神にーさまはゲーム至上主義 (村崎京)
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ボタンパニック(やらかし)
僕の名前は桂木桂馬。6月6日11時29分35秒生まれ17歳。
身長174cm体重53キロ。得意教科、国語数学理科社会英語技術。
好きなものは女子だ。ただし女子は女子でも、僕の右斜め前方5mを歩いているような3D女子ではない!
僕が愛するのは2D女子!2D女子こそ至高!リアルなんてクソゲーだ!
さて、そんなことはさておき、現在僕の目の前には見知らぬ高校の校門がある。
そして隣にはいつもの通り.....
「神にーさま、ど、どういうことですかこれは!?」
「知るか!お前がドジしてあのボタン押したからこうなったんだろ!上司に聞け上司に!」
「す、すみませ~ん」
そう、僕たちは不本意なことに、見知らぬ高校の前で立ち尽くしている。
何故こんなことになったのか、それはほんの30分前に遡る.....
「なっつやすみぃぃ!!!!!」
と、約1000時間ある夏休みを謳歌(ゲーム三昧)するべく、意気揚々とPFPをすることはや2日、この日も僕は新作ギャルゲーをいち早くクリアするため、朝からやっていたのだが...
「神にーさま、ドクロウ室長から手紙が届きました~」
「なんだエルシィ。僕は今この子のイベントで忙しいんだ。面倒事を持ち込むな」
「そんなことは言わずにこれ、にーさま宛てに届いたんですよ」
「尚更だ。僕はそのドクロウとやらにワンクリック詐欺にかけられたんだ。絶対面倒に決まってる」
「え~じゃあじゃあ、私が見てもいいですかぁ?」
「好きにしてくれ。どんな頼まれ事でも僕はやらんぞ」
すると徐にエルシィは手紙と小包を取り出した。
って、
「手紙だけじゃないのかよ!?」
「あ、はい。何か読んでから開けるようにと言われました」
「ますます嫌な予感しかしないな...」
「えーっとじゃあ読みますね~『拝啓、エルシィのバティ殿。これまでの駆け魂狩りの功績を讃え、お礼の品を贈ります』だそうです。えっと、これですね。中身はなんでしょうか.....何ですかこれ?」
ごそごそとエルシィが小包の包装をどけると、中からボタンがでできた。
「これがお礼の品みたいですよ?」
「そんな怪しさ満点のもの、押すわけがないだろ。早くしまえ」
「えーっ押さないんですか?」
「当たり前だバカ。というかそのボタンの説明は手紙に書いてないのか?」
「えーと.....あ!裏がありました!」
「ちゃんと確認しろ!危うくまた詐欺られるところだったぞ!」
「ご、ごめんなさい。じ、じゃあ続き読みますね。『このボタンを押すと、別世界に飛ばされ、そこで3年間駆け魂狩りの任務から一時解放され、ゲームし放題となります。しかもその間元の世界では3時間しか経たないという優れものです!ただし押したら3年経つまで戻れないので注意!』だそうです」
.....3年間ゲームし放題だと!なんだその楽園は!?
ここ最近駆け魂狩りのせいで思うように消化できてないギャルゲーたちを、思う存分できるのか!
..いやしかし待て、落ち着け桂木桂馬。どうせこの室長とやら、また僕に詐欺紛いのことをしようとしているに違いない。落とし神たるもの、二度も間違ったルートを通るなど言語道断。ここは押さずに我慢するべきだ...いやしかし...
とりあえず保留だ保留!まずはこのヒロインの攻略を終わらせてからゆっくり考えねば。
「にーさま、これどうします~?うわっっっ!」
「おい!お前危な...あぁ!エルシィボタン!」
「いたた...あ!」
躓いたエルシィの下敷きになったボタンは、完全にスイッチが押されていた。
「このバグ魔!どうすんだこれ!」
「すみません!すみませ...あ、にーさまボ、ボタンが!」
「え?ちょっまっ」
ぺかーっとボタンが発光し始め、気がついたら.....
「.....ここにいたというわけだ」
辺りを見渡すと、そこら中に桜が咲き、入学の季節ですよと自己主張していた。
しかも新入生と思われる生徒たちが桂馬達を不審そうに眺めている。
「ってそんなことより!どうすんだこれ!3年だぞ3年!僕たちが逆に勾留されてどうすんだ!」
「ごめんなさいごめんなさいっ」
いやしかしあのドクロウとやらの言うことが本当なら、僕はここで駆け魂狩りや悪魔のことは忘れてゲームし放題となるんだが、まだよくわからない。そもそもゲームし放題と言いながらどこぞの高校に飛ばされるのも意味がわからない。
「あ、そういえばにーさま制服が変わってますね。私もです。あ、でも首輪と羽衣はそのままみたいです」
「え?あ、ほんとだ」
いつの間にか服装が赤のブレザーに変わっていた。これはもしかして...
「もしかして学園もののゲームの舞台にいるのか...?」
そうだとすれば、3年間ゲームし放題というのはつまり...
「入学から卒業までの3年ってことかよ!!」
あのドクロウとやら、また詐欺紛いのことしやがったな!くそったれ!
「え、神にーさまこの学校に入学するんですか?」
「するというか、僕の予想が正しければもう入学してる。多分お前も」
「えぇ!?」
近くを見ると、クラス分け表らしき貼り紙があったので確認すると、案の定2人の名前がしっかりある。2人ともDクラスのようだ。
「Dクラスだな、2人とも」
「えぇ~いつの間に入学してたんですか私たち」
多分お前がボタン押した瞬間だ。
「とりあえずここで議論しても埒が明かん。まずDクラスに行くぞ」
これがゲームなら、どんなゲームでもチュートリアルがあるもんだ!!
*
*
私と神にーさまがDクラスの教室に行くと、ほとんどの人が既に登校していました。
私と神にーさまの席は隣どうしみたいです。すごく安心しました。
神にーさまは落ち着きを取り戻したのか、それとも開き直ったのか、もう既にゲームに没頭しています。そんな神にーさまを物珍しそうに眺めているクラスの人もいますが、話しかけてくる人はいないようです。
しばらく席に座っていると、綺麗な女性が入ってきて、席に着くように促しました。
茶柱先生というそうです。二階堂先生と同じくらい美人です。
茶柱先生は簡単に自己紹介をした後、Sシステムというものの説明を始めましたが、難しくてよくわかりませんでした。
ただどうやら月に10万円ほど貰えるみたいです!私、お金持ちになりました!
ちなみにこの説明中も神にーさまはずっとゲームをしていました。説明聞いてたんでしょうか.....?
先生の説明が終わった後、入学式まで時間があるみたいです。さて何をしましょうか...
「みんなちょっといいかな?」
誰でしょう?前の方で1人の男子生徒が立ち上がっています。
どうやら自己紹介をするみたいです。
皆さん前の方から自己紹介をしていきます。先程の男子生徒は平田洋介さんと言うみたいですね。優しそうな方です。
その後も順々に自己紹介が進んでいきます。そういえば神にーさまちゃんと自己紹介するんでしょうか...?
「それじゃあ次...そこのゲームしてる人~」
平田さんが呼んでいます。にーさまちゃんと答えてください!
「.....」
「に、にーさま、呼ばれてますよ」
「.....今僕は忙しい。話し掛けるな」
「え?」
あ~大変です!どうしましょう!
「すすすすみません!代わりに私が紹介します!この人は桂木桂馬、私の兄です!そして私が妹のエルシィです。よろしくお願いします!!」
「え、あ、あぁよろしく...」
にーさま、入学早々敵をつくらないでください~
その後もにーさまは何事もなかったようにゲームを続けていました。途中でちょっと厳つい方が退席したりしましたが、無事自己紹介は終わりました。疲れました...
「にーさま待ってくださいよ~!」
「何だエルシィ。早く寮に帰るぞ」
「え、寮ですか?」
「お前ちゃんと資料読んでなかったのか?これから寮生活だぞ」
「えーっほんとですかそれ!?というか神にーさま、資料読んでたんですか?」
「マルチタスクは落とし神の必須スキルだ」
「.....そういえば6個同時にゲームしてましたね。そ、それよりにーさま何で帰っちゃったんですか?カラオケ誘われてましたよ?」
自己紹介でやらかしたにーさまでも、平田さんは誘ってくれていました。
「そんなリアルの奴らの馴れ合いなんぞに行くか。そんなんに行くより帰ってゲームだ。あ、それとエルシィ」
「なんですか?」
「多分だがチュートリアルはまだ終わってない。これから長くて1ヶ月、無駄遣いするな。少なくとも5万は残せ。わかったな」
「え、わ、わかりました!...ってチュートリアル?これやっぱりゲームなんですか!?」
「まだわからんが多分そういう世界だな。だが少なくともギャルゲーではない。ギャルゲーならあそこまで細かい学校のルールはあまり設定しない。まあとりあえず様子見だ」
「わっわかりました~」
「エルシィ女子寮はそっちじゃないぞ!」
「えっ?あ、すみませ~ん」
にーさまは男子寮に帰っていきました。これからどうなってしまうんでしょうか?心配です。
それに一番心配なのは.....
にーさま一人暮らしできるのかな?
多少強引に連れてきましたが、そこは目を瞑ってくださいお願いします。
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ゲーム不足!!
私たちが何故か入学することになっていたこの高校は高度育成高等学校という名前でした。何か凄そうな名前です。
その件の高校に入学してから、早いもので3週間が経ちました。
私にも神にーさまにも特筆して何か起こることはなく、とても穏やかに過ごしています。
それにしてもこの学校の先生方は少し変です。
にーさまが堂々と授業中にゲームをしていても、先生方は何も言いません。
舞島高校でも何も言われてませんでしたが(児玉先生は別ですが)、それは神にーさまが何を言ってもやめないので諦めていたからでした。
ただ、他の方々が私語をしたりケータイを触っても何も言わないので、もしかしたらそういう方針なのかもしれません。
この3週間で私にも友達と呼んでも差し支えない方ができました!
名前を長谷部波瑠加さんと言います。
入学してから1週間ほどしても1人でいたので、声をかけてみてから話すようになりました。私にはないものの見方をしていて、すごく面白い方です。
ただ、心配なのは神にーさまです。
おそらく入学してから私以外との誰とも会話をしていません。ずっとゲームをしていますから無理もないですが、そんなにーさまを心配して平田さんや、あと櫛田さんというとても明るくて優しい方が話しかけていましたが、
「今イベント中で忙しいから話し掛けるな」
の一言で取り付く島もありませんでした。
そんなにーさまですが、登下校は一緒に行っています。最近のにーさまは少し機嫌が悪いです。
それは何故かというと.....
「ゲームが足りなぁぁぁい!!!」
とのことでした。
「買いに行けばいいじゃないですか~近くのけやきモールっていうショッピングモールにたくさん売ってましたよ?」
「それはダメだ。とりあえず1ヶ月は」
「何でなんですか?周りの皆さんすごいお金使って楽しそうにしてましたよ?」
「理由を言ってやってもいいが、まあいずれわかるから、今はおとなしくしとけ」
「え~っはぁーい」
ゲームが足りないと言っても、にーさまはずっとゲームをしています。持っていたゲームが5個も(本人曰く5個しか)あるみたいで、それらをずっとやっているみたいです。
にーさまが一人暮らしできるのか心配でしたが、今のところなんとかなっているようです。体から異臭を放ったりカラスにたかられているわけでもないので、大丈夫だと思います...多分。
「おはようございます!波瑠加さん!」
「あーおはよー、エリー」
「眠そうですね。大丈夫ですかー?」
「あーうん。夜動画見てたら遅くなっちゃってね。エリーは相変わらず元気そうね」
「私の数少ない取り柄です!」
「他には?」
「掃除と料理です!」
「ほー掃除と料理ねぇ」
「あ、信じていませんね!ほんとですよ!」
「いやいやそうじゃなくて。料理も掃除もできるかわいい妹がいたり、学校に来てもゲームしかしない兄がいたり、面白いもんだと思ってね」
「そんなことないですよ!にーさまはすごい人です!確かに変ではありますが...」
「はいはい。こんな妹を持って幸せ者だよあの兄も。あ、ほら、HR始まるよ」
「え、あ、ほんとですね。じゃあまた~」
席に着くと神にーさまがこっちを見てきます。どうしたんでしょう?
「お前、授業ついていけてる?」
「え、な、なんですか急に!も、もちろんついていけてますよ!元の世界じゃ2年生でしたからね!」
「そう。それならいい」
そう言ってにーさまはまたゲームを始めました。
「お前ら席に着けー今日はちょっと真面目に受けてもらうぞー」
3時間目、茶柱先生の授業です。
先生は入ってくるなりプリントを配り始めました。どうやら日本史ではなく小テストをするみたいです。
これはにーさまを見返すチャンスです!高い点数をとって驚かせてやりましょう!
今日の私は妙に調子がいいです!前半の問題は大体解けています!さあ残りも解いちゃいますよ!
あれ、でも神にーさま意外と苦戦してますね。いつもなら15分くらいで終わらしてるのに珍しいです。
えーっと、あれ?これ2年生の内容では?これ皆さん解けるのでしょうか?確かこの間の期末テストで似たような問題が出たような気がします。うーーんわかんないなぁ。
最後の3問の難易度は私でもわかるほど違いました。
1番下にある数学の問題に関しては、問題文の意味すらわかりませんでした。にーさまが苦戦していたほどの問題です。私が解けるはずがありません。
でも...多分にーさま満点なんだろうなぁ。
「波瑠加さんテストどうでした~?」
テストが終わって、休み時間になりました。波瑠加さんは机の上でぐでーっとしています。
「う~ん半分ちょいぐらいかなぁ。まあ私の小テストの点数なんてどうでもいいけど、あの桂木兄の点数は気になるかな~。一体何点取るんだか」
「え、にーさまですか?にーさまは多分100点ですよ?」
「えー?まさかぁ」
「ほんとうですよ~」
波瑠加さんはにーさまを見くびりすぎです。
今回のこのテストも、当然のように100点を取るのだと思います。
この日の変わったことと言えばこの小テストぐらいでした。
*
*
本日、4月が明けた5月1日。
ポイントの支給、なし!!
「あぁぁぁぁやっぱりかぁぁぁくそぉぉぉぉ!!!」
減るとは思っていたが0はないだろぉぉぉぉ!!
プルルルル、プルルルル
ん、電話だ。エルシィか?
