えてた所だ……さて、如何したモンかねぇ?」

 

「なら、此処は僕の出番だね。」

 

 

城に向かっていた京達も追い付き、ダンテが現状を説明した所でBLAZEのメンバーの一人である『四宮祐騎』が声を上げた。

 

 

「祐騎君、如何にか出来るの?」

 

「あのねぇ空、僕が王国全土のセキュリティシステムの開発に関わってるって事忘れてない?その中には、当然グランセル城のセキュリティも含まれてる訳で、城門のセキュリティシステムを作ったのも僕だよ?

 実際にシステムを城門に組み込んだのは、ラッセル博士と不動兄妹だけどさ……でも、システムを開発したのは僕だから、如何すれば内側からしか開ける事の出来ない城門を外から開ける事が出来るかも分かるって訳。

 答えは簡単、城内のコントロールルームの端末をハッキングして操作すれば良いだけ。」

 

 

何ともトンデモナイ事を言ってくれたが、祐騎は自身でそう言ったように、リベール王国全土のセキュリティシステムの開発に関わっており、その詳細を知って居る数少ない人物でもある上に、ハッカーとしての顔も持っているので城内のコントロールルームを外部から操作する位は朝飯前なのである。

 

 

「ねぇヨシュア、アレって良いの?」

 

「本当だったら犯罪なんだけど、今は四の五の言ってる場合じゃないからお咎めなしって事にしておこうよエステル。」

 

「つか、そう言う事なら簪に連絡入れれば其れで解決したんじゃねぇか?刀奈、簪だったら同じ事出来るよな?」

 

「其れは勿論出来るわよ一夏。若しかしたら、簪の方が少しだけ仕事が早いかも知れないわ……って、貴方の仕事が遅いって言ってる訳じゃないからね四宮君。姉の贔屓目と言うやつだと思って頂戴な♪」

 

「……そう言うの、逆に腹が立つから黙っててくれると助かるんだけど。」

 

「おい、急げ小僧。あと一分以内に門を開かねば灰にするぞ。」

 

「八神、お前もう少し言い方考えろよ……」

 

 

そんなこんなで、祐騎がハッキングを開始してから五分後には見事に城門が開いたのだった……逆に言うと、祐騎はやろうと思えば何時でもグランセル城に自由に出入り出来ると言う事なのだが、流石にこう言ったハッカーとしての技は自分の趣味以外に使う事はないので、其れは大丈夫だろう。祐騎は、ハッカーはハッカーであっても、所謂『ホワイトハッカー』と言う奴なのである。

 

 

「門が開いたか……其れじゃあ、イカレタパーティの最終章を始めるとするか!フィナーレはド派手に行くぜ?確り最後まで付いて来いよ坊主共?」

 

「アンタこそ、張り切り過ぎてガス欠起こすなよダンテ?此の中では、一番の年長者な訳だしな。」

 

「そうそう。年寄りの冷や水って言うには早いかも知れないけど、ヤバいと思ったら我慢しないで言ってくれよ?オッサン一人に無理させたとか、流石に俺達がカッコ悪過ぎるからな。」

 

「ま、僕達の足だけは引っ張らないでよねオジサン。」

 

「……口の減らねぇガキ共だなマッタク。」

 

 

軽口を叩きながら一行は城内に入り、そして城内に兵士が配備されてない事を知り、ダンテが城の下から悪魔の気配を感じ取り……全員で地下へ通じるルートが無いかと探した結果、宝物庫奥のエレベーターを発見し地下へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

・グランセル城:地下中部

 

 

地下区画の開けた場所でデュナンに追い付いたなのはとクローゼだったが、其処でデュナンは新たに三種の人工悪魔を大量に召喚したかと思ったら、其れだけではなく人が一人入るだけのポッドを現し、その中からは漆黒のボディスーツに身を包み、ハニーブロンドの髪をサイドテールに纏めた、紅と翠のオッドアイが特徴的な女性が現れた。

更に其の女性は、其の身に虹色のオーラを纏っており、同時に其れはその女性の身に収まり切らない魔力が過剰エネルギーとして溢れ出している事を示していた。

保有魔力で言えば、神魔の力を開放していない状態のなのはを上回って居るだろう。

だが、なのはもクローゼも其れ以上にデュナンが言った事を無視する事は出来なかった――デュナンが言った『千年の時を経て、蘇るが良い、古代ベルカの聖王』って言うのは、トンデモナイ事を口走っている訳なのだからね。

 

 

「デュナン……貴様、まさか古代ベルカの聖王を、悲劇の聖王オリヴィエを蘇らせたと言うのか!……外道が!!」

 

「何と言う事を……千年前、自らの命と引き換えに戦争を終結させた聖王を己の欲望の為に蘇らせるとは――其れが、彼女の魂を穢す行為だと知っての狼藉ですか叔父様!!」

 

「ククク、結論を急ぐな。

 確かにこ奴は、古代ベルカの聖王の力を継いでいるが、かの聖王本人と言う訳ではない。

 こ奴はクローン技術によって生まれた新たな聖王…とは言え、現代に残された聖王オリヴィエの遺伝子など、今や遺品として残された物に僅かに付着している髪の毛一本程度の物、そんな僅かな遺伝子情報では完全なクローニングなど出来よう筈もない。

 だが、足りない部分を他の何かで補う事で、、限りなく近いモノを作る事は出来る――こ奴は聖王の遺伝子を持った聖王ではない存在、聖王の子孫と言うべきかも知れん。」

 

 

だがしかし、此の女性は聖王を蘇らせた訳ではなく、あくまでも少ない聖王の遺伝子を他の要素で補った存在であるらしい……聖王の子孫と言うのは言い得て妙だと言えるだろう。

 

 

「こ奴の名は、ヴィヴィオ。

 さぁヴィヴィオよ、お前の敵は栗毛のサイドテールと、菫色の髪のショートカットだ!そ奴等を始末すれば、ママに会う事が出来るかも知れんぞ?ママに会いたければ目の前の敵を殺せ!!」

 

「この人達を倒せばママに会えるの?……なら、この人達を殺す……!!」

 

 

其処でデュナンが最悪な事を言ってヴィヴィオを炊き付け、ヴィヴィオは其の身に秘めた魔力を解放して臨戦態勢に!……人工的に生み出されたヴィヴィオには、そもそもママは存在していないのだが、ママが居ない不安を逆利用するとか、デュナンはトンデモねぇ極悪外道だと言っても言い過ぎではあるまい。

だって、なのはとクローゼを倒した所でヴィヴィオがママに会う事はないのだから。……間違いなく、役目を果たしたらヴィヴィオを抹殺する気しかないのだろうなデュナンは。正に外道だわ。

 

 

「デュナン!!」

 

「叔父様!」

 

「此処を切り抜ける事が出来たら、最深部で会おうではないかクローディアよ……精々足掻くが良い。」

 

 

デュナンは更に地下深くに向かい、なのはとクローゼも其れを追おうとするが、デュナンが召喚した悪魔が其れをさせんと襲い掛かって来た――其れはなのはとクローゼ、そして夫々が使役するドラゴンの前では塵芥に等しいモノではあったが、其れでも数が多いので蹴散らすのに少しばかり手間取り、結果としてデュナンを取り逃す事になってしまった。

其れだけならば、エレベーターを再起動して追えば良いだけの話なのだが……

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「ちぃ!」

 

 

デュナンの言葉で、半ば暴走状態になってしまったヴィヴィオが居ると言うのであればそうも行かない。

何せ古代ベルカの聖王は、『魔剣士スパーダ』、『三種の神器』に並んで『古代三伝説』と謳われる存在であり、完全ではないと言っても其の力を受け継いでいるヴィヴィオは無視出来る存在ではないのだ。

 

ヴィヴィオの攻撃を、なのははレイジングハートで捌くと、カウンターのクロススマッシャーを叩き込んでヴィヴィオを吹き飛ばす……が、其れを喰らったヴィヴィオは全くの無傷。漆黒のボディスーツ――防護服の防御力は相当に高いと見て良いだろう。

 

 

「……クローゼ、アイツの相手は私がやる。お前はヴァリアスとアシェルと共に悪魔共を倒してくれ。――アイツの攻撃力は半端じゃない。如何に防御アイテムを装備していると言っても、アイツの攻撃を真面に喰らったらお前は即死だ。」

 

「なのはさん……分かりました。ですが、無理はなさらないで下さい!」

 

「其れは、少し約束しかねるな!」

 

 

なのははヴィヴィオと、クローゼはアシェル、ヴァリアスと共に悪魔との戦いを始める。

先程のヴィヴィオの攻撃を捌いただけで、なのはにはその攻撃がドレだけ危険なモノであるかが分かり、防御アイテムを装備しているとは言え、普通の人間であるクローゼが此の攻撃をまともに受けたら危険と考え、肉体的には遥かに頑丈な自分が相手をする事にしたのである。封印されている精霊が解放されている状態であればまた話は変わってくるのかも知れないが、兎に角今はなのはがヴィヴィオと戦うのがベストなのだ。

 

 

「(真正面から攻撃を受けたら、レイジングハートも砕かれかねないか……彼女は恐らくインファイター、通常であれば距離を取って射撃で削って行くのがセオリーなのだが、あの防御力ではその戦法は逆に悪手になるか。なら――!)

 レイジングハート、最大出力でアクセルシューターを出せるだけ出すぞ!」

 

『All right.』

 

 

なのははヴィヴィオに対し、アクセルシューターを放つが、其れは普段使っているような牽制や相手の動きを制限する為のモノではなく、一発一発が必殺の威力を持っている魔力弾だ。しかもその数は、通常使用する際の最大数である十二個の実に三倍の三十六個!!

如何になのはの空間認識能力と平行思考能力が高いとは言っても、此れだけの数を同時に操作する事など不可能なのだが、大前提として、なのはは此のアクセルシューターを精密操作する気など最初からない。

精密な操作をしない代わりに、三十六個もの魔力弾を一気に真正面からヴィヴィオに向かって撃ち放ったのである。

『防御力が高くて距離を取って削って行く戦法が通じないのであれば、小細工せずにその防御の上からでもダメージを与えられる攻撃を最初からブチかます』、此れがなのはの思い付いたヴィヴィオとの戦い方だった。

 

その戦法は先ずは当たり、全ての魔力弾がヴィヴィオにヒットして爆発を起こし粉塵が上がる。

 

 

「今ので掠り傷も負わんとは、呆れた頑丈さだな。」

 

「うぅ……うわぁぁぁ!!」

 

 

だが、粉塵が晴れて現れたヴィヴィオは全くの無傷!掠り傷どころか、防護服に一切の破損が見られないと言う状態だったのだ。

なのはの姿を確認したヴィヴィオは突撃し、なのはは再び激強アクセルシューターを放つも、今度はヴィヴィオも其れを受ける事はなく、拳で弾き飛ばしながら向かって来る……一度直撃を喰らった事で、『此の攻撃は弾く事が出来る強さだ』と学んだのだろう。

其のままなのはに殴り掛かるが、なのはは其れを躱すと身体を反転させヴィヴィオの背にレイジングハートで遠心力たっぷりのカウンターを叩き込んでヴィヴィオを吹き飛ばす。

此れもまた常人ならばKOされるであろう一撃だが、ヴィヴィオはマッタク堪えていない様子で空中で姿勢を整えると、飛んでいるグラディウスを二匹掴み、其れを剣にして斬り掛かってくる。

グラディウスの剣状態は其れなりの大剣なのだが、ヴィヴィオは其れを難なく振り回してくる……防護服の強度と打たれ強さだけでなく、戦闘方法に関しても体術以外に色々とプログラミングされているのだろう。

だが、その二刀流剣術はなのはには通じない。

なのはの近接戦闘のレベルは、『並の使い手ならば勝てるが、一流には敵わず、達人には瞬殺される』と言う感じなのだが、此れはあくまでもガチで近接戦闘をやった場合の話であり、防御主体で戦う場合にはその限りではない――と言うのも、父の士郎、兄の恭也、姉の美由希がバリバリの近接戦闘タイプであり、その戦いを何度も見ていたため、達人クラスに近接攻撃を当てる事は出来なくとも、攻撃を防御・回避するのに難は無い……故に、ヴィヴィオの二刀流剣術をレイジングハートで弾く程度は造作も無いのだ。

 

 

「剣術も出来る様だが、振りが大き過ぎるな。」

 

「!!」

 

 

ヴィヴィオの攻撃の隙に、クロススマッシャーを叩き込んで吹き飛ばす事で、手にしていたグラディウスは砕け散ってしまったが、ヴィヴィオは矢張りノーダメージ。其れどころか、纏っている虹色のオーラが強くなっている程だ。

 

 

「お前の攻撃は私には通用しないが、私の攻撃はお前にダメージを与える事は出来ないか……此れはもう、如何にかしてスターライトブレイカーを叩き込むより他に方法はなさそうだな。」

 

 

今までの攻防で、なのははヴィヴィオの力を略把握したようだ。

確かにヴィヴィオの攻撃力は凄まじく、其の攻撃を真面に喰らってしまったら神魔であるなのはでも死にはしなくとも相当なダメージを喰らうのは間違いないが、ヴィヴィオの戦闘技術は拙い……もっと正確に言うのであれば、戦い方は知っているが知識として持っているだけなのだ。

攻撃の仕方に無駄はなく、的確なのだがあまりにも素直である為に読み易い上に、牽制やフェイントと言ったモノは一切使って来ないので、十年の間に幾多の実戦を経験して来たなのはからすれば全く脅威にはなり得ないモノであるのだ。

だが逆に、なのはの攻撃もまたヴィヴィオには決定打にはならない……至近距離でのクロススマッシャーですらノーダメージであるのでは、必殺のディバインバスターも大したダメージにはならないだろう。

神魔の力を開放すればまた違うのかも知れないが、最深部へ逃げたデュナンが何を隠し持っているか分からない以上、此処で余り大きく魔力を消費する事も出来ない故に、なのははドレだけ堅い相手であっても確実に戦闘不能にする超必殺技のスターライトブレイカーを如何にして叩き込むか、その戦術を構築して行くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

一方でクローゼの方はと言うと、此れはもう『苦戦?何それ美味しいの?』と言う状態だった。

デュナンが新たに呼び出した三種の悪魔は数こそ多いが、そもそもにしてヴァリアスとアシェルと比べたら塵芥の集団でしかなく、ヴァリアスの黒炎とアシェルのブレスを喰らって次々とその身をレッドオーブへと変えて行った。

更に、クローゼが矢継ぎ早にジオカタストロフ、コキュートス、アークプロミネンス、グランストリーム、カラミティブラスト、テンペストフォール、アヴァロンゲートと各属性の最強アーツを繰り出して三種の悪魔を滅殺!抹殺!!瞬獄殺!!!

二体のドラゴンと言う最強の守護が居る事で、クローゼは己の本領であるアーツの力を百二十%発揮出来ているようだ。

 

 

「此れで終わりです!アシェル!ヴァリアス!同時攻撃です!混沌のマキシマムバースト!!」

 

『ゴォォォォォォォ!!』

 

『グガァァァァア!!』

 

 

トドメはアシェルとヴァリアスの合体攻撃!

光と闇は、本来相反する属性なのだが、それ故に二つの力が重なった時には強烈なまでの対消滅現象が起こり、周囲のモノを問答無用で消し去ってしまうのである。

そして、その対消滅の力は人工悪魔に耐えられるモノではなく、残った悪魔はカオスの力に呑み込まれて粉砕!玉砕!!大喝采!!!

 

 

「この程度では、私達を止める事は出来ませんよ叔父様……」

 

 

そう言ったクローゼの背には魔力で構成された白き翼が……如何やらこの戦いで、元々は神族であったアウスレーゼの血が、クローゼの中で覚醒したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴィヴィオとの戦いを続けているなのはは、攻撃してくるヴィヴィオに対して違和感を感じていた。

と言うのも、ヴィヴィオの攻撃は確かに正確で鋭いのだが、其の攻撃からは敵意や殺気と言うモノをマッタク持って感じる事が出来なかったのだ――寧ろ、感じたのは不安と恐怖と言った感情だった。

何故ヴィヴィオの攻撃に、そのような感情が籠っているのか分からなかったなのはだが……

 

 

「ママ……何処に居るの?ママ……」

 

「!!(此れは……コイツは、ヴィヴィオは母を喪った時の私だ……!)」

 

 

何度目かの攻防の際に、ヴィヴィオの眼に涙が浮かんでいた事に気付いて、其れが分かった……ヴィヴィオは母親が居ない事が不安で怖いのだと。其れは、母を喪った時の自分と同じであると。

なのはも幼い時に母を喪い、それから暫くは母が居ない事が不安で、怖くて泣いて過ごした経験があるので、ヴィヴィオの気持ちは痛い程に分かってしまった……そして分かってしまったが故に、此れ以上ヴィヴィオを攻撃すると言う事は出来なかった。

身体は大人であっても、精神は子供であるヴィヴィオを此れ以上戦わせてはいけないとも思ったのだろう。

 

 

「ヴィヴィオ、お前が戦うのはママに会う為か?」

 

「貴女達を倒せばママに会えるって、あの人はそう言った……だから、私は貴女達を倒す!」

 

「そうか……だが、私達を倒した所でお前はママに会う事は出来ない。そもそもにして、お前にママは存在していないのだからな。」

 

 

だが、敢えてなのははヴィヴィオに対して残酷な現実を突き付ける事にした。

オリヴィエのクローンにもならないヴィヴィオには、母となる存在などそもそもにして存在していない……なのはとクローゼを倒せばママと会えると言うのは、所詮はデュナンがヴィヴィオを体良く操る為の嘘八百に過ぎないのだ。

 

 

「そ、そんな……嘘だ。そんなの嘘だ!」

 

「生憎と、魔族は嘘を吐く事が出来ないので、私の言っている事は真実だ。お前のママは、最初から存在しない。」

 

「嘘だぁぁぁぁぁ!!」

 

 

なのはの言葉を聞いたヴィヴィオは、なのはに突撃して渾身の一撃を繰り出す――が、なのはは其れを防ぐ事も躱す事もせずに真面に受ける。

ヴィヴィオの拳はなのはの腹に突き刺さり、なのはの口からは魔族と神族の混血の証である翠の血が溢れるが、しかしなのはは倒れずに踏み止まると、ヴィヴィオの事を優しく抱きしめた。

 

 

「だが、お前がママが居なくて不安で怖いと言うのであれば、私がお前のママになろう。最初からママが存在しないと言うのであれば、他の誰かがママになったとしても問題はあるまい?」

 

「え……貴女が、ママ?」

 

「なのはさんだけでは足りないと言うのであれば、私も貴女のママになりましょう。」

 

 

更に其処にクローゼがやって来て、背後からヴィヴィオを抱きしめる。

 

 

「もう何も怖い事はない……高町なのはと。」

 

「クローゼ・リンツが。」

 

「「お前(貴女)のママになる(なります)。」」

 

「なのはママと、クローゼママ……うん、分かった。」

 

「もうお前に怖い事をする人は居ない……目覚めて直ぐに大暴れして疲れただろう?だから、今は眠れヴィヴィオ。次に目を覚ましたその時は、お前にとって良い世界が出来ている筈だから。」

 

「うん……」

 

 

なのはとクローゼに抱きしめられた事で安心したのか、ヴィヴィオは其のまま眠ってしまった……此れは、デュナンも予想していなかった展開だろう。ヴィヴィオが倒される事は想定していたとしても、まさかなのはとクローゼの娘になるなんて事は予想出来る筈もないからね。

 

 

「眠ってしまったか……スマナイが回復アーツを掛けてくれるかクローゼ?太陽の魔力を浴びた魔力で構築した防護服の上からでも、相当なダメージを叩き込んでくれたからな……間違いなく胃が破けているな此れは。」

 

「無理はしないで下さいって言いましたよね?」

 

「約束しかねると言った筈だ。」

 

 

なのはは中々にヤバいダメージを負っていたようだが、其れもクローゼの回復アーツで即時回復してノープロブレム。普通の人間だったら、内臓破裂の即死攻撃も、神魔のなのはならば致命傷ギリギリの大ダメージで済んだみたいだ。

 

 

「其れで、此れから如何しますかなのはさん?」

 

「決まって居るだろう、デュナンを追ってそして討つ。

 幼き心に殺しの重責を負わせようとした奴には、死をくれてやらねば私の気が治まらん……輪廻の輪に加わる事も出来ぬように、奴の魂を欠片も残らぬように消滅させてくれる!」

 

「矢張りそうですよね……叔父様は、確実に討たねばなりません。リベールの未来の為にも!」

 

「そう言う訳だ……ヴァリアス、お前は此処でヴィヴィオを守れ。デュナンが健在である以上、また悪魔が現れないとも限らないのでな。」

 

「アシェルも、ヴァリアスと共にヴィヴィオを守って下さい。」

 

『ガウゥゥゥゥ……』

 

『グルル……』

 

 

そのダメージもクローゼのアーツで回復すると、なのははヴァリアスに、クローゼはアシェルに、『ヴィヴィオを守れ』と命令して、エレベーターで更に地下深くへと進んで行くので行った。

そして、なのはとクローゼと入れ替わるように京達がこの場に到着したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter22『地下空間の最深部~Semi Final~』

本日のセミフィナル……60分一本勝負を行います!Byなのは     セミファイナルも盛り上げて行きましょう!Byクローゼ


なのは達と入れ替わる形で、一夏達はグランセル地下の中部に到着していた――もう少し早かったらなのはとクローゼと合流出来ていた事を考えると、祐騎の開門に五分と言うのは結構大きなタイムロスだったのかもしれない。まぁ、祐騎は可成り良くやったとは思うがな。

その中部で一夏達を待っていたのは、白と黒の二体の龍と、その龍に守らるように横たわっていた、ハニーブロンドをサイドテールにした女性だった。

 

 

「ヴァリアス、アシェル、此の人は?」

 

『ガウ、ガウゥゥゥ……』

 

『グルゥ……シャァァ……』

 

「……成程、此の人はデュナンが用意した人造人間で、なのはさんと戦って、そんでもって色々あってなのはさんとクローゼさんの娘になって、今は眠ってるって訳か。

 でもって、なのはさんとクローゼさんに命じられて、お前達は此の人を守ってる、そう言う事だな?」

 

 

一夏の問いに答えるように、ヴァリアスとアシェルが低く唸るが、其れだけで一夏には何があったのかが分かってしまったらしい……洞察力に優れていると言うのは素晴らしい事ではあるが、ドラゴンの唸り声を理解出来る人間が、果たしてこの世にドレだけ存在するのやらだ。

『鬼の子供達』の中でも、最強レベルの一夏は割とぶっ飛んでいるのかも知れないな。

 

 

 

「なんだ坊主、お前なのは嬢ちゃんとクローゼ嬢ちゃんのペットの言う事が分かるのかい?」

 

『ゴガァァア!!』

 

『ガバァァァァァ!!』

 

 

 

――粉砕!玉砕!!大喝采!!!

 

 

 

そんでもって、軽口を叩いたダンテに、ヴァリアスの黒炎弾と、アシェルの滅びのバーストストリームが炸裂して、ダンテは衣服はノーダメージながら、肌だけがこんがり焼けると言う、此の上なく器用なダメージの受け方をしていた。

光と闇の最上級ドラゴンの攻撃を受けて、此れで済んでるダンテは、間違いなくクソチートキャラと言っても過言ではあるまいな……此の攻撃、普通の人間だったら遺体も残らずに消滅だからね。

 

 

 

「『ペットじゃなくて相棒だ』、ですって。

 ダメよ小父様、ドラゴンは神聖な生き物な上、彼等のような高位のドラゴンはプライドも高いのだから、ペット呼ばわりされたら其れは怒るわよ?」

 

「ソイツは、たった今身を持って知ったぜ。

 しかしそいつ等だけが居て、なのは嬢ちゃんもクローゼ嬢ちゃんも居ないとなると、二人は先に進んだって事か……其処の金髪嬢ちゃんには、頼りになる護衛が居るみたいだから、この場はそいつ等に任せて俺達は先に進むとするか。」

 

「言われるまでもなく、一夏達は先に行っちまったぜダンテ。」

 

「オイオイオイ、ったく最近の若い奴等はせっかちだねぇ?年長者の話ってのは最後まで聞くもんだ。」

 

 

取り敢えず、状況を確認した後に一行もなのはとクローゼを追って最深部に向かって行く……のだが、道中の機械兵や魔獣、人造悪魔等は既になのはとクローゼによって一掃されていたので、進む事に難は無く、此れならば直ぐに最深部に辿り着く事が出来るだろう。

尤も、余りにも退屈なので、ダンテと庵はストレスゲージが上昇しているみたいだが、そのストレスは最深部で思う存分発散してくれる事だろう……発散し過ぎて、地下空間の崩落と言う結果だけは勘弁願いたいモノではあるのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter22

『地下空間の最深部~Semi Final~』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

道中に現れた敵を、現れた端から強力な魔法とアーツで屠り倒し、なのはとクローゼは遂にグランセル城地下空間の最深部に辿り着いた。なのはは勿論、クローゼまでもが、『コイツ人間じゃねぇ』と言いたくなる位の威力のアーツを使っていたのには驚きである。

極稀に、魔法とアーツを潜りに抜けてくる敵も居るには居たのだが、そう言った連中はなのはにレイジングハートで打っ叩かれて粉々になるか、クローゼにレイピアで真っ二つにされてお陀仏だ……魚をベースに作られたカットラスの事を三枚下ろしにしたと言うのは中々にシャレが利いた倒し方であったと言えるだろう。

 

魔法やアーツを得意とする遠距離型のイメージのあるなのはとクローゼだが、この二人は近接戦闘に関しても並の人間よりも遥かに強かったりするので、機械兵や魔獣、人造悪魔程度ならば近接戦闘でも余裕で倒せてしまうのだ。

 

ヴァリアスとアシェル、二体のドラゴンの力が無くとも圧倒的であるのだが、逆に言うと其れは魔法もアーツも常に最強クラスのモノを使っていたと言う事であり、普通であれば体力も魔力も枯渇してしまう所だが、最深部に辿り着いたなのはとクローゼは息一つ乱れていなかった。

勿論、体力と魔力が無限状態になっていると言う訳ではなく、人造悪魔を倒した際に、体力を回復するグリーンオーブと、魔力を回復するホワイトオーブがレッドオーブと共に現われ、其れを得る事で消費した体力と魔力を回復出来たと言う訳である。

 

 

「この先に叔父様が……ヴィヴィオも相当に強い力を持っていたみたいですが、叔父様はあの場をヴィヴィオに丸投げして最深部に向かいました。

 つまり、最深部にはヴィヴィオすら凌駕する強大な力を持った切り札があると言う事だと思いますが……」

 

「其れが何であろうとも、私達は其れを越えてデュナンを討つだけだ……ヴィヴィオ以上の何かが出て来た所で、私達の敵ではない。

 そしてデュナン自身は、碌に武術の心得もない戦いの素人だからな……仮に奴が其の身に強大な力を宿したとしても、戦いのイロハも知らん素人では勝負にすらならん。豚が焼き豚になって終いだ。」

 

「……毒吐く時は容赦ないですね?」

 

「魔族の血を引いている故に、嘘になり兼ねない曖昧な言い回しは出来ないモノでな。」

 

 

最深部の細い通路を進んで行くと、突如視界が開けて広い空間に出た。

ヴィヴィオと戦った場所と比べても遜色ない位の広さのある場所であり、その奥には最深部の最奥部へと通じる階段が見えるのだが、その階段の前には執事風の格好をした老紳士とアルトアンジェロ、そして無数のビアンコアンジェロが陣取っていた。

 

 

「フィリップさん!?」

 

「知り合いか、クローゼ?」

 

「はい……あの老紳士は、フィリップさんと言って、叔父様の最側近だった方であり、嘗ては親衛隊の隊長を務めていた方です。

 現役を引退した後は、其の能力の高さをお祖母様に買われて叔父様の最側近となり、そして同時に叔父様のお目付け役でもあったのですが、叔父様がクーデターを起こして以降はその姿を見ていなかったんです。」

 

 

その老紳士――フィリップは、デュナンの最側近でありクローゼとも面識のある人物であった。

デュナンが皇太子であった時代は、何かと暴走しがちなデュナンの事を宥めつつ、デュナンが満足しながらも他者への被害が最小限になるように尽力していた人物なのだが、アリシア前女王の死後にデュナンが起こしたクーデター以降は姿が見えなくなっていたのだ。

 

 

「フィリップさん、私です。クローディア・フォン・アウスレーゼです。

 此の奥に叔父様が居るのですよね?でしたら道を開けて下さい……私は、此れ以上リベールを叔父様の好きにさせておく事は出来ないんです。ですから、道を開けて下さい!叔父様の最側近の貴方ならば分かりますよね?今の叔父様は普通でないと言う事が!」

 

「…………」

 

 

フィリップに向かってクローゼは、『道を開けろ』と言うが、フィリップは其れには応えず、代わりに眼鏡の奥の瞳が怪しく光り、次の瞬間フィリップを中心に凄まじいまでの魔力の嵐が吹き荒れ、其れが治まるとフィリップはその姿を変えていた。

右肩からは大きな白い翼が生え、右手には黄金の剣を握り、左腕には全身を覆う事が出来るであろう巨大な盾を装備し、全身は純白の鎧で覆われている……一見すると天使の騎士の様だが、其の身からは禍々しい魔力が放たれている。

 

 

「フィリップさん!」

 

「此れは……一体如何言う事だ?」

 

 

予想外の事態に、なのはとクローゼも少しばかり動揺してしまったが、其れも仕方ないと言えるだろう。

魔族や悪魔との混血と言う存在であれば、『デビルトリガー』と言われる力を発揮する事で、人外の姿に変身する事が出来る場合もあるのだが、フィリップは普通の人間であるので姿を変える事など出来ないのだ。

『変身魔法』と言うモノもあると言えばあるのだが、其れでも此処まで完全なる別物になると言うのは不可能だ。変身魔法は、何処かしらに変身前の特徴が出てしまうモノであるのだから。

 

 

「コイツは、帰天だな。デュナンの奴、何処で知ったか知らないが、人間を悪魔化する方法を見付けてやがったか。」

 

「ダンテ……其れに一夏達もか。」

 

「ダンテさん、皆さん……」

 

 

その疑問に答えたのは、なのはとクローゼに追い付いたダンテだった。

ベリアルのセリフから、デュナンが己に悪魔の力を宿そうとしていると言う事を知ったダンテは、『若しかしたら、デュナンの部下の何人かは悪魔になってるかも知れないな』と思っていたのだが、その予想は大当たりだったらしい。

 

 

「とは言っても、そいつは帰天した影響で、一時的に自我を失ってるだけだから、ぶっ倒して強制的に帰天状態を解除してやれば正気を取り戻す筈だ……まぁ、鎧の奴等は手遅れだろうけどな。」

 

「オッサン、鎧の奴の中身って悪魔の魂だって言ってなかったか?」

 

「市街地に現れた奴はな。

 ここに居る奴等は、帰天した王国軍の奴等が鎧を着込んでいやがる……市街地に現れた奴等とは、見た目は同じでも其の力には雲泥の差が有るってモンだ。」

 

 

更に最悪な事に、アルトアンジェロとビアンコアンジェロは、市街地現れた『鎧に悪魔の魂を詰め込んだ存在』ではなく、帰天した王国軍の兵士が鎧を纏っていると言うのだ……リシャール率いる情報部の兵士と比べれば可成り質が落ちるとは言え、腐っても王国軍の兵士が悪魔化した存在が鎧を着込んで居ると言うのであれば、確かに市街地に現れたのとは一線を画す力があると言えるだろう。

尤も、アルトアンジェロとビアンコアンジェロの中身は手遅れ――倒しても正気を取り戻す事は無く、悪魔として散る以外の選択肢は無いようだが。

 

 

「コイツ等は俺達が引き受けるから、なのはさんとクローゼさんはデュナンを!」

 

「露払い……にしては、些かメンバーが豪華過ぎるかも知れないが、メインイベントを盛り上げるのもセミファイナルを任された演者の役割だからな。精々派手に燃やしてやるぜ!足引っ張んなよ八神!」

 

「誰に物を言っている京……余りにもふざけた事を言っていると殺すぞ?」

 

「元々京さんを殺す気満々のくせに、彼は何を言ってるのかしらねぇ……京さんの将来の義妹として、貴女は如何思うかしらエステルさん?其れとレンちゃんも。」

 

「刀奈、此処でアタシに振る!?」

 

「レンは、彼の京に対する『殺す』は、最早挨拶みたいなモノだと思ってるわ♪」

 

「だとしたら物騒極まりないよね……」

 

 

此処で一夏がなのはとクローゼに『先に行け』と、啖呵を切ってフィリップと無数のアンジェロに電刃波動拳を放つと、其れに続いて京が裏百八式・大蛇薙でアンジェロ達を焼却処分!鉄製の鎧をいとも簡単に溶解してしまうとは、草薙の炎の凄まじさが如何ほどかが分かると言うモノだ。

刀奈の問いに対して、エステルは突っ込み、レンは冷静に答え、ヨシュアはレンの答えに突っ込みを入れていたのだが、其れは其れが出来るだけの余裕があると言う証でもあり、圧倒的な数の差を前にしても其処に一切の焦りと言うモノは存在していなかった。

 

 

「行けよ、なのはさん、姫さん!おぉりゃぁぁぁぁ……イグニス・ブレイク!!」

 

「志緒……恩にきる。行くぞクローゼ!」

 

「はい!」

 

「ナイアルさんとドロシーさんも!貴方達が見届けるべきは、僕達の戦いじゃなくて彼女達の戦いの筈です!」

 

「ヨシュア……確かにその通りだな!行くぞドロシー!リベールが変わる瞬間、まかり間違っても撮りこぼすんじゃねぇぞ!」

 

「合点承知の助です!」

 

 

なのはとクローゼの行く手を阻んだアンジェロ達は、BLAZEのリーダーである高幡志緒が二段ジャンプ、『エアハイク』からの『イグニス・ブレイク』で鎧袖一触し、最奥部への道を切り拓く。

志緒も武術の心得はマッタク無いのだが、子供の頃から理不尽で不条理な事があれば、其れに対して喧嘩を売ってぶちのめして来たので、実戦経験は豊富で、武術の心得が無くともクソ強いのである。パワーだけならば、ダンテをも上回っていると言うのだから恐ろしい事この上ないだろう。

更に、此の面子の中では誰よりも速いヨシュアがアンジェロ達を攪乱し、ナイアルとドロシーを最奥部へと向かわせる――現王のデュナンが討ち倒される瞬間は、確かに絶対に記録せねばならない事だろうからね。

 

 

「そんじゃ、俺達も始めるとするか爺さん?神聖なる存在と言われている天使様と、こうして出会えた上に戦える……こんな幸運、滅多にないからな――イカレタパーティのセミファイナル、開幕だぜ!」

 

「……!」

 

 

帰天したフィリップはダンテと睨み合っていたのだが、ダンテが天井に向かって一発発砲したのを皮切りにダンテに斬りかかる!……が、ダンテは其れをサイドロールで回避すると、突進突き『スティンガー』を繰り出す!

其れは完璧なカウンターであり、普通ならば必殺になるのだが、フィリップは左腕の盾で其れを防ぐ……帰天したフィリップの実力は、アンジェロ達とは比べ物にならない位に高いと言っても良いだろう。

 

 

「コイツを防ぐとは、中々やるじゃないか……如何やら、アンタの相手をするにはリベリオンじゃ足りないみたいだな――だったら、コイツは如何だ?」

 

 

其れを見たダンテは、リベリオンに魔力を注ぎ、その姿を変える。

両刃の長剣だったリベリオンは、片刃の大剣へと姿を変えたのだが、変わったその姿は一般的な『剣』とは多きく異なる存在だったが、此れこそが伝説の魔剣士・スパーダが使っていた『魔剣スパーダ』なのだ。

本来は、スパーダの封印状態であるフォースエッジに、ダンテと双子の兄であるバージルに託されたアミュレットを融合させる事で解放される魔剣なのだが、ダンテはフォースエッジを、リベリオンに融合させており、バージルのアミュレットも持っているので、スパーダの封印を解く事が出来たのだ。

 

 

「此処からの俺は、少し強いぜ爺さんよ。」

 

 

スパーダの切っ先をフィリップに向け、ダンテは不敵な笑みを浮かべる……生きながらに『伝説のデビルハンター』と称されるのは伊達ではないと思わせるだけの迫力が其処には有った。

セミファイナルの戦いも、可なり派手になるのは、もう間違いないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

最深部の最奥部までやって来たなのはとクローゼを出迎えたのは、見えている上半身だけで5~6mはあるのではないかと言う位に巨大な像だった……人型でありながらも、頭部の角と、背の翼が其れが人でない事を示していた。

 

 

「城に地下空間があったって事だけでも驚きなのに、何なんだよ此処は?まるで、遺跡其のモンじゃねぇか……この空間だけで、一つ記事が書けそうだぜ。」

 

「其れもそうですけど、あれって一体何の像なんですか~~?神様だったりするんですかねぇ?」

 

「あの見た目は、お世辞にも趣味が良いとは言えんが……其れよりも、隠れていないで出てこいデュナン!此処に居るのは分かっているぞ!!」

 

「この期に及んで、隠れていると言うのは潔くないですよ叔父様。」

 

 

其処にデュナンの姿は見えなかったが、なのはが一喝し、クローゼも其れに続くと、物陰からデュナンが現れた――その顔に、此の上ない位の邪悪な笑みを浮かべた状態でだ。

 

 

「良くぞ此処まで辿り着く事が出来たと、先ずは褒めておこうクローディア。そして、黒衣の魔導師よ。

 よもやヴィヴィオを倒し、帰天したフィリップすらも退けて余の前に立つとは……少しばかり、お主達の力を見誤っていたと言わざるを得まい。……矢張り、最後は余が自ら手を下さねばならないようだ。」

 

「悪いがヴィヴィオは倒していない。彼女の不安と恐怖を取り除いてやった上で、今は私とクローゼのドラゴンに守られて、あの場所で眠っている。フィリップは、私の仲間達が戦っているところだが、まぁそう時間は掛からずに勝負が決まるだろう。」

 

「叔父様、残るは貴方だけです……市街地は制圧しましたし、ヴィヴィオも最早貴方の駒ではありません。

 フィリップさんと鎧の悪魔は、一夏君達が必ず倒す筈――もう貴方に勝ち目はありません。大人しく降参して下さいませんか?お祖母様だって、私と叔父様が争う事を望んではいない筈です。」

 

「ふ、其れは出来ん相談だなクローディアよ。」

 

 

現れたデュナンに、戦況がどうなっているかを話し、負けを認めるように言うクローゼだが、其れでもデュナンに退く気はないらしい……デュナンからしたら圧倒的に不利なこの戦況を引っ繰り返すだけの切り札があると言う事なのだろう。

状況は正に一触即発と言った感じで、ナイアルとドロシーも固唾を飲んで状況を見守っている……その状態でもメモ帳にペンを走らせているナイアルと、シャッターを切っているドロシーのプロ魂には脱帽だが。

 

 

「戦うしかない、か……元より、話し合いでの解決など出来るとは思ってないがな。

 だが、戦う前に私の質問に答えろデュナン。魔獣は、訓練する事で人が使う事は可能だが……貴様、人工的に悪魔を作る方法と、人に悪魔の力を植え付ける方法を何処で知った?此れは、間違いなく禁術の類だろう?」

 

「其れと、この地下空間に配備されていた機械兵、アレは一体何なのです?」

 

「答えてやる義理は無いのだが……まぁ良い、此処まで辿り着いた褒美と、冥途の土産に教えてやろう。

 まず機械兵だが、この地下空間が太古の遺跡である事は知っていよう?あの機械兵もまた、太古の遺物よ……完全に機能を停止していたのだが、此の最深部にアレをコントロールする為の装置があってな、其れを使って再起動し、余の命令に従うようにセッティングしたのだ。

 そして人造悪魔の作り方と帰天の方法は……其れを話すには、余に起きた事を話す必要があるか。

 伯母上が亡くなる数週間前から、余にだけ聞こえる声が語り掛けて来たのだ……『此のまま、あの小娘にリベールの王位を渡してしまって良いのか』とな。

 余も最初は、幻聴かと思っていたのだが、その声は日に日に強くなり、次第に余はクローディア、お主がこの国の新たな王になる事に否定的な感情を持つようになった……そして、伯母上が亡くなった時に、その感情が爆発してお主を幽閉し、余が新たな王となった。

 だが、王となれば力が必要になる……余が雇った傭兵団は、ソコソコ使える連中であり、余の警護をするだけならば充分であったが、一国の王には更に強い力が必要になる――そう考えた時、余に語り掛けて来た声が、人工的に悪魔を作り出す方法と、人に悪魔の力を宿す方法を、帰天の方法を教えてくれたのだ!」

 

 

人造悪魔と帰天、そして機械兵士の事を聞くと、意外なほどにアッサリと口を割ってくれた……のだが、其れを聞いたなのはの目付きが鋭くなった。今の話を聞いて、デュナンへの嫌悪感が増したのだろうか?

 

 

「もう一つだけ教えろ。デュナン……貴様も帰天しているな?」

 

「如何にも!余は人でありながら悪魔の力を宿し、そして此れより神となるのだ!!」

 

「矢張りそうだったか……デュナン、貴様喰われたな。」

 

「喰われたって、如何言う事ですかなのはさん?」

 

「簡単な事だよクローゼ。

 デュナンに語り掛けて来たのは、悪魔界の悪魔だ。野心を持ってはいるが、自分の力では悪魔界を掌握する事は出来ないと考えて、人間界を掌握しようとした奴だろうな。

 悪魔と言うのは、人の闇を増幅させる事に長けている奴も居るのだが……デュナンには少なからずお前がリベールの王になる事に対する不満があったのだろう、その不満を増幅させ、そしてお前を幽閉してデュナンが新たなリベールの王になるように誘導し、人造悪魔の製造方法と帰天の方法をデュナンに教え、デュナンが帰天する際にデュナンに憑りつき、其の存在を乗っ取ったんだ。

 アレは、デュナンの姿をした別の存在だ。」

 

「そんな……!」

 

 

デュナンが帰天していると言う事を確認したなのはは、デュナンの凶行の原因は何であるのかを一気に看破して見せた……アリシア前女王の死後に起きたクーデターも、クローゼの幽閉も、全てはデュナンの心の闇に入り込んだ悪魔の仕業だったのだ。

 

 

「全ては貴様の目論見通りだったのだろうが、私の存在を知らなかった事が貴様の敗因だ……コソコソと人を操る事でしか己の目的を果たす事が出来ない雑魚が、まさか魔王と熾天使の血を引く私に勝てると思っている訳ではなかろうな?

 悪魔界は、種族の格など関係なく、力が全ての弱肉強食の世界だと聞く……ならば、お前には分かるだろう?私とお前の間にある圧倒的な力の差と言うモノが。」

 

 

此処でなのはは、己の中の魔族と神族の力を開放!

背には白と黒の翼が四枚現われ、瞳が金色に輝く……なのはの本気モードである神魔の状態なっただけでなく、クローゼも先の戦いで覚醒した力を開放して、その背に魔力で構成された白き翼が現れる。

 

 

「こりゃスゲェ……撮ってるかドロシー!」

 

「勿論です先輩!バッチリ撮ってますよぉ!!」

 

 

ナイアルとドロシーのプロ魂は、以下略。

神魔状態のなのはと、先祖の力を開放したクローゼの発する魔力は凄まじく、なのはの周囲には漆黒と黄金のオーラが、クローゼの周囲には純白のオーラが現われてスパークしている。

並の相手ならば、此れだけで敵前逃亡して居る位にその姿は威風堂々としており、闇の女帝と光の皇女の揃い踏みと言った感じである。

 

 

「ククク……ならば、余も見せてやろう。余の真の切り札と言うモノを!」

 

 

其れに対し、デュナンは帰天したが、その姿は変わらずに禍々しい闇のオーラを纏った状態となり、そして背後にある巨大な像の胸部が開き、其処から無数の触手が伸びて来てデュナンに絡みつき、其の身を取り込んで行く。

取り込まれたデュナンは、生きながらに其の身を細胞レベルで分解されると言う苦痛を味わいながらも像と融合して絶大な力を得て行く……デュナンが人間のままだったら到底耐える事は出来なかっただろうが、帰天して悪魔となった事で耐えられたのだろう。

 

そして――

 

 

「…………」

 

 

像の目が怪しく光った次の瞬間、最奥部の景色は一変し、この星の外――満点の星空を思わせる空間へと変わったのだった。空間其の物を変えてしまうとは、デュナンを乗っ取った悪魔は、デュナンの持つ魔力をも吸収して、可成りの力を身に付けているらしい。

デュナン自身は碌にアーツも使う事が出来なかったのだが、アウスレーゼの系譜として高い魔力は秘めていたので、悪魔にとっては良い餌でもあったのだろう。

 

 

「此処が最終決戦の場か?……ふむ、悪くない。この広大な星空を貴様の墓標にしてやろうではないか……暗黒の炎に焼かれて死ね!」

 

「悪魔に乗っ取られてしまったのでは、もう救う術は存在しませんか……ならば、私は貴方を討ちます!御覚悟下さい、叔父様……!」

 

 

だが、なのはもクローゼも其れに怯む事無く、なのははレイジングハートを、クローゼはレイピアを像と融合したデュナンに向け、更に己の中の魔力を完全開放して、其の身に纏うオーラが強化される。

 

 

「これが最終決戦だ……行くぞクローゼ!」

 

「はい、なのはさん!」

 

 

そして、なのはがレイジングハートを構えて突撃すると同時に、クローゼもレイピアに魔力を込めて突撃する――リベールを巡る最終決戦のゴングが、今正に打ち鳴らされたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter23『地下空間の最奥部~Final Round~』

本日のメインイベント……時間無制限一本勝負を行います!Byなのは     メインイベント……バッチリ決めないとですねByクローゼ


グランセル城の地下空間での最深部での戦いはその激しさを増していた。

帰天したフィリップはダンテが対処しているのだが、無数のアンジェロは一夏達が対処しており、圧倒的な数の差が有るので実力では勝っても楽勝とは言えない状況となるのが普通なのだが……

 

 

「おぉぉぉ……喰らいやがれ!!」

 

「むぅぅぅん……楽には死ねんぞ!!」

 

「オォラァ!イグニス、ブレイク!!」

 

 

京、庵、志緒の炎使い三人が無双していた。

京が大蛇薙でアンジェロを薙ぎ払えば、庵が八酒杯でアンジェロの動きを封じた所に、志緒のイグニス・ブレイクが炸裂してアンジェロを鎧袖一触!同じ属性ってのは、普通はバランスが悪いモノなのだが、此の三人に限ってはその限りではないのだろう。

 

 

「ヨシュアさん、あの三人とオッサンだけで如何にかなるんじゃないかと思っちまうってのは流石に期待し過ぎか?」

 

「其れは仕方ないよ一夏。僕も少しだけそう思ったからね。」

 

 

一夏だけでなく、ヨシュアもそう思ったのならば其れは間違いなかろうな……実際に、炎組が無双しているだけじゃなく、ダンテは帰天したフィリップと互角以上に遣り合っている訳だからね。

帰天したフィリップの攻撃は正気を失っているとは思えない程に苛烈で緻密なモノだったが、便利屋仲間の間で生きる伝説となっているダンテは焦る事なく冷静に其れを捌いて行く……便利屋&デビルハンター稼業を初めて三十年近い経験と言うのは伊達ではないのだ。

 

 

「やるじゃないか爺さん。此れだけ骨のある相手ってのは久しぶりだ。

 だからこそ、悪魔なんて言う掃き溜めのゴミに堕ちちまうのは勿体ないってモンだ。俺が本気で遣り合ってみたいと思ったなんてのは、アンタで三人目だが……出来れば悪魔としてじゃなく人間のアンタと遣り合いたい気分だぜ。

 なぁ爺さん、アンタのその剣の腕は何の為に磨いたモノだ?少なくとも、デュナンのクソみたいな野望を達成させる為のモノじゃなかった筈だ。違うか?」

 

「…………」

 

「……アンタ自身も其れは分かってるが、もう自分じゃ如何にも出来ないって感じか。なら安心しな、今俺が助けてやる――悪魔になっちまった奴を助けるなんて事は何時もはしないんだが、アンタに限っては特別だぜ?」

 

 

其処まで言うと、ダンテはスパーダをフィリップに向かってブーメランのように旋回させながら投げ付ける……ラウンドトリップと言う剣技の一つであり、剣と他の攻撃との波状攻撃を行う為の技だが、スパーダで其れを使った場合は攻撃範囲が非常に広くなり剣が対象以外も巻き込む効果が大きくなるのが特徴だ。

現に、フィリップの近くに居たアンジェロは巻き添えを喰らって切り刻まれているのだ……フィリップは左腕の盾でガードしているが。しかし、其処にギルガメスと言う近接格闘用の武器を装備したダンテが突撃し、ストレート→ボディブロー→ミドルキック→後回し蹴り→ハイキック→踵落とし→ジャンピングアッパーのコンボを叩き込んでフィリップを吹き飛ばし、スパーダをキャッチするとスティンガーからの連続突き『ミリオンスタブ』を喰らわせてフィリップが纏う鎧を切り刻み、トドメに渾身の兜割りを決めてターンエンド。

この猛攻を受けたフィリップは鎧が砕け、そして帰天も解除されて人の姿に戻る……気を失っているようだが、目が覚めた時には正気を取り戻している事だろう。ダンテもスパーダをリベリオンに戻して、『何とかなったか』と言った表情だ。

 

 

「オジ様の方は何とかなったみたいね?なら、私達は残りをお掃除しちゃいましょ。」

 

「そうしましょうかレン?皆、全力で行くわよ!!」

 

 

此れで残るはアンジェロ達だけなのだが、エステルが仲間を鼓舞し、更に全員に加速魔法『ヘイスガ』を掛けて強化した事で戦況は有利になるだろう……なのはと出会ってから魔法を習得したばかりのエステルの魔力をすり減らす高度な魔法だが、その効果は充分で、元々普通よりも遥かに速かったヨシュアの動きは、もうあり得ないレベルのモノになってしまっている位である。

取り敢えず、地下最深部大アリーナでの戦いは、ゴールが見えたと言った感じになったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter23

『地下空間の最奥部~Final Round~』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

変異した最奥部の空間……『魔天』とも言うべきその空間では、リベールを巡る戦いの最終決戦が行われていた。

戦いには無関係であるナイアルとドロシーは、ガラスの様な透明なシールドに包まれているが、此れは最奥部が『魔天』へと変わった直後になのはが二人を保護する為に張ったモノだ。自分とクローゼが全力で戦えるように、非戦闘員である二人を安全圏に置いたと言う事だろう。戦場に於いて、報道者の安全を確保するのも大事な事なのである。

 

 

「オイオイ、俺達は一体何を見せられてるんだ?

 デュナンが人間じゃなくなっちまったのは理解したし、なのははそもそも神族と魔族のハーフだからトンデモねぇ力を持ってるのもマダ分かる。だが、クローディア殿下は普通の人間だった筈だろ!何だって、あんなスゲェ威力のアーツを連発出来んだ!?しかも駆動時間略ゼロで!!」

 

「なのはちゃん達と一緒に居る間に滅茶苦茶強くなっちゃったんじゃないですかね~~?王族の方々は強い魔力を其の身に秘めているって話ですし~~~。」

 

「其れを言ったら身も蓋もねぇけどよ!?」

 

 

戦いの方は、デュナンが額や胸にあるクリスタル状の部分からビームや巨大な魔力弾を放ったり、両手から細かい槍のような魔力弾を放って攻撃し、対するなのはとクローゼは其れを回避しながら直射砲やアーツを放っていた。

なのはとデュナンの攻撃も強力だが、アウスレーゼの血が覚醒して上級神族に近い魔力を手に入れたクローゼのアーツもまた強力であり、人間が放てるアーツの現在の限界値を遥かに超える威力だった。ナイアルが驚くのも当然と言えば当然だろう。

 

 

「ストームプロミネンス!!」

 

 

更にクローゼは、複数アーツの同時発動と言うトンデモナイ神技をも使って来た。

複数のアーツを同時に使うと言うのは理論上は可能だが、同時使用数が多ければ多い程駆動時間が長くなるので普通はやらない事し、そもそもやろうとすら思わないのだが、クローゼは略駆動時間ゼロで全てのアーツを使う事が出来るようになっている為、最上級アーツの複数同時使用が可能になっているのだ。

なのはの魔法も、クローゼのアーツも、夫々が必殺の威力を誇っており、並の相手だったら余波を受けただけで派手に吹っ飛ばされてシャレにならないダメージを受けるのは間違いないだろう。

 

だが、其の攻撃はデュナンに着弾する前に波紋のように搔き消えてしまう……そう、デュナンは其の身を不可視のバリアで包んでいるのだ。

悪趣味な像と合体して巨大化したデュナンだが、巨大化はメリットとデメリットがハッキリしている形態変化だ。

巨大化した事で得られるメリットは単純に攻撃力の増加が先ず挙げられるだろう。巨大化すれば、普段は牽制に使われるジャブやロ―キックも必殺技になるだけではなく拳や足を振った際に生じる風圧ですら武器になるのだから。

しかし攻撃力が爆増した反面、巨大化した事で全体の動きが重くなって技を見切られやすい上に、相手の攻撃を回避し辛いと言う途轍もなく大きなデメリットを有してるのが巨大化だ。相手からしたら、的がデカくなったので当て放題な訳である。

 

そのデメリットがあるからこそ、デュナンは体術を一切使わずに、そしてその身をバリアで包んで戦っているのだ。自分は安全な場所から攻撃出来ると言うのは、アドバンテージがあるってレベルではないだろう。

 

 

「マッタク持って厄介なバリアだが、逆に言えばそのバリアさえなくなってしまえばコイツは丸裸と言う事でもあるか……バリアを破壊する方法ならば幾らでもあるが、此処はシンプルながらも効果があるので行ってみるか。

 クローゼ、私の攻撃を追え。」

 

「攻撃を?……成程、そう言う事ですか。行きましょう、なのはさん!」

 

 

バリアに包まれたデュナンに対し、なのははバリアを破る方法を決めると、デュナンにバレないように暈かしてクローゼに伝えると、クローゼもなのはの考えを理解したらしく、頷いて了承の意を示す。正に以心伝心と言う奴だ。十年前に繋がり、十年の時を経て結ばれた絆は伊達ではないのである。

其処からなのはとクローゼは、デュナンの攻撃を回避しながら魔法とアーツを放って行ったのだが、此れまでとは違ってなのはが攻撃した場所をクローゼが攻撃すると言う一点集中攻撃に切り替えていた。

そう、此れこそがデュナンのバリアを突破する為になのはが選んだ方法だ。

全てのモノがそうであるように、魔力で構成されたバリアもまた同じ場所に何度も衝撃を与えられたらその部分が脆くなって、何時かは壊れてしまうのだ……東方には『雨垂れ岩をも穿つ』と言う言葉があるが、なのはとクローゼは正にそれをやろうとしているのだ。

無論、其れはデュナンにも気付かれる可能性はあるが、なのはは時折誘導弾で別の場所を攻撃して本命を悟られないようにすると言うトリックプレイも織り交ぜているのでデュナンは真の思惑には気付く事が出来ていないようである。

 

 

「無駄無駄!お主等の攻撃は余には通じん!諦めて大人しく余の前に平伏するが良い!」

 

「偉そうに吼えるなよぶくぶく太った醜い野豚が。豚は豚らしくブヒブヒ鳴いていろ。……いや、豚は意外と知能が高く、実は体脂肪率は低いのだったな。貴様を豚と言うのは豚に失礼だったな。豚にお詫びして訂正しておかねばだ。」

 

「叔父様、その余裕が続くのも此処までです。」

 

 

仕上げになのはが三連射の直射砲を、クローゼが時・幻・空の最上級アーツを同時に放って、デュナンを覆っていた不可視のバリアを完全に破壊する……破壊された瞬間にだけ、ガラスが砕け散ったように見えたと言うのは若干謎ではあるが。

だが、此れでデュナンを守るモノは無くなり、なのはとクローゼの攻撃は有効になる訳だ。

 

 

「馬鹿な、余の防御壁が破られただと!?……あちこち攻撃している様に見せかけて、実は一箇所を集中攻撃していたと言う事か……小癪な!」

 

「戦いの素人では気付く事は出来なかったようだな?

 それにしても三連射の直射砲……なたねの得意技を見様見真似でやってみたが、成程これは中々に使えるな?連射するだけに一発一発の威力は低くなるが、総合的な威力は単発の直射砲を上回ると言う事か。

 何にしても、此れで貴様は丸裸だ。覚悟は出来ているなデュナン!」

 

「今此処で、貴方を倒します叔父様!」

 

 

バリアが無くなってしまえば、なのはとクローゼは攻撃し放題だ。

巨大化した相手と言うのは、ある意味で『何処に打っても当たる』的でしかないのだ……勿論、巨大化した事で耐久力も上がっているので、そう簡単に倒す事は出来ないのだが、攻撃が当て放題と言うのは此の上ないアドバンテージとなるだろう。

 

 

「ディバイィィィン……バスター!!」

 

「カラミティテンペスト!!」

 

「グヌオォォォォ!!」

 

 

なのはとクローゼの攻撃を真面に喰らったデュナンの巨体は揺らぎ、決して安くないダメージを負ったみたいだが、其れでもデュナンは態勢を立て直すと、胸のクリスタル状の器官から強烈なビームを放つ!

このビームも、真面に喰らったら一撃で戦闘不能にされるのは間違いなく、それこそ一撃でグランセル城を灰燼に帰す事が出来る破壊力があるだろう。

 

 

「其の攻撃は拒否します!アウスレーゼ防御の奥義、聖なるバリア-ミラーフォース!」

 

 

そのビームも、クローゼが張ったミラーバリアに跳ね返されてデュナンの胸のクリスタル状の器官を貫く結果に……そしてその効果は絶大だった。

デュナンの額と胸に存在するクリスタル状の器官は、デュナンの魔力を増幅させるモノであると同時に、デュナンの生命力が集まっている弱点でもあったのだ……その弱点を貫かれたデュナンは苦しんだが、その次の瞬間には右腕を大きく振り下ろして無数の隕石を降らせて来た。

なのはもクローゼも、其れを華麗に回避して行くが、その中で回避不能レベルの巨大な隕石が降って来たので、なのははクローゼを抱き抱えるとバリアを張って隕石を防ごうとする。

が、バリアは破られずとも、隕石の圧力には勝てずに其のまま魔天から叩き落される事に。

 

 

「ガハ……くぅぅ、流石に効いたな此れは。」

 

「あの、大丈夫ですかなのはさん?」

 

「人間だったら死んでいただろうが、魔族と神族のハーフである私には、此の程度の事では致命傷にはならんさ……それよりも、私にとってはお前の無事の方が遥かに重要な事だよ。怪我はないかクローゼ。」

 

「なのはさんがクッションになってくれたお陰で、この通り無傷です。」

 

 

辿り着いた先は、先程までとは打って変わって、マグマが煮立っている火山が複数存在している場所だった。先程までの空間が『魔天』と言うのでれば、今度のステージは差し詰め『魔獄』と言った所か。

そんな場所に、なのはとクローゼに遅れてデュナンは姿を現した。つまりは、最終決戦の第二ラウンドと言う訳である。

 

 

「第二ラウンドか……良いだろう、此処に貴様の墓標を建ててやる。自らが用意したマグマに焼かれて死ぬが良い。」

 

「此処で終わりにさせていただきます、叔父様!」

 

 

なのははレイジングハートを、クローゼはレイピアをデュナンに向けて終幕を宣言する……此れは、第二ラウンドではなくファイナルラウンドであると言う事だろう。リベールを巡る戦いも、いよいよクライマックスである様だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

なのはとクローゼがデュナンと遣り合ってる頃、一夏達の方も戦局が動いていた。

全てのアンジェロを倒したのだが、その直後に倒したアンジェロが鎧ごとドロドロに溶けだして、そして一つに纏まった何とも形容し難い異形のモンスターへと変貌してしまったのだ。

巨大な身体には無数の触手が生え、身体のあちこちに目が存在していると言う、生理的に受け付けない見た目をしているのだ。

 

 

「何でそうなるんだよ……こう言っちゃなんだが触りたくねぇな?」

 

「混沌其の物と言った所か……触ったら手が腐りそうだ。」

 

「煮ても焼いても食えそうにねぇが、だからと言ってグダグダ言ったって始まらねぇでしょう?京さん、アインスさん、俺が先陣を切らせて貰いますよ!」

 

 

そんな相手に先ずは志緒が突撃!

迫りくる触手を切り払いながら近付き、本体を一閃すると、其のまま連続で斬り付け、ハイジャンプから落下速度と体重をフルに乗せた一撃を叩き込む!と同時に、洸、璃音、明日香、空、祐騎、美月とBLAZEのメンバーが次々と己の最大必殺技を叩き込んで行く。

 

 

「取って置きを見せてあげる!はぁぁぁぁ!……まだまだぁ!奥義、太極輪!」

 

「行くよ!ハァァァァァ……秘技、ファントムレイド!……そのまま眠って良いよ。」

 

「此れに耐えられるかしら?」

 

 

続いて、エステルが棒術具で遠心力たっぷりの一撃を喰らわせた後に棒術具にエネルギーを集中させてから超高速移動して敵の周囲に巨大なエネルギーの渦を発生させてダメージを与え、ヨシュアは分身が見えるほどの超高速移動から目にも映らない超高速の連続斬りを決め、レンは大鎌を一閃して切り裂く。

 

 

「行くわよロラン!氷河……」

 

「風神……」

 

「「波動拳!!」」

 

「行きます!はぁぁぁぁぁ……せいや!」

 

「トルネード!どりゃぁぁぁぁぁ!せい!」

 

 

休む間もなく、刀奈とロランが合体波動拳を叩き込み、ヴィシュヌは一足飛びで敵との間合いを詰めると、無数の蹴りを叩き込んでから変則の二段飛び蹴りを喰らわせてフィニッシュし、グリフィンは拳と蹴りの乱打の後に変形式の竜巻旋風脚をブチかます。

此れだけでも充分なダメージだが、此れで終わりではない。

 

 

「おぉぉぉぉ……燃え尽きろぉ!!」

 

「精々苦しみ藻掻くが良い!」

 

 

京が最終決戦奥義・十拳を、庵が裏百式・鬼焔を叩き込んで派手に燃やす!特に京は、草薙流の究極奥義の大盤振る舞いだ。……無式ではなく十拳を使ったのは、相手がオロチではなかったからだろう。

 

 

「此れでも喰らえ!サンダーボルト!!」

 

 

更にアインスが追撃の雷を叩き込む……此れだけの猛攻を喰らってもまだ消滅しない敵のしぶとさには、いっそ感心しても罰は当たらないだろう。帰天した兵士の成れの果てと言うのは、思った以上に頑丈である様だ。

 

 

「そのしぶとさは褒めてやるが、往生際が良くないのは褒められたモノじゃないな?そろそろ大人しく眠っときな。せめて良い夢が見れるように、俺が手伝ってやる。」

 

「もう終わりにしようぜ。」

 

 

息を吐く暇もなく、ダンテが連続斬りからのミリオンスタブに繋ぎ、大振りの斬り付けを叩き込み、一夏は鞘当て→鞘打ち→居合いのコンボを決めてから逆手の連続居合いを喰らわせ、最後にゼロ距離での電刃波動拳をブチかましてターンエンド。

 

だが、此れだけの攻撃を喰らってもまだ敵は戦闘不能にはなっていない……複数の帰天した兵士が融合した事で、生命力が予想以上に爆増しているのだろう。だとしたら何とも面倒な相手なのだが……

 

 

 

――キィィィィン……

 

 

 

突如、その場に魔法陣が現れたと思ったら……

 

 

「アシェル!ヴァリアス!アレをフッ飛ばして!!」

 

『ガァァァァァァァ!!』

 

『グゴォォォォォォォ!!』

 

 

中階層に居た筈のヴィヴィオと、ヴィヴィオを守っていたヴァリアスとアシェルが現れ、ヴィヴィオの命を受けた二体のドラゴンは強烈な火炎弾とブレスを放って、混沌とした敵を粉砕!玉砕!!大喝采!!!

如何にしぶとい敵であっても、上位のドラゴンの必殺攻撃を受けたら一溜りも無かった様だ。

 

 

「最後の最後で美味しい所を持って行くとか、やるじゃないかお嬢ちゃん。」

 

「目が覚めたんだな?……てか、お前転移魔法使えたんだ?」

 

「私は一通りの魔法は使えるんだ……そう言う風に生み出されたから。」

 

 

中階層で目を覚ましたヴィヴィオは、転移魔法で最下層までやって来たのだ……デュナンに、生体兵器として生み出され、兵器としての性能だけを求めた結果、あらゆる魔法を使えるようになったヴィヴィオだが、其れをこんな形で使う事になるとはヴィヴィオ自身も考えていなかっただろう。

だが、其れはなのはとクローゼがヴィヴィオを兵器ではなく、一人の人間として受け入れたからこそ起きた事だろう……目を覚ましたヴィヴィオは、二人の『ママ』が居ない事が不安になり、なのはとクローゼの魔力を探して、そしてこの最下層に転移して来たのだから。

 

 

「其れよりも、ママは、ママは何処?」

 

「慌てるなよ嬢ちゃん。お前さんのママ達は、悪いオジサンを懲らしめてる真最中だ。心配しなくても、お前さんのママ達は滅茶苦茶強いから、きっと直ぐに悪いオジサンを懲らしめて戻って来る筈だ。

 だから、ママ達が戻って来たら最高の笑顔で出迎えてやるんだ。出来るかい?」

 

「うん!」

 

 

少し不安そうなヴィヴィオに、ダンテは『心配するな』と言う感じで接すると、ヴィヴィオは安堵の表情を浮かべる。

直に遣り合ったからこそなのはの実力は分かっているし、取り巻きの悪魔を一掃したクローゼの実力も分かっているので、自分以外の誰かが『なのはとクローゼならば大丈夫だ』と聞ければ其れだけで安心出来るってモノだったのだろう。

 

その後、一行は最奥部に進もうとしたのだが、最奥部への入り口には強固なバリアが張られて、先に進む者をシャットダウンしていた。

そのバリアは、ダンテがゼロ距離でショットガンを叩き込もうと、志緒がイグニスブレイズを叩き込もうと、京が大蛇薙を、庵が闇剥ぎを叩き込もうとビクともせず、一夏が切り札の零落白夜をブチかましても砕ける事はなかった。恐るべき堅さである。

 

 

「コイツは、如何やらなのは嬢ちゃんとクローゼ嬢ちゃんがデュナンをぶち倒すか、あるいはデュナンが二人を倒すまで解除されないみたいだな……って事は、俺達に出来るのは、嬢ちゃん達の勝利を願う事位しかねぇって訳だ。」

 

「く~~……歯痒いわね其れ!きっとアタシ達がなのは達に加勢すれば、あっと言う間に決着する筈なのに~~!!」

 

「焦っても仕方ないよエステル。僕達は、あの二人を信じて待とう。」

 

 

であるのならば、バリアの向こうで行われているであろう戦いを行っているなのはとクローゼの勝利を願う以外に出来る事はないと言えるだろう……このバリアが解除された時に現れるのが誰であるのか、其れによってリベールの未来は決まると言っても過言ではないだろう……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter24『Full power complete destruction last battle』

デュナン、貴様の命は此処で貰い受ける!Byなのは     覚悟下さい、叔父様……!Byクローゼ


グランセル城の地下空間最奥部への入り口は、強固なバリアによっては遮断され、一夏達は此れより先に進む事は出来なくなってしまっていた――『バリア貫通』の効果を持った、一夏の切り札である『零落白夜』を持ってしてもこのバリアを突破する事は出来なかったのだから。

詰まるところ、なのはとクローゼの勝利を信じて待つしかないのだが、だからと言って只待つと言うのも、アレなので、一夏は通信機でプレシアに連絡を入れ、如何にかこのバリアを突破出来ないかと頼み、プレシアも其れに応えて、『時の庭園』からこの場所に転移してバリアの解除に当たったのだが……

 

 

「此れは、私でも解除出来ないわね。此れは只のバリアや結界の類ではないわ。この先の空間其の物が、この地下空間にありながらも全く異なるモノに書き換えられているわね。

 言うなれば、この先の空間は、この地下空間の一部なのだけれど、その内装が大きく変えられて、入り口がロックされてると言う所かしら?何れにしても、外部からの干渉は出来ないわ。」

 

「何だよ婆さん、五百年以上生きてるって事だったが、そんなアンタでもコイツは解除出来ないのかい?……まぁ、無理してぶっ倒れちまったら、そっちの方が面倒か。

 年寄りの冷や水って言うからな。」

 

「……サンダァー、レイジ!!」

 

「あってれぼ!?」

 

 

プレシアであっても、このバリアを解除する事は出来なかったみたいだ。

そしてダンテが毎度の如く要らない事を言って、プレシアにシバかれて良い感じに丸焼けになっていたのだが、こんな状態になってもモノの十秒もあれば即復活すると言うのだから、このオッサンマジで不死身である。

 

 

「懲りねぇ奴だなアンタもよ?いや、懲りるって事を知らねぇから何かと余計な事言っちまって、その都度シェラザードやカルナにぶっ飛ばされてる訳か。

 其れよりもプレシア、ヴィヴィオやアンタが此処に来た時みたいに、転移魔法でその中に入る事は出来ねぇのか?転移魔法なら、扉がロックされてても直接中に入る事が出来るんじゃねぇかと思うんだが?」

 

「其れも無理よ京君。

 なのはさん達が居るのは、最奥部であって最奥部ではない場所……最奥部と言う空間を上書きして存在している一種の異世界。そんな場所に無理矢理転移しようとしたら、最悪の場合空間の狭間に引っ掛かって、永遠に其処に閉じ込められる事になってしまうわ。」

 

「……そりゃ、確かに止めといた方が良さそうだな。」

 

 

加えて転移魔法で直接乗り込む事も出来ないと来た以上、矢張り中での戦いが決着するのを待つより他に方法は無いだろう……プレシアと言う切り札を持ってしてもダメだと言うのでは最早最奥部に進むのは不可能であるのだから。

 

 

「まぁ、今は彼女達の勝利を信じて待ちましょ?貴方も如何かしら京?」

 

「レン、お前一体何処からガーデンテーブルとティーセット持って来たんだよ……余裕ありすぎんだろ流石に。」

 

 

レンが何故か、プチお茶会を開いていたが、テーブルとかティーセットを何処から持って来たと言うのには突っ込んではいけないだろう。死神の眷属たるレンならば、此れ等のモノを何処かから『お取り寄せ』する位の魔法は簡単に使えるのだから。

そんな中、庵は『只待つのは性に合わん』と言って地上に残党狩りに行ってしまったのだが……まぁ、『暇だから』と京に戦いを吹っかけなかっただけ上出来だと言えるだろう。尤も、結局狩るべき残党は残っておらず、十分足らずでこの場所に戻って来る事になった訳だが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter24

『Full power complete destruction last battle』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最終決戦第二ラウンドの舞台である『魔獄』。

燃え滾る溶岩が彼方此方から吹き出し、所々に溶岩の池が存在しているその場所の上空で、なのはは巨大な魔力弾を作り上げていた……スターライト・ブレイカー程ではないが、この魔力弾も相当な威力があるだろう。

 

 

「行け!」

 

「巨大な魔力弾……量より質の心算か?だが、此の程度では余には通じん!」

 

 

その魔力弾をデュナンに放ち、デュナンも其れを打ち消すように魔力弾を放つが、二つの魔力弾がぶつかる瞬間に、なのはの放った魔力弾が分裂して無数の小型の魔力弾となってデュナンを取り囲み、そして一気にデュナンに炸裂する。

デュナンが放った魔力弾は、なのはがレイジングハートで打ち飛ばし、火山の一つにぶつけて火山を消滅させていた。

 

 

「質よりも量でご挨拶だ……だが、其れなりには効いただろう?」

 

「ぬぅぅ……小癪な。」

 

「なのはさんにだけ気を取られていると危険ですよ、叔父様?」

 

「!!」

 

 

続けざまに、クローゼがコキュートスを使いデュナンを氷漬けにする……とは言っても、溶岩が彼方此方から噴き出している此の場所では、凍らせても直ぐに溶けてしまい、デュナンが凍り付いていた時間は五秒もなく、あっと言う間に身体の自由を取り戻す。

だが、クローゼは慌てる事なく解凍されたデュナンにサンダーシクリオンを叩き込んで大ダメージを与える!氷漬けにされた後に解凍されたデュナンの身体は濡れており、サンダーシクリオンの稲妻が良く通ったと言う事だろう。

その効果を狙うのであれば、アラウンドノアで濡らしても同じだろうと思うが、只濡らしただけでは溶岩の熱であっと言う間に蒸発してしまう可能性があったので、凍らせてから溶かすと言う方法を使う事で確実にデュナンを濡れた状態にしたと言う訳だ。

 

 

「ぐぬぬ……クローディア、お主何時の間に此れほどの力を身に付けた!

 幽閉する前は、ユリアと剣の訓練をしておった事は知っておるし、アーツの練習をしていた事も知っておるが、此処までの力はなかった筈だ!」

 

「確かに、以前の私ならば今の叔父様とは戦う事すら出来なかったでしょう。

 ですが、なのはさんに城から連れ出して貰ったあの日から、私は来るべき時の為に己を鍛えていたんです。剣も、そしてアーツも。なのはさんの仲間は一流の人ばかりでしたので、その方達と鍛錬を行う事と実戦を経験する事で私は強くなる事が出来ました。

 そして、私が自分を鍛えたのは、貴方からリベールを取り戻す為です!お祖母様が守っていたリベールを!……返して頂きますよ叔父様。貴方はリベールの王に相応しくありません。」

 

 

クローゼの力に驚くデュナンだったが、クローゼはこの時の為に己を鍛えており、更になのはが用意した最高級のオーブメントと最上級のクォーツによって、アーツに関しては最強クラスの存在になっているのだ。

加えて、アウスレーゼの血が覚醒したクローゼの魔力は神族に匹敵するモノになっているので、巨大な悪魔と化したデュナンにもバッチリダメージを与える事が出来るのである。

デュナンにレイピアの切っ先を向けて『王として相応しくない』と宣言するその凛とした姿は、アリシア前女王の毅然とした態度を思い起こさせるモノだ。

 

 

「クローゼ、この手の輩には口で言うだけ無駄だ。身体で分からせないとな。」

 

 

そのクローゼの横に並んだなのはは、レイピアの切っ先にレイジングハートの先端を重ねてデュナンに向ける。黒の神魔と白の姫君の揃い踏みは、其れだけで他を圧倒する威光と言うモノがある感じだ。

 

 

「そうですね……そうするとしましょう!」

 

「是非もない!」

 

 

クローゼがレイピアでレイジングハートの先端を軽く打つと同時に、なのはが無数の魔力弾をデュナンに向かって豪雨の如く降らせる!クローゼが一連の攻撃を行う間に上空にセットしていたのだろう。

 

 

「クリムゾンコキュートス!」

 

 

続いてクローゼが火属性と水属性の合成アーツと言うトンデモナイモノを披露する。

火属性と水属性は、水が火を消し、超高温の炎は水を蒸発させると言う相克の関係にあるので、合成したら普通は打ち消し合ってアーツ其の物が成立しなくなってしまうのだが、クローゼの膨大な魔力を持ってして使用した場合は、只の打ち消し合いになるのではなく、対消滅による膨大なエネルギーが発生し、其れが臨界点を突破して水蒸気爆発を起こすのである。

水蒸気爆発の破壊力は、火薬を使った爆弾を上回る……そんなモノを喰らったら、並の悪魔だったら即レッドオーブに変わっていただろう。

 

 

「ぐぬぅぅぅ……余を甘く見るなよ!」

 

 

だが、巨大化したデュナンは身体の頑丈さも相当に高くなっており、今の攻撃も其処までのダメージにはなっておらず、額のクリスタル状の部分からビームを放つ!!

当たれば必殺だろうが、なのはとクローゼは其れを回避してデュナンに肉薄すると、なのははレイジングハートで、クローゼはレイピアで斬り付けて表面に傷を付ける。

なのはもクローゼも、本質は魔法とアーツでの遠距離攻撃がメインなのだが、だからと言って近接戦闘が出来ないかと言われればそれは否だ。

バリバリの近接戦闘タイプが相手では分が悪いが、並の使い手ならば圧倒出来るだけの近接戦闘の実力はあるのだ。

しかも、二人とも只斬り付けるだけでなく、クローゼはレイピアに火属性のアーツを纏わせて斬り裂いたところを焼き、なのははレイジングハートの先端に魔力刃を形成してより深く斬り裂いていたのである。

 

 

「ぐおぉぉぉ……ぐぬ、だが余は負けん!余こそが、此の世界の王なのだ!」

 

 

大ダメージを受けたデュナンは、一度その姿を消すと、上空から巨大化したナメクジの様な何かが大量に落ちて来た……全身が真っ黒に染まった其れは、闇が其のまま具現化した様な感じだ。

 

 

「此れは……?」

 

「デュナンと同じ魔力を感じるな?

 だが、デュナンが分裂したと言う訳ではなさそうだな?……言うなれば、デュナンの本体から生み出された分裂体。差し詰め、デュナンズ・レギオンと言った所か。」

 

 

デュナンズ・レギオン……デュナンの軍団兵とは言い得て妙だろう。

なのはが予想した通り、この軍勢はデュナンが生み出したデュナンの分裂体であり、個々の能力は高くないが、圧倒的な物量で相手を押し潰す事が出来る存在だと言えるだろう。

市街地に現れたフロストと比べたら遥かに能力的には劣る存在ではあるのだが、数の暴力と言うのは中々に馬鹿に出来ないモノがあるのもまた事実だ。歴史を紐解いても、戦の経験がない市民兵が、集団で経験豊富な武将を討ち取ったと言う事例は決して少なくないのだから。

 

 

「此の程度で私達を制圧出来ると思っているのならば、幾ら何でも私達を舐め過ぎだ!」

 

「私達を、甘く見ないで下さい!」

 

 

だが、その集団も、なのはの魔法とクローゼのアーツで鎧袖一触!数の暴力も、圧倒的な力を誇る個の前では意味を成さない様だ……蟻が百万匹集まった所で龍に勝つ事は出来ないのと同じである。

魔族と神族、その両方の血を引いているなのはだが、魔族よりの生き方をして来た事で魂の属性は闇となっており、逆にクローゼは幽閉された後でもその魂が闇に堕ちる事は無く、逆に光としての力を強くして光属性となっていた。

そして、究極の闇と光が一つになった事で、カオスの力が呼び覚まされて他を圧倒する事が出来る状態になっているのである。

 

 

『グガァァァァッァァァァ!!』

 

「溶岩の龍か……目障りだ、大人しく死んどけ!」

 

「その程度、今更虚仮脅しにもなりません!」

 

 

奇襲的に現れた溶岩の龍も、クローゼが水属性のアーツを喰らわせて石像にすると、なのはが直射砲で其の石像を粉砕!玉砕!!大喝采!!!――砕けた溶岩の龍からは、グリーンオーブとホワイトオーブが出現し、なのはとクローゼの体力と魔力を回復してくれた。

なのはとクローゼを追い詰める目的で現れた溶岩の龍だが、アッサリと倒された上に二人を回復させてしまう結果になるとは、『お前何しに出て来た?』と言われても文句は言えないだろう。

 

 

「オイオイオイ、姫様となのは嬢ちゃん圧倒的じゃねぇか!

 バケモンになっちまったデュナンを見た時にゃ、もっと拮抗した戦いになると思ったんだが、あの二人が喰らった攻撃ってさっきの隕石攻撃だけで、其れも大してダメージになってねぇと来た……此処まで力の差ってのはあるモンなのかよ?」

 

「全然全く勝負になって無いですねぇ?まぁ、私的にはさっきからいい画が撮れまくってるので良いんですけどね~~?と言うか先輩、このままだとフィルム全部使っちゃいますよぉ?」

 

「今回に限っては全部経費で落ちるから遠慮なく使え。但し、決着の瞬間を撮り逃す様なヘマだけは絶対にするんじゃねぇぞ?」

 

「了解であります!」

 

 

バリアに包まれた状態で、ナイアルはメモにペンを走らせ、ドロシーはカメラのシャッターを切って行く。

如何にバリアに包まれているとは言え、こんな戦場での取材と言うのは少しは尻込みしそうなモノであるが、この二人にはそんな様子はない……リベール通信の記者として、此れまで数々の修羅場(三年前に起きたロレント市長強盗事件、ボースで起きた空賊による飛行艇襲撃事件、ルーアン市長の汚職事件等々)を経験して来たナイアルとドロシーはジャーナリストとしての度胸が違うのである。

 

 

「小細工は要らん。私達を殺したいのであれば、貴様自身が其の手を汚せ!代理の存在で殺せるほど、私とクローゼの命は安くないぞ!」

 

「真にリベールを手中に収めたいのであれば、貴方自身が戦う以外に選択肢はありませんよ叔父様?」

 

「如何やら其のようだな……良かろう、余が直々にお主等に引導を渡してやろう!死ねクローディア!そして、黒衣の魔導師よ!」

 

 

デュナンズ・レギオンを全て倒され、溶岩の龍すらも瞬殺されたのを見たデュナンは上空から其の姿を現すと同時に、魔天空間で放ち、なのは達をこの魔獄に落とした隕石攻撃を放って来た。しかも、魔天空間で放たれたモノよりも高密度で!

完全な面での攻撃を完全回避する事は出来ないし、魔力のシールドで防ごうとしても隕石の圧力に耐えきる事が出来ない事は魔天空間での戦いで既に証明されている……つまりこの攻撃は本気で必殺になる訳だ。

 

 

「クローゼ、私から離れるなよ!」

 

「なのはさん……はい!」

 

 

なのはは、ナイアルとドロシーを包んでるバリアの周囲に無数の魔力弾を展開して其れをバリアの周囲を周回させて隕石の自動迎撃機能とも言うべきモノを作り上げると、クローゼを抱き寄せてレイジングハートを真上に向け、そして自身の魔力を全開に!

その瞬間、なのはとクローゼを凄まじい魔力が包み込み巨大な魔力の槍となる――だけでなく、其れを見たクローゼもレイピアを真上に向けてから魔力を全開にして、魔力の槍を更に巨大化させる。

 

 

「レイジングハート!」

 

『All right Master.A・C・S Standby.Strikeframe.』

 

 

更にレイジングハートの先端と両脇に紅い魔力刃が展開され、そして次の瞬間になのはとクローゼは降り注ぐ隕石に向かって電磁レールガンの如き勢いで突っ込んで行った!

回避も防御も出来ないのであれば、真正面から打ち抜くと言うのがなのはの出した答えだったのである。

若干脳筋理論な気もするが、其れが出来るのもなのはが膨大な魔力を持っているからこそだろう――そして、なのはだけでなくクローゼもまたなのはに匹敵するだけの魔力を持っており、其れを開放した事で隕石攻撃の正面突破はより確実なモノになっているのだ。

 

 

「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」

 

 

巨大な魔力の槍と化したなのはとクローゼは降り注ぐ隕石を次から次へと粉砕しながらデュナン目掛けて突き進む!砕けた隕石の欠片が服を破り、肌を割く事もあるが、その程度では止まらない!止まる筈がない!

隕石に交じって襲って来た溶岩の龍だって速攻で貫いてしまうのだ。闇と光の魔力で作られた魔力の槍の威力は計り知れないと言った所だろう。

 

 

「ぐぬ……ならば、此れで散るが良い!」

 

 

デュナンは、なのはとクローゼを迎撃しようと胸のクリスタルと額のクリスタルからビームを放つ!

 

 

「そのビームは通じないと先程の戦闘で学ばなかったのかお前は?頼むぞクローゼ!」

 

「はい!今一度喰らえ……聖なるバリア-ミラーフォース!」

 

 

其れはクローゼのミラーバリアに跳ね返されてデュナンの両腕を消し飛ばす……己の攻撃を跳ね返されて両腕を失うとは、何とも間抜けとしか言いようがないが、此れがデュナンと言う器と、デュナンを乗っ取った悪魔の限界と言う事なのだろう。

己の目的を果たす為に仲間を集め、そして己の中に流れる魔王の血を高めて来たなのはと、幽閉と言う理不尽な目に遭いながらも負の感情に囚われる事なく、いっそ『聖女』と言うレベルにまでの光の存在となったクローゼの前では、僅かばかりの闇と、其れに付け込んだ邪心如きは敵にすらならないのかも知れない。

 

 

「取った!」

 

「このまま一気に!」

 

 

隕石をぶち抜いて来たなのはとクローゼは、遂にデュナンに到達して、胸のクリスタルにレイジングハートとレイピアを突き刺す!

自身のエネルギー源にして最大の弱点を突き刺されたデュナンは慌てるが、両腕が吹き飛ばされた状態ではなのはとクローゼを払う事すら出来ない……己の放った攻撃が自分の首を絞める事になると言うのは、最早皮肉にすらないないだろう。

 

 

「「貫けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」」

 

 

なのはとクローゼは、デュナンの胸のクリスタルを貫き、大ダメージを与える。……が、デュナンは未だ生きている。

エネルギー源兼弱点を貫かれた事で其の力は大きく減少し、その身体は崩れて、石造の様だった外装甲が剥がれて醜悪な中身が溢れ出している……特に頭は酷いモノだ。

外装甲が完全に剥がれて脳が剥き出しになり、巨大な目玉がギョロギョロと動いているのだから。

 

 

「ぐぬおぉぉ……余は負けん!負けんぞぉ……!」

 

「……そのしぶとさだけは評価してやろう。だが、貴様は此処でお終いだ――分不相応なモノを求めた自分を恨むのだな……此れで終わらせる!全力全壊!!」

 

『Starlight Breaker.』

 

「万物の根源たる七耀を司るエイドスよ……その神聖なる輝きを持って我らの脅威を退けたまえ……光よ!我に集いて魔を討つ陣となれ!」

 

 

こんな状態になっても、負けないと言い張るデュナンに対して、なのはとクローゼは己の最強攻撃の準備を済ませ、なのはとクローゼには凄まじいまでの魔力が集中している――特になのはは、大人気コミックの主人公の如く、『オラに元気を分けてくれ!』ってなレベルで、自分以外の魔力をも集めているのだ。

そして、其の魔力は臨界点に達し……

 

 

「スターライト……ブレイカァァァァァァァァァ!!!」

 

「サンクタスノヴァ!!」

 

 

なのはが編み出した絶対不敗の奥義と、アウスレーゼに伝わる秘技が炸裂してデュナンの身体を分子レベルで崩壊させていく……その断末魔は聞くに堪えないモノであったが、リベールの暗黒時代の終わりを告げる鐘としては充分なモノだったと言えるだろう。

 

 

「ぐぬおぉぉ……余は不滅!何時の日か必ず蘇り、此の世界を!!」

 

「何処までも往生際の悪い奴だ……まぁ、復活すると言うのであれば好きにしろ。だが、復活したその時は私とクローゼの子供達に宜しくな。」

 

「私となのはさんの子供達が居る限り、貴方の野望が成就する事は有り得ません、絶対に。」

 

 

最後の最後まで、断末魔すら己の欲望が全開だったが、なのはもクローゼも其れを軽く流した。最早真面に相手をする必要などなかったと言う事だろう。

そしてデュナンは闇に呑み込まれて此の世界から完全に消え去ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

魔獄での戦いが決着したと同時に、相応部への侵入を阻んでいたバリアが砕け、其れを見た一夏達は果たして誰が出て来るのかと警戒したのだが……

 

 

「なのはさん、何だか皆さん驚いているみたいですよ?」

 

「私とお前が略無傷で現れたんだ、死闘を予想していたオーディエンスは、私とお前のまさかの姿に驚いて言葉も出ないらしい……せめて、勝利した事への賛辞位はしても罰は当たらんと思うがな。」

 

 

現れたなのはとクローゼの姿を見て、全員が胸を撫で下ろした……もしもデュナンが現れたら、その時点でバトルになっていたのは否めないからね。

 

 

「オイオイ、随分と遅かったじゃねぇか?遅刻だぜ?」

 

「ならば、謝れば良いのかダンテよ?」

 

「いや、お前さん達が戻ってくるのを待ってたって事さ。」

 

 

ダンテの軽口にも軽く返し、そして――

 

 

「デュナン・フォン・アウスレーゼは、高町なのはとクローゼ・リンツが討った!今この時を持って、リベールは愚王から解放されたのだ!!」

 

「リベールは、今から新たな道を歩むのです!」

 

 

なのはとクローゼが勝利宣言を行って、リベールを巡る戦いは幕を下ろし……

 

 

「楽勝楽勝!」

 

「戦闘終了、だね。」

 

「深き闇に沈むが良い。」

 

「へへ、燃えたろ?」

 

「ククククク……ハハハハハ……ハァ~ッハッハッハッハッハ!!」

 

「我が覇道は止められぬ。」

 

「戦闘終了です。お疲れ様でした。」

 

 

夫々が得意のポーズを決めてターンエンド!……全員が魅力的なポーズを取ってくれたが、レイピアを構えてウィンクするクローゼの破壊力はハンパなく、リベール通信特別号の表紙を飾る事になるのだった。

其れは其れとして、リベールの革命は、成功したと言って良いだろう。なのはとクローゼによって、リベール史上最悪の愚王であったデュナンが討たれたのだから……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter25『新生リベールの王、その名は高町なのは』

私が新たな王か……責任重大だな。Byなのは     私も、出来る限りのサポートをしますね。Byクローゼ


なのはとクローゼがデュナンを討ち倒し、なのはの『勝利宣言』は、プレシアが広域魔法を使って王都全土に伝えた事で、それが同時に停戦の宣言にもなって、王国軍の兵士で、最後まで抵抗を続けていた者達は投降する事になった……軍の最高司令官でもあったデュナンが討ち倒されたのならば、もう戦闘行為を続ける理由は何処にも無いのである。

投降した兵士は捕らえられ、新たなリベールの王が決まるまでは牢に入れられ、新たなリベールの王が決まってから改めて沙汰が下される事になるだろう。

 

此度の戦闘で負傷した者達は、王国軍、反抗軍関係なく手当が行われ、フィリップも手当てを受け、命に別状はなかったのだが、帰天で植え付けられた悪魔の力を排除する事は出来なかった様だ。

 

 

「……閻魔刀があれば、帰天の力も切り離せたんだが、無いもの強請りをしても仕方ねぇか。」

 

「閻魔刀?」

 

「俺の兄貴が使ってた刀でな、人と魔を分かつ力を持ってるんだが……生憎と、兄貴が生死不明になってから行方知れずになっちまってな。バージルのアミュレットは回収出来たんだが、閻魔刀だけは未だな。」

 

 

ダンテは、兄のバージルが使っていた『閻魔刀』があれば、フィリップを普通の人間に戻す事が出来たらしいのだが、無い以上は其れは無理と言う事だ……フィリップには、帰天で得た悪魔の力を使い熟せるようになって貰う事を願うしかあるまいな。

 

 

それとは別に、戦闘が終わった市街地では復興作業も始まっていた。

王都の住人は、全てエルベ離宮に避難させたので人的被害はないが、物的被害は流石にゼロとは行かなかったのだ――人間同士の戦いでも物的被害は出ると言うのに、其処に魔獣やら悪魔と言った存在が戦闘行為に加わったら尚更である。

幸いな事に、物的被害は『壁や屋根の一部が崩れた』程度のモノであり、建物の倒壊や全壊は無かったので復興作業は其れほど大変ではないだろう。反抗軍のメンバーに加え、不動兄妹が精霊を召喚して復興作業に当たらせて居ると言うのも、作業が捗っている要因の一つだ。

 

 

「よいしょっと!此れは何処に運べば良いですか~?」

 

「おぉ、そいつはこっちに持って来てくれ。」

 

 

更に、ヴィヴィオも復興作業を手伝っている。

言い方は悪いかも知れないが、『生物兵器』として生み出されたヴィヴィオの身体能力は相当に高く、その見た目からは想像もつかない程の凄まじいパワーを持っているため、一人で成人男性五人分の働きをしている状態だ……もしも此の場に格闘技のスカウトが居たら、間違いなく声を掛けられていた事だろう。

瓦礫を運び終わったヴィヴィオは、新たな瓦礫を運ぼうとしたのだが……

 

 

『ワリィゴハ、イネガァァァァァァァァァァ!!』

ジャンク・バーサーカー(な  ま  は  げ):ATK2700

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 

その前に巨大な瓦礫を持ち上げた、赤い鎧で全身を固めた大男が!

此れは遊星が復興の手伝いとして召喚した精霊、『ジャンク・バーサーカー』なのだが、如何せん見た目が厳つくてオッカない!見た目は殆ど『鬼』な精霊が、巨大な瓦礫を頭上に持ち上げた状態で、雄叫びを上げながら現れたら、ヴィヴィオでなくとも悲鳴を上げるだろう。

加えてヴィヴィオは、肉体的には十六~十八歳程なのだが、デュナンがヴィヴィオに求めたのは戦闘力であったため、精神面は未発達で精々十歳前後……此れは余計に恐ろしいだろう。

 

結果としてヴィヴィオはジャンク・バーサーカーの前から逃げ出したのだが、ジャンク・バーサーカーも其れを追う……否、ジャンク・バーサーカーは追い掛けている訳でなく、ヴィヴィオの逃げる方向が偶然瓦礫の運び先だったため、追いかける様な構図になってしまったのである。そうは言っても、ヴィヴィオが感じている恐怖は相当だと思われるが。

最終的には、ジャンク・バーサーカーが瓦礫を運び終えた事でヴィヴィオの逃走劇は終わりを告げたのが、ヴィヴィオにとってジャンク・バーサーカーがトラウマになってしまったのは間違い無いだろう。

 

 

「なのはママと、クローゼママと一緒に居れば良かったぁ……」

 

「災難だったな……まぁ、お前は良く働いてくれたから、一息ついたらなんか旨いモン作ってやるから泣き止めや。」

 

 

そして、志緒がヴィヴィオを慰めると言う事で事態は終息したのだった。――そしてその裏では、遊星が遊里から『バーサーカーじゃなくて、デストロイヤーを召喚した方が良かったんじゃない?デストロイヤーは腕が四本あるから作業もより捗るだろうし。』と言われていたとか何とか。

取り敢えず、復興作業は順調に進んでいるようである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter25

『新生リベールの王、その名は高町なのは』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都の復興作業が順調に進んでいるのは良い事だが、新生リベール王国には復興と同じ位、或は其れ以上に早急に行わなくてはならない事があった――そう、リベール王国の新たな王を決めねばならないのだ。

国王であったデュナンを反乱軍が討ち倒して、其れで終わりではないのだ革命と言うモノは。

早急に新たな王が即位し、国の立て直しに着手しなくてはならない――デュナンが王を務めていた時期に滅茶苦茶になって居た隣国との外交や、貿易・流通の改善と言うのはその最たるモノと言えよう。序に、デュナンと癒着して私腹を肥やしていた一部の富裕層にもメスを入れて行く必要があるだろう。

その新たな王を決める為に、グランセル城の玉座の間にはなのはとクローゼ、リシャールとユリアとクラリッサ、そしてカシウス、新王誕生の瞬間を取材する為にナイアルとドロシーが集まっていた。

 

 

「クローディア、遂にこの日がやって来ました……アリシア前女王の正統な後継者たる貴女がリベールの新たな王となる日が。」

 

「リベールの暗黒時代に終わりを告げ、生まれ変わったリベールの新たな王となるのは、殿下を置いて他には居りますまい……今この時を持って、リベールの新たな王に即位願いたい。」

 

 

ユリアとリシャールは、クローゼをリベールの新たな王にと考えているが、其れは当然だろう。

クローゼはデュナンと違い、アリシア前女王が正式に後継者として認め、そして次期女王の証である『皇女』にまでなって居たのだから、クローゼ以外にリベールの新たな王を務める人物は居ないと言っても良いだろう。

 

 

「……御免なさい、ユリアさん、リシャール大佐。私は、リベールの新たな王にはなりません。」

 

「「「「「え?」」」」」

 

「ふむ?」

 

「ふ、そう来たかクローゼ。」

 

 

だが、クローゼは特大の爆弾を投下した。

まさかの爆弾投下に、ユリアとリシャールとクラリッサ、ナイアルとドロシーは思わず間の抜けた声を出し、カシウスは訝し気な表情を浮かべ、なのははクローゼが何を言う心算なのかを察して、何処か楽しそうに笑みを浮かべた。

 

 

「何故ですクローディア!貴女は、正統な王位の継承者!貴女以外に、誰が此の国の新たな王になると言うのです!」

 

「ユリアさん……アリシア前女王が、後継者として指名したのは、クローディア・フォン・アウスレーゼであって、クローゼ・リンツではないからです。

 加えて、私はクローディアとして幽閉されていた期間、王族が参加する行事にも参加する事が無かった上に、皇女として国民の前で話をする機会すらありませんでした……子供の頃から、お祖母様の後姿は見ていましたが、私には『人の上に立つ』と言う経験が圧倒的に不足しています。それでは、一国の王を務める事が出来るとは思えないんです。」

 

「ですが……!」

 

「だから、私は私に変わってこの国を治める新たな王としてなのはさんを推薦します。

 リベールと比べれば遥かに規模が小さいとは言え、なのはさんには百人を超える組織のリーダーを長年務めて来た経験があるので、少なくとも私よりは王としてリベールを牽引して行く事が出来る筈です。」

 

 

クローゼは、暗に『クローディアに戻る心算はない』と言った上で、新たな王になのはを推薦したのだが、実は此れはクローゼとなってリベリオンで過ごす内に考えていた事でもあったのだ。

百人を超える組織を一枚岩に纏め上げる統率力、他者を引き付けるカリスマ性、自ら現場に出向く行動力、そのドレをとっても自分はなのはにとても敵わないとクローゼは思い、デュナンを倒した後はなのはがリベールの新たな王として相応しいと考えたのである。同時に、『アウスレーゼ以外の人物が新たな王になった方が、リベールが生まれ変わった事を内外にアピールしやすい』とも考えていたのだが。

 

 

「私が新たなリベールの王にか……お前は其れで良いのかクローゼ?」

 

「はい。私は、クローゼ・リンツとして貴女を支えて行こうと、そう思っているんです。だから、リベールの新たな王となって頂けませんか、なのはさん?」

 

「お前が其れで良いと言うのであれば、私は構わないが……リシャール達は納得しないんじゃないか?まぁ、王族でもなければリベールの出身者でもない私が新たな王になると言うのを、手放しで納得しろと言う方が無理があると思うがな。」

 

 

とは言え、クローゼが其れで良いと思ったとしても、リシャールやユリアが納得するかどうかはまた別問題だ。

リシャールもユリアもクラリッサも、なのはは信頼出来る相手だとは思っているし、実際問題としてなのは率いるリベリオンの存在無くして此度の革命の成功は無かった訳なのであるが、だからと言ってなのはが新たなリベールの王となる事に、諸手を挙げて賛成出来るかと言えばそれは否だろう。リシャールもユリアも、クローゼを正式な王とする為に水面下で準備を進めていたのだから。

だが、其れだけにクローゼの言った事に異を唱え辛いと言うのもまた事実だ……クローゼがなのはを新たな王として推薦した事が、其れがリベールに不利益を齎す事であれば即刻異を唱えるだろうが、現状ではなのはがリベールの新たな王になってもリベールが不利益を被る事は無いので、明確に反対する理由もないのである。

 

 

「とは言え、リシャール達の気持ちも分からんではない……だから、先ずはお前達のその眼で私がリベールの王として相応しいかどうかを見極めると良いだろう。

 その上で、私がリベールの王として相応しくないと判断したその時は、迷わずに私を斬ってクローゼを新たな王にすれば問題あるまい。」

 

「「「!!」」」

 

「お前さん、中々言うねぇ?しかも、伊達や酔狂じゃなく本気と来たか……大したモンだよマッタク。」

 

「なのはさん、なんか凄い事言ってますよナイアル先輩?」

 

「自分の命を軽く見てる……って訳じゃねぇな。あの目、相当な覚悟と見たぜ。俺のジャーナリストとしての勘が、そう言ってやがる。」

 

「先輩の勘って、ニアピンとか一部合ってたとかじゃなくて、バッチリ当たってたか、掠りもせずに外れてたかのどっちかですよねぇ?」

 

「こう言う大事な事に関しては、俺の勘は略100%当たってるんだよ!」

 

「ほへ~、そうだったんですか~~?」

 

「お前、何年俺とコンビ組んでんだよマッタクよぉ……」

 

 

そんなリシャール達に、なのはは『自分が王に相応しいかをその眼で見極め、相応しくないと思ったら迷わずに斬れ』と言い放った……其れは、なのはなりのリベールの王となる事に対しての覚悟だろう。

言い放ったなのはの瞳には、その覚悟を示すかのような力強さが宿っており、リシャール達は思わず気圧されてしまった位だ。カシウスは、なのはの覚悟に感心していたが。ドロシーとナイアルは、何時も通りだった。

 

 

「そう言う事でしたら……分かりました。」

 

「君が、此の国の新たな王として相応しいか、見極めさせて貰うとしよう。」

 

「命を賭してか……嫌いではないな。」

 

 

そのなのはの覚悟を聞いたユリアとリシャールとクラリッサは、此れ以上は特別反対する理由も無かったので、なのはを新たなリベールの王とする事を受け入れ、なのははリベールの新たな王として即位する事になった。

なのでなのはは、玉座に座す事で新たな王となるのだが、なのはは直ぐに玉座には座らずに、玉座の前に跪いて頭を垂れる――まるで、平民が女王陛下に謁見するかの如くに。

 

 

「アリシア女王陛下殿、新たなリベールの女王の座、謹んでお受けさせて頂きます。」

 

 

亡きアリシア前女王になのははそう告げる……なのはは、王位を継ぐにあたって通すべき義理を通した訳だが、その場にいた全員が、頭を垂れたなのはに頭に、女王の証であるティアラを乗せるアリシア前女王の姿を幻視していた。

或いは其れは、幻視などではなく、アリシア前女王の魂が、なのはをリベールの新たな王と認めて現世に一時的に顕現したのかも知れない。真相は誰にも分からないだろうが。

 

だが、このなのはの行動を見て、リシャール、ユリア、クラリッサの三人は改めてなのはの人となりと言うモノを知った――もしも、其のまま玉座に座していたらなのはに対して少なからず良くない印象を抱いていただろう。一国の王の座を継ぐと言うのは、そんな簡単なモノではないのだから。

なのはの人柄も、実力も此度の戦いで信頼に足るモノだとは思っているが、リベールの新たな王になると言うのならば話は別だろう……が、なのはは玉座の前に跪いてアリシア前女王への敬意を払う事を忘れなかった。

更になのはは、跪いた際に右手を自分の左胸に当てていた……其れは、己の心臓を捧げると言う意味の忠誠の証であり、なのはは自分が新たな王となるリベールと言う国に対しての忠誠をも誓ったのである。此処までの事を見せられてしまっては、政治手腕は兎も角として、王として相応しい人柄であると言う事は認めるしかないだろう。

 

 

「なのはさん……」

 

「あぁ……」

 

 

跪くなのはにクローゼが声を掛けると、なのはは漸く顔を上げて玉座を見やり、立ち上がると一礼した後に玉座の前に立ち、そして其処に座し、玉座の横にはクローゼが立つ。

そして、其のまま背に黒と白の翼を展開すると力強く宣言する。

 

 

「高町なのはが、新たなリベールの女王となった事を、今此処に宣言する!

 デュナンによって齎された暗黒時代に終わりを告げ、リベールを本来の姿に戻し、そして私とクローゼの理想――人も魔族も神族も、種の違いなど関係なく、誰もが平和に暮らせる世界の始まりの地とする事を、我が魂と、リベールを見守る空の女神エイドスに誓う!」

 

「そして、私クローゼ・リンツは、なのはさんの事をパートナーとして支えて行く事を誓います。同時に、クローディア・フォン・アウスレーゼの名を、今この時を持って永遠に名乗らない事を宣言いたします。」

 

 

なのはに次いで、クローゼも『パートナーとしてなのはの事を支える』事を誓ったのだが、『クローディア・フォン・アウスレーゼの名を二度と名乗らない』と言う事には、なのは以外の全員が驚いた。

其れはつまり、王族としての名を捨て、残りの人生を『クローゼ・リンツ』と言う別人として生きると言う事なのだから――だが、此れもまたクローゼの覚悟だ。パートナーとしてなのはを支えると決めたその日から、クローゼはクローディア・フォン・アウスレーゼであった自分を殺し、クローゼ・リンツとして生きる事を決めたのである。

自分となのはの理想を現実にする為に必要なのは、クローディアではなくクローゼだと、そう思ったのだ。

デュナン亡き今、クローゼの宣言は『アウスレーゼ』の名を後世に残さずに断絶する事でもあるのだが、王族の名を途絶えさせてでも『全ての種が、種の違いなど関係なく平和に暮らせる世界』は実現すべきモノなのである。

 

 

「うん、見事な宣言だった。お前さん達なら、此の国を任せられるだろう。」

 

 

其れを聞いたカシウスは、誰よりも早く拍手をし、其れに続いてユリア、リシャール、クラリッサも拍手をして、リベールの新たな王の誕生を祝福し、ナイアルは興奮気味にペンを走らせ、ドロシーは指の残像が残るレベルでカメラのシャッターを切っていた。

 

 

「どもー!カツ丼九人前持って来ましたーーー!」

 

 

其処にお盆に九人前のカツ丼(志緒製)を乗せたヴィヴィオが参上!

志緒から、『どうせまだ飯食ってねぇだろうから、なのはさん達に持って行ってくれ。お前のもそっちに入れとくからよ』と言われて、全速力で持って来たのだが、このタイミングで到着するとは、タイミングが良いのか悪いのか若干判断に迷う部分が有ると言わざるを得まい。

 

 

「って、もしかして私タイミング悪かった?」

 

「いや、そんな事はないぞヴィヴィオ。丁度そろそろ良い時間だから昼食にしようと思っていた所だからな……しかも、持って来てくれたのはカツ丼か。子供の頃からの好物だ。」

 

「ですが、此処はご飯を食べる場所ではないので、晩餐室に移動しましょうかヴィヴィオ?」

 

「は~い!」

 

 

だが、其処はなのはとクローゼがバッチリフォローし、晩餐室でカツ丼でのランチタイムと相成ったのであった。そして、志緒特製のカツ丼は、衣のサクサク感を残しつつ卵のフワフワ感を演出し、サクサクとフワフワの二つの食感をダシ汁が見事に調和していると言う見事なモノだった。至高のカツ丼と言うのは、正にこれの事であると言っても過言ではあるまいな。

 

ランチタイム後は、なのはとクローゼがナイアルのインタビューに応じ、そのインタビュー記事は一切編集される事なく、『リベール通信特別号』に掲載され、なのはがリベールの新たな王となった事は、程なくしてリベール国内外に報じられる事になったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

・魔界

 

 

魔族が暮らす、地下深くにある世界、『魔界』。

その魔界の中でも、特に強い力を持っている『魔王』の一人であるアーナスの屋敷には、同じく魔王であるルガール・バーンシュタインと悪魔将軍が招かれていた。

 

 

「ルガールさん、将軍さん、態々来て貰ってスマナイかったよ。」

 

「気にするなアーナス。

 私も将軍も少しばかり暇だったのでな、同じ魔王たる君から呼び出されたと言うのは、何か面白い事が起きたのではないかと期待していたからね。」

 

「態々、私とルガールを呼び出したと言う事は、相当な事があったのだな?」

 

「うん、相当な事があったよ……私の従魔がリベールから持ち帰って来た雑誌なんだけど、此れを見てよ。」

 

 

呼び出されたルガールと悪魔将軍は、『何事か?』と問い、アーナスは己の従魔がリベールから持ち帰って来た雑誌――『リベール通信・特別号』を見せたのだが、其れを見たルガールと悪魔将軍の表情が変わった。……悪魔将軍はマスクをしているので、実際の所は表情は分からないのだが、表情が変わったと思う位には驚いていた。

 

 

「此れは……」

 

「不破士郎の娘が、リベールの新たな王となったか。此れは確かに相当な事であると言えるな。まさか、生きていたとはな。」

 

 

その雑誌の表紙を飾っていたのは、十年前にこの世を去った、魔王の一人である不破士郎の双子の娘の片割れだったのだから、驚くなと言う方が無理と言うモノだろう。寧ろ、士郎が死んだその時に娘も死んだと思っていたのだから、そもそも生きていたと言う事が驚くべき事なのである。

 

 

「そう、生きてたんだよ。

 でもさ、生きたって言うなら、私達は士郎さんとの約束を果たさなきゃだよね?」

 

「うむ……確かにその通りだな。

 士郎殿は魔界を去る際に、『私にもしもの事があったその時は、娘の事を頼む』と言っていたからな……死んだと思っていた息女の内の一人が生きていたと言うのであれば、その約束は果たさねばなるまい。如何かな将軍?」

 

「異論はない。寧ろ、魔王同士の約束を反故にすると言う事の方が恥でしかない。――準備が出来次第、リベールに向かうとしようではないか。」

 

「そう来なくっちゃね!」

 

 

そう言う訳で、アーナス、ルガール、悪魔将軍の三人の魔王は、リベールの新たな王となったなのはに会うべく準備を進める事になった……リベールが、エレボニアとカルバートとの不戦条約の更新調印式を終えた後で、新たに同盟になるのは魔界の魔王達なのかも知れないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

・リベール王国:王都グランセル-グランセル城

 

 

グランセル城の空中庭園にて、なのはは一人星を眺めていた。

ヴィヴィオは既にベッドで眠っているが、なのはは如何にも眠ると言う気分になれなかった……或いは、リベールの新たな王となった事で気分が昂っており、其れが眠気を吹き飛ばしてしまっているのかも知れないが。

 

 

「眠れないんですか、なのはさん?」

 

「クローゼか……少しばかり気持ちが昂ってな、如何にも寝ると言う気分ではない感じだ。」

 

 

其処に現れたのはクローゼだ。

其の手にはティーポットと二つのティーカップが……なのはと共に夜のお茶会と洒落込む心算なのだろう。――なのはも其れを察したのか、クローゼからティーカップを受け取ると、其処に注がれたハーブティの香りを堪能する。

 

 

「いい香りだな、此れはカモミールティーか?」

 

「はい。カモミールには、睡眠を促進して疲れを癒す効果がありますので、今のなのはさんにはピッタリかなと思いまして。」

 

「あぁ、最高だよクローゼ。気持ちが昂っていたが、カモミールの香りで大分落ち着いて来た……此れならば、今夜はぐっすりと眠る事が出来そうだ。お前の心遣いに感謝だな。」

 

「私は貴女のパートナーですから、此れ位の事は当然ですよなのはさん。」

 

「そう来たか、此れは一本取られたな。」

 

「ふふ、一本取っちゃいました♪」

 

 

なのはもクローゼも、自然と笑みが零れる……其れだけ、お互いに相手の事を思っているからこそ、己の想いを偽る事なく接している事の証でもあると言えるだろう。

作り物ではない自然で本物の笑顔と言うのは、己の想いを偽って浮かべられるモノではないのだから。

 

 

「私は、この地で私の理想を実現しようと思っている……だが、私一人で其れを成し遂げる事は到底不可能だ。だから、私の事を支えてくれるかクローゼ?」

 

「言われるまでもありません……何があろうとも、私だけは絶対に貴女の事を裏切らない事を誓いますよなのはさん。貴女は、私の魂の半身です。」

 

「そしてお前は、私の魂の半身と言う訳か……ならば誓おう。死が二人を分かつ其の時まで、私達は共に歩んで行くとな。」

 

「はい……!」

 

 

そしてなのはは黒と白の翼を出現させると、クローゼを抱き寄せて、翼で包み込み……唇を重ねた。触れるだけの優しいキスだが、其れでもなのはとクローゼは、改めて自分達の思いと理想は同じであると言う事をキスを通じて再認識した。

そんな二人を照らす月の光は、まるでリベールの未来を祝福しているかの如く、眩いモノであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter26『The new king is good at hard work!!』

王様は、やるべき事が多いなByなのは     が、頑張ってください!Byクローゼ


リベール王国から遠く離れたドミノ国のとあるカフェテラスにて、高町なたねは本日発行されたばかりの『リベール通信』に目を通していた――リベール通信の最新号の表紙を飾っているのは、自身の双子の姉である高町なのはであり、雑誌の内容もリベールで起きた革命の詳細と、リベールの新たな女王となったなのはと、そのパートナーであるクローゼへの独占インタビューだったので、なたね的には見逃せないモノだったのだろう。

 

 

「お前の姉貴、リベールを取ったみたいだな?自分の姉貴が、一国の王になったってのは、どんな気分だ?」

 

「そうですね、とても誇らしいと思います――同時に、私の復讐を漸く始める事が出来ると言った所でしょうか?なのはがリベールを掌握したのであれば、リベールが持つ戦力は、なのはの手中にあると言っても過言ではありません。

 其れだけの戦力があれば、復讐すべき相手を滅ぼす事も可能な筈ですので。」

 

「まぁ、少なくともライトロードの連中を根絶やしにする事位は簡単に出来るだろうな……なら、早速リベールに向かうか?車を置いて行く事は出来ねぇから、海路になっちまうけど。」

 

「此処から海路でリベールに向かうとなると……大体十日と言った所でしょうか?早いに越した事はありませんので、リベール行きの一番近い船に乗るとしましょう。」

 

「了解だ。」

 

 

なのはがリベールの新たな女王となった事を知ったなたねは、早速リベールへ向かおうとしていた。己の復讐を始める為に。

だが、なたねはリベール通信に掲載されていたインタビューの内容は、『表向きの当たり障りのない事を話している』と考え、なのはが本心を語っているとは微塵も考えていなかった――寧ろ、なのはも自分と同様に怒りと憎しみを糧に燃える、復讐の炎を宿していると信じて疑わなかった。

母が死ぬ原因となる、母の天界追放を行った神族。母を殺した魔族。父と家族を殺したライトロードと、あの村の住人……其の全てを滅ぼして、己の復讐を完遂する事がなたねの目的だった。

 

そして、その復讐に染まり切った状態だからこそ、なのはの真意を見通す事が出来ないでいた――なのはの目的は、自分の目的とは真逆のモノであり、多くの人々が賛同するであろう壮大な理想を実現させようとしている事に。

 

 

「十年振りの再会ですか……姉とは言え、一国の王なのですから何か貢物でも持って行くべきでしょうか?」

 

「其れは、多分持って行かなくても大丈夫じゃねぇかな?

 其れよりも問題は、城に行った所でお前の姉貴に会わせて貰えるかどうかだと思うぜ?流石に十年も会ってないんだ、行き成り『妹です』って言っても、すんなり中に入れて貰えるとは思えねぇけど?」

 

「其の時は、門番を討ち倒して強引に入るまでです。そうすれば、なのはも出て来るでしょうし。」

 

「やり方がバイオレンスです事……ま、お前らしいけどな。」

 

 

同じ存在でありながら二つに分かれ、互いに互いが半身とも言えるなのはとなたねは、今や完全に歩む道は分かれてしまった――『復讐は復讐として、其れとは別に全ての種が、種の違いで争ったり、種の違いによる差別される事が無く平和に暮らせる世界を世界の実現』を目指しているなのはと、『神族も魔族も、そして人間も、全ての種に復讐の刃を無差別に振り下ろして根絶やしにする』のが目的のなたね、その二つの道が交わる事はないだろう。

 

 

「さぁ、共に復讐の覇道を歩みましょうなのは……」

 

 

なたねは愛機『ルシフェリオン』を握り締め、なのはとの再会に思いを馳せる……全くの偶然だが、なたねもなのはのレイジングハートと同形のアーティファクト『ルシフェリオン』を手に入れていたのだ。

だが、なのはのレイジングハートが未来への希望を感じさせる金色であるのに対し、なたねのルシフェリオンはなたねの復讐心を現したかのような闇色……獲物の色までもが真逆のモノであった。

 

十年振りとなる姉妹の再会まで後十日……果たして全く異なる考えを持つに至った双子の姉妹は、この再会で何をする事になるのだろうか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter26

『The new king is good at hard work!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リベールの新たな女王となったなのはは、『戴冠式』や『即位の義』と言ったモノは後回しにして、先ずはリベール王国の立て直しに着手し、真っ先にデュナン時代に更新が行われていなかったリベール王国、カルバート共和国、エレボニア帝国の三国の間で締結していた不戦条約の更新調印式だった。

デュナンは『更新調印式など行わずとも、自動更新で良かろう』と言っていたのだが、アリシア女王時代に『三年に一度、条約の更新手続きとして調印式を行う』と定めていた以上は、調印式を最低でも一度は行わねばならなかった。

『自動更新にする』と言うのならば、一度は其の文言を盛り込んだ新たな不戦条約を作り、更新調印式の場で其れを認めさせなくてはならなかったのだから。

 

なのははカルバートとエレボニア、両国の大使館から大使を城に招き、デュナンが王になってから途絶えていた不戦条約の更新調印式を行い、実に六年振りに不戦条約は正式に更新されたのだった。

其の調印式にて、なのはは『前王の職務怠慢で、多大なる迷惑を掛けた事を心より謝罪する。』と言って、女王と言う立場でありながらエレボニアとカルバートの大使に対して頭を下げたのだが、其れが逆に大使達に対しての印象が良かったのか、カルバートのエルザ大使もエレボニアのダヴィル大使も、『前王の怠慢は貴女の責任ではない』と言って、この六年間の条約更新調印式が行われなかった事に関してはアッサリと水に流してくれた……更新調印式が二度も行われなかったのであれば、其の間にデュナンによって荒れていたリベールに攻め込む事も出来たかもしれないが、エレボニアもカルバートも其れを行わなかったのは、アリシア前女王と締結した不戦条約と言うモノが如何に大きなモノであるかを理解し、更新がされなかったからと言って、其れを一方的に破ると言うのは今は亡きアリシア女王に対して顔向け出来ない、国としての信用と信頼を失うと言う所があったからだろう。

一部からは『何の拘束力もない形だけの条約』とも言われた三国の不戦条約だが、その効力は確りとあったようである。

 

 

条約更新調印式が終わった後は、直ぐに国内の経済の立て直しに着手した。

リベール一の巨大マーケットを持ち、『商業都市』の異名を持つボース市長のメイベルと連絡を取り、国内のありとあらゆる品物の流通をアリシア女王時代に戻すように命じ、メイベルも其れを快諾。

デュナンが王になってから、貿易其の物は大きく変わらなかったが、リベール国内の物品の流通は、一流品をデュナンや一部の富裕層が独占し、一般市民には良くて一流半の品しか流通しなくなっていたのだ。

其れでは国内の経済は回らない。一般市民には、少し高いと思える一流品を、一般市民に提供してこそ意味がある……分かり易く言うならば、一般市民が早々簡単に買う事が出来ないからこそ高級品としての価値があり、特別な日に買おうと思えるのだ。

同時に、高級品も市場に流通するようになれば、高級でありながらも一般市民も無理せずに買う事が出来る値にはなって来るので、『ちょっとした贅沢』をする人々が増えて、結果として国内の経済は潤う事になると言う訳だ。

同時にデュナンと癒着して甘い汁を吸っていた資産家は、その資産を凍結・押収し、『贈賄』の罪で逮捕、拘束される事となり、捜査が済み次第裁判が予定されているのだが、その裁判は有罪判決を言い渡すだけのモノとなるだろう。明確な捜査をした訳ではないにも関わらず、デュナンとの癒着、デュナンへの贈賄の証拠となり得る物が城でデュナンが使っていた部屋から大量に見つかったのだから、此れだけでも言い訳は出来ないだろう。中には直筆のサインまで入っている物も存在していたのだから。

 

となると今度は、国内の流通を円滑にする必要があるので、なのははデュナン時代に契約を打ち切ってしまった『カプア運送会社』に連絡を取って、新たに国内での専属契約を結んだ。

カプア運送会社の、ジョゼット、キール、ドルンは最初は『一方的に契約を打ち切っておきながら今更』と思ったのだが、デュナンが討たれてリベールには新たな王が即位した事を知ると、その新王の顔を拝んでやろうと城にやって来て、そしてなのはと対峙した時に、『此の女王様なら、また契約しても良い』と思って、改めて契約をしたのだ。――其れだけ、なのはの纏う『王』としてのオーラが凄かったと言う事なのだろう。……新たな契約内容が、アリシア女王時代よりも更に優遇されていたと言うのもあるかも知れないが。

 

その次に行ったのは軍の再編と、デュナン側の兵として戦った王国軍の兵士の処分だ。

此度の戦いでデュナン側に付いた王国軍の兵士は、『今回の戦い、王都に攻め入ったのは私達であり、彼等は王都防衛の為に戦ったに過ぎない』と言うなのはの温情により、死罪にはならず、王国軍を懲戒解雇と言う形を取った上での禁固刑になったのだが、そうなると今度は王国軍の人員が足りなくなった。

リシャール率いる情報部と、ユリアを始めとした元王室親衛隊の隊員を集めても、国防の為の戦力としては圧倒的に不足していたので、なのははリベリオンの武闘派を軍に組み込む事でその問題を解決した。

解体されていた王室親衛隊は嘗ての隊員に、一夏達鬼の子供達とレオナとアルーシェを加えて再編し、王国軍はクリザリッド、シェン、サイファーと言ったなのはの最側近だったメンバーが配属される事になった。

クリザリッドは『何故私が親衛隊では無いのですか!』と言っていたのだが、『お前のその高い戦闘力は私ではなく、このリベールの民を守る為に使って欲しい』となのはに言われては其れ以上は何も言えないだろう。クリザリッドにとって、なのはは絶対の存在なのだから。

因みに、京のクローン三人は草薙家に引き取られた。同じ顔が四つも並ぶと言うのは、中々に判別に困るのだが、クローン京は全員が肌が褐色で、京-1は無表情、京-2は比較的表情豊か、KUSANAGIに至っては目が赤くて性格も声も別人なので、よく見れば判別は容易だろう。

 

これ等の事を、新たに王になってから僅か三日と言う超スピードで行ったのだが……

 

 

「めっちゃ疲れたの……まさか王様がこんなに大変だとは思わなかったの……此れ等を熟していたアリシア女王には頭が上がらねーの。アリシア女王凄過ぎなの。」

 

 

結果、なのははオーバーヒートしていた。

神族と魔族の血を引くなのはは、普通の人間と比べたら無尽蔵とも言えるスタミナを供えているのだが、其れを持ってしても僅か三日で此れだけの事をすると言うのは中々に堪える様だ……疲労のせいで、キャラが思い切りぶっ壊れているみたいだしな。下手すりゃ、口から魂が抜け掛けてるわ。

 

 

「お疲れ様ですなのはさん。漸く一息と言った所ですね。」

 

「なのはママ、お疲れ様~~!」

 

 

そんななのはに、クローゼは疲労回復の効果があるハーブティと、エネルギー回復に繋がる甘いお菓子を持って来て、ヴィヴィオはなのはの肩をマッサージ。クローゼはなのはのパートナーとして、ヴィヴィオは娘としてなのはを支えるようである。

 

 

「ふぅ、まさか女王としてやるべき事が此処まで大変だとは思わなかった……此れ等を完璧に熟していたアリシア女王には本気で頭が上がらんよ。アリシア女王は、真に偉大な王であったのだと、其れを身をもって実感している。」

 

「お祖母様も、此処までの強行軍を行った事は無かったのですけれど……私としては、僅か三日で此れだけの事をしてしてしまったなのはさんに驚きです。普通だったらこんなスピード対応は出来ないと思いますよ。」

 

「先ずはリベールの立て直し無くして、理想の実現など出来る筈もないからな。

 私の……私達の理想の始まりとなるのはこのリベールだ。ならば、そのリベールが健全な状態でなくてはどうしようもないだろう?なれば、多少無理をしてでもリベールを最低でもアリシア女王時代に戻さねばなるまい。

 その為ならば、多少の無理も致し方あるまい。ある意味での必要経費と言う訳だ。」

 

「其れはそうかも知れませんが、だからと言ってなのはさんが倒れてしまっては本末転倒ですよ?

 リベールの立て直しは急務の事ではありますが、我武者羅に働いて身体を壊しては意味が無いので、王国軍と王室親衛隊の再編が出来た此処いらで息抜きをしましょう?良ければ、エルモ村の温泉に行きませんか?」

 

「温泉……確かに良いかも知れん。」

 

 

短期間での激務に、流石のなのはも参っていたのだが、此処でクローゼが温泉旅行を提案してくれた。

エルモ村はリベールが世界に誇る温泉地であり、その温泉を目当てに国内外から訪れる者が多い場所でもある……デュナンは、その温泉を一人占めしようとしたのだが、エルモ村のマオ婆さんに其れを拒否されたという過去があったりする。其れでも、エルモ村がデュナンによって潰されなかったのは、其れだけエルモ村の温泉は潰すには惜しいだけの素晴らしいモノだったからだろう。

 

 

「では行くとするか。」

 

「其れではエルモ村に向けて……」

 

「レッツゴー!!」

 

 

なのははヴァリアスを、クローゼはアシェルをフルサイズに戻すと、グランセル城の空中庭園からエルモ村に向かって飛び立って行った……ヴィヴィオはなのはと一緒にヴァリアスの背に乗っていた。

帰りは、クローゼと一緒にアシェルの背に乗るのだろうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、本当に最高だなこの温泉は。疲れが一気に吹き飛ぶ感じだ……名湯とは、正にこの事だな。」

 

「身体に染み渡りますね。」

 

「おっきーお風呂、気持ち良い~~~!」

 

 

エルモ村に到着したなのは達だったが、エルモ村の住人はリベールの新たな女王がやって来た事に少しばかり驚いてはいたが、其れが騒ぎに発展する等と言う事にはならず、温泉宿『紅葉亭』にて温泉を堪能する事が出来ていた。

此の紅葉亭、宿泊は勿論だが日帰りでの温泉も楽しめると言う事で、旅行客のみならず、近隣のツァイスから温泉目当てでやって来る人も多い、知る人ぞ知る温泉宿だったりする。実は不動兄妹はお得意様。

 

 

「いや、実に素晴らしい場所を教えてくれたモノだクローゼ。

 此れからは疲れを感じたら、此処の温泉で疲れを癒すとしよう。程よい湯加減で身体が芯まで温まって、疲労が回復して行くのを実感出来るよ……一度此の温泉を知ってしまったら、其れは虜になるだろうね。」

 

「エルモ村の温泉には、疲労回復以外にも、美肌や外傷の回復促進と言った効能があると聞いています。温泉は、宿で出す料理にも使われているらしいですよ?」

 

「温泉を料理に……例えばどんな物に使うのだろうか?」

 

「温泉でお米を炊いたり、温泉を使った汁物、最近では温泉で生地を練ったパンなんかもあるみたいです。実際に食べた事はありませんけど。」

 

「ドレも美味しそうだね!」

 

「そうだな。風呂から上がったら、軽く何か食べてから城に戻るとしよう。」

 

「やったー!」

 

「城に戻ったら、まだやるべき事は残っているから其れに手を付けねばならないがな……とは言え、早急にやるべき事と言えば、後は子供達への教育を如何充実させていくかと言う事なのだがな。」

 

 

温泉でゆっくりしながらも、なのはは次にやるべき事について考えていた。其れは子供達の教育だ。

現在のリベールの公的教育機関は、満十五歳で一学年時に満十六歳になる者が入学する事が出来る『ジェニス王立学園』のみであり、十五歳未満の者は毎週日曜に各都市の協会で行われている『日曜学校』を利用していると言う状況で、子供達への教育が充実しているとは言い難い状態なのである。

日曜学校の質は良いが、週一回で、六歳~十五歳までと言う幅広い年齢層夫々に必要な教育がなされてるとは言えないのだ……かと言って七耀協会に子供達の教育まで全部任せると言うのは酷な事なので、なのははジェニス王立学園とまでは行かずとも、各都市に規模は小さくとも年代別の教育が出来る本格的な学校を作る必要があると考えていたのだ。

 

 

「各都市に小規模でも学校を建てると言うのは名案だと思いますが、設立の為の資金、教員の確保と言ったクリアしなければならないモノも多いですからねぇ……其方はそう簡単には行かないと思います。」

 

「資金は、汚職塗れの資産家から押収したモノを当てれば良い。決して綺麗な金とは言えないが、ならばせめて綺麗に使ってやった方が金の方も喜ぶだろう。

 教員に関しても、リベリオンの中には不当な理由で解雇された元教師も少なくないから、そう言った者達に任せればいい……其れでも流石に全然足りんから、国民に募集を掛ける事になるだろうがな。

 其れから、各都市の学校を纏め上げる為の機関を政府内に新たに設立して、其れのリーダーを務められる者も探さねばだ……正直やる事は沢山あるが、子供への教育と言うのは国の未来にとって大切なモノだから、確りとやっておかねばな。」

 

「そうですね……子供への教育に関しては、お祖母様も色々と考えていたようなのですが、志半ばで逝去されてしまい、お祖母様の計画は叔父様が全て白紙にしてしまったらしいので。」

 

「あのタヌキめ、碌な事をせんなマッタク。」

 

 

アリシア前女王も、子供の教育に関しては色々と考えていたようだが、其れを実現する前に亡くなってしまった上に、其れ等の計画はデュナンが全て白紙に戻し、其の為に積み立てていた資金も、全て私欲を満たす為に使ったと言うのだから笑えないだろう。デュナン――と言うかデュナンを乗っ取った悪魔は、何処までも愚劣極まりない者だったと言う訳だ。

 

 

「そう言えばクローゼ、五つに分けられたお前の中に居る精霊のパーツの一つはグランセル城の地下に封印されたと言っていたが、この間のデュナンとの戦いで地下に行った時、其れらしきモノは見なかったが……何処にあるんだ?」

 

「其れは分かりませんが、通常の方法では行き着く事の出来ない、最深部の更に奥とも言うべき場所に封印されて居るのかもしれません……私が封印を解くまで、封印の石板が此の世に姿を現す事はないのかもしれません。」

 

「それ程までの厳重な封印とは、お前の中に眠っていた精霊は如何程の力を持っていたのだろうな?」

 

「お祖母様が言うには、『制御不能に陥って暴走したら、間違いなくこの世の全てを灰燼に帰すだけの力がある』との事でした……今の私なら制御する事は出来ると思いますが、出来ればその封印を解く日が来ない事を願っています。

 私の精霊の封印を解くと言うのは、其の力に頼らねばならない位の事態が起きたと言う事ですから。」

 

 

話は変わってクローゼが生まれながらに宿していたが、余りに強大であった為に、アリシアによって五つに分解された上で、グランセル城の地下と、四輪の塔に封印された精霊についてとなった。

デュナンとの最終決戦はグランセル城の地下の最深部だったのだが、其処に至るまでの道則にも、最深部にもクローゼの精霊の一部を封印した石板らしき物は何処にも見当たらなかったのだ……が、逆に言えば其れだけ厳重な封印を施したのだと言えるだろう。

そして、クローゼの言う事もまた然り。其れだけの強大な力の封印を解くと言うのは、其れに頼らざるを得ない事態が発生したと言う事なのだから、封印を解く日は来ないに越した事はないのだ――もっと言えば、其れだけの強大な力を使える事が分かったら、様々な国によるクローゼ争奪戦が始まるのは確実と言えるしね。

 

 

「世界を滅ぼす事が出来る力、か。」

 

「クローゼママって、凄い精霊を宿してるんだ!」

 

「お祖母様は、私の精霊のあまりに大きな力に畏敬の念を込め、太古の神話に登場する圧倒的な力を持つ幻の召喚神に擬えて、『エクゾディア』と命名していました。」

 

「エクゾディア……太古の神話に登場する、一撃で千の死霊の兵を葬ったとされる魔神だったか?……かの魔神の名を関するとは、益々其の精霊には興味が湧いて来た。封印が解かれる事があった暁には、手合わせしてみたいモノだ。」

 

「私の精霊となのはさんが本気で戦ったら、其れだけでリベール全土が更地になると思います。」

 

「其れは困るな……では、プレシアの時の庭園でやるとしよう。あそこは外界と遮断された特殊空間だから、現実世界に影響を与える事もないからな。」

 

「時の庭園ごと破壊されて、時空の狭間に放り出されませんか其れ?」

 

「あぁ、其れは困るな……となると、お前の精霊とのバトルは出来ないと言う訳か、残念だ。」

 

 

『エクゾディア』……其れがクローゼに宿っている精霊の名前らしい。

其れは太古の神話に登場する、圧倒的な力を持った魔神の名であり、同時にクローゼに宿っている精霊は其れだけの力を持ったヤベー奴だと言う事なのだろう。其れと戦ってみたいと言ってしまうなのはも大分ヤバい奴なのかも知れないが。

まぁ、其れはちょっとした冗談なのだろうけれどね。

 

温泉を堪能したなのは達は、湯上りに紅葉亭名物の『フルーツ牛乳』を飲んだ後に、食堂で『温泉炊き込みご飯』、『温泉を使ったカニ汁』、『紅葉亭特製鯉の洗い』を堪能した。

旬の山の幸をふんだんに使った炊き込みご飯と、川ガニを使ったカニ汁も絶品だったが、鯉の洗いは其れ以上だった。

温泉と同じ成分の水で育てられた養殖の鯉は天然モノと比べて臭みが圧倒的に少なく、氷点下まで冷やされた温泉水で洗われた身は引き締まって何とも言えない食感を生み出していたのだ。洗いに添えられた、湧き水で育てられたと言うワサビがその美味しさを更に引き立てていたと言えるだろう。良質のワサビは独特の辛味は抑えられている反面、独特の香りはより強く出るので、魚料理との相性は抜群なのである。紅葉亭で使っている醤油が、加熱処理をしていない生醤油と言うのも拘りを感じると言うモノだ。

 

 

「なのはママ、クローゼママ、温泉饅頭だって!皮に温泉が使われてるだけじゃなくて、温泉の蒸気で蒸し上げてるみたいだよ!」

 

「温泉饅頭……名物の様だし、土産に買って行くか。

 グランセル城のスタッフと、軍と遊撃士協会にとなると……結構な数になるから、グランセル城以外には宅配でだな。……此れは、早速カプア一家に頑張って貰う事になるかも知れないな。」

 

「ですね。」

 

 

エルモ村を出る前に、名物の温泉饅頭を購入し、軍と遊撃士協会には宅配で届けて貰う事にした……自らが癒しの為に訪れた地の名物を部下に普通に分け与えるとは、中々の配慮と言えるだろう。少なくともデュナンはこんな事は絶対にしなかっただろうからね。

そして、後はグランセル城に戻るだけだったのだが、此処でヴィヴィオが『私も私のドラゴンが欲しい』と言って来た……なのはとクローゼがドラゴンを従えているのを見て自分も欲しくなったのだろう。まぁ、確かに自分だけのドラゴンが居るって言うのは何だか特別な感じがするので欲しくなるのも分からなくはないが。

なのはとクローゼも、如何しようかと迷ったのだが、ヴィヴィオの願いは特別反対する理由も無かったので、ドラゴンを呼ぶ笛を吹かせてみたのだが、その結果――

 

 

『グオォォォォォォォォ!!』

混沌帝龍:ATK3000

 

 

なんだかとってもヤバいドラゴンが降臨した!

アナライズで解析した結果は、クローゼのアシェルと同等のステータスなのだが、ヴィヴィオが呼び出したドラゴンはステータス以上の能力が備わっているらしい……生体兵器として生み出されたヴィヴィオの魔力はマジでトンデモナイので、此れだけのドラゴンを呼ぶ事になったのだろう。

此れにはなのはもクローゼも驚いたが、此れだけの力を持ったドラゴンがいれば、リベールの国防にはプラスになるので何も言わずに受け入れ、そしてヴィヴィオのドラゴンは『バハムート』と名付けられた。

太古の神話に登場する竜王の名を与えらえれたと言うのは、それに見合うだけの力があったと言う事だろう。

 

そして、夫々の龍の背に乗り王都に向かっていたのだが、その最中、レイジングハートに通信が入った。

 

 

「ユリアか、如何した?」

 

『陛下、現在リベール上空に正体不明の飛行船が現れ、着艦許可を求めているのですが、この船は所属不明なので発着場に下ろす事は出来ません……如何したモノでしょうか?』

 

 

如何やら、リベールの、より詳しく言うのであれば、グランセルの上空に正体不明の飛行船が現れ、着艦許可を求めて来たのだが、その船は所属不明なので下す事が出来ないと言う事らしい。

其れを聞いたなのはは、早速グランセルに直行し、その飛行船を目にしたのだが……

 

 

「此れはスカイノア……と言う事はルガールか。

 まさか其方から出向いて来るとは思わなかったが、態々来てくれたと言うのであれば、無碍に追い返す事は出来まい……其れに、態々此処まで来たと言う事は、私の生存を知り、私がリベールを取ったからだろうからな。――着艦許可を出せ。但し発着場でなく、レイストン要塞にな。」

 

『レイストン要塞……了解いたしました陛下。』

 

 

その大きさから発着場に着陸するのは無理と考えて、レイストン要塞に着陸するようにユリアに指示を出した。――そして、程なくして飛行船はレイストン要塞に着陸し、なのはにとっては十年振りとなる魔王との再会を果たす事になるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter27『魔王達との邂逅。新たなる同盟関係!!』

魔王の揃い踏みか……迫力が違うなByなのは     此れが、魔王の覇気……!Byクローゼ


ユリアからの通信を受けたなのはは、『正体不明の飛行船は、レイストン要塞に着陸させろ』との指示を出すと、自らもレイストン要塞に急行して、件の飛行船が到着するよりも前にレイストン要塞に到着して、件の飛行船――スカイノアの到着を待っているところだ。

王室親衛隊の隊長であるユリアも、王室親衛隊の新メンバーを引き連れてアルセイユで急行し、レイストン要塞に到着している。

 

 

「陛下、件の飛行船は知り合いの者が有しているモノとの事ですが、どの様な御関係だったのでしょうか?」

 

「私の父、不破士郎が同盟を結んでいた魔王だよ……子供の頃には随分と可愛がって貰ったものさ。特に、あの飛行船の持ち主であるルガールには、妹共々随分と可愛がって貰ってな、私達も良く懐いていた記憶があるよ。

 ルガールだけでなく、アーナスは従魔と遊ばせてくれたし、悪魔将軍は戦いのイロハと言うモノを父とは異なる観点から教えてくれた。幼少期の私の記憶の半分は彼等が占めている感じだな。」

 

「前に話していた魔王の方々ですか……時に、悪魔と魔族は別物なんですよねなのはさん?ならば何故、魔王の一人である悪魔将軍は、『悪魔』を名乗っているのでしょうか?」

 

「其れは私も疑問だったので、子供の時に聞いてみたのだが、将軍曰く『魔族将軍では語感が良くないし、悪魔将軍の方が強そうだから』との事だった。凄く納得してしまった私が居るのを否定出来ない。

 序に、本名は別に有るらしいが、将軍の配下の者であっても本当の名は知らないらしい……どころか、人前では常に鎧を纏って金属製のマスクをしているから、素顔を知る者すら存在しないらしい。」

 

「其れは、可なりミステリアスな方ですね……?」

 

 

嘗て士郎と同盟を結んでいた魔王達、取り分け悪魔将軍は個性的である様だ……魔王であり、魔界で過ごしているから兎も角として、人間界で常に鎧と金属製のマスクを装着して過ごして居たら、不審者其の物であるが。

しかし、其の実力は魔王の中でも随一とされており、純粋な戦闘力だけで言えば士郎を上回るのだ。尤も士郎は、その戦闘力の差を戦闘技術でゼロにしてしまう事が出来るので、戦闘力では自分よりも上の悪魔将軍やルガールとも互角以上に戦えたのだが。

魔王の中ではアーナスが基本の戦闘力は劣るのだが、彼女の場合は従魔と、制限時間付きの変身によって他の魔王と互角に戦う事が出来るのである。

 

 

「ミステリアスさではルガールも引けを取らんがな……私が知っているだけでも、確実に二回は死んでるのだが、誰かが蘇生魔法を使った訳でもないのに何時の間にか生き返っていた。」

 

「蘇生魔法を使わずに生き返るって、何ですか其れ……?」

 

「『私の趣味は復活だ!』と言っていたな。」

 

「陛下、其れは絶対に趣味とすべきモノではないかと……そもそも趣味で復活は不可能ではないかと思われますが……?」

 

「確かにそうなんだが、何が恐ろしいって復活するたびに強くなってた事だな……二回目に死んだときは、オロチの力を其の身に宿して、身体が其の力に耐えられずに消滅した筈だったのに、復活した後はサラッと至極普通にオロチの暗黒パワーを其の身に宿していたからな。

 次に死んで復活する事があったら、一体どんな力を身に付けて来るのか正直見当も付かん。」

 

「オロチの力……何だか複雑。」

 

 

そうした雑談をしている内に、レイストン要塞の上空にスカイノアが現れ、其のまま垂直に着陸して来る――多くの飛行船が斜堤離着陸をしているのを考えると、垂直離着陸が出来るスカイノアは可成り高い技術が使われているのだろう。

 

スカイノアは其のままレイストン要塞のドッグに着陸すると、ハッチが開き中から三人の人物が姿を現した。

一人は赤い服と赤みを帯びた銀髪と額のゴーグルが特徴的な女性、一人は燕尾服の様なスーツを着込んだ紳士然とした大柄の男、そして一人は白銀の鎧と金属製のマスクを装着し、鎧からマントをなびかせた身長が優に2mを超える大男である。

この三人こそ、嘗て士郎と同盟を結んでいた魔王、アーナス、ルガール、悪魔将軍――其の三人が、なのはの前に現れたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter27

『魔王達との邂逅。新たなる同盟関係!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔王たる三人は、その場に存在しているだけで凄まじい迫力があり、百戦錬磨のリシャールとユリアですらその迫力に少しばかり気圧された程だ……だが、視線を逸らさずに微動だにしなかったのは流石と言えるだろう。

逆に鬼の子供達は気圧された感じはなかったが、一夏達は魔王に勝るとも劣らない『鬼』に育てられたので、魔王の迫力に気圧されると言う事も無いのだろう。慣れと言うのは中々に馬鹿に出来ないみたいである。

アルーシェは、その迫力に驚きはしたモノの、リベリオンでトンデモナイ化け物みたいな連中と接して来たので気圧されはしなかったようである。尚レオナだけは、相変わらずの無表情で気圧されたのかどうかすら分からない。

クローゼも、なのはと共にリベリオンで其れなりの時間を過ごしていた事で、魔王の迫力に気圧される事はないみたいである……尤も、クローゼの場合は子供の頃に魔族の証である黒い翼を持っていたなのはに恐れる事もなく声を掛けたので、元々胆は据わっていたのだろうが。

 

 

「アーナス、ルガール、悪魔将軍……まさか、三人揃って登場とは思わなかった。」

 

「やぁ、十年ぶりだね。まさか君が生きていて、リベールの新たな王様になるとは思わなかったよ。」

 

「君と君の妹は、何れ大きな存在になると思っていたが、一国の王になってしまうとは……黄泉の国で士郎殿と桃子殿も、愛する娘が立派に成長した事をきっと喜んで居る事だろう。」

 

「其の力は嘗ての士郎に引けを取らぬほどにまでなったか……日々研鑽を怠らなかったと見える。あの小さき少女が、良く成長したモノだ。」

 

「十年もあれば成長もする。『男児三日遭わずば刮目して見よ』と言うが、其れは女でも同じと言う事だ。」

 

 

スカイノアから降りて来た三人の魔王となのはは再会を確かめるように握手を交わす。……その際に、ルガールは握手後になのはの手の甲にキスをすると言う中々に気障な事をしてくれたのだが、此れはルガールなりの譲れない美学と言う奴だろう。

己の秘書に美女を採用しているルガールだが、魔王として『女性には常に敬意を』と言う思いを持っており、立派な女性へと成長したなのはに対して、『敬意』の意を示す手の甲へのキスをしたと言う事である。

 

 

「君達姉妹は、将来は必ずや見目麗しい美女に成長するだろうと思っていたが、私の目に狂いは無かった様だ。

 尤も、士郎殿と桃子殿の娘が美人にならない筈がないがね。……まぁ、私が想像していた以上の美女になっていた事には少しばかり驚いてしまったが。」

 

「素直に褒め言葉と受け取っておくよルガール。

 さて、リベールに何用だと言いたい所だが、こんな所で立ち話と言うのも何だから、レイストン要塞のブリーフィングルームに移動するとしようか?

 本来ならばグランセル城の謁見室に行くべきなのだろうが、グランセルの発着場ではスカイノアは着陸出来んし、此処からグランセルまで移動すると言うのは二度手間でしかないからな。スマナイが其れで良いか?」

 

「うむ、其れで構わんよ。」

 

「ではリシャール、ブリーフィングルームを使わせて貰うが構わんか?其れと簪、客人に茶と菓子を用意してくれ。」

 

「はい、問題ありません陛下。」

 

「うん、了解したよなのはさん。」

 

 

魔王達との会見はレイストン要塞のブリーフィングルームで行う事にし、なのははリシャールに是非を問うと、リシャールは問題無く了承し、茶と菓子の用意を言い渡された簪も其れを了解。

なのはとクローゼとヴィヴィオは、それぞれヴァリアスとアシェルとバハムートをミニマム魔法で縮小させるとレイストン要塞のブリーフィングルームへ向かって行った。

 

 

「ヴァリアス、またなのはママの頭の上……」

 

「余程居心地が良いのでしょうか?」

 

『ピカチュウ。』

 

「だから嘘吐けぇ!お前は電気ネズミじゃなくでドラゴンだろうが!」

 

 

取り敢えず、縮小されたヴァリアスはなのはの頭の上がお気に入りであるのは間違い無いだろう。因みに縮小されたアシェルの指定席はクローゼの右腕で、バハムートはヴィヴィオの左肩であった。……右腕をアシェルに奪われた白ハヤブサのジークは新たにクローゼの左肩が定位置になったとか。

序に言うと、ジークを突進させる『ケンプファー』が、相手の物理攻守をダウンさせるの対して、アシェルを突撃させる『ケンプファーD』は防御と魔防の値をゼロにすると言うトンデモクラフトだったりする。白きハヤブサも白き龍もマジでハンパないな……フルサイズ時のアシェルのブレス攻撃は、全てを灰燼に帰す事も出来る事を加味すれば尚の事だ。

其れだけの竜を従えておきながら、其れをも上回る精霊を其の身に宿しているクローゼは、マジでハンパない。……ある意味で、デュナンがクローゼを恐れて排除しようとしたと言うのも分からなくはないかも知れないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

レイストン要塞のブリーフィングルームに移動した一行は、椅子に腰を下ろし、簪が用意した茶と菓子を口にしていた――紅茶がリベールで最高級とされている、『ダージリン』で、菓子はなのはが料理の腕で一目置いたBLAZEのリーダーである志緒が作った『黄な粉と大納言小豆のシフォンケーキ 抹茶クリーム添え』で、此れが実に紅茶にマッチしていた。志緒は、丼物だけでなくスウィーツも得意なようだ。

室内にはなのはとクローゼとヴィヴィオ、アーナスとルガールと悪魔将軍の他に、レイストン要塞の責任者であるリシャールと副官のクラリッサ、王室親衛隊隊長のユリア、王室親衛隊の新メンバーも揃って居る。

 

 

「それで、改めて問うが、何故彼方達は此処に?」

 

「其れは君がリベールの新たな王様になったからかな?十年前、士郎さんが魔界を去る時に、私達に『私にもしもの事があったら娘達を頼む』って言ったんだ……私達は同盟を結んでいたから、そのお願いを聞かないって言う選択肢は無かったんだけど、十年前のあの日に君となたねは生死不明になっていたから、そのお願いを果たす事は出来ないって思ってたんだ。」

 

「だが、アーナス殿の従魔が持ち帰ったリベール通信の最新号で君がリベールの新たな王になったと言う事を知ったと同時に、少なくとも双子の片割れは生きていると言う事が分かったのでね――ならば、私達が君と新たな同盟を組みたいと思っても別に不思議はあるまい?」

 

「私達は、士郎殿の遺言に従っただけだが、今のお前を見て同盟を組んでも問題は無いと判断した……アーナスの従魔が持って来たリベール通信のインタビュー記事を読んで、お前が士郎殿と桃子殿の遺志を継がんとしている事は知っていたが、実際に会ってみて、あの二人の遺志を完遂すると言う確固たる決意が見て取れた。

 彼等の理想としていたモノは、我等にとっても共感出来るモノであった……ならば、その遺志を継がんとするお前に力を貸しても罰は当たるまい。」

 

 

魔王達がリベールにやって来たのは、なのはが新たなリベールの王となったと言う事が大きかったみたいだ……まぁ、士郎に『自分にもしもの事があったら』と頼まれていた娘の片割れが、一国の主となり両親の遺志を継ぎ、其れをやり遂げようとすると言うのであれば其れに協力する気もあるらしい。

簡単に言えばなのはと、もっと言うのであればリベールと同盟を結びに来たと言う事なのだろう。

 

 

「彼方達との同盟か……其れは嬉しい申し出ではあるが、此れは流石に私の一存で決める事は出来ないな?……クローゼ、お前は彼等との同盟について如何考える?率直な意見を聞かせてくれ。」

 

「そうですね……まず、仲間と戦力は多いに越した事はありませんから、そう言う意味では同盟を結ぶのは良いと思います。

 魔族は嘘を吐けないとの事ですから、裏切る様な事も無いと思いますし。其れに、なのはさんが新たなリベールの王となったのを知って態々魔界から来て下さったのですから、折角の申し出を受けないと言う選択肢はないかと思いますよ?

 ユリアさんは如何思いますか?」

 

「私ですか!?

 そうですね……私も同盟を組む事に何の問題も無いと考えます。同盟を組む事でリベールの国力はより強固なモノになると同時に、魔王との同盟を結ぶと言う事は魔界と同盟を結ぶも同義と言えますので、其れだけでも諸外国への牽制になるかと。

 其れ以外にも、魔界との交易が可能になれば新たな外貨を開拓出来ますし、少なくとも同盟を結ぶ事で発生するデメリットは皆無かと。」

 

「ま、良いんじゃないですかね?

 その人達強いんでしょ?ルガールさんと将軍さんは、カヅさんと同じ位強いだろうし、アーナスさんもルガールさんと将軍さんには劣るとは言え、俺等よりはずっと強いだろうしな。」

 

「ルガール・バーンシュタイン……その赤い右目、途轍もなくシンパシーを感じる!」

 

「クラリッサ君、少し黙っていたまえ。」

 

 

同盟について、なのはがクローゼに意見を求めると、クローゼが己の見解を述べた後にユリアにバトンパスし、更に一夏が追撃し、クラリッサはルガールに謎のシンパシーを感じている様だった。

取り敢えず、発言しなかった者達も反対意見を出す訳でもないし、魔王達との同盟に関しては、締結しても問題ないと言った所だろう。

 

 

「反対意見は無いか……ならば、私は今此処でアーナス、ルガール、悪魔将軍の三名の魔王との同盟を締結する事を宣言する!

 アルーシェ、リベール通信社に連絡を入れて、至急ナイアルとドロシーをレイストン要塞に寄越すように要請してくれ。魔王達との同盟締結の事を、号外で伝えて貰わねばならないからな。」

 

「任せて、なのはさん!」

 

 

ならばと、同盟締結を決めたなのはの行動は素早かった。同盟締結を宣言すると同時に、アルーシェにリベール通信社に連絡を入れるように言い、此の事を一早く国民に知らせようとする。

カルバート共和国と、エレボニア帝国との間で結ばれていた不戦条約の更新調印式の際も、ナイアルとドロシーを同行させて、国民に一早く知らせたのだが、国に関わる事柄は、最速で国民に知らせるべきだと考えているのだろう。

 

 

「同盟締結だね……なら、矢張り此れだよね?」

 

 

なのはの同盟締結を聞いたアーナスは、バッグから酒と四つのグラスを取り出してテーブルの上に置く。

なのはは魔族と神族の血を引くハーフだが魔族としての一面が強く出ており、魔王は言うまでもなく魔族なので、同盟締結の場で魔族の誓いの義を行うと言うのは道理であると言えるだろう。

 

 

「申し訳ありませんがアーナスさん、もう一つグラスはあるでしょうか?なのはさんだけでなく、なのはさんのパートナーである私もまた誓いを交わしたいので。」

 

「予備で持って来てあるけど、そんな事を言うなんて面白いね君も。」

 

 

クローゼも共に誓いを交わしたいと良い、アーナスは予備として持って来ていたグラスを用意すると、炎を操る事の出来る『デモンフォーム』に変身して、酒を熱する!アルコールが飛んでしまわないように沸騰させず、しかし喉が焼けるほどの温度にまで持って行く!

絶妙な加熱によって、沸騰直前の激熱に熱された酒はなのは、クローゼ、アーナス、ルガール、悪魔将軍が持ったグラスに注がれる……酒が注がれた瞬間に、グラスは持っていられない程に熱くなったが、そんな事はお構いなしに全員が灼熱の酒を一気に飲み干す。――悪魔将軍はマスクをしたままで飲み干したのだが、一体如何やってマスクの上から飲んだのか謎である。若しかしたら、金属製のマスクには、飲食の際にだけ口部が開く機構が備わっているのかも知れないな。

 

 

「ふぅ……喉を焼くほどの酒と言うのは矢張り効くが、だからこそ同じ痛みを持ってして交わされた誓いは絶対だ。リベール王国は、今この時を持ってして魔界と同盟関係になった!」

 

「此れから宜しくお願いしますね?」

 

「其れは此方のセリフだよ。」

 

「此れで、士郎殿の願いに応える事が出来たと言う所だな……尤も、此処がスタート地点なのだろうが。」

 

「道はまだ始まったばかりだ……士郎と桃子の二人の理想を実現するのは簡単ではないと思っていたが、なのはとその仲間達ならばきっと成し遂げるであろう。我等はその手伝いをしてやるだけよ。」

 

 

今此処で誓いの義を行ったと言う事は、ナイアルとドロシーにはまた別の形で同盟締結を伝えると言う事なのだろう……その場で酒を飲み干して誓いを交わした事で同盟が締結されたと言うのは、余りイメージとしては良いとは言えないので、形式的な調印式を行うと言うのは、其れもまた仕方のない事なのかも知れないが。

 

 

「ナイアル達が到着するまでにはまだ時間が掛かるだろうから、到着するまでの間に魔界の現状を聞いておきたいんだが、今の魔界はどんな感じだろうか?」

 

「士郎殿が去ってから、一時期は不安定な事もあったが、今は概ね平和であると言って良いだろう。

 士郎殿が魔界を去った事で空席となった魔王の座を狙う者達も居たが、そう言った連中は私達で排除して来たからね……その中には士郎殿の代役を務められる程の者は存在して居なかったら、排除して正解だったと思っているがね。」

 

「その中には、桃子を殺害した魔族も居たので、キッチリと粛清しておいた。」

 

「そうか……私の手で討ちたかったが、奴も魔王に葬って貰えたのならば本望だろう。少なくとも、自分の半分も生きていない小娘に討たれるよりは、な。」

 

 

ナイアル達が到着するまでの間に、なのはは魔界の現状を聞いたのだが、現状は極めて平和であり、士郎が魔界を去った事で空位になった魔王の座を付け狙う者も居たが其れ等はアーナス、ルガール、悪魔将軍が返り討ちにし、桃子を殺した魔族に関しては悪魔将軍がキッチリと粛清をしていたようだ。――士郎による粛清は、命までは取らなかったが、悪魔将軍による粛清はその限りではないので、その魔族はもうこの世には居ないだろう。

其れを聞いたなのはは、皮肉気な笑みを浮かべると、これまた皮肉たっぷりのセリフを口にしてくれた……自分の半分も生きていない小娘に討たれるよりも、魔王に粛清されるのならば魔族として本望だろうとは、何とも言えないモノがある。身の丈以上の野心を持った者は、最終的には碌な死に方をしないのだろうな。

 

その後、ナイアル達が到着するまでの間に、同盟締結の文書を作り上げると、レイストン要塞に到着したナイアルとドロシーの前で、同盟締結の調印式を行い、なのはが三人の魔王夫々と握手をしている所をカメラに収めさせ、号外の発行準備は完了!

同時に、明日の朝刊の一面記事も確定したと言えるだろう。――こうして、リベールが魔界と同盟を締結したと言うインパクト抜群の一件は、瞬く間にリベール国民全員が知る事になるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、シェンはユーリを連れて、なのはから教えて貰ったある場所に来ていた。

其処は廃墟同然の場所だったのだが、なのは曰く『レイジングハートに匹敵するアーティファクトが眠って居るかもしれないので、ユーリを連れて其処に行って、ユーリに最適な武器を見付けてこい』との事だったので、デュナン討伐の数日後に、シェンはユーリと共にこの場所を訪れていたのである。

 

 

「人の気配はするが、真面な奴の気配じゃねぇ……ユーリ、俺から絶対離れんじゃねぇぞ?俺から離れたら死ぬと思え。」

 

「は、はい!分かりましたシェンさん!」

 

 

その場所はスラムが天国に思えるほどのアウトローの溜まり場になっており、ユーリが単身で訪れていたら、あっと言う間にアウトロー達の慰み者になっていただろう。

女に飢えているアウトローにとって、相手が子供か如何かなんてのは関係ないからね……己の性欲の捌け口があれば其れで良いのだ。

が、シェンが一緒ならばそうなる事はないだろう――シェンは士郎に師事していた事もあって人間としては可成り高い戦闘力を有しているだけでなく、喧嘩無敗の百戦錬磨なので、アウトローのチンピラ風情ならばワンパンで滅殺出来るのだから。

 

 

「けっへっへ、そのお嬢ちゃんだけ置いて行って貰おうか?そうすりゃ、見逃してやるぜ兄ちゃん?」

 

「誰が置いて行くか!ガキに手を出そうとする下衆野郎が!!テメェみたいなのは秒で死んどけ!!」

 

「ペギャっぱ!?」

 

 

そして実際に、一人のアウトローのチンピラをワンパンで沈めた事で、他のアウトローは何も言えなくなったみたいだ……シェンの顔面パンチを喰らったアウトローの顔は完全に潰れていた訳だから、此れは黙るしかないだろう。一応、殴られたアウトローは生きて居る様だ……辛うじてではあるみたいだが。

シェンの喧嘩技もまた、全てが必殺であるのは間違いなかろうな。

 

その後は、アウトローに絡まれる事なく武器捜しをしたのだが、中々ユーリが『此れだ』と思う武器は見つからず、『此処にユーリが求める武器はないのか?』と思い、シェンも『暗くなって来たし、そろそろ帰った方が良いか?』と考えていたところ、ユーリが一冊の魔導書を見付け、其れを手に取った事で状況は一変した!

 

魔導書と共にユーリの身体が発光し、そしてあっと言う間に周囲をその光で満たして行く……目の前で両親を喪った、悲劇の少女は、如何やらその身にとても大きな『力』を宿す事になりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter28『平和と言う名のBreak Timeと……?』

フィリップの二つ名は『剣狐』……剣の狐って何だ?Byなのは     言われてみると、何でしょう?Byクローゼ


ユーリの武器を見付ける為に訪れた場所にて、ユーリがとある魔導書を手にした瞬間に、眩いばかりの光が溢れ出して周囲を照らし出し……そして、程なくして光は治まったのだが、光が治まってから現れたユーリの背には、闇色の魔力の翼が現出していた。

 

 

「魔力の翼だと?ってか、お前あの魔導書は如何した?」

 

「えっと、私の中に取り込まれてしまったみたいです……そして、あの魔導書を取り込んだ結果、この翼、《拍翼》が現れたみたいです。」

 

「魔導書取り込んだって、其れ大丈夫……みてぇだな?見たところ、なんか体調が悪くなった訳でもねぇみてぇだし。

 って事はつまり、あの魔導書がお前に最適の武器だったって事か?だけどよ、その拍翼とやらは何が出来るんだ?魔力の翼ってのは見れば分かるんだが。」

 

「拍翼からは、無数の魔力弾を連射出来たり、超強力な魔力砲を放つ事が出来るみたいです。」

 

「おぉ、そいつは強そうだな?」

 

「更に拍翼を、剣に変形させて近距離攻撃も出来るみたいですし、身体を包み込む事でシールドとしても機能します。」

 

「中々に万能だな?」

 

「そして其れだけでなく、拍翼を巨大な腕にする事も出来るみたいです。こんな風に。」

 

 

 

――ドッギャーン!!

 

 

 

「最後のは若干怖いが、要するにその拍翼ってのは、中々に高性能でありながら汎用性に富んだ武器って事で良いんだろ?良い武器が手に入ったじゃねぇか?

