高度育成高等学校殺人事件 (なかしま)
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高度育成高等学校殺人事件

<卒業>

 

オレは中嶋誠(なかしままこと)。

 

高度育成高等学校に進学しておよそ半年。

 

同級生1名が死亡する殺人事件が発生した。

 

これにより学校を自主退学する者が続出。

 

オレも「自由」を手に入れた。

 

犯人はまだ見つかっていない。

 

 

<入学>

 

オレはこの世界の人間ではなかったと思う。

 

だがそんなことはあり得ない。

 

頭がおかしくなったのか?

 

オレは誰だ?

 

「席を譲ってあげようって思わないの?」

 

・・・

 

・・・

 

・・・

 

騒がしい。

 

だがそれどころじゃない。

 

今日は入学式。

 

珍しく笑えてくる。

 

随分前に卒業したのにな。

 

どうしてまた。

 

 

 

<4月>

 

授業中。

 

今日も教室は騒がしい。

 

教師達は何も言わない。

 

退屈だ。

 

友達か。

 

オレには不要なモノだ。

 

オレは既にそれを知っている。

 

小テスト。

 

辟易するほど簡単だ。

 

苦悩する。

 

これからどうすれば良いのか。

 

 

<5月>

 

俺の名前は綾小路。

クラスポイントを失ったDクラスは、今度の中間試験で退学者が出ないように動いている。

かく言う俺も隣人の少女と赤点候補の数人に対し、勉強会を開始している。

 

中嶋誠。俺の前の席に座っている男だ。無表情で最低限の会話しか成り立たない。

小テストでは比較的高得点を収めていたので、協力を要請してみたがあえなく撃沈した。

 

中嶋がいなくても問題はないのだが、誰とも仲良くしている様子がなかったのでどうせなら友達になれたらと思ったのだが、、

 

ーーー

 

早いもので、中間試験を終えた。

色々あったが、無事退学者を出すことなく乗り切ることができた。

 

これにより、クラスの団結力も上がったように思う。

だからこそ未だにクラス内で浮いている中嶋の存在は気になるところではある。

 

まあ高校生活は始まったばかりだ。

気を長くして、彼が心を開いてくれるのを待とう。

 

 

<夏>

 

俺たちは豪華客船でバカンスを楽しんでいた。

期末試験も無事に乗り越え、誰も欠けることなくここまで来ることができた。

 

女子の水着姿が眩しく、この学校に入って良かったと心から思う。

こんな生活が2週間も続くのかとみんな浮かれていた。

 

ーーー

 

そうは問屋が卸さず、無人島での特別試験が発表された。

島に降りて、ルール説明を受ける。1週間クラスごとに協力してサバイバルを行うらしい。

ポイントの節約とリーダー当てがポイントになりそうだ。

 

ーーー

 

ベースキャンプを決めた頃には夕方近くになっていたので急いで食料調達に出る。

統率が取れていなかったので勝手に探索に行くことにしたが、珍しく中嶋が同行してくれた。

 

「中嶋が行動を起こすなんて珍しいな。」

 

「ああ。」

 

「何か理由があるのか?」

 

「実はベースキャンプへの移動中にとうもろこしを見つけた。それを取りに行きたい。」

 

「それはすごいな。案内してくれ。」

 

「こっちだ。」

 

俺は中嶋について行くことにする。

中嶋は本当に確信があるようで、一切の迷いなく茂みをかき分けて進んで行く。

 

ベースキャンプへの移動中にこんなところ通ったっけ?

違和感を覚えるが、普段から中嶋の動きを注視する者はいない。もちろん俺もだ。

知らぬ間に集団から離れて探索を行っていたのかもしれない。

 

森の奥の方へ入っていく。

これだけ分かりにくい場所なら他クラスもまだ発見できていないだろう。

中嶋のお手柄だ。

 

「ここだ。」

 

「・・?どこだ?特に見当たらな・・っ!」

 

中嶋に試験開始時に配布された腕時計を破壊され、そのまま首を絞められている。

驚きの後、何も考えられないまま意識が途絶えていく。どうしてこんなことに・・

 

ーーー

 

夜の点呼。

 

「綾小路がいないな。減点だ。」

 

「えー!!ふざけんなよアイツ!何してんだ!」

 

ーーー

 

2日目の午前。

 

朝の点呼にも現れなかった綾小路の捜索が行われた。

 

女子生徒3人が偶然発見。

 

最終的に教師達が駆けつけ、試験は中止。

 

全員すぐに学校に戻された。

 

学校側は警察に通報。

 

死亡したのは綾小路真太郎(15)。殺人事件の可能性が高いとして捜査が行われたが、目撃者も証拠も発見されなかった。

 

生徒達が受けたショックは非常に大きかった。

殺人鬼がいるかもしれない状況で、外部と遮断された環境で生活し続けることはできない。

多くの者が自ら退学して行った。

 

 

<解答>

 

この世は『勝つ』ことが全てだ。

 

どんな犠牲を払おうと構わない。

 

最後にオレが『勝って』さえいればそれでいい。

 

高度育成高等学校での3年間を経てもこの考え方が変わることはなかった。

 

ここで得られるモノはもうないと確信していた。

 

少しでも早く外に出たかった。

 

ようやくオレはこの世界で自由を謳歌できる。

 