『はい、もしもし』
『あ、にーさま?大変です!がくせ...』
『学生証は壊れてないぞ。ポイントが振り込まれてないのも正常だ。多分』
『え、な、何でわかったんですか?』
『だいたい想像がつくからだ。とりあえず一旦会って話すぞ。すぐ支度していつもの場所で会おう』
『わ、わかりました~』
集合場所に着くと大変珍しいことに、エルシィがもう来ていた。だいたいいつも僕が待つ側なのだが、よっぽど慌てていたのだろう。
「あ、にーさま、おはようございます!」
「ああ」
「それでそれで、これは一体どうなってるんですか!?」
「説明してやってもいいが、おそらく学校にいけば懇切丁寧に説明してくれると思うぞ。茶柱あたりが」
すごいニヤニヤしながら説明してきそうだ。
「それとエルシィ、今ポイントいくら残ってる?」
「ポイントですか?えーっと8万ポイントとちょこっとです」
「そうか。まあ頑張った方だな。女子にしては」
「にーさまは何ポイント残ってるんですか?」
「9万5000ポイント」
「きゅ、きゅうまんごせん!?な、何でそんなに残ってるんですか!?」
「リアルの奴らが言う生活必需品以外で、僕がいるものはゲームだけだ。それを買ってない以上、こうなるのも当たり前。それに食事も基本的に無料の山菜定食しか食べてない」
「山菜定食?そんなものありましたっけ?」
「ちゃんと見とけ!食堂にあっただろ無料のやつが!」
「す、すみませ~ん」
しかし今月0か.....にしても極端すぎだ。色々確かめるためにも、とりあえず学校に行ってみないと判断がつかないな。
「あ、桂木君!」
教室に入ると待ってましたとばかりに声をかけられた。誰だっけこいつ。
「何だ」
「桂木君ポイント支給されてる?」
「いやされてないけど」
「君もか...妹さんもかい?」
「え、あ、はいそうですね」
「そうか.....Dクラスの皆誰もポイントが支給されてないみたいなんだ」
今思い出した。確か平田ナントカだ。
「あんまり動揺してないんだね、桂木君」
「え?ああ、まあだろうなというか。予想できたことだったし」
「え、それってどういう...」
丁度その時茶柱が入ってきて、平田は席に戻っていった。
*
*
茶柱先生が入ってきてから、クラスの方々は色々と文句を言っています。ポイントの支給がないことに対して皆さんお怒りのようです。
そんな私たちを見て、茶柱先生は愚かだなと言い放ちました。
私は今までドジだとかアホだとかバグだとか、色々と言われてきましたが、愚かだと言われたのは初めてかもしれません。
それから先生はこの学校の真実について語り始めました。
私たちが入学してからの1ヶ月間で、10万ポイントをすべて吐き出したこと。
Dクラスは落ちこぼれ、つまり「不良品」が集まるクラスということ。
上のクラスに上がりたかったら、クラスポイントを増やす必要があること。
こんな感じのことを言ったあと、茶柱先生はおもむろに大きい紙を取り出し、黒板に張り付けました。そこにはクラスの方々の名前と横に数字が羅列されています。
「先日やった小テストの結果だ。揃いも揃って粒揃いで先生は嬉しいぞ。中学で何を勉強してきたんだ?お前らは」
1番上の方は....
あ、にーさまですね。やっぱり100点です。いつものことですがホントにすごいです。
それから高円寺さん、堀北さん、などと続きます。
私の点数は...あ、ありました!58点です!丁度真ん中ぐらいですね。
あれ?皆さんこちらを驚いたように見ています。何故でしょう?
「に、にーさま、何で皆さんこちらを見てくるんでしょう?」
「知るか。大方僕が100点取ってることに驚いてるんだろ」
「あ、なるほど。私は当たり前過ぎて忘れてました~」
「それよりエルシィ、思ったより点数いいな。何かあったのか?」
「え?あ、にーさまバカにしてますね。私もやるときはやるんですよー」
「自慢できるほどでもないけどな」
うー。ひどいですにーさま。
「お前らよかったな。これが中間テストだったら入学早々8人が退学になっていたところだ」
茶柱先生は私たちを睥睨しながらこう言いました。
どうやら赤点が32点、もしこれが中間テストだとそれ以下の方々は退学になっていたそうです。これを聞いたクラスの方々のざわめきはすごいことになってしまいました。
そんなクラスの様子を尻目に、茶柱先生はその後も話を続けます。
「この学校に将来の望みを叶えて貰いたければ、Aクラスに上がるしか方法はない。それ以外の生徒には、この学校は何か一つ保証することはないだろう」
でも私たちにはあんまり関係ないですね。この世界の人じゃないわけですし。
ただ勿論他の方々は違います。特に幸村君というメガネをかけた方は人一倍狼狽しているみたいです。
その後、ひと悶着ありながらも茶柱先生は中間テストを乗りきれと言い残し、教室を後にしました。
にーさまが言ってたチュートリアルってこれのことなのかな?
エルシィはコミュ力高いので、大体のクラスメイト(女子)と話していると思います。桂馬はお察し。エルシィがいること以外完全に高円寺と同じ状況。
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ゲーム補給!!
茶柱先生が教室から出ていっても、教室のざわめきは収まりません。
1ヶ月でポイントを殆んど使ってしまった人や、自分がDクラスに配属されたことに対して憤っている人、これからの学校生活に不安を抱く人など様々です。私は低い評価を下されるのは慣れていますし(不本意ですけども!)、ポイントはにーさまに言われてまだたくさん残っています。
あれ?そういえばどうしてにーさまは、初日の時点でポイントを使っちゃダメなことを分かっていたんでしょう?
右側を見るとにーさまがいつも通りゲームをして...
あれ、していません。顎に手を当てて何か考えているみたいです。どうしたんでしょう?
「にーさま、どうしたんですか?」
「...エルシィ、授業中にゲームをやってもポイントは減ると思うか?」
「えっ...へ、減るんじゃないですかね...」
「.....くそっ!授業中にゲームしても誰にも迷惑かからないだろ!どこにポイントを引かれる要素がある!?」
そういう問題じゃないと思いますけど...
「でもにーさまどうするんですか?このままゲームしてたらクラスポイントが上がりません。そしたらプライベートポイントも減って、ゲームが買えなくなりますよ?」
「分かってる。ただ、策はある!」
「え、策ですか?」
普通に考えれば、ゲームをしなければ良い話なのですが、それができないのがにーさまなのです。
「とりあえず茶柱に聞かないといけないことがある。話はそれからだ。3時間目が終わったらすぐいくぞ」
「え、わ、わかりました~」
*
*
3時間目が終わり、休み時間
「エルシィ、行くぞ」
「え、あ、ちょ、待ってくださいにーさま~」
職員室は確か...こっちだったな。
「にーさま、策って言ってましたけどどうするんですか?」
「そうだな、具体的にはプランAとプランBがある。今後のことも考えると、プランAが成功するとありがたいが、こっちは正直博打だ。プランBは確実だが僕が苦しいし、あまりやりたくない。で、今からやるのがプランAだ」
説明してると職員室に着いた。茶柱は...いたいた。僕たちが近付いてくると、向こうも気が付いたようだ。
「ほう、桂木兄妹か。どうした?」
「確認することがあってきた」
「なんだ?お前に割り当てられたクラスに間違いはないぞ」
なるほどそう思うのか。
「そんなことはどうでもいい。聞きたいことは一つだ。4月に聞いた学校の説明に間違いはないよな?具体的にはポイントの用途の話だ」
「ああ勿論だ。間違いなど何一つ言っていないぞ」
「じゃあ僕が、『ゲームをやってもクラスポイントがひかれない権利』はいくら払えば買えるんだ?」
「...ははは。なるほど、そうきたか。確かにDクラスの4月の1ヶ月間で、最もクラスポイントを減らしたのはお前と須藤の2強だった」
そうだろうな。ゲームしかしてないし。
「それにしても今まで色んな生徒を見てきたが、ゲームをする権利を売れ、なんぞ初めて聞いたぞ。しかしまあそうだな、売ったことはないがルール違反ではない。売ってやらんことはないが、3年間ずっととなるとそれ相応の値段になる」
まあそれはそうだろう。だが、この賭けに勝たないと、僕のゲーム生活が安定しない!さあ鬼が出るか蛇がでるか。
「本来ならば、教師としては売らないところだ。授業中にゲームをすることを容認するなど前代未聞だからな。だが、先日の小テストで100点を取ったのはお前とAクラスの1人だけだ。それも加味して許可しよう」
「そうか。それで、いくらだ?」
「3年間で90万ポイントだ。これでもまけた方だな」
まあ許容範囲内か...
「じゃとりあえず継続払いかは置いといて、1学期分の10万ポイントだけで。文句はないだろ?」
「ああ、いいぞ。そう言ったからな。ククク、ホントに面白いなお前は」
ニヤニヤしている茶柱は無視する。
「エルシィ、1万ポイント貸してくれ」
「え、あ、はい。1万ポイントですか?わ、わかりました...ってどうやるんですか?」
「ポイントのやり取りは全部学生証だ。覚えとけ」
エルシィに1万ポイントを借りて、茶柱に送る。
「8月31日まででいいよな?」
「まあそれでいいだろう。9月1日になってもゲームをしていたら同じように減点されるからな。ちなみに1学期中であっても、ゲーム以外の違反行為をしていたら通常通りに引かれるから気を付けるように。まあお前はゲーム以外しないだろうけども」
よく分かってるじゃないか。
「じゃ用は済んだ。...そうだ、ついでに聞きたいことがあったんだが、赤点の点数は毎回32点なのか?おそらく違うよな?」
「ほう、どうしてそう思った?」
「32点っていうのは半端な点数すぎる。赤点を固定するなら基本的に5の倍数だろ」
「そうだな。だがお前はもうわかってるんだろう。おそらくそれで正しいぞ」
「それが聞けただけで十分だ。エルシィ、行くぞ」
「え、あ、はい。し、失礼しました~」
「にーさま、結局プランAは成功したんですか?」
「半分成功だ。これで問題は一旦保留だな」
「それは良かったです!あ、そういえばプランBって一体なんだったんですか?」
「プランBはそれを使うつもりだった」
「え、私ですか?」
「違うわ。その羽衣だよ」
エルシィが持ってる羽衣は透明化の機能があったはず。それを使ってゲーム機ごと透明にして、ばれないようにするつもりだった。
「いいじゃないですかそれ!何でその方法にしなかったんですか?」
「ゲーム機だけ透明化したら僕も見えなくなるだろ」
1ヶ月散々やってきた5本のゲームなら、画面を見なくてもゲームはできるが、新作となるとそうはいかないし、羽衣を使うのは最終手段だった。
「にーさま、そういえば聞きたかったんですけど、何で入学式の日の時にもうポイント使っちゃダメなことを分かってたんですか?」
「あのなぁ、ゲームの基本だぞ覚えとけ...おいしすぎるイベントは大体毒フラグ!これは鉄則だ!前にも言ってただろ!」
あの詐欺上司に詐欺られた後だったからっていうのもあるが...
「とりあえず一旦ゲームの問題は解決した!エルシィ、放課後になったらゲーム買いに行くぞ!」
「にーさまそれ私のポイントですよー」
「借りたからもう僕のポイントだ。フフフ待ってろギャルゲーたちよ...」
「えー。あ、そうだ。じゃあにーさま、そのポイントあげますからお願いがあるんですけど...」
「何だエルシィ、僕のゲームの時間は邪魔するなよ」
「中間テストの勉強教えてください!一緒に波瑠加さんも!」
「お前授業付いていけてるって言ってただろ!」
「それでも不安なんですよ~それじゃあゲーム1本分私が払いますから~」
「んぐぐ.....はあ、しょうがない。1時間だけだぞ」
「やったー!ありがとうございます!神様!」
*
*
昼休みになりました。クラスの様子はあの後平田さんや櫛田さんが何とか宥めたようで、落ち着きを取り戻しています。にーさまはいつも通り、山菜定食を食べに食堂に行っています。
「エリー、あれマジだったんだね。ビックリしたよホントに」
「あ、波瑠加さん。何がですか?」
「桂木兄のテスト。100点なんて言うからさ、てっきり冗談と思ってたんだけどマジで取ってるし」
「そうでしょうそうでしょう。にーさまはすごいんですよ!」
「エリーは58点だったっけ?何とも普通だったねぇ」
「波瑠加さんも殆ど同じだったじゃないですか~」
「残念、1点を笑う者は1点に泣くのだよ」
波瑠加さんの点数は59点でした。とっても悔しいです。
「それにしてもあんだけゲームしてるのにどうやったら100点なんて取れるんだか。不思議でならないね。エリー何か知ってる?」
「いえ、私もゲームしてるところしか見てませんね。でも毎回当たり前のように100点取ってました」
あ、でも...そういえば1回だけ99点でした。
「かぁー天才ってやつかな、羨ましいね全く」
まあとにかく、波瑠加さんがにーさまを少しは見直したみたいでなによりです。
「波瑠加さん、中間テストどうするんですか?」
「んー?まあ赤点取らない程度に勉強するよ。そう言うエリーは大丈夫なのかな?」
「大丈夫です!と言いたいところなんですが、心配だったのでにーさまに勉強を教えてもらう約束です!波瑠加さんも一緒にどうですか?」
「え、あの桂木兄が素直に教えてくれんの?大丈夫?」
「問題ないですよ~にーさまはなんだかんだ言って教えてくれます!前もそうでしたから~」
「そうねえ、じゃあお言葉に甘えて教えてもらおうかな。どういう教え方をするのかもちょっと気になるしね」
波瑠加さんも一緒に教わることになりました。これで中間テストは安心ですね!
ふとにーさまの方を見ると、にーさまと平田さんがなにやら話しています。とっても珍しいことです。何があったんでしょうか?
「そうか...わかった。じゃあもし気が変わったら遠慮なく言ってね。それじゃ」
にーさまの席に行くと、丁度話が終わったところでした。肩を落として、平田さんが去っていきます。
「にーさま、何の話してたんですか?」
「ん、ああ、放課後にクラスの方針を決める話し合いをするんだと」
あ、それで断ったんですね。平田さんが落ち込んでたわけです。私は参加しなくて大丈夫なんでしょうか?
「エルシィは別に参加してもいいぞ。ゲームは一人で買ってくる」
「え、そうですね...じゃあ参加してきます!終わった後に何を話してたか教えますね!」
「ああ、そうしてくれ」
*
*
放課後になった。やっとギャルゲーを買える喜びで、にやけが抑えられない。
やっと...やっとだ!
今まで積みゲーで散々苦しんできたことはあったが、そもそもゲームを積めないのがここまで苦しいとは思ってもいなかった...