 ソイツなら両手は自由になるから、拍翼で攻撃しながら別の武器も使えるって事だしな?態々、こんな治安の悪い所まで出向いた甲斐もあるってモンだ。」

 

 

手にして直ぐにユーリに取り込まれてしまったため、この魔導書が一体何の魔導書であったのかは不明ではあるが、ユーリは魔導書の適合者と認められ、適合者の証として『拍翼』と言う力を手に入れたのだろう。

ユーリの可愛らしい容姿と、恐ろし気な拍翼のギャップもまた中々魅力的と言えるかも知れない。

 

 

「そんじゃ、目的は果たしたから帰るとすっか……って、今からじゃリベールに着くのは夜中になっちまうか。

 しゃーねぇ、今日は近くの街で宿取って、リベールに戻るのは明日にするか。宿取ったらどっかで飯にすっけど、何か食いてぇモンあるか?遠慮なく言えよ?」

 

「えっと、其れじゃあハンバーグが良いです。」

 

「ハンバーグか……俺も偶にはハンバーグでも良いかもな。」

 

 

拍翼は出し入れ可能だったので、消した状態で近くの街まで移動して宿を取り、街のレストランでハンバーグでの夕食を楽しんだ。

その際、トマトソースのチーズインハンバーグを笑顔で食べるユーリを見て、シェンは『良かったぜ、笑う事は出来るみてぇだな。』と内心少しホッとしていた……目の前で両親を喪ってしまった事で、感情を失ってしまったのではないかと心配していたのだ。――尤も、ユーリが感情を失わずに済んだのは、シェンがデュナンとの戦いの時以外は一緒に居て、何かと気に掛けてくれたからなのだが。

子供の頃のなのはとなたねにも懐かれていたシェンだが、どうやら彼は子供の相手が得意であるらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter28

『平和と言う名のBreak Timeと……?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔導書を取り込んで、そしてその拍翼と言う武器を手に入れたと言う訳か……砲台にも剣にも盾にもなる魔力の翼と言うのは、使い方によっては無限の可能性を秘めているが、果たして腕に変形する機能は必要だったのだろうか?」

 

「魔力で構成された腕ならば伸ばす事も出来るでしょうから、遠くのモノを引き寄せたり出来て便利そうではありますけれど……あの巨大な腕でパンチのラッシュを使ったら凄い事になる気がします。」

 

「拍翼で作った腕で、とっても大きな剣使うとかも出来そう……其れだけで相手がビビっちゃうかも!」

 

 

リベールに戻ってきたシェンから、ユーリの武器を見付けて来たと報告を受けたなのはとクローゼとヴィヴィオは、目の前で展開された拍翼を見て率直に思った事を口にしていた。

万能な高性能武器である拍翼は、なのはとクローゼの目にも相当に強力なモノだと映った様である……クローゼの言った攻撃は、絵面的に凄い事になりそうではあるが。儚げな美少女が、巨大な魔力の拳で敵をフルボッコとか、ギャップが凄過ぎる。

 

 

「しかし、魔導書か……その魔導書、若しかしたら魔導書自身が己の持ち主を選定する為に己を取り込ませ、適格者には絶大な力を齎す反面、非適格者は取り殺してしまうと言われている伝説の呪われし魔導書、『闇の書』だったのかも知れんな?」

 

「闇の書、ですか?」

 

「なんだそりゃ?」

 

「名前からして、なんかヤバそうな雰囲気がバリバリなんだけどなのはママ?」

 

「私が取り込んだ魔導書って、そんなに凄いモノなんですか?」

 

「此の世には数え切れないほどの魔導書が存在している。持ち主に相手の力を一時的に封じる力を与える『月の書』、持ち主の潜在能力を開放する『太陽の書』等、様々だが、その中でも特に強い力を持っているとされているのが、八神はやての持つ『夜天の魔導書』、八神なぎさの持つ『紫天の魔導書』、そしてユーリ、お前が取り込んだ『闇の書』だ。

 これら三つの魔導書は何れも強大な闇の力を秘めているのだが、闇の書だけは先程も言った通り、適合者以外の者が手にしたら死に至る……逆に言えば、お前は闇の書の適合者足り得るだけの魔力を備えていたと言う事だがな。」

 

 

ユーリが其の身に取り込んだ魔導書の名は、『闇の書』であり、なのはの話を聞く限りでは可成りヤバめの代物ではあるが、適合者でなければ死と言う大き過ぎるリスクが存在する代わりに、適合者であれば絶大な力を手にする事が出来るモノであった。

ハイリスクハイリターンな魔導書であるが、其れに見事に適合したユーリは、なのはが睨んだ通り絶大な魔力を其の身に秘めていたと言う証でもある。そして、其の魔力が闇属性であると言う事の証でもあるのだ――他の属性と違い、闇属性の力は闇属性の者にしか扱う事は出来ないのだから。

 

 

「闇の書……闇の力、それが私の力……あの、なのはさん、その……私もなのはさんの仲間にしてくれませんか?此の力を、誰かの為に役に立てたいんです!」

 

「ほう?」

 

 

此処でユーリが、なのはに『仲間にしてください』と言って来た。――其れはつまり、『自分もリベリオンの一員にして下さい』と言う事だろう。

なのははリベールの新たな王となったが、しかし『リベリオン・アナガスト・アンリゾナブル』を解散した訳ではなく、リベリオンのメンバーには、有事の際に通常の指揮系統からは外れて行動出来る権限を与えており、そう言った意味ではリベリオンの一員となっていた方が有事の際に自由に動く事が出来る訳である。

其処だけを聞くと、『通常の指揮系統の中に居る者達が窮屈ではないか?』と思うだろうが、なのはは『統率された指揮系統と、自由に動ける戦力の両方がバランス良く存在する事が大事だ』と考えて、こう言う軍の改革を行ったのだ。自由に動ける戦力が敵の陣形を崩した所に、統率された戦力が畳み掛けると言うのは、実に強力な事此の上ないからね。

 

 

「其れがお前の意思ならば是非もないが、お前のような子供を軍に在籍させる訳には行かんからな……だから、王室親衛隊の嘱託騎士と言う位置付けにしておこう。

 嘱託騎士ならば、必要な時以外は自由に過ごす事が出来るからな。」

 

「だな。だが、其れなら俺も配属を変えて貰って良いかなのは?

 俺は王国軍にって事だったが、そうなるとユーリの面倒を見る事が出来なくなっちまうから、出来れば俺も王室親衛隊の嘱託って事にしてくれや……コイツにゃもう家族が居ねぇんだ。だったら、トコトン俺が面倒見てやらねぇとだからな。」

 

「ふむ……確かにそうだな。ならば、お前の言うように手配をしておこう。

 しかし、ユーリの事をお前に任せたのは私だが、トコトン面倒を見るとは……シェン、お前ガチでロリコンじゃないよな?子供の頃の私となたねにも色々と気を回してくれた事を考えると、どうしてもその疑惑が払拭出来んのだが?」

 

「誰がロリコンだオラァ!そんな疑惑なんぞ、犬に食わせて抹殺しやがれ!!」

 

 

シェンにロリコン疑惑が再浮上したが、シェンにはマジでそんな趣味はない……何故か子供、其れも女子に懐かれるだけである。――アガットも、十一歳年下のティータに懐かれている事を考えると、不良系の兄貴分はめっちゃ年下の女子にモテる『何か』があるのかも知れない。其れを言ったら、志緒にもそう言った存在が居て然ると言う事になるのだが、志緒には現状そう言った相手はいない……若しかしたら、此れから先現われるのかも知れないが。

 

 

「ふ、冗談だよシェン。……ではユーリ、お前を新たに王室親衛隊の嘱託騎士として任命する!強大な闇の書の力、使い熟せるように日々励め。」

 

「はい!!」

 

「シェン、引き続きユーリの事を頼むぞ?」

 

「ハッ、言われるまでもねぇってんだ。コイツの事は、何があったって面倒見てやるぜ!」

 

 

シェンからの報告は、なのはがユーリに『其の力を使い熟せるように日々励め』と言ってターンエンド!既に、拍翼を自分の思うように使えているユーリだが、其れは使えているだけであって、『使いこなしている』と言うレベルではない――故に、完全に使い熟す為には、マダマダ精進が必要になると言う事であり、敢えて其れを明確とする事でユーリの進むべき道を示したとも言えるだろう。

 

此れにてシェンからの報告は終わったのだが、シェンとユーリが玉座の間から去ったのと入れ替わるように、王室親衛隊の隊長を務めるユリアが入って来た。

 

 

「陛下、少し宜しいでしょうか?」

 

「ユリアか……如何した?何か急務の事態か?」

 

「ある意味ではそうかと……フィリップ殿が、先程目を覚ましたとの報告が。」

 

「なに?」

 

「フィリップさんが?」

 

「あのオジサン、目を覚ましたんだ!!」

 

 

そのユリアから齎されたのは、デュナンとの戦いの際に、帰天してダンテと戦い、そして破れたフィリップが意識を取り戻したとの事だった――帰天によって強制的に悪魔の力をインストールされたフィリップは、敗北した時は最悪の場合、帰天の反動で死に至るのではないかと考えていたのだが、如何にか持ち堪えてギリギリ命を繋いだ様である。

並の人間だったら、帰天によって悪魔に魂を喰われていただろうが、フィリップは強靭な精神力によって魂を喰われる事を回避したのだ――その代償として、理性を失う事になってしまったのだが、理性を失ってなおダンテと互角に遣り合った其の実力は計り知れないモノがあると言っても過言ではなかろうな。

まぁ、何にしてもそのフィリップが意識を取り戻したと言うのであれば、会いに行く以外の選択肢は存在しないだろう。

 

 

「フィリップが意識を取り戻したと言うのであれば、会っておかねばだが……お前達は如何するクローゼ?ヴィヴィオ?」

 

「其れを、今更聞きますかなのはさん?」

 

「なのはママが会うって言うなら、勿論私もクローゼママも会うよ!」

 

「そうか……では行くとしようか、フィリップが入院している病院にな……!!」

 

 

フィリップが意識を取り戻したと言う事を聞き、なのはとクローゼとヴィヴィオは、一路フィリップが入院しているグランセルの王立病院へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

グランセルの王立病院にやって来たなのは達は、受付でフィリップとの面会を取り付けると、速攻でフィリップの病室へと直行。

病室のドアをノックすると、中から『どうぞ。』との返事が返って来たので部屋に入ると、病室内ではグレーヘアーを半分けにした壮年の老紳士がベッドで身を起こして本を読んでいた。

 

 

「こ、此れはクローディア殿下!!も、申し訳ありませんこの様な格好で!!」

 

「あ、未だ目が覚めたばかりなんですから無理はダメですよフィリップさん?……でも、思ったよりも元気そうで安心しました。何処か具合の悪い所はありませんか?」

 

「いえ、此れと言って特には。強いて言うのであれば、全身が筋肉痛と言ったところで御座います……悪魔の力を此の身に宿したとは言え、矢張り老体は無理をするべきではないと痛感しております。」

 

 

その老紳士――フィリップは、クローゼの姿を見ると慌てて姿勢を直そうとするが、其れはクローゼがやんわりと制して先ずは身体の具合を尋ねる。入院患者に面会した時のお馴染みの遣り取りと言う奴だろう。

その遣り取りで穏やかな笑みを浮かべたフィリップだったが、クローゼと共に室内に入って来たなのはとヴィヴィオの姿を見ると、その表情が引き締まったモノへと一気に変わった。己が仕えていたデュナンによって幽閉されていた筈のクローゼが、今こうして目の前に現れ、そして見知らぬ人物も一緒だと言う事も相俟って、自分の知らない所で何かが起きた事を察したのだろう。

 

 

「クローディア殿下、其方の方は?」

 

「高町なのはさんです。幽閉されていた私を城から連れ出してくれた恩人で、そしてリベールの新たな王でもあります。」

 

「何と!幽閉されていた殿下を連れ出したと!!其れだけでなく、リベールの新たな王とは……ですが、貴女がリベールの新たな王となったと言う事は、つまりデュナン様は倒された、と言う事なのでしょうな……」

 

「あぁ、奴は私とクローゼの手で討ち倒した……尤も、私達が倒したのは、デュナン本人ではなく、デュナンを操り、そして其の存在を乗っ取った下衆な悪魔だがな。」

 

「左様でございますか……しかし、デュナン様は悪魔に乗っ取られてしまっていたのでしたか。……アリシア女王陛下が急逝した後、クーデターを起こすなど、人が変わってしまったかのようでしたが、本当に別物になっていたとは。」

 

 

先ずなのはの事を紹介されたフィリップは、なのはが新たなリベールの王となったと言う事で、デュナンが倒されたと言う事を知り、そしてデュナンが悪魔にその存在を乗っ取られていたと言う事も聞かされた。

長年デュナンに仕えて来たフィリップも、アリシア前女王が急逝した直後のデュナンの豹変振りには驚いたのだが、まさか本当に別物になってしまっていたとは思いもしなかったのだろう。

 

 

「フィリップ、デュナンの最側近であったお前が知っている事を全て教えてはくれないだろうか?

 如何に奴が悪魔に乗っ取られていたとは言え、王城の地下の機械兵を自分の命令通りに動くようにするだけならば未だしも、悪魔を作り出したり、人を帰天させたりと、其れ等は大凡一人で出来るモノではない。奴には誰か協力者が居たのか?」

 

「其れが……私も良く覚えていないのです。

 クローディア殿下を幽閉した後、デュナン様が秘密裏に何かを行っていたようですので、ある日こっそりと執務室に入ってみたのですが……其処には悪魔を培養している無数のカプセルがございました。

 此れは只事ではないと思うと同時に、こんな物を誕生させてはならないと思いカプセルを破壊しようとしたのですが、タイミング悪くデュナン様に見つかってしまい、既に完成していた悪魔達によって捕らえられ、そして帰天の儀式を施されてしまったのです。

 悪魔も、二~三体ならば兎も角、十体以上となると、此の老体には流石に多勢に無勢でした……其れは兎も角、私に帰天の儀式を行う際に、デュナン様以外にもう一人誰か居たように思うのですが、其れが一体誰だったのかを良く覚えていないのです。

 普通ならば顔の特徴位は覚えていそうなモノなのですが……果たしてその者が、男性であったのか女性であったのかすら。帰天後の記憶はありませんので、私が話せるのは此れ位で御座います。」

 

「儀式の場に叔父様以外にもう一人……」

 

「でも、オジサンは覚えてないって……如何言う事なんだろう?」

 

「……記憶の操作、或は暗示の類だろうな。

 自分の存在だけを記憶から消すとは、デュナンの協力者と思しき奴は、余程自分の存在を表に出したくないらしい……となると、この間の戦闘で捕らえた連中の中には居ないだろうな。

 もう一つの可能性としては、今フィリップが話した事其の物が、デュナンによって植え付けられた偽の記憶の可能性だが……人造悪魔の数と、帰天した人数を考えると、デュナンの単独とは考え辛いから、此方の可能性は低いだろう。」

 

 

残念ながらフィリップからは有力な情報を得る事は出来なかったが、取り敢えずデュナンには協力者と思しき人物が存在していたと言う可能性があると言う事が分かっただけでも儲けモノだろう。――尤も、一つ面倒事が増えてしまったのも事実だが。

デュナンの協力者が既にリベールから出国して、この間の戦闘に巻き込まれていなかったとしたら、また別の誰かと同じ様な事をしないとは言い切れないからだ……とは言っても、顔も名前も分からない以上は、『ヤバそうな奴が居るから警戒しておこう』位の事しか出来ないのが現実なのだが。

 

 

「してクローディア殿下、もう一人の方は?」

 

「彼女はヴィヴィオ。私となのはさんの娘です。」

 

「初めまして、ヴィヴィオです!」

 

「殿下となのは様の……って、娘ですと!?女性同士で娘?否、其れにしても年齢がオカシイと思うのですが!?」

 

「娘とは言っても義理の娘だ、血は繋がっていない。」

 

「そ、そうでございますよね……あまりに驚いて、寿命が三十年ほど縮まったかと思いました。」

 

 

ヴィヴィオの紹介では、流石にフィリップも驚いたが、義理の娘だと言うと納得したらしい。『三十年ほど寿命が縮まった』とは、現在七十代でありながら、果たして何歳まで生きる心算だったのやらだが。

ヴィヴィオの出自については詳しい事は話さず、『事情があって、精神が幼い』と説明するに止めたのは、なのはとクローゼのフィリップに対する配慮だろう。『デュナンによって兵器として生み出された』と言う事を話せば、フィリップの精神に負担を掛けるだけだと判断したのである。

 

 

「其れからフィリップさん、私はもうクローディア・フォン・アウスレーゼではありません。今の私はなのはさんのパートナーである、クローゼ・リンツです。そして、叔父様が居なくなった今、王族としてのアウスレーゼはもう存在していません。

 アウスレーゼの血統によるリベールの統治は終わり、新たな王の下で新生リベールとして生まれ変わったんです。」

 

「殿下……いえ、クローゼ様……了解いたしました。

 ですが、だからと言ってデュナン様がクローゼ様に行った事は、決して許されぬ事……クローゼ様が幽閉されてしまったのは、デュナン様を止める事が出来なかった私にも責任が御座います。故に、然るべき罰を受ける覚悟は出来ております。

 或は、新たな王たるなのは陛下が罰を下して頂いても一向にかまいませぬ。」

 

「ふむ……では、お前には身体の調子が戻り次第、グランセルホテルのオーナーになって貰おう。前オーナーがデュナンと癒着していたので、贈賄の罪で更迭したのだが、後任が中々決まらなくて困っていたのだ。

 本音を言うのであれば、王室親衛隊の特別教官になって欲しいのだが、王室関係の事ではお前は絶対に首を縦に振るとは思えんから、民間施設のオーナーを任せたい。尤も、拒否権はないがな。」

 

「そ、そんなモノが罰に!?それに、私は悪魔の力を宿しています!もしも其れが暴走したら……!!」

 

「帰天によって得た悪魔の力は、お前が理性を取り戻した事で安定しているから問題ない。直ぐに自在に扱う事も出来るようになるだろう――理性を失った状態でありながらも、ダンテほどの実力者と互角に遣り合っていたと聞いているが、其れはお前の実力が高ければこその事だ。

 悪魔の力は忌むべきモノかも知れないが、力は所詮力でしかなく、扱う者の心次第で善にも悪にもなる。今のお前ならば、力に呑み込まれると言う事もあるまい。

 そしてホテルのオーナーの件は、お前には拒否権は無いのだから充分な罰になるだろう?やりたくなかったとしても、やらざるを得ないのだからな。」

 

 

クローゼが幽閉された事には、自分にも責任があると言って、罰を受ける覚悟があると言ったフィリップに対して、なのはは何とも粋な計らいをした……王室に関係する仕事ではなく、民間のホテルのオーナーになれと、拒否権は無いと言ったのだ。

拒否権は無いと言う事は、どうやってもホテルのオーナーになれと言う事であり、嫌でもやるしかないので、確かに罰と言えなくはないが、ホテルの経営が安泰である限りは、ホテルのオーナーの収入も安定したモノとなるので決して悪いモノではないのである。

此れは、実は病院に向かう道中でなのはとクローゼが、『若しもフィリップが自分に罰を与えろと言って来たらどうするか』を話し合って決めたモノだった。確かにフィリップはデュナンの最側近ではあったが、だがデュナンの暴走はフィリップのせいではないので、罰と言えるが罰にはならない罰を与えると言う事で、この案を考えたのであった。

 

 

「……!寛大な沙汰に、感謝致します……!!ホテルのオーナー、この命尽きるまで全力で務めさせて頂きます……!!」

 

「あぁ、期待しているぞフィリップ。」

 

「ですが焦らず、今は身体を全快する事だけを考えて下さいフィリップさん。」

 

「ファイトだよ、オジサン!!」

 

「はい、はい……!!」

 

 

その計らいに、フィリップは涙を流して感謝し、そして同時に心の中で何があってもなのはとクローゼの事は絶対に裏切るまいと誓っていた……嘗てデュナンに向けられていた忠誠心は、なのはとクローゼに向けられたのである。

王室に直接係わる事は無くなったが、有事の際には率先して王室の為に動いてくれる事だろう――なのは達には頼もしい仲間が、また一人増えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜――

 

 

「到着……厳重に施錠された鉄扉、絶対に何かあると思ってたけど、まさかお城の宝物庫に繋がってたとはね?……でも、此れはある意味で都合が良かったかな?」

 

「だな、アタシ等の目的は此処にあるモノだからな。つか、此れは元々アタシ等市民のモンだったんだ……だから、返してもらうぜ。」

 

「其れじゃ、チャチャッとお仕事済ませちゃう?」

 

「あまり時間を掛ける事は出来ませんので、手早く済ませるとしましょう。」

 

 

グランセル城の宝物庫には、四つの人影があった。

其れは蒼髪の少女と赤い髪の少女と翠髪の少女と栗毛の少女の四人組だった……如何やらグランセルの何処かから王城に侵入したようだが、時間が深夜と言う事もあって宝物庫の警備も手薄だったので侵入出来たのだろう。

 

そして四人の少女は、宝物庫から持って来た袋に詰められるだけの物を詰め込むと、誰にも気付かれる事なく、宝物庫から姿を消したのであった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter29『Appearance, four thieves sisters』

窃盗事件……不動兄妹に城のセキュリティ強化して貰うか?Byなのは     その選択肢は大正解な気がしますByクローゼ


「宝物庫から、物が無くなっているだと?」

 

「あぁ、其れもデュナンが国民から接収したモノばかりなんだ……価値で言えば、王室に代々伝えられて来たモノの方が上だと思うんだけどな。……歴代女王が継承して来たティアラとか、もうドレだけの値段がするのか分かんねぇ。

 プラチナの本体にルビーにダイヤモンドに珊瑚珠……王室ハンパねぇ。」

 

「宝物庫にある物が無くなっていたとは夢にも思っていませんでした……今まで気付く事が出来ず、申し訳ありません。」

 

 

ある日、なのはは王室親衛隊の一員となった一夏と隊長のユリアから、『宝物庫から物が無くなっている』との報告を受けていた。

グランセル城の宝物庫には、其れこそ値段の付けられないようなドレスや装飾品が眠っているのだが、其れ等には一切手を付けずに、デュナンが王だった時代に、国民から接収した美術品や宝飾品、法外とも言える税率によって取り立てられた税金の類が少しずつだが、確実に無くなっていると言うのだ。

一度や二度ならば誰も気に留めなかっただろうが、数が増えてくれば流石に気が付くと言うモノである……悪い例えだが、店の金庫から五百ミラ硬貨を一枚盗んだとしても一枚減った程度ならば誰も気付かないだろうが、其れも回数が多くなれば気付くのと同じだ。

 

 

「盗まれていると言う事か……しかも、国民に返却する予定だったモノ限定で。

 此れは困ったな?返却予定だったモノを盗まれては返す事も出来なくなってしまう……城は、アリシア前女王時代と同様、国民に一般開放して、誰でも自由に見学出来る様になっているが、まさか白昼堂々盗みを働く奴は居るまい。

 となると、夜になるのだが……真正面から来るとは思えん。夜であっても、城の正門には交代制で門番が付いているのだからな……となると、宝物庫に続いていると言う地下水路からの侵入になるのだが……」

 

「其れも考え辛いと思いますなのはさん。

 宝物庫へと続く地下水路の存在を知っているのは城の関係者でも、王族と王室親衛隊、そして一部の女官達に限られていますし、そもそも地下水路から城の宝物庫に続く扉の鍵は城で保管されている上に、ラッセル博士が作った複製不能の電子キーですので外部からの侵入は難しいかと。」

 

「となると残る手段は転移魔法……アリシア女王時代に城を訪れた者が転移魔法で城内に忍び込んで宝物庫からと言う事になるが、其れでも誰にも気付かれずに宝物庫へと辿り着いて犯行に及ぶと言うのは無理がある気がするぞ。」

 

 

しかも今回の一件は、こうして明確に宝物庫から物が無くなっている事に気付くまで、城の誰にも気付かれずに行われた完全犯罪とも言うべきモノ……褒められたモノではないが、犯人の腕前は可成りのレベルであると考えた方が良いだろう。

何せ宝物庫には、足跡や指紋と言った犯人に繋がる様なモノは一切残されてはおらず、物色した形跡すら残らないように目的のモノを運び出す際に動かしたモノの位置まで元に戻しておくと言う徹底振りなのだ……此れは現場で犯人を張り込む以外に捕まえる手段は存在しないと言えるだろう。

 

 

「ふぅ……窃盗事件、其れも国民に返却するモノを盗まれていると言うのは看過出来ん。

 とは言え、二ヶ所ある地下水路への入り口の警備を強化したのでは犯人も現れん……ユリア、地下水路の宝物庫へと続く扉付近に親衛隊の隊員を潜ませておいてくれるか?其れと宝物庫にも。窃盗犯が現れたら、其の場で即捕縛出来るように。」

 

「御意に。」

 

 

だが、なのはは警備の強化で城への侵入を防ぐのではなく、犯人を捕縛する為の策を考え、其れをユリアに伝える……警備を強化すれば確かに城への侵入其の物を防ぐ事が出来るかも知れないが、其れでは何れ犯人に警備の穴を突かれる時が来るので、此処は完全に捕らえる方向に舵を切ったのだ。

決戦は、今夜である……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter29

『Appearance, four thieves sisters』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜。

人々が寝静まった深夜のグランセルの地下水路に、四つの人影が姿を現した――その人影は全員が其の手に杖を持ち、そして使い魔と思しき小さな使い魔を従えている事から精霊魔導師か、或は『霊使い』と呼ばれる存在なのだろう。

空を覆っていた雲が切れ、月の光によって明らかになった四つの人影は、何れも十四~五歳位の少女だった。

青い髪を腰まで伸ばした少女、紅い髪を肩まで伸ばした勝気そうな少女、栗色のショートヘアーと眼鏡が特徴的な少女に翠の髪を一つに纏めた少女――青髪の少女はトカゲ人間の様な使い魔、紅髪の少女は狐のような使い魔、栗毛の少女は角の生えた齧歯類のような使い魔、翠髪の少女は小さなドラゴンの使い魔を従えているのも特徴的である。

使い魔の特徴を見るに、青髪の少女は水、紅髪の少女は炎、栗毛の少女は地、翠髪の少女は風の属性を備えて居る様だ。

 

 

「しっかしまぁ、まさかこんな方法でピッキング不可能な電子ロックを解除するとはな?ラッセルの爺さんが知ったら、頭から湯気出してブチキレるんじゃねぇか?『こんな方法でワシの電子ロックを~~!!』ってな感じでよ?」

 

「其れは有り得るかもね?

 でも、電子ロックとは言え鍵は鍵。物理的に複製が難しい電子ロックでも、無形の水の力を使えば解除するのは難しくないんだよ――但し、水を鍵の形に固定するのが難しいから、私以外には誰もやらないだけ。」

 

「でも、まさかこの扉の向こうがお城の宝物庫に繋がってたって言うのは驚きだったかな?何だって、こんな物を作ったんだろう?」

 

「戦争が起きて、いよいよ城が攻め落とされるとなった場合に、王族の人間が城の外に逃げる為に作られた緊急避難ルートだったのでしょう……其れが、今は私達にとって好都合な侵入ルートになっていると言うのは何とも皮肉な話ですが。」

 

 

青髪の少女はそう言うと、使い魔に命じて地下水路への入り口の鍵を解除させる。

ラッセル博士が発明した特殊電子ロックを解除する為の鍵は表面に複数の窪みがあり、その窪みと鍵穴内の突起が一致し、更にツァイスの中央工房で開発された特殊素材で作られた錠前と鍵が触れる事によって発生する微弱な電気反応によって開錠されると言うモノなのだが、水を使えば鍵の窪みと鍵穴の突起を一致させるのは容易であり、微弱な電気反応に関しても、翠髪の少女の力を使えば解決出来る。

風属性は、雷属性も同時に使う事が出来るので、水で出て来た鍵に多種多様な電流を流す事で、開錠の為の微弱な電流反応を知る事も出来るのである。そして、一度分かってしまえば後はもう簡単であり、こうして楽に開錠出来るのである。

 

そう、彼女達こそが此度の窃盗事件の犯人だ。

こうした方法で夜な夜な地下から王城の宝物庫に忍び込み、誰にも気付かれる事なく宝物庫からデュナンが国民から接収したモノを持ち出していたのだ――犯行を終えた後は、開錠とは逆の手順で施錠し、一切の手掛かりを残さない完全犯罪を遂行していたのである。

 

 

「そう、そうやって城に入り込んでいたのね。」

 

「「「「!!!」」」」

 

 

だが、此の日はそうは問屋が卸さなかった!地下水路に入ろうとした彼女達に何者かが声を掛けて来たのだ。

四人の少女は、何者かと思って振り返ったのだが……

 

 

「任務、遂行します。」

 

「「「「きゃーーーーー!?」」」」

 

 

盛大に悲鳴を上げる結果となった。

何故って、振り返った其処には、懐中電灯で下から顔を照らしているレオナの姿があったから……下から顔を照らすと言うだけでも、中々恐怖のダイレクトアタックなのだが、レオナは基本無表情で目付きも鋭いので恐怖は倍率ドンである。

加えて今のレオナは己に流れている『オロチの血』を覚醒して赤目赤髪となっているので余計に迫力があるのだ。

 

 

「まさか、お前達の様な少女達が犯人だったとはな……だが、だからと言って見逃してやる道理は何処にも無い!捕らえろ!!」

 

 

更に、物陰に隠れていた親衛隊の隊員が現れ、少女達を捕縛せんと動く!

ユリアは親衛隊を二つの部隊に分けて地下水路の隠し扉付近と宝物庫に待機させていたのだ。夫々の戦力は十五人ほどだが、其れでもたった四人の窃盗犯を捕らえるには充分の戦力と言えるだろう。

 

 

「クソッタレ、待ち伏せかよ!!」

 

「此れは、真面に戦っても勝てないね……三十六計逃げるに如かず!ウィン、お願い!」

 

「アイアイサー!喰らえ、マジカルスタングレネード!!」

 

 

だが状況不利と判断した少女達は、ウィンと呼ばれた少女が、小さなドラゴンの使い魔の力で魔力を使った閃光を発生させて親衛隊の視界を潰してその場から離脱する……地下水路の闇に慣れた目に対しての閃光は効果抜群だろう。

少女達は、其のまま地下水路から地上に出て王都から離脱しようとするが……

 

 

 

――ズッドォォォォォォン!!

 

 

 

その直前に何かが少女達の前に落下して来た!

其れはまるで隕石が落下したかの如くで、その場には大きなクレーターが出来上がっている……まさかの光景に四人の少女は思わず身構える。未知の宇宙人とか出て来たら、其れこそ何がどうなるか分かったモノではないのだから。

 

 

「あ~っはっは!なのはに頼まれて待機して、そして雷光散らして僕さんじょー!!お前等がどろぼーだな?かくごしろー!!」

 

 

だが、クレーターから現れたのは宇宙人ではなくアホの子だった。……今回の一件、万が一にも取り逃してしまった場合に備えて、なのははテスタロッサ姉妹にも上空で待機しておくように依頼していたのだ。

でもって、逃走する少女達を上空から見付けたレヴィは隕石の如き勢いで突撃して来たと言う訳である……普通だったら、身体が粉々になっているところだが、レヴィは防御力は紙でありながらやたら打たれ強いと言う矛盾のある存在なので無傷なのだ。この謎の矛盾は、レヴィの生みの親であるプレシアでも解明出来ない謎と言うモノなんだろうな。

 

 

「貴女達はもう逃げられない……大人しく投降してくれないかな?」

 

 

其処にフェイトが合流し、『ザンバーフォーム』に換装して大剣となったバルディッシュを少女達に突き付けて投降を促す……其れは大人しく投降しないのであれば実力行使もいとわないと言う意思の表れであり、最後通告とも言えるだろう。

 

 

「こんな所で捕まる事は出来ないんです……だから、強行突破させて貰います!!!行くよ皆!」

 

「おうよ!!霊使い奥義!!」

 

「「「「憑依装着!!」」」」

 

 

だが、少女達は怯む事なく魔力を開放して、使い魔の力を解き放つ……その結果、使い魔達は本来の力を発揮し、先程までとは比べ物にならない魔力を其の身に纏い、少女達の魔力も大幅に上昇している。

使い魔の力を最大限に引き出すだけでなく、己の力も最大限に引き出す、精霊魔導師と霊使いの奥義とも言うべき術を使って来たのだ。

其れを見たフェイトはバルディッシュを構え直し、レヴィもバルニフィカスを『ブレイカーフォーム』に換装して少女達と向かい合う……金の大剣と蒼の大剣、其れが揃うと中々に迫力がある。

 

 

「プラズマランサー!」

 

「電刃衝!!」

 

 

先に仕掛けたのはフェイトとレヴィからだった。

本命である近距離戦に持ち込むための牽制の魔力弾だが、雷属性の魔法の最大の特徴は攻撃速度にある。魔力弾にしろ直射砲撃にしろ、兎に角速い。一流の使い手が放った場合は、距離にもよるが放ったのを確認してからでは回避は不可能とまで言われているのだ。

 

 

「矢張り雷属性ですか……仕込んでおいて正解でした。」

 

 

だがその攻撃は、少女達の前に現れた土の壁によって阻まれた――戦って突破するしかないと考えた彼女達もまた、憑依装着を完了すると同時に術を仕込んでいたらしく、栗毛で眼鏡の少女は雷属性に強い地属性の力を使って土の壁を築いたのである。

更に蒼髪の少女が水撃弾を撃ち出すと、紅髪の少女とウィンはお互いの術を合成して『炎の竜巻』を作り出してフェイトとレヴィにぶつける!別にこの攻撃で倒す事が出来なくとも、フェイトとレヴィを怯ませて此の場を突破する事が出来れば其れで良い……炎の竜巻は殺傷能力こそ低いが、攻撃範囲が広いので無傷でやり過ごすには大きく回避する以外の方法はない――一応、炎の竜巻以上の技をぶつけて相殺すると言う手段もあるにはあるが、異なる二つの属性で構成された技を真正面から打ち破ると言うのは中々難しいモノなのだ。

 

 

「氷河……」

 

「雷龍……」

 

「「波動拳!!」」

 

 

しかし、その炎の竜巻は雷と氷の気功波によって相殺されてしまった――一夏と刀奈が現場に駆け付け、合体の波動拳を放ったのだ。いや、一夏と刀奈だけでなくヴィシュヌにロラン、グリフィンも現場に到着していた。

一夏達は宝物庫で待機していたのだが、何故此処に居るのか?ユリアから『賊が逃げた』と言う連絡を当然受けると同時に簪が地下水路の宝物庫へと繋がる扉からの最短距離を計算して、東区画か西区画の何方から出て来るかを割り出して一夏達に伝えたからである。直接的な戦闘力は低くとも、簪のバックスとしての能力は鬼の子供達の中でもピカ一なのである。

 

 

「一気に増援が五人も……此れは、流石にちょっとヤバい気がするよヒータちゃん。」

 

「まだ大丈夫だろエリア?使い魔入れりゃ、数の上では未だこっちの方が一つだけ上だからな……此れ以上の増援が来る前にコイツ等を突破してさっさとずらかりゃ問題ねぇ!!」

 

「相変わらず、いっそ清々しいまでの脳筋理論ですね。流石は直情型の炎属性、ある意味で尊敬します。」

 

「アウス、テメェそりゃ褒めてんのかそれとも貶してんのかどっちだ?オメェみたいなインテリの考えってのは、アタシみてぇな直情型にはちょいとばかり分かり辛いんだけどよ?」

 

「其れはご想像にお任せします。」

 

「おし、無事に此処きり抜けたら一発殴るからその心算で居やがれ!」

 

 

此の状況に、蒼髪の少女・エリアは不味いと感じたようだが、紅髪の少女・ヒータは使い魔も含めれば数の上では分があるから兎に角此処を突破して離脱すれば其れで良いと言って、栗毛で眼鏡の少女・アウスはそんなヒータに少し呆れている様だった。

アウスの反応に、ヒータは少し怒った様子を見せてはいたモノの、口元には笑みが浮かんでいたので本気で怒っている訳ではないのだろう。

其処から戦闘は激化し、一夏はヒータの使い魔である稲荷火と、刀奈はヒータと、ヴィシュヌはアウスの使い魔のデーモン・イーターと、ロランはウィンの使い魔であるランリュウと、グリフィンはアウスと、フェイトはエリアと、レヴィはウィンと交戦状態に!

属性的な相性で言えば刀奈とヒータは氷の炎でヒータが有利、フェイトとエリアは雷と水でフェイトが有利なのだが、此の状況ではエリアの使い魔であるジゴバイトはフリーになる。

加えてジゴバイトは、他の使い魔とは異なり憑依装着の状態でもう一段階上の『ガガギゴ』と言う形態になる事も出来るので、状況次第では四人の少女を此の場から逃がす為の一撃を放つ事も可能だろう。

ジゴバイトは、エリア達を此の場から離脱させる為に、最大の一撃を放とうと力を集中するが――

 

 

「させるかよ、このトカゲ人間がぁ!!」

 

『!?』

 

 

その前に強烈な拳打でもってブッ飛ばされてしまった。

ジゴバイトをブッ飛ばしたのは言うまでもなく、王室親衛隊の嘱託隊員となった、なのはの十年来の付き合いになる、言動は粗暴で粗野だが頼れる兄貴分であるシェンであった。

なのはから直々の依頼を受けたシェンは、『私も手伝います!』と言って譲らなかったユーリと共に本作戦に参加していたのだ――但し、其れは王室親衛隊の正規メンバーにも伝えられていなかった、正に想定外の戦力な訳だが。

とは言え、此処ので更なる増援は少女達にとっては実に有り難くない事であろう……シェンだけならばイーブンだったのが、ユーリも居る事で数の上では不利になってしまったのだから。――普通ならばユーリは戦力として見ない所だが、ユーリは拍翼を展開していたので、嫌でも相当な力を秘めたヤバい相手だと認識せざるを得なかったのである。

因みユーリが拍翼を展開して現れたのは、シェンから『喧嘩や戦いってのは、相手をビビらす事が出来りゃ其れで八割勝負が決まるから、お前は戦う時には最初から拍翼を出来るだけデカく展開して行け。闇色のバカいデカい翼ってのは、其れだけで相手をビビらす事が出来るからな』とのアドバイスを受けたからだ。

若干暴論感が否めなくはないが、シェンは喧嘩上等百戦錬磨の喧嘩無敗の喧嘩士であり、実戦経験だけは豊富な事この上ないので、此の暴論と言える理屈も間違いではないのだろう。実戦経験に勝る理論はないと言うモノかも知れないが。

 

 

「ギゴちゃん!!」

 

『グルルル……』

 

「畜生め……こうなったら、切り札切るぞお前等!!」

 

「其れしかないみたいだね……」

 

「此の場を切り抜ける為にも……」

 

「「「憑依覚醒!!」」」

 

「アドバンス召喚!!」

 

 

状況的に不利になった少女達は、憑依装着以上の切り札を切って、更に使い魔達を強化する!その結果として、稲荷火は大稲荷火に、ランリュウはラセンリュウ、デーモン・イーターはデーモン・リーターへと姿を変えたのだが、エリアだけは憑依覚醒の更に上の強化法であるアドバンス召喚を使ってジゴバイトを超強化!

結果として、ジゴバイトは身体の各所が機械化されたサイボーグの様な姿に変化し、他の使い魔とは一線を画す力を持った存在となった様だ。

 

 

『ガルルゥゥゥゥ……』

ゴギガ・ガガギゴ:ATK2950

 

 

「サイボーグ化ってか?だから、其れだ如何したオラァ!俺の拳は鉄も砕くぞ!!」

 

 

だが、そんな事はお構いなしに、シェンはゴギガ・ガガギゴに殴り掛かり、ゴギガ・ガガギゴも鋼鉄化された腕で応戦するが、シェンの拳を受けてゴギガ・ガガギゴの鋼鉄の装甲には僅かにヒビが入る。『本気の俺の拳はダイヤモンドよりも硬い』と言うのが自慢のシェンだが、如何やらそれは誇張でもなんでもなく割とガチな事であるのかも知れない。喧嘩士ハンパねぇなマジで。

 

 

『ギギャァァァァァァ!!』

 

「ちぃ、今のを喰らっても怯まねぇとは、中々根性あるじゃねぇかテメェ……上等だ、トコトンまで遣り合おうじゃねぇかオイ!久々の楽しい喧嘩になりそうだぜ!!」

 

 

シェンとゴギガ・ガガギゴは其のまま殴り合いになったのだが、戦況は一夏達の方が有利になっていた。

シェンとユーリが参戦した事で数の差は逆転し、ユーリが常にフリーで動く事が出来たため、拍翼を使った攻撃で一夏達のサポートをして四人の少女とその使い魔達に本領を発揮させていなかった。

拍翼は魔力体であり、無形なので様々な攻撃が可能であり、其れが四人の少女達には対処が難しかったのだろう。徐々に押され始め、そして――

 

 

「オラァ!コイツで眠っとけぇ!!」

 

「行くぜ、昇龍裂破!!」

 

「タイガァァ……レイド!!」

 

「真空……竜巻旋風脚!!」

 

 

シェンがゴギガ・ガガギゴに渾身のチョップを叩き込んでKOし、一夏は大稲荷火に三連続の昇龍拳『昇龍裂破』をブチかまし、ヴィシュヌはデーモン・リーパーに二連続のハイキックからの横飛び蹴りのコンボ『タイガーレイド』を喰らわせ、ロランはラセンリュウに超高速回転の竜巻旋風脚『真空竜巻旋風脚』を放って戦闘不能にする。

使い魔が倒された霊使いは、己の力のみで戦うしかない。

四人の少女は其れなりに高い魔力を秘めているが、夫々が己の得意とする属性を磨いていた事から、其れ以外の属性の力を使う事は出来ず、使い魔が倒されてしまったのでは多勢に無勢だ。

 

 

「閃光弾とは、やってくれたな……」

 

「でもあの判断は悪くなかった……あの場から離脱するには、これ以上ない方法だった。」

 

 

其処に、視界が回復したユリア達が駆け付け少女達は完全に包囲され、此れではもう逃げる事は出来ないだろう――また閃光弾を使えば逃げる事も出来るかも知れないが同じ手は二度は通じないと言われているので、其れを使う事は出来ない。仮に其れで逃げおおせても今回の事で顔が割れてしまったので、逃げ切る事は不可能であろう。

 

 

「如何やら、巧く行ったようだな?」

 

「まさか、貴女達の様な少女が犯人だったとは……」

 

 

更には、其処にヴァリアスに乗ったなのはと、アシェルに乗ったクローゼが現れた事で少女達は完全に戦意を消失してしまった……エリアの最強使い魔であるゴギガガガギゴならばヴァリアスには勝てるかも知れないが、アシェルに勝つ事は絶対に出来ないと、その圧倒的な力の差を感じ取ってしまったのだ。

なので、四人の少女はその場に膝を付いて両手を上げて『降参』の意を示す。

 

 

「賢明な判断だな……ユリア、彼女達を謁見の間に連れて行け。彼女達の申し開きは其処で聞く事にする……だが、絶対に暴力は振るうなよ?彼女達は、あくまでも丁重に扱うんだ。

 其れから、使い魔達の方は治療してやれ。水属性の奴は特に重点的に治療してやるようにな。」

 

「了解しました陛下。」

 

 

少女達は捕らえられたのだが、なのはの命令で乱暴な扱いをされる事なく王城まで護送され、そして謁見の間に連れて来られ、其処で改めてリベールの新女王であるなのはと対峙する事になるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

「ぐおぉぉ……ぐぬ……京ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 

同じ頃、謎の相手との野試合に敗北した柴舟はベッドに括りつけられ、頭に何らかの装置を設置されて、その装置から発せられる電波に抗っていた……だが、その抵抗も虚しく、五分後には柴舟の意識は闇に落ちた。

 

 

「……全ては、ライトロードの為に……」

 

 

そして、次に柴舟が目を覚ました時には、その瞳に光は宿っていなかった……今この時を持って、柴舟はライトロードの手駒になってしまった、つまりはそう言う事なのであろう。

ライトロードがリベールを襲ったその時は、最悪の父と息子の再会が為されるのは、最早間違いないだろう。

柴舟の手の中では、草薙の紅い炎ではなく、神々しさの中に何処か不気味さを感じさせる金色の炎が揺らいでいた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter30『窃盗事件の事後処理と王の沙汰と』

30話まで来たかByなのは     でも、マダマダ此れからですよByクローゼ


捕らえられた少女達は王城の謁見の間まで連れて来られたが、少女達は此の状況に少し困惑していた。

もしも捕まったその時はレイストン要塞の地下牢まっしぐらだと思っていたのが王城の謁見の間に連れて来られただけでなく、手錠すら掛けられなかった事に驚いて居る様だ……手錠を掛けずとも、少女達の周りはユリアとレオナ、鬼の子供達と王室親衛隊でもトップクラスの実力者に加え、頭上は小型化したアシェルとヴァリアスが固めていたので逃げる事は略不可能な状況ではあったのだが。

 

 

「改めて自己紹介をしておこう。リベールの新たな女王となった高町なのはだ。」

 

「女王補佐のクローゼ・リンツです。」

 

 

謁見の間にて玉座に座したなのははレイジングハートを小脇に抱えて足を組み威厳タップリに己の名を名乗り、クローゼはその横に立って己の名を名乗ると同時に『女王補佐』である事を告げる。

現リベール女王のなのはと、元王族であるクローゼが並んだその様を前にして一切委縮した様子がない少女達も中々胆が据わっていると言えるだろう……其れ位胆が据わっているからこそ、王城の宝物庫からモノを盗み出すなどと言う大胆不敵な犯行を行えたのだろうが。

 

 

「先ずは、お前達の名前を聞かせてくれないか?名も知らぬのでは、中々に話もし辛いのでな。」

 

「……そう、ですね。私はエリア。エリア・チャーム・エンディミアです。」

 

「ヒータ・チャーム・エンディミアだ。」

 

「アウス・チャーム・エンディミアと言います。」

 

「ウィン・チャーム・エンディミアだよ。」

 

「同じミドルネームとファミリーネーム……姉妹か?」

 

「はい、四卵生の四つ子です。」

 

「四つ子とは、珍しいですね?三つ子までなら見た事はありましたけれど、四つ子は初めてです……」

 

 

そして少女達は四つ子の姉妹だった……四つ子の姉妹が夫々異なる属性の持ち主で、夫々が己の属性を極めんとする『霊使い』だと言うのは相当なレアケースであると言っても過言ではないだろう。付け加えるならば、髪と目の色が己の属性を示していると言うのも可成り珍しいモノであったりする。

そんなレアケースな四姉妹が何故宝物庫からモノを盗み出すと言う犯行に及んでしまったのか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter30

『窃盗事件の事後処理と王の沙汰と』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「四卵生の四つ子とは初めて聞いたが……何故お前達は王城の宝物庫から盗みを行っていたのだ?

 其れも、売れば高額な貴金属や宝飾品の類ではなく、デュナンが民から接収したモノばかりを狙って。こう言っては何だが、お前達が盗み出したモノの金銭的価値は其処まで高くはない筈だが?」

 

「アレは元々アタシ等のモンだ。其れを取り返して、盗まれた人達に返して何か問題があんのかよ?」

 

 

なのはは少女達に『何故宝物庫からの盗みを行っていたのか』と問うと、返って来たのはまさかの答えだった――彼女達が、デュナンが不当に接収されたモノだけをピンポイントで宝物庫から盗み出していたのは、本来の持ち主に帰す為だったと言うのだ。

だが、この答えを聞いてなのはもクローゼも合点が行った。確かに元の持ち主に戻す為に宝物庫から持ち出したと言うのであれば、デュナンが接収したモノだけをターゲットにして、王室の貴金属や宝飾品、美術品に一切手を付けなかったと言うのも納得出来るのである。

 

 

「つまり、お前達は盗賊と言うよりも義賊だったと言う訳か。

 う~む……だがそうなると少々如何したモノか困ってしまうな?下賤なコソ泥であったのならば然るべき処分を下さねばならないが、持ち出されたモノはいずれ民に返却しようと思って居たモノであり、其れ等はちゃんと持ち主に戻されていると言うのだからな……無許可ではあるが、私達がやるべき仕事を先回りしてくれたとも言える訳で……」

 

「そうですね……城への不法侵入と言う理由で処罰するのは何か違うと思いますし。果てさて、本当に如何しましょうか?」

 

「え……あれって何れ返す予定だったんですか?」

 

「勿論だ。アレはデュナンが民から無理矢理接収したモノなのだから、デュナンが居なくなった今、本来の持ち主に返すのは当然の事だ……尤も、外交や物流と言ったモノを優先して立て直さねばならぬ故に、後手に回っていたのは事実ではあるがな。」

 

「って事は……アタシ等がやってた事って、リスクを冒しただけで殆ど無駄だったって事か?」

 

「む、無駄じゃなかったんじゃないかな?持ち主の人も接収されたモノが戻って来て喜んでたし、お礼に色々貰えたし。パンとかお菓子とか綺麗な織物とか。」

 

「お金は受け取りませんでしたが、逆にお金でなかったのは良かったかも知れません……食べ物や布地であればママ先生もあまり深く聞く事はありませんし、ポーリィ達も喜んでいましたから。」

 

 

だが、今度は四姉妹の方が驚く事になってしまった。

自分達はデュナンが民から無理矢理接収したモノを本来の持ち主に返却していたと言うのに、実は此れ等のモノは何れ民に返却する予定だったのと言うのだから。ヒータが言うように、リスクを冒して無駄な事をしていたと感じても仕方ないだろう。

 

 

「ママ先生とは?」

 

「私達が暮らしている孤児院の経営者と言うか責任者と言うか……孤児院の子供達に勉強なんかも教えているので、親しみを込めてママ先生って呼んでるんです。」

 

「孤児院……そうか、お前達も親が居ない訳か。しかしママ先生……先生か、ふむ……」

 

 

そしてアウスが口にした『ママ先生』と言う単語から、この四姉妹は親が孤児院で生活していると言う事が明らかになったのだが、其れを聞いたなのはは何か考えるような格好に。

其れは決してポーズではなく、本気で何かを考えているようだ。

 

 

「……そのママ先生とやらと会う事は出来るか?」

 

「へ?其れは、出来ると思いますよ?」

 

「ふむ……では連れて行ってくれないか、お前達が暮らしていると言う孤児院に。ママ先生と会って話をしてみたい……話しの結果次第では、お前達の処遇を決める事も、私の目的も果たす事が出来るやも知れん。」

 

「アタシ等の処遇が?……まぁ、ママ先生に任せりゃ大丈夫か。分かった、連れて行ってやるよ。アウスとウィンも良いよな?」

 

「私は賛成だよヒータ。」

 

「異存は有りません。」

 

 

そして考えた結果、なのはは四姉妹が『ママ先生』と呼ぶ人物と会ってみる事にしたようだ。『ママ』だけならばそうは思わなかっただろうが、『ママ先生』と言うのがなのはの琴線に触れたのだろう。

なのははリベールに新たな教育制度を作ろうと考えているのだが、リベリオンで教師が出来そうな人材をもってしてもその数は圧倒的に足りないので、教師役を探していたところなので、孤児院の子供達から『先生』と呼ばれている存在に興味を持つなと言うのが無理な話であろう。

 

四姉妹も、自分達の処遇が其れで決まるとなれば無視出来る事ではないし、なのはが何をしようとしているのかも気になったので孤児院に案内する事を受け入れた。

傍から見れば盗賊でしかない自分達を手錠や縄で拘束する事もなく、牢屋ではなく王城の謁見室に連れて来て話を聞いたなのはとクローゼならば、ママ先生を害する事はないと判断したのだろう。

 

 

「なのはママ、クローゼママ!使い魔さん達の治療終わったよ~~!皆回復してとっても元気!!」

 

 

此処でタイミングよく、ヴィヴィオが治療が終わった四姉妹の使い魔と共に謁見の間にやって来た。

ヒータのきつね火、ウィンのプチリュウ、アウスのデーモン・ビーバーは其処まで大きなダメージを負った訳でなく、治癒魔法で簡単に治療出来たのだが、シェンとガチンコで遣り合ったギゴバイトは割とダメージが大きかったらしく、治癒魔法だけでは治し切れず、腕や足に包帯が巻かれていた。

 

 

「エリアの使い魔には遣り過ぎてしまった様だな……シェンは面倒見も良いし仲間思いなのだが、いざ戦闘になると如何にも加減と言うモノが出来なくなるのが珠に傷でな――そもそもにして、三度の飯より喧嘩が好きと言う性格は如何にかならんモノだろうか?

 決して自分より弱い相手に自分から拳を上げる事はないし、喧嘩するにしても相応の理由があるから咎める事が出来ないと言うのが困りモノだ。」

 

「シェンさんは確かに面倒見は良いですよね?ユーリちゃんも懐いてるみたいですし。」

 

 

……喧嘩士は手加減が出来ない脳筋であった。

尤も、シェンは相手の方から挑んで来ない限りは、絶対に自分よりも格下の相手に拳を振るう事はない真の無頼漢であるのだが、そんなシェンがガチになったと言うのは其れだけエリアの使い魔であるギゴバイトの最強形態であるゴギガ・ガガギゴは手強かったと言う事なのだろう。

それはさておき、ヴィヴィオがなのはとクローゼの事を『ママ』と呼んだ事で、四姉妹はちょっといとした混乱状態に陥ってしまった――外見的には自分達よりも年上で、なのはとクローゼよりも背が高いハニーブロンドとオッドアイが特徴的な美少女が、同じ位の歳格好であるなのはとクローゼの事を『ママ』と呼べば、其れは混乱するなと言うのが無理と言うモノだろう。なのはとクローゼがヴィヴィオの本当のママだとしたら一体何歳の時の子供だって言う事と、そもそも女同士で子供って如何言う事だとなってしまうからね……魔族には女性同士でも子を生す方法があるのだが。

ヴィヴィオに関しては、なのはがとクローゼが『血は繋がってない義理の娘』と言う事を説明してターンエンド。そして、孤児院に向かう為に城から出ようとしたのだが…

 

 

「アレ?エリア達じゃない?お城で会うなんてちょっとビックリ。」

 

「城の見学に来ていたのか?」

 

「「遊星さんに遊里さん?」」

 

「博士達ですか……」

 

「遊星兄ちゃんと遊里姉ちゃん……何だって城に来てんだよ?」

 

「城門のメンテナンスだ。其れと王室親衛隊の夏姫から、ガンブレードの調整を依頼されていてな。」

 

「……知り合いだったのか?」

 

「この子達の孤児院からも修理の依頼があったりしますから。」

 

「遊星兄ちゃん達が直してくれると、直す前より高性能になるんだよ。」

 

 

城門にて不動兄妹とエンカウント!

不動兄妹は城門の定期メンテナンスに来ていたのだが、そのメンテナンスの最中に鉢合わせたと言う訳だ……四姉妹と不動兄妹は顔見知りであるらしく、軽く挨拶を交わす――流石に宝物庫からモノを持ち出していたと言う事は言えないので、城の見学に来ていたと言う事に四姉妹はしたのだが。

取り敢えず、不動兄妹がメンテナンスを行っているのであれば城門が不具合を起こす事はないだろうし、夏姫のガンブレードも調整するだけでなく、今よりももっと高性能なモノになるのは確実だろう。

今や夏姫以外には使う者は居なくなったと言っても過言ではない超レア武器であるガンブレードを調整出来ると言うのは不動兄妹にとってもまたとない機会なのだからね……若しかしたら、過去の資料などから最早伝説となっている最高性能のガンブレードを作り上げてしまうかも知れないな。

 

不動兄妹がやる事は国のマイナスにはならないので、なのはも『では、任せたぞ』と言うに留めて其れ以上は何も言わずに城前の広場に移動し、其処でヴァリアスを通常サイズに戻すと、クローゼはアシェルを、ヴィヴィオはバハムートを通常サイズに戻してその背に乗る。

其れを見たウィンも、プチリュウをラセンリュウに強化すると、その背に四姉妹が乗り込んで、いざ孤児院に出発である。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして空の旅を行うこと五分弱で、街道と孤児院の分かれ道に到着し、なのは達は其処に着陸して其処からは徒歩で孤児院に向かう――ヴァリアスとアシェルとバハムートはフルサイズでは大き過ぎて、孤児院の庭では間に合わないのではないかと考え、此の場所でミニサイズにした方が良いと判断したのである。

 

 

「アレ、なのはとクローゼか?女王様と女王補佐が何してんだこんな所で?」

 

「一緒に居るのは孤児院の子達ではないか?」

 

「草薙京とアインス・ブライトか。」

 

 

その道中、後から声を掛けられたので振り返ってみると、声を掛けて来たのは京とアインスだった。バイクに二人乗りしているところを見ると、ロレントからバイクで遠出して来たと言う所だろう。

 

 

「お前達こそこんな所で何をしている?この先にあるのは孤児院だけだろう?バイクで遠出してまで来るところでもないと思うが……」

 

「あぁ、孤児院の方はお袋から『ルーアンの方に行くんだったら、マーシア孤児院に寄ってハーブを買って来て』って頼まれちまってな……お袋曰く、あそこのハーブじゃないとハーブティにならねぇんだとさ。」

 

「うちの母も、マーシア孤児院のハーブでないと肉の香草焼きの出来が今一つだと言っていたな。」

 

 

京とアインスの目的は、此れからなのは達が訪れようとしている孤児院――マーシア孤児院で売られているハーブだった。

実はマーシア孤児院の庭には広大なハーブ畑があり、その畑で収穫されたハーブを販売する事で孤児院の運営資金に充てていたりするのだ。もっと言うと、完全無農薬の有機栽培されたハーブは質も良く、ボースの高級レストランでも使われている位なのである。

 

 

「ハーブを売っているんですか?」

 

「売ってるっちゃ売ってるんだけど、ママ先生ってば儲け度外視の良心価格で販売してるから、実はあんまり利益上ってないんだよ……一般相場の六割程度の値段って安過ぎるって。」

 

「良心価格過ぎるが……価格が安くて質が良いとなれば顧客は付くだろう。態々ロレントから買いに来る者も要るようだしな。」

 

「普段は宅配で注文してるけどな。」

 

 

京とアインスはバイクを降り、なのは達とそんな話をしながら坂道を登って行くと目的のマーシア孤児院に到着。

その庭のハーブ畑には多種多様なハーブが青々と葉を茂らせ、太陽の光を浴びて光り輝いている。一部ハーブが生えていない畑もあるが、其処は此れから別の種類のハーブの種を蒔くのだろう。

 

 

 

――ドスン!!

 

 

 

と、そのハーブが生えていない畑に突如何かが落ちて来た。

其れは人型で、赤いスラックスに燕尾服の様なスーツ、口元には髭を生やして右目は赤い義眼……そう、魔王の一人であるルガールが土だけのハーブ畑に降って来たのである。

 

 

「ハッハッハーーー!!」

 

 

其れだけでも驚きなのだが、何とルガールは其の場で高速回転を始めると、其のまま畑の中を動き回って畑の土をかき混ぜる!耕す!!其の姿は、人間耕運機の如くであり、実に良い感じに土が解されて行く。此れならば肥料を混ぜるのも楽になり、ハーブも良く根を張る事が出来る事だろう。

畑全体を満遍なく耕した後は、ポーズを決めてフィニッシュである。

 

 

「テレサ先生、この位で如何かな?」

 

「充分ですルガールさん。此れだけ良く耕して頂ければ、ハーブも元気に育つ事が出来ると思います。」

 

 

やり切った顔のルガールと、そのルガールに礼を言う女性――ルガールが『テレサ先生』と呼んでいたのを見るに、彼女が此の孤児院の責任者なのだろう――その光景に、なのは達は少しばかり言葉を失ってしまった。

特になのはは『魔王が何やってんだ』と言わんばかりの表情を浮かべている……確かに、魔王が孤児院のハーブ畑耕してるとか、どんな状況なのかではあるが。

 

 

「おや?其処に居るのはなのは君とクローゼ君。他にも大勢いるようだが、此処に何か用かな?」

 

「確かに此処に用があって来たのだが、お前は此処で何をしているルガール?てっきり魔界に帰ったモノだとばかり思っていたぞ?」

 

「いやなに、なのは君が新たに王となったリベールと言う国がどんなモノかと思ってリベール中を旅していてね……その最中に、マーシア孤児院の看板が気になったので来てみれば実に見事なハーブ畑が存在しているではないか。

 あまりに見事なので、一体どのような人が此処を管理しているのか興味が出たのでね……家の方を訊ねたら、極上のハーブティと菓子をもってもてなしてくれたのでね、その礼として此れからハーブの種を蒔く畑の土を耕していたと言う訳なのだよ。」

 

「なら普通に鍬で耕せ。何もデッド・エンド・スクリーマーで耕さなくても良いだろうに……」

 

 

畑を耕したのは、良いもてなしをしてくれた事に対する礼だったらしい。

其れは其れとして、ルガールがなのは達に気付いたように、テレサと呼ばれた女性もまたなのは達に気付いた。なのは達と共いる霊使い四姉妹にもだ……そして、ルガールがなのはの事を『リベールの新たな王』と称した事で何かを悟った様子でもある。

 

 

「まぁ良い……貴女が此の孤児院の責任者か?」

 

「はい、テレサと言います。……取り敢えず中にどうぞ。」

 

 

なのはの問いにテレサは応えると、なのはとクローゼとヴィヴィオと四姉妹を家の中に招き入れた。その後で、改めて京に対応し、注文されたハーブを畑から収穫して渡した。袋詰めではなく、紙に包んでいるところにテレサの拘りが見て取れる。袋詰めよりも紙で包んだ方が温かみがあるモノなのだ。

ハーブを受け取った京達を見送ると、テレサも家の中に入り、なのは達にハーブティと手作りのアップルパイを出して自分もテーブルに着いた。

 

 

「単刀直入に聞きますが、此の子達はお城からモノを盗んでいたのですね?」

 

「まぁ、広義の意味では盗んでいたと言うのだろうな矢張り。」

 

「矢張りそうでしたか……ここ最近、此の子達が食べ物や布生地を持って来る事が増えたので少し不審には思っていたんです。

 この子達は、『最近いい仕事を見付けたんだ』と言っていましたが、孤児院育ちの此の子達がそう簡単に仕事に就ける筈はないと思っていましたから……孤児院育ちと言うだけで偏見を持たれてしまいますからね。」

 

「そう言う方面での差別や偏見と言うモノも存在しているのか……」

 

「其方の差別や偏見も無くして行かないといけませんね……」

 

「て言うか、ママ先生にはとっくにバレてたんだ……」

 

「さっすがに良い仕事を見付けたってのは無理があったみてぇだな。」

 

「物乞いしたの方が良かったかな?」

 

「其れは逆にアウトですよウィン。」

 

 

テレサは四姉妹が何をしているのか、大体の予想をしていたらしい。

其れでも四姉妹を深く追求せずに咎める事もしなかったのは、彼女達がそうしているのは此の孤児院の為である事を重々承知していたからだ……一歩間違えば牢屋行き間違いなしの事であっても、其れを咎める事が出来なかったのだ。――もっと言うのであれば、己の予想が外れていて欲しいと言う思いもあったのかも知れない。

 

 

「この子達のした事は決して許される事ではないので、罰を与えられるのは当然の事だと思いますが、この子達は決して私利私欲の為にやった訳ではないのです。ですから、如何か温情ある沙汰を。」

 

「……何か勘違いしているようだが、私は彼女達を罰する気はない。

 確かに彼女達は城からモノを持ち出してはいたが、其れ等は全てデュナンが民から接収したモノであり、彼女達は其れを本来の持ち主に返していたに過ぎん。何れ私達がやるべき仕事を先回りして行ってくれた訳だ。

 無断で城に忍び込んだのは褒められた事ではないが、だからと言って誰かが迷惑を被ったと言う訳でもないのでな……寧ろ、先延ばしにしていた仕事を消化してくれたのだから此方としては礼こそ言っても処罰する等と言う事は出来ん。

 私が此処に来たのはな、貴女をスカウトに来たんだ。」

 

「え?」

 

「リベールの公的な教育機関は、ルーアン地方のジェニス王立学園しかないだろう?

 しかもジェニス王立学園に入学出来るのは十五歳以上の少年少女達だ……それ未満の子供達に対しての教育機関は存在していないので、私が王になったのを機に各地に教育機関を設置しようと思っているんだ。

 貴女には、ルーアン地方での小児教育を担当して貰いたい……子供達に『ママ先生』と慕われている貴女ならばその役目は充分に果たせると思うからな。」

 

 

だがなのはは四姉妹を罰する事はないと言い、それどころかテレサにルーアン地方での小児教育を担当して欲しいと言って来た――マーシア孤児院の建物はそれ程大きなモノではないが、其れでもルーアン地方の小児教育の一端を担う事は出来るだろう。

 

 

「私がルーアンの小児教育を?……勿体ない話ですが、私にそんな事が出来るとは思えません。」

 

「私が貴女ならば出来ると判断したと言うのではダメか?――貴女に会って、貴女の人柄を見て、貴女ならば任せられるとな。

 現実に、貴女が育てた彼女達はこれ程までに立派に成長しているようだし、貴女が彼女達に慕われていると言う事は此処に来るまでの間に良く分かった……そんな貴女の他にリーアン地方の小児教育を任せられる人は早々居ないと思う。

 其れに、此れは少し俗っぽい話になるが、小児教育機関となれば補助金も出る上に、当然貴女にも給与が発生するので孤児院の運営の足しにもなろう。決して悪い話ではないと思うがな?」

 

「其れは……分かりました。其処まで仰って頂いているのに、其れでも断ると言うのは失礼に当たりますね。

 私で宜しければ、小児教育の担当、謹んでお受けさせて頂きます。」

 

 

なのはは四姉妹を罰する気はないと言う事を告げると、テレサにルーアン地方での小児教育を担当して欲しいと言い、更には補助金とテレサへの給与も出すと言う破格の好待遇で迎える事を告げる。

テレサも迷いはしたが、最終的にはこの好待遇を受け入れてルーアン地方の小児教育を担当する事に――なのはに此処まで評価されておきながら断ると言うのは流石に失礼だろうと思ったのだろう。この話を受けて補助金と給与が出て運営資金が潤沢になれば、子供達にもっと良い暮らしをさせる事が出来ると言う思いも少なからずあったのかも知れないが。

 

 

「其れと、この四姉妹は城で預からせて欲しいのだが如何だろうか?

 此れだけの力を持った霊使いと言うのは中々お目に掛かれるモノではないのでな……王室親衛隊の嘱託魔導師と言う形で雇わせて貰いたいと思ってな?まぁ、其れはあくまで肩書であり、平時は女官達の手伝いと言う感じの仕事になると思うが。

 正直な所、今の城は働き手が足りない状況でな……デュナンが自分に都合の良い人間ばかりで固めていたせいで。」

 

「この子達がお城で……ですが、本当に良いのでしょうか?この子達が手に職を持つ事が出来ると言うのは有難い事ですが。」

 

「貴女と彼女達が了承して下さるのであれば大丈夫です。正直な所、私となのはさんだけで書類の整理をすると言うのも可成りキツイモノがありますので、此方としても働き手が増えてくれた方が有難いので。」

 

 

更になのはは、霊使い四姉妹を王室親衛隊の嘱託魔導師と言う形で雇わせて欲しいまで言ったのだ。『平時は女官の手伝い』と言う事は、『有事の際には戦闘に参加して貰う』と言う事でもあるのだが待遇としては悪くないモノだろう。

此れには四姉妹も驚いたが、城で雇ってくれると言う事はつまり、『最近良い仕事を見付けた』と言う、テレサに点いていた嘘を現実にする事が出来る訳でもあり、四人全員がなのはの提案を受け入れ、テレサも『この子達をお願いします』と言って彼女達を城に送り出す事を決めたのだった。

こうして、誰一人不利益を被る事なく、此度の窃盗事件は静かに幕を下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、グランセル城では……

 

 

「現存してる資料から、出来るだけ最高の改造をしてみたんだが如何だ?」

 

「うん、申し分ない。

 リボルバーのグリップは其のままに、刀身を青光りする半透明なモノにするとはな……此れは、幻のガンブレードと言われている『ライオンハート』其の物だな。」

 

「あぁ、其れを目指したからな。」

 

「やっぱりやるなら最高性能を目指さないとね♪」

 

 

不動兄妹が夏姫のガンブレードを魔改造していた。

数少ない過去の資料から、幻とも言われているガンブレードを作り出してしまうとは、不動兄妹の頭脳と技術力には脱帽モノである――そして、夏姫のガンブレードだけでなく一夏の雪片・弐式も調整して『高周波振動ブレード』としての機能を追加して、ダイヤモンドでも両断出来るようにしてしまったのだからマジで驚きである。

 

 

 

 

 

そして其れから数日後――

 

 

「此処がリベールですか……中々良い場所の様ですね。」

 

「そんじゃ、早速城に向かうか?」

 

「……その前に、このルーアンで腹ごしらえをしましょう。そろそろランチタイムなので時間的にも丁度良いですし。何よりも、このルーアンは海鮮が有名だと聞きましたので、其れを堪能しない手は無いでしょう?」

 

 

ルーアン港に大型の客船が入港し、その船からはなたねとネロが降りて来た――復讐に取りつかれたなのはの双子の妹と、彼女と目的を同じとするデビルクォーターが、遂にリベールの地にやって来たのであった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter31『十年振りの再会~黒き星と灼炎の星~』

十年振りか……懐かしいなByなのは     十年は長いですね……Byクローゼ


グランセル城の空中庭園、其処は女王と側近のお茶会が行われる場所であると同時に、リベールの記念日には女王が民衆に対して、其の姿を見せる場所であるのだが……

 

 

「おぉ!やっぱりやるじゃねぇかテメェ!!良いぜ、トコトンまでやろうじゃねぇかオイ!!」

 

『グガァァァァァァアッァァァァァ!!』

 

 

その空中庭園では、シェンとゴギガ・ガガギゴが手加減無用のバトルを行っていた。

シェンもゴギガ・ガガギゴも遠距離の攻撃手段を持たないバリバリの近接戦闘型だけに、真っ向からのぶつかり合いになっている様だ……サイボーグ化しているゴギガ・ガガギゴと素手で互角に渡り合ってる時点で、シェンの拳が鋼鉄並みの強度であるのは間違い無いだろう。

一応、バトルのルールは『飛び道具禁止』、『床を殴っての衝撃波禁止』の徒手空拳の素手ゴロオンリーに限定しているのだが、万が一にも城に影響がないように、なのはが空中庭園全体の床と壁、女王宮にシールドを張っている。

『地下空間でやった方が良いのでは?』と言う意見があるかも知れないが、地下でこの二人を戦わせると、地下室をシールドで強化したとしても、もしもシールドを貫通するような事があった場合、地下空間が崩壊して城其の物が無くなってしまう可能性があるので、空中庭園で戦わせる事にしたのだ。此処ならば城が崩壊すると言う事だけは避けられるから。

 

 

「しかしまぁ、あの一件からシェンはスッカリお前の使い魔と戦うのが趣味になってしまったらしい……のだが、態々其の為だけに城に来るか普通?しかも、『おう、水の嬢ちゃんの使い魔と喧嘩しに来たぜ!』って、私が王でなかったら入り口で警備兵に捕縛されているぞ?……アイツがそう簡単に捕縛されるとも思えんがな。」

 

「シェンさんだったら、警備兵を蹴散らしてしまいそうですからねぇ?」

 

「と言うか、何であの人最上級のアドバンス召喚したギゴちゃんと互角に戦えるんですか……あの状態のギゴちゃんって、最上級のドラゴンにすら勝つ事が出来るって言うのに……」

 

「あ~~……シェンは魔王である父に師事していたし、岩を殴ったり、ハンマーで拳を潰したりと鉄の拳を作る事に没頭していたからな。」

 

「ハンマーで拳を潰すって、そんな事をして大丈夫なんですか!?」

 

「私も同じ事を思ったので十年前に大丈夫か聞いてみたんだが、ハンマーで拳を潰すと暫く使えなくなる代わりに、治った際には骨も筋肉も皮膚も潰す前よりも遥かに強くなるんだそうだ……そして実際に強くなったのだからもう何も言えなかった。

 魔王だった私の父と互角に戦ったカシウスの話も聞いていたし、何と言うか人の持つ可能性とポテンシャルと言うモノを実感した。人は、魔族や神族と比べると寿命も短く肉体的にも脆いが、寿命は兎も角、肉体は己の努力次第で魔族や神族並みに強くする事が出来るらしい。

 シェンが本気で全身の筋肉を固めたら、刃物が通らんかも知れん。正に鋼の肉体と言う奴だな。」

 

 

喧嘩士の強くなり方が何かオカシイが、確かに人間は魔族や神族と比べれば寿命も短く肉体的にも脆いのだが、肉体の強さは自己のトレーニング次第で幾らでも強く出来るのが人間なのだろう。……まぁ、特別トレーニングをしてないにも拘らず恐るべき頑丈さを誇っている志緒のような天然モノも存在しているのだが。

 

 

「そう言えばなのはさん、私は最近怪我をした時に凄く治るのが早くなってる気がするんですが、その原因って分かりますか?」

 

「あぁ、その原因は簡単だ。

 デュナンとの戦いの際、お前は元々は神族だったアウスレーゼの血が覚醒した結果、人でありながら限りなく神族に近い存在となったからだ。その影響で身体の傷の再生が早くなったんだ。

 序に言うと、寿命も神族並みに長くなり、魔族と神族同様、最も力が充実している青年期の姿が長く続く事になる筈だ……此れで、私と同じ時を生きる事が出来るようになった訳だ。」

 

「其れはまさかの予想外でしたが、なのはさんと同じ時間を生きる事が出来ると言うのは嬉しい事ですね。」

 

 

何やらクローゼが凄い事になっていたようだが、なのはと同じ時間を生きる事が出来ると言うのは確かに悪い事ではないだろう。

で、シェンとゴギガ・ガガギゴのバトルはと言うと、互角にガンガン殴り合いを続けた末に、シェンの右ストレートにゴギガ・ガガギゴのクロスカウンターが炸裂し、ダブルノックダウンと言う結果に……一撃必殺のクロスカウンターを喰らってもダブルノックダウンと言う結果になったのはシェンが頑丈だったのか、それともカウンターされても相手を道連れに出来るほどに拳打の威力が高かったのかは定かではないが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter31

『十年振りの再会~黒き星と灼炎の星~』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルーアン港からリベール入りしたなたねとネロは、カジノバー『ラヴェンタル』のランチタイムメニューでルーアンが誇る魚介を使った料理(なたねはイカと明太子のスパゲッティとサーモンのカルパッチョ、ネロはタルタルエビカツバーガーと魚介の天婦羅盛り合わせ)を堪能した後に、王都グランセルに向かう予定だったのだが……

 

 

「コール。手札を二枚交換します。」

 

 

カジノバーの二階にあるカジノでポーカーをやっていた。

と言うのも、店を出ようとしていた所で二階のカジノから何やら大きな声が聞こえたので気になって向かってみると、其処ではルーアンに観光に来たのだと思われる男女のペアの女性の方が、すっかりポーカーに嵌ってしまった男性に対して、『いい加減にして、ルーアンを観光しましょうよ!』と言っている最中だった。

しかし男性の方は、『良い感じで勝ち続けてるんだから、このまま勝ち続けてもっと儲けた方が得だろ!』と、完全にギャンブル中毒な発言をしており、女性の方は『誰か何とかして』と言った状態になっていたのだ。

其れ自体はなたね達には何の関係もないし、其れこそ見なかった事にしても良かったのだが、なたねは『なのはに会う前に運試しと言うのも悪くないですね?』と考えたようで、女性に『私とネロが彼に勝負を申し込んで見事負かして見せましょう。こっぴどく負ければ、目が覚める筈です。』と言って、男性にポーカーでの勝負を持ち掛けたのである。

ご丁寧に、男性が食いつくように『勝った方が総取りと言う事で如何でしょう?』と一万ミラを掛け金とし、勝てば倍額になると言う餌を垂らした上でだ。

勝てば二万ミラをゲット出来ると言う事で男性は見事に食いつき、三本勝負で先に二本先取した方が勝ちと言うルールで先ずはネロと男性が勝負したのだが、結果はネロも男性も共に『フルハウス』だった。

しかし、男性のフルハウスが『八と六』で構成されていたのに対し、ネロのフルハウスは『キングとエースで構成された最強のフルハウス』だったので、札の強さでネロの勝利となった。

そして続く第二戦、なたねは手札を二枚交換し、男性も手札を一枚交換……何方もドロップしなかったと言う事は、相当に自信のある手札が揃ったと言う事だ。

運命の手札オープン!

 

 

「私が揃えたのはスペードの、八・九・十・ジャック・クィーンのストレートフラッシュ!この役に勝てる役など其れこそ、ロイヤルストレートフラッシュしか存在しないぞ!」

 

 

先に手札を公開した男性が完成させた役は、スペードのストレートフラッシュと言うポーカーに於いては最強とも言える手札だった。確かに、この役を越える役を手札に揃えると言うのは可成り難易度が高いと言えるだろう。

だが、その最強の役を見てもなたねは動じない。

 

 

「スペードのストレートフラッシュ、其れは確かに最強クラスの役でしょう。

 ですが、ジョーカーが一枚だけ入っているこのポーカーでは其れを遥かに上回る役が一つだけ存在します。」

 

 

そう言ってなたねは己の手札を一枚ずつ表にしていく。

ハートのエース、ダイヤのエース、クラブのエース、スペードのエース、そしてジョーカー……そう、なたねはジョーカーありのポーカー限定で揃える事が出来る最強の役である『ファイブカード』をエースで完成させたのだ!

初手の手札にはエース三枚とクラブのジャックが揃っており、普通ならば一枚交換で手堅くスリーカードかフルハウスを狙う所を、なたねは二枚交換と言うバクチに打って出て、その結果見事に他の追随を許さない最強の役を完成させたのだった。

 

 

「バカな……ファイブカードだとぉぉぉぉ!!」

 

「貴方の負けです……如何やら強運は此処までだったようですね。」

 

 

此れまで景気良く勝っていたところでまさかの二連敗、しかも二戦目は圧倒的な差で負けたと言うのが堪えたらしく、男性はポーカー台から離れて女性と共にルーアン観光に戻る事にしたようだ。

 

 

「なたね、お前イカサマしただろ?」

 

「バレましたか。

 はい、交換した二枚のカードの絵柄を魔法でスペードのエースとジョーカーに書き換えました……勿論、捨て札の中にエースがない事を確認済みだったからこそ出来た事で張りますが……」

 

「運試しでイカサマってのも如何かと思うんだがな?」

 

「運試しですよ?イカサマがバレたら、その時点でお終いですから。イカサマがバレるか否か、此れも立派な運試しです。」

 

「物は言いようだなオイ。」

 

 

と、なたねは実はイカサマで最強の役を揃えたらしい……イカサマはダメだが、運試し、或は度胸試しであるのならばギリギリ容認出来ると言った所だろう。イカサマがバレたら即刻退店、最悪出禁になってしまう訳であるからね。

その後、少しばかりスロットで遊んで、稼いだコインを景品と交換した後になたねとネロは王都に向けて出発して行った。

 

 

「今の二人……女の方はなのは嬢ちゃんの家族か?

 其れと男の方は……右腕からバージルの気配を感じただと?……あの坊主、若しかしてバージルの?……コイツは、少しばかり面白い事が起きるかもだな。」

 

 

でもって、ルーアンを発つなたねとネロをダンテが目撃し、なたねからなのはと似た魔力を感じ、ネロから己の双子の兄の気配を感じると、不法駐輪されていたバイクのキー部分を砕いて直結させてエンジンを掛けると、其れに乗ってなたねとネロの車を追って行った。……ダンテの行った事は完全に犯罪なのだが、不法駐輪もアウトなので、其れを移動させたと言う事で一方的に罪に問う事が出来ない現状もあったりするのである。

ダンテがやたらと手馴れていた事については其れこそ突っ込み不要である。寧ろ突っ込んだら負けだ位に思っていた方が良いのかも知れないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

其れから数日後、なのはとクローゼはグランアリーナでヴィヴィオと対峙していた。

と言うのも、ヴィヴィオが『なのはママと、クローゼママの役に立ちたいから鍛えて欲しい』と言って来たからだ。

ヴィヴィオはデュナンが『戦闘兵器』として生み出しただけに戦闘力だけならば最強クラスであるのだが、如何せん実戦経験が皆無であった為にその高い戦闘力を十全に発揮する事が出来ないで居たのだ。

なので、ヴィヴィオは己を鍛えるべく、なのはとクローゼに『自分を鍛えて欲しい』と申し出たのだ。

なのはとクローゼも、その申し出を反対する理由がないのでヴィヴィオの申し出を受け入れてヴィヴィオを鍛える事にしたのだ。

 

 

「其れでヴィヴィオ、リクエストはあるか?」

 

「なのはママの誘導弾はとっても強くてとっても速く。クローゼママのアーツは兎に角強いのをお願い!」

 

「分かりました……では、手加減はしませんよヴィヴィオ?」

 

「寧ろ手加減不要でお願いします!」

 

 

そうして始まったトレーニングは凄まじいモノだった。

なのはが放った『強くて速い誘導弾』をヴィヴィオは拳で打ち返し、クローゼの最上級のアーツはギリギリで回避……するだけでなく、魔力を纏った拳で相殺出来るモノは相殺しているのだ。ベルカの伝説となっている『聖王』の力を継いでいると言うのは伊達ではない様だ。

『休日の親子のキャッチボール』と言うには余りにもバイオレンスではあるが、このトレーニングによってヴィヴィオの力が底上げされるのは間違い無いだろう――実戦経験の少なさをトレーニングで補う事が出来るのだから。

 

そして、十数分の後、ヴィヴィオは大の字にダウンしてトレーニングは終了!

なのはの誘導弾を殴り返し、クローゼのアーツを見事に回避していたヴィヴィオだが、トレーニングが続くにつれて疲れが見えて来て、最終的には疲れて動けなくなった所になのはの誘導弾とクローゼのアーツが炸裂してKOされてしまった訳だ。……完全にKOされて目を回しているにも拘わらず、略無傷であるヴィヴィオの頑丈さと言うのは半端なモノではないのだろうが。

しかもダウンしてしまったヴィヴィオは、即座にクローゼが回復アーツを掛けた事で直ぐに目を覚ましたと言うのだから驚きである。

 

 

「なのはママもクローゼママも強過ぎだよ~~!!」

 

「其処は経験の差と言うモノですよヴィヴィオ。

 貴女は確かに強いのですが、実戦経験が皆無なので、私となのはさんにはまだ及びませんよ……ですが、経験の差をトレーニングで埋める事が出来れば、何れは私となのはさんに勝つ事が出来るかも知れませんね?」

 

「そうかも知れんが、お前が強くなるだけ私とクローゼも強くなるから簡単には越えさせはしないがな。

 だが、少なくとも現時点で既に初めて戦った時よりも数段強くなっているのは間違いないから、其処は自信を持って良いと思う……さてと、トレーニングで大分消費したからエネルギー補給をしようか?

 確かマーケットの近くにアイスの屋台が出ていた筈だから、丁度お茶の時間だし、カフェで飲み物をテイクアウトしてアイスで午後のティータイムと行こうじゃないか。」

 

「やったー!アイスだーー!」

 

 

トレーニング終了後は、なのはの提案でマーケットの近くで営業しているアイスの屋台でアイスを購入してティータイムをする事に……普通ならば、一国の王が市街地に姿を現すと言う事はないのだが、なのははリベールの新たな女王となってから、度々王都の市街地に繰り出しており、『民衆との距離が近い王』としてのイメージを確立していたりするので問題無しだ。

護衛も無しに王自らが王都に出向くと言うのは本来ならば有り得ない事なのだが、なのはの場合は、仮に王の命を狙う賊に襲われた所で秒で返り討ちにしてしまうのでマッタク問題ないのである……相手がドレだけの数であっても、大抵はディバインバスターの一発で如何にかなると言うのが恐ろしい事この上ない。流石魔王の娘。

 

カフェでなのはは『キャラメルミルクラテ』、クローゼは『ハニージンジャーティ』、ヴィヴィオは『濃厚抹茶ホットチョコ』をテイクアウトし、アイスの屋台では全員が『カップのダブル』で、なのはが『抹茶アイスと大納言小豆アイスのダブル』、クローゼが『マスカルポーネチーズアイスとブルーベリーシャーベットのダブル』、ヴィヴィオが『キャラメルリボンバニラアイスとヘーゼルナッツチョコレートアイスのダブル』を注文し、テラス席で午後のティータイムに。

 

 

「あだだ!!キーンって、頭にキーンって来た!!」

 

「ハハハ、冷たいモノを一気に食べるからだ。温かいモノをゆっくり飲め、そうすれば直ぐに治まる。」

 

「冷たいモノを一気に沢山食べるのは禁物ですよヴィヴィオ?」

 

「うん、今其れを身を持って知った所だよ……アイスは美味しけど、一度に一気に食べるのはダメだね。今の頭のキーンは、なのはママのバスターよりもキツかったかも知れないよ。」

 

 

そのティータイムは、ヴィヴィオがアイスを一気に食べて頭痛を感じたり、夫々のアイスを食べさせあったりと実に平和なモノであり、其れを見た者達も何だかほっこりとした気分になるのだった。

此の時間が此のまま過ぎれば平和な日常の一コマになっていただろう。

 

 

「此処に居ましたか……漸く会えましたね、なのは。城に行って謁見を申し入れても、『女王陛下は現在外出中』と言われてしまい、街中を探す羽目になりましたよ。」

 

 

だが、そんな平和な時間を過ごしているなのは達の前に一台の車が停車すると、その中からなのはと瓜二つの容姿の女性が降りて来た――言わずもがな、十年前に生き別れたなのはの双子の妹のなたねだ。

其の姿を見た周囲の人間は勿論驚く。

ティータイムを楽しんでいる女王達の前に車が停車したかと思ったら、その車から降りて来たのは現リベール女王と瓜二つの女性だったのだから……なのはもなたねも防護服のデザインは同じの色違い、髪型に関してもなのはがサイドテール、なたねがストレートのロングと言う違いしかないのだ。

其れ以外に、敢えて違いを上げるとすれば目元だろうか?なのはと比べると、なたねの方がやや鋭い感じである。

 

 

「其れは、手間を掛けさせて悪かった……彼是十年振りになるが、矢張りお前も生き延びていたかなたね。」

 

「お互い悪運が強かったと言う事にしておきましょう……ですが、十年振りの再会です。感動の再会を記念して、ハグしてキスでもした方が良いのでしょうか?……其れとも、こっちのキスの方が私達らしいと言うべきでしょうか?」

 

 

突然現れたなたねに驚く事もなく対応したなのはに対し、なたねも淡々と返して手にしたルシフェリオンをなのはに向ける。『こっちのキス』とはつまり、『再会を記念して一発ド派手に勝負』と言う事なのだろう。……略無表情で中々にバイオレンスな事を言っているのが若干恐ろしい。

普通ならば、一国の王に対して武器を向けると言う行為は、その時点て射殺されてもおかしくないのだが、ルシフェリオンを向けられたなのはは全く動じていないどころか口元に笑みを浮かべる余裕のある態度に、周囲の民は王国軍や王室親衛隊、遊撃士協会に連絡を入れるのを忘れるほどに見入ってしまっていた。

 

 

「其れは止めておけ。子供の頃ならいざ知らず、今の私とお前が戦ったら王都が焦土になってしまうだろうからな。

 其れよりも十年振りに会ったんだ、お互いに積もる話もあるだろう……良ければお前も此方で一息入れないか?勿論、車の運転をしている者も一緒にな。」

 

「ふむ……其れも名案ですね。私も彼を紹介しようと思っていましたので。ネロ、ティータイムと行きましょう。」

 

「ティータイムね……ま、ずっと運転しっ放しで少し疲れたから丁度良いか。」

 

 

なたねに言われて車から降りて来たネロの容姿にも周囲は驚く。

短い銀髪に蒼い目だけならば早々珍しくはないが、人々の注目を集めたのはネロの右腕だ――赤い硬質の肌に、鈍く青白い光を放つ手の平と鋭く尖った指……まるで悪魔や魔獣の腕を取って付けた様な異様さが其処にはあったのである。

 

 

「その腕、只の人間ではないと推測するが?」

 

「魔族とのハーフ……いえ、魔族ではなく悪魔でしょうか?」

 

「さて、そいつは俺にも分からなくてね。」

 

「彼はネロ。十年前に出会った私のパートナーです……彼もまた、私達と同じ境遇の者です。」

 

「……ライトロードか。」

 

 

ネロも自分達と同じ境遇だと聞き、なのはは即座に彼もまたライトロードによって奪われた者だと理解した。

なのはには鬼の子供達、なたねにはネロ……ライトロードによって家族を奪われた双子の姉妹は、奇しくも同じくライトロードによって全てを奪われた者を仲間にしていたのである。一卵性の双子だけに、何処か似通った部分が有るのだろう。

 

 

「取り敢えず飲み物とアイスでも買って来たらどうだ?何なら私の奢りでも良い。十年振りの再会だからな、姉として其れ位するのはやぶさかではないぞ?」

 

「では、その好意に甘えるとしましょう。」

 

 

そして、先ずはなたねとネロはなのはの奢りで飲み物とアイスを購入。

なたねは『マシュマロホットミルク』と『ストロベリーアイスとバニラアイスのダブル』で、ネロは『ジンジャーレモンティ』と『アップルシャーベットとオレンジシャーベットのダブル』だった。

 

 

「では先ずは自己紹介と行こうか?リベール王国の女王、高町なのはだ。」

 

「女王補佐にしてなのはさんのパートナーのクローゼ・リンツです。」

 

「ヴィヴィオでーす!なのはママとクローゼママの娘です!」

 

「……娘?」

 

「養子だ、見て分かれ。」

 

「ですよね。……コホン、では今度は此方から。高町なたねと申します。なのはの双子の妹です。」

 

「ネロだ。」

 

 

十年振りの再会は、先ずは自己紹介からだ――ヴィヴィオが自己紹介した際に少しばかりお約束な反応が見られたが、其処はサラリと流して自己紹介を終え、此処からが本番である。

 

 

「貴女が死んだとは思ってはいませんでしたが、貴女がリベールの皇女殿下を城から連れ去ったと言うリベール通信の記事を見た時には驚きました――同時に、何とも大胆な事をしたと思いましたよ。」

 

「其の時連れ出したのが、今隣に居るクローゼだよなたね。

 彼女は私の恩人なのでね……不当な幽閉生活を送らされていると言う現状を黙って見ている事は出来なかった。本来ならば、もっと戦力が整ってからと思っていたのだが、デュナンが彼女の暗殺を企てて居ると言う事を聞き、計画を前倒しして城から連れ出す事にしたんだ。全ての準備が整ったら、彼女と共にリベールをデュナンの手から解放し、私の目的を果たす為の始まりの地とする為にな。

 そして、クローゼを城から連れ出す以前から私は仲間を集めて施設武装組織『リベリオン・アナガスト・アンリゾナブル』を結成していた……組織の構成員は百人を軽く超えるモノになってしまったがな。」

 

「……それ程の組織を作り上げているとは思いませんでした。

 ですが、リベールの新たな王となった今こそ、貴女には為すべき事があるのではありませんかなのは?……そう、国と言う絶大な力を得た今こそ、神族、魔族、そしてライトロードをはじめとした人間に復讐をする時でしょう。

 そうです、復讐を始める時は今を於いて他に有りません……!」

 

「復讐、ね。」

 

 

その本番で、自身の此れまでの事を語ったなのはは、なたねが言った事に対して少し難しい顔をすると同時に、自分となたねの目的は絶対的に異なるモノだと言う事を感じ取っていた。

なのはも勿論復讐心はあるが、其れはあくまでも母を殺した魔族と、父と姉を殺したライトロードに対してのモノであり、母を殺した魔族は既にルガール、アーナス、悪魔将軍によって抹殺されており、神族に関しては『母を天界から追放した』だけであり身体的な被害を与えた訳ではないので現状では『高町桃子の娘が生きていて、一国の王になった』と言う事で一種の圧力を掛けておけばいいと考えているので、なのはの復讐相手は目下ライトロードだけなのだが、なたねはそんな事は関係なく、神族、魔族、人間全てに対しての復讐を考えているとなのはは感じ取ったのだ。

其れは、一卵性の双子でありながらなのはとなたねの歩む道が全く異なるモノになってしまった証でもあった……

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃――

 

 

「っと、此処は何処だ?」

 

 

なたねとネロを追っていたダンテは、何処で道を間違ったのかツァイス地方の『紅蓮の塔』にやって来ていた……ルーアンからグランセルに行くには、一度ツァイスを経由する必要があるのだが、一体何処をどう間違ったら紅蓮の塔に辿り着くのかが謎である。

 

 

「まぁ、着いちまったモンは仕方ねぇ……塔の内部を冒険してみるとすっか。」

 

 

そんな事は全く気にせずに、ダンテは紅蓮の塔に入ると、瞬く間に全階層の魔獣を撃滅し、最上階で『衝撃鋼・ギルガメス』を入手し、其の性能を確かめるべく、紅蓮の塔の屋上からダイブすると、真下に居た縦に連なったポムの集団を手刀で一刀両断!!

更には着地点に大きなクレーターが出来ていたのだから、その威力は凄まじいモノだっただろう。

 

 

「コイツは悪くないな。」

 

 

ギルガメスの性能を確かめたダンテは、改めて王都に向かって行った……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter32『黒星と灼星~交わらない二つの道~』

復讐の先を見るか、復讐が終着点か、その差は大きいなByなのは     未来を見据えているか否かですねByクローゼ


十年振りの再会を果たしたなのはとなたねだったが、なたねが言った『人間、魔族、神族、全てに対しての復讐』に関してなのはは同意する事は出来なかった。

確かになのはもライトロードへの復讐は考えているのだが、復讐すべき魔族は悪魔将軍によって粛清され、父と姉の殺害に加担した村人と、母を天界から追放した神族に関しては、『不破士郎の娘が生きていて、リベールの王になった』と言う事実をもって、『若しかしたら復讐されるのではないか?』と言う何時終わるとも知れない恐怖を与える事で、一応の復讐としていたので同意出来なかったのだ。

 

もっと言うのであれば、なのははライトロードへの復讐を考えてはいるが、復讐を果たした先には、『全ての種が差別なく生きる事が出来る世界』の実現を目指しているのに対し、なたねは復讐だけが目的となってその先がない……少なくともなのははそう感じたのだ。

 

 

「ふくしゅうね……過去に習った事をもう一度学び直す事か。」

 

「其れは復習です。」

 

「海の向こうの東方のある国にそんな名前の都市があったと思うのだが。」

 

「其れは福州です。」

 

「主に付き従い逆らわない事か。」

 

「其れは服従です。」

 

「腹が痛い。」

 

「腹痛です。……ボケ倒しもいい加減にして下さい。」

 

 

取り敢えずボケ倒して有耶無耶にしてしまおうと言う作戦は失敗に終わった。

尤も此れが成功してしまったら、其れは其れでなたねが色々大問題であると言えるだろう……テスタロッサ家の愛すべきアホの子ならば此れで煙に撒けるかも知れないが。

 

 

「冗談だ。しかし復讐か……少なくとも街中でする話ではないから場所を変えるとしよう。

 お前は兎も角、今の私はリベールの王だ。其れが民衆の前で復讐だのなんだのと話をしていると言うのは宜しくないからな?お前も其れ位は分かってくれるだろうなたねよ?」

 

「構いませんよなのは。私も、貴女とちゃんと話をしたいので。」

 

「と言う事なのでヴィヴィオ、私達を空中庭園まで転移させてくれるか?なたね達の車は……正門前広場にでも転移しておいてくれ。」

 

「うん、了解です!」

 

「序に其の車、其れなりに整備をしているみたいだが中々使い込まれて色々と年季が入っている様だから、リベール一の整備士に頼んで整備して貰おうか?彼の腕に掛かれば、新品同様にフルレストアしてくれるだろうさ。代金は此方で持つ。」

 

「良いのかよ?こっちとしては助かるけどよ。」

 

「姉から妹とそのパートナーへ、再会のプレゼントと言う奴だ、気にするな。」

 

 

一先ず話の内容が内容なので、場所をグランセル城の空中庭園に移し、車は正門前広場に転移させた。一度の転移魔法で複数人移動させるだけでなく、車だけ別の場所に転移させるとは、ヴィヴィオの転移魔法は相当にレベルの高いモノだと言えるだろう。

尚、車の整備を依頼された不動兄妹は、今では珍しいクラシックなワゴンを改造した車に驚いたが、滅多に整備出来るモノではないので気合を入れて整備をするのだった……その整備を、スパナ型の頭をした精霊が手伝っていたとか何とか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter32

『黒星と灼星~交わらない二つの道~』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空中庭園に転移したなのは達は、ティータイムで使用しているガーデンテーブルに着く。なのはとなたねが向かい合うように座り、なのはの右側にクローゼ、左側にヴィヴィオが座り。なたねの右側にネロが座ると言った感じだ。

 

 

「時にネロだったか?

 その右腕にも少し驚かされたが、背負っている剣も中々に凄そうだな?その重厚な感じ、アガットや志緒が使う重剣にも匹敵すると思うが、お前は其れを自在に振り回す事が出来るのか?」

 

「あぁ、出来るぜ?ま、俺以外にも振り回せる奴は居るかもしれないが、コイツには特別なギミックが仕込まれてるから、其れを含めると俺以外に使い熟せる奴はいねぇだろうけどな。」

 

「特殊なギミックですか?」

 

「イクシードつってな。

 グリップ部分を捻ったり、引き金を絞る事で剣内部のエンジンを起動させて斬撃の威力を爆発的に強化してくれるんだが、そのタイミングが中々にシビアでな……少なくとも並の奴じゃ使い熟せねぇ。」

 

「夏姫お姉ちゃんのガンブレードみたいな感じかな?」

 

 

復讐云々の話をする前に、先ずは別の話題を振って主導権を掴もうとする。

本筋とはマッタク関係ない話題を振って雑談をしながら会話の主導権を握り、自分のペースで話を有利に進めると言うのも、なのはが此の十年で身に付けたモノだ。今回は話の有利不利は兎も角、内容が内容だけに主導権は握っておきたかったのだろう。

 

 

「此の剣、レッドクイーンはネロが自分で作り上げたモノですから、ネロ以外に使い熟せないのは道理と言えるでしょう。序に、ネロは銃も使うのですが、その銃も既存のモノをネロが独自に改造したモノですので。」

 

「お前のパートナーは意外と器用なんだな?……ならば、車の方もフルレストアすれば良いと思うのだが、その辺は如何考える?」

 

「車は取り敢えず動けば其れで良いからな。」

 

「そう言う事です。

 さて、話が逸れましたが、一国の王となり絶大な権力と兵力を手に入れたと言うのに、貴女は何故復讐の為の戦いを始めないのですかなのは?一国の軍隊をもってすれば、ライトロードだけでなく魔族や神族と戦う事も可能でしょう。

 まして、人間を滅ぼす事など造作も無い筈……なのに、何故復讐を始めないのですか?」

 

 

先手はなのはが取ったが、即座になたねは話題を本筋に戻して来た……双子の姉妹だけに、なのはの思惑を理解し、なのはにペースを握らせんとしたのだろう。姉妹間では中々に駆け引きと言うのも難しいモノがあるみたいだ。

 

 

「私はリベールの王だ。

 王が自分の私怨で戦争を出来る筈が無かろう?其れに、母さんを殺した魔族は悪魔将軍によって粛清され既にこの世には居ない。

 母さんを天界から追放した神族は許せんが、彼等は母さんを追放しただけで其れ以外に何かをした訳ではないので、武力をもって復讐すると言うのは些かやり過ぎと言うモノだから、神族の連中は、父さんと姉さんの殺害に加担した村人共々、私がリベールの王になったと言う事実で『若しかしたら復讐されるかも知れない』と言う恐怖を与えてやった方が単純に殺す以上の苦しみになるだろう。……私が生きている限り、その恐怖は続くのだからな。

 ライトロードには当然復讐するが、連中は十年前にハーメルを襲ったのを最後に活動が鈍化していて、今は何処で何をしているのかも分からんから攻撃しようもないと言うのが正直な所だ。

 お前もこの十年、ライトロードの動向は掴めていないだろう?」

 

「其れは……否定はしません。

 ですがなのは、貴女の復讐対象はライトロードだけなのですか?魔族、神族、そして人間全てに復讐するのではないのですか?」

 

「あぁ、私の復讐相手は、今やライトロードだけだ。」

 

 

だが、本筋である『復讐』に関しての話でも、なのはは『復讐すべき相手はライトロードだけだ』とキッパリと言い切って見せたのだが、其れを聞いたなたねは少しばかり苦い顔をする。

なたねはなのはも自分と同様に魔族、神族、人間と全ての種に対しての復讐を考えているモノだと思っていたのが、実はそうではなかったと言う事を知ってしまったからである。

 

 

「何故です?母を天界から追放した神族、母を殺した魔族、そして父と姉を殺したライトロードと人間……其れ等は等しく復讐の相手だった筈でしょう?」

 

「確かに、私もそう考えていた事はあったさ。

 だが、十年前にクローゼと出会った事でその考えは間違いだと気付いた……人間は魔族を忌み嫌っているモノだと思っていたが、クローゼは魔族の証である黒い翼を持っている私に対して手を差し伸べてくれたんだ。『魔族であろうと人間であろうと、命は平等である』と言ってな。

 故に、全ての種に対して無差別に復讐をするのは間違いだと悟った……復讐すべき相手に復讐するのは復讐者の権利だが、復讐すべき相手以外にも剣を向けると言うのは正しい事ではなく、其れを行ったら其れはもう只の破壊者だ。」

 

「詭弁ですね……人の気紛れに絆されてしまうとはガッカリです。十年の間に腑抜けになりましたか。」

 

「その言葉、そっくりそのまま返すぞなたね。

 腑抜けとは言わんが、お前はこの十年ですっかりと目が曇ってしまったみたいだな?全ての種に対して無差別に復讐を行ったら、其れは『魔族だから』と言う理由だけで父と姉を殺したライトロードと何が違う?」

 

「彼等は何の罪もない父と姉を殺しました。

 ですが、私には復讐をする理由があります……人間も魔族も神族も、滅びるべきなのです。」

 

「如何やら、根本から分かっていないみたいだなお前は……お前にもクローゼのような存在が居たらまた違ったのかも知れないが、今のお前は復讐に取りつかれて其れ以外の事を考える事が出来なくなってしまっているみたいだな。」

 

 

話は平行線。

なのはにとってライトロードへの復讐は、己の目的を達成する為に必要な工程の一つであるのに対し、なたねはライトロードだけでなく、全ての種に対しての復讐を考えており、復讐其の物が目的となっている……復讐の先があるなのはと、復讐が終着点であるなたねでは、そもそもにして話が成り立たないのだろう。

 

 

 

――バサッ……!

 

 

 

そんな中、空中庭園を大きな影が覆ったかと思ったら、ヴァリアスとアシェルとバハムートが空中庭園の縁に降りて来た。

ヴァリアスとアシェルとバハムートは、最近はフルサイズでリベールの上空の警備を行っており、リベールに近付く不審な飛行船を見つけたその時には必殺のブレスと火炎弾で爆殺して、リベールを空から守護しているのだ。

青き眼の白龍と紅き眼の黒竜、混沌の覇龍は今やリベールの守護神として、嘗てのリベールの象徴である白隼と同じくらいの存在となり、新生リベールの国旗に其の存在を表しても良いのではないかとすら言われているのだ……ミニマム時には、先輩(?)であるジークに叱られる事が有るにしてもだ。

 

 

「此れは、ドラゴン?」

 

「マジかよ、初めて見たぜ……!」

 

「そう言えば紹介して居なかったな?

 私の相棒の真紅眼の黒竜のヴァリアスだ。」

 

「私の相棒である青眼の白龍のアシェルです。」

 

『強靭!無敵!最強!粉砕!玉砕!!大喝采!!!』

 

「私の相棒の混沌帝龍のバハムートだよ!」

 

 

その圧倒的な存在感に驚くなたねとネロに、なのは達は夫々のドラゴンを紹介する……クローゼがアシェルを紹介する際に、何か聞こえた気がするが、其れを気にしてはダメだろう。ダメな筈だ。

 

 

「まさか、ドラゴンまで使役しているとは思いませんでした……ですが、此れだけの力を持っていながら復讐の為の戦いを行わないのですか貴女は?」

 

「ライトロード以外に復讐する気はないからな……そのライトロードも行方が知れんが、私がリベールの王となったと言う事を知れば、必ずやリベールに対しての攻撃を行うだろうから、其処を狩ってやる心算だ。連中の方から攻撃してくれれば、私にも『国と民を守る為』と言うライトロードと戦う為の大義名分も生まれる。そして、リベールが攻撃を受けたとなれば、同盟関係であるエレボニアとカルバートとて黙っている事は出来ん……私を狙ってリベールを攻撃した時点で詰んでるんだ連中は。

 だが、この答えではお前は納得しないのだろうなたね?お前は、ライトロードのみならず全ての種への復讐を考えているみたいだからな?」

 

「勿論です。」

 

「まぁ、其れもまた一つの考えだが……なたねよ、お前は全ての種に対しての復讐を果たしてたとしてその先は如何する?今のお前は、復讐を果たす事が生きる意味になっている様に感じるが、目的を果たしたその暁には生きる意味を失って只日々を空虚に生きる心算か?或は、目的を果たした事で満足し自ら命を絶つか?」

 

「……其れも、良いかも知れませんね。」

 

「そうか……ならば尚の事、私はお前の目的を是とする事は出来ん。だが、いくら言葉で言った所でお前は聞かんだろう?ならば、身体で分からせてやる。……ヴィヴィオ、結界張れるか?」

 

「うん!任せてなのはママ!」

 

 

復讐の果てに何のヴィジョンも持っていないなたねに対し、なのはは『その目的を認める事は出来ない』と言い放つと、ヴィヴィオに結界の展開を言い渡し、ヴィヴィオは結界を展開して世界を反転させる。

その瞬間世界はセピア色になったが、其れはヴィヴィオの結界で世界が反転したからだ。

この反転世界は結界内に居る者達だけしか存在出来ず、外から入る事は基本的には不可能で、結界内で建物が壊れようとも、現実世界には一切の影響がないと言う中々の優れモノなのである。

 

 

「見事な結界だな。

 さて、フィールドは整った……来いなたね。姉としてお前の歪んだ復讐心を否定してやる。」

 

「ならば私は貴女に正しき復讐心を思い出させて差し上げましょう。」

 

 

なのはがなたねにレイジングハートを向けると、なたねもなのはにルシフェリオンを向け、そしてオープンコンバット!

 

 

「パイロシューター!」

 

「アクセルシューター!」

 

 

先ずはなたねが小手調べに誘導弾のパイロシューターを放ったが、なのはは其れに対してアクセルシューターを放ってなたねのパイロシューターを相殺……するだけでなく、誘導弾の絶対展開数の差で勝るなのはは、相殺されなかったアクセルシューターをなたねにぶつける。

 

 

「此の程度……!」

 

 

なたねはルシフェリオンで其れを振り払うと、なのはに肉薄しルシフェリオンでの直接攻撃を行うが、なのはは其の攻撃を略ノールックでレイジングハートを使って対処する……流れるように無駄のない動きで対処するなのはの姿は、一種の芸術であると言っても過言ではないだろう。

 

 

「スマッシャー!」

 

「!!」

 

 

更になのはは、近距離用の砲撃をブチかましてなたねを吹き飛ばす!必殺のディバインバスターと比べたら大幅に威力は落ちるのだが、其れでもなたねを大きく吹き飛ばすには充分な威力だった様だ。

 

 

「ブラストファイヤー!!」

 

「ふん、小賢しい!」

 

 

だが、なたねは態勢を立て直すと得意の直射砲を放ったが、其れはなのはに片手でいとも簡単に止められてしまった……なのはのグローブの表面は焦げているのでノーダメージでは無かったのだろうが、其れでも必殺の直射砲を片手で受けきると言うのは相当だろう。

本来ならば充分に回避出来る攻撃だったが、敢えて片手で受け止めて見せたのは、早い段階でなたねの心を折る心算なのかも知れない

 

 

「私のブラストファイヤーを片手で……!」

 

「子供の頃は互角だったが、この十年で私とお前には決定的な差が出来てしまった様だな?……私は、戦いが始まった時から殆ど動いていないぞなたね?」

 

「!!!」

 

 

加えてなのはは、戦闘開始時から殆ど動かずになたねの攻撃に対処していたのだ。

こうなると、なのはとなたねの実力差は相当あるように思えるが、実のところなのはとなたねには其処まで大きな実力差は無かったりする。なのはもなたねも、ライトロードとの戦いに備えて鍛えていたし、実戦も何度も経験して今では魔王に匹敵する力を身に付けているのだ。

にも拘らず戦いに於いて差が出てしまっているのは、偏に十年間の生活の違い、其の違いからくる心構えだと言えるだろう。

なたねは己を鍛えてはいたが、仲間と呼べる存在はネロだけであり立場も対等……なたねとネロにはそれぞれ背負うモノがないのだ。

無論、唯一無二のパートナーなので互いに背中を任せられる関係ではあるが、同時に自分の身は自分で守るとの考えもあるのでパートナーではあるが背負っているのは自分の命だけなのだ。

対するなのはは最初に仲間となったのが己に忠誠を誓ったクリザリッド、つまり対等ではない部下を得たのだ……そして其の部下と共に組織を大きくして行く中で、なのはには組織のトップとして仲間や部下の命を預かる覚悟と自覚が芽生え、リベールの王となった今ではリベールの国民全員の命を預かる立場となり、背負うべきモノはより大きくなったが、それがよりなのはの力を底上げしているのだ。背負うべきモノ――もっと分かり易く言うのであれば、『護るべきモノ』の有無の差だ。

此処に、復讐は理想を現実にする過程の一つでしかないなのは、復讐が到着点のなたねと言う、復讐の先がある者と、復讐でお終いの者との違いも加われば、基礎能力は互角であっても差が出るのは当然と言えるだろう。

護るべきモノがあって未来を見据えている者と、護るべきモノは無く未来を見ていない者では、其処に圧倒的な力の差が出てしまうモノなのだ。

 

 

「今のお前では私に勝つ事は出来んよ。

 いや、私に勝つ事が出来ないどころか、復讐を果たす事すら出来ん……今のお前では、精々ライトロードの連中を二、三人殺すのが精一杯。……そして、ライトロードの報復によって命を落とすのが関の山だ。

 復讐に囚われ、憎悪で目を曇らせてしまった奴は何一つとして成し遂げる事は出来ん……其れが分からないのかお前は?」

 

「何を馬鹿な……復讐心を忘れず、憎悪の炎を燃やし続けて来たからこそ、私は今まで生きてこられたんです。燃え滾る復讐心、怒りと憎悪……其れが私を強くしたとも言えます……私は其の力で、貴女に真の復讐心を思い出させます。」

 

「ふん、そんな染みったれた強さでは私には到底届かんよ。

 其れに、お前何か忘れてないか?今でこそタイマンだが、私はやろうと思えば何時でもお前達を倒す事は出来るんだぞ?ヴィヴィオとバハムートをネロにぶつければ勝てずとも暫く抑えておく事は出来るだろう。

 その上でクローゼ、そしてヴァリアスとアシェルがこの戦線に加わったら果たしてどうなるだろうな?私一人に勝てないのに、今や上級神族に匹敵する力を得たクローゼと、光と闇の上級ドラゴンを相手にして真面に戦えるのか?」

 

「……!」

 

 

加えて此の場での戦力差と言うのも大きいだろう。

なたねの戦力は自身とネロだけなのに対し、なのはにはクローゼとヴィヴィオ、そして夫々が使役するドラゴンに加えて王室親衛隊と言う王直属の部隊まで存在しているのだ……戦闘が始まる前から、なたね達には敗北の道しかなかったと言えるだろう。

 

 

「此れが私とお前の差だなたね。

 だが、命までは取らん。此れでも姉妹だからな。……しかし、二度と私の前に現れるな、その考えを改めるまではな。終わりだ。」

 

 

此れ以上の戦いは無意味だと、なのははなたねに背を向ける。

しかしそれは、なたねにとっては屈辱だった。『此れ以上戦う価値はない』と、そう言われたも同然なのだなたねにとっては。だからこそ、黙っている事など到底出来るモノでは無かった。

 

 

「……ディザスター・ヒート!!」

 

 

背を向けたなのはに三連続の直射砲を発射!

普通ならば完全に背後から放たれた攻撃故に、なたねの声で気付いたとしても完全に対処出来るモノではないのだが……

 

 

「だから、その程度の攻撃では通じないんだよ。」

 

 

なのはは其れをノールックで完全回避。この展開は読んでいた、そう言う事なのだろう。

 

 

「私とお前の差と言うモノを見せ付けてやれば分かるかと思ったが、如何やらそうではなかったみたいだな?

 私としてはお前が身を退き、今一度自分の考えを見つめ直して欲しいと思っていたのだが、如何やらそれは無理だったらしい……ならば姉として、お前に決定的な敗北を与えてお前の心を折るとしよう!

 心が折れてしまえばもう戦う気も起らず、中途半端な復讐を行って無駄に命を落とす事も無くなるだろうからな……レイジングハート!」

 

『All right Master.Restrict Lock.』

 

 

次の瞬間、なたねをバインドが拘束して身動きを封じ、なのはは一撃必殺の超必殺技の準備を行う……レイジングハートの先端に結界内の魔力と己の魔力の全てを集中させて行く。

其れは絶対無敵にして不敗の奥義、なのはが十年の時を費やして編み出した究極の必殺技、『スターライト・ブレイカー』を放つ準備が出来た事を意味する。

 

 

「コイツはヤバい……なたね!」

 

「させないよ!」

 

『ガルルゥゥゥゥ……』

 

 

其れを見たネロはなたねを救出せんとするが、背後からヴィヴィオが羽交い絞めにし、更にアシェルとヴァリアスとバハムートに取り囲まれた事で動きを封じられてしまった。クローゼが、全属性の最強アーツを何時でも放てる状態になっていたと言うのも大きいだろう。

パワーだけならば相当に強いネロだが、だからと言って最上級のドラゴン三体と、最強の生物兵器であるヴィヴィオ、そして上級神族に匹敵する力を持つクローゼを同時に相手にすると言うのは幾ら何でも分が悪いどころではない。

 

 

「此れで終わりだなたね……全力全壊!」

 

『Starlight Breaker.』

 

 

集めた魔力は直径100m程の魔力球を作り出し、其処から放たれる集束砲の威力は正に『星を砕く』だけの破壊力がある……結界内でなく、現実世界で放たれたら間違いなく射線上にあったモノは跡形もなく無くなってしまうだろう。

 

 

――パァン!!

 

 

だが、その必殺の一撃が放たれる刹那の瞬間、銃声が鳴り響き、直後になのはの防護服が少しばかり裂かれた事で、なのはの意識は其方に向き、同時に集束砲は発射ギリギリでキャンセルされてしまったのだった。

とは言っても、ネロはヴィヴィオに羽交い絞めにされた上に、クローゼと三体のドラゴンによって完全に動きを封じられているのでブルーローズを撃つ事は出来ない状況だ……では、誰が銃を放ったのか?

 

 

「ダンテか……余計な真似を。」

 

「余計な真似って事はねぇだろ?只の姉妹喧嘩ってんなら兎も角、姉妹喧嘩の範疇を越えたバトルってんなら話は別だ。一国の王様に、妹殺しをさせる訳には行かないだろ流石に。」

 

 

その正体はダンテ。

なたねとネロを見失って紅蓮の塔に行ってしまったダンテだったが、軌道修正をして何とか王都に辿り着き、そして王都に展開された結界に気付き、リベリオンで結界を外側から斬り裂いて結界内に入ると言うトンデモナイ力技で此処にやって来たのだ……この男には、大凡常識なんてモノは通用しないのかも知れない。

 

ともあれダンテの乱入で場が一時的にリセットされたのは間違いないだろう。

 

 

「命拾いをしたななたね。ダンテに感謝すると良い。」

 

「感謝?……寧ろこれは屈辱です。此の土壇場で、命を救われるとは……!」

 

 

口では『余計な真似を』と言ったなのはだが、その実ダンテの乱入は有難かった。

なのはは覚悟を決めていたが、其れでも双子の妹を再起不能にしてしまうかも知れない一撃を放つには少しばかりの躊躇いが無かったかと言えば其れは嘘になるのだ……誰だって、実の妹を再起不能にしたいとは思わないだろうからね。

 

だが其れでも、なたねの瞳には憎悪の炎が宿っている……今回の一件はそう簡単に決着するモノでは無いようである……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter33『交わらない道を交わらせる~なのはの提案~』

復讐心と破壊衝動は何も生まんなByなのは      本当に、その通りですねByクローゼ


ヴィヴィオが張った結界内で行われていたなのはとなたねの姉妹対決は、ダンテが結界内に乱入した事で途中中断となったのだが、トドメを刺される土壇場で命を救われる形となったなたねはダンテを睨みつけていた。

 

 

「時にダンテ、お前どうやって結界内に入って来たんだ?」

 

「リベリオンで結界の一部を斬って強引にな。もっと言うなら、結界内に入って来たのは俺だけじゃねぇ。序に親衛隊の連中も連れて来たぜ?つっても、一夏の坊主が居なきゃ来られなかっただろうけどな。」

 

「何と言う力技か……そして親衛隊もか。」

 

「陛下、御無事ですか?」

 

「あぁ、無事だがお前達はどうやってこの結界内に入って来たんだ?」

 

「俺の零落白夜で結界の一部を斬って、そんで其処から入って来た。真の零落白夜にはまだまだ程遠いけど、結界を斬って中に入る位なら俺でも出来るぜ。」

 

「其れも中々の力技ですねぇ……」

 

「もうちょっと結界強くした方が良かったかなぁ?」

 

 

だが、そんななたねを他所に、結界内にはダンテだけでなく王室親衛隊の隊員も入って来て、ネロとなたねを包囲する……リベールの王に刃を向けた相手を捕縛するのは当然の事なのだから。

そして包囲されたなたねもネロも、もう打つ手は無かった。

王室親衛隊の隊員の個々の能力ではなたねとネロには及ばないが、其れでも王室直属の精鋭達が揃ったのならば連携する事でなたねとネロを無力化するのは難しくない。

特に隊長のユリアはカシウスに師事していた時期があり、剣の腕前は王国軍と親衛隊を合わせた中でもリシャールに次いで二番目であり、なのはが王となってから新たに加入したメンバーである、アルーシェ、レオナ、鬼の子供達も極めて高い戦闘力を有している。レオナに至っては、内に眠るオロチの力を覚醒させれば、なたねとネロを上回る事すら可能だろう。

 

 

「何故、止めたのです……?」

 

「血の繋がった家族、ましてや双子で殺し合いなんぞするもんじゃねぇ。

 そんな事をしても、勝とうが負けようが残るのは後悔だけで得るモノは何もねぇ……経験者がそう言ってんだから間違いないだろ?聞いておいた方が良い。」

 

「経験者、ですか。」

 

 

此の状況での抵抗は得策ではないと判断したなたねとネロだったが、なたねは自身の問いに対してのダンテの答えに其れ以上は何も言えなかった……『双子での殺し合い』を、ダンテも経験し、そしてそうなってしまった事を後悔していると言う事が分かってしまったからだ。

 

 

「陛下、リシャール大佐に連絡を入れ、彼女達の身柄はレイストン要塞に……」

 

「いや、今は武器を没収するだけで良い。武器を没収したら謁見室に。」

 

「よろしいのですか?」

 

「構わんよ。この状況で暴れるような馬鹿な真似はしないだろうし、仮にしたとしても此のメンバーならば取り押さえるのは容易いしな。」

 

「そう言うことであるのならば了解いたしました。」

 

「ヴィヴィオも、もう結界を解除して良いぞ。」

 

「は~い。バハムート、セメタリー・オブ・ファイヤー!!」

 

「……結界を解除するには、其れは些かやり過ぎのような気がしますよヴィヴィオ。」

 

 

結界も解除(と言うか破壊?)され、親衛隊の隊員は、なたねとネロに武装解除を求め、二人も其れに応じるのだった……尤も、なたねの目の奥には憎悪の炎が宿ったままであり、このまま終わるとは到底思えなかったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter33

『交わらない道を交わらせる~なのはの提案~』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

武装解除を求められ、なたねはルシフェリオンを、ネロはブルーローズとレッドクイーンを親衛隊の隊員に渡したのだが……

 

 

「ぬぁ!?く……何だよ此のクッソ重たい剣は!持ち上げるのも難しいだろ此れは!一体何kgあるんだよ!大凡振り回せる重さじゃないぞマジで!!」

 

 

レッドクイーンを受け取った一夏は、その余りの重量に驚いていた。

一夏は一見すると細身だが実は細マッチョで、自分の恋人達を片腕に一人乗せる位は余裕で出来るのだが、その一夏が持ち上げるのも困難なレッドクイーンの重量は相当なモノであると言えるだろう。

 

 

「ギミックに耐えられるように頑丈にしまくった結果、その重さになっちまったんだよな。多分、最低でも70㎏はあるんじゃねぇか?」

 

「それもう剣じゃなくて只の鉄塊だろ!刃毀れしても、重量で相手を叩き潰せるじゃないか!つーか、此れを振り回すアンタの腕力と、此れをぶら下げても壊れないコートはどうなってんだマジで!!」

 

「このコート、布じゃなくて革製だから強いんだよ。腕力も、昔からやたらと強かったからな。」

 

 

取り敢えず、レッドクイーンは大凡常人が扱えるモノでないのは間違い無いだろう。

何にせよ、此れでなたねとネロの武器は親衛隊が回収した訳だが……

 

 

「おいおい坊主、お前さんはまだ武器持ってるだろ?その右腕、其処に刀が収納されてるんじゃないか?」

 

 

ダンテがネロの右腕に刀が収納されてると指摘して来た。

ネロの右腕は異形の『悪魔の右腕』なのだが、其処に刀が収納されているとは誰も思わなかったが、ダンテには分かった様だ……自分の気に入った仕事でなければどれだけ大枚を叩いても受けず、仲介人との仲介料と報酬の割合も8:2で、取り分をコイントスで決めるような適当な生き方をしているダンテだが、ヤバい仕事を長年続けて来た事で観察眼は相当に磨かれている様だ。

 

 

「私が収納されているの?」

 

「いや、お前じゃないからな刀奈。」

 

「まさか、バレちまうはな。つーか、右腕に刀が収納されてるなんて良く分かったなオッサン?」

 

 

刀奈が若干のボケをかましてくれたが、ネロは右腕から一振りの刀を取り出した。

その刀は、鞘に収められている状態でも強烈な魔力を放っており、闇色のオーラが見える位である。相当に強力な力を秘めているのは間違い無いだろう。

 

 

「その刀は俺の兄貴が使ってたモンだからな。

 でもって、その刀はスパーダの血筋じゃないと使う事は出来ねぇ……俺には嫁も子供も居ねぇから、自動的にお前は兄貴の子供って事になる訳だ。俺は、お前にとっては叔父さんって事になるのか。」

 

「アンタが、俺の叔父だって?」

 

 

ネロの右腕から現れた刀は、スパーダの血筋でなければ扱う事が出来ない代物であり、嘗てはダンテの兄が使って居たモノだと言うのだ……『伝説の魔剣士』であるスパーダの残した刀であるのならば、其れは相当なモノだろう。

一先ず、その刀はダンテが預かる事に……と言うか、他の誰かが回収する前にダンテがネロから受け取った。スパーダの血筋以外の者が触れたら、何が起こるか分からないからだ。

 

 

「詳しい話は謁見室でするとしようか?」

 

 

各々言いたい事はあるだろうが、先ずは謁見室に移動して、其処で改めてと言う事なのだろう。

そして、超重量のレッドクイーンは、ヴィヴィオが持って行った……デュナンによって生み出された、生物兵器であるヴィヴィオは、パワーに関しても相当なモノであるらしい。ハニーブロンドの美女が、超重量の武器を片手で持っていると言うのは中々に迫力があると言えるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

謁見室へとやって来た一行は、なのはが玉座に座り、其の両脇をクローゼとヴィヴィオが固め、その前になたねとネロが座し、その周囲を王室親衛隊とダンテが固めると言った布陣だ。

 

 

「おいオッサン、アンタが俺の叔父って如何言う事だ?」

 

「如何言う事も何も、お前の親父は俺の兄貴だったって事だ。お前の親父は、バージルって言うんじゃないか?」

 

「はぁ?そんな名前じゃねぇよ。大体にして、親父に兄弟がいるなんて聞いたことねえし、その親父も母さんと一緒に十年前にライトロードによってぶっ殺されちまったからな……もう、俺には家族は居ねぇんだよ。」

 

「十年前に?……って事は、お前さんの親父さんは本当の親父じゃなかった可能性の方が高いぜ坊主。

 十年前って言ったら、俺が魔帝の下僕になっちまった兄貴と戦った時だからな……つーか、バージルの奴、女を孕ませるだけ孕ませてか?……適当な生き方をしてる俺が言える義理じゃないが、中々に最低だなオイ。」

 

 

ネロの本当の父親であるバージルは中々に最低であった模様だ。……確かに、女性を孕ませるだけ孕ませておきながら、其れでターンエンドと言うのは余りにも無責任であると言わざるを得ないのだから。……日々を適当に生きてるダンテに最低だと言われるとは、バージルは中々にアレな生き方をして来たと言わざるを得ない。

 

 

「俺の親父は本当の親父じゃなかったってのか?……だが、そうだとしても何でアンタの兄貴が俺の親父だって言い切れる?」

 

「此の刀をお前が持ってる事が何よりの証なんだよ。坊主、お前コイツを何処で見つけた?」

 

「悪魔が沢山現れて困ってるから何とかしてくれって依頼を受けた時に、悪魔の研究をしてるらしいって研究所を見付けてなたねと潰しに行った時に、其の研究所でだけど、俺が見つけた時には折れてた。けど、俺が手に取ったら折れてた刀がくっ付いたんだ。」

 

「刀と呼応したって訳か……なら、尚の事確定だ。さっきも言ったが此の刀はスパーダの血を引く奴にしか扱う事は出来ねぇ。

 そんでもって、スパーダの血を引いてるのは俺と兄貴だけで、俺もまぁ女性経験が無い訳じゃないが相手は仕事仲間の奴だし、アイツが子供産んだって話は聞かないし、そもそも子供産んだら俺の所に『アンタの子供だから認知しなさい。序に養育費も払ってね。』って押しかけて来るだろうから、お前は俺の子じゃない。

 ってなると消去法で兄貴の子供しか有り得ねぇ訳だ。」

 

「マジかよ……」

 

 

空中庭園で言った事をより詳しく説明し、改めてネロが自分の兄の子供であると言う事をダンテは伝える……十年間実の父親だと思っていた人物が、実は血の繋がりはマッタク無い真っ赤な他人であったと言うのは中々に衝撃的な事実であると言えるだろう。

尤も、ネロにとっては顔も知らない実の父親よりも、愛情を注いで育ててくれた者こそが父親だと思える訳であり、その父親をライトロードに殺された事で、なたね同様ライトロードへの復讐を誓っている訳なのだが。

 

 

「取り敢えず、此の刀は俺が預かっておくぜ?コイツは、人と魔を分かつモンだ……そんな危険なモノを、今のお前さんに任せる事は出来ねぇ。

 俺が管理すべきだろう。

 そんな訳で、此の刀――閻魔刀は俺が預からせて貰うぜなのは嬢ちゃん?」

 

「好きにしろ。お前の兄の所有物であったのならば、其れをネロから没収しお前に譲渡した所で何の問題もあるまい。

  ……しかし、人と魔を分かつ刀か。……一つ頼まれてはくれないかダンテ?」

 

「私からもお願いがありますダンテさん。」

 

「おぉっと、みなまで言うなよなのは嬢ちゃん、クローゼ嬢ちゃん?折角コイツが手に入ったんだ、言われなくてもそうする心算だったさ。」

 

「おい、勝手に決めるなよ!」

 

「いやいや、武器は取り敢えず没収なんだ。なら、その没収された武器の一つが俺の兄貴のモノだってんなら、弟である俺が持ってても問題ないだろ?なのは嬢ちゃんもお前から没収した上で俺に譲渡したって事にしてくれるみたいだしな。

 だが、お前が此れを持つに相応しいと俺が判断した時には返してやるぜ坊主。ま、今のままじゃ永遠に俺の手元にある事になるだろうけどな。」

 

「クッソ、上から目線でムカつくオッサンだな!」

 

 

その刀――閻魔刀は、取り敢えずダンテが預かる事になった。

『人と魔を分かつ力がある』と言う事を聞いたなのはとクローゼは、ダンテに何か頼み事があった様だが、ダンテはダンテでなのはとクローゼに言われずとも、その頼み事をやる心算だったらしい。

閻魔刀を得たダンテは目的を果たす為に王城から去り、その場にはなのはとクローゼとヴィヴィオ、そして親衛隊の隊員となたねとネロが残ったのだが……

 

 

「二度と私の前に現れるなと言ったが、気が変わった。なたね、お前は暫くネロと共にリベールで暮らしてみては如何だ?」

 

「なんですって?」

 

「何だと?」

 

 

其処でなのははなたねとネロにとってはマッタク持って予想外の提案をして来た。

なたねもネロも、武器を没収された上での国外追放か、或は牢屋行きになると思っていた……尤も、国外追放を言い渡された場合は、なたねが目晦ましの閃光魔法を使った上で没収された武器を奪取してこの場から離脱し、牢屋行きになったらネロが悪魔の右腕で牢屋をぶち壊し、武器を取り戻した上でリベールから脱出して力を蓄える心算だったのだが。

 

 

「お前が復讐に固執してしまっているのは、この十年間復讐だけを考えて視野が狭くなっていたからだろう。

 だから暫くリベールで暮らし、その狭くなった視野を広げてみては如何だ?視野を広げる事が出来れば、自分がドレだけ無謀で無意味な事をしようとしていたかも分かるだろう。」

 

「無謀で無意味などではありません。貴女が力を貸してくれれば全ては巧く行くのですから……そうです、魔族も神族も人間も、等しく滅びるべきなのです。」

 

「全ての種が等しく滅びるべきか……ならばなたね、何故お前はネロと共に行動している?全ての種が滅びるべきだと言うのであれば、ネロもまたお前にとって抹殺すべき相手である筈だ。」

 

「……ネロは悪魔または魔族と人間の混血であり、人間でも悪魔でも魔族ありません。先程は『自分でも分からない』と言っていましたが、アレは『自分が何者なのか』を聞かれた時の常套句みたいなモノです。」

 

「右腕がこうなっちまったのも、悪魔の攻撃を受けて傷口から悪魔の血が入ってこうなったのか、其れとも俺には元々悪魔の血か魔族の血が流れてたのかはマジで分からなかったからな。

 さっきおオッサンの話だと、悪魔の血が流れてるって事になるんだろうが。」

 

「何と言うか少しややこしいですね?」

 

「其れは否定しません。話を戻しますが、彼は私と同じくライトロードへの復讐を誓っているのです。ネロは殺す相手ではありません。」

 

「……詭弁であり欺瞞だな其れは。

 ネロだけでなく、此の世界には異種族の混血など履いて捨てるほど存在しているだろうに……其れこそ私もお前も神族と魔族の混血だろう?今や混血が存在していないのは神族だけだが、其れはあくまでも天界に限ればの話だ。

 此れはお前と生き別れてから知った事なのだが、神族の連中は種の純粋度を保つために、母さんのように異種族と結ばれた者は天界から追放するか、或は異種族と結ばれた者が自ら下天していた事で天界には純血の神族しか存在していない。

 だが、人間界に目を向ければ神族との混血は珍しくもない――そう言えば、私がオークションで競り落とした璃音も神族の、其れも熾天使の血を引く者だったな。」

 

「と言う事は、若しかして私の御先祖様も……」

 

「アウスレーゼの始祖も、人と結ばれた事で下天した神族だったのかも知れん……そう言う訳で、純粋ではない人間と神族と魔族は其れなりに存在している訳なのだが、お前はネロだけを特別扱いして、其れ以外は全て滅ぼす心算なのか?」

 

「!!!」

 

 

更になのはは、なたねが抱えている矛盾と欺瞞を指摘する。

確かに、全ての種に対しての復讐を謳っているにも拘らず、目的が同じとは言えネロと行動を共にしていると言うのは矛盾した事だろう――真に全ての種に対しての復讐を考えているのであれば、目的が同じであってもネロもまた復讐対象であるべきなのだから。

そして、『ネロは悪魔と人間の混血だから人間でも悪魔でもない』と言うのは詭弁だ――なのはの言うように、今やこの世界には混血の存在が溢れているのだ。なのはとなたねのように、魔族と神族の混血と言うのは超レアケースであるとは言ってもだ。

なので、混血は除外と言う理屈は大凡通らないモノなのだ。

 

 

「矢張り気付いてなかったみたいだなお前は。

 それと、お前は私がリベールを取ったのを復讐の為だと思ったみたいだが、マッタク持ってそんな事はない……私は、父さんと母さんの願いを継ぎ、それを実現させる為の始まりの地としてリベールを選んだんだ。

 『全ての種が、種の違いによる差別なく平和に暮らせる世界』……其れが、父さんと母さんの願いであり、それを実現しようとしていた……だが、父さんと母さんは死んでしまった。

 だが、その子供である私達は生きている。ならば私達がすべき事は、無差別の復讐ではなく、父さんと母さんの願いを実現する事ではないのか?全ての種が差別なく平和に暮らせる世界を実現する事が出来れば、私達のような思いをする者を無くす事も出来るのだからな。

 故に、魔族と絶対悪と決めつけて其の存在を認めないライトロードの殲滅は必須だが、無差別の抹殺は必要ないだろう、違うか?」

 

「……」

 

 

そう言われて、なたねは何も言えなかった。

なのはの言った事は筋が通っており、なたねの詭弁を論破するには充分過ぎる威力を持っていたから……なたねだけでなく、ネロまでもが何も言う事が出来なくなって居たのだから、なのはの正論による論破は完璧なモノだったと言えるだろう。

 

 

「リベールで暫く過ごし、その視野を広げろ。

 そしてその上で未だ全ての種への復讐を果たさんと言うのであれば、もう私は何も言わん好きにしろ。だが、もしも其れ以外の考えが生まれたのならば私に、私達に力を貸せ。父さんと母さんの願いを叶える為にな。」

 

「良いでしょう。

 ですが、私の憎悪の炎はそう簡単には消えません……逆に、リベール全土を回った上で、私の復讐は正しい事だと確信して、再び貴女に挑み、そして従わせてみせますよなのは。」

 

「やってみろ、出来るモノならばな。」

 

 

其れでも、まだなたねは己の復讐は正しいモノだと信じており、リベール全土を旅した上でその復讐は正しいと確信して、再びなのはに挑んで従わせる気でいる様だ。

普通に考えたら、こんな危険人物をリベールに放つのは大問題なのだが、武器は没収しているし、ロレントには京とアインスとエステルとレンとヨシュア、カシウス、八神兄妹にシェラザードとBLAZEのメンバー、ボースにはアガット、ルーアンにはカルナとダンテ、ツァイスには不動兄妹とギルドのキリカと、なたねとネロに対抗出来る戦力が揃って居るので問題無しなのだ……若干、ロレントの戦力が過剰な気はするが。

 

そんな訳で、なたねとネロは武器を没収された上でリベールで過ごす事になったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、ダンテはグランセル一のホテルを訪れていた。なのはとクローゼからのお願い、そして己の目的を達成する為に。

 

 

「此れはダンテ様、当ホテルに何か御用ですか?」

 

「よう、元気そうだな爺さん?

 このホテルに用があった訳じゃなく、俺が用があったのはアンタだ。」

 

「私ですか?」

 

 

ホテルを訪れたダンテに対応したのは、ホテルのオーナーとなったフィリップであり、ダンテの目的はフィリップだった――デュナンによって帰天の儀式を強制的に受けさせられ、望まぬ形で悪魔の力を手にしてしまったフィリップを、純然たる人間に戻しに来たのだダンテは。

なのはとクローゼの頼みと言うのも、『人と魔を分かつ力』を持つ閻魔刀で、フィリップを人間に戻して欲しいと言うモノであったのだ。みなまで言わずとも察したダンテは流石一流と言った所か。

 

 

「爺さん、アンタ自分の意思で帰天する事は出来るか?」

 

「其れは、可能ですが……」

 

「なら、帰天しな。アンタを純粋な人間に戻してやる。其れを可能にするモノを手に入れたんでね。」

 

「本当で御座いますか!」

 

「俺は冗談は言うが、生憎と嘘を吐くのは苦手でね……俺の言う事を信じて貰うしかないってのが厳しい所だぜ……其れで、如何する爺さん?俺としては、なのは嬢ちゃんとクローゼ嬢ちゃんの頼み事を果たしてやりたいんだけどよ?」

 

「ならば、是非とも!」

 

 

自分が人間に戻る事をクローゼが望んでいると知ったフィリップは迷わずに帰天し、其の姿が異形のモノに変わる。

と同時に、ダンテが閻魔刀を一閃して斬り付け、そして次の瞬間には帰天したフィリップの姿は元に戻り、帰天によってフィリップにインストールされていた悪魔の因子は霧散したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わって、此処は特殊な結界に覆われて、外部からの干渉を一切シャットダウンした空間だ。

その空間では、生命維持&治療の機能を併せ持ったポッドが幾つも並んでおり、ポッドの中には、ライトロードの構成員が入っていた――十年前のハーメル村への襲撃の際、封印を解かれた『鬼』によってライトロードは致命的なダメージを受け、主力の殆どが死に掛けてしまい、そして軽傷で済んだサモナーのルナミスと、モンクのエイリンを除いて、全員がポッドでの永き治療を余儀なくされてしまったのである。

 

だが、其れも今日までだろう。

 

 

 

――バリーン!!

 

 

 

各ポッドが『治療完了』を表示したと同時に、治療用ポッドが吹き飛び、その中から治療が済んで力を増したライトロードの主力のメンバーが現れたのだった――ライトロードの復活は、世界に波紋を齎す事になるのは間違い無いだろう……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter34『復活の正義と焼滅の道と王達の日常と』

餃子のタレは醤油とラー油派だ。酢は要らん。Byなのは      餃子のタレは意外と好みが分かれますね。Byクローゼ


生命維持装置兼治療ポッドでの治療が終わり復活を果たしたライトロードの面々は、十年前にハーメル村で稼津斗一人に壊滅させられた時よりも遥かに力を増しているようだ……単純に治療を施されただけでなく、ポッド内で強化も行われたのだろう。

 

 

「ルミナス、アレからドレだけ時が経っている?」

 

「十年だジェイン。」

 

「十年か……まさか、我等ライトロードがたった一人の鬼に壊滅状態にされるとは思っても居なかったが、十年の時を経て我等は復活し、我等を壊滅状態にした鬼の力も手に入れた。

 もう、我等に恐れるモノはない!」

 

 

ライトロードのリーダー格であるジェインが己の身体の状態を確認すると同時に、紫色のオーラが溢れ出す……そう、十年前にライトロードを壊滅状態に追い込んだ、稼津斗の『殺意の波動』のオーラだ。

本来光属性である筈のライトロードは、ポッド内での治療中に殺意の波動を其の身に宿していたのだ。普通ならば、光属性とは相容れない殺意の波動だが、十年と言う時間を掛けて身体に馴染ませた事で完全に其の力を己のモノとしたのだろう。

 

 

「ルミナス、お前は殺意の波動を身に付けなくて良かったのか?」

 

「召喚士にとって、過度な殺意は召喚術の質を下げる。殺意の波動を宿しては、恐らく我等の切り札たる『裁きの龍』を召喚する事は出来ない。だから、私に殺意の波動は必要ない。」

 

「確かにそうとも言えるか……時に、お前とエイリンは我等に先駆けて目覚めた訳だが、世界は如何なった?そして、失われた戦力の補填は?」

 

「失われた戦力は、エイリンが草薙家の前当主である草薙柴舟を倒し、ライトロードの光の力を植え付けた上で洗脳してある。前当主とは言え草薙家の末裔だ、戦力としては充分だろう?他には光属性のドラゴンとして、クリスタル・ドラゴン三体とカイザー・グライダー三体を呼び出してある。

 世界の方は……高町なのはが、十年前抹殺した不破士郎の娘がリベールの王となった。しかも、私達を壊滅状態にした鬼と、あの時殺し損ねた子供達や、私達が壊滅させた組織に作られた人造人間を仲間にしてな。」

 

「あの魔族の娘か……あの時は逃したが、生きていたと言う訳か。

 だが、魔族が治めている国か……ならば、そんな穢れた国は滅ぼさねばなるまい。此の世から魔族も悪魔も、魔の眷属は全て根絶やしにしなくてはならないのだからな。その上で、神族と神族に従順な人間のみで此の世界を治める、それこそが正しき事だ。」

 

 

先に目覚めていたルミナスから報告を聞いたジェインは、なのはが新たに王となったリベールを復活後初のターゲットに選んだようだが、その思想は此の上なく歪んでいるモノであり、なのはとクローゼの理想とは真逆の思想であった――とは言え、十年振りに動く事になるのだから、先ずはスッカリ鈍ってしまった身体と戦いの勘を取り戻す事が先になるだろうが。

 

 

「(しかし、こうして命を拾った訳だが、ハーメルで鬼によって壊滅させられ瀕死状態になっていた私達をこの装置で命を繋ぎ、治療を施し、殺意の波動を授けようとしたのは一体何者だ?

  私は召喚士であるから殺意の波動とは相性が特に悪いが、私以外のライトロードのメンバーだって殺意の波動との相性は悪い筈なのに、十年もの時を費やしたとは言えこうして馴染ませてしまうとは……ライトロードが復活したのは喜ばしい事ではあるが、何か私達の知らない大きな力が動いているのかも知れないな……)」

 

 

そんな中でルミナスは、瀕死状態にあったライトロードのメンバーを此の場所まで連れて来て此の装置で生命維持と治療を施し、殺意の波動を授けたのが一体誰なのかと言う事を考えていた。

一体誰が何の目的をもってして壊滅状態にあったライトロードをこうして繋ぎ止めたのか?其れは其れを行った者にしか分からない事だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter34

『復活の正義と焼滅の道と王達の日常と』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なのはから『暫くリベールで暮らしてみろ』と言われたなたねとネロは不動兄妹によって整備された車でロレントに向かっていたのだが、整備された車の性能には驚かされる事になった。

アクセルを踏んだ時の加速が良くなっただけでなく、ブレーキの効きも整備前とは段違いで、エンジンのトルクも相当に強化したのか可成りキツイ坂でも余裕で上れる位の馬力を獲得していたのだ。

此れだけの整備をしておきながら、『レトロなクラシックカーを弄れたのは貴重な経験だったから、その分を差し引いて代金は部品代込みで一万ミラで良い』と言った遊星は中々の職人気質であると言えるだろう。

 

 

「しっかし、あの遊星と遊里って奴はマジでスゲェな?坂道じゃヒイコラ言ってたコイツをこんなタフなマシンに仕上げちまうんだからな……没収されてる間のレッドクイーンとブルーローズの整備も頼んどけば良かったぜ。」

 

「まぁ、其処はなのはが巧くやってくれるでしょう。没収するだけしておいて手入れを怠ると言う事はしないと思いますので……と、見えてきましたよネロ。」

 

「OK、あそこがブライト家か。」

 

 

なたねとネロが向かっていたのは正確にはロレントではなく、ロレント郊外にあるブライト家だった。

と言うのも、なのはから『ロレントを訪れる事があったらカシウス・ブライトに会いに行くと良い。父さんと互角に戦った生粋の武人であると同時に、此の上ない人格者だから、きっとお前達に良い影響を与えてくれる』と言われていたからだ。

なたねとしても父である士郎からカシウスの事は聞いていたが実際に会った事はなかったのだが、己を圧倒したなのはが其処まで言うのであればとの事で先ずはブライト家を訪れる事にしたのだ。

 

車を路肩に停め、なたねとネロはブライト家の門をくぐって庭に入ったのだが……

 

 

「捉えた!」

 

「舐めんな!」

 

「桜花無双撃!」

 

「覇ぁぁぁ……鳳翼扇!!」

 

 

其処では京・アインスタッグとエステル・ヨシュアタッグによる壮絶な模擬戦が行われていた。

ヨシュアの絶影を京が鵺摘みで捌いて龍射りでカウンターをかませば、ヨシュアは持ち前のスピードでそのカウンターを回避し、エステルの棒術連続攻撃に対してアインスは蹴り足を地面に付けない連続蹴りを合わせ互いにクリーンヒットを許さない。

京とアインスは武道家として高い実力を有しているが、エステルとヨシュアも史上最年少でA級遊撃士になった実力があるので総合的な戦闘力では互角と言えるだろうが、より細かく分析するならば京とアインスのタッグが全てが高水準の隙の無いバランス型のタッグだとしたら、エステルとヨシュアのタッグはパワーとスピードに特化したタッグと言えるだろう。パワー特化がエステルでスピード特化がヨシュアと言うのが、此のタッグの特徴とも言えるだろう。

『普通は男がパワー担当で、女がスピード担当ではないか?』と言ってはいけない。エステルとヨシュアに限ってはエステルがパワー担当でヨシュアがスピード担当であり、下手すればヨシュアがエステルをお姫様抱っこするのではなく、エステルがヨシュアをお姫様抱っこをしかねないのだこのカップルは。

其れは其れとして、極端な特化型は型に嵌まれば此の上なく強く、バランス型を圧倒出来るのだが、この模擬戦に於いては少しばかり分が悪かった。

 

 

「く……は!……うわ!」

 

「へへ、ボディがお留守だぜ!……もうお休みかい?」

 

「く……未だです!!」

 

「ぐぬぬ……やるわねアインス……!」

 

「姉として、そう簡単に妹に負けてやる事は出来ないからな。」

 

 

エステルもヨシュアも史上最年少でA級遊撃士になった実力の持ち主ではあるが、本格的に遊撃士としての修業を始めたのは十五歳になってからだ。

だが京は六歳の頃から父の柴舟から『草薙家の次期当主』としての厳しい修業が行われ、アインスも幼い頃にブライト家に来てからエステルよりも早くカシウスに日々鍛えられて来た事で其の実力は凄まじいモノになっており、その結果京とアインスのタッグはバランス型でありながらも特化型を凌駕出来るだけの力があったのだ。

 

 

「此れで終わりだ……チェーンバインド!」

 

「きゃ!」

 

「しまった!」

 

「おぉぉぉぉ……喰らいやがれぇ!!」

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「へへ、燃えたろ?」

 

「私達の勝ち、だな。」

 

 

最後はアインスがチェーンバインドでエステルとヨシュアを拘束した所に京が大蛇薙を放ってターンエンド。

何方が勝ってもオカシクナイ戦いではあったが、最後の最後で経験の差が出た、そんな戦いだった――或は、ヨシュアが徹底的にスピードで攪乱していたら結果は違っていたのかも知れないが、其れはあくまでもifの話であり、今回の模擬戦の結果を変える事は出来ないのだが。

 

 

「あの黒髪……何だよあのスピード。俺でも捉えきれないぜアレは……!」

 

「茶髪の彼の炎は、焼滅の力を手にした私の炎よりも強い……?そんな馬鹿な……」

 

 

そして、その模擬戦を見たなたねとネロは衝撃を受けていた。

ネロはヨシュアのスピードに驚愕し、なたねは京の炎の強さに驚いていた……パワー特化のネロがスピード特化のヨシュアのスピードに驚くと言うのは兎も角として、なたねが身に付けた『焼滅の炎』以上の炎を操る京の炎は相当なモノだと言えるだろう。……『草薙始まって以来の天才』と称されている京の実力は伊達ではない。

 

 

「……来客みたいだぜ、カシウスさん?」

 

「うむ、其のようだ。

 我が家に何か用かなお二人さん?」

 

 

スパーリングを終えた京がカシウスに声を掛け、カシウスも門の所で立っているなたねとネロに声を掛ける。

京はスパーリングを終えて二人に気付いたのだが、カシウスは二人が門をくぐってきた瞬間に気付いていた。其れなのに声を掛けなかったのは、自分がこの二人に声を掛ける事でスパーリングを行っている四人の意識が其方に向いてしまうのは良くないと思ったからである。

 

 

「なのはとダンテがイメチェンした……って訳じゃないよな?」

 

「其れは流石にないよ京さん。陛下は兎も角として、ダンテさんにしては若すぎるし、ダンテさんの右腕はあんな異形のモノじゃなかったでしょう?」

 

「あのオッサン、腕切り落とされても自分で打っ倒した悪魔の腕無理矢理くっ付ける位の事はするんじゃねぇかと思うんだけど如何よ?あのオッサンが腕切り落とされる所なんて大凡イメージ出来ねぇけどな。」

 

「胸刺し貫かれても死なないんだから、腕の一本や二本、切り落とされた所で自力で再生出来るんじゃないのダンテさんなら?」

 

「「「確かに!」」」

 

「こりゃ、ダンテの奴は今頃ルーアンで盛大にクシャミしてるかもしれんな?

 其れは其れとしてだ……其方の女性、容姿や服装から陛下の関係者と推察するが、もしかして陛下が十年前に生き別れたと言う双子の妹君かな?」

 

「……初見で私が誰であるのかを見抜くとは、その観察眼には敬意を表しましょう。

 仰る通り、私は現リベール王である高町なのはの双子の妹、高町なたねと申します。以後お見知りおきを。」

 

「んでもって、そのパートナーのネロだ。」

 

 

なたねとネロは話を振られたので、先ずは自己紹介。初見でなたねがなのはの妹である事を見抜いたカシウスの眼力は流石と言うべきであろう。嘗て、王国軍にてその手腕を奮い、現在はS級遊撃士として名を馳せているだけの事はある。

 

 

「なたねとネロね、うん覚えた。

 俺の名はカシウス・ブライト。こっちは娘のアインスとエステル。そんでもってアインスの彼氏の草薙京と、エステルの彼氏であるヨシュア・アストレイだ……妻と、もう一人娘が居るんだが、今は生憎とロレントに買い物に行って留守だ。」

 

「父上、自己紹介だけでなく私達の事も纏めて紹介してしまうのは如何なモノかと……」

 

「良いじゃねぇかアインス、手間が省けてよ。」

 

 

カシウスは自己紹介すると、そのついでにアインスとエステルと京とヨシュアの事も紹介……確かに京の言うように夫々が個別に自己紹介する手間を省く事は出来ると思うが、果たして其れで良いのか?いや、良いと思ったからそうしたのだろう。

 

 

「貴方がカシウス・ブライトですか……なのはから貴方には会っておいた方が良いと言われ、そしてこうして貴方に会いに来ました。

 貴方に会えば、私達にも何か良い影響があるからと……」

 

「陛下が……ふむ。」

 

 

なたねがそう言うと、カシウスはじっとなたねの顔を見て、それからネロの顔を見る――只それだけの事なのだが、見られたなたねとネロは指一本動かせない位のプレッシャーを感じていた。

殺気とかそう言った負のプレッシャーではなく、まるで自分の事を全て理解されているかのような強烈なプレッシャー……此れまでになたねもネロも感じた事のないモノが二人を襲っていたのだ。

 

 

「……アインス、エステル、茶と菓子を用意してくれ。但し、高町なたね君にはキャラメルカフェオレをな。」

 

「え?あ、うん、分かった。」

 

「お茶請けは……この間、志緒にお裾分けで貰った水羊羹で良いか。」

 

 

暫し二人を見たカシウスは、何かを察するとアインスとエステルに茶と菓子を用意しするように言い、なたねにはキャラメルカフェオレを出すようにと付け加える。

そして程なくして茶と菓子がガーデンテーブルに運ばれ、カシウスの正面になたねとネロが座る形に……京とアインスとエステルとヨシュアは立った状態でソーサーとカップを持っている。

 

 

「陛下に言われて俺に会いに来たのは良いが、俺に会ってお前さん達は何がしたいんだ?」

 

「其れは分かりません。ですが先ずは単刀直入に聞きます、復讐と言う行為について貴方は如何考えていますかカシウス・ブライト?」

 

「復讐ね……俺個人の意見を言わせて貰うなら、復讐なんてモノは新たな復讐を生むだけのモノだからしないで済むならしないに越した事はないと思ってる……が、其の一方で復讐ってのは一種の正統な権利だとも考えている。

 復讐を本気で考えてるってのは、其れだけの怒りと憎しみを抱えてる証拠でもあり、復讐を果たす事でしかその怒りと憎しみを晴らす術がないってんなら、復讐もまたアリだとは思ってる――尤も、復讐を果たした暁には、今度は自分が復讐の対象になる事を覚悟する必要があるがな。」

 

 

先ずは直球で斬り込んできたなたねに対し、カシウスは持論を展開する。

復讐はしないで済むならしないに越した事はないと言いつつも、一方的に復讐と言う行為を否定せず、されど復讐を果たしたその時から今度は自分が復讐他の対象になると言うのは、此れまでのカシウスの豊富な人生経験があればこそだろう。

 

 

「復讐が正当な権利であると言うのであれば、此の私の復讐心もまた正しきモノである筈。

 ならば、母を追放した神族、母を殺した魔族、父と姉を殺したライトロードと人間……それら全てに復讐を行うのは当然の事である筈です……ですがなのはは其れを否定しました……復讐すべき相手はライトロードだけであると。」

 

「ソイツは陛下の言う通りだな。

 高町桃子殿を追放した神族と、殺害した魔族が何者かは知らんが、少なくとも無差別の復讐ってのは大間違いだ。復讐をするなら、復讐すべき相手にだけやるべきだ。無差別に復讐と言う名の攻撃を加えたら、其れはもう復讐者ではなく只の破壊者だ。其処には何も存在しないだろう。」

 

「其れが、其れが分からないのです!

 なのはは神族は母を追放しただけで其れ以外の事はしていないし、母を殺した魔族は悪魔将軍によって粛清されてもう居ない、復讐すべき相手はライトロードだけだと言っていましたが、なぜそのように割り切れるのです?」

 

「そりゃ、アンタと違ってなのはは未来を見てるからだろ?」

 

 

此処で京が割って入った。

 

 

「未来を、ですか?」

 

「アイツは、ライトロードへの復讐の先に『全ての種が差別なく暮らせる平和な世界』って未来を見てる……けどアンタは如何だ?復讐の先の未来ってのを考えてんのかよ?

 大方、復讐がゴールになっちまってるんじゃねぇのか?復讐が通過地点のなのはと、復讐がゴールのアンタじゃ、復讐って行為の意味合いはマッタク別なんじゃねぇのか……アンタとなのはの差は、其処にあると思うぜ。」

 

「……!」

 

 

京の言った事に、なたねは何も言えなかった。

なのはにも同じような事は言われたが、マッタクの他人に言われたと言うのはなたねにとっては大きな衝撃だったのだろう――其れはつまり、真っ赤な他人から見てもなたねの目は復讐の炎で濁り切って居たと言う事の証でもあるのだから。

 

 

「大体にして、憎しみに囚われちまった奴ってのは碌な事になりゃしねぇって相場が決まってるんだぜ?

 六百六十年前から今の今まで、草薙家への恨みと憎しみを糧に続いて来た八神家もあるが……草薙と袂を別っちまった御先祖様は、草薙と八神がこうなっちまった事を後悔してたからな。

 恨みや憎しみってのは、マッタク全然持つなって方が無理な話だが、そいつに囚われちまったらどうしようもないだろ?過去に囚われるよりも、未来を見ろよ?少なくとも未来を見てる方が過去に囚われてるよりもずっと良いと思うぜ、俺は。」

 

「未来を……」

 

「陛下はライトロードへの復讐は考えているが、その先に全ての種が差別なく平和に暮らせる世界を作ると言う未来を考えていらっしゃるからなぁ?……お前さんは如何だい?復讐の先の未来は考えているのか?」

 

「……復讐の果てなど考えた事がありません。

 この十年間、復讐だけを考え、其れを果たす為だけに生きて来ましたから……復讐を果たした暁には死んでも構わない、其れ位の事は思っていましたので。」

 

 

なたねとなのはの最大の違いは、矢張り復讐の先があるか否かと言えるだろう。

そして其の違いは、魔族の血を引いている己に手を差し伸べてくれた存在の有無だ……なのははクローゼによって人の温かさを知ったが、なたねは其れを知る事なく同じくライトロードに恨みを持つネロと出会って行動を共にして来た。其れが復讐心のみを増大させてきたのだろう。

 

 

「まぁ、お前さんはまだ若いんだ、今すぐ答えを出す事も無いだろう。

 陛下に言われて俺に会いに来たと言っていたが、正直今のお前さん達じゃ俺に会った所で何も得るモノは無かったんじゃないか?だから、リベール全土を回ったらまた俺に会いに来ると良い。

 其の時なら、きっと得るモノはあるだろうからな。」

 

「……如何やら其のようですね。

 貴方に会えば何か変わるかも知れないと、安易に答えを求めてしまったようです……先ずはリベール全土を見て回り、なのはが王となった国がどの様な国になっているのか、其れを見た上で又来るとしましょう。」

 

 

今回の訪問では何かが得られた訳ではないが、まず最初に訪れたのは時期尚早だったと言う事で、なたねとネロはリベール全土を回ってからもう一度ブライト家を訪れる事にした……先ずは見聞を広める事の方が大事だと、そう考えたのだろう。

こうしてなたねとネロは、改めてリベール一周の旅に出たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃なのはは、クローゼとヴィヴィオと共にルーアンを訪れていた。

『王として自らの目で夫々の都市を見ておく必要がある』との事で本日はルーアンを訪れており、市長邸の視察やカジノの様子などを見て回っていた……倉庫街を訪れた際にはガラの悪い連中に絡まれ掛けたが、其処はルーアンの新米遊撃士チーム『レイヴン』が割って入った事で特に問題はなかった。……チンピラ風情、なのはならば瞬殺、クローゼならば秒殺、ヴィヴィオならば滅殺出来るのだが、レイヴンに任せる事で新米遊撃士の対応力を見定める事にしたのだろう。

『女王陛下一行の危機を救った』となれば、レイヴンにとっても遊撃士として自信が付くと言うモノだから。

 

 

「なのはママ、クローゼママ、お腹減った~~!」

 

「そう言えば、そろそろ良い時間だな?」

 

「お昼にしましょうか?」

 

 

そろそろお昼に良い時間になったので、何処かの店に入ろうと思ったのだが……

 

 

「待てコラ食い逃げ~~~~!!」

 

「待てと言われて待つかボゲェ!!」

 

 

其処に食い逃げ犯が出没!

食い逃げをしたであろう店の娘に追い掛けられ、真っ直ぐになのは達の方に向かって来ているが、なのは達の事には気付いていない様だ……此のまま行けば正面衝突は避けられないだろう。

 

 

「父直伝当て身投げ。」

 

「べぶらっちゃあ!?」

 

 

だがなのはは、食い逃げ犯と接触すると、殆ど掴む事なく食い逃げ犯のダッシュの勢いを利用してゴミ捨て場に投げ飛ばす……相手の勢いを利用した合気投げを応用した技だが、其れでも見事にぶっ飛ばしたモノである。

 

 

「ふむ、意外に吹っ飛んだな?手加減はしたのだが……」

 

「なのはママ凄い……」

 

「なのはさんは魔法だけでなく体術も中々の腕前ですからねぇ?」

 

「一流どころには流石に体術では勝てんがな……さてと、何やら立て込んでいたようだが、要るか此れ?」

 

「そりゃ食い逃げ犯だから勿論要るけど、力持ちなのね……」

 

 

食い逃げ犯は結構大柄な男であり、体重はドレだけ少なく見積もっても90㎏はありそうだが、そんな大男を殆ど手を触れずに投げ飛ばしてしまったなのはに、食い逃げ犯を追っていた少女も驚きだ。

そして其の大男を片手で摘まみ上げていると言うのも驚きに値する事だろう。

 

 

「まぁ、食い逃げ犯を捕まえてくれた事は礼を言うわ。

 そうだ、お昼まだならウチの店で食べて行かない?アタシ、店で働いてる凰乱音って言うんだけど、味には自信あるのよウチの店。」

 

「ふむ、何処で食べようかと思っていた所だ、入らせて貰おうか?クローゼとヴィヴィオも構わないか?」

 

「折角誘って貰ったのに、無碍に断るのは無礼ですから。其れに自信の味と言うのにも興味ありますし♪」

 

「もうお腹ペコペコだからどこでも良いよ~~。」

 

 

乱音と名乗った少女は、食い逃げ犯を捕まえてくれた事に礼を言うと、『お昼まだならウチで食べて行かない?』と言い、なのは達もその誘いを受けて乱音が働いている食堂『白飯店(ぱいはんてん)』に入店。

店は東方の料理専門店であるらしく、店内も東方の雰囲気満載で龍虎の彫刻や東方の焼き物の壷、屏風などで彩られ、東方特有の笛と弦楽器で奏でられた音楽が異国情緒を感じさせてくれている。

 

 

「中々良い店内だな……ふむ、此れは料理にも期待出来ると言うモノだが、お勧めは何かあるか?」

 

「そうねぇ?全部お勧めと言えばお勧めなんだけど、アタシの一押しはやっぱりエビ蒸し餃子と生春巻きかな?