ーーー

これは転生した綾小路(中嶋誠)が転生先の綾小路真太郎を殺害する物語。

「席を譲ってあげようって思わないの?」という発言は偶然また発生した。

物語を理解するヒントは原作綾小路の一人称はオレであること。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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最後の特別試験

 

そういえばオレはちゃんと卒業したって言えるんだっけ。

昔のことを思い出す。

 

ーーー

 

オレ達「元」Dクラスは3年間の学校生活のほとんどを終え、無事にAクラスとなっていた。

しかし厳しい試験を乗り越える中で退学者が続出し、今では15人の生徒しか残っていなかった。

 

残ったのは、オレ、惠、堀北、洋介、櫛田、須藤、池、愛里、啓誠、明人、波瑠加、佐藤、篠原、松下、高円寺だ。

 

櫛田はどこかのタイミングで退学させるつもりだったが、堀北が和解を諦めなかったことで、2年の後半にはオレと堀北の退学を諦め、クラスに協力するようになった。

 

高円寺すら、実力のほとんどを公開するようになったオレに興味を示し、勝手な行動を取ることは減っていた。

 

残った15人の絆は相当のものだった。

これこそが、オレがこの学校に来て得た最も価値あるモノだと確信していた。

 

しかし、この時のオレは予想だにしなかった。

自分も退学できていればどんなに良かったかと思うような惨劇が待っていることなど。

 

3月1日。

高度育成高等学校はテロリストによって占拠された。

 

そして、3年Aクラスの15人のみが人質として残され、内部ではデスゲームが行われていた。

 

内容は1年の時にやった船上試験を彷彿とさせるものだった。

15人のうち1人が優待者に選ばれる。優待者が死ねば、残りの者が助かり、時間切れになれば優待者のみが助かる。

 

あまりの事態だ。ルールを説明するメールを読んでも、誰も行動を起こせずにいた。

そんな中、一番初めに動き出したのは高円寺だった。

 

「私はこんな場所に留まり続けるつもりはない。帰らせてもらうよ。」

 

そう言って、教室を出た瞬間、大量の発砲音が鳴り響いた。

即座に高円寺は倒れた。遠くから見ても出血量からして明らかに死んでいると分かる。

 

オレ達に与えられた時間は1時間だけだった。時間を無駄にしている余裕はなかった。

しかし数々の試練を乗り越えてきたオレ達でも、3年間共に過ごしてきたクラスメイトの死は衝撃的すぎた。残り14人の間にはパニックが生じた。

 

オレは状況を分析した。教室の外に武装した人間が何人も控えているのは間違いない。

オレ1人でも無事に逃げ切れるかは分からない。ましてや、複数人を守りながらというのは到底不可能だった。

 

しばらくして、一部の者で脱出する方法を考え始めるも、教室の外も窓の外も敵が待ち構えていて部屋から出ることさえままならない。1時間が経過すれば教室に侵入してきて、少なくとも優待者以外は皆殺しにされるだろう。結局、外部からの助けが来ることを祈るしかできなかった。

 

そんな状況なので、最終的にはゲームに参加する方向での考えも出た。優待者を特定し、テロリストに差し出すことでそれ以外の者が生きられる可能性に賭けるしかないと。

 

全員の合意が得られる訳もなかったが、やや強引な流れで全員メールの画面を公開することとなった。それにより、優待者を特定することはできたが、優待者を差し出すことはできなかった。

 

結局机と椅子で防御体制を作り、テロリストの侵入に備えることにした。

しかしその程度の策ではどうすることもできず、1時間後、オレ以外の者達は全員殺された。

 

気づくとオレの目からは涙が流れていた。

ホワイトルームで過ごす中で、勝利に不要なモノは全て排除してきた。

だから、3年間共に過ごしてきたクラスメイトを虐殺され、自分が泣いている事実に驚いた。

 

だが泣いている場合ではない。

即座に状況を見極め、テロリスト達を躱し、敷地外まで逃亡した。

 

そのまま、あの学校に戻ることはなかった。

オレはあの男の手配でホワイトルームに戻り、指導者となった。

 

ーーー

 

あの時、優待者はオレだった。

坂柳達や龍園達の上を行き、Aクラスになれたのは、オレの力によるところが大きいと誰しもが理解していた。そんなオレが優待者だったからこそ、誰もオレを差し出そうとは言わなかったのかもしれない。

 

だがやはりあの時の涙、悲しみは無駄な感情だと今では思う。

オレ達人間はどれだけ強い絆で結ばれていたとしても、結局は個だ。

 

だからこの世は勝つことが全てだ。

大事なのはオレが最終的に勝っているかどうかだけだ。

 

ホワイトルームに戻ったばかりの頃は、今のオレは本当に勝利したのかと疑問に思う事もあった。

しかし時が流れるにつれて、生き残ったオレはやはり勝利したのだろうと理解するようになった。

 

教育者としての日々は退屈だった。

あの学校で時折感じた胸の高鳴りは完全に忘れてしまった。

 

そんな鬱屈とした日常の中、例の事態は起こった。

 

朝目覚めると、オレは中嶋誠という人間になっていた。

オレは壊れてしまったのかもしれない。

その日の朝、中嶋なる男の家族に見送られ、オレは再びあの学校へ向かうこととなる。

 

しかし、今のオレにはもはやあの場所で得るモノはないと確信していた。

 

 

 



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