だがそれでもポイントがギリギリだ。ポイント不足はこれからどうにかしないとヤバイな。僕がもたん。
そんなこんなでけやきモール到着。
ちなみに買ってはいないが、ゲーム売り場の下見は完璧だ。最短ルートでさっさと買って、帰ってゲームやろう。
おーー!!これは『ひだまりドロップ』の限定版じゃないか!こんなところで出会うとは!よかったよかった。あーー!!こっちには『水色スケッチ』の.....
約40分後...
いやーポイントギリギリまで買ってしまった。さて、すぐに帰ってゲームしよう。
「ちょっと、そこのニヤニヤしてる奴」
何だ?誰かに声をかけられた気がする。まあ気のせいか。さあ帰ろう。
「ねえってば!」
「うおっ!あ、おい!僕のPFP返せ!」
「返してほしかったらちょっとこっち来て」
はあ?何だその小学生みたいな脅迫の仕方は。
「こっち」
「ちょ、おい!待て!」
突然僕のPFPを強奪した女をしばらく追うと、そこには...
「お疲れ様でした、真澄さん。今日はもう帰ってもらっても結構ですよ」
杖を持った1人の少女が立っていた。誰だこいつは.....
神室「ホントにあいつ?ただのゲームオタクにしか見えないけど...」
今回出てくるゲームの名前は、作者が適当に考えました。ホントにあったらごめんなさい。
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フラグ乱立(ホントにやめて)
ご指摘がありましたので、前話で桂馬が買った権利を少し弄りました。また他のところも少し修正しましたが、話の大筋には影響はないのでそのまま読んでもらっても問題ありません。
「お疲れ様でした、真澄さん。もう帰っても結構ですよ」
そう言って僕の目の前に現れたのは、杖を持った女だった。...杖?足でも悪いのか?
「本当にこき使ってくれるわね。じゃあ帰らせてもらう...」
「おい!帰るなら僕のPFPを返してから帰れ!」
どうして平然とそのまま帰ろうとする!?
「あぁそうだった、忘れてた。はいこれ」
「そっちじゃねえよ!どうしてそこでそっちの女に渡すんだ!てかお前ら誰だ!」
何なんだこいつら...これだから3D女と関わると、碌なことにならないんだ!
「私の話を聞いてもらえばこれは返して差し上げますよ。それと私の名前は坂柳有栖です。どうぞよろしくお願いします、桂木桂馬くん」
坂柳?聞いたことないな。違うクラスか?てか...
「何で僕の名前知ってんだよ」
「いえ。とても興味が湧いたものですから、少し調べさせてもらいました。何せ4月末の小テストで、満点を取った者が私以外に1人いると聞きまして」
そういえば茶柱がAクラスにもう1人いるって言ってたな...ということはAクラスの奴か。
「それで、何の用だ?僕はこれから忙しいんだ」
「それは大変失礼しました。中間テストの勉強ですか?」
「違うわ!ゲームだよゲーム!分かってて言ってるだろお前!」
「ふふふ。ゲームがお好きなんですね。お上手なんですか?」
ふっ。愚問だな。
「僕はゲームの世界の神だ。上手かどうかなどの質問、聞くに値しない」
「そうですか。それではそのゲームには、アナログゲームも含まれるのですか?」
「ゲームと名のつくもので、僕が負けることはない」
あれ、ちょっと待てよ。これは良くない流れのような...
「では提案があるのですが、今から私とチェスをしませんか?」
...即効でフラグ回収してしまった。
「僕はさっき忙しいと言ったんだが...」
「『ゲーム』で、お忙しいんですよね?チェスも『ゲーム』ですから。1局だけでも、どうです?それとも、ゲームの神を自称される御方がまさか逃げるんですか?」
こ、こいつ...煽りがうまいねぇ!
「いいだろう。1局だけ付き合ってやる!ただし、1つ約束してもらおうか!」
「なんでしょう?」
「もし僕に負けたら、そのPFPを強奪したことへの賠償を要求する!簡単に言うとポイントを寄越せ!」
盗ったのはもう1人の方だがここは連帯責任だ。
「...ふふふ。面白いですね、いいでしょう。具体的にいくらですか?」
「お前、Aクラスだろ?そうだな、1万ポイントでどうだ?」
「...分かりました。では私が負けたら1万ポイント払いましょう...何してるんですか?」
「何って、簡単に書面作ってる」
覚えてないとか言って踏み倒されたら困るからな。しかし壁を使って書いてるから書きにくい。
「なるほどなるほど。ホントに面白い方ですねあなたは」
...どこがだ。今日はやけに面白いって言われるな。
坂柳がサインをし、ここではさすがにできないので場所を変えてやることになった。
チェスなんてギャルゲーで腐るほどやった!負けるはずがない!
さあ...
かかってきなさい!!!
30分後。
坂柳がチェスの道具一式を持ってきて、現在カフェのパレットとやらにいる。
しかし、ガチのチェス盤を持っているとは。こいつどんだけチェスが好きなんだ?
まあ坂柳には申し訳ないが、落とし神の名において敗北はあり得ない。あってはならない。こいつがどのくらい強いのか分からないが、ここは本気を出してでも勝たせてもらう。ポイントもほしいし。
「さて、それでは始めましょうか」
「ああ、そうしよう」
目の前にいる、坂柳はどことなく嬉しそうに自陣の駒を並べ始めた。
.....そうだった。
「坂柳」
「はい、なんでしょう?」
「...駒、並べてくんない?」
「...はい?」
ゲームじゃ並んだ状態から始まるからなー。
坂柳が少し訝しげに駒を並べ、準備が整った。
さて、お手並み拝見といこうか!
約1時間後、
52手で桂馬の勝利。
あ、危なかった...
正直ギリギリだった。序盤、坂柳が舐めてたのか完勝ムードだったが、後半の巻き返しが凄かった。ただ勝ちは勝ち。これでもう付きまとわれることはないだろう。安心してゲームができる。
「ふふふ。これはこれは驚きましたね、ふふふ...」
いや怖い怖い。なんで負けてるのに笑ってるんだ。
「では約束通り1万ポイント払いましょう。あとこのゲーム機もお返しします」
お?素直に返してきたな。何はともあれよかったよかった。ポイントの補充もできたし。
「それにしても、これからの学校生活が楽しみになりました。それでは私はこれで、ではまた」
...え、ちょっと待て、もしかして何かフラグ立ったか?やめてくれよ、僕のゲームの時間だけは取らないでくれ!
*
*
翌日、朝。
「にーさま、どうして昨日電話に出なかったんですか?私ずっとかけてたのに~」
昨日の夜、クラスの話し合いの内容を、にーさまに教えるために電話をかけたのですが、全然出てくれませんでした。
「え、かけてたか?」
「かけてましたよ~あ、さてはゲームしてて気付きませんでしたね?」
「ああー昨日の夜はずっとやってたからなー。何かあったのか?」
「あ、はい。えーっと、昨日のクラスの話し合いで、とりあえずポイントの増減の詳細が分からないので、授業態度を改めることと、中間テストに向けて、平田さんが勉強会を開くことを検討してるみたいです」
「なるほどねー。エルシィはどうするんだ?その勉強会」
「いえいえ私はにーさまに教えてもらいますよ~じゃないと、にーさまにあげたポイントが無駄になってしまいます!」
「まあ、そう言うと思ったよ」
他の人は分からないかもしれませんが、なんとなくにーさまの機嫌がとてもいいような気がします。やっぱり新しいゲームを買えたからでしょうか?
「まあ多分『退学』ってのは、ゲームオーバーのようなものだろうからな。そんなことになったらギャルゲーマーの恥だ。お前に退学されるのも困るから、定期テストの勉強は見てやるよ」
「え、ほんとですか!?やったー!!」
やっぱり今日のにーさまは機嫌がいいです!さすがゲームの力です。
「ただ、大人数は面倒臭い。最高でも2人だな」
「それは大丈夫ですよ~今のところ波瑠加さんだけですから~」
「ああ、あいつか...」
にーさまと波瑠加さんがまともに会話したことはほとんどありません。ちょっと心配ですけど...まあ大丈夫でしょう!
「あとエルシィ、僕が『ゲームをする権利』を買ったこと周りの奴に言うなよ」
「え、何でですか?」
「また変な奴に目をつけられるのも面倒臭いからな」
「また?にーさまもう誰かに目をつけられたんですか?」
「いや昨日ちょっとな...とりあえず言うなよ、分かったな!」
「わ、分かりました~」
変な方に目をつけられたにしては、機嫌が良いような気がしますけど...まあ悪いより全然良いですね!
大変なことがあった昨日でしたが、授業に関してはあまり変わることはなく、いつも通り1時間目が終わりました...が、1時間目が終わって休み時間。茶柱先生の授業の前のことです。
昨日あれ程のことがあったのにも関わらず、平然とゲームを続けているにーさまに遂に我慢できなくなったのか、1人の生徒がにーさまの席にやって来ました。
「おい、桂木!」
幸村さんでした。昨日人一倍狼狽えていた方です。
「おい、聞いてるのか?」
「...何だ?僕は今忙しい」
「ゲームを止めてくれ。お前がずっとゲームをしてるせいでクラスポイントが下がる一方だ。何も授業中までやることないだろ」
皆さん同じことを考えていたのか、この会話を聞いているようです。どうするんですかにーさま~。
「...クラスポイントのことなら問題ない。僕がゲームをしてもポイントは引かれなくなった」
「はあ?何だそれ、そんな都合の良いことがあるわけがないだろ!」
「信じられないなら茶柱にでも聞いてくれ。もうすぐやって来るぞ」
そうにーさまが言い終えると同時に、茶柱先生がやって来ました。
「何だ?少々騒がしいな。どうした?」
「先生!桂木がゲームをやってもポイントが引かれなくなったと言うんですが本当ですか!?」
「ああその話か。昨日から桂木がゲームをするのはクラスポイントの減点対象に入らなくなった。だから全員安心して良いぞ」
その言葉にクラスの皆さんがどよめきました。私も知らなかったら、とっても驚いてたことでしょう。
「ど、どうしてですか?」
「それはプライバシーの問題もあるから詳しくは言えないが、何もお前たちが絶対にできない方法でやったわけではない。とりあえず座れ、授業が始まるぞ」
茶柱先生はそう言って幸村さんを宥め、いつも通り授業を始めました。ふぅ。ホントに心臓に悪いです。
その後、休み時間毎に幸村さんから執拗に詰問されていたにーさまでしたが、のらりくらりと回避し続け、結局幸村さんは諦めたみたいです。
そして、放課後になったんですが、勉強会の約束があるのににーさまがいません。一体どこに行ってしまったんでしょう?
*
*
「くそっ。今日はあのメガネの奴のせいで進みが遅いなやっぱり」
今僕はこの学校の穴場である、屋上に続く階段の踊り場にいる。ここならさすがに誰にも邪魔されずにゲームが出来るはずさ!さぁ今日の遅れを取り戻す!
カツカツカツ...
ん、誰か来たか?珍しいな。まあそんなことはどうでもいい。ここまで上がってくんなよ。
「あーキモいキモイキモイキモい気色悪い!!!何でこの私があんな気持ち悪い奴らに話合わせなきゃいけないのよ!あぁー腹立つ死ねば良いのに」
何だ?女か。うるさいな。大声大会なら他所でしてくれ。
「それに何なのよあいつらこっちが少し良い顔したら調子にのりやがってホントにキモいうざい死ね!!」
「おい!!うるさいぞ!ここ反響するんだよ静かにしてくれ」
そう言うと女は滅茶苦茶驚いたようで、目を見開いた後、こちらを睨み付けてきた...はぁ。昨日から一体何なんだ全く...
今回桂馬は坂柳に勝ちましたが、多分七香編同様、何回かやったら負けます。
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人には誰しも裏の顔が...
「桂木君。今の、聞いてた?」
失敗した。迂闊だった。今まで人がいたことなんて一度もなかったから、油断してあんまり確認していなかった。
しかも聞かれた人が人だ。よりによってあの桂木なんて。
私がどれだけ人脈を広げても、こいつに関してはホントにゲームをやっていることしか情報が入ってこない。それだけでも得体の知れない奴なのに、昨日、あのAクラスの坂柳とカフェでチェスをやっていたらしい。そこにまず繋がりがあったことに驚きだ。ますます意味が分からなかった。
「聞こえるも何も、あんなバカでかい声で喋ってたら嫌でも耳に入ってくるわ」
「う、うるさい!人がいるなんて思わなかったのよ!」
てかそんなことはどうでもいい!早くこいつの口止めしないと...
「で、お前誰だっけ。見たことはあるような気もするけど」
.....は?
ちょ、え?
お前同じクラスのこの私のことを知らない!?
根暗な綾小路とかあの堀北ならともかく、この私のことを知りもしない!?そんなことがあっていいの?あんなに4月話しかけたのに!?超嫌々だったけど、この私が話しかけてあげたのに認識すらされてないなんて!
許すまじ!!
私が怒りでプルプル震えていると、桂木が急に焦ったように持っていたゲーム機を弄り始めた。なんで?
「おい、お前まさかスタンガンとか持ってないよな?急に僕に当てるのはやめろよ。百歩譲っても僕がセーブしてからだ」
「そんな物騒なもの持ってるわけないでしょ!そんな奴いるか!」
思わずまた叫ぶと、桂木は微妙な顔になっていた。え、まさかホントにいるの?そんな人。
「まあ持ってないなら良いんだよ。今度からは静かにしろよ。じゃ」
「ちょちょちょ、私の名前知りたいんじゃなかったの!?」
そのまま再びゲームをしようとする桂木を慌てて引き留めた。どうせならこの際こいつの連絡先もゲットしてやる。私が未だにクラスの中で連絡先を持っていないのは、桂木と綾小路と堀北と高円寺だけだ。まだ4人もいることに腹が立つ。
「別に興味ないからやっぱいい。僕はゲームで忙しいからほっといてくれ」
こ、こいつ...ちょっと私が下手に出れば...
「あ!にーさまここにいたんですね!探しましたよ~」
「ゲッ」
仕方がないので自己紹介しようとした時、急に声が聞こえたので、よく見ると桂木の妹だった。
「あれ、櫛田さん?どうしてにーさまと一緒にいるんですか?」
「えっ?あ、えっと、たまたま会っただけだよ~」
「ふーん、お前櫛田っていうんだな。そういえばいたな、そんな名前のやつ」
「え、にーさま同じクラスなのに知らなかったんですか!?」
.....ホントだよ。どうして知らないのよこの私を!