 どのメニューも全部美味しいんだけど、この二つだけは絶対に食べて欲しいって言う位にお勧めよ!」

 

「成程。

 ならエビ蒸し餃子と生春巻きを三人前。エビ蒸し餃子はランチセットで。其れから、此れと此れと此れを大皿で。あと、ドリンクバーを付けてくれるか?」

 

「畏まりました!」

 

 

乱音からお勧めを聞いたなのははそのお勧めを三人前と他に三品を大皿で注文する。ドリンクバーも忘れずにだ。……ドリンクバーでは、ヴィヴィオが早速ミルクティーにサイダーを混ぜると言うチャレンジをしていたが。

 

程なくして料理が運ばれ、夫々にエビ蒸し餃子と生春巻きが配られ、ターンテーブルには青椒肉絲、紅鱒の唐揚げ油淋ソース、麻婆茄子が。エビ蒸し餃子はランチセットなのでご飯とスープ(エビ団子入り)付きだ。

 

 

「「「いただきます!」」」

 

 

先ずはお勧めのエビ蒸し餃子と生春巻きから。

エビ蒸し餃子は皮が良い感じに半透明になって具のエビの鮮やかな赤色が透けて全体が綺麗な桜色になっていて食欲をそそり、生春巻きもスモークサーモン、パクチー、ニンジン、チャーシューと言った具材が断面を彩っており実に美味しそうだ。

 

 

「此れは……とても美味しいです!」

 

「エビがプリップリ!生春巻きもめっちゃおいしい!!」

 

「うむ!」

 

「よ~し、よし!味の分かる客は好きよ♪」

 

 

そして其れは実際に美味であり、クローゼとヴィヴィオは素直に美味しいと賞賛し、なのはに至っては何処から出したのか『天晴』と書かれた扇子を広げて見せるほどだ。無論、青椒肉絲、紅鱒の唐揚げの油淋ソース、麻婆茄子も絶品だった。

 

 

「乱音と言ったか、先程のような事は良くあるのか?」

 

「食い逃げの事?

 最近では少なくなったけど、前の王様の時は結構あったわね~~。遊撃士の人達だけじゃ手が足りなくて、ウェイトレス兼用心棒であるアタシも食い逃げ犯をとっちめてたんだけどさ、ドイツもコイツも三下ばかりで相手にならないっての。もっと強い奴と戦いたいわ!」

 

「其れはまた、何とも豪気なモノですねぇ……」

 

「ま、王様が新しくなってからは治安も良くなって食い逃げも激減したんだけどね。

 アタシは新聞も雑誌も読まないからリベールの新しい王様がどんな人かは知らないんだけど、少なくとも前の王様よりはずっと良いって言うのは分かるのよね……王様が新しくなってルーアンもアタシが小っちゃかった頃の活気が戻って来てるしね。」

 

「そうか……」

 

 

其のまま乱音との談笑を交えながら食事をし、あっと言う間に皿は空になった。

 

 

「実に満足のいく味だった。馳走になったな。」

 

「御馳走様でした。」

 

「御馳走様!美味しかったよ!」

 

「お粗末様でした!少し送るわよ。」

 

 

食事を終えたなのは達は勘定を済ませて店を出て、乱音も近くまで見送ると言って付いて来た。

 

 

「いやはや、思った以上に美味しくて少し食べ過ぎてしまったかもしれん。食後の腹ごなしをしたい気分だ。」

 

「満足して貰えたなら良かったわ。……それよりも、一つ聞きたい事があるんだけどいいかしら?」

 

「ほう、何だ?」

 

 

 

――ガッ!!

 

 

 

その帰り道、乱音はなのはに聞きたい事があると言い、なのはが其れは何かと聞いた瞬間に鋭い拳を放って来た――普通ならば反応出来ずに直撃しているところなのだが、なのはは悠々とその拳を掴んでいた。

 

 

「アンタ何者?」

 

「お前風に言うならば力持ちだ。武力に権力に色々とな。」

 

「なのはさん、その言い方は如何なモノかと……」

 

「なのはママ、悪役全開……」

 

 

なのはは偽悪的な笑みを浮かべ、其れに対しクローゼとヴィヴィオが突っ込みを入れるが、乱音の闘気は高まっており、なのはの闘気もそれに呼応して高まっているので幾ら突っ込んだ所でもう手遅れだろう。

 

 

「リベールの新しい王様ってのに興味が湧いたわ。腹ごなし付き合うわよ!手加減なしで!」

 

「私がリベールの王と知った上で挑んで来るか。しかも手加減なしとは……良いのか?」

 

「当然!!」

 

 

乱音はなのはが新たなリベールの王だと勘付いていたらしい……食い逃げ犯を投げ飛ばしたのを見て『只モノでは無い』と思い、店内での僅かな遣り取りからなのはの正体に気付いたと言う事なのだろう。中々に洞察力があるようだ。

とは言っても、そのリベールの新たな王に拳を向けるのは如何なモノかと思うが……何にしても次の瞬間、なのはと乱音の闘気が炸裂したのだった。

 

 

 

 

そして――

 

 

「なのはさん、良かったのですか?」

 

「王に拳を向けたと言うのであれば大問題だが、彼女は私の腹ごなしに付き合ってくれただけだから何も問題はあるまい?」

 

 

数分後、なのは達はルーアン港からグランセル港に向かう船の上に居た。――なのはは全くの無傷なので、乱音との『腹ごなし』はなのはが圧倒したと、そう言う事なのだろう。

 

 

「モノは言いようですね……其れで、今回のルーアン視察は如何でしたか?」

 

「そうだな……活気があって実によろしい。」

 

 

クローゼの問いに、なのはは笑顔で答える。乱音からの挑戦もまた、なのはにとってはルーアンの活気を示すモノでしかなかったようだ――逆に言えば、なのはに『活気があって良い』とまで言わせた乱音の元気っぷりも凄いのだが。

 

 

そして其の乱音はと言うと……

 

 

「ちっくしょ~~、少しは手加減しろっての王様……こんなんじゃウェイトレス兼用心棒の面目丸潰れだっての。」

 

 

ルーアンの路地裏で大の字になっていた。

乱音の功夫は見事だったが、なのはは其の攻撃を全て見事に捌き切り、当て身投げでカウンターを決めた後はタックル、肘打ち、掌底のコンボを叩き込み、トドメは両手を地面に叩きつけて魔力の刃を発生させる技で乱音をKOしたのだ。……意識がある辺り、なのはは『手加減なし』と言われてもそれなりに加減はしたのだろう。

 

 

「負けっ放しってのは嫌だから絶対にリベンジしてやる!

 ……って、アイツ王様なのよね?グランセルのお城に行けばまた戦えるかな?いや、でも一般市民が王様と戦うってのは無理?え~と、如何したモンだろ?」

 

 

乱音はなのはへのリベンジを誓うも、なのはと簡単に戦えないと言う事に気付いて頭を悩ませる事になったのが、取り敢えず今現在リベールは平和で世に事も無しであるのは間違い無いだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter35『ちょっとした日常と最大級の重要情報』

ライトロード……遂に見つけたぞ!Byなのは      十年かかってやっとですねByクローゼ


ある日の夜。

満月が夜空を照らしている深夜、なのははグランセル城の空中庭園に一糸纏わぬ姿で居た……月の魔力を其の身に一身に受けるかのように。太陽や月の魔力を其の身に受けるには、服などない方が最も其の力を受ける事が出来るのだろう。

だが、なのはは何者かの気配を感じて直ぐに防護服を展開する。流石に、こんな姿を誰かに見せる訳には行かないから。

 

 

「あ、なのはさん。」

 

「クローゼ……如何した、眠れないのか?」

 

 

其処に現れたのは寝間着を纏ったクローゼだった。

クローゼの本日の寝間着は東方から取り寄せたモノで、ツァイス地方のエルモ村にある温泉旅館『紅葉亭』でも使われている上質なモノだ。異国情緒溢れる寝巻がクローゼの魅力を引き出しているようだ。

 

 

「えぇ、何故か目が冴えてしまいまして……それで少し月でも見ようかと。」

 

「今宵は見事な満月だからな、月の魔力に惹かれたと言う訳か。」

 

「月の魔力に、ですか?」

 

「あぁ、太陽の光を反射して光る月もまた純粋な魔力を放つのだが、其の魔力は満月の時にしか此の星には届かない。

 そして月の魔力は通常あまり感知出来るモノではないのだが、お前は先祖である神族の血が覚醒した事が影響して月の魔力に少し過剰に反応してしまったんだろうな……だが、暫く月の魔力を浴びていれば直に眠くなる。

 太陽の魔力には覚醒効果があるが、逆に月の魔力には気持ちを落ち着かせて眠りへと誘う効果もあるからな。」

 

「そんな効果のある魔力に反応して一時的に眠れなくなってしまうとは、何とも妙な話ですねぇ……」

 

 

眠りへと誘う効果のある魔力に過剰反応して目が冴えてしまうとは矛盾した話ではあるが、此れもクローゼが先祖返りとも言える神族の血の覚醒によって『神人』とも言うべき存在になってから日が浅く、そして今夜の満月は雲一つない夜空に浮かんでいた事でより強い魔力を放っていたからであろう。

 

 

「では、お前が眠くなるまで暫し一緒に月見を楽しむか?それとも、二人だけの月下の舞踏会の方がお望みかな?……或は月下の怪奇話にするか?

 此の十年、色々な場所に行ったから、都市伝説や怪談の類ならば結構な数を知っているぞ?上りと下りで数の変わる階段とか、夜な夜な走り回る石像とか、突如演奏を始めるピアノとか、話しかけると身体をくの字に曲げて回転しながら飛んで行ってしまう老婆とか。」

 

「怪奇話は止めておきましょうか?逆に眠れなくなりそうですので。

 そうですね……只の月見と言うのも味気ないので、一曲お願い出来ますかなのはさん?寝間着姿で申し訳ありませんが。」

 

「いや、其の姿もまた魅力的だから問題ない。」

 

 

そして、空中庭園では暫し二人きりの月下の舞踏会が行われた。

月明かりの下で静かに舞う黒き神魔と、白き聖女と言うのは其れだけで一種の芸術品のようであり、もしも第三者がこの光景を目にしていたら目を離す事が出来ずに釘付けになっていた事だろう。

 

 

因みに同じ頃ロレントでは……

 

 

「キョォォォォォォォォォォォ!!!」

 

「うっさいわ馬鹿兄!今何時やと思ってんねん!!」

 

「ご近所の迷惑であろう!大人しく寝んか、此のたわけ!!」

 

 

満月に反応して庵が暴走状態となり、眠りを妨げられたはやてとなぎさによってシバかれていた……同じくオロチの血を其の身に宿しているレオナが平気だった事を考えると庵はマダマダオロチの血に翻弄されているようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter35

『ちょっとした日常と最大級の重要情報』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、なのははクローゼとヴィヴィオと共にグランアリーナを訪れていた。

グランアリーナは年に一度の武術大会が開催される場所だが、其れ以外の時は王室親衛隊が訓練場として使用しており、なのは達は親衛隊の訓練の様子を見に来たと言う訳だ。以前にヴィヴィオの訓練をした時は、親衛隊が訓練をしていない時間を使ったと言う訳だ。

 

 

「行くわよ一夏!覇ぁぁぁぁ……疾風迅雷脚!」

 

「ふっ!はっ!!せりゃ!!」

 

 

なのは達がアリーナの中に入ると、一夏と刀奈が組み手を行っており、刀奈の連続蹴りを一夏が見事に捌いているところだった。

刀奈の連続蹴りは回転しながら繰り出されており、二発目以降は遠心力も加わりドンドン威力が上がって行くのだが、一夏は捌く瞬間に腕に気を纏って強化して蹴りの威力を大幅に抑えているようだ。

 

 

「ていやぁ!電刃……波動拳!!」

 

 

刀奈の連続蹴りを捌き切った一夏はカウンターの足刀蹴りで刀奈の態勢を崩すと、其処に電刃波動拳を放つ。電刃波動拳は強烈な雷を帯びているので防御を貫通するガード不能技であり、更に電撃によるスタン効果もあるので喰らったら一撃必殺なのだが、刀奈はギリギリで氷の盾を作ってそれを防ぐ。

正に一進一退の攻防だ。

一夏と刀奈の組手が行われているだけでなく、レオナとシェン、ヴィシュヌとグリフィンも激しい組手を行っており、其れ以外の隊員はフィジカルトレーニングや己の得物を使っての素振り等を行っているが、その全てが活気に満ちており親衛隊の士気の高さが窺えると言うモノだ。

 

 

「ふむ、やっているな?活気に満ちていて実によろしい。」

 

「陛下、いらっしゃっていたのですか!」

 

「来たのは今だがな。

 中々に激しい訓練を行っているようだが、其れが出来るのも隊員全員が絶好調である証とも言える。隊長であるお前から見て、今の親衛隊は如何だユリア?」

 

「以前よりも強化されたのは間違いないかと。

 特に陛下が王となられてから新たに親衛隊の隊員となった者達の力は凄まじいモノがあります……そして、彼等に触発される形で私を含めた元々親衛隊の隊員だった者達も自己研鑽に励んで、アリシア前女王時代よりも強くなったと感じています。」

 

「そうか、其れは良かった。」

 

「特に鬼の子供達は此れから先が楽しみでもあります。織斑一夏は、その中でも一番楽しみです。」

 

 

デュナンが王になった際に一度は解体された王室親衛隊だが、なのはが新たな王になった事で再編成され、新たなメンバーが加わった事で解体前よりも大幅に強化されているようだ。

中でもユリアが特に注目しているのは実は鬼の子供達だった。

単純な戦闘力で言えばレオナやアルーシェ、嘱託隊員であるシェンの方が高いのだが、鬼の子供達からは未だ解放し切って居ない潜在能力を感じたのだ。特に一夏に関しては他の鬼の子供達とは異なる何かを感じたようだ。

 

 

「一夏か……確かにアイツは鬼の子供達の中でも頭一つ抜きん出ているからな?

 無手の格闘も然る事ながら、剣術では恐らく私の兄と勝てずとも負けない戦いを出来る筈だ。アイツの秘めたる潜在能力が解放されたら、若しかしたら稼津斗に匹敵するレベルかも知れないな。」

 

「稼津斗さんも相当に強いですからねぇ……通常状態でルガールさんと同じ位の強さがあるのではないでしょうか?」

 

「そして殺意の波動を開放すればルガールを越えるか……最もルガールにもオロチの力があるから、互いに力を開放して戦えば略五分と言った所かもしれないが。」

 

 

一夏の秘められた潜在能力が解放されたら相当な力である可能性は高そうである。

組手の方はと言うと戦いながらパートナーチェンジを行い、一夏とレオナ、刀奈とヴィシュヌ、グリフィンとシェンと言う組み合わせになり、また時にはタッグマッチやバトルロイヤル状態と、組手の方式も変えて行く。

ユリアがアーツで意識外からの攻撃を行う事もあり、訓練の質は可成り高いと見て良いだろう。

 

 

「ふむ……此れだけの訓練を行っているのを見て、私も少しばかり身体を動かしたくなった。ユリアよ、私も組み手に参加させて貰っても構わないか?」

 

「陛下が組み手に?

 ……普通ならば大凡許可は出来ませんが、陛下ならば大丈夫でしょうから特別に参加する事を認めましょう。ですが、やり過ぎないで下さい。親衛隊の隊員が王との組手で大怪我をしてその任を果たす事が出来なくなったと言うのはシャレにもなりませんから。」

 

「其れに関しては案ずるなユリア。

 レイジングハートを非殺傷モードで使うからダメージは受けても怪我をする事だけはないからな……まぁ、痛みは感じる訳だから気絶くらいはしてしまうかも知れないけれどね。」

 

「気絶する程のダメージを受けても無傷って、便利ですね非殺傷モード。」

 

 

そして、此処でなのはが組み手に参加し、一夏と刀奈とレオナとシェンとヴィシュヌとグリフィンを同時に相手にする事になったのだが、組手開始直後にバインドで一夏達を捕らえると、其処に一撃必殺の集束砲を叩き込んでターンエンド。

力自慢のシェンであっても、なのはのバインドを腕力だけで引きちぎると言うのは無理だったみたいである。

 

 

「私の勝ち、かな?」

 

「貴女の勝ちです、なのはさん。」

 

「なのはママ、強~~い!」

 

 

そんな訳で結果はなのはの圧勝!

王が此れだけ強いのであれば『王室親衛隊なんぞ必要ないのでは?』と言う意見が飛んできそうだが、なのはが何らかの形で全力を出す事が出来ないと言う事が無いとも言い切れないので、そんな時の為に親衛隊の存在は必要不可欠なのである。

王にとって絶対必要となる王室親衛隊を解体したデュナンは最大級の愚行を働いたと言っても過言ではないだろう。デュナンは、自ら最大の防衛力を放棄したに等しいのだから。

 

その後も訓練は続き、ヴィヴィオもロランとの組手を行ったのだが、戦闘力では勝っていても経験の少なさから時間切れの判定負けとなった……が、それが相当に悔しかったのか、ヴィヴィオは暫く親衛隊の訓練に参加する事を決めた。

 

 

「お前がそう決めたのならば私は何も言わんが……自分で決めたのならば、途中で投げ出すなよ?」

 

「ヴィヴィオ……頑張ってください。」

 

「なのはママ、クローゼママ……頑張って来ます!!」

 

 

親衛隊の訓練に参加して、組手で戦闘経験を積めばヴィヴィオの持っている巨大な力をより生かせるようになるだろうし、巨大な力と共に訓練を行えば親衛隊全体のレベルアップにも繋がるのでヴィヴィオにとっても親衛隊にとっても、互いにウィン・ウィンであると言えるだろう。

嘱託隊員のシェンが参加する時にはユーリも一緒に来ているので、外見的には兎も角精神年齢的には同じ位のヴィヴィオが居ればユーリの話し相手になる事も出来るのであるしね。

 

 

「あ、いたいた王様~~~!!」

 

 

其処にグランアリーナの上空からエリアがアドバンス召喚した使い魔に乗って登場。

如何やらなのはの事を探していたようだ。……水霊使いが空を飛んでと言うのも如何かと思うが、水霊術の中には水の分子を編むように組み合わせる事で『乗れる雲』を作り出すモノもあるので水霊使いが空を飛んでも別におかしくはないのだ。己の使い魔で飛んでいると言うのは大分レアケースであろうが。

 

 

「エリア、如何かしたか?……と言うか、お前の使い魔飛べたのか?」

 

「アドバンス召喚した際のギゴちゃんの装甲を遊星さんと遊里さんに改造して貰って、飛行用のジェットブースターを搭載しているんですよ♪」

 

「使い魔の強化状態でのみ現実に現れる装甲を改造するって、最早何でもありですか遊星さんと遊里さんは?あのラッセル博士ですら、流石にそんな事は出来なかったと思いますが……」

 

「ラッセル博士は十年に一人の稀代の天才だが、不動遊星と不動遊里の兄妹は百年に一人の稀代の天才と言う事なのだろうな……百年に一人の逸材が二人も居ると言う時点で中々のレアケースであると思うが。

 其れでエリア、私に何か用があったみたいだが?」

 

「え~とですね、王様にお客さんが来ているんです。セスって言う大きな男の人なんですけれど……」

 

「セスが?分かった、直ぐに城に戻るとしよう。」

 

 

不動兄妹がゴギガ・ガガギゴの装甲を魔改造していたようだが、エリアがなのはを探していたのはなのはに来客があったからだった。

そして其の来客の名は『セス』……リベリオン時代から付き合いのある情報屋だったのだので、なのはも直ぐに城に戻る事を決めクローゼと共にグランセル城へと戻って行った。ヴィヴィオは親衛隊の訓練が終わるまで此処にいる事にしたらしく残る事に……訓練に参加する事を決めた初日から早速訓練に加わる様である。

 

 

「なのはさん、態々セスさんが訪ねて来たと言う事は……」

 

「あぁ、私か或はリベールにとって何かしらの大きな情報を得たと見て間違い無いだろう……さて、一体どんな情報を掴んだのやら。」

 

 

なのははクローゼをお姫様抱っこして空を飛びながらグランアリーナからグランセル城に最速で飛んで行った……『オイ、ドラゴン呼べよ。』と言ってはいけない。アシェルとヴァリアスとバハムートは最近は日替わりでジーク先輩と共にリベールの空を見回っており、本日の担当はアシェルであるので簡単に呼ぶ事は出来ないのだ。空の安全を守るのもとても大事な仕事であるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

城に戻ったなのはは、直ぐに侍女に命じてセスを謁見室……ではなく女王宮に案内させた。

謁見室では室内にも警護の兵がいるが、女王宮は入り口に護衛の兵はいるが室内には居ない……セスの得た情報がどんなモノであるのか分からなかったので、取り敢えず情報が外に漏れるのを防ぐためになのはは女王宮を選んだのだ。

その女王宮の中にいるのはなのはとクローゼとセスの三人……茶と菓子を運んで来た侍女は既に退室している。

 

 

「セス、お前が態々城を訊ねて来たと言う事は私か、或はリベールにとって何か大きな情報を得たのだと考えているのだが……一体どんな情報を得たんだ?」

 

「お前さんにとっては何よりも欲しかった情報だと思うぞ?……ライトロードの居場所が判明した。」

 

「何だと?」

 

「其れは本当ですか?」

 

 

挨拶もそこそこになのはがセスにどんな情報を得たのかを聞くと、セスの口から出て来たのは『ライトロードの居場所が判明した』との情報だった。

此れにはなのはだけでなくクローゼも驚く……此の十年間マッタク足取りの掴めなかったライトロードの居場所が遂に見つかったと言うのだから驚くなってのが無理であるのかも知れないが。

だが、この情報は確かになのはにとっては何よりも欲しかった情報であると言えるだろう。

クローゼと出会った事で無差別の復讐を選ばずに済んだなのはではあるが、其れでも唯一復讐すべき相手であるライトロードへの憎悪の気持ちは心の奥底で静かに燃え続けていたのだ……その相手の居場所が分かったと言うのは歓喜すべき事だろう。

 

 

「そうか、遂に奴等の居場所が……其処は一体何処なんだセス?」

 

「リベールから遥か遠く離れたエサーガ国にある人里離れた山奥の施設だ……如何やらライトロードの連中は、十年前にハーメル村を襲撃した際に『鬼』によって壊滅状態となり、メンバーの多くが瀕死の状態になってたらしいんだが、何者かが瀕死のライトロードを其の場に運び、生命維持装置兼治療機に放り込んで回復を行ったらしい。」

 

「ライトロードではない第三者がライトロードを回復したと、そう言う事か?……ソイツは何者か分かっているのか?」

 

「残念ながら其処までは分からなかったが……一つ面白い情報として、如何やら復活したライトロードは召喚士を除いて全員が殺意の波動を其の身に宿しているみたいだ。

 自分達を壊滅寸前にまで追い込んだ力を欲したのかな?」

 

「殺意の波動を……」

 

 

ライトロードを助けたモノが何者であるのかは分からなかったが、ライトロードが召喚士以外が殺意の波動を宿していたと言うのは予想外の事だっただろう。

殺意の波動は言うなれば闇の力であり、ライトロードが忌み嫌う力でもあるのだから……そうであるにも関わらず、殺意の波動を其の身に宿したと言うのは、セスの言うように自身を壊滅状態に追い込んだ力と言うモノを欲したのかも知れない。

或は、『正義の使者である自分達を壊滅状態に追い込んだ殺意の波動を取り込む事が出来れば、其の力を正義として振る舞う事が出来る』と、何とも都合の良い事を考えたのかも知れない。

 

 

「此れで連中の居場所が割れた訳だが、お前さんは如何するんだいなのは?早速攻め込むか?」

 

「辺境の、其れこそ何処の国にも属していない土地に居るのならば其れも良いが、連中はエサーガ国の領土内に居ると言うのでは話は別だ。

 ライトロードを攻撃するためだけに攻め込んでは、エサーガ国に攻め入ったのも同じ事になり外交問題に発展しかねないからな……なたねにも言った事だが、ライトロードの連中がリベールに攻め入って来るのを待つさ。

 私達から攻め入ればエサーガ国との外交問題が発生するが、ライトロードの方がリベールに攻め入って来たのであれば、私としても『リベールをライトロードから守る為』と言う戦う為の大義名分を得る事が出来るからね。

 リベールに攻め入ってきたその時は全力で相手をしてやるさ……そしてリベールに攻め入ったその時がライトロードの終焉の時だ。」

 

 

だが、なのははライトロードの居場所が判明しても、其の場所が外国の領土内にあると言う事で攻め込む事はせずに、逆にライトロードがリベールに攻め込んでくるのを待つというスタンスで居るようだ。

確かにエサーガ国の領土内に居ると言うのであれば、其処に攻め入っては外交問題になってしまうのでライトロードが攻め入って来るのを待つのが上策だろう。ライトロードがリベールに攻め入ってくれば、なのはの言うように『リベールを守る』と言う戦う為の大義名分が手に入るので国民世論もライトロードとの戦いを支持するだろうから。

 

 

「願わくは、ライトロードがリベールに攻め入るまでに、なたねがリベールで何かを掴む事が出来ると良いのだがな……」

 

 

一つ懸念事項があるとすれば其れはなたねだろう。

なたねがネロと共にリベールを回って何かを掴んで、己の何がなのはと違うのかに気付けばいいのだが、其れに気付かずにライトロードと相対する事になっては、なたねの復讐心だけが燃え上がり理性を失った状態で戦いかねないのだから。

 

 

「大丈夫ですよなのはさん、なたねさんならばきっとライトロードがリベールに攻め入って来る前にリベールで何かを掴んでくれる筈です……だから、信じましょう彼女達の事を。」

 

「……そうだな。姉ならば、妹の事を信じてやらねばだったな。」

 

 

だが、其れもきっと大丈夫だろう。

 

何れにしても、そう遠くない未来にライトロードとの戦いは待っているのは間違い無いだろう……

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

――リベールから遠く離れた絶海の孤島にある研究所

 

 

「如何だいドクター、ライトロード達の様子は?」

 

「上々だプロフェッサー。

 彼等は見事に殺意の波動と融合して見せた……光の力に殺意の波動が融合され、其の身には混沌の力を宿した。後は其れがドレだけのモノであるのかを確かめるだけだよ。果たして、ドレだけの成果を出してくれるのか楽しみではあるね。」

 

 

其の研究所では、眼鏡を掛けたオールバックの男と、白衣を纏った紫髪の男が何やら不穏な会話をしていた……会話の内容からして、壊滅状態にあったライトロードを助けたのは彼等なのだろうが、如何やらライトロードを助けたのはライトロード其の物を助けた訳でなく、自分達の実験の為にライトロードを助けて治療を行い、そして殺意の波動を宿したらしい。

 

普通に考えたら、トンデモナイ事なのだが、ドクターとプロフェッサーにとっては大した事はない事なのだろう……取り敢えず、ライトロードの裏には途轍もない悪意が存在していると言う事だけは間違い無いようである。

そして其の悪意は、ライトロードを通じてリベールに向かっていたのだった……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter36『殺意の波動vsオロチの力=???』

殺意の波動とオロチの力が合わさったらどうなるのだろうか?Byなのは      制御不能の暴力誕生の予感ですねByクローゼ


リベール一周の旅に出たなたねとネロは、旅が終わったらもう一度訪れる事にしてロレントを発ち、ボースでリベール一のマーケットでの買い物を満喫した後にルーアンを訪れていた。

 

 

「前に来た時は直ぐに王都に向かっちまったが、改めて来てみると中々良い街みたいだな此処も?」

 

「そうですね。

 港町としての活気があふれているだけでなく、観光にも力を入れているようにも見えます……或はなのはが観光と貿易の双方に力を入れた政策をしているのかも知れませんが。

 ですが、ロレントとボースを回って来ましたが……リベールの民は魔族と言うモノに対する偏見がないみたいですね?魔族の証である黒翼のみを展開していたと言うのに、誰も其れに対して何も言いませんでしたから。」

 

「俺の右腕にもな。

 テメェの国の王様が神族と魔族のハーフだからって訳じゃねぇよな此れは……リベールには、種による差別を是としないってのが根付いてたのかもな。」

 

「恐らくそうなのでしょうね……全ての人間が魔族を忌み嫌っている訳ではないと言うのは貴重な情報でした。」

 

 

なたねとネロはロレントとボースの二ヶ所を回っただけでも、リベールの民は魔族だからと言って差別しないと言う事を実感していた――そして其れは、少しばかりなたねとネロの心に変化を齎している様である。

 

 

「時にネロ、そろそろランチ時ではないでしょうか?」

 

「そうだな?そんじゃ何処か店に――」

 

「待てコラ食い逃げ~~~!!」

 

「待てと言われて待つ馬鹿が居るかボゲェ!!」

 

 

良い時間になったのでランチタイムに良い時間になったので、何処で食べようかと思っていた所で食い逃げの現場にエンカウント!食い逃げ犯を追い掛けているのは例によって『白飯店』のウェイトレス兼用心棒の乱音だ。

 

 

「食い逃げか?遭遇しちまった以上、見て見ぬ振りするのも如何かと思うから……Catch this!」

 

 

その食い逃げ犯を、ネロは悪魔の右腕から霊体の腕を伸ばして捕まえるとそのまま地面に叩き付けて一撃KO!……気を失って痙攣してはいるが、生きてはいるので手加減はしたのだろう一応。

 

 

「コイツを追い掛けてたみたいだけど、要るか?」

 

「当然よ!ってか、何だか何処かで見た光景ね此れ?」

 

 

こうして無事に食い逃げ犯は御用となった訳だが、なのはと出会った時と略同じシチュエーションに乱音はデジャヴを感じていたようだった……そして、なたねの姿を見て『王様イメチェンしたの?』と口にしたのもまた当然の反応であったと言えるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter36

殺意の波動vsオロチの力=???』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食い逃げ犯を遊撃士のカルナに引き渡した後は、乱音の誘いで彼女が働いている店で昼食を摂る事になり、お勧めのエビ蒸し餃子と生春巻きを注文して、現在ランチタイムの真最中である。

 

 

「アンタは王様の双子の妹なのね?道理で似てると思ったわ……王様と違って表情あまり変わらないみたいだけど。」

 

「これは昔からなので。

 感情の起伏はあるのですが私は其れが顔に出辛いようなのです……子供の頃なのはに、『なたねはもう少し笑った方が良いと思うよ?』と言われたので頑張って笑顔になってみたら顔の筋肉が攣って暫く顔が痛かった記憶がありますから。

 まぁ、其れは其れとして、此の国の新たな王に興味が湧いたからと言ってなのはに勝負を挑むとは随分と無謀な事をしたものですね?私もなのはも武人として名を馳せた父から幼少期より武の手解きを受けているのですから半端な強さではありませんよ?」

 

「身をもってそれを実感したっての……何なのよアイツ!あんな動き辛そうな服着てるくせに一瞬のスピードはめっちゃ速いし、細身に見えて拳は重いし、トドメの魔法攻撃は極悪な威力だったわよ!!?」

 

「拳……成程、なのはは相当に手加減したと言う訳ですか。」

 

「手加減ですってぇ!?手加減なしでって言ったのに!!」

 

「なのはが手加減しなかったら貴女は死んでいますよ?国王が民を殺したとなれば大問題……其れを避ける為にもなのはは手加減したのでしょう。

 武器ありの戦闘、其れも遠距離砲撃型のなのはが徒手空拳で相手をしたのが何よりの証拠です。」

 

「手加減してあれ!?王様ハンパねぇ~~~!!」

 

「本人も充分強いってのに、更に闇属性のドラゴンまで従えてるからな……こう言ったら何だが、他国が国王の暗殺を企てたとしても絶対失敗に終わる未来しか見えねぇのは俺だけか?」

 

 

乱音と談笑しながらのランチタイムはなたねとネロにとっては、また一つ人間の良い所を知る事が出来る時間になった様である……ウェイトレスの乱音が特定の客と談笑して良いのかと思うだろうが、乱音に限っては良いのだ。

彼女はウェイトレスであると同時に此の店の用心棒でもあり、彼女のおかげで食い逃げ犯や店に恐喝掛けて来たチンピラを叩きのめせているので店長も彼女にはある程度の自由を認めているのである。

 

 

「よう、邪魔するぜ。」

 

「いらっしゃいませ~~!……ゲッ、ダンテ……」

 

「オイオイ嬢ちゃん、お客様にそんなあからさまに嫌な顔をするもんじゃないぜ?」

 

「アンタが来たらこんな顔にもなるってモンでしょうが~~~!ってか、どの面下げて来たのよアンタ!いい加減溜まりに溜まったツケ払いなさいよ!利子トイチで取るわよこの!!」

 

「わ~ってるって。デカい仕事で金が入ったんでね、ツケ払いに来たんだよ。……と、なたね嬢ちゃんと坊主もいたのか!」

 

「はい、お久しぶりですね。」

 

「ツケ溜めるとか、もう少し真面な生活しろよオッサン……」

 

 

其処にダンテが来店したのだが、如何やらツケを溜めまくっていたらしく、大きな仕事で金が入ったのでそのツケを払いに来たとの事だった……ダンテは実力だけならばリベールでも唯一カシウスと互角以上に戦えるレベルなのだが如何せん普段の生活は適当極まりないのだ。

デビルハンターとして活きる伝説となっている程の存在でありながら、仕事の報酬の取り分と仲介料の割合を6:4と言うやや取り分多めにするのではなく、8:2にした上でどっちが多く取るかをコイントスで決めると言う事をしている上にコイントスで勝つのは十回に一回程度の割合なので仕事っぷりの割に結構カツカツなのだ。

 

 

「はは、そいつは言い返せねぇが、長年染みついちまった生活の癖ってのは今更変えられんさ……そんで、お前さん達の方は如何だい?リベールの都市を幾つか回ってみて何か掴めそうか?」

 

「そうですね……少なくともリベールの民は、魔族だからと相手を嫌悪し排斥する者では無いと言う事が分かりました。……人間は、魔族を忌み嫌い排斥するモノだと思っていましたが其れは間違いであったようです。

 十年前のあの日、父が魔族であると言う事を知った途端に手の平を返したあの村の人間とは違うようですね……そして、そうであるのならば確かに人間だからと言って無差別に復讐の刃を向けると言うのは間違いであるのかもしれません。

 そして、その中で魔族も全てが滅ぼすべき相手ではないと思いました……ずっと忘れていましたが、私となのはは子供の頃魔王の一人であるルガールにはとても可愛がって貰った事を思い出しました。

 母を追放した神族に関しては未だ良い感情は持てませんが、人間と魔族に関しては取り敢えず無差別な復讐の刃を向けるべきではないのかも知れないと、そう考え始めています。」

 

「だから、カシウスの言ってた事も今なら分かる……復讐はしない方が良いが、一方で復讐は正当な権利だから復讐すべき相手にのみ復讐するのならば兎も角として無差別に復讐の刃を向けるのは良くないってのがな。」

 

「おぉ、流石はカシウス良い事言うねぇ?」

 

 

其れは其れとして、ネロとなたねの意識は随分と変わって来ているようである。

此れならばリベール一周の旅を終える頃には復讐に染まり切ってしまったなたねの心も相当に変わっているのかも知れない……復讐心を完全に消す事は出来なくとも、少なくとも無差別に復讐の刃を振り下ろす事は無くなる事だろう。多分。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

――王都グランセル・グランアリーナ

 

 

グランアリーナでは今日も今日とて王室親衛隊の訓練が行われており、現在は一夏とヴィヴィオがスパーリングを行っていた。

単純な戦闘力ならばヴィヴィオの方が上だが、一夏は稼津斗に鍛えられており、ハーメル村跡を拠点にしようとやって来た野盗を撃退して来た実戦経験の豊富さでヴィヴィオを上回っていた。

 

 

「ヴィシュヌお姉ちゃん直伝!タイガァァ……ジェノサイド!!」

 

「ヴィシュヌの奥義か!……だが、そいつは何度も見てる!其れにヴィシュヌと比べたらマダマダ精度が甘い!その程度の技じゃ俺には通じないぜヴィヴィオ!」

 

「わわ!?」

 

「コイツで決まりだ!喰らえ、神龍拳!!」

 

 

ヴィヴィオはヴィシュヌから教えて貰った飛び膝蹴りからジャンピングアッパー二連続に繋ぐタイガージェノサイドを繰り出したが、その技は一夏も知っている上にヴィシュヌと比べたら精度が低いのでアッサリと捌かれた上でカウンターの神龍拳を叩き込まれて勝負あり。

戦闘力がドレだけ高くとも、実戦経験の有無と言うのは矢張り大きかった様だ……とは言っても、ここ数日でヴィヴィオは主に鬼の子供達の技を覚えて戦いの幅が大きく広がり、日々急成長してはいるのだが。

 

 

「残念、負けちゃいましたか。」

 

「ヴィヴィオは確かに強いが、十年前のハーメルの地獄を体験し、その後十年間鬼に鍛えられて来た一夏には未だ敵わんのだろうな……そして、本気を出した鬼には私も勝てる気がしない。」

 

「あはは……」

 

 

この訓練はなのはとクローゼも見学しており、ヴィヴィオと一夏のスパーリングも当然見ていたのだが、其れ以上に凄かったのは訓練に参加した稼津斗と一夏と簪を除く鬼の子供達の模擬戦だった・

稼津斗一人に対して、刀奈、ロラン、ヴィシュヌ、グリフィン、マドカ、夏姫の六人で挑んだのだが、稼津斗は其の六人の連携をものともせずに迎撃、或は阿修羅閃空で回避して殆どダメージを受ける事なく、最後は殺意の波動を発動してから拳を地面に叩き付けて巨大な気の柱を発生させる技『金剛獄滅斬』を使って刀奈達をKO。

刀奈達も充分に強いのだが、其処は育ての親にして武の師匠である稼津斗の方がまだ何枚も上手だったと言う事だろう――殺意の波動を使わせるに至った事を考えると、素の状態では些か厳しいと稼津斗は考えたのだろうが。

 

その模擬戦を見ながら、鬼の子供達の中で唯一のバックスである簪は手元の端末を操作しながら何かをやっていた。模擬戦の記録映像を再生しながらコンソールを叩き、一夏とヴィヴィオ、稼津斗と刀奈、ロラン、ヴィシュヌ、グリフィン、マドカ、夏姫に何らかの数値を発生させて行く。

 

 

「不動兄妹が試作したと言う戦闘力を数値で可視化する機械のモニターとの事だったが、良いデータは取れたか簪?」

 

「うん、バッチリ。取り敢えず今の模擬戦で一夏達の戦闘力は計測出来た。

 一夏の戦闘力は十六万、ヴィヴィオは二十二万、刀奈とヴィシュヌが十五万七千、ロランが十五万六千五百、グリフィンが十五万七千百、稼津斗さんは測定不能。」

 

「測定不能って、その機械は幾つまで計測できるのでしょうか?」

 

「遊星さんは、『取り敢えず百万までにしておいた。』って言ってたから、稼津斗さんの戦闘力は最低でも百万一以上はあると言う事……因みにクローゼさんは十万ジャストで、なのはさんの戦闘力は五十……三万です。」

 

 

簪が使っていた端末は不動兄妹が試作した、『戦闘力を数値化して可視化する機械』だったらしく、試作機のモニターを頼まれた簪は模擬戦の場で戦闘力を計測していたと言う訳である。

別に戦闘中でなくとも計測は出来るのだが、戦闘中に計測する事で数値の変化が出ないかどうかをチェックしていたと言う事だろう……その結果、数値の変動は見られなかったので、『気や魔力を大きくした際の戦闘力の変化も計測出来るようにした方が良い』と言うモニター結果を不動兄妹に提出する事になりそうである。

 

 

「それにしても、戦闘力の可視化とは面白い事を考えたモノですが、アナライズで調べた際のステータスとはまた異なるのですね?アナライズで一夏さんの事を調べると攻撃力は千五百、防御力は千四百と言う風に出るのですが……?」

 

「戦闘力と言うのは細かいステータスではなく、全てのステータスをひっくるめた大まかな数値と言う奴なのだろうな……私のヴァリアスは攻撃力二千四百、防御力は二千だが、戦闘力で言えば四十万位になるのかも知れん。」

 

「となるとアシェルとバハムートは余裕で六十万位になりますね。」

 

 

戦闘力は大まかな数値であり細かいステータスは計れないが、アナライズを使う手間なく瞬時に相手の大まかな力と言うモノを計測出来ると言う点では優れていると言えるだろう……今回の機械は試作品なので、此れから改良を重ねて戦闘力の変化の計測や小型化をして行くのであろうが、不動兄妹ならばそう時間が掛からずに携帯できるサイズの戦闘力測定器を作ってしまいそうなのが少し恐ろしい所ではある。

 

 

「いやはや精が出る事だ、結構結構!王の守護を司る親衛隊であるのならば、日々鍛えなくてはなるまい。」

 

 

そんなグランアリーナに現れたのはルガール。未だ魔界には帰らずにリベールを満喫しているようだ。

 

 

「ルガール、いいかげん魔界に帰らなくても良いのか?」

 

「なに、魔界の不穏分子であった連中は、桃子殿の殺害を行った者と共に魔王全員で全て粛清したので今の魔界は平和其の物なのでね、私一人が居ないからと言って何か問題が起きるでもなし。

 仮に何か問題が起きたところで、秘書二人とペットの黒豹のロデムで何とかなる。私に大きく劣るとは言え、秘書二人とロデムは中級魔族級の力はあるからね。」

 

「帰らなくても大丈夫であるのならば何も言いませんが、ルガールさんは此処に如何言った御用件で?」

 

「私の要件は実にシンプルなモノでね……少しばかり『鬼』と手合わせをしたいと思って此処に来た次第なのだよ。」

 

「……ほう、俺と手合わせを望むか。」

 

 

ルガールがグランアリーナにやって来た目的は稼津斗との手合わせを望んでの事だった。

オロチの力を取り込んだルガールは、殺意の波動にも興味を持ち、其れが如何程の力であるのかを自ら確かめたかったのだろう……今日の今日まで、中々稼津斗に出会う事は出来ず、グランセルの市民に稼津斗の事を聞いて回って漸くグランアリーナに辿り着いた訳だが。

 

稼津斗は稼津斗で、己との手合わせを望むルガールに対し、其れを受ける気で居るようだ。

元より強者との手合わせ、取り分け『死合う』事を望む稼津斗にって強者との戦いは願ってもない事であり、稼津斗とルガールの利害は完全に一致していると言う訳なのである。

 

 

「勝手に話を進めるなと言いたい所だが、言って止まるモノでもあるまい。

 強者同士の戦いと言うのは見るだけでも得るモノがあるしな……ヴィヴィオ、模擬戦が終わったばかりでスマナイが、結界を張ってくれ。稼津斗とルガールが本気で戦ったらグランアリーナが崩壊しかねん。」

 

「お任せあれなのはママ!」

 

 

既に高まっている稼津斗とルガールの闘気に、なのはは『此れは止められない』と判断してヴィヴィオに結界を張らせ、以前になたねと戦ったのと同じ空間を作り出させる――この空間の中でならば、ドレだけグランアリーナが壊れようと結界の外にある現実のグランアリーナには一切の影響はないのだから安心であると言えるだろう。

 

 

「なのはさん、良かったのですか?」

 

「言って止まらないモノは止めるだけ徒労だからな、本人達の気が済むまでやらせた方が良い……まぁ、一応のルールとして相手を殺すのだけは絶対にNGだ。稼津斗もルガールも其れは守って貰うぞ?」

 

「私は死んでも復活するから大丈夫だがね?と言うか、復活は趣味!」

 

「復活は趣味……最早突っ込んだら負けな気がしてきました。」

 

「突っ込まなくて良いぞクローゼ……死んでも復活して、復活するたび強くなるとかもう意味が分からんからな。」

 

 

取り敢えず復活とは趣味でやる事ではないだろう。

それはさておき、結界が張られた事で心置きなく戦う事が出来るようになった稼津斗とルガールは、夫々殺意の波動とオロチの力を解放し、稼津斗は肌が浅黒くなって目と髪が紅くなり、ルガールは肌がグレーになり髪が銀色に変わる。

 

 

「お手並み拝見と行こうか?」

 

「ウヌが力、見せてみよ!」

 

 

 

――推奨BGM【The lord GOD】

 

 

 

こうして始まった鬼と魔王の戦いは、先ずは稼津斗が剛波動拳を、ルガールが烈風拳を放って互いに小手調べから。

剛波動拳と烈風拳はぶつかって相殺したが稼津斗は剛波動拳を放つと同時にジャンプして斬空波動拳を放ち、更に天魔空刃脚で急降下の蹴りを放ちながらルガールに肉薄し、攻撃をガードしたルガールを巴投げで投げ飛ばす。

 

 

「此の程度ではあるまいな?」

 

「ハッハー、もっと攻めて来たまえ!」

 

 

投げられたルガールは空中で受け身を取って着地すると稼津斗を手招きし、それに対し稼津斗は灼熱波動拳(ヴィシュヌの灼熱波動拳は気功波だが、此方は巨大な気弾)を放つが、ルガールは自身の周りにバリアを張って其れを防ぐとバリアを其のまま飛び道具として放つ。

稼津斗は剛波動拳で其れを相殺しようとするが、放たれたバリア『グラヴィティスマッシュ』は剛波動拳を貫通して飛んできたため阿修羅閃空で其れを躱したのだが……

 

 

「その動きは読んでいた……潰れろ!」

 

 

阿修羅閃空の先に移動していたルガールは稼津斗の首を掴むと地面を滑るように高速移動してグランアリーナの壁に叩き付け巨大な気の柱での攻撃を加える。気の柱の中に髑髏が見えたのは気のせいではないだろう。

 

 

「今の一撃、申し分なし!滅殺……うおりゃぁぁぁぁ!!」

 

 

だが其れを喰らった稼津斗も直ぐに復帰し、剛昇龍拳→滅殺剛螺旋のコンボを叩き込んでルガールを吹き飛ばす。

 

 

「むぅぅぅぅぅん……滅殺!!」

 

「うぬぅぅぅぅぅ……カイザー、ウェイブ!!」

 

 

そして互いに気を溜めると稼津斗は無数の剛波動拳を放つ滅殺剛波動を、ルガールは特大の気弾であるカイザーウェイブを夫々放ち、無数の気弾と極大の気弾はぶつかって大爆発を起こす。

その爆発の粉塵を突っ切ってルガールは稼津斗に肉薄すると胸倉を掴んで持ち上げ手元で気を炸裂させてダメージを与えたが、稼津斗も負けじと空中で体勢を立て直して無数の斬空波動、天魔剛斬空を放つ。

 

 

「受けてみよ、ぬおりゃぁぁぁ!!」

 

「ジェノサイドカッター!」

 

 

更に稼津斗の上空からの手刀、禊とルガールのジェノサイドカッターがかち合って激しいスパークを巻き起こす……あまりの超次元バトルに、親衛隊の隊長であるユリアですら開いた口が塞がらないと言った状態になってしまってるのは致し方ないだろう。

其処からも稼津斗とルガールの一進一退の攻防は続き、互いに譲らなかったのだが、其れだけに削り合いの戦いになってしまい、気付けば二人ともボロボロになっていた。

 

 

「殺意の波動、堪能させて貰った。」

 

「ルガール、その名覚えておこう。」

 

 

此処で稼津斗とルガールは此れまで以上に闘気を高め、決着の為の一撃を放つ準備をする……気を溜めている間が無防備と言うなかれ。稼津斗やルガールのレベルになると、気を溜めている間は己の周囲に不可視のバリアを張る事が出来るので、気を溜めるのを妨害される事はないのだ。

 

 

「行くぞ……滅殺!ぬおりゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「カイザー……フェニックス!!」

 

 

最後の技として選んだのは、稼津斗が特大の気功波である滅殺剛波動・阿形で、ルガールも特大の気功波であるカイザーフェニックスだった。

その威力は略互角で何方も譲らず押し合いと圧し合いが続く……その余波だけでグランアリーナの観客席が崩壊しているのを見る限り、なのはがヴィヴィオに結界を張らせたのは間違いではなかったようだ。

 

 

 

――バガァァァン!!

 

 

 

やがて二つの極大気功波はぶつかり合ったところがエネルギーの飽和状態を越えて爆発してド派手に相殺し、爆発の粉塵が治まった後には稼津斗もルガールも地に膝をついてグロッキー状態となり、殺意の波動とオロチの力も解除されていた。

殺しはNGのルールの下であっても、殺意の波動とオロチの力の激突と言うのは相当に凄まじいモノであったと言えるだろう。

 

 

「今のバトルにレヴィをぶち込んだら面白い事になるんじゃないかと言う件について。」

 

「其れ収拾つかなくなりません?」

 

「収拾がつかなくなったその時は、プレシアに何とかして貰う。或は不動兄妹にサンダーボルトかブラックホールを発動して貰えば問題あるまい?」

 

「其れは其れで大問題な気がしなくもありませんが……」

 

 

取り敢えず鬼と魔王の戦いは両社戦闘不能と言う結果で幕を閉じたのだが、此の戦いを見ていた一夏からほんの僅かではあるが殺意の波動特有の闇色のオーラが出ていた事には誰も気付いていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、なのははグランセル城の空中庭園にて満月から欠け始めた月を眺めていた――否、欠け始めた月を睨みつけていると言った方が正しかもしれない。それ程までに月を見るなのはの眼光は鋭いモノになっていたのだ。

 

 

「眠れませんか、なのはさん?」

 

「クローゼか……あぁ、如何にも気分が昂ってな。」

 

 

其処にクローゼが現れ、互いに欠け始めた月を見やる。

 

 

「紅い月……何とも不気味ですね?」

 

「あぁ、魔界では欠け始めた月が紅く染まるのは不吉の前兆とされているからね……此れは、ライトロードとの戦いはそう遠くないのかも知れないな?……十年も待ったのだから、連中との戦いは望む所ではあるがな。」

 

「なのはさん……そうですね、十年越しの復讐を果たす時が近付いているのかもしれません。」

 

 

欠け始めた月は紅く染まっており、其れは魔界において不吉の前兆とされているのだが、なのはは其れをライトロードとの戦いの予兆だと考え、クローゼもその時が近付いているのかも知れないと感じている様だった。

 

 

「ライトロードとの戦いは、恐らくリベール全土を巻き込んだ激しいモノになるだろうが……私はリベールの民は只の一人の犠牲も出さないと誓おう。私の誇りとお前の名に誓うよクローゼ。」

 

「ならば、私も何があろうとも貴女を支える事を誓いましょうなのはさん。私の誇りと、エイドスの名に誓って。」

 

「其れは、最大級の誓いだな。」

 

「なのはさんも其れは同じでしょう?」

 

「其れは確かにな。」

 

 

互いに誓いを立てると、その誓いは絶対の証である事を示すように月下での口付けを交わす……不穏な紅い月光の下で交わされた口付けの様子は、地獄の絵師が腐肉と血で描き切った絵画の如き背徳の美しさに満ちていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、エサーガ国領のライトロードの拠点では――

 

 

「我等は戦いの勘を取り戻した!よってこれより、魔王の娘が治めている呪われた国であるリベールに攻め入る事とする!リベールに巣くう、魔の根を全て滅ぼし、リベールを解放するのだ!」

 

「「「「「「「「「「おーーーーーーーー!!」」」」」」」」」」

 

 

数日間のトレーニングで戦いの勘を取り戻したライトロード達がリベールへ攻め込む事を決定していたのだった……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter37『ちょっとした日常と、新たな戦いと』

『尾も白い黒猫』は、実は『面白い黒猫』だったのかもしれんByなのは      なんですか、それ(汗)Byクローゼ


――ツァイス市・中央工房

 

 

不吉な紅い月が上った数日後、なのはとクローゼはツァイスの中央工房にやって来ていた――なたねとネロの武器の整備を中央工房に依頼していたのと、なのはのレイジングハートが模擬戦中にショートしてしまったのでその修理も依頼していたので進捗状況を聞きに来たのだ。

 

 

「遊星、遊里、依頼した件は如何なっている?」

 

「なのはか……全て問題ない。

 レイジングハートはフレームを強化して此れまでの二十倍の負荷にも耐えらえるようにした上で、新たにカートリッジシステムを搭載してみた。

 魔導師の魔法の威力を爆発的に高めてくれるカートリッジシステムは以前から研究はされていたんだが、人間の魔導師ではその負荷に耐える事が出来ないから採用されてこなかったんだ。

 だが、魔族と神族の血を引くお前ならその負荷にも耐える事が出来るとのシミュレート結果が出たので思い切って搭載してみた。同様の強化はルシフェリオンにも施してある。」

 

「レッドクィーンはギア比を調整してイクシードを強化して、ブルーローズは思い切って開発中の無限弾薬システムをぶっこんでみました!

 これでもう、ブルーローズは弾切れの心配なし!」

 

「調整通り越して魔改造だな此れは。」

 

「って言うか何なんですか無限弾薬システムって……」

 

 

聞いてみた結果、不動兄妹は整備とか修理を越えてレイジングハートとルシフェリオンとレッドクィーンとブルーローズを魔改造していた――人間には負荷が大きいからと言う理由で採用されてこなかったカートリッジシステムを、神魔であるなのはとなたねならば大丈夫だろうと搭載するとは思い切ったモノである。

其れだけでも充分なのだが、ブルーローズに至っては無限弾薬システムと言う謎の機能を搭載する始末……確かに弾切れを気にする事なく使えると言うのは銃を使う者からしたら有難い事ではあるが。

 

 

「そもそも無限弾薬って、魔力弾ならば未だしも実弾でどうやってそれを実現しているんだ?」

 

「弾丸に蘇生系アーツと同じ効果を付与する事で、使用済みになった弾丸を即時発射前の状態に戻るようにしているんだ。

 ダンテのハンドガンを同じ様に改造する場合は薬莢の排出機構をオミットしなくてならないんだが、ネロのブルーローズはリボルバーだったから弾丸を変えるだけで済んだな。

 ……しまった、夏姫のガンブレードをライオンハートに改造する際にも同じ処理をした弾丸を入れておくべきだったな。」

 

「……クローゼ、私は今心底不動兄妹がリベールに居てくれて良かったと思っているよ。」

 

「奇遇ですねなのはさん、私もです。」

 

 

不動兄妹の技術力と頭脳はリベールでもトップクラスであるのは間違いないだろう。

この二人の才能を開花させたのはラッセル博士ではあるが、今では最早ラッセル博士すら超えるほどの存在になっており、マードック工房長が引退したら次の工房長は遊星か遊里のどちらかではないかと言う噂まであるのだ。

取り敢えず魔改造された武器のうち、やたらと重い上に容量オーバーでレイジングハートに収納する事も出来ないレッドクィーン以外の武器は持って帰る事にし、レッドクィーンはグランセル城宛てに送って貰う事にしたのだが、帰り際に遊星が『遊里と一緒に新型の戦術オーブメントを試作してみたので使ってみてくれ』と、クローゼに独自に開発した戦術オーブメントを渡した。

その新型戦術オーブメントは、クォーツセットスロットが此れまでの八個から十個に増えており、更にセットしたクォーツのレベルを一段階アップさせると言う中々にチートな性能をしていた。

序にクォーツセットスロットが十個に増えた事で新たに使用可能になった未発見のアーツまで開拓してしまったのだから本気でトンデモナイと言えるだろう。

なんにしてもなのはとクローゼの戦闘力が大幅にアップしたのは間違いなく、其れ自体はリベールにとっては良い事であるな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter37

『ちょっとした日常と、新たな戦いと』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ツァイスを出たなのはとクローゼは空を飛んでグランセルに向かっていたのだが、クローゼはなのはにお姫様抱っこされずに自力で飛行していた。

なのはにお姫様抱っこされるのはマッタク持って構わないのだが、なのはもアシェルも居ない状況でも空を飛ぶ事が出来た方が良いと考えたクローゼは試行錯誤を繰り返した末に風属性と空属性の補助系アーツを複数同時発動する事で飛行する術を編み出したのである。

普通は複数の属性のアーツの同時発動など不可能なのだが、神族の血に覚醒したクローゼの高い魔力を持ってすれば可能だったのだ……尤も、補助系アーツの同時発動は攻撃系アーツの同時発動よりも難易度が高かったのだが。

 

 

「自分の力で空を飛ぶと言うのも気持ちが良いモノですね?」

 

「自由に空を飛ぶと言うのは、鳥やドラゴン、飛行魔法や武空術を会得した者の特権だったのだが、まさか複数のアーツを駆使する事で飛ぶとは私も驚きだよ……これで私がお前を抱きかかえる必要がなくなったと言うのは少し寂しい気もするがな。」

 

「ふふ、偶にはお願いしても良いですか?」

 

「其れは勿論だ。」

 

 

そのままグランセルに向かっていると前方にツァイスからグランセルへ向かう飛空艇が見えて来た。なのはとクローゼがツァイスを出発するよりも前に離陸していたのだが追い付いてしまった様だ。

なのはとクローゼは飛空艇の横を通り過ぎてグランセルに向かう心算だったのだが……

 

 

「おや、なのはとクローゼではありませんか。」

 

「よう、久しぶりだな?」

 

「なたねとネロ、お前達もツァイスから王都に向かっていたのか。」

 

「私となのはさんも先程までツァイスに居たのですが……こんな偶然もあるのですね。」

 

 

その飛空艇の甲板にはなたねとネロが居た。

ルーアンを一回りしたなたねとネロは、紺碧の塔を見学した後にカルデア隧道を通ってツァイスに向かい、ツァイスを一回りした後はエルモ村まで足を延ばして紅葉亭で温泉を満喫しつい先ほどツァイスの発着場からグランセル行きの飛空艇に乗ったのである。

 

 

「如何だなたね、リベールを見て回って何か得るものはあったか?」

 

「そうですね……取り敢えず、全ての人間が魔族に対して悪い感情を持っている訳ではないと言う事を知る事が出来たのは貴重な事であったと思います。

 此れまでは生きる為に素性を隠してきましたが、敢えて魔族の証である黒い翼だけを出していて、ネロも右腕を露わにしていたにもかかわらずリベールの人達は私達を排除しようとはせず、逆に受け入れてくれました。

 少なくとも、リベールの人達のような人間も居るのであれば、無差別に全ての人間に対して復讐の刃を振り下ろすと言うのは正統な復讐ではないのではと、そう思い始めています。」

 

「そう思えるようになったのならば上出来だ。

 私とて復讐心は持っているから偉そうな事は言えんが、再会した時よりもずっと良い目をしているぞなたね?瞳の奥に復讐の炎は宿ってはいるが、少なくとも瞳の濁りは大分取れたみたいだな?

 整備と改造が済んだ武器を引き取った帰り道でこうして会うとは、此れも何かの導きかもしれん……今のお前達にならば渡しても問題はないだろう。預かっていた武器を返すぞ。」

 

 

なたねの話を聞いたなのはは、なたねもネロも良い方向に変わっている事を確信し、レイジングハートに収納していたルシフェリオンとブルーローズを取り出すとなたねとネロに投げ渡す。

 

 

「此れは……」

 

「不動兄妹に整備を頼んでおいたのだが、整備を通り越して魔改造されてしまったよ……だが、性能は以前と比べ物にならない程に向上しているので其処は安心して良いと思うぞ?」

 

「いえ、そう言う事ではなく私達に返してしまって良いのですか?」

 

「今のお前達にならば返しても問題ないと判断しただけの事……もしもお前達が其れを使って暴れるような事があったのならば、私は己の目が節穴であった事を恥じつつ、今度こそお前達に引導を渡すだけだ。」

 

 

もしもなたねの目が再会した時から何も変わっていなかったらなのはは武器を返しはしなかっただろうが、リベールを一周して行く先々で様々な人達との交流をして来たなたねは復讐のみに彩られて濁っていた瞳に光が宿り、少なくとも無差別な復讐はしないだろうとなのはは判断して武器を返したのだ。

ネロも変わって行くなたねと一緒に居た事で只の復讐者ではなくなっているようだ。

 

 

「返してくれるのは良いんだけどよ、レッドクィーンは?」

 

「アレは重い上にレイジングハートに収納しようにも容量オーバーになるからグランセル城に送って貰う事にした……明日の昼には付くだろうから、その頃に取りに来てくれ。」

 

「OK、了解だ。」

 

 

ルシフェリオンとブルーローズを返却すると、なのはとクローゼは加速してグランセルに向けて驀進!

飛空艇の最大速度は時速250kmなのだが、其れを余裕で振り切ってしまうなのはとクローゼの飛行速度は時速300kmはあるとみて間違いないだろう……尚、スピードに定評のあるテスタロッサ姉妹は、姉のフェイトの最高時速は500kmで妹のレヴィの最高時速は700kmなのだが、レヴィは雷属性の攻撃を受けた場合には一時的にパワーアップして攻撃力が三倍になり最高時速はマッハ5になるのだった。

フェイトもレヴィもプレシアが実子だったアリシアを基に作り出した人造人間なのだが、フェイトは物理攻撃と魔力とスピードを高めに設定しつつもスタンダードな性能にしたのに対し、レヴィは物理攻撃と魔力とスピードに全振りした事でフェイトにはない特殊能力を発現してしまったらしい……アホの子恐るべしだ。

 

 

飛空艇よりも先にグランセルに到着したなのはとクローゼはグランアリーナを訪れて親衛隊の訓練に顔を出したのだが……

 

 

「俺は今日は親衛隊の訓練の手伝いに来てんだ!テメェの相手をしてる暇なんぞねぇんだよ!」

 

「知るか、俺は貴様を殺せるなら場所は何処だっていいんだよ……そう言う訳で死ね京!!」

 

「お前はお呼びではない……即時この場から立ち去れ!」

 

 

訓練の手伝いに来た京に対して呼んでも居ないのに庵が乱入して、稼津斗が庵に禊からの滅殺剛昇竜をブチかましてグランアリーナの外に場外ホームランすると言うカオス極まりない現場に遭遇してしまった……京を殺す為だけにグランセルまでやって来た庵の執念はある意味で表彰者である言っても罰は当たるまい。

その後は、京とユリアによる模擬戦が行われたのだが、此れは京が圧勝して見せた。

ユリアも嘗てはカシウスに師事し、王室親衛隊の歴代隊長の中でも最強と言われるだけの実力の持ち主なのだが、京は千八百年の歴史がある草薙家に於いて草薙家始まって以来の天才と称されるほどの才能の持ち主である上に、『努力は嫌いだぜ』と言いつつもその裏では地道な修業を続けて来た事で其の実力はリベールで五本の指に入る程になっているのだからユリアを圧倒しても何ら不思議ではないのだ。ユリアはリベールで十本の指に入る実力者で、京は五本の指に入る実力者、それだけの差だったのだ。

 

京とユリアのバトル以外では、一夏&刀奈のタッグとレオナ&アルーシェのタッグの模擬戦も行われており、連携で勝る一夏・刀奈タッグが押し気味だったのだが、終盤でレオナがオロチの血を覚醒させた事で状況が一変し刀奈をリボルスパークで戦闘不能にすると、間髪入れずに一夏にグランドセイバーで斬り込んでグライディングバスターに繋ぐと、其処からブイスラッシャーを叩き込んでターンエンド!

一夏もブイスラッシャーに対して神龍拳を放ったのだが、僅かに打ち負けたと言う事なのだろう。

因みにヴィヴィオはヴィシュヌとスパーリングをして、新たにタイガーキャノンとタイガーレイドを習得していた。

 

 

「……取り敢えず、親衛隊の訓練は問題ないようだな。」

 

「そうみたいですね。」

 

 

親衛隊の訓練を視察したなのはとクローゼはグランセル城に戻って通常業務に復帰して各種書類の処理をする事になった……その書類の多くは、デュナンが溜めに溜めたモノであるのでマダマダ残っているのだがなのはとクローゼは其れをマッハで処理して行ったのだった。

マッハで処理してもマダマダ書類があると言うのはドレだけデュナンが無能な王であったかの証とも言えるだろう……もしもなのはとクローゼがデュナンを討ち倒していなかったらリベールは数年のうちに滅んでいたのかも知れないだろう。

 

その後は夕食を楽しみ、なのはとクローゼとヴィヴィオは城内に新たに設置された大浴場でお風呂を楽しんだ後に寝間着に着替えて夫々の部屋で眠りに就いた筈だったのだが……

 

 

「クローゼ?其れにヴィヴィオも?」

 

「ふふ、来ちゃいました。」

 

「今日は皆で一緒に寝よう、なのはママ。」

 

 

なのはの寝室にはクローゼとヴィヴィオが居た。

此れにはなのはも驚き、慌てて防護服を解除するのを止めた……流石に娘の前でイキナリ一糸纏わぬ姿になると言うのは憚られたようだ。尤も、慌てて解除を停止した影響で色が黒から白に変わると言う珍事が起こってしまったが。

 

 

「皆で一緒に寝ようって言われても、大人三人で寝るには幾ら何でもベッドが小さい……と思ったら、何時の間に私の寝室のベッドは超キングサイズになったのだ?」

 

「今日は皆で一緒に寝たいからって、なのはママが来る前にお城の人に変えて貰ったの♪」

 

「……其れ以前に、こんなベッド城にあったか?」

 

「分解された状態で宝物庫に仕舞われていたみたいで……如何やら叔父様が購入した様なのですが、結局使う事なく宝物庫にと言う事らしくて、ですが物は良いので使わないのも勿体ないので使ってしまおうかと。」

 

「成程……そして今まであった私のベッドは反対側に移動されたと言う訳か。」

 

 

デュナンが買うだけ買って一度も使わなかった超キングサイズのベッドもなのはの寝室にセットされているので、此れならばなのはとクローゼとヴィヴィオの三人が一緒に寝る事も可能だろう。

 

 

「一緒に寝るのは構わないが如何したんだヴィヴィオ?これまで別々だったのに……何か怖い事でもあったか?」

 

「う……なのはママ鋭い。

 実はね、親衛隊の訓練に参加してる時に、リベールに伝わる都市伝説を聞いちゃって……中にはホラー系の話もあったから、ちょっと怖くなっちゃった……」

 

「リベールの都市伝説……クローゼ、お前知ってるか?」

 

「噂程度ですが、ジェニス王立学園には旧校舎からしか入れない地下空間があって、其処には太古の巨大な機械兵士が眠っているとか、ミストヴァルトの最奥の場所には稀に二体の使い魔を連れた可成り際どい服装の女性が現れて、その女性と出会うと幸せな夢に引きずり込まれて眠ったままになるとか、ルーアンの夜空には時々白い人影が現れるとか、ジェニス王立学園に通じる街道には時々非常に凶暴なパンダが現れるとか、ツァイスの遊撃士協会の受け付けの女性は未来予知能力を持っているとか、ロレントでは満月の度に『キョォォォォォ!』と言う謎の雄叫びが聞こえるとか……」

 

「最後のは絶対八神庵だろ。」

 

 

ヴィヴィオが一緒に寝たいと言ったのは、昼間の訓練時にリベールの都市伝説を聞いてしまい、その中にはホラーめいた内容もあってすっかり怖くなってしまったからであった……肉体的には十六、七ではあるが精神的には十歳前後なので此れも致し方ない事だろう。

 

 

「ルーアンの夜空に現れる白い人影も怖かったんだけど一番怖かったのは、『グランアリーナの亡霊』って言う話だよ~~!

 新月の夜になるとグランアリーナには此の世に未練を残して死んだ武道家の亡霊が現れ、グランアリーナの近くを通った者に戦いを仕掛け、戦いを仕掛けられた者は精神を病んで廃人になるか、狂ったように戦いを求めて彷徨うようになるとか怖すぎるよ~~~!!」

 

「……其れは、確かに怖いな。何故その様な都市伝説が出来たのかが気になるが。」

 

「私が生まれる前の話だったと思いますが、恒例行事である武術大会で参加者が試合中に命を落とす事故があったみたいなんです……リベール国外からの参加者だった筈ですが、腕試しで参加した大会で命を落とす事になるとはさぞ無念だった事でしょう。

 その方の事が、何時しかこんな都市伝説を生んでしまったのかもしれませんね。」

 

 

都市伝説の裏側には、その都市伝説が生まれた切っ掛けがあるモノだが、この恐怖の都市伝説も確りと裏が存在していた……その起源を知ったところで恐怖が和らぐと言うモノでもないのだろうが。

 

 

「こんな話を聞いてしまっては怖くなって一人で眠れなくなるのも無理はないか……分かったヴィヴィオ、今夜は私とクローゼが一緒に寝てやる。お前の両脇に私とクローゼが居れば怖くないだろう?」

 

「貴女の事は、私となのはさんが守ってあげます。何があっても絶対に……だから大丈夫ですよヴィヴィオ。」

 

「うん。」

 

 

ヴィヴィオを安心させるようになのはとクローゼはそう言うと、なのはは防護服を寝間着に再構成してベッドに……三人で一緒に寝る時に何も着ていないと言うのは流石に拙いと思ったのだろう。

そしてヴィヴィオを挟み込む形でベッドに入ったのだが、ヴィヴィオはなのはに『何か面白い話をして』と言い、なのはは少し考えた末に、『ある所に一匹の猫が居ました。その猫は頭が白いだけでなく身体も白く、手足も白い猫でした。そして其の猫は長くて立派な尾を持っていたのですがその立派な尾も白かったのです。全身真っ白で尾も白い猫。以上、尾も白い話でした。』とまさかのボケ倒しを行い、其れが逆にクローゼとヴィヴィオにはウケていた。

その後クローゼがリベールに伝わる昔話を話したり、なのはが幼い頃に桃子から聞いた御伽噺を話している内にヴィヴィオは眠くなったのかウトウトし始め、やがて寝息を立て始めた。

 

 

「眠ったか……」

 

「そうみたいですね……」

 

 

ヴィヴィオが眠った事を確認したなのはとクローゼは其の頬にキスを落とすと、ヴィヴィオを守るかのように寄り添って眠りに就くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、なたねとネロは再びロレント郊外にあるブライト家を訪れていた。

以前に訪れた時には外出していて不在だったレナとレンも居り、カシウスから改めて紹介され、なたねとネロも挨拶をした……のは良いとして、同じ頃に京もブライト家を訪れていたのだが、今日訪れていたのは京一人ではなく三人のクローン京も一緒だったのだ。

 

 

「草薙京、貴方は四つ子だったのですか?」

 

「いや、コイツ等は俺のクローン。

 紺の服来てるのがクローン一号で、茶色の服がクローン二号、一際肌が黒くて目が紅くて黒い服なのがクローン三号。完成度としては三号が最も高いんだが、完成度の高さと引き換えに性格面だけじゃなくて何故か声まで俺とは別人になってんだよな。」

 

「其れはとても興味深い案件ですね。」

 

 

略完璧にクローニングしたと思ったら外見以外は別人になってしまったと言うのは中々に謎だが、逆に言うならば完全なクローン人間を作り出すのは簡単な事ではないと言う事なのだろう。

 

 

「己のクローンを受け入れてるって時点でお前さんも大したモンだともうがな京。

 其れは其れとして、また俺の所に来たと言う事は、リベールを回ってみて何か得るモノがあったかな?」

 

「はい……少なくとも、全ての人間が魔族を忌み嫌い排除しようと考えている訳ではないと言う事が分かり、同時に魔族を忌み嫌わずに排除しようとしない人間にまで復讐の刃を振り下ろすのは違うのではないかと、正統な復讐と言うのは無差別なモノでは無いのではないか、そう考えるようになりました。

 ですが、だからと言って私の復讐心が無くなったかと聞かれればそれは否です……だからこそ悩んでいます。カシウス・ブライト、私は一体如何すれば良いのでしょうか?其れが分からなくなってしまったのです。」

 

「なに、悩む事はないだろ?

 正統な復讐が無差別なモノでは無いと考えられるようになったってんなら、真に復讐すべき相手にだけ復讐をすればいいだけの話だからな……そして、お前さん達の復讐すべき相手は陛下と同じくライトロードだけである筈だ。

 ならばライトロードへの正統な復讐を果たして、その後は好きに生きれば良いんじゃないか?少なくとも、俺はそう思うぞ?」

 

「……確かにその通りであるのかもしれません……その意見参考にさせて頂きますカシウス・ブライト――リベールを一周して改めて会って、なのはが何故『ロレントを訪れる事が有ったらカシウス・ブライトに会っておくと良い』と言ったのかが理解出来ました。」

 

「ソイツは俺もだ……アンタの言う事は深いなカシウス。」

 

 

京のクローンは兎も角として、リベールを回って全ての人間が魔族を忌み嫌って排除しようとしている訳ではないと言う事を知ったなたねとネロだったが、だからこそ復讐すべき真の相手は誰なのかと悩む事になったのだが、其処はカシウスが改めて復讐すべき相手は誰であるのかを提示した事で、真に復讐すべき相手は誰であるのかをなたねもネロも思い出し、その瞳には純粋な復讐の炎が宿るのだった。

濁りの晴れた目に宿った真の復讐の炎ならば、復讐すべき相手を見誤る事もないだろう……今この時をもって、なたねとネロは真の復讐者となったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、リベールの空を巡回していたアシェルとジークはリベールに近付いて来る一団を発見していた。

その一団は全員が白い衣を纏い、複数の使い魔的な獣を従えていた……リベールの近郊にライトロードの一団が姿を現したのである――其れも、只姿を現しただけでなく数万と言う凄まじい軍勢でだ。

 

 

『グル……グルル……』

 

『ピュイ!ピューイ!!』

 

 

ライトロードの一団の前にアシェルが立ち塞がると、ジークは城に向けて飛び立ち、リベールの守護を司る龍の一体がライトロードと対峙する事に……そしてアシェルは挨拶変わりだと言わんばかりに必殺技である滅びのバーストストリームを放ってライトロードの軍勢を攻撃し、進行を阻止しようとする。

 

 

『グルルゥ……!』

 

『グオォォォォォォォォォォォォ……!』

 

 

更に其処にヴァリアスとバハムートも現れ、リベールの守護竜三体がライトロードと対峙する事に――だが、それは同時にリベールとライトロードの戦いの火蓋が切って落とされたと言う事でもある。

そしてこの戦いは、なのはとなたねにとっては過去の清算となる大きな戦いでもあるので絶対に負ける事は出来ないだろう。

 

なのはとなたねにとっては十年越しの復讐が遂に始まった、そう言っても間違いではないだろう――何れにしてもリベールとライトロードの戦いが始まり、リベール全土が戦場と化すのであった――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter38『リベールに向けられたライトロードの凶刃』

ライトロード……来たか!Byなのは      なのはさんの仇敵ですね……!Byクローゼ


王室親衛隊の早朝訓練を視察したなのはとクローゼは、訓練を終えたユリアと共にグランセル城の空中庭園で少しばかり遅めの朝食――朝食と昼食の中間であるブランチタイムの真っ最中だ。

ガーデンテーブルの上には、ローストビーフのサンドウィッチとエスプレッソと言う王室のブランチの定番メニューが配膳されている。

ユリアは最初は同席するのを遠慮したのだが、クローゼから『偶には昔みたいに一緒にと言うのも良いじゃないですか?』と言われ、なのはからも『親衛隊隊長ともっと親しくなりたいのだがダメか?』と言われ、『そう言う事でしたら』と共にブランチタイムを過ごす事にしたのだ。

 

 

「このローストビーフのサンドウィッチは、ローストビーフの見事なロゼの焼き具合に加えて歯応えの良い新鮮なレタスと、刺激的な辛みのタレが良い感じだな?」

 

「このタレは、東方から輸入した『山ワサビ』と言う香辛料を使っているらしいです……このツンと来る辛味はクセになりそうです。」

 

「ホースラディッシュのもっと香りと刺激の強いモノと言った感じでしょうか?ローストビーフだけでなく、スモークした魚にも良く合うのではないかと。」

 

 

なのはとクローゼとユリアはブランチを楽しんでいたのだが――

 

 

『ピューイ!』

 

「ジーク、如何した?随分と慌てているみたいだが……何かあったか?」

 

 

其処にジークが物凄い速度で飛んで来ると、ユリアの頭上を旋回しながら何かを伝えようと激しく鳴き立てる……只事ではないのは間違いないだろうが、其れを聞いたユリアの表情が険しいモノに変わって行く。余程の事が起きたのだろう。

 

 

「如何したユリア?」

 

「ジークは何て言ってました?誰かがリベールに近付いていると言う事は私に分かったのですが……」

 

「クローゼ、其れは合っていますが……陛下、ジークがアシェルと空を巡回していた所、数万の軍勢がリベールに向かって来ている場面に遭遇したようです!

 アシェルは其の軍勢を食い止める為にその場に残り、ジークは急いで伝えに来たとの事!其の軍勢は複数の使い魔やドラゴンを引き連れ、白に金色の装飾が施された衣や鎧を纏っている様です!」

 

「白に金色の装飾……ライトロードか!!」

 

 

ユリアから詳細を聞いたなのはは、其の軍勢が即座にライトロードの一団である事を看破した――十年前に父と姉を惨たらしく殺した仇敵の特徴は嫌でも覚えていたと言う事なのだろう。

 

 

「遂にやって来たか……ユリア、親衛隊を王都の防衛に就かせろ!

 そしてハーケン門とレイストン要塞に連絡を入れ、レイストン要塞の部隊はツァイスとルーアンの、ハーケン門の部隊はボースとロレント……いや、ハーケン門の部隊は全てボースに回せ。」

 

「なのはさん、ロレントには回さなくて良いのですか?」

 

「ブライト家に草薙家、八神家に加えてヨシュアにシェラザード、BLAZE……正直なところロレントが大分戦力豊富だと思ってな?もっと言うなら、カシウス一人で大概如何にかなるんじゃないかと思ってる私が居る。」

 

「カシウスさんは、確かに。」

 

「其れは否定出来ません陛下。

 其れは其れとして、了解いたしました!各方面にその様に連絡し、遊撃士協会にも連絡を入れておきます。」

 

「頼んだぞ。其れからジーク、お前は現場に戻ってアシェルに私達と合流するように伝えてくれ。

 アシェルが奮闘しても相手の数が数だけにリベールに入るのを止める事は不可能だろう……国内への侵攻は致し方ないが、都市への侵攻はさせん!全て街道や関所で食い止め、国民の生活の場は侵させん!」

 

『ピューイ!!』

 

 

なのはは素早く指示を出すとレイジングハートの通信機能を起動して、なたねに連絡を取ってライトロードがリベールに攻めて来た事を伝え、其れを聞いたなたねもネロと共にライトロードとの戦いに備えて出撃――なたねとネロがロレントに居たのは偶然だが、ロレントの戦力がより厚くなったのは間違いないだろう。

そしてなのはは白と黒の翼を、クローゼは純白の翼を夫々展開するとグランセル城から飛び立つ。

本来ならば王であるなのはと、そのパートナーであるクローゼは王城で指示を出すのが普通なのだが、なのはもクローゼも国が攻められたその時に、自分が後方で指示だけ出して戦場に赴かないと言う選択肢はなかった様だ。

 

軍の動きも遊撃士の動きも迅速であっと言う間にリベールの防衛線は完成し、ライトロードを迎え撃つ準備は万端となったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter38

『リベールに向けられたライトロードの凶刃』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴァリアス、アシェル、バハムートの三体のドラゴンはジークからの伝令を受けて王都の防衛の為に下がったのだが、其れを見たライトロードの軍勢は部隊を散開させてリベール各地に向けて侵攻を開始した。

但し各地に均等に戦力を割り振ったのではなく、王都を攻める部隊に多くの戦力を集中させている――リベールを滅ぼすのは勿論だが、リベールの王で魔族の血を引くなのはの事を確実に抹殺しようと言う意図が見て取れる編成であると言えるだろう。

 

 

「見えた!先手必勝だ、行くぞクローゼ!」

 

「開幕の花火は派手に、ですね!」

 

 

エルベ離宮の上空まで来たところでライトロードの一団を目視したなのはとクローゼは挨拶変わりに直射砲と最上級のアーツをライトロードの軍勢に放つ……だけでなく親衛隊の隊員も飛べる者は空から、飛べない者は地上からの攻撃を行ってライトロードを此れ以上先に進ませんとする。

 

行き成り凄まじい攻撃に晒されたライトロードだったが、其れはライトロードの魔導師であるライラが防御魔法を使って阻止し、部隊は無傷だった。

 

 

「流石に此の程度では倒せんか……十年振りだなライトロードの面々よ?

 十年前に討ち漏らした不破士郎の娘を殺す為に態々これだけの軍勢で、良くリベールまで来たモノだが……私もお前達がやって来るのを待っていたよ。

 お前達がリベールに侵攻して来てくれれば、此方には国を守ると言う大義名分が手に入る故、お前達と戦うのは国を守る為の正統な手段となるからな……下賤な魔族を討ちに来たのだろうが、纏めて返り討ちにしてくれる!」

 

「リベールを貴方達の好きにはさせません……此処から先には進ませません、絶対に!!」

 

「ママ達の敵は私の敵!全員纏めてやっつけてやる!!」

 

 

だが此れも先ずは小手調べであり本番は此れからだ。

 

 

「不破士郎の娘……十年前は討ち漏らしたが、今度はそうは行かんぞ?確実に殺してやる。喜べ、貴様を父と姉の元に送ってやる!」

 

「確実に殺してやるか……やってみろ、出来るモノならばな。

 十年前の私は貴様等から逃げる事しか出来なかった小娘だったが、今の私は頼れる仲間を得て私自身も強くなった……そして何よりも、私はリベールの王だ!ならばリベールを滅ぼさんとする貴様等を見過ごす理由は何処にも無い。

 貴様等こそ、あの世で父と姉に詫びるが良い!」

 

 

なのははヴァリアスを、クローゼはアシェルを、ヴィヴィオはバハムートを従えてライトロードの軍勢と対峙し、親衛隊の『鬼の子供達』は気を開放し、レオナはオロチの力を覚醒させる。

更に稼津斗も駆け付けて殺意の波動を解放し『鬼』となる……王都防衛戦は可成り激しいモノになるのは間違いないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

王都グランセルだけでなく、ライトロードの軍勢はリベール各地に攻め入ったのだが、ユリアから連絡を受けた王都の遊撃士協会のエルナンが即時各地の遊撃士協会支部に連絡を入れ、軍が到着前に各地ではライトロード迎撃の準備が整いつつあった。

その各地の様子を見て行こう。

 

 

 

・ロレント

 

 

ロレントでは、郊外にあるブライト家を前線基地にしてブライト三姉妹、京と京のクローン三人、八神兄妹、ヨシュアと実にタイミングよくカリンに会いに来たレオンハルト、BLAZEのメンバーにシェラザード、そしてシェラザードの夫にして元エレボニア帝国の王族であるオリビエ、ブライト家を訪れていたなたねにネロが集合していた。

 

 

「まさか俺達の家がロレントの前線基地になるとは思わなかったが……なんにしても、ロレントの町にライトロードの軍勢を侵攻させる事は出来ん。

 此の家が最終防衛ラインだ!絶対に突破させるなよ!」

 

「モチのロンよ!ロレントの皆には絶対に手出しさせないんだから!!」

 

「ロレントだけじゃない……此の国を、リベール全体を守る為の戦いでもあるんだ。絶対に負けられないよエステル。」

 

「ふん……ようはライトロードの連中を全て焼き尽くせば良いだけの事だろう?」

 

「今回ばかりは八神の意見に賛成だ……癪だけどな。お前等も、だろ?」

 

「当然だろオリジナル?」

 

「同じく二号。」

 

「同じく三号!俺の拳が真っ赤に燃える!!」

 

「あらあら、京と庵の意見が一致するなんて珍しい事もあるモノね?

 此れは雨どころか槍が降って、私達が迎撃する前にライトロードは全滅しちゃうんじゃないかしら?レンとしては、遊星に作って貰った秘密兵器を使ってみたいからそうならないで欲しいんだけど♪」

 

「レン、お前遊星に何を作って貰ったんだ?」

 

「其れは秘密よアインス♪」

 

「正義を騙る軍勢か……正義とは己の中にあるモノであり定義出来るものではないが、その正義を振りかざして平和に暮らしている人々に害をなすと言うのは見過ごせん。

 カリンとヨシュアの故郷を滅ぼさせる訳にもいかんからな……『剣帝』と言われるまでになった俺の剣で独善的な正義とやらを斬るとするか。」

 

「ライトロードだかナイトロードだか知らんが、王たるの此の我に牙を剥くとは良い度胸よ!

 まして我が臣下に手を下すと言うのであれば尚の事見過ごせん!貴様等の正義など、我の闇で打ち砕いてくれるわぁ!!」

 

「此の国の王様はなのはちゃんやろってのは言ったらアカンのやろうね……てか、真価言うても近所の子供達やん?兄やんも姉やんもなんで揃って中二病拗らせとるんやろか……?」

 

「無差別の殺戮とは何とも美しくない事この上にない……いや、其れ以前に宣戦布告も無しに戦いを仕掛けて来るとは無礼千万極まりないと思わないかいシェラ君?

 って言うか、戦いの前だって言うのに何で飲んでるのかな君は?」

 

「此の程度戦い前の景気付けよ!其れに、素面よりも適度に酒が入って居た方が強いのよ私は?」

 

「俺達が負けちまったらロレントは壊滅しちまう……此の戦いは絶対に負けられねぇ!気合入れろよお前等!!」

 

「「「「「「おーーーーー!!」」」」」」

 

「ライトロード……復讐すべき相手の方から態々やって来てくれるとは好都合です。この十年で鍛えた焼滅の力、其れを味わって頂きましょう。」

 

「取り敢えず、纏めてぶっ潰す。そんだけだぜ!」

 

 

なのはの言った通り、恐らくロレントはリベール五大都市の中でも軍や遊撃士以外の戦力が最も充実している場所であり、遊撃士に関してもエステル、ヨシュア、シェラザードとA級遊撃士が三人もいるだけでなく、カシウスはS級遊撃士なのだ。

更に京と庵とアインスとレンとレオンハルトはS級とまでとは行かずともA級の遊撃士以上の力があり、BLAZEのメンバーもまたA級遊撃士に匹敵する実力の持ち主なのだ――唯一オリビエだけは実力が良く分からないが、この場に居ると言う事は其れなりに実力はあるのだろう。

そして、リベールを回って良い方向に変わり始めたなたねとネロの力は、以前になのはと戦った時とは比べ物にならない者になっているのは間違いないのだ。

 

 

「草薙さん来ました奴等です!ミストヴァルトの近くまで来てるみたいっす!」

 

「偵察ご苦労真吾!ミストヴァルトの近くまで来てるか……当然速攻出るだろカシウスさん?」

 

「勿論だ!全軍出撃!ライトロードの軍勢を一人たりともロレントの町に入れるなよ!!」

 

 

其処に偵察に出ていた真吾が戻って来て、ライトロードの軍勢がミストヴァルト付近にまで迫っている事を伝えると、カシウスは即出撃を決断し、ロレントの防衛部隊はミストヴァルトの入り口にてライトロードを迎え撃つべく出撃して行った。

 

 

 

 

・ボース

 

 

ボース地方では、ハーケン門から派遣された部隊がヴァレリア湖付近と琥珀の塔付近に部隊を展開し、アガットは琥珀の塔付近に展開された部隊と合流していたのだが、此処で嬉しい誤算があった。

 

 

「まさか、テメェ等が加勢してくれるとはな?」

 

「新しい王様には好待遇での契約を結んで貰ってるからね?その雇い主の国攻められたって言うなら僕達だって黙ってられないじゃん?リベールが滅んじゃったら僕達だって喰いっ逸れちゃうんだしさ。」

 

「ガッハッハ、そう言うこった!

 其れに俺たちゃ、運送会社を始める前は空賊なんて事をやってたから荒事にゃ慣れてるからな!ドンパチやるなら任せとけってんだ!!」

 

「ま、足手纏いにならない程度には頑張らせて貰うさ。」

 

 

其れは、カプア兄妹率いる『ヤマネコ運送』の面々が助っ人として駆け付けてくれた事だ。

運送会社の面々に何が出来ると思うかも知れないが、『ヤマネコ運送』の面々は嘗てリベール中で強盗を繰り返した空賊団なのである――エステルとヨシュアのコンビにとっちめられた後は軍の牢屋に送られたのだが、アリシア前女王の温情によって『空賊活動で培った力を人々の為に生かす事』を条件に釈放され、その恩に報いるべく運送会社を立ち上げて今に至る訳だ。

デュナンが王になってからは冷遇されていたが、なのはが王になってからはアリシア女王時代と同等かそれ以上の好待遇で国内外での輸送の契約を結んで貰ったので、なのはにも恩があり、その恩を返す為にもライトロードとの戦いに参加しないと言う選択肢はなかったのだろう。

……リベールがライトロードの襲撃を受けた事を知ったのが無線の傍受をしていた結果だったと言うのが今一微妙な所ではあるが。

 

 

「ハッ!理由なんだこの際どうでもいい!味方は多いに越した事はねぇからな……正義の使者だか何だか知らねぇが、リベールに仇なすってんなら容赦はしねぇ!」

 

 

瞬間、アガットの闘気が爆発し手にした重剣に炎が宿る……取り敢えずボース地方も迎撃態勢は充分であると言えるだろう。

 

 

 

 

・ルーアン

 

 

ルーアン地方では、マノリア街道と紺碧の塔付近にレイストン要塞の部隊が展開していた。

 

 

「人間同士の争いには基本的に手は出さないんだが……此の国の住人に被害が出るかも知れないってんなら話は別だ。報酬も悪くねぇし、一暴れさせて貰うぜ。」

 

「アンタが味方なら百人力だねダンテ?」

 

「ソイツは嬉しい言葉だな?

 如何だいカルナ嬢ちゃん、戦いが終わったら漁師酒場で一杯やらないか?」

 

「アンタの奢りで良ければ考えとくよ。」

 

 

紺碧の塔付近の部隊には遊撃士のカルナと便利屋のダンテが合流していた……カルナはA級の遊撃士だが、ダンテは遊撃士のレベルで言えばカシウスすら凌ぐレベルのSS級と言っても過言ではないので、戦闘に参加してくれるのは有り難い事だろう。

 

 

「テレサ先生、貴女は子供達と共に地下室に避難していたまえ。」

 

「ルガールさん……はい、分かりました!」

 

「テレサ先生は俺が絶対に守るから……だから、ルガールオジサンも負けないでくれよ!」

 

「うむ、約束しようクラム!このルガール、復活が趣味故、例え死んでも即復活するたびに強くなるので事実上倒せない相手は居ないと言える!ライトロード、お手並み拝見と行こうか!」

 

 

マーシア孤児院では、すっかりここがお気に入りになっていたルガールがテレサと子供達を地下に避難させた上でマノリア街道まで移動してからオロチの暗黒パワーを解放してライトロードを呼び寄せていた……闇の力其の物であるオロチの力を開放すれば、ライトロードが向かって来るのは間違いないのだから。

 

 

そしてジェニス王立学園では……

 

 

「雪女さん、何処に行かれるのですか?学園の生徒には旧校舎地下への避難が出ている筈ですが……」

 

「あぁ?下らねぇ事言ってんじゃねぇマユ!ライトロードのクソッタレどもをブッ飛ばしに行くに決まってんだろ!リベールを攻撃するとは良い度胸じゃねぇか……アタシが纏めてブッ飛ばしてやんぜオラァ!!」

 

「其れは凄いですね、パチパチパチ~~。」

 

「……ライトロードの前にお前をブッ飛ばして良いかマユ?」

 

「ブッ飛ばされたら痛そうなのでダメです。」

 

 

『雪女』と呼ばれた、学園一の札付きの不良である銀髪の少女が、背中の凶器入れから不良が装備出来る最強の武器である金属バットを取り出して戦闘準備を完了していた。

ルーアン地方も、迎撃準備は万端であると言えるだろう。

 

 

 

 

・ツァイス

 

 

ツァイス地方では、ツァイス周囲とエルモ村付近、そして紅蓮の塔付近にレイストン要塞から派遣された部隊が展開していた。

 

 

「ジンはエルモ村の部隊に合流してくれるかしら?

 ティータさんとレーシャさんは紅蓮の塔の部隊に合流して、遊星と遊里はツァイスの防衛に回ってくれる?」

 

 

更にツァイスの遊撃士協会支部の受付であるキリカが適切な指示を出して戦力を分配していく――ジンはカルバートの遊撃士なのだが、其の実力は折り紙付きで、キリカとは同門だったので偶々訪れていたリベールで遭遇した事態に対応しないと言う選択肢はなかったのだろう。

 

 

「ツァイスの防衛は問題ない。スターダストにヴィクティムサンクチュアリを使わせて防護結界を張ったからな。」

 

「でもって、其れだけじゃなくて『闇の呪縛』、『デモンズ・チェーン』、『六芒星の呪縛』のカードを結界に仕込んでいたから、ツァイスの攻撃した瞬間にライトロードは一網打尽よ!」

 

 

そして遊星と遊里も抜かりなく、ツァイス市街に鉄壁の防御を展開していた。

スターダスト・ドラゴンの『ヴィクティムサンクチュアリ』によって展開された防護結界は並大抵の攻撃ではビクともしないだけでなく、其処に更に遊里が最強クラスの罠を仕込んでいるのだから早々突破される事はないだろう。

 

 

「行くよ!銀河眼の光子竜!」

 

『ゴォォォォォォォォォォォォ!!』

銀河眼の光子竜:ATK3000

 

 

「オーバルギア、起動!」

 

 

レーシャは自信の精霊である銀河眼の光子竜を召喚し、ティータもオーバルギアを起動して迎撃準備は万端だ!――特にレーシャの銀河眼の光子竜は、クローゼが使役するアシェルに匹敵する力があるので侮れる存在ではないだろう。

 

そして――

 

 

「貴様等の独善的な正義で此れ以上罪なき人が犠牲になるのを見過ごす事は出来ん……だから、貴様等は今此処で滅する!……覚悟は良いな?尤も、覚悟が出来てるかどうかなんて事は、如何でも良い事だがな!

 父と姉の仇……それを今こそ討つ!ライトロード、貴様等は絶版だ!」

 

 

ライトロードと対峙したなのはは、魔力を完全開放して神族の光の魔力と魔族の闇の魔力を融合して混沌の力を其の身に宿す……リベールvsライトロードの戦いは一筋縄では行かない事は間違いないだろう――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter39『激しい戦い~目覚める殺意と新たな鬼~』

ライトロードは全て光属性だから、遊星に『A・O・Jカタストル』を作って貰えば楽勝な件についてByなのは      其れは、確かにその通りですねByクローゼ


リベールに攻め入ったライトロードだったが、なのはの的確な指示によりリベールの五大都市には防衛線が張られ、ライトロードは都市部に侵攻する事が出来ずにいたのだが、ロレント周辺は其れがより顕著だった。

リベールの新たな王であり魔王の血を引くなのはを確実に討つために王都方面に戦力を集中させ地方都市への戦力は必要最低限のモノにしたのだが、其れはライトロードには悪手だったとしか言いようがないだろう。

 

 

「おぉぉぉぉ……喰らいやがれぇ!!」

 

「遊びは終わりだ!泣け!叫べ!そして死ねぇぇぇ!!」

 

「其方から来てくれるとは探す手間が省けました……焼滅の力、存分に味わって頂きましょう。」

 

「Ha!弾切れを気にせず撃てるってのは最高だな?いい仕事してるぜ遊星!」

 

 

ロレントには軍の援軍は来ていないのだが、それでも王都に匹敵するだけの戦力が備わっておりライトロードの軍勢をミストヴァルト付近から一歩も先に進ませては居なかったのだ。

此れに関してはライトロードがロレントの戦力を過小評価していた事も原因だろうが、同時にライトロードが知っているロレントの戦力は十年前のモノであるので致し方ないとも言えるだろう。

十年前のロレントの主戦力はカシウスと柴舟、そして庵の父親と駆け出しの遊撃士だったシェラザード程度であり、その戦力の一つである柴舟を自らの手駒にした事でロレントは可成り弱体化したと考えていたのだが、今のロレントは十年前には子供だった京に八神姉妹、エステルにアインス、ヨシュアにBLAZEのメンバーが大人になってロレントの新たな戦力となり、更にエステルが連れて来たレンに、ヨシュアの姉のカリンと恋仲のレオンハルトも其処に加わっており、今の戦力は十年前とは天と地ほどの差があるのだ。

加えてライトロードにとって誤算だったのはなたねとネロがロレントに居た事だろう。

互いにライトロードに家族を殺され、復讐を誓ったなたねとネロだったが、ロレントを回って行く中で復讐の真の意味に気付き、復讐の刃は本当に復讐すべき相手にのみ振り下ろすモノだと理解した事で本来の力を遺憾なく発揮出来ており、其の力でライトロードを圧倒していたのだ。

 

 

「お前、不破士郎の娘の片割れか!十年前には逃したが、まさか此処で相見えるとは……姉共々父の元に送ってくれる!」

 

「残念ですがまだ父上に会いに行く訳には行きません……貴方達に復讐を果たした後に私にもやりたい事が出来ましたので。

 そしてこの戦いは単純に私達の復讐の戦いと言う訳でなく、私とネロに『全ての人間が魔族を忌み嫌っている訳ではない』と言う事を教えてくれたリベールを守る為の戦いでもあります。

 此処から先には何があっても進ませません!」

 

「そう言うこった……来いよクズ共!」

 

 

なたねの目にはなのはと再会した時の濁りは消え去り、代わりに純粋な闘気の炎が宿り、ネロも纏う雰囲気がスパーダの血筋に相応しい威風堂々としたモノとなっている。

だが、ライトロードも退く事はなく、『ドラゴンを呼ぶ笛』で呼び出したドラゴン達も投入して前線を引き上げようとする――この場に行き成りドラゴンが現れたのは、召喚士であるルミナスの召喚術によるモノだろう。

 

 

「ドラゴンか……今日の晩飯はドラゴンのカツ丼で決まりだな!」

 

「志緒先輩、ドラゴンをぶっ倒すだけじゃなくて料理するんすか……つか、ドラゴンって食えるのか?」

 

「リベリオンに居た時に、珍味の『ドラゴンの燻製』ってのを食べた事があるんだけど、意外と美味しかったよ洸君。歯応えの強い鶏肉みたいな感じだった。」

 

「いや、食った事あったのか璃音!」

 

 

そのドラゴンも大した脅威ではないらしく、志緒に至っては倒すだけでなく料理して食べる心算のようだ……ドラゴンですら食材に過ぎないと言うのはあまりにも凄まじいとしか言えないが。

取り敢えず、ライトロードが最も戦力的に貧弱と考えていたロレントは実は王都並みに戦力が揃って居る場所であったのは間違いないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter39

『激しい戦い~目覚める殺意と新たな鬼~』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラゴンが投入されてもライトロードが前線を押し上げる事にはならず、ミストヴァルト付近での戦闘は激化していたのだが、優勢なのはロレント側だった――ロレントの戦力はバランス型が多い中に特化型が良い感じに混じっているので正に隙が無いのだ。

特化型の中では特に志緒が驚異的で、体力とパワーと頑丈さが飛びぬけており、多少被弾した所で其れが如何したと言わんばかりに重戦車の如く突撃して力任せの一撃でライトロードの軍勢をブッ飛ばしているのだ。

 

 

「ったく此の程度かよ?大した事ねぇなオイ。」

 

「ふん、正義を騙り暴力を振るう輩など所詮この程度に過ぎんか……雑魚が。」

 

「貴様、我等の揮う力が暴力だと!」

 

「魔族を始めとした闇の眷属だけを狩ると言うのならば未だしも、敵対の意思のない者にまで振り下ろされる誇りなき力を暴力と言わずになんと言えと?

 ……俺は暴力が嫌いだ。見知らぬ誰かが如何なろうと知った事ではないが、戦う力を持たぬ者、争う意思のない者、敵対の意思がない者に対して揮われる腐り切った暴力は見過ごせん。

 故に、俺の前で暴力を揮った輩には相応の報いを受けさせねば気が済まん。」

 

「八神にしちゃ真面な意見じゃねぇか?……そう言えばお前、野良猫とかにはめっちゃ優しいよな?前に野良の子ネコにミルクやってるの見た事あるし。本当の事を言えば、子ネコ殺して喰うんじゃないかと思ったんだがな。」

 

「ネコは食うと呪われると言われるだろう?呪われたのはオロチの血だけで充分だ。」

 

 

更に庵はライトロードの行為を『暴力』と切り捨てる。

確かに、全く無関係の者にまで振り下ろされる力は暴力以外の何物でもないだろう。

 

 

「草薙京……お前が草薙家の現当主か。

 其の力は流石だと言っておこう……だが、コイツを前にしても其の力を奮う事が出来るかな?」

 

 

ドラゴンの力をもってしても前線を押し上げる事が出来なかったライトロードは、此処で新たなる戦力を投入して来た――エイリンが打ち倒して洗脳して手駒とした柴舟を投入して来たのだ。

服の形状は変わってないが、暗緑だった服は全体が白くなり、襟や袖口は金色になってライトロードのカラーリングになっている。

 

 

「親父?」

 

「洗脳し我等ライトロードの手駒となったのだソイツは……果たして、実の父親を殴れるかな?」

 

「殴れるけど?」

 

 

その柴舟を……京は迷わずにブッ飛ばした。いっそ清々しいまでにぶっ飛ばした。

 

 

「いやもう全然平気。」

 

 

ぶっ飛ばした後は、琴月 陽で追撃すると、奈落落とし→八拾八式→荒咬み→六槌→轢鉄→R.E.D.KicK→七拾五式・改→百八拾弐式のコンボを叩き込む!其処に一切の容赦も手加減も存在していない。

 

 

「また居なくなったと思ったら、ライトロードに洗脳されて手駒にされてんじゃねぇぞクソ親父。

 其れでも草薙家の前当主様かってんだ……親父がこんなヘタレ野郎だったとは息子としては情けなさ過ぎて泣く事も出来ねぇぜ。」

 

「あぁ、痛い痛い!って、鬼かお前は!!」

 

 

殴られっぱなしだった柴舟だったが、此処でカウンターをかまして京を吹き飛ばし、其処から鬼焼きを繰り出して反撃の狼煙を上げたのだが――

 

 

「やるじゃねぇか親父……だがよ、何か気が付かねぇか?」

 

「何?……ん?ん~~~?き、京が四人になっているだとぉ!?」

 

 

此処で京が柴舟に己のクローン三体を認識させた事で柴舟は一気に混乱状態になってしまった――一人息子であった筈の京が、イキナリ四人に増えたとなれば混乱するなってのが無理ってモノだろう。

 

 

「親父、テメェが行方不明になってる間によ……」

 

「一人息子が四人に増えちまったぜ!」

 

「流石に驚いたか?」

 

「其れともビビっちまったかぁ、親父殿ぉ!!」

 

「なんじゃとぉ!?」

 

 

まさかの事態に、柴舟は混乱すら通り越して完全に色々と思考が打っ飛んでしまったのだが、そんな柴舟に手加減をする京達ではなく……

 

 

「此れで目を覚ませ親父!受けろ、此のブロウ!コイツで、決めるぜ!!」

 

「おぉぉぉぉ……喰らいやがれぇ!!」

 

「見せてやる、草薙の拳を!」

 

「俺の拳が真っ赤に燃える!」

 

 

京は百八拾弐式、京-1は大蛇薙、京-2は無式、KUSANAGIは千九百九十九式・霧焔を放って柴舟を派手に燃やしてターンエンド――実の父親に対してマッタク持って情け容赦ない攻撃だったが、その効果は絶大で柴舟はライトロードの洗脳から解き放たれたのだから。

 

 

「う……くぅ……京、ワシは……!」

 

「目が覚めたか馬鹿親父?ったくライトロードの三下なんぞにやられてんじゃねぇよ。」

 

「うぅむ、何も言い返せんが……目を覚まさせてくれた事には礼を言うぞ京。おかげで活き恥を晒さずに済んだわい……にしても、改めて正気を取り戻してみてみると、我が息子ながら同じ顔が四つも並ぶとちと不気味だな?」

 

「お袋はそんな事も言わずに秒で慣れちまったけどな……んで、如何すんだ親父?此のままライトロードに舐められたままじゃ終われねぇよな?」

 

「一発ブチかましてやるに決まってるよなぁ、親父殿ぉ!」

 

「そうだな……酒が入っていたとは言い訳にもならんが、不覚を取ったままでは武道家の名折れ!復活ついでに汚名返上するとするわい!」

 

 

そして柴舟の洗脳が解けた事で、ロレントの戦力は更に増強される事に。

京に当主の座を譲り一線を退いた柴舟ではあるが、今もまだ鍛錬は続けており、実力面では京に追い抜かれたとは言えまだまだ現役で通じるだけの実力があり、戦力としては申し分ないのである。

 

 

「小娘が、先日の礼をたっぷりとさせて貰うぞ?」

 

「洗脳が解けたか……だが、ならばまた私の前にひれ伏させるだけの事!」

 

 

柴舟は以前自分を倒したエイリンと交戦状態になったが、以前とは異なり互角以上の戦いを演じている――戦いとなって即素面になったとは言え、矢張り酒が入っている状態では動きが異なると言う事なのだろう。完全素面の今は動きのキレに雲泥の差があるのだから。

 

 

「雑魚共が群れやがって!」

 

 

他の面々もライトロードの進行を完全に食い止めて、寧ろ前線を押し上げてライトロードを後退させて行く……手にした重剣の一撃で数体のライトロードのメンバーをぶっ飛ばしてしまう志緒のパワーには恐れ入ってしまうが。

 

 

「京、ツープラトンで行こう!」

 

「アインス……ソイツは良いアイディアだな!遊びは終わりだ!俺からは逃げられねぇんだよ!」

 

「はぁぁぁ……ビックバンイレイザー!」

 

 

更に京の天叢雲とアインスの極大魔力砲のビックバンイレイザーのツープラトンが炸裂してライトロードの軍勢を容赦なく粉砕!玉砕!!大喝采!!!――ロレント地方に関しては一切の問題はないと言えるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、王都周辺はエルベ離宮を最終防衛ラインにして激しい戦いが繰り広げられていた。

ライトロードも王都に戦力を集中していたのだが、なのはもまた王都防衛の為に必要な戦力をこの場に集めていたので防衛ラインを突破される事はなかった――なのはが新たな王となった際に、王室親衛隊にはリベリオンのメンバーも加入しているのでアリシア女王時代よりも強化されているのだ。

何よりも王であるなのはと、そのパートナーであるクローゼも相応の戦闘力を備えていると言うのはアリシア女王時代にはなかった事だ――なのはは戦う王であり、クローゼも戦う姫騎士なのである。

王とそのパートナーが戦場に出て共に戦うと言うだけでも兵士達の士気は上がると言えるだろう。

 

 

「平和に暮らしてる人を殺そうとするとか、ふざけた事してんじゃねぇ!力ってのは、弱い者の為に揮うモンだろうが!力の意味を履き違えてんじゃねぇぞクソが!!」

 

 

そんな中で、喧嘩上等なシェンがその腕っぷしの強さを遺憾なく発揮してライトロードの軍勢を片っ端から殴り倒していた。

シェンは『本気で固めた俺の拳はダイヤモンドよりも硬い』と言っていたが、シェンの拳を喰らったライトロードの面々は例外なく顔面陥没しているので其れは決して誇張などではなかったのだろう。

尤も顔面陥没しても、直ぐに治療されてしまうのだが。

 

 

「えい!えい!とりゃぁぁぁ!」

 

 

ユーリもシェンに付いて来て戦闘に参加しているのだが、その攻撃方法が中々にエグかった。

距離が離れていれば拍翼から魔力砲やら魔力弾が次から次へと飛んで来て、逆に距離を詰めれば拍翼を剣や槍に変形させて応戦したり、巨大な腕となった拍翼でライトロードの軍勢を掴んで地面に何度も叩き付けてから地面にグリグリ擦り付けた後に魚拓の様に地面に張り付けているのだから。

更に嬉しい誤算として、この付近を住処にしている魔獣のうち、水属性、火属性、地属性、風属性の魔獣が霊使い四姉妹の力で一時的な戦力となってくれた事があるだろう。

『霊術』と呼ばれる術を得意とする彼女達だが、その『霊術』の中には『己と同じ属性の相手を一時的に操る』モノもあるらしく、その術を駆使して魔獣達を操りライトロードとの戦いに参加させているのだ。

勿論彼女達自身も自らの得意とする属性の精霊魔法で攻撃しながら、己の使い魔の力も開放し、ヒータは大稲荷火を、アウスはデーモン・リーパーを、ウィンはラセンリュウを使役し、そしてエリアは憑依覚醒の更に上位の精霊解放である『アドバンス召喚』によってギゴバイトを最上級のゴギガ・ガガギゴにしたのだが、現れたゴギガ・ガガギゴは飛行能力を得た時から更に其の姿が大きく変わっていた。

両肩に新たに追加されたショルダーアーマーには巨大なレーザーキャノン『ネオンレーザーブラスター』が搭載され、強化された腰部アーマーには折り畳み式のリニアランチャー『TM-1』が搭載され、新たに追加された両手の装甲には近接戦闘用レーザークロー『マキュラ』が追加されているのだ……不動兄妹が更なる魔改造を施したのは間違いないのだが、この改造によりゴギガ・ガガギゴは新たな上位精霊となったのも間違いないだろう。

 

 

 

ゴギガ・ガガギゴFA:ATK3550

 

 

 

この強化により、ゴギガ・ガガギゴは距離を選ばずに戦う事が出来る最強レベルの精霊となり、その攻撃力はアシェルとバハムートを超えるまでになっていた――不動兄妹がドラゴン用の専用装備を開発したらまた逆転するかもしれないが。

 

これ等の戦力に加えて、ライトロードにとって最も脅威だったのは矢張り十年前に自分達を壊滅寸前にまで追い込んだ稼津斗の存在だろう。

殺意の波動を覚醒させて放たれる滅殺の拳は十年前よりも更に強力になり、『拳を極めし者』の名に恥じないモノになっていただけでなく、全ての技が一撃必殺ならぬ一撃滅殺!稼津斗の攻撃は喰らう事其の物が死を意味するモノなのである。

そして稼津斗だけでなく、彼に育てられた鬼の子供達も相当に強かった。

 

 

「その顔の傷……お前、十年前のあの時、無謀にも我等に挑んで来た小僧か!!」

 

「あぁ、其の時のガキだよ俺は……あん時はカヅさんが目覚めてくれなきゃ死んでた弱い存在だったが、あれから十年、俺はカヅさんに鍛えられて強くなった――千冬姉達の仇、討たせて貰うぜ!!」

 

 

電刃錬気で雷を纏った一夏が雪片弐型に雷の気を纏わせて地面に突き刺せば無数の雷の龍が天から降り注ぎ、刀奈が指を鳴らすと同時に水蒸気爆発が起き、ロランは風の気で竜巻を発生させて攻撃し、ヴィシュヌは得意の古式ボクシングでライトロードの軍勢を各個撃破し、グリフィンは豪快極まりない打撃と関節技でライトロードを粉砕していた……グリフィンの相手を上空に放り投げてから落ちて来た相手を己の方で受け止めて背骨折を喰らわせてから投げ捨てる『スーパーバックブリーカー』は強烈其の物だった。此れを喰らった相手は強烈な背骨折を喰らった後で地面に叩き付けられたところにグリフィンの追撃のエルボーが飛んで来るのだから堪ったモノではないだろう。

しかもグリフィンの追撃のエルボーは喉や鳩尾、金的と言った鍛えても鍛えようのない場所に降ってくるのだから恐ろしい事この上ない……喉に喰らえば声を失い、鳩尾に喰らえば胃袋が破け、金的に喰らえば男としての選手生命断絶と言うのは相当な威力と言えるだろう。

 

 

「如何したライトロード、貴様等の力は此の程度か?

 魔王であった私の父を殺したのだ、まさかこの程度とは言うまい?私の父を殺したと言うのならばもっと其の力を見せろ!全力の貴様等を葬らなければ何の意味もないのだからな!」

 

「貴方達ではリベールを落とす事は出来ません……大人しく退く事をお勧めします。」

 

 

なのはの圧倒的な砲撃魔法と、クローゼの超上級アーツの破壊力も凄まじく、ライトロードの軍勢は即時治療が施されるとは言っても相当に追い込まれていた……其れほどまでにリベールの防衛線は強固で強力だったのだ。

 

 

「誰が、誰が退くモノかぁぁぁ!!」

 

 

だが、此処でライトロードの軍勢は召喚士であるルミナスを除いて全員がその身に新たに宿した殺意の波動を覚醒させて一気に其の力を底上げして来た……光の力に闇の力である殺意の波動を加えたライトロードは、カオスロードであると言っても良いだろう。

 

 

「(!?……なんだ今の感覚?全身が粟立つような……殺意の波動に恐れたって事じゃないよな?殺意の波動ならカヅさんで慣れてる訳だし……今のは一体?

  俺の中の何かが殺意の波動に反応したのか?)」

 

 

殺意の波動を開放したライトロードに対し、一夏は全身を駆け巡る奇妙な感覚を感じていた。

殺意の波動に恐れた訳ではないが、何とも表現し辛い感覚であり、同時に己の中の何かがライトロードの殺意の波動に反応したのではないかとも思っていた―が、其れは其れとして殺意の波動に目覚めた事でライトロードは其の力を大きく増したのは間違いないだろう。

 

 

「此の力、殺意の波動を宿したか……俺に壊滅状態にさせられた事で、俺と同じ力を其の身に宿すとは愚かな。

 俺とて殺意の波動を完全に己の力とするには、殺意の波動を宿してから三百年を必要としたのだ……僅か十年程度で殺意の波動を完全に己の力とする事など不可能よ……真なる滅殺の拳の前に散れ!!」

 

 

其れに対し、稼津斗も殺意の波動を完全開放して赤かった髪が金色に変化する――『豪鬼』の異名を持つ稼津斗だが、殺意の波動を完全開放したその姿は『真・豪鬼』と言っても良いだろう。

此れで稼津斗は殺意の波動に目覚めたライトロードをも圧倒するに至ったのだが、なのは達は此れで漸く互角になったと言った感じだった。

 

 

「セスから殺意の波動を宿したとは聞いていたが……正義を自称し、神族を絶対の存在としているライトロードが闇の力である殺意の波動に手を出すとは、十年前にハーメルで稼津斗に壊滅状態に追い込まれた事が効いていると見える。

 だが、使いこなせていない力で私を倒そうなどとは片腹痛い!簪、殺意の波動に目覚めたライトロードの最高戦闘力はドレ位だ?」

 

『殺意の波動に目覚めたライトロードの最高戦闘力は、ミカエルとミネルバの四十万だよなのはさん。』

 

「四十万か……可成り高い戦闘力であるのは間違いないが、お前達が倒さんとしている私の戦闘力を教えてやる。

 私の戦闘力は、五十三万だ!そして、遊星が開発してくれたカートリッジを使えば最大戦闘力は百五十九万まで上昇する……纏めて塵に帰してくれる!」

 

「リベールは、絶対に落とさせません!」

 

「なのはママとクローゼママの敵は私の敵!ライトロードは全員纏めてぶっ殺す!」

 

 

其れでもなのはは怯む事なく、クローゼもリベールを守る意志を再度固め、ヴィヴィオは若干物騒ではあるがライトロードを殲滅す気満々だ――実際にカートリッジを使ったなのはの魔砲とクローゼの属性混合最上級アーツ、ヴィヴィオの格闘と魔法と親衛隊の訓練で覚えた鬼の子供達の技は殺意の波動に目覚めたライトロードをも圧倒していたのだ。

そして其れはなのは達だけではなく、王室親衛隊のメンバーもだ。

ライトロードが殺意の波動に目覚めた事で互角になったとは言え、越えられたのでなければ幾らでも対処が可能であり前線が下がる事だけはなかった。

 

 

「ふっ!は!せいやぁ!電刃波動拳!」

 

 

その中でピカ一の活躍を見せていたのが一夏だった。

ライトロードの攻撃をブロッキングで捌くと、其処からジャブとアッパーのコンビネーションを叩き込み、更に雷光の踏み込みから強烈な横蹴りを喰らわせて電刃波動拳をブチかます!

一夏は稼津斗が最も目を掛けていた事もあり、鬼の子供達の中でもピカ一の実力の持ち主でもあるのだ。

そして一夏の持ち味は稼津斗仕込みの格闘技と気功波だけでなく刀を使った鋭い剣技も忘れてはいけない――生前の姉の剣技を見様見真似で鍛えた我流の剣技ではあるが、我流故に決まった型に嵌っていない為太刀筋が読み辛いと言う特徴もあるのだ。

何よりも厄介なのは魔法や気と言った『エネルギー体』を問答無用で無効化してしまう『零落白夜』だろう。如何に強力な魔法も気弾も、零落白夜の前には霧散してしまうのだから。

物理攻撃が主でない者では一夏にダメージを与える事すら難しいのだ。

 

勿論親衛隊隊長のユリアも隊長として部隊を指揮しながらも見事な剣技と王室親衛隊隊長に代々受け継がれて来た奥義を駆使してライトロードを押し返し、ヴァリアス、アシェル、バハムートの三体のドラゴンはライトロードが従えているドラゴンを圧倒!

戦局はリベール軍有利の状況だが、何が起きるか分からないのが戦場だ。

 

 

「高町なのは……正義の矢で貫かれるが良い!」

 

 

エルベ離宮付近の戦場から遥かに離れた場所にはライトロードの射手であるフェリスが陣取っており、戦場から目視出来ない場所からなのはに狙いを定め、殺意の波動の力を上乗せした混沌の力の宿った矢を放った。

この矢には『飛行魔法』と『ターゲットロック』の効果も付与しているので距離による威力の減衰も飛行力の減退もなく、確実にターゲットに到達するようになっているのだが、此処でフェリスも予想していない事態が起きた。

矢の射線上に刀奈が入って来たのだ。

如何にターゲットロックの効果を付与しているとは言え、射線上の障害物を避ける事は出来ないので、放たれた矢はそのまま刀奈に向かって行き……

 

 

――ドスゥ!!

 

 

「え?……あ、あれ……」

 

 

其の胸に突き刺さった。

不幸中の幸いか、矢が刺さったのは右胸だったので即死は免れたが致命傷レベルのダメージだった事は間違いないだろう――胸からは鮮血が溢れ、口からも血が流れ出ているのだから。

刀奈は糸が切れたマリネットの様に倒れ伏し、意識を失ってしまった。

 

 

「遠方から私を狙っていた?その射線上に刀奈が居たと言うのか?と言う事は刀奈は私の身代わりになってしまったと言う事か……クローゼ、刀奈に治癒アーツを!

 絶対に死なせるな!」

 

「分かっています!」

 

「コソコソとアウトレンジから狙うとは……私の仲間を傷付けた報いを受けろ!ハイペリオンスマッシャー!!」

 

 

倒れた刀奈に、なのははクローゼに治癒アーツを指示し、自身は矢が飛んで来た方向に向けて超火力の直射砲撃を放って射手であるフェリスを一撃で葬ったのだが、刀奈が貫かれて倒れたのを見た一夏はその光景に一瞬思考が停止し……

 

 

「(刀奈が討たれた?そんな、嘘だろ?……俺はまた守れないのか?カヅさんに鍛えて貰って、其れでも俺は愛する人を守る事すら守れないってのかよ……そんなのは嫌だ、俺はもう誰も失いたくない!)」

 

 

次の瞬間には『もう誰も失いたくない』と言う思いと共に『力への渇望』が溢れ出し……そして其れに呼応するかのように一夏の周囲に闇色のオーラが溢れ出した。

 

 

「ぐぅぅぅ……がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

そして獣の如き咆哮と同時に闇色のオーラが弾けたが、闇色のオーラから現れた一夏は殺意の波動を開放した時の稼津斗と同様に肌が浅黒く染まり、髪と目も紅くなっていた。

 

 

「我が名は一夏、殺意の波動に目覚めし者なり!ライトロード、我が怒りは貴様等の命を持ってしか静まる術を知らぬ!!滅殺!!」

 

 

稼津斗ですら気付いていなかった一夏の中に眠っていた殺意の波動が目覚め、稼津斗に続いて二人目となる『鬼』が降臨したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter40『殺意の波動の脅威~暴走する力~』

そんな訳で40話だByなのは      40話まで来ましたか……でも、まだまだこれからです。Byクローゼ


エルベ離宮周囲での戦いに於いてライトロードが殺意の波動を発動し、更にアウトレンジから射手がなのはを狙っていたのだが、突如として射線上に刀奈が入って来て、結果として刀奈はなのはの身代わりになって射手の矢に貫かれる事になった。

幸いにして貫かれたのは心臓のある左胸ではなく右胸だったので即死には至らず、クローゼが治癒アーツを使って回復させ、刀奈を貫いた射手はなのはのハイペリオンスマッシャーによって葬られたのだが、己の恋人の一人を貫かれた一夏はその光景に十年前の惨劇がフラッシュバックし、『もう誰も失いたくない。』、『力が欲しい』と願い……そして、其の願いに呼応する形で一夏の中に眠っていた力が目を覚ました。

 

 

「我こそ、拳を極めし者……ウヌらが心の臓、止めてくれる!」

 

 

其れは『鬼』と呼ばれ恐れられた、稼津斗が宿している『殺意の波動』だった。

殺意の波動に目覚めた一夏からは、何時もの『好青年』の姿は消え去り、赤く染まっ逆立った髪と同じく赤く輝く目、浅黒く染まった肌が圧倒的な威圧感を放ち、刀奈を討たれた怒りに染まったその顔は『鬼』其の物だ。

 

 

『そんな……嘘……!』

 

「簪、如何した?」

 

『一夏の戦闘力が有り得ない位上昇してる。

 一夏の戦闘力は通常状態で十六万、電刃錬気を使った状態で二十万だったのに、今の一夏の戦闘力は九十五万まで上昇してる……神魔の力を開放したなのはさんすら越えてる……!』

 

「神魔の力を開放した私すら越えているだと!?」

 

 

更に一夏の戦闘力は殺意の波動に目覚めた事で神魔の放したなのはの戦闘力すら越えていた。

参考までに、神魔の力を開放したなのはの戦闘力は八十万で、アウスレーゼの力を開放したクローゼの戦闘力は五十万……なのはの場合はカートリッジを使えば最大で二百四十万まで戦闘力は上昇する訳だが、其れでも九十万越えの戦闘力となった殺意の波動に目覚めた一夏の力は凄まじいと言えるだろう。

 

 

「十年前、俺から家族を奪っただけでは飽き足らず、今度は愛する人まで奪うと言うのか……ライトロード、貴様等は殺す!」

 

「この殺意は……殺せ!先ずは最優先で奴を殺せ!奴は危険過ぎる!」

 

 

一夏から溢れ出る殺意に、自らも殺意の波動を解放したライトロードも何か危険なモノを感じたらしく、一夏を集中的に狙うが、一夏は放たれた攻撃を全て阿修羅閃空で躱し、そして遂にライトロードの部隊の一人に肉薄し――

 

 

「愚かな……滅せよ!」

 

 

次の瞬間、強烈な閃光が弾けると同時に雷の如き轟音が鳴り響いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter40

『殺意の波動の脅威~暴走する力~』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

閃光が晴れると、其処には一夏の足元に倒れ伏したライトロードの一員の姿があった。

四肢は有り得ない方向に折れ曲がり、右目は頭蓋ごと吹き飛んでいるのを見るに事切れているのは間違いないだろう――一夏は、殺意の波動の極意である獄滅奥義『瞬獄殺』でライトロードを一人完全に葬り去ったのだ。

殺意の波動の技、特に瞬獄殺は肉体だけでなく魂をも完全に殺す技なので、瞬獄殺によって葬られた者は蘇生魔法でも蘇らせる事は出来ないのだ。

だが、一夏は其れでも止まらない。

 

 

「滅殺!ぬぅぅぅん……奈落へと落ちるが良い!」

 

 

直ぐ近くにいたライトロードに滅殺剛昇龍をブチかます。

稼津斗が使う滅殺剛昇龍は剛昇龍拳を三連続で放つ技だが、殺意の波動に目覚めた一夏の滅殺剛昇龍は、二連続の剛昇龍拳で相手を宙に吹き飛ばした後に、自分も飛び上がって相手の胸に拳を叩き込んでそのまま地面に叩き付けて確実に心臓を破壊すると言う文字通りの殺人拳だった。

 

更に一夏は百鬼剛斬でライトロードを強襲すると、掴んだ相手に膝での背骨折りを喰らわせて身体を文字通り真っ二つに折り曲げると、向かって来たライトロードに対して、瞬獄殺をも越える殺意の波動の究極奥義『龍哭波動拳』を放って骨の欠片すら残さない程に撃滅!抹殺!!滅殺!!!

殺意の波動に目覚めた一夏は、正に一騎当千なのだが……

 

 

「いかんな……一夏は殺意の波動に呑まれている――此のままでは殺意の波動に自我を喰われて只の殺戮者に成り果てるぞ。」

 

「なんだと?」

 

 

稼津斗が言うには、今の一夏は殺意の波動に呑まれて自我を失って殺意のままに拳を奮い、この状態が長く続けば一夏の自我は殺意の波動に飲み込まれて肉体を支配され手唯の殺戮者になるとの事だった。

稼津斗ですら殺意の波動を完全に己のモノとするのに三百年掛かった事を考えれば、僅か十六歳の一夏が殺意の波動を使いこなすと言うのは幾ら何でも無理があると言うモノだ。

だがしかし、今の一夏を止めるのは難しいだろう。

殺意の波動に目覚めた一夏を止める事が出来るのは稼津斗か、カートリッジを使ったなのはだけであり、其れでもどちらも無傷で止める事は無理であり、殺意の波動に目覚めた一夏の暴走を止めるにはリベールの最強戦力の何方を犠牲にしなくてはならないのだから。

 

 

「一夏!」

 

「!!?」

 

 

だが、此処で一夏に抱き付く影があった。

其れはクローゼの治癒アーツによって回復した刀奈だった――即死ではなかったとは言え、右の肺を貫かれた刀奈は可成り危ない状況だったのだが、クローゼの治癒アーツによってギリギリのところで命を繋いでいたのだ。

 

 

「私の為に怒ってくれのは嬉しいけれど、でも只の殺戮者にはならないで……大丈夫、私は、私達は貴方を残して死んだりしないから。だから、その怒りを治めて。」

 

「刀奈……生きてたのか……良かった。本当に良かった。」

 

 

其れを見た一夏は正気を取り戻し、その姿が元に戻って刀奈を抱きしめる――愛する者を討たれた事で殺意の波動に目覚めた一夏だったが、愛する者の無事を知った事で目覚めた殺意の波動は一時的に治まったようだ。

 

 

「だけど、テメェ等が刀奈を殺し掛けたって言う事実は消える事はねぇ……覚悟しろよライトロード、刀奈が受けた苦痛、億倍にして返してやるぜ!!」

 

「億倍では生温いぞ一夏、奴等には兆倍にして報わせねばなるまい!」

 

「なのはさん……そうだよな。千冬姉の事も含めて、十兆倍にして返してやる!覚悟するんだな。」

 

 

殺意の波動は治まった一夏だが、正気を取り戻すと即座に気を開放して其の力を高める――電刃錬気は使っていないが、其れでも一夏の戦闘力は二十万程に上昇しているのだ。殺意の波動に目覚めた事で、地力の方も引き上げられたのだろう。

 

 

「目に焼き付けて死ぬが良い。」

 

 

また此処でクリザリッドが、纏ってたコートを燃やしてバトルスーツ姿となってライトロードをぶっ飛ばしていた――超絶セクシーなバトルスーツ姿にライトロードが思わず目を止めたとは言っても、本気を出したクリザリッドの力は凄まじく、ライトロードを三人ほど捕まえると、其れを木に叩き付けた後に、超絶連続パンチをブチかまして、最後はトドメの右ストレートと共に拳に宿した炎を炸裂させて爆破!

殺意の波動に目覚めてもライトロードは最終防衛ラインを突破する事が出来ないで居たのだが、此処で異変が起きた。

 

 

「馬鹿な……我等が、魔王ですら滅した我等がこの様な事になるなどありえ……あり……ありぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

「うぐおぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉ!!」

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

突如ライトロードが奇声や咆哮を上げ始めたのだ。

殺意の波動の闇色のオーラが身体から溢れ出し、同時に本来身に宿していた光の力も溢れ出し、相反する二つの力がぶつかり、混ざり合って、それはやがて混沌の力となって行くが、混沌の力は余りにも大きく、其の力を宿すに至ったライトロードから理性を根こそぎ奪い去って行く。

唯一殺意の波動を宿していない召喚士のルミナス以外は理性を残していない状態となってしまう事だろう。

なのはやなたねのように生まれながらに其の身に光の力と闇の力を宿していたのならば兎も角、後天的に光属性に闇属性を宿し、更に其の力を使った事でライトロードは暴走してしまった訳だ。

 

 

『『『ガァァァァァァァァァァ!!』』』

裁きの龍:ATK3000×3

 

 

更に、王都に攻め込むために遥か彼方に居るルミナスが召喚したライトロードの切り札である『裁きの龍』ですら、殺意の波動を宿して暴走状態になっていた。

そして暴走状態と言うのは理性を失って暴れ回る状態であるのだが、理性が無くなった事で普段は理性で制御している闘争本能が全開になる状態でもあるので、ライトロードの戦闘力は爆発的に上昇したと言えるだろう。

 

 

「理性を失った暴走状態……厄介だな。」

 

「本能のままに暴れ回るだけにその攻撃を読むのは難しく、此方の牽制や陽動は全く意味を成しませんからね……特に闘争本能が全開になったドラゴンは厄介極まりありません。」

 

「あぁ、ライトロードの切り札である裁きの龍の最大の攻撃は世界を灰燼に帰すと聞いているからな……そんなモノを暴走状態で放たれては一溜りもないぞ。」

 

「大丈夫だよママ達!私のバハムートの最大の攻撃は其れ以上の破壊力があるから、其れで相殺してやるもん!!」

 

 

其れでも士気は落ちる事なく、なのは達は暴走状態となったライトロードと交戦を続け、前線を維持する――だが、暴走した事で戦闘力は拮抗した状態となり、戦闘は此れまでよりもより激しさを増す結果になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

ライトロードの暴走は王都方面の部隊だけでなく、各地に散らばった部隊でも起きていたのだが……

 

 

「暴走には暴走だぜ!つ~訳で、暴走しろ八神!八神を対象にエネコン発動!←→←→←→A+C!!」

 

「京貴様!……グゥゥゥオォォォォォ!!キョオォォォォォォォォォォォォォォ!!!」

 

 

ロレントでは京が庵に対してエネミーコントローラーを使って謎のコマンドを入力して庵を暴走させて暴走したライトロードにぶつけていた……暴走してもライトロードだけを攻撃している庵は本能的に敵を認識しているのだろう多分。

 

 

「そう言えば京、なんでライトロードはリベールを攻めておるのだ?ワシが居ない間に何があった?」

 

「あぁ、そう言えば親父は知らないんだよな。

 簡単に言えば、リベールでは革命が起こって、何時ぞや城から姫様を連れ出した奴が此の国の新たな王様になったんだよ。んで、その新たな王は魔族の血を引いてるからライトロードのターゲットになったんだろ。魔族だから殺すとか、思考が短絡過ぎだろライトロードはよ。」

 

「うぅむ、よもやそのような事になっていたとは……此の戦いが終わったら、新王に謁見せねばなるまいな。草薙の前当主としての筋を通さねばなるまい。」

 

「其れよりも先にお袋に会いに行けよ親父。其れと、なのはには俺が草薙家の現当主として挨拶を済ませてあるから問題ねぇから。」

 

「京……ワシだって偶には若い女の子と触れあいたいんじゃ!」

 

「其れが本音かクソ親父!

 つーかお袋だって見てくれは充分若いだろ!こう言っちゃなんだが、お袋と一緒に出掛けた時に親子じゃなくて姉弟に間違われた回数は両手の指じゃ足りねぇ!二十歳の息子が居る見てくれじゃねぇだろアレは!お袋の見た目はドレだけ高く見積もっても三十ちょいだろうが!」

 

「其れは否定出来ん!」

 

 

そして京と柴舟は親子漫才を演じていたが、其れでもキッチリとライトロードの相手をしているのだから大したモノだろう。

暴走した事で戦闘力が上がったライトロードではあるが、下手をすればリベール一の戦力が集っていると言っても過言ではないロレント地方に於いてはマッタク問題になっていなかった。

 

 

また、ボース地方ではアガットとカプア一家、ハーケン門の部隊が暴走したライトロードを相手に前線を維持し、ツァイス地方ではティータのオーバルギアと、不動三兄妹の精霊が無双していた。

特に遊星は、スターダスト・ドラゴン、シューティング・スター・ドラゴン、シューティング・クェーサー・ドラゴン、コズミック・ブレイザー・ドラゴン、シューティング・セイヴァー・スター・ドラゴンと言う最強クラスのドラゴンを並べてライトロードを圧倒していた。

遊里もプリンセス・ヴァルキリア、ライトニング・ウォリアー、セブンソード・ウォリアー、マイティ・ウォリアー、グラヴィティ・ウォリアーを召喚し、レーシャに至っては銀河眼の光子竜、ギャラクシー・アイズ・FA・フォトンドラゴン、銀河眼の光子竜皇、真銀河眼の光子竜、銀河眼の究極竜を並べると言う容赦のなさだ。

 

 

そしてルーアン地方ではダンテとカルナのコンビがライトロードを圧倒し、ルガールもまた孤児院を襲撃して来たライトロードを次から次へと葬り去り、ジェニス王立学園では、金属バットを装備した不良女子生徒がライトロードを次から次へと撲殺していた。

ジェニス王立学園始まって以来の不良生徒と言われている不良生徒、通称『雪女』の戦闘力は実は相当なモノだったみたいだ。

 

其れは其れとして……

 

 

「殺意の波動、君達には相応しくない力だ……其の力は魔王たる私こそが宿すに相応しい!」

 

 

ルガールは倒したライトロードから殺意の波動を吸収していた。

その結果、ルガールが宿していたオロチの暗黒パワーと殺意の波動が融合して最強最大の闇の力を生み出し、ルガールを超強化するに至った……ルガールはオロチの力を宿した己を『オメガ・ルガール』と称していたが、オロチの暗黒パワーと殺意の波動が融合したルガールは、オメガ――究極すら凌駕する存在となっていた。

究極を越えた存在――ゴッド・ルガールが誕生した瞬間だった。

 

 

「フフフ、素晴らしい力だ……となると、稼津斗君に私のオロチの暗黒パワーを注入したらまた凄い事になるのかも知れないな?待っていろ稼津斗君!君に私から最高のプレゼントを渡すとしよう!」

 

 

そしてルガールは何かを思い付いたらしく、王都の防衛ラインに向かって飛んで行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

その王都の防衛ラインは、あろう事か壊滅状態に陥っていた。

暴走した裁きの龍が最大の攻撃を放ち、ヴィヴィオがバハムートに命じて最大攻撃を放たせたのだが、一対三では相殺する事は出来ず、結果として壊滅的な被害を被る事になってしまったのだ。

ギリギリでクローゼがアースウォールを使った事で全員致命傷は免れたが、三体の守護龍も翼を貫かれて深刻なダメージを負っていた。

 

 

「リベールを貴方達の好きにはさせません……リベールを守る為に、私は今こそ封印された私の精霊を解放します!」

 

 

だが、此処でクローゼが切り札を切った。

此の土壇場で、アリシアによって五つに分けられ、王城の地下と四輪の塔に封印された己の精霊を解放する事を行ったのだ。

 

 

「我が身に眠る封印されし精霊よ、今こそ其の力を解き放ち、リベールを守る守護神となれ。」

 

 

クローゼはアリシアから教えられた精霊の封印を解除する呪文を唱え、其れと同時にグランセル城と四輪の塔から光の柱が発生し、その光の柱はエルベ離宮に、クローゼの基に集束してより大きな光の柱となる。

 

 

「現れよ、『封印されしエクゾディア』!!」

 

『グオォォォォォォ……!』

エクゾディア:ATK∞

 

 

そしてその光の柱が弾けて現れたのは、グランセル城に匹敵する巨躯と、圧倒的な力を持った魔神であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter41『エクゾディア降臨~戦いの終息~』

ソリティアなしでエクゾでディアを完成させたら感動するByなのは      其れは、確かにとってもロマンですねByクローゼ


殺意の波動によって暴走した裁きの龍の最大の一撃によって王都防衛部隊は壊滅的な打撃を受けたのだが、此の土壇場でクローゼがアリシアによって五つに分割された上で王城の地下と四輪の塔に封印された自身の精霊を開放。

 

 

『グオォォォォォォォ……!』

 

 

そして現れたのは、グランセル城をも凌駕する巨躯を持った魔神――『千の敵を一撃で葬り去った』との伝説を持つ幻の召喚神『エクゾディア』だった。

 

 

「これがクローゼの精霊……成程、伝説に違わぬ迫力だな?アリシア前女王が、エクゾディアと名付けたのも頷ける。」

 

「これがクローゼさんの……スゲェなマジで。」

 

「俺の相手として申し分なし!」

 

 

その迫力はなのは達が戦慄し、稼津斗が己の相手として申し分ないと言う程のモノだった――稼津斗は、『鬼』として強者との『死合い』を望んでいるので、エクゾディアの強さの基準としては少しばかり当てにならないモノがあるが。

だがそれでも、エクゾディアの放つオーラには殺意の波動によって理性を失ったライトロードですら本能で恐怖を感じ取ったのか、身体が硬直して動く事すら儘ならなくなってしまっていた。

もしもライトロードに理性が残っていたら、本能で感じ取った恐怖から『天地がひっくり返っても勝てない』と悟り撤退の道を選んだかもしれないが、理性が吹き飛び、殺意の波動によって半ば殺戮マシーンと化したライトロードは撤退と言う選択をせず、己の脅威となり得る存在を排除せんとエクゾディアへ攻撃を開始する。

 

だが、其れだの攻撃に対しエクゾディアは微動だにしない……ライトロードの最大戦力である裁きの龍のブレスをですら片手で振り払ってしまう位だ。

 

 

『クローゼさんの精霊……戦闘力測定不能!?完成版の戦闘力測定装置は、那由他まで計測出来るようにしたって遊星さんが言ってたのに……!』

 

「遊星が何を考えてその桁まで測定出来るようにしたのかは分からんが……此れだけの圧倒的な力、アリシア前女王が危惧し、五つに分けてリベールの各地に封印したのも頷けるな。」

 

 

エクゾディアの戦闘力は、不動兄妹作の完成版戦闘力測定装置でも計測出来ない程に高く、其の力は無限大であると言っても過言ではないだろう。

 

 

「これが王国の守護神エクゾディア……此れ以上、貴方達の蛮行を許す訳には行きません!

 エクゾディア、何の罪もなく平和に暮らしている者達を身勝手な正義を騙ってその命を奪い、そしてリベールにも仇なす者達に裁きを与えよ!怒りの業火エクゾード・フレイム!!」

 

『オォォォォォ……ガァァァァァァァァァァ!!』

 

 

そして、クローゼの命を受けたエクゾディアは両手に力を溜めると、なのはのスターライト・ブレイカーをも遥かに凌駕する強烈無比の火炎砲を発射ライトロードに向けて発射する!

炎属性の攻撃ではあるが、其の攻撃は本来相性の悪い水属性であっても蒸発させて焼滅させるほどのモノであり、クローゼがライトロードの軍勢だけを狙っていなかったら射線上にある全てのモノが焼き尽くされて焦土となっていただろう。

其れだけの破壊力のある攻撃が、ライトロードの部隊を呑み込んだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter41

『エクゾディア降臨~戦いの終息~』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エクゾディアの攻撃を喰らったライトロードの部隊は壊滅状態に陥っていた。

ライトロードの象徴である純白に金の装飾が施された鎧や衣装は焼き崩れ、裁きの龍も略丸焦げになって戦闘不能になり、使役していたドラゴンに至っては跡形もなく焼滅してしまっていたのだ。

辛うじてライトロードの軍勢は消し飛ばずに済んだが、其れでもこの状態では戦闘不能だろう。

 

 

『ウグ……あ……アガァァァァァァァァァッァ!!』

 

『グオォォォォォォォォォ!!!』

 

 

「この状態で立ち上がるだと!?そんな馬鹿な……!」

 

 

だが、ライトロードの軍勢はそんな状態でも立ち上がって見せ、まさかの事態になのはを始めとした王都防衛部隊も戦慄する……其れほどまでにライトロードの軍勢は戦う事など不可能なほどのダメージを負っていたのだ。寧ろ生きている事が奇跡と言えるだろう。

 

 

「……殺意の波動を宿した者の宿業か……憐れなモノよ。」

 

「稼津斗?殺意の波動を宿した者の宿業とは、其れは一体なんだ?」

 

「殺意の波動は只の力に非ず、殺意の波動其の物が何らかの意思を持っている。

 そして殺意の波動は戦いを、死合う事を求めて強者との戦いを常に求める……故に、殺意の波動を身に宿した者は、その肉体がこの世に存在する限り死ぬ事も許されん……仮に肉体が生命活動を停止しても、殺意の波動が無理矢理に生命活動を継続させるのだ。

 俺自身、封印されるまでの五百年間に遠方から心臓を撃ち抜かれた事が何度かあるが、其れでも死ぬ事はなく殺意の波動によって生かされて来た……『鬼』を殺すには、最早その肉体をこの世から完全に消し去るか、同じく殺意の波動を宿した者の瞬獄殺で魂をも葬り去る以外に方法はない!」

 

 

だが、其れはライトロードが殺意の波動を宿した故の事だった。

殺意の波動は宿主が死ぬ事を許さずに、永遠の戦いを強いる……稼津斗が『鬼』となり、五百年も生きて来たのも、殺意の波動によって寿命すら超越したからなのである。

故に、殺意の波動を宿した者は不死とも言える存在になる訳だが、稼津斗の様に自我を保つ事が出来なければ其の身は完全に殺意の波動に呑まれ、存在する限り無限の殺戮を行う殺人マシーンに成り果てるのだ。

事実、殺意の波動によって強制的に生かされる事になったライトロード達は最早『正義の一団』とは程遠い醜悪な存在となり、裁きの龍もまた純白だった身体は形を潜めて漆黒の朽ちた肉体となっているのだ。

其れでも、不死と言うのは厄介だろう……仮に腕や足が吹き飛んだとしても、その身体がこの世に存在している限りは殺意の波動が失った部分を補って戦わせると言う事なのだから。

加えて、王都防衛部隊は裁きの龍の一撃で大打撃を受けた状態だ……クローゼが『リヒトクライス』を使える状態ならば回復も出来たが、クローゼはエクゾディアの召喚に多くの力を使ってしまったのでリヒトクライスを使うのは無理なのだ。

このままではジリ貧だが……

 

 

「助けに来たぜなのは嬢ちゃん!どきやがれ雑魚共!ハリケーンミキサー!!」

 

 

突如、2mを遥かに越えた巨躯に、頭から鋭い角を生やしたパンチパーマの大男が猛牛の如き突進でライトロードを吹き飛ばした!……だけでなく、三面六腕の男が六本の腕から超高速のパンチラッシュをライトロードに喰らわせ、3mはあろうかと言う砂の大男がライトロードを圧殺!

 

 

「同盟を結んだ相手の危機、救うこそが義!」

 

「助けに来たよなのは!」

 

「将軍……アーナス!」

 

 

其れは魔界に居た悪魔将軍とアーナスによる援軍だった。

リベールで暮らしていたルガールから『リベールがライトロードの襲撃を受けた』との連絡を受けた悪魔将軍とアーナスは、ルガールから『好きに使ってくれたまえ』と言われていた移動要塞『スカイ・ノア』でリベールへと赴き、なのは達に加勢したのだ――アーナスはセルヴァンを、悪魔将軍は配下の中でも特に強い力を持つ『バッファローマン』、『アシュラマン』、『サンシャイン』を引き連れてだ。

因みにアーナスの戦闘力は通常状態で五十万、ナイトメア開放で六百万、バッファローマンとアシュラマンは一千万、サンシャインは七百万、悪魔将軍に至っては千五百万である。

 

 

「ラウネー、皆を回復させて!」

 

 

アーナスはセルヴァンの一体であるラウネーになのは達の回復を命じ、ラウネーは得意の回復魔法でなのは達の傷を癒し体力を完全回復させるだけでなく、破損した衣装をも見事に修復して見せたのだが、ラウネーの回復魔法は思わぬ副作用を生む結果となった。

其れは回復魔法を受けたヴァリアス、アシェル、バハムートの三体のドラゴンの身体が光を放ち、其の身を進化させたのだ。

 

その光が治まると、三体のドラゴンはその姿を大きく変えていた。

ヴァリアスは全身が鋼鉄の様になり、アシェルは額にクリスタル状のモノが現れ、翼は巨大化して金色に輝き、尾の先は三又の鉾の様になり、バハムートは首が五つになってその身体は一回り大きくなっているのだ。

 

 

『グオォォォォォォォォ!』

真紅眼の鋼炎竜:ATK2800

 

 

『ガァァァァァァァ!!』

ブルーアイズ・タイラント・ドラゴン:ATK3400

 

 

『ゴガァァァァァァァァ!!』

F・G・D:ATK5000

 

 

三体のドラゴンの進化後の力は正に圧倒的と言えるだろう。そして、其れだけではなく――

 

 

「稼津斗君、此の力受け取れぇぇぇ!!」

 

「ぐぬ!?」

 

 

ルーアン地方から飛んで来たルガールが稼津斗に手刀を突き刺して、オロチの暗黒パワーを注入し、『鬼』に更なる力を与える……やり方が大分ぶっ飛んでいると言えるが、リベール最強戦力である稼津斗にオロチの暗黒パワーがプラスされたら、其れは冗談抜きでトンデモナイ事になるだろう。

 

 

「真之力、刮目賢覧!」

 

 

オロチの暗黒パワーを注入された稼津斗は、肌が赤黒くなり髪も銀色に変わり、その姿は『真・豪鬼』すら凌駕した『神・豪鬼』と言えるモノだった――そしてその戦闘力は凄まじく、全ての攻撃が一撃必殺の威力なのだ。

気弾技である波動拳系は、剛波動拳、灼熱波動拳、斬空波動全てで気弾が巨大化し、斬空波動は二連射に変化。剛昇龍拳は拳に闇色の炎を宿すようになり、竜巻斬空脚は足に闇色の稲妻が走るようになっているのだ。

 

 

「我、拳極超越!敵者滅殺!崩山裂海!!」

 

 

話す言葉が全て漢字オンリーと言う謎な状態となってしまったが、この稼津斗を殺意の波動の傀儡となったライトロードに止める事が出来る筈もなく、次から次へと文字通り『滅殺』され、其の身を塵へと変えて行く。

其れに加えて同様の力を得たルガール、更には魔界の魔王軍団まで駆け付けたのだからライトロードにとっては堪ったモノでは無い。

更にはアーナスの従魔によってなのは達王都防衛部隊の傷は完治し、体力も回復しているのでフルパワーでの戦闘が可能になっており、エクゾディアと進化した三体のドラゴンの戦闘力は言わずもがなだ。

 

嬉しい誤算としては、殺意の波動に生かされた事で、裁きの龍は漆黒の屍竜になり下がり、攻撃を行うたびに其の力を減少させるようになった事が挙げられるだろう。

裁きの龍の最大の攻撃は王都防衛部隊を壊滅状態にするほど強力なモノではあったが、其れが使えなくなり、更には攻撃の度に弱体化して行くと言うのであれば全く脅威にはなり得ず、アシェルの『滅びのタイラントバースト』、ヴァリアスの『黒焔弾(ダーク・ギガ・フレア)』、バハムートの『ファイブ・ゴッド・ストリーム』で跡形もなく吹き飛ばされてしまった……肉体が消滅してしまえば、もう殺意の波動でも復活させる事は出来ない。

 

そして、其処からは一方的な展開だった。

ドレだけ新たな戦力が召喚されようとも、其れ等は出て来た瞬間に略倒され、一気に集団で召喚したとしてもエクゾディアによって灰へと変えられてしまうのだ……しかし、此処でなのはがある事に気付いた。

 

 

「まだ新たな戦力が召喚されてはいるが、純粋なライトロードは召喚されていないんじゃないか?

 王都を攻める部隊が壊滅状態になってから召喚されているのは、全て純粋なライトロードではなく、ライトロードが後天的に使役しているドラゴンばかりだ……若しかして、純粋なライトロードは全てリベールに召喚してしまったと、そう言う事なのか?」

 

 

そう、新たに召喚される存在は純粋なライトロードではなく、ライトロードがドラゴンを呼ぶ笛で使役しているドラゴンばかりだったのである。

ライトロードからしたら、戦力を出し渋っている状況ではないので、戦力を温存しているとは考え辛い……となると、なのはの言うように純粋なライトロードのメンバーは全て召喚し切ってしまったと言う事になるのだろう。

 

 

「だが、其れならば最早此の戦いを終わらせる事が出来る!簪、リベール全土に広域通信を!」

 

『はい!……広域通信準備完了。何時でも行けますなのはさん!』

 

「相変わらず惚れ惚れする仕事の早さだ。

 リベール全土で戦う防衛隊に告ぐ!私は王都防衛隊隊長の高町なのは。敵は如何やら正規軍の戦力を出し尽くした模様。よって、戦闘は継続しつつもライトロードの召喚士を探し出し、其れを捕らえよ。

 だが、召喚士は殺すな。召喚士は殺意の波動を宿していないとの事なので、殺意の波動を宿していないのならば話も出来るだろう……私としても、ライトロードには色々と聞きたい事があるのでな。」

 

 

なのはは簪に広域通信の用意をさせると、その広域通信でリベール全土に『戦闘は継続しつつ、ライトロードの召喚士を見つけ出して生きて捕らえろ』との命令を下して戦いを終結へと向かわせる。

その命を受けたリベール各地では戦闘に影響が出ない範囲で召喚士の捜索に人員を割く事になったのだが、ロレントでは戦闘員の略全員を召喚士の捜索に当てる事が出来そうになっていた。

ロレントは田舎町とは思えないほどの強力無比な戦力が揃って居る、と言うか魔王であった士郎と互角に戦ったカシウスが居る時点で大分ぶっ飛んではいるのだが、兎に角戦力が潤沢であり、京によって暴走させられた庵が手当たり次第にライトロードを八つ裂きにしているのだが、一番の要因は……

 

 

「お願いね、パテル=マテル♪」

 

『ゴォォォォォォォォン!!』

 

 

レンが遊星に作って貰った『秘密兵器』の存在が大きかった。

遊星が作ったレンの秘密兵器は、全高ゆうに10mは下らない巨大ロボット『パテル=マテル』!全身を覆う装甲はミサイルにも耐え、最大飛行速度はマッハ2.5、全身に多数の火器が搭載され、挙げ句の果てにはエネルギーが尽きない『核融合エンジン』を搭載していると言うバケモノロボットなのだ。

そして、そんなパテル=マテルに搭載された火器を全開にした超極太の直線攻撃は射線上に居たライトロードの軍勢を一瞬で蒸発させてしまったのである……遊星と遊里が研究に研究を重ねた末に開発されたパテル=マテルのメイン火器の『プラズマ集束ビームキャノン』の破壊力はなのはのスターライトブレイカーに匹敵するだろう多分。

これによりロレントを攻めていたライトロードの軍勢は全滅し、ロレントの防衛メンバーはライトロードの召喚士の捜索に当たる事が出来るようになったと言う訳だ。

尚、暴走した庵には京が脳天に外式・轟斧 陽を叩き込む事で正気を取り戻させていた。

それと同時に、各地の戦いも終息に向かっていた。

如何に殺意の波動が肉体が存在する限り無理矢理に戦わせるとは言っても、其れには限度があり、無理矢理生かされた身体は再生されるたびに限界を超える為に徐々に朽ちてやがて崩壊して行くのである。

 

 

「此れで終わらせる!十秒時間を稼いでくれ!」

 

「なのはさん……エクゾディア、なのはさんに力を!」

 

『グオォォォォォォォォォ……!』

 

 

そしてエルベ離宮周辺ではなのはが最大の一撃の準備をし、クローゼがエクゾディアになのはに力を貸すように命じる。

その結果、なのははエクゾディアの膨大な魔力をも吸収する事となり、最大最強不敗の奥義である集束砲の破壊力は此れまでの比ではないレベルのモノとなり、集束した魔力で形成された魔力球は最早衛星レベルにまで巨大化しているのだ。

 

 

「塵に帰れライトロード!スターライト・エクゾード・ブレイカァァァァァァ!!」

 

 

この戦闘の止めとして放たれた一撃は、ライトロードの正規部隊だけでなく、使役していたドラゴンをも一瞬で呑み込んでこの世から完全に消し去る……其れこそ、この世に影すら残さないレベルでだ。

各地でもライトロードは略自壊して壊滅し、残るは召喚士のみだ。

 

 

「王様の命令で探してみりゃ、まさかこんなとこに居やがったとはな。旧校舎の地下、此処なら確かに見つからねぇ訳だ……ここの存在を知ってるのは、学園長以外だとアタシを含めた一部の生徒だけだからな。

 そんで、如何するアンタ?あくまで足掻くってんなら相手にはなってやるぜ?」

 

「ソイツは止めといた方が良いだろうな。

 雪女嬢ちゃんだけなら未だしも、俺が此処に来ちまった……悪魔と雪女が相手じゃ、流石に分が悪いだろ?」

 

「オイコラオッサン、何処から湧いた?」

 

「なのは嬢ちゃんからの通信を受けた瞬間に、俺の勘がピンッと来てな……その勘に従って来てみれば大当たりだったって訳だ。」

 

 

その召喚士――ルミナスも、ジェニス王立学園の旧校舎の地下に居たのを学園きっての札付きの不良少女である通称雪女と最強の便利屋であるダンテに追い詰められてしまっては大人しく投降する以外の道は残されていなかった。

こうしてルミナスが投降した事で此れ以上の軍勢がリベールに押し寄せる事はなくなり、ライトロードによるリベールの襲撃は終幕となったのだった――だが、だからこそ誰も気付いて居なかった。

リーダー格であるジェインの使っていた剣が其の場から消え去っていた事に……

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「クククク……結果はライトロードの敗北だったが、此度の実験では中々に良いデータが採れたと思わないかね教授?」

 

「うむ、良いデータが採れたと思っているよドクター……そして其れ以上に貴重な事を知る事が出来た――まさか、君と私が手慰みに作り上げた人造人間がこうして生きているとは、何とも感慨深いとは思わないかね?」

 

「其れに関しては同意だ……しかも二人とも草薙との繋がりがあるとはな。」

 

 

何処かにある施設では教授とドクターが、ライトロードのリベール襲撃の成果を解析していたが、取り敢えず良いデータが採れたと言う事で納得していたが、其れ以上の収穫があったようだ。

そんなドクターと教授の背後にある巨大なモニターには京の彼女であるアインスと、京の弟子であるノーヴェの姿が映し出されていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter42『After the battle is over, he has various things』

ライトロードもまた何者かによって歪められていた、か……Byなのは      真の敵は、別にいると言う事ですねByクローゼ


ライトロードのリベールへの侵攻は、リベールの五大都市には一切に被害を出す事なく、またリベール側には只の一人も犠牲者は出さずにリベールがライトロードを退けての完全勝利となった。

王都防衛隊の前線となったエルベ離宮周辺は、裁きの龍の最大の一撃で焼かれ、エルベ離宮も半壊状態になったのだが、此れまで襲撃した場所を確実に滅ぼし、或は其の場に居た魔族を滅して来たライトロードを相手にして、被害が此れで済んだと言うのは寧ろ誇れる事だろう――半壊したエルベ離宮は修繕すれば良いだけの事なのだから。

 

 

「捕らえたのは良いんだけどよ、コイツどうやって王都まで連れてくよオッサン?」

 

「歩いて行くにしても、飛んでくにしても時間が掛かるからな……此処は一つ、世紀の大魔導師様のお力を借りるとしようじゃないか?出番だぜ、プレシア婆さん!!」

 

「サンダー・レェェェイジ!!」

 

「みぎゃーーーーー!!」

 

「口を慎みなさい坊や……」

 

「いやぁ、こう言えば速攻で来てくれるんじゃねぇかと思ってよ……まぁ、俺が頑丈だから出来る事でもあるから、良い子の皆は真似しちゃダメだぜ?オジサンとの大事な大事な約束だ!」

 

「この人呼び出す為だけに自分を犠牲にするとか大分狂ってんなぁこのオッサンも……」

 

 

ジェニス王立学園では、旧校舎の地下に潜んでいたライトロードの召喚士、ルミナスをどうやって王都まで連れて行くかで雪女こと早乙女雪奈とダンテが頭を悩ませていたのだが、此処でダンテが自らを犠牲にプレシアを呼び出していた……確かにプレシアの実年齢は五百歳オーバーなので『婆さん』と言っても過言ではないが、その容姿は三十代前半を保っているのだから、婆さん呼ばわりされたら気分は良くないだろう。……そのダンテの一言をバッチリ受信したプレシアも割とオカシイが。

 

 

「つ~訳で俺と雪女の嬢ちゃんとライトロードの召喚士様をなのは嬢ちゃんのとこまで転移してくれねぇか世紀の大魔導師様?」

 

「其れ位お安い御用だけど……次に私の事を『婆さん』と呼んだら、今度は骨の欠片も残さない一撃で冥界に送ってあげるからその心算で居なさい?良いわね?」

 

「あ、あぁ……胆に銘じておく。」

 

「オッサンがビビるとは……確かに圧がハンパねぇけどな……」

 

 

なのはの元に転移してくれる事にはなったが、プレシアから放たれた圧に、『悪魔も泣き出す男』と称されるダンテも、『ジェニス王立学園始まって以来の正義の不良』と言われている雪女も圧倒される結果に……五百年を生きて来た『魔女』の圧には勝てなかったようだ。

因みに捕らえられたルミナスは両手を後ろ手に縛られ、舌を嚙み切っての自害が出来ない様に猿轡をされている状態だった。

 

 

「其れでは、なのはさんの元に転移するわね。」

 

 

そう言った瞬間に、プレシア、ダンテ、雪女、そしてルミナスの姿はジェニス王立学園から閃光と共に消え去ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter42

『After the battle is over, he has various things』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グランセル城に戻って来たなのはは女王宮にて各地の状況報告を聞いていたが、五大都市は何れも都市部に被害は一切無く、人的被害もないとの事だった――敢えて言うのであれば、ロレント地方にてライトロードに洗脳されていた柴舟が京とそのクローン達によって割と大ダメージを喰らったのだが、其れで洗脳が解け、更にはライトロードとの戦線に加わったと言うのだから、柴舟の頑丈さと言うのは中々のモノであるらしい。

尤もその柴舟は、戦闘終了後強制的に家に送還されて、現在妻の静から可成りキッツイ説教を喰らっている最中なのだが……その説教の内容が、行方知れずになっていた事ではなく、京が静に『親父が偶には若い子と触れあいたいってぬかしてたぜ。』とチクった事によるモノなのが何とも情けない事この上ない。

 

此度の戦闘で解放されたクローゼの精霊である『エクゾディア』は、再び封印される事なくクローゼの身の内に戻る事になった。

幼い頃のクローゼではエクゾディアに其の身を喰われていたかも知れないが、成長してアウスレーゼの血が覚醒して限りなく神族に近い存在となったクローゼならばエクゾディアを逆に完全コントロールする事が出来るようになっているのだ――因みにエクゾディアの封印が解かれた事でクローゼ自身の戦闘力も爆上がりし、現在の戦闘力は四十五万となっていたりする。

 

 

「都市部への被害はなく、人的被害もゼロ……となると、必要になるのはエルベ離宮の復興作業だけだが、其方に関しても修復の為の資材は霊使い四姉妹の霊術で錬成する事が可能だし、人員に関しても王宮お抱えの宮大工に不動兄妹の精霊に手伝って貰えば復興に時間は掛からないだろうな。」

 

「遊星さん達がエルベ離宮の復興に当たったら、エルベ離宮が色々と改造されるかも知れませんね?

 門は自動開閉になって、不審人物が近付いてきたら自動的に門を施錠してしまう位の機能は付けてしまうのではないかと思います。」

 

「否定出来んな其れは。」

 

 

差し当っての問題は半壊したエルベ離宮の修繕だが、其れも滞りなく行う事が出来そうだ……クローゼの言うように、不動兄妹が修繕に関わったらエルベ離宮が魔改造される可能性はゼロではないのだが。

 

 

 

――シュン!!

 

 

 

其処に現れたのは、ジェニス王立学園から転移して来たプレシアとダンテと雪女、そしてライトロードの召喚士であるルミナスだった。

 

 

「よ~、王様!ライトロードの召喚士連れて来たぜ~~!

 まさか、学園の旧校舎の地下に居るとは思わなかったがよ……確かにあそこはアタシを含めて知ってる奴は片手の指で足りるから、身を隠すには絶好の場所だったんだろうけどな。」

 

「お前が召喚士を発見し、捕らえたのか……名を聞かせてくれるか?

 召喚士を無力化する事こそが此度の戦いを終わらせる為の最大のキーポイントだった故、その大義を成したお前には相応の褒美を与えるが道理……だが、名を知らぬのではそれを与える場で呼びようがないのでな。」

 

「王様に名前を憶えて貰えるってのは光栄だぜ!