「どうでも良いがエルシィ、櫛田はいつもこんな感じなのか?」
...あ、ヤバい。
「え?うーんといつもこんな感じで、優しくて明るい方ですよ?そうですよね?櫛田さん!」
「え、そ、そうかな。ありがとう~」
ぎこちない笑顔を浮かべながらチラッと桂木の様子を伺うと、こっちをじっと見ていた。ホントにまずいこれは。
「...とんでもない猫被りもいたもんだっっフガッ」
こ、こいつなんてこと言うのよ!
慌てて桂木の口を塞いだ。縫ってやろうかこの口!
「フガガガ...ぷはっ。何すんだお前!死ぬかと思ったぞ!」
「あんたが失礼なこと言おうとするからでしょ!」
「どこが失礼だよ事実だろ。お前みたいなキャラの奴なんて、数えきれないぐらい見てきたわ。今さら見たところで何の驚きもないね」
「それ、まさかゲームのキャラとか言わないわよね?」
「お前こそ何言ってんだ。ゲームのキャラに決まってるだろ。リアルを同列に語るんじゃないゲームに失礼だ」
こいつホントに何なのよ!?
「あの~2人とも何してるんですか?」
あ、まずい!テンパりすぎて桂木妹がいることを完全に忘れていた。
「何でもないよ~。ねえ!桂木君!」
桂木は何も言わず、うわーみたいな目で見てくるが見てないフリをする。
「はぁ。エルシィ帰るぞ」
「え、あ、ちょっと待ってくださいにーさま~」
あ、ちょっと!まだ連絡先聞いてない!
「桂木君!」
「何だ」
「連絡先教えてよ。ほらこれ私の連絡先」
「...まあ良いが。メッセージとか大量に送るなよ。ゲームの邪魔になる」
「ははは。分かってるよ。あ、あと桂木君...」
ずいっと体を乗り出し、耳元に近付いた。
「もしこの事言ったら私...絶対許さないから。どんな手を使っても報復するよ」
「言わないよ。そもそも僕が言っても誰も信じない」
それもそうか。
桂木はそのまま、去っていった。
*
*
5月に入って約1週間がたった。あの後櫛田は何度か念を押してきたが、それも3日ほどで収まった。それに後日同じ時間帯に同じ場所でゲームをしていたが来なかったので、おそらく場所を変えてるのだろう。
さて。
そろそろ考えを整理する頃かもしれない。
まず僕はこの世界にやって来た時、ここは学園もののゲームの世界だと仮説を立てた。そして4月の1ヶ月間様子を見て、5月1日に学校のシステムの説明、つまりチュートリアルのようなものを受けた。このチュートリアルから、このゲームのクリアは『Aクラスで卒業すること』だと考えられた。一見単純そうでしかし難易度の高い条件だ。僕が所属させられたクラスはDクラス。いわゆる不良品が集まるクラスらしいが、それは小テストの点数やクラスポイントを見たら納得のいくことだ。だが、だからと言ってこのクラスがAクラスに上がることが不可能だとは僕は思っていない。まあその話は置いといて、僕には1つ疑問がある。
このゲームに
僕やエルシィはこのゲームの世界の乱入者でしかないのでは?
主人公は別にいて、物語はそいつを中心に既に進んでいるのでは?
それなら僕たちを送り込んだのは一体何故だ?ただの気まぐれか?
もしこのゲームの主人公というものが存在するならば、そいつを見つけることがこれからの最優先事項になる。その場合は主人公だと判断するのは僕の勘しか基準がない。そこはギャルゲーマーの名において、当てれると信じるしかないが.....
しかし主人公云々の話は置いておくにしても、これから僕がすべきことは...
「.....ぎ!桂木ってば!」
「...ん、ああどうした?」
「さっきから目の焦点あってなかったけど、何、ついに頭ごとゲームにトリップでもした?」
「してないわ。お前ははよ勉強しろ」
現在俺の目の前で勉強しているのは長谷部波瑠加、エルシィの友達だ。1日1時間、エルシィに30分、こいつに30分の配分で勉強を図書館で教えることになった。といっても今日の僕がやる分は終わり。いちいち分からないところの質問を受けるのもめんどくさかったので、全教科分の中間テストの予想問題を作って解かせているだけ。まあでも1ヶ月で教師の特徴は掴んだし、ほとんど出る問題はあっているだろ。試験範囲が急に変わったりしない限り大丈夫だ。
ちなみにエルシィはもう今日の分が終わったので、自由にさせている。多分性懲りもなく消防車の本でも読んでる。
「ねえ桂木、あそこ騒がしいけどなんかあったのかな?」
「え?」
長谷部が指差したのは、近くの席で同じく勉強しているグループだった。確かに何か揉めているようだ。
「あそこにいるの櫛田さんだね。あと何か言ってるのが堀北さんかな?」
「堀北?」
「え、まさか桂木、同じクラスなのに覚えてないの」
「いいだろ別に」
同じクラスだったのか...
「あと須藤君とか綾小路君とかもいるね」
聞き覚えのない名前を取り敢えず覚えていたら、須藤とやらが大声を出したのでこちらまで聞こえてきた。あーなんか状況が読めた気がする。
「長谷部、堀北って奴は頭良いのか?」
「え、うん。良いと思う。小テストも幸村くんの次によかったし」
なるほどね。状況は分かったが...あ、須藤が堀北の胸ぐら掴んだ。
「あいつらって小テストで赤点ラインだった奴らだろ?」
「うん。須藤君はクラス最下位だったね」
つまり赤点組を助けるために勉強会を開いたのに、教える側がわざわざそれをぶち壊したってことか...意味が分からん。
堀北はやるつもりはなかったが、誰かが堀北を焚き付けて無理やり勉強会を開かせたって感じか?これなら一応納得がいくな。それともただ単に須藤を煽っただけか。
その後も様子を見ていると、赤点組が去っていき、櫛田も何か言ってその場から去った。その後遅れて綾小路も堀北と何かを会話し去っていき、残ったのは堀北のみ。無駄な時間を過ごしたと言わんばかりの顔ですぐにその場で教科書を開き、勉強を始めた。
...ちょっと探っといても良いかもしれないな。
「ちょっと行ってくる。勉強しとけよ」
「え?うん」
堀北の近くに行くと、向こうも近付いてくる僕に気が付いた。
「なあ」
「何か用かしら?勉強で忙しいから手短にしてもらいたいのだけれど」
「大した用じゃない。質問があってきた」
堀北は無言で続きを促す。
「さっきやっていた勉強会を開こうと計画したのはお前か?」
「それがどうかしたのかしら」
「自分で開いた勉強会を自分で壊したのか」
「心外ね、私が壊したんじゃないわ。あの人たちが勉強から逃げたのよ。私は正論しか言ってないもの」
なるほどなるほど。そういうキャラか。
「...よく分かった。じゃさよなら」
「待ちなさい」
用は終わったので帰ろうとしたら呼び止められた。面倒事じゃないよな?
「あなただけ一方的に質問するのかしら?私も1つ聞きたいことがあるのだけど」
「何だ?」
「...あなたがゲームをすることが、どうしてクラスポイントの減点対象にならなくなったのか答えなさい。どういうカラクリか知らないけど答えてもらうわ」
その事か...まあ別に言っても全然良いんだが、変なフラグが立つのは困るな...
...
.....まあいいか。
「買ったんだよ」
「は?」
「1学期分のゲームをしてもポイントを引かれない権利を買った。それだけだ」
おおすごい。お手本のような鳩が豆鉄砲食らった顔だ。
「...いくらで?」
「10万ポイント」
「...あなたアホなの?」
失礼な。必要経費だ。
「それだけか?もう行くぞ」
「ええ」
堀北は違うな...
櫛田さんなんかキャラ崩壊してね?
ちなみに警戒して場所変えたけど、違う場所で普通に綾小路に見られた。
桂馬の主人公センサーはコ○ンの哀ちゃんの黒の組織センサーの下位互換。
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わからん奴
夜。
寝付けそうになくて、仕方なくベッドから起きて勉強することにしました。数学はやっぱり何回も解かないと、感覚を忘れそうな気がして落ち着きません。
30分ほどやった頃、喉が乾いて何か飲もうとしたのですが、丁度飲み物を切らしていたので、仕方なくロビーにある自動販売機で買うことにしました。
エレベーターで1階に降りてお茶を買って帰ろうとした時、寮の入り口付近に綾小路さんの姿を見かけました。誰かを追っているように見えます。
何となく気になったので、羽衣で透明化して私も追ってみることにしました。
寮を出て曲がってすぐの所の路地で立ち止まったので少し覗いてみると、堀北さんと眼鏡をかけた男の人がいました。遠くから見ても物々しい雰囲気が伝わってきます。
すると突然眼鏡の男の人が堀北さんの手首辺りを握りました!その瞬間綾小路さんが物陰から飛び出して眼鏡の人の手を握り、何か言いました。おそらくやめろよとか何とか言ったのでしょう。
しばらく話したと思ったら、今度は急に眼鏡の人が攻撃してきました。でもそれを綾小路さんがうまく避けています。スゴいです。
まるで映画のワンシーンのような戦闘が終わった後、眼鏡の人は帰っていきました。私は遠くから見ていただけなので、会話の内容はうまく聞き取れませんでしたが、どうやら堀北さんと眼鏡の人は兄妹のようでした。そういえばこの学校の生徒会長さんの名字は堀北だったような気がします。
そんな私の物思いをよそに2人は周りを伺いながら帰り始めました。
...すみません2人とも。盗み見てしまって。
帰りながら2人は勉強会はどうするのかとか実力がどうとかそんな話をして帰っていきました.....
「っていうことが昨日の夜あったんです!」
「ほー」
「綾小路さんとっても格好良かったです!こう...シュッシュッっと避けて、とにかくスゴかったんですよ!」
「...綾小路ねぇ」
「にーさま?」
登校中に昨日の夜のことをにーさまに話していたら、突然にーさまが考え込み始めました。私の話そんなに考え込むほどのことだったんでしょうか...?
「エルシィ、綾小路ってのは普段どんな感じのやつだ」
「え?綾小路さんですか?う~んと、殆ど話したことはないですけど、目立たなくておとなしい方です。隣の堀北さん以外あんまり教室で話しているのは見かけませんね」
「そうか」
そう言ったきり、登校中にーさまが話すことはありませんでした。何だったんでしょう...?
今日は月曜日ですので、テストまであと2週間をきっています。Dクラスでは当初の予定どおり平田さんを中心にした勉強会が開かれています。私も誘われましたが、にーさまとやるのでやむ無く断りました。私たちの他にもその勉強会に参加してない人はいますが、その多くが小テストで赤点ラインだった人たちです。心配ですが勉強が極度に苦手な方々は、基本的に勉強自体嫌いなことが殆どなので無理もない気がします。ただ今日は少し様子が違うみたいです。
昼休みが終わった後の5時間目の授業後のことです。
「エリー、あそこ何か始めるみたいね」
「え、どこですか?」
「ほら堀北さんとかのとこ。ノート広げて何かやってるよ。須藤君たちの勉強見てるんじゃないかな」
「あ、ホントですね!でもあの堀北さんが勉強教えるなんて珍しいです」
「先週も勉強会やってたしねぇ」
「え、そうなんですか?」
「ああエリーいなかったんだっけ。先週やってたんだよね。でもすぐ須藤君とかが怒っちゃって、お開きになってたんだよ」
「はえ~」
それにしては真剣な顔して皆さん勉強してるように見えますが、何か心境の変化でもあったんでしょうか...?
*
*
今日は水曜日だ。
時刻は現在昼休みの時間である。
そして僕は1人で山菜定食を食べていたはずだ。はずなのだが、何故僕の前に人が座っているのだろうか。しかもずっとこちらを凝視してくるのだが...
構わん。こういうのは無視に限る。また面倒事に巻き込まれたら嫌だ。
...
.......
..........
「だああああ!何の用だ坂柳!」
「ふふふ。やっぱりあなたは面白いですね。いえ大した用ではないんですが、1つご提案がありまして来た次第です。あなたと少し取引をしたいと思いまして」
「...何だその取引って」
「私とまたチェスをしていただきたいのです。してくだされば、勝とうが負けようがDクラスにとってもあなたにとっても耳寄りの情報を差し上げます」
またあ?どんだけ好きなんだチェスが。
しかし情報か...悪くはない。情報はいくらでもほしい。僕のゲームの邪魔にさえならなければ。
「いいぞ1回だけ付き合ってやる。いつどこでやるんだ」
「今ここでやります」
「...はあ?まさかお前持ってきたのか」
「はい。まあ簡易なものですが。それに時間も少ないので、指し時間を最初から30秒にしてやりましょう。あ、あとここに契約書もあります。言わずに逃げることもないのでご安心を」
妙に用意周到だな、オイ。
さてはこいつ僕が断らないの前提で来てたな。まあいいけどさ。無駄な手間暇をかけないのは僕好みだ。
すぐに契約書にサインをしてセカンドマッチ(簡易型)がスタートした...
約30分後
41手。有栖の勝利。
くそおおおおおおおおおおお!!!
「ふふふ。やっぱり桂木君はお強いですね。私をここまで手こずらせるとは」
こいつナチュラルに煽ってやがるな!?てかお前この前は僕に負けただろ!
勝ち逃げは許さんぞ。ゲームの神の名においても敗北は許されん!
「勝ち逃げするわけではありませんが、昼休みももうすぐ終わってしまいますし、時間がないのでここまでです。また今度やりましょう。さて肝心の情報ですが」
そうだ、そういえばそんな約束だったな。もう正直どうでもいいが。
「Dクラスのみ、テスト範囲の変更が通達されておりません。他のクラスは先週の金曜日に知らされています」
...は!?
「おい、それホントなのか」
「真偽のほどはご自分でお確かめを。では私はこれで」
.....マジか。
昼休み終了5分前。
さすがにもう次の授業の準備でいないかと思ったが、幸いなことにまだ職員室に残っていた。
「おい、茶柱」
「ん、何だ桂木か。何か用か?そろそろ昼休み終わるぞ」
「それもそうなんだが、急ぎで確認しないといけない事がある」
「何だ?」
「テスト範囲の変更伝えてないだろ。はよ変更点を教えろ」
「む.....ああそうだったな。失念していた。これが変更後の範囲だ」
そう言って手元の付箋に範囲を淀みなく書き、僕に渡した。
...白々しいな。
「じゃ、もう用はない。さよなら」
しかし僕が言わなかったら、いつ言うつもりだったのだろうか。茶柱の妙に苦々しげな表情が頭に残った。
さて、さすがにもう時間がないので、次の授業が終わった後に櫛田か平田辺りに全員に伝えさせよう.....
いやここは敢えてあいつらに直接言うか。須藤たちの性格を鑑みてもそっちの方がいいな。
授業が終わって、堀北の机に向かう。
最近あいつらは授業が終わると堀北の机の周りに集まるので好都合だ。
「おい、櫛田」
「え、桂木君?どうかしたの?」
まあそりゃ驚くか。クラス内で僕から話しかけたのはこれが初めてだ。
「さっき茶柱に確認してきたんだが、テスト範囲が変更されていた。他のクラスは先週の金曜日に知らされていたらしい。はいこれ、変更後の範囲」
「そ、それ本当なの!?」
「ちょっとかしなさい」
僕が差し出した付箋をひったくるように堀北が取った。
試験範囲を食い入るように見つめ、そして大きくため息をついた。
「これは...また練り直す必要がありそうね」
「おい、桂木!他のクラスは金曜に知らされてたってどういうことだよ!」
「僕に聞くな。茶柱がただ忘れてただけなのか、何か理由があったのかは知らないが、取り敢えず変更に合わせて勉強し直すしかないな」
「桂木君あなたのおかげで早く気付くことが出来た。感謝するわ」
まあ僕のおかげというか坂柳のおかげ...ていうか何であいつこんな敵に塩を送るようなことしたんだ?
まさかホントにただチェスがしたかっただけ?そんなアホな。
「堀北、俺明日からテストまで部活を休む。それで何とかなるか?」
須藤はしおらしくそう堀北に言った。
「...それは...」
やはり僕の読みは間違えてなかったみたいだ。
「本当に構わないの?凄く苦労することになるわ」
「須藤、本気かよ?」
「ああ。今すげえムカついてんだ。担任にも、この学校にも」
そう言って須藤が啖呵をきったことで、他の奴らも触発され、やる気が出たようだ。めでたしめでたし。
しかし1つ気になるのは...今まで一言も喋っていない綾小路がこちらに視線を向けていることだが...まあいいや。いちいち気にしてもいられん。 こっちもこっちでエルシィ達用のテスト模擬問題の作り直しだ。面倒だな...
「じゃあ僕はこれで」
そう言ってそそくさと立ち去り自分の席につく。またやることができたな...
「桂木」
「ん?」
声をかけてきたのは綾小路だった。
「テストの範囲が変わっていること、どうやって知ったんだ?」
「ああそれはたまたまだ。他のクラスの知り合いから聞いた。僕が気付かないでも直に誰か気付いていたさ」
「そうか」
「それだけか?」
「ああ」
そう言って綾小路も自分の席ヘ去っていった。
その後櫛田からクラス全員に試験範囲の変更が伝えられ、クラス中が騒然となったのは言うまでもない。
それにしても綾小路か...
わからん奴だ
次話かその次で1巻内容終わります。
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明後日、よう実五巻発売ですね!皆さん買いましょう!
うちのDクラスの担任である茶柱という教師は、妙に会話の節々に含みを持たせる気がある。というかもう癖だ、あれは。
僕が例の権利を買ったときとか、範囲の変更箇所を聞いたときなど、うざいくらい含みを持たせていた。
それは1対1の時だけではなく、教壇上でも同じであり、あの5月1日のチュートリアルでも一緒だった。
そしてあの時茶柱は妙なことを口走っていた。
僕が考えるに、Dクラスの奴らが各々自力で、つまり他の奴の手助けなしでテストを受けた場合、少なくとも3人は赤点で退学するだろうと見積もっていた。客観的に見ただけの僕でもそう感じるのだから、もちろん茶柱にも当然わかっていたはずなのだ。
が、茶柱はあの時、全員が赤点を回避する方法は『必ずあると確信している』と宣った。後から考えると妙なことを言っているのだ。
そこまで考えられればあとは簡単だ。あの小テストの最後の不自然な問題はこの中間テストの布石だったということ。
つまりどうにかして中間テストの赤点を『確実』に回避する方法があるんだろう。確率が高いのは過去問が丸々同じとかだろうか。
だが確証もないのに、テストなんかのためにポイントを散財するほど僕には余裕がない。そんなポイントがあったらゲームに使う。
ということで過去問作戦は諦める。というか過去問貰おうとか誰か思い付きそうでもあるけどな。まあDクラスの連中は総じてポイント不足だから入手できない奴がほとんどか。
ということで、結局エルシィ達の中間テスト予想問題は作り直さなければならない。
正直面倒だし、ゲームしたいが約束してしまったので仕方がない。
まあさすがに丸っと同じとまではいかないが、範囲、傾向、教師の性格、他諸々分かっているので大体は当てられるだろう。中間テストに関しては大丈夫だな。
それとあとは...
あいつの動向も見とかないとな。
*
*
中間テストまで1週間を切った。
俺達赤点救済組は、何としてでも赤点を回避するべく、毎日勉強に励んできた。
途中試験範囲の変更が伝え遅れるなどハプニングがあったものの、逆にそれが須藤達のやる気をより引き出したこともあり、勉強は順調に進んでいると言っても過言ではないだろう。
だが、それでも危ないことは危ない。
そもそもスタートのレベルが、連立方程式が分からないだ。この1週間確かに頑張ってきたが不安の種は取り除いておくに限る。
昼休みになって、俺はある目的のためにそそくさとDクラスから出て、食堂に行く。
「どこ行くのっ?」
そんな俺を見て櫛田が後をつけてきた。
「昼だし飯食おうと思って」
「じゃあ私もご一緒していいかな?」
「別に、それはいいけど。櫛田なら相手はいくらでもいるだろ」
「一緒に食べる友達はたくさんいるけど綾小路君は1人だから。それにいつもは堀北さんに声をかけていくのに急に1人で出ていくからどうしたのかなーってね。気になっちゃった」
相変わらずというかさすがだな。よく周りを観察している。
しかし困ったな。人がいるとやり辛い。
まあでも櫛田の秘密を俺は偶然知ってしまった。迂闊なことはしないだろう。他言しないように念を押して、一緒に食堂に行くことにした。
食堂はいつも通り盛況で、食券の券売機も人がたくさん並んでいた。
俺と櫛田はその列に並んで食券を買い、
席に着く...ことはなく、そのままメニューを選んでいる人達の観察を開始した。
「何してるの?」
突如観察を始めた俺に、不思議そうに尋ねる櫛田。
「これが俺の気になっていたことへの、答えに繋がる可能性がある」
そう言って俺は、たった今山菜定食を受け取った先輩に目を付け、正面の席に腰をおろした。櫛田は隣の席に座っている。
「あの...すみません、先輩ですよね?」
「え?何だお前」
「2年ですか?3年ですか?」
「3年だけど、お前1年だよな?」
「Dクラスの綾小路って言います。多分先輩もDですよね?」
「そうだがお前に関係のあることか?」
隣で櫛田が驚いているのがわかった。
この人が食べているのは山菜定食。ポイントに余裕があるのに美味しくもない山菜定食を進んで食べる人などよっぽどの物好きしかいないだろう。
「少し相談があるんです。聞いて頂けたら、お礼もするつもりです」
「.....礼?」
周囲は喧騒に包まれていて、俺たちの声は小さくてよく聞こえないだろう。近くの生徒も談笑に夢中のようだ。
周りに聞き耳を立てている人もいないだろうし。先輩のとなりの席は空席だしな。
「1年生の1学期の中間テストの問題を持っていませんか?もし先輩かクラスメイトに過去問を持っている人がいればそれを譲って貰いたいんです」
「お前、自分が何を言ってるか分かってるのか?」
「別に不自然なことじゃないでしょう。学校のルールには抵触しないはずです」
「何で俺なんかにそんな話を持ってきた」
「簡単なことです。ポイント不足に困っている人なら相談にのってくれる確率が高いと思ったからです。現に先輩は美味しくもない山菜定食を食べていますし。好きで食べてるなら別ですが」
そう言うと先輩は諦めたようにこちらに目を向けた。
そこからはトントン拍子だった。先輩とポイントの交渉をし、15000ポイントで過去問を譲って貰うことになった。念のため小テストの過去問もお願いしたときの先輩の反応を見て、これは有益な方法だと半ば確信した。
「ね、ねえ綾小路君...今の.....そんなことして大丈夫なの?」
「大丈夫だろ。ポイントのやり取りは校則に反しない。過去問もダメならダメと言われるはずだからな」
「そうだ。だから問題な.....ん、桂木?お前いたのか?」
櫛田からの疑問に答えようとしたら目の前の席、正確にはさっきまで先輩が座っていた席の隣に桂木が座っていた。手元にはいつも通りゲームを持っている。
しかしおかしい。俺は周りに人がいないか細心の注意を払っていたはずだ。誰かが近くに寄ってきたらさすがに気付くはずなのだが.....
「ちょっと前から座ってた。それよりその過去問作戦、思いついたのは綾小路か?」
この質問...まだ誤魔化せるか。
「いや櫛田が思い付いたのを俺が実行しただけだ。なあ櫛田」
「え?あ、うん...そうだね。私が綾小路君にお願いしたの」
櫛田がどう言うこと?と言わんばかりの目でこちらを見てきたが、ここはしょうがないので話を合わせて貰う。
「そうか。その過去問、クラスの奴らに配るのか?」
「うん。そのつもりだよ。過去問があれば皆助かるだろうしね」
ピロン♪
メールが来たな。思ったより早い。ちゃんと小テストの問題も添付されている。
.....どうやらパッと見同じ問題のようだ。やはり予想は当たっていた。
「それ、例の過去問か?」
「ああ。今送られてきた。確認したが、小テストの内容が丸々同じだ」
「...小テスト」
桂木が小テストというワードに反応した。やはりこの男、気付いていたか...
「櫛田が小テストの問題も添付するように言ったのか?」
「そうだ。俺も最初は意味が分からなかったんだが、どうやら小テストの問題も例年同じ可能性が高かったみたいでな。念のため添付して貰った」
櫛田は話の流れに付いていけてないだろう。だが、こいつに俺が立案したことがバレると、後々面倒なことになりそうな気がする。
.....もう手遅れのような気もするが。さっきからずっとこっちを見てくる。
「その過去問、配るのは前日にしておいた方がいいな」
「え、どうして?」
「ああ、それは俺もそう思う。下手に配って慢心して、全然やってない状況になるのが一番危険だ。前日の方がいいだろう」
「た、確かに」
「それじゃ僕はこれで」
「あ、うん。またね、桂木君!」
桂木はそのまま去っていった。相変わらずとことんマイペースな奴だ。
しかし桂木か.....あいつは高円寺と並ぶ不確定要素だな。
「じゃ、綾小路君」
「ん?」
「説明して貰うよ?さっきの話の内容を」
表情は笑っているが、目の奥が笑っていない。
この後昼休みが終わるまで、櫛田に話の概要を延々と説明した。
*
*
ついに中間テスト前日になりました!
皆さんそわそわしていて、朝から落ち着かない様子です。
私ももちろん緊張していますが、隣の席のにーさまはいつも通りゲームをしています。この自信?胆力?が羨ましいです。
しかしこの前のにーさまはヘンでした。
突然昼休みに付いてくるように言ったかと思えば、いつもの食堂に行き、透明化して綾小路さんと櫛田さんと、どなたか分からない先輩の会話を盗み聞きするようなことをして。しかも結局透明化をといて、綾小路さん達と少し会話したらさっさと帰っていきました。私も側にいましたけど過去問がどうとか言っていた気がします。いったい何だったんでしょう?ダメですよ!盗み聞きなんかしちゃ!.....あれ?
そんなことをHRが終わるまで考えていたらあっという間に放課後になっていました。早すぎます!
「皆ごめんね。ちょっと私の話を聞いてくれるかな?」
帰る準備をしていると、教壇の前に櫛田さんが立っていて、クラスの皆さんに呼び掛けています。どうしたんでしょう?
「明日の中間テストに備えて、今日までたくさん勉強してきたと思う。そのことで、少し力になれることがあるの。今からプリントを配るね」
櫛田さんが、列の一番前の人にプリントを配っていきます。届いたプリントを見ると、何かのテスト問題のようです。
「実はこれ、過去問なんだ。昨日の夜、3年の先輩から貰ったの」
過去問?そういえば最近過去問ってどこかで聞いたような.....
あ!!
何か引っ掛かると思ったら、そういえば例の昼休みににーさまと櫛田さん達が話してました!
「にーさま達がこの前の昼休みに話してたことですか!?」
「そうだけど、周りに言うなよ。面倒なことになる」
「あ、はい分かりました~」
「実は一昨年の中間テスト、これとほぼ同じ問題だったんだって。だからこれを勉強しておけば、きっと本番で役に立つと思うの」
それを聞いて、クラスの皆さんは歓声をあげました。
特に池さんや山内さんなどの喜ぶ姿が、なんというかすごいです。
あれ?というか今気付きましたけど、この過去問の問題、にーさまが作ってくれた問題とほとんど変わりませんね。やっぱりにーさまはさすがです。
どうやら波瑠加さんも気付いたみたいで、こちらを驚いたように見つめています。
「にーさま、問題ほとんど同じですね」
「ああ。初回の中間テストにしては当たった方だな。でも必ず同じ保証はないから、ちゃんと今夜も勉強しとけよ」
「はーい」
ついに明日は本番です!!!