 アタシは早乙女雪奈。ジェニス王立学園の生徒で『雪女』ってあだ名で通ってんだ。」

 

 

リベールの王であるなのはを前にして普段と変わらぬ態度を貫ける雪女の度胸は見事であると言えるだろう。

ダンテとプレシアとも軽く挨拶を交わした後に、なのははユリアに『ソイツの猿轡を解いてやれ』と命じ、ユリアはナイフでルミナスの猿轡を切って喋れる状態にしてやった――荒縄の猿轡を一瞬で斬り裂いたユリアは、剣だけでなくナイフ捌きも一流であるのだろう。

 

 

「こうして会うのは初めてだなライトロードの召喚士よ?十年前、私達が暮らしていた村に攻め入った時も、召喚士であるお前は村には直接出向いて居なかったのだろうからな。」

 

「ふ……その通りだ。

 だが、その後のハーメルへの攻撃の際には私も前線に出ていた事で『鬼』に殺され掛けたがな……そして、十年の時を経て復活してお前が王となったリベールに戦いを挑んだモノの、そっちの被害はエルベ離宮のみで人的被害はゼロであるのに対し、我等ライトロードは私以外は死に絶えた――言い訳も出来ない位の完敗だ。」

 

 

そのルミナスだが、此度の戦いでの敗北を意外な事に素直に受け入れていた――殺意の波動を其の身に宿さなかった事で正常な思考能力が残っていたのかも知れないが、だとしても魔族を絶対悪と考えているライトロードが魔族の血を引くなのはが王であるリベールに対して敗北を認めると言うのは異例の事態と言えるだろう。

 

 

「魔族を絶対悪とするライトロードが、魔族の血を引く私が王を務めるリベールに対して敗北を認めるだと?」

 

「あぁ、その通りだ……情けない事だが、正規軍を全て召喚し、そして私を捕らえた少女とスパーダの末裔と対峙した時に思い出してしまったのだ、ライトロードは本来は力なき人々を魔の手から護るべき存在であり、魔族だからと言って無差別に滅する集団ではなかったと言う事を。」

 

「なに?ならば何故貴様等は十年前私達が暮らしていた村を襲い、村民を唆して父と姉を殺した!

 そして、其れだけは飽き足らずにハーメル村を襲撃して一夏達から家族を奪った!答えろ、何故だ!!」

 

 

ルミナスは『ライトロードは本来は魔族だからと無差別に滅する集団ではなかった』と言ったが、其れはなのはにとっては大凡納得出来るモノでは無かった――ルミナスの言う事が本当ならば、十年前に『魔族が居るから』と言う理由でなのは達が暮らしていた村を襲撃し、更には村民を唆して士郎の殺害に加担させた事の説明が付かないのだ。

 

 

「分からない……だが、少なくとも私がライトロードに参入した頃には既に魔族を絶対悪とする風潮が広まっており、私も其れに染まった――否、染められたと言った方が正しいか。

 恐らくだが、ライトロードの教義を歪めた人物が居るのだと思う……私がライトロードの一員となったのは十五年前だが、其れを考えると少なくとも二十年前には既にライトロード内ではその教義は歪められていたのだろう。

 だが、表向きには本来の教義を掲げ、新たな一員となった者に対して歪められた教義を何度も何度も教え込み、半ば洗脳に近い形で其れが正しい事だと信じ込ませる……事実、今の今まで私は自分が行っている事に疑問すら感じていなかった。此れは正しい事なのだと、そう信じていたのだから。」

 

「ライトロードは何者かに歪められた、つまりはそう言う事か?」

 

「ですが、だとしたら一体誰がそんな事を?

 本来は人々を邪悪な存在から護る事を掲げていたライトロードを、魔族、或は闇の力を根絶やしにする一団に変えてしまうと言うのは余程の力が無いと出来ない事だと思うのですか?」

 

「だから分からない……だが、十年前にハーメル村で壊滅状態になったライトロードを生命維持装置兼治療ポッドを使って時間を掛けて治療し、私以外のライトロードと裁きの龍に殺意の波動を宿したのは、ライトロードの教義を歪めた存在と同じなのではないかと考えている。」

 

 

だが、如何やらライトロードは何者かによって其の存在意義を歪められてしまったらしい。

ライトロードは元々は邪悪な存在から人々を護る為に誕生した組織だったが、最低でも二十年前には其の存在意義が歪められ、魔族や闇の力を絶対悪として根絶やしにしようとする過激な武装組織に変貌してしまったと言うのだ。

更にはライトロード内ではその考え方こそが正義であると何度も教え込まれ、新たにライトロードの一員となった者はモノの数日でその思考に染められ、己のやっている事に一切の疑問を感じなくなると言うのだから恐ろしき洗脳である。

そうなって来るとプレシアや魔王、カシウスやダンテが本来のライトロードの姿を知らなかったのか、と言う話になりそうだが、プレシアは魔女として己の『時の庭園』で暮らしていて人間界には基本関わらず、魔王達も魔界の夫々の領地で自らは積極的に人間界には関わっておらず、ダンテは基本的に自分が興味のない事にはノータッチなのでライトロードの真の姿を知らなかった。

カシウスはライトロードの事を調べた事はあったが、今現在のライトロードの在り方以前の教義と言うか資料は一切残っておらず、遡れる歴史は三十年程前までで、ライトロードが本来何を目的として何時誕生したのかまでは把握する事が出来ていなかったと言う訳だ。

 

 

「とは言え、私達が罪なき者を身勝手な理由で殺戮した事実は消えない……だからお前がどのような沙汰を下そうとも、私は其れを受け入れよう。――本来ならばハーメル村を襲撃したあの日に死んでいた身、今更この命は惜しくもない。」

 

 

召喚士として限界まで力を使った事で洗脳が解けたルミナスは既に覚悟は出来ているらしく、なのはがどのような沙汰を下そうとも其れを全面的に受け入れる気でいるようだ。

そんなルミナスに対し、なのは少しばかり考え込むと、良い事を思い付いたと言わんばかりの顔になる――尤もそれは、いたずらっ子が最高のイタズラを考えついた時の表情に近いモノがあったが。

 

 

「ふむ……ならばルミナスよ、お前も私の仲間になれ。」

 

「なのはさん?」

 

「なのはママ!?」

 

「陛下、本気ですか?」

 

「何だと……?」

 

「王様、大分ぶっちゃけたなオイ!?」

 

「五百年を生きて来た私だけれど、なのはさんの思考を読み切るのは難しいわね……でも、だからこそ次に何をやるのかが読めなくて面白いのだけどね?」

 

「仇の一員を仲間にか……中々のクレイジーさだ。」

 

 

次になのはが発した言葉にはその場にいた全員が驚く事になった……ルミナスですら驚愕の表情でなのはを見ており、その目には『コイツ、一体何を言っている?』と言う感情がありありと浮かんでいるのだ。

 

 

「既に死ぬ覚悟が出来ている奴に死罰を与えたところで何の罰にもならん。

 なれば生きて罪を償わせる方が罰となる……まして、洗脳されていたとは言え己が絶対悪と考えていた魔族の血を引く者の下で働くと言うのは此の上ない罰となろう?……何より、歪んだ正義を洗脳によって正しいと思い込まされていたのであるのならば、十年前の事も今回の事も、納得は出来なくとも理解は出来る。

 其れに、お前の召喚士としての能力には目を見張るモノもあるので死なすには惜しい……殺意の波動で狂ったライトロードに用はないが、殺意の波動を宿さずに生き残ったお前にはまだ価値もあるのでな。

 洗脳が解け、己のして来た事に少しでも後悔があるのであれば、私の配下となって働き己の罪に報いろ!そして己の目で確かめるが良い、魔族や闇の力を宿す者が、本当に根絶やしにすべき邪悪な存在であるのかを。」

 

 

だが、なのはの言う事はある意味で尤もな事だった。

死を覚悟している相手に死刑を言い渡した所で何の罰にもならないので、なれば生きて罪を償わせる事の方が罰として成立するのだ――だからと言って、自分の仲間になれと言うのは中々にぶっ飛んだ内容ではあるが、リベリオン時代からなのはは『実力があれば種族も出自も問わない』と言った姿勢を貫いており、潰した裏組織からも有能な人物は殺さずにリベリオンに招き入れたのだ。

其れが出来たのも、なのはには生まれ持ってのカリスマ性があったからなのだが。

 

 

「憎き仇である私を仲間にとは……マッタク持って大胆な事をするな高町なのは?

 だが、死を受け入れている私に対して死罰を下しても何の罰にもならないのはその通りだからね……その罰は受けよう。そして、見極めよう――魔族と闇の力を宿した者は、根絶やしにすべき邪悪な存在であるのかを。」

 

「ならば決まりだな。

 お前は嘱託の親衛隊員とし、平時はシェンとユーリと行動を共にして貰う……異論はないな?」

 

「ある筈がない……精々、務めさせて貰うさ。」

 

 

ルミナスもその沙汰を受け入れると、なのははユリアに腕の縄も切るように命じ、ユリアはこれまた見事なナイフ捌きで後ろ手に縛られていたルミナスの拘束を解き、拘束を解かれたルミナスは、なのはの前に片膝を付いて頭を垂れ、服従の意を示す。

洗脳が解け、歪んだライトロードの教義から解き放たれたルミナスは、己の命を救う沙汰を下してくれたなのはに、感謝の気持ちを抱いたのかも知れない――何にしても期せずしてリベールの戦力が底上げされたのは間違いなさそうだ。

 

 

ルミナスへの沙汰を下した後もなのはの仕事が終わる事はなく、エルベ離宮の修繕工事の見積書や、各戦闘地域からの報告書など、目を通さねばならない書類は山の様にあり、此の日はクローゼと共に書類と睨めっこして判を捺す作業に追われ、夕食すら執務室で摂りながらで、全ての仕事が終わった時には時計の針は二十三時を刺していた。

此の時間には既にヴィヴィオは夢の世界に旅立っている所だ。因みに本日ヴィヴィオはなのはとクローゼと一緒ではなく、本来の自分の寝室で就寝中である。

 

 

「あ~~……仕事を終えた後の風呂はナニモノにも代えがたい幸福な時間だな。」

 

 

仕事を終えたなのはは、王城内に新たに作った大浴場で寛いでいた。

エルモ村の温泉を大層気に入ったなのはは、王城でもその温泉が堪能出来るように、エルモ村からパイプを引いて、王城内に温泉の大浴場を作ったのだが、此れが王城に勤めている侍女や親衛隊には大好評で大当たりだったのだ。

大浴場内に作られた『サウナ』も、『いい汗がかける』との理由で大人気だったりする。

 

 

「そうですね、お風呂タイムは至福の時間です。」

 

「お前もそう思うか。」

 

 

其処にクローゼもやって来て、なのはの隣に腰を下ろして湯船に浸かる……その距離はゼロだ。

 

 

「ライトロードへの復讐は成しました……そして、これから何をする心算ですかなのはさん?」

 

「私の最大の復讐は成った……なれば、今度はリベールをより良い国にする事に邁進するさ。――とは言っても、其れは私一人で成し遂げられるモノではない……だからお前の力も貸してくれクローゼ。」

 

「はい、私の力で良ければ幾らでも。」

 

 

そしてどちらから言うでもなく口付けを交わし、風呂から上がった後は、寝室で此の上なく愛し合った……その結果、なのはとクローゼの心の絆はより深いモノになっただった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

ライトロードとの戦いから数日、唯一の被害を受けたエルベ離宮の復興は急ピッチで進められ、半壊した離宮は略元の姿を取り戻しつつあった――此処まで復興作業が順調だったのは、瓦礫をルガールが『ゴッド・プレス直行便』で処理してくれた事と、不動兄妹の精霊が復興に手を貸してくれたのが大きな要因と言えるだろう。

都市部には一切の被害がなかったので、エルベ離宮が復興すれば、此度の戦いの事は集結したと言えるだろう。

 

 

そんな中、なのははクローゼ、ヴィヴィオと共に王都を一望出来る丘にピクニックに来ていた――と言うのも、ヴィヴィオから『なのはママとクローゼママと一緒にお出掛けしたい!』とのリクエストを受けていたので、時間の空きを見付けて、ピクニックにやって来たのだ。

ピクニックの弁当はなのはとクローゼの手作りなので、余計に期待出来るだろう。

 

 

「家族水入らずの時間を盗み見ると言うのは感心出来んな?姿を見せよ。」

 

 

だが、なのはは何かを感じ取ったらしく、直ぐ近くにあったブナの巨木に言葉を投げかけると、その巨木の根元が揺らいで、其処に隠れていた人物を露わにして行く――そして、遂にその正体が顕わになる。

 

 

「バレてたか……流石だなリベール王。」

 

「その闘気で気付かん方がオカシイ……マッタク持って凄まじい闘気だなベルカ王?」

 

 

そして露わになったのは、白い衣を身に纏った、翠の髪が印象的なオッドアイの青年だった――同時に其れはリベールの魔王と、ベルカの覇王が邂逅した瞬間でもあったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter43『邂逅せしリベールの魔王とベルカの覇王』

ベルカの覇王……中々のイケメンだなByなのは      容姿端麗で武術にも精通しているとは……Byクローゼ


ピクニックにやって来たなのは達の前に現れたのは、リベールから海を挟んだ場所にある『ベルカ皇国』の王にして、『覇王』の異名を持っている『クラウス・G・S・イングヴァルド』だった。

その容姿は『好青年』と言った感じだが、其の身からは隠そうともしない闘気が溢れ出し、翠色のオーラとなって具現化している――『覇王』の異名は伊達ではないようである。

 

 

「ベルカの覇王がリベールに何用だ?会談の予定はなかったし、お忍びの物見遊山、と言う訳でもあるまい?」

 

「何れ会談は申し込む心算だったけどな。

 物見遊山ではないけれど、お忍びって言うのは正解だ。俺がリベールを訪れてる事は、妹ですら知らない事だからな……俺の目的は只一つ、リベール王の高町なのは、君の力がドレほどかを知るためにやって来たんだ。」

 

「ほう、私の力を……?」

 

 

そのクラウスが口にした言葉に、なのはは少しばかり愉快そうに目を細めて笑みを浮かべ、しかし細めた目の奥には一瞬で闘気が宿っていた。

此の十年間、様々な戦いを経験して来たなのはだが、其れでも自らの名を名乗り真正面から戦いを挑んで来たのは精々サイファー位であり、実に五年振りの事でもあるのだ。少しばかり気持ちが高揚するのもある意味では仕方ないと言えるだろう。

 

 

「ベルカの覇王は生粋の武人、なれば己が興味を持った相手の実力が如何程であるかを確かめたいと思うのは道理か。

 私とて、其れに応じるのは吝かではないが……今日は見ての通り家族団欒が目的で来ているのでな?

 だからと言って、態々海の向こうからやって来た覇王との手合わせを無碍に断るのも申し訳ない……だから五分だ。五分だけお前との手合わせに応じよう覇王クラウス殿。その五分間で、私の力が如何程か、満腹になるまで味わって貰うとしよう。」

 

「たった五分……いや、短い攻防の中でこそ其の真の力は発揮されるとも言える……その五分、有難く頂戴する。」

 

 

とは言え、この展開は完全に予想外であり、この場所に来た本来の目的はクローゼとヴィヴィオとのピクニックなので、なのはは『手合わせは五分だけ』と提案し、クラウスも其れを了承。

たった五分ではあっと言う間に終わってしまうだろうが、だからこそ其の五分間に互いの力を集中出来る訳で、ある意味では時間無制限の勝負よりも互いの実力を知るには最もベターな試合時間と言えるのかも知れない。

 

 

「ヴィヴィオ、ランチタイムは五分だけ待っていてくれ。少しばかり食前の運動をするからな。」

 

「は~い!頑張って、なのはママ!」

 

「……ママ?え、娘?」

 

「養子だ。見て分かれ。」

 

「だよな……養子じゃなかったら何歳の時の子供だって話になるからな。」

 

「実子だったら、私が三歳位の時の子供になってしまうからな?……だが、養子と言えど愛する娘が見ている前で負ける事は出来ん……当然、愛するパートナーの前でもだ――勝たせて貰うぞ、覇王クラウス。」

 

「俺とて負ける気はない……覇王の拳、試してみるか?」

 

「堪能させて貰うとしようか?クローゼ、試合開始の合図を頼む。」

 

「任されました。」

 

 

試合開始の合図を頼まれたクローゼは、腰に刺したレイピアを抜くと空に向かって其れを放り投げる。

投げられたレイピアは回転しながら上昇し、最高点まで到達すると切っ先を下にして落下してくる――見た目の重量は柄部分の方がありそうだが、柄の部分は軽金属や革で出来ているのに対し、刀身部分は鍛え上げられた鉄なので柄部分よりも重いので自然と下になるのだ。特にクローゼのレイピアは拵えこそリベール調だが、刀身は一夏が使っている雪片・弐型と同様の東方の『打ち刀』の製法で作られているのでより重いのである。

そして、そのレイピアが地面に刺さった時が試合開始だ……なのははレイジングハートを構え、クラウスは覇王流の構えを取り、レイピアが地面に突き刺さった瞬間、二人の王は同時に地を蹴って飛び出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter43

『邂逅せしリベールの魔王とベルカの覇王』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試合開始と同時に飛び出したなのはとクラウスは、なのはがレイジングハートでの突きを繰り出し、クラウスは其れに対して拳を叩き付けて来た。

クラウスの拳打は表面を魔力で強化しているらしく、遊星の手によって『ダイヤモンドでも粉砕出来る』だけの剛性を得たレイジングハートと互角に渡り合い火花放電が発生している。

完全なる拮抗だが、此処でなのはは自ら点をずらして拮抗状態を破ると、点をずらされて体勢を崩したクラウスにレイジングハートでの強烈な横薙ぎを放つ。

 

 

「其れは喰らわない!」

 

 

クラウスは其れを体勢を崩した状態を敢えて立て直さずにダッキングに移行して避け、カウンターの水面蹴りを放ってなのはの足を払う。

なのはは其れを避けきれず、真面に喰らってしまったのだが……

 

 

 

――ガッキィィィン!!

 

 

 

水面蹴りを喰らったなのはは転倒する事なく、寧ろ全然平気な顔をしている。

 

 

「中々に良い蹴りだった……私でなければ足を払われるだけで済まず、足首の骨を砕かれ、最悪の場合はアキレス腱を断裂していたかも知れん――だが、私が此の身に纏っているのは私の魔力で構築した防護服だ。

 其れは絹の滑らかさとゴムの柔軟性と鋼鉄の剛性を併せ持っている……覇王も蹴りでも、其れを突破する事は出来んぞ。」

 

「如何やらそうみたいだな。」

 

 

其れはなのはの防護服の耐久性が相当なモノだからだ。

なのはは己の戦闘スタイルが遠距離砲撃型だと理解したその時から、『耐えられる攻撃ならば避ける必要はない』との考えの元、徹底的に防御力を高め、その結果として普通ならばKOされている攻撃であっても余裕で耐えきれるようになっていたのである。

だが、水面蹴りを止められたクラウスは身体を逆方向に捻ると、しゃがんだ状態から抉り込むようなアッパーカットを繰り出し、なのはは其れをスウェーバックで躱し、其処に今度はクラウスの打ち下ろし式の裏拳が繰り出される。

 

 

「ちぃ……スマッシャー!」

 

「くぅ!」

 

 

それに対し、なのはは近距離砲撃魔法『クロス・スマッシャー』を合わせ、クラウスから距離を取る……一応最低限の近距離戦が出来るなのはだが、バリバリ近接格闘型のクラウスとの近距離戦は分が悪いと見て距離を取ったのだ。

其のまま飛んで空中に移動すると……

 

 

「其処に居ると危険だぞ?」

 

 

指を鳴らしてクラウスが居た場所を爆破する――今までの攻防の間に、なのはは地面の中に魔力爆弾を設置していたのだ。

突然地面が爆ぜたとなれば一緒に吹き飛ばされてしまうが、クラウスはなのはの言葉を聞いた瞬間に空中にエスケープをしていたので爆発に巻き込まれる事はなかったのだが、なのはの土俵である空中戦に誘い出されたと言うのはあまり良い状況とは言えないだろう。

クラウスとて飛行魔法は習得しているし、空中戦も行う事は出来るのだが、近距離格闘型が真骨頂を発揮出来るのは地上戦であるので空中戦が得意ななのはに対しては不利が付くのだ。

 

 

「私の言葉を聞いて空中に逃げたのは好判断だったが……既に包囲網は完成している。逃げ場はないぞ!」

 

「此れは……魔力弾か!」

 

 

空中にエスケープしたクラウスだが、その周囲には既に無数の魔力弾がクラウスを取り囲むように設置されていた――なのはは此の戦いが始まった瞬間にレイジングハートに命じて空中に無数のアクセルシューターを設置していたのだ。クラウスに気付かれないようにアクセルシューターの表面に『迷彩魔法』を張り付けて景色に同化させた上でだ。

 

 

「喰らえ、アクセルシューター・オーバーロードシフト!」

 

 

放たれた全方位からの回避不能のアクセルシューターだが、クラウスは両腕を大きく開く独特の構えを取ると、円運動で両腕を動かしながら身体を回転させてアクセルシューターを掴み取って一つの大きな魔力弾に再構築していく。

そして、全てのアクセルシューターを回収すると……

 

 

「覇王旋衝破!」

 

 

其れをなのはに向かって投げ付けた!

クラウスの行動を『一体何をする心算か』と見ていたなのはは、まさかアクセルシューターを全て回収して投げ付けて来ると言うのは予想外だったらしく、何とかギリギリで回避するのが精一杯だった……其れでも、髪の毛を数本持って行かれたが。

 

 

「バリアやリフレクターを使わずに、素手で魔力弾を反射してくる馬鹿が居るとは思わなかった……まだ拳で殴り飛ばす方が想像出来ると言うモノだが、覇王流は己の間合いの外からの攻撃に対しても対処する手段を持っていると言う訳か。此れは厄介だな。」

 

「覇王流に隙は無い。

 近距離だろうと遠距離だろうと間合いは選ばない戦いが出来るからな……魔力弾だけでなく、砲撃魔法でも打ち返す事は出来る――さて、この状況は君にとっては良くないと思うが、如何する?」

 

「そうだな……では、こうするとしよう。」

 

 

遠距離戦にも対処出来る覇王流を前に、なのははレイジングハートを構えると鋭い踏み込みから渾身の突きを繰り出す。

その突きをクラウスは余裕で避け、追撃の横薙ぎも華麗に躱し、なのはに拳を打ち込むも、其れはレイジングハートでガードされてなのはには届かない……正に一進一退の攻防と言えるだろう。

 

 

「……背後がガラ空きだ。」

 

「なに?……グアァァァアァ!」

 

 

その攻防の最中、突如クラウスの背後から無数の魔力弾が降り注ぎ、クラウスをダウンさせる――なのはは、またしても迷彩コーティングしたアクセルシューターを空中に設置して其れを一気にクラウスの背後から放ったのだ。

なのはは敢えて近距離戦を挑む事でクラウスの意識を自分に集中させ、アクセルシューターの存在を気取られないようにしていたのだ……『一対一の近距離戦では目の前の相手に集中せざるを得ない』と言う状況を巧く利用した見事なトリックプレイだと言えるだろう。

非殺傷設定なので、クラウスに怪我はないが、服の背中は大きく破れて皮膚が顕わになっている。

 

 

「タイムアップです。」

 

 

此処で約束の五分が経過して試合終了。

互いに決定的なダメージを与える事は出来なかったが、最後の攻防を見る限り、何方が勝利してたのかは言うまでもないだろう……其れ以前に、なのはがレイジングハートを非殺傷にしていなかったら、クラウスはこの場で命を落としていたかも知れないのだ。

 

 

「今回は、君の優勢勝ちかな高町なのは殿?」

 

「だな……だが、此れが時間無制限の戦いであったのならば結果は違っていたかも知れん――ベルカの覇王の拳、堪能させて貰った。そして、私はお前に力を示す事が出来たかなクラウス殿?」

 

「あぁ、充分過ぎる位にな。リベールの新王高町なのは、其の力堪能させて貰った――実に有意義な五分間だった。

 団欒の時間だったのに、俺の為に五分使ってくれた事に感謝する……近く、正式に同盟を結ぶための会談を申し入れさせて貰う事にしよう。

 今日はベルカの王ではなく、クラウス・G・S・イングヴァルド個人として君に会いに来たが、今度会う時はお互いベルカの王とリベールの王として、だな。」

 

「あぁ、そうだな。」

 

 

僅か五分間の攻防ではあったが、なのはの実力を其の身で味わったクラウスは其の場に現れた鏡のような空間に入リ、そしてクラウスが入ったのと同時にその空間は消えてなくなってしまった……一種の転移魔法のようなモノだろう。

 

 

「……ベルカの覇王、噂に違わぬ実力だったな。

 それにしても、魔王と熾天使の血を引く私と互角に戦うとは、本当人間の可能性と言うモノは無限大だな?肉体的にも内包魔力的にも人間は魔族や神族には圧倒的に劣ると言うのに、本人の努力次第では魔族や神族と互角、或は超越する強さを身に付けてしまうのだから。

 ……だとしても、カシウスを始めとしてリベールは人間の限界を突破してる者が多過ぎる気がする。特にロレントは。」

 

「確かに、ロレントは王都並みの戦力が揃って居ますからねぇ……」

 

「ねぇ~~、それよりもお弁当にしようよ~~?」

 

「……其れもそうだな。五分も待たせてしまったからな。」

 

 

クラウスが去ったのを確認するとピクニックを再開し、ヴィヴィオお待ちのお弁当タイムに。

バスケットを開くと、中にはスモークサーモン、ローストビーフ、ハーブチキン、卵サラダ等様々な具材を挟んだサンドイッチ、エビのフリッターマヨネーズソース、ニンジンのグラッセ、器も食べられるミニカボチャのグラタン、コンビーフの焼きロールキャベツと美味しそうな料理が盛り沢山。魔法瓶の中身は、なのは特製のキャラメルミルクである。

もう一つの小型のバスケットにはデザートの牛乳と生クリームのゼリーが入っている。

しかもこれ等は城の厨房スタッフの手が一切入っていない、全てなのはとクローゼの手作りなのだ。娘とのピクニックの弁当は絶対に手作りしたかったのである。

 

 

「うわ~~、美味しそう!!」

 

「実際に美味しいぞ?可成り気合を入れたからな。」

 

「ふふ、ですね。其れではいただきましょう。」

 

「「「いただきます!」」」

 

 

こうして和やかなお弁当タイムがスタートし、ヴィヴィオはその美味しさに舌鼓を打ち全身で『美味しい』と言う事を表現しており、其れを見たなのはとクローゼも満足そうだ……その光景は、血の繋がりはなくともこの三人が『親子』であると認識するには充分と言えるだろう。

幼くして両親を亡くしているなのはとクローゼだが、其れでも両親からの愛情は十二分に受けていたので、自分が受けた愛情を、今度はヴィヴィオに与えようと言う思いが余計にそう見させているのかも知れない。

 

 

「そう言えば、クラウスは『俺が此処に来ている事は妹も知らない』と言っていたから完全なお忍びで、恐らくあの転移魔法でリベールに来て、そしてベルカに帰ったのだろうが……何も知らない妹や配下にあの背中をどう説明する心算なのだろうなあの覇王は?」

 

「確かに、適当に誤魔化せるレベルではありませんよね……」

 

「……まぁ、私達が気にした所で如何なる事でもないか。今は、ピクニックを楽しむ事に集中、だな。」

 

「そうですね、そうしましょう。」

 

 

クラウスについて少しばかり気になる事はあったが、其れは気にした所で如何なる事でもないと考え、今はピクニックを楽しむ事に。

ランチタイムのラストのデザートの牛乳と生クリームのゼリーもヴィヴィオには好評だった――生クリームと牛乳が分離して二層になって固まったゼリーは食感が異なる不思議な美味しさがあったのである……尚、此のゼリーは嘗てなのはの母である桃子がミルクゼリーを作ろうとした際に牛乳の量が足りず、足りない分を生クリームで補った結果生まれた偶然の産物だったりするのだが、その偶然の産物が実は滅茶苦茶美味だったのだから何が起きるか分からないのも料理の醍醐味なのかも知れない。

デザートを食し、キャラメルミルクを飲んで一息ついた後は花畑に行き、其処でヴィヴィオはなのはとクローゼに花で王冠を作ってプレゼントし、なのはは花で首飾りを、クローゼは花で指輪を作ってヴィヴィオにプレゼントしていた。

其れからは高台を適当に散策した後に空の散歩で王城へと戻り本日のピクニックは終了。ほんの数時間だったが、其れでもこのピクニックは親子の絆を深めるには充分な時間だったと言えるだろう。

 

 

因みにこの日の午後は、『ライトロードの召喚士を発見して捕らえた』と言う、先のライトロードとの戦いを終結に導いた立役者である雪女こと早乙女雪奈への受勲と晩餐が予定されており、なのはとクローゼは城に戻ると直ぐにその準備を始めたのだが、当の雪女は王城正門での持ち物チェックの際に常日頃から背中の凶器入れに搭載している凶器を全て城のスタッフに預ける事に。

が、その背中の凶器入れから出て来たのは、金属バット、モップ、メリケンサック、ヌンチャク、チェーン、トンファーと大凡背中に収まり切らないモノだったのだが、さも当然の様に出されては入り口スタッフも何も言えなかった……ジェニス王立学園始まって以来の札付きの不良少女は、少しばかり謎があるようだ。序に言うと、雪女の友人の西行寺真雪もサラリと付いて来ていた。

でもって、受勲式は滞りなく進み、その後の晩餐ではなのはとクローゼが雪女からジェニス王立学園での日々を聞くなどして実に有意義な時間を過ごす事になり、その日は雪女と真雪は王城に泊まるおまけ付きだった。

 

 

「俺もライトロードの召喚士の捕縛には一役買ったんだが、何で俺は王城に招待されなかったのかねぇ?」

 

「あくまでも第一発見者は雪女だからじゃない?それと、アンタを王城に招待したらドレだけただ酒呑まれるか分かったモノじゃないから王様も呼ばなかったんじゃないのかしらね?」

 

「タダ酒にあり付けるかと思ったんだが、世の中早々巧く行かねぇか……取り敢えず乱嬢ちゃん、ジントニックと餃子追加だ。」

 

「はいは~い、但しツケは効かないからね。」

 

「大丈夫だ、この前の戦いの報酬がたんまりとあるからな。」

 

 

同じ頃、ダンテはルーアンの『白飯店』で飲み明かしていた――王城に招待されなかった事に対してのやけ酒と言う訳ではなく、純粋に飲みに来たのだろう。ウェイトレス兼用心棒の乱との遣り取りも最早此の店ではお馴染みのモノなので、他の客は誰も何も言わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

時は少し巻き戻り、リベールの高台から転移魔法の一種でベルカに戻ったクラウスだったが――

 

 

「兄さん、シャマルの旅の鏡で何方にいらしていたのでしょうか?」

 

「陛下、突然いなくなってしまったので心配したのですよ?」

 

 

其処で待っていたのは妹であるアインハルトと、最側近で幼馴染であるシグナムだった――二人ともクラウスが王城から姿を消した事に気付き、探している内にベルカの守護騎士の一人であるシャマルの『旅の鏡』でクラウスが何処かに行った事を突き止めていたのだ。

 

 

「えぇっと……心配を掛けたのは悪かったが、同盟を結ぼうと思っていたリベールに行って来たんだ――同盟を結ぶ前にリベールがどんな国なのか、新たな王がどんな人物であるのかを知っておいた方が良いと思ってね。」

 

「成程……確かに理屈は通っていますが、その背中は何があったのでしょう?リベールを視察するだけならば、背中が大きく破れると言う事はない筈……兄さん、貴方はリベールの王と一戦交えましたね?」

 

 

其れに加え、アインハルトはクラウスの背中に気付き、其処からリベールの王と一戦交えたのだろうとクラウスに詰め寄る……それに対しクラウスは誤魔化せないと判断し、『シャマルの旅の鏡でリベールに行って、リベール王と五分間の試合を行った』事を正直に言ったのだが、一国の王が他国の王にアポなしで突撃して、あまつさえ試合をしたと言うのは考えようによっては大問題であると言えるだろう。

 

 

「はぁ……まさかそんな事をしていたとは……取り敢えず覚悟は出来ていますね兄さん?」

 

「陛下、いやクラウス……甘んじて、この罰を受けるが良い!」

 

 

直後アインハルトとシグナムから強烈無比な一撃が炸裂してクラウスは廊下の端までぶっ飛ばされて壁に人型を作った後のダウンしてKOされてしまったのだが、此れだけの攻撃を喰らって失神だけで済んだクラウスの頑丈さは相当なモノであると言えるだろう。

 

 

そして其れから数日後、クラウスはなのは宛てに『同盟締結の会談を開催希望』の書簡を送り、なのはからも肯定の返信が来たので、クラウスは妹のアインハルトと最側近のシグナムを引き連れてリベールに向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter44『リベールとベルカ。新たなる同盟締結!』

何となく、SLBを何処かにブチかましたいByなのは      マルガ鉱山で放っては如何でしょうか?Byクローゼ


其の日、王都グランセルの発着場は此れまでにないレベルの厳戒態勢が取られていた――と言うのも、本日はベルカ皇国の王がリベールを訪れる日であるからだ。

王室親衛隊のメンバーだけでなく、リシャール率いる王国軍の兵士も発着場の警備に当たっているのを見るに、テロリストの類が発着場に何かを仕掛ける事は出来ないだろう……嘱託のシェンとユーリ、霊使い四姉妹、殺意の波動とオロチの暗黒パワーを内包した稼津斗とルガールも居るのでテロリストが何かしようとした瞬間に、其れは滅殺確定なのだから。

 

発着場内ではなのはとクローゼ、ヴィヴィオがベルカからの便の到着を待っていた。

 

 

「今日は白なんですねなのはさん?」

 

「ベルカの覇王との会談の場で黒い服と言うのは些か礼儀を欠くだろう?黒は、一般的には不吉な色とされているからな……だが、この白い防護服は実戦向きではないんだ。

 己の魔力で構成した防護服は、黒いほど堅く、赤いほど強いとされているからな。」

 

「つまり、なのはさんの通常時の防護服は堅く、なたねさんの防護服は強いと言う訳ですね?」

 

「魔族と神族の血を引きながら、しかし私の先天属性は『闇』だから、黒や紫の方がより強いと言うのはあるがな。」

 

 

クラウスとの会談に向け、本日のなのはの防護服は何時もの黒ではなく白いモノになっていた……黒は些か印象が良くないと考えたのだろう――東方では、黒は葬儀に使われる色でもあるのだから。

其れは其れとして、この場にはリベール通信のナイアルとドロシーも居るのは当然と言えるだろう――リベール王国が初めて海の向こうの外国との同盟を結ぶと言う大ニュースを報じない選択肢は存在していないのだから。……尚、今回もなのは率いる革命軍とデュナン軍が戦った時と同様、ドロシーのオーバルカメラのフィルムは全て経費で落とされていたりする。

 

其れから数分後、発着場には一気の飛空艇が現れた。

燃え盛る轟炎の如き真紅の流線型のフォルムにベルカの王族の紋章……ベルカ皇国が誇る最新鋭の飛空艇『ラグナロク』がリベールに到着したのだ。

このラグナロク、リベールが誇る最新鋭の飛空艇『アルセイユ』と同じく王直属の飛空艇であると同時に戦闘能力も兼ね備えており、戦闘飛空艇としても使用する事が可能だったりするのだ。

 

ラグナロクが発着場に着陸すると扉が開き、中からはベルカ皇国の王であるクラウス、その妹のアインハルト、最側近のシグナムが現れて発着場のデッキに降りてなのは達と対峙する形に。

 

 

「改めて、ようこそリベールにベルカ王。」

 

「あぁ、今日と言う日を楽しみにしていたよリベール女王。」

 

 

そして二人の王は握手を交わし、その光景をドロシーが神技じみたカメラ捌きで激写!熱写!!爆写!!!フィルムが経費落ちるなら遠慮はいらないとばかりに撮りまくり、ナイアルもメモにペンを走らせる……そのメモに書かれている事は一般人には読めそうにない走り書きなのだが、記事を書くナイアルに読めれば其れで良いので特に問題はないだろう。

再び出会ったリベールの魔王とベルカの覇王、その再会は両国にとってより良い未来を切り拓くための礎となる事だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter44

『リベールとベルカ。新たなる同盟締結!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クラウスには名乗ったが、其方の二人とは初めて会うな?リベール女王の高町なのはだ、ようこそリベールへ。」

 

「クラウス・G・S・イングヴァルドの妹のハイディ・E・S・イングヴァルドです……先日は愚兄が大変ご迷惑をおかけしました!妹として心よりお詫び申し上げます!!」

 

「陛下の側近のシグナムと言う……本当に先日は陛下が迷惑をおかけした!側近として、そして幼馴染としてキッチリと〆ておいたので何卒、先日の無礼は水に流して頂きたい!」

 

「……やっぱり〆られたか。」

 

「同情の余地はありませんね……」

 

 

アインハルトとシグナムにも挨拶をしたなのはだったが、二人からは挨拶と共にこの間のクラウスのお忍びの一件で謝罪をされる事に……妹と最側近に何も言わずに勝手にリベールを訪れて、あまつさえリベールの王に勝負を申し込んだと言うのは一歩間違えは外交問題に発展しかねないので、此れはある意味で当然の事だろう。

 

 

「まぁ、確かに驚きはしたが、私もベルカの覇王の拳を味わう貴重な体験が出来たのでな、迷惑とは思っていない……寧ろ、此れから同盟を結ぶ国の王の力を知る事が出来たと考えればプラスだからな。

 其れに、私も久しぶりに本気で戦う事が出来たので満足した……機会があれば、今度は時間無制限で戦いたいものだ。」

 

 

だがなのははマッタク持って問題だとは思っておらず、寧ろクラウスと戦う事が出来て満足だったようだ……噂に聞いたベルカの覇王の拳を直に感じる事が出来たと言うのも大きかったのだろう。

 

 

「……リベール王が寛大な方で良かったですね兄さん……そうでなかったら、私は謝罪の為に貴方をブッ飛ばしていました。」

 

「うん、俺も心底そう思っているよアインハルト。」

 

「アインハルト?ハイディではないのか?」

 

「私のミドルネームのE・Sは『アインハルト・ストラトス』の略なのです。親しい人は、皆アインハルトと呼ぶのですよ。」

 

「成程な……では、私もアインハルトと呼ばせて貰っても良いか?ハイディよりも、其方の方が親しみも湧くのでな。……其れよりも、いっそもっと大胆に『アイン』と言うのは如何だろうか?」

 

「其れも良いですね。」

 

 

発着場から出発した一行は徒歩でグランセル城に向かっていた。

普通は王専用の特別車を使うのだが、なのはとクローゼの戦闘力はクッソ高い上に護衛の親衛隊に至っては『親衛隊だけで一国落とせんじゃね?』と言ったレベルの戦闘力がある上に、殺意の波動+オロチの暗黒パワーを内包している稼津斗とルガールが居るので徒歩での移動であってもマッタク無問題なのだ――加えて、ベルカ王のクラウスも、その妹のアインハルト、最側近のシグナムもバリバリの戦士型なので移動中を襲撃された所で余裕で返り討ちに出来るのである……『戦う力』を持っている王と言うのはある意味最強であると言えるだろう。

 

そして徒歩で王城に向かった事で、クラウスとアインハルトとシグナムはなのはが民に近い王である事を認識する事になった……と言うのも、王城への道のりの中で、王都の住民が気軽になのはに声を掛けて来たからだ。

クラウスもベルカでは民に近い王として民の支持を受けているが、なのはは其れ以上だったのだ……仕事の合間に息抜きとして王都を中心にリベール各地を訪れていたからこその事だろう。

 

其れはさておき、一行はグランセル城に到着し、執務室に移動して同盟の調印式を行う事に。

同盟を結ぶための書類にサインし、後は判を捺すだけなのだが……

 

 

「なのは殿、此処はベルカに古代より伝わる判を捺すとしないか?」

 

「古代のベルカから伝わる判だと?」

 

「己の親指をの表面を切って血を出し、其の血で印を捺す血判だ……ベルカでは古代より、血判は己の命を賭した違える事を許さない約束に使われて来たモノ――ベルカとリベールの同盟は俺達の命が尽きても変わらぬ証として如何だろうか?」

 

「ふむ、異論はない。」

 

 

クラウスが予想外の提案をしてくれたが、詳細を聞いたなのはは其れを受け入れ、なのはは魔力で生成した魔力刃で、クラウスは護身用のナイフで夫々己の親指の表面を切って出血させると、其れを書類に押し付けて血判を施し、調印完了。

だがしかし、其れだけでは終わらない。

 

 

「ではクラウス殿、今度は此方の……と言うか魔族の流儀でも同盟締結の誓いを交わそうか?」

 

「魔族の?」

 

「左様。」

 

 

なのはが指を鳴らすと執務室の外に待機していた侍女がトレーに杯を二つと小さな酒瓶を乗せて入って来た。

 

 

「此れは?」

 

「見ての通り酒と杯だ……魔族の間では、重要な約束をする時、熱い酒を酌み交わす事で其れを破らぬ証とする。

 嘘を吐く事の出来ない魔族だが、『あの時はその心算だったが、今はもうその気がなくなった』と言ってしまえば、其れは嘘ではなく当人の気持ちが変わっただけとなり消滅する事はないからね……そう言う事がないように証を立てる。いうなればベルカの血判と同じ様なモノだと思ってくれれば良い。」

 

「熱い酒か……酒は嗜む程度だが、この小さな杯であれば酔うと言う事もないからな、魔族の流儀の誓い、乗らせて貰うとしよう。」

 

 

なのはからの提案を受けたクラウスは、其れを承諾したのだが手にした杯に酒が注がれた瞬間に驚く事となった。

酒が注がれた瞬間に、持っていた杯が持って居られないほどに一気に熱くなったからだ……冷たかった杯を一瞬で其処まで熱してしまうとは、注がれた酒の温度は如何程であるのか想像も出来ない。

 

だが、その酒をクラウスは一気に飲み干した!が、実は此れが正解だ。

『熱いから』と少しずつ飲もうとしたら逆に口内を火傷してしまう――一気に煽り、口内に止める事なく一気に飲み干してしまえば喉を通って胃に流れ込むので火傷はしないのだ。

そしてなのはも其れを一気に飲み干す……なのはの方は三回目と言う事もあり慣れた様子だ。

 

 

「ふぅ……この緊張感、堪らんな。」

 

「まさか此処まで熱いとは思わなかったが……此れだけ熱してもアルコールが飛ばないとは、一体どんな酒なんだ?」

 

「普通の酒だが、熱し方が普通ではないんだ。

 沸騰させるとアルコールは飛んでしまうから、沸騰しないギリギリの温度を保ちながら熱し続ける事で焼けるような火の酒が出来上がると言う訳だ……因みに、此の火の酒を瓶ごと口に突っ込むと言う拷問もあるとかないとか。」

 

「其れは空恐ろしいな。」

 

 

ともあれ、ベルカ式の血判と、魔族式の誓いを交わした事により、リベールとベルカの同盟は此れから先の未来もずっと続いて行く事になるのは間違いないだろう。

同盟締結の調印が終わった後は、両国の通商に関する取り決めや、其れによる為替ルート等も話し合われ、リベールで10ミラで売られている物が、ベルカでは1000ドゥルで売られている事から、当面は1ミラ100ドゥルで取引する事が決まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

会談は滞りなく終わり、夜には晩餐会も予定されているのだが、其れまではまだ時間があるのでなのははクラウスと共に王都を散策する事に。勿論なのはのパートナーであるクローゼ、クラウスの妹のアインハルトと側近のシグナムも一緒だ。ヴィヴィオは親衛隊の訓練に参加しているので一緒ではないが。

 

 

「此れがエレボニア帝国の大使館で、反対側にあるのがカルバート共和国の大使館だ。……新たに、ベルカ皇国の大使館も早急に建造せねばだな。」

 

「ベルカにも、リベール王国の大使館を造らねばだな。」

 

「まぁ、大使館くらいは霊使い四姉妹と不動兄妹に依頼すれば直ぐに出来るがな……復興に一カ月は必要だろうと思っていたエルベ離宮を僅か一週間で復興させてしまったからな。」

 

「其れは、凄いな?その技術、是非とも我が国に提供して欲しいモノだ。」

 

「不動兄妹の技術は、果たして他者に教える事が出来るモノかどうかが問題だな……ラッセル博士もリベールが誇る天才だが、不動兄妹は其れを遥かに凌駕しているからな。多分だが兄の遊星と妹の遊里の合計IQは四百超えるんじゃないだろうか?」

 

「単純計算でIQ二百以上確定か……其れほどの天才は、少なくとも俺はベルカ国内では知らないから技術提供して貰うのは無理か。」

 

 

リベールの王であるなのはそのパートナーのクローゼ、ベルカの王であるクラウスと妹のアインハルトが市街地を散策するにしては護衛が実質シグナムだけと言うのは普通は有り得ない事だが、シグナム以外の四人も夫々が『戦う力』を持っているのでマッタク持って問題無しだ――『親衛隊や王国軍の兵士を護衛に付けて人数が多くなると王都の民に威圧感を与えるかも知れない』となのはが考えてこの人数での散策になってる部分もあるのだが。

その後、一行はマーケットに顔を出した後に、リベール通信本社でナイアルからの独占インタビューを受け、その後はマーケット近くで営業している移動式のアイスクリーム屋でアイスを購入して簡易に設置されていたパラソルベンチで冷たい甘味を堪能した。

『キングサイズを頼むと、無料でスモールサイズサービス』のキャンペーン中だったので、全員がキングサイズを注文し、なのははキングがキャラメルリボンでスモールはチョコクッキー、クローゼはキングがチョコミントでスモールがラムレーズン、クラウスはキングがマスカルポーネチーズでスモールがブルーベリー、アインハルトはキングがチョコレートでスモールはストロベリー、シグナムはキングが抹茶でスモールが小倉クリームだった……シグナムのチョイスが中々に渋い。

 

アイスを堪能した後は、グランセル城と並ぶ王都の名所である『グランセルアリーナ』を訪れていた。

 

 

「此処は?」

 

「グランセルアリーナ……リベールで一年に一度行われる一大イベントである『武術大会』の会場だ――尤も、デュナンが新たな王となった後は、デュナンが招待したチームが優勝する出来レースになっていたようだが。

 そんな中で、去年と一昨年は草薙京率いるチームがデュナンの招待チームを撃破しての二連覇を達成したと言うのだから、出来レースに辟易していた国民はさぞスカッとしただろうな。」

 

「武術大会の……だが、使われるのは其の時だけなのか?」

 

「普段は王室親衛隊が訓練で使っていますね。

 以前は王室親衛隊は王都からレイストン要塞まで移動して訓練を行っていたのですが、其れでは効率が悪いと言う事でグランセルアリーナで訓練を行うようになったんです。此処ならば、訓練を行っている最中に王都で何か起きても直ぐに対処出来ますから。」

 

「成程、よく考えられているのですね……と言う事は、今も中で親衛隊が訓練を?」

 

「あぁ、行っている筈だ。何なら見て行くか?王室親衛隊は隊員の数では王国軍に劣るが、逆に言えばその隊員は『王の護衛を任された軍の精鋭』とも言える者達ばかりだからな……リベールが誇る部隊の訓練を見学すると言うのも悪くはあるまい。

 今日は特別コーチとしてロレントから草薙京が来ている筈だからな。」

 

「そうだな……是非とも見学させて貰おう。」

 

 

なのはとクローゼがグランセルアリーナの事を簡単に説明し、一行はアリーナ内で行われている王室親衛隊の訓練を視察する事に――なのはとクローゼが訓練を視察するのは何時もの事だが、外国の王と共に視察するのは初めての事だ。

そしてアリーナに入ると……

 

 

「おぉぉぉ……喰らいやがれぇ!!」

 

「タイガァァ……キャノン!!」

 

 

いきなり京の大蛇薙とヴィシュヌのタイガーキャノンがぶち当たると言う大バトルに遭遇!

強大な炎と気弾がかち合って爆炎が発生し、京もヴィシュヌも体勢を崩すが、京は一早く体勢を立て直すとヴィシュヌに向かって突撃し、弐百壱拾弐式・琴月 陽を叩き込んで燃やす!

だが、ヴィシュヌは転がって炎を消すと其処から鋭いスライディングキックを繰り出し、更に鋭い蹴り上げで京のガードを抉じ開けると強烈な飛び膝蹴りを食らわせる。

正に一進一退の攻防が繰り広げられていた……京もヴィシュヌも炎属性故に、その戦いは物理的に熱いモノとなっていた。実際に此の戦いで、アリーナ内の温度は真夏日の気温を余裕で越えるモノとなっているのだ。

 

そんな熱いバトルが展開されている一方で、アリーナの隅には珍しく親衛隊の制服を着たレオナと、何時もの服装の一夏と、何故か庵の姿があった。

 

 

「では、此れより暴走を制御する訓練を開始する。……因みに、制御に失敗するとあぁなる。」

 

「ふぅ……あふぅ……キョォォォォォォォォォォォォォ!!!」

 

「……気を付けるよ。」

 

 

如何やら暴走を制御する訓練の為に庵は呼ばれたらしい。

先のライトロードとの戦いで殺意の波動に目覚めた一夏だが、其の力を完全に制御する事は出来ず、殺意の波動が暴走してしまったので其れを制御出来るようになる必要があると考えたレオナがこの訓練を行う事を決めたのだ。

今やオロチの力を完全に制御出来ているレオナだからこそ提案出来た事であり、一夏が殺意の波動の完全コントロールが出来るようになればリベールにとってもプラスになると考えたのだろう……暴走の制御が出来ないとどうなるかの見本として庵を呼ぶのは如何かと思うが。

 

 

「草薙の炎と遣り合うとは、やるじゃないかヴィシュヌ……因縁とか宿命とか関係ない戦いで此れだけ楽しめたのは紅丸との試合以来だぜ――流石は鬼の子供達の一人ってか?

 お前で此れなら、お前よりも強い一夏とはもっと楽しめるかもな。」

 

「一夏は私の倍……とは言いませんが、1.25倍は強いですから。」

 

「倍率微妙だなオイ……其処は恋人補正入れてやれよ?」

 

 

京とヴィシュヌの戦いは、京のR.E.D.KicKとヴィシュヌが昇龍拳を自己流にアレンジしたタイガーブロウがかち合って火花を散らし、互いに着地すると一気に気を高めて最大の一撃を放たんとする。

 

 

「行きます!灼熱……波動拳!!」

 

「コイツで終わりだ!俺からは逃げられねぇんだよ!」

 

 

ヴィシュヌが轟炎の気功波『灼熱波動拳』を放ち、京は裏百弐拾壱式・天叢雲を放ち、強大な気功波と無数の巨大な火柱がぶつかって爆炎が上がる……が、京はその爆炎の中を自らを炎に包んで突っ切ってヴィシュヌに突撃し……

 

 

「見せてやるぜ、草薙流の真髄!」

 

「!!」

 

 

裏千弐百壱拾弐式・八雲を叩き込む。

巨大な闇払いを喰らわせた後に、炎の拳で連続ブローを叩き込み、トドメに巨大な炎の渦でヴィシュヌを吹き飛ばす!

 

 

「熱くなれたろ?」

 

「消し炭になるかと思いましたよ……ですが、流石に今ので限界が来たみたいですね……降参します。」

 

 

何とか受け身を取ったヴィシュヌだったが、大ダメージを負ってしまい此処で降参し、今回は京に軍配が上がった――しかしながら、千八百年の歴史を持つ草薙流の歴代正統後継者の中でも、『草薙流始まって以来の天才』と称される京と中々良い戦いをしたヴィシュヌの実力は相当なモノだろう。

そして同時に其れは、簪以外の鬼の子供達も同等の実力を秘めていると言う事であり、頭一つ抜きん出ている一夏は京と互角以上の戦いが出来ると言う事でもあるのだ……鬼に育てられたのは伊達ではないようだ。

 

そして京とヴィシュヌの戦い以外にも、親衛隊隊長のユリアが夏姫との模擬戦を行い、ヴィヴィオが刀奈達と相手を変えて連続でスパーリングを行い、他の隊員はバハムートを相手に訓練を行っていた……ドラゴンを相手に訓練を行う部隊と言うのは中々無いだろう。

 

 

「此れは……思っていた以上に内容が濃い訓練だな?此れほどの訓練を行っているのならば、親衛隊の実力は疑いようもない……俺も武闘家の血が騒いできた。」

 

「武闘家の血に火が点いたと言うのであれば見学した甲斐もあったと言うモノ……だがしかし、残念ながら訓練に参加させる事は出来ないんだクラウス殿。他国の王を自国の軍の訓練に参加させたとなれば、其れだけで問題になってしまうからね。」

 

「……仕方ない、この滾りはベルカに帰ってから発散するとしよう。」

 

 

其れを見たクラウスは武闘家の血が騒いだみたいだが、流石に親衛隊の訓練に参加させる訳には行かないので見学のみとなった――が、クラウスが帰国したベルカはクラウスの滾りを発散する為にシグナムを始めとする側近は大分大変な事になるかも知れない。尤もやり過ぎたらアインハルトがクラウスをしばいて強制終了になるので大丈夫だろうが。

 

其の後は王城前の広場で釣りに興じた後、王城の大広間にて晩餐会が行われ、贅の限りが尽くされた王宮料理に舌鼓を打ち、そしてクラウス一行は本日は王城で一泊するのだが、王城内に作られたエルモ村からの温泉を引いている大浴場での風呂には大満足したようだった。

取り敢えず、リベールとベルカの同盟締結は無事に、そしてとても良い形で行われたと言って良いだろう。

そして、ベルカとの同盟締結により、リベールの基盤はより強固になった、其れも間違いない事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

――とある研究所

 

 

仄暗い部屋の中には、身体に幾つものコードが繋がれた屈強な男性が三人座っており、その背後には黒光りする結晶が入ったポッドが存在していた……そして、黒光りする結晶が怪しい光を放った瞬間、男達が稲妻に打たれたかのように痙攣し、そして其のまま動かなくなってしまった。

 

 

「守備は如何かなドクター?」

 

「ふむ、大成功だよ教授。

 この『黒晶』によって、疑似的ではあるが人に『オロチの力』を宿す事が出来た……ククク、此れは若しかしたらライトロード以上の傑作かもしれない――そうだね、リベールで年に一度行われている武術大会に、彼等を送り込んでみると言うのは如何だろう?」

 

「ふむ、其れは面白そうだ。そして、実験の成果を試す場としては此の上ない。」

 

 

そして、其処に存在してたのは此の上ない純粋なまでの『悪意』だった……ライトロードに殺意の波動を植え付けた上で復活させた教授とドクターは、また何かよからん事を企んでいるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter45『武術大会開催前の彼是色々Et cetera』

新たな武術大会の大会名……いっそ『天下一武道会』で如何だろう?Byなのは      其れは何故かダメな気がしますByクローゼ


ベルカ皇国との同盟が締結してから数日後、なのはは執務室で悩んでいた。

なのはが睨めっこしているのは過去の武術大会の記録と大会のルールなどを纏めた書類だ……武術大会はリベールに於ける一大イベントなので、なのはも盛大に開催しようと考えているのだが、此れまでの大会と違う形で開催したいと言う考えもあり考えが煮詰まっているようだ。

 

 

「なのはさん、一休みしませんか?」

 

「なのはママの大好きなキャラメルミルク作って来た~~!」

 

「クローゼ、ヴィヴィオ……そうだな、一息入れるとしようか。」

 

 

其処にクローゼがバスケットに入ったクッキーを、ヴィヴィオがティーポットに入ったキャラメルミルクを持って執務室にやって来た――クローゼはなのはのパートナーとして、ヴィヴィオはなのはの娘として少しでも力になりたかったのだろう。

 

 

「其れで、何を悩んでいたんですかなのはさん?」

 

「恒例の武術大会についてな。

 リベールが生まれ変わった事を強調する為に、此れまでとはルールを一新し、四対四の団体チーム戦から、三対三の勝ち抜き式のチーム戦に変更し、一対一の個人戦部門も用意しDSAAルールとダメージシミュレートを採用したモノにして、チーム戦は先に相手チーム三人を倒した方の勝ちと言う所までは考えたのだが――肝心の大会名が決まっていなくてな。

 武術大会では、流石に味気ないだろうと思って幾つか考えたのだが、如何にもシックリ来なくてな?」

 

 

だがなのはは大会の仕様を大きく変更する事を確りと考えていたのだが、大会名が思い付かなかったようだ……確かに、リベールの目玉とも言える一大イベントには其れ相応の相応しいネーミングがされるべきだろう。

 

 

「確かに大会名も一新した方が良いかもしれませんが……参考までに、どのような大会名を考えたのでしょう?」

 

「『闘劇』、『ミレニアム・ファイティング』、『リベール・バトルコロシアム』、『頂上決戦!アルティメットファイト!』、とまぁこんな感じだ。自分で言うのもアレだが、とても微妙な感じがしてな。」

 

「うん、イマイチ。」

 

「ぐ……実際に言われると結構刺さるな?娘からの一撃だと尚更だ。」

 

「アハハ……でも、確かにシックリ来ませんね?何か特別なモノにしようとして逆にイマイチな感じになってしまったのかもしれません。

 ふ~~む……では、武闘家の頂点を決める大会と言う事で、『The King Of Fighters』と言うのは如何でしょうか?略称も『KOF』と分かり易いですし。」

 

「武闘家の王か……確かに良いかも知れないな?では、大会名は『The King Of Fighters』、略して『KOF』とするとしよう。中々ネーミングセンスがあるなクローゼ?」

 

「ふふ、お褒めに預かり光栄です♪」

 

 

なのはが考えた大会名は、イマイチでありヴィヴィオにもストレートに指摘されてしまったが、此処でクローゼがシンプルかつ分かり易く、略称としても覚えやすい大会名を提案し、なのはは其れを即採用して、新生リベールの武術大会は新たに『TheKing Of Fighters』として生まれ変わる事になったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter45

『武術大会開催前の彼是色々Et cetera』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大会名が決まり、大会のルールも大筋が決まったとなれば次にやるべき事は大会の告示を国内外に行う事だが、此れは少しばかり最新技術も使う方向でなのはは考えていた。

大会の告知ポスターやビラの配布だけでなく、不動兄妹とラッセル博士が共同開発した『映像モニター』を使った告知も行おうと考えていたのだ。

映像モニター自体は既に存在しており、飛空艇や船と言った各種航行機器や個人用の通信機には搭載されているのだが、一般家庭用の大型映像モニターと言うのは存在しておらず、この度不動兄妹とラッセル博士が漸く一般家庭でも買える程度に価格を抑えたモノを作り上げ、リベール国内のみならず国外に向けても急速に輸出が行われて、大型の映像モニター『テレヴィジョン』は瞬く間に世界中に広がって行ったのだ。

そして、家庭用のテレヴィジョンと並行してより大型の『オーロラヴィジョン』も開発され、各地で其れを使った宣伝看板も増えて来ているのだ。

 

なのでなのはは、このテレヴィジョンとオーロラヴィジョンを使っての大会告知は、ポスターやビラ以上の宣伝効果があると思い、其れを使う事を思い付いたのである。

そして、その告知動画の編集を任されたのは何と簪だった。

と言うのも、簪は実は創作物が大好きで、其れが高じて自分でもオリジナルの創作物を作ってしまう程に創作力のある人物であり、であるのであれば大会の告知動画を作る事も出来るだろうと考え、なのはが白羽の矢を立てたのだ。

 

 

「過去のリベール通信の武術大会の記事から写真をトレースして、其れを臨場感が出るように繋いで、スタイリッシュなBGMを付けて、そして最後になのはさんの大会告知のメッセージを付け加えて……此れで良いかな?」

 

「うん、とても良い感じだ簪。」

 

 

そうして出来上がった告知映像は、一昨年と去年の武術大会の特集を組んだリベール通信の写真を組み合わせた上で、臨場感のあるBGMを入れて、なのはの大会開催を告げるメッセージを入れたモノとなり、其れが可成りの出来栄えだった。

簪の編集技術も然る事ながら、なのはの『此度、リベール王国にて『The King Of Fighters』を開催する。大会は三対三のチーム戦と、一対一の個人戦の二種類を開こうと考えている。腕に覚えのある者は是非とも大会に参加して欲しい――己の拳、己の武の全てを懸けて其の力を心行くまで発揮し、『KingOf Fighter』の称号を掴み取れ!』と言うメッセージもインパクトがあっただろう。

大会を告知するポスターやビラにも同様のメッセージが書き込まれていたので、宣伝効果は抜群と言えるはずだ――尚、大会告知のビラとポスターのデザインも簪が担当し、大会二連覇を達成した京を中心に、アインス、ノーヴェ、真吾が配置され、背後に庵が背中を向けて立っていると言う此れまた何ともスタイリッシュなモノとなっていた。簪のセンスは相当に高いと言えるだろう。

 

同時に大会の告知が告げられると同時に、リベール国内だけでなく国外でも大会に参加する為に多くの武闘家が、主にチーム戦への参加を考えた武闘家達はチームメイトを探す為に奔走する事となった。

 

其れは大会二連覇を果たした京も同じなのだが――

 

 

「今回は三対三か……なら、俺のチームは俺とアインス、其れからエステルで決まりだな。アインスもエステルも其れで良いだろ?」

 

「あぁ、異論はない。」

 

「アタシも異論はないわ!ヨシュアに良いトコ見せてやるんだから!」

 

「普通は立場が逆だろ、ってのは言うだけ野暮なんだろうな。」

 

 

京はアッサリとチームを決めていた。

武術大会の初優勝を決めた時のチームが、京・アインス・エステルの三人に京の盟友にしてライバルである二階堂紅丸を加えたモノで、二連覇した時のチームが紅丸の代わりに京に憧れて押しかけ弟子となった真吾を加えたモノであり、チームの人数が三人となった今大会で、京がアインスとエステルをチームメイトに指定したのは当然の流れと言えるだろう。

 

 

「ちょっと待って下さいよ草薙さん!だったら俺はどうなるんすか!!」

 

「真吾、お前は今大会自分でチームメイトを見つけるか、若しくは個人戦でエントリーしろ……お前は思った以上に才能はあったみたいだが、其れでも去年の大会でお前が優勝に貢献したとは言い難い。

 だから今回は、お前の力だけで結果を残して見せな――お前が自分の力でチームを組んで、一回戦で俺のチームと当たった時以外は一回戦を突破すりゃ及第点をくれてやるし、個人戦なら、取り敢えずベスト8にコマを進めりゃ及第点をくれてやる。

 だけど、どっちも出来なかった其の時は、お前破門な。」

 

「草薙さ~~~ん!!!」

 

 

その真吾は京とチームを組めなかった事が不満だったみたいだが、此処で京は真吾に対して課題を出した……元々真吾は格闘技に関しては全くの素人で、京に憧れて格闘の道に足を踏み入れた、ある意味でミーハーファイターなのだ。

才能はソコソコあったらしく、京が一度見せただけの技も即座に形だけは完全にマスターしてしまったのだが、如何せんついこの前までは全くの素人だったので、いざ本番となるとビビッて尻込みする事が多かったのだ――其れでも、先のライトロードとの戦いの時の様に、『逃げる事の出来ない戦い』になったその時は、腹を括ってその秘められた力を発揮するのだが。

 

京としても真吾の才能には気付いていたので、その才能を埋もれさせない為に敢えて厳しい条件を出したのだ――真吾が押しかけて来た時には『面倒な』と思っていたのだが、一緒に居る内に情が移ったのかもしれない。

 

 

「京、真吾君の事あれで良かったの?」

 

「少なくとも、アイツが成長するには此れが正解だって思ってる。

 真吾には才能あるし、格闘のセンスも中々なんだが、アイツは心のどこかで俺を頼っちまってるからな……俺を頼りにしてる限り、アイツは今以上の成長は望めないんだよ――だからアイツは、自分の力だけで大会のメンバーを集めるか、個人戦で勝ち進む必要があるんだ。

 曲りなりも、アイツは草薙の拳を学んだんだ、生半可で終わるってのは俺が許さねぇ……同時に真吾にも知って欲しいんだよ、テメェの力を限界まで出し切って戦う、格闘の本当の面白さって奴をさ。」

 

「師匠の親心か……ちゃんと師匠してるじゃないか京。」

 

「中途半端ってのは嫌いなんだよ俺は。」

 

 

とは言え、真吾にとって京が貸した課題はハードルが可成り高いだろう。

チームを組もうにも、真吾には面識のある武闘家は殆どいない上に、個人戦でベスト8に残れと言うのは運の要素も絡んでくるのだから――個人戦の参加人数が十六人ならば一回戦を突破すればベスト8確定だが、参加人数が其れ以上となった場合には、シード権を獲得するか、或は最低でも二回以上勝ち抜かねばならないので、真吾にとっては可成りのハードモードと言えるだろう。

 

そんな訳で真吾はチームメイトの獲得に奔走する事になったのだが、見知った顔は既に全滅状態で、頼みの綱であった同じく京の弟子であるノーヴェにも『今回は個人戦でエントリーする』と断られてしまい、最後の望みを懸けて京の宿敵である庵の下にも出向いたのだが、『京の弟子が態々来るとは……貴様を殺して、京を怒らせるのもまた一興かもしれんな?』言われた上で、八稚女をブチかまされそうになった(勿論本気ではなく鬱陶しかったので追い払う為の脅しなのだが。)ので命からがら逃げ出して何とか命を拾ったのだ……詰まるところ、真吾には最早チームメイトの当てがない訳だが――

 

 

「はぁ~~~……」

 

 

リベールの郊外までやって来た所で、ベンチに座って溜め息を吐く、褐色肌に坊主とドレッドヘアーを融合した独特の髪型をした黄色い道着の少年の姿が目に入った。

其れだけならば如何と言う事は無かったのだが、何かを感じたのか真吾はその少年に声を掛けていた。

 

 

「溜め息を吐くと幸せが逃げるっすよ?何か、悩み事ですか?」

 

「悩みごとっちゃ、悩み事かも……KOFの告知を見て、俺も参加しようと思って師匠にチーム組んでくれって頼みに行ったんだけど、師匠は『俺は今回はリュウとジンとチームを組むから』って、俺とは組んでくれなかったんだよ!

 師匠と戦いたいから俺もチームで参加しようと思ってたんだけど、俺は全然未熟で無名だから組んでくれる相手は居ないし、だったらリベールで誰か組んでくれる人いないかなと思ってダメ元で来たんだけど、やっぱ収穫はゼロなんだよな~~。」

 

「あぁ、痛いほど分かるその気持ち……だったら俺とチームを組みません?俺も師匠から、別チームでエントリーするか、個人戦でエントリーしろって言われちゃったんすよ――互いに組む相手が居ない弟子って事で。」

 

「似た者同士でエントリーか……この際だから、其れもアリかもな~~~?なら本気で俺と組もうぜ?俺はショーン、アンタは。」

 

「俺、矢吹慎吾!宜しく頼むよ!!」

 

「オウ!」

 

 

その少年、ショーンもまた師匠とチームを組もうと思っていたら、その師匠はアッサリとチームを組んでしまい、自分はチームを組む事が出来ずに途方に暮れて所に真吾が声を掛け、似た者同士と言う事でアッサリとチームを組む事に。

チーム戦に参加するにはあと一人必要だが、其れでも組む相手が見つかったと言うのはお互いに有難い事だっただろう。

 

 

「でもまだチームとしては未完成っすねぇ……誰か当てあるっすかショーンは?」

 

「ある訳ないだろ……リベールに来たのだって、『声を掛けれたら若しかしたら一人位は』ってな感じだったんだからさ――もういっその事、三人目は数合わせでその辺のパッと見強そうな人でも入れるか?」

 

「其れは其れで如何かと思うんすけどねぇ……」

 

 

とは言え、真吾もショーンも三人目の当てはない……だからと言って数合わせで適当な誰かをチームに入れると言うのは言語道断と言えるだろう。そんな適当なチームで勝ち上がれるほど格闘技の大会は甘いモノでは無いのだから。

 

 

「フッフッフ、話は聞かせてもらっぞ真吾君!そしてショーンとやら!!」

 

「うわぁ、お父さん!?」

 

「えぇ、真吾の親父さん!?」

 

「いや、俺の師匠の草薙さんのお父さん。」

 

「紛らわしい言い方するなって!!」

 

 

其処に現れたのは京の父親であり、『おやじ狩り狩り』と言う可成りヤバめの趣味を持ったある意味で伝説の親父、Mr.OYAZIこと草薙柴舟が現れた――如何やら、この親父もKOFのチーム戦のメンバーを探していたのが誰も見つからなくてどうしようかと思ってた所で、偶然チームを組む事を決めた真吾とショーンを見掛けたらしい。

 

 

「実はワシもチームメイトを探しておってな?

 京の奴と組んでやろうかと思ったら、さっさとカシウス殿の御息女二人とチームを組んでしまうし、京のクローン三人は其のまま三人でチーム組んでしまうし、カシウス殿は出場しないとの事で、タクマ殿は副業で始めた焼き肉店の方が忙しくて手が離せんらしくワシも他に組む相手が居らんので途方に暮れておったんじゃよ。

 如何じゃ、ワシと組むのは悪くないと思うぞ?」

 

「真吾、このおっさんって強いのか?」

 

「まぁ、少なくとも俺達よりはずっと強いっすよ?……でも、俺達なんかで良いんすか?」

 

「将来有望な若者と組むのもまた一興じゃろ?……序に、こんな急造チームが大会で躍進したら面白いとは思わんか?京の驚く顔が目に浮かぶぞ?」

 

「其れは、確かに言えてるかもな?」

 

「そうっすね……それじゃあ宜しくお願いします、お父さん!」

 

「うむ!」

 

 

そして、話し合いの結果真吾、ショーン、最終の三人でチームを組む事が決定し、チーム名も『SSSチーム』となった――真吾、ショーン、最終の頭文字から取ったのだが、同時に『SSS』は最上級ランクに使われるモノでもあるので『最上級チーム』との意味合いを持たせる思惑もあったのかもしれない。

これから伸びる若者と、ピークは過ぎたがまだまだ現役バリバリで老獪な戦い方が出来るベテランのチームと言うのは、若しかしたらKOFの台風の目になるかも知れない……本当に若しかしたらだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、八神家には珍しい客が訪れていた。

 

 

「レンちゃんがウチに来るなんて珍しいやないの?其れも、兄やんに用があるだなんて。」

 

「うふふ、今日は庵を誘いに来たのよ。」

 

「カシウスの娘が俺に何用だ?」

 

 

其れはブライト家の末っ子であるレンで、しかも庵に用があると言うのだ。

応接間のテーブルにはなぎさの淹れたミルクティーと、はやてお手製のクッキーが並び、ちょっとしたお茶会の雰囲気が漂っている……それだけに、庵の存在が酷く場違いに映ってしまうが。

 

 

「今度開催されるKOF、私とチームを組んでくれないかしら?」

 

「俺とチームを組む、だと?」

 

「レンね、アインスやエステルと戦ってみたいのよ――エステルとは家族になる前に一度戦ってるけど、其の時は負けちゃったからリベンジしたいって気持ちもあるの。

 でも、レンには武闘家さんに知り合いは多くないから貴方に声を掛けてみようかなって思ったのよ……貴方にとっても、京と戦う機会が得られる訳だから悪い話ではないと思うの♪」

 

「確かに大会に参加すれば合法的に京と戦う事が出来ると言う訳か……殺し御法度の格闘大会では京を殺す事は出来んが、其れでも奴と戦えると言うのであれば確かに悪い話ではないな。

 貴様の実力も生半可でない事は俺も知っているから、少なくとも足手纏いにはならんか……良いだろう、貴様と組んでやる。」

 

「いや、何でそないに上から目線やねん。」

 

「突っ込むなタヌキ。我が兄ながら、最早こ奴の性格は救いようがあるまい……此の愚兄が下手に出たその日には、世界中で雨が、いいや槍が、否リベール王の最強必殺技が降り注ぐぞ?」

 

「其れって世界壊滅やろ……そして、同じ事は姉やんにも言えるからな?姉やんが下手に出るも想像出来へんのよ私は。」

 

「ふ、王たる我が下手に出る筈なかろう!」

 

 

レンの目的はKOFのチーム戦に参加してアインスやエステルと戦う為にチームを組む相手として庵を誘いに来たのだ――自分の目的を明らかにしながらも、庵にとってのメリットも提示するあたり、レンは年齢の割に交渉術に長けていると言えるだろう。

結果として庵はめっちゃ上から目線ではあるが、レンと組む事を承諾した……その際にはやてとなぎさの間で若干の姉妹漫才が展開されたが、其れは平和な姉妹のじゃれ合いと言う事で問題はなしだ。

 

 

「だが、チームは三人だろう?残る一人に当てはあるのか?」

 

「なかったら来てないわ♪」

 

 

残る三人目にもレンは目星を付けていたらしく、庵に『ついて来て』と言うと飛行魔法を使って飛び立ち、庵も武空術を使ってその後を追い、辿り着いた先は王都グランセル――此処にレンの言う三人目の当てがあるのだろう。

 

 

「王都……誰を誘う心算だ貴様?」

 

「其れはね……」

 

 

 

 

 

 

「人様に迷惑かけて目立とうとしてんじゃねぇこのボケが!お前自身が面白い顔になっとけ!!」

 

「メダツ!」

 

「オモシロ!?」

 

 

 

 

 

 

「彼よ♪」

 

 

レンが指差した先では、グランセルのカフェで迷惑行為を働いたDQNカップルを容赦なくブッ飛ばすシェンの姿が……男だけでなく女の方も手加減なしでぶっ飛ばす辺りに、シェンの『悪い奴に男も女も関係ない』と言うスタンスが見て取れるが、シェンの鉄拳を喰らったDQNカップルは見事に顔面陥没状態となっていた。

 

 

「チンピラ風情が役に立つのか?」

 

「あぁ見えて彼は嘱託とは言え王室親衛隊の一員だから実力はお墨付き――其れこそ、なのは女王のお墨付きよ?パワーと頑丈さで言えば、レンや貴方よりも上かも知れないわ。」

 

「足手纏いにならないのであれば構わん……奴との交渉は貴様が行え。俺は誰とも慣れ合う心算はない。」

 

「その不愛想、少し何とかした方が良いと思うわよレンは。」

 

「下らん事を言うな、殺すぞ。」

 

「あら怖い♪」

 

 

だがしかし、シェンの実力は確かに高いのでチームを組む相手としては申し分ないだろう。

嘗ては武人として名を馳せた士郎に師事した事もあり、特定の格闘技を修めた訳ではないが実戦で磨きぬいた我流の『喧嘩殺法』と言うのは存外馬鹿に出来ないモノでもあるのだから。

 

そして其の後、レンの巧みな交渉によってシェンはチームを組む事を快諾してくれた……シェン自身、少しばかり思い切り暴れたいと思っていたので、KOFへの誘いは渡りに船だったのだろう。

こうして庵チームが完成したのだが、此れもある意味で注目のチームであるかもしれない――実力的には相当に高いだろうがね。

 

 

同時に、リベール各地で、諸外国でも様々なチームが組まれ、KOFのチーム戦に参加するチーム数は可成りの数に上る事は間違いなさそうだ――少なくともリベールだけで、京と庵と真吾が夫々チームを組み、一夏がレオナとマドカとチームを組み、刀奈とヴィシュヌとグリフィンがチームを組んでの参戦を決めているのだから。

 

 

 

大会開催の告知から一週間後、遂に王城でのKOF参加のエントリーの日がやって来たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter46『開幕!The King Of Fighters!!』

KOFの開幕だ!Byなのは      是非とも盛り上がる大会にしたいですねByクローゼ


KOFの大会エントリー受付当日、グランセル城の一階ロビーには国内外から腕に覚えのある格闘家達がエントリーの為に押し掛けていた――チーム戦と個人戦のエントリーの総数は相当なモノになるだろう。

エントリー会場がグランセル城のロビーと言うのも話題性があり、多くの報道陣が現場に詰め掛けている……そんな現場で、一等地とも言える撮影場所を確保したナイアルとドロシーの『リベ通凸凹コンビ』は見事と言えるだろう。

そして会場も然る事ながら、エントリー会場にリベール王のなのはとそのパートナーであるクローゼ、其の二人の娘であるヴィヴィオが居ると言うのも超注目される要因であろう……属性の異なる美女三人の揃い踏みは何とも言い難い華と迫力があるのだ。

 

 

「おい、来たぞ!」

 

「伝説のチームのお出ましだ!」

 

 

其処に現れたのは、京・アインス・エステルの『ロレントチーム』だった。

デュナンによって出来レースと化していた武術大会に風穴を開けて二連覇したチームの固定メンバーが京とアインスとエステルなのだ……此のリベール最強チームとも言える三人の登場に、報道陣が注目しない筈がないのだ。

 

 

「ふむ、物凄い注目度だな彼等は?」

 

「叔父様の私物と化していた武術大会で出来レースを壊した方々ですからねぇ、注目もされると言うモノですよ……其れに、彼等は実力も然る事ながらチームとして華がありますので。」

 

「まぁ、確かに三人とも容姿も整っているからな。」

 

 

次々とシャッターが切られ、其れに応えるように京は指先に炎を宿してから腕振って其れを振り払い、アインスは魔法を使って腕や顔に赤い紋様を点滅させ、エステルは棒術具をバトンの様に回して見せる……其れが実に絵になっているのだ。

カメラのフラッシュが鳴りやまぬ中、京が代表してエントリーを済ませると、其処には既にエントリーを済ませた八神チームの姿もあった。

 

 

「随分と遅かったな京?逃げ出したのかと心配したぞ。」

 

「誰が逃げるかよ……てか、分かってねぇな八神?主役ってのは遅れて登場するもんだ――が、一番最後ってのも良くねぇ。オーディエンスの『未だか未だか』って気持ちが最高潮に達した所で登場するのがミソなのさ。」

 

「戯言を……まぁ良い。この大会で俺と当たった時が貴様の命日だ、精々余生を楽しんでおくが良い。」

 

「テメェこそ、気持ちが空回りして俺と当たる前に負けたりしねぇように気を付けな。それと、悪いが今回も勝つのは俺だ八神。お前の生き甲斐を無くしちまうのも可哀想だからな。」

 

「ふん、ほざくか。」

 

 

大会のエントリーの段階であるが、宿命のライバルである京と庵は既に火花を散らしていた……尤も、口での勝負であれば京の方が庵よりも大分上の様だが――この二人のチームが大会でぶつかったら、其れは間違いなく物凄いバトルになる事は間違いないだろう。

 

 

「エステル、アインス、大会で戦う事になったら宜しくね♪」

 

「そうね、全力で戦いましょレン♪」

 

「お互い悔いの残らない戦いをしような。」

 

 

そして、火花を散らしている京と庵とは別に、ブライト三姉妹はなんとも平和であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter46

開幕!The King Of Fighters!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

其の後も次々と個人戦、チーム戦のエントリーが行われる中、ロレントチーム並みに注目を集めているチームがあった……其れは海を隔てたエサーガ皇国からやって来た『麻宮アテナ』、『椎拳崇』、『珍源斎』の『サイコソルジャーチーム』だ。

拳崇に関しては一介の拳法家に過ぎないのだが、アテナは自国では知らない人は居ない位に有名なアイドルであると同時に一流の拳法家であり、珍はアテナと拳崇の師匠で御年九三歳にして今だに現役バリバリの拳法家として知られているので注目を集めるのは当然と言えるだろう。

 

 

「うわ、あのお爺ちゃんまだ生きてたんだ。」

 

「格闘家歴は人間では誰よりも長い八十年……普通だったらヨボヨボの爺さんになって隠居してる所なんだが、今だに現役ってのは尊敬に値するぜ。こうなったらいっそ百歳まで現役貫いてほしいモンだ。」

 

「彼ならば存外やってしまうかも知れないな。」

 

 

生涯現役を貫きかねない珍には、京も少なからず尊敬の念を抱いているようだ……八十年も格闘家として現役を続けて来たと言うのは確かに尊敬に値する事ではあると思うが、人間やろうと思えば何歳になっても現役を続けられると言う事なのかも知れない。

そんな注目のチームの次にやって来たのは、年季の入った白い道着と赤いハチマキが特徴的な黒髪の男と、赤い道着と金髪が目を引く男、そして2mを軽く超える大男のチームだった。

彼等こそカルバートからやって来た、『リュウ』、『ケン・マスターズ』、『ジン・ヴァセック』のチームだ。

リュウとケンは同門で、ジンとは格闘仲間であり、ケンはカルバートの格闘王でもあるのだが、ケンが格闘王の称号を得た大会にはリュウもジンも参加していなかったので、ケンのカルバート格闘王は暫定的な称号ではあるのだが、其れでもカルバートの格闘王が居るチームと言うのは生半可なチームでないのは確実だろう。

 

 

「アイツ、可成り強いな。」

 

「アイツって誰、京?」

 

「白い道着に赤いハチマキの奴。

 金髪とデカブツも相当にやるだろうが、アイツはモノが違う……巧く言葉に出来ないんだが、なんつーか、アイツはテメェの人生を『強くなる事』に捧げてる感じがするぜ――其れこそ、人生此れ修業ってところかもな。」

 

 

既にエントリーを済ませた京も、リュウには何かを感じたらしく自然と視線を集中させてしまう――そして、その視線に気付いたのか、リュウもまた京の方に向き直り、少しばかり笑みを浮かべると拳を突き出す。

京も其れに応えるように拳を突き出した後に、サムズアップしてから片目を閉じる……一流の格闘家同士、言葉にせずとも伝わるモノがあったのだろう。京と庵だけでなく、京とリュウが戦う事になったその時もきっと物凄い試合になる事だろう。

 

こうして次々と大会参加のエントリーが進み、チーム戦個人戦共に全てのエントリーが終了し、大会にエントリーするメンバーが決まった。

チーム戦にエントリーしたのは――

 

 

・ロレントチーム(草薙京、アインス・ブライト、エステル・ブライト)

 

・八神チーム(八神庵、レン・ブライト、シェン・ウー)

 

・リベリオンチーム(織斑一夏、織斑マドカ、レオナ)

 

・リベールギャルズ(更識刀奈、ヴィシュヌ・イサ・ギャラクシー、グリフィン・レッドラム)

 

・餓狼伝説チーム(テリー・ボガード、アンディ・ボガード、ジョー東)

 

・極限流チーム(リョウ・サカザキ、ユリ・サカザキ、ロバート・ガルシア)

 

・女性格闘家チーム(不知火舞、キング、ブルー・マリー)

 

・スポーツマンチーム(ヘヴィ・D!、ラッキー・グローバー、ブライアン・バトラー)

 

・SSSチーム(矢吹真吾、草薙柴舟、ショーン)

 

・サイコソルジャーチーム(麻宮アテナ、椎拳崇、珍源斎)

 

・クローンチーム(草薙京-1、草薙京-2、KUSANAGI)

 

・餓狼MOWチーム(ロック・ハワード、B・ジェニー、ケビン・ライアン)

 

・ベルカガールズ(ミカヤ・シェベル、ジークリンデ・エレミア、ヴィクトーリア・ダーリュグリュン)

 

・カルバートファイターズ(リュウ、ケン・マスターズ、ジン・ヴァセック)

 

 

上記の十四チームを含む合計三十二チームがエントリーし、個人戦では――

 

 

・不動レーシャ

 

・ノーヴェ

 

・ルガール・バーンシュタイン

 

・稼津斗

 

・クリザリッド

 

・アガット・クロスナー

 

・高幡志緒

 

・郁島空

 

・春日野さくら

 

・エドモンド本田

 

・ザンギエフ

 

・キャミィ・ホワイト

 

・K’

 

・エレナ

 

 

上記十四名を含む計三十二人がエントリーし、チーム戦と個人戦を合わせた大会参加者は総勢百二十八名と、過去の武術大会と比較しても可成りの参加人数となっていた。

が、其れ以上に個人戦にエントリーした参加者の中に僅か十歳のレーシャが居る事には其の場に居る全員が、其れこそ大会主催者であるなのは達も驚きを隠せないでいた――大会参加に年齢制限は上下共に設定しなかったとは言え、まさか十歳の少女がエントリーして来るとは思わなかったのだろう。

 

 

「腕に覚えのある少年少女にも参加して貰いたいと思って年齢制限は設けなかったが、よもや十歳の少女がエントリーして来るとは……いや、私も十歳で大人と互角以上に戦えるようになっていたから、彼女の事を年齢だけ見て実力を疑うと言うのは良くないか。

 アシェルに匹敵する力を持ったドラゴンの精霊を使役すると言うのは、其れだけ鍛錬を積んだと言う証でもあるからな。」

 

「其れと、レーシャちゃんは身体も小さいので相手は存外やり辛いと思いますよ?身体が小さいと言うのは的が小さいと言う事にもなりますから……捕まってしまったら圧倒的に不利ですが、打撃中心のヒット&アウェイで戦えば、KO勝ちは難しくとも判定勝ちは取りに行けると思います。」

 

「確かにその通りだな。

 だが、其れよりも稼津斗とルガールの出場は流石に辞めさせた方が良かったかも知れん……トーナメントの組み合わせは演算機によるランダム決定になるが、あの二人が出来るだけ早い段階でぶつかってくれる事を願うしかないな。」

 

「其れは、確かに。」

 

 

稼津斗とルガールの二人のエントリーに関してはエントリー其の物を禁止にすべきだったかも知れないが、其れに気付いたのは二人がエントリーした後だったので、今更『出場しちゃダメ』とは言えないので、この二人に関しては直接対決となるまでは本気を出さない事を期待するしかないだろう――激しい試合が行われる事を予想して、グランセルアリーナには観客に被害が出ないように、フィールド度観客席の間に新たに不可視のシールド発生装置(不動兄妹作)が設置され、そのシールドの強度はなのはが本気でディバインバスターを叩き込んでもビクともしないモノだが、互いに殺意の波動とオロチの暗黒パワーを其の身に宿して神の領域に至った稼津斗とルガールが本気を出したらこのシールドでも耐え切れるかどうかは分かったモノではないのである。

 

 

「よう、チーム組めたみてぇだな真吾?……そっちの黄色道着は初めて見るが、まさか親父と組むとは思わなかったぜ?」

 

「いやぁ、ショーンとチーム組む事は出来たんすけど、あと一人をどうするかで悩んでた所で、やっぱりチームメンバーに悩んでたお父さんに声を掛けて頂きまして、こうしてチームを組む事が出来たんですよ!

 草薙さん、大会で戦う事になったら本気で俺と戦って下さい!」

 

「へぇ……良い面してるじゃねぇか真吾?そんときゃ、全力で相手してやるよ……一回戦で俺達と当たらなかったら、俺達と当たるまで頑張って勝ち進んで来な。」

 

「相変わらず減らず口だけは達者じゃな……思い上がるなよ京?」

 

「そんじゃ~な、優勝は無理にしても俺達と一回戦で当たった時以外は一回戦くらいは突破してくれよな――弟子の成長を楽しみにしてるぜ。」

 

「って、無視かーーー!」

 

 

其の一方で、京と真吾は少しばかり雑談をし、京は柴舟の事をガン無視していた……京にとっては柴舟が参戦している事よりも、真吾が自分でチームメイトを見つけて来た事の方が遥かに大事であり、大会であたったその時は本気で相手をしてやる心算であるようだ。

こうしてKOFの大会参加エントリーは終了し、その夜はグランセル城前の広場にて誰でも自由に参加出来るKOFの前夜祭が行われ、城の人間も、大会参加者も、市民も大いに楽しんだ。

そこで何故かグリフィンと庵によるステーキ大食い対決が始まり、400gのサーロインステーキを何枚食べる事が出来るかとの勝負だったのだが、庵が四枚だったのに対しグリフィンはなんと十枚をぺろりと平らげての圧勝!しかも勝負後も更に三枚完食したのだから驚きである。

更には、エステルが所謂『原始肉』を骨を持って豪快にかぶり付いていた……リベールの女子は中々に豪快なモノが少なくないようである――そんなエステルを『沢山食べる君が好き』ってな感じで見ていたヨシュアが何とも平和なモノであったが。

ともあれ、前夜祭は大いに盛り上がり、宴は遅くまで続いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

そして翌日のAM9:00、花火と同時にグランアリーナにてKOFの開会式が執り行われた。

バンドの生演奏と共に多彩なパフォーマンスが行われる中で選手の入場行進が行われ、チーム戦、個人戦夫々に分かれてフィールドに整列して行く――そして、開会式の最大の目玉である、アリーナに新たに設置された聖火台への聖火点火だ。

選手を代表して大会二連覇中の京が聖火台の前まで進むと……

 

 

「おぉぉぉぉ……喰らいやがれぇぇ!!」

 

 

大蛇薙で聖火台に火を灯してターンエンド。

此処で闇払いではなく、大蛇薙を使ったのは其方の方が会場が盛り上がると判断したからだろう――格闘家としての実力は一流だが、京は魅せる事に関しても一流であるようだ。

 

 

『レディ~ス&ジェントルメ~ン!

 いよいよ待ちに待ったThe King Of Fightersの開幕だ~~~!国内外から集まった腕自慢達による真剣勝負のアルティメットファイト!一体どんな熱いバトルが展開されるのか!俺のハートも今からドッキドキだ~~!』

 

 

その開会式の視界を務めるのは、ピンクの派手なスーツとお洒落な口髭、そして『其れ凶器になるんじゃないか?』と思わせる1mほどの立派なリーゼントのナイスガイであった……本名は誰も知らない通称『MCさん』である。

 

 

『それじゃあ、リベール王の高町なのはから大会の開幕を宣言して貰うぞ~~~!!』

 

「リベール王の高町なのはだ。

 リベール王の名のもとに、此処に『The King Of Fighters』の開催を宣言する!此処に集いしは何れ劣らぬ実力者達……個人戦もチーム戦も誰が優勝してもオカシクないと言えるだろう。

 故に選手諸君は己の持てる力を存分に発揮して悔いのない戦いをしてくれ。さぁ、戦いの宴の始まりだ!」

 

 

そして、なのはの大会開会宣言と同時に花火が上がり、此処にThe King Of Fightersが開催される事になった。

ルールは個人戦、チーム戦共通でDSAAルールとダメージエミュレートを採用し、参加者にはアナライズで解析したHPと防御力によって割り出されたライフポイントが設定され、其れがゼロになったら試合終了。

個人戦の場合はダブルノックアウトになった場合はライフポイントを3000まで回復した上でファイナルラウンドを行い、其処でもダブルノックダウンになった場合は両者敗退となり、チーム戦では三人目同士がダブルノックダウンになった場合は同様の措置となっている。

また、武器の使用はOKだが、刃物類は木製か硬質ゴム製のモノに変え、銃は弾丸を殺傷能力のないペイント弾に変え、弓矢の類は鏃をゴムに変える事が絶対条件となっていた……そうでなければ危険極まりないのだから、この措置は当然と言えるだろう。

 

こうして、KOFは先ずは個人戦のトーナメントから始まったのだが、主要選手(名前が出ていた選手)は余裕で一回戦を突破した――特にレーシャは二倍以上ある大男を相手にしてヒット&アウェイで徹底して膝を狙って足元を崩すと、顎にハイキックを叩き込んで脳を揺らして自由を奪うと、その巨体をブレーンバスターの要領で持ち上げると、両手で相手の両足をホールドしてから天高く飛び上がると其のまま雷光の勢いで地面に着地して見事なまでの『キン肉バスター』をブチかまして完全KOすると言うインパクトぶっちぎりの試合をしてくれたのだ。小柄な少女が二倍以上の体格の相手をKOしたと言うのは、話題性は充分過ぎるだろう。

 

 

参加者最年少のレーシャが思わぬ形で個人戦を盛り上げ、個人戦は早くも第二回戦――ベストエイトの試合に突入するのだった。

そのベストエイトの組み合わせは

 

 

・不動レーシャvsルガール・バーンシュタイン

 

・春日野さくらvsザンギエフ

 

・エドモンド本田vsエレナ

 

・カポエラ使いvsキャミィ・ホワイト

 

・アガット・クロスナーvs高幡志緒

 

・クリザリッドvsK’

 

・ノーヴェvsボクサー

 

・郁島空vs稼津斗

 

 

と、この様になった。

KOFの個人戦は二回戦からが本番であるようだ――果たしてどんな試合が展開されるのか、グランセルアリーナは熱気の渦に満たされるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter47『熱戦!熱闘!!大激闘!!~限界突破の試合~』

熱い試合は大歓迎だByなのは      会場のヒートレベルも上がりますからねByクローゼ


遂に始まったKOF。

先ずは個人戦の一回戦が行われ、白熱したバトルが展開されたのだが、その注目を一番に持って行ったのは最年少出場者であるレーシャだ――『子供では所詮ヒット&アウェイでの判定勝ちが良いトコだろう』と多くの者が思っていた中で、なんとレーシャは自分の倍はあろうかと言う大男をまさかのキン肉バスターで完全KOして見せたのだから注目されないってのが無理と言うモノだろう。

 

 

「なのはさん、私は完全にレーシャちゃんの事を見誤っていました……KO勝ちは無理でも判定勝ちは出来るだろうと言ったのを撤回します――人は本当に見かけによらないモノですね?

 あの小さな体でまさか難易度Aランクと言われている『超人五処蹂躙絡み』を完璧に極めて見せるとは驚きました。」

 

「其れは私もだクローゼ……しかも超人五処蹂躙絡み、俗称『キン肉バスター』は完全に相手の自由を奪っているように見えて、実は首のフックが甘く、両腕は自由が利くので『6を9にするキン肉バスター返し』をはじめとした多数の返し技が存在し、技を掛けられた側が掛けた側よりも体格で勝れば勝るほど返し易くなるのだが、其れを許さずに完璧に極めて見せた。

 レーシャのキン肉バスターは、相手にそんな事を考えさせる暇がない程の気迫に満ちたモノだったと言う事だろうな……そもそもにして、あの小柄な体格で如何低く見積もって150㎏はあるであろう相手を持ち上げたと言う事実に驚きだよ。」

 

「気や魔法による身体強化を使ったとしても、強化率を相当に上げないと無理だと思うのですが……何れにしても、個人戦は彼女が台風の目になりそうですね?」

 

「あぁ……レーシャの次の相手は魔王であるルガール――普通ならば人間の少女が魔王に勝つのはルールのある試合であっても不可能に近いのだが、彼女ならば何かしらトンデモナイ事をしてくれるような気がしてならん。」

 

「期待大ですね。」

 

 

其れはなのはとクローゼも同じだったようで、KOF個人戦はレーシャが台風の目になるだろうと予想していた――そのレーシャの二回戦の相手は魔王の一人であるルガールだと言うのは普通ならば絶望的なモノなのだが、レーシャの一回戦の豪快なKO勝ちを考えると何かやってくれるのではないかと期待もしてしまうモノだろう。

 

 

「く……こんな凄い戦いを見る事しか出来ないとは……覆面をして名前を偽って参加エントリーをすればよかった……!『ベルカマスク』とか如何だろう?」

 

「止めて下さい兄さん、そもそもネーミングがダサ過ぎます。其れに試合で覆面剥がされたら如何するんですか?」

 

「その対策として、覆面の下にペイントを施しておく!此れならば覆面を剝がされても顔バレする事は無いだろう?」

 

「試合中に汗でペイント剥がれます……と言うかそもそもにして兄さんはベルカの王なのですから他国の格闘技大会に出場出来る筈がないでしょう?武闘家としての血が騒ぐのは分かりますが、今は王として観戦する事で満足して下さい。」

 

「今ほど自分が王である事を恨んだ事は無いな。」

 

 

一方で、ベルカから主賓として招かれているクラウスとアインハルトは貴賓席にてこんな会話をしていた……クラウスは政の能力も高く、また民と近い王として国民からの支持も高いのだが、其の一方で武闘家であるために強い相手を見ると如何しても戦いたくなってしまい、其れを抑えきれずに王と言う立場でありながらストリートファイトの大会にお忍びで参加したりするのが珠に瑕と言えるだろう。

その度にアインハルトやシグナムから盛大に怒られているのだが、其れでもマッタク持って改まる事がないと言うのはある意味でクラウスが真の武闘家であると言えるのかもしれない……だからと言って他国の格闘技の大会に出場しようと考えるのは如何かと思うが。

 

 

そして、十五分間のインターバルが終わり、KOF個人戦の二回戦が幕を開けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter47

『熱戦!熱闘!!大激闘!!~限界突破の試合~』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

KOFはトーナメント形式だが、実は通常のトーナメントとは一つだけ決定的に異なる要素があった――其れは、二回戦以降は毎回試合順がシャッフルされると言うモノである。

通常のトーナメントは試合順は完全固定であり、先の対戦予想がある程度出来るのだが、毎回試合順がシャッフルされるとそうは行かない――三回戦は二回戦の勝者同士の組み合わせにはなるが、その後はまた試合順がシャッフルされるので観客からしたら予想が出来ないドキドキ感が大きくなるのだ。

なのはが『毎回試合順をシャッフルしたら面白くないか?』と思って導入したモノだが、其れは思いのほか観客を盛り上げる要素として作用しているようだ。

 

其の二回戦、カポエラ使いとキャミィの試合は、キャミィが錐揉み回転したスライディングキックや、バック転しながらの鋭い蹴り上げ、アリーナの壁を使った壁ジャンプからの縦横無尽な連続攻撃でカポエラ使いを圧倒し、ノーヴェとボクサーの試合は、ノーヴェが自己流のアレンジを加えた草薙流古武術でボクサーを圧倒し、最後は荒咬み→八錆→鵺摘みの連携で強引に相手のガードを弾いてから琴月 陽を叩き込んでターンエンド……荒咬み→八錆→鵺摘みは本来草薙流には存在しない連携であり、そもそも鵺摘みは相手の攻撃を捌く『守りの型』なのだが、振り上げた肘の部分を攻撃として使用したノーヴェの格闘センスは可成り高いと言えるだろう。

 

そして二回戦の第三試合は、二回戦最注目の試合となった――二回戦の第三試合はレーシャ対ルガールなのだ。

 

 

「一回戦の豪快なKO勝ちは実に素晴らしかった……お手並み拝見と行こうか?」

 

「初っ端からフルパワーのエンジン全開で行くよ!」

 

「良かろう、存分に掛かって来るが良い!」

 

 

人間の少女と魔王では圧倒的に力の差があるが、レーシャは其れに怯む事無く闘気を爆発させ、ルガールもレーシャを一流の武闘家と認識して一切の油断をせずに対峙する……この時点で、レーシャは魔王に認められた実力を持っていると言えるだろう。

 

 

『二回戦大注目の一戦!不動・レーシャvsルガール・バーンシュタイン!

 一回戦で豪快なKO勝ちを見せてくれたレーシャは果たして魔王であるルガールに何処まで食い下がる事が出来るのか!或は、若しかしたら魔王を倒してしまうんじゃないかって思ってる俺が居るのは否めないぞ~~!!

 大注目のレーシャvsルガール!Ready……Go!!』

 

 

MCさんが高らかに試合開始を宣言し、其れと同時に動いたのはレーシャだった。

鋭い踏み込みから強烈な横蹴りを放つがルガールは其れを難なくガードする……が、レーシャの攻撃は其れで終わらず、其処から上段回し蹴り、中段後回し蹴り、裏拳、ストレートのコンボを叩き込む。

上段回し蹴り以降のコンボは円運動で行われ、回転の遠心力も加わり次弾の威力が増して行くと言うおまけ付きだ――しかもレーシャの連撃は、冗談回し蹴りは頭に、中段後回し蹴りは横腹に、裏拳は蟀谷に、ストレートは顔面に炸裂しているので、普通ならば大ダメージなのだが……

 

 

「ふむ、実に良い攻撃だった……特に最後のストレートは的確に顎をとらえていたので私でなかったら脳を揺らされて行動不能になっていただろう……マッタク持って恐ろしいお嬢さんだ。」

 

「略ノーダメージで言われても説得力は欠片も無いんだけどね。」

 

 

其れでもルガールはマッタク持って無傷!それどころか、試合開始位置から動いていないのだ……その時点でレーシャとルガールの間には圧倒的な力の差があるのだが、だからと言って諦めるレーシャではない。

 

 

「此れも効かないか……だったらこれは如何かな?喰らえ、ウォタガ!」

 

「むぅ!」

 

 

此処でレーシャは水属性の最強魔法であるウォタガをルガールに放つ……水属性の魔法は殺傷能力は低いが、無形の水の属性を持っている事で、様々な搦め手として使う事が出来る――鬼の子供達の一人である刀奈も、水を使った搦め手は大得意なのだから。

 

レーシャの放ったウォタガは、ルガールの全身をくまなく濡らしたが、だからと言って大ダメージを与えた訳ではなさそうだが……

 

 

「まさか、水属性の最大魔法を使って来るとはね……だが、此の程度では私は倒せんよ?」

 

「其れは分かってる……でも、私の目的は貴方をびしょ濡れにする事――其れだけ確り濡れてれば電気は良く通るよね?だから、此れでも喰らえ!サンダァァァァァレェェェェェェジ!!」

 

「みぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

「え~~~~!それはおかーさんのわざだぞ~~~~!!」

 

「落ち着きなよレヴィ?この前のライトロードとの戦いで、私が使ったサンダーレイジをあの子が見てただけかもしれないじゃない?連発は兎も角、単発で使うなら其処まで難しい魔法でもないし。」

 

「む~~~?」

 

 

全身がずぶ濡れになって、電気伝導率が200%になったルガールに対して、レーシャは情け無用のサンダーレイジを叩き込んでルガールに大ダメージを与える……ルガールのLPは可成りぶっ飛んだ数値なのだが、レーシャのこのコンボで一気にその数値を減らす事になったのだ。

レーシャがサンダーレイジを使った事に、技の開祖であるプレシアの娘であるレヴィは観客席で驚き、そしてフィイトがなぜ使えるのか予測してレヴィを納得させていたりしたが。

 

 

「実に、実に良い攻撃だった……ならば、今度は私が其れに応えなければなるまい!」

 

 

だが、ルガールのLPは尽きず、爆炎が晴れると同時にカイザーウェイブを放って来た。

レーシャは其れをギリギリで躱すが、躱した先にはルガールが先回りしており、ジェノサイド・カッターを叩き込むと、レーシャの首を掴んでアリーナの壁に叩き付け、更に追撃として気の柱での攻撃を加える――普通ならば此れで勝負ありなのだが……

 

 

「まだまだぁ!!」

 

「ギガンテックプレッシャーを喰らって尚立ち上がるか……見上げた根性だと評価しておこう……絶望的状況であっても諦めない、此れが士郎殿が言っていた『人間の強さ』と言うモノか……」

 

 

レーシャは直ぐに立ち上がって飛び膝蹴りでルガールを強襲する、と見せかけてルガールの頭上を取り、ルガールの頭に両手を付くと其のまま頭上で鞍馬運動を開始する――一見すると全く意味のない行動に思えるが、実は此れは有効な攻撃だったりする。

此の状況、ルガールは首の力だけでレーシャの体重を支える事になり、更には鞍馬運動の激しい動きは首にダメージを与えると同時に頭に何度も手を叩き付けられる事で衝撃が脳に響いて来るのだ。

これぞ一回戦で使ったキン肉バスターと同様に伝説の格闘家が編み出した百の必殺技の一つ、『グローバル・ブレイン・スピン』である!

レーシャの格闘技は自己流で、誰かに師事した事もないが、格闘技に関するありとあらゆる書物を読み漁り、この百の必殺技の他に『気の練り方』、『気を使った身体能力の向上法』等も自力で覚えてしまい、『魔法と気の両方が使えるハイブリットファイター』となっているのだ……僅か十歳で此処までやるとは恐るべき才能と言えるだろう。不動兄妹は長男と長女だけでなく次女も色々とぶっ飛んでいるらしい。

 

 

「此れで……如何だぁ!!」

 

 

散々頭の上で鞍馬運動を行ったレーシャは、その状態から倒立して遠心力を加えた両膝をルガールの顔面に叩き込んでから離脱……したのだが、此の攻撃を喰らってルガールのLPは尽きず、それどころかダウンすらしていないと来た。

流石に顔面に膝を喰らった事で鼻血程度は出てしまった様だが。

 

 

「嘘、全然効いてない!?」

 

「いやいや、流石は伝説の格闘家が編み出した技と言う事で首には其れなりの負荷が掛かったし、最後の膝蹴りも強烈だったが……悲しいかな、グローバル・ブレイン・スピンを使うには君は些か体重が軽過ぎたようだ。

 君の体重があと30㎏あったならば流石の私も大ダメージを受けていただろうがね?……否、此れは今の攻撃だけでなく君の全ての攻撃に言える事かな?攻撃の鋭さ、タイミング、スピード、威力は申し分ないが如何せん体重が軽いせいで重さに欠ける。

 其れでも関節などをピンポイントで狙えば一回戦の様に大男も倒せるだろうが、そうでなければ私の様な巨漢には思った程のダメージは与えらえんよ――とは言え、君の才能には正直舌を巻いた……よもや此処まで私に食い下がるとは正直思っていなかった。」

 

「え~っと、其れはどうも?」

 

「人間の格闘技の大会が如何程のモノかと思って参加してみたが、此れほどの逸材に出会う事が出来るとは……実に最高の気分だ――この出会いに感謝し、私の最高の技を持ってして感謝の意を示すとしよう!

 君も己の最高の技で挑んで来るが良い!!」

 

「……上等!」

 

 

小柄なレーシャでは攻撃に重さが足りず、打撃は関節などをピンポイントで狙わない限り決定打になり得ないのだが、其れでもルガールはレーシャの才能に心底感心し、其れほどの逸材と出会えた事に対する感謝として己の最高の技を放つと言い、レーシャにも『最高の技で来い』と言えば、レーシャも其れに応えてルガールから距離を取って、両手を腰の辺りで構えて気を集中させる。

ルガールもまた両手を大きく広げて気を高めて行く。

 

 

「むぅぅぅぅぅぅん……!カイザァァ……フェニックゥス!!!」

 

「10倍……かめはめ波ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

ルガールが放ったのは極大気功波のカイザーフェニックスだが、レーシャが放ったのはなんと今からおよそ七百年前に存在し、三百歳を超えてなお『最強』として名を馳せたと言う『伝説の武神』が編み出した必殺技『かめはめ波』だった。

『山を破壊した』、『月をふっ飛ばした』、『射程は太陽まで届くほど』との伝説がある技を、レーシャはその伝説をもとに独学で身に付け、更には十倍の威力で放つ事が出来るようになっていたのだ……伝説では『青白い』とされている気功波が、レーシャの『10倍かめはめ波』では真っ赤に染まっているのでその威力は計り知れないだろう。

その二つの強大な気功波はフィールドの中央でぶつかり合うと、互いに退かない完全なる拮抗状態に……その余波は観客保護の為の不可視のシールドを震わせる程に強い。

だが、この押し合いはレーシャの方が不利だ……長引けば長引くほど体力で劣るレーシャが圧し負けるようになるのだから。

 

 

「10倍でダメなら……更に20倍だぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

此処でレーシャは気を限界まで高めて十倍の威力となっているかめはめ波を更に二十倍に強化すると言うトンデモナイ一手を打って来た――其れはつまり通常のかめはめ波の二百倍の破壊力と言う事になり、此れだけのトンデモ強化を行った事でカイザーフェニックスを押し返し、そして遂にルガールを呑み込む!

普通ならば此れでKOは確実だが……

 

 

「うむ、実に見事!」

 

 

ルガールはLPがレッドゾーンに突入したとは言えいまだ健在だった……服はボロボロになっているが。

対するレーシャはLPはイエローゾーンだが今の攻撃で全てを出し切ってしまい、辛うじて立ってはいるが此れ以上の攻撃は出来そうにない状態だ――となれば、何方が勝ちであるかは火を見るより明らかなのだが……

 

 

「降参だ。此の試合、私の負けだ。」

 

「え……?」

 

 

なんとここでルガールが降参を宣言して自ら敗北を選んだのだ。

 

 

「ど、如何して?」

 

「君が果たして何処まで勝ち進む事が出来るのか、其れを見てみたくなったのと、全力を出し尽くして尚立ち続けるその不屈の闘志に敬意を表して……此れほどの楽しい戦いをさせてくれた君へのプレゼントと思ってくれたまえ。

 よもや、なのは君となたね君をも上回るであろう可能性を持つ少女と出会うとは思っても居なかったよ――次の試合も頑張りたまえ。」

 

 

其れはルガールからレーシャへのプレゼントだった。

体格や体力で圧倒的に劣っていながら、其れでも真正面から相手に挑み、全力を出し尽くしても膝を折る事なく立ち続ける不屈の闘志がルガールの琴線に触れたのだろう。

レーシャからしたら勝ちを譲られた形になるのだが、だが嫌な気分ではなかった。

魔王として名を馳せるルガールに己の力を認められたと言うのは嬉しい事であったのだから……だからレーシャはこの勝利を受け入れ、次の試合も全力で戦って勝つと心に誓ってフィールドを後にした。

 

 

「レーシャ、良い試合だったな。」

 

「ナイスファイトだったわよ♪」

 

「お兄ちゃん、お姉ちゃん……へへ、全力出し切ったよ。」

 

 

控室には兄の遊星と姉の遊里がやって来ていてレーシャの事を労ってくれた……其れを見たレーシャは糸が切れた人形の様に倒れ、其れをギリギリで遊里が抱き留めたが、レーシャは限界が来て眠ってしまったようだった。

試合が終わればダメージエミュレートは解除され身体へのダメージはゼロになるのだが、疲労は回復出来ないので全力を出し尽くしたレーシャが眠ってしまったのは仕方ないだろう――だが、睡眠は体力の回復に大きな役割を果たすので、次の準々決勝で己の試合が回ってくるギリギリまで寝ておいた方が良いだろう。

 

 

其の後の二回戦の試合は、第四試合のさくらvsザンギエフは、さくらの波動拳に距離を詰める事が出来ずにいたザンギエフが、己の身体を鋼鉄化する技『アイアン・ボディ』を使って防御力を底上げした上であらゆる攻撃に対して仰け反らないようにして強引にさくらに近付き、豪快な『ファイナル・アトミックバスター』を決めて一撃KOをした――試合後、さくらは稼津斗から『その技を何処で覚えた?』と聞かれ、『憧れの人の見様見真似です。』と答えて稼津斗を戦慄させていた……弟子を取る事は無かった稼津斗だが、『教えないが見たければ見ていろ』と言った相手は其れなりに居るので、己の技が後世に伝えられているであろう事は予想していたが、だからと言って其れを見様見真似でやってのける存在が居るとは思わなかっただろう――試合には負けたモノの、春日野さくら恐るべし。

続く第五試合、エレナvsエドモンド本田はエレナが長いリーチを生かした足技で本田を圧倒した。

本田の格闘スタイルは東方のある国の国技である『相撲』であり、その一撃は全てが必殺となるのだが、逆に言えば当たらなければ怖くないモノでもある上に、相撲の間合いの外から攻撃されたのでは相撲の進化を発揮する事は出来ない。

エレナは十七歳の少女でありながら身長は180cmを越え、更には身体の半分以上が足と言うクッソ長いリーチの持ち主なのだ……必殺の張り手が届かないのではどうしようもないだけでなく、相撲は転がされたら負けである事が沁みついていた本田は、ダウンすると一切の抵抗をする気配がなくエレナの追撃をバッチリ喰らってしまって結果としてKOされてしまったのだ。

 

そして第六試合……此れもまた第三試合のレーシャvsルガールに匹敵する注目カードだった。

 

 

「……滅殺!」

 

「郁島空、行きます!」

 

 

其れは郁島流の正統後継者でありロレントの自警団『BLAZE』の一員である郁島空と、『鬼』である稼津斗のぶつかり合いなのである……武を極めんとする少女と、武を極めた末に鬼となった男の戦いは激戦必至と言えるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter48『激戦上等!熱戦必須のKOF(個人戦)です!』

今度の試合は物理的に熱いな?Byなのは      会場の気温が……四十度を超えましたByクローゼ


KOF二回戦の注目の一戦であるレーシャvsルガールは、ルガールが勝ちを譲った形ではあるがレーシャの勝利で幕を閉じたのだが、此れはある意味で物凄い事だとも言えるだろう――レーシャは若干十歳で魔王が勝ちを譲るに値する程の力があったと言う事になるのだから。

 

 

「魔王であるルガールが勝ち譲るとは……其れだけの可能性があると言う事か彼女は……不動遊星と不動遊里が中々にぶっ飛んでいる事は知っていたが、末っ子もまた中々ぶっ飛んでいた訳だ。

 マッタク、不動家は超人の巣窟か?」

 

「其れは若干否定出来ないのが悲しいですね。

 其れよりもなのはさん、次の試合も注目の一戦ではありませんか?」

 

「稼津斗とBLAZEの一員である郁島空の試合か……確かに此の試合もまた注目の一戦だな?

 稼津斗の実力は今更疑いようもないが、郁島空の実力もまた高い……彼女もスピードを重視した格闘スタイルだが、彼女の場合は只速いだけでなく其処に重さも加わって来るから、稼津斗とて簡単に勝つ事は出来まい。

 郁島空の攻撃は、スピードこそがパワーを体現しているのだからね。」

 

「スピードこそがパワー……似たような言葉を俺も聞いた事があるな?

 ゼムリア大陸の東方にある国のとある武術では、スピードをパワーとする為に徹底して突きのスピードを磨き、最終的には鍋で真っ赤に焼いた大量の小石に貫手を連続で行っても火傷しないようになるとか……火傷する間もなく焼けた小石から貫手を抜くと言うのは凄まじいスピードだと思う。」

 

「……其れはスピードと言うよりも、気や魔法による身体保護の訓練ではなかろうか?確かにスピードも鍛えらえるだろうが……」

 

「因みに実際やってみたら右手を盛大に火傷してアインハルトとシグナム、そして医者に滅茶苦茶怒られた。」

 

「だろうな。」

 

「でしょうね。」

 

「なぜあんな馬鹿な事をしたんですか兄さん……」

 

 

次の試合である稼津斗vs空の試合もまた注目の試合であった。

稼津斗の実力は文字通りの一騎当千であり、殺意の波動を発動しての攻撃は一撃で巨岩を砕き、深海に沈んだ潜水艦を海上に吹き飛ばし、隕石すら粉砕してしまう程のモノであるのだが、空が使う郁島流もスピードに特化しながらもスピードを其のまま破壊力にしてしまう流派であるので一撃の破壊力は計り知れない――故になのはも稼津斗と言えども簡単に勝てるとは思わなかった。

……スピードこそがパワーと聞いて、クラウスが噂に聞いたゼムリア大陸の東方にあるとある武術の修行法を思い出し、其れを実行してシャレにならない火傷をしたと言う事が明らかになったが、其れは其れとしてスピードこそがパワーと言うのはある意味で究極の破壊力と言えるだろう。

例えば柔らかいゴムボールでも時速100kmを超える速度でぶつかれば当然痛いし、当たり所が悪ければ気を失う事もあるのだから――加えて郁島流空手は、一般的な空手と違って、手の攻撃も拳打だけでなく掌打や貫手も使うので局所破壊や内部破壊も可能になっているのだ。

 

 

「鬼と天才少女……さて、どうなるか楽しみだな?」

 

「えぇ、そうですね。」

 

 

レーシャvsルガールと同レベルに注目の試合である稼津斗vs空の試合を前に、なのはの口元には自然と不敵な笑みが浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter48

『激戦上等!熱戦必須のKOF(個人戦)です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フィールドで向き合っている稼津斗と空は既に闘気が極限まで高まっており、稼津斗は殺意の波動を解放してはいないが殺意の波動特有の闇色のオーラを纏い、空も先天属性である風属性の翠の闘気を纏っている。

単純な戦闘力で言えば、稼津斗は通常状態でも百万を超えているのに対して、空はジャスト十五万なのでマッタク持って勝負にならないのだが、戦闘力はあくまでも一種の参考数値であるので、其れだけでは決まらない――特に気を高める事で戦闘力を底上げする術を身に付けている者であれば、やろうと思えば己の戦闘力を十倍以上にする事も可能なのだから。

 

 

『さぁ、次も大注目の一戦だ~~!

 一回戦をDSAAルール下でありながら相手を一撃で滅殺(あくまでもDSAA判定で即死判定であり、実際には生きてます)『鬼』……豪鬼・稼津斗に対するのは、郁島流の正統後継者にしてロレントの自警団BLAZEの一員である郁島空だ~~!!

 最強の鬼が蹂躙するのか!それとも史上最年少で郁島流の正統後継者となった空が鬼を打ち破るのか!一体どんな結果になるのか、俺でも予想出来ないぞ~?

 稼津斗vs空!Ready……Go!!』

 

 

 

「全力で行きます!」

 

「俺の滅殺の拳、其の身で試すか?」

 

 

試合開始と同時に稼津斗と空は地を蹴って飛び出し互いに飛び蹴りを繰り出し蹴り足が交差する……が、其れでは終わらず、稼津斗も空も宙に浮いたまま激しい拳と蹴りの応酬を開始!

稼津斗も空も武空術を体得しているからこそ可能な攻防だが、互いに攻撃を行いながら防御も同時に行ってクリーンヒットを許していないのだから、その攻防が如何にハイレベルであるのかが窺えるだろう。

 

 

「落ちろ!」

 

「く……ですが、天翔脚!」

 

 

その攻防で、稼津斗はアックスパンチで空を強引に地上に叩き落とすが、空は受け身を取って体勢を立て直すと上昇しながらの連続蹴りを繰り出し、稼津斗もそれに対して空中から急降下する飛び蹴り、『天魔空刃脚』を繰り出し、互いに蹴り足が克ち合って激しくスパークしてそしてぶつかり合った闘気が爆発して、稼津斗は上空に、空は地上に吹き飛ばされる。

だが、その程度では二人とも怯まず、稼津斗は空中で体勢を立て直すと斬空波動を放ち、空も其れに対して隼風拳を放って相殺する。

 

 

「うむ、実に見事な腕前よ……だが、此れは受けきれるか?滅殺!」

 

 

其処に再び稼津斗が天魔空刃脚で強襲すると、足払いで空の体勢を崩すと其処に竜巻斬空脚を叩き込み、更に追撃として竜巻斬空脚の殺意の波動強化版とも言える『滅殺剛螺旋』をブチかまして空を蹴り飛ばす。

 

蹴り飛ばされた空はアリーナの壁に激突し、大きくライフを減らす事になったのだが、だからと言ってスタンする事は無く、稼津斗の着地時を狙って強襲し、左右の正拳突きから回し蹴り、裏拳、右ストレートのコンボを叩き込む。

回し蹴り、裏拳、右ストレートのコンボは円運動で行われ、遠心力も加わるので、相当な威力になっている――此の円運動による遠心力を利用した連続技は、郁島流では『竜巻撃』と呼ばれ、奥義の一つとなっているのだが、空が放った其れは奥義以上の破壊力を持っていた。

 

 

「遠心力を応用した攻撃は見事だが……その拳の形、独学で究極の拳の型に辿り着いたか……」

 

「寝ている時に、飛んで来た蚊を反射的に殴った時に気付いたんですけどね。」

 

 

その破壊力の正体は空の拳の形にあった。

空の拳はガッチリと握りしめられたモノではなく、人が脱力した際に自然に形作られる拳の形だったのだ――中指と薬指は完全に折り畳まれておきながら、人差し指と小指は尖った形をしており、親指は添えるだけ……其れは、人が生まれて初めて形作る拳の形であると同時に、脱力した状態から放たれる必殺の拳打の形でもあるのである。

完全なる脱力から一気に力を集中した一撃の破壊力は凄まじく、ダメージエミュレートによって稼津斗には『左下腕部骨折』のダメージが入った。

 

 

「俺の腕をダメージエミュレート下とは言え折って見せるとは大したモノだ……腕を折られたとなれば、其処で戦闘不能だが、生憎と俺は骨が折れた程度は大したダメージにはならん。

 殺意の波動によって、肉体の損傷は即修復されるからな。」

 

「其れは流石にチート過ぎる気がします。」

 

「だが、其れも俺の特権だ……殺意の波動を飼いならすのに三百年掛かったからな……此れもまた、三百年の賜物よ!」

 

「三百年……同時に其れは貴方が己の武を磨き上げて来た期間でもある訳ですね?――ならば、其の三百年の武に、全力で挑ませて頂きます!!……覇ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「来い、郁島空!ヌゥゥゥゥン!!」

 

 

そのダメージエミュレートも即座に回付してしまう稼津斗なのだが、だからと言って空は怯まずに気を高め、稼津斗も同様に気を高めて行く――そして……

 

 

「郁島流最終奥義……風塵虎吼掌!!」

 

「滅殺……ぬおりゃぁぁぁぁ!!」

 

 

空の風塵虎吼掌と稼津斗の滅殺剛波動・阿形がかち合い、凄まじい気功波の押し合いが発生!

其れは全く互角で、何方も一歩も退かない――殺意の波動とオロチの力を解放すれば稼津斗が余裕で押し切るだろうが、其れをしないのは純粋に空と武闘家として戦いたいと思ったからだろう。

とは言え、地力の差から徐々に空が押されて来たのだが……

 

 

「負けるな空!僕が知ってる空は、此の程度で負ける奴じゃなかったぞ!」

 

「祐騎君……そうだね、私は此の程度では負けません!」

 

 

観客席から聞こえて来た祐騎からの応援に空は気力を限界突破レベルで開放すると、己の気功波に其れを乗せて稼津斗の滅殺剛波動・阿形を押し返して行く……徐々にではあるが、其れは確実に稼津斗の攻撃を押し返していた。

 

 

「空ー、負けるな!!」

 

「まだ行けるわよ、空ちゃん!!」

 

「空ちゃん頑張ってーーー!!」

 

「もっともっと……行けますよ空ちゃん。」

 

 

更に観客席からBLAZEの仲間達の声援が飛び、其れが更に空を後押しするだけでなく……

 

 

「気合を入れろや郁島ぁぁぁ!!!」

 

 

選手入場口から次試合を控えた志緒が現れ、気合入りまくりの檄を飛ばす!

BLAZEのリーダーを務めている志緒の檄は、ドレだけ疲労困憊状態であっても動けるようになってしまう不思議な力があり、その檄を受けた空の攻撃は一気に稼津斗の攻撃を押し返し、そして押し込んで行く。

 

 

「仲間の声援を力に変えるか……ならば俺も其れに応えねばだな……ぬぅぅぅぅぅん!!」

 

 

それに対し稼津斗は殺意の波動を解放して『鬼』となると、気を高めて気功波の威力を底上げする……結果として、二つの気功波は完全に拮抗し、やがて押し合いによる飽和エネルギーが臨界点に達して完全相殺して対消滅する事に。

此処で先に動いたのは空だった。

此れだけの巨大な気功波を撃った後であれば、更にもう一発気功波を撃つ事は出来ないと判断して接近戦を挑んだのだ。

 

 

「ふ、甘いわ!」

 

「な!気弾の連射!?」

 

 

だが稼津斗は、其れに対し両手から無数の剛波動拳を放つ滅殺剛波動を放って空を迎撃!

滅殺剛波動・阿形の様な高威力の気功波ではないが、其れでも威力の高い気弾である剛波動拳を無数に放たれたらその威力は相当なモノとなる……完全にカウンターの一撃だっただけに空は防御も回避も出来ずに其れを喰らい、アリーナの壁までフッ飛ばされ、ライフも一気にレッドゾーンに突入してしまった。

ダメージエミュレートにより背部打撲、頭部裂傷、胸部・腹部打撲も加わり、普通ならここでドクターストップだろう……だが、そんな状態でも空は立ち上がり戦う意思を示した――のだが、その様子は少しおかしかった。

立って構えてはいるモノの、目は虚ろで焦点が定まらず、しかし稼津斗から視線は外さない……まるで追い詰められた猛獣が、相討ち覚悟で相手の喉笛に牙を突き立てようとしているかの如くだったのだ。

 

 

「…………」

 

「む……速い!」

 

 

最早意識はなく、闘争本能のみで立ち上がった空は、一気に間合いを詰めると其処から稼津斗と激しい打撃の応酬に突入。

その応酬は、はじめの内こそ拮抗していたが、やがて空の方が推し始める……闘争本能のみで攻撃を行った事により、普段は空が無意識に制御しているスピードが全開となり、『鬼』となった稼津斗でも捌き切れなくなっていたのだ。

 

 

「此処まで速いとは……捌き切れぬ!」

 

 

此のままでは不利と判断した稼津斗は、阿修羅閃空で間合いを離そうとするが……

 

 

「…………」

 

「何……この踏み込みは!」

 

 

空は其れを追うように鋭い踏み込みで稼津斗に近付き、其処から目にも止まらぬ拳と蹴りの連続攻撃を叩き込み、その連続攻撃の締めは腰の入った正拳突き!!

此の攻撃を真面に喰らった稼津斗もまたライフがレッドゾーンに……殺意の波動を解放すると攻撃力は大幅に上がる代わりに、防御力が低下してしまうのでレッドゾーンになってしまったのだ。

 

 

「い……今のは一体?身体が、勝手に反応した?其れに、この疲労は……」

 

 

此処で空が意識を取り戻し、今の攻撃に対して自ら疑問を抱いていた……今自分他行った攻撃は、郁島流の教えの中にも無かったモノなのだから、困惑するのも当然と言えるだろう。

 

 

「其れこそが、武道を修めた者が極限状態に陥った時に放つ事が出来る究極奥義よ……未完成故に俺もまたこうして倒されずに済んだが、極めた一撃であったのならば俺は負けていたか……実に見事な攻撃だったぞ郁島空よ。」

 

 

しかし、五百年を生きて来た稼津斗は、空の攻撃が『極限状態において放たれる攻撃』と言う事を看破していたらしく、此の土壇場でその境地に至った空の事を素直に賞賛していた。

 

 

「開眼したばかりの攻撃であったが故に俺は戦闘不能にならずに済んだが、そうでなければ俺は倒されていたか……そもそもにして、『鬼』と化した俺に決定的な攻撃をした人間は果たして何時ぶりだったか?

 ……一夏達も才能に溢れる若者だが、お前も其れに負けず劣らずの才能の持ち主のようだ……ならば、此処で大会から姿を消してしまうと言うのは惜しい事この上ないと言うモノ――その武を極め、そして己だけの『一撃必殺』を見付けろ。……其の時が来たら、また拳を交えようぞ。此の試合、お前の勝ちだ郁島空。」

 

「稼津斗さん……押忍、その期待に応えて見せます!」

 

 

此処で稼津斗が殺意の波動を解除し、自ら敗北を宣言してフィールドから去ろうとしたのだが……

 

 

「ひゃっほーい!火引弾、只今参上!行くぞオラァ!!」

 

 

其処に長い髪を一つに束ねて、ピンクの空手道着の下に黒いシャツを着込んだ男が突如として乱入して来た――KOFにエントリーした選手ではなく、完全なる大会の乱入者な訳だ。

 

 

「……滅殺!……紛い物が、死にも値せぬ!」

 

「お、お花畑が見えるっす。」

 

 

その乱入者は、アッサリと稼津斗の瞬獄殺によってKOされて退場する事になった……一体コイツは何がしたかったのか、マッタク持って謎である――此れでも『最強流』なる武術の師範を務めていたりするのだから、武道かもピンキリと言う事なのだろう。

 

予想外の乱入者あったが、試合は順当に進み、次は志緒とアガットの試合だ。

 

 

「全力で行かせて貰いますよアガットさん!」

 

「本気で来いや高幡!」

 

 

互いに身の丈以上の大剣を獲物として、更に炎属性である志緒とアガットの試合は開始直後から真っ向勝負のぶつかり合いとなり、互いにパワー全開の攻撃を行った結果、木製の武器が粉々になり、其処からは拳の殴り合いに発展!

互いにノーガードの殴り合いになり、アガットの右ストレートと志緒の右アッパーが夫々に炸裂し……そして膝を折ったのはアガットの方だった。

何方の拳も相手の顔面を捕らえた一撃だったが、アガットの右ストレートが志緒の頬に炸裂したのに対し、志緒のアッパーはアガットの顎に突き刺さっていたので、この結果はある意味で当然と言えるだろう――顎への一撃は脳を揺らす効果もあるのだから。

 

だが、其れ以上に勝敗を分けたのは頑丈さの差があるだろう。

志緒とアガットは物理攻撃の強さは略同じなのだが、体力と物理防御に差があった――アガットの体力と物理防御はAクラスだが、志緒の体力と物理防御はSクラスであるのだ……加えて志緒は物理攻撃もSクラスなので、余裕でアガットの物理防御を超える攻撃が出来たのだろう。

 

 

「高幡……どんだけ頑丈なんだテメェは?」

 

「さぁな……だが、鉄パイプの一撃位なら耐えられるかもしれないですよアガットさん。」

 

「マジかよ……ったく、呆れた頑丈さだぜ。」

 

 

クラッシュエミュレートによって『脳震盪』が発生したアガットは強制的にドクターストップとなり、志緒の勝ちとなった――生来の打たれ強さを持つ志緒を物理攻撃でダメージを与えるのは略不可能であるのかもしれない。

 

 

そして二回戦の最終試合となるクリザリットvsK'の試合だが、実は此れは中々に因縁のある対決だったりする。

クリザリッドはライトロードによって壊滅した秘密組織『NESTS』によって生み出された改造人間であるのだが、K'もまたNESTSによってクリザリッド同様『草薙の遺伝子』を植え付けられて炎を操る術を身に付けた改造人間なのである――尤も、K'は其の力を自ら制御出来ないので、制御の為の赤いグローブが欠かせないのだが。

そのK'はNESTSがライトロードの襲撃を受けた際には、別任務でアジトを離れていたために被害を被らず、NESTSが瓦解した事で自由を手にしていたのだ――であるにも拘らず、KOFの個人戦で同じ境遇のクリザリッドと戦う事になるとは、運命の巡り合わせとは、なんとも分からないモノである。

 

 

「NESTSの生き残り……片付けてやるぜ。」

 

「やってみろ……我が力、目に焼き付けて死ぬが良い。」

 

 

K'が右手に宿した炎を握り潰して構えると、クリザリッドも全身に炎を纏ってコートを燃やすと此の上なくセクシーなバトルスーツ姿となって構える……互いにNESTSによって『草薙の力』を植え付けらえた者同士の戦いは、文字通り灼熱した熱いモノになるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter49『物理的に燃える試合だ!完全燃焼だ!!』

炎の戦いか……ステーキ肉が良い感じに焼ける予感Byなのは      表面こんがり、中はジューシーの最高のレアの焼き加減ですねByクローゼ


KOF二回戦の最終戦であるクリザリッドvsK'の試合は序盤から激しいモノとなっていた。

共に『草薙の力』をNESTSによって得るに至ったクリザリッドとK'だが、クリザリッドがNESTSが生み出した改造人間であるのに対し、K'はNESTSによって捕らえられた『草薙の力』を受け継げる可能性がある一般人が拉致され、強制的に望まぬ力を植え付けられたと言う差異がある――故に、K'は自らの意思では制御出来ない望まぬ力を植え付けたNESTSに多大なる恨みを抱いており、NESTSがライトロードによって壊滅させられた後も、その残党狩りをしていたのだ。

 

 

「シャラー!」

 

「無駄ぁ!!」

 

 

K'のミニッツスパイクをクリザリッドはライジングダークムーンで迎撃するが、空中で体勢を立て直したK'はエアトリガーで炎を放ち、クリザリッドもネガティブ・アンギッシュを放って相殺し、先に着地したK'に向かってデモン・ライディングで強襲!

対するK'はクロウヴァイツで迎え撃ち、二つの技がかち合って互いに押し切る事が出来ず、一旦間合いを離す……その戦いは一見すると一進一退の互角の勝負であると言えるだろう。

 

 

「互角……でしょうか?」

 

「いや……K'の方が少しばかり不利だな。

 此処までの試合展開を見るに、K'はクリザリッドと違い赤いグローブを装着した右手でしか炎を操る事が出来ない様だからな……両手どころか全身で炎を制御出来るクリザリッド相手では何れ何処かで差が出る筈だ。」

 

「右手だけでしか炎を……若しかして、あのグローブは炎の制御装置だったりするのでしょうか?」

 

「その可能性はあるかも知れん……だとしたら尚の事、あのグローブを破壊されたら其処までだろうな。」

 

 

だが、なのはは此処までの試合展開からK'がグローブを装着した右手でしか炎を使っていない事に気付いていた――セカンドシュートやセカンドシェル、セカンドスパイクにエアトリガーは、一見すれば足で炎を操っているように見えるが、実は右手で発生させた炎を蹴り飛ばしたり、足に纏わせて蹴りを放っているに過ぎないのだ。

 

 

「因みにグローブが壊れたらどうなるのでしょう?炎が使えなくなるのならば未だしも、制御不能に陥って暴走でもしたら大惨事ですよ?」

 

「……もしもの時の為にエリアをフィールド付近に待機させておくとするか。」

 

 

万が一の事を考え、なのははエリアに通信を入れるとフィールド付近で待機しておくように命じ、エリアも即配置に付く――エリアの最大の水霊術を使えば仮に炎が暴走しても直ぐに鎮火は可能だろう。

そう下準備が行われている中、拮抗しているように見えた試合が遂に動いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter49

『物理的に燃える試合だ!完全燃焼だ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クリザリッドが放った強烈な蹴り上げ『リーサルインパクト』をスウェーバックで躱したK'だったが、直後に繰り出された踵落としは避ける事が出来ずに辛くもガードして対処した……のだが、其処にクリザリッドがデスぺネトレイション・モーメントで突撃して強引にガードを抉じ開けると追撃の掌底を叩き込んでK'を吹き飛ばす。

それは今まで拮抗していた戦いの天秤がクリザリッド側に傾いた瞬間でもあった――吹き飛ばされ、アリーナの壁に叩き付けられたK'のダメージは決して小さくなく、ライフも大きく減ってしまったのだから。

 

 

「舐めんじゃねぇぞ、テメェ……!」

 

 

だがK'は『此の程度のダージは知ったこっちゃない』とばかりに立ち上がると右手に炎を宿して超高速で突進!K'が己の全力の炎を右の拳に集中させて放つヒートドライブだ。

 

 

「見るが良い、我が力を!!」

 

 

対するクリザリッドは巨大な火柱を発生させて自身を包み込むと、全身に炎を纏って突進する――エンド・オブ・エデンでK'を迎え撃つ。

突進スピードはK'の方が速く、フィールドのほぼ中央で両者の炎が激突する!

己の全力の炎を右の拳に集中させたK'のヒートドライブと、全身に炎を纏ったクリザリッドのエンド・オブ・エデンは激突した瞬間は略互角で、互いに一歩も退かなかったのだが、押し合いが三十秒ほど続いたところでクリザリッドが全身に纏っていた炎を両手を前に打ち出す形で放ち、K'のヒートドライブを押し切りそのまま炎を浴びせる。

此れによりK'のライフはレッドゾーンに突入したのだが、まだKOされた訳でなく、本人も戦う意思はあるようだが……

 

 

 

――バチィ!!

 

 

――ゴォォォォォォォォォ!!

 

 

 

K'の右手のグローブから火花が散った次の瞬間、右手から激しい炎が吹き上がった――今の攻撃で炎を制御するためのグローブが破損して機能不全に陥り、炎が制御不能になってしまったのだ。

アリーナを焼き尽くす程の炎ではないが、其れでも制御出来ない炎はK'自身を焼き尽くしてしまう危険性があるだろう。

 

 

「ち、グローブがイカレタか……だが、この野郎相手には暴走する位が丁度良さそうだ。」

 

「貴様、そんな状態でもまだ戦うというのか……!」

 

「NESTSの残党は一人残らずぶっ潰す……テメェもDSAAルール貫通して再起不能にしてやるぜ。」

 

 

其れでもK'はまだ戦う気満々であり、其れは同時にNESTSに対してドレだけの恨みと怒りを抱えているかが分かると言うモノだ。

だからと言って此れ以上の試合続行が認められるかと言われればそれは否だ。此れはあくまでも試合であり、K'の私怨による私闘ではなく、観客も居るのだから、制御不能となった炎がどうなるか分からない以上、試合を続けさせる事は出来ない。

エリアもすぐさま鎮火しようとフィールドに駆け出したのだが――

 

 

「バンカー……バスター!!」

 

 

其れよりも早く、何かがクリザリッドとK'の間に落下して来た。

 

 

「ふぅ……此処までだぜ相棒。」

 

「マキシマ……!」

 

 

其れは2mを超える巨躯のオールバックと長いもみあげが特徴的な男だった。

男の名はマキシマ……この男もまたNESTSによって生み出された改造人間だったりするのだが、クリザリッドやK'と違い、特殊な能力を移植されたのではなく全身の実に八割を機械化した、所謂『サイボーグ』である。

マキシマもまたK'と共にNESTSの残党狩りを行っており、K'が参加したKOFも観客として観戦していたのだが、K'のグローブが破損して炎が制御不能になったのを見て客席から直接乱入して来たようだ……不動兄妹によって張られたフィールドと観客席の間にある不可視のシールドは、『特殊攻撃無効』の機械の身体で強引に突破したのだろう。

 

 

「はい、消火します!」

 

 

其処にエリアが駆け付け、K'の右手を水で包み込んで強制消火!

加えてこの水は常に一定の温度を保っている為、K'の右手が炎と同等の熱を発していても蒸発する事はないので、グローブが修理されるまでの間もK'の炎を押さえつけておく事が可能である。

マキシマの乱入とエリアの迅速な消火によって大事には至らなかったが、同時に此処でドクターストップ判定となり試合はクリザリッドの勝利となった。

 

 

「クソが……俺はまだ戦える!勝手に終わらせるんじゃねぇ!」

 

「……大した根性だが、何故そうまでして戦う?……いや、お前は何を恐れている?

 今の試合、お前からは大きな闘志を感じたが、其れ以上に何かを恐れているような感じを受けた――そう、まるで私を倒す事が出来なければ己の存在を保てないとでも言うかのような……」

 

 

まだ戦えると言うK'に対し、クリザリッドが試合中から感じたのは闘気以上の恐れの感情だったようだ……其れを指摘されたK'は思わず言葉に詰まってしまった辺り図星なのだろう。

 

 

「図星か……大方、NESTSの幹部であった私の事はなにがなんでも叩き潰さねばならぬと思ったのだろうが、私とてNESTSに裏切られた存在だぞ?最早NESTSに対する忠義心など欠片も残ってはいない。

 そんな私を倒した所で無意味だ。」

 

「なん、だと?」

 

「NESTSの本部がライトロードの襲撃を受けた時、私は幹部として部下を指揮し、私自身も前線に出て戦ったが……上層部の最高幹部の連中は、私と部下諸共本部を爆破してライトロードごと纏めて始末しようとした。

 ……私は何とか生き残る事が出来たが、信じていた組織に裏切られたと知った時には生きる意味を失ってしまった――だが、そんな私に生きる意味を与えて下さったのがなのは様だった。

 当時十歳だったなのは様は私を下敷きにしていた瓦礫を直射魔法で吹き飛ばすと、まだ息のあった私を回復して下さり、そして『其れほどの力を此処で散らせるのは余りにも惜しい……其の力、私が描く未来の為に使う気はないか?』と仰った。

 十歳も年下の少女だったなのは様だが、その瞳には絶対的な意志の力が宿っていた……故に私は差し出された手を取り、そして今は王国軍の一員としてなのは様の、リベールの為に其の力を使っているのだ――最早私とNESTSは完全に切れている。そんな私を倒した所でお前の復讐心は満たされるのか?」

 

 

更に告げられた事にK'は完全に言葉失ってしまった――だが、其れも当然と言えるだろう。

K'はNESTSの残党を狩る事で己を保って来たのだが、最高の獲物だと思っていた幹部が、実はNESTSによって捨て駒にされ、挙げ句の果てには新たに仕えるべき主を得てNESTSとは完全に切れていると言うのだから。

 

 

「なんだよ……なら、俺は一体何のためにこの大会に……」

 

「NESTSへの復讐だけでなく、其れ以外の道を探してみては如何だ?

 なのは様もライトロードへの復讐を誓っていたが、嘗てはライトロードだけでなく全ての種への復讐を誓っていたとの事だったからな……だが、クローゼ様と出会った事で復讐すべき真の相手を見極める事が出来たと仰っていた。

 お前もNESTSの残党を無差別に狩るのではなく、真に復讐すべき相手を見極めると良い――そして、真に復讐すべきにのみ復讐をして、その先は真に己がやりたい事を見付けるが良かろう。」

 

「テメェ……」

 

「……ふ、お前さんの負けだな相棒?奴さんの言う事も間違いじゃねぇさ――如何やら俺達は少しばかり復讐心ってモノに囚われちまっていたらしい。良い機会だから此処等で一度、自分達の事を見つめ直してみるのも良いかもな。

 復讐心だけじゃ何も生まないってのは、確かにそうかも知れんからな。」

 

「マキシマ……ち、不本意だが今回だけは退いてやるぜ。」

 

 

此処でK'が折れ、試合は決着した。

K'はマキシマの肩を借りてアリーナを後にしたのだが……

 

 

「ようルーキー、中々良い試合だったじゃねぇか?」

 

「草薙……京。」

 

 

選手入場口から控室まで続く通路には京が居た――K'からしたら己が望まぬ力を得るに至った元凶とも言える人物なので、胸中は穏やかなモノではないだろう。

 

 

「ま、あの程度じゃ草薙の炎を移植されたとは言い難いが、其れでも見込みはあると思うぜ?……ま、今のお前じゃ俺の敵じゃないが、タップリ修業すれば良い線行くんじゃねぇか?

 来年はチームでエントリーして来いよ……草薙の炎の真髄、味わわせてやるからよ。」

 

「……上等だ、やってやるよ。」

 

 

それでも、俺様全開の京の言葉を聞いたK'の心からざわつきは消え、純粋に京と戦ってみたいと言う感情が沸き上がっていたようだ――不遜な自信家で俺様全開の京だが、其れはあくまでも表向きのショーマンシップであり、本質は相手の実力を認め、そして自己研鑽を怠らない努力家なのである。

K'は自由が利く左の拳を突き出すと、京も右の拳を出してそれを軽く合わせる……此の二人が何れ戦う事になるのは間違いないだろう。

 

其の後、破損したK'は京から『グローブを修理したいなら、反対側の控室に居る不動兄妹に頼むと良い』言われたのでグローブは修理する為に、逆側の控室を訪れて其処に居た不動兄妹にグローブの修理を依頼したところ、二つ返事で依頼を受けてくれた。

しかも遊星は『依頼料だけで修理費は無料だ』と言い、遊里も『こんなハイテクなモノを弄る機会は滅多にないからね!』と、依頼料の五千ミラだけで修理をしてくれたのだから有難い事この上ないだろう――そして、不動兄妹によって修理されたグローブは当然の如く魔改造が施され、『魔王の攻撃でも破損しない』ほどに強度が増した上に、炎の制御性能も格段に向上していたのだから。

そして、序にマキシマのメンテナンスも行われ、機械部分は駆動効率が向上し、鉄製だった内部骨格は、鉄よりも強くて軽いファインセラミックに差し替えられ、マキシマの運動性能自体も向上したのだった……マッタク持って不動兄妹恐るべしである。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

此れにて二回戦の試合は全て終了し、次は第三回戦となるベストエイトなのだが、突如として電光掲示板に表示されたベストエイトの組み合わせがシャッフルを開始して決まっていたカードとは異なる組み合わせを表示し、更に試合順もシャッフルされ、三回戦の最終的な組み合わせが決定した。

三回戦の組み合わせはと言うと……

 

 

・ザンギエフvsキャミィ

・高幡志緒vsクリザリッド

・郁島空vsノーヴェ

・不動レーシャvsエレナ

 

 

と言う組み合わせに。

志緒vsクリザリッド以外は、シャッフル前とは異なる組み合わせとなったのだ……此のシャッフルは、システムの誤作動の可能性が高いのだが、其れによってより見応えのある組み合わせになったのは嬉しい誤算であると言えるだろう――シャッフル前の対戦カードの一つ、『不動レーシャvsザンギエフ』も身長差80cm、体重差125㎏と言うトンデモナイ体格差の試合だったのである意味では注目されていたのかもしれないが。

まぁ、シャッフル後のレーシャvsエレナも身長差53cm、体重差57㎏と中々の体格差ではあるのだが……だが、対戦相手は兎も角として試合順が最後になったのはレーシャにとっては有難い事だろう。試合開始までギリギリまで眠って体力を回復する事が出来るのだから。

 

 

「兄さん、手に持ってる其れなに?」

 

「レーシャの回復用に作って来た俺特製のエナジードリンクだが?」

 

「因みに材料は何使ってるか教えて貰っても良い?」

 

「マカ、ガラナ、東方で漢方として使われている人参、スッポン、其れ等から抽出した滋養強壮のエキスにタウリン、カフェイン、アルギニンとローヤルゼリー、ハチミツを加えたモノを濃縮して炭酸で割ったモノだが?」

 

「めっちゃ効きそうだけど、寝起きのレーシャに其れ飲ませたら劇薬過ぎる気がするんだけど……」

 

「因みに追加効果として、飲んでから二時間は消費エネルギーが二倍になる代わりに物理攻撃力と特殊攻撃力の威力も二倍になるみたいだな。」

 

「余計に飲ませられるか!それもうエナドリ超えて普通にドーピングの領域だから!」

 

「そうか……じゃあこれは、徹夜で疲れているラッセル博士に送っておこう。」

 

「うわぁお、兄さん天然で容赦ない。」

 

 

遊星はレーシャの為に何かトンデモナイモノを調合していたようだが、効果が流石にアレ過ぎるので其れは遊星が使役する精霊の中でもスピード自慢のスピード・ウォリアーによってツァイスのラッセル博士の元に届けられ、徹夜で疲れていたラッセル博士は此のドリンクを飲んで気力も体力も爆発的に回復して、ティータ専用のバトルマシンである『オーバルギア』に『バラエーナー・プラズマ集束砲』、『電磁レールガン』、『無線式ライフルビット』、『無線式ソードビット』、『無線式シールドビット』、『魔法反射装甲』が追加する魔改造を行ったのだが……まぁ、此れは此れで悪い事ではないだろう。

 

それはさておき、KOF個人戦の部も、いよいよベスト8となる第三回戦!

その第一試合であるキャミィvsザンギエフは、スピードとパワーの真っ向勝負となった。

キャミィの攻撃は一発一発の威力は其処まで高くないが、その代わりに凄まじいラッシュ力があり蓄積したダメージにより相手はいつの間にかKOされているのに対し、ザンギエフの攻撃はスピードでは劣るモノのその全てが一撃必殺級の破壊力があり、決まればその瞬間に試合が決まると言っても過言ではないモノなのだ。

 

試合開始直後から、キャミィが錐揉み回転するスライディングキック『スパイラルアロー』でザンギエフを強襲し、其処からジャンピング蹴り上げのキャノンスパイク、ステップから肘打ち→裏拳に繋ぐアクセルスピンナックル、スパイラルアローからキャノンスパイクに繋ぐ『スピンドライブスマッシャー』を叩き込むが、ザンギエフは不動の構えで小動もしない。

熊を相手に修業したザンギエフの筋肉は正に鋼の如しであると同時に骨も頑丈で関節の結合も強く、筋肉では覆えない弱点への攻撃も大したダメージにならないと言う割とチートな肉体なのだ。

『此のままでは埒が明かない』と判断したキャミィは、ハイジャンプから急降下しのキラービーアサルトを仕掛けるが、ザンギエフは其れをダブルラリアットで迎撃すると、強引にキャミィの身体をホールドし……

 

 

「ファイナルアトミック……バスタァァァ!!」

 

 

二連続のスープレックスからパイルドライバー、そしてスクリューパイルドライバーの連続技である『ファイナルアトミックバスター』をブチかまし、キャミィをKOする――其れを喰らったキャミィはダメージエミュレートで『頸椎損傷』と『頭蓋骨折』と『脊髄損傷』が発生していたので、これがDSAAルールでないガチのリアルファイトだったらキャミィは絶命してだろう……恐るべし赤きサイクロン。

 

そして続く第二試合は、志緒とクリザリッド――またしても炎の対決となった。

 

 

「大剣は使わんのか?」

 

「相手が武器を持ってるなら兎も角、素手の相手に武器を使う事は出来ねぇだろ?……其れに、俺は素手の喧嘩の方が得意だからな。」

 

「成程な……BLAZEのリーダーの力、見せて貰おうか?」

 

「なのはさんの最側近って言われてるアンタの実力、見せて貰うぜクリザリッドさん!」

 

 

此の試合、志緒は木製の武器は持たずに素手で参戦したのだが、此れは『武器を持たない相手には無手で応じる』と言う志緒の信念故の事だったのだが、志緒はそもそもにして素手の方が武器を使うよりも圧倒的に強いのでクリザリッドの相手をするならば素手でやるのが正解とも言えるだろう。

加えて志緒は武道の心得は無いにも拘らず、戦いの中で独自に気の操り方と高め方を覚え、高めた気を炎として拳に宿す位の事は出来るので、クリザリッドとも互角以上に遣り合う事は出来るのだ。

 

 

『三回戦第二試合は、燃える炎の対決だ~~~!高幡志緒vsクリザリッド!バトル、アクセラレーショーン!!』

 

 

「おぉぉぉらぁぁぁぁ!!」

 

「ぬぅぅぅぅん!!!」

 

 

そしてその試合は、開始直後からフルスロットル!

互いに炎を宿した拳がぶつかり合い、しかし互いに退かずに押し合いを続けた結果、飽和状態になった炎が爆発し、志緒もクリザリッドも大きく其の身を吹き飛ばされる事になったのだが、その程度では二人とも怯まず、すぐさま立ち上がって距離を詰めると其のまま小細工無しのインファイトを展開する!

互いにノーガードの殴り合いとなったのだが……

 

 

「コイツで……眠っとけ!!」

 

 

志緒のアッパーカットがクリザリッドの顎を撃ち抜き、更に追撃として繰り出された打ち下ろしの裏拳がクリザリッドの後頭部にジャストヒットし、クリザリッドのライフを削り切ったのだった……NESTSの改造人間ですら凌駕してしまう志緒は相当にトンデモナイ存在であるのかも知れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

チーム戦にエントリーした選手の多くは個人戦を観戦しており、其れは今日がチームリーダーを務めている『ロレントチーム』も例外ではなく、京とアインスとエステルもKOF個人戦を観戦していたのだが……

 

 

「アインス、なんか顔色が悪いけど、大丈夫か?」

 

「少しばかり気持ちが悪くなっただけだから大丈夫だ京……アリーナに詰め掛けた人が余りにも多いので、少しばかり人酔いをしてしまったみたいだ。」

 

「そうか?なら良いんだけどよ……体調が悪かったら無理しないで言えよ?」

 

「本当に体調が悪くなったその時は、そうさせて貰うよ。」

 

 

アインスが少しばかり体調不良を引き起こしていた――とは言え、其れは直ぐに治まったようなので取り立てて問題となるモノでもないのだろう……だがしかし、その光景を、髪をオールバックにしてモノクルを掛けた男が満足そうに見ていた事には、誰も気付かなかった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter50『ガンガン行くぜ!燃えろ、ガンガン行進曲!』

50話だ。美少女同士のバトルは華があるなByなのは      ビジュアル的には最高ですね♪Byクローゼ


KOF個人戦の準々決勝第二試合の志緒vsクリザリッドは志緒がクリザリッドを下して準決勝へと駒を進め、次は第三試合の空vsノーヴェだが、此の試合もまた中々に見どころのある試合であると言えるだろう。

郁島流の正統後継者である空と、武術大会二連覇の京から直々に格闘技を習っているノーヴェの試合は注目の的なのだ……ノーヴェは京から格闘技の基礎を習っているだけなのだが、京が使う草薙流の技を見て盗んでおり、其れを自己流にアレンジした『ノーヴェ式草薙流』を使っており、其れを此の大会でも使っている事で『若しかして草薙京の隠れ弟子か?』と注目されているのだ。

因みに京の押し掛け弟子である真吾とも何度かスパーリングを行っているのだが、現在の戦績は十四戦してノーヴェの十一勝三敗であり、ノーヴェの三敗は全てタイムオーバーの判定負けであり、その判定も京が負け続けてる真吾に少し甘めの判定を付けての結果なので、実質的には十四戦全勝と言えるのだ……尤も、この判定勝ちが真吾の自信にはなっているのでノーヴェも一応の納得はしているのだが。

 

 

「よう、空。出来れば決勝でやりたかったところだがまさか準々決勝でぶつかる事になるとはな?でもまぁ、やるからには互いに出し惜しみなしでだ。」

 

「当然です。私の持てる力の全てを出して貴女を倒します!」

 

「ハッ、上等!!」

 

 

フィールドに現れたノーヴェと空は短い言葉を交わすと、互いに右の拳を軽く合わせた後に間合いを開けて構える……実はこの二人、武闘家としてはライバルであり親友だったりするのだ。

 

 

『さぁ、盛り上がってるKOFの準々決勝も残すところあと二試合!第三試合は郁島空vsノーヴェ!

 郁島流正統後継者の郁島空に対し、ノーヴェも自己流にアレンジした草薙流と、足癖が悪いと言いたくなる多彩な蹴り技が光る強者だけに、此の試合は目が離せない!正に瞬き厳禁だ~~~!!

 先の炎の対決で物理的にホットになってる会場を、今度は美少女同士の戦いで更にホットにしてくれ~~!準々決勝Round3!空vsノーヴェ!Ready……GO!!』

 

 

「行きます!」

 

「おらぁ!!」

 

 

試合開始と同時に空は鋭い飛び蹴りの『天翔脚』を、ノーヴェは鋭い横蹴りの『百弐拾五式・七瀬』を繰り出し、蹴り足がぶつかって押し合いとなり、何方も押し切れずに互いに点をずらして間合いを取ると、着地と同時に空は一足飛びでノーヴェに接近して拳打を繰り出し、ノーヴェも九百拾式・鵺摘みで其れを弾く。

鵺摘み後のカウンター技の龍射りは空がスウェーバックで躱した事で互いにノーダメージ……ではなく、空もノーヴェもダメージエミュレートが発生して少しばかり頬が切れて血が出ている。

鵺摘みで捌かれたと思った空の拳と、スウェーバックで躱されたと思ったノーヴェの龍射りの肘は僅かに互いの頬を掠っていたようだ。

試合開始直後の此の激しい攻防に観客は盛り上がり、なのはとクラウス達も魅入っているのだが、そんな中で観客席の片隅では、スーツを着た紫色の髪と金色の目が特徴的な男性がタバコを吹かしながら試合を見つめていた……その隣に、ノーヴェと瓜二つの青髪の少女を連れて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter50

『ガンガン行くぜ!燃えろ、ガンガン行進曲!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白熱する空とノーヴェの試合は互いに決定打を許さず、ライフの削り合いの様な試合になっていた――ライバルとして何度も戦っただけにお互いの手の内は知り尽くしているので一瞬の判断ミスが明暗を分ける事にもなるので、空もノーヴェも大技を出せない状況になっていたのだ。

大技は決まれば必殺だが、外したら逆に大きな隙を晒す事にもなるので先ずは大技を確実に決める状況に持って行く事が大事となってくるのである。……此の削り合いで互いにライフはイエローゾーンには突入しているのだが。

 

そんな中でノーヴェはバックステップで距離を取ると、右腕を振りかぶる。

 

 

「(あの構えは草薙流の百八式・闇払い……ならばこっちも!)」

 

 

その構えを見た空は、『闇払いが来る』と考えて、遠距離攻撃である隼風拳を放ったのだが……

 

 

「ソイツはフェイクだ!」

 

「!!」

 

 

ノーヴェは其れをジャンプで躱すと七百七式・独楽屠りを叩き込み、其処からローキック→裏拳→百壱拾五式・毒咬み→百壱拾四式・荒咬み→百弐拾八式・九傷→百弐拾五式・七瀬のコンボを喰らわせて空のライフを一気にレッドゾーンに追い込む。

 

 

「コイツで決まりだな!」

 

 

ノーヴェは既に高めた気を右手に集中させており、其れを放てば『模擬裏百八式・大蛇薙』が空を襲い、決まれば空のライフは尽きるだろう。

だが、其れが放たれるよりも早く起き上がった空は間合いを詰めてノーヴェに接近する……その踏み込みの鋭さは稼津斗戦で見せた意識が飛んで闘争本能のみで放った技と同じモノだが、今回は空の意識は飛んでおらず、意識を保ったままでその技を放ったのだ。

追い込まれた土壇場で、今度は己の意識がある状態で、しかし身体が自然に動いて放たれた其れは合計十発の拳と蹴りをノーヴェに叩き込み、アッパー掌底で顎を打ち抜い手から、トドメに轟雷撃をブチかましてノーヴェをフィールドのフェンスまでぶっ飛ばして大ダメージを与え、ライフ一気にゼロにしてしまった……空は稼津斗戦で開眼した奥義を、此の土壇場で己の意識がある状態で発動したのである。

 

 

「はぁ、はぁ……郁島流究極奥義、仮完成です……この技を、『天翔龍舞』と名付けましょう。」

 

「クソ……ったく、此の土壇場で奥義に至るとか反則だろ流石に?……だけど、その奥義誕生の相手がアタシだってのは悪い気はしねぇな……今回はアタシの負けだが次は負けないからな?準決勝、負けんじゃねぇぞ空!」

 

「押忍!」

 

 

準決勝第三試合は空に軍配が上がったが、会場は満場の拍手に包まれていた。

 

 

「おいリョウ、空嬢ちゃんの放った技って……」

 

「極限奥義の『龍虎乱舞』と同じ性質のモノだろうな……武闘家が最終的に到達する奥義と言うのは、極限状態において放たれる攻撃であるのかもしれないな。」

 

 

観客席で観戦していた極限流チームのロバート・ガルシアとリョウ・サカザキは空が放った攻撃が、極限流空手の奥義『龍虎乱舞』と同じモノである事に驚くと同時に、リョウは格闘家が最終的に到達する奥義と言うモノの本質は基本的に同じモノであると考えたようだ。

とは言え、空の至った奥義はまだまだ粗削りな部分もあるので、此れから先更に技として磨きをかけて真の奥義として昇華させて行かねばならないのだが、僅か一試合で無意識ではなく意識があり自我を保った状態で放てるようになったと言うのは大きな成果と言えるだろう。

 

 

「よう、惜しかったな。」

 

「京さん……アハハ、土壇場で逆転されちまいました。アタシもマダマダですね……」

 

 

歓声が鳴りやまないフィールドから引き揚げて来たノーヴェを出迎えたのは京だった。

格闘技の基礎を教えていた師として弟子の試合を観戦し、そして真っ先に労ってやろうと考えていたのだろう――普段は自信家で不遜な態度を崩さず、俺様全開の京だが、こう言った気配りは出来る男なのだ。だからこそ人に慕われるのだろう。……と言うか、単に自信家で不遜な態度を取るだけだったらアインスと恋人関係になんぞなって居ないし、エステルとは其れこそ顔を合わせる度に喧嘩をしていた事だろう。

 

 

「ま、確かにお前はマダマダだが別に其れで良いんじゃねぇか?