原作と被る部分が多いのでつまらなかったら申し訳ないです。
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僕はゲーム至上主義
1巻の内容終わらせたら、いつもより文字数増えちゃいました。
「おはようございます。にーさま!」
「おお、おはよ。今日はまた一段と元気だな」
「はい!昨日の夜、必死に暗記しました!もう満点取っちゃいますよ!」
「威勢がいいのは良いが、油断して変なミスするなよ」
「分かってます!今日の私には隙はありません!」
「...そうか。まあ赤点取らなければ何でも良いさ。取り敢えずな」
ついに中間テスト当日になりました。こんなに頑張ったんですから、やっぱり赤点の回避だけじゃなく、良い点数を取りたいところです。
昨日櫛田さんがクラスの皆さんに配った過去問とどれくらい同じなのか分かりませんが、そこはもうお祈りするしかありません。あとは頑張るだけです。
にーさまと話しながら登校していると、あっという間に学校につきました。既にほとんどの人が席に着いていて、皆さん勉強しています。いつもは話しかけてくる波瑠加さんも、今日ばかりは自分の席で最後の確認をしているみたいです。
私も自分の席でプリントを眺めていると、暫くして茶柱先生が教室に入ってきました。
「欠席者はなし。ちゃんと全員揃っているみたいだな」
茶柱先生は不敵な笑みを浮かべています。
「桂木ー、ゲームしまえ。もうテストだ」
にーさまは一瞬嫌そうな顔をしましたが、無言でゲームをしまいました。珍しく素直です。
「お前ら落ちこぼれにとって最初の関門がやってきたわけだが、何か質問は?」
「僕たちはこの数週間、真面目に勉強に取り組んで来ました。このクラスで赤点を取る人はいないと思いますよ」
「随分な自信だな平田」
そう言うと先生はプリントを配り始めました。1限目は社会です。ほとんどが暗記なので5教科の中では比較的楽な方の科目です。
「もし今回の中間テスト、そして7月に実施される期末テストの2つで誰1人赤点を取らなければ、お前ら全員夏のバカンスに連れてってやる」
「バカンス、ですか」
「そうだ。そうだなぁ...青い海にかこまれた島で夢のような生活を送らせてやろう」
それを聞いてクラスの皆さんが一斉に雄叫びをあげました。声をあげている人は全員が男子のようです。よっぽど嬉しかったんですね。あ、でもにーさまはあげてません。ゲームに水がつくから海とか嫌いですもんね、にーさま。
その後教室が落ち着きを取り戻し、プリントが全員に渡ると、中間テストが遂に始まりました。
プリントをめくって問題を眺めると、見覚えのある問題がずらっと並んでいます。どうやら過去問とほとんどが同じ問題みたいです。それに、にーさまが作った問題ともです。
私は危なげなく、空欄を埋めていくことができました。
今までで1番良い点数が期待できそうです。何せ答えが分かるのですから、獄語で書かれてなくても答えを書くことができるからです。
その後、2時間目国語、3時間目理科と滞りなく試験は進み、4時間目の数学も私は高得点を期待できそうな感触に胸を踊らせていました。隣のにーさまは試験が始まって15分程経過すると毎時間ペンを置き、つまらなそうに頬杖ついてぼーっとしています。にーさまからしたらこの中間テストもただのイベントなんでしょうか。
4時間目の数学が終わり、残すところ英語だけとなりました。
「楽勝だな、中間テストなんて!」
「俺120点取っちゃうかも」
近くでは、池さんや山内さんがはしゃいでいます。
ただ、よく見てみると須藤さんだけ、自分の席でプリントとにらめっこしています。どうしたんでしょう?
「須藤はどうだった?」
「...ん、ああわりぃ。ちょっと今忙しい」
遠くから見ていても分かるほど焦っているみたいです。まさか須藤さん、過去問やってないんでしょうか?
「英語以外はやった。寝落ちしたんだよ」
「「ええっ!」」
思わず私も声に出してしまいました。大丈夫でしょうか?私も動揺してしまったみたいで、過去問が頭に入ってきません。
「にーさま、須藤さん過去問見てないみたいです。大丈夫でしょうか?」
思わずにーさまに話しかけてしまいました。ちらりと再度須藤さん達の様子を伺うと、堀北さんが主導で暗記の手助けをしているみたいです。
「.....エルシィ、すぐに櫛田をここに連れてきてくれ。あと10分弱しか休み時間がない」
「え、どうしたんですか急に」
「須藤を助けたいんだろ?だったら早くしろ、もう時間がないぞ」
「え、え、わ、わかりました~」
「桂木君、私に用ってどうしたのかな?」
にーさまに言われて、私は急いで櫛田さんを連れてきました。
「櫛田、時間がないから単刀直入に言うが、もしお前が須藤を助けたいのならやってほしい事がある」
「勿論私に出来ることなら何でもするけど、何をしたらいいのかな?」
「次の英語のテスト、60点以上取るな。それに今から言う奴にもそうするように頼んでくれ。まず平田...」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って、60点以上取るな?どういうこと?」
「須藤を確実に助けるならこれしかもう方法はない。時間がないから有無をいわずに早よ行け」
「.....終わったらちゃんと説明してくれるよね?」
「ああ。テストの結果が出たら教える」
「分かった。それで、他は誰に?」
「まず平田、次に王、最後に幸村だ。この順番でいけ。幸村は断られる可能性が高い。無理強いする必要はないから、無理そうだったらすぐに諦めろ。そもそも理由を言わずに頼む時点で無理がある話だからな」
にーさまが言い終わるやいなや、櫛田さんはそのまま何も聞かずに平田さんのところへ行きました。
「にーさま、これで須藤さんは大丈夫なんですよね?」
「.....これで無理なら諦めるしかないな.....僕は」
僕は?何か意味深な呟きをした後、にーさまは自分の席に戻って行きました。色々と心配ですが、私にできることはもう、英語のテストでへまをしないことだけです。
さあラスト、頑張るぞ!!
教室に足を踏み入れた茶柱先生は、驚いた様にクラスを見回しました。クラスの全員が神妙な面持ちで待っていたからでしょう。あ、全員ではないですね。隣では例の如くゲームをしている人がいますので。
「先生、本日採点結果が発表されると伺っていますが、それはいつですか?」
「お前はそこまで気負う必要もないだろう平田。あれくらいのテストは余裕のはずだ」
「.....いつなんですか」
「喜べ、今からだ」
茶柱先生そう言うと、黒板に紙を張り付け始めました。
私の気のせいでしょうか?少し茶柱先生の表情が、不機嫌というか.....
「正直感心している。お前達がこんな高得点を取れると思わなかったぞ。満点が10人以上もいた」
張り付けられた紙を皆さんが食い入るように見つめます。そしてすぐに歓声が上がり始めました。
須藤さんは無事に赤点を回避した様で、一際大きな声を上げています。私も無事、赤点を回避しているようです。ほっとしました.....
英語の結果を見てみると、にーさまの言っていた通り、平田さん、櫛田さん、みーちゃん、そして幸村さんまでも軒並み60点を下回る点を取っています。櫛田さんの頼みが通ったんですね。あれ?よく見たら堀北さんも英語だけ51点と、低いですね。勿論他教科は皆さんほとんど高得点を取っています。ちなみににーさまも、英語以外は満点で、英語のみ50点です。
「今回の中間テスト、赤点の者はいなかった。全員よくやった。次の期末テストもこの調子で精進するように」
茶柱先生はあんまり感情の籠っていない声で私たちを激励しました。
「ちなみに、須藤」
「な、なんだよ」
「お前の英語はあと2点低ければ赤点だった。そのことを胸に刻んで次の期末テストに挑むんだな」
須藤さんの英語の点数は39点ですので、赤点は37点以下ということですね。あれ?でも小テストの時は32点だったような.....
「先生、あと2点とはどういうことでしょうか。赤点は32点では?」
平田さんが代表して質問しました。
「それは前回の小テストの赤点だ。誰が赤点は毎回32点だと言った」
「ど、どういうことですか」
「.....私はお前は気付いているものだと思ったんだがな。英語だけここまで点数が低いからな」
その瞬間、平田さんは何かに気付いたのか櫛田さんの方に顔を向けました。
そしてそれを見て櫛田さんがにーさまの方を見つめましたが、当の本人は素知らぬ顔でゲームをしています。
「赤点の基準が知りたい者はそこら辺の気付いてそうな者に聞くといい。これでHRを終わる」
茶柱先生はそう言って教室の出口に手を掛けました。
「.....それと、この後綾小路と桂木は職員室に来い」
そう言い残し、教室を出ていきました。
茶柱先生が出ていった後、すぐににーさまと綾小路さんは職員室に向かいました。
クラスは、先程の赤点の謎で騒がしいです。
「平田くんー、赤点が37点ってどういうことなの?それに英語だけ低くしたのは何で?よく見たら他にもおかしい人いるし」
軽井沢さんが、皆さんの疑問を代表して聞きました。
「軽井沢さん、それは多分櫛田さんに聞いたら分かると思う。僕に英語で低い点数を取るように言ったのは彼女だからね。櫛田さん、良かったら教えてくれないかな」
それを聞いて皆さん一斉に櫛田さんの方を向きました。
「...ごめんね。実は私も分からないんだ。私は桂木君に頼まれてお願いしただけだから」
「桂木君が?」
「うん。でも...多分堀北さんなら分かると思うな」
今度は堀北さんの方に視線が動きます。
「どうしてそう思ったのかしら」
「私は堀北さんに低い点数を取るようにお願いしてないけど、堀北さんも英語の点数だけ低いから」
「そうね.....この学校の赤点の基準は平均点の半分で設定されているのよ。つまり前の小テストの平均点が約64点で赤点が32点、今回の英語の平均点が約74点で赤点が37点といったところかしら」
「そうか。つまり元々点数が高い人が低い点を取れば平均点が大幅に下がって、赤点ラインも下がるということか!」
「そうよ。つまり、須藤くん」
「な、なんだよ」
「あなたは本来赤点だった。あなたの点数を見るに、私1人が点数を下げても結果は変わらなかった。おそらく桂木君が動かなければ、退学になっていたということよ」
「.....俺は堀北と桂木に守られたってことかよ」
堀北さんの言葉に須藤さんは表情を固くしました。退学がすぐそこまで来ていたということを、身に染みて感じたのでしょう。
「なんで...お前俺のこと、嫌いだって言ってただろ。それに桂木は...何考えてんのか分かんねえ」
「私は私のために行動しただけよ。勘違いしないで。桂木君に関しては私もよく分からないけど」
にーさまの行動は基本的にゲームが中心なので.....
それにしてももうすぐ授業が始まりますけど、にーさまと綾小路さんは何の話をしているのでしょうか.....
*
*
「..........」
お互いに無言のまま、僕と綾小路は職員室に向かっている。話があるなら放課後でも良かっただろうに。何故今なんだ。
しばらく無言で歩いていると、職員室につく前に既に廊下で茶柱が待っているのが見えた。
「来たか」
「一体何の用ですか」
「すぐに終わるさ。桂木、英語のテストの点数を操作したのはお前だろ」
無言で頷く。その質問に何の意味がある?
「今回のテストでお前ら2人がやったこと、過去問の入手と平均点を下げるというのは、中間テストの攻略法として正解だ。ただ、最後に詰めを誤ったな。テストの平均点を下げたことで、入手できるクラスポイントも少しではあるが低下した。最後に暗記を徹底させておけば、防げただろう」
「過去問を入手したのは俺じゃないですよ。櫛田です」
綾小路がとぼけた。それは無理があるぞ多分。
「お前が表立って騒ぎたくない理由は察するが、上級生には上級生の課題がある。お前が3年生に接触していたことも、残念ながら把握済みだ」
どうやらこちらの行動は結構筒抜けのようだ。
「それで、この会話には一体何の意味が?もうすぐ授業が始まるんですが」
「そうだな...まあいい。私は今非常に楽しみだぞ。お前ら2人、それに堀北がいれば、あるいは。本当に上のクラスに上がれるかもしれないな」
そう言って、茶柱は職員室に去っていった。何がしたかったんだホントに。
「.....戻るか」
「ああ」
結局何故呼ばれたのか謎のまま、僕たちは教室に戻ることにした。しかし、こいつと2人だけなのは都合がいい。言っておきたいこともあるし。
「綾小路」
「なんだ?」
「お前が能力を隠す理由に興味はないけど、隠れ蓑に僕を使うのはやめてくれよ。僕だって目立ちたくない。僕はゲームが出来ればそれでいいんだ」
「.....ああ」
「ちなみに知ってると思うが、僕は堀北に点を下げるように頼んでない。あいつは自分の判断で点数を下げてる。隠れ蓑にするならあいつにしろよ。やりようによってはあいつも化けるかもしれないぞ」
「そうだな」
やはり読めない。こいつはやっぱり表情が全く変わらない。
その後会話らしい会話はなく、そのまま教室まで戻った。
*
*
「にーさま、茶柱先生と何話してたんですか?」
「他愛もない世間話」
「も~何でごまかすんですか~」
「ホントに語るほどの話はしてないんだよ」
あの後帰ってきたにーさまは、須藤さんにお礼を言われましたが、それを適当に流して、いつも通りゲームに没頭しています。
「桂木!」
「ん?」
「今日綾小路の部屋で打ち上げするんだけど、お前も来ないか?」
声をかけてきたのは池さんでした。隣に綾小路さんと櫛田さんもいます。
「悪いけど...」
にーさま、やっぱり断るんですか。
「桂木君」
「なんだ」
「試験終わったら全部説明してくれるって言ったよね?」
「いや、それはもう堀北が説明したって...」
珍しくにーさまが押されてます。それに何だか櫛田さんの顔が怖いです。
「桂木」
「何だ綾小路」
「ゲームソフト1本奢る」
「分かった行く」
....ということで、打ち上げに参加することになりました。
「一体どこなの.....ここ」
ということで1巻内容終わりました。
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邂逅
感想、評価ありがとうございます。
「はぁぁぁぁ」
あぁ、また口から幸せが逃げていってしまった。一体今日何回目だろうか。
こんな訳の分からない状況になってから、私の頭は未だ混乱したままだ。
「どうしたの、ため息なんかついちゃって。気分悪い?」
私に話しかけてきたのは、星の宮先生と言うらしい。そして私の担任となる予定で、私は1年のBクラスに所属する...らしい。
さっきから『らしい』ばっかりなのは、私がそれくらい混乱している証拠。
「あ、すいません。ちょっと...思いだし憂鬱です」
「そう?まあ大丈夫ならいいの。もうすぐ着くよ」
「はい」
あいつも未だ見つけられてないし、これからどうしよう.....
取り敢えず落ち込んでばかりもいられないし、しゃきっとしないと。
「さっき説明したこの学校のシステムのことだけど、分からないことがあったらクラスの皆に遠慮なく聞いてね。私のクラスの子達、皆いい子だから~」
「はい。でも大丈夫です。大体理解してます」
理解はした。したけど...何で私Bクラスなんだろう。私はいつも1番だったのに。駆け魂狩りを始めてから上手く行かないことばかりだ。これもため息の原因だったりする。
「着いたよ~」
気が付いたら目の前に扉があった。上には1-Bと書かれたプレートがある。
『どんな子かな!?』
『そもそも男か女かも分かんないんだよね』
あー話してる話してる。まずいな~緊張してきた。
「ここで待っててね」
そう言って星の宮先生は教室に入っていった。
『はいはい、ちゅうも~く。今日から転入生がこのクラスに入るよ~』
『先生、どんな子ですか!?』
『ん~まあそれは、見てからのお楽しみかな』
扉の向こうでお気楽な会話が繰り広げられている。何で私こんなに緊張してるんだろう?やっぱり状況を飲み込めてないからかな...
『じゃ、もう入ってきていいよ~』
お呼ばれみたいね。ふーっと深呼吸して...
さて、行きますか。
.....ガラガラガラ
扉を開けると自分を見つめる顔顔顔。
ざっと教室中を見渡すが、やはりあいつはいなかった。どこにいんのよ全く...
「それじゃ自己紹介よろしくね」
「はい」
取り敢えず探すのは、この転入生イベントが終わってからね。って、イベントって...私もあいつに毒されてるわね。
「今日からこのBクラスでお世話になります。ハクア·ド·ロット·ヘルミニウムです。よろしくお願いします」
お辞儀、完璧。
「じゃあヘルミニウムさんは、あそこの空いてる席ね」
先生が指差したのは窓側の1番後ろの席だった。席に着いて一息。そしてさりげなく隣の人を見てみると...何この子スッゴい可愛いんだけど。それに胸もおっきい...何か腹立ってきた。
「.....?」
私がじっと見つめていると、視線に気付いたのかこちらを向いてきたので、あわてて体を前に向き直した。
「じゃあこれでHRを終わりま~す。あ、あんまり転入生質問責めにしちゃダメだぞ~」
そう言って星の宮先生は教室を出ていった。
さてこれからどうしようかな...
「ねえねえ。ハクア·ド·ロット·ヘルミニウムさんだったっけ?私、一之瀬帆波。よろしくね」
話しかけてきたのは隣の席のめっちゃ可愛い子。一之瀬さんと言うらしい。
「こちらこそよろしく。長いからハクアでいいよ」
「おー、りょーかい。それにしても1年生のこの時期に転校なんて珍しいね」
「ま、まあそうね。色々と事情があって.....」
「そっかあ。もうこの学校のことについての説明はされてるの?」
「うん。まあある程度は。クラスポイントでクラスが変動することとか、プライベートポイントがそのまま所持金になることぐらいかな」
地獄では、一人一人に優劣をつけることはあっても、クラスとか集団で優劣をつけることはなかったな。
「ちなみに今のBクラスのクラスポイントは660ポイントなんだけど、何か他のクラスでトラブルがあったみたいでまだ支給されてないんだよね」
トラブル?何か事件でもあったのかな。
「上がってそう?」
「どうかなー?皆中間テスト頑張ったし、上がっててほしいけどね。にゃははは」
元気だなーこの子。
「そういえばもう日用品とか買ってるの?」
「いやまだだけど...」
「じゃあ今日の放課後一緒に買い出ししようよ。けやきモールってところなんだけど、大体何でも買えるよ」
「え、あ、それは凄く助かる。ありがと」
正直右も左も分からない状態なので、ありがたい申し出だった。
「帆波ちゃん、放課後けやきモール行くの?」
「あ、千尋ちゃん」
突然後ろから覗いてきたのは、千尋と呼ばれた女の子だった。ショートヘアでこちらも可愛い。
「ハクアちゃんの買い出しに付き合おうと思って」
「それじゃ私も一緒に行っていいかな?ハクアさんとも仲良くなりたいし」
「あ、うんいいよ。千尋さん?だっけ?」
「あ、ごめん自己紹介してなかったね。私は白波千尋だよ。よろしくね」
「こちらこそよろしく」
何だろうこの人たち。コミュニケーション能力が半端なく高い気がする。私が低いわけじゃないよね...
「それじゃ放課後はけやきモールにレッツゴーだね!」
「あ、一之瀬さん1つ聞きたいというか、質問があって...」
「お、なになに?何でも聞いて」
「この学校に桂木って奴いる?」
*
*
昨日は7月1日だった。
つまり月の初めということで、ポイントがプラスに転じていればゲームを買うポイントも、少なからず入っていた筈だった。そして実際、昨日の発表でDクラスのポイントは85ポイント。つまり8500ポイント入る...ことはなかった。
「にーさま、どうして須藤さんを助けてあげないんですか~?」
「知るか。これ以上僕に面倒事を持ってくるなゲームをさせろ!」
「えぇ~」
そう。須藤のアホがCクラスとトラブルを起こし、そのせいでポイントの支給が見送られているのだ。
それに聞いた感じの現場の状況を考えると、まともに闘っても勝てないなあれは。
「でもこのままだと須藤さん停学になってしまいますし、クラスのポイントも減ってしまうかもしれませんよ?」
「あのなぁ。もしここで僕が須藤を助けたとするぞ。そしたらあいつはどうなる?」
「え、それは...喜びますよね?」
「それはそうだが、そういうことじゃない。あいつの様子を見るに、あいつは自分が無罪なのは当たり前で、ただの被害者だと本気で思ってる。もしここで無罪を勝ち取ったとしても、またトラブルを必ず起こす。その度に火消しに動くなんて僕は御免だぞ」
櫛田とか平田とかは庇うつもりみたいだったがな。平田は知らんが、櫛田はいつまであの気持ち悪い仮面つけとく気だ?
「じゃあにーさまは何もしないんですか~?」
「僕はしない。ただ櫛田とかが無罪のために動くならそれはそれでいいさ。ポイントが減らないに越したことはない」
それに...あいつが動くならまあ停学はないだろ。
コツコツコツ...
杖の音が聞こえる。
「こんにちは桂木君。久しぶりですね」
「.....坂柳か」
案の定目の前に現れたのは坂柳と...知らない取り巻き2人。
「つれないですね。そんな邪険にしなくてもいいじゃないですか。おやそちらは彼女さんですか?」
「妹だ」
知ってて言ってるだろお前。あとエルシィ、それくらいで慌てふためくな。
「ふふふ。冗談です」
「はあ。それで、従者2人も連れて何の用だ?水戸○門ごっこか?」
「違いますよ。この2人は助さん格さんではないです。橋本君と鬼頭君です」
橋本と呼ばれた奴はチャラそうな見た目をした男、鬼頭と呼ばれた奴はいかつい男だった。
「これからお暇ですか?パレットでまた一戦どうかと思いまして」
またチェスかよ。どんだけ好きなんだ。
「また何か賭けるのか」
「いえそのようなつもりではありませんでしたが...今1勝1敗ですから。決着つけておきたくありませんか?」
決着ねえ。
「にーさまいつの間にチェスなんてしてたんですか?」
「ん、あぁそういえば、2回ともお前いなかったな」
「1勝1敗ってことはにーさま1回負けたんですか。強いんですねあの方」
感心したようにエルシィがしきりに頷く。
...何か癪だな。
「いいぞ付き合ってやる」
「それはよかったです。それでは早速向かいましょう。橋本君、鬼頭君、今日はここまでで大丈夫です。ではまた明日」
あいつら一言もしゃべらなかったな。
エルシィを帰らせてもよかったが、見たいと言って聞かないので仕方がなく連れていくことにした。
パレットに着くといつもより生徒の数が多い。月初めだからかポイントに余裕のある奴が増えたのか。
目の前の坂柳は嬉しそうに駒を並べている。そして僕の隣で物珍しそうにチェス盤を眺めているエルシィ。
「楽しそうだな」
「ええ。桂木君とチェスするのはとても楽しいです。本気を出しても負けるかもしれない相手と闘うのはとっても刺激的ですから」
さいで。
「では早速始めましょう」
ということで坂柳との第3Rが始まった。
「そういえば」
始まって10分程経って、急に坂柳が口を開いた。ちなみに現在戦局は五分五分だ。エルシィは未だ僕の隣で盤を眺めている。
「今日Bクラスに転入生が来たのをご存知ですか?」
「いや初耳だ」
この時期に転入生?珍しいな。
「その転入生が今日の昼休みに、急にAクラスにやってきたんです」
「それで?」
「扉を開けると同時に『カツラギいる!?』と言って入ってきたんですよ」
「はあ?」
「実はAクラスにはあなたと違う漢字のカツラギ君がいるのです。葛城康平君と言います。突然の来訪でしたので皆さんびっくりしていましたし、葛城君も虚をつかれた顔をしていました。ですが、どうやら人違いだったみたいで、転入生は謝りながらすぐに去っていきました」
そもそも何で来たばかりの転入生が人を探してるんだ?
「この学年には私の知る限り、カツラギという名の生徒は葛城康平君とあなた。そしてそちらの妹さんしかいません。もしかしたらあなた方2人のどちらかだったのでは?」
「そんなわけないだろ。転入生がどうして僕に用が...」
まさか.....いやでもさすがにそんなわけ...
「おや、何か心当たりが?」
「いや。さすがにあり得ない.....エルシィ心当たりあるか?」
「え!?わ、私ですか?いえ、全然ないです...」
まあそりゃそうだ。あったら逆に怖い。
「一之瀬さん、白波さん、今日はありがと」
「いやいやこちらこそー。楽しかったよハクアちゃん」
..........
「おや桂木君。その手は悪手では?」
待て、それどころじゃない。
「.....エルシィ、今の聞こえたか?」
「は、はい。いやでもそんなまさか.....」
おそるおそる後ろを振り返るとそこには.....
「ハクアぁぁぁぁぁぁぁ!!??」
実は作者はハクアが1番好きです。ハクア結婚してくれ。
確かにポンコツのイメージがあるが、基本スペックは結構高いハクアさんはBクラス入り。
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人脈は大事。リアルでもゲームでも
半年間全く音沙汰なかったのにお気に入りが減ってないことに驚愕していました。ありがとうございます。
いろいろと理由があるんですが、まあ投稿がなかった期間でお察し頂ければ...
これからはできるだけ感想も返せるようにしていこうと思います。
またぼちぼち投稿していくのでよろしくお願いします。
「それで?一体どういうことなのこれは」
「それは情報交換してから説明するよ」
そう言うと、目の前にいる悪魔は溜め息をついた。見る限り顔が疲れてるな。まあ当たり前か。
今僕たちがいるのはエルシィの部屋だ。坂柳とのチェスはしょうがないので途中で中断。そのままハクアの手を引いてパレットから連れ出し、今に至る。
「まあ、ある程度予想はつくが...ハクアもあのボタン押したんだろ?」
「やっぱり...そうねまあそうなんだけど、押したというか踏んだって感じね...」
「なるほど。あのまま床に落ちてたからか...しかし母さんまで踏んだりしたら面倒だぞ」
ていうかその場合どうなるんだ?まさか若返ってそのまま入学とかないだろうな?
「それは大丈夫だと思う」
「え、何で?」
「私が踏んだとき、すぐボタンが光りだしたんだけど、その時に『ご利用ありがとうございました~』って聞こえたから」
ん?
「...ちょっと待て、ということは最初から3人用だったってことか?」
「そうなんじゃない?てか私は知らないわよ。何なのよあの変なボタン」
...おっしゃる通りで。てか待て、3人用だったってことはもともとハクアもこちらに来る予定だった?
「いやそれはおかしいぞ。もともとあれは、僕とエルシイの功労のお礼でもらったものだ。お前も巻き込まれるはずがないんだが」
「あの~にーさま」
「...なんだエルシイ、今お前に構ってる暇ないぞ」
「最初にハクアと会った時、一緒に駆け魂狩りしましたよね?」
「...したな」
「それで一緒にカウントされたってことなんじゃ?」
「そんなんで一緒にされるか?だいたいノーラはどうなるんだ?あいつとも一緒にやったことあるだろ」
「それは...あの時はノーラさん、バディと一緒にいましたからカウントされなかったんじゃ?」
さすがにそれは無理があるんじゃないか...?まあここで考えても埒が明かないか。
「じゃあ私完全に巻き込まれたってこと?」
「そうだな」
ちなみに僕も巻き込まれた側だ。
「はあ~。帰る方法ないの?」
「そんな方法あったらとっくに帰ってる。おとなしくここで三年待て」
「...分かったわよ。とりあえず退学にならなきゃいいのよね?」
「ああ」
「じゃ、私帰る」
「待て、最後に一つだけ。お前が入った後のBクラスの人数何人だったか覚えてるか?」
「え?えっと確か丁度40人だったと思うけど」
「そうか...わかったもういいぞ」
「そう」
そういってハクアは帰っていった。しかし40人か...
「にーさま、これからどうするんですか?」
「僕の方針はいつも同じだぞ。ゲームのために面倒事はできるだけ避ける」
「えぇ~須藤さん助けないんですか~?」
「だからさっきも言っただろ!助けないし関わらない。僕も帰る!」
まだ何か言ってるエルシイを無視して、そのまま部屋をでた。
しかし、元々40人だったBクラスの人数が、ハクアが転入してきても変わっていない。つまりハクアが例のボタンを押した瞬間にモブキャラが消されたか、もしくは最初から39人だったことになったか。この学校の特性上、基本的に転校・転入はしないはずだから、入学時点で既に『この時期にハクアが転入してくる』ことになっていたということに書き換えられたか。どちらにせよあっちの世界の心配はなくなったことは収穫だ。これで心置き無くゲームが...出来る訳でもないのが問題だよなぁ。
*
*
ハクアがやってきました!
とってもびっくりしましたが、嬉しかったです。でも私のせいで巻き込まれてしまったので申し訳なさもあります。ハクアには今度お詫びに何かしようと思います!
「あ、来た来た。ちょっと遅刻気味よエルシイ」
「すみません~遅れました~」
今日の朝はハクアと登校します!にーさまももちろんいます。いつも通りゲームしてますが。
「すみませんにーさまも」
「いつものことだ」
う~ひどいですにーさま。そうなんども遅刻してませんよ!
「それより昨日は聞いてなかったけど、あんたとエルシイ今何ポイント持ってるの?」
「私は7万ポイントくらい持ってますけど、にーさまは...」
「僕は425ポイントだ」
「...は、はあ!?425ポイントってあんたどんだけ使ったのよ!バカじゃないの!?」
「バカとはなんだ。あれは必要経費だ」
にーさま、ハクアはあれを買ったこと知らないんですよ~
「あんたそのポイントで生活できてんの?」
「問題ない...と言いたいところだが、誤算があった。まあおそらくなんとかなるから心配しなくていいぞ」
「はあ!?あんたの心配なんてしてないわよ!」
誤算っていうのは、やっぱり須藤さんのことでしょうか?暴力事件があって、Dクラスは今月ポイントが入ってくるのかもわかりません。にーさま、やっぱり須藤さん助けましょうよ~。
「それはそうとハクア、お前は今何ポイント持ってるんだ?」
「え?えーと、今Bクラスのクラスポイントが660ポイントだから、私は特例で66000ポイント支給されたわ。でも昨日必要なものだけ買ったから、今は丁度60000ポイントぐらいよ」
「そうか。5万ポイントくらいは常に持っといたほうがいいぞ」
「あんたに言われたくないわよ!」
にーさま、今のにーさまが言ってもあんまり説得力がないです...