 マダマダって事はよ、マダマダ強くなる余地が残されてるって事だからな……そう言う意味じゃ俺だって全然マダマダだぜ?全力出して漸くカシウスさんとタイムアップに持ち込むのが今の俺の精一杯なんだからな。

 大事なのは、今の自分に満足しないで精進する事だと俺は思うぜ?」

 

「京さん……そうですね!」

 

「おし、良い返事だ!大会が終わったら真吾共々みっちり鍛えてやるから覚悟しな……見様見真似で覚えた草薙の拳も、ちゃんと教えてやるからよ。」

 

「はい!宜しくお願いします!!」

 

「そんじゃ此処からは観客として試合を観戦するぞ。他人の試合を見るだけでも得るモノっては意外と多いからな。」

 

 

京の言った事はある意味で本質を捉えていると言えるだろう。

マダマダであると言う事は、裏を返せば成長の余地がマダマダあると言う事であり、同時に今の自分に満足しなければ、完成と言うモノを見なければ何処までも高みに上る事が出来ると言う事でもある……一つの武術の流派としてはあるところで『完成』と言う形を作っておかねばその流派を学んでいる者達に一つの到達点を示す事が出来ないのが難しい所ではあるが。

 

 

「そうだ、ベスト8まで勝ち進んだ褒美に何か奢ってやるよ。何でも良いぜ、遠慮すんなよ?」

 

「えっと、其れじゃあ武術大会の名物屋台料理『ウルトラジャンボ串焼き』の『厚切りトロハラミ』の塩と、『爆裂エナジーコーラ』で!」

 

「良いぜ。折角だから俺も何か買うか。其れからアインスとエステルにも……俺は、『焼き鳥セット』とビール、アインスには『ピリ辛ナゲット』とハイボール、エステルには『ワイルドステーキ』と『レッドアイズ・ブラック・サイダー』で良いか。」

 

 

観戦中の飲食物を購入すると、京とノーヴェは観客席へと移動しKOF個人戦の残り試合を観戦する事に――そして、その後観客席では超強炭酸のドリンク片手に巨大な骨付き肉に齧り付きながら試合を観戦するエステルの姿が目撃されたとか。

そしてそのエステルと一緒に観戦してたヨシュアは退くどころか、『いっぱい食べる君が好き』的な感じでエステルを見ていたとかいないとか……取り敢えず観客席はとっても平和であるようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

時は少し遡り、空とノーヴェが激しい戦いをしていた頃、控室では未だにレーシャが眠っていた……のだが、レーシャを膝枕している遊里の顔には驚きの表情が浮かんでいた。

 

 

「此れは……」

 

「如何した遊里?」

 

「レーシャの身体が熱い……まるでスチームみたいに。……でも、レーシャの寝息は乱れていないし苦しそうでもないの……此れは一体……?」

 

「なんだって?……此れは、確かに熱いが……だが、レーシャの呼吸は居たって普通だ……如何言う事だ?」

 

 

其れはレーシャの身体がとても熱くなっていたから。

そして其れだけ身体が熱くなっているにも拘らずレーシャの寝息は乱れず、苦しそうでもなく安らかな寝顔のままなのだ……普通に考えれば有り得ない事だけに遊里も遊星も少しばかり困惑しているようだ。

 

 

「心配御無用。レーシャ君は睡眠状態にありながら次の試合に向けての準備をしているのだよ。」

 

「貴方は……!」

 

「ルガール……睡眠状態にありながら次の試合に向けての準備をしているとは如何言う事なんだ?」

 

「簡単に言えばレーシャ君は睡眠で体力を回復しながらも、細胞が活性化して試合前のウォーミングアップを身体が自動的に行っている状態だと思えば良い。次の試合、彼女は最高のコンディションで臨む事が出来る筈だ。」

 

 

其の答えを出してくれたのはレーシャが二回戦で戦った、魔王の一人であるルガールだった。

ベスト8の試合に向かうレーシャの激励に来たのだろうが、其処でレーシャが睡眠状態であるにも拘らず身体が熱くなっていると言う異常事態に遭遇して、其れが何であるのかを説明してくれた訳だ……ルガールも人伝に聞いた話ではあるが、秘書達を使って話の真相の裏を取っているので間違いではないだろう。

 

 

「レーシャ君の持つポテンシャルは私でも計り知れんが……此れだけの子供がいると言うのは嬉しい限りだ。なのは君となたね君と言い、将来有望な子供と言うモノにはつい肩入れしてしまうな。」

 

「……ルガールさん、若しかしてロリコン?」

 

「ロリコンではないわぁ!私は純粋に未来を担う子供を大切にしたいと、そう思っているだけだ!!」

 

「そう言えば、テレサ先生の孤児院に居るらしいな?……なら、此れをテレサ先生に届けてくれないか?試作品だが、材料を入れれば生地の練り合わせから発酵、焼き上げまでを行ってくれる『全自動パン焼き機』だ。

 是非とも使った感想を聞かせて欲しい。」

 

「此れは此れは、有り難く頂くとしよう……だがしかし、機械で果たして彼女の手作りパンの味を再現出来るのか、問題は其処になるだろう。テレサ先生の焼いたクロワッサンは後世に残すべきモノだと私は思っている!そしてハーブティーも!」

 

 

なにやらちょっとしたミニコント的な何かが発生したが、遊星作の試作品の『全自動パン焼き機』がテレサに送られるのが確定となった。

そんな遣り取りをしている間に空vsノーヴェの試合は決着し、次はいよいよレーシャの番だ。

 

 

「ん~~~~……ふあぁぁぁ~~~~……よっく寝た~~~!おはよう兄さん、姉さん!其れからルガールさん!」

 

 

そして実にタイミングよくレーシャが目を覚ましたのだが、その姿は活力に満ちており、疲労は微塵も感じられない……時間にしたら一時間にも満たない睡眠時間であったにも拘らずレーシャは体力をほぼ全回復したみたいである。

 

 

「うん、おはようレーシャ。調子良さそうね?」

 

「体力は回復出来たみたいだな……次の試合も全力を出してこい。悔いの残らないようにな。」

 

「コンディションは最高の状態に持って来たか……次の試合も全力で挑むが良い!其の力、存分に発揮したまえ!」

 

「うん!行ってきます!!」

 

 

目を覚ましたレーシャは活力と気力も充実しており、ともすれば二回戦でルガールと戦った時よりもコンディション的には良い状態であるのかもしれない――遊星と遊里の母がスラムで拾って来て不動家の一員となったレーシャは出生其の他が一切不明であるのだが、如何やら只の人間でない事だけは間違いないだろう。

普通の人間ならばこんな短時間での睡眠で体力をほぼ全快するなどまず不可能であるのだから――だとしても、遊星と遊里にしてみればレーシャは愛すべき妹だと言う事は変わらないのでレーシャの出生とかは別に如何でも良い事であったりする。

 

取り敢えずレーシャは最高のコンディションで準々決勝最後の試合に臨む事が出来そうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

王都のグランアリーナでKOFが盛り上がりを見せている頃、王都郊外の遊歩道――の少し開けた場所では、ダンテとレーヴェが異形の存在を葬っていた。

ダンテが倒したのはクリスタルを思わせる身体をした人型の異形で、レーヴェが倒したのは手の巨大な三本の爪が特徴的な人型の異形だった……クリスタルの方は自らを『エンペラー』、巨大な三本爪は自らを『マジシャン』と称し、其の力は上級魔族や上級神族に匹敵するモノだったのだが、『魔帝』を封印し趣味や暇潰しで悪魔を狩っているダンテと、『剣帝』との二つ名を持ち、『カシウスと互角に戦える数少ない存在』との呼び声も高いレーヴェの前では塵芥に過ぎなかったようだ。

 

 

「コレデ……オワリデハナイ……キョウジュトドクターハ……マダ……」

 

「まだ生きてたのか?下らねぇ御託は地獄でやってろ……その御託を閻魔様が聞いてくれるかは知らねぇがな。」

 

 

首だけの状態になりながらもまだ言葉を発するエンペラーに対し、ダンテはアイボニーのチャージショットをブチかまして強制的に沈黙させる……普段は飄々として何処か捉えどころのないダンテだが、やる時にはきちっとやるのだこの男は。

 

 

「そんで、何なんだコイツ等は?」

 

「俺にも分からん……カンパネルラから『エサーガ皇国で不穏な動きがある』と聞いてブルブランに調査を依頼したのだが……『教授』、『ドクター』と呼ばれている者達が何かを画策している事しか掴む事は出来なかった。

 だがコイツ等を見るに、ドクターと教授とやらがリベールに対して何かしらを仕掛けようとしているとみて間違いなかろう……ブルブランの報告では、ドクターも教授も人工的に新たな生命体を作り出していたらしいからな。」

 

「新たな命の創造、ね……クソッタレの魔帝もそうだったが、命を作り出すとか神にでもなった心算なのかねぇ?

 ……まぁ、来たら来たでぶちのめしてやるだけだ。なのは嬢ちゃんとクローゼ嬢ちゃんが取り戻したこのリベールに仇なすってんなら、ソイツは俺の敵以外の何者でもないからな。」

 

 

取り敢えず、この異形二体は教授とドクターが生み出したモノで間違いなさそうだ――と同時に、もしもダンテとレーヴェがエンペラーとマジシャンを倒していなかったらKOFの会場はトンデモナイ惨劇の現場となっていた可能性があるだろう。

最強クラスの二人の銀髪剣士によって、KOFは大会を続ける事が出来たようである。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

KOF個人戦準決勝の最終戦を飾るのは不動レーシャvsエレナ。

大会参加者最年少であるレーシャと、大会参加者では空、ノーヴェ、さくらと並んで参加者で二番目の若さであるエレナの試合は準々決勝最終戦に相応しい組み合わせであると言えるだろう。

レーシャは二回戦で魔王であるルガールに其の力を認めさせて準々決勝に駒を進め、エレナは『最強の格闘技は相撲』との意見もある中で、その相撲で名誉段である横綱を除けば事実上の最高位である大関にあるエドモンド・本田を撃破したエレナの試合もまた注目の的であるのだ。

 

 

「いよいよ準々決勝の最終戦ですが、此の試合はどう見ますかなのはさん?」

 

「スピードではレーシャに分があるが、エレナは足技が主体のカポエイラを使うからリーチと攻撃範囲ではエレナに分がある……とは言え足技はリーチと攻撃範囲に優れるモノの振りが大きく動作が重くなるので、攻撃後の隙が意外と大きくなるから、その隙を的確に付く事が出来ればレーシャが勝つだろうが、正直何方が勝つかはマッタク予想出来ないと言うのが本音だ。」

 

「予想不可能ですか……ですが、其れは逆に楽しみですね。」

 

「だから見届けよう、予測出来ない試合の行く末をな。」

 

 

其れだけになのはですら試合結果は予想出来なかったのだが、予想出来ないからこそ楽しめる部分があるのもまた事実――そんな予想不可能な準々決勝の最終試合を戦うレーシャとエレナが、遂にフィールドに現れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter51『開眼した奥義!風の拳、其れは何かを生み出す』

今回の試合も見どころがあるな?Byなのは      見どころ満載ですよ♪Byクローゼ


KOF個人戦の準々決勝の最終戦であるエレナvsレーシャの試合に会場は湧いていた。

個人戦参加者最年少のレーシャと、ノーヴェとさくらと並んで二番目に若い参加者となるエレナの試合は大注目なのだ――レーシャは魔王であるルガールに其の力を示し、エレナは最強と名高い相撲レスラーを翻弄した上にKOして見せたので其の実力は計り知れないだろう。

 

 

「ふふ、貴女とも友達になれる気がする。」

 

「サイですか……てか、改めて対峙してみるとすっごい格好してるよねエレナって。」

 

 

そのエレナの格好はレーシャの言うように可成り凄いモノだった。

両手首に五つ、両足首、両上腕部、両膝下に夫々二つずつ、首に七つの金属製の輪を装着しているのだが、其れ以外で身に付けているのは胸と股を必要最低限覆っている白い布のみと言う可成り露出度の高い格好をしているのだ。

其れでも決して卑猥に見えないのは偏に彼女が女性としてのしなやかさと武闘家としての力強さを兼ね備えた均整の取れたフィジカル故だろう。

 

 

「貴女はとっても速い。二回戦で戦った人は凄い突進力で、頑丈で力が強かった、まるでサイみたいだったけど、貴女はまるでチーター。」

 

「あ~~……其れは割と合ってる気がする。チーターってスピードは最強クラスだけど攻撃力はネコ科の大型肉食獣では最弱クラスだからねぇ?多分大会参加者の中で攻撃力は一番低い私にはピッタリかも。」

 

「でも、貴女のスピードは其のまま攻撃力に換算されてるから、だから貴女はチーターよりも少し厄介?」

 

「何で疑問形なのか……まぁ、其れは兎も角、全力で戦おう!」

 

「貴女と戦える事に感謝を。」

 

 

試合前の軽い遣り取りを行うと、レーシャは右拳を腰に当て、左腕は肘を曲げて手の平の力を抜いた状態にして構え、エレナは大きく前傾姿勢になってダンスを踊っているかのようなステップを刻む。

なんとも特徴的な構えのエレナだが、彼女が使うカポエイラは遥か昔に奴隷として使われていた人々が手枷をされた状態でも戦えるように編み出したモノで、格闘技を練習している事を悟られないようにダンスの様な動きで技を磨いていたと言う歴史があるので、この構えもまたカポエイラ独特のモノであると言えるだろう。

 

 

『さぁ、準々決勝ラストマッチ!

 魔王ルガールが其の力を認めた最年少参加者の不動レーシャと、異種格闘技戦に参加したら間違いなく最強と名高い相撲レスラーを退けたエレナが準々決勝で激突だ~~~!!

 果たして準決勝に駒を進めるのは大会最年少にして最速のスピードを誇る不動レーシャか?其れとも最強の呼び声も高い相撲レスラーを倒したエレナか?

 大注目の此の試合!!其れじゃあ行くぞ~~~!!Leading Let's Much!!バトル、アクセラレーショ~~~~ン!!!』

 

 

MCさんの試合開始宣言と共に両者は地を蹴って互いに間合いを詰めて先ずは近距離戦での勝負が展開されるようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter51

『開眼した奥義!風の拳、其れは何かを生み出す』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

近距離戦となると、体格で劣るレーシャの方が圧倒的に不利になるのは間違いないのだが、其れでもレーシャが近距離戦を選んだのは自分の力が最も発揮出来るのは近距離戦である事を分かっているからだ。

距離が詰まった所でエレナは右手を地に着き、其れを支点にして鞭の様な下段の回し蹴りを放って来たが、レーシャは其れをジャンプで躱すと身体を大きく一回転させてからの遠心力を加えたジャンプミドルキックを放つ。

流石に其れは振りが大きかった事でガードされてしまったが、レーシャは其処から更に身体を反転させて飛び後回し蹴りを繰り出し、続けて空中で前方回転をするとこれまた遠心力を加えた踵落としを振り下ろす!

其れに対し、エレナも大きく開脚するような蹴り上げを放って対処する。

縦回転の遠心力を加えたレーシャの踵落としと、エレナの蹴り上げの威力は略互角だったのだが、体格差で勝るエレナが押し切ってレーシャは大きく空中に弾かれてしまった――が、レーシャは空中で姿勢を整えると魔力で空中に足場を作って其れを思い切り蹴って全身でエレナに突撃!

『人間ミサイル』とも言える其の攻撃はエレナにとっては完全に予想外でありガードも間に合わなかったが、エレナは自ら後ろに飛ぶ事でダメージを軽減すると同時に勢いを利用してレーシャを投げる。

 

 

「マダマダぁ!!」

 

 

投げられたレーシャはまたしても空中で姿勢を整えると、アリーナの壁を蹴って再び弾丸の如き勢いでエレナに向かって行き、今度はカウンターの投げを全身をぶつけるのではなく身体を小さく丸めた上で鋭いエルボーを繰り出した。

身体で最も鋭く硬い部分である肘の攻撃が決まれば、其れは大ダメージ間違いないが、エレナは其の攻撃をこれまた最も鋭く硬い部分である膝でガードする。

最も鋭く硬い部分がかち合ったとなれば互いに大ダメージ必至なのだが、ガードしたエレナは点をずらしていたのでダメージエミュレートも発生せず、レーシャが着地すると同時にエレナは低い姿勢で回転しながら後回し蹴りを放つ。

 

 

「取った!喰らえぇ!!」

 

「!!」

 

 

だが、レーシャはその蹴り足を取るとカウンターのドラゴンスクリュー一閃!

膝破壊と投げをワン動作で行う高等技術のドラゴンスクリューは蹴り技に対して有効なカウンターとなるのだが、其れだけにタイミングを誤ると自分が大ダメージを負いかねない――にも拘らず、其れを見事に決めたレーシャの格闘センスは只ならぬモノがあると言っても良いだろう。

 

しかし、其れを喰らったエレナにダメージエミュレートは発生していなかった……体格差があり過ぎる事で、レーシャのドラゴンスクリューは僅かに膝の芯を外れてしまっていたのだ。其れでもエレナの足に多少のダメージは与える事が出来たが、だからと言って足技が使えなくなるレベルのダメージは与えられなったようだ。

 

 

「あ~~……浅かったか~~。

 完璧に決まってたら、其処から足四の字極めて終わりだったんだけどな~~……貴女よりも圧倒的に足の短い私の足四の字は極まったら絶対逃げられないから。」

 

「レーシャ、身体の半分が足だけど?」

 

「だとしてもエレナと比べたら圧倒的に短いでしょ?

 足四の字は足が短い方が極めた方が効くのよ……足が短い方が隙間なくガッチリ極まるからね。短足の足四の字は極まったら脱出不可能よマジで。」

 

 

其処からの足四の字の足殺しのフルコースを狙っていたレーシャだったが、ドラゴンスクリューが若干甘かったせいで其れは出来なくなってしまった――そして、エレナも二度とドラゴンスクリューは極めさせないだろう。

レーシャとしては攻め手を略失った状態であるとも言えるのだが……

 

 

「やっぱり貴女は強い、そしてマダマダ強くなる。

 だけど貴女は自分の強さの本質を分かってない……其れが分かれば貴女はその潜在能力を解放出来る――もっと自然の声に耳を傾けて。」

 

「自然の声……自然の……」

 

 

此処でエレナがまさかのアドバイスをして来た。

敵に塩を送るが如き行為であるが、エレナの顔には笑みが浮かんでおり、其れはレーシャが更に成長する事を真に願って行った事であると言うのを物語っていたと同時に、そう言われたレーシャもまた息を整えると目を瞑って精神を統一して自然の声を聞かんとする。

精神を集中すればするほどグランアリーナの歓声は聞こえなくなり、逆に風がそよぐ音や、ヴァレリア湖の水面が僅かに波打つ音が際立って来る感覚をレーシャは覚えていた。

同時にレーシャの闘気は高まり、周囲には飽和状態となった闘気が火花放電を起こしている。

 

 

 

――風の声を聞け

 

 

 

レーシャの耳にそんな声が聞こえてきた刹那、レーシャは目を開き、そしてスタンスを大きく開いて右拳を腰に添えた独特の構えを取る。

 

 

「おいリュウ、あの構えは!」

 

「風の拳……あの幼さで其の境地に至ったと言うのか?……マッタク、とんでもない子だな彼女は?……機会があればぜひ戦ってみたいものだ。」

 

「お前さん、結局は其れなんだな。」

 

 

其れを見たベルカチームのケンは、親友でライバルでもあるリュウが長年真の格闘家を目指して修業した末に辿り着いた必殺の拳と同じである事を見抜き、リュウは僅か十歳でその境地に辿り着いたレーシャの才能に舌を巻いて何時か戦ってみたいと思っていた……ジンは、そんなリュウに少しばかり呆れていたが。

 

 

「自然の声が聞こえた?」

 

「聞こえた……そして悟った――拳とは風のようなモノだと。」

 

「風……でも風は目に見えない。なら、どうやってその存在を見せる?大木を薙ぎ倒す?其れとも家を吹き飛ばす?」

 

「ううん、そんな事は必要ない……風の存在を知らしめるには木の葉一枚を軽く揺らしてやれば良い――其れだけで充分に風は其の存在を示す事が出来るから。」

 

「ふふ、如何やら貴女は真に至ったみたい……なら、次の攻撃が最後になる。」

 

 

それに対し、エレナは軽くステップを踏むと一足飛びで距離を詰め、其処から片手倒立をしながら変則的な後回し蹴りを繰り出す。

体格差は勿論、腕と足ではそもそもリーチに圧倒的な差があるので、エレナの足技はレーシャには届くがレーシャの拳打はエレナに届かない――故にレーシャが狙ったのはエレナの蹴り足だ。

拳を頭や胴体に届かせる事が出来ないのならば、相手が繰り出して来た拳や足に己の拳をぶつけてやれば良い――そうして繰り出された拳はエレナの蹴り足とぶつかり、凄まじいエネルギーが其処から放出される。

そのエネルギーはレーシャが着用してるグローブが裂け、エレナの足の金属製の輪っかが砕け、アリーナ全体が震える位だ。

 

 

「く……りゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「……!!」

 

 

この鬩ぎ合いを制したのはレーシャだった。

全力で拳を振り抜いてエレナの蹴り足を弾いただけでなく、エレナ自身も吹き飛ばしてしまったのだ……エレナは何とか両手を地に着いてアリーナの壁に叩き付けられるのは回避したモノの、今の一撃で右足に捻挫と腓骨骨折のダメージエミュレートが発生し、足技オンリーのカポエイラを使う彼女にとって此れは致命的だろう。

だがレーシャの方も無事と言う訳ではない。

右手のグローブはボロボロに壊れ、シャツも右の袖が肩口まで吹き飛んで右肩が顕わになり、振り抜いた右腕には多数の裂傷のダメージエミュレートが発生している。

エレナの蹴りではなく、自身が放った拳の反動を受けた、そのような感じだ――逆に言えば其れほど今の一撃が凄まじい破壊力だったと言う事なのだが。

 

 

「この足じゃもう戦えない……レーシャ、貴女の勝ち。」

 

「ゴメン……未熟な拳で。此れほどの威力は必要なかったわ。木の葉を一枚揺らせば良いとか言っておきながら、実際には暴風になっちゃった。」

 

「其れは此れから制御出来るようになればいい。私が以前に戦った男の人も、私と戦ったあとで風の声を聞いたって話を耳にした……きっと辿り着いたのは同じ拳だと思う。」

 

「そんな人が居たんだ……」

 

「この会場にも来てる。ほらあそこ、向こうの客席の赤い鉢巻きした黒髪の人。」

 

「え?いや、分からないんだけど……てか見えるの?エレナって視力幾つ?」

 

「5.0。」

 

「いや、どんな視力よ其れ!?」

 

 

エレナは足のダメージエミュレートで此れ以上戦う事は出来ないと判断し、此処で降参。

空に続き、レーシャも己の潜在能力の解放に至った訳だが、其れだけに準決勝での空とレーシャの試合は期待大と言うモノだろう。

 

 

『けっちゃーく!!

 不動レーシャの凄まじいパンチがエレナの足を粉砕した~~~~!!こんな凄い技の誕生に立ち会う事が出来た俺は幸せ者だ~~!!感動したぞ~~~!!』

 

 

MCさんのアナウンスと同時にオーロラヴィジョンには『Wiener!』としてレーシャが映し出されて試合終了となり、その瞬間にダメージエミュレートも解除され、レーシャの裂傷とエレナの捻挫と骨折も即時に治る――ダメージエミュレートは『出血』も再現するのだが、エミュレートが解除された瞬間に出血も止まると言うのが一体どの様なカラクリであるのか若干不明であるが。

 

 

「とても良い試合だった。これで貴女も私の友達。」

 

「本気で拳を交えた格闘家同士は友となるって?……なら、確かに私と貴女はもう友達だね♪」

 

「うん、友達!」

 

 

試合終了後、レーシャとエレナは互いの健闘を称えて握手をした後に、エレナが両手を地面に着くと両足でレーシャを持ち上げ、其処から器用にレーシャを自身の肩に移動して肩車の状態にしてから立ち上がる。

決して長いとは言えない試合時間だったが、其れでも濃密な試合内容を見せてくれたレーシャとエレナに対しアリーナは満場の拍手と歓声を送り、レーシャとエレナも笑顔で手を振って其れに応えていた。

 

 

「レーシャは新たな友を得たみたいだな。」

 

「これを機に少しブラコンが落ち着いてくれると良いんだけどねぇ……てか、いい加減はやてに敵意向けんの止めなさいっての。八神家はある意味でウチのお得意さんなんだからさ……兄さんをはやてと会わせる為に庵が家電ぶっ壊してるとは言ってもね。」

 

「何故庵が俺とはやてを会わせようとするんだ?」

 

「ウワォ、そしてこの兄気付いてねーし……こりゃはやても苦労しそうだわ。」

 

 

そして、客席では不動兄妹がこんな会話をしていたとか。

 

 

「今のは本当に純粋な格闘戦なの?だとしたらハンパない事この上ねーの。最近のお子様は恐ろしい事この上ねーの。」

 

「なのはさん、口調が崩壊してますよ?」

 

「アインハルト、シグナム、決勝戦後に俺大会に乱入しちゃダメか?」

 

「ダメに決まっているでしょう?」

 

「ダメですよ陛下。」

 

 

貴賓席では試合の凄まじさになのはの口調が崩壊し、クラウスのバトルジャンキー魂がバーニングソウルしていた……リベールの女王とベルカの王が此処までぶっ飛ぶ試合をしたレーシャとエレナは大したモノであると言えるだろう。

此れにて準々決勝の試合は全て終了し、準決勝の組み合わせは高幡志緒vsザンギエフ、郁島空vs不動レーシャとなり、試合順がシャッフルされ、準決勝第一試合が高幡志緒vsザンギエフ、第二試合が郁島空vs不動レーシャとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

十五分のインターバルを於いて始まったKOF個人戦の準決勝。

その第一試合である志緒vsザンギエフは、タフさとパワーの真っ向からのぶつかり合いとなった。

はがねの肉体を持つザンギエフに志緒の打撃は大したダメージにはならないが、ザンギエフの投げ技も志緒は的確に受け身を取ってダメージを最小限に止めて決定打を与えなかったのだが、試合開始から十五分が経ったところで試合が動いた。

 

 

「おぉぉらぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「ぐぬ!?」

 

 

何度目か分からない志緒の蹴りを喰らったザンギエフが膝を折ったのだ――実は志緒の打撃は全て、鍛えても鍛えようのない喉を狙って放たれていたのだ。

普通は弱点となる関節にも可動性を落とさないレベルで筋肉を纏わせていたザンギエフだが、喉だけは筋肉で覆ってしまうと食道と気道を圧迫してしまうので、其処だけは筋肉で武装する事が出来なかったのだ。

其れでも首の筋肉は鍛えていたので多少の攻撃ならば耐えられたのだが、集中して喉を狙われた事で、遂に限界が来たのだ。

 

 

「コイツで終わりだぁ!!」

 

 

膝立ちになったザンギエフに対し、志緒はトドメにその剛腕を喉に叩き付けて完全にダウンさせる――見事なウェスタンラリアットであったと言えるだろう。

此の一撃でザンギエフには、窒息、ムチ打ちのダメージエミュレートが発生し、ドクターストップの判定が下されて志緒の勝利となった。

 

 

「うぅむ、実に良い一撃だった……ハラショー!君とはまた戦いたいものだな!」

 

「あぁ、機会があればまたやろうぜ。」

 

 

此れで決勝戦の椅子の一つは志緒が得た訳だが――

 

 

「空とレーシャちゃん、勝った方が志緒先輩と戦う事になるのか……」

 

「いや、俺は此れで棄権するぞ時坂。」

 

「え!?何でだよ志緒先輩?」

 

「相手がどう仕様もない極悪人だってんなら女だろうとぶっ飛ばせるんだが、そうじゃなけりゃ女子供相手に拳を揮う事は出来ねぇ……元々、女子供と当たったその時は棄権する心算だったからな。

 本気で来る相手に本気を出す事が出来ねぇってのは、相手に対してあまりにも失礼極まりねぇからな。決勝戦は郁島と不動の末っ子でやりゃ良いだろ。」

 

「志緒先輩っぽいね、その考え方。でも、其処に感じる『漢』の気概!」

 

「璃音……まぁ、言わんとしてる事は分かるけどな。」

 

 

だが、此処で志緒は決勝戦を棄権すると言って来た。

『極悪人じゃない女子供に対しては本気の拳を揮えない』とは何とも、志緒らしい理由であり、全力を出してくる相手に全力を出す事が出来ないのは礼を失すると言うのも志緒が礼と義を重んじているからこそそう考えたのだろう。

 

 

『準決勝第二試合は……っと、ちょっと待ってくれ~~!

 え~と、準決勝第一試合の勝者である高幡志緒が決勝戦を棄権しただと~~!?と言う事は、大会規定により準決勝第二試合の郁島空vs不動レーシャを決勝戦とするぞ~~~~!!』

 

 

そしてMCさんが志緒の棄権をアナウンスし、同時に準決勝の第二試合だった空vsレーシャが決勝戦になった事を告げると、会場からはブーイングの一つも起こらずに大歓声が沸き上がる。

空もレーシャも準々決勝で形は異なるが、夫々の奥義を見出しただけに、其の二人が決勝戦を戦うとなったら其れだけで盛り上がる事この上ないのだ。

 

 

「郁島空と不動レーシャの奥義がぶつかったら、果たしてグランアリーナは耐える事が出来るのだろうか?」

 

「遊星さんと遊里さんが作ったシールドならば大丈夫だとは思いますが……其れでも耐えられなくったその時は、遊星さんに『スターダスト・ドラゴン』を召喚して貰いましょう。」

 

「其れが良いかも知れないな……スターダスト・ドラゴンのヴィクティムサンクチュアリは、私のスターライトブレイカーすら防ぎ切るだろうからね。」

 

 

そしてその試合はKOFの決勝戦に相応しいモノになるのは間違いないだろう。

レーシャと空、天才タイプとも言える若き武道家がKOFの個人戦の決勝戦で激突すると言うのは、若しかしたら必然の事であったのかもしれないな――そして、KOF個人戦の決勝戦が凄まじい戦いになるのは、此れは確定事項と言えるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter52『KOF個人戦決勝戦!手加減は不要だ!』

美少女同士の全力全壊……燃えるなByなのは      其れは否定出来ませんねByクローゼ


KOF個人戦の決勝戦前、空の控室にはBLAZEのメンバーが終結していた。

 

 

「十歳の子供が相手ってなると、普通に考えりゃ空が勝つんだが、相手がレーシャちゃんだとそうは言いきれねぇんだよな……ロレントの大型ヴィジョンで観戦してるじっちゃんから、『不動レーシャと言う幼子の潜在能力は相当なモンじゃな』ってメッセージ入ってたからな。」

 

「でも空ちゃんなら勝てると思うわ。」

 

「ま、空なら大丈夫じゃない?どんな相手でも真っ直ぐにぶつかってく、ある意味での馬鹿正直さに僕は惹かれたんだからね……だから、頑張んなよ空。」

 

「おぉ、珍しく祐騎君がデレた!

 まぁ、其れは兎も角全力でやっちゃえ空ちゃん!」

 

「ふふ、最高の試合を期待してますよ空ちゃん。」

 

 

仲間達が次々と激励して行くが……

 

 

「気合を入れろや郁島ぁぁ!!!」

 

「押忍!!」

 

 

BLAZEのリーダーである志緒の一喝が最も効果があったようだ――志緒の一喝は理論的根拠は一切ナッシングで、根性論上等なモノなのだが、其れでもその一喝には仲間を鼓舞する力があるのだから、BLAZEのリーダーと言うのは伊達ではないだろう。

そして、空は最高の状態で決勝戦に。

 

だが、其れは空だけではない。

 

 

「レーシャ、難しく考える事は無い。お前の全力を尽くして来い。全力を尽くした先にきっと新たな道が待っている筈だからな。」

 

「空ちゃんは確かに強いけど、レーシャもとっても強いって事、兄さんもアタシも知ってるから♪全力でぶつかれば、きっと最高の結果が待ってる筈よ!」

 

「空君は『鬼』に認められた逸材だが、君もまた『魔王』たる私が認めた逸材……そして君の才能を持ってすれば、この大会で戦った相手の技も案外使えるようになっている可能性は充分に有り得る事だ。

 だとすれば技の引き出しは君の方が多いと言えるだろう……そのアドバンテージを活かして存分に戦って来るが良い!」

 

「お兄ちゃん、お姉ちゃん、ルガールさん……ウッス!全力でやってきます!!」

 

 

レーシャもまた兄である遊星、姉である遊里、そしてルガールから激励を受け最高の精神状態で決勝戦に臨む事が出来ているようだ――特にルガールが言った事はレーシャ自身も気付いていなかった事であり、其れに気付かされた事は大きな自信となっただろう。

 

レーシャと空、KOF個人戦の決勝戦のフィールドに、才能溢れる二人の少女が現れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter52

『KOF個人戦決勝戦!手加減は不要だ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レーシャと空がフィールドに現れるとアリーナは大歓声に包まれた。

魔王が認めたレーシャと、鬼が認めた空の試合は其れだけ期待出来ると言う事でもあり、そして其れが決勝戦であると言う事も大きい――己の信念を貫く形で棄権した志緒だが、その決断は結果として大会をより盛り上げる事に繋がったみたいである。

 

 

「ベルカの王が乱入すると拙いから、こうして覆面をして乱入すれば……」

 

「ダメですよ兄さん。大人しく観戦していて下さい。」

 

「だ~いぶ戦闘狂の血が騒いでいるな覇王は……後で稼津斗と戦わせてやった方が良いかも知れん。」

 

「『鬼』と戦えば、少しは満足出来るかも知れませんね……」

 

 

貴賓席ではクラウスが凄い試合を連続で見て来た事で武闘家としての血が騒ぎまくって妹のアインハルトに抑え込まれていたが、ベルカの覇王の血を騒がせるだけの試合が行われていたKOFは可成りレベルの高い大会であったと言えるだろう。

 

 

『Ladies&Gentleman!KOF個人戦もいよいよ決勝戦だ~~~!

 決勝戦を戦うのは、大会参加者最年少ながら魔王に其の力を認められた不動レーシャと、これまた大会参加者で二番目に若いながらも鬼に其の力を認められた郁島空ーーー!

 何方も小柄ながら、しかしスピードはハンパない!超高速のバトルが展開されるのを俺は期待してやまないぞ~~!!

 何方が勝ってもオカシクないこの試合!優勝の栄冠を手にするのは何方なのか!!KOF個人戦ファイナルバトル!デュエル、スタァァァトォォォォォ!!』

 

 

「行くよ、空さん!」

 

「全力でやろうか、レーシャちゃん!」

 

 

MCの試合開始の合図と共にレーシャと空は地面を蹴って間合いを詰め、レーシャの肘と空の拳がぶつかる。

拳では打ち負けると判断したレーシャは、人体で最も固くて鋭い肘を繰り出したのだが、其れは空の拳と互角であり互いに押し切る事は出来なかった――が、押し切れないと判断したレーシャは肘を引くと逆の手で掌底を繰り出し、その掌底は肘を引かれた事でバランスを崩した空の左肩に突き刺さる。

先手はレーシャが取る形となったが、空も負けてはおらず、掌底は喰らいながらも即座に身体を反転させると、掌底を繰り出したレーシャの腕を取って一本背負いで投げ飛ばす!

郁島流空手の正統後継者である空だが、空手だけではなく柔術も修めているので投げ技や極め技に関しても一流の技を持っているのだ。

 

 

「見事なカウンターだったけど、此れは如何?」

 

 

投げ飛ばされたレーシャは空中で態勢を立て直すと、自身の周囲にバリアを展開する。

此れはルガールが使った『グラビティスマッシュ』であり、ルガールは展開したバリアを飛び道具として放つのだが、レーシャはバリアを飛び道具としては使わず、バリアを展開したまま空に突撃した。

 

 

「其れなら……!」

 

 

それに対し、空は拳に気を集中させるとジャンピングアッパーでレーシャの突撃を迎え撃ち、全身にバリアを纏ったレーシャと気を纏った空の拳がかち合って激しくスパークし、飽和状態になったエネルギーが臨界点を越えて爆発を起こし夫々をアリーナのフェンスまで吹き飛ばす!

これによりレーシャも空もライフを減らす事になったが、二人ともそんな事は関係ないと言うかの如く一足飛びで距離を縮めると、目にも止まらぬ超高速のインファイトを展開して攻防一体の凄まじい打ち合いを行う。

その打ち合いの中で、レーシャはルガールやエレナの技も使っていたので、ルガールが言っていた事は間違いではなかったようだ――戦った相手の技も自分のモノとして使う事が出来ると言うのはトンデモナイ反則技とも言えるが、其れもまたレーシャの才能と言う事なのだろう。

互いに一歩も退かないその攻防は、ライフの削り合いとなり、少しずつだが確実に両者のライフは減って行った。

 

 

「はぁ!!」

 

「せいや!!」

 

 

もう何度目とも分からない攻防で拳がかち合って、その衝撃で強制的に間合いが離されると、レーシャも空も気を高めて行く。

 

 

「全力全開……か~め~は~め~……波ぁ!!」

 

「風塵虎吼掌!!」

 

 

放たれた気功波は互いに譲らず完全な押し合いとなるが、この気功波の押し合いに関してはレーシャの方に分がると言える――今はまだ通常のかめはめ波を放っている状態であるが、レーシャは此処から更に最大二百倍の鬼強化が出来るからだ。

 

 

「互角……だったら、10倍だぁ!!」

 

 

此処でレーシャが10倍かめはめ波に強化し、空の風塵虎吼掌を押し返して行く……が、押し返され始めた瞬間に空は気功波を放つのを止めるとハイジャンプで風塵虎吼掌を押し返して来た10倍かめはめ波を躱すと、其のままレーシャ目掛けて鋭い蹴りで急降下!

気功波の押し合いになったらレーシャは必ず10倍かめはめ波を使って来ると予想した上でのカウンターとなる攻撃であり、極大の気功波だけに撃つのを止めてもレーシャは直ぐには動く事が出来ないので避ける事は略不可能と言えるだろう。

 

 

「そう来たか……だったらこれで如何だぁ!!」

 

「えぇ!?」

 

 

「オイオイオイ、そんなのありかよ?遊星と遊里も『無理を通せば道理が引っ込む』ような事をやってのけるが、末っ子は『無理を通して道理を蹴っ飛ばす』ってか?」

 

「子供故の柔軟な発想、と言う奴なのだろうな。」

 

「てか、フィールドと客席を隔てるシールドがなかったら大惨事になってるんじゃないの此れ?」

 

「決勝戦前のインターバルでシールドの強化を行った不動兄妹には感謝しないとだね。」

 

 

だが、此処でレーシャはなんと強引に10倍かめはめ波を放つ腕を持ち上げて蹴りを放って来た空を下から薙ぎ払う形で迎撃して見せたのだ。

気功波と言うのは強力であればあるほど地上で放った場合は足の踏ん張りが必要になり、気功波の威力に自身が吹き飛ばされないように前傾姿勢になる事が多く、それ故に放っている最中に姿勢を変えると言うのは可成り難しいのだが、レーシャは10倍かめはめ波を上方向に向ける事で逆に自身を地面に押し付けて姿勢を安定させると言う可成り強引な方法で気功波の軌道を変えて見せたのだ。

 

そしてこのカウンターのカウンターは見事空に決まり、これにより空のライフは一気にオレンジゾーンに突入し、後一発喰らったらレッドゾーンと言う所まで来ていた。

 

 

「オレンジで止まっちゃったか……此れは逆に拙いかな?」

 

 

ライフでは大幅に有利になったレーシャだが、実のところ今の一撃で空を倒せなかったと言うのは可成り拙い状況であると言えるのだ――何故ならば、追い込まれたこの状況は空の奥義発動の条件が整ったともいえる状況だからだ。

 

 

「……覇ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

10倍かめはめ波を真面に喰らってしまった空は所々服が消し飛び、裂傷や打撲、出血のダメージエミュレートが発生しているが、裂帛の気合と同時に闘気を爆発させてレーシャとの間合いを一気に詰め、稼津斗戦で開眼し、ノーヴェ戦で仮完成に至った郁島流奥義『天翔龍舞』をレーシャに叩き込んで行く。

自我を保ちながら、しかし無意識の闘争本能から繰り出された連続攻撃はノーヴェに放ったモノよりも洗練され、そして其の動きには一切に無駄が無くなっていた。僅か三試合で空は奥義の完全完成に漕ぎ付けたのだ。

 

 

「トドメです!」

 

 

計十発の拳と蹴りを叩き込むと、ノーヴェの時とは違いアッパー掌底ではなくジャンピングアッパーカットを叩き込んだ後に錐揉み回転するジャンピングアッパーを繰り出して締めに空中で轟雷撃をブチかましてレーシャをフィールドに叩き落として大ダメージを与え、レーシャのライフをレッドゾーンに追い込む。

 

 

「ところがギッチョン、まだ行ける!!」

 

 

フィールドに叩き付けられたレーシャには、これまた打撲に裂傷、出血のダメージエミュレートが発生し、ご丁寧に頭から血が噴き出すエミュレートまで発生しているのだがレーシャはまだまだ元気で試合は続行と言ったところだ。

とは言え、レーシャも空もライフは互いにギリギリであり、ダメージエミュレートの事を考えれば長く戦う事が出来ないのも事実である――となれば、次が最後の攻防となるだろう。

 

 

「空さんの奥義、堪能させて貰ったよ……だったら、今度は私の奥義を空さんに味わって貰わないとだよね?」

 

「レーシャちゃん……そうですね。その拳、受けさせて貰います。」

 

 

此の土壇場でレーシャは先のエレナ戦で開眼した『風の拳』の構えを取ると、空も轟雷撃の構えを取って互いに闘気を高めて行く。

そして……

 

 

「覇ぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「せいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

空が間合いを一気に詰め、渾身の轟雷撃を放ったが、其れはレーシャの間合いの外から放ったモノではなくレーシャの間合いの中まで踏み込んで放った一撃であった。

リーチは空の方が長いのでレーシャの間合いの外から放つ事も可能だった筈だが空は敢えてレーシャの間合いに踏み込んで放ったのだ――其れは、レーシャの拳を己の身で感じたいと思ったからだろう。

その結果、空の拳はレーシャの顔面を捉え、レーシャの拳はアッパー気味に空の胸を一閃する。

一瞬の攻防だが、吹き飛ばされたのはレーシャだった……アリーナのフェンスまで吹き飛ばされたレーシャのライフはゼロとなり、試合終了だ。

 

 

「同じだな、俺が風の拳に開眼した後でサガットと戦った時と……レーシャは空に、己の拳を刻み込んだ……ケン、ジン、世界は広いな。まだ見ぬ未完の大器が此れだけ居るんだからな。

 此れだから格闘は止められない……そして格闘は恐ろしいが、同時に面白い。」

 

「格闘にゴールはない。強くなろうと言う思いを持ち続ける限り何処までも強くなれるのかもしれんな。」

 

「たっく、相変わらずクサいセリフだねぇ?だけどお前等の言う事は格闘の真実なのかも知れないな。」

 

 

観客席ではカルバートチームのリュウとジンとケンがこんな会話をしていたが、勝負が決したフィールドでは空がトンデモナイ事になっていた。

ライフはギリギリ残った空だったが、レーシャの風の拳で一閃された胸は大きく裂けて出血している――更にこの傷はダメージエミュレートを貫通して発生したガチのモノであったりするのだ。詰まるところ、空の身体にはガチで消えない傷痕が刻まれた訳だが……

 

 

「まだ未熟で、とても乱暴な一撃ですが、其れでも貴女の拳はこの身に刻まれました……この傷は、私にとっての勲章です。」

 

「空さん……此れが今の私の精一杯だったよ。」

 

 

空はレーシャに近付くと其の身を抱擁しレーシャの健闘を称え、レーシャもまたその抱擁に応えて空の背に手を回す。

全力を出し合った美少女が互いの健闘を称えて抱擁し合う様は実に絵になるモノであり、リベール通信の花形カメラマンであるドロシーがシャッターを切りまくり、これまた花形記者であるナイアルが空とレーシャへの決勝戦後の突撃インタビューを行う事を決めたのも至極当然の事だったと言えるだろう。

 

 

「全力全壊、実に見事な、決勝戦に相応しい試合だったな。因みに全力全開ではなく、全力全壊だ。『開』ではなく『壊』だ。」

 

「全力で全てを壊す……何とも恐ろしいですね。」

 

「よ~し、やっぱりちょっと乱入して来る!此れだけの試合を見せられて黙っていられるか!否、黙っている事は出来ないに決まっているだろう!」

 

「だからダメですよ兄さん。」

 

 

決勝戦に相応しい試合を見せてくれたレーシャと空になのはは素直に賞賛の言葉を送っていたが、クラウスは戦闘狂の血がバーニングソウルして乱入しようとして居たが、其れは妹のアインハルトが見事な卍固めを極めて阻止していた。

 

ともあれKOFの個人戦は空が優勝、レーシャが準優勝と言う形で幕を閉じた。

そしてその夜は、KOF個人戦の終了と大会優勝者を称える晩餐会がグランセル城の空中庭園と城前広場で開催され、城の関係者とKOF参加者だけでなく一般市民も参加出来るオープンな晩餐会は大いに盛り上がっていた。

グランセル城のシェフが腕を振るった宮廷料理は元より、料理の腕に自信がある志緒と一夏が振る舞った料理も大好評であった。

 

 

「「かんぱーい!!」」

 

 

そんな中でエステルとグリフィンは骨付き豚もも肉のローストを右手に持って、左手にはジンジャーエールの入ったグラスを持って盛大に乾杯すると豪快に巨大な骨付きに齧り付いていた。

 

 

「ヨシュアさん、アレ如何思います?」

 

「アレも彼女達の魅力、そう思わない一夏?」

 

「ま、そうっすよね。」

 

 

夫々の恋人であるヨシュアと一夏は何かを悟っている様だった。

この晩餐会は夜遅くまで続き、終了が宣言されたのは日付が変わった頃で晩餐会の参加者はグランセル城の客人室かグランセルホテルに泊まる事になったのだったが、此れもまたある意味では貴重な体験と言えるだろう。

 

 

そして、その翌日――

 

 

『Ladies&Gentleman!

 昨日のKOF個人戦は見応えあるバトルが展開されたが、KOFはマダマダ終わりじゃないぞ~~~!

 今日からはKOFのチーム戦の開幕だ~~!何れ劣らぬ実力者達で構成されたチーム戦は、個人戦以上に厚く激しい試合が展開されるのかも知れないぞ~~!?

 そして大注目は、草薙京がデュナン前王の時代からの武術大会からの通算での三連覇を成し遂げられるかどうかだ~~!

 KOFチーム戦、此処に開幕だ~~~!!』

 

 

グランアリーナではMCがKOFのチーム戦の開幕を盛大に宣言し、KOFのチーム戦が開幕したのだった。

 

 

 

「ふむ……二回戦で彼等は草薙京のチームと当たるか……此れは、なんとも楽しみではないかなドクター?」

 

「あぁ、実に楽しみだよドクター……疑似的にオロチの力を得た彼等が、オロチを屠った草薙を相手に何処まで出来るのか、実に見物だよ。」

 

 

その裏に、途轍もない悪意を含んで……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter53『KOFチーム戦開幕!激闘の一回戦!!』

チーム戦も、一回戦から全力全壊か……素晴らしいなByなのは      素晴らしい事、なのでしょうねByクローゼ


空の優勝で幕を閉じたKOFの個人戦の翌日に開催されたKOFのチーム戦だが、チーム戦は最大で大将同士のエクストララウンドを含めると六ラウンドの長丁場になると言う事で、チーム戦にはギリギリの土壇場で新たなルールが追加される事になった。

グランアリーナのフィールドには四本のコーナーポストとロープで作られた簡易のリングが二つ設置させれ、チーム戦は二試合を同時進行させ、そして個人戦には無かった『リングアウト負け』も追加されていた――リングの外に吹っ飛ばされたら問答無用で負けと言うのは、中々にスリルある試合にもなるだろう。

そんな中で行われた一回戦の第一試合。

第一リングには、スポーツマンチームが登場したのだが、第二リングの方には行き成り優勝候補である草薙京率いる『ロレントチーム』が登場して、其れだけでもグランアリーナは歓声の渦に巻き込まれる事に……其れだけ京の三連覇への期待が高いと言う事なのだろうが。

 

 

「いやはや、凄い人気だね彼?

 『草薙流古武術』と言う古流格闘技の存在は知っていたけれど、その継承者がリベールに居て、そしてこんな人気者だとは……覇王流の正統後継者として、是非とも手合わせしてみたいモノだ。」

 

「アイン、お前の兄の『戦闘脳』は如何にかならないモノなのか?」

 

「如何にかなるのであればとっくに私かシグナムが如何にかしています……兄さんは王としては優秀で王としての自覚もあるのですが、其れ以上に武闘家として高みを目指している所もありまして、武闘家の血が騒ぐのを抑える事が出来ないみたいです。

 まぁ、流石に乱入しようとしたその時は私とシグナムが全力で止めますのでご安心下さい――其れは其れとして、本当に凄い人気ですね彼等は?」

 

「京さん、アインスさん、エステルさんの三人は叔父様によって出来レースと化していた旧武術大会で、出来レースを壊して二連覇したチームですからね?

 皆さん揃って容姿も良いですから其処も人気の要因であるのかもしれません。」

 

 

貴賓席ではこんな会話がされていた――王としては充分優秀であるが武闘家としての血が騒ぐのを抑える事が出来ないと言うのは、中々にクラウスは困った王であると言えるだろう。

そんな中、なのははロレントチームではなく、第一リングに登場したスポーツマンチームの事が気になっていた。

全員が身長2mを超える大男で構成されたチームであり、その迫力からロレントチームとは別の意味で注目されているチームなのだが、なのはが気になったのは其処ではない……身体が大きい事以外は、リーダー格の『ヘヴィ・D!』が特徴的なモヒカンヘアーである事を除いて普通の人間であるのだが、なのはは此の三人から僅かではあるが普通の人間では宿す事のない『魔の闇の気配』を感じ取っていた。

『闇属性』の力を宿す人間は存在しているが、其れはあくまでも『人間としての闇属性』であり、魔族や悪魔特有の『魔に属する闇属性』を宿す人間など、血筋の何処かで魔族か悪魔が混ざっていなければ有り得ない事であり、更にその場合はもっと強く其の力を感じ取る事が出来るのだ。

だがスポーツマンチームの三人から発せられている『魔の闇の気配』は、魔族の血を引いているなのはだからこそ感じ取る事が出来た位に僅かなモノであり、彼等が魔族や悪魔の混血でない事を示していた――故に、なのはは気になったのだ。

 

 

「なのはさん、どうかしましたか?」

 

「いや、何でもない。ロレントチームと同じフィールドで試合をする事になってしまったスポーツマンチームが少々気の毒だと思っただけだ……ロレントチームの試合にだけ注目が集まって、自分達の試合が空気になると言うのは中々にキツイモノがあるだろうからな?

 巨漢三人組と言う事で注目を集めていると言え、いざ試合が始まったらロレントチームの試合の方に視線は集中するだろうからね。」

 

「其れは……なんと言うか否定出来ません。」

 

 

気にはなったモノの、だからと言って何か危険があるかと言われたら其れは現状では否なので、なのはは取り敢えず試合を見守る事にした――確証の無い事を言って不安を煽る事もないとも考えたのだろう。

 

 

『其れじゃあ行くぞ~~!

 KOFチーム戦!一回戦第一試合!第一リング、ヘヴィ・D!vsチェ・リム!!第二リング、草薙京vsチョイ・ボンゲ!Round1!Ready……GO!!』

 

 

そしてMCによって試合開始が宣言され、KOFチーム戦の一回戦第一試合となる二つの戦いが始まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter53

『KOFチーム戦開幕!激闘の一回戦!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二リングで試合を行っているロレントチームは、大将格である京がまさかの一番手で登場し、『まさか京が一番手で登場するとは!』と会場を驚かせていた。

京の最初の相手であるチョイは、小柄ではあるが其の身の軽さを活かし、手に装備した鉤爪を使ってトリッキーな攻撃をしてくる中々に厄介な相手であるのだが――

 

 

「おぉりゃぁ!!」

 

「うき!?」

 

 

京にはその攻撃はマッタク持って通じていなかった。

身の軽さを活かした空中からの攻撃を得意としているチョイだが、空中からの攻撃は全て百式・鬼焼きで迎撃されるか、バックステップからのR.E.D.KicKで叩きとされてしまい、得意の攻撃を封殺されてしまったのだ。

そうなると地上戦で戦う事になるのだが、地上戦となると今度はリーチの差でチョイが圧倒的に不利となるのだ――鉤爪をプラスしたとしても、京とチョイでは身長差が30cmもあるのでマッタク持ってリーチも勝負にならないのだ。

 

 

「アンタじゃ燃えねぇな?弱い奴に用はないぜ……燃えろぉぉぉ!!」

 

「愛が欲しいでやんす~~~!!」

 

 

最後は京が外式・轟斧 陽から弐百拾弐式・琴月 陽に繋いでチョイを派手に燃やしてKOしてのパーフェクト勝ちを収めた。

続いて登場したのは身長が2mを超え、体重も300kgを突破している超巨漢の『チャン・コーハン』だ……鎖の先に巨大な鉄球――の様にカラーリングされた木球をくっ付けた武器を振り回して戦うパワーファイターだ。

本来は鉄球を振り回すので、その腕力は物凄いモノがあるだろう。

 

 

「おいおい、何処に向かって攻撃してんだ?俺はこっちだぜ?」

 

「むがぁ!ちょこまかとぉ!!」

 

 

だが、身体が大きく体重も重いとなれば、当然その動きは重くなり、フットワークが軽い京を捉える事は出来ない――チャンの攻撃は当たれば一撃必殺の威力ではあるのだが、ドレだけ強大な力であっても相手に当たらなければ何の意味もないのである。

 

 

「如何した、来いよ木偶の坊――いや、アンタの場合はウドの大木か?」

 

「誰がウドの大木だ!!」

 

 

更に京はチャンを挑発しまくって無駄に動き回らせてスタミナをゴリゴリと削って行く……体重が300㎏を超えているチャンは、少し動くだけでも大量のエネルギーを消費してしまうので動き回ればあっと言う間にスタミナ切れを起こすのは道理だろう。

京の挑発に乗って動き回らされたチャンはあっと言う間にスタミナ切れを起こし、その結果としてDSAAルールで定められたライフもレッドゾーンに突入してしまっていた。

 

 

「大男総身に知恵が回りかねってのは、アンタみたいなのを言うのかもな?修業して出直して……以前にダイエットして出直して来な!」

 

 

其処に京が百壱式・朧車を叩き込んでまたもパーフェクト勝利で二人抜き。

参人目の相手はチャン並みの巨漢である『ザナドゥ』と言う、ちょっとサイコな相手だったのだが、此れも京にとっては大した相手では無かった――ザナドゥは巨漢ながらトリッキーな動きをして来たが、格闘に関してはマッタクの素人で、巨体と怪力だけのタイプだったので其れでは京には通じる筈もなかった。

 

 

「素人丸出しのパンチが俺に当たるかよ……舐めんな!」

 

 

ザナドゥのパンチを九百拾式・鵺摘みで捌いた京はカウンターの外式・竜射りを叩き込み、其処から七拾五式・改→百拾四式・荒咬み→百弐拾八式・八錆→外式・砌穿ちのコンボを叩き込み……

 

 

「受けろ、此のブロウ!コイツで、決まりだぁ!!」

 

 

トドメに百八拾弐式をブチかましてザナドゥをこれまたパーフェクトKOしての三人抜きを達成して見せてくれた。

 

 

「マッタクこの程度の実力で参加して来るなよな?折角見に来てくれてるオーディエンスにも失礼だぜ。」

 

「アタシ達、マッタク出番なかったんですけど……」

 

「私達にあんなキワモノの相手をさせたくなかったのかもしれないけれどね。」

 

 

この見事な京の三人抜きに会場は大いに沸いたが、その直後に会場は騒めきに包まれる事になった――理由は第一リングで行われていたスポーツマンチームの試合が原因だ。

スポーツマンチームも一番手のヘヴィ・D!が三人抜きを達成していたのだが、其の三人はダメージエミュレートで『肋骨骨折+内臓損傷』、『頭蓋骨折』、『顎関節粉砕骨折』、『頸椎損傷』と言うシャレにならないダメージが発生し、更には一部のダメージがエミュレートを貫通してリアルダメージとなり、三人とも其の場から緊急搬送される事になってしまったのだ。

エミュレートである程度軽減されているから命に別状はないのだろうが、其れでも会場が騒めいたのは其れだけのダメージを相手に負わせたヘヴィ・D!の表情には『やり過ぎちまった!』、『ヤベェ……』と言ったモノは一切見て取れず、只口元に不気味な笑みを浮かべ、血塗られた拳を固めたままの状態だったからだ。

 

 

「……如何やら俺達の二回戦の相手はヤバい連中みたいだな?」

 

「明らかにやり過ぎじゃない……なのに嗤ってるって、絶対サイコパスよアイツ等!」

 

「いや、サイコパスで済めば御の字と言った輩かもしれないな……」

 

 

二回戦でスポーツマンチームと激突する事が決まったロレントチームの面々は異口同音に『ヤバそうな奴等』と口にしているが、心の底では『コイツ等の事は次の試合で絶対に倒す』と心に誓っていたりする――武闘家として、明らかなオーバーキルを、其れもレーシャと空の時の様に結果としてダメージエミュレートを貫通したのではなく、明らかに『ダメージエミュレートを貫通する事は分かっている』上での攻撃を行ったとしか思えないその態度は到底許せるものではなかったのだろう。

 

 

「ま、アイツ等は二回戦でぶっ潰してやるさ!……んで、今更かも知れないが右腕怪我でもしたのかアインス?開会式の時は包帯してなかったよな?」

 

「いや、怪我をした訳ではないよ京。

 大会に向けて新たな技の修得を行っていて、今朝方ギリギリで修得出来たのだが少しばかり制御し切れないから私の魔力を練り込んだ特殊は包帯で無理矢理抑え込んで居るんだ。」

 

「アインス、一体どんな技を覚えたのよ……」

 

「其れは次の試合のお楽しみだ。」

 

 

そしてアインスは大会に向けて新たな技を修得したらしかったが、制御出来ないとの理由で右腕に自信の魔力を練り込んだ包帯を巻いていた……若干厨二臭が否定出来ないが、ロレントでも五本の指に入る実力者であるアインスが言うのだから相当な技を覚えたのだろう。

 

 

「なのはさん、あのチームは……」

 

「危険だが、二回戦の相手は京とアインスとエステルだから心配は要らんだろうさ……もしも本当に危なくなったその時は、稼津斗に乱入して貰えば其れで済む事だと思うしな。」

 

「出来れば『鬼』が出張る事態が来ない事を願いますね……」

 

「何なら俺が……」

 

「だからダメです。」

 

 

一方で、クローゼもスポーツマンチームの異様さを感じ取るに至ったが、なのはが『次の相手はロレントチームだから心配はいらない』と言った事と、『最悪の場合には稼津斗に乱入して貰う』と言うのを聞いて一応は納得したようだ――五百年を生きた末に封印された『鬼』は、オロチの力も得ており、其の力を全開にすれば最早勝てる者は居ない存在となっているのだから此れもまた当然かも知れないが。

 

ともあれ、KOFチーム戦の第一試合はスカッとする三人抜きと後味の悪い三人抜きとなったのだが、第二試合では第一リングに『リベールギャルズ』、第二リングに『女性格闘家チーム』が登場すると言う何とも華のある試合が始まり、スポーツマンチームの後味の悪い三人抜きを上書きする見事な試合を見せてくれた。

リベールギャルズはグリフィンが一番手として参上し、試合開始と同時に相手に鋭いタックルを喰らわせてダウンを奪うと、其処から強引に持ち上げて投げ飛ばす『グリフィンリフト』を喰らわせると、起き上がりに変則的な前方宙返りからの踵落とし『龍閃脚』を繰り出してガードを強引に下げると、昇龍拳を叩き込み、吹き飛んだところに追撃の『ナパームストレッチ』を喰らわせ、更なる追撃としてフラッシュエルボーを叩き込んで相手のライフをゼロにしてKO!

しかしグリフィンは其のまま第二ラウンドとは行かずに二番手のヴィシュヌにバトンタッチした――チーム戦は基本勝ち抜きルールだが、勝者が『次の試合の権利を放棄する代わりに控えメンバーとの交代』が認められているので、グリフィンは二番手のヴィシュヌに次の試合を任せた訳だが、其れも信頼があっての事だろう。

『ヴィシュヌならば勝てる』と確信していなけば交代は出来ないのだから。

 

バトンを渡されたヴィシュヌは、長い手足を活かした相手の間合いの外からの拳打や蹴りを繰り出しながら、距離が離れれば離れれば波動拳や灼熱波動拳、タイガーキャノンと言った多種多様な気弾や気功波を放ち、其れを飛び越えて来た場合には昇龍拳を独自にアレンジした『タイガーブロウ』で完璧に迎撃していた。

 

 

「此れで決めます!タイガァァ……レェェェイド!!」

 

 

肘打ちをスウェーバックで躱されたヴィシュヌは、間髪入れずにロ―キックを放って相手の体制を崩すと、其処から二連続のハイキックから鋭い低空の飛び蹴りに繋ぐ連続、『タイガーレイド』を決めて見事なKO勝ちだ。

 

 

「其れでは、最後は頼みましたよ刀奈。」

 

「任されたわ♪」

 

 

そしてヴィシュヌも大将である刀奈と交代し、ファイナルラウンド。

刀奈は先ずは氷結波動拳を放って牽制し、其れを前転で躱して来た相手を捕まえると巴投げで投げ飛ばし、其処に水属性の『激流波動拳』を喰らわせていきなり大ダメージを与えると、間髪入れずにスライディングキックから流れるような後回し蹴りを叩き込んで吹き飛ばすと、稼津斗直伝の『百鬼剛斬』を喰らわせる。

 

 

「ぐぬ……だがマダマダぁ!!」

 

「呆れたタフさだけど……ねぇ、少し蒸し暑いとは思わない?」

 

「蒸し暑い……だと?」

 

「はい、大爆発♪」

 

 

そしてトドメはまさかの大爆発!

水属性の波動拳を放った事で空気中に散らばった水素分子を刀奈が高めた気で一気に過熱して水蒸気爆発を起こさせたのだ――此れは刀奈自身も巻き込まれかねない攻撃だったのだが、刀奈はバッチリと自分の事は水の気のヴェールで守っていたので無事だった。

が、この水蒸気爆発を真面に喰らった相手はライフがゼロとなり、此れにて試合終了だ。

 

 

「あら、此の程度なの?もう少し楽しめると思ったのだけれどね?」

 

 

扇子で口元を隠して、しかし妖艶な笑みを浮かべている刀奈は完全に悪役だったのだが、其れが実に絵になっていた。

で、第二リングの方では女性格闘家チームの一番手として登場した不知火舞が『不知火流忍術』を駆使したトリッキーな戦い方で相手を手玉に取って見事な三人抜きを披露してくれていた。

 

 

「よ、世界一ぃ!」

 

 

決めゼリフも鮮やかに決まった勝利ポーズだが、観客席の男性諸君の視線が舞の胸に集まってしまったのは致し方あるまい――其れほどまでに凶悪な程の『乳揺れ』を披露してくれたのだから。そもそもにして『半乳全ケツ』と言っても過言ではない舞の衣装は可成りヤバめのモノであるのだ。

 

で、その後も試合は次々と進み、名のあるチームは余裕で一回戦を突破して二回戦へとコマを進めていた。

驚くべきは、寄せ集めのチームと思われていた『SSSチーム』だ――一番手として登場した真吾がライフを半分失いながらも勝利し、相手チームの二番手とはダブルKOの壮絶な幕切れとなり、第三ラウンドには柴舟が登場して、老獪な戦い方で相手を翻弄し、相手のガードを抉じ開けたところに裏百八式・大蛇薙を叩き込んで試合を決めて二回戦にコマを進めていた。

 

カルバートチームもリュウが三人抜き、ベルカチームもミカヤが三人抜きを達成して二回戦へと駒を進め、一回戦の最終試合に登場したのは『八神チーム』だ。

その八神チームは、大将格である庵が一番手として登場したのだが、此れは明らかにロレントチームで京が一番手として登場した事を意識しているだろう――『京が三人抜きをしたのならば俺もまた三人抜きをしてやる』と言う庵の対抗意識が露わになった事でもあるのだが。

 

だが、試合が始まると庵は其の実力を遺憾なく発揮してくれた。

一人目を試合開始と同時に飛び蹴りで強襲すると、着地と同時に抉り込むような斬り裂きアッパーを叩き込み、間髪入れずに百弐拾八式・葵花を喰らわせてKOし、二人目は参百拾壱式・爪櫛をガードさせると、そのガードを屑風で強引に崩した後に百弐拾八式・葵花を二段目迄喰らわせた後に弐百拾弐式・琴月 陰をブチかましてKOし、参人目は試合開始と同時に百八式・闇払いを放つと同時に相手に向かって突進し、そして相手を跳び越す形でジャンプすると、『外式・百合折り』で攻撃すると、其処からローキックを喰らわせ、其処から『外式・夢引き』に繋ぎ……

 

 

「遊びは終わりだ!」

 

 

禁千弐百拾壱式・八稚女を発動!

 

 

「泣け!叫べ!!そして……死ねぇぇぇぇ!!」

 

 

此れを喰らった相手は完全にKOされた――それでもダメージエミュレートは貫通していないので、庵は武闘家としての彼是は守っているのかもしれない。

 

 

「クククク……ハハハハ……ハ~ッハッハッハ!!!!」

 

 

見事な三段笑いと共に壱回戦の全試合が終了し、二回戦の試合順がシャッフルされる。

その結果は――

 

 

・二回戦第一試合、第一リング『餓狼伝説チーム』vs『サイコソルジャーチーム』。第二リング『極限流チーム』vs『ベルカガールズ』

・第二試合、第一リング『女性格闘家チーム』vs『リベールギャルズ』。第二リング『クローンチーム』vs『レスラーチーム』

・第三試合、第一リング『八神チーム』vs『餓狼MOWチーム』。第二リングが『リベリオンチーム』vs『カルバートファイターズ』。

・第四試合、第一リングが『SSSチーム』vs『空手マンチーム』、第二試合が『ロレントチーム』vs『スポーツマンチーム』

 

 

と、この様に決まったのだった。

二回戦の最終戦に見どころ満載のカードが持って来れれたのだが、此れは二回戦も大いに盛り上がるのは間違いないだろう――そして十五分のインターバルを挟んでKOFチーム戦の第二回戦が始まるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter54『熱闘!爆裂!!二回戦も激闘必至!!!』

美女同士の戦いは何とも華やかだな?Byなのは      華やかな試合と言うのは観客を魅了しますねByクローゼ


KOFチーム戦の一回戦が終了し、インターバルを挟んで二回戦が始まるのだが、そのインターバルの間に一回戦の様子を写したカメラのフィルムをプリントアウトして貰ったドロシーは、その写真を見て何とも難しい顔をしていた。

写真其の物は良く撮れており、リベール通信で組んだ『KOF特集』でも使えるモノだったのだが、ドロシーは一回戦の第一試合の写真が気になっているようだ。

 

 

「如何したドロシー、写真になんか変なモンでも写ってたか?」

 

「先輩、ある意味で大正解です~~。見て下さいよ此れ、一回戦の第一試合の写真なんですけど……」

 

「ドレドレ……良く撮れてるじゃねぇか?三連覇の期待が掛かる草薙京の百八拾弐式、最高の瞬間をシャッターしたって言えるぜ!こりゃ、リベ通の表紙飾れるかも知れねぇな?」

 

「はい、確かに京君の事はとってもカッコ良く撮れたんですけど、問題は第一リングの試合の方なんですよね……」

 

「第一リングってーと、あの後味の悪い試合か……って、何だコイツは!?」

 

 

難しい顔をしていたドロシーに声を掛けたナイアルは、写真を見せられて、ロレントチームの写真は良く撮れていると賞賛したのだが、次に見せられたスポーツマンチームの写真を見てその顔は驚愕に染まっていた。

何故ならば写真に収められたヘヴィ・D!には闇色の蛇型のオーラが巻き付いていたからだ。

しかもその蛇型のオーラは只の蛇ではなく、頭が八つに分かれていたのだから尚更だろう。

 

 

「先輩、此れって心霊写真って言う奴なんですか!?だとしたら、スッゴク怖いんですけど!!」

 

「心霊写真なんて生易しいもんじゃないぜコイツは……スポーツマンチームの面々は、オロチの力を宿してるってのか……?」

 

 

ナイアルはジャーナリストとして様々な事件を取材しており、その中には少しばかりオカルト的なモノも含まれていたのだが、その中でナイアルは『オロチ』の存在を知るに至り、只の伝説や神話の類ではないとジャーナリストの直感で感じたナイアルは独自に調査を進めて、『オロチ』が決して伝説や神話の中だけの存在ではなく、実在するモノだと言う事を確信し、同時にオロチの力が強大で危険なモノである事も理解していた。

そして『オロチの血を引かぬ者でなければオロチの力を使う事は出来ない』と言う事も分かっていた――ルガールと稼津斗がオロチの力を其の身に宿しても平気なのは、ルガールは魔王であり稼津斗は人を超越した鬼であるからだ。其れでもルガールは一度はその巨大な力に飲み込まれて消滅しているのだが。

 

 

「オロチの力って、何だかおっかない奴ですよねぇ?京君とアインスちゃんとエステルちゃん大丈夫でしょうか?」

 

「大丈夫な筈……いや、大丈夫か。

 恐らくだがコイツ等の事に気付いてない陛下じゃねぇ、もしもの場合の策は打ってある筈だ……だが、今は其れらしきモノを感じねぇって事は大会は通常通り行われるって事だろうからな。つまりは、あの三人でなんとかなると考えてるって事でもあるし、実際にアイツ等なら問題ねぇか。特に京は嘗てオロチを倒した一族の末裔な訳だしな?

 うっし、そうと決まれば俺等も取材続行だ!ドロシー、二回戦の最終試合、特に第二リングの方は気合入れて写真撮れよ?胸糞悪い試合しやがった連中を優勝候補筆頭のチームが成敗する様を思い切りかっこ良くカメラに収めてやれ!」

 

「アイアイサー!了解であります!!」

 

 

スポーツマンチームの事は確かに気になるが、もしもの事態になった時の事はなのはも考えているだろうと言う事と、ロレントチームの三人ならば問題ないと思考を切り替えて取材を続ける事に。

確かに京はオロチを倒した三種の神器の一種『草薙の拳』を司る草薙一族の末裔であるし、アインスは人間でありながら上級魔族に匹敵する強大な魔力を宿している上に抜群の格闘センスを持った強者であり、エステルは『天然のチートバグ』と言っても過言ではないカシウス・ブライトから直々に棒術の手解きを受け、史上最年少でA級遊撃士になった実力の持ち主なので心配は杞憂と言うモノだろう。

そしてナイアルとドロシーがアリーナの客席に戻ると、フィールドでは丁度二回戦の第一試合が始まるところだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter54

『熱闘!爆裂!!二回戦も激闘必至!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二回戦第一試合、第一リングの『餓狼伝説チーム』と『サイコソルジャーチーム』の試合は、餓狼伝説チームは古式キックボクシングのチャンピオン『ジョー・東』が、サイコソルジャーチームはアイドル拳法家の『麻宮アテナ』が先鋒で登場。

普通に考えたら絞り込んだ細マッチョのジョーと、一見すると華奢な少女のアテナでは勝負にならないように見えるだろうが、アテナは拳法だけでなく気でも魔法でもない独自の『サイコパワー』と言う一種の超能力があり、其れを使った遠距離攻撃やその他トリッキーな攻撃がある事を考えると勝負は分からないだろう。

そんな第一ラウンドは、開始と同時にジョーが鋭い飛び横蹴りで突っ込んで来たのを、アテナはサイコパワーを使った投げでカウンター。華奢な少女が片手で成人男性を投げると言うのは中々物凄い絵面であるが、サイコパワーを使えば対象物体の重量をゼロにする事も可能なので、やろうと思えば一回戦で京がKOした300㎏オーバーの巨漢を投げる事も簡単なのだ。

その後もジョーは果敢に攻めるも、アテナのサイコパワーを使った攻撃にペースを乱されまくり、業を煮やした所で巨大な竜巻を発生させる『スクリューアッパー』繰り出し、しかしそれはアテナの『サイコリフレクター』によって跳ね返され、跳ね返された竜巻で場外に吹っ飛ばされて場外負け。ジョーが場外負けとは洒落にもならない結果だろう。

 

続いて餓狼伝説チームは次鋒の『アンディ・ボガード』が登場。

格闘家としては若干小柄なアンディだが、単身東方に修業に出て、其処で古流格闘技である『骨法』と気を操る術を身に付け、体の大きさのハンデを跳ね返す程の実力を身に付けたストイックな格闘家だ。

第二ラウンドは開始と同時にアンディが消えた……と思った次の瞬間にはアテナにアンディの肘打ちが突き刺さっていた。

小柄故にパワーでは劣るアンディだが、スピードに関しては一級品で、一番の得意技である超高速の肘打ち『斬影拳』は正に目にも映らないほどの速さであり、そのあまりのスピードにアテナもサイコパワーを使っての投げのカウンターが間に合わなかったのだ。

その後もアンディの超速攻撃にアテナは防戦一方となりLPもガリガリ削られて行ったのだが、何度目かの攻防でアテナが切り札である『シャイニングクリスタルビット』を発動してアンディを止める。

サイコパワーで作り出したエネルギー球『ビット』を自身の周りに周回させる事で攻撃と防御を同時に行う技だが其れだけでなく、周回しているビットを一つに纏めて放つ『クリスタルシュート』を繰り出す。

それに対しアンディは自身の前に巨大な気の塊を発生させる『檄・飛翔拳』を使って相殺する。

するとアテナはハイジャンプするとパワーを高め、全身にサイコパワーを纏って突撃する『フェニックス・ファング・アロー』を放ち、アンディも全身に気を纏った状態で錐揉み回転しながら突進蹴りを放つ『超裂破弾』で迎え撃つ!

ぶつかった二つの技は何方も一歩も退かず、その結果高まったエネルギーが爆発してアテナもアンディも場外に吹き飛ばされ、両者場外のドローに。

だが、此れで餓狼伝説チームは大将のテリー・ボガードを残すだけとなり追い詰められたと言えるだろう。

第三ラウンドはテリー・ボガードとサイコソルジャーチームの次鋒である『椎拳崇』だ。

拳崇も拳法とサイコパワーを駆使して戦うのだが、実力はあれどアテナに熱を上げて若干修業が疎かになっている部分がある残念な奴であり、そんな奴がストリートファイトで実力を磨き上げて来た百戦錬磨のテリーに勝てる筈はなく、試合開始直後に大きな踏み込みのナックルパンチ『バーンナックル』を叩き込まれ、其処からボディブロー→アッパーカット→パワーチャージ→パワーダンクの連続技を喰らわされて敢え無くKOされてしまった……此れではアテナに振り向いて貰えるのは当分先になる事だろう。

そしてファイナルラウンドはテリーと御年九十三歳となる大会参加者最高齢の『鎮源斎』の試合だ。

鎮にはサイコパワーはなく、拳法の一種である『酔拳』を駆使して戦うのだが、酔拳は所謂『酔っ払い』の動きを模した拳法だけにトリッキーさはピカ一で、次の攻撃が読めないと言う点では何とも厄介なモノと言えるだろう。

更に鎮は腰にぶら下げた瓢箪を飛ばして来たり、口に酒を含んでからの火炎放射などの攻撃も行って来たのでテリーも苦戦したのだが、試合の幕切れは突如として訪れた。

 

 

「Are You OK?Buster Wolf!!」

 

「むむ!!?」

 

 

鎮の回転突撃『龍輪蓬莱』に対し、テリーはカウンター気味にバーンナックルから一気に気を解放する『バスターウルフ』を放ち、鎮は辛くも其れをガードしたのだが、ガードした事で大切な酒を入れておく瓢箪が破損してしまったのだ。

鎮が使う酔拳は酔っ払いの動きを模しているだけでなく『酔えば酔うほど強くなる』と言われているので、酔うのに必要な酒を入れておく瓢箪が破損したと言うのは致命傷と言えるだろう。

 

 

「ホッホッホ、此の試合、ワシの負けじゃな。」

 

 

で、此処で鎮が自ら敗北を宣言し試合終了だ。

 

 

「……何故?」

 

「武闘家たる者、時には自ら敗北を認めて身を退く事もまた大事な事じゃよ。」

 

「……勉強になります。」

 

 

鎮の深い言葉を聞いたテリーは拳に手を合わせて一礼する――長めの金髪にブルージーンズと白のTシャツにファーの付いたフライトジャケットと言うラフな格好から少し粗野なイメージのあるテリーだが、武闘家としての礼節は持ち合わせているのだ。

こうして餓狼伝説チームが三回戦にコマを進める事になったのだが、同じく二回戦の第一試合が行われている第二リングの方も中々の混戦となっていた。

極限流チームは先鋒で『ユリ・サカザキ』が、ベルカガールズは先鋒で『ヴィクトーリア・ダーリュギュルン』が登場し、ユリは空手らしからぬ相手の胸倉を掴んでの連続往復ビンタやヒップアタックでヴィクトーリアを翻弄したが、ヴィクトーリアも負けじと『雷帝』の名に恥じない苛烈な攻撃を行い、最後はユリの『覇王翔哮拳』とヴィクトーリアの渾身の雷撃がかち合い、その衝撃で仲良く場外に吹っ飛ばされて両者場外のドロー。

第二ラウンドは極限流チームは『ロバート・ガルシア』、ベルカガールズは『ミカヤ・シェベル』が次鋒として登場。

ロバートは『極限流の最強の虎』と称される極限流の師範であり其の実力は折り紙付きだが、ミカヤもまた『抜刀術天瞳流』の師範を若干十九歳で務めている猛者であり其の実力は疑いようもない。

第二ラウンドはロバートの華麗な足技とミカヤの洗練された剣術が真っ向からぶつかり合う展開となり、ロバートの連続蹴り『幻影脚』とミカヤの連続逆手居合い『無限斬』がかち合ったのには会場が湧き、何方も一歩も退かない試合展開だったのだが、何方も一歩も退かない試合展開だっただけに互いに決定打を欠き、フルタイム戦った末にタイムーバーのドローに。

そして大将戦の『リョウ・サカザキ』と『ジークリンデ・エレミア』の試合は凄まじいの一言に尽きるモノだった。

リョウは『極限流の無敵の龍』との異名を持つ極限流の師範で、ジークリンデはベルカで『鉄腕』の二つ名を持つ猛者なのだ……そんな二人がぶつかったら只で済む筈がなく、試合は初っ端から互いに真っ向から打ち合う展開に!

 

 

「おぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

無数の拳と蹴りが交錯し、これまた互いにLPを削り合う試合になったのだが、此処で先に仕掛けたのはジークリンデだった。

ローキックと見せかけてからのミドルキックのトリックプレイでリョウのガードを崩すと、其処に必殺の鉄腕の一撃を叩き込んでリョウのLPを残り1ポイントにまで減少させたのだ。

あと一撃入れれば勝ちなのだが、此れで仕留められなかったのはある意味では最悪と言えるだろう――極限流はその名が示す通り、極限状態にあってこそ其の真の力を発揮するのだから。

 

 

「極限流奥義!!」

 

 

此の土壇場でリョウは極限流奥義の『龍虎乱舞』を発動!

圧倒的な闘気と共に放たれた龍虎乱舞はガード不能であり、ジークリンデには無数の拳と蹴りが叩き込まれて行く。其れだけでも大ダメージなのだが、リョウの龍虎乱舞は其れだけでは済まない。

ロバートもまた龍虎乱舞を修めているのだが、ロバートの龍虎乱舞が無数の蹴りと拳を叩き込んだ後にジャンピングアッパーカットの『龍牙』を決めるのに対し、リョウの龍虎乱舞は乱舞攻撃の後でジャンピングアッパーの虎砲を叩き込んだ上で〆に『覇王翔哮拳』をブチかますモノとなっており破壊力が段違いなのだ。

其れを喰らったジークリンデのLPはゼロになり、極限流チームが三回戦にコマを進めたのだった。

 

 

「まさかジークが負けるとは……矢張りここは俺が出てベルカの武を示すべきだな。」

 

「だから、ダメだって言ってるでしょう?学習能力無いんですか兄さんは。」

 

「いだだだだ!コブラは、拷問コブラは止めろアインハルト!」

 

「もういっその事、遊星に超強化したジャンク・ウォリアー召喚して貰うか?具体的には攻撃力が42400ポイントの。」

 

「一体何をどうやったら其処まで攻撃力が上昇するんですか……」

 

 

貴賓席ではベルカから参戦したチームが二回戦で敗退した事を悔んだクラウスがアインハルトに拷問コブラツイスト極められていた……この王、何処までも戦闘狂である様だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

続く二回戦駄二試合。

第二リングの方はクローンチームのKUSNAGIが三人抜きで三回戦へと駒を進めていた――クローンだけに若干劣化しているのは否めないが、其れでも草薙の拳と言うのは相当に強かった。クローン三人はオリジナルの京から草薙流の手解きも受けていたのだから尚更だろう。

本来草薙流は一子相伝なのだが、既に京はノーヴェと真吾に草薙流を教えているので今更だろう――京曰く、『一子相伝なんて古臭いやり方じゃ、何れ流派は潰れちまうぜ』との事らしいが。

 

 

「灯影姿に見惚れたか?」

 

 

勝利ゼリフも鮮やかに、クローンチームは三回戦進出を決定。

一方、第一リングの『女性格闘家チーム』と『リベールギャルズ』の試合は何方も退かない互角の戦いになっていた。

先鋒として登場したブルー・マリーとグリフィンは、二人とも女性としてはパワーファイターの部類で、打撃や関節技の他に豪快な投げ技も得意としていた――修めている格闘技は違えど、ある意味でミラーマッチと言えるこの試合は、大技の応酬となった。

マリーがグリフィンのフックをダッキングで躱してバックドロップを見舞えば、グリフィンも負けじとダウン状態からマリーに飛びつきフランケンシュタイナーで投げ、追撃のフラッシュエルボー!からのグリフィンリフトでぶん投げる!

其処にグリフィンは更なる追撃をしようとするが、其処はマリーが鋭いスライディングキック『ストレートスライサー』でカウンターし、其処から変形の膝十字固め『クラブクラッチ』を極めてグリフィンの右膝に『亜脱臼』のダメージエミュレートが入る。

右膝が亜脱臼したとなればグリフィンの機動力は当然落ちるが、グリフィンはギブアップするどころか益々闘気が燃えたらしく、マリーの変則飛び蹴り上げ『バーチカルアロー』を昇龍拳で迎撃すると……

 

 

「うおりゃあぁぁ!!」

 

 

其処からマリーを上空に放り投げ、落ちて来た所を両肩でキャッチしてバックブリーカー!

更にもう一度放り投げてバックブリーカーを極め、三度放り投げると『グリフィンスパーク!』の掛け声と共にジャンプし、空中でマリーの足を自身の両足で極め、両腕をチキンウィングに極めて其のまま地面に叩き付ける!

そのあまりの破壊力にマリーのLPはゼロになって先ずはリベールギャルズが一勝したのだが、グリフィンは右膝に発生したダメージエミュレートが大技を使った事で『亜脱臼』から『右膝骨折』になってしまい、この状態では戦えないからと次の試合を棄権。

結果としてイーブンとなった第二ラウンドに登場したのはヴィシュヌとキング。互いに古式キックボクシングを修めている基本の格闘技が完全なるミラーマッチだ。

 

 

「宜しくお願いします。」

 

「相手になるわ。」

 

 

古式キックボクシングの最大の魅力は鞭のようにしなる蹴りであり、第二ラウンドは激しくも美しい足技の応酬となった。

ロー、ミドル、ハイ、膝蹴り飛び蹴りスライディングキックと繰り出される足技は何れも華麗かつ強力で、真面に入ったらLPがごっそり削られるのは間違いないが、此の二人の戦いは足技だけでは終わらない。

 

 

「ベノムストライク!」

 

「波動拳!」

 

 

ヴィシュヌもグリフィンも気を高める術を身に付けており、互いに気弾攻撃も使う事が出来るのだ。

 

 

「まだ若いのにやるじゃない?こんなに楽しい戦いはリョウと戦った時以来だわ。」

 

「キングさんも強いですね……でも、此の試合は勝たせて頂きますよ?」

 

「其れはこっちのセリフよ……なら、此処でお互いに最高の技をぶつけ合うってのは如何?」

 

「……良いですね。その提案、乗らせて頂きます。」

 

 

互いに相手の力を認め合った上で『己の最高の技をぶつけ合う』事にし、ヴィシュヌもキングも気を高めて行く……そして気が最大まで高まったところで地を蹴り、互いに凄まじい乱舞攻撃を繰り出す!

ヴィシュヌが繰り出した『烈風雷神掌』とキングが繰り出した『イリュージョンダンス』は見事なまでの打撃の応酬となり、フィニッシュの昇竜拳とトルネードキックが相討ちになって両者目出度くLPが付きてのダブルKOの壮絶な幕切れに……なったのだが、此の応酬の衝撃でキングの服が壊れ、上半身は下着を晒すと言う何ともセクシーな姿となっていた。

 

此れにて決着は第三ラウンドの更識刀奈vs不知火舞に託される事になったのだが、リング上は少しばかり奇妙な事になっていた――と言うのも、リング上には二人の刀奈が存在していたからだ。

 

 

「ふふ、掛かってらっしゃい!」

 

「派手な登場ね。」

 

 

勿論刀奈が分裂した訳ではなく、片方は舞の変装であり、舞は刀奈の変装を解いて構えを取ると、刀奈も扇子に『変装上手』と出した後に扇子をグリフィンに投げ渡して構えを取る。

試合開始と同時に先ずは互いに軽く打ち合ってから間合いを離し、暫し膠着状態に。

 

 

「何を休んでいるのかしら?行くわよ!」

 

 

その膠着状態は刀奈が破り、流れるような動きで攻撃して行くが、舞は其れを華麗に躱して行く。

 

 

「此の程度なら……えい!龍演舞!」

 

「く……波動拳!」

 

「ムササビの舞!」

 

「昇龍拳!」

 

 

更に激しい攻防が行われ、互いにLPを削る展開に。

 

 

「花蝶扇!」

 

「此の程度……!」

 

「必殺忍び蜂!はぁぁぁ……一つ!二つ!三つ!」

 

 

此処で舞は扇を飛ばす花蝶扇から前転からの肘打ちの必殺忍び蜂に繋ぎ、三連続の花蝶扇『水取りの舞』を炸裂させて刀奈のLPを大きく削る。

 

 

「おいたが過ぎた様ね?」

 

「あらあら、マダマダイタズラは終わってないわよ?」

 

 

其処から今度は刀奈が猛攻を行い、『激流竜巻旋風脚』を叩き込んで舞のLPを大きく削る――そして其処からはまたしても互いにLPを削り合うような試合展開となり、気が付けば何方もLPは残り三桁と言う状況に。

 

 

「ハァァァァァァァ!!」

 

「てやぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

此処で刀奈と舞は互いに気を高める……己の最大の一撃を放つ心算なのだろう。

 

 

「はぁぁぁ……不知火流究極奥義!超必殺忍び蜂!!」

 

「蒼龍……波動拳!!」

 

 

最大まで気を高めると、舞は全身に炎を纏って必殺忍び蜂を放ち、刀奈は極大の気功波を放つ!

かち合った二つの技は最初は拮抗していたモノの、徐々に刀奈の気功波が舞を押し返して行った――舞の技が炎であるのに対し刀奈の技は水……相性の上では刀奈の方が圧倒的に有利だったのだ。

 

 

「これで……決まりよぉぉぉぉ!!」

 

「く……きゃぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

最後は相性で有利な刀奈が舞を押し切ってKO!

 

 

「今回は、私の勝ちね♪」

 

 

実に華のある女性格闘家チームとリベールギャルズの試合は、大将戦の最後の最後で相性の差が出てリベールギャルズの勝利となった――そして其の華麗な試合にアリーナは一気に過熱し、大会を大いに盛り上げてくれる事になった。

そして二回戦は第三試合に移ったのだが、この第三試合は二回戦最大の見せ場と言っても過言ではないだろう。

第一リングでは今日のライバルである庵が率いる『八神チーム』と、テリーの弟子であるロックを要する『餓狼MOWチーム』がぶつかり、第二リングでは実力者揃いの『カルバートファイターズ』と親衛隊の若手で構成された『リベリオンチーム』がぶつかるのだから、その注目度はハンパなモノではないだろう。

 

KOFチーム戦の二回戦はマダマダ目が離せない様である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter55『凶暴なる試合と真っ向勝負の試合』

八神庵は再危険人物に登録すべきだろうか?Byなのは      其れは……少し判断に迷いますね?其の力は有事の際には頼りになるだけにByクローゼ    俺の平穏の為に登録してくれ~~By京


熱闘が続いているKOFのチーム戦の第二回戦も後半戦に入り、その後半戦の最初を飾るのは第一リングの『八神チームvs餓狼MOWチーム』と、第二リングの『カルバートファイターズvsリベリオンチーム』の試合だ。

八神チームは優勝候補の筆頭である『ロレントチーム』のリーダー格である京とライバル関係にある庵がチームを率いているから注目されているのだが、餓狼MOWチームも世界を股に掛ける義海賊団『リーリンナイツ』の首領であるB・ジェニーが、嘗て裏社会でその名を馳せた覇者であるギース・ハワードの息子であるロック・ハワードと、遥か遠くの大陸で特殊部隊の隊員員として名を挙げたケビン・ライアンを引き連れての参戦であるから注目度は高く、第二試合の方も、カルバートファイターズは共和国の格闘王であるケン・マスターズが、無冠の覇者たるジン・ヴァセックとケンの親友にして終生の好敵手である『永遠の挑戦者』のリュウがチームを組み、其れに対するは現リベール女王のなのはの私設組織であった『リベリオン』の一員であり、現在は親衛隊の一員である織斑マドカ、レオナ・ハイデルン、織斑一夏の『リベリオンチーム』なので盛り上がるなと言うのが無理な話だろう。

 

 

「……ふむ、成程。」

 

「兄さん、如何かした?」

 

「なのはから通信が入ったんだ。

 八神チームとカルバートファイターズの両方が勝利した場合は二回戦終了後に三回戦の組み合わせを、ロレントチーム、八神チーム、カルバートファイターズが当たらないようにシャッフルしてくれとの事だ。」

 

「シャッフルって、何でよ?」

 

「京と庵はライバルであり、観客も此の二人の試合は見たいだろうが、現行の組み合わせで八神チームとカルバートファイターズの双方が勝った場合、三回戦で其の二チームがぶつかる事になり、何方かが準決勝前に姿を消す事になる。

 カルバートファイターズも、共和国の格闘王のケンが居る事を考えると三回戦で姿を消すと言うのは些か寂しい――大会が盛り上がる事を考えると、この二チームは準決勝まで残った上で、そして双方がロレントチームと戦うと言う展開になった方が良いんだろうな。」

 

「王様自ら対戦の組み合わせのシャッフルを命じるって如何なのよ……まぁ、言わんとしてる事は分からないでもないけどさ?で、如何するの兄さん?」

 

「大会は盛り上がった方が良いだろうし、俺も京と庵の試合は見たい……そして其れ以上に京とカルバートファイターズのリュウの試合も見たいからな。尤も、其れは両チームが勝った場合だけれどな。」

 

 

そんな中、遊星になのはからの通信が入り、『八神チームとカルバートファイターズの両方が勝ったら三回戦の組み合わせをシャッフルして欲しい』と言う依頼だったのだが、此れは大会をより盛り上げる為の措置と判断した遊星はこの依頼を受ける事を決めた。

遊星ならば遠隔操作で対戦の組み合わせをシャッフルする事位は朝飯前なのだ。

 

 

「あの赤い髪の人、なんだかとっても怖い感じがする。本当に人間?」

 

「あの赤毛……しょっちゅう家電ぶっ壊しちゃ兄さんに修理依頼して……お得意様ではあるんだけど、アイツの所に修理に行くと決まって兄さんご飯御馳走になってくんのよねぇ――あのタヌキ娘のお手製の。

 まさかと思うけど、兄さんとタヌキ娘を会わせるために家電ぶっ壊してんじゃないでしょうねあの赤毛……」

 

「レーシャ、顔が怖いよ?ほら、もっと笑って♪」

 

 

その隣では、レーシャとエレナがちょっと賑やかだった。

個人戦の準々決勝で戦ってから友達になったレーシャとエレナだが、エレナが割と積極的なタイプだった事でスッカリ仲良くなった様である――拳を交えて花咲く友情と言うのは武闘家にとって尤も尊い友情であるのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter55

『凶暴なる試合と真っ向勝負の試合』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二回戦第三試合、第一リングにはレンとジェニーが、第二リングにはジンとマドカが先鋒として上がり、試合開始の時を待っていた。……美少女三人の中に無骨なジンと言うのが何とも目立つ事この上ないが、此れはまぁ仕方ないだろう。

 

 

「ジン・ヴァセック……マドカと並ぶとその大きさが際立つと言うモノだが、一体ドレだけ大きいんだ?マドカの倍とまでは行かずとも、最低でも1.3~4倍はあるんじゃないか?」

 

「確実に2mは越えていると思います。」

 

「其れだけの巨体でありながら動きは重くないと来ているから相当な使い手なのは間違いないな……此れほどの武闘家を前にして戦う事が出来ないとは生殺しも良いところだぞ本気で。

 ベルカに帰ったら皇国軍の一個師団相手に模擬戦だな……」

 

「……シャマル先生に連絡を入れておいた方が良さそうですね。」

 

 

貴賓席の方では相も変わらずクラウスの血が騒いでいるようだが、取り敢えず乱入するのは止めてベルカに帰ったら軍の一個師団相手に模擬戦を行う事にしたみたいである……クラウスの相手をさせられる一個師団の兵には一抹の同情を禁じ得ないが。

 

 

『さぁ、二回戦も後半の第三試合!

 第一リングはレン・ブライトとB・ジェニー!第二リングはジン・ヴァセックと織斑マドカが先鋒として上がっている~~~!!

 可憐なる死神と義海賊団の首領の麗しき対戦は期待出来そうだが、共和国で『無冠の王者』と言われているジンと、史上最年少で王室親衛隊の隊員を務めているマドカの対戦も目が離せないモノになりそうだ~~!!

 其れじゃあ行くぞ~~!二回戦第三試合!第一リング、レン・ブライトvsB・ジェニー!第二リング、ジン・ヴァセックvs織斑マドカ!バトル、アクセラレーショーン!!』

 

 

「ふふ、レンがその魂を狩ってあげるわ。」

 

「あら~ん、私の魂は安くないわよ~ん?」

 

 

「さて、全力でやるとするか!」

 

「……私は勝つ。」

 

 

そんなこんなで二回戦第三試合が始まった。

先ずは第一リングの方から試合を見て行くとしよう。

 

レンが木製のデス・サイズを使った攻撃を繰り出すのに対し、ジェニーはドレスの裾を使った攻撃や地を這う竜巻と言った飛び道具を駆使して戦い、互いに決定打を許さない削り合いの展開に持ち込まれた。

ジェニーの横蹴りをレンがガードし、レンのデス・サイズでの足払いをジェニーがジャンプで避け、カウンターで繰り出された後回し蹴りをレンがスウェーバックで避け、背後から斬りかかるがジェニーは其れを見事に白羽取り!

この一連の見事な攻防には観客からも割れんばかりの拍手が送られた。

 

 

「ふふ、軽い感じがしたけれどやるわねお姉さん?レンと互角に戦ったのはお姉さんで五人目ね。」

 

「ふふ~~ん?それじゃあ他の四人を教えてくれるかしらん?」

 

「エステルとヨシュアとシェラザードとアガットね。」

 

「あらん?草薙京は入ってないの?」

 

「京とアインスとレーヴェとパパはレンの事を圧倒したから♪」

 

「あ~~……納得したわ。」

 

 

略互角の戦いをしていたレンとジェニーだったが、何度目かの攻防の果てにレンがデス・サイズをブーメランの様に投げ、ジェニーは其れをジャンプで躱したのだが、躱した先にレンが先回りし、両手を組んだハンマーパンチを繰り出してジェニーをロープに叩き付け、ロープの反動でバウンドして来たジェニーをその勢いを利用して場外に放り投げてターンエンド。

 

 

「うふふ、レンの勝ちね♪」

 

「むっきー!何だかこの負け方はとっても納得いかないわ~ん!!」

 

「負けは負けって事で納得しときなお嬢さん……な~に、俺がすぐにリカバリーしてやるさ。」

 

 

第一ラウンドはレンが制し、餓狼MOWチームは二番手のケビン・ライアンが登場。

鍛え上げられたその肉体は正に筋骨隆々其の物で、パワーだけならばシェンに勝るとも劣らないだろう――加えて特殊部隊の隊員として数多くの修羅場を潜り抜けて来た其の実力は確かなモノであるのだ。

 

 

「お嬢ちゃんだからって手加減出来る相手じゃねぇな……一丁相手になって貰うぜ!」

 

「うふふ、お兄さんみたいなタイプは嫌いじゃないわ。楽しみましょう。」

 

 

第二ラウンドは、今度はレンは先程とは打って変わってヒット&アウェイの戦術を取って来た――決定打にはならないが、しかし確実に相手のLPを削る攻撃を繰り出して行くと言うあからさまな判定勝ち狙いの戦い方だが、其処にはレンが此の試合で『三人抜き』を狙っているからこその戦い方だろう。

ジェニーを場外負けにしたのも三試合を戦う為のスタミナの温存の意味があったからだ――そして第二ラウンドのヒット&アウェイ戦法も実に効果的であり、少しずつだが確実にケビンのLPを削って行った。

 

 

「ふん、下らん戦い方だ。」

 

「そう言うなよ、あのヒット&アウェイ中々のモンだぜ?そんでもって、距離を離す事が出来なった時のディフェンスも大したモンだぜ。」

 

 

その戦法を庵は『下らん』と言ったが、シェンは『見事なモンだ』と賞賛していた――庵としてはレンの実力を知っているが故の評価なのだろうが。

 

 

「ぐ、ちょこまかと……このぉ!!」

 

「隙あり!貰ったわ……エステル直伝、金剛撃!!」

 

 

試合の方はケビンの裏拳を躱したレンがエステル直伝の金剛撃を叩き込んだ所でタイムアップとなり、レンの判定勝ちとなって此れでレンの二人抜きだ。此れは、此のまま三人抜きしてしまう勢いだろう。

 

 

「限界まで、飛ばすぜ。」

 

 

後が無くなった餓狼MOWチームは大将のロックが登場して第三ラウンドが始まった。

ロックはヒット&アウェイを許さんと、レンに常にくっ付いて近接戦を仕掛けたのだが、レンはロックの攻撃を的確にガードし、同時に的確な一撃を入れて少しずつLPを削って行く。

此のまま行けば本当にレンは三人抜きをしてしまうかも知れない……其の期待が高まったのか、客席からは割れんばかりの『レンコール』が沸き起こり、其れと同時にロックの攻めが雑になって来た。割れんばかりのレンコールの中でアウェイの空気を感じてしまったのかもしれない。

 

 

「(攻めが雑になってる……攻め疲れかしら?でも、そうだとしたら此れは好機……もう出し惜しみする必要はないわね!)」

 

 

此れを好機と見たレンは、一転して攻めに出る。

 

 

「小娘が……客の歓声に浮かされたか。」

 

 

其れを見た庵は吐き捨てるようにそう言うと、此れ以上見る価値はないと言わんばかりにリングに背を向ける――そして次の瞬間!

 

 

「待ってたぜ、その鉄壁のガードが開く時をな!」

 

「しまった!」

 

「デッドリィィィ……レェェェェブ!!」

 

 

ガードを開けたレンに、ロックのデッドリーレイブが炸裂!

計九発の拳打と蹴りが叩き込まれた後に強烈な気功波をブチかまされ、此の攻撃でレンのLPはゼロになってしまった……三人抜きを目前にしてこの結果は悔しい事この上ないだろう。

 

 

「彼の攻めが雑になっていたのは私のミスを誘う為だった……観客の声援に浮かれてしまったのねレンは……」

 

「負けて気付いた事は評価してやるが、どんなに下らん戦い方でも其れを最後まで貫く事が出来ん奴に勝利は訪れないと知れ……此処からは俺がやる。」

 

 

レンが負けたの受けて次にリングに上がって来たのは大将格である庵だった。

大将格である庵が次鋒として登場した事に客席は大いにざわついていた。

 

 

「庵が何で二番目に?若しかしてレンの健闘を称えて……其れとも、シェンさんに負担を掛けないようにして、とか?」

 

「冗談言うなよエステル、奴はそんなロマンチストでもヒューマニストでもねぇ。」

 

「そ、そうよね。」

 

「言うなれば八神庵は『冷徹なナルシスト』と言ったところか……此の試合、荒れるぞ。」

 

 

試合を通路から観戦していたロレントチームの面々はこんな事を言っていたが、アインスが言った事はあながち間違いではないだろう――庵は京を殺す事が己の全てであり、其れ以外の事は、其れこそ己の命ですら如何でも良いと思っているのだ。故に、『冷徹なナルシスト』と言うのは、庵を如実に表現した言葉だと言えるだろう。

 

で、試合の方はと言うと、庵はロックが繰り出した攻撃をノーガードで受けていた。――故に、庵は口内を切って口から血が流れ出している。

 

 

「な、何で庵はガードしないんだ?」

 

「プライドの高い庵の事だ、ロックと同じ条件で戦おうと考えて敢えてダメージを受けたんだ!」

 

 

まさかの事態に観客は様々な憶測を飛ばす。

 

 

「ふん……ギャラリー共の言う事など所詮は憶測に過ぎん戯言でしかないが……貴様には分かるだろう、ロック・ハワード?」

 

「あぁ、分かってるぜ八神……」

 

 

だが、その真意はマッタク持って別のモノだ。

庵は敢えて自らダメージを受ける事で、最大の一撃を出せる状況を、最大の一撃を出さざるを得ない状況を作り上げたのだ――ロックも其れが分かったからこそ、気を最大まで高めて其れを迎え打たんとする。

 

 

「遊びは終わりだ!」

 

「レイジング……!ぐ……こんな時に……!」

 

 

庵は八稚女を、ロックはレイジングストームを放とうとするが、ロックはレイジングストームを放つ刹那の瞬間に己の中に流れる暗黒の力が疼き、それが原因となって一瞬打ち遅れ、結果として庵の八稚女がロックに炸裂する!

 

 

「啼け!叫べ!そして……死ねぇぇぇぇ!!」

 

 

そして其れは通常の八稚女とは異なり、最後は相手の胸元を掴んで炎を浴びせて爆発させるのではなく、琴月 陰のように相手を押し倒した上で炎を浴びせて爆発させると言うモノだった――そして其れだけでは終わらず庵はロックを絞首吊りに持ち上げると更に炎を浴びせようとする。

 

 

「それはだめよーん!」

 

 

だが、炎を炸裂させようとしたところでジェニーが乱入して庵を蹴り飛ばして攻撃を強制終了させた。

『既に敗退したチームメンバーによる援護攻撃』は大会規定で反則となっているので、ジェニーの乱入は明確な反則なのだが、庵の最後の絞首吊りの方もその前の攻撃でロックのLPがゼロになっていたため『LPがゼロになった相手への攻撃は禁止』の大会規定に抵触するので、両者反則負けとなり、結果としてシェンが残った八神チームが三回戦へと駒を進めたのだった。

 

 

「クククク……ハハハハ……ハァッハッハッハッハ!!!」

 

 

そして、此の試合は一回戦では形を潜めていた庵の凶暴性が表に出た試合でもあったと言えるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

一方で第二リングの方はと言うと、第一ラウンドはマドカが木製のナイフを使った暗殺術と、稼津斗直伝の体術を持ってしてジンに挑んだが、圧倒的な体格差があるが故にマドカの攻撃はジンには通じず、逆にジンに首根っこを掴まれて宙吊りにされた挙げ句、場外へと下ろされて場外負けに。

そしてリベリオンチームは二番手のレオナが出て来たのだが、今度はレオナがジンを圧倒する試合展開となっていた――ジンは巨体でも動ける武闘家だが、レオナは其れ以上に動ける上に、本気を出したスピードは超神速の域に達しているのだ。

ジンはレオナを捉える事は出来ないが、レオナもジンをKOする事は出来ず、タイムオーバーまで戦った末に、勝利したのはレオナだった……ギリギリで攻め勝ったとは言っても、ジンから勝利を奪ったと言うのは大きいだろう。

 

 

「かかって来な!」

 

「貴方では、勝てない。」

 

 

カルバートファイターズの二人目は共和国の格闘王であるケン・マスターズだ。

使う技は稼津斗が使う技によく似ており、恐らくは嘗て稼津斗の技を見ていた武闘家の一人が其れを独自に『武術』の域にまで昇華させたモノを学んだのだろうが、其れ故にフルタイムを戦った事による疲労があるにも関わらずレオナはケンの攻撃に対処する事が出来ていた。

ケン独自のアレンジがなされているとは言え、其の攻撃はレオナにとっては全て見た事のあるモノであり対処は容易かった……稼津斗の、鬼の技を見て、其の身で体験していると言うのも大きいだろう。

 

 

「やるな……だったらこれは如何だ!」

 

 

此処でケンは連続の回し蹴りを繰り出して来た。

其れ自体は一夏達も使う『疾風迅雷脚』と同じなのでレオナも冷静に対処したのだが、疾風迅雷脚がシメに垂直上昇する竜巻旋風脚を放つのに対し、ケンは竜巻旋風脚ではなく昇龍裂破→神龍拳の連続技に繋いで来たのだ。

見た事のない連続技に虚を突かれたレオナは昇龍裂破で強引にガードを抉じ開けられ、神龍拳を真面に喰らってしまった……九頭龍裂破、ケンが考えたオリジナルの技が見事に決まった訳だ。

LPが大きく削られたレオナは大分追い込まれたが……

 

 

「本当なら使いたくなかったけれど……制御出来る力なら、必要な時には使うべきね。」

 

 

此処で内に眠るオロチの血を覚醒させ、髪と目が赤く染まる。

オロチの力を完全とは言えないがある程度己で制御出来るレオナは、理性を失わずに其の力を引き出す事が出来るようになっており、オロチの力を覚醒させたレオナは元々速かったスピードが更に速くなり、攻撃の動作を見てからではガードが間に合わないレベルのスピードとなるのである。

だが、ケンも天才的な勘でレオナの攻撃を予想しギリギリでガードをする――モノの、レオナのスピードが速すぎるためにカウンターを入れるには至らない。

だがしかし、ジンとの試合をフルタイムで戦ったレオナは既にスタミナを消耗しており、そんな状態でオロチの力を覚醒させて超高速戦闘を行ったらどうなるかは明白であり、途中でスタミナ切れを起こして足が止まってしまった。

そして動きを止めたとなればケンにとっては絶好の好機なので一気に距離を詰めて炎を纏った拳で昇龍拳を叩き込もうとしたのだが……

 

 

「貴方も道連れ。サヨナラ。」

 

「え?何だとぉぉぉぉぉぉ!?」

 

 

昇龍拳が放たれると同時にレオナもジャンプすると、空中でケンの背中に乗って其のまま一気に場外へダイブ!まさかまさかの土壇場でのダブル場外という結果になり決着は大将戦へ!

ケンもまさかこんな事をしてくるとは思わなかったが故に対処が出来なかったのだろう……逆に言えば、其れだけケンはルールがガチガチの試合に慣れ切っていたと言う事なのだろうが。

 

そして試合は大将戦のリュウvs一夏の試合に。

 

 

「良い目をしている……本気で来い!」

 

「あぁ、全力で行くぜ!」

 

 

試合開始と同時に一夏は飛び出すと先ずは飛び後回し蹴りを繰り出す。

リュウは其れを難なくガードするが、一夏は空中で前方宙返りをするとその勢いのまま踵落としを炸裂させる……が、リュウは其れも見事に防いで見せ、一夏の着地に合わせて足払いを放つ。

普通ならば喰らってしまうところだが、一夏は殺意の波動に目覚めた時から使えるようになった阿修羅閃空で間合いを離して其れを回避する。

 

 

「「波動拳!!」」

 

 

間合いが離れたところで互いに波動拳を放つと、其れと同時に一気に距離を詰め、激しい近距離での戦いが展開される……両者とも攻防一体の技の応酬故に互いに決定打を許さない。

リュウと一夏がの試合が始まった直後に、第一リングでは庵の凶暴性が前面に出た試合が終わっており、観客は少し静まり返っていたのだが、此の激しい攻防にアリーナは再び熱狂の渦に包まれていた。

 

 

「若いのにこれほどの実力を備えているとは大したモノだ……将来有望な若者と出会えるとは、大会に参加した価値はあったな。」

 

「嬉しい事言ってくれますね……なら、もっと大会に参加して良かったって思わせてやりますよ!」

 

「来い!」

 

 

そこから更に激しい攻防が繰り広げられ、互いにLPがガリガリと削られて、気が付けばリュウも一夏も残るLPは四分の一ほどとなっていた。

此処で互いに一度間合いを離すと……

 

 

「オォォォォォォォォォォォォォォォ……!」

 

「ぬぅぅぅぅぅぅぅぅん!!」

 

 

一気に気を高めて行く!一夏は『電刃錬気』をも使っているので、次に放たれる一撃は正に必殺の一撃だろう。

 

 

「此れで決めるぜ!電刃波動拳!!」

 

「真空ぅぅぅぅ……波動けぇぇぇぇぇぇぇん!!!」

 

 

放たれた二つの極大の気功波はリングの中央でぶつかり合い、互いに譲らず拮抗状態となる……其の力は凄まじく、気功波の余波だけでアリーナのシールドがビリビリと振るえるレベルだ。

マッタク持って互角の押し合いだったのだが……

 

 

「クソ……押し切れないか……」

 

 

此処で一夏に限界が来た。

最初からフルパワーで放っていた事でリュウよりも先にエネルギー切れを起こしてしまったのだ……リュウは長丁場を予想してエネルギー配分を行って居たのでまだまだ余裕と言ったところだ。

その結果、リュウの真空波動拳が一夏を呑み込んで勝負あり。

 

 

「あ~~……負けちまったかぁ……クソ。」

 

「だが、俺が勝てたのは君よりも俺の方が武に携わった時間が長かった、只それだけの事だ……もしも君が俺と同じだけの時間武に携わっていたのなら、負けていたのは俺の方だっただろう。

 それに、君は此れからマダマダ強くなるだろう……機会があればまた俺と戦ってくれ。」

 

「勿論……もっと修業を積んでいつの日かまた挑ませて貰いますよ……そん時はきっちりリベンジ決めさせて貰いますから。」

 

 

そして試合後は再戦を約束し、勝者であるリュウが一夏の健闘を称えて、本来は勝者に行うモノである『拳を持ち上げる』と言うモノを行い、その瞬間に観客からは割れんばかりの拍手と歓声が沸き起こる。

 

 

「互いの健闘を称える……武とはこう在りたいモノだな。」

 

「えぇ、リュウさんと一夏さんの試合、実に良いモノでした。」

 

 

此の試合はなのはとクローゼにとっても満足行くモノであり、当然ベルカ王も満足していたのだが……『一個師団じゃ足りないかも』ととっても不穏な事を言っていた。

同時に八神チームとカルバートファイターズの両方が勝った事で、遊星は準々決勝の対戦をシャッフルする事になったのだが、まぁ其れは大丈夫だろう。

 

そして、二回戦は遂に最終試合となり――

 

 

「アインス、エステル、準備は良いか?」

 

「モチのロンよ!!」

 

「万事問題ないよ。」

 

「それじゃあ行くぜ!」

 

 

フィールドの第二リングには、優勝候補の筆頭である草薙京、アインス・ブライト、エステル・ブライトの『ロレントチーム』がその姿を現したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter56『二回戦最終試合~オロチを焼き尽くせ~』

炎殺黒龍波は素晴らしい!Byなのは      全力で同意します!Byクローゼ


KOF二回戦も最終試合となり、この最終試合には優勝候補筆頭の『ロレントチーム』が登場すると言う事もあって、アリーナのボルテージは最高潮を限界突破上等のバーニングソウル状態となっており、その熱気にロレントチームの面々も応える。

今日は掌に炎を宿した後に、其れを振り払ってから握りしめ、アインスはこれ見よがしに包帯が巻かれた右腕から闇色のオーラを噴出し、エステルは観客の歓声に笑顔で応えて手を振っている……三者三様の対応が、これまた観客には大受けなのだ――ロレントチームが大歓声を受けている事で、二回戦の最終試合を行う他の三チームが若干空気になってしまったのも仕方ない事だろう。

其れほどまでに、草薙京、アインス・ブライト、エステル・ブライトのネームバリューはリベールに於いては絶大なモノだと言う事なのだから。――一応、ロレントチームと対戦するスポーツマンチームも注目はされているのだが、此方は一回戦での残酷な試合の印象が強く、悪役として注目されている感じだ。

 

 

「いやはや、矢張り凄い人気だが……ロレントチームの相手であるスポーツマンチーム、如何やら闇の力を隠す気はもうないようだな?」

 

「其のようですね……今の彼等からはハッキリと闇の力を感じます……!」

 

「しかもあの感じ、オロチの力か?だが、もしそうだとしたら一体何処でどうやってオロチの力を手に入れたのか……いや、そもそもオロチの力を其の身に宿して無事でいられるのか……魔王であるルガールですら、初めてオロチの力を手に入れた時は身体が耐えられずに消滅してしまったと言うのに。

 只の人間だったら、消滅どころでは済まんはずなのだがな?」

 

「魔王ですら凌駕する程の闇の力、ですか。……そして、消滅した筈なのに『趣味だから』で復活出来る上に復活する度に強くなるルガールさんは相当にチートだと思うのは私だけでしょうか?」

 

「強くなるだけではなく新たな技も修得して来るからなぁ……最初に復活した時は『ギガンテックプレッシャー』を、二度目に復活した時は『グラヴィティ・スマッシュ』、『バニシングフラット』、『ルガール・エクスキュージョン』、『デッド・エンド・スクリーマー』、『デストラクション・オメガ』を修得し、地味に代名詞技の『ジェノサイド・カッター』も強化されていたからな。

 そして、殺意の波動を身に宿した今は新たにルガール版の阿修羅閃空である『ゴッド・レーン』とルガール版瞬獄殺の『ラスト・ジャッジメント』、完全新技として『ジェノサイド・ヘヴン』、『ゴッド・エンド』を修得したらしいからな……正直アイツは私でも良く分からん。」

 

「復活する度に強くなる魔王か……機会があれば是非とも手合わせしてみたいモノだな。」

 

「魔王を国内に招待する位ならば、まぁそれほど問題はないかもしれませんね。」

 

 

スポーツマンチームの三人は一回戦の時とは明らかに様子が変わり、身体から闇色のオーラが溢れているだけでなく、サングラスで目元が隠れいるヘヴィ・D!以外の二人の目の色は反転し、明らかに正気でないのは明らかだ。

 

 

「オロチの力をどうやって宿し、何故無事なのかは兎も角として、二回戦は相手が悪かったと言うべきかも知れんな?……嘗てオロチを封じた一族の末裔である、草薙京にオロチの力が通じるとは思えんし、エステル・ブライトとアインス・ブライトも相当な実力の持ち主だから、借り物の力では勝てんだろうさ。」

 

「えぇ、ロレントチームはきっと勝ってくれる筈です。」

 

 

だが、なのはもクローゼもロレントチームが負けるとは微塵も思っていなかった。

ロレントチームの三人の実力は折り紙付きであり、先のライトロードとの戦いでもロレント方面では此の三人が大いに活躍してくれたと言う話はなのは達にも届いていたのだから当然と言えば当然だろう。

 

 

『さぁ、KOFチーム戦もいよいよ最後の試合だ~~~!!

 第一リングは草薙京の父親の草薙柴舟、草薙京の一番弟子の矢吹慎吾、ケン・マスターズの一番弟子のショーンがチームを組んだ『SSSチーム』と、空手マンチームがぶつかり、第二リングでは優勝候補筆頭の、草薙京、アインス・ブライト、エステル・ブライトの『ロレントチーム』と、一回戦で相手を挽肉にしてしまいそうな残酷試合を展開した『スポーツマンチーム』が激突だ~~!!

 何方も瞬き厳禁の超バトル!それじゃあ行くぞ~~!!二回戦最終試合Round1、第一リング『草薙柴舟vsまこと』、第二リング『エステル・ブライトvsブライアン・バトラー』!デュエル、スタートォォォォ!!』

 

 

此処でMCによる試合開始が宣言され、二回戦の最終試合が始まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter56

『二回戦最終試合~オロチを焼き尽くせ~』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第一リングの方は、先ずは柴舟が若干十五歳のまことを老獪な戦い方で翻弄し、まことの渾身の一撃をいなした所にカウンターの大蛇薙を叩き込んでKOしたのだが、続く第二ラウンドで相手の攻撃を回避した途端に腰に『ぎっくり腰』のダメージ・エミュレートが発生し、其のまま戦闘不能になって離脱……マダマダ現役とは言っても、歳には中々勝てないようだ。

だが柴舟が離脱しても二番手のショーンが師匠ケン張りの変則的な攻撃で相手を退け、三人目ともガンガン遣り合った末にギリギリで打ち負けてKOされたモノの、三人目の真吾が京から教わった技だけでなく自分で独自に編み出した『真吾謹製・俺無式』、『真吾謹製俺式・神塵』等を駆使して見事にKO勝ちを収め、三回戦への切符を手にしてた。

 

そして同じ頃、第二リングでは……

 

 

「此れでも喰らえ!!」

 

「…………」

 

 

エステルとブライアンが激しバトルを展開してた。

ブライアンはフットボールの選手であり、フットボール仕込みの強烈なタックルと、プロレス技が強烈な選手であり、2m以上の身長と150㎏以上の体重がある巨体にしては動けるのだが、A級遊撃士として此れまでに様々な事件を解決して来たエステルからしたらそれ程脅威である相手では無く、ブライアンの攻撃を悉く躱してはカウンターを叩き込んでいるのだが、その的確なカウンターを喰らってもブライアンはマッタク持って小動もしていなかった。

まるで、マッタク痛みを感じていないが如くだ。

 

 

「この……だったらこれは如何よ!竜巻旋風輪!!」

 

 

マッタク持ってダメージを受けていないように見えるブライアンに対し、エステルは棒術具の先に風属性の魔法を付与した『竜巻旋風輪』を繰り出し、その一撃はブライアンの顔面に決まり、首が曲がってはいけない方向に曲がっていた。

 

 

「やば……流石にやり過ぎたかしら?……えっと、大丈夫お兄さん?」

 

「…………」

 

 

これには流石にエステルも『ヤバい』と思って、ブライアンの事を案じたのだが、ブライアンはあろう事かその首を強引に正常な位置に戻して来たのだ……首の骨は折れて居なくとも明後日の方向を向く位にずれてしまった首の骨を強引に元に戻して平気でいられると言うのは如何考えても普通ではないだろう。完全にずれてしまった骨の矯正をする場合は大の大人でも悲鳴を発する位の激痛が走るモノなのだから。

 

 

「嘘でしょぉ……こうなったら、此れを使わせて貰うわ!」

 

 

この異常事態に、エステルは試合を終わらせるべく棒術具の先に氷と炎の魔力を宿らせる――本来相克属性の炎と氷だが、全く同じ強さで重なったその時には途轍もない破壊力を生み出すので、この選択は悪くないだろう。

ブライアンは其の身をロープに振ってロープの反動を利用したタックルを繰り出し、エステルも其れにカウンター気味に『爆裂金剛撃』を繰り出す!……其の攻撃はかち合い、暫し拮抗状態となったが、拮抗状態で飽和状態となったエネルギーが炸裂したと同時に弾かれたのはエステルの方だった。

炸裂したエネルギーは相当なモノであり、ともすればダブルKOになってもオカシクは無かったのだが、今回はダブルKOとはならず、炸裂したエネルギーが体重の軽いエステルの方を弾き飛ばし、そして場外に落としてしまったのだ。

此れにより、エステルはまさかの場外負けと言う結果になってしまった。

 

 

「あ~~!まさかの場外負けですってぇ!?……って言うか、アイツ等おかしいわよ!」

 

「其れは分かっている……お前の仇は、私が取って来るさ。」

 

 

まさかの場外負けになってしまったエステルだが、逆に言えばエステルの猛攻を喰らって尚平気だったブライアンの方が普通でない訳で、そんなブライアンに対し、ロレントチームはアインスが二番手として登場した。

 

 

「痛覚を感じていないと言うのは厄介だが……其れは言うなればジャンキーと同じか。ならば神経系を狙って落とすしかないか。」

 

 

第2ラウンドが始まったと同時に、アインスは自ら体をロープに振ってその反動を利用して跳躍すると、反対側のロープを蹴って更なる反動を付けた上で、ブライアンに渾身の延髄切りを叩き込み、其処から流れるような動きで飛びつきDDTで脳天をフィールドに突き刺すと、其のまま両足でブライアンの胴をロックしての『ギロチンチョーク』で頸動脈を絞め揚げて一気に落とす。

如何にオロチの力を其の身に宿そうとも、頸動脈を絞められて酸素の供給が無くなったとなれば其れまでであり、ブライアンの身体は糸の切れたマリオネットの様に崩れ落ち、アインスの勝利。

スポーツマンチームの二番手はバスケットボールと空手を融合させた独自の格闘スタイルを確立した『ラッキー・グローバー』だ。

ボールを使った攻撃と、空手を融合させた攻撃はトリッキーであり、ラッキー自身もバスケットボールの選手と言うだけあって、スピードも中々のモノだったのだが、アインスには大した相手でなく、全ての攻撃を見切った上で鋭いロ―キックが叩き込まれ、『右脛骨折』のダメージエミュレートが発生。

普通ならば、此れでもう歩く事は出来ない筈なのだが、ラッキーは余裕綽々で笑みを浮かべると、ダメージエミュレートが発生した右足で何度もフィールドを踏みつけて見せた。

 

 

「うげ……アイツ、痛覚無いの?」

 

「或は、可成りヤバめの薬をキメているのでしょうか……?」

 

「それは、分からないけど……ダメージエミュレートが発生しても顔色一つ変えないって言うのは只事ではないでしょうね。」

 

 

観客席で此の試合を観戦していた『リベールギャルズ』の面々もスポーツマンチームのメンバーが普通でない事を感じていた……『骨折』のダメージエミュレートが発生しているにも拘らず、平然と動く事が出来るなど、大凡普通の人間では出来ない事なのだ。

 

 

「そんな状態でも動くか……先程の様に意識を刈り取っても良いのだが、エステルに『次の試合で見せる』と約束したのでな……貴様等には過ぎた技かもしれないが、使わせて貰うぞ。」

 

 

此処でアインスは右腕に巻かれた包帯を剥がしそして投げ捨てる。

包帯が解かれたアインスの右腕には黒い龍の文様があり、同時にその右腕からは凄まじいまでの闇の力が溢れ出している……大会前にアインスが修得した技はトンデモナイモノであるのは間違いないだろう。

 

 

「封印が解かれたが最後、貴様はもうお終いだ……制御しようにも、制御するための包帯の巻き方を忘れてしまったのでな……此れが私が会得した最強最大の奥義だ、其の身を以て味わうと良い!

 喰らえ……邪王炎殺……黒龍波ぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

そして放たれたのは、ド派手な一撃だった。

魔界の黒い炎で構成された黒龍がブライアンに襲い掛かり、回避したとしても執拗に追い回し、遂にはブライアンを呑み込む!

 

 

「此れがアインスが会得した奥義……すっごいわねぇ……」

 

「包帯による封印、黒い炎、ドラゴン、邪王炎殺黒龍波と言う技名、全てに於いて完璧だな。」

 

 

其れを真面に喰らったブライアンは一気にLPを削り取られてKO!

第一ラウンドでは先手を取られたが、アインスの二人抜きによってロレントチームが逆王手を掛けた形となった……アインスが三人抜きとは言わずとも、ヘヴィ・Dを倒す事は出来ずともそれなりにダメージを与える事が出来れば、三人目の京はかなり楽になるだろう。

 

だが……

 

 

「スマナイが此処で交代だ京……炎殺黒龍波を使った後は、エネルギー補給のために暫し眠らねばならないんだ……此ればかりは技を極めてもどうにもならん……だから最終ラウンドは、お前に任せる。」

 

「おいアインス……って、寝ちまったか。」

 

「見た目も威力もド派手なだけに消耗も大きい技なのね……」

 

 

炎殺黒龍波を放ったアインスは、その代償として暫し眠りに就く事になり、強制的に京がリングに上がる事になり、スポーツマンチームも大将であるヘヴィ・D!がリングに上がり、いざ大将戦と言った感じだ。

リングに上がったヘヴィ・Dの身体からは闇色のオーラが溢れ出し、そのオーラは八つ首の蛇を形作っているのを見るに、オロチの力を宿しているのはもう確定と言っても良さそうである。。

 

 

「オロチか……何処で其の力を手に入れたかは知らないが、俺の敵じゃねぇな。

 何よりも、オロチと聞いちゃ俺の血が治まらねぇ……焼き尽くしてやるぜ、その呪われた力ごとな!」

 

 

そして第二リングのファイナルラウンド。

試合開始と同時にダッシュからの鋭いストレートを繰り出して来たヘヴィ・D!に対し、京は其れをバックステップで避けた後に、ジャンプから『外式・奈落とし』を叩き込むと、其処から踝へのキックに繋ぎ、アッパーから外式・轟斧 陽から琴月 陽を叩き込んでヘヴィ・D!のLPを大きく減らすが、ヘヴィ・D!はマッタクダメージを受けた様子はなく、ダウン復帰するな否や、ストレート→フック→アッパーカットのコンボを叩き込んで京を吹き飛ばす。

其のまま行けば場外負けなのだが、京はコーナーポストを掴むと其れを支点にして見事な一回転を見せた後にリングイン……場外に身体が付いていなければ場外負けではないのだから、此の復帰は実に見事であると言えるだろう。

 

 

「良いパンチだったな、もう一遍やってみるか?」

 

「…………!」

 

 

場外負けを回避した京は挑発するように言い、其れを聞いたヘヴィ・D!は鋭い踏み込みから体重の乗ったストレートを放つモノの、其れはギリギリで京がサイドロールで回避し、拳はコーナーポストに突き刺さりそれを大きく抉る。

コーナーポストは決して硬い素材ではないが、ショック吸収性能に優れる硬質ウレタンで出来ており、そのショック吸収力をものともせずに抉った拳の威力は相当に高いと言えるだろう。

 

 

「コーナーポスト殴ってどうすんだよ!オラァ!!」

 

 

攻撃を回避した京は逆一本背負い気味に一刹背負い投げを決めると、起き上がったところに闇払いを放ち、其処から毒咬み→罪詠み→罰詠み→鬼焼きと繋ぎ、更に鬼焼きから追撃の奈落落としを叩き込んでヘヴィ・D!のLPを大きく減らす。序にこのコンボでヘヴィ・D!のサングラスは粉々になってしまった。

だが京の猛攻は止まらず、裏拳から荒咬み→九傷→七拾五式・改と繋ぎ……

 

 

「おぉぉぉぉぉぉぉ……喰らいやがれぇぇぇぇ!!」

 

 

〆に大蛇薙を叩き込んでヘヴィ・D!のLPをゼロにする。

此れにより試合は京の勝ちとなったのだが、千八百年前にオロチを倒した技を喰らった事でヘヴィ・D!に植え付けられていたオロチの力も霧散したらしく、起き上がったヘヴィ・D!の眼の色は普通の人間のモノに戻っていた――恐らくはブライアンとラッキーの方もオロチの力が消え去った事だろう。

 

 

「俺の……勝ちだ!」

 

 

此れにて二回戦の試合は全て終了し、最後は優勝候補筆頭のロレントチームが観客を沸かせる試合を見せてくれたと同時に、KOFのチーム戦は初日が終了。

チーム戦は個人戦よりも一試合が長くなるので日程を二日に分けており、初日は一回戦と二回戦を行い、二日目に三回戦と準決勝、決勝戦を行う事になっているのだ――で、二回戦が全て終了した所で遊星が外部操作で対戦表の組み合わせをシャッフルし、その結果明日の三回戦の組み合わせは……

 

 

・三回戦第一試合、第一リング『リベールギャルズ』vs『クローンチーム』。第二リング『極限流チーム』vs『カルバートファイターズ』

・第二試合、第一リング『餓狼伝説チーム』vs『八神チーム』。第二リング『SSSチーム』vs『ロレントチーム』

 

 

と、この様な組み合わせとなった。……遊星はクローンチームと八神チームが当たらないように操作したのは略間違いないだろう。

クローンとは言え京が三人で構成されているチームと八神チームをぶつけたら庵が最悪の場合暴走してしまう可能性は極めて高いのだ……庵が暴走したら大会どころではなくなってしまうので、遊星の判断はとても正しいと言える訳だ。

 

チーム戦の初日が終わった後だが、KOFの参加者はグランセルホテルに無料で宿泊が出来るので選手は基本的に其方に泊まる事に……中にはカルバートファイターズのリュウの様に『こちらの方が落ち着く』との理由でマーケット近くの広場で野宿する者も居たりするのだが。

 

そんな中でロレントチームの面々はと言うと、試合終了後にアインスが目を覚まし、其のままグランセルの居酒屋で簡単な祝勝会を開いていた。

エステルは未成年なのでノンアルだが、それでも其の場の雰囲気は楽しみ、同じく祝勝会を行っていたリベールギャルズのグリフィンと乾杯した後に、二人揃って『極厚ハラミステーキ(150g)』を一口で平らげると言う豪快な荒業を見せて他の客から謎の拍手を浴びていた。

昨日の個人戦終了後に王城で行われた晩餐会でも似たような光景が見受けられたが、其れがエステルとグリフィンなのだろう。飾らずに自分のありのままを曝け出す事が出来る彼女達はだからこそ美しい部分もあるのだから。

 

 

「明日勝てば次はいよいよ彼との戦いになる訳だが……自信の程は如何だ京?」

 

「勿論勝つ心算だ……つか、俺はアイツに負けられねぇ理由がある――俺が八神に負けるって事はイコール俺が八神に殺されるって事でもあるんだが、俺を殺すって目的を果たしちまったらアイツはきっと抜け殻になっちまう。

 アイツの生きる目的を奪っちまったら可哀想だから、俺は負ける事は出来ねぇんだよ。」

 

「成程な。」

 

 

京とアインスもこんな話をしながらスモークサーモンや牡蛎のアヒージョなんかを肴に東方の酒を楽しみ、居酒屋での祝勝会は賑やかながらに楽しく過ぎて行くのだった――尚、同じ頃八神チームの面々はグランセルホテルのレストランで食事を摂っていたのだが、其処で庵がレアのステーキ1kgを完食して他の客を驚かせて居たりした……肉食獣恐るべしである。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

深夜。

スッカリ人気のなくなったグランセルの港に、三つの人影が現れていた。

 

 

「ミカヤさん、本当に此処で取引が行われるのですか?」

 

「あぁ、其れは間違いないよヴィクター。王様の厳しい取り締まりで国内での流通が出来なくなった連中が、新たに国交を結んだリベールで違法薬物の取引をすると言うのは当然の流れだし、その筋から仕入れた情報だから間違いないさ。」

 

「ミカヤさんの情報網ってどないなってんやろか……」

 

 

其れは二回戦で惜しくも敗れてしまった『ベルカチーム』の面々だった。

実はベルカでは、クラウスが王に即位した後、徹底的に国内での違法薬物の取り締まりに乗り出し、其れを裏で捌く事で生計を立てていた売人達は一気に干上がってしまったのだが、そんな彼等が新たな商売先として目を付けたのが、新たに国交を結んだリベールだった。

リベールには元々少数ではあるが所謂マフィア組織は存在しており、デュナン政権時代はそれが幅を利かせていたのだ――なのはが新たなリベールの王となった事でそう言った組織は大分縮小されたとは言え今もまだ存在しており、マフィア組織にとって違法薬物は中々に良い資金源でもあるので、ベルカの売人とリベールのマフィアの利害は一致しているのだ。

 

ベルカの情報屋からその情報を買っていたミカヤは、其れを阻止する目的もあってKOFにヴィクトーリアとジークリンデを誘って参加していたのだ。

 

 

「ミカヤさん、誰か来たで?」

 

「如何やら、大当たりだったみたいだね。」

 

 

張り込む事十分、港には如何にも怪しげな船が停泊して中から黒服の男達が現れると、其処に一台の車が乗り付け、此方も中から黒服の男達が現れる……其れはつまり此処が違法薬物の取引現場となる訳で、同時にこの場でKOFの裏バトルが始まる事を意味していたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter57『渦巻く陰謀と全力のKOF三回戦だぜ!』

オロチ=蛇だとしら、マングースやサーバルを嗾ければ何とかなると思う件についてByなのは      それは、解答に困りますねByクローゼ


KOFチーム戦の初日が終わった深夜のグランセル埠頭に停泊した怪しげな船と、同じく埠頭に現れた一台の車、そして船と車の両方から降りて来た黒服の怪しげな男達……どう見ても堅気ではない彼等の目的は只一つ。

船でやって来たのはベルカの違法薬物の売人で、車で現れたのはリベールのマフィア――正確にはなのはが新たなリベールの王となった事で解散に追い込まれたマフィアの構成員達の寄せ集め集団である半グレ組織のメンバーだ。

薬を売りたい売人と、購入した薬を購入額の数倍で裏で取引する事で資金源を得る半グレ組織にとって、この取引は互いに重要なモノであり絶対に成功させねばならないモノである。

 

 

「今宵は満月……宴を楽しむには良い夜だが、後ろ暗い取引をするのならば新月の日を選ぶべきだったね。」

 

 

だが、得てして悪事と言うのは最終的には成就しないと相場が決まっているモノだ……仮に一時の成功を収める事が出来たとしても、悪事とは必ず何処かで頓挫すると言う事は歴史も証明している事なのである。

そして此処で違法薬物の取引をしようとしていた連中にとっては今夜が年貢の納め時と言う奴なのだろう。

 

彼等の前に現れたのは袴姿のミカヤ。

其の手には刀が握られているが、KOFの試合で使用していた木刀ではなく、正真正銘の真剣であり、満月の光を受けてその刀身を妖しく、そして美しく輝かせている。

この妖しい美しさは刀だけが持つ一種の魔力とも言えるモノで、黒服の男達もその妖しい美しさと、其れを手にしたミカヤのミステリアスながらも危険な匂いのする美貌に、一瞬とは言え目を奪われてしまっていた。

 

 

「って、何モンだ女!……いや、聞くまでもねぇか……俺等の邪魔をしに来やがったな?だが、一人で来たのは間違いだったな!」

 

 

だが、其れも一瞬の事で、男達はミカヤに銃を向け引き金を引こうとするが――

 

 

「一人やなくて三人やで?」

 

「もう少し、広い視野を持つ事をお勧めしますわ。」

 

 

男達の背後からジークリンデ(以後ジーク)とヴィクトーリア(以後ヴィクター)が現れ、ジークは男の一人をスリーパーホールドで秒で落とし、ヴィクターは強烈な雷を叩き込んで男を丸焦げにする……ヴィクターの一撃を喰らった男は見事なウェルダンになってしまったが、まだピクピクト動いているので生きてはいるようだ。

 

まさかの伏兵に驚いた男達はミカヤ、ジーク、ヴィクターに向けて発砲するが、焦って放つ銃では照準が甘いのでターゲットを捉える事は出来ず、仮にターゲットを捉えたとしても、ミカヤは刀を手元で高速回転させる事で銃弾を弾き、ジークは自慢の鉄腕で全て叩き落し、ヴィクターは雷のカーテンで完全シャットダウンしてしまい、銃はマッタク持って効果がなかった。

銃がダメだとなれば、後はこう言った連中に残された武器はナイフや匕首と言った刃物なのだが、ナイフや匕首は刀や槍と比べると圧倒的にリーチ面で不利であり、徒手空拳のジークに対しても、無手の格闘を得意とする武闘家は総じて『対刃物』の技術を会得しているモノなので、一概に有利であるとは言えないのである。

 

銃もダメ、刃物もダメとなったら男達に残された道は只一つ……其れは、この場から逃走すると言うモノだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter57

『渦巻く陰謀と全力のKOF三回戦だぜ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

状況を不利と見た男達は恥も外聞もかなぐり捨てて此の場からの逃走を始めた――最早此の日の取引は失敗に終わったので今この場は逃走し、後日改めて取引を行うのが得策と判断したのだろう。

そして、男達も馬鹿ではなく、五つのグループに分かれて逃走を始めたのだ――この場に現れたのは三人なので、五つに分かれて逃げれば最低でも最低でも二組は無事に逃げ切れると考えたのだ。

此れにはミカヤ達もドレを追うか迷うが、此処で彼女達には嬉しい誤算が待っていた。

 

 

「悪いわね、貴方達を逃がしちゃうとクライアントから大目玉喰らっちゃうのよ。」

 

「此の私から逃げられると思うのかね?」

 

 

五つに分かれて逃走を図った男達の二組の前に『女性格闘家チーム』のブルー・マリーと、どうやっても殺す……事は出来るが、直ぐに復活する魔王のルガールが現れて逃走経路を塞ぐ。

マリーも『コマンド・サンボ』と言う実戦格闘技を使いこなす実力者であり、ルガールに関しては言わずもがななので薬の売人や半グレ共が適う相手では無く、マリーは男の一人をバックドロップで投げた後に、スリーパーホールドを極めた後に其のまま振り回して周囲の男を巻き込んで薙ぎ倒して良き、ルガールは右の義眼からビームを放って男達を即撃滅。

 

 

「全員、その場から動かぬように!」

 

「違法な取引の現場は押さえさせて貰った……現行犯で逮捕する!」

 

 

更に其処にリシャール率いる王国軍情報部が現れ、違法取引をしようとしていた男達を取り囲む――こうなっては最早多勢に無勢であり、男達には大人しく投降すると言う以外の選択肢は残されていなかった。

 

 

「くそぉ……如何してバレたんだ?計画は外に漏れないように慎重に進めていたと言うのに……!」

 

「我々情報部の諜報能力と情報網を甘く見ないで頂こうか?

 君達がKOFが開催される時を狙って違法な物品の取引を此処で行うと言う事などKOFが開催される前から把握していた――故に、確実に現場を押さえる為の保険として凄腕のフリーエージェントのマリー君に依頼をしていたのだ。

 ……まぁ、ベルカチームの彼女達とルガール殿が参戦してくれたのは我々にとっては嬉しい誤算だったがね。」

 

「って事は、女王も此の事は……」

 

「いや、陛下は今回の事はご存じない。

 陛下が政に集中出来るよう、この様な裏の事態に関しては秘密裏に処理するのもまた我等王国軍の責務……まだ年若い王に、要らぬ負担を掛ける事は可能な限り避けたいのでね。」

 

 

男達は即時捕縛され、その後は情報部によって密輸船の内部操作が行われたのだが……

 

 

「此れは……薬よのうて石?」

 

「希少な鉱石のようにも見えないが……こんなモノを取引しようとしていたと言うのか彼等は?」

 

 

船の中から見つかったのはベルカで売買が出来なくなってしまった違法薬物ではなく、漆黒の石――黒水晶よりももっと深い漆黒の結晶だった。

 

 

「此れは……成程、此れは確かに麻薬の類とは比べ物にならないモノだね?……まさか、黒晶を取引しようとしていたとは……」

 

「ルガール殿は、此れが何かを知っておられるのか?」

 

「うむ、よく知っているよリシャール君。

 此れは黒晶と言うモノでね、オロチの血が結晶化したモノなのだよ――そして、此れを使えば比較的安全にオロチの力を得る事が出来る……私も、一度消滅した後に、此れを使ってオロチの力をこの身に宿した訳だからね。

 ロレントチームが二回戦で戦ったスポーツマンチームの諸君も、恐らくは此れを使ってオロチの力を得たのだろう――尤も、今回取引されようとしていたのは、天然物ではなく、人工的に合成されたモノであるみたいだが……」

 

 

そしてその正体はルガールが教えてくれた。

この石はオロチの血が結晶化した『黒晶』と言うモノであり、此れを使えば『オロチの血を引かぬ者』であってもオロチの力を其の身に宿す事が可能と言うモノであり、スポーツマンチームのメンバーも、此れを使ってオロチの力を得たのだろうとの事だったが、其れ以上に大きな事は、今回取引されようとしていた黒晶は天然のモノではなく、人工的に合成されたモノだと言う事だろう――それはつまり、人工的に黒晶を作り出し、其れをリベール国内にばら撒こうとした存在が居ると言う事になるのである。

 

 

「……取り敢えず、此の黒晶とやらは全て処分すべきだろう。クリザリッド君、頼めるかね?」

 

「任せておけリシャール大佐……見るが良い、我が力ぁ!!」

 

 

取り敢えず、此の黒晶はクリザリッドがエンド・オブ・ヘヴンで焼き尽くしてターンエンド。……その際に、焼かれた黒晶から髑髏の紋様が浮かび上がったオーラが溢れ出たように見えたが、あまりにも不吉なので其の場に居た誰もが見なかった事にした――ただ一人、情報部の副隊長のクラリッサだけは『中々カッコいい』と言って見入って居たのだが。

とは言え、途轍もない危険物がリベール国内にばら撒かれる事を阻止出来たのは大きいだろう。

 

こうしてKOFの裏試合は終わりを告げたのだが……

 

 

「王国軍情報部、予想以上の優秀さだ……まさか、こうもアッサリと対処されてしまうとはね。」

 

「ククク……自ら情報を流しておいて良く言うモノだ教授――だが、此れでこちらも動き易くなった……仕掛けるのは、決勝戦と言う事で良いかな?」

 

「あぁ、そのタイミングで行こうかドクター?君の働きにも期待しているよ……現在生きている、唯一のオロチ八傑集君。」

 

「テメェ等の都合なんぞ知ったこっちゃねぇが、俺はちゃ~~んと報酬を払ってもらえりゃそれで良い……キヒヒヒ、精々暴れさせて貰うぜぇ?」

 

 

その様子を、『ドクター』と『教授』、そして毛皮のコートを纏った金髪の大男が見ており、何やら良からぬ事を画策しているようだった――彼等の言葉を信じるのであれば、KOFの決勝戦後にはトンデモナイ『何か』が起きるのは間違いないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

昨夜のリベール埠頭での一幕は全く関係なくKOFチーム戦の二日目が始まり、三回戦の第一試合から観客を沸かせる展開となっていた。

第一リングでは第一ラウンドは互いに炎属性であるヴィシュヌと京ー1が真っ向からガリガリと削り合いの様な戦いの末にタイムオーバーのドローとなり、第二ラウンドとなったグリフィンと京-2の試合は、京-2がオリジナルの京に負けず劣らずの猛ラッシュを見せたが、グリフィンはそれに対して『古式柔術』でカウンターを決め、最後はグリフィンの昇龍裂破と京-2の無式がかち合い、その結果互いに場外に吹き飛ばされての両者場外負けに。

そして最終ラウンドは刀奈とKUSNAGIの試合なのだが、此れは圧倒的に相性の差が出た――水の刀奈に炎のKUSANAGIでは圧倒的に不利であり、試合は終始刀奈が有利に進めて行った。

本物の京ならば水を瞬時蒸発させるだけの火力があるのだが、コピーに過ぎないクローンでは真の『草薙の炎』を宿す事は出来ず、その結果として刀奈の『水の波動』で完全に封殺されてしまったと言う訳だ。

 

大将戦は、刀奈の水属性の波動拳が、KUSANAGIの大蛇薙を吹き飛ばしてLPを削り切ってリベールギャルズが準決勝へと駒を進めたのだった。

そして第二リングの方も大将戦にもつれ込んでいた――カルバートファイターズはジンが先鋒で極限流チームはユリが先鋒だったのだが、ジンはユリを全く寄せ付けずにKOし、続く第二ランドは極限流チームの二番手のロバートが露骨なまでの判定勝ちを狙いに行った事でタイムアップの判定勝ちを捥ぎ取り、第三ラウンドであるロバートvsケンの試合は、激しい足技の応酬となり、最後はケンの紅蓮旋風脚とロバートの無影疾風重段脚がぶつかり、その衝撃で両者とも場外に吹き飛ばされて両者リングアウトのドロー。

 

大将戦のリュウvsリョウの試合は、これまた何方も退かない展開となっていた――と言うのも、リュウもリョウも使う技が似通っていたと言うのも要因と言えるだろう。

気弾である波動拳と虎皇拳、ジャンピングアッパーの昇龍拳と虎砲、変則的な飛び蹴りである竜巻旋風脚と飛燕疾風脚、極大気功波の真空波動拳と覇王翔哮拳……細かい所まで上げれば上から拳を振り下ろす鎖骨割りと氷柱割り、使う投げ技は互いに背負い投げと巴投げと、兎に角使う技の性質が似通っている上に、互いに己が使う武術をアレンジせずに使っている正統派ゆえにLPの削り合いとなっている。

 

 

「おぉぉぉぉ……真空、波動拳!!」

 

「はぁぁぁぁ……覇王翔哮拳!!」

 

 

気を高めて放った真空波動拳と覇王翔哮拳も全くの互角で、その衝撃波によってリングのロープが二、三本千切れると言う、正にリング無用の超パワーの展開となり、気付けばLPは何方もオレンジゾーンに突入していた。

 

 

「ふぅ……まさか、アンタほどの格闘家が居たとは世界は広いな……この大会、出場して良かったと心底思うぜ。」

 

「それは俺もだ……ケンからの誘いを受けて良かったと思っている。」

 

「だが、其れもそろそろお終いみたいだな?――だから、此処はお互い鍛え上げた『一撃必殺』で勝負しないか?アンタにもあるんだろう、とっておきの一発が?」

 

「あぁ……そうするとしよう。俺の拳を試すか!」

 

「押忍!」

 

 

此処で二人は互いの拳が届く間合いまで近付くと拳を構えたのだが、奇しくもその構えは略同じで、両者とも大きくスタンスを取り、右の拳を腰の辺りで構え、その拳に全ての力を集中させている。

やがて集中させた力はリュウの拳に蒼の、リョウの拳に赤の気を纏わせるまでとなり……

 

 

「一撃必殺!!」

 

「此れが俺の拳だ!」

 

 

同時に繰り出された必殺の拳!

それは互いに相手の拳を捉え、ぶつかった拳が激しくスパークし、そのエネルギーによって両者のグローブが千切れ飛んで行く……リュウが辿り着いた『風の拳』とリョウが極めた『天地覇王拳』は、何方も『一撃必殺』と呼ぶに相応しい技であり、何方が勝ってもオカシクナイ真っ向からの己の武をぶつけ合う戦いだ。

其の力比べは更に加速し、完全にグローブが吹き飛んだ後は、今度は両者の道着の上着が千切れ始め、そして臨界に達したエネルギーが遂に限界を迎えて弾けた。

 

 

「はぁ、はぁ……紙一重だったな。」

 

「だが、それが今の俺とアンタの間にある確実な差だったって訳か……」

 

 

その結果、圧し勝ったのはリュウの方だった。

互いに道着の上着は半壊状態となっていたが、リョウのLPが0になったのに対し、リュウのLPは僅かに二ポイントだけ残っていると言う、正にギリギリの勝利と言う結果に会場からは両者の健闘を称える割れんばかりの拍手と歓声が送られた。

 

 

「極限流の師範が負けたとあっては門下生に示しが付かん……此れは、ロバート共に一から修業のやり直しだな。……アンタと戦えた事を、光栄に思うよ。」

 

「あぁ、また何時か俺と戦ってくれ。」

 

 

試合後はガッチリと握手を交わし互いに再選を誓った。

孤高の永遠の挑戦者は、一夏に続いてまた新たな良き好敵手を得たようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

二回戦の第二試合は、第一リングが『餓狼伝説チーム』vs『八神チーム』、第二リングが『SSSチーム』vs『ロレントチーム』なのだが、第二リングは第一試合でリングが破損してしまったため急遽補修が行われる事になり、先ずは第一リングの方が先に試合が始まった。

餓狼伝説チームの先方はジョー・東、八神チームの先方はシェン・ウーだ。

 

 

「うふふ、此の試合はこの大会一番の見物かもしれないわね?」

 

「ふん、戯言を抜かすな小娘……何処に注目すべき点がある?」

 

「あら、大注目の一戦よ庵?だってこの試合は『最強馬鹿決定戦』なんだから♪」

 

「……言われてみれば確かにその通りだな?……何方が最強の馬鹿であるかなど俺にとっては如何でも良い事だが、まぁ精々頑張る事だな馬鹿共。」

 

「「誰が馬鹿だオラァ!!」」

 

 

レンが中々に辛口にな事を言ってくれたが、其れもあながち間違いではないだろう。

シェンもジョーも考えるよりも先に身体が動く脳筋型であり、腕力に頼ってしまう場面の方が多く、『面倒事は殴って解決』を地で行くような奴なのだ……シェンはジョーと比べれば幾分マシかもしれないが、それでも脳筋である事は否めないのである。

 

そんな脳筋同士の試合は、真っ向からの殴り合いとなったのだが、真っ向からの殴り合いとなったら此れはシェンに分があった。

シェンの戦い方は一つの武術を極めたモノではなく、徹底的に実戦で鍛え抜いた我流の喧嘩殺法だけに型は無く、兎に角相手に決定的なダメージを与える事だけを考えているために一撃一撃の重さがハンパなモノではなく、またシェン自身の生まれ持っての打たれ強さもあり、真っ向からの殴り合いで負けた相手は生前の士郎だけと言う折り紙付きの強さなのだ。

ジョーも真っ向からの殴り合いは得意なのだが、『相手の攻撃を受けない事』が前提となっているプロの古式キックボクシングの試合のクセが付いており、ノーガードで攻撃してくるシェンにペースを乱されてガードや回避のタイミングが遅れて攻撃を喰らってしまい、激しい殴り合いの末にLPが尽きてKO敗け。

無論ノーガードで殴り合っていたシェンもLPがオレンジゾーンに突入し、勝者アドバンテージでLPが回復してもイエローゾーンで二番手のアンディ・ボガードとの試合となったのだが、そんな事はお構いなしとばかりにまたしても真っ向からの殴り合いを仕掛けていった。

 

だが、アンディは其れに付き合わずにヒット&アウェイの戦術に出た――のだが、シェンもアンディのカウンターに拳をブチかまして来たのだからアンディからしたら堪ったモノではないだろう。シェンの一撃は、其れこそアンディがちまちまと削った二十回分の攻撃と同じLPをごっそりと持って行くのだから。

 

 

「筋肉達磨とは言わないが……タフにも程があるだろうに……ですが、此れならばどうだ!」

 

 

シェンのアッパーをギリギリで回避したアンディは掌底でシェンの顎を打ち抜く――それは確実に決まり、脳を揺らす一撃なのだが……

 

 

「チビの癖にやるじゃねぇか……気に入ったぜ男前!」

 

「んな!?」

 

 

シェンはふらつきながらもアンディの頭を掴むと、其処に渾身のヘッドバット!

顎を打ち抜かれて脳を揺らされたシェンだが、アンディも脳天に直接響く一撃を喰らった事で、互いにダウン!――LPは残っていたので、其処からダウンカウントが始まり、何方も立つ事が出来ずにテンカウントが入りダブルKO!

 

後が無くなった餓狼伝説チームは大将のテリーが登場し、八神チームは庵が登場した。

 

 

「あら、庵が行くの?」

 

「奴を倒せば俺達の勝ちなのだろう?貴様に任せても良いが、勝てば終わりとなる試合を高みの見物をする趣味はない……貴様は精々準決勝に向けて力を温存しておくが良い。」

 

 

何時もの憎まれ口を叩く庵だったが、その裏には『準決勝で戦う事になるロレントチームとの試合で、レンを万全の状態でエステルと戦わせてやりたい』と言う不器用な優しさがあったりするのだ……妹の恋の成就の為に家電をぶっ壊したりと、優しさが不器用極まりないのだ庵は。

 

で、試合の方はと言うと、此れはテリーが一方的に攻める展開となっていた――より正確に言うのであれば、二回戦同様、庵はテリーの攻撃をマッタクガードせずに受け、時たまカウンター気味の雑な攻撃をすると言う感じだった。

 

 

「ふ、悪くないが此の程度とは……餓狼の牙も錆び付いたモノだな?此の程度では、マダマダ手緩い!」

 

 

そう言った次の瞬間、庵は己の胸をその指で引き裂き、胸からは鮮血が飛び散る――自らダメージエミュレートを貫通するダメージを受けると言うのは正気の沙汰ではないのだが、庵は自滅を選んだのではなく、二回戦同様に自らを追い込む事で最大の一撃を出せる状況に、出さざるを得ない状況に持って行ったのだ。

全ては、その最大の一撃を京との戦いで自在に使えるようにする為に。

 

だが、この庵の常軌を逸した行動にはストリートファイトで百戦錬磨のテリーも思わず怯んでしまい、其れが決定的な隙となってしまった。

 

 

「遊びは終わりだ!」

 

 

その隙を逃さず、庵は八稚女を発動してテリーに斬り裂くような連撃を叩き込んで行く。

 

 

「泣け!叫べ!そして……死ねぇぇぇぇぇ!!」

 

 

だが今回の八稚女は何時もとは違い、最後の一撃は相手を掴んで爆発させるのではなく、相手の胸元を掴んで持ち上げた後に掴んだ胸元を指で切り裂くと言うモノだった……それを喰らったテリーは胸元から鮮血を撒き散らしながらダウンし、同時にLPがゼロになって試合終了。

 

 

「月を見るたび思い出せ。」

 

 

決めゼリフも鮮やかに、八神チームは準決勝へと駒を進めたのだった。

そして、八神チームが勝利した頃に漸くリングの補修が終わり、SSSチームとロレントチームの試合が始まり、SSSチームはショーンが、ロレントチームはエステルが先鋒として登場したのだが、此処はエステルが経験の差と言うモノを見せ付ける試合展開となった。

ショーンはカルバートの格闘王であるケンに師事しており、其の実力は高いのだが如何せん実戦経験に乏しく、史上最年少でA級遊撃士となり実戦経験も豊富で百戦錬磨のエステルの敵ではなく、全ての技に完全に対処された上で――

 

 

「超爆裂金剛撃!!」

 

「どわぁぁぁぁ!?」

 

 

棒術具の先に最上級の炎属性の魔力を二つ宿した金剛撃をブチかまされてターンエンド。

 

 

「よゆーよゆー♪」

 

 

多少の攻撃は喰らったモノの、エステルのLPは余裕のグリーンだったのだが、二番手として真吾が出て来たのを見たエステルは、アッサリと京にバトンタッチしてしまったのだ。

 

 

「エステルさん、如何して……俺は戦う価値もないって言うんですか?」

 

「そうじゃないわよ真吾君……貴方と本気で遣り合っても良いんだけど、アタシとの試合で消耗した状態じゃなくて、万全な状態で師匠と戦いたいでしょ?だから、アタシは此処で交代させて貰うわ。」

 

 

だが其れは、真吾を万全な状態で京と戦わせてやりたいと言うエステルの粋な計らいだった――真吾の実力は決して低くないので、エステルとはそれなりに良い勝負が出来るだろうが、いい勝負が出来るだけに勝ったとしても大きく消耗した状態となり、京との全力勝負は難しいのだ。

 

 

「って訳だから、真吾君と本気で戦ってあげなさいよ京?」

 

「此処までお膳立てされたら本気で相手しないとだよな……まぁ、良い機会だから真吾に草薙の拳の真髄って奴を教えてやるとするか。」

 

 

エステルと入れ替わる形で京がリングインすると、会場は大歓声に包まれた――矢張り優勝候補筆頭である京が登場すると言うのは、会場を沸かせるには充分過ぎる要素であるようである。

 

 

「よう真吾、まさかベストエイトまでコマを進めて来るとは思わなかったが、良くここまで勝ち抜いて来たって褒めてやるぜ――そんでもって、此処まで勝ち抜いて来た褒美として俺が直々に相手になってやる。

 遠慮はいらねぇ、テメェの持てる力の全てを持ってかかって来な。」

 

「草薙さん……はい、俺の今の全力を出し切って行かせて貰います!行きますよ、草薙さん!!」

 

「来い、真吾!!」

 

 

こうして、二回戦第二試合の第二リングの第二ラウンドは『草薙の師弟』のぶつかり合いになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 



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Chapter58『師弟対決とKOFの準決勝である!!』

矢吹真吾……コイツも子安ボイスかByなのは      擬音を口にするのは如何かと……Byクローゼ


KOFチーム戦の三回戦第二試合の第二リングの第二ラウンドに現れたのはSSSチームの矢吹真吾と、ロレントチームの草薙京……第二リングの第二ラウンドは、非公式ながら『草薙の師弟対決』となっていた。

元々真吾は一昨年の武術大会で京が優勝したのを見て、京に憧れて半ば押し掛け弟子となり、京も最初は面白半分で技を教えていたのだが、その中で真吾の秘めた才能に気付き、何時しか実戦形式のスパーリングで技を教えると言うスタイルに変え、本気で真吾を鍛えるようになってた――だからこそ、今回のKOFではチームを組まずに、『自分でチームを組むか、個人戦にエントリーしてベスト8まで勝ち残れ』と言う、少しばかり厳しめの課題を課したのだが、真吾はその課題を見事にクリアしてきたのだ。

 

 

「草薙の師弟対決か……此の試合、百戦錬磨の武の達人であるお前はどう見る覇王?」

 

「そうだな……先ず単純な実力で言えば草薙京の方が圧倒的に上だと思うが、此れまでの試合を見た限りでは矢吹真吾には土壇場での『一発』があるから、一概に何方が勝つとは言えないな。」

 

「弟子が師匠を超えるのか、それとも師匠が弟子に力の差を見せつけるのか、此れは注目の一戦ですね……!」

 

「確かに、この一戦は三回戦最大のカードかも知れません。」

 

 

貴賓席では王達による予想が行われていたのだが、クラウスの予想は可成り的を射ているだろう――地力では京に劣る真吾だが、一瞬の爆発力だけならば京を凌駕する者があるので、その爆発力を発揮出来るか否かが勝負を分けるのは間違いないと言えるのだ。

 

そして、その注目のリングでは……

 

 

「此の試合に俺の全力を注ぎます!行きますよ、草薙さん!!」

 

「来い真吾!お前の修業の成果、俺に見せてみな!」

 

 

最強の師弟対決が幕を揚げていた!

先ずは互いに荒咬みを繰り出し、其れが互角にかち合ってスパークした後に小規模爆発が起こり、其の爆風に僅かに圧されながらも、京はローリングソバットを、真吾は中段回し蹴りを繰り出し、互いの足が交錯する。

 

 

「炎こそないが、技も大分サマになってるじゃねぇか?尤も、そう来なくちゃ面白くねぇけどよ!」

 

「くっ……マダマダ!今の俺はこんなモンじゃありませんよ!」

 

 

此処は京が押し勝った形となったが、真吾も押し切られながらも直ぐに体勢を立て直し、互いに構えた状態で向き合う形に……京の方に幾らかの余裕が見られるのは師匠であるが故だろうが。

そんな状態の中で真吾は一つ深呼吸すると、一足飛びで京との間合いを詰めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter58

『師弟対決とKOFの準決勝である!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

仕切り直しから先に仕掛けた真吾は果敢に攻めて行くが、京は其の攻撃全てを余裕で躱して行く……真吾に技を教えたのは京なので、攻撃の太刀筋など全て把握しているのだろう。ガードもせずに躱し続けると言うのは其れ位の事が出来ていなければ到底不可能な芸当なのだから。

 

 

「何で、如何して全部躱せるんですか草薙さん!」

 

「そりゃ、お前に技教えたの俺だからなぁ?お前の使って来る技は全部知ってるんだぜ?……つっても、攻撃の鋭さとスピードは大会前とは比べ物にならないレベルになってるけどな。」

 

「だったらこれは如何ですか!」

 

 

此処で真吾は肩口から当たるようにジャンピングショルダータックルを繰り出すと、空中で身体を捻って踵を落とす。

ジャンピングショルダータックルは躱した京だが、空中からの踵落としは躱し切れずにガードする事に……真吾の攻撃が初めて京にガードをさせたのだ。

 

 

「今のは、鉈車か?コイツはまだ教えてなかった筈だが……」

 

「はい!お父さんに教わりました!!」

 

「親父が……成程な。」

 

 

真吾が使ったのは草薙流の『百拾式・鉈車』と言う技で、京はまだ教えていなかったのだが、同チームとなった柴舟が真吾に教えていたらしい……となると、真吾は他にも京からまだ教えて貰っていない技を柴舟から習った可能性があると考えるべきだろう。

加えて真吾は、本来ならば炎が必須となる技も、炎が無いなりに独自のアレンジをして使えるようにしてしまうと言う中々に凄い才能が有るので、それらを総合して考えると京も余裕とは行かなくなってくるだろう。

 

 

「なら、今度はこっちの番だ!」

 

 

鉈車をガードした京は、真吾が着地すると足元を八拾八式で刈って態勢を崩すと七拾五式・改で蹴り上げ、追撃としてR.E.D.KicKを叩き込んで真吾をリングに叩き付ける……が、真吾も負けじと琴月で突撃して肘部分をガードさせると其処から強引に肘をカチ上げてガードを抉じ開け、左右の肘打ちからジャンピングアッパーに繋げるオリジナル技『真吾謹製俺式・錵研ぎ』を喰らわせ、更に鬼焼きで追撃する。

 

 

「如何ですか草薙さん、俺のオリジナルの錵研ぎは!」

 

「中々悪くないが、どうせやるなら左右の肘はきっちりと相手の顎を打つようにしろ。そうすりゃもっと技としての完成度も高くなるし、頑丈な相手にも効くようになる。」

 

「押忍!でもマダマダぁ!真吾キーーーーック!!」

 

「それは流石に喰らわねぇよ……おぉりゃあ!!」

 

 

続いて放たれた弧を描くような気道の飛び蹴り『真吾キック』は鬼焼きで迎撃してから奈落落として強制ダウンさせ、其処に追撃の砌穿!双方LPは減っているが、真吾には炎による『火傷』のダメージエミュレートが入る分だけ不利と言えるだろう。

尤も真吾は、不用意な発言をしては、その度に京に燃やされているので燃やされ慣れてはいるのだが、其れは其れ、此れは此れと言う事だろう。

 

ダウンから復帰した真吾に対し、京は右ストレートを繰り出したが、真吾はその右ストレートを肘で打ち下ろすように捌くと、間髪入れずに横蹴りのカウンターをブチかます!