「こんにちは、桂木さん。ごきげんいかがですか?」
「あ、ひよりさん。こんにちは。紹介してくださったこの本、とても面白いですよ」
最近私は放課後に図書室に行っています。毎日行っているわけではないですが、暇ができると本を読みに来ています。そして今話しかけてきたこの方はCクラスの椎名ひよりさんです。中間テストのときに図書室で本を読んでいると、とても面白い本を紹介してくださいました。私は読書というより消防車の本を読んでみていただけなのですが、試しに日本語の勉強も兼ねて読んでみると見事にはまってしまったというわけです。
「それはよかったです。読み終えたらいつでも声をかけてくださいね。いつでも新しい本を紹介しますよ」
ひよりさんは大の読書家のようで、会うたびに本を紹介してくださいます。それに、あまり本を読み慣れていない私のためにそれほど難しくないものを選んで貰っています。しかも読書量では栞さんと同じくらいかもしれません。それにしても須藤君の事件が起こってから、Cクラスに怖いイメージを持ってしまいそうでしたが、ひよりさんはそれとは真逆の雰囲気です。
「そういえば最近CクラスとDクラスの間でもめ事があったようですね。暴力事件が起こって、双方無罪を主張しているとか。桂木さんはどう考えてますか?」
「え?うーんと...Dクラスの私としては須藤君には無罪になってほしいです!でもにーさまが無理だっていうので厳しいかなとも思ってます」
「にーさま...お兄さんがいたんですか。それは初耳でした」
「あ、そういえばそうですね。にーさまはすごい人なんです!今度ひよりさんにも紹介します!」
「ふふふ。それではいずれ会った時にお願いしましょう。今回の事件にも動いてるんですか?」
「私は動いてほしいんですけど...『無駄だ』の一点張りで動いてくれないんです」
「『無駄』ですか...なるほどなるほど。それでは平田さんあたりが動いてるんですか?」
「そうですね!あとは櫛田さんとかです。Dクラスのリーダーみたいな方々が動いてらっしゃいます。あ、でも堀北さんもにーさまと同じで協力してませんでした。Cクラスは...あ、聞いちゃまずいですかね?」
「いえいえ全然。どうせすぐに表に出てきますし大丈夫ですよ。Cクラスのリーダーは龍園君です。自分で王を名乗ってます。反対する人を力で黙らせている...まあちょっと違うかもしれないですが、暴君と言っても差し支えないですね」
龍園さんですか...初めて聞きました。どんな方でしょう?やっぱり怖い人なんでしょうか?会ってみたくは...あまりありませんね。
「龍園さんはこの件に関わっているんでしょうか?」
「私はクラス闘争には興味がないので、あまり詳しくは知らないんですが...関わっていてもおかしくないですね」
「そうですか...早く収まってほしいですね。この事件」
「ええ。それは本当に心から同意します」
にーさまがその気になれば...すぐに解決できるんでしょうか?
「それでは私はそろそろ帰ります。また会いましょう」
「あ、はい!また今度ですね~」
それにしてもクラスの争いに興味がない人って、にーさま以外にもやっぱりいるんですね。あ、そういえば高円寺さんとかもでした。意外といますね、そういう人。まあ私もそんなに興味はないですし、みなさんと仲良く過ごせればそれでいいんですが...
「あれ?にーさま私を待ってたんですか?」
「ああ。ちょっと聞きたいことがある」
図書室から寮に帰っていると、にーさまが待ち構えていました。そのまま二人で一緒に並んで帰ります。
「どうしたんですか?」
「エルシイ、お前Cクラスに知り合いいるか?」
「え、にーさまタイミングがいいですね!ちょうど今Cクラスのお知り合いと図書室で話してたんですよ」
「...そうか。なんて奴だ?」
「椎名ひよりさんです。とっても優しい方ですよ。争いごとにはあまり興味がないらしいです。須藤さんの件も早く終わってほしいとおっしゃってました」
「...そいつ、例の事件のことについて何か言ってたか?」
「いえ、あまり知らないそうです。ただ、Cクラスにはリーダーの龍園さんという方がいるみたいで、その方が関わっているかも、とはこぼしてましたね」
「龍園か...なるほど。エルシイお前もたまには役に立つな」
「えへへ。ありがとうございますって、たまにはってなんですか~」
どうやら役に立てたみたいですね!何のことかはさっぱりですが、よかったです!Cクラスについて聞くってことはもしかしてにーさま動いてくれるんですか!?一体どういう心境の変化かわかりませんが、もしそうならとっても喜ばしいことです!
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図書館エンカウント
「桂木君おはよう」
朝、ホームルーム前に僕がゲームをしていると、平田が話しかけてきた。中間試験で余計に動いてしまったせいでしつこく話しかけてくるようになってしまった。軽くあしらっているんだが、気にせずに話しかけてくるこいつもなかなかだ。
「ゲーム中にごめんね。昨日櫛田さんから聞いたかな?目撃者が見つかったそうだよ」
「へえ」
いるのか目撃者。あんな辺鄙なところにまた物好きがいたもんだ。まああんまり有効打にはならないだろうけど、いないよりましか...
「うちのクラスの佐倉さんだよ。今日はまだ来てないみたいだけど、ほらあそこの席の眼鏡かけてる...」
「僕がわかると思うか?」
「そ、そうだね。ごめん...」
しかしよりによってDクラスの目撃者とは、須藤も運が悪いというかなんというか。元をたどれば自業自得だが。
「その佐倉とやらとは話したりするのか?」
「僕?いや、挨拶をする程度だよ。彼女はいつもクラスで一人だからどうにかしたいと思ってるんだけど、異性だと強引に誘うってわけにもいかないからね。かといって軽井沢さんにお願いするのも、問題がおきそうだし」
それはそうだろう。しかしそういうタイプのやつが、素直に協力してくれるとは思えないけどな。
「協力頼めそうなのか?」
「それはまだわからないけど、今日櫛田さんが打診するって聞いたよ。須藤君のためにも協力してもらいたいところだけど...」
まあ難しいだろうな。
「ひとまず櫛田さんからの報告を待とうと思う」
「...平田、もし佐倉からの協力が得られたとして、その後どうするつもりだ?」
「え、それは...目撃した内容を証言してもらって、須藤君の無実を訴えるつもりだけど...」
「...そうか」
平田が言っていたように、放課後になると櫛田は席をたち佐倉のもとへ向かった。隣のエルシィも気になるようで、帰る準備をしながら様子をうかがっている。
「佐倉さんっ」
「...な、なに.....?」
声をかけられると思ってもいなかったのか、慌てまくっている。大方予想通りの人物のようだ。
「ちょっと佐倉さんに聞きたいことがあるんだけどいいかな?須藤君の件で...」
「ご、ごめんなさい、私この後予定あるから...」
よくいる人見知りキャラだな。僕は何人も見てきたぞ、ああいうタイプのキャラを。
「そんなに時間はとらせないよ?大切なことだから、話をさせてほしいの。須藤君が事件に巻き込まれたとき、もしかしたら佐倉さん近くにいたんじゃないかって...」
「し、知らないです。堀北さんにも言われたけど、私全然知らなくて...」
ま、そうなるだろうな。ああいうタイプは一回の接触でどうにかなるようなものじゃない。しかしあの佐倉とやら、何か隠してる気がするな。
「もう...いいですか、帰っても...」
「うーん、ちょっと今から時間とれないかな?」
「どうしてですか?私何も知らないのに...」
というかあいつは何でこんな人目に付くような場所で話しかけてんだ。断られると思ってなかったのか?よく見ると櫛田もどこか困惑しているようにも見えるけど。
「私、人付き合いが苦手なので....ごめんなさい...」
櫛田がダメならおそらくDクラスの誰でも無理だろうな。...いやもしかしたらいけるかもなやつが隣にいた。まあ今回は櫛田がタイミングをミスったな。ほら、もう荷物まとめて帰ろうとしているぞ。
...あ、ぶつかった。
「あっ!」
歩きスマホしてるバカにぶつかり、佐倉の手から何故か持っていたカメラが落ちた。というか何でカメラ持ってんだ?写真を撮るのが好きなんだろうか。
「嘘...映らない...」
どうやら落ちたショックでカメラの電源が入らなくなったようだ。
...はて、これは使えるんじゃないか?
「ご、ごめんね、私が急に話しかけたから...って桂木君⁉」
「ちょっと貸せ」
「...え?な、なんですか...」
「いいから貸せ」
「は、はい...どうぞ...」
困惑しながらも渡してきたデジカメを半ば強引に受け取った。撮った写真を見られるのではと気が気でないのかあたふたしている佐倉を横目に様子を確認する。
...やっぱり。これなら大丈夫そうだな。
「佐倉とかいったか」
「は、はい...そうですけど...?」
「これくらいなら保証書があれば無料ですぐ直してもらえるから安心しろ」
「そ、そうですか...ありがとうございます...と、というか早く返してください」
「...」
「な、なんですか?」
「...いや、なんでもない。返すよ」
「あ、はい」
佐倉にデジカメを返し、その場を離れる。
なるほどこれは少し調べる必要がありそうだ。
「にーさま、急にどうしたんですか?」
「エルシィ、お前アイドルとか芸能人好きだったよな?」
「え?ま、まあそうですね。かのんちゃん大好きなので、そういう意味ではアイドルが好きなのかも...」
「よし。あと、昨日言ってた椎名とやらと連絡取れるか?」
「え、椎名さんですか?うーん、そういえば連絡先知りませんでした」
「おいおい」
「でもだいたい図書室にいらっしゃるので、今日も行けば会えると思いますよ」
「そうか...よし今から行くぞ」
「え、今からですか?あっ、ちょっと置いてかないでくださいよーにーさま〜」
初めてこの学校の図書室を訪れたが、思ったより大きい。さすがに舞島高校と比べるとアレだが十分な大きさだろう。僕はもっぱらデジタル派だから利用することは無いだろうけど。
「にーさま、図書室では静かにしないとダメですよ?」
「それをお前が言うのか?」
「いえいえさすがに私もここでは騒いだりしませんよ」
「どうだか」
読書スペースを見渡すが、椎名らしき人は見当たらない。まだ来てないのかそれとも今日は来ないのか分からない。とりあえず待ってみるか。
「エルシィ、椎名は普段どんな本読んでるんだ」
「そーですね、外国の人の本が多かった気がします。もちろん私が知らない本ばかりでしたね」
「外国文学か...」
「ちょっと探し物してくる。エルシィは椎名を見かけたらすぐ教えろ」
「え、あっはい分かりました〜」
外国文学が並べられている棚に行くと、どうやら著者別に分けられているようだ。ドストエフスキー、カフカ、トルストイ、カミュ...
さすが政府管轄の学校と言ったところか、有名どころはだいたい揃っている。もちろん僕は読んだことないが、あらすじだけはあらかた知っている。何故かって?もちろんゲームで出てきたからだ。
「『日はまた昇る』、ヘミングウェイですか。いいとこつきますね」
「ん?ああ...」
とりあえず適当に本を取った瞬間、いきなり話しかけられた。振り返るとと何やら興味深げな表情でこちらを見てくる銀髪の女がいる。
「何か用?」
「いえいえ、良い本をお選びになっているところをお見かけしましたので。ヘミングウェイお好きなんですか?」
「いやとりあえず知っている人の本を取っただけ...詳しいのか?」
「そうですね...自慢じゃないですがそれなりに」
よく見ると、それなりにでは片付けられないほどの量の本を脇に抱えている。なるほどこれはエルシィが栞に似ていると言うわけだ。
「にーさま〜?何探してるんですか...あ、椎名さんいるじゃないですか」
「...にーさま?ああ桂木さんのお兄様でしたか」
「そうだけど、知ってたのか?」
「つい昨日妹さんに聞いたんですよ。私は1年Cクラスの椎名ひよりと言います」
「僕は桂木桂馬、そこのエルシィの...まあ一応兄だ」
「一応...?」
怪訝な顔をしているが無視。あとエルシィ、変にニヤニヤするな。
「ああ思い出しました。桂木桂馬さん、どうやら噂通りのお方のようですね」
「噂?」
「え、にーさま知らないんですか?けっこう噂になってましたよ」
「なんで?」
「分かんないんですか?」
そんな噂になるようなことはしてないはずなんだが...何かしたっけ?
「いつどんな時もゲームをしてる変なやつがDクラスにいるって、一時期話題になってましたよ」
...なるほど。前の環境に慣れすぎて気にも留めてなかったが、そういえば舞島高校も入学したてはそうだったのを忘れてた。
「それはそうと、Cクラスの奴がDクラスの僕に話しかけても大丈夫なのか?」
「大丈夫とは例の事件のことですか?平気です。余計なことを言うなくらいのことしか言われてませんし」
「それは龍園とやらに?」
「おや、ご存知でしたか。仰る通り龍園君ですよ。Cクラスの王を自称している方ですね」
ふーん、自称ねぇ。
「桂木君は暴力事件についてどうお考えなんですか?」
「どうって...須藤がアホぐらいにしかおもってないけど」
「クラスメイトですが、須藤君側が悪いと?」
「悪いというか、結局ケガさせているわけだしどっちが仕掛けたことだろうと同じこと。もしそっちが仕掛けたのならそちらの王様はいい性格してるよ」
「では裁判はCクラス側が勝つとお考えですか」
「さあね」
普通ならそうなるんだけど、そうとも言い切れないのがなあ。
「それにしても読書仲間がいて嬉しいです。よかったら連絡先交換しませんか?おすすめの本とか紹介しますよ」
「あー椎名さん、にーさまは読書は...」
「いいぞ、交換しよう」
「え?」
エルシィ、ちょっと静かにしててくれ
「ありがとうございます。それじゃあまた」
「ああちょっと待て」
「ん、どうしました?」
「椎名に伝言を頼みたいんだが」
「伝言ですか?誰にでしょう」
「須藤と喧嘩した3人に、僕の名前は出さずに直接伝えてもらいたい」
「石崎君と小宮君と近藤君ですね。それで内容は?」
「ああ、伝える内容は...」
椎名さんが帰って、にーさまはまたいつも通りゲームの世界に帰ってしまいました。それにしてもさっきの伝言はいったいどういうことなのか、私にはさっぱり分かりません。
「にーさま、もしかして須藤さん助ける気になったんですか?」
「...いや別にそういう訳じゃない。それよりエルシィ、お前はこれから仕事だぞ」
にーさま、それはツンデレってやつですか?
「分かってますよー。これで須藤さんは助かるんですよね?」
「どうだろうな。椎名次第でまあ、五分五分ってところだ」
にーさまでも五分五分ですかぁ。大丈夫ですかね?
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