 

 

「名前募集中ーーー!!」

 

「くぅ……今のは良い一撃だったが……んだよ、名前募集中って?」

 

「肘で相手の攻撃を強引に打ち下ろした所にカウンターで横蹴り入れたら結構良い技になるんじゃないかって思って、其処までは考えたんすけど技名が中々思い付かなくて……お父さんにも相談したんすけど、ピンと来るモノが出て来なかったんすよ!」

 

「親父じゃ期待出来ねぇだろうな……ならよ、月の肘って書いて『月肘(げっちゅう)』ってのは如何だ?お前のオリジナルだとしてもなんか草薙流っぽいだろ?」

 

「いいっすねぇ?草薙流じゃないから『俺式・月肘』っすね!」

 

 

そして期せずしてその技の名前が決まったところで再び近距離での攻防が開始されるが、真吾の攻撃は再び京に入らなくなって来た――と言うのも京の動きが先程までとは明らかに違うのだ。

それは京が真吾を一人の格闘家として認めた証でもある――先程までは師匠として対応していたが、此処からは師匠も弟子もない一人の格闘家として真吾と戦うと決めたのである。

同時に其れは、真吾が初めて『本気を出した草薙京』と戦う事でもあり、京の本気を見た真吾は今までスパーリングでドレだけ手加減されていたのかを知る事になっただけでなく、京が自分に対して本気を出してくれた事を嬉しく思っていた。

 

 

「ボディがお留守だぜ!……もうお休みかい?」

 

「ま、マダマダぁ!!ギュイィィィィィィィィィィィン!!!」

 

 

荒咬み→九傷→七瀬の連続技を喰らった真吾はLPを大きく減らしてレッドゾーンに突入するが、その目の闘気はマダマダ衰えず、此処で一気に気を高めて行く……ギリギリの土壇場でドデカイ一発を放つ心算なのだろう。

 

 

「真吾謹製・俺壱百八拾弐式!!コイツで、決まりだぁぁ!!」

 

「おぉぉぉ……喰らいやがれぇ!!」

 

 

真吾が繰り出したのは京の百八拾弐式のフィニッシュ部分を独立させた超大振りのフック、『真吾謹製・俺百八拾弐式』であり、それに対して京は草薙流の奥義である大蛇薙の大盤振る舞いだ。

真吾の予想以上の成長に最大の敬意を払ったと言う事なのだろう――二つの技は完全にぶつかり合い、京の炎が真吾を燃やし、真吾の拳が京に突き刺さる。

暫し、互いに技を放った状態となっていたが……

 

 

「ハハ、ヤッパリ勝てなかったっすね……」

 

 

崩れ落ちたのは真吾の方だった。

大蛇薙を喰らいながらも拳を叩き込みはしたが、大蛇薙を真面に喰らった事でLPがゼロになってしまったのだ。

 

 

「そう簡単に負けてやれるかよ……だが、俺に本気を出させたんだ、お前は充分に強くなったぜ真吾……特に最後の一発、俺に完璧に入れやがったな?

 ったく、大会が終わった後の修業は此れまでよりも厳しく行くぜ?……来年の大会は、俺の方からお前とチームを組みたいと思うレベルになって見せろよ、真吾?」

 

「あはは……頑張ります。」

 

 

ダウンした真吾に肩を貸して立ち上がらせると、京は真吾の右腕を高らかに突き上げさせる……それは勝者が敗者の健闘を称える『敗者のウィナーポーズ』だ。京にとって真吾はそれをするに値する相手になったのだ。

そして、観客席からは真吾の健闘を称える割れんばかりの拍手と歓声が沸き起こっていた。――いや、観客席だけでなく、貴賓席で観戦していたなのは、クローゼ、クラウス、アインハルトも立ち上がって拍手を送っていた。真吾は京だけでなく、グランアリーナに集まった者達にも其の実力を認めさせたのだ。

 

 

「草薙さん……絶対に優勝して下さい……八神さんにも、負けないで下さいね?」

 

「当たり前だ、誰にモノ言ってんだお前?」

 

 

京に対して『優勝して下さい』と言うのは、つまり柴舟にも勝ってくれと言う事であり、其れは自分達のチームに勝てと言う事なのだが、真吾にとって京は最強の存在であって欲しいのでこう言ってしまったのは致し方あるまい――憧れの存在が何時までも最強であって欲しいと願うのは、憧れが側の願いなのだから。

 

真吾はふらつきながらも自分の足でリングの外に出て、SSSチームは大将である柴舟が登場だ。

 

 

「思い上がるなよ京?」

 

「……行くぜ。」

 

「無視かーー!!」

 

 

威厳タップリに決めようとした柴舟をガン無視して京は臨戦態勢に……この親父、完全に息子に舐められているようだ。

まぁ、京が喧嘩をしたら『喧嘩したと言う事実』だけで理由も聞かずに鉄拳制裁をかましてくれた親父を京が尊敬するはずもなく、十五歳の時に柴舟をぶっ倒した事で京は完全に柴舟を越えてしまったのだからこれも致し方あるまい――加えて京は柴舟が会得していない草薙球の究極奥義である『無式』を会得しているのだから尚更だろう。

 

 

「舐めるでないわ、このヒヨッコが!!」

 

「そのヒヨッコに目下三十連敗中の親父はヒヨッコ以下のハナクソだな。」

 

 

試合開始と同時に神繋りを放って来た柴舟に対してカウンターの百八拾弐式をブチかまして大きくLPを減らすと、ロープに飛ばされて跳ね返って来た所をフロントネックに取り、其のままブレーンバスターの要領で持ち上げると両足首をロックして全身をホールドする。

それは、個人戦でレーシャが見せた『キン肉バスター』の体制だ。

 

 

「キン肉バスターか……だが、この技の弱点は既に知れている――ワシに其れが通じると思うのか京?」

 

「只のキン肉バスターじゃ通じないだろうが、何か忘れてねぇか親父?

 KOFのチーム戦では、『試合の権利が残ってるチームメンバーの援護攻撃』と、『試合の権利が残ってるチームメンバーとの合体攻撃』はルール上、一試合に付き三回まで認められてるんだぜ?――つまり、このキン肉バスターにはアインスのサポートが入るって事だ!行くぜぇ!!」

 

 

柴舟をキン肉バスターの体制に取った京は其のままハイジャンプし、其れと同時にリング外で待機していたアインスもジャンプすると、柴舟の両大腿部を膝で極めてホールドし、更に両腕をチキンウィングに極めて柴舟の一切の行動を封じる。

キン肉バスターは首のフックが甘く、両腕の自由が利く事で返し技が多いのだが、こうなってしまえば話は別だ――両腕はチキンウィングに極められている事で使う事が出来ず、首のフックもアインスの重量が加わった事でバッチリと極まって抜け出す事は出来なくなっているのである。

 

 

「此れが俺とアインスの合体技!」

 

「キン肉バスターと、難易度Aのサブミッションである『OLAP』の融合技!」

 

「「一撃必殺NIKU→LAP!!」」

 

「げぽらぁ!?」

 

 

その究極レベルの合体技を喰らった柴舟には、此の一撃で『頸椎損傷』、『両肩骨折』、『両股関節脱臼』、『脊髄損傷』、『両膝骨折』のダメージエミュレートが発生して一発KO!!ロレント最強カップルである京とアインスの合体技はハンパない威力だった様だ。

 

 

「アンタじゃ燃えねぇな。」

 

「未だ、物足りないのだがな……」

 

 

ダブルの勝利ポーズも鮮やかに、ロレントチームが準決勝の最後のイスを獲得し、準決勝の組み合わせは――

 

 

・準決勝第一試合:リベールギャルズvsカルバートファイターズ

・第二試合:八神チームvsロレントチーム

 

 

と、この様になった。

そして、準決勝の前に休憩時間が設けられたのだが、その休憩時間の間にフィールドではコーナーポストとロープの撤去作業が行われ、チーム戦の為に設置されたリングが解体されていた。

準決勝と決勝戦ではリングが無くなった状態で行われ、リングアウト無しの試合となり、道連れリングアウトのドローは狙う事が出来なくなった、時間切れの判定以外ではドローにはなり得ない可成り厳しいモノとなったのである。

 

 

その準決勝の第一試合はリベールギャルズvsカルバートファイターズ。

リベールギャルズの先鋒はグリフィン、カルバートチームの先鋒は此れまでとは異なりジンではなくケンだった――が、ケンが先鋒として登場したのは、ケン自身に焦りがあったからだ。

『カルバートの格闘王』の名はケンにとって誇れるモノだったが、今回のKOFでは一回戦は出番なし、二回戦と三回戦はダブルリングアウトとカルバートファイターズのメンバーの中では唯一白星がなく、カルバートの格闘王の面目は丸潰れの状態だった――特にライバルであり親友でもあるリュウが新たなライバルを此の大会で見い出しているから余計だろう。

ガチガチのルールに縛られた試合に慣れ過ぎたと言うのは格闘家としては言い訳にもならない……略何でもありに近いKOFで、ルールがキッチリ定められた試合の感覚が抜け切っていなかったのは、己がドレだけ格闘家としてぬるま湯に浸かっていたのかを実感するには充分過ぎた。

『せめて決勝戦までに昔の勘を取り戻したい』と考え、ケンは『確実に戦う事が出来る』先鋒を選んだと言う訳だ。

 

 

「かかって来な!」

 

「それじゃ、始めよっか!」

 

 

ケンは手招きした後にサムズダウンし、グリフィンは羽織っていたシャツを破り捨て、空手道着のズボンに黒いタンクトップと言う出で立ちになり、第一ラウンド開始。

先ずは互いに波動拳を放ったのだが、グリフィンの放った波動拳の方が気弾が大きく、ケンの波動拳を呑み込んで飛んで行き、ケンは竜巻旋風脚を繰り出して波動拳を避けながらグリフィンに攻撃する。

それに対しグリフィンも竜巻旋風脚を放ったのだが、通常の竜巻旋風脚が蹴り足を出して『トの字』の状態で回転しながら攻撃するのに対し、グリフィンは独自のアレンジを加えて右の飛び足刀蹴り→空中左後回し蹴り→空中踵落としの連続技に変化させていた。

ケンの竜巻旋風脚も密着状態では膝蹴りを入れるアレンジが加えられているのだが、基本の形は守られている……とは言っても技の完成度は何方も高いので此処は互角の勝負となり互いに着地――した所でケンはグリフィンを首相撲に取り、連続で膝蹴りを喰らわせた後に蹴り飛ばした。

此れまでの試合では見せなかった荒々しい攻め……『何でもあり』のKOFの戦い方をして来たのである。

 

 

「ふぅん、お兄さんこんなラフ攻撃も出来るんだ?何て言うかもっとこう、綺麗に纏まった格闘家だと思ってたからちょっと意外。」

 

「如何にも俺はルールに縛られた試合に慣れ過ぎてたってのを此の大会に参加して実感したぜ……せめて決勝戦までに修業してた頃の勘を取り戻さないとだ――結婚して父親になって、格闘家としてはスッカリ腑抜けちまったみたいだからな。」

 

「そっか……でも、今のお兄さんじゃ私には勝てないと思うよ?……十年前のハーメルの地獄を生き抜いて、鬼に育てられた私にはね。」

 

 

次の瞬間、グリフィンの闘気が一気に膨れ上がった。

一夏とは違い、殺意の波動は宿していないが、其れでも鬼の子供達は全員が『鬼の闘気』を其の身に宿しているのだ……それを解放したグリフィンの周囲にはバチバチと稲妻が走っている。

 

 

「お兄さんは弱くない、寧ろ強いと思うけど、それはあくまでも『格闘技』に於いて……『格闘』其の物になった場合は、お兄さんは技が綺麗過ぎて勝負にならないよ!」

 

「技に頼らず格闘其の物をやれってか……師匠が『ワシは教えん、見たけりゃ見てろ』って言ったのは、手取り足取り教えられた技じゃ本当の格闘じゃ役に立たないからだったからか!」

 

 

其処からはグリフィンが猛ラッシュでケンを攻め立てる展開となった――ケンもカルバートの格闘王の意地でクリーンヒットこそ許さないが、ガードの上からガリガリと削られ、LPも一ポイント単位で削られて行く。

此のままでは押し切られると思ったケンはグリフィンの攻撃をガードすると同時に昇龍拳を放って強引にグリフィンの攻めを中断させ仕切り直しを図る……その昇竜拳は確かにグリフィンを捉えたが、グリフィンは昇竜拳を喰らいながらもケンを強引にサブミッションに取り、其のままナパームストレッチでフィールドに叩き付け、追撃のフラッシュエルボーを喰らわせる。

だが、ケンも負けじとエルボーを落として来た腕を取ると、腕拉ぎ十字固めに極める……完璧に極まった腕拉ぎ十字固めを外すのは難しく、更にグリフィンの右腕に『靱帯損傷』のダメージエミュレートが発生する……折る心算で極めたからこそのダメージエミュレートだろう。ケンは、ルール無用の試合に、対応して来ていた。

 

 

「ぐぬぬ……だけど、ふぬおぉぉぉぉぉ!!」

 

「んな、嘘だろおい!?」

 

 

だが、グリフィンは強引に上体を起こすと、腕を極めているケンごと持ち上げる形で立ち上がり、其処からケンを己の膝に腕ごと叩き落して腕拉ぎ十字固めを解除し、同時に横蹴りを放って吹き飛ばすと、此処で待機していた刀奈がリングインし、合体技の『ダブル真空波動拳』を放ってケンのLPを削り切って、先ずは先勝。

ケンは此の大会初めてのKO負けだったが、其れでも此の試合で大分勘を取り戻す事が出来たのは間違いないので、決勝戦では『カルバートの格闘王』の真の実力を見せてくれる事だろう。

 

続く第二ラウンドはカルバートファイターズはジンが登場したが、グリフィンは右腕の靱帯損傷のダメージエミュレートを理由に棄権し、リベールギャルズはヴィシュヌが登場と相成った。

パワーとタフネスではジンの方が上だが、打撃の種類とスピードに関してはヴィシュヌの方が上なので、総じて戦えば五分となる試合だが、第二ラウンドは正に互角の戦いとなり、互いに決定打を欠いて削り合いの展開となった末にフルタイム戦ってのドローと言う結果に……互いに合体技を使わなかったのは使ってる余裕がない戦いだった事の現れだろう。

そして試合は大将戦の刀奈vsリュウに。

 

 

「一夏が勝てなかった相手に勝てって、ちょ~っと無理ゲーなんだけど、でも全力は出させて貰うわよ?」

 

「あぁ、見せてくれ君の強さを!」

 

 

 

――推奨BGM『StreetFighterⅡ リュウステージ』

 

 

 

試合開始と同時に、刀奈は水の波動で自身の分身を二体作り出し、二体の分身は刀奈本体の動きを僅かに遅れてトレースする仕様となっているので、凄まじい波状攻撃がリュウに襲い掛かったのだが、リュウは其れ等を全て的確に捌き、更にカウンターで上段足刀蹴りを繰り出して刀奈の本体にダメージを与える。

だが、刀奈も負けじと吹き飛ばされながらも分身二体をリュウに密着させると其のまま爆発させる……至近距離での水蒸気爆発ともなれば、其れだけで一撃KOだろうが、リュウは瞬間的に闘気を身に纏う事で爆発の衝撃を相殺しノーダメージだった。

 

 

「今のはイケると思ったんだけど、ダメだったかぁ……」

 

「ふ、掛かって来い!」

 

 

正攻法では勝ち目がないと判断した刀奈は、トコトン搦め手を使って攻めるも、リュウは其れを悉く打ち破り、挙げ句の果てには強烈な気をもってして相手の動きを封じる刀奈の最大の切り札である『沈む床』さえも闘気を爆発させて吹き飛ばして見せたのだ……永遠の挑戦者恐るべしだ。

 

 

「あらあら、此れじゃあクリアパッションやミストルティンの槍も通じそうにないわね……なら、此れは如何かしら?」

 

 

此処で刀奈は波動拳の構えを取る――無論それは只の波動拳ではなく、己の気を最大まで高めて放つ必殺の一撃の波動拳だ。

 

 

「受けて立とう!オォォォォォォ……!!」

 

「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!!」

 

 

互いに極限まで気を高め、刀奈の周囲には高められた水の気によって凍り付いた大気が雪となって現れ、リュウの周囲には高められた気によって帯電した大気が火花放電を行っている……そして!

 

 

「氷龍……波動拳!!」

 

「真空……波動拳!!」

 

 

互いに必殺の波動拳を放ち、極大の気功波がぶつかり合い、激しくスパークする。

だが、それは徐々に刀奈が押され始め、其処で刀奈は限界まで気を解放して押し返そうとするが、リュウも更に気を解放した事で押し返す事は出来ず、押し合いの末に押し切られてしまい、LPがゼロになってKO負けだ……その際に、道着が壊れて上半身が下着姿になってしまったのは致し方あるまい。

 

 

「良い試合だったな。お互いに修業をしてまた戦おう。」

 

「貴方と戦うには、今の十倍の修業をしないとね。」

 

 

試合後、二回戦の一夏戦同様、リュウは刀奈の右腕を揚げてその健闘を称え、観客席からは大きな歓声と拍手が沸き上がる――決して意図した訳ではないのだが、それでも観客を沸かせてしまうリュウは、正に真の格闘家であるのかもしれない。

こうして、決勝戦の椅子の一つはカルバートファイターズが手にし、残る一つの椅子を掛けた第二試合は、八神チームvsロレントチームだ。

 

 

「エステル、アインス、気合の貯蔵は充分か?」

 

「充填率120%よ京!」

 

「炎殺黒龍波を放てるだけの力は回復した……抜かりはない。」

 

「それじゃあ、行くぜ!」

 

 

 

「京は俺が倒すが……其れ以外の奴等は貴様等が適当にやれ――だが、無様な敗北だけは許さんぞ?」

 

「うふふ……レンが無様に負けると思ってるの庵?二回戦の様な油断はもう二度としないわ……エステルと戦うのが楽しみだわ♪」

 

「貴様の事は心配してないが……俺が心配してるのは貴様だ馬鹿。喧嘩に夢中になって、その結果負けたなどと言う事にはなるなよ、脳筋馬鹿。」

 

「誰が馬鹿だこの赤毛野郎が!……テメェ、大会が終わったら取り敢えず殴らせろ!」

 

「だが、断る!」

 

 

八神チームは個性が強過ぎてチームワークは期待出来ないかも知れないが、個々の能力は滅茶苦茶高いのでチームワークは壊滅的でも戦えるだろう――ともあれ、エステルとレン、京と庵……複雑な因縁のある者達の直接対決となるKOF大注目の試合が、遂に始まるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter59『因縁の対決~ロレントチームvs八神チーム~』

八神庵……コイツは矢張り再危険人物に登録すべきかも知れんByなのは      危険度S級って……ドレだけですかByクローゼ


KOFチーム戦の準決勝の第二試合は、此れまでの試合では最も盛り上がるであろう対戦となっていた。

準決勝第二試合を戦うのは、草薙京率いる『ロレントチーム』と、八神庵率いる『八神チーム』の激突なのだ――デュナン時代の武術大会でも京と庵は戦っているのだが、今のところは京が大会では庵に二連勝中だ。

だが、だからと言って庵が京より弱いかと言えば其れは否だ――過去の二戦は何れもチームメンバー全員がフィールドに出て戦う形式の試合だったので、京と庵は純粋なタイマン勝負ではなく、一回目は二階堂紅丸が庵に『エレクトリッガー』を喰らわせている所に、京が大蛇薙、アインスがナイトメア、エステルが金剛撃を喰らわせてKOし、二回目は真吾が捨て身特攻の『外式・駆け鳳麟』で突撃したのを庵が鬼焼きでカウンターした所に、京がカウンターのカウンターとなる百八拾弐式をブチかましてKOしているので、真のタイマン勝負ではどうなるかは未知数であり、だからこそ観客は盛り上がっていた。今回のKOFはチーム戦でも基本はタイマンになるからだ。

 

八神チームは既にフィールドに出て来ているのだが、それから少し遅れる形でロレントチームがフィールドに現れると、アリーナは大歓声に包まれる――ディフェンシングチャンピオンである京、アインス、エステルのチームの人気は凄まじいのである。

その観客の声援に応えるように、京は指先に宿した炎を振り払うようにして消し、アインスは右手に作った魔力球を握り潰し、エステルは棒術具で華麗なバトン回しをして見せて更に観客を湧かせる。

 

 

「いよいよ因縁の戦いか……草薙と八神、果たして勝つのは何方だろうな?」

 

「実力的には略互角と言えますが、其れだけに勝負は時の運と言う事になるのではないでしょうか?マッタク持って予想が出来ませんねこの試合は……貴方は如何見ますか覇王陛下?」

 

「うん、ぶっちゃけ予想出来ない!」

 

「堂々と言わないで下さい兄さん……」

 

 

百戦錬磨のクラウスでも、試合がどう転ぶかは予想出来ないみたいだが、だからこそ期待出来る試合になると言うモノだろう。

 

 

「よう、待たせたな八神?」

 

「ふん、あまりにも出てくるのが遅いのでな、怖くなって逃げだしたかと心配したぞ京?」

 

「大会のエントリーの時にも行ったが、主役ってのは遅れて登場するもんなんだよ――お前等の方が先にフィールドに現れりゃ、観客は俺達の登場を今か今かと待ち侘びる。

 で、其の期待が最大に高まったところで登場してやる事で会場は盛り上がるのさ。こう言う大会には、エンタメ要素も必要だって覚えときな。」

 

「下らん……まぁ良い、今回のルールであれば余計な横槍が入る事もあるまい――貴様とサシで戦えると言う事に関しては、俺としても喜ばしい事だ!八つ裂きにしてやるぞ京!!」

 

「俺の顔みりゃ物騒な事しか言わねぇのなお前……やる気があるのは構わないが、テメェの生き甲斐を奪っちまうのも可哀想だから、今回も俺が勝たせて貰うぜ?」

 

 

そして、フィールド上では京と庵の舌戦が行われ、其れに乗じて闘気も高まっている……準決勝の第二試合も、凄まじい試合になるのは間違い無さそうである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter59

『因縁の対決~ロレントチームvs八神チーム~』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

準決勝の第二試合、先ずはロレントチームはエステルが、八神チームはレンが先鋒として登場し、イキナリ因縁の対決となった。

今でこそ姉妹のエステルとレンだが、元々レンは死神の眷属としてエステルの純粋な魂を狩る目的で近付いたが、その純粋さに心を奪われた挙げ句に暴走してエステルと戦ったと言う過去がある。

結果はギリギリで負け、その後エステルの言葉で『死神の掟に従う事は無い』と自覚した果てにエステルに誘われてブライト家の三女になった経緯があるのだが、レンは暴走状態でエステルと戦ったと言う事が心残りであり、エステルもまた暴走状態でないレンがドレほどなのかを知りたいと思っていた――普段のトレーニングで模擬戦を行う事はあっても、模擬戦はあくまでも模擬戦であり互いにガチの本気は出していない……つまり、此の試合で二人は本当の意味で本気でぶつかる事になるのである。

数奇な巡り合わせの末に姉妹となった二人の美少女の本気の戦いとは、此れもまた因縁の対決と言えるだろう。

 

 

「うふふ、こうしてエステルと戦う事が出来るだなんて、大会に参加して良かったわ――其れこそ、庵を口説き落とした甲斐があったって言うモノね。」

 

「今更だけど、よくアイツを口説き落とせたわねレン?」

 

「其処は京をダシにさせて貰ったわ♪

 『KOFに参加すれば京と戦える』と言ったら即決してくれたわ。意外とチョロかったわね♪」

 

「其れで即決って、アイツドンだけ京に固執してるってのよ……その固執っぷりって、下手したら世の腐女子の良いネタになり兼ねないと思うんだけど……?」

 

「エステル……既になってるわ。王立学園に通ってる子から聞いたんだけど、この前の学園祭で『京×庵』の薄い本を販売してるブースがあったらしいわよ?」

 

「手遅れだった!?」

 

 

試合前に若干のコントが発生してしまったが、しかしエステルもレンも此の試合に掛ける思いは変わらず、互いに手加減なしの本気を出す心算だった――エステルは三回戦のショーン戦はショーンを大怪我させないように加減し、レンは二回戦で判定勝ち狙いの戦いをしていたので、本当の意味で本気では戦っていなかった。

エステルは二回戦では本気だったが、其の時は相手がバグっていたのでノーカンだろう。

 

 

「前回はエステルの純粋過ぎる魂に心を奪われて暴走しちゃったけど、一緒に生活している内に其れにも慣れたからもう暴走はしないわ……行くわよ、エステル?」

 

「私も、お姉さんとして負ける訳にはいかないからね……来なさい、レン!」

 

 

『KOF準決勝第二試合!先ずはブライト家の美少女姉妹の対決だ~~!

 勝つのは天真爛漫な姉か!其れともミステリアスな妹か!エステルvsレン!ラ~ウンド1!Ready……Go!!』

 

 

試合開始の合図と共に互いに飛び出し、棒術具と大鎌がぶつかり合って先ずは激しい鍔迫り合いだ。

其処から暫し膠着状態となったが、力比べでは分が悪いと見たレンは自ら退く事で点をずらしてエステルのバランスを崩し、大鎌でエステルの足元を狩る――が、エステルは其れをジャンプで躱すとレンの背後を取って棒術具を打ち下ろす。

 

しかしレンは其れを大鎌の柄で受け止めて防ぐ……この見事な攻防に観客からは拍手と歓声が送られるが、其れでは終わらずレンは大鎌をカチ上げると逆袈裟に斬り上げ、エステルも棒術具を袈裟斬りに振り下ろして対抗する。

そして繰り広げられる剣劇……互いに長物を使っているが、棒術具も大鎌もバトン運動での円運動による攻撃が出来るので至近距離での打ち合いも普通に出来るのである。

その打ち合いは互いに互角で、双方LPは無傷だったが、此処で先に動いたのはエステルだった。

 

 

「足元がお留守よレン!」

 

「!!」

 

 

ローキックを繰り出してレンの体勢を崩すと、飛びついて両足で頭をホールドし、其処からフランケンシュタイナーで投げ飛ばし、追撃にエルボーを落とす。

此れでレンのLPの方が先に削られたのだが、レンも転んでは只では起きず、追撃のエルボーを喰らいながらもその腕を取ると其のままキーロックに極めてエステルにダメージを与える。

完璧に極まったキーロックから脱出するのは困難なのだが、エステルはキーロックを極められた状態から強引に立ち上がると、腕を極められたままレンを肩に担ぎ上げて、そして其のままデスバレー・ボムをブチかまして強制的にレンを引き剥がす!

 

 

「キーロックを極められたままデスバレー・ボムを使うだなんて、一歩間違ったら腕が折れるわよ?」

 

「毎日牛乳飲んでるし、魚は頭から骨ごとバリバリ食べてるから此の程度で折れるような柔な骨はしてないわよ!多分、アタシの骨は鋼鉄レベルの強度があるんじゃないかしら?」

 

「其れは、ちょっと否定出来ないわ。」

 

 

そして、其処からは互いにLPを削り合うような試合展開となり、互いに手の内を殆ど知っているが故に決定打を与える事が出来ずにフルタイム戦い切ってタイムオーバーとなってしまい、残りLPが同じだったのでタイムオーバーのドローと言う結果に。

 

 

「引き分けか~~……でも、いい試合だったわねレン。」

 

「うん、今回は暴走しないでエステルと思いきり戦えたから、其れだけで満足よ……本気で戦ってくれてありがとう、お姉ちゃん♪」

 

「レン、アンタ其れは反則だわ。」

 

 

試合結果は引き分けだったが、エステルもレンも満足そうだった。

引き分けでも、お互いに全力を尽くしたのだから、試合結果に悔いはないと言う所だろう――試合後に、レンが親愛の情を込めてエステルの頬にキスをした事で、会場は滅茶苦茶盛り上がる事になったのだが。

 

其れはさて置き、第二ラウンドはロレントチームはアインス、八神チームはシェンが登場だ。

 

 

「へ、女だからって手加減しないぜ?」

 

「当然だ。手加減などしてみろ、その魂を冥獄に送ってやる。」

 

 

ブライト家の長女であるアインスの実力はブライト三姉妹の中では最も高く、更には一度見た技は完璧に再現出来る才能が有るので、恋人である京や、京に挑んで来た庵の技も修得しているので技の引き出しは多い強者なのだが、対するシェンも武術の心得は無いが日々の喧嘩で実戦的な強さを得ており、更には生前の士郎に師事していた時期もあるので実力は可成り高いので、此の試合も何方も譲らない展開になるのは間違いないだろう。

 

試合開始と同時に、互いに踏み込み、互いに右の拳がぶつかり合う。

その拳打の威力は略互角で、ぶつかった拳のエネルギーがスパークして強制的に距離が僅かに離れるも、互いに踏み込んでからアインスは拳を打ち下ろし、シェンは拳を振り上げてまたしても拳がかち合う。

 

 

「俺の拳とタメ張るとは、そんな事が出来る奴は男でも早々居ねぇぞ?細腕の割りに中々の剛拳を放つじゃねぇか……気に入ったぜオイ!!」

 

「単純な拳打でお前と互角な筈がないだろう……体重を全て乗せ、拳速をマックスにして、更に拳の表面を魔力でコーティングして漸く互角だ……マッタク、鋼鉄で出来ているのかその拳は?」

 

「本気で固めた俺の拳は、金剛石よりも硬いんだよ!!」

 

 

基本的なパワーではシェンの方が上なので、此処はアインスが自ら後ろに飛ぶ形でシェンに押し切らせ、距離を取ってから仕切り直しに。

ブライト三姉妹は、パワーではエステルが、魔力ではレンがダントツに高いのだが、アインスはスピードと攻撃の選択、戦闘IQがずば抜けており、瞬時に戦闘に於ける最適解を導き出す事も得意なのだ。

そんなアインスが圧倒的なパワーとタフネスを誇るシェンに対して『判定勝ち以外の最適解』として選んだのは……

 

 

「オラァ!!」

 

「凄まじいパワーだが、其れが仇になると知れ!」

 

「ごわ!?」

 

 

シェンのパワーを逆利用したカウンター攻撃だった。

しかもカウンターの打撃では効果が薄いと見たのか、シェンの凄まじい威力の拳打の勢いを利用した豪快な投げ技によるカウンターだ――打撃によるカウンターのダメージは打撃が当たった場所だけだが、投げならば全身を強烈に地面に叩き付ける事が出来るのでより広範囲にダメージを与える事が出来るのだ。

尤も、投げの場合は受け身によって打撃よりもダメージを軽減されやすいと言うデメリットもあるが、其れでも連続で投げ技を決めて行けば、投げられた方はダメージが蓄積して行きやがて平衡感覚を失ってしまうのだ……頑丈過ぎる相手には打撃よりも投げ技の方が最終的な効果は大きいのである。

 

其の後、三連続でシェンにカウンターの投げを決めたアインスはLPは上回る展開となり、此のまま行けばアインスが勝つだろう。

だが、シェンとて只者ではなく、喧嘩の実戦で鍛え上げられた勝負勘は相当に高く、五度目のカウンターの投げを仕掛けて来たアインスを強引に引き寄せると強烈なベアハッグで締め上げる!

シェンの剛腕に締め上げられてしまったら、細身のアインスでは脱出するのは難しいだろう……単純な締め技のベアハッグだが、この技は腕力の強さが其のまま威力になるだけでなく、極められた側も力で脱出しない限り背骨を傷めてしまう荒業なのだ。

 

 

「早いとこギブアップしないと、背骨が真っ二つになっちまうぜ?」

 

「それは、あくまでも一般論だろう……力での脱出は難しいだろうが、其れならば技を使って脱出するだけの事……技を借りるぞ二階堂!ベニマルコレダー!!」

 

 

強烈なベアハッグで締め上げられていたアインスだったが、自由の利く両手でシェンの頭を掴むと其処に強烈な電撃を炸裂させた。

一昨年の武術大会でチームを組んだ『二階堂紅丸』が使っていた、相手を掴んで電撃を喰らわせるガード不能技の『ベニマルコレダー』をシェンに喰らわせ、電撃のショックで緩んだ拘束から抜け出すと、シェンの頭に手を付いて、其れを起点にして一回転するとシェンの延髄に遠心力タップリの膝を叩き込み、更に首をホールドすると跳躍してから身体を捻って一気にシェンの頭をフィールドに叩き付けるスウィング式DDTをブチかます!

此れでシェンのLPは大幅に削られ、頭部に『裂傷』のダメージエミュレートが発生して流血状態となったのだが、シェンのLPは未だ尽きず、シェン自身もマダマダ戦う気は満々であり、直ぐに立ち上がってまたしても殴り掛かって来た。

それに対し、アインスは今度は投げずにカウンターの肘をブチかましてシェンの身体を反転させると腰をホールドして、其処からジャーマンスープレックス一閃!

しかも一発ではなく、起き上がり式の連続ジャーマンを三連発で決めた後に、渾身のラストライドでシェンをフィールドに叩き付けて大ダメージを与え、トドメに起き上がろうとした所にシャイニングウィザードを叩き込んでシェンのLPをゼロにした。

 

 

「ちぃ、LPがゼロになっちまったか……だが、久しぶりに楽しい喧嘩が出来たぜ!今度は試合じゃなくて、ルール無用の喧嘩で勝負しようじゃねぇか!」

 

「其れは出来ればお断りしたい所だな……お前とルール無用の喧嘩をしたら正直決着が付かない気がするのでね。」

 

 

LPがゼロになったにも拘らず、まだまだ元気なシェンのタフネスは相当なモノであると言えるだろう――なのはが頼りにしているのは伊達ではないのだ。

此れで八神チームは大将の庵のみとなったのだが、アインスは此処で京との交代を申し出て、庵との試合は京に任せる事にした。

 

 

「逃げるか女……俺が怖いのか?」

 

「そう言う訳では無いが、私は京と互角に戦えるだけの力があるのだ、その私と戦ったとなればお前とて無傷とは行かないだろうし、京だって消耗したお前と戦ったところでツマラナイだろうからな。

 互いに全力で戦わせてやろうと思っただけだ。……邪魔の入らないサシの勝負で存分に遣り合えば良いさ――尤も、京がお前に負けるとは微塵も思わんがな。」

 

 

此処でアインスが戦っていれば、勝てずとも庵を相当に消耗させる事は出来た筈であり、チームの勝利を目指すのであればそうするべきだったのだが、アインスは敢えてこの場を京に託したのだ。

庵が消耗した状態で戦って勝っても京は面白くないと考え、更に『草薙京vs八神庵』の試合は観客の多くが期待していた対決なので、互いに万全の状態で戦ってこそ観客の期待に応える事が出来るとも思ったのだ。

 

 

「と言う訳だ、後は任せたぞ京?」

 

「了解……派手に燃やして来るぜ!」

 

 

控え場所に戻って来たアインスは京とハイタッチを交わして控え場所に座り、京は闘気マックスでフィールドに出陣し、庵も同じように闘気マックスで出陣して来た。

 

 

『準決勝第二試合は、遂に大将戦!

 片や『猛る炎の伝承者』、『炎の貴公子』の異名を持つ草薙京!対するは『復讐の紫炎』こと八神庵!伝承によれば千八百年前にオロチを倒した一族ながら、草薙と八神は六百六十年前に志の相違から袂を分かち、以来現在まで歴史の裏で幾度となく激突して来たとされている~~!

 そして、その因縁の対決が、このKOFの準決勝の大将戦で行われるとは、一体どんな巡り合わせだと言うのか~~!!』

 

「京、灰にしてやるぞ……血染めの真っ赤な灰にな!」

 

「灰になるのはテメェの方だ……炎が、お前を呼んでるぜ!」

 

「なら燃え尽きろ……潔くな!」

 

「行くぜ!」

 

『準決勝第二試合ファイナルラウンド!京vs庵!デュエル……スタートォ!!』

 

 

試合開始と同時に互いに踏み込み、先ずは近距離戦での軽い打撃の応酬となったのだが、此れは京が持ち前の格闘センスを発揮し、庵の攻撃を捌いた上で裏拳×2→踵落とし→アッパーのコンビネーションを叩き込んで先手を取る。

だが、庵も負けずに飛び蹴りをガードさせてから屑風で強制的にガードを崩した所に琴月 陰をブチかまして京のLPを削る。

其処からは互いに一歩も譲らないLPの削り合いの様な試合が展開され、観客を湧かせていた。

 

 

「京さん、流石に強いよなぁ……伊達に武術大会を二連覇してないってか……」

 

「京さんはバランスが良いですね……打撃技だけでなく、飛び道具も投げもバランス良く備わっているので、相手にしたら相当に厄介な相手ですよ。」

 

 

観客席では、既に敗退してしまった『リベリオンチーム』と『リベールギャルズ』の面々が観客として此の試合を観戦していた……手にポップコーンとコーラがあるのを見る完全に観客として見ているようだ。

 

そして試合に盛り上がっているのは別分悪い事ではないのだが……

 

 

――ドクン……!

 

 

「……!!」

 

「ん?如何したレオナ?」

 

「少しだけオロチの気配を感じた……暴走する事は無いけど、血が騒ぐ……この会場の何処かに、オロチの関係者が居る……私は大丈夫だけれど、彼は果たして大丈夫かしら?」

 

 

此処でレオナがオロチの存在を感じ取り、己の中に流れるオロチの血が騒いでいる事を実感していた。

とは言えレオナは、完全ではなくともオロチの力を制御する事に成功しているので暴走する事は無いが、其の力を制御し切れていない庵にとっては、己の中に流れるオロチの血が活性化したと言うのは可成り有り難くない状況であろう。

 

 

「グフ……!此れは……此の大会にもオロチが……舐めるなよ、俺は貴様等の力などに支配はされん……うぐ……ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

「八神……血の暴走か、ザマァねぇな。……来いよ八神、オロチの力なんぞに惑わされちまう三流に興味はねぇ!打っ倒してやんぜ!!」

 

「キョォォォォォォォォォォォ……!!!」

 

 

庵はギリギリまで頑張ったモノの、オロチ後に抗う事は出来ずに暴走し、その凶暴な本能を全開にして京と対峙し、京もまた暴走した庵には何の価値もないと言わんばかりに構えると、余裕の表情で暴走庵と対峙する。

 

 

「八神ぃぃぃ!!」

 

「キョォォォォォォォォォォォォォォ!!!」

 

 

そして次の瞬間には紅蓮の炎と暗蒼の炎が交錯して、大爆発を起こしたのだが、京も庵も怯む事無く、其処から大きく踏み込んで近接戦闘戦となり、互いに一歩も退かない凄まじい格闘戦が展開されるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter60『因縁の決着!そして決勝戦!~動き出す悪意~』

そんなこんなで60話まで来たとさByなのは      でも、まだまだ此れからですねByクローゼ


KOFチーム戦の準決勝の第二試合の大将戦である『草薙京』vs『八神庵』の因縁の戦いは、序盤は互いに連続技でダメージを与えつつLPを削る展開になっていたところで突如として庵が暴走して試合は一気に混迷の様相を呈して来ていた。

 

 

「此れは、庵さんが暴走!……此れは直ぐにでも試合を止めた方が良いのではないでしょうかなのはさん?」

 

「まぁ、確かにそうかも知れんが……試合を良く見ろクローゼ。暴走した八神庵を相手に回して、しかし草薙京は寧ろ優位に戦いを進めているように見えないか?」

 

「其れは……言われてみれば確かに。」

 

 

暴走した庵は理性を失って本能でのみ行動する危険な存在であるのだが、其れだけに目の前の京にだけ襲い掛かっており、他には目をくれない状況であり、京自身も暴走庵に対して優位に戦いを進めていた。

 

 

「そんな殺気駄々漏れの攻撃が俺に通じると思ってんのか?だとしたら俺を舐め過ぎだぜ八神!!うおりゃあ!ボディが、がら空きだぜ!燃えろぉ!!」

 

「ごわぁぁ!!」

 

 

暴走庵の琴月 陰をアッパーでカウンターすると、其処から七拾五式・改へと繋ぎ、更に荒咬み→八錆→琴月 陽のコンボを叩き込んで暴走庵を燃やす!

 

 

「ザマァねぇな八神?

 暴走してリミッター外れてんのに此の程度か!いや、暴走してるお前よりも何時ものお前の方が遥かに強いぜ……狂った力で俺に勝てると思ってんのか八神ぃ!」

 

「キョォォォォォォォォォォォ!!」

 

 

暴走した庵は攻撃力が上がっているのは勿論、スピードが暴走前とは比べ物にならない位に上がっており、分かり易く言えば暴走庵は普通の歩きのスピードが暴走前の庵のダッシュよりも速いのだ……ジャンプも速く低い軌道になり、ジャンプ攻撃に対処するのも難しいのだが、京はそれら全てを的確に潰して行く。

武闘家としての経験と勘が暴走庵の攻撃を完璧なまでに読み切っているのだ。

庵の暴走と言うアクシデントはあったモノの、暴れまくる庵を迎撃する京の試合内容は観客には割とウケが良く、観客席は意外に沸いていたのだが、そんな観客席の一角には沸いている観客とは異なる者達が居た。

其れは教授とドクター、そして毛皮のコートを纏った凶悪そうな面構えの大男だった。

 

 

「キッヒッヒ……少しばかり気合入れてやったら本当に暴走しやがるとはなぁ?だが教授さんにドクターさんよぉ、野郎を暴走させて如何しようってんだぁ?」

 

「血の暴走の詳細な生のデータが欲しくてね……生のデータが取れれば、其れを基にスポーツマンチームの様に疑似的にオロチの力を其の身に宿した人間に暴走の要素を付与する事が出来る。」

 

「そして、其の物が暴走の力を自在に使いこなせるようになったとしたら、其れはもう超人と呼べるとは思わないかね山崎君?

 そして、その超人達を量産出来れば超人の軍隊を作る事も可能になる――そうなれば、人間界だけでなく魔界も天界も制圧出来るだろう……自分の作ったモノが全ての世界を統べると言うのは実に面白い事だと思わないかね?」

 

「あぁん、小難しい話は良く分からねぇが……まぁ、此れで俺の仕事は一つ終わった訳だ。後は決勝戦が終わったら、適当に暴れてやりゃ良いんだな?」

 

「うむ、其方の方は好きにやってくれて構わないよ。」

 

 

そして、其の三人は何やら良からぬ事を考えているようだった。

教授とドクターの瞳には狂気、毛皮のコートの大男――山崎竜二の瞳には狂気と凶暴性が宿っており、KOFの決勝戦後には大きな波乱が巻き起こる事は間違い無さそうである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter60

『因縁の決着!そして決勝戦!~動き出す悪意~』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フィールドでは何度目かの攻防が行われ、鋭い飛び込みからの蹴りを放って来た庵に対し、京は鵺摘みでその飛び蹴りを弾いた後に龍射りでカウンターして庵を吹き飛ばす。

この時点で庵のLPは残り60%程にまで減ってしまっていた。

 

 

「八神よぉ、テメェが望んでたのはこんな戦いだったのか?だとしたらガッカリだぜ。

 テメェに付き纏われんのはウザったい事この上ないんだが、テメェと戦うのは案外嫌いじゃなかったんだぜ俺は?『またか。』と思いつつも、テメェとの戦いを楽しいとも思ってたしな。

 だけどな、俺は八神庵としてのお前と戦いたいんだ!オロチの力に呑み込まれちまうような男に、用はねぇんだよ!分かってんのか、八神ぃ!!」

 

 

そんな状況で、京は己の思いを庵にぶつけた。

京と庵の戦いは、草薙と八神と言う六百六十年の因縁を超えた、草薙京と八神庵と言うモノであり、其処には運命も、血の宿命も関係は無かった――其れは純粋な京と庵の戦いであるのだ。

だからこそ、その戦いで暴走した庵に対し、京は落胆の感情を抱いてしまったのだ。

 

 

 

――バキィ!!

 

 

 

だが、その直後、庵が己の顔面に拳を叩き込んだ。

此れには観客も『何事か!?』と驚いたのだが……

 

 

「オロチの力に呑み込まれるような男に用はないだと?……ならば、正気の俺ならば用が足りると言う事だな京?」

 

「ハッ、テメェでテメェを殴って正気を取り戻すとはやるじゃねぇか八神?そんじゃ、こっから仕切り直しだな……つっても、此のままじゃLPの差が大きいから、テメェから一発寄こせ。対等な状況で勝たなきゃ意味がねぇからな。」

 

「ふん、此れは暴走した俺へのペナルティとしておけ……其れに、俺が貴様の言う事を聞くとでも?」

 

「ま、そうだよな。」

 

 

其れにより庵は正気を取り戻し、暴走していた時の凶暴な殺気はなりを潜めていた。

京に『オロチの力に呑み込まれちまうような男に、用はねぇんだよ!』と言われた事が庵の自我を呼び覚まし、其れがオロチの血の暴走を超えたのだ……庵も、京との戦いを血の暴走に妨害されるのは我慢出来なかったのだろう。

 

 

「しかし、暴走した俺と対峙して無事だったとは……くたばり損なったか。」

 

「テメェの都合で生きちゃいねぇよ。」

 

 

其処から仕切り直しと試合が再開され、庵が爪櫛で飛び掛かり、京は轢鉄を合わせ、振り下ろされた蒼炎と打ち上げられた紅炎がぶつかり合うが、其れでは止まらずに庵は其処から琴月 陰を、京は琴月 陽を繰り出して互いに肘がかち合い、その衝撃で強制的に間合いが離される。

 

 

「如何したぁ!」

 

「喰らえ!」

 

 

互いに闇払いを放ち、其れは相殺されたが……

 

 

「遊びは終わりだ!!」

 

 

闇払いを追いかけるように庵が八稚女を発動して京との間合いを詰め、斬り裂くような連撃を喰らわせて行く。

 

 

「泣け!叫べ!そして、狂い散れぇ!楽には死ねんぞ!ククク……ハァッハッハ!!」

 

 

更に八稚女後に彩華へと繋いで京のLPを大きく減らす――だが、京も直ぐに起き上がって不敵な笑みを浮かべて見せた。先程の暴走庵との戦いでは見せる事は無かった、『戦いを楽しんでいる笑み』をだ。

 

 

「はっ、テメェヤッパリ暴走してねぇ方が強いじゃねぇか?だったらオロチの力なんぞ邪魔なだけだから捨てちまえ。」

 

「捨てれるのならば捨てたい所だが、六百六十年の時を渡って受け継がれて来たモノをどうやって捨てろと言うのだ貴様は?」

 

「ダンテに頼んでみたらどうだ?

 あのオッサン、『閻魔刀』とか言う、『人と魔を分かつ刀』ってのを手に入れたって聞いたからな。ソイツを使えば、お前からオロチの血を引き剥がす事くらい出来るんじゃねぇのか?つかあのオッサンも、カシウスさんに負けず劣らずのチートっぷりだから出来んだろ。」

 

「だとしたら、先ずははやてとなぎさからだな……今はまだ大丈夫だが、将来的に妹がオロチの血に苛まれるのを見たくはないのでな。」

 

「……お前、意外と良い兄貴だよな。

 だけどよぉ、妹の恋を成就させる為に家の家電品ぶっ壊すってのは如何なんだ?遊星は『仕事になるから助かる』って言ってたけどよぉ……」

 

「ならばお互いにウィン・ウィンの関係だから問題あるまい……其れよりも、行くぞ京!」

 

「だな……うおぉぉりゃぁ!!」

 

 

此れでLPは略互角となり、試合は再びLPの削り合いのような展開となり、京の紅炎と庵の蒼炎が幾度となく交錯して炸裂し、フィールドの芝は殆ど焼かれて土の地面が露わになっていた。

其れは正に炎の戦いであり、アリーナの熱気を物理的に高めていた。

 

 

「熱い試合を冷えたビールと飲みながら観戦すると言うのは実に贅沢だと思わないか覇王?」

 

「確かに此れは此の上ない贅沢だな。」

 

 

貴賓席ではなのはとクラウスがキンキンに冷えたビールを片手に試合を観戦していたが、此れは此の二人に限った事ではなく観客席でも冷えたビールを所望する声は多く、ビールの売り子は大忙しであり、未成年からはソフトドリンクの注文も上がっていたのでソフトドリンクの売り子も大忙しだった。

其れは其れとして、フィールドでは白熱した試合が続き……

 

 

「楽には死ねんぞ!」

 

「俺からは逃げられねぇんだよ!」

 

 

庵が八酒杯を、京が天叢雲を放ち、無数の火柱が派手にぶつかり合う。

其の力はマッタクの互角であり、此のまま試合が続いてもタイムオーバーの末の判定勝ちか、ドローになってのエクストララウンドになるのは確実だ――だが、エクストララウンドになるのならば兎も角として、判定勝ちでは京も庵も満足は出来ないだろう。

 

 

「此のままじゃ埒が明かねぇか……本当なら決勝戦まで取っておきたかったんだが、如何やら今のテメェにはコイツを使わねぇと勝つ事は出来ねぇみたいだから、悪いが使わせて貰うぜ八神!」

 

 

 

――轟!!

 

 

 

此処で京が気合を入れると、京の背に銀の炎で構成された三対六枚の翼が現れ、京の髪も赤みを帯びた茶色に変化した。

 

 

「貴様、その姿は……?」

 

「マギア・エレビアってのは聞いた事があるだろ八神?本来敵に対して放つ攻撃魔法を自身に取り込む事で己を強化する魔法だ。

 其れって若しかしたら草薙流の技を自分に取り込む事で同じ事が出来るんじゃねぇかと思って、無式の力を取り込んだら此の力を得たって訳だ……完全に制御出来るようになったのはKOFが始まる直前だったけどよ。

 だが、この姿になった俺はさっきまでと比べてちょ~っと強いぜ?」

 

「ほざくか……!」

 

 

まさかの京の強化状態開放だったが、強化状態となった京の力は力は凄まじく、庵がマッタク持って相手にならないほどだった。

 

 

「見せてやるぜ、草薙流の真髄!おぉりゃあ!せい!燃え尽きろぉぉぉ!!……熱くなれたろ?」

 

「此のままでは終わらんぞ!」

 

 

壮絶なラッシュの末に京が八雲を決めて庵のLPをゼロにして試合終了。

 

 

「満足したか、八神?」

 

 

決めゼリフも鮮やかに、京は強化状態を解除すると、上着を脱いで其れを片手に持って肩に掛けて勝利ポーズを決め、客席からは大歓声が沸き起こる――一昨年の武術大会から黄金カードとなっている京と庵の戦いは観客にとっても待ち望んでいたモノなので、この大歓声は当然と言えるのだ。

 

 

「殺しが御法度の大会ではこれが限界だが、貴様との戦いには満足出来た……ルールで負けたのは癪だがな。

 だが、貴様を倒すのはこの俺だと言う事を忘れるなよ京?俺以外に負けるなど断じて許さん……貴様は俺が殺すまで誰にも負けてはならんのだ。」

 

「つっても、俺は既にカシウスさんに負けまくってんだけどな?」

 

「カシウス・ブライトは例外だ。奴に関しては、俺とて勝てるヴィジョンが全く見えん。」

 

「お前にしちゃ素直な感想だな。」

 

 

ルールで負けたのには癪だと言いつつ、庵は京との戦い其の物には満足出来たようだった――奇しくも去年の大会で戦う事になった老武術家から『お主、口では物騒な事を言っておるが、実はあの青年と戦うのを楽しみにしているのではないか?』と言われた事が現実である事を、庵は自ら証明する事になったのだ。

 

 

「つっても、この強化状態を使いこなせる様になった以上、今のお前じゃ俺に勝つ事は出来ねぇよ……オロチの血を捨てて八神本来の紅い炎を取り戻すか、或は親衛隊のレオナみたいに暴走を制御出来るようにならない限りはな。

 どっちを選ぶかはお前次第だけどよ、精々修行して出直して来な。そんときゃ何時でも相手になってやるからよ。」

 

「ククク……ならば俺はオロチの力も、八神本来の力も、その双方を使いこなせる様になってやる……そして超えてやる、貴様もオロチもな!」

 

「ハハ、楽しみにしてるぜ八神!」

 

 

口ではなんだかんだ言いながらも、京と庵も本心では相手と戦う事を楽しみにしており、そう言う意味では『真の好敵手』と言える関係なのだろう――京が『俺様』な性格である事と、庵が凶暴な事で一般的なライバル関係とは少し異なっているだけで。

 

 

『けっちゃーく!!

 草薙と八神、因縁の対決を制したのは『猛き炎の伝承者』にしてリベールのディフェンディングチャンピオン、草薙京ーーーー!!

 文字通り熱い戦いに会場は大盛り上がりだったぞ~~!!俺的には、此の試合は今大会のベストバウトトップ5に選びたい位だった~~!!だが、大会はまだ終わっていない!

 次はいよいよ決勝戦!『カルバートファイターズ』vs『ロレントチーム』の戦いは、今大会最大のバトルになる事は間違いない!さぁ、決勝戦までの十分間のインターバルの間にトイレを済ませよう!そして其れが済んだら飲み物とスナックの準備だ~~!!』

 

 

MCさんが見事なアナウンスとマイクパフォーマンスで会場のボルテージを引き上げ、十分間のインターバル中にはジェニス王立学園のチアリーダー部による見事なチアダンスが披露され、これまた会場を沸かせていた。

そして、インターバル後、先ずはフィールドにはロレントの自警団『BLAZE』のメンバーが現れ、生演奏で璃音がリベールの国歌を歌うと言うサプライズが待っていたのだが、観客は全員璃音の歌声に聞き惚れてしまっていた……『天使の歌声』とは、正に此の事であった。

 

 

『さぁ、KOFのチーム戦もいよいよ決勝戦だ!!

 先ずは青のゲートより、『カルバートファイターズ』の入場だ!!』

 

 

続いてMCさんが、先ずはカルバートチームの入場を宣言すると、青のゲートの格子が持ち上がり、其れと同時に特徴的な重低音の前奏の音楽が会場に流れる。(推奨BGM、StreetFighterⅡ『リュウのテーマ』)

決勝戦はより盛り上がるように、チームごとに入場して、更には入場テーマも流して少しばかり派手にやると言う事になっていたのだ――個人戦では無かった事だが、だからこそ観客に与えるインパクトは大きいと言えるだろう。

 

 

「ジン、リュウ……勝つぜ、此の試合!」

 

「あぁ、此処まで来たのならば矢張り優勝したいモノだからな。」

 

「此の試合、俺が此の大会で最も望んでいた戦いが出来るかも知れないな。」

 

 

そして入場して来たカルバートファイターズの面々に客席からは歓声が上がる。

ジンとリュウは此れまでと同じだが、ケンは長く伸ばして腰の辺りで縛っていた金髪を肩の辺りでバッサリと切ると言う大胆なイメチェンをして来たのも観客にとっては衝撃的だっただろう……準決勝でグリフィンに負けた事で、何かが吹っ切れたのかもしれない。

 

 

『続いて、赤のゲートより、『ロレントチーム』の入場だ~~~~!!』

 

 

続いて赤のゲートの格子が持ち上がり、同時にギターによる演奏が始まる。(推奨BGM、KOF97『ESAKA FOREVER』)

 

 

「いよいよ決勝戦だ……気合の貯蔵は充分か!?」

 

「アタシは何時でも気合120%!!」

 

「準決勝では黒龍波を使う事は無かったから力は充分だ……思い切り暴れてやろうじゃないか。」

 

「そう来なくちゃな……それじゃあ、行くぜ!!」

 

 

続いて入場して来たロレントチームには観客は更に歓声を上げる。

リベールのディフェンディングチャンピオンである京とアインスとエステルの三人による三連覇は観客の多くが望んでいる事ではあるのだが、其の一方で三連覇を阻止するチームへの期待があるのもまた事実であり、そう言う意味では一回戦から大将を務めて無敗であるリュウには多くの期待が寄せられていた――リュウならば京の不敗神話を崩すのかもしれないと思ったのだろう。

 

 

「「…………」」

 

 

その京とリュウは、互いに相手を見やると、リュウは腕を組んだ状態で薄く笑い、京は指先に炎を宿して不敵に笑ってみせた――どんな試合展開になるかは分からないが、決勝戦の大将戦は間違いなく物凄い事になるのは間違い無さそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな盛り上がりを見せるアリーナの裏では……

 

 

「キッヒッヒ……此の決勝戦が終わったらやっと暴れられるって訳か……教授とドクターが何を考えてるかは知らねぇが、好きに暴れる事が出来て金も貰えるってんなら此れほど良い仕事はねぇ。

 血が騒ぐぜぇ……全員纏めて血祭りに上げてやるぜ!」

 

 

山崎が決勝戦が終わるのを今か今かと待っていた。

決勝戦が終わったら山崎は試合会場に乱入して暴れまくる――其れが教授とドクターからの第二の依頼だった。山崎にとっては教授とドクターの思惑は如何でも良く、自分が暴れられる場があると言う事が重要だったのだ。

 

 

「其れは少々聞き捨てならんな、オロチ八傑集の山崎竜二殿?」

 

「テメェは……!」

 

 

だが、その山崎の前に現れたのは草薙柴舟だった。

三回戦では京に秒殺されたが、其れゆえにダメージエミュレートが解除されれば元気其の物であり、アリーナ内にあるオロチの気配を感じ取ってこの場にやって来たと言う事なのだろう。

 

 

「生意気でいけ好かんが、其れでも息子の晴れ舞台を穢されると言うのは些か容認出来んのでな……此処で足止めさせて貰うぞオロチよ!」

 

「ロートルが出しゃばってんじゃねぇぞ、この雑魚が……!」

 

 

KOFチーム戦の決勝戦の裏では、KOFの裏決勝戦の幕が切って下ろされようとしていた――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter61『白熱の決勝戦開幕!全力で行くぜ!』

遂に決勝戦か……果たしてどんな戦いになるのかByなのは      これまで以上に目が離せませんね?正に瞬き厳禁ですByクローゼ


大盛り上がりのグランアリーナのロビーでは、KOFの裏決勝戦とも言うべき戦いが幕を開けようとしていた――オロチ八傑集の一人である『山崎竜二』はアリーナの受付及び警備員を必殺の『蛇使い』でKOして来たのだが、其処で待ち受けていたのは草薙流古武術の後継者であり草薙家の前当主である草薙柴舟だった。

京が無式を会得したのを機に、京を草薙流の正統後継者と認め、家督を譲って一線を退いたが、其の実力は未だ健在であり、並の武闘家では大凡太刀打ち出来ない実力があるのだ――其れを圧倒してしまう京は、間違いなく天才なのだろうが。

 

 

「シャアーー!」

 

「此れは……見た目以上のリーチ以上のパンチ……そして鞭の如きしなり、関節を外して放って来たか!」

 

「……蛇使いの秘密を速攻で看過するとは、ロートルにしてはやるじゃねぇか……きぃっひっひ、そうでなくちゃ面白くないけどよぉ!ヒャッハー、精々楽しませてくれよな草薙柴舟さんよぉ!!」

 

「ふふ、火遊びは危険じゃぞ?……尤も、お主の様な輩には全身火傷を喰らわせねば分からぬのだろうがな……何にしても、お主がオロチ八傑州であるのならばワシとて見過ごす事は出来ん……草薙の使命として祓ってやるわい!!」

 

「やってみやがれ、この雑魚が。」

 

 

其処から柴舟と山崎のバトルが開始され、山崎はオロチ八傑集としてだけでなくヤクザとして生きて来た凶暴性を遺憾なく発揮して暴れ、柴舟は老獪な戦い方で山崎に決定打を与えずに、逆に焔重ねや神罹を喰らわせてダメージを与えて行く。

だが、山崎はタフネスも相当に強く、柴舟の攻撃を喰らってもまだまだ元気だった。

 

 

「ククク……良い攻撃だったがよぉ、此の程度で俺を倒せると思ってんのか?」

 

「まぁ、そう簡単には行かんのだろうが……じゃが、其れはあくまでもワシ一人がお主と戦った時の事だ――其処に草薙の拳を会得した援軍が来たとしたら如何じゃろうな?……出番だぞ、京のクローン達よ!!」

 

「……行くぜ。」

 

「俺の出番かい?」

 

「ビビってんのか?あぁん!!」

 

 

更に此処で柴舟は京のクローン三体を召喚!

能力的は本物の京には劣るとは言え、クローン京三人も決して低くない実力を備えているので、柴舟にとっては此の上ない援軍と言えるのである。

 

 

「オイコラ、流石に四対一は卑怯過ぎんだろうが!!」

 

「京達が消耗しとる決勝戦後に乱入しようとし腐っていた輩がどの口を抜かすか……其れにお主、素手で戦うフリをしながら懐に刃物を隠し持っとるだろう?隙を見てワシを刺し殺す心算だったか?」

 

「バレてんなら隠しとく意味もねぇか……こうなったら四人纏めて三枚に下ろしてやらぁ!!」

 

「テメェ、素手で勝負しやがれ!!」

 

 

此処で山崎は隠し持っていた匕首を取り出し、其れを使って斬りかかって来た。

流石に刃物を持っているとなれば四人でも簡単には行かない上に、山崎は『砂かけ』や『凶器攻撃』と言った攻撃も平然と使って来るので生粋の武闘家にはやり辛い相手であると言えるだろう。

 

 

「これは試合ではないから卑怯とは言うまいが……看板や脚立、着ぐるみの頭は兎も角として、何処から持って来たのだ其の冷凍マグロは?」

 

「知るか。落ちてたんだよぉ!」

 

「王都の寿司バーの仕入れ車が事故でも起こしたんじゃろうか……取り敢えず、食べ物を粗末にしたらいかんぞ!」

 

「テメェ等ぶっ殺したら、解体して食う!」

 

 

……若干会話がアホらしい所もあるが、最終&京のクローンズと山崎の戦いは激しさを増し、そして其れを見ていた王都市民によって王国軍と遊撃士協会に通報がなされ、数分後に王国軍の軍人と遊撃士数名が現場に駆け付け、其れを見た山崎は状況不利と見て一旦この場を離脱したのだった。

取り敢えずは柴舟の介入で山崎を退ける事が出来たが、山崎はマダマダ暴れ足りないだろうから此れで済んだとは思えない――とは言え、今回の件で山崎は警戒対象となったのでKOFに乱入するのは難しくなったと言えるだろう。

柴舟は、京のあずかり知らない所で中々良い仕事をしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter61

『白熱の決勝戦開幕!全力で行くぜ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな事が起こっているとは誰も知らないアリーナでは、カルバートファイターズとロレントチームによるKOFチーム戦の決勝戦の試合が幕を開けようとしていた。

カルバートファイターズの先鋒はケン、ロレントチームの先鋒はエステル――此れで一回戦を除いてエステルが連続で先鋒を務めた訳だが、勝とうが負けようがエステルの戦いは味方の士気を高めてくれるので、先鋒としてはうってつけなのである。

 

 

『さぁ、いよいよKOFチーム戦の決勝戦!

 その決勝戦の第一ラウンドを戦うのはカルバートの格闘王、『紅蓮の飛龍』ケン・マスターズ!対するはリベールのA級遊撃士、『太陽の娘』エステル・ブライト!

 ケン・マスターズが格闘王の強さを見せるのか!?其れともエステル・ブライトが史上最年少でA級遊撃士になった力を見せ付けるのか!?ベテランの格闘王と若き遊撃士のホープ、勝利するのは果たして何方なのか~~!!!

 KOFチーム戦ラウンド1!ケンvsエステル!Ready……Duel Start!!!』

 

「掛かって来な!」

 

「よぉっし!全力で行くわよ!!」

 

 

第一ラウンドはケンvsエステル。

ケンは軽く手招きした後にサムズダウンし、エステルは羽織っていたジャージを脱ぎ捨てて棒術具を右手でバトン回ししてから構える――互いに隙は無いが、先に動いたのはエステルの方だった。

棒術具を下から上に振り上げて衝撃波を発生させて其れを飛ばすと、ケンは其れをギリギリまで引き付けてから竜巻旋風脚で回避しつつエステルを攻撃する。

エステルは其れを的確にガードすると棒術具を振り上げて間合いを取ると、棒術具をギリギリまで長く持ってから超高速の連続突きを繰り出す――その連続突きの速さは相当なモノで、観客には棒術具の残像が見えたくらいだ。

普通ならば完全に防ぐ事は出来ない連続突きだが、ケンは其れを全てガード……ではなく攻撃を捌く『ブロッキング』で捌き切って見せた。試合ではなくストリートファイトの勘を取り戻したケンは、カルバートの格闘王の名に恥じない実力を発揮しているようだ。

 

 

「此れを防いじゃうの?これは結構自信あったんだけどなぁ……だったらこれは如何?ファイヤー!!」

 

「炎の旋風攻撃か……だが燃やす事なら負けないぜ?昇龍拳!!」

 

 

続けて放たれた『火炎旋風輪』に炎の昇龍拳がぶつかり、爆炎が撒き上がる。

だが、その爆炎も何のその、ケンとエステルは爆炎を突っ切ってぶつかり合い、エステルの棒術具とケンの蹴りが交錯する――が、此処で経験で勝るケンが蹴り足を其のまま振り下ろして踵落としに繋ぎ、其れをギリギリで躱したモノの動きが一瞬止まったエステルに対して身体を反転させて後回し蹴りを叩き込む。

其れを真面に喰らってしまったエステルはLPを大きく減らしたが、転んでもタダでは起きないとばかりにほぼ反射的に蹴り足の膝裏に棒術具を叩き付けてダメージを与える。

更にエステルは追撃として金剛撃を放ったが、其処にケンが神龍拳を合わせるカウンターを放ち、錐揉み回転する攻撃を喰らったエステルのライフは一気にレッドゾーンに突入!

其れでもエステルは諦める事無く受け身を取ると、ケンの着地を狙って足払いを放って体勢を崩すと……

 

 

「山川穂高ぁ!!」

 

 

謎のかけ声と共に渾身の一本足打法一閃!

此れを喰らった事でケンのライフもオレンジゾーンに突入したのだが、ケンは空中で受け身を取ると其処から波動拳を放ってエステルを牽制すると、着地と同時に踝を狙った足払いでエステルの体制を崩し――

 

 

「コイツで決めるぜ……ド派手にな!!」

 

 

其処に炎を纏った連続蹴りからの炎の竜巻旋風脚に繋ぐ『紅蓮旋風脚』を放って一気にエステルのライフを削ってゼロにする……今大会初のKO勝ちで初戦はケンが勝利し、先ずはカルバートファイターズが先手を取る展開に。

 

 

「ゴメン、負けちゃった……」

 

「気にするなエステル……直ぐに私が取り返してやるさ。」

 

「カルバートの格闘王相手に良くやったぜエステル。後は俺達に任せときな。」

 

 

戻って来たエステルを労うと、ロレントチームはアインスが次鋒として登場。

ケンは勝者の権利としてLPが回復したのだが、イエローゾーンで開始と言うのは些か分が悪いだろう――序に言うと、ダメージエミュレートこそ発生しなかったモノのエステルの膝への攻撃でケンは膝に痛みを感じる位にはダメージを受けていたのだ。

膝にダメージがあるとなればドレだけ誤魔化そうとしても動きが悪くなのは隠し切れず、僅かであっても動きが鈍くなったとなれば其れはアインスにとってはカモに等しかった。

 

 

「如何やら思った以上にエステルとの戦いで消耗していたみたいだな?

 お前は蹴り技が自慢だと思っていたが、その蹴りにキレがマッタク無くなっている……エステルとの試合で見せた連続蹴りで限界を迎えたか?」

 

「ち、お見通しかよ……!」

 

「万全の状態ならば兎も角として、消耗した上に足にダメージを負った状態では私の相手ではないな……出来れば万全の状態のお前と戦いたかったが、チーム戦ではチームの勝利が最優先なのでな?

 此処は一気に決めさせて貰うぞ!」

 

 

ケンの上段回し蹴りをスウェーバックで躱したアインスは、其処からブリッジでケンの足を跳ね上げると、更に連続のブリッジでケンの身体をも跳ね上げ、自身も飛び上がりながら連続のブリッジを繰り返し、ケンの抵抗力を奪って行く。

 

 

「此れで決める!マッスル・スパーク!!」

 

 

アインスはケンの首を右膝で、左足を左膝で極め、更に両腕をチキンウィングに極めてダメージを与えると、其処から背面合わせの状態になって両足を自身の両足で極めると、再び両腕をチキンウィングに極めて取って其のまま一気にフィールドに向かって降下し、ケンを地面に叩き付ける。

これぞ、嘗て地上に降りた武術の神が型を思い付きながらも完成までには至らず、後世に完成を託して三種の技の型を石板に彫り込んだとされている『三種の神技』の一つにして三種の神技の最高峰と言われる、『マッスル・スパーク』だった。

その石板自体はグランセルの博物館に展示されており誰でも見る事は出来るのだが、石板に彫り込まれている技の型はいずれも断片的であり、一流の武闘家であっても其処から技を完成させるのは極めて難しいのだが、アインスは別角度から石板を見ると技の別の型が隠し彫りされている事に気付き、其処から完成形を思い描いて、炎殺黒龍波の習得と並行してマッスル・スパークをも完成させていたのだ。

 

その奥義を喰らったケンはLPがゼロになって試合終了。

 

 

「なんて技だ……DSAAルールじゃなかったら死んでたかもしれないぜ……」

 

「其れはないな。

 マッスル・スパークは『相手を確実に戦闘不能にするが絶対に殺さない技』。言うなれば究極の峰打ちだからね……まぁ、此れに辿り着く前に仮完成とした技は、全く逆の『相手を確実に殺す技』だったので、此れは違うと思ったのだけれどな。」

 

「……因みに、そっちはどんな技だったんだ?」

 

「技の前半部分は相手の腕を背後で交差させて極め、後半部分は矢張り相手の腕を交差した状態で極めて胸から叩き付けて相手の全身の骨を略バラバラにしてしまうモノだよ。

 命を懸けた戦いならば兎も角、試合で使っていい技じゃなかった。」

 

「マッタクだな……だが、アンタの強さは見事だったぜ?万全の状態でも勝てたかどうか分からないからな。でも、ジンは俺よりも強いぜ?」

 

「あぁ、ジンが強いのは知っているよ……カシウスの知り合いだからね。」

 

「何だ、知ってたのか?なら俺が言う事は此れ以上はないな……良い試合を期待してるぜ。」

 

 

ダメージエミュレートが解除されたケンは其のまま自チームの待機所に戻りジンとタッチ。

続く第三ラウンドはジンとアインスの戦いになるのだが、ジンは此の大会無敗ではないがKO負けは一度も無いと言う頑丈さを誇っており、また使う武術もリュウとケンとは異なる『泰斗流』と言うモノであり、巨体の割には素早いと言う可成りの強者なので、これは良い試合が期待出来るだろう。

 

 

「LPがイエロー状態で足にダメージを負っていたとは言え、ケンをノーダメージで倒しちまうとは流石と言うべきかアインス?エステル、レン共々、日々精進してると見えるな?」

 

「妹達が日々強くなっているのでね、姉として負けられないと思っているだけさ……その結果、トンデモナイ奥義を二つも会得してしまった訳だがな。」

 

「其れを会得したのは大したモノだと思うがな。」

 

 

試合開始前に軽く雑談を交わしたが、MCさんのアナウンスで試合開始が宣言されると一転して互いに『闘う者』の顔付きになり、ジンは胸の辺りで両拳を構えたオーソドックスな構えを取り、アインスは半身の状態で左の拳を顔の近くに構え、右腕は拳を握った状態で真っ直ぐに下に伸ばすと言う独特の構えを取る。

両者とも隙は無く、先ずは互いに隙を窺う気組みの状態となったのだが、先に動いたのはアインスの方だった――気組みの際にタイムオーバー以外でジンに勝つ道筋を割り出したのだろう。

 

先ずはジンの周囲に無数のブラッディ・ダガーを配置すると其れを一斉に放つ。

逃げ場のない全方位攻撃だが、ジンは其れを己の闘気を爆発させた衝撃波で全て叩き落し、凄まじいスピードで間合いを詰めて来たアインスに対してカウンター気味に拳を放つ。

しかしアインスはその拳をギリギリで躱すと腕に飛びつき、腕を極めつつ自ら回転してジンの巨体を投げ飛ばす。

 

 

「極め投げか……俺じゃなかったら今の一撃で腕が折れてるところだ。」

 

「マッタク、相変わらずの頑丈さだなジン!」

 

 

其れを喰らってもジンは全くノーダメージ。

其処からは、互いに近距離でガンガン打ち合うバリバリの近距離戦に――殴り合いと言うのは体格が大きい方が有利であり、普通ならばアインスよりも30㎝以上も身長で勝り、体重はアインスの倍はあるジンの方が絶対有利なのだが、アインスはカシウス仕込みの技で体格差をカバーし互角に打ち合う事が出来ていた。

だが、そうだとしてもジンの拳は重く、ガードの上からでもLPが削られてしまい、逆にアインスの打撃はガードされるとダメージを与えられないので此のまま殴り合いを続ければアインスがジリ貧になるのは確定だ。

マッスル・スパークを極める事が出来れば一発逆転も狙えるのだが、ジン相手に其れを極めるのは可成り難しいだろう――そもそもにして、体格差が大きいと極め技は力で外される事も少なくないのだから。

 

 

「マッタク持って、なんだって今大会は私の相手は頑丈な奴ばかりなのか……此のままではジリ貧は確定なのでな……悪いが使わせて貰うぞ。」

 

 

此のままでは圧し負けると判断したアインスは、ジンの拳に蹴りを合わせる形で自ら後ろに飛んで間合いを離すと、右腕の包帯を外す……其れは、最強最大の奥義を放つという合図に他ならなかった。

 

 

「DSAAルールならば死ぬ事はないが……受け切れるかジン?行くぞ!炎殺……黒龍波!!」

 

 

そして放たれた炎殺黒龍波。

黒炎の龍はジンに向かってその牙を剥き、喰らい尽くさんとするが、ジンは其れから逃げる事無く気を高めて自己強化を施すと真っ向から炎殺黒龍波を受け止めた。

其れは普通ならば可成り無謀な事だが、炎殺黒龍波は使用者にとっても一撃必殺であり防がれたら二発目はないと言う事をジンは二回戦の試合を見て理解していたのだ……つまり耐え切れれば勝てるのだと。

だが、ジンは其れだけで飽き足らず、なんと黒龍波を押し返し始めたのだ。

圧倒的な体格とフィジカルがあるからこその力技だが、遂にジンは黒龍波を押し返し、黒炎の龍はアインスに向かって行く。

まさかの黒龍波の押し返しであり、其れを喰らったアインスはKO間違いなしだろう。

だが、押し返された黒龍波を見たアインスは口元に笑みを浮かべると、右手を前に差し出して黒龍波を受け止めた――だけでなく、受け止めると同時に黒龍波は消え去ったのだ。

此れだけならばアインスが押し返された黒龍波をレジストしたに過ぎないのだが、ジンには黒龍波がただ霧散したのではなく、アインスに吸収されたように見えた。

 

 

「ふむ、中々に旨かった。」

 

「お前さん、ソイツは……」

 

 

そして其れは正しかったらしく、黒龍波を霧散させた後のアインスには黒炎のオーラが発生していた。

 

 

「炎殺黒龍波は只の攻撃技ではない……黒龍波を自らに取り込む事で其の力を爆発的に高める事が出来る、一種の『餌』なのさ――黒龍波を取り込んだ私は、さっきまでよりも可成り強いぞ?」

 

「まさか、押し返した事が仇になるとはな……」

 

 

其処からはアインスの猛攻が始まり、反撃すら許さない猛ラッシュでジンのLPを削って行き、ハイキックからの踵落としで強引にガードを抉じ開けると……

 

 

「おぉぉぉ……此れで終わりだぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

見様見真似で会得した大蛇薙を黒い炎で放ってジンのLPをゼロにして試合終了!

アインスの二人抜きでロレントチームが一歩リードしたように見えるが、炎殺黒龍波を使った以上、黒龍波を食ったとは言えアインスは使用後の強制睡眠となるので試合は強制的に大将戦に。

 

 

『ケン・マスターズが先手を取ったと思ったら、今度はアインス・ブライトが怒涛の二人抜き!

 だが、アインスは此処で京にタッチし、試合は第四ラウンドで大将戦と言う異例の事態に!だが、泣いても笑っても此れがKOFチーム戦のラストバトル!

 『永遠の挑戦者』ことリュウが勝つのか!其れともディフェンディングチャンピオンである『炎の貴公子』こと草薙京が勝つのか!

 果たして、勝利の女神は何方に微笑むのか!決勝戦ファイナルラウンド!リュウvs京!This is gonna be a match to remember!Fight!!』

 

 

そして、MCさんの掛け声と共に、KOFのラストマッチが其の幕を上げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter62『The King Of Fighters Final Much!』

京とリュウの戦い……京とリュウ……恐竜の戦いか!Byなのは      其れは、違うと思いますよ?Byクローゼ


遂にKOFのチーム戦も決勝戦の大将戦に。

デュナン時代からの武術大会からの三連覇が掛かっている京と、カルバートからやって来た飽くなき武の探求者であるリュウの戦いはKOFのラストバトルに相応しいと言えるだろう――京もリュウも此処まで無敗なのだから。

 

 

「遂に決勝戦か……何方が勝ってもおかしくない試合ではあるのだが、私がリベールの王となって初めての大会故、リベールの民である草薙京に勝って欲しいと思ってしまうのは、王としてあるまじき公平を欠く思いだろうか?」

 

「其れは、致し方ないと思いますよなのはさん……王と言えども人間ですので、自国民の勝利を願うのは当然の事ではないかと思います。」

 

「そうか……して覇王よ、お前は此の試合をどう見る?」

 

「準決勝で使った強化状態があるから草薙京……と言いたい所だが、正直予測が出来ないと言ったところだな。

 真っ向から戦えば恐らくは草薙京が優勢だろうが、もしも彼が過去二回の優勝でうかれて僅かばかりでも慢心しているのだとしたらリュウが圧倒的に勝つだろうな。」

 

「……僅かばかりの慢心でも、そんなモノがあったら準決勝で暴走した八神庵に喰い殺されてると思います。DSAAルールなので死なないでしょうが。」

 

「喰い殺すって……若干否定出来ませんね庵さんの場合。」

 

「奴は肉食獣か……」

 

 

貴賓席ではなのは達がこんな事を話していたが、フィールドでは京とリュウが向き合い、試合開始が宣言されていた事もあり何時何方が飛び出してもオカシクナイ状況である。

すると何を思ったのか、京は指先に炎を宿し……

 

 

 

――ボッ!

 

 

 

其れをリュウの顔を掠めるように飛ばす……普通ならば驚いてしまうところだが、リュウは微動だにしない。

 

 

「ふん、此の程度じゃ動じないか……本気で行くぜ!」

 

「受けて立とう……来い!」

 

 

そして京もリュウも一気に闘気を爆発させ、互いに一足飛びで距離を詰め京の横殴り気味のフックとリュウのストレート、リュウの足刀蹴りと京のミドルキック、京のアッパーとリュウの鎖骨割り、此れ等の技がかち合い、しかし何方かが押し切る事は無く互角の結果に。

 

 

「甘いな?」

 

「ふ、本気を出せ!」

 

「……燃やすぜ!」

 

 

だがこの攻防はあくまでも小手調べであり、本番は此処からなのだが、其れでも観客を湧かせるには充分なモノであり、グランアリーナは大将戦の序盤からヒート120%の状態となっていた。

 

 

「まさか草薙柴舟が出て来るとは予想していなかったね……山崎君は軍と遊撃士に顔を覚えられてしまったから乱入は最早望めないが、さて如何するかドクター?」

 

「安心してくれたまえプロフェッサー。

 策は二重三重に備えていればこそだ……『彼』の身体が完成したのでね、その身体を試運転して貰おうじゃないか?……精神体として存在している者の身体を作ると言うのは中々に貴重な経験だったね。」

 

「そうか、彼が……とは言え、決勝戦に水を注すのも悪いから、彼の登場は決勝戦が終わってからにしようか?……肉体がなくとも精神体となって生きる魔人ベガ、其の力、見せて貰うとしよう。」

 

 

そして其の裏では、プロフェッサーとドクターによって山崎の乱入以上の悪意が画策されていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter62

『The King Of Fighters Final Much!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

決勝戦・大将戦の戦いは序盤から全力の戦いとなり、先ずは近距離での激しい攻防が展開されていた。

ラッシュ力ならば京の方が上だが、リュウは京の攻撃を的確に捌きながら重い一発を繰り出す……が、京は其の攻撃を躱すとカウンターの肘打ちを繰り出す!完全なカウンターなので、これは対処し切れないモノなのだが……

 

 

「昇龍拳!」

 

 

リュウは其れに昇龍拳を合わせて京を吹き飛ばし、先にLPにダメージを与える結果になった。

 

 

「俺の拳を試すか!」

 

「ちぃ……!」

 

 

其処から再び近距離での格闘戦が展開され、互いの拳がかち合った衝撃で間合いが離れると、京は闇払いを、リュウは波動拳を放ち、そして其れは相殺して再度格闘戦に持ち込まれたのだが、今度は京がリュウの反撃を許さないレベルでの猛烈なラッシュ格闘を仕掛けて来た。

矢継ぎ早に放たれる流れるようなラッシュにリュウは直撃を喰らわないようにガードを固めたのだが、京は蹴り上げで強引にガードを抉じ開けると……

 

 

「ボディが、お留守だぜ!」

 

 

荒咬み→九傷→七瀬のコンボをブチかましてリュウを吹き飛ばす。昇龍拳で先手は取られたが、此れでイーブンと言ったところだろう。

 

 

「火達磨になりたいのか?」

 

「ふ、掛かって来い!」

 

「行くぜ……そりゃ、そりゃ、そりゃ!!」

 

「ふ、竜巻旋風脚!」

 

 

追撃として繰り出された朧車は、リュウが的確に捌き、技後の隙に竜巻旋風脚を叩き込む。

だが、其れで怯む京ではなく、空中で受け身を取ると奈落落としを繰り出してリュウをフィールドに叩き付け、追撃に砌穿を食らわそうとするが、リュウは其れを転がって回避すると、一気に気を高め、京もそれに呼応するように気を高める。

 

 

「真空……波動拳!」

 

「おぉぉぉ……喰らいやがれぇ!!」

 

 

放たれた大蛇薙と真空波動拳は、巨大な炎と極大の気功波がぶつかり合い、何方も退かずに拮抗した末に臨海に達したエネルギーが爆発して京とリュウの双方のLPを削る結果に。

爆発によって生じた煙によって一時的にフィールドは視界が効かなくなってしまったのだが、視界が回復すると同時に動いたのは京だった。

 

 

「うおぉぉぉりゃあ!燃えろぉぉぉぉ!!」

 

 

一気に間合いを詰めると、琴月 陽でリュウを派手に燃やす!

だが、リュウも負けてはおらず、空中で受け身を取ると其処から真空竜巻旋風脚を繰り出して京にダメージを与える――正に何方も一歩も退かない決勝戦の大将戦に相応しい戦いが展開されていると言えるだろう。

 

 

「このままじゃ削り合いの泥仕合か……なら、切り札を使わせて貰うぜ!」

 

 

此処で京が無式の力を己に融合した状態となり、髪が赤みを帯びその背には銀の炎の翼が現れる。

 

 

「其の姿、実際に対峙してみるとドレだけの力があるのかが良く分かるが、君のその姿が俺にヒントをくれた。」

 

「なんだって?」

 

「俺は、殺意の波動を宿している……そしてかつての俺は殺意の波動を制御出来ずにいた。

 一度殺意の波動に目覚めれば、その殺戮衝動に飲まれ、己の闘争本能のままに死の拳を振るっていた……故に、俺は殺意の波動を克服しようとしていたんだが、ドレだけ修行を重ねても殺意の波動を克服する事は出来なかった。

 だが、君がマギア・エレベアを応用した強化状態を披露したのを見て、俺は殺意の波動は克服しなくても良いのだと悟った……克服するよりも、殺意の波動も己の一部だと認めて、其の力を我が物とする事が正解なのだと。

 そして、辿り着いた答えが此れだ!」

 

 

だが此処でリュウも土壇場で辿り着いた『答え』を発動し、其の身に稲妻のようなオーラを纏う。

己の中にある殺意の波動を否定せずに受け入れ、そして其れを自らに取り込む事で己の力と化したのだ――一夏とは異なるが、リュウは殺意の波動を己の力として受け入れる事で『電刃錬気』の境地に至ったのである。

 

 

「一夏の奴とは違うが、電刃錬気って奴か……上等だ、俺の炎とアンタの雷、どっちが強いか勝負だ!」

 

「応!!」

 

 

炎の京と雷のリュウの戦いは此れまでよりも激しさを増し、銀の炎と金色の雷によって植え直した人工芝が瞬く間に焼け焦げてフィールドは土が晒されたのだが、京もリュウもそんな事はお構いなしに互いの力をぶつけ合う。

 

 

「受けろ、此のブロウ!!」

 

「真・昇龍拳!」

 

 

小細工無しの真っ向勝負は観客のヒートを更に高めて行き、アリーナの熱気は留まるところを知らないと言った感じで、観客席を回っている売り子の女の子達は一気に忙しくなった……ビールやドリンク、アイスの注文がひっきりなしに飛んでくるのだから。

 

 

「フィールドと観客席の間にある不可視のシールド、不動兄妹に依頼しなかったらとっくに吹っ飛んでいたかも知れんな……このシールドはエクゾディアの一撃すら防ぐのではなかろうか?」

 

「エクゾディアを防がれたら少し凹みますよ……」

 

「俺の断空拳を防げるかどうか試してみるか?」

 

「試さなくて良いです。大人しく観戦していて下さい兄さん。」

 

 

不動兄妹が作った観客席とフィールドを隔てている不可視のシールドが無かったらトンデモナイ事になっていただろうが、逆に言えばこのシールドがあるからこそ武闘家達は己の力を120%発揮出来ると言っても良いだろう。

正に手加減不要の全力の戦い。互いに高めた技と力のぶつかり合い。鍛え抜いた己の武を全てもってしての全開バトル……そして、互いに『負けられない。』、『勝ちたい。』と言う思いと意地の正面衝突!

天才型でも研鑽を怠らない京と、あくまでも泥臭くストイックに己を鍛えてきたリュウは全く逆の武闘家人生を歩んで来たが、何方も格闘技に対する真剣さは同じで、真逆の武闘家人生を歩んで来たからこそ、いざ試合となるとこの上なくかみ合うとも言えるだろう。

 

 

「へへ、八神との戦い以外は最近退屈な戦いばっかりだったんだが、アンタとは久しぶりに楽しい戦いが出来たぜ……泥臭く鍛えた拳ってのも中々良いモンだ。」

 

「君こそ、その若さで大したモノだ……伝説にその名を残す草薙の拳、堪能させて貰った。」

 

 

だが、試合である以上は何時かは終わりが来るモノであり、強化状態で殴り合っていた京とリュウのLPは互いにオレンジゾーンとなり、大技が一発決まれば其処で終わりと言うところまで来ていた。

互いに持てる技は略出し切った状態なのだが、此処でリュウが腰を落としてスタンスを広めにとって拳を構えた。――そう、二回戦で極限流チームのリョウ・サカザキを下した『風の拳』の構えだ。

 

 

「風の拳、だったか?」

 

「今の俺が放てる最高の一撃必殺。此の拳、受けてくれるか?」

 

「良いぜ……なら、俺もソイツには応えないとな!」

 

 

其れに対し、京は強化状態の力を右の拳に集中させて銀色を帯びた紅蓮の炎を拳に宿すと、腰を落として体を捻って振りかぶるように拳を構える――無式と並ぶ草薙流のもう一つの最終決戦奥義『十拳』の構えだ。

そして互いに拳を構えた状態で闘気を高め、同じタイミングで拳が繰り出された!

互いの右の拳がぶつかり、しかし何方かが押し切る事は無く完全な拮抗状態となって拳の一点による押し合いに!

点をずらして一撃を加えると言う選択肢もあるのだが、京もリュウもそんな考えはなく、この拳の一点による押し合いを制してこそ真の勝利だと考えており、だからこそ真っ向から其の力をぶつけ合う。

 

 

「(俺は見たい、この拳の先に何があるのか……だから、俺は勝って見せる!)」

 

「(コイツはマジで強いな……だが、八神にあぁ言った手前、俺に負けは許されねぇ……だから勝たせて貰うぜ!此処で、一気に力を解放してやる!!)」

 

 

互いに己の意地をぶつけ合う力比べは、此処で京が動いた。

右の拳に集中していた力を一気に解き放ち凄まじいまでの炎が拳から吹き上がる!

 

 

「!!」

 

「おぉぉぉぉぉ……燃え尽きろぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 

其のまま京は一気に拳を振り抜き、同時に凄まじい爆炎が巻き起こり、グランアリーナのフィールドを包み込み、更に空に向かって炎の渦が立ち昇る!……グランアリーナの上空を飛んでいた数羽の鳥が焼き鳥になってしまったが、此れは不可抗力と言えるだろう。

 

その凄まじい爆炎が治まると、フィールドでは拳を振り抜いた状態で京が立っており、リュウはフェンスまでフッ飛ばされてダウンしLPがゼロになっていた……KOFの決勝戦は此処に決着したのだ。

 

 

『けっちゃーく!!The King Of Fighters第一回大会のチーム戦を制したのは、エステル・ブライト、アインス・ブライト、草薙京のロレントチーーーム!!』

 

「へへ……燃えたろ!」

 

 

此れにてエステル、アインス、京の三人はデュナン時代の武術大会から合わせての大会三連覇となり、KOFの初代王者チームとなったのだった。

 

 

「……負けてしまったか……」

 

「アンタが電刃錬気にもっと早く開眼してたらヤバかったかもな……今回は、強化状態の練度で俺の方が上だった、勝敗を分けた要因を上げるとすれば多分それだろうな。つか、其れ以外に思い付かねぇ。」

 

「なら、更に修行を積んで己を高めるのみ……また俺と戦ってくれ。」

 

「あぁ、楽しみにしてるぜ!」

 

 

身体を起こしたリュウに京が近付き、リュウも起き上がると、互いに拳を合わせた後にガッチリと握手を交わして再戦を約束し、その瞬間に会場からは割れんばかりの拍手と歓声が沸き起こる。

こうしてKOFの第一回大会は全ての試合が終わり、残るは表彰式と閉会式のみで、其れが終われば王城と王城前の広場を解放した後夜祭が行われるのだが――

 

 

「教授とドクタァはなぁかなかの身体をぉ用意してくれたようではぬぁいか……其のちかるぁ、さっそくたぁめさせてもらうとすぃよう!」

 

 

此処でグランアリーナの上空から赤い軍服の様な衣装に身を包んだ男が闇色のオーラを纏ってフィールドに降り立った――此の男こそが、プロフェッサーとドクターが山崎以上の乱入者として用意していた魔人、ベガ。

気や魔力とも異なる『サイコパワー』を操り、そのサイコパワーに己の意思を宿し、例え肉体が滅んでもサイコパワーの状態で生き続け、新たな身体に宿る事で更なる力を発揮する不滅の魔人が、最高の試合が終わったグランアリーナのフィールドに降臨したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter63『Destroy the innocent intruders』

無粋な乱入者、取るに足らんなByなのは      彼等では役者不足かも知れませんねByクローゼ


KOFのチーム戦は激闘の末に京率いる『ロレントチーム』が初代王者となったのだが、その直後に乱入して来たのは、個人戦で乱入して来た『火引弾』とは比べ物にならないほどの存在だった。

赤い軍服の様な衣服を身に纏い、更には闇色のオーラを醸し出している……只者でないのは間違いないだろう。

この突然の乱入者に対し、京とリュウ、そしてエステルもやる気は満々なのだが、ダメージエミュレートが解除されれば試合のダメージは無くなるとは言え、疲労まで消す事は出来ないので、可成り不利な戦いになるのは間違いないだろう。

 

 

「此処で乱入者とは……リシャール大佐達を呼びますかなのはさん?」

 

「其れには及ばんよクローゼ……こんな事もあろうかと、私はアイツが個人戦にエントリーする事を認めたのだからな。」

 

 

この事態に、クローゼはリシャールを呼ぶかと言ったが、なのはは其れには及ばないと答え、更にはこのような事も考えて、個人戦にある者をエントリーする事を認めたと言って来たのだ。

KOFの個人戦にも相当な実力者がエントリーしていたのだが、その中でなのはが直々にエントリーを許可したと言うのは……

 

 

「決勝戦後に現れるとは、些か無粋ではないかな?

 見事な戦いを披露してくれた彼等に対して申し訳ないとは思わないのかね?……否、無粋な乱入者に其れを聞くと言うのは愚問だったか……だが、君の相手に彼等は勿体ないと言うモノだ。」

 

「きぃすわまぁ、ぬぁにモノだぁ?」

 

「魔王が一人、ルガール・バーンシュタイン。以後お見知りおきを。」

 

 

魔王の一人であるルガールだった。

嘗ては悪魔将軍に次ぐ戦闘力の高さだったが、オロチの力を手に入れてからは悪魔将軍に匹敵する力を得て、更に殺意の波動をも宿したルガールの戦闘力は、殺意の波動を解放すれば悪魔将軍をも上回るだろう。

其れだけの力を持ったルガールがKOFに参加したら確実にバランスブレイカーになるのだが、其れでもなのはがエントリーを許可したのは万が一の事態に備えての事だったのだ。

 

 

「オイオイ、イキナリ現れて主役掻っ攫う気かよアンタ?あんな奴、魔王であるアンタが出るまでもないだろ?」

 

「いやいや、栄えあるKOFの初代王者チームに無粋な乱入者の相手はさせられまい?

 それにだ……私はこのような事態が起きた時に真っ先に対処する事を条件になのは君に大会へのエントリーを認めて貰ったのでね……その約束を果たさぬ、と言う訳にも行くまい?――魔族にとって約束を違えるのは万死に値する事だからね。」

 

「そう言われたら何も言えねぇんだけどよ……まぁ、アンタなら大丈夫だろうから心配はしてねぇけどな。」

 

「だが、奴の纏っている力は殺意の波動に匹敵する闇の力だ……くれぐれも油断するなよ!」

 

「ご忠告痛み入るリュウ君。……ふむ、ならば其の力も私が取り込んでくれよう!」

 

 

京としては少しばかり不満があった様だが、こう言われてしまっては引き下がるしかなく、京もリュウもこの場はルガールに任せる事にした――KO負けを喰らったエステルとケンとジン、炎殺黒龍波後の強制睡眠に陥ったアインスはそもそもこれ以上の戦闘は不可能だったのだが。

 

 

「キヒヒヒヒ……まさか地下から此処に潜り込む事が出来るとは思わなかったぜ……あの親父には邪魔されちまったが、こうして暴れる機会が来るとはツイてるぜ!」

 

 

だが、此処で更なる乱入者が現れた。

其れは決勝戦後の乱入を目論見たモノの、柴舟と京のクローンズによって其れを阻まれて逃走した筈の山崎竜二が、狂気の笑みを浮かべてグランアリーナのフィールドに現れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter62

『Destroy the innocent intruders』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベガに続いて山崎のまさかの乱入。

如何にルガールと言えども二人を同時に相手するのは厳しいモノがあるのだが、なのはが特別にエントリーを許可したのはルガールだけではない――もう一人、直々にエントリーを許可した者が居るのだ。

 

 

「外道の気配を感じたと思ったが、まさかこれ程の外道が現れるとはな……貴様、己の享楽の為に人の命を奪う事を厭わないな?」

 

 

其れは『鬼』である稼津斗だ。

稼津斗もまたルガール同様、KOFに参加したら完全なバランスブレイカーになるのだが、これまたルガールと同じ理由で大会へのエントリーを許可されていた……此の特別エントリーの魔王と戦ったレーシャと、鬼と戦った空は夫々己の殻を破って成長したので、緊急時の対応以外にも稼津斗とルガールがKOF個人戦にエントリーした意味は大きかったのかもしれないが。

 

 

「アンタが、鬼か……」

 

「お前達の技、恐らくは『俺は教えん、見ていたければ見ていろ』と言って実際に俺の側で見ていた連中の一人が武術として昇華させた物だろうが、其れだけに少し綺麗に纏まり過ぎてるな?

 武に携わった時間の差で一夏と刀奈には勝てたようだが、真の鬼の技には程遠い……真なる鬼の技を其の目に焼き付けておけ。」

 

「真の鬼の技……あぁ、この目に焼き付けさせて貰おう!」

 

 

山崎には稼津斗が対処する事になり、フィールドは決勝戦後のエクストラマッチとなった。

 

 

「君の死に場所は此処だ!」

 

「此のベェガ様にすわぁからおうと言うのか……ムゥッハァーー、かぁた腹痛いわぁ!!」

 

「ハンデだ、使えよ!」

 

「我、拳武器故刃物不要!」

 

 

戦いが始まると同時にルガールは殺意の波動を発動して『ゴッド・ルガール』となり、稼津斗もオロチの力を全開にして『神・豪鬼』となり、稼津斗は山崎が投げ寄こした匕首を拳で叩き折ると言う事までやってのけた。

数ある刀剣類の中でも無類の強さを誇る『刀』と同じ製法で作られた匕首を叩き折るとは、稼津斗の拳の強さはハンパなモノではないだろう。

 

そうして始まった戦い、先ずはルガールvsベガ。

互いに身長が190cmを超える巨体であるのだが、ベガはその巨体からは想像も出来ないような身軽さで動き回り、ルガールを翻弄しようとしたのだが、『ゴッド・ルガール』となったルガールもまた、ルガール版阿修羅閃空の『ゴッドレーン』があるので地上での機動力は互角だった。

だがベガはルガールよりも跳躍力があり、遥か上空から高速ダイブで突進するサマーソルトスカルダイバーを仕掛ける。

 

 

「其れは読めていた……ジェノサイドカッター!ワッハッハ!!」

 

 

其れに対しルガールはジェノサイドカッターで迎撃し、更にグラヴィティスマッシュを叩き込み、着地と同時にゴッドプレスでアリーナのフェンスにベガを叩き付ける!並の相手ならば此れでKOされていただろう。

 

 

「すわぁすがは魔王……くおぉれくらいの実力がなくては興醒めと言うもぬぉ!!」

 

「口は達者なようだが、君の弱さは失礼だと思うのだがね?」

 

「ほざけぇい!」

 

 

ダウンから復帰したベガは、ベガワープで一瞬にして距離を詰めると、其処からボディブロー→ダブルニープレス→サイコブロー→サイコクラッシャーの連続技をルガールに喰らわせる。

其れを喰らってもルガールはダウンしなかったのだが、其れをベガは強引につかむとデッドリースルーで投げ飛ばす。――が、投げられたルガールは空中で受け身を取るとゴッドレーンで間合いを詰め、肘打ち→裏拳→ダブルトマホーク→ビースデストラクションと繋ぎ……

 

 

「君の死に場所は此処だ!はっはっはっはっは!!」

 

 

ベガを片手で持ち上げるとオロチの力と殺意の波動を複合した闇の力による気の柱での攻撃を喰らわせる!その気の柱には髑髏の紋様が浮かび上がっているのが何とも印象的だ。

プロフェッサーとドクターが作り上げた身体は最高クラスの物だったのだろうが、其れでもオロチの力と殺意の波動を宿した魔王の前では脅威になるモノではなかったようだ。

 

 

「くぅらえぇい!サイコクラァァァァァァァァァ!!」

 

 

此処でベガは、ベガワープからサイコパワーを全身に纏って突撃する『ファイナルサイコクラッシャー』を放って来たのだが、ルガールはゴッドレーンで其れを余裕で回避し、攻撃後にベガワープで現れたベガに音もなく近付き……

 

 

「ルガールさん、やっちゃえーー!!」

 

「此の声援を受けてはやらずには居れないな?逃がさん……ハッハッハァ!!」

 

 

レーシャの声援を受けて、ルガール版瞬獄殺、『ラスト・ジャッジメント』をブチかましてターンエンド!

『死者の魂すら殺す』殺意の波動の最終奥義である瞬獄殺を喰らったベガは其のままゲームエンドになったのだが、サイコパワーによって精神体として生きているベガにとっては身体の崩壊は大した問題ではなく、同時にプロフェッサーとドクターにとっても、今回の戦いのデータはベガの新たな身体を作る上での重要なモノとなったので此度の敗北は其れほど痛手ではないのかもしれない。

 

 

同じ頃行われていた稼津斗と山崎の戦いはと言うと――

 

 

「ちぃ、動きが掴めねぇ!何処に居やがる!」

 

 

阿修羅閃空で滑るようにフィールドを移動する稼津斗の事を山崎は捉え切れずにいた。

元々阿修羅閃空は残像を残す程の高速移動をしながらも一切音を立てずに滑るように移動する移動術なのだが、オロチの力を得た稼津斗の阿修羅閃空は更に洗練され、移動時の残像の数が増えて幻惑の効果が高まり、更に移動速度も増した事でより捉える事が困難になっていたのだ。

 

その阿修羅閃空で山崎を翻弄した稼津斗は、鋭いジャンプから二連発の斬空波動を放つと同時に天魔空刃脚で山崎を強襲し、着地と同時に下段の足刀蹴りを放って山崎の体勢を崩すと、其処に竜巻斬空脚を叩き込み……

 

 

「滅殺……剛斬空!」

 

 

追撃に天魔剛斬空・吽形をぶちかます!

無数の斬空波動を放つ天魔剛斬空とは異なり、天魔剛斬空・吽形は極大の気功波を放つ技であり、単体の相手には此方の方が強い――気功波なので攻撃範囲は気弾の拡散には劣るが、その分一点の破壊力は大きく上回るのだ。

 

 

「しゃらくせぇ!返すぜオラァ!!」

 

 

しかし山崎は腕を振り払うようにしてその気功波を打ち返して来た――『倍返し』と言う、相手の気弾や気功波を倍の威力にして打ち返すと言う、覇王流の旋衝破の上位互換版の様な技だ。

自分の放った気功波が倍の威力になって戻って来たとなれば相当に脅威だろうが、稼津斗は焦る事なく滅殺剛螺旋で更に上昇して打ち返された天魔剛斬空・吽形をやり過ごし、其処から殺意の波動を込めた手刀、『禊』で山崎を強襲!

 

其れに対して山崎は蛇使い・上段で応戦するが、全体重と落下速度が乗った手刀と関節を外してリーチを稼いだパンチでは重さが違い、蛇使いを弾かれる形で山崎が押し負け、稼津斗は着地と同時に足刀蹴りの様な足払いで山崎の体制を崩し、同時に気を解放する。

気を解放すると稼津斗の分身が三体現れ、稼津斗の行動を一体目、二体目、三体目と夫々少しだけ遅れてトレースし、結果として本来ならば単発の攻撃が連続攻撃となり、多段ヒットする技は更にヒット数が増え、特に『神・豪鬼』となった事で二発発射になった斬空波動は凶悪極まりない……タイミングを微妙にずらして降り注ぐ八発の気弾は相当なプレッシャーになるのだから。

 

 

「畜生が……此れが鬼って奴か……!」

 

「そう言うこった……そんでテメェはオロチだな?

 大蛇でも鬼には勝てねぇって事なんだが……テメェがオロチってんなら俺が出張らねぇ理由はねぇ――オロチを見過ごしたとなったら、草薙の名が廃るからな!」

 

「俺が暴走したのは貴様が原因だったと言う訳か……京との戦いに水を注した報い、受けて貰うぞ!」

 

「テメェ等は!」

 

 

更には此処で京と、何処からやって来たのか庵が参戦。

ベガの方は兎も角、山崎の戦いを見て『オロチ』だと気付いた京と庵は其れを見過ごす事は出来なかった――庵にとってはオロチは八神の力の一端なのだが、其れでも忌々しい存在であり、滅してしまいたい相手でもあるのだ。

 

 

「リュウとの試合で疲れちゃいるが、テメェ一人をぶっ倒す一撃を放つ位ならまだ出来るぜ!ブチかますぞ八神!」

 

「ふん、偶には貴様に合わせてやる!おぉぉぉぉ……楽には死ねんぞぉ!!」

 

「おぉぉぉぉぉぉ……此れで終わりだぁ!!」

 

 

庵が八酒杯を放って山崎の動きを止め、其処に京が大蛇薙を叩き込んで山崎は其の身を派手に燃やされ……そして何者かが発動した転移魔法によって其の場から消えた――山崎は八傑集の中でも末端ではあるが、『オロチは八尺瓊の炎で動きを封じられ、草薙によって薙ぎ払われた』と言う伝承を再現した形になったのだった。

 

 

「ほら、大丈夫だっただろ?」

 

「稼津斗さんとルガールさん、あの二人が出て来たらもう何が出て来ても大丈夫な気がしてきました。」

 

「仮にあの二人の手に余る相手が現れたとしても、其の時はお前がエクゾディアを召喚すれば大概何とかなるだろうからな……今更だが、最早今のリベールには敵はいないのではないかと思って来た。」

 

「魔王と鬼……ちょっとだけ、本当にちょっとだけ、五分だけで良いから戦わせてくれないか!?」

 

「兄さん……ダメです!国賓が大会に乱入ってどんな不祥事ですか其れは!」

 

「……まぁ、お前の気持ちも分からんから覇王、KOFの後夜祭が終わったらグランアリーナを訪れると良い――お前の為に『裏KOF』を開催し、私が考え得る最強の軍団を用意してやる。」

 

「其れは期待しているぞ!」

 

 

ともあれ、無粋な乱入者は見事に撃退され、其の後は恙無く表彰式と閉会式が行われ、表彰式ではKOFチーム戦の初代王者に輝いたロレントチームの面々が、京が右の拳を高々と突き上げ、アインスは背を向けた状態で後ろを振り返りながらサムズアップし、エステルは棒術具を小脇に抱えてウィンクしながらピースと異なるポーズを決めて会場を沸かせ、その光景をドロシーが秒間十五連射の超高速連写を行い、ナイアルはメモ帳にペンを走らせていく――明日、リベール通信の特別号が出るのは確実なのだが、其れに先立った号外の発行もあるので必要な事を兎に角メモしているのだ。

 

 

「ふむ、山崎君だけでなくベガもやられてしまったか……此れは少しばかり計画の修正が必要かも知れないが、まさかて慰みに作った彼女が魔界の炎を修得していたと言うのは嬉しい誤算だった――とは言え、今回は此処までとしておこうかドクター?

 此れ以上は流石に過干渉となり、私達の存在が露呈しかねないからね……彼女達を迎えに行くのはまたの機会にしよう。」

 

「実に残念だが、そうするしかないようだ……だが、良いデータは取れた……これ等のデータをジェインの剣に流し込んだら、とても面白い事になるとは思わないかプロフェッサー?」

 

「ククク……其れは私も同じ事を考えていたよ。」

 

 

其の裏でプロフェッサーとドクターは、『此れ以上の介入は得策ではない』と考えて、転移魔法でグランアリーナから去って行った……ドクターの手には、ライトロードの聖騎士であるジェインの剣が握られており、其れを使って何かをする心算なのだろうが、其れが何であるのかは彼等にしか分からないだろう。

 

ともあれ、KOF第一回大会は終了し、個人戦では空が、チーム戦では京、アインス、エステルのロレントチームが初代王者に輝いたのだった。

 

 

そしてその夜、王城前広場と空中庭園では国民参加OKの無礼講の『KOF後夜祭』が行われ、王城前広場では屋台にて王宮料理が振る舞われ、空中庭園ではビュッフェ形式の立食パーティが行われ――

 

 

「「イェーイ!!」」

 

「ハァハッハッハァ!!」

 

 

豚の骨付きもも肉のローストを手にした庵とエステルとグリフィンが盛大に乾杯して豪快に巨大な骨付き肉を平らげていた……普通ならドン引きする光景なのだが、此処まで来るといっそ感動すら覚えると言うモノだろう。

 

 

「エステルさん、相変わらず豪快っすねヨシュアさん?」

 

「其れとタメ張れるグリフィンも大概だと思うよ一夏?」

 

「楽しそうだな八神……まぁ、お前の場合宿命とか色々あったからなぁ……精々祭りを楽しめや。」

 

 

取り敢えずこの宴は夫々が楽しんでいるようであり、ナイアルとドロシーが空やロレントチームの面々にインタビューする姿も見受けれたが、其れすらこの宴をより良いモノとしているくらいだった。

 

 

「KOF第一回大会は大成功、ですね?」

 

「あぁ、そうだな。」

 

 

なのはとクローゼもワインの入ったグラスで軽く乾杯すると、この宴を楽しんだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、その宴が終わった後のグランアリーナでは……

 

 

「滅殺……!」

 

「お手並み拝見と行こう!」

 

「イカレタパーティの始まりだ!」

 

「見せて貰うぞ、お前の力を。」

 

「遠慮はいらん……来るが良い。」

 

「此れは、楽しめそうだな……」

 

 

グランアリーナを訪れたクラウスの前には稼津斗、ルガール、ダンテ、レーヴェ、悪魔将軍というトンデモナイ面々が現れていた――此れこそなのはが言った『裏KOF』であり、正に最強の一団がクラウスの前に現れたのだ。

其処からは激しい試合が行われたのだが、此れだけの相手を一人で相手するのは無理ゲーであり、クラウスは悪魔将軍の地獄の断頭台で完全KOされてしまった。

だが、その顔には『満足出来たので悔いなし』との笑みが浮かんでいたので、取り敢えずは満足出来たのだろう。

 

こうしてKOFの第一回大会は幕を閉じたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter64『Am Crimson Tower ereignete sich ein Zwischenfall』

悪魔も泣き出す男……が借金に泣いていると言うのは……Byなのは      とっても笑えないと思いますByクローゼ


予想外の乱入者はあったがKOFは無事に終幕し、同時に乱入者が転移術で会場から消えた事で、乱入者には協力者がいて、乱入者は健在だと言う事を同盟国と共有し、其の後は平和な日々が続いていたのだが――

 

 

「陛下、少しお時間を宜しいでしょうか?」

 

「ユリア、何か急を要する事か?」

 

「はい……ツァイス地方の紅蓮の塔にて、新たな行方不明者が……」

 

「またか?今月に入って何件目だ?」

 

「既に四件目ですね……塔の内部には魔獣も生息していますから、訪れる際には遊撃士に護衛を頼むモノなのですが……出費を惜しんで、魔獣の餌食になってしまったのでしょうか?」

 

「確かに四件の内、一件は遊撃士に護衛の依頼をしていなかった事が分かっているのですが、残る三件は何れも遊撃士ではありませんが護衛が居たようだとの目撃証言がありますので、魔獣の餌食になったとは考え辛いのですが……」

 

「其れもそうだが、その行方不明者に関する手掛かりが一切ないと言うのも妙な話だ……仮に魔獣に襲われて命を落としたとしても、其処には何らかの痕跡が残る筈だからな?

 其れすらも無いとなると、魔獣が原因ではないのかもしれん。」

 

 

最近、ツァイス地方にある『紅蓮の塔』にて行方不明者が出ると言う事件が発生し、最初の一件が報告されてから一カ月の間に今回で四件目と、決して低くない頻度で発生しているのだ。

魔獣に襲われて命を落とした可能性も無くはないが、護衛を付けていた者が護衛ごと姿を消していると言うのは些か不可解であると言わざるを得ないだろう。

遊撃士ではないとは言え、個人で抱えている護衛も武術には精通し、魔獣相手に戦う事が出来る程度の戦闘力を有しているのが普通である事を考えれば尚更だ。

 

 

「魔獣ではないとすると、陛下は何が原因とお考えで?」

 

「魔獣よりも遥かに強大で強力な存在が紅蓮の塔に住み着いている可能性がある……だが、だとしたら此の件は遊撃士や軍よりも専門家に任せた方が確実と言えるかも知れん。

 クローゼ、ヴィヴィオ、ルーアンに行くぞ。」

 

「ルーアン?何しに行くの?」

 

「ルーアンに……成程、『彼』ですか。」

 

 

今回の件は『専門家』に任せた方が良いと判断したなのはは、クローゼとヴィヴィオと共にルーアンへと向かう事に。

その目的は只一つ、裏社会の便利屋達をして『悪魔も泣き出す男』、『生きる伝説』と言われている、『Devil May Cry』の店主にして、伝説の魔剣士・スパーダの血を引く『ダンテ』に今回の件の解決を依頼する為だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter64

『Am Crimson Tower ereignete sich ein Zwischenfall』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴィヴィオの『飛行船に乗ってみたい!』との頼みもあって、ドラゴンも飛行魔法も使わずに飛行船でルーアンに到着したなのは達は早速『Devil MayCry』までやって来て店の扉を開けたのだが……

 

 

「おや、なのはではありませんか?」

 

「なたねにネロ?お前達、こんな所でなにをやっているんだ?」

 

 

店内にいたのはなたねとネロだった。

話を聞いてみると、ライトロードとの戦いの後、二人はリベールを離れずにダンテの仕事の手伝いをしており、ダンテの代わりに受けた仕事では依頼料と仲介料を六:四で分けてダンテの金欠を解消しているとの事だった――腕が立つのにダンテが金欠なのは、依頼料と仲介料を九:一や八:二に設定した上で、コイントスで取り分を決めると言う、勝てばデカいが負けたら大損なギャンブルをして、勝率が一割以下でだからなのである。

其れに対してなたねとネロは『取り分は滅茶苦茶多くはないが確実に確保出来る』設定で依頼料を貰っているので、損する事だけは絶対になかった――移動式の便利屋をやって来た二人にとっては、確実な収入を得るのは絶対的に必要な事であったのだ。

 

 

「成程な……だが、お前達が元気そうで安心したよ。」

 

「なのはママの妹だから……なたね叔母ちゃんだね!」

 

「……出来ればお姉さんと呼んで欲しいです……」

 

「コイツは難しい問題だな……叔母さんの方が関係的には正しいんだが、なたねの歳で叔母さんってのもなぁ?」

 

「まぁ、其れはまたの機会に考えるとして、ダンテは如何した?彼に依頼したい事があって此処に来たのだがな?」

 

「あぁ、オッサンなら二階で寝てるから起こして来る。ちょっと待っててくれ。」

 

 

そして、なのはからダンテに用があると聞いたネロは二階に上がると……

 

 

「オラァ、何時まで寝てんだオッサン!王様が直々にアンタに依頼があるって来てくれたぜ!だからさっさと目を覚ませやぁ!!」

 

 

 

――バッキィィィ!!

 

 

 

ベッドで寝ているダンテに悪魔の右腕で渾身の一発を喰らわせ、其れを喰らったダンテはベッド諸共床をぶち抜いて一階にコンニチワと言う結果に……普通の人間だったら間違いなく死んでるだろうが、其れでも無傷な辺り悪魔の血を引いているのは伊達ではないようだ。

 

 

「なんとも刺激的な目覚ましだが……待たせちまったみたいだな王様?其れで、どんなご依頼で?」

 

 

そして、サラッと至極普通に対応するのがダンテの凄いところだと言えるだろう。

此の豪胆さと不死身っぷりも、裏社会の便利屋達が畏れる要因であるのかもしれないが。

 

 

「ツァイス地方にある紅蓮の塔にて行方不明者が出ているのは知っているか?」

 

「紅蓮の塔って、あの真っ赤な遺跡かい?紅蓮の塔は知ってるが、其処で行方不明者が出てるって事は知らねぇな……何だ、護衛もつけずに塔に入って魔獣にでも襲われたか?」

 

「一件はそうだが、他は違う……護衛が付いていたにも拘らず、その護衛共々行方不明となっている――となると、大凡魔獣が原因とは考えられん。

 此れはあくまでも私の予測に過ぎないのだが、紅蓮の塔には魔獣よりも遥かに強大で強力な『何か』が住み着いていて、其れが訪れた者達を襲っておるのではないかと考えているんだ……もしもそうだとしたら、如何だ?」

 

「そいつは、暇潰しにはなりそうだ。」

 

「お前ならばそう言ってくれると思っていた。

 だが、紅蓮の塔でこんな事が起きたとなれば翡翠の塔、琥珀の塔、紺碧の塔でも似たような事が起きないとも限らんのでな……翡翠の塔は、別途ロレントの方に依頼を出すとして、琥珀の塔と紺碧の塔の方も調査を頼みたい。

 報酬は、紅蓮の塔の件で百万ミラ、琥珀の塔と紺碧の塔で五十万ミラもあれば足りるだろうか?」

 

「OK、充分過ぎるぜ王様よ。」

 

 

報酬額が中々にぶっ飛んでいるが、国民の安全の事を考えれば此れ位の出費は逆に安いと言えるだろう。

報酬は充分で暇潰しにもなりそうだと言う事でダンテはなのはの依頼を快諾し、自身が紅蓮の塔に向かい、なたねは琥珀の塔に、ネロは紺碧の塔に向かう事になったのだが、なたねが琥珀の塔なのは、紺碧の塔は内部には水が多く、水属性の魔獣が多く炎属性のなたねでは不利だと考えたらだろう。適当に生きているように見えて、ダンテは意外と物事はちゃんと見ているのである。

 

ダンテへの依頼を取り付けたなのは達は、今度はロレントに向かって、エステルとヨシュア、そしてBLAZEのメンバーに翡翠の塔の調査を依頼していた――DevilMay Cryの面子には負けるかも知れないが、史上最年少でA級遊撃士となったエステルとヨシュアの実力は疑うべくもなく、またBLAZEのメンバーも全員がA級遊撃士に匹敵する力を持っているので問題はないだろう。特に志緒は、パワーだけならばダンテをも凌駕し、暴走庵の八稚女を喰らっても平然としている頑丈さがあるのだから。

 

そして、依頼を終えたなのは達はボースまで足を延ばして、レストランで家族団欒のランチを楽しんだ。

因みに、メニューはフルコースで、此れは良い機会だとなのはとクローゼはヴィヴィオにテーブルマナーを教え、ヴィヴィオも其れを速攻でマスターしたのだった。この学習能力高さもまた、ヴィヴィオの強みだろう。

本日のフルコースのメインディッシュは、『骨付き子羊肉の香草塩固め焼き』であり、柔らかく焼き上げられた子羊肉と香草の香りがベストマッチしていた逸品だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

依頼を受けて紅蓮の塔にやって来たダンテだったが、塔に到着するまでに魔獣に襲われはしたモノの、そんな魔獣は軽く蹴散らして塔内部に入り、塔を調べて行ったのだが、魔獣が住み着いている以外は特に何もなく、三階の一部屋を調べて出ようとしたのだが……部屋から出ようとした刹那、ダンテの横をナイフが通り抜けて行ったのだ。

 

何事かと思い、ダンテが振り返ると、其処には先程まで部屋の隅に転がっていた等身大の操り人形が立って動いていたのだ。

 

 

「マリネットか……悪魔でも最下級であるお前等が居るって事は、王様の予想は当たってたかもな!」

 

 

その正体はマリオネット。

人間の世界では姿を保つ事が出来ない最下級の悪魔が等身大の操り人形を依り代にして活動しているモノだが、其れでも素人には脅威の存在なのだ――だが、それもプロであるダンテからしたら準備運動の相手にならない雑魚でしかない。

 

 

「イカレタパーティは大歓迎だ!」

 

 

愛剣リベリオンを背中から抜くと、袈裟斬り→払い斬り→ハイタイムジャンプ→ハンドガン連射→エリアルレイヴ→ハンドガン連射→兜割りのコンボをマリオネットの群れにブチかますと、ネロから預かっている閻魔刀を取り出して、次元斬一閃!

その一撃でマリオネットの大群は文字通り糸が切れたように動かなくなり、全てがレッドオーブへと姿を変えた。

個々の能力は低くとも、徒党を組んで対象に襲い掛かる事で脅威となるマリオネットは、そうやって行方不明者達を葬って来たのだろうか?

 

 

「遊撃士や軍人じゃなくとも、護衛業をやれるだけの腕がありゃ、マリオネット如きにやられるって事はないと思うんだが……コイツは、こんな雑魚とは比べ物にならない『大物』が絡んで居やがるのかもしれねぇな?」

 

 

ダンテは『もっと大物が居るのかも知れない』と考えて紅蓮の塔を進んで行ったが、最初のマリオネットを皮切りに、三階の別の部屋ではマリオネットの上位種であるブラッディ・マリーの群れ、四階では仮面を依り代にして身体は霊体になっている巨大なハサミで襲い掛かって来るシン・シザースの群れ、五階では牛の頭蓋骨を依り代にした、依り代を必要とする悪魔の中では最強クラスのデス・サイズが襲い掛かって来た……シン・サイズレベルになると上級の遊撃士でも苦戦するレベルなのだが、歴戦のデビルハンターであるダンテにとっては、これまたウォーミングアップ程度の相手であり、依り代である牛の頭蓋骨に効果の薄い銃弾をリズミカルに撃ち込んで即興の音楽を奏で、投げ付けられた四本の巨大鎌をアグニ&ルドラの二刀流で弾き返し、竜巻攻撃にはケルベロスで氷を乗せた上で打ち返し、最後はデス・サイズの頭でエネミーステップで跳躍してから、其処からエアハイクで更に跳躍し、遥か上空から渾身の兜割りを叩き込んで頭蓋骨を木っ端微塵にしてターンエンド。

依り代を必要とする悪魔は依り代さえなくなってしまえばドレだけ強力であっても此方側の世界では存在出来なくなってしまうと言う訳である。

 

そうして屋上までやって来たダンテだったが……

 

 

「コイツは、小規模だが悪魔界化してやがるな?

 閻魔刀は俺が持ってるから強引に悪魔界と人間界を繋ぐ事は出来ない筈だが……となると、何らかの影響で自然に境界に綻びが出来たって、そう言う事か?だとしたら何が原因で……って、そう言えば此処って姫さんの精霊の一部が封印されてたんだよな?

 でもって先のライトロードとの戦いで姫さんは精霊の封印を解いた……まさかそん時に解放された精霊の魔力がデカすぎて境界の綻びが出来て、其れが何時の間にか此処までデカくなっちまったって訳か?

 だがまぁ、そう言う事ならその綻びを直してやりゃ良いだけの事だ。坊主から閻魔刀を預かっといて良かったぜ……『人と魔を分かつ刀』なら、繋がっちまった人間界と悪魔界を切り離すのは容易だからな……其の力を逆利用して、強引に繋ぐ事も出来るんだけどよ。

 取り敢えず、ビザなしの渡航はお断りだ。其処で大人しくしてな。」

 

 

其処で人間界と悪魔界を隔てている境界の綻びを見つけると、その綻びが何故生まれたのか見当を付けた後に、閻魔刀を一閃して綻び其の物を切り飛ばして人間界と悪魔界の繋がりを断つ。

繋がりが断たれた事で、悪魔界化していた屋上の様子も元に戻り、此れで一件落着――とは行かない。まだ紅蓮の塔で行方不明者が続出した元凶が分かっていないのだから。

 

 

「しかしまぁ、見れば見るほど不思議なモンだなこの塔は?

 この謎の装置みたいのは一体何なのか俺には皆目見当も付かないな……考古学の先生方なら色々と仮説を立てるんだろうが、生憎と俺には仮説も立てられねぇと来たもんだ――古代の英知にロマンは感じるけどよ。」

 

 

ダンテがそうして屋上を色々と探索していると、背中のリベリオンに突如魔力が迸り、剣に赤黒い稲妻が走る――ダンテも何かを感じたらしく、後ろを振り向いた次の瞬間、巨大な何かが目の前に降って来た。

 

 

『キシャァァァァァァァァァァァァァ!!』

 

 

其れは戦車に匹敵する程の巨大な蜘蛛の化け物だった。

強固な岩石の外骨格の間からは灼熱の溶岩が滾っている様が窺え、赤く染まった八つの目と、本来蜘蛛には無い尾――其れも、サソリの様な鋭い棘が付いた尾が特徴的だ。

その威圧感と魔力、纏ったオーラは依り代を必要とする下級悪魔とは異なり、『リベール革命』の際に地獄門を使って召喚された上級悪魔と同じモノであった。

 

 

『強い闘気を感じたと思ったが、人間か。』

 

 

その蜘蛛の化け物――上級悪魔『ファントム』はダンテへと詰め寄って来る。

巨大な蜘蛛の化け物が迫って来ると言うだけでも、普通に人間には恐怖の光景であり、遊撃士や軍人であっても恐怖に固まってしまうのは想像に難くない――尤もエステルや志緒ならば怯まずに対応してしまいそうな気もするが。

 

 

「なんだ化け物。筋肉以外にもちゃんと中身は詰まってるのか?」

 

 

そのファントムに対し、ダンテは目の前に突き立てられた足をドアをノックするように叩き、挑発するように言う。

ド派手な兄弟喧嘩を経て母の仇である魔帝を打倒したダンテにとって、悪魔を倒すのは最早趣味の領域になっており、其れだけに相手は強ければ強いだけ大歓迎なのである。

 

 

『ほざいたな!踏み潰してくれる!!』

 

 

ダンテの挑発に激高したファントムは、その巨体からは想像も出来ない位に跳躍し、全体重をもってダンテを押し潰さんとするが、巨体故に攻撃の軌道は丸分かり故にダンテは余裕綽々で回避し、屋上にある謎の装置の上に降り立つ。

 

 

「成程、行方不明者は全員この化け物に喰われちまったって訳か……だが、魔界との繋がりは斬り飛ばしたから、後はコイツをぶっ倒せば任務完了って奴か――否、依頼達成の方が正しいか?

 だがまぁ、取り敢えず百万ミラの報酬に相応しい奴が出て来てくれて良かったぜ……もしも元凶が取るに足らない雑魚だったら、俺も超高額な報酬を受け取るのを躊躇っちまっただろうからな。さぁ、ショータイムだ!」

 

 

あくまでもスタイリッシュに。

ダンテは装置からジャンプすると瞬間移動の一種である、ダウントリックでファントムの前まで移動し、不敵な笑みを浮かべて背からリベリオンを抜き、ショータイムを宣言し、紅蓮の塔の屋上で最強のデビルハンターと上級悪魔の戦いの火蓋が切って落とされたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter65『四輪の塔でのギリギリ限界全力バトル!』

Q:ピザの定番のトッピングを五つ挙げよByなのは      A:チーズ、サラミ、マッシュルーム、オニオン、アンチョビで如何でしょう?Byクローゼ     呼んだか?Byどこぞのドゥーチェ


なのはから直々の依頼を受けて紅蓮の塔にやって来たダンテは、その屋上で巨大な蜘蛛の姿をした大悪魔『ファントム』と対峙する事になった――ファントムの存在感は圧倒的で、並の人間ならばその覇気に押されて委縮してしまうだろうが、魔帝をも退け、今や殆ど趣味で悪魔を狩っているダンテにとっては脅しにもならず、テンションをブチ上げる要素でしかない。

振り下ろされたファントムのサソリの様な尾の攻撃に、ダンテはリベリオンで応戦し、それを合図に紅蓮の塔の屋上で激しい戦いが幕を上げる――とは言っても、ダンテにとっては趣味を楽しむ事に他ならないのだが。

 

 

「岩の身体とは随分と頑丈なモンだが、その超高熱は逆に弱点になるぜ?」

 

『むおわぁぁ!……貴様、ケルベロスを従えているのか!』

 

 

灼熱の溶岩の身体を岩で覆っているファントムは鉄壁の防御力がある悪魔なのだが、物理攻撃には強くとも、同クラスの悪魔の、特に相性的に不利な属性にはマッタクもって無力であり、絶対零度の冷気を宿したケルベロスの連撃を喰らったファントムは目に見えて動きが悪くなる。

 

 

「Are You Ready!?」

 

 

その隙をダンテは見逃さずに、一気に間合いを詰めると、真正面からファントムをリベリオンで斬りまくり、連続突きのミリオンスタブを喰らわせ、更に追撃としてケルベロスを展開してダイヤモンドエッジ→ミリオンカラットのコンボを叩き込んでファントムを屋上から叩き落す。

普通の人間ならば紅蓮の塔の屋上から落下したら絶体絶命なのだが、悪魔ならば大丈夫だろう――だが、此処でファントムにとっては不運とした言いようがない事態が待っていた……ファントムが落ちた先には、身体を槍状にして獲物が降って来るのを待っている魔獣の姿があり、ファントムはその上に落下して槍状の身体に其の身を貫かれる事になったのである。

 

 

『ぐわぁぁ……我が負けるなど……貴様、一体何者だ…………まさか、伝説の魔剣士スパーダ?』

 

「鋭いな?その息子のダンテだ……大人しく眠ってな。」

 

 

致命傷を受けたファントムは、ダンテの背後に『伝説の魔剣士』であるスパーダの姿を幻視し、そして絶命し朽ちて行った……悪魔界ではトップクラスの力を持つ大悪魔であっても、既にスパーダをも超えた実力を持つダンテの前では大した敵ではなかったようである。

 

 

「まさかの大物が居たが、これでもう紅蓮の塔は大丈夫だろ……姫さんの精霊召喚の影響もあったが、デュナンが地獄門を使って悪魔を呼び出した事で、リベールは悪魔界と繋がり易くなっちまってるのかもな?

 とは言え、人間界で依り代なしで活動出来る悪魔が出て来られるほどの綻びってのはそう簡単に出来るもんじゃねぇから他の三つの塔は多分居たとしても仮面を依り代にする奴が一番強いって感じだろうな……其れなら、俺が出向くまでもないだろう。なたね嬢ちゃんとネロは勿論、ロレントの戦力もぶっ飛んでるからな。」

 

 

一仕事終えたダンテは紅蓮の塔の屋上から飛び降りると、事実上ファントムにトドメを刺した獲物待ちしていた魔獣に『ご苦労さん』と労いの言葉をかけ……

 

 

「御丁寧にお土産を置いて行ってくれたったのか?流石は大悪魔、気前が良いモンだ!……烈火の剣か、中々に使えそうだな。」

 

 

ファントムが朽ちた場所に一本の巨大な剣が刺さっているのを見付け、迷わず其れを引き抜いて新たな武器をゲットした――紅蓮の炎を思わせる真っ赤な両刃の刀身はリベリオンよりも長く、刀身の幅はネロのレッドクィーンよりも更に広い、正に『大剣』と呼ぶべきモノだが、ダンテならば軽々と使いこなしてしまうだろう。

 

こうしてダンテは紅蓮の塔における行方不明者続出の元凶をアッサリと倒してのけたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter65

『四輪の塔でのギリギリ限界全力バトル!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダンテが紅蓮の塔で無双していた頃、残る三つの塔でも夫々事に当たった者達が塔内に現れた下級の悪魔を相手に見事な蹂躙劇を繰り広げていた。

 

 

「所詮は雑魚の集まりの烏合の衆、その程度では私の首を取る事など出来ません。」

 

 

先ずは琥珀の塔。

此処に出向いたのはなたねで、塔の内部には魔獣の他に最下級の悪魔であるマリオネットが多数存在していたが、マリオネットは依り代である等身大の人形が壊れれば其の時点で人間界には存在出来なくなるので、一般人が襲われた場合でも何とか人形を壊す事が出来れば倒す事が出来るレベルであり、その程度ならばなたねの敵ではなく、現れたら速攻で直射砲で粉砕されていた。

加えてなたねもなのは同様に、生前の士郎から武術の手解きを受けていたので近接戦闘能力もソコソコ高く、無手の格闘に限ればなのはよりも上であり、直射砲を搔い潜って来たマリオネットには炎を纏った掌底をブチかまして消し炭に換えていた。

 

 

「復讐の為に高めた力を人々の平和を守るために使うと言うのも悪くありませんね……なのはに会いに行ったのは正解でした。

 もしもなのはに会わずに復讐に走っていたら、私はネロ共々何処かで命を落としていたでしょうからね……復讐の刃を振り下ろすべきは復讐すべき相手にのみだと言う事を気付かせてくれたなのはには感謝です……だからこそ、私は此の力を人々の平和の為に揮いましょう。」

 

 

最上階に現れたシン・シザースとシン・サイズの群れも誘導弾の『パイロシューター』で依り代の仮面を燃やし尽くして一掃すると、ダンテから渡された『ホーリーウォーター』を屋上に撒いてターンエンド。

ホーリーウォーターは下級悪魔を即死させ、上級悪魔にも大ダメージを与えるモノだが、同時に撒いた場所を清める効果もあり、ホーリーウォーターで清めてしまえば下級の悪魔が琥珀の塔内に現れる事は無くなるだろう。

 

 

 

続いて翡翠の塔だが、此処はA級遊撃士のエステルとヨシュア、ロレントの自警団であるBLAZE、エステルが『一緒に来てくれる?』と頼んだアインスとレンと京、呼ばれてもいないのに、京が居ると言う事でやって来た庵が来た事でマッタク問題なかった。

琥珀の塔同様に塔内部には魔獣だけではなくマリネットが群れを成していたのだが、如何に数が多かろうと過剰戦力とも言えるロレントの精鋭の前では塵芥に等しく……

 

 

「イグニス……ブレイク!!」

 

「おぉぉぉぉ……喰らいやがれぇ!!」

 

「朽ち果てるが良い!!」

 

 

志緒、京、庵の炎属性トリオがマリオネットを派手に燃やし、洸がチェーンエッジでマリオネットを切り裂き、明日香と祐騎は得意の遠距離攻撃でマリオネットを牽制し、空が必殺の拳でマリオネットを粉砕!

レンは手にした大鎌でマリオネットを切り裂き、璃音は己の歌を超音波化させてマリオネットを粉々に砕き、エステルとヨシュアはA級遊撃士としての実力を此れでもかと言う位に発揮して、エステルのパワーとヨシュアのスピードを最大限に活かした見事な連携でマリオネットの上位種であるブラッディマリーとフェティッシュも鎧袖一触!

 

そうして屋上まで辿り着くと結界が展開され、牛の頭蓋骨を依り代にした『デス・シザース』が現れた。

対象を結界に閉じ込めて動きを制限した上で、巨大なハサミで襲って来る難敵だが、今回は相手が悪過ぎた。

 

 

「結界か……だが、此の程度で私達を如何にか出来ると思っているのならば些か舐め過ぎだ……精々私達を相手にした事を後悔しろ!喰らえ、炎殺黒龍波ぁ!!」

 

 

此処でアインスが右腕の包帯を解くと、最強奥義の炎殺黒龍波を放って、シン・シザースを一瞬で焼き尽くして灰にする……依り代を必要とする悪魔ではデス・サイズと並んで最強クラスのデス・シザースも、魔界の炎の化身である黒龍の前では全くの無力であり、アッサリと喰われたのだった。

そして其れだけでは終わらず、黒龍は翡翠の塔の内部も駆け巡って塔内の不浄をも焼き尽くした。

 

 

「燃えたろ?」

 

「アインス……完璧だぜ。」

 

 

最後は京の決めポーズを真似てターンエンド。

リベールでは田舎のロレントだが、その保有戦力は王都とタメ張れるベルであるのは間違いないだろう……現役のA級遊撃士が二人もいる上に、其れに負けずとも劣らない実力者が揃っており、更には『最強の親父』の名を欲しい侭にするカシウスが居る時点で、ロレントはぶっ飛んでいるのだがね。

 

 

 

其れはさて置き、最後は紺碧の塔だ。

此処を担当しているのはネロで、矢張り塔内に現れたマリオネットを愛銃のブルー・ローズと愛剣のレッド・クィーンで粉砕しながら、ダンテから『多様な武器を使えるようになった方が良い』との事で借り受けた一対の兄弟剣『アグニ&ルドラ』も駆使して無双していた。

 

 

「オッサンから借りた此の双剣、炎属性と風属性で強いし使い易いんだが……」

 

『兄者、このネロと言う男、ダンテ並みに我等を使いこなしておるぞ!』

 

『うむ、此れは我も驚いているぞ弟よ!まさか、我等と使いこなすモノがダンテ以外にも居ようとは予想外だ!』

 

「うるせぇ……」

 

 

……アグニ&ルドラは、ダンテが若い頃に手に入れた悪魔の武器であり、剣が本体のアグニとルドラは己を使いこなす事が出来る強い持ち主を探しており、仮初の宿主である巨人像を打ち倒したダンテを新たな主と認めて其の力を貸す事を決めたのだが、あまりにお喋りであるが故に、ダンテから『喋るなよ』と釘を刺されていたのだった――が、今回はダンテの手を離れてネロに使われた事で久々に『お喋り』に火が点いたようだった。

此れにネロは辟易していたのだが、自分が何か言ったら余計に面倒な事になると思って突っ込みを放棄した……其れでも、仕事はキッチリ熟してマリオネットは現れた瞬間に悪魔の右腕ででバスターをブチかまして粉砕していたのだが。

 

 

「下級悪魔だけか……此れはぼろい商売だったかもな。」

 

 

難なく屋上まで辿り着いたネロは、屋上にホーリー・ウォーターを撒いて浄化し、下級の悪魔は存在出来ないようにする。

其の姿は、屋上の謎の装置に映し出されていたのだが、其処に映し出されたネロの背面映像が、あろう事か前を向くと、謎の装置から歩き出して来た……その異様な事態をネロも悪魔の右腕で感じ取り、現れた自分と対峙する。

そして、装置から現れた偽ネロは、本物のネロと対峙すると同時に、其の姿を変え、漆黒の鎧を纏った騎士へと変貌する。

 

 

「退屈な仕事だと思ったが、どうやらこれは当たりだったかもな?

 掃き溜めのゴミとは違うよな?……オッサン風に言うなら、ガッツがあるってか?……良いぜ、相手になってやるよ!」

 

『……!』

 

 

漆黒の騎士はネロを手招きすると、紺碧の塔の屋上から飛び降り、ネロも続いて飛び降り紺碧の塔前の広間に降り立つが、漆黒の騎士の姿はない――何処に行ったのかとネロが辺りを見渡すと、漆黒の騎士の姿は紺碧の塔の屋上にあった……飛び降りたと見せかけて、瞬間移動で塔の屋上にやって来たのだろう。

そして漆黒の騎士は塔の屋上から飛び降りると、ネロに兜割りを繰り出すが、ネロは其れをギリギリで回避するとカウンターのストリークを叩き込み、其処からレッド・クィーンのコンボを叩き込んで行く。

それに対し、漆黒の騎士も手にした大剣で応戦する。

漆黒の騎士の剣技は伝説の魔剣士であるスパーダの剣術をベースにしながらも独自のアレンジが加えられており、『相手の技術を模倣する』悪魔とは一線を画すモノだった……パワーではネロの方が上だが、剣術に関しては漆黒の騎士の方が上で、総じて戦えば五分なのだが、このまま続ければジリ貧になると言うところでネロが動いた!

 

 

「取ったぜ……ぶっ飛びやがれ!!」

 

『!!?』

 

 

漆黒の騎士の一瞬の隙をついてスナッチで引き寄せると、悪魔の右腕で漆黒の騎士をネックハンキングで拘束し、其処から容赦無用のバスターを叩き込み、漆黒の騎士にダメージを与えて行く。

『鎧を装着しているのならばダメージは殆ど無いのでは?』と思うだろうが、全身を鎧で固めている場合、防御力は上がる代わりに鎧に直接衝撃を受けた場合は衝撃を逃がす事が出来ず、鉄パイプで岩を殴った時の様な痺れ感が全身を駆け巡る為、特に頭や背中への衝撃は充分なダメージソースとなるのだ。

 

とは言え漆黒の騎士も人外の存在であるので簡単にはやられず、バスターで叩き付けられても即座に復帰しネロに渾身の居合いを放ち、ネロも其れに対してストリークで応戦する。

其のまま鍔迫り合いになるが、此処でネロはレッドクィーンのイクシードを発動してその推進力をもって漆黒の騎士を押し込むと、ブルーローズに魔力を込めたチャージショットを放ち、漆黒の騎士のフルフェイスの兜を破壊する。

 

 

「……ダンテ?」

 

『…………』

 

 

砕かれた兜の下から現れたのはダンテと瓜二つな顔だった。

ダンテと異なるのは肌の色と銀髪がオールバックになっている事、目には瞳がなく白く光っている事と肌には不気味な文様が浮かんでいる事だ……此れだけの違いがあってもダンテと似ていると判断したネロも大したモノだが。

 

 

『…………』

 

 

素顔を晒す事になった漆黒の騎士はマントを翻すと、其の身を青黒い炎へと変えて其の場から飛び去って行ってしまった――決着は付かずだ。

 

 

「……何だったんだアイツは?……取り敢えず、オッサンには報告しておいた方が良いだろうな。」

 

 

漆黒の騎士が去った事で紺碧の塔の任務もコンプリートとなり、ネロはルーアンに戻って行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

各地の四輪の塔での調査結果を聞いたなのはは、任務に携わった者達に労いの言葉を掛けると、報酬を現金で、更に一括で払うと言う太っ腹ぶりを見せてくれた。

削れるところは徹底して削るが、出すべき所には出し惜しみしないのがなのはであり、特に国民の為ならば出費は厭わないのである――尤も其れが出来るのは、なのはがリベールの王となってからは、デュナン時代には断絶状態にあった外国との貿易を再開させ、為替レートでも『ミラ高』の状態にある事が大きいのだが。

 

 

「しかしまぁ、地獄門を使った事で悪魔界と繋がり易くなっていたとは言え、エクゾディアの召喚がトリガーになるとは……五つのパーツに分割されていたにも拘らず凄まじいなエクゾディアは?」

 

「お祖母様が危惧して封印したのも頷けます……ですが、先天属性が聖である私に宿った精霊が闇属性とは一体どういう事なのでしょうか?」

 

「クローゼママは、聖と闇のデュアル属性って事かな?」

 

「かも知れん。

 かく言う私も神族の母と魔族の父の間に生まれた事で、光と闇の二つの属性を宿しているからな……まぁ、其れは其れとして、四輪の塔には悪魔界と二度と繋がらないように対策をしなくてはな……」

 

「……塔に『悪魔祓い』のカードをセットしますか?」

 

「……何となく、其れでなんとかなる気がしたのだが……カードの力は侮れんな。」

 

 

こんな事を話しながら、なのはとクローゼとヴィヴィオはお風呂タイムを楽しみ、風呂を上がったその後はベッドで川の字になって眠りに就くのだった……リベールは今夜も平和である。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

なのはから高額な報酬を貰ったダンテは、デリバリーで生ハムとローストチキンとゴルゴンゾーラチーズがトッピングされた少し値の張るピザと生のイチゴがトッピングされたストロベリーサンデーを頼むと、『DevilMay Cly』の事務所内で其れを堪能していた。

因みにネロはデリバリーで寿司を、なたねはタコ焼きと焼きそばをオーダーしていた。

 

 

「漆黒の騎士か……その素顔は俺に似てたってか?」

 

「銀髪はオールバックにしてたし、顔に紋様もあったんだが、一瞬アンタかと思う位には似てたぜダンテ。」

 

「そうかい……(バージル、お前さんまだ黒騎士のままなのか……だが、其れでもネロの前に現れたってのは、無意識のうちに自分の息子に会いに来たって事なのかよ……だが、生きてるなら俺の所に来いよ――アンタの閻魔刀は今は俺が持ってるんだからな。)」

 

「オイ、何難しい顔してんだオッサン?取り敢えず、今回の仕事は楽しめたから、礼としてトロの寿司をやるよ。」

 

「おぉ、気前がいいねぇ…………って、かれぇ!!な、なんじゃこりゃあ!!?」

 

「だ~っはっは!引っ掛かったなダンテ!その寿司には、付属のワサビを全部ぶち込んだ激辛のワサビ寿司だったんだよ!ワサビのツンとした辛さを堪能しな!前にタバスコタップリのピザ喰わせてくれたお返しだ!」

 

「おおう、つまりは因果応報!あ~~……鼻から目がいてぇ……」

 

 

ネロから漆黒の騎士の事を聞いたダンテは双子の兄であるバージルの事を思ったが、生きているのならば何れ自分の元に現れるだろうと思い、今宵は少しばかり賑やかなな晩餐を楽しむのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter66『疑惑の依頼――リベールに迫る悪意の断片』

ドレだけ怪しくても正当な理由が無ければ依頼を断る事が出来ん遊撃士は辛いな……Byなのは      遊撃士は、若しかしたら軍よりも過酷な仕事であるのかもしれませんねByクローゼ


リベール王国から海を挟んで遥か遠くにあるエサーガ王国の地下にある施設では、プロフェッサーとドクターが新たなる計画を練ってる最中だった。

 

 

「そろそろ彼女達を迎えに行こうと思っているのだが、君は如何考えるねドクター?」

 

「ククク……私も良い頃合いだと思っていたよプロフェッサー。

 だがしかし、彼女達を攫ったとなれば色々と問題が起きるだろう……その点はどうする心算かねプロフェッサー?」

 

「其処は抜かりはない……今回はエステル君を利用するとしよう。

 A級遊撃士である彼女を指名して依頼を出すのは不自然な事ではないし、同行者としてアインス君とノーヴェ君を指名すると言うのも珍しい事ではあるが不自然な事ではないので無理がない。

 そうして集めた彼女達を此方が指定した場所まで誘導した上で捕えれば良いだけの事――遊撃士が依頼中に消息不明になると言う事も、事例は少ないが無くはないので、其処まで大事にはならないだろう。」

 

「成程、よく考えられているようだな。」

 

 

そこにあったのはこの世の悪意を凝縮したような思考であり、プロフェッサーとドクターは冗談抜きでトンデモナイ計画を立てていた――普通ならば戸惑ってしまうような事であっても此の二人は迷わずに行う事が出来るようだ。

倫理観が欠如していると言う訳では無いのだが、其れ以上にプロフェッサーとドクターは己の目的の達成や欲望を満たす事を優先しているので、外道な選択をアッサリと行えるのだろう。

 

 

「だがプロフェッサー、エステル君とアインス君が来るとなると、ヨシュア君と京君も来る可能性があるわけだが……まぁ、其れは其れで良いサンプルが得られるから問題はないかな?

 略独学で隠形を極めたヨシュア君と、草薙流の正統後継者である京君のサンプルは、是非とも欲しいモノだからね。」

 

「ククク、そう言う事だドクター。

 そして、彼女達を迎えに行った暁には我等の計画は第二弾段階に移行する……エサーガ王国の国王に、リベールに攻め込む必要性を説かなくてはならないな。」

 

 

そして其処にあるのは純粋な悪意でもあった。

こうして人知れずにリベールに悪意の魔手が伸びるのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter66

『疑惑の依頼――リベールに迫る悪意の断片』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある日の朝、ロレントの郊外にあるブライト家の庭では、アインス、エステル、レンのブライト三姉妹がカシウスを相手にして模擬戦を行っていた。

あらゆる武術と魔法を使いこなすアインス、近距離メインでありながら魔法も使えるオールラウンダーのエステル、圧倒的な魔力を有しながら近接戦闘も得意としているブライト三姉妹のチームは、其れこそKOFで優勝できるほどの力があるのだが、その三姉妹を相手に回してカシウスはマダマダ余裕と言った感じだった。

 

 

「この親父、ドンだけ強いのよ……こうなったら、やるわよレン!」

 

「そうね、やっちゃいましょう♪」

 

 

そのカシウスに対して、エステルとレンは魔力を両手に集中すると、其処から一気に直射の魔力砲を放つ『姉妹かめはめ波』とも言うべき合体攻撃を放ち、更にアインスが追撃に邪王炎殺黒龍波をブチかます!

この終いスリープラトンは、喰らったら間違いなく『Go To Hell!!』なのだが、カシウスはあろう事か、ダブル直射砲を弾き飛ばすと、炎殺黒龍波を逆に喰らって能力を底上げした後に目にも止まらぬ攻撃を叩き込んでアインス、エステル、レンをダウンさせて見せた。

 

 

「炎殺黒龍波を逆に喰らうとか、我が父親ながらお前本当に人間か?」

 

「アインス、父さんは実は系図の何処かに悪魔か魔族が存在してるのかも知れないわ……」

 

「其れは否定出来ないわねぇ……」

 

「……オイコラ、俺はあくまでも普通の人間だからな?」

 

「「「信じられるかそんな事!!」」」

 

 

カシウス・ブライトは矢張りとんでもなく強かった。

そんな模擬戦の後で朝食を済ませ、エステルはロレントの遊撃士協会に向かったのだが……

 

 

「えっと、何で居るのかしら王様?」

 

「リベール各地に自らの足で出向いて現状を把握しておくのもまた王としての責務だと思っているのでな……優秀な遊撃士と自警団のBLAZE、そして腕の立つ武闘家が多数居る事で、ロレントの治安は安定しているようだ。

 ……八神家の前で奇声と高笑いが聞こえたのが少し怖かったが。」

 

「あ~~……庵の奇声と高笑いは最早リベールでは日常茶飯事だから気にしない方が良いわね。」

 

 

其処にはなのはが居た。

なのははグランセル城で王としての仕事を熟す以外に、時間が空いた時には自らリベールの各地に赴いて現状を其の目で確認すると言う事もしており、其れがリベール国民からは、『民の事を考えてくれる王』として好意的に受け入れられていた。

そしてなのはが行って居る事はデュナン時代では考えらえなかった事であり、だからこそリベール国民の心に刺さるモノがあったのだろう。

 

なのはが居た事には驚いたエステルだが、気持ちを切り替えると受け付けのアイナに『依頼がないか』を聞くと、アイナは『丁度依頼が来てるわ……其れも貴女をご指名でね』と言って、依頼内容が記載された依頼書を見せてくれた。

その依頼書には依頼人の名前はイニシャルで記載されていたので本名は分からないが、『エステル・ブライト』を指名し、更に『アインス・ブライトとノーヴェを同行させてほしい』と記載され、場所も指定されていた。

 

 

「アタシを指名ってのは兎も角として、遊撃士じゃないアインスとノーヴェを指名ってのはちょっと解せないんだけど……何で、此の二人を指名して来たのか、アイナさんは知ってるの?」

 

「依頼人は帽子を目深に被っていた上にサングラスもしていたから顔は分からなかったのだけど、『A級遊撃士のエステル・ブライト、そしてKOFで見事な活躍を見せたアインス・ブライトとノーヴェも同行する事を望む』と言ってたから、KOFでアインスとノーヴェの実力を知って、同行して欲しいと言ったのかも知れないわ。」

 

「なんか納得出来るような出来ないような……でも、態々指名されてる依頼を断る事は出来ないから、その依頼は受けるわよアイナさん。」

 

 

依頼内容に多少の違和感を覚えたエステルだったが、態々自分を指名してくれた依頼を断ると言う選択肢はそもそも彼女には存在しておらず、その依頼を受ける旨をアイナに伝えると、アイナも依頼の詳細を伝えて行く。

依頼内容は、指定場所から目的地までの護衛と言うよくあるモノであったが、目的地に関しては『依頼を受けて貰った場合に本人に話す』と依頼人が言っていたらしく詳細は分からないとの事だった。

そうしてアイナから依頼内容を聞いている間にヨシュアがギルドにやって来て、エステルが指名された依頼が来ている事を知ると、『僕も同行するよ』と言って来た。

普段はクールであまり感情を表に出さないヨシュアだが、恋人であるエステルに関する事となると感情を顕わにする事も少なくなく、準遊撃士時代に嘗てのルーアン市長のダルモアの汚職を暴いた際には、ダルモアに『その汚い手でエステルにチリほどの傷でもつけてみろ……僕の考え得るあらゆる手段をもってしてアンタを八つ裂きにしてやる』と威圧してダルモアを気絶させた位なのだ。――それだけに、レンには『ヨシュアは何時私のお兄ちゃんになってくれるのかしら?』と言われたりしているのだが。

まぁ、其れは其れとして、ロレントが誇るA級遊撃士二人が出るとなれば依頼人にとっては嬉しい誤算とも言えるだろう。

 

 

「遊撃士を指名しての依頼か……ふむ……念のために此れを持って行くと良いエステル。」

 

「なにこれ……笛、かしら?」

 

「ドラゴンを呼ぶ笛と言うアーティファクトの一種だ。

 その笛を吹いた者の魔力と属性に応じたドラゴンが現れてパートナーとなってくれると言う代物だ……只の護衛の任ならば必要ないかも知れんが、私の勘が此れを渡しておけと言っているので渡しておく。

 だが、あくまでも貸すだけだから、任務が終わったら返してくれよ?」

 

「あ、其れは勿論。」

 

 

此処で何かを感じたのかなのははエステルに『ドラゴンを呼ぶ笛』を渡した。

なのはの勘は良く当たるので、此れが必要になる事態が起こる可能性は極めて高いのだが、『貸すだけだから、任務が終わったら返せ』と言うのは言外に『生きて戻って来い』とのなのはの願いだろう。

 

そうしてドラゴンを呼ぶ笛をエステルに渡したなのははギルドを出ると飛翔し、其処でヴァリアスを呼び寄せると、『アシェル、バハムート、ジークと共にリベールの空の監視を強化するように』と伝えると王都に戻り、クローゼとヴィヴィオと共に空中庭園でのランチを楽しむのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

依頼を受けたエステルは、アインスとノーヴェに事情を話すと、アインスとノーヴェは快く同行を引き受けてくれたが、其の場には偶々京も居た事で、『何だか面白そうだから俺も御一緒させて貰うぜ』と同行する事になった。

KOF優勝チームの京、アインス、エステル、A級遊撃士のヨシュア、KOF個人戦ベスト8のノーヴェのチームは護衛としては可成り破格の戦力であると言えるだろう。

余談だが、京の姿を見た庵が参加しようとしたのだが、其れははやてとなぎさが全力で阻止していた……此の件に庵は関わらせるべきではないと考えたのだろう。

 

 

そうして一行は指定場所である、ヴァレリア湖畔にある『川蝉亭』までやって来たのだが、其処で対面した依頼主は何とも異様な佇まいだった。

身体つきから女性であるのは間違いないのだが、頭から口元だけが顕わになった仮面を被っていたのだ……仮面から出ている長い銀髪も特徴的であった。

 

 

「えっと、貴女が依頼人で良いのかしら?」

 

「如何にも……訳あって顔と本名は明かせないのだがね……私の事は『ミスX』とでも呼んでくれればいい。」

 

 

その依頼人は自らを『ミスX』と名乗り、『ボートでヴァレリア湖畔にある施設まで移動する際の護衛』を依頼して来たのだが、その施設と言うのはリベールの地図上には記載されていない場所だった。

なので、エステル達は怪しんだのだが、ミスXは『此の場所は国が極秘にある研究を行っている場所なので地図にも記載されていない』と言って納得させると同時に自分がその極秘研究に携わっている人間だと言う事を示唆してエステル達に緊張感を持たせていた。

 

そして一行は船着き場に停泊してたクルーザーに乗り込んでミスXの案内でヴァレリア湖を進んで行ったのだが――

 

 

『『『『『『『キシャァァァァァァァァァ!!!』』』』』』』

 

「魔獣……!」

 

 

そのクルーザーを狙って水棲の魔獣が襲い掛かって来た。

普通ならば怯むかもしれないが、このクルーザーに搭乗しているのはロレントでも指折りの実力者だけに怯む事は無く、ノーヴェが得意の蹴り技で魔獣を蹴り倒すと、エステルとヨシュアが『パワーのエステルとスピードのヨシュア』と称される隙の無いコンビネーションを決め……

 

 

「おぉぉぉ……喰らいやがれぇ!!」

 

「此れで……終わりだぁ!!」

 

 

最後は京とアインスがダブル大蛇薙で水棲魔獣をこんがりと焼き上げてターンエンド。

そうしてクルーザーは目的地に到着した。

 

 

「こっちだ、付いて来てくれ。」

 

 

クルーザーを降りて、ミスXが一行を先導する為に歩き始めた途端に濃い霧が発生してエステル達の視界を塞ぎ、瞬く間に先を行ったミスXの姿は見えなくなってしまったのだった。

 

 

「イキナリの濃霧って……アインス、お前の魔法で何とか出来ないか?」

 

「霧を祓う位は造作もないよ京……全てを吹き飛ばせ、ダークハリケーン!」

 

 

その濃い霧はアインスが使った風属性の魔法で一掃されたのだが、霧が無くなって現れたのは途轍もなく巨大な施設だった――そして、霧が晴れたにも拘らず、ミスXの姿は何処にもなかった。

 

 

「えっと、如何しようヨシュア?」

 

「依頼人の姿はなく、目の前には巨大な施設か……此れは施設を調べるのが上策かも知れないね――この施設を調べる事で何かが分かるかも知れないからね。」

 

「ま、そうなるだろうな……少しばかり気合入れるとするか!」

 

 

消えた依頼人の事は気になるが、一行は先ずは目の前に現れた巨大施設を調査する事になったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter67『疑惑の依頼の真相――狙われた最強の力』

怪しい施設か……私なら、問答無用でSLB!Byなのは      まぁ、そう来るとは思ってましたよなのはさんByクローゼ


怪しさMAXと言うか、怪しさしかない依頼を受けた結果、エステル、アインス、ノーヴェ、ヨシュア、京の五人は、ヴァレリア湖の湖畔の一角に存在していた、これまた怪しさ抜群の巨大施設にやって来ていた――と言うよりも、依頼主に案内されている最中に霧が発生し、アインスが魔法で霧を吹き飛ばしたら依頼主の姿はなく、目の前にこの巨大施設が現れたと言った方が正しいだろう。

 

 

「そういや思い出したがよ、デュナン時代に『リベールでなにやら怪しげな実験が行われてる』ってまことしやかに噂されてた時期があったよな……アレって実は只の噂じゃなかったのかも知れないぜ?

 あくまでも俺の推測だが、あの噂は実は本当の事で、その怪しげな実験とやらが行われてた施設ってのが此処だったんじゃねぇのか?」

 

「そう言えばそんな噂あったわねぇ……結局なんの実験が行われてたのかまでは分からず仕舞いだったけど。」

 

「だけど、もしもそうだとしたらこの巨大施設の中には危険な魔獣や兵器の類が残っている可能性は充分にある……居なくなってしまった依頼主の事も気になるし、兎に角調べてみよう。」

 

 

デュナン時代の噂を思い出した京は、『その実験が行われていたのが此処ではなかったか?』と推測し、ヨシュアもその可能性があると肯定し、取り敢えず先ずは此の巨大施設の内部を調べてみる事に。

とは言え、デュナン時代のモノであり、使われなくなってから長い年月が経過していたとなれば建物其の物は廃墟と化していなくても、扉やらなにやらは錆び付いて動かなくなっている可能性は十二分にある訳で、案の定正面入り口の鉄扉はロック解除用のカードリーダーが経年変化で壊れており、扉其の物も錆び付いていて動きそうにはなくなっていた。

 

 

「こりゃ完全に錆び付いてやがる……中に入るには無理矢理ぶっ壊すしかなさそうだが、さて如何したモンだろうな?」

 

「此処は私に任せてくれ。

 毒属性の魔法を応用して扉を溶解させる。」

 

 

錆び付いているとは言え分厚い鉄製の扉を殴り破るのは力持ちのエステルでも、京が十拳を持ってしても難しかっただろうが、此処はアインスが『毒属性魔法』の『ヴェノムラ』を応用し、『鉄を溶解させる毒』を使って鉄製の扉を見事に溶かし開けて見せた。

アインスはどんな戦い方も隙が無いオールラウンダーだが、魔法とアーツに関しての知識は特に深く、複数の魔法やアーツを融合したオリジナルの技を作り出すのも得意としていた――今回の毒魔法も『バイオラ』と言う毒魔法に、即死魔法の『デス』を合わせて作ったモノだったりするのだ。

 

 

「エステルさんの姉ちゃん凄いっすね。」

 

「パワーではアタシが、魔力ではレンの方が強いんだけど、アインスは全てのステータスが高くて隙が無いのよね……因みに解析魔法でアインスを解析したら、ステータスは『HP99999999 MP9999 物理攻撃250 物理防御255 魔法攻撃250 魔法防御255 素早さ255』だったわ。

 序にアタシは『HP63420 MP900 物理攻撃255 物理防御130 魔法攻撃100 魔法防御120 素早さ198』で、レンは『HP32550 MP1300 物理攻撃130 物理防御98 魔法攻撃255 魔法防御100 素早さ200』ね。」

 

「アインスさん、本当に隙が無いね……」

 

「ヨシュアは『HP66640 EP890 物理攻撃220 物理防御135 魔法攻撃90 魔法防御130 素早さ255』って所ね。」

 

「エステルはMPで僕はEPなのはなんで?」

 

「アタシは魔法を使えるけど、ヨシュアはアーツでしょ?其の違いだと思うわ。」

 

 

取り敢えず無事に(?)入り口は開ける事が出来たので、一行は施設内に入り、内部の調査を始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter67

『疑惑の依頼の真相――狙われた最強の力』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

入り口の扉は錆び付いていたモノの、内部は意外と傷んでおらず、電源関係も健在だったようで、入り口付近にあった照明のスイッチをオンにしてみたら施設内の照明が点灯してくれた。

そうして明るくなった内部だったが、其処は正に『研究所』や『開発所』と言うようなモノだった。

内部に入って先ず現れたのは大きな部屋だったのだが、其処には多数のベルトコンベアやロボットアームが存在してる場所で、まるで何かを作っていた工場の様な場所となっていたのだ。

 

 

「此れは……此処で何かを作ってたのかしら?……機械人形の類かしら?」

 

「そうかも知れないね……如何やらレーンごとに異なるパーツを作って、そのパーツを組み合わせて巨大な機械人形を――其れこそクローゼ王妃がライトロードとの戦いの時に召喚した『エクゾディア』に匹敵する程のモノを作ろうとしてたみたいだ。

 魔力体である精霊とは違い、物理的に存在してる機械人形だとその大きさでは自重で潰れてしまうって事で計画は頓挫したみたいだけど。」

 

「だが、小型の奴ならソコソコ完成してたみたいだぜ?」

 

 

其処に現れたのは小型の機械人形だ。

施設のセキュリティとして作られたモノだが、施設が放棄された後も其の存在は残されていたので、今でもまだ外部からの侵入者に対して其れを排除する為に施設内を巡回していたのだ。

 

 

「つっても、こんなのはアタシ等の敵じゃないですよね……寧ろ、此の程度の相手ならアタシ一人で充分だぜ!」

 

 

エステル達を見つけたセキュリティの機械人形は早速襲い掛かって来たが、其れはノーヴェがあっと言う間に全て片付けて見せた。

此の五人の中では最も実力的には劣っているノーヴェだが、其れはエステルとヨシュア、京とアインスが凄過ぎるからであり、KOFの個人戦でベスト8まで勝ち抜いたノーヴェの実力は決して低くはないのだ。

何よりもノーヴェは京から草薙流の手解きを受けているだけでなく、『シューティングアーツ』と言う格闘技も会得しており、草薙流とシューティングアーツを独自に融合させた武術を使うと言う事までやっているのだ――そんなノーヴェが弱い筈がないのだ。周りが凄過ぎるので目立たたないだけで。

 

ノーヴェがセキュリティの機械人形を一掃した後は、廊下に出て次の部屋を目指す事に。

 

 

「内部は意外と無事だって事を考えると、何があるか分からないからな、慎重に行こうぜ。」

 

 

そして廊下を進んで行ったのだが、その道中にて――

 

 

 

――カチ

 

 

 

ノーヴェが床のブロックに隠されていたスイッチを押してしまった――隠しスイッチを事前に察知しろと言うのが無理な話なのだが、ともあれ、スイッチを押してしまった事により侵入者用のトラップが発動し、先頭を歩いていたエステルとヨシュアの前には無数の槍が降って来た。

槍が降って来る直前でヨシュアがエステルを抱えてバックステップした事で無事だったが、其のまま進んで居たらモザイク状態になっていたのは間違いなかった。

 

 

「ノーヴェ、京が慎重に行こうって言ったばっかでしょうが!!」

 

「いやぁ、隠しスイッチは分からないですよエステルさん……って、こんな所にもスイッチが……ポチッとな。」

 

 

隠しスイッチを踏んでしまったのは不可抗力だが、ノーヴェはこれ見よがしに設置されていたスイッチを見つけると、其れを迷わず押し込んだ!

そして次の瞬間には一行に無数の槍が降り注いだ!!

 

 

「「「「わぁぁぁぁぁぁ!!」」」」

 

 

緊急回避(A+B)

 

 

「「「「おぉぉぉっと!!」」」」

 

 

ダッシュ(→→押しっぱなし)

 

 

「「「「よいっと!!」」」」

 

 

緊急回避・後(←A+B)

 

 

其れを見事なまでに回避して見せたのは実に見事であると言う以外に他はないだろうが。

 

 

「ノーヴェ……何だって妖しさ爆発してるボタン押してんだテメェ……答えによっては破門すんぞコラ……」

 

「何でって……其処にボタンがあったら、其れはもう押すしかないでしょう!?」

 

「其れは否定出来ねぇのが悲しいなぁ!!」

 

 

取り敢えずノーヴェがボタンを押してしまったのは不可抗力として、一行は施設内を探索して行った――施設内部ではAI制御された生産ラインが生きている場所もあり、其処では新たな兵器が開発され、その新兵器が一向に襲い掛かって来る事もあったが、此の面子の前には其れは大した脅威ではなく、現れた先から略瞬殺されていた――特にエステルとアインスの合体直射魔法砲撃『姉妹かめはめ波』は施設の壁をぶち抜いてしまうほどに強力だった。

 

 

「ヨシュア、お互い彼女がめっちゃ強いな。」

 

「うん、強いね。」

 

「将来的に京さんとアインスさん、エステルさんとヨシュアさんの間に子供が出来たら夫々の遺伝子を受け継いだ最強レベルのベイビーが誕生しそうですね。」

 

 

『雑魚は引っ込んでろ!』と言わんばかりに無双し、時には施設内の装置やら機械やらをも破壊しながら進んで行くと、やがて大きな部屋に辿り着いた。

大小複数のモニターに、多数のコントロールパネルがあるのを見るに、此処は施設のモニタールームだったのだろう……今やモニターは真っ暗でなにも映してはいないのだが、其の内の一つ、最も大きなモニターが突如として起動し、其処に映像を映し出した。

 

 

『フフフ、良くぞここまで辿り着いてくれた。君達の到着を待っていた。』

 

「貴女は……ミスX!!」

 

 

モニターに映し出されたのは、今回の依頼の依頼主である仮面の女性『ミスX』だった。

霧を吹き飛ばしたその時には既に姿がなかった依頼主が、こうして施設のモニター越しに現れると言うのは普通ならば有り得ない事であり、同時にその有り得ない事態にエステル達は、『今回の依頼は自分達を誘い出す為のモノだったのではないか』と思い至っていた。

 

 

「仮面女、テメェ何が目的だ?」

 

『私の目的は君達を此処まで連れて来る事だよ草薙京……私はそう命じられただけであり、其れ以上の事は知らない。詳しい事は私に命令を下したドクターかプロフェッサーに聞いてくれ。』

 

「ドクターと、プロフェッサー……?」

 

 

ミスXもまたドクターとプロフェッサーなる人物の部下に過ぎず、エステル達を誘い出した目的其の物は知らされていなかったようだが、更に何かを聞こうとした次の瞬間に部屋の中に何かが噴射された。

 

 

「コイツは、催眠ガスか!?……ったく、人の事を誘拐する奴等ってのはやり口も似通ってやがるな?……だが、甘いんだよ!頼むぜアインス!!」

 

「任せろ京!マイティガード・アルティメット!」

 

 

其れは催眠ガスで、エステル達を眠らせようとしたのだが、此処でアインスが複数の防御魔法を複合したオリジナル防御魔法『マイティガード・アルティメット』を使って全員に『属性攻撃無効(1度のみ)、物理攻撃半減、魔法攻撃半減、状態異常無効』のバリアを張って催眠ガスを無効にする。

更に京が属性攻撃が一度だけ無効になるのを利用して部屋に満ちた催眠ガスを大蛇薙で引火させて盛大に爆発させて部屋其の物を吹き飛ばし、モニタールームは一瞬にして見晴らしのいい屋上へと変貌してしまった。

 

 

「派手にやったわねぇ京?」

 

「過去に一度誘拐されてっからな、二度目は御免だっての……まぁ、誘拐されたからこそ、一人っ子だった俺にも齢二十歳になってから兄弟が出来た訳だがな。

 取り敢えず一度戻った方が良いかも知れないな?ロレントに戻ってカシウスさんに相談した方が良いかもだぜ。」

 

「確かに、父さんに相談した方が良いかも知れないわね……って、なにこれ!?」

 

 

モニタールーム其の物を吹き飛ばし、一度戻ろうとしたところでエステル達は床に巨大な魔法陣が現れた事に気付いた。

見た事もない不可思議な文字(?)が描かれた魔法陣は、特徴的な星模様を中心に円形に展開してエステル達を完全に囲い込んでいた――そして魔法陣からは強固な結界が展開されていた。

 

 

「此れは、此の魔方陣と結界は!」

 

「何か知ってるのヨシュア!?」

 

「昔文献で読んだ事があったんだけど、此れは遥か古代に使われていた結界魔法陣の『オレイカルコスの結界』にそっくりなんだ……文献では、オレイカルコスの結界は色々な効果を内包出来る結界だったって記憶してるよ。

 結界内の味方の強化、攻撃の無効化の他に、転移魔法を内包させる事で移動ゲートとしても使う事が出来たらしいね。」

 

「なんとも便利な結界だが……其れって若しかして、今回の場合は転移魔法が内包される可能性が高いんじゃねぇのかオイ!だとしたら冗談じゃねぇぞ!何とかならないのかアインス!」

 

「気付くのが少しばかり遅かったよ京……既に転移魔法が発動してしまっている……こうなっては流石に私でも如何にも出来ないな。」

 

 

そして其の結界は転移魔法を発動しており、結界内に居たエステル達は転移魔法によって一瞬で其の場から姿を消してしまったのだった――

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、なのはとクローゼとヴィヴィオは空中庭園で午後のティータイムを楽しんでいた。

なのはとクローゼはカルバートから輸入された東方のお茶を、ヴィヴィオは『ハチミツミルクティー』を飲みながら、これまたカルバートから輸入した東方の菓子をお茶請けにしていた。

 

 

「ふむ、此の月餅と言う菓子は東方の茶とよく合うな。」

 

「みたらし団子も、このあまじょっぱさがクセになる味ですね。」

 

「水羊羹最高~~♪」

 

 

親子水入らずのティータイムを楽しんでいたのだが……

 

 

 

――ブチッ!

 

 

 

そんな中で突然なのはの靴の靴紐が音を立てて切れた。

なのはが纏っている服は靴を含め魔力体なのでそれが自然に損傷する事はまず有り得ないのだが、それにも拘らず靴紐が切れたと言うのは不吉極まりないと言えるだろう――クローゼとヴィヴィオに悟られる前に靴紐を再構築したなのはだったが、靴紐が切れると言う不吉の予兆に、少しばかりの不安を感じていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter68『邂逅せし悪意。されど揺るがぬ意思と力』

ふむ、今回は出番無しかByなのは      偶にはそう言う事もありますよByクローゼ


転移魔法によって強制的に転移させられたエスエル達が降り立ったのは、先程まで居た施設とあまり変わらない場所だった。

違うところと言えば、此の場所の方が照明が明るいと言う事だろうか?

 

 

「此処は……?」

 

「ふふ、無事に此処に来てくれたみたいだな?」

 

「テメェは、ミスX!!」

 

 

状況がよく呑み込めていない一行の前に前に現れたのは依頼主であるミスX。

仮面に隠された素顔は見えないが、其れでもエステル達をこの場に連れて来れた事に満足しているようだった――尤も其れは、教授とドクターからの任務を達成出来たからなのだが。

 

 

「テメェ、俺達をどうする心算だ?」

 

「生憎と、私はその問いに対する答えを持ち合わせていない――だが、其の答えを持っている人物の下に此れから案内するから、聞きたい事は直接聞くと良い。ついてこい、こっちだ。」

 

 

京の問いに答える事は無く、ミスXは一行をある場所へと案内する。

胡散臭い事この上ないが、此処が何処であるのかも分からず、自分達を此処に転移させた人物のもとに案内すると言われたら、一行は付いて行く以外の選択肢は存在していなかった――逆に言えば、付いて行った先で邂逅した人物に聞きたい事を全部聞いた上でぶちのめしてやると言うバイオレンスな思考も少しはあったのかも知れないが。

 

 

「私達をどうする心算かは貴女は知らなくても、此処が何処かは知っているんでしょう?せめてそれだけでも教えてくれない?」

 

「ふむ……妥当な意見だねエステル・ブライト。

 だが、『何処』と特定の場所を言う事は出来ないな?現在この方舟『グロリアス』はリベール王国の上空30kmを飛行中なのだから。」

 

「「「「「!!?」」」」」

 

 

その道中でエステルがミスXに対して行った質問の答えはなんとも絶望的なモノだった。

高度30㎞と言うのは何の装備も無しに人間が生きていられる環境ではなく、飛行魔法や武空術を使ったところで即座に酸欠と低体温症に陥ってしまう場所であり、つまり一行はこの船からの脱出は不可能と言う事を知るに至ったのだ。

加えてミスXは『グロリアスの表面は特殊なステルス迷彩が展開されているから物理的に発見する事も、索敵魔法で発見する事も出来ない』と、ダメ押しの一言を言って来たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter68

『邂逅せし悪意。されど揺るがぬ意思と力』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミスXに案内されて到着したのは、ちょっとしたホールくらいの大きさの部屋であり、その部屋の奥には巨大なパイプオルガンが存在しており、何者かがそのパイプオルガンを演奏している。

そして奏者のすぐ隣には、白衣を纏った紫色の髪をした男の姿も。

 

 

「教授、ドクター、エステル・ブライト達を連れて来たぞ?」

 

「うむ、ご苦労だったミスX。」

 

 

一行が到着した事を聞くと、奏者は演奏を止めて紫髪の男と共に向き直り、その容姿が明らかになる。

パイプオルガンを演奏していたのは眼鏡を掛け、髪をオールバックにした男で、紫髪の方は金色の目が特徴的な男だった――何方も、その顔には隠そうともしない悪意が張り付いては居たが。

 

 

「テメェ等が教授とドクターか?……どっちが教授でどっちがドクターかは知らねぇけど。」

 

「ククク、ではまずは自己紹介と行こうか?

 私の名は『ゲオルグ・ワイスマン』。教授と呼ばれているよ。」

 

「そして私がドクターこと、『ジェイル・スカリエッティ』!ようこそ、我等の方舟に!君達を歓迎しよう!!」

 

「歓迎しようって、こっちは強制的に招かれたんだけどよ?」

 

「望まぬ招待では、歓迎されたとて素直に喜ぶ事は出来なさそうだ。」

 

 

ドクターことスカリエッティの『歓迎しよう』との言葉にノーヴェとアインスが少し棘を含んだ言い方で返したが、其れは一行の総意とも言えるだろう――京もエステルもヨシュアも『其の通りだ』と言わんばかりに頷いているのだから。

 

 

「此れは中々に手厳しい……だが、父親とも呼ぶべき相手に対してその態度は如何なモノかな?」

 

「父親、だと?誰が、誰のだ?」

 

「考えずとも分かるだろう?

 君達五人の中で血の繋がった親が存在しないのはアインス・ブライト、そしてノーヴェ、君達二人だけなのだから……そう、アインス・ブライトはプロフェッサーが、ノーヴェは私が過去に作り出した存在だったのだよ。」

 

 

だがそんな事はお構いなしにワイスマンとスカリエッティは特大の爆弾を投下して来た。

確かに現在アインスとノーヴェに血の繋がった親は存在していない――アインスは十年前にカシウスがブライト家に連れ帰って来てブライト家の一員になっており、ノーヴェは六年ほど前にロレントにふらりとやって来たストリートチルドレンで、教会で保護されて数年過ごした後に、現在はロレント郊外の『パーゼル農園』で住み込みで働きながら格闘技の修行をしているのだ。

だが其れ以上に一行を驚かせたのは、アインスはワイスマンに、ノーヴェはスカリエッティに作り出された存在だったと言う事だ。

 

 

「作り出された存在、ね……其れが何だってんだ?」

 

 

だがしかし、京は『だから何?』と言った感じでワイスマンとスカリエッティに返す。

 

 

「分からないかね草薙京君?

 彼女達は私達によって作られた存在……つまり普通の人間ではないのだよ!」

 

「普通の人間ではない、ね……なら逆に聞くがよ、普通の人間の定義ってのは何だよ?

 生憎とロレントにゃ普通の人間じゃない奴が多過ぎて、逆に普通の人間の定義が分からねぇんだよな?ジェニス王立学園を諸々の事情があって二ダブして卒業した俺にも分かるように説明してくれ。」

 

「そう言えば、ロレントって人外魔境と化してたよね……」

 

「そして其の筆頭がアタシの父さんなのよねぇ……あの親父、本当に人間なのか実の娘ながらとっても疑問だわ。」

 

「炎殺黒龍波を喰らう時点で最早人間じゃないんじゃなかろうか?」

 

「カシウスさんは、俺が大蛇薙→百八拾弐式→無式のコンボを叩き込んでも倒せる気がしねぇんだよなぁ……だけどまぁ、カシウスさんとは別の意味で人間じゃねぇのは八神だろ?」

 

「あ~~……其れは否定出来ねぇわな。うん。」

 

 

『普通の人間の定義とは何か?』と京に問われたワイスマンとスカリエッティは答えに窮した――普通の人間の定義が何であるかは、此の二人にも明確に答える事は出来なかったからだ。

 

 

「そんで、そんな事を伝える為に態々俺達を此処に連れて来たのかい?……だとしたら時間の無駄遣いも良い所だぜ。」

 

「ふむ……確かに君の言う通りだ。

 まぁ、彼女達が作られたと言うのは真実を教えて上げようと言う親心と言う奴だと思ってくれたまえ……そして君達全員が彼女達の事を知った訳だが、君達全員私達の同士になる気はないかね?」

 

 

そんな二人に対して少し挑発気味に京が言えば、ワイスマンも挑発には乗らずに本題を切り出して来た――其れは『自分達の同士にならないか?』との、まさかの勧誘であり、此れには此処に連れて来られた全員が驚く。

アインスとノーヴェだけならば、自分達が作り出した存在なので未だ分からなくもないが、京、エステル、ヨシュアの三人に関してはその意図が読めないと言った感じだろう。

 

 

「アタシ達がアンタ達の同士に、ですって?ゴメン、意味が分からない上にスッゴク嫌なんですけど。」

 

「京さんはアインスさんの恋人でノーヴェの師匠。エステルはアインスさんの妹で、僕はエステルの恋人……一応集められた人間はアインスさんとノーヴェに関係があるけど、其れならレンと真吾も居ないと中途半端なんじゃないかな?」

 

「レンは兎も角、真吾はKOFで成長したとは言えマダマダだろ?少なくとも何時か火が出せると思ってる内は。」

 

「真吾さんって気真面目過ぎんだよなぁ……」

 

「その愚直な気真面目さが彼の良い所でもあるんだが……其れよりも、私達を同士にしたとしてお前達の目的はなんだ?」

 

 

京、エステル、ヨシュアの共通点は分かったモノの、此の五人を同士にしたとして目的が全く見えないのもまた事実。

そもそも此の五人は高い実力を有しているとは言え、だからと言ってたった五人を同士にしたからと言って何か途轍もなく大きな事が出来るかと言えば其れは否だと言わざるを得ないだろう。

如何にアインスが超広域殲滅魔法を使用出来るとは言っても、其れだって限界があるのだから。

 

 

「目的か……では聞かせて上げよう!

 私とプロフェッサーの目的……それは、この手で超人を作り上げ、その超人によって世界を支配する事!そして、その前段階として君達のコピーを大量に作り上げて一大軍隊を作り、エサーガ国と共にリベールに攻め込むのだ!」

 

「そしてリベールを陥落させた暁には高町なのは君とクローゼ・リンツ君……神魔と聖女の血を使って最強の超人を量産し、人間界、魔界、天界、悪魔界の全てを支配するのだよ!!」

 

「……オイ、コイツ等頭ヤバくないかヨシュア?」

 

「うん、普通にヤバいと思う……そんな事出来る筈ないのに、誇大妄想も此処まで来るとある意味尊敬に値するかもしれない。」

 

 

それに対し、スカリエッティとワイスマンはこれまたトンデモナイ事を言って来てくれたが、京とヨシュアだけでなく、エステルとアインスとノーヴェも『何言ってんのコイツ等?』、『見た目が怪しいだけでなく脳味噌もイカレていたか。』、『大丈夫かこのおっさん達?』と言った顔になっていた。

だがワイスマンもスカリエッティも、決して誇大妄想ではなく本気で其れが可能だと信じてるのだ。

 

 

「誇大妄想か……確かに話だけを聞けばそうかも知れないが、以前リベール国内で二つの大きな戦いに私達が関わっていると言ったら如何かな?

 デュナン前国王に悪魔を宿し、帰天の方法と悪魔の召喚術を教え、十年前に『鬼』によって壊滅状態となったライトロードを再生させたのが私達だとしても、其れでも誇大妄想と斬り捨てるかね?」

 

「あ、あんですってー!?アレってアンタ等の仕業だったの!?

 其れが本当なら誇大妄想とは言えないかもだけど、今のを聞いて絶対にアンタ達の同士になんかならないって決めたわよ!何処の誰が自分の住んでる国を滅茶苦茶にしようとした挙げ句に、また闘い続ける心算でいる奴に力を貸すもんですか!!」

 

 

デュナンの一件とライトロードの一件に自分達が関わっていると言う事を話すが、其れによって逆にエステル達が同士になる可能性はゼロになったと言えるだろう。

尤も、その話がなくとも同士になる気などサラサラなかった訳だが。

 

 

「威勢の良い事だが、自分達の今の状況をよく考えて返事をするべきだねぇ?

 此のグロリアスは飛行魔法や武空術では到達出来ない高度を飛行中……そして艦内にはアインス君やノーヴェ君の『姉妹』も多数存在しており、彼女達は私達の命令一つで直ぐに動く事が出来る上に、後期開発型なので性能はアインス君とノーヴェ君よりも高い。

 君達には逃げ場はないのだよ!」

 

「普通ならそうなんだろうが……だとしたら俺達、ってかアインスを舐め過ぎだろお前等?

 どうやって俺達を此処まで連れて来たか忘れた訳じゃないよな?……転移魔法を仕込んだ魔法陣ってのは驚かされたが、その魔法陣は一度喰らった事で覚えちまってるんだぜ、アインスはな!」

 

「つまり、そう言う事だ……無論、魔法陣に仕込まれていた転移魔法諸共な!」

 

 

状況的に逃げられる状況では無かったのは確かだが、其れもアインスが居るなら話は別だ。

魔界の炎を従える炎殺黒龍波や、伝説の武術家が編み出したマッスル・スパーク等は会得する為に修行を必要とするアインスだが、魔法の類であれば略一度見れば完璧にマスター出来るので、先程自分達を此の艦まで転移させた、転移魔法を仕込んだオレイカルコスの結界も一度で会得してしまったのだ。

そして、其れを即座に発動し、先程はエステル達を捕らえた魔法陣が、今度はエステル達を逃がす為に発動する。

 

流石に此れは予想していなかったのか、転移を止めるべくワイスマンとスカリエッティはアインスとノーヴェの『姉妹』を呼び出して、エステル達を捕えようとするが、オレイカルコスの結界に入ろうとした途端に見えない壁に弾かれてしまった。

 

 

「遊星のエース、スターダスト・ドラゴンの絶対防御障壁『ヴィクティム・サンクチュアリ』……龍の技を会得するのは大変だったが、会得した甲斐はあったな。」

 

「折角だから王様から借りたドラゴンを呼ぶ笛も使ってみようかしら?さて、どんなドラゴンが来てくれるのか楽しみだわ♪」

 

 

まさかの遊星のエース精霊の能力までもアインスは身に付けていた。

更に此処でエステルがなのはから『もしもの時の為に』と渡されたドラゴンを呼ぶ笛を吹く――艦内で吹いたにも拘らず、その音色はドラゴンに届いたようで……

 

 

――バッガァァァァァァン!!

 

 

『ショォォォォォォォォォ!!』

ライト・エンド・ドラゴン:ATK2600

 

 

グロリアスの外壁をブチ破って現れたのは純白の身体を持つ光属性のドラゴンだった――ドラゴンを呼ぶ笛によって呼び出されたドラゴンはオレイカルコスの結界内部に入り込んだのを見るに、アインスが味方だと判断した相手は出入りが自由なのだろう。

 

 

「そんじゃ、エステルが頼もしい仲間を召喚した所でお暇するぜ?……このドラゴンが艦体に風穴ブチ開けちまったが、まぁ精々墜落しないようにな?……お前等がどうなろうと知ったこっちゃないが、お前等から聞いた事は確りと王様に報告させて貰うからな?

 テメェ等としちゃ、絶対に逃げられない状況に俺達を追いこんで無理矢理同士にする心算だったんだろうが、少しばかり読みが甘かったな……リベールに戦争を吹っかけたいなら好きにしな。

 だが、攻めて来るって事を事前に知ってるならリベールの王様は完璧な迎撃態勢を整えるだろうからその心算でいろ――そして、あの王様は敵に対しては絶対に容赦しねぇからな!そんじゃ、あばよ!!」

 

 

そして次の瞬間に転移魔法が発動してエステル達はその場から消え去ったのだった――ワイスマンとスカリエッティの思惑はアッサリと敗れ去った訳だが、其れでも二人の顔には笑みが浮かんでいた。

 

 

「同士には出来なかったが、パーソナルデータは充分に採れた……此れならば彼等其の物ではなくともコピーは可能だろう。」

 

「劣化品になるのは避けられないが、劣る部分は幾らでも補えるから問題無しだ……其れでは、早速取り掛かるとしよう!」

 

 

如何やら最低限の目的は達成出来たらしく、次なる作業に取り掛かる様だった――そう遠くない未来にリベールに新たな戦火が巻き起こるのは略間違いないと言っても過言ではないようである。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

一方でオレイカルコスの結界によってグロリアスから転移したエステル達は、何処か霧深い場所に転移していた――アインスも覚えたばかりの魔法だったので細かい場所は指定出来ず『リベールの何処か』に転移したのである。

 

 

「この濃霧……此処って若しかして『霜降り渓谷』?」

 

「八神の奴がめっちゃ喜びそうな場所だな其れは?レアで焼くのがお勧めですってか?」

 

「ゴメン、普通に間違えた……霧降渓谷よね此処?……全然視界利かないけど、ここまでくれば空を飛ぶ事が出来るから問題ないわよね!……行きましょう、グランセル城に!

 アイツ等のトンデモナイ企みを王様に伝えないとだから!」

 

「うん、そうだね!」

 

 

其処は一年中深い霧に包まれた『霧降渓谷』と言う場所だったのだが、霧が深かろうと空を飛ぶ事が出来る場所まで来たのならば問題はなく、一行はエステルが呼んだドラゴンに乗って一路グランセル城に向かうのだった――ワイスマンとスカリエッティの企みをなのはとクローゼに伝える為に。

ロレントの遊撃士協会に舞い込んだ一件の依頼は、リベール全土を巻き込む事態に発展して行くのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter69『リベールの防衛力を徹底強化しましょう!』

国防の為ならば無茶振りも辞さないぞ私はByなのは      まぁ、其れは其れでありではないでしょうか?Byクローゼ


グランセル城の空中庭園でランチタイムを過ごしたなのは達は暫し空中庭園の芝生に腰を下ろしてマッタリと過ごしていた――ヴィヴィオはなのはに膝枕をして貰っていて、クローゼがその頭を愛おしそうに撫でる。

血縁関係はマッタク無いが、なのはとクローゼとヴィヴィオの間には確かな『家族の絆』が構築されてたのだ。

 

 

「王様、ちょっとお邪魔するわよ!!」

 

「ドラゴンに乗って現れるとは、中々に派手な登場だなエステル?

 そしてエステルだけではなくアインスにヨシュア、京とノーヴェも一緒とな中々に豪華な面子じゃないか……KOFの優勝チームが揃っていると言うのもポイントが高いと言えるな。」

 

「其れは一体何のポイントなのでしょうか……」

 

 

其処にライト・エンド・ドラゴンに乗ったエステル達が現れ、其のまま空中庭園に着地。

グランセル城は一般にも開放されており、空中庭園も普通に見学出来るのだが、だとしても城の正門からではなく空から直接空中庭園にやって来たと言うのは、グランセル城の歴史の中でもエステル達が初めてだろう。

 

 

「竜を従えているとは、私が貸したドラゴンを呼ぶ笛は役に立ったようだな?

 光属性の上級ドラゴンとは、此れを呼び出したのはお前だなエステル?」

 

「え、どうしてわかったの王様?」

 

「此の面子で光属性のドラゴンを呼び出せるのはお前だけだろう?

 京は炎属性、ノーヴェは風属性、アインスとヨシュアは闇属性のドラゴンを召喚するだろうからな……保有魔力量だけならば私を上回るアインスがドラゴンを呼ぶ笛を使ったら一体ドレほどの闇属性のドラゴンが呼び出されるのか興味はあるが。」

 

「では実際に使ってみるか。」

 

 

――ブオォォォォォォォ!!

 

 

『ゴガァァァァァァァァ!!』

ブラック・デーモンズ・ドラゴン:ATK3200

 

 

「その結果、こんなドラゴンが来たぞ王よ。」

 

「どことなく進化前のヴァリアスを思わせる風貌だが……此れは相当に強いな。」

 

 

なのはの一言からアインスがドラゴンを呼ぶ笛を吹き、その結果としてなのはのヴァリアスをも上回る闇属性のドラゴンが呼び出され、其れからヨシュアと京とノーヴェもドラゴンを呼ぶ笛を吹いて、ヨシュアは闇属性のダーク・エンド・ドラゴンを、京は炎属性のタイラント・ドラゴンを、ノーヴェは風属性のスピア・ドラゴンを呼び出し、空中庭園は一時ドラゴンの品評会のような状態なったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter69

『リベールの防衛力を徹底強化しましょう!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空中庭園でのドラゴン品評会を終えたなのは達は謁見の間に移動して、エステルとヨシュアが今回の任務の詳細をなのはとクローゼに報告した。尚、ヴィヴィオは眠ったままだったのでミニマム状態のアシェルとヴァリアスに寝室まで運ばせておいた。

 

エステルとヨシュアからの報告で明らかになったのは、今回の遊撃士協会への依頼はダミーであり、其の裏にあった目的はエステル達を己の同士に加えると言うモノであり、更に其れを考えていた連中はリベールに戦争を仕掛ける心算だったの言うのだから驚きだろう。

 

 

「お前達を同士にしてリベールに戦いを仕掛け、そして私とクローゼを捕らえると来たか……ククク……ア~ッハッハッハ!!」

 

 

だが、其れを聞いたなのはは盛大に高笑いをして見せた。

だが其れは、決して相手を小馬鹿にしたモノではなく、絶対的な強者であるが故の自信に満ち満ちた高笑いだった。

 

 

「なのはさん、笑い事ではないと思いますが?」

 

「普通ならそうなのだが、此れを聞いて笑わずに居ろだと?ふざけるな、笑わせろ。

 そのプロフェッサーとドクターとやらがデュナンの事とライトロードの事に関わっていたのならばリベールがドレだけの戦力を有しているのかは知っている筈だ――にも関わらず戦いを仕掛けるとか、其れはもう蛮勇ですらない身の程知らずの無謀な挑戦だ。

 神魔である王と、聖女たる王妃を如何にか出来ると思っている時点で、そいつ等の浅はかさが分かると言うモノだ……何よりも、クローゼの中には最強無敵の精霊であるエクゾディアが居る事を忘れるな?

 ドレだけの軍勢だろうとも、クローゼがエクゾディアを解放すれば其れで終いなのだからな……私の嫁は間違いなく最強だ。

 魔力で構成されている私の靴の紐が切れたのは不吉と思ったが、如何やら其れは対処出来る程度の不吉だったらしい。」

 

「……確かに、私がエクゾディアを召喚すれば大概何とかなりますね。」

 

 

なのははこのリベールに絶対的な信頼と信用を置いていた。

リベールの国民は皆が生き生きとしており、遊撃士と軍が連携してセキュリティ面でも充実しており、そして各都市でその都市の特色を生かした発展をしており、其れもまたリベールの特徴だと言えるのだ――だからこそなのはは、リベールに攻め込むのは愚の骨頂だと考えていた。

リベールは五大都市が夫々異なる発展をしているだけでなく、その都市ごとに異なる強大な戦力を備えており、其れが結集して際のリベールの総戦力は、其れこそ大国を一日あれば陥落させる事が可能なのだから――クローゼの中に眠るエクゾディアを召喚すれば、正に敵無しと言えるだろう。

 

 

「確かに姫さんがエクゾディア召喚すれば大抵の相手は何とかなるか……カシウスさんは、アレを喰らってもケロッとしてるだろうけどな。」

 

「父さんだと、否定出来ないのよね其れが……」

 

「だが、この情報はとても良いモノだったぞエステル……リベールに戦いを仕掛けようとしてる輩が居ると言う事が分かれば、何時戦いを仕掛けられても良いように備える事が出来るからな。

 此度の事は、真に大儀だった。」

 

 

だがしかし、リベールに戦いを仕掛けようとしているモノが居ると言うのは重要な情報だっただろう。

其れを聞いたなのはは直ぐにリシャールに連絡を入れて軍の警戒態勢を強化すると同時に、飛空艇での警備も強化するように命じ、更にツァイスの中央工房に連絡を入れてリベールの領空、領海を監視するレーダー装置の開発を依頼しリベールの防衛力を高めて行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

――ツァイス・中央工房

 

 

リベールの技術力の全てが集まっている此の場所にて、アルバート・ラッセルは頭を悩ませていた。原因はなのはから依頼されたレーダー装置の開発だ。

リベールの領空及び領海を監視するレーダーシステムの開発そのものは難しくはないのだが、なのはから『如何なるステルス機能をも見破れるシステムを頼む』と、中々の無茶振りをされていたのだ。

 

 

「お爺ちゃん、ヤッパリ王様からの依頼って難しいの?」

 

「いんや、単純に『ステルスを見破れるように』ならば大した事ないんじゃが、『如何なるステルス機能をも見破る』となると途端に難易度が跳ね上がるんじゃティータ。」

 

「如何して?」

 

「一口にステルスと言っても種類は豊富でな?

 レーダーに感知されないタイプのステルスはレーダーの電波を受けにくい平面構造の機体に、電波を反射せずに吸収する特殊な塗料が塗ってあるが、目に見えないタイプのステルスは周囲の景色を映像化した特殊なスーツを纏った光学迷彩じゃろ?

 認識阻害魔法を応用したステルスもあれば、プレシア・テスタロッサ女史の『時の庭園』の様な、異なる次元を移動するタイプのステルスも存在しておる上に、最近では目に見えない上にレーダーにも映らない『ミラージュコロイド』なるステルスも存在すると聞く。

 此れ等を個別に無効にする事は出来るんじゃが、全部纏めるとなると此れが中々に難しい。特に科学技術と魔法技術を合わせると言うのはワシも初めての試みじゃからなぁ……果たして戦術オーブメントの技術を転用しても巧く行くか……じゃが、久々に遣り甲斐のある仕事じゃよ!」

 

 

だがそれでも、新たな難問にめげずに挑むと言うのは流石は親しみを込めて『ラッセル博士』と呼ばれるだけあり、生粋の科学者であり技術者と言ったところだろう。

其れから中央工房の超高性能導力演算機『カペル』も駆使して最適解を見つけ出そうとするも、矢張りそう簡単には答えは出ない……孫娘であるティータが時折、『若さ故の柔軟な発想』を出してくれるのだが、其れを組み入れてみても中々巧く行かず、気付けば既に日は傾き始めていた。

 

 

「ラッセル博士、少し良いだろうか?」

 

「お邪魔するよ師匠!」

 

「爺ちゃん、ティータ、差し入れ持って来たよ~~!」

 

 

いい加減考えが煮詰まっていた所で現れたのは不動三兄妹。

長男の遊星と長女の遊里は、ラッセル博士から科学的、技術的な手解きを受けており、ティータを除けばラッセル博士から直に教えを受けた数少ない人物で、その技術力と化学力は今やラッセル博士を凌ぐとすら言われている程だ。

 

 

「わ~~、エルモ村の温泉饅頭!ありがとうレーシャちゃん!」

 

「差し入れは有り難いが……遊星、遊里、お前さん達は只差し入れに来た訳じゃないじゃろ?」

 

「勿論よ師匠。

 実は、中央工房だけじゃなくてアタシ達の修理屋にも連絡が入ったのよ。んで、兄さんと一緒に色々と考えてみたの――そしたら、見つけたのよ!ありとあらゆるステルスを見破る事が出来る方法が!」

 

「なんじゃと!?そ、其れは一体!?」

 

「科学技術だけでも、魔法技術だけでも難しかったが、其の間に俺達精霊召喚士が使うカードを入れてやる事で問題は一気に解決したんだ。

 『融合』のカードで夫々のステルスを見破る技術を融合させ、『魔法効果の矢』で夫々の機能をお互いに共有し、『団結の力』でネットワークを強化し、『人造人間サイコ・ショッカー』のカードでセキュリティを強固なものに出来る。」

 

 

そんな遊星と遊里は、まさかの『カードを組み込む』と言う方法でなのはからの難題をクリアして見せた。

科学者であり技術者で、精霊召喚士でもある此の二人だからこそ思い付いた方法なのだが、ラッセル博士がカペルでこの方法をシミュレートしたところ、見事になのはが求めていた性能をクリアする事が出来たので、此れはもうこの方法で制作するのは決定だと言えるだろう。

 

 

「まさかこんな方法で解決出来るとはのう?流石じゃなお前さん達は!

 じゃが、此れで行けると分かれば善は急げじゃ!工房の能力をフル稼働させるぞい!リベールの領空と領海を網羅するとなれば、最低でも五大都市に一つずつは設置したい所じゃからな!!」

 

「……此れ、若しかしてエルモ村の温泉饅頭じゃ差し入れ足りなかったパターン?」

 

「あはは……そうみたい。」

 

 

其処からは中央工房が能力をフル稼働させて試作機の開発が行われ、夜通し行われた作業の末に完成した試作機一号機は、見事にあらゆるステルス機能を見破っただけでなく、異次元に消えたレーシャの『銀河眼の光子竜』までも感知して見せたのだった。

そしてこの試作機の完成を持ってして量産体制に入り、完成した防衛レーダーは五大都市の遊撃士協会、各地にある関所、ハーケン門とレイストン要塞に設置されてリベールの防衛能力は格段に上昇したのだった。

 

同時になのはの命を受けたリシャールも空と海の監視艇にレーダーが異常を察知した際には直ぐに連絡が入る体制を整えており、領空に入って来た同盟国以外の外国艇には即スクランブル、了解に入って来た同盟国以外の外国艇には即巡視艇が向かう手筈になっていた。

そして其の際、警告を無視して領空、領海内を航行し続ける飛空艇や船は撃墜・撃沈する事も許可した――警告を無視するのならば、手加減など必要ないのである。

 

リシャールから其れを聞いたなのはは、同盟国以外の外国に、『リベールの領海、並びに領空に入った場合、警告に従わずに退去しなかった場合は、此れを撃沈、撃墜する』との旨を伝えていた。

こうして伝えておけば、『此方は通知しておいた』と言う大義名分が手に入り、仮に領空・領海侵犯をした上で警告を無視した相手を撃墜・撃沈しても、『ルールを破った上で警告を無視したのが悪い』と言い張る事が出来るのだから。

僅か九歳で天涯孤独となり、己の理想を叶えるために仲間を集めて生きて来たなのはは中々のしたたかさも身に付けているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

リベールの防衛力が強化される中、ルーアンの『Devil May Cry』では依頼を終えたダンテとなたねが『アンチョビとペパロニ』のピザを堪能していた。

なたねが受けた依頼は『ジェニス王立学園の旧校舎に現れる悪霊の退治』、ダンテが受けた依頼は『マルガ鉱山に現れる魔物の退治』で、何方も下級の悪魔を蹴散らすだけの簡単なモノだったのだ。

 

 

「時に、ネロの奴が遅いな?アイツが受けた依頼は特別難易度が高かったか?」

 

「いえ、カルデア隧道に現れる悪魔の退治なのでネロならば余裕な筈ですが……確かに遅いですね?」

 

 

だが、別の依頼でカルデア隧道に向かっていたネロはまだ事務所に戻っていなかった。

ネロの実力ならば下級悪魔程度であれば苦戦する事は無く、其れこそルーアンから近い場所なのでもう戻って来てもオカシクないのだが……

 

 

 

――きぃ……

 

 

 

此処で事務所の扉が開き、ネロが入って来たのだが――

 

 

「なたね、オッサン……悪い、不覚を取っちまった……」

 

 

入って来たネロは満身創痍であり、悪魔の右腕が肘から下が完全になくなっていたのだ。

パワーだけならばダンテをも凌駕するネロが此処までやられるとは、余程の相手が居たのだろうが、事務所に入って来たネロは其れだけ言うと力尽きたのか倒れてしまい、意識が完全に飛んでしまっていた。

 

 

「ネロ?目を開けて下さいネロ!」

 

「坊主、お前さんが此処までやられるとは一体相手は何モンだ?……って、其れを考えるのは後回しだな!嬢ちゃん、取り敢えず右腕の切断面を焼き固めろ!此のままじゃ坊主は失血死しちまうからな!」

 

「了解です。」

 

 

意識を失ったネロの右腕の傷口をなたねが魔法で焼き固めて出血を止めると、ダンテはネロとなたねが使っていた車を使ってネロとなたねを乗せてルーアンの病院へとアクセルを吹かすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter70『悪魔の右腕の代替品と、蠢く暗き陰謀』

そんなこんなで70話まで来ましたとさByなのは      思った以上に続いてますね?Byクローゼ


瀕死の重傷を負い、悪魔の右腕も失ったネロは右腕の傷を焼き固めた上でルーアンの病院に搬送されて緊急手術が行われたのだが――

 

 

――ピン

 

 

手術室の『手術中』のランプが消え、中からは執刀医が出て来た。

手術室の外で待っていたなたねとダンテは居ても経っても居られず執刀医にネロの容態を尋ねたのだが、ネロは重傷を負ってはいたモノの、其れは既に治りかけているだけでなく、切断された右腕に関しては『機械義手手術』を行ったとの事で、機械義手の作成は此れからになるモノのネロの右腕はほぼ完全に再生されると言って良いだろう。

 

 

「しかし、坊主があそこまでやられただけじゃなく悪魔の右腕まで斬り落とすとは相手は一体何モンだ?

 恐らくだが、俺のリベリオンでもあの悪魔の右腕を斬り落とす事は出来ねぇ……もしあれを斬り落とせるとしたら、『人と魔を分かつ』力を持つ閻魔刀くらいのモンだが、その閻魔刀は今は俺が持ってる訳だしな?

 或は魔界や天界に存在してる伝説級の武器なら可能かもしれないが……」

 

「其れもですが、ネロが斬り落とされた右腕を持っていなかった事も問題です。

 右腕を持っていなかったと言う事はつまり、悪魔の右腕は斬り落とされた上で持ち去られた可能性が高いとも言えます……悪魔の右腕には『負の遺産』、『ルサルカの亡骸』、『セフィロトの実』、『アイギスの盾』と言った古代遺産や悪魔の一部が取り込まれているのです。

 右腕を持ち去った者が、其の力を悪用しないとも言い切れません。」

 

「成程な……となると、右腕に収納されてた閻魔刀を俺が預かったのは正解だった訳か。」

 

 

ネロを襲った相手は不明だが、少なくとも相当な実力を持っているのは間違いないだろう。

クォーターとは言え伝説の魔剣士であるスパーダの血族であり、まだまだ粗削りな部分はあるとは言っても其の実力はダンテが認めるほどであり、一撃の破壊力に限ればダンテすら凌駕するのだから、そのネロを傷だらけにした上、悪魔の右腕まで切り落としたとなれば、其れはもう魔王クラスの実力者と言っても過言ではないのである。

 

其れから数時間後、麻酔が切れて目を覚ましたネロから話を聞いたダンテとなたねだったが、ネロが言うには『何か気配を感じたと思った次の瞬間には右腕が切断されて、全身を斬られていた』との事で、血で霞んだ目で見た相手は、『フード付きのコートを纏って、フードを目深に被り、ライトロードが使っていた剣を持っていた』との事だった。

 

 

「ライトロードの剣か……コイツは少しクサいな?」

 

「ライトロードはあの時全てなのはがエクゾディアの魔力を吸収した集束砲で吹き飛ばしたと思っていましたが、如何やら生き延びた存在が居ると見て間違い無さそうですね?……此れは、なのはに伝えておいた方が良いでしょう。」

 

「だな。

 つー訳で俺となたね嬢ちゃんはグランセル城に行って来るわ坊主……美人のナースが居たからってちょっかい出すんじゃねぇぞ?」

 

「アンタと一緒にすんなオッサン!……右腕が出来たら思いっ切りぶっ飛ばしてやるから覚悟しとけよこの野郎……!」

 

 

去り際にダンテが余計な事を言っており、ネロは揶揄われた事にムカついていたが、ダンテは直後になたねに頭を掴まれて『お別れです。』とこんがりと焼かれたのだった……其れでも秒で着ていたもの諸共復活してしまう辺り、ダンテはルガールとタメを張る生命力を有しているのかも知れない。

因みに王都へは車で向かったのだが、その道中に現れた魔獣は絶賛轢き殺しアタックをブチかましてセピスに換え、そしてグランセル城に行く前に王都のセピス交換屋で現金に換えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter70

『悪魔の右腕の代替品と、蠢く暗き陰謀』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユリアからダンテとなたねがグランセル城にやって来て、なのはと会いたいと言っていると言う事を聞いたなのはは、ユリアに二人を謁見の間に案内するように伝え、クローゼとヴィヴィオと共に謁見の間にて二人を待っていた。

其れから程なくダンテとなたねが謁見の間に現れ、なのはが用件を尋ねると二人はネロに起きた事を説明した――ネロを襲った言相手の正体は不明だが、ライトロードの剣を使っていたと言う事も含めてだ。

 

 

「ネロが重傷を負った上に悪魔の右腕も失うとは……しかも其れを行ったのはライトロードの剣を持つモノだったと来たか。

 ライトロードはあの時、エクゾディアの魔力を吸収したスターライト・ブレイカーで滅殺したと思っていたが生き延びた者が居たのか……」

 

「或は、教授とドクターが私達の知らぬ間にライトロードの剣を回収して、其処からライトロードを再生した可能性も十分にありますね。」

 

「って事は、悪魔の右腕もドクターと教授の手に渡った可能性は大きいよね。」

 

 

そして其処からなのは達は、ネロを襲った相手はエステル達から聞いた教授とドクターの一派ではないかと考えていた。

十年前に稼津斗によって壊滅状態にあったライトロードを再生して殺意の波動を植え付けたのは教授とドクターであり、其の二人ならば残されたライトロードの剣からライトロードを再製してしまう位は出来るだろうと推測したのである。

 

 

「なたね、ネロの右腕には古代の遺物や悪魔の一部が取り込まれているのだったな?」

 

「えぇ、其の通りですなのは。」

 

「其れが連中の手に渡ったとなると少しばかり拙いかも知れんな……其の力を基にどんなトンデモ無いモノを開発するか分かったモノではない――とは言え、其れが分かっていれば対策は出来るか。

 よく知らせてくれたなたね、ダンテ。」

 

「いえ、此れ位は妹として当然の事ですよなのは。」

 

「なたね嬢ちゃん其れ先に言っちゃうかね?其れ言われたら、報酬請求し辛いじゃないのよ?」

 

「……案ずるなダンテ。

 私は価値ある情報には相応の対価を払う事は厭わん……取り敢えず報酬は五万ミラで良いか?」

 

「毎度ありーー!!」

 

 

状況提供にしては破格の報酬だったが、逆に言えば其れだけの価値がある情報だったと言えるだろう。

もしも教授とドクターが悪魔の右腕を手に入れたら、其処から一体何が生み出されるのかは想像も出来ないのだ――ロレントの極悪チートキャラであるアインスは教授が作ったとなれば尚更だ。

 

そして其の後、ネロの右腕について話が変わったのだが、なのははネロの右腕は不動兄妹に作って貰う事を提案した。

ラッセル博士に師事して化学力と技術力を学んだ遊星と遊里は、今やラッセル博士をも超える科学者であり技術者なので、此の二人に任せれば其れこそ失った『悪魔の右腕』を完全再現した機械義手が作られると言っても過言ではないのである。

なたねも其れを了承し、なのはは早速ツァイスの『不動工房』に連絡を入れてネロの機械義手の政策を依頼し、連絡を受けた遊星も其れを二つ返事で了承したのだった――報酬額三十万ミラと言うのも、何かと物入りが多い不動工房には有り難いモノだったのも事実だが。

 

 

そして其れから数日後――

 

 

「なのはから依頼を受けて、出来るだけお前の悪魔の右腕を再現してみたんだが、如何だネロ?」

 

「悪くないな。

 スナッチ用に伸びるサブアームを搭載して、腕の本体には鋭い爪が搭載されて、バスターを本気でブチかましても壊れない強度があると来た……コイツは、可成り調子がいいぜ。」

 

「其れは何より。アタシも兄さんも気合入れまくって作ったからね其れは。」

 

 

ルーアンの『Devil May Cly』を訪れた遊星と遊里は、ネロの悪魔の右腕を可能な限り再現した機械義手『アームズ・エイド』を持って来ており、其れを装着したネロから感想を聞いていたのだが、ネロ的には充分に使えるモノで、更に調子が良いとまで言ったのでその性能は可成り高いと言っても過言ではないだろう。

因みにネロの傷はあっと言う間に治ったので手術の翌日には退院していたのだった。

 

 

「其れと、悪魔の右腕には古代の遺物や悪魔の一部が取り込まれていると聞いたから、其れを再現するために腕の中に何枚かカードを仕込んでおいた。

 何のカードが仕込まれているかは……使ってみてのお楽しみだな。」

 

「其処は説明してくれるモンじゃないのか?」

 

「次に引くカードは分からない方が面白いモノよ、違う?」

 

「ソイツは、確かにそうだ。」

 

 

更にカードも仕込まれていると言う事で、ネロは早速アームズ・エイドの力を確かめるためにルーアン近郊の浜辺に出向いて浜辺をうろついている魔獣を相手に性能テストを開始したのだが、その性能は凄まじいモノだった。

スナッチではアームズエイドからロケットアンカーのサブアームが魔獣を掴んで引き寄せ、バスターも投げ系の場合は鋭い爪が魔獣をガッチリとホールドし、打撃系の場合はインパクトの瞬間に五指と手首の関節が完全に固定されて打撃の威力を増すようになっていた。

この時点で既に悪魔の右腕を凌駕する力があるのだが――

 

 

「岩みたいに堅い殻を貫通しただと?悪魔の右腕でも罅を入れるのが精一杯だったってのに……若しかして、此れがカードの力なのか?」

 

「あぁ、其の通りだ。其れは仕込んだカードの一枚、『メテオ・ストライク』の効果だな。

 本来は召喚した精霊に使う事で、精霊に敵の鎧や堅い外骨格を貫通する『アーマーブレイク』の効果を与えるモノだが、アームズ・エイドでもその効果は問題なく発揮してくれたみたいだな。」

 

 

此処で更に仕込まれたカードの力が発動した。

敵の鎧や強固な外骨格を破壊出来ると言うだけでも相当に強力なのだが、ネロがその後色々と試してみたところ、アームズ・エイドは巨大な火の玉を発射したり、敵の攻撃を跳ね返したり、超絶強力な雷を発生させたり、魔力の鎖で拘束したりする事が出来たので、少なくとも『メテオ・ストライク』の他に、『デス・メテオ』、『聖なるバリア-ミラー・フォース』、『サンダーボルト』、『闇の呪縛』のカードが仕込まれているのは間違い無さそうだった……そして此れを仕込んだ不動兄妹は中々に容赦がないと言えるだろう。

 

 

「右腕が無くなっちまった時には如何しようと思ったが、より高性能な右腕が手に入ったってんなら寧ろ右腕を斬り落としてくれた事に感謝だな……此れがあれば、俺はまた戦えるぜ。

 サンキュー、遊星、遊里。」

 

「礼には及ばないさ。俺達も良い経験をさせて貰ったからな。」

 

「カード仕込むのも楽しかったからね♪……因みに仕込んだカードはまだあるから、色々試してね?魔法や罠だけじゃなく、モンスターカードも仕込んであるから。」

 

「ソイツは楽しみだが、ゲテモノモンスターが仕込まれてない事を祈ってるよ。」

 

 

こうしてネロは新たな右腕を得たのだが、海岸でその性能を確かめた後は、Devil May Clyに戻って宣言したとおりに病院で揶揄って来たダンテにスナッチをかまして引き寄せると、バスターで頭を掴んで持ち上げてから軽く放り投げてローキックで強制ダウンさせ、其処からアームズ・エイドで持ち上げて右に左に連続で叩き付けた後に放り投げてからサンダーボルトをブチかましてターンエンド。

 

 

「いやぁ、中々に刺激的な攻撃だったぜ坊主!」

 

「此れを喰らって全然平気とか、マジで不死身だなオッサン!?」

 

 

其れを喰らっても平然としていたダンテはマジで不死身なのかも知れないが、何にしてもネロの右腕が不動兄妹によってより高性能になって戻って来たと言うのはリベールにとっても大きな事だっただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

一方でエサーガ皇国ではワイスマンとスカリエッティが国王と謁見の機会を得ていた。

良心やら常識やらが宇宙の彼方のブラックホールに蹴り飛ばされているワイスマンとスカリエッティだが、その化学力によってエサーガ皇国の発展に一役買っているので国王からは絶大な信頼を得ていたのである。

 

 

「ワイスマン教授にドクター・スカリエッティ、余に話があるとの事だったが……」

 

「実は少々気になる話を聞きましてね……海の向こうにあるリベール王国は御存じでしょう?

 そのリベール王国では最近革命が起きて、前王であるデュナン王が倒され、新たな国王が誕生したのですが、その国王がかの魔王であった『不破士郎』と熾天使だった『高町桃子』の娘だと言うのです。」

 

「なんと、あの武人としても名高い魔王と、慈愛の熾天使の娘が新たな王に?……して、其れが何か問題があるのか?」

 

「新王の名は高町なのはなのだが……なんと彼女はデュナン王の姪であるクローディア姫を城から誘拐て連れ去って自分が組織した『リベリオン』なる武装集団の一員としてしまったんだそうだ。

 更に、高町なのはは『鬼』や『魔女』、果てはリベール最強とまで言われているカシウス・ブライトまでをも己の味方にしてデュナンに戦いを挑み、そして勝利した。此れだけならば実に爽快な革命物語で済ませる事も可能なのだが、新王となった彼女はデュナン時代には行われていなかったカルバートとエレボニアとの不戦協定の調印式を再開させ、そして己の組織の人間を軍部や親衛隊に配置し、更にはベルカ皇国とも国交を結んでその勢力を拡大させているのだよ国王。

 その勢いは正に破竹の勢いであり、『魔族の抹殺』を掲げたライトロードからの攻撃を受けても其れを簡単に退けてしまったとの事――しかも、なのは王のパートナーとなったクローディア姫改めクローゼ妃はその戦いで其の身に宿した精霊を解放したらしい。

 そして其の精霊は『千の敵を一撃で葬った』との伝説がある『エクゾディア』との話でね……その話が本当であるのであれば、今のリベールは正に無敵と言える。

 だが、其れだけの力を持った国が此れから先、果たして力による支配を行わないと思うかね国王?――其れは断じて否!力を持った者が其の力を使わないと言う事は有り得ない!

 故に、リベールが武力を持ってエサーガに侵攻してくる可能性はゼロではない――否、ライトロードは此のエサーガに拠点を置いていた事を考えると、ライトロードに攻撃された事の報復としてリベールが攻めて来る可能性は高いと言える。」

 

 

そして謁見したエサーガ国王に、ワイスマンとスカリエッティは虚実を織り交ぜた話をした――現在のリベールが本気でトンデモナイ戦力を有しているのは確かだが、なのは武力による侵攻で国土を広げる心算は毛頭ないのだが、エサーガ国王はそんな事は知る由もないので、ワイスマンとスカリエッティの話に恐怖を感じてしまっていたのだ。

エサーガ国は決して小さい国ではなく、むしろこの大陸では最大の国でありその軍事力も絶大だと言う自負があるモノの、ワイスマンとスカリエッティから聞かされたリベールの戦力と比べると些か劣る部分があるのは否定出来ないので、リベールが侵攻して来たその時は国を守り切れる自身が無かったのである。

 

 

「そんな、余は如何すべきだ教授、ドクター!?」

 

「ククク、其れは実に簡単な事ですよ国王……リベールが攻めてくる前に、此方からリベールに攻め入ってリベールを滅ぼしてしまえば良いのです。その為の戦力が必要であるならば、其れは私達で用意しましょう。」

 

「そうか、そうだな……攻められる前に攻める、其れは真理だ!

 ならば余はリベールに攻め入る準備をしなくてはだ――いやぁ、実に良い話を聞かせて貰った!」

 

 

だが、エサーガ国王はワイスマンに言われた事でリベールに攻め入る事を決めた――そして、この時のエサーガ国王の目からは光が消え、正気を失った目をしていたのだった。

 

 

「ククク……よもや国王をも暗示に掛けるとは、君の精神操作術は見事だな教授?」

 

「平和ボケした国王を操るなど、私には朝飯前だよドクター……そして、コソコソと後を付けずに現れたら如何かね?コソコソと付け回るのは、騎士の名が泣くのではないかね『アルテナ・ウィクトーリア』君?」

 

「気付いていたんですね……」

 

 

如何やらエサーガ国王はワイスマンに精神操作されてしまったらしい。

そして、城を出たワイスマンとスカリエッティの前に姿を現したのは、リベールで開催された『KOF』にのチーム戦に参加した『サイコソルジャーチーム』の『麻宮アテナ』にそっくりな女騎士『アルテナ・ウィクトーリア』だった。

エサーガ国屈指の騎士である彼女はワイスマンとスカリエッティの事を妖しいと感じており、独自に調査しており、今回の事で疑惑が確信に変わったので、隙を見て捕縛する心算だったのだが、その直前で気付かれてしまったのだった。

 

 

「ですが、気付かれても貴方達は捕えさせて頂きます!そして国王に掛けた暗示も解いて貰います!」

 

「ふむ……やってみたまえ。目出度く私達を捕らえる事が出来たその時は、大人しく君に従うと誓おうじゃないか。」

 

「君に其れが出来るとは思わんがね。」

 

「吐いた唾、飲み込まないで下さいよ!」

 

 

挑発とも取れる事を言ったワイスマンとスカリエッティにアルテナは剣を抜刀して斬りかかったが――数分後、アルテナはボロボロの状態で地に伏せており、その身体はワイスマンとスカリエッティのアジトへと連れて行かれたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter71『夫々の日常と日常の果ての因縁と』

日常の裏では色々ある、かByなのは      表も裏も平和にとは、中々行かないモノですねByクローゼ


エサーガ王国がリベール王国に攻め入る準備をしている中でもリベールは今日も今日とて平和だった。――そしてそんな平和な王都の一角では、ルミナスがユーリに召喚魔法の手解きをしていた。

ライトロードの召喚士として生きて来たルミナスの召喚術は見事なモノなのだが、自分よりも多大な魔力を有しているユーリならば自身が至れなかった『究極召喚』に至る事が出来るのではないかと想い、ユーリに持てる全ての技術を継承しているのである。

 

 

「召喚魔法は仲間を呼び寄せる事も可能だが、その真髄は己の魔力を糧にして自然界に存在している精霊を呼び出す事にある――そして、呼び出す精霊は己の魔力の属性と同じである事が好ましい。

 異なる属性の精霊を呼び出す事も可能ではあるが、その場合はより多くの魔力を消費する事になる上に、精霊の力を十全に引き出す事は出来ないからね――私は光属性なので光属性の精霊を呼び出すのが一番力を発揮出来るが、お前の魔力は闇属性なので闇属性の精霊を呼び出すのが一番力を発揮出来る、其れは分かるな?」

 

「はい、分かりましたルミナスさん!」

 

「ではまずは私がお手本を見せよう……光より出でよ我が僕よ――鎌首を上げろ、光龍!!」

 

『『『『『シャァァァァァァァァ!!』』』』』

 

 

先ずはお手本としてルミナスが五体の光の龍を召喚して見せた。

『ドラゴンを呼ぶ笛』で召喚されたドラゴンと比べるとその身体は魔力体であり、実体を持つドラゴンと比べれば脆いのだが、魔力体であるので召喚士の魔力がある限りは破壊されても即再生すると言う驚異的な打たれ強さを持っているのが魔力の龍なのだ。

 

 

「さぁ、同じようにやってみなさい。」

 

「はい!……私の魔力は闇属性……なら、深き深淵より現れよ我が僕!鎌首を上げろ、闇龍!!」

 

『『『『『『グオォォォォォォォォォ!!』』』』』』

 

 

ルミナスの真似をしてユーリも闇属性の精霊を召喚したのだが、現れたのはルミナスが召喚した光の龍を上回る力を持った闇の龍達だった――数に関してもルミナスが五体だったのに対してユーリは六体召喚したので、ユーリの方が魔力が大きいのは間違いないだろう。

とは言え、召喚魔法はまだまだ未熟であり、召喚した精霊を制御し切れなかったので、其処はルミナスがサポートしていたのだが、其れでもユーリが召喚士としても高い能力を持っていたと言うのはリベールにとっては嬉しい誤算だっただろう。其の力を制御出来るようになれば、其れはとても心強い戦力となるのだから。

古の魔導書に、拍翼、そして召喚魔法まで会得したとなったら、最早ユーリは敵なしの存在になるのかも知れない――尤も現在のリベールは、王であるなのはを筆頭に『コイツ一人で大体何とかなるんじゃないか?』と言いたくなる猛者が両手の指では足りない程居るので今更かも知れないが。

 

 

「シェン、彼女は本当に只の子供なのか?」

 

「知るかよそんな事……逆に俺が聞きてぇっての。」

 

 

取り敢えずユーリの秘めている力はトンデモないのは間違い無さそうである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter71

『夫々の日常と日常の果ての因縁と』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、なのははレイストン要塞に出向いて、リシャールやクラリッサと共にリベールが外国から攻撃された際にどう対処すべきかを話し合っていた――宣戦布告を受けたのならば未だしも、宣戦布告も無しに戦いを仕掛けられたら、其れこそ国を焼きかねないので、何時何処で戦火が上がっても其れに対応出来るようにしておく必要があったのだ。

 

とは言え、不動兄妹によって開発された超高性能レーダーがあれば、リベールに許可なく入ってこようとしている航空機も船も一発で分かるので、即対応も出来るのだが、其れもある程度のマニュアルに纏めているからこそ出来るモノなのだ。

 

 

「レーダーシステムが侵入者を感知してから軍が動くまでの時間が長いな……もっと速くする事は出来ないかリシャール?」

 

「現在のシステムでは此れが精一杯かと……レーダーが侵入者を感知すると同時に此方に何らかの連絡が入るような装置でもあれば話は別なのですが……此ればかりは簡単に如何にか出来る問題ではありませんので。」

 

「直結の連絡システムか……ならば改めて不動兄妹に頼むとしよう。

 最近少しばかり頼り過ぎている気がしなくもないが、彼等に任せておけば絶対に大丈夫だからな……私のレイジングハートも、メンテナンスを頼んだら、メンテナンスするだけではなく強化してくれたからな。」

 

 

現在はレーダーが感知してから其れを軍が知るまでに大幅なタイムラグがあるのだが、其れも不動兄妹に頼めば即改修してくれるので大きな問題とはなりそうになかった。

其れからリシャールと緊急時の対応に関してツメを行い、最終的には王国軍のマニュアルの基礎を作るに至り、そしてなのははグランセル城に戻って来たのだが――

 

 

「冗談じゃねーくらいに疲れたの。」

 

「お疲れ様ですなのはさん。」

 

「なのはママ、お疲れ様!」

 

 

王の間に入った瞬間にベッドに突っ伏した。

嘗てはリベリオンと言う巨大組織のリーダーだった事もあり、なのはは人を引っ張って行く力があるのでリベールの新王としては相応しいと言えるのだが、私設組織のリーダーと一国の主では背負う責任の重さがハンパなモノではなく、苦手なデスクワークや会議なども行わねばならなかったので、なのはは時々口調が崩壊する位に疲れる事も少なかった。

其れでも一晩寝れば完全回復してしまうのが流石は神魔と言ったところだろうか。

 

 

「取り敢えず一息吐きましょうなのはさん?良い時間ですのでお茶にしませんか?今日はヴィヴィオが手作りのビスケットを焼いてくれたんですよ。」

 

「そうなのか?其れは楽しみだな。」

 

「クローゼママに習って作ったから味は保証するよ♪」

 

 

そんななのはを労うようにクローゼが『ティータイム』を提案し、なのはも其れを受け入れたので、空中庭園はあっと言う間に『午後のティータイム』の突入し、なのは、クローゼ、ヴィヴィオのカップには最高級の茶葉とパーゼル農園直送のミルクを使った『ミルクティー』が注がれ、バスケットにはヴィヴィオの手作りのビスケットが盛られていた。

ヴィヴィオ手作りのビスケットは大きさは不揃いで、何を模したのか分からない形のモノもあったが、一生懸命作ったと言う事は伝わる一品となっていた。

 

 

「動物を模ったのか?此れは……クマか?」

 

「なのはママ、其れはネコ。」

 

「えっと、此方は馬でしょうか?」

 

「其れはキリンだよクローゼママ。」

 

 

成型技術に関してはマダマダこれからではあるが、クローゼに習ったと言うだけあって味の方はやや甘めではあったが充分に及第点レベルであり、なのはが桃子の作った完璧とも言える菓子の味を知らなかったら満点評価をしていた事だろう。

 

 

「今回は動物の目を再現するためのトッピングとしてチョコチップを使ったのは良いアイディアだったな?チョコチップは初心者のトッピングとしても使い易いからね。

 だがビスケットのトッピングは無限にあるから生地の味との組み合わせでどんなモノでも作れるから覚えておくと良い。チョコチップやナッツの他に、薄く延ばした生地にゴマを付けて焼いても美味だ。

 更に、生地に砂糖の代わりに塩を入れる事でしょっぱいお菓子にする事も出来る――その場合はビスケットではなくクラッカーと呼ぶのだがな。」

 

「クラッカーって、ヒモ引っ張って『パーン!』って鳴る奴じゃないの?」

 

「……確かに、アレもクラッカーと言いましたね……」

 

 

午後のティータイムは政治やら何やらは一切話題にせずに、お菓子の事や格闘技、魔法なんかの話題で団欒の時を過ごした――ヴィヴィオ手作りのビスケットの中に『五個集めて一つのビスケットになるエクゾディアビスケット』を見付けた時には、なのはもクローゼも思わず吹き出してしまった。

集めて出来上がったエクゾディアが二頭身の超デフォルメされた姿だったのもツボに入った様だった。

 

こうして和やかなティータイムを過ごした後でなのははグランセルアリーナに向かい、親衛隊の訓練に顔を出したのだが、其処では予想外の光景が目に入って来た。

 

 

「滅!」

 

「此の短期間で殺意の波動を此処まで飼い馴らすとは驚くべき事よ……!」

 

 

殺意の波動に目覚めた一夏と殺意の波動を発動した稼津斗が略互角の勝負を行っていたのだ。

しかも一夏はギリギリのラインではあるが殺意の波動に飲まれずに理性を保っているのである……稼津斗ですら殺意の波動の殺戮衝動を抑え込んでその圧倒的な力のみを使えるようになったのに百年以上有した事を考えると、一夏が此の短期間に殺意の波動をある程度制御出来るようになったと言うのは驚異的な事だろう。

 

 

「滅殺……!」

 

「真の力、見せてみよ!」

 

 

その戦いのラストは互いに瞬獄殺を放ったのだが、此処は流石に技の練度で稼津斗が上を行って競り勝つ結果となり、一夏はKOされて殺意の波動が強制解除となっていた――が、一夏が殺意の波動をある程度使いこなせるようになったと言うのはリベールにとっては大きな事だろう。

其の後はなのはが親衛隊を相手に模擬戦を行ったのだが、その模擬戦は阿鼻叫喚の地獄絵図とも言って差支えないモノだった――既にトレーニングを終えていた親衛隊長のユリア、隊員のレオナ、刀奈、ロラン、ヴィシュヌ、グリフィン、夏姫、マドカ以外の親衛隊員は全員でなのはに掛かるも、誘導弾で翻弄された所で全員がバインドで拘束された上で(超手加減はしたが)SLBを叩き込まれてKOされてしまったのだから。

一つだけ言わせて貰うのであれば、親衛隊の隊員は決して弱くなく、寧ろ国王直属の部隊故に選りすぐりのエリートで構成されているのだが、其れを相手にしてなおなのはは滅茶苦茶強かったと言うだけなのである――尤も、一般人ならなトラウマ植え付けられて二度と戦えなくなるであろう攻撃を喰らっても、挫けずに立ち上がって来たのだから親衛隊員は戦闘力だけでなくメンタルも相当に強いと言って間違いないだろう。

 

 

「バインドを使えば逃げられる事もないから、いっその事チャージ時間を長くして更に威力を高めても良いかも知れんな?ユリア、お前は如何思う?」

 

「発射までに時間が掛かると言う短所を無視して圧倒的な破壊力をと言う長所を伸ばすのはアリだとは思いますが、其のバインドが悪魔将軍でも破れないモノである事を確認してからの方が良いかと。」

 

「ならば問題はない。

 私がバインド魔法を覚えたのは魔界を去る直前の時だったが、試しに将軍殿に使わせて貰ったのだが、将軍殿がフルパワーを発揮しても破るのに五分かかったからな――そして今の私のバインドは十年の時を経て更に強化され、今ならば将軍殿を十分拘束する事も可能だと思っているよ。」

 

「其れならば、問題は無さそうですね。」

 

 

短所を直す暇があったら長所を伸ばせとは士郎の教えだが、その教えを忠実に守って来た結果、なのはは素早さを犠牲に防御力と砲撃能力を徹底的に鍛え、更にはある程度の近接戦闘も出来る『単騎で戦える砲撃型』となったのだが、継続的な高速移動は出来ずとも、一瞬の高速移動は可能で、その一瞬ならばフェイトやレヴィをも上回っているのだから、正に得意分野に徹底的に特化したと言えるだろう。

本日の親衛隊の訓練は、一夏となのはが強化されたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

――エサーガ王国・某研究所

 

 

ワイスマンとスカリエッティの研究所では、大きな培養ポッド内にて新たな存在が誕生していた――背は少し低めだが、銀色のメッシュが入った髪と、何処か京を連想させる顔が特徴的だった。

 

 

「ソロソロ完成かなドクター?」

 

「僅かな遺伝子サンプルでは能力の一部を再現するのが精一杯だったが、其れでも可成りの性能を持たせる事は出来た――だが、此れは草薙京ではない……故に『ネームレス』と呼ぶ事にしよう!」

 

「草薙京君になれなかった名無しか……中々に良い名前だ。」

 

 

其れは僅かに手に入れた京の遺伝子サンプルから作り出した存在なのだが、サンプルの量が圧倒的に少なかったが故に『草薙の炎』の一部を再現するのが精一杯だったが、其れでも馬鹿に出来ない戦闘力を持たせる事は出来たらしい。

 

 

「………」

 

 

そしてポッドの中で、ネームレスと呼ばれた存在は静かに目を開けるのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

――場所は再びリベールに戻り、ルーアンの郊外

 

 

此の日、ダンテは依頼受けて魔獣の駆除に向かっていたのだが、此れはなんとも歯応えの無い依頼であり、此れならば自分が出張らずにネロとなたねに任せるべきだった思っていた――ジェニス学園付近に極稀に現れると言う『極悪パンダ』ですらダンテの前では塵芥に過ぎないのだから。

あまりにも退屈な仕事だったので、パンドラで魔獣を滅殺して戻ろうかとダンテは考えていたのだが――

 

 

 

――シュン!

 

――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……

 

 

 

「来たか……少しじゃないレベルの遅刻じゃないのか?」

 

「…………」

 

 

強大な魔力と共に現れたのは嘗てネロの前に現れた黒騎士だった。

その漆黒のマスクの奥の素顔は分からないが、其れでもダンテは黒騎士――ネロ・アンジェロが己の前に現れたと言う事に笑みを浮かべていた。

 

 

「お前さんの望みは、俺が持ってる閻魔刀だろ?

 だが、俺はコイツを渡してやる心算はねぇ……欲しけりゃ奪ってみな――お互いに面倒な事は御免だ、そうだろバージル!!最高の兄弟喧嘩と行こうじゃねぇか!」

 

「……!」

 

 

言うが早いかダンテはネロ・アンジェロにスティンガーを繰り出し、そしてネロ・アンジェロは其れを手にした大剣でガードして捌いて、ダンテと距離を取る。

そして距離が離れたダンテとネロ・アンジェロは暫し気組みの状態になったのだった――そして、此の気組みが解かれたその時こそ、史上最大と言える兄弟喧嘩の本編開幕と言っても過言ではないだろう。

双子として生まれながらも人として生きる道を選んだダンテと、悪魔として生きる事を選んだバージルの道は、今此処に交わったのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter72『史上最強の兄弟喧嘩と親子喧嘩』

夫婦喧嘩は犬も食わぬと言うが、兄弟喧嘩や親子喧嘩は誰が食わぬのだろうな?Byなのは      兄弟喧嘩はネコ、親子喧嘩はインコで如何でしょう?Byクローゼ


ルーアンの郊外にて邂逅したダンテと黒騎士ネロ・アンジェロ。

嘗て魔帝の策略によってマレット島を訪れたダンテの前にも現れたネロ・アンジェロは、其の時はダンテと互角の戦いをした後に敗れて霧散したのだが、改めてダンテの前に姿を現したネロ・アンジェロの実力は其の時よりも上がっていた。

 

 

「ハッハー!やるじゃないか?

 だが、本気のバージルには程遠いな?その鎧を着てるままじゃ俺には勝てないぜ?」

 

「…………」

 

 

だがダンテの実力は其れを上回っており、嘗ては苦戦したネロ・アンジェロのパワーにも今は完全に対処出来るようになっており、必殺の居合いをリベリオンで弾き返してカウンターのスティンガーを繰り出し、放たれたメテオはギルガメスを装備してショッキングで相殺、ブロックでガード、リベリオンで弾き返す等の方法で対処する。

分厚い鎧の上からでは銃弾は効果が薄いが、至近距離からのショットガンならばそこそこの効果があり、悪魔界で作られた鎧であっても表面に傷を付ける事は可能だった様だ。

 

 

「アンタの実力はそんなモンじゃないだろ?もっと本気で来いよ!……って、あぶねぇ!此れは此れはまた元気なパンダちゃんだなぁ?」

 

「…………」

 

 

此の二人の戦いの闘気に誘われたのか、この付近に出る魔獣としては最強レベルのパンダも現れたのだが、其れに関しては問題なく一蹴して、バトルが再開される。

ネロ・アンジェロがハイタイムで斬り上げれば、ダンテは其れをリベリオンでガードしながら空中に飛び、ネロ・アンジェロの真上からレインストームで弾丸の雨を降らせた後に兜割りを叩き込んで鎧のマスクを半壊させ、破損した部分からはバージルの素顔が覗く。

 

 

「アンタ、前にネロの所に行ったんだってな?自覚は無くとも実の息子から自分と同じ力を感じ取ったってか?

 其れとも、ネロの右腕に残ってた閻魔刀の僅かな魔力に惹かれたのか……何れにしても、アンタの目的はコイツだろバージル?コイツは俺にとってのリベリオンと同じ、アンタにとっての親父の形見だからな。」

 

「!!」

 

 

そう言ってダンテは閻魔刀を取り出すとネロ・アンジェロ――否、バージルに見せ付ける。

そして其れを見たバージルは、一気に魔力を増幅させ、その増幅された魔力によって鎧のマスクが完全に吹き飛び、其の素顔が明らかになる――其れはダンテにとっては懐かしいモノだった。

 

 

「だが、此れを今のアンタに渡す事は出来ねぇ……つか、もう所有権はアンタの息子に渡っちまってるからな――欲しけりゃ奪ってみな。今のアンタじゃ、無理かもしれないがな。」

 

「…………」

 

 

挑発気味にそう言い放ち、不敵な笑みを浮かべるダンテに対し、バージルは大剣を構えると同時に、自身の周囲に幻影剣を展開した本気モードとなり、其れを見たダンテも不敵な笑みをより深くするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter72

『史上最強の兄弟喧嘩と親子喧嘩』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バージルが展開した幻影剣は、近付く敵を攻撃するだけでなく自信を守る盾の役割と飛び道具の役割も担える万能の魔力剣なのだが、其れに対してダンテは『無刃剣ルシフェル』を使って似たような布陣を展開する。

ルシフェルもまた魔力によって生成された剣であり、幻影剣のように中空に停滞させる事が可能なのだ――そしてダンテはバージルを取り囲むようにルシフェルを配置し、其れを一気に放つ。

其れをバージルは瞬間移動『エアトリック』で回避すると、ダンテの周囲に幻影剣を配置してお返しとばかりに放つが、ダンテもまた其れをエアトリックで回避してバージルに接近して閻魔刀で鞘打ち→鞘打ち→居合いのコンボを喰らわせる――此れはバージルが閻魔刀で戦う際の基本のコンボであり、ダンテは見様見真似でやってみたのだが、其れを喰らったバージルの目には光が一瞬だが戻っていた。

 

 

「自分の技を使われると、流石に黙ってられないか?なら、今度はコイツは如何だ?」

 

 

続いてダンテは高速の居合いで空間を斬る『次元斬』を繰り出してバージルの鎧を破損させ、息を吐く間もなく連続のエアトリックと次元斬を組み合わせたバージルの奥義である『絶刀』を繰り出してバージルの鎧を完全に粉砕し、更に『人と魔を分かつ』閻魔刀の力でバージルとネロ・アンジェロを分離させる――その結果として、バージルには人としての肌の色が戻り、顔に浮き上がっていた模様も消え去り、ダンテとは対照的な蒼いコートを纏った姿でその場に倒れ伏したのだった。

 

 

「……く、俺は……此処は何処だ?」

 

「よう、目覚めの気分は如何だお兄ちゃん?」

 

「ダンテ!……俺は……そうか、あの時俺は自ら悪魔界に落ちて魔帝に戦いを挑んで負け、奴の操り人形となっていたのか……よもやお前に魔帝の呪縛を解かれるとは思わなかったが、一応礼は言っておこう。」

 

 

数分後にバージルは目を覚まし、己の現状を知っていた。

 

 

「閻魔刀、貴様が持っていたのか……寄越せ、其れは俺のモノだ。」

 

「ところがギッチョン、其れがそうも行かないんだぜバージル。

 コイツは確かにアンタのモノだったかも知れないが、今では所有権がアンタの息子のネロに移ってんだ――俺は一時的に預かってるだけだから、俺の一存でアンタに渡す事は出来ねぇんだわ。」

 

「待て、誰の息子だと?」

 

「だからアンタだバージル……身に覚えないのか?」

 

「無くはないが、まさかあの夜の娼婦か?……一夜の過ちと言えば其れまでだが、まさか其れで子供が出来るとは……認めたくないモノだな、若さ故の過ちと言うモノは絶対に。」

 

「俺としては堅物のアンタがやる事やってた事に驚きだけどよ……逆に言えば其れだけ相手の女性は魅力的だったって事だよな?――分かってる範囲で良いから相手の女性の事教えてくれ!

 アンタが一夜の過ちを犯す程の女ってのは実に興味があるからなぁ?一体どんな美人さんだったんだバージル!」

 

「黙れ、刺すぞ貴様。」

 

「げふぅ!?さ、刺してから言うなよオイ。」

 

 

久々となる兄弟の会話だが、少しばかり調子に乗ったダンテはバージルに黒騎士の大剣で見事に刺されていた――普通なら致命傷なのだが、ダンテの場合は刺されても吐血はするモノの死なないので問題はないのかも知れないが。

 

 

「其れは兎も角、アンタはこれからも悪魔として生きて行く心算なのかバージル?……母さんはそんな事は望んでないと思うぜ?」

 

「如何だかな?あの日、母は俺の元には現れず、お前だけを匿った……俺は母に愛されてはいなかったのだろう?」

 

「あ~~……ソイツは違うぜバージル。

 あの日、アンタは公園に読書をしに出掛けてたから母さんはアンタの方にまで手が回らなかったんだよ……俺をクローゼットに押し込めた後で、アンタの所にも向かったんだろうが、その途中で悪魔共に殺されちまったんだ――アンタも、母さんに愛されてたんだ。そうじゃなかったら、殺されるかも知れないのに公園までアンタの事を迎えになんて行かないだろうからな。」

 

 

だが此処で、ダンテとバージルが生きる道を違える切っ掛けとなった二人の母である『エヴァ』の死の真相をダンテがバージルに話し、其れを聞いたバージルは驚愕の表情を浮かべていた。

自分は母に捨てられたと思い、同時に己に力があれば捨てられる事もなかったのだと考え、バージルは悪魔として生きる道を選び、只管に力を求めて来たのだが、母親の真の思いを知った今、バージルは自分が母に愛されていた事を実感したのだった。

 

 

「何だそれは……結局俺は勝手に一人で勘違いしていたと言う訳か?……その果てが力を求めて悪魔として生きる道を選んだとは、滑稽極まりないな……そうか、俺も愛されていたのか。

 ならば、悪魔として生きる理由はもうないか……だが、其れとは別に閻魔刀を寄こせダンテ。お前との決着だけはハッキリと付けねばならんからな?」

 

「決着なら付いただろ?

 あん時はアンタが自ら魔界に落ちちまったが、その後は魔帝の部下の黒騎士として俺と戦って負け、今もまた負けたばっかりじゃねぇか?」

 

「黒騎士の状態では俺の意識は無かったからノーカウントだ――其れに、同じ立場だったら貴様はそう言われて納得するのか?」

 

「……いや、しないね。」

 

「つまりはそう言う事だ。

 なに、殺し合いをしようと言うのではない――ただ純粋に、子供の頃にやった取っ組み合いの喧嘩を気が済むまでやろうと言うだけの話だ……子供の頃とは違い止める存在も居ないのだ、遣り甲斐があろう?」

 

「ま、殺し無しってんなら断る理由もないか……そんじゃ、今この時だけは閻魔刀を返してやるよお兄ちゃん。だが、終わったら返せよ?ソイツはネロから預かってるモンなんだからな。」

 

「いや、終わったらそのネロとやらに会わせろ。ソイツが閻魔刀を継ぐに相応しいか、俺自らが見極めてやるとしよう――其れが、父から閻魔刀を受け継いだ俺の役目でもあるからな。」

 

「OK、そんじゃそれで行こう……じゃあ、始めようぜバージル!」

 

「黒騎士の時のように行かぬと思え。」

 

 

其れは其れとして此処からは殺し無しの本気の兄弟喧嘩が始まり、ダンテはリベリオン、バージルは閻魔刀を手に手加減なしで戦う――殺しがNGとなれば普通は峰打ちなのだが、斬られた程度ならば即回復してしまうダンテとバージルは峰打ちではなくガチで斬り合う。

そして其処から互いに決定打を与え与えられを繰り返し、何度目かの打ち合いで、今度はダンテが競り勝った。

 

 

「ダンテ選手、一点リード!」

 

「数え直せ、同点だ。」

 

「……あのよぉ、こんな事言ったアレだが、決着なんぞ永遠に付かねぇんじゃねぇか?」

 

「……かも知れん。

 だが、俺達の勝負の邪魔をする輩は許さん。」

 

「ソイツに関しては、同感だね。」

 

 

ダンテの言うようにこの兄弟喧嘩は永遠に決着が付かないのかも知れないが、取り敢えず血の匂いに誘われて現れた複数の魔獣はバージルが次元斬・絶で、ダンテがパンドラのPF666オーメンで全滅させた。

こうして時々の魔獣の殲滅を来ないながら兄弟喧嘩は延々と続き……何時までダンテが経っても戻ってこない事を不審に思って現場にやって来たネロとなたねによって強制的に終了させられ、ダンテもバージルもネロのアームズエイドに仕込まれた闇の呪縛によって拘束された上で『DevilMay Cry』へと連行されたのだった。

 

そして其処でネロはダンテからバージルを紹介されて本当の父親との初対面を果たし……取り敢えず一発ブッ飛ばしたのだった。

ネロとしては『本当の親父にあったら一発殴ってやる』と思っていたので、其れを実行した訳なのだが、其処から今度は『史上最強の親子喧嘩』が勃発し、DevilMay Cryの店内は割と滅茶苦茶になったのだった――なたねが内部に強化結界を張った事で店其の物が壊れる事は無かったが。

 

 

「血気盛んなのは良い事だが、少しばかり父親として躾けてやる。」

 

「テメェのガキの事も認知してなかったクセに偉そうな事言うなクソ親父!」

 

「……さて、どのタイミングで止めたモノでしょうか?」

 

「いっそ好きにやらせりゃ良いんじゃねぇか?つか、さっきまで俺とガンガンやってたからバージルの方が先にガス欠だろうな。」

 

 

その親子喧嘩は最後の最後でネロがアームズエイドに仕込まれていた『ダーク・アームド・ドラゴン』、『堕天使アスモデウス』、『堕天使ゼラート』を召喚して一気に攻めてバージルに勝利したのだった。

そして其の親子喧嘩を経てネロは『アンタの息子らしいぜ』と言い、バージルも『如何やらそうらしいな』と言い、この親子喧嘩でバージルはネロの力を認めて閻魔刀を継承するに相応しいと判断し、正式に閻魔刀をネロに継承したのだった。

 

其の後、バージルはこの後どうするかを考えたが、ダンテから『ならここで暮らせば良いだろ?此の国の王様は魔族と神族のハーフで、全ての種が差別なく暮らせる世界を実現しようとしてるらしいぜ?』と言われ、リベール王に興味が湧き、暫くはDevilMay Cryで生活する事に決めたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

其れから数日後、王城の謁見の間にはリベリオン時代から情報面で色々となのはに協力してくれていたセスの姿があった。

セスはフリーのエージェントで、報酬次第でどんな仕事も引き受けるのだが、リベリオンと関係を持ってからは半ばなのは専属の情報屋となっていた――なのはは情報に関しては報酬を出し惜しみしないのでセスとしても有り難い上客なわけなのだが。

 

 

「セス、お前が態々やって来ると言う事は、其れだけ重要な情報を掴んだと、そう言う事だな?」

 

「そして其れは、リベールにとっては有り難くない情報と言う事でもありますよね?リベールにとって良い事であるのならば態々伝える事もないでしょうから……良くないからこそ伝えるべきだと、そう思ったのですよねセスさん?」

 

「其の通りだぜなのは、姫さん。

 カシウスの旦那の娘さんやそのお仲間から教授とドクターってのがエサーガ国の王を唆してリベールに攻め入る計画を立ててるのは聞いてるだろうが……更にトンデモナイ情報を掴んでな。

 そんな教授とドクターは、エサーガ国の聖騎士をも手中に収めてそのコピーを大量に作り出してるみたいだ――聖騎士と言えば、国を代表する筆頭騎士だが、ソイツを大量にコピーしてるってのは流石にヤバいだろ?」

 

 

そんなセスから齎された情報は、確かにリベールにとってはプラスの情報であるとは言い難い事だっただろう。

ワイスマンとスカリエッティは、打倒したエサーガ国の聖騎士である『アルテナ・ウィクトーリア』のコピーを大量に作り出し『聖騎士』の一団を作り出したと言うのだ……しかも全員に異なるマスクを着用させて正体がバレないようにしてだ。

 

 

「聖騎士の一団か……その程度でリベールを落とせると思っているのならば、リベールを舐め過ぎだ。

 リベールの精鋭達の実力は聖騎士を軽く凌駕しているのだからな?聖騎士の一団如きではリベールは揺るがん……何よりも、エクゾディアを攻略しない限りはリベールに勝つ事は絶対に不可能だからな。」

 

「エクゾディアはもう完璧に制御出来ますので、必要ならば何時でも召喚出来ますよ。」

 

「クローゼママつよーい!」

 

 

聖騎士の一団と言うのは確かに脅威の存在ではあるのだが、其れを聞いてもなのはは余裕の態度を崩さなかった――リベールの戦力ならば聖騎士の一団が相手であっても勝てると確信していたからだ。

つまりは何時エサーガ王国が攻め入って来ても大丈夫なのだが、セスとの謁見を終えたのちになのははベルカに通信を入れ、クラウスに『リベールが攻め入られるかも知れない』と伝えた上で援軍を要請し、クラウスも其れを快諾し、即時リベールに自身の側近であるシグナムを隊長にした部隊を編成して送り込むのだった。

 

こうして、リベールでは何時エサーガ王国に攻め込まれても良いように着々と準備が進んでいるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter73『強化と平和と宣戦布告とその他諸々』

アニメでの『エビル・ナイト・ドラゴン』は必殺技名がカッコ良かった!Byなのは      『ナイトメア・シャドウ・ソニック』……厨二心もバッチリゲットですねByクローゼ


セスからの報告を受けたなのははベルカ皇国だけでなく、同じく同盟国であるカルバートとエレボニアにも有事の際の援軍を要請して何時攻め込まれても対応出来る態勢を整えていた。

エサーガ王国との戦争は最早避ける事は出来ないだろうが、戦争が避けられないのであれば国が戦火に焼かれないように最大限の策を講じるのもまた国王としての務めと言えるので、なのはは其れを遂行していたのだ。

既に悪魔将軍とアーナスには協力を取り付けているので、今のリベールは正に隙なしと言えるだろう。

 

 

「は~い、ご飯よクリア、ノワール!」

 

 

だが、現状リベールは平和であり、ロレントの郊外にあるブライト家では、エステルが自身とアインスが呼び出したドラゴンに餌を与えていた――勿論、通常サイズではエサ代がトンデモナイ事になるのでミニマム魔法で小型化してはあるが。

エステルは呼び出したライト・エンド・ドラゴンに『クリア』と名付け、アインスはブラック・デーモンズ・ドラゴンに『ノワール』と名付けていた――因みに京はタイラント・ドラゴンに『アグニ』、ヨシュアはダーク・エンド・ドラゴンに『ファング』と名付けていた。

何れも己を呼び出した主には良く懐いており、アグニに至っては勝負を挑んで来た庵に問答無用で炎のブレスをブチかまして勝負前に丸焦げにしてKOしたくらいだ。

 

 

「エステルもアインスもドラゴンを持ってるだなんて羨ましいわ。レンも自分だけのドラゴンが欲しかったわ。」

 

「そうは言っても此ればかりはな……あの時お前も一緒に来ていたら自分のドラゴンを手に入れる事が出来たのかも知れんが、其れは言っても詮無い事だからな?」

 

「若しかしたらだけど、パテル=マテルは遊星が作ったから案外ドラゴンのカードが組み込まれてたりしてかも知れないからワンチャンあるかも。」

 

「確かにその可能性はあるわね?だったら試さない理由は無いわ!パテル=マテル!」

 

『ゴォォォォォォォォォン!!』

 

 

レンは姉妹の中で自分だけがドラゴンが居ないと言う事に少し不満があったみたいだが、エステルの一言からパテル=マテルを呼び出すと、その内部にはエステルの予想通りドラゴンの精霊のカードが存在しており、更に不動兄妹が開発した『カードの精霊を実体化する装置』も組み込まれていたので、早速その装置にドラゴンのカードをセットしてみた。

 

 

『ゴグガァァァァァ!!』

煉獄竜オーガ・ドラグーン:ATK3000

 

 

その結果現れたのは煉獄の力を宿した闇属性のドラゴンだった――死神の眷属であったレンにはピッタリのドラゴンであると言えるだろう。

レンはこのドラゴンを『キリュウ』と名付け、ブライト三姉妹は形は違うが目出度く全員がドラゴンを従える事になったのだった――そして、カシウスは更に上位のドラゴンである古代竜の『レグナント』と知り合いだったりする。

母親以外は全員ドラゴンと関係があると言うのは中々にトンデモナイ事であり、カシウスだけでなくその娘達もエステル以外は血が繋がっていなくとも相当にぶっ飛んでいるのは間違いなさそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter73

『強化と平和と宣戦布告とその他諸々』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エサーガ国との戦争は避ける事は出来ないと考えたなのはは、グランセル城の地下にある『封印区画』と呼ばれる場所までやって来ていた――嘗て、リベール革命の際にデュナンとの最終決戦を行った場所だが、其処でなのははサイドテールにしている髪を解き、更に防護服も解除した一糸纏わぬ姿で禅を組んでいた。

封印区画には太古から練り上げられ凝縮した魔力が満ちており、なのはは其れを其の身に取り込むためにやって来たのだ――そして、魔力体の防護服があったのでは其れを十全に取り入れる事は出来ないと考えて一糸纏わぬ姿で禅を組んでいたのである。

 

 

「…………」

 

 

凡そ一時間ほどその姿勢でいたなのはは、おもむろに目を開くとゆっくりと立ち上がり、そして一気に魔力を解放して防護服を纏って髪をツインテールに纏める。

そして解放された魔力は極めて大きくて強く、この魔力開放によって封印区画の床にはなのはを中心に大きなクレータが出来上がったのだが、なのはは己の力がより高くなった事に笑みを浮かべていた――いざ戦争となれば、なのはは王であっても前線に出て戦いながら指揮を執る心算だったので、己の力を高めると言うのは当然の事であると言えるだろう。

 

 

「まさか朝日の持つ魔力と同等以上の魔力だったとは驚きだ……此れが千年を掛けて凝縮された魔力と言うモノか――質の高い魔力を其の身に取り込む事で己を強化出来るのはリンカーコアを持つ者の特権だな。

 ……ライトロードの戦いの時はブレイカーを放つ為の魔力として集束したが、エクゾディアの魔力をこの身に取り込んだら……いや、あれ程の魔力を一度に吸収したら身体の方が耐え切れずに崩壊するか。」

 

 

エクゾディアの魔力をも取り込む事も考えたが、其れだと身体が耐え切れないと考えて断念した。

其れは兎も角として、太陽の魔力と封印区画の魔力を取り込んだ事でなのはの力はリベリオン時代とは比べ物にならないレベルに高まっており、SLBどころかディバインバスターでも都市を簡単に更地に出来るだけの力を有するに至っていた。

一個人が持つ力としては強過ぎるのかも知れないが、一国の王が其れだけの力を持っていれば其れだけでも同盟を結んでいない他国への牽制に繋がるのだ――尤も現在のリベールは王であるなのはと王妃であるクローゼの両名が『単騎で国を落とせる力』を持っているのだが。

 

封印区画の魔力を取り込んだなのははグランセル城のエントランスに戻ると、其処には城の見学に来ている子供達の姿があった。

なのはがリベールの王となってから行った改革の一つが『子供の教育改革』であり、なのはは其れまで協会の『日曜学校』でしか学ぶ機会がなかった子供達に充実した学びの場を与える為に、リベールの五大都市に教育機関となる学校を設立したのだ。

その学校では座学だけでなく実際に体験、見学する『体験授業』も取り入れており、その一つが『グランセル城の見学』だったりするのだ――子供達はグランセル城で働いているメイドや衛兵に色々な質問をぶつけ、其の答えを聞く事で知識を増やしていく訳だ。

 

 

「城の見学に来たのかな?グランセル城は見るべき所も多いから隅々まで残さず見学して行くと良い。」

 

「ひゃい!お、王様!ほほほ、本日はお日柄も良く……」

 

「……教師たるお前が狼狽えて如何する……と、王である私が言っても説得力はないか。

 とは言え、こうして会ったのも何かの縁だ……そうだな、今日見学に来た子供達には特別に私に対する質問を受け付けよう。私に聞きたい事があれば何でも聞くと良い――倫理的にアウトな事でなければ全て答えようじゃないか。」

 

 

此処でなのはがサプライズで登場して、子供達からの質問を受け付けると言って来た――引率教師は予想していなかった展開にすっかりパニくってしまったが、子供達は『王様が質問に答えてくれる』との事で目がキラキラと輝き、『質問がある子は手を上げて』と言われると次々と手を上げ、なのはに指名された子は全員が真っ直ぐでストレートな質問をなのはにぶつけ、なのはもそれら全てに子供達が納得出来る回答をしつつも時には『君ならば如何考える?』と逆に質問をして子供達の思考力を高めようと務めていたのだった。

そして同時に、この子供達の為にも絶対に国は焼かせないと心に誓っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

子供達との交流を終えたなのはは午後のティータイムとなったので空中庭園にやって来たのだが、其処には既にクローゼとヴィヴィオがやって来ており、ヴィヴィオはミニマム状態のバハムートと戯れていた。

 

 

「あ、なのはママ!おそーい、遅刻だよ!」

 

「スマンスマン。

 封印区画内に存在している太古の魔力を取り込んで終わりにする心算だったのだが、城の見学に来ている子供達が居たのでね……其の子達と交流していたら少しばかり遅れてしまったよ。

 だが、王でありお前の親である私が遅刻すると言うのは如何なる理由があろうとも良くない事だな……なれば、遅刻の侘びとしてお前のお願いを一つだけ聞くとしようかヴィヴィオ?」

 

「ほんとーに!?

 それじゃーねぇ……何時でも良いからなのはママとクローゼママの時間のある時に、また三人でピクニックに行こう?お弁当はなのはママとクローゼママの手作りが良いなぁ♪」

 

「……クローゼ、我が娘がとっても可愛い。そして尊い。」

 

「その意見に関しては全力で同意します。」

 

 

なのははティータイムの時間に少し遅れて到着しており、その事をヴィヴィオに指摘され、遅刻の侘びとして『一つだけお願いを聞く』と提案するしたのだが、ヴィヴィオのお願いはなんともほのぼのとしたモノであったので、思わずなのはとクローゼは親バカを炸裂させてしまった。

其れだけなのはもクローゼもヴィヴィオの事を『娘』として大切に思っていると言う事だろう――ヴィヴィオは身体こそ大人だが精神的はまだ十歳程度と言うのが、余計に二人の庇護欲を刺激するのかも知れない。

 

其れから程なくしてメイドがお茶とお茶菓子を運んで来て午後のティータイムがスタート。

本日のお茶は東方の大陸の更に海を渡った島国から輸入した『緑茶』と呼ばれるモノであり、お茶菓子もその島国から輸入したモノなのだが、その菓子はリベールでは先ず見る事のないモノだった。

其れは小豆を砂糖と共に煮て作った『小豆餡』を葛粉と呼ばれるモノから作った生地でくるんだ『葛饅頭』と言う菓子に、更に塩漬けにした桜の葉を巻いた『くず桜』と言う菓子だった。

 

 

「ふむ……外側の生地の弾力とモチモチ感を併せ持った食感と塩漬けの葉の食感が対照的で、餡の甘さと葉の塩味が絶妙な味のバランスを演出しているか。」

 

「お茶にもよく合いますね。」

 

「プルプルモチモチで甘くてしょっぱい!とっても美味しい!」

 

 

緑茶とくず桜の組み合わせは最高で、本日のティータイムも和やかに過ぎて行った――ヴィヴィオがくず桜をバハムートに与えようとした際には、五本の首が誰が貰うかを争う珍事があったが。

 

 

「なのは様、失礼します。」

 

「ユリアか……如何した、急用か?」

 

「はい……今し方、エサーガ国からの使いだと名乗る人物が現れ、此方の書簡をなのは様にと……」

 

「ほう?」

 

「エサーガ国からの使い、ですか。」

 

 

そんなティータイム中にユリアが現れて、エサーガ国からの使いを名乗る人物から預かったと言う書簡をなのはに持って来た。

なのはは指先に小さな魔力刃を展開して、其れをペーパーナイフ代わりにして封筒の封を切ると、中に入っていたモノを取り出し、そして其れに目を走らせ――思わず失笑を漏らしてしまった。

 

 

「なのはさん?」

 

「なのはママ?」

 

「読んでみろ、中々に面白いぞ。」

 

 

なのはは読み終わった手紙をクローゼに投げ渡し、其れを受け取ったクローゼはヴィヴィオと共に其れを読んだのだが、読み進めていくうちにクローゼの顔からは笑みが消えて行った。

エサーガ国から送られた書簡には、こう書かれていたのだ。

 

 

『リベール王、高町なのはに対し以下の要求を行う。

 一つ、リベールはエサーガ国に対して治外法権を認めよ。

 一つ、リベールはエサーガ国との貿易を行う際、如何なる関税自主権も放棄せよ。

 一つ、リベールは持てる全ての天然資源を無償でエサーガ国に譲渡せよ。

 一つ、リベールは持てる全ての技術をエサーガ国に譲渡せよ。

 以上の要求を一つでも拒否、或は書簡が届いてから一週間以内に回答がない場合は我が国はリベールに対して宣戦布告を行い、リベールへの攻撃を開始する。

 リベール王、高町なのはが尤も賢い選択を行う事を祈念する。

 

 エサーガ国王。』

 

 

その内容は最早無茶苦茶で、この要求を飲む国は存在しないだろう――詰まるところ此れは、元より拒否される事が前提となっている書簡であり、戦争を始める理由を得る為のモノでしかないのだ。

 

 

「なのはさん、此れは……」

 

「下らん挑発だ……リベールと戦争をしたいのであればストレートに宣戦布告を行えば良いだけだと言うの回りくどい真似をしてくれる――まぁ、エサーガ国……と言うよりはプロフェッサーとドクターが国として戦争を行う大義を得るためにこの文章を考えたのだろうがな。

 ならば、其れには応えてやるさ……嫌という程な。

 ユリア、エサーガ国からの使いと言うのはまだ居るか?」

 

「なのは様の返事を聞きたいとの事で、エントランスで待っていますが……」

 

「そうか……」

 

 

其処からなのははメイドに紙とペンを持って来させると、凄まじいスピードで紙にペンを走らせ、最後まで書き切ったところで己の右手の親指を噛んで軽く出血させると、其の血で親指の印を捺した。

神族と魔族の双方の血を引いた者のみが宿す『翡翠色』の血によって成された血判は、なのはの意思の現れであり、リベールを他国には侵略させないと言う思いの形でもあったのだ。

なのははリベールの王になってから、デュナン時代の法を幾つも改正しており、特に遊撃士に対しての権限はデュナン時代よりも強化され、有事の際には遊撃士は王国軍の独立部隊として動く事が出来るようになっていたのである――遊撃士の中には王国軍の兵士以上の実力を持つ者も少なくないでの、この法律改定はリベールにとっては有り難い事だっただろう。

 

其れは兎も角として、エントランスで待っていたエサーガ国からの使いには、なのは直筆の書簡が渡され……

 

 

「滅殺……!」

 

 

其処に殺意の波動を発動した一夏が現れて『瞬獄殺』を叩き込んでエサーガ国の使いを滅殺!――そして其の遺体は返事の書と共にエサーガ国へと転移魔法で直帰するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

なのはが封印区画で魔力を吸収していた頃、ワイスマンとスカリエッティは、エサーガ国の戦力を整えていた。

トワイライトロードとなった嘗てのライトロードに加え、エサーガ国の聖騎士である『アルテナ・ウィクトーリアス』の無数のクローンコピー、そして其れに加えて……

 

 

「此れは、なのは王と織斑一夏君には刺激が強過ぎるかなドクター?」

 

「良いや、此れ位の刺激は良いアクセントだろうプロフェッサー!」

 

 

全身装甲の鎧を纏った人物が二人居た――鎧の形状からして女性のようだが、全身装甲だけに詳細は不明……だが、此の二人の全身装甲の騎士はエサーガ国に於ける最大の切り札であるのかも知れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter74『戦争前には色々と準備が必要なのです』

宣戦布告……を受けた直後に宣戦布告して来た国に対してSLBはダメだろうか?Byなのは      其れは、判断が難しいですね……Byクローゼ


エサーガ国からのトンデモない要求に要求に『否』を突き付けた翌日、なのはは不動兄妹の協力を得てリベール全体に広域通信を行っていた――其れも只の広域通信ではなく、空にその光景が投射されると言う最新技術を使っての広域通信なのだ。

 

 

『突然の広域通信で驚かせてしまった事を、先ずは詫びよう。

 私はリベールの王、高町なのはだ――我が国は先日エサーガ国より到底承認する事の出来ない不平等条約を突き付けられ、其れを拒否した場合はリベールに戦争を仕掛けるとまで言って来たのだが、当然その不平等条約を私は拒否した――故にエサーガ国と我が国は近く戦争状態に入るだろう。

 だが、安心して欲しい。

 前回のライトロードとの戦いの時同様、リベールは絶対に負けず、一人の犠牲者も出さないと誓おう!そして戦う力を持っている者達は今回もまた国を守る為に其の力を発揮して欲しい!戦う力を持っていない者達を守る事に力を貸して欲しい!』

 

 

突然の広域通信、それもなのはの姿が空に映し出されたのだからリベールの民は驚いたが、其れ以上に驚いたのがなのはの話の内容だった――『エサーガ国がリベールに宣戦布告して来た(要約)』と言うだけでも驚きだったのだが、なのはが手にしていたエサーガ国からの書簡の内容は驚きを通り越して呆れてしまうモノだった。

明らかにリベールに戦争を仕掛ける口実を作る為だけの書簡に、リベールの民は全員が憤慨したのだった。

革命によってデュナン政権が終わり、新たになのはが王となってリベールを治め始めたと思った矢先に起きたライトロードの襲撃、其れを撃退してようやく平和になったと思ったら今度はエサーガ国からの宣戦布告と来た……しかもエサーガ国は『リベールが要求を断ったから』と戦争の理由は手にしたモノの其の戦争に大義は無いと来ているのだから当然だろう。

 

 

「戦争か……其れは絶対に嫌だけど、ぶっちゃけた話クローゼ王妃が精霊召喚したら其の時点で即終了するんじゃないかって思うんだけど、如何かしらヨシュア?」

 

「其れはそうかも知れないけど、エサーガ国だってリベールの戦力が如何程かは調べている筈だから何らかの対策はしてくるんじゃないかな――王妃の精霊の攻撃は魔法攻撃だから、例えば『魔法攻撃無効』の障壁なんかで防ぐ事は出来ると思うし。」

 

「エクゾディアの攻撃を防いだら防いだで、周囲に散らばったエクゾディアの魔力を王が集束して、『魔法攻撃無効の障壁、なにそれ美味しいの?』と言わんばかりの極悪集束砲が放たれる訳だがな。」

 

「もしもの時の為に遊星と遊里に頼んでパテル=マテルを強化改造して貰おうかしら?」

 

「ちょっと待てレン、お前その超兵器を如何強化改造して貰う心算だ?」

 

「あら、決まってるじゃない京。

 搭載火器をより強力なモノにして、目からもビームが出るようにして貰って、新たに『リミッター解除』、『Y-ドラゴン・ヘッド』、『Z-メタル・キャタピラー』、『魔法除去細菌兵器』のカードを仕込んでもらうのよ。」

 

「レン、お前は一体パテル=マテルをどんな最終兵器にしようとしているんだ?」

 

 

最早エサーガ国との戦争は避ける事は出来ないが、そうであるのならば徹底抗戦あるのみなので、各地の遊撃士や武闘家、其れ以外の『戦う力を持つ者達』は何時戦闘が始まっても良いように準備をするのであった。

特にリベール一の過剰戦力との呼び名も高いロレントでは、ブライト三姉妹、京、ヨシュアがこんな会話を行っており、其処には余裕すら感じさせるモノだった――二度の大きな戦闘を経験しているからこそなのだろうが。

同じ頃、ロレントの自警団である『BLAZE』も緊急ミーティングを行い、其処でリーダーである志緒が『リベールの一大事だ、気合入れろよテメェ等!』と言ってメンバーを鼓舞していたのだった。

そして其の日の内にレンは不動兄妹に連絡を入れてパテル=マテルの強化改造を行って貰い、タダでさえ超スペックのパテル=マテルは最終兵器を超えた終末兵器と言うべきオーバースペックになったのだった……リベールにおける真の最強は、こんな魔改造をサラッとやってのける不動兄妹なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter74

『戦争前には色々と準備が必要なのです』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

広域通信を行った数時間後、なのははクローゼと共にレイストン要塞にやって来ていた。

エサーガ国が何時攻めて来ても良いようにどの様な迎撃態勢を整えておくべきかをリシャールと打ち合わせるためにやって来たのだ――そして、その司令室ではリベールの地図がモニターに映し出されていた。

 

 

「リシャール、エサーガ国がリベールに攻め入って来るとしたらどのルートで来るのが一番可能性が高いと考える?」

 

「リベールとエサーガは海で隔てられているので、海路でゼムリア大陸まで来た後に陸路を来るか、空路で直接乗り込んで来るかの二択になりますが海路と陸路を併用した場合、海路は兎も角として陸路はエレボニアかカルバートの何れかを経由しなければリベールに入る事は出来ないので其方はまず無いでしょう。

 海路でルーアンから直接乗り込むと言う手もありますが、ルーアン周辺の海は戦艦が入るには浅く座礁する可能性が高いのでその線も考え辛いかと――矢張り、空路で来る可能性が最も高いと考えます。

 其れ以外だと、転移魔法を使って直接乗り込んでくると言う事が考えられますが、先のライトロードとの戦いを見ても、召喚士であっても召喚魔法で一度に呼び出せる数が二桁であった事を考えると、数百人は居るであろう一部隊全てを転移させるのは不可能ではないかと考えますよ。」

 

「ふむ、実に正確で分かり易い。」

 

「流石は情報部の隊長、見事な推測です。」

 

「そう言って頂けるとは光栄の極み。」

 

 

其の地図でエサーガ国が何処から攻め込んで来るかを予測して対策をしていたのだが、リシャールの予想では『空路で来る可能性が最も高い』との事で、其れはなのはも予想してた事であったので、空の防衛を強化する事になった。

そして空の防衛強化だけでなく地上部隊にも王国軍の精鋭を各地に配置して何処から攻め入られても対応できる体制を整え、同時に民の避難場所も各地に指定し、其処には『光の護封剣』のカードによる絶対防御を張る事を決定した。民の安全は何よりも守るべきモノであるのだから此れは当然と言えるだろう。

 

 

「悪魔将軍とアーナスにも此の事を伝えて早急にリベールに来てくれるように要請する……将軍とアーナスの力が加われば、リベールはより隙の無い布陣を敷く事が出来るからな。」

 

「悪魔将軍さんとアーナスさんの力を借りる事が出来るのならより安心出来ますね。

 ……ルガールさんは魔界に帰らずにテレサ先生の所で暮らしているみたいですから、魔王全てがこのリベールに集結する訳ですか……普通に考えるとトンデモナイ事ですよね此れ。」

 

「此れもまたなのは王の人脈と人柄がなせる業と言うモノでしょうが……」

 

「将軍、アーナス、ルガールの三人に関しては父の遺言が大きいがな。」

 

 

更になのはは悪魔将軍とアーナスにも援軍を要請する心算であった。

魔王の一人であるルガールは魔界に帰らずにルーアン近郊のテレサの孤児院に居候している状態なので、悪魔将軍とアーナスが出張れば、なのはを含めて全ての魔王がリベールに集結する事なり、なのはが新たな王となってから周辺国と比べると明らかにぶっ飛んだレベルの戦力を有しているリベールが更に強化されるので、其れこそエサーガ国がどれだけの戦力を持って来たとしても圧倒出来るだけの戦力がリベールに揃うのである。

 

そんな感じで会議は終わり、なのはとクローゼは城に戻った後にヴィヴィオと一緒に夫々のドラゴンに乗ってエルモ村を訪れて温泉を堪能していた――此れもまた、戦闘前の英気のチャージと言う奴だろう。

親子で露天風呂を堪能して英気を養った後はグランセル城に戻ってなのはとクローゼは王室親衛隊隊長のユリアと隊員数名と共に民の避難先への食料の供給、風呂やトイレは如何するのかを話し合い、食料に関しては王都の巨大マーケットとボースのボースマーケットに『光の護封剣』、『攻撃の無力化』のカードをセットし、その二つのマーケットと避難先を『亜空間物質転送装置』繋いで食料を送る事になり、風呂とトイレに関しては急ピッチで公衆浴場と公衆トイレを建造する方向で決まった。

可成りの突貫工事になるのは間違いないが、アルーシェの従魔や不動兄妹の精霊に手伝って貰えばそう難しいモノではないだろう。

 

 

「なのは、此れ。エサーガ国からの新たな書簡が届いたみたい。」

 

「レオナ……エサーガ国からか……まぁ、内容は読まずとも想像出来るがな。」

 

 

そんな中でレオナがエサーガ国から届いた新たな書簡をなのはに渡し、なのははペーパーナイフで封を切ると中身を取り出して其れを読む。

 

 

「……何時攻め入るかを通知して来るとは、一応戦争を仕掛ける際の礼儀は弁えているようだな。」

 

 

その書簡の内容は――

 

 

『此方の要求を拒否されたので、通告の通りリベールに対して宣戦を布告する。

 ○月×日、午前九時、エサーガ国はリベール王国に対しての攻撃を開始する。

 

                                       エサーガ国王』

 

 

とのモノだった。

其れを読んだなのはは妖絶な笑みを浮かべると、広域通信で王国軍と各地の遊撃士協会に此の事を伝えて、戦に向けての体制を整えて行く――その結果としてリベール各地の防衛戦線は完成し、各地方で都市に侵攻させないための布陣が敷かれていた。

特にリベールでもトンデモナイ戦力が揃っているロレントとルーアンの防衛は強固であると言えるだろう。

更にそれから数時間後にはなのはの要請を受けた悪魔将軍とアーナスが、夫々配下である魔族と従魔を引き連れてリベールに降り立ち、悪魔将軍はボース、アーナスはツァイスの防衛に就いたのだった。

 

 

「しかし、予想していたよりも宣戦布告をしてくるまでに時間が掛かったな?私はあのふざけた書状に返事をしてすぐに宣戦布告して来ると思っていたのだが……」

 

「若しかしたら、エステルさん達が連れ去れた際に乗っていた船の修復に思いのほか時間が掛かったのではないでしょうか?

 艦内でドラゴンを呼ぶ笛を使って、呼び出したドラゴンが船の装甲を突き破って現れたとの事でしたし……遥か上空で船に穴が開いたら、其処から風圧で装甲が持って行かれる事は少なくありませんから、突き破られた以上のダメージを受けてしまった可能性は高いと思います。」

 

「だとしたらエステルは良くやったとしか言いようがない……おかげさまで、こうして迎撃態勢を完璧に整える事が出来たのだからな。

 ククク……此方は準備は出来ているから何時でも来いエサーガ国、否ドクターとプロフェッサよ……そして、思い知るが良い自分達が一体誰に対して喧嘩を売ってしまったのかと言う事をな。

 リベールは貴様等程度には屈しない……貴様等には私とクローゼの理想を実現する為の踏み台になって貰うぞ!」

 

 

全ての準備を整えたなのははその背に神魔の証である白い翼と黒い翼を展開すると、クローゼもそれに呼応するように背に光の翼を現出する――そしてなのは掌に桜色の炎を、クローゼは空色の魔力の炎を展開すると、背中合わせに立って其れを握り潰して、魔力の闘気を爆発させた。

神魔の王と聖女の王妃が爆発させた魔力の闘気は、リベール全土に伝わり、各地の防衛戦線の士気を高揚させるのだった。

 

 

 

そして、其れから数日後――エサーガ国がリベールに攻め入るとした日時に、リベールの領空近くは空を覆う程の巨大な空中戦艦……或は『移動空中要塞』とでも言うべきモノが現れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter75『オープンコンバット!リベールは無敵です!』

今回登場のオリカに付いては各自脳内補完しておくようにByなのは      流石に其れは適当過ぎませんか?Byクローゼ


リベールの領空内に現れた移動要塞とも言うべき巨大な飛空艇である『グロリアス』からは、小型の戦闘艇が発進してリベールの各地へと向かって行った――リベールに攻め入る日時は守ったモノのこれは一種の奇襲とも言うべき先制攻撃だったのだが……

 

 

「その程度の奇襲でリベールを落とせると思ったのならば些か舐め過ぎだな……ディバインバスター!!」

 

「なのはママ直伝!ディバインバスター!!」

 

「リベールは此の程度では落ちません……アラウンド・ノア!!」

 

 

王都に攻め入ろうとした小型の戦闘艇は、王都に入る前になのはとヴィヴィオが直射砲、クローゼが水属性の上級アーツで撃墜して壊滅状態に陥らせたが、搭乗員達は戦闘艇が撃墜されても平気なように全員が小型のフライトユニットを搭載しており、更に戦闘艇に乗り込む前に『アースガード』を掛けていたので無傷であり、其のままフライトユニットを使って空中戦を仕掛けて来た。

 

 

「船が落とされた時の備えもして来たと言う訳か……だが、其れも無駄な事!王都の守護龍の姿を見るが良い!ヴァリアス!!」

 

「出番ですよ、アシェル!!」

 

「やっちゃえバハムート!」

 

 

『ゴガァァァァァァァ!!』

真紅眼の鋼炎竜:ATK2800

 

『グオォォォォォォォ……!』

ブルーアイズ・タイラント・ドラゴン:ATK3400

 

『『『『『キシャァァァァァァァァァァ!!』』』』』

F・G・D:ATK5000

 

 

其れに対しなのは、クローゼ、ヴィヴィオは夫々のドラゴンを呼び出すと敵部隊に攻撃命令を下す。

放たれた闇の炎、光のブレス、水、炎、風、地、闇属性のブレスは空中部隊をいとも容易く壊滅させたが、其れに続いてグロリアスから現れたのは闇の力を得て『トワイライトロード』となった嘗てのライトロードの一団だった。

エサーガ国の本命は此方であり、先の戦闘艇は小手調べに過ぎなかったのだろう。

地上ではエサーガ国の聖騎士『アルテナ・ウィクトーリア』のクローン部隊がリシャール率いる王国軍、ユリア率いる王室親衛隊、そしてベルカからの援軍であるシグナム率いる部隊と激突して激しい戦闘が繰り広げられる展開となっていた。

 

 

「王国の興廃この一戦にあり!一人たりとも王都には立ち入らせるな!」

 

「全員死ぬ気で戦え!だが絶対に死ぬな!」

 

「同盟国が攻められると言うのならば、共にそれを討ち倒すがベルカの騎士!リベールの為にその剣を揮え!」

 

 

王国軍は最新鋭の戦車である『オルグイユ』を出撃させ、親衛隊の兵士の中で剣を使う隊員は遊星がネロのレッドクィーンをベースに『普通の人間でも使えるようにした』として開発したエンジン付きの機械剣『バルムング』を装備していた。

ベルカの部隊も隊長であるシグナムを筆頭に、鉄槌で戦う少女騎士ヴィータ、屈強な肉体そのものが武器の獣人ザフィーラが先頭を切って戦い、ペンデュラムを装備した女性騎士シャマルは得意の後方援助で味方をサポートしている……リベールとベルカの混合軍、其の力は凄まじいモノである。

そして、リベールの各地では同じ様に戦闘が開始されるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter75

『オープンコンバット!リベールは無敵です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・ボース地方

 

 

ボースは市街地に至るルートが他都市よりも豊富なのだが、エサーガ国の部隊はロレント側のルートとルーアン側からのルートの二方向から仕掛けて来たので、ロレント側のルートにはアガットと悪魔将軍の配下の中でもトップクラスの実力者であるバッファローマンとアシュラマンが、ルーアン側のルートには悪魔将軍とザ・ニンジャが夫々配置に付き、ハーケン門の部隊は伏兵に備えて他のルートの防衛に付いていた。

 

 

「喰らいやがれ!ハリケーンミキサー!!」

 

「バカデカイ図体に違わず、モノスゲェパワーだなオイ……只のタックルで十人以上吹っ飛ばすとは呆れたパワーだぜ。っと、そうは行くかよ!ダイナストケイル!!」

 

「カカカ、貴様も人間にしては恐るべきパワーよ。

 おぉっと、此処から先は通さぬ。竜巻地獄!!」

 

 

そのロレント側のルートではアガット、バッファローマン、アシュラマンがアルテナのクローンを圧倒していた。

聖騎士とは言えアルテナは女性なので力では此の三人には圧倒的に劣り、完全にパワーでねじ伏せられる結果になっていた……特にバッファローマンのハリケーンミキサーは只のタックルとは一線を画した最早交通事故レベルの破壊力なので此れを喰らったら一撃で戦闘不能は免れないだろう。

 

 

「地獄のメリーゴーランド!」

 

 

ルーアン方面では悪魔将軍が自身の強度を『ダイヤモンド』まで強化した上でその強化状態で両腕に固定装備として現れる剣を使っての高速回転攻撃を行い、トワイライトロードの部隊を血祭りに上げていた。

その巨体からパワー攻撃が得意と思われがちな悪魔将軍だが、実はパワー攻撃だけでなく技も冴えるのだ。

ザ・ニンジャも其の名が示す通り、東方に伝わる伝説の隠密である『忍者』を彷彿とさせる隠形と暗殺術を駆使してトワイライトロードを次々と始末して行った……数だけは多いのでまだ戦闘は終わらないだろうが、現状ではボース部隊が優勢であると言えるだろう。

 

 

 

 

 

・ルーアン地方

 

 

ルーアン地方では主にルガールと『Devil May Cry』のメンツが出張る事になったのだが、此れはもうマッタク持って問題が無かった。

 

 

「神をも超える力、思い知るが良い。」

 

「バージル、中二病乙。」

 

 

多数の敵はバージルが『次元斬・絶』で斬り伏せ、其れを逃れた相手もキッチリとダンテとネロとなたねが仕留め、ルガールはマーシア孤児院に近付く敵を容赦なくジェノサイドカッターで撃滅し、場合によっては自爆して道連れにしながらも最早趣味となっている復活によって即時復活して敵を葬ると言うトンデモナイ事をしてくれていたのだった……自爆しても復活出来るとか、若しかしたらルガールこそが此の世界における最大のチートバグなのかもしれない。

 

 

「合わせろよクソ親父!」

 

「誰にモノを言っているドラ息子。」

 

 

そんな戦闘の最中ネロとバージルが親子合体の『ダブル絶刀』を繰り出して敵部隊を鎧袖一触!

更にダンテがハンドガンの曲撃ちである『ミリオンダラー』を繰り出し、なたねは三連直射砲の『ディザスターヒート』を繰り出して敵部隊を減らしていく――更にルーアンの遊撃士であるカルナが、遊里が開発した『導力アサルトライフル』を連射して次々と敵を撃破していた。

 

 

「「君の死に場所は此処だ!」」

 

 

そしてルガールは殺意の波動を覚醒させてゴッド・ルガールとなるとルガール版瞬獄殺『ラスト・ジャッジメント』を叩き込んで敵部隊を撃滅していた――因みの本日のルガールは肩パッド付の少しメカメカしいデザインのコートを羽織っているのだが、このコートは孤児院の子供達がデザインしたモノをテレサが形にしたモノだったりするのだ。

この魔王、すっかり孤児院に馴染んでいる様である。

 

 

 

 

 

・ツァイス地方

 

 

ツァイス地方も都市の防衛は万全だった。

不動兄妹によって開発された『都市防衛結界』はなのはの直射砲をも防ぐ強さがあるので、並の攻撃では突破される事は無いと言えるのだが、そして其れ以上にエサーガ国の部隊の迎撃に向かったのも中々にぶっ飛んだ部隊だった。

ハーケン門から派遣された王国軍は強力なのだが、其れ以上に不動兄妹が召喚した精霊とナイトメアフォームのアーナスとアーナスの従魔が強力過ぎた。

 

 

「魔法カード『融合』を発動してアタシの『プリンセス・ヴァルキリア』と兄さんの『セイヴァー・シューティングスター・ドラゴン』を融合!現れよ、『龍騎士-プリンセス・ヴァルキリア』!

 龍騎士-プリンセス・ヴァルキリアの攻撃力は3000だけど、龍騎士-プリンセス・ヴァルキリアは融合素材にしたドラゴン族の元々の攻撃力の半分の数値攻撃力が上昇し、更に融合素材となったモンスターの効果を得る!

 これにより龍騎士-プリンセス・ヴァルキリアはセイヴァー・シューティングスターの攻撃力の半分とその効果、そしてプリンセス・ヴァルキリアの効果を得る。

 そして得たプリンセス・ヴァルキリアの効果発動。手札を一枚捨てて墓地のセイヴァー・シューティングスター・ドラゴンを蘇生させるわ!」

 

『早速一仕事と行きますか。』

龍騎士-プリンセス・ヴァルキリア:ATK3000→5000

セイヴァー・シューティングスター・ドラゴン:ATK4000

 

 

「レベル8の銀眼の光子竜とレベル1のチューニング・サポーターに、レベル3のジャンク・シンクロンをチューニング!

 集いし星が一つになる時、無限の力が目を覚ます。光さす道となれ!シンクロ召喚!光来せよ、『銀河眼の究極光子竜』!!」

 

『グオォォォォォォ』

銀河眼の究極閃光竜:ATK4500

 

 

「トラップカード『バスター・モード』!

 此のカードにより、スターダスト・ドラゴンは、スターダスト・ドラゴン/バスターへと進化する!来い『スターダスト・ドラゴン/バスター』!!」

 

『ショォォォォォォォ!!』

スターダスト・ドラゴン/バスター:ATK3000

 

 

「ヨルドの力……格の違いを思い知るが良い。」

 

『ピッギャーーーー!』

 

 

不動三兄妹の精霊の圧倒的な力、ナイトメアアーナスの反則級の魔力砲撃、従魔の一体であるメテオボマーのエリクの目からビーム回転攻撃の恐るべき攻撃範囲がアルテナクローン部隊もトワイライトロードも寄せ付けずにいた。

更にエルモ村方面では、嘗て温泉を覗いたとしてエステルにシバかれた経験のある魔獣『ヒツジン』が、合体してエルモ村に向かう敵部隊と交戦すると言う謎の行動を執っていた……悪い事をしたらシバかれる、良い事をしたら褒められる、そう思ったのかも知れない。

 

 

 

 

・ロレント地方

 

 

そしてある意味ではリベール一の過剰戦力を誇ると言っても過言ではない魔窟のロレントは他の地方以上に無双状態となっていた――京が百八拾弐式で殴り燃やせば京-1がド派手に大蛇薙を放ち、京-2が無式をブチかまし、KUSANAGIが千九百九拾九式・霧焔で焼き尽くす。

エステルとヨシュアは必殺コンビネーションの『幻影無双』で敵部隊を殲滅し、庵が八酒杯で動きを止めたところにはやてとなぎさが広域殲滅魔法を叩き込んで鎧袖一触!

シェラザードとオリビエは『夫婦無双コンビネーション』として、オリビエが導力銃で動きを制限した相手をシェラザードが弩S全開の高笑いを上げながら鞭での乱舞攻撃をブチかまし、自警団のBLAZEはリーダーである志緒を筆頭に夫々が的確に敵を倒していた――志緒が重戦車の如き強さで無双していたが、洸と璃音も見事なコンビネーションを見せていた。

レンは手にした大鎌で敵の命を刈り取るだけでなく……

 

 

「出番よ、パテル=マテル♪更に『キリュウ』も召喚しちゃって♪」

 

『QONSYT+?><』

 

『マンゾォォォォォォォォォォォク!』

煉獄龍 オーガ・ドラグーン:ATK3000

 

 

パテル=マテルを起動し、更に内蔵されている『オーガ・ドラグーン』をも召喚して来た――エステル、ヨシュア、京、アインスのドラゴンもフルサイズとなってロレントの防衛を行っているので、ロレントを落とすのは相当に難しいだろう。

 

 

「草薙京……俺が俺であるために、貴様を倒す。」

 

 

だが此処で京によく似た容姿でクリザリッドのバトルスーツに酷似したモノを纏った青年と、エステル達が連れ去られる原因となった仮面の女性、ノーヴェに酷似した青髪の少女とスカリエッティ製の女性兵士――戦闘機人が現れた。

京に酷似した青年はワイスマンとスカリエッティが採取出来た僅かな京の遺伝子から培養して作り出した『ネームレス』で、炎を操る能力は持っているモノの『草薙の技』は真似事すら身に付けていないのだが、その代わりに腕をドリルに変形させる事が出来たりするのだ。

そしてネームレスとは別にもう一人、此方はネームレスの衣装からクリザリッドの要素を排除してカラーリングをトップスを黄色、ボトムズを青にした感じで、髪は青い短髪である――此方は『K9999』と名付けられた京の劣化クローンだ。

そのK9999は京のクローン三号のKUSANAGIを睨みつけ、其れに気付いたKUSANAGIもメンチを切り返し――

 

 

「KUSANAGIーーーーー!!」

 

「さんを付けろよ、デコスケ野郎!!」

 

 

謎のバトルが勃発した。

其れとは別に仮面の女性『ミスX』はアインスと交戦状態となり、まさかのアインスと互角の戦いをして見せたのだが、アインスが一瞬の隙を突いてミスXの懐を掴むと其のまま京直伝の『一刹背負い投げ』で地面に叩き付け、追撃のエルボーを仮面に叩き込む。

此れを喰らったミスXは地面を転がってアインスと距離を取って立ち上がったのだが、強烈なエルボーを叩き込まれた仮面には罅が入り、そして砕け散った。

 

 

「……私が何者であるのかを知ったその時からお前の正体についてはある程度予想が付いていたが、矢張りだったか――私が『アインス一番目』なら、お前は差し詰め『ツヴァイ二番目』と言ったところかな?」

 

「ふふ、如何にも其の通りだよ――我が名はツヴァイ、貴女の妹さ。」

 

 

その砕け散った仮面の奥から現れたのはアインスと瓜二つの顔であった。

共にワイスマンによって生み出された存在でありながら、アインスはカシウスに保護された後にブライト家で家族を得て京と言う恋人も出来て『愛』を知る事が出来た存在であるのに対し、ツヴァイは生まれてこの方『愛』を感じた事は一度もないと言う対照的な存在であるのだ。

 

 

「お前が妹であると言うのであれば、私は姉として妹の間違いを正してやらねばなるまい……来い、お前では私には勝てぬと言う事を骨の髄にまで叩き込んでやる。」

 

「その言葉、そっくりそのまま返してやるぞ姉上殿!!」

 

 

次の瞬間、アインスとツヴァイの拳がかち合って激しくスパークする――共にワイスマンによって生み出されながらも全く異なる道を歩む事になった姉妹の最強で天下無双の姉妹喧嘩が此処にゴングが打ち鳴らされたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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Chapter76『圧倒的魔王の力と謎の女剣士』

無限コンボのベガと密着即死のルガール、凶悪なのはどっち?Byなのは      此れは甲乙つけがたいですね?Byクローゼ


『宣戦布告』と言う一応の形を取って始まった、実質的なエサーガ国によるリベール王国への侵攻だったが、此れはリベールが戦況を優位に進めていた――王都は言うに及ばず各地に精鋭が揃っており、特に王都以上の戦力が集結している『魔窟』とも言われているロレントは外敵に対してもマッタク持って問題なかった。

そんなロレントに対してワイスマンとスカリエッティが直々に作り出した人造人間部隊&戦闘機人部隊を送り込み、人造人間部隊の中でもトップクラスの実力を持っているツヴァイはアインスと交戦状態となっていたのだった。

 

 

「ふむ、中々にやるな?予想以上だ。」

 

「マダマダ、私の力はこんなものではないぞ!」

 

 

激しく攻め立てるツヴァイに対し、アインスは余裕で其の攻撃を捌いて行く。

捌かれるたびにツヴァイの攻撃は激しさを増して行くモノのアインスに其の攻撃は届かない――先発開発されたアインスと後発開発されたツヴァイならばツヴァイの方が性能的に上である筈にも関わらずだ。

確かに基本性能で言えばツヴァイの方が上なのだが、アインスを拾い育てたのは『人類の突然変異種』、『人類の進化の頂点』、『歩くチートバグ』、『このオッサン攻撃当てる事出来ないんですけどマジで』等々の異名を持つカシウスであり、そんなカシウスに育てられた結果、アインスは元々備わっていた『あらゆる技術を習得出来る能力』と相まってブライト三姉妹の中でもぶっちぎりの戦闘力を誇る存在となっているので、基本性能では劣っていても後から鍛えられた力でツヴァイを上回っていると言う訳である。

 

 

「「舐めんな!!」」

 

 

此処でアインスはツヴァイの、京はネームレスの攻撃を『九百拾式・鵺摘み』で捌くとアインスは『外式・龍射り』、京は『外式・虎伏せ』でカウンターをする。

 

 

「何だよお前の偽物かアインス?」

 

「いや、ワイスマンが作った私の妹らしい……そっちはお前のクローンか京?」

 

「みたいだが、うちにいる一号、二号、三号と比べりゃ大分粗悪品だな?見てくれは似てる部分もあるが背は俺よりずっとチビだし、炎の色もなってねぇ。そもそも草薙流の技の真似事も出来ねぇってんなら俺のクローンとは呼べねぇよ。」

 

「成程、其れは確かにその通りだ……ならば、此処からは共に己を模した粗悪品を始末すると言うのは如何だ?」

 

「良いね?其の案には乗らせて貰うぜアインス!」

 

 

攻撃を捌いた京とアインスは背中合わせに立つと京は紅蓮の、アインスは闇色の炎を其の手に宿し、其れを一気に放ってツヴァイとネームレスを攻撃する――闇払いにしては強烈過ぎる炎に、ツヴァイはバリアを張る事で対処し、ネームレスは自らも炎を放ってやり過ごす。

其れでも少しばかり後退させられたのを見るに力の差はハッキリしていると言えるだろう。

 

 

「とは言ったけどよ、レンっつーかパテル=マテルとキリュウが暴れまくってる現状だと俺達が本気出さなくても良いんじゃねぇかなと思うんだがその辺は如何よ?」

 

「其れは其れとして、だ。」

 

 

だがしかし、ロレント地方ではレンが不動兄妹によって魔改造を施されたパテル=マテルを起動し、更にパテル=マテルに仕込まれていた『煉獄竜オーガ・ドラグーン』も召喚して無双状態にあった。

加えてレン自身が滅茶苦茶強いので人造人間も戦闘機人も問題ではなく、そもそもにして過剰戦力上等のロレントにはどれだけの戦力を送り込んだところで無意味であるのかも知れない。

『お前本当に人間か?』と言いたくなる連中しか居ないのだロレントには……まぁ、中には魔族の血を引くシェラザードや、熾天使の血を引く璃音も居たりするのだが。

取り敢えずロレントの方は現状マッタク問題ないと言えるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter76

『圧倒的魔王の力と謎の女剣士』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方でルーアン地方。

遊撃士のカルナとDevil May Cryのメンバーによって市街地は守られ、マーシア孤児院付近はルガールが『自爆と復活の無限ループ』と言う反則以外の何物でもないトンデモ攻撃と、ゴッド・ルガール化による圧倒的な戦闘力でアルテナのクローンとトワイライトロードの部隊を鎧袖一触!

正に無敵状態だったのだが……

 

 

「ムハハハハ……先日ぬぉ雪辱を果ぁたしに来ぃたぞぉ。」

 

「「また来たか……ならば其の力も私が取り込んでくれる!」」

 

 

そんなルガールの前に現れたのはベガ。

KOFに乱入してルガールに撃退されたベガだが、ワイスマンとスカリエッティが作り上げた新たな肉体を得てルガールにリベンジマッチを挑んで来たのだ――KOFに乱入して来た時と比べると身体が一回り大きくなり、全身の筋肉も膨れ上がっていた。(ZEROシリーズのベガ)

強化されたベガは巨体とは裏腹に高い機動力と、『ベガワープ』なる瞬間移動を会得していたのだが、オロチの暗黒パワーと殺意の波動と言う強大な二つの闇の力を有するルガールにはその程度では通じない。

サイコパワーを凝縮したエネルギー弾である『サイコバニッシュ』はルガールの『カイザーウェイブ』で搔き消され、『ベガワープ』は嘗ての士郎との戦いで会得した『気配を読む術』によって出所を割り出されていたのだ。

 

 

「「ジェノサイドカッター!!」」

 

 

ベガワープの出現先に現れたベガに対してジェノサイドカッターを叩き込むと、其処から空中でネックハンキングを極めた後にハンマーパンチと回転踵落としで地面に叩き付けたところに極大のカイザーウェイブを叩き込んでターンエンド。

普通ならば此れで戦闘不能だろうが、新たなベガのボディは相当に頑丈だったらしく、此れを喰らっても直ぐに起き上がり、着地したルガールにスライディングキックを決めて体勢を崩すと、其処からダブルニープレスに繋いで、デッドリースルーで地面に叩き付けて大ダメージを与えた――と思ったらルガールは即立ち上がり、烈風拳を放つとルガール版『阿修羅閃空』である『ゴッドレーン』でベガの背後を取ると、ルガール版瞬獄殺の『ラストジャッジメント』を叩き込み滅殺する。

『死者の魂をも殺す』と言われる殺意の波動の究極奥義を喰らえば間違いなく即死であり、ベガもまた絶命したのだがその身体からは黒いエネルギーが沸き上がってベガの形となる――此れこそがベガの本体である『サイコパワーの思念体』なのだ。

ベガは元々は普通の人間だったが、サイコパワーと呼ばれる超常パワーを身に付けてからは其の力を磨き、遂にはサイコパワー其の物を自らの本体として肉体はあくまでもサイコパワーの入れ物に過ぎないモノとする存在となっていたのだ――そして、思念体の入れ物である肉体はより強力なモノを求めてワイスマンとスカリエッティに力を貸す代わりに最高の身体を作るように求めたのだ。

 

 

『ムハハハハハ、すわぁすがは魔王、素晴らしい強さどぅあ。だぁからこそその身体は貰い受けるぅ!その身体こそ、次なるベェガに相応しいモノォ!!』

 

 

思念体となったベガはその身体を乗っ取ろうとルガールに向かって行くが、ルガールも其れを避けようとはせず、また迎撃しようともしなかったため、思念体のベガはアッサリとルガールの身体に入り込む事が出来たのだが……

 

 

『素晴らすぃ身体だ!此ぉれならば……此ぉれなら……ばぁぁぁぁ!?

 ぬ、ぬぁんだ意識がぁ……消える……私の意識ぐぁ消えていく……?ババ、ばぁかぬぁ!こぉのベェガ様がくぉんなところどぅえ……ぶるぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』

 

 

ルガールの身体に入ったその瞬間にベガの意識は急速に薄れて行き、そして消滅してしまった……サイコパワーを極め、肉体すら思念体の器としたベガであったが魔王の身体を乗っ取ると言うのは、流石に少々無謀だったと言う事だろう。

 

 

「「人間風情……と言うのは賢明に生きている人間に対して失礼か。

  君程度の存在が私の身体を乗っ取れると思っているのかね?言った筈だ、『其の力も私が取り込んでくれる』とね……オロチの暗黒パワーと殺意の波動の両方を宿した私は、魔王をも超えた魔神とも言うべき存在。君程度の矮小な存在によって如何にかなる相手ではないのだよ。」」

 

 

逆にルガールは戦闘前に宣言した通りベガのサイコパワーを自分のモノとしてしまった。

これにより新たに瞬間移動の『オメガ・テレポート』、全身にサイコパワーを纏って突進する『サイコクラッシャー・オメガ』を習得したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

現状では戦局はリベール大幅に優勢な状況であるが、その状況においてもワイスマンとスカリエッティに焦りは無かった――アルテナのコピーとトワイライトロード、人造人間と戦闘機人、京の劣化クローンではリベールを制圧出来ない事は想定内だったのだ。

 

 

「ではプロフェッサー、そろそろアレを投入するとしようか?」

 

「そうだね、アレの出番だ。」

 

 

新たな戦力として準備していたモノをグロリアスからリベールへと投下する。

其れはリベール革命の際にデュナンが使役した悪魔に良く似た存在であったのだが、その身体の所々が機械化されている奇異な存在だった――其れもその筈、これ等は奪ったネロの『悪魔の右腕』に取り込まれた悪魔の器官から作り出した人工悪魔で、足りない部分を機械で補った存在であるのだから。

本物の悪魔と比べれば魔力は低いが、機械で補われている部分は強固であり、本物の悪魔には存在しない科学武装も搭載されているので、戦闘力で言えばどっこいどっこいと言ったところだろう。

そして其れ等の人工悪魔と共に出撃したのは二人の女剣士。

バイザー型の仮面で顔は分からないが、一人は黒髪を肩のあたりまで伸ばしており、もう一人は長い茶髪を一本の三つ編みに纏めていて、二人の手には刀が握られていたのだった。

 

 

「ククク……彼女達の素顔を見たら高町なのは君と織斑一夏君は果たしてどんな顔をするのか、とても楽しみだとは思わないかプロフェッサー?」

 

「あぁ、実に楽しみだよドクター。損壊は激しかったが、彼女達の身体を手に入れる事が出来たのは運が良かった。

 私達の持つ技術を試すための実験材料に過ぎなかったが、其れが巧く行った上にリベールの王と、王室親衛隊の気鋭の新人に対して此処まで有効となる存在になるとは思っていなかったがね。

 ククク、私達からのプレゼントだ……受け取ってくれたまえよ高町なのは君、織斑一夏君。」

 

 

そして新たな戦力をリベールに投下したワイスマンとスカリエッティの顔には悪意タップリの笑みが張り付いていた――此の二人は人間が究極的に闇落ちした存在であると言っても決して間違いではないのかも知れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして新たなに人造悪魔がリベールに投下された訳だが、其れでも戦局を覆すには至らなかった――各地で人造悪魔は次々と撃破されて行き、ツァイス地方に至っては不動三兄妹が『超融合』のカードを使って人造悪魔を素材にして融合精霊を誕生させていたくらいなのだ。

ルーアン地方ではパワーアップしたルガールとDevil May Cryの面子によって悪魔が殲滅され、ボース地方では悪魔将軍と其の配下、そしてアガットによって粉砕されて、ロレント地方は言うに及ばずだ。

 

 

「おぉぉぉぉ……喰らいやがれぇぇ!!」

 

「事前にエナジードリンクを飲んで来たので強制冬眠も回避出来るから使わせて貰うぞ……炎殺黒龍波ぁ!!」

 

「やっちゃいなさいパテル=マテル♪」

 

 

人外の戦闘力を持つ者が集結している魔窟であるロレントを落とすのは一国を落とすよりも難しいのかも知れない。

 

新たな戦力が投入されても依然としてリベールが優勢なのは変わらなかったが……

 

 

「此れは、父の剣だと?……貴様、何処でその剣を覚えた!!」

 

「此の剣は千冬姉の……テンメェ、軽々しくその剣を揮うんじゃねぇ!!」

 

 

グランセル地方に降り立った二人の女剣士。

その剣士の揮う剣技を見て、なのはと一夏は心穏やかではなかった――三つ編みの女剣士が使っているのはなのはの父である『不破士郎』が確立した『神鳴流』で、黒髪の女剣士が使っているのは一夏の姉である『織斑千冬』が学んでいた剣術を独自に昇華させた唯一無二の剣術であったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter77『悪意の片鱗~仮面の女剣士の正体~』

高幡志緒……コイツ、本当に純粋な人間か?Byなのは      其れは……ちょっと純粋な人間であるとは断言できないですByクローゼ


激戦……と言って良いのか悩む所ではあるが、此の戦いはリベールが終始優勢となっていた。

 

 

「闇に墜ちた嘗ての同朋達を私の手で引導を渡してやる心算だったのだが私の出番は無いかも知れないな……彼女は些か強過ぎるのではないかと思うのだが、貴方は如何思うシェン?ユーリの実力は相当だと思うのだが。」

 

「アイツはマジで強いぜルミナス。今はまだなのはには及ばないだろうが、潜在能力で言えばなのはに匹敵するレベルだからな……攻撃方法のえげつなさだけならなのはを超えてるかもしれねぇけどよ。」

 

 

グランセルの郊外ではユーリが拍翼でトワイライトロードの隊員を捉えると、其れを何度も地面に叩き付けた上で地面にグリグリして巨木にスタンプすると言うえげつなさ極まりない攻撃を行っており、ルミナスもシェンも若干引いていた。

ユーリ自身の戦闘力其の物は決して高くないのだが、闇の書を其の身に宿した事で現れた拍翼を使った攻撃と解放された魔力による魔法攻撃は一騎当千レベルであると言えるだろう。

其れだけでも充分に戦力になるユーリなのだが、最近はルミナスから召喚魔法も習っていたので、其の力は更に増しているのだ。

 

 

「ル……ミ……ナ……ス……何故……貴女が……裏切った……のですか……」

 

「ライラ……僅かばかりの記憶は残っているようだが最早自我其のモノは無いに等しいか……嘗ての同朋がこのような姿で生かされていると言うのは不遇極まりないのでね、せめて私が葬ってやる。

 我が魔力を糧とし、精霊界よりその姿を人間界に現出せよ!これが私の究極召喚!来い『ホーリー・ナイト・ドラゴン』、『アークブレイブドラゴン』、『巨神竜フェルグラント』!!」

 

 

『ショォォォォォォォォォォ!』

ホーリー・ナイト・ドラゴン:ATK2500

 

『ゴガァァァァァァァァァァァァ!!』

アークブレイブドラゴン:ATK2500

 

『グオォォォォォォォォォォォォ!!』

巨神竜フェルグラント:ATK2800

 

 

更に此処でルミナスが自身の究極召喚術を持ってして三体の光属性のドラゴンを呼び出して来た。

ライトロードの切り札であった『裁きの龍』と比べるとやや劣るが、其れでも此の三体のドラゴンは上級のドラゴンであり、巨神竜フェルグラントはクローゼが従えているアシェルに肉薄する力を備えているのだ。

 

 

「へっ、こりゃまたスゲェのを出して来たじゃねぇか?だったら俺も気張らねぇとなぁ!!」

 

 

このドラゴンの召喚を見たシェンはテンションが爆上がりして、一気に気を高めるとその高めた気を集中させた拳を地面に叩き付けて凄まじい衝撃は&砕けた石畳の飛沫でトワイライトロードにダメージを与え、更には単騎で切り込んでぶん殴るのも忘れない。

正統的な格闘技の経験はないシェンだが、士郎に師事してその教えを守りながら実戦で磨き上げた『喧嘩殺法』は格闘技のセオリーがないだけに実戦では相当に強力であったらしく、次々とトワイライトロードをKOして行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter77

『悪意の片鱗~仮面の女剣士の正体~』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リベール優勢の戦局ながら、なのはと一夏の前に現れた『仮面の女剣士』はなのはと一夏の心を揺さぶっていた。

なのはの前に現れた女剣士は、なのはの父である不破士郎が編み出した『神鳴流』を使い、一夏の前に現れた女剣士は一夏の姉の『織斑千冬』が習っていた剣術を自分で昇華させた独自の剣を揮って来たのだから、心が揺さぶられるのも当然と言えるだろう。

 

 

「私から家族を奪っただけでは飽き足らず、更には父の剣をも穢すか?

 ……ククク……ハハハ……ハァ~ッハッハッハッ!!悪辣さも此処まで来ると笑えて来る……だが、生憎と父の剣を穢そうとする輩に手加減をしてやれるほど私は優しくないのでな?精々猿真似の剣で生き延びて見せろ!」

 

 

だが心が揺さぶられながらもなのはは偽悪的な笑みを浮かべると三つ編みの仮面の女剣士に、レイジングハートでの突き攻撃を繰り出し、三つ編みの仮面の女剣士は其れを受け流してカウンターを放とうとしたのだが……

 

 

「スマッシャー!」

 

 

其処にカウンターのカウンターとなるなのはの近距離魔法砲撃『クロススマッシャー』が叩き込まれ、三つ編みの仮面の女剣士は吹き飛ばされた。

 

 

「テメェ……千冬姉の剣を穢すって事は其れなりの覚悟が出来てんだろうな?……テメェはぶっ殺す!」

 

 

一方で黒髪の仮面の女剣士と対峙した一夏はなのはとは異なり、怒りをあらわにしていた。

未だ怒りの感情を完全にコントロールする事が出来ない一夏だが、コントロールできない怒りがあればこそ其の身に宿している『殺意の波動』を目覚めさせるトリガーとしては此の上なく、一夏の怒りによって覚醒した殺意の波動によって一夏の肌は浅黒くなり、髪と目は赤く染まっていた。

其れでも殺意の波動に飲まれなかった一夏は阿修羅閃空で間合いを詰めてから必殺の居合いを放つが、黒髪の仮面の女戦士は其れを受け止め、そして捌いた後に強烈な斬り下ろしを放って来たが、一夏はそれを斬り上げで弾くとがら空きになったボディにミドルキックを叩き込む。

此の一撃で黒髪の仮面の女剣士は体勢を崩し、一夏はこの好機を逃がさずにアッパーカットから蹴り上げ、踵落としのコンボを叩き込むと、其処から更に鋭い肘打ちからなる『真・昇龍拳』を叩き込む。

完璧に顎を打ち抜いた一撃は普通ならば一撃で戦闘不能になるのだが、黒髪の仮面の女剣士はアッサリと起き上がって戦闘態勢を取って来た。

 

 

「頑丈さだけは大したモンだぜ。」

 

「マッタクだな。」

 

 

なのはの方も強力な魔法攻撃をどれだけ叩き込んでも三つ編みの仮面の女剣士はへこたれる事無く攻撃を行って来たのだ――其の姿は死をも超越したアンデッドの其れなのだが、身体が生身のままである事が不気味極まりなかった。

だが、だからと言ってなのはも一夏も諦める事はない……簡単に死なない相手であるのならば、耐久力を遥かに上回る攻撃を叩き込む、其れだけなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、リベールの魔窟と言われているロレントでは……

 

 

「レン、エネミー・コントローラーのカードあるか?」

 

「レーシャに頼んで借りて来たてるわよ京。」

 

「ならソイツを八神を対象に発動して、←→←→←→+ACで入力してくれ。」

 

「は~い、ポチッとな♪」

 

「ぐ……グぉオォォォォぉ……キョォォォォォォォォォォォォォォォ!!」

 

 

京の依頼を受けたレンがエネミー・コントローラーで庵を暴走状態にし、そして暴走状態となった庵はエサーガ王国の戦力を手当たり次第に次から次へと撃滅しまくっていた……理性の利かない暴走状態はともすれば諸刃の剣なのだが、庵は暴走状態にあっても敵味方の判別が付くので、其れを巧く使えば最高レベルの戦力と言えるだろう。

 

 

「ヨシュア、行ける?」

 

「任せて、エステル!」

 

 

其れに加えてエステルとヨシュアの『史上最年少A級遊撃士コンビ』の力もまた凄まじく、パワーのエステルとスピードのヨシュアが敵部隊を殲滅していた。

自警団『BLAZE』は洸と璃音、祐騎と空がコンビで戦い、明日香と美月が其れをサポートする感じで、リーダーである志緒は重戦車の如き勢いで戦闘機人やらトワイライトロードやら人造悪魔を撃滅していた。

元々パワーだけならばロレントで間違いなくトップ(カシウスですら『パワーだけなら俺より上だ』と言った程。)である為、手にした重剣の一撃は振るうだけで衝撃波が発生し、地面に斬撃が叩き付けられれば衝撃波が地面を割って進み、衝撃によって割れた地面の欠片が吹っ飛んで行くと言う、『重剣ぶん回してるだけで人間凶器完成』状態であるのだ。

更にパワーだけでなくタフネスも凄まじく、戦闘スタイル的に如何しても被弾はしてしまうモノの、被弾したからと言ってダメージを受けている様には全く見えないのである……果たして彼は本当に純然たる人間であるのか些か謎である。

京とアインスのコンビ、レンとパテル=マテル、八神姉妹と暴走庵、シェラザードにオリビエ、京の弟子の一人であるノーヴェそしてまだ戦場に現れていないリベール最強と名高いカシウス、如何足掻いてもロレント地方が落とされる事はないのだが、実は意外な活躍を見せていたのが『自称草薙京の一番弟子』である矢吹真吾だ。

京への憧れから半ば押し掛け弟子となり、京からは技を見せて貰うだけで其れ以外の指導をされた事は無かったのだが、其れでも努力一筋トレーニングを続け、更にKOFで京と戦ってからは一皮剝け、憧れからのファッション格闘家から本物の格闘家に覚醒し、京の父である柴舟に鍛えられた結果炎が無くても放てる草薙流の技はほぼマスターしていたのだ。

 

 

「うおりゃぁぁぁぁぁぁ……喰らいやがれぇぇぇぇ!!」

 

 

そんな真吾が最近開発したのが、京の大蛇薙のモーションを真似して放つ打ち下ろしから薙ぎ払うようにして拳を放つ力任せの裏拳『真吾謹製・俺式大蛇打』である。

大蛇薙を真似した力任せの裏拳と侮るなかれ……裏拳とは言いながらも腕を大きく振る為腕全体が武器となっており、其れは最早裏拳と言うよりも変則的なラリアートと言うべき技であり、二~三人を巻き込むほどの攻撃範囲がある上にパワーに関しては京が『純粋なパワー勝負の腕相撲なら、草薙流の呼吸を使わないと真吾に勝つのは難しい』と過去に言っていた事があるのでパワーだけなら京よりも上なのだろう。

 

意外な人物の意外な活躍もあり、ロレント地方は安泰のようだ。

 

 

其の一方でボース地方の悪魔将軍、ロレント地方のルガール、ツァイス地方のアーナスは漠然と嫌な予感を感じていた……此の戦いで、大切な何かを奪われてしまうのではないか、そんな予感を感じていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

場所はうって変わって再びグランセル周辺。

三つ編みの仮面の女剣士と戦っているなのはは相手が使っている剣術が只の模倣ではなく、『神鳴流』を習得した上で自分流にアレンジしたモノだと気付いていた。

只の猿真似の模倣であれば対処も容易なので、そうであるならば『父の剣を怪我した愚物』として処理したのだが、父の剣を習得した上で自己流にアレンジして自分のモノとしていると言うのならば話は別だ。

自己流のアレンジを加えるには模倣ではなく完璧に源流を習得する必要があるので、目の前の女剣士は決して軽くない鍛錬を積んで来たのは間違いない……故になのははその剣を知りたくなった。

 

 

「猿真似の模倣であったのならば即葬ってやる心算だったのだが気が変わった……貴様の剣に興味が湧いたのでな、少しばかり付き合って貰うぞ!」

 

「…………」

 

 

掠めた一撃で頬を斬ったなのはは、頬から流れて来た血を指で拭って舐め取ると、レイジングハートを向けて女剣士に言い放ち、其処から凄まじい近距離での攻防が開始された……単騎で戦える砲撃魔導師が近距離戦で剣士と互角以上に戦うとか、もう意味が分からないが、其れほどまでになのはは自分の得意分野を伸ばしながらも近距離戦も鍛えて来たと言う事なのだろう。

 

 

其の一方で黒髪の仮面の女剣士の相手をしていた一夏は、なのはとは逆に心が穏やかではなかった――と言うのも黒髪の仮面の女剣士が使って来た剣術は一夏の姉である『織斑千冬』が使っていた剣術の丸写しだったのだ。

千冬の剣は、色々な流派を習った上で、其れを千冬が独自にアレンジした千冬だけの剣であり、一夏の剣術とて其れを見様見真似した上で自己流にアレンジしたモノであり千冬の剣とは異なる……だからこそ一夏には黒髪の仮面の女剣士の剣は許せるモノではなかった。

模倣から生まれるモノがあるのは事実だが、一夏にとって千冬の剣の模倣は、ライトロードによって殺された尊敬する姉を愚弄する行為に他ならないのである――だからこそその怒りはマキシマムだ。

 

 

「猿真似で千冬姉の剣を振るうんじゃねぇ!その剣は、テメェ如きが軽々しく振るって良いモンじゃねぇんだよ!」

 

「中々に鋭い攻めだが……父と比べればマダマダ温いな。」

 

 

一夏は女剣士の横薙ぎをジャンプで躱すと其処から全体重を乗せた兜割りを繰り出し、なのはも交戦中の女剣士にカウンターのクロススマッシャーを叩き込む!

此れでKOとは行かなかったが、強烈な一撃を喰らった女剣士の仮面には罅が入り……そして遂にそれは砕け散り、素顔が明らかになったのだが、その明らかになった素顔になのはと一夏は驚愕する事になった。

 

 

「そんな、お前は……否、貴女は……美由希姉さん……!」

 

「嘘だろ……何で、如何してアンタが其処居るんだよ、千冬姉!!」

 

 

仮面の下から現れた素顔は、嘗てライトロードによって殺された筈のなのはの姉である『不破美由希』と、一夏とマドカの姉である『織斑千冬』だったのだから……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter78『悪辣なる目的の真意~覚醒する力~』

ゲオルグ・ワイスマンとジェイル・スカリエッティ……腐れ外道の極みだなByなのは      酌量の余地はありません……!!Byクローゼ


グランセル周辺に現れた二人の女騎士、其の実力は非常に高ったのだが、その仮面の奥から現れた素顔になのはと一夏は驚愕する事になった――仮面の奥から現れた素顔はなのはの姉である『不破美由希』と、一夏とマドカの姉である『織斑千冬』だったのだから。

十年前のあの日に家族を喪ったなのはと一夏にとって死んだ筈の姉が目の前にいると言う有り得ない状況な訳だが、此処でなのはのレイジングハートと一夏の通信機に通信が入った。

 

 

『私とドクターからのプレゼントは気に入ってくれたかな、高町なのは君。織斑一夏君?

 初めに言っておくが、君達の目の前にいるのは君達の姉君のコピーではなく本人だ……死した肉体を再生しただけではなく強化改造を施してあるがね――因みに身体は操っているが彼女達には自我は確りと存在しているから自分が今誰と戦っているのかと言う自覚はある。

 ククク……感動の再会が守るべき妹や弟との命の遣り取りになるとは……何とも悲劇的とは思わないかね?』

 

 

その相手はワイスマンだ。

死者の蘇生と言う禁忌を侵しているだけでも既にアウトであるのだが、其の上で美由希と千冬は身体は操られて言葉を発する事も出来ないが自我はあると言って来たのだ……姉妹、姉弟での殺し合いをさせるだけでなく、無理矢理蘇らせた死者に守るべき者を殺させようとした上でそれを自覚させると言う悪辣さ極まりない事をやって来たのだ。

 

 

「テメェ……この腐れ外道が……!」

 

 

其れを聞いた一夏は怒りを顕わにし、怒りと共に殺意の波動が身体から溢れ出して闇色のオーラを纏う……そうであっても殺意の波動が暴走せずに制御出来ているのだから修業の成果は出ているのだろうが。

 

 

「姉さんに私を殺させる、そして姉さんには自我があるか……ククク……ハハハハハ……ハァッハッハッハッハ!!

 大した悪辣さだ教授とやら!家族を失ってあの日から十年間、色々な人間を見て来たが貴様のように悪意が服を着て歩いているような人間は初めて見たぞ?ドレだけ狡猾な悪魔でも脱帽してしまいそうだ。

 だが、其の悪意を向ける相手を間違えたな貴様?確かに仮面の下から姉さんが現れた事には驚いたが、よもやこの程度で私や一夏が動揺して殺られるなどと考えた訳ではあるまいな?

 此の程度の計略程度、貴様等の思惑を超えて攻略してやる……同時に、貴様等に対する一切の手加減をする気が無くなった。貴様等は此の私が直々に殺してやるから精々首を洗って待っていると良い。」

 

 

そんな一夏とは逆に、なのはは尊大かつ不遜な態度で返し、逆にワイスマンの事を煽る。

しかしなのはの声には『静かな怒り』が込められており、そのせいで普段より幾分トーンが低くなっているので威圧感がハンパなかった……其れこそ、一般人が此の威圧感を喰らったら速攻で泡吹いてKOされているだろう。

 

 

『ククク、其の時を楽しみにしていようではないか……まぁ、精々頑張ってくれたまえ。』

 

「ふん、腐れ下衆が。腐り果てて朽ち果てろ。」

 

「腐れ外道は此れ以上腐るんですかねぇ……」

 

 

通信を強制的に切ったなのはと一夏は美由希と千冬に向き直り構える。

自我の無い操り人形であるのならばただ倒すだけだったのだが、自我があるのあれば何とか身体の自由を取り戻してその自我を表に出した上で生かして取り戻したいと思ったのは当然の事と言えるだろう。

 

 

「死者の蘇生は禁忌だが、其れをやってくれたお陰で十年前に死んでしまった筈の姉を取り戻す事が出来るか……一夏、必ず取り戻すぞ私とお前の姉を!」

 

「ウッス、了解ですなのはさん!」

 

 

ワイスマンとスカリエッティの悪意の元に蘇った美由希と千冬だったが、なのはと一夏は姉を取り戻すために戦う事を決意して夫々の戦いに向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter78

『悪辣なる目的の真意~覚醒する力~』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏と千冬の戦いは近距離での剣戟が展開され、何方も一歩も退かない展開となっていた。

一夏の剣は千冬の剣を見様見真似で再現したモノだったが、其れは十年の間に独自に昇華されて千冬のコピーではなく一夏の剣となっており、それ故に千冬とも互角に打ち合えるレベルとなっていた。

更に一夏は稼津斗によって無手の格闘も鍛えられていたので近距離戦に関しては千冬よりも切れる札が多かったりする。

 

 

「竜巻……旋風脚!」

 

 

千冬の斬り下ろしを斬り上げで弾いた一夏は其処に竜巻旋風脚を叩き込む――膝で顎をカチ上げてからの連続蹴りは普通なら必殺になるのだが、身体を操られている千冬はダウンする事なく技後の一夏にカウンターとなる一文字切りを繰り出して来た。

竜巻旋風脚は技後の隙が決して小さくないのでダウンを取れなかった場合は反撃必至であり、千冬の反撃は必殺なのだが――

 

 

「兄さんはやらせん……まさか生きていたとはな姉さん。」

 

 

其処にマドカが割って入り、ナイフで刀を受け止めていた。

マドカは『鬼の子供達』の中でも一番の小柄でパワーも最下層なのだが、その小柄な体格を生かしたスピードが持ち味で、ナイフの二刀流での戦い方はそのスピードを最大限に活かしたモノであり、マドカのナイフ二刀流を完全に捌き切る事が出来るのは稼津斗ぐらいだ。

 

 

「ふぅ、今のはちょっとヤバかったから助かったぜマドカ……しかしまさか千冬姉が敵になるとはな……」

 

「マッタクだが、どうしてこうなったんだ兄さん?詳しい説明を求める。」

 

「今はそんな暇ないから詳細は後でな……今は先ず、千冬姉を教授とドクターから解放して取り戻す……協力しろマドカ。」

 

「言われずともその心算だよ兄さん。彼女が本当の姉さんだと言うのならば、是非とも取り戻さねばだからな。」

 

 

詳しい説明は後としつつも、一夏とマドカは千冬と向き合い、そして次の瞬間に一気に距離を詰めて凄まじい近距離戦が展開されたのだった――互いに直撃は許さないが、紙一重での回避も多かったので浅い切り傷が幾つも刻まれてはいたが、其れでも止まる事はなく、その究極の剣戟は続いて行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

一方でなのはは美由希と遣り合う事になったのだが――其処にはルーアン地方からやって来たなたねの姿もあった。

仮面の女騎士の片割れが美由希だと知ったなのははそれをなたねに伝え、其れを聞いたなたねは速攻でグランセル付近までやって来ていたのだ――なたねにとっても美由希は敬愛する姉であったので、其れが穢されたとなったと聞いたら黙ってはいられなかったのだ。

 

 

「姉さんを穢すとは……教授とドクターとやらは万死に値しますね……滅殺一択です。」

 

「私も同じ気持ちだが、先ずは姉さんを取り戻すぞ。」

 

「無論、その心算です。」

 

 

そうしてなのはとなたねはタッグで美由希に向かって行ったのだが、美由希は『神鳴流』の中でも特殊な『小太刀二刀流』を修めていた事もあり、二方向からの攻撃に対しても完璧に対処して見せたのだ。

腐っても鯛ではないが、近距離戦では美由希の方が一日の長があったのだが、なのはとなたねは何度目かの攻撃を弾かれた所で――

 

 

「スマッシャー!!」

 

「ブレイザー!!」

 

 

美由希のカウンターに対してカウンターのカウンターとなる近距離砲撃を繰り出して美由希を吹き飛ばす……ダブルカウンターとなる攻撃を喰らったとなれば其の時点で問答無用にKOされている所だが美由希はKOされるどころか二刀小太刀を逆手に持って突撃して来た。

其れに対してなのはとなたねも身構えたのだが……

 

 

「お前の剣は、妹達を殺す為に鍛えられたのか?……悪魔の鏡に囚われて、父さん達を死なせてしまう原因を作ってしまった俺が言っても説得力はないかも知れないがな……!」

 

 

其の攻撃は美由希の気配を感じ取った恭也が駆け付けて見事に防いで見せてた。

なのはは恭也にも当然連絡を入れていたのである。

 

 

「遅いですよ兄さん。遅刻はダメです、印象が良くないです。」

 

「道中、中々に敵が多くてな……俺にはお前達みたいに大量の敵を一撃で葬る技なんてないんだ、大目に見てくれ――鏡に取り込まれる前に気功波の類を会得しておくべきだったな。」

 

「兄さんは剣で戦う方が似合っていると思うがな。……さてと、身体のコントロールはされているが自我はあるとなれば、コントロールさえ解けてしまえば万事解決な訳だがその方法が思い付かん。

 強力な魔力ダメージを与えればとも思ったがダブルカウンターの近距離砲でも無理だったのを見る限りもっと別の方法でなければダメなのだろうな……取り敢えず無力化してから考えるか。」

 

 

ワイスマンとスカリエッティのコントロールを解除する方法が思い付かず、取り敢えず先ずは無力化する事にしたのだが、美由希もそして千冬も蘇生された際、只蘇生させられただけでなく強化蘇生されておりパワーとスピードは十年前よりも格段に上がっていた。

特に千冬は十年前よりも肉体的に成長した状態で完全な大人になっており、全盛期とも言うべき充実した状態となっていたのだ。

 

この強化により『もう一度死なせたくはない』と思う高町/不破兄妹と織斑兄妹は全力での攻撃が出来ず数の上では有利ながらも苦戦を強いられる事になっていた。

 

 

「(如何する?殺意の波動を使えば千冬姉を上回る事が出来るけど、殺意の波動を使ったら千冬姉を殺しちまう……如何にかして殺さずに無力化した上でクソ野郎のコントロールから解放するにはどうすれば良い?

  考えろ……殺意の波動は死した魂をも殺す力……触れる事の出来ない魂をどうやって殺す?……触れる事の出来ないモノを殺す……無に帰す……無に……そう言う事か!!)」

 

 

此処で一夏が何かを閃き、次の瞬間に殺意の波動特有の闇色のオーラが溢れ出す――が、一夏の姿は殺意の波動に目覚めた時のモノにはならず、通常の状態のままであり同時に殺意の波動ではない通常の波動も其の身に纏う。

そして其の状態で『電刃錬気』を使い、殺意の波動と通常の波動が混ざり合い、異なる力が反発してスパークし、そして一夏は混ざり合った波動を其の身に宿すと一気に解放する。

その解放された力は一言で言えば透明……殺意をも超えた無の境地――無の波動。殺意の波動を宿しながらも其の力に飲まれる事も、殺意の波動を極める事もなく純粋なる力の一つとして受け入れた者のみが到達出来る殺意の波動の対極に位置する力だ。

 

 

「これなら行ける!

 なのはさん、美由希さんを誘導してくれ!此の力なら二人を解放出来る!」

 

「一夏……何かを掴んだのか?ならばお前の策に乗らせて貰おう!」

 

 

一夏の声を受けたなのははアクセルシューターで美由希の動きを制限すると、なたねがアクセルシューターとは異なる軌道のパイロシューターで誘導し、恭也が近距離戦で進路を修正する。

一夏が気を高めている事でマドカは一人で千冬の相手をする事になり、可成り厳しい状況だったのだが、其処は夏姫と刀奈がフォローに入ってくれた事で押し切られずに済んでいた。

そして遂に美由希と千冬は一箇所に集まり……

 

 

「今だ、ブチかませ兄さん!!」

 

「おぉぉぉぉぉ……絶・波動けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!」

 

 

一夏が全力全壊の『絶・波動拳』を叩き込む。

極大の気功波は『真空波動拳』を始めとした波動拳の上位版と同じなのだが、『全てを無に帰す無の波動』である『絶・波動拳』は美由希と千冬の身体の自由を奪っているワイスマンとスカリエッティのコントロールを無に帰していた。

其の上で肉体的にはノーダメージ……『無の波動』は悪しき力に対してのみ『全てを無に帰す力』を発揮するのである。

 

 

「一夏……マドカ?……大きくなったな……ふふ、またこうしてお前達と会えるとは、其れに関しては教授とドクターに感謝すべきかも知れん。――だが、解放してくれた事には礼を言わねばだ。

 あのままでは生き返ったにも拘らず、生きて汚名を晒すところだった……強くなったな一夏。マドカもな。」

 

「簡単に操られてるんじゃねぇよ千冬姉……でも、解放出来て良かったぜ。」

 

「姉さん……!!」

 

 

「あはは、やっと解放されたかぁ……大きくなったねなのはもなたねも。恭ちゃんはなんでか変わってないけど。」

 

「兄さんは十年前に悪魔の鏡に閉じ込められて其処で時が止まっていたので十九歳のままだ……そして姉さんも生き返っても十七歳のままだ……私となたねの方が年上になってしまったぞ?」

 

「年下の姉さんと言うのも其れは其れで良いと思います……兄さんが私達よりも年下の女性と結婚しない限りは有り得ない年下の姉が実の姉妹で経験出来ると言うのは中々に貴重な体験だと思います。」

 

「前々から思っていたがお前の感覚は中々に独特だななたね……」

 

 

こうして美由希と千冬は解放され、十年振りとなる家族との再会に暫し浸っていた――が、今は戦場に其の身があるので直ぐに意識を切り替えたのだが……

 

 

「リベールを守る為ならば手加減はしません。

 我が身に眠りしリベールの守護神よ、今こそ其の身を現出し、リベールに仇なす者達に業火の裁きを与えよ!現れなさい、『エクゾディア』!!」

 

『グオォォォォォォォォ……!』

エクゾディア:ATK∞

 

「全てを焼き尽くせ!怒りの業火、『エクゾ―ド・フレイム』!!」

 

『ゴォォォォォ……ガァァァァァァァァァ!!』

 

 

 

――バガァァァァァァァァァァァァァァン!!

 

 

 

此処でクローゼがその身に宿る最強の精霊『エクゾディア』を召喚してトワイライトロードも人造悪魔も纏めて一気に灰燼に帰して見せた――アリシア前女王が危惧して五つに分割した上で封印した強大な精霊は、成長したクローゼによって完全にリベールの守護神と化していた。

そしてエクゾディアが降臨した以上は最早リベールが負ける可能性は億どころか超を超えて京に一つも無くなったのだが……

 

 

『ククク、実に見事だリベールの諸君。』

 

 

此処で空中に映像が映し出され、其処にはワイスマンとスカリエッティの姿があった。

 

 

『まさか織斑千冬君と不破美由希君が解放されるとは思っていなかったが……君達が其方に気を向けてくれたお陰で、私達は目的を達成する事が出来た。』

 

『彼女は貰って行くよ。』

 

 

だが、其処に映し出されたのはワイスマンとスカリエッティだけでなく、椅子に縛り付けられてグッタリとしているヴィヴィオの姿があった――此の混戦のドサクサに紛れてワイスマンとスカリエッティが放ったガジェットドローンが遠方から麻酔銃を撃ちこんで眠らせ、なのはとクローゼの意識が敵に向いている隙に連れ去ったのだった。

 

 

「「ヴィヴィオ!!」」

 

『ククク……彼女を返して欲しければ、エサーガ王国の『ヒノカミ国』にやって来たまえ……但し、高町なのは君とクローゼ・リンツ君の二名のみで来る事が条件だ。

 其の二人以外が来た場合は、彼女の安全は保障しかねるからね。』

 

「「……!!」」

 

 

更には明らかに罠としか思えないなのはとクローゼのみで来いと言うヴィヴィオの引き渡し条件……しかし、ヴィヴィオの命が握られている以上は其れに従う他はないだろう。

この広域通信の後に、リベールからエサーガ国の戦力は撤退し、リベールは国を守る事は出来たが、王と王妃は最も大切な存在を奪われると言う、『勝利』とは言い難い結果となったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter79『奪われた聖王~誘き出された神魔と聖女~』

ヴィヴィオが……だが其れは愚策だ!ママは娘の為ならばどこまでも強くなれるのだからなぁ!Byなのは      今の私達は『伝説のママ』、超お母さんです!!Byクローゼ


リベール王国とエサーガ王国の戦争は、エサーガ国が兵を退いた事でリベールの勝利となったのだが、其れは表面上の事で、リベールはなのはとクローゼの娘であるヴィヴィオを奪われると言う、『戦争に勝って勝負に負けた』とも言うべき状態となっていた。

 

 

「リベール側の人的損害はゼロ……此れは喜ぶべき事なのだが、ヴィヴィオが奪われてしまった状況では手放しで喜ぶ事は出来んな――戦局を此方に持って来る為にはヴィヴィオの力が必要だったのだが、戦場に連れて来たのは間違いだったかも知れん。」

 

「果たしてそうでしょうか?

 仮にヴィヴィオをグランセル城に残して来たとしても、その場合はグランセル城に直接やって来てヴィヴィオを攫って行ったのではないではないかと思いますよなのはさん。……詰まるところ、ドクターと教授は最初からヴィヴィオが狙いだったんだと思います。」

 

「クローゼ……確かにその可能性は否定出来んな。」

 

 

それ故にエサーガ国を退けた満足感はなく、ヴィヴィオを奪われてしまった悔しさの方が大きかった。

そしてクローゼが言った事は恐らくは正解と見て良いだろう――なのはとクローゼを確実に誘き出す為の餌として先ずはヴィヴィオを確保する、其れこそがワイスマンとスカリエッティの真の狙いであったと、そう思えるのだから。

 

 

「ですが陛下、如何なさるおつもりですか?王女殿下が攫われたのは略間違いなく陛下と王妃殿下を誘い出す為の罠だと思うのですが……」

 

「だとしても娘が人質にされている以上は無視は出来んだろうユリアよ……私とクローゼで、その罠を吹き飛ばしてヴィヴィオを連れ戻す。其れ以外の選択肢は最早存在していないからな。」

 

「ですが……!」

 

「大丈夫ですよユリアさん。いざとなったらエクゾディアを召喚すれば事足りますから。」

 

 

ヴィヴィオの身柄が向こうにある以上は、向こうの要求に従うしかないのが、其れでもなのはとクローゼに不安はなかった。

神魔のなのはと、先祖返りで神族の血が覚醒したクローゼの魔力は無尽蔵である上に最強クラスであり、なのはの直射砲と集束砲、クローゼの最上級アーツは一撃で都市を壊滅させる事が可能な程の破壊力を有している上に、クローゼには最強無敵の精霊である『エクゾディア』があるので、普通に戦えば先ず負ける事はないのだ――仮にエクゾディアの攻撃で倒し切れなった場合でも、エクゾディアの魔力を吸収したなのはがエクゾディア以上の一撃をブチかますので問題ないのだ。

 

 

「と言う訳で少しばかり留守にするが……私とクローゼが留守の間、リベールを任せたぞユリア、リシャール。」

 

「はい、お任せを!」

 

「陛下に武運があらん事を。」

 

 

こうしてなのはとクローゼは指定された場所に向けてリベールを発ったのだった。

王と王妃が不在と言うのは些か不安があるが、其処は王室親衛隊と王国軍がキッチリ仕事をしてくれるだろうし、今やリベールに定住状態となっているルガールだけでなく悪魔将軍とアーナスもなのはとクローゼが戻ってくるまではリベールに残ってくれるとの事なので、国防面に関しては問題はないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter79

『奪われた聖王~誘き出された神魔と聖女~』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リベールを発ったなのははクローゼをお姫様抱っこした状態で目的地に向かっていた――クローゼは未だ飛行魔法は使えないのだが、『なのはとクローゼだけで来い』と言われた以上、クローゼがアシェルに乗って移動するのもNGだと思って此の移動になったのだ。

そして十五分程でエサーガ国の領空内に入ったのだが、其処で待ち受けていたのはトワイライトロードの兵と、空戦型の人造悪魔だった。

クローゼをお姫様抱っこしている状態では可成りのハンデになるのだが――

 

 

「此の程度で私達を止められると思っているのか?だとしたら私達を舐め過ぎだ。」

 

 

なのはは右腕のみでクローゼを抱え直すと、クローゼもなのはの首に腕を回して落ちないようにし、迫りくる敵に対してなのはは遊星が新たにレイジングハートに搭載してくれたビット十二機を展開して多角的攻撃とアクセルシューターによる三次元攻撃、一撃必殺の直射砲を駆使して戦い――

 

 

「清廉なる水の力、今此処に集いて不浄を清めん。全てを押し流せ!アラウンドノア!」

 

 

クローゼは最上級アーツを使って敵を一気に鎧袖一触!

王妃と聞くと守られるお姫様を連想しがちだが、クローゼは守られるだけのお姫様ではなく、自らも戦場に出て戦う姫騎士なのだ――なのはの手でグランセル城から連れ出されたあの日から、クローゼは己が戦場に出る事は厭わなくなったのだ。

 

そんな感じで防空部隊を全て蹴散らして指定の場所に降り立ったなのはとクローゼだったのだが、降り立った其の場所には一切の人の気配がなかった――多数の民家が存在しているので、人が暮らしていた事は間違いないのだろうが。

 

 

「人の気配がありませんね……」

 

「あぁ……だが、化け物の気配はあるみたいだがな。」

 

『『『『『『『『『『ガァァァァァァァァァァァァァァ!』』』』』』』』』』

 

 

其処で襲い掛かって来たのは犬型の人造悪魔と爬虫類型の空を飛ぶ人造悪魔。

空を飛んでいる方は身体を剣に変えて突撃し、当たれば大ダメージだろうが、此の程度の攻撃はなのはとクローゼには通じず、なのははレイジングハートのビットから十二方向に向けてビーム状の魔力砲を放って迎撃し、クローゼは空属性の最上級アーツ『テンペストフォール』で迎撃し、人造悪魔は体力回復のグリーンオーブと魔力回復のホワイトオーブへと其の姿を変えたのだった。

 

 

「人造悪魔か……其れが平然と跋扈していると言う事はこの街は既に人が住んでいないロストタウンと言う事か……或は人造悪魔の性能を試す為にロストタウンにさせられてしまったのか……何れにしても人が住める場所ではないのは間違いないな。」

 

「もしも後者だとしたら、教授とドクターは一体何を成さんとしているのでしょう?私には彼等の最終的な目的が全く想像出来ません。」

 

「奴等のような人間の最終目的など想像出来る奴の方が少ないだろうな。

 だが此れだけは確実に言える……アイツ等は此れまで私が出会って来た如何なる外道や悪党を遥かに凌駕する存在であるとな……だからこそ必ずやヴィヴィオをこの手に取り戻さねばならん。

 私達を誘き出す餌だとして、奴らがヴィヴィオをそれだけで終わらせるとは思えんのでな。」

 

「そうですね……ヴィヴィオのママとして、絶対に助けないとですね。」

 

 

其のまま廃墟と化した街を進んで行ったなのはとクローゼは襲い来る人造悪魔をモノともせずに蹴散らして行き、暫く進んだ所で小高い丘の上に一際目立つ大聖堂の様な建物を見付けた。

その建物は御丁寧にこれ見よがしに巨大な魔力を放出しており、暗に『ヴィヴィオは此処にいる』と知らせて来ていた――となればなのはもクローゼも当然その建物に向かうのだが、その道中には此れまでよりも強力な人造悪魔が現れた。

地中を進む剣の様な背ビレを持つ人造悪魔なのだが、なのはは地中から現れた其れを強引に掴むと、其れをブーメランのように投げ付けて他の悪魔を切り裂き、其処にクローゼがアークプロミネンスを叩き込んで人造悪魔を焼き魚にして見せた。

此れだけの戦闘を行っていながらも、人造悪魔が倒された際に現れるグリーンオーブとホワイトオーブによって体力も魔力も充実している上に、極稀に現れる体力の上限を上げるブルーオーブと魔力の上限を上げるパープルオーブも手に入れていたので、現在のなのはとクローゼはリベールを発った時よりも3割増しで強くなっていた。

そしていよいよ大聖堂に到着……と言うところで最後の門番とも言うべき人造悪魔が現れたのだが――

 

 

「なのはさん、なんですか此れ?」

 

「悪魔……なのか?そもそも生き物なのか此れは?」

 

『あwせdrftgyふじこlp;@』

 

 

其れはなんとも形容しがたいモノだった。

ゲル状の身体には人間の髑髏を思わせるモノが浮いており、一応はなのはとクローゼを敵として認識しているらしく襲ってくるのだが、動きは緩慢で大凡其の攻撃は届く事はないのだが、ゲル状の攻撃は物理攻撃も魔法攻撃も吸収してしまうと言う何とも厄介な存在だったのだ。

 

 

「エクゾディアで吹き飛ばす事は出来るでしょうが、アレにエクゾディアを使いたくはないのですが……」

 

「私もアレにブレイカーを使う気にはなれんが、倒さねば先に進む事は出来ん……だが、身体がゲル状で一切の攻撃が効かないのであれば、攻撃が効くようにしてしまえば良いだけの話だとは思わないかクローゼ?」

 

「なのはさん?……其れは、確かにその通りですね。」

 

 

だがなのはの意図を読み取ったクローゼは『コキュートス』を使ってゲル状の相手を凍り付かせると、なのはがディバインバスター+ビット射撃で其れを粉砕!玉砕!!大喝采!!!してターンエンドして、なのはとクローゼは建物の中に。

 

 

「此れはまた何とも荘厳な造りだな?グランセル城もビックリだ。」

 

「建物全体が希少な鉱石で作られているようですね?……この金耀石の柱、一本で十億ミラは下らないですよ?エサーガ国は随分と財力に恵まれた国であるみたいですね?」

 

「その財力が果たして正しい方法で得たモノであるのかは些か疑問ではあるがな。」

 

 

建物内部にも複数の人造悪魔が存在してはいたが、そんなモノはなのはとクローゼにとって『体のいい回復アイテムドロップ君』に過ぎず、現れた瞬間に滅殺されていた――『お前何しに来たんだ?』、『なのはとクローゼを回復しに来ました。』、『来るな、帰れ!』と言う遣り取りすら成されそうな状況であり、人造悪魔を数え切れないほど倒した先になのはとクローゼは建物の最上階に到着していた。

 

最上階には天井がなく、フロアの中央に巨大な人型の石像のようなモノが存在していた。

其れは人型ではあるモノの、その造形は極めて簡素で頭は球形で、身体も『棒人間』に肉付けをした程度のモノだったのだが、その人型の頭上に存在していたモノが問題だった。

 

 

「「ヴィヴィオ……!」」

 

 

その簡易な人型の像の頭上には、十字架に両手足を縛り付けられているヴィヴィオの姿があったのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter80『奪われた娘を奪還せよ~外道の真意~』

巨大な敵はやられ役と相場が決まっていると思うのだが、如何だろうか?Byなのは      それを否定できる要素がないのが厳しいですねByクローゼ


攫われたヴィヴィオを取り戻すべく指定場所までやって来たなのはとクローゼの前に現れたのは巨大な人型の何かと、その前で十字架に縛り付けられているヴィヴィオの姿だった。

其れはあからさまな挑発行為であり、なのはとクローゼも其れに乗る事は無かったのだが、其れでも愛娘が十字架に縛り付けられている光景には黙っている事は出来なかった。

 

 

「娘が十字架に縛り付けられていると言うのは見ていて気持ちのいいモノではないな……取り敢えず、その十字架から解放するか。」

 

「そうですね……ヴィヴィオが十字架に縛り付けられていると言うのは見るに堪えません。」

 

 

なのでなのはとクローゼはヴィヴィオを拘束している十字架を破壊せんと、ビットによる射撃魔砲と単体アーツを放ったのだが、其れは十字架に着弾する前に霧散してしまった……神魔であるなのはと、神族である先祖の血に覚醒したクローゼの強大な魔力がだ。

 

 

「此れは……魔力分解の障壁でも張られているのか?」

 

「如何やらその様ですね……ですが、其れだけの障壁は遠隔展開は難しい筈です――となれば其処に居ますね、ゲオルグ・ワイスマン、ジェイル・スカリエッティ!」

 

「ククク……私達に気付いていたか……慧眼だねクローゼ君。」

 

 

其れは魔力を霧散する障壁が張られていたからであり、そのレベルの障壁は遠隔展開出来ないと考えたクローゼは、ワイスマンとスカリエッティが近くに居ると考えて二人の名を呼ぶと、ヴィヴィオの後ろからワイスマンとスカリエッティが現れた――その顔には悪意タップリの笑みを浮かべてだ。

 

 

「逆に君は気付かなかったのかねなのは君?」

 

「まさか、気付いていない筈が無かろう。

 私は敢えて言わなかっただけだ……クローゼに指摘された貴様等がどんなドヤ顔を下げて現れるのかを拝みたかったのでな……既に勝った気でいる貴様等の下劣な笑顔は中々に見ものだったよ――そして其の笑顔が貴様等の死に顔だ。

 ヴィヴィオを餌に私とクローゼを誘き出した心算だろうが、其れは最大の悪手だったな?貴様等は今此処で私とクローゼに討たれる。其れでゲームセットだ。」

 

「ヴィヴィオを攫った事に対して、私はとても怒っています……その怒り、思い切りぶつけさせて貰います!」

 

 

なのははレイジングハートを、クローゼはレイピアをワイスマンとスカリエッティに向け、同時に魔力を解放してなのはは神魔モード、クローゼは神族モードとなり光と闇の魔力が逆巻く。

だが、其れを見てもワイスマンとスカリエッティは怯む事無く不敵な笑みを浮かべていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter80

『奪われた娘を奪還せよ~外道の真意~』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔力を解放したなのはとクローゼの力は凄まじかったのだが、今回はヴィヴィオを攫われたという怒りの感情が上乗せされた事で、なのはは栗毛が銀色に、クローゼは菫色の髪が金色になると言う変化を起こしていた。

 

 

「此れは此れはなんとも凄まじいが……だが、我等とて君達の力は想定済みだ。

 だからこそ彼女を攫ったのだよ……此の『神体』のコアとすべくね!」

 

 

まさかの変化にワイスマンとスカリエッティは少しばかり驚くも、ワイスマンが指を鳴らすと巨大な石像から無数の触手が伸びて来てヴィヴィオに絡まり、そしてヴィヴィオをその内部に取り込んだ――と同時に石像の目が光って形が変わって行った。

簡易的な人型だったのが大きく変わって背中に翼が生えた女性の姿になっていた――其れは何処かなのはとクローゼを思わせる部分があり、石像に取り込まれたヴィヴィオの中での『最強』が表現されているのかも知れない。

 

 

「ヴィヴィオ!……ワイスマン、スカリエッティ……貴様等……!!」

 

「ククク、ヴィヴィオ君を取り戻したのならば、この神体を倒す以外に方法はない――だが、エクゾディアは使えんよ?エクゾディアの一撃ならば、神体だけでなく中に取り込まれたヴィヴィオ君まで吹き飛ばしてしまうだろうからね。」

 

「更に切り札封じですか……マッタクもって性格が最悪ですね。」

 

「まぁ、精々楽しんでくれ給えよ!」

 

 

ワイスマンとスカリエッティは言いたい事だけ言うと、神体内部に消え、そして次の瞬間には神体からの攻撃が始まった。

エクゾディアに匹敵する巨躯から放たれる拳は、其れだけで必殺の一撃であり、真面に喰らったら仮に受け身をとっても全身骨折は免れないだろう――故に真正面から遣り合うのは得策ではないのだが――

 

 

「ハイペリオン・スマッシャー!!」

 

「ラストディザスター!」

 

 

なのははディバインバスターの強化版直射砲『ハイペリオン・スマッシャー』で、クローゼは空属性の直線アーツ『ラストディザスター』を放って巨大な拳の威力を削ぐと、神体の周囲を高速で飛び回って魔法とアーツで攻撃して行く。

起動した事で神体周辺からは『魔力分解の障壁』が消え、なのはとクローゼの攻撃も有効にはなっていたのだが、神体はその巨躯に見合う頑丈さを備えているらしく、決定打には至らない。

いや、決定打どころか表面に傷すらついていない状況なのである。

 

 

「見掛け倒しのデカブツではなく相応の頑丈さはあると言う事か……いや、ヴィヴィオを取り込みその魔力を吸収したのであればこの頑丈さも納得か……暴走したヴィヴィオは恐ろしいほどに頑丈だったからな。」

 

「ですがあまりにも強力な攻撃ではヴィヴィオもダメージを受けてしまう為使えない……さて、如何したモノでしょうか?」

 

「現状では完全に手詰まりだ。何とか頭を吹き飛ばして停止させた上でヴィヴィオを中から引っ張り出し、あの外道共に然るべき裁きを下すしかない……問題は如何やって頭を吹き飛ばして此のデカブツを止めるかだ。

 こんな事になるのであれば不動兄妹の誰かから『強制転移』のカードを借りてくればよかったな?其れがあれば半殺しにした人造悪魔と捕らわれたヴィヴィオを入れ替える事が出来たのだからな。」

 

「……今更かも知れませんがカード万能過ぎませんか?」

 

「それは私も思った……が、並の攻撃で通じないのであれば直接頭部にドデカイ一発をかましてやるのも良いかも知れん……クローゼ、露払いを頼めるか?」

 

「なのはさん、何か思いついたんですね?……分かりました、露払いはお任せください。」

 

 

此処でなのはは何かを思い付くと一気に魔力を高め、高められた魔力は『桜色の竜巻』の様に逆巻きドンドン強くなっていく。

 

 

「レイジングハート!」

 

『All right.Master.A.C.S.Standby.』

 

「直射砲が通じないと言うのであれば、私自身が砲撃になったら如何だろうな?

 此れは少しばかり自爆特攻に近いモノもあるが、此れで娘を助ける事が出来るのであれば此の身体がドレだけ傷付こうとも構いはしない……ママの覚悟を舐めるなよ外道共!!」

 

『Strike Frame.』

 

「エクセリオンバスター……ドライブイグニッション!」

 

 

やがてその魔力はなのはに集束して行き、そして一気に爆発して飛び出し、なのは一筋の砲撃と……いや、砲撃を超えた『桜色の不死鳥』となって神体に向かって真っ直ぐに突撃して行く。

当然神体はなのはの突撃を阻止せんと拳をふるうが、その拳はクローゼが的確にアーツでカウンターしてなのはには触れさせないようにしていた。

いよいよ頭部まで迫って来たなのはを、神体は両手でガードしようとするも、そのガードはクローゼが幻属性の最強アーツ『アヴァロンゲート』で強引に抉じ開け、なのはは神体の頭部にレイジングハートが展開したストライクフレームの真紅の切っ先を突き刺す。

 

 

「ブレイクゥゥゥ……シュゥゥゥト!!」

 

 

そして其処から放たれたのはゼロ距離での極大直射砲撃!

なのはの直射魔法は遠距離からでも必殺なのだが、其れが密着状態のゼロ距離で放たれたら其れは間違いなく一撃必殺であり、魔族や神族であっても塵すら残らず消滅するだろう。

 

砲撃と同時に凄まじい爆発が起こり、なのはもその爆炎に飲まれたのだが……

 

 

「マッタクもって呆れた頑丈さだ……ゼロ距離砲撃でも僅かに表面を削っただけとはな。」

 

「寧ろ攻撃したなのはさんの方がダメージ大きそうですね……防護服がボロボロです。」

 

「此の程度は魔力で幾らでも再構築出来るから問題ないが……しかしこれでも決定的なダメージにならないとなると流石に参ったな?……現状此れ以上の策が思い付かん。」

 

 

此の攻撃も神体の頭部を僅かに傷付けただけに終わってしまい、なのはは心底困ったと言った感じだ。

 

 

「クククク……この神体の力、堪能していただけかななのは君、クローゼ君?この神体を倒す事が出来るのはクローゼ君のエクゾディアしか存在しないが、エクゾディアではヴィヴィオ君も死なせてしまうから使えない……ヴィヴィオ君が我々の手に落ちた時点で君達は詰んでいたのだよ。」

 

「全ては我々のシナリオ通りだったと言う訳さ。」

 

 

しかし此処で身体の中からワイスマンとスカリエッティが出て来た。

その顔は勝利を確信したモノだったのだが、二人が出てきた瞬間になのはとクローゼが一気に間合いを詰め、なのははレイジングハートをワイスマンの胸に突き立て、クローゼはスカリエッティの背後からレイピアで胸を貫いた。

 

 

「勝利を確信して慢心したか間抜けが。」

 

「神体は無敵でも、貴方達はそうではありませんよね?」

 

 

そう、此れまでの全てはなのはとクローゼの演技だったのだ。

ワイスマンとスカリエッティが神体内部に入って行ったのを見た瞬間に、なのはもクローゼも『神体をコントロールしているのはワイスマンとスカリエッティ』と言う事に気付いており、其の二人を神体内部から引き出す為に劣勢を演じた上で究極の切り札も通じなかったと言う状況に持って行って、ワイスマンとスカリエッティが勝ち誇って神体内部から出て来る状況を作り上げたのだ。

正にこの一点に勝機を集約した作戦は見事に決まり、胸を貫かれたワイスマンとスカリエッティは其のまま崩れ落ち――

 

 

 

――ギュルリ……!

 

 

 

「「!?」」

 

 

たのだが、其れと同時に神体から触手が伸びて来てなのはとクローゼを拘束した――そして其の拘束力はとても強く、神魔であるなのはであっても拘束と解く事は出来なかったのだ。

 

 

「いやはや、狙いは悪くなかったが残念だったね?私もドクターも既に帰天しているので胸を貫かれた程度では死なないのだよ……だが、此れで我々の目的は達成できる。」

 

 

なんとワイスマンとスカリエッティは帰天によって悪魔の力を有していたのだ。

なのはとクローゼの狙いは悪くなかったのだが、ワイスマンとスカリエッティが帰天していた事で其れは必殺にはならずに逆に神体に二人を拘束させる結果になってしまったようである。

 

 

「聖王の血と、アウスレーゼの血と、不破と高町の血を取り込む事でこの神体は完成する……君達は新たなる世界への礎になるのだよ。」

 

 

触手に拘束されたなのはとクローゼは徐々に身体へと取り込まれて行く――身動きが取れないのでは抵抗も出来ないので、なのはもクローゼも胸の辺りまで神体に埋まってしまった。

 

 

「ワイスマン!スカリエッティ!!」

 

「「!!」」

 

 

絶体絶命の状況だが、此処でワイスマンとスカリエッティを何かが一閃した。

其れはエサーガ国の聖騎士である『アルテナ・ウィクトーリア』――ワイスマンとスカリエッティに操られ、大量のクローンを作られた彼女ではあるが、先の戦争後に洗脳が解け、改めてワイスマンとスカリエッティを討つ為にやって来たのだ。

その一撃は喉を切り裂き胸を貫いたのだが、帰天した二人には其れは致命傷にならず――

 

 

「記憶が戻ったか……操り人形のままでいれば楽だったモノを……」

 

「君はもう死んで良いよ。」

 

「ガッ……」

 

 

逆に神体の指でアルテナの腹を貫く……其れは間違い無く致命傷であり、アルテナは其の場から崩れ落ちそうになったが、済んでの所で青い影がアルテナの身を落下から救い出した。

 

 

「随分とスゲェデカブツだなオイ?」

 

「そしてピンチそうですね姉さん。」

 

 

その正体はネロだ。

そして少し遅れてなたねも其の姿を現した――なのはとクローゼの二名のみでとの事だったが、なたねとネロはシグナムを通してベルカの『湖の騎士』に『場合によっては転移を頼む』と頼み込んでおり、今こうしてこの場にやって来たのだ。

 

 

「なたねにネロか……情けない事にネタ切れだ……だが、このままでは終わらん――次のネタが思い付くまでの間、リベールを頼んでも良いか?」

 

「はい、お任せください。」

 

 

だがしかし、既に首まで神体に埋まっているなのはとクローゼを助ける術はないので、なのはは後の事をなたねに託すると、クローゼと共に神体に取り込まれ、そして次の瞬間には神体が輝き、その輝きが治まると其処には『背に六枚の翼を持つ黒いエクゾディア』の姿があった。

聖王の血、アウスレーゼの血、不破と高町の血、その全てを取り込んでワイスマンとスカリエッティの神体は、此処に完成したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter81『取り込まれた絶対的な力~神体・完成~』

姉さんが復活するまでこの場を任されましたByなたね      まぁ、頑張って代理務めるわByネロ


なのはとクローゼ、そしてヴィヴィオを取り込む事で完成した『神体』は『黒いエクゾディア』に姿を変え、その背には六対の翼が生えている――正に光と闇の双方の力を宿しているのは間違いなさそうだ。

 

 

「黒いエクゾディアに、羽が生えたぜ?」

 

「正直に言って非常に悪趣味ですね。なのはとクローゼとヴィヴィオに対しての謝罪を要求します。」

 

 

黒いエクゾディア自体は其の巨躯もあって迫力満点なのだが、背に生えた六対の翼がなんともミスマッチである事は否めず、思わずなたねも苦言を呈してしまっていた。……若干ズレた部分があるのは否めないが。

そん中で『神体』は翼を広げると飛翔し、その場から飛び去って行った……方角的にリベールではないが、リベールに向かう前に何処かの国を襲撃して其の力を試す心算であるのかもしれない。

 

 

「オイ、アレは何処に行ったんだ?完成したんだろ?」

 

 

神体が飛び去ったのを見ると、ネロは致命傷を負ったアルテナに向かって問う。

腹部を貫かれた傷は深く、最早治癒魔法や治癒アーツ、回復系の魔法カードをもってしても治す事は不可能であり、アルテナの命は正に風前の灯火なのだが、それでも彼女は最後の力を振り絞り、剣を杖代わりにして立ち上がるとネロの問いに答え始めた。

 

 

「ワイス……マン……と、スカ……リ……エッティの……野望は……この世界を……支配、する……事、です……それ、だけ……ならば……『世迷い事』と一笑……に賦すモノ……ですが……彼、等は……其れを、実現……するために……十年前、から……計画を……練っていたよう、です。

 十年前……に起きた……ライトロード、による……大量虐殺事件に始まり……此度、の……度重なる、リベールへの攻撃……そして、神体の完成……全ては、彼等の……計画の内。

 聖王……アウスレーゼ……高町、不破……そしてスパーダ……人、神族、魔族……悪魔……あらゆる種族の……最高の『血』を、一つに……纏める、事が……出来れば……世界の、支配はなる……そう、考えたのです……」

 

「スパーダの血まで……奪ったネロの右腕も組み込まれていると言う訳ですね?

 確かにそれだけの力を集結させれば世界を相手に戦う事も出来るでしょうが、しかしあの力で全てを薙ぎ払ったら何も残りません……教授とドクターは自分達以外の何者も居なくなった世界を支配するのでしょうか?」

 

「……リベールに攻め込む前に……他の国に赴き……其処を人造の悪魔に襲わせた上で……その人造悪魔を神体で焼き払う……最悪の、マッチポンプ、を行って……神体に人々の、感謝と……畏怖の念を……抱かせ……味方につける……そう、言っていました……その上で、リベールを……手中に収めるのだと……完成した以上……最早、アレを止める術……は……ほぼありませんが……貴方達ならば……精鋭が揃うリベールならば……或いは、アレを如何にか……出来るかも……知れません……出来れば……私の手で、止めたかったのですが……力及ばず、この様です……どうか……己の、役目を果たせなかった……聖騎士の願いを……聞き入れてくだ……さい……」

 

 

そこまで言って限界が来たのか、アルテナはその身体をネロに預けると、そのまま砂となって消えてしまった――聖騎士のアルテナは『光』だが、洗脳された際に強制的に『闇』の力を植え付けられた事で身体に歪が生じ、致命傷を受けた事で身体を維持する事が出来なくなってしまったのだ。

亡骸すらこの世に残す事が出来なかったアルテナは、魂までも完全に消滅してしまった事だろう。

 

 

「言うだけ言って死んじまうってのは反則だと思うが……遺言って事なら無視は出来ないよな?」

 

「そうですね……幸いにして彼女の言った事が真実であるのならば、あの悪趣味な人形がリベールに攻め込むまではまだ猶予があると考えられます。

 よって私達がすべきは、早急にリベールに戻り此の事を王室関係者に伝えて対策を練る事であると考えます。」

 

「ま、それ以外にはねぇよな。」

 

 

アルテナからワイスマンとスカリエッティの目的を聞いたなたねとネロはアルテナの剣を、彼女が倒れていた場所に出来た血痕に突き刺して簡易の墓標とすると、ベルカの『湖の騎士』の『転移魔法』でリベールへと帰還するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter81

『取り込まれた絶対的な力~神体・完成~』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「王女殿下のみならず女王陛下、王妃殿下まで敵の手に落ちてしまうとは……矢張り無理やりにでも護衛を付けるべきだったか……?陛下と殿下の強さに些か信頼を寄せすぎていたのかもしれんな我々は……」

 

「其れは確かに否定出来ぬ……『王女殿下が人質に取られていようとも、女王陛下と王妃殿下ならば其れを打ち破ってしまうだろう』との考えが頭の片隅にあったのは間違いない事だからね。」

 

 

グランセル城の『謁見の間』にてなたねとネロから事の次第を聞いた王室親衛隊のメンバーと、王国軍情報部のメンバー、そして魔王達はまさかの結果に驚くと同時に、己の判断の甘さを悔いていた。

『あの二人ならば』……その考えが、今回の結果を招いてしまったのだと。

とは言え、其れも致し方ないだろう。

なのはは莫大な魔力にモノを言わせて数の差をモノともせずに戦える一騎当千の猛者であり、クローゼは単騎ではなのはほどの戦闘力はないモノの、その身に宿した精霊『エクゾディア』は一度解放されれば、其れこそ一撃で国を滅ぼす事が出来るだけの力を有しているのだから、なのはとクローゼの二人が直接出向くとなれば大抵の事はどうにかなる、どうにかなってしまうと考えるのはある意味で当然の事と言えるのである。

 

 

「確かにやばい状況だけど、俺達がやるべき事は結果を悔やむ事じゃなくて、これからどうするか、だろ?

 その二人の話だと、其のエクゾディア擬きがリベールにやってくるまでにはまだ時間があるって事みたいだからさ……どうやって『最強』を迎え撃つのか、其れを考えるべきじゃね?」

 

「一夏君……確かにその通りだな。」

 

 

此処で一夏が『此れからの事を考えよう』と話題を変え、其処からは『神体』がリベールに侵攻して来た際に如何対応するかが話し合われた――大筋は前回のエサーガ国の襲撃の際と同じだが、相手が相手だけに各地の防衛能力の底上げが提案され、ロレントとツァイス以外には、新たに不動兄弟が開発した『量産型パテル=マテル』が配備される事が決定した。

また前回の戦闘にて自我を取り戻した千冬と美由紀は『王室親衛隊』の隊員となっている。

 

 

「ねぇ、ちょっと気になったんだけど良いかな?」

 

「はい、どうぞ姉さん。」

 

「なのはとクローゼちゃんとヴィヴィオちゃんは、神体に取り込まれてるんだよね?

 でもって神体は其の三人とネロ君の右腕を取り込む事で完成して、黒いエクゾディアになった……って言う事は、少なくとも取り込まれた三人は生きてる訳で、三人を中から引っ張り出す事が出来れば、神体ってめっちゃ弱体化するんじゃないのかな?」

 

「良い目の付け所ですね姉さん、その通りです。」

 

 

その美由紀が気になっていた事は、実はとても大切な事だった。

ヴィヴィオだけでなくなのはとクローゼを取り込む事で完成した神体は、逆に言えば内部で其の三人が生きた状態で存在していなければその真の力を発揮する事は出来ない。

なのでなのは達はどんな形であれ神体の中で生きた状態で存在しており、逆に言えばなのは達を中から引きずり出す事さえ出来れば神体は図体だけのタダの木偶人形になり下がるのである。

 

 

「とは言え、其れは簡単な事ではありません。

 私も姉さんを目覚めさせようとレイジングハートにルシフェリオンで通信を入れているのですが一向に繋がりません……と言うよりも、ルシフェリオンはレイジングハートと回線を開いているのに繋がらないという状況になっています。

 まるで、レイジングハートが此の次元に存在しているのかいないのか判断出来ないとでも言うかのように。」

 

 

とは言え、其れは簡単な事ではない。

なたねもルシフェリオンでレイジングハートに呼びかけてはいるのだが、通信回路は開けているのに通信其の物は繋がらないと言う何とも不可解な状況なのである。

 

 

「此の次元に存在していない……其れはある意味で正解よ。」

 

「おや、いいタイミングですねプレシア・テスタロッサ。」

 

 

そんな折、空間を割いて現れたのは『稀代の魔女』たるプレシアだ。

五百年を超える時を生き、ありとあらゆる魔法、魔導、アーツその他諸々に精通しているプレシアは、レイジングハートが現在どのような状況にあるのか凡その見当が付いているようだ。無論、あの戦いを『時の庭園』から見ていたからではあるが。

 

 

「して、レイジングハートはいずこに?」

 

「悪魔界……其処にあるわ。

 ワイスマンにスカリエッティ、此の五百年の間にもあれほどの外道を見た事はなかったけれど、同時に頭も切れるわ……なのはさんとクローゼさんを神体に取り込む寸前にレイジングハートを悪魔界に放り込んでしまったのだから。

 レイジングハートは人格搭載型のデバイスであり、主と認めた者以外に操作する事は出来ないから、レイジングハートを神体に取り込んでしまった場合、レイジングハートが何らかの形でなのはさんの意識を呼び覚まそうとするのは先ず間違いないですからね……なのはさんは神体にとって必要なパーツであると同時に、其れはあくまでも意識がない状態である事が大前提。内部で覚醒されて暴れられたら……ね。」

 

「まぁ、姉さんの意識が覚醒すれば、エクゾディアの姿をしただけの存在など内側から全力全壊間違いなしですが……しかし、悪魔界とは中々考えましたね彼等も?

 悪魔界は並の人間では訪れる事が出来ないだけでなく、そもそもにして人間界と悪魔界は大雑把な網のような結界で隔てられているので簡単に行き来する事は出来ませんからね……普通ならば。」

 

「俺やオッサン、バージルみたいに悪魔の血を引いてるなら悪魔界に行っても全然問題ねぇし、悪魔界への道なら閻魔刀で切り開く事が出来るから何も問題はねぇな。」

 

 

レイジングハートは、なのはが神体に取り込まれる瞬間に特殊な転移魔法によって悪魔界へと放り込まれてしまったらしい。

悪魔界は人間には毒にしかならない魔の瘴気に満ちている上に、偶に人間界に現れる悪魔とは比べ物にならない程の力を持った悪魔が跋扈する世界なので、普通ならとてもレイジングハートを奪還しに行くことは出来ないだろう。

だがしかし、リベールには伝説の魔剣士『スパーダ』の血を引く者が三人も存在する上に、魔族に半妖、天使の血を引く者、魔族の血を引く者、三種の神器の末裔、現在リベールに駐屯中の魔王と、悪魔界の瘴気が毒にならない者達が多数存在している上に、戦闘力に関しても全員が上級悪魔を圧倒出来るだけのモノを持っているのでレイジングハートの奪還はそれほど難易度は高くないと言えるだろう。

 

 

「では、レイジングハートの奪還はこの私に任せて貰っても構わないかね?」

 

「ルガール殿?……貴方ならば実力的にも不安はないが、何故魔王が自ら……」

 

「悪魔界の魑魅魍魎と一戦交えるもまた一興……そして、此処まで用意周到な計画を練っていた彼等がタダ単純に悪魔界にレイジングハートを捨て去ったとも思えぬ――おそらくは我々が奪還に向かう事も見越して、レイジングハートに番人を付けているはずだ。

 そう、私と二度に渡って戦った、精神体のみで存在する事が出来る魔人、ベガがね……精神体ならば瘴気の影響も受けない上に物理攻撃は一切効かぬだろうからね……殺意の波動とオロチの暗黒パワーをもってして完全に消滅させる他ないだろう?」

 

「其れならば稼津斗殿でも良さそうだが……貴方自身の手でベガにトドメを刺したい、そう言う事でいいだろうか?」

 

「うむ、結構だユリア殿。」

 

 

悪魔界にレイジングハートを奪還に行くのにはルガールが名乗りを上げ、其れについては誰も異論はなかったのでルガールが悪魔界に向かう事になり、万が一の時の為に王室親衛隊から『鬼の子供達』が同行する事になった――『鬼の子供達』は『波動のバリア』で悪魔界の瘴気を無効化出来るので問題ないのである。

取り敢えず一通りの方針を決めた後に、ユリアはリベール通信社からナイアルとドロシーを呼び寄せて今回の事を話すと同時に、なのは達の不在が国民に悟られないように情報を上手く誘導するように要請していた。

王と王妃、王女が敵の手に落ちたとなれば国内の混乱は避けられないので、此の措置はある意味で苦肉の策だが致し方ないだろう――同時に同盟国に対しても国王クラスの一部の人間を除いては伝えられず、今回の一件に関する情報は広まらないように徹底されたのだった。

 

ルガールが『準備がある』との事で、悪魔界に向かうのは三日後となり、本日はこれで解散となり、ルガールに同行する『鬼の子供達』は悪魔界に向かうまでの間に更に己を鍛えるのだった――そしてその中で、一夏は千冬とガチの勝負をした上でギリギリ競り勝って見せた。

純粋な剣術のみならばまだまだ千冬の方が圧倒的に上だが、剣術以外の要素(体術、気功波、暗殺拳等々)をフル活用すれば一夏の方が僅かばかり上だったようで、負けた千冬はいつの間にか大きくなっていた弟の成長を喜んでいるようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

エサーガ王国から飛び立った神体は、近くの小さな国に降りたっていた。

その国には突如として悪魔が現れ、手当たり次第に国民を襲い、悪魔を退治するために出撃した軍も圧倒的な悪魔の数に対処しきれず、巨大な兵器をもってしても悪魔の大軍を倒す事は出来ていなかった。

誰もが『もうお終いだ』と思ったその時、天より降り立った神体が一撃で悪魔達を駆逐して見せたのだ――その圧倒的な力は絶望していた人々にとっては正に救い其の物であり、この国の者達はあっという間に神体を『神』として崇めるようになってしまった。

そしてこれはアルテナの言っていた通りの事であり、この国に現れた悪魔はワイスマンとスカリエッティが人工的に生み出した『人造悪魔』であり、神体によって其れを倒すと言う最悪のマッチポンプだったのだ。

 

 

 

――パチ、パチ、パチ……!

 

 

 

その光景を遥か遠くの高台から眺め、無機質な拍手を送る男が居た。

銀色の髪に象牙色のコート、そして腰に差した少し変わった形の剣が目を引くその男の名は『レオンハルト』。

ヨシュアの姉であるカリンの恋人であると同時に、武者修行で世界各地を回って剣の腕を磨き、『剣帝』との異名をとるまでになって、今や『剣聖』カシウスとも互角に戦えるだけの実力を備えている剣士だ。

 

 

「大した演技力だな外道共が……だが、其の名演技は長くは演じる事は出来ん――確実に訪れる破滅の日が来るまで、精々己に酔っているといい。」

 

 

レオンハルトは冷めた目で神体を見やると、コートを翻して其の場から去るのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter82『王の象徴を奪還せよ~レイジングハート~』

悪魔如きは相手にならない……リベールの戦力は素晴らしい。パチパチパチ~Byなたね      拍手を口で言うなっての……Byネロ


神体はリベール以外の各地を転々としながら自作自演の救済劇を行って、神体に対しての崇拝を集め、神体の『崇拝による強化』は着実に進められ、完成直後と比べると大きく其の力を増す事になっていた。

 

 

「神体の完成から僅か三日程だが、其れでも完成直後の倍の力を神体は有するに至った……崇拝され、神格化される事でこうも簡単に力を増す事が出来るとは、少しばかり人々の信仰心と言うモノを軽く見ていたようだ。」

 

「ククク……だがこれは我々にとっては嬉しい誤算だろうプロフェッサー?

 信仰心と崇拝によって神体は強化されたが、逆に言えば彼等にとって神体は正に神……万が一にもあり得ない事だが、リベールがこの神体を倒した場合は、リベールは彼等にとって『神を殺した逆族の国』となり、最悪の場合は攻め込まれる事になるだろうさ。

 いずれにしても、我々にとっては好都合でしかない訳だ。」

 

「マッタクだねドクター。

 しかし、なのは君とクローゼ君とヴィヴィオ君……この神体の力の源であり生体バッテリーとも言うべき彼女達は、果たして今どのような夢を見ているのだろうね?……まぁ、神体が健在である限りは彼女達にも死は訪れず、永遠に神体と共に生きる事が出来る訳だがね。

 尤も、百年も経てば彼女達もまた完全に神体の一部となるだろうが。」

 

「其の百年の間に、世界は我々によって作り変えられるのだけれどね。」

 

 

ある意味で神体は『人の心の力』によって強化されたとも言えるのだが、其の強化は例えば『大切な誰かを思って』、『仲間の為に』と言ったモノとは異なる『崇拝』と言う、すがる思いの力であり、他力本願とも言える思いの力で、実は非常に脆いモノだったりする。

崇拝や信仰による力は、其れが健在であるうちは絶大なモノがあるが、一度それが崩れてしまえば一気にその力を失ってしまうリスクもある――神体の強化も、崇拝や信仰によるところが大きいので其の御多分には漏れないだろう。

此れまでの救済劇が全て自作自演だと言う事が明らかになれば、一瞬で其の力は霧散してしまうのだが、ワイスマンとスカリエッティは自分達の自作自演である事が証明される事はないと考えているのか、神体が弱体化するなどとは微塵も思っていないようである。

 

 

「ドクター、次の国ではもっと派手にやってみては如何かな?確か戦車や戦闘機に複数の悪魔を融合したモノがあっただろう?アレに襲わせると言うのは中々に面白いとは思わないかね?」

 

「良いアイディアだプロフェッサー……アレを使えば多くの人々が死ぬだろうが、犠牲が多ければ逆に救済された時の安堵も大きくなり、神体を崇める気持ちも大きくなると言うモノだ。

 ククク……派手に行くとするかな次は。」

 

 

それどころか更なる神体の強化の為に、また碌でもない事を考えている始末……腐れ外道とは、正にこの二人の為にある言葉なのかもしれない。

ともあれ其の悪辣極まりない計画は即実行に移され、実に胸糞が悪くなる話ではあるが、神体は更にその力を増すのであった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter82

『王の象徴を奪還せよ~レイジングハート~』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルガールの準備も整い、ルガールと鬼の子供達は『四輪の塔』の一つである『紅蓮の塔』にやって来ていた。

此の紅蓮の塔は、以前に小規模ではあるが悪魔界化していた事があり、其の時はダンテが閻魔刀で強引に悪魔界と人間界の繋がりを断ち切ったのだが、一度悪魔界と繋がった場所は、繋がりが断ち切られてもまた悪魔界と繋がる可能性が高くなる――要は、悪魔界と繋がり易くなってしまうのだ。

 

其れは本来は非常にありがたくない事なのだが、此れから悪魔界へ向かうとなれば話は別――寧ろ繋がってくれた方が都合が良いのである。

とは言っても何の切っ掛けもなしに悪魔界と繋がると言う事は中々ないのだが……

 

 

「右手にテレサ先生が手塩にかけて育てたハーブ、左手に魔界で育った魔草マンドラゴルア……この二つを握り潰した後に調合すれば、其処には小規模だがカオス空間が出来上がり、そのカオス空間は人間界と悪魔界を繋げる鍵となる!

 我が手の中に顕現せし混沌よ、悪魔界と人間界を繋げよ!!」

 

 

ルガールがハーブと魔草を調合して小規模な混沌を発生させ、そのカオスの力で強引に悪魔界と人間界を繋いで見せた――ルガールの準備とは、魔界から魔草を持ってくる事だったのだ。

だが、これにより可成り強引ではあるが紅蓮の塔の頂上が悪魔界と繋がり、ルガールと鬼の子供達は悪魔界へと進むのだった。

 

 

「此処が悪魔界?……紅蓮の塔の頂上を鏡写しにしたようにしか見えないけどな?」

 

「其れは此処がまだ悪魔界の入口に過ぎないからだよ一夏君。

 悪魔界の入り口は、繋がった場所を鏡写しにしたような景色となるのだ……そして、その鏡写しの景色にある扉、或いは階段を上るか降りるかした先にあるのが真の悪魔界と言う訳だよ。

 今回の場合は、頂上から下層へと降りる階段の先が悪魔界と言う事になるね。」

 

 

紅蓮の塔を鏡写しにした景色である悪魔界の入り口から階段を降りると景色は一変した。

其処は一夏達が良く知っている紅蓮の塔の内部ではなく、無機質な石の地面に生き物の筋肉や臓腑を思わせるモノが融合した不気味で異質な空間が広がっていた……此の異質な空間こそが悪魔界なのだ。

 

 

「不気味どころの騒ぎじゃないわねこれは……こんな場所に迷い込んだら、一般人は即発狂して廃人になってしまうんじゃないかしら?……それ以前に、悪魔界の瘴気で即死かしらね?」

 

「瘴気で死なずに廃人になり、そして瘴気に晒された事で人でなくなった存在と言うのはあり得そうな気がするね――だが、そうならない私達は、悪魔界の住人にとっては招かれざる客らしい。」

 

 

そして悪魔界に踏み入ると同時に大量の悪魔が一行に襲い掛かってきた。

其の悪魔は人間界では等身大の人形を依り代にしなければ存在する事も出来ない最下級の悪魔なのだが、それでも悪魔界ならば人間界よりも本来の力を発揮する事が出来る上に、徒党を組んで数の暴力で襲い掛かれば大抵の相手は制圧出来るだろう。

 

だが、今回襲い掛かった相手は魔王の一人であるルガールと、鬼に育てられた鬼の子供達と、相手が悪かったどころの話ではなかった。

 

 

「手厚い歓迎には謝意を示すところだが、生憎と強引な歓迎は私達の望むところではないのでお帰り願おうか?ジェノサイドカッター!!」

 

「雑魚はどいてろよ……電刃波動拳!!」

 

 

徒党を組んで数の暴力で襲い掛かったにもかかわらず、其れはあっと言う間に全滅するに至った――鎧袖一触とはまさにこの事であり、ルガールと鬼の子供達は襲い来る悪魔を難なく撃破して先に進んで行った。

無論彼等の実力が高いのは勿論だが、戦い方の巧さもあった。

 

 

「行くわよヴィシュヌ……氷結波動拳!!」

 

「了解です刀奈……灼熱波動拳!」

 

 

その中でも刀奈とヴィシュヌの合体技は凄まじい威力だった。

刀奈の絶対零度の氷結波動拳と、ヴィシュヌの鉄をも溶解させる灼熱波動拳をぶつける事で発生する『対消滅』の力は凄まじく、二つの波動拳の射線上にいた悪魔は当然として、対消滅が起きた場所にいた悪魔は跡形もなく――それこそ各種オーブに姿を変える事もなく完全に消滅してしまったのだから。

 

 

「スパーリングの時に偶々私の氷結波動拳とヴィシュヌの灼熱波動拳がぶつかったらとんでもない大爆発起こしたから、其れを技として昇華してみたのだけれど、ヤバいわねこれ。」

 

「完全に同じ威力にしなくてはならないとは言え、此れは破壊力だけならばなのはさんのブレイカーをも上回ると思います。」

 

「うむ、今のは実に素晴らしい技だな。私もぜひ習得したいモノだが……これほどの女性達が恋人とは、君は人生勝ち組だな一夏君?」

 

「恋人が五人も居るって言ったら千冬姉が真っ白になったけどな。」

 

 

一夏達は普通の人間であるが、『鬼』に育てられたと言う事で可成り人外の戦闘力を身に付けており、上級悪魔とも互角以上に戦う事が出来るのは、先のリベール革命の際に証明済みであり、だから下級悪魔程度では準備運動にすらならないのだ。

其のまま進んで行くと、氷を操り、氷の身体を持つ中級悪魔や、目が退化して音を頼りに手当たり次第に電撃を放って襲ってくる中級悪魔なども現れたが、氷の悪魔はヴィシュヌの炎の波動で瞬殺され、電撃を放つ悪魔は其の電撃を一夏に吸収され、逆に威力を底上げした雷の波動を喰らってショートした後に自爆と、なのはとクローゼがエサーガ国で人造悪魔相手に戦った時と同様、出て来る悪魔は出て来た瞬間に倒されてグリーンオーブやホワイトオーブと言う回復アイテムに姿を変えるだけの存在になり果てていたのだ。

 

 

『ギョワァァァァァァァァァァァァ!!!』

 

「ヤギの化け物か……邪魔だ、どけ。」

 

 

更に進んで行くと、ヤギの頭をした巨大な悪魔『ゴートリング』が現れたが、其れは夏姫が遊星が魔改造したガンブレード『ライオンハート』の弾丸を炸裂させる事で刀身をエネルギーで巨大化する『プラグディングゾーン』を使って一刀両断して見せた。

悪魔界は本来人が立ち入る事の出来ない場所であり、だからこそワイスマンとスカリエッティはレイジングハートを悪魔界に転送した訳なのだが、リベールには悪魔界に立ち入れる人間が思いの他多かったのが彼等の誤算と言えるだろう。

 

 

「一夏、一曲如何かな?」

 

「その誘いには乗らせてもらうぜロラン。」

 

 

岩の身体を持つ一つ目の蜘蛛の悪魔『サイクロプス』も一夏とロランが挟み撃ちにして無数の蹴りと拳で攻撃した後に、一夏が『真・昇龍拳』を、ロランが上昇式の『竜巻旋風脚』を叩き込む合体技『ラストシンフォニー』で岩の身体を砂に変えてしまった。

そうして、遂にレイジングハートが転送された場所にまで到達する事が出来た。

 

 

「レイジングハート……アレを取り戻せばなのはさんを覚醒させる事が出来るんだよな?」

 

「そうだが……そう簡単には行かないみたいだぞ兄さん。」

 

 

だが、其処にはルガールが予想した通りの番人が存在していた。

 

 

「ムワァ~ッハッハッハァ!こぉこまで辿り着くとぅわぁ……かぁなしいかな、悪魔程度ではきぃさま等を止める事はでぇきなかったようどぅあ。」

 

 

特徴的な喋り方と共に闇色のオーラがレイジングハートの前に集い、其れはやがて人の形を成してその存在を明らかにしていく――そうして現れたのは、サイコパワーを操る魔人『ベガ』だ。

赤い軍服の上着の裾はコートのように長くなり、髪は此れまでとは異なり白くなっている――が、その力は以前にルガールと戦った時よりも更に増しているようである。

 

 

「悪魔如きで私達を止める事が出来ると思っているのならば些か甘く見られたと言わざるを得ないが……己が作り出した人造悪魔を自らの手で倒すとは、なんともイカレタ出来レースではないかな?

 そんな出来レースの結果をもって『神』を名乗ろうなどとは……愚かにもほどがある。恥を知れと言わざるを得ない。」

 

「ムハハハハ……人とは、じぃつに愚かな存在よ。

 滅びの寸前にぃ、あぁらわれた救いの存在をぉ、ぜぇったい的に信じてしまうぅ……故にぃ、かぁみの存在を信じさせるのは、じぃつに容易であるのだ。」

 

「成程……だが、今はそんな事は如何でも良い。

 私達は、其処にある其れを返してもらえば何も文句はないのだがね?」

 

「レェイジングハァートだな?

 どぅあぁが、貴様等が此れを手に入れる事はでぇきぬぁい!なぁぜならぶぁ、此処に此のベェガ様が居るからどぅあ!!」

 

 

ルガールとベガは少し芝居がかった遣り取りをしながらも其の闘気は高まっていき、其の闘気に当てられた悪魔が狂暴化するほどのレベルだ――尤も、狂暴化したところで『鬼の子供達』の敵ではないのだが。

 

 

「嘗て私に二度敗れながらも、今こうしてまた挑んでくるとは、其のチャレンジャー精神は評価するに値するが、其れでも君では私を倒す事は出来ん。

 此の悪魔界が君の死に場所だ……魔人には相応しい死に場所に相応の墓標を建ててくれる!」

 

「その首ぃ、搔っ切る!」

 

 

レイジングハート奪還のラストステージは、魔王と魔人の三度目の激突と相成り、一夏達は狂暴化した悪魔を撃滅して行くのだった――そして、ルガールとベガの三度目の戦いは、ともすれば悪魔界に凄まじい影響を与える戦いになるのは間違いないだろう。

同時に此の戦いは、リベールの未来を左右する戦いでもあったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter83『魔人と魔神と鬼の子供達~悪魔界でのバトル~』

若本ベガは色々素敵な気がしますByなたね      なら若本ルガールは最強か?良く分からねぇけどByネロ


ルガールと鬼の子供達がレイジングハートを奪還するために悪魔界を訪れていた頃、リベールの各所――四輪の塔の付近には黒い巨大なオブジェが現れていた。

其れは『リベール革命』の際にリベールの四大都市に現れていた『地獄門』に酷似しており、そのオブジェからは下級の悪魔が溢れ出していた。

そしてそれに関してはすぐさま王国軍と王室親衛隊に連絡が入っていた。

 

 

「地獄門……よもやそれがまたリベールに現れるとは……下級悪魔程度ならば王室親衛隊の隊員と王国軍の隊員を総動員すれば制圧出来るが、地獄門を破壊するとなると、それだけでは足りんな……さて、どうしたモノか……?」

 

「迷っても仕方あるまいユリア隊長。

 餅は餅屋、此処はDevil May Cryに正式に依頼を出すのがベターではないかな?悪魔退治ならば彼等の右に出る者はいないだろう?」

 

「リシャール大佐……確かにそれが最善の選択かも知れないな。」

 

 

地獄門から止めどなく現れる下級悪魔は王国軍と王室親衛隊で制圧する事が出来るが、地獄門の破壊となるとその限りではないので、此処は『悪魔退治』の専門家であるDevilMay Cryの面々に依頼を出す事にした。

そしてその依頼を受けたダンテは嬉々として依頼を受けると、バージル、ネロとなたねと共に地獄門の破壊へと出向いて行った――ダンテは紅蓮の塔、バージルは紺碧の塔、なたねは琥珀の塔、ネロは翡翠の塔にある地獄門が担当だ。

 

地獄門が破壊されれば悪魔の流出は止まるのだが、逆に言えば地獄門が健在である限りは悪魔が出てくるのだが、其れはマッタクもって問題にもなっていなかった。

リベールの各地には精鋭が揃っており、特にロレントは『此処は本当にリベールの田舎町なのか?』と疑いたくなるほどの過剰戦力が集まっており、ロレントを襲った悪魔はロレントの精鋭達によって現れた先から滅されていた。

 

 

「やっちゃいなさい、パテル=マテル♪」

 

「ビッグバン……イレイザー!!」

 

 

特にレンのパテル=マテルのビーム砲と、アインスの極大直射魔法による『直線(笑)』な殲滅攻撃は強烈無比で、寧ろこれは悪魔の方に同情してしまうレベルだろう。

 

 

「キョォォォォォォォ!!フヘハハハ……ア~ヒャハハハハハハ!!!」

 

「八神……遂に脳みそぶっ飛んじまったか?」

 

「アレって八稚女、だよなオリジナル?なんか俺が知ってる八稚女と違うぜ?」

 

「暴走してんだろ……てかよ、絶対食ってるよなアレは……悪魔って食えるんだ。」

 

 

プラスアルファでロレントの危険人物である八神庵は、こう言う時には『敵味方の判別がつく暴走』という、中々に意味不明な強化状態となって敵を葬ってくれるので頼りになるのだった。

地獄門が破壊されるまでの防衛戦となるが、ロレントをはじめとして各地戦局はリベール優勢で問題なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter83

『魔人と魔神と鬼の子供達~悪魔界でのバトル~』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、レイジングハート奪還の為に悪魔界にやって来たルガールと鬼の子供達はレイジングハートの在処まで辿り着き、其処でレイジングハートの番人を務めている魔人、ベガと相対し、ルガールがベガと戦い、鬼の子供達は狂暴化した悪魔達の相手をする事になった。

 

 

「アンタなら大丈夫だとは思うけど、油断だけはするなよルガールさん。」

 

「心配ご無用だ一夏君。

 私は己の腕に絶対の自信は持っているが、だがしかし相手が誰であろうとも慢心はしない……仮に一瞬の隙を突かれて致命傷を負おうとも、其の時は最終奥義の自爆を使うまでの事。

 そして自爆しても私の趣味は復活だから問題ない!」

 

「復活出来る自爆って、もう色々とチート級の攻撃手段よね。」

 

 

魔王の一人であるルガールは強くなるためならばあらゆる格闘技も、他者の技も修め、嘗て己の右目を奪ったオロチの力をもその身に宿し、更には殺意の波動までをも己の力としてしまった猛者であり、全ての力を開放した『ゴッド・ルガール』となれば、『ナイトメアフォーム』のアーナスですら上回るだろう。

それだけの力を持っているのならば心配はないが、三度ルガールと対峙したベガは、此れまでとは異なって白髪となり、二度目の時と比べると細身にはなったモノの、それは二度目の時のマッスルボディをパワーその他は其のままに絞り込んだ感じであり、戦闘力は大きく増していたので油断は禁物だろう。

 

 

「烈風拳!」

 

「ぬん!」

 

 

先ずはルガールが烈風拳を放ち、それに対してベガはサイコパニッシュを放って相殺する。

だがルガールは烈風拳を放つと同時にビースデストラクションで突進しており、ベガに後ろ回し蹴りを喰らわせてから蹴り上げ、更に手刀を振り下ろしてベガを吹き飛ばす。

しかし吹き飛ばされたベガは空中で姿勢を立て直すと、ヘッドプレスで強襲し、其れがガードされてもサマーソルトスカルダイバーで背後から攻撃してルガールの背中に一撃を加える。

 

 

「中々にやる……だが、甘い!」

 

 

背中に一撃を喰らいながらもルガールは反転してベガの首を掴むと持ち上げ、そのまま地面に叩きつけ、勢いでバウンドしたところにバニシングフラットを叩き込み、更に追撃のグラビティスマッシュを放つ。

そのグラビティスマッシュをベガワープで躱したベガは、再びルガールの背後を取るとダブルニープレスを喰らわせた後に、デッドリースルーで強引に投げて地面に叩きつける。

その連携攻撃は強烈で、ルガールも少なくないダメージを負ってしまった。

 

 

「死をぉ、くれてやる!」

 

 

確実なダメージを叩き込んだ事で、ベガは形勢有利と見たのか更なる攻撃をしようとしたのだが、此処で起き上がったルガールがその身に宿した全ての力を解放して来た――鍛え上げた己の力だけでなく、オロチの暗黒パワーと殺意の波動も解放し、『ゴッド・ルガール』となったのだ。

 

 

「「魔人を自称するだけあって見事な力と褒めておこう……だからこそ、私も全力をもって君を殺すとしよう!そう、本体であるその思念体までも!!」」

 

 

殺意の波動とオロチの暗黒パワーの同時発動は稼津斗とルガールでは異なる特徴がある。

稼津斗の方が漢字オンリーの話し方になるのに対し、ルガールの方はエコーが掛かったかのような声に変わるのだ――それがより威圧感を高めている訳でもあるのだが。

 

 

「オロチの暗黒パワーと殺意の波動か……どぅあぁが、わぁがサイコパワーもオロチの暗黒パワーを得るにいたっとぅあ!わぁたしに隙はぬぁい!」

 

「「ならば試してみるかね?カイザァァ……ウェイブ!!」」

 

 

ベガは新たな身体を得る際に、ワイスマンとスカリエッティによって『黒昌』によるオロチの暗黒パワーを与えられており、それがサイコパワーと融合して以前よりも可成り高い戦闘力を有するに至ったのだが、しかしそれでも『ゴッド』となったルガールには及ばない。

ルガールが放った巨大な気弾『カイザーウェイブ』はベガワープで回避するも、回避先にはルガールがゴッドレーンで先回りしており、肘打ち→裏拳→レッグトマホーク→ビースデストラクション→ジェノサイドカッターの連続技を叩き込む。

 

 

「ぶるあぁ……ば、馬鹿ぬぁ……!」

 

「「さっきまでの威勢のよさは何処に行ったのかな?死ねい、愚かなる弱者よ……ギガンテックプレッシャー!!」」

 

 

更にルガールはベガの首を掴んで持ち上げると巨大な気の柱を発生させて攻撃する。

気の柱は何度も発生させ、その気の柱には髑髏の紋様が浮き上がっているのが『魔王』を彷彿とさせる、中々に洒落が利いた粋な攻撃とも言えるだろう。

其れを喰らったベガは瀕死状態となったのだが、身体が崩壊しても思念体である本体が無事であれば幾らでも復活は出来る――此処でベガが目を付けたのは一夏だった。

一夏の中の殺意の波動に目を付け、サイコパワーを送り込み強制的に其の力を表に引き出してきたのだ。

 

 

「あが!?……グゥゥゥゥゥゥゥ!!!」

 

 

千冬との戦いの際に『無の波動』の境地に至った一夏は殺意の波動を極めるでも克服するでもなく、己の一部として受け入れた訳だが、だがだからと言って殺意の波動が無くなった訳ではなく、ベガによって強制的に殺意の波動に目覚めさせられてしまったのだ。

殺意の波動に目覚めた証として、一夏の髪と目は赤く染まり、肌も浅黒く変化している……

 

 

『望むなら何時でもお前の挑戦を受けよう。』

 

『また、私と戦ってくれるかな?』

 

『次はもっと強くなってるわよね?』

 

『ウヌが力、目覚めさせてみぃ!』

 

『一夏、強くなったな。』

 

 

だが、一夏の脳裏にはなのはや恋人達、師である稼津斗、そして姉である千冬の姿が浮かんでいた。

 

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 

そして、其れは一夏を殺意の波動の支配から解放するには充分な力を持っていた。

 

 

「ぶわぁかな、悪其の物とぅお言える黒き力をその身に宿しながるぁ、こぉのベガ様の支配を退けると言うのくぁ!?」

 

「殺意の波動を単純な闇の力って考えたのがアンタの敗北の要因だよベガ……殺意の波動は単純な闇の力じゃない。極めるか、克服するか、或いは受け入れるかで全く異なる力を与えてくれる可能性の力なんだよ!

 喰らえ……絶・昇龍拳!!」

 

 

阿修羅閃空で間合いを縮めた一夏は『無の波動』を拳に乗せた真・昇龍拳、『絶・昇龍拳』をベガに叩きこんで其の身体を崩壊させる――それだけならばベガは新たな身体を得て生き延びるのだが、『悪しき力を無に帰す』力を持った『無の波動』を喰らった事で本体である思念体にも大きなダメージが叩きこまれており、思念体は此の場から逃げる事も難しくなっていた。

 

 

「「一夏君を乗っ取ろうとしたのがそもそもの間違いだ……これでお終いだ。精々冥府で極卒相手に大立ち回りでもやってみるが良い……滅殺!!」」

 

 

その思念体に、ルガールがトドメとなるルガール版瞬獄殺の『ラストジャッジメント』を叩き込み思念体を完全に消滅させる――『死者の魂をも滅する』業が深い極滅奥義の瞬獄殺を喰らったら此の世に存在する事すら出来ないのである。

逆に言えば過去二回の戦いで瞬獄殺を喰らいながらも思念体が滅されなかった事の方が奇跡であると言えるだろう。

 

 

「「ハッハッハーーーー!!」」

 

 

 

――カキィィィィィィン!!

 

 

 

 

                                           

 

 

 

「「勝利など容易い!」」

 

「俺達の、勝ちだな。」

 

 

ルガールの『絶対殺す奥義』でベガは完全に此の世から消え去り、もう二度と復活する事はないだろう。

こうしてルガールと鬼の子供達は見事レイジングハートを奪還し、そしてリベールに帰還するまでの間に悪魔界で悪魔を撃滅しまくって行くのだった……魔王と鬼の子供達のチームもまた中々に強力であるようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

ルガールと鬼の子供達がレイジングハートの奪還に成功したころ、Devil May Cryの面々は夫々担当の四輪の塔に到着し、其処に現れた地獄門と対峙していた。

そしてその地獄門からは、強力な力を持った上級悪魔が現れていた。

翡翠の塔には巨大な鳥の悪魔『グリフォン』、琥珀の塔には双頭の巨人『タルタルシアン』、紺碧の塔には悪魔界の巨大ムカデ『ギガピート』、そして紅蓮の塔には嘗ては異教の神であった『ヴォルベルグ』が現れていた。

何れも悪魔界に於いては最強クラスの上級悪魔であり、並の人間では凡そ敵う相手ではないだろうが、此処にいるメンツはその限りではない。

 

 

『可成り高い力を感じるが……貴様、右腕は如何した?』

 

「右腕だって?……こいつで満足かい?」

 

 

翡翠の塔の地獄門ではネロとグリフォンが対峙しており、グリフォンはネロの右腕がない事を訝しがったが、ネロは不敵な笑みを浮かべると右腕を勢いよく振り下ろして不動兄妹製の義手型兵装を展開して其れを見せつける。

奪われた『悪魔の右腕』以上の性能を持つ義手型兵装『デビルアームズ』は、ネロにとって有難いモノだっただろう――だからこそ、ネロは其の力を存分に発揮して敵を葬ると心に決めていた。其れこそが、此れを作ってくれた不動兄妹に対しての最大の礼になると思ったからだ。

 

 

「来いよ鳥頭。其れとも予想外の俺の右腕にビビっちまったか?」

 

『吠えるか小僧が……良かろう、我が力をその身で味わうと良い!』

 

 

かくして、翡翠の塔ではネロとグリフォンの戦いが幕を開けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter84『四輪の塔と地獄門とDMC~地獄門と悪魔は滅~』

さて、近所迷惑な悪魔を倒しましょう、そうしましょうByなたね      お前の言い方だと悪魔と害虫が同レベルだぜ……Byネロ


翡翠の塔に出現した地獄門の前ではネロとグリフォンが睨み合い、ネロが右腕――不動兄妹製の機械義肢『アームズ・エイド』を展開してグリフィンを挑発して、其処から超絶バトルが始まった。

 

 

『この攻撃、避け切れるか!』

 

「ヒュー!此れはまたなんとも凄い弾幕だな?

 此れは全部避けるのは難しいが……全部避けられないなら避け切れない分は迎撃するだけだぜ!」

 

 

身軽に動き回るネロに対し、グリフォンは翼から無数の雷球を撃ちだしての弾幕攻撃を仕掛けたのだが、其れに対してネロは回避行動を取りつつ、回避し切れない雷球は閻魔刀を一閃して切り裂いて見せた。

 

 

『この攻撃を切り裂くだと?其れに其の刀は、魔剣士スパーダの……貴様、スパーダの血筋だったのか……!』

 

「気付くのがおせぇんだよこの鳥頭。」

 

 

ネロが閻魔刀を使った事で、グリフォンはネロがスパーダの血筋だと言う事に気付き戦慄した――悪魔界に於いて、『魔剣士スパーダ』の名は逆賊の裏切り者の名であると同時に、魔帝を打ち倒して封印した恐るべき存在の名でもあるので、特に知性のある上級悪魔にとっては憎むべき者であり、そして畏怖するモノでもあるのだ。

 

 

『よもやスパーダの血筋とこうして相対する事になろうとは……』

 

「なんだよ、ビビっちまったか?」

 

『いいや、この幸運に感謝しよう!

 悪魔界と人間界が繋がること自体が稀であり、我等のような存在が人間界に現れる事が出来るなど、それこそ余程の好条件が揃わぬ限り不可能な事なのだが、地獄門のおかげれやって来れた人間界でスパーダの血筋と戦う事が出来るとはな……其の力、存分に見せてみろ小僧!』

 

「ハッ、それがお望みなら応えてやるけどよ……焼き鳥やフライドチキンにされても文句言うんじゃねぇぞ!」

 

 

閻魔刀を納刀したネロはレッドクィーンを抜いてグリップを捻ってエンジンを吹かし、刀身を灼熱させて斬撃の威力を高める――イクシードと名付けられた斬撃強化能力もまた、不動兄妹の手によって魔改造が施され、グリップ一捻りでイクシードレベルがマックスになるようになっていたりするのだ。

そしてネロが吠えると同時にグリフォンが雷撃を放ち、ネロは其れを避けると同時にイクシードレベルマックスのレッドクィーンでダンテ直伝の『飛ぶ斬撃』の『マキシマムドライヴ』を放ってグリフォンを攻撃し、グリフォンは其れを翼でガードしたが、完全にはガードし切れずにガードに使った右の翼は折れ、飛ぶ事は不可能になってしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter84

『四輪の塔と地獄門とDMC~地獄門と悪魔は滅~』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ぐぅぅぅ……まさか私の翼を折るとは……流石はスパーダの血筋と褒めておこう。』

 

「だがこれで、もう空に逃げる事は出来なくなっちまったな鳥頭?

 空を飛べなくなっちまったら、テメェはもう異常に成長しちまったスズメですらねぇ……身体がデカいだけのタダの木偶の棒でしかねぇから俺の相手じゃねぇんだよ!

 無様晒す前に悪魔界に帰る事をお勧めするぜ?」

 

『敵に背を向けて逃げるなど、出来る筈がなかろう……!!』

 

 

翼が折れたグリフォンはもう飛ぶ事は出来ず、『空からの攻撃』と言う最大のアドバンテージを失ってしまった――其れでも圧倒的な巨躯から繰り出される攻撃は地上戦限定であっても脅威となるのだが、其れはあくまでも一般人が相手であればの話であり、なたねをして『悪魔をボコるの趣味なんです』と言うネロにとっては大した脅威ではなかった。

パワーショベルの如き嘴での連続突きも、巨大な足の爪での攻撃も、体格が大きいが故に攻撃モーションが丸分かりなのでネロは難なく回避し、カウンターでブルーローズのチャージショットやイクシードレベルマックスのレッドクィーンでの攻撃をブチかましてグリフォンにダメージを与えて行き、遂に脚に放ったストリークでグリフォンをダウンさせた。

 

 

「こいつで決めるぜ!」

 

 

此処が好機と見たネロは、アームズエイドを使ってグリフォンに肉薄したのだが、アームズエイドから発射されたのはロケットアンカーのサブアームではなく、悪魔の右腕をより再現したエネルギー体の腕だった。

アームズエイドは不動兄妹によってアップデートが行われおり、何回目かのアップデートの際にスナッチ用のロケットアンカー搭載のサブアームはオミットされて、戦術オーブメントと数種のクォーツを組み込んで、悪魔の右腕の『射程無限の霊体の腕』を完全再現していたのだ。

そのエネルギー体の腕でグリフォンの頭を掴んだネロは、力任せに上空に投げ飛ばし、落ちて来たところに渾身の右ストレートをブチかましてグリフィンをぶっ飛ばすと同時にアームズエイドに内蔵されている『メテオ・ストライク』を発動して、『防御力無視』の一撃を喰らわせていた。

 

上級悪魔であるグリフォンは相当に頑丈な身体を持っているのだが、防御力を無視する一撃を喰らったのならば其の頑丈な身体は意味を成さず、今の一撃で胸にあるコアも罅割れてしまい、瀕死の状態になってしまっていた。

 

 

「ゲームセットだな……其れとも、まだやるか?」

 

『……見事だ。スパーダの血筋は伊達ではないか……よもや我がこうも一方的にやられるとは思わなかったが、だからこそお前には我の力を託す事が出来ると言うモノだ……この力、持っていけスパーダの血を継ぐ者よ。』

 

 

瀕死のグリフォンはネロの力を認めると同時に己の力を託すに値する存在だとして、その命の炎が尽きる寸前に自らを『悪魔の武器』に変えてネロに其の力を託したのだった。

 

グリフォンが姿を変えた悪魔の武器は刀身に稲妻を纏った二本の長剣『雷双剣・グリフォン』で、ネロは其れを手に取ると逆手二刀の構えを取り、其処から超高速の一瞬六斬で地獄門を瓦礫の山に変え、更にアームズエイドに内蔵された『サンダー・ボルト』のカードの効果で瓦礫を粉々に破壊したのだった。

 

 

「此れで一つ……残りは三つか……任せたぜなたね、バージル、オッサン。」

 

 

新たな武器を得たネロは、其れをアームズエイドに収納し、同時にアームズエイドには新たに『掴んだ瞬間に10万ボルト』の機能が追加されたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

ネロがグリフォンと戦っていた頃、他の四輪の塔でもバトルが行われていた。

琥珀の塔に現れたタルタルシアンにはバージルが相対していた。

 

 

「悪魔界の法にすら背いた存在が相手か……悪魔界に落ちて、黒騎士となっていた俺には相応しい相手かも知れんが、貴様如きでは俺の相手をするには役者不足だ。」

 

 

タルタルシアンは、死と破壊に満ちた悪魔界の仄暗い法律にすら背いて悪魔界の最下層に落とされた悪魔であり、其の力を封じるために全身を鋼鉄の拘束具で縛られ、両腕には手枷と鉄球が嵌められているのだが、タルタルシアンの怪力の前では、本来は拘束者の動きを制限するための鉄球ですら腕の延長上の武器でしかなく、タルタルシアンは鎖付きの鉄球でバージルを攻撃する。

 

 

「ふん、温いな。」

 

 

だがバージルは其れを瞬間移動、『エアトリック』で回避してタルタルシアンの背後を取ると、不動兄妹作の『刀型デバイス』を抜刀して切り上げ、更には強烈な斬り下ろしでタルタルシアンを地面に叩きつける。

正に圧倒的な力の差であり、普通ならばここで撤退するのだろうが、タルタルシアンはパワーは最強であっても知能レベルが低いのでバージルとの力の差を理解する事が出来ず、結果としてバージルに戦いを挑んだのだが、なにも出来ずに敗北となってしまったのだった。

 

 

「木偶の棒如きが俺に勝てると思っていたか?……だとしたら、それはこの上ない滑稽な笑い話だな。」

 

 

タルタルシアンを滅したバージルは汗で垂れて来た前髪を掻き揚げてオールバックに直し、不敵な笑みを浮かべて崩れ去り消滅していくタルタルシアンを見送り、そして次元斬で地獄門を破壊するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

紺碧の塔に現れた悪魔界の巨大なムカデのギガピードにはなたねが対処していた。

ギガピードは全長10m以上の悪魔界で育った悪魔のムカデであり、その身からは数万ボルトの電撃を発しているので其れを狩るのは簡単な事ではないのだが、ギガピードと対峙したなたねは即刻其の攻略法を見つけていた。

 

 

「成程、其の電撃は堅い外骨格の周囲に魔力を超高速で回転させる事で発生させている訳ですか……摩擦によって生じる静電気をもっと派手にした、そんなところなのでしょうが、そうであるのならば其の摩擦をなくせば良いだけの事です。」

 

 

なたねは無数の火炎球『パイロシューター』をギガピードの周囲に配置すると、其れを直撃させずに電撃の周囲をゆっくりと回転させる。

其れを始めた直後はなにも変化はなかったが、数分が経つと徐々に、しかし目に見えて電撃の威力が落ちて来た――超高熱のパイロシューターが速度の異なる摩擦熱を発生させた事で、摩擦の差が生じてしまい電撃の強さが安定しなくなって来たのだ。

 

 

「悪魔界の存在と言えども所詮は蟲、知能は高くないようですね。」

 

 

電撃が弱くなったのを見たなたねは、新たにダガーナイフのような形のパイロシューター、『パイロシューター・ファングフォーム』を展開すると、其れをギガピードの外骨格の隙間に楔を打つかのように叩き込んでいく。

ギガピードの外骨格はレアメタルのミスリルのように堅いのだが、中身は柔らかいので外骨格の隙間を狙われると非常に脆いのだ。

更に多くの虫がそうであるように、ギガピードもまた超高熱や超低温には弱いので、弱点である外骨格の隙間に灼熱の刃を叩き込まれたらたまったモノではないだろう。

 

 

「さて、そろそろ終わりに……」

 

『『『『『グオォォォォォォォォォォォォ!!!』』』』』

F・G・D:ATK5000

 

 

此処でトドメと思ったところで現れたのは、ヴィヴィオのドラゴンであるファイブ・ゴッド・ドラゴンのバハムートだった。

 

 

「しようと思いましたが、貴方も主を捕らわれて怒っていると言う事ですか……ならば、その怒りを存分にぶつけて差し上げてはいかがでしょうか?」

 

『『『『『グゴォォォォ……ガアァァァァァァァァァ!!!』』』』』

 

 

バハムートの五つの頭、その全ての目に怒りの炎が宿っている事を見て取ったなたねは、此の場でのトドメをバハムートに譲り、バハムートは五つの頭から夫々異なる属性のブレスを放ってギガピートも地獄門も粉砕したのだった。

 

 

「ルガール小父様達ならば確実にレイジングハートを奪還してくれるでしょうが……教授とドクターとやらは姉さんとクローゼとヴィヴィオ、そしてリベールを些か過小評価していると言わざるを得ないかもしれません。

 姉さんとクローゼはこの世界をより良きものに変える存在であり、ヴィヴィオはその娘です……貴方達の下賤な目的の為に利用できる存在ではないのですよ――姉さんが王を務めるリベールもまたね。

 姉さんとクローゼが目を覚ました時が貴方達の終焉の始まりです……精々束の間の偽りの勝利に酔っていると良い。」

 

 

目的を果たしたなたねはバハムートと共にルーアンにあるDevil May Cryの事務所へと戻っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

紅蓮の塔ではダンテとヴォルベルグが対峙していたのだが、此れは今回の戦いで最も因縁の戦いと言えるモノだった。

ヴォルベルグは嘗ては異教の神だったのだが、何時しか邪神として恐れ、忌まわしい存在として扱われるようになった結果、悪魔となった存在であり、悪魔となった後はスパーダと戦い、そして敗北して悪魔界の奥底に封印された存在だったのだ。

其の封印はワイスマンとスカリエッティよって解かれ、そして復活した先で相対したのがスパーダの息子であるダンテだったとは、運命の悪戯も此処まで来ると見事と言うしかないだろう。

 

 

「親父の力をもってしても封印するのが精一杯だったってのは実際に戦ってみて良く分かった……だけどな、今の俺はもう親父は超えてるぜ?」

 

 

ダンテもヴォルベルグとの戦いは楽しんでいたのだが、此処でリベリオンを魔剣スパーダに変化させると、更に魔力を送り込んで魔剣スパーダをリベリオンと完全融合させて新たな魔剣を誕生させる。

其の魔剣の名は、『魔剣ダンテ』……其れはダンテがスパーダを超えた証でもあった。

スパーダの時のような刀身が伸びたりと言う理不尽な斬撃間合いはないが、魔剣ダンテは鎧や堅い殻を無効にする『ブレイク』の能力が備わっており、更にデビルトリガー発動時には攻撃力とリーチが四倍になるというチート級の効果が備わっているのだ。

 

其の魔剣の力と、歴戦のデビルハンターの力が融合すれば其れはもう最強無敵であり、ダンテはヴォルベルグのお供である二匹の白狼『フレキ』と『ゲリ』を魔剣ダンテで切り伏せると、其処からヴォルベルグに目にもとまらぬラッシュを繰り出し、其のラッシュの〆は超高速連続斬撃『ダンスマカブル』からのハンドガンの曲撃ち『ミリオンダラー』のコンボでヴォルベルグを叩きのめす。

 

 

『…………』

 

 

大ダメージを負ったヴォルベルグは形勢不利とみて其の場から離脱したのだが、その際に使い魔のフレキとゲリは其の場に残し、ダンテに託したのだった。

 

 

「大きなワンちゃんを二匹も飼う事になるとはな……ボースの市長さんにドッグフードを格安で卸してもらえないか要交渉だなこいつは。

 でもってあとはコイツをぶっ壊せば良いだけなんだが……お前さん達もご主人様が囚われちまったんだから、黙ってられないよな?」

 

 

『ガァァァァァァァ!!!』

真紅眼の鋼炎竜:ATK2800

 

 

『ギシャァァァァァ!!』

ブルーアイズ・タイラント・ドラゴン:ATK3400

 

 

そしてその場になのはのドラゴンである『ヴァリアス』と、クローゼのドラゴンである『アシェル』が現れ、必殺の火炎弾とブレス攻撃で地獄門を完全粉砕したのだった。

 

 

「地獄門も、最強クラスの光のドラゴンと闇のドラゴンの攻撃を喰らったら一溜りもないって事だな?……なのは嬢ちゃんとクローゼ嬢ちゃんは、マジでスゲェドラゴンを使役してんだな……」

 

 

こうして全ての地獄門が破壊された訳だが――

 

 

「何時の間にかリベールの近くまで来ていましたか……ですが、此処が貴方達の死に場所です。」

 

 

なたねはギガピード撃破後にサーチャーを飛ばして周囲の状況を探っていたのだが、其の中でワイスマンとスカリエッティの『神体』がリベールの直ぐ近くまでやって気いる事を掴んでいた。

其れは同時に、リベール最大の戦いのカウントダウンが始まったと言う事でもあったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter85『リベールと神体の激突!~王を目覚めさせろ~』

パチモンエクゾディアは除去魔法連発で滅殺ですねByなたね      パチモンエクゾディア……否定出来ねぇなこれはByネロ


四輪の塔付近に現れた地獄門は全て破壊し、其処から現れる悪魔をシャットダウンしただけでなく、ネロは新たな力を得ていたのだが、地獄門での戦闘後にサーチャーを飛ばしていたなたねは、ワイスマンとスカリエッティが作り出した『神体』がリベール近郊までやって来ている事を察知し、其れを王室親衛隊の隊長であるユリアに伝えていた。

 

 

「陛下と殿下を取り込んだ人形がリベールに……此れは最大の脅威であるのかもしれないが、事前に知らされていれば幾らでも対策は出来るか――良く伝えてくれたなたね殿。

 貴殿が事前に伝えてくれた事でリベールの防衛網を強化する事が出来そうだ。」

 

「いえ、私は己のすべき事をしたに過ぎませんユリア隊長。

 ですが、アレはリベールに……少なくとも都市部には絶対に入らせてはいけない存在です。本物のエクゾディアには遥かに劣るとは言え、アレは姉さんとクローゼ、そしてヴィヴィオの魔力を有している存在なのですから。

 一撃で都市一つを破壊する事くらいならば可能な筈です。」

 

「陛下と殿下の魔力を有している存在ならば確かに其れ位は可能だろうが……出来る事ならばリベールの都市部に到達する前に陛下に目覚めて頂きたいところだが……レイジングハート奪還に向かったルガール殿達はまだ戻って来ないか。」

 

 

本来のエクゾディアと比べれば神体の力は劣るが、其れでもなのはとクローゼとヴィヴィオの魔力をその身に宿しているのであれば、其の力は決して侮る事は出来ないモノと言えるだろう。

幸いにしてリベールの防衛網は、不動兄妹製の『量産型パテル=マテル』をはじめとして十二分に整っているので、神体の侵攻を食い止める事は出来るだろうが、其れとは別に神体内部に取り込まれているなのは、クローゼ、ヴィヴィオの奪還も行わねばならない。

其の為には、内部に取り込まれたなのはの意識を覚醒させるのが最も手っ取り早く、其のカギとなるのがなのはの相棒である『レイジングハート』なのだ。

なのはが神体に取り込まれると同時に、レイジングハートはワイスマンとスカリエッティによって悪魔界に転移させられており、其れを奪還するためにルガールと鬼の子供達が悪魔界に向かったのだが、そのルガール達は未だリベールには戻って来ていなかったのだ。

 

だが――

 

 

「ハッハッハ~~!レイジングハートを奪還して来たぞユリア殿~~!!」

 

「「「「「「「「ただいま~~。」」」」」」」」

 

 

其処に実にタイミングよくレイジングハート奪還組が戻って来た。

ルガールが鬼の子供達を乗せたタイヤ付きの貨物コンテナを『ゴッドプレス』で運んで来ると言う中々の力技での帰還だったが。

 

 

「ルガール殿、中々に突っ込みどころのある帰還だな?何処から持ってきたのだ其の貨物コンテナは……」

 

「うむ、紅蓮の塔から悪魔界に向かったのだが、ベガを倒してレイジングハートを奪還して戻って来たら何故か紺碧の塔に来てしまっていてね、その近くに此のコンテナがあったので有難く使わせてもらった次第だ。

 ルガール運送のゴッドプレス直行便はどんな運送よりも確実だよ。」

 

「目的地まで一直線で、進行方向にあるモノは魔獣だろうとなんだろうとぶっ飛ばして直進するなんて芸当、アンタか稼津斗さんにしか出来ないけどな。」

 

 

ルガールは相当な力技で王都まで戻って来たようだが、何はともあれレイジングハートを奪還出来たのであればなのはを覚醒させる事が出来るだろう。

だが、それと同時に神体の近くには一際大きな地獄門が出現し、其処から大量の人造悪魔が現れ、リベールへと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter85

『リベールと神体の激突!~王を目覚めさせろ~』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一際大きな地獄門から現れた人造悪魔はリベールに向かっていたのだが……

 

 

「神をも超える力、思い知れ。」

 

 

其の多くは地獄門の出現を察知したDevil May Cryの面々によって撃滅され、特にバージルの『次元斬・絶』は一瞬で三桁の人造悪魔を撃滅していたのだから凄まじい事この上ないだろう。

そしてそれだけではなく、ネロは新たに手に入れた力で人造悪魔を掴むと同時に強烈な電撃を喰らわせてブチ殺し、ダンテは何時もの調子で余裕綽々で人造悪魔を滅殺していた。

 

 

「大層な建造物だとは思うけどよ、目障りだぜ!」

 

 

人造悪魔を粗方片付けたところでネロは閻魔刀での居合を一閃し、そして納刀する――と同時に一際大きな地獄門は中腹から真っ二つに切り裂かれて崩壊し、人造悪魔のリベールへの流出も止まったのだった。

そして地獄門を破壊したネロは飛行魔法を使って、神体の周囲に浮遊している浮遊石に降り立っていた。

 

 

「如何だ、見晴らしが良くなっただろ?

 リベールの景観を破壊するようなモノを建てないで欲しいもんだぜ……建てるなら、せめて王様の許可を取ってからにしろよな。」

 

『小癪な……そんな理由で地獄門を破壊したと言うのかね?』

 

「んな訳あるかよ……テメェら如きに見下ろされるのは我慢出来なかっただけってな――おそらく、バージルやオッサンも異口同音に同じ事を言う筈だぜ。」

 

 

其処でネロは神体内部に居るワイスマンとスカリエッティを挑発するような事を言って、更にアームズエイドでサムズダウンして見せる。

其れと同時に騎士のような悪魔が現れてネロに斬りかかって来たが、ネロは其れを難なく躱すと、カウンターのバスターをブチかまして沈黙させた――其れでもワイスマンとスカリエッティは自分達の方が有利と思っているのか、『君では神体に触れる事も出来ん』と言って来たのだが、ネロは飛行魔法を使って飛ぶと、神体の周囲に現れた騎士型の悪魔をレッドクィーンと閻魔刀で撃滅しながら神体に近付き、遂には神体にレッドクィーンを突き刺して、その上に立って見せた。

 

 

「如何だい、触れてやったぜ?」

 

『ならば其処で暫しおとなしくしていたまえ!』

 

「だが断るぜ。」

 

 

其処に新たな騎士型の悪魔が現れたが、ネロはブルーローズのチャージショットで其れを粉砕した――のだが、其れでも神体は止まらなかったので、騎士型の悪魔はワイスマンとスカリエッティの一種の通信機の役目も担っているのだろう。

 

 

「こいつを幾ら倒しても無駄か……なら、やっぱりなのはを目覚めさせないとだな。」

 

 

ネロは閻魔刀を握り直すと、改めて神体と向き合うのだった。

そして、此の場所に居るのはネロだけではなく、なたねにダンテにバージル、王室親衛隊と王国軍情報部、ルガール、アーナス、悪魔将軍、ロレントからブライト三姉妹と京と京のクローン三人とBLAZE、ボースからアガットとアネラス、ルーアンからカルナ、ツァイスから不動三兄妹、同盟国のカルバートからジン、同じく同盟国のベルカからシグナムを隊長とする精鋭部隊が神体と対峙していた。

 

 

『此れは此れは相当な精鋭達が集まってくれたようだが、其れでもこの神体の前には君達と言えども塵芥に等しい……神に歯向かう愚かさをその身で味わいたまえ!』

 

「神だと?下らねぇな……!

 借り物の力で粋がってるテメェ等の其のちっぽけな本性、俺の灼熱の炎と比べてみな!!」

 

「言うだけ無駄ですよ草薙京。

 此の手の輩には口では通じません……身体に分らせるより他に手はありません。尤も、そちらの方が面倒な事が無くて助かるとも言えますが。」

 

「確かに、其れは言えてるかもな……燃やすぜ!!」

 

 

そして始まった凄まじい戦い。

神体は其の存在其の物が『地獄門』としての機能も兼ね備えているらしく、騎士型の人造悪魔だけでなく、悪魔界から天然の悪魔も次々と召喚しており、倒しても倒しても中々その数は減らず、普通ならばジリ貧になるのだが、此処に集まったメンバーに限ってはそうではなかった。

ルガール、アーナス、悪魔将軍と言った魔王は言わずもがなだが、其れ以外のメンバーも悪魔を掃滅しながら神体への攻撃を行っていたのだ。

 

 

「来い、ジャンク・ウォリアー!ターボ・ウォリアー!スターダスト・ドラゴン!」

 

ジャンク・ウォリアー:ATK2300

ターボ・ウォリアー:ATK2500

スターダスト・ドラゴン:ATK2500

 

 

「出番よ、セブンソード・ウォリアー!ライトニング・ウォリアー!プリンセス・ヴァルキリア!!」

 

セブンソード・ウォリアー:ATK2300

ライトニング・ウォリアー:ATK2400

プリンセス・ヴァルキリア:ATK2500

 

 

「暴れまくれ!銀河騎士!銀河眼の残光竜!銀河眼の光子竜!」

 

銀河騎士:ATK2800

銀河眼の残光竜:ATK3000

銀河眼の光子竜:ATK3000

 

 

不動三兄妹も夫々がエースクラスの精霊を召喚して悪魔を殲滅して神体に攻撃を加えているのだ……が、悪魔は殲滅しても攻撃を受けた神体は全くダメージを受けた様子はない。

京が無式を叩き込もうと、アインスがビックバンイレイザーを叩き込もうと、悪魔将軍が地獄のメリーゴーランドで斬りつけても、レーシャが10倍かめはめ波をブチかまそうともマッタクもって動じる事はなく、それどころか両手に黒い炎を集めてから其れを一気に放つ、『殲滅の業火・エクゾードフレイム』で攻撃して来たのだ。

其れは本来のエクゾードフレイムには遠く及ばないが、それでも直撃すればリベールの都市は壊滅状態になるだろう。

 

 

「「「くず鉄のかかし!!」」」

 

 

しかしそれも不動三兄妹が発動したカードの効果で止められてしまい、その攻撃の隙を突いてなたねがレイジングハートを持って神体に突撃して先端を突き刺す!

神体の外側は思った以上に硬く、レイジングハートで貫く事は出来ず、なたねも神体からの攻撃を躱すために其の場から離れてしまった。

 

 

『レイジングハートを奪還するとは予想外だったが、其れも無意味だ。

 今更この神体にレイジングハートを突き刺したところで大したダメージにはならないのだからね……無駄な足搔きはすべきではないと思うけれどね?』

 

「確かに、外側は相当に頑丈だ……其れこそ俺の右腕でも外側をぶっ壊す事は難しいかもだが、だけど中からならどうだろうな?」

 

 

だが其れでは終わらず、ネロがレイジングハートに向けてブルーローズを連射し、其の弾丸はレイジングハートの柄に次々と突き刺さり、そしてレイジングハートを神体の内部に押し込んだのだった。

神体内部に押し込まれたレイジングハートは、押し込まれた勢いのまま神体内部に突き刺さる。

 

 

『ぐあぁぁ……き、貴様、なにをした!?』

 

『此れは……まさか……!!』

 

 

その瞬間に神体内部に居るワイスマンとスカリエッティから苦悶の声が漏れる……より神体を思い通りに動かすために神体と一体化しているが故に、神体が受けたダメージのフィードバックを受けたのだろう。

だが、其れは大した問題ではなかった。少なくともリベール組にとっては。

 

 

「頼りになる仲間達と戦うのも悪くはありませんが、主役が不在では楽しみは半減してしまいます。

 何時まで寝ている心算ですか?ソロソロ目を覚まして一緒に遊びましょう姉さん……高町なのは!」

 

 

神体の外からなたねがそう言えば、神体内部に突き刺さったレイジングハートも黙ってはいない。

 

 

『It's time to wake up Master(そろそろ起きる時ですよマスター。)』

 

 

ルビー色のコアを点滅させてそう言うと、レイジングハートが突き刺さった場所から腕が付きだしてレイジングハートを掴むと、其れを真っ直ぐに下ろしてレイジングハートが突き刺さった部分を切り裂き……そして切り裂かれた場所からはなのはが現れた。

 

 

「はぁ、はぁ……此れはまたなんとも刺激的な目覚ましだが、おかげで完全に目が覚めた――感謝するぞなたね……そしてレイジングハート、よくぞ戻って来てくれた。

 お前が居ればこそ、私は其の力を100%発揮出来るのだからな。」

 

『It's an honor... For now, let's kill the professor and the doctor.(光栄です……取り敢えず、教授とドクターはぶち殺しましょう。)』

 

「其れは勿論だが、其れよりも先に、クローゼを助け出さねばだ。」

 

 

復活したなのははレイジングハートを一閃してすぐ近くにあった塊を一閃すると、その中からはクローゼが現れ、崩れ落ちようとしていたクローゼをなのははギリギリのところでキャッチしたのだった。

なのはが目を覚まし、クローゼも解放されたのだが、なのはもクローゼもまだ神体の内部に居る状態なので、神体の力は衰えてはいない――だが、なのはが目を覚まし、クローゼも解放されたと言う事は、神体は此れから弱体化して行くと言う事でもあったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter86『王と王妃の覚醒~神体内部での戦い~』

久しぶりに私達だが、大分留守にして気がするが……Byなのは      およそ一ヶ月ぶりでしょうか?Byクローゼ


神体の内部にレイジングハートが打ち込まれ、其れによって神体に取り込まれなのは目を覚まし、目を覚ましたなのははレイジングハートを一閃して同じく神体に取り込まれていたクローゼを助け出したのだが、クローゼは昏睡寸前まで消耗していた。

 

 

「此の木偶人形に魔力を強制的に吸い上げれていたのであれば致し方ないが、私はお前を死なせたくはないぞクローゼ。」

 

 

そんなクローゼを見たなのはは唇を少し嚙み切ると其処から溢れた血を口内に貯めるとクローゼに口付けてその血を飲ませる――魔族としても神族としても最高の血筋を受け継いでいるなのはに流れる血に含まれている魔力は大きいので、その血を飲むと言うのは瞬間的に魔力を回復する事が出来ると言う事でもあるのだ。

 

 

「う……なのはさん?此処は?」

 

「あの巨大な木偶人形の内部だ。

 私達は取り込まれてしまったが、だからと言って取り込まれて終わりではないだろう?……私とお前が目を覚ました所で、第二ラウンドの始まりと言うところだクローゼ。

 此処にはヴィヴィオは居ないみたいだから、此処から脱出するのはヴィヴィオを取り戻してからになるがな。」

 

「なのはさん、ヴィヴィオを取り戻すのは当然ですが、此処から脱出するのは、教授とドクターを倒してからですよ……外道には然るべき鉄槌を下すべきでしょうなのはさん?」

 

「クローゼ……確かに、お前の言う通りだな。」

 

 

クローゼも回復したところで神体の内部に居るであろうヴィヴィオを助け出し、更にワイスマンとスカリエッティも倒す事でなのはとクローゼの意見は一致したのだが、其れでも最優先にすべきは娘の奪還なので先ずはヴィヴィオを探す事に。

 

そしてなのはとクローゼが神体内部で目を覚ましたころ、外では新たにヴァリアス、アシェル、バハムートが戦線に加わっていたのだが、ヴァリアスとアシェルは其の外見が大きく変わっていた。

神体内部でなのはとクローゼの魔力が混ざり合い、更にクローゼはなのはから直接魔力入りの血を飲まされた事で『闇属性』が入った事で、夫々のドラゴン達が進化したのだ。

 

 

『グゴォォォォォォォォォ!!』

流星竜メテオ・ブラック・ドラゴン:ATK3500

 

 

『ギョガァァァァァァァ!!』

ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン:ATK4000

 

 

ヴァリアスは漆黒の鋼鉄のような身体から闇色の身体に赤い筋が入った様な身体となり、全身に灼熱の炎のオーラを纏い、アシェルは新たに闇の力を得て其の攻撃力を更に高め、全身を希少鉱石であるミスリルで固めたかのような外見となっていた。

なのはとクローゼを取り込む事で完成した神体だが、其れはなのはとクローゼが目を覚ました際は夫々を強化し、更には夫々のドラゴンを強化する結果となったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter86

『王と王妃の覚醒~神体内部での戦い~』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を覚ましたなのはとクローゼは神体内部を移動しながらヴィヴィオを探していたのだが、神体は現在進行形でリベールの精鋭達と交戦中であり、激しく動くので内部は大きく揺れていた。

 

 

「オイ、揺らすななたね!」

 

『そうは言われましても、自称神様の相手は中々に大変なんですよ姉さん。』

 

「……其れもそうか。」

 

 

其れに対してなのはは『揺らすな』と言うも、なたねに『自称神様の相手は楽ではない』と言われては、多少揺れるのは仕方ないと考えるしかないだろう。

其れは其れとして、神体の内部はなんとも不気味なモノとなっており、まるで悪魔界のようだったのだが、この神体は魔力で作った外装に、無数の悪魔を詰め込んで作られたモノであり、詰め込められた悪魔は神体内部で混ざり合って疑似的な悪魔界を形成していたのだ。

普通の人間ならばその瘴気であっという間に死んでいるだろうが、神魔であるなのはと、先祖返りで神族の血に覚醒し、更には闇属性も宿したクローゼには瘴気は何の問題にもならず、なのはとクローゼは神体内部を進んで行き、そして暫く進むと開けた空間に出た。

 

その空間は幾つかの段差で構成されており、先ず訪れた一段目には幾つかのマス目が存在し、そのマス目のスタート地点にはなのはを模した等身大の人形が存在していた。

また、マス目の色は『白』、『青』、『黄色』、『赤』、『紫』と色分けされ、中央では巨大なダイスが其の場で回転していた。

 

 

「此れは……?」

 

「ダイスゲーム、だろうな。

 ご丁寧にルールも記載されているが……『望む道は上を見た時を狙え』か――夫々のマスの説明もあるな?『白は平穏』、『青は祝福』、『黄色は道の短縮』、『赤と紫は災厄』か……うん、大体のルールは分かった。

 望む道は上を見た時に狙えと言うのは、出したいダイスの目が上を向いたときにダイスを攻撃すれば其の目が出ると言う事だろう。

 そしてマスの説明は、青いマスは回復、黄色は別の黄色のマスにワープ、赤と紫は敵が出現と言うところか……ならばまずは回復をしたいので、三の目だな。」

 

 

説明を読んだなのはは直ぐにルールを理解し、先ずは三の目を出して自身を模した駒を青いマスに進めると、大量のグリーンオーブとホワイトオーブが降り注いでなのはとクローゼの体力と魔力を完全回復してくれた。

続いて意味ありげな黄色のマスの前にある門に最短で行くために、一マス先の黄色のマスにコマを進めるためにダイスの目の一が上に来たところでレイジングハートで殴りつけて一の目を出すと、駒は黄色マスに移動し、其処から門前の黄色マスにワープし、そのまま駒は門に吸い込まれたのだが、その瞬間に周囲の景色が一変した。

悪魔界の様だった神体の内部から、闘技場を思わせる景色となり、其処には騎士型の人造悪魔が無数に存在していた。

 

 

「ダイスゲームをクリアし、そしてクリア後に敵を倒す事で次の階層に進めると言う事か……そうであるのならば逆にやりやすい――現れた敵を全て倒せば最終的には先に進む事が出来るのだからな。」

 

「ですが、この程度の戦力で私となのはさんを止める事が出来ると思ったのであったら、其れは些か私となのはさんを侮っていたと言わざるを得ませんね。」

 

 

騎士型の人造悪魔はワイスマンとスカリエッティが作り出した人造悪魔の中では最高傑作であり、其の力は悪魔界に存在している中級~上級の悪魔に匹敵しているのだが、なのはとクローゼにとっては大した相手ではなく、なのはの直射魔法砲撃とクローゼが神体に取り込まれた事で新たに会得した全体攻撃魔法『アルテマ』で纏めて撃滅!

そして第二階層へとやって来たのだが、此処でもなのはがダイスを自在に操って回復した後にショートカットを使って駒を門に送り、今度はマルガ鉱山付近を模した荒野で、『炎獄の魔王』と恐れられている『ベリアル』との戦闘になった。

とは言え、此のベリアルは神体内部に再現された存在であり、本物と比べると可成り力が劣っているのでなのはとクローゼの敵ではなく、クローゼの水属性の最上級アーツで炎の鎧を剝がされたところになのはがディバインバスターをブチかましてターンエンド――と同時に巨大なグリーンオーブとホワイトオーブが現れたので、其れで体力と魔力を回復して第三階層へと向かい、体力と魔力は充分だったので、五の目を出して駒を黄色マスに進めてワープさせると其処から一マスだけ進めて門に到達させると、今度は周囲を森に囲まれた平原に出され、其処に現れたのは『森の女王』たる悪魔の『エキドナ』だった。

エキドナはキメラシードと呼ばれる寄生型の悪魔を生み出しながらも自身を竜の姿に変えて攻撃してくる難敵だが、エキドナ自身は『植物の悪魔』であるので炎にはめっぽう弱く、クローゼが放った最上級の炎属性のアーツで焼かれた後に、なのはが周囲に展開した『アクセルシューター・ファランクスシフト』によって全身を貫かれてハチの巣になって消滅したのだった。

続く第四階層は最初の黄色マスがスタートから七マス目にある上に、その間の六マスは全て赤か紫のマスだったのだが、なのはは五番目の赤いマスに駒を進めると、現れたのは黒い霧上の瘴気で身体を包んだ『メフィスト』と其の上位種である『ファウスト』と言う悪魔だった。

瘴気に包まれている間はあらゆる攻撃を受け付けないが、その瘴気は攻撃する事で剥がす事が可能で、メフィストとファウストが現れた瞬間にクローゼが指を鳴らすと、空間の上部から無数の魔力の剣が降り注いでその瘴気を強引に引き剥がした――『シルバーソーン』と言うアーツをクローゼがアレンジしたオリジナルアーツだが、その威力はオリジナルのシルバーソーンを遥かに上回っていた。

瘴気を剥がされたメフィストとファウストは悪魔界でも力の弱い蟲になり果てるため、瘴気が回復するまで逃げ回るだけの存在となるのだが、其れはなのはもクローゼも許さず、なのははアクセルシューターの鬼弾幕、クローゼはこれまた神体に取り込まれた事で会得した新たな氷属性魔法『ダイヤモンドダスト』を使ってメフィストとファウストを滅殺!

其れから駒を一マスだけ進めて黄色マスに到達させると駒は門へとワープし、今度はゼニス王立学園が舞台となり、現れたのは巨大なカエルのような悪魔であるバエルかダゴン……身体の色的にはバエルだろう。

 

 

「カエルか……お前と出会う前には生きるために食った事もあるが、こうもデカいと流石にアレだな?」

 

「食べた事あるんですかなのはさん……因みにどんな味だったかうかがっても?」

 

「見た目からは想像出来ないかもしれないが、食感と味だけならば鶏肉だ。調理して出されたら言われないと分からんぞアレは……尤も、コイツを食う気にはならないがな!」

 

「其れは同感ですね。」

 

 

外見があまりにもアレなので少しばかり引いたが、クローゼがバエルの弱点である炎属性のアーツを放って怯ませると、更に其処に炎属性の禁術魔法と言われている『七星魔炎葬(ナパーム・デス)』を叩き込んで燃やす――なのはは兎も角として、クローゼは神体に取り込まれた結果、ヴィヴィオの魔力を受け、更になのはからは直接その魔力を受けた事で超強化されているようである。

 

 

「此れで終わりだ。」

 

 

トドメはなのはがレイジングハートビットを展開してのフルバースト!

これによりバエルは粉々になり、やって来たのは最上層である第五層。

此処のダイスゲームは青マスと黄色マスのみで構成されており、逆に言えばこの第五層の門の先に居るのは此れまでとは比べ物にならない強敵と言う事になるのだろうが、なのはは先ず回復マスに駒を進めて体力と魔力を充分な状態にすると、其処から黄色マスに駒を進めて門までワープさせ、今度は景色がグランセル城の空中庭園に変わる。

だが其処に敵の姿はない。

なのはもクローゼも敵の姿を探すが、どこにも見当たらなかった――だがしかし、次の瞬間に庭園に影が射した。

そしてその陰の正体はグランセル城の一番高い部分に現れた黒騎士『ネロ・アンジェロ』であり、ネロ・アンジェロは空中庭園に降りて来ると、巨大な剣でなのはとクローゼに斬りかかって来た。

ネロ・アンジェロは魔帝の手駒と化していた頃のバージルなのだが、その剣技は『伝説の魔剣士』であるスパーダの剣技を自分流に磨いて昇華させたモノなので非常に強力であり、ダンテであっても一筋縄では行かない相手なのだが、其れはあくまでもネロ・アンジェロが本物であった場合ならばだ。

決して弱い相手ではないが、『再現された』程度では本物には遠く及ばず、なのはとクローゼの付かず離れずの攻撃には其の剣技も真価を発揮出来ず、遂にはなのはのバインドによって動きを封じられてしまった。

 

 

「刀奈さんの氷の波動拳と、ヴィシュヌさんの炎の波動拳がぶつかった時に凄まじい対消滅反応を起こしたのを見て、其れをアーツで再現する事が出来ないかと思っていたのですが、神体に取り込まれて魔力が大きくなった事で其れがやっと出来るようになりました。

 右手に絶対零度の魔力を、左手にマグマの魔力を……其れを合成!

 遥か昔に此の合成魔法を編み出した大魔導士が存在していたと言う事は本で読んだ事があります……そしてその大魔導士は、その合成魔法をこう名付けたそうです――究極の対消滅魔法『メドローア』と!」

 

 

其処にクローゼが同じ威力で炎属性と氷属性の魔力を合成して生み出された対消滅の魔力を放ってネロ・アンジェロを完全に消し去る――歴史にその名を残す大魔導士が編み出した究極魔法を会得してしまったクローゼは凄まじいと言えるのだが、此れもまた神体に取り込まれたから出来た事だ。

ワイスマンとスカリエッティは己の目的を達成するためになのはとクローゼを神体に取り込んだのだが、その二人が目を覚ました際には強烈な強化をしてしまうアシストをしてしまったようである。

 

 

「氷と炎の対消滅でこの威力とは……光と闇の対消滅ならば、果たしてどれほどの破壊力が生まれるのだろうな?」

 

「その答え、ある意味ではなのはさんのスターライト・ブレイカーではないのでしょうか?」

 

「魔族の父と神族の母から生まれた私は存在そのものが対消滅の力を宿していると言う事か……私となたねは存在自体が奇跡なのかもしれないな。」

 

「そうであるのかもしれません。其れは兎も角、此れでダイスゲームは全てクリアした訳ですが、次は何処に行くのでしょう?」

 

「知らん。

 だが、どこに行ったとて私達のやる事は変わらないだろうクローゼ?ヴィヴィオを取り戻して外道達を討つ……其れだけだ。」

 

「なのはさん……そうですね。」

 

 

神体内部に戻ってきたなのはとクローゼは、最終層の階段を上ると門に張られていた幕を切り裂いてその先に進み――

 

 

「「ヴィヴィオ……!!」」

 

 

進んだ先の空間は、悪魔界其の物の景色だったが、其処にはヴィヴィオが『生体培養ポッド』のような器官に囚われて神体の一部となって存在してたのであった――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter87『最終ダンジョンでの戦い~目覚める聖王~』

外道共、覚悟は良いか?ハイクを詠め……!Byなのは      外道は容赦なく滅殺、抹殺、瞬獄殺ですね……!Byクローゼ     なんですか、その謎の『殺』の三段活用は?Byなたね


なのはとクローゼが目覚め、神体の内部を進み、ヴィヴィオが居る場所まで到達したころ、神体は変化が起こっていた。

『黒いエクゾディア』だった見た目は、無機質な白い外見――なのはとクローゼが取り込まれる前の姿に戻っていたのだ……なのはとクローゼが覚醒した事で魔力を吸い上げる事が出来なくなり、覚醒前に吸い上げた魔力のストックも無くなった事で神体は大きく弱体化したのだった。

其れでもその巨体は存在其の物が凶器であるのだが、其れはあくまでも相手が並であればの話だ。

 

 

「姿が変わりましたか……そして、力も弱くなったようですね?

 まぁ、クローゼの最強精霊であるエクゾディアを模す事自体がそもそもにして烏滸がましい事この上ない訳ですが……此のまま外と中から破壊しましょうそうしましょう。」

 

「徹底的にぶっ壊すってか?その提案には乗らせて貰うぜなたね!」

 

「貴方ならそう言ってくれると思っていましたよネロ。

 時に大丈夫なんですか其の右腕?雷のエネルギーを纏っているのは良いのですが、精密機械に過度な電流は致命傷ではないかと思うのですが?」

 

「普通はそうなんだろうけど、遊星と遊里が作ってくれた腕はその限りじゃねぇんだ此れが。

 サンダーボルトのカードが組み込まれてたから、耐電性は相当に高く作ってあるんだろうよ……まぁ、そのおかげでグリフィンから得た力も120%使う事が出来る訳だが、ぶっちゃけ前の腕よりも調子いいぜ。」

 

 

巨体であると言う事は其れだけ頑丈であると同時にタダの拳打や蹴りでも全てが超必殺技になるのだが、逆に大きい事は其れだけ被弾面積が大きいと言う事であり、相手が小さい場合には動き回られると大幅に不利になるモノだ。

ロレントの精鋭達と、ベルカからの援軍は神体に攻撃を加えて其の侵攻を完全に喰い止めていた――が、侵攻を喰い止める事は出来ても決定的なダメージを与えるには至っていなかった。

ドレだけ攻撃しても神体がダメージを負った様子はマッタクなかったのだ。

 

 

「ドンだけ頑丈なのよコイツ……でも絶対にぶっ壊す!喰らえ、爆裂金剛撃!!」

 

 

そんな中でエステルが神体のクリスタル状の部分を力任せにぶっ叩き、其のクリスタル状の部分には罅が入ったのだが、其処に罅が入った其の瞬間に神体がグラついた。

実はこのクリスタル状の部分は神体のエネルギーを増幅している部分であると同時に、其処を破壊されるとエネルギーの増幅が出来なくなってしまうと言う弱点でもあった――エクゾディアの姿だった時には隠されていた弱点がエクゾディアでなくなった事であらわになり、偶然ではあるがエステルは弱点を突いたのだった。

 

 

「弱点は其処か……攻撃する場所が分かれば、此れほど簡単な事はない……一気に焼き尽くしてやる!喰らえ……炎殺黒龍波!!」

 

「見せてやるぜ草薙流の真髄!おぉぉ……燃え尽きろぉぉぉぉぉ!!」

 

 

そして弱点が分かってしまえば其処を集中攻撃するだけであり、ロレント防衛部隊は神体へのダメージも与える事が出来るようになったのだった――とは言ってもクリスタル状の部分は神体の身体に相当数存在しているので全て破壊するには時間がかかるかもしれないが。

其れでも、弱点が分かった事はこの戦いに於いて大きな事だっただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter87

『最終ダンジョンでの戦い~目覚める聖王~』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方で神体の内部。

なのはとクローゼはヴィヴィオが囚われている場所までやって来ていた――ヴィヴィオは『有機培養ポッド』のような器官に囚われており、其れを破壊すればヴィヴィオを奪還する事が出来るのだが……

 

 

「そう簡単にヴィヴィオを助け出させてはくれんか……まぁ、予想はしてたがな。」

 

「今また私達の前に立ち塞がりますか、ゲオグル・ワイスマン、ジェイル・スカリエッティ!!」

 

 

其処には帰天したワイスマンとスカリエッティがやって来ていた。

フィリップとは違い、帰天しても容姿が変わっていないのは其れだけより高いレベルでの帰天を行った証であり、その証拠にワイスマンとスカリエッティは上級悪魔に匹敵する闇の瘴気を纏っていたのだ。

 

 

「よもや君達が目を覚ますとは……少々君達を見くびっていたようだ――だが、そうであるのならばまた君達の意識を奪って神体の一部にすれば良いだけの事だ。」

 

「更にこの神体内部では私達の力は十倍となる……君達でも勝つのは難しいのではないかな?」

 

 

ワイスマンもスカリエッティも己の力に絶対の自信があるのか、なのはとクローゼを煽ってくるが、なのはもクローゼも其の挑発に乗る事はなかった。

 

 

「其の言葉そっくりそのまま返すぞ。

 此の悪趣味な木偶人形に取り込まれた事で私もクローゼも取り込まれる前よりも力を増す事が出来た――間抜けな事に、お前達は最強の神体を作りながらも私達を強化してしまったのさ。」

 

「私達に勝つ事は出来ませんよ……貴方達には地獄への片道切符をプレゼントします。」

 

 

なのはもクローゼも神体に取り込まれた事で逆に覚醒後は其の力を増しており、特にクローゼは全属性のアーツを詠唱なしで使えるようになっているだけでなく遥か昔の大魔導士が編み出した最強の『対消滅魔法』まで使えるようになっているので、帰天したワイスマンもスカリエッティも脅威の存在ではないのである。

 

 

「さて、最終決戦と行こうか!」

 

「小癪な……捻り潰してやろう!!」

 

 

其処から戦闘開始だ。

ワイスマンとスカリエッティは宙に浮いており、なのはも飛行魔法で其れに付いて行ったのだが、クローゼも取り込まれた事による強化で飛行魔法を会得していたので飛行魔法で空中戦に参加していた。

 

ワイスマンとスカリエッティは小型のビットを展開し、そして自分の周囲にバリアを張って攻撃をシャットアウトしていたのだが、其のバリアはビットを沈黙させれば直接攻撃で破壊する事が可能だったので、先ずはなのはが逃げ場がない位のアクセルシューターを展開してからの一斉掃射でビットを沈黙させ、追撃にクローゼが時属性と幻属性と空属性を合わせたオリジナルアーツ『ブラックホールクラスター』でバリアを破壊する。

 

そしてバリアが破壊されてしまえば攻撃し放題だ。

 

 

「ハイペリオン……スマッシャー!!」

 

「火属性と地属性を融合……スーパーノヴァ!!」

 

 

バリアがなくなったワイスマンとスカリエッティに容赦ない攻撃を加えて果敢に攻め立て一気に戦局を自分達の方に持ってくる。

当然ワイスマンとスカリエッティもただやられはしないで再びバリアを張って仕切り直しを図ったのだが、既にバリアの攻略法が割れている以上は其のバリアは意味を成さず、あっと言う間に破壊され――そして今度はなのはのバインドによって拘束されてしまったのだった。

そして拘束が済むと、なのはは魔力を収束し、クローゼは右手に炎属性の最上級アーツを、左手に氷属性の最上級アーツを宿して其れを合成する。

なのはが独学で編み出した不敗の奥義『スターライトブレイカー』と、クローゼが過去に読んだ文献から再現した対消滅魔法『メドローア』――当たれば一撃必殺の究極魔法攻撃であり、特にメドローアは当たった部分は再生不可能なまでに『消滅』してしまうのだから真面に喰らう事は即ち『死』を意味している。

 

だが、そんな絶体絶命の状況であってもワイスマンとスカリエッティは焦りはなかった。

 

 

「此れは此れは凄まじいモノだね?其れを喰らったら帰天しているとは言っても生存は絶望的だろうが……果たしてそれを放つ事が出来るかな?」

 

「私とクローゼが今更貴様らのような下衆を葬るのを躊躇うとでも思って居るのか?」

 

「そんな事は思っていないが、此れを見ても同じ事が言えるかな?」

 

「何を……ヴィヴィオ!?」

 

「貴様等……!」

 

 

そう、其れはヴィヴィオはまだワイスマンとスカリエッティの手の内にあったからだ。

ヴィヴィオが入っている『有機培養ポッド』のような場所に向かって魔力の剣が無数にセットされていたのだ――ワイスマンかスカリエッティの何方かが攻撃指示を出せば無数の剣はヴィヴィオを貫くだろう。

 

 

「攻撃を中断して抵抗を止めたまえ。彼女がこちら側にある以上、君達に最初から勝機などなかったのだよ……さぁ、もう一度神体の一部となってもらうとしようか?尤も、今度は目を覚ます事が無いように、少しばかり痛めつけてあげた方が良いだろうがね。」

 

「ククク……少しでも抵抗すれば彼女を殺す。なに、すぐに終わるさ。」

 

「「…………」」

 

 

ヴィヴィオを人質に取られてしまったらなのはもクローゼも攻撃を中断する以外の選択肢はなく、なのはは魔力の集束を止め、クローゼも合成した魔力を放たずに霧散させた。

そして次の瞬間、なのはとクローゼにはワイスマンとスカリエッティが放った『悪魔の技』が襲い掛かった。

火球『メテオ』、雷撃『ライトニングボルト』、氷弾『フリッカー』、嵐撃『テンペスト』……全てが上級悪魔が使う攻撃であり、その攻撃は容赦なくなのはとクローゼの身体にダメージを与えて行く。

なのはが自らの魔力で構成している防護服の防御力は相当に高く、クローゼもなのはからプレゼントされたバリアアイテムがあるので相当に強い攻撃でも耐える事は出来るのだが、其れでも連続で強力な攻撃を矢継ぎ早に喰らってはその限りではない。

 

 

「ガハッ……て、抵抗出来ない相手を一方的にいたぶると言うのは大層気分が良かろうな……下衆が好みそうな事だ。」

 

「女性にこのような事が平気で出来るとは……絶対にもてませんね彼等は。」

 

 

だが、なのはとクローゼはダメージを受けながらも屈する事はなく、ワイスマンとスカリエッティを挑発するように言うと不敵な笑みを浮かべて見せる――リベールの王として、そしてその王妃として、何よりもヴィヴィオの母親として絶対に屈しないとの不屈の意志の強さがその瞳には宿っていた。

 

 

「未だ吠えるか……」

 

「気に入らんな流石に。」

 

 

しかし、ワイスマンとスカリエッティにとってそれはとても面白くない事だった。

泣き叫び、命乞いをしてくれれば満足できたのだろうが、なのはとクローゼは屈せず、その瞳からは闘気も消えていない……少し痛めつけてやれば屈するだろうとの考えは見事なまでに裏切られたのだ。

王と王妃と言う立場であっても、なのはとクローゼは自ら戦場に出て戦う者であり『温室育ちの女性』ではなく、『戦う爪牙を備えた雌獅子』だったのである。

其れでもなのはとクローゼを屈服させるべく、ワイスマンとスカリエッティは更なる攻撃を加えて行く……その攻撃を喰らいながらもなのはとクローゼは悲鳴一つ上げては居なかったのだが。

 

そして、その不屈の闘志と闘気が奇跡を起こした。

 

 

「……此処は?……なのはママ?クローゼママ?」

 

 

『有機培養ポッド』のような器官に囚われていたヴィヴィオが目を覚ましたのだ。

ヴィヴィオは今自分がどんな状況にあるのかは分からなかったが、目を覚ましてすぐに目に飛び込んで来た光景に目を見開いた――目の前でなのはとクローゼが痛めつけられていたのだ。

其れを見ると同時にヴィヴィオの中で怒りのゲージが限界突破の『怒り爆発』となった。

 

 

「なのはママとクローゼママを……ママ達をイジメるなーーーー!!」

 

 

 

――バッガァァァァァァァァァァン!!

 

 

 

爆発した怒りは闘気となって弾けて『有機培養ポッド』だけでなく、ヴィヴィオに向けられていた魔力の剣をも粉砕し、ヴィヴィオは虹色の魔力のオーラを纏って戦場に降り立ったのだった。

 

 

「此の変態博士、よくもママ達をイジメたな……絶対に許さない……もう謝っても絶対に許さないからなーーーー!!」

 

 

その魔力と闘気によってハニーブロンドの髪は逆立ち、サイドテールにした髪も刺々しくなる――神体の最終決戦の場に、古代ベルカの『聖王』が降臨し、ワイスマンとスカリエッティに精神年齢が幼いヴィヴィオだからこそ持つ事が出来た純粋な殺意を向けたのであった。

 

 

「此の土壇場で目覚めたか……流石は私達の娘と言ったところかな?」

 

「根性ならば私やなのはさんよりも上かもしれませんね。」

 

「其れは否定出来んな。」

 

 

そんなヴィヴィオを見て、なのはとクローゼは傷付いた身体を持ち上げてワイスマンとスカリエッティに向き合い直す――ヴィヴィオが目を覚ました以上は人質では無くなったのでもう大人しくしている理由は何処にもないのだ。

ヴィヴィオが目を覚ました事で、神体内部での最終決戦の第2ラウンドのゴングが打ち鳴らされたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter88『外道達との決着~手加減無用全力全壊~』

エクゾディアパーツ、強欲な壺、天使の施しをそれぞれ3つ積みしたデッキは極悪だと思うByなのは      其れは間違いなく極悪外道デッキですねByクローゼ


なのはとクローゼに続いてヴィヴィオも目を覚ましたのが、其れはワイスマンとスカリエッティにとってはなのはとクローゼが目を覚ます以上に予想外の事であった――だがしかしそれは、なのはとクローゼを吸収前に甚振っていたからこその事だった。

少しばかり覚醒したヴィヴィオは、なのはとクローゼが痛め付けられている様を見て一気に覚醒したのだから。

 

 

「よくも……よくもなのはママとクローゼママをイジメたな……私は……私は怒ったぞワイスマン、スカリエッティーー!!」

 

 

怒りによって覚醒したヴィヴィオの闘気は神体内部の床にクレーターを作り、更にそのクレーターを中心に放射状の罅割れを入れる……ハニーブロンドの髪は逆立ち、サイドテールに纏めた髪も刺々しくなり、飽和状態なった闘気と魔力がバチバチと稲妻のようなオーラを形成していた。

 

 

「馬鹿な……まさか目を覚ますとは……!」

 

「しかもこの闘気……デュナン公は彼女を作る際に聖王の遺伝子だけでなく色々混ぜたのは知っていたが……此れは、今はもう存在しない『戦闘民族』の遺伝子をも組み込んだか?

 もしもそうだとしたら、今の彼女は怒りによって目覚めた伝説の戦士となっている可能性があるか……!!」

 

 

更にヴィヴィオは紅と翠のオッドアイが両方とも翡翠色となっていたのだった――逆立つ金髪と翡翠色の双眸は今はもう滅びてしまった『戦闘民族』と呼ばれていた種族の伝説に語り継がれていた『千年に一度生まれる伝説の超戦士』の特徴だったのだ。

 

 

「大人しく私とクローゼを神体に取り込んでいれば良かったものの、己のちっぽけなプライドを満足させる為に私とクローゼを甚振った事が仇になったなワイスマン、スカリエッティ?

 数の上では此方が有利な上に、お前達の相手は不和と高町の血を受け継ぐ最強の神魔と先祖返りによって親族の血に覚醒したクローゼ、そして伝説の超戦士の力を得た聖王が相手だからな……地獄に堕ちる覚悟は出来たか?」

 

「地獄の閻魔大王に頼んで貴方達は永遠に輪廻の輪から外される地獄に堕ちるように頼んでおきましょうか……精々、この世にお別れをする際の言葉を考えておいて下さい。

 貴方達の存在を、この世には欠片も残す心算はありませんので。」

 

 

そしてそれだけでなく、ヴィヴィオが覚醒したと言う事は、なのはとクローゼが大人しくワイスマンとスカリエッティの攻撃を受ける必要はなくなったと言う事でもあり、最強の神魔にしてリベールの王であるなのはと、先祖返りで神族の力が覚醒したリベール王妃のクローゼがヴィヴィオの隣に立ち其の魔力を開放する――闇色を帯びた桜色のなのはの魔力、銀色を帯びた蒼色のクローゼの魔力は、虹色のヴィヴィオの魔力と混じって激しいスパークを引き起こし、『暴力的』とも言える魔力の嵐を巻き起こす。

 

 

「ここからが第二幕……いや、終幕だな。

 色々と謀略を巡らせてみてくれたみたいだが、如何なる謀略も圧倒的な力の前には無力である事を知れ……貴様等の野望、今此処で潰える時が来たようだな?」

 

「なのはさんが新たな王となったリベールに手を出したのが運の尽きでしたね。」

 

 

なのははレイジングハートを、クローゼはレイピアの切っ先を交差させるようにしてワイスマンとスカリエッティに向け、そしてなのはがレイジングハートでクローゼのレイピアの切っ先を軽く叩いたのを合図になのは達はワイスマンとスカリエッティに向かって行った。

神体によるリベール侵攻の最終章の幕が上がり、最強の力が神体内部で炸裂する事になったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 Chapter88

『外道達との決着~手加減無用全力全壊~』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神体内部の最終決戦は怒りによって覚醒したヴィヴィオが目にも止まらない超高速の近接格闘でワイスマンとスカリエッティのバリアを破壊すると、ワイスマンにボディブロー→アッパーカット→肘落としのコンボを叩き込んで強制的にダウンさせると、其処に追撃の拳を叩き込んだ後に片手絞首吊りにすると手元で魔力を爆発させて大ダメージを与え、スカリエッティには一足飛びからの横蹴りを叩き込むと、其の攻撃を受けて前のめりになったスカリエッティの首をホールドすると、其処からぶっこ抜いてスカリエッティを逆さまに肩に担ぐと、両足を両手でホールドし、其のままジャンプする。

 

 

「キン肉バスター!」

 

 

其れはKOFの個人戦でレーシャが使った『キン肉バスター』なのだが、この技は一見すると脱出不可能に見えるが、首のフックに甘い点があり、首を抜く事が出来れば簡単に返す事が出来るのだが、其れはあくまでも一対一の勝負であればの話だ。

 

 

「更に此処で追加の重量を加えてみる。」

 

「私もなのはさんも決して重い方ではありませんが、其れでも二人の体重を合わせれば100kgを越えます……それだけの重量が加われば流石に返す事は出来ませんよね?」

 

 

キン肉バスターに捕らえられたスカリエッティの上になのはとクローゼが乗っかった事で首を抜いて技から逃れる事は不可能となった――なのはもクローゼも重くはないがなのはの体重は53kgでクローゼの体重は50kgで、その二人が乗っかったら掛かる重量は103kgとなるので簡単に返す事は出来ないのだ。

帰天して悪魔の力を得ていたスカリエッティでも首と両足をホールドされた状態で此れだけの重量が掛かっては返す事は出来ずに真面に『キン肉バスター』を喰らってしまい、更に其処に追撃としてヴィヴィオがフラッシュエルボーを叩き込んだのだから堪ったモノではないだろう。

 

此れだけでも勝負は決まったと言えるのだが、此れで終わるなのは達ではない。

 

 

 

――ギュル!!

 

 

 

此処で改めてなのははワイスマンとスカリエッティをチェーンバインドで拘束すると、魔力を収集し、クローゼは右手に炎の、左手に氷の魔力を宿して其れを合成し、ヴィヴィオは両手を前に突き出して其処に持てる魔力の全てを集中して行く。

 

 

「これで終わりだワイスマン、スカリエッティ……全力全壊!!」

 

『Starlight Breaker.』

 

「スターライト……ブレイカー!!!」

 

「これが最強最大の消滅魔法……メドローア!!」

 

「100倍……ディバインバスター!!」

 

 

そして放たれた攻撃はワイスマンとスカリエッティを飲み込み、攻撃が終わった其処には何も残っていなかった――クローゼのメドローアを真面に受けたのならば完全に消滅してしまってもおかしくはないが。

 

 

「外道が……精々塵となって世界を漂うが良い。」

 

「世界を漂わずに消えて欲しい。」

 

「それは……確かにその通りかもしれませんねヴィヴィオ。」

 

 

ワイスマンとスカリエッティを倒したなのはとクローゼとヴィヴィオは神体内部から脱出して、外で待つ仲間の元へと戻っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し時を戻して、なのは達がワイスマン達と戦っていた頃、外ではネロ達が神体を相手に奮闘していた――とは言っても、ヴィヴィオも目を覚ました事で、今や『神体』は被弾面積の大きい木偶の棒と化していたのだが、その巨体から繰り出される攻撃の破壊力だけは凄まじいモノがあったのでネロ達も簡単に神体を破壊する事が出来ていなかった。

だがそんな中でもまたも変化が起きた――ヴィヴィオのドラゴンであるバハムートが光を放ち、その姿を変化させたのだ。

 

 

『グオォォォォォォォォ……!』

万物創世龍:ATK10000

 

 

身体は細身になり、五つだった頭も一つになったが其の力は変化前の倍と言う凄まじさになっていた。

ヴィヴィオの覚醒と共にバハムートもまた進化したのだ――とは言え、この巨大の神体を破壊するのは矢張り簡単ではなく、身体の各所にあるコアを破壊してもなおその機能を停止する事はなく、地上に居るネロに向かって拳を振り下ろして来た。

ネロも其れに応戦するように右腕のアームズ・エイドを繰り出したのだが……神体の巨大な拳はアームズエイドとぶつかる直前でその勢いを失い、ネロの目の前に轟音を立てて落ちてしまった。

 

 

「……もしかして、終わったのか?」

 

 

突然の身体の機能停止に其の場に居た全員が警戒を緩めずに『終わったのか?』と思った次の瞬間、胸部にあるコアに内側から罅が入り、其れが砕けると同時に神体内部からなのはとクローゼ、そしてヴィヴィオが飛び出して来た。

なのはとクローゼはワイスマンとスカリエッティに甚振られていた事で全身に多数の傷があったモノの無事であり、ヴィヴィオも元気一杯と言った感じだったのでその場に居た全員は安心したのだが。

 

 

「遅いですよ姉さん。遅刻です。」

 

「遅刻と言われても戻ってくる時間を約束していた訳でもないだろうに……なんだ、謝れば良いのか?」

 

「いえ、待っていたと言う意味です。それと今のは、ダンテから教わりました。」

 

「待て待て待てなたね嬢ちゃん、其れは今は言わなくていい事だぜ!?」

 

「すみません、口が滑りました。オリーブオイルたっぷりのペペロンチーノを食べて来たので口が滑り易くなっていたようです。」

 

「口が滑るってのは物理的な意味じゃねぇと思うのよ俺は!?」

 

 

なのは達が無事だと分かると、その場に居た全員が集まり、暫し和やかな雰囲気となったのだが、しかしまだ戦いは終わっていなかった。

 

 

『ぐぬ……まだだ、まだ終わらん……!!』

 

 

なんと機能を停止したはずの神体が再起動したのだ――其れも頭部がスカリエッティに変わった状態で。

なのはとクローゼとヴィヴィオの攻撃を喰らって消滅した筈のワイスマンとスカリエッティだったが、スカリエッティは肉体は消滅しても魂は残っていたらしく、其の魂を神体に融合して来たのだ。

何とも恐るべき執念だが、だからと言ってリベールが退く事はない――それ以前に、クローゼが解放されたのであればこの程度は敵ですらないのである。

 

 

「いえ、此れで終わりです。

 私が解放されたと言う事はつまり、リベール最強の守護神も解き放たれたと言う事ですから――現れよ、リベールの絶対守護神『エクゾディア』!!」

 

『ゴォォォォォォォォォォォォォォォ……!』

エクゾディア:ATK∞

 

 

クローゼはエクゾディアを召喚してスカリエッティ神体と対峙する。

真のエクゾディアの迫力は神体が模していたモノとは比べ物にならないレベルであり、その迫力にスカリエッティ神体は少しばかり怯んだが、其れでも必死に殴りかかって来た――其れも所詮は無駄な足掻きに過ぎないが。

 

 

「リベールに仇なる敵に劫火の裁きを……『怒りの業火・エクゾードフレイム』!!」

 

『オォォォォ……ガァァァァァ!!!』

 

 

其のスカリエッティ神体に放たれたエクゾードフレイムの威力は凄まじく、スカリエッティ神体を一瞬で灰に変えてしまった――『一撃で千の敵を葬った』と言う伝説があるエクゾディアの攻撃を真正面から喰らったら此れは当然と言えるだろう。

 

 

「エクゾディアの前には何者も無力か……アリシア前女王が幼いお前からエクゾディアを取り出して五分割して封印したのは英断だったな。」

 

「この力が暴走したら世界を滅ぼしかねませんからね……」

 

 

ともあれ、此れにて神体は完全に消滅したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

なのはとクローゼとヴィヴィオの全力の攻撃炸裂し、ワイスマンもスカリエッティも消滅したと思われたが、ワイスマンは攻撃を喰らう直前にギリギリで神体内部から転移魔法で離脱していた。

しかし直撃は喰らわなかったとは言え離脱する瞬間に少しばかり攻撃が掠ったので無事ではなかった――攻撃が掠った左腕は半分が炭化して手術でも治せない状態となっており、切断以外の選択肢は無くなっていたのだ。

 

 

「まさかこれほどまでの力を秘めていたとは驚きだが……良いデータが手に入った。

 このデータを使えば、今度は……」

 

「残念だが今度はない。貴様の道は此処で終わりだ。」

 

 

ワイスマンは今回得たデータを使って次の一手を考えていたようだが、次の瞬間には視界が突如として下がる事になった――此れにはワイスマンも驚いたのだが、見てみれば何時の間にか右足の膝から下が切断されて、強制的に『片膝立ち』の状態にさせられていたのだった。しかも失血死しないように切断面を焼き固める処置までされていたのだ

 

 

「外道が、年貢の納め時だ。」

 

「こそこそと逃げるとは、負け犬にはお似合いの姿だな?」

 

「アンタ、少しやり過ぎたな?」

 

 

其処に居たのはレーヴェと庵と緑の髪が特徴的な七曜協会の神父の『ケビン・グラハム』だった。

レーヴェが神速の踏み込み横薙ぎでワイスマンの右足の膝から下を切り落とし、間髪入れずに庵が闇払いを放って切断面を焼き固めたのだった。

 

 

「お前達は……!なぜ此処にとは言うまいが、八神庵……なぜ君が彼等と共に?私の知る限り、君は他者と群れるのが何よりも好かない筈だが?」

 

「ふん、貴様程度が俺を知った気になるな。

 確かに俺は群れるのは好まんが、其れは何の意味もなく群れるのが嫌いで鬱陶しいだけの事。同じ目的があるのならば自分以外の誰かと手を組む事は厭わん……其れが例え京であろうともな。

 何よりも貴様はこの俺が生きる場所に土足で踏み込もうとしたのだ、其の愚かさをその身に刻み込んでやらねばならん……こいつ等もほぼ同じ目的だっただけ事だ。」

 

「未来の義弟が暮らす国、其処を襲ったのだ。貴様は此の剣帝が滅する。」

 

「ただの破戒僧っちゅーだけやったら協会も中立の立場を貫いたんやけど、他の外道と手を組んで国を裏から支配し、そんでもって他国への侵略をしたとなったら流石に見過ごす事は出来へんやろ?

 アンタ、やり過ぎたんや。」

 

 

何とも不思議な此の三人組だが、夫々の目的がほぼ合致していたため此の場では手を組んだのだった。

同時にワイスマンにとってこの状況は絶体絶命と言えるだろう――左腕と右足を失い、更に魔力も殆ど残っていない上に、魔力が残っていない事で帰天して悪魔化して回復すると言う裏技を使う事すら出来なくなっているのだから。

寧ろ帰天の能力が備わっているだけに、簡単に死ぬ事すら出来なくなっているのは此の状況では最悪と言えるだろう。

 

 

「精々閻魔の沙汰に期待するが良い……此の炎で送ってやろう!」

 

 

そんなワイスマンに、先ずは庵が腕に炎を纏った状態で突進し、其処から下から掬い上げるようにして相手の首を掴み、『月輪の紋』を描く三日月形の軌跡で地面に叩き付け、押さえ込んだまま炎を浴びせてその身を焼く――八神流古武術の奥義の一つである『裏千百参拾壱式・鬼燈』を炸裂させたのだ。

此れだけでも普通ならば即死レベルなのだが、帰天の議を行ったワイスマンは帰天せずとも悪魔と同等の頑丈さがあるために死ぬ事はなかった。

 

 

「燃え盛る業火であろうと砕き散らすのみ……ハァァァ……滅!」

 

 

続いてレオンハルトが特徴的な形状の剣に絶対零度の冷気を纏わせ、其れを一気に放出する事で周囲を――其れこそ燃え滾るマグマですらも凍結させて打ち砕く大技『絶技・冥皇剣』でワイスマンを瞬間凍結させるが、此れでもワイスマンは死ぬ事が出来ない。

 

 

「ぐぬ……魔力さえ残っていればお前達等……」

 

「確かにアンタに魔力が残ってたら少し面倒やったかもしれへんけど、帰天するだけの魔力が残っていたとしてもアンタは此処で終わりやったでワイスマン。

 アンタを確実に滅するために『外法殺し』の俺が派遣されたんやらかな。」

 

「なん……だと?」

 

 

最後にケビンがボウガンを放ってワイスマンの心臓を貫く。

帰天の議によって強化されているワイスマンには此れすらも致命傷にはならない――ならない筈だったのだが、其の矢が刺さった次の瞬間、ワイスマンの身体は『塩の結晶』へと変わって行った。それも矢を打ち込まれた左胸ではなく手や足からだ。

 

 

「な、なんだ此れは!?……ま、まさか!!」

 

「アンタには今更説明の必要もないやろ?

 かつてアンタの故郷を滅ぼした謎のアーティファクト『塩の杭』――現場に残った『塩の杭』の僅かな残骸は協会が回収し、そんでもって特殊な技術で十本の矢に加工したんや。普通の手段では殺す事の出来ない相手を確実に殺すための手段としてな。

 帰天の儀によって『魔人』となったアンタは心臓を貫かれても死ぬ事はない……せやけど全身が塩の塊になってもうたら話は別やろ?大人しく死んどき。」

 

「こんな、こんなところでぇぇ……!!協会の狗がぁぁぁぁぁ!!」

 

「ふん、精々吠えろ雑魚が。」

 

 

そしてあっと言う間にワイスマンの全身は塩の塊と化し、トドメとばかりに庵が『琴月 陰』をブチかまして塩の塊となったワイスマンを粉砕した上で燃やし尽くしてターンエンドだ。

 

 

「協会の狗か……まぁ、間違ってはいないのやけどな。」

 

「だが、これで本当に全て終わった……此れにて大団円か。矢張り良いモノだな、大団円と言うモノは。」

 

「ククク……ハハハ……ハァ~ッハッハッハッハ!!月を見るたび思い出せ!!」

 

 

神体と融合したスカリエッティはエクゾディアによって灰燼に帰し、ワイスマンは塩の塊になった末に砕かれて燃やされ、謀略を巡らせてリベールへの侵攻を行った外道のマッドサイエンティストは完全に此の世から滅されたのだった。

此れにより、ワイスマンとスカリエッティによるリベール侵攻は幕を閉じ、リベールの完全勝利と言う結果で此度の戦いは終わったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 



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ChapterFinal『Schwarzer Stern und Weiße Flugel』

此れにて終幕かByなのは      はい、お疲れ様でしたByクローゼ


 

ワイスマンとスカリエッティを退けて『完全勝利』を得たなのははクローゼとヴィヴィオと共に、『エサーガ王国』との停戦協定と和平協定を結ぶために『王室親衛隊』の隊長であるユリアと、『リベリオン』時代からの信頼出来る部下であるクリザリッドと『鬼の子供達』を引き連れてエサーガ王国にやって来たのだが、其処でなのは達が目にしたのは予想していない光景であった。

 

 

「クローゼと共にヴィヴィオを助け出すために来た時から異様な感じはしていたが、よもや此処までだったとは……ワイスマンとスカリエッティの手に堕ちた時点で、国としてのエサーガ王国は死んでしまったと言う訳か。」

 

「人の気配がしないとは思っていましたが、其れはあの場所だけでなく他の地域も同じだったと言う訳ですか。」

 

 

王城が存在している首都、或いは王都と言うべき都市にも人の気配はなく、其処に居たのは人非ざる存在――ワイスマンとスカリエッティが作り出した人造悪魔だった。

エサーガ国の国民は全員がワイスマンとスカリエッティによって『帰天』の実験材料にされて人造悪魔と化しており、王族と其の関係者も最終的には人造悪魔とされてしまった事でエサーガ王国は『人の住まぬ魔境』と化していたのだった。

エサーガ王国は国境に沿って悪魔を遮断する結界が張られていた(ワイスマンとスカリエッティが国外に人造悪魔が逃げ出さないように張ったモノ)事で国外に出る事はなかったが、人造悪魔が跋扈する場所など人間の世界には不要であるのもまた事実なので、なのは達はエサーガ国内の人造悪魔を一掃する事から始め、そして人造悪魔を一掃した後に周辺国との話し合いを行い、其の結果として『エサーガ王国及びその領土はエサーガ王国との戦争に勝利したリベール王国の領土とする』事となり、リベールは後日改めて旧エサーガ王国復興の為の人員を送る事になり、急ピッチで復興事業が行われる事になった。

 

復興の為のメンバーは不動兄妹をはじめとした中央工房の技術者とマルガ鉱山で働いている力自慢の鉱夫達が選ばれ、其れとは別に有志のメンバーとして京とブライト三姉妹とヨシュア、BLAZEのメンバー、王室親衛隊から『鬼の子供達』、サイファー、アルーシェ、千冬と美由紀と恭也、DevilMay Cryからなたねとネロそしてダンテ(強制参加)、そしてヴィヴィオが参加していた。

 

 

「いっやぁ、パテマテがあると作業らっくだわぁ。さすがは兄さんと姉さん作の巨大ロボ、復興作業にも力を発揮してくれるわね。」

 

「うふふ、パテル=マテルなら瓦礫の撤去位はお手の物よ♪

 そしてそれだけじゃなくて、ビームの出力を調節すれば溶接作業も出来るし高い場所にモノを運ぶのだってお任せあれですもの……貴女のお兄さんとお姉さんはホントに凄いわねレーシャ♪」

 

「兄さんと姉さんは最強ですので!」

 

 

「それじゃあ此れは向こうに持っていきますね~~!」

 

『ネッガ~~!!』

 

「え?」

 

『ワリィゴハイネガァァァァァァァァァァァ!!』

ジャンク・バーサーカーな  ま  は  げ:ATK2700

 

「いぃやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

「本当は子供が好きなのに子供に怖がられる……何か解決方法はないモノだろうか遊里?」

 

「ジャンク・バーサーカーは見た目がアレだから無理じゃない?でっかいアックスソードがそもそも威圧感ハンパないし……『ジャンク・ウォリアー』だったらヴィヴィオちゃんも怖がらなかったかもだよ兄さん。」

 

「召喚する精霊を間違えたか。」

 

 

その復興作業は少しばかりハプニングがあったりもしたが順調に進み、旧エサーガ王国はリベール王国の新たな領土となり、後日此の場所にはスポーツやカジノを楽しむ事が出来る複合型の娯楽施設が建設され、そしてそれは大当たりとなりリベール王国に多大な利益を齎す事になるのだった。

 

 

「遊星~、皆~~!お疲れさまやねぇ、お昼ご飯持ってきたで~~!」

 

「はやて、何時も悪いな。」

 

「気にせんといてや、私が好きでやってる事やからね。」

 

「だがはやての弁当は旨いから現場の人間からは大好評だからな。今日のメニューは何か聞いても良いか?」

 

「今日の弁当はご飯と皆大好き『豚の生姜焼き』に明太辛子高菜を添えて、ご飯には梅干しを乗せただけよのうて、『海苔段々』にしてみたわ。更に付け合わせの漬物にはスタミナが付くように『ニンニクのピクルス』をチョイスしたで♪」

 

「あぁ、此れは良いメニューだな。」

 

 

作業の途中ではやてがお手製の弁当を差し入れるのも復興作業が始まってからはお馴染みの光景となっており、その際に遊星と親しげに話すはやてをレーシャが威嚇するのもお馴染みの光景となっていた――レーシャの威嚇は『大好きなお兄ちゃんを奪われたくない』との思いから来るモノなのだが、はやてを含む周囲の人間には其れすらも可愛く映ってしまうので、はやてもレーシャの威嚇は適当に受け流していたのだった。

 

其れは其れとして、最強クラスのメンバーが集まった事で旧エサーガ王国の復興は短期間で終わり、続いて複合型娯楽施設が建設されるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼 ChapterFinal

『Schwarzer Stern und Weiße Flugel』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

旧エサーガ王国の復興が進む中、リベール王国には天界からの使者がやって来ていた。

しかも天界からの使者としてやって来たのは、嘗て『高町桃子』の守護天使を務めていた大天使の一人である『守護天使ジャンヌ』だったのだ――『最も神に近い』と言われている守護天使がやって来たと言うのは天界もリベールと敵対関係になるのは得策ではないと考えたからだろう。

 

 

「和平協定か……其れを締結するのは私としても悪くないとは思うが、魔族とは違って神族は嘘を吐く事が出来るから今一信用する事が出来んと言うのもまた事実だ。

 だが、母さんの側近であったお前が直接出向いて来たと言うのであれば、天界からの提案を無下にする事も出来ないか――良いだろう、この提案は受けるとしよう――だが、私達を裏切るような事があれば、私達は即刻天界を滅ぼすと、上のお偉いさん方にそう伝えろ。」

 

「はい、一言一句全てを伝えます。

 エクゾディア……あの力が如何程かと言うのは天界の住人も知る事なのでそれが単なる脅し文句でない事は上も理解するでしょうし――何より、桃子様が追放され、更に亡くなられたと聞いた時から、私を含めた桃子様の守護天使達は天界を改革する計画を秘密裏に推し進め、先日それがようやく功を奏して老害達を一掃する事が出来ました。

 現在の天界の上役は嘗ての桃子様の守護天使、そして桃子様に近かった者達となっており、桃子様が生前理想として思い描いていた天界の姿を実現する為に邁進しているところです。」

 

「母を追放した馬鹿どもは一掃されたのか……そして母の守護天使達が上役と言うのであれば裏切られると言う事は無い、か。天使もまた魔族同様嘘は吐けないからな。」

 

 

天界は天界で改革が秘密裏に推し進められていたらしく、桃子を追放した古い体質の神族は一掃され、天使達が現在の天界を管理しており、そして天使も魔族同様に嘘を吐く事が出来ないと言う事から、なのはは天界との和平協定の締結に踏み切ったのだった。

 

そしてリベールと和平協定、或いは同盟関係を結ぼうと使者を送って来たのは天界だけでなく、ゼムリア大陸の多くの国、海を隔てて存在している島国の『ヤーパン』や巨大大陸『カメリア合衆国』、遥か南にある『エアーズロック国』等々がリベールと同盟関係を結ぶ事となったのだった。

なのは率いるリベリオンと真にリベールを想う者達によって起こされた『リベール革命』に始まり、なのはが新たなリベールの王となって直ぐに起きたライトロードとの戦い、そして此度のエサーガ国との戦いと短い間隔で起きた戦いはいずれもなのは率いる軍勢が最終的に勝利しており、其れを知った各国は『リベールを敵に回すのは得策ではない』と判断したのだ。

 

 

「同盟国が多くなれば其れだけやる事も増えるが、直接的には同盟関係になくともリベールと同盟関係にある国同士であれば争いは早々起きるモノではないだろう――直接ではなくともリベールが間に入って間接的には同盟関係にある訳だからな。」

 

「そうして争いがなくなれば自然と差別もなくなるでしょう……差別があるから争いの火種になると言うのであれば、逆説的に争いが起きなければ差別は生まれないとも言えますから。

 まだまだ道は長いですが、理想に一歩近付く事が出来たのかもしれませんね。」

 

「そうだな……だが、まだまだやる事は多い――とは言え、親族と魔族のハーフである私と、先祖返りで神族の血が覚醒し私の血を飲んだお前には最早『寿命』と言う概念がなくなってしまったからドレだけの時間が掛かろうとも必ず理想の世界を実現して見せるさ。

 其れが、私の生きる意味でもあるしね。」

 

「其れは、私も同じですよなのはさん。」

 

 

其れからなのはとクローゼは自らに特殊メイクを施しながら時を見て特殊メイクを外して名を変えて新たな王と王妃としてリベールを統治し、そして少しずつではあるが確実に世界の改革を行い、数百年の後にその理想を実現すると表舞台から姿を消し、世界の様子を見守りながら共に生きて行ったのだった。

そしていつしかなのはとクローゼの存在は伝説となり、『黒き星の魔王と白き翼の聖女』として人々に語り継がれて行ったのであった――

 

 

 

 

 

 

 

 

 Fin

 

 

 

 

 

 

 

補足説明

 

 

 

 

 

 

黒き星と白き翼

 

使用版権:リリカルなのはシリーズ、空の奇跡シリーズ、遊戯王、KOF、ストリートファイター、キン肉マン、ドラゴンボールその他色々

 

STAFF

 

 

 

企画・原案:吉良飛鳥

 

 

 

ストーリー構成:吉良飛鳥&kou

 

 

 

文章校正:kou

 

 

 

Specialthanks:読んでくださった読者の方々。

 

 

 

Thank you For Reading

 

 

 

Presented By 吉良飛鳥

 




黒き星と白き翼 後書き座談会




吉良「と言う訳で完結です。お疲れさまでした!」

なのは「此れにて完結か……打ち切った『気侭スターズ』から随分とストーリーが変わったみたいだが、なぜこうなったんだ?」

吉良「気侭スターズが途中で終わっちゃったから改めて自分の中でストーリーを練り直した結果、『なのはとクローゼをメインにしてやっちまえ』って感じになったのが大きいかな。同時期に俺が軌跡シリーズにどっぷり浸かってたってのも大きいですわ。」

クローゼ「それにしてもなぜ私となのはさんの組み合わせに?」

吉良「なのはとクローゼの組み合わせってまずないし、新しいなって思ったのはあるのと……既にアインスとクローゼって言う事をやってるからアインスがやったならなのはもだろと言う訳の分からん天啓を受けた。」

なのは「意味が分からん……だが、此れで書きたい事は大体書けたんだな?」

吉良「うん、書きたかったものは全部書いた!だからここからは打ち上げと行こうぜ!一夏、不良パイセン料理持って来てーー!」

一夏「ちょうど出来たところだ。腕によりをかけたぜ!」

志緒「打ち上げパーティってのは旨い料理が欠かせねぇからな……俺と一夏の特製パーティプレートだ。」


一夏&志緒作特製パーティプレート『フライドチキン、フライドポテト、各種野菜スティック、サンドウィッチ、おにぎり等々』


クローゼ「此れは、とっても美味しそうです……!」

なのは「酒は?」

吉良「日本酒、ワイン、ウィスキーと色々取り揃えてあるから今宵は無礼講と行きまっしょい!改めてまして、お疲れ様でした!カンパーイ!!」


なのは&クローゼ「「カンパーイ!!」」



座談会終了!